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[715] 『 死神 の 涙 』
Name: 夜兎
Date: 2005/06/12 05:54
『 死神 の 涙―序章 』
闇夜に舞い降りる死神


死神は舞う


舞う

舞う


指先から繰り出されるは糸。糸は自由自在に、まるで意思を持っているかの如く動き敵を屠っていく。
そして、死神の通り過ぎた後に残るものは・・
――――――物言わぬ、骸のみ・・・・



[715] Re:『 死神 の 涙 』第一話
Name: 夜兎
Date: 2005/06/12 05:55
木の葉に忍び込もうとしていた他里の忍を始末した黒い影。


その影は付けていた面を、そっと外した。


そこから現れたのは、冷たい光を帯びた―――美しい、蒼の双眸。


その瞳は冷たくも恐ろしい冷酷な光を宿していた。
「・・馬鹿な奴ら・・・」


ポツリと呟かれた言葉は、<火の森>に、溶けて消えた。

その言葉には、蔑みと憐憫、そしてわずかな悲しみともつかぬ情が籠められていた。

影は徐に骸へ手を翳すと、その手を軽く振るった。

―――すると。骸は青白い炎に包まれ、後には何もなかったかのように・・跡形もなく、消えた。


そこにあるのは、いつも通りの森だけだった。
『 死神 の 涙―壱 』
「・・鼠・・・か。」


火の森にわずかな気配を感じたナルトは、侵入者を始末するため、いつものようにすぐさま森へと向かった。

そこに居たのは、他里の者と思われる数人の忍達だった。

 どうせ木の葉から情報を盗もうとしてるんだろ・・。最近、周りがざわついてるからなぁ。

ナルトは彼らが潜んでいる場所に、気配も音もなく近づき、紡ぎ糸〈チャクラで物質化した糸〉を使って瞬く間に敵を一掃した。

彼らは、自分たちが殺されたことにも気付かずに崩れ落ちていく。脆くも、呆気ない終りだった。

そして。それらが跡形もなく燃え尽きるのを、黒い影・・いや――ナルトは、ただ黙って見つめていた。
――――その時、ふと感じた気配。


(ちッ・・・・面を外すんじゃなかった。木の葉だからと思って油断したな。めんどくさいけど・・素顔を見られた以上、殺すしかないよなぁ・・・。)

顔を見られたからには放っておく訳にも行かず、ナルトは仕方なしに気配の方を振り向いた。
「・・・・・誰だ。」


軽く殺気を放ち、誰何を問う。

ナルトの問い掛けに、気配が揺らいだ。

まるで出るべきかを迷っているかのように・・・

ナルトは再度問いかける。


「もう一度聞く。誰だ?」


答えはない。


しかし、どうやらこの気配は見知ったもののようだった。

 ??知り合いか・・・?

ナルトはおぼろげな記憶を辿る。そして、答えを見つけた。


「・・・・・この気配は・・日向ネジ、か。」


名前を言い当てられたのに観念したのか気配の主、ネジは隠れていた繁みから姿を現した。

驚愕に目を見開いて、こちらを凝視するネジ。

「・・・ぉ、前は・・ナ・・ルト?」

疑問系に呟かれた言葉に、ナルトは低く哂う。

「くくッ・・・それ以外に、お前の目にはどう見える?」

「ッ・・だが!!しかしナルトはっ・・・」

ネジの言いたいことが、ナルトにはハッキリと分かった。

「ドベで落ちこぼれの役立たず?」

どうせネジが考えているだろうことを、そのまま言ってやった。

「・・そのはず、だ。」

思っていたことをそっくり返され、ネジは弱々しげに答える。

「それが演技だとも知らず・・馬鹿な奴ら。」

「・・・・・」

ナルトの馬鹿にしたような台詞に、ネジは何も答えられない。騙される方が馬鹿なのだ。自分より下だと思っていた少年が、実は自分以上の力を持っていたことに唇をかみ締める。

悔しげに唇をかみ締めるネジを、ナルトは冷たい眼で見つめていた。

「・・ふん、まあいい。さて・・・お前・・どうしようか?何といっても日向だし、殺すのはまずいか・・・・。うん!やっぱり、ここは記憶隠蔽ってことにしておくかな☆」

(まぁ、これが妥当な線だろう。なにより、日向とはまったくの無関係ともいえないしなぁ・・。)

暢気にそんな事を考えるナルト。しかし、ネジにしたらたまったものじゃない。物騒な事を、さも楽しげに言うナルトに、ギョッとして俯けていた顔を勢いよく上げた。


そしてふと目に入ったのは、暗部でも珍しい。
――――― 狐の面 ―
「そ、その面は・・・」

そう言ってナルトの持っている面を指差す。今までネジは、曝されたナルトの顔にばかりに眼がいっていたため気付かなかったのだ。

ネジの眼が自分の持つ面にいったのに気付くと、ナルトはニヤリと笑った。


「へぇ・・知ってるんだ。」


「じゃぁっ、お前が・・・
       ――――――”死神ッ!!!”」



[715] Re[2]:『 死神 の 涙 』第ニ話
Name: 夜兎
Date: 2005/06/12 05:57
”死神ッ!!!”


死神、ね・・・その通りだよ・・。オレは今までも幾人もの人を殺してきた。

忍も、大人も・・・子供さえも。

そしてオレはこれからも殺し続けるのだろう。

オレには似合いの生き方だ。

お前も、そう思うだろう??


なぁ、―――狐よォォ・・・・・・・。
『 死神 の 涙―弐 』
「――お前が・・・”死神ッ!!!”」


その呼び名に、ナルトは僅かに眉を顰めた。

誰がそう名付けたのか、いつの間にか、それがナルトの通り名となっていた。

「ああ、そうだ。オレがその”死神”だ。」

「ッ・・・お前が、木の葉最強と云われている・・幻の暗部なのかッ!?」

「最強ね・・確かに、火影のじっちゃんと殺り合っても負けないと思うけど?」

ナルトがそう言うと、ネジは嫉妬するような視線を向けてきた。

(――――・・コイツ・・・面白いな。)

その反応に、ナルトは面白いものを見つけたかのようにネジの顔をまじまじと見つめた。

そのあからさまな視線にネジは一瞬怯んだが、それでもナルトから目線を逸らすことはしなかった。

むしろ、睨みつけるかのように見つめる。

それは何かを求めるような、強い眼差しだった。


 へぇ・・オレが”死神”だと知って、なお睨みつけてくるか・・・・。


「お前、オレが死神と知っても逃げないのか?死神の名を知ってるのなら、あの噂も知っているだろうに・・。」

「・・・・・・・・・・・死神の通り過ぎた後には、骸が・・・。その骸は、わずかな血肉さえ残らない。ただ・・無に還るのみ・・・。」

 ったく・・・誰が、んな噂を広めたんだか・・。

内心で悪態をつくナルト。

思ったとおり、ネジは噂を知っていた。しかし、どうやらまったく逃げる様子のないネジにナルトはほんの少し興味を持った。

「ふん・・間違いではないな。で?お前はそんなオレが怖くはないのか??」

ネジの変わった反応に、オレは思わずそう聞いてみた。

どんな答えが返ってくるものかと内心ワクワクしていたが、――――・・まさかあんな答えが出てくるとは思わなかったなぁ・・・。
”お前はオレが怖くはないのか??”

そうナルトに問いかけられた。


 怖くはないかだって?―――・・そんなの、怖いに決まっているだろうッ!!


それがオレの正直な気持ちだった。怖くないなんていったら、それは嘘だ。


冴え冴えとした瞳に見据えられ、ネジは自分が震えているのに気付く。だが、ここで負けるわけには行かなかった。

このとき、ネジはもう決めていたのだ。「一生こいつに付いて行く!」と。

己が最も求めるものを持つ、木の葉最強と謳われるナルト。

ただそれだけだったら・・・・。ここまで強く、そう思うことはなかっただろう。

あの、ほんの一瞬の出来事さえなかったら―――――
”死神ッ!!!”


そう叫んだ瞬間―――

ナルトの、鋭く光る蒼の双眸が、ほんの一瞬わずかにだが暗く翳った。

それをネジは見逃さなかった。


そしてその中に、ネジは自分に通ずる闇を見た気がした。

孤独、悲しみ、憎しみ・・・・さまざまな負の感情が渦巻く、闇。

その闇は深く・・底がない・・・。

自分と比ぶるべくもない。


深い、闇。


けれど、

その中に僅かな・・・本当に僅かだが、微かな光が見えた気がしたのだ。

ネジの目には、それは希望という名の光に見えた。

このときから、ネジの心は決まっていた。それは本能で選び取ったモノだったのかもしれない。

<ナルトなら、自分を光へと導いてくれるかもしれない。>

何故かこのとき強くそう思ったのだ。


そしてネジは、その直感に従った。


そのためなら、疎ましく思っていた日向の名を使おうとも厭わない。

白い瞳に、強い意志の光を宿らせナルトへと向けるネジ。

「オレは・・、オレは日向だ!だから殺さないのだろう?自分を害さない者を恐れたりはしないッ。」

震える身体を押さえつけ、大きな虚勢を張る。

そのあまりな啖呵に、ナルトは目を瞬いた。そして次の瞬間には――――

「くッくッくッ・・・。あははははははっ!!お前、面白い!本当に面白いよっ!!」

腹を抱え、爆笑した。その笑い声は、シンッと静まり返った森中に響き渡る。

オレは真剣に応えたのだが・・どうやら、ナルトにはそれがウケたようだ。

「はッ、はーーっ、はーーーっ・・・・。ひ、久しぶりだ・・こんなに笑ったの。」

馬鹿笑いし、苦しそうに息を整えるナルト。目には涙を浮かべている。そして、その涙を指で拭いながらそう言ったナルトを、ただ呆気に取られながらも見るネジ。自分でも、馬鹿なことを言っているという自覚があるだけに何もいえない。

「ふぅっ・・・・・。けどさぁ~、なんか忘れてない?・・確かにオレはお前を殺さないとは言ったけど、無事に帰すなんて一っ言もいってない・・ってばよ?」

「そ、それは・・ッ。」

まったくもってその通りなので、ネジは言い返すことも出来ず言い淀む。そんなことは、頭からスッカリ抜け落ちていたようだ・・。

ナルトは一つため息をつくと、

今まで座っていた木の枝から降り、スッ・・と音もなくネジの方へと近づく。

そしてナルトはネジの前まで来ると、徐に口を開いた。

「だ~か~ら~~・・オレに関する記憶だけ消させてもらう。ま、痛くも痒くもないんだから安心するんだな。」

(・・その後はオレも知らないけど、なんて言っても日向だし、誰か探しに来るだろ。うん!)

ナルトは、そう勝手に納得し、忘却術の印を組む。

しかし、

それを阻むものがいた。

「断るッ!!」

威勢良くそう答えたのは、術を掛けられそうになっている当の本人だった。
”断るッ!!”

やばいと思ったオレは、咄嗟にそう答えていた。

「・・は??」

ナルトは、あまりのことに素で驚いたのか、目を点にして間抜けな声を出していた。

「あ、あの~~・・・ネジさん?」

「だから断る!!!」

「あ~~・・ネジが嫌だろうが何だろうが、断る権利なんてないんだけど?」

「・・それでも、断るッ!!」

”断る!!”の一点張りでとにかくネジはねばった。

これ以上押し問答していても時間の無駄だと悟ったナルトは、すばやく印を組み問答無用で忘却術を掛けようとする。

それを察知し、慌てたオレは何とかナルトを止めようとし、ふと思い付いた言葉を紡ぐ。

そしてそれは、謀らずもネジの今の想いそのままの形となった。

「――オレはお前の役に立つッ!!!」

「!!?」

「だからオレに・・修行を付けてくれ!!」


――――気がつけば、オレはそう叫んでいたんだ・・・
あとがき:笑って出た涙は生理的なものなので、題名の”涙”とはまったくの別物でお願いします!!



[715] Re[3]:『 死神 の 涙 』第三話
Name: 夜兎
Date: 2005/06/12 05:58
”オレはお前の役に立つッ!!!”宣言から数日後。

ネジは修行を付けてもらうべく、ナルトを探していた。
『 死神 の 涙―参 』
――――――・・あの後・・・またしてもナルトは、盛大に笑った・・・・。


〔ッ・・ぉ、お前って、サイコー!!!・・・それッ、マジで最高の口説き文句だよ!!〕

〔なッ??!・・く、口説き文句??〕

ネジとしては、そんな気はまったく欠片さえもなかったのだが、成る程・・聞きようによっては確かにそう受け取れなくもない。

〔ち、違うっ!!オレはそんなつもりで言ったんじゃ・・ッ〕

顔を赤から青へと忙しなく変えながらも言い募るネジ。

〔んなこたぁ、分かってんだよ。〕

ナルトは呆れながらネジを見た。

〔・・・そ、うだよな。ははは。〕

思わず乾いた笑いを溢すネジ。その瞳はどこか遠く彷徨っている。

そんなネジを、ナルトはどこか楽しそうに見ていた。

〔いいぜ。〕

〔・・は?〕

〔だから!!いいって言ってんのっ。〕

〔本当かっ!!?〕

〔・・ああ、本当だぜ?

   ――――ただし・・・・この事を喋ったら日向と言えども容赦はしないッ!〕


ナルトから凄まじい程の殺気がネジへと放たれる。

ネジは顔を青褪め、ガクガクと膝を揺らしながらもなんとか首を縦に振り、頷くことでそれに答えた。

その途端、あれ程凄まじかった殺気は何事もなかったかのように綺麗に消え去った。殺気が止んだのに、思わずネジはガクリと膝を突いた。


―――・・くッ・・・何て重い殺気なんだ!!・・・っ・・あの殺気だけで殺されるかと思ったッ・・・・・。


ネジの心臓は激しく脈打ち、呼吸は荒々しい。思わず胸を押さえ込む。

初めて向けられた殺気に戦慄きながらも、ネジは何とか落ち着きを取り戻した。

ナルトは、その様子を冷めた眼で見やった。

〔・・・分かればいい。

あっ!けど、オレはお前の修行を見る気なんてないから。ど~~しても見て欲しいって言うんなら、このオレを捕まえてみな。そうしたら考えてやってもいーぜ?〕

〔・・・・・捕まえれば・・いいのか?〕

〔考えてはやる。まずは、根性見せなよ?〕

〔分かった。〕

”考えてやる。”その一言に、ネジは力強く頷いた。

そしてナルトは、その様子を楽しげに見やるとこう言った。

〔ただし・・、オレを捕まえるなら死ぬ気で来いッ!〕

〔――――ッ上等だ!!〕
・・・と、

そんなやり取りがされた後、二人はそこで別れた。
・・そして冒頭に至る・・・・・。


オレはそれからと言うもの、ナルトを捕まえるために必死に走り回った。

しかし、アカデミーで接触を図ろうにも上手くあしらわれ、その後も白眼を用いストーカーよろしくナルトを追いかけ回るも、まんまと逃げられるという日々が続いた。
・・・・・・ナルトを追いかけまわして、一つ気付いたことがある。

どうしてだか、アイツは里の大人たちに嫌われている。というよりも・・・・これは、〈憎悪〉と言ってもいい程だ。

アカデミーでクラスメイト達に嫌われているのは知っていた。それは単に、アイツがドベで、イタズラ好きなうざい奴だからだと思っていた。

ここ最近見ている限り、ナルトが大人たちに嫌われるような行動はまったくしていない。

むしろ、イタズラ小僧ではあるが、元気いっぱいで明るく振舞うナルトは大人から見れば微笑ましいもののはずだろう。
――・・・あんなに冷たい瞳で見られる要因なんて、一つもないはずだ。
裏では、確かに”死神”と言う恐ろしい通り名を持っているナルトだが、表のナルトはまるで正反対の存在だ。

大人だけが、アイツが”死神”だと言うことを知っているということはありえない。大体、暗部の素性は内密にされている。

彼らを知っているのは火影と、ほんの僅かな者たちくらいだろう。

しかもナルトは、その暗部の中でも幻とまで呼ばれている存在だ。

だからそれは考えられない。


―――じゃあ、何故だ??・・何故、ナルトはあんなに嫌われているのだろう?


結局、オレはナルトのことを何も知らなかった。

いや、知ろうともしなかったんだ。

ナルトの・・暗い翳の秘密は、そこに隠されているのだろうか・・・・・・??



[715] Re[4]:『 死神 の 涙 』第四話
Name: 夜兎
Date: 2005/06/12 06:08
いつもと変わらぬ木の葉の里・・


しかし、

一見変わらぬ様に見えるだけで、何かが・・・

ほんの少しだけではあるが、何かが変わっていっている。

ゆるやかに・・けれど、それは確実に。

そして、その変化は里の犠牲となった少年の周りにも起こっていた。


それを密かに覗いていた里の長である火影は、その変化をどこか満足げな様子で見ていた。
『 死神 の 涙―肆 』
ナルトと追いかけっこを始めて数ヶ月が経っていた。

だいぶ慣れたのか、ネジはアカデミー内での接触は早々にあきらめ、外での接触を狙った。

アカデミー帰りのナルトを・・裏任務へと赴くナルトを追い駆けていって”邪魔”と鳩尾に凄まじい蹴りを喰らい、その後ナルトが帰ってくるまでオレはそこにずっと蹲っていたりと、中々ハードな毎日を過ごしていた。


ナルトを追いかけるのは至難の業だ・・。


まず白眼でナルトの姿を見つけるのも一苦労だが、これも相当苦労する。

見つけたとしても、駿足なナルトを追いかけるために白眼は出しっ放し(それでも見失ってしまう)。・・・・白眼を使っても、ナルトの移動速度に追いつけず・・それを使いっ放しのせいでチャクラ切れをおこし、あえなくダウン・・・・・。

そのせいか・・チャクラのスタミナと、脚力は異常に伸びた。
・・・・・・ある意味、これも修行・・と呼べるのか?
そんなある日のことだった。
ネジは見てしまった。

この里を内包する毒が蔓延っているのを・・
今日も今日とて、ネジはナルトを追い掛け回していた。白眼でナルトのいる場所を探す。
『――白眼!!』
里を一望できる火影岩に立ち、ネジは、里の隅々を見やる。
(―――――――・・居たッ!)

鈍く輝く金の稲穂。しかし、それに覆いかぶさるようにしている人の影。それも一人や二人じゃない。

「・・・ッ??!」

そして。そこに彩るものは、赤。

その光景に、ネジは愕然とする。

赤く見えたものは・・。ナルトから流れ出た――――血の色だった。

 これは・・・何だ??

 オレは悪い夢でも見ているのだろうか・・。

里の陰で行われているナルトへの暴行を見、ネジは気が遠くなる思いがした。

ナルトが嫌われているのは知っていたが、暴力を振るわれるほど酷いなんて思わなかった・・。

それに、ネジは目の前が真っ赤になった気がした。

そして走る。力の限りネジは走った。
あとがき:・・見ている人いたら何度も改稿してスミマセン;;読み直しているとどうしても、気になってきてしまって。
けど本筋は変わってません!ああ、早くネジ以外のキャラをナルトと絡ませたいです!!ここまで読んでくださった方がいたのなら、妄想にお付き合いどうもですw何分下手の横好きですので、乱文で申し訳ないですっ(゚▽゚;))



[715] Re[5]:『 死神 の 涙 』第五話
Name: 夜兎
Date: 2005/06/13 00:54
「・・・そこで何をしているッ・・。」


ナルトはぼんやりとする意識の中、ネジの低く唸る声を聞いた。
『 死神 の 涙―伍 』
今日は任務もなく、買い溜めしてあった食料が底を尽きていることに気付いたナルトは、仕方なしに里へ買出しに出ることにした。


しかし、それが間違いであったようだ・・。


不快な視線を受けながらも、何とか必要なものを買い揃えたナルトは、さっさと帰ろうと足を速めた。

この時から、何か嫌な予感がしていたのだ。

そしてその予感はどうやら当たったらしいと気付いたのは、ナルトが商店街を過ぎた頃だった。

付けられているのは知っていた。が、しかし。ナルトはアカデミーも卒業していないただの忍者候補生に過ぎない。しかもナルトはドベだ。

まったく気付かない振りして、下手な鼻歌を歌いながらナルトは歩く。業とらしくならぬよう少しずつ速度を上げる。しかし、それで逃げ切れるわけもなく・・。ナルトは、すぐに数人の男たちに捕まってしまう。そして路地裏へと引きずり込まれた。

いきなり現れた男たちに驚き、何が起きたのかまったく分からないといったフリをしながらも、ナルトはドベで馬鹿らしくギャァギャァとうるさく振舞い、何とか逃げようともがいている風を装う。

彼らがこれからしようとしている事をナルトはもちろん知っていた。何も、今回が初めてのことじゃなかった。ふた月に一回の割合で、だいたいそれは起こる。

逃げようと思えば、影分身と入れ替わって逃げることも出来たが、でもナルトはそうはしなかった。何故か、いつも甘んじて受け入れてしまうのだった。


別に、最初は特に理由なんてなかった。
けど、本当は・・・・・・。

彼らが与える痛みに、救いを求めていたのかもしれない。


”自分はここに居る。”


それを、例えどんな形であれ、知って・・認めて欲しかったのかもしれない。
「―――そこで何をしているッ・・。」

いきなり現れたネジに、今までナルトへと暴行を加えていた里の男たちは驚いて固まっている。

固まったまま動かない男たちに痺れを切らしたのか、ネジはもう一度彼らに問う。

「そこで何をしていると聞いているッ!!」

そこには激しい憤りが含まれていた。

しかし、現れたのが子供だと知ると、彼らのうち一人が馬鹿にしたように哂った。

「フンッ!・・何だ、子供か。」 

それに、他の男たちも我に返り調子を取り戻す。

「何をしてるかだって?そんなの決まってるだろう!この化け狐に制裁を与えてやってるんだよ!!」

「そうだ!コイツはなぁ、化け物なんだよッ。されて当たり前の事をしたんだ!!本当なら・・殺してやりたいくらいだッ!!!」

口々に言い募る男たち。

ネジはそんな彼らの口から出てくる、”化け狐”や”化け物”の言葉が気にかかった。

彼らは、ナルトが”死神”であることを言っているのだろうか?他にナルトがそう呼ばれる理由が思いつかない。けどそれにしたって変だ。”死神”は確かに恐れられる存在だが、木の葉では絶対の守護者でもある。

困惑した様子でナルトを見るネジ。

しかしナルトは、自分へと向けられた視線に、”これ以上関わるな!”とでも言うように冷たい眼でネジを射抜く。

その視線に怖気立ち一瞬怯みはするものの、だからと言ってこのままナルトを放っておける訳もなく。ネジはボロボロになり倒れ臥しているナルトへと駆け寄る。

ナルトは自分の意思に反する行動をとるネジに怒りを覚えながらも、動けない身体ではどうしようもなくただ黙って見ていた。

倒れているナルトの傍にそっと跪くと、そのナルトを背に背負うネジ。

そして、さっさとその場を去ろうとしている子供に、今までその行動を黙って見ていた男たちが許すはずもなく。すぐさま二人は取り囲まれる。

「・・ちょっと待てよボウズ。ソイツは置いてきな!!」

「オレたちは、まだソイツに用があるんでな!とっととそのガキィ置いてけやぁッ。」

「そしたら・・お前は見逃してやるよ!」

暴言を吐き、自分たちへと絡んでくる男たち。その様子に、彼らへの鬱憤が相当たまっていたのか、ネジは白眼を発動し一言。


『・・・・うるさいッ・・!!』

言葉と共に彼らを睨みつける。

ドスの利いた声と、殺気混じりに睨まれ、ただの子供だと思っていた男たちは思わず竦みあがった。

「ひッ・・!」

思わず息を呑み、情けなく悲鳴をこぼす。

彼らのうちの一人が、何かに気付いたかのように仲間たちに叫ぶ。

「お、おい!コイツの眼ッ!!」

その一言で気付いたのか、もう一人が叫ぶ。

「―――――・・お前ッ、日向か!!!」

木の葉でも、名家である”日向”。その名に、マズイと感じたのか今までニヤニヤと哂っていた男たちの顔がサァーーッと青褪める。

そして・・。

彼らは、慌てて逃げるようにしてその場を去って行った。


ネジはその様子を褪めた眼で見ていた。
「ナルト・・行くぞ。」

男たちが去ったのを見届けたネジは、ナルトにそう声を掛ける。

「・・・・・ど、こへッ?」

苦しげで、どこか擦れた声でナルトは言う。先程ネジが白眼で軽く見たところ、ナルトの状態はかなり酷い。

見た目もボロボロ。傷も大小とさまざまで、口から血を吐いた後も見られる。強く蹴られたか殴打されたらしく、内臓もひどくやられている様子だった。

すぐにでも医者に見せた方がいいだろう。

幸いここからネジの家は近い。そして日向には、医療忍術に長けている者も多々いる。

即座にそう判断したネジは、それを実行に移そうとしたのだ。


「オレの家だ。」

ネジは端的に応える。

「――――・・ヤ・・ダッ。」

しかし。弱弱しくも返ってきた言葉は、拒否の言葉だった。

「・・・ヤダって、手当てしないとダメだろう。ここからならオレの家のが近い。」

ナルトを背中越しに見やりながら、宥めるようにネジは言う。

「・・・・・・・」

無言で否やを告げてくるナルト。その様子はどこか怯えを含んでいた。

しかし、何か・・違う種類の怯えに見えるのは何故だろう?

ネジは不思議に思いながらも。今のナルトが、動くこともままならないことをいい事に、勝手に歩みを進めていくのだった。

日向の屋敷に行くことを免れないと悟ったナルトは、ネジの背中で、”ニヤリ”と小さく笑った。その微笑を見た者がいたのなら、口を揃えてこう言うだろう。

『鬼だッ!ヤツの中には鬼がいる!!』←むしろ狐か??

夜叉の如く美しくも恐ろしい微笑みを浮かべつつ、心の中で密かにネジへと復讐を誓う。そのネジの背中でぐったりしながらも、ナルトの頭の中はネジに対する嫌がらせの数々で一杯だった。

<おぼえてろよ?ネジ!!>


―――その瞬間!ネジの背筋を寒いものが通り過ぎる。ゾクリと背筋を這う冷たい感触に、思わず歩みを止める。


(!??・・・・なんだ、今のは?)

しかし、考えても分かるはずもなく・・。ネジの、第六感という名のせっかくの警告は、彼にはまったく届かずに終わった。


その後で、キツ~~イお仕置きが待っているとも知らず、ネジはとにかく先を急ぐのであった。
あとがき:妄想&捏造と夢は果てしなく広がります。(笑)
ようやく他キャラとナルトを絡ませられる予感です!もっと素敵な小説が書けたらと、自分の文才のなさを嘆きつつ。けれども、今のところはまだまだ続けていきたいと思ってます。とにかく楽しく書いていきたい
です。所詮自己満足駄文です。しかし、少しでもお付き合いくだされば嬉しいです。



[715] Re[6]:『 死神 の 涙 』第六話
Name: 夜兎◆30045c03
Date: 2007/12/16 00:00
※オリキャラ有り
正直、ネジは心配だった。


 ――里であれだけ嫌われているナルト。そんな彼を、日向が受け入れてくれるのか?


しかし・・そんなネジの心配も、単なる杞憂に終わったようだ。

というよりも、まったくもって心配する必要はなかったらしいと気付いたのは、ナルトの治療がすべて済んだ後のことだった。
『 死神 の 涙―碌 』
ネジが日向一族の住む屋敷へと続く大門をくぐると、そこには待ち構えていたように日向お抱えの医師たちが出迎えた。

そして彼らを率いるようにして立っていたのは、〈日向宗家宗主・日向ヒアシ〉の奥方であり、実質日向のお屋敷を纏めている女性。

〈日向スミレ〉様だった。

ふんわりとした微笑を浮かべながらも、何故かその背後にはどす黒いものが渦巻いている。

ナルトはそんな彼女の様子をネジの背中からしっかりと見てしまい、思わず身震いする。ネジがナルトの震えに気付いて振り返ると、そこには顔を真っ青に青褪めさせたナルトが居た。

(―――――・・ぎゃーーッ!!やべぇ・・めちゃくちゃ怒ってるよ・・・。)

「・・ネジさん、ナルトさんをこちらへ。」

「えっ?」

にっこりと微笑み、”否やは許しません”オーラを醸し出しながら言うスミレ。そんな彼女の見たこともない様子に少々ビビリながらも、元々見てもらうつもりでいたので困惑しつつも、ナルトを彼女率いる医師団に預けるネジ。

《・・あとで覚えとけよ??》

預けようとした瞬間、ナルトがぼそりと呟く。不穏な声がナルトから発せられ、ネジはダラダラと冷や汗をかく。

 ――――あの時の寒気は”コレ”だったのかーッ!!!

しかし、今更気付いても後の祭り。

ネジは今後のことを考えて、顔面を蒼白させた。

そんなネジを放っておいて、さっさとナルトを邸内へと運んでいく医師団。

スミレは彼が蒼白になっているのに気付き

「ナルトさんなら大丈夫ですよ?きっとすぐに治ります。」

と、さっきとは一変。彼女本来の柔らかな空気を醸し出し、的外れなことを言った。

スミレが去った後も、ネジは門の前に突っ立ったまま・・ナルトの治療が済んだのを見届けたスミレが気付いて迎えにくるまで、2時間以上もそこに立っていた。
――――ネジがどこか遠くへ意識を飛ばしている頃。

ナルトはというと・・・、ひたすらスミレに説教を受けていた。

治療が一通り終わったナルトは、今は日向本家にある彼専用の部屋にて横になっていた。しかもスミレのお説教付きで・・。

そのためナルトは一息つくことも出来ず、ただ黙って嵐が通り過ぎるのを待った。

「ナルトさん?私(わたくし)は言いましたよね??今度こそ約束を守って下さいと。・・血判状もしっかりととっておきましたのに・・・。これがどういうことか御分かりですか?」

「ぅッ・・・」

「ここに記してあるように、あなたは私に無意味に暴力を受けるようなことをしないと確かに約束しました。なのにこの始末・・。しかも今日は朔の日。ナルトさん、あなたが一番この意味を分かっているはずです。」

「・・・・・」

ナルトは何も言えず押し黙る。

<朔の日>月を見ることが出来ないこの日。九尾の力は激減する。この日に怪我をするという事は、ナルトにとっては大変な意味を持つ。

通常ナルトは、ある程度の怪我なら1日もすれば大抵治ってしまう。しかし、この日だけは只人と同じくする。

つまり、この時に重傷などを負った場合、普通の人と同じように命にだって係わる事もありえるのだ。

それをスミレは言っているのだ。

「・・ナルトさん、九尾の力は万能ではないんです。私はあなたが大切なんです。あなたを・・・・あなたがどう思っているかは分かりませんが、私はナルトさん・・あなたを、本当の息子のように思っています。これは私のエゴかもしれません。けれど、紛れもない真実でもあるのです。ですから・・もっと御自分を大切にして欲しいのです。」

スミレはナルトの髪を撫で、慈しみで満ちた眼差しを向ける。

しかし。それもすぐに、先程とはうって変わってスミレはイタズラっぽい笑みを浮かべる。

「でないと・・・・私、泣きますわよ??」

と。泣き真似までして見せて、スミレはナルトを脅した。薄紫がかった稀有な瞳に、今にも零れ落ちそうな涙。その瞳にじっと見つめられ・・

「――――・・ゴメンナサイ。」

思わずナルトは素直に謝る。なんだかんだいって自称・母である彼女にはめっぽう弱いナルトだった。

「分かれば宜しいのです。それに、これをヒナタちゃんとハナビちゃんが知ったら本当に泣いてしまいますわよ?」

「ッ!!ヒ、ヒナとハナビにこの事は・・」

「うふふっ☆もちろん伝えておきましたわv」

「なっ?!どうして!!」

「ナルトさんに反省してもらうためです!あの子達を泣かせたくなかったら、もうこんな事はしないことです。あなたには、それだけの力があるのですから。」

「・・・・・・」

ぐうの音も出ないナルト。

「あら、もうそろそろあの子達が来ますわ。しっかり弁解なさって?では・・私はこの辺で失礼しますけど。ナルトさん、あなたは1週間はこちらにいる事!朔の日が過ぎたとしてもその間はこちらで過ごしてもらいます。・・・・それから、血判状を破ったことに関しては・・後々お仕置きですわよ??おほほほほほv」

そう言って楽しそうにスミレは去っていった。最後にかけられた言葉に、ナルトは思わずゾクリと身を震わせた。

(お仕置きってなんだーーーッ!!?)

激しく気になりつつも、ナルトはこれから訪れる、もう二つの小さな嵐をどうやり過ごそうかと頭を搾るのだった。
―――ドタドタドタッ


バシィンッ!!(襖を思い切りよく開けた音。)


「「ナルト君(さん)ッ!!」」


小さな二つの嵐襲来。
あとがき:なんとなく続いてます。そしてやっとこさ登場させたのはオリキャラとも言えるべき人物、”日向スミレ”さんです。次回はヒナタ&ハナビがやっと登場させられます。無駄に長かったなぁ・・・。
上手くまとめられなくて分かり辛くてスミマセン;
そしてナルト・・治療を受けたからって元気に叫んでるよ・・・。ひゅ、日向の医師団が素晴らしく優秀だったということにしてもらえるとありがたいです。。(苦笑



[715] Re[7]:『 死神 の 涙 』第七話
Name: 夜兎
Date: 2005/06/23 16:51
















「はい、ナルト君。ア~~ンして?」

「あっ、姉上ずるい!!私も・・ナルトさん、ア~~~ンv」

「いや・・じ、自分で食べれるから。」


――この状態は一体なんだ??

想像もしえなかったことを目の前で繰り広げられ、ネジは一瞬意識が遠のいた。






『 死神 の 涙―質 』










あれから――

二人にさんざん泣かれ、ナルトはあれやこれと手を変え品を変え彼女たちを宥めすかしてみるもどれも功を奏さず・・

困り果て、どうしようかと真剣に悩むナルトへ、泣いてる当の本人の一人でもあるヒナタからある条件が提案された。その要求を呑むことで、なんとかその場は収まる事となったのだった。
そして今、それを盾にヒナタはナルトへと凄む。


「・・・・・ナルト君・・約束。」「・・約束。」
 

 うる うる うる

そんな音が付きそうなふたつの瞳に見つめられ、ナルトは焦る。

(・・・まいった・・・・。なんでオレ、昨日あんな約束しちまったんだ??ていうか二人とも・・だんだんスミレさんそっくりに;;将来が末恐ろしい・・・。)
そう・・昨日ナルトは、文字通り飛び込んできたヒナタとハナビに思い切り泣かれた。それはもう盛大に。

ボロボロになって包帯に覆われたナルトを見た瞬間、二人の目から滂沱の涙が溢れ出したのだ。これにはさすがのナルトもギョッとした。

そして約束させられたのは―――・・


《何でもいうこと聞いてくれる?》


だった。

可愛い声でそう言ったヒナタに、ナルトはスミレの面影を色濃く見たような気がした。
―――そして現在に至る。


「・・・ちッ・・わかった!オレの負けだ。」

その一声に姉妹は歓喜の悲鳴を上げる。

「やったね姉上!母上の言ったとおりだったねv」

「うん、そうだねハナビちゃんv」

なにやら嬉しそうに話す二人。そんな二人のやり取りに、つう・・と、ナルトのこめかみを冷や汗がつたう。

「・・ス、スミレさん・・・な・・んて、言ってたんだ??」

顔を蒼白にして物凄い形相で問い詰めてくるナルトに、きょとんっとしてそんな彼を見やる二人。

不思議に思いながらもハナビが口を開いた。

「母上が、ナルトさんには”涙で潤んだ瞳で見つめるのが効果的”と教わりました。」







――ヒナタ&ハナビ回想――

〔――・・いいですか?ナルトさんには”うるうるっ”と、こう・・・涙に濡れ光る瞳を、じっと向けてやるのが一番効果的です。もちろん上目遣いですわよ。これは他の殿方にも効果的ですから、よ~~く覚えて置きなさいなvいつかきっと役立ちます。よろしいですわね?ヒナタちゃんにハナビちゃん♪〕

〔〔はい、お母さん(母上)!!〕〕






「・・・・・・」

ハナビから、それを聞きだしたナルトは、何とも言えずに押し黙った。

(・・・・自分の娘に、なんつーーこと教えてんですかっ・・スミレさん!)

ここにはいない相手・スミレに内心で突っ込みを入れながらも、”女は怖い!”とすでにナルトの中で認識されていた注意事項に、彼は大人しく従う事にした。






「「さあ!ナルト君(さん)、あ~~~んvv」」

そこはかとなく楽しそうな雰囲気を漂わせ、迫ってくる姉妹。ナルトはそれに一歩後ずさりたくなったが、そこは我慢。観念して、少々やけっぱちになりながらも口を開けた。

「ぁ・・あ~~ん・・・・・//(クソッ!恥ずかしい・・・。)」

ネジは一人壁の花?になりながらも、そんな彼らの様子を怖気だちながらも見ていた。そして思ったことは・・

(・・・・日向の女は怖いッ。)

だった。

こうして・・男二人は”彼女らには一生敵わない”ということを、このとき強く確信(ナルトは再認識)したのだった。










――恐ろしい食事会はやっと終わりを告げ、それにホッとしつつもネジは昨日は聞けなかったことを聞くためナルトへと口をひらいた。

「・・・・ナルト、お前は・・日向とどういう関係なんだ?」

「あ~?」

少々ぐったりとしてナルトはネジの方へと顔を向けた。そして、今気付いたとばかりにじろじろとネジを見やる。

(・・・そういえば、コイツもいたっけ。ヒナたちの存在しか頭になかったから忘れてたよ・・って、まてよ?つーーことは・・・・あれを見られてたってことだよなぁ・・・。くくくっ・・コイツもつくづく運のないヤツだな。お仕置き追加決定☆だなv)

 ぞく~~ッ!!

ネジは再び背筋に感じる悪寒に、?マークを浮かべる。

 ??な、なんだ?また背筋がゾクゾクっとしたような・・

その根源を辿ってみると、ナルトへと行き着く。そして見たナルトの顔は・・・


「ナ・・ナルト?」

「あ~ン?だからなんだよ。」

「な、何をそんなに怒ってらっしゃるのでしょうか??」

妙に畏まった様子で訊ねるネジに、ナルトは意味ありげな視線を向け

「ふっ・・・気にするな。」

と、何かを含んだ物言いをした。

 いや、気にするって!!

そんなネジの心の声をナルトはあっさり無視。

なんだか怪しい成り行きに、今まで黙ってそのやり取りを見ていたヒナタが口を挟んだ。

「あ、あの・・ナルト君は一時期だけど、ここで私たちと生活をしていたの。ちょうどその時・・ネジ兄さんは、こっちの家の方に来なくなっちゃったから。あの、だから知らなかったんだと思うの。」

「!!」

ネジは思わずヒナタを睨んだ。

いきなりネジに睨まれ、ヒナタはビクリと身を震わせる。その表情には、驚きと怯えが混じっていた。

ナルトはネジをうろん気に見やると、そのネジの頭を・・

 すぱこ~~ん!!!

思い切りはたいた。それはもう思いの限りに。

「いッつぅっ!!」

頭を馬鹿力で叩かれ、ネジは涙目になりながらもナルトを振り向く。

「・・な、なんでだっ!?」

「お前が、ヒナを睨むからだ。」

簡潔に、当然だとばかりにナルトはそう言った。

「ナ、ナルト君・・。」

ヒナタは不安げにナルトの名前を呼ぶ。

「大丈夫だヒナ。コイツにはあとでよ~~く教え込んどくからv」

不安げなヒナタに、ナルトはやさしく微笑み慰める。そこには不穏ならぬ言葉も混じっていたが、その綺麗な頬笑みに、あっさりとやられたヒナタが気にすることはない。

「う・・うん。」

頷きながらも、ナルトの顔をうっとりと見つめるヒナタだった。


そして、ここにも一人。ナルトの微笑みにやられた人がいた。

「ナルトさんカッコイイ・・。」

そう、ハナビだった。







「――――・・で?何でお前はヒナを睨んだんだ??」

「・・・・・」

「言いたくないのか。」

ナルトはだんまりを決め込んだネジに、ため息をつきながらも考える。

(・・・・たしか、日向宗家と分家の仲は悪いって聞いたな。・・・それに、じー様が言ってたっけ、オレが日向に預けられる1年前のヒナが攫われた事件のこと・・。ヒアシの代わりに、分家であるその双子の弟が死んだって。時期もちょうど合うな。もしかして・・・それが理由か?)

「お前の父親・・ヒアシの双子の弟だっけ。それが理由か??」

「ッ!!」

ネジは思わず息を呑み、ナルトを睨みつける。

「へぇ・・・そうなんだ。」

「・・・・・・ッそうだ!お前にわかるか!?自分の親がッ、身代わりに殺されたんだぞ!!!それに・・この額の呪印を見ろ!!分家は宗家に・・・一生縛られて生きるんだ・・。それこそ、死さえも・・・な。”籠の中の鳥”、なんだッ・・。」

ネジは顔を歪め、心の奥底に溜まっていた澱を吐き出すように喚いた。

「あっそ。」

悲痛な想いが籠められたネジの言葉に、ナルトは何でもないことのようにただそれだけ言った。それにまたネジは激怒する。

「ッ!!・・ふざけるなッ!!!」

ネジは相手が里最強だとか死神だとかいうことも忘れ、ナルトに食って掛かる。しかし、それにナルトが意に介すことはなく・・。

「別に、ふざけてなんかいない。・・ただ、オレにとっては本当にどうでもいい事だし。」

「そんなッ!!」

「お前はオレに憐れんで欲しいのか?それとも、同情でもして欲しいか?」

「・・・・ッ」

「違うだろ?オレはお前じゃないし、お前はオレじゃない。そいつの苦しみなんて分かるはずもないさ。オレはお前のことを何も知らないし、分からない。ま、分かろうとも思わないけどな。」

「だが、それでも・・オレは宗家が憎いッ。幸せそうに笑っているヒナタ様たちを見ると、余計に!」

「ご、ごめんなさい!!」

「・・ヒナ?」

急に謝りだしたヒナタに、ナルトとネジは驚いて彼女を見た。すると、その隣にいるハナビも、どこか悲しそうな顔をしていた。

「ヒナにハナビ、二人とも何もしてないんだ。だからネジに謝る必要なんてない。それに、何が悪かったのかも分からずに謝るのは良くない。」

「ナルト君(さん)・・」

ナルトは兄のごとく姉妹を優しく、厳しく諭す。そしてネジを見た。

「ネジ、憎むのは自由だ。お前がそう思ってしまうならそれは誰にもどうすることも出来ない。お前自身の気持ちが変わらない限りはな。
   ――――だけどこれだけは覚えておけ、オレと関わるという事は宗家とも関わるという事を。」

「・・・・」

ネジはなにも言えず、押し黙る。その心の中は様々な気持ちが渦巻いているようだった。

そんなネジの心の内の葛藤を見ていたナルトは、いい事を思いついたとばかりに顔をあげた。そして・・

「修行を付けてやるよ!約束もしたしな。ちょっと納得いかないが、お前はオレを捕まえた。って言うか決定事項?」

と、ゴーイングマイウェイにも言い放った。

ナルトによって勝手に決められたネジだったが、元々ナルトについていこうと固く決めていたことだ。それに関しては、少々・・いや、大分わだかまりも残るが、目を瞑ることにした。それに、逆らったところでナルトには絶対敵わない。

こうしてナルトとネジ、日向宗家と、彼らの奇妙な関係は始まった。











あとがき:うう~~・・話が進まないよ~。。
そしてキャラの性格が段々崩れて行ってます。ホントはシリアスで続けていくはずだったのですが、ダメでした。(苦笑
それからサブさん!感想ありがとうございました!!私なんかの拙いものに・・少々浮かれております。(笑
とりあえず、ナルトはネジに関しては特に含むところはありません。けど、もしネジがヒナタやハナビたちを傷つけるようなことをしたら容赦ありませんけどね。
ネジは宗家を恨んではいますが、なんとか仲良くさせたいと思ってます!そしてシカマルたちも早く登場させたい。シカマルに関しては、だいたいのお話は出来上がっているのですが、そこに繋ぐまでが・・・。
いつまで続くか分かりませんが、お付き合い下されば嬉しいです。
それでは失礼致しました。





[715] Re[8]:『 死神 の 涙 』第八話
Name: 夜兎
Date: 2005/07/01 16:50










「修行しに行くぞ。」

いきなり現れたと思ったら、猫よろしくネジの首根っこ(服の襟首)を摑むナルト。


そして問答無用に攫われたネジだった。






―――死の森


「ふむ・・。この辺でいっかな。ってことでネジ、行って来い!!」








『 死神 の 涙―蜂 』






 ドサッ

「ッ!!?」

いきなり蹴り飛ばされ、訳も分からず死の森へと放り込まれたネジ。いつの間にか、その特殊な眼には目隠しがされている。気になって、目隠しを取ろうとするもまったく外れない。

ネジが目隠しと悪戦苦闘していると・・

「お前に付けた目隠しは、ただの目隠しじゃない。術が掛けられてあるから、白眼は使えない。」

そのナルトの説明に、ネジは念の為、確認してみるも・・なるほど確かに、白眼は発動しない。

こんなことは物心付いてから一度もなかったため、酷く困惑し、ネジは落ち着かない気持ちにさせられた。

「それじゃ、オレはヒナたちと修行してくるから。お前は森の動物さんたちと遊んでもらって来いvここの動物さんたちは中々獰猛だから死なないようにな!ま、ピンチになったら・・(多分)・・・助けに来てやるよ。」

(その間はなんなんだっ!!)

言葉の中に、妙な台詞が隠されていたような気もして、ネジの心は不安一杯だ。

念の為とナルトへと確認してみる。

「・・本当に、ほんと~~に来てくれるんだよな?!」

ナルトがいるだろう方を向いてみるも、どうやらもうすでに姿はないらしく、ただただ鳥の囀りが木霊するだけだった。




ネジが死の森で必死に(そりゃぁ、もう命が掛かってるから真剣だ。)森の愉快な動物さんたちと格闘しているころ・・


一方ナルトは――




「ほら、ヒナ。もう少し力を抜け。自然に、リラックスしてやれば大丈夫だ。」

「う、うん!頑張るっ。」

「ナルトさ~ん!!頂上まで行けましたv」

ほのぼのと、仲良く木登り修行をしていた。




ピクッ

今まで仲良く修行していたナルトの身体が一瞬とまる。

(・・・・ネジがやばいな。ま、何とかしてくれるだろ。)

「ナルト君?」

「・・ああ。今行く。」








その頃ネジはというと――

(ふっ・・・・・オレの人生これまでなのか・・。)

絶体絶命のピンチに立たされていた。

あれから・・何とか逃げ回っていたネジだったが、今や巨大蛇に巻きつかれ、今にも圧迫死しそうな勢いだ。

どうやら、自分は相当白眼に頼っていたらしい。

最初、ネジは気配を消して周囲の様子を窺っていたが、どうやらこの森の獣の方が一枚も二枚も上手のようだった。

彼らは捕食者だ。生きるための知識が、生まれた時から備わっている。気配を消すのはお手の物。アカデミーも卒業していないネジなんかよりも彼らは余程上手だ。

得意の柔拳も白眼が使えなければ意味を成さない。拳は空回るばかりで、逆にこちらが痛手を負う。眼も見えず、気配もまったく分からない状況にネジは翻弄される。

そしてとうとうネジは大蛇に捕まった。

意識も遠のき、窒息死しそうなネジは今までのことを走馬灯のように思い出す。

 《ネジ、お前は日向に愛された男だ。》ああ、父上・・オレはどうやらここまでのようです。

 
  ―――


  ――

  
  ―  


 《―――お前はこんなとこで死ぬのか?》・・・ナルト?なんでか知らないが、ナルトの声が聞こえる気がする。最後に聞いた声がナルト、か。それも悪くはないかもな・・・・。いや、今こんな目に合ってるのはナルトの所為なんだぞ?ってことは悪いのか。・・・どっちだ??

ネジが混乱し、どっちなのかこんがらがっていると、再びナルトの声が聞こえる。その声は、ネジの耳にとてもリアルに響いた。

「お前はこんなとこで死ぬのか?って聞いてんだ。」

 ん・・?なんだか、ナルトの声が妙にハッキリと聞こえたような・・・。気のせいか??

