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[6912] 涼宮ハルヒの劇場~World End~ 【完結】
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2013/06/25 23:42
初投稿 2009/03/14
《前書き&注意》


 本作品はコードギアスと涼宮ハルヒの憂鬱のクロス作品です。

 コードギアス&涼宮ハルヒの憂鬱は、本編終了後の展開となっております。
 なお、本作品は、過去の私、作者が描いたギアスのクロスシリーズの続編ではありません。
 別視点でご覧ください。内容も異なっております。

 クロスということで、作品内容にそり、キャラの性格を変更しているところがあります。大きな変更は避けるよう努力していますが、もしも気に入らなければ前もって申し訳ありません。


 最後に、みている皆さんが楽しめていただければ幸いです。






[6912] プロローグ 偽りの平和
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2009/02/26 20:33



 Cの世界



 白き、広い…その世界。

 幾多の世界が『絵画』として並べられている、その場所。
 過去・今・未来がそれぞれ交錯する場所となっている。


 かつて、集合無意識…神と呼ばれる存在に、とある人間が告げた。
 『明日が欲しい』と…。
 その願いは超人が持つ特殊な力『ギアス』の力として成就された。

 結果…Cの世界に飾られた絵画の世界の1つが危機的状況に陥ったとき、
 ある人間が送り込まれ世界の未来・明日を取り戻すために戦うこととなった。

 絵画の前に立つ1人の男と、1人の女。
 2人は、ある絵画に手をあてる。
 光が二人を包むと同時に、その姿はなくなる。
 その2人の触れた絵画……。

 そこには、腕を組んで立つ1人の制服を着た少女の姿があった。




涼宮ハルヒの劇場~World End~

プロローグ 偽りの平和




「……ここが、新たな世界か」

 ルルーシュ・ランペルージは、夕焼けの明るい光に眩しさを感じて、額に手を当てて、あたりを見回す。そこは、どうやら様々な店が集まっている場所のようだ。
 たしか、日本人の言葉で言う商店街だったか。
 自分たちの隣を右に左にと人が歩いている。
 自分たちがいるのが珍しいのか、すれ違うものたちが、自分を見る。
 そこにいるものたちは、自分達のするべきことを淡々と行っている。会社から帰るスーツを着た会社員、夕食の支度を行なうために、買い物をする主婦。ルルーシュは、その今までにない光景に思わず息を呑んだ。凄惨な光景は今まで数え切れないほど見てきた。一般市民に対する虐殺、1人の無力な人間を、集団で追い詰めようとするものたち…。戦争、革命、その犠牲となる弱き者達は、見飽きるほど見てきた。だが、ここはそれとは、かけ離れている。

「C.C.」

「なんだ?」

 隣にたつC.C.がどうやら、その行き交う人々の注目を浴びているようだ。
 確かに、このような黒いアッシュフォード学園の制服、C.C.にいたっては拘束着の…格好では、この世界では違和感があるか。


 ルルーシュは、C.C.の手を引いて、路地にと入る。


「ここが、本当に世界の終焉が近づいている場所だと言うのか?」

 ルルーシュには信じられなかった。
 先に述べたように、今まで彼がCの世界の導きで体験した場所は、戦争によるものばかりであった。それが、今回は戦争の『せ』の字も見当たらない。平和な世界そのものだ。おそらくは、自分たちがいたスザクがゼロを努め、ナナリーが願う世界よりも……。

「あぁ…。一見、そう見えるな。だが、自分の目だけの現実が全てだとは思わないことだ」
「……もし、そうであったとしても、前兆ぐらいあってもいいはずだ。これでは手のうちようがない」

 ルルーシュは、C.C.を見て説明する。
 そんなC.C.はルルーシュから視線を外して、路地の入り口に立つものをみる。 ルルーシュもまた、C.C.の視線を追って、そのものを見る。

「前兆ならもう既に現れているようだ」

「……何者だ。お前は」

 夕焼けの逆光の影の中……その存在は、こちらにと近づく。
 距離を縮めたことにより、姿がはっきりとわかる。
 それは紫っぽい髪の毛をした小柄な女子高生のようだ。



「……貴方達もまた、この世界に送り込まれた規格外の存在」



 ルルーシュは目を細める。

 この女…、俺達のことがわかるのか?いや、わからない…こいつがギアスユーザーであり、この世界に終焉を導く存在であるならば、俺達のことを知っている可能性も零ではない。

 ルルーシュは、その女子高生から視線を離す。


「……心配はしなくていい。私は貴方達と争うつもりはない。今のところは」

「誰なのか、説明はしてもらえるんだろうな」

 そのルルーシュの言葉に女子高生は人形のように頷く。

「…私の名前は長門有希。この世界の住人であり、観察者」

 長門は、ルルーシュとC.C.を見ながら言葉を続ける。

「貴方達が来た理由はわかっている。この世界に介入し任務を果たすこと……。だけど、貴方達には、それをする権限がない。この世界は、私達の世界。その世界の事件は、その世界の人間が修復することが普通」

 ルルーシュは黙って、長門の言葉を聞き続けている。
 随分と知っているようだ。少なくとも今の言葉で…この人物の名前、そして性格。情報を多く有していること、さらには…こちらにはあまり協力する気はない、ということだ。しかし、これほどまでに情報を有している存在がいるのに、Cの世界が俺達を送り込んだのか。理由を考えれば…自ずと答えは出てくる。

「……お前だけでは、この世界を、状況を打破することが出来ないからだろう。そうでなければ、俺達がここに来た説明がつかない。そして、その事件というものは、この世界だけではなく、様々な世界に影響を与える可能性があるということだ」

 長門は、ルルーシュの言葉を聞いてもその表情に変化はない。
 ルルーシュにとってはやり辛い相手だ。多くの人間は、嘘をつくことなど、様々な言動による感情…喜怒哀楽を表情にだす。この長門にはそれがない。

「……私は、貴方達に忠告をしにきた」

「忠告だと?」

「……涼宮ハルヒに不用意に近づくな。忠告を守らなければ、実力を持って排除する」

 長門は、そう告げると振り返り商店街にと戻っていく。

「おい!待て、まだ話は…」



 ルルーシュは追うが、商店街の人通りには、彼女の姿はない。まるで催眠術でもかけられたような感じだ。頭の中がまだ整理できていない。奴は一体何者だ。なぜ、こちらのことをかなり把握で来ている。そして『涼宮ハルヒ』とは一体誰だ。

「……どちらにしろ、ここで何かが起こっているのは事実のようだな?」

 会話を黙って聞き、様子を伺っていたC.C.がルルーシュに問いかける。
 ルルーシュは振り返り、C.C.を見る。振り返るルルーシュの表情、そこには焦りは感じさせない。むしろ、この状況を楽しむかのような笑みを浮かべている。

「あぁ。俺達は、この迷宮の中…ヒントを得て脱出しなければならないようだ。推理ゲームだな、これは……」

 商店街の中を見渡し、その何も知らないであろうエキストラたちを見る。
 この世界に危機が迫っているのはわかった。
 後は、『涼宮ハルヒ』というものについて調べて見なければいけない。

「…ルルーシュ」

「なんだ?」

 C.C.はそんなルルーシュのやる気に対して、気づかうような優しい目をしてルルーシュに近づいてくる。ここまで様々な世界で戦ってきたのだ。疲労しているのは間違いない。そんな彼に対して、C.C.は労いの言葉をかけるのだろう……とルルーシュは、少し思った。というよりも期待した。

「…お腹がすいた。ピザはないのか?」

 だが、それは脆くも崩れ去り、肩を落とすルルーシュ。





「随分と攻撃的な挨拶でしたね?長門さん」


 長門が商店街から出たところで、彼女に話しかける1人の男子、古泉一樹。
 古泉の言葉に足を止める長門。

「どうやら、あなたや朝比奈さんは、彼らのことが邪魔者であるという認識らしい。僕としては、彼らの登場が、この混沌とし、さらには、世界の崩壊を防ぐための重要な因子になるのではないかと考えているのですが」

「彼らの行動で、涼宮ハルヒが何らかの反応を示し、世界が修正される可能性があるとするのならば、それがプラスであるならば、問題はないが、マイナスに変革する可能性がある。彼らにこの世界を説明し、理解させるのは難しい。ならば下手な行動を起こすのは、得策ではない」


 古泉と長門は夕焼けの陽に当たりながら、オレンジ色に照らされつつ、お互いを見ることなく話を続ける。

「少し、ネガティブじゃありませんか?この世界に送り込まれたということは、それなりの素質であるものだと思っているんですけどね」

「彼らと会話をして、その性格などを総合して導き出した結果から、そう結論をつけただけ」

「わかりました。あなたがそういうのであるならば、僕は僕なりの手法で、彼らにコンタクトをとってみようと思います」

 古泉は、そういうと長門がでてきた商店街にと入っていこうとする。

「気をつけること。涼宮ハルヒの世界において、彼らは規格外の人物であり、一種のウイルス的な存在。規格外の存在に関して、彼女は無意識にも排除を行なう可能性がある」

「なるほど。わかりました。でしたら急いだほうが良さそうですね」

 古泉は相変わらずの笑顔で、長門からの忠告を聞きながら、商店街にと消えていく。それと同じくして長門もまたオレンジ色の光に照らされながら、帰途に着く。


 ルルーシュはとりあえず、今はこの目立つ服装をどうにかしなくてはいけないと考えた。そこで情報を収集する必要がある。なんせ今まで以上に、ここでは、他者に紛れなくてはいけない。誰が敵であるかわからない以上は常に見られていると考えるべきだろう。
 
 ルルーシュは、考えをまとめ、これからのことを段階つけているとき…。

「!」

 自分達のいる商店街の路地に飛び込んでくる1人の女子。
 制服は先ほどの長門と同じもののようだ。
 彼女は、ルルーシュたちを見ると、息を切らしながら

「た、助けて…お、追われているんだ。警察を呼んで…」

 大きく息を吐きながら、なんとか、言葉を告げる女子。

「誰に追われているんだ?」

 ルルーシュはその女子に問いかける。

「よ、よくわからないんだ。急に私を追いかけてきて……何がなんなのか。」

 かなり混乱しているのだろう、彼女の背後…影が覆う。

「もう、見つかったの!?」

 その女子は振り返り、そこにたつものを見る。
 女子を追いかけていたもの…それは厚着の黒いコートを身につけ深く帽子をかぶった長身のものたち。顔も見れないほど深く被っている。よって男かどうかは、推論でしかないが。だが、その帽子のおく、まるで獣かのように、眼がぎらつき光っている。

 ルルーシュは、その奇怪な追っ手たちを見る。
 先ほどまで平和な街だと思っていたが、どうやら、それは自分たちを騙すものだったのかもしれない。ルルーシュは、その女の前に出る。

「お、おい!あんた1人じゃどうにもならないって。早く警察を!」

 その女子は、見た目で明らかな細身であるルルーシュが、その巨体であり、不明な存在である黒コートのものに挑もうとしていることに驚く。

「1人の女に、これだけの大人数で挑むとは、大人気ないな…」

「バカ、そいつらは…話してわかる相手じゃ…」

 女は、男の無謀ぶりにあたふたしながら、叫び続ける。
 巨漢の男達は、ルルーシュの問いに答えることも無く、拳を構える。
 まるでボクサーといわんばかりだ。

「問答無用か、ならば……俺もお前達に、同じく無慈悲な事実を伝えてやろう」

 ルルーシュは、片手で目のコンタクトを取り払う。
 そこには、赤き皇帝が持つ印の眼がある。


「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる、お前達は…俺達の前から消えろ」


 赤き光がその黒いコートの男達にと届き、ギアスが命じられる。巨漢の男達は、先ほどまでの戦闘スタイルから、急に大人しくなり、路地から出て行く。
 その一連の行動がまったくわからない女子。一体なにをしたというのか、まるで魔術のようだ。いやいや、そんなことができる人間は、あいつらだけで十分だ。その女子は、頭を振りながら、そう思うことにする。

「大丈夫か?」

 ルルーシュは、混乱しているその女子に声をかける。
 女子は小さく頷き

「た、助かった。ありがとう」

「出来れば、なぜ襲われていたのか、何か知っていることがあれば教えてもらえないだろうか?協力できるのならば、したい」

 ルルーシュの優しい言葉に女子は困惑しながらも、先ほどと同じように頷く。
 正義の味方…、誰もが好きであろう存在。
 人助けとはそれを露にすることができる良き方法だ。
 ルルーシュの背後では、C.C.が微笑みながら、そのやり取りを見ている。
 彼女もまた分かっているのだろう。
 ルルーシュのやり方を……。

 パチパチ…。

 拍手の音でルルーシュが、その音のほうに振り返る。そこには男が立っている。 長門と名前をいった女と、後、この助けた女子と同じ学校の制服だ。
 男は、笑みを浮かべながらこちらに近づく。
 なんとも気味が悪い奴だ。


「初めまして、僕は古泉一樹といいます。みなさんにお願いがあってきました」


 平和の満ちた世界、そこでは確実な破滅のカウントダウンが進み始めている。
 

 それを、まだ誰も実感は出来ていないでいた。









[6912] 第1話 世界の基盤
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2009/02/27 20:35





第1話 世界の基盤





 場所を移して喫茶店にて、テーブルに座る4人。
 服装がおかしなルルーシュと、C.C.は古泉一樹が用意した、長門有希や古泉と同じ制服を着ることで誤魔化すこととなった。

「そんなに遠慮しないでください、あ、お会計なら僕が持ちますから。気にしないでくださってかまいませんよ?」

「そうだ、遠慮する必要はないぞ?ルルーシュ」

 ピザを食べ漁るC.C.に呆れながら、ルルーシュは紅茶を飲む。

「……貴様、少しは遠慮したらどうだ?」

「あいつは遠慮するなといっているんだ。だから遠慮をしていない…何か間違っているか?」

 C.C.の言動に怒りを覚えるルルーシュ。
 なんとかそれを堪えながら、前にいる古泉を見る。

「……俺達に願いがあるとはなんだ?」

「はい、実は……、貴方達のことに関してです。貴方達はこの世界に来た理由は、おおよそ、わかっています。世界の消滅の危機を回避するということですよね」

 深刻な話をしているはずなのだが、古泉の笑顔と、喫茶店、さらには隣でピザを食う女のせいで、まったくそんな感じがしない。

「本当に、この世界は危機に瀕しているのか?見たところ、そんな風にはまったく見えないんだが……」

「あなた達の視野では、そうでしょう。この表面的な世界では、何も変わらない。平和なものです。ですが、裏では……そうも言っていられない状況となっています」

 相変わらずの笑顔で言う古泉。
 このようなキャラはいまだかつて出会ったことはないルルーシュはどう対応したらいいか、決めかねている。

「裏?」

「はい。実は、この世界は……とある人物の主観的世界なんです」

「主観的世界?」

 古泉は相変わらずの淡々とした表情と言葉を続けていく。

「はい。とある人物の願望や思ったことが世界に繁栄され、そして、その人物のために、この世界は創造されて今に至っているわけなんです。僕らは、そのとある人物のために存在し、そして、その人物の暴走を止めるべく存在しているわけなんです」

「待て、それでは……この世界は、そのたった一人の人間のためにつくりあげられ、その人間のために存在している世界だというのか?」

 ルルーシュは、古泉の言葉を、なんとか理解しながらも…根本的なところをひっくりかえされた気分だ。

 世界というのは、様々な人間の集合体によって構成されている。だが、この世界は、そうではないというのか?

「はい。その通りです。理解が早くて助かります。当然ながら、その人物に、そのことを知られるわけには行かない。それは世界の消滅にも繋がる事態ですから。その人物に真実を隠したまま、世界に与える影響をなるべく抑えるようにして、学園生活を送らせることが、僕の役割というわけです」

「……ありえない。世界を創造できるなど、それでは、まるで……」

 ルルーシュの考えはあるものに到達する。
 だが、それを認めるわけにはいかない。
 いや、認めたくはない…。
 そんなものがこの世界に、堂々と存在しているということを。

「えぇ…そうです。『神』という言葉が、おそらくは1番適当な答えだと思います」

「ふざけるな!!」

 立ち上がるルルーシュ。
 その声に喫茶店の客などが振り返る。
 C.C.もピザから手を離して、ルルーシュを見上げる。
 ルルーシュは、息が荒くなっているのを感じた。
 神がこの世に存在しているというのか。
 ありえない…しかも、それが自分が神であることを認識せずに?

「……確かに最初は誰も信用していただけない話だとは思いますが、この世界においては、それは真実であり、ルールなんです。僕らの行動は、おそらくは…とある人物の無意識な考えに沿って決められているものなのかもしれません」

「俺の行動もか?」

「……さぁ、貴方達はこの世界における、一種の異邦者です。人間の体内にはいってきた抗生物質と例えたほうがいいでしょう。貴方達の行動まで、予測しさらには、その人物の考えに沿って動いているとは考えにくい。だからこそ……貴方達にしか出来ないことがあるとおもうのです」

「……俺達だけにしか出来ないこと、それがこの世界を救うために必要なことになるというのか」

「えぇ、ですが、すべてがプラスに働くとは限りません」

 ルルーシュは古泉の言葉に目を細める。

「貴方達が、規格外の存在であるならば、その一挙一動により、すべてがとある人物の、予測範囲外の行動となる。貴方達は最初に言ったとおり、コントロールされている人間ではないということですから……。だから、その行動による影響は未知数。マイナス要因により、貴方たちが世界の消滅に拍車をかける可能性もあるわけです」

 なるほど……。
 その行動には、常に世界の運命という重荷が背負わされているというわけか。
 面白い。今までもそんなことを経験してきたのだ。ゼロという仮面を被り、様々な勢力を借りて、世界を破壊し、再構築していった。それと同じだ。

「……お前の言う、とある人物が…長門有希がいっていた涼宮ハルヒとなるわけだな?」

「はい。ですから、もし彼女と合う場合は、十分に注意をして接して欲しいということです。長門さんは、貴方達の行動がマイナス要因に働く可能性があるとして、近づくことを危惧していたのです」

 古泉の言葉に、ルルーシュは、口元を微笑ませる。

「現状がゼロであるならば、プラス・マイナスどちらに転ぶかわからない存在を近づけたくないというのは、確かに考えられる選択枠だ。だが、それでは、現状を維持することにしかならない」

 頷く古泉。

「はい。現状を維持していても意味がないんです。だから、僕は貴方達にかけることにした」

「……世界の未来を掴むためには、挑戦する必要がある。それは、どこの世界においても同じことだ」

 ルルーシュは、ようやっと席に着く。
 C.C.は口元のピザの汚れを布巾で取り払いながら、ようやっと話を聞く姿勢にと映る。

「……それで、なぜ今回のような出来事になった。涼宮ハルヒに何らかの影響を与えた人物が存在することになるな?だが、それは、ありえない話だ。涼宮ハルヒがこの世界を創造し、コントロールをしているのなら、自分をそこまで追い込む必要はないはずだ」

 この世界の神が自ら、世界を破壊する必要はない。
 しかも、この世界の崩壊だけでなく、様々な世界も巻き込んでの崩壊となれば……神と称す涼宮ハルヒさえどうなるかわからない。

「はい。ですから、僕たちも困っているんです。なぜ涼宮さんが、ここまで不機嫌となり、世界を覆そうとしているのか、どうにもわからない。長門さんは何らかの情報を掴みかけているようですが、僕は、涼宮さんの不機嫌により発生する閉鎖空間による拡大を防ぐために忙しくてなかなか情報を収集できていないのが現実です」

「閉鎖空間?」

 古泉が立ち上がる。

「はい、それを貴方達にお伝えするために、きたんです。今この世界がいかに危機的状況であるかということを、身をもって知ってもらうために……」

 喫茶店を出た一行。

 古泉は、ルルーシュたちの前を歩いていく。その後を追うルルーシュたち。

「……信用できるのか?あの男?」

 C.C.がルルーシュの後で小声でつぶやく。

「興味はひかれたよ。この世界における危機というものは、あいつの話で納得もできる。だが、やはり証拠がない以上は、空論に過ぎない。もし、なにかあれば…」

 ルルーシュは古泉の背後…いつでもコンタクトを外してギアスを使用する用意があった。
 自分たちは様々な世界を経験している。
 味方だと思ったものが敵であったことなど幾らでもある。
 信用できるのは…自分達の世界にいたものたちだけだ。




「つきました」


 ルルーシュは、古泉が振り返ってそういったことに驚く。
 あたりを見回せば、そこは先ほどあるいていた町並みと変わらないが、いつの間にか、人影はいなくなり、薄暗い世界となっていた。

「ここが閉鎖空間、貴方達が見てきた世界が表の世界というのならば、ここは裏の世界。涼宮さんの鬱憤やストレスがたまることで、この閉鎖空間は拡大し、やがて世界を飲み込み…そして世界は崩壊することになります」

 これが…世界の崩壊を起こす空間。
 やはり、今まで自分たちが経験してきた世界とは根本的に違うようだ。しかも世界の崩壊のきっかけがストレスに鬱憤だと?そんなもので世界が崩壊された日にはたまらない。

 爆風が、ビルの隙間から流れ込んでくる。
 ルルーシュは腕を前にして、その煙を防ぎながら、古泉に誘導されるように建物の影に入る。

「くっ!なんだ、これは?」

「どうやら始まっているようです。こちらに…」

 古泉に案内され、ルルーシュたちは、高いビルの屋上にと上っていくことになる。建物の屋上に案内されたルルーシュは、そこで驚愕のものを目にする。

 巨大な怪物が、周りの建物を破壊している様である。
 しかもそれは一体だけではない。
 数体の怪物が、ビルや建物を破壊していく。
 轟音とともに崩れていく建物。
 その光景を目にして思わずルルーシュは息を呑んだ。

