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[710] 僕の生きる道
Name: ネメ太郎
Date: 2006/06/10 14:13




正直な話、同じような日々を繰り返すのに飽きていたのは確かだ。



大学とバイト。それだけで一日が終わってしまう……そんな生活にウンザリしていた。



だからこそ、刺激を求めていた。



…求めていたよ。……求めていたさ。けどさ、何で? 何でなの?







「何で牢屋なんかに入れられてるんだよー!!」











「僕の生きる道」










ちきしょう、落ち着け、落ち着くんだ俺。叫んだ所でこの状況がかわるわけじゃない。



あれだ、こんな時こそ深呼吸だ! 目を閉じて、ゆっくりと深呼吸するんだ!



「スゥーハァースゥーハァー」



よく考えれば分かることじゃないか。



「スゥーハァースゥーハァー」



牢屋=犯罪を犯した人がいる所。



「スゥーハァースゥーハァー」



俺=小心者+自称善人=牢屋とは無縁。



「スゥーハァースゥーハァー」



結論、今見たのは夢。そう、牢屋なんて夢だ!



よし、夢だと分かったらだんだん落ち着いてきたぞ。



最近疲れてたからなー それが原因で変な夢を見ちゃったんだな。



夢と分かれば怖いものなし! 大丈夫、目を開けば少し散らかってる自分の部屋のはず!



という訳で、 両目オープン。







……



………



まず目に入ったのは鉄格子。少し錆びてる所がいい感じたね。



その次、隅にあるトイレ。うん。薄汚れた感じか哀愁をただよわせるね。



そして、壁にある蝋燭。 この薄暗い部屋を、暖かな火で照らしてくれてるね。



薄暗い部屋+鉄格子+部屋に備え付けのトイレ=俺が考えてる牢屋に該当する物。



結論







「弁護士を呼んでくれー!」







その叫び声は、今まで生きてきた中で一番の叫びだった…














弁護士を呼んでみて、二時間くらいたったのかもしれない……結局誰もこなかったが。



さすがに、それだけの時間が立てば少しは冷静に考えれるようになった。



最初はまだ夢だと信じ、頬をつねったりしてみたが痛いだけだった。



自分の異変に気づいたのはトイレに向かう時だった。何故か視点を低く感じるのである。



まさか、某名探偵みたいに薬を飲まされて子供になり、挙句に拉致られた? なんて馬鹿なことも考えた。



だけど、その馬鹿な考えは若干であるが当たっていた。





「な、なんじゃこりゃー!!」





無いのである…



大切な物を守るジャングルが…



生まれたときから共に成長してきたアレも悲しいことに…



「ウソだ…ウソだと言ってくれ! 何でお前そんな姿に!?」



自分のアレに向かって叫ぶ人間。これでは唯の変態だな~



…って、そんな冷静に考えてる場合じゃない!



手とかも小さくなってるし、背も低くなってる。



「ちきしょう、どうなってんだよ。マジで薬飲まされたとか?」



考えても考えても分からない事だらけだった。







「まぁ。手でも洗っておくか…」



言いたくは無いが、小さくなった体に戸惑いを隠せない俺は、少し手に掛かけてしまったのであった。



トイレの横に備え付けられている洗面台。ありがたい事に多少割れているが鏡もある。



自分がどうなっているか確認できるな~と思っていたが、鏡を見てまた悩みの種が増えることになった



「誰?」



見た目は五、六歳だと思う。



髪は白いし、眉間のあたりに赤いアザみたいな丸が二つある。



自分の子供の頃とは違いが多すぎる。というか他人だ。



この時点で、薬を飲まされて子供になったっていうありえない可能性は否定された。







いろいろ考えてみたが、やっぱり分からない事だらけだ。



牢屋にいるし、知らない子供になってる俺……もしかして、ドッキリ? いや、牢屋だけならまだしも、知らない子供って言う時点でドッキリじゃないな。



まさか異世界憑依系の小説みたいな感じだったりして?



それはそれで、面白そうだなぁ~なんて考えてた。











「君麻呂」





声が聞こえた方を見ると、格子の外から俺の方を見て話してる男がいた。



いつの間に来たんだ? 足音とかしなかったけど……待てッ! そんな事に驚いてる場合じゃない!



「お前か拉致犯は! 俺を早く元に戻せ!」



「出ろ。標的は水の国だ」



知らない男はそう言いながら格子の鍵を開けてどっかに行ってしまった。







……



………はい。見事に無視されました。



これでもか! というぐらいの無視ッぷりに脱帽だね。拍手、パチパチパチパチ……って違う! 拍手してる場合でもない!




「おじさん、カムバッーク!」



…叫んではみたものの、戻ってくる気配は無かった。







さて、どうしよう? とりあえず外には出られるようになったけど…



そういえばあの男、俺に向かって「君麻呂」って言ったよな。



君麻呂ってあれだよな? NARUTOに出てきたキャラじゃなかったっけ? 「霧隠れの里」とかも言ってたし。



な~んだ。NARUTOの世界か…それで、俺は君麻呂に憑依してるわけか…







「そんな簡単に納得できるかぁぁぁ!!」







神様、もしかして俺のこと嫌いですか?





















あとがき

初めてのSS、初めての投稿です。

変なところとかあるかもしれませんが、よろしくお願いします。




[710] Re:僕の生きる道
Name: ネメ太郎
Date: 2006/06/10 14:15



重大なことに気がついてしまった…


憑依系ってやつ?


そう、今自分は君麻呂なんだ。


なのに、お約束の事をやってない事に…


あの有名なセリフを言ってない事に…


とりあえず上を向かなきゃ。天上見なきゃできないからね。



「知らない天井だ…」



自分で言っといてなんだけど、知らないってのは間違いの気がする。


ここはNARUTOの世界で、自分は君麻呂。今いる場所は牢屋、というところまでは分かっているのだから。


けど、まぁ気にしないでおこう。


そんな事を気にしてるほど、今の自分には余裕が無いのだから…


とりあえず外に出るか。ここに居たって何も始まらないからね。



そういえば、君麻呂ってどんなキャラだったっけ?


外に出るまでに、とりあえず自分の知ってる事をまとめてみるか。


え~と、名前は君麻呂。うん、これは間違いない。というか、間違ってたらこれから思い出すのはすべて無駄になるし。


実力は結構あったと思う。骨を操る血継限界を持ってる一族(名前なんだっけ?)の生き残り。


顔も良かったと思う。これはラッキーとしか思えないね。念願の彼女ができるかもしれないし…


誰がいいかな?
  

サクラ、いの、ヒナタ、テンテン。 若さがあふれてるね。


年上に目を向けてみると、アンコ、紅、シズネ、綱手。 お色気たっぷり。


……何というか、ハーレム?


はっ、いかんいかん。かなり話がそれてしまった。アホな事を考えてる間にもう外が見えるじゃないかか…





外に出ると結構な人数が待っていた。お出迎え? と思ったけど違うらしい…


多分この場所は、村か何かの広場なんだろう。少し離れたところに何軒か家が見えるし。


周りを観察してると、近くにいた人から声をかけられた。


「遅かったな」


誰? と思ってよく見たら、牢屋の鍵を開けてくれたおじさんだった。


とりあえず、遅かったらしいので謝っておいたけど…何なんだろう、変なのだ。


いや、おじさんが変なわけじゃないが、周りの雰囲気が変なのだ。


全部で30人ぐらいはいるだろうか? それだけの人たちが月明かりの照らす中集まっているのだ…それだけならいいかもしれない(よくないけど)、一人だけ、この集団の中で一人だけ目立つように、広場の中心にある大きな岩に立っているのだ。


みんな、その一人に注目している。


空気がピリピリと緊張しているというのはこういうことなのだろう。


そんな雰囲気をものともせず、岩の上の男は口を開いた。


「……全員集まったようだな……」


話し始めのタイミングからして、どうやら自分が最後の一人だったらしい。


「……ついにこの時が来た……我ら…かぐや一族が至福を感じる時……」


いきなり話し出したと思ったら、かぐや一族の至福って……何至福って? いきなり至福とか言われても……


ん? かぐや一族?  そうか、一族の名前かぐやだった。思い出した思い出した。


でも、かぐや一族って事は『かぐや君麻呂』がちゃんとした名前になるのかな?


「……血飛沫の中で我らは踊り……悲鳴の中で我らは歌う……」


拳を握り締めながら危ない事を言う人って……


あれ? そういえば、かぐや一族って何で滅びたんだっけ?


「……戦いの……殺戮の中でこそ輝ける我ら……」


そうだ、たしか水の国に攻撃しかけて、霧隠れの里の奴等と戦って負けたんだっけ? あれ? それって今回の標的なんじゃなっかった?


まぁいいや。で、たしかその後に君麻呂は大蛇丸に拾われたんだよね……







……



………大蛇丸!?
 


忘れてたよ大蛇丸の存在を……一番忘れちゃだめな人じゃん。


大蛇丸って君麻呂の体が目当て……(表現が卑猥だな)……え~と、そう血継限界が目当てだったよね?


どうしよう……君麻呂、といっても今の俺じゃなく、オリジナルのほうは大蛇丸を崇拝してたみたいだけど……無理、あんなオカマっぽい。というかオカマじゃなくても、あんな超が付く危険人物なんて崇拝どころか、会いたくもない!!



それに、今思い出したけど君麻呂ってさ、不治の病で死んだんじゃなかったっけ?


もう未来絶望的だし……




いや、待て。不治の病、綱手なら何とかなるんじゃないのか?


あの時治療してたのは薬師カブトだったはず。


そのカブトが、綱手ならどうにかできるかも…って言ってた気がする。むしろ、言って無くても言った事にしとかなきゃ希望が持てないし……


後は一族の事とか、病気についての事が書いてある本を見つければ生存率アップだよね? この事も言ってた気がするし…



とりあえず、これからやる事は決まったかな。




生き残るための三ヶ条


 その一 大蛇丸に会わない為にも、霧隠れの里に行かない。


 その二 一族の事や、病気の事などが書いてある本を探す。


 その三 綱手の治療を受けるために、木の葉に亡命する。



まぁこんなところでしょ。



「……さぁ……行こうではないか……」


演説もそろそろ終わりそうだし。


「……水の国を屍で埋め尽くすのだ!」


その言葉が言い終わったのが合図だったのだろうか…周りに居た人たちは、演説を行っていた人を先頭に出発したようだ。



「いってらっしゃ~い」


この言葉は彼らに届かないだろう。木の上をピョンピョン飛びながら、凄い速さで旅立ってしまったのだから…


そして気付いた。もし大蛇丸の事を思い出さず、一族の人たちと一緒に水の国に向かう事になっても、一緒に行かない…いや、行けないだろう。


木の上飛ぶなんて芸当、俺にはできないのだから……





皆いなくなったことだし本を探すか。


目の前には一番大きな民家。で、こういう時やる事といえば一つ。



ゲームでお馴染みの家捜し。



勝手に人様の家に上がりこんで、またもや勝手に人様のタンスや本棚を調べるという勇者? のみに許された行為…


そう、世間一般では犯罪の行為も勇者になら許される。


俺は勇者じゃない…俺がやれば間違いなく捕まるだろう。


しかし、それでも俺はやらなきゃいけない。生きる為に、生き残る為に本を見つけなければいけないのだ……仮に、本を見つける過程で偶然女性ものの下着が見つかっても、それは不可抗力でしかないのだから



「おじゃましま~す」


………


……





うん、誰もいないみたいだね。誰かいても困るけど。


では失礼しまして、家捜し開始~


それにしても広い家だな~ 何部屋ぐらいあるんだろ? 手前の部屋から探してくか…



タンス発見!!


 まずは一番下から…変わったものは何もない。


 二段目…同じく何も変わったものはない。


 三段目…服の下に怪しい袋がある……お金っぽいのをゲットした。


 四段目…あ、あれ? と、届かないじゃないかー!!





もう一時間近くは探してるのかもしれない。


「自分が小さくなってるの忘れてたよ…」


そう呟いた彼の手には、いくつものタンスと本棚を攻略する為に使われたイスが握られていた。


「次で最後の部屋か…」


もう疲れ果ててクタクタだった。


「大体、こんなに探してるのに女性ものの下着が出てくるという、うれしはずかしのトラブルが無いってどういうことだよ!!」


もはや当初の目的とずれていているのかも知れない。


でも、長かった家捜しの旅は終わりを迎えることになる。


「これで下着がなかったらこの家燃やしてやる……」


結論。下着はあったよ、あったけど……


「男物はいらんわっ!!」


投げ捨ててやった。今までの憎しみを込めて…


そして、イスから降りようとしたとき見つけたのだ。


何冊かの本がパンツの下にある事に…


中を見てみたが、何冊かは血継限界を使った技が載っている事は理解できた。


後の一冊が多分探していた本だと思う。 正直、理解はできなかったが、それらしい内容が書いてあるような気がした。


「でも、普通こんなところに隠すか? むしろ隠していたのか?」


まぁいいだろう…見つかったんだから。


今日はこの家に泊まってこう。もう眠すぎるし…




あの家で見つけた本やお金は、同じくあの家で見つけたカバンに入れて持ち歩くことにした。ついでに食料も貰ってきたけど…


問題があった。木の葉の里がどこにあるのか分からないのである。


どっちに向かおうか悩んでいたけど、昨日の夜、一族の人たちが向かった方と反対の方に向かうことにした。


大蛇丸に会う可能性を少しでも減らしたいからだ。





いつのまにか暗くなっていた。一日中歩き続けたのだけど、それほど足や体は痛くなってない。


これは君麻呂の体が凄いのが理由なのかもしれない。多分そうだろう。元の世界の俺じゃ、こんなに長時間歩くなんて絶対無理だから…



「今日はここで野宿か~」


獣が出てきたらどうしよう……


とりあえずカバンを広げ、持ってきた食料と本を一冊取り出す。


片手に食料、片手に本。という状態で本を読んでく。


「あの家で見た時、気になる技があったんだよね~」


本は技の事が書いてある本らしい。

「あった、あった! え~と、名前は十指穿弾(テシセンダン)か…十本の指先より放たれる骨の弾丸。高速回転しながら飛来し、対象物をドリルのようにえぐる」


この技だよ。この技を見たとき無性にやりたくなってしまったんだよね…


何故かって? そりゃあの技に見えたからだよ…


とりあえずできるか分からないけどやってみるか。


チャクラとかいまいち分からないけど、とりあえず指先に意識を集中。


骨が出るのもイメージして…


目標は先にあるあの茂み。


発射。



「俺の両手は機関銃(ダブルマシンガン)!!」



ダダダダダ!!!ダダダダダ!!!



出せた…や、やればできるじゃん俺。もしかして天才!?


ガサッ!!


何?動物かなんか? 悪いけど、今の俺は獣ごときに負ける気しないよ。


そう思って、さっき的にした茂みを見る。



「気配は消してたつもりだけど……やるわねぇ、面白いわあなた…」


………


……





骨は出せるようになった…


けど……出ちゃいけない人まで出てきた……







神様、あなたは僕のことが嫌いかもしれない……でも、今なら言えます。僕のほうがあなたの事嫌いです……






[710] Re[2]:僕の生きる道
Name: ネメ太郎
Date: 2006/06/10 14:21




白い肌。


長い髪。


爬虫類のような目。




「お、大蛇丸!?」


あまりの展開に、つい叫んでしまった。


そう、今俺の前には大蛇丸がいた…いや、いたというよりは、出てきたが正しいけど。



…もしかして、大蛇丸のそっくりさんだったりして?


会いたくない人NO.1の大蛇丸が、そんなに都合よく出てくるわけないしね。


そっくりさんか。ビビッテ損したじゃないか。



「私のこと知ってるのね。それに、さっきの攻撃といい楽しませてくれそうね」


オカマ口調、大蛇丸確定です…


どうしよう、どうしよう、どうしよう!?


逃げる…無理! すぐに捕まるに決まってる!


戦う……もっと無理! どう足掻いたって勝てるわけがない!


謝る……これしかない! とりあえず下手にでて謝っておけば何とかなるかもしれない。



「え~と すいませんでした! お怪我はないですか?」


「えぇ 大丈夫よ。 少し服が破れちゃったけど、あんな所にいた私が悪いんだから…気にしないでちょうだい」


ウソだ! 気にしないで。って言ってるけど、絶対気にしてるよこの人。


あぁ、すっげ~睨まれてるし。


正に蛇に睨まれた蛙?


っていうか早くこの状況をどうにかしなきゃ。



「いや~ まさかあんな所に人がいると思わなかったので。でも怪我がなくてよかったですよ」


ハハハ、と笑いながら言ってみたが無駄だったみたいだ。


俺は見逃さなかった。


大蛇丸の眉がピクッと動いたのを。


そして、よりいっそう睨まれたことを。



「気付いていなかった? 謙遜しなくていいわよ。あなたの攻撃すばらしかったわ。あんなにヒヤリとしたのは久し振りだったんだから」


大蛇丸もそう言って笑っていた。


ハハハという笑いではなく、ニヤリという感じで怖かったが…





沈黙が痛い。


あれから何分経っただろうか…


いや、実際にはそんなに経っていないだろう。


依然、大蛇丸は怪しげな微笑を浮かべたままだ。


つられてこっちも笑っているのだが、若干引きつった笑みになっている。


もう限界だ。


早く逃げ出したい。


そう思っていると大蛇丸が口を開いた。



「あなたのさっきの攻撃、かぐや一族の力よね? 屍骨脈という血継限界を持つ一族の」


駄目だ、攻撃しかけたと思われてるし。


それに、かぐや一族ってことも知られてる。


あぁ、これで俺は何年か後にオカマ丸の新しい体にされてしまうのか…


はぁ~。悲しい、悲しすぎるよ。

 
まだこっちの世界にきて二日しか経ってないというのに、もう未来絶望って…うぅ、考えただけで涙が出てきた。


………


……





あれ、でも冷静に考えれば何年かは猶予があるってことだよね?


その間に大蛇丸より強くなれば…


昔から言うじゃないか。犯られる前に…間違えた。殺られる前に殺れって…


それに、まだ新しい体にされるって決まったわけじゃないし。


…いける! 生きる希望が見えてきた!!


ニヤリ …多分今の俺は、大蛇丸みたいな笑みを浮かべてるだろう。


だが笑わずにはいられない。


生きる希望が見つかったのがこんなに嬉しいなんて…





「聞いてるのかしら? 答えなさい。あなたはかぐや一族の生き残りなの?」


無視されていると思ったのだろうか…先ほどより口調がきつくなっている。


早く答えないと命にかかわるかもしれないな。


さすがに今すぐ殺されるのはいやだし。


「え~と、まぁ一応かぐや一族ですけど」



ニヤリ



まただ、また大蛇丸が不気味な笑みを…と、鳥肌が立ってきた。


「私はついてるわ。もう諦めていたのに、まさか生き残りがいたなんてねぇ」


いや、できれば諦めてほしいんですけど…


そんな俺の気持ちを無視したまま話は進んでく。


「まどろっこしいのは嫌いなの。単刀直入に言うわ。私と共に来なさい」


「あの、断った場合はどうなるのかな~なんて思ってるんですけど…」


「断った場合? そうねその時は」


えっ…き、消えた!?


目の前にいたはずの大蛇丸が…


「その時は、死んでもらおうかしら」


ビクッ!!  いつのまにか大蛇丸は後ろにいた。


俺の両肩に手を掛けて、覗き込むような形で顔は横にあった…


近い、近すぎるよ。


間近で見ると一段と顔が怖いし。


「で、どうするのかしら?」


もう答えは決まっていた。


まだ死にたくないから…


少しでも生きる可能性を高くするために。


「行きます。ついて行きます」


その言葉を聞いてか、大蛇丸はまたニヤリと笑った。


「賢い選択ね。 賢い子は好きよ」


そう言って、頬を舐められた。


あの長い舌で。


強くならなきゃ…貞操問題にかかわる…


そんなことを考えながら、頬を舐められたあまりの気持ち悪さに俺は気を失いそうになっていた…













「それじゃあ、行こうかしら。 ついてきなさい」


そう言って大蛇丸は先に行ってしまった。


…あの、木の上を飛んで移動するなんて芸当、俺にはできないんですけど。



五分ぐらい経っただろうか。大蛇丸は戻ってきた。あきらかに怒った様子で…


「どういうことかしら? ついてくる、と言ったのは嘘だったのかしら?」


恐い、恐すぎるよ。そんな殺気ムンムンで言われても…


と、とりあえず弁明しなきゃ。


「あ、あの…その何と言うかですね。まだ僕は素人みたいなもんでして、その、木の上を移動するなんてできないんですけど…」


「…は?」


多分一生忘れないだろう。大蛇丸のポカーンとした顔を…


あんな顔はもう二度と見れないだろうから…





そして、思い出したくないことが一つ。


移動手段が歩きしかない俺は、大蛇丸におんぶされた…













あとがきというか謝罪


かぐや一族の標的が、霧隠れの里ではなく、水の国そのものという事を教えて頂いたので、編集して直そうと思ったところ、間違えて削除のまま実行してしまいました。すいませんでしたm(_ _;)m



いたらないところだらけですが、よろしくお願いします。






[710] Re[3]:僕の生きる道
Name: ネメ太郎
Date: 2006/06/16 21:34






目の前で人が倒れてる…




血の水溜りを作っていた…




何か喋ってるが聞き取れない…




だんだん動かなくなってきた…




もう息もしていないんだろう…




今、名前も知らない人が死んだ…




ただ…俺の手の中には血に濡れた骨があった。




血継限界の力を使って作った、骨の刀が…





そう、彼を殺したのは俺だ…













二年…大蛇丸に拉致? されてからそれぐらいの月日がたった。


その間、ただひたすらチャクラや戦闘技術について学んだ。


そして、今も大蛇丸と組み手をしている。


まぁ、組み手といってもこちらの攻撃はまったく当たらず、一方的なものになってるが…



「椿の舞!!」


今、自分が使える技の中でもっともスピードのある技。


骨の剣を作り出し、高速の乱れ突きを放つ…


けれど、大蛇丸は動かない。


たいした動きも見せず、右手に握った草薙の剣でそのすべてを弾いていく。


(くそっ、かすりもしないじゃないか!)


大蛇丸は無駄な動作はいっさいせず、もう何分も防ぎ続けている…


(一本でだめなら二本で!!)


そう思い立った君麻呂は、己の体内で新たな剣を精製し、肩口から抜き取り一気に切りかかった。


だが、その攻撃もすべて無駄に終わる…


「悪いけど、今度はこちらから行くわよ…」


今まで防戦一方だった大蛇丸が攻撃を仕掛けてきたのだ。


君麻呂が踏み込むのと同時に振り下ろした剣を、大蛇丸は草薙の剣で打ち返した。


鍔迫り合いの形になり、君麻呂は勢いに任せて押し込もうとするが、体格差、力の差もあり簡単に押し返されてしまう。


体制の崩れたところに大蛇丸の剣が打ち下ろされた。


何とか避けようと、君麻呂は体を捻ろうとした。しかし、体制も崩れていたこともあり避け切れそうにない。


攻撃をもらうことを覚悟して、両腕の皮膚の下に最高密度の骨を精製し、攻撃の軌道上にある頭をガードする。


しかし予想していた攻撃はこなかった。大蛇丸は草薙の剣の軌道をかえ、無防備な足を払うようにして攻撃してきたのだ。


「ぐっ!!」


切られた…だが、完璧なタイミングで切られたにもかかわらず出血は少ない。切られたのはズボンと、皮一枚程度。


避けたわけではない…ただ単に大蛇丸がそうしただけだ。余裕、という事だろう。


(毎度毎度やってくれる…)


君麻呂が剣を握りなおし、再度攻撃を仕掛けようと思ったとき大蛇丸は先ほどの場所にはいなかった。


大蛇丸は少し離れたところにいた。こちらが体勢を立て直すのを待っていたのだろう。


距離にして5、6メートルというところだろうか。それだけの距離をおいて二人は対峙していた。


「行くわよ」


先に仕掛けたのは大蛇丸だった。短い掛け声を発し、君麻呂に切りかかる。


君麻呂は動かなかった。まるで、先ほどの大蛇丸のように…


しかし、先ほどとは違った。大蛇丸の振り上げた剣があたる直前、君麻呂の体から無数の骨でできた刺が突き出てきたのだ。


「唐松の舞!」


攻撃にも防御にも使える優れた術である。そして、敵の突進攻撃にあわせてこちらの威力も増すカウンター攻撃としても使えるのが、この術の利点だ。


唐松の舞は大蛇丸を捕らえたかに見えた…いや、捕らえてはいた。ただ、当たったはずの大蛇丸はボンッ! という音を残して消えてしまった…


「影分身……?」


「そうよ…風遁・大突破」


その声が聞こえたのと同時に、古い小屋なら倒壊してしまいそうなほどの強烈な風が君麻呂を襲った。


突如として発生した突風に耐えるすべなどなく、君麻呂は難なく吹き飛ばされた。


(これが大蛇丸との力の差か……多分大蛇丸は十分の一も力を出していないだろう。それでも、手も足も出ないなんて…)


そんなことを考えながら、君麻呂は意識を手放した。















前回大蛇丸と組み手をやってから一週間が経とうとしていた。


今日俺は、大蛇丸に呼び出されて広間に来ていた。


この広間は小規模の戦闘なら行える程の広さがある。前に大蛇丸と組み手をしたのもこの部屋だったりする…


(それにしてもなんだろう? 戦闘訓練の為に大蛇丸に呼ばれることはあったけど今回は雰囲気が少し違ったし…)


………


……





(ま、まさか愛の告白とか…)


想像中…想像中…


大「実はあなたの事が好きなの、君麻呂」


君「えぇ、僕もです大蛇丸様」


大「うれしいわ君麻呂 でも、でもね君麻呂。 私とあなたとでは歳が離れすぎてる。あなたが大人になった時、私はもうおじい…おばあちゃんなの。それでもいいの?」


君「それでも愛し続けます」


大「ダメ ダメよ! やっぱりあなたには私より若くてきれいな人が見つかるはずだわ」


パンッ!

 
大「痛いっ! 何をするの!?」


君「愛に歳の差なんてない! そう教えてくれたのは貴方じゃないか!」


大「そ、それは…」


君「それとも僕を好きって言ったのは嘘だったのか!?」


大「違う! 嘘なんかじゃないわ! わ、私は本気で貴方の事を…」


君「なら何も迷う事なんて無いじゃないか! 僕は君が好き 君は僕が好き 二人が一緒にいる事に、これ以上の理由なんてあるかい?」


大「そう…そうよね…私どうかしてたみたい。 愛があればどんな壁も乗り越えていけるわよね」


君「当たり前じゃないか… 僕たち二人に超えられない壁なんて無いさ」


大「君麻呂…」


君「大蛇丸…」


………


……







オエェ




じょ、冗談で想像なんてするんじゃなかった。は、吐き気が…


「待たせちゃったみたいね」


ビクッ!


「い、いえ全然待ってませんよ」


ハハハと笑いながら言ってみたが…いかん。顔を見ただけで強烈な吐き気が…


「そう? まぁいいわ。 今日はねちょっと趣向を変えて彼と戦ってもらうから」


彼? そういえば大蛇丸の隣に誰かいるな…誰だろう?


とりあえずその彼とやらだが、別にこれといった特徴は無く、今は大蛇丸と話している。


約束がどうのこうのと聞こえたが、まぁ自分には関係ないだろう。







「準備はいいわね?」


その問いに君麻呂と相手の男は無言でうなずいた。


男はクナイを構え、君麻呂は骨の刀を構える。


先に仕掛けたのは男だった。


振り下ろされたクナイを避けつつ君麻呂は胸中でひとりごちた。


(遅い…普段大蛇丸の相手しかしてないからそう感じるのか?)


男は打ち下ろしたクナイを今度は振り上げるように攻撃をしてきた。


だがそれも簡単にかわされてしまう。


男はまたもかわされた事にに焦りを覚えつつ、再度クナイを振り下ろした。


振り上げと振り下ろしを比べた場合、振り下ろしの方が圧倒的に速い攻撃となる


だがその攻撃さえも、君麻呂は半身を動かすだけでかわし、すれ違い様に男の甲を突き刺した。


男の持っていたクナイは床に落ち、男は悲鳴を上げうずくまる。


そして、その首に剣を突きつけた。


「俺の勝ちだね…大蛇丸様、終わりましたよ」


少し離れた場所にいる大蛇丸にそう言ったが、予想外の返事が返ってきた。


「まだよ…」


「え…? でももう勝負はついてますけど?」


「まだ、彼は生きてるじゃない…殺しなさい…」


殺す…殺すって俺が…?


なんで? もう勝負はついてるじゃないか…


「君麻呂、あなたは強いわ…けれど、どの忍びよりも弱い。 殺す覚悟のない忍びが生きていけるほど、忍びの世界は甘くないわ」


殺す覚悟…そんなのあるわけがない。


元居た世界では殺し、というものはあった。


戦争で何千、何万という人だって死んでるだろう。


でも、それは全部テレビの中でおきている事だった。


自分とはまったく関係の無いところで人は死んでいった。


けど、今は自分が当事者になっている。




あああぁあああぁあ!!




突如、獣のような雄たけびが聞こえた…発生源はうずくまっている男。


男はクナイを握っていた。先ほど刺されたのとは反対の手で…


(くっ! 間に合わない)


殺られる…君麻呂はそう思った。


だが、実際にはその男のクナイは君麻呂を捕らえることはなかった。


男のクナイが突き立てるよりも早く、大蛇丸が男に剣を突き立ててたからだ。


「迷っては駄目よ君麻呂。迷いは隙を生み、隙は死を生む… 今ので良く分かったでしょう…? 死にたくなければ殺しなさい…貴方にはそれだけの力があるのだから」


それだけ言うと大蛇丸は立ち去ってしまった。




目の前には男の死体。


もし大蛇丸が手を出さなければ、こうなっていたのは君麻呂だろう。


目の前の男のように血を流し、息をしなくなって、そして動かなくなる。


君麻呂は震えていた…純粋な恐怖に。死という恐怖に…


(俺はまだ死にたくない…)









元の世界に居たとき、自分の命で誰かが助かれば良いと思っていた。


自分が犠牲になって誰かが助かれば…なんて馬鹿なヒーロー精神をかっこいい格好いいと思っていた。


だが、現実はそんなんじゃなかった。


死に直面したとき、そんな考えをもてるほど俺は強くなかったから…


だから、俺は他人を犠牲にしてでも生きたいと思った。


他人を殺してでも生きたいと思った。


あれから三日後、俺は初めて人を殺した……













そして今日もいつものように大蛇丸と組み手をしている。


人を殺したのにも関わらず、これと言った戸惑いも感じる事は無かった。


人を殺したのよりもショックな出来事が起こったからだ。


できれば二度と思い出したくない…


あの日、金縛りの術で身動きが取れなくなった俺に、不気味に笑う大蛇丸が近づいてきた。


や、犯られる!! 俺はそう思い、死を感じたときより震えていた。


嫌がる俺に徐々に近づいてくる大蛇丸。


そして、その距離がゼロになった時、大蛇丸はやわらかな俺の首筋にカプッと……そう、呪印をつけられた。





















あとがき


初めて戦闘シーンを書きました……いや、あれですね。下手すぎて戦闘シーンと呼んで良いのか分かりませんけど^^;

うまく書ける方法とかありましたら教えてください。

次回は、音の四人衆を出す予定ですけど、原作キャラ全然出てきてないですね。

それでは、ご指摘、感想等ありましたらよろしくお願いします。



[710] 外伝? 私の生きる道
Name: ネメ太郎
Date: 2006/06/13 15:43




鬱陶しい…


あたりに立ち込める血の匂いが…


あたりを埋め尽くす死体の山が…





イラつく…


計画が白紙になってしまった事が…


求めていたものが消えてしまったことが…





血の匂いは好きだ…


それでも、今は不快にしか感じない…


死体は見慣れている…


それでも、今は目を背けたかった…





計画が白紙になった…


かぐや一族を引き込むという計画が…


消えてしまった…


かぐや一族そのものが…





私の名は大蛇丸…


永遠を求めるもの…


私の名は大蛇丸…


最強を欲するもの…


私の名は……









ついてない。その一言で終わらせればいいのかしら?


私が求めていた物は、死体の山となって転がっている…


なぜ? そう思ったが簡単なことだろう…


いくら優れた能力を持つ者でも…


いくら優れた血継限界を有する一族でさえ…


相手の圧倒的な数には勝てなかった…そういう事なのだろう。





「馬鹿な一族ね…」


思わずそう呟いてしまった。


彼らは分かっていた筈だ…自分たちが勝てないという事に。


それでも、挑まずにはいられなかったんだろう…


彼らは戦いを求める一族なのだから…



もし、一日でも早く私が行動していたら、彼らを引き込めたかもしれない…


もし、彼らが一日でも遅く戦う日をずらしていたら…




「馬鹿なのは私ね…」


『もし』なんて言ったらキリがないのだから…


それだけ思うほど、私はかぐや一族の力を求めていたのだろう…





戻るとしましょう。


もうこの場所には用はないのだから…







森の中を移動中、人影を見つけた。


「子供?」


別に普段なら気にも留めなかっただろう。


でも、何故か今日は目に留まってしまった。


そして、何時の間にか私は観察していた…茂みに隠れてまで。



「何をしてるのかしらね? 私ったら…」


自問自答だった。


気配まで消して、本当になにをしてるんだか…


気付かれる事など絶対に無いというのに


そう思って少年を見たとき、その少年の雰囲気が変わった…


「何かしら?」


少年はこちらを見ていた。


年相応のつぶらな瞳で…


そして、その小さな両腕をこちらに向けて…



まさか気付かれた!? いやありえない。


あんな少年が自分に気付くなど。


だが、その考えは一瞬で覆された。





「俺の両手は機関銃(ダブルマシンガン)!!」


ダダダダダ!!!ダダダダダ!!!



「なっ!?」


少年の指から放たれた十の弾丸。


油断していた…まさか攻撃を仕掛けてくるなんて…


少年から放たれた弾丸はすべて私に向かっていた。


そのほとんどが、一発でもあたれば致命傷になる場所に…


ちっ! 完全に避けきれない!


……





何発かかすってしまった。


やってくれるじゃないの…


「気配は消してたつもりだけど……やるわねぇ、面白いわあなた…」



「お、大蛇丸!?」


私を知っている?


どういう事かしら…


一応、私は伝説の三忍の名で知れ渡っているけど…こんな子供が知っているなんて考えにくいわね。


「私のこと知ってるのね。それに、さっきの攻撃といい楽しませてくれそうね」


そう、私を知っていることも問題だが、それより重要なのは攻撃の方だ。


気配は完璧に消していた。


それなのに彼は狙ってきた…私の頭や心臓といった急所を。


なにより、彼が放ってきたもの…多分あれは骨だろう…


つい先ほどまで滅んでしまったと思っていた一族の力だ…



「え~と すいませんでした! お怪我はないですか?」


「えぇ 大丈夫よ。 少し服が破れちゃったけど、あんな所にいた私が悪いんだから…気にしないでちょうだい」


…変な子ね。攻撃を仕掛けておいてこちらの体を気遣うなんて…


「いや~ まさかあんな所に人がいると思わなかったので。でも怪我がなくてよかったですよ」


人がいると思わなかった。ですって…


よく言うわ…あれだけ完璧に私を狙ってたというのに。


それに、この私を前にして笑うなんて…


こちらを油断させる気かしら?


だとしたら、侮れない子ね…



「気付いていなかった? 謙遜しなくていいわよ。あなたの攻撃すばらしかったわ。あんなにヒヤリとしたのは久し振りだったんだから」

本当に久し振りだった。


掠っただけとはいえ、この私が攻撃を受けてしまったのなんて。



フフフ…



何故だろう…笑みがこぼれてしまった。


らしくない…分かってはいるが、やはり笑ってしまう。


多分、私は嬉しいのだろう…


攻撃を受けて殺したいはずなのに…


何故だろう…笑みを止められない。



「あなたのさっきの攻撃、かぐや一族の力よね? 屍骨脈という血継限界を持つ一族の」


そう、これが笑みを止められない理由なのだろう。


彼が、目の前の少年が、私の求めていたもの…かぐや一族の可能性がある事が。


………


……





どういう事かしら?


私の出した質問にも答えず、いきなり泣き出したと思ったら、今度は笑い出してる。


理解できないわね…

 
それにしても、この私を前にしてこれだけの行動をするなんて。


よっぽど余裕があるのかしら?


それとも、ただの馬鹿?


いや、馬鹿ということは無いわね…あれだけの攻撃をしてきたのだから。


ならやはり、それだけ自分の力に自信をもってるんでしょう…


なめられたものだわ。





「聞いてるのかしら? 答えなさい。あなたはかぐや一族の生き残りなの?」


若干の殺気を混ぜながら言ってみた。


どう答えるのかしら? 楽しみね。


まぁ多分攻撃という答えが返ってくるでしょうけど…





「え~と、まぁ一応かぐや一族ですけど」


えっ!? 普通に返してきた?


でも…



フフフ…



「私はついてるわ。もう諦めていたのに、まさか生き残りがいたなんてねぇ」


本当に私はついてるわ。

 
だって、一度諦めていたものが目の前にあるのだから…



「まどろっこしいのは嫌いなの。単刀直入に言うわ。私と共に来なさい」


かぐや一族という力。


そして、まだ幼いのというのに先ほどの攻撃…


今から私が育てれば、超えられるかもしれないわね…


あの自来也が育てた彼を…


「あの、断った場合はどうなるのかな~なんて思ってるんですけど…」


「断った場合? そうねその時は」


断らせるわけ無いじゃない。


あなたは、私の大切な駒になってもらうのだから…


だから、少し私の力を見せておいたほうがいいわね。


「その時は、死んでもらおうかしら」


少しだけ本気をだしてみた。


彼の目では追えなかったんだろう…


後ろから覗き込んだとき、彼の顔を見てわかった。


驚きと恐怖の混じった顔を。


「で、どうするのかしら?」


もし断られても殺しはしない。


力ずくで連れて行くだけ。


その後のことはどうにでもできるのだから。



でも、そんな考えは必要なかったみたい。


「行きます。ついて行きます」


彼はそう言ったのだから。


「賢い選択ね。 賢い子は好きよ」


私はそう言って彼の頬を舐めた。

 
舐めたことにたいした理由など無いが、その後の彼の顔は面白かった。


真っ青な顔が…













「それじゃあ、行こうかしら。 ついてきなさい」


私はアジトに向かうことにした。


何箇所もあるが、ここから一番近いところに…


一刻も早く彼の力を見てみたかった。


それに、これからの事もいろいろ考えなくてはいけない。


新たな里を興すためにも、木の葉を潰す為にも、優秀な人材がいる。


やる事だらけね…





そういえば、まだ彼の名前を聞いてなかったわね


彼は私の名前を知っていたけど…


「ねぇ、あなたの名前って……やられたわね…」


振り返ったときには彼はいなかった。


まさか、この私が気付かなかったなんてね…


怒りよりも笑いが込み上げてきた。


「フフフ…ホント楽しませてくれそうね 」


とりあえず引き返してみましょうか。





こんなに簡単に見つかるなんて…


正直、もう見つからない可能性だって考えていたのに。


まさか一番最初の場所にいるなんてね…


「どういうことかしら? ついてくる、と言ったのは嘘だったのかしら?」


返答しだいでは少し痛みつけてから連れて行こうかしら?


そんなことを考えてると、脅えながら彼は口を開いた。


「あ、あの…その何と言うかですね。まだ僕は素人みたいなもんでして、その、木の上を移動するなんてできないんですけど…」


「…は?」


何を言ってるのかしらこの子は…


血継限界を使えるのに木の上が飛べない? そんな馬鹿なことが…


ダメ…理解できない…


…きっと今の私の顔は、自来也や綱手、弟子だったアンコにさえ見せたことのないような間抜け面でしょうね…


先が思いやられるわ…













あとがき
今回は、なんとなく大蛇丸の話が書いてみたくなり、外伝? みたいな感じで書いてみました。
感想などよろしくお願いします。




[710] Re[4]:僕の生きる道
Name: ネメ太郎
Date: 2006/06/28 03:33






朝の目覚めで、今日一日のテンションが決まると思う。


良い一日を過ごすためには、気持ちよく起きたい。誰もがそう思うだろう。


そんな中で一番良い起こされ方、そう幼馴染の女の子なんて最高だ。





「早く起きて。学校遅刻しちゃうじゃない!」


なんて言いながら毎日お越しにきてくれるんだろう。


そしてお決まりのイベント…お越しにきてくれた幼馴染の女の子が、なかなか起きない俺に腹を立て勢いよく布団を剥がす。


彼女は一点を見つめ、「きゃっ」なんてかわいい悲鳴を上げつつ、ビンタをするんだろう。


そして俺はこう言ってやるんだ…


「朝なんだから仕方がないだろっ!!」





多少痛い思いはするが、かなりうらやましい。というか、こんな状況があるのはゲームや漫画だけだろう。


…いや、ここもNARUTOという漫画の中だからそういうのもあるかもしれないが、こちらの世界に来てから七年近くたった現在、そんな状況に出くわしたことがない。


もっと悲しい話をすれば、この七年、音隠れの里が出来てからの一ヶ月を含めても、女の人を見かける事は会っても話したことがない。話したことがあるのは男とオカマだけ。


原作のキャラに至ってはカブトと大蛇丸の二人しかいない。


そのカブトでさえ、最後にあったのは半年ぐらい前だろう。


半年前、原作では直せなかった病気を直してもらって以来会っていない。


正直、病気が発病したときはかなり焦った。けど、一族のことについて書いてある本が役に立ったらしい。苦労して探した甲斐があったというものだ。





話を戻そう。


朝の寝起きというものは重要だ。


けど、今の俺には起こしてくれる彼女や幼馴染なんていないわけで、 現実はというと…


「起きなさい、君麻呂」


そう、現実は目を背けたくなるぐらいかなしい物だった…


「はいっ! 今すぐ起きます!!」


考えてもみてほしい…眠りという最高の時間から覚めると目の前には大蛇丸。


どんな眠気も一瞬で吹き飛ぶだろう。


こうして、俺の今日という一日は始まっていく。









訓練場。いつも大蛇丸との特訓に使っているのでそう呼んでいるのだが、今は俺と大蛇丸の他にも四人居る。


太ってる奴に腕が六本もある奴、顔が二つある奴までいる。

(奇人変人集団?)

そして、一人だけまともな赤い髪の女の子…(ちょっと可愛いかもしれない)


確か、原作に出てきた音の四人衆だったと思う。


一人一人の名前までは流石に覚えてないが。


「君麻呂、貴方を含めた五人。これからは音の五人衆として、私の為に働いてもらうわ。」


「……は?」


「音の五人衆よ。リーダーは…そうね貴方達で決めなさい」


大蛇丸はそれだけ言うと、笑みを浮かべながら少し離れたところに行ってしまった。


「……」


沈黙が続く。


視線で人を殺せるなら彼らがそうだろう。ものすごい殺気を込めながらこっちを見ている。


「あ…あの名」


「大蛇丸様! どんなやり方で決めても良いんですよね?」


「えぇ。好きにしなさい」


沈黙と視線に耐えれなくなり、とりあえず名前でも聞こうと思ったが、俺の言葉はすぐ遮られた。


しかも、話の流れ的に物騒なことになりそうだし…


そして、その予想は当たった。


「土遁結界 土牢堂無」


四人の中で一人太っていた奴が攻撃を仕掛けてきたのだ。


確実にこっちの油断だった。


奴の放った術は俺の周りの地面を隆起させ、それによって出来た土の壁で俺は包まれてしまった。


そして、それは唯の土の壁ではなかった。


(力が抜けていく? チャクラが吸い取られているのか!?)


ここからどう抜け出そうかと考え、とりあえず壁を殴ってみたが無駄だった。


壁を傷つけることは出来たが、すぐに再生してしまったのだ。


(殴っても無駄か…ならば骨の剣で)


体内の骨で剣を精製し、肩口から剣を抜き攻撃したが、先ほどより少し傷を付けられただけで壁を破壊する事は出来なかった。


「無駄だ! そんな攻撃じゃこの術は敗れない」


「たいした事ないぜよ。次郎坊、そのまま殺ってやるぜよ」


壁の外では言いたい放題言ってくれてる。


「クソヤロー」とか「ゲスチン」とか罵声まで聞こえてくるし。


「大蛇丸様のお気に入りってわりには、大したことねーな!」


………


……





ちょっと待てーい!! 今聞き捨てならない言葉が聞こえたっ!!


お、大蛇丸のお気に入りなんて… 言った奴ブン殴る…


「椿の舞」


再生をする壁に、この術は有効だったようだ。


高速の突きを繰り出し、壁に再生をする時間を与えない。


相手は壁を破られるとは思っていなかったのだろう。


驚きの表情を浮かべたまま固まっていたデブの奴を、壁を壊したままの勢いに任せ攻撃をした。


デブの奴の両足と両腕を椿の舞で突き刺した後、前のめりに倒れてきたので側頭部を蹴り飛ばす。


何メートルか吹き飛んだ後転がり、動かなくなった。 本気で蹴っていないので死んではいないと思うが…





「ちっ…役に立たないクソデブヤローだ」


「仕方ないぜよ。次郎坊は俺たちの中で一番弱いんだから」


「まぁいいんじゃねぇの。これで少しは楽しめそうじゃん」





気を失っている次郎坊に酷い言葉が投げかけられる。


…何というか、彼らには仲間意識というのが無いのだろうか? 倒したの俺だけど、なんだか可哀想になってきた。


「君麻呂 手加減しなくても良いわよ…でも、なるべく殺さないようにしてね…」


不意に離れた所で見ていた大蛇丸が言った。


「殺さないように…ですか? まぁ分かりましたけど…」


確かに手加減はしたけど……あぁ、大蛇丸が余計なこと言ったせいで一段と睨みがすごくなってるし。


「てめぇー 弱えーくせにピーコラ言ってんじゃねーぞ!」


顔が二つある奴はそう言って拳を放ってきた。


だが先ほどとは様子が違っていた。丸みを帯びた紋様が、奴の体中を取り巻まいていたのだ。


呪印の力。 あの状態は『状態一』とよばれている。


相手も本気できたという事だろう。


俺は拳をかわす為に上半身だけそらした。


「多連拳!」


突如として相手の腕が四本に増えたのだ。まぁ腕が六本の奴がすぐそこに居るから大して驚きはしないが…


避けきれないと判断した俺は術を発動させた。


「唐松の舞」


体から突き出た骨で身を守ると同時に攻撃を繰り出した。


相手もこの攻撃は予想外だったのだろう。


突き出していた拳を引き戻すことは出来ず、一瞬後には、相手の腕はボロボロになっていた。


そして、そこに出来た隙が奴の命取りとなった。みぞうちを力任せに殴られ、意識を失ったのだ。






「まさか左近までやられるとは思わなかったぜよ 多由也、同時にしかけるぜよ」


「ウチに指図すんじゃねぇ! このクソヤローが!」


今俺が倒したのは左近というらしい…それにしても多由也って子、可愛いのに言葉使いが恐い…


「行くぜよ!」


その言葉を合図に、二人は呪印の力を発動させた。


「口寄せの術」


多由也がその術を使うと、三対の鬼らしき物が出てきた。


「魔笛 幻武操曲!」


すかさず三対の鬼を笛の音で操る。


左右から、金棒のようなものを持った鬼が襲い掛かってきた。


残りの一体は多由也を守るように傍に控えている。


腕が六本の奴は遠距離からこっちを狙ってるようだ。


(まずは鬼をどうにかしないとな)


左右の鬼は金棒を振り下ろしてきていた。


「柳の舞」


相手の攻撃を巧みに受け流しながら、素早い攻撃をしかける術である。


少しだけ身体をそらし二本の金棒をかわした。そして右の鬼に狙いを定め、指、肘、肩と順に切りかかった。


最後に狙いを頭に定め、留めを刺そうとしたがそれは別の人物に防がれてしまった。


六本腕の奴だ。奴の口から吐き出された糸らしきものが、俺の腕に巻きついてきたのだ。


(汚なっ!!)


そう思った直後、俺は投げ飛ばされてしまった。


「ウチの邪魔をするんじゃねー!」


「な、やられそうだったから助けてやったんぜよ!」


相変わらず仲は悪いらしい…


「ヨイショ」と小さな掛け声で俺は起き上がった。


(さすがに呪印無しじゃきついな… といっても使う気は無いけど…)


二人はまだ言い争っていた。


鬼も操られていなく、今は動きを止めている。


こっちから仕掛けるか…そう思い術を発動させる。


「早蕨の舞!!」


その瞬間、地面から無数の骨が突き出て、あたり一面を骨で埋め尽くす。


この術を鬼と腕が六本(いい加減名前が知りたい)の奴はくらい吹き飛ばされ、多由也だけがかわす事が出来たようだ。


だがこの技の能力はこれだけじゃない。


「終わりだね」


そう言って俺は多由也の首筋に骨の剣を突き付けた。


そう、この技のもう一つの能力。自身を骨と同化することで骨を通して自由に移動できるということだ。


今回は多由也に一番近い骨に移動し、そこから身体を出している。


「勝負ついたわね」


そういえば大蛇丸のこと忘れていた。


「君麻呂、あなたがリーダーね。 それにしても、よくもまぁこれだけ破壊してくれたわね」


大蛇丸に言われて気付いた。見回してみると訓練場は最後に放った早蕨の舞でボロボロになっていた。


「修理代はあなたが出しなさい」


「…は?」


涙が、涙が止まらなかった…



















「あ、そうそう自己紹介まだだったね、俺、君麻呂」


そう言って多由也の方を見る。


他の奴とも挨拶したいが、生憎まだ気絶している。


「多由也だ…」


「多由也ね。よろしくー仲良くしようね」


右手を出しながら言った。


久し振りの女の子との会話に少しドキドキしていた。


けど、右手は握り返されなかった。


不安になって多由也の方を見ると顔を赤くして言ってきた。


「だ、誰が仲良くするか! このクソチン野郎!」


…ク、クソチン!?


聞き間違いだ…いきなりクソチンなんて言われる筈がない。


クソチン…ク ソチン…ソチン…祖チ○!?