「おい、オレの質問に答えろ。ボケナス!」

 ゲシッ

足で頭を蹴られ、グリグリと踏みにじられた。軽い痛みにネジは正気を取り戻した。いつの間にか身体を締め付けていたものも外されている。

「ナ、ナルトっ?!!」

驚き、ナルトがいるだろう方を向くも・・どうやら反対だったらしく、今度は頭に手刀を喰らった・・・。

「こっちだ、アホ。」

「ッ・・・ナルト!ホントに来てくれたんだな!!」

感激に、ナルトには見えない眼を涙に潤ませるネジ。期待してなかっただけにそれは大きい。

「いや、オレはナルトだけどナルトじゃない。」

「はっ?」

まったく訳の分からないことを言われ、ネジは間抜けな声を上げる。

「何を言ってるんだか、さっぱり分からないんだが・・。」

「――だってオレ、影分身だから。」



「・・影分身?」
 
今はまだ、分身の術くらいしか知らないネジは、ナルトに説明を求めるかのように言葉を繰り返す。

「一応禁術だな。実体を持った分身のことだ。」

「実体・・。では、本体ではないのか?」

「ああ。本体ならヒナたちと楽しく修行中だ。」

「・・・・・」

”楽しく修行中”という言葉が妙に大きく聞こえ・・。ナルト(影分身だが。)が助けに来てくれたことに、喜んでいいのかどうか、ネジはひどく迷った。

目隠ししながら百面相をするネジにナルトは不思議に思いながらも、それに関しては特に何も言わなかった。と言うよりも、そのネジの顔が単に面白かっただけだった。 

「どうでもいいが、またすぐに修行だぞ。今はオレがいるから、愉快な動物さん☆たちは寄って来ないが。」

「・・・・ッ??!」

真っ青に顔を青褪めさせるネジ。先程の体験を思い出したらしく戦慄く。

あまりの怯えように、ナルトはなんだか自分が悪者になったような気にさせられた。本体ではないとはいえ・・いきなり無茶な(お仕置きという名の)修行をさせた負い目が多少はあったらしい。ナルトは一つため息をつき、仕方ないと言わんばかりに、ネジへと助言をしてやる。

「・・眼に頼ろうとするな。耳を研ぎ澄まし、身体で感じろ。」

ネジはその言葉を真剣に受け止めた。

最初・・問答無用に放り込まれた時には、さすがに、ナルトがちゃんと修行を付けてくれるのか疑ったりもしたが、どうやら考え過ごしだったらしいと分かり、ナルトには見えない眼を輝かす。

(これは修行なんだ!せっかく里最強でもあるナルトが教えてくれるんだ、少しくらい・・いや、大分怖かったが、やるしかない!!)

ナルトの本音も知らず、ひとり闘志を燃やすネジ。その姿はなんとも哀れだった。





心と静まり返る森の中。時折風が吹き、ザワザワと木の葉を鳴らす。

ネジは目隠しの下の眼をそっと閉じた。

 眼に頼るな!耳を研ぎ澄まし、身体で感じるんだっ・・。



 風の、空気の流れを感じる。

 微かな音さえ見逃すな。

 もっと意識を集中させるんだ!



 サワ サワ サワ サワッ

風の音が聞こえる。その中に混じる妙な音。僅かに・・本当に僅かな違和感のある音が混じる。

ネジは聞き間違いかと思い、もう一度よく耳を研ぎ澄ます。

 ―――・・違う、聞き間違いなんかじゃない!

空気の流れが僅かに変わる。

(来るッ!!)

ネジは何かが自分に向かってくるのを感じた。そして手にしっかりと握ったクナイを構える。

今ここにはいないナルトが、姿を消す際ネジにくれた物だった。





〔―――そういえば・・武器の一つも持たせてなかったな。仕方ないから、オレのクナイをやるよ。〕

スッカリ忘れていたとばかりにナルトはネジにクナイを一本渡す。本当は確信犯だったりするが、そんな事はおくびにも出さない。

〔こいつはオレ特注のクナイだから、大事に使えよ!軽量型なんだが、切れ味は抜群で力を入れなくても深く刺さる。特別にお前にくれてやるよ。〕

ネジの手にクナイを握らせると、さっさと去っていこうとするナルト。しかし、言い忘れてたとばかりに立ち止まりネジへと忠告する。

〔あ。ネジ・・お前さ、またオレが助けに来るなんて思うなよ??それじゃあ修行にならないからな。まぁ、せいぜい今度は大蛇に喰われないよう気を付けるんだな。〕

しっかりとネジに釘をさし、瞬身の術であっという間に消え去ったナルト。あとには木の葉が舞っているだけだった。





ネジはそのクナイをしっかりと握り、敵へと向ける。

(ッここだ!!)

ネジは敵がいるだろう方へクナイを思いの限り刺す。ナルトの言っていた通り、軽いのにその切れ味は抜群だ。クナイは敵の肉にスッと深く沈みこんでいくように刺さり、その肉を抉る。

 グサリッ

≪ギャアアアァァァァッ―――・・・・・・・≫

敵の咆哮が森に響き渡る。

しかし、止めを刺すまでには至らなかったのか、敵は怒り狂い、ネジへと迫る。

自分へと向かってくる攻撃を分かっていながらも、あまりの速さに、ネジはどうすることも出来ずにその場に立ち竦む。

 ・・もうダメだッ!!

―――そう思ったその時。

 ザシュッ!・・・ズシィィンッ――・・!!

ネジに襲い掛かっていた影が、目の前から消えた。

いつの間にか、術の掛かった目隠しも外され、その眼に映ったものは・・・

巨大狼が目の前で首を斬られ、倒れ臥している姿と・・血に濡れた、大鎌を持ったナルトだった。



「な・・ナルト!」



ネジはナルトの名前を呼ぶ。

「今のお前にしては上出来だ。その感触を忘れるな。」

「あ、ああ!」

その言葉に頷きつつも、ネジの眼はナルトの持つ大鎌に向けられている。それに気付き、ナルトは哂う。

「これか・・いいだろう?死神には持って来いの武器だ。オレの愛用の武器の一つ【羅刹】だ。」

羅刹はナルトの身の丈よりも大分大きく、重そうなそれをナルトが軽々と持っているのにネジは驚く。

いつまでも呆然と羅刹を見つめるネジに飽きたのか、ナルトはここへ来た様にネジを引っつかむ。

「えッ??!」

なんだか嫌な予感に駆られ、ネジは恐る恐るナルトを見やる。

 ま、まさか・・

「ナルト・・まさか・・・」

ネジの言いたいことが分かったのか、ナルトはニヤリと笑う。

「そのまさかだ。んじゃ、とっとと帰るぞ~~。あ、また明日もここで修行だからな。帰ったらゆっくり休んどけよ。」

言うべき事は言ったとばかりに、ナルトはげっそりと明日のことを考えるネジを無視して連れ帰った。







「ナルト君、お帰りなさい!」

満面の笑顔を浮かべ出迎えるヒナタ。

(・・ん?お帰りなさいって、本体のナルトはヒナタ様たちといたんじゃ・・・。じゃあ、このナルトは・・)

首根っこを引っ掴まれたままのネジが、そんな事を思っているうちにも二人の会話は進んでいく。

「ああ、ただいま。ハナビはどうした?」

ヒナタに柔らかな眼差しを向けながら、いつもは一緒に出迎えてくれるハナビがいないことに気付き、尋ねる。

「・・ハナビちゃんなら、お父さんに修行を・・」

「そうか。」

ほんの少し寂しげな様子のヒナタの頭を、ナルトは慰める様にやさしく撫でてやる。

そんな二人の様子を見ていたネジは、ヒアシがハナビだけに修行を付けるのを何故かと疑問に思いながらも、分家である自分が宗家の事情など知っても仕方ないとばかりにそのことを考えるのをやめた。








あとがき:・・・・・。う、上手く書けない。しかし、話は進んでいきます!いまだに本編入らずですが。(苦笑
そしてサブさん!またのご感想ありがとうございますv
ホントに嬉しいです!!気に入ってもらえたなら幸いです(^∇^*)。ほのぼの続いてますが、シリアス・・私に書けるのか?って感じです。が、頑張りたいですっ!
一緒に修行ではありませんでしたが、木登り修行をちょこっと入れてみました☆木登り修行は元々考えてなかったので、ちょっぴり参考にさせて頂きました。
それでは失礼しました。



[715] Re[9]:『 死神 の 涙 』第九話
Name: 夜兎
Date: 2005/07/07 16:24








「いただきます」

「「「「いただきます」」」」

「い、いただきます」










『 死神 の 涙―仇 』







修行から帰ったネジを迎えたのは、温かな笑顔のスミレと、湯のたっぷりと張られた風呂だった。

複雑な顔をスミレへと向けながらも、いつの間にか湯気の立ち込める風呂場へと放り込まれる。そして流されるように風呂へと入るネジだった。







ネジが風呂から上がると、いい匂いのする料理が食卓へと運ばれている最中だった。

家族団らんとする居間に、読書をしながら寛いでいるヒアシ。それに憎しみが湧いて来るも、ちょうど料理を運んできたナルトに殴られ、それは霧散する。

それを見て苦笑するヒアシ。ネジの悲しい思いを受け止めつつも、不器用ながらもやさしいナルトの気遣いに感謝した。

「ナルト君・・後はスミレたちに任せて、もう座りなさい。ネジ、君も疲れただろう」

「じゃ、遠慮なく」

「・・・・・」

さっさと自分の席へと着くナルト。その姿を目で追いかけながらも、ネジは黙ったままだ。

しかし、そのまま立っているわけにも行かず、渋々とだがナルトの隣の席へと着こうとする。

が、そこはヒナタの席だからダメだと言われる。反対側のナルトの隣は、言わずもがなハナビの席だ。ナルトを挟んだ形となる席は、彼女たちの定位置だ。

ハナビの席に関しては、ネジに文句はない。ヒアシと近いその席は、ネジとしても遠慮したかったからだ。

仕方なく、向かいのヒアシから離れた端っこの席へと着こうとするも、そこはスミレの席だとまたしてもナルトに言われてしまった。

なるべくヒアシから離れようとしたネジだったが、結局ヒアシから一番近い席へと着くこととなってしまった。ナルトは態とそうなるよう仕向けた。

不機嫌そうにしながらも、料理が運ばれてくるのを待つネジ。”さっさと食べて帰りたい。”それが、今の彼の心情だった。

ふとヒアシを見ると、いつの間にか先程まで読んでいた巻物は横に置かれ、その眼差しはネジへと向けられている。

父親と似た、その柔らかな眼差しにネジは思わず錯覚する。

 ・・・父上・・

ネジが感傷に浸っていると。

「ナルト君との修行はどうだね?」

話し掛けられ、ネジはハッとしてヒアシを見やる。双子だけあって、父であるヒザシそっくりの面差しだが、しかし纏う空気はまったく違う。宗家の主だけあって、その姿は威厳があった。

それに少々圧倒されながらも、ネジはヒアシからの質問に答える気にはなれない。

黙っていると、ナルトから睨まれた。

その無言の睨みに、叩かれるよりも不気味な感じがしてネジは慌てて答える。

「ッ厳しいです!・・・・ですが、とても身になります」

無理矢理言わされる形となってしまったが、ネジの顔を見て、修行が満足いくものだった事を知る。彼の本音が聞けたことにヒアシは顔を綻ばせる。

「そうか・・。これからも頑張りなさい」

「・・・・・はい」

自分を心から応援してくれている様子のヒアシに、ネジは複雑な思いに駆られながらも、それに答えた。




そんな二人の様子を、ナルトは興味深そうに見ていた。



 





やがて料理も運び終わり、スミレたちも席へと着く。

「さあ、いただきましょうか」

スミレがヒアシの方を見ると、ヒアシはそれに頷く。

「では、いただこう。”いただきます”」

その合図をきっかけに、皆は食事の前の挨拶をする。

一人乗り遅れたネジも、戸惑いながらもそれを倣った。

それから、それぞれ好きな物を頬ばった。

今日の晩御飯は夏らしく、旬の物が豊富に使われている。焼き茄子に、南瓜の煮付け、枝豆、鰹のたたきに小鯵の唐揚げ等、他にも色々並んでいる。

枝豆をつまみに冷酒を呷るヒアシに、ナルトは自分もと、おちょこではなくコップを差し出す。それに、ヒアシが酒を注ごうとするも、それをしっかりと見ていたスミレが、取り皿を手裏剣の如く目にも留まらぬ速さで投げつける。

――――シュンッ!

「!!?」

至近距離で投げられた皿に驚きつつも、当然ナルトはそれを造作もなく受け取った。

皿は何とか無事だったが、スミレの鬼のような形相に、ヤバイと感じたナルトは残念そうにコップを戻す。ヒアシは内心冷汗を掻きつつも、何食わぬ顔でまた飲み始める。それをナルトは羨ましそうに見ていた。

その攻防を目を丸くして見ていたネジだったが、ヒナタとハナビがまったく動揺していないことからいつもの事なのだと知る。

(・・・すごい家族だ)

それがネジの、彼らに対する正直な感想だった。







ネジは一人、箸を付けずにいた。

和気藹々と囲む食卓に、一人だけ場違いな気がして、なんとなくだが箸を付ける事が出来ないでいた。

それを見かねたのか、酒のショックから立ち直ったナルトが声を掛ける。

「どうしたんだ?ほら、食えよ!」

そのナルトの声に押され、ようやくネジは箸を付け始める。目の前にあった南瓜の煮付けへと手を伸ばす。

「・・・上手い」

それは出汁がよくきいていて、砂糖ではない南瓜本来の甘みを引き出していた。薄すぎず濃すぎず、絶妙の味付けにネジは感嘆の声を上げる。

「だろ?!今日のは特にいい出来だったんだよな」

ネジの一言に気を良くしたのか、ナルトは笑う。

「・・ナルトが作ったのか?」

驚き、マジマジとナルトを見やる。しかし、冗談を言っている訳ではないと言う事は、ナルトのその顔を見れば分かった。

「おう!スミレさんにお願いされちゃったからな」

「うふふっ。だってナルトさんのお料理、とても美味しいんですものv私が教えたはずなのに、もうすっかり追い抜かれてしまったわ」

頬に手をあてながら小首を傾げ、楽しそうに笑うスミレ。それに釣られ、ヒナタも口を開く。

「ナルト君の作ってくれたご飯、本当に美味しいよ!・・わ、私なんて、ナルト君と一緒に習い始めたのに、全然上達しないもの・・・」

自分で言って落ち込んでしまったヒナタ。彼女の周りだけ、どんよりとした暗い空気が漂いはじめる。

あまりの落ち込みように、スミレ以外の者たちが慌てる。

そんなヒナタを励ますべく、ナルトはその彼女の顔を覗き込むようにして言葉を紡ぐ。

「オレはヒナの作ってくれる物なら何でも好きだ。それに、ヒナはちゃんと上達してる」

「・・ナルト君」

ヒナタは潤んだ目でナルトを見つめる。

今にも二人だけの世界を作りそうな雰囲気に、ハナビは慌てる。

「な、ナルトさん!私は?!(姉上には負けません!)」

「もちろんハナビのも好きだぞ」

一生懸命聞いてくるハナビ。そんな彼女の頭をよしよしと言わんばかりに撫でてやるナルト。

(せっかくいい雰囲気だったのに・・)

ほんの少し残念に思うヒナタだった。

ナルトを囲み、会話は弾む。そんな彼らの周りからは、ほんわか和やかムードが漂っていた。

ネジは一人疎外感を味わいつつも、ナルトが作ったという美味しい料理に舌鼓を打った。










☆おまけ




―――翌日。

しっかりと身体を休め、修行のために備えたネジは準備万端にナルトを待っていた。






しかし、その頃ナルトはというと・・




「・・ス、スミレさん?」

ダラダラと汗を掻きながらも、自分へと迫ってくるスミレから、何とか一歩でも離れようと後退るナルト。

しかし、それに反してスミレは嬉々としてナルトの方へと近づいていく。

「ナルトさん・・」

傍から見たら、人妻が少年を誑かしてるようにしか見えない。

「な、何でしょうか?(汗」

たらりとこめかみを汗がつたうが、それを拭う余裕もないままにスミレに訊ねる。

「まぁ、覚えてないのですか?」

悲しそうに、寂しそうにスミレは言う。

「は?何を、でしょう・・・??」

まったく覚えがないと言わんばかりのナルトだったが、その顔がどんどんと青褪めていく。

思い出したらしいナルトの様子に、スミレは笑みを深くして言い放つ。




「お・仕・置・き・ですv」




そう言ったスミレの顔はなんとも楽しそうだった。






『 死神 の 涙―おまけ番外編・男はつらいよ 』





「・・・・・・(汗」

ようやく現れたと思ったら、ナルトのその姿に絶句するネジ。

しかし、それよりもナルトの放つ黒いオーラがネジには怖かった。思わず額を汗が伝う。

「あら?お兄はん・・何か言うてはくれまへんの?」

遊女に扮したナルトは、悲しげに着物の袖で涙を拭う仕草をする。

赤を基本に、大輪の花をあしらった煌びやかな着物姿のナルト。普段は自由に飛び跳ねている髪も、今は梳られ、サラサラと風に靡いている。そして左の耳元には、大輪の牡丹を模した髪飾りが一挿し挿されている。その姿は、男だというのにも関わらず凄絶な色気を放っていた。

それにネジは顔を赤くしたり青褪めさせたりと、忙しく顔色を変えていた。

ナルトは内心、ネジをせせら笑いながらも、ある一言を言わせたいがためにと芝居掛かった物言いでネジへと迫る。その姿はスミレそっくりとも言えたが、その事にナルト本人はまったく気付いてはいない。

「このお着物・・似合いまへんか?」

瞳をうるうるとさせ、そう聞いてくる美少女?にネジはタジタジだ。しかし、可憐な姿とは裏腹にその背後に渦巻くものは黒い。

「に、似合ってる!!」

黒いものが相当怖かったのか、慌てて答えるネジ。

その答えに、ナルトは満面の笑みを浮かべる。顔とは裏腹に内心では”似合ってたまるかッ、ボケ!!”と思いながらも、ナルトはそんな事はおくびにも出さずに素敵な笑顔を浮かべている。

「嬉しいわあv・・・・じゃぁ・・ネジも着てみたいよな?」

口調が戻り、有無を言わせぬナルトの迫力に気圧され、ネジは何を言われたのかも分からないまま・・

「ッああ!」

と、何度も首を縦に振った。








それから、ネジは地獄を見た。




なぜ頷いてしまったんだと激しく後悔しながらも、ふとナルトたちの方を見るネジ。

仲間が出来て嬉しそうなナルトと、いそいそと新たに着物を見繕うスミレ。

見るんじゃなかったと、ネジはまた後悔した。

着付けをするスミレから何とか逃げようと頑張るも、どこにそんな力があるのか、押え付けられてしまう。

側にはナルトと、逃げられないと悟ったネジは観念した。

黒地に蝶をあしらった女物の着物をスミレに着せられたネジ。

「ネジさんは、髪が長いからやりがいがありますわねv」

嬉しそうにネジの髪を結い、簪を挿していくスミレ。鏡から見た自分の姿に、ネジの意識は遠くなる。

しかし、ネジを最も慌てさせたのは化粧道具を片手に、楽しそうに笑うナルトだった。美少女然としたその可憐な笑顔も、ネジにはニヤリと笑ったようにしか見えない。

「うふふふっv・・元々はネジ、お前のせいでこうなったんだからな。道連れだ!」

慣れた手付きでネジの顔という名のキャンパスを彩っていくナルト。その様子はとても楽しそうだ。

こうして、すっかり綺麗なお姉さんへと変身させられたネジ。ナルトが美少女ならネジは美女といった感じだろうか。




それからヒナタたちも参戦し、ナルトとネジは彼女たちの着せ替え人形として盛大に遊ばれた。

スミレたちが満足するまでそれは続き・・・。等身大のお人形と成り果てたナルトとネジの二人は、それが終わった頃にはすっかりと疲れ果てげっそりとしていた。











あとがき:ほ、ほのぼのです。修行編は後日また投稿いたします。すみません~~・・
今回はナルトが料理上手なのをアピールしたかったのです。思っきし自分の妄想にひた走りました。(汗
サブさん、いつも感想ありがとうございます!!そしてハシャさんも感想ありがとうございます!!
お二人のおかげで、やる気が充電できました☆期待に添えるよう頑張ります!
では、失礼しました。



[715] Re[10]:『 死神 の 涙 』第十話
Name: 夜兎
Date: 2005/07/09 13:16






ヒュオオオオォォォォーーーーー・・・・




底の見えない絶壁に、風が吹き荒ぶ音が聞こえる。

恐る恐る下を見てみる。あまりの高さに絶句するネジだった。

「・・・マジですか?」








『 死神 の 涙―拾 』








―――死の森




スゥッと深呼吸をし、ネジは目を瞑り意識を集中させる。もうその目に目隠しがされることはない。






 ヒュンッ!!シュォンーービュッビュッビュッ  

 キィィンッーカンッ!・・

四方八方から飛んでくる何百という手裏剣やクナイを、ナルトからもらったたった一つのクナイで叩き落す。

 ドスッドスッドスッ!

落とし切れなかったものが地面へと突き刺さる。が、ネジに掠り傷ひとつない。

最後のトラップを何とか避けおわり、ネジは一息つく。が、その瞬間を狙ってナルトが踵落としをネジの頭に喰らわせる。

「油断大敵☆」

 ドカッ!!

「いッ~~~~!!」

不意に頭上に現れたナルトの予期せぬ攻撃に、ネジは言葉にならない。というよりも、高い位置から落下したことによってさらに重くなったナルトの踵落とし。そのあまりの痛さに、ネジは喋ることが出来なかったのだ。

しかし、このくらいで済んだのは、一重にナルトの攻撃に日々晒されてきたお陰だろうか、ネジは非常に打たれ強くなっていた。

涙目でナルトを見ると・・

「修行内容と場所を変える。ついて来い」

唐突にそう言われた。









ザッーーーー・・・

ヒュンッ ヒュッ

死の森を疾走する。ネジはナルトを見失わないよう、必死について行く。

今では、白眼を使わなくても何とかナルトを追う事ができるようになったネジ。とは言っても、ナルトが多少の手加減をしているからだ。本気になったナルトを追いかけることは至難の業だ。ナルトは、今のネジがギリギリでついて来れる速度――普通の上忍の平均速度を想定して走っている。




やがて視界が切り開け、白い光が二人の視界を覆う。今まで樹木の鬱蒼とした中を走っていたネジは、その眩しさに目を眇めた。








そしてネジが見た物は・・・




「・・・崖?」

「ああ。すごいだろ」

 確かにスゴイ・・・すごいが、これは・・

「木の葉でも最も高いといわれる崖だ。しかも絶壁。それにしても、いつ見てもここは絶景だなぁ」

辺りを見渡してみると、ナルトの言うとおり絶景としかいいようのない光景が広がっている。

眼下に広がる景色は綺麗だが、とても小さく見える。遠くに見える、湖らしきものは小さなビー玉くらいの大きさにしか見えない。雲らしきものも手の届く範囲に浮いている。

 た、高い・・・

「う~~ん、いい風だ」

心地良さそうに風を受けるナルト。だがネジは、とてもそんな暢気なことを言う気にはなれない。

ナルトは修行といった・・しかし、崖以外に特に目立ったものは見つからない。ネジのこめかみを汗が伝う。

(・・嫌な予感がする)

 ゴクリッ

思わず息を呑み、ネジは遥か遠くの崖下を覗き見る。

「な、ナルト・・まさかとは思うんだが・・・」

「ん?」

「この崖をつかって修行とか言うんじゃない・・よな?」

「当たり。――ってことで行こうか!」

崖間際に立っていたネジをトンッと押す。ナルトの不意の行動に、驚く暇もなく・・

「なッ??!




   ・・・・ーーーーーー―ッぅわああああぁぁぁ~~~ッッ―――!!!






急降下で落下していくネジだった。それをのほほんと見守るナルト。

「いい落ちっぷりだなぁ~」

気持ちのいい落ちっぷりを披露するネジ。それに感心するナルトだったが、続くようにして崖を飛び降りる。

「よっ」

空気の抵抗が少なくなるよう身体を真っ直ぐに伸ばし、気流に乗る。そしてネジに追いつくよう猛スピードで落ちた。









ゴォオオォォォォッーーーーー・・




髪が無造作に靡き、服がバタバタとはためく。自分が落ちていく音が聞こえる。

ネジは目を瞑り、意識を手放そうとした。

が、

《おい。寝るな!》

ありえない声に驚き、ネジはハッと目を開ける。

まさかナルトまで一緒になって落ちてくるとは思わなかったネジ。その驚きは大きい。

「ッ?!!」

ちょうどネジとは逆さになった体勢で一緒に落ちているナルト。

《今からチャクラコントロールの修行をする》

こんな状態にもかかわらず、ナルトは平然とそう言い放った。

その声は、落下の轟音と風の音にも掻き消されることなく届く。

頭に直接聞こえてくる声に、戸惑いながらも頷くネジ。

《まず掌にチャクラを集中させろ。そしてその掌を崖に密着させるんだ》

体勢を整え、言われた通りやってみる。が、それは弾かれてしまう。

「・・で、出来ない!!」

ネジに焦りが募る。その間にも、彼らはどんどんと加速しながら落下していく。

《落ち着け、チャクラが多過ぎたんだ。もっと量を減らせ》

「や、やって見る!」

いつものようにネジは意識を集中させる。多過ぎず、少な過ぎないチャクラを掌に集めていく。




 ズガガガガガガァーーーーーッ!!!・・・――――――




「くッ・・・」

掌に痛みが走る。チャクラで覆われてるとはいえ、落下速度が速すぎて止まるのに手一本で支えるのには重すぎたのだ。

擦り切れ、皮膚や肉が破れた掌の痛みを堪え、ネジはもう片方の手を必死に崖へと伸ばす。あまりの痛みにチャクラが乱れるが、何とか崖にくらいつき・・止まった。

「ハッ・・ハァーーーッ・ハアーー・・―――」

大きく息を吐き出し、ようやく落ち着いたらしいネジに、無情にもナルトは次へと進める。

《よし、次の段階だ。今度は今の要領を持って足の裏にチャクラを集中》

ほんの少し泣きたくなったネジだったが、確かにこのままの体勢でいつまでもここにいるわけには行かない。何よりチャクラが持ちそうにない。

ネジは気力を振り絞り、チャクラを足の裏に集中させ、崖へと付ける。

ふとネジがナルトを見ると、彼はこの絶壁を立っていた。驚き、チャクラが分散しそうになるも、なんとかナルトを見習う。

フラフラとしながらも、何とか絶壁に立つことが出来たネジ。

それを確認し、「上まで歩くぞ」とナルトは軽く言った。

ネジは思わず上を見上げる。崖上は遥か遠くだ。

「・・・・・・マジですか?」

《大マジ》

呆気らかんとして言うナルトにげっそりとしつつも、無事着けるかどうかネジは不安に思う。

(・・・あそこまで・・オレのチャクラ、もつのか??)

横にいるだろうナルトを見るが、いつの間に歩き出していたのかあっという間に崖上に到着しそうだ。 

「・・・・・」

唖然としながらも、慌ててその後を追うネジだった。






とうに着いた崖上からネジの様子を観察していたナルトは、正直ネジがここまで頑張るとは思わなかった。

自分でもハードな修行をさせていると自覚しているだけに、余計にそう思う。

だが、ナルトは面白いとも思った。

(ふっ・・・アイツが自分で宣言してたとおり、育てれば役に立つかも・・な)










あと少し、そう思ったところでチャクラが切れた。

 落ちる・・・

そう思い、ネジはとっさに目を瞑る。

 パシッ!

が、しかし。いつまで経ってもあの落ちる感覚は訪れなかった。

薄っすらと目を開ける。

しっかりと腕を掴む手に、支えられているのが見える。

「・・ナルト」

「よくやった」

珍しくも褒められ、ネジは泣きたくなる。

爛れた手も、ナルトに治してもらいほぼ完治している。傷口へとチャクラを流し込むことで、ナルトはその部分を活性化させたのだ。




滅多にみない(ヒナタたち除く)ナルトの優しさにネジは感動した。そしてさらに修行へとやる気を漲らせるネジだった。  









が・・しかし。そのとき感じた喜びも束の間。




修行は、それからというもの苛烈を極め―――・・・

激流渦巻く川の上で”水面歩行の練習”と称してその渦巻く中へと放り込まれ、溺れ掛けること5回。ナルトの新技の的にされること数十回。その他色々と、散々なネジだった。

こうして、思いがけずもめきめきと成長していくネジだった。










あとがき:修行編でした。これでようやく日向編というかネジ編がひと段落ついた感じです。次回は他キャラが出せそうな勢いです。
ゆっくり進んでいきますが、楽しんでもらえると嬉しいです。何分妄想&拙い文となってしまい申し訳ないです・・(汗
文に関しては、のんびりとでも成長出来ればいいなと思っておりますので、なにか変な部分がありましたらご指摘下さい。今後の糧となりますのでよろしくお願いします。
では。



[715] Re[11]:『 死神 の 涙 』第十一話
Name: 夜兎
Date: 2005/07/14 14:43







時も移ろい、新入生として入ってきた少年少女たちも大分慣れてきた頃。

――忍者アカデミー




「シカマルぅ!!チョウジ!!帰るわよ~~」

元気な声が教室に響き渡る。その声の主である少女・山中いの。彼女は、幼馴染である二人の事を呼んではいるが、その瞳はちゃっかりと片思いの相手でもある”うちはサスケ”へと向けられている。

いのがサスケへとラブ光線を送っていると・・幼馴染の一人・奈良シカマルから返ってきたのは、

「わりッ!!今日も用があるんだ。じゃぁな!」

と言う断りの返事だった。

わざわざくの一教室から迎えに来たいのの誘いを、そう言ってあっさり断ると、シカマルは走るようにして去っていった。

そんなシカマルを、いのと、いつの間にか帰る仕度をすませていた秋道チョウジの幼馴染二人組みは、呆然として見送った。

「・・めんどくさがり屋なシカマルが走ってる」

「そうだね~。ここ最近ずっと用があるって言って帰っちゃうけど、どうしたんだろう?」

さっきまでサスケへと向けたいた目を真ん丸にして驚くいのと、のほほんと、けれど珍しいシカマルの様子に疑問を持つチョウジだった。

不思議がる二人だったが、その原因を知るのは、もう少し後のこと・・








二人がそんな会話をしているだなんて露ほども知らず、シカマルは森の中を、ただただひた走っていた。

「ハァッ、ハッ、ハア・・・」

(やべぇな、アイツ遅刻すっと怒るからな~~。めんどくせーが、スピード上げるか!)









『 死神 の 涙―壱拾壱 』












 ダンッ!!

「・・これはどういう事だよクソジジイ」

怒り心頭なナルトは、火影に書類を叩きつけ詰め寄る。

「どういうことも何も、そこに書いてある通りじゃ」

ナルトの怒りもなんのその、火影はとぼけた様に答える。

その態度に、またもや怒りを駆り立てられるナルトだったが、深呼吸し、何とか気持ちを抑える。

「はぁっ・・・。アカデミー、また落ちるのか?」

いい加減うんざりするナルト。その書類には”うずまきナルト アカデミー不合格”と書かれてあった。

きっとまた上層部が関わっているのだろう。ナルトはそう推測する。

彼らは<狐の器>を毛嫌いしている連中の集まりだ。そして器が力を持つことを異常に恐れている。

はっきり言って馬鹿馬鹿しいとナルトは思う。自分の実力の程を知らない彼らに、何を言っても仕方がないのかもしれないが、鬱陶しい事に変わりはない。

ドベに徹しているナルトだったが、さすがにアカデミーでもう一年過ごさなければならないと思うとウンザリだ。アカデミーの教師たちはねちっこくて陰湿な嫌がらせばかりだし、クラスメイトはアホばかり。いい加減ナルトでなくても嫌になるという物だ。

そろそろ力を小出しにしていって、下忍にでもなろうかと思っていた矢先だからこそ、余計に腹が立つ。

「それにしても、またランを使って書類を盗み出しおって・・」

「今回はオレが指示したんじゃねぇよ。アイツ、面白がってオレんとこに持ってきたんだよ」

(”今回は、”って・・少しは悪いことをしたとは思わんのか、ナルトよ・・・)

まったく反省した様子のないナルトに、火影は心の中で涙を流す。

「ま、それはいいとして、また凄いメンバーだな」

新たな書類を懐から取り出すと、感心したようにナルトは言った。

「(・・・これも盗み出しおって)ああ。今回は名家、旧家と勢揃いじゃからのぉ」

「どうせ、それとなく護衛させようって言う魂胆だろ」

「うぅッ!」

痛い所を突かれ、火影は胸を押さえつける。とは言っても”振り”だが。

そんな火影をナルトは冷ややかな目で見つめる。

その顔には”こんの、狸爺が!”としっかりと書いてあるが、火影は痛くも痒くもないとばかりに”振り”を続ける。

「最近、里の財政が逼迫しておるんじゃ!老い先短い爺の頼みじゃ・・聞いてはくれんか?のぅ、ナルト」

うるうると目を潤ませ、懇願してくるジジ・・いやいや火影様。ナルトは気持ち悪くなって。

「分かった!!分かったからその気持ちの悪い演技はやめろ!!!(夢に見そうだッ・・)」

思い余って、つい火影の口車に乗ってしまうナルトだった。それほどまでに火影のうるうる攻撃は気持ち悪かったのだ。

「けど!来年は絶対卒業させるよう上層部説得しといてくれよ!!」

とは言っても、ナルトもそれで済ませる気は毛頭なく、それを条件に、もう一年アカデミーに通うことになったのだった。




ナルトが去った後、まるで嵐が去ったような静けさが火影執務室を包む。

そんな中、一人ぽつんと残された火影は・・

「・・ナルトの奴もちゃっかりしとる。いったい誰に似たんじゃか」

そうぼやくのだった。









火影を責めに・・もとい、事の真相を確かめに行ったナルトは、その足ですぐに日向家へと向かった。

彼らの反応は様々だった。一人は喜色満面の笑みを浮かべ、あとの二人は至極残念そうにどんよりとした空気を醸し出す。

残念そうにしていた二人のうちの一人でもあるネジが、「どうしてだ!」と、しつこくナルトに訊ねるが、それをナルトは一蹴。ネジに真相を教える気は毛頭ないので、適当にあしらう。

それに、当然納得いかないといった顔をしていたネジだったが、ナルトが話す気はないと悟ると、渋々とだが口を噤んだ。

反対に嬉しそうな顔をしていたヒナタが、「よろしくね」と言ってくるのを、ナルトは内心複雑な思いに駆られながらも、「ああ」と笑顔で受け止めるのだった。

その端で、ネジと同じく残念組みだったハナビは、

「・・姉上が、ナルトさんと一緒・・・・ううん、まだチャンスはあるはず!ナルトさんが、あともう3回落ちてくれれば・・・」

一人ブツブツと呟いていた。




明暗分かれた日向家の面々だった。








そんなこんなで、ネジたちが卒業した後も、ナルトはアカデミーでドベとして居座り続けていた。












いつものように、見事なドベっぷりを披露しつつ、退屈な日常を過ごしていたナルト。

思いもかけない出来事が起こったのは、そんなある日のことだった。






もちろん、アカデミーへ通ってはいても、裏の稼業がまったく無くなる訳ではない。

今日も今日とて、ナルトは暗部の仕事をこなしていた訳で、今アカデミーへ来ているのは影分身だ。




急ぎの任務だったらしく、しかも特Sランクとかなりレベルの高いものだ。ちょうど力のあるものは皆任務で里外へと出てていたため、それを一人でこなせる人物がナルトしかいなかったこともあり、彼におはちが回って来たという訳だ。

火影も迷った挙句の選択だったが、この任務は断ることは出来ない。火の国とは密接している木の葉。彼らの依頼を、無闇に断ることは出来ないのだ。そして仕方なく、ナルトをやることとなったのだった。








そして現在―――

本体のナルトは、戦場を駆け抜け、敵だらけの中で一人淡々と敵を薙ぎ倒していた。

特Sと言っても、ナルトにとっては、この状況は楽にこなせる物だった。味方がいないと言うことは、無駄な神経を使うことなく、目の前の敵だけを倒す事に集中出来る。逆に、味方がいることによって、ナルトの足手纏いとなる事もありえるからだ。

だがしかし・・その状況に油断したのか、ナルトは思わぬ敵の反撃を喰らい、怪我を負ってしまったのだった。









――――その頃、影分身であるナルトは・・

”うずまきナルト”であるにも係わらず、珍しくも馬鹿騒ぎに付き合ってくれる(と言ってもナルトからしたら付き合ってやっている)お馬鹿仲間。今年アカデミーに入ってきたキバ・シカマル・チョウジの三人と、いつものように騒いでいた時の事だ。

「!!?」

一緒になって騒いでいたナルトだったが、ふいに動きを止めた。

本体に何かあったのか、影分身であるナルトへと供給されていたチャクラが、ほんの僅かにだが揺らいだのを感知したのだ。

そのせいか影分身であるナルトの《影》が、僅かな時間・・消えた。

(ちッ!!・・一瞬だが、影が揺らいだか・・・。本体に何かあったようだな。)

冷静に状況判断し、ナルトは周囲の様子を探る。

(誰にも気付かれてない、よな?)

ここはアカデミーで、今は休憩時間だ。一瞬影が揺らいだぐらいで気付く者がいるとは思えないが、ナルトは念には念を押す。




しかし―――あの一瞬、ナルトの影が消えたことに、気付いた者がいた。




(ッ?!!・・視線ッ、誰だ!?・・まさか・・・気付かれたッ??)




自分へと注がれる視線を感じ、ナルトが慌ててそれを辿ると―――――・・こちらを凝視しているシカマルと、目が合った。

「「・・・・・・・・」」

そして、ただただ無言に見つめ合う二人だった。












[715] Re[12]:『 死神 の 涙 』第十一話 後編
Name: 夜兎
Date: 2005/07/14 14:57
『 死神 の 涙―壱拾壱 後編 』









*ナルト視点*






シカマルは面白い。

ネジ以来の面白い奴だと思う。

オレがある日、特Sランクの任務を遂行していた時のことだ。つい油断して怪我を負ってしまった。その後、ムカついたので一気に片を付けたが、どうやらその時の事が、影分身に影響してしまったらしい。

そして、それをどうやら、シカマルに見られてしまったのだ。

そんな事もあって、アイツはオレの実力に薄々気付きはじめた。が、それなのに、まったくといっていいほど接触してこない珍しい奴だ。普通は何か変だと思ったら気にするだろ?

ま、アイツの事だから、どうせ”めんどくせ~~”んだろうけどな。

けど、気付いてるのに気付かない振りするなんて・・な~~んか、ムカツク。

逃げ回るアイツを見ていると、追いたくなるのが心理ってもんだろ??

何も知らない哀れな草食獣を、牙を研いだ肉食獣が追う。

まあ、お手並み拝見といこうか。

どこまで逃げ切れるか見ものだな。もっとも・・オレから逃れられた奴なんて一人もいないけどね♪

あらゆる手を使って絡めとってやる。丁度、頭のいい奴が欲しいと思っていたところだ。役に立ってもらおうじゃないか。




――――――さあ、ゲーム開始だってばよっ!!













*シカマル視点*






ある日のアカデミーでの出来事だった。オレはいつものように、ナルトを含めたチョウジ、キバの三人と馬鹿騒ぎをしていた時の事だ。

(!?・・・影が一瞬消えた?・・)

ふと見ると、ナルトの影が揺らいだと思ったら、一瞬だが消えたのだ。オレは見間違いかと目を擦るが、影に敏感なオレが見間違えるはずがない。

影が一瞬でも消えたってことは、それは本体ではないという事だろう。

けれど実体はある。さっきもキバがじゃれあってナルトに触れていたが、実体があるのか、しっかりと触っても平気のようだった。分身の術とも少し違うみたいだし、どういうことだ?

それにナルトはドベだ。それこそ分身の術さえ出来ていない。そんなナルトが、”実体を持った分身”こんな高等忍術を使えるはずがないんだ。

(ってことは・・ナルトじゃないのか??それとも・・・・)




オレは、思わずナルトを凝視してしまった。

それが悪かったのか、急にナルトが振り向いたのだ。

 やべぇ・・目が、合っちまった。

全身に、ダラダラと嫌な汗を掻きつつも、どうしようかと考える。

―――が、その後。結局、目が合っただけで、特にコレといった事は何も起こらなかった。

ナルトは何も言わないし、オレもめんどくさい事はゴメンだ。と、言うことで、オレはその日のことは無かったことにした。









それ以来何事もなく、日々は過ぎていった。




しかし、一度目に付いたものというのは中々頭から離れないもので、オレはふとした瞬間にはナルトを観察していた。

そして気付く違和感。

ナルトの行動パターンは、一見まったく予測出来ないように見えるが、実際はとても綿密に計算されたものだった。

もし・・あの影の一軒がなかったら、オレが気付くことは恐らくなかっただろう。

けど、生憎とオレは気付いちまった。

そしてナルトを観察するようになってから、ふとした瞬間に見られる――――あの眼だ。

ナルトは時々、驚くほど冷めた眼をする。

あのナルトこそが、隠された真のナルトなのだろうか?

気になるかって?そりゃあ、はっきり言ってメチャクチャ気になるが・・。生憎と、オレは”めんどくせ~”ことは嫌いなんだよ。

しかもだ!

オレの滅多に働かない危機回避能力という名の直感がこう告げている。




―――奴には関わるな。

        ここは逃げろ!――――― と。




もし関わってしまったら、きっと・・・・・大変なことになるんだろうなぁ・・

・・・想像しただけでも・・はぁっ、めんどくせ~~。






それにアレだ!

オレはフツ~~に、平々凡々な人生を送るのが目標だ。退屈な日常で結構!普通・・尚結構。

だからオレは、滅多に働かないこの直感に従って、アイツとは出来るだけ関わらないと決めた。

関わったら最後・・どっぷり深みに嵌まること間違いナシだ。

・・なのにっ、なのにアイツは!







―――――・・嵐は突然やって来た。







去らば!愛すべき平凡な日々・・

こんにちは!スリリングで非常識な毎日・・・




結局、オレは逃げきることなど出来なかったのだ。

相手は、里最強の暗部にして悪魔だ。アイツが”死神”と呼ばれていようがいまいが、オレにとっては小憎たらしい悪魔なんだよ。

クソッ!仕方ねーからとことん付き合ってやるよ。




こんな人生も、

まぁ・・・・・悪くは、ないんだろうな・・。





あ~~~・・・めんどくせ~~~~。
















「遅い!!」

息を切らしながらやって来たシカマルに、ナルトから、開口一番に掛けられ言葉はそれだった。そのナルトの横にはネジもいる。

「遅いったって、ギリギリセーフだろッ?」

自分にしては珍しく、授業でもないのに走って来たのだから、褒められはしても、責められるなんてあんまりだとばかりにナルトへと文句を言うシカマル。

だが無情にも掛けられた言葉は、

「5秒遅刻だ」

だった。

そしてお仕置きとばかりに、シカマルは厳しい修行をさせられるのだった。




その様子を、まるで我が事のように見やるネジ。

ナルトの下僕一号・・もといネジ。一年先輩でもある彼と、つい最近知り合ったばかりのシカマルだが、ナルトの自分の扱いは、彼よりは比較的マシだと思う。そう思うことで何とかシカマルはその場その場を乗り切るのだった。

見事、というか無理矢理下僕二号となってしまったシカマル。彼は一人木登り修行(と言っても、めちゃくちゃ高い)をしながら、ナルトから与えられたネジよりは(延々と愚痴られたために知った)遥かにまともな修行を、横目で彼らの様子を眺めながらも、淡々とこなすのだった。




シカマルから少し離れた場所では・・




「土遁・穿追渦爪の術!!」

「えッ?!ちょ・・」

新技の試しとばかりに、印を組み、ネジへと術を発動させるナルトがいた。

それに、ネジは待ったを掛けることすらも出来ずに、逃げることを余儀なくされた。

無数の土の塊が、物凄い速さで回転し、爪のようにネジへと迫る。逃げても逃げても、それは的を穿つまでとどまることはない。




数分後、ネジの絶叫が響き渡る。




シカマルは、慣れつつあるいつも通りの光景に、目を閉じ合掌したのだった。













あとがき:あははははは。もう笑うしかないです・・。
妄想は色々と広がっているのに、それを上手く文章に起こすことが出来ません。。(泣
今回は特に分かりにくくなってしまい、申し訳ないです!しかも、内容もヘボいです;;あと長かったので、前・後編と分けさせて頂きました。
こう、胸躍るものが書きたいのですが、上手くいかないものです。もっと精進せねば!!
ここまで読んで下さり、ありがとうございます!!
それでは失礼しました。



[715] Re[13]:『 死神 の 涙 』第十二話
Name: 夜兎
Date: 2005/07/24 18:12








*いの視点*



最近、シカマルがおかしい。

な~~んか、こそこそしてるし・・何よりも!あのめんどくさがり屋が走ってたのよ~っ!??

くぅ~~~~~!!!すっごく気になるわ~~。

気になって夜も眠れないじゃないの~~~。乙女のお肌に寝不足は大敵なのよッ?!




そう言う訳で、これは調べるっきゃないでしょ!!