「なんだ、あれは!?」

 古泉のほうをみるルルーシュ。
 古泉は、その怪物=神人を眺めている。

「あれが、神人…僕たちはそう呼んでいます。鬱憤やストレスが溜まることで、あれが現れ、閉鎖空間という世界を破壊する。ストレスを発散するように……」

「……あれを、涼宮ハルヒが作り出しているというのか?」

 その迫力のある巨大な怪物を再び視界に捕らえて、ルルーシュはいまだ驚愕している。まるで現実とは思えない光景だ。

「はい、それに…貴方達も、あっているんですよ?神人には…」

「なに?」

 ルルーシュは思い出す。
 確か、最初に出会った黒ずくめのものたち。
 あいつらも人間とは思えないような行動をとっていた…。

「本来ならば、表の世界に神人は現れません。ですが、涼宮さんの力が暴走しかけているために、そして、あなたという異邦人を排除するために現れたのでしょう」

「……涼宮ハルヒの力は、そこまでだというのか」

「少しはわかっていただけましたか?彼女のそういったストレスだけで、閉鎖空間においてですが、世界は破滅の危機を常に迎えているわけです。そして、僕たちが、それを押し留める役割を持つ」

 古泉は、そういうと、自らの体を赤い火の玉に変えて、空にと飛びあがると、神人とよんだ怪物のほうにと向かっていった。
 ルルーシュがビルの屋上の手すりを掴み、様子を見る。
 どうやら戦っているようだ。
 あの怪物と……。

「くそっ、一体なにがどうなっているんだ。この世界は!」

 ルルーシュは自分の常識の範囲外での出来事に思わず言葉を荒げる。

「……ここまでくると、驚きすぎて逆に疲れてくるな」

 C.C.は、目の前で起こる光景に逆に現実味が薄れてしまい、まるで映画をみるかのように、ただ眺めている。

「落ち着け……、これは現実だ。現実をまずは受け止める必要がある。その現実の中で、自らが行なうべきことを考えなくては……」

 ルルーシュは自分に向かってそういうが、C.C.はそういうルルーシュが1番、冷静ではないように感じていた。




 轟音とともに、先ほど暴れていた神人が崩れ落ちていく…。
 そして、いくつか、古泉とともに戦っていた複数の赤い玉が消えていくのと同じようにして、古泉がこちらにと戻っていく。

「……ふぅ、最近はこの出撃も、何度も続いています。涼宮さんの感情が安定していないせいでしょう。体力というより精神的な消費が激しいから大変です」

 古泉がそういいながらも相変わらずの笑顔だ。C.C.はその顔に落書きでもしてやりたいなと考えながら、話を聞いている。

「…まずは、その涼宮ハルヒに会わなければ話にならないな。その女がこの世界の崩壊に関与しているなら、問題はその女にある」

 ルルーシュは、古泉にそう告げる。
 古泉は溜息をついて

「それは、そうなんですが……、ただ先ほど言ったとおり、直接あったところで、あんまりいい結果は望めないと思います。ですから、まずはどのような人なのか…客観的に確認していただきたいと思いまして」

 古泉は、ルルーシュの気持ちを落ち着かせながら、そう切り出す。
 ルルーシュとしては、この混乱する世界からさっさとでていきたいところだが、冷静さを取り戻して渋々従うことにする。



「それでは、皆さん行きましょうか…」


「ちょっと待て!!」


 その声に振り返る一同。
 そこでは大きな声を上げた1人の女がゼーゼーと息を吐いている。
 そういえば、この女は、黒ずくめのものたちに追いかけられていた女だ。
 なんでこいつがついてきている…。

「私の事を無視して話をすすめるな!!」

「えーっと、あなたは…」

 古泉は腕を組んで考える。
 ルルーシュたちも、その女が誰なのか検討もつかない。
 さきほどからずっとついてきていたようだ。
 まったく気がつかなかった…。

 女は、ルルーシュたちを見て、大きな声で叫んだ。



「私だ、私……キョン子だ!」












[6912] 第2話 初接触…SOS団
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2009/02/28 23:28





第2話 初接触…SOS団








「…そんなに私を無視して楽しいのか!」


 キョン子と名乗る少女は、古泉に自分を必死にアピールする。
 まるで売れない芸人のようだ。
 そこまで言ってしまうと可哀想になってしまうかもしれないが……。

「えーっと、あなたも、この世界に転移してきた1人ってことですね。しかも、僕たちと近い世界から……」

「よくわからんが、気がついたら、あの黒い奴らに追われていたんだ。まったく…なんで私がこんな目に会わなきゃならん!」

 古泉は、ぼやくキョン子を見て腕を組み、その存在に対する結論に至る。

「…しかも、どうやら、あなたは別の世界のキョン君ということのようです。なるほど、これは面白い。こういうこともあるんですね」

 一人納得する古泉に首をかしげるキョン子。

 どうやら、ルルーシュたち以外にも、この世界に転移された人間がいるようだ。 それほどに切羽詰っているということか……、この世界は。

「仲間が多いに越したことはない。時間がないのだろう?接触する場所等を指示してもらおう。それにあわせる」

「わかりました。詳しくは…後ほど、ご連絡差し上げます。レンタルですが携帯電話を用意しておきました。なにかあった場合はこちらに連絡します」

 古泉は、キョン子とともにルルーシュたちに携帯を渡す。


「……そういえば、あなたたちの名前を聞くのを忘れていましたね」

「俺は、ルルーシュ・ランペルージ。こいつは……」
「C.C.だ」

 ルルーシュの言葉にかぶせるようにしてC.C.が告げる。

 古泉は頷くと、再びもとの世界にと戻るために歩き出す。







 閉鎖空間……。





 そのようなものを無意識のうちに構築する力。
 ギアスでさえ持つことが出来ない力。
 そのようなものを持つ人間…確かに神と思えても仕方が無いものなのかもしれない。
 ルルーシュは、そんなことを閉鎖空間である、
 先ほどまでの怪物が暴れていた場所を眺め思う。



「……キョン子といったか?お前はどうやってこの世界にきたんだ?」


 ルルーシュが、閉鎖空間を考察している間、C.C.はキョン子に問いかける。
 キョン子は、古泉のそうだが、一風変わったC.C.に警戒感を持ちながら…

「私の場合は、突然だった。放課後の帰宅途中に、男達に追いかけられて、気がついたら、お前達とあっていた。そして…男の古泉が現れたんだ。私としては、どこからどう、こっちの世界に移動したのかわからない」

「なるほどな。私達のように、誰かから示されて世界を移動したというよりかは、自ら飛び込んだという形か」

「……」

 キョン子は、C.C.の言葉がいまいち、理解できない。

「どちらにしろ、私達もお前も同じ、この世界では異端者でしかないことに変わりはない。よろしく頼むぞ?」

「あ、あぁ……」

 キョン子は戸惑いながらも答える。
 キョン子にとっては、C.C.ほどこの世界は別世界というわけではない。
 全ての人間の性別だけが変わっている世界。
 逆に言えば、それ以外は何も変化はないのだ。古泉もきっと、ハルヒも性別が変わっているのだろう。なんとなく想像ができないわけだが…。だが、いつもベタベタひっついてくる古泉が、男となっているために、その心配がなくなったことだけは、感謝するべきだろう。


 男であってもそうなってくれば、何の迷いも無く警察に突き出せるわけだが…。





「とりあえず、僕の仲間から貴方達の仮の宿舎のような場所を手配させていただきました。残念ながら、一部屋ということですので、仲良くすごしてくださいね」


 古泉が、閉鎖空間から連れてきたのは、マンションだった。
 随分と高級そうな高層マンション。しかもセキュリティーもしっかりしているようだ。これも、今日出会った、あの黒ずくめのものたち=涼宮ハルヒがつくりだした神人から防ぐための予防策でもある。ちなみに、マンションの住人には、古泉の味方のものも住んでいるようだ。防衛策は完全ということだ。

「そういうことですので、みなさん…また明日。おやすみなさい」

 古泉は宿舎の場所だけを指摘して、笑顔で帰っていく。
 残された3人は、仕方が無く案内されるがまま、高層マンションの指定された階にとエレベーターでのぼり、部屋にはいる。


「おぉ~…おもったより、広いな?」


 それは4人家族が住めそうな場所であり、テレビやテーブルなど既に完備されている。マンションから外を見れば、街の風景を一望できるようだ。C.C.はソファーに寝転ぶ。ルルーシュは、そんなC.C.をおいて、部屋のあちこちを調べる。

「なにしているんだ?」

 キョン子が、ルルーシュに問いかける。

「いつもの癖だ。眠る部屋等に盗聴器・監視カメラがあるか調べているそうだ」

 C.C.はキョン子をみずに、ソファーで寝転んだまま告げる。

「は、はぁ……」

 やっぱり変な奴らだ。
 こんな奴らと一緒に暮らすのか……キョン子は想像すると頭が痛くなってくる。


 数十分後、部屋の様々な場所を探し終えたルルーシュがテーブルのイスに座る。


「いちお、どこにもそういったものはないようだな」

「……毎回調べているが、出てきたことなんかほとんどないだろう?」

「念には念が必要だ。それに…俺はまだ、あの古泉が信用できるとは思っていない」


 ルルーシュはそういって、大きく息をつくと、これからのことを考え始める。

「…古泉には、指定した日時を後日、送るようにした。後は…金銭も貰った。明日は、情報収集のみを優先する。相手がどのような性格、どのような思考をもっているかがわからなければ、作戦立案も出来ないからな」

 ルルーシュは、明日の行動を考えながらその場にいるキョン子とC.C.を見る。 ルルーシュにとってはなんとも頼りない戦力である。
 カレンやスザクあたりがいれば、カレンは地味に、家庭生活などをこなしていきそうだし、スザクは、天然だが力仕事に関しては問題はない。
 しかし……この2人は……。

 生活皆無のC.C.には、何を言っても無駄だな。


「何かいったか?」


 しかもなぜか、いろいろと察する、驚くべき敏感性。
 心でも読めるんじゃないかと感じる。

 だからこそ、こっちに振らざるをえなくなる。


 ルルーシュは、キョン子のほうをみる。

「確か、キョン子といったな」

「あ…あぁ」

「貴様、何ができる?」

「なに?なにって、なんだ?」

 ルルーシュの問いかけの真意を探るキョン子。

「お前の行える行動だ。この世界に、きたのだ。それなりの戦力となりうるのだろう?戦闘…格闘、射撃、または諜報活動。どれが得意だ?」

 キョン子は、ルルーシュの言葉に呆れながら、溜息をついて

「私は、戦うためにこんなところにきたわけじゃないからな…、そんなこと出来ないぞ?」

「なんだと!?それじゃーお前は、なんのためにこの世界にきたんだ?」

「それはこっちが聞きたいぐらいだ。気がついたら、ここにいたんだからな」

 ルルーシュは、こいつもまた戦闘には役立たないと判断する。
 だが、何の役にも立たないものを、この世界にCの世界…『集合無意識』が送り込むとは思えない。例え、それが、Cの世界の意思でなくとも、何らかの目的でここにきたのは確かだ。

 何か…隠された能力があるということか?
 まさかギアス……ではあるまい。
 それなら、C.C.がなんらかの反応を示すはずだ。


「……とりあえず、何か食事にでもしよう。どうやら冷蔵庫にも食事があるようだから、簡単なものでよければつくるぞ?」


 キョン子は、空腹を感じて、キッチンにと歩いていく。

「待て!料理に、毒が…」

「そんなことをするなら、既にやっている。お前は心配性すぎるぞ?ルルーシュ。……それでは、キョン子、ピザを…」

 制止しようとするルルーシュにC.C.が冷淡につぶやき、キョン子にメニューを提案する。しかもピザ…。

「冷凍しかないけどいい?」

「あぁ、かまわない…」

 C.C.とキョン子の無言の視線が、ルルーシュに突き刺さる。
 ルルーシュは、反論の1つでもしようと思ったが、諦めて、大人しく料理のメニューをオーダーする。

 今日始めて出会ったキョン子とルルーシュ、C.C.だったが、その溝はあっという間に埋まっていく。それはキョン子の人見知りのなさ、ルルーシュとC.C.の独特のキャラのせいか……。



「美味いな。お前、料理をやっているのか?」

 つくられたスープを飲みながら、ルルーシュは、かつてアッシュフォード家にて居候をしていた際、メイドである篠崎咲世子の食事を食べていたが、それに迫る味を感じて驚く。

「別に、親の料理の手伝いをさせられているだけだ。弟が、何もしないからな……私がやるしかないのさ」

 キョン子は驚いているルルーシュを見ながら、簡単につくった料理を箸をつまみ食べている。というよりも、こんなことで驚くなよ…というのが正直な感想であるのも、褒められるのもまんざら悪くはない。

「…ここに、ピザをつくる器具が悔やまれるな」

 やはり、味としてはおちる、冷凍ピザを食べながら、スープを飲むC.C.がつぶやく。



「それで…明日はどうするんだ?」



 ルルーシュに問いかけるキョン子。
 ルルーシュは、スープをテーブルに置き、いつの間にか、持っていた地図を開く。


「……接触場所を考えた。相手を良く見ることが出来て、さらには性格等の分析を図れる場所……それは」


 ルルーシュは、キョン子とC.C.が見る中、ある一点を指差す。








「なによ!古泉君、みんなで気分転換にって…私はそれよりも、不思議探検をしたいっていってるじゃない!!」


 涼宮ハルヒは、ここのところずっと文句を言い続けている。
 古泉は、そんなハルヒを落ち着かせながら、ゲームセンターの前にと来る。

「……遊戯場所」

「ゲームセンターですね?」

 長門有希と朝比奈みくるが、その看板を見る。建物自体はさほど新しいものでもないが、ここらへんでは、唯一ある場所で、よく若者が集まる場所でもある。

「なんだって、またこんなところに……、折角の放課後なんだかもっと有意義に使いたいぞ?古泉?」

 キョンも、溜息を漏らしながらやる気なさげに言う。
 その反応を示したキョンに、ハルヒは過敏に反応を示して


「……いいわ、気分転換にやっていきましょう」

「おい、なんだよ!?さっきまで行く気が無かったのに……」

「気が変わったのよ?文句あるの?」

「……好きにすればいい。俺は適当に見て回るからな」


 キョンとハルヒは、ここのところ最近ずっとこの調子である。
 ハルヒがいらついて、鬱憤を溜まらす原因はそこにある。
 キョンもハルヒも、互いに対してやけに冷たく当たるのだ。
 それがわざとか、何か理由があるのかはわからない。


 しかし、理由はともあれ、この状況により世界は、確実な崩壊にと向かっているのだ。


 ゲームセンター内にはいった一同がまず目にしたのは、人だかりが出来ているということだ。そのゲームは最近、導入されたガン○ムゲームであり、円形のボックスにはいり、チームで編隊をつくり、まるで実際のロボットを操縦しているような感覚でゲームを楽しめる装置である。


『Your Win!!』


 その声とともに、一方の対戦装置から出てくるものたち……。
 首をかしげている彼ら。
 双方の戦いぶりは、正面のモニターに映し出されている。優秀な指揮官がいるようで、敵の戦術を把握し、殲滅する戦闘を行っている。既に10戦全勝…、ここのつわもの達も、まるで歯が立たない。


「フハハハハハ~、まるで話しにならないな?この『黒の騎士団』を止められるものがいるのなら、かかってくるがいい!」


 対戦ボックスのほうで、高らかに笑う声が聞こえる。
 それにハルヒはニヤリと微笑む。
 そして、対戦ボックスのほうに指を差して…


「上等じゃない!相手が騎士団なら、私達はSOS団として、勝負してあげるわ!」


 ハルヒのそのやる気に満ちた笑みを見たのは、SOS団にとっては久しぶりのものであった。


 メンバーは3対3で行なわれる。


「キョン、有希、私で行くわよ!」

「ちょ、なんで俺が…」

「いいから!手伝いなさい!」

 ハルヒは、ゲームのボックスに乗り込む。
 暗い画面に明かりが灯り、夜の市街地のステージが現れる…。
 何がなんだかわからないまま、キョンは仕方が無く、やることにする。
 長門有希は、その視線をコントロール方法の説明に集中させている。
 ハルヒは、やる気に満ちた表情で、相手の陣営を睨む。




「いくわよ!SOS団の実力をみせてあげるわ!!」


『フ…面白い。返り討ちにしてくれる』



 SOS団と黒の騎士団の対決が今、始まる。












[6912] 第3話 涼宮ハルヒの遊戯~SOS団VS黒の騎士団~
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2009/03/01 20:18






第3話 涼宮ハルヒの遊戯~SOS団VS黒の騎士団~








―――――――――――SOS団


 夜の市街地…、高層ビルがあちこちに点在する中で、三機の機体が、揃う。
 涼宮ハルヒ、キョン、長門有希のSOS団の代表メンバーにて、連戦連勝を続ける敵部隊に対して攻撃を開始する。高層ビルということもあり、敵の姿を視認することは出来ない。それは、相手も同じはずだ。ならば、ここは隠れながら慎重に攻めていくしかない。

 キョンは、そういおうと、ハルヒに回線を開こうとした。



『全軍!突撃ぃいいい!!』



 突如聞こえたハルヒの声とともに、ハルヒの操るロボは、そのビル群の中に突っ込んでいく。

 頭が痛くなってくるキョン。

「おい!ハルヒ、そんなことをしたら…すぐにやられちまうだろ。だいたいお前は指揮官機なんだから無理するな!ったく、長門…俺達でフォローするぞ?」


 だが、長門の操る機体は動く気配がない。


「長門?」

『…現在、戦闘を行うためのルール、操縦方法を確認中。戦闘開始までもう少し時間が必要』

 長門まで、この調子では勝ちようがない…。
 とにかく、今はハルヒの暴走を抑えるほうが先だ。
 キョンは操縦方法を確認しながら、機体を動かしてハルヒを追いかける。
 敵に狙われないようにするために動きは慎重にならざるを得ないわけだが…。



―――――――――――黒の騎士団



 ルルーシュは、エリア内の地図を見つめる。

 古泉の話では底なしの負けず嫌いであるということだったようだが、どうやら、そのとおりのようだ。

 ここまでは計画通り…。

 後は、敵の戦略を見て性格を分析することができる。
 人物をよく知るには、やはり…こうして接してみなければわからないからな。


 ルルーシュは、涼宮ハルヒの人物像を把握するために仕組んだものが、このゲームゲーム機対戦だ。性格により戦闘スタイルが露になる。

 これこそが…もっともわかりやすい性格を知るための手段であると考えたのだ。 勿論、キョン子とC.C.はとばっちりなわけだが…、しかし、他に方法がないのだから仕方が無い。下手に直接的な接触を働こうとすると、長門有希からの忠告もある。

 どちらにしろ…今は、このゲームを楽しむとしよう。ナイトメアフレームの操縦ほど綿密に造りこまれている訳ではないが、動きなどはよくこのゲームは、再現されている。空中での移動が出来ないのが不満といえば不満だが……それでも問題は少ない。ある程度自由に行動ができる、このゲームで、敵の動きを見せてもらおう。



『……目標地点到達』

『こっちも……指定された場所に到達した』


 MAPの左右の端にC.C.とキョン子を設置。
 まっすぐ敵が接近してくるのがわかる…、高層ビル群の中を、敵の姿は見えないが、足音だけは良く聞こえる。所詮は突っ込むことしか考えられないものか。だが、おかしいな…敵の機動音は二機分しかない。


「C.C.、キョン子……敵は二機しかいない。お前達のほうに向かっている可能性もある十分気をつけろ」


『了解』


 だが、ここで、二機を潰しておく必要はある。
 数の有利は…絶対的な勝因とはいえないが、削る必要はある。
 
 敵の機動音が突如止まる。
 気がつかれたか…だがもう遅い!


