Cの世界
白き、広い…その世界。
幾多の世界が『絵画』として並べられている、その場所。
過去・今・未来がそれぞれ交錯する場所となっている。
かつて、集合無意識…神と呼ばれる存在に、とある人間が告げた。
『明日が欲しい』と…。
その願いは超人が持つ特殊な力『ギアス』の力として成就された。
結果…Cの世界に飾られた絵画の世界の1つが危機的状況に陥ったとき、
ある人間が送り込まれ世界の未来・明日を取り戻すために戦うこととなった。
絵画の前に立つ1人の男と、1人の女。
2人は、ある絵画に手をあてる。
光が二人を包むと同時に、その姿はなくなる。
その2人の触れた絵画……。
そこには、腕を組んで立つ1人の制服を着た少女の姿があった。
涼宮ハルヒの劇場~World End~
プロローグ 偽りの平和
「……ここが、新たな世界か」
ルルーシュ・ランペルージは、夕焼けの明るい光に眩しさを感じて、額に手を当てて、あたりを見回す。そこは、どうやら様々な店が集まっている場所のようだ。
たしか、日本人の言葉で言う商店街だったか。
自分たちの隣を右に左にと人が歩いている。
自分たちがいるのが珍しいのか、すれ違うものたちが、自分を見る。
そこにいるものたちは、自分達のするべきことを淡々と行っている。会社から帰るスーツを着た会社員、夕食の支度を行なうために、買い物をする主婦。ルルーシュは、その今までにない光景に思わず息を呑んだ。凄惨な光景は今まで数え切れないほど見てきた。一般市民に対する虐殺、1人の無力な人間を、集団で追い詰めようとするものたち…。戦争、革命、その犠牲となる弱き者達は、見飽きるほど見てきた。だが、ここはそれとは、かけ離れている。
「C.C.」
「なんだ?」
隣にたつC.C.がどうやら、その行き交う人々の注目を浴びているようだ。
確かに、このような黒いアッシュフォード学園の制服、C.C.にいたっては拘束着の…格好では、この世界では違和感があるか。
ルルーシュは、C.C.の手を引いて、路地にと入る。
「ここが、本当に世界の終焉が近づいている場所だと言うのか?」
ルルーシュには信じられなかった。
先に述べたように、今まで彼がCの世界の導きで体験した場所は、戦争によるものばかりであった。それが、今回は戦争の『せ』の字も見当たらない。平和な世界そのものだ。おそらくは、自分たちがいたスザクがゼロを努め、ナナリーが願う世界よりも……。
「あぁ…。一見、そう見えるな。だが、自分の目だけの現実が全てだとは思わないことだ」
「……もし、そうであったとしても、前兆ぐらいあってもいいはずだ。これでは手のうちようがない」
ルルーシュは、C.C.を見て説明する。
そんなC.C.はルルーシュから視線を外して、路地の入り口に立つものをみる。 ルルーシュもまた、C.C.の視線を追って、そのものを見る。
「前兆ならもう既に現れているようだ」
「……何者だ。お前は」
夕焼けの逆光の影の中……その存在は、こちらにと近づく。
距離を縮めたことにより、姿がはっきりとわかる。
それは紫っぽい髪の毛をした小柄な女子高生のようだ。
「……貴方達もまた、この世界に送り込まれた規格外の存在」
ルルーシュは目を細める。
この女…、俺達のことがわかるのか?いや、わからない…こいつがギアスユーザーであり、この世界に終焉を導く存在であるならば、俺達のことを知っている可能性も零ではない。
ルルーシュは、その女子高生から視線を離す。
「……心配はしなくていい。私は貴方達と争うつもりはない。今のところは」
「誰なのか、説明はしてもらえるんだろうな」
そのルルーシュの言葉に女子高生は人形のように頷く。
「…私の名前は長門有希。この世界の住人であり、観察者」
長門は、ルルーシュとC.C.を見ながら言葉を続ける。
「貴方達が来た理由はわかっている。この世界に介入し任務を果たすこと……。だけど、貴方達には、それをする権限がない。この世界は、私達の世界。その世界の事件は、その世界の人間が修復することが普通」
ルルーシュは黙って、長門の言葉を聞き続けている。
