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[706] うちはオビト異聞録
Name: あかねこ◆8537b42b
Date: 2007/05/23 09:54
うちはオビト異聞録






「おい、大丈夫かオビト?」

目覚めていきなり覆面をした怪しさ100%な少年が俺を見下ろしていたら誰だって驚くさ

そりゃあ、思わずパンチしちゃうくらいに

いや、すかさずかわされて逆にアームロック決められたんだけどね

激しく間接の痛みに悲鳴をあげながら思ったわけですよ

いててて!…どこだよ、ここ!?






オス、メス、刺す、俺、うちはオビト

9歳になる木ノ葉の里の下忍してます

何の因果か精神だけNARUTO世界に来てしまった哀れな魂ですがヨロシク

なんでもオビト君、任務の最中にわけわからん罠に引っかかって昏倒してしまったらしい

三日間眠ってようやく目覚めたと思ったらわけわからん他人が頭の中に入っていましたのですよ

俺が目覚めて一週間が過ぎ、周囲の人々も俺自身もようやく落ち着いてきましたが

はじめの頃は酷かったですよ、混乱してカカシに殴りかかって返り討ちされたり

なぜか『有る』うちはオビトの記憶や知識がばっちり残っているんですもの

そりゃ混乱しますよ、自分が何者かわからないんだから

結論からいうと人格が融合?というか上乗せみたいな感じらしい

憑依系ってやつ?

いや、実感とかないからわかんないけど

カカシとか先生(後の四代目火影ね)、リンなんかは俺が変な言動するもんで本気で狂ったと思ったらしい

……失礼な、ちょっとテンパってただけなのに

さて、そんな状況でもポジティブな男うちはオビト、ここ一週間いろいろ考えてました

まず最初に考えたのは現実世界に帰れるかどうかということ

答えはNO、こっちに来た原因もわからないし、どうすれば帰れるかも見当つきません

よって、俺は死ぬまでこの世界で頑張らなければならないということ

次に考えたのは原作の知識について

なんか所々で霞がかかったようにおぼろげだが、大体の展開は記憶している

大蛇丸の木ノ葉崩し以外はナルト達に関わらなければ平気かなー、なんて思っていました

しかし、そこで気が付いた

オビト(俺)ってたしか13歳で死ぬじゃん!?

確か、カカシが上忍になってすぐの任務で戦死してましたよ

えーと…たしか神無毘橋の戦いだったっけ?

カカシに片目譲って、生き埋めになってあぼーんしたはず

さらに、うちはイタチ君もやばい

たしか彼によって弟を除き、うちは一族は皆殺しにされてしまったはず

俺、うちはオビト、一応うちは一族の人間なんでスコっと殺されてしまいそう

他にも九尾の襲来とか危ない致死量イベントてんこもり

やベー、死亡フラグ乱立しまくりじゃんよ………

でも絶望的なことばっかりじゃない、少しだけ希望もある

まず『時間』、次に『原作の知識』、最後に『俺自身』だ

最初の死亡イベントまで4年、4年しかない、4年もある、どう考えるかでこれからの行動が決まる

俺は断然後者、4年もあれば修行でも策謀でも逃亡でもなんだってできる

原作の知識だって大きなアドバンテージだ、ある意味で反則的とも言える

だってこれからの出来事がわかってるんだもんよ、そりゃ俄然有利さ

俺自身だって捨てたもんじゃない、なんといったってうちは一族、木ノ葉最強の血継限界持ちの一族

写輪眼を覚醒させればいろんな術をコピーしまくりである、敵の動きも見切りまくり、マジ無敵

血継限界持ちだから原作のカカシみたいに副作用でしばらく寝たきりになるとかもないだろうしね

ざっと考えただけでもこれだけ好材料が揃っている、どうして料理できないはずがない!

後は俺の覚悟だけだ、よっしゃ! いっちょ頑張ってみるか!






「というわけで、さっそく修行につきあって欲しいんですが」

「いや、全然説明とかないし、わけわかんないから」

俺のお願いをあっさりと断ち切るカカシ、ちょっとは話合わせろよ、ノリが悪いやつめ、あとそのマスクキモ!

「聞こえてるから、口に全部でてるから、喧嘩売ってるなら買うぞ」

「ちっ!」

「…よーし、わかった、今すぐ殺してやるからなオビト」

すちゃ

殺気をドバドバだしながらクナイを構えるカカシ、物騒なことこのうえない

確実に負けるとはわかっているんだが俺もクナイを構えてカカシに対峙する

無言でにらみ合う二人

「すとーっぷ! 二人とも落ち着いて、同じ仲間なんだからさーあ」

「「う…」」

止めにはいったリンの『仲間』、という言葉に急速に落ち着きを取り戻す

どうやら主人格だったオビト君はこの『仲間』とか『チーム』とかいう言葉が大好きだったらしく

この言葉を聞いただけで幸せな気分になってしまうらしい、当然俺にもその影響はくる、相当くる

また、発作的にカカシに喧嘩を売ってしまうなどの性格面での影響も受けてしまっている

そのうち矯正していきたいが、すぐには無理そうなので今は諦めている

「やあおまたせ、って二人とも何してるの?」

未だチンピラよろしく睨み合う俺とカカシを見て遅れて来た先生は呆れたような声をだす

いや、俺が一方的にカカシに詰め寄ってるといったほうが正しいんだが

「まあいいや、でオビト、オレ達に頼みたいことって何?」

先生が相変わらず少し天然入った笑顔で聞いてくる

この人あんまり空気読まないんだよな、読めないんじゃなくて読まないだからよけい質が悪い

「…修行に付き合って欲しいんです、ちょっと一人じゃ無理そうなキツイヤツを」

先生に向き直って頼みごとを言う、続けてカカシやリンにも振り返り話を聞いてもらう

こういう時は気分が乗らなくても頼みごとをするときは相手の顔をしっかり見てはなすべきだと思っている

それが最低限の礼儀でもある、ちょっとにやけ顔のカカシがムカツクけど

「この前、俺はドジッて皆の足を引っ張っちまった、それどころか任務を途中放棄させちまった」

それは記憶だけでの出来事だったが、確かな屈辱感や悔しい恥ずかしいといった気持ちもある

そして何よりこれから生き残るための必須最低条件を身につけるためであるのだから

「…だから俺は強くなりたい、仲間の足を引っ張らない、むしろ仲間を助けることができるくらいに!」

こぶしを強く握って決意を固める、決してこれからの修行で弱音を吐かないための覚悟を確認するように

「俺、うちは一族だけど落ちこぼれだ、だからこそよけいに強くならなくちゃいけない、頼む!協力してくれ!!」

ばっと、三人に頭を下げる、皆が驚いて息を呑む様子がわかる、でもこんなの屈辱でも恥じでもない

本当に恥ずかしいのは頭を下げることもできずに自己弁護だけして何もしないことだ

弱いから悪いんじゃない、強くなろうとしないから悪い

俺はそう思っているからこそ頭を下げる






「わかった、頭を上げてくれオビト、カカシもリンもいい?」

先生からの尋ねに二人はコクコク頷く、未だにオビトの突然の行動で脳みそが再起動中なのだ

「ありがとうございます!」

「うん、修行に協力するのはいいんだけど、どんなことをするんだい?」

「修行内容じたいは簡単です、皆で俺を殺す気で襲ってくれればいいんです」

「「「えっ!!?」」」

三人が目を見開いて驚く、そりゃそうだ、自分を殺しにかかってくれと言っているのだ

だけどそれにもちゃんと理由がある、俺だってそんな無茶な修行はしたくない

「修行の目的は俺の写輪眼を覚醒させること、でもそれには条件があるんです、それは―」

「―開眼条件は、危機的状況に陥った場合に突如として開眼、全ての忍・体・幻術を見抜き、また、見ただけでその技をコピーし、自分のものとすることができる、だろ?」

俺が説明する前に先生が言いたいことを言ってくれた

あらかじめ知っていたのだろう、本を朗読するようなリズムですらすらと話す

「知ってたんですか、そのとおり、うちは一族の血継限界『写輪眼』、俺の目的はそれです」

自分の目を指差しながらカカシやリンに説明を補足していく

「危機的状況、つまり死にかけるくらいのきっつい状況にならないと駄目なんだ」

「だからオレ達に殺す気でかかってこいって言ったのか?」

カカシが真剣な表情で聞いてくる、いやマスクしてるから目線でしか判断できないけど

「そうだ、リンにはもしもの時に待機していてもらいたい、カカシと先生は俺を殺す気で攻撃して欲しい」

「先生……」

伺うように先生に顔を向けるカカシとリン、判断に困っている様子が俺にもわかる

先生はカカシ、リン、俺の順に顔を眺めて数秒目を瞑って考え込むと頷き俺に振り返った

「…わかった、ただし条件がある、それさえ守ってくれればオビトの修行に協力しよう」

「条件ですか?」

なんだろう、修行に付き合うから金よこせとか言われたらちょっと厳しいんだけど

オビトの両親は数年前に任務で二人とも死んでるし

遺産とか結構ぎりぎりで毎月ピンチなんだよね

「うん、大丈夫、たったひとつだ、『決して死なないこと』それだけだよ」

決して死なない、俺がこれからやる修行は死にかけるための修行だ

なるほど、これはきっつい条件だ、でも守らないわけにはいかない

むしろ全力で守りますよ、先生の言いたいがすべてこれに凝縮されているみたいだ

なんていうか、こういう言い方すると恥ずかしいがちょっとかっこいいと思ったよ先生

「先生…わかりました、その条件必ず守ります!」

「うん、いい返事だ、カカシもいいかい?」

「はい、いつでもいけます」

「リンは大丈夫?」

「はい、オビト、思う存分ボコボコにされてきなさい!」

リンが笑顔で限りなく物騒なことを言ってくる、まあ確定事項だけどさ

「それはちょっと酷いんでない?」

「でも事実でしょ?」

カカシまでもが便乗して俺をいぢめてくる、こいつら妙に息があってやがる

「…言い返せない自分がいるのが悔しいぜ」

「ハハハ、さてと、それじゃあ始めようか」

先生が手をぱんぱん叩きながら俺たちに召集をかける

こうして俺のこの世界での最初の試練が始まった






演習場、そこで俺をはさむような位置でクナイを構えるカカシと先生、リンは離れたところで様子を見ている

腰のホルスターからクナイを両手で取り出し油断なく二人の様子を観察

一人は若くして天才忍者と呼ばれる中忍はたけカカシ

もう一人は木ノ葉の黄色い閃光とまで呼ばれる最強の上忍

この世界に来た時にオビトの知識や経験は継承したが、実際に行使するのは初めてだ、ちょっと緊張する

勝ち目などありえない、だからこそ必要なのは防御ではなく攻撃する気概だ

攻めても守ってもどうせ負ける、ならば責めたほうが気が楽だし男らしい

「いくぞっ!」

二人へ同時にクナイを投擲、すぐさまカカシに向かって駆け出す

放たれたクナイはあっさり弾かれる、そんなことは予想済みだ、本番はこれから

走り、距離を詰めながら六個の手裏剣を投擲、前後左右の軌道を描きながらカカシに襲い掛かる

当然のように一瞬で四つが弾かれるが残り二つがカカシの脇腹と首めがけて飛んでくる

いけるか? そう思った瞬間カカシの姿がその場から消える

瞬身の術だ! 本能的な危機を感じて地面に伏せる

ぶぉん、という音が頭上を掠めたのはその直後だった

視界にうつるのはカカシの足、後ろから延髄蹴りね、なかなかえげつない攻撃してきやがる

伏せた姿勢のままカカシに足払いをかける

円を描くように体を回転させてカカシの足首に渾身の蹴りを見舞う

「くっ!?」

苦悶の声をあげながら空中へ投げ出されるカカシ、チャンスだ!

「うおおおっ!!」

体勢を崩したカカシの隙をついて全力の拳を叩き込む

カカシの腹にめり込む拳、勝利を予感した瞬間、カカシの目がにやりと笑った

ぼん、という音を立ててカカシの姿が丸太に変わる

「変わり身の術!?」

しかもよく見れば丸太にはご丁寧にも起爆符が貼り付けてある

やばい、これは死ぬかも

反転

走る

爆発

衝撃



痛み

轟音

「あぢゃぢゃぢゃ!!」

背中についた火をかき消すかのように吹き飛ばされた衝撃でごろごろと地面を転がりまくる

「ちくしょう! 騙された、油断した、わざと隙みせやがって、カカシの野郎!!」

悪態を吐きながらすぐに体勢を立て直す

目の前、数メートル先には余裕の表情のカカシが悠然と立っている

その隣には無表情の先生、ちくしょう! わかっていたけど実力差がありすぎる

しかし圧倒的な強者に挑戦する立場というのは、むしろ晴れ晴れしい気分にもなってくる

よし、アレを試してみるか? 本当は切り札だが、出し惜しみしている暇はない

素早くポーチから引き抜いた起爆符を縫い付けたクナイを二人の足元へ投擲

地面に突き刺さり爆発する直前に二人は上空へと飛んで逃げてしまう

だがそれでいい、俺の狙いは次にこそある

最速で印を組む―馬!―虎!―いくぞ!!

印からわかる俺の術を知って二人の表情が変わる

もうおそい、すでに術は完成している

大きく体を反らし、口腔内に大量のチャクラを溜め込む

とっておきを喰らえ!


火遁・豪火球の術!!


口から吐き出した太陽の如き巨大な火の塊が二人を包み込む

俺のチャクラ量だとたった一発で打ち止めだが威力は折り紙つきだ

うちはオビトが使える最高の攻撃力を持つ術、文字通り、切り札である

口から未だに燻る炎をゆっくりとおさめながら地面へ落ちてまだ燃え上がる炎の塊を見上げる

「…まさか勝った、のか?」

瞬間、炎の塊が爆散した

激しく降り注ぐ火の粉を散らせながら二人のいるであろうところを見るが

いない!? 