なんだ、祖チ○って言ったのか。そうだよね女の子がクソチンなんて言うわけないよね。


……





「見た事も無いくせにー!!」


今日二度目の涙を流し、俺は夕日に向かって走り去った。









「顔赤くしちゃって、一目惚れかしら多由也?」


「だ、誰があんな奴! で、出鱈目言うな、このクソカマ野郎!」


「ク、クソカマ…!? ま、まぁいいわ、そう言う事にしといてあげるわ」








[710] Re[5]:僕の生きる道
Name: ネメ太郎
Date: 2006/07/10 08:31







「甘いぜよ、君麻呂!!」


繰り出されたパンチをバックステップでかわし、こちらに牽制の糸を出しながら言ってきた。


「その台詞、そのまま返してやる鬼童丸」


俺は糸をかわしながら近づき、頃合をみて一気にダッシュをして距離を詰める。


上段キック、中段パンチ、下段キックと連続で繰り出したが、その攻撃はすべてガードされてしう。


鬼童丸はこの距離での戦いが得意ではないのだろう。さきほどから防戦一方になっている。


どうにかガードをこじ開けようとし、俺は鬼童丸の腕をとり、一本背負いの要領で投げた。


追い討ちをかけようとしたが、それは無理だった。鬼童丸は受身を取り、距離が開いてしまったのだ。


すかさず鬼童丸は糸を放ってきた。


俺はその糸をかわすためにジャンプして空中に飛び上がった。


その時、鬼童丸は不適に笑った。


「だから甘いって言ってるぜよ!!」


鬼童丸はよんでいたのだろう。俺が飛び上がるということを。


完全に見下した言い方で、糸をから出しながら鬼童丸は言ってきた。


少しずつ迫りくる糸。空中にいる俺にその糸をかわす術はない。


糸で包まれた俺はそのまま地面に叩き付けられてしまう。


なんとか抜け出そうともがいてみたが、糸は解ける気配はない。


「終わりぜよ君麻呂!!」


地面に叩きつけられる瞬間、鬼童丸の必殺技が俺を捕えた。


俺は負けた……








1P  Spider-Lady





Win








「だあぁぁ! また負けた!!」


テレビ画面には 1P 28連勝と出ていた。


そう、今俺たちはゲームをしていた。テレビゲームを。


長年NARUTOという漫画の世界にいるが、最近になってこの世界がいまいち分からなくなってきた…


忍者の話なのに、テレビやテレビゲーム機、その他にも無線機やクーラーといったハイテク? な機械がある。


まぁ、そのおかげで久し振りにテレビゲームなんて出来てるわけだが…


それにしたって、28連敗なんて……


「やってられるか!!」


そう言って俺はコントローラを鬼童丸に向かって投げつけた。


ちなみにこのゲーム機は鬼童丸のものだ。


コントローラは鬼童丸の頭に当たり、少し涙目になっている。


「なにするぜよ!! 壊れたら弁償してもらうぜよっ!!」


「うるせぇ! 俺はこのゲームやるの初めてなんだ。少しは手加減しろ!」


「手加減ぜよか… フッフッフ  良いぜよ、良いぜよ。そこまで言うなら手加減してやるぜよ」


ムカツク笑いかただ。それに偉そうな態度も…


「っ!! 大体お前、腕が六本ある時点で反則だろ!!」


「う、腕の数は関係ないぜよ! ゲームのときは二本しか使ってないし… はは~ん。さては負け惜しみぜよか~ き・み・ま・ろ?」


な、なんてムカつく奴なんだ…



このこみ上げてくる感情…あぁ、これが殺意というやつか…


十指穿弾で頭に穴でも開けてやろうか…そう思い腕を鬼童丸のほうに向けた。


鬼童丸はウンウン頷きながら、「しょうがないぜよ」とか言ってやがる…


「ウルセー! このクソチンどもが…ウチは寝てるんだ、静かにしやがれ!」


術を発動させようとした時、不意にそんな怒鳴り声が隣から聞こえた。


この口の悪さは多由也だ…


言い忘れたが今俺の部屋には五人衆全員が集まっている。俺と鬼童丸はゲーム。多由也は昼寝。左近は読書。次郎坊は皆の飯作り。と次郎坊以外はやりたい事をやっている。


五人全員集まっている理由は簡単だ。俺の部屋だけが冷房完備となってるからだ。


季節は夏。皆涼しい部屋がいいのだろう。


もう一つの理由としては、ただ飯が食えるからだろう…まぁ作っているのは次郎坊だが。


話を戻すが、多由也は寝起きのせいで普段よりも機嫌が悪いらしい。


でも、今の俺にとって多由也の機嫌なんかどうでもいい…そんなこと事よりも鬼童丸だ。


この鬼童丸に対してのムカツキ、是非とも多由也にも味わってもらわねば…


フフフ 今の俺はきっと大蛇丸と同じ笑いが出来てるはずだ。





「というわけで多由也、選手交代だ。お前が鬼童丸と対戦しろ」


「は!? なんでウチがそんな事しなきゃいけねーんだ!」


「そう……次郎坊~ 多由也飯いらないって~」


飯で釣れるか分からなかったが、効果はてきめんだったようだ。


「ちっ…やればいいんだろーが、やれば! さっさと貸せ」


そう言って鬼童丸の手からコントローラを奪い取った。


……





一分後









1P  Spider-Lady





Win




Perfect








テレビ画面にはその文字が映し出されていた。


多由也は少しイラついてるようだ。


……





五分後


画面にはまたPerfectの文字が…


多由也の怒りは頂点に達したらしい。――メキッバキッという音をたてコントローラが多由也の手の中で粉々になっていた。


「な、なにするぜよー! ヘブッ」


多由也がコントローラの残骸を投げつけた。そして、それは見事に鬼童丸に当たった。


「黙れ! このゲスチンヤローが。 大体これがムカつくんだよ!!」


そう言って多由也はゲーム機の破壊にかかった。


「やめるぜよ、そ、それだけはやめるぜよー」


ゲーム機を踏みつけようとしていた多由也の足にすがり付きながら鬼童丸は言った。


少し離れていたところでそのやり取りを見ていた俺には、それはドラマの一場面に見えてきた。


というか、鬼童丸泣きながらゲーム機の命乞いしてるし…


………


……





で、今俺たちは次郎坊の作った飯を食べてるわけだが…その席に鬼童丸の姿はなかった。


ゲーム機を守った変わりに、鬼童丸自身がボコボコにやられたらしい。ゲーム機に覆い被さるような形で倒れている。時々ピクピクと動いてるから死んではいないだろう。


食事も終わり一服しているとき、俺はある事を思い出し皆に聞いた。


「そういえば、大蛇丸様に呼ばれていたんだが、俺以外に呼ばれた奴いるか?」


「君麻呂も? ウチも呼ばれてるけど」


「俺も呼ばれてる」


「俺もだ」


どうやら全員呼ばれてるらしい。


鬼童丸から返事はなかったが、この様子じゃあいつも呼ばれているだろう。


「じゃあ行くか」


「どっこいしょ」と言いながら立ち上がったら、多由也から「爺クセー」と言われてしまった。


「で、鬼童丸どうする?」


「そんなゲスチンヤローほっとこうぜ」


「多由也、女がそんな言葉を使うんじゃない」


次郎坊が言った。


「うるせークソデブ! クセーからしゃべんな!!」


多由也が言い返す。


この二人はいつもこうだった。


次郎坊の性格上、多由也の言葉づかいが気になるのだろう。


売り言葉に買い言葉、でいいのだろうか? 二人は同じようなことを繰り返し言い合っていた。


「さっさと行こうぜ」


部屋の出口で、我関せずといった様子で二人のやり取りを見ていた左近が口を開いた。


「そうそう、早く行こう。 というわけで次郎坊、鬼童丸を連れて行って」


俺の言葉に次郎坊は頷き、鬼童丸を担いで出口の方に向かった。


「多由也も早く行くぞ」


「ウルセー 言われなくっても分かってる!」


どうやら次郎坊とのやり取りで機嫌が悪くなったらしい。


こういう時はあの言葉に限る。


「多由也、怒ると可愛い顔台無しだぞ」


そう言うと、見る見るうちに多由也の顔は赤くなってしまった。


「ウ、ウルセー!!」


大蛇丸から教えてもらったんだが、いつもこの言葉を言うと多由也はそれ以上何も言わなくなる。


多由也も静かになり、俺達は大蛇丸の元に向かう事にした。











コンコンとドアをノックすると中から「入りなさい」と大蛇丸の声が聞こえた。


「失礼します」


そう言い、俺が先頭で部屋の中に入った。


当たり前だが部屋の中には大蛇丸一人。


「任務か何かですか?」


左近が言った。


「違うわ…まぁ似たような事だけどね…あなた達五人衆、来週からアカデミーに通ってもらうから」


「…は?」


それは俺達全員の声だった。


「アカデミーですか…?」


「そうアカデミーよ…ちなみにもう編入手続きはしておいたから…」


なんというか、いくらなんでも突然過ぎるだろ…


それに、拒否権すら俺達にはないらしい…

















「そういえば大蛇丸様、音の五人衆って言うけど、六人衆の間違えじゃないですか?」


「…え?」


「だって、俺に多由也、次郎坊に鬼童丸、左近に右近で六人じゃないですか」


………


……





「書類整理でもしようかしらね…」


「大蛇丸様手伝います」


「夕飯でも作るか」


「ゲームでもやるぜよ」


そう言って各々行動に移った。


唯一反応の無かった多由也を見たが目を合わせてくれなかった…


どうやらさっきの問題は気にしてはいけない事だったらしい…












[710] Re[6]:僕の生きる道
Name: ネメ太郎
Date: 2006/07/15 01:39






アカデミー、忍者学校とも呼ばれるそれは、忍術、体術、学問などの忍にとって初歩的な技術や知識を学び、忍としての第一歩を踏み出すための場所ともいえる。



まぁ、そこに通って無くても優秀な忍びなど大勢居ると思うのだが…何故か俺達音の五人衆は、そのアカデミーに通うことになってしまった。













突然だが恋の王道といえば何だろう?


人それぞれ違いはあれど、一目惚れなんて正に王道ではないだろうか?


では、一目惚れの王道といえば何だ?


数ある一目惚れの中でも、出会い頭の衝突なんて良いのではないだろうか?


学校に向かい、遅刻しそうになりながら走っていると、角を曲がるときにぶつかってしまうあれだ。


勿論、口には食パンを咥え、ぶつかった拍子にパンツが見えたりのハプニング。


教室に入ったら先生から転校生紹介があり、なんとその転校生はぶつかった相手。


この場合、パンを咥えるのは女子。転校生は男子となる。






…正に王道だ!!






そして、今自分の置かれている状況について確認してみる。


俺は編入生? としてアカデミーに向かう。目の前には食パンの入った袋。時刻は若干間に合うかどうか微妙な時間。


多由也達には用があるから先に行っといて、と言ってある。


…もうこれはやるしかないだろう。先ほどの王道とは男女逆だが、こんなナイスなシュチュエーション、神様が用意してくれたとしか思えない。


俺は家を飛び出した。パンを咥え期待に胸を膨らませながら。


俺は走った。まだ見ぬ恋の為に。


そしてその時は突然やってきた。


角を飛び出した瞬間、目の前には綺麗な長い髪の女性の後姿が…


俺は迷わず突撃した。だが、その行動をすぐ後悔することにった。


当たる、そう思った瞬間目の前の女性が消えたのだ…


当たった後のことしか考えて無かった俺には何がなんだか分からなかった。自分の後ろから声を掛けられるまで。


「君麻呂…ちゃんと前を見て走らないとダメじゃないの…私じゃなかったら怪我してたわよ…」


俺が女性と思っていた人は、よりにもよって大蛇丸だったらしい…


「それとも、朝から私に飛びつきたかったのかしら?」


ウフフ、といいながら大蛇丸が後ろから俺の両頬に手を伸ばしてきた。


何で俺はもっと冷静になれなかったんだろう。


いくら舞い上がっていたからといって、大蛇丸と気付かなかったなんて…


大蛇丸の後姿を綺麗と思ってしまったなんて…




「チキショー!!」




溢れる涙もそのままにして、俺は大蛇丸の腕を振り払い走って逃げた。


「…朝の挨拶も無いなんて…育て方間違えたかしら?」















俺は走った。涙も流したまま。


走り続けた。パンも咥えたまま。


そんな中で俺は学習した。


漫画の中でも、漫画みたいな出会いは無いと言う事を。


そして、パンを咥えたまま走ると、息がしにくく呼吸困難になると言う事を。






息を切らしながら走っていると、前方に多由也達が見えてきた。どうやら追いついたらしい。


多由也達もこちらに気付いてるらしく、こちらを見ている。


横に並ぼうと俺は近づいていったが、ちょっとした事件が起こってしまった。


いまだパンを咥えたままの俺は、酸欠気味のせいか分らないが普段絶対につまづかない様な石につまづいてしまったのだ。


結果、俺はこける。目の前には鬼童丸。


鬼童丸は親切にも俺を受け止めてくれようとしているらしい。六本の腕が俺を待ち構えていた。


ダメだ!! このままでは鬼童丸と抱き合う事になる…


俺は無理やり身体を捻り、鬼童丸の隣にいた多由也のほうに倒れこむ。


多由也にとって俺の行動は予想外だったらしく、避ける事も、受け止める事もできずに俺と一緒に倒れこんだ。


多由也はスパッツを履いていたためパンツが見える、なんてうれしいハプニングは無かった。



けれど、これはこれでいいかも…なんてちょっと危ない事を考えてたら多由也に殴られてしまった。


「さ…さっさとどけ!! このクソヤローッ!!」


多由也は顔を赤くしながら言ってきた。


怒った顔も結構かわいいかもしれない…けれど、いい加減どかないと殺されそうなので、名残惜しいがどくことにした。


そして、多由也に手を貸して起き上がらせた後、俺達は当初の予定通りアカデミーに向かう事にした。















今日学習した事追加。


朝咥えて走るパンには、何か不思議な力があるのかもしれない…








[710] Re[7]:僕の生きる道
Name: ネメ太郎
Date: 2006/07/20 01:30






俺達がアカデミーに通うようになってから、一週間が経とうとしていた。


午前の今は暗号、及びその解読についての授業が行われている。


大蛇丸から直接習った事のある俺達には、正直退屈な話でしかなかった。


右の耳から入って、左の耳から出てるという聞き流しの状態である。


ふと、他の五人衆のことが気になり横を見てみた。


鬼童丸は寝ているようだ。左近は本を読んでる…けど教科書ではないみたいだ。次郎坊だけ真面目に授業を受けているようだ。


多由也はここにはいない。アイツは女なので俺達とは違い『くノ一』のクラスに通っている。


このクラスの人数は全部で28人いる。


そのほとんどが大蛇丸に連れられてきた生徒なんだが……問題が一つあった。


何故か俺達四人は、このクラスの生徒何名かに敵視されているのだ。


特に酷いのが髪の毛を立ててる奴。原作にもいたと思うが、いまいち名前が思い出せない。多分コイツがこのクラスのボス的存在なのだろう。


編入したての初日は話し掛けてくる奴もいたが、その度コイツが睨むので、今ではもう話し掛けてくる奴はいない。


左近たちは「気にするな」とか言ってるけど、これは明らかに俺達四人に対するイジメだ。


こうしてる今も時々睨まれてる。気にするなと言う方が無理だろう。


こんな状況で、普通に過ごしせる他の三人がうらやましい…というかムカついた。


「十指穿弾」


とりあえず、鬼童丸に向けて打ってみた。勿論、威力はかなり抑えてだが。


目標は机に身体を預け、こちらに幸せそうで、尚且つムカツク寝顔を見せてる奴のデコ。


放たれた骨は、ドリルの用に回転しながら目標に向かって進んでいった。


寝てる鬼童丸に避ける術などなく、難なく骨は当たった…いや、当たったというよりは刺さったの方が正しいのかもしれない。


ぎゃあああぁあ 痛い 痛いぜよー!!


悲鳴を上げながら鬼童丸は飛び起きた。


そして、無駄に多い手を額に持っていき、痛みの原因となっている刺さっていた骨を抜いた。


ピュ~ そんな擬音が聞こえるほど面白く血が噴出した。


それを見て俺は笑い出してしまった。俺だけじゃない。左近や次郎坊、他の生徒や先生まで笑っている。


「な、何するぜよ君麻呂ッ!!」


「ぷぷっ! ま…待て。何故俺が犯人と言い切れる」


鬼童丸は俺が犯人と分っているようだ。


俺は笑いながら答えてやった。


まぁそんなに簡単に自分が犯人と言ったらつまらないので、この際鬼童丸で少し遊ぶ事にした。


「これぜよ。これが何よりの証拠ぜよ!」


そう言って、先ほどまで刺さっていた骨を掲げる。


「ふ~ん。で、それで…?」


「え…? そ、それでと言われても…と、とりあえずこの骨が何よりの証拠ぜよ!」


「じゃあその骨が俺のと言う証拠は?」


「ほ、骨を使うなんてお前以外いないぜよ!」


鬼童丸は自身があるのか無いのか分からない口調で言った。


犯人を俺と決め付ける鬼童丸に、答えではなく冷たい視線を向ける。


……





鬼童丸はその視線に耐えられなくなったのか、すごい汗を浮かべ顔をそらした。


「まぁいい。仮にだぞ…仮にその骨が俺のだとして、授業中寝ていた君が悪いのではないのかね?」


自分で言ってなんだが、かなりムカツク口調で言ってやった。


もし俺がこんな口調で言われたら、間違いなく殴りかかっているだろう…


「な…それとこれとは話が別ぜよ!」


自分が悪い事になって少し動揺しているようだ。


俺は畳み掛けるように言ってやった。


「へー。 なら授業中に寝てた鬼童丸はまったく悪くないんだ~ 先生が真剣話してくれてるのに、鬼童丸は骨を放った俺の方が悪いって言うんだ~ へ~」


「…!? み、認めたぜよ! 今自分が放った骨よりって言ったぜよ! 左近、次郎坊聞いたか? 俺は…俺は君麻呂に勝ったぜよ~!!」


鬼童丸は、泣きながら言った。やっと自分が勝てると思ったのだろう。意気揚揚としている。


面白くなるかな? と思い「自分が放った」なんて言ってみたが、まさかここまでとは…予想を越えた反応。まさか嬉しくて泣き出すなんて思ってもみなかった。


しかし、このまま鬼童丸が勝った気でいるのは癪に障るので、一気に絶望まで叩き落す事にした。


「先生~ 寝てた鬼童丸君の方が悪いですよね~?」


俺は笑顔でそう教師に聞いた。


教師の手を借りるのは卑怯と思うかもしれないが、面白ければ特に問題はない。


「いや違うぜよ! こんな骨で暴力&授業妨害した君麻呂がわるいぜよ!」


鬼童丸が言うのはもっともだ。


仮に俺が教師だとしたら、間違いなく俺は鬼童丸の方の肩を持つだろう。


あの教師も間違いなく俺が悪いと言うに違いない。


だけど、そんな事はさせない。そんな事になってしまっては面白くないからだ。


鬼童丸の方が悪いですよね…?


今度はさっきまでのヘラヘラとした口調ではなく、殺気を込めながら言った。


右手は教師の方を向き、いつでも十指穿弾を出せるというプレッシャーも与える。


教師の顔が少しずつ青くなってきている。汗もすごい。


「そ、そうだな…寝ていた鬼童丸が悪い。き、君麻呂はお前を起こしてあげようとしてただけなんだから…な? そ、そうなんだろ君麻呂…?」

 
途切れ途切れの口調でそう言ってきた。


よほど今の状況がキツイのだろう。


「そうですよ~」


教師の答えに納得した俺は、右手を収め、殺気を送るのもやめた。


「と言うわけだそうだ…鬼童丸、廊下に立ってろ」


先ほどより幾分か落ち着いた教師が言う。


だがこれに納得できないのは鬼童丸だろう。


「廊下に立ってろ」の声が聞こえたとき、動きがピタリと止まりその後叫んだ。


教師が暴力に屈するなー!!


言われた教師は聞かないようにしている。


「ほら、先生の命令だ。さっさと廊下に行け」


俺はそう言い、鬼童丸の背中を優しく押してやった。


こうして、今日の午前中の授業は進んでいった。



















午後の授業は外での演習だった。


内容は2対2での実戦形式の戦い。


俺のパートナーは左近になった。


たぶん対戦相手は鬼童丸と次郎坊のペアだろう。


俺達四人は他の連中と比べると力の差がありすぎる。


それに、教師は俺達が音の五人衆ということも知っている。その実力も…だから教師も俺達四人を戦わせるつもりだったはずだ。


「次 君麻呂、左近のペア前に。対戦相手は…」


そこまで言った教師の言葉は、別の場所から発せられた声で遮られた。


「先生、そいつ等の相手俺達にやらせて下さい」


そう聞こえた。


声が聞こえた方に目を向けると、クラスのリーダー(仮)と全身包帯でグルグル巻きの二人がいた。


「いや、相手は鬼童丸と次郎坊にやってもらう」


そう教師は断言した。


だが、そんな簡単に納得する二人ではないのだろう。


「お前達はどうだ? 俺達と戦おうぜ…」


教師ではなく、直接こっちに言ってきたのだ。


俺達は無視してたのだが、


「俺達とやるのが恐いのか?」


との問いかけに左近が反応した。


「あぁ!? テメー等、弱ーくせにピーコラ言ってんじゃねーぞ」


教師は止めようとしたが俺を除く三人がやる気満々なため、結局俺達は鬼童丸たちではなく、リーダ(仮)達と戦う事になった。









他の生徒が見守る中、俺達の戦いは始まろうとしていた。


といっても俺は戦う気なんてなく、全部左近にやらせようと思っていたが。


「お前ら、音の五人衆とかよばれてるらしいな?」


そうリーダー(仮)が聞いてきた。


「だったら何だって言うんだ?」


左近が笑う。俺は興味がなく別の方を見ていた。


「まぁいい。どちらにしろお前達は大蛇丸様のお気に入りなんだろ…? ならば、お前達を倒して、俺達がお前達より優秀だという事を大蛇丸様に認めてもらう!!」


どうやらコイツは熱烈な大蛇丸信者らしい。


それにしても、左近ならともかく俺までもが大蛇丸のお気に入りって…そんな肩書きが欲しいのなら今すぐにでも上げたいぐらいだ。


「準備は言いか二組とも? そろそろ始めるぞ」


教師がそう言った。


俺達二組は頷き「始め!」の合図が発せられた。


「ザク。 最初から全力で行きますよ」


「言われなくても分ってるよ! 援護しろドス」


ザクと呼ばれた方はこちらに突進しながら言った。


この会話で分ったのだが、リーダー(仮)はザクと言う名前で、包帯の男はドスと言う名前らしい。


……ザ、ザク!? あの有名なMSと名前が一緒だと! ドスも何気にドムと一文字違いだし…


もしかしてコイツら実は強いんじゃ?  根拠は無いがその考えが頭をよぎった。


俺は一気にやる気が出てきた。別に相手が強いかも…とかの理由じゃなく、唯ザクという名前と戦ってみたい。そう思ったのだ。


「左近。 あのザクとかいう奴は俺がやる。手を出すなよ」


そう言い飛び掛ってきていたザクを迎え撃つ。


…結果。実は強いなんてオチはなく、簡単に倒せてしまった。


「な!? ザクが簡単にやられた!?」


あっさり相方がやられた事に相当驚いてるようだ。


だから俺は言ってやった。


ザクとは違うのだよ! ザクとは!


若干使いどころが違うかも知れないが、最高に気持ちよかった。とだけ言っておこう。


そして、残っていたドスも「いい音奏でろよ」と左近の声が聞こえたと思ったら、もうやられていた。


試合は俺達の圧勝で幕を下ろした。





















「鬼童丸~ 赤ペンと接着剤持ってきて」


「分ったけど、何に使うぜよ?」


「まぁいいからいいから」


鬼童丸に必要なものを取りに行かせ、ザクの傍に歩み寄る。


完璧に気を失っている。


俺は早速準備に取り掛った。


肋骨を一本取り出し、適当な所でそれを折る。


そこにちょうど鬼童丸が頼まれていたものを持ってきた。


「ありがとう」と礼を言い、接着剤で、適度な大きさになった骨とザクの額とをくっつける。


その後、赤ペンでザクの顔を塗っていく。


鬼童丸は俺の行動が相当疑問なようだ。


俺達の周りにも、何してるんだ? という様子で人が集まってきている。


……





顔に塗るのに時間が掛かってしまったが何とか塗り終わった。


そのタイミングを見計らって鬼童丸が声を掛けてきた。


「で、これは何ぜよ?」


その疑問は、周りにいる人すべての疑問だろう。


俺は答えた。


「昔からザクと言う名前は、赤くして角を付ければ通常の三倍速く動けるという伝説があるんだ」


その答えに納得なんて出来るわけなく、鬼童丸は勿論、周りのギャラリーも首を傾げた。








一時間後目を覚ましたザクは、赤く塗ったのに三倍の速さで動けるようにはならず、ただ顔に塗られたインクを必死で落としていた



















あとがき?


いまこの話の後。アカデミーを卒業した後のスリーマンセルをどうしようか悩んでます。

君麻呂 多由也 は決まったのですが後の一人。鬼童丸、次郎坊、左近の三人のうち誰を入れようかで悩んでたり…

いっそのこと君麻呂を入れないとかも考えたりしてます…


誤字脱字、感想等ございましたらお願いします。








[710] 外伝 オレ達の生きる道
Name: ネメ太郎
Date: 2006/08/03 00:24






大蛇丸とはどんな奴だろう?


三忍の一人として名を馳せ、数十年に一人と言われた逸材である。


性格は残忍かつ冷酷。野望のためには手段を選ばない存在。


また、木の葉を抜けた後に音の里を設立。そして、木の葉崩しのための優秀な人材を集める。


第三者から見ればこれが大蛇丸という者だろう。




…しかし、俺にとって、いや、俺達にとって大蛇丸という存在はこれだけではなかった。


セクハラである。






まずはこの資料を見てもらおう。





 この一ヶ月の調査票


 後ろに立たれた回数   38回

 
 お尻を触れた回数   13回


 頬を舐められた回数 4回


 貞操の危機を感じた回数 プライスレス




………


……





プライスレスなんて言ってる場合じゃない!!


確かにお金では買えないけど。


や、やばい…このままでは本当に俺の貞操が…


「―というわけで、俺達は早急に手を打たなければならないわけだが」


俺は椅子に腰をあずけ、周りを見回しながら言った。


ちなみにこの場にいるのは、俺、多由也、鬼童丸、左近(右近)、次郎坊の五人である。


集まってるのは俺の部屋。


「…で、セクハラってそんなに深刻なものなのか…?」


多由也の何気なく言った言葉に俺達四人は一斉に反応した。


多由也!! お前はやられた事ないからわからないんだ! 笑いながら尻を触られるし、それにあの長い舌で頬を舐められたり、次郎坊なんて腹の肉をタプタプ捕まれてるんだぞ!! 」


「まぁたしかにウチはやられてないけど、それでどうするんだ?」


俺の魂の叫びも多由也には届かず、冷静な返答が返ってきた。


「そう、それが問題なんだ…大蛇丸様の事だ、遠まわしに言っても埒が明かない……そこでだ、直接大蛇丸様の元に乗り込んで直訴する!」


「お、大蛇丸様に直訴か…大丈夫なんだろうな…?」


不安げに次郎坊が口を開いた。


次郎坊だけではない、直訴と言う事に鬼童丸も左近も戸惑っているようだ。


「確かに相手は恐ろしい大蛇丸様だ…しかし、しかしこのままでは俺たちの貞操が奪われるんだぞ。俺たちに未来は無いんだ! 今戦わないでいつ戦うと言うのだ!? たとえこの身が砕けようとも俺は戦ってみせる!!


「…君麻呂、お前そこまで…分かったぜよ、俺も戦うぜよ」


「あぁ、俺も戦うぞ」


「俺も行く」


この時初めて音の五人衆(多由也除く)の心が一つになった時だった。


そして各々手を掲げ


自由を我らに!


それを掛け声にして俺たちは部屋を後にした。


残った多由也はというと、冷めた目で四人を見送るのであった。













「皆の者、覚悟は良いか…?」


俺はそう言い他の三人を見た。


三人とも表情には出してないが、かなり緊張してるのは伝わってきた。


「あぁ行こう」


俺自身緊張もしていて、それが誰が発したか分からなかった。


そして、俺たちは魔王の住む扉へと手をかけた。


コンコン「開いてるわよ」そう部屋の中から声が聞こえ、俺たちは「失礼します」といい並んで部屋の中に入っていった。


大蛇丸は書類生理をやっているようだ。


「あの、今日は少しお話が在るんですけど…」


「何かしら…? あなたたちから来るなんて珍しいけど…」


そういいながらも、大蛇丸の手は休むことなく書類に向けられてる。


「単刀直入に言います。セクハラを止めてください」


………


……





ピキッ 大蛇丸の持っていたペンが折れた音だ。


そして、この場の空気が一瞬で変わる…


止めろ…ですって…?


「えぇ…今すぐ俺たちのセクハラ」


セクハラを止めろ! そう続けようとしたが無理だった。


大蛇丸からものすごいプレッシャーが発せられたからだ。


今すぐにでもこの場から逃げ出したい…それが率直な意見だ。


でも今回ばかりはそうする分けにはいかない…


俺は考えた。この場をどう切り抜けるかを。どうすれば自分の貞操を守れ、命も守れるかを…


答えは簡単だった。


誰かを犠牲にすればいい。


その考えに至った俺はすぐさま行動に出た。


「大蛇丸様、セクハラを止めてくださいといったのには理由があるのです。実は俺がセクハラをされるたびこの嫉妬する奴がいるのです」


「嫉妬…そう、それなら仕方ないわねぇ それにしても誰なのその嫉妬するのは…?」


俺は三人を見た。三人とも裏切られたという顔をしており、目で訴えてきている(君麻呂殺すと…)


だが俺はそんな視線に負けるわけにはいかなかった。


「時に大蛇丸様? 鬼童丸、次郎坊、左近。三人のうち誰が一番好みですか?」


俺がそう言ったとき三人はビクッと震えた。


「…? 三人ねぇ…鬼童丸の六本の腕で責められるのもいいし、次郎坊のお肉も捨てがたいわねぇ… 左近だと右近と二人セットで楽しませてくれそうだし…」


……聞くんじゃなかった…正直な感想がそれだ。


言われた三人を見てみると、全員顔が真っ青になってる。


命以上の危機を感じ取ったのだろう。


「…で、誰なの君麻呂? 嫉妬するほど可愛い子は…?」


今からの俺の発言に三人の命、もといい貞操がかかっているといっていいだろう。


三人の目は『殺す』から『助けて』に代わっている。


そこで俺はあることにチャレンジしてみた。


目での会話だ。


早速三人にアイコンタクトを送ってみる。


(助けてやるから何を差し出す?)


届くかどうか不安だったが蕪辞届いたようだ。


三人とも少し考えてから同じくアイコンタクトで返ってきた。






次郎坊 (一週間、君麻呂好きな献立&デザート付)


左近  (いちゃいちゃパラダイス限定版)

 
鬼童丸 (ゲームやり放題)






…生贄は決まった。


「大蛇丸様、実はその嫉妬する相手というのは鬼童丸なんです。な、次郎坊、左近?」


「あ、あぁ…その通りです大蛇丸様」


二人は震えながら同じ事を言った。


「あら、そうだったの? 気付かなくて悪かったわねぇ鬼童丸」


「本当ですよ、毎回触られるたびに鬼童丸に睨まれてたんですから。挙句には大蛇丸様は俺のものなんて言い出すし」


ハハハと笑いながら言った。


大蛇丸もフフフ笑ってるようだ。


次郎坊と左近は恐がってこっちを見ていない。


で、当の本人はというと


…ぜ、ぜよっぉおおお 君麻呂裏ぎっ


鬼童丸が絶叫したが、その声は途中で途切れた。


どすっ……


鈍い音と共に鬼童丸の下腹に俺の右手が突き刺さっていたからだ。


鬼童丸の身体は自分では支えきれなくなり二つに折れる。


そして、静かに手を抜くと鬼童丸の身体は床に倒れこんでしまった。


「やだなー鬼童丸。嬉しいからって気を失わなくてもいいじゃん。」


俺は一連の行動を流れるようにやり、笑いながら言った。


「じゃあ大蛇丸様。鬼童丸置いてきますので、後は好きにしてくださいね 次郎坊、左近行くぞー」


大蛇丸も流れについて来てないようだったが、とりあえず俺たちは鬼童丸を残し大蛇丸様の部屋を後にした。

















翌日、俺と次郎坊、左近は痔の薬を鬼童丸にプレゼントした。


…が、鬼童丸は昨夜の事はまったく覚えていないらしい。


鬼童丸にとってそれは幸福な事なのだろう。



















あとがき?


この話は本編とはまったく関係ないとお考えください。




[710] Re[8]:僕の生きる道
Name: ネメ太郎
Date: 2006/07/29 15:25





音の五人衆、この名はアカデミーで一瞬で広まる事になった。


事の発端となったのは、模擬戦闘でのザク、及びドスの両名を瞬殺してしまった事にある。


ザク、ドスの二名はアカデミーの中ではトップのレベルだったらしく、教師でさえ俺たちの実力に驚愕していたほどだ。


だが、そのおかげと言っていいのかは分からないが、以前のようなあからさまな敵意を向けられる事も無くなり、イジメらしきものも無くなってきた訳だが…


「多由也が心配?」


「そうだ…」


左近の問いに、俺はうなずき答えた。


俺の不安。


それは多由也がクラスで孤立して虐めれてないか? という事だ。


「考えても見ろ…多由也のあの性格で集団行動がうまくいくと思うか…?」


「…それはそうだが…だからと言って俺たちがどうこうできる問題でもないだろ。それに俺たちには関係ない」


左近は少し考えた後もっともな事を言った。


隣にいる次郎坊も同じ意見なのだろう。左近の発言に頷いている。


だが二人のその反応が俺にはムカついた。


「甘い!! 甘すぎるぞお前達!! いいか、もし多由也がブチキレてみろ…くノ一クラスに多由也を止めれる奴がいると思うか?」


「まぁ確かにそうだが、だからと言って何なんだ…? 直接俺たちに被害が来るわけじゃないだろ」


…くっ! この左近は正論ばかり言いやがって。

 
「いいか!? お前達に被害が無くても、俺には来るんだ! 多由也が教室を破壊でもしてみろ、大蛇丸様の事だ、五人衆リーダーのあなたの責任ね…なんて言うに決まっている」


唯でさえまだ訓練場の修理代が払い終わってないと言うのに、これ以上借金を増やしてたまるか!


そのためにも多由也の授業風景及び、放課の過ごし方を観察してこなくては…


「というわけで、俺達はくノ一クラスに潜入してくるから…鬼童丸! 例のものを…」


俺の発言と同時に鬼童丸はある物を持って現れた。


潜入には欠かせないものである。


その名もダンボール


「行くぞ鬼童丸!」


俺はダンボールを被りながら言った。


鬼童丸もダンボールを被り準備万端のようだ。


しかし、旅立つ俺たち二人に不意に声を掛けられた。


「君麻呂、お前はなぜそこまで…」


それは誰が言ったのか分からなかった。左近かもしれない、次郎坊かもしれない、それとも名も知らぬ唯のクラスメートかも…


だから俺はこう言ってやった。


生きて帰ったらその時教えてやる!


……死ぬつもりなんて無いけどさ

















くノ一クラスにつくまで何人かとすれ違ったが奇跡的に見つからず来れたようだ。


そして早速クラスの目と耳を傾けてみる…


………


……





「えぇーやっぱり右近様が責めで左近様が受けよー」


「違うわよー左近様が責めに決まってるじゃないのー」


「まぁどちらにしても、美しい兄弟愛よねー 常に繋がってるんだから きゃ恥ずかしい…」






……な、なんだここは!? 俺たち来る場所間違えたか?

 
鬼童丸を見てみるが鬼童丸も理解できてないらしい…


あらためて場所を確認してみたが、くノ一クラスであってるし…


あれか? やはり大蛇丸が集めた生徒だけあってまともな生徒が少ないのか?


それにしても、左近達連れてこなくてよかった…


「君麻呂、君麻呂、いたぜよ反対側に。多由也がいるぜよ」


そう鬼童丸から声が掛けられたので、俺はそちらの方に視線を移した。


視線を移した先には普段見れない光景が広がっていた。


た、多由也が笑っている。


「…き、鬼童丸……多由也が笑ってるぞ」


「見てるぜよ…」


な、何てことだ…笑うとあんなに可愛いなんて…


何やってるの貴方達…


……ば、馬鹿な…こ、この声は大蛇丸


この完璧な偽装が見破られるなんて…


流石は伝説の三忍というわけか…


「鬼童丸! 撤退だ!!」


俺たちは一目散に逃げ去った。


…が、そんなに簡単に行くはずもなく


「風遁・大突破」


大蛇丸の放った術により、俺たちはダンボールと共に飛び去った…















後日分かった事だが、くノ一クラスの授業は時々大蛇丸が教えているらしい…


教えてる内容が乙女心とかだったらどうしよう…そう考えてしまった…



[710] Re:ウチの生きる道
Name: ネメ太郎
Date: 2006/07/30 23:00







あの山を越えた先には、きっと大きな町があると信じていた。


その町に行けば、友達が何十人もできると思っていた。


あの川を下った先には、海というものがあると聞いた。


湖の何倍も何十倍も何百倍も大きく、涙よりしょっぱいと聞いた。


世界は広い。けれど、ウチにとっての世界は狭かった。








小さな家に、父と母、そしてウチの三人。それがウチにとっての世界だった。


他人というものは存在しなかった。周りに他の家なんて無いのだから。






ウチは父の事が嫌いだった。でも、それ以上に父はウチの事が嫌いだったと思う。


何度も殴られた。何度も蹴られた。何度も謝った。何度も泣いた。


殴られる理由も、蹴られる理由も判らぬまま、ウチはただ「ゴメンナサイ」と泣き続けた。


ウチは母が大好きだった。


ウチをいつも庇ってくれた。代わりに殴られ、代わりに蹴られ、「ゴメンネ」とウチに言い続けた。


殴られても、蹴られても、母はウチに「大丈夫よ」と笑いかけてくれた。






父と母はよく喧嘩をしていた。


二人が言い合うと、ウチは別の部屋に行く。それでも父の声で「あんなガキ売っちまえ!!」と聞こえる。


ウチはいらない子なのだろうか…そう聞くと母はいつも優しく抱きしめてくれた。








いつだっただろう? 母がウチに笛を教えてくれるようになったのは…


母の奏でる音色はとても綺麗で、ウチの出す音とは大違いの音だった。


そんなウチの音を聞きながら、母は優しく丁寧に教えてくれる。


いつだっただろう? 母は笛の音で、ウチに幻術を使って見せてくれた。


それはとても綺麗で、 とても幻想的なものだった。ウチはその光景を一生忘れないだろう。


この日から、ウチは笛を使った幻術も母に教わるようになった。









ウチは幸せだった。父は嫌いだけど母がいたから。


けれど、そんな幸せも一瞬で崩れ去った……すべてはあの日に…


父が母を刺したのだ…ウチの目の前で…


ウチには何も出来なかった…


母を助ける事も…父を止めることも…


ウチに出来たのはただ逃げ出す事だけ。


けれど、子供の足で逃げたところで逃げれる距離などたかが知れてる……ウチはすぐ父に捕まった。


殺される 純粋にそう思った…


死にたくない! 死にたくない! ウチは父の腕の中で必死にもがいた。


でも父はウチを殺すつもりなど無かったらしい。「少し黙ってろ!!」という声と共に頭に衝撃を受け、ウチは気を失った。













目を覚ましたときそこはまったく知らない場所だった。


まだ頭がボーとする…


父と誰かが話しているのは分かった。そして父がお金を受け取っている事も…


ウチはどうやら売られたらしい…


二人の会話の中で大蛇丸という名前が聞こえた、多分ウチを買った奴の名前だろう。


ウチが目が覚めたのに気付いたのだろう。


その大蛇丸とか言う奴と目が合った……目が合った瞬間、身体の震えが止まらなかった…父なんかと比べ物にならないほどの恐怖がそこにはあった。恐いとかそいういレベルの物じゃない。自分の心臓はこの人に握られてるそんな感じだ。この人の気まぐれでさえウチは死ぬんだ、そう感じさせるほどの視線だった。そしてその恐怖に耐えられずまたウチは気を失った。








次に目が覚めたときは、蝋燭の光だけがある暗い場所だった。いや、牢獄と言った方が正しいのかもしれない。窓も無く、昼か夜かさえも分らない状況。でも、傍らには母からもらった大事な笛があった。


(いったいどいういう事なのだろう? ウチは売られたのに笛もあるなんて…)


だけど、そんな悩みはすぐになくなる事になった。


大蛇丸と呼ばれてた奴が現れ、ある場所に連れて行かれたのだ…


そこにはウチと同年代の子供達が何人もいた。


何をするのか不思議だったが、やらされる事は簡単だった…


大蛇丸と呼ばれてた奴はこう言ったのだ。


「…生きたければ殺しあいなさい 唯の一人になるまで…一人だけ生かしてあげるわ…」


ウチには理解できなかった。


何故殺しあうのか? 何故そんな命令をされなければいけないのか?


けれど、そんあ疑問を持っている余裕なんて無かった。


周りでは殺し合いが始まっていたのだ…


ある者は首を切られ血が噴出し、ある者はクナイが刺さり倒れていたり…


皆本気だ…一人がこちらにクナイを構え向かってきたいる。


ウチの手にあるのは笛のみ…どうする事も出来なかった。


振り下ろされたクナイを何とか笛で防ぎ、相手との距離をとる。


ウチにはクナイも手裏剣も刀もおよそ武器と呼べるものが無かった。


そんな中で生き残るために出来る事……母から習った幻術だ…


ウチは一心不乱に笛を吹いた。自分でも不思議なくらい落ち着いて吹ける事が出来た。後はただ母から教わったのを間違えないようするだけ。


効果はあったようだ。


ウチを狙っていた奴は標的を見失ったかのようにクナイを振り回し、最後は自分の首を切って絶命した。


そして、ウチは生き残った。周りには大量の死体が出来上がっていたが、何故か気分は悪く無かった。


ウチの中で何かが壊れたのかもしれない…


そこに大蛇丸から声が掛けられた。


「あなたが生き残ったようね…名前は…」


「…多由也です」


「そう多由也ね…なかなかよかったわよ、あなたの幻術…誰に教わったのかしら…?」


「母に…母に教えてもらいました」


「そう母親にね…中々優秀な忍びだったのかしら……まぁいいけど、あなたはこれから私の為に働いてもらうから…その為に強くなってもらうわよ…」


そう大蛇丸は言い歩いていった「ついてらっしゃい」という言葉を残して。


ウチは走り大蛇丸の隣に並び歩いた。


ただ気になっていた…強くなってもらうと言う言葉に。


「ウチは強くなれますか…?」


自分でも不思議だった。


話し掛ける気などまったく無かったと言うのに口が勝手に開いていた…


「なれるわよ…でも、何か強くなりたい理由でもあるのかしら…?」


理由…殺したいだけだろう。


大切な母を奪ったあいつを…だからウチはそのまま口にした。


「殺したい奴がいるんです…」


「そう…なら大丈夫よ…唯強くなりたいのなら、その殺意…復讐心忘れない事ね」


大蛇丸はそう言い笑った。

















あれから何年経っただろう?


ウチは強くなった。


そして、ウチはより強くなるため呪印を授かった。


自由という代償を払い。


でも、今のウチには仲間が出来た。


馬鹿な鬼童丸。何かと注意してくる次郎坊。よく分らない左近と右近。そして何より君麻呂がいる。


今のウチにはそれだけでいい。


たとえ自由なんてなくても、コイツ等がいるだけで十分なのだから…







母さん…ウチは今までにいろんな物を失った。


けれど、今なら言えるよ。


「ウチは幸せだよ、母さん」










[710] Re[2]:ウチの生きる道
Name: ネメ太郎
Date: 2006/08/03 00:44

納得行かなかった。


アカデミーに通う事もそうだが、君麻呂達と別のクラスなんて。


故に今のウチは何よりも果てしなく不機嫌だろう…


しかし、そんなウチの状態なんか関係なく授業は進んでく。


外を見てみると君麻呂たちがいた。


どうやら野外演習中らしい。


君麻呂は左近と組むのかな? ということは相手は鬼童丸達か。


正直、ウチもあそこに交じりたかったな…


アイツ等と一緒ならこの退屈な授業も楽しかったのかな…?


そんな事を考えてるとこの日の授業は終わってしまった。










どういことだ…?


朝教室に入ったらいきなり皆に囲まれてしまった。


話を聞くと、どうやら音の五人衆がどうのこうのとかで、ウチがそのメンバーの一人とばれたらしい。


その原因となったのが昨日の男子の戦闘訓練のようだ。


男子で一、二を争う戦闘能力の高い生徒、(どうやらドスとザクという名前のようだが) その二人を君麻呂と左近が圧倒した事が原因らしい…


それでその二人に興味を持った生徒の一人が調べ上げ、音の五人衆の存在を知り今に至るというわけだ…


それにしても「左近様はやっぱり受けよね~」とか「右近様が責めに決まってるわよね~」とか分けの分らないことまで聞かれても…


だがそんな中聞き捨てならない言葉が聞こえた「でも君麻呂君もいいよね~」…ムカッ


何故だろう? 左近や右近は何言われてもいいが、君麻呂の事だけは何故かイラつく…


とりあえず君麻呂の事を言った奴の顔だけは覚えておこう…


そして、結果として教師が来て「席につきなさい!」と一喝があるまで、ウチの周りにはアホどもが居続けた。


そしてウチも席についたところ


「アンタも大変だねぇ」

 
そう隣の席の奴に話し掛けられた。


誰だろう? そう思っていると相手が自己紹介をしてくれた…


「まぁなんだかんだ言って、隣にいながら話すのは初めて何だけどな、キン・ツチって言うんだ。よろしくね」


「…あ、あぁウチは…」


「知ってるよ。多由也って言うんでしょ…」


自分も名乗ろうとしたところ遮られてしまった。


コイツも他の奴みたいに左近や右近が…って言う奴なのかと思い少し警戒してしまう。


「それにしてもアンタ、君麻呂って人のことが好きなんだろ…?」


…へ!? 今何て言ったこのクソアマ!?


ウチが君麻呂好きって…


いや突然そんな事言われても…


や、やばい何も考えられない……


「あれ、違った? さっきさ、あなたが囲まれてるときに君麻呂って人の名前が出たよね? その時のあなたの表情からしてそうかなって思ったんだけど…?」


う、ウソ…ウチそんなに顔してたのか…


「で、どうなの? 違うのかな? 違うならアタシがアタックしちゃおうかな~?」


…!? ダ、ダメだ!!


…ウチはどうすればいい?


君麻呂のことは嫌いじゃない…けど、他の誰かのものになるってのは嫌だ。


もしかしてこれが好きって事なのか…


「じゃあやっぱり君麻呂君の事すきなんだ~?」


…ウチは小さく頷く事しか出来なかった…


「ウフフ 赤くなって多由也って可愛いわね。安心して私他にちゃんと好きな人いるから」


ウチが可愛い…?


それに今までの話の流れからしてウチって乗せられた?


ウチはキンを睨んだが当の本人は涼しい顔をしている…


そしてウチラは「そこ、うるさいわよ!!」と教師に怒られてしまった。




















放課になりまたウチはキンと話していた。


後からウチの好きな人だけ知っていては不公平だから、ということになりキンの好きな人も聞いた。


その相手はザクという奴らしい。


確か君麻呂にやられた奴だったと思っていたけど…


それにしても、このキンって奴は他の生徒に比べて話しやすい。


五人衆以外でこんなに気安く話せるのは初めてなのかもしれない…


それに同姓だし…やっぱり話していても楽しい。


そう思っていると「多由也って笑うと可愛いわよね」とキンに言われてしまった。


ウチは知らず知らずの内に笑っていたらしい。


でもたまにはこういうのもいいのかもしれない。


そう思っていると、突如大蛇丸様の声で「風遁・大突破」と聞こえた。


吹き荒れる風に教室は揺れ、廊下は酷い事になっていた…


それにしても君麻呂と鬼童丸の悲鳴も聞こえた気がしたが気のせいだろう…


そういえばなんで大蛇丸様の声が? と思ったが謎はすぐ解けた。


授業始めるわよー」との声と共に教室に入ってきたからだ…


ウチは開いた口が塞がらなかった…










[710] Re[9]:僕の生きる道
Name: ネメ太郎
Date: 2006/08/06 22:15







卒業試験。


それは、その名の通りアカデミーを卒業するための物である。


ただ、内容にもよるが…


もし内容が、大蛇丸に挑戦とか、大蛇丸に抱きつく、もしくは大蛇丸に身を預ける。なんて事だったら間違いなく俺は落ちるだろう…というか卒業試験自体を受けはしないだろう。


…まぁそんな事なんてあるわけ無いだろうが、この里のトップがアレだから完璧に否定できないのが少し悲しい所でもある。


そう言った意味で緊張しながらも俺は席についた。


周りを見てみたが、教師が来るまでの間それぞれ自由な事をしているようだ。


試験内容が教えられていないので、唯ひたすら教科書を読んでる奴。手を組んで神に祈ってる? 奴までいたが、やはり全員が緊張しているようだ…


しかし、そんな中で一グループだけいつも通りの調子のグループがいた。


言うまでも無く俺達の事だが。


「みんな面白いほどにガチガチぜよな~」


「ほんとそうだな。 大蛇丸様に食われるわけでもないのに」


ハハハと次郎坊の発言で他の奴等は笑っていた。



が、正直俺は笑えなかった…さっき変な想像するんじゃなかった、と自己嫌悪に陥っていた。











試験官…といっても教師の事だが、彼が教室に入ってきて試験内容が発表された。


「試験内容は分身の術だ。 三十分後から始める。呼ばれたものから隣の教室に来るように」


そう言い教師は教室を出ていった。


内容が分身の術と言う事が分かり安心する者もいれば、「俺分身の術苦手~!!」という悲痛な叫びまで聞こえてきた。


「分身の術だってさ、簡単な試験だね~」


音の五人衆と呼ばれる俺達には簡単過ぎる内容だあろう。


俺の問いに他の三人、鬼童丸、次郎坊、左近は「そうだね」と頷いた。


………


……





試験時間が刻一刻と近づくに連れて教室の雰囲気がピリピリしたものとなってくる。


全員が堅くなってる。


こんなんじゃ受かる物も落ちるな、そう俺は思い、笑いで場を和ませる事にした。


全員注ー目ー!!


なんだ? なんだ? という様子でクラス中の視線が集まる。


近くにいた鬼童丸達も不思議そうな目で見ていた。


「お前達~そんなに堅くなってると受かるものも落ちるぞ~ もっとリラックスしとけって」


そこまで言って俺はある行動を起こした。


「というわけで、この場を和ませるために、一番、君麻呂モノマネやります!!」


皆途中までは納得していたのだろう。だがモノマネと言ったとき一斉に皆の顔が?? という感じになってしまった。


そんな事も気にせず俺は準備を進めてく。


体内で骨を新たに精製。そしてそれを体から突き出した。


出てきたのは四本の骨の腕…ちょっとグロテスクかもしれない。


そういえばドラゴンボールの天津飯の技で四妖拳とか言うのがあったな…さしずめこれは六妖拳ってところかな。


まぁそんな事はどうでもいいんだが…


「と言うわけで~あっという間に鬼童丸ぜよ」


笑顔と共に言ってみた。


……おかしい。ここで大爆笑が起きるはずなのに何も反応がない。


鬼童丸は「俺はそんなじゃないぜよ!!」と怒っている。


ドスッ!!


鬼童丸の下腹に俺の腕が突き刺さった。


そして作った腕で鬼童丸の頭を叩く。


お前の真似なんてしたら滑ったじゃないか!!


と、理不尽にキレてやった。


やっとそこで小さな笑いが起こり、俺は安心することが出来た。


そして、ちょうどいいタイミングなのかは分からないが、一人目が試験を受けるため教師に呼ばれて隣の教室に向かっていった。










次々と生徒が教師に呼ばれ減っていく中、何故か名簿順で呼ばれているはずなのに俺達だけは呼ばれず飛ばされていた。


そして俺達を除いて最後の奴が教室から出ていった。


試験を終えたらその場で解散なので、教室にいるのは俺達四人だけになった。


「どういう事だろうな?」


「さぁ? 俺達は試験無しなんてことじゃね~の?」


そんな会話をしてたとき教師が呼びにきた。一人ではなく俺達全員で来い。との事だった。


そう言われ早速俺達は隣の教室に向かった。










向かった教室では教師の他に大蛇丸が座っていた。


いや、大蛇丸の他に教師の方が正しいな…存在感が違いすぎるし。


そんな中大蛇丸が口を開いた。


「あなた達は試験受けなくてもいいわよ…実力は誰よりも分かってるしね…」


どうやら試験を受けなくていいらしい…これはラッキーというべきなのだろうか?


「それと前もって言っておくわね。あなたたち四人のうち二人は下忍のスリーマンセルとしてではなく、私のサポートに回ってもらう事になるから」


「…は?」


俺は聞き返してしまった。


下忍になるために通わされてたのじゃないのか? それなのに二人は違うって…


それに大蛇丸のサポート……い、いや過ぎる!! 「―夜のサポートしなさい」とか言われたらどうするんだ!?


「あ、あの大蛇丸様? ち、ちなみにですねその二人って誰ですか?」


俺は脅えながら聞いた。


もし俺が選ばれたら本気で里抜けを考えなければいけないかもしれない…


「安心しなさい君麻呂…あなたと多由也はスリーマンセルに入る事に決まってるから…」


よ、良かった。他の三人はどうでもいいような顔しているが、気付いていないのだろう。


大蛇丸のサポートの危険性を…


あぁ、ママン。今回も守られたよ僕の貞操…


そしてグッバイ。 鬼童丸か次郎防か左近の誰か…君たちの事は忘れないよ。






[710] Re[10]:僕の生きる道
Name: ネメ太郎
Date: 2006/08/07 22:15






昨日の卒業試験から翌日、また俺達はアカデミーのある教室に集められていた。


しかし昨日と比べて違う事が一つだけあった。


今この場にいる生徒の数が昨日に比べ減っているのだ。


どうやら全員が受かる事は出来なかったようだ。


その事もあり教室の中はかなりざわついている。






それからしばらくして、くノ一クラスの子達も教室に入ってきた。


くノ一クラスも来たという状況からして、多分今から下忍の班分けの説明でもあるのだろう。


俺達四人はその入ってきたくノ一クラスの中に知った顔を見つけ声を掛けた。


「多由也~こっちこっち」


俺は手招きしながら多由也を呼んだ。


多由也も俺達に気付いたらしい。


一緒に来ていた女の子と話をしていたみたいだが、その子と別れてこちらに近づいてきた。


しかし去り際に一緒にいた子に何か言わたようだ。


ここから見てても分かるくらい、多由也の顔が赤くなっていた。


……大きな声で呼んだのが恥ずかしかったのかな?