『 死神 の 涙―壱拾弐 』








「ってことで行くわよ!!チョウジ」

「ふぇっ??」

いきなりそう振られ、訳も分からず、いのに引きずられるようにして強引にも連れ去られるチョウジだった。

しかし、食べていたポテチをしっかり掴んでいるあたり、さすがチョウジといえよう・・・






引きずられながらも、ぽりぽりとポテチを食べているチョウジ。

特に何も言わず、いののされるがままとなっている。

そんなチョウジだったが、どうやら袋の中身のポテチがなくなったのか、今まで文句一つ言わずに引っ張られていたが―――

「ねぇ、いの。どこ行くのさ」

さすがに気になったのか、そう尋ねた。

「ん~~~?シカマルの行き先次第よ~!」

そこはかとなく楽しそうないののその言葉で、チョウジは自分たちがシカマルの後をつけているのだと知った。

「・・なんで、シカマルの後追ってるの?」

「なんでって、心配でしょ~~??」

不思議そうに聞いてくるチョウジに、いかにも心配してますといった様子で、いのはそう言い張る。が、チョウジは・・・

「別に心配じゃないよ?」

と、薄情にもそう言い切った。

「・・・あんた、シカマルの事嫌いなの??」

ついそう聞いてしまったいのだったが、そんな彼女を、誰も責める事なんて出来ないだろう。




どうやら言葉が足りなかったせいで、誤解してしまったらしいいのに、チョウジは違うと説明する。

「ううん。シカマルの事は、もちろん好きだよ。大切な友達だ。だけど、ホントに心配なんて要らないんだよ」

少し苦笑した様子でチョウジが言う。

「だったら、何でなのよ~?」

ハッキリしない物言いに少しムッとしながら、いのはその理由を問う。




「―――――だって、シカマルだから」




しかし、チョウジから返って来た答えは、さらに訳の分からないものだった。まったく答えになってない答えに、いのは?マークを飛ばす。

「??それって、どういう意味なの?」

「う~~ん、何て言ったらいいんだろう?シカマルはさぁ・・こう、”危ない!”と思ったら絶対にそこへは近づかないし、なるべく関わらないように、うま~く避けてくんだ」

「え~~~?あのシカマルが??」

いののあまりな言いように、チョウジは軽く笑った。確かに、一見してシカマルにそんな能力があるようには全く見えない。

「けど、ホントなんだ。いのだって、シカマルに付き合って一度や二度くらいそんな事があったはずだよ?」

そう言われ、いのは過去を辿っていく。

「・・・・・・そう言えば、昔、5~6歳の頃だったかな~?いつものように、家へと続く道を通ろうとしたら・・シカマルが、今日は違う道を使おうって言い出したんだよね」

「けど、いのが駄々こねて”いつもの道じゃなきゃイヤ!!”って言い出して、結局その道通ることになったんだよね~」

懐かしそうにチョウジは笑う。いのも連つられて笑い出す。

「そうそう!でもその後、お腹を空かせたでっかい野良犬に追いかけ回されたのよね・・」

「うん。あの時は、ちょうど父さんたちが通りかかったから助かったけど、いのもボクも泣いちゃったよね」

「そうだったわね~~。アタシとチョウジは、転んだりして擦り傷だらけだったけど、そういえばシカマルは殆ど無傷だったかも」

遠い記憶を思い出し、いのはハッキリとした事は言えないが、確かにシカマルにはそんな能力があるのかもしれないと思った。

しかし、それは分かった。分かったが、元々いのはシカマルを心配しての事ではなかった。何とか上手い具合にいかせようと慌てる。

「・・でっ、でも~~!!シカマルの危機察知能力をもってしても、避けられない危険な事件に巻き込まれちゃったってこともあるかもしれないでしょぉ??!」

「う~~ん・・・けど大丈夫だと思うよ?」

少し考え込むも、尚もそう言い募るチョウジに、いのはついに切れた。

「何が大丈夫なのよ~~~ッ?!!そんなの行って見なきゃわかんないじゃない!!!」

そのいのの剣幕に、ちょっぴりビックリしながらも、チョウジは・・・

「大丈夫だよ。―――シカマルには、ナルトが付いてる」

目をぱちくりするいの。

「なるとぉ~~~?なんであんな奴の名前が出てくるのよ~~??大体、アイツってばアカデミー2回も落ちた落ちこぼれじゃない。シカマルにそんな奴が付いてたって、全然役になんて立たないわよ」




「ナルトは、強いよ?」




疑問たっぷり文句たっぷりないのに、答えたチョウジの言葉は簡潔だった。

しかし、いのにはあの馬鹿でイタズラ小僧のナルトが強いなんて、いくらチョウジの言う事でも全く信じる事ができないでいた。

そんなことよりも、今はシカマルの事が気になるいの。

「と・に・か・く!今はシカマルよ~!!もう、気になって気になって夜も眠れないんだからッ」

つい、本音が出たいの。しかしチョウジはいのの本音を知って、妙に納得するのだった。いのがシカマルを心配して・・なんて、ちょっとおかしいと思っていたのだ。

幼馴染で、いのと長い付き合いのあるチョウジは、いのの性格をよく把握していた。

興味を持ったらとことん突っ込まないと気がすまない。それがいのだ。

そして、こんな時のいのに逆らうのは非常にマズイ。そんな事も分かっているチョウジは、シカマルにはちょっぴり悪いと思ったが、仕方なく付き合うことにしたのだった。

(・・ごめん、シカマル。ボクには、いのは止められない)













その頃――――シカマルはと言うと・・







「・・・おっかしいな~~?」

ポリポリと頭を掻きながらも、誰もいない森で一人ぼやいていた。












アカデミーが終わるとすぐ、シカマルはいつもの場所へと向かっていた。




遅れちゃマズイとばかりに、出せる限りのスピードで走るシカマル。

しかし、着いてみるとそこには誰もいなかった。

ナルトもネジもいない。ネジの場合、下忍なので、任務でいない時もあるのだが、ナルトまでいないのは初めてだった。

(・・確かに、今日も来るように言われてたはずだよな~?)

ナルトは時間にうるさい。他人には特に厳しいが、ああ見えて、ナルト自身時間をきっちりと守る奴なのだ。そんなナルトがいない事にシカマルは疑問を持つ。

どうしようかと考えていると、ふいに声が聞こえた。

その声は、シカマルの周囲にだけ響き渡るようにして聞こえてきた。

≪・・今日はやめだ。もう帰っていい≫

どこか呆れた声だったが、その声は言わずもがなナルトだ。しかし、どうやら姿を現す気は全くないらしい。

「ッ!?ナルトか?やめたって・・どうしたんだ??」

≪ああ。お前が後付けられたせいでな≫

一瞬、ナルトに言われた事がシカマルは理解出来なかった。

「・・・・はぁッ??!ったく、一体誰だよ?」

≪ポーチを見てみろ≫

なぜポーチを見るのかとか、色々言いたい事もあったが、取り合えずナルトの言う通りにするシカマル。

「!!これは・・・」

ポーチを開けると、そこにひっそりと挿し込まれていたのは小さな一輪の花だった。

その花は、黄色い毬藻のように丸い形状をしている。

≪お前なら、知ってると思うが・・それはただの花じゃない≫

「―――金霞仙」

金霞仙-木の葉でも、珍しいこの花は、別名・追跡花とも言われている。その金色をした花粉は、地面にしっかりと跡を残す。花粉は大地を明るく彩る。しかし、それも一時間もすれば霞のように、影も形もなく消えてしまう。そんな不思議な花だった。だいぶ昔には、忍にも重宝され、長く使われていたともいわれている代物だ。

そんな物を、簡単に手に入れることが出来、尚且つ自分を追っている奇特な人物。シカマルには、一人しか思い浮かばなかった。そして、きっと巻き込まれただろうもう一人を思い、シカマルは盛大なため息を吐いた。




≪山中とチョウジだ≫




――――――やっぱり・・・

予想が当たっていた事に、喜んでいいのか、悲しんでいいのか・・。シカマルは、また一つ、大きなため息を吐くのだった。












あとがき:最近・・やっぱり、面白くないかもと落ち込みがちの夜兎です。けれど愛着はあるので、少しでもいい物を書けるよう頑張りたいです。
話を進めるのが下手なので、ゆっくりまったりいく事にします。本編入るのは遠いかもです・・(汗
それでもお付き合いくださると嬉しいですv感想もっと頂けるよう努力しますので、宜しければお願いします!
それでは失礼しました。



[715] Re[14]:『 死神 の 涙 』第十三話
Name: 夜兎
Date: 2005/07/26 16:09









「ねぇ~~いの~~~!本当にこっちでいいの?なんか、どんどん森の奥深くに入ってくけど・・」

段々心配になってきたのかチョウジはいのに尋ねる。

「だ~いじょうぶよ~~♪ちゃんとこっちで合ってるんだから!」

キラキラと輝く金の道筋を辿りながら、いのはズンズンと進んでいく。少しへばり気味のチョウジと違い、こちらはまだまだ元気そうだ。




(ああ~~~っ!なんかワクワクするわね~vvシカマル~~!!!待ってなさいよぉ!!)










『 死神 の 涙―壱拾参 』






「ッぶぇ・・へっくしょんッ!!!」

急に寒気を感じたのか、シカマルは大きなくしゃみをした。

誰かが噂してるのか?と顔を青褪め、仕切りに周囲を見回すシカマル。

いきなりくしゃみをしたと思ったら、怪しげな行動をし出したシカマルを怪訝に見やりながらも、ナルトは・・

≪・・・オレは、もう帰る。お前、適当に誤魔化しとけよ≫




そう言うと、さっさと去って行ったのだった。

辺りは急にシンと静まり返り、森は次第にいつもの顔を表しはじめる。すでに帰って行ったらしいナルトに少々呆気に取られ、ぼーーっとするシカマル。

一人残されたシカマルは、これから来るだろう幼馴染を思い、どこか遠くを見つめるのだった。








いのは地面に残された金色を辿っていため、下ばかりを向いていた。そのため、何かにポスンッとぶつかった。少し視線をずらす。そんないのの目に映ったのは、金色のちょうど切れ目にある誰かの足元だった。

「あっ!!」

急に声を上げたチョウジに、ビクリとしながらも、いのは目線を段々と上へと上げていく。

「あ・・・」

そこにいたのは、ちょっと不機嫌な仏頂面をしたシカマルだった。

「・・え、えへっv」

「「・・・・・」」

笑って誤魔化すいのに、シカマルとチョウジの二人は無言に顔を見合わせると、大きなため息をつくのだった。










――――――シカマルの後をつけてから数日後。




結局、あの後シカマルに上手く誤魔化され、はっきり言って何も分からず仕舞いだった。

あれからというもの、再びアプローチを掛けてみるも、シカマルは警戒したのか、以前よりももっと慎重になった。そのため、金霞仙はもう使えず、いのは八方塞の状態だった。

しかし、それでもいのはまだ諦めていなかった。

(くぅ~~~っ!!シカマルの奴、警戒してるわねぇ・・・)

迂闊に動くと、すぐに感づかれてしまう。そんな状況に悶々としながらも、いのは考える。どうしたら、シカマルの秘密を探れるのかと・・。




そう言えば・・と、ふといのはチョウジの言葉を思い出した。






<―――シカマルには、ナルトが付いてる>






ナルトが付いてる。チョウジは何故、そんな事を言ったんだろう?

急にその事が気になりだしたいのは、早速、チョウジを呼び出した。






話を聞いていると、いのの思っているナルトとチョウジの知っているナルトは、全くの別人のように聞こえてくる。確かに、いのはナルトのことを詳しく知っているわけではない。イタズラ小僧で、ドベで、煩い奴。そして、アカデミーの嫌われ者。それがいのの知っているナルトだ。ほとんどの人が、ナルトの事をそう思っているだろう。けれど、チョウジの知っているナルトは、全然違うのだ。

「ナルトはとっても優しいんだ。そしてとても強いってボクは思ってる」

そう言ったチョウジの顔は、どこか誇らしげだった。

「・・どうして、そう思うの?」

いのは聞いた。何故だか、とても知りたかった。ナルトの真実(ほんとう)を・・・。




「そうだね・・あれは、ボクが昔森で迷子になった時のことだった――――」




大切な宝箱を、そっと開けるように、チョウジはあの時の事を思い出していった。








食べる事が大好きなチョウジは、その日も森へ木の実を摘みに来ていた。

今は旬真っ盛りで、森には豊富な、おいしそうな色取り取りの果実が所々に実っていた。それに、ついチョウジは羽目を外しすぎてしまった。そして夢中になって木の実を食べ歩いたため、森奥深くに入り込み、道に迷ってしまったのだ。

辺りは、まだ夕刻前だというのに、森の中はもう暗くなり始める。奥深く入りすぎたために、いつもの明るくて優しい印象とは正反対の、暗く・・恐ろしい顔を森は見せている。今まで食べる事に集中していたため気付かなかったチョウジも、その不気味な雰囲気に呑まれ、早く森を出なきゃと焦る。

そして、焦りのため、無闇に森の中を走ったチョウジは、更に奥へと迷い込んでしまったのだった。

「ぅ・・はぁっ、はぁはあッ・・・・・」

さっきまで、仄暗かっただけなのに、今はもう真っ暗だ。必死になって走ったため、あれだけ木の実を食べたというのに、お腹はペコペコだ。疲れも相俟って、とうとうチョウジは、座り込んでしまった。

(・・・お腹・・減った)

暗い森の中に独りきり。それに恐怖しつつも、やはり腹は減るらしく、ぐぅ~~~~っと大きな腹の虫がなった。周りを見渡してみるも、この辺には食べられる物は見つからなかった。

 ギャーーーーーッ ギャギーーーキィキィキー・・・・・

ビクリッ。チョウジは怪しげな鳥の鳴き声に震える。

(どうしよう・・・ボクこのまま、餓死して獣の餌にでもなっちゃうのかな・・?)

自分で考えて、あまりにも恐ろしい内容に恐怖した。その様が脳裏に浮かんでくるようで、慌てて頭を振った。

(だ、大丈夫。きっと、心配して誰かが来てくれるさ)

仄かな希望を胸に、チョウジは孤独という恐怖と闘った。

どのくらい経っただろうか・・。もうチョウジには、時間の感覚はなくなっていた。暗い森の中、まるで何日も過ごしたようにも感じる。

(このまま・・本当に誰も来なかったら・・・)

叢に寝っころびながら、チョウジは、ふとそんな事を考えた。

――――そんな時だった。

 ガサリッ・・

その音に、チョウジは飛び起きた。自分を狙って獣が来たのかもしれない・・と、冷汗を流しつつも警戒する。今の自分に逃げる術はない。

しかし――――・・現れたのは、自分と同い年、もしくはそれよりも小さな男の子だった。

男の子は、今の森と同じように真っ黒な服を着ており、まるで森と同化しているように自然にそこに存在していた。しかし、ほとんど光も差し込まない森の中。それでも男の子の金色をした髪と、湖畔を思い出す蒼の瞳は、この闇の中にも異彩を放ち、キラキラと浮かび上がるようにして煌き輝いていた。

そんな不自然で変わった男の子に、どうしてこんな森の中にいるんだろう?とか、おかしい所は多々あったのにも拘らず、その存在になぜかチョウジはとても安心したのだった。

「どうしたの?君も迷子になっちゃったの?」

男の子は何も答えない。しかし、チョウジがそれを気にした様子は全くなく、一人ペラペラと話し出す。

「ボクは迷子なんだ。木の実を摘みに来たんだけど、つい夢中になっちゃって・・。暗いし、怖くなって目茶苦茶に走ったら、もっと迷っちゃった。お腹もすいて動けないし・・・でも、君が来てくれたから、もう怖くないよ」

安堵した様子で笑うチョウジに、男の子は驚き、僅かに目を見開いた。

しかし、すぐに無表情に戻ると、チョウジに背を向け、森に溶け込むように消えてしまった。

「!・・ま・・・待って!!」

慌てて男の子の後を追おうとするも、お腹が減って力が出ない。男の子の行ってしまった方向を見るも、後姿さえ見つからない。そこには暗闇が広がるばかりだった。

ショックに落ち込むチョウジだったが、暫らくすると、男の子は袋ふたつを一杯にして戻ってきた。それに、今にも泣きそうだったチョウジは慌てて涙を拭い、男の子をマジマジと見た。

一つ目の袋には木の実やら野草が一杯に。二つめの袋には、こぶし程度の石ころが沢山と、平べったい大きな石版みたいな石に、枯れ木がこれでもかと入っていた。

チョウジはまるで魔法を見ているみたいに、その袋の中身に見入った。

そんなチョウジを横目で見ながらも、男の子は火をおこし始める。石ころで周りを囲み、その中に枯れ木を並べていく。そして印も何も組まずに、人差し指から火を熾すと、それを枯れ木にうつした。すると、火はあっという間に大きくなり、辺りを明るく照らし出す。今まで恐ろしかった森が、仄かなオレンジをした優しい光に照らされる。チョウジは顔を輝かせた。自分よりも小さな男の子が、とても大きな存在に見えた。そんな様子のチョウジを尻目に、男の子は後ろに括り付け吊るしていた川魚を何匹か取り出すと、手早く枝に串刺す。小さな壷から塩を出すと、魚にぱらぱらと振りかけ、そしてそれを火の傍の地面へと突きさした。

パチパチと火が爆ぜ、辺りに魚の香ばしい、いい匂いが漂う。その匂いに、思わずチョウジはごくりと唾を飲み込んだ。男の子は、今度は石版の上をまな板代わりに、野草やらをクナイで切り刻んでいく。軽く塩で味を付け、それを今度は魚の腹に詰め込むと、大きな葉っぱに包み、それを火の中に投げ込んだ。

「うわぁ~っ!!」

感嘆の声を上げるチョウジ。

それから、チョウジは思わぬ美味しい料理を、心行くまで楽しんだ。その間、男の子はその様子を黙ってみていた。チョウジが一緒に食べようというのを、首を振って断り、ただただ自分の作った物を美味しそうに食べるチョウジを、どこか満足げに見ていた。

お腹も一杯になり、元気を取り戻したチョウジ。食べて少し休んでいると、ふいに、男の子が立ち上がった。

どうやら、付いて来いといっているようだ。体力も元気も取り戻したチョウジは、軽く頷くと男の子に従った。

つかず離れずの距離を保ちながら、二人は暗い森の中を歩いていく。男の子の掌に乗っている火の玉だけが、道標だった。チョウジが少し遅れると、後ろを振り返り、待っていてくれる男の子に安堵しながらも、でこぼことした道を必死に歩いた。

やがて―――――・・森が開け、明るい月に照らし出される。見ると、すぐそこは見知った場所だった。

チョウジはあまりの嬉しさに、脱力し、へなへなと地面に座り込んだ。思わず涙が零れ落ちる。

「・・あ!・・・ありが」

ここまで連れて来てくれた男の子に、御礼を言わなきゃと、チョウジは前を見るも、そこには誰もいなかった。

キョロキョロと辺りを見渡すも、男の子は見つからない。不思議に思っていると、心配して探しに来てくれた父親達が、迎えに来てくれたのか、自分を呼ぶ声が遠くから聞こえてきた。

「チョウジーーーッ!!!」

声と共に、段々とその姿が見えてくる。それに嬉しく思いながらも、チョウジは後ろを振り返り森へと向かって、小さく――――

「・・ありがとう」

とだけ言うと、「お父さ~~ん!!」父親がいる方へと走り去っていった。

そんなチョウジを、森の木高くで見守っていた金の髪の男の子は、目を瞬き驚きながらも、微かに笑った。

父親と手を繋ぎ、一瞬だけ後ろを振り返ったチョウジは、そんな男の子の、微かに笑った顔が見えた気がした。









「―――――って事があったんだ。あの時は、夢かと思ったんだけど・・あの美味しい味をボクは忘れなかった」

思わず話しに聞き入っていたいのは、ほうっと感嘆のため息をついた。チョウジの食いしん坊さには呆れながらも、不思議でどこか温かい話にいのは惹かれた。

「でもさぁ、それって本当にナルトだったの??」

いい話だとは思う。しかし、それが本当にナルトだったとは限らない。そう思ったいのはチョウジに問う。

「あれはナルトだよ」

チョウジの答えは、いつになく真剣で、そうだと確信に満ちたものだった。

「ボクは、アカデミーに入学してナルトに再会した日からずっと見てた。偶に見せるナルトの顔は、あの時の男の子そっくりだった」

「そりゃあ金髪碧眼なんて、この里にはナルトしかいないけど・・。いいわ!その男の子がナルトだとしましょう。でも、どうしてナルトが強いと思うの?」

もっともな事をいのは言う。いのにしてみれば、ナルトが強いだなんて信じられないのだ。

「あの時ね、ナルトが現れるちょっと前、遠く狼の遠吠えがしてたんだ。・・けど狼も、他の獣たちもいたはずなのに、ナルトがボクの前に現れた瞬間、鳴声も気配もピタッと消えたんだ。それってすごい事だよね?」

「・・・すごいわね。そんなの、並みの上忍でも出来ないわよ」

目を丸くして驚くいの。

「それにね。ナルトは心がとっても強い。ボクは少し前に、ナルトを里で見つけて、声を掛けようとしたんだ。でも、掛けられなかった・・」

「どうしてよ?」

別に、普通に声を掛ければいいじゃないとばかりにいのが聞く。しかし、チョウジの答えは、いのの想像を遥かに超えた何とも後味が悪い物だった。

「里の大人たちがナルトを見る目だよ」

「・・目?」

「そう・・誰も彼もが、ナルトのことを恐ろく冷たい目で見るんだ。ボクは、自分がそんな目で見られてるわけじゃないのに・・・涙が溢れた。けど・・けどさ、ナルトは笑ってるんだ。そんな中・・・・それでも笑ってた。あんな目で、訳もなく見られて、それでも、ナルトは大人たちを恨んでないんだよ?信じられる??ボクにはそんな事出来ない!きっと、大人たちを恨んで恨んで、憎んじゃうかもしれない。”どうしてボクをそんな目で見るの!!?”って・・」

「チョウジ・・・」

「それにナルトは、そんな大人たちを悲しんでる。そう・・ボクには見えたんだ。ナルトは優しい。自分に対して、あんな酷い仕打ちをしている人達にも・・・」

今にも泣きそうなチョウジに、いのも釣られて泣きそうになる。そして、ますますナルトに興味が湧いてきた。




「私・・ナルトの事をもっと知りたい」




強い声でそう言ったいのに、チョウジは・・・

(・・どうしよう・・・つい、ナルトの事いっぱい話しちゃったけど。いの、ますます興味持っちゃったみたいだ・・)

いのがナルトの事をちゃんと知りたいと思ってくれた事には嬉しく思う。が、きっといのはそれだけでは済まないだろう。自分の蒔いた種に、これから起こるだろうことを思い、ちょっぴり悔いてしまったチョウジだった。










◇おまけ◇




「・・シカマル。ナルトにごめんって伝えといて」

帰り掛けにそうチョウジに声を掛けられ、訳が分からないシカマル。しかし、チョウジには、妙に悟ったような何か変わった所があるので、特に気にする事もなく―――

「ぁ、ああ」

ほんの少し首を傾げながらも、取り合えず、シカマルはそう頷くのだった。

後で、どうしてこれからナルトに会う事を知ってるかのような口振りだったんだ!とか・・気になる事になるのだが、取り合えず、シカマルのチョウジに対する謎は更に深まったのだった。












あとがき:チョウジ編とも言えますね。本当は、番外でこのお話を出そうと思ってたのですが、なんか上手く纏まらなかったのでこんなんになっちゃいました。
もっと面白味のあるものを書きたいと思いつつも、気持ちだけが空回り状態です;;
今回はほぼ猪蝶オンリーでした。(笑
それでは次回へ続く!(何となくノリでやっちゃいましたv失礼しました。



[715] Re[15]:『 死神 の 涙 』第十四話
Name: 夜兎
Date: 2005/07/31 19:39








最近、視線を感じる。

嫌な視線ではないが、鬱陶しい。

シカマルが言うには、どうやらチョウジは何か感ずいてるらしい。

そういえば昔、ぽっちゃり系のガキが迷子になってたのを助けた事がある。そんな事を、ふと思い出した。それをシカマルに言ったら、「いや・・お前も、そん時ガキだろ?」と変な所を突っ込まれたので、一発殴っといた。

まさか、あの時のガキがチョウジだったとはな・・・

まだ年端もいかない子供だからと、術は掛けなかった。すぐに忘れると思ったし、どうせ、大人にオレの事を言ったとしても、信じてもらえないだろうと高を括っていたのだ。

それが、こんな仇になるだなんて・・・・あの時のオレは、夢にも思わなかったのだ。














『 死神 の 涙―壱拾四 』










「イルカ先生~!!チャーシューちょうだいv」

「あっ、コラ!それはオレのだ!!」

いつものように、一楽へとらーめんを食べに来たイルカとナルト(もちろんイルカの奢りだ)。隙あり!とばかりにナルトはイルカのチャーシューを奪うも、しっかりと奪い返される。

「ちぇーー、けっちぃの!」

内心で、せこいな・・なんて思いながらも、ドベらしく恨みがましくも文句を言うナルト。そんなナルトに、イルカは苦笑しながらも、別の具を分けてやる事にする。

「しょうがないな~。ほれ、シナチクやるから」

「え~~~・・・オレってば、シナチク嫌い・・」

「好き嫌いは良くないんだぞ?ったく、じゃあナルトやるよ」

ナルトの器に、具のナルトをポイッと入れてやる。

「・・・イルカ先生・・それって親父ギャグ??ナルトにナルトって・・チョー寒いんだけど」

一瞬二人に沈黙が走る。

「「・・・・・」」

それも束の間、二人は何事もなかったかのようにらーめんを食べ始めるのだった。




こっそりナルトの後を付けていたいのは、二人の会話を聞き耳を立てて聞いていた。しかし、あまりにくだらない内容に、呆れるのだった。


(・・なんか、こんな事に時間を費やすのが馬鹿馬鹿しくなって来たわ)




「あれ?いのじゃないか。そんな所で何してるんだ??」

イルカは、ふと視線を感じ、物陰に隠れこちらを見ている教え子を見つけた。ナルトも気付いてはいたが、敢えて放っておいたのだ。

見つかった事にいのは慌てるが、このままそこにいる訳にもいかず・・。こうなったら!と、思い切りよく姿を現した。

「ちょ、ちょっと散歩に!あ・・・あはははははっ・・。」

自分でもちょっと苦しいかな?と思ったが、そこは笑って誤魔化す。ナルトは、そのあまりな言い訳に内心呆れながらも、らーめんを口一杯に頬張り、ドベを装う。そしてドベらしく、らーめんを咥えたまま、いのの登場に驚いた振りをした。

しかし、いのの苦しい言い訳にも、イルカは特に気にした様子もなく、

「今ナルトとらーめん食ってたんだが、いのもどうだ?もちろん!先生の奢りだぞ」

と、いのを誘った。

「え~~っ!!ホントですか?じゃぁ、お言葉に甘えてご馳走になりま~すv」

当初の目的もすっかり忘れ、”奢り”の一言に、瞳を輝かせ、ついついそう返事をしてしまういのだった。しかし、ちゃっかり注文したのは、ナルトと同じトンコツだった。ナルトがあんまり美味しそうに食べるので、それを見ていたら無性にトンコツが食べたくなったのだ。

「へい、おまちッ!!」

ドン!とトンコツらーめんが、いのの前に置かれる。立ち込める湯気と、美味しそうな匂いにいのは、「いっただきま~~すっ!!」と言うと、すぐさま箸を付けた。

 フゥッ、フーッ・・ゴクッ ズルズルズルッ!

「うま~~い!!!」

どちらかと言うと、いのはしょうゆ派だ。しかし、初めて食べる一楽のトンコツはめちゃめちゃ上手かった。

しかし、そこでいのはハッとする。

(って、ちが~~うッ!!!なに暢気にらーめんなんか食べてるのよ!!・・・・でも、うまい)

結局、最後の最後、スープまでしっかりと完食したいのだった。イルカとナルトの二人は、気持ちのいい、いのの食べっぷりに仕切りに感心するのだった。

その食べっぷりに、一楽店主のテウチにも気に入られたのか、計らずもタダ券をゲットしたいのだった。




思わぬ楽しい時間は、あっという間に過ぎていった。

「ナルト!お前、いのを送っていってやれ」

「え~~~~ッ!?」

イルカの言葉に、心底嫌そうな顔をするナルト。それは本音もおおいに混じったものだった。

(何でオレが・・・)

そんな事をナルトが思っていると・・

「別にいいです!一人で帰れますから!!」

あまりに嫌そうな顔をするナルトに、いのはムッとした。二人きりになれてチャンスだとか思ったりもしたが、そんなに嫌そうにされてまで送って欲しいとは思わない。いののプライドがそれを許せなかった。

「でもな~~、もう夜も遅いし・・。先生が送ってってやれたらいいんだが、この後任務があるんだよ」

「本当に大丈夫です!このくらい全然平気ですから~」

そう言って、手を振り帰って行こうとした・・その時―――いのの腕をしっかり掴むナルトがいた。












あとがき:こんばんわ~夜兎です。今回はちょっと短めです。最近やっぱり、書くより読むのが好きだな~~などと実感してます。
他の方の作品の面白い事面白い事w素晴らしいです!なので、更新はゆっくりになるかもしれません。それでも、読んでくれたらとても嬉しいです。
では失礼しました。



[715] Re[16]:『 死神 の 涙 』第十五話
Name: 夜兎
Date: 2005/08/05 16:59









「待てってば!送ってくッ。じゃ、イルカセンセ~!また明日な!!」

今にも帰ろうとしていたいのを引きとめたナルトは、そう言って少々強引に彼女の腕を引っ張ると、暗い道をズンズンと進んで行った。

「二人とも、気を付けて帰るんだぞ~~!!」

そんな二人を、イルカは笑顔で見送るのだった。












『 死神 の 涙―壱拾五 』










「「・・・・・・」」

暗い夜道を、二人は黙って歩く。

その沈黙に耐え切れなくなったのか、いのは思い切って口を開いた。

「あの、さっ・・何で、送ってくれる気になったの?」

あんなに嫌がってたのに、と。いのは続ける。

「こんな夜に、女ひとりで帰らせるわけにはいかないだろ。だいたい、あんな時間に散歩なんて、危ないってばよ?」

以外にフェミニストなんだなと、そんな事をいのは思った。後半の部分に関しては、「アンタが、火影岩にイタズラなんかするからよッ!」と、ぼそりと文句を言う。それはしっかりとナルトの耳にも届いていたのだが、もちろんいのはそんな事とは露知らず・・

(わ~~るかったな!あんの狸ジジイにムシャクシャしてたんだよッ!けど夜遅いってのに、後付けてくるお前もどうかと思うぞ?)

内心で毒づきながらも、ナルトはスミレの教育の賜物か、女・子供にはやさしい。本人も意識せずに、根っからのフェミニストとなっていた。そのため、暗い夜道を女ひとりで帰らせる事なんて考えられなかったのだ。

「まぁ、これからは気を付けろってばよ!」

「う、うん」

それから二人の話は一楽の話へと変わり、おおいに盛り上がった。ナルトのらーめんに対する熱情に、いのは少し呆れながらも、こうして話してみると、とても親しみやすいナルトの性格に好感を持った。チョウジたちを別として、どうしてナルトは嫌われているのだろう?イタズラ小僧ではあるが、あんなに嫌われる理由にはならない。と、更に疑問を持つのだった。

(そういえば・・ユキちゃんとか、くの一教室の女の子たちにもナルトのこと聞いてみたけど。ほとんどの子たちが、親に関わるなって言われてるみたいだったわね~。調べてた時は、最初の先入観がどうしても拭えなくって、対して気にならなかったけど・・こうして話してみると、それが見事に覆されちゃったわ。でも、うちのパパやママには、そんな事ひとっことも言われなかったけどなぁ?それはどうして??)

いきなり黙ったかと思うと、深く沈み込んでしまったいのをナルトは怪訝に思いながらも、彼女を思考の淵から呼び戻すべく、声を掛けた。

「・・・・ぃ・・・の!いのっ!!」

「えっ?!」

自らの思考深くへと入り込んでしまったいのは、自分を呼ぶ声にようやく気付いた。

いくら呼んでも返事をしなかったいのが、やっと気付いた事に呆れながらも、ホッとした。

(なに考えてるのか知らないけど・・・どうせ、碌でもないことなんだろうなぁ)

そんな感想を漏らしつつ、ナルトは彼女に向かって、

「商店街入ったら、お前、離れて歩けってばよ」

と言った。

「えっ?!」

当然いのは驚き、唖然とした。

しかし、そんないのを放ってナルトはさっさと道を進んでいく。それを、いのは慌てて追いかける。

「ちょ、ちょっと待ってよ~!!」

ナルトは歩調を緩めることなく進んでいく。追いつくのに必死で、いのはどうしてなのか聞きたかったが、それも出来ず。自分よりも、背の小さくて足のコンパスが短いナルトの方が足が速いことに「なんでこんなに速いのよ~~!?」と、文句を呟きながらもナルトを追いかけた。

そうこうしているうちに、商店街に入り、周りを気にする余裕もなく・・いつの間にかいのの家である<やまなか花店>へと着いていた。

「はぁっ、はッ・・あ・・・・あれ??ウチだ」

いのが息を切らしながら見た先は、見慣れた店の前だった。

「ど、どうしてっ!?」

どうして自分の家を知ってるのか問いただそうと、ナルトの方を見るが、来た道を戻っている彼の後姿があるだけだった。

素早い行動に、挨拶ぐらいしなさいよ!と思いながらも、ナルトを追いかけるべく行動に移そうとしたその時・・―――

「いのッ!!どこにいってたんだい?!!アカデミーが終わったら、真っ直ぐ帰ってこなくちゃ駄目じゃないか!」

勢いよく店から飛び出してきた山中家の大黒柱・山中いのいちによって止められた。

「ご、ごめんなさい。パパ」

心配の為か、目に涙を浮かべた父を見、あまりの親馬鹿ぶりに少し情けなく思いもしたが、自分を心配してのことなのでいのは素直に謝った。

「おや?ナルト君じゃないか・・」

大分遠くに見える金髪を見つけた。

「へっ?パパ!ナルトのこと知ってるの!??」

娘の驚きように、ビックリしながらもいのいちはいのの質問に答えてやる。

「知ってるも何も、彼はうちの常連さんだよ」

「ナルトが~っ??!!」

耳近くで聞いてしまったいのの絶叫に、いのいちは耳を押さえる。その声に驚いたのか、いのの母が二階から降りてきた。

「な、何事なの??」

「いや、いのちゃんがナルト君がウチの常連って言ったら・・」

「だって!だってあのナルトよ??!ウチって花屋よね??」

「何言ってるんだい?当たり前じゃないか」

二人の会話が面白かったのか、

 くすくすくすっ

と言う笑い声が聞こえてきた。

「お母さん!何で笑うのよ~~っ」

「っ・・ごめんごめん。二人が可笑しくって!」

「もう~~~~~っ!!」

口を膨らませながらも、次にはいのも笑い出した。その日、山中家では楽しい笑い声が響き渡った。

「いのちゃんは、ナルト君がお花を買うのが信じられない?」

「う・・うん」

優しく母に問いただされ、いのは正直に答える。

「そう言えば、いのが店番の時にはナルト君が来た事はなかったっけなぁ?」

その父の呟きに、自分がいる時は避けられたいたんだと知ったいのは、無性に腹が立った。

ご立腹ないのの様子に気付いていないのか、いのいちは続ける。

「ナルト君は植物に好かれてるんだよ。ナルト君が来ると、みんな生き生きとして、彼に自分の美しく咲く様を見せるように命の輝きを強くするんだよ。彼が来ると、萎れた花も元気になって懸命に咲くんだ」

ぷりぷりと怒っていたいのは、それも忘れてその話に釘付けになった。

「そんな事ってあるの??」

「う~~ん・・実際そうだしなぁ。それに、花とか植物は話しかけて愛してあげると綺麗に咲いてくれる。だから、パパはそういう事もあると思うし、実際この目で見たからね」

そうだろう?とばかりにいの母に顔を向けた。

「そうねぇ。・・あ!いのちゃん、周りの花たちを見て御覧なさい」

母に言われ、周りを見渡してみるいの。

「・・・・・・これって」

「ナルト君が近くに来たのが分かったのかしら??なんだかいつもより元気でしょう?」

確かに、いつもならこの時間、花たちはあまり元気とは言えない。夜に咲く花は別として、日中に咲く花たちは夜の闇に沈黙を持って過ごす。それなのに、今彼らは花開いている。不思議な出来事に、いのは更にナルトへの謎が深まるのだった。




それからいのは、用意されていた夕飯を食べ、今日の疲れを癒すべくお風呂場へと直行するのだった。

 ちゃぷんッ

「ふぅっ・・・」

浴槽に浸かり、いのは寛ぎの体勢でお風呂を楽しんだ。そして入浴の相棒の黄色いアヒルさんに話しかける。

「やっぱり、あの手しかないかも・・ねぇ?かーくん」

アヒルのかーくん(いの命名)は、円らな瞳をこちらに向けるだけで、当たり前だが何も言わない。しかし、いのにはその瞳が自分を応援しているように見えた。

 ザバァーーーッ!!

よしっ!!とばかりに湯船から立ち上がると、いのは明日に備えて早く眠ることにした。タオルで髪を拭きながらも、いのの瞳は爛々と輝いていた。

(待ってなさいよ~~ッ!!ナルト~~!!!うふふふふふッv)

そうしていのは、いつもよりも早い時間に愛用のクマのぬいぐるみ(エリザベス)を抱え、ベッドに入るのだった。







明くる日、かーくんに背中を押されたいのは、アカデミーも終了し、丁度いのの目の前を通りかかったチョウジを拉致した。

「い、いの~~~っ?何でボクはまた引きずられてるのかなあ??」

ずるずると引きずられながらも、何となく嫌な予感に駆られ、そう訊ねるチョウジ。

「ん~~~~?言わずもがなよッw」

大体ナルトがいるだろう場所に目星を付けていのは探す。

(・・・あッ、いたわ!!)

どうやらまた何かしたのか、イルカに怒られているナルトを発見した。

物陰に隠れ、様子を窺う。今度は見つからないようにと、十分に距離を保ちながらも、見失わない位置にて二人を見守る。

ようやく説教が終わったのか、ナルトがイルカに手を振って去っていく姿が見える。それをいのとチョウジは慌てて追いかける。

(止まれ・・止まれ!止まれ!!)

追いかけながらも、いのは必死にナルトへとそう念を送る。それが効いたのかは分からないが、ナルトが止まった。

(よっし!!)

内心でガッツポーズを取りながら、このチャンスを逃がして堪るか!とばかりにチョウジへと物凄い形相で振り向いた。




「チョウジ!私の事、よろしく!!」




にっこり笑顔で言うも、チョウジにはそれが般若に見えた。が、碌でもない事が起こることは予測出来ても、チョウジにそれを止める術はない。

『――心転身の術!』

「えっ??!」

嘘でしょ!?と言いたくても、当の本人に意識は既になく、崩れ落ちるいのの身体を慌ててキャッチするチョウジだった。

「私の事、よろしくってこういうこと!?」

虚しいチョウジの叫びは、誰にも届くことなく、風に攫われて消えた。














[715] Re[17]:『 死神 の 涙 』第十六話
Name: 夜兎
Date: 2006/02/25 16:10







山中はシツコイ。上手いこと避けても避けても次の日にはまたやってくる。とことんまでやらないと気が済まない性質なのか一行に諦める気配はない。




だけど―――・・


まさかあんな暴挙に出るとは、さすがのオレも想像してなかった。








『 死神 の 涙―壱拾六 』








今日も今日とてやって来た山中に、少々うんざりしている。


後を付けられているのは気付いていたが、オレはいつものように知らぬ振りをする。そして、そろそろ諦めるんじゃないかと、都合のいいことを考えたり。


(今日はチョウジも一緒か・・)


無理矢理巻き込まれたらしく、いのに首根っこを掴まれている姿を横目で見る。


二人はイルカに怒られているオレをじっと観察している。


どうやら先日の一楽の件で学習したのか、一定の位置を保って離れている。


しかし、気配は駄々漏れだ。いのはそれなりに気配を消しているのだろうが、チョウジは元々尾行する気がなかったからか、気配は消していない。


そんなんじゃ、まだまだ駄目だな。なんてことを思いながら、説教に集中しているのか、まったくいの達には気付かないイルカを見る。


その一点集中すると周りが見えなくなる、というのはのはある意味すごいとは思うが、戦場ではそれは命取りになりかねない。


やはり教師という位置にいるためか、平和ボケしてるな。と、ナルトはシビアな感想を持った。




ようやく説教も終わったのか、やっと開放されたことにやれやれと思いながら、


「イルカ先生ー!!じゃあな~~っ!」


今まで説教されていたのもなんのその!明るく元気にオレはその場を去ったのだった。






やはりというか、なんというか・・山中とチョウジはオレの後を追ってきた。


チョウジもなんだかんだと言って、結局は山中に付き合っている。


それにしても・・・今日の山中はどこか不気味だ。どこが不気味かと聞かれても、そんな事はオレに聞かれても困る。が、どこかいつもと違ったのだ。オレの忍びとしての感がそう言っている。


フラフラと道なき道を歩く。


里の方へは行かず、森を散策中。


これはいつものドベのナルトのパターンだ。最近は山中が煩いことから、ネジたちの修行はそれぞれに任せている。


基本的なことは教えた。


後は、一番自分にあった戦闘スタイルを見つけることだ。

これはオレが言ってしまっては意味がない。もちろん彼らがどういうことに適しているかは分かっている。
しかし、それは自分で見つけるからこそ意味があるのだ。
ただ口で教えても、それは伸びることなく、そこで終わる。それ以上成長することはない。
それでは駄目だ。あいつ等にはただオレの言うことを聞くだけの人形になって欲しい訳じゃない。それじゃあ全然面白味がない、気の抜けたサイダーと同じだ。


オレが欲しいのはもっと・・・




そんな事を思いながら、ふと目にした蟲に目が行った。


(これは・・シノの蟲、か)


一匹だけ逸れたのか、それとも態とか。シノの考えている事は分かりにくい。
だが、嫌いではない。
独特な雰囲気を持つシノに、安らぎを感じることもある。シノは自然な存在だ。
けど偶にワケの分からん奴だとも思うが・・


立ち止まって蟲を観察する。しかし、それがこれから起こる事件の始まりとは・・・オレは夢にも思わなかったのだ。




『心転身の術!!』


山中のそんな声が聞こえ、ハッとして我に返る。


(おいおい!マジかよッ・・)


内心で突っ込みながらも、どうするか冷静に考える。


ドベのナルトとしては避けることは出来ない。しかし避けるとバレる。

まぁ、偶然を装って避ける事も可能だが、一つ様子見といこう。なにより少し面白そうだ。


そんな軽い気持ちでオレは山中の術を受けたのだった。







「「・・・・・・」」






初めて掛けられた心転身の術は何とも不思議な感じだった。
もちろん、オレの意識はハッキリとしている。生憎、山中如きに意識を奪われるような精神はしていない。
しかし、気付かれないよう大人しく様子を見守った。


さぁ、オレ自ら身体を明け渡してやったんだ。どうするのか楽しませてもらうぜ?











「・・・・・んんっ?へぇ・・・ナルトってやっぱ小さいわね~~。目線がいつもと全然違うわ!」


 ・・・・・・


そろりと目を開けて、手の感触を確かめた山中が、辺りを見回してそんな事を言いやがりました。


身体を乗っ取った山中の第一声に、無言に落ち込む。


 ・・・・・・・・・・くそぉ・・・人が気にしてる事をッ・・。牛乳・・一日1リットルは飲んでるのに。
 なぜ伸びないんだ!!


そんな事を真剣に愚痴っていると、また山中が騒ぎ始めた。


「何よ、これ~~っ!!」


 今度は何だ!


少々苛立ち気味に突っ込む。


「・・・私より細い。なんだか、無性にムカつくわ!」


オレの腕を見た山中がぶちぶちと文句を言う。


勝手にムカつかれても、オレが細いのは体質だ。燃費がいいのか太りたくても太らない。山中含め、世の女どもは羨ましがるかもしれないが・・・
オレとしてはもう少しウエイトが欲しい。


この体型は軽くて動きやすいのだが、しかし軽い分、破壊力が低いというのが難点だ。
チャクラとスピードで補ってはいるが、やはり力が劣ってしまうのだ。
まぁ、それも日々の鍛錬とチャクラで補強してるから問題はないんだが。・・じいさんが言うには「三忍の綱手くらいの怪力」と云わしめるほどだ。


「でも、細いだけあって軽くて動きやすいわね」


 へぇ・・いい眼を持ってるな。


ぴょんぴょんっと、軽く飛びながら呟いた山中のその言葉に、小さな拍手を送る。忍としてのセンスは悪くはないようだ。


 ・・・それはまぁいい。が、、女言葉を喋るな!女言葉を!!気色悪いっ。コレはオレの身体だぞ??頼むから、変な行動だけはしないでくれよ・・。


安易に身体を明け渡した事を軽く後悔しながら、切実に思う。


そして一抹の不安を覚えながらも、山中は一通り観察し終えて満足したのか、意気揚々と森を歩き出す。






「らんらんら~ん♪らんらんら~ん♪ふんふふふんふんふ~~んw」


暢気に(よく分からん)唄を歌ってスキップするオレ(山中)。そのあまりの光景に、思わず魂が抜け掛ける。


「うふふふふ~っvああ!何だかワクワクして来ちゃった!!」


 ワクワクするのはいいが、その変な唄とスキップは止めろッ!!!


そんなナルトの叫びも虚しく・・


「よーーーし!行くわよっ、いの!!!」


猪突猛進、いのはひたすら突っ走るのだった。












久しぶりの投稿になります。
夜更かし者様、停滞気味だったのにも拘らずのご感想、どうも有り難うございました!面白かったといってもらえるだけで、とても嬉しいです。
少し書き溜めてあったのを、何とか形にしてみました。
気に入ってもらえたら幸いです。







[715] Re[18]:『 死神 の 涙 』第十七話
Name: 夜兎
Date: 2006/04/09 13:57








「ッはぁ・・はあっはぁ、くっ」


恐怖に急き立てられ、竦む足を何とか動かし、ひたすら逃げる。


涙に滲む目を腕で拭い、迷路のような路地をただただ走った。


その間にも、複数の黒い影が下卑た笑い声を上げながら、すでにほんの後ろへと迫っていた。まるで遊んでるかのように、それはじわじわといのを追い詰めていく。


焦りが、緊張し強張った足を縺れさせる。




あっ!と思った―――次の瞬間。




地面がすぐ目の前に、見えた。


スローモーションのように、ゆっくりと。いのは自分が倒れていくのを感じていた。


゛ああ、転んだんだ〝


こんな時に、そんなことを思って、少し可笑しくて笑った。


 ズシャアァッ!!3


軽い衝撃を身体に感じ、ハッとする。掌に感じた痛みに、現実逃避していた意識を取り戻す。


唇をかみ締め、震える腕に力をいれ必死に起き上がる。


「ッぐぁ!!!」


右足首に鈍い痛みが走った。


転んだ時に捻ったのか、局部を見ると、そこは青黒く腫れている。掌の怪我に気を取られて気が付かなかったが、かなり酷いのが見て取れた。


痛む足を堪え、それでも”逃げなきゃ”と、いのは何ともなってない左足にぐっと力を入れると立ち上がり、右足を引き摺りながらも懸命に歩いた。


ズリズリと足を引き摺り、ふとしたら出そうになる涙を我慢する。


しかし、


そんないのの努力も虚しく――――




自分の荒い呼吸に混じり、間近に感じた他人の呼吸音。それがやけに大きく聞こえた。




振り向き、いのが目にしたのは・・・・・






「―――――ッッ!!!!!!?」5










『 死神 の 涙―壱拾七 』












「・・ここにきっと、ナルトの秘密があるんだわ」


凛々しくも呟かれたいの(ナルト)の台詞。しかし、中身と外見が合っていないだけに、それはとてもお間抜けに響いた。


心なしか、遠くで烏が阿呆~と鳴くのが聞こえてきそうだ。




――やって来たのは商店街。


里でも特に賑やかなここは、様々な人々が行き交う所。かくいう彼女の家もここにある。


慣れ親しんだ場所に、新たな気持ちでいの(ナルト)は立っていた。


少し緊張しながらも、地にしっかりと足をつけ、ゆっくりと進んでいく。


踏み入れた先には、人、人、人。


いつもよりも、商店街は人で溢れ返っていた。


手に汗が滲む。


ゴクリと唾を飲み、キョロキョロと辺りを見回す。


傍から見たら、不審者並みの怪しさでいの(ナルト)は歩く。けれど、いの(ナルト)を気にする者は居ない。


賑やかで、活気満ち溢れるそこには、小さなナルトに気付く人は殆どいない。楽しげに通り過ぎる人々の姿があるだけだ。


時折、視線を感じながらも、いのは気にせず前へ進んだ。






商店街をちょうど半分程進んだ時だった。




”ドシンッ”




余所見をしていたせいか、ぶつかってしまったいの(ナルト)。


「ゴ、ゴメンナサッ・・・!?」


すぐに謝ろうと口を開き、慌てつつも咄嗟に出た謝罪の言葉は、相手に睨みつけられることにより、言い終わる前に途切れた。


「・・なんでッ、お前がここにいる!よくも、のこのこと顔を出せたもんだよ!!」


余りの剣幕にビクリと身体が震える。突然浴びせられた罵声に、いのは訳が分からない。


「ッ??・・・あ・の、スミマセンでした!!・・だ、大丈夫でしたか?」


冷たい声と視線に萎縮しながらも、ぶつかってしまったお婆さんにおずおずと手を差し出す。けれど・・その小さな手は、ピシャリと凄い勢いで撥ね退けられてしまった。


「触らないどくれ!!汚らわしいッ・・」


「・・あっ・・・」


呆然として、叩かれた手を無意識に押さえる。じんわりと熱をもった手に、何が起こったのかを理解する。


理解すると共に、そのあまりに理不尽な行為に、いのは段々と怒りが篭もってくるのを感じた。


文句の一つでも言ってやろうと、口を開きかけたその瞬間・・感じた視線に気付く。


チクチクと突き刺さるかのように纏わり付き、いのを捕らえて放さない無数の目、目、目。


こちらの騒ぎに気付いたのか、いつの間にか人々の歩みは止まっており、周りを取り囲むようにいの(ナルト)を観ていた。


周りからの冷たい視線に、ひたすら困惑する。


そのあまりな光景に絶句し、思わずいのは声無き悲鳴を上げる。


(ひッ!・・・な、なんなのよぉっ~??どうしてあたしがこんな目で見られなくちゃいけないの?!ただぶつかっちゃっただけじゃないっ!!!)