後方!? 

いや上か!? 

どこだっ!!?

キョロキョロと周囲を見渡すが二人はどこにもいない

「――下だ」

「!!」


土遁・裂穿牙!


「ぐはぁ!!」

足元の地面から突然出てきてアッパーを顎にモロ喰らってしまう

歯が二三本は折れたようでスローモーションのように吹っ飛ぶ歯が鮮血とともに見えた

ちくしょう、また騙された!

俺の火遁を隠れ蓑にして土遁で地中に潜り、油断した俺への奇襲を仕掛ける

なんというかここまでされるとカカシが天才忍者とか言われる訳がわかる

吹っ飛ばされた俺を見下ろすように無傷のカカシと先生が地面から現れる

「……降参、するかい?」

先生が口から血をだらだら流す俺を見て辛そうな表情で聞いてくる

カカシはむしろ楽しそうに見えるのだが、あえて無視する

別に先生がやったわけじゃないのに、ほんと、優しい人だと思うよ

でも、それとこれとは話が別だ

「冗談、まだまだいけますよ俺は、カカシのヘナチョコパンチなんか全然きいてませんよ」

ガクガクする足を無理やり動かし、生まれたての小鹿みたいに立ち上がる

正直情けないが、まあ見逃してほしい、男はやせ我慢する生き物だからね

震える手でクナイを握り再び二人めがけて駆け出す

まだまだ―――戦いは続けられる



[706] Re:うちはオビト異聞録
Name: あかねこ◆fce83746 ID:8537b42b
Date: 2007/05/23 09:46
結論から言うと、修行は失敗しちゃいました

前回あれだけカッコつけたのに何たる醜態だコレ?

俺は死にはしなかったが、全治一ヶ月の重症を負い即入院

写輪眼は覚醒しないまま無駄に大怪我を負っただけだったのですよ

正直鬱だよ、あんな頑張って、痛い思いも我慢したのに、報われねぇ~

先生とかにもせっかく協力してくれたのに申し訳ない気持ちでいっぱいだ

全身包帯でぐるぐる巻きのミイラ男状態では身動きもできず俺は暇を持て余していた

なぜかこの世界にもあった少年ジャンプを読み終えた俺はこれからの事を考えていた

「どうすっかな~、また同じ修行しても写輪眼覚醒する保証なんてないし、リスクでかすぎるしな…」

俺がうんうん唸っていると病室に誰かが訪ねてきた

「どうぞ~」

「お邪魔するよ、元気かい? って全然そうじゃなさそうだね」

病室の引き戸をあけて入ってきた先生、その手には籠に入った果物詰め合わせセットがある

「いらっしゃい先生」

「ちょうど暇ができたからお見舞いに来たよ、これお見舞いのフルーツね」

そういってベット横の棚に籠を置くとパイプ椅子を取り出して座る

「カカシやリンはちょうど任務が入っちゃってね、僕が彼らの分もお見舞いに来たんだ」

「……なんか、また皆の足ひっぱちゃって申し訳ないっす」

「いやいや、オビトが気にすることじゃないよ、強くなろうと努力した結果がちょっと悪かっただけだからね」

「先生、それフォローになってないですよ」

「あれ?」

首をかかげる先生、そんな子供っぽい仕草が滑稽で思わず笑ってしまう

「ップ、あはは!」

相変わらず天然入ったおもろい性格をしているお方だ

「まあ、正直ものすごく暇してたんで先生が来てくれて嬉しいですよ」

「たしか全治一ヶ月だったよね、自分たちでやっといてなんだけどやりすぎた、すまなかったね」

申し訳なさそうに頭を下げる先生

「いや先生は全然悪くないですよ! 頼んだのは俺からですし、頭を上げてくださいって!」

「ん、そう言ってもらえると僕としても気が楽になって助かるよ」

さっきとはうってかわって明るい表情で笑う先生

うわこの人、切り替え早いなぁ

「あ、そうだ、今日はそんな暇もてあましてるオビトに紹介したい人がいるんだ」

先生がそう言ったとき、二人の人物がちょうどよく病室に入ってくる

一人は二十代にしか見えない外見で、額に特徴的な菱形の模様が入っている女性

もう一人は12・3歳くらいの気弱そうな黒髪の少女だった

「紹介しよう、こちら伝説の三忍の一人、綱手様とその弟子のシズネ君だ、今日からオビトの治療を担当してくれる」






先生、恨みますよ、綱手とシズネを紹介してそそくさと病室から去っていったこと

未だ全身傷だらけで身動きできない俺、トイレすら満足にできない可愛そうな人なんですよ

そんな俺の治療を終えて包帯をせっせと懸命に取り替えていく美少女がいるんですけど

いやね、こんな状況じゃなかったらウブな少女にセクハラかましていろいろ楽しんでいたんだけど

「……………」

綱手さんがさっきからずっとガン見してるんですよ、殺気こもった視線で

冷や汗が止まりません、なんか胃もキリキリ痛いんです…

「…治療終わりました、どうですか綱手さま?」

包帯を交換し終えて、さっきから凝視していた綱手に確認をとるシズネ

なんか怯えているみたいに見えるのは気のせいじゃないよね? ね?

「………………」

無言で俺の体、というか治療した後を確認していく綱手

あれだ、嫁の掃除した後を目ざとく調べていく鬼姑みたいなイメージ

「いで!? いでででっ!!」

「うるさいよ、黙りな天パー」

しかも所々確かめるみたいに包帯を引っ張ったり、傷口を突っついたりしてきて、激しくやめて欲しいんですけど

って、天パーってなんやねん! 人の気にしてることさらっと指摘するんじゃねー!

俺の心の叫びを無視して、一通り俺の体を嬲り終えるとシズネに振り返ってさっきまでの厳しい表情を消す

そんな綱手の表情を見て安堵の表情を浮かべるシズネ、ついでに俺もなぜか安堵の表情を浮かべる

「…あり得ないな…やり直しだ!」

「「え!?」」

「一時間後にまた来るから、それまでにやり直しておきな」

俺もシズネも予想外の言葉に驚き呆然としている中、シズネはいいたいことだけ言って病室から去っていく

後に残されたのは俺と暗ーい顔で俯いているシズネ

なんていうか気まずい、あの若作りばばあこの雰囲気どうにかしてから出てけよ

それはともかくなんか話しかけないとな、この暗い空気は嫌じゃ、カビが生えそうだ

「…その、気にすんなよ、あんなばばあが言ってること出鱈目だからさ」

「綱手さまを悪く言わないでください! 何も知らないくせに!」

俺の言葉にさっきまでの暗い表情とはうってかわって、いきなり怒り出すシズネ

俺にどうしろっつーのよ

「っ…いきなり大声だしてすみません…」

再び暗ーい顔で俯いてしまう、暗い、暗いよこの娘

「き、気にすんなよ」

「………………」

「あのさ、自己紹介まだだったよな、俺オビト、うちはオビト、9才だ、よろしくな」

「…シズネ、12才です、宜しくおねがいします」

「よろしくな、ところでさっきから気になっていたんだが、なんでシズネが俺の治療をしてたんだ?」

「えっと、それは―――」

シズネの話を要約するとこうだ

最近、医療忍者として綱手に弟子入りしたシズネ

基礎的な修行を終えたが絶対的に経験、つまり実際の治療をしたことがない

そこで木ノ葉の里の中で一番の重傷者である俺を実験体(?)としてシズネの修行に付き合わせようと考えたわけだ

酷い話にも聞こえるが、実はそう悲観するほどの内容でもない

実際の治療は見習忍者のシズネが行うが、その監督はあの綱手が行うのである

つまりアフターフォローはばっちりと、そういうわけだ

先生もそこいらへんの事情を理解していたからこそ了承したんだろう、俺の了解なしにな!

あとシズネのさっきの態度からもわかるように綱手の弟や恋人(シズネの叔父)はすでに死亡してるみたいだ

綱手もシズネもまだ立ち直ってないんだろう、だからあんなギクシャクした関係らしい

だってさっきのシズネの処置はほとんど完璧だ、医療忍術の専門知識はないが、治療された当事者なんだからそれくらいわかる

うーん、どうしたもんか…

ずっとこんな調子で治療されるのも気まずいしなぁ

「なあシズネ、ちょっといいか?」

まだ体を動かすとズキズキ痛むがまあ許容範囲、男はやせ我慢だしな

体を起こしてベット脇で座っているシズネを強引に抱き寄せる

体格差というか俺のほうが小さいんだが、まあなんとか胸元に収まったね

「え? え!? あひぃーー!?」

いきなり抱き寄せられてパニクるシズネ

じたばた暴れるもんだからかなり傷に響くんですが、いててて!

「っ、落ち着けって、なんかさ、暗い顔してるから悩み事とかあるんだろ?」

ぴた、っと暴れるのを止めて大人しくなる、いや、図星をさされて驚いただけか?

「こういう時ってさ、一人で悩むよりも誰かに話して一緒に考えたほうが良んだ」

お互い顔は見えないが、良かったよ、俺いま相当恥ずかしいこと言ってるからまともに顔合わせられん

「シズネが何を悩んでるか教えてくれよ、そんな暗い顔されたらさ、せっかくの可愛い顔がだいなしだ」

こういう時、女は話を聞いてあげるだけで嫌なことが発散したりするって聞いたことがある

これから世話になるんだしずっと暗いままでいられるとこっちが困る

ここで少しでも悩みを吐き出してもらって明るく楽しい入院生活にせねば!

「…っ…う…うわぁぁー!」

いきなり泣き出すシズネ、しかたがないので俺はただ頭を撫でることしかできなかった

その後、ようやく泣き止んだシズネはいままであった悲しい出来事を俺に話しつづけた

驚いたことに綱手の恋人ダンが死亡したのはつい最近の事だったらしい

それ以来、綱手は血が怖くなってしまい、まともに忍としての活動をしなくなってしまったのだそうだ

そこでシズネを弟子にとり修行をはじめたのはいいが、ダンの姪でもある彼女にどう接してよいかわからずあんなギクシャクした態度をとってしまっていたわけだ

シズネも叔父、つまり恋人を失った綱手に対してどう接したら良いかわからず、あんな受身な態度しか取れなかったらしい

なんていうか人間関係悪化のデフレスパイラルだね

話を聞いてみれば簡単、綱手はシズネに遠慮して、シズネも綱手に遠慮して、お互いに袋小路に入ってるわけだ

だったらやることは一つしかない

「シズネ、綱手さまと仲良くなりたいなら方法はたった一つだ、誠心誠意話し合うんだ」

彼女の涙と鼻水でぐしゃぐしゃな顔を拭ってやりながら俺が思うことを話していく

「二人ともお互いに無駄に遠慮しあって、どう付き合ったらいいかわからなくなってるんだ、だから話し合う、シズネが思っていることを全部教えてあげるんだ、そして綱手さまが思っていることを全部きいてあげるんだ」

「…本当にそれだけで、仲良くなれますか?」

「勿論、だってシズネは綱手さまのことが大好きなんだろ? だったら迷う必要なんかない、信じるんだ綱手さまを」

「!!…うん、そうする!」

屈託のない笑顔で答えるシズネ、なんか俺の方が年上みたいな錯覚におちいるな

そこで改めてお互いの顔をみて笑いあった、うん、これなら大丈夫そうだ

さっきまでの暗く自信がなかった表情が反転したように良い顔をしている

後は俺が何もせずほっといてもシズネ自身で解決できるはずだ

「あ、ごめんね、オビト君の包帯ぐしゃぐしゃになっちゃった」

そこで俺の様子に気がついたシズネが申し訳なさそうに謝ってくる

確かにえらいことになってる、暴れたせいで包帯はずれまくって、さらに鼻水とか涙とかでぐちゃぐちゃだ

傷口もちょっと開いてしまったらしく、じんわり血まで滲んでいる

「あー、気にしなくていいって、ずっとシズネ抱きしめてたからな、役得だと思えばたいしたことないって」

「ななな、何いってるんですかっ!?」

顔を真っ赤にして大声をあげるシズネ、そこまで騒ぐことか?

こちとら9才ですよ、毛も生えてないガキですから、本気で恥ずかしがってどうしますか

「お、おほん! とにかく包帯を取り替えましょう、ほら脱いでください」

「あいさー」

そういって包帯をはずそうとまず服を脱ぐが、腕がつっぱってなかなか思うように脱げない

「ちょっと、大丈夫ですか? ちょっと待ってください、わたしが脱がしますから」

俺の服を脱がそうとベットの上にあがって服を引っ張るがなかなか脱がすことができない

「もうちょっと腕を上にしてください、よいしょっと、これなら…きゃあ!?」

「危ない! ってうおっ!?」

すぽんっと俺の服が脱げ、その拍子にベットから倒れ落ちそうになるシズネ

庇おうと手を出すが急激に動いた痛みで俺までベット下に落ちてしまった

「いてて…大丈夫…か…?」

「あ、はい、大丈…夫…?」

互いに無事を確認しあったのもつかの間、すぐに無言になる

気が付けば俺がシズネを床に押し倒すような格好で上から覆い被さっていたからだ

お互いの顔の距離が数センチという間合いで見詰め合う二人

体が痛くてさ、俺はなんと言うか動けませんでした、別にやましいことなんか考えてないよ?

しかし、そんな俺の葛藤を無視するように頬を赤くしながらシズネがゆっくりと目を閉じる

えっと、これってOKってこと? いやいやいや、ありえないっしょ、なにこの展開?

「…オビト君…」

なーんて甘い言葉で名前まで呼ばれてますよ俺、いっちまうか?

どうする? どうする? どうすんの俺!?

