マシュー・バニングスの日常 第三十六話
△&年△月○日
中2になる頃だったか、まあその前後で。
久しぶりに明るいニュースが聞けた。
フェイトさんがついに執務官試験に合格したのだ。泣いて喜んでいた。今日はパーティーである。
女性陣が固まって華やかに盛り上がっているのから離れて、俺、クロノ、ユーノの3人はボソボソと話し合っていた。
「しっかしフェイトさんに執務官って勤まるのかねえ・・・」
「お前にとってフェイトのイメージってのはどんなものなんだ?」
「よく言っても天然? 悪く言えばマヌケ? いつもどこかが抜けてるというかさ・・・」
「ぶふっ! ひどいよマシュー、そんなはっきり言ったら・・・」
ユーノが笑いをこらえている。
「・・・実際、フェイトが苦労していたのは知識を問う部分ではなくて、性格が分析される適性調査のほうだからな・・・」
「ああ、やっぱり。あんだけ勉強してたんだから知識に問題あるはず無かったよな。」
「執務官は前線指揮官、冷静で果断で公平で無くてはならないからね。性格を分析されちゃうとフェイトは・・・」
「そこをどうやって突破したんだ? 確か毎回内容の違う500問くらいある単純なイエス・ノー回答を短い時間内に選択させて・・・
整合性を徹底的にチェックして分析して、ほんの一つでも矛盾があればダメとか・・・あれは誤魔化すの難しいだろ。」
「以前はフェイトは素直に、何も考えずに回答してしまったようだな。結果は、あの結果だった。」
「納得。」
「だから今度は、分割思考の訓練からアプローチしてね・・・プライベートな自分とは別の、オフィシャルな自分の思考というものを
作って、『いざ仕事となったら心を切り替える』って訓練を徹底させてね。なんとかなったみたいだ。」
「へー。それが出来たら確かにフェイトさんでも執務官、勤まりそうだな。」
フェイトさんの仕事モードへの切り替えは、この頃はまだ未熟だったが、そのうち見事にこなすようになる。
それでもプライベートでの天然っぷりは変わらなかったが・・・
ちなみにこの頃でもまだ、なーんか俺とフェイトさんは微妙にギクシャクしていた。
高町退院から一年経過してんだけどなあ・・・
いや、お互いに口もきかないとかじゃないよ? 普通に話せるけど、なんか高町入院のあの一件以前の、隔意の無い親しみとかが
見られなくなってしまった状態のままで、どーも壁を感じると言うかだなあ・・・
クロノによると、別に怒ってるわけでも、今でも感情を害しているわけでも無い、ただ感情が未熟な傾向があるフェイトさんは、
どうしたらわだかまりを無くせるか分からずに戸惑っているだけ、時間が解決するだろうから気長に待ってやってくれとのこと。
しっかし俺と似た立場であったはずの八神は、既に見事にフェイトさんとの距離を回復し、以前と同じ親しい友達に戻ってるわけで。
うーむ、あれは八神のほうから上手くアプローチしたんだろうが・・・
俺は八神ほどには上手くやれないなあ・・・
☆ ☆ ☆
飲み物を取るときも、なにか食べて食べ終わったときも、ユーノはチラチラと高町を見てる。
高町のちょっとした笑顔とか仕草に反応して、見惚れてみたり、思わずといった感じで微笑を浮かべたり・・・
しかしもちろん高町は全く気付かない。
はっきり言おう、高町以外は全員・・・すまんフェイトさんは例外かもしれん・・・が、とにかくほぼ全員気付いてる。
だが肝心の高町は全く気付かない。見事な100%スルー。
だがユーノは負けない!