まぁいいや。そういえば多分彼女だろう。


この間、くノ一クラスに忍び込んだときに多由也が笑っていたとき一緒にいた子は。


そして俺達の近くまで来た多由也が一言。


「大きな声で呼ぶなクソヤロー!!」


…あのね多由也、そんな赤い顔で言われても可愛いだけなんだけど…


いやそんな事よりも重要な事が。


「多由也、一緒にいた子あれ誰?」


「一緒にいた子? あぁキンの事か」


「キン? そうかキンというのか…」


キンか、そういえば原作ではザクたちとスリーマンセル組んでた内の一人だっけ?


…何はともあれ彼女には感謝しなくては。


俺と鬼童丸に多由也の笑顔という貴重なものを見せてくれたのだから…


「…君麻呂、キンの事気になるのか?」


多由也が何故か不安げに聞いてきた。


どういうことだろう?


「…は? いやまぁ気になるといえば気になるというか」


そこまでいった時少しだけ多由也が暗くなったように感じた。


「感謝しなきゃいけない人だな」


「感謝? キンはお前に何かしたのか?」


それは愚問と言うものだよ多由也さん。


彼女は奪っていきました…俺と鬼童丸から多由也、あなたの笑顔と言う名の宝を…(ルパンの銭型風に)


まぁそんな事言える分けも無く、俺は一言だけ言っておいた。


「ヒ・ミ・ツ」


ドカッ!!


ウィンク付で言ったが多由也はお気に召さなかったようだ。


だからって無言で殴るのは酷いんじゃないの。


俺を殴った多由也はそのまま無言でキンの方に行ってしまった。


「何だ? 多由也の奴ちょっと機嫌悪すぎじゃない?」


「いや、今のは君麻呂が悪いぜよ」


そうなの? という感じで左近と次郎防を見たが二人とも頷いていた。


後で謝っておくか…













それからしばらくして教師達が入ってきた。


班分けの説明と担当上忍の説明などがされていく。


説明が終わった後、スリーマンセルを組むメンバーが発表された。


ザク達は原作道理の組み合わせのようだ。


肝心の俺たちは、俺、多由也、鬼童丸の三人になった。


どうやら生贄は左近と次郎坊らしい。


「あらためてよろしくだな、鬼童丸に多由也」


「そうぜよな~」


ここまでは友好的にいけたが多由也だけ「フンッ!」と言ってそっぽを向いてしまった。


いかん相当怒っているらしい…


とりあえず謝らなくては。


「あ、あの多由也さん」


そこまで言ったとき別の声に俺の謝罪はかき消された。


君麻呂たちの三人、担当上忍の紹介があるから別室に行ってくれ


教師のヤローだ…人の謝罪を邪魔しやがって。


とりあえず俺は教師を睨んでおいた…教師もそれに気付いたらしく顔がだんだん青くなっていく。


これはこれで面白いかもしれない…


フンッ!! クソヤローども、さっさと行くぞ


「ラジャー」


まるで訓練された兵隊のような声だっただろう。


今の俺と鬼童丸は多由也に逆らう術を持たなかった。











向かった部屋にいたのは大蛇丸だった。


何故? という感じだ…


まさか大蛇丸が担当上忍? なんて考えたがそんな事ありえあないだろうし。


「君麻呂、私があなた達の担当上忍になるから…」


ありえる事だったらしい。


こちらとしてはお断りしたいのだが…


「大蛇丸様がですが? しかし大蛇丸様は忙しいのでそんな暇などないのでは?」


「大丈夫よ…担当上忍といっても名前だけだから…あなた達の場合下手な上忍よりは力はあるしね…だから任務とかも基本的にはあなた達だけでやってもらう事になるから…」


これは喜ぶべきなのだろうか? なんかめんどくさいから任務は勝手にやって頂戴。という風にも聞こえるのだが。


まぁ大蛇丸が常に身近にいるよりは何十倍もましか…








[710] Re[11]:僕の生きる道
Name: ネメ太郎◆f880db45
Date: 2009/06/13 16:59


スリーマンセルに選ばれてからの初任務。


俺たちに与えられた任務はごく簡単なものだった。


畑の耕し


…いくら初任務だからってこの任務はどうよ?


「…ウチ等って、音のエリートじゃなかったのか?」


多由也がそう疑問を投げかけてきた。

 
けれど、俺は多由也の問いかけに何も答える事が出来なかった。


俺自身、一応音のエリートという事になっていると思っていたからだ。


だからこの任務に納得なんて出来るわけがない。


…出来るわけないが、俺たちにはどこかの里の…というか本来のこの話の主人公のように、里長に文句なんて言えなかった。


考えてみてくれたまえ、相手はあの大蛇丸…


しかも最近里の運営が経済的にも難しいのか、機嫌があまりよろしくない。


まぁこれは出来たばかりの里だから仕方ないともいえるだろう。


そんな機嫌の状態の大蛇丸に文句なんて言える分けもなく、ただ大蛇丸のサポートをしている左近と次郎坊が大変だな、と思うだけだった。










そして結局、なんだかんだと文句を言いながらも俺たちは指定されていた場所まで行った。


着いた場所には一人の老人がいて、俺たちに話し掛けてきた。


「おぉ君達が畑を耕してくれる子達じゃな。よろしく頼むぞ。ちなみに範囲はここからあそこまでと、あっち側はあそこまでじゃ。じゃあよろしく頼むぞ」


それだけ言うと老人はさっさとどこかに行ってしまった。


俺たちはあらためて老人が指定した範囲を見てみた。


……なんて言えばいいのだろう…東京ドーム一個分? そんな感じの広さを指定していったのだ。


「あのじいさん、本気でこの広さをやれって言ってるのか?」

             
俺は二人に問い掛けてみたが、答えは返って来なかった。


二人ともあまりの広さにキョトンとしているのだろう。鬼童丸に至っては口まで開いてしまっている。


「こ、これを今日中にやるぜよか…?」


俺の質問に答えるでもなく、鬼童丸が言った。


「やるしかないだろ……できなかったら大蛇丸様になんて報告するんだ? 畑の耕し出来ませんでした。ってか? そんな報告したらウチ等殺されるぞ…」


「多由也の言うとおりだ。出来ませんでた、で済まされるわけ無いだろ…俺たちはやるしかないんだよ」


多由也の答えに賛同するように俺も言った。


鬼童丸も納得したようだ。


そして、俺たちは置かれていたクワを持ち畑の耕しに掛かった。









どれくらいたっただろう…?


最初の三十分くらいは話しながらやっていたが、時が進むにつれだんだんと皆の口数も減っていった。


「そろそろ休憩して昼食にしない?」


俺は二人に聞いてみた。二人とも頷き俺たちは休憩する事にした。


俺たちは料理なんてスキル持ってないので、弁当は勿論次郎坊特製のだ。


その弁当を食べながら鬼童丸が言った。


「やっと六分の一ぐらいってとこぜよか…」


そう言われ改めて俺たちが耕した所を見てみる。


鬼童丸の言うとおりだろう。良く見積もっても五分の一も進んでないだろう。


しかし、これでもかなり頑張った方だと思う。


「…これ今日中に終わるのか?」


多由也が聞いてきた。


「終わるのか? じゃない。終わらせるしかないんだよ…」


「君麻呂…そんなかっこいい事言っても、本当に終わると思うぜよか?」


…鬼童丸のいう事はもっともだろう。


けれど、終わらせなければ大蛇丸に何させられるか分かったもんじゃないし。


それぐらい分かってるだろ、という視線で鬼童丸を見た。


鬼童丸も分かってくれたようだ。


……そして俺はある事に気付いた。


「鬼童丸、そういえばお前って腕六本あるよな? という事は単純計算で俺や多由也より三倍の仕事が出来るはずだよな?」


俺は無茶な質問、というか疑問を投げかけた。


鬼童丸は、「…は?」と言って馬鹿げた感じを出している。


「君麻呂の言うとおりじゃねぇか、このクソヤロー!! 何でうち等と同じ量しか作業できてねぇんだよ!?」


多由也も俺の意見に賛同のようだ。


一気に不利になった鬼童丸はかなり焦っている。


「ま、前にも言った気がするぜよが、う、腕の数は関係ないぜよッ!」


確かに言われた気もするが


「前ってゲームの時だろ? その時と今じゃ全然違うだろ状況が」


「そうだクソヤロー! 甘ったれた事ぬかしてんじゃねぇ!! じゃあ何か…? テメーの残りの手は飾りなのか!?」


ぜ、ぜよ!? か、飾りじゃないぜよ。偉い人にはそれが分からないぜよ!!


多由也に一気に言われて、鬼童丸は良く分からない事を言い出した。


どこかで似たような台詞を聞いた事があるような気がするが、気のせいだろう…


それにしても、鬼童丸の奴墓穴掘ったな。


「飾りじゃないんだな…ならホレ」


俺はそう言って自分の分と多由也の分のクワを渡した。


「…!? いや、あの君麻呂君に多由也さん。いくら何でもそれは無理があるって言うぜよかなんと言うか」


「「つべこべ言わずにやって来い」」


俺と多由也はハモって鬼童丸に言ってやった。


ちなみに俺は殺気を込めながら言ったんだが、隣の多由也からも殺気が発せられていた。


そんな状態で言われた鬼童丸は、というと「ぜよー! 人でなしッ!!」と泣きながら作業に向かって行った。


「三倍のペースで出来ると思う?」


「無理だろうな…」


泣きながら作業する鬼童丸を見ながら、俺と多由也は冷たい会話をしていた。











結局鬼童丸は三倍のスピードで出来ずに、若干ペースが上がったというぐらいだったが途中で倒れてしまった。


俺たちは精魂尽き果てた鬼童丸から自分のクワを受け取り、また作業に戻る事にした。


………


……





あれから鬼童丸も復帰し三人で頑張っているのだが、まだ三分の一ぐらいは残っていた。


やってもやっても終わらない作業にだんだんイラついていく…


そしてついに俺はキレた…


やってられるかッ!!


そう言ってクワを投げ捨てた。


多由也、鬼童丸どけ…俺が終わらせてやる


「…は? 何言ってるぜよか君麻呂。馬鹿なこと言ってないでさっさと作業するぜよ」


鬼童丸はそう言ったが、多由也は違った。俺が本気というのが分かったのだろう…すぐにその場を引き下がった。


「そう、ならいいや。巻き込まれても文句言うなよ」


俺は鬼童丸に言った。それでも鬼童丸は良く分かってないようだ。


早蕨の舞


地面から突き出た骨によって、残りの三分の一の部分は俺の骨に埋め尽くされた。


そしてすぐに術を解除する。


鬼童丸は勿論巻き込まれ、どこかに飛んでってしまってどこにもいない。


耕したと言うより、荒れたの方が正しいのかも知れないが、まぁ掘り起こした事には変わりないからいいだろう。


ミッションコンプリートだ!


「多由也、報告しに帰るぞ」


多由也は頷き俺たちは岐路についた。


そして偶然にも途中で鬼童丸を発見し、そのままほかっといても仕方が無いので、俺達は片足ずつ持ち引きずって行く事にした。










大蛇丸の部屋の前に着いた時、もうすでに日は落ちていた。


そして途中まで引きずられていた鬼童丸はボロボロになっている。


コンコンと大蛇丸の部屋のドアをノックする。そしていつものように「入りなさい」と声を掛けられた。


そして、これまたいつものように「失礼します」と言い部屋に入る。


「任務の報告に来ました」


一応リーダー? の俺が報告する。


「あら…意外に早かったのね」


…意外ってことは、大蛇丸はあの広さを知っていたと言う事だろう。なら前もって言っておいて欲しかった。


「これ、次の任務の依頼書だから…あぁちなみに君麻呂、あなた一人で行ってもらう事になるから」


…は? 一人ってスリーマンセル組んだ意味ないんじゃん…


「あの、大蛇丸様どういう事ですか? ウチ等は必要ない、という事ですか?」


疑問に思ったのは俺だけではないらしい。


「違うわよ…多由也。あなたを含めた四人、鬼童丸、左近、次郎坊でちょっと覚えてもらいたい術があってね…」


そう大蛇丸は言った。


どうやら俺だけ除け者らしい。


「で、俺に一人で任務をやれと…?」


「そういう事よ」


「でも、今回みたいな任務でしたら無理ですよ…」


そう、今回みたいな任務だったら絶対に無理だ。


三人であれだけ時間が掛かり、挙句に最後はヤケクソでやったのだから…


「大丈夫よ…今回の任務はあなたにとっては簡単だから…」


そう言ってさっき渡された任務の依頼書に目を通す。


依頼書にはこう書かれていた。






依頼内容


殺害


殺害対象者名 ガトー






「…殺害? これってB級以上の任務じゃないですか?」

 
「でも、あなたにとっては畑仕事より楽でしょ…」


まぁそれはそうだが…


「それにね…この任務あなたにとっても良い事あるわよ…任務成功の報酬一万両でどうかしら…?」


やらさせていただきます!!


俺は即答した。


一万両はおいしすぎる。


こうして俺たち、といっても俺一人だが二つ目の任務が決定した。











[710] Re[12]:僕の生きる道
Name: ネメ太郎◆f880db45
Date: 2009/06/13 17:02




俺に新たに与えられた任務。


ガトーという男の殺害。


この男、ガトーカンパニーを経営する大富豪らしいが、裏では麻薬の販売などいろいろやってるらしい。


まぁ殺害と言っても、方法は自由なわけでそう難しい任務にはならないだろう。


そんな中、今ひとつの問題が発生していた。


「…ま、迷った…」


そう、道に迷ったのだ…


道に迷うなんて忍者失格かもしれない。


こんな事が他の連中に知れたら何を言われるか…


そもそも鬼童丸に地図なんか借りるのが間違っていたのかもしれない。


借りる前に確認しなかった俺も悪いが、地図が世界地図なんて大雑把すぎるよ…


…クソッ!! 鬼童丸め帰ったら殺してやる!!












一方そのころ音の里では


ぶえっくしょい


鬼童丸が盛大なクシャミをしていた。


「なんだ鬼童丸。風邪か? うつすんじゃねぇぞ」


「違うぜよよ。多分誰かが俺の噂をしてたに違いないぜよ」


「噂~? 誰がテメーみたいなクソヤローの噂をするかよ!」


「分かってないぜよ多由也。今この場にいない君麻呂がしてるに違いないぜよ。きっと一人が寂しくて俺の事でも話してるぜよよ」


鬼童丸はフフンと偉そうにしながら言っている。


「…は? 君麻呂がテメーの事なんか噂するわけ無いだろ! アホな事言ってないでさっさと持ち場に着け!!」


多由也がそんな事認める分けも無く、鬼童丸に持ち場に着くように促していた。


音の里は概ね今日も平和のようだ。













しかし本当にどうしよう…


やっぱりあれか? こういう時にはあれしかないのか??


そう思い俺は身体の中から骨を一本取り出した。


そしてその骨を地面に立てて手を離す。


すると骨は当然の如く重力に負け倒れた。


骨の先は右を差していた。


「あっちだな」


そう言い残し俺は歩き出した。





二、三十分歩いただろうか…


どうやら俺の骨占い? は正しかったらしい。


少し先に二人の人間の姿が確認できた。


遠めで見た感じだが、一人は黒くて長い髪の女。多分歳は俺とさほど変わらないだろう。そしてもう一人は金髪の少年…というかあの服装って本来の主役のナルトじゃないか…?


俺は迷子から抜け出せる事と、やっと主人公のナルトに会える事の嬉しさで駆け出した。


「誰です?」


ある程度近づいたとき、いきなり女の方から此方に向かって声が掛けられた。


一応気配とかは隠していたつもりだったんだけど、女の方はそれを見抜いたのだ。結構な実力があると思っていいだろう。


一方ナルトの方はまったく分かってないらしい。キョトンとした顔で女の方を見ている。


それにしても、此方から声を掛けるつもりだった俺は完全に出足を挫かれてしまった。


どうやって出て行こう?


「誰です?」 って聞かれたから「君麻呂です」って行くべきか…? いやそれじゃ馬鹿丸出しだな…


無言で立ち去る…いかんまた迷子に逆戻りだ。


そんな風にいろいろ考えていると今度は殺気が送られてきた。


発生源は女。


「あぁちょっと待った! こっちは戦う気なんてないから」


俺は争うつもりなんてまったく無いので、そう言い飛び出した。


「…何のようです?」


向こうは此方の姿を見てそう言ってきた。


ナルトの方は急に俺が出てきたので驚いてるらしい。


顔を見れば一目瞭然だ。











「すいません 手伝わせちゃって」


「いいって、こっちは道教えてもらったんだし」


今俺達は薬草の採取をしている。


あれから俺は、恥ずかしいけど自分が迷子という事を話すした。


そして道を教えてもらったお礼に手伝う事にしたのだ。


「それにしても、姉ちゃん朝から大変だな」


「君こそ。こんな所で朝から何をやってたんです?」


修行!!


張り切ってナルトはそう答えた。


そういえば、先ほど話している間に思い出したのだが、確かこの女に見える奴って白って名前だったと思う。勿論性別は男で…


二人の話は進んでいくが俺は少しでも原作の事を思い出すのに必死だった。


確か他にも再不斬って奴がいたと思う。


そこまで思い出したとき不意に俺に声が掛けられた。


「あなたのその格好、あなたも忍者ですよね?」


「まぁ一応ね。そこのナ…金髪の子みたいに有名な里じゃないけど」


危なかった。まだ自己紹介とかしてないのに名前呼ぶ所だったし…


でもこのままじゃいつか名前呼んじゃいそうだし、手を打っておくか。


「そういえば自己紹介がまだだったよね。俺は君麻呂。あんた等二人の名前も教えてくれると助かるんだけど…?」


「白です」


「俺の名前はナルトだってばよ。将来火影と言うスゴイ忍者になるスーパーヒーローだ!!」


…白のは短すぎだし、ナルトもそこまでは聞いてないし。


まぁいいか。これでうっかり名前を呼ぶなんて事無くなったし。


「火影ですか…?」


ナルトの自己紹介にあった火影という事に白は反応した。


「そう火影だってばよ! 俺は里で一番の忍者になって、皆に俺の力を認めさせてやんだよ!!」


「……それは誰かの為ですか? それとも自分の為にですか?」


「…………は?」


どうやらナルトには少し難しい質問だったらしい。


白はクスっと可愛い顔して笑っている。


これで本当に男というのだから驚きだ…もし大蛇丸が白の事を知ったら間違いなく狙われるだろう。


「何がおかしいんだってばよ!」


「…君には…いや君達には大切な人はいますか?」


ムカッとしているナルトに冷静に白は言った。ナルトだけでなく俺にもだが…


そして白は何か考え込むように俯いた。


多分再不斬に拾われる前の事でも思い出してるのだろう。


それにしても大切な人か…


俺にとっては誰だろう?


大蛇丸……絶対に違う。これは断言できる。


カブト……一応命の恩人だが、大切な人か? と聞かれると違うだろう。


やっぱり現時点では多由也達かな? 仲間、と呼べるのは彼等だけだし…


俺自身大切な人について考えてると俯いてた白が顔を上げ言った。


「人は…大切な何かを守りたいと思ったときに、本当に強くなれるものなんです」


ナルトは少し考えた後に答えた。


「うん! それは俺も良く分かってるってばよ」


白はナルトの答えを聞いた後、今度は俺の方をみている。


どうやら俺の答えも待っているようだ。


「…まぁなんとなく俺も分かるかな」


俺はそう答えた…正直そんな気持ちで戦った事などないから分からないが、多分そんなものなのだろう。


アニメや漫画だと何かとそういう奴が強かったし。


俺の答えも聞けて白は満足したのだろう。立ち上がり俺たちに背を向け言った。


「ナルト君、君は強くなる。そして君麻呂君、あなたも……それでは二人ともまたどこかで会いましょう」


「あぁ」「うん」俺とナルトの返事を聞き白は歩き出した。


だが少し歩いたところ立ち止まった。


まだ言い残した事があるのだろう。


「……あ……それと……僕は男ですよ」


ナルトはそれを聞き大口を開け頭を抱えている。


よほどショックだったのだろうか…


「サクラちゃんよりかわいいのに」とブツブツ言っている











[710] Re[13]:僕の生きる道
Name: ネメ太郎
Date: 2006/08/13 18:43





何故だ…何故こんな状況になっている…?


「「おかわり!!」」


何故俺はこいつ等と夕食を共にしてるんだ?


目の前ではナルトとサスケが競うようにご飯を食べてる。


「君麻呂君も遠慮せずに食べてね」


「…いや、もう十分頂いてますので」


ツナミさんがナルトとサスケのご飯を盛りながら俺に聞いてきた。


「いやーーー!! やっぱり食事は大勢のほうが超楽しいわい!!」


俺の方を見ながらタズナさんが言う。


というか、その歳で「超」とか使うのはどうなんだろう…





……やっぱり白と分かれた後、ナルトの誘いに乗ったのが悪かったみたいだ。


ウマイ飯が食べれるかもと、その誘惑に勝てなかった俺も悪いが。


白と分かれた後だ…ナルトが聞いてきたんだ。


「あのさーあのさー。 君麻呂って泊まるところ決まってないんだよな? だったらさ、タズナさんの家に来るといいってばよ」


…ナルトよ、一応俺の方が年上だから君かさんは付けて欲しかったよ…


まぁそんな事はどうでもいいんだが…


「いや、いきなり知らない人が来ても迷惑だろ? 遠慮しておくよ」


最初はそう断わったさ…断ったけども


「大丈夫だってばよ! タズナのじーちゃんはそんな事気にしないし、それよりも飯が超ウマイんだってばよ!!」


飯がウマイ…この言葉に俺は勝てなかったんだ。


それにお金も掛からないし…


まぁ断られたらその時は宿にでも行けばいいかな? なんて軽い気持ちだったんだ。


……





「おぉいいぞいいぞ、超いいぞ。今更一人増えたところで何も変わらんしな」


この一言で俺はこの家に厄介になる事になったんだが…一つ忘れていたんだ。


ナルトがいると言う事はカカシもいるという事を。


さすがに焦ったね…カカシの事も思い出した時、呪印が見つからないように額当てを首に巻いたり、墓穴を掘らないようにすぐに自己紹介し、ちゃんと相手の名前も聞いたりと。






「「ウエーーー」」


ナルトとサスケが吐いた…サクラが二人対してに怒っている。


やっぱり来なければ良かった…









翌日


どうやら俺はかなり寝過ごしたらいい。時刻は朝ではなく昼に近くなっていた。


廊下を歩いてると「百九十六 百九十七」と数を数える声が聞こえた。声からしてカカシのようだが…


俺は何をやってるのか気になり、その声が聞こえる部屋に向かった。


部屋の中にはカカシとタズナさん、サクラの三人がいた。


カカシは指一本で腕立て伏せをしている。タズナさんとサクラはそのカカシに座っていた。


どうやら聞こえていた数を数える声は腕立て伏せの数だったようだ。


「おぉやっと起きたか。超ぐっすり寝とったようじゃの」


タズナさんが俺に向かいそう言ってきた。


「えぇおかげ様で。本当にありがとうございます」


「気にするな! 昨日も言ったが今更一人増えたところで何も変わらんからのぉ」


そうタズナさんは豪快に笑いながら言った。


俺もタズナさんの笑いに答えるように笑顔を返した。


「…でカカシさんはなにやってるんです?」


「これ…? 見て分かるでしょ腕立て伏せ」


まぁ確かにそれぐらいは見れば分かるんだけどね…


そう思っているとサクラがカカシの答えの補足をするように言ってくれた。


「カカシ先生ってばチャクラの使い過ぎでへばっちゃってね。今リハビリ中なの」


「こら、余計な事を言うなサクラ」


カカシにそう言われたサクラは「ゴメンなさい」と言い、黙ってしまった。


次に口を開いたのはタズナさんだった。


「……そういえば前々から超聞いておきたかったんじゃが、ワシが任務の内容を偽ったのにどうしてお前等はここにいてくれるんじゃ?」


それを聞きカカシは腕立てを続けながら答えた。


義を見てせざるは勇なりきなり 勇将の下に弱卒無し! 先代の火影の教えです。これが忍びの生き方…お金だけで忍びが動くわけじゃありません」


先代の火影の教えか…内の里の大蛇丸とは大違いだ。というか大蛇丸がそんな精神を持っていても気持ち悪いが。


それに最後の台詞「お金だけで忍びが動くわけじゃありません」か…目先の一万両につられた俺って一体なんだよ? って感じだな。









夜になりナルトとサスケが帰ってきた。


ガトーは殺しに行かないのか? と思うかもしれないが俺はある事を思い出し、そして気付いたんだ。


ガトーは再不斬に殺されると…ということは俺は何もしなくても任務完了という事になり、俺の元には一万両が転がり込んでくるという事だ。


正に楽して儲ける…だな。


押忍


いきなりそんなでかい声が聞こえたので、ついビクッとなってしまった。


どうやら明日からナルトとサスケがタズナさんの護衛に着く事になったらしい。


それにナルトの方はかなり疲れているようだ…服はドロドロだし机に持たれかかる様にして座っている。


…それにしてももうすぐ一万両が手に入るのか…笑いが止まらないね。






「何だァ?」


不意にナルトがイナリの方を見ながらそう言った。


俺も釣られてイナリを見たが泣いてるようだ。


なんでそんなに必死に頑張るんだよ!! 修行なんかしたってガトーの手下には敵いっこないんだよ! いくらカッコイイ事言って努力したって、本当に強い奴の前じゃやられちゃうんだ!


ガタッと大きな音を立てて立ち上がり言った。


この発言にナルト以外全員、俺も含めてだがかなり驚いているようだ。カカシでさえあまりの事に目を大きくしている。


そんな中でナルトが口を開いた。


「うるせーなァ お前とは違うんだってばよ」


この発言にイナリは泣きながら大声で言い返す。


お前見てるとムカツクんだ! この国の事何も知らないくせに出しゃばりやがって! お前に僕の何が分かるんだ!? つらい事なんか何も知らないで、いつも楽しそうにヘラヘラやってるお前とは違うんだよォ!!


この発言に今度はナルトがキレたようだ。


「……だから……悲劇の主人公気取ってビービー泣いてりゃいいってか……」


そしてそこまで言った後もたれていた机から身体を離し続けた。


お前見たいな馬鹿はずっと泣いてろ! 泣き虫ヤローが!!


その迫力ある言葉にイナリはビクッと震えた。


「ちょっとナルト、アンタ言い過ぎよ!」


サクラが咎めるがナルトは「フン」と言って出て行ってしまった。


それにしても「つらい事なんか何も知らないで」か…俺が言われても怒るな。もし言われたのが俺だったら「じゃあお前に分かるのか!? 大蛇丸に貞操を狙われる恐怖を」と言っていただろう。


イナリ君、君も大変だったかもしれないが、俺たち音の忍びはもっと大変なんだよ…相手が相手だから。


そう言ってやりたくなったが、残念ながらイナリも外に出て行ってしまっている。


それに俺が慰めなくてもカカシがついていったから大丈夫だろう。


こうして今日という一日は締めくくられた。







翌日…どうやら今日も寝過ごしたようだ。


どうやら大蛇丸が身近にいないという安心感で俺はグッスリ眠れてしまうらしい。


今日はこの家に近づいてくる殺気でボンヤリと目が覚め、ドカッという大きな音で俺は完璧に目覚めた。


殺気の数からして相手は二人。確か原作ではナルトが助けに来てたからほっといても良いよな…


そう思いもう一眠りしようとしたが、やはり不安になり部屋から外を見る。


ちょうどツナミさんが人質になり連れて行かれようとしていた。


待てェー!!


イナリの声が聞こえた。


二人の男は「アン」といい振り返る。


「かっ…母ちゃんから離れろー!!」


「うおおぉぉぉ」と叫びながらイナリが二人に向かって突進していく。


…アレ? ナルトまだ来ないの? というかナルトの気配まったく感じないんだけど…


……ま、まさかこのままナルト来ないとか……


そうこうしてる間にイナリと二人の距離はどんどん縮まっていく。


イナリ!!


ツナミさんの悲鳴みたいな声でイナリを呼ぶ声が聞こえた。


………これってかなりやばいんじゃ?


そう思ったとき俺は窓を突き破り外に出て、一気にイナリに追いつき変わり身の術を使う。


変わり身として使ったのは今まで俺に温もりを与えてくれてた布団。


「変わり身の術!?」


二人は驚いてるようだ。


「いやぁー遅くなって悪かったねイナリ。ヒーローは遅れてくるもんだから」


俺の腕の中にいるイナリに声を掛けた。


「…君麻呂の兄ちゃん」


震えるような声でイナリは俺を呼んだ。


「よく頑張ったなイナリ。後は俺に任せてツナミさんの所に行っておけ」


俺はイナリから手を離しツナミさんの所に行くように指示をした。


そこへ二人から声が掛けられた。


「誰だテメーは? 邪魔するとテメーも殺すぞ!!」


「フッ…名乗るほどの者でもござらん」


俺は髪を掻き揚げながら言った。正直一度は言ってみたかった台詞だ…


「ふざけた事言ってんじゃねーよ!!」


男二人はそう言いながら持っていた刀で切りかかってきた。


……遅い。正直避けるのが面倒だし、後ろには二人がいるので、あえて攻撃を受ける事にした。


二人の攻撃が俺に当たるが、鈍い音がして全然切れてない。


骨でガードしたのだ。


「兄ちゃん!!」


イナリの悲鳴みたいな声が聞こえた。


「…何?」


受けた攻撃を物ともせずに俺はイナリの方に振り向いた。


「……へ? に、兄ちゃん切られてるのに大丈夫なの!?」


「あぁこれ」


そう言いながら切りかかってきた二人が持っている刀を指差す。


「全く切れてないから安心しろ」


「な、なんで切れねぇんだ! どうなってるんだよ!?」


二人の男が声をそろえて言う。切れないことにかなり焦ってるようだ。


なんでって言われても、お前たちが弱いからとしか言いようが無いんだけど…


まぁいいや終わらせよ。


そして此方から攻撃を仕掛けた。


一人は鳩尾に一撃を、もう一人には側頭部に一撃を与えて気絶させる。









「それにしてもイナリ良くがんばったな。お前は強いよ」


俺はそう言いイナリの頭を撫でてやる。


するとイナリは泣き出してしまった。


「くそ! もう泣かないって決めたのに。これじゃまたナルトの兄ちゃんに泣き虫って馬鹿にされちゃう」


「……あのなぁイナリ、嬉しいときには泣いても良いんだぞ」


その言葉を聞き一段とイナリは泣き出してしまった…とりあえず泣き止むまで頭を撫で続けたが……はぁー、こんなの俺のキャラじゃないな……


それになんか微妙に原作と話が変わってきてるし…


ちょっと不安になってきたな。


「イナリ、もうここはお前に任せて大丈夫だよな?」


「……ウン」


涙でぬれてた目を擦りながらイナリは言う。


再不斬達が戦う場所って建設中の橋であってたよな?


「イナリ、建設中の橋ってどっちだ?」


東の方を指差しながら「あっち」とイナリが教えてくれた。


方向を教えてもらった俺は、東に向かって駆け出した。


それにしてもどうしよう…もしカカシが再不斬に負けてたら…俺の楽して金儲け作戦は失敗だし、後々面倒な事にもなりそうだし……とりあえず急ぐか。


俺はスピードを上げ橋に向かって進んだ。








[710] Re:外伝 オレ達の生きる道
Name: ネメ太郎
Date: 2006/08/17 22:20





音の五人衆。


それは音の里でもエリートとされる存在。


リーダーの君麻呂を筆頭に左近、鬼童丸、多由也、次郎坊の五人で結成されている。


彼等の存在理由、それは大蛇丸を守護する為に。


彼等の存在理由、それは大蛇丸の刃となる為に。


彼等の存在理由、それはすべてが大蛇丸の為に。








…の筈なのだが今の彼等はというと。



「え~それでは第二回、音の五人衆定例会議を行います」


今彼等がいるのは君麻呂の部屋。


そして何故か第二回目と呼ばれる会議。


どうやら、前回の大蛇丸のセクハラ問題についてが一回目だったらしい。


「そういえば君麻呂、何で多由也がいないぜよ?」


周りを見渡し鬼童丸が言った。


「いい質問だ鬼童丸、だが次の発言からは手を上げるように」


鬼童丸の質問にあったとおり、今この場には多由也はいない。


居るのは君麻呂、左近、鬼童丸、次郎坊の四人。


その理由は簡単だった。


「時に鬼童丸よ、今日の日付は?」


「今日? 今日は二月八日ぜよ。多由也が居ないのに、それが何か関係あるぜよか?」


君麻呂は鬼童丸の答えに満足したが、鬼童丸の質問には答えず別の質問をした。


「そう、今日は二月八日。では一週間後は何日だ?」


「一週間後? 二月十五日ぜよ…だからそれが何の関係があるぜよ?」


鬼童丸はいまだ分からず首をかしげている。


だがそれはこの場に居る左近や次郎坊も同じようだ。


「お前たち本当に分からないのか?」


三人は同じタイミングでコクンと頷いた。


「………………」


三人の息の合った頷きに、君麻呂はただ無言だった。


無言でただ三人を見つめていた。身も凍るような冷たい目で。


「………………」


今度は三人が無言になった。


君麻呂と違うのは、三人は恐怖で何も話せないだけ。


三人とも二月十五日がなんなのか聞きたいが、聞いたら殺されるような気がして聞き出せないでいる。


………


……





沈黙が続いた。がその沈黙も終わりを迎える事になる。


突如として君麻呂が ダンッ!! と机を叩いて立ち上がったのだ。


三人は君麻呂のその行動に身構えた。


いつ攻撃されても対処できるようにと。


鬼童丸に至っては、蜘蛛粘金と呼ばれる術を使い、粘金の鎧を作り出し纏っていた。


「ヒントをやろう。ヒントは音の五人衆の紅一点、多由也だ」


そんな三人に君麻呂が言った。


三人は必死に考えた。多由也と二月十五日に何の関係があるのかを。


そして君麻呂は肩から骨を抜き出し三人に向かって突きつけた。ある言葉と共に。


…五


五? 三人にとってはまた疑問が増えた。五もヒントなのか?

 
なんで俺たちは棍棒みたいな骨を突きつけられているのか?


…四


三人は一斉に理解した。


今君麻呂が数えてるのは、ヒントなのではなく死へのカウントダウンだという事を。


そしてゼロになる前に答えなければ、自分達はあの棍棒で殴られるのだろうという事を。


…三


三人は必死に考える。殴られない為に。


けれど焦りが冷静な考えを出来なくしていた。


与えられたヒントは、二月十五日と多由也。


…二


その瞬間鬼童丸の顔が光輝いた。


「フフフ。分かったぜよ君麻呂!」


どうやら鬼童丸は答えが分かったらしい。


その鬼童丸の笑みを見て、左近と次郎坊は安心した。


これで助かったと…


だが二人は大切な事を忘れていた。


「ヒントで重要なのは紅一点だったぜよ。そして指定された日付、二月十五日という日。そこから導かれる答えは一つ」


ビシッという風に指を突き出して言った。まるでどこかの名探偵のようだ。


「…で答えは?」


「フフフ。答えは、多由也にとって二月十五日がせい」


ドカッ!!


君麻呂は持っていた骨の棍棒で鬼童丸を殴り倒した。


鬼童丸がただ殴られるのを見ていた二人は脅えている。


「下品な答えの奴は死ね」


そう二人が忘れていた重要な事。


それは鬼童丸が大馬鹿だという事。


「ぜ…ぜよ~…な…なら答えは何ぜよか…?」


どうやら鬼童丸は生きていたらしい。


粘金の鎧が役に立ったのだろう。


二月十五日は多由也の誕生日だ!!


「…誕生日?」


「そう多由也の誕生日…と言ったわけで二月十五日は誕生日会を決行する」


「…誕生日会?」


「そう誕生日会、各自プレゼントの容易と当日の部屋の飾りをやって貰うから。ちなみに場所はこの部屋ね。それと次郎坊には料理も作ってもらうから」


「……………」


イヤ、なんて言わないよね?


黙っていた三人に向かい君麻呂は棍棒を構えながら言った。


その君麻呂を見てからの三人の反応は早かった。


「…た…誕生日会ぜよね。もの凄く楽しみぜよ…」


「…あ…あぁまったくだ、早速兄貴と多由也のプレゼント考えないと…」


「…お…俺は新しい料理にでも挑戦してみるかな…」


君麻呂は三人の答えに満足し、最後に彼等に言った。


「そういえば、多由也には内緒で進めてくからね。ちなみに誕生日会の事をばらした奴、及びばれた奴は…」


そこまで君麻呂は言うと、持っていた骨の棍棒を改めて握り直し後を続けた。


「殺しはしないけど、それなりの罰が待ってるから」


「…わ…分かった」


三人は恐怖に脅え、小声になりながらも答える。


そして君麻呂が一言「本日の議会はこれで終了」といい締めくくった。


こうして誕生日会の主役、多由也の知らないところで新たな作戦が始まったのだ。


だがこの作戦には一つの問題があった。多由也にばれてはいけないという事。


後にこの事が問題になるなど、三人はおろか君麻呂でさえ気付いてなかった。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







二月九日





おかしい…あのゲスチンヤローのウチに対する反応が…


昨日までは普通だったのに、今日になったらいきなり変になった。


ゲスチンヤロー…鬼童丸はウチを見るやいなや逃げ出してしまったのだ。


…ウチがあいつに何かしただろうか。


いやしてない。


ここ最近はあのゲスチンヤローには手を出してない。


…分からない。元から変だったが、ついに壊れてしまったのだろうか…?






二月十日





やはりおかしい…昨日は他の奴等にあってないので気付かなかったが、今日クソデブヤローあって確信した。


朝、クソデブヤローに会ったのだ。


こいつは鬼童丸と違い逃げ出すなんて事はしなかったが、やはりおかしかった。


いつもはウチの口の悪さを注意するのだが、全く注意しなかった…


何を聞いても「あぁ」としか言わない。

ウチの知らないところで何か起こっているのだろうか…?






二月十一日





ゲスチンヤローとクソデブヤローに引き続き、クソ兄弟の二人まで変わっていた。


こいつ等の異変は気付きにくかった。


というか最初は全く気付かなかった。


まさか、ウチの前でだけ左近と右近が入れ替わっていたなんて…


ここまで来て、ある不安がウチを襲った。


このまま行くと君麻呂までウチを…






二月十二日





君麻呂に会いに行ったが居なかった。


それにアイツ達三人も。


どうやら特別な任務についたらしい。


帰ってくるのは十四日だそうだ。


ウチには何も伝えられてなかった。同じ音の五人衆だというのに…


いつもなら誰か教えてくれたのに…






二月十三日





「何か元気が無いけど大丈夫?」


そうアカデミーで聞かれた。


聞いてきたのは、一番仲の良いキンだった。


ウチは「大丈夫だから」そう答えるのが精一杯だった。


でも、嬉しかった。心配してくれる事が…


「ありがとう」ウチは心の中でキンに言った。






二月十四日




不安は的中した…君麻呂まで変わっていたのだ。


久々に会った君麻呂はどこか冷たく、ウチとの距離を離そうとしているのが、話していても直ぐに分かってしまった。


それでもウチは聞いた。


「最近アイツ達の様子が変だ」と。


「最近アイツ達がウチを避けている」と。


それを聞いた君麻呂は、ウチの疑問に答えるわけでもなく、用事があるからと言いどこかに行ってしまった。


悲しかった…別に誰にでも嫌われてもいい…


…でも、アイツ達には、君麻呂だけには嫌われたくなった。


「…ウチはまた一人だ…」


そう呟きウチは少しだけ涙を流した。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







二月九日


まず最初に多由也と接触したのは鬼童丸だった。


いや、接触とはいえないのかもしれない。


彼は多由也の姿を見るやいなや逃げ出したのだから。






二月十日




次に接触したのは次郎坊だった。


彼はずっと悩んでいたのだ、誕生日会に何の料理を作ろうかと…


そして、知らず知らずのうちに多由也の言葉使いを注意するのすら忘れていた。






二月十一日




次は左近の番だった。


彼は自分がボロを出すのを恐れて、多由也の前では右近と変わっていた。


勿論右近は拒否したが、左近も引き下がらない。


結果、話し合いでは決着がつかずにジャンケンで勝負をつける事になった。


そして負けた右近が今表に出ているわけである。


まぁ途中で多由也は気付いたようだが…






そしてこの日の夜、君麻呂たちは大蛇丸の部屋に来ていた。


「町に行くので十四日までアカデミーを休むですって?」


「そういう事です」


大蛇丸の問いに対しての、君麻呂の返事は簡単だった。


だが君麻呂の返事とは違い、大蛇丸は簡単には納得しない。


「理由よ、何か理由があるんでしょ…それを言いなさい」


「理由ですか?」


そして君麻呂は素直に話すことにした。


二月十五日が多由也の誕生日だという事を。


その準備のために町に行って、誕生日プレゼントや、料理や飾りつけに必要な材料を買いに行きたいということを。


多由也には内緒で進めているという事も。


「誕生日ね…まぁいいわ、好きにしなさい」


「…へ? 本当ですか!? ありがとうございます」


正直、君麻呂達は無理かな? という気持ちがあったが予想外の大蛇丸の答えに驚いている。


今では四人でハイタッチなどしながら喜んでいた。


(それにしても誕生日会ね…私も甘くなったかしら?)





二月十二日&十三日




君麻呂たちは予定道理に町に来ていた。


十二日は、それぞれ誕生日プレゼントを買いに。


十三日は、料理の材料や飾り付けに必要なものを買いに。


そして必要なものをすべて買い終わり、彼等は音の里へと帰路についた。





二月十四日




今度は君麻呂が多由也と接触する番だった。


君麻呂は焦っていた。


自分が『ばらしたり、ばれたりした奴はそれなりの罰がある』と言った手前、墓穴を掘ってしまったらどうしようという不安があったのだ。


しかし不安を抱いていたのは君麻呂だけではなかった。


そう、この時多由也も不安で一杯だったのだ。


君麻呂は、知らず知らずの内に多由也への態度が変わっている事に気付いていない。


多由也はいつもと違う君麻呂にすぐに気付き、より一層の不安に駆られる。


そして意を決して多由也は君麻呂に聞いた。


三人の様子が変だという事を…


本当は『君麻呂も変だ』そう聞きたかったのだろう。


しかし多由也にはそれを聞く勇気が無かった。


ただ単に聞くのが恐かったのだ…


多由也は答えを待っていたが、君麻呂から返事は貰えなかった。


君麻呂は「用事を思い出した」と言いどこかに行ってしまったのだ。


君麻呂が向かったのは三人のもと。 多由也が三人を変に思っている事を伝え、気を付けるように言うつもりなのだろう。


だが君麻呂は気付いていない。


彼自身が一番多由也を傷つけ、一番不安に思わせていた事を。


そして多由也が泣いている事にも…





二月十五日


ついに決戦? と呼ぶ日が来た。


それぞれの思いを元に、今日という日は始まりを迎えたのだ。














あとがき


今回はちょっといつもと書き方を変えてみました。


いつもと比べてどうでしょう?

 
読みにくかったりしたら、感想掲示板に書いてやってください。


感想等も待っております。


それでは失礼します。




[710] Re:外伝 オレ達の生きる道
Name: ネメ太郎
Date: 2006/08/27 17:59





「しまったぁぁぁぁっ!!」


突如として発せられたその叫び声。


発生源はいつものトラブルメーカー一号。


そしてその発生源は、自分が授業の邪魔をしてるのも気にせず後を続る。


「大変だぁぁぁぁぁっ!!」


もうこうなってしまっては授業は続けられない。


生徒の誰一人として私を見てないから。


「何ぜよ君麻呂、いきなり叫んでだりして…ついに頭が逝かれたぜよか? 大体いつも君麻呂は──」


トラブルメーカー二号の奴だ…


しかし彼は気付いてないのだろうか? 一号が拳を握り締めている事に。


彼には学習能力という物がないのだろうか? もう何度もこのパターンで殴られていると言うのに。


「うっさい鬼童丸!」


ドカッ!!

 
…ほら殴られた。


しかし、何度も見ているが彼の繰り出す一撃はすばらしい。


流石は大蛇丸様のお気に入り…というべきなのか。


何にしても、彼は私なんかよりずっと強い。それだけが絶対的な事実として存在しているのだ。


「鬼童丸の事はほっといて…何が大変なんだ君麻呂?」


「聞いてくれ左近に次郎坊! 俺たちは大切な物を忘れていたんだ!!」


「大切な物??」


「ケーキだよケーキ! 流石に次郎坊でもケーキは作れないだろ?」


「…あぁ。ケーキは無理だな」


「だろ!? アカデミーが終わるまで待ってからケーキを買いに行っても間に合わない……という事はだ、今から早退して買いにいくしかないんだ。 ついでにお前らも早退して準備に掛かるぞ」


…早退?


私がそんな事を許すと思っているのだろうか?


しかも病気や怪我で早退ならともかく、理由がケーキを買いに行くから、だと。


舐めている…彼等は教師というのを、私という教師を舐めているのだ。


「先生~と言う訳で俺たち四人早退しますから」


「あぁ気を付けて行ってこいよ」


…神様。私にもう少しだけ力があったのなら、彼等を止めらたのでしょうか?


私にもう少しだけ勇気があれば、彼等を注意できたのでしょうか?


私にもう少しだけ……


「鬼童丸! いつまで寝てやがるんだ!!」


バキッ!! トラブルメーカー一号の拳が、気を失っている二号に襲い掛かった。


…少しじゃ無理なようです神様。あれを止めるには。











「……で、先日は二日間の休み。そして今回はアカデミーの早退許可ですって…?」


「その通りでありますボス」


ため息をついて大蛇丸は君麻呂達四人を見る。


「あなた達ねぇ…早退許可、と言いながら今ここに居るのはどういう事かしら?」


「………?」


分かっていないのだろうか…君麻呂達は首を傾げている。


そして大蛇丸はため息をもう一つ追加する事になった。


「私の言い方が悪かったかしらね…早退許可は普通、早退する前に取るものでしょう…な・の・に・今あなた達が私の前にこうして立っているのはどういう事かしら?」


「…!? お、俺たちは知らず知らずのうちに早退をしていたと…」


君麻呂はそう言ってみせたが、大蛇丸は軽く頭を抱える事になった。


分からないのだ。幼いころからの彼を見ているが、どこまでが本気で、どこからが呆けているのか。


「いやぁ流石大蛇丸様。まさか俺達がもう早退してたなんて思いもしませんでしたよ」


「ハハハ」と嘘臭い笑い声を発しながら君麻呂は頭に手をやっていた。


そして大蛇丸はため息をまた一つ…


「大蛇丸様。そんなにため息ばかりついてると幸せが逃げていきますよ?」


あんた達がつかせてるんでしょうが!! そう大蛇丸は叫びたかったが何とかこらえる事が出来た。


いつからだろう? 彼等を相手にするのが疲れるようになったのは。


自問自答してみたが答えはすぐに出た。


音の五人衆を結成してからだ。


音の五人衆…音の里のエリートと呼ばれる存在。呪印を持つ者たちで構成された彼等は、大蛇丸の為に存在するといってもいいだろう。


(君麻呂を入れたのが間違えだったかしら…)


そう、なにか問題事が起きると彼が中心にいるのだ…


他のメンバーにしてもそうだ…


例えば鬼童丸。彼は君麻呂と出会う前はもっと普通だった、はずだと思う。 なのに今では君麻呂の殴られ役になってるし…


「ハハハ」問題の君麻呂はまだ笑っている。そして何故かそれに鬼童丸も加わっている。


「…もういいわ…好きなようにして頂戴…」


「イエッサー!! 好きにさせて貰います。 というわけで各自準備に掛かれ」


その言葉を待っていたかのように君麻呂は他の三人に指示を出している。


そしてもう私への用は済んだのだろう。「失礼しました」と言い残し彼は部屋を後にした。


(まるで嵐の様ね…)


君麻呂達が居なくなり、大蛇丸は机に目を向けた。


そこには、彼等が来るまで作業に取り掛かっていた大量の書類があり、あらためて作業に戻った大蛇丸は、一枚、また一枚と着実に書類を減らしていく。


その中で大蛇丸は一枚の書類を目にし、作業の手を止める事になった。


(アカデミーからの書類? 珍しいわね…)


大蛇丸は週に一度くノ一教室で教鞭を執っているため、アカデミーでの問題事などはその時に聞いていた。それ故、今回のようにこうして書類として部屋に送られてくる事など今まで無かったのだ。


内容は、というと…『君麻呂達のせいで授業が中断される!! どうにかしてください』や『胃に穴が空きそうです』等の事が長々と書かれていた。


(…あ…あの子達は…)


大蛇丸はまたため息をつき、そして頭を抱えた。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





朝。


それは当たり前の如く訪れ、当たり前の如く去ってゆく。


時が経てば昼になり、また時が経てば夜になる。そしてまた朝はやってくるのだ…


そう、人間がどんなに頑張った所で変えられないものなど山のようにある。


今日は二月十五日。


つまり何が言いたいかというと、時を戻したいのだ。


彼等に嫌われる前に、彼に嫌われる前に…戻りたいのだ。訳も分からず嫌われてしまったなんて悲しすぎるから。


ほんの一週間でいい。一週間だけ時を戻したい…五人で馬鹿な事で笑っていた時に。


(馬鹿らしい…そんな事不可能だと分かっているのに……)



彼女、多由也はアカデミーの教室でただ時が進むのを待っていた。


まだ教室には誰も居ない。


普段より朝早く目覚め、気分的に誰にも会いたくなかった彼女はそのままアカデミーに来たのだ。


いつもと同じ教室。けれどいつもと違う風景。今は彼女だけの空間として存在しているこの教室も、いずれはいつもと同じ風景に変わり、いつもと同じ騒ぎ声で満たされてしまうのだろう。



あと一時間。


授業開始までの時間を、黒板の上でカチカチと無機質な音を立てる時計で確認した。


…と不意に廊下の方から足音が聞こえてきた。足音はこちら、くノ一教室に向かってきている。どうやら一人で過ごせる時間はお終いらしい。


とりあえず今は誰とも話したくないので、机の上に手で枕を作り、そこに顔をうずめて寝る事にした。


ガラガラ。と勢いよくドアが開かれた。


開かれたのは後ろの方のドア。そして開いたドアから声が掛けられた。


「あれ? 多由也珍しく早いね。何かあったの?」


この声はキンだろう。多由也がくノ一クラスで一番よく話す生徒の声だ。


話し掛けられた多由也は何の反応も返さなかった。だがキンは多由也のその反応が気に入らなかったらしい。


多由也に近寄り、というか席が多由也の隣の席なので必然的に近ずくことになるのだが…キンは自分の席に座り、改めて聞いた。


「多由也…最近アンタ変だよ。何かあったんでしょ…?」


「……………」


どうやら多由也は答えるつもりはないようだ。


その反応をみてキンは座ったばかりの席から立ち上がり、多由也の席の後ろに立った。


そしておもむろに多由也の脇の下に手を入れ─


「えいっ!」


「キャッ!」


キンが掛け声とともにコチョコチョと脇の下をくすぐり、多由也は悲鳴を上げて飛び上がってしまった。


「な、何しやがるんだ! このクソアマッ!!」


「クソアマねぇ…まぁ私は多由也みたいに『キャッ!』なんて可愛い悲鳴上げれないからいいけど…」


「ひ、悲鳴は関係ないだろ!!」


「まぁまぁ、とりあえず落ち着いて─」


それだけ言うとキンは自分の席に戻り、あらためて多由也の方に向き直り続けた。


「─で、本当は何かあったんでしょ?」


「キンには関係ない」


「関係ないね…確かにアンタが関係ないって言ったらそれまでなんだけど─」


「そうだ…だからもうウチに関わるな」


それは拒絶だった。自分を心配してくれる彼女への…


だけどそんなので納得するキンではなかった。


「あのねぇ…言わせて貰うけど最近のアンタを見てるとこっちが痛々しいの! 『関係ない』ふざけるんじゃないわよ!! 全身から私は悲しいです。みたいな不陰気を出しておいて、心配して聞いてみれば『関係ない』ですって!!」


バンッ!! と机を叩いて怒りを露にした。


多由也はキンの豹変振りに、目を見開いて驚きを表している。


「私はね、アンタを見ていて可哀想とかで聞いてるんじゃないの! 本当に心配だから、友達として悲しそうなアンタなんか見たくないから聞いてるの!!」


「…………」


「それとも私だけだったの、友達だと思ってたの…?」


「違うっ!! ウチだってキンの事大切な友達だって思ってる…けど…」


多由也は咄嗟に叫んだ。


それを聞いてキンは安心して、ふっと息をついた。


「なら話しなよ…その方が楽になるし、全部聞いてあげるから」


その言葉を聞き、多由也はあらためてキンを見た。そして重かった口を開き、一つずつ話していく。この一週間に起こった事を…それをキンは黙って聞いていた。呟くように話しているのを聞き漏らさないために。


………


……





「で、要点だけ言うと、いつのまにか君麻呂君に嫌われていて悲しいと」


「違う」


「それにしても青春よね~ 好きな人に嫌われてるかもしれない。 それだけで、あれだけの哀愁を漂わせれるんだから~」


「おい!」


「あっ、ゴメンゴメン。多由也にとっては君麻呂君が一番だもんね~」


キンは悪びれた様子も無く、あさっての方向を見ながら一人でウンウンと頷いている。


「…もういい」


多由也は、今のキンには何を言っても無駄だと悟り、疲れたように教室を見回した。


何時の間にかほとんどの生徒が集まっている。授業開始までもう時間が無いので当たり前といえば当たり前だが、やはりあまりいい気分にはなれなかった。別に誰かに話を聞かれた、という訳ではないけれど、やはりこういった話は二人だけの空間で話したかったから…


「─という事で、昼休みになったら本人に直接聞きに行きましょ。『私の事嫌いになったの?』って」


「…………は?」


やはりキンに話したのは間違えだったかもしれない、と多由也は後悔した。







[710] Re:外伝 オレ達の生きる道
Name: ネメ太郎
Date: 2006/08/27 18:00






昼休みが始まるや否や、多由也はキンに腕を捕まれ引っ張られていた。朝話してた事と、今向かってる方向からして目的地は男子教室だと思うが、


「な、なぁ本当に男子教室に行ってまで聞くのか…?」


「当たり前じゃないの。全部多由也の為なんだから」


キンは多由也の気持ちなど関係ない、といった感じで後ろも振り返らずに歩き続けた。


「それにね、もう着いちゃったから」


…何時の間にかもう男子の教室まで着いてたらしい。此方はまだ心の準備が全く出来てないというのに。


ガラガラッ!!