「いまだ!」


 左右そして、前からのロボット用の手榴弾による攻撃。
 MAP左右の両端にいるため、仲間同士で当たることはない。ここまで前進している相手では、この空からの波状攻撃を防ぎきることも出来ないだろう。さらにいえば、これはまだ前哨戦でしかない。手榴弾の効果は、この高層ビル群を崩すことにある。


 煙を上げながら、崩落していくビル群。


 煙にまみれた敵は、視界を失う。そこを……しとめる。
 完璧な作戦だ。
 相手がいかに優秀な奴だろうが、この状況下では、手も足も出ないはずだ。
 例え、スザク…カレンが相手とはいえ…。


「フハハハハハハ。しかし、期待はずれだったな。こんなものか……涼宮ハルヒの戦略とは。C.C.、キョン子、煙が晴れる前に蹴りをつけるぞ。ライフルで十字砲火をかけろ。くれぐれも、左右から位置をずらして、仲間で撃ち合わないように……」






――――――――――――――――――SOS団






 やはり罠だったか…。

 キョンは、ハルヒの機体を庇いながら、煙の中、身を伏せている。
 先ほどの十字砲火によってビルが崩れ落ち、隠れる場所がなくなっている。
 さらには、瓦礫の大さに身動きできる範囲汗限られてしまっている。
 相手はこちらの手を読んでいたようだ。
 やはり連戦連勝の相手は手ごわい。


「大丈夫か?ハルヒ?」

「え、えぇ……。敵は?」

「すぐにくるぞ。とりあえず、体勢を立て直すために後退した方が良さそうだ」

「……わかったわ」


 ハルヒは珍しく素直にキョンの言葉を聞いた。
 だが、この状態で果たして上手く逃げられるかどうか……。

 近くでは、ビームライフルが、自分達の機体を掠めていく。
 足場が不自由なので、まともな防御が出来ない。
 シールドをだして、敵の弾を防ぐ。


 すると、今度はその場所を徹底的に攻撃が始まる。
 キョンの機体は、後ろからのライフルを受け、その場に倒れてしまう。


「私達の場所を計っていたのね…。左右に配置した敵の片方ずつの攻撃。左右から放った攻撃は、何事も無ければ、相手からの攻撃がこっちにくる。だけど、防げば当然、ライフルなどの攻撃はかえってこない。ということは、そこに誰かがいると言うことになる」

 ビルの破壊は、これも踏まえてのことだった…。
 敵の居場所をはかり、そこを集中放火する。
 煙にまみれた中で、反撃も出来ず、自分たちは、ただやられるのを待つだけだ。

 ハルヒは、キョンの機体の後にたち、シールドをだして、キョンの背中を守る。
 身動きが取れない…これでは防戦一方だ。



 やがて、煙がはれてくる……。


 周りのビルの明かりに照らされながら、視界が開けてきたキョンとハルヒ。
 それぞれの視線の先には、敵の機体がはっきりと見える。
 これなら、こっちからの反撃も……。



『すべての条件はクリアされた……』



 キョンとハルヒは、視線を前にやる。

 自分たちが身動きが取れない中、前方……、敵の指揮官機が、ライフルを構える。防御を既に左右からの攻撃で防ぐのに精一杯な二機にとって、側面からの攻撃には耐えられない。


 すべては…ルルーシュの作戦通りにことが運んだ。
 完敗である。
 あまりの見事な戦略……。
 何重にも張り巡らされた敵の攻撃に、キョンは、まるで相手は本物の軍師ではないかと思ってしまう。しかし、彼らはこちらの最終兵器をしらない。


『長門っ!!』


 その言葉に、長門は操縦管を握る。

『……機体のコントロール方法を把握。戦略方法、戦闘方法を把握。目標、敵撃墜、味方機体の救助…、ベストルート選択。……出撃』

 足のペダルに力を入れて、長門の機体が動き出す。





―――――――――――――――黒の騎士団





「なんだ、この高速で移動してくる機体は?!」

 ルルーシュは、自分のレーダー内にはいってきた、その機体に驚く。
 こんな動きができる機体が存在していたのか?
 ルルーシュは、その驚くべき機体にスザクやロロのヴィンセントを思い出す。

 あのような悪夢が……この世界にも存在するというのか。

 ルルーシュの大火力の機体は、ビルが崩壊して隠れる場所がないところを、移動する敵の異端機を、見つけ出し、砲撃する。それを、敵の機体は、宙を飛び、回転して回避する。その姿が、C.C.とキョン子の目にも入る。


『ルルーシュ、あれはおそらく、長門の機体だ!』

「長門だと!?」


 ルルーシュの脳裏に浮かぶ、あの淡々とした口調で、無表情の女。
 あの女がこのゲームで、ここまで本気になると言うのか。
 しかし、今までなぜ動かなかった。
 こちらの様子を伺っていたつもりだというのか……。
 だが、既に長門の味方、二機はやられかけている。

 例え、エースが一機現れようが……指揮官機を落せば終わりだ。


「…キョン子、貴様はそこの二機に止めをさせ。C.C.と俺で…あの機体を止める」


『あ、あぁ…わかった』


 キョン子は、前で、満身創痍の二機を見る。
 1人は、涼宮ハルヒ…、私達の世界でのハルヒコの女の子、そして、もう1人は自分の男の子として存在している…キョンに当たる人物になる。

 なんとも、恥かしいものだ…まさか、自分の異性と出合う事になるとは…これも、この世界のハルヒコのよくわからない我侭のせいだ。まったくいつまで、こいつに振り回されれば私はいいんだか……。


「恨みはないんだが、大将首はもらうぞ…」


 キョン子は散々、練習させられた機体の操縦を、今ではすっかり把握して、ビームサーベルを握り、二体に向かう。

 相手からのライフルの攻撃。
 だが、それもシールドで守りながら進んでいくため、脅威ではない。


「!?」


 敵のライフル攻撃がとまった?
 シールドをどかして、敵の動きを見る。
 目の前、敵はサーベルを抜き、こちらに切りかかる。
 シールドが思わず斬られる。


『俺も黙って、やられるわけにはいかないんでね』


 こいつが……。


「だったら、一騎打ちってことで……」


 キョン子はサーベルを振るい、キョンのサーベルとぶつかる。
 サーベル同士が接触してスパークがはしる。

「…残りHPが少ない中で頑張るんだね」

 キョン子は、無意識のうち、目の前の男の自分と話をしていた。
 興味?単純にそうだ。
 目の前の別の世界の自分が、どのようなことを経験してきたのか…やっぱり、自分と同じく、ハルヒコに振り回される世界を送っているのか。朝比奈君は相変わらずなのか、長門は……この戦いを見る限りでは、自分の世界と同じようだが。


 そして……どうして、この世界が崩壊の危機にとなってしまったのか。
 原因はおそらくは、彼だろう。
 同じ私として…問いただしたい。
 こんな訳の分からないことに巻き込まれて同情はするが…。


『やらせるわけにはいかないだろっ!あーみえても、俺達の団長だからな』

「なら、なんで……」


 キョン子は、キョンのサーベルのパワーに思わず、後退する。
 サーベルからライフルに持ち構えたキョン子は、それを素早く放つ。
 キョンの機体がライフルを受け、倒れる。
 しかし、すぐにキョン子に衝撃が走る。それはハルヒの攻撃だ。


『私の事を忘れないでもらえるかしら!』


 ハルヒの攻撃は、シールドを失ったキョン子にとってはかなり厳しいものだ。
 回避をしようにもビルの瓦礫の残骸で足がとられる。

「くっ!!」

 このままでは、やられる…。
 キョン子はそう思ったが、目の前の別世界の自分であるキョンとハルヒが、ここまで上手くいっているというのに、なぜ…さっきまでの対応は、素っ気無かったのが不思議に感じていた。

 攻撃は続くが、突如、それは中断された。


『そんな…弾がきれた!』


 ハルヒは操縦管を何度も押すが、そこからは音しかでてこない。
 ハルヒはキョンに目をやる。


『キョン、あなたが止めを刺しなさい!はやくっ!!』


 キョンはそのハルヒの言葉を聞き、倒れながらライフルをキョン子にとむける。 キョン子はここでやられるのも悪くはないと考えていた。
 二人がこれで仲良くなれれば、それに越したことはない。
 そう考えたからだ。





 瓦礫の中で、長門と、C.C.そしてルルーシュとの戦闘は続いている。
 ここからは、本気の勝負となるだろう…。
 相手はスザクと同じようなイレギュラー要素だ。だが、戦略に勝るものはない。たかが一機で戦場のバランスを崩すことなどあってはいけないのだ。


「くるぞ、ルルーシュ!」


 C.C.の前に現れる、その長門の機体。
 C.C.はサーベルを振り、長門の機体と接触する。同じ機体のはずなのに、相手の速度、そして攻撃の早さ…見えない!C.C.の機体がルルーシュの目の前で切り裂かれる。

「C.C.!!バカな、こうもあっさりと。このパイロットは……」

 ルルーシュは、目の前の存在に恐怖する。
 これが……長門有希と呼ばれるものなのか。
 無表情であり考えが読み取れない存在が、ここまでの力を出す……動きが読めない。


『…一機撃墜。引き続き、任務を続行。敵指揮官機と確認……』


 長門の操る機体がザーベルを向け、再びこちらに向けて前進してくる。
 ルルーシュは、残り時間を確認する。時間まで逃げ切れば…勝てるはずだが、この速度…間に合わ……。



『Your Win』



 戦闘画面にそれが表示される。
 ルルーシュは、呆然とする。自分たちは勝ったのか…あの絶望的な状況下で、だが、誰が一体?C.C.もまた、撃墜された時点で自分たちの勝利はないと確信していた。ルルーシュの腕はわかりきっている。





 ゲームセンターのボックスから飛び出すキョン子。
 キョン子は、無表情で相手側のゲームのボックスにと向かい、扉をあける。


「なんで!なんで私を撃たなかった!!」


 そのキョン子の登場に、ボックスに乗っていたキョンは、呆然とする。
 キョン子の怒りは止まらないようだ。
 キョンに彼女は大声で怒鳴り続ける。


 外で設置された双方の戦闘画面では一部始終が映し出されていた。
 ライフルの弾があったキョンの機体が、キョン子の機体を狙撃するのをやめ、ハルヒの機体を守らなかったことで、キョン子に狙撃されてハルヒの指揮官機が敗北したのだ。


「答えろ!おい!」


 キョン子の悲痛な声がゲームセンター内に響いた。














[6912] 第4話 自分達が此処にいる意味~覆う影~
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2009/03/02 20:20








第4話 自分達が此処にいる意味~覆う影~









 接戦であったその戦いの後の出来事、多くのギャラリーたちが、キョン子の突然の行動に驚いている。もっと驚いているのはキョンのほうだ。いきなり、ボックスにやってきて因縁をつけられたかとおもいきや、相手は小柄な女の子だ。



「質問に答えろ!」


 キョン子の怒声……そんなキョン子の肩に触れる古泉一樹。

「申し訳ありません。どうやら、キョン君もまた弾切れだったようです」

「なにをいって、そんな嘘が……!」

 古泉に対してもキョン子の怒りは収まらない。
 古泉は、その場を静めようと、なんとか話を誤魔化そうとするが、キョン子が感情的になってしまって上手くことが運ばない。


「まったく…情けないわね、キョンは罰ゲーム決定なんだから……その身を呈してでも私の事を守りなさいよね!」


 キョン子の怒りが収まらない中で、キョンに話しかけるハルヒ。
 その表情は、キョンが待ち合わせ時間に遅れてきたのを叱責する、いつものハルヒと同じだった。キョン子はハルヒと視線を交える。

「…あんたも、手加減されたとか思って勝手に怒るんじゃないわよ!」

 ハルヒは、キョン子を指差して言う。
 ハルヒコが女になったらこんな風になるのか…女ということで余計にたちが悪いな。
 キョン子はそんなハルヒの行動を見ながら、急速に怒りのボルテージが下がっていくのを感じた。


「確か、黒の騎士団とかいったわね?」


「あぁ、そうだ」

 キョン子の後ろ…ルルーシュとC.C.が並ぶ。
 古泉から受け取った学生服ではない、私服で今回は登場したルルーシュとC.C.は、そこに集うSOS団を眺める。古泉一樹、長門有希、朝比奈みくる、そしてキョン子の異性verであるキョン、その団長である涼宮ハルヒか……。


 指揮官を全員で支えるといった形の形態だな。
 だが、この指揮官、そこまで優秀なようには見えないが…人望はあるというのか?


「名前を聞こう…俺の名前はルルーシュ・ランペルージだ」


「私の名前はSOS団団長、涼宮ハルヒよ。今度は絶対に負けないんだから、覚悟なさい!」


 ハルヒは、そういって振り返ると、蟹股で悔しそうな表情を浮かべてゲームセンターからでていく。それを追う長門と朝比奈みくる。


「……すまない、手加減をしたわけじゃなかったんだ。事情があってな」


 キョンは、キョン子にそういうと、ハルヒの後をついていく。
 キョン子は、何かもう一言ぐらい言ってやろうかと思ったのだが、言葉が出てこない。ただ、黙ってキョンを見送ることしか出来なかった。なんとなく悔しさだけが彼女には残った。


「……どうでした?少しいろいろとありましたが、僕たちのメンバーのことは、だいたい把握していただけたでしょうか?」


 古泉がルルーシュの前で立ち止まり、問いかける。
 ルルーシュは、今回の戦闘において、相手の思考や性格などはだいたい把握は出来た。そして、SOS団における問題点も垣間見ることは出来た。


「あぁ、所詮は全知全能の神ではないということはわかった。見た限りでは、普通の女子学生だ。俺としては、あの長門という奴のほうがよっぽど得体の知れない存在に感じるがな…」


 あの短時間で、こちらの戦力をずたずたに切り裂いたあの操縦技術と勘は、見習うしかない。あんな奴が、こちらを排除するというと、本当にそれ相応の力があると思ってしまう。いや、おそらくは、それほどの力が、存在しているのだろう。


「アハハ。そうかもしれませんね。報告をお待ちしています」

 そういうと古泉は、涼宮ハルヒたちのもとにと向かう。

「……随分と濃いメンバーだったな?」

 C.C.の言葉に、お前が言うなと思わず突っ込みそうになったルルーシュだが、それを抑える。

「だが、対象が人間とさして変わらないということがわかっただけで問題はだいぶクリアされた。あの人間に、干渉を齎す存在がいるとして、それによる精神的なバランスが崩されているということだろう。どんな人間も、人間関係には常に苦労と問題を抱えているからな」

「お前が言うと、より真実味が増すな?」

 C.C.はクスクス笑いながら、その視線はゲームセンターのUFOキャッチャーにあるちーず君に似たものに移っている。



「……問題は、それが誰かによるな。そして、それを解く鍵は……キョン子」



 ルルーシュは、キョン子のほうに目をやる。

 限りなく、この世界に近い住人であるキョン子に話を聞き、彼女に人間関係を聞くことで、SOS団の構図が見えてくる。そうすれば自ずと、ハルヒを中心とした人間の相関図が作成でき、彼女の何が不満なのか、それがはっきりとわかる。



「……」


 だが、そこにキョン子の姿はない。
 先ほどまでいたはずなのに……あたりを見回すルルーシュ。
 その姿はどこにも見えない。

 まさか…、やつらについていったのか!?


「勝手なことを…、これだから……。C.C.、奴らを追うぞ!」

「待て」

 C.C.が強い口調でルルーシュに告げる。ルルーシュは、Cの世界のことを知るC.C.が何か気がついたのかと思って、彼女を見る。


「なんだ?何か気づいたことでもあったのか?」

「いや、あのUFOキャッチャーを……」

「後にしろ!!」


 そのルルーシュの声に、C.C.は残念そうに溜息をつく。








「それにしても、残念でしたね?もう少しだったのに……」

 朝比奈みくるが、重々しい空気の中、話を盛り上げるために、明るい声で言う。

「えぇ、相手もなかなかのものでした。ですが、始めてやった戦いで、あそこまで接戦にできるんですから、そこはお見事でしたね」

 古泉もそれにのっかり、ハルヒの様子を伺う。


 ハルヒは頬を膨らましながら、道端で突然、立ち止まる。



「今日は、なんだか上手く行かないわ!解散!!」



 そういうとハルヒは1人、方向を変えて歩いていく。
 その様子を見送る一同。
 少しは、彼女の気持ちを変えるように手配したつもりだったのだが…。
 古泉は、結果的に逆に出てしまったのかと思い、彼女の閉鎖空間、そして神人を倒すために、再びバイトにいかなくてはと感じた。


「……彼らを接触させないようにと私は言った」


 長門が、古泉を見て淡々と言う。
 古泉はアハハ…と苦笑いを浮かべながら頭をかく。

「僕としても、彼女が直接的な行動をとるとは思っていなくて、今後は注意しますよ」

「なんの話だ?」

 キョンが長門と古泉の話を聞いて気になる。
 長門と古泉がキョンのほうを見た。
 そのきつい視線に、キョンは思わず退く。


「なんで、あなたは涼宮ハルヒに対して、避ける行動をとっている?」


 長門の言葉…、やはり、誰がどうフォローしようが、今日のゲームセンターでの行動は、ハルヒを傷つけたことになる。長門の言葉に古泉が続ける。


「あなたが、その前に涼宮さんをフォローしているので、プラスマイナスゼロという結果にはなっていますが、最近のキョン君の行動はやはり変です。何かあったのなら、相談していただければのりますが?」


 キョンは、そんな2人から視線を外す。


「俺が、どう思おうが俺の勝手だろう?お前達はハルヒが大事なら、ハルヒのことだけ考えていればいいじゃないか…。俺の存在は結局、ハルヒにとって都合がいいか、悪いかでしかないんだろうからな」


 その言葉は、ハルヒを観察対象、保護対象としてみている古泉と長門にとってはこたえる言葉であった。決してそういうわけではない。だが、そう取られても仕方が無い。


「き、キョン君!」


 朝比奈みくるが、彼を追いかけようとしたが…キョンはそのまま自転車に乗って行ってしまう。




 残された3人。




「……随分と反抗期みたいな感じですね、彼は」

 古泉はやれやれといった風に、両手をあげてジェスチャーする。

「予期されたこと。私達が彼に、正体を明かし涼宮ハルヒに対して興味を持ち、観察・保護・保全を考えている存在であったことが分かれば、自分が利用されていることにいつかは気がつく」

「そんなの間違っていますよ。私達は、キョン君を利用対象だなんて思っていません!こうやって、それぞれ立場が異なっていたとしても一緒に今まで来た仲間じゃないですか…」

 長門の冷め切った言葉、されど真実をついた言葉に、みくるは真っ向から反発する。

「どちらにしろ、このままでは多次元世界の崩壊をはやめるだけです。根本的な部分で、キョン君の態度の原因が、先ほどのことだとしたら、僕らが原因ということになりますね。残念ながら……」

「ならば、彼に仲の良い態度をとるよう努力をする」

 長門は、解決策をあげていくが…。

「それじゃーダメですってば、私達が、涼宮さんだけじゃなくて、みんなで一緒にいたいっていう気持ちを見せないと……」

「それを見せたところで、彼が納得してくれますかね…」



 自分達の行動全てが、結果ハルヒを守るため、キョンに機嫌をなおしてもらうためと受け取られはしないか……、古泉は考える。
 そうなると、後はループだ。
 自分達の行動全てが裏にとられてしまうとなると……。






 キョンは自転車を止めて、夕日に照らされる川べり(朝比奈さんが自分の秘密を明かした場所にて)缶ジュースを飲んでいる。


 今日はハルヒたちには悪いことを言ってしまったな。
 しかし、これも仕方がないことだ。
 自分は、ハルヒを守る役目にはならないし、むしろ今の自分は足を引っ張る存在でしかない。ならば、いっそのこと…自分のことは放っておいたほうが彼女のためだ。



「……少しは、反省しているんだな?」



 振り返るキョン。
 そこに立つのはキョン子だ。
 同じ自分…自分が行きそうな場所はだいたい予想がつくものだ。
 キョン子は、自転車によりかかり、ジュースを飲んでいるキョンを見つめる。



 夕日に照らされる2人……。




「お前は…。まだ根に持っているのか?しつこいな」


 キョンはまたクレームを言われるのかと思ったらしく、ここまで追いかけてきたことに呆れている。



「事情ってなんだ?」



 キョン子の言葉に、キョンの飲んでいたジュースの手が止まる。

「私を撃たなかったのは、事情があるからだって、お前は言ったな。一体なんの事情なんだ?ハルヒのことで……何かあったのか?」

 キョン子は、自分が知るはずのないことも、口に出してしまっていることに気がつかないでいた。キョンは、目の前の女の子の言葉を聞きながら、周りを見渡す。そのキョンの行動に、キョン子は何をか察する。


『……誰かに、脅迫でも受けているのか?』


 キョン子は、携帯を持ち出してメモ帳に文字を打ち込むと、それをキョンに見せる。

 キョンは、彼女を見つめて小さく頷く。


 キョンもまた、携帯を取り出すと、文字を打ってそれをキョン子に見せる。


『…お前は誰だ?』


 キョン子は、なんといっていいのかわからない。
 ここで正直に答えるべきなのだろうか。
 だが、もしそうだとしても、なんと答えていいのか……困るキョン子。
 今は悩んでいる場合じゃない。今は、何があったのかを知るべきだから。


『……私は、別の世界から来た、もう1人のお前だ。…といっても、信じてくれなくてもかまわない』


 やはり、なんとなく恥かしい。

 そのメールを見たキョンは、暫く凝視していたが、やがて頬をかきながら腕を組み、溜息をつく。やはりこんなことをいっても信じるわけがないか。しかし、宇宙人・未来人・超能力者を相手にしているんだ。今更……。


『…頭が痛くなってきた』


 ダメか…。
 私も、もしそんなことを言われたら頭が痛くなるだろう。
 キョン子はなんと説明していいのか悩み始める。
 そんな試行錯誤をするキョン子を見て、キョンは、そのもう1人の自分と訴える彼女を信じてみようと思った。どちらにしろ、今はSOS団には何も言えない状況だからだ。


 キョンは再びメールを操作してキョン子に見せる。
 その内容を見て、キョン子は息を呑んだ。





『妹が誘拐されて脅迫を受けている。相手はわからないが、こちらの動きはすべてばれている。今はSOS団や学校の奴らを信用することはできない』





 自分の行動が、ハルヒに対して強い影響を与えるということを考えての行動。
 相手が誰かはわからないが、こうやって孤立させるよう仕向けているのか。
 さらには……SOS団内、または近い存在が、キョンの動きを監視している可能性があるという訳か。だが、そんなことを一体誰が……。


 キョン子は、今も周辺にその監視している人間が、いるのではないかという不安にかられる。いけない…今ここで周りを見渡せば、それだけで疑われる。ここは自然を装わなければ。




 そんな2人の会話を建物の影から見つめるもの……長門有希は、静かにその場を後にする。
















[6912] 第5話 蘇る恐怖
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2009/03/03 21:28






第5話 蘇る恐怖










 キョンの告げた話。


 SOS団の誰かが、手引きをして、キョンの妹を誘拐し、キョンを脅迫。
 わざとハルヒに冷たい行動をとらせることで、彼女の精神を傷つけている。
 それが閉鎖空間の拡大。
 そしてルルーシュがいう多次元世界の崩壊にと近づくということなのか。



 SOS団の誰かが、キョンを……脅迫しているのか?
 
