「甘いぜよ、君麻呂!!」
繰り出されたパンチをバックステップでかわし、こちらに牽制の糸を出しながら言ってきた。
「その台詞、そのまま返してやる鬼童丸」
俺は糸をかわしながら近づき、頃合をみて一気にダッシュをして距離を詰める。
上段キック、中段パンチ、下段キックと連続で繰り出したが、その攻撃はすべてガードされてしう。
鬼童丸はこの距離での戦いが得意ではないのだろう。さきほどから防戦一方になっている。
どうにかガードをこじ開けようとし、俺は鬼童丸の腕をとり、一本背負いの要領で投げた。
追い討ちをかけようとしたが、それは無理だった。鬼童丸は受身を取り、距離が開いてしまったのだ。
すかさず鬼童丸は糸を放ってきた。
俺はその糸をかわすためにジャンプして空中に飛び上がった。
その時、鬼童丸は不適に笑った。
「だから甘いって言ってるぜよ!!」
鬼童丸はよんでいたのだろう。俺が飛び上がるということを。
完全に見下した言い方で、糸を
指から出しながら鬼童丸は言ってきた。
少しずつ迫りくる糸。空中にいる俺にその糸をかわす術はない。
糸で包まれた俺はそのまま地面に叩き付けられてしまう。
なんとか抜け出そうともがいてみたが、糸は解ける気配はない。
「終わりぜよ君麻呂!!」
地面に叩きつけられる瞬間、鬼童丸の
必殺技が俺を捕えた。
俺は負けた……
1P Spider-LadyWin 「だあぁぁ! また負けた!!」
テレビ画面には 1P 28連勝と出ていた。
そう、今俺たちはゲームをしていた。テレビゲームを。
長年NARUTOという漫画の世界にいるが、最近になってこの世界がいまいち分からなくなってきた…
忍者の話なのに、テレビやテレビゲーム機、その他にも無線機やクーラーといったハイテク? な機械がある。
まぁ、そのおかげで久し振りにテレビゲームなんて出来てるわけだが…
それにしたって、28連敗なんて……
「やってられるか!!」
そう言って俺はコントローラを鬼童丸に向かって投げつけた。
ちなみにこのゲーム機は鬼童丸のものだ。
コントローラは鬼童丸の頭に当たり、少し涙目になっている。
「なにするぜよ!! 壊れたら弁償してもらうぜよっ!!」
「うるせぇ! 俺はこのゲームやるの初めてなんだ。少しは手加減しろ!」
「手加減ぜよか… フッフッフ 良いぜよ、良いぜよ。そこまで言うなら手加減してやるぜよ」
ムカツク笑いかただ。それに偉そうな態度も…
「っ!! 大体お前、腕が六本ある時点で反則だろ!!」
「う、腕の数は関係ないぜよ! ゲームのときは二本しか使ってないし… はは~ん。さては負け惜しみぜよか~ き・み・ま・ろ?」
な、なんてムカつく奴なんだ…
このこみ上げてくる感情…あぁ、これが殺意というやつか…
十指穿弾で頭に穴でも開けてやろうか…そう思い腕を鬼童丸のほうに向けた。
鬼童丸はウンウン頷きながら、「しょうがないぜよ」とか言ってやがる…
「ウルセー! このクソチンどもが…ウチは寝てるんだ、静かにしやがれ!」
術を発動させようとした時、不意にそんな怒鳴り声が隣から聞こえた。
この口の悪さは多由也だ…
言い忘れたが今俺の部屋には五人衆全員が集まっている。俺と鬼童丸はゲーム。多由也は昼寝。左近は読書。次郎坊は皆の飯作り。と次郎坊以外はやりたい事をやっている。
五人全員集まっている理由は簡単だ。俺の部屋だけが冷房完備となってるからだ。
季節は夏。皆涼しい部屋がいいのだろう。
もう一つの理由としては、ただ飯が食えるからだろう…まぁ作っているのは次郎坊だが。
話を戻すが、多由也は寝起きのせいで普段よりも機嫌が悪いらしい。
でも、今の俺にとって多由也の機嫌なんかどうでもいい…そんなこと事よりも鬼童丸だ。
この鬼童丸に対してのムカツキ、是非とも多由也にも味わってもらわねば…
フフフ 今の俺はきっと大蛇丸と同じ笑いが出来てるはずだ。
「というわけで多由也、選手交代だ。お前が鬼童丸と対戦しろ」
「は!? なんでウチがそんな事しなきゃいけねーんだ!」
「そう……次郎坊~ 多由也飯いらないって~」
飯で釣れるか分からなかったが、効果はてきめんだったようだ。
「ちっ…やればいいんだろーが、やれば! さっさと貸せ」