随分と知っているようだ。少なくとも今の言葉で…この人物の名前、そして性格。情報を多く有していること、さらには…こちらにはあまり協力する気はない、ということだ。しかし、これほどまでに情報を有している存在がいるのに、Cの世界が俺達を送り込んだのか。理由を考えれば…自ずと答えは出てくる。
「……お前だけでは、この世界を、状況を打破することが出来ないからだろう。そうでなければ、俺達がここに来た説明がつかない。そして、その事件というものは、この世界だけではなく、様々な世界に影響を与える可能性があるということだ」
長門は、ルルーシュの言葉を聞いてもその表情に変化はない。
ルルーシュにとってはやり辛い相手だ。多くの人間は、嘘をつくことなど、様々な言動による感情…喜怒哀楽を表情にだす。この長門にはそれがない。
「……私は、貴方達に忠告をしにきた」
「忠告だと?」
「……涼宮ハルヒに不用意に近づくな。忠告を守らなければ、実力を持って排除する」
長門は、そう告げると振り返り商店街にと戻っていく。
「おい!待て、まだ話は…」
ルルーシュは追うが、商店街の人通りには、彼女の姿はない。まるで催眠術でもかけられたような感じだ。頭の中がまだ整理できていない。奴は一体何者だ。なぜ、こちらのことをかなり把握で来ている。そして『涼宮ハルヒ』とは一体誰だ。
「……どちらにしろ、ここで何かが起こっているのは事実のようだな?」
会話を黙って聞き、様子を伺っていたC.C.がルルーシュに問いかける。
ルルーシュは振り返り、C.C.を見る。振り返るルルーシュの表情、そこには焦りは感じさせない。むしろ、この状況を楽しむかのような笑みを浮かべている。
「あぁ。俺達は、この迷宮の中…ヒントを得て脱出しなければならないようだ。推理ゲームだな、これは……」
商店街の中を見渡し、その何も知らないであろうエキストラたちを見る。
この世界に危機が迫っているのはわかった。
後は、『涼宮ハルヒ』というものについて調べて見なければいけない。
「…ルルーシュ」
「なんだ?」
C.C.はそんなルルーシュのやる気に対して、気づかうような優しい目をしてルルーシュに近づいてくる。ここまで様々な世界で戦ってきたのだ。疲労しているのは間違いない。そんな彼に対して、C.C.は労いの言葉をかけるのだろう……とルルーシュは、少し思った。というよりも期待した。
「…お腹がすいた。ピザはないのか?」
だが、それは脆くも崩れ去り、肩を落とすルルーシュ。
「随分と攻撃的な挨拶でしたね?長門さん」
長門が商店街から出たところで、彼女に話しかける1人の男子、古泉一樹。
古泉の言葉に足を止める長門。
「どうやら、あなたや朝比奈さんは、彼らのことが邪魔者であるという認識らしい。僕としては、彼らの登場が、この混沌とし、さらには、世界の崩壊を防ぐための重要な因子になるのではないかと考えているのですが」
「彼らの行動で、涼宮ハルヒが何らかの反応を示し、世界が修正される可能性があるとするのならば、それがプラスであるならば、問題はないが、マイナスに変革する可能性がある。彼らにこの世界を説明し、理解させるのは難しい。ならば下手な行動を起こすのは、得策ではない」
古泉と長門は夕焼けの陽に当たりながら、オレンジ色に照らされつつ、お互いを見ることなく話を続ける。
「少し、ネガティブじゃありませんか?この世界に送り込まれたということは、それなりの素質であるものだと思っているんですけどね」
「彼らと会話をして、その性格などを総合して導き出した結果から、そう結論をつけただけ」
「わかりました。あなたがそういうのであるならば、僕は僕なりの手法で、彼らにコンタクトをとってみようと思います」
古泉は、そういうと長門がでてきた商店街にと入っていこうとする。
「気をつけること。涼宮ハルヒの世界において、彼らは規格外の人物であり、一種のウイルス的な存在。規格外の存在に関して、彼女は無意識にも排除を行なう可能性がある」
「なるほど。わかりました。でしたら急いだほうが良さそうですね」