冷たい汗が背中を伝うのを感じながら、いのは心の中で悪態をつく。心臓はバクバクと不快な程早鐘を打ち、頭の中はパニック状態。しかし、そんな中でも声だけは、嫌に成る程しっかりと聞こえてくる。


 ゛ほら、例の子よ。″ ゛ああ、あの子。まだ生きてたの。早く死んでくれたらいいのに・・〝 


 ゛・・・憎い・・どうして、あんな奴が生きてるのに、どうしてあの人は死んでしまったの?〝 ゛そうだ、何故火影様はあんな奴を生かしてるんだ?!〝


 ゛こっちへいらっしゃい!あんな子に近づいちゃ駄目よ!!〝


混乱しながらも、いのは彼方此方から聞こえてくる心無い陰口をはっきりと聞いた。


(・・・・・・・・・ぁ・ああ・・・なに、これ・・ナニ?・・・・・・寒い・・寒いよっ・・・・・・怖い・・・・怖い・・怖いッ!!!!!)


恐怖に蝕まれ、今にも涙が零れ落ちそうになりながら、いの(ナルト)は必死に耳を塞いだ。周りを渦巻く怨憎の声に、頭がおかしくなりそうだった。


(ッもう、これ以上は聞いていたくないッッ!!!!)


次の瞬間には、いの(ナルト)は走り出していた。人の合い間を縫って、時折ぶつかりながらも、冷えた視線と、悪意ある言葉たちから逃げるように。












ナルトは片隅でじっと見ていた。




静かに、いのの様子を窺っていた。


まず、いのが商店街へと向かったことに、ナルトは心底驚いた。まさか、こうも直球ストレートに来るとは思わなかったのだ。


大方、シカマルあたりにでも近づいて、反応を見るのだと思っていた。他にも方法があった筈だ。にも拘らず、この方法を選んだいのの度胸に、大したもんだと他人事のように思った。


大胆ないののその無謀な行動に呆気に取られながらも、これから起こるであろう事が容易に想像が付くナルトとしては、この選択はある意味成功であり、失敗だった。


態々危険を冒してまでする事でもない。単なる興味本位で首を突っ込むのなら、手痛い仕打ちが待っているモノだ。


ぼんやりとナルトはそんな事を思う。どちらにしろどうでも良い事だった。ナルトにとっては、里の自分に対する反応を知られた所で、痛くも痒くもない。もし真実に近づいたのならば記憶を消すまで。ナルトはそれを実行するだけの力がある。そんなことは大した事ではなかった。


だからと言って、いのが自ら進んで冒した事の尻拭いをする気もなかった。ただ傍観者に徹する。


里人に、暴言を吐かれようが、憎悪を浴びせられようが、ナルトはいのを助けようとは思わなかった。


むしろ―――自業自得だと、嗤った。




謀らずも、客観的に自分を見つめる事となってしまったナルトは、不思議とイライラが湧き出てくるのを感じた。いつもなら、何も感じない筈なのに、沸々と湧き上がるこの感情はなんなのだろう?


思ったよりも自分は、懐にずかずかと土足で入ってこられた事が不快だったらしい。


この茶番劇の観客となってしまった事に、ナルトは己の心が急速に冷えていくのを感じた。里人の負の感情も、酷く滑稽に見えた。


逃げるいのに、「さっさと自分の身体に戻ればいいのに」と思いながら。











どれだけ走ったのだろうか?


ひたすら走り回ったいの(ナルト)は、人気のない路地裏へと迷い込んでいた。




「はぁっ、はあ・・・はっ・・ッはあ~~~~~~~・・」


漸く人の気配がなくなったのに気付き、いの(ナルト)は立ち止まり、膝に手を付いて深呼吸した。


「・・・もう・・大丈夫、よね?」


ちらりと後ろを振り向き、誰もいないのを確認する。


どうやら本当に誰もいないようだ。


それに安堵し、体の力が抜けたのか、いの(ナルト)はへなへなとへたり込んだ。


「(・・・・・・・・はぁ・・一体、何だったのよ?・・・あの里人たちの様子・・尋常じゃなかった)」


思い出し、思わず身震いする。


両腕で自らを抱きしめ、なんとか恐怖を遣り過ごすのだった。









「あれぇ~~??!こんなとこに”狐”ちゃんがいるぜぇ」


人の声にビクリとする。おずおずと顔を上げると、こちらを覗き込むように屈み込んでいる男が一人。


「おいッ!そりゃ禁句だぞ!!」


後ろからの新たな声に、どうやら男の仲間の一人だと悟る。


「なぁ~に、バレやしないさ。コイツに言ったって何の事だかわからねーよ!」


「そうだぜ。一々細けぇこと気にすんなよ、タマァついてんのか?ああッ!?」


更に後ろから現れた二人の男が、男に賛同するように言う。


「くッ!だが、事が知れたら只では済まないぞ!!」


反論していた男は尚も言い募るが、それが聞き入れられることはなかった。


「くぁ~~~ッ、これだから肝の小せぇ奴は・・」


「ぐっ・・・何とでも言え!オレは一切関与しないからな!!勝手にすればいいさっ」


そう言うと、男は逃げるように去って行った。


「おい、いいのかよ?行かせちまって」


「構わねぇよ。なぁにアイツはぜってぇ喋んねーよ。なんせ、気の小せぇ臆病者だからなぁ。怖がって口を開かねぇよ」


「ははっ!ちげぇねぇ」


いのはそんな男達の遣り取りを、息を殺して聞いていた。


どうやら彼らは忍びのようで、木の葉の額宛にベストを着用している事から中忍もしくは上忍ということが分かった。


「(ど、どうしよう・・あの人達が木の葉の忍びなのは分かったけど、なんだか様子が変だわ。よく、分からないけど・・・に、逃げよう!!)」


そう思った瞬間、いの(ナルト)は脇目も振らず走り出した。


「おいっ、逃げたぞ!!」


「・・まぁ、待て」


すぐにでも追おうとする仲間を抑え、リーダーと思しき男はニヤリと嗤う。


「ここは”狩り”と行こうぜ」


「”狩り”?」


「ああ。黄色い子狐を狩るんだ。どうだ?楽しそうだろ!」


彼らはお互いを見合うと、それはそれは楽しそうに笑った。




「―――さぁ、狩りの始まりだぁッ!!!」













「はぁっはぁっはあッ――――」


何かに追い立てられるかのように、いの(ナルト)は走っていた。


しきりに後ろを気にしながらも、ただただ我武者羅に。




≪狐ちゃんやぁ~~い、どぉこですかぁ??≫




何処からともなく聞こえてきた声に、いのはビクリと震えた。狐とは自分(ナルト)のことだろう。


どうみても只事ではない様子に、いのの警鐘は鳴りっぱなしだ。


(逃げきゃ・・やられるッ!!)


それだけが今のいのの頭にあった。


”どうして、里を守るべく存在する忍が里人である筈の自分を追うのか?”そんな当たり前の疑問さえ、今のいのの中にはなかった。


ただ、獲物を狙う狩人から身を守る事しか考える余地はなかった。


転げようが、怪我をしようが、ひたすら走った。傷の痛みよりもなによりも、背後から段々と近づいてくる下卑た哂い声が怖かった。


≪ひひひひひひひッ――ひゃっはーー!!≫


獲物を甚振るかのように、不気味な笑い声を上げる。それはいのの恐怖を更に高めていく。


己の荒い呼吸音に混じって聞こえてくるそれに、いのは自分が呼吸してるのか、笑っているのか、自分でもよく分からくなった。




「―――――ぁッ??!」


目の前にある壁に呆然とする。普段だったら、対して高くも見えない塀が、今は途轍もなく大きいものに感じられた。


「そ、そんな・・・ッ」


ここから先へは進めない。それだけの気力と体力が、もういのには残っていなかった。


呆然とするいのの元へと届く呼吸音。それが己のものでない事にやっと気付く。


どくどくと心臓が波立つ。


恐怖に駆られながらも、振り返ったその先に見たものは・・




≪見ぃ~つけたぁ!!!≫4




心底嬉しそうに笑う男が一人。


その背後には、男の仲間がこれまた楽しそうにニヤニヤとほくそ笑んでいるのがわかる。


逆行で遮られ、いのからは男達の顔はよく見えない。しかし、その手にあるキラリと光るクナイだけは、しっかりとその存在を主張していた。


思わずその煌く刃に見蕩れていたいのは、己に向かって、それが頭上から大きく振り下ろされる様を、スローモーションのようにハッキリと見た。


「(・・も・う、ダメッ――――)」


咄嗟に目を瞑り、いのは抵抗することも忘れ、衝撃を待った。
















路地裏に入り込んだいのが、運悪く中忍であろう彼らに遭遇した時はその運の無さをナルトは笑った。


たかが中忍風情だったが、いのにとっては、自里である忍びが里人である己を襲おうとすることに、人を人とも思っていない彼らに、恐れと衝撃を持ったとしてもそれは仕方がないだろう。


それでも、身体を乗っ取ったままのいのに、いい加減溜め息が出てくるナルトだった。


身体に戻る事が全く頭にないのか、それとも自分がした事の責任感があるのか、ナルトには分からなかったが、そろそろ潮時だということは分かっていた。


さすがにこれ以上危険な目に合わす事は、元来フェミニストなナルトに出来るはずもなく、助け舟を出すことにした。






振り下ろされるクナイに目もくれず、ナルト(いの)はただ一言呟いた。


「・・己が身体にもどれ」



















「・・ぅっ・・・・」


小さく呻く声にハッとして、チョウジは声の主に駆け寄る。


「―――いの!?いのってば!」


耳元から聞こえてくる自分を呼ぶ声に、煩そうにうっすらと瞼を開く。


「うう~~ん、なによぉ・・・・・」


あまりにも暢気ないのの第一声に、さすがのチョウジも段々と腹が立ってきた。勝手に巻き込んで、心配してみれば煩がれ、如何に温厚なチョウジでも我慢の限界だった。


「何って事はないだろ!全然戻ってこないから、すごく心配したんだよ?!」


滅多に聞くことがない幼馴染の怒鳴り声に、いのの意識は急速に浮上していった。それと並行して襲われたのを思い出し、見る見るといのの目が瞳孔が開かんばかりに大きく見開かれ、――――そして絶叫。


「・・・チョウジ?私、ど・・し――――ッッ!!!ぁあぁあああああああッ!!!!!」


やっと起きたと思ったら、急に狂ったかのように叫びだすいのに吃驚するチョウジ。


「い、いのッ!!?どうしたの!!ねえッ・・いのぉ!!!しっかりしてよぉッッ―――」


止まらない絶叫に、こちらも半狂乱になりながらいのの名を呼ぶ。






「――――お前ら、二人とも煩い」


そこに、場にそぐわない涼やかな声が響いた。


無視出来ない抗いがたい声に、逸早く気付いたチョウジは背後を振り返った。


「!ナルト!!!」


「おぅ」


その軽い気さくな返事に、思わずチョウジは今の状況も忘れて、ナルトの方をポカンと見やる。


間抜けな顔したチョウジに苦笑しながら、ナルトはいのの方へと近づいていった。


「・・・・・・な・・る・と」


ナルトの登場により、先程とは打って変わって大人しくなったいのがポツリと呟く。


「≪――オレの目を見ろ≫」


名を呼ばれたことも気にせず、ナルトはいのに命令する。


玲瓏たる声に、いのは”ピクリ”と反応する。抗うこともなく、その声に従ってゆっくりと目を合わせた。


それを確認し、ナルトは蒼天を思わすその蒼き瞳を、強い眼差しで以って、いのの淡い空色の瞳へと向けた。


「≪今日見た事、聞いたこと、すべて忘れろ。いいな?≫」


「・・・・・・は、い」


掛けられた言葉に、いのは虚ろに応と返事を返す。それと同時に、いのは急激な眠気に襲われた。そしてそれに逆らうことなく、静かに身を委ねたのだった。


そっと様子を見ていたチョウジは、ナルトの鮮やかな手腕に感嘆すると共に、内心の不安を隠しきれなかった。


それに気付いたナルトが、チョウジを安心させるように、お馴染み”下忍うずまきナルトスマイル”を浮かべてみせた。


「だ~いじょうぶだって!ちょぉっと暗示掛けただけだから」


果たして安心していいのか良く分からない台詞だったが、相手がナルトだったこともあってチョウジはあっさりと信じた。


「そうなんだ。よ、良かったぁ・・」


”ぐううぅぅうぅっ”


突如辺りに響いたその音に、ナルトは思わず音源であるチョウジの腹を見た。


「あ、はははっ・・安心したらお腹すいちゃった!」


ほんの少しバツが悪そうに腹を押さえ笑うチョウジに、ナルトは珍しく素直に笑った。


「・・・くっ、ははははははは!!」


「ナルトっ!笑う事ないだろ!!」


「ッわ、悪い悪い!」


ちょっぴりご立腹気味なチョウジに、ナルトは対して悪びれずに謝る。


漸く笑いが収まったのか、ナルトは眠っているいのの方をちらりと見やる。


「・・取り合えず、コイツを何とかしないとな」


少し疲れた様な声で言った台詞に、チョウジも思わず同意した。

























「――――――ぃ・・のちゃ~~ん。御飯よ~~!!」




遠くで母が呼ぶ声が聞こえる。


まだ寝たりないような気がしながらも、いのは重い瞼を抉じ開けた。


「・・んんッ??ここ、は・・・・」


いつの間に自分の部屋に戻ったのだろう?アカデミーからどうしたのか、いのは全く思い出せなかった。


”ズキッ”


右足首や掌に一瞬痛みが走った気がして、いのは掛け布団を捲り、確認してみるもそこにはなんの怪我もなかった。


思わず首を傾げるが、一瞬の事に、いのは気のせいだと自分を納得させた。(怪我した部分はそこまで酷くはなかったのでナルトが治した)


ベットから降り、ふっと窓際にある花瓶を見た。


何気なしに見たいのだったが、そこには凛として咲いている一輪の白い花が、夕日に照らされうっすらと薔薇色に染まっていた。


今朝見た時には萎れていて、大好きな花だっただけにとてもがっかりしたのをいのは覚えている。




「・・花が・・・・・」








それを見て、何故かナルトの顔を思い出すのだった。











大分遅くなってしまいましたが、やっと何とか投稿する事が出来ました。もっと早く出すつもりだったのですが、後半で色々と詰まってしまってここまで遅れてしまいました。本当にすみません(汗
ちょっといのにヒドイ内容となってしまいましたが、今度登場する時はもう少しいい思いをさせてあげたいです。
本当は、途中で分身でも良かったんじゃないかと思うこともあったのですが、いのの特性を活かしたかったので、ここまで書きました。
少し不安なのは、心転身の術って掛けた相手が傷を負うと、自分に返ってきてたというのを覚えていたのですが、違ってたらすみません。うろ覚えだったので、そこは気にせずお願いします。



今回大分長かったのですが、ここまでお付き合い下さり本当に有難うございました。
面白いものを、と思いはするのですが、何分力不足、勉強不足と、まだまだ修行が足りない身ですが、楽しんでもらえたら幸いです。
それでは次回。



[715] Re[19]:『 死神 の 涙 』番外編:お料理しましょう!
Name: 夜兎
Date: 2006/05/13 16:12










「―――ナルトを預かってくれんか?」


そんな火影の言葉から始まった。




これが、日向とナルトとの運命の出会いだった。













『 死神 の 涙―番外・お料理しましょう! 』


















九尾の妖狐の襲来から5年。封印の器であった赤子も、もう4つとなっていた。


しかし、5年経った今も、九尾を憎悪する里人は減ることはない。むしろ憎悪は彼らの心に蓄積し、その心を蝕む。


そしてその負の心は、封印の器である幼子・ナルトへと向かった。そうすることでしか、彼らはその悲しみを、痛みを忘れることが出来なかったのだ。




それは・・・・忍である者たちにも同じ事と言えた。











「・・・・また、か」


血に染まる部屋を見渡し、火影は小さく溜め息をついた。


その部屋の中で独り、小さな幼子だけが呼吸(いき)をしていた。幼子の周りには、数体の忍と思わしき死体がバラバラとなって転がっている。


「―――・・・あちらから襲って来るんだ。仕方がない・・」


子供は悪びれもせずに言う。それに溜め息を零しながらも、火影は諭す。


「・・だからと言って、殺すことはなかろう」


「食事に毒を盛る程度なら、黙って目を瞑ってやっても良い。食べなければ良い。食べても、どうせオレは死なない。・・けど、殺気混じりに襲って来るんだ。オレは殺られる前に殺る」


「・・・・そうじゃな。お前は生きるための本能に従がったに過ぎん。しかし、お前にはそれを避ける術を教えたはずじゃ。なぜ殺す?」


「決まってる・・殺さなかったら、こいつ等は又俺を襲いに来る。オレが死なない限り、必ず。じじ様には分かっている筈だ」


「・・・・・・そう・・・そうじゃなぁ。しかし、解ってはおっても・・小さなお前の手が、無駄に血に濡れるのは、わしには辛い。・・・何も知らないお前に、すべてを背負わせて・・身勝手なことを言う。すまん、すまんなぁ・・ナルト」


もみじのような小さな手をそっと握り、火影は子供にただひたすら許しを請う。


「別に、気にしてない。じじ様が気に病む事はない。オレは誰も、怨んではいない」


強がりではなく、本気で言っている子供の表情は無表情だ。ただ淡々と事実を受け入れる。そんな風に育ってしまった子供があまりにも不憫だった。


火影は己の不甲斐無さに、涙が滲んだ。しかし、泣く訳にはいかない。小さなこの子供が泣けないのに、自分が涙を流す訳にはいかないのだ。


そう・・ナルトは、赤子の折より、泣くことを忘れてしまったようにいつも無表情だった。


愛を知らない孤独な子供は、泣きもせず、笑いもしない。それはこの歳の子供にしてみたら、とても異常なことだ。過酷なこの環境が、ナルトにそれを強いてしまったことに、火影は酷く罪悪感を覚える。


本来なら・・誰よりも祝福され、希望に満ちた幸せな人生を歩むはずだった子供。それも、九尾襲来という恐ろしき悲劇によって脆くも崩れ去る。


里人は、九尾の封印となった英雄であるはずの子供を九尾と同一視することしか出来ない。かと言って、火影は彼等を責める事も出来ない。


余りにも、失った物が多すぎたのだ。


ナルトを護る為には、火影という役職はしがらみが多すぎた。火影とは、常に里に縛られる。里の贄なのだ。




里か、ナルトか・・




もしどちらかを取れ言われれば、火影は里を取らなければならない。そんな残酷さも、時には必要となる。


しかし、火影である前に・・一人の人間として。


三代目火影としてではなく、ただの人として出来ることを・・・。


そして火影は決意する。たった一人の、大切な孫とも言える子供を護る為に。






「ふむ・・・。ナルトには新たな環境を用意しよう。あの子にとって、これが良い方向へと進めばよいが・・」













 コンコン


「――入れ」


「失礼致します、三代目」




ここは火影執務室。




火影はプカリと煙草を吹かし、入ってきた人物・日向ヒアシを見やった。


好々爺然とした笑顔を浮かべ、ヒアシに近くに寄るようキセルでトントンッと二回ほど机を叩いた。


それに従がい、ヒアシは火影へと近寄る。


「突然の呼び出し、すまぬな」


「いえ。して・・何用で?」


実直そうな男の顔を見て、火影は確信する。


この男ならば大丈夫だろう、と。


「うむ。実はな・・・お前を見込んで頼みがある」


「頼み、とは?――」


先程とは一変して真剣な顔をする火影。その様子にただ事ではないことを感じ取ってヒアシは思わず息を呑む。


火影の頼みとは一体何だろうか?









「―――――――うずまきナルトを、預かってほしいのじゃ」






煙草を燻らし、一息ついた火影が放ったのはそんな一言だった。


掛けられたその言葉に、ヒアシは大層当惑した。






≪封印の子供を預かって欲しい。≫




別に九尾が憎くないわけでもなかったが、ヒアシには子供と九尾は別物だという分別はあった。


しかし、困惑したのはそれ以上に、”なぜ自分なのか?”という事だった。


かといって火影直々の頼みでもあるし、特に断る理由もない。


ヒアシは、対して深く考えることなく、その話を引き受ける事にしたのだった。


「―――分かりました。責任を持って、お引き受け致します」


色好い返事をもらえたことに、火影は内心ホッとする。


大丈夫だろうとは思っていたが、不安はあった。


ヒアシならナルトを任せるに値するだろう。この男の目を見れば分かる。


この結果に満足したのか、火影は満面の笑みを浮かべた。







「ほれ、ナルト」




すると唐突に火影は子供の名を呼んだ。まるですぐそこに子供がいるかのように。


しかし、執務室内は火影とヒアシの二人だけ。他には誰も居ない。気配を探ってみるも、やはり何も感じることは出来ない。


「??」


ヒアシは不思議に思い火影を見るが、火影は気にした様子もなく何かを待っている。


「居るのは分かっておる。さっさと姿を見せんか」


二度目の火影の呼び掛けに、漸く観念したのか、微かに空気が揺らいだ。そして、すぅっと音もなく、火影の背後から小さな子供が現れた。


「・・・・」


子供・ナルトは不機嫌も顕わに火影を睨みつける。


しかし、火影は睨みつけてくる子供が面白いのか、楽しそうに笑みさえ浮かべている。大人の余裕を見せ笑う火影に、ナルトは益々剥れた。


「ふぉっふぉっふぉ!お前のそんな顔、始めて見たのぉ」


嬉しいと言わんばかりにナルトの頭をわしわしと撫でる。


ナルトは迷惑そうな顔をしてはいたが、それでも逃げずに受け入れていた。気が済んだ火影が撫でるのをやめると、ナルトはさっさと自分の髪を直す。


火影のじじ馬鹿振りに呆気に取られながらも、ヒアシはナルトを見て驚愕していた。


見事な気配の消し方と、無駄のない動作。それに感心しながらも、その小ささに驚いていた。


(たしか、彼はヒナタと同じ年齢のはず。・・それにしては小さ過ぎる。ヒナタよりも小さいのでは?)


余り成長が思わしくない子供の様子に、ヒアシは怪訝な顔をした。




「ナルト、今日からお前を日向に預ける」




話を聞いてただろうナルトに、敢えて先程決定した事を伝える。


「・・・聞いてた。でも、どうして・・」


ナルトにはなぜ火影がそんな事を言うのかまったく分からなかった。今の生活は確かに苛酷な環境と言えるが、だからといって、それが変わるとも思えなかった。


火影はナルトの思っていることが分かったのか、諭すようにナルトへと話す。


「今のままではダメなんじゃ。あの部屋は、お前には暗すぎる。もっと日の当たる世界を見て来い。日向は・・ヒアシは信頼に足る人物じゃ。だからお前を任せる。よいな?ナルト」


その言葉に、まったく不満がなかったわけではなかったが、相手は火影で保護者でもある。断ることは出来ない。


「・・・・それは、火影命令か?」


「そうじゃ。命令じゃよ」


(今はそれでもいい。けれど日向が・・いつか、ナルト自らが傍にいたいと思う拠り所となればいい)


「・・火影様の命、承りました。」


命令と言われれば、ナルトは従がうしかほかない。けれど日向に行ったとて環境が変化するとは思えない。きっと何も変わらない。そう自分を納得させたナルトは、火影へと了承の意を伝えた。


「うむ。ではヒアシ、ナルトの事を宜しく頼む」


「御意!」


ヒアシは火影へと跪き、老人の言葉に籠められた強い想いと共に任された。


「ナルト。お前を日向に預けるが、いつでもここへ遊びに来なさい」


柔和な顔を浮かべ掛けられた言葉に、ナルトは無言で頷く。


火影はヒアシに目で促す。それに頷き、ヒアシはナルトへと話し掛けた。


「では、ナルト君・・でいいかな?」


コクンと頷き、了承の意を表わすナルト。


「そうか。では行こうか、ナルト君」


ヒアシはナルトへと手を差し出した。それに、ほんの少し戸惑いつつも、火影もその様子をじっと見ている。そのため、ナルトはその手を振り払う訳にもいかず、渋々と小さな手をちょこんと乗せた。


そしてヒアシは火影へと軽く挨拶すると、ナルトと共に執務室を出た。




 バタン・・




扉の閉まる音を聞きながら、火影はナルトの事を想う。


 ―――あの子の未来が、幸せであるように・・・













「アンタ、莫迦だな」


それがヒアシに向けられたナルトの最初の言葉だった。


執務室を出た二人は、日向のお屋敷へと向かっていた。手を繋ぎながら歩く二人は、さながら親子のようだ。


しかし、時折向けられてくる里人の視線は、とても冷たいものばかりで、ヒアシは内心憤る。子供に向けられるには、あまりにも冷たすぎたのだ。


そして、それを知らず、のうのうと過ごしてきた自分を嫌悪した。


「・・どうして、そう思うのだね?」


「知ってるんだろ?俺の腹の中に居る奴のこと」


子供が、自身に封印されているモノを知っていることに驚くも、子供の実力を以ってしたらそれも当然の事の様に思えた。その事を痛ましく思うが、内心を隠して穏やかに答える。


「知っているよ」


「じゃあ、何で俺なんかを預かったんだ?火影命令でも断る事は出来た筈だ。アンタは日向だろう?」


この歳にしては、難しいと言える言葉を流暢にすらすらと話すナルト。それに感心しつつも、ヒアシは答える。


「そうだな。けど、君は君だ。ヤツの器であっても、ヤツ自身ではありえない。勿論、君の腹の中のヤツは許すことは出来ないだろう。日向も随分と犠牲を払った。けれど、それは君がやった訳ではないだろう?むしろ、私は君に感謝している。しかし・・同時に悔やんでもいる」


「悔やむ?」


「そう、悔やんでいる。私は、いや、私たち大人は・・産まれたばかりの君に、犠牲を強いてしまった。君のお陰で今があるというのに、見て見ぬ振りをしている。あまつさえ憎悪し、君が辛い思いをしているのに気付こうともしない。もし、あんな事さえ起こらなければ・・君には、今とは違う、もっと明るい未来があったのかも知れないというのに・・・」


「それは仮定に過ぎない。”もしも”なんて、思った所で何も変わらない、変わりはしない。それに、オレはお前達の犠牲になったつもりはない」


ナルトは無表情だが、力強い目でもってヒアシに言う。


「そう、か・・。済まない、私が間違っていた。君は・・・強いな」


「強くなんかない。まだ、じじ様には勝てない」


強いの意味を取り違えたのか、ナルトは的外れなことを言った。心成しか悔しそうだ。しかし、それをヒアシが気にするには、その内容が内容だった。


「・・・火影様に?」


「ああ。けど、今はまだ・・だ。近いうちにじじ様を超えて見せる」


4歳児から出たその言葉に、ヒアシは俄かに信じられない気もするが、あの気配の絶ち方を見てしまった後では何とも言えず・・・


「君は・・・先程も思ったんだが。一体―――――」


そう訊ねようとした矢先、いつの間にか二人は日向のお屋敷の門の前に辿り着いていた。












―――日向のお屋敷。


いつもと違うそこは、小さなパニックに陥っていた。日向の主であるヒアシが、狐憑きの子を連れて来たからだ。


しかし、それもヒアシの妻・日向スミレによって治まる事となった。






「お帰りなさいませ、あなた。そちらの小さな可愛らしいお客様は何方です?」


にっこり微笑みながら二人を出迎えたスミレ。


「あ、ああ。只今戻った。この子はうずまきナルト君だ。今日からこの日向の屋敷で預かる事となった」


「まぁ!」


嬉しそうな声を上げ、スミレは瞳を輝かせる。今にもナルトへと抱きつかんばかりの勢いだ。


「こんなに可愛いお客様なら大歓迎ですわ!!」


少女のように頬を淡く染め、キラキラとして目でナルトを見つめる。心なしか、手がわきわきと動いているのが可憐・・というよりも怪しい。


そんなスミレの熱烈歓迎に、ナルトは目を瞬かせて驚いている。今まで憎悪の眼を向けられたことはあっても、(少し怪しいが)このように見るからに嬉しそうな顔をして歓迎されたことは一度もなかった。それ故にナルトは戸惑う。


”うずうずうず”そんな表現がピッタリの様子の己が妻に苦笑しつつも、珍しく困惑しているらしい子供に視線をやる。


その視線に気付いたのか、ナルトは”どうしたらいい?”というような目を向けた。


どうもしなくてもいい。とでもいう様にヒアシは首を横に振ったが、ナルトにとってはそんな事で済まされることではない。


ナルトが動けずにいると、スミレが素早く動いた。


余りに素早いその動きに、ナルトは咄嗟に避けようとする。も・・どうやら、スミレに何の含みもないことに気付いて、ただただ立ち竦む。


固まりながらも、スミレの一挙一動は見逃さない。


ふと、目の前に影が差したと思った、その次の瞬間。




ビクリ、とナルトの身体が震える。




”ふわり”


そんな音が聞こえてきそうだと、頭の片隅でそんな事を思う。


今まで受けてきたどれとも違う感触がナルトを優しく包み込んだ。


罵声を浴びせられるか、殴る蹴るの暴行か。


そのどちらかしかされた事のなかったナルトは、振り払う事も忘れ、スミレのされるがままにされている。というよりも硬直していた。


スミレがナルトを優しく抱きしめる。初めて感じる暖かで柔らかな・・いい匂いのする温もりに、なぜかナルトはひどく安心した。


(・・・あたたかい・・)


目を瞑り、ふっと肩の力を抜いてスミレに凭れ掛かる。


――これは自分を傷つけない――そう訳もなく感じた。




そんなこんなで、結局スミレを邪険にすることも出来ず・・ナルトは彼女が満足するまで堪能されたのだった。








―――夕餉




一人娘のヒナタ(当時)となんなく初対面を済ませたナルトだったが、家族揃っての夕餉がはじまったと言うのに、目の前に並んだご馳走にも、全く手を付けようとしない。


「・・ぁ、あの・とってもおいしいよ?」


突然現れた同居人を気にしながらも、すでに食事へと手を付けていたヒナタは、いつまで経っても箸を付けようとしないナルトに、いかに料理が美味しいかを訴え、食べるように勧める。


しかし、それでもナルトは手を付けようとはしない。


その頑なな態度に、何か理由があるのだと踏んで聞いてみる。


「ナルトさん、どうしたのですか?嫌いな物でもありましたか?」


遠まわしに理由を尋ね、ナルトの様子を窺うが、答える気がないのかだんまりを決め込んでいる。


出会ったばかりにも拘らず、愛しいと感じた子供のその姿が、スミレには妙に淋しいものに感じられた。ほんの少しでも打解けてもらえたとのだと思っていただけに、特にそう思うのかもしれない。




食事は家族揃って食べるものだとスミレは思っている。


特別な用がない限り、日向宗家ではそうと決まっている。家族皆が同じものを食べ、和やかに食卓を囲む。小さな事かもしれないが、そんな日常の積み重ねが家族の絆を作っていくのだとスミレは信じている。


物を食べるという事は大切な事だ。


生きとし生ける命に感謝し、己が糧とする。生きていく為の活力をもらうのだ。食事とは、まさに<生きる>という事だ。


特に、忍びという稼業をしていると、如何に物を食すということが大事だと分かる。


いつ殺られるか分からない、そんな生きるか死ぬかの狭間を生きる忍びにとって、食事とは”信頼”の証でもあるのだ。


毒を、盛られるという可能性を否定出来ないからだ。


「(・・・毒)」


もしかしたらこの子供は、毒を混入されるという事が日常的に多々あったのではないか?


まさか、こんな小さな子供に・・。


スミレは信じたくなかった。しかし、この日向の中でさえ、この子供を前にして余り良いとは言えない対応をしたのだ。


あの惨劇を知る人々が、今だ脅威となった”かの存在”を忘れられる筈がない事は知っている。現に、スミレとて忘れる事は出来ていないのだ。


だからと言って、子供と”かの存在”を同一視するつもりもなかった。


スミレは覚えている。我が子を、里の生け贄とする事を決めた彼等を―――。




当時、スミレは夫であるヒアシが四代目火影でもある注連縄とは友人であったため、頻繁ではなかったがその奥方にも必然的に逢う機会があった。


おおらかに笑う笑顔の素敵な女性だと思った。


身体が弱いこともあって、公けには中々姿を現す事がなかったが、偶に会う彼女の頬笑みは、とても心地好いものだった。






「スミレちゃん」




「こんにちは。タマキさん」


年の頃も近かったせいか、お互い妊娠していた事もあり、すぐに打ち解けた二人は急速に仲良くなっていった。


「もう!スミレちゃんったら、タマキでいいって言ってるのに・・」


軽く頬を膨らませ、剥れてみせるタマキに苦笑しつつも、素直に謝る。


「タマキさ・・ちゃ、ん・・・ごめんなさい。どうしても癖が抜けなくて」


長年敬語で話す事に慣れてしまったせいか、どうにも慣れないせいか、スミレはぎこちなくタマキの名を呼んだ。


「ふふふっ、いいのよ。スミレちゃんは悪くないわ。私が我が侭なの!」


ぎこちないながらも親しみを込めて呼ばれた事に、剥れ顔を一瞬にして満面の笑顔に変えると、タマキはスミレに微笑む。少し申し訳なさそうに眉を寄せる仕草に、スミレも柔らかく微笑んだ。


第一印象は笑顔の似合う清楚な女性。けれど等身大のタマキは、いたずら好きのちょっと御転婆な所のある少女のような女性だった。


しかしこれらは単に表面的で、私の浅はかな思い込みでしかなかった。彼女の本質を知ったのは、あの穢れなき赤子が産声を上げた――運命の日。








――――十月十日




静かな、静かな日だった。


変わらない日常。


そんなものが、永久に続くと思っていた。愚かな私は、それが余りに呆気なく脆くも崩れさるのを、今日この日、泡沫のような現実を謀らずも目の当たりにする事となった。
















森が、里が、赤々と燃えている。


警鐘の鐘が狂ったように鳴り響き、恐慌に陥った人々が我先にと逃げ惑う。怒号が飛び交う中で、人の波にはぐれた子供の泣き声が聞こえる。


いつもと変わらぬ日常の筈が、今や阿鼻叫喚の嵐となっている。


その要因である金毛九尾の狐が、遠くで暴れているのをスミレは呆然と見ていた。


しかしそれも束の間―――ハッと我に返ると、スミレは身重の身体を引き摺って自分を止める声にも構わず火影邸へと急いだ。






ようやく辿り着いた火影邸は、思いの外静かだった。


その事をほんの少し訝しがりながらも、スミレは息を整え汗を拭うと、屋敷の中へと徐に入っていった。






長い廊下を小走りにタマキの部屋を目指す。通いなれた筈のこの家が、人っ子一人いないかのように、今はシンッと静まり返っている。


通常なら明るく居心地のいい場所が、今は墓地のように薄暗く、静寂だけが漂いそれが何とも不気味な様相を呈している。


ドキドキと動悸が激しく打つ音を聞きながら、不安を掻き立てるのを必死に押さえ、スミレはそっと腹へと手を当てた。今だ見ぬ我が子がいることが心強かった。




廊下を曲がり、いつもなら心ゆくまで眺めていただろう煌煌しくも色鮮やかな花の咲き乱れる中庭を、スミレは目もくれず通り抜け、慣れた足取りで目的の部屋へと辿り着いた。


目の前に見えた部屋に、ようやっと人の気配がする事に安堵する。


あれ程几帳面にも欠かした事のなかった礼儀作法も忘れ、スミレは襖に手を当てると思い切りよく開けた。




「・・・・スミレちゃん」


勢いよく開けられた襖に立つ見知った女性。いかにも慌てて来たことが分かるように、いつもきちんと整えられた髪は乱れに乱れ、額に汗が滲んでいる。藤色の品のある着物も今や見る影もなく、着崩れている。


タマキは胸が熱くなった。嬉しかった。


病弱で、火影夫人に相応しくないと陰口をたたかれ、火影夫人だからと擦り寄られる。タマキ自身の事を見てくれるのは夫以外殆んどいなかったと言っていい。


それなのに、自身も妊娠中にもかかわらず、この危険な中を来てくれた。それはタマキにとって、それは束の間の安らぎを齎してくれた。




「ッタマキちゃん!!は・・よかったぁ」


「・・・スミレちゃん、やっと・・ちゃんと呼んでくれた」


「え?」


「私の名前」


「ぁ・・・」


「ふふっ無意識に呼んでくれるなんて、嬉しい」


二人は笑った。楽しげに。こんな時だからこそ笑い合えるのが幸せだった。


























「――――私は、鬼になる」


一頻り笑いあった後、穏やかな沈黙が支配する中。ぽつりとそんな声が聞こえ、スミレがハッとタマキを見ると、彼女は穏やかに微笑っていた。


「・・九尾は、倒せない」


「ッ!!そんな・・・木の葉の忍びが、全て・・下忍まで、戦っているというのに?!」


「時代時代の節目に現れる大いなる天災、それが九尾の妖孤。人如きが、相手に出来る筈がない」


タマキの憂いを含んだ声音に、スミレは絶句した。


「・・でもね、ひとつ・・・たった一つだけ、方法があるの」


少しだけ低くなったタマキの声が部屋に木霊すり、思わずゴクリと唾を飲む。




「 それは、この子 」




スッと手を伸ばしたのは、大きく膨らんだ腹部。愛しげに我が子がいるであろう腹を撫でるその姿は、聖母の様に清らかで、美しかった。


「穢れのない生まれたばかりの赤ん坊。その赤ん坊の中に、九尾を封印する」


「ッ??!駄目です!!タマキちゃんの子供を犠牲にするなんてッそんなの駄目!!!っそれに・・・予定日には、まだ日があるもの。だから、無・・理」


必死に言い募っていたスミレの顔が蒼白になる。タマキが相も変わらず穏やかな微笑を浮かべているのを見て、並々ならぬ覚悟を知った。


「・・だ、ってタマキちゃ・・・そ・んな事、したらッッ!!」


(―――死んでしまうッ)


只でさえ身体の弱いタマキだ。子供を産むということ自体、彼女の身体には負担なのに、それを無理矢理なんて自殺行為に等しい。


呆然としてぽろぽろと涙を零すスミレの言いたい事が分かったのか、タマキはほんの少し困ったように笑った。


「泣かないで?スミレちゃん。言ったでしょう?私、我が侭なの」


悪戯っ子のように、キラキラとした瞳をスミレに向けてタマキは笑った。それでも溢れ出る涙を止めることが出来ずにいると


「笑って。笑ってスミレちゃん」


そっとスミレの頬を伝う涙を、タマキの白い手が拭う。


「これはエゴなの。只の自己満足・・・誰の為でもない。
    産まれてくるこの子には、きっと、とても残酷で・・辛いことでしょう。
 ・・・あの人は、<英雄>になるんだって言ってたけど、


        ―――そんなのは嘘。


 人は、そんなに優しい生き物じゃない。陽だまりのようなあの人は、人を、里の家族を信じているから。
    私は、何も言わなかった。
 きっとそのままで、人を信じているあの人のままで在ることを望んだから。死に逝くあの人を、不安にさせたくなかったから。

               
        ・・・私たちは死ぬわ。

  
               あの人は火影として里を守って。私は・・鬼となって。


 悲劇の原因となった九尾の妖孤。その封印とされた、顔も見ることもない私たちの子供は、<忌み子>として里の贄となる。
            里人は憎むでしょう。愛する人を奪ったこの子の中の九尾ごと。
 それでも・・・それでも・・私は、この子だけは生きていて欲しい。ただ、それだけ。 
       苦しくても、辛くても、一人だけでもいい。この子を照らしてくれるこの子にとっての”陽だまり”を見つけられたら。―――きっと、それだけで幸せだから。
 ・・・・私、鬼なの。自分の理想をこの子に押し付けてる。・・ほんと、我が侭ね」


そう言って、自嘲気味に笑うタマキを見て、スミレは胸が苦しくなった。自分は、タマキやタマキの子を犠牲にしてまで生き、我が子を産むのかと思うと心苦しかった。そして・・己の腹の膨らみが、まだ小さいのに安堵する、汚くも醜い心が奥底にひっそりと、けれど確かにある事にスミレは激しく嫌悪した。


あさましくも、ずるい自分がいる事にスミレは衝撃を受けた。確かにタマキやタマキの子を案ずる気持ちもあるというのに、そう思った自分が信じられなかった。


悲痛・嫌悪・驚愕、それらが混ざったような苦悩の表情を浮かべるスミレを、タマキはそっと抱きしめた。


「私は・・・私は・・・・」


涙ながらに、必死に卑怯な自分を告白しようとするスミレの心を分かっているかのように、きつく抱きしめ、その言葉を塞いだ。


「ねぇ・・スミレちゃん。きっと、きっと、元気な子供を産んでね?そして・・・


                           そしてね、幸せにしてあげてね。






               ―――――――― この子の歩む人生の、何倍も何十倍も、愛して・・幸せに―――

     

 




 ――――――――――――――

























私はいつの間にか気を失っていた。


すぐにタマキを探すも、部屋はもぬけの殻で、まるで最初から誰もいないかの様に静まりかえって。




気付いた時には、すべて終わっていた。


タマキは、自分の想いを貫いたのだろう。    けれど・・タマキの遺体はなく、墓もなかった。まるで、初めから、タマキという存在はなかったかのように、誰も彼も、彼女という存在を忘れてしまった。




スミレだけが、彼女を覚えている。・・・誰よりも母であり、妻であった彼女を。












(ああ、どうして忘れていたのだろう・・・・)


過去の記憶を鮮明に思い出したスミレは、大切な、何よりも大切な親友のことを忘れていたことを悔いた。


あれから、タマキの産んだ赤ん坊のことは、風の便りに聞いていた。三代目が運命の赤子の身柄を預かったと知って安堵したのを今も覚えている。


そしてそれから・・・その赤ん坊のことは罪悪感とともにスミレは忘れてしまった。


無意識のうちに、自分を護っていたのだ。


(・・・・でも思い出したわ。こらから、これから始まるのですから。・・・この子を守る。それが私に出来る唯一の償いなのですから)






「(このままではいけない。何とかして食べさせなければ・・・・)」


食べることを忘れてしまったかのように痩せ細った子供。明らかに栄養が足りていない。






「ナルトさん。毒など入っていませんよ?」


「!!・・・」


虚を突かれ、ナルトは驚きスミレを見た。単刀直入にきっぱりと言い切った彼女の顔は、真っ直ぐで―――・・ナルトは戸惑う。


ヒアシやヒナタも一瞬驚いた顔をしたが、すぐに、この時々突拍子もないことをする妻であり母であるスミレを知っているからか、何も言わず見守る。


夫であるヒアシは、妻の行動に確固たる信念に気付き、悪いようにはしないと言うこと知っていたため。娘であるヒナタは、母の行動にほんの少し戸惑いながらも、短いながらも母が間違ったことはしないという事をなんとなく理解していた。




黙ったままで固まっているナルトに、にっこりと笑いかけ、スミレは言葉を続ける。


「・・それでも、私の言うことが信じられないと言うのなら








                   ―――――――お料理しましょう!」








・・・・・・・・・・・・・・・・




・・・・・・・・・・




・・・・・






「・・・はぁ??」


言われた事が理解出来なかったのか、ナルトは間抜けな返事をした。
















































「・・・ってことがあったなぁ、なんて思い出して」


「ふふっvあの時のナルトさんの顔ったら、もう鳩が豆鉄砲食ったような顔してて、とっても可愛らしかったですわ」


トントントントンっと軽快な音をさせながら、台所に二人仲良く立って昼餉の用意をしていたナルトとスミレは、今となっては懐かしくもある思い出話に花を咲かせていた。


「いや、可愛いって言われても嬉しくないです」


「あらあら、照れてしまいましたか?」


「いやいやいや、マジで嬉しくないですから」


二人の合ってるんだか合ってないんだかの会話の投げ合いは、ナルトの降参で終わった。


「・・スミレさんには、感謝・・してる。”人が作ったものが信じられないのなら、自分で作ればいい”なんて、そんなこと考えもしなかった。食べる事が、楽しい、って知ることが出来た」


「うふふふっ。でも今はナルトさんの方がこんなにも主婦らしくなって・・。私、もう教えることは何もありませんわね」


しんみりとした空気を、爽やかに吹き飛ばすスミレにげんなりとしながらも、ナルトの包丁を持つ手は揺るぎなく、時折噴き零れそうな鍋に目をやる姿は主婦と言うよりも料理人だ。




「――――・・そう言えばナルトさん。ヒナちゃんとハナビちゃんの名の由来って知ってます?」


そんな唐突な問いにも驚かず(スミレが唐突なのはいつもの事だ)、慣れた仕草で煮物の具合を確かめていたナルトはふっとスミレを見た。見るとにこにこと楽しそうに笑うスミレの顔に出会い、少し困惑しつつも正直に答える。


「はあ・・言われてみれば。聞いたことないから知らない、です」




「 温かく柔らかな日当のように。   暗闇を照らす花火のように。 温かな陽だまりのように・・そんな人になって欲しいと思ったのです」


「へえ。なんか、スミレさんらしいな」


春の陽光のようなスミレが付けた名が、ナルトにはとても自然のように感じられた。




「おっと、よし出来た!」


手際よく出来た料理をお皿に盛り付け、盆に載せる。




「ヒナ~~~!ハナビ~~~!出来たから運んでくれ」




””は~~い!!””二人の返事する声が居間から聞こえてくる。すぐにトトトトトッとこちらへ走り寄る音が聞こえ、スミレは目を優しげに細める。


忙しなく動き回るナルトを手伝い、願わくば・・




     (  ・・・ 願わくば、


                 あの子たちが、ナルトさんの ”陽だまり” となれるように―――――・・   )      








身勝手な思い。本当に・・母親と言うものは、欲張りで我が侭だと苦笑しながら、スミレは願う。


例え、娘たちがナルトにとっての”陽だまり”になれなくとも、ナルトにとっての”陽だまり”をいつかきっと見つけて欲しい。


けれど、叶うならば、ナルトへと仄かな淡い恋心を抱くあの子たちを選んで欲しい。


そんな事を思って、スミレは空を見上げた。






「タマキちゃん。ナルトさんをいつか私の本当の息子に下さいな」












ナルトたちが去った後。一人台所の窓辺に立つスミレの、ポツリと呟かれた言葉に、思い出の中のタマキが笑ったような気がした。


























○後書きのようなもの○



大分前に書いたので、新しく付け足した部分とが読みづらくなってしまったと思います。いつの間にか、ナルトの母も出てきてまして、最初の設定ではそんなシーンは全くなかったので自分でも?です。どうも、感動できる内容に出来なかったのが悔しいです。

CPは今のところヒナ&ハナ組みがリードです。と言うより母強しです。
ちなみに、ナルト(4歳)を預かったとき、ヒアシは四代目の子とは知りません。
次回も本編は休止で、番外に走るかもしれませんが、お付き合い下さると嬉しいです。では。






[715] 『 死神 の 涙・番外編―姦しムスメと色オトコ 』
Name: 夜兎◆30045c03 ID:a31fd8f6
Date: 2009/01/13 09:26

※ヒナタとナルトの馴れ初め。二部のナルト帰還からです。あと本作スレバレ後。








「――――ナルトを迎えに行くの~?」

突然のそんな声に、驚いて振り向くと、そこには訳知り顔のいのちゃんがいた。
ニヨニヨと笑う姿がちょっと不気味だったけど、そんな内心は隠しつつ。取り敢えず、驚きの声を上げておいた。

「「!いのちゃん(さん)っ・・・・・」」










『 死神 の 涙・番外編―姦しムスメと色オトコ 』














女三人並んで歩きながら、ハナビちゃんはニコニコと機嫌良さそうに笑ういのちゃんを見つめている。思い切り不審そうに見ながらも、多分私と同じ様な事を考えていたのだろうことをいのちゃんに訊ねた。



「・・・・・・いのさん・・私たちの後を付けてきたんですね?」

うわっハナビちゃん直球だ。しかもすごく不機嫌そうな態度を隠さず言うので、私が言ったわけでもないのになんだか冷汗が出た。

「んふふ~~~~vそうよ!網を張っておいて正解だったわねぇ。あんた達ったら、全然しっぽ出さないんだから苦労したわ~~」

これまた悪びれず返すいのちゃん。大らかというか、強気の発言に二人の間に挟まれた私はとても居心地が悪い。配置・・変えてくれないかな~?すごく居た堪れないよ・・・

「道理で。最近、周囲が煩かったのは貴女のせいですか・・」

「・・・だぁってさ~、そろそろナルトが帰ってくるのは知ってたけど、いつ帰ってくるか正確な日時までは分からないじゃない?」

いのちゃんが少し拗ねた風に訴えれば、すぐさまハナビちゃんの褪めた眼差しが返される。心なしか火花が散ってて目の前がチカチカするような気がする。・・気のせい?だと思いたい。
それでも遣り方が少しばかり拙かったのは自覚しているらしく、いのちゃんの目があっちこっちに泳いでいるので分かった。

「はぁ・・それこそシカマルさんにでも聞けばよかったのではないですか?」

ハナビちゃんが呆れた溜め息を付き、いのちゃんを横目で見た。

「それがさ~~、アイツってば忙しいっててんで取り合ってくれないし、中忍の仕事以外にもなぁ~んか陰でコソコソやってて捕まらないのよ~~。それにナルトも態々シカマルなんかに連絡遣すようなヤツじゃないし・・。
でもその点、日向だったら話は別でしょ?ナルトってばスミレさんには未だに頭上がらないみたいだしぃ。連絡も小まめに取ってそうだなぁと、いのさんは考えたのでっす!」

「「・・・・・」」

私とハナビちゃんは返す言葉が見つからず押し黙るしかない。そして顔を見合わせると、揃って苦笑した。ナルト君の名誉の為に否定したいが、あながち間違ってるとも言えない。そのくらい、ナルト君はお母さんに重きを置いている。それが少し悔しくもあるけど、古今東西・・男は母親という存在に弱い。ということにして気にしないことにする。・・・き、気にしないもんっ!