唐突にその音が響いた。


誰か出てくる? と思ったけど、残念ながらその予想は外れだったらしい。ドアを開けたのはキンだったのだ。そして、まるで自分の教室のように堂々と入っていき、周りを見渡して一言。


「あれ? 君麻呂君居ないじゃない」


「…へ?」


引っ張られながら教室に入った多由也も、下を向いていた顔を上げキンと同じように見渡した。けれど、やはり君麻呂の姿は無かった。それに他の三人、左近、次郎坊、鬼童丸の姿も。


「君麻呂? それなら授業中に早退してったけど」


こちらの話し声が聞こえたのだろう。


そう教えてくれたのは名前も知らない近くに居た男子だった。


「どこに行ったか知ってる?」


「さぁそこまでは…ただケーキがどうのこうのって言ってたけど」


「ケーキ?」


多由也とキンは同時に聞き返してしまった。


結局、男子教室に行って分かったのは、君麻呂たちは居ないという事と、その理由がケーキという事だけだった。


そして自分達の教室、くノ一教室に戻る途中、


「どうする? 君麻呂君たち居なかったし─」


そこまで言うとキンは何かを考えるような仕草をし、後を続けた。


「…こうなったら大蛇丸様の所に聞きに行ってみる? 大蛇丸様なら何か知ってるだろうし。 うん、それが一番いいわね。 という事で、授業が終わったら大蛇丸様の所にいきましょ。我ながらいい考えね」


「…………へ?」


どこがいい考えなのか分からないが、キンは多由也の話を聞くまでも無く一人で答えを出し、今後の予定も決めてしまった。


そして多由也は、キンに話した事を激しく後悔した。






大蛇丸の部屋。


この里の長でもある大蛇丸の部屋はそれなりに広く、整理整頓もされており綺麗な部屋だった。だが今では大蛇丸がいる場所。つまり大蛇丸の机の上だけが悲惨なな状態になっている。その理由は一目瞭然だった。机の殆どを大量の未処理の書類が埋め尽くしており、整理整頓された部屋とは雲泥の差があったのだ。


「……で、最近君麻呂達の様子が変だと…それで私に何が聞きたいのかしら…?」


大蛇丸はそれまで取り掛かっていた書類作業を止め、キン達の方に顔を向け聞いた。


書類作業に没頭していたせいなのか、大蛇丸の機嫌の悪さを多由也はその肌で感じている。


「はい。大蛇丸様なら何かその事について知ってるんじゃないかと思いまして」


キンは大蛇丸の機嫌の悪さに気付いてないのだろう。 若干緊張している感じはあるが、いつもと同じような口調で言った。


(多分、多由也の誕生日の事ね…)


そう大蛇丸は思い改めて多由也を見たが、いつもクソヤローと叫んでる彼女と比べると、やはり今の彼女には普段の様な元気さは感じられない。


「…まぁ確かに心当たりはあるわね…」


「本当ですか!?」


多由也は今まで暗かった表情を少しだけ明るくし、大蛇丸に詰め寄るような形で聞いた。


と、その時だった。バサバサッと不吉な音が辺りを支配したのだ。


「あ………」


どちら発したのか、それとも二人同時に発したのか分からなかったが、その声だけはしっかりと多由也の耳に届いた。


そして二人の視線が交わってる場所、机の上へと視線を移す……何て言えばいいのだろうか、そこには散らかりながらも山の様に積み上げられていた書類が、多由也が詰め寄ったときの勢いで無残にも崩れ落ちていたのだ。


……多由也


机の持ち主から声がかかる。


視線を向けて確認するまでもない。声だけで苛立ちが分かってしまう。


「じゃ、じゃあ私はこれで失礼します」


面倒ごとになると分かったのだろう、震えた声でキンが言うが、


…キン…勿論片付け手伝ってくれるわよね…?


そんな簡単には帰らせてもらえないらしい。


そして多由也は君麻呂の事も聞き出せなかった。


……





片付け始めてから一時間近く経とうとしていた。


大蛇丸は壁に掛けてある時計で時間を確認する。


(五時ね…少し早いかも知れないけど、まぁいいでしょう)


ちら、と二人を見たが二人とも真面目に片付けをしている。


「多由也、行くわよ…」


「…? 行くってどこにですか?」


「君麻呂の所よ…あなたその為に来たんでしょう…? それとキン、もう帰っていいわよ…」


それだけ言うと大蛇丸はさっさと自分の部屋を出た。


向かうのは君麻呂の部屋。多分今ごろ彼等は必死で誕生日会の準備をしているだろう。時間的にも、どう考えたって終わってるような時間ではない。 今多由也を連れて行ったらどうなるだろう? 大蛇丸には慌てふためく彼等の姿が目に浮かび、何時の間にか笑ってしまっていた。


「…大蛇丸様?」


不気味に笑う大蛇丸を見て、不安げに多由也が聞いた。


「…なんでもないわ、行くわよ多由也」





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「次郎坊、料理が出来るまで後どのくらいかかる?」


「後三十分ほどだ」


「三十分か…」


部屋の飾り付けをしながら、テレビの上の時計に目をやる。


時刻は五時になったばかりだった。


(という事は料理が出来るのは五時半ごろか…それにしても鬼童丸の奴遅すぎないか?)


そう、鬼童丸はケーキを買いに行ったまままだ帰ってこなかった。普通ならとっくに帰ってきている時間だというのに…


「なぁ君麻呂、鬼童丸の奴サボってんじゃねーか?」


左近も鬼童丸の帰りが遅いのを疑問に思ってるようだ。


「確かに。でも次郎坊の料理が出来るまでには帰ってくる─」


ピンポーン


二人の会話を遮るように、インターホンが押された。


君麻呂は玄関の方に向かいながら話を続ける。


「ほら、噂をすれば何とやら。帰ってきたみたい」


そしてドアノブに手を掛けドアを開けようとした時、ふと疑問に思う事があった。


(あれ? 鬼童丸って俺の部屋に来るとき律儀にインターホンなんて押したっけ?)


考えすぎかと思い直し、改めてドアノブを回してドアを開ける。


「遅すぎだぞ鬼童丸! いったい今までなにやって……あれ大蛇丸様?」


開けたドアの先には、鬼童丸でなく大蛇丸が立っていた。


突然の大蛇丸の来訪。君麻呂は予想外の出来事に戸惑っていた。何故なら、普段用がある時は君麻呂が呼び出され、大蛇丸がわざわざ足を運んでくるなんて滅多に無かったのだ。故に、大蛇丸が自分自身で来るときは、やっかい事や、めんどくさい事などが主で、碌な事じゃないのは確かだった。


「な、何か用ですか大蛇丸様? 一応今は忙しいんですけど…」


「まぁそう邪険にしないで頂戴…あなたに用があるって子を連れてきてあげたんだから…」


「俺に用がある子?」


疑問を浮かべながら君麻呂は大蛇丸を見た。そして視線は自然と大蛇丸の後ろへと向けられる。


見えたのは赤とピンクの中間のような色の髪の毛……


バタンッ!


君麻呂は無言のままドアを閉め、飾り付けをしている部屋まで戻る。


(間違えない…あの髪の色は多由也だ…まだ準備が出来てないというのに連れてくるなんて、大蛇丸の奴嫌がらせか?)


と、勝手に分析をしていく。


「おい、鬼童丸の奴じゃなかったのか?」


左近は君麻呂一人で部屋に戻ってきた事を疑問に思い、そのまま口にした。


「ん? あ、あぁ。大蛇丸様と多由也だった…」


「多由也? 何でもう来てんだよ?」


「俺に聞くな! 連れてきたのは大蛇丸様なんだから」


「で、どうするんだよ? このまま多由也部屋に入れるのか?」


君麻呂は少し悩んでから答えた。


「…いや、それは駄目だ。いままでなんとか隠してきたのに、最後の最後で中途半端なまま多由也を迎えるのは俺のプライドが許さん」


お前のプライドなんか関係ないだろ。といった感じで左近が君麻呂を見る。


「じゃあどうするんだよ? 料理もできてない、ケーキもまだこない。はっきり言ってお手上げだぞ」


わざわざジェスチャーまでして言う。


それに対して君麻呂は、何かを決心したような面持ちになり、


「俺が、俺が時間を稼いでくる。三十分ぐらいなら何とかなると思うから」


「君麻呂、お前って奴は─」


「言うな左近! これは誰かがやらなきゃいけない事なんだ。 この誕生日会の開催を決めたのが俺だ。だから俺には誕生日会を成功させなければいけない義務と責任があるんだ」


「そうか…分かったよ君麻呂、がんばってこいよ」


「あぁ。お前も部屋の飾りつけ頼んだぞ」


二人は満足したのだろう。お互い肩を抱き合っている。


そんな二人を遠くから見ていた次郎坊は大きなため息をついた。なんで即興であんな芝居が出来るのか不思議だったのと、最近左近が鬼童丸に似てきたな。なんて本人が聞いたら怒るようなことを考えていたのだった。


そして、改めて君麻呂は玄関に向かいドアを開け、中を多由也に見られないように素早く外に出てからその勢いのままにドアを閉めた。


二人とも律儀に待っていてくれたようだ。


「じゃあ、後は二人で話し合いなさいね…」


それだけ言い残し、大蛇丸は消えた。恐らく瞬身の術だろう。


「……………」


「……………」


沈黙が続いた。


多由也は聞きたい事があったはずなのだが、いざ本人を目の前にすると何も聞けなくなってしまったようだ。


君麻呂は君麻呂で多由也のかもしだす雰囲気にちょっとビビッテいる。


気まずい雰囲気のまま時は進んでいき、タイミングが良いのか悪いのかよく分からない所で来訪者が現れた。


「あれ? 君麻呂そんな所でなにやってるぜよか? それに多由也も居るし、もうたんじょ─」


君麻呂は玄関のドアをサッと開け、話し終わる前に鬼童丸を無理やり中に押し込んだ。若干ケーキが心配だったが、誕生日の事がバレルよりはマシだろうとの考えだった。


「と、とりあえず場所変えない…?」


「…あぁ」


返答があるのか不安ながらに聞いてみたが、その心配は要らなかったようだ。






とりあえず目的地を広場に決め君麻呂と多由也は歩いていた。


相変わらず二人とも無言だが。


「ゆ、夕日が綺麗だね」


「もう殆ど沈んでる…」


話題を作ろうと、ベタな口説き文句みたいなのを言ってみたがあっさりと返されてしまった。それに多由也が言ったとおり、もう夕日は殆ど沈んでいる。


しばらく歩き、やがて目的地の広場に着いた。


そして広場の時計ですぐ時間を確認する。


(五時二十分!? まだ十分もあるのか)


正直、もう三十分以上たっている感じだったが、世の中そう甘くないらしい。


「ほ、星が綺麗だね」


「綺麗に見えるほど、まだ星は出てない…」


会話が続かない。だからと言って別に多由也が悪いわけではない。むしろ悪いのはこちらなのかもしれない。変な質問ばかりしているのだから。


「……ゴメン」


「………へ?」


多由也からの話題はなぜか謝罪だった。


(どうゆう事?)


突然の多由也の謝罪に君麻呂は焦りを隠せない。


「えっと、何の謝罪…?」


わけが分からないまま君麻呂は多由也に聞いてみる。


「…………」


「べ、別に話したくないならそれでもいいけど」


そう言うと、多由也はかぶりを振り閉ざしていた口を開いた。


「ウチは、その、言葉づかいが悪い。いつも次郎坊に注意されてる。君麻呂にも、あいつ等にも不愉快な気持ちをさせてるのは知ってる。でも、きっと直して見せるから。今すぐには無理かもしれないけど、少しずつ直して行くから、だから、だからウチの事嫌いにならないでください


表情を暗くし、若干涙目になりながら多由也は君麻呂に伝えた。自分の今の気持ちを。多由也の強い意志を込めた声が、殺風景な広場に響き渡った。


「辛かったんだ。一週間前からお前たちの態度が変わって」


(一週間前? 一週間前って丁度誕生日会の計画を決めたときだよな)


君麻呂は胸中でそんな事をひとりごちながら、冷静に今の状況について考えていた。


多分多由也は勘違いしているのだろう。俺は勿論だが、他の三人についても多由也の事を嫌いになんてなってない。仮になっていたとしたら、今日の誕生日会に否定的な筈だ。


「あ、あのね多由也─」


君麻呂が口を開いた途端、多由也の潤んだ瞳が君麻呂を見つめた。その目で見つめられた君麻呂は言葉に詰まってしまう。


(クッ! あの目は反則じゃないか!!)


突如として口を閉ざしてしまった君麻呂に不安を覚え、多由也の目は一段と潤んでしまった。そして、ついにその目には涙を留める事が出来なくなり、多由也の小さな目からは大きな涙が溢れ出してしまった。


これに焦ったのは君麻呂だ。


泣いてる多由也を見て、君麻呂の中で二つの考えが戦う事になったのだ。戦うのは、このまま誕生日会の事を本番まで黙っておくべきか、それとも今すぐに話してしまうか、の二つの気持ち。


決着は一瞬でついた。


(ゴメンよ、左近、次郎坊、鬼童丸。俺約束破っちゃうよ)


胸中で三人に謝りつつ、都合よくポケットに入っていた多由也のプレゼントに手をやる。


「多由也、誕生日おめでとう」


「……へ?」


多由也は泣いて赤くなった目を丸くしている。どうやらこの状況についてきてないようだ。


そんな多由也に君麻呂は「ハイ」と言ってプレゼントを渡した。


「……へ?」


「だから、誕生日おめでとう。二月十五日。今日は多由也の誕生日でしょ?」


そこまで言うとやっと多由也は状況が理解できたようだ。「あっ!」と言い驚いている。自分の誕生日だって事を忘れていたのだろう。


「あ、その、ありがとう」


目だけではなく、顔も真っ赤にして多由也はプレゼントを受け取り答えた。


そして君麻呂は全部話した。一週間前から今日の誕生日会を計画していた事を。そのせいで皆の態度が変になった事を。


「じゃあ、ウチが嫌われた、って事じゃないんだな?」


もういつもの多由也に戻っていた。


「そうだよ。大体嫌いになるわけないじゃん多由也の事」


「そうなのか?」


「そうだよ」


「そうなのか?」


「そうだよ」


「そうか」


多由也は安心したのか、今では笑っている。


「でも良かったのか君麻呂? その、誕生日会の事ウチに話しちゃって…」


「別にいいよ。左近達には文句言われるかもしれないけど、その代わりに良い物も見れたし」


「良い物?」


「そう良い物。普段泣かない奴の泣き顔とかね」


その答えを聞いて、多由也は先ほどみたいに顔を真っ赤にして、


「だ、黙れクソヤローッ!!」


力一杯叫んだが、君麻呂は笑っていた。ムカツクくらいの満面の笑みで。


「戻ろうぜ多由也。アイツ等も待ってるし」


「あぁそうだな」


そして多由也も笑っていた。君麻呂の笑みに釣られる様に。


そして先を行く君麻呂に向かい、


「ありがとう」


ボソッと呟いた声は彼には届かないだろう。それでも言いたかった。ただ「ありがとう」と感謝の気持ちを。


誕生日、少しだけ大人になれた気がした多由也だった。









[710] Re[14]:僕の生きる道
Name: ネメ太郎
Date: 2006/09/26 00:00





イナリに橋の場所を教えてもらってから約十分。濃い霧のせいで目の前に迫っていた木の枝に気付かず顔面を強打したり、突如として感じた禍々しいチャクラに気を取られ足を滑らせたりと散々だったが、なんとか橋までたどり着く事が出来た。


そして戦闘が行われているだろう場所まで歩いていく。


若干一名、変なのが一緒だが─


「で、なんで大蛇丸様がいるんですか? それに、わざわざ顔まで変えて…」


隣にいる大蛇丸の顔を見上げ、嘆息をつきながら聞いた。


「…べ…べつにアンタが心配で来たんじゃないからね…」


「……………」


「……………」


お互いが沈黙する。


というか此方は沈黙しか出来ない。大蛇丸は此方の反応を待っているようだが…


頭の中では、あれは本当に大蛇丸か? という目の前に置かれた問題から、一昨日の晩御飯なんだっけ? といったどうでもいい問題などが浮かんでは消えていく。


これが現実逃避か…なんて馬鹿な考えを頭の隅にやりつつ、改めて現状を把握するために大蛇丸を見た。


その顔は普段見ている顔、色白で爬虫類のような目をしている顔ではなく、どちらかと言えば綺麗な部類に入る顔立ちをしている。


顔が違うなら他人じゃん。そう思うかもしれないが、あれも紛れも無く大蛇丸の顔だ。むしろ今の顔の方が本当の顔と言えるかもしれない、今の顔は大蛇丸の器となった人間の顔なのだから─


「…おかしいわね……ああ言えば男の子はドキッってするって本に書いてあったのに…」


「本ですか?」


「…そうよ…多由也が持ってた本だったんだけどね…」


多由也か…多由也が言ったならドキッってしたと思うけど、男、しかも大蛇丸に言われても…


というか、それ以前に大蛇丸ってあんな事言う奴だったか? いや言わない。

 
じゃあ何故だ? 何故大蛇丸が……そう言えば以前、器となった人間の思いは残留思念として残る、というのを大蛇丸から聞いたような気がする。ならあれも残留思念のせいなのだろう。そうでなければ気持ち悪すぎる。


推測だが、顔が身体の持ち主だった物に戻った事により普段より残留思念が強くなっているのだろう。普段の大蛇丸も気持ち悪いが、ここまでは酷くなかったから。


「今度カブトに言ってみようと思うのだけど、どうかしら…?」


「…いいんじゃないですか」


本命はカブトか、なんてことも考えつつ適当に答えた。カブトには可哀想かもしれないが、此方に被害が無い以上、関わりたくないのだ。


それにしても、大蛇丸の性格をここまで変えるほどの残留思念の持ち主か…


実は器となった人間って、大蛇丸に劣らないほどの変態だったのでは? それに器に選ばれるほどだからかなりの実力者の筈。さ、最悪だ。大蛇丸みたいなのがもう一匹いたなんて……


もうこの事について考えるのは止めておこう、鳥肌が立ってきたし。




「で、先ほどの質問ですけど、なんで大蛇丸様がここにいるんですか?」


「何でだと思う…?」


「質問に質問で返さないでください」


「…そんなに目くじらを立てて言わなくてもいいじゃない…前にも言ったでしょう? 貴方達の担当上忍は私。別に私がここに居ても不思議ではないと思うけど…?」


確かに大蛇丸の言う事は間違ってはいない。間違っていはいないが─


「多由也達に術を教えるのではなかったのですか?」


「もう教えたわよ。そんなに会得難度は高くない術でね、印だけを教えて今は自主練習しているわ…」


そこまで言うと視線を前方から外し、此方を見下ろす形で続けた。


「それよりも君麻呂、貴方に与えた任務はガトーの殺害よね…? それとこの橋は何か関係があるのかしら…?」


「関係ですか…」


どう答えるべきか? 本で読みましたなんて馬鹿な事言えるはずもないし、言ったとしても相手にされないだろう。


まぁ適当に答えておけばいいか。


「独自のルートからの情報でしてね、ここにガトーが来るらしいです」


嘘は言ってない。原作というこの世界では自分しか知らない独自のルートなのだから。


「独自ね…まぁ深くは詮索しないでおくわ…」


大蛇丸には引っかかるところがあったのだろう。やはり独自のルートなんてカッコイイ言葉を使わず、普通に町で仕入れた情報と言っておけば良かったのかも知れない。いなさら悔やんだところで、後の祭りなのだが。


「止まりなさい君麻呂…」


呟くように発せられた大蛇丸の声に反応し、その場で歩みを止める。


大蛇丸は何歩か後方にいた。考え事をしているうちに、大蛇丸が止まった事に気付かなかったのだろう。






「再不斬さんにとって弱い忍びは必要ない……君は僕の存在理由を奪ってしまった」


「なんであんな奴の為に…悪人から金貰って悪い事してる奴じゃねーか!!」


…ナルトと白の話し声。霧で姿は見えないが、何時の間にか二人の声が聞こえるほど近くに来てしまったらしい。


「この先で行われている戦闘はガトーに関係あるのかしら…?」


大蛇丸は、ナルトと白の声がした方よりもっと先を見つめる感じで聞いてきた。恐らく、カカシと再不斬の事を聞いているのだろう。


「関係ないと思います」


迷わずそう答えた。関係あると言ったら、何故か戦闘に巻き込まれるような気がしたから。


「…そう、ならあそこで見物でもしていましょう…いずれこの霧も晴れるでしょうし」


大蛇丸が指差した先には、橋を作るため使うと思われる機材や材料が置かれていた。とりあえずその場所まで歩き姿を隠したのだが、霧のせいでカカシや再不斬はおろか、話し声が聞こえるナルトや白でさえ見えず、仕方なく二人の話を盗み聞きする事になった。









白は言った「人は…大切な何かを守りたいと思ったときに、本当に強くなれるものなんです」と。


その言葉どおり白は強かった。カカシの雷切のスピードを超えるほど。そして、その身を犠牲にして再不斬を守ったのだ。


白は聞いた「大切な人はいますか?」と。


俺にとって大切な人は誰だろう? 改めて考える。白のように命をかけて守りたい人を。


いろいろ考えてみて気付いた。俺達と白は似ていると。


再不斬の武器として存在する白。大蛇丸の盾として存在する音の五人衆。


同じ状況に立ったのなら、あいつ等も白の用に命を捨てて大蛇丸を守るのだろうか?


大蛇丸の為に…そう思い大蛇丸を見たが、大蛇丸は真剣な顔で屍となった白を見ていた。そして呟くように一言。


「彼の爪の垢を煎じて、あなた達五人に飲ませたいわね…」


…多分、というか絶対、俺が大蛇丸の為に命をかけることは一生無いだろう、今ならそう断言できる。









「来たみたいね…」


大蛇丸の言葉どおり、ガトーが大量の手下を引き連れてきていた。そして倒れている白に近寄り顔を蹴り上げる。何度も何度も…まるでボールでも蹴るかのように。


今すぐにでも飛び出してガトーを殺してやりたい。その気持ちで一杯だったが、行く事は出来なかった。


再不斬が、泣いていたから。


白の為に涙を流していたから。


だから俺は我慢するしかなかった。


「小僧、クナイを貸せ」


そう再不斬は言い、ナルトからクナイを受け取った。両手はカカシとの戦いで使い物にならなくなっているので、口にクナイを加えガトーに向かっていく。


「お前ら、あいつらをやってしまえ!!」


ガトーのその言葉に手下達は動き出し、すぐに再不斬を取り囲んでしまう。しかし再不斬は止まらなかった。その身を刀で切られても、その身に槍が突き立てられても、再不斬はガトーを目指し進んで行く。鬼人再不斬の名のとおり、正にその姿は鬼だった。


満身創痍になりながらも再不斬はガトーの元にたどり着いた。が、殺すことは出来なかったようだ。限界なんてとっくの昔に超えていたのだろう。ガトーの腹にクナイを突き刺したところで再不斬の動きが止まってしまった。そしてその背中に、止めと言わんばかりにいくつもの槍が突き立てられる。


「行きなさい、君麻呂…」


不意に隣りに居た大蛇丸から声を掛けられるが、言われなくてももう行くつもりだった。


体内で骨の剣を精製し、肩口から取り出し構え一気に駆け抜ける。


ナルト達の横を通り過ぎた時「え?」という声が聞こえたが、構っている余裕など無かった。相手も此方に気付きガトーを守るように立ち塞るが、はっきり言って遅かった。相手が構える前に、此方はもう切りかかっているのだから。


ガトーの元にたどり着くのには大して時間は掛からなかった。次々と出来ていく死体に、在る者は腰を抜かし、在る者は逃げ出して行ったから。ガトーもその内の一人だった。腰を抜かし、地面に座り込んでいる。


「な、なんなんだお前は!?」


震える声でガトーは言うが、俺は無言で顔を蹴る。白がそうされた様に。


鼻の骨が折れたのだろう。手で鼻を抑えながらうめいているが、もう一度その手の上から蹴りつけた。今度は若干位置ずれ、少し下を蹴ってしまった。結果として口の中は血だらけになり歯が何本か折れる事になったが。


「だ、たしゅけて…」


血のせいで上手く喋れないのだろう。 それにしても、この状況で命乞いなんて見上げた根性だと思う。が、今の俺にとって、それは不快でしかなかく、もう一度足を上げた。


「ひぃっ…!?」


脅えながらガトーは鼻と口を守るが、今度は腹を踏みつける。再不斬が傷を付けた部分を。ガトーの口からは悲鳴が漏れるが、それに構うことなく左手を頭に向ける。


「バイバイ」


「や、やめッ─」


「十指穿弾」


踏みつけていた足の感触から、ガトーが動かなくなったのを確認して足をどかす。


「終わったかしら…?」


「えぇ」


大蛇丸の質問に、ただ短く答える。


そしてそのままナルト達のほうを振り返らず、俺達は橋を後にした。










[710] Re[15]:僕の生きる道
Name: ネメ太郎
Date: 2006/09/26 00:02





音の里への帰り道、気分は最悪だった。


呪印を発動させてないのに、発動している時と似た感覚。


血が騒ぐ、とでも言えばいいのだろうか?


ただ何かを壊したくて、ただ誰かを殺したい。


そんな衝動に駆られていた。


ガトーを殺したせいだろうか?


何度かこの感覚を体感しているが、やはり好きになれない。


自分が自分で無くなる様な感じがするから。


だけど、この感覚こそがかぐや一族のもう一つの力、屍骨脈を使う者にとっての代償、殺戮の力。


この力があるからこそ、かぐや一族は滅んだのだろう。勝てもしない戦いに挑み、己の死さえも恐れずただ殺戮を楽しんだ挙句、俺を残して絶滅という馬鹿な最期を迎えた。


やはり最悪な気分だ。


馬鹿な一族の気持ちが、戦いたいという気持ちがハッキリと自覚できるほどに血が騒ぐから。



「君麻呂…この近くに良い温泉街があるのだけど、どうかしら…?」


たったその一言で血の気が引いた。


大蛇丸の方に顔を向けると、真剣な眼差しで此方を見ている。


命の危険、いやこの場合は貞操の危険か……どちらにしろ危ないのには変わりないのだが─


「…と、いうわけで全力で拒否します」


「どういうわけよ…?」


「そういうわけです」


「はぁ…なら野宿でいいのね…?」


大蛇丸は大きな溜め息をつき、疲れたような顔で辺りを見渡しながら言った。


「…………」


無言になって、同じく辺りを見渡した。先ほどまで気付かなかったが、いつのまにか太陽は沈み始め、空は赤く染まってきている。そして何故か風で騒がしく揺れていた木々も、今はその動きを止めていた。


野宿か温泉宿。どちらにも大蛇丸がセットで付いてくる。


………


……





やはりどちらも拒否したい。


「ちなみに、温泉宿は混浴よ…」



今日の宿は温泉宿に決定した。


大蛇丸と一緒っていうのがかなり危険を感じるが、別々の部屋に泊まればいいだろう。


最悪、状態二でも何にでもなって戦ってやる。まぁ多分というか絶対に勝てはしないけど。


それにしても混浴か、なんて魅力的な言葉なんだ。


混浴なんて、誰がどう考えてもウッカリドッキリのハプニングが待っているに決まっている。


「…呂、君麻呂…聞いてるの…?」


「は、はい! 聞いてます。聞いてますとも」


「…ならいいわ…」


そんなやり取りをしつつ大蛇丸の言う温泉宿に向かった。道中、混浴の事を考えると顔のにやけが止まらなかったが…









温泉街に着いたとき、もう日は沈んでいたが温泉街は賑やかだった。


とりあえず大蛇丸について行き宿に入ったのだが─


ひ、一部屋しか空いてない!?


「はい、申し訳ありませんが只今一部屋しか御用意できません」


思わず叫んでしまった俺とは対照的に、宿の主は冷静に答えた。


「そう…ならその部屋でいいわ…」


こちらも同じく冷静だったが─


「まっ、待ってください大蛇丸様! 他の宿にしましょう!!」


幸いにもここは温泉街、宿はここ以外にも沢山あるはず。


「…君麻呂、混浴なのはここの宿だけよ…」


「……本当ですか?」


「嘘ついてどうするのよ…」


大蛇丸は疲れたように答えたが、俺はその答えを聞き肩を落とした。


そして、今度は宿主の方に視線をやり、


「本当に…?」


「本当でございます」


申し訳なさそうに答えたがそれでは納得できず、右手を宿主の方に置き力を加えながら聞いてみた。


「マジで?」


「マジでございます」


かなりの力を込めてるのにもかかわらず、宿主は冷や汗を垂らしただけでそれ以外は痛いそぶりを見せずに答えた。これが接客業の根性か、なんて感心しつつも今度は左手を置こうとしたが─


バコッ!!


何故か殴られてしまった。


殴った方、大蛇丸のほうに向き直って、


「何するんですか?」


「何するんですか? じゃないでしょう…」


と、溜め息を一つ。


「大体一部屋のどこに不満があると言うの…? というか二部屋も頼んでどうするのよ…」


大蛇丸は宿主の方を向き、


「じゃあお願いするわね…」


「かしこまりました、では此方の方にご記入を」


そう言い宿帳を出し、大蛇丸に差し出す。大蛇丸は言われたとおり記入しようとしたが、


いやだぁぁぁぁぁぁぁっ!!


俺の叫び声で手を止めた。


二人ともいきなりの事に驚いているようで、目を見開いて此方を見ている。


何が嫌なのよ…


若干大蛇丸の口調から苛立ちか感じ取れたが、そんな事は問題じゃない。


く・わ・れ・るぅぅぅぅっ!!


いつの間にか叫び声には涙が混じっていた。


何を喰うのよ!?


同室は、同室だけはいやぁあああぁっ!!


大蛇丸の疑問には答えず、一際大きな泣き叫び声をあげたが


「同室…? やっぱりあなた話し聞いてなかったわね…」


大きな溜め息をつき、かなり疲れたような仕草で続けた。


「私は用があって別のところに行くから、あなたは一人で泊まるように言ったのだけど…」


「…へ?」


「だから、私は此処には泊まらないの…」


「…へ?」


「……もういいわ、記入するわよ」


大蛇丸はぐったりとして、宿主の持つ宿帳に記入し始めた。


こうして貞操の危機は去ったのだが、


「別のところって、どこに行くんです?」


疑問に思った事をそのまま聞いてみた。


大蛇丸は此方に視線をやる事もなく、ただ宿帳に記入しながら一言。


「外見てみなさい…」


外? 意味が分からなかったが、言われたとおり外に出て周りを見てみる。来たときよりネオンがやけに眩しかったり、客引きらしき人がいたが、実際これがどう関係しているかは分からなかった。


「感想は…?」


いつの間にか隣りに来ていた大蛇丸が聞く。


「夜の街って感じですね」


見たままの感想を伝えた。


「で、これが大蛇丸様と何の関係があるんです?」


「この街はね、温泉街としても有名だけど、いいホスト達が居る事でも有名なのよ…」


うふ、と付け足したのが気持ち悪かったが、すごい納得してしまう内容だった。











従業員の案内で今日泊まる部屋に来たが、大蛇丸はいない。結局大蛇丸は、担当上忍として任務を見に来たわけではなく、ホストのついでに俺のところに来たのだろう。


まぁそっちの方がありがたいわけだが。


「温泉に行くか…」


誰に言うでもなくボソッと呟いてみた。


今は大蛇丸のことは忘れて混浴を楽しむ事にしよう。





露天風呂だったそこは、思っていたよりも広かった。


見える景色も、ネオンがある路地とは反対なので落ち着いたものだった。


そして何よりも良かったのが、湯気の先に見えた長い髪。


流石は混浴、いきなりこんな演出が待っているなんて…


ついつい駆け出しそうになる気持ちをなんとか抑え、身体を流した後に湯船に浸かった。長い髪の人とは離れたところに浸かったので、まだはっきりとした姿は見えない。


思わず、「濃すぎだろ!」 と言いたくなる程湯気は濃かったが、これはこれで良い演出にも思えてきた。


その後、少しずつ俺の方から距離を詰めていき、二人の距離は大分縮まった。


相手の顔を見るがまだハッキリと見えない、が乳白色の湯船から見えた手は細くて綺麗だった。とだけ言っておこう。それにしても、やはりこの湯気は以上かもしれない。これだけ近距離に居るのに顔だけ見えないなんて。


そう思っていたとき、突如として目を空けていられないほどの強い風が吹いた。これほど強い風なら湯気も吹き飛ばしてくれているだろう、そう思い徐々に目を開けていったのだが、予想は的中したようだ。


そして視線を長い髪の人に向ける。


「あら君麻呂…」


俺は泣いた。





どうやら大蛇丸は、ホストクラブに行く前に温泉で身も心も綺麗にしてから行くらしい。


大蛇丸が温泉を出た後、誰か来るかと思いのぼせるまで粘ってみたが誰も入ってはこなかった。


俺はまた泣いた。

















あとがき?

やはり温泉で、綱手がアンコでも登場させたほうが面白かったのかもしれない…






[710] Re[16]:僕の生きる道
Name: ネメ太郎
Date: 2006/11/25 02:34





突然だが、今俺は小さな幸せを感じている。


何故だろう?


清々しい朝のせいだろうか、それともおいしい朝食のせいだろうか?


自分でも良く理由は分からないが、まぁどっちだっていい。今はこの時間を満喫する事が大切なのだ。


それなのに─


「あー疲れたわ」


ささやかな幸せは、酒の匂いを身に纏わせた来訪者によって一瞬で崩れ去ってしまった。


悲しい事だが、来訪者は確認しなくても誰か分かってしまう。


「もう大蛇丸様も歳ですからね…」


朝食の箸を置き、溜め息ついでにボソッと呟いてみたが


「あら、言ってくれるじゃないの」


しっかりと聞こえてたらしい。


「でも事実ですよね…」


「確かにね…あなたに比べれば歳だけど、肉体はピチピチよ。なんてったて変えが効くんだから」


変えが効くか、さらっとありえない事を言ってくれるもんだ。


「で、どうだったんです。楽しめたんですか?」


「ええ。最高に盛り上がったわよ」


盛り上がったか…酒を飲んだ大蛇丸の相手をした人は大変だったろうな。飲んでない大蛇丸でさえ相手にするのはめんどくさいというのに。


「それにね、偶然組合仲間にも会っちゃてね。今まで話しっぱなしの飲みっぱなしだったわ。君麻呂、あなたも今度どうかしら? あなたたち五人衆のこと話したら、皆が会ってみたいって言ってね」


「………丁重にお断りいたします」


「そう残念だわ」


そう言った大蛇丸は本当に残念そうにしていた。


それにしても組合って…やっぱりアレの組合だろうか?

 
若干、どんな人間が集まっているのか見たい気もするが、もし行ったしまったら、自分にとって何か大切な物を失ってしまう。そんな気がしてならなかった。


今度鬼童丸でも逝か…行かせてみよう。あいつなら何を失っても大丈夫だから。


「君麻呂、お昼になったら起こしてね…それから出発するから」


先ほどまで大蛇丸が居た場所とは別の場所から声が聞こえた。その場所に視線を向けると、いつの間にか大蛇丸は布団の中に移動していた。


布団は押入れの中にしまってあったはずだが、いつ出して、いつ引いたのだろう?


そんな疑問が頭をよぎったが、深く考えるのは止めておいた。


相手は大蛇丸。一瞬で布団を引いて、同じく一瞬でその中に潜り込むなんて芸当を持っていても、なんら不思議ではない。


とりあえず、


「分かりました」


簡単な返事を返し、朝食の続きをとることにした。







ウフフ…大丈夫よ、痛くしないから…


時折聞こえてくる大蛇丸の寝言は、恐怖以外の何物でもなかった。


…ほら恐がらないで…


「………………」







青い空。


白い雲。


清々しい空気。


あぁ外は最高だなぁ。


当初、部屋でテレビでも見て時間をつぶす予定だったのだが、酷い酒の匂いと、なによりキモイ大蛇丸の寝言に、精神が耐え切れず今に至るわけだ。


「で、これからどうしよう」


頭の中でこれからの予定を組みつつ、辺りを見てみる。大蛇丸のせいで夜の街というイメージが強かったが、幸い、温泉街としてもちゃんと機能しているようだった。


今の時間でもそれなりの賑わいがあり、土産屋などいろんな店があるので時間つぶしには困りそうにない。


「任務のお金も入る事だし、あいつらに何か買ってくか」


誰に言うでもなく口に出し、お土産を求めて歩き出した。





何店舗か見て回ったが、コレだ!! という物にはまだ出会う事が出来ていなかった。


どこも似たような品しかおいてなく、値段も殆ど同じ。まぁ一店舗だけ安かったりしたら、それはそれで問題になると思うが。


「それにしても、コレはどこにでもあるんだな」


そう言い手にとったのは木刀だった。


元の世界では、修学旅行先の土産屋に必ずと言っていいほど売っていた品だが、まさかこちらの世界でも土産屋で普通に売っているとは…


やっぱりこの世界はよく分からない。


そう思い、溜め息を吐きながら木刀を戻そうとしたときだった。ある物が目に入ってきたのだ。


「こ、これは」


今度はそれを手にしてみる。


袋にはこう書かれていた。


≪ヒーロー戦隊スーツ≫


赤、青、ピンク、黄、緑の五色がセットで入ってるらしい。


……かなり良いかもしれない。丁度五色で皆の分があり土産代わりにもなる。


「値段は?」


値札を見てみると、そこには大きな字で五千両と書かれていた。


「た、高い…だが!」


即座に自分の財布の中身をする……戦隊スーツをそっと元の場所に戻し、皆で食べれる温泉饅頭を買う事にした。







「はぁ~。欲しかったな戦隊スーツ」


戦隊スーツに後ろ髪を引かれつつ、宿に戻る前に少し早めの昼食を取ろうと考えていた。


ちなみに今の手持ちは三百両。


今日は折角なので少し豪華な昼食をとろうとお店を探していたのだが


「ん? なんだあの人だかり」


何か面白い事でもやってるのかな? と思いつつ近づいていく。


「別にいいじゃないのよっ!!」


「ですからこちらの品はカップル限定の品となっておりまして」


初めに聞こえた声は女の怒鳴り声だったが、後から聞こえた男の方の声は、マニュアルにでも書いてあるような丁寧な対応だった。


このまま無視して先に進んでも良かったのだが、少し面白そうだったので、野次馬根性を最大にし、人込みを掻き分けて一番見やすい場所へと進んで行く。


一番先頭へ行こうと人込みと格闘している間も二人のやり取りは続いていた。そして、周りからは当然のように野次が飛んでいる。


踏んだり突き飛ばしたりと、無理やりながらもなんとか人込みから抜け出す事ができ、やっとの思いで騒ぎの中心人物となっている二人を視界に納めることが出来た。


男の方は、物をのせるための盆を持っている。傍には『甘味処 庵』と看板があるので、多分ここのお店の店員だろう。 


もう一人、女の方はというと……結構美人だ。でも何故だろう、どこかで見たことがあるような気がする。 これだけ美人の人だったら覚えているはずなのに思い出せない…


「お客なのよ、私は!!」


「それは分かっております」


「ならアレを食べさせなさい!! 私はアレが食べたいのっ!!」


彼女が指差した先に視線を移す。




カップル&期間限定品 庵のラブラブスペシャル




とデカデカと書かれている。ご丁寧に商品の写真も載っているのだが、商品の名前、もっとマシなのはなかったのだろうか?


「何度も申しておりますが、こちらの品はカップル限定の品ですので」


「あーもうっ! アンタじゃ話にならないわ。店長よんで来なさい、店…」


その瞬間だった。彼女と目が合ったのは。


一瞬だった。背筋に悪寒が走ったのは。


「ねぇ、カップルだったら良いのよね?」


「?? えぇもちろんそうですが」


本能が告げている。さっさとこの場から立ち去れと。


その本能に逆らう理由など全く無く、立ち去ろうと歩き出そうとした時だった。


「ちょっと」


その言葉と共に肩を捕まれたのだ。そう全ては遅すぎたのだ。


美人のお姉さんに肩を捕まれている。本来なら喜んで受け入れる状況の筈だ。なのに今は不快感が溢れてくる。


「…何か?」


振り返りながらそう聞いたが、相手の反応は無かった。ただ此方の顔をじっと見て、


「合格~」

 
「……は?」


意味が分からない、何が合格なのだろうか。


「と言う訳で店員さん、庵のラブラブスペシャルと、抹茶二つよろしくね~」


「畏まりました。では席にご案内いたします」


店員のその言葉を聞き美人のお姉さんは満足したのだろう。左手でガッツポーズを作り喜んで笑っている。右手は? というと何故か俺の襟首を掴んでいた。そして案の定引きずられて行く。


「いや、あのちょっと」


「ん、なに?」


無邪気に聞き返してくる彼女に文句でも言おうと思ったが、


「あ、大丈夫よ。お金なら私が出すから」


俺は黙って引きずられることにした。


昼食が甘味屋か……甘いものは嫌いじゃないし、まぁタダならいいだろう。







席に着き待つ事数分。初めに飲み物の抹茶が運ばれてきた。


庵のラブラブスペシャルはまだ少し時間がかかるらしい。さっきから、美人のお姉さんが何度も店員に「まだぁ~?」と聞いている。よほど甘いものが好きなのだろうか?


それにしても、やはりこの人はどこかで見た記憶がある。あるのだがやはり思い出せない。いつだったかな? 最近ではないと思うが…


「どうしたの? そんなに難しい顔して」


どうやら、いつの間に顔に出てたらしい。


「そんな顔してました?」


「えぇ。ここにね」


そう言い自分の眉間の部分を指差し、


「これでもかっ!! ってくらい皺がよってたわよ」


言い終わった後お姉さんは笑っていた。


「悩み事? 何だったら私が相談に乗ってあげるわよ。今日は付き合ってもらってるしね」


悩みか…とりあえず無駄だと思うけど、以前会った事があるか聞いてみよう。これ以上考えても何も思い出せそうに無いし。


「あの、以前お会いした事ありますよね?」


「………へ?」


キョトンとした顔で聞き返された。


「口説いてるの?」


「いや、真剣に」


「……………」


「……………」


先ほども述べたとおり、此方は真剣なのだ。無言になりお互いの目を見詰め合っている。


時間にして十秒ほどだろうか、短いようで長かった無言の時間は、お姉さんの発した笑い声によって崩された。


そして一息つくために抹茶を一口飲み、


「あ~久々に面白かったわ、でも残念ながらアナタ…そういえば名前聞いてなかったわね」


「君麻呂です」


「君麻呂ね、私はみたらしアンコ。アンコでいいわよ。で、話を戻すけど、残念ながら私が覚えてる限りアナタと会った事は無いわ」


「そうですか…」


会ったこと無いか、聞いといてなんだがそれもそうだろう。もし会った事があるならアンコさんの方が気付いてるはずだし。


「多分人違いでしょ、それでも飲んでゆっくり思い出してみたら」


「…そうします」


言われたとおり器を手に取り、抹茶を一口口に含む。


みたらしアンコさんか、なんか甘そうな名前だな。


………


……





ん? みたらしアンコ…


「あ、あのちなみにご職業は何を?」


「くノ一よ」


アンコは隠すでもなくアッケラカンと言った。


「ど、どこの里のですか?」


「木の葉の里だけど、それがどうかしたの?」


ま、間違いない。大蛇丸が木の葉の里に居た時に弟子だったみたらしアンコだ。


確か呪印も持ってるはず。


ヤバイ、落ち着け、落ち着くんだ俺。とりあえず抹茶でも飲んで落ち着かなくては。


アレ? そういえば、アンコって大蛇丸殺そうとしてたよな…


都合よく今この街には大蛇丸いるし、バッタリ出くわして戦闘なんて事に…


ぶっぅぅぅ!!


「きゃっ!」


戦闘になったときのことを考えてしまった俺は、口に含んでいた抹茶を盛大に噴出した。


幸運にも噴出した抹茶はアンコの顔にかかり、今は顔を拭いていて隙が出来ている。


逃げ出すなら今しかない。そう思ってからの俺の行動は早かった。


急いで甘味屋を抜け出し、そのままの足で宿へと向かう。


そして大蛇丸を起こして、音の里への道を急ぐ事にしたのだ。


予定より早く起こされた大蛇丸は若干不機嫌で恐かったが、二人の戦闘に巻き込まれるよりはマシだった。











「なんなのよ一体。どういうつもり、いきなり噴出す……あれ?」


顔を拭き終わった後、目を空けた先には今までそこに居たはずの君麻呂が居なかった。


「どこに行ったのかしら…?」


文句を言おうと思っても本人がいないので言えず、徐々に苛立ちが募ってく。


だが─


「お待たせいたしました」


この一言で苛立ちは吹き飛んでしまった。


「待ってたわよ~」


早く頂戴とアンコは催促するが、中々店員は商品を置こうとはしなかった。


「お連れの方は?」


「いや~それがどっか行っちゃってね~。でも大丈夫よ、私が一人で全部食べるから」


満面の笑みでアンコは言う。


「……失礼します」


そういうと店員は商品を置くのではなく、そのまま持っていってしまった。


「え、ちょっとどこ行くのよ!?」


「お連れのがいないのなら、此方の品はお出しする事が出来ません」


平然と言ってのける店員。


数秒後、


イヤーーー!! 私のラブラブスペシャルーー!!


アンコの絶叫が響き渡った。






[710] Re[17]:僕の生きる道
Name: ネメ太郎
Date: 2006/12/11 02:04





音の里 野外訓練場


この野外訓練場、忍術などの訓練をするだけあってそれなりの広さをもっている。


そして、今は四人の忍びによってその訓練場は使用されていた。


その四人というのは、


「東門の鬼童丸」


「南門の次郎坊」


「西門の左近」


「ほ、北門の多由也…」


音の五人衆のうちの四人、いずれも音の里のエリート達である。


「多由也、恥ずかしがるな」


「そうぜよ、恥ずかしいのは皆一緒ぜよ」


「ったく、またやり直しかよ」


そう彼等はエリートなのだ。


だが今の彼等を見ても、誰もエリートだとは思わないだろう。


「だーっ、ウッセーんだよクソ野郎共がっ!! 大体なんだよこのポーズ、北門とか東門とか名乗るのはまだ分かるが、コレは必要ないだろ!?」


「多由也、必要か必要じゃないかは問題じゃない。コレは大蛇丸様の命令でやってるんだ」


「んな事は百も承知だクソデブ」


「なら問題ないな、もう一度やるぜよ。大蛇丸様が帰ってきたとき、完璧に出来てなかったら何を言われるか分からないぜよ」


この鬼童丸の言葉に多由也は渋々でも納得するしかなかった。


彼等にとって大蛇丸は絶対的な存在だからだ。


たとえそれが理不尽な事であっても、大蛇丸の命令は絶対なのだ。故に今回の事も渋々だろうがなんだろうがやらなければいけないのである。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





音の里に着いた俺は、開口一番


「あー疲れた」


そう口にした。


今回の任務は本当に疲れたのだ。肉体的ではなく精神的に。


普通の任務なら此処まで疲れなかったはず…いや、正確には任務で疲れたのではないのだが、


「疲れているところ悪いけど、任務の報告書を作成してほしいから私の部屋に来て頂戴」


隣りにいた大蛇丸、疲れの原因がそう言った。


「今からですか?」


「そうよ」


あっさりと答え歩き出す大蛇丸。


拒否できなかった俺は、ただ恨みがましくその背中を見るしか出来なかった。


「ほら、行くわよ」


「は~い」


大蛇丸が振り返ると同時、恨みたっぷりの顔から笑顔へと変え後をついて行く。


いつの日か、大蛇丸に面と向かって文句の一つでも言えるようになる事を願って。





大蛇丸の部屋へと歩き出して数分、野外訓練場の傍を通りがかったとき不思議なものが目に入ってきた。


立ち止まり目を凝らしてみたる。多由也、鬼童丸、左近、次郎坊の四人が何かやっているようだが、距離があるので何をやっているのかまではよく分からない。


「大蛇丸様、アレって何やってるんです?」


四人の方を指差しながら、前を歩く大蛇丸に聞いてみる。


「アレ? あ~アレね」


口ぶりからして、大蛇丸は四人が何をしているのか知っているようだ。 横顔でも分かるぐらい不気味な笑みを浮かべた後、こちらに向き直り続けた。


「説明するよりも、近くに行って見ましょう。その方がいいわ」


「…報告書は書かなくていいんですか?」


「それは後でいいわ。さ、行きましょう」


促がされるまま四人のいる場所へと向かう。先ほどの笑みが多少気になっていたが…




「で、何で後ろから近づくんです? 気配まで消して」


「なんとなくよ」


「なんとなく、ですか…」


くだらない会話をしつつも、四人との距離は縮まっていく。




四人までの距離百メートル。


四人は左から順に、鬼童丸、左近、多由也、次郎坊と横一列に並んでる。


一体何がしたいのだろうか?




四人までの距離五十メートル。


それぞれポーズをとっている様だが、後ろからなのでよく分からない。


益々何がしたいのか分からなくなった。




四人までの距離十メートル。


四人はまた初めからやるようだ。


俺と大蛇丸は気付かれないように岩陰に隠れながら覗いてるのだが、


「東門の鬼童丸」


「南門の次郎坊」


「西門の左近」


「北門の多由也…」


それぞれ自分の名前を名乗った後にポーズを決めている。


多由也だけ歯切れが悪く聞こえたのだが、声が聞こえても何が何だか分からなかった。


結論、大蛇丸に聞くしかないようだ。


「何なんですアレ?」


やってられるかっ!!