なんとか話しかけてみる(無理に話しかけるので会話が続かず高町は速攻で別の人と話し始める)。
飲み物とか高町が欲しそうにしたら速攻で動く(ジュースを持ってきたらお茶が良いと言われ、お茶はすぐ側にあった)。
高町の食べたいものとかとってあげようとする(量の加減が分からず、自分で取るからいいと切り捨てられた。ユーノは自分基準で
少なめに盛ったのだが、体育会系の高町は結構量を食うのだ)。
ああ・・・ユーノよ・・・
高町の鉄壁に阻まれて、また軽く落込んでるユーノは一時撤退。
また男3人でボソボソと話す。
「しかしユーノ、お前、そもそも高町と会ってるのか?」
「今日、会ったのも2ヶ月ぶりだよ・・・」
「お前・・・本気で高町を落とす気あるのかよ・・・」
「その調子では難しそうだな、ユーノ・スクライア?」
「うるさいよ、ほっといてくれ。」
「今でも忙しくあちこち飛び回ってはいるが・・・前と違ってちゃんと休みも取ってるし、会おうと思えば会えるだろ。」
「だって・・・なのはは休みになると海鳴に帰るし。それに休み自体、最低限しか取ってないから僕と休みがあわなくて・・・」
「やはりもっと強引に休み多く取らせるかな・・・今でも怒らないと休み取らないし・・・有給も相当余ってるそうだしな。」
「まあその辺はお前に任せるよ。あんなことが二度とないようにしないといけないからな。」
「そうだね・・・でも僕が休めなくて、なのはと会えないのも、クロノが僕に無理な仕事を押し付けるからじゃないか!」
「ん? そんなにきつかったのか? いつもちゃんとこなしてるから普通に出来るのかと思ってたぞ。」
「冗談じゃない! いつもギリギリで何とかこなしてるんだ! おかげで今の僕は、前のなのは並に休んでないよ!」
「あーそれはいかんな。医者としても、ちゃんと休ませるよう忠告しておく。」
ユーノの働く無限書庫とか言うところは正に無限に等しいほどのデータバンクで・・・その情報の海から有用な情報を引き出すのは
専門家でなくては難しく、ユーノはなまじ有能だったせいでかなりの超過勤務をしていたようだ。
これ以降、少しは休みが増えたようだが、ユーノは自分から会いに行くかどうかも三日は悩み、その間にチャンスが過ぎ去るパターンを
学習せずに際限なく繰り返し・・・応援してやろうにも応援しようがないというか・・・
魔王高町だぜ? 押し倒すくらいの勢いで行かなくてはそもそも気持ちも伝わらないだろうに・・・
押せ、押すんだユーノと煽ってみるのだが、どーもこの調子だと難しそうだなあ・・・
☆ ☆ ☆
3時間ほど続いたパーティも終わりに近付いて、そろそろ片づけしようかって雰囲気になってきた頃。
なんかユーノとクロノが意味ありげに目を見交わして、爆弾を投げてきた。
「ところでマシュー、小耳に挟んだのだが・・・」
「ん?」
「近頃、八神はやてと、半同棲状態だそうだな。」
「ぶほっ! げほげほげほ!」
「意外と手が早いねマシュー。」
「待て、誤解がある、夕飯を一緒に食べることが多いだけでだな。」
「泊まることも多いと聞いてるぞ?」
「いやそれはあんまりないってば。」
「週にどのくらい?」
「せいぜい週3とか・・・」
「半同棲だな。」
「半同棲だね。」
夕飯を一緒にとると約束して以来一年くらい経ってるが、今では火水木金はバニングスの家だから、土日月は八神の所で食事を取るって
ペースに落ち着いて・・・その際に八神の家に泊めてもらうことも・・・まあ結構多いかも知れんといえない事も無いが・・・寝室は
当然、別であるわけだし・・・既に俺の私物がかなり八神の家にあったりしないこともないが・・・
断じて半同棲などではないのだ。
「彼女の家に、お前の部屋みたいな場所もあると聞いてるぞ?」
「いや・・・確かにいつも俺が使う寝室とかあるけどさ・・・」
「そこにお前の布団もお前のパジャマもお前の下着まであるとかな。」
「マテ。いや、それは事実だがマテ。どこからその情報が・・・」
「なんだお前、知らないのか?」
「なにをだよ。」
「ヴィータは武装隊で仕事してるんだぞ。」
「それは知ってるが・・・ってことはヴィータ→高町経由か!」
「なんだ今さら気付いたの? 鈍いねえマシュー。」
「全く鈍いな。」
「僕の聞いた話では、ヴィータがなのはにグチってたらしいよ。」
「・・・なにを?」
「二人が抱き合って良い雰囲気になってるところに踏み込んでしまって、そのあとはやての機嫌が悪くなって大変だったって。」
「うがああああ! おのれヴィータ・・・」
「ふん、その様子だと事実のようだな。で、どこまでいったんだ。」
「いっとらん。なにもしとらん。」
「でも二人きりで抱き合ってたんでしょ?」
「いや、だからだな・・・」
二人にいろいろと訊かれてしまい、俺は必死に言い訳するのだがムダであった。
うぐぐ・・・
☆ ☆ ☆
後でヴィータを尋問したのだが、逆に切れられた。
「テメーが自重しないから、あたしのアイスが無くなったんだろうが!」
って・・・俺のせいなのかよ・・・
八神も味方にしようとしたのだが、なぜか八神は・・・