 誰がなんのために……。




 キョン子は何もいえないまま、震えている。


 ショックだったからだ。


 同じ自分の世界の誰かがそういうことをしていると考えると……。
 キョンと違って自分は、彼らがハルヒコ(異世界のハルヒ)を監視するだけの存在とは思えない。少なくとも、友人程度で見ることはできる。


 キョンは震えるキョン子に、携帯を見せる。



『落ち着け、俺はSOS団を信用していないわけじゃない。ただ、このまま黙ってなければ、妹に危険が及ぶからだ』



 キョン子は携帯をすぐに打ち直してキョンに見せる。


『私も探す。私まで監視対象には入らないだろうし、お前の妹ってことは、私の弟が人質にとられているのと同じことだからな』

『なんだかよくわからないが、あんまり危険なことはしないでくれ。これは俺の問題だから』


 そう書き残すと携帯をしまって、自転車に乗るキョン。
 まだキョン子は話を続けたかったのだが……。

「いろいろとすまなかったな。くれぐれも無茶な行動は慎んでくれよ?」

 キョンはそれだけ言ってその場を後にする。




 残されるキョン子。




 やはり、この世界では、自分の知らないことが起こり始めている。
 それも深刻で、底が見えない。
 キョン子は真実を知ったところで、何も出来ない己の無力さに悔しさが募る。
 自分に古泉の超能力、朝比奈君の未来人の力、長門の宇宙人の力、どれでもいい。私に……あれば。



「……勝手な行動は、慎んでもらおう」



 振り返るキョン子。
 そこにいるのはルルーシュとC.C.だ。
 思わず息をつくキョン子。
 てっきり自分を見ている監視者だと思った。
 だが、安堵するキョン子を見つめるルルーシュの表情は厳しい。

「お前の行動が、今後の動きに大きく関わる可能性もある。勝手な行動をして、最悪な事態となることを、想像できなかったか?」

 ルルーシュの言葉にキョン子はうつむく。

「あぁ、すまない」

「念のために、周りに尾行者、観察者がいるか確認はしたが、その様子は無いようだ。とにかく、この場所から離れるぞ」

「……」

 キョン子は、反省しながらも、キョン子の妹について考えていた。
 理由は分かった。
 後は場所だ。
 彼女さえ救出できれば、キョンがSOS団に事態を話して、後は長門や古泉がなんとかしてくれるだろう。






 住処である高層マンションに帰宅時、ルルーシュにキョン子は、その話をした。 キョンが妹を人質にとられて、ハルヒに対して、精神的苦痛を行使しているということを…。また、SOS団の中に、その事実を把握し、こちらを監視しているものがいる可能性があるということを……。



「……ルルーシュ、キョン子の話が本当となると、私達の行動は既に見られているということだな」

 C.C.は微笑みながらルルーシュに言う。
 なんとも情けない話だ。頼ったSOS団の中に敵がいるとなるとすれば、こちらは術中にはまっていることになる。何をしてもすべてが、手のひらの中……。

「SOS団の誰かが敵だと考えるとする。古泉が敵であった場合、ここまで俺達に協力的な意味は……」

「私達の行動を把握するため、コントロールするためか…」


 ルルーシュの問いかけにC.C.が答える。


「では、長門有希が敵の可能性……、こちらを牽制した動きを見せた」

「文字通りの牽制。私達に介入されることを拒んだということだな」

「…朝比奈みくるが敵の場合、涼宮ハルヒ、キョンにひっついている…」

「鍵を握る二人を抑えておきたいというところか……」


 疑えば疑うほど、全員が怪しく感じることができる。

 だが、元より、こっちは彼らを信用しているわけではない。
 彼らの情報を最大限に利用し、こちらからの情報は極力控えていく。
 無論、敵の情報が操作であったとしても…。
 前回の、直接的な接触の効果は大きい。

 それらのことを踏まえて今後の作戦を考えなくてはいけない。最悪、全員にギアスをかけて、話を聞きださせることも考えなくてはいけないか…。



「……私は、妹を助けたい」



 ルルーシュが作戦を考えている中で、キョン子はそう告げる。
 彼女を見つめるルルーシュ、C.C.

「……我侭なことはわかっている。だけど、あいつは私でもあるんだ。あいつがどんな気持ちなのか……。私にはわかる。平然を装いながらも、動揺していて…、自分のせいで誰かを傷つけてしまって、それを誰にも相談することが出来ないんだ。だから……、私は」

 キョン子は目に涙を浮かべながら言葉をひとつひとつ、はっきりと声をあげて言う。




 ルルーシュにも、最愛の妹がいた。



 ナナリー……、

 ルルーシュがいた世界では、彼女のために、世界を変革しようと決意したほどだ。ルルーシュにとってたった一人の家族であり、命を捨てて守りたかった存在。そのせいか、ルルーシュにとって、『妹』と呼べるものは、どうしても、ナナリーと被ってしまう。


「……居場所がわからない以上は、手の出しようがない。キョンの妹を助けることで、キョンが涼宮ハルヒに対する冷徹な行動を防ぐことになれば、彼女のストレスや鬱憤は溜まることなく、閉鎖空間を拡大させることはなくなるというのは、俺もわかっている。だからこそ……敵も彼女を上手く隠しているだろう」

「でも!!」

「……感情的になるな、キョン子。物事には順番がある。まず俺達がやらなくてはいけないことは、SOS団のお前の言う観察者を見つけ出すことだ。そいつを抑えれば妹を助け出すことにもつながり、世界の崩壊も救われる」



 ルルーシュの冷静な行動を黙って聞いているC.C.

 少しは成長したようだ…。
 以前は、妹なんていうものが関わってくると、感情的に動いてしまうことも、多々あったが……。


「わかった……。私は、お前を信じるルルーシュ。私の頼りない力でよければ、なんでも使ってくれ」


 キョン子の覚悟の言葉…。

 今まで、自分には無関係の出来事であり、あくまで巻き込まれたものという視点であった彼女が、ここにきて、感情移入したようだ。それも、この世界の自分に…。まー当然といえば当然か。同じ環境であり、性別以外は何一つ変わらない世界からきたのだ。大切な家族であることは変わらない。


 ルルーシュは作戦を決める。
 やはり…1番手っ取り早い方法は…これしかない。

「……明日、俺はSOS団に接触する」

「使うのか?ギアスを……」

「あぁ、人質がとられている以上は、時間が大切だ。ひとりひとり、呼び出して聞いていく。黒だとわかれば、迷わず撃て」


 ルルーシュは、ポケットから銃を取り出す。

 キョン子はその突然の凶器に目を見開く。
 こんな平和な場所…、いや、少なくとも表面上では平和な世界においてそんな物騒なものを持っているというのは…。

「改造銃だ。この世界の日本は、随分と凶器に規制がかけられているようだからな。模倣した銃を少し弄らせてもらった」

「わかった。くれぐれも気をつけろ…。敵がギアスユーザーである可能性も否定できない」

「わかっている」

 様々な世界において、ルルーシュと敵対したものの中には、ルルーシュと同じくギアスをもつものも存在した。彼らにギアスを持たせたもの…。それららは、Cの世界からの介入者である。彼らは、己の力を行使し、世界を無意味に混乱にと導く。


 この世界にも、それがいる可能性は否定できない。


「キョン子、お前も持つか?」

 ルルーシュに見せられる銃。
 キョン子は少し戸惑う。
 これをもつことで身を守ることはできるが……逆に人を傷つける可能性も含まれてしまう。

「……私は、いい」

「怖いのか?」

「……それは人や自分を守るために、相手を傷つけるものだ。私の柄じゃない。それに私は日本人だ。銃刀法違反だからな」


 キョン子はルルーシュにそういって、大きく溜息をしてソファーに座る。


 今日はいろいろとありすぎた。
 何をどうすればいいのか、わからなくなってしまう。
 まるで迷路…。
 だが、わかってきたこともある。この世界を滅ぼそうとする者達がいるということ。それが…SOS団、またはキョンに近い存在であるということ。


 そして……助け出さなくてはいけないものがいるということ。







 翌日…青空と白い雲。


 この世界に終焉が迫っていることなどまるで感じさせない日が続いている。

 ルルーシュとC.C.、そしてキョン子は古泉から受け取った学校の制服を着て、学校に侵入することにする。そして、SOS団を順にギアスで吐かせていく。

 なるべくならば…ギアスは最後の手段としてとっておきたかったのだが…。
 時間がないのなら、手段を選んでいる場合ではない。


「不法侵入、銃刀法違反…もしかしたら、もっと別のことも」


 キョン子はどんどん自らが重ねる罪が増えていくことに不安を感じる。

 ルルーシュたちにとってみれば、こんなことは、常に起きていること。今まで何も無かったのが帰って不思議なくらいだ。



「どちらにしろ、向こうは涼宮ハルヒを精神的に追い詰めるために、次の手をうつだろう。このまま時間をかけていても、SOS団の中に、俺達の存在が知られている以上は、時間をかけることはないからな」


 ルルーシュは銃の弾を確認し、制服のポケットにいれる。




 こうして、学校にと向かう……。



 誰かに止められればギアスを使えば何も問題はない。
 学校に侵入し、一人ずつ、古泉あたりに呼び出してもらえばいいだろう。
 俺達はハルヒとの接触は禁じられてはいるが、他のメンバーは大丈夫なはずだ。



 学校に向かう間、キョン子が先ほどから何度かルルーシュとC.C.の間で飛び交っている言葉を聞いてみる。


「ところで、ギアスってなんだ?」


「そういえば、お前は知らなかったな」

 C.C.がキョン子のほうを見る。


「最初にお前と出会ったとき、お前を追いかけたものを追い払ったことがあっただろう?あのとき使ったのが、ギアスと呼ばれる力だ。ルルーシュの場合は絶対遵守の力、誰であれ言うことを聞かせることができる」


 キョン子はルルーシュを見る。
 そんな恐ろしい力を持っているのか。
 ルルーシュは、怖がるキョン子を見て

「安心しろ。お前には使わないさ…」

 キョン子に関しては、使うまでもないだろうからだ。

 そんな話をしながら、学校に向かう一同、その学校に向かうまでの道のり、長い坂の上……誰かが待っているのが見えた。ルルーシュとC.C.の足が止まる。




 それは、青い髪をした女子学生。



 どうやら、こちらと同じ制服を着ていることから同じ生徒であることが分かる。 そして、彼女はあきらかにこちらのことを視認している。


「…おい、まさか、あいつは……」


 キョン子に蘇る恐怖。

 現実感などまるでなかったが、確かにあれは現実だった。
 そして、あいつは俺達の世界では確実に消滅したはずだったのに。


「どうした、キョン子?知り合いか?」


 ルルーシュの言葉に、キョン子は震えながら後に下がる。
 そのキョン子の表情は恐怖そのものだ。
 なにかしらあったということか。
 そして、彼女がここまで怖がるというのなら、それはイコールとして……。


 ルルーシュとC.C.が前を見る。
 その女子学生はゆっくりとこちらに近づいてくる。


 その表情が近づくに連れて、はっきりとしてくることで、ますますキョン子が怯えていく。すべてが類似している…あのときと、あの時は教室だった。自分は呼び出されて、何がなんだかわからないまま襲われたのだ、あいつに…。



「……ごめんなさい」



 ルルーシュとC.C.に聞こえる距離で、彼女はつぶやく。
 女子学生は目をうっすらとあけて微笑む。




「ここで……死んで?」




 彼女、朝倉涼子の背中にある手には光るナイフが握られている。















[6912] 第6話 ……が命じる
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2009/03/04 20:09







第6話 ……が命じる












「朝倉……」




 キョン子に過ぎる悪夢。
 ナイフを握り、笑顔で斬りつけてきた彼…。
 自分の世界ではそうだった。
 だが、ここではあれが、あの女が朝倉なのだ。

 この世界では生きているのか?長門が倒したんじゃないのか…。



「!!」



 突如、ナイフを前にだし、距離を一気に縮める朝倉。
 ルルーシュに突出する朝倉に対してC.C.が銃を撃つ。
 朝倉はそれを回避するために、ルルーシュの前で立ち止まると、宙を回転させながら距離をとり地面に降り立つ。


 とても朝の光景とは思えない…異常事態が起こっている。



「あら?銃なんか持ち出しちゃって……怖いわ」


 朝倉は微笑みながら、ナイフを握ったまま、笑顔でC.C.に言う。


「……朝から、ナイフで刺してくるようなサイコ女に言われる謂れはないな」


 C.C.も銃を握ったまま、微笑んでそれに答える。
 とんでもない2人だ…キョン子はそのやり取りを見て、それしか感じられなかった。ほかの事に関しては現実感が無く、ただ朝倉が怖いという思いだけがある。



「大丈夫か、ルルーシュ?」



 突然、現れた女の攻撃に、思わずナイフで貫かれるかと思ったルルーシュは、ようやく呼吸を整える。

 ルルーシュはさすがに驚いた…。C.C.の咄嗟の援護が無ければ串刺しだっただろう。しかし、これは好都合だ。向こうからこちらに直接挨拶をしにきてくれたのだから。


 ルルーシュは、朝倉を睨む。


「お前が、誰で何者なのか、答えてもらうぞ…」

 朝倉は首をかしげながら

「貴方達には何も話す必要はないわ。どうせここで死ぬんだから…」

 無垢な悪意のない笑顔で答えるのが、また朝倉の恐怖を引き立たせる。
 だが、ルルーシュもそれに負けない。


「お前の意志は関係ない…、お前がいかなる超常的な力を行使しようとも、俺の力には逆らうことは出来ない…」

 ルルーシュはそういって目にあるコンタクトを外そうとした。
 そんなルルーシュに声を出して笑う朝倉。
 ルルーシュの手が止まる。



「フフ…、ギアスで私にいろいろと聞き出そうって言うのかな?」



「!?」

 ルルーシュは、朝倉の答えに動揺する。
 なぜ、こいつがギアスを知っている……。
 この世界においてはまだギアスのことを話したのはキョン子ぐらいだ。
 
 まさか!?

 朝倉涼子は微笑みながら、片目に手を当てる。



「あなただけが、これをもっているとは思わないことね……私だってあるんだから」



 朝倉が片目から手を離すと、そこにあるのは赤い光を放つ右目がある。


「ルルーシュ!あれをみるな!」

 C.C.の言葉も遅く、朝倉は視界にルルーシュを捉える。
 そして、朝倉は口を開いた。







「朝倉涼子が命じるわ。私の考えをあなたに……送ってあげる」







 朝倉涼子のギアスが、ルルーシュにと映る。

 呆然とするキョン子とルルーシュから距離をとったC.C.……、ルルーシュはゆっくりと、2人のほうを見る。そして、ポケットからしまった銃を取り出す。

「そこの2人を始末して頂戴。よろしく頼んだわよ?」

「あぁ、わかった…」

 ルルーシュの瞳には赤いギアスを受けた形跡が見て取れる。


「お、おい!!何をして!」


 キョン子が突然のルルーシュの異変に、彼を止めようとするが、ルルーシュはそんなキョン子に一切構いもせず、銃を向けると放つ。思わず撃たれたとキョン子は感じた。


 血が飛び散る……だが、それは自分のものではない。
 良く見れば、自分を守ろうとC.C.が体を呈して庇っている。


「C.C.!!何をして…」

「くっ……お、お前はいいから、黙っていろ」


 撃たれながらも小さな声でキョン子に言うC.C.に助けられながら、その体で覆いかぶさられるようにして、地面に倒れるキョン子とC.C.。そんな自分達にたいしてルルーシュは銃を向ける。まったく迷いも何も無い。これが、ルルーシュがさっきいったギアスの力?本人の意思も何もかもを無視する強制力。こんな恐ろしいものが……。


 キョン子はここまでか…と思い目を瞑る。
 現実味がないと、諦めがついてしまう。
 こんな絶対的な状況下では、まさしくそうだ。


「……」


 なかなか、銃弾の音が聞こえない…、キョン子は目をゆっくりと開けていく。
 そこでは、C.C.がルルーシュの顔からゆっくりと自分の顔を離してく姿があった。何をしていたのかはわからないが、もしかして…キス?

 ルルーシュは、そのままC.C.にもたれ掛るようにして倒れる。


「る、ルルーシュ?」


 キョン子は、C.C.がなにをしたのかと思って彼女を見る。
 C.C.はほっと息をついている様子だ。


「まさか、ここでギアスユーザーに会うとはな。もう少し警戒をしておくべきだった」

「そ、それよりもあなただって銃で撃たれて…あ、あれ?確かに撃たれたはずじゃ」


 C.C.の体を見ると、先ほど銃で撃たれたはずなのに、その傷跡がない。
 キョン子はますます頭が混乱してくる。
 どれをとっても超能力者・宇宙人・未来人と同じく、この2人もおかしな力を持っている。まともな人間は、この世界にはいないのか!!と思わず絶叫したくなるような出来事だ。


「私は大丈夫だ。お前こそ怪我は無いか?」

「私も平気だ。少し倒れたときにお尻をうったぐらいか……」

「……簡略に頼む。あいつは何者だ?」

 
 朝倉…。
 かつて、自分をハルヒコ(ハルヒの異性ver)の動向を見るために、影響力が大きいと見た自分を襲った奴だ。それの女が、あの朝倉であるということだろう。
 そう考えれば、キョンの妹を奪ったのもあいつか。今回も、前回と同じ動機。涼宮ハルヒにちょっかいをだして、世界の変化を見たいという考えだろう。それならば、キョンの動揺を誘うために、妹を誘拐したのも頷ける。


「……C.C.、あいつは、長門の同僚。同じ宇宙人であって、だけど、別の一派で…えーっと……それで、キョンを動揺させてハルヒに刺激を与えて彼女の反応を見ようとしているんだ!」


 と口ではいったものの、わかってくれるだろうか……。

「……あいつが、敵なのはわかった。だが、その前に……あいつが使ったギアス。誰かコードをもつ存在がいるということか」


 コード……。
 ギアスを与えることができるのは、コードを持つものに限定される。
 持っているものは不老不死の力を持っており、ギアスを受け付けない。様々な世界において、ギアスを持つものを相手にはしてきたが、コードを持つものに関しては、未だ見つけることが出来なかった。それがここにいるということか。



「あらあら、そんな方法でギアスを防ぐ方法があったのね?始めて知ったわ」



 振り返るC.C.とキョン子。
 朝倉涼子は片目を光らせながら、倒れているルルーシュを眺める。自分の手駒を失ったのは仕方が無いが…、それでも相手のギアスを封じたことには効果がある。


 朝倉はナイフを2人に向ける。


「そこの倒れているギアスの使い手は後で始末するとして、今は、貴方達を殺しちゃうわね?」

「まだやるのか……」


 折角、助かったって言うのに……、キョン子は微笑み絶やさない朝倉に恐怖と憎悪を抱きながら、睨みつけてやる。そんなことに彼女はまったく動じることなく、近づいてくる。


「……待って」


「長門…!!」


 朝倉の後ろ…、長門有希が立っている。
 異変を察知したのか、とにかくこの場を納めてくれるのには、最適な人物だ。
 しかし、キョン子の隣、ルルーシュの様子を心配するC.C.は安堵した表情は浮かべていない。


「……お前、さっき長門と朝倉は同じ宇宙人だっていったじゃないか。奴らが手を組んでいる可能性は十分に考えられるぞ?」

「だけど……」


 C.C.の言葉に思わず言い返したくなるキョン子。
 長門が朝倉と……。
 だが、そこでキョン子の記憶の中に浮かぶ言葉

『長門さんの上司から意見がかわったりした場合、彼もまた、あなたを殺すために動くことになる……』

 自分が朝倉君に襲われたとき言われた言葉だ。
 信じたくはない、信じたくはないが、可能性として、否定はできないのも、また事実だ。キョン子は長門の様子を伺う。



「……どうして、ここに戻ってきた?あなたは情報結合解除されたはず」



 長門は、朝倉に対して無表情に問いかける。
 そんな長門に対して朝倉は久しぶりの再会に長門に挨拶をしようと思ったのに、相変わらずの無表情の長門に首を横に振って…


「急進派にね、新しく送り込んでもらったの。前、あなたにやられたような間抜けなことはしないわ。それに……もう私には情報統合思念体なんて、どうでもいいの」

「どういうこと?」

「私はね、もう何にも縛られることはない存在となったわ。この強制力(ギアス)の力で……」


 目を赤く光らせえる朝倉。
 長門は視線をそらす。

 長門は言葉の真意を掴むことは出来ない…、一体どういうことか。


「私は、これで情報統合思念体も従えることができる、単体としての自我を確立することができるようになったの。そう、今の私は、誰からの命令も受け付けることのない、自分の意志で活動できるのよ?長門さんにはわからないでしょうね、情報統合思念体に従属するあなたじゃ……。私は、この世界の変革を求めるわ。そのためには、邪魔な存在を排除しなくてはいけない」