古泉は相変わらずの笑顔で、長門からの忠告を聞きながら、商店街にと消えていく。それと同じくして長門もまたオレンジ色の光に照らされながら、帰途に着く。
ルルーシュはとりあえず、今はこの目立つ服装をどうにかしなくてはいけないと考えた。そこで情報を収集する必要がある。なんせ今まで以上に、ここでは、他者に紛れなくてはいけない。誰が敵であるかわからない以上は常に見られていると考えるべきだろう。
ルルーシュは、考えをまとめ、これからのことを段階つけているとき…。
「!」
自分達のいる商店街の路地に飛び込んでくる1人の女子。
制服は先ほどの長門と同じもののようだ。
彼女は、ルルーシュたちを見ると、息を切らしながら
「た、助けて…お、追われているんだ。警察を呼んで…」
大きく息を吐きながら、なんとか、言葉を告げる女子。
「誰に追われているんだ?」
ルルーシュはその女子に問いかける。
「よ、よくわからないんだ。急に私を追いかけてきて……何がなんなのか。」
かなり混乱しているのだろう、彼女の背後…影が覆う。
「もう、見つかったの!?」
その女子は振り返り、そこにたつものを見る。
女子を追いかけていたもの…それは厚着の黒いコートを身につけ深く帽子をかぶった長身のものたち。顔も見れないほど深く被っている。よって男かどうかは、推論でしかないが。だが、その帽子のおく、まるで獣かのように、眼がぎらつき光っている。
ルルーシュは、その奇怪な追っ手たちを見る。
先ほどまで平和な街だと思っていたが、どうやら、それは自分たちを騙すものだったのかもしれない。ルルーシュは、その女の前に出る。
「お、おい!あんた1人じゃどうにもならないって。早く警察を!」
その女子は、見た目で明らかな細身であるルルーシュが、その巨体であり、不明な存在である黒コートのものに挑もうとしていることに驚く。
「1人の女に、これだけの大人数で挑むとは、大人気ないな…」
「バカ、そいつらは…話してわかる相手じゃ…」
女は、男の無謀ぶりにあたふたしながら、叫び続ける。
巨漢の男達は、ルルーシュの問いに答えることも無く、拳を構える。
まるでボクサーといわんばかりだ。
「問答無用か、ならば……俺もお前達に、同じく無慈悲な事実を伝えてやろう」
ルルーシュは、片手で目のコンタクトを取り払う。
そこには、赤き皇帝が持つ印の眼がある。
「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる、お前達は…俺達の前から消えろ」
赤き光がその黒いコートの男達にと届き、ギアスが命じられる。巨漢の男達は、先ほどまでの戦闘スタイルから、急に大人しくなり、路地から出て行く。
その一連の行動がまったくわからない女子。一体なにをしたというのか、まるで魔術のようだ。いやいや、そんなことができる人間は、あいつらだけで十分だ。その女子は、頭を振りながら、そう思うことにする。
「大丈夫か?」
ルルーシュは、混乱しているその女子に声をかける。
女子は小さく頷き
「た、助かった。ありがとう」
「出来れば、なぜ襲われていたのか、何か知っていることがあれば教えてもらえないだろうか?協力できるのならば、したい」
ルルーシュの優しい言葉に女子は困惑しながらも、先ほどと同じように頷く。
正義の味方…、誰もが好きであろう存在。
人助けとはそれを露にすることができる良き方法だ。
ルルーシュの背後では、C.C.が微笑みながら、そのやり取りを見ている。
彼女もまた分かっているのだろう。
ルルーシュのやり方を……。
パチパチ…。
拍手の音でルルーシュが、その音のほうに振り返る。そこには男が立っている。 長門と名前をいった女と、後、この助けた女子と同じ学校の制服だ。
男は、笑みを浮かべながらこちらに近づく。
なんとも気味が悪い奴だ。
「初めまして、僕は古泉一樹といいます。みなさんにお願いがあってきました」
平和の満ちた世界、そこでは確実な破滅のカウントダウンが進み始めている。
それを、まだ誰も実感は出来ていないでいた。