「もう、あかんでヴィータ♪」
とか優しく怒ったふりするだけで、むしろヴィータの食事の内容とか食後のアイスとか若干豪華になってないすか八神さん。
なにかが・・・
なにかがマズイような気がする・・・
□×年○月○日
さて俺と高町だと、完全に俺の方が立場が上である。
俺に睨まれると仕事を取り上げられるので、俺の前に出るとき高町は基本的にビクビクしている。
一月に一度の検診は、士郎さん桃子さんとの約束でもあり、高町はこれに絶対に来ることが厳命されている。
どんな事情があっても検診をサボルことは、即、強制休暇一週間コース(最低でも)が待っている。
「だからー! ほんとに緊急事態なの! 無理なの、ウソじゃないの! 信じてお願いーーー!!!」
画面の向こうで半泣きになって、検診に行けなくなったとぬかす高町。俺の返す目は冷たい。数日前までに連絡しておけば、少しは
日をずらしてやりもするのだが、こいつは当日朝になって言ってきたのだ。
「まあ一応、言い訳は聞いてやろう。然るべき処置は取るがな。」
「昨日のうちに帰ろうと思ってたのよ! でも昨日からいきなり転送ゲート封鎖されて、おかしいと思ったけど朝には復旧します、単純
な整備不良ですのでって保証してくれたし、だったら朝一で行けば間に合うはずだったのに、なのに今朝からなんだか、あっちこっち
騒がしくて、内戦みたいのが起こってるの!」
「ふむ、うまい言い訳だな。」
「うそじゃないってばあああ! 第38管理世界でクーデター騒ぎって臨時ニュースやってるてばああ!」
「仮にそれが本当だとして、いつごろ帰れる?」
「わかんないよ! 何にしても決着が付くまでは・・・」
「ふー・・・しゃあないな。レイジングハート、前にわたした『目印』を出せ。」
【Yes,Doctor.】
「え? なにこれ?」
「俺専用の転送用目印だ。それさえあればその気になればどこでも飛べる。」
「ええええ! いつの間に?」
「俺への対応次第で、レイジングハートにも仕事が無くなると教えてやったら、快く協力してくれたぞ。」
「あああ・・・レイジングハート・・・うん、仕方なかったんだね、わかるよ・・・」
高町は、前に一度、中1の半ばくらいに検診日をずらして欲しいと頼んだことがあった他は、常に検診に出ていたので・・・
確かに今回は緊急事態らしいし、俺の方は今日は偶然、色んなローテから外れて病院いても完全ヒマだったので・・・
だからなんとなく気まぐれで、仏心を起こしてしまったんだな。わざわざこっちから行ってやるとは。
まあ二度とせんだろが。
サウロンを展開・・・ふん、少し遠いがこのくらいなら余裕だ。
預けてた「目印」も俺の特製で実は結構カネかかってる。予算の都合で一個しか出来なかった試作品なのだ。
次の瞬間、高町の目の前に転移。
つい習慣的に、ほぼ条件反射のように周囲を軽く「見る」・・・ん?
「すっごい・・・ゲート封鎖されて妨害とかかかってるって言ってたのに・・・」
「あの程度の妨害は甘い。機械的な一般向けの妨害程度だからな。目印ある分には俺には問題ない範囲内だ。
それはともかくここは・・・管理局の支部のビルか?」
「うん、そうだよ。」
「ほんとにほんとか?」
「なんで? ほんとだよ。」
「じゃあなんで、北から100名、西から80名の・・・魔道士部隊らしきものがここ目掛けて突っ込んできてんだ?」
「えええ!」
ミッドチルダを中心とする管理局体制というのは、必ずしもどこの世界でも受け入れられてるものでは無い。実際、その内情を知って
みれば、管理局の権力ばかりが重く、各国政府の立場は軽いという倒置した状態が普通であるとか、執務官や艦長クラスの前線指揮官が
外交官特権と領事裁判権を併せたような重過ぎる権限を保持していてそこが納得できないとか、魔法至上主義で魔法以外の兵器を認めない
ために却って治安が悪くなった世界が実際にあるとか、魔力さえあればよいという態度で子供でも戦わせることに嫌悪感を抱く世界は
管理世界内においてさえ存在するとか、まあ色々とあるのだ、色々と。
しかし管理局体制は、まがりなりにも150年だったか、次元世界を基本的に平和に保っては来たそうだ。
実際、地球にしたって、平和な日本にいたら気付かないが、世界中で内戦紛争の殺し合いは途切れることなく続いているのであり、
どんな政治体制、社会体制であっても、争いは起きるものなのだろう。
ただ問題は・・・その争いに不幸にも巻き込まれてしまったらどうするか・・・
「緊急! 緊急! 政府軍・クーデター軍、両軍から推定200の魔道士が当ビルに接近中! 館内の局員は全員、ただちに
第一種防衛体制を取れ! 繰り返す! 第一種防衛体制を取れ!」
んー・・・なんだか物騒な館内放送が流れている・・・
さてどうするか。
(あとがき)
はやてさんの攻勢が・・・止められない・・・そろそろ防御がきつい・・・やばいぜ・・・
気まぐれ起こした結果、また戦いに巻き込まれてしまうマシュー。二回目のタッグ戦です。
しっかし中1だけで5話も行ってしまった。ううむ中学卒業までにはどんだけかかることやら・・・