「……それが、涼宮ハルヒを傷つけることに繋がる?」


「そう、あの存在がいる限り、私は真の束縛からは逃れることが出来ないわ。だから、彼女の心をずたずたに切り刻むことにしたの。そのためには、キョン君がいるでしょう?彼にどんどん、酷い言葉を言ってもらわないといけないわ。殺すんじゃダメ。一瞬で済んでしまうもの。あ、でも安心して?最終的には殺しちゃうから」


 キョン子とC.C.には全体的な意味を読み取ることは出来ないが、個々の部分の意味は理解できる。ハルヒを傷つけるためにキョンを利用している…ということ。それはキョンの妹を誘拐したことを裏付ける言葉だ。


「……あなたのやっていることは、情報統合思念体に対する背信行為。あなたに対して、情報連結を解除する」

「フフ…、相変わらずなのね?長門さんは……。でも私を以前の私と思わないほうがいいと思うけど。私は、情報統合思念体からの命令はもう効かない。だから、何をしても許されるのよ?例えば、ここで、街中の人を殺害してもいい、そうね、他には…なにかあるかしら?」

「……」

「嘘よ、嘘…。でも、私は涼宮ハルヒの束縛から逃れるわ。それだけは…忘れないでね?」


 朝倉涼子は長門にそういうと、キョン子とC.C.のほうも見て、そのまま、坂の手すりから下にと飛び降りる。


「……朝倉涼子は、私達を裏切り、暴走を始めた」


 長門は、朝倉の新しい力とともに、それを用いて世界を変革させようとする彼女に対して、戦うことを決意する。それが統合思念体の方針であり、長門の意志でもある。


「うぅ……」


「ルルーシュ!」

「……しっかりしろ」

 キョン子とC.C.がルルーシュを揺する。
 ルルーシュはゆっくりと目を開き、2人を見る。

「お、俺は……」

「ギアスをかけられていた」

 C.C.の言葉に、直前の記憶を手繰り寄せるルルーシュ。
 そうだ。
 さっき……あの青髪の女にギアスを受けた、後のことは曖昧だが、彼女の言葉が頭を支配し、銃を握って……。

「俺としたことが…敵のギアスにかかるとは」

 ルルーシュは、自分の足に拳をうちつける。
 あまりの平和なこの世界に浸っていたせいか。
 完全に相手のペースにのせられてしまっていた。
 敵のギアスにまんまとはまるとは。

「……大丈夫なのか?ルルーシュ」

「あぁ……。おかげで相手のギアスも把握できた」

 キョン子の問いに、ルルーシュは頷いて立ち上がる。
 まだ頭がくらくらとするが……。
 相手も本格的にこちらを潰しにきたか。だとすると、このまま学校に向かったところで、また同じ目に会う可能性が。自分ではなく、今度は……他の学生を使って。



 それよりもだ。


 ここまでの事態、俺は平和なこの世界に飲み込まれていたということが失態だ。
 今までのことを思い出せ、自分は世界を壊し、世界を創りかえることをしてきたのだ。それが……、原点に立ち返らなければいけない。魔王として君臨してきた頃の自分に……。


「ルルーシュ、長門にすべてを話そう」

 キョン子の言葉に、ルルーシュは、その場所で立っている長門を見る。
 キョン子としては、長門に対する疑念は晴れている。
 そして、信じたいという気持ちが強い、今は1人でも味方が必要だ。信じられる味方が……。



「……わかった」



 ルルーシュは長門を見て、答える。

 そんな折、ルルーシュの携帯に連絡が入る。


「どうした?」

『少し厄介なことになりました』

「こっちもだ。キョン子がいうには、朝倉涼子という奴が、俺達に攻撃を仕掛けてきた。なんとか凌いだが……」

『……なるほど。こちらと関係しているかもしれませんね』

「そっちは何があったんだ?」

『えぇ……。キョン子さんとキョン君があっているところの写真が流出しまして』




「なにっ!!?」



 思わず、声をあげるキョン子。
 あのときの、キョンとの話がそんな風に捏造されたというのか…。
 キョン子に関して言えば、そんなつもりはまったくないということだが……。
 捏造された内容にもよるが、それでハルヒがそこまで不機嫌になるとは考えにくい……。


「……朝倉涼子の襲撃は、このことを俺達に防がれないようにするためだったのか」


 ルルーシュは、やはりこちらの動きが、漏れていることに苛立ちを感じる。

「私達は、情報戦に関しては、知識を得ている」

 長門はそういって、ルルーシュを見る。

「…情報の相互交換を行なうことで、私もあなた達に協力をする。朝倉涼子は、1番危険な存在となった」


 その言葉に、キョン子は嬉しそうに長門を見た。
 これで戦力の増強は否めない。
 ルルーシュは、そういう長門を見ると、手を目にあてて、コンタクトを取り払う。露になる赤きギアスの輝き。

 キョン子はルルーシュがなにをするのか分からない。
 ルルーシュは微笑み、長門を見る。




「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる……」
































[6912] 第7話 学校占拠~苛立ち、故に~
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2009/03/07 11:30








第7話 学校占拠~苛立ち、故に~












 SOS団部室


 古泉は、部屋に入るとそこでパソコンと格闘しているハルヒを見ながら、朝比奈みくるから、紅茶を受け取る。


「ありがとうございます、朝比奈さん…」

「はい…」


 相変わらずのメイド服である朝比奈みくる…。

 何も変わらない部室と時間。

 しかし、着実に全てが動き始めている事実。


 ルルーシュからの連絡は、あの携帯からの連絡以来途絶えている。自分が用意したマンションにも彼らは帰っていないようだ。それと同時にして、長門有希も姿を消した。タイミングからいけば、朝倉涼子の復活が関係あるかもしれない。彼女が、今回の一連の騒動の首謀者なのか…。だとすれば、キョン君が狙われた理由もはっきりとしてくる。そしてルルーシュが言っていたキョン君の妹さんの誘拐。それも、涼宮さんに対する動揺を誘うため、キョン君を利用するための手段といえる。


 答えとしては、納得できるし、辻褄も合う。


 部室の扉が開く、キョンだ。


 扉の前、谷口と国木田、他のクラスメイトからの強引な質問から逃れるために、扉をあけようとするそれらの野次馬達を締め出す。扉にもたれ掛り、鍵を閉めて大きく息をつくキョン…。あの捏造記事のせいで、友人からの執拗な質問にまったくもってうんざりしている。


 問題の写真は、偽造されたものである。
 話しているものは、そのまま転用。問題なのはありもしないこと…例えば抱き合ったりしているのは明らかな捏造、編集・偽造されたものだ。やはり、あの様子を誰かが見ていたことは間違いがない。こんなやり方をしてくるとは。


「……まったく、弱ったな。誰も俺の話を信じてくれない」


 キョンは額の汗を拭きながら、イスに座る。

「あんな写真が出ちゃったら、興味持っちゃいますよ。でも私達は信じていますから」

 紅茶を古泉のときと同様にして渡す朝比奈みくる。

「えぇ、キョン君の好みのタイプはもっと別だと思っていますから」


 古泉のフォローの言葉はどこか裏があるように聞こえる。


 キョンの一番の気がかりな部分は、相談ごとであった話だったのにもかかわらず、こういったことをしてくる理由だ。

 妹の誘拐もそうだし。

 本当に相手は自分とハルヒの関係を拗らせたいらしい。これは、好機なのかもしれない。自分が日常に戻れることができるための。

 キョンはハルヒのほうをみる。
 団長席に座ったハルヒは、自分達に背を向けて窓の外を見ている。今日の授業も、ずっとあんな調子でぼーっとしていた。これもあの写真の効果なのだろうか?

 今まで自分はずっと巻き込まれてきた、この異常な世界の住人として…長門、古泉、朝比奈さんから次々と明かされた、信じられないような事実、そして光景を見てきたことで、自分もまたそれに流されるかのように過ごしてきた。結果、朝倉に殺されかけ、ハルヒを、いや…世界を守るために身を粉にして奮闘してきたのだ。



 それが、これを機にしてやめられることができるのならば……。



「……ここは、隠れ場所じゃないわ!」



 相変わらず背中を見せたままハルヒは言う。

「あなたが、誰と付き合おうが、勝手だけどそれをSOS団に持ち込まないで頂戴!私は、不思議体験や、超常現象なんかをするためにここをつくったんだから!」


『…俺に言うな。だいたい、説明しただろう?俺はただ話しをしていただけであって、これはすべて捏造だって……』


 本来ならば、こう答えるべきところだろう。
 だが、妹が誘拐され、そして脅迫を受けている以上、下手な答弁は妹の命に関わる。

 キョンは何も答えることなく、ハルヒの様子を伺う。
 そんなキョンの様子を見ている朝比奈さんと古泉。


「まぁ、いいじゃないですか…キョン君だって女の子の友達と話すことだってあります」

「そうですよ!それにキョン君も、ここが安全だとわかって、安心できる場所だからきてくれたんじゃないですか…」


 2人の必死のフォロー…、なんとも痛み入る。

 それも、ハルヒの機嫌をとるための1つの要素なのかもしれないが…。


「……めんどくさい」


 ハルヒが立ち上がり、こっちを見る。
 その表情はあきらかに不機嫌だ。

 朝比奈さん、古泉、そしてキョンがハルヒを見る。


「私は、恋愛ごっこに巻き込まれる覚えはないのよ!するのなら勝手に1人でしてっていってるの!ここでそんなことを持ち出さないで。ここは宇宙人、超能力者、未来人をみつけて仲良く遊ぶのが目的なのよ!!最近のあんたは、ずっと素っ気無い態度で、部活にも何にもやる気をださないで……私達と一緒にいるのがいやなら……」


 捲くし立てるように言うハルヒ。

 しかし、途中で言葉が詰まる……ハルヒはキョンを見つめる。
 
 指を垂直に伸ばして、キョンを横に伸ばす。



「…で、出て行きなさい!」



 その言葉に部屋の空気が止まる。

 朝比奈みくる、古泉一樹は、何を言っていいのかわからない。
 そんな2人をおいて、イスから立ち上がるキョン。


「あぁ、わかった。出て行こう。それでお前の気が済むのなら俺は遠慮なくでていくぞ。だいたい、俺は巻き込まれた身なんだ。これで解放されると思えるのなら嬉しい限りだよ」


 キョンはそういって荷物を持ちドアノブを掴む。
 朝比奈さんが、あたふたしながら、キョンを止めようとしている。


「世話になったな…」

「……」


 ハルヒは何も言わずに、キョンが出て行くのを見送った。


 これでいい…、これで。
 自分もハルヒに振り回されることなく、ハルヒも俺という弱点を持つこともなく、お互い解放されるわけだ。ハッピーエンドだ。そうだろう…あぁ、きっとそうだ!……妹もこれで無事に戻ってきてくれるはずだ。



 キョンは、もう一度、SOS団部室のほうを見る。

 彼女が自分を引っ張り込んで作り出した部室。
 今となっては懐かしい。



 キョンは再び前を見て廊下を歩いていく。


「い、いいんですか?キョン君いっちゃいますよ?!」


 あたふたしながら、ハルヒに告げる朝比奈みくる。

 ハルヒは黙って扉を見つめる。

 古泉は様子を見ている。
 まるで嵐の前の静けさ…閉鎖空間の出現はまだ、報告されていないが、彼女の今の表情を見れば一目瞭然……世界を崩壊に導きかけないものが現れるだろう。キョンを失い求めるべきものが宇宙人・未来人・超能力者に集束されれば…以前の神人と涼宮ハルヒが同時に出現したような特異的な閉鎖空間が現れるはずだ。



 まずいことになった…といってしまえば、簡単だ。

 結局、異世界の人たちにも手が負えなかったということか……。




 ドン!



 扉から入ってくる、一人の女の子…それはキョン子だ。


 彼女は、部室に入ってくると、そのまま、体で扉を閉める。
 彼女の体は、怪我をしているらしく、肩を抑えている。
 古泉と朝比奈みくる、そしてハルヒの目が点になる。


「ど、どうなさったんですか?」


 古泉が、久しぶりに見た彼女の変わりように思わず聞いてしまう。

「あ、あんた!あんたは…キョンの……」

 ハルヒがキョンと一緒に写っていた、噂の彼女であることに気がついて、感情的になる。そんなハルヒを抑えようとする朝比奈みくる。

「はぁ、はぁ……すまない。私は、あいつらに利用されていたんだ。長門は奴らの手に落ちた……」

「奴ら?奴らとは一体誰ですか?」


 キョン子はそう聞く古泉に、窓を指差す。
 古泉と、朝比奈さん、そしてハルヒが窓に顔を近づける。





 そこには黒い服と顔にバイザーを敷いた集団が学校の校舎周辺を取り囲んでいる。その手には銃らしきものも確認できる。


「テロリスト!?」

「きゃぁぁああああああ~~~」


 思わず悲鳴をあげる朝比奈さん…。
 古泉とハルヒは暫く、その人数を把握しているようで、思った以上に冷静だ。涼宮ハルヒは、孤島での古泉が企画した事件でもわかるとおり、冷静、そして己のやるべきことをしっかりと考えることができる人物である。

 そして、古泉はキョン子を見る。
 犯人を確認するために……。


「……これを彼らが?」


 古泉の言葉にキョン子は頷く。

 古泉としては、キョン子を完全に信頼するわけには行かない。
 なんせ、彼らと一緒に行動していたのだ。彼らの仲間である可能性は十分に考えられる。


「あなたを僕は信用していいんですか?」

「……好きにしろ。こっちはもうぼろぼろなんだ。お前が信用できないのはわかるが、あいつらは学校を取り囲み、ハルヒとそして…あいつを、って……あいつはどこに!?」

 キョン子は、本来ならいるべきはずのキョンがいないことに気がついた。

「キョン君だったら、たった今部室から出て行って……」

 朝比奈さんが怯えながら告げる。

「まずい!もう奴らは学校に侵入し始めている。放っておくわけには……」

 キョン子がそういって扉のドアノブに手をかける。
 そのノブを掴んだ手を握る誰か…。
 キョン子は顔をあげる。
 それはハルヒだ。


「……行ってもどうにもならないわ。今はここで待っていないと……」

「おい!あいつはどうなってもいいのか!?」






「そんなわけないでしょ!!」







 ハルヒの大きな声に、周りのメンバーが驚き、静まる。
 ハルヒは、キョン子を見つめ


「あんたが、キョンのことをどう思っているか知らないけど……、私だって、あいつはSOS団の大切なメンバーの1人なのよ!どうなってもいいなんて、思うわけ……ないじゃない」


 その言葉に、キョン子はゆっくり頷きドアノブから手を離す。
 ハルヒは……アイツと同じ、素直になれないだけか。
 キョン子は、そんなハルヒをどこか、可愛く思えてしまう自分戸惑いながらも、窓の外を見る。



 そんな折、校内放送がなる



『諸君、我々は黒の騎士団……!!抵抗をしなければ、君達に危害を加えるつもりはない。我々の狙いはただ1つ、涼宮ハルヒとキョンという人間の2人を確保することだけだ。それさえすめば、我々の目標は達成することができる。聞いているか、二人とも。大人しくでてくるならば良し。出てこなければ、我々が君達の友人達から丁寧に居場所を聞きだすだけだ。校舎は完全に包囲されている!逃げ場はないぞ!』




「…す、涼宮さん……」


 朝比奈みくる、そしてキョン子がハルヒを見る。
 ハルヒは沈黙を保ちながら腕を組み考えている。

「涼宮さん、これは罠です」

 古泉がハルヒにはっきりと言う。

「でも、このままじゃ他の人に迷惑が……」

 ハルヒは古泉に言って、自分から出て行くつもりであることを示す。
 普段は自己中心的なハルヒも本来は、こういう性格だということをキョン子は知っている。


「だからって…、あんたが出て行く必要はない。あっちはあくまでこっちを探すことが目的だからな。目的が達成されるまでは過激な行動はとらないだろうし、それに……あんたが、SOS団の団長ならば、指揮官がやられたらゲームはおしまいだからね」


 キョン子はハルヒにいう。ハルヒはキョン子を見つめ……頷く。


「まずは、ここから脱出しましょう。ここではすぐに場所がわかってしまいます」

「で、でも逃げるっていってもどこに逃げればいいんですか~?」


 ハルヒは、古泉と朝比奈さんの言葉の中で、天井を見上げる。


 一方、キョンは…突然の学校の占拠に驚き、さらには自分が名指しで捜索される対象となっていることに驚き、ある空き教室に身を隠している。

「なんで、俺がこんな目に……、もうハルヒとの関連は断ち切ったはずだぞ!」

 キョンは空き教室の机の下に潜りながら、自分はもう無関係だと強く願っていた。そんな中、廊下から聞こえてくる足音、そして…どこか懐かしい声。



『キョンくーん、キョンくーん……』



 これって、もしかして…。
 キョンは、自分が狙われていることを知りながらも廊下に飛び出す。
 その声は、自分がずっと探していた人物だからだ。


「おい!!」

「あ、キョンくん」

 妹だ。
 ずっと誘拐をされて、そしてそれを元にして脅迫を受けていた…。
 どうやら、自分がハルヒとの関連を断ち切ったということはわかってくれたらしい。

 キョンは妹と会えた嬉しさと安堵で大きく息をついた。


「キョン君……、実はね?」

「うん?なんだ?」


 キョンの妹は、ナイフを目の前に現す。
 キョンは、その妹の行動に後ずさる。
 おいおい……解放されたんじゃないのか?なんで、妹がこんな物騒なものを……。

 キョンの妹は、キョンとの距離をつめていく。


「……ごめんね、キョン君。死んで欲しいの」

「なっ!?」


 キョンの妹の目が赤く輝く。
 彼女もまた、ギアスを受けていた…朝倉涼子のギアス


『……自分の意志を他人の強制的に送り込み洗脳するギアス……』


 朝倉は、その様子を壁際から見つめて微笑む。















[6912] 第8話 サヨウナラ
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2009/03/07 22:22









第8話 サヨウナラ












「う、嘘だろ…」



 黒の騎士団と名乗る武装組織の学校占拠。

 それは唐突の出来事だった。

 圧倒的なまでの戦力で、彼らの狙いである涼宮ハルヒ、そしてキョンを追い詰めていく。そんなキョンの前に、自分にナイフを向ける己の妹が立ちはばかる。キョンは、絶望の前にどうしていいのかわからないでいた。


「……さすがに、自分の妹には手が出せないでしょう?」

「朝倉っ!!」


 キョンの前に現れる朝倉涼子。

 彼女はキョンの妹の背後で微笑みながら立っている。
 キョンは、始めて、彼女に対して憎しみを覚えた。
 前回はあっという間の出来事で、自分が命の危機に立たされているという実感しか湧かなかったからだ。

 だが、今は違う……。

 自分の家族を人質にし、さらには意志を無視して自分を葬ろうとするものを許すことが出来ない。しかも彼女は、ハルヒやSOS団に対して、傷つけるような行為をさせてきた。


「俺は、お前を許さない!」

「ふ、ふふふ……。あなたが私に勝てると思っているの?状況は絶体絶命。あなたは私を倒す前に目の前の妹を止めなくてはいけない。とめるには私を倒すか…、家族である妹を殺すかしかない。あなたには出来ないでしょう?だから無理、あなたは私を倒すことは出来ないの」


 朝倉は完全な勝機を悟ったようにして告げる。
 キョンの前に迫る妹……。
 キョンは手も足も出ないまま、背後に下がる。


「逃がさないわ?」


 すると、突然、背後に壁ができる。
 これは、あの教室でのときと同じだ。

「閉鎖空間……ってやつか!」

 長門が確か、そんなことを言っていたような気がする。

「そう、あなたを殺して、涼宮ハルヒの出方を見る。その先に彼女の自我の崩壊、彼女自身の身のコントロール不全に陥ることがあれば、この世界はどうなるか、見ものね」

「お前は、この世界がどうなってもいいのか!!だいたい、それじゃーお前や長門の上司は納得しないんじゃないのか?!」

 こいつにとっては演技だったとしても、同じクラスメイトだった、同じ世界に存在していた。それがこうも容易く捨てることができるのか…。

「私は、もう情報統合思念体とは無関係ですもの。私は私という自我を確立させる。ギアスという力を持ってして…。この世界において涼宮ハルヒに成り代わり、世界を超越する存在になるの。そのためには、涼宮ハルヒは邪魔なの」


「どいつもこいつも、ハルヒハルヒって、あいつのことを少しは放っておけないのかよ!」


 キョンは大声で叫ぶ。

 ハルヒは、本当は普通の…女子学生だ。
 それをみんなでかまって、まるで爆弾を取り扱うようなことをする。
 それが彼女を逆に苦しめていることを知らずに…。


「力は、生まれ持ったもの。それを葬ることなんか出来ないの。力あるべきものは、行使しないと意味をなさないのよ?」

「それは、その当人の意思だ!人によって左右されるべきものじゃない!」

「……所詮は、それが人間であるあなたの考えの限界。もういいわ、終わりにしましょう?さぁ、キョン君の妹さん…お兄さんを殺しちゃいなさい」


 頷く妹が迫る、背後は壁……これまでなのか!?

 キョンは諦めることもできないまま、こっちに飛び込んでくる妹に身を縮める。




「……諦めるのは、まだ早い」




 その声は!?