ほぼ同時に発したせいで、小声だった俺の声は多由也の怒鳴り声に消されてしまった。


「なんでウチ等だけこんなのやって、君麻呂だけは任務なんだ? 普通に考えておかしいだろ」


「多由也、何度も言わせるな。これは命令なんだ」


怒鳴り散らす多由也とは正反対の落ち着いた口調で次郎坊が言う。が、


「くせーんだよクソデブ!! 大体、こんなポーズに何の意味があるってんだ!? 大蛇丸様の嫌がらせか、あぁ!?」


火に油を注ぐように多由也の苛立ちは増し、怒りの矛先は大蛇丸に移ったようだ。


多由也の剣幕に押され、三人は何も言えなくなっている。


「…君麻呂、多由也って怒ると恐いのね…」


横から聞こえた声に、とりあえず頷いておいた。


その後、改めて視線を四人に移したのだが…何故か鬼童丸達三人は此方に背を向ける形で正座をしていた。勿論多由也は三人の前に立ち怒鳴っている。これじゃあまるで、


「叱っている母親と、叱られてる子供みたいね」


そう、大蛇丸が言ったとおりその様にしか見えない。





二分後


「大体、君麻呂がいればこんな事しなくてもすんだんじゃないのか!?」


音の五人衆のリーダーである君麻呂なら、こんな馬鹿げた事にも平気で文句を言ってくれたはず。それだけの力が君麻呂にはあると思い多由也は言ったのだが、


「多由也、君麻呂はコレ楽しんでやると思うぞ」


「あいつは自分が楽しければいい奴だからな」


真っ先に反論したのは次郎坊と左近だった。


「二人の言うとおり、君麻呂だったらこんなポーズ喜んでやるに決まってるぜよ。そしてあいつの事だから俺たちのポーズを見て大爆笑するに決まってる。」


これは鬼童丸。


というか、あんな訳の分からないポーズを進んでやるように思われてる俺って…


「血も涙もないとは、あいつの為にあるような言葉ぜよね。何か気に入らない事があれば十指穿弾。機嫌が悪いなら早蕨の舞。暴力で何でも解決すると思ってる愚か者、あれはもう人間じゃないぜよね。悪魔、悪魔ぜよ」


話題というか内容が大分変わってきているが、これも鬼童丸。


「…酷い言われようね君麻呂、って居ないじゃないの」


大蛇丸が視線を向けた先、と言っても今まで居たのは大蛇丸の隣りだったのだが、居ないのは当たり前だ。俺は怒りに肩を震わせながら鬼童丸の下へと向かっているのだから。


そんな俺に一番初めに気付いたのは多由也だった。多由也だけ此方を見ていたのだから当然だが、普段より大きく目を開き、驚きを隠せないでいる。


次郎坊と左近は、多由也より多少遅れて俺に気がついたようだ。


二人はこれから起こる事が分かったのだろう。即座に鬼童丸から離れ安全圏へと非難している。


鬼童丸はというと、


「なんであんなのがリーダーなのか不思議ぜよ。 暴力しか知らない根性曲がったあんな奴が………き、君麻呂、いつからそこに…?」


やっと気付いてくれたようだ。


ギギギ、という音が聞こえてきそうな感じで鬼童丸は振り返った。


「お前達が変なポーズしているところから」


「そこからっ!?」


何故か多由也が声を上げたが、それはたいした問題ではない。


「さて、鬼童丸」


気合を入れて、一歩近づき、


「とりあえず死んどけ」


笑顔とともに、無数の骨をプレゼントした。


………


……





「大蛇丸様、いい加減あのポーズが何なのか教えてほしいんですけど」


多由也達にポーズの事を聞いたのだが、多由也達もよく分からないらしい。


「そうね、でもその前にあなた達さっきみたいに並んでくれるかしら」


「…大蛇丸様、俺はどうすればいいんです?」


「君麻呂は左近と多由也の間に入って頂戴」


「はぁ…」


とりあえず言われたとおりに横一列に並ぶ。


「この後どうするんです」


「多由也達はさっきのポーズをして頂戴。君麻呂は…右手を突き出す感じでポーズをとってくれるかしら」


これも言われたとおりポーズをするが、実際にポーズをしてみて分かった事。
これは確かに恥ずかしい。


隣りを見るが、多由也は顔を赤くしてやっていた。


「あの、結局何をさせたいんですか?」


至極当然の質問をするが、


いいわ! あなた達いいわよ!!


突如として大蛇丸は大きな声をだし、歓喜に震えていた。


俺たちは、壊れてしまった大蛇丸が恐くて震えている。


「ちょっとあなた達、これも着てくれるかしら」


そう言って、五人の真ん中に居た俺にある物が手渡された。


横にいる左近と多由也も俺の手の中のものを凝視している。俺も視線を落とし、手渡されたものを確認するが、


「あれ、これって…」


「ヒーロー戦隊スーツ!?」


両サイドの二人が同時に声を上げる。


そして納得した。


この変なポーズも、横一列に並ぶのも全部ヒーロー戦隊を意識しての事だろう。


誰もが小さいときに一度は憧れるヒーロー戦隊。


勿論俺も例外ではない。


「そう、それを着てあなた達は変身するの。その名も、忍び戦隊、音レンジャーよ!!」


ビシッ!! と音が出てきそうなくらいの勢いで指を突き出し大蛇丸は言った。


「はぁ?」


四人が口にする。


五人ではなく四人だ。


「鬼童丸は黄、次郎坊は緑、左近は青、多由也はピンク、君麻呂、あなたが赤よ」


「はぁ?」


また四人が口にする。


残りの一人、俺はというと、


「さ、最高です大蛇丸様。赤なんてもう言う事無しです!」


この時、俺は初めて大蛇丸を尊敬した。


「お前達、早く着替えるぞ!」


「…………」


「聞いてるのか?」


…だ、誰がやるかーっ!!


四人はそう叫び服を叩きつけた。










その後、音レンジャーについて話し合ってみたのだが、賛成二 反対四の多数決により却下となった。


「大蛇丸様、多数決って誰が決めたんでしょうね?」


「君麻呂、今更愚痴っても仕方ないわ。私達は負けたんですもの、それよりもこれ。多由也と鬼童丸も」


今度渡されたのは紙切れだった。


真ん中より少し上に大きな字で、中と書かれており、右上には志の字が、左上には忍の字が書いてある。


「何なんですこれ?」


「中忍試験の志願書よ、書いておいてね」


なんだ志願書か…


あれでも中忍試験って


「木の葉崩し、いよいよ実行するわよ」


「…はぁ!?」


今度は五人同時に口にする事が出来た。


それにしても木の葉崩しか…もうそんな時期なんだ。


「あれ? あなた達に言ってなかったかしら…?」


コクンと五人同時に頷いた。






[710] Re[18]:僕の生きる道
Name: ネメ太郎
Date: 2007/03/15 01:21





七月一日


中忍試験当日


音の里からは六人。俺、鬼童丸、多由也のチームと、ザク、ドス、キンのチームがこの試験を受ける事になっている。


ちなみに、次郎坊や左近は音の里で留守番。おそらく大蛇丸の書類整理でもしているのだろう。








「で、何でこんな事になるかな…」


他所の里である木ノ葉隠れの里を、俺たちは今全速力で駆け抜けている。


理由は至って簡単。


のんびり歩いていては中忍試験に間に合わないからだ。


まぁこんな事になったのも、


「テメー等のせいだろうが!!」


隣りを走っている多由也が叫ぶ。


「聞きました鬼童丸さん? 俺たちのせいですって」


「聞きましたぜよ君麻呂さん。あれだけやっといて良く言いますぜよね」


「…まだ殴られたいらしいな」


洒落にならないぐらいの殺気を放ちながら、平然と言ってのける多由也。


その殺気を敏感に感じ取り震える俺と鬼童丸。


「スイマセンでした!!」


もう殴られたくない俺たちにできるのは、ただひたすらに謝る事だけだった。






思い起こす事、数時間前。




一楽というラーメン屋で昼食をとった後、中忍試験までの時間つぶしとして、俺たちは木ノ葉の里を観光していた。


「にしても、音の里とは大違いだな C」


「当たり前ぜよ。そもそも音の里と比べるのが間違ってるぜよ D」


忍び五大国、その中でも最強と呼ばれる木ノ葉隠れの里。


まず規模からして多くの事が音の里とは違いすぎる。


その中でも一番の違いは、


「鬼童丸。男女比が平等って素晴らしいな B」


「木ノ葉の里は楽園ぜよね。 ぬおっ!? 君麻呂、右前方十メートル。大物ぜよ G、Gぜよ!!」

 
Gだと!?


即座に視線を移し確認する。


「ほ、本当だ……ええぃ! 木ノ葉の女性は化け物か!?」


スイマセン。化け物なんて嘘です。


名前も知らない貴女、貴女は天使です。


もし貴女が音の里にいたなら聖女として崇められたでしょう。


まぁ大蛇丸には激しく嫌われるか、最悪殺されると思いますが…


「なぁ、お前等さっきから何言ってるんだ?」


先頭を歩いていた多由也が振り返りながら聞いてきた。


此方も視線を多由也へと移す。


「何って……ねぇ鬼童丸」


「ぜよねぇ君麻呂」


「さっさと何なのか言え、クソ野郎が!」


催促され、俺と鬼童丸の視線は多由也の顔から徐々に下へと降りていく。


「Bと見た」


「いや、Aぜよ」


「…?」


「Bだろ」


「絶対Aぜよ。寄せて上げようが何だろうが、俺の目は誤魔化せないぜよ!!」


「だから、何なんだよ!? そのAとかBとか!!」


「……………」


とりあえず俺と鬼童丸は一点を凝視しつづけた。


やがて多由也も此方の視線に気付き、視線を下げ自分の胸辺りを見つめる。


………


……





「多由也、世の中には小さいのが好きな人もいるんだ。それにお前はまだ若い。今から頑張ればあの人みたいになれるかもしれないぞ」


多由也の右肩にそっと手を置き、落ち込まないようにフォローをする。


ちなみにあの人というのは、先ほどのGの人だ。


「そうぜよ多由也。今がたとえAカップ貧乳娘だとしても、お前には未来があるぜよ。これから牛乳飲むなりマッサージするなりして世間を見返してやるぜよ!」


鬼童丸も、俺と同じように多由也の左肩に手を置いて続ける。


「まぁ無理だろうけどね」


はっはっはっ、と大口を開けて笑っている鬼童丸。


多由也はというと、殴りかかってくるでもなく、ただ肩を小刻みに震わせていた。


「何だったら多由也、俺が揉んでやってもいいぜよ」


街中で手にぎにぎしながら言う鬼童丸は、ド変態にしか見えなかった。


…クソゲス野郎


ぽつりと呟く多由也。


俺と鬼童丸、どちらに向かって言ったのか分からなかった。


だが、その言葉を発した直後に、鬼童丸は地面へと倒れこんだ。


鳩尾に肘での一撃。


多由也が鬼童丸に放った一撃だ。


「……な、何するぜよ多由也」


息するのさえも辛そうといった感じだが、なんとか意識はあるらしい。


多由也はそんな鬼童丸を一瞥すると無言のまま右足を振り上げた。


「それは流石にやばいんじゃ……いや、なんでもないです」


一応は止めようとしたが、今の多由也に俺が逆らえるわけも無く、無常にも右足は鬼童丸へと振り落とされた。





…君麻呂、誰が超絶貧乳娘だって?


今まで散々蹴っていた鬼童丸から、俺に視線を移し言った。


どうやら標的が俺へと変わったらしい。


「そ、それ言ったの鬼童丸だし、そこまで酷く言ってないような…」


無駄だと知りつつも口答えをしてしまう。


「てめぇ等は同罪だろうが」


徐々に近づいてくる多由也。


若干、赤いものがついてる脚が一段と恐い。


「ま、まぁ落ち着け多由也。これ以上騒ぎにすると、木ノ葉の里の警備が来るだろ」


「だから」


「え、いや、だからと言われましても……下手をすれば中忍試験を受けれなくなるんじゃ…」


「関係ない」


非常にやばい、このままじゃ鬼童丸の様にボコボコにやられる。


というか悪いのは鬼童丸だろ!!


Aだって言ったのもアイツ……


「た、多由也! 思い出してみろ、俺はBって言ったんだぞ。Aだって譲らなかったのはアイツだ!!」


「B?」


「そうBだ」


多由也の足が止まる。


何か考えているようだが、何とか今は助かった。


問題はここからだ。


このまま多由也が見逃してくるのを祈りつつ、生き残るための知恵を振り絞る。


「君麻呂」


多由也の声が、今では悪魔のささやきに聞こえる。


「な、何?」


「言ったよな、小さいのが好きな人もいるって……そ、その、お前はどうなんだ?」


「ど、どうって何が?」


胸だよ! や、やっぱりお前も大きい方が好きなのか?!


テンパッている多由也。


こんな風に顔を赤くしている多由也は、正直可愛いと思う。


というか、もしかして俺殴られなくてすむ?


「いや~昔から大は小を兼ね……」


俺の言葉は、鳩尾に突き刺さった多由也の拳によって遮られた。


どうやら俺は回答を間違えてしまったらしい。


「一発で許しといてやるよ!」


薄れ行く意識の中、確かにそう聞こえたのだった。






このような事があって、急いでいるというわけだ。


ちなみに、木ノ葉の警備に捕まると言う事は無かった。


「見えた、忍者アカデミー」


先頭を行く多由也から声が上がる。


「なんとか間に合いそうかな?」


「微妙ぜよね」


建物の中に入った後も、若干スピードは落としたが走るのを止めない。


やがて今回の試験が行われる教室、301とかかれたプレートと大きな扉が見えた。


「多由也、面倒だ蹴破るぞ」


多由也の横へと移動し伝える。


「俺の名はうずまきナルトだ!!」


扉の向こうから何か聞こえるがそんなのは構ってられない。


多由也に合わせるように足を振り上げ、


ドカッ!!


てめーらにゃあ負けねヘブッ!!


俺は左半分を、多由也は右半分を蹴破った。


そして向けられる百人以上の視線。


「何とか間に合ったみたいぜよね」


鬼童丸の言うとおり、試験はまだ始まってはいなかった。


「重いってばよ~」


「? 多由也なんか言った」


気のせいか?


「しかし、これだけ見られるとムカツクな」


「あぁ」


三百近くの目が此方を見ていると思うだけで、イラつくと言うか吐き気がしてくる。


「あ、あの君麻呂さん?」


最初は多由也に呼ばれたと思ったが、多由也がさん付けで俺を呼ぶはずがない。


それに、声は多由也とは反対の方向から聞こえた。


「サクラ?」


隣りにはサスケもいる。


「あれ、ナルトは?」


サクラは俺と多由也の足元を指差す。


足元には蹴破って破壊した扉と、何故かその下敷きになっているナルトがいた。


さ、さっさどくってばよーっ!!











[710] Re[2]:外伝 オレ達の生きる道
Name: ネメ太郎
Date: 2006/12/11 02:09





「強くなりたいか?」


「は?」


「強くなりたいか? ザクよ」


いきなり意味不明なことを言われたザクは、首を傾げ少し悩んだ後答えた。


「まぁそりゃあ強くなりたいと言えば強くなりたいが……それよりも、なんでそんな格好しているんだ君麻呂?」


言われた君麻呂は自分の姿を見てみる。


確かにいつもの服装とは違う。いつもの服は着ていることは着ているのだが、今日はその上から黒の布を纏っている。


「変か?」


「変というか─」


ザクは視線を窓の方に向け続けた。


「それ教室の暗幕だろ。一枚無くなってるし」


「…むぅ、よく気付いたな。今日からはその観察眼に敬意を払い、ザク強行偵察型と呼んでやろう」


「…できれば普通に呼んでほしいのだが」


「…そうか」


目を閉じて、残念そうに肩を落とし


「ならザクフリッパーで」


「……おい」


「どうした、やっぱり強行偵察型の方がいいか? 個人的にも強行偵察型のほうが好きだったりするんだが」


「……どちらも嫌なんだが、というかフリッパーってなんだよ」


「そうか、やっぱり強行偵察型だよな」


どうやら君麻呂は話を聞く気はないらしい。


ザクは大きな溜め息をつき、改めて教室を見渡した。今日は半日授業という事もあり何人かは帰宅していたが、まだ大くの生徒は残っている。まぁその殆どが、居残りで勉強しているわけでもなく、君麻呂とザクのやり取りを見て楽しんでるわけだが、当事者となっているザクにとっては何の楽しみもない。


今度は助けを求めるような視線で辺りを見渡したが、皆一斉に視線をそらしてしまった。頼みの綱のドスでさえ下を見て関わらないようにしている。


これが君麻呂という人物なのだ。


見ている分には面白いが決して関わってはいけない存在。


(大蛇丸様でさえ、君麻呂を苦手にしてるっていうしな)


ザクは、声を出さずに肩をすくめて独りごちた。


本当か嘘か分からないが、そういう噂を聞いたことがある。


(結局、自分一人でどうにかするしかないのか…)


と何かを決意したように君麻呂に視線を移し


「もうなんでもいい」


とりあえず、君麻呂とのやり取りを一秒でも早く終わらせたかったのだ。


「そうか! なら強行偵察型で決定だな!」


満面の笑顔で君麻呂は言ったのだが、ザクの顔からは疲れが見えていた。


「そういえば、強くなりたいとかどうのこうの言ってたのは何だったんだ?」


「…………」


「…………?」


「……いやぁ、すっかり忘れていたよ」


先ほどの笑みとは違い、どことなく胡散臭い笑みを君麻呂は浮かべている。


ザクは、自分が余計な事を言ってしまった事に気付いたが、もう手遅れだった。折角君麻呂が忘れていたというのに。


「というわけで、鬼童丸。例のものを出してくれたまえ」


いつの間にか君麻呂の後ろに来ていた鬼童丸が、懐から一枚の紙を取り出しザクに手渡した。


手書きで書かれていたそれは、若干読みづらかったのだが内容はすぐに理解できた。


「は? なんだこれ?」


「何って、内容そのままだが」


「内容って、『自分がどうなっても、それが自分の責任である事をここに誓います』しか書いてないじゃないか」


「分かりやすいだろ」


「分かりやすいとかじゃなくて……なんだその手に持ってる本は?」


「…本?」


きょとんと言い返す君麻呂だったか、自分の左手にある本に気付き、ザクから隠すように懐にしまっってしまった。


「ちょっと待て、今の本見せろ!!」


君麻呂の行動に納得できないザクは見せるように言ったが、


「ヤダ」


そう簡単に見せる君麻呂ではなかった。


「見せろ!」


「ヤダ」


「いいから見せろ!」


「ヤダ」


そんなやり取りを続けていたのだが、やがてザクが業を煮やし、本を奪い取ろうと君麻呂の懐に手を入れた。


「いやぁ~変態~」


君麻呂のふざけている叫び声も物ともせず、やっとの事で本を抜き取ったのだが、何故か手には二冊の本が。


一冊は『誰でも出来る催眠術のススメ』と書かれている。


もう一冊は『持ち出し厳禁』とだけ書かれていた。


「…………」


ザクの冷たい視線が君麻呂を襲う。


「…………」


君麻呂は、視線を合わせないように斜め上を見上げて口笛を吹いていたが、突如としてザクに向き直ると


「てやっ!」


「はうっ!?」


君麻呂が掛け声と共に打ち下ろしたチョップは、正確にザクの首筋をとらえ、ザクはそのまま気を失った。


「ふぅ……」


君麻呂は、かいてもいない汗を拭う動作をし、鬼童丸にザクを連れて行くように指示を出した。そして、自身もその後に続いて教師室を出ようとしたが─


「ザクをどうするつもりですか?」


そう後ろから声を掛けられ、君麻呂は歩みを止めることになった。振り返り声の主を確認したが、どうやらザクと良く一緒にいるドスが、先ほどの声の主らしい。


「安心しろドス。強行偵察型は、赤く生まれ変わるだけだから」


「赤く、ですか?」


「そう、赤く」


ドスはその赤が血の赤なのか、それとも別の赤か気になったがそれは聞かないでおいた。


ザクのことは気になるが、自分が巻き込まれてしまっては元も子もないからだ。


「というわけで俺たちは行くから」


そう言い残し、君麻呂と鬼童丸は訓練場を目指し教室を後にした。







「そういえば君麻呂、ザクの奴も言っていたが、何で暗幕なんて身に纏ってるぜよ?」


「これ? 特に意味は無いけど、なんかこっちの方が催眠術とか使えそうな雰囲気じゃない?」


「…それだけ?」


「うん、それだけ」


まともな答えが返ってかないのは分かっていたが、予想以上の馬鹿な答えに鬼童丸は肩を落とし、その拍子で背負っていたザクが落下した。









訓練場。


以前此処は君麻呂が鬼童丸たちとの戦いで破壊した場所だが、今では立派に修繕、というか立て直されて綺麗になっている。


「で、今回は具体的にどうするぜよか?」


鬼童丸は訓練場の扉を開け、中に入るなりそう聞いた。背負っている強行偵察型(ザク)はまだ気を失ったままだ。


「…? どうするって、赤くするだけだけど」


「いや、その赤くを具体的に知りたいぜよ…」


「これとこれで」


君麻呂は懐から二冊の本を取り出し、鬼童丸に渡した。


鬼童丸は突き出された本に疑問を抱きつつも受け取り、その表紙に目をやりタイトルを確認する。


「? 催眠術と……持ち出し厳禁? 君麻呂これって…」


「禁術とか色々載ってる本だよ」


あっけらかんと答える君麻呂に、鬼童丸はただ呆れた。


だが鬼童丸が呆れるのも無理はない。禁術の載っている巻物や本というものは、この里では大蛇丸が厳重に保管している筈なのだ。なのに、なぜか今はその中の一冊が自分の手の中にある。


「……なんでこんな本を君麻呂が持ってるぜよ?」


「なんでって言われても…とりあえず座って話さない? ザクもまだ起きそうにないし、こうなった経緯も話すから」


鬼童丸は頷き、背負っていたザクを床に置いて、自分もその横に腰をおろした。


君麻呂も鬼童丸と同じく腰をおろし、今はザクを挟んで向かいあっている。


「で、その本を持ってる理由だけど、屍骨脈を使って新しい術でも開発しようと思ってね。その為の何かいいヒントでも貰おうと思って大蛇丸様の所に行ったわけ。でも大蛇丸様はいなくて、そのまま帰るのも嫌だったから、ヒントの変わりになるかと思い、禁術の本を借りてきたわけ」


「………それって」


鬼童丸は半眼になり君麻呂に聞いた。


「無断で禁術の本を持ってきたって事ぜよ?」


君麻呂は、うん、とだけ頷いた。


「あ、でも借りてきますってメモは置いてきたから」


「そういう問題か? 大体、この本って大蛇丸様が厳重に管理していた筈ぜよ?」


「厳重? 普通に机の上に置いてあったけど…」


「……………」


鬼童丸は再度呆れる事となった。 メモだけを残して借りてくる方もだが、それ以上に、禁術の本を机の上なんかに無防備で置いていた大蛇丸にだ。


そんないい加減な二人に疲れを覚えつつ、鬼童丸は次の話題に移す事にした。


「…もういいぜよ。で、この禁術の本とザクの関係は?」


「栞が挟んでるところ読んでみて。それで分かるから」


君麻呂に言われたとおり、鬼童丸は栞の挟んであるページを開き、視線を落とし読み始めた。


「八門遁甲?」


八門遁甲。チャクラ穴の密集した場所、頭部から順に開門、休門、生門、傷門、杜門、景門、驚門、死門、この八つを八門と言う。この八門は、体を流れるチャクラに常に制限をかけているが、本には、その制限をチャクラで無理やり外す事についてが書かれている。


「こんなのをザクに? 絶対無理だと思うぜよ」


それを聞いた君麻呂は反論するわけでもなく、ただ同意した。


「俺もそう思うよ。だからソレの出番なわけ」


君麻呂はそう言い、催眠術の本を指差し続けた。


「それに、開くのは三門の生門までだし」


「生門まで?」


「そう生門まで、生門について書かれているところ見てみれば分かると思うけど、それ以上の門を開いても今回は意味ないし。」


鬼童丸は言われたとおり、また本に目を落とした。


生門の項目にはこう書かれている。


体の色が赤くなる、と。


「………これが理由?」


鬼童丸が見た生門の項目にはそれ以外に目立ったことは書いてなかった。


開門の項目には脳の抑制を外すや、休門の項目にはむりやり体力を上げるなど、それらしい事が書いてあるのにもかかわらずだ。


「それが理由」


鬼童丸はここでやっと理解した。ザクを赤くするとはこの事なんだと。


だがそこでもう一つの疑問が浮かび上がった。


「君麻呂、一つ聞きたいんだけど、なんでそんなにザクを赤くしたがるぜよ?」


「鬼童丸─」


君麻呂は鬼童丸の肩に手を置き、諭すような口調で続ける。


「ザクというのは、赤くなきゃいけないんだ。赤くなると通常とは3倍もスピードが違うんだから」


サッパリ意味が分からなかった。


とりあえず─


「それは凄いぜよね~」


鬼童丸は、もういい加減どうでもいい感じで頷いておいた。







「でも、催眠術なんかでほんとに出来るぜよ?」


もっともな質問を鬼童丸はしたが


「出来るさ、信じていれば必ず」


グッと親指を突き出して君麻呂は断言した。


こんな状況じゃなければかっこよかったかもしれない。


「…ん」


二人の間で気を失っていたザクが声を出した。


そろそろ気付きそうだ。


「ここは…?」


そう呟き、目を開いて一番に視界に入って来たのは、二人の顔だった。


(君麻呂と鬼童丸? なんで二人が? というかここはどこだ?)


二人から視線を外し、周りを見てみる。


(訓練場…? なんでこんなところに)


自問自答してみたが答えは見つからなかった。


とりあえず体を起こし、記憶を整理してみる。


……





(思い出した! たしか君麻呂に殴られて…)


「どういうつもりだ君麻、呂? 何やってるんだ??」


文句を言おうと思ったが、目の前の君麻呂は意味不明なことをしていた。


糸の先に丸い物体がついたものを、此方の目の前で揺らしている。


「あなたはだんだん眠たくな~る」


ザクは益々意味が分からなくなった。


だがそれでも君麻呂は続ける。


「あなたはだんだん頭の中がボーとしてく~る」


君麻呂から視線を外し鬼童丸の方を見るが、鬼童丸も同じ物を持って揺らしていた。


「こっちを見るんだザク。お前はだんだん自分の意思がなくな~る」


馬鹿なことを言っている。「フン」そうザクは鼻で笑ったが、何故か自分の意思に逆らい顔は君麻呂の方を向いていく。


(なんで!? そうか、催眠術の本!!)


ザクは、先ほど気を失う前に君麻呂が持っていた本の事を思い出したが、もう手遅れだった。


そこまで思い出し、ザクはまた意識を失ったのだ。







パン


手を叩くと同時にザクは目を覚ました。


「あれ、俺何してるんだ?」


「成功ぜよ?」


「多分大丈夫だろ」


ヒソヒソと話す声が聞こえ、声のしたほうを見ると、君麻呂と鬼童丸がこちらを見ていた。


「お前ら、何やってるんだ?」


ザクの問いかけにも答えず二人は話し続ける。


「やってみるぜよ?」


「やってみるか」


二人はヒソヒソ話をやめザクに向き直った。


そして君麻呂が一言。


ガルマ・ザビは死んだ。なぜだ!?


坊やだからさ


ザクは思わず口を抑えた。


君麻呂の言った事は全く判らなかった、なのに勝手に言葉が出てしまったからだ。


(なんだ? 全く知らない言葉だったのに、どこか懐かしい気が。それに何故だか体が熱い…)


刹那


ウアァァアァ!!


ザクが吼えた。今までの彼からは想像できない様なチャクラを放出しながら。


そして体の色も赤く。


「ヒャッホーイ 成功だぞ鬼童丸」


思わず二人はハイタッチをして喜び合う。


「よかったぜよ君麻呂。でもそろそろ催眠解除してやめさせた方が良くないぜよ?」


「それもそうだね」


第三門といえど、体への負担は半端な物じゃない。このまま続けていれば、いずれザクの体は崩壊していくであろう。それ程危険なのだ。八門遁甲という術は。


モビルスーツの性能斬空極波!」なッ!!」


予想外の出来事だった。


解除のキーワードを言い終わる前に、ザクが攻撃を仕掛けてきたのだ。


二人は突然の攻撃に対応できず、衝撃波は床を粉々に砕きながら襲い掛かった。普段のザクとは比べ物にならないほどの威力。二人を巻き込んでも威力は衰える事は無かった。


ああぁぁあぁあ!!


二人は絶叫し、なすがまま吹き飛ばされていく。もう、どちらが天井で地面かさえも分からなくなっている。


二人は壁を壊したところで止まったが、訓練場は半壊といって良いほどのダメージを受けていた。


「クッ…生きてるか君麻呂?」


鬼童丸は、瓦礫の下からやっとの思いで顔をだし尋ねる。


が、返事は無かった。


「君麻呂?」


今度は瓦礫から這いずりでて、君麻呂がいると思われる方に声を掛けたがやはり返事は無かった。


(…まさか、やられた?)


それはありえない事だった。


君麻呂がやられるというイメージを鬼童丸は出来ないのだ。


「君麻呂!」


今度は目を凝らして辺りを探してみる。


一面瓦礫だらけで良く分からなかったが、かろうじて君麻呂の腕を見つけ、 急いで駆け寄り掘り起こそうとしたが、君麻呂の腕はピクリとも動かなかった。


(クソッ間に合うか!?)


暴走状態のザクは此方に向けて二発目の術を発動させようといたのだ。


鬼童丸も急いで君麻呂を掘り起こそうとするが、どう考えても相手の術の発動の方が速い。


そして無常にも術は放たれた。


「斬空極波!」


が、その衝撃は二人の下には届かなかった。


骨の壁が二人を守るようにそびえ立っていたからだ。


「君麻呂、生きていたぜよね!!」


鬼童丸は嬉しさのあまり涙を流し、君麻呂の救出にかかった。


「       」


「ん? 何か言ったぜよか?」


上等じゃねぇか!! ぶっ殺してやる!!!


叫びと共に発動した早蕨の舞が、全てを吹き飛ばした。


ザクは勿論、


「何でぜよぉぉぉぉぉ」


鬼童丸でさえも。


そして訓練場は全壊に…


こうして長かった一日は終わりを迎えた。









「君麻呂、あなたまた壊したのね…」


怒りに肩を震わせながら大蛇丸は言った。


「いや、今回は俺だけのせいじゃ」


「新しく立て直す費用と、ザクの入院費、あなたが出しなさいよ…」


「へ…?」


「始末書も書いときなさいよ…」


「あうぅぅぅ」


君麻呂は泣いた。


ちなみにザクは全治三週間。鬼童丸は翌日ピンピンしていた。






[710] Re[19]:僕の生きる道
Name: ネメ太郎
Date: 2007/04/21 23:51





恋とは、命を賭けても惜しくないものと聞いたことがある。




恋とは、するものではなく落ちるものと聞いたことがある。




そして今俺は…







予想外の事ぜよ。


木ノ葉の里に君麻呂の知り合いがいるなんて。


今はナルトとか言う奴が、君麻呂を質問攻めしている状態だ。


話によるとどうやら前の任務、波の国に行ったときに知り合ったらしい。


……にしてもこの状況はどうにかできない物だろうか?


楽しそうな顔でナルト達と話している君麻呂はどうでもいい。


木ノ葉の忍びたちに、微妙に囲まれてる状況もどうでもいい。


問題は多由也ぜよ。


誰も気付いてないようだが、多由也の目が恐すぎる。


見つめる先にいるのは、ナルトの横で会話に参加している、ピンクの髪のサクラという名前のくノ一。


ちょっとサクラ、誰よそのかっこいい人は?


サクラの隣りに居たくノ一が、サクラを引き込み耳元で聞いた。


本人は小声で話したつもりなのだろうが、実はまる聞こえだったりする。


そして予想通り、多由也の視線はサクラから金髪のくノ一へと移った。


「聞いたか、鬼童丸。かっこいい人だって」


呑気に笑っている君麻呂。


そんな君麻呂に対し多由也は、


君麻呂、ウチ等もそいつ等の事しらないんだけど…?


当然のことを、冷たく言い放った。






結局、君麻呂が紹介できたのはナルト、サクラ、サスケの三人だけで、残りはサクラが紹介する事となった。


初めに紹介されたのは、金髪のくノ一。


多分、多由也が一番気になっている奴だろう。


名前は山中いの。


そして、その山中いのとスリーマンセルを組んでいる秋道チョウジと奈良シカマル。


次いで、犬を頭にのせてる犬塚キバに、サングラスをかけた油女シノ。


最期に日向ヒナタ。


………


……





そして俺は恋に落ちたぜよ。







静かにしやがれ、どぐされヤローどもが!!


ざわつく教室内に、白い煙と怒声が響き渡った。


煙の中から現れたのは、同じ服を纏った木ノ葉の忍び達。


「待たせたな…『中忍選抜第一の試験』試験官の森乃イビキだ…」


……





「どういう事だ君麻呂?」


イビキの話は続いているが、横に居る多由也から小声でそう聞かれた。


「どういう事って何が?」


「さっきの事だよ!」


さっきの事……多分ザクたちがカブトに攻撃を仕掛けたことだろう。


「ザク達はカブトさんの事知らなかった。そして、ザク達はカブトさんの事が気に入らなかったから攻撃を仕掛けた。そんなトコでしょ」


「違う! ウチが聞きたいのは、何でカブトさんがここに居るかって事だ!」


なんだそっちの事か…


カブトが居る理由なんて、


「さぁ?」


俺が知るわけもない。


「さぁ? って、大蛇丸様からは何も聞いてないのか?」


「聞いてない」


恐らく忘れているのだろう。


最近、大蛇丸の奴物忘れが酷くなってきてるし…







嫌な予感はしてたんだ。


座席番号を受け取った時から。


42


これが俺の座席番号。


そして隣りに座っているのが、


ウフフ…筆記試験なんて何年振りかしら…


姿形はいつもと違うが、間違いなく大蛇丸だ。


「で、大蛇丸様は何でここにいるんですか?」


気付かれてないと思ったのだろうか。


若干驚いたような顔を見せた。


にしてもだ、これだけ大勢いるのに見事に大蛇丸が隣りに来るとは…


…流石は君麻呂ね。もうなんて言うか師弟愛?


「いや、あり得ませんから」


全力でソレを否定する。


「ちなみに左近と次郎坊も来てるわよ」


これには俺が驚く事となった。


まぁ、確かにスリーマンセルなので人数は丁度は良いが。


「さ、無駄話はここまでにしましょう。そろそろ始まるわよ」


「試験時間は1時間だ」


大蛇丸の言うとおり、


「よし…始めろ!!」


試験開始となった。


問題用紙をめくり一問目にとりかかった。


一問目は暗号文の解読。


難しい漢字ばっかりだったので一瞬で諦めた。


二問目。


『図の放物線Bは、高さ7メートルの木の上にいる敵の忍Aの、手裏剣における最大射程距離を描いている。この手裏剣の描く楕円に表れる敵の忍者の特徴、及び平面戦闘時における最大射程距離を想定した答え、その根拠を示しなさい』


……





まったく分かりません。


次。


………


……





結局三問目から九問目まで一つも分からなかった。


まぁでも、別に答えなんて書かなくてもいいんだけどね。


この問題の本当の答えを知っているから、別に何もあせる必要はないし。


この試験、十問目だけを答えればいいのだから。


…という訳で暇だ。


周りは真剣に問題にとりくんでる者や、バレバレのカンニングをしている者など多種多様である。


その中で目に留まったのは砂隠れの我愛羅。


たしかあいつは、砂で第三の眼とかいうイカす技を使ってたと思う。


よし、やってみよう。


まずは手のひらに、骨で眼球の形を作る。


ここまでは順調だ。


続いて視神経接続。


…視神経接続。


……視神経接続!


………さっさと繋がらんかい視神経!!


クソッ! ちょっとだけ出来るかなって期待してたのに。


第三の眼なんて覗きに最高の技だ……音の里に帰ったらこっそり訓練してみよう。







「ここに残った81名全員に…合格を申し渡す」


そんなこんなで十問目も終わった。


ちなみに、やっぱり無回答では少し恥ずかしかったので、途中でこっそりと大蛇丸の答案をカンニングして答えを書いておいたりする。


こうして無事第一試験は終りを向かえた。筈だったのだが、


刹那、窓ガラスが砕け散り黒い塊が飛び込んできた。


「なっ……!!」


多くの受験生が突如として起きた出来事に困惑を隠せないでいる。


だが、そんな受験生にお構いなく事態は進んでいく。


黒い塊からクナイが二本飛び出し、天井に突き刺さった。


クナイは黒い塊(どうやら布のようだ)に結ばれており、布はきれいに広がる。


その布には文字が書いてあった。


第2試験官 

 みたらしアンコ

 参 上!!


…みたらしアンコ。


何故だろう、前に逃げたせいか?


激しく嫌な予感がする……


第二試験、一波乱起きそうだ。




[710] Re[20]:僕の生きる道
Name: ネメ太郎◆f880db45 ID:97f0586b
Date: 2007/05/10 00:38





変な女。


それがあの試験官、みたらしアンコの第一印象だった。


誰だってそう思ったはずだ。


空気を読まずに、あれだけ派手な登場をするなんて。


……アレ? そういえば、身近にもあんな馬鹿な事を平気でするような奴が居るような…







第二の試験。


あの試験官はそこで合格者を半分以下にしてやると言った。


そしてウチ等は、その試験場へと向かっている。


だけど気になる事が一つ。


あの試験官、一瞬だが先ほどの教室で君麻呂を睨みつけていた。


恐らく君麻呂も気付いてないだろう。


どういう事だ?


まさか木ノ葉崩しの計画がバレた?!


…いや、それはありえない。


計画は大蛇丸様が立てたのだ。


そんな簡単に知られるわけがない。


何より、それでは君麻呂を睨む理由にならない。


じゃあなんだ?


何故あの女は君麻呂を…


もしかして単なる君麻呂の知り合い?


だが、仮に知り合いだとしても決して友好的ではなかった。


チッ、面倒だが君麻呂本人に聞いてみるか…


「なんぜよ~多由也、そんな難しい顔して~」


邪魔なのが来た。


いかにも私は幸せですって顔がムカツク。


「そんなんじゃ、幸せが逃げていくぜよ~」


ウザい。


鬼童丸の奴は常日頃からウザかったが、今日はいつにもましてウザい。


「恋は~人を~こんなにも~」


う、歌い出しやがった…


人が真剣に考え事してるというのにコイツは、


「…フッ!!」


短い息吹と共に放った右拳が、鬼童丸へと吸い込まれる。


かなり手加減をしたので、そう大したダメージはないだろう。


「…な、なにするぜよか……」


ウゼぇんだよクソ野郎が! 少し黙ってろ!!


「は、はい!!」


これで馬鹿は静かになった。


「君麻呂、ひとつ聞きたいことがあるん……なんだその顔?」


そこに居たのは君麻呂であって、君麻呂じゃなかった。


まぁよく分らないかも知れないが、厳密に言えば顔がいつもと違うのだ。


違うと言っても、変化の術で他人に化けたりしてるのではない。


所々は君麻呂のままなのだ。


あえて言うなら、顎とエラと鼻が普段の君麻呂と違う。


これじゃあまるで、


「これはな、君麻呂流忍術、プチ整形の術だ」


そう整形だ。


プチかどうかは問題のところだが。


「屍骨脈の能力をフルに使った素晴らしい術だと思わない?」


「…能力の無駄遣いだろ」


「む、無駄遣い……まぁいいや。聞きたい事って何?」


「いや、もういい…」


出鼻を挫かれた感じになってしまい、改めて聞く気は起きなかった。





第二試験 試験場


この第44演習場(別名死の森)は鍵のかかった44個のゲート入り口に円状に囲まれてて、川と森、中央には塔があり、その塔からゲートまでは約10キロメートルある。


試験内容は、なんでもアリアリの巻物争奪戦。


27チーム中、13チームには「天の書」を、残りの14チームには「地の書」をそれぞれ1チームに同意書と交換で一巻きずつ渡す。


そして、この試験の合格条件は天地両方の巻物をもって中央の塔にたどり着く事。


失格条件は二つ。


一つ目は時間内に天地の巻物を三人で持ってこれなかった場合。


二つ目は班員を失ったチーム、又は再起不能者を出したチーム。


これがこの試験のおおまかなルールだ。






「そろそろ巻物と交換の時間だ」


小屋に待機していた試験官から声がかかる。


ちなみに、小屋には暗幕が掛けられており、渡される巻物や、誰が巻物を手にするのかが分からなくなっていたのだが、これって白眼を使えば見えるのではないのだろうか?


「君麻呂、ウチ等の番だぞ」


「あぁ分った」


軽く返事を返し、同意書を片手に小屋へと向かう。


三人の同意書と交換に渡されたのは『地の書』だった。


「で、誰が持つぜよか?」


「俺パス」


「ウチも」


「俺もぜよ」


「…………」


「…………」


「…………」


三人の視線が交差し牽制しあう。


そして徐々に溢れ出す三人の殺気。


「誰も持つ気はないと…?」


俺の質問に二人は黙って頷いた。


「…なら仕方ないか」


指の骨を鳴らしながら告げる。


「あぁそうだな」


多由也は肩を軽く回しながら同意した。


「じゃあやるぜよか…」


三人とも準備は万全だ。


「ちょ、ちょっと待てお前らこんな所で「ジャンケンポンッ!!」 …へ?」


試験官が止めに入るが、そんなのは無視した。


大方、俺たちがここで殴り合いでも始めるのと勘違いしたのだろう。


「…俺の勝ちぜよね」


不適に鬼童丸が笑う。


ちなみに俺がグーで多由也はパー、鬼童丸はチョキを出している。


「いや、あいこだろ」


「フッ、上を見るぜよ」


「上?」


言われるがままに視線を上げる。


見上げた先には鬼童丸の残りの二本の腕があり、その腕はグーとパーを出していた。


「君麻呂には真ん中の手のパーで、多由也には一番下の手のチョキぜよ」


「…………」


「ん? どうしたぜよか」


「……ていッ!」


グーのまま鬼童丸の頭を殴りつける。


多由也もすかさずパーのままビンタを繰り出した。


巻物は鬼童丸が持つ事になった。






突然ですが、本日最大のピンチが訪れました。


巻物を受け取った後は、担当の者についてそれぞれのゲートへ移動するのだが、その担当のものというのが何故か……


「ねぇ、アンタ前にあった事あるわよね…?」


みたらしアンコだったりするわけです。


「人違いだと思います」


俺は多由也の影に隠れながら言った。


多由也は迷惑そうに睨んだがそれどころではない。


「人違いね…でも似ているのよね」


プチ整形の術が役に立ったようだ。


「そうだ、名前は? 私の知ってる子は君麻呂って名前だけど」


「君麻呂ならヘブッ!!」


とりあえず邪魔でアホな鬼童丸を黙らせた。


「名前は、え、えーと彦麻呂?」


慌てていたとはいえ、この名前には無理があったかもしれない。


「なんで自分の名前が疑問系なのよ。それにしても、顔だけじゃなく名前まで似てるわね」


「いや平凡な顔にありきたりな名前ですよ」


「…………」


「…………」


ジトーといった感じで睨んでくるアンコ。


100パーセント気付かれていると思うが、ここは意地でも譲るわけにはいかない。


「一つ聞いていいか?」


ここまで無言だった多由也が口を開く。


「いいわよ、何かしら」


「そのアンタが言ってる君麻呂とはどういう関係なんだ?」


「関係ね……いろいろな説明を省くならカップル?」


「ちょっと待てぃ!?」


咄嗟に口を閉じるがもう手遅れだった。


「やっとシッポをだしたわね」


ウフフと大蛇丸と同等の不気味な笑みを浮かべるアンコ。


だがそれよりも恐かったのは、


…君麻呂、カップルってどういう事だ…?


振り返った多由也は何よりも恐かった。


「いや、あのね、カップルと言っても半ば無理やりというか、むしろカップルの説明は激しく間違っているような」


冷や汗が流れるのを感じながら必死にうめく。


というか、何で俺はこんな言い訳をしているのだろう? 多由也から迫る拳を見ながらそう考えていた。






眼を覚ましたとき、視界に写ったのは談笑している多由也とアンコの二人。


「あっ気付いたようね」


「まぁ死んだわけじゃないですから…」


「そりゃそうね……まぁでも悪かったわね」


鼻の頭をかきながら謝るアンコ。


「この子にはちゃんと説明しておいたから」


この子こと、多由也の頭に手を乗せながら言った。


なんだかこうして見てると姉妹に見えてくる。


「というわけで、本当は私がぶん殴ってやりたかったけど、多由也が殴ったのでチャラにしてあげるわね」


「そりゃどうも…」


いまいち納得できなかったが、


「君麻呂、その……悪かったな


普段、謝る事のない多由也が顔を赤くして謝っているのだ。


これを見れただけでも良しとしよう。




「時間ね。これより中忍選抜第二の試験! 開始!!」


腕時計で時間を確認し、アンコが試験開始の号令を出した。


ゲートが一斉に開かれ、中へと入っていく。


「頑張んなさいよ!!」


俺たちの背中にアンコから声が掛けられた。


振り返るのもアレなんで手を上げて返事だけをしておく。


「じゃあ行きますか」


大地を蹴り駆けて行く。


でも何か忘れてるような……


アンタ達、一人忘れてるわよーッ!!


「………あ」


多由也と同時に声を出す。


どうやら多由也も鬼童丸の事を忘れていたようだ。








[710] Re[3]:外伝 オレ達の生きる道
Name: ネメ太郎◆f880db45 ID:97f0586b
Date: 2007/07/14 00:33





「……暇ね」


アカデミーの一室からその声は聞こえた。


その部屋の主の名は大蛇丸。


伝説の三忍の一人として名を残し、そして音の里を興した張本人である。


「暇ならさっさと書類にハンコを下さい」


そう言ったのはアカデミーの教師を勤める人物。


名前は………まぁいいだろう。


「…ハンコね」


書類には目もくれず答える。


大蛇丸が見ているもの。


視線に止まったものは、外で訓練をしている男子生徒達の姿だった。


中には勿論、君麻呂達の姿も見える。


「あの子達…」


その言葉に教師も視線を移す。


「あぁ今の時間は野外訓練の時間ですからね。それよりも大蛇丸様、ハンコを下さい」


「野外訓練…?」


顔を顰め数秒考えた後、


いい事思いついたわ!!


満面の笑みで叫んだ。


「貴方、三日後…いえ、一週間後の天気は!?」


「天気…ですか? ちょっと分かりかねますが、それよりも早くハンコを─」


「そんなもの後で押しとくから、さっさと調べてきて頂戴!」


「は、はいっ!!」


大蛇丸の権幕に押され、教師は一瞬で部屋を出て行く。






「……で、どうなの?」


「新聞によりますと…」


相当急いできたのだろう。若干息が荒くなっている。


「…一週間後は…快晴ですね」


「そう。ご苦労だったわね」


ウフフと不気味な笑みを浮かべつつ、大蛇丸は部屋を後にした。


「楽しみだわ…」


「え…あの大蛇丸様。ハンコは…?」


大蛇丸の背中に声を掛けるが、返事と書類は返ってこない。


教師は一人涙を流すのだった。









「─と、いうわけで」


男子の教室。


教卓の前に立ち、バンッ!! と勢いよくそれを叩いた。


運動会をするわよ


「……………」


大蛇丸を見たまま、生徒全員の動きが止まる。


ただでさえ大蛇丸が教室に来るというだけで緊張が走るのに、それに加えて今回は突拍子もない発言。


君麻呂や鬼童丸といった面子ですら動きが止まっている。


「…やーね、そんなに見つめられると変な気分になっちゃうじゃない」


頬を赤らめつつ言う。


普段なら君麻呂あたりからキモイとの声が上がるのだが、


「……………」


「……………」


誰も反応しない事に大蛇丸は徐々に焦りを覚える。


「…じょ、冗談よ」


「……………」


「……………」


「…な、なんだ冗談か。変な事言わないで下さいよ大蛇丸様」


「ほ、本当ぜよ。まったく大蛇丸様の冗談にも困ったものぜよ」


君麻呂、鬼童丸の発言の後、教室の雰囲気は一変した。


先ほどまでの静まり返った教室が嘘の様に、いたる所から笑い声が漏れる。


「そうよ、冗談冗談。で、肝心のチーム分けだけど…」


「……………」


「…な、何よ。どうしたのよ…」


「………大蛇丸様。運動会が冗談なんじゃ…?」


クラスを代表して君麻呂が口を開く。


「え? 違うわよ。 変な気分になるって言うのが冗談で…いやあながち冗談では無いかも知れないけど……運動会は本当にやるわよ。一週間後に」


「「「はぁぁぁぁぁっ!?」」」


クラス全員が揃って声を上げる。


あら、何か文句でも…?


低い声と共に鋭い眼光が生徒全員を射抜いた。


一瞬にして静まり返る教室、そう大蛇丸に逆らえる奴などいないのだ。


異議アリ!!


一人を除いて。


…君麻呂、何が嫌なの…?


相変わらず声は低く、眼光は鋭い。


おそらく、前列の生徒は失神してるだろう。


「何が嫌というより、面倒くさいから?」


横の鬼童丸、左近、次郎坊も頷いている。


彼等には大蛇丸に進言する度胸がないだけで、考えている事は同じようだ。


面倒くさいね……君麻呂、運動会にはくノ一の教室の子達もでるのよ……


一瞬だが君麻呂の眉毛がピクリと動く。


それを見て、大蛇丸は不気味な笑みを浮かべ後を続ける。


そして勿論、服装は半袖のシャツにブルマよ!!


(まぁ男子はランニングシャツに短パンだけどね……)


「「異議なし!!」」


君麻呂と鬼童丸が素早く答えた。


「ちょっと待て、お前らついさっきまで反対だっただろ!?」


二人に反論したのは左近。


「ふっ、さっきはさっき、今は今ぜよ」


「そうだぞ左近。大体運動会のどこが嫌だって言うんだ?」


「お前等こそいきなりなんだってんだよ? まさかブルマ何かに釣られたって言うのか!?」


「「ブルマの何が悪い!?」」


意味もなく胸をはり答える二人。


「悪いわ!」


「……………」


「……………」


「誰か左近以外に反対な奴いる…?」


殺気を込めながら問い掛ける。


前からは大蛇丸の冷酷な目が、後ろからは君麻呂の殺気が教室を包む。


挟まれている者達にとっては、正に地獄のような状況だろう。


「左近、反対なのは貴方だけみたいね?」


「……分かりました。やります」


結局の所、この二人。大蛇丸と君麻呂の最強で最狂のコンビには誰であろうと歯向えないのだ。





「─で、肝心のチーム分けだけど」


「大蛇丸様、どう考えても君麻呂がいるチームが有利になると思うぜよ」


すっと、手をあげ意見を述べる。


「大丈夫よ鬼童丸。その辺もちゃんと考えてあるから」


一瞬、いやな予感が君麻呂を襲うが、黙ってチーム分けを聞くことにした。


「チームは赤、青、白の3チームよ」






「左近は青、鬼童丸は赤、次郎坊は青。で、君麻呂は白ね。これで全員かしら?」


「あの大蛇丸様?」


先ほどの鬼童丸の様に、手をあげ言う。


「白って俺以外呼ばれてないような気が…」


「あらやだ、言ってなかった? 君麻呂、貴方ひとりで白組よ」


「え……?」


突っ込むところは沢山ある。


まず一人なのに白組の組は変だ。それ以前に運動会なのに一人ってのも激しく間違っている。


「力を平等にするためには仕方なかったのよ」


「いや、でも一人って……」


「でもね、このチーム分けでもまだ貴方が有利だと思うの」


「え……?」


「だからね、貴方には運動会当日まで三日間、特別任務に行ってもらおうと思うの」


「…………」


「いってらっしゃいぜよ。君麻呂」


「…………」


「大丈夫よ。ちゃんと任務の特別手当ては出るから」


「…………」


「がんばれ~」


クラス全員からそんな声が上がる。


頑張れるか!? というか、やってられるかそんなの!!


叫ぶ。


「あ、言い忘れてたけど優勝チームには賞金一万両だすわよ」


「……ふっ、優勝は白組が貰った」


この瞬間、クラス全員が考えた事は同じ事だった。


大蛇丸様は君麻呂の扱いが上手いと。





続く






[710] Re[3]:外伝 オレ達の生きる道
Name: ネメ太郎◆f880db45 ID:db1ea2cc
Date: 2007/09/09 01:00






「何? お前等のその気持ち悪い格好」


任務を終え、アカデミーに戻った君麻呂が目にしたのは、吐きたくなる様な光景だった。


「俺達も好きでこんな格好してる分けじゃないぜよ…」


赤い鉢巻を頭に巻き、ピチピチのランニングシャツに短パン姿の鬼童丸が口にする。


「大蛇丸様の命令で服装はこれになったんだよ」


こっちは青い鉢巻を巻いた左近。鬼童丸と同じく、ランニングシャツに短パン姿だ。


横にいる次郎坊は若干シャツが短いのだろう。腹がはみ出ている。


「え? じゃあ俺もその服装に着替えるの?」


その通りよ!