「・・い、いのちゃん、ナルト君のことよく分かってるね」

「そりゃそうよ~~。時間はヒナタたちには劣るかもしれないけど・・あれから私も、ナルトのことずっと見つめ続けてたんだもの」

少し照れたように笑っているいのちゃんは綺麗だった。きっとナルト君を思い出しているのかもしれない。正直少し嫉妬しちゃう。だけど、大好きなナルト君がこんなに慕われてるのを見ると私も嬉しくなる。こんなことを素直に思えるのは、周りの劣悪な環境から好意に疎くならざるをえなかったナルト君に、少しでもナルト君を大切に思っている人たちがいるってことが、こんなにも嬉しいからだ。
だから、恋のライバルと同時に、ナルト君を大切に想う同士と勝手に思っている。きっといのちゃんも同じ気持ちでいるんじゃないかな?・・うん、きっとそう。











「そう言えばさ~~、ヒナタって、ナルトのこといつ好きになったの?」

思わず自分の中で没頭していたら、いのちゃんによって突然の爆弾が投下された。直撃です!私は行き成りのことに焦りつつ、溢れんばかりの好奇心に瞳を輝かせて見てくるいのちゃんを見上げた。ちょっと考えに没頭してる間に、何でそんな疑問をもったのか。いのちゃんは時たま突拍子もないことを思いつくので心臓がバクバクする。一度是非頭の中を覗いてみたい・・
きっと、ナルト君と一番長い時間を過ごした私の恋の始まりが気になったのだろうけど・・。困るよ~。
そこには自分よりもずっとナルト君の傍にいたことに対する僅かな嫉妬の念もあるのだろう期待の目に、一瞬詰まった。隣を見れば一見興味なんてありませんっていうような顔をしつつも、ハナビちゃんも知りたい知りたいというオーラをビジバシ出しているのが丸分かりだ。


・・・・猛獣が獲物を前にしたみたいな目で見るのはやめて欲しい。素で怖いよ。


興味津々といった四つの瞳がらんらんと輝いている。ちょ、ちょっと顔が近いっ!顔が近いってば!!

一つ溜め息。何だか既にどっと疲れたような気がする。

このまま何事もなかったかのようにやり過ごしたいな・・・。そんな期待を込めて見たけど、二人の様子を見て諦めるしかないのかな?・・やっぱ無理・・ですよね?

けど、かと言ってまず何から話せばいいのだろう?悩むなぁ。でも、そう・・このことから話したほうが良いかな。


「――――・・実はいうとね。私、最初はナルト君のこと、苦手だったの」

「「えぇっ??!」」

うん。多分、この言葉が一番しっくりくると思う。
思わぬ告白だったのか、いのちゃんとハナビちゃんは本当に驚いたらしく、素っ頓狂な声を上げていた。驚くかな?とは思ったけど、そこまで驚くことないのに・・。その顔があまりに間抜けだったので、ぷっ・・思わずこっそり内心で笑っちゃった。

「姉様・・それは私も初耳です」

「うん。だって、誰にも言ったことなかったもの」

何だか秘密の宝箱を開けるような、どこかくすぐったい気持ちになって、それが面映くもあり、私は思わず笑った。過去の情景を懐かしむように遠くを見つめる。そして瞳を閉じた。

瞼の裏に映るのは――――あの日、あの時。始めて見た、ナルト君の・・どこか幼い笑顔だった。






















――――

「ヒナちゃん。今日からこの家で一緒に暮らすことになったナルトさんです。仲良くしてあげて下さいね」

「・・ぅ、うん」

柔らかな笑顔を浮かべながら、お母さんは目の前に佇む私よりも幾分小さな男の子――後で知ったが、自分と同じ年だった――をそう言って紹介した。それは突然のことで、幼い子供の私には事情は特に説明されなかった。ただ、これから一緒に住むことだけ教えられた。

お母さんの足にしがみ付いて様子を窺っていると、ふいに目が合った。ナルト君は無表情にこちらをちらりと見ると”お前になんか興味ないんだ”と言うように、すぐに目を逸らしてしまった。それが少し悔しくて、ほんの少し悲しかったのを覚えている。

初対面の顔合わせは、結局お互い話しかけることもせずその場は終わった。第一印象は最悪とはいかなくとも、はっきり言ってあまり良いものではなかったのは言うまでもない。





ナルトくんはちょっと怖い。というのがヒナタの率直な感想だった。母の手前頷いたが、仲良くできるかは甚だ疑問だった。

ただでさえ男の子というものが苦手なヒナタには、いつも無表情で何を考えてるのか分からないナルトは、どこか不気味に映っていた。
からかわれたり、苛められた訳でもないのに、どうしてもナルトへと近付くことが憚られた。その雰囲気が、まるで近付くなとでも言う様に、ヒナタが近寄ることを拒絶しているのを肌で感じていたからだ。

最初のうちはそれでも仲良くなろうと努力もした。この頃には本家と分家の子供との交流は殆んど無く、年の近い従兄弟とも会うことはあまり無かった。会ったとしても、相手にされることがなかった。そういった事もあり、ほぼ大人で周りを囲まれているヒナタにとって、自分と歳の近い子供が家にお泊りをするというのはとても魅力的で、ほんの少し楽しみだったのだ。



(きっとうちになれなくてとまどっているのかもしれない)

ナルトが無口なのはきっとその所為だと、ヒナタは自分に言い聞かせた。よく遊びに来る幼馴染も、家に来ると緊張するのか、いつもの騒がしさが嘘みたいに大人しくしているからだ。

だから別に自分と仲良くなりたくないからじゃない。

けれど、それが勘違いだと気付くのはそう遅くはなかった。現に、ナルトはヒナタがいない時、父や母とは少なくとも、それなりに会話をしているのを見かけたからだ。
はしゃぐ訳でもなく、大人と対等の相手として会話するナルトは、どこか普通の子供とは違っていて・・ヒナタは幼心にも、彼は自分たちとは違う存在なのだと思った。

だから、次第にヒナタの心がナルトから離れていったとしても、それは極々自然の流れだった。子供特有の残酷さで、ヒナタはナルトを突然現れたイレギュラー――家にあっていないモノとして振舞った。


さすがにそれを見かねたのか、母がほんの小さな切欠を、まだ幼いヒナタへと与えたのはそんな時だった。





「――――ヒナちゃんは、ナルトさんが嫌い?」

それはそんな言葉から始まった。

けれど、その一言は思いのほかヒナタの胸に響く。まだ小さな子供であるヒナタには、好きか嫌いか?・・白と黒かというくらい両極端な二つの答えしかなく、そしてそれを決めるのは、その時のヒナタにとってそれは何だかとても重いモノに感じられたのだ。思わず答えかねて押し黙ってしまう。

「・・・・・」

「ヒナちゃんの思ったとおりに言ってくれればいいのですよ?母様は、唯知りたいだけなの」

「・・・・・・・・・よく、わかんない」

「そう」

嫌い。と言う答えではなかったことにスミレはほっとしつつも、ヒナタがナルトを苦手に思っているのは目に見えて明らかだ。かと言って無理矢理仲良くさせる気はない。押し付けられた優しさを、ナルトは嫌うだろう。そんな事をすれば今度こそ、本当に人との関わりを経ってしまいかねない。それはヒナタにとっても、ナルト自身にとっても喜ばしくない。

「無理に仲良くして欲しい訳ではないのですよ。そんなのはお互いに辛いだけでしょう?・・・・けどね、ヒナちゃん。ナルトさんのことを知ってあげて?見ていてあげて?そうすれば・・きっと、本当のナルトさんが見えてくるはず――――」

「・・ほんとうの、なるとくん?」

きょとんとしてこちらを見上げてくる娘に微笑みながら、スミレは子供特有のふっくらとした頬っぺたを、そっと愛しげに撫で包む。

「ええ。・・今はまだよく分からなくてもいいのです。・・でもね、ナルトさんのことを見て、そして知ってちょうだい。好きか嫌いか決めるのは、それからでも遅くはないでしょう?」

幼いながらも、スミレの言葉を必死で理解しようと頑張った。――――そしてヒナタは答えを出した。

「・・・・・・ぅん。ひーちゃん、なるとくんのことみてるよ!」

まだ幼いヒナタに、しっかりとした判断が下せたのかどうかは分からない。ただ母の強い思いに絆されただけなのかもしれない。それでも、その時ヒナタにとって、それが一番いい答えだと思ったのだけは確かだった。





それからヒナタはナルトをひたすら見ていた。

流石に話しかけることは出来ずに居たが、スミレの言葉になにか心の琴線に引っ掛かったのか、言われたとおりそのままに影からこっそりと見ていた。

(きょうもいつもとかわりない・・。おかあさんといっしょにおりょうりして、ごはんをたべて、どこかにでかけていっちゃった)

スミレがナルトが誰にも気兼ねしなくて済みようにとの配慮により、離れに住んでいるナルトとは、母屋に住むヒナタとは以外にも接点がない。あるとすればそれは食事の時くらいか。それも食事はスミレに教わりながらも、ナルトはいつも自分の分は自分で拙いながらも作って食べるという徹底振りだ。ヒナタにはよく分からないが、それはナルトがこの家に来てから毎日行われている。
そしてナルトは―何をしているのかは分からないが―よく出掛けるため、朝以外はまちまちなことも間々あった。

それもあって、離れ近くの中庭に出てナルトが居ないかどうか確認するのがヒナタの日課となっていた。


「・・なるとくん、きょうはいるかな?」

中庭から見える離れへ、気付かれないように静かに近付く。ヒナタは思い切って、僅かに開いていた障子窓を覗こうとしてみた。――――この頃にはナルトのことを苦手だとは余り思わなくなっていた。それもあって、ヒナタの行動を僅かばかり大胆にさせていた・・が、背伸びして後ちょっとの所で見えない。
何かないかと、きょろきょろ辺りを探してみると、丁度いい高さの大きな石を見つけた。

「(これでなかがみれるかも・・)」

ヒナタには少し重過ぎる石を、よいしょよいしょと、何とか引き摺って窓の下へと置くと、そっと中を覗いた。

「(・・・・・・・・いた・・・)」

どうやら読書をしているらしく巻物が広げられ、それに見入っているのが外から見えた。他にも沢山の巻物がナルトを囲むように散乱していた。

「(・・・・なにをよんでるのかなぁ?)」

遠くて見えないが、ヒナタには理解出来なさそうな物ばかりの様に見えた。

暫らくそのまま見ていたが、今日は一日読書でもしていそうなナルトに、段々飽きてきたのと、このままの姿勢に疲れてきたヒナタは、思わず気が揺るんだのか足元の石がぐらついた。
元々安定性が悪かったのもあり、ヒナタは足元を滑らせて転んだ。転んだ瞬間、ナルトと目があった気がしたが、次に起こった衝撃に目を瞑った。

「・・・・ぅ??」

身を固めて衝撃に備えたが・・だが、いくら立っても痛みはやってこない。


「・・お前、バカ?」

声に、そっと目を開くと、目の前にナルトが居てヒナタの身体を支えてくれていた。そしてなぜか、こちらを呆れたような顔で見ていた。

いつの間にかナルトが居たことに対する驚きより、ヒナタは初めてナルトから声を掛けられたことに驚いて目を丸くしていた。例え初めて掛けられた言葉が”お前、バカ”だったとしても、最初のように存在を無視されていたことよりも余程マシだった。
そのことに、徐々にじんわりと嬉しさが体中を巡っていくのが分かった。そうして、ヒナタはにっこりとナルトへと向かって微笑んだ。

やっとこっちをみてくれたね。

その後もただニコニコと笑い続けるヒナタを、ナルトは少し気味悪そうにしながら見ていた。だが、この時からナルトがヒナタを無視することはなくなったのだった。











――――


「――――この頃からようやくナルト君が私のこと認識してくれて、すごく嬉しかったな」

それが例え呆れだとしても、ちゃんと私を見てくれたことが本当に嬉しくて、あんなに嬉しかったのは初めてかもしれない。・・その人をしっかりと認識するということが、どんなに大切か知ったのはこの時だ。

「そ、そう・・」

「それは、なんというか・・・」

あまりのことに、いのちゃんは言葉がなかったようだ。何だかいのちゃんもハナビちゃんも微妙な顔してるなぁ・・。
でもこの時のナルト君は本当に誰にも無関心で、日向でも僅かに心を開いてたのはお母さんと、お父さん。それとお手伝いさんの千代さんくらいだった。千代さんはちょっと強引で変わってるけど、元気すぎるくらい明るくて強気で、とにかく気のいい人だ。ナルト君もそういう彼女の押しに負けた節がある。今も”ナルト坊ちゃん”と呼び、猫可愛がりしてナルト君を揉みくちゃにしている。
とにかく、この時から私の中でナルト君は苦手から、ちょっと気になる相手になったんだよね。






















――――

ナルトが一緒に暮らすようになってそれから1年以上経ったある日のことだった。

「「にんしん?」」

「はい」

聞きなれない言葉に、首を傾げる小さな二人に、スミレは頬笑みながら答える。

「おかあさん。にんしんってなぁに?」

「母様のここに、赤さんがいるのですよ。ヒナちゃんはお姉さんになるの」

”赤さん”という言葉で、ようやくナルトも妊娠の意味を理解した。ヒナタも、自分がお姉さんになるという言葉に意味を理解したのかぱあぁっと顔を輝かせる。

「おねえさん・・・・ヒナ、おねーさんになるの?!」

「ええ!」

「うわあ、うわぁ・・」


喜ぶ親子の傍らで、ナルトは一人無言で静かに佇んでいた。そのことに、喜びに湧く二人は気付かなかった。その為、この時のナルトの内情を、人の心の機微に敏いスミレでさえも、内心の喜び一杯で察することが出来なかったのだ。変化に気付いたのは、それから暫らくしてのことだった。





スミレが妊娠してからというもの、ほんの少しという微々たる物だったが近付きつつあったナルトがまた遠くなったのだ。

どこか余所余所しくなったナルトの言動に、漸くその事に気付いた時にはもう遅かった。その頃にはナルトはあからさまにスミレを避けるようになり、日向の家に殆んど帰らない日が徐々に増えていった。そしてそれはスミレの腹が大きくなるに連れて顕著になっていったのだった。



そして等々ナルトが日向に寄り付くことも無くなり、一月程が経った。

勿論、スミレたちも手を拱いて待っていた訳も無く、兎に角何とかナルトと話をしようと、必死で探すのだが・・どうにも上手くすり抜けられてしまい逃げられてしまう。まるで暗部並みの隠れっぷりに、呆れるしかない。何もこんな時にそんな力を発揮しなくてもと、スミレたちは頭を抱えた。
お手上げ状態に、どうしてよいやらと悩むスミレに、流石に妊婦に宜しくないと、それを今まで静観して見守っていた火影が、等々動いた。




「ナルト・・そろそろ日向から逃げ回るのはやめんか。奥方も心配しておる。あまり妊婦に負担を掛けるでない」

「・・・・・オレは・・もう日向には戻らない。あの人にもそう言っておいてくれ」

「お主が直接言えばいいじゃろう。なぜじゃ?何か理由があるのか?」

「・・別に、そんなものはない。ただ・・・あの人には会えない。会っちゃいけない」

そしてナルトは火影が止めるのも聞かず、その言葉を残し瞬身の術でフッと掻き消えるようにして消えた。

一瞬の出来事に、止める間もなく消えたナルトに火影は溜め息を付く。

「上手くいっておったように思うておったが・・一体何がそんなにアヤツを追い詰めておるものか・・・。しかし、”会いたくない”ではなく・・”会ってはならぬ”とはどういう意味なのか・・・」










火影からの連絡を受け、その報告を持って帰宅したヒアシは、その足ですぐにスミレの休む寝室へと向かった。僅かに翳った顔を引き締めると、妻に声を掛け、そっと襖を開けた。


「確かに、ナルトさんはそう言ったのですね?」

「ああ。火影様が言うにはそのようだが・・一体どういう心境でそう言ったのか」

「そう・・。では、ナルトさんはまだ、私たちのことを望んでいてくれているということなのですね」

口元がゆっくりと綻んでいく。スミレは布団から抜け出すと、スッと立ち上がった。

「――――ナルトさんを迎えにいきましょう。私たち、皆で」








すぐに行動を起こしたスミレは、ヒアシに火影に頼んで水晶球でナルトの大体の場所を特定して貰うように頼んだ。何とか自分たちの手で探したかったのと、少しナルトが落ち着くまでは様子を見ようと思っていた為、反則技だとは思うが、これは最終手段として取ってあったのだ。けれども、もうこれ以上は待てなかった。
スミレは日向の権力を使ってでも頼む意気込みで火影にお願いする心算だったが、火影もナルトの事を案じてか、快く応じてくれた。


そして、その甲斐あってか、程なくしてナルトは見つかった。





背におんぶ紐で括りつけたヒナタを背負い、腕には毛布で包んだスミレを抱きかかえたヒアシは、静かにそっと火の森へと降り立った。

そこでようやく見つけたのは、火の森の奥深く、大樹の根に抱かれるようにして眠るナルトの姿だった。

樹齢1千年以上もありそうな大樹は、根を縦横無尽に張り巡らせ、まるでナルトを守るように佇んでいた。その様は巨大な自然の揺り籠のようだった。

ヒアシはスミレに促され、抱きかかえていた腕をそっと下ろし、その手を握り締め、ゆっくりとナルトへと近付く。

珍しく熟睡しているのか、気配に敏いナルトが彼らに気付くことは無かった。

「・・ナルトさん」

スミレはありったけの愛しさを込めてナルトの名を呼ぶ。その白い手をそっと頬へと触れ、瞼に掛かった髪を優しく払ってやる。

その感触に、流石に気付いたナルトの紺碧の双眸がゆっくりの見開かれる。

「・・・・どうして」

「ナルトさんを迎えに来たのですよ。一緒に、帰りましょう?」

「・・オレは、帰らない」

「なぜ?」

そっと手を伸ばすと、その手を避ける様にナルトは後ずさり、スミレから僅かに離れる。どこか怯えた様子に、首を傾げる。
そういえば、ナルトが避けていたのはもっぱら自分だったことに今更気付く。それはいつからだったか?スミレはやっとその事に思い至った。

「・・・私に赤さんが出来たからですか?」

「ちがう・・」

瞬間否定の声が返ってきたが、スミレは確信した。赤ん坊が出来たあたりからナルトの様子がおかしくなっていったのを。

「では何に怯えているのです?私を避けるのはなぜ?」

悲しげに淡々と言葉を紡ぐスミレに、ナルトは目を合わせることが出来ない。辛抱強く待つスミレは、答えを出すまで一歩も引いてくれなさそうで、ナルトは生まれて始めて気まずい気持ちを味わっていた。
ヒアシとヒナタも、二人の邪魔をすることなくこちらをそっと見守っている。その視線もナルトは自分には無いはずの胸が痛んだ。


どのくらいの時間が経ったのか、辺りはすっかり冷え込んでいた。


「私たちは、ナルトさんの家族にはなれませんか?」

ハッとしてナルトはスミレを見上げた。そんな事を言われるのは初めてだった。三代目が木の葉の人々を家族と呼ぶのとは違う響に、ナルトは僅かに動揺した。
しかし更に動揺したのは、スミレの頬を伝う涙だった。

「・・・なんで、泣いてるんだ?」

胸が苦しい。ナルトは微かに締め付けられる痛みと、咽喉を詰まらせるような感覚に戸惑う。

「大切なんです」――だからそばに居てほしい。

何が?とはナルトには聞けなかった。それが自分のことだということが、痛いほど伝わってきたからだ。
ナルトの足がほんの少しだけスミレへと近付く。それは無意識のことだったが、ナルトは無理に抗おうとは思わなかった。そしてスミレへと触れられる距離へ着いた途端、ぎゅうっと抱き締められた。

それは痛いほどだったが、ナルトは気にならなかった。ふと初めてスミレと会った時のことを思い出す。あの時もこうして、温かな胸に抱かれていた。

ナルトは僅かに逡巡しつつも、そっと、その小さな手でスミレの着物をきゅっと握り締め、目を閉じた。そして二人は長い間抱き締めあっていた。

どの位時間が経ったのか、いつまで経っても放す様子のないスミレに、どうも様子がおかしいことに気付いた。ナルトがスミレを窺うと、その瞳は閉じられ、どこか青褪めている。思わず声を上げ、スミレの名前を呼ぶが返事が無い。
様子を窺っていたヒアシもようやく異変に気付き、慌てて駆け寄ると、気を失った妻を抱き上げた。青褪めた顔色に、さっと表情を変える。やはり身重の身体でこんな森の奥深くまで来るべきではなかったのだと後悔する。ふとナルトの方を見やれば、スミレ以上に青褪めた顔をして蒼白になっていた。
それに僅かに冷静になったヒアシは、ナルトに落ち着くように促すと、背負ったままだったヒナタを下ろし預ける。

「私たちは先に屋敷へと向かう。ナルト君はヒナタを頼む」

青褪めながらもしっかりと頷いたナルトに、頷き返してヒアシは行きに包んでいた毛布でスミレをしっかりと包み込む。そして腕の中の妻を気遣いながらも、焦る気持ちを落ち着かせつつ、安定したバランスを取り帰路を急いだ。

ヒアシがナルトにヒナタを頼んだのは、単に身を軽くする為だけでなく、動揺したナルトを落ち着かせる為でもあった。きっと自分を責め、ナルトがますます殻に閉じこもってしまうのを防げればと咄嗟に思ついたのだ。今はナルトの事を気遣う余裕がない。それでも、何か役目を与えることで、ナルトをどうにか冷静にさせ、落ち着かせようと考えたのだ。


それが功を奏したと分かったのは、ヒアシたちが先に日向の屋敷へ着いた暫らく後のことだった。





幸い、医者に診せたところ母子ともに何事もなく、今はスミレもぐっすりと眠っている。どうやら寝不足と心労が崇り、ナルトを見付けられた安堵に、それまで保っていた緊張の糸が切れた為に気を失ってしまったようだ。

後から急いで駆けつけたナルトは、ヒナタを背に背負ったままスミレの部屋へと勢いよく駆け込んだ。その額には珍しく汗が浮かんでいた。

それにそっと微笑んで、ヒアシはナルトへ静かにするように促し、スミレの状態を告げ、安心するように言った。

「どうやら、君を見付けられたことに安心して張り詰めていた糸が切れてしまったのだろう。ただ気を失っただけだから、安心しなさい」

その言葉に、ナルトはヒナタを背負ったままへたりこんだ。

「・・・・よかったっ」







それからのナルトは、スミレを避けていたのが嘘のように付き従い、何かあってもすぐに動けるように傍を離れなかった。結局、原因は分からずじまいだったが、スミレはそれでもよかった。いつか、その理由を話してくれればいいと思いながらも、自分を心配して傍にいてくれることが何よりも嬉しかったのだ。












そして――――


・・おぎゃあっおぎゃあ!

無事産まれてきた赤ん坊は女児だった。生まれて間もない赤ん坊の顔は皺くちゃで、とても小さく。同じ人間とは思えずにいたナルトには、こんな小さいのに生きているのがなんとも不思議だった。

部屋の隅から様子を見ていたナルトがそんな事を考えていると、スミレが抱きかかえた御包みに包まれた赤ん坊をそっと差し出さした。思っても見なかった事態に、ナルトは戸惑う。何だか期待されているのは分かるが、身体が硬直して動かない。

穢れない赤ん坊の姿に、ナルトは自分の血に濡れた赤い手の平が、とてつもなく汚い物に見えた。赤ん坊を授かったと聞かされたときも思ったことだが、今はそれ以上に気になった。そんな自分が触れて良いのか、ナルトは迷った。忍びならそれも仕方ないことなのかもしれない。だが、それだけならまだしも自分は九尾まで封印された身だ。そんな自分が触ってしまって、この赤ん坊が穢れてしまわないか不安だった。



「ナルトさんも抱いてあげて?きっと、この子も喜ぶわ」

その言葉に、スミレと赤ん坊の顔を何度も行き来して悩んだが。周りの人間は皆にこにこ笑うばかりで、どうにも調子が狂う。特にスミレとヒナタの期待はすさまじく、この二人があまりにも期待に満ちた目で見るので、それに耐え切れず、恐る恐る近付くと、ちょんと指先だけでその小さなもみじの手に触れてみた。

ナルトの少々怯え混じりの指を、赤ん坊の小さな手が戸惑いもなくきゅっと掴みこむ。その小さな手は力強くナルトの指を握り締める。小さな身体とは裏腹のその力強さに驚いていると、赤ん坊がナルトを見て微笑った。

見る見るうちにナルトの目が見開かれる。

・・わらった。

何だか泣きたくなった。結局、その涙が零れることはなかったが、ナルトは泣き笑いのような、どこかはにかんだ笑顔を赤ん坊へと向けたのだった。







――きっと泣かれると思っていた。


野生の動物や、勘の鋭い赤ん坊は、本能的にナルトの腹の中にいるモノの存在に気付く筈だ。そして怯える。それが自然の摂理だとナルトは思っている。それでも手を差し伸べたのは、スミレたちの期待を裏切りたくないと思ってしまったからだ。

こうなったら、なるようになれ!!と言わんばかりに、ナルトは勢いだけで手を差し出した。すると、赤ん坊はその手をぎゅっと握り、大して見えていない目をこちらへと向けにっこりと笑ったのだ。きゃっきゃきゃっきゃと嬉しそうに赤ん坊が笑っている。それが偶々だったのか、ただ単に鈍かったのかはナルトには分からない。けれどこの剛毅な赤ん坊にほんの少しだけ救われたような気がした。
握られた小さな手がどうしようもなく暖かくて、ナルトは目の奥が熱くなって咽喉が詰まった。そしてスミレから赤ん坊をそっと受け取ると、おずおずとまるで雲を抱き締めるかのように優しく抱き締める。慣れないことに少し緊張しながらも、覗き込んだ赤ん坊は今だ笑ったまま。その重みが胸に心地いい。

「ふにゃふにゃだ・・」

目蓋が熱くなって、思わず頬が緩む。それは初めて見せたナルトの本物の笑顔だった。

















――――

柔らかに微笑むナルト君の姿は今も鮮明に覚えている。その笑顔は小さな私の胸にスッと染み入って、じわじわと包み込んだ心地良い胸の熱さをもたらした。この時だ。私がナルト君を”ちょっと苦手じゃない”から、”好き”に変わったのは。

「あの時の笑顔は本当に綺麗で・・。その笑顔に、ああ、好きだなぁって思っちゃったんだよね・・・」

「へぇ・・」

思わず感心したように感嘆の溜め息はくいのちゃん。どうやら満足のいく話だったらしくその余韻に浸っている。きっと小さい頃のナルト君でも思い浮かべてでもいるんだろうな。
そんな事を私が思っていると、隣からかなり勘違いな声が聞こえてきた。

「・・ナルトさんのお初な笑顔が私・・・いや~~んvきゃッやっぱり私たちは運命の糸で繋がってたんですね!!ああ、ナルトさんっ・・今ハナビが会いに行きます!!!待ってて下さい~~~ッ」

こっちはどうやらトリップってるのか、妄想激しく悶え始めたハナビちゃんがいた。ちょっと気色悪いよ?何だかお腹の中がムカムカするよ・・。これには我慢がならず、きっぱりはっきり突っ込みを入れておく。

「ハナビちゃんハナビちゃん、別に運命なんかじゃないからね。ただ偶々赤ちゃんだったのがハナビちゃんだっただけだから」

ここでしっかりと釘を刺しておかないと、思い込みの激しいハナビちゃんは絶対に暴走する(←人の事は言えないことには気付いていないヒナタ)。別に悔しいからじゃない。うん。きっと、絶対!

「ひ、ヒナタぁ?アンタ、なんか黒い物が背後から出てるんだけど~~ッ!!?」

いのちゃんが怯えたように一歩下がった。酷いなあ・・。何だか心なしか震えてるみたいなのが気になったが、取り敢えず、うふふとお花が舞ったように笑っているトリップったままのハナビちゃんをずるずると引き摺って、私たちはナルト君を目指し歩き出した。




「・・・・おそるべし・・日向姉妹。てゆーーか、ヒナタ・・アンタ腹黒かったのね」

思い込みの激しい似た者姉妹と、腹黒い笑顔を浮かべるヒナタにちょっと引きつつ、いのは半歩離れた位置でブツブツと呟きながらその後ろをけれどしっかりと付いていった。



































大人びた横顔。少年と青年の狭間の精悍な顔立ち。どこか色気のある雰囲気に、サクラは呑まれていた。

(ナルトって、こんなにカッコよかったかしら?)

ほんの少しの年月の間に、凛々しく成長したその姿に、思わず鼓動が高鳴った。
それを首を振ることで何とか無視して、サクラは声を張り上げて呼びかけた。久方ぶりの仲間の帰還を喜びを表わす様に。


「――――ナルトっ!」

駆け寄り、久方ぶりの、今は二人となってしまったスリーマンセル仲間との再会に胸躍っていたサクラは、次のナルトの砂吐く台詞に度肝を抜かれることになる。

「よぉ、サクラ。久しぶり。暫らく会わないうちにすげぇ綺麗になったな。その澄んだ翠玉をまた見ることが出来て嬉しいよ。
この桃色の艶やかな髪も相変わらず美しいな。お前に触れられるこの時をどんなに待ち望んでいたか・・・。オレのこの胸の内をサクラ・・お前に伝えられたら、どん
なにかいいだろう」

「ナッ・・ナルトぉ!!?」

顔を真っ赤に染め上げて硬直したサクラ。甘い言葉に、嘗ての悪戯小僧の姿とは全く重ならない。どこかホスト然としたナルトにどう接していいやら悩むこと数秒。
それも、自身の髪をサラリと撫で上げられ・・優しく頤を掴まれると、そっと覗き込むように瞳を見つめられたことにより、完璧に吹っ飛んだ。

お互いの唇と唇がゆっくりと近付いていく。




「(もう、何も考えられない・・こんなイイ男にならキスされてもいいッ)」

相手があのナルトだということも、今だ想いを寄せる相手、サスケのこともすっかり忘れ、サクラは甘いこの一時の夢に酔った。


唇が触れ合う・・


サクラはドキドキと鼓動を高鳴らせ、ナルトの薄く形のいい唇を見つめた。


あと少し・・・ほんの少しでくっ付くかくっ付かないかという――――その時・・




「ーーーーーーーーーって!そうは問屋が卸すか~~~い!!そんっなことぉ、たとえ閻魔様が許してもぉ~っ!この、いのちゃんっが・・ユルさーーーンッ!!!!」

ぐわしッとデコを引っ掴み、いのは慌ててサクラの顔をナルトから引き離す。その際グキッと音が鳴ったが、いのは気にせずナルトの唇を死守したことに安堵した。

「!?ーーーーーーーーッ~~~~~!!!・・い゛ッ、痛いじゃないのよぉっこのイノ豚ぁ~~~~!!!!」

「自業自得じゃボケぇーーー!!デコリーン!アンタッ、サスケ君が好きなんでしょぉ~~!!?・・それなのにコレってど~~いうことなのかなぁ??!ねぇ、サァ~~クラァ~~~??」



急な登場にも拘らず、ナルトはいのの腕を優しく掴み、サクラから流れるように引き離すと、背に流された髪にそっと口付けた。

「いの。何を怒ってるのか知らねえけど、そんなに怒るな。折角の綺麗な顔が台無しだぞ?お前には笑顔の方が似合う。久しぶりに会ったんだ・・お前の微笑った顔が見たい」

「・・・・な、ナルト――――「「お帰りなさい。ナルト君(さん)!!」」

思わず見惚れ、サクラに食って掛かっていたことなど忘れ立派な青年となったナルトに見入る。が、それをこの二人が許すはずもなく、日向姉妹に当然の如く邪魔された。寧ろ二人の背後から溢れるドス黒いチャクラが怖くて、いのは文句も言えず後退り、思わず先程罵りあったばかりの親友とびくびくと震えながら抱き合った。

「ああ、ただいま。ヒナタ、ハナビ、二人とも更に可愛く綺麗になった。ヒナタは髪が伸びたんだな。綺麗だ。長いのも似合ってる」

姉妹の黒いチャクラも何のその、全く気にした様子もなくナルトは白い歯を見せて笑った。余裕である。そして勿論二人を口説き始めた。

「ナルトさんっ、私は?!」

「ハナビは見違えた。もう立派な大人の女だ。本当に綺麗だよ」

「や~~~んっv嬉しいです!」

もうメロンメロンである。蕩ける様な笑顔で二人はそれぞれナルトの腕に引っ付いた。それを指を銜えて悔しげに眺めるいのとサクラ。

「(姉様、その下品なデカ乳をナルトさんに押し付けないで下さい。ナルトさんが穢れます!)」
「(む!ハナビちゃんこそ貧乳の癖して押し付けて、きっと骨が当たるばかりでナルト君も楽しくないよ)」
「(なっ、な・・ヒドイです姉様!私だって、私だって・・・その内きっと育ちます!!)」
チラっと見て
「(・・・・無理じゃないかなぁ?)」

目だけで相手を罵る姉妹の、ナルトを挟んでの熱い火花がバチバチと飛び散った。そしてそれを微笑ましく見つめるナルトは、何処かネジが跳んでいた。












それを少し離れた位置で傍観していた自来也。

「・・・・・」

(ど、どうしようかいのぉ・・すっかりホストモードに入っとる。・・・・・・・・・・・・・・・・・・ワシ、し~~~らんっと)


彼は何も見なかった振りをして、その場からこっそりと逃げ出した。ナルトを此処まで豹変させる事になった元凶だということに知らぬ振りして。この後で綱手によってナルトに悪影響を与えたとして、きっちりと制裁を加えられることになるともつゆ知らず・・・



実はナルト、なぜこんな性格が変わっているかというと、旅の間中度々ホストをしては金を稼いでいたのだ。ナルトも、最初は賭場で適度に稼いでいたのだが・・それでも追いつかないくらい自来也が借金をこさえてくるので、ついにままならくなったナルトは、切れて少々荒稼ぎしすぎてしまったのだ。そして等々賭場に出入り禁止となってしまったのだ。
勿論、それからも変化したりと様々な格好でいっていたのだが、賭場側も警戒してか荒稼ぎは中々難しくなってきた。しかも街々で繋がっているのか、”伝説の賭け師”として賭場荒らしの異名を持ってしまったナルト。姿を変えても奇跡的な中り方に、鋭い者にはすぐ感ずかれてしまうのだ。

意外と律儀なナルトは溜まるばかりの借金に、すっかり困り果て頭を抱えた。借金製造機の白髪おっさんは逃げ足だけは悔しいことに忍界一だ。編に勘が鋭いのか、ナルトが本気でぶっ殺そうと思ったときには蛻の殻。器用にも借金だけ残していくという腹立たしい状態が何度も続いていた。後に残るのは色っぽいねーちゃんと差し出される借金の請求書の山山山。次第にナルトの目的は借金返済へと摩り替わっていった。そしてある日、借金に困っていたのを見かねた女の一人が、ナルトの金だけじゃなく、態々迷惑を掛けた遊女にさえ気を使うその男気に感心し、そのアフターケアっぷりに「ホストが向いてるんじゃないかい?」と進められたのをきっかけに、ナルトはホストの<鳴人なるひと>として歓楽街の帝王と呼ばれるまでに成長していったのである。
元々木の葉の廓のとある楼閣で、<黒曜>という名で少し変わった形態の楼主に近い役割を負っていたのもあって――勿論根本はスミレではあったが――女の扱いには慣れていた。しかしそれも、もてなされる側からもてなす側になって、更に磨きを掛けられることとなる。艶めく漆黒の髪に煌く碧眼。17~8(変化して髪色と年だけ誤魔化した)の少年と青年の狭間を生きるしなやかな痩躯。偶にしか魅せない少し皮肉っぽい笑顔は大人の雰囲気を漂わせる。嘘を言わない美辞麗句に、厳しくも気遣いある思いやりのある言葉は、お姉様方の胸を鷲掴み。少々ツンデレ入ったのがまたイイ!と、本人の意思とは関係なく順調に金づるを蜜に群がる蝶の如く、ナルトは無意識に捕獲していったのだった。

行く街々を渡り歩き、知らず知らずのうちに何故かホストとしてのスキルを磨いていったナルトは、筋金入りのフェミニストで女たらしと化していた。この頃には、ナルトは自分が旅に出ていた目的を微妙に忘れていたりするという、なんともな状態と化していた。












――――そして、今に至るという訳である。





取り敢えず、ナルトが正気に戻るまでもう少し。

















「・・で?サクラ。なぁ~~んでアンタがいるのよ!!」

「何でって、師匠が今日ナルトが帰ってくるって教えてくれたからに決まってるじゃない!」

「ハッ!!しまったぁ、その手があったか・・・も、盲点だったわ」

イチャイチャの中を精神的にも肉体的にも追い出されたいのとサクラの二人はというと・・女だけで虚しくも口論していた。特にいのは衝撃の事実を知り、一人へこんだのだった。

何だかどっと疲れが押し寄せてくるいの。そして、ナルトに引っ付く日向姉妹を羨ましげに見やると、心の雄叫びを上げたのだった。



「くッ・・きょ、今日の所はヒナタたちに負けを認めるわっ・・・だけど、今度は負けないんだからね!!しゃ~~~~んんなろぉ~~~~~~~~ッ!!!!」

「!?ちょっと、いのブタぁッ!!それ私の専売特許でしょ?!!使うなら、せめて許可(?)取ってからにしなさいよ~~~~~っ!!!!」









【姦しい娘たちとネジの弛んだ色男の話。】





あとがき:
お疲れ様でした。ちょっと長めになってしまって申し訳ないです。どうもスキッと纏めるのが苦手で・・。そして遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。何とか今年初の投稿となり、ほっと一安心です。
内容が行き成りすっ飛ばしたものですみません;取り敢えず、馴れ初め+αみたいな感じで・・。特別編の続きはもう暫らく掛かりますが、これだけはしっかり終わらせたいと思ってます。本作を読んでくれた皆様どうも有り難うございます。もう暫らく宜しかったらお付き合い下さい。









[715] Re[20]:『 死神 の 涙 』特別編~陰謀うず巻く水の国の冒険~
Name: 夜兎
Date: 2006/05/14 22:22
※話の中の水の国は原作の中のものとは全く関係ありません。オリキャラも多数出る予定です。






”コンコン”


火影執務室の扉を叩く音がする。


それに気付き、広げた書類に向かっていた手を止め、応える。


「失礼しますってばよ~!!」


元気良く入った来たのは、下忍の<うずまきナルト>。


お馴染みの、オレンジ色の衣装に身を包み、忍びらしくもなくズカズカと部屋へ入ってくる。


そんなナルトを呆れながら見つつも、火影はとっとと用件を伝える事にした。




「お前に依頼じゃ」








『 死神 の 涙・特別編~陰謀うず巻く水の国の冒険~ 』











木の葉の森を疾走する影が三つ。


時折木漏れ日が彼等を反射しながら、樹から樹へと移ってゆく。


「・・なぁ、ナルト。オレ達はどこへ向かってんだ?」


不意に掛けられたシカマルの台詞には、何処か疲れた感があった。その隣には、黙っているがその珍しい白い眼は確りとナルトに向けられている。


其れも其の筈。彼らがそう思うのは仕方がない事だろう。




時を遡ること数刻前――――




――――




「―――はぁッ!?オレに依頼ってば??!」


火影執務室に響き渡る大声に、火影は耳を指で塞ぎつつ、その声の主を迷惑そうな顔で見た。


当の本人はなんのその、しれっとしている。けれども、その蒼の瞳はマジマジと火影を見ていた。


どうやら、表も素も関係なく驚いたらしい。


そんな様子を少し可笑しく思いながらも、火影は真面目腐って事実を伝える。


「うむ。ここに依頼書が来ておる」


キセルで手紙らしき紙切れをスッとナルトの前に差し出した。


その紙切れを胡散臭そうに受け取りながらも、段々とナルトの眼が僅かにだが見開かれるのを火影は見た。


「・・おい、これって・・」


「そうじゃ、水の国のスイ殿からお前宛の密書じゃよ」


ナルトは手紙の最後にある印璽を見やる。間違えようもなく、それは水の国の国主のものであった。


「”国主の息子として”ってことか」


「どうやらそのようじゃの」


肩を竦め、戯けるナルトににやにやと、何か含んだ薄ら笑いを浮かべる火影。何処か楽しんでいる節があるのを見咎め、ナルトは軽く睨みやる。


「して、どうする?行くのじゃろ」


「はぁ・・・しゃーねーだろ。御丁寧に、乗る船まで書いてやがる」


断らない事を前提とした内容にウンザリしながら、ナルトは大きく溜め息をついた。








―――そして、その翌日・・。




何も知らないネジ達を引きつれ、ナルトは木の葉の里を旅立ったのである。






ネジとシカマルの二人はというと・・・


朝も早くにやって来たナルトに叩き起こされると、慌てて荷を支度し、何も知らされずに泣く泣く木の葉を旅立つ破目になったのだった。


文句の一つや二つ言いたくもなるのが人情だが、そこは相手が悪かった。泣く子も黙るナルト相手に、文句など言えよう筈もなく・・せめて、無難に質問する。


「ん~~??まぁ、付いて来れば分かるって」


どうやら答える気はないらしい。それがありありと分かって、シカマルは思わず溜め息をつく。これ以上は無駄だと悟って聞くのは諦める。


しかし、ネジはそれで到底納得出来る筈もなく。


「行き先くらい教えろ!オレは下忍の任務があったんだぞ?!大体、何でオレ達まで・・」


眉間に皺を寄せて余程溜まっていたのか、ぶちぶちとナルトに詰め寄る。


腐るネジに、ナルトは呆気らかんとして「”旅は道ずれ、世は情け”ってゆ~だろっ?」と答えた。


「(いや、ちげぇし!)」


自分の心情も相俟って、つい心の中で突っ込んでしまうシカマル。しかし、声に出して言わないのはナルトの事を良く分かっているといえよう。


「ん?何か言ったかなぁシカマル君v」


しかし確りと思っている事がバレていた。だらだらと汗を掻き、爽やかな笑顔のナルトから視線を逸らす。


(眼を合わせちゃダメだ!眼を合わせちゃダメだ!)


念仏のようにぶつぶつと唱えながら遣り過ごそうとするシカマル。その様はハッキリ言って怪しい。それを見たネジもかなり引いている。


二人の下僕の様子を見て、ナルトは一つ溜め息を付き、一度こいつ等が自分の事をどう思っているのか問いただしたくなった。




「・・まぁいい。それより急ぐぞ!」
























―波の国―









「・・・・あまり、いい状態じゃないな」


「ぁあ」


漸く波の国まで着いた一行は、余り活気がいいとは言えない街に戸惑っていた。


「おかしいな・・前来た時はこんなんじゃなかった筈だ」


少し気になったナルトは、まだ時間に余裕があるのも手伝って、少し聞き込んで見ることにした。


目に入った茶屋を集合場所とし、一先ず、三人バラけて情報を得る事にした。






再び待ち合わせ場所の茶屋に集まった三人。


一番最後に現れたのは珍しくもナルトだった。ネジとシカマルの待つ席へ座ると、茶団子と茶を頼む。


「よし、お互いの情報を合わせてみるか。まずはシカマル、お前からだ」


「おぅ。あまり大した事は聞けなかったが、オレが聞いたのは”ガトー・カンパニー”っつう海運会社が海上交通や交易を牛耳ってるせいで、物資が自由に流通出来なくなってるらしいってことだな。そのせいで物価が上がるばかりで物も手に入りにくくなってるみたいだ」


仕入れた情報を語るシカマルのその表情はあまり芳しくない。街の様子を見ているだけに、それも仕方ない事と言えよう。


「ネジはどうだ」


「オレの方もシカマルと大して変わらないが、あまり良い噂は聞かないな。ガトーという男が一代で築いた会社だが、裏では金と暴力に物を言わせて中々悪どい事をしているようだ」


「ふむ・・・」


二人からの情報を聞いて、考え込む。


黙ったままのナルトに痺れを切らし、ネジが逆に訊ねる。


「・・ナルトの方はどうだったんだ?」


「ん?ああ、オレか?オレは、もう少し突っ込んで調べてみた」


興味を引かれたのかシカマルは少し身を乗り出す。


「で、どうだったんだ?」


「・・あぁ。俺も殆どお前らに聞いたことに毛が生えたくらいだったんだが、少し気になったんで物資の動きとかを調べてみた。――――・・で、分かったんだが。どうやらここ最近、ガトーって奴は武器や火薬類を大量に買い占めているらしい。それを船で何処かへ運んでるみたいだな」


雲行きの怪しくなってきた内容に、ゴクリと唾を飲むネジとシカマル。











静寂がナルトたちの周りを覆う中。ポツリと呟かれた声は、誰に届くことなく・・。


「―――――もしかしたらこのガトーって奴、水の国とも関わってるかもしれないな」














○後書きのようなもの○
陰謀とか題にいれては見ましたが、そんな対した物でないこと請け合いです。色々と(何分頭がないので)無理のある内容になるとは思いますが、何卒よろしくお願いします。
突発(と言ってもそれなりに前から)だったので、続くかどうかすっごい怪しいものですが、良かったらお付き合いください。






[715] Re[21]:『 死神 の 涙 』特別編~陰謀うず巻く水の国の冒険~その②
Name: 夜兎◆30045c03 ID:e47dcf63
Date: 2007/11/20 16:46
※話の中の水の国は原作の中のものとは全く関係ありません。オリキャラも多数出ます。










煌く水面に、さざめく波。遠くでかもめが優雅に飛んでいるのが見える。


潮風に吹かれ、ナルトは気持ち良さそうに髪を揺らした。


そんな中、なんとも場にそぐわない耳障りな音に、ナルトは眉を顰めた。




「ぅう゛おえ~~~~ッッ・・・」


甲板から身を乗り出し、海へ向かってなにやら情けない声を上げている者が約一名。


「ぉ・・おい、大丈夫かよ?」


めんどくさがりながらも、一応心配そうにその声の主に話しかけるシカマル。


「ほっとけ、ほっとけ。暫らくすりゃ治る。大体、それでも《忍》かよ・・ネジ。《忍者》が船酔いなんて、あぁ情けねぇったらありゃしねぇ」


爽やかなひと時を邪魔されたのが余程気に入らなかったのか、その声は冷たい。態々隠語で、《ある》部分を強調までされてそりゃもう厭味ったらしく。


シカマルという救いの手をなくしたネジは、しかし、ナルトの無情な突っ込みに声を詰まらせながらも、尚も諦め悪く言い募る。


「ぐっ・・し、仕方ないだろう!!船なんて乗ったのは初めてなんだッ!」


「シカマルも確か初めてだったとオレは記憶してるけど?ん?」


すかさず返され、返答に困るシカマルに、ぐうの音も出ないネジ。


誰からも相手にされず、その後しばらく、独り泣きながらゲロを吐くネジの姿が見られた。














 くすくすくすくすっ

漣の音に混じり、涼やかな笑い声がする。それは誰に聞こえることなく、海の波に攫われて・・


「面白い子達だな~・・う~ん、楽しみぃ♪」


ナルト一行の様子を窺っていた影が、ポツリと愉しそうに呟いた。
















『 死神 の 涙・特別編~陰謀うず巻く水の国の冒険~その② 』












 ガンガンガンガンッーーーーー!!