 キョンは、前を見る。


 かつてもそうだった……絶体絶命の状況下で彼女は現れた。



「あなたが閉鎖空間を展開するのを待っていた」



 普段と違って、以前かけていたような眼鏡をつけた長門有希は、妹の持つ、ナイフを掴む。そして、軽く首にチョップをいれてやり気を失わせる。キョンは倒れた妹を抱きかかえる。


「長門さん…あなた、確か行方不明じゃなかったかしら?」

「えぇ……。これはすべて作戦」


 長門は朝倉を見ながら相変わらずの無表情で言う。

「作戦?」

 朝倉は、長門に問いかけた。


「そうだ!」


 声と供に、姿を現す黒き制服を着たルルーシュとそして、白い拘束着を着飾ったC.C.が姿を現す。黒の騎士団として、学校の占拠を行なった主犯格であるルルーシュ。すべては、この事態のため……。


「俺は、この平和という牢獄の中で、己のやり方を忘れかけていた。平和な世界を破壊せずしてお前を倒そうと考えていたのだ。だが、それは違った。俺の本来のやり方は、世界を壊し、そして……新たに作り変えることにある。この偽善的な平和は俺が一度破壊する。そして……お前をこうしておびき寄せた」


「……涼宮ハルヒとキョンを取り押さえられたくない、お前にとって、この占拠は面倒だろうからな」


 ルルーシュの言葉に補足を加えるC.C.は本当にルルーシュのことがよくわかっているのだろう。


「長門さんが、素直にあなた達の言うことを聞いたってこと?」

「あぁ、俺のギアスは、誰であれ、命令を下すことができる絶対遵守のギアス……。この意味がわかるか?」


 長門の目に赤いギアスの光が輝く。

 朝倉は表情に感情をださないほうではあるものの、そのルルーシュの言葉に、表情がかわる。明らかに怒りがあるようだ。

「酷い人。そんなことをして、彼女の上司、統合思念体が怒ったらどうするつもりなのかしら?」

「いったはずだ。俺は世界を破壊すると、それには宇宙人であろうと超能力者、未来人であろうと関係がない。かかってくるのならば、丁重に向かえ討つだけだ」


 ルルーシュは、朝倉を見ながら微笑む。
 それこそは、己のやっていることに絶対的な自信があるからである、自分の行いに迷いがあれば、その時点で負けなのだ。


「無知なのも、怖いわね」

「それはどうかな?所詮、勝てばいい。お前の野望もここで潰える。長門……決着をつけろ」

「……そう」


 ルルーシュたちの前にでる長門。

 朝倉は、目の前の長門との勝負、決着…そして最終的には、彼女もまた己の意志で味方に引き込むつもりでいた。それが阻止されたことは大きく計画の修正を迫られる。


「長門さん、あなたが…素直にあの何も知らない人間の言うことを聞いているとは思えないわ。わかるでしょ?長門さん、人間なんて所詮は己の身しか考えられない存在なの。そんなの滅びたっていいじゃない……」

 そんな朝倉に対して長門は、何の反応を示さない。

「無駄といったはずだぞ?朝倉……。俺にギアスをかけ、様々なものを利用したお前の罪は重い」


 ルルーシュは口元を歪ませながら、朝倉に告げる。

 同時に、朝倉を蹴る長門。

 それを受けた朝倉は、身体を吹き飛ばし。
 閉鎖空間内の教室の壁にあたる。
 教室の壁は見事に破られ、朝倉は瓦礫の中に沈む。

 その光景に、呆然とするキョン……。長門があの男に命令されて動いているというのか。朝倉と同じような力で。こうなってしまったらどっちを応援していいのかわからない。一方は自分たちを捕まえようとするテロリストであり、もう一方は、妹を誘拐して、自分を殺そうとしていた奴。どっちもどっちだ。


 瓦礫から起き上がる朝倉。

 誇りのついたスカートをはたきながら、長門を見る。


「長門さん、あなたがどうしても戦うというなら、私も全力でやらせてもらうわ。ここは私の閉鎖空間、情報解除も何も、この前のようには行かないわよ?」


「……」


 相手の言葉に対しても無反応な長門。

 朝倉はさらにイラついたのか、腕を光の刃とかして、長門に狙いを定める。
 その刃を長門に向けて突き出す朝倉……だが、その刃は、長門の横を通り過ぎ、背後にいるルルーシュたちに向けられる。瞬間、その刃を掴む長門。


「……相手は私」

「違うわ、長門さんを人形のように扱っているあの男よ」

「私は、長門さんと一緒に来て欲しいんだから」

「……それは出来ない。あなたは情報統合思念体を裏切った」


 長門は、宙に飛び上がり、朝倉に攻撃を仕掛ける。
 朝倉は、廊下を転がり、長門の攻撃を避ける。
 朝倉はすぐに態勢を立て直し、再びルルーシュのほうを見ると刃をむける。


「させない…」


 しかし、それもすぐに長門が先に回りこみ、阻止する。


「邪魔をしないで!長門さん」

「あなたの思い通りに何度もいくとは思わないこと」

「くっ!!」


 朝倉は、光の刃を長門に向けて放つ。
 長門は、それらを寸での所でかわしながら、朝倉の動きを殺していく。
 朝倉はルルーシュを狙いたかったが、長門が邪魔をするためにそれが出来ない。

 自分は力を持った、束縛か解放され自由になったことで、その力を増した。それは全て……この人のためなのに、なのに!!


『……貴様の願いは、これにより叶えられる』


 あの人はそういった。

 世界を変えるだけの力を、このギアスという名の力を。
 それもってすれば、情報統合思念体の言いなりにだけにはならず、世界を思うがままに変えることができるのだ。


「その邪魔をさせるわけにはいかないのよ!!」


 朝倉は強い口調で告げると、目を赤く輝かせる。





「朝倉涼子が命じるわ、私の意志を、あなたに送る…」





「そのときを待っていたぞ!朝倉涼子!!」


 ルルーシュは握っていたチェスの形をしたスイッチを押す。
 すると、長門有希のかけている眼鏡が鏡にと変わる。
 鏡に映し出されたのは自分の姿。
 朝倉の放ったギアスは鏡に映る、己自身にと放たれた。


「あぁああああああ!!!」


 その場でしゃがみこむ朝倉涼子。


 ルルーシュは、そんなしゃがみこんだ朝倉涼子を見つめる。


「……必ずやギアスを使うだろうと踏んだ俺は、あらかじめ、この仕掛けを行なっていた。ギアスとは恐るべき力だが、ギアスの発動条件にもよるが、相手の目を見なければ問題はない。お前は、ギアスの力に頼りすぎだ」

「だが、このままでは妹のギアスは解けないぞ」


 C.C.はキョンが抱きかかえている、今は意識を失っているキョンの妹を見る。
 朝倉が放ったギアス…彼女の意志がある限りは、ギアスは解けない。
 だとすれば方法はひとつしかない。


「……私が行なう。彼女はそもそも、私の管轄だった」


 長門はそういうと朝倉涼子にと近づく。
 朝倉はその場にうずくまったまま、何かをつぶやいている。


「……長門さん、今日は何を食べたの?また、たいしたものではないのでしょう?勿論、料理自体に意味はないわ。だけど、なんの飾りつけもないものよりかは、見た目は、いいんじゃないかしら?」


 朝倉涼子がつぶやく内容…、彼女の目は赤く輝いている。

 彼女の言っている言葉、それが長門有希に見せたかった内容。
 それはほんの些細な出来事。
 任務が膠着状態にあったとき、こうやって彼女は、自分の家にきては料理をつくっていた。

 意味のない行動に、彼女は意味を求めていたのかもしれない。


「……夢」


 キョンとルルーシュがC.C.を見る。

 C.C.は変わり果てた朝倉涼子を眺めながら言葉を続ける。

「自由になりたかった理由は、ただ…普通の学生として、長門有希、お前と接したかったのだろう。いろいろ言葉を取り繕ってはいたが……」

 自由…そのために涼宮ハルヒ、そしてキョンを追い詰めたかったと彼女は言っていた。
 その裏にあったのは、長門との些細な出来事を再び行なうため。
 そのために世界を支配する涼宮ハルヒを排除しようとしたのだ。
 彼女さえいなければ、情報統合思念体さえいなければ、長門との学生生活を行なえる。そう信じて……。


 キョンは、朝倉を見つめる。


 もしかしたら、こいつは……、もっとも人間に近い場所を歩いていたのかもしれない。





「……朝倉涼子の情報結合を解除する」





 長門は朝倉の身体に触れて、そうつぶやいた。

 朝倉涼子の身体は、光となって消えていく……もう二度と戻ることはないだろう彼女の姿を、長門は朝倉涼子の身体に触れたまま見送る。



 彼女は、道を誤りはしたが、長門にとって彼女とは……『トモダチ』という間柄なのだろう。




「……」




 長門は消えゆく朝倉を最後まで見つめながら、音を発することはなく、口だけ動かし、彼女に言葉を囁く。






















[6912] 第9話 閉鎖空間 ~神の力~
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2009/03/08 23:10









第9話 閉鎖空間 ~神の力~











「どうやら、ここから降りれるみたいね」


 ハルヒは天井の下をかすかにあけて、様子を伺う。
 ハルヒの言葉からSOS団の部室から脱出をはかり、屋根裏を移動する一行。
 古泉が1番背後で、朝比奈みくる、キョン子たちを間に挟んで移動する。



 廊下に降り立つ4人。


 誰もいない廊下は静まり返っている……、4人は壁際にそって移動をしながら脱出をしようと試みる。

「……ダメね、彼らあちこちの脱出経路を完全に遮断しているわ」

 ハルヒは鏡を上手く使いこなしながら、相手の位置を確認している。
 逃げ場はないようだ。
 古泉は、考える。



 ルルーシュが何を狙っているのか……。




「キョン君…大丈夫なんでしょうか」


 朝比奈みくるが、部室から出て行ったキョンを心配する。
 追い出したハルヒも勿論、その心配はしているが……今は、そればかりを考えているわけにもいかない。それに、もし捕まっていたとしてもそうそうに、彼の身に危険は及ばないだろう。相手が何らかの狙いがあると考えるべきだ。そのために自分とキョンが指名をされているわけだから、

 それに……ハルヒは、キョン子のことも気にかかる。

 黒の騎士団…名前は、ゲームセンターでキョン子が使っていたチーム名だ。そんな名前が偶然にも一致することがあろうか。

 おそらくは、彼女も関係者なのではないかという不安。

 だが、もしそうだとして目的がわからない。だからこそ、下手なことができないのが、今のハルヒだ。


 考えを纏めている間に、再び放送がなる。




『我々は、キョンを確保することが出来た。邪魔立てするものは排除した。残るは涼宮ハルヒだけだ。さぁ、大人しく我々の前に姿を現せ』




「キョン君!!」


 みくるが思わず声をあげる。

「……やはり捕まってしまいましたか」

「キョン……あのバカ」

 古泉とハルヒは冷静さを欠いてはいないが、やはり動揺はある。同じ仲間が捕まっているのだ。当然だろう。



 キョン子は、そんな一同を見ながらルルーシュの放送の意味を知る。


 それは、キョンを、そしてキョンの妹を救助できたということだ。

 今回の作戦は、直接的にハルヒとキョンを確保しようとすることで、相手の出方を見るということだ。キョンとハルヒをいっぺんに補足しようと考え、私は2人がいるであろうSOS団に侵入し、メンバーの内通者を監視するとともに、朝倉の出方を見たのだ…。しかし、その結果は、キョンが既に部室を出ていた。不安ではあったが、当初の目的どおり、キョンを狙った朝倉は逆に返り討ちに合い、キョンの妹ともども、救助できたことになる。


 後は、ハルヒを誘導し、ルルーシュの元に送り届ければいい。



「私が案内しよう。もしかしたら出れるかもしれない」


 キョン子はそこにいるメンバーに告げる。
 疑いの視線を向けるハルヒ。

「……信じてもよろしいんですか?」

「すべては、世界のためだ」

 キョン子の言葉に、古泉は頷く。

 世界のため……涼宮さんがもつ世界の崩壊を防ぐために、なるほど。そういうことですか、すべてはこのときのために……長門さんと協力をして、そして涼宮さんを守るために。


 古泉は、キョン子の言葉である程度のことを把握することが出来た。


 ならば……長門さんでもなく、自分でもなく……SOS団内のことや、学校での出来事において涼宮ハルヒを追い詰めるように、仕向け、朝倉涼子に命令を下した存在は……。


 古泉は、視線を横にいる朝比奈みくるに向けた。


 まさか……。


「……」


「どうしたんですか?古泉君?」


 朝比奈さんが古泉を見る。
 古泉は、朝比奈みくるを見つめると、いつもの笑顔から、目を細め、距離をとる。


「皆さん、離れてください!彼女が……」

「どういうことよ!?古泉君!」


 古泉の言葉に、ハルヒは状況がわからなくて、古泉に向かって叫ぶ。
 キョン子もまた、古泉の行動の意図が分からない。
 敵である朝倉は倒した、これですべてが終わったわけではないのか。


「……キョン君を脅していたのは、朝倉涼子だけではありません。彼女はあくまで実行役に過ぎない。彼女に直接指示を下し、キョン君と涼宮さんの行動を監視していたものが、僕らの中にいたんです」

「まさか、それが……あ、朝比奈さんだっていうのか!?」


 キョン子はハルヒの手を掴んで、朝比奈みくるから離れる。
 ハルヒは古泉の言っている事がまったくわからない。
 朝倉涼子?監視?なんのことだろうか。


 朝比奈みくるは顔をうつむかせる。



「…皆さん酷いです。……少なくとも、彼女の意識ではそういったつもりはなかったのよ?」



 朝比奈みくるの声でありながら、その口調は明らかに異なる…。
 古泉、キョン子、そしてハルヒが朝比奈みくるの変貌に驚く。
 みくるは、顔を上げると髪をかきあげながら、そこにいるメンバーを見定める。


「ルルーシュもやってくれるわ。まさかこんな強攻策をとってくるなんて……。私達は平和的に、世界を変えようと思ったのに…」


「あなた誰よ!みくるちゃんから出て行きなさい!!」

 ハルヒはキョン子に抑えられながら、腕を振り上げて、その朝比奈みくるの中にいるものに言う。だが、その変貌した朝比奈みくるはハルヒの言葉も嘲笑うだけだ。

「無知な神様ほど怖いものはいないわね。ルルーシュがいかなることを行なおうとも、世界の変革は止められないわ」

 古泉が、ハルヒとキョン子の前に出る。

「あなたがどのような狙いかは、判断しかねますが……ですが、これ以上あなたの好き勝手にさせるわけにはいきません、どうしてもというのなら、僕がお相手しましょう」

「あら?いいの?ここでは、あなたの有効な超能力とやらも使えないわよ?それとも素手で戦うつもりかしら……」

「朝比奈さんの身体ならば、身体的能力はわかります」

 古泉は、構える。

 その構えは、ある程度の武術を学んでいるような形だ。

「古泉君!!ダメよ!みくるちゃんに怪我をさせるようなことは……」

 ハルヒの悲痛な声、どうして部員同士が戦わなくてはいけないのだろうか。
 そんなことは団長である自分が絶対に許さない。
 ハルヒは目の前の2人を見ながら強く思う。


「!?」


 古泉がハルヒを見る。

 周りの様子がおかしい、それと同時に、青空が暗くなり始める……。
 これは、まさか……。



「……始まったわね。涼宮ハルヒの力。閉鎖空間……」



「……これをずっと待ていたんですか?」

「えぇ、彼女に自分自身の力の真実という奴を教えてあげるの。彼女に、それを受け入れるだけの余裕があるかしら」

 朝比奈みくるは、メイド服から銃を取り出して、古泉に向けて撃つ。

「危ない!」

 キョン子はハルヒから離れて、古泉を押し倒して拳銃を避ける。

「大丈夫?」

「は、はい…申し訳ありません。気が涼宮さんに向かってしまっていて……」


 古泉とキョン子が身体を起こすと、ハルヒは朝比奈みくるに捕まっている。
 ハルヒは、拳銃をつきつけられて、身動きを取ることができない。
 古泉とキョン子もハルヒが人質にとられている以上は手出しが出来ない。

「……涼宮さん、あなたは私達の世界のための礎になってもらうわ」

「何を言っているの!?しっかり説明しなさい!」

「えぇ……勿論、説明してあげるわ。ね?あなた……」


 朝比奈みくるは、そういって古泉たちのほうを見る。

 古泉とキョン子の背後に現れる影……。

 振り返った2人だったが、その大柄の男から放たれた拳に、古泉とキョン子は廊下の床で倒れる。キョン子はぼやけた視界の中、白髪で大柄な男の姿を捉えていた。


「マリアンヌ、すべての準備は整った。我々は今度こそ神を殺し、この世界を、破壊し、そして再び創生する。嘘のなき、我らが理想とする世界にと……」


「2人とも!!みくるちゃん……キョン!!!」


 ハルヒはそのまま朝比奈みくる、そして突然現れた、大柄の男に連れて行かれてしまう。キョン子は、虚ろな意識の中、身体を引きずりながら、ハルヒを追う。古泉は完全に意識が飛んでしまっているようだ。

 古泉も心配だが…今はハルヒを、キョンの代わりとして、助け出さないといけない。











「……確かに、朝倉涼子は倒したはずだぞ?どうしてもとの世界に戻っていない!」


 キョンは朝倉涼子を倒したことですべてが一件落着したと思っていた。
 だが、どうやらそういうわけではないらしい。
 元の世界にと戻ったはずの一同を待っていたのは、薄暗い世界…それは、かつて古泉に見せられた世界と同じだ。


「これは涼宮ハルヒの閉鎖空間」


 長門が周りの様子を見渡して、答えを出す。

「キョン子め、安全のためにハルヒの護衛につかせたのだが…」

「拳銃も使えないようでは仕方ないだろう」

 ルルーシュは、廊下から、窓の外を見る。
 強力な閉鎖空間なのだろうか、周りには古泉のときの閉鎖空間とは異なり、学校の学生達も存在している。

「長門、涼宮ハルヒはわかるか?」

「閉鎖空間の中心は移動をしている。おそらくは屋上…」

「行くぞ、C.C.」

 ルルーシュとC.C.は銃を握りながら屋上にと向かう。
 キョンは妹を抱きかかえたまま、どうしていいのかわからないでいた。


 ルルーシュたちを追いかけようとする長門。


「長門!本当に、お前は……あいつらの味方になっちまったのか?」


 長門は振り返りキョンのほうを見る。

「私は、彼らにギアスを受けはしたが、彼らのかけたギアスは…私から情報を聞きだすためだけのもの。決して命令を受けるものではない」

 あのルルーシュという男、わざと嘘をついて朝倉の動揺を誘ったってことか。


「あなたも、涼宮ハルヒの元に行く?」

「当たり前だ!これ以上、俺の知らないところで好き勝手にいろいろやられるんじゃ、困るからな……」

「そう……」


 キョンの妹は、黒の騎士団メンバーが保護をしてくれるだろうということを聞いたキョンは、長門とともに、ハルヒの元にと急ぐ。










 屋上では、涼宮ハルヒが、大きな十字架にかけられている。


 ハルヒはもがくが、まったく動けない。
 しかも、周りの様子がおかしい。ここはどこだ?
 さっきまでの青空は?さっきまでの景色は……。

 薄暗い世界の中でハルヒは自分を見上げる、朝比奈みくると、そして大柄な男を見る。

「離しなさい!なんなのよ、これは!?みくるちゃん!元に戻って!」

「……あら、そういえば、まだこの姿だったわね?閉鎖空間が展開しているのなら問題ないかしら」

 みくるは、ハルヒの言葉などまったく意に介さず、隣にいる男を見た。


「あぁ、この世界は限りなくCの世界に近い。ならば問題はないはずだ」


 みくるの身体から、誰かがまるで着ぐるみを脱ぐように現れる。
 それはハルヒが見たこともない黒髪の女性だ。


「なんなのよ!あんた達は!?」


 ハルヒの怒声がむなしく屋上に響く。

「…神を殺す準備は整った。それでは改めて挨拶をしよう。我が理想をかなえるための神に対して……」

「えぇ、彼女は私達の夢を実現させてくれるために必要な存在ですものね」

 2人はハルヒを見る



「私の名前は、マリアンヌ……そして」

「我が名は、シャルル・ジ・ブリタニア……お前を殺し、この世界を新たに作り変える存在だ。」



 二人の言葉にハルヒは息を呑む。

 彼らの目に、ハルヒは恐怖を感じる。
 この平和な日常では、見た事がない、悲しみと怒り、そして憎悪。



「お前に、教えてやろう。お前がこの世界にとっていかなる存在であるかを……」



 シャルルはハルヒを見据えて話し出す。

 ハルヒ自身が知らない、己のヒミツを……。
















[6912] 第10話 涼宮ハルヒの悲鳴~私が望まない世界~
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2009/03/10 01:24