二人の唇がすー、と自然に近づいていく、いざ唇が重なろうといった瞬間、あることに気が付く

震えてる、なんというかそこまで勇気だす必要もなかろうに…

ようやく正気に戻った俺は触れ合いそうだった唇をそっと離そうと

ガラガラガラ

「シズネ、処置は終わった…か……?」

引き戸をノックもなしに開けて入ってきた綱手、俺とシズネの様子をみて固まってますよコレ

まずいね、俺が思っているよりもずっとまずいねこの状況、だってさ

上半身裸でシズネに覆い被さる俺、目を閉じて顔を赤らめて、あまつさえ頬を涙で濡らしているシズネ

うん、終わったね俺、弁解の余地なし、どっから見ても俺がシズネ襲ってるみたいじゃん

「おい天パー小僧、何か言い残すことはあるか?」

あくまで笑顔で怒りを内側に溜め込んだ感じで尋ねてくる綱手さま

ニコニコしながら拳をボキボキ鳴らして威嚇するのは勘弁してほしいです

さっきからゴゴゴゴとか変な効果音が聞こえているのは気のせいだ

よっしゃ、せっかくだからここはババアのご機嫌とって逃げ切るぜ

「綱手さまって年の割にナイスバディですよね! ほらこうなんていうか、ボン! キュ!」


ボォォォォォォン!!


「やっぱこうなるかーーーーーーーーーーーー!」

いや、マジで100m近くぶっ飛ばされるとは思わなかった

しばらく死にかけてたみたいだけど、よく死ななかったな俺

まあ全治一ヶ月が三ヶ月に伸びたけどな!

後で聞いた話だけど、シズネと綱手は俺のアドバイス通りしっかり話し合ってギクシャク関係が改善されたらしい

よかったよかった、風の噂では俺はシズネを若干9才で手篭めにした鬼畜外道児とか言われてるらしいけど

なんか最近、看護婦さんが俺を見る目が汚物を見るような目線なのも気のせいだろう

シズネが必要以上に献身的に治療看護してくれるのに反比例するみたいに周りの目線が冷たくなっていくのも気のせいだよ、うん、きっと気のせいさ!

まあ、概ね木ノ葉の里は平和だ

俺以外がな!

ちくしょう…火影の爺さんにオレオレ詐欺でもして憂さ晴らししてやる!



[706] Re[2]:うちはオビト異聞録
Name: あかねこ◆fce83746 ID:8537b42b
Date: 2007/05/30 00:08
Prurururururu!

「…はい、三代目火影じゃが?」

「もしもし、オレ、オレだって!」

「アスマか?」

「ああ、そう、オレ、ちょっと困ったことになっちまってよぉ…」

「どうかしたのか?」

「実は、ちょっとトラぶっちまって…オレ、死ぬかもしれねぇ」

「な、なにがあったんじゃ!?」

「オレ、んまい棒病っていう世にも稀な奇病にかかっちまって、んまい棒食べつづけないと死んじまう体質になっちまったんだ…」

「んまい棒病じゃと? なにを馬鹿げた事いっとるか!!」

「いやマジだって、ああ、それで悪いんだけど、さっそくんまい棒とりあえず千本くらい用意してくれないか? そうしないとオレは…オレは…がはぁっ!!?」

ぷつっ(電話の切れる音)

「ア、アスマァーーーーーーーーー!!?」


「あーすっきりした」

俺は病院内に設置してある公衆電話の受話器をゆっくりと元に戻す

慣れない声帯模写をしたせいかちょっと喉が痛いが、今は全然きにならないほど爽快気分

最近、なぜか俺ばかり不幸な目にあっていたのでストレスたまってたんだよね

こうやって無邪気な悪戯でもしてストレス発散しないとやってらんないぜ

「あれ、オビト君こんなところでなにしてるんですか?」

背後から声をかけられふりかえるとそこにはシズネがいた

手には大量の包帯や消毒液など治療道具を持っているので俺の病室に来るついでだったのだろう

「いや、暇だったんでちょっと散歩」

こうやって平然と嘘をつける俺って時々すごく黒いなぁとか思うよ

いや、別にナチュラルボーンライアーってわけでもないけどね

「オビト君、君はまだ一応重症患者なんだから出歩いちゃだめですよ!」

「うい、悪かったですよ、もう病室戻るからさ」

「当たり前です、私もついていきますから、暇つぶしくらいには付き合ってあげます」

「お、ラッキー」






俺が入院してから二ヶ月が過ぎた

いいかげん飽きてきたこの生活だったが、慣れてしまえばそう苦にもならない

それに一人でいると暇でしょうがない病室だが、誰かと一緒にいるだけで結構マシな空間になるものだ

最初、入院中は一日中ベットで寝ているものと思っていた俺だったが、それは間違いで

リハビリや検診・治療、お見舞いに来てくれる客の対応など、結構やることが満載だった

さらに暇を見つけてはアカデミー時代の教科書なんか読んだりして自主学習なんかもしていたので

俺の想像以上に忍者の入院生活は大変だったのである

「オビト君、リンゴ剥けましたからどーぞ」

俺のベッドの隣で黙々とリンゴを剥いていたシズネがリンゴの乗った皿を笑顔で差し出す

きれいに剥かれたリンゴは皮を少し残してウサギの耳にみたててあって芸が細かい

俺は結構こういう細かい装飾がされた物が好きなのでちょっと食べるのがもったいない、なんて気がしてくる

「あんがと、って俺まだ両腕使えないから食べさしてくんない?」

「え? そ、そんな恥ずかしい事できませんよ!」

顔を真っ赤にして照れているシズネ

ういうい、可愛らしいのう、このウブな反応がたまらんわい

「いいから、いいから、今誰もいないんだし大丈夫だって、ほら、あーん」

「…わ、わかりました、いきますよ、はい、あーん…」

ガラ

「おーいオビトー、見舞いに来てやったぞー」

「オビト元気してたぁ―?」

「オビト、頼まれてた、んまい棒買ってきたよ」

カカシ、リン、先生が最悪のタイミングでお見舞いに来てくれやがりましたよ

「あ、あひぃーーーー!!?」

激しく動揺したシズネ、グサリと俺の鼻の穴に突き刺さるフォーク

「ぎゃああああああああああ!!?」

さっきまでのストロべった甘い雰囲気がいっきに鮮血の舞台と化したよ! 残酷劇場だよ!!






「ふーん、オビト君は俺たちが一生懸命苦労して仕事している間、女とイチャイチャしていたんだ~」

カカシが非難と侮蔑を込めた目線を向けながら嫌味を言ってくる

俺はといえば鼻にでっかい絆創膏を貼り付けてずいぶんマヌケな姿になっている

相変わらずムカツク奴め、しかしまんざらカカシの言う事も嘘とも言えず、言い返せないのが悔しいぜ

ここは一つ別方向からアプローチして復讐してやる!

「ふん、羨ましいのかカカシ? そうだよなー、お前と違って俺はモテるからなー(嘘)、ラブラブだからなー」

「ぐっ!!」

とたんに悔しそうな表情をむけるカカシ、いや、マスクでどんな顔してるかわかんないけど雰囲気で

別に9歳児がモテて自慢になるものでもないが、そこはそれ、男としていろいろプライドとかあるのですよ

素顔ではイケメン度で大きく負けるが、カカシは常時覆面してるから人気がいまいちなのだ(リン除く)

勝ち誇る俺、しかしここで思わぬ伏兵が現れたのだ

「オビト、得意げなところ悪いけど、いいかげんにしないと命の危機かぁもよ?」

リンが気まずそうな表情をして俺の背後を見ながら語りかけてくる

不思議に思って振り返るとそこには

「っ……っ…! …っっ……!!」

顔を真っ赤に赤面させて、涙目で俺を睨みつけるシズネの姿であった

やべ、これって爆発寸前って感じじゃね?

何気に体中にチャクラが漲っているし、死ぬよね、あれで殴られたら、間違いなく

「なん…で…そんな……恥ずかしい…こと…言っ…って!!!」

もうなんか呂律が回ってないね、そんくらい頭にきてるのか? いや恥ずかしいのか? どっちみちピンチ!

だらだらと脂汗が噴出すのがはっきりとわかる、本能がニゲロニゲロドアヲアケローと叫んでいるが体が動かない

マジ、ヘビに睨まれたカエル状態、大蛇丸に尻を狙われたサスケ君だよ

「あひぃいいいいいあくぇdrftgyふじこlp;っ!!!」

わけわからん奇声とともに振り上げられる拳、俺は入院期間がもう数ヶ月延長されるのを覚悟した瞬間


「ダイナミックエントリー!!」


ぱりーん、と病室の窓ガラスを打ち破って何かが転がり込んでくる

舞い散るガラス片、キラキラと光を反射して輝くさまがまるで粉雪のようで―――

「木ノ葉の気高き碧き猛獣…マイト・ガイ!! 参上!!」

いきなり転がり込んできたアホが何事か叫んでいるが俺はそれどころではない

「いででででででで!!」

俺は頭に突き刺さったガラス片が痛くてたまらないのだこのやろう!

「いてーじゃねーか、この馬鹿野郎!!」

最速で印を組み火遁・豪火球(弱ver)をお見舞いしてくれる、喰らえ

格好つけてポーズをとっていたガイは突然飛んできた火の玉をモロに喰らってしまう、尻に

「あ、熱ぃーーー!?」

「ふん、ざまあみろアホが」

文字通り尻に火がついて走り回るガイ、滑稽だ、滑稽だよ、この光景だけでかなり気分が晴れた

「な、何をするんだ、うちはオビト!!」

激しく濃い顔が俺に向かって猛抗議してくる、暑苦しいのであまり近づかないで欲しい

ていうか、なんで俺の名前しってんのよ? こいつ誰だっけ?

じっと奴の顔を見る、変なオカッパヘアーにゲジゲジ眉毛、妙に濃い下まつげ、総合して激烈濃い顔

「おぇ」

ちょっと吐き気が…えっと、確か…ガ…い、いででで!? ず、頭痛が…!

なんかこいつが誰か思い出そうとすると頭痛がするんだけど

「って、頭にガラス刺さってるじゃーん!」

忘れてたー、ていうかいまだに血がドクドク流れてんじゃんよ

「オ、オビト君、大丈夫ですか!?」

さっきまでの騒動で気勢を削がれたっぽいシズネが慌てて駆け寄ってくる

ふと、ゲジ眉が走りよってきたシズネの姿を見て、ポッと頬を染める、うぇキモ

そんな様子に気がつかないシズネはテキパキと俺の頭の治療を済ましていく

テクテク近寄ってくるガイ、シズネの背後まで来ると気合を入れるようにガッツポーズを決める

「あのー、僕の名はマイト・ガイ、シズネさんというんですね…」

「え、あ、はい…」

いきなり後ろから話し掛けられて困惑するシズネ、その気持ちはよくわかるぞ

「僕とお付き合いしましょう! 死ぬまであなたを守りますから!!」

キラーン、と無駄に歯を光らせて告るガイ、キモさ倍増だ

「あひぃー!? 絶対イヤー!! ごめんなさーーーーーーい……!!」

ダッシュで逃げ出すシズネ、まあ、あの激濃い顔で愛の告白されたら逃げ出したくなるわな

リンが慌ててシズネの後を追っていく、多分慰めに行くんだろうな、トラウマ決定だったろうし

「そ、そんな…逃げ出さなくても……」

_| ̄|○ ってな感じでがっくり崩れ落ちるガイ、滝涙まで流してショック受けまくりだ

こいつ自分がどれだけ濃い顔してるか自覚ないのか? シズネの反応は当然だと思うのだが…

「は! そうだ、忘れていた、オレには本来の目的があったんだった!!」

あっさりと復活するガイ、おい、早すぎだろ! 躁鬱の気でもあるんじゃないかこいつ?

しゅばっ、と立ち上がりカカシに向き直り、ビシィッ、と指をさす

「はたけカカシ、君と戦いたい!」

「「「はぁ?」」」

俺、カカシ、先生が同時にマヌケな声をあげる

「オレは先日、中忍になったばかりだが、強さには自信がある」

ニヤリ、と余裕の笑みを浮かべるガイ、その様子にカカシの雰囲気も剣呑なものに豹変する

ちょ、…ここで戦うのとか、勘弁して欲しいんですけど!