波止場に出港の合図である銅鑼の音が甲高く鳴り響く。


「出港ーーー!!出港ーーーーーー!!!」


錨を引きあげる音と共に、船員(船乗り)が大声で船の出港を告げる。









「ぇ~っと・・・水波切丸は・と」


港に居並ぶ船の中から、目当ての帆船を探す。


「おい!あれじゃねぇのか!!?」


「あ~~~・・・あれだな」


シカマルが、今にも出港しようとしているのがその船だと気付き、慌ててナルトに知らせる。しかし、そんなシカマルの声にも、ナルトは慌てた様子もなく、気の抜けた返事を返した。


その相変わらずのゴーイグマイウェイっぷりに、ネジは器用にも片眉だけをピクピクと動かし、怒りをのせて怒鳴った。


「何をのんびりした事を言っている!!急ぐぞ!」


ネジ如き(酷い)に命令口調で怒鳴られたナルトは、それと気付かれないよう僅かに眉を顰めると、次には何もなかったかのようににーっこりと満面の笑みを浮かべた。それを運悪く目撃してしまったシカマルが、思わず顔を青褪めさせ、心の中でネジの冥福を祈ったことは誰にも内緒だ。




兎にも角にも、三人は目的の船へと急ぎ走った。








「お~~~い!!乗りますっ!乗りまぁすっ!!」


ちょうど錨を上げ終えたところに聞こえてきた声に、顔を上げると、こちらへ向かって走ってくる三人組の子供の姿が目に入った。


「遅いぞ!!もう錨を上げちまった!あ゛~~~・・・今、縄梯子を投げてやるから、それで上がって来いっ!!」


船員が縄梯子を投げ下ろすのを、上手くキャッチし、ナルトはシカマルに渡した。


「ふんっ、このくらい梯子を使うまでもない」


ナルトとシカマルが、素直に船員から渡された縄梯子で上ろうとしているのを横目に見やりつつ、ネジは足に力を込めると、船上へと一気に跳躍しようとした。


―――――が、しかし。それを阻む者がいた。


 ぐぃっ


「ぐえっ!!」


蟇蛙のような呻き声を上げ、ナルトによって引っ張られた襟を慌てて緩めようとじたばたともがく。


「・・・・シカマル、先に行け」


「ぁ?おお!」


縄梯子に足を掛けたまま固まっていたシカマルだったが、ナルトに急き立てられ、チラチラと時折り二人を振り返りながらも、急いで梯子を伝っていく。


「ッ・・がはっ・・げほ、げほっ―――~~~~っ何をする!」


シカマルが上り始めたのを見届けてから、漸くネジの首元から手を放したナルトに、咽喉を押さえ、涙目になりながらも文句を言う。


しかし、そんな文句など聞き流し、ナルトはネジの肩をぐっと掴むと、顔を耳元へと近づけた。


「(ここからは忍であることを隠せ。その方が何かと都合がいい。いいな?あほネジ)」


顔は笑っているが目が笑っていない。ギリギリと痛いほど肩を掴まれ、ネジはただコクコクと首を振った。


「じゃあさじゃあさっ、つぎ!オレの番~~♪ネジは最後な!!」


恐怖に固まるネジを尻目に、ナルトの姿はみるみるうちに小さくなっていった。


「お~~~い!早く来いよ!!乗り遅れんぞ~?(くすっ)」


「ハッ?!!」


危うく乗りそこねるところを、恐怖に追いやった張本人の声で我に返ったネジは、ギリギリ縄梯子が掴める位置まで進んでしまった船に驚き慌てて走り寄る。


ハシッっと掴んだ縄の感触に安堵するが、船は動いているわけで―――。


埠頭の先端から先はもちろん海だ。掴んだ縄梯子が船が進むに従って引っ張られる。むろんそれを持っているネジも引っ張られるわけで・・・。


ぐいっという間抜けな擬音が聞こえ、そのあと盛大な水飛沫が舞った。


「んのぉおおおおおおお~~~~~~~~~~~~っ!!!!」








数分後、騒ぎに気付いた海の男たちに魚宜しく捕獲され、助けられたネジだった。


























だだっ広い室内に、静かに佇む少年が一人。その少年の背後から、少し嗄れた声が掛かった。


「・・若、行かれるので?」


「ああ。久しぶりに会う友を出迎えに、ね」




「それに、こちらが撒いた事だとはいえ、彼に全てを押し付ける訳にはいかないよ。結果も、気になるしね」


そう言うと、若と呼ばれた少年は、微かに笑みを作ると、羽織を翻した。

















○後書きのようなもの○
お久しぶりです。もう忘れられてるかもしれませんが、取り敢えず投稿です。
なんだか段々とキャラ(特にネジ)が崩れて言ってる気がします・・(汗)細々とですが、続いていく予定です。




[715] Re[22]:『 死神 の 涙 』特別編~陰謀うず巻く水の国の冒険~その③
Name: 夜兎◆30045c03 ID:e47dcf63
Date: 2007/11/22 02:03
※話の中の水の国は原作の中のものとは全く関係ありません。オリキャラも多数出ます。












薄暗い船倉を、時折餌を探して駆け回る鼠に混じって動く影が一つ。


「(・・・・・ない。あるのは何の変哲もない荷ばかり。抜け荷(密貿易のこと)でもしているのかとも思ったけど、それも違った。けど・・この船で運ばれてるのは間違いない筈なのに――――・・・一体、何処に??)」


あると思っていたものが見つからず、思わず溜め息が漏れる。


影・・少女は、床に座り込むと激しく項垂れた。


「(ふぅっ・・・・このままここにいるのも不味いかな。取り敢えず、一旦上へ戻ろう)」


そうと決めると、すっくと立ち上がり出口へと急いだ。




が・・・


「――――うに゛ゃぁッ!!」


木箱に足を引っ掛け、盛大に転けた。


額から床に吸い込まれるように、ゴイィィンッ!という派手な音を立て、それはもう豪快に転んだ。強かにぶつけた額が痛い。


「ッ~~~・・ぅう゛っ・・・・・ぃ痛ひ・・」


思わず床に蹲り、額を抑えて痛みを堪える姿ははっきり言って間抜けだ。自分のドジさ加減に泣けてくる。


「(くすんっ。どうして私ってこうドジなんだろう??やっぱり忍には向いてないのかな~~・・・ここぞって時には必ず失敗するし、いっそのこと転職しようかな・・。でも今更仕事変えるのも難しいし、私なんか雇ってくれる所なんてなさそうだし。根暗だし可愛くないし胸もないし・・・・(以下略))」


ずぅぅんと言う音が聞こえてきそうな程暗雲を背負って”の”の字を書く。体育座りで膝に顔を埋めぶつぶつと呟く様ははっきり言って不気味だ。




涙目になりながら、はたと違和感に気付く。それが何なのかはすぐには思い付かず、少女は落ち込んでいたのも忘れ、先程の転ぶ前からの一連の動作を思い返す。




「・・・・・・・・ぅ゛~~~~・・・ん?・・・・・・・・・・・

                ・・ぁッ!――――――そうかっ、<音>!!」




先程蹴躓き転んだ時に、発した音。下に空洞でもあるのか、反響音がした。


それに気付いた少女は、すぐさま床を叩き、音の反響を聞き比べる。


 ドンドンッ トントンッ コッ ――――――”コンッ!”


下に広い空洞でもあるのか、そこだけ他と比べて高い音がした。













『 死神 の 涙・特別編~陰謀うず巻く水の国の冒険~その③ 』

















「・・・・・・・あった」 


ようやく探り当てた床を外すと、頭から身体を突っ込んで中の様子を覗く。真っ暗闇に目を凝らし、忍として鍛えられた目が捉えたものは・・所狭しと並べられた様々な武器、大量の火薬に砲弾だった。


「(上げ底になってたのか。それにしても、よくこれだけの量を・・)」


二重船底となっているのに半ば関心しつつも、しっかりと物的証拠としてその一部を懐へと入れた。




何とか任務をこなせた事に安堵し、ほっとしたのも束の間――――首筋に当たる冷やりとした感触に・・全身の動きが止まった。






「・・・・・」


頚動脈にヒタリと当てられた刃に、思わずゴクリと唾を飲み込む。


「そこまでだよ・・。懐に入れたブツをさっさと出しなよ」


気だるげで抑揚の無い声が、耳元で囁かれる。


やる気のない声音とは相俟って、静かに向けられる殺気に、思わず身体が震える。


態度と行動の伴わない、どこか道化めいた振る舞い。それが一層、敵であるだろう男を気味悪くさせていた。


「(どッ、どうして気付かれたんだろう??!ちゃんと気配は消してた筈なのに・・・・。この仕事・・やっぱ向いてないのかな。あぁ、ドジばっかの短い人生だったなぁ・・・・・・ぅふふふふっあははははははーーー)」


多少どころか半ば本気で自棄になりながら、自らの人生を省み、我知らずほろりと涙が出そうになった。


そんな愚痴交じりの心の声に答えるかのごとく、どこからともなく声が掛けられた。






「―――そりゃ、あんだけ物音立てられりゃ気付くだろ。普通」


いつの間にいたのか、樽の上に座り、呆れたような顔をしてこちらを見ている少年。その声の主である少年の顔を見て、少女は驚いたように顔を上げた。


何の気配も無く突如現れた新たな侵入者に、少女を取り押さえていた男は僅かばかり目を見開いた。が、それも一瞬で元の気だるげな表情に戻った。だるそ気にしながらも警戒は怠らずに侵入者である少年を見やる。


「・・・お前、ダレ?」


「いや、タダの通りすがりデス」


男の誰何には答えず、少年はただそう言ってさっさと去ろうとする。が・・・




「あぁああぁーー!!!ヒ、ヒドイです!シン殿ぉ~~~ッ」


先程まで少年の登場に呆然として驚いていた少女は、それに慌てて騒ぎ出す。ここで置いてかれたら死ぬ!それだけが脳裏を過ぎり、必死で追い縋る。


「やっぱ仲間なんじゃん」


どうやら知り合いらしい二人を見て、ぽそりと呟かれた男の言葉に、シンと呼ばれた少年はそれはもう嫌そうに眉を寄せた。


「ちょっと待て。オレをそこの間抜けの仲間と思われるのは物凄く不愉快だ。それに人違いだろ」


「ま、間抜けって・・・。ぅう゛、否定出来ないトコが痛い。でもでも!その漆黒の艶やかな羨ましいくらいキューティクルな髪!そして宝玉のようにキラキラと光り輝く鮮麗にして妖美な碧眼!間違いなくシン殿であります!!!この私の目に狂いはありませんっ」


力の入った演説に、シンと呼ばれた少年と敵である筈の男が引いた。何かよく分からない生き物を見る痛い目で二人は少女を見つめた。


「小桃・・相変わらずオカシイほどぶっ飛んだ奴だな。ハッキリ言って知人なのが恥ずかしいぞ?」


「・・・やっぱ知ってる奴だった」


「フッ、仲間と知人とじゃ全然違う!知人は赤の他人に等しいくらいの薄~い繋がり。まかり間違っても同類のような扱いを受ける謂れはオレにはない!」


「・・シン殿、わ、私の事そんな風に思ってたんだ」


ガガーーンッ!!という音が聞こえてきそうなくらいショックを受け、少女・小桃はごく自然な動作で男の腕からするりと潜り抜けると、いそいそと部屋の隅っこへと移動する。そして膝を抱えてしゃがみ込み、のの字を書き出し、なにやらブツブツと呟きながら愚痴り始める始末。


それを静かに見守っていた敵同士である筈の二人は、目配せし、小桃は放っとく方向に決めた。二人の心が一致した瞬間だった。






小桃を視界の端から追いやりつつ、二人は間合いを取る。相手の一挙手一投足を見過ごさないようお互いに目を放さない。


どのくらいの時間がたったのだろうか。僅かにピリピリとした空気が漂う中、ふっと構えを解き男がポツリと一言。




「ぁ~~・・・・なんか、メンドー。帰る」




「は?」


呆気に取られ、男というよりも、青年とも呼べそうなまだ年若い男の無表情な顔をマジマジと見つめる。魚の腐ったような瞳にはなんの意志も窺えない。


「だって、アンタ強そーだもん。コイツが嬉しそうにビリビリ言ってる」


「妖刀、か」


コクリと頷き、男は初めて表情らしい物を浮かべ、嫌そうに自分の手にした刀を見つめた。


妖刀は持ち主を選ぶ。選ばれた者でない者が持てば、妖刀に心を蝕まれ、その先に待つのは不幸な<死>だけだ。誰もその<死>を止められる者はいないと聞く。そして選ばれた者も、否応無く、自らの意志に反して戦いの渦へと巻き込まれるという迷惑極まりない代物だ。


「てーことは、あんた・・ソイツに選ばれたのか?」


「・・・成り行き?」


思わず男を同情の視線で見てしまった。どう見てもやる気なさげな、何処かシカマルを髣髴とさせるこの男が、態々戦いを好むとも思えない。大方、妖刀が引き寄せる厄介事に否応なく巻き込まれたりと、本人も気付かぬうちに不幸を背負ってるタイプだとシンは判断した。


「「・・・・・・」」


見詰め合い、なんとなくだが同類意識が湧いたシンは、心から男に励ましの言葉を贈った。もちろん心の中で、ではあるが。


そうして二人は何を言うでもなく別れた。お互いに、―――コイツとはまた遇うだろうな。と思いながら。








未だあっちの方へ逝っちゃっている小桃を回収し、シンは下僕たちが待っているだろう甲板へと悠々と移動する。ここまで来るに至った霧忍と思わしき忍たちは今も素敵な夢の中を漂っていることだろう。取り敢えず、この船旅が終わるまで彼らが目覚めることはないだろう。例え、目覚めたとしても、何が起こったのか覚えてはいまい。




















大分マシになった船酔いに、ネジは長い溜め息を付いた。


「(・・・・なんでもいいから、早く陸に着いてくれっ)」


そんな事を考えられるようになっただけ、良くなったのはいいのだが、どうにもこの揺れに慣れない。隣のシカマルを見れば、暢気に惰眠を貪っていて、ネジは訳もなく殴りたくなった。


思わず拳をフルフルと握り締めたその時―――今まで何処に居たのか、船内から誰だか知らない少女を引き連れて、ナルトがこちらへとやって来るところだった。


「ナ――――グフゥッ!!!!!」


名前を呼ぼうとした瞬間、腹目掛けて勢い良く飛び蹴りを咬まされた。


「ッ・・・な「もう!!なに言ってるのかなぁ?ネギったら!オレの名前は【シン】だろ~??」」


どんなキャラだお前!!とか、オレはネギじゃない”ネジ”だ!!とか色々と思うことはあったが、賢明にもネジは口を閉じ、不機嫌にナルトを見る(ここ重要!)だけにしておいた。睨まなかったのは別にナルトが怖かったからじゃない。と、思いたい。


隣を見れば、この騒ぎにさすがに起きたのか、シカマルが顔を僅かに青褪めさせてナルトを見上げていた。


「し、シン・・」


「んぁ~~?なにマル」


「は?」


”マル”と呼ばれて、シカマルは思わず間抜けな声を出してしまった。


もしかしなくてもそれはオレですか?と物凄く突っ込みたい。けれど、ナルトの笑ってるけど笑ってない顔に、もう何も言えなかった。


偽名を使うのは理解出来ても、偽名自体には納得したくなかった。どうせならもう少しマシな名前が良かった。そうシカマルは思わずにはいられない。ちょっとおまるみたいな名前だな、と思ってしまった自分が物凄く嫌だから。


ナルトの煌く漆黒の髪を見ながら、漸くいつもの金髪ではなかった訳が分った。最初から【シン】という偽名でもって行動する気だったのだと。何も言わないのは自分で<気付け>という事か。中々に面倒なことに巻き込まれたらしい。シカマルはちょっと・・いや大分、切実に木の葉の里に今すぐにでも帰りたいと思った。












船出から2日目。水の国はもうすぐ其処に迫っていた。






















○後書きのようなもの○
どんどん原作から離れてってます。そしてシリアスからも・・。

話が進むによって、色々とおかしな点もこれから(すでに出て)多々出てくると思いますが、お付き合い下されば幸いです。
間違ってたり、ここが変だと思ったら、指摘してもらえると助かります。







[715] 『 死神 の 涙 』特別編~陰謀うず巻く水の国の冒険~その④
Name: 夜兎◆30045c03 ID:a31fd8f6
Date: 2007/11/25 20:12
※話の中の水の国は原作の中のものとは全く関係ありません。オリキャラも多数出ます。
























「・・これが、水の国」


初めて訪れる他国に、思わず感嘆の溜め息が漏れた。




活気のいい港町は、沢山の人で溢れかえっており、とても賑やかだ。


どこか異国情緒漂う建物や人々に、自分たちが、火の国から遠く離れた所まで来たことを、改めて実感させられた。













『 死神 の 涙・特別編~陰謀うず巻く水の国の冒険~その④ 』
















新たに増えた仲間(小桃)と共に、漸く辿り着いた他国を、船上から見上げたネジとシカマルの二人は、初めて見るすべてに圧倒されていた。


河川の多いことにも驚いたが、何よりも目についたのは、人々の活気だろう。火の国の民とはまた違う雰囲気の人々が行き来する中、港町ならではの活気のいい光景があった。それは、波の国の現状を見た後だったからこそ、余計にそう思うのかもしれないが。


まるで御上りさん宜しく、キョロキョロと町を興味深げに眺める二人を余所に、ナルトは降りた船を一瞬顧みると、すっと目を細めた。そして――――・・船から舞い上がった一匹の蝶を見つけると、どこか満足げに笑った。














水の国へ降り立ったナルトたち一行は、まず船で川を上り、山を越えて水の国の主都である東の青濫の入り口・瑞ノ戸の町へと3日掛けて辿り着いた。


主都であるだけあって広大な広さを誇っており、また、先頃見た港町とは違った活気と華やかさがあった。


その中で、一際目を引くのが、町のど真ん中に山の如く聳え立つ、巨大且つ堅牢優美な城だった。遠く離れたここからでも、どこか途轍もない存在感を放っていた。


巨大な城は、しかし周りを城壁に囲まれることもなく、城下町を囲うように外郭はあるが、城自体には堀と、それに沿った幾つもの水門があるだけで対した守備もなく。あれでは敵に入ってきてくれと言わんばかりで、外部から攻め入られた時には呆気なく制圧されそうだなと、シカマルはシビアなことを思った。


ふと振り返ると、思っていたことが顔に出ていたのか、ナルトがこちらを見るとどこか愉しげに説明して下さった。


「あれは<影>だ。視覚で見たままを信じるな。この国はそんな愚鈍ではないからな。むしろ、そうと悟らせないことがこの国の怖いところだ。
   そこにあってそこにはない。それが水の国の国主が住む城・玻璃城。―――別名<幻影城>だ」


ネジのその眼なら見る事が出来るだろう。と言うナルトの言葉に、ネジは白眼を発動させる。


暫らく観察してみるが、どこかしっくりしない。そして、ネジはある事に気付いた。


「・・・これは、鏡?」


「見えたか?」


「白眼でいくら見ても、ただ城の外観が見えるだけだ。それにこれは・・みず、水面に映ってるのか?」


「水鏡・・鏡像だってぇのか?」


「ああ、そうだ。蜃気楼や逃げ水に似てるかもな。錯覚を利用した幻術。実際にそこに城がある訳じゃないし、あれは国の威信を保つ為の、要は象徴のようなものだ。この国の殆んどの奴等も本物がどこにあるかは知らないだろうな。ま、だからといって、城の奴等と全く交流がないかっていったらそういう訳でもないがな」


その説明に、二人は成る程といった体で、頷いている。しかし、それをあわあわと聞いていた、ここにいる唯一の水の国住民は慌てた。


「シ、シン殿!あのですねっ、あまりそう言ったことをバラされては・・」


今まで黙っていた・・というか、話しに入って行けずにいた小桃もさずがに止めに入る。


「ん?気にするな」


「気にします!!」


にかっと良い顔で笑うシン(ナルト)に、突っ込む小桃。息のピッタリあった漫才コンビのような二人に、いまだに少女の名前と、水の国出身らしいことしか教えてもらえてないシカマルとネジは互いに顔を見合わせ溜め息を付くのだった。















一行は、まず関所へと向かった。


通行に必要な関所手形は一枚。元々ナルト一人だけの筈が二人も増えた為、当然足りない。
水波切丸では、少々強引だが金銭の力で船員に心づけを渡し黙っていて貰い。水の国・南領の朋翠では、元々開かれた土地柄で貿易も盛んな為、手続きをすれば比較的簡単に入国が出来た。しかし、さすがに主都ばかりはそうもいかず、一先ず先に小桃を知らせに出すことにした。






――――しかし、待てども待てども小桃は帰って来ない。




ナルトは思わず溜め息を付く。これは迷ったか、どこかでドジを踏んだのだろう。そう判断し、小桃のことは早々に見切りを付けた。
一応自国なのだし、今の所表立っての危険はないだろう。その前に、彼女に付けられた発信器に小桃捜索隊(毎度迷子になる)が動き出す筈だ。そしてそれに気付いたスイが、そのうち迎えを遣すだろう。







「あ~~~、シン?さっきの子全然帰って来ねぇが、大丈夫なのか?」


「大丈夫だろ。アレはどーせどっかで迷子になってるか、ドジ踏んで足止めでも食らってるだけだ」


どうやらこれが初めてではないらしいナルトの物言いに、まだ出会って間もないにも拘らず、ネジとシカマルは思わず納得してしまった。


「ドジッ娘か」


「ドジッ娘だな」


阿吽の呼吸で交わされた会話に、こいつ等って案外気が合うんだな。とナルトは頭の片隅でふとそんな事を思った。


















「や!」


突然掛かった声とその軽い挨拶に、気付いていて無視していたナルトは、隠すことなく眉を思い切り顰めさせた。




現れたのは、青年とも少年ともつかぬ年頃の、商家のお坊ちゃん然としたどこか裕福な身形をした男。そして、その男の後ろに控えるように付いている従者らしき青年の二人組みだった。


彼はナルトの顰められた顔に気付いているのかいないのか、にこにこにっこり。笑顔でこちらを楽しげに見ている。
気付いているのかいないのか、周りを覆うナルトのドス黒いチャクラを全く無視して明るく話し掛けている。ある意味大物だとネジとシカマルの二人は感心したように男を見やった。




「――――ところで小桃を見かけないけど、彼女とは会わなかったのかな?」


きょろきょろと辺りを見渡し、暢気に問う男に、一つ溜め息をついてからナルトは答えてやった。


「会った。というかさっきまで一緒に居た。先に知らせに出したがまだ戻ってこない。つーか、知らずに来たのか?」


「何もなければ、そろそろ着く頃だろうと思ってね。せっかくだから君を出迎えようと思って」


「へぇ、お前にしては殊勝な心がけだな。それより・・小桃だが、どうせお前がアイツを寄越したんだろ?船を指定したのは保険か?」


「・・そうだ。やっぱり君にはバレてたか」


「そりゃバレるだろ。トラブルメーカーのアイツを寄越すなんて、よっぽど人手が足りてないのか?」


「彼女は優秀だよ。ただ、冷静さに欠けると言うか・・ハッキリいってドジなだけなんだ」


「要するに人手が足りなかったんだな」


「う゛・・・君も痛いとこを突くね」


「ふんっ、痛いなんてちっとも思ってない癖して。こんの若狸めが」


「狸・・・・ふふっ、君も相変わらずの毒舌だね。元気そうで何よりだよ」


「そりゃどーも」




なんとも小気味好い掛け合いに、仲が良いのか悪いのか。二人はどうやら知り合いらしい。それを近くで見やりつつ。なんだか揃って放置プレイを食らったシカマルとネジは、いつの間にか周りの背景と化していた。


取り敢えず、この状態を早く脱却したい。シカマルはめんどーながらも、恐る恐る二人に声を掛けた。


「ぁの~~~~・・そろそろ、ほったらかしは止めてもらってもいいすっか?」


「「ああ。忘れてた(よ)」」


こいつらぜってぇ似た物同士だ!ネジとシカマルはその時悟った。


「・・・・ナルトが二人・・めんどくせ~~(ボソリ)」


その呟きは、耳聡く聞きつけたナルトの、拳という名の制裁として、シカマルの頬に減り込んだ。シカマルは面白いくらいに吹っ飛んだ。


――――・・後には、ピクリともせず倒れ臥す、シカマルの何とも哀れな姿が、ネジの目に寂しく映った。


「(・・・・・・余計な口は開かないことにしよう)」


珍しく、賢明にも口を開かなかったネジは、一つ下の後輩の痛々しい姿を見て切実(ここ強調!)に思った。





















関所を無事(?)に、何故か手形もなしに通過し、案内されたのはどこか変わった場所だった。




あれから、気絶したままのシカマルをネジが背負いついて行ったのは、人里離れた薄暗い竹藪の中だった。その中を奥へ奥へと進む。


――――どのくらい歩いたのか。暫らくすると、日が射し込んだのと同時に、開けた場所へ出た。


ネジは僅かに目を細めると、辺りを見渡した。


まるでそこだけ切り取られたかのように丸く円を描いたように木々が避けている。そしてその中央。ぐるりと囲まれた竹林の中、一つだけ、まるで異物のように建つ、どこか古ぼけた小さな祠があった。


「・・・何故こんな所に」


「まあ、見てろって」


訳が分からないと言ったネジに、ナルトは説明せず、ただ前方にいる2人を見ていた。


ナルトに若狸と呼ばれた<スイ>という名の青年が祠を開く。


後ろから窺っていたネジは、その中にある、古い外観とは相俟った不釣合いな龍の像を見た。どこか威厳さえ漂わせる像に、スイは徐に手を伸ばすと、龍の手に掴まれていた珠を取った。


「!!」


思わず声にならぬ悲鳴をあげ、ネジはあまりに罰当たりな行為に目を見開いた。ただでさえ、この違和感漂う異様な空間に呑み込まれそうなのに、それはないだろう。と突っ込みたい。
しかし、そんなネジを誰一人気遣う者――唯一気遣えるだろう人は気絶中――はおらず、淡々と作業は進んでいった。


取った珠を龍の反対の手に乗せ、その像を180度回転させる。


すると・・何処からともなく、ゴゴゴゴゴゴッと言う地響きが鳴り。それと共に、祠が横へと移動したと思ったら、祠が最初建っていた場所の下に階段が現れた。


「カラクリ・・」


「ただのカラクリって訳じゃねー。あの珠はアイツの血筋しか触れない。周りには結界もあるし、無闇にそれを解こうとすれば今度は幻覚のトラップが発動される。お前の眼でも、簡単には見つからないだろうよ」


その物言いに、何やら物凄い事に巻き込まれてるんじゃないか?自分。と、ネジは今更ながらに不安を募らせるのだった。


「(やはりナルトに拘ると碌な事はない・・)」


過去の選択を、ちょっぴり後悔するネジだった。取り敢えず、生きて無事、木の葉に帰れることだけを心から祈った。















人一人通れるくらいの狭い階段を下り、漸く地面に付いたのは大分経ってからだった。


今だ起きぬシカマルに、少々辟易しながら、ネジはナルトたちの後を続く。真っ暗の中何処にあったのか、スイが手に持った堤燈だけを頼りに歩く。
暗い地下を黙々と歩き続けていると、段々と時間の感覚が曖昧になり、まるでこの暗闇が永遠に続くように感じた。


しかし、そんな訳もなく、何処からともなく聞こえてくる水の流れる音と、匂いに、出口が近いのを知った。


段々と近づいてくる水の気配に、ネジは知らず息を吐いた。忍びらしくもなく、暗闇深いこの場所に、どこか畏怖をさえ感じていた自分に、まだまだ修行が足りないと叱咤する。正直、気絶しているシカマルが羨ましかった。


「(・・いっその事ここに置いて行くか)」




暗闇の中にもキラキラと僅かに光り揺らめく流れる水は、何もなかった空間を支配する。
どうやら、ここは地下水路のようで。中々に大きな規模らしく、よく見るとあちらこちらに水路が縦横無尽に巡り、どこかへと続いているようだった。


寄せてある一隻の小船に乗る。5人も乗れば満杯のそれも、子供3人と半子供一人に大人一人なら丁度よかった。


スイ御付の青年によって船はゆっくりと動き出し、水の流れに乗って走り出す。直通なのか、水路は一本路に伸びていた。







半時程すると、漸く明るい場所へ出た。そして現れたのは小さめの、しかし強固な水門だった。秘された門なのか、水門に立っているだろう筈の見張り等の兵の姿はなかった。
ここにも龍の文様が刻まれており、珠を持っている筈の部分だけが、まるで何か填め込まれるのを待っているかの様に窪んでいた。


そして思ったとおり、スイが懐から取り出した首飾りの、特殊な彫りの施された玉飾りが、龍の手の珠の部分にピッタリと納まった。


カチッと言う音と共に、水門が独りでに開いていく。


ザアアァァッという水音と共に開かれた門を、船はゆっくりと進む。暗闇が広がる中を見て、またかとネジは肩を落とした。いい加減、暗闇とはおさらばしたかった。


「(まるで冥府への入り口のようだな)」


ぱっくりと開かれた暗い門の内部を見て、そんな感想を持った。しかし、ネジのそんな感想も無視して、船は無情にも進む。


やがて、その中へと、船はその姿を隠し。そして門は閉じられた。
























○後書のようなもの○
すでに色々と不具合が生じてますが、話は続きます。あくまで想像の産物で、自分設定なので間違いも多いです。
それでも、ゆっくりとですが何とか進めていく予定なので、良かったらお付き合いください。




[715] 『 死神 の 涙 』特別編~陰謀うず巻く水の国の冒険~その⑤
Name: 夜兎◆30045c03 ID:a31fd8f6
Date: 2007/11/30 09:19
*この水の国は原作とは全くの別物です。オリキャラも多数出ます。苦手だと思われたら回避してください。それでも大丈夫だという方はどうぞ。
















「ん゛んぅ゛~~~・・・・んあ?」


目が覚めるとそこは水の中。


――――・・なのに呼吸してるよな自分。と、シカマルは寝ぼけ眼でぼーっとしながら、そんな事を思った。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・って、はあッ?!!」


シカマルは(やっと頭が)起きた瞬間、目に映った光景に度肝を抜かれた。どう見ても建物の中なのに、真っ青に彩られた窓の外には、魚が泳いでいる。


まるで自分が魚になって水の中にいるような光景に、シカマルは固まった。

そして、そんなシカマルの驚愕を余所に、廊下に面した襖がスッと開かれた。


「――――ああ、やっと起きたのか」











『 死神 の 涙・特別編~陰謀うず巻く水の国の冒険~その⑤ 』















入ってきたのは、見知った顔だった。シカマルは寝かされていた布団から起き上がると、現状確認をする前に、まず気になっている事を聞くことにした。

「取り敢えず・・何処っすか、ココ?」

そう思うのも無理はない。と、見知った顔であるネジは、うんうんと頷きつつ、やっと共感できる仲間を得たことに安堵した。











――――時は遡って。


漸く、明かりの灯った開けた船着場らしき場所に出たナルト達は、そこで船を降りた。

船着場から少し歩くと、すぐに日の光の射す場所に出た。そして、ネジは、そこから目に入った光景に圧倒された。思わず、背負っていたシカマルをずり落としそうになった。

水門を潜った中にあったのは、まるで円を描くようにして、巨大な崖に周囲を取り囲まれるようにある湖――その真中に建てられた寝殿造りの広大な建物だった。一見、湖の上に浮いている様に見えるが、その下にも続きがあり、まるで鏡に映ったかのように、上下対称になっていた。

湖の上に敷かれた廊下――一見すると、まるで湖の上を(忍術無しで)歩いているようだ――を歩きながら、ネジは驚きつつも、その屋敷に見入った。

「これは・・・どうなってるんだ。水の中に、半分屋敷が埋まっている?」

そんなネジの呟きに、答えたのはスイだ。

「ふふ。その通りだよ。いや、いいね。その素直な反応!」

何やら感動に、スイの瞳がキラキラと輝いている。訳が分からず、ネジは困惑気味にスイを見る。

「?・・なにか??」

「いやね、シンがここへ初めてやってきた時のことを思い出してね。そして、第一声が無表情に一言、「へぇ」だよ??その時はさすがにムッときてね。そうだよ、それが普通の反応だよ!」

「はあ・・」

何やら興奮してるらしいスイに、なんと返していいのやら、ネジは曖昧に頷くだけにしておいた。

「ふん。子供じゃあるまいし、そんなことで喜ぶな」

「いいじゃないか。大体、君のその感性の方がおかしいんだ!」

「・・別に、普通だろ。お前の感性のがどうかしてるんだろ」

と、それを皮切りに、スイとナルトは、あーだこーだと子供の喧嘩の如く舌戦を繰り広げながらすたすたと廊下を進んでいく。そのスピードは何故か熱弁と共に速くなっていき、それにネジは早足でついて行く破目になった。
文句を言おうにも、すでにお互いの事しか見えていない二人には聞こえないだろうし、さすがに、この二人を同時に相手にしたくない。それに言い負かされること間違いなしだ。ネジだって自分の身は可愛い。


それから暫らくして、漸く一応の結末を終えた舌戦は幕を閉じた。





屋敷の中に入って、長い廊下の窓から見えた景色は、魚が泳ぐ姿だった。まるで水の中を歩いている――実際(建物の中ではあるものの)、歩いているのだが――ようだとネジは思った。

しかし、それも階段を上るまでだった。


一先ず、今だ気を失ったままのシカマルを下の階の一部屋に寝かせると、ナルトたちは、上階の大広間へと案内された。そしてそれから、スイは支度をしてくると言って、従者共々その場を離れたのだった。












そして時は戻って――――

シカマルが気絶してからの出来事を、掻い摘んで説明・・というよりも愚痴をしながら、ネジは、漸く起きたシカマルと共に、先程案内された広間へと向かう。

「はあ・・・オレが寝てる間にそんな事が・・」

何故かズキズキと痛む頬にシカマルは手を当てつつ。何だかよく分からないが、自分が寝てる(ナルトに殴られて気絶したことは記憶からすっとんでいる)間に、ネジが大変な目に合ったらしき事だけは分かった。はっきり言って、説明と言うより、むしろネジの愚痴話だった気もしないが、シカマルは大まかに理解した。

取り敢えず、シカマルが思ったことは・・

「(・・・寝てて良かった)」

だった。









広間に戻るとナルトが一人、外を眺めていた。ネジたちが近づくとチラリとこちらを見たが、すぐに視線は外に戻った。

声を掛けづらい雰囲気のナルトに、二人は所在無く佇んだが、それもすぐに終わった。背後から、場の雰囲気を壊すような、明るい声が掛かったからだ。



「やあ、待たせたね。お仲間も目覚めたようで良かった」


そう言って声を掛けたのは、蒼髪金眼のスイに良く似た青年だった。

「・・・あの、スイ・・さんですか?」

思わずといった風にシカマルが訊ねた。記憶が正しければ、彼の髪と瞳は黒だった筈だ。

「ああ。元々こちらが本来の色なんだよ。髪は染め粉で染めて、目はそこにいるシオミに目晦ましの術を掛けてもらってたんだ」

そう言って従者を見たスイに釣られ、シカマルとネジが見ると軽く会釈された。

「ってことは、忍なのか?」

「はい。スイ様直属の隠密にございます」

驚くネジとシカマルに、シオミはにっこりとそう答えた。





然も当然の様に上座に着いたスイは、突っ立っているネジとシカマルに座るように勧めると、「さて、何から話そうか・・」と一旦押し黙ってから、ゆっくりと話し出した。

「――――近頃・・我が水の国で、おかしな資金の流れに気付いてね。そこから、どうも武器や火薬といった物が、この水の国に大量に流れているらしいことが分かったんだ」

「へぇ。戦争でもおっぱじめ様ってのか?」

そのナルトの言い様に、スイは苦笑したが、特に何も言わず、話を進めた。

「それはまだ分からないよ。だが、その可能性も捨てきれない。それが内か外か、どちらに向くかは分からない。・・否、むしろ・・・内に向く可能性の方が高いだろう。余り大きくは言えないが、元々、我が国では内乱が多発したせいか、今も政情不安定が続いている。そこに新たな火種が起こったとしても、おかしくはないだろう。
・・・どちらに向くかは別として。それとなく様子を探らせた所、それらの武器類が、あの悪名高いガトー・カンパニーから仕入れられていること。そしてそれを、”水切丸”と言う船を使って、この国へと大量に密輸入しているだろうことが分かってね。
だが、はっきりとした確証は無かったため、君たちも知っている、小桃に調べさせていた訳なんだけれど。――――ああ、そうそう先程小桃を無事確保したとの連絡があったよ。密輸の証拠も得た。シンもその場に居合わせたんだとか」

「ああ」

「それで例によって例の如く、小桃がへまをして危ない所をシンに助けてもらったそうだね。私からも礼を言うよ」

「つーか元々その気だったんだろ」

「まあその通りなんだけれど。だからと言って、御礼を言わなくて良いなんて事にはならないだろう?それに、本当に感謝してるんだ。彼女も公儀隠密とはいえ、列記とした水の国の民だからね」

「礼なら、すべて終わってからにしろ」

「・・そうだね。すべて終えてから改めて言う事にするよ」

僅かに憂いの表情をしたスイだったが、それもすぐに元の表情に戻った。

「まず、シンは知っていると思うけれど・・――――この水の国は、龍を祖とし、龍と人間との間に生まれた子孫だといわれている。そして直孫である、我ら青の一族・龍の末裔が治める国だ。
国は大きくは四つに分けられ、主都であり、直系である私たち・・つまり、水の国国主が治める土地・国の主都のある東領。そして御三家と呼ばれる傍系の一族が治める、西・南・北の領地がある。

ただ、ここで誤解しないで欲しいのは、直系だからといって、国主になれる訳ではないということだ。私たち一族は、<御印―みしるし―>と言って、蒼髪金眼の、そのどちらかが現れた者が国を継ぐ仕来りなんだ。だから直系ではなく、喩えそれが傍系だとしても、どちらかの印さえ現れれば国主となることが出来る。けれど、やはり直系から輩出されることが多い為、そう括ったわけなんだが・・――――ちなみに、父上も含め、私たちは両の印が出ている」

両の印、という言葉にネジとシカマルは、思わずスイの蒼髪金眼を見た。少々不躾な視線にも拘らず、気にせず、スイは言葉を続けた。

「更に、国主となるべき者には<龍>の名を与えられる。現国主で在らせられる父上の字(あざな)は”タツ”真の名を【龍達】と言う。そして次代を担う私が、字を”スイ”【龍翠】の名を持つ。

それに御三家が続き、それぞれ三つの領地を頂いている。その下に、また大名諸侯が続く・・南領は、君たちも通ってきただろう。あそこは伯母が治める土地だ。

次に北領、そこに、君たちも良く知る霧の里がある。主に北領の役目は、里の監視をすることだ。今の領主は私の叔父にあたるのだけれど、その先代は前の不祥事・・霧の里のアカデミー卒業試験が生徒の殺し合いと言う、残虐な育成体制のことだね。寧ろそれを推奨していた嫌いがあった。
その為、役目を果たさなかったと見做され、先代を領主の座から引き釣り降ろしたんだ。だから叔父が領主となってからあまり時が経っていない。それに加えて、急遽立てられたせいかどうも気弱で、霧の里を恐れてる嫌いがある。・・見て見ぬ振りをしている部分も多いだろう。
けれど、何も問題が起きていない今、勝手に次代と交代させるわけにもいかないし、それにこの事に関しては、各領に決定権があるんだ。

――――そしてこのどちらも、今の現状に満足していない。

最後に・・西領は、父上の異腹の兄、つまり私の伯父が治めている土地だ。伯父上の名は、”ケイ”――――【龍圭】と言う」

「ちょ、ちょっと待ってくれ・・下さい。龍翠様の話では、<龍>の名は、印の出た血族が継ぐことを許されてるんですよね?それじゃあ、何故・・「伯父上がその名を継ぐことが出来たのか?」

言い淀んだシカマルの言葉に被せるようにして、スイが確信を突く。

「え、ええ」

「そう畏まらなくてもいいよ。それと、私のことはスイと呼んで欲しい。まだ私が継いだわけじゃないし、その方が私も嬉しい」

そうは言われても、まさか国主の跡継ぎ相手にそう簡単に割り切れるものでもなく、シカマルは戸惑いつつも、頭を過ぎったある仮定を述べる。

「つまり、スイ・・さんの伯父さんには、片方だかに、その<御印>が現れていたんですね?」

「その通りだよ。しかも、ほぼ相応しい程に。伯父上は、蒼髪に片目だけの金眼。左右違う目の色、金と黒のヘテクロミアの瞳を持つ」

その言葉の重みに、シカマルは思わず息を呑み、押し黙る。そのシカマルに変わって、今度はネジが問う。

「じゃあ・・その、スイさんの伯父であるその人が・・・・怪しい、んじゃないんですか?」

困惑気味に訊ねるネジに、気にした風もなく、スイは答えた。

「そうだね。一番国主の座に近く・・そして相応しい。だけど伯父上には、国主の座など欲していないように見受けられる。それにむしろ・・その座に就く事を、心底厭っているようだ」



「――――随分、その伯父上とやらを信用してるんだな」

今まで黙って話を聞いていたナルトが口を開いた。

「・・そうかもしれない。身内と言っても敵ばかりの中にあって唯一、”私たち”に普通に接してくれる人、だからかな」

「”私たち”?」

ふと、違う言葉の意味合いを感じ、疑問に思ったシカマルがぽつりと呟く。

「ああ、言ってなかったかな?私は――――「シン様~~~~~!!!」」

バシーンッ!と襖が開かれ、そこから勢い良く現れたのは、スイによく似た少女だった。


「・・・・私たちは双子なんだ」



少々うんざりして言うスイに、ネジとシカマルは不思議に思いながらもスイを少々幼くした少女を見た。彼女は、いつの間にかナルトに引っ付き、熱烈なアプローチをしていた。

そして、その少女も、スイ同様蒼髪金眼を持っていた。


「おい、スイ!こいつをどうにかしろ!!」

「え~~~、だってミズナ・・シンの事に関しては私の言うことなんか全く聞いてくれないんだもん」

「だもんって、きしょいぞ・・・つーかお前の妹だろ!なんとかしろッ。てゆーか、何でオレがいることを知っている?!」

お前か!と言う目でスイを見れば、すぐさま否定するように首を振る。

「じゃあ、誰がッ・・「ひ、姫様~~~待って下さいよ!私を置いてかないで下さい~~ッ」

「――――って、お前かぁ!!小桃ぉ~~ッ!!!」

「ひっ!!」

ミズナに続いて入ってきた小桃に、針の筵のような殺気が向けられる。突然向けられた殺気に、息を呑み、小桃は慌てて側にいたネジの後ろに隠れた。

「(ッッなぜオレの後ろに隠れる!!?)」

なぜか――単に近くに居たからなのだが――盾にされたネジは、必然的にその殺気を受けることとなり。それが、ネジを通して小桃に向けられていると分かってはいても、まるで自身がナルトに睨まれているような錯覚を覚え、思わず顔を青褪めさせた。

運良く免れたシカマルが心底羨ましい。

そして元凶となった少女・小桃を、ネジが思わず恨んだとしても誰も文句は言わないだろう。







――――・・それから暫らく、顔を真っ赤にして少女・ミズナから必死で逃れようと踏ん張っているナルトという、なんとも珍しい光景が見られた。

「「(・・あのナルトが困ってる)」」

世間は広いなぁ。と、ネジとシカマルの二人はしみじみとそう思うのだった。







取り敢えず、ナルトからミズナを引き離すと、スイは一つ咳払いして何事もなかったように話を元に戻した。

「――――と、いう事で・・表向きとはいえ、我が国含めた5大国が安定しているからこそ勢力均衡が保たれている今、それを崩すわけにはいかない。おまけに、どうやら、この件に霧隠れが関与しているかも知れない事が分かった。探りに出していた配下の者が何人かやられ、その手口が、霧の忍のものに似ていた。唯でさえ、水の国は内乱によって政情不安定。
何の確証もないまま、今、私たちが表立って動くわけにはいかない。だからこそ・・誰に知られる事なく、内々で処分したい。そこで君たちには、そうとは知られず密かにこの事を調べて欲しい」

「りょーかい」

軽いナルトの返事に、スイは頷いて軽く頭を下げた。

不遜に当たるナルトの態度も、スイには気にならなかった。どうも、出会った当初から、この口の悪い少年のことを悪くは思えなかった。強いて言うのならば・・どこか、自分に似ていたからだろうか。




そしてその日は、湖上の屋敷に一晩泊めてもらい、ナルトたちは明朝発つ事となった。――その時に、ミズナがナルトとともに寝所を伴にしたいと駄々を捏ねたりと、また一騒動起きたが――それでも比較的平和に夜は更け、それぞれの想いを胸に、静かな眠りについたのだった。





















○後書きのようなもの○
かなりぐだぐだですが、ここまで来たので最後まで仕上げたいと思います。無理な設定が多いし、間違いった見解もあると思いますが、もう暫らくオリジナル・水の国編に宜しかったらお付き合いください。






[715] 『 死神 の 涙 』特別編~陰謀うず巻く水の国の冒険~その⑥
Name: 夜兎◆30045c03 ID:a31fd8f6
Date: 2007/12/06 15:26
*この水の国は原作とは全くの別物です。オリキャラも多数出ます。







がやがやと賑わう酒場の片隅で、一人ひっそりと静かに飲んでいるガタイの良い男がいた。

酒場の暖簾を潜り、たった今入ってきたばかりのフードを目深に被ったひょろりとした背の高い男は、それを瞬時に確認すると、騒がしい周囲に見向きもせず足を進めた。
そして音もなくそちらへと向かうと、背中合わせとなって座った。

それに気付いているのかいないのか、一人飲んでいる男は気にせず、ちびりちびりと酒を舐める。そして顔を見合わせる事なく、後ろに座った男が口を開いた。


「――――此度のことは、元御意見番であったソウガという男を筆頭に、鷹派の連中の暴走であって、水影含む霧の総意ではない」

「承知している。非はそちらばかりではなく、こちらにもある。・・国の大事故、こちらで対処させていただくが、それでよろしいか」

「ああ。そちらに一任する。だが、こちらの始末はこちらで付けさせてもらう」

「それは、勿論」

「では、この件は双方合意の上、両成敗という事に」

頷き、同意を示すと、それを確認した男は来た時同様、音もなく去って行った。残った男は、酒を一気に飲み干すと、立ち上がった。

「さて、そろそろ息子が動く頃かな――――」











『 死神 の 涙・特別編~陰謀うず巻く水の国の冒険~その⑥ 』
















翌日。出発を迎えたナルトたち一行は、行きとは別の水路を通って町中に出た。そして早速、水波切丸の停泊した南領の港へと戻ることにしたのだが・・・なぜか、しっかり変装した旅装姿のスイが付いて来ていた。

そろそろ主都を出ようとしているというのに供も付けず、何故か一人ナルトたちの後を付いてくるスイに、ネジとシカマルは顔を見合わせ困惑気味にスイを見た。
すると、それに気付いたスイがにっこり笑ってこう宣った。


「ってことで、私も付いて行くからよろしく!」

「「はいぃッ?!」」

軽い挨拶に、てっきり見送りに来ていたとばかり思っていた――<御印>を隠している理由は分かるとして、その格好が気にはなってはいたが――ネジとシカマルは、まさか一国の若君がそんな強硬に出るとは思わず、素っ頓狂な声を上げた。