第10話 ハルヒの悲鳴~私が望まない世界~











 学校の屋上…。
 世界は暗い闇に閉ざされ、涼宮ハルヒは十字架にかけられていた。
 もがこうとも、一向にその手足に繋がれた鎖は外れることはない。


「お前は、この世界のことを何も知らない。知らなさ過ぎる……」


 ハルヒの前、シャルル・ジ・ブリタニアは、抵抗するハルヒに向けて告げる。

「考えたことはあるか?お前の求めるものが、何でも揃う世界、お前の欲しがるものは、自ずと現れる世界……」

 ハルヒは、シャルルの言葉を黙って聞く。
 彼の言おうとしていることが見えない。

「……まるで、お前自身が、この世界を動かしているようであると」

「何を言って、そんなことあるわけないじゃない!」

 ハルヒはシャルルの言葉に、真っ向から反発する。
 馬鹿げた話だ。人間が自分の意志で力で、物事を勝手に動かすことなど出来ない。それに、もし自分が、世界を思うがままに動かせるのだとしたら、ここにはいるはずだ。SOS団の意味となった者達が……。

「ならば、問おう。この世界の異変、誰のせいで起こっているのか?お前はかつて経験したことがあるはずだ。同じように世界の崩壊の危機……己の願望のために、学校を破壊したことが……」

「……」

 ハルヒは黙る。

 あれは…夢だ。
 全てが夢、キョンとキスをしたことだってそんなのも全部夢なんだ。


「……お前の存在が、この世界に様々な影響を与える、いや、お前がいなければこの世界は存在しないのだ。それをお前は知ることなく生きてきた。お前に関わる者達が、真実から遠ざけてきたのだ。力は神であれ、精神的に未熟な貴様では、事実を受け止めきることは出来ない。お前を庇おうとしたのもそうだ。お前は……この世界における絶対的な存在であるからこそ、守られ、崇められてきた」


「何を言っているか、わからないわ!そんな話、誰が信用すると思って……」


 ハルヒはそんなシャルルの言葉など意に介さず吐き捨てる。
 シャルルは、ハルヒを見ながらも、相手の動揺を伺うことは出来た。
 ハルヒは知っている、この世界のことを……そして、キョンとの出来事も。

「おかしな話だ。世界を統治したがるものには決して、お前のような力は与えられない。与えられるのはいつだって、世界の統治、変革、そのいずれにも興味を持たぬ者ばかり」

「……でも、それが神を今日まで生き伸ばしてきた要因なのよ」

 マリアンヌの言葉にシャルルは頷く。


 人間は、醜くかくも未来を自分たちから奪っていく。
 未来などは地獄でしかない。
 過去ならば、失うものもなく、そして人は永久不変の平和を幸せを持ち続けることができる。


「涼宮ハルヒ、お前の求めているものは……すべて、此処にある。お前はそれを知らないだけだ。超能力者?宇宙人?未来人?お前はそれを知らなかっただけであり、お前の傍にそれはあった。古泉一樹、長門有希、朝比奈みくる……、彼らが、まさにそれだ」


 ハルヒは自分が強く動揺していることを感じ始めた。

 そんなはずはない、そんなことはありえない…そう否定し続けることが、かえって自分を追い詰めているような気がするのだ。


「お前はそういった非現実を求めながらも、人間であることを、自分が人間であり、人間としての世界に固執した。そのための存在が唯一の人間である、あの男だ。それらを纏めたSOS団、お前が学生生活を送る中で、その組織は実に都合のいいものだっただろう。お前は好きに自分の妄想を具現化してきた。彼らが、その具現化されたものを、対処するのを知らずに……」


「やめろっ!!」


 振り返るシャルルとマリアンヌ……。

 そこに立つのは、シャルルの攻撃を受け、立っていることもままならないキョン子であった。彼女は、長い後ろ髪を縛っているゴムが解け、その姿はどことなくハルヒとキョンを掛け合わせて割ったような姿となっていた。


「……それ以上、ハルヒを……」


 キョン子を見据えるシャルルとマリアンヌ。
 …そして、ハルヒ。

「あなたからも言ってあげればどう?自分はキョンという名の人間の異性体であり、別の世界からこの世界を救うためにやってきたって……」

 マリアンヌは、微笑みながらキョン子に告げる。

 ハルヒは、その言葉に驚くと同時に…、彼女の表情を見ると納得できてしまう自分がいる。あの男のいうことが現実なのか?だとしたら私は……。


「お前もわかっているはずだ。この世界がいかに不公平であり、不自由な場所であるかが…。人は無意味に殺され、様々な人間は自分の利益・欲求の赴くままに、互いを憎悪し、殺戮を繰り返す。この平和な造られた世界であれ、涼宮ハルヒを巡り、朝倉涼子と長門有希が争うようなことが繰り広げられている。悲劇は、如何なる世界でも繰り返されていく。それが!!この涼宮ハルヒが無意識に望んだことでもあるのだ。なぜならば、この世界は、このものによって創生されているのだから!」


 シャルルはハルヒを指差す。

 ハルヒは、キョン子をただ見つめている。
 自分はどうしたらいいのかがわからない。
 本当は?真実はどこにあるのだろうか?
 
 私は、正しい。

 そう…いつだって、そうだったはずなのに……。


「…折角ですから、答えを聞きましょう?それが1番手っ取り早いわ」

 マリアンヌは倒れている朝比奈みくるの身体を起こすと、彼女の頬を軽く叩く。

「うぅっ……」

「なにをする気よ!?みくるちゃんを離しなさい!」

「安心しなさい。ただ、彼女に私は未来人ですってことを言わせるだけよ。彼女は隠すかもしれないけれど…。人のために自分の命は差し出せないでしょう?」

 マリアンヌはみくるを脅迫するつもりであることを知る。

「やめなさい!!みくるちゃんに手を出すのは、全部、全部嘘よ!!貴方達がいっていることなんて、全部嘘なんだから!!だから、もうやめなさい!!!」

 ハルヒは大声で怒鳴り散らす。


「……だから、なんだ」


 キョン子の言葉に、マリアンヌが顔を上げる。

「お前達が、なんと言おうとも、ハルヒはハルヒだ!そして、お前達の勝手な都合で、ハルヒを傷つけるような真似は、私は絶対にさせない!」

「……あんた」

 ハルヒは、キョン子の言葉が強く心に残る。
 あれだけ必死になってくれる奴が、ただの部外者とは思えない。
 やっぱり彼女は……。

「ほら、認めたわよ?彼女は、この世界の現実が如何なるものなのか…」

「……私は」

 この世界は自分が創造した。
 自分が作り、そして…考え出した世界。

 そのために、古泉君、有希、みくるちゃん……キョンが巻き込まれた。
 みくるちゃんもあんなぼろぼろになって……。
 そんなことを私が望んだって言うの?こんなことを……私が。

 違う

 私は、こんなことを望むはずがない。
 みんな、私の大切な仲間であり、かけがえのない部員達なのだ。
 女の子のキョンなら面白そうだし、いてもいいかもしれないけど。
 こんな世界は見たくない。

 ハルヒは、目の前の光景を、現実と見れない。
 眩暈がする……自分は、元の世界に戻るんだ。

 こんな話なんか、信じない。



 私は、いつものみんながいる場所に帰るんだ!!





「!?」


 シャルルが周りを見渡す。

 それは、追い詰められたハルヒが再び現実を求めたことで、閉鎖空間が逆に収束しようとし始めていることだった。シャルルは神の力を持ちながらにして、その不安定な子供の精神をいかにして崩して彼女を追い詰め、閉鎖空間を作り出そうかと考えていた。そのために朝倉涼子という本来ならば不必要な役者を用意して、マリアンヌを朝比奈みくるに憑依させ、ジリジリと彼女を追い詰めようとしたのだが…。

 ルルーシュのこの現実とはかけ離れた攻撃により、自分たちは姿を現さなければいけなくなってしまった。それは結果的には、彼女の常識の範疇を超えてしまい、この現実に拒否を出してしまった。それは、この世界が元に戻ることを意味する。


「閉鎖空間が!?」


 シャルルは渋い顔を浮かべ、ハルヒを見る。

「アハハ。人間って言うのは、早々と、隠れた現実を見せつけられて素直になるほど上手く出きていないんだ。ハルヒは、お前達が言うような神なんかじゃない。私と同じ普通の学生だ。それがわからなかった……お前達の負けだ」

 キョン子は勝利を確信した笑みをシャルルに向ける。
 そして、ハルヒを助けるべく彼女の元に近づいていく。

「ハルヒ……今、助けるから……」

 彼女は、重たい身体を引きずらせながらもハルヒの元にと向かっていく。ハルヒは疲労の色を浮かべながらも、目の前にくるキョン子を見つめる。


「……私を助けたら、知っていること全部話しなさいよ?団長命令なんだから」

「私はSOS団でもなんでもないぞ?少なくとも、この世界では……」

「今、決めたわ。私を助けてくれたから……名誉団員として認めてあげる」

「それはどうも……ありがと」


 2人はそんな会話のやり取りをしながら、キョン子はハルヒコを…、そしてハルヒはそこにキョンがいるような感覚を感じ取る。

 なんとも不思議な感じだ…相手が異性であれ、中身が…心が同じならば、それはハルヒコ、ハルヒとなんら変わりはない。彼は…彼女は、純粋な心の持ち主であり、SOS団が彼女を守るに値する存在であるのがよくわかる。


 だけど、それは決して彼女が神の力を持つから、そういうことではない。彼女は私達の友達だ。そして私にとってはハルヒコであれ、ハルヒであれ、大切な存在なんだ。だから守る。

 なんとも単純な話だ。そこに、ハルヒの神の力や古泉たちの超能力や宇宙人、未来人の力なんか関係ない。



 こんな話は、どこにでもある当たり前の友達の話なのだから……。







 音が轟く。






 キョン子はハルヒの目の前……そこで自分に何が起こったかもわからないまま、膝をつく。もう少しで……手が届きそうなハルヒの身体。彼女を守るためには、まだここで倒れるわけにはいかないというのに、身体に力がはいらない。目も霞む……。


 顔をあげれば、ハルヒがぼやけながら、何かを喋っている……。
 目に涙を浮かべながら…良く聞こえない、
 
 もっと大きな声で、いってくれれば…わかるのに、今は物凄く、眠い。





「……ハルヒ、ごめん」





 そこで…私の意識は途絶えた。

 ハルヒコは、こんな私を見て、きっと笑うだろう。
 情けないって……。

 長門は?何も言わないか、古泉は相変わらず鬱陶しそうだ。
 朝比奈君は…心配してくるかな。










「!!」


 ハルヒを助けるために、屋上にと向かうルルーシュたち。
 そこで突然、足が止まるキョン。
 彼が止まったことに、ルルーシュたちの足が止まる。

「どうした!?」

 ルルーシュの問いかけに、キョンは自分たちが昇る先にある屋上を見上げる。

「……あいつ」

 キョンは拳を握りしめる。










「……バカな娘ね。現実は覆せないのよ…だからこそ人は夢を見るの。でも安心しなさい。すぐにこの世界は1つになるわ。夢も現実も…すべてが1つに」

 マリアンヌが握る銃。

 ハルヒは、身体を震わして、目の前で倒れているキョン子を見つめる。
 彼女の身体からは赤い血が流れて、ハルヒの十字架を包んでいく。

 ハルヒの瞳が揺れる。






 いやだ、こんな世界……私は、こんなのいやだ……。


 いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや
 いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや
 いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや






「いや、いやぁああああああああああああああ!!!!」








 ハルヒの悲鳴は、空いっぱいに響きわたる。


















[6912] 第11話 次元世界崩壊
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2009/03/12 20:28









第11話 次元世界崩壊












「いやぁあああああああああ!!!!」



 彼女の悲鳴と供に、収束されつつあった閉鎖空間が一気に拡大化する。
 それは世界を覆うほどまでに……。


「……悲劇は、未来がある限り永久に終わることはない。悲劇をなくすためには、悲劇が起こる未来をなくすことだ。それが、世界を救うための唯一の手段。お前はその力がある。お前が犠牲になることで……世界は未来という絶望に向かうのをやめ、すべてを凌駕する世界にと到達するのだ。そこには、幸福だけが存在する」


 シャルルは十字架で絶叫するハルヒに槍を向ける。

「あぁ……ようやく私達の願いが叶うのね。世界は今、まさに1つとなるんだわ」

 マリアンヌは銃を握ったまま微笑み、そのときはいつなのかと待ち続ける。


「新たなるラグナレクの接続。これにより神は死に、そして世界は新たな時代を迎える。そのときこそ、我々が求めた世界が訪れる。ここから、全ての世界が生まれ変わらすことができるのだ!」


 シャルルは改めて剣を握り締めて、それをハルヒにとむける。

 閉鎖空間の拡大は、この世界全体を覆いつくしている。
 神が死ねば、この閉鎖空間は崩壊を起こし、覆っていた世界そのものも消滅するだろう。

「全ての人間に、幸福をもたらすため……」




「待て!!」




 シャルルとマリアンヌは、その聞きなれた声に、振り返る。

 それはルルーシュとC.C.…傷ついた古泉、そんな古泉の肩を持つキョン、長門がその場にはいた。キョンの目に入ったのは、倒れている朝比奈みくる。十字架にかけられたハルヒ、そんなハルヒの前で赤い血を流し、倒れているキョン子の姿だった。

「くっ……間に合わなかったっていうのか!」

 キョンは、十字架の前で倒れて動かないキョン子を見つめ、悔しげに吐き捨てる。

 ルルーシュは、キョンの絞り出すような声を聞きながら、自らの親を睨みつける。


「お前達は…。同じことを繰り返すか」

「ルルーシュ……お前達には関係のないことだ。私達は私達の世界を作り出す。お前達が自分達の世界を作り上げたようにな」


 シャルルは、ルルーシュを眺めながら言う。


「自分の計画を実行に移すためなら、如何なる世界であろうと、そこの人間がどうなろうとかまわないというのか、お前は……」

 かつて、自分達の世界で行なおうとしたラグナレクの接続…人類の集合無意識を神の兵器であるラグナレクを用いて、破壊し、人間全てを1つにしようとした恐るべき行動。だが、それはルルーシュ、C.C.そして、ルルーシュの親友であったスザクにより阻止された。

 それを…神の代用品として、涼宮ハルヒを選び、再び行なおうとしているのだ。シャルルは……。


「言ったはずだ。死んだものも生きているものも1つになる。死という概念に意味はない永遠と繰り返す悲劇を拒むことのなにがいけない?」


 やはり、この者たちは、未来など見ようとしていない……過去の栄光に固執している。

「それを決めるのは、お前達ではない!ここに生きる世界の住人が決めることだ」

 ルルーシュは背後にいる、SOS団の部員達を思い浮かべ告げる。

「違うな、この世界に生きる人間などは、所詮、神の造形物に過ぎない。神が望むことが、この世界の望むこと……、そして神は絶望を知り、閉鎖空間を拡大させた。ならば、成すべき事はひとつだけ」


「……そうはさせん!長門!」


 シャルルの動きを封じようと、長門が、地面から舞い上がると宙を回転して、シャルルに向かって攻撃を仕掛ける。マリアンヌは銃を向けるが、そんなマリアンヌに対してはC.C.が同じように銃を向けて動きを止める。


「……C.C.、どうしても私達を止めたいの?」

「マリアンヌ……お前達こそ、そこまで未来が信じられないか?」


 長門がシャルルに近づいた直後、長門に攻撃を仕掛けるもの…。
 長門は、そのものと接触して、バランスを崩すが、すぐに屋上に態勢を立て直して着地し、目の前の相手を見る。

「……」

 それは、もう1人の長門だ。
 ルルーシュは驚きに声がでない。
 シャルルは、驚くルルーシュを見据える。


「神は、お前達を近づけたくないようだ。神の意志は、この世界に繁栄される。その人間のもっとも対抗すべき存在を瞬時に読み取り、神人として現実に存在をさせる」

「神人だと?」


 神人は、確か、古泉のときに見た巨人だったはずだ。
 こんな小型であり、さらには、人間そっくりの姿になれるなどとは聞いたことがない。神人とは存在であり、その姿など関係がないということか。

「……気をつけてください。神人は一体ではありません…涼宮さんの意志で幾らでも……」

 キョンに担がれたまま、古泉はルルーシュに言う。
 そんなルルーシュの前にも、神人が姿を現す…。


「スザク!?」


 ルルーシュの意識を読み取り、姿を現すかつての友人に、ルルーシュ激しく動揺する。C.C.はマリアンヌに銃口をつきつけながら、ルルーシュの声に、意識をうつす。


「残念ね、あなたの相手も現れたようだわ」

「なに!?」


 その間に発せられたマリアンヌの言葉に、再び前を見るC.C.
 そこにいたのは、紅月カレンである。元にいた世界、ルルーシュとともに黒の騎士団として戦った仲間である。

 カレンは取り出した、銃を向け、C.C.に撃つ。C.C.はそれを屋上の地面に転がりながら、かわし、建物の影に隠れる。


 キョンと古泉もまた建物の影に隠れて様子を見る。

 ある一定の範囲内にはいると、神人が作動し、こちらを攻撃するようだ。
 しかも向こうは、こちらの意識を読み取り、相手が1番やりづらい相手を選んでいるようだ。


「……これじゃ朝比奈さんも、ハルヒも……あいつも助けられないじゃないか!」

「落ち着いてください、キョン君。涼宮さんは僕たちを近づけさせたくないことにより、神人が反応をしているんです。ようは、彼女のその不安を払拭することが出来れば、涼宮さんを助け出すことができるはずです。そしてそれをできるのは、恐らくキョン君、あなただけです」


 古泉は、痛めた腹部を抑えながらキョンに言う。
 キョンは、その古泉の言葉を聞きながら頷く。
 自分は、今まで何も出来なかった……、そのために自分の分身とも言える存在が今、まさに倒れているのだ。今何もしなくて、いつ動くというのだ。
 キョンは立ち上がると、建物の影から出て、歩き出す。


 長門同士の攻防は、まったく優劣がつかないものとなっている。まるで鏡と戦っているようで、相手と同じ攻撃をしてくる神人に長門は、なす術がない。


「ぐおおっ!!」


 重たいスザクの蹴りを両手で防ぐが、その勢いにコンクリートの床に転がるルルーシュ。

 ルルーシュは、神人が変身したスザクという戦闘能力に特化した相手に、まるで歯が立たない。しかし、こいつを超えなければ、未来は皇帝により死に絶える。
 そんなことはさせてはいけないのだ。
 考えろ……あれが、涼宮ハルヒにより、こちらの脳裏を読み取り作り上げたものだとするのならば……。


「……だとするのなら、あれは、俺の中のイメージのスザクだということだ」

 ルルーシュは、こちらに向かってくるスザクを見て立ち上がる。

「俺の中のイメージのスザクは……緒突猛進、単純明快」

 スザクの蹴りを、ルルーシュは態勢を低くして避ける。

「なによりも、曲がったことを極端に嫌がり、それが弱い……」

 ルルーシュは笑みを浮かべると、神人であるスザクを見る。



「……降参だ。お前の勝ちでいい」



 ルルーシュの言葉に、それを見ていた古泉と、そしてハルヒの元に向かおうとしていたキョンが驚く。ルルーシュは銃を捨て、手をあげて降参の意志を示し、スザクを見る。

「残念ながら、ナイトメアフレームさえない俺には、お前の力に対してまったく歯が立たない。俺も命は惜しいからな…」

「……」

 スザクの攻撃が緩み、その場に立ち尽くす。



 そうだ…お前は、無駄な殺生は避ける。
 相手の言うことをすぐに信じようとする、その甘さ、優しさを持つのが……俺の知る枢木スザクだ!


 ルルーシュの服の手元から、もう1つの銃が飛び出す。
 スザクは、それに対して咄嗟に回避をしようとするが、ルルーシュの銃弾は、彼を逃さない。神人であるスザクは、銃弾を受けて、その場で消えうせる。


「……はぁ、はぁ。C.C.、長門…奴らはお前達の中の存在だ。お前達が思い浮かべる存在の弱点を見つけ出せば倒せるぞ」


 ルルーシュは、戦っているC.C.と長門にそうつげ、シャルルとマリアンヌの元に向かおうとする。

「言われたはずだぞ?ルルーシュ…、神人は1人ではないということに……」

 シャルルの言葉とともに、再びルルーシュの前に現れる神人。
 しかも今度は……。

「な、ナナリーだと!?」

 ルルーシュの最愛の妹の姿を模った神人に、ルルーシュは後に下がる。
 ルルーシュの中での、ナナリーは完全無敵なのだ。優しさと深い愛を持ち……決して穢されない彼女を撃つことなどはもちろんできない。


「……どうすれば、どうすればいい!!」


 困惑するルルーシュにシャルルは話し出す。



「まだ気づかないか、ルルーシュ……。世界全てが、お前のように、未来を求めているわけではないのだ。未来などという言葉は、幻に過ぎない。人間は前に進めば進むほど全てを失っていく。それは人間が人間である以上は、仕方が無いことなのだ。だからこそ、私は人間の成長を止める。そこにあるのが不幸であることは、ありえない。なぜならば、何も失うことはないからだ。失うことがない…それは人々に、安らぎを与える。それは人に安堵を与え、争いも何もなく、平穏と安息を齎すのだ」


 ルルーシュは、そのシャルルの言葉に強く拒絶をする


「……お前の言う世界は一見、平和な世界に思えるかもしれない。だが、それは人の成長を、新しく生まれることを止めることになる。過去にすがりつくことで、新たなる成長というものを拒否するというのは臆病者のすべきことだ。なぜ、人を信じられない?少なくとも集合無意識は、俺達の世界の人間は、歩き始めた。未来に向かって……。それは俺達の世界だけのことじゃない。過去は、未来を作り出すための素材でしかないんだ!」


 未来の足を止めてしまえば、それは、遠まわしにも成長してきた世界を否定することになる。それは自分たちだけの世界だけではない。C.C.とともに回ってきた世界すべてをだ。それらの世界は、皆、傷つき、失ったとしても決して過去に固執せず、未来を見ていた。未来には、今よりもよくなる可能性があるからだ。


「お前とは、やはり話をしても無意味なようだ。ここで、世界の変革を見届けるがいい」


 シャルルは、ハルヒに剣を向け、それをハルヒの身体に突き刺す。



「やめろおおおおお!!!」



 キョンが大声をあげる中…、ハルヒの身体が輝く。
 ラグナレクの接続が始まった……。
 世界が収束し……。




















「……私は、死んだの?」

 ハルヒが、顔をあげる…そこは黒い闇の世界
 誰もいない、ハルヒだけがそこにはいた。

 自分はどうしてしまったというのか、確か十字架にかけられて、串刺しにされたんだったか。でも、あの世界を見ることはもうしたくない。自分のせいで、様々な人が巻き込まれて消えていく世界を、私は見たくない。


 ハルヒは、まるで水の中に漂うにしてぼやく。


「……お前らしくないな?」


 ハルヒはその声に顔をあげる。


「……あなたは」


 それはキョン子だった。

 彼女は、ハルヒを見つめて笑った。
















[6912] 第12話 涼宮ハルヒの劇場~World End~
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2009/03/13 23:10









第12話 涼宮ハルヒの劇場~World End~











 みんな傷ついた。


 みんな苦しんだ。


 みんな哀しんだ。


 みんな辛かった。


 みんな悲しんだ。


 みんな……みんな……。




 私は、あんな世界を望まない。

 私は、誰かが傷つき、いなくなってしまう世界を望まない。

 誰も悲しむ姿なんか見たくない。

 そんな世界が来るぐらいなら、私はそんな世界は来ないほうがいい。





 そんな世界は必要ない。





 みんなで楽しく遊んで、宇宙人や未来人、超能力者を探すために、いろいろなことをするの!