「中忍のなかでも一番の有望株である君と戦って証明したい、自分の強さを!」

「ずいぶん自信満々に言うな、面白い…相手してやる!」






病院の敷地内にある広場、忍者も多くお世話になる病院だけにリハビリ用のこの広場も無駄に広大だ

その中央でにらみ合う二人、ガイとカカシだ

オレと先生もなぜか見届け人という形で見学することになってしまった

いや正直、頭痛いんで辞退させて欲しいんだけど先生に見たほうが勉強になるよ、なんて言われたからね

「決して負けんぞぉ! オレはお前に勝てなかったら重りを乗せて腕立て伏せ500回やってやる!! 約束だ!!!」

ビシィッ、と親指をサムズアップさせて大声を上げるガイ、その行為に意味はあるのだろうか、多分ない

案の定カカシは挑発されていると思ったらしく、目つきの鋭さを増し殺気を漲らせる

「一瞬で終わらせてやる!」

クナイを取り出し駆けるカカシ、チャクラで足を強化しているのか相当な速さだ

神速の慣性に乗せてクナイを投擲、風切る音を立てて飛んでいく

右手を誘うように前に出し、左手を後ろに回した独特な構えで迎え撃つガイ

襲いくるクナイを左手を振るい目にも止まらぬ速さで弾くと、一瞬にして身を翻しカカシに急接近

「木ノ葉烈風!!!」

刈り取るような下段蹴り

「甘い!」

足にあたる直前、まるでガイの下段蹴りを予測していたかのようにその場で飛び上がるカカシ

滞空中、両手で合計六個の手裏剣を指の間に構える、超近距離投擲をするつもりらしい

「いや、甘いのはそっちだ!! 木ノ葉旋風!!」

しゃがんだ姿勢のまま、まるで独楽のように高速回転しながら飛び上がるという離れ技をかますガイ

「な!? くぅっ!!?」

カカシが驚きとっさに防御の姿勢をとるが、足場のない空中ではまともに動くことすらままならない

迫り来る上段後ろ回し蹴り、辛うじて両腕を使って防ぐ

しかし、すぐ次の下段蹴りがガードをすり抜けカカシの脇腹に炸裂する

「ぐ、がはぁっ!!?」

あばらが折れたのだろうか、吐血するカカシ、うぇ、すげー痛そう…

「くそ! コレでも喰らっとけ!!」

吹っ飛ばされながらも手裏剣を投擲する、すごい根性してるなカカシ

「悪あがきを! こんなもの通用するものか!!」

余裕といった様子で六個のうち五個を弾き飛ばす

最後の一個を余裕を見せつけるためにキャッチしようとすると

「な!? 手裏剣の影にもうひとつ手裏剣が!!? グッ!」

最後の手裏剣は死角にもうひとつ手裏剣を忍ばせておく影手裏剣の術

さすがカカシ、ただではやられないということか

影手裏剣をとっさに左腕でガードするが、深く刺さった手裏剣はガイの左腕を使用不能にした

ゴロゴロと土ぼこりをあげながら転がっていくカカシ

空中で手裏剣を受けたガイも吹っ飛ばされ、背中から地面に叩きつけられた

一旦開いた距離、二人はすぐさま立ち上がるとお互いに戦闘体勢を整える

「ぐ、ごほっごほっ…やるね、お前…」

「――っ、そっちこそ、やるな!」

まさかこの世界に来てこんな少年漫画みたいな会話を聞かされるハメになるとは思わなかった

どうせなら「べ、別にアンタのために作ってきたんじゃないんだからね!! カンチガイいしないでよ!!」とか言われて手作り弁当とか渡されてぇ

おっと、現実逃避もほどほどにしないと

「しかしまぁ、凄いですねこいつら、どんだけハイレベルな戦いしてるんだか、同年代とは思えませんね…」

別に返事を期待して喋ったわけではなかったが、隣で黙って見ていた先生からは予想外の言葉が返ってきた

「うん、そうだね、ところでオビトは二人があれだけ強い理由とかわかるかい?」

「理由、ですか? うーん…そりゃ才能とかじゃないですか?」

「確かに忍者にとって才能は大きな要因になる、でもそれは絶対条件じゃない、強くなるには三つ大切なことがある」

「三つ?」

「一つは忍耐、二つ目は努力、三つ目は信念、コレがすべて揃って本当に『強い』忍びになることができるんだ」

「忍耐、努力、信念……」

「あらゆる苦しみに耐え忍び、怠けることなく日々努力を続け、鋼鉄の信念をもって事にあたる」

先生は目を瞑りまるで唱えるように言葉を並べていく

「例え才能豊かな者でも、忍耐なければ容易に堕落し自分を見失う、努力怠れば向上なく成長もない、信念がなければ力は暴力に、行いは悪行となる…」

そこで俺に振り返ってニッコリ笑う

「あの二人はそれらをしっかりと持っている、だから強いんだ、オビトはどうだい?」

「俺は……わかりません…」

「あせる必要はないよ、忍耐や努力はともかく、信念は持とうと思って持てるものじゃない、心の奥底から湧き上がるものだからね」

「あの、先生にもやっぱりあるんですか、信念?」

「うん、僕の信念はね『木ノ葉の里全ての人々を守ること』さ、そのためなら命をかけるよ」

「……やっぱり先生はすげーや、真顔でそんな事言えるなんて、俺恥ずかしくてもう先生の顔みれねーや」

「げ、酷くないかい? オレけっこうマジメにキメたつもりだったんだけど……」

先生はショボーンといった感じで落ち込んでしまう

年甲斐もなくそんな姿を見せる先生の姿が面白くて俺はつい笑ってしまう

「っぷ、くくく、嘘ですよ、あ、でも凄いと思ったのは本当ですから」

「く、オビトが最近反抗期だよ、まだ9歳なのに…」

「ほら先生落ち込んでないで、そろそろ決着がつくみたいですよ」

俺が先生を促すと視線の先ではカカシとガイの戦いがいよいよ終盤をむかえていた

お互いに相手に飛び掛り空中で交差する二人

「コレで決める! オレの熱血を喰らえ!!」

「わけのわからないことを! コレで終わりだ!!」

ギキンっ! と金属同士がぶつかりあう音が響いて二人が背を向け合いながら着地する

と同時に両者ともフラリと前のめりに倒れこんでしまった

倒れこんでピクリとも動かなくなってしまったガイとカカシ、二人とも完全に気絶してしまったようだ

あ、今思い出したぞ、そうだ、マイト・ガイって名前、聞き覚えがあるはずだ

はたけカカシの自称『永遠のライバル』、日向ネジ、テンテン、ロック・リーの下忍三人を担当する上忍

原作でも結構活躍してた、見た目の濃さに比例するように性格も濃いキャラだったはずだ

なるほどね、納得いったよ、あんまり思い出したくなかったけど…

「はい決着、引き分けだね~」

先生がかなり軽い口調で宣言する、やっぱこの人空気読んでねー






カカシとガイの治療を終えて一旦病室に戻った俺は再び暇を持て余していた

「すこし、散歩でもするか」

気晴らしに病院周辺を敷地内に広がる森林を歩く

ちょうど夕暮れ時なので風も程よく涼しく、快適な時間である

気持ちの良い散歩を満喫しながら俺は先生の言ったことを思い出していた

「…信念、か……よくわかんね」

この世界に来てから考えたことは死なないために強くなることだけで、他のことなんか考える余裕などなかった

まあ逆にやる気が空回りして何度も死にかけているような気がしないでもないが…

いつか俺にもできるのかな、信念

そんなことを考えながら歩いていると変な声が聞こえてきた

あれか? 大自然のど真ん中で合体中の男女とかか?

「なんだ? なんか嫌な予感がするんだけど…」

そう言いつつも雑草をかき分けて声のする方へ行くと変なものがいた、やっぱ嫌な予感あたったよ

「…238!…239!…240!…241!…」

背中にでっかい狸の置物を乗せて汗だくで腕立て伏せをし続けるガイがいた

いや、正直わけわからん、こいつさっきまで病室でグースカ寝てなかったっけ?

「おい、なにしてんだよ?」

「…252!…にひゃくごじゅさ…え?」

ようやく俺に気がついた様子のガイ、俺を見上げた拍子に背中の置物を落としてしまう

陶器製の狸は慣性の法則にのっとって地面とキスしてバラバラに砕け散った

「あー!! なにするんだ、うちはオビト!! せっかくの重しが壊れてしまったではないか!!」

粉々になった狸を残念そうに眺めながらガイが号泣する

「しかたがない、うちはオビト! 君に代わりになってもらう!! さあ乗ってくれ!!」

激しく嫌なんだけど、あとさっきからうるせぇよ、てめぇの大声のせいで耳がキーンとするんだよ

「やだよ、なんで俺が―――」

「いいから乗れっ!!!」

ガイの鬼気迫る迫力に押されてしまい思わず背中に乗っちゃいました、負け犬とか呼ばないで…

つうか、こいつ背中が汗でじっとりしてて気持ち悪いよ

ぬるぬる滑りそうだからチャクラ使って張り付いてるんだけど、一刻もはやく降りてぇ

ああ、でもこれも俺が狸さんが粉々になる原因を作った所為なのか?

「いやいや、俺悪くないし、っていうかなんでここで腕立てやってんだよ?」

「ナイスガイなポーズまでして男が格好つけた以上、約束は死んでも守るんだ!」

約束? あ、そういえば言ってたな、カカシに勝てなかったら腕立て500回するとかなんとか

「別にいちいち守る必要なんかないだろ、誰もそんなこと頼んでるわけじゃないのにさ、それともあれか、ルールマニアか? 何かに縛られてないと生きていけない人種なのか?」

ガイの背中の上で腕立てするたびにユッサユッサ揺れて気分悪くなってきたので早く終わらせたいのだよ

このままだと奴の背中に内容物をリバースしてしまいそうだ

「フフフ…よくぞ聞いてくれたなオビト…お前って奴はまったくいい所に気がつく奴だ!」

急に笑い出すガイ、不気味な奴だ、あと何も聞いとらん

「よし、教えてやろう! ただし他の奴には内緒だぞ!!」

「な、なんだよ?」

「これはズバリ、勝利を呼び寄せる修行…『自分ルール』だ!!」

「はあ!?」

「いいか、このルールはまず自分を過酷な状況に追い込むことで戦いに真剣に取り組むことができるという利点が一つ、さらに例え負けた場合でも自分を厳しく鍛えることができるという『究極の二段構え』なのだ!!」

「さようですか……」

俺は呆れ半分、感心半分といった感じでガイの話を聞いていた

そこでふと、さきほど先生から聞かされた言葉が頭によぎった

「なあ、お前ってさ、信念、とかあんの?」

思わず口に出た言葉、聞くつもりなんてなかったが、つい口に出してしまった

「あるっ!! 友情、努力、勝利!! これが俺の信念だ!!」

信念まで暑苦しいなこいつ、ていうかそれジャンプの三大原則…

「よき友と切磋琢磨しあい、勝利する!! すばらしいと思わないか!?」

「ま、まあ、確かにそうだな」

「だから俺はこうして常に努力し続ける、自分の信念を守るためにもな!!」

正直な話びっくりした、こいつがここまではっきりした信念を持っているなんて

「…そっか、すげぇなお前……」

「ガイだ、俺の名はマイト・ガイ、お前の名は?」

「さっきから連呼してたじゃねえかよ、ま、いいか、うちはオビト、よろしくなガイ」

「ああ、これで俺とオビトは友達だ!!」

「え゛?」

「よし、友情の記念に腕立て伏せ1000回しようじゃないか!!! さあ行くぞ! 1、2、3、4、5…!!」

ユッサ!ユッサ!ユッサ!ユッサ!ユッサ!ユッサ!ユッサ!

「ちょ!? はや!? お、おい!! ……うぷっ」

――――おえ~

この日、うちはオビトとマイト・ガイ、二人の間に奇妙な友情が結ばれた

いろいろな意味で臭う男同士の友情に病院に戻った俺たちが異臭騒ぎを引き起こしたのは当然のことだったと思う

ほんと、マジくせえよ俺ら、今後チーズケーキ食べた後の運動は控えよう…



[706] Re[3]:うちはオビト異聞録
Name: あかねこ◆fce83746 ID:6889a981
Date: 2007/06/05 07:19
やっと退院して一週間、今日は久しぶりの任務の日だ

俺が朝起きて最初にすることは部屋の窓を開けることである

「いい天気だ、絶好の任務日和っぽいな」

さわやかな朝、窓際から射し込む朝日がとてもすがすがしく俺の心も晴れやかになってくる

俺は窓枠に手をのせて肺いっぱいに朝の空気を吸い込む

うん、いい空気だ、木ノ葉の里と言うだけあって木に囲まれたこの土地は空気が美味い

「でも、これさえなければなぁ……」

「何か言いましたか、オビト君?」

俺の後ろで何故か朝食を用意しているシズネが首をかしげながら聞き返してくる

エプロンを付け、せっせと家事に勤しむその姿は幼な妻みたいで俺の浪漫回路が回りだしそうだ

退院してからなぜか毎日世話をしに俺の家に来るようになったシズネ

もしかして恋愛フラグでも立ったのか? と思ったがただの俺の勘違いで実は綱手の指示だったらしい

なんでも三ヶ月前、俺が入院してシズネが治療担当になって以来、彼女の実力がメキメキ上昇していったらしい

だからシズネは引き続き俺のそばで世話をさせたほうが彼女のためにも良い影響があるだろうと判断したそうだ

単に実地経験を得て才能が開花しただけでは? 俺関係なくね? と思ったが決して口には出せなかった

なんか理由を説明する綱手の目が必死すぎて、口をはさむことができなかったんだもの

綱手は目に見えない何かに追い立てられるような様子だったなぁ、見ている分には滑稽で面白かったがね

その背後で凄い笑顔でニコニコしていたシズネが妙に迫力満点だったが俺にはその理由が理解できなかった

ともかくそれ以来、毎日俺の家にやってくることになったシズネ、通い妻ってやつ?

俺も最初はドキドキワクワクしてました、そりゃあそうだろ、美少女が毎日自分家に世話しに来るんだから

あわよくば18禁な展開だってありだろう、なんて9歳児らしからぬことまで妄想しだす始末、若さって罪だよね

しかし決してそれは叶わなかった、なぜならこの一週間、俺の目の前にはそれ以上の脅威が陳列しているからだ

テーブルの上に並べられた赤、青、黄、紫、緑、さまざまな原色で彩られた料理の数々

使われている食材は、ヘビ、カエル、ミミズ、セミ、その他さまざまなゲテモノ素材達が盛りだくさん!

シズネ曰く、とっても体に良いらしいが、とても食べる気にはならない、見た目が明らかに人間の食い物じゃない

味も見た目に負けず劣らずの出来栄えで、初めて食べたときなんか本気で悶絶死するかと思った

残飯漁ってた野良猫なんか、翌日まとめて仮死状態で発見されるとかありえない威力なんですけど

確かに体には良いのかも知れないが、食べたらショック死しかねない料理なんて冗談じゃない!