そう言って鬼童丸の手からコントローラを奪い取った。
……
…
一分後
1P Spider-Lady
Win
Perfect
テレビ画面にはその文字が映し出されていた。
多由也は少しイラついてるようだ。
……
…
五分後
画面にはまたPerfectの文字が…
多由也の怒りは頂点に達したらしい。――メキッバキッという音をたてコントローラが多由也の手の中で粉々になっていた。
「な、なにするぜよー! ヘブッ」
多由也がコントローラの残骸を投げつけた。そして、それは見事に鬼童丸に当たった。
「黙れ! このゲスチンヤローが。 大体これがムカつくんだよ!!」
そう言って多由也はゲーム機の破壊にかかった。
「やめるぜよ、そ、それだけはやめるぜよー」
ゲーム機を踏みつけようとしていた多由也の足にすがり付きながら鬼童丸は言った。
少し離れていたところでそのやり取りを見ていた俺には、それはドラマの一場面に見えてきた。
というか、鬼童丸泣きながらゲーム機の命乞いしてるし…
………
……
…
で、今俺たちは次郎坊の作った飯を食べてるわけだが…その席に鬼童丸の姿はなかった。
ゲーム機を守った変わりに、鬼童丸自身がボコボコにやられたらしい。ゲーム機に覆い被さるような形で倒れている。時々ピクピクと動いてるから死んではいないだろう。
食事も終わり一服しているとき、俺はある事を思い出し皆に聞いた。
「そういえば、大蛇丸様に呼ばれていたんだが、俺以外に呼ばれた奴いるか?」
「君麻呂も? ウチも呼ばれてるけど」
「俺も呼ばれてる」
「俺もだ」
どうやら全員呼ばれてるらしい。
鬼童丸から返事はなかったが、この様子じゃあいつも呼ばれているだろう。
「じゃあ行くか」
「どっこいしょ」と言いながら立ち上がったら、多由也から「爺クセー」と言われてしまった。
「で、鬼童丸どうする?」
「そんなゲスチンヤローほっとこうぜ」
「多由也、女がそんな言葉を使うんじゃない」
次郎坊が言った。
「うるせークソデブ! クセーからしゃべんな!!」
多由也が言い返す。
この二人はいつもこうだった。
次郎坊の性格上、多由也の言葉づかいが気になるのだろう。
売り言葉に買い言葉、でいいのだろうか? 二人は同じようなことを繰り返し言い合っていた。
「さっさと行こうぜ」
部屋の出口で、我関せずといった様子で二人のやり取りを見ていた左近が口を開いた。
「そうそう、早く行こう。 というわけで次郎坊、鬼童丸を連れて行って」
俺の言葉に次郎坊は頷き、鬼童丸を担いで出口の方に向かった。
「多由也も早く行くぞ」
「ウルセー 言われなくっても分かってる!」
どうやら次郎坊とのやり取りで機嫌が悪くなったらしい。
こういう時はあの言葉に限る。
「多由也、怒ると可愛い顔台無しだぞ」
そう言うと、見る見るうちに多由也の顔は赤くなってしまった。
「ウ、ウルセー!!」
大蛇丸から教えてもらったんだが、いつもこの言葉を言うと多由也はそれ以上何も言わなくなる。
多由也も静かになり、俺達は大蛇丸の元に向かう事にした。
コンコンとドアをノックすると中から「入りなさい」と大蛇丸の声が聞こえた。
「失礼します」
そう言い、俺が先頭で部屋の中に入った。
当たり前だが部屋の中には大蛇丸一人。
「任務か何かですか?」
左近が言った。
「違うわ…まぁ似たような事だけどね…あなた達五人衆、来週からアカデミーに通ってもらうから」
「…は?」
それは俺達全員の声だった。
「アカデミーですか…?」
「そうアカデミーよ…ちなみにもう編入手続きはしておいたから…」
なんというか、いくらなんでも突然過ぎるだろ…
それに、拒否権すら俺達にはないらしい…
「そういえば大蛇丸様、音の五人衆って言うけど、六人衆の間違えじゃないですか?」
「…え?」
「だって、俺に多由也、次郎坊に鬼童丸、左近に右近で六人じゃないですか」
………
……
…
「書類整理でもしようかしらね…」
「大蛇丸様手伝います」
「夕飯でも作るか」
「ゲームでもやるぜよ」
そう言って各々行動に移った。
唯一反応の無かった多由也を見たが目を合わせてくれなかった…
どうやらさっきの問題は気にしてはいけない事だったらしい…