 常識にとわられず、様々なことをやって、楽しみ続けたい!


「……楽しむことだけでいいのか?」

 キョン子は、膝を抱えるハルヒに告げる。

「……」

 ハルヒは何も言わない。

「傷つくことも、悲しむこともあるから、人は楽しめるんじゃない?」

 キョン子の口調はとても優しいものだ。

「……」

 ハルヒはだからこそ、彼女を見たくなかった。

「ずっと思い出や、過去に縛られていちゃ、その先にある新しい楽しみを知ることはないじゃないか……」

「未来に楽しいことがあるかわからない。事実、あんたは!あんたが……いなく……」

 ハルヒは顔をあげて、キョン子を見る。
 キョン子は、今にも泣き出しそうなハルヒを見つめている。

「私は、いなくなってほしくなんかない。誰にも……そんな未来はいやなのよ!みくるちゃんも、古泉君も、有希も……キョンも、あんただって!」

「……私に会えたのは、未来があったからだろ?SOS団だけの世界じゃ、私には会えなかった……。あんたが、自分の足で歩いて、そして私と出会った。それは……紛れもなく、未来が、明日があったからだ」

「……」

「……新しく出会うものがいれば、別れる奴もいる」

「……」

「私は、ハルヒ……、あんたに出会えてよかった。なんていうか、私の世界のハルヒコとはやっぱりちょっと違うよね。それを見ているだけでも凄く面白かったし。こうして、会えたことは……きっと未来に繋がる。そしてこれは永遠の別れじゃない。私は、ハルヒにとっては過去になるかもしれないけれど…。あんたが、私の事を思い出してくれれば、それが今になり、未来になる」

「……でも、それは思い出であって、過去の写真・映像にしかならない。触れられない、会話も出来ない。そこにあるのは、私の思い出、私の中のあなた。現実じゃない、ただの虚像……」

「だけど、それがあんたにとっての真実だろう?私っていう認識は、人それぞれで違っていくわけだから……、ハルヒから見た私、ルルーシュから見た私はきっと異なっているはず。それが普通なんだよ」




「……なによ、正論ばかり言って……私は、私はっ!!」





 ハルヒは、キョン子を見て叫ぶ。


「あんたに、いてほしいの!!まだ何も、何も知らないのよ?なのに、なのに…勝手にいなくなって……わからないじゃない、何も……」


 涙交じりの声…キョン子はそんなハルヒの手を引いて、ぎゅっと抱きしめた。
 その突然のキョン子の行動にハルヒは、驚くが、触れてきた彼女を包み、肩に顔をのせて、声を殺す。

 キョン子の肩、ハルヒの頬から伝った熱いものを感じることが出来た。

 やっぱりハルヒコとは違う…、あいつは、こんな簡単に泣くことなんかないんだから。始めてみた気がする。ハルヒの泣いているところなんか…きっと、キョンの奴も見たことはないんだろう。




 ハルヒの涙が、暗闇の世界に落ちる。
 その瞬間、世界が白く輝く。





 眩しさで、ハルヒは思わず目が眩んだ。
 暗闇にいたからだろうか、だんだんと目がなれてくる。

 その場所は……学校?!

「いつまで寝てるんだ?みんな帰っちまったぞ?」

 ハルヒは周りを見渡す。そこはいつも見慣れた自分達の部室だ。

 何もかわらない。
 いつもと同じ日常の風景……。
 夕焼けの光が窓に反射している。



 夢?そう、あれは夢だ。
 あんなことあるはずがない…私はずっと夢を見て…。



「なに?夢でも見てたのか?」

「う、うるさいわね!人の寝顔見てないで、さっさとあんたも帰ればよかったじゃない!」

 ハルヒは、キョン子の言葉に、腕を組んで顔を横にする。
 そのとき、ハルヒが身体を起こした瞬間、彼女の体にかかっていた、キョン子のブレザーが床に落ちる。

「なに?これ?」

「お前が、寝てたから…風邪ひかないようにね」

 ハルヒは床に落ちたキョン子のブレザーを拾って、ゴミを払う。

「……ありがとう」

 そういってキョン子にハルヒは、ブレザーを返す。



 オレンジ色の光に照らされた、2人は、そのまま荷物を持って部室から外に出て行く。


「文化祭前だし、お前は映画の撮影もあって大変だったからな」


「…それはあんたも同じでしょ?」


 自転車を押すキョン子に付き添うようにして歩くハルヒ。
 ハルヒは、キョン子と下校の道を歩きながらも、夢にみた不安を拭いきれないでいた。


「ねぇ?キョン子?」

「ん?」

「……変な夢を見たの。私がこういった世界を自分で作っているっていってね?それを利用した悪人が、現れて……、そしてあんたを殺……そうとするの」


 ハルヒは自分でも何を言っているのかよくわからないでいたけれど…でも、それでもはっきりと言いたい事はいえたと思った。

 キョン子はハルヒの話を聞いて笑いながら

「まったく、お前は夢の中まで、そんな不可思議なものを見てるのか?」

 キョン子のその笑いに、ハルヒはむっとして…。

「い、いいじゃない!だって……ちょっと、ちょっとだけよ?怖かったから……」

 そんなハルヒの言葉に、キョン子は黙って彼女の手をとる。
 ハルヒは、そんなキョン子に文句を言ってやろうと思ったのだが…言葉が出てこなかった。





 それからも日常は続いていく。
 文化祭のために、映画撮影を続けて、古泉君やみくるちゃん、有希と一緒に進めていく。すべてが順調で、何事もなく…ただ、その何も無い日常というものを楽しめていた。退屈だとはどうしても考えれなかった。


 この日常がまるで…日常ではないかのようで。


「……お祭りって、準備しているときって凄く楽しいよね」

 キョン子は、ハルヒとの帰り際に、そう告げた。
 ハルヒはそんなキョン子の背中を力強く叩いてやる。


「いてっ!」

「何、冷めたこといっているのよ!文化祭が終わったら、そのときは…また面白ことをやるわよ!そう、私達はなんでもやってやるんだから!!」


 キョン子は、そんな笑顔で邁進するハルヒを見ながら、背中をさする。





 文化祭は無事に終わった。






 ハルヒとキョン子は映画の宣伝活動を終え、後片付けを行い……あれだけ盛り上がった文化祭の雰囲気は、まるで、元々何もなかったような、そんな静けさだけが漂うようになる。


「終わっちゃったな」


 キョン子は、振り返り、学校の姿を眺める。


「なによ?そんな冷めた顔をして」


 ハルヒは、キョン子を見つめ、不思議そうに問いかける。


「夢はいつか覚めるもんだろう?夢の時間は終わりだ、ハルヒ…」

「え?」


 キョン子はハルヒを見つめそう告げた。

 ハルヒの声は、震えていた。
 ハルヒ自身もわかっていた…、これが夢であるということに、だけど、心からそうではないと、これは現実だと感じていたかった。夢に漬かっていたかった。ハルヒが求めた夢……キョン子との束の間の日常……。少ししか、いられなかった彼女を知るために、ハルヒが望んだこと。


「……私は」


「もう、そういうのは…なし」


 うつむくハルヒに、キョン子が答える。


「……」

「…私の事、少しはわかっただろう?もう……忘れるな?」


 キョン子は、黙っているハルヒに笑顔で言う。
 ハルヒは、そんなキョン子を見るために顔をあげる。
 その顔に、哀しみなどはない…、いつものハルヒの顔がそこにはある。


「当たり前でしょ!私が団員を忘れるわけ……ないでしょ!」


 最後の言葉…ハルヒの言葉が揺らぐ。








 世界が、修正される。









「いつまで寝てるんだ?もうみんな帰っちまったぞ?」



 ハルヒが、その聞きなれた声にゆっくりと目を開ける。
 そこには、キョンがいる…、人の寝顔を見ていたキョンに大声をあげようとも思ったが、それを自分の中で押しとめる。ハルヒは身体を起こそうとしたが、その前に、自らの身体にかけられているであろう、上着を落さないように掴む。


「……ねぇ、キョン?私、変な夢,見たの」

「ふーん、それはいい夢だったか」


 キョンは既に夕日に照らされている部室を片付けながら、ハルヒに問いかける。ハルヒは、片づけをしているキョンを見つめ……。


「変な、変な夢だったわ」

「またか?この前もそんな夢見たとかいってたじゃないか」


 キョンはやれやれといいながら、ハルヒに彼女の荷物を渡す。



「……でも、いい夢だった。後味の悪くない……いい夢だった」



 ハルヒは立ち上がり、荷物を受け取るとキョンとともに部室から出て行く。

 2人はそのまま校門から外に出た…、もう誰もいないのだろうか、人の姿はほとんどない。夕日も落ち、暗闇が学校を包み始める。


 ハルヒは、校門から出ると、キョンが先に進む中、足を止め、振り返って、学校を見渡した。


「……またね」


 ハルヒはポツリと一言、それだけ言ってキョンの自転車の後を追う。














[6912] エピローグ 私が見たあなた、あなたが見た私
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2009/03/14 20:38









エピローグ 私が見たあなた、あなたが見た私











「……涼宮ハルヒは、時を進めることを望んだか」



 ルルーシュは、夕日の中、学校から立ち去る涼宮ハルヒを眺め、つぶやく。


「何かを為すには、何かを否定することに繋がる……未来を求めることで、切り捨てなくてはいけないものが出てくる。あの女には、そのほうが似合っているだろう?だいたい、そんな後ろめたい気持ちを持つのは、それなりの年齢、経験を重ねているものぐらいだ」


 まるでC.C.は元々、この結果がわかっていたかのような話をする。
 ルルーシュにしても、C.C.の話を聞けば、納得する…。
 まだまだ彼女には失うものが少ない。


「わかりきった結果だったとお前は思うかもしれないが、それでも内心は慌てたんじゃないか?」

「この世界の人間の思考だ。平和であるが故に、失いたくないものも多いだろうが、逆に失ってしまったものも少ないはずだ。失うことの辛さがわからなければ、そこに到達するのは難しいな」


 C.C.は自らが経験したことを考えながら夕日を眺め答える。

 ルルーシュは、周りの様子を眺める。

 平和な世界…様々な世界を経験した中で、ここは、1番だろう。
 戦争もなく、人も死なない。
 ただ、楽しく遊び、恋をしたり…夢を見つけ、走る場所。


「……フッ。確かに、この世界では、過去だけを求めようとするのは、我侭すぎるな」

「だろ?シャルルとマリアンヌは……見誤ったのさ。世界を変革する神の性格、立場を」


 C.C.はルルーシュを横目で見つめ、微笑む。
 ルルーシュもC.C.に見つめられ、同じように微笑む。


「それにしても、なんとも不安定な世界だ。俺はごめんこうむるよ。誰かのご機嫌取りをして、安定するような世界は……」

「同感だな」


 2人は、この涼宮ハルヒの求めた平和を体感しながらも…自分たちには合わないと改めて確信した。平和というのは、人それぞれによって異なる。この平和は…涼宮ハルヒが求めた平和であり、自分たちが求めた平和ではないのだから、ルルーシュたちがそう感じるのは無理がない。

 特に、自らが勝ち取った世界の美酒を味わった2人には、そう感じられるだろう。自分達の介入は、果たして意味をなしたのだろうか。そもそも、必要なかったのではないのかとさえ感じられてしまう。


 功労者といえば、彼女に再び前を向かせた、あの女の存在だろう……。







「うぅっ……」




「何寝てんだ?キョン子?」

 キョン子はゆっくりと顔をあげて、周りを見渡す。そこにはハルヒコがいる。

 そこで彼女は大きく溜息をつく。


 ようやっと……戻ってきたのか、自分の本来あるべき世界に。キョン子はこの目の前の男が女であり、そして物凄いことに巻き込まれたことを、どう説明してやろうかと悩んでいた。まったくたいしたトラブルメーカーだよ、こいつは……男であれ、女であれ……。こいつについていけるのは、SOS団と呼ばれるメンバーだけなのだろう。


「暫くは、ゆっくりと休ませて貰うぞ?」


 キョン子は大きく欠伸をして、再び机を枕にして、顔をうつぶせる。

 あれだけのことをしたっていうのに……誰からも祝福されないなんて。
 ハルヒコに、この分のツケはしっかりと払わしてやるんだからな。

 キョン子は半ば夢の気持ちで、そう唱えて……意識を閉ざしていく。
 今度は、もっと自分が面白い夢を見れるように願って。









「みんな~~!!今日は不思議探索に行くわよ!」



 ハルヒは、声をあげてSOS団部室にとやってくる。

「はぁ~、ったく、今日はどこに行くって言うんだ?」

「私にいい場所が用意してあるわ。任せない!」

 キョンはやれやれといった形で、今日も自分の自由な放課後がつぶれるんだなと確信した。そんなキョンを見て古泉と朝比奈さんは笑っている。長門は相変わらず本を読んでいるし。


 結局…あの出来事はなんだったのだろうか。


 キョンは、この何も変わらない、人物達を見ながら考える。
 聞いても何も答えはしないだろうから、自分ひとりで。

 ハルヒは…今度は、自分ではなく、もう1人の自分であるキョン子によって、世界を改めて修正した。未来を閉ざし過去に縛り付けようとした、あの悪人達は姿を消したわけだ。それはいい…。


 問題は、この世界のことだ。



 以前もそうだったが……ハルヒは世界を変える力を持っている。


 この間も、それは本当にギリギリで止められた『はず』なのだが……。
 今度は、確実に世界は一度、変更されている。
 そして再び元に戻っている『はず』なのだ。
 今の自分が、以前の自分と同じであると誰が保証してくれるだろうか。

 結局は、この世界は、ハルヒが、ハルヒの中にある世界を元に作り出した世界なのである。俺が、俺の中のハルヒを持っているように、古泉の中のハルヒ、朝比奈さんの中のハルヒ、長門の中のハルヒはそれぞれ異なっている。それと同じようにして、ハルヒの中の俺が、今の俺なのだろう。


 ならば……それが以前の俺と同じであるとは限らないわけだ。
 
 それを否定できる要素もないわけで……。


 今回わかったのは、ハルヒが考えた世界は無数に存在するということだ。
 ハルヒや俺の異性が逆転した世界、それだけじゃないはずだ。
 
 もしかしたら、ハルヒが双子の世界、俺がハルヒと姉妹である世界もあるかもしれない。そんな無数の世界が存在するとして、今回の事件は、それらに影響を与えるのだろうか?確かに、ハルヒは一度、世界を作り変えてしまったわけなのだから……。


 もし…作り変えてしまったとして、他の世界は大丈夫なのだろうか?

 うぅ……考えると頭が痛くなってきたな。






「はーい!今日は、ここにきたわよ!」



 ハルヒが指を差したのは、ゲームセンターである。

「いいですね、久しぶりに気分転換でしょうか?」

「わ、私ゲームとかやったことないですぅ…」

 古泉の自信満々っぷりがなんだかいやみったらしい。
 朝比奈さんは相変わらずかわいらしい……。
 長門は相変わらずおとなしい。

 ともあれ、考え事をしている最中に、俺達はゲームセンターに辿り着いたようだ。

 ハルヒを先頭にして、はいっていくと前に人だかりが出来ているようだ。


 キョンはそれを、どこかで見たような光景だと思う。


「なんだ、こいつら、なんて強さだ」

「まったく歯が立たない…」

 勝負をして敗北したものたちが外に出てくる。
 ハルヒはそれを見てニカッと笑って前に進んでいく。

「どきなさい!どきなさい!私たちが、一気にかたをつけてやるわ!」

 ハルヒが負けたチームのボックス席に陣取る。

「さぁ~私たちSOS団が叩きのめしてあげるわ!」

 キョンは、頭をかきながら、このめんどくさそうなことに、ハルヒが興味を持つのがなぜか不思議だった。だが、次に聞こえてきた声にキョンは目を見開くことになる。


「S…OS団!?」


 それは紛れもなく、あの夢のような出来事で、確かにいた…自らの分身である彼女の声。ってことは……ここにいる面々って言うのは。









 世界は修正された。


 だが、それが以前と同じ世界であるとは誰とも言っていない。
 そして、それを確かめる術は、夢と現実の境目にたっていた自分のあまりにも頼りない記憶でしかない。


 ……ハルヒは新しい世界、新しい出会いを求める。

 だからこそ、未来・明日を選んだ。









 今日も、俺達SOS団は、飽きない日常を送っている。















 Cの世界……


 白い世界の中で、並ぶ絵画の列。



 様々な絵画が並ぶそこに飾られた涼宮ハルヒとSOS団の絵がある。


 その先を歩いていくルルーシュとC.C.


「結局、仕留め切れなかったな、あの2人は……」

「どうだろうな?案外、涼宮ハルヒにより、消えうせたかもしれないぞ」


 ルルーシュは、願望もこめてそんな事を言う。

 あながち、間違いでもないが…、ハルヒが求めた世界にあの2人はいなかった。 そして、自分たちは存在した。
 これが何を意味するか。
 ただ単に隠れていただけなのかもしれないが……。


「さて、次だが……」


 C.C.は絵画を見渡す。


「そうだな、なんとも不可思議な場所だったからな、もう少し単刀直入に済ませられればいい場所がいいかもしれないな」

「……そうか、ならば」

 様々な絵画が並ぶ中を俺達は、歩き出す。


 他にも滅亡に満ちた世界は存在する…そこに向かい、自らができる限りのことをするのだ。ギアスにより世界が滅びの道に走ることだけは避けなくてはいけない。それは俺達がただ自らのためにやるわけではない。あくまで俺達は未来を示し、世界を崩壊させないことが集合無意識との契約だ。未来を求めるか、否かを決めるのは結局、その世界の人間達となる。


 それは、未来だけに限らない。
 
 平和・幸福…人間にとってプラスの要因であることも、世界、人によってそれぞれ異なる。


 人の価値観など、その人間にしか判断できない。



 涼宮ハルヒは、自らの世界を持ち、それを決める力を持っていたが、それは、涼宮ハルヒだけが持っているわけではない。彼女はその力が強いだけである。他の人間も自らの世界を持ち、世界を変える力を持っている。



 簡単なことだ。

 自分の主観を少し変えるだけで、世界は180度変わる。

 なぜなら、この世界は、自らの主観によって成り立っているのだから……。


















[6912] 涼宮ハルヒの劇場~World End~ 後書き
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2009/03/14 20:52


 ここまで読んでくださった皆さん、まずはありがとうございました。


 前書きにも書いたように、オリジナル要素が強かったために、入り込みづらいからも多かったと思います。また、表現方法などや、そういった面でも読みづらいところがあったかもしれません。そういった部分は申し訳ありません。


 涼宮ハルヒの世界観はとても面白いものだと思い、またアニメの二期制作にあたり、それに乗っかるような形で書かせていただきました。コードギアスとのクロスにあたり、ナイトメアフレームが出ないで、魅力が半減しないかというのは、難しい選択でしたが、無理に絡ませるよりかは、人間として進めていったほうが無難だと感じましたので、こういう風にさせてもらいました。



 この話のテーマでもある主観的世界という面では、朝倉涼子のギアスや、ルルーシュ、キョン子とハルヒなどの絡みで上手く伝えられたかなと思いますがどうだったでしょうか?これは、今の生活においても通じるものがあるのではないかと思っています。何かあれば、感想等で言ってもらえれば……。






 改めて、最後にここまで読んでいただいた方、感想を書いてくださった方、本当にありがとうございました。これにて完結とさせていただきます。また、もし別の作品で会うことがあれば、よろしくお願いします。



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