「あの、シズネさん? 僕、朝食とか食べない派なんで……」

「駄目です! 朝ご飯はその日一日のエネルギー源なんですから!!」

「う、わ、わかりました…食べます…」

俺のささやかな抵抗はあっさりと却下され、ついに運命の時がやってくる

なんか最近シズネの迫力が増した気がする、眼力だけで俺をここまでビビらせるなんてただ事じゃないよ

昨日も、寝ぼけたフリして朝起こしに来たシズネに抱きついたら六波返し喰らったし

頭蓋骨痛ぇ、容赦ないよシズネさん、独歩だよ

初めて会った頃は気弱で大人しく従順な女の子だったのに…

彼女が変わった原因が俺にもありそうな気がしないでもないが

ともかく最近、綱手以上の迫力を身につけはじめたシズネに逆らえない俺、超情けねぇ

「さ、たくさん食べてください、今日は久しぶりの任務なんですから、おかわりも一杯ありますよ」

満面の笑顔で異臭を放つ味噌汁を寄越す、漂う腐臭、それだけで軽く意識が遠のいた

「お、おいしそうだね、でででもなんか今日はお腹が痛いような…」

「どうぞ!」

ズイ、と鼻先に突き出されるお椀、話きいてくれないよ逃げられないよ死んじゃうよ

「どうぞっ!!」

逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ!

覚悟を決めろ、そうだよ、シズネだって一週間も毎日料理作ってるんだ

そろそろいい加減、料理スキルも一般人並に上達してもいいはずだ

信じるんだシズネを、こんな良い笑顔した彼女が俺のために作ってくれた朝食を!

「おっしゃ、いただきまーす!……ズズ…うぼおおあああああああああっ!!?」

女は魔物、という言葉、思い出しました……






「うぅ…酷い目にあった…もう誰も信じられない……」

なんとか生き残った俺はヨロヨロとした足取りでカカシ達との待ち合わせ場所に向かう

こんな状態で任務をまともにこなせるのだろうか激しく不安だ

「なんとかして元気を取り戻さないと、途中で力尽きるぞ俺」

んまい棒でも買うか? 

とりあえず雑貨屋に向かうため、近道を通る

人気のない細い路地裏を通れば最短距離で雑貨屋に行くことができる

オビトの記憶にあった道を通りながら何味を買おうか悩んでいると

「エヘへへへへ」

通り道にある女湯の壁際にしゃがみこんでニヤニヤ笑う超不信人物がいた

女湯というか銭湯なんだけど、覗きだよねこれ?

俺の前でそんな勇者な行為をしてくれる不信人物(ヒーロー)をぶっ飛ばしてやろうとクナイをかまえる

「どこの誰だか知らないが…うらやましいぞコノヤロー!! っいでぇ!!?」

「ん? ったく騒ぐな小僧、ばれたらどーすんだっての!」

拳骨一閃、目にも止まらぬ速さで振り下ろされた拳は俺の頭頂部にクリーンヒットした

俺は激痛に叫ぶこともできず頭部を抑えてうずくまる

なんだよさっきのスピード、このおっさん、只者じゃねぇ!?

「……お、おっさん何者だっ!?」

涙目になって何とかそれだけ口にできた

おっさんは歌舞伎役者のようなポーズをつけて大きな声で名乗りをあげる、ってバレるだろうが!

「あいやしばらく! よく聞いた! 妙木山蝦蟇の精霊仙素道人、通称ガマ仙人と見知りおけ!!」

「せ、仙人?」

どう見ても女湯を覗いていた中年のエロ親父です、本当にありがとうございました

でも、どっかで見たことあるようなおっさんだな…

い、いででで!? 思い出そうとすると頭痛が酷くなったぞ

ちくしょう、このおっさん容赦なく殴りやがって

ジロリと目の前のおっさんを睨む、みるからに歌舞伎役者みたいな顔化粧、額当てに油の一文字

ぼさぼさの白髪をながーく伸ばした姿、やっぱりどっかで見たような…

「って、自来也じゃん! 三忍の!! うわ本物だ!!」

思わず叫んでおっさんを指差してしまう、自来也の顔がニヤリと自慢気なものに変わる

「ほぉ、その年でわしをしっとるのかのォー、感心感心」

満足そうにうんうんと頷いて俺の頭を撫でる、完璧な子供扱いだ、子供だけどさ

「ちょ、止めろって!」

自来也の手を振り払う、おっさんはたいして気にした様子もなく再び覗く姿勢になる

「わしは取材で忙しいんでのォー、さっき騒いだことは許してやるから、さっさと去れよ小僧」

しっしっ、と俺の方を見ずに、虫を払うように手を振ってきやがる

このヤロー、ふざけやがって、完全に俺を舐めきってやがる!

「いや取材って覗きじゃん! 犯罪じゃん!! ただのスケベじゃねーかこのエロ親父!! 通報するぞ!!」

「バ、バカモン! わしはただのスケベではない! 覗きはインスピレーションを受け、より良い作品を…」

「おーまーわーりーさーん!!! むぐぐぅ……」

瞬身の術まで使って俺の背後に一瞬で回りこんで俺の口を塞ぐおっさん、超おとなげねぇ

「おーけー、わかった、何が望みだ?」

9歳児に犯罪を見逃せと取引を申し出てくるおっさん、こいつ絶対駄目人間だ、まちがいない

俺はそこでピーンと閃いた、まさに名案

「なんか良いもん寄越すか、術教えてくれたらもっとナイスな秘密の覗きスポット教えますよ?」

「な、なんだとォー!? だ、騙されんぞ! わしは仙人だ、お前のようなヒヨッコに騙されるアホではない…!!」

動揺してる動揺してる、もう一押しか、とっておきを喰らうが良い!

「これが証拠の写真なんですが…」

俺は懐からお宝写真を取り出し、チラリとおっさんに見せる、数日前命がけで撮影したレア物だぜ!

あの時はマジ死ぬかと思った、暗部まで出動してくるとかありえないだろ

写真を見た途端、おっさんの表情が驚愕から歓喜へとめまぐるしく変化し

「気に入ったー!!」

両手でサムズアップしながら笑顔で叫ぶ、真性のアホだこのおっさん…

「ど、どこなのだその秘密スポットは!! えぇっ!? のォ!!?」

くるくると俺の周囲を回るおっさん、すごいウザいんですけど、はしゃぎすぎだおっさん

「ん…」

おっさんに手を差し出す俺、まずは貰うもん貰わないとね

「む、ちゃっかりしとるのォー、しかたないこれをやろう」

俺の手のひらに小さな巻物を置く、見たかぎりあんまお宝っぽくないんだけど…

「そう疑わしそうな顔をするな、それは口寄せの巻物でのォ、わしはガマ達と契約しとるから不要なのだ」

「ふーん、じゃあこれは何を口寄せするんですか?」

「わからん」

「え!? わからん、ってなんでさ?」

「ちょっと前に知り合いから預かってくれと渡されたんじゃが、そいつ死んでしまってのォ」

結構シビアな話だ、ということは今この巻物は所持者なし、契約者なし、宙ぶらりんな状態なのね

口寄せの術か、うん、けっこう良いのもらったんじゃね? 何がでてくるかわからないけど…

「いいでしょう、取引成立ですね、秘密スポットの場所はこの地図に書いてますよ」

「おーーー! ここに桃源郷が!! いざ行かん!! さらばだ小僧、礼をいうぞォーーー!!」

俺から地図を受けとるやいなや、颯爽と飛んでいってしまったおっさん

頑張れよおっさん、いまそこ俺の所為で厳重警戒中になってるはずだからな!






「オビトー! また遅刻かー!!」

「いやー悪い悪い、来る途中で変なおっさんに絡まれてさ、こらしめてきたんだよ」

「ハイ嘘! 今日こそお前の体にルールの大切さを教え込んでやる!」

今にも飛び掛ってきそうな剣幕のカカシ、別に嘘じゃないもんねー

「まあまあカカシも落ち着いて、ちょっと事情があって時間がないから任務の説明したいんだけど」

「ん? 先生なにかあったんですか?」

「ちょっと厄介な緊急任務が入っちゃってね、オレはそっちに行かなきゃならなくなった、カカシ達は三人でD級任務、つまり草取りなんだけど頑張ってきて」

「緊急任務ですか?」

「うん、本当に時間がないからオレはもう行くよ、詳しいことはカカシやリンに聞いてくれ、じゃ!」

そういって先生の姿が風と共に消える、相当急いでいたみたいだ、遅刻したのはまずかったかなぁ…

「なあ、なにがあったんだ?」

「…任務先に向かいながら説明する、さっさと行くぞ」

むすっとした様子でカカシはさっさと行ってしまう、あいつ相当怒ってるな

「ちょっとマズったかな? あとでフォロー入れとくか」

「それがいいと思うよ」

何が楽しいのかリンがニコニコしながらオレを見ている

「ん? なんか良いことでもあったのか?」

「うん、オビトがカカシと仲良くしようとしてるから嬉しくてね」

うげ、素で寒気がするようなことを言ってくれるな

「オレはカカシに嫌われてるから仲良くするのは難しそうだけどね」

「ふふ、そうことにしておくよ」

「あー、もういいから行こうぜ、カカシにまたどやされちまう」

「ハイハイ」

カカシの後を追う俺たち、この時はまだ知らなかった

この任務で俺の今後の人生を大きく左右する出来事が起きるとは

この時、俺はまったく知らなかったんだ……



[706] Re[4]:うちはオビト異聞録
Name: あかねこ◆bd62e8cf ID:faa5a411
Date: 2007/06/08 02:51
先生の緊急任務とは抜け忍の捕獲もしくは抹殺だった

里の上忍が火影宅から貴重な禁術の巻物を盗み出して里抜けしたらしいのだ

まあ自由になりたい気持ちもわからなくもないが、禁術書を盗み出したのはいただけない

他国にでも渡って危険な術が悪用されでもしたら一大事だからね

先生たちもマジで狩りにでるだろう、だから里の威信にかけても捕まえるつもりなんだろうね

まあ、俺には縁のない話さ、よわっちい下忍だし、主な任務は芋掘りとか草取りだし

ぶちぶちぶち

「―――おい、オビト」

ぶちぶちぶち

「おい、聞いてるのかオビト!」

ぶちぶちぶち

「おい、聞けって!!」

「ん? なんだよ大きな声あげて? うっせーなー」

カカシの大声のせいで耳がキーンとする、マジヒステリック

「お前が全然返事しないからだろ! まったく何でお前はそうマイペースなんだよ!」

「いやいや、しっかり考えてるよ今日の晩飯とか」

そう、いかにしてシズネの毒料理を回避するか、そこが問題だ、割と死活問題だし

「スーパーマイペースじゃん! ああもうっ、イライラする!!」

「落ち着けよ、なんか話があるんだろ?」

「だったらはじめから聞け!」

「ハイハイ、スイマセン」

「くっ、まあいい、オビト草取りするときしっかり根っこまで取れよ、また生えてきちゃうだろ」

ああ、もちろんさカカシ、まったくお前の言うことはいつも正しいよ、俺たちは親友さ

「細かいこと言ってくるなぁこいつ、いいじゃんそのくらい見逃してくれても、カカシのアホ―」

「おい、心の声と逆になってるぞ」

「あれ?」

いかんいかん、どうも草取りが退屈すぎて脳みそが腐り始めてるなー

こういう機械的な単純作業って苦手なんだよ、やってるうちに意識なくなってくし

多分今の俺の目、腐った魚みたいな目してるんだろーな

「まあまあ二人とも落ち着いて、言い争っても体力の無駄だしやめよぉよ」

「む、むぅ…」

唸るカカシ、なんと言うか真面目な奴は損してるね、いろいろ

まあ、こんな無駄な言い争いして体力使うのも馬鹿らしいしな―――

「そうだ、カカシ勝負しないか?」

ちゃ、とクナイを取り出してかまえるカカシ、なんでそんなに早いんだよ、物騒なやつめ

そのギラギラした目やめろって、こいつ殺る気マンマンじゃん…

「違う違う、そっちの勝負じゃなくて草取り勝負しようぜ」

「ちっ!」

おい、なんだよその舌打ち!? 

真面目な性格しているくせにつくづく危険人物め

ともかく、勝負事になれば退屈な草取りでもはりきることができるかもしれないしな

さらにカカシに勝てれば言うことなしだ、奴の悔しがる顔をたっぷり拝んでやるわい

戦闘スキル関係ないし、勝てる可能性もあるはずだ

「ふん、面白い、受けて立つ!」

いきり立つカカシ、すごいやる気だ

「それ、いいかもね平和的だし」

リンも俺の提案に同意する、これでメンバー全員の意見が一致した

「おっしゃ、ルールとかどうする?」

「どっちがより多く草取りできるかでいいだろう、勿論根っこまで抜いて1カウントだからな」

「まあいいか、じゃあ制限時間は三時間にして負けた方は罰ゲームな」

「罰ゲーム? なにするの?」

「うーん…なんにしようかなぁ、帰り道全員の荷物を持つとかでいいじゃないか?」

小学生が帰り道にジャンケン勝負して決めるような罰ゲームだけどな

「オレはそれでいい」

「うん、妥当だね」

「おし協議完了、じゃあさっそく始めようぜ!」

「私が開始の合図だすよー」

俺とカカシはそれぞれ離れた場所に立ち精神を集中する、この勝負、まけられない!

しゃがみこみ、いつでも草を抜けるように構える

リンが大きく手を掲げ、俺とカカシの集中が極限に達する、勢いよく振り下ろされるリンの手

「よーい……どんっ!!」

ぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶち!!

「「うおおおおおおおおおおお!!!」」

リンの合図と同時、俺とカカシは猛然と草を取りまくる、男の戦いが始まったのだ!






「いやー、荷物がないと身軽でいいねー、オビト君?」

「………ソウデスネ」

「えっと、私の荷物まで持たなくてもいいのに…」

「いいのいいの、オビトが言い出したことだし、そうだよなー?」

「………ソウデスネ」

「おやおや、何、その目、なんか不満でもあるのかな?」

「……イイエ」

はい負けましたよ、スイマセンね! ゴメンナサイね!!