ナルトは大よそ分かってたのか、特に何も言わない。が、目は口ほどにものを言う。その目は思いっきり邪魔だと言っていた。

それを分かっているだろうに。しかしスイは、出会ったとき同様、にこにこと笑っている。それは絶対に引かぬという強い意志の表れでもあった。

「(・・無理を言って出てきたんだ。此処で引く訳にはいかないからね)」






















――――――


「兄上様ずるいです。私(わたくし)もシン様たちと一緒に行きとうございます!」

彼等について行く。そう言ったスイに、ミズナの反応はそんなものだった。それに苦笑しつつも、スイはミズナに向き合うと、真っ直ぐに見つめた。

「・・それはダメだよ。お前には私が留守の間、しっかりと城を守っていてもらわなくてはならない」

「それなら、尚更兄上様が残るべきです!兄上様はお世継ぎで在らせられるのですよ?!」

「それでも私は、この目で何が起こっているのかを確かめたい。だから彼等と共に行きたい」

「だったら、私が見てきます!それなら兄上様も納得されるでしょう?」

双子の自分ならば、とミズナが提案する。しかし、それにもスイは頑として譲らない。

「だが、お前は女子なのだし。私なら剣の腕に覚えがある。それにねミズナ。世継ぎだからこそ、今起こってる事をしっかりと確かめたいという想いもあるんだよ。・・・・元々、殆んどの者に”放蕩息子”と思われている私の方が、動くには打って付けでもあるしね」

「ご自身を貶めるようなことを仰らないで下さい!!それにそれはっ・・そうと見せ掛けるための擬態ではありませんか・・・ッ」

そこまで言ってミズナは口惜しげに唇を噛んだ。

わかっているのだ。兄が周囲の視線を自らに向けることで、自分たちの身を守っているのだと。

何の力も無い女の身だからこそ、命の心配もなく平穏に過ごせているが、<御印>はミズナ自身にも現れているのだ。

当然、それを放っておく程、伯母たちは決して愚鈍ではない。ミズナとて、いつ子を生す為の傀儡とされてもおかしくはない。実際、ミズナと婚姻を結ばせようと図る輩は多い。

幼少の折から常に命を狙われて続けてきた兄は、尚更だろう。

遊興に耽り、放蕩三昧しているよう見せ掛けてまで態と自らを貶めているのは、放って置いても仔細ないと思わせる為だ。それによって、操るのも容易いと思わせる事で、スイとミズナの身の安全を保っているのだ。

そしてその甲斐あってか、刺客も大分減った。そして縁談も、以前に比べたら大分減っている。


だがそれは、飽く迄減少しただけであって、双方どちらもなくなった訳ではない。


ただでさえ、先代国主の落胤であったミズナたちの父・龍達を快く思わぬ輩は多い。ただの町娘である庶民が産んだ庶子であるにも拘らず、両方の御印を持って生まれた事がその理由の一つとしてある。また、十になるまで市井で育った龍達に、選民意識も強く、血統を重んじる一族は、庶民が生んだ庶民の子と軽視し・・忌避した。



そしてそれは今も変わることはない。




今までであれば、<御印>が現れたのは傍系であれど、どちらも血の濃さの違いはあれど、元を糺せば血筋は皆同じだった。その筈だったのに。
それが、ただの庶民である娘が産んだ、下賤の血の混じった赤子が印を持って生まれた事に。それも両の印を持った赤子を産んだことによって、彼等は騒然となった。

<龍>の名を与えられ、正室であり、正統なる血を持つ西領の姫が産んだ子・龍圭は、髪こそ蒼の色を持つが、瞳は、金と黒。片眼足りなかった。


――――高貴な血筋が、庶民の血に負けたのだ。


当然、それを彼等は納得できようはずもなく・・・。それは、彼等の根本を揺るがした。ただの庶民の産んだ子が国主となれるというのなら、ならば印は出ずとも、正統なる血を持つ我らが国を治めるべきではないのか?・・・そう、彼等は思い始めた。

そして又、龍達が妻にと選んだのは母同様庶民の娘。そしてその娘が産んだ子は、龍達同様蒼髪金眼・・それも双子だった。二代続けて両の印を持ち、どちらも庶民の娘を母に持つ。その事が、彼等の思いを更に増長させる事となった。

















”<御印>のない者が継ぐと、龍が怒って災禍を起こす。”そんな言い伝えが遥か昔から信じられてきた。




遠い昔、過去に一度だけ<御印>の出ていない者が国主となった事があった。その年は、水害や、長い日照りが続き、酷い旱魃になったという。それが偶然だったのかどうかは分からない。しかしそれは、龍の存在を人々に信じさせるには十分だった。


しかしそれも、時と共に人々の間から薄れていったのだろう。それは<迷信>として語り継がれるようになった。

そして御三家の当主たちも、そう信じてきた――――。



・・だがそれも、かつて血霧の里と呼ばれた霧隠れの事件を切っ掛けに、崩れはじめたのだった。
強硬手段を持って龍達等を追い落とそうとした北領前当主であり、もっとも純血主義であり正統血統を主張していた男の突然の失脚。失脚する少し前にも、北領では旱魃が続き、それは飢饉一歩手前までいったとあって、迷信と軽んじてきた彼等に、龍の禍を信じさせるには十分だった。

それは御三家を揺るがし、そして一連の騒動は、一時的とはいえその動きを抑えることとなった。当時、スイとミズナの兄妹が、まだ4つの時のことであった。




だが、北領の代替わりとなってから一旦は沈静化を見せたそれも、それほど長くは続かなかった。

今も、表面上では落ち着いた様子を見せてはいるが、しかし、その水面下では各々密かに画策が続いていた。








結局、現状は今だもって厳しく、スイたち兄妹を苦しめるものだった。





「――――わかりました。兄上様がそこまで仰るのならば、私はもう何も申しません。兄上様のその目で、しっかりと見届けてくださいませ。・・それから、シン様にくれぐれも迷惑など掛けぬ様、御自身の身は御自身で護って下さいね。これが一番大事なことです!そうでないと私・・兄上様を一生許しませんから」

拗ねたように見えるその表情は、どこか温かく・・。スイは自分そっくりの顔を持つ双子の妹に、心から感謝した。

「・・・ありがとう。ミズナ」

最後の台詞は、本音半分建前半分のようだったが、それでもミズナが心配し、気遣っての事だと分かっているスイには嬉しかった。随分身勝手なことをしている自覚のあるスイにとって、ミズナの後押しは心強い物であった。


「けれど、このシオミは勿論連れて行くのですよね?」

然も当然といった様子で聞いてくるミズナに、スイは一瞬戸惑ったものの、それでもはっきりと答えた。

「否、連れてはいかないよ」

「何故です?シオミは兄上様の側近。常に側にいて守るのは当たり前の事です」

「姫様の仰る通りです。スイ様、私は貴方様を御守りする為に存在するのです。こればかりは罷り通りません」

追従するようにシオミが続き、スイを諫める。しかし、それも聞き入れられることはなかった。

「駄目だ。お前にはミズナの側で、ミズナが城を、この国の民を守っている間その手助けをして欲しい。それに第一、父上の元側近であったお前を動かすわけにはいかないよ。私たちが行くのは主都を遠く離れた、御三家の領土。お前が動けば、怪しむ者も出てくるかもしれない。ただでさえ、伯母上たちが間者を張り巡らせているというのに・・」

「でしたら、スイ様も城に残って民草を守ればよろしいでしょう!?」

尚も言い募るシオミに、スイは首を振った。

「何度も言ったが、私は、私自身の眼で確かめたいのだ。この目で、真実を見極めたい」

きっぱりと言い切ったその瞳の強さに、思わず息を呑む。それはかつて仕えていた龍達を髣髴とさせ。シオミは、己の主であるスイの、決意が固いことを知った。

「・・・・・・わかりました。私も、これ以上もう何もいいはしません。お父上に似て、言っても無駄でございましょうから」

「・・それは、やだなぁ」

筋肉隆々としたガタイのいい、ガサツな父親を思い出し、スイは自分が将来ああなるのかと想像し、すぐさまそれを振り払った。どちらかと言うと、スマートで品のある、物腰柔らかな伯父の方に似ていたいと心底思う。

「お父上も、そう言って暇を見ては、国内外を巡っておりました。民の顔を見て、彼らが笑っていたら、それは国が豊かだという証拠だと、常々仰られていました。他国を訪れては、その国のいい所悪い所、双方を見て、それを活かせたら水の国はもっと栄えるとも。スイ様は、その志が龍達様に良く似ておいでです」

「そうか・・。シオミは、私の前は父上に付いていたんだったな」

「はい・・とても、良くしていただきました」

シオミは僅かに沈鬱となったが、一瞬だった為、それはスイたちに気付かれることはなかった。

「確か、シオミたち一族が私たちに仕えてくれるようになったのは、曾祖父の代からか」

「はい。元を正せば霧の忍だった私たち一族は、任務中に瀕死の怪我を負った祖父を、当時国主であった御館様に助けて頂いたのが始まりだったと聞き及んでおります。そして片足を失くし、忍として致命的ともいえる欠点を抱えた祖父を、スイ様の曾御爺様・・先々代に拾われたのです」

「そうだったのか。ゲン爺の隻脚はその頃から・・・てっきり、ここへ来てからだとばかり思っていたが・・。だがそれを逆手にとり、無くなった左脚に義足を付け、鉛を仕込んで敵を粉砕したといわれた強靭な蹴りを持つ<蹴りの源滋郎>の異名をとるとはさすがだ。ゲン爺は今も息災か?」

「はい。隠居の身ではありますが、祖母と仲睦まじく穏やかに暮らしております。まだまだ若い者には負けんと、会いに行く度にそう申してはピンピンしております」

それを聞いて、思わずスイたちに笑顔が浮かぶ。かの老人とは幼少の折に兄妹揃って良く遊んでもらったものだ。引退してからは、殆んど顔を見ることもなくなったが、相変わらず元気そうなのを知って嬉しく思った。

「それは好かった。そなたたちには、本当に感謝している」

スイが日頃の感謝を述べれば、何かを我慢するかのようにぐっと顔を歪ませ、それを堪えるかのような、どこか泣きそうな顔で、シオミはその曇りない目で真っ直ぐにスイを見つめた。

「スイ様・・・・勿体ない、お言葉でございます。今も、これからも・・誓って、私は貴方様を裏切る積もりはありません。それだけは、信じてください」

いつもと、どこか様子の異なるシオミを怪訝に思いながらも、それでも必死に言い募る彼を少しでも安心させたくて、スイは言葉にして告げた。勿論、それは本音でもある。

「何を当たり前のことを・・。当然じゃないか。私はいつもシオミを信じてるよ」

「・・有難き幸せにございます。私は、スイ様に仕えることが出来た事を、誇りに思います」

そう言って、静かに微笑むシオミの顔は、スイを安心させもしたが、不安にもした。しかし、スイはその不安に気付かない振りをした。否、どこかで気付くことを恐れていたのかもしれない。










そうして――――・・ミズナはシオミと共に、朝も早々、二人は城へと戻っていった。

ミズナは、シンと会えず仕舞いとなったことを最後まで名残惜しんだが。結局・・自らの役目を果たす為、後ろ髪引かれつつも、敢えてその想いを呑み込んだ。

世継ぎではなくとも、ミズナは水の国を治める国主の娘。一国の姫なのだ。それをミズナ自身誰よりも自覚している。
そして兄であるスイの為、権謀術数渦巻く舞台へと再び舞い戻っていったのであった。






















――――――


「(ミズナたちの想いを無駄にしないためにも、精一杯見届けよう)」

だから、何としても同行するのを認めてもらわなくてはならない。そしてそれには、シンたちを納得させるしかなかった。

「シンたちに迷惑は掛けないようにする。足枷にもならない。だからっ・・「例の物一本追加」

「は?」

「それでチャラにしてやるよ」

一瞬何を言われたのか分からなかった。だが、すぐにそれがシンの妥協点だと気付く。

そして、それによってスイは、自分が同行することを許されたことを知った。思わず、涙が零れそうになって唇を噛み締める。スイは、何を思うでもなく、自然と頭を下げていた。

「――――・・ありがとう」































「でも一本で良かったのかい?」

何のことだかネジとシカマルにはさっぱり分からない。が、スイのその言葉に心惹かれたのか、ナルトは一瞬眉間に皺を寄せ・・

「・・・・・・・・・男に二言はない」

そうたっぷりと悩んでから一言。

「「(だったらその間は何なんだっ)」」

思わず二人は、心の中で突っ込んだ。けれど、それも無駄だった。

次の瞬間には、ナルトの両拳が、ネジとシカマル二人の頭を挟んでぐりぐりと抉るように押し付けられる。相手の頭がゴツゴツ当たって、押し付けられたこめかみが地味に痛い。

ネジとシカマルは、自分たちの考えてる事がナルトにバレていた事を知るよりも先に、チカチカと目の前で星が散ったのを最後に、意識をブラックアウトさせた。

「お前らの考えてることは、顔に出てんだよ!」













それを少し離れた所で見ていたスイは、心の中でひっそり。

「(・・・・二人とも・・思っていても顔に出したら駄目だよ)」

――――と、もう意識の無い二人へと突っ込んだ。















○後書きのようなもの○

お疲れ様でした。色々詰め込んだら、ちょっと長くなってしまいました。でも大分話は進めれた・・のだろうか?
ここの所勢いに乗ってたのですが、少し疲れたので更新はまたゆっくりになるかもしれません。頑張って完成させたいとは思うので、宜しくお願いします。









[715] 『 死神 の 涙 』特別編~陰謀うず巻く水の国の冒険~その⑦
Name: 夜兎◆30045c03 ID:a31fd8f6
Date: 2007/12/16 00:04
注意※オリキャラ多数あり。水の国も原作とは全くの別物です。













「あんたら、もしかして”嘆きの崖”の方へ行くのかい?」


擦れ違い様に通りかかった男の声に、ナルトたちは足を止めた。男の指差す方向を見て、少し考えてからスイが答えた。

「”嘆きの崖”?そこかどうかは分からないが、向かう方向は同じだね。・・それが何か?」

「だったら止したほうがええ。最近あそこは物騒だからな」

「?どういうことだ?」

ネジの怪訝な声に、男はこちらへと近づくと口に手を当て、声を潜めるようにして話し出した。

「・・・・ここだけの話だがな・・どうも出るらしい」

「出る?出るって何が出るんだ?」

「そりゃあ、あんた。出るって言ったら相場は決まっとるだろ。あれだよ、アレ・・――――幽霊船が!」



「「「「幽霊船??!」」」」











『 死神 の 涙・特別編~陰謀うず巻く水の国の冒険~その⑦ 』

















――――あれから、気絶したネジたちを縄で引き摺りつつ、ナルトはスイと共に最短ルートを通って南領の港町へと再び戻ってきていた。

その頃にはネジとシカマルも目を覚ましており、一緒になって水波切丸を探すが、しかし、波止場には既にその姿はなかった。

ナルトが近くに居た船乗りに聞けば、船は一昨日には出たという。それに礼を言って、戻ってきたナルトがちらりとスイを見やれば、それにスイは心得たように頷いた。

「私が伝令を飛ばした所、水波切丸が海路関(海路に設置された関所)を通ったという連絡はない。・・もしくは、抜け道でも使ったかだが・・。あの船は定期船だ。余り怪しい行動は出来ないよ。だからまだ、この水の国のどこかにいるだろうね」

「じゃあ、どうやって探すんだ?聞き込みをするにも、相手は密輸船だ。そう見つけられるような行動はしないだろう。何より、海だ。聞き込みは難しいんじゃないか?」

シカマルがナルトを見て言えば、ネジとスイの視線も自然とナルトを向いた。

仲間からの視線を一心に受け。それに動揺することなく、ナルトは一度空を見上げると、ニヤリと笑った。

「――――心配するな。手は打ってある」




















自信満々に言い切ったナルトに着いて、一行は北領に程近い漁村に来ていた。


そんな時だった。

「あんたら、もしかして”嘆きの崖”の方へ行くのかい?」

と言う声が掛けられたのは。


地元の漁師だというその男が言うには、ここ最近、嘆きの崖近辺で幽霊船が頻繁に出るようになったという、なんとも胡散臭い内容だった。

まさか。というように男を見れば、その顔は真剣で・・幽霊船の存在を心底恐れているようだった。

全くの嘘とも言えず、顔を見合わせあったナルトたちは、詳しく話を聞いてみることにした。

「あそこら一帯は、断崖絶壁になっていてな。危ねえし、元々気味悪がって村人も近づかねえ場所なんだ。”嘆きの崖”ってのは、崖がまるで嘆いてるような音を出すことから付けられたんだ。何でそんな音が出るのかはわからん。不気味だとは思うが、だがそれは昔からだしな。近づかなきゃ害もない場所だ。

それが最近、カラッと晴れた日にも拘らず、海霧が頻繁に起こってな。それはすーーっと現れたと思ったら、嘆きの崖の方へ向かってすぐに消えてくんだ。漁にも特に影響もなかったんで、そん時はみな対して気にしてなかったんだ。

――――だが暫らくして。ある日、近くまで近づいていったヤツがいたんだ。そいつが言うには、その霧に包まれるようにしてある帆船程の大きさの船影が見えたらしい。それを幽霊船だと思い込んだそいつが仲間に言い回ってな・・。
最初は、単なる見間違いだと他の漁師はその漁師のことを馬鹿にしてたんだが・・・だが、それも段々と見たやつが大勢出てきて・・。信憑性が出てきたのか余計気味悪くなって、今では皆その海域には近づかないようにしてる。
だから、あんた等も近づかんがいいよ」



わざわざ教えてくれたその漁師に礼をいい、別れた後。ナルトたちはこれからのことを相談すると同時に、一先ず昼を取るため、港で手に入れた握り飯を手に丁度よくあった近くの木陰に座った。

だがナルト以外の三人は握り飯に手を付けようともせず、膝に置いたまま。先程の話に、スイが口を開いた。

「霧か・・・どう思う?」

「十中八九、霧忍の仕業だろうな」

こちらは気にもせず鮭の握り飯を齧り、ナルトは何でもない事のようにスイへと返す。

「じゃあ、幽霊船の正体ってのは、今行方不明中の水波切丸ってことか?」

「だろうな」

シカマルがそう言えば、ナルトは肯定の意を返しつつ、二つ目に取り掛かった。

「さすが港町だけあって、具の中身が新鮮で美味いな」

のんびりとそんな感想を述べるナルトは、満足そうにタラコ入りの握り飯を頬張っている。
それに、少し気を張っていた残りの三人は脱力した。だが、変に力が入ってたのが抜けた。ナルトがそれを意識して行ったのかどうかは分からないが、僅かにピリピリとした空気が緩和されたことは確かだった。

そんなナルトを見て、食べれる時に食べておいた方がいいと思いなおした三人は、手にしていた握り飯に漸く手を付けた。

「「「・・・・・」」」

確かに美味いな。と、それぞれ思ったことは秘密だ。








腹を満たし、それからナルトたちは一路陸伝いに”嘆きの崖”を目指した。

崖へは、小3時間程すると、その姿が見える位置にまで辿り着いた。



「あれが例の崖か?確かに火影岩がある崖並みにでかいが、それ以外は何の変哲もないただの崖に見えるが・・」

「嘆きのような音も、聞こえてこねえな」

「そうだね。・・だけど、あの漁師が嘘を言っているとは思えないし。どういうことなんだろうね?シン」

辿り着いたのは、漁村から遠く離れた場所に位置する周りを海に囲まれた切り立った崖だった。それを離れた対岸から見ていたナルトたちは、思っていたのとは大分違うことに首を傾げた。

ナルトは崖をもう一度見やり。

「――――・・さあな。とにかく様子を見てみることだ」



あまり近づき過ぎると、敵に気付かれるかもしれないので、ある程度余裕を持って離れたところからまずは様子を窺うことにした。

だが聞こえるのは波の音と、時折鴎が飛ぶ姿があるだけだった。見張りがいる様子もないし、人の気配の気の字もない。

ナルトが空を見ると、見慣れた鳥が飛んでいるのが見えた。鳥は、周りを断崖に囲まれた海の上を旋回する。

「ネジ、あの鳥が旋回してる崖岸下の海中を白眼で見ろ」

そんな突然の声に、ネジたちはナルトの指差す上を見あげ、空を旋回する鳥を見つけた。それを手を翳し、上を見上げていたシカマルは一人目を細めた。高さと鳥の大きさ、その距離感に思わず首を傾げる。が、多分目の錯覚だろうと結論付け、すぐに意識を崖下の海中へと向けた。

一方シカマルがそんな事を思っている時。ネジはと言うと、同じく上を見上げながら、ナルトの思いっきりの命令口調に、もう少し謙虚な気持ちで頼んでみろと言ってやりたい気持ちと戦っていた。だが後が怖いので何も言えず。そんな自分に、ネジは辟易しつつも、白眼を発動させた。

「・・・・・了解した。――――白眼!!」

言われた通り鳥の飛んでいる崖岸下の海中を見てみる。すると、岸壁を黒く∩字に塗りつぶされているかのような大きな横穴が見えた。

崖に出来たそれは、それなりの大きさと広さを持ち、ぽっかりとその口を開けていた。


「・・・・・暗いな・・穴?いや、これは・・巨大な洞窟になってるのか!」


洞窟と言う言葉に、ナルトは、海中を見据える。

「洞窟、ねぇ・・」

「巨大な洞窟を支柱にして大小いくつかの穴だったり管に枝分かれしてるみたいだが・・これは大分長いな」

「・・運び込んだのはあそこから、か」

まるで確信を得ているような口調に、釈然としない物を感じながらも、ネジはその穴を見た。

「そうだとしても、どうやって水に弱い鉄の武器や火薬類を運んだんだ?海水に浸からないように、なにか水を通さないモノに包んで運ぶにも、洞窟の内部は結構な長さだ。何処に続いているのかまでは見えなかったが、荷を背負いながら一々潜ってたんじゃ時間が掛かるし、第一、船はどうしたんだ?」

それには答えず、ナルトは海中に視線を向けたまま、ネジに気になったことを訊ねた。

「その洞窟はどの位の大きさになっている?」

「どの位って・・そうだな、大きな帆船一~二隻くらいは余裕で入るんじゃないか?」

そのネジの言葉に、ピンと来たシカマルは、ある可能性を思いついた。

「帆船が入るくらい・・・・・・もしかしたらだが、潮流を使ったのかもしれねぇ」

ぽつりと呟かれた声に、それを隣で聞いていたスイが反応する。その声はどこか興奮していた。

「そうか!海には一日に二回ずつ、その流れの方向が逆になる時間がある。海の干満によっておこる海水の流れ・・潮流によって、海の水位が変動して洞窟が出たり隠れたりしたんだ。どのくらいの規模の干満が起こるかは分からないが、多分彼等はそれを利用して、船毎荷を運んでいたんだ」

「潮流か。ってことは、それで嘆きの崖の正体は説明が付くな。引き潮の時に、大小様々の穴や管に風が通ってその空洞に反響して音があたりに響いた風音だったんだ。自然のうなり・・それが、まるで人には嘆いているように聞こえたんだろう」

ナルトはそれに頷きつつ、ネジの話と総合し、嘆きの崖の謎を冷静に推測した。

「確かに岩礁も少なく底が深いから、それも可能かもしれないが。だが、潮が満ちたら船はどうする?海の中に沈むんじゃないのか?・・ここからでは暗くて奥の方までは白眼でも見えなかったから何とも言えないが」

「・・潜ってみるしかないか」

「だが、結構な長さがあるぞ。息が続かない」

「それならこれを使えば大丈夫だ」

そういってナルトが取り出したのは、親指大の4つの円筒だった。横の部分が凹んでいて、よく見るとそこにパチンコ大の穴が開いている。

「・・これは、なんだい?シン」

「空気筒、酸素を供給する道具だ。これがあれば水の中でも息をすることが出来る。そこの凹んだ部分を口に咥え、二酸化炭素を送り込むと、それに反応して酸素を送り出す。――――・・つまり呼吸するだけでいい。
ただし、30分が限度だ。それ以降は空気中に置いて酸素を補給させなければならない。封印術との応用だな。外に置いておけば勝手に酸素をまた補充してくれる優れものだが、供給時間に限度があるのが難点だな。ちなみに、オレは呼吸法の訓練によって、1~1.5時間までは保つことが出来る」

「――――取り敢えず、もう少し近づいてから様子見だな。まずオレとネジで行く。お前等はここで待機だ。もし行けそうだったら潜ることになるから、心の準備でもしとけ」

「「「了解」」」


















懐中電灯を持ったナルトを先導に、ネジたちは泳ぐ。暗い海中に懐中電灯一つは心許無かったが、余り明るいと敵に見つかる可能性もあるので、極力明度を落とした。洞窟の内部が広かったのも幸いした。




あれから程なくして戻って来たナルトが「ギリギリだが何とかいけるだろう」と言ったことで、潜ることが決まった。ネジが言うには、洞窟の内部・・幾つかに分岐し、曲がりくねった最奥に僅かに光が見えたという。そこから海中洞窟よりも更に広く開けた場所があり、小さくだが、水波切丸らしき船影があったというネジの言に、すぐさま出発の準備に取り掛かった。

余程自信があったのか、ナルトが網を廻らし気配を探ったところ、人っ子一人居らず、トラップを張った形跡もなかった。だが、そのお蔭で早く行動に移せた。ここからはそうもいかないだろうが、意外と早く敵の本拠地が分かりそうだった。


必要な物はすべて水を通さないバックパックに入れ、ナルトたちは崖下の洞窟近くの岩場の上へと降り立った。ナルトは空気筒を口に咥えると、そこから海へと飛び込んだ。
それに習い、ネジ、シカマル、スイの三人も続いた。

洞窟の中へ進入する。思ったよりも暗い海中に目を凝らし、唯一の灯りを頼りに、ネジの道案内でナルトたちは進む。

どの位泳いだのか、暫らく経つと目の前に大きく二つに分岐する場所に出た。ネジが左を指差し、そこを潜ろうとした――――その時だった。

緩やかだった流れが、急に逆流しだす。

すぐにこれが唯の海流じゃないことにナルトは気付いた。

「(ッ引き潮か!しかも大きい・・お前ら、岩場のどっかにしっかり摑まってろ!)」

ナルトは手で合図を送ると、岩場にしがみ付いた。ネジ、シカマル、スイの三人もそれに続いた。

思いの他速い流れに、目を開けることも儘ならず、ネジたちは必死で岩場にしがみ付く。暫らくはその状態が続いたが、それも段々と、次第に緩やかとなり収まった。まだ引き潮は続いているが、それでも大分ゆっくりとなった流れに、ナルトたちはやっと岩場から手を離した。

すっかり洞窟には空気の道が出来、スイは咥えていた空気筒をはずした。

「ぷはっ・・・・・どうやら収まった様だね」

「ああ」

「丁度今の時間帯が、引き潮の起こる時だったのか」

「そうみたいだな。・・しかし、こんなに水位が下がるとは。これなら、あの船の大きさなら楽に通ることが出来るぞ」

「・・・いや、これは大潮だ。水位がここまで下がったのは多分、今日が朔・・新月になるからだと思う。普通なら、ここまで大規模じゃねえ筈だ」

シカマルの”朔”という言葉を、ナルトは無表情に聞いていた。

「・・・・・」





それから半時。時折り鳴り響く、オォオオォォオーーー・・という嘆きのような風音を聞きながら、泳ぎ続けたナルトたちが辿り着いたのは、ネジの言っていたように、洞窟から続く更に広い空間だった。どうやら、ここは元々海と繋がる陸のようで、それはまるで自然の要塞だった。

そこは、外からの日が差し込むのか、思いのほか明るく。洞窟から息を殺しそっと様子を窺うと、遠く浅瀬に水波切丸の姿があった。――――・・だが、どこか様子がおかしい。

見張りの者がいてもいい筈だが、そこには誰も居ないかのようにシンと静まり返っている。

「(・・・・静か過ぎる。それに、これは・・――――血の匂いだ)」


馨る血臭に、様子がおかしい事を訝しんだナルトは、白眼で水波切丸周辺を見るよう、ネジに目で合図する。

それに頷き、白眼を発動させたネジは、ゆっくりと水波切丸を探る。――――そして、見たものは・・

「・・・・・・ッッ!!」

己の、白い眼に映った光景に、ネジは思わず絶句する。

霧忍らしき忍の死体、血塗れに彩られた水波切丸。そしてその船首に片膝を立てだらりと腰掛ける一人の男の姿があった。
その手には、ギラリと光る一本の刀が掴まれていた。まるで今吸ったとばかりに、ヌラヌラと血濡れたその紅い刃は、ぞっとする程禍々しくも美しかった。

ネジの尋常でない様子に、危機感を持ったナルトは、すぐに気配を察知し、ホルスターからクナイを抜いた。



「(――――ちぃッッーーー!!早いっ!)」

ナルトは海面に立つと素早くクナイを取り出し、その狂刀を受け止めた。ギィイイィーンッ!!と言う刃物同士の擦れる音が、辺りに木魂する。襲ってきたのは、5日程前に相見(まみ)えたことのある、あのやる気のない妖刀持ちの男だった。だが、あの時とは全く様子が違う。何でそうなったのかは知らないが、その目はギラギラと殺意に満ち、どこか血に酔っているような尋常じゃない雰囲気だ。

ギリギリと掛かる重い剣圧に男の本気を悟り、ナルトは即座に判断すると、持っていたバックパックを側にいたネジに投げ渡す。

「先に行け!!オレはコイツを始末してからいく!」

「だ、だが!!」

渋るネジに、「いいから行けっ!」というナルトの怒号が掛かる。



「・・・・ここは、シンに任せよう。私たちが居ては邪魔になるだけだ。それに・・アレは多分、妖刀だ」

スイは厳しい目で、ナルトと対峙する男の持つ刀を見ると、ナルトの言う通りにした方がいいとすぐさま決断した。

「妖刀?」

「!あれが妖刀・・・あの災いを呼ぶという?」

妖刀という言葉に、ネジは何のことだか分からないと言った顔をするが、逆にシカマルは驚いていた。その名と辛うじてその大まかな内容は知ってはいたが、まさか実在するとは思わなかった。

「そうだよ。私もこの目で見るのは初めてだが、あの紅い刀身、禍々しい気配・・多分、間違いないよ」

ネジが荷物を持ち、シカマルがスイを背負ってナルトの邪魔にならないよう距離を取り、水面を疾走し、急いで陸を目指す。

「あれは宿主が一度戦闘状態に入ると、戦うことだけに支配される。血を浴びるか、もしくは宿主自身の意識がなくなるまでそれは止まらない。その姿は、まるで狂戦士のようだと。以前父上からそう聞いた事がある。その身体能力は恐ろしく、敵味方関係なしに見境なく襲ってくる。――――だから、私たちが居たら、シンが集中出来ないんだ」






スイたちが移動したのを見届けたナルトは、受けていた刃を撥ね返し、それと同時に男に強烈なまわし蹴りを入れ吹っ飛ばす。が、しかし、蹴りを受けた瞬間に受け身を取ったのか、対したダメージも受けずに器用にも空中で体勢を整えると、クルリと回転し、近くの岩礁へと着地した。

足場は海水で埋まっている。ずぶずぶと水面から足が沈んでいくのに気付いたナルトも、蹴り飛ばした時の反動を上手く利用し、彼方此方に点在する岩礁の一つに飛び乗った。

「(・・・チャクラが、上手く練れない。ちッ、もう影響が出始めてるのか)」

月の影響を受けてか、朔の日には腹の九尾の妖力が激減し、その影響はナルト自身のチャクラにも跳ね返る。それに加え、通常時に比べ怪我が治りにくくなる。(第6話参照)逆に、満月の日には妖力が倍増するため怪我の回復は早いが、九尾に引き摺られ易くなり、破壊衝動に駆られてしまう。そんな不自由な体をナルトは心底厭っていた。

穢れのない赤ん坊の時は特に何ともなかったそれも、段々と歳を取るごとにその影響が出始めた。それはナルトを度々苦しめ、そして今も・・

「(爺様が言うには、大人になれば身体が安定して九尾の影響に引き摺られる事もなくなるらしいが・・厄介だな)」

だが、相手は妖刀使いとはいえ、生身の人間。条件は同じだ。ただし、忍術が仕えない代わりに、身体能力に特化している。その分手強い相手でもある。ナルトも自身の弱点でもある朔の日対策として、体術には重点を置いてきたが、それでもチャクラがある分、どこかそこに頼っている面は否めない。

ピキリッという音に、ナルトはちらりとクナイを見ると、刀を受けた部分に罅が入っていた。

(どこまでコイツに通用するか・・・。試してみたい気もするが、残るクナイは三つ。・・それに先に行ったアイツ等のことも気になる)





「――――ラン!」

ナルトは視線だけは男に向けつつ、虚空に向かって叫んだ。


















○後書きのようなもの○

何だか段々と自分の頭のなさが浮き彫りになっていってるようで恥ずかしいです。
嘆きの崖とか、洞窟のくだりは、そうだったらいいな。という想像の産物が大多数なので、色々間違ってると思います。何分、小難しいことは苦手で;;ほんとすみません。
ただ冒険ものが読みたかったんです。なので、雰囲気だけでも味わっていただけたら。もっと文章とか内容をしっかり書ければいいのですが・・。陰謀とか、戦闘シーンが苦手なのに、分不相応なものを選んでものだと後悔しきりです。しょぼい内容になりますが、あと3話(・・で終わらせたい)程続くと思います。よかったらお付き合いください。



[715] 『 死神 の 涙 』特別編~陰謀うず巻く水の国の冒険~その⑧
Name: 夜兎◆30045c03 ID:a31fd8f6
Date: 2008/03/09 19:01
※オリキャラ有り。軽く残酷表現有りなので、注意してください。











白い霧に覆われた森に、2つの陰があった。


「兄ぃ・・ニンゲンの匂いがスル」

「ああ゛、兄弟。オレも感じた」

一人は背が曲がり猫背気味に、目を覆い尽くすように包帯が顔を覆っている。そしてもう一人は背の高い、ギョロリとした大きな目が特徴的な男だった。そしてその目以外を包帯で覆われている。

白と黒を身に纏ったその二人は、対照的な様でいて、とても似通っていた。





「「ダレかが、オレたちのテリトリーに入った」」













『 死神 の 涙・特別編~陰謀うず巻く水の国の冒険~その⑧ 』




















「――――ラン!」(※第11話に名前だけ登場)

ナルトは、虚空に向かって叫んだ。そしてそれを合図に、妖刀使いの男が動く。
足にグッと力を入れ、強く踏み出す。そしてナルトへと向かって一直線に物凄いスピードで迫っていった。





 ひらり、ひらりと蝶が舞う。



ナルトは動かない。身じろぎ一つせずそこに佇んでいた。

向けられた刃にも、動揺することなく、真っ直ぐに男だけを見つめた。

そして振り下ろされる紅い刀身。



――――・・しかし、それはナルトを傷つける事はなかった。





ドオォオオォンッーーー!!という音と共に、衝撃波が周囲を揺るがす。


空気が震えた。振動で海面が大きく波打つ。

いつの間にか、ナルトを庇う様に前に立つ一人の少女が・・。そしてその手に持つ、一振りの唐傘で以ってその狂刀を受け止めていた。

傘と刀がぶつかりあった衝撃に、強風が巻き起こる。それは少女の真っ白で艶やかな短い髪を派手に揺らしたが、少女は顔色一つ変える事無く、片手に持った傘で受け止めている。その細腕は、全く微動だにすることはない。

そして少女は、受け止めていたその手で持って容赦なく男を薙ぎ払った。軽い一振りが、男の小さくもない身体をふっ飛ばし、その身体を岩壁へと叩き付けた。

ドゴオォッ!!という音がしたと思ったら、岩壁に大穴が開き、そこに男の身体が埋め込まれた。その欠片が、パラパラと落ちてくる。

その距離は大分あった筈なのだが、それをたった一人の少女が成したこととは、俄かには信じられない光景だった。





少女は良い汗掻いたとでも言うように、出てもいない汗を拭うように額を手の甲で払った。

そして振り返り。

「もう!ナルくんってばぜ~んぜん呼ばないから、ランちゃん待ちくたびれちゃった~」

と、ぶりっこしてニッコリと笑った。


「・・・・・・・お前、相変わらずの怪力だな」

ナルトはその台詞は敢えて無視し、取り敢えず感想を述べた。










「ってゆーか、お前・・その格好・・・また女装してんのか?」

ランと呼ばれた彼女・・否彼は、刺繍煌びやかな紺の膝丈までの女性用着物を着用してはいるが、実は少女ではなく、<少年>だった。

「えぇ~~~、女装なんて言っちゃいやん!身も心もボクはオンナのコなのにぃ」

ナルトの突っ込みに、くねくねと身を捩りランはわざとらしく主張する。

「いや、男だから。女顔だけど、お前男だからな。大体、お前の名前からして男だろ・・――――”藍丸”」

「もう!ナルくんったら、ボクのことは”ラン”って呼んでっていつも言ってるでしょ~??」

人差し指でナルトの頬をツンツンと突付き、ウィンク。それに、ナルトは思いっきり顔を顰めると、

「・・・・キモイ」

と一言。

するとランは、よよよ、と泣き真似をしながらナルトへと詰め寄った。その口端は僅かに笑っている。

「う゛っうっ・・ヒドイよナルく~ん!ボクはこんなにアイシテルノニ~~」

そしてガバッと抱き着かれる。それをナルトは払い落としながら、倒れ込んだランをゲシゲシと足蹴にする。

「・・説得力がない」

ナルトは完全に呆れ顔だが、当のランは気にした様子もなく足蹴にされてもマイペースだ。というか打たれ慣れていた。うっかり「こいつマゾヒストか?」とナルトが疑う程には。

「んふっ。まあまあ、剥れない剥れない!ケド、そんなナルくんもスキダゾーー!!」

「・・・・・(忘れてた。こいつ真性のバカだった)」

終にはナルトは匙を投げる。こいつには何を言っても無駄だというのを今思い出したのだ。出会った当初の無口無表情だった頃が懐かしい。それがこうなるとは夢にも思わなかったというのはナルトの言だ。

扱い辛く、どうにも遣り辛い相手ではあるが、こんなアホでも一応使えるのでナルトはそれでも重宝はしているのだ。そしてナルトには珍しくも、(少々癪だが)信頼に値する人物でもあった。
ただどうにも自由過ぎて、気分によってあっちこっちへふらふらと、思い付くまま飛び回る、気分屋な所が難だった。


そんな遣り取りをしていた二人だが、物音に、すぐにそちらへと視線を戻した。

すると、そこには――――ランによって岩壁へと減り込んだ身体を動かし、そこから這い出ようとする男の姿があった。



「うわぁ・・普通の人間の癖に、ボクのアレを受けて立ち上がったよ。ナルくん、あいつ化け物??」

「・・・いや、至ってフツー?・・かどうかは知らんが、妖刀持ってるだけのただの人間のはずだ」

”ただの人間”という言葉に、ランは目を細める。

「そう、気に入らないね。・・・ナルくんはもう行って?ここはボクがやる」

そのランの言葉に、元々そのつもりで呼んだのだ。ナルトに否やはなかった。それでも、やる気満々のランに、一言忠告するのを忘れなかった。

「・・あまり遣り過ぎるなよ」

「分かってるって。ソッコーで終わらせる――――」








ナルトが行ったのを見届けると、ランは岩壁から抜け出し、それなりの高さから落ちるように飛び降りた男を見やった。

先程の衝撃が効いているのか、足元が覚束ない。ふらつきながらも何とか立ち上がるのを見て、ランは半ば感心した。あれだけの衝撃を受けても、片時も刀を手放さなかった男は、自らの敵であるランへとその切っ先を向けた。意識は朦朧としかけているにも拘らず、その眼だけは死んではいなかった。

「もう意識すらないだろうに・・本能だけで立っているのか。このボクを倒す為に!だけど、そんな状態じゃボクに触れることも出来ないよ?・・それにナルくんは、君のこと気に入ってるみたいだ。態々忠告までしてくんだから。だから――――」

ランは何を思ったのか・・持っていた傘を徐に開き、そしてそれを思い切り引いた。ブオンッという音がし、僅かに風が巻き起こる。

そして裏返った傘は、平面に円を描く様に変形した。それを更に、ランは下へと向けて振るった。

円形だった傘は、五つの帯に纏まり、五角形となる。そしてそれは、まるで鉤の手のように変形したのだった。

「――――殺さないでいてあげる」

そしてそれを、ランは男に向かって投げた。

ふらりと、立ち上がったばかりの男は、秒速で以って風を切りながら飛んでくる傘だったものを避けることすら出来ずに・・。それは勢いよく男の身体を岩壁へと縫付けた。鉤爪となった傘は、男を傷つける事無く、岩壁へと突き刺さっている。

「んふふっ。ちょ~~っと大人しくしててね?――――・・でないとボク、切れちゃうからv痛い思い、したくないデショ?」

もがく男に、岩礁をステップを踏むように飛び乗り、優雅に近づいて行ったランは懐から小洒落た小さな掌大の横笛を取り出す。そしてそれに仕込んであった針でもって、男の首筋へと一思いにブスリ、と刺した。

すると、今まで暴れていた男の身体がピタリと止まる。そして弛緩したようにだらりと脱力し、男は動かなくなった。

「ランちゃん印の『超強力!大型動物もイチコロ☆眠くな~るくん2号』、注入。ん~?コレ人間だけど、まあ大丈夫でしょ!」

彼は、なんともアバウトな性格だった。























――――一方、シカマルたちはというと・・。



「陸と繋がっていたのか・・・。しかも、ここは位置的には、すでに北領だ。・・あの洞窟は南領と北領を跨いだ所にあったのか」

洞穴から日の光が差し込む場所を出て、スイが思わずといったようにそうポツリと洩らした。


あれから何とか無事抜け出すことが出来た三人は、南と北を間に挟んだ山間部、北領寄りの丁度南領と北領との境である場所へと出た。
どうやらあの海中洞窟は、南領から北領へと続く自然の抜け道だったらしく、山を越える事無く北領へと出ることの出来る秘密の抜け穴として使われていたようだった。

そこで一先ず落ち着いた彼等は、これからの行動を相談していた。


「・・・・これからどうする?ナ・・シンを待つか?」

「否、先へ進もう」

ネジの問いかけに、スイがすぐさま答えた。それに、シカマルは僅かに渋い顔をして見せる。

「めんどくせーが・・ここから先は何があるか分からないんですよ?敵が潜んでいるとも限らねぇ」

「だが、何もしないまま、シンを待っているのが得策とも思えない。ならば、少しでも手掛かりを掴んだ方がいい。私は、その方がいいと思う」

「「・・・・・」」

スイの言っている事も分かるだけに、シカマルとネジは顔を見合わせると、一つ頷いた。

「スイさんの言ってることも、もっともだな。このまま只待っているより、先に進もう」

「ですが、無茶はしないと約束して下さい。・・オレ達は、シンとは違って、まだまだ未熟だ。あなたを守り切るという保障は出来ないんです」

「――――分かった。無茶はしないと必ず約束しよう」

こうして、三人は進むべき路を決めたのだった。







それからの行動は素早かった。


まず、敵の足取りを掴む為、僅かな事も見過ごす事の無い様、周辺を隈なく探すことにした。

「実際どの位の量があったか見た訳じゃねぇから分からないが、それでも、船でそれなりの量を運んで来た筈だ。それを態々背負って運んだとも思えねえ。それに人通りの少ない山奥だ。多分、荷車か何かを使った筈だ」

「つまり、その荷車が通った車輪跡らしきものを見つければいいという事だね?」

シカマルは頷き、続けた。

「だが、もしかしたらその車輪跡を消されてるという可能性もあるが、何度も運んだ筈だ・・早々跡は消えないだろう。だから、土が新しいか、草が磨り減っている獣道のような場所を見つけて欲しい」

それに、スイとネジは頷いた。


「だがその前に、オレの白眼で一通り見てからの方がいいだろう」

そのネジの一言に、まず白眼で以って周囲を見ることになった。が、結局・・目ぼしい物は何も見当たらず・・。各々の目で以って探すこととなった。



しかし、暫らくすると、それらしき跡はすぐに見つかった。その唐突な発見に、訝しむよりも先に、三人は呆気に取られてしまった。

そして兎には角も、まずその跡を追ってみる事にした。

























白い靄が視界を覆う。その中を、ネジは当て所なく歩いていた。

「(・・・どういう事だ?さっきまで二人共傍に居たはず。いつの間に・・?)」

そう、先程まで確かに居た筈の仲間が、いつの間にか居なくなっていた。




車輪跡を、追跡していたネジたちは、周囲を警戒しながらも山の中を進んでいた。だが、それも奥へと進んでいくうちに、奇妙なことに、一人、又一人と仲間が消えていったのだ。

別に離れていた訳でもなく、傍に居たにも拘らず、それは起こった。ふと目を話した瞬間に、まずスイの姿が消え。それに気付き、シカマルを振り返った瞬間、そのシカマルも又、消えていた。

訳も分からず、一人になったネジは、まず彼等の気配を探った。探す努力はしてみたが――――だが、結局彼等が見つかることはなかった。

そしてその内に、ネジの周囲を靄のような物が覆い出し。視界が閉ざされ、今の状態へと陥ったのだった。


「(おかしい。急にこんなに濃い靄が・・・・いや、これは・・霧か?!)」


そうと気付いた時には、既に霧は周囲の木々も見えないほど濃くなっていた。ネジの血継限界である白眼も、この濃い霧を見通すことは出来なかった。

だが、その事がネジの琴線に引っ掛かった。周囲の霧の中が見えないのは分かる。だが、その外。つまり霧が晴れている場所まで見通せないということは、何か別の力が働いているということだ。

「――――罠か!!」










ネジが、敵の罠だと気付いた頃。――――同じくシカマルも、ネジと全く似た状況に陥っていた。


「・・・あ゛~~~・・めんどくせーが、これは完璧、罠に嵌まったな」

ポリポリと頭を掻きつつ、シカマルはぼやく。靄のような霧が出始めたことでシカマルはすぐに気付いたものの、それを告げようとした時には、既に仲間と引き離されていた。

最初に気付くべきだったのだ。車輪跡があっさりと見つかったことと、隠す気もなくそのまま残されていたことに、不審を持つべきだったのだ。

しかし、今となっては後の祭りだ。過去のことをどうこう言ってても始まらない。兎に角、現状を打破し、スイの安全を確保しなければならない。でないと、残ったナルトに申し訳ないし、後が怖い(本音はこっちだ)・・。












「・・・これは、ミズナに怒られるかな・・」

思わず、スイは呟いた。


こちらも同様、敵による何らかの罠に嵌まったということに、仲間と離された時点で気付いていた。

いくら目を凝らしても霧以外何も見えず、忍ではないスイには、何が起こったのかさっぱり分からなかった。一先ず、他の二人と離れさせられたことに危機感を持ったが、敵が見えない事にはどうしようもない。

忍程ではないが、気配に敏いスイは、自然と周囲を窺った。手には、いつ敵が現れても対処出来るよう、刀の柄を握り締める。

しかし、待てども待てども、何も起こらない。思わず、スイは訝しんだ。

「(・・どういうことだろう?戦力を分散させる為に引き離したのだと思ったが、違うのか?)」

色々と考えてみるものの、どれもしっくり来ず、スイは思考の渦に呑み込まれた。

そんな時だった。――――甘い、匂いがし出したのは・・。


「なんだ、ろう・・?あまい、ニオイが、す・・・る」

意識が朦朧となる。そして、遂には・・ドサッという音と共に、スイの身体が地面に叩き込まれた。







―――――――――

―――――――   

―――――


「・・イ。・・・ス・・イ。スイ」

声が聞こえる。懐かしい声が。温かで、優しいこの声は・・そう、これは母上の声だ。

「――――――・・ぅっ、う~~~~ん?・・・・・・ここは・・」

目覚めて目に入ったのは、見慣れた天井で・・。スイは一瞬固まった。

「まあ!スイったら、まだ寝惚けているのね?寝ぼすけさんね。起きないと・・こうですよ~~!!」

「!!?ッいひゃい、いひゃい!!いひゃいでふははふえ~~~っ」

頬を思いっきり抓られ、思わず涙目になってスイは温かな腕を掴み目が覚めたことを伝える。ようやく離された手に、ホッとし、赤くなっただろう己の頬に紅葉の様な小さな手を当てた。

「・・もみじのようなて?」

「?何を言ってるのです。あなた、まだ寝惚けているの?」

「あ、なんでもありません。ははう・・ぇ?」

どこか声が幼い。そして先程の小さな手。スイは恐る恐る自身の身体を見た。

「・・・・・こども?」

おかしい・・確か自分はもう元服も済んでいるし、さっきまで山の中にいたというのに、いつの間にか見慣れた城の一室にいる。しかも、身体まで縮んで。

そして何より不思議なのは、今はもう亡き母の姿だ。懐かしい母の顔を見上げ、スイは思わずといった様に、目を眇めた。

(お懐かしい。母上はもう、当の昔に亡くなっているというのに・・・)