言葉と共に現れる大蛇丸。


右手には君麻呂が着るだろうと思われるシャツと短パン。


「さぁ着替えなさい君麻呂!!」


「……嫌です」


さぁ!!


「……嫌です」


さぁさぁ!!


「……嫌です」


さぁ! 今すぐここで!!


鼻息荒く、ずいずいと歩み寄っていく。


「……嫌です」


対して君麻呂は脅えながら後退して答える。


大蛇丸が一歩進めば君麻呂も一歩下がり、二歩進めば二歩下がる。そんなやり取りが永遠に続くと思われたのだが、


嫌じゃぁぁぁぁぁ


突如、君麻呂は反転して走り去ったのだ。


「えっ? あ、ちょっと待ちなさい君麻呂!!」


誰が待つかぁぁぁ!!


こうして運動会を目前に控え、音の里最強の二人による壮絶な鬼ごっこが始まったのだった。


「どれぐらいの時間逃げ切れると思うぜよ?」


「追いかけるのが一瞬遅れたから、十分ぐらいはいけるんじゃないか?」


「十分ね、左近はどうぜよ?」


「さぁな、君麻呂の奴本気で嫌がってやがったから、十五はいくんじゃないか」


三人は必死に逃げる君麻呂を尻目に会話をしていたのだが、


「捕まえたわよ君麻呂!!」


「「「え?!」」」


一斉に驚きの声を上げる事となった。


十分どころか一分も持たなかったのである。


「どうなってるんだ? いくらなんでも早すぎだろ」


「確かに一分も持たないなんておかしいぜよ……あ! そういえば君麻呂ってついさっきまで任務だったんじゃないぜよか?」


「そういえば最近姿見なかったし、運動会の前に3日間任務に出すとか大蛇丸様言ってたな」


三人は納得したようにうんうんと頷いてその場を後にした。


「ってちょっと待てぇ!!」


三人は面倒くさそうに振り向く。


振り向いた先には、君麻呂に馬乗りしている大蛇丸の姿と、絶体絶命のピンチに陥っている君麻呂の姿があった。


「お前等には友達を助けるとかそういう気持ちは無いのか!?」


「無いね」


「無いぜよ」


「無い」


「即答かよ!?」


無情に告げてくる三人に即座に突っ込みを入れる君麻呂。


ピンチに見えてもそれぐらいの余裕はあるらしい。


フフフ、もう逃げられないわよ君麻呂


爬虫類のような目を血ばらせ、手をニギニギしながら告げる。


確実に変態だ。


ぎゃぁぁぁぁ犯される!!


君麻呂も必死に逃げようともがくが、体格差や任務後の疲れなどもあり無駄な抵抗となっている。


「お前等さっさと助けろ!!」


唯一の頼みの綱の三人へと再度助けを求めるが、帰ってきた返事はまたもや無情なものだった。


「君麻呂、犬にでもかまれたと思ってあきらめるぜよ」


犬にかまれる方が何倍もマシだぁぁぁぁ!!


叫び暴れる君麻呂。


だがそんな君麻呂を簡単に押さえつけている大蛇丸。


さぁ覚悟は良いかしら君麻呂?


良くないっ!!


君麻呂の返事などお構い無しに、大蛇丸の手は君麻呂へと迫っていく。


そして大蛇丸の手が君麻呂の服へと触れたとき、


「何やってるんですか、大蛇丸様も君麻呂も」


救世主が現れたのだった。


「多由也!! いい所にきた、早く助けて!!」


「いや、助けるも何も状況が理解できないし」


「理解なんてしなくて良い……って多由也その服装……」


「服装?」


言われて、多由也は自分の格好を確認してみる。


何時もとは全く違う服装。


上は白いシャツ。胸の部分には『多由也』と書かれた布が縫ってある。


下は普段履いてるスパッツよりも露出部分が多いブルマ。


どちらも、普段絶対身に付けない代物だ。


それを改めて確認した多由也の顔は、徐々に赤くなっていき、


「いや、こ、これはその……ウ、ウチはこんなの着たくなかったんだ!! で、でも大蛇丸様が絶対着ろって言ったから仕方なく……へ、変だよなやっぱりこんな服装……」


言い終わる頃には茹ダコの様に真っ赤になっていた。


そんな多由也を下から見上げる形で見ていた君麻呂は、視線を自分に乗っかっている大蛇丸へと移し一言。


「……大蛇丸様」


「何?」


「俺、大蛇丸様の部下で良かったと今日初めて思いました」


は、初めて!? ま、まぁいいわ。そんな事よりも、多由也に何か言ってあげなさいよ」


君麻呂の衝撃的な告白にちょっとショックを受けつつも、妙な優しさらしきものを見せる大蛇丸だった。


「何か……」


言われて君麻呂は改めて多由也を見る。


スラリと伸びた足は綺麗だと思う。


真っ赤になって照れてる顔を可愛いと思う。


ただ、


「胸がもう少しあれば……」


刹那、多由也の足が君麻呂の顔を踏みつけた。


ふぎゃっ!!


鈍い音と共に変な悲鳴を発し、君麻呂は気を失う。


恐らく鼻骨は折れただろう。


ここまでくると、踏みつけたのではなく踏み潰したの方が正しいのかもしれない。


「自業自得ね……」


大蛇丸は呟き、多由也は無言できびすを返し去っていった。


「本当、馬鹿な子……」


さて、どうしたものかと大蛇丸は君麻呂の上から立ち上がり考えた。


とりあえず君麻呂の顔を確認する。


鼻は綺麗に曲がり血を流しているが、命に別状がある訳でもない。


この程度なら、放って置いても君麻呂ならすぐに気がつくだろう。


まぁとりあえず、


「鬼童丸、ちょっときて頂戴」


遠巻きに見ていた鬼童丸を呼び、そして告げた。


「君麻呂が気付いたらコレに着替えるように言っておいて」


そう言い、手にもっていた君麻呂用の短パンとシャツを手渡す。


「え!? 大蛇丸様が着せるんじゃないぜよか? 今なら気を失っているし、暴れないから楽なんじゃ?」


「分かってないわね鬼童丸」


大蛇丸はいつもの笑みを浮かべ続ける。


相手が抵抗するのを無理やりするのがいいのよ!!


「………へ?」


嫌よ嫌よも好きのうち。相手が嫌がるからこそ燃えるんじゃないの!!


拳を握って力説する大蛇丸に、鬼童丸は若干引いていた。


足元には血を流す君麻呂が、目の前にはド変態の上司が……


だけど空だけは青く、気持ちのいい風が吹いていた。


「運動会日よりの良い天気ぜよね」


とりあえず、目の前の現実は見ない事にした鬼童丸だった。






続く






[710] オレ達の生きる道
Name: ネメ太郎◆f880db45 ID:d5746bdd
Date: 2007/11/28 03:42






パーンッ!


パパパパーンッ!!


軽快な音と共に、空へと白煙が上がる。


大蛇丸が自身の暇つぶしの為に望んだ運動会は、あと僅かの時間もすれば開始となる。


「どういう事、鬼童丸?」


返答に困るような質問をしたのは君麻呂だ。


多由也に踏み潰された鼻の骨も今では何事も無かったかのように直っており、大蛇丸に渡された服装にも着替え終わっている。


そんな君麻呂からの質問。


「どいう事って、なにがぜよ?」


至極当然な事を鬼童丸は聞き返した。


質問の意図が分からなければ答えようもない。


「アレだよアレ」


指差したのはくノ一の集団。


鬼童丸も自然と顔をそちらへと向ける。


そしてしばらく見つめた後、


「太ももがいいぜよね」


「……お前って太ももフェチだったの?」


「いや、違うぜよ。太もももいいけど、やっぱり胸のほうがいいぜよ」


「……そうか」


「……………」


「……………」


「……………」


「……って違うわ!! お前の好みなんか聞きたいんじゃなくて、鉢巻だよ、鉢巻!! なんでくノ一は黄色なんだ?」


「あぁ、それぜよね」


鬼童丸は思い出すように語り始めた。


「俺も聞いた話だからそんなに詳しくないぜよ。まぁでも結論から言えば一騒動あったらしいぜよ」


「一騒動?」


怪訝な顔で君麻呂は聞き返す。


「そう一騒動。当初の予定ではくノ一も色別に分かれるはずだったぜよ」


「でもそうはならなかった」


鬼童丸は頷き続ける。


「本来ならくノ一は自由に好きな色のところに入っていい事になってたぜよ。だけどそこで問題が発生。大多数のくノ一が青を選んだぜよ。流石に教師達もこれじゃいけないという事で、今度は教師達が決めた色にくノ一は行く事になったぜよ。これで問題は解決すると教師連中は思ってたけど、今度はそれで暴動が起きたぜよ」


「ぼ、暴動!?」


目をぱちくりさせ、またも聞き返した。


「壮絶な戦いだったらしいぜよ……『青組に選ばれた者 VS 選ばれなかった者』 教室ではクナイが飛び交い、挙句には起爆札まで持ち出すものまで……で、最終的には大蛇丸様が出動して、くノ一はくノ一で一組という事で結論に至ったぜよ」


「大蛇丸様が……」


君麻呂は呟き、そして呆れていた。


自身、目の前にいる鬼童丸達とアカデミー内では何度も問題を起こしてきた。だが今まで一度も大蛇丸が出てくるということは無かったのである。


そんな大蛇丸が出動したのだ。


考えただけでも身震いしてしまう。


下手をすれば死人すら出ているかもしれない。


「……鬼童丸、くノ一の被害は…?」


「教室が半壊ぜよ」


「それだけ!? 大蛇丸様が出動したのに人的被害というか、誰も死んでないの!?」


鬼童丸はコクンと頷いた。


「ちなみに、教室の半壊もやったのは大蛇丸様じゃないぜよ」


「ウソだっ!!」


その発言に、思わず君麻呂は叫んだ。


「まぁ普通ならそう思ってもしょうがないぜよね。俺も、最初は半信半疑だったし。でも理由を聞いて納得したぜよ」


「どんな理由だ?」


「簡単な事ぜよ。くノ一の暴動の理由に、大蛇丸様が共感しちゃったからぜよ」


「共感?」


君麻呂は益々分けが分からなくなった。


大蛇丸が共感するほどの理由が、どう考えてもくノ一の暴動と結びつかないのである。


「なぁ、結局くノ一の暴動の理由って何なんだ?」


「あれ? 言ってなかったぜよか?」


どうやら鬼童丸は、肝心な理由について話していたつもりだったらしい。


「あれぜよ、あれ」


そう言い鬼童丸が指差した先にいたのは、


「左近?」


自分達と同じ、音の五人衆の一人左近だった。


「そう左近ぜよ」


鬼童丸は指差していた指を戻し続ける。


「君麻呂、前にくノ一のクラスに忍び込んだ事覚えてるぜよか?」


「あぁダンボール被って行ったのだろ」


君麻呂は迷いもなく即答した。


くノ一クラスに進入したのはあれが最初で最期である。


左近が受けや、右近が責めなど、あの時のくノ一たちの会話は忘れもしない。


そして気付いた。


「……おい、まさか暴動の理由って左近と同じ組になりたいって理由か!?」


「そうぜよ」


鬼童丸も迷いも無く即答で答えた。


「でも、そんな理由に大蛇丸様が共感……」


するわけ無いだろう!! とは強く言えなかった。


「君麻呂、大蛇丸様は左近が責めで、右近が受けを熱望らしいぜよ」


「……………」


「……………」


「どーでもいい情報だな」


「ぜよね」


「……………」


「……………」


「変態って伝染しないよな…?」


「…多分」


二人とも大きく溜め息をつき、自分だけはまともでいようと誓った。







「そういえば君麻呂?」


「何?」


「今回の騒動が無ければ、くノ一たちと同じ組で運動会やれてたぜよね」


心底残念そうに鬼童丸は言った。


「そうだろうね、まぁ俺には関係ないけど……」


そんな鬼童丸とは逆に君麻呂はどうでもいいという感じだ。


暴動が無くても、白組みは一人なのだから。


「関係ない? 何言ってるぜよか君麻呂。 多由也や他数名のくノ一は白組に行く予定だったぜよ」


「……マジ?」


「マジぜよ」


「……………」


君麻呂は何も言わず右手を差し出した。


「……………」


鬼童丸も何も言わず落ちていた石を拾い、それを差し出されていた手に乗せる。


会話など無くても二人の意思は一つだった。


君麻呂は静かに振りかぶり、思いっきり石を投げた。


手から離れた石は、左近へと向かい一直線に飛んでいく。


そして石は右近に当たった。


「……ま、まぁ良しとしよう。やつも同罪だからな」


「ぜよ、左近も右近も一緒ぜよ」


「じゃあ運動会がんばるか、鬼童丸!」


「負けないぜよ、君麻呂!」



そんなこんなで、音の里の運動会は開始をむかえた。











[710] オレ達の生きる道
Name: ネメ太郎◆f880db45 ID:9e323a96
Date: 2008/04/20 03:45










「二百メートル走、玉入れ、綱引き……なんて言うか、思ってたより普通の競技だな」


「普通の内容で私が納得すると思って?」


カメラを片手に持ち、突如として横に現れた大蛇丸が言った。


「まぁ納得はしないでしょうね」


たいして驚きもせず君麻呂は続ける。


「それよりも、そのカメラ何ですか?」


「カメラでする事なんて一つしかないでしょう」


それはそうだ。


見るからに高そうな一眼レフカメラ。


この会話の最中も大蛇丸はシャッターを切っている。


被写体は青の鉢巻を巻いて座っている男子だろう。


だけど、なぜ競技中ではなく今とるのだろう?


そんな疑問が頭を過ぎるが、


「そう、そうよ。もうちょっと、もうっちょと足を開きなさい! ちがう閉じるんじゃないわ!!」


被写体には聞こえない程の小声で叫ぶ大蛇丸。


そして一瞬で理解した。


これはハミ○ン狙いの盗撮だと。


「大蛇丸様、犯罪ですよそれ……」


「この里では私がルールよ」


此方には目もくれなかったが、やけに説得力のある言葉だった。


が、そんなので納得する君麻呂ではない。


「そうですか」


いったん区切った後、大きく息を吸い込み、


「おーいみん……」


叫ぼうとしたが大蛇丸に口を塞がれて続ける事は出来なかった。


「……分かったわ、くノ一の写真を撮ってあなたに渡す。それでいいわね」


口を塞がれたままだったので、大蛇丸の提案に頷いて答える。


その答えを確認してから大蛇丸は君麻呂の口から手を離した。


そして君麻呂はニヤリと笑い、


「大蛇丸様、鬼童丸のやつトランクスですの撮るのにはベストかと……」


仲間を売った。


「君麻呂、あなたも悪ねぇ…」


「いえいえ、大蛇丸様ほどでは…」


「ウフフ」


「はっはっはっ」


二人の不気味な笑いが木霊した。


「で、君麻呂あなたは」


「俺はボクサーパンツですので」


「そう残念だわ……まぁ運動会がんばってちょうだいね」


「言われなくて頑張りますよ。賞金が懸かっているんだから」







二百メートル走


第一レースから君麻呂は出る事になっていたが、その顔には余裕の笑みが浮かんでいた。


それもそのはず、一緒に走る面子をみて楽勝だと感じたのだ。


その予想はあたり、ぶっちぎりの一位でゴ-ルテープを切ることになった。もう頭の中は賞金の事しか考えていない。


そんな君麻呂にかけられた声。


「君麻呂、早く戻ってスタート位置に着け」


「へ?」


フライングか? そんな疑問を抱きつつ、君麻呂は言われたとおりに素早く戻った。


そして、スタート位置について違和感に気付く。


「あれ? なんで次郎坊が横に?」


そう、横には先ほど一緒に走った奴とは違い、何故か次郎坊がいた。


よく見れば、他の色の所もしっかりと別のメンバーに変わっている。


「どういう事?」


次郎坊からの何かしらの答えを期待していたが、返ってきたのは次郎坊の声ではなくスタートの合図。


不意をつかれた君麻呂は完全に出遅れてしまうが、 ゴール直前でなんとかトップに立ち一位でゴールテープを切る事が出来た。


そしてまたもかけられる声。


「君麻呂、早く戻ってスタート位置に着け」


考えれば簡単な事だった。


白組は君麻呂一人。結果、全種目、全レースを一人でこなさなければならない。


かるい目眩を覚えつつ、スタート位置へと急いで戻った。


そして迎える最終レース。


青組からは左近。赤組からは鬼童丸。黄色組からは多由也。白組は息のあがっている君麻呂。


スタート位置についた四人を見て教師から声がかかる。


「この最終レースは忍術の使用が認められているかな」


この言葉に笑みを浮かべたのが二人いた。


「それじゃあ、位置についてヨーイ」


パンッ!!


音が鳴ると四人は同時に状態を上げ一歩目を踏み出す。が、三人の目の前には白い壁が出来ていた。


勿論、妨害の為に君麻呂が作り出した骨の壁だ。


ドン! という壁にぶち当たる音を聞いて君麻呂は勝利を確信した。


「フッ俺の勝ちの様だな」


そう言い残し、走り去っていく君麻呂。が、その君麻呂にも不幸が訪れる。


「ヘブッ!!」


五歩目を踏み出した後、顔面から盛大にこけたのだ。


よく見れば、君麻呂の足には鬼童丸の手から伸びた糸が…


「や、やるな鬼童丸」


「フッ、ただではいかさんぜよ君麻呂」


お互いに鼻からは血が流れている。


そんな二人の横を無傷の二人が通過していった。


多由也と左近の二人だ。


二人とも君麻呂と鬼童丸が何かするとある程度の予測はしていたのだろう。


骨の壁にもぶつからず、足に巻きついている糸も外し悠々と走っていく。


残されたのは策におぼれたお馬鹿な二人だけだった。











玉入れ


この競技、一人の君麻呂は圧倒的に不利だった。


逆に得意としていたのが鬼童丸。


六本の腕を使い、確実に球を入れていく。


そして君麻呂は悟った。


人数で圧倒的に不利なこの競技、どんなにがんばっても最下位は免れないと。


それからの君麻呂の判断は早かった。


標的を籠から男連中へと変え、玉を投げつける。


結果、この競技一位だったのはくノ一のクラスだった。












綱引き


白組対黄色組 青組対赤組となった。


またしても人数勝負と言っていい競技。


君麻呂の圧倒的不利なのは間違いない。


だが玉入れよりも望みはあった。


忍術の使用可なのである。


君麻呂は綱を持つと、足の裏から骨を伸ばし地面に体を固定した。


相手がくノ一なら、勝つのは無理でもなんとか引き分けに持ち込もうという作戦だ。


「口寄せの術」


聞こえたのは間違いなく多由也の声。


不安を覚えつつ顔を上げてみると、そこには多由也の呼び出した鬼が…


「ちょ、ちょっとそれは卑怯なんじゃ………」


結果、開始の合図と共に君麻呂は空を舞った。


ちなみに青組と赤組の戦いは、次郎坊のいる青組が圧勝だった。












二人三脚


人数勝負以前に一人では出来ない競技。


おまけに忍術不可。


流石にこればかりはお手上げだ。


「大蛇丸様、この種目無理なんですけど」


「無理? あぁそう言えばそうね………まぁでも、折角だし一レースぐらいはやりましょう」


「いや、だから一人じゃ」


「私が一緒に走るわ」


満面の笑みを浮かべているが、


「結構です!」


速攻で拒否をした。


「そう残念ね、なら多由也とでも組みなさい」


「………いいんですか?」


「あら、嫌なの?」


首を全力で横に振った。


「なら、問題ないわね」


今度は全力で頷く。


二人三脚なんて密着して行う種目。男子とやるより女子とやる方が、何倍も、いや何十倍も良い決まっている。


まぁ目の前にいる人物、大蛇丸は違うだろうけど……







甘かった。


二人三脚という競技をなめ過ぎていた。


お互いの足を結んで固定し、相手の肩に手を回す。


すなわち、手をつないでいるカップルよりも、腕を組んでいるカップルよりも密着すると言う事になる。


そして多由也との身長差は約15センチほど。


つまり、何が言いたいかというと、話すたび多由也はこちらを見上げると言う事だ。 若干顔が赤くなっているというオプション付きで。


このコンボ攻撃にはお手上げだ。確実にこっちの顔も赤くなってるに違いない。









そして迎えたレース直前。


白と黄色は合同という事で、君麻呂と多由也の二人が。


赤は鬼童丸とザクの二人。


青は左近と………


「左近、相手は?」


左近の横には誰もいなかった。


「相手? 相手なら」


指差したのは背中にいる右近。


そして生えてくる三本目、右近の足。


「おい、クソヤロー。テメーそれでまさか二人三脚って言う気じゃないよな?」


「あぁ。何か問題があるか?」


「「おおありだっ!!」」


君麻呂と多由也は声をそろえて言うが、左近はすました顔で告げた。


「大蛇丸様はこれでいいと言ったんだよ。文句あんのか?」


大蛇丸が許可したならどうする事も出来ない。


二人には引き下がる事しか出来なかった。






「チッ、ムカツクぜあのクソ兄弟が」


「文句言ってもしょうがないだろ、競技に集中しよう。左近達には負けて当たり前だけど、鬼童丸達には負けたくないから」


「当たり前だ!! あのバカに負けたら何言われるか分かんねーからな」


そして競技は始まる。


「位置について」


「君麻呂、右足からだからな」


君麻呂は黙って頷いく。


「ヨーイ」


パンッ!!


左近は当たり前の如く悠々と走り出す。


鬼童丸とザクの二人も何とか普通に走れていた。


ただ君麻呂と多由也の二人は、


「「ヘブッ」」


一歩目でこけていた。


二人とも砂を払いながら起き上がり、


「君麻呂、テメー右足からだっつたろーが!!」


「俺も右足から出したわ!」


二人とも右足から(多由也は結んでない方の足を、君麻呂は多由也と結んでいる方の足)を出したのだ。これではこけるに決まっている


二人は二、三秒ほどにらみ合った後、


「多由也、右足からだからな」


「あぁ」


仕切りなおしてスタートを切った。


そして、


「「ヘブッ」」


またもや一歩目でこけた。


今度の原因は二人とも左足を出してしまったから。


お互いが合わせようとして逆にこける結果となってしまったのだ。


「「プッ、ハハハ」」


地面に倒れこんでいる二人に聞こえてきたのは、馬鹿にしたような笑い声だった。


確認しなくても声の主は分かるが、二人同時に顔を上げ改めて敵を確認する。


前方にいる鬼童丸とザク。


二人はわざわざ立ち止まり、後ろを振り返って笑っていたのだ。


「馬鹿ぜよねー」


そして、笑い声に混じり、その声は君麻呂達に届いた。


「多由也」


「分かってる」


「俺は左足から」


「ウチは右足から」


目を合わせ頷き、二人はスクっと起き上がった。


踏み出す一歩、そして二歩目。二人は順調に走り出し、あっという間に鬼童丸とザクを捕え飛び上がった。


繰り出されるのは飛び蹴り。


多由也の足は鬼童丸に、君麻呂の足はザクの顔面へと吸い込まれた。


「誰が馬鹿だ、このクソゲス馬鹿野郎が!!」


倒れこんだ鬼童丸の顔面を何度も踏みつける多由也。


横にいる君麻呂も同じようにザクを踏みつけていた。


「ちょ、お、俺は馬鹿って言ってねーぞ」


「お前も同罪だ!!」


こうして、赤組の負傷退場をもって二人三脚は終わりを迎えた。













様々な競技を経て訪れた最終競技


ちなみに今までの得点は、白組80点  青組320点 赤組280点 黄色組280点 白組が最下位を突っ走っている。


最終競技、障害物競走の得点は60点。


最期というだけあってかなり得点は高いが、それでも白組が優勝するには程遠い。


「これじゃあつまらないわね」


君麻呂が思っている事を口にした大蛇丸。


「というわけで、得点は倍」


いい終えると同時、60の数字が120へと変わった。


「さらに倍」


120から240に。


君麻呂以外からは不平の声が漏れたが、大蛇丸が一睨みすると文句を言う者はいなかった。







そして始まる障害物競走。


ルールは全員参加で全員が一斉にスタートするという、少し変わったルールだった。


序盤は網や平均台などの普通のものばかり、いや忍びには簡単すぎるといっても良いだろう。


だがそんな簡単な事が最期まで続くわけがない。


大蛇丸の性格を考えれば分かる事である。


それを分かっている君麻呂は、いや君麻呂以外にも多由也、鬼童丸、左近、次郎坊の五人はあえてトップにはでず、若干後ろからレースを窺っていた。


そして、予想道理それは終盤にやってきた。


ゴールの前に佇む一人の影。


長い髪をなびかせ、爬虫類のような目で全員を見ていた。


勿論、カメラは首からぶら下がっている。


先頭を走っていた奴は立ち止まり、最後尾に居た奴まで追いつく始末。


「どういう事ですか大蛇丸様!?」


誰かは分からないがそう聞いた。


「どういう事って、こういう事よ」


大蛇丸が最期の障害という事だろう。

「さては賞金を渡したくないんだな!!」


この声は間違いなく君麻呂だった。


「違うわよ。最初に言ったでしょ、普通の内容じゃ満足しないって。最期は派手に盛り上げようと思ってね……それに安心して、殺しはしないから」


「だからって…」


誰かが喋るがそれを遮り大蛇丸は続ける。


「ちなみに、優勝チームには賞金は倍。 無事ゴールテープを一番で切れた人には副賞もあげるわ」


「副賞?」


「そうね、此処にいる全員にいう事を聞かせれるっていうのはどうかしら? 悪くないでしょ?」


「確かにわるく無いけど、少し話し合いの時間と作戦タイムをもらっていいですか」


提案したのは君麻呂だ。


大蛇丸は軽く頷き承諾した。








そして五分が過ぎた頃動きがあった。


「あら、もういいのかしら?」


「えぇ」


短く答え、それが開始の合図となった。


作戦は簡単だった。


五人衆以外が一気に突撃し大蛇丸を少しでも疲れさせるというものだった。


勿論この作戦には反対の者が多数出た。大蛇丸は殺さないといっているが、突撃する奴等にとってみれば死んでこい、と言われているようなものだから、反対するなというのが無理なのかもしれない。
でも、それでも彼等は突撃した。


理由は君麻呂が言った言葉。


「大蛇丸様に突撃して生き残るか、このままここで殺されるのどっちがいい?」


顔は笑っているが目が笑っていない君麻呂に、その場の全員が恐怖を覚えた。


そして今の突撃に至る。


「風遁 大突破」


作戦は一瞬で崩れ去った。


大蛇丸の放った術は突撃していった全員を見事に吹き飛ばしたのだ。


三十人以上を使っても、出来たのは術を一発使わせる事だけ。


はっきり言って、


「無茶苦茶ぜよね」


そう無茶苦茶だ。


「次は此方の番よね」


そう呟くと同時、大蛇丸は次郎坊の目の前に一瞬で移動し一撃で気絶させてしまった。


「クソデブが気抜きすぎだ!!」


多由也が怒るのも無理は無いが、いかんせん力の差がありすぎる。


君麻呂はどうしたものかと、考えたがやはり一つしか方法は無かった。


「あら、君麻呂。呪印を使うなんてやっとやる気が出てきたみたいね」


嬉しそうクナイを投げながら言う大蛇丸。


「まぁ大金が懸かってますんで」


投げられたクナイを避けずに受け止めて答えた。


そして気付く、クナイの先が潰されている事に。


(殺す気は無いというのは本当みたいだね)


そう思い頭の中ではどうすれば勝てるので無く、どうすればゴールできるのか必死で考えていた。


そんな君麻呂を他所に、他の三人は呆気に取られていた。


初めて見る君麻呂の呪印。


状態1だと言うのに、放たれる圧倒的な存在感。


三人の思考は一瞬だが停止した。


だがそれを見逃す大蛇丸ではない。


自身から一番近くにいた左近を、次郎坊と同じ様に一撃で昏倒させ、隣りにいる多由也へと狙いを定めたがそれはならなかった。


君麻呂が先ほどのクナイを投げ返したのである。


大蛇丸はそれを器用に舌で絡め、いったんその場を離れた。


「お前等やる気あんのか!!」


その言葉で多由也と鬼童丸の二人は我に帰り、すぐさま呪印を発動させる。


「ほんと、面白くなってきたじゃない!!」


大蛇丸は絡めとっていたクナイに加え片手で三本ずつ。計七本のクナイを此方向け放ち、一瞬送れて自身も突撃してきた。


だが、君麻呂が取った行動は大蛇丸の理解の範疇を超えていた。


クナイを弾くでもなく、避けるでもない。


隣りにいた鬼童丸を掴み、


「ぜよッ!!」


クナイに向かって投げたのだ。


鬼童丸はクナイをその身で全部受け止め、そのまま大蛇丸へと向かっていく。


先が潰れていないクナイだったなら、恐らく死んでいるであろう。


「滅茶苦茶ね、君麻呂。 だけど面白いわよ」


「そいつはどうも!!」


君麻呂の声は鬼童丸のすぐ後ろから聞こえた。


そして鬼童丸が大蛇丸にぶつかる瞬間、鬼童丸の影から飛び出し大蛇丸めがけて骨の刀で切りつけた。


そして響く高い金属音。


君麻呂の骨の刀と、大蛇丸の口から出ている草薙の剣がぶつかった音だ。


「無茶苦茶ですね、大蛇丸様」


大蛇丸の口から出ている剣と、右足で踏みつけられている鬼童丸を見て口にした。


君麻呂が大蛇丸にとって予想外の行動をとったように、大蛇丸の鬼童丸に対するこの扱いは予想外だったのだ。


「まさか、足を使うとは」


「避けるとでも思った?」


「受け止めてくれるのが一番良かったんですけどね」


「…そう、今度からはそうするわ」


こんな会話をしているが、二人の間では金属音が絶え間なく鳴っている。


そして一際大きな音がした後、二人の距離は離れていた。


「本当、楽しくなってきたわね」


「こっちは全然楽しくないですけどね」


大蛇丸は笑いながら。君麻呂は肩で息をしながら言う。


この戦い、ゴールすれば勝ちだからといっても、疲労がたまっている君麻呂には圧倒的に不利だった。


(チャクラも残り少ない、大蛇丸をどうにかしてゴールを─)


「潜影蛇手」


「ッ! 柳の舞」


辛うじて全ての蛇を切り落とすことが出来たが、反応が遅れてしまった事に苛立ちを覚える。


(残りのチャクラで出来る事……)


君麻呂は刀を体に戻し、呪印の力を高めていく。


「刀をしまうなんて……なるほど状態二ね。いよいよ面白くなってきたじゃない!!」


大蛇丸の言ったとおり、君麻呂にはもうこの手しかなかった。


(どれだけ持つかが問題だけど)


「ここまできたんだから、やるしかないでしょ……っておい!!」


ふと、君麻呂は視界に入ったものに声を荒げた。


大蛇丸も何事かと思い、君麻呂の視線の先に目をやる。


「………あの子、なかなかやってくれるじゃない」


二人が見たのはゴールテープを切り、1と書かれた旗を持っている多由也だった。













「…俺、すっごい頑張ったのに」


体育座りをし地面に『の』の字を書きながら言う。


「まぁそう落ち込むな、君麻呂」


「そうぜよ、落ち込んだってしょうがないぜよ」


「やるだけのことはやったんだから」


必死で君麻呂を立ち直らせようとする左近、鬼童丸、次郎坊の三人。


「やるだけのことはやった?」


のそっと立ち上がり続ける。


「テメー等、さっさとくたばって何もしてねーだろうが!!」


「ちょっと待つぜよ、俺はお前の盾に使われて──」








「あの子達、少しは静かに出来ないのかしらね」


「無理だと思いますけど」


四人を見て、多由也は冷静に告げた。


「…それもそうね」


軽く溜め息をつく大蛇丸。


「はい、これ賞金ね」


「ありがとうございます……あの、これ半分アイツに渡してもいいですか?」


「好きにしなさい。他のくノ一の子達も文句は言わないと思うから」


「じゃあ渡してきます」


そう言うと四人の下に歩き出した。


「あっ、そうそう多由也、副賞の事も考えておいてね」


多由也は振り返り軽く頷いた。

















あとがき?


次回はちゃんと本編の方を更新したいとおもいます。










[710] 僕の生きる道
Name: ネメ太郎◆f880db45 ID:9e323a96
Date: 2008/04/25 02:01









「ぜよぜよぜよ、いざ進め~、木ノ葉を侵略ぜ~よ、ぜっぜよぜよ──」


「やめんかっ!!」


肩越しに振り返り、多由也は右拳を放った。


「っ!! なにするぜよ!?」


「なにするぜよ? じゃねーだろクソヤローが! そんな歌うたって誰かに聞かれたらどうするつもりだ!?」


「どうするって、殺すに決まってるぜよ」


あっさりと答える鬼童丸。


確かに鬼童丸の言った事は間違ってはいない。


聞かれたら殺せば良い。簡潔で的確すぎる答えだ。


だがそれ故に、多由也はイラついた。


「…ウチが言いたいのは、もうちょっと緊張感とかそういうものを持てって事だ、このクソヤローが!! 君麻呂、お前からも…」


多由也の言葉はそこで途絶えた。


そして何度か瞬きした後、


「……おい、君麻呂の奴どこ行った?」


「何行ってるぜよ多由也。君麻呂なら後ろに…」


鬼童丸は振り返り、


「………アレ?」


首を傾げた。


「…………」


「…………」


しばしの沈黙が訪れた後、先に口を開いたのは鬼童丸だった。


「こ、こんな時にかくれんぼなんて粋な事するぜよねぇ~、君麻呂の奴は」


「…………」


多由也からの返事は無かった。


ただ俯いて、肩が小刻みに震えている。


こんな状態になるのは、泣いているのか怒っているのかのどちらかだろう。


(まぁこの場合は後者の方ぜよね)


握っている、いや握り締めている多由也の拳を見て確信する。


そして肩の震えが止まると同時、


「…テメー等一度死んで来いッ!!」


先ほどとは比べ物にならないほどの右ストレートが鬼童丸に突き刺さった。


正直、半分以上は君麻呂のせいで殴られているのだが、文句は言わなかった。


(怨むぜよ、君麻呂…)


最期にそう思い、鬼童丸は意識を手放した。













「今何か言った鬼童……アレ?」


呼ばれた気がして顔を上げたのだが、呼んだ本人が見当たらなかった。


しばらく見渡してみたが、声が聞こえたはずの鬼童丸どころか、多由也の姿まで見あたらない。


「もしかして、俺って迷子?」


もしかしなくても迷子確定だった。


それにしても、ちょっと考え事している間に二人とはぐれるなんて…


二人を探しに行こうにも、どの方向に行けばいいのか分からない。


………


……





こういう時にはアレだな。


以前道に迷った時にも使った技。


自身の骨を道しるべとして使うあの技の出番だ。


「黄菖蒲(キショウブ)の舞」


肩から骨を一本取り出し、地面に突き立てて手を離した。


「…あっちか」


行く方向はこれで決まった。


後は多由也達がいるのを信じるのみ。


それにしても「黄菖蒲の舞」と言う名前、自分で付けといて言うのもなんだが、この技には少々不釣合いな名前だな。


技の内容と名前のギャップが激しすぎる。






















神様はいない。


この世に神様なんているはずがない。


もし仮にいたとしても、その神は絶対に俺の事が嫌いなはず。


「あら、奇遇ね君麻呂」


そう、神様なんて……


「えぇ。本当に奇遇ですね大蛇丸様……」


何故か満面の笑みを向けてくる大蛇丸。


こちらも神様への怒りを表に出さぬよう、両頬を若干引きつらせながらの笑顔で答える。


それにしても、


「何か良い事でもあったんですか? そんな不気味な笑み浮かべて」


「…君麻呂、後半の部分は聞かなかった事にしてあげるわ」


「それはどうも」


とりあえずの返事を返す。


此方としては、一刻も早くこの場から離れたいという一心に尽きるのだ。


今の大蛇丸は恐すぎる。いや、普段の大蛇丸も十分恐いのだが、今の大蛇丸はそれに加えて不気味さが何倍も増している。


その原因はやはりあの笑みだろう。


不自然なほどの大蛇丸の頬笑み。


それの原因になることなんて何かあったっけ?


………


……





「あっ、うちはサスケか」


しまった、と思ったときにはもう手遅れだった。


大蛇丸から笑みは消え、冷たい目だけが此方を見つめている。


…君麻呂、私あなた達に話したかしら? うちはの事を…


そう、俺たちは大蛇丸から『木ノ葉崩し』のことは聞いたが、『うちはサスケ』の事についてはまだ知らされてないのだ。


さっきのは完璧な俺のミス。


下手をすれば、この場で大蛇丸と戦うという事になるかもしれない。


どうする?


どうすればこの場を逃げ切れる?


「き」


「…き?」


「企業秘密です」


必死に考えて出た答えがこれだった。


「…………」


「…………」


「…まぁいいわ、今回はそういう事にしといてあげる」


それを聞き安堵の吐息を漏らしたのだが、大蛇丸があとを続ける。


「それに、懐かしい顔が来たみたいだしね」


「懐かしい顔?」


意味が分からない。


とりあえず、大蛇丸が見ているほうに視線を向ける


確かに此方に追加づいてくる気配が一つ。


そして数秒後その人物が現れた。


「見つけたわよ、大蛇丸!!」


静寂だった森に響き渡る声と共に。


…なるほど、大蛇丸が懐かしいと言う訳だ。


現れたのは、


「久し振りねアンコ」


みたらしアンコだった。


「今更何の─君麻呂!?」


話の途中で俺に気付いたようだ。


大蛇丸の横にいるので、もっと早く気付いてもいいと思うが。


「君麻呂! 早くそいつから離れてっ!!」


言うやいなや、アンコは俺と大蛇丸の間にクナイを投げつけた。


大蛇丸を牽制するかのようなクナイ。


アンコから見れば、俺が大蛇丸に捕まっているようにでも見えたのだろう。


「何してるのっ! 早く逃げなさい君麻呂!!」


逃げなさい、と言われても…


「以外ね、アンコと面識があったの君麻呂?」


「えぇ、この試験ゲートまで案内する担当が彼女だったんですよ」


「それだけかしら? だとしたらやけに親しく感じわね」


疑り深い目が此方を見つめる。


「まぁその前にも─」


「速くこっちに!!」


俺の言葉を遮り、アンコが大声で叫んだ。


「相変わらずねアンコ」


「…………」


アンコは何も答えない。


ただ、手に握っているクナイを強く握り直した。


「相変わらず、熱くなると周りが見えな─」


大蛇丸が言い終わる前に、アンコは飛び出していた。


交差するクナイと、響き渡る金属音。


「人の話は聞く、そう教わらなかったかしら?」


「生憎、アンタからは教わってないわね!」


大蛇丸は軽い溜め息をつき、


「あなた、よく今まで死ななかったわね」


冷たく言い放った。


「まだ分らないの? 君麻呂は私の部下よ…」


「なっ!!」


ふざけるな。と続けたかったが、それよりも早く大蛇丸が続ける。


「額宛、冷静ならこれを見て気付いてたはずよ」


自分の額当てを指差しながら。


「う…そ…」


アンコは絶句した。


大蛇丸が言ったとおり、二人の額当ては同じ『音の里』の物。


「そんな…ならあの子達も…」


「あの子達? 多由也や鬼童丸の事ね」


「…本…当なの?」


これは大蛇丸ではなく俺に向けられた言葉。


どう答えるべきか悩んだが、頷く事だけはしておいた。


「どうする、2対1よアンコ」


「……それでも、貴方だけは私が止めてみせる。それに、2対1じゃないわ」


刹那、俺と大蛇丸に無数のクナイが襲い掛かった。


「5対2よ」


それは先ほど俺たちがいた場所ではなく、もう少し先の場所に投げかけられた言葉。


「なるほど、暗部ね」


「暗部ですか、あれが」


俺たちの視線の先には、面を被った暗部が四人。


流石は暗部と言ったところか。


クナイを投げられるまで、全く気配を感じなかった。


「君麻呂、あなたは暗部をお願いね」


「え? 大蛇丸様が相手するんじゃないんですか?」


「ならあなたがアンコの相手をする?」


戦うならアンコの方が楽だろう。


だけど、正直アンコは苦手だ。


「…暗部でいいです」


第二の試験、死の森。


俺の最初の相手は巻物を持った忍びではなく、暗部という最悪の結果になった。









[710] 僕の生きる道
Name: ネメ太郎◆f880db45 ID:86707573
Date: 2008/08/18 01:14




嗅覚を刺激する血の匂い。


死の森はこれ以上ないほど静かだった。


獣の声も虫の声も不思議と聞こえてこない。


聞こえるのは、首筋を押さえてうずくまっているアンコの荒い息遣いだけ。


そのアンコの頼みの綱だった暗部は、血の匂いの発生源となって全員が事切れている。


そして、それら全てを視界に納め、大蛇丸は小さく声を発する。


「迂闊だったわ……」


誰に伝わるでもなく、声は闇が支配する森へと吸い込まれていった。


「貴方の性格を考えれば、こうなる事も予想しておくべきだったわね」


つぶやき、強烈な殺気を込め、最後の言葉を言い放った。


どういう事かしら、君麻呂?



























「……それで……」


地面の上に正座している鬼道丸を見下ろし、多由也は腕組をした。


「君麻呂は見つからなかったと」


「…ぜよ」


よくわからない返事とともに頷く鬼道丸。


「まぁいい。ウチも君麻呂は見つけられなかったからな。それにアイツがやられるって事はないだろう」


「そ、そうぜよ。き、君麻呂なんて心配するだけ無駄ぜよ」


震える声で何とか言い終える。


「…………」


「…………」


冷たい目で見下ろす多由也。


冷や汗を大量にかきつつ、必死に笑みを作る鬼道丸。


「…………」


「…………」


二人の視線が交わることはなかった。


「……で」


その声を聞き、鬼道丸の体は震えた。


先ほどまでとは、明らか声色が違うからだ。


「どういう理由で巻物を無くしたのか言ってもらおうか?」


組んでいた手を解き、拳を握る多由也。


「ど、ど、どういう理由といわれましても……」


自分でも情けなくなるくらい上手く話すことができない。


「え、え~とですね……」


チラッと多由也の顔を見るが、即座に後悔する。


鬼の形相の見本といわんばかりの顔がそこにあったからだ。


「あ、あ、あの、そ、そのですね─」


ごしっ!!


痺れを切らした多由也の拳が、鬼道丸の顔面へと打ち込まれた。


鼻血を噴出しながら、ぽてんと倒れる鬼道丸。


だが、顔面を血で染めた鬼道丸に多由也は冷たく言い放つ。


「誰が正座やめていいって言った…?」


「しゅ、しゅいません」


鼻を押さえ、ヨロヨロと立ち上がり正座をする鬼道丸。


それを見て多由也は続ける。


「で、巻物は?」


「ぜよ、それは──」




要約すればこういう事だ。


君麻呂を探すために二手に分かれて探すことにした。


しばらく探しても肝心な君麻呂は見つからない。


このまま見つけられなければ多由也に何を言われるか、何をされるか分からない。


そう思っていたところ、運よく敵と遭遇。あいつ等の巻物を奪えば、多由也の怒りも多少は収まるかもしれない。


……だが相手が悪かった。


決して勝てなかったわけじゃない。むしろ呪印を使えば余裕で勝てただろう。


ただ、本当に相手が悪かった。


何故なら、そのチームには彼女がいたから。


一目惚れをした日向ヒナタが。


「という訳で、巻物を置いて立ち去ったぜよ」


「あ…」


「あ?」


アホかお前はぁっっっ!!


唸りを上げる多由也の右足。


ベキッ!!

 
人体からは聞こえてはいけないような音が響き渡り、鬼道丸は沈黙した。


残された多由也は、


「…もういやだ…」


溢れそうになる涙を堪えながらそう呟いた。



























どういう事かしら、君麻呂?


「どういう事、と言われましても」


大蛇丸の本気の殺気を感じ、隠れていた茂みから出て答える。


「あそこに転がっているのは?」


大蛇丸の視線の先には四人の暗部の死体。


それ以外にこれといったものは見当たらない。


だから俺はそのまま答えた。


「暗部の死体ですね」


「…そう、暗部の死体」


正直、大蛇丸が何を言いたいのか分からない。


大蛇丸もそれを感じ取ったのだろう、額に手をやり続ける。


「あれを殺ったのは?」


「大蛇丸様ですけど…」


ピクッと大蛇丸の眉が動いたのが分かった。


「君麻呂、私なんて言ったかしら?」


「あれを殺ったのは」


もっと前よ!


「…………」


「…………」


「…………」


もういいわ


疲れを感じながらうめいた。


「暗部はあなたに任せるって言ったはずよね」


「ええ、言いましたね」


確かそう言われた記憶はある。


「なら、なんで私が暗部の相手をしたのかしら?」


「…大蛇丸様が強いから?」


貴方が逃げたからでしょうが!!


フーフーと大蛇丸が肩で息をしている。


大蛇丸のこんな姿はめったに見ることはできないだろう。


対して俺はなんとか平静を保つことだけはできていた。


背中は気持ち悪いくらいの量の汗をかいていたが。


「…時々よ、本当に時々なんだけどね、私、貴方を殺したくなるわ……」


「…奇遇ですね。俺も時々殺したくなるんですよ……」


何故か自然と口が動いた。


下手をすれば殺されるかもしれないのに、自分でも不思議なくらい冷静なのが分かる。


フフフ


「ハハハ」


「…………」


「…………」


「やめましょう、馬鹿らしくなってきたわ」


「ですね」


「で、話を戻すけど、何で逃げたのかしら?」


大蛇丸の言ったとおり、俺は暗部との戦いから逃げた。


別に暗部に勝てなさそうとか、怖かったとかそんな理由じゃない。


むしろ、木の葉崩しの前に暗部と戦えることは、俺にとっては都合がいい。


暗部の力量や、自分が暗部相手にどれだけやれるかを知れるからだ。


にもかかわらず逃げた理由。


「いや、だってずるいじゃないですか大蛇丸様」


「ずるい? 私が?」


「そうですよ、アンコの相手をするって言っておいて、やったのはあれじゃないですか」


俺はアンコを指差し言う。


「戦うならまだしも、戦う前からあれ使いましたよね…」


ジト目で大蛇丸を見て続ける。


「呪印のアレ、やってる大蛇丸様には分からないでしょうけど、かなり痛いんですよね」


自身、何度か使われたことがあるので、あれの辛さは分かる。


そして認識する。


呪印がある限り、自由はないのだと。


「まぁそんなこんなで段々とムカ……面倒くさくなって─」


「…もういいわ」


大きなため息をつきながら大蛇丸が俺の言葉を遮った。


「育て方間違えたかしら」


「育てた方が問題ある方ですから」


大蛇丸はまた大きなため息をついた。
















[710] 僕の生きる道
Name: ネメ太郎◆f880db45 ID:86707573
Date: 2008/09/10 03:27






何もできなかった。


アイツを前にして、私は何もできなかったのだ。


この命、捨てる覚悟さえあったというのに、私は舞台に立つことさえ許されず、ただ見ているだけだった。


呪印に支配され、四肢さえろくに動かすことができなくなった体で、私はただ見ている事しかできなかったのだ。


暗部が、仲間が、一人、また一人と殺されていくのを。


………


……





(私は夢でも見てるの?)


ありえない現状にそう思わずにはいられなかったのだが、痛む呪印が皮肉にも現実ということを認識させてくれる。


(なら、あれは何だというの?)


アンコの視界に写る二人。


一人は自分のかつての師、大蛇丸。


この状況を、暗部四人の死体を作り上げた張本人だ。


もう一人は自分が死の森まで案内した少年、君麻呂。


彼は、私が動けなくなるとほぼ同時に姿を消したのだが、今はその姿を現している。


その二人から聞こえてくる会話。


信じたくはないが、二人の会話を聞く限り、君麻呂が大蛇丸の部下というのは間違いないだろう。


ただ問題なのは、彼が大蛇丸相手に一歩も引かず話しているという事だ。


そして聞こえてくる二人の笑い声。


(…何なのよいったい)


「アンコ」


唐突に自分の名前を呼ばれ、思考は中断された。



























「で、大蛇丸様」


「なにかしら君麻呂」


「俺は、というか俺たち三人は、このまま試験に参加しててもいいんですか?」


「いいわよ」


大蛇丸は迷うことなく、簡潔に一言で答えた。


「いや、でも大蛇丸様の部下って事、アンコさんにばれちゃってるんですけど…」


「その事なら大した問題じゃないわ」


問題ないってどういう事だ? まさかアンコを殺して…


「アンコ」


唐突に名を呼ばれたアンコ。


僅かだが体が動くのが見てとれた。


恐らく、この状況で自分が呼ばれるなんて思ってもいなかったのだろう。


だが、そんなアンコを無視して大蛇丸は続ける。


「あなたを苦しめているその呪印、それと同じの物をさっき、うちはの少年にプレゼントしてきたわ」


「くっ…勝手ね……いくらうちはといえども、死ぬわよその子……」


「そうね、生き残るのは10に1つの確立だけど、あなたと同じで死なないほうに私は賭けるわ」


「えらく気に入ってるのね……」


「まぁね、あなたと違って優秀そうだし、何より、容姿も美しい─」


「それが一番重要なんでしょ…」


ボソッとつぶやくが、大蛇丸には無視された。


「あの子が生きていたとしたら、面白いことになる。くれぐれもこの試験中断させないでね。もし私の楽しみを奪うような事があれば……木ノ葉の里は終わりだと思いなさい」


言い終え、大蛇丸は瞬身の術でこの場を後にしようとするが、


「え、それだけですか?」


俺のこの言葉に反応し、術を中断する大蛇丸。


「警告、これだけで十分だと私は思うけど」


「は? そんな冗談ばっかり……大蛇丸様なら、アンコさんを殺して口封じとか、このまま拉致っちゃうとか、上手い具合にこの時間だけの記憶を消すとか、いや待てよ、でもそれだと暗部の死体が─」


まだ続けるつもりだったが、ふと殺気を感じ止める。


視線を向けると、こっちを半眼で睨んでいる大蛇丸がいた。


「君麻呂、あなたが私の事どう思ってるかよーく分かったわ」


そのままですよ。と言いたかったが何とか踏みとどまる。


「えーと」


返事に困りながら必死にどうすれば良いかを考える。


「…あっ、そういえば大蛇丸様。この試験で貰った巻物持ってません?」


話をそらすことが、考えて出た答えだった。


苦肉の策だったが、以外にも大蛇丸は乗ってきてくれた。


「巻物? 一応あるわよ」


一応という言葉がひっかかるが、まぁ貰えるなら良いとしよう。


上手い具合に話もそらせたし。


「じゃあ、その巻物下さい」


「良いわよ、ちょっと待って頂戴」


そして俺は激しく後悔する事となった。


………


……





「受け取りなさい」


言われるが、俺は受け取るのを躊躇していた。


というか、これは誰でも躊躇するだろう。


むしろ絶対に誰も受け取りたくないはずだ。


「ほら早く」


巻物は俺の目の前で揺れている。


問題なのは、大事な巻物が大蛇丸の舌に巻かれているという事。


それだけなら舌が触れてないところを触れば問題ないように思えるが、そうはいかないのが現状だ。


理由は巻物の出てきた経緯にある。


思い出したくもないが、例えるなら……そう、例えるならピッコロ大魔王が卵を産むみたいな感じだ。


胃の辺りが僅かに膨らみ、次いで喉が異様な形となり、そして口から「オエッ」という声とともに出てくる。


こんなの厚手のゴム手袋を三重にしたのがなければ無理だ。


だが、今この場にそんな便利な物はない。


「早くしなさい」


覚悟を決めるしかなかった。


「じ、じゃあ受け取りますよ…」


返事はなく、目の前の巻物が縦に揺れた。


「ほ、本当に受け取っちゃいますよ!!」


「いいから、さっさとしなさい!」


舌を出しながら器用に喋れるな、と感心していたが、目では必死に安全ポイントを探していた。


そして見つけた場所にそーと指を近づけていき、


ヌチャ


俺は心の中で泣いた。


何か大事なものを無くしたような気がして……























「さて、アンコ。この試験には君麻呂を含めてウチの里から六人ほどお世話になっている……楽しましてもらうわよ」


その言葉とともに大蛇丸は姿を消した。


残されたのは満足に体を動かせないアンコと、俺の二人。


とりあえず、あの状態のアンコに攻撃されることはまずないのでその点は安心だ。


問題なの巻物─よく見れば、所々溶けてるよう気がするが─これをどう所持するかだ。


まず、このまま手で持っていくのは却下。


長時間指で持っていたら、指が溶けていきそうで怖い。


かといってこのまま懐に仕舞うのは、絶対に嫌だ。


ならどうする?