「あー気持ちいい! なんてさわやかな気分なんだ!!」

心底ご機嫌な口調で歩くカカシ、スキップでもしそうな勢いだ

逆に俺の怒りのボルテージは上昇中だよ、天井知らずだよ

そんな感じでイライラ帰宅中、突然カカシが真剣な表情で俺たちを静止させる

俺たちを遮るように無言で突き出された右手

「「っ!!?」」

いきなりの出来事に何事か聞きたかったが、カカシの雰囲気がそれを許さない

なんと言うかさっきまでの浮かれた様子とは180度反転したように緊張感の伴った感じだ

さっ、と無言で手信号の指示を出してくる、『草叢に隠れろ』と

俺とリンはカカシの指示に従って即座に隠れる、こういう時にリーダー(隊長)の命令は絶対だ

なぜなら命令に従わないと即命にかかわってくるからだ

未熟な下忍にとって実戦経験がある上忍、中忍は信頼できるブレインだから

こういったことはアカデミーで嫌というほど教えられる

草叢に隠れた俺たちが息を殺し気配を消して様子を窺う

なんか俺だけ余計に荷物を持っている所為でしゃがみ姿勢が辛いんだけど…

「こっちに接近してくる気配がする、一般人のものじゃない、明らかに訓練された忍のモノだ」

カカシがぎりぎり聞こえるくらいの小声で俺たちに説明してくる

っていうかその気配に気がつくお前は何なんだよと思っているのは俺だけか?

リンなんか、さすがカカシ、みたいな感じで目がハートマークになってるし…

ええい、木ノ葉の中忍は化け物か!?

ガサ、と視線の先で物音がした

全員に緊張が走る、カカシが言った以上悔しいが間違いないだろう、やってくるのは忍だ

もしも、敵対している国の忍者だった場合戦いになるかもしれない

同じ木ノ葉の里の忍ならばカカシの単なる心配しすぎですむのだが…

俺は祈った、どうか木ノ葉の忍でありますように、と

徐々に近づく気配、ここまでくれば俺にでも感知できる

ガサリ、と俺たちの視界に姿をあらわす忍

「「「!!」」」

その姿を見ておれが最初に思ったのは安堵だった

見た感じ三十台前半の男性、そして…

現れた忍の額当てには木ノ葉マーク、よかった、仲間だったんだ!

俺はいつのまにか流れていた冷や汗を拭うと草叢から姿を表し仲間の忍に挨拶をしようとして

「待てオビト、様子がおかしい」

未だ緊張した雰囲気のままのカカシに止められた

「見ろ、あの忍、おかしくないか? ボロボロの姿、それにあたりを警戒するように視線をまわしている」

「任務帰りなんじゃないか? もしくは任務中とか?」

「いや……多分ちがうな、先生の言ってたこと覚えているか?」

そこでリンがはっ、としたよな表情になって呟く

「……抜け忍…!」

俺もそこで思い出す、今日先生が一緒にいない理由 

暗部だけではなく上忍にまで要請された緊急任務

木ノ葉の抜け忍

禁術書を盗み出した男

あらためて目の前の男を見る

ボロボロの姿は必死で逃げ回った後のように見える

周囲を警戒している様子はまるで追手の襲撃を恐れているように見える

そして極めつけ、背中に背負った巻物におもいっきり『禁術』の文字

「間違いない、奴は噂の抜け忍だ」

カカシが冷え切った声で告げる

ぞっとした、さっきまで仲間だと思っていたのはとびっきりの凶敵だったのだ

リンも同様に青ざめた顔をして必死で口元を手で覆って怯えを隠していた

「オビト、リン、オレたちで奴を捕まえよう」

ビビッて震えている俺たちに対してカカシがとんでもない提案をしてくる

「お、おい、冗談じゃないぞ、相手は上忍だ、勝てるわけがないだろう!」

「そ、そうよ、ここは一旦里に戻って応援を頼む方が賢明だと思うよ」

「いや、それじゃあ奴が逃げ切ってしまう可能性が高い、幸い奴はこっちに気がついていない、奇襲をかければ…」

俺とリンの必死の言い分も通用しない、カカシの目はマジだ

あれは俺たちが協力しなくても、たった一人で奇襲を仕掛けるって顔してる

「おい…いい加減にしろよ、リンまで危険に晒すつもりか?」

ドスを聞かせた声で念を押す、これで言う事改めないあらもう知らん、勝手にしろだ!

「なんだオビト、怖いのか? まさかうちはのエリートが臆病風にでも吹かれたか?」

「なっ!!?」

こいつ、なんてこと言いやがる!

最近、消えてきたと思っていたカカシへの対抗心が一気に燃え上がった

「ふざけんな! いいぜ乗ってやるよ、あいつを倒すのは俺だからな!!」

「オ、オビト、落ち着いて、ね?」

リンが必死になって止めに入るがもう俺にそれを受け入れるだけの余裕はなくなっていた

火がついてしまった激情に流されるままカカシと共にクナイをかまえる

「リンは後方から援護してくれればいい、オビトは俺と一緒に一、二、三で仕掛けるぞ、いいな?」

「ああ、いいぜ、倒すのは俺だけどな!」

「ちょ、ちょっと、二人とも…!」

「一…」

いつでも飛び出せるように足に力を溜める

「二…」

目の前にいる敵に狙いを定める

「さ…!!?」

いざ奇襲を仕掛けようとした瞬間

今まで俺たちにまったく気がついていなかった忍がこっちを向いてニヤリと笑っていた

シュ、という風を切る音と共に俺達の足元の地面に突き刺さるクナイ

その柄には三枚の起爆札がぶら下がっていて

突然の出来事に脳が対応しきれず身動きできない俺やリン

誰よりもいち早く動けたのはカカシだった

「逃げろーーーーーーー!!!」


ドオオオオオンッ!!!


隕石でも落ちたんじゃないかという熱と爆風に吹き飛ばされて地面を転がる

天地が逆転したかのように脳みそをシェイクされて視界が明暗を繰り返す

しかし幸いな事に持たされていたリンやカカシの荷物がいい具合にクッションになって俺はほぼ無傷ですんだ

そして10mほど吹き飛ばされて俺が見た光景は酷いものだった

爆心地、さっきまで俺たちがいた所は小型のクレーターができていた

跡形もない、ただ熱と爆風によって燻る煙だけが立ち昇っていた

リンとカカシはどこだ!? 俺同様に吹っ飛んだのか!? それともまさか!!?

最悪の想像が脳裏をよぎる

ふと、視界の端に何かが写った

それは良く見るとそれはリンを庇って背中に大ヤケドを負ったカカシだった

服は真っ黒に炭化し、防護機能を失い、露出した背中の皮膚は酷く焼け爛れている

「っ!! リン、カカシーーーー!!!」

名を叫ぶが返事はない

気絶しているのか、それともすでに息がないのかこの距離からは判断ができない

二人のところへ行こうと、荷物を捨てて駆け寄ろうとした瞬間

俺とカカシ達の間に敵、木ノ葉の上忍であった抜け忍が立ちはだかる

その表情は何もうつさず、ただ俺を障害物の一つとしてしか見ていないような目だった

「お前たちの存在には始めから気がついていた、罠にはめられたのはお前たちだったんだ、私の姿を見られたからには残念ながら始末させてもらうよ…」

あくまで静かに事実を語る敵、その態度が余計に相手と自分の力の差を思い知らせてくれる

ああ、悔しいがそのとおりだ! 完全にハメられた!!

カカシは自分と相手の力を見誤り、俺は安い挑発に乗って自分を見失った

リンだけが正しいことをいっていた筈なのに、俺もカカシも無視してしまった

俺たち二人とも馬鹿だ、大馬鹿野郎だ、くそったれ!

だが、今はそんなことでくよくよ悩んでいる時じゃない

一刻も早く二人の所に駆けつけて治療しないと、こんな最後は認められねぇ、だから―――

「どけよ! 今お前にかまってる暇はないんだよっ!!」

四個の手裏剣を投げつけ上忍に急接近する、走りながらクナイをかまえる

狙うは一点急所のみ!

「むかって来るか、いい気迫だ……だが甘い、所詮は下忍だな、軌道が丸わかりだし速度も足りない、未熟すぎるぞ」

あざ笑う敵、わかっていたさ、圧倒的な実力差があることくらい

手裏剣は全て弾かれ一瞬で距離を詰められた俺は腹に強烈な蹴りを喰らってしまう

「う、げぇっ!!」

こ、このやろう! 俺のゲロでも喰らいやがれってんだ!!

苦し紛れに放ったファイナルリバースもあっさりかわされる

「生き汚いな、だが根性だけは認めよう」

一瞬で背後に回りこんだ奴は俺の背中に強烈な蹴りを食らわせ数mも吹っ飛ばしてくれやがった

背骨ごと叩き折るような威力の蹴り、俺は吹っ飛ばされた浮遊感を感じる間もなく視界が地面いっぱいになる

ズザザザザ、と顔面を地面にぶつけ激痛が走ったが、そんなこと気にしている暇はない

幸い吹っ飛んだ先はカカシ達のすぐそばで、俺は起き上がると敵を無視して二人に駆け寄った

「おい、大丈夫か!? しっかりしろ、返事をしてくれ!!」

カカシを助け起こし体をゆする、本当はこんなことしちゃいけないのだが、この時の俺にそんなことを気にしている余裕などなかった

「……う、オ、オビ…トか?」

「ああ、そうだ! 生きてやがったかこの野郎!! 心配させんじゃねぇよ!!」

「どうなってる? 体が…うごかない…」

「無理すんな、必ず助けてやるから大人しくしてろ!」

そのとき比較的軽症だったリンも目を覚ました

「っ!? オビト?」

「リン起きたか! 動けるか?」

「う、うん、どうなってるの? さっき爆発が……痛ぁっ!!?」

悲痛な表情で足を抑えるリン、よく見るとリンの足首はありえないほどはれていて明らかに骨折しているとわかる

この足では逃げることもできない、俺が時間稼ぎをしてリンとカカシを逃がすというプランはこの時点で却下された

「リ、リン…大丈夫、か…?」

カカシがかすれる声で尋ねると、それに気がついたリンがカカシを見て息を飲む

「カカシ!? なんてこと…酷いヤケド、待ってて! 今すぐ治療するから!!」

カカシの惨状を見るや、自分の怪我などお構いなしに治療しようとするリン

俺はそこでようやく二人が生きていたことに少しだけ安堵の息を吐いた

しかし奴が待ってくれたのはそこまでだった

「もういいか? こっちもそれほど暇じゃないんだ、さっさとここを去りたいんだがね…」

俺、カカシ、リンがいっせいに奴を見る、そう、絶望的な状況はこれっぽっちも終わってなどいなかった



[706] Re[5]:うちはオビト異聞録
Name: あかねこ◆34dd1324
Date: 2007/06/09 21:52
敵はこんな状態の俺たちにさえ油断した風もなく、ただそこに立っていた

しかし、その雰囲気は今すぐにでも俺たちを殺せる余裕なのか、奴はこちらの出方を待っているようだ

くそ! なにか手は無いのだろうか、なんでもいい、この状況を打開できるものは!

そこで思い出した、今朝覗きをしていた自来也から巻き上げた口寄せの巻物、あれがあるじゃないか

一体何が現れるのか検討もつかないが、試してみる価値はある、と思う

「よしっ! いくぞ!!」

腰ホルスターから巻物を取り出し一気に空中に広げる、そこに記してある口寄せ用の印を瞬間的に暗記

ぶち、と親指の腹を軽く噛み切りその血を巻物に擦りつける、これで準備は完了だ!

未! 申! 酉! 戌! 亥!

チャクラを込めて印を結ぶ、俺が何をしようとしているのか気が付いた奴の顔つきが変わった

「もう遅いぜ! 術は既に完成している、口寄せの術!!」

地面に手のひらを叩き付けるように当てると、チャクラを練り込んだ俺の血が地面いっぱいに複雑な記号文字で召喚陣を形成する

ボンっ、と巻き上がる煙、確かな手ごたえあり! 口寄せは成功だ!!

どんな大物が出たんだ? 早くその雄姿を見せてくれ!!

そして、煙が晴れ、ようやく姿を現した頼もしき生き物は―――

ピヨ

「「「………………………………」」」

ピヨピヨピヨ

黄色い羽毛、黄色い嘴、そしてチョコチョコ動き回る愛嬌たっぷりの姿

口寄せされた生き物は、紛れも無いヒヨコだった

ピヨピヨ…!? ピィーーーッ!!?

俺を含め全員が呆然とする中、ヒヨコは俺たちの存在に驚き草むらに走ってにげてしまった

あまりの予想外の展開に置いてけぼりを食らう一同、全員の冷たい視線が俺に集中する

とっても気まずい、なんと言うか、あれだけひっぱってコレかよ、みたいな…

「お、おほんっ! も、もういいか? こっちもそれほど暇じゃないんだ、さっさとここを去りたいんだが…」

あ、こいつさっきのこと無かったことにして、また同じこと言いやがった

しかし今だけはその心使いがありがたい、せっかくのシリアスな空気が霧散してしまう

気を取り直して俺は再び奴に視線を向ける、まあ、さっきのギャグで切り抜けられたらそれでもいいが

そんな都合の良い話は無いわけで、相変わらず俺たちのピンチは続くのが現実だ

俺は無言でカカシ、リンの二人の前に立ち敵と対峙する、せめてもの抵抗として敵意一杯の目線でガンくれてやる

絶対に逃げねぇ! せめてこの二人だけは守ってみせる!!

しかし、敵は俺の目つきになど一切の関心を示すことなく、俺たちを観察するように眺める

「………オビト君といったか、君、逃げていいよ」

「はぁ!?」

予想だにできない一言だった、俺を含めてカカシ、リンも驚いている

「だから、『君だけは逃げていい』と言ったんだ、そこの二人を置いてね」

「「「っ!!!」」」

カチン、ときた、こいつまさか俺が仲間置いて一人だけ逃げる奴だと思ってんのか!!

「なめんなっ!! お前の言うことなんか絶対にきか『逃げろオビトっ!!』 なっ!!?」

「何いってやがる!? 俺が逃げたらどうなるかわかってんのか!? 殺されるぞ!!」

「そんなことわかっている! だが、俺たちに勝ち目はない…俺もリンもこの傷じゃ足手まといだ、だからお前は里に戻って応援を呼んでくるんだ!!」

俺の叫びをさえぎるようにカカシとリンが大声で逃げろと言う

何考えてるんだこいつら、俺が逃げたら死ぬんだぞ!! そんなことできるわけがないだろう!!

俺が二人に言い返してやろうとすると、その前に敵が楽しそうに話し始める

「そう、君は逃げていいんだ、誰だって自分の命は大切だ、私だって自分の命が大切だからこうして里抜けしているんだしな、なにか間違っているかい?」

こいつ、いけしゃあしゃあとほざきやがって! てめぇは黙ってろ!!

「馬鹿な、そんなの仲間を見捨てる言い訳なんかには―――」

「じゃあ君は自分のせいで仲間が殺されることに耐えられるのか?」

その一言で一気に怒りの熱が冷めた、ふと後ろにいる二人に振り返るが、その目を見て理解してしまった

なるほど、腹立たしいがそのとおりだ

もし立場が逆だったら俺もそう思ったにちがいない

怪我をして不甲斐なく身動きできない俺を庇って、敵と戦い確実に死ぬカカシ、リンの姿を想像した

ああ、そうだ、そんなの許せるわけがない、そうなるくらいなら俺が死んだほうが100倍マシだ

「やっと理解したか、さあ逃げるんだ、自分の命惜しさに逃げることは決して恥ずかしいことじゃない、そして私と同じになるといい!!」

奴が立ち位置をずらして俺が逃げやすいように道をあける

俺はもう一度後ろで倒れている二人を見る

「……頼む、行ってくれ!!」

カカシが強い目で言う、同意するようにリンも頷く

俺は俯きながら一歩を踏み出す、奴の示した逃げ道の方へ

俺の歩き出す様子を見た奴が狂ったように笑い出す

「うん、うん、うん、それでいい! それこそが正しい姿なんだ!! 君は何も間違っていないよオビト君!!」

確かに奴の言うことは正論だ

誰だって死ぬのは怖い、他人をかばって死ぬなんて御免だ

「ははは、やっぱり誰だってそうなんだよ、自分が大切でなにが悪い!? 悪いわけがない!!」

それに俺のこの世界での目標は生き残ることだ

そのために修行して死にかけたりもした

「仲間なんて邪魔なだけだ、私は死にたくないだけなんだ!!」

カカシやリンだって自分の為に俺が死ぬのは嫌だといっていた

じゃあ逃げてもいいんじゃないか?

「あは、あははは、正しいのは私だ! 間違っているのは木ノ葉の里の奴らだ!! 私は正しい正しい正しい!!」

もしかしたらカカシやリンも殺されないかもしれない…

そんなご都合主義な考えが一瞬でもよぎって、俺は思わず笑ってしまった

奴の横を通り過ぎるとき、ふと聞いてみたいことがあったので話し掛けてみた

「なあ、あんたにとって仲間って、木ノ葉の里ってなんだったんだ?」

奴は少し考え酷く真面目な表情になりこう言った

「――――――昔は大切な宝物で、今は邪魔な障害物だ」

すとん、と俺のなかの心でパズルのピースがはまったように奴の言っていることがわかった

心は決まった、俺は奴に向かって笑顔で話し掛ける、俺の結論を伝えるために

「わっとわかった、あんたの言ってることは正しいかもな、カカシやリンもそう言っていたし、俺は馬鹿な人間じゃない、だからあんたの言いたいことも十分理解できた、一人で逃げろという提案はまったく正しい合理的な選択だ」

俺の一言で奴の表情が歓喜に歪む、俺という人間に肯定されたことで正当性を得たと思ったようだ、しかし―――


「だが断る!!!」


唖然とする敵の無防備な顔面に俺の全力の拳を叩き込む

バキャアッ!! と骨を砕く音が響き渡る

チャクラで筋力を強化した鉄拳だ、ただではすまない、当然俺の拳もそれなりの損傷を負う

皮膚が破れ、骨が見え隠れする拳の痛みを無視して吹っ飛んでいった奴に駆け寄る

地面に仰向けに倒れた奴の顔は面白いように拳型に陥没し、つぶれた鼻からはとめどなく鼻血が流れている

未だ虚ろな目で動かない奴の襟を締め上げ強引に俺に振り向かせる

「正しい選択肢など知ったことか! カカシやリンの気持ちなど知ったことか!! 俺の中の一番大切な何かがこう言っている、逃げた先の人生など意味がない、お前は真っ黒な『悪』だとっ!!!」

再び鉄拳を奴の顔面にお見舞いする、今度は皮膚だけでなく骨まで砕けたらしく、手の感覚が消失した

吹っ飛んだやつの姿を見ようとして固まった

奴が吹っ飛んだ先、そこにあったのは倒すべき敵の姿ではなく、丸太が一個転がっていただけだったのだから

これは、変わり身の術!

「オビト後ろだ!!」

俺が気がつくよりも早くカカシの大声が聞こえた

しかし時すでに遅く、俺が反応するよりも早く奴の強烈な蹴りをまた背中に受けてしまう

軽く数mは吹き飛ばされ、またしても顔面を地面にぶつけてしまう

「オビト、この大馬鹿野朗! なんで逃げなかった!!」

カカシが怒鳴るが、今は返事をしている余裕などない

頭から血がドクドク流れるのを気にもせずすぐに立ち上がり敵に向き合う

追撃は無く、奴はじっと恨みがましい目で俺を睨んでいた

「……わからないな、君は自分がなにをしているのかわかっているのか? 」

「ぐ、ごほっ、あんたこそ全然わかってねぇな、仲間を助けるのに理由なんかない!!」

クナイを片手にかまえて駆けだし、攻撃を仕掛けるがあっさりかわされる

それどころかすれ違いざまに腹にクナイをグサリ、と深々突き立てられ致命傷を負ってしまう

「っ、ぐぁっ!!?」

「ほら、こうなる、馬鹿だよ君は」

「…そうかもな、げほっ…でも、仲間も助けられないヘタレよりはマシだ!!」

俺はなお諦めずにクナイをかまえる、穴が空いた腹から血がとめどなく流れ出ていく

時間が無い、この出血ではあと十分ともたない!

俺は決死の覚悟で奴と対峙する、どうせ死ぬなら前倒れ、最後まで足掻いてやる!!

「気に入らない、凄く気に入らないぞ、その態度、、その言葉、その目、なんとしてでも覆してやる!!」

叫ぶと同時に敵の懐から数え切れないくらいの大量のクナイが飛び出す

とっさに両腕で防御するが予想していた攻撃はこなかった

それらは落ちることもなく空中にフワフワと浮かびドーム状に俺の周囲に漂っている

「忍法・操襲刃、このクナイの包囲網からは絶対に逃げられない!!」

奴の指がくい、と動くと同時に俺の周囲に浮いていたクナイが十本同時に襲い掛かっていた

「くそっ!」

必死になってかわすが、こう囲まれてしまってはかわしきれない!

両手に三本と背中に四本のクナイが突き刺さる、これではもう両手は使い物にならない

「ぐああああああああ!!」

かつて味わったことのない激痛に悲鳴をあげてしまう

しかし、辛うじて気絶するほどじゃない、手加減されている……

「…はぁ、はぁ、なんの、つもりだ?」

「言っただろう? 君の態度を覆してやると、苦しみもがいて醜い本性をさらけ出せよ!!」


この男、木目クヌギにとって目の前の少年は絶対に認めることができない存在だった

決死の覚悟で仲間を守ろうとする生き方、自身の安全よりも仲間の命を優先する生き方、絶望的な状況においてなお諦めない生き方

その全てが彼にとって眩しすぎる嫌な存在だ

クヌギにとって少年時代は夢、未来、仲間と、希望に溢れた時期だった

同世代の仲間たちと切磋琢磨しあい、協力して困難な任務をやり遂げたときの達成感はなにものにも代えがたいものだった

彼は順調に忍としての実力を身につけ、やがて上忍になってから、彼の人生は180度変わってしまった

格段に危険度のあがった任務、さらに時代は忍び五大国による統治が揺らぎ、各国の国境付近において小国や忍びを巻き込んでの小競り合いや戦争が頻発した時代だったのだ

クヌギは仲間を必死で守ろうとした、それこそ自身の命よりも仲間の安全を最優先に考えて行動した

しかし、次々と死んでいく仲間たち、目の前で一瞬で失われた命、囚われ拷問にかけられ無残な姿で屍になっていた親友、他国の忍びに辱められた所為で心を壊し自害した恋人

運命という名の存在がまるで彼をあざ笑うかのように、次々と彼から大切な存在を奪った

ありとあらゆる死が目の前で繰り広げられ、やがて彼の大切なモノは全て失われてしまった

それでも運が良かったのか、悪かったのか、クヌギは生き残った、生き残ってしまった

しかし、それは以前の希望に溢れ、仲間を守ろうとしたクヌギではなくなっていた

守るべき仲間は亡く、孤独という絶望と守れなかった罪悪感のみを胸に生きる日々

それは地獄と呼んで十分過ぎるほどの苦しみだ

だから彼は逃げた、ありとあらゆるしがらみから

過去の自分、上忍としての自分、木ノ葉の里という守るべき故郷

何も考えず、何も感じず、与えられた任務を機械のように淡々とこなす

率先して危険な任務ばかり担当していれば、そのうち死ねるだろうと確信していたからだ

そんな中で彼が火影邸から禁術書を盗み出したのは唯一の希望に縋ったからだ

まだ、木ノ葉の里にいる三忍の一人である大蛇丸、彼からこう言われたのだ

もし、禁術書を盗み出してくれたら貴方の大切な人を生き返らせてあげるわよ、と囁かれたのだ

もちろん大蛇丸の言っていることは嘘で、死人を生き返らせる術などまだ完成しておらず

たとえクヌギが禁術書を盗み出せても、口封じのために殺す算段だったのだ

しかし彼はその言葉を信じ、火影邸に忍び込んだ

書庫まで潜入し、まんまと禁術書を盗み出したところまでは良かったが、そこで安心したのが失敗だった

ちょっとした油断が警戒心を失わせ、巡回中の忍びに見つかってしまったのである

その忍びは瞬殺したものの、暗部にクヌギの存在がばれてしまい壮絶な逃亡がはじまったのである

戦っても勝ち目はない、たった一つの禁術書を持って逃げるしかなかった

クヌギは必死で逃げた、残ったたった一つの希望を胸に

仲間の復活、それだけを願って全てを裏切って捨てた

だからこそ、目の前の少年が気に入らない

失う苦しみを知らず、孤独の苦しみを知らず、守れなかった者の苦しみを知らず

未だ自分の目の前に立ち塞がり、仲間を守ろうとする存在

この少年は過去の自分と同じだ、彼を見ていると今の自分の姿が酷く醜悪に思えてしまう

だから、だから、だから彼には自分と同じ思いを味わってもらわなければならない!


再び襲い掛かってくる無数のクナイ

その刃、一つ一つが俺をいたぶるように皮膚と肉を引き裂いていく

「うああああ!!」

「君はさっきから仲間を守ると言いつづけているがね、私も昔はそうだったんだよ、大切な仲間を守ろうと必死だった!!」

「ま、なら! なぜこんなことを!!」

「皆死んでしまった、いくら私が守ろうとしても、人にはどうしようもないことがある、そして私は一人になった!!」

「っ!!?」

「知ってるか? 仲間の死っていうのは、呪いと同じなんだ、呪いを解くには自分も死ぬしかない、けど、死ぬこともできない奴は…一生呪われたままだ!! 」

血を吐くように叫ぶ、その姿は俺に対してではなく、自分自身に語りかけているようにも見える

「仲間というものは確かに大切だ、しかし最後に残された者はどうすればいい!? 仲間を死なせてしまった罪悪感と仲間の死を見て理解した孤独という絶望……逃げ出して何が悪いっ!!」

絶望の底を見た者の慟哭、同時に先ほど倍はあろうかというクナイが次々と俺を引き裂いていく

「があああああああ!!!」

「いい悲鳴だ!! もっと鳴け、喚け、惨めに許しを乞え!!」

「ぐ、ち、ちくしょお……!」

意識が遠のく、血を流しすぎたか

フェードアウトしていく世界、最後に見えたのは周囲全てのクナイが俺めがけて飛んでくる光景だった

真っ暗な世界で何の感覚もなく漂うだけの存在感

俺は、死んだのか…?

死んだらどうなるんだろう?

カカシとかリンが殺されちゃうよな…

それは、嫌だなぁ

でも何で嫌なんだろう?

俺、なんでこんなに頑張ってるんだろう

死んだらなんにもならない、そんなのは当然だ

あの世なんかあるかどうかわからないんだから

でも今、死ぬほど頑張ってる、なんでだ?

カカシが好きだから? リンが好きだから?

ちょっと違うような気がする…

この心の奥底から湧き上がってくる感覚は―――

理屈じゃない、仲間を守りたいという感覚は―――

なんていうか、前に先生が言ってたっけ…

これは―――――――――


――――仲間を守る…そう、これが信念だっ!!!


急速に覚醒していく意識、光を取り戻す視界

目の前には視界全てを覆わんばかりの大量の凶刃の群れ

その一つ一つが今の俺を殺すのに十分な威力を秘めた必殺の刃

だが、そんなことはたいした問題じゃない

「俺は『仲間を守る』!! もう迷わない!! やっとわかった信念、死んでも貫き通して見せる!!!」

やることが決まってしまえば、あとは簡単だ

このクナイの群れを何とかする!