何かで包む。


何で?


辺りを見渡して使えそうなの……あった。葉っぱだ。それもいい具合に巨大な葉っぱ。


とりあえずこれで包んで、巻物はこれで良いだろう。


後はこの指。


汚れてしまった指。


クサッ!!


思わず臭いを嗅いでしまった。


これは不味い。


俺は歩き出しアンコに近づいた。


アンコは怖い目で此方を見ているが、そんなのに臆している場合ではない。


そしてアンコの眼前まで近づき、視線も同じ高さになるように屈んだ。


「…何するつもり…」


「何って…」


改めて見る。


目の前には美女。


しかも自由に体を動かせない。


………


……





俺はアンコの服に手をかけた。


「くっ…」


アンコはこれから起こる事を想像してか唇をかみ締めていた。


そんなアンコを見つつ、俺は服にかけた手を擦り付けた。


「…へ?」


間抜けな声をだし、アンコはキョトンとした目でこちらを見ている。


だが、俺は擦り付けるのをやめない。


「ちょ…何してんのよアンタ!?」


「何って、拭いてるの。指と手を」


「…………」


「…………」


拭き終わり、恐る恐る臭いを嗅いでみる。


「…くっさー!! やっぱ水で洗わなきゃ無理か…」


「え、何、何なのよ?」


アンコはよく分かってないようだ。


とりあえず、拭いていた場所付近の布をアンコの鼻へと近づける。


「!? クサーイッ! 何なのよコレ?」


「大蛇丸様の─やっぱ言いたくない……アンコさん、水遁の術使えません?」


「つ、使えないわよ! それよりも大蛇丸のなんなのよーっ!!」


死の森にアンコの絶叫が響き渡り、俺は水をどうしようか必死に考えていた。





















「よいしょ……っと」


多由也たちに聞かれれば、『オヤジくさい』と言われそうな事を口にして地面へと腰を下ろした。


静かに耳を澄ませば、風で揺れる木々の声が聞こえる。


ふと見上げれば、揺れる木々の隙間から星の光が見えた。


ここが『死の森』という事すら忘れさせる雰囲気ここにはあったのだ。


「……で、どういうつもりなのかしら?」


隣から発せられた声。


俺はゆっくりと視線を移し、聞き返す。


「どういうって、何が?」


「……何でまだアンタが此処にいて、あまつさえ私の隣に腰を下ろして落ち着いてんのよ」


少しの間を置き、アンコは呆れたように口にした。


「何でって? アンコさんを殺すため」


迷わず告げ、アンコの方へと手を伸ばす。


距離は2メートルも離れてない。


この距離ならば、据わっている状態でも一瞬で殺すことができる。


「呪印のせいで、体まともに動かせないんでしょ?」


「クッ……」


「大蛇丸様はああ言ったけどさ、アンタを生かしておいても邪魔にしかなりそうにないし。何より、俺が大蛇丸様の部下って事、木ノ葉の他の連中に知られたら動きづらくなるからね。まぁ、そういった訳で、悪いけど死んでもらうよ」


「…………」


「…………」


「…なーんちゃって」


「へっ……」


差し向けていた手を下ろすと同時、アンコは間の抜けた声を発した。


ポカーンとした顔で瞬きをする事数回。


その姿に、思わず俺は笑ってしまった。


「その顔鏡で見たら? 結構すごいことになってるよ」


「…ふっ、ふざけないで!!」


「ふざけるね……でもさ、呪印で体が動かないのは本当でしょ?」


図星のことを言われてかアンコは何も言わない。


それを確認して後を続ける。


「さっき俺に聞いたよね。何でまだ此処にいるのか、って」


「えぇ聞いたわ」


「アンコさんを守るためって言ったらどうする?」


「……私を?」


頷くだけの簡単な返事をする。


「守るって一体何から守るって言うのよ。大体ね、今私にとって一番危険なのはアンタなんだから」


「それについてはまぁ否定はしないけど、今の状況考えてみたら? 近くには血を流した四つの死体。ここ、死の森って呼ばれるぐらいだから、血の臭いに誘われてくる獣だっているでしょ?」


先ほどと同じようにアンコは何も答えなかった。


「それを相手に、四肢もろくに動かせない今の状態でどうするつもり?」


「……じゃあ、本当に私を守るために」


「さっきからそう言ってるじゃん」


「…………」


「…………」


沈黙が辺りを支配する。


月明かりが二人を照らし、揺れていた木々も何故か不思議と動きを止めていた。


安いドラマや映画なら此処でキスシーンぐらいまで行くのかもしれない。


「アンコさん」


「…君麻呂」


だが、だが俺は違う。


「ウッソで~す」


直後、真っ赤な顔のアンコから鉄拳が飛んできた。


呪印で体の自由がきかないなんてウソぐらいの威力の拳が。











「アンタって、本当に大蛇丸の部下なの?」


怪訝な視線とともアンコが言う。


「そうですよ」


即答で答えたが、心の中では「残念ながら」という言葉を付け足しておくのを忘れない。


「アンタみたいなのが大蛇丸の部下っての、正直信じられないのよね」


「褒め言葉として受け取っておきますよ」


「褒めてないけどね」


適当に返事を返し、アンコは気になって口を開いた。


「ねぇ。初めて会ったとき、私の事知っていて近づいてきたの?」


「いや、あれはアンコさんが無理やり俺を拉致ッたような…」


「…………」


「…………」


「べ、別の質問をするわね」


その時の事を思い出したんだろう。


コホンと咳払いをして続けた。


「アンタは大蛇丸の下を離れようとは思わないわけ? 大蛇丸がどんな事してるかぐらい分かってるんでしょ?」


「人体実験とかでしょ。そんなのアンコさん以上に知ってるよ」


平静に言う俺が気に入らなかったのか、人体実験という言葉が気に入らなかったのかは分からないが、アンコは表情に怒りを表していた。


「ならなんで!?」


「なんで、ね。 じゃあ逆に聞くけど何でアンコさんは大蛇丸様の下を離れたの?」


「私は─」


「捨てられたからってのは無しだよ。捨てられても追いかければよかっただけの事だから」


遮るように言った言葉に、若干視線が鋭くなる。


「そうね、アンタの言うとおり私は捨てられた。でもそれで良かったと思っている。」


「良かった?」


「アイツの弟子だったとき、私は何もできなかった。伝説の三忍の弟子になれたことで舞い上がっていたのよ。実験の事だって知っていた。けれど、あのときの私は伝説の三忍の一人がする事に間違いなんてないって思い込んでいた」


「それで、大蛇丸から離れて間違いに気づいたと」

 
「えぇ」


頷いてアンコは地面へと視線を落とす。


「この呪印をつけられたときでさえ、私は大して疑問に思わなかった。本当、あのときの私はどうかしていたわ」


下ろしていた視線を戻し、真っ直ぐとこちらを見て続けた。


「師匠の責任は弟子の責任ってわけじゃないけどね、だから私は─」


「木ノ葉の里の忍びとして戦っていると」


「えぇ。誇りをもってね。 さぁ次はアンタの番よ、大蛇丸の下にいる理由を聞かせてもらえるかしら」


「簡単なことですよ」


先ほどのアンコとは違い、視線を空へと移し続ける。


「アンコさんには、大蛇丸様の下を離れても帰れる家が、木ノ葉の里という家があった。けど、俺にはそれが─」


まだ言い終えてないが、ふと感じた気配に話すのを中断した。


「アンコさん」


「分かってるわ、人の気配じゃないわね」


しばらくし、気配の持ち主である虎が茂みから姿を現した。


注目すべきはその大きさ。


動物園なんかで見た虎よりも、倍以上の大きさがある。


牙をむき出しにし、うなり声とともに此方を威嚇している。


「私がなんとかするから、アンタは逃げなさい」


よろけながらも何とか立ち上がるアンコ。


「って言われてもね、アンコさん、まだろくに体動かせないんでしょ。俺がやるからいいですよ」


「何言ってんの!下忍のアンタじゃ、アレの相手は無理よ!!」


下忍ね……


「まぁいいから、アンコさんはそこで見ててください」


「ちょ、待ちなさい君麻呂!!」


アンコの制止を無視して虎へと近づいていく。


虎も俺を獲物と決めたようだ。うなり声が一層に大きくなった。


「フッ。ネコ科の分際で、この君麻呂様に牙を向けるとは……愚かなり!!


最後の言葉とともに虎へと殺気を向ける。


一瞬の間を置き大人しくなった虎。野生の動物だけあって、自分と相手のどちらが強いのかすぐさま理解したのだろう。


「…何をしたのよ」


アンコにはまったく理解できなかった。


一瞬で大人しくなった虎、そしてその虎に手を差し出す君麻呂。


「お手」


「…………」


言葉が出なかった。


虎もどうしていいか分からず困っているようだ。多分。


そして、『ガブッ』と音が聞こえてきそうなほど簡単に君麻呂の腕が食べら─


「き、君麻呂!?」


駆け出そうとするが体が自由に動かない。


このままじゃ君麻呂が─


「この馬鹿虎がー!!」


もう片方の手で虎を殴り倒していた。


あの子の事、理解するのは一生無理かもしれない。












「本当に腕大丈夫なの?」


「まぁ鍛えてますから」


本当は食われる直前に骨で腕で包み込んでいたんだが、アンコはその事について知る術はない。


「アンコさんの方こそ、体、ちゃんと動くんですか?」


「え、ええ。まぁ流石に全快という分けには行かないけどね」


「じゃあ、俺行きますね」


そう言い残し、先ほどの虎にまたがりアンコの前から姿を消した。


「…面白い子ね……ってアタシ、あの子の話最後まで聞いてないじゃない!!」






[710] 僕の生きる道
Name: ネメ太郎◆f880db45 ID:86707573
Date: 2008/10/30 03:19





月が照らしていた森も、気がつけば朝の光に包まれていた。


一体どれだけの時間走っていたのだろう?


この広い森で、一人の人間を見つけるために…


「だぁーっ!! 何でウチがこんな目に」


汗で湿った髪が、汗で濡れた服が、彼女の苛立ちを増幅させていく。


「その様子じゃ、まだ君麻呂は見つかってないぜよね」


「んなもん、見りゃ分かるだろうが!! 大体テメーはどうなんだよ!?」


「フッ…愚問ぜよ、多由也」


そう言い放ち、鬼道丸は懐から巻物を取り出した。


「この通り、巻物はバッチリぜよ!! これで巻物を失った事は君麻呂にばれずにすむぜよ。 後は君麻呂と合流して、もう一個の巻物を……どうしたぜよ多由也?」


「…………」


多由也は無言で鬼道丸を、いや、鬼道丸の手にしている巻物を見ている。


そして一言。


「その巻物…」


「巻物?」


言われて、鬼道丸も巻物へと視線を落とす。


手の中にある巻物には大きな字で『天』と書かれている。


「どうかしたぜよか?」


「…ウチ等が初めに貰った巻物覚えてるか?」


「そんなの当たり前ぜよ、地の……あ……」


そう、初めに貰ったのは地の書なのだ。


「あ、じゃねーだろうが、このクソチン野郎が!!」


放った拳は、綺麗に鬼道丸の頬を捉えた。


鬼道丸は、受身も取れず地面を転がっていく。


「巻物を奪われたなんて、君麻呂に知られたら─」


君麻呂の馬鹿にした目が、馬鹿にした顔が一瞬で多由也の頭の中をよぎる。


『え、巻物取られたの?』


『お前たち二人もいて…?』


絶対にそれだけは避けなくてはいけない。


「大体、元はといえばテメーが巻物を─」


(…そうだ、巻物を奪われたのはウチじゃない。悪いのはあのクソ蜘蛛ヤローでウチは無関係だ)


「と言うわけで、巻物を奪われたのはお前であってウチじゃない」


そこまで言い終えた後、鬼道丸の肩に手を置き続ける。


「がんばって君麻呂の相手しろよ」


「そ、そんな薄情すぎるぜよ」


「自業自得だろ。巻物を渡すテメーが悪いんだよ」


至極当然な事をいい、多由也は冷たく突き放した。













髪が風で揺れるのを感じる。


体に伝わる心地よい振動が眠気を誘う。


このまま睡眠という快楽に溺れてしまえたら、どれだけ幸せなのだろう。


跨っている、この虎の背で…


だが、今はその快楽に身を委ねる事はできない。


やるべき事が、考えなければならない事があるからだ。


「どうするかな…」


独りごちる。


問題視すべき事は、一つだけ。


多由也たちの前から無断で居なくなったこの状況、どうすれば多由也に殴られずに済むか、だ。


方法その一。


自分の非を認め謝る。


『いやぁ、勝手に居なくなってゴメンね』


『何がゴメンだ! 大体その態度からして謝る気がないだろボケカスが!!』


……





却下。


確実に、罵声とともに鉄拳が飛んでくる。




方法その二。


ひたすらに、これでもかという程謝る。


『申し訳ございません』


すかさず土下座をし、続ける。


『この度の不祥事、全て私の責任です。平に、平にご容赦を』


『意味分かんねーよ! このクソボケが!!』


……





却下。


後頭部を思い切り踏みつけられる悲しい姿が、頭に浮かんだ。




方法その三。


開き直る。


『よー、多由也に鬼道丸』


『っ!! テメーいままでどこ─』


『二人とも勝手に居なくなるって酷くない?』


『なっ、居なくなったのは─』


『ったく、ちゃんと後ろについてきてくれなきゃ困るじゃん。大体二人とも勝手に居なくなるってどういう事? 俺に対する嫌がらせ? それともあれですか、二人の間に俺は邪魔だったと……クソー、お父さんは二人をそんな風に育てた覚えはないぞ!!』


……





決まりだ。


反論する間も与えず、微妙に話を変えていく。


「完璧すぎると思わないか、タマよ」


ちなみに、タマというのは跨っている虎の名前だ。


無論、虎故にまともな返事は期待してなかったのだが、それでも低いうなり声を出し返事をしてくれた。


「そうだろ、そうだろ……どうした、タマ?」


唐突に歩みを止め、一点を見つめるタマ。


何事かと思い、タマが見つめるその先に意識を集中したのだが、直後その理由を知る事となった。


「…なるほどね」


此処からは当然見る事はできないが、遠くに僅かなチャクラを複数感じる。


おそらく戦闘でもしているのだろう。


「よく気づいたねタマ」


これには感心するしかなかった。


流石は野生の虎、といった所か…


「…行ってみますか」























ボクはデブじゃない!! ポッチャリ系だ! こらーーーー!!


姿を見るより先に、絶叫にも近いその声が聞こえた。


とりあえずタマから降り、『待て』を指示した後、声の聞こえたほうへと気配を消し進んでいく。


……





予想は当たっていた。


しかも、戦闘していたのはザク達と木ノ葉の連中。


そして、何故かそれを見ている薬師カブト。


正直、カブトが何しているのか理解できなかった。


傍から見ている限りは、覗きにしか見えなかったからだ。


「何してんです? カブトさん」


「そういう君こそ何してるんだい? 君麻呂」


気配を消したまま後ろから近づき話しかけたのにも関わらず、カブトは別段驚いた様子も見せず笑みを浮かべた。


「…気づいてました?」


「まぁ一応ね。途中まで感じていた気配が突然一つ消えたんだ、嫌でも気づくさ」


「それでも、いきなり後ろから話しかけらたら驚きません?」


「大蛇丸様で慣れてるからね…あの人のに比べれば君のなんて可愛いものさ」


「……そうですか」


哀愁を漂わせるカブトを直視する事ができず、視線をザク達への方へと移す。


…グッドタイミングと言っていいのだろうか?


ザクがキンを攻撃する瞬間を見てしまったのだ。


「仲間割れ?」


ポツリとつぶやく。


「心転身の術。キン、だったかな? 彼女はその術にかかってたんだよ」


カブトは肩をすくめて続ける。


「それにしても、術にかかっている味方を何の躊躇もなく攻撃するとはね……一応あんなのでも大蛇丸様の部下ってだけの事はあるね」


「…褒めてるのか、貶してるのかどっちです?」


「勿論褒めてるんだよ」


「そうですか。で、話を戻しますけどカブトさんはここで─っ!!」


突如として首の呪印がうずきだした。


まるで何かに呼応するかのように。


「何をしてるか? だったよね。 教えてあげるよ、彼を見にきたんだ」


一呼吸おきカブトは言う。


「君の呪印と同等の力を持つ、天の呪印を与えられた彼をね」

























その戦いは一方的過ぎた。


呪印の力を手に入れたサスケに対し、ザクは何もできずに敗れてしまったのだ。


ドスはと言うと、サスケの力量が分かっていたのだろう。


戦うことなく巻物を渡し、傷ついたキンとザクを連れてその場を後にした。


「君から見てどうだい? 彼は」


「最悪って言えばいいですか? 呪印の力の使い方が全くなってないですし。カブトさんから見たらどうなんです?」


「僕の評価は最悪ではないよ。あの状況での最悪は彼があのまま死ぬ事だからね」


確かにカブトの言うとおり、最悪の状況は死んでしまうことだ。


呪印を刻まれて生き残る確立は僅か10分の1。


それを踏まえれば、死ななかったサスケは最悪ではなく最高といっていいのかもしれない。


むしろ、あのままサスケが死んだら、俺が大蛇丸の器になる可能性が大。


「僕はそろそろ行くとするよ。まだ彼のデータを取りたいからね」


背を見せその場を後にしようとするカブト。


「カブトさん、サスケの評価最高にしといてください」


了解、と言った感じで片手をあげ、カブトは瞬身の術で姿を消した。


「じゃあ俺も行くかな」


とりあえずタマのところまで戻り、それからザク達と合流しよう。















三人はすぐに見つける事ができた。



ドスも二人を担いだままではそう移動できなかったのだろう。


三人の前に姿を現し声をかける。


「大変そうだね、手貸そうか?」


「君麻…ろ!?」


「ウム。音の里のアイドル君麻呂だが何をそんなに驚く?」


「う、後ろ…」


どうやらアイドルと言うのはスルーされたらしい。


ちょっと悲しかったが、とりあえずドスの言うとおり後ろを見る。


見えるのはタマだけ。


「何もないじゃん」


「と、と、ト、ト、トラ!!」


搾り出すようにドスが言う。


トラね……あぁそういう事か。


「紹介しよう、ペットのタマだ」


「ペットォ!?」


「証拠を見せてやろう。タマ、お手」


出した手にすかさず噛み付くタマ。


「…………」


「…………」


しばらくの沈黙の後、


「そいやぁ!!」


アンコの時の再現のようにタマを殴り倒した。


………


……





「んじゃ、行こうか」


ザクはタマが咥え、キンは俺がおんぶする事にした。


背中に当たるふくよかな感触がなんともいえない。


役得と言うやつだ。


「君麻呂」


「何?」


視線を横へと移す。


「聞きたい事があるんですが…」


「サスケの事?」


「っ!! 見てたんですか!?」


包帯で表情はよく分からないが、驚愕しているのだろう。


「まあね、でもサスケの事は大蛇丸様から聞いたほうがいいんじゃない?」


流石に教えていいのか分からないし…


「よっと」


軽く声を出し倒れていた木を飛び越える。


そして、


「「……あ」」


出会いは突然と言うか、多由也たちとの合流は突然だった。


「な、な、なんぜよ!! その後ろの馬鹿でっかいトラは!?」


またか、と思いつつ律儀に答える。


「ペットのタマだ」


「「ペットォ!?」」


綺麗に重なる二人の声。


「そうペット。タマ、お手」


出された手に即座に噛み付くタマ。


「チェストー!」


鉄拳制裁。


なんていうか、もう鉄板ネタだ。


………


……





「そんな事があったぜよか」


ドスが鬼道丸と多由也に説明をしている。


キンとザクも気を取り戻し、俺はザクの治療をしていた。


治療と言っても、外れている両肩の骨をはめただけだが…


「で、なんでそいつが呪印もってるぜよ?」


「さぁ、そればっかりは大蛇丸様に聞いてみないと……まぁ君麻呂は知ってるみたいですが」


ドスめ、俺を売りやがった。


睨みつけるとドスはサッと視線を外す。


そしてその間に割って入ってくる多由也。


「何知ってるんだ君麻呂?」


「……なにも」


下手に話したら、俺が大蛇丸様に何されるか分かったものじゃない。


「詮索するのは良くないだろ。大体、大蛇丸様が教えていないってことは、お前達には知る必要がないって事だろ」


こう言えばこれ以上聞いてくる事はないだろう。


「ちっ!! まぁいい、で、お前が勝手に居なくなったのはどういう理由だ?」


こ、このタイミングでそれですか!?


流石にこの状況だと、開き直りも使えない。


でも多由也に殴られるのは嫌だ。


ならば取るべき方法は一つ。


「多由也、キンの傷ってザクが攻撃したからだって知ってた?」


そして鬼が誕生した。























ボコボコになったザクはタマに咥えられ、その背にはキンが乗っていた。


「んあ!!」


突拍子もなく変な声を鬼道丸が上げた。


「ど、どうしたんだよ」


「き、君麻呂、よく見るぜよアレを」


指差す先にはタマの姿が。


「タマが何?」


「上に居るのは誰ぜよ?」


「キン」


「もう一度。何の上に誰ぜよ」


「? タマの上にキン」


「略して?」


「タマキ─あ」


なんてアホな事に気づくんだろう、コイツは。


「早速多由也に教えてくるぜよ」


「あっ、まて鬼道丸」


人の静止も聞かず、鬼道丸は多由也へと向かった。


そして、しばらくして真っ赤な顔になった多由也。


普段クソチンとか下品な言葉を使っているくせに、こういうのは駄目らしい。


予想ではこの後鬼道丸が殴られるはずだが、不思議とそれはなかった。


そのかわりに、


「君麻呂、このクソボケカス野郎、巻物無くしたぞ」


「た、多由也それは言っちゃ駄目ぜよ!!」


…巻物を無くした?


「無くしたってどういう事?」


「ち、違うぜよ君麻呂。こ、これはその相手が強敵だったぜよ」


「多由也、こいつの言ってる事本当?」


首を振り多由也は答えた。


「巻物を置いて立ち去ったらしい」


「は?」


「こ、これには海よりも深い、そ、それはもう重大な理由があるぜよ」


「で、その理由は?」


ぜよ」


「…………」


「…………」


「一度死んで来いテメー!!」








[710] 僕の生きる道
Name: ネメ太郎◆f880db45 ID:86707573
Date: 2009/06/13 16:58


私は憧れていた。


音の五人衆と呼ばれる彼等に。


里のエリートと呼ばれる彼等に。


大蛇丸様から呪印を授かった彼等に。


「大体、巻物を簡単に渡すってテメーは何考えてんだよ、このバカ道丸!」


「かってに行方をくらました奴には言われたくないぜよ、このアホ麻呂!」


そう、憧れていたんだ。


憧れているではなく、憧れていた。


現在進行形ではなく過去形。


ここ、重要だからね。


「なっ! 今アホって言ったなアホって!!」


「アホにアホって言って何が悪いぜよ! 大体そっちが先にバカって言ったぜよ!!」


「……多由也も大変よね」


数分後。


「で、結局は」


先ほどまで言い争っていた二人を見てつぶやいた。


「こうなるわけよね」


二人は、仁王立ちをしている多由也の前で正座をしている。


「どう考えても巻物を失ったお前のほうが悪いだろ!」


「いや、そもそも君麻呂が居なくなったのが悪いぜよ! 君麻呂を探しに行ったから巻物を渡す状況になったぜよ!」


「言いがかりだろそれ!!」


「事実ぜよ!!」


睨みあう二人。


見る限り子供のケンカにしか見えない。


とすると、


「多由也! どっちが悪いと思う!?」


「…………」


「言ってやるぜよ多由也。君麻呂のほうが悪いって!」


「…………」


「多由也、聞いて」


ウルセー!!


怒声とともに降り注ぐゲンコツ。


さしずめ多由也は、お母さんってところかしらね…

















「さて」


軽く腕を組み、回りを見渡しながらつぶやく。


ちなみに多由也に殴られた頭はまだ痛いのだが、そんな事を愚痴っている場合ではない。


「これからの事だけど…ドス、お前達って巻物まだある?」


ドスは質問に首を振って答えた。


まぁこれは妥当だろう。


サスケ達との戦闘時、その場を退くために手打ち料といって自分達の巻物を渡したのだから。


これで巻物を持ってるとか言われたら、俺等の立場が無い。


「と言う事は─」


「巻物は一個だけぜよね」


鬼道丸が口を挟んだがその通りだ。


巻物は一個。


懐に手をやり、草に包まれたソレを取り出す。


若干臭うが、まぁこの際気にしない。


「この地の書」


「この天の書ぜよ」


全員に見えるように高々と上げた。


………


……





「え?」


その場の全員が声をそろえ、俺の手にある地の書と、鬼道丸の手にある天の書を交互に見ている。


………


……





「なんでお前巻物持ってるの?」


「君麻呂こそ何で持ってるぜよ?」


………


……





「行きますか」


問う俺。


「そうぜよね」


答える鬼道丸。


後はゴールの塔を目指すのみ。


巻物を持ってた理由なんて道中で聞けばいいし、聞かれたら答えればいい。


俺達は手を取り合い駆け


待たんかい!!


出す事は出来なかった。


多由也の手が、いつの間にか俺と鬼道丸の首根っこを掴んでいたのだ。


「どこに行く気だ?」


悪魔のような声に俺は恐る恐る答える。


「…ご、ゴールの塔まで」


刹那、首を掴んでいる多由也の手の力が強くなった。


「へーゴールの塔までね……おい、クソゲスクモ。テメーはどこに行く気なんだ?」


「…ゴ、ゴールの塔ぜよ」


俺と同じ答えを述べた鬼道丸。


それを聞いて多由也も力を込めたのだろう。


鬼道丸の苦しみ方が尋常じゃないからまず間違いないと思うが…


ちなみに、俺も苦しそうにしているが、実際のところそう苦しくは無い。


…一応言っておくが、Mに目覚めたとかじゃないから。


ただ、首の皮膚の下を早々と骨で覆ってガードしたに過ぎない。


まぁ、屍骨脈を持つ俺だから出来る芸当だと思うけど…


チラリと横目で鬼道丸を見ると、未だに必死に逃れようとジタバタしている。


その姿を見ていると、多由也の言ったクソゲスクモという言葉が頭をよぎった


クソゲスクモ。


……





昆 虫 名 クソゲスクモ
科  名 バカ
本  名 鬼道丸
生 息 地 音の里
天  敵 多由也
     どうしようもないほどの馬鹿だが、時折まともな事も言う。
     生命力、回復力共に常軌を逸している。







「おい」


ふと呼ばれて多由也の顔を見る。


「笑ってるなんて余裕だな」


どうやら俺は知らず知らずのうちに笑っていたらしい。


「いや、笑ってなんて」


誤魔化そうとするが無駄のようだ。


首への圧力がいっそう強くなったのを感じる。


「く、苦しい…」


とりあえず演技をして


ミシッ!


……なにこの嫌な音。


音の発生源は間違いなく俺の首。


「え~と…多由也さん? 握力はいくつぐらいでしょうか?」


「さあな、リンゴ位は軽く潰せるが」


平静に告げる多由也に俺は戦慄を覚えた。





















翌日─


そう翌日─


「じゃあ私達はこっちの扉から行くわね」


「あぁ」


短い返事を返す多由也。


その後ろにはタマの背に突っ伏している俺と、タマに咥えられてる鬼道丸の二人と一匹が。


ちなみに、俺と鬼道丸は二人とも満身創痍。


木漏れ日すらない森の中を、ただ巻物を求めて駆けずり回った結果が今の状態だ。


どうしてこうなったかと言うと…多由也が原因とだけ言っておこう。


何故だか俺達は多由也には逆らえないのだ。


もしかしたら、近々音の五人衆のリーダーの座を奪われるかもしれない。


東門の鬼道丸


西門の左近


南門の次郎坊


リーダー件北門の多由也


元リーダーの君麻呂


……やばい、悲しすぎる。


「なぁ、鬼道丸。お前って東門の鬼道丸だよな」


「…? なんぜよいきなり?」


「西門の左近、南門の次郎坊、北門の多由也」

 
「だから何が言いたいぜよ?」


「お前等が東西南北ならさ、俺ってどうなるの? 中央で中門の君麻呂?」


「ダサッ!」


その一言で俺は拳を握ったが、残念ながら手は届きそうに無い。


「そうぜよね」


そう呟き、しばらくの間を置いてから鬼道丸は続けた。


「肛門の君麻呂なんてどうぜよ? 大蛇丸様から貞操守ってるわけだし」


コイツに聞いた俺が馬鹿だった。


今度大蛇丸様にでも改めて聞いてみよう。


まずはその前に、


「タマ、喰っていいぞ」


俺の命令にタマは喉を鳴らして答え、咥えていた鬼道丸を上に放り投げた。


「ぜよーーーーーー!!」


耳障りな悲鳴を上げつつ鬼道丸は6メートルほど舞った。


そして、


「おい! クソチンども、遊んでないでウチ等も行くぞ」


「あ~い」


タマの背から答える。


その瞬間だった、タマの口の中に鬼道丸が吸い込まれたのは。


「そんなクソ喰ったら腹壊すぞ」


多由也の忠告に、タマは迷わずソレを吐き出した。


「ぐえッ!」


何とも形容し難い声を上げ、地面に叩きつけられた鬼道丸。


それを尻目に多由也は俺達の入る扉に手をかけた。


そのまま扉を開け、一歩踏み入る多由也。


俺も続くように入ろうとしたのだが、


「流石にタマの体格じゃ無理だろ。降りろよ君麻呂」


多由也の指摘したとおり、この扉の大きさじゃあタマは中に入れない。


「…仕方ない、扉の周りを破壊して入るか」


「アホかッ!!


罵声が飛んできた。


「そんな事して失格になったらどうするつもりだ!? さっさと降りろボケ!!」


「…多由也、それは出来ない相談だ」


タマの背から見下ろし、続ける。


「この美しい毛並みの背から降りろと?」


頷く多由也。


「座り心地、寝心地、共に完璧なタマの背から降りろと?」


またもや頷く多由也。


どうやらタマの素晴らしさを伝えるだけでは駄目らしい。


ならば、


いやだ、いやだタマの背から降りるなんていやだ~!!


石が飛んできた。


どうやら駄々をこねても駄目らしい。


というか、これ以上続けるのも止めた方がいいだろう。多由也の目が笑ってない。


渋々ながらもタマの背から降りる事にした。


「そんなにタマが好きなら口寄せの契約すればいいぜよ…」


いつの間にか復活した鬼道丸が呟く。


……





「それだ! 口寄せだよ口寄せ。でどうやってやる?」


「ふっ、まぁ見てるぜよ」


ここぞと言わんばかりに胸を張って言う鬼道丸。


親指を噛み、すばやく印を結び、


「口寄せの術」


何度か見た事のある巨大なクモが現れた。


「まぁこんなとこぜよ」


現れたクモをポンポンと叩きながら続ける。


「印は─」


「口寄せの術」


今だ胸を張ってる鬼道丸を後目に、俺は印を結び術を発動させた。


現れたのは大蛇。


「…………」


鬼道丸はあんぐりと口を空けてソレを見ていた。


多由也も目を見開いて驚いている。


タマはタマで突如現れた蛇に対しどう対応していいのか困っている様子だ。


「…お前口寄せなんて使えたのか?」


「まぁ一応」


「…今まで見た事無かったぜよ」


「めったに使わないしな」


二人は視線を蛇に戻し、


「大蛇丸様と同じ…」


「真に遺憾だがその通りだ」


「何で使わないぜよ?」


「蛇が嫌いだから」


俺も口寄せで召喚した蛇に眼をやる。


…やはり好きになれそうにはない。


ニョロっと伸びる舌。


しっとりと光沢のある鱗。


どう考えてもタマのほうがいい。


「いや、嫌いだからって理由で使わないのは─」


「別に嫌いってだけが理由じゃないよ」


理由は他にもある。


「使う機会が無かったからね」


「機会?」


「そう、戦ってる相手が口寄せで何かを召喚したとしても、今までは屍骨脈の力で何とかできたし。何より、不慣れな印を結んでる間に攻撃される危険性だってある」


言い終え、二人に視線を戻す。


「…………」


俺の答えに鬼道丸は無言だった。


多由也はというと、腑に落ちないような眼差しで此方を見ているが、気にしないでおこう。


「で、話を戻すけどどうやって契約するの?」


「血の契約ぜよね。君麻呂は大蛇と契約したときどうやったぜよ?」


言われ記憶をたどってみる。


確かあの時は巻物に血で自分の名前を書いたはずだ。


チラリと横に目をやると、相変わらずの大蛇。


大蛇が大蛇丸と重なり鮮明に記憶が蘇ってくる。


…そうだ、大蛇丸に指を噛まれてその血で名前を書いたんだ。


「どうしたぜよ?」


「いやちょっと思い出したくないことを…もうお前帰っていいよ」


大蛇に指示を出し続ける。


「その、鬼道丸はそのクモと契約した時どうした?」


「俺? 俺は大蛇丸様が用意した巻物に血で名前を書いたぜよ」


「俺と同じか。多由也は?」


「同じだよ。巻物は大蛇丸様が用意した」


と言う事は、


「どうやってタマと契約すれば言い訳?」


「まぁ巻物が必要ぜよね」


巻物。嫌な予感がした。


「その巻物は?」


俺は声のトーンを落とし、拳を握って聞いた。


「…さぁ?」


冷や汗をかきながら答える鬼道丸。


鬼道丸が召喚した筈のクモも、危険を察知してかいつの間にか姿を消していた。


「他に契約の仕方は?」


「……た、多由也なら知ってるかも」


多由也に視線を移すが、当の本人は此方を見てなかった。


知らないと言う事だろう。


俺は顔面蒼白になっている鬼道丸へと一撃を叩き込んだ。

















「あと五分」


「その台詞、十分前にも聞いた!!」


「ならあと三分」


俺は必死にしがみつきながら言った。


「却下だ!!」


多由也と鬼道丸は逆に俺を引き剥がそうとしている。


二対一。挙句一人は恐らく音の五人衆ナンバー2の怪力を持つ多由也。


長い時間は持たないだろう。


というか正直言えばもう限界だ。


タマの足にしがみついている腕が痺れてきていた。


「いい加減にしろ!!」


一段と強い力に、俺の腕はタマから離れた。


「鬼道丸、扉開けろ!」


即座に叫ぶ多由也に、俺も負けずと叫び返す。


「タマ、お手!!」


「なっ!?」


俺は素早く右手を差し出した。屍骨脈で強化するのも忘れてない。


この勝負俺の勝ちだ。


タマは俺の右手にそっと前足を乗せた。


……





何故だーーーー!!


「はいはい、行こうね。タマ、お前は帰っていいぞ」


絶叫する俺をお構いなしに、多由也は冷静に事を進めていく。


俺はタマの後姿を見送っていた。


そして、


「動物と遊んでるとは良い身分だな」


今まで聞いたことの無い声。


闖入者達は唐突に姿を見せた。










[710] 僕の生きる道
Name: ネメ太郎◆f880db45 ID:86707573
Date: 2009/07/18 01:31


此方が身構えるとほぼ同時だった。


「動物と遊んでるとは良い身分だな」


言葉と共に、二人の忍が姿を見せたのは。


一人は眼鏡を、もう一人はサングラスに似た特殊な何かを付けているのか、目を見る事はできない。


ただ二人に共通しているのは、額に木の葉の額あてを巻きつけている事。


そして見る限り、大して強そうに見えないと言う事。


「音のエリートと言っても所詮はガキか」


俺達ののことを知っている…最悪だ。


よりにもよって、こんな中途半端な奴等を送ってくるなんて。


俺達、相当なめられてる?


刺客なら普通、暗部とか、はたけカカシとか、そこらへんの見るからに強そうな奴を送ってこいよ…


まぁ、実際暗部とかに来られても困るけど…


「まさか、こんな奴等が大蛇丸様のお気に入りとはな」


大蛇丸様?


「君麻呂、こいつ等第一の試験でカブトさんと一緒に居た奴ぜよ」


なるほど、同胞ということか。


「どうやって気に入られた? 大蛇丸様に尻尾でも振ったのか?」


同胞?


「違うな、体でも売ったんだろ」


「なるほど、尻尾ではなく腰を振ったてわけか」


俺は静かに拳を固めた。


今日ほど人を殺したいと思った事はない。そう断言できる。


「で、どうなんだ白髪のボウズ?」


その瞬間、何かが切れるのを自覚した。


「お、落ちつくぜよ君麻呂!」


「そうだ、あんな奴等ほっとけ」


鬼道丸と多由也は俺の手を掴んだが、


「ッ」


二人とも俺の顔を見るや、短い悲鳴を上げてその手を離した。


「終わったぜよ」


鬼道丸の声を背に受け、俺は歩き出す。


敵と認識した二人の息の根を止めるために。


「君麻呂! そいつ等みたいなクソ共でも大蛇丸様の部下だ。下手すればお前が叱責を受けるぞ!!」


………それは嫌だ。


大蛇丸からの叱責。


不思議だ、叱責という言葉の前に大蛇丸とつくだけでとてつもなく卑猥に感じる。


とてつもなく嫌だ。それだけは何としてでも避けなくてはいけない。


ならどうすればいい?


この怒りをどうすれば…


「誰がクソ共だ!?」


「テメー等以外に他に誰が居るんだ? 少し黙ってろこのクソボケ!!」


相変わらずキツイ言葉の多由也。


二人も若干引いてる。


……





なるほど。


そうすればいい訳か。


「おい」


声をかける。


多由也へと向けられていた視線が此方に向く。


え~と、俺達が大蛇丸様に気に入られてるかなんて知りませんけど……まぁ少なくとも貴方達下っ端A、Bよりは信頼されてるでしょうね。一応これでも音の五人衆と呼ばれてますし。あっ、音の五人衆って分かります? 大蛇丸様の護衛や重要な任務こなすんですけど、まぁ貴方達下っ端さんには関係ないですね


「うわっ、ムカつく喋り方ぜよ」


「き、貴様」


鬼道丸の指摘通り、かなりムカつくしゃべり方で言う。


だがこれが、これこそが作戦だ。


手を出せないのなら、口で相手より上に立てばいい。


優越感に浸れればいいのだ。


そのために込めれるだけの皮肉を込めて言う。


そうそう、さっき体がどうのとか言ってましたけどそんな事全くやってませんから。 むしろ貴方達がやったほうが良いんじゃ……すいませんその顔じゃ無理ですね


「言わせておけば!!」


顔を真っ赤にして殴りかかってくる下っ端A&下っ端B。


予想通りと言っていいのか、二人の動きは下っ端らしく遅い。


とりあえず、一人は足をかけて転ばせ、もう一人も腕を掴み投げた。


「最後に、俺は白髪じゃなく銀髪だ!!

































バタンと音を立て扉は閉まった。


なんなんだあいつ等は~!!


開口一番そう叫んだ。


「まぁまぁ落ち着くぜよ君麻呂」


「落ち着いてられるか! 大体、あれだけ言われてお前はなんとも思わないのか!?」


「そりゃあムカつくぜよ。でも、事実無根なんだし、あいつ等妬んでるだけぜよ」


「妬むとか妬まないとかじゃない!! 大体、お前に関しては事実無根じゃないだろ!!」


「…え?」


瞬間、場が凍りついた。


しまったと言う感じで口に手を当てたが、全く持って意味を成さない。


「そうなのかお前…」


多由也はそう言い、鬼道丸から離れ此方に近づいてきた。


「…ど、どう言うことぜよ君麻呂」


何時にも無く真剣な表情の鬼道丸。


どこか哀れさを感じるのが不思議だ。


「…鬼道丸、世の中には知らなくていいこともある。気づかなければいいこともあるんだ」


諭すような口調で続ける。


「とりあえず、今のは聞かなかった事に─」


「できるわけないぜよ!!」


「そこを何とか」


「無理ぜよ!!」


「…多由也からも一言」


「鬼道丸、後の祭りという─」


「聞きたくないぜよ!!」


叫び続ける鬼道丸。


「多由也、あいつ等ひどくない? 俺のこの見事な銀髪を白髪って言ったし」


「いや、白髪だろ」


冷静な突っ込み。


ショックだ。


ずっと銀髪だと思ってたのに。


「話をそらすな!!」


………


……





「結局はこうなる訳だな」


気を失って突っ伏してる鬼道丸を見て口にする。


まぁ、コイツの事だから三十分もあれば目を覚ますだろう。


その時はいい具合に記憶も失ってるはずだ。


「どうする?」


聞いてくる多由也。


このまま鬼道丸が目を覚ますのを待つのか? と言う事だろう。


正直、待つのは面倒くさい。


とすればだ、


「多由也、巻物」


本来、鬼道丸が巻物保管係なのだが、先の件もあり多由也が持つことになっていた。


「ほらよ」


そう言い、取り出した巻物を一個放り投げた。


受け取った巻物には『地』の字。


「開くぞ」


頷き答えた多由也と同時に、二つの書の紐を解く。


中には口寄せの術式と、人の文字が書いてあった。


「君麻呂」


「分かってるよ」


またも同時に巻物を放り投げる。


術が発動したのだろう。


二つの巻物は地面に付くと煙を発生させた。


いでよシェンロン! そして願いをかなえたまえ!!


「…頭大丈夫か?」


「多分」


本日二度目となる冷静な突込みが発動した。



そして煙が晴れて現れたのは、


「遅かったわね、あなた達」


普段の姿とは違うが大蛇丸だった。


まぁ俺達の担当上忍だから当たり前といえば当たり前か。


「此方にも色々ありましてね」


そう、色々あったのだ。

































「以外だったな」


何が? と言った感じで多由也は此方を見てきた。


「ドス達のことについて、大蛇丸様にあれやこれや聞くと思ってたから」


「…その事か、ウチだって本当は聞きたいさ。でもテメーが言っただろ」


何だっけ? と言う感じで今度は俺が多由也を見る。


多由也は呆れたような仕草をし、続けた。


「大蛇丸様が何も言わないのは、ウチらに知る必要が無いって」

 
「あ~、そう言えばそんな事言ったね」


確かその場しのぎで言ったはずだ。


「いい加減だなテメーは」


「かもね」


それにしてもだ、


「何ぜよ、二人だけで話して」


あれからすぐに復活した鬼道丸。


「なぁ、アイツ段々化け物じみてきてないか?」


俺の問いに、多由也は静かに頷いた。


「俺も混ぜるぜよ~!」










[710] 僕の生きる道
Name: ネメ太郎◆f880db45 ID:86707573
Date: 2009/10/02 03:50


「─以上です」


一通りの報告を終え、数枚の書類を渡す。


「音の里。大蛇丸…」


それは予想以上に落ち着いた声だった。


声の主は、焦りなど微塵も感じさせることなく続ける。


「それに、お主が接触した君麻呂という少年」


「…はい」


「どう思う?」


「どう、と言いますと?」


質問の意図が見えずアンコは聞き返した。


「君麻呂と言う少年じゃ。率直な意見でよい、お主はどう見る?」


「…あくまでも私見なのですが…少なくとも『敵』という感じは受けませんでした」


「ならば味方とでも?」


「それは…」


言葉に詰まる。


「すまんな、意地悪な質問をして」


「いえ…それよりも火影様」


「分かっておる」


火影はキセルを吹かし続ける。


「試験はこのまま続行する。大蛇丸の動きを見ながらじゃがな…」


「分かりました」


それを聞き、アンコは部屋から退出するために体を反転させた。


「にしてもじゃ…君麻呂という少年、一度会ってみたいものじゃな」

































「という訳なのよ」


あっけらかんと言うアンコだったが、どういう訳か激しく問い詰めたい。


いや、普段の俺なら声を荒げて突っ込んでるだろう。


が、今の状況がそれをさせないでいる。


「どうするぜよ君麻呂」


「どうすんだよ君麻呂」


左右の耳から、小声でそれぞれの声が入ってくる。


「知るか」


とりあえず二人に簡単な答えを返しておく。


どうするかなんてこっちが聞きたいぐらいだ。


とりあえず現状把握が第一優先。


目の前には、俺達をこの部屋まで案内してきたみたらしアンコ。


後ろには、壁に沿うようにして暗部の姿。


そして、その暗部以上に問題なのが部屋の真ん中のイスに腰をかけお茶をすすっている火影と、火影の背後にいるカカシなどの上忍。


………


……





死んだねこりゃ。


このメンバー相手に生き残る自信が全くありません。


…でも、早蕨の舞を最大範囲で使えば逃げ延びれる可能性が…


チラリと左右を見る。


二人を連れては無理だな…


骨の中を移動できるのは俺だけだし、かといって見捨てるのも。


一か八かで骨で包んでしまえば俺以外でも移動できるかもしれないな。


となると、流石に一瞬で二人は無理だからその場合は……


『ガチャ』


鬼道丸の肩に伸ばしていた手と、「悪いな」と言おうとした言葉を引っ込め、扉のほうへと視線をやる。


部屋に入ってきたのは、見知った顔だった。


「君麻呂君、多由也、一体どうなってるの!?」


「…もう一人いるぜよ~」


声をあげ近づいてくるキン。後ろにはザクとドスが付いてきている。


三人とも此方と同じように、上手く状況ができてないようだ。


そんな俺達などお構いなしに話は進んでく。


「そろったようじゃな、まぁ腰でもかけてくれ」

















あれから俺達は促されるまま席へと付いた。


人間、諦めるのも肝心だと思うんだよね。


ちなみに、左からザク、ドス、キン、俺、多由也、鬼道丸の順で座っている。


火影はというと、不幸な事に机を挟んで俺の真正面に座っている。


「どうした、飲まんのか?」


薦められたのは、先ほど運ばれてきたお茶。


「飲んじゃだめぜよ、薬か何か絶対入ってるぜよ」


鬼道丸は小声で言ったつもりだろうが、


「そんなもの入ってないわよ」


火影の後ろに控えていたアンコが口を開いた。


火影も笑っている。


「だから安心して飲みなさい」


鬼道丸の言うとおり何か入ってる可能性もあるが、それをするメリットが見つからない。


となると、


「信じますよ、アンコさんの言葉」


そう言い、お茶に口をつけた。


「き、君麻呂!!」


「…普通に美味しいお茶だけど、お前達も飲んだら?」


「ほ、本当ぜよか? じゃ、じゃあ」


鬼道丸も湯飲みを手に取りお茶に口をつけた。


「ふ、普通に美味しいぜよね」


「………」


「………」


「な、なんぜよ皆こっち見て」


鬼道丸の指摘したとおり、ザク、ドス、キン、俺、多由也の視線を鬼道丸は独占していた。


「………」


「…ふむ、大丈夫みたいだな。皆飲んでいいぞ」


俺の言葉を聴き、皆湯飲みに手を伸ばした。


「ま、まさか君麻呂、さっきのは飲んだふりだったぜよか!?」


「正解。99パーセント大丈夫だと思ったけど、やっぱ最初は何か嫌じゃん?」


「お前達全員分かってたぜよか?」


お茶を片手に頷く四人。


鬼道丸はその答えに項垂れた。


「あんた達、火影様の前よ!!」


「よいのじゃアンコ。お主達のやり取り楽しませてもらったわい」


ほっほっほっと笑いながら言う火影。


「まぁ、しかしそろそろ本題には移りたいのじゃがな」


俺達の体に緊張が走る。


「本題?」


問い返す俺に対し、火影はあっけらかんと返してきた。


「なに、簡単な事じゃ。お主達と話をしてみたいと思ってな」


「…話?」


「そうじゃ」


全くもって意味が分からない。


俺達が大蛇丸の部下である事を承知で話がしたいなんて。


それにこの状況。


暗部や上忍で取り囲んでおいて話がしたいなんて、冗談にも程がある。


「ふっ……」


その時、唐突に横に座っている鬼道丸が笑みを浮かべた。


「スリーサイズ以外なら何でも答えるぜよ」


………


……





時が止まった。


冗談なんかじゃなく確かに止まった。


暗部も、上忍達も、火影でさえも。


とりあえず、


「話がしたいというのが本当なら、後ろに居る暗部だけでも外してもらえませんか?」


「そ、そうじゃな」


さっきの鬼道丸の発言は無かった事にした。




























思えばこれはチャンスなのかもしれない。


このNARUTOの世界に来て早十数年。


当初の目的では、木の葉に亡命するはずだった。


一瞬だがハーレムなんて幻想を夢見てたりもした。


そう、これは振り出しに戻るチャンス。


都合よく、木ノ葉の長でもある火影が話をしたいと言っている。


何でもかんでも話して上手く進めれば…


大蛇丸様、悪く思わないでください。元はと言えば、貴方が悪いんですから。


「先に言っておくが、これは強制ではないからの」


「…なら退席しても問題は無いわけだな」


火影を相手に、いつもと口調を変えずに言ってみせる多由也。


素直に尊敬します。


「あぁ、それでも構わんよ」


「…そうかい。なら俺は失礼させて貰うぜ」


「僕もそうさせて貰います」


ザクとドスは湯飲みを置き、席を立った。


「キン、多由也、鬼道丸。 お前達はいいのか?」


問いかける。


まぁ、一人の方が話しやすいっていうのがあるからなのだが。


「君麻呂こそどうなんだよ?」


「俺? 俺は残るよ。 話ってのに興味があるからね」


正直に答えるわけにもいかず、それらしい答えを返しておく。


「そうか、ならウチも残る」


「私も」


「俺もぜよ」


結局、退席したのは最初の二人だけだった。


「フム。ならそろそろ初めてもよいかの?」


此方の反応を伺いつつ、火影は続ける。


「単刀直入に聞こう。お主らはなぜ大蛇丸に従う?」


予想外の質問だった。


てっきり、大蛇丸の目的などを聞かれると思っていたのだが。


「従う理由?」


「大蛇丸がどんな人間なのか、お主達も知っておろう?」


「まぁ一応は…」


「だったらなぜ!」


いきなり、声をあらげてアンコが言う。


「なぜ? と言われてもね…」


「アイツは、大蛇丸は部下の事を道具としか思ってない人間よ!!」


知っている。


大蛇丸がどんな人間なのかは、嫌と言うほど身にしみている。


「アンコ」


熱くなっているアンコを戒めるかのように、火影はその名を呼んだ。


「…申し訳ありません」


「それで、どうなのじゃ?」


「私は」


唐突にキンが口を開く。


「私は、大蛇丸様に出会わなければ死んでいたと思う」


小さな声だったが、誰もがその声に耳を傾けた。


「私はね、真っ暗な闇の中に居たの。地獄って言ったほうが早いのかな? 親の居なかった私は、私達はあの時生きるのに必死だった。 生きるために食べ物を盗んでは、見つかって力任せに殴られる。歯が折れても、体中痣だらけになっても殴られ続けて、それでも盗んだ食べ物だけは手を離さなかった。 何回も何回も繰り返し、中には死んでいく仲間もいた。あそこでは大人達は誰も手を差し伸べてくれない」


「そこに手を差し伸べたのが大蛇丸じゃったと」


キンは頷き続ける。


「そうよ。大蛇丸様だけが手を差し伸べてくれた。大蛇丸様だけがあの闇から救い出してくれた」


「違うわっ!! 大蛇丸はもっと深い闇に引きずり込もうとしてるだけよ」


反論するアンコをキンは真っ直ぐ見つめた。


「それでも、私にとってはそれが唯一の光だった」


「でも─」


「なら、ならなんで貴女が助けてくれなかった?」


「…………」


言う言葉がなくなったのか、アンコは沈黙した。


……





それにしても、まさかキンにそんな過去が有ったとは。


不覚にも少し涙が…


「か、悲しい話じぇよ」


「そうだな」


泣いてるせいか、語尾が上手く言えてない鬼道丸に賛同しておく。


「キン、俺の事お兄ちゃんって呼んでいいじぇよ」


「なら俺はお父さんでいいぞ」


「…遠慮しとく」


薄っすらと潤んだ目でキンは答えた。










「…お主達、三人はどうなんじゃ?」


「ウチは─」


多由也が語りだした。


大蛇丸に出会う少し前からの話を。ただ、呪印の事には触れずに。


………


……





「た、多由也、俺の事はお兄ちゃんて呼んでいいぞ」


「お、俺はお父さんてよんでいいじぇよ」


俺は袖で涙を拭い、鬼道丸は鼻水まで垂れ流していた。


「…遠慮しとく」


先ほどのキンと全く同じことを言う多由也。


「わ、私のことはお姉ちゃんて─」


「お前もかキン! というかウチのほうが年上だろうが!!」


「…お主ら、わしの事はお爺ちゃんと─」


『ゴホン』


わざとらしい咳が火影の言葉を遮った。


咳の主は火影の後ろに控えているカカシ。


ちなみに、その隣に居る全身緑も号泣していた。


「…で、そういう君麻呂はどうなんだ?」


「俺? 俺は…」


しばらく考え続ける。


「…と言うか、いつのまにか話が大蛇丸様との出会いに変わってない? まぁいいけどさ。 そうだな。あれは俺が四、五歳のころだったかな。森の中で大蛇丸様と出会い戦った。 それはもう死闘だったよ、お互い全身傷だらけでも倒れることは無かった。 あのときの俺は負けたくないと言う一心で─」


「嘘ぜよ」


「嘘だな」


「……お兄ちゃんの件は無し?」


鬼道丸と多由也、キンの三人が頷くのを見て取れたが、何故だがこの場に居る全員が頷いてるように感じた。


「次は俺の番ぜよね、俺は─」


「その話長くなりそうだからいいや」


「…ぜよ?」


「話を少し戻すけど言いですか?」


確認を取るように火影を見る。


火影は頷き俺は続けた。


俺が思っていることを。


今、改めて分かったことを。


………


……





「…驚いたのぉ。大蛇丸からお主みたいなのが育つとは」


「その言葉そのまま変えしますよ」


「それは言ってくれるな アレも昔は違ったんじゃ、真っ直ぐで良い少年じゃったんだが両親を─」


「あーいいですそれ。昔のことなんて聞いても、肝心なのは今ですから」


「…そうか」


「じゃあ俺達はこれで失礼します」


「…すまんかったの」


火影の呟きは何に対しての謝罪だったのだろう?