あいつをぶっ飛ばす!

それだけだ、俺がやるべきことはそれだけだ!!

どこに残っていたのか、体中に元気が漲っている、今なら空だって飛べそうなほどだ!

「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

極限の集中力を持って凶刃の嵐を避けつづける

前を見る、活路を見出す、全力でかわす

これを繰り返すこと数百回、ついにクナイを全てかわしきる

「ば、馬鹿な…!? あのクナイの数を全てかわしたとでもいうのか!!?」

必殺の空間から抜け出した俺の姿を見て敵が驚く

「―――!! その目は、写輪眼っ!!?」

視線を合わせた奴が動揺しているのがわかる、術を操っていたチャクラの流れが途絶えた

「ああ、そうらしいな、どうやら俺は土壇場で大幅レベルアップしたらしい、さっきまであんたが圧倒的な存在に見えていたが、いまはただの人にしか見えない、これが写輪眼……」

これまで見えていた世界に重なるように別の、あらゆる力の流れが見える

今なら風の流れだって読める、大気を流動するエネルギーがはっきりと理解できるほどだ

「君は、うちは一族の人間だったのか…厄介だな、これを使うか!!」

奴が背負っていた禁術書を開き、自身の腕に巻きつける

「本当は奴が裏切った時のための保険だったんだが、そうもいっていられない状況だ!!」

見たことも無い印を組むが、しかし奴の周囲には一向にチャクラの流れが起きない

おかしい、何も起こらな過ぎる、なにか嫌な予感がする

俺がそう思って周囲に気を配った瞬間、予感は的中した

チャクラの流れ、それは奴の周囲ではなく、俺の周囲で起きていた!!

気が付いたのが遅すぎた、急速に俺を中心に収束していくチャクラ、逃げられない!

体を逸らしせめて直撃を避けようとした瞬間


「禁!!」


一瞬で目の前の空間に現れる漆黒の立方体、俺の左手がその立方体に固められ一切の動きを封じられる

「な、なんだこれ!!?」

手がまったく動かせない、それどころか空中に浮いているだけの立方体がどれだけ力を込めて動かそうとしてもびくともしないなんて!

そして写輪眼によってわかったこと、それはこの漆黒の立方体が実態を待っておらず、そこに存在しないということだけだった

「なんなんだよこれ、見えてるのに存在してないなんて……」

「ほう、もう気が付いたのか、さすが写輪眼だ……そのとおり、それは影結界といってね、その立方体は時の流れを限りなく遅くしただけの『場』なんだよ、空間に存在なんか無いからね、当然動かすことも破壊することもできない」

破壊不能、移動不能、脱出不能、それは最強の拘束術ということだ

時の流れを停止させるなどという天地の理に反する事象を引き起こし

離れた相手を一瞬で拘束する、反則ワザみたいな術だな…

さすが禁術、と俺が関心している暇も無く奴が歩み寄ってくる

俺の目の前に立ち、じっと見下ろしてくる

「私は正直、君は殺すつもりは無かったんだが……そうも言っていられない状況らしい、なっ!!」

ドスッ、と傷ついた腹に強烈な鉄拳が叩き込まれる

「がはぁっ!!」

衝撃に肺から全ての空気が吐き出され、呼吸ができなくなる

「動きを封じられ、ただ私から殴られるだけの君に彼らを守れはしない!」

ドスッドスッドスッ、何度も続けて叩き込まれる拳、すでに吐き出せるものは息ではなく赤黒い血だけだ

「たとえ写輪眼をもっていようとも、今の君は無力なガキだ、もう一度いう、君は誰も守れはしない!」

ドスッドスッドスッドスッドスッドスッドスッドスッドスッ、もう、俺の感覚などとっくに無くなってしまった

口から溢れるのは鉄錆の血の味のみ、俺の体のどこにこんなに血があったんだろうか

すでに足元には結構な大きさの血の水溜りができていた

「君を殺したら、そこで倒れている彼らも殺そう、一緒にあの世で仲良くするといい、せめてもの慈悲だ」

奴のその言葉に、俺の意識が再び覚醒する!

腹に叩き込まれる寸前で奴の腕を残った右手で掴む

「ふ、ふざけんなよ……こっちこそ何度でも言ってやる……俺の仲間は、傷つけさせねぇっっ!!!

ばきぃっ!! 握力だけで奴の腕の骨を折る、しかし無茶な筋肉の使いかたした代償に手の筋が全て断裂した

「がぁっ!? な、なんだと、どこにそんな力が!!」

奴が俺の手を振り切りいったん距離をとる

クナイを取り出し遠距離から仕留めようとしているのか

だが! その一瞬で十分だ、俺は既にアンタの術を理解している

「アンタの失敗は俺に得意げに禁術の説明をしてくれたことだ、おかげで影結界の術、完全にコピーできたぜ!!」

俺は筋が切れた片手にチャクラを強引に流し込み最低限動かせるだけの回復を図る

リンやシズネには遠く及ばない拙い治療術だが、それでもあと数秒だけ動かせれば十分だ!

ぷるぷる震える手でなんとか印を組む、術が理解さえできれば解除することもできる、最小の印を組むだけでな!!

「な!? 片手の印だと!? こいつ片手で禁術を!!」

印を組むという行為はプログラムを走らせる行為と同じだ、発動条件さえ満たせば結果はでる

俺は多少のアレンジを加えながら印を完成させると、二本指を立て叫ぶ


「解!!」


瞬時に霧散する漆黒の立方体、解術は成功だ、忍術コピーは完全に成された

もはや俺にこの禁術・影結界は通用しない!

「アンタの負けだ、男には絶対に逃げちゃいけないことがある、アンタはそれから逃げた、だから俺には絶対に勝てないっ!!」

残った左手で奴を指差し宣告する、既に両手は戦闘に耐えうるものではないが、俺に負ける気は一切ない!



[706] Re[6]:うちはオビト異聞録
Name: あかねこ◆bd62e8cf ID:faa5a411
Date: 2007/06/08 03:13
「ふざけるな! その体で何ができるというのだ!! お前は誰も守れやしない、自分自身さえな!! さぁ死ねぇっ!!!」

クナイを全力で投擲してくる敵、写輪眼のおかげか的確に俺の眉間を狙っているのがよくわかる

さっきまでの俺なら抵抗もできず殺されていただろうな、だが今は違う!

ガキィッ、と飛んできたクナイを歯で受け止める

その姿に奴が驚愕する、隙ありだ、この好機にがさない!

クナイを咥えたまま全力疾走する

すぐに正気に戻った敵が手裏剣やクナイを無数に投げてくるが、全て見切っている俺にあたる道理はない!

最小の動きでかわしながら足にさらなる加速を加えて駆ける

その時、クヌギにはオビトの背後に仲間を守ろうとする鬼の気迫を幻視した

「なんでこんなに強い!? たかが下忍のガキが私をどうしてここまで追い詰めるんだっ!!?」

吼える敵、その理由は知っているはずだ

お前が捨てたものを、俺は捨てなかっただけなのだから!

ついに奴の懐にたどり着く

ピタ、と心臓に位置する胸の部分にクナイを押し当てる

これで勝負がついた、そういう意味を込めて俺はクナイを押し当てた

視線のみで奴と俺が交差しあう、奴の敵意に満ちた目はやがて閉じられ

「…私の負け、か……まあ、それでもいいか……これで、やっと…楽になれる…」

何もかも諦めたような口調で奴が敗北を口にした

俺はクナイを押し当てたままの姿勢で動かない、いや動けない…

「…どうした、私にトドメを刺さないのか?」

先ほどとはうってかわって奴は穏やかな表情になって俺を見つめてくる

まるで俺の内心を見透かすような穏やかな口調で奴は語りかけてきた

「そうか…君は死ぬ覚悟も、守る覚悟もできたけど、まだ殺す覚悟はできていないんだな……」

ああ、そのとおりだ、俺にあんたは殺せねぇよ!

怖いとか恨まれるとかじゃない、あんたが哀れすぎて殺せない

だってそうだろう、仲間を守れず時代に裏切られ、自分自身しか残らなかった男なのだから

「私はもう疲れた…君は優しいね…だが、それは大きな弱点だ…最後にそれを教えて逝くとしよう…それがせめてもの罪滅ぼしか…」

とても穏やかな笑顔で、奴は一歩前に踏み出す

押し当てていたクナイがズブズブと奴の胸に突き刺さっていく

「っ!!?」

俺が慌ててクナイを引き抜こうとすると彼が俺の頭を両手で抑えてそれを阻止する

「君は…私のようには、なるな…仲間を守るということは……敵を殺すということだ…よく、覚えておくんだ…」

俺は奴の胸にズブズブを沈んでいくクナイの感触を感じながら

「私は…やはり駄目だったなぁ……すまない…アゲハ……最後に君に、会いたかった…」

彼の最後の言葉を逃すまいと耳を傾ける、そして彼は俺をしっかりと見つめ

「くく……やはり…守るものがある奴は………強い……私の、守れなかった分も…頼むよ……オビト君…」

その言葉を最後に男は崩れ落ちた

俺は男の血で真っ赤に染まったクナイを口から落とし

俺は目を背けず、目の前に横たわる男の亡骸を記憶に刻み付ける

仲間を守れず絶望した男

俺が始めて殺した男

俺に命をかけて守ることを教えてくれた男

俺に希望を託して逝った男

もしかしたら、俺の未来の姿になるかもしれない男の最後だ!

これが、必死に生きた男の最後だ!!

複雑な感情が渦巻き、今自分が怒っているのか、悲しんでいるのか、それとも喜んでいるのかよくわからない

ただ一つだけ言える事があった

俺は、この男を一生忘れることはないだろうと…






あの後、駆けつけてくれた先生に助けられ俺たちはすぐに病院に運ばれた

三人全員が重症で、俺にいたっては死亡寸前、再び全治三ヶ月の入院である

シズネに抱きつかれてワンワン泣かれるし、怪我がいてぇし散々な目にあった

ただ、悪いことはそれだけでは終わらなかった、カカシ班の独断先行についてだ

偶発的とはいえ格上の抜け忍に遭遇してとるべき正しい行動はいったん退却して里の上忍に知らせることだ

しかし俺たちは、勝手に戦ったうえに捕縛するはずだった抜け忍を殺害してしまったのだ

特に俺に関しては禁術までコピーしてしまったので処分すべきだ、なんて意見まで出たらしい

それらの意見を全て封じてくれたのは先生と綱手さまだった

先生が理論的に俺たちを弁護してくれて、綱手さまがあのド迫力で脅す

その場にいたシズネ曰く、一発で皆が黙ってしまったそうだ

その光景はさぞ壮観だったにちがいない、是非見てみたかったものだ

そんなこんなで、一応お咎めなしとなった俺たち

カカシやリンは一ヶ月ほどで退院できるらしく、なんかちょっと理不尽なものを感じたけど

ともかく即日入院、絶対安静と診断されてしまった、明日から本格的な治療が始まる

今日のところは包帯ぐるぐるで病室に寝ていることになるのだが俺にはちょっと気になることがあった

隣のベットに寝ているカカシである、彼にちょっと聞いておきたいことがあった

「なあカカシ、おきてる?」

薄い仕切り越しに話し掛ける、向こうでこっちに気が付いた気配

「………起きてる」

「ちょっと聞きたいことあるんだけどいいか?」

「なんだよ?」

「お前さ、人殺したことあるか?」

「………ある…」

「そっか…、俺さ、今日始めて人殺ししちまったじゃん、でも…あんまり何も感じないんだ、怖いとか悲しいとか…」

「………俺の時は…怖くて眠れなかった…」

「うん、普通はそうなんだよな、俺どっか壊れちまったのかな……」

「……いや、きっとオビトは覚悟ができたんだろう、殺す覚悟が、な」

「…そっか、あいつも同じこと言ってたな、うん、そうなのかも知れない……」

「俺も聞きたいことがある」

「ん? なんだよ、改まって?」

「お前、なんであの時逃げなかった…お前だって、絶対死ぬとわかっていただろう!」

「うーん……なんていうかさ、あの時わかっちまったんだよ、命よりも大切なことが」

「なんだよそれ?」

「こっぱずかしいから絶対言わん、特にお前にだけは言うわけにいかん!」

「な!? 卑怯だぞそれは!!」

「なんと言われようと言わんぞ、そうだな、カカシが上忍にでもなったら教えてやるよ」

「言ったな、絶対だぞ! 約束だからな!! 忘れるなよ!!」

「ハイハイ、頑張って最年少上忍でもめざして下さい、注目のルーキー君」

「くっ、もう寝るぞ!」

「あい、お休み」


軽い口調で返事をしながら、俺は静かに今日のことを思い出していた

今日はなんとか守ることができた、でもたまたまだ

幾つもの偶然と運が重なって奇跡を起こして全員生き残ることができた

もし、俺たち全員があの時の爆発で死んでいたら

もし、俺が写輪眼を覚醒できなかったら

もし、先生がすぐに駆けつけ助けてくれなかったら

今日だけで数え切れないくらいの『死』の可能性が満ちていた

何がうちは一族だ…何が写輪眼だ…

リンもカカシも何一つ守ってやれなかった…

俺の力なんてのは結局なんの役にも立ってねえじゃねえか!

このままではいつか必ず誰かが死ぬ

俺は、強くならなくてはいけない

もっともっと強くならなくてはいけない!

もう誰にも悲しい思いをさせなくてすむような !!

大切なもの、全部を守れるくらい強い漢にならなければならない!!!


この日から、うちはオビトの本当の戦いの日々が始まった

己の『仲間を守る』という信念を貫くために

強さを求め、知識を求め、守る力を求める

こうして彼は修行に励む日々を過ごすことになる

そして、あっという間に四年の月日が流れ、うちはオビトは13歳になった


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