…まぁ何でもいいか。


「行こうか、多由也、キン、鬼道丸」


俺達は部屋を後にした。




















「…君麻呂って、結構色々考えてるぜよね。見直したぜよ」


「ウチもそう思った」


「私も」


「そいつはどーも」


俺って一体どういう風に思われていたのだろう……


















































予告



ついに始まった三次予選。

電光掲示板にあがる君麻呂と犬塚キバの名前。

「いくぜ赤丸!」

「犬か…」

君麻呂は呟き、右手を頭上に上げ指をパチンと鳴らし高らかに叫んだ。





出ろーーっ!! タマーーーー!!





「ま、まさかあのトラは!?」

突如として現れたトラに、驚愕の表情を浮かべる火影。



「どういう事? 何故君麻呂があのトラを?」

「大蛇丸様、あのトラについて知ってるぜよか」

「…えぇ、あのトラはね…」

語られるタマの正体





最終章  「第三試験会場の中心でタマと叫んだもの」






ウルセーよ! ウチはアイツを信じる、ただそれだけだ!!
それでも、それでもアイツならやってくれるぜよ!!
できるとか、出来ないとかじゃない。 ただアンタを倒す、それだけだ!!
すばらしいわ、貴方がここまでやるなんてね…さぁ、もっと楽しませて頂戴!!
















あとがき?
予告の最後の4行は縦読みで…






[710] 僕の生きる道
Name: ネメ太郎◆f880db45 ID:86707573
Date: 2009/10/04 02:49

胃が痛い…


視線で人を殺せるなら、間違いなく俺は殺されているだろう…


下っ端二人組みの殺気のこもった視線。


正直、こいつ等はどうでもいいのだがムカつく。


問題なのはサクラの視線だ。


恐らく、大蛇丸や呪印の事について聞きたいのだろう。


そして最後、大蛇丸の舐め回すような視線。


……大蛇丸様、火影の斜め後ろなんて絶好のポジションに居るんでしたら、此方を見る前に色々やる事あるでしょうが…


あぁ胃が、胃が痛い…


火影の話している言葉なんて頭に全く入ってこない。


というか、何時の間にか火影ではなく別の人物が第三の試験の予選について説明している。


「えー、というわけで…体調のすぐれない方、これまでの説明でやめたくなった方、今すぐ申し出てください」


手、上げようかな…

















































第一回戦


『ウチハ・サスケ VS アカドウ・ヨロイ』


電光掲示板に名の上がった二人が、舞台の中央で対峙している。


この戦いに一番喜んでいるのは間違いなく大蛇丸だろう。


時おり出てくる舌が激しく気持ち悪い。


「あれが噂のうちはサスケぜよか…」


鬼道丸が興味津々といった目で見ながら言った。


「あら? 知っていたの?」


視線が此方へと向けられる。


「俺が話しましたからね」


「そう」


短い返事を残し、大蛇丸は視線を戻した。


「にしても、残念だったぜよね君麻呂」


「残念?」


意味が分からず聞き返す。


すると、鬼道丸は顔を近づけ小声で返してきた。


「サスケの相手ぜよ。あのヨロイとか言う奴、君麻呂が戦いたかったんじゃないぜよか? この予選なら、なんだかんだで殺しちゃっても大蛇丸様からはお咎めなしだったんじゃ…」


(殺していい…大蛇丸のお咎めなし)


聞こえた内容を、心の中で確認する。 目を瞑り、何度も何度も、そして─


あああああっ!!


目を見開き叫び声を上げた。


「ぜよっ!?」


至近距離にいた鬼道丸は驚き耳を押さえる。


気づけば試験会場の視線は俺達に集まっていた。


これから試合をするという、サスケとヨロイの視線さえも。


とりあえず、二人で愛想笑いをして場を乗り切ったのだが、


「何なのよ貴方達」


「何がしてーんだよテメー等は」


この二人は駄目なようだ。


多由也はいいとして、大蛇丸にはどう説明すればいいのか。


「簡単に言えば、サスケの相手のヨロイとか言う奴とは自分が戦いたかったかな、なんて話を」


「まぁ当然だろうな」


「…どういう事かしら?」


当たり前といえば当たり前なのだが、両者それぞれ別の反応をする。


さて、どうしたものか。




「それでは、始めてください!」




決して大きいとは言えない試験官の声が響き渡った。


「…まぁいいわ…貴方達も良く見ておくのよこの試合。面白くなるはずから」


どうやら助かったらしい。


言われたとおり試合でも見ておこう。


「君麻呂はどっちが勝つと思うぜよ?」


「サスケ」


迷いも無く答える。


鬼道丸は怪訝な顔をして言ってきた。


「どうしてぜよ? どう見ても押してるのはヨロイの方ぜよ」


「確かにね」


鬼道丸の言うとおり、今有利なのは誰が見てもヨロイの方だ。


致命的な攻撃は受けてないにもかかわららず、ヨロイに掴まれる度サスケの動きは確実に鈍くなっている。


「チャクラの吸引といったところか」


多由也が呟く。


「恐らくそうぜよね、これでもサスケが勝つと?」


「…何なら賭けるか? サスケに俺は100両」


「乗ったぜよ。多由也もどうぜよ? 君麻呂から金を取るチャンスぜよ」


「…そうだな、ならウチもサスケに賭けさせてもらう」


「な、なんでぜよ!?」


鬼道丸が驚きの声を上げ、二人の戦いを指差した。


「見るぜよ、今だって頭を押さえられチャクラを吸い取られている。勝負あったも同然ぜよ」


「確かにな、だが君麻呂が自分から負けるような賭けをするとでも?」


その言葉に俺はニヤリと笑みを浮かべた。


当たり前だ。試合内容は覚えていなくても、どっちが勝ったのかは覚えている。


「ぜ、ぜよ!?」


「それに、勝負はこれからみたいだぜ」


多由也が言い終わると同時、サスケが動いた。


突っ込んできたヨロイを、カウンターの形で蹴り上げ中に浮かす。


それを追う様にしてサスケも飛び上がり、ヨロイの背後を取った。


影舞葉。


相手を木の葉に見立てて追尾する技だ。


しかし、なんとか形勢を逆転したサスケだったのだが、その体に突如異変が起きる。


「あれは…呪印ぜよか」


サスケの首から全身に呪印が広がっていく。


隣にいる大蛇丸は満足気に笑みを浮かべ、それを見つめている。


思惑通りということか。


………もしかして、この二人の戦いって大蛇丸が仕組んだ?


ヨロイにチャクラを全て吸い取られれば、サスケは嫌でも呪印に頼るしかなくなる。


サスケの性格からして降参なんてことは無い。


なら、サスケが生き残り勝つためには呪印を使うしか…まさかね、流石に大蛇丸でも電光掲示板を操作して対戦相手を選ぶなんてことは……できそうだな、大蛇丸なら。


「呪印が」


多由也の声に顔を上げてサスケを見ると、呪印はサスケの半身を侵食しようとしていた。


だが、半身以上侵食は進むことなく、逆に呪印は一気に退いていく。


「呪印をねじ伏せた!?」


呪印を持つものとして、それは信じられない光景だった。


鬼道丸も多由也も、大蛇丸でさえも信じられないのだろう。


三人とも驚いた顔でサスケを見ている。


だが二人の勝負はまだ付いてない。


先に動いたのはサスケだった。


足から放たれる一撃。


ヨロイは辛うじてこれを防いだのだが、次々と繰り出されるサスケの攻撃に対しては防ぐ術を持っていなかった。


そして最後の一撃。


サスケは体を反転させ強烈な踵落としを放ち、ヨロイを地面へと叩き付けた。


「これ以上の試合は私が止めますね…よって、第一回戦、勝者うちはサスケ…予選通過です!」


「賭けは俺の勝ちだな、鬼道丸」


そう言い、俺は掛け金を受け取るため手を出した。


多由也も同じように、手を出している。


「ぜ、ぜよ~ さ、里に戻ったら払うぜよ」


「…あっそ、まぁいいや」


「え?」


驚いた顔で鬼道丸が此方を見た来たが、今は無視だ。


今重要なのは、


「おじゃる丸さま、一つ聞きたいことがあるのですが……もしかして、電光掲示板で対戦相手操作したりしてます?」


「まさか、いくら私でもそれは無理よ」


出来ないのか、残念だな。


「というか君麻呂」


「何です?」


「おじゃる丸って何かしら?」


「…いや、名前をそのまま呼ぶのは不味いかと思いまして」


「別のにしてくれるかしら」


「別のですか?」


しばらく考える。


「…なら略して、おまる様でどうです? ピッタリだと─」

 
ゴンッ!!


「痛いじゃないですか」


「どういう意味かしら…?」


目が笑ってなかった。


「…し、白いイメージがピッタリだな~なんて…」


「別のにしなさい」


「例えば?」


「そうねぇ」


腕を組み考え始めた大蛇丸。


「白雪ひ─」


「ふざけないでください」


「かぐや─」


「何考えてるんです」


「シンデ─」


「そうですね、死んでください」


「…………」


「…………」


「あなた、師匠に対する敬意とかないのかしら」


「少なくとも、この一分間の間は全くありませんでした」


「…もういいわ。話を戻しましょう」


「そうですね」


「あなたヨロイと戦いたがってたけど何故かしら?」


そこまで戻るんかい!


面倒くさいけどちゃんと説明するしかないのか…


一応声を抑えて大蛇丸以外には聞こえないように話す。


と言っても、近くにいる多由也や鬼道丸なら聞き耳を立てれば聞こえるかもしれないが、木ノ葉の連中に聞かれなければ問題は無いのでいいだろう。


「あいつ等、大蛇丸様の部下ですよね?」


「…そうよ、それを知っていて貴方は戦いたいと言うのかしら?」


「そうですけど」


「理由は? それだけ戦いたいと言うのならそれなりの理由があるのでしょう」


「あいつ等、前の試験で…」


「前の試験で?」


「俺が口にするのも恐ろしい事を言ってきたんです!」


自然と声の大きさが元に戻っていた。


「…そ、それだけかしら」


大蛇丸は呆れた顔でこっちを見ている。


「…それだけじゃないんです、あいつ等俺の自慢の銀髪を白髪だって…」


「白髪じゃないの」


即答だった。


「それにね、悪いけど彼等はまだ利用価値があるわ」


「…そうですか」


なんか、もうどうでも良くなってきた。


こうなったらイジけてやる。


お決まりの体育座りをして、『の』の字を書き続ける


「…多由也、後のことは任せたわね。私は少し外すから」


恐らくサスケのところに行くのだろう。


試合が終わるとカカシに連れられて出て行ったから。


「それと、言い忘れてたけど貴方達の試合が来ても、能力は使わないようにね。特に君麻呂、絶対に使っちゃ駄目よ」


「は?」


6個目の『の』が書き終わると同時俺は立ち上がり声を上げた。


「貴方の能力はまだ見せるときじゃないわ。 それとも、木ノ葉に来てからもう使ったのかしら?」


「公には使ってませんけど…」


「なら大丈夫ね、切り札は取っておくものよ」


そう言い残し大蛇丸は姿を消した。


気付けば第二試合『ザク VS シノ』の戦いが終わっていた。

































あとがき?
カブトが辞退して、予選を受けるのは23人…
ひ、一人余る…






[710] 僕の生きる道
Name: ネメ太郎◆f880db45 ID:86707573
Date: 2009/10/19 00:39


「どうするぜよ?」


担架で運ばれるザクを見下ろしながら鬼道丸は呟いた。


「…何が?」


横で同じようにザクを見ている多由也が答える。


「能力つかうな、だってさ」


「能力ね…ウチの場合は笛って事になるのか…」


「俺の場合は糸、って言ったところぜよか」


言い終え、二人して大きなため息を付く。


「メンドクせ~」


「面倒くさいぜよね」


これまた二人して同じような事を口にする。


「…で」


振り返り、多由也は俺を見て続けた。


「さっきからお前は何してんだ?」


「お祈りを」


即答で答える。


「は?」


怪訝な表情で多由也が口にした。


「まぁ確かに。 膝をついて、両手を合わせそれらしいポーズはしてるぜよが…一体何に祈ってるぜよ?」


「神に決まっているだろう」


「はあ? 君麻呂、神なんて信じてるぜよか?」


「無論だ、神を信じ─」


言い終える前にふと考える。


『神』


奴には今まで何度も裏切られてきた。


何度も、何度も、何度もだ。


そう、俺は神なんてもう信じないと誓った筈ではなかったのか?


なら答えは決まっている。


「信じるわけ無いだろう、馬鹿かお前」


立ち上がり、合わせていた手を解き言う。


「え? でもさっき神にいの─」


「祈りは、亡き父と母にだ」


鬼道丸の言葉を遮り続ける。


「実は今日が命日だったんだ」


「どう考えても嘘ぜよ」


「で、本当のところは何を祈ってたんだ?」


「俺とアイツが対戦できるように」


多由也に視線を移し答える。


「アイツ? あぁあのヤローか」


「下っ端Aが無理となった以上、下っ端Bだけは何としてでもこの手で始末をつけなければ」


そう言い、俺は電光掲示板へと両手をむけた。


「今度は何だ?」


「ウム。念を送っている」


「…あっそ」


そっけない返事が返ってくるが、構わず念を送り続ける。


目を瞑り、一層集中して強い念を。


俺と下っ端Bの名前が出ますように。


俺と下っ端Bの名前が!


俺と下っ端B!!


「君麻呂」


「何だ多由也」


肩で息をしつつ答える。


「良かったな」


「…何!?」


目を開け、電光掲示板へと視線を向ける。


『ツルギ・ミスミ VS タユヤ』


何度見ても、何度目を擦ってみても、電光掲示板に映し出された字が変わる事はなかった。


「多由也~」


唸るように声を上げる。


「お前にはヘンテコな力が無いって分かったんだ、良かっただろ」


俺はその場に崩れ落ちた。















◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

















(どうしようか…)


階段を下りながら独りごちる。


(笛が使えない)


多由也にとってそれが大問題だった。


何故なら、彼女の使用する術には笛が、笛の音が欠かせない。


幻術を使うにも、物質化霊や口寄せした怒鬼を操るにも笛の音が必要となる。


さらに不幸な事に、彼女はクナイや手裏剣といった武器の類は一切持ち歩かない。


(キンにでもクナイ借りるべきだったか?)


こうなると、戦いの手段は限られてくる。


自身がもっとも苦手とする接近戦。


(メンドクせ~) 


大きなため息をつき、最後の一段を下りた。


舞台の中央には、既に対戦相手のツルギが待ち構えている。


早く来いと言わんばかりの形相だが、構わず自分のペースでゆっくりと歩いていく。


(相手は仮にも大蛇丸様の部下)


そう考えれば、何か特殊な能力があると考えて妥当だろう。


(一回戦で戦ってた奴はチャクラ吸引の能力)


間違いなくツルギも特殊な能力を持っているはずだ。


その能力がヨロイと同じチャクラの吸引だとしら接近戦は危険すぎる。


別の能力を有していたとしても、その能力が何か分からない以上、極力接近戦は避けたい。


「多由也、負けんじゃないわよ!!」


キンの声が耳に入る。


「多由也、やっちまえぜよ~!」


鬼道丸だ。


簡単に言う二人に少々怒りを覚えるが、ふと声のしなかった君麻呂が気になり視線を向ける。


「…………」


相変わらず、鬼道丸の隣でうな垂れてる。


(ホント、メンドクせ~) 




























「それでは、第三回戦はじめてください」


試験官が言い終わると同時、ツルギが口を開いた。


「俺はヨロイと違ってガキだろうが女だろうが容赦はしない。はじめに言っておく、俺が技をかけたら最後…必ずギブアップしろ。速攻で」


「あっそ、じゃあ降参」


「ケリをつけてやる?」


予期せぬ多由也の言葉に、思わず語尾を上げてしまうツルギ。


「審判、降参だ」


「……え、あ、はい」


コホン、と咳払いを一つし、


「対戦相手の降参により、勝者ツルギ!」


はぁぁぁ!?


君麻呂と鬼道丸、キンの絶叫する声が聞こえる。


何時の間にか、君麻呂は復活していたようだ。


(ま、大蛇丸様からは勝てとは言われてないから問題は無いだろ…多分)


若干の不安を抱えつつ、つい数分前に下っていた階段を反対に上っていく。


恐らく、上った先にはキンが待ち構えているだろう。


君麻呂や鬼道丸も同じはずだ。


下手をすればつかみかかって来るかもしれない。


「待て」


歩みを止め振り返る。


見下ろせばツルギの姿。


「貴様どういうつもりだ?」


「別に…勝たせてやったんだからそんなのどうでもいいだろ」


「…勝たせてやっただと? その言い方だと」


「黙れクソヤロー。それ以上しゃべんな、クセーんだよ」


「なっ、貴様」


黙れって言ったのが聞こえなかったか?


声を低くして言う。


これだけで十分効果があった様だ。


ツルギは黙り、多由也を見上げている。


その反応に満足し、多由也は反転し階段を一段上った。


「そうだ」


思い出したように多由也が口を開く。


「祈っといた方がいいぜ、本選で君麻呂と当たらないように」




















予想通りなのを喜んでいいのか悲しんでいいのか分からないが、三人が待ち構えていた。


「で」


「どういう事」


「なんぜよ?」


三人で口合わせでもしたのか分からないが、一人一人綺麗に分担してしゃべっている。


「ウチが殺っても良かったのか?」


「は? 何言ってるのよ多由也」


「キンには後で説明する。で、どうなんだ?」


視線を君麻呂へと向ける。


「良いに決まってるぜよ」


「テメーには聞いてねーよ」


「ぜよっ!? 最近こんなのばっかりぜよ


小声で何か言ってるが無視をしておく。


「…そりゃあ俺の手で生きてるのを後悔してるほどの目に合わせてやりたいけど」


「なら、本選で戦えるように今から祈っとけ。今からなら、多少なりとも効果があるかもしれないだろ」


君麻呂は目を大きくして驚いている。


どうやら本選の事は考えていなかったらしい。


「それとも何か? テメーこの予選で負けるつもりか?」


今度は首を大きく横に振って意思表示をしている。


「なら問題ないだろ」


ウンウンと、首がもげるんじゃないか? という勢いで首を縦に振りなおす。


まるで首の部分がバネで出来ている置物のようだ。


「まさか多由也がそこまで考えてるとは、正直驚いたぜよ」


「た、多由也がこんな良い子に育ってくれるなんて、お兄ちゃん嬉しいぞ」


突然泣き出す君麻呂。


しかも何故か頭をナデナデされている。


……





悪い気はしない。悪い気はしないのだが、


「やめんか!!」


恥ずかしい。


「って言うよりお兄ちゃんてなんだ!?」


「多由也、良く分からないけど私のことはお姉ちゃんて」


「呼ばないっ!! というかそのネタはもういい!!」




















あとがき?
君麻呂の対戦相手…
①王道? の一人あまりでそのまま予選通過  ○
②我愛羅との絶対防御対決  ×
③リーとの熱い肉弾戦  △
④その他  ◎
さぁどれでしょう? 
……

②は100%ありません。





[710] 僕の生きる道
Name: ネメ太郎◆f880db45 ID:86707573
Date: 2009/11/12 02:54



第四回戦

我愛羅 VS ロック・リー

はっきり言ってこの二人に当たらなくて良かった。

砂の絶対防御を持つ我愛羅に、禁術の八門遁甲を使用するリー。

どう見ても下忍同士の戦いではなかった。

屍骨脈の使用禁止のままでは、恐らく太刀打ちできなかっただろう。

ちなみに、この戦いを制したのは我愛羅。

原作を覆さない展開だったため、

「鬼道丸、500両な」

この一試合でずいぶん稼がせてもらった。

ありがとう、原作通り進んでくれて。


「にしても、我愛羅とかいう奴の砂の防御。どうぜよ君麻呂?」


「どうって…」


先の戦いを見た限り、あの砂はかなり厄介だ。

自由自在に操れ、思うが侭に形を変える。加えて、リーの攻撃をことごとく防いだあの硬さ。


「お前はどういう答えを期待してるわけ?」


「そうぜよね…例えば『俺の楽勝』みたいな?」


「それは無理」


即答で答える。


「君麻呂にしては、随分弱気ぜよね」


「お前も見ただろ、あの砂。 あれを相手に強気になれるか?」


「俺は無理ぜよね」


胸を張って答える鬼道丸。

そこは威張って言うところじゃないだろうが。


「だから似た様な能力を持ってる君麻呂に聞いたぜよ」


「似てるか?」


「似てるぜよ。 砂と骨、形は違えど防御力に自信のある能力」


まぁ確かにそれは否定しない。


「他には、お互い顔に変なのが付いてる所」


俺の額についてる赤い痣と、我愛羅の目の周りにある隈の事だろう。

能力じゃないだろ! と言う突っ込みをするべきなのか?


「最後に二人とも唯我独尊な所とか。 あ、でもこれは予想ぜよ。 君麻呂はともかく我愛羅ってやつは見た感じで言ってるだけぜよ」


「…………」


とりあえず、無言で鬼道丸をはたき倒した。








「で、何が言いたかったかと言うと」


足元に突っ伏したままの状態で鬼道丸が口を開く。

まぁ、俺が踏みつけているのだから立てない訳だが。


「勝てるぜよか君麻呂?」


予想外のストレートな質問だった。

俺の屍骨脈と我愛羅の砂。

利便性においては我愛羅の砂のほうが上かもしれないが、


「恐らく防御力では俺の勝ちだな」


「防御力……つまり君麻呂の骨のほうが硬いぜよね」


「まぁそうだな」


「硬さでは負けないと」


「多分俺のほうが硬いと思う」


「そこは自信を持って『俺のほうが硬い』と」


「…? よく分からんが俺のほうが硬いぞ」


「貴方たち」


背後からの声に体が震える。

ご丁寧に気配を消してまでこんな事をやる人物は、生憎と一人しか知らない。


硬い硬いって、随分卑猥ね


恐る恐る振り返るが、声の主は案の定の大蛇丸だった。


「何時からそこに?」


「そうね」


しばらく間をおいて、大蛇丸は続ける。


「……『すごく…大きいです…』からかしら」


大蛇丸は今日も変態です。


「言っておきますけど、そんな事一言も─って、うわっ!?」


「ぜよっ!!」


踏みつけていた鬼道丸が勢い良く立ち上がり、バランスを崩す。

不幸なことに、倒れそうになった俺を支えてくれたのは大蛇丸だった。

不気味な笑みを浮かべる大蛇丸に恐怖で体が震える。

身の危険を感じ、すぐさま大蛇丸から離れ文句の一つでも鬼道丸にと思ったのだが、


「どういう事ぜよ!?」


鬼道丸は突然声を荒げた。


「な、なんだよ行き成り?」


あまりの勢いに気おされて一歩下がって聞く。


「何ぜよあれは~!!」


どうやらまともな答えは返ってこないようだ。


「君麻呂、あれ」


そう言って多由也が指差した先を見ると、ナルトとヒナタの姿があった。

傷薬か何かだろう、顔を赤らめながらヒナタがナルトに渡している。

どうやら、第五回戦の試合はナルトの試合だったようだ。

鬼道丸に視線を戻すと、間違いなく鬼道丸もそれを見ていた。

そして納得する。


「「短い恋だったな」」


多由也と共に、鬼道丸の肩に優しく手を置き呟く。


「ぜよっ!?」


お決まりの声を上げて鬼道丸は崩れ落ちた。

見ればその肩は僅かに震えている。


「泣いてるのかお前?」


「な、泣いてなんかないじぇよっ!」


強気に言うが、その声は涙混じりの声だった。

普通なら同情の一つでも誘えたのかもしれないが、残念ながらそのような事は一切ない。

相手が鬼道丸だからだろうか?

涙よりも笑いのほうが優先して出てきてしまう。

不謹慎だと分かってはいても何故か笑いがこみ上げてくるのだ。

ふと多由也を見れば、多由也も口に手を当てて必死に笑いを堪えている。



「鬼道丸、貴方はそれでいいの?」


「ぜよ?」


「好きな人に他の好きな人がいたからって、貴方は簡単に諦めるの?」


「…………」


……明日世界が滅びるんじゃないだろうか?
 
大蛇丸がまともな事を言っている。

鬼道丸も目を丸くして真剣に話を聞いてるし。


「奪い取れ、なんて言わないわ。でも貴方にはまだ出来ることがあるでしょう?」


「出来ること?」


大蛇丸は静かに頷き、その手を鬼道丸の肩に添えた。


「そう、それは貴方にしか見つけられない事」


「……俺にしか……そうぜよ! 俺にはまで出来ることがあるぜよ!!」


こ、告白か!?

玉砕覚悟で告白なのか!?

やばい、かなりワクワクしてきた。

多由也も同じ気持ちなのだろう、目を輝かせて鬼道丸を見ている。


「彼女を見守るという事ぜよ!!」


……え?


「時にはひっそりと物陰から見つめ、時にはこっそりと後をつける。 彼女の動向を常にチェックして、毎日手紙も出すぜよ!!」


いやいやいやいや、それストーカーだから。

立派な犯罪ですから。

鬼道丸に期待した俺が馬鹿だったのか?

こうなったら、大蛇丸が告白まで促すことを期待するしか手はない。


「よく言ったわ鬼道丸!!」


……褒めるところじゃないでしょうが!


「ぜよっ!!」


二人は涙を流しながら熱い抱擁を交わしている。


頭が痛くなってきた。


「何か言ってやれよ多由也」


「…………」


返事は返ってこない。

気になり多由也に視線を移したのだが、多由也は床に突っ伏した姿勢で倒れていた。


「大丈夫か?」


「……あぁ」


鼻頭を押さえながら、のそのそと起き上がる多由也。


とりあえず、他人の振りをするためにその場を一緒に離れた。


「あれって間違ってるよな」


「あぁ」


「多由也、何か言ってやれよ」


「何でウチが、テメーが言えよ」


「無理」


こうして、音の里に新たな変態が生まれたのだった。




























そして第五回戦。



『ヒュウガ・ヒナタ VS ヒュウガ・ネジ』



掲示板に映し出された文字に、誰よりも燃えていたのは鬼道丸だろう。

現に、


「なんで苗字が同じぜよ!! まさかネジとかいうやつは彼女のお兄さんぜよか? だとすれば挨拶に行かなくては、君麻呂、菓子折りを用意するぜよ!!」


「少し落ち着けよお前」


有無を言わさず殴り倒す。


「あの二人は夫婦だ」


全くの出鱈目を言う。


「ぜよっ!!」


それを間に受け崩れ落ちる鬼道丸。


「ふ、夫婦……どういうことぜよ、彼女はナルトとか言う奴に気があるんじゃ?」


「見てみろよ、鬼道丸」


指差す先には白眼を発動させているネジの姿。

相手のヒナタは脅えているように見える。

ネジが話すたび、ヒナタはその小さな体を震わせているのだ。

何を話しているのか気になるところだが、流石に俺たちのいる場所まではその声は聞こえてこない。


出来る!!


突如、意味不明な事をナルトが声を荒げる。

ナルトのいる場所では二人の声が聞こえたのだろう。


「人のこと勝手に決めつけんなバーカ! ンな奴やってやれ、ヒナタ!!」


声が届いたのか、程なくしてヒナタの震えは止まった。

白眼を発動させ、ヒナタは構える。


「……そ、そういう事ぜよか……分かってしまったぜよ君麻呂。 恐らく二人は親の決めた許婚同士。 でも彼女の心はネジではなくナルトに向いたまま。 そして、嫉妬に狂ったネジはついに暴力に手を出しヒナタちゃんはそれに脅える毎日。 昼ドラも真っ青なドロドロの愛の三角関係……ということは、俺にもまだチャンスが。ドロドロの四角関係の始まりぜよね」


なんとも想像力豊かな奴だ。


「鬼道丸、残念なお知らせだけどあの二人夫婦じゃないわよ」


見かねたのか大蛇丸が口を出す。


「ぜよ!?」


「親戚同士よ、あの二人」


「だ、騙したぜよね君麻呂!!」


「騙される方が悪い」


掴みかかって来た鬼道丸をヒョイとかわす。

二、三度そのやり取りを繰り返した後、試合を見ていた多由也が口を開いた。


「白眼て一体どんな能力なんですか?」


「そうね、白眼はほぼ全方位を見渡すことの出来る視野に、数百メートル先を見通す視力。物体の透視や、幻術や瞳術による洗脳を見破る力に長けている瞳術よ」


「物体の透視?」


思わず聞き返す。


「そうよ」


答えは変わらない。


「鬼道丸、物体の透視だってさ」


「物体の透視ぜよか、君麻呂」


「物体の透視って事はアレだよな」


「アレぜよね」


俺たちは合わせるように深く息を吐いた。

そして吐いた以上の息を吸い込み、


「「白眼って服が透けて見えるって事!?」」


しばらくの間を置き、


「「「きゃーーーーっ!!」」」


俺たち以上の大声で、くの一たちの悲鳴が響き渡った。


「い、今分かったぜよ。ヒナタちゃんがいつもモジモジしていたのは視えていたからぜよね。 クソッ、あのネジとか言う奴も済ました顔して大勢のくの一の裸を。しかーしこの鬼道丸、人様に見られて恥ずかしいような物は持っていない!! 得と見るぜよヒナタちゃん」


鬼道丸は手摺りにのぼり、仁王立ちの状態で構えていた。

間違いなくアイツは変態の階段を上っている。

悲鳴を上げたくの一達はと言うと、全員同じように誰かの後ろに隠れていた。

多由也も例外ではなく俺の後ろに隠れてる。

正直、白眼で透けて見えているとしたら人の後ろに隠れたとしても無駄なような気もするが、そんな事を考える余裕は無いようだ。


「なんていうかオマル様、右目に写輪眼、左目に白眼なんて人間がいたら最強ですよね」


「…………」


大蛇丸は目を見開き、驚きを隠せない様子で此方を見ていた。


「……盲点だったわ、貴方天才ね君麻呂……でもそんな事可能かしら……いやでも出来ない事は……」


ブツブツと呟き、自分の世界に入ってしまった大蛇丸。


オマル様と言った事に叱責を受けなかったのはいいが、大蛇丸がああなった以上、誰がこの状況を止めるのだろう?











ちなみに、この騒動が静まるのには十分近くの時間を要し一人の犠牲者を出した。

言うまでも無く犠牲者とは鬼道丸だが。

中断していた試合も再開している。


「君麻呂、何で俺だけ殴られたぜよか?」


その試合を見ながら鬼道丸は口にした。


「人徳の差だろ」


試合を見ながら答えを返す。


「だったら間違いぜよね。君麻呂に─」


唐突に鬼道丸の口が止まった。


「? どうした?」


鬼道丸はじっと試合を見ている。


俺も試合からは視線ははずさなかったが、おかしなところは無かったはずだ。

ネジの一撃がヒナタの胸に入り、ヒナタが血を吐いた。俺たちの会話の間に起こった事はただそれだけだ。

別段驚く事でもない。 力の差を考えれば当然の出来事なのだ。

なのにコイツときたら、


「君麻呂、今とてつもなくすごい事に気付いたぜよ」


「どうせ下らないことだろ」


「下らなくないぜよ。今のヒナタちゃんをみて考えたぜよ」


すごくどうでもいい様な事の気がするが、聞くだけ聞いといてやろう。もし下らない事なら聞き流せばいい。


「で、何?」


「今のところ試合を控えてるのは11人ぜよ」


「それがどうした?」


「ここからが重要ぜよ、11人のうち、くの一が5人。 俺と君麻呂は同じ班だから、この試験で戦うのはほぼ無しと考えていいぜよ。 もうここまで言えば分かってると思うぜよが、かなりの確率でくの一と戦う事になる計算になるぜよ」


「まぁそういう事になるな」


「つまり、先ほどのネジみたいに攻撃と見せかけて胸にタッチなんて事も……」


こ、こいつは懲りてないのか?

大蛇丸と多由也にボコボコにされていると言うのに、まだそんな事を考えれるとは。


「鬼道丸、お前は天才だよ」


「言うな、照れるぜよ」


俺たちは手を取り合い微笑みあった。

これから来るべき時を夢見て。


「あのクソヤロー共、また何か考えてるな」


「……もうほっときなさい多由也」


げんなりとした感じで大蛇丸は呻いた。

無理も無い。

先ほどの騒動で、いろんな人たちに謝っていたのだから。












ネジの勝利で終えた第五回戦。

電光掲示板には第六回戦の組み合わせが発表されようとしていた。


「いよいよだな」


「ぜよね」


しばらくして、電光掲示板は二つの名を映した。





『キミマロ VS キドウマル』





「「え?」」


二人して同じように目を擦り見直す。

薄目で見ても、大きく開いてもその字は変わる事は無かった。


「「何ぃぃぃぃっ!?」」











[710] 僕の生きる道
Name: ネメ太郎◆f880db45 ID:a7c1d9e0
Date: 2011/01/16 22:09


謀られた。

絶対に謀られた。

電光掲示板を見ての率直な意見がそれだった。


「最悪ぜよ」


そう呟き、鬼道丸は手を突いて項垂れている。

俺との組み合わせが発表される前まであんなに楽しそうにしていたというのに、たった一瞬でこの様だ。

哀れすぎてかける言葉さえ見つからない。

とりあえず、鬼道丸の事は後だ。問題は、


「オマル様……」


疑いの眼差しを向ける。


「言っておくけど、私じゃないからね。 さっきも言った様に、私は電光掲示板を操作したり出来ないから」


此方を見ることなく大蛇丸は返してきた。

うそ臭い。確か、人は嘘をつくとき視線がどーたらこーたらって話があったはずだ。

回り込んで、大蛇丸の前に立ち口を開く。


「本当ですか?」


「疑われるなんて心外ね。私が貴方に嘘をついたことがあって?」


「今まで何度もあったんですけど」


呟くが、大蛇丸の耳には届かなかったようだ。


「大体、貴方たちを戦わせるメリットなんて私にはないわ」


「……確かにそうですけど」


大蛇丸の言ってることは正論だ。

ここで鬼道丸と戦っても、それが大蛇丸のメリットにつながるとは考えにくい。

腑に落ちないが、この組み合わせは偶然と納得するしかないのだろう。


「まぁ、誰かが操作したのは間違いないでしょうけどね」


「……は?」


思わず声を上げてしまう。


「そんなに驚くことかしら?」


「いや、だってさっき」


「あら、私は操作できないって言っただけよ」


目を輝かせ、満面の笑みを浮かべる大蛇丸。

まるで悪戯が成功した子供のようだが……はっきり言って気持ち悪い。


「と言っても、アレを操作できる人間なんて火影ぐらいなものよ」


「……火影?」

 
聞き返す言葉に、大蛇丸は頷く。


「逆にこの組み合わせが偶然って事は?」


「ないわね」


きっぱりと断言された。

それだけの理由が大蛇丸にはあるという事だろう。


「そういう試験なのよ」


「…………」


特になかったらしい。


「な、何よその目は!? 理由ならちゃんとあるわよ、聞きたいの?」


「いや別に……それで、俺たちを戦わせるメリットが火影には?」


「さぁ? そこまでは分からないわ。 ただ、多少なりとも貴方達を危険と感じたからじゃない?」


「危険、ですか?」


「ええ」

 
うなずき、大蛇丸は多由也の方を一瞥し続けた。


「あなた達をこの試験に送り込んだのは、木ノ葉を抜けたS級犯罪者の大蛇丸様なんですから」


お決まりの笑みを浮かべる大蛇丸。

自分に様付けとは、これも自画自賛と言うのだろうか?


「要するに、S級犯罪者の大蛇丸様のおかげで俺と鬼道丸は戦うことになったと。そういう事ですねオマル様?」

 
ため息交じりに口にした。


「随分トゲのある言い方に聞こえるけど、まぁそういう事ね。 それよりも君麻呂、早く行かないと貴方失格になるわよ。鬼道丸も待ってるみたいだし」


「へ? 鬼道丸だったらそこに─」


と、言いかけて言葉をとめる。

つい先ほどまで鬼道丸が項垂れていた場所に目をやるが、いつの間にかその姿はない。

身を乗り出し下の闘技場に目をやると、大蛇丸の言葉どうりに鬼道丸の姿を見つけた。


「何時の間に?」


「ほら、早くしないと本当に失格になるわよ」


言うや否や、大蛇丸は俺の首根っこを捕まえ階段へと歩き出した。


「あの~オマル様? 早くするなら飛び降りて下に行ったほうが良い気がするんですが?」


うめくが、聞こえた様子はない。

大蛇丸の歩みは止まらず、

階段の段差の振動で舌を噛まない様気をつけていると、程なくして大蛇丸の手は解かれた。

場所は踊り場。

上からも下からも人の視線が届かない場所だった。


「何なんです一体?」


若干身構えながら口にする。


「貴方、武器になるようなものは持ってるの?」

 
唐突な質問に戸惑ったが、少し考えた後口にした。


「……持ってないです」


クナイや手裏剣といった、忍びにとって一般的な武器は生憎と今は所持していない。

基本そういった忍具の類は、屍骨脈で十分すぎるほど代用できるからだ。


「はー……やっぱりね」


大きなため息をつく大蛇丸。


「まぁ屍骨脈を有する貴方ならそれで仕方ないのかもしれないけど、どうするつもり?」


「どうするって言われても─」


「屍骨脈、使っちゃいけないの覚えてるわよね?」


「……素手で」


目を逸らし、搾り出すように答えた。


「信用できないわね、ちょっと待ってなさい」


呆れた顔を此方に見せ、何故か素早い動作で印を結んだ。

それは今まで見たことの無い印。

なんとはなしにだが、嫌な予感がよぎる。

逃げ出すべきかどうか考えているうちに、残念ながら印は完成したようだ。

印を結び終わった大蛇丸の右手は、不気味な淡い光に包まれている。


「あの、それは─」


言い終える前に、その右手は俺の額に触れた。

刹那。

何とも言えぬ痛みが全身を駆け巡った。

その痛みに反応し、反射的にまぶたを閉じてしまう。

痛みは一瞬の事だったが、代りに全身には何とも言えぬ違和感が残される。

ゆっくりと目を開き、見える範囲で全身を確認した。

……違和感の原因になる様な傷はどこにも見つからない。

次に、体を動かし違和感の正体となる物を探ってみるが、結局は分からずじまいだった。


「何したんです?」


怒気をこめて言う。


「外道の印・封よ」


ヒラヒラと右手を振りながら大蛇丸は答えた。

その手からは、先ほどまで確認できていた光は消えている。


「外道の印?」


聞いた事の無い術だ。


「一体何なんですそれは?」


「血継限界を封じる物よ、まぁ多少手は加えたけどね」


「……は?」


思わず口からこぼれた。

ちょっと待て、血継限界を封じる?

それってつまり、


「…………」


必死に骨を取り出そうとするが、肩甲骨、大腿骨、肋骨、背骨、その他もろもろの骨は全く出てこようとする気配はない。


「テイ」

 
情けない声を出しつつも、十指穿弾を出そうと手を振り上げる。

手は虚しく空を切るだけだった。


「……何の嫌がらせですか!?」


声を荒げて言う。


「アラ、嫌がらせなんてとんでもない。念の為にやっただけよ、貴方が鬼道丸相手に屍骨脈を使わないようにね」


言い終え、一息つき大蛇丸は続ける。


「それにね、屍骨脈の恩恵を受けてる貴方は、自分で意識して無くても全身の骨が強化されてるのよ」


これは初耳だった。

知らず知らずのうちに骨を強化していたなんて。

つまり、この全身の全身の違和感は恐らく、骨の強化が無くなったせいなのだろう。

しかし、屍骨脈の使えない俺って……

火遁や水遁といった忍術は使えない。

クナイや手裏剣といった武器の類も所持してない。

残るは体術のみだが、それさえも屍骨脈ありきで使用している。


「鬼道丸相手にはいいハンデね」


親指を立てて口にする大蛇丸。

ハンデを通り越して大ピンチだと思うのだが。

まぁ、いざとなれば口寄せでも使って蛇にでも倒してもらえばいいだろう。


「そういえば─」


ふと先ほどの大蛇丸の言葉を思い出し、


「多少手を加えたって言ってましたけど、大丈夫なんですか?」


「大丈夫よ!」


何故か自信たっぷりに大蛇丸は答えた。


「木ノ葉に禁術として封印されてきたものに手を加えたのよ。 
 実際これを人に使うのは四半世紀ぶりの様な気がしないでもないけど、四半世紀って何故かすごい年月を感じる言い方よね。 
 とりあえず、いきなり今までの力を封じられて戸惑うことも多々あると思うけど大丈夫よ!
 私の女性的な部分のカンがそう言ってるわ!」


「最終的にカンですか?」


突っ込みどころが満載だったが、とりあえず最後だけ突っ込んでおく。


「長年の経験でもいいわよ」


これ以上無いほどの不安が襲ってきた。

分身の術を使い、一人では見れなかった背中とかも確認すべく印を結び術を発動させる。


「……何これ?」


「……何よそれ?」


ほぼ同時に口に出す。


「印、間違ってました?」


「間違って無かったわよ」


「…………」


「…………」



二人してソレを見つめる。

分身の術で出たソレを。

大きさ的には俺より二周りほど小く、若干横に幅を取っている。

この時点で分身の術は失敗と言っっていいだろうが、まだ大きな問題があった。

全体が小学生低学年の書いた絵のようにしか見えないということだ。


「何というか、斬新なデザインよね」


口に手を当て、笑いをこらえながら大蛇丸は口にした。


「失敗の原因は?」


自分で出した分身だったはずの物体を蹴り飛ばし消す。


「印は問題なかったわ、恐らくチャクラの問題ね」


「原因は、さっきの外道の印で良いんですよね?」


怒りで頬を引きつらせながら言う。


「……もう行くわね」


背を向けて歩き出すが、今度は俺が大蛇丸の首を掴む番だった。


「何処行くんです?」


「い、嫌ねぇ。上で観戦するに決まってるじゃない」


「この術、解いてから行ってくれません?」


解除の印忘れちゃった


「は!?」



聞こえず、大蛇丸を掴んでいた手に力を込める。

「解除の印忘れちゃった。テヘ♪」



先ほどより、幾分か声を大きくして答えた。

右手を頭に当て、おどけたポーズつきだったが。


あ、アホかぁぁぁ!!



頭がもげるほどの勢いで大蛇丸を揺さぶる。


「お、落ち着きなさい君麻呂! こ、これ使っていいから」



そう言うと、大蛇丸は結構な振動の中にもかかわらず器用に剣を腰から外し手に取った。


「それは?」



首から手を外し聞く。


「草薙の剣の一振りよ。名は火之迦具土神(ひのかぐつち)、好きに使いなさい」


息を整えながら言い、剣を此方に差し出した。

今までの経緯から受け取るのに躊躇するが、このままの状態で戦うとなると武器は必須となってくる。

普段大蛇丸が使ってるのとは別の剣だと思うが、差し出されたのも草薙の剣。

普通の武器よりも何倍、何十倍も上等な武器だろう。

迷ってる場合ではない。


「遠慮なく貰っときます」


「いや、誰もあげるなんて……」



半ば強引に受け取った。

途端。



ダダ、ダダ、ダダ、ダダ、ダーダン



何処からとも無く音が聞こえた。

どこか懐かしく、それでいて悲しみと絶望が同時にやってくるような音楽が。

そうこれは、


「ドラ○エ!」


間違いない。

セーブデータが消えたときや、呪いの装備を装着したときの音楽だ。

……呪いの装備?

え、何これ呪われてるの?


「き、教会はどこだー!」


「あほな事言ってないで、さっさと行きなさい! 本当に失格になるわよ」



失格、それだけは避けなければならない。

不戦勝とはいえ、鬼道丸に負けるのだけはいただけない。

鞘に納まった剣を腰に挿し、階段を下りようとして、

「そういえばオマル様、結構大きな声とか出してたけど大丈夫なんですか?」



ふと思ったことを口にした。

「大丈夫よ、前もって結界張っておいたから」


それだけ用意周到で、解除の印を忘れるってどうよ?







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「随分遅かったぜよね、君麻呂」

「……色々あってな。大体、何が悲しくて今さらお前なんかと」

「その言葉、そっくりそのまま返すぜよ」

心底嫌そうな顔で鬼道丸が言う。

「お前が胸タッチ作戦なんて思いつくからこうなるんだよ」

「君麻呂も乗り気だったぜよ」

「ぐっ……大体、好きな子が戦って血を流してるっていうのにアホな作戦なんて考えんなよ」

「君麻呂、こういう言葉があるぜよ」

鬼道丸は得意げに胸を張った。

「未来のパイより目先のパイぜよ」

「ねーよそんな言葉!!」

即座に切り捨てる。

「ゴホッ。 あの、そろそろ試合を始めるから私語は慎むように」



[710] 僕の
Name: ネメ太郎◆f880db45 ID:89f4e3fa
Date: 2011/01/30 01:44


見慣れた天井。

見慣れた壁に、見慣れた家具やカーテン。

間違いなくここは、

「……俺の部屋」

声に出して意味の無い確認をし、寝ていたベッドから体を起こす。

寝すぎたせいだろうか、頭がひどく重い。

「最悪……」

額に手を当てて、項垂れる。

壁に掛けてある時計を確認すると、長針は6、短針は12を過ぎたところを指していた。

カーテンの隙間から差し込む光からして、夜という事は無い。

とすれば、時刻は丁度お昼時。

「……腹減ったな」














「で、君たちは人の家で何してるわけ?」

食料を求めて、リビングのドアを開ければ見慣れた顔が二つ。

「あ、お邪魔してます」

律儀に頭を下げるキンと、

「寝すぎだ、馬鹿」

相変わらず、口の悪い多由也。

「答えになってない」

冷蔵庫を開けながら口にする。

「大蛇丸様の命令」

「大蛇丸様?」

不快感を前面に出し返す。

大蛇丸。寝起き一時間は聞きたくない名前だ。

「君麻呂が起きたら連れてこいだとよ」

「なんで?」

とりあえず、開けっ放しの冷蔵庫からジュースを取り出し、コップに注いで口をつける。

「ウチが知るわけ無いだろ」

「どうして?」

「私もそこまでは聞いてないから」

「そうか……」

半分ほど減ったジュースを一気に飲み干し、

「拒否」

確固たる決意を胸に言い放つ。

大蛇丸の呼び出しなんて、ろくな事が無い。

それだけは断言できる。

「じゃあ、そう言う事でおやすみ」

空になったコップを流しに置き、先ほどまで寝ていた部屋に戻る。

「どこ行く気だ?」

事はできなかった。

いつの間にか背後に回った多由也が、尋常じゃない程の力で首根っこを掴む。

「ウチらの話し聞いてたな?」

「聞いてました。だから、俺はまだ寝ていると言うことにして大蛇丸様に報告しておいてください」

「却下」

「何で!?」

「君麻呂君、仕方が無いけど大蛇丸様の命令だから」

少し離れたところからキンが。

「あきらめろ君麻呂」

諭すように多由也が。

「クソッ。権力の前ではすべてが無力と言うことか」

「それ微妙に違うだろ」

「冷静になれ多由也、キン。お前たちは大蛇丸様に騙されてるだけだ」

ちなみにだが、未だに首は掴まれたままである。

「あんな変態に、世紀の変態に従う必要なんて無いんだ」

「あら、言ってくれるじゃないの君麻呂」

「と、鬼道丸が以前言ってるのを思い出した分けなんだが……大蛇丸様、いつからそこに?」

いつの間にか現れた大蛇丸。

ドアの開く気配はまったく無かったはず。

「ついさっきよ」

「あの、大蛇丸様はなんで此方に?」

気になったのか、キンが質問をする。

「あなたたちが遅かったからよ」

「それは、君麻呂君が今まで寝ていて」

「さっさと起こせばよかったじゃない。四時間も何やってたのよ」

「多由也が起こすのは可愛そうだからって」

「ちょっ!! キンてめー!!」

「なるほどね、それなら仕方ないわ。それよりも多由也、いい加減にしないと君麻呂死ぬわよ」










薄暗い部屋。

少し重たい空気。

読むのもためらうような難しい本が並んでる本棚。

何度も訪れているが、この執務室の雰囲気はだけはずっと好きになれないでいる。

「それで、体の調子はどうなのかしら?」

「首が痛いです」

「そうでしょうね」

大蛇丸はあっさりとうなずいた。

「さっき謝っただろうが!」

少し離れたところから声を荒げる多由也。

キンと一緒にお茶を入れている最中だ。

「部下の言葉遣いが悪くて心も痛いです」

「奇遇ね。誰とは言わないけど、私も時々誰かさんのせいで胃が痛くなるわ。フフフ」

半眼で言う大蛇丸。

「鬼道丸のやつですか、大変ですね大蛇丸様も。ハハハ」

「ウフフフ」

「ハッハハ」

感情のこもってない二つの笑い声が部屋を支配していく。

「ね、ねぇ多由也。あの二人大丈夫なの?」

「いつもの事だよ。気にするな」

若干おびえた様子のキンと、慣れた様子の多由也。

結局、お茶が届くまでの間、二人の笑いがとまることは無かった。




「まぁ、四日間寝続けてそれだけ元気なら問題ないわね。それと、もう気づいてると思うけど、あなたが寝ている間に外道の印は解除しておいたから」

「…………は?」

「外道の印なくなってるのに気づいてなかったの」

あきれた様に大蛇丸が言う。

確かに、外道の印が使われたときの不快感と言うか、そういったものは全く無くなっている。

だがそれよりも問題は、

「四日間?」

「そうよ、鬼道丸の毒蜘蛛に噛まれてね。結構危険だったんだから……覚えてないの?」

頷いて答える。

「もしかして試合の内容も?」

これも同じように頷いて答える。

よくよく思い出そうとしても、審判の開始の合図までしか思い出せない。

ポッカリと試合の内容だけが消えているのだ。

「大蛇丸様、君麻呂の記憶。もしかして毒のせいですか?」

普段見せることの無い、心配そうな表情を浮かべて多由也が口にする。

「恐らくそれは無いと思うわ。この場合毒のせいというより、嫌な記憶を自分から消した。と言った方が良いのかもしれないわね」

ちょっと待て。

大蛇丸のその言い方。

その言い方はまるで、

「君麻呂。あなた鬼道丸に負けたのよ」

真実は残酷だ。






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