記憶の中の母と、寸分違わず。まるで母が生き返ったかのような、そんな現実感を伴っていた。

しかし、それは在り得ないことをスイはよく知っている。覚えている。あの日、あの場所で。スイは母の死顔をこの目で見ていた筈なのだから。

その時の事を思い出し、眉を顰め、唇を強く噛み締める。――――そしてふと気付く。

あの日、あの場所でスイを抱いて倒れ臥す、母の姿を、おぼろげに覚えている。その時に着ていた淡い真珠色の着物。それと同じ物を、今目の前にいる、この母も、着ているのにスイは気づいてしまった。

「・・・・まさか・・こんな・・・」

だとしたらこの後に起こる事は、スイにとっては思い出したくもない悲劇だ。その事に、スイは恐怖した。

「ここにいちゃいけない・・。ははうえ!はやくここからでましょうッ」

「本当に、何を言っているのです?今日は何だか変ねえ、この子は・・。ミズナだけが御父上様と御一緒にお出掛けしたのがそんなに羨ましかったの?でも御公務の一環なのですから、仕方ないでしょう?」

「ちがうのですっははうえ!ここにいたらあぶないんです!!」

そうじゃない、そうじゃないんです。と首を振るスイ。全く聞く耳を持たない母に焦れながらも、スイは母の着物の袖を掴み引っ張る。そして幼子の僅かな力で何とかこの部屋を出ようと試みる。

これが現実ではないのは分かっていた。自分の記憶の中の残像。実際のことは断片でしか覚えていないし、今ではもう、その時の事は曖昧で、殆んど忘れてしまっていた。人間の記憶なんてそんなものだ。余りにショックな出来事だった為、幼いスイは自らその記憶を封印したのだった。

だが、それを無理矢理引き摺り出されたような感じだった。自分の中を掻き回す見えない相手がいるような、そんな気持ちの悪さに、吐き気がした。心なしか、ズキズキと痛む頭痛に、スイは厭な汗を掻く。



――――あの時は父も居らず、護衛もその時運悪く側を離れていた。その一瞬の隙を突かれたのだ。

スローモーションのようだった。切り付けられ、倒れ落ちる母・・。そして包まれる温もりは・・・血に濡れていた。温かな母の胸に抱かれて、スイは己の手が赤く濡れたのをその幼い目で見つめた。光の無い母の瞳は、どこか虚ろで・・・。これが母と同じモノだとは思えず、スイは思わず後ず去った。

そして駆けつけて来た護衛の者に刺客は斃され、母に抱き潰されるようにして倒れ込んでいたスイは助け起こされた。そこまでが、スイが覚えている記憶だった。それからすぐに、スイは気を失った為、その後のことは何も覚えていない。




しかし、スイの努力虚しく、悲劇は、繰り返される。


「――――何者です!!」

母の耳を劈くような声に、スイはハッと振り返る。現れた刺客。煌く刃。

ふわりと、母の好んだ 香の菊花がやわらかに馨る。その優しい匂いに、母に包まれたのが分かった。

バッと鮮やかな血の花が舞ったのが、母の肩越しからスイの瞳へと映る。

「ぁ・・・ああッ!!」

思い出したくなかった光景が、目の前に広がる。スイは恐慌状態に陥った。

母を助けなければ。それだけが頭にあった。当の昔に、母は亡くなっているということは、既にスイの頭にはなかった。ただ目の前で傷付き倒れ臥す母を助けようと。


だが、そんなスイを嘲笑うように、母の瞳から光が消えてゆくのを、スイは目を見開いて見ていた・・。



絶望に陥ったスイを、更なる悲劇が待ち構えていた。

死んでしまったと思った母が、身じろぎしたのに、スイは生きていたのだと喜んだのも束の間――――・・その母が、急にスイに襲い掛かり、首を絞めつける。

「――――な、ぐゥ・・ッ!!」

驚きに、スイが母を見やれば、母の眼孔は抜け落ち、ぽっかりと空洞が開いていた。

思わず首を絞められているのも忘れ、スイはヒッと短く悲鳴を上げた。

空洞となった眼から、血が滴り落ち、穴という穴からアカい、赤い生命の源が流れ出しているのが見えた。


そして、血で紅く塗られた唇から、およそ母のモノとは思えぬ声で、スイへと怨嗟の念を放った。

≪オマエのせいでワタシハ死んダ。お前さえイナケレバ・・生マナケレバ、ワタシは死ぬことはナカッタノニ・・・
お前ガ、お前ガお前ガお前ガお前ガお前ガお前ガお前ガお前ガお前ガ
お前ガお前ガお前ガお前ガお前ガお前ガお前ガお前ガお前ガお前ガお前ガお前ガお前ガ
お前ガお前ガお前ガお前ガお前ガお前ガお前ガお前ガお前ガお前ガお前ガお前ガお前ガお前ガお前ガ
お前ガお前ガお前ガお前ガお前ガ――――――――――――――――――





――――お前が、私を殺したのよ?≫

最後の言葉は、母の生前のままの顔で・・。それはスイの心を途轍もなく抉った。ずっと、心の奥底に仕舞い込んできた、スイ自身の言葉でもあったからだ。




「(ちがう・・ちがうちがうちがうっ!!!!あのとき、ははうえは微笑っていた!無事で良かったと、最期まで・・私の安否だけ気遣っていたじゃないか!!)」


スイはすぐに心で否定する。そうでないと、苦しくて悲しくて、自分が壊れてしまいそうだった。

だが、苦悩に満ちた幼い心を、救ってくれる者はいなかった。

その間も、首を絞める力は止む事はなく、ギリギリと強い力が加わる。・・にも拘らず、スイの意識は失われることなく、死ぬことも無かった。

ただ、息苦しさと、母に殺されようとしている耐え難い、痛みと苦しみだけは延々とスイを苛み続けた。



――――悪夢は、終わらない。















ネジは、額を焼きつく呪印の痛みに、その目を覚ました。

額が熱い。まるで焼き鏝を宛てられたかのような感触に、痛みもさることながら、その不快感に、ネジは思い切り眉を顰めた。額を触ると、包帯が巻かれているのが分かった。

覚えている。未だ忘れる事無く記憶に残ったそれは、成長して今でも決して忘れることはない。忌々しくも懐かしい感触が甦る。



「(何だ・・これは・・・っ。何故オレは、ココに居るんだ!?)」

あの屈辱の始り。分家としての、誇りもなにも無い、ただ従属する存在。何も知らなかったネジが、鳥籠に・・入れられた日。


そして繰り返される、悪夢。


断片的な映像が、次から次へと、まるで走馬灯の様に映し出される。暗く、じっとりと纏わり付く闇を引きずり出される。見たくもないのに、それは容赦なくネジを襲う。


父の物言わぬ骸。抉り取られた、<眼>。実際に見た訳ではない。だが、ネジが現実に見てきた事と相俟って、それらが混ざり合い、渦のように溶け合って・・一つとなり――――それは真実起こった事の様に、ネジには感じられた。

ネジは、これが本当に起こった事なのかどうなのか、もう全く分からなくなっていた。嘘が真に、真が嘘に。どちらも本当に起こった事なのか・・。

ただ、それはネジを思いのほか痛め付けた。悪夢に犯され、精神が磨り減る。終わらない悪夢に、ネジの心は悲鳴を上げた。















シカマルは鹿に囲まれていた。しかし、それは特に代わり映えのない光景でもある。常に鹿と共にあった奈良一族の一人である彼は、特に鹿に好かれていた。

「お前たち、何で・・」

ありえない光景に、シカマルはすぐにこれが幻術だと冷静に判断した。そしてすぐに幻術返しを行うが、解ける様子はない。

「・・・・幻術じゃないのか?」

そして鼻につく甘ったるい匂いに、シカマルの意識はそこで暗転した。


見慣れた鹿たち。だが、どこか様子が違う。いつもは穏やかな筈の目が、紅く禍々しく凶暴性を帯びていた。流石に、これが現実ではないと分かってはいても、シカマルに恐れを抱かせるには十分だった。

案の定、シカマルの不安は的中した。咆哮を上げ、突進してくる数十等もの鹿の群れ。それは狙ったかのようにシカマルへと一心に向かってくる。

そして・・無数の角に突き刺され、食い破られるという残酷な夢を見た。

草食と分かっているにも拘らず、シカマルは自分が彼等に咀嚼するように食べられるのを細胞で感じていた。ありえない事ばかりな筈なのに、それはリアルにシカマルを苛んだ。

鹿に突き刺され、食い破られるという悪夢を、シカマルは何度も生き返ってはそれを繰り返された。




















先に行った三人を後から追い駆けていたナルトは、チリチリとした不快な感じに思わず眉根を寄せた。



「(・・何だか嫌な予感がする)」

こういった直感は外れた事がない。何とも悪い予感に、ナルトは走る速度を更に上げたのだった。













○後書きのようなもの○
3/9最後の部分だけちょこっと変えさせて頂きました。




[715] 『 死神 の 涙 』特別編~陰謀うず巻く水の国の冒険~その⑨
Name: 夜兎◆30045c03 ID:a31fd8f6
Date: 2008/03/09 19:39




何も無い空間に、ナルトは徐に手を突っ込んだ。結界の綻び。そこへ、少々強引に潜り込む。

僅かにできた結界の裂け目に、ネジたちも続く。



そして――――現れたのは・・・


天高く聳える塔に、目を瞠った。

切り取られたように存在するそれは、結界の中・・静かに、その姿を現した。










『 死神 の 涙・特別編~陰謀うず巻く水の国の冒険~その⑨ 』


















三人の気配を追って辿り着いた先で、ナルトはすぐさま罠だと気付いてそっと身を潜ませた。やはり嫌な予感は的中していたようだ。

白い霧の中、周囲と同化するようにひっそりと、ナルトはそこに溶け込んでいた。

「(・・・・・幻術・・・だがそれだけじゃないな。この独特の甘い匂い・・幻覚作用のある沙羅裟の花の成分が霧自体に含まれてるな。・・・・中毒性が無いのだけが救いだな)」

外からは、霧がベールのように周辺を覆っていた。そして段々と深く濃くなる霧に、幻術と幻覚の二重に張られたトラップ。最初は薄らとだけ、空気に溶け込んでいるために侵入者はそれと気付かずまんまと罠に陥ってしまうのだろう。

大方、先に行った三人も例に漏れずにまんまと罠に嵌まったということか、とナルトは推測する。

あらゆる毒に耐性を持つナルトは、この霧の中でも全く支障はなく動くことが出来、幻術の類は効き難いと言う便利な体質でもあった。その為、今も支障なく動くことが出来るのだが。


取り敢えず、この際ネジたちはどうでもいい。(果てしなく本音)
――――が、スイの事を考えると早く何とかしなくてはなるまい。取り敢えず、生きていたらオッケー(多少の怪我ならば問題ない。それ位はスイも覚悟しているだろう)的な考えで、ナルトは助ける算段を立てる。


そして全神経を研ぎ澄ませると、あらゆる五感で以って敵の気配を探り始めた。























「(――――――――――――――・・いた)」

ナルトは聴覚から入ってきた情報に、全神経の糸を巡らす。

「(声の数からして、二人・・。他に潜んでいる気配は無い。どうやら、アイツ等はまだ生きてるようだな)」

ほとんど気配の無い様子の敵に、ナルトの耳はその僅かな声をしっかりと拾い上げた。
この霧を操るだけあって奴等の隠遁は、勘がよく、鋭いナルトの探索能力を以ってしても、奴等が声を出さなかったら少々骨が折れたことだろう。

そして気を失ってるのか、ピクリとも動かない三人の気配に、だが生きていることを確認したナルトは、すぐに行動に移す。

奴等がこちらに気付いていない今がチャンスだ。























「黒呪兄ぃ・・コイツら、殺ってイイカ?」

「ま゛て・・・一匹、残してお゛け・・何処のモノか、調べる゛、必要があ゛る゛」

足元に転がる獲物に、嬉々として弟・白呪が言うのを、兄である黒呪が答えた。

「コイ゛ヅだ・・一匹だけ毛色がち゛がう。あ゛とは・・好き゛にしろ゛ぉ」

そう言ってスイだけを残すようにしてネジたちから蹴り離す。意識の無い身体は軽く吹っ飛ぶが、呻き声一つ上がらず倒れ込む。

獲物が罠に掛かるのをじっと見ていた黒呪には、スイ以外の二人が何処かの里の忍だとすぐに気付いた。上忍ではないだろうが、その動きは一般人のそれではなかった。あまつさえ、一人が幻術を解こうと印を組んだのを、黒呪は見逃さなかった。
そして残ったスイだけだが、どこと無く漂う品のある立ち居振る舞いに凛然とした態度。到底唯人とは思えない様子に、それなりの身分ある者だろうと見当付けた。そんなこともあってスイの存在を生かしておいたほうが得策だろうと判断した。それに下手に訓練された忍びよりも口を割りやすいと踏んだのだ。


そんな事を、弟の白呪が嬉嬉として残りの二人に向かうのを横目に見て考えていた黒呪は、だから気付かなかった。
―――――――すぐ側に何かが近付いているのを・・・







ふわり、と風が舞う。

それは一瞬で・・。

通り過ぎた微風が、僅かに髪を揺らしたかと思ったら――――≪ブスリッ≫と、ナニかの肉に刺さったような、鈍い・・音がした。

ガハッという噎せた己の口元から血反吐が滴る。

「・・・・・・ナ゛・ンダッ?」

黒呪は、驚愕に目を見開き、己の包帯の巻かれた手を口に宛てて見た。そして見た紅に、刺されたのだと気付く。





弟・白呪は眼が見えない変わりに鼻や耳が驚異的に発達し、獣並みに利き。兄・黒呪は、以前に負った瀕死の怪我で身体全身の皮膚が爛れており、それはずっと治らずに黒呪の一部だった。その為、周囲の空気の動きに誰よりも敏感に反応することが出来た。それ故に、彼等は番人として選ばれた。アジトを狙う敵を網に掛ける捕食者として。

だからこそ、異常な事態だった。これまであったどんな忍も、どんなに上手く消しても、消し切れない人間臭さが僅かに残っているのだ。しかし、それが全くない。

己の敏感に反応する肌でさえ捕らえることの出来ない自然の流れ。それは違和感無く存在し、あたりまえの様にそこに在った。


心の臓まで達した狂刃に、唯一の血縁であり相棒でもある最愛の弟を見れば、その弟も・・・頭部からクナイを突きたてられ、斃れ落ちる姿だった。

そして、その傍に金の残像が見えたのを最期に、黒呪もまた・・地へと斃れ臥し、絶命したのだった。








自然と同化していたナルトは、黒呪・白呪兄弟に気付くと、背後から音も無く近付いた。

両の手にはクナイ。それをしっかりと握り締める。――――確実に仕留める為に。

まず、背の高い兄の方に背後からそっと近付き、そして急所の心臓目掛けてクナイを突き立てる。それから、傍にいた弟へと流れるようにステップを踏み、ナルトは無理をせず、その流れのまま脳天へとクナイを突き立てた。・・それは一連の動作だった。まるで舞を舞っているかの様な流麗な一幕だった。


鼻が利き、空気の微妙な変化にも敏感な彼等を以ってしても気付く事は出来ない程に自然な動きだった。
それほどに自然で。まるで恰も、周りの樹々が意志を持ってナルトを態と隠しているかのように、それはナルト自身を柔らかく包み込み、溶け込ませていた。

そしてナルトからは恐ろしく匂いがなかった。否、匂いが無いわけではない。人間独特の臭さがなかった。ただ・・ナルトから、どこか森の馨りが仄かに香った。








ナルトは、完全に敵が斃れ臥したのを確かめ、地べたに転がって唸っている3人へと意識を戻した。

そして血中に回った毒素を抜く為に、簡単な医療忍術なら施すことも出来たが、今の不安定なチャクラでは無理だと判断したナルトは、地へと耳を宛て水脈を探り当てる。そして僅かな音を拾い上げると、地下水の流れを聞いた。

「・・・・近くに沢があるな」

近くに放ってあったバックパックを拾い上げ、中身を必要なものだけ装備する。後は纏めてネジたちと一緒に担ぎ上げると、すぐに水場へと向かった。





兄弟が斃れたことによって張られていた結界幻術が解かれ、霧が晴れていく。


霧が晴れたことによって、周囲に太陽の光が差し込む。晴れやかな筈なのに、だが、それはどこか不吉ささえ孕んで・・。













ナルトたちが去った後、屍と化したモノから、

ドクンッ!

という音がした事に・・


しかし、気付いた者は誰もいなかった。


































辿り着いた水辺に、ナルトは背負っていた荷物をパッと手放しドサドサと落としていく。

見つけた沢に、三人の顔面を突っ込み。そして数分待つ。


「・・・・・」

3分経った所で、水に突っ込まれていた顔を三人が三人とも、死に物狂いに揃って勢いよく顔を上げた。

「「「――――ぶはぁッッ!!!!?」」」

水飛沫を巻き上げながら、物凄い形相である。

――――そして地面へと転がりながら、今度はそれぞれに苦痛の表情を浮かべ悶え出した。
どうやら、意識は取り戻した物の幻術と幻覚の効果がまだ続いているようだった。






「ぅ゛~~~ン・・・ウ~~~~ンッ・・し、鹿が~~~ッッ!!・・・・し、か」

そう唸りながら、のた打ち回る。悶絶するシカマルに、ナルトはしゃがみ込み、思わずその身体を傍に落ちていた枝でツンツンと突付いてみた。

「・・・?なに見てんだコイツ・・」

取り敢えず、よく分からない悲鳴を上げるシカマルから叩き起こすことにした。



叩かれた両頬がおたふくの如くぷっくりと膨らませ、シカマルは憮然としていた。その顔は青褪めて見るも哀れだった。しかし、ナルトはそんな事を気遣うような――女子供は兎も角――思いやりなんて持ち合わせちゃいない。
放って置いて、スイを目覚めさせている。

それを横目で見ながら、同じくおたふく頬の人間があと二人増えるのか。とシカマルはぼんやりと思った。

目覚めてからの状況から、どうやら敵の罠にまんまと掛かって悪い夢を見ていたようだ。幻術返しの所までは思い出せたが、それからは悪夢のようなリアルだがありえない出来事の繰り返し。

そういえば、幼い時分に沢山の鹿に囲まれ、恐怖した覚えがある。何故か、奈良の一族の中でも特に鹿に好かれていたシカマルは、よく彼等に構われ倒し、何度も泣いた覚えがある。
もう慣れたと思っていたが、それが今だトラウマになっていたのだろう。それを、穿り返されてあのような物を見せられていたのだろう。

「(・・・・しばらく、あいつ等に会いに行けねぇ・・」

そんな事を思いつつ、今は遠く離れた場所にいる無垢な瞳の彼等に、シカマルはそっと侘びた。







シカマルがなんとか正気に戻ってから、目を覚ましたスイとネジの二人は、起きて早々自分の殻に閉じこもってしまっていた。同じ精神的苦痛でも、シカマルの時とは違い、身内の死と過去の記憶とが影響してそれは彼等の心に深く尾を引いていた。

頻りに「母上、母上」と呼び続けるスイに、父を日向宗家への憎悪の言葉を吐きながら蹲るネジ。

ナルトはそれを見下ろし、二人の頬を思いっきり引っ叩いた。力の加減も何も無いそれに、二人の身体は宙を舞った。抵抗の無い身体は、重力に沿ってどさりッと地面へと叩きつけられた。
それを見たシカマルは、思わず目を逸らす。未だ覚醒してなければ自分もああなっていただろうことを思うと、何だか叩かれた頬がズキズキと痛い。

「――――いい加減目を醒ませ」






「・・ははうえ、ははうえ、ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイおねがいころさないで―――――」

己の所為で命を落とした母への罪悪感から出た謝罪と生の懇願。頻りに、どうか恨まないで、憎まないで、殺さないで。と泣いて喚き続けるスイ。その裏側には母への狂おしいほどの思慕の念と、深い嘆きがあった。

手近にいたスイへと近付き、目を合わせるように蹲るスイの傍へとしゃがみ込んだと思ったら、胸倉を引っ掴むと頭突きを咬ました。

「しっかりしろ!目を見開いて現実を見据えろ。お前の母は、そんなことをするような人間だったか?お前の中の母は、子を恨み、殺めようとするような卑小な女だったか?そんな脆弱で愚かな人間だったか?」

「・・・・・が・・・うっ・・・ちがう・・違うッ!!母上は、母上はそんな事をするような人間なんかじゃないッッ!!本当の母は、優しくて温かで・・何よりも私の身を案じてくれていた。死に際したあの時もッ・・・自分の身よりも、私の身を案じて・・庇っ・・て・・・・」

そこでハッとする。そうだ。何を見ていたのだろう?あんなにも母は息子である己を守ってくれていたというのに・・。死してなお、腕の中の息子を守ろうと、きつく抱き締めてくれていたのに・・・。

「・・だったらそうなんだろう。お前の中の母を信じろ。それがお前にとっての真実だ」

ナルトの言葉に、スイは憑き物が堕ちた顔をして泣いた。声も無く、ただ泣き続けた。あとからあとから零れてくる滴は暖かで、どこかやさしかった。




同じ様に、日向宗家へと憎しみと怨嗟の呪いの言葉を吐き、亡き父を幼子の様に求めただただ嘆くネジに、スイの時よりもやや乱暴に胸倉を引っ掴むと、強烈な頭突きを咬ました。思わずネジの額が赤く腫れ、シューーっという音を上げ湯気が立つ。ネジはもんどり打って倒れ込み、あまりの痛さに思わず涙が零れた。

「お前もしっかりしろ!下忍とはいえ、一端の忍だろう?・・そんな惰弱な姿を見て、お前の亡き父はどう思うだろうな?宗家だけの為じゃない。分家含めた一族、息子のお前を助ける為に死んでいったんだ。
――――だが、それも犬死か?息子のそんな情けない姿、さぞかしあの世で嘆いている事だろうな。一族の血に、才に愛されたお前は、父に誇れるような人生も歩むことも出来ずに、このまま廃人になって地べたを這い蹲って生きていくのか?ああ゛?」

「―――――――・・ッ馬鹿にするな!!父上の死は、犬死なんかじゃないッ・・・オレは、そんなに弱い人間じゃないっ!!!・・・・ああ、なってやる。父上の誇りだと思えるような男にッッ!!!!」

「だったら、足掻いて見せろ。こんなとこで終わるようなら、オレの下僕は願い下げだ。・・オレの役に立つんだろう?あの時のお前の誓いを果たして見せろ。それとも、忘れたのか?」

「・・忘れてなどない。あの時の言葉は、今もオレの胸の中にある。誓いは、果たしてやるさ・・・お前に役立たずだとは言わせないっ!!」

「ああ。精々楽しみにしてるぜ?ま、期待はしてないがな」






ようやく正気に戻り、文字通り叩き起こされた三人は、その後毒素を薄める為に浴びるほど大量に水を飲ませられる。完全に抜け切るには時間が掛かるがしないよりはマシだと言われ、言われた通り文句も言わず素直に飲んだ。自分たちの浅はかな行動を思い返し、多少なりとも思う事があったらしい。ナルトが来なかったらと考えるとゾッとした。
アレを見続ける勇気は、どこにもなかった。


ナルトは仁王立ちで正座した(させた)三人を見下ろした。

「――――で。オレに何か言うことは?」

「「「・・スミマセンでした」」」

「まだ足りねえな」

「「「・・・・危ないところを助けて頂きどうもありがとうゴザイマシタ」」」

「ふん。まあいいだろう」

揃った返答に満足そうにナルトは頷く。取り敢えずの許しを得たことに、三人は内心でほっと息をついたのだった。















霧が晴れた森の中をナルトたちは進んでいた。

だが、行けども行けども何が在るわけでもなく、鬱蒼とした森が広がるばかりで・・・。


そんな状況に、また先程のような罠に陥ったのかと警戒しだした三人を余所に、ふとナルトは荷物の中から手のひらサイズの黒い卵型の甕のような物を取り出した。

「・・・・・水琴窟?」

目敏く見ていたシカマルは、小さいながらも、それが水琴窟だと気付いた。

「似たようなもんだ。原理は水琴窟(洞窟内に水滴を落としたとき発生する反響音を庭園内で楽しむもの。)と同じだが、コイツはちょっと使い方が違う」

「そんな物、どうするんだ?」

「まあ見てろよ。―――――まず、水滴の代わりにチャクラという波紋を投じる。・・シカマルお前ちょっとチャクラをここに流し込め。掌にチャクラを集中させ、チャクラをコレに流し込むような流れをイメージするだけでいい。・・そうだ。それでいい。・・・で、中には施された特殊な術が、僅かなチャクラに反応。
窟代わりの甕全体に行き渡ったチャクラが術に由って振動し、超音波を発生させ外へと放出。およそ半径25メートル内に異物があれば、
甕内部に反響し、水琴窟に似た音が鳴る仕組みになっている・・――――ぉっと」

説明しながら実践していたナルトが周囲を探っていると、説明通りにどこか幽かに瓊音(ぬなと:玉が触れ合って出す音。玉の音。)のような音が聞こえてきた。
音の強い方へと近づいていくと、更に先程よりもしっかりとした音が聞こえた。

「・・ここだな」

何を思ったのか、音の発生場所である何もない空間へと、ナルトが手を伸ばした。
すると・・驚いたことに、何もない空間にナルトの手が呑み込まれていくのを、ネジとシカマルは目の当たりにした。

「そうか、結界か!」

気付いたシカマルに満足げに笑うと、徐にナルトが上に指を指した。

「空を見てみろ」

「「!!」」

「・・・雲が!?」

言われるがまま見た空は、どこか異様で、まるで結界から先がバッサリ切り取られたかのように雲が鏡張りのように映っていた。




水の結界。そこにはまるで薄いベールのように覆われた水で作られた結界が張られていた。先程の兄弟のと二重に結界が張ってあったのだ。その警戒様に、アジトがここにあるという信憑性が増した。

光を反射し、まるで鏡のように森を映し出していたた。周りの木々を鏡のように映すため、それが自然と目晦ましの役目も果たしていた。その為、周りと一体化しているように見えたのだ。

ナルトは空間の裂け目へと、今度は両手を差し込む。バチバチと静電気のように火花が飛び散る。先程は何の抵抗もなく入ったのは、結界の境い目。歪みによって生じた僅かな隙間だったようだ。

強引に入り込むナルトの瞳が、僅かに緋に染まる。だが、それを見たものは誰もいなかった。



「―――――――よし。開いた」

その言葉に見ると、結界に人一人通れるだけの空間が出来ていた。

「・・・ってゆーか、おい。今更だがこんなことして大丈夫なのか?敵に気付かれるんじゃぁ・・」

色々と驚きすぎて静観していたが、その可能性に気付きシカマルがナルトを見ると、ニヤリと厭な笑い。思わず後退る。

「あの霧忍たちが張った霧が晴れたことで、もうとっくに気付かれてるんじゃないか?だったら、多少無茶して入り込んでも関係ないだろう?」

というナルトの台詞と共に、ネジとシカマルの首根っこが掴まれる。

「役に立つんだろう?だったら今役に立っとけ」

そう言って・・哀れ、ネジとシカマルの二人は、ぽいぽいっと敵の真っ只中へと放り出されたのだった。

「存分に暴れて来い」

そんな言葉が聞こえた気がした。

シカマルはと言えば・・。「何でオレまで?!」と、悲壮感丸出しのとばっちりも良いとこだと、ひっそりと涙を零した。









そして見たのは、天高く聳える塔と・・四角く切り取られたように広がる青い空だった。

















○後書きのようなもの○
この際思いっきりぶっ飛ぶことにしました。もう好きなことを一杯盛り込んで暴走(妄想)します!
大体の話の流れは決まっているのですが、細かい所で思うように進まないです。取り敢えず、この特別編ともう一つ番外を書いたら投稿は控えようと思います。やはり、自分には書くより読む方が向いているというか、好きだなと強く思うこの頃。以前からそれはあったのですが、このままダラダラ続けているのも・・と思うようになりました。取り敢えず、もう暫らくお付き合い下さると嬉しいです。










下にスクロール。シリアスなのを崩したくない方はそのままバックして下さい。最近シリアスばっかなので気分転換というか、ちょっとしたお遊びで。





























































































































































































【ギャグ★シーンでもう一度...】

~ナル君の、鳴門はらーめんに入ってなきゃ駄目なんだってばよ!編~






「しっかりしろ!目を見開いて現実を見据えろ。お前の母は、そんなことをするような人間だったか?お前の中の母は、子を恨み、殺めようとするような卑小な女だったか?そんな脆弱で愚かな人間だったか?」

「・・・・・が・・・うっ・・・ちがう・・違うッ!!母上は、母上はそんな事をするような人間なんかじゃないッッ!!本当の母は、優しくて温かで・・何よりも私の身を案じてくれていた。死に際したあの時もッ・・・自分の身よりも、私の身を案じて・・庇っ・・て・・・・」

そこでハッとする。そうだ。何を見ていたのだろう?あんなにも母は息子である己を守ってくれていたというのに・・。死してなお、腕の中の息子を守ろうと、きつく抱き締めてくれていたのに・・・。


「お前もしっかりしろ!下忍とはいえ、一端の忍だろう?・・そんな惰弱な姿を見て、お前の亡き父はどう思うだろうな?宗家だけの為じゃない。分家含めた一族、息子のお前を助ける為に死んでいったんだ。
――――だが、それも犬死か?息子のそんな情けない姿、さぞかしあの世で嘆いている事だろうな。一族の血に、才に愛されたお前は、父に誇れるような人生も歩むことも出来ずに、このまま廃人になって地べたを這い蹲って生きていくのか?ああ゛?」

「―――――――・・ッ馬鹿にするな!!父上の死は、犬死なんかじゃないッ・・・オレは、そんなに弱い人間じゃないっ!!!・・・・ああ、なってやる。父上の誇りだと思えるような男にッッ!!!!」














―――――――




「――――大体、そんなことで悩むくらいなら本人に聞けば良いだろう?」

「「「は??」」」

そして何やらネジとスイの斜め上を見上げ、ぶつぶつとナルトは何やら話し込んでいる。(それを少々不気味に思いつつ、目が離せないでいると・・・)

「あのぉ~~~~・・付かぬ事を聞きますが、・・だれと話してるんだ?」

シカマルが代表して恐る恐る尋ねる。他2名は気味悪そうにナルトを見ているだけだ。それもそうだ。自分たちの背後上空を見てぼそぼそと喋っているのだから、不気味以外の何者でもないだろう。

「んぁ?そんなの決まってるだろう。こいつ等の母親と父親」

あっけらかんと言われた台詞に、一瞬彼等の頭は凍った。ついにナルトが呆けたか?とまで思った。だが、ナルトの瞳はどこまでも澄んでいて真っ直ぐで、とても嘘を付いているようには見えなかった。

――――しかし、シカマルは聞かずには入られなかった。

「・・・・ダレと、だれが?」

「だからスイの母親とネジの父親」

「もう一度おねがいします」

「しつこい。・・・・え?あ~~分かったよ。伝える、伝えるから!耳元で喚くのやめろ・・。――――スイ、ネジお前等に言いたいことあるんだと」

それからはナルトの独壇場だった。アレやコレと、本人たちしか知らないことを並べたてられ、知られたくない恥ずかしい秘密をバラされたりと、彼等は顔を赤らめたり、サーーッと青褪めさせたりと、忙しく顔色を変えている。

「「・・・・・」」

話がようやく終わるころには、口をだらんと開け、魂が抜けたような表情のスイとネジが出来上がった。唯一難を逃れていたシカマルは、二人を哀れに見やり、変わりにナルトへと声を掛けた。

「それは・・その、その人たちはとっくに亡くなって、るん、だよな?一体ダレに聞いたんだ?もしやとは思うが・・・ほんとのホントに・・??」

嘘だったらいい。もしくはナルトがからかってるだけだったら(寧ろナルトなら有り得そうな所がそれはそれで恐ろしいが)。と、無駄な希望を持ちつつ訊ねてみる。

「そうだ。ご本人等がそう言っている」

「・・・・ど、どこにいるんデショウカ?」

シカマルは自分で聞いてて虚しくなりながらも、本人たちが使い物にならないので仕方がない。何より自分が気になる。

戦々恐々と訊ねるシカマルに、そしてついっと何故かスイとネジの背後に視線を向けるナルト。

「――――いや、だってソコに居るし・・・」

真顔で後ろを指差す。


「「イヤーーーーーーーーーーッ!!!!」」

恐々と自分たちの背後を覗き見。そこで耐えられなくなったスイとネジ、絶叫。その身体はぶるぶると震えている。
元々霊感が強かったのか、ナルトに触発されたシカマルは口をポカンと開け、涎を垂れ流しつつ真っ白になって気絶。その目線は彼らの背後で止まっている。

一人は気絶。うち二人は顔を青褪めさせ、ぶつぶつ何か謝ったりと何やらで忙しそうにしていた。

それを一人傍から見ていたナルトは肩を竦める。だが、その口元は僅かにクイッと上がっていた。












[715] 『 死神 の 涙 』特別編~陰謀うず巻く水の国の冒険~その⑩
Name: 夜兎◆30045c03 ID:a31fd8f6
Date: 2008/05/21 16:17


「――――そんなっ・・・・馬鹿な!!」

ナルトは驚愕に目を見開いた。

目の前に現れたモノの真実に、あまりの事に戸惑いを隠せなかった。


確かに殺したはずの存在が、ナルトのその碧眼にしっかりと・・その姿を映し出していた。










『 死神 の 涙・特別編~陰謀うず巻く水の国の冒険~その⑩ 』


















(――――ああ、空が青いな・・・・・)

倒れ込んだ拍子に見えた青空に、シカマルは思わずそんな事を思った。


・・・なんって現実逃避してる場合じゃないッ!!

うじゃうじゃとあれよあれよと現れた敵さんに、シカマルはハッと飛び起きた。
隣を見ればネジが既に臨戦態勢バンバン。既に白眼発動中だった。

「(・・・・・逃げてぇ)」

涙が出そうになった。しかしそうも言ってられない状況に、シカマルは渋々と覚悟を決めた。

「・・取り敢えず、めんどくせぇ・・・が、ここで死ぬのは死んでもごめんだ!!」

シカマルは素早く印を結んだ。

ナルトを相手に修行していただけあって、突発的な事に慣れさせられていた二人は敵の動きが良く見えた。
幸い相手は多いが、下忍から中忍といったくらいのレベルだ。斃すとかそんな事よりも、要はこちらに引き付けて置けばいいのだ。ナルトもその心算で態々敵中へと放り込んだのだろう。

引き付けるという点ではもうその役割は果たしている。多勢に無勢と分が悪いが、取り敢えず――――・・生き残れればそれでいい。

そして相手がこちらを、唯の向こう見ずな子供として見做し油断している今がチャンスだ。ここで一気に片を付けるのが得策。そう判断したシカマルはネジの方をチラリと見ると、そちらも考えている事は同じだったようで・・。


「――――八卦空掌・砕の型・振空波!!」

衝撃波が襲った。

・・しかし、何事も起こった様子は無い。やはり唯の子供だったと敵が嘲笑い、攻撃に転じようとしたその時――――

「な、なんだ?!・・・身体がっ??」

「・・う、動かねぇぞっ!!?」

自分たちに起こった異変に気付く。それに慌てだし、もろに喰らった者達が何とか身体を動かそうともがくが、身体は思うようにいうことを聞かない。指の一本も動かせずに並べられた駒のように唯立ちつくす。

「・・・身体にチャクラを込めた振動を加えることによって経絡系を刺激し、身体を一時的に麻痺させた。暫らくは動けない筈だ」

戦闘姿勢を崩さずにそう言うと、ネジは八卦六十四嘗の体勢に移ったのだった。







「(おーおー、張り切ってるなぁ・・・)」

シカマルは横目で見つつ、感心してネジを見た。ネジの様子に怯んだ敵が、こちらのが見た目からして弱いと踏んだのか、残りの残党がウヨウヨと集まってきていた。
はっきり言ってうざいことこの上ない。自分が強いとは全く以って思っていないが、いい気分ではないのは確かだ。

ネジのように派手には行かないが・・・地味にやりますか。と、そんな心持ちで、シカマルは一つ息をついた。

既に仕掛けは済んでいる。・・あとは幕を引くだけ。


シカマルの頭上に浮かぶ拳大の風船を軸に、釣り糸で結んだ小さな風船が蜘蛛の糸のように張り巡らされていた。透明なそれは、よく見ないとそれと分からない。しかし、下に映った影を見れば一目瞭然だった。

ナルトに放り込まれ、倒れ込んだと同時に咄嗟に空へと放ったのだ。


「・・・影真似の術」


取り囲んでいた敵を細かい影糸で影を結び、動きを縛る。

細かく張り巡らされた影を、多数の人間に繋げるのは思ったよりも精神的疲労が激しい。神経を集中させなければ、すぐにも途切れそうになるのをぐっと堪え、シカマルは更に意識を集中させた。これは単なる前章に過ぎないのだ。

影真似の術から更に印を組み変える。

「影踏み、」

影に身体を縫いつけ、自分以外の人間の動きを封じた。

そして術の組み込まれた札が貼られ、自身のチャクラを練り込ませて編んだ組紐を巻き付けた特別製のクナイを手に取ると、シカマルは己の影に向かって、それを思い切り突き立てた。

「――――――影縛りの陣!!」

その言葉と共に結ばれた印によって、陣のように結ばれた影同士が強く反応し、地面を風が走った。

術の発動によって捉えられていた者たちの身体は、足元にある自身の影によって絡めつけられ、その場へと縫付けられた。
















シカマルたちが敵と奮闘している頃・・ナルトたちは塔の中へとなんなく侵入を果たし、表の派手な音とは対照的に静かに移動していた。


「・・・・なんかドンパチいってるけど・・大丈夫なんだろうか?」

派手な音に、敵地で目立っている事に。純粋にネジとシカマルの安否を心配したものの、二つの意味が込められた”大丈夫”に、ナルトはスイを横目で見た。

「あん?大丈夫だろ。あいつ等はアレでしぶといからな。そりゃもう台所に出る害虫並みに。それに、本来ならもっと隠密に行動する予定だったんだがな・・・どっかのバカ共が先走るから。バレた以上はしょうがねーだろ?
・・だったら、思い切って大暴れしたほうが逆にいい。んで、こうなったからにはついでだ。集められたヤバイ荷毎此処を破壊する」

「それは構わないが、黒幕が誰か・・・それが分からなくなるのは困る」

「多分・・ココには居ないだろうな。さっきざっと見たが、下忍・中忍と居たのは雑魚ばかり。中には上忍クラスも居たがそれもギリで上忍だ。此処は単に荷物置き場っつーとこだな」

「だけど、それなりに重要な場所だ。きっと黒幕に近い位置の者が居てもおかしくはない筈だ」

「だろうな。だが、余り期待するなよ」

「分かってるよ。重要ではあるが、トカゲの尻尾切り・・いざとなったら切り捨てられる可能性も高い場所だ。上の地位に付く者であるのならば尚更・・知らぬ存ぜぬで通そうとするだろう」

ぎゅっと拳を握り締めるスイを視界の端に捉えたナルトは、振り返るとその目をスイの瞳へとしっかりと合わせた。

「ああ。スイ・・・分かってると思うが、無茶な行動は止せよ」

「・・・肝に銘じておくさ。さっきの様な事は、二度と御免だしね」

どこか冗談めいた仕草で答えたスイに、ナルトは僅かに眉間に皺を寄せた。が、取り敢えずそれで納得してか、特には何も言わずに視線を前へ戻した。


























「んっふふvあっまいな~~~。・・ホンット甘過ぎちゃったイヤになる」

いつの間に追いついたのか、ネジとシカマルの闘いを、少し離れた木の枝の上で腰掛けながら見ていたランは、厭そうにそうポツリと呟いた。

「(殺さないなんて、甘いんだよ・・・)」

彼らが敵を死なない程度に倒していくのをぼんやりと見ながら、まだ人を殺したことのないであろう少年たちを罵った。

立ちはだかる敵は排除する。それがランだ。下手に生き残りを残すのは愚かだ。相手が敵で有るならば・・。不安要素は排除しなくてはならない。でないと、後で痛い目に遭うのは自分だ。そのことをランはよく知っている。
自分の考えが酷く偏っているのも自覚していたが、こんな時勢だ。そんな甘っちょろい事を言っていたら死ぬだけだ。だが・・或いは羨ましいのかもしれない。甘いことを言っていられる優しい世界にまどろんでいる彼らが・・・・。それも、下忍でいられる間だけであろうとも。



「・・・・すこし、感傷に浸りすぎたかなぁ」

下を見れば、動けなくなったり斃れ付している霧忍たちの姿以外見当たらない。いつの間にかネジたちの姿はない。ランが自分の思考に耽っている間に、おそらくはナルトたちを追って塔へと入っていったのだろう。

「まあ、いいや。取り敢えずぅ~、君たちは死んでよね!」

木の枝にすっくと立ち上がると、ランは思い切り息を吸った。そして瞳孔を見開くと、無音の声を上げた。


すると――――・・ひらひらと花弁が舞い散るように降る黒い蝶が・・・

数十匹と大群の群れを成して何処からともなく現れた。



くすくすくすくす、ランが哂う。

「よく来たね・・黒死蝶たち。さあ、あいつらに素敵な贈り物をしておくれよ!”死”という名の贈り物をねぇ!!」

黒死蝶が舞い上がる。蝶は動けずにいる彼等へと群がった。あちらこちらから悲鳴が上がりだす。鼻から口からと、吸った息から入った毒が、喉を、肺を、焼きつくすような苦痛が襲った。

黒死蝶は死を運ぶ使者。
舞えよ舞え・・美しく。優雅に。踊る舞姫のように。――――金色に輝く、死を運ぶ鱗粉をたっぷりと撒き散らかしながら・・。

それを上から眺めながら、ランは骸と化していくモノたちに向かって薄っすらと笑い、とっておきの最期の言葉をプレゼントした。

「・・奈落の底に堕ちな」










最期の舞が終わり、蝶たちは役目を終えたとばかりに空へと飛び立つ。それを見送りながら、ランは猛毒である彼等の鱗粉をそっと掬った。
常人には毒であるこの粉も、ランとナルトには効くことのない無害な物だった。

「んふふっ。いつ見ても綺麗・・」

黒死蝶の一羽が、そっとランの指に止まる。それを愛しげに愛で様としたその瞬間・・――――ぶわりとした怖気が走った。黒死蝶が指から逃げるように飛び立つ。

「――――な、なに・・これッ」

全身に鳥肌が立つ。得体の知れない何かが近付いてきているのが分かる。ランはすぐさま隠れるべく動き出す。

「形式(かたしき)・カメレオン!!色彩変化ッ」

すぐ傍の木を背にし、ランの身体がそれに合わせて、見る見るうちに色が変わっていく。

木の色に染まったランは、術の終了と共に、気配を消し周囲の様子を窺った。何かが・・すぐ傍まで迫ってきていた。


「(・・・・・・来るッ!!)」



ザッという音と同時に、木々の合い間を抜けて、丁度ランの真横。・・すぐ横を、黒い影が過ぎっていった。

「(・・・・なんなんだよアレッ・・本当に、”ニンゲン”か?)」

一瞬垣間見えた姿は、到底ヒトとは思えぬ不気味な姿に、ランはその後姿を暫らく凝視し続けていた。














――――一方、背後から迫り来るモノなど露知らず、シカマルたちはナルトと上手く合流するべく動いていた。

「・・取り敢えず、ナルトたちを追って入ったはいいが、どうやって合流する?このまま宛てもなく探しても埒があかない」

「めんどくせぇが、ナルトならきっと運び込まれた荷がある場所。武器庫をまず探す筈だ。そこをオレ達も探せば、必然的に合流出来るだろう」

「そうだな」

その方向で話は纏まり、後は内部にまだいるであろう敵に見つからないよう慎重に行動に移った。

建物は大小の通路が入り組んでおり、外観からは想像もつかない複雑な様相となっていた。

途中。トラップや、見回りの敵に見つかりそうになったりとしたが、それも何とか遣り過ごした。

人目を避け、狭い通路を通り地下へと下りたったシカマルたちは、やがて広い一つの部屋を見つけた。他にも部屋がいくつかあり、武器の種類によって分けられているようだった。

「・・・いないな」

「あぁ」

だが、隠すように放置された見張りと思わしき忍びの姿をネジが見つけた。

「・・首筋に千本を刺した痕があるな。一突きで即死だ」

「恐らく一度は此処へ来たんだろうな。死後硬直から、死んでから2時間も経ってないから、塔へ入って割りとすぐに此処へ来たんだろう」

合流することは出来なかったが、ナルトたちが一旦は此処へと足を運んだ事が分かったので良しとした。

「ここで待つか・・それとも、ナルトたちを追い掛けるか」

「運ばれて来た荷が目的なら、もう一度ここへ来るだ、ろ・・」

シカマルは言い掛けて止まった。

「「ッ!!!」」

ばっと振り返ると、突如壁が外からの衝撃で打ち壊された。驚きにそちらを見れば、人とも化け物とも知れない異形の姿が・・・

「なッ――――」

視界に入ったイキモノに、思わず固まるシカマルの手を引っ張ったのは、先に衝撃から解けたネジだった。

「馬鹿ッ!ぼうっとするな!!殺られるぞッッ」

さっきまでシカマルが居た場所に大穴が開く。ネジが引っ張らなければヤられていたのは自分だ。そのことに肝が冷えた。

今ので頭も冷えたシカマルは、冷静になれと自分に言い聞かせる。取り敢えず、逃げるのが得策だろう。場所が場所なだけに、こんなとこで遣り合うわけにはいかない。

「一先ず逃げるぞ!!」

二人は来た路を駆け出した。
















「――――鋼糸術・蜘蛛の囲」

蜘蛛の巣のように張り巡らされた鋼糸が、敵の忍びの身体を切り刻んでいく。チャクラの糸・紡ぎ糸が使えない今のナルトにとっては、これも有効な武器だった。――――ただ、そのえげつなさは更に増していた。

スイはスプラッタに思わず、口元を押さえた。

「おい・・吐くなよ?」

「ぐッ・・・・・わ、分かってる」

吐きそうになった大本の原因であるナルトが、平然としているのがスイには腹立たしかったが、敵に見つかるようなヘマをしたのが自分だけに、文句も言えず押し黙る。

そのナルトはといえば、スイには気付かれずにそっと息をついた。一先ず、術を使われる前に敵を敲けたが、これからもそう上手くいくとは思えない。下に居た雑魚よりはクラスが上がっている。今だチャクラが戻らないナルトだが、そうそうヤられはしないだろうがスイもいることだ。こんな時の為の用意はしてあるが、なるべく使うようなことにはなりたくない。それなりの数を持って来てはいるが、やはり数には限りがある。まだ何が起こるか分からないだけに、慎重になり過ぎるに越したことはない。

そんな事を考えていたら、どうやらスイの吐き気も治まってきたようだ。

「もう大丈夫だな。さっさと行くぞ」

「・・・・・」

容赦ない言い様に、もう少し労りが欲しいと思うスイだった。


――――と、歩き出そうとしたナルトたちの足元がずうぅんという音と共に僅かにぐらついた。

「な、なんだ!?・・地震か?」

目線でスイを黙らせ、ナルトはスッと目を閉じ、耳を済ますと音の元を探った。

「・・・・近いな。!これは・・この塔の中からだ」

「この中から?」

「ああ。かなり下の方から聞こえた。位置的に言ったら、・・・さっきの武器庫あたりか?」

振動と音は今も止む事無く、段々とそれが大きくなっているように聞こえた。

「・・・なんだか、段々と上へ近付いてきてるように聞こえるんだが・・私の気のせいかな?」

「気のせいじゃないな。・・というか、オレ達のいる方へ近付いてきてるな」



「「・・・・・」」

思わず二人は顔を見合わせた。















ナルトたちが異変に気付いた丁度その頃、ネジとシカマルはというと・・

「おい!どうするッ?!このままじゃ追いつかれるぞ!!」

「んなこと言ってもっ、こんな狭い場所じゃあッ、戦うにしても不利だ!どっか、広い場所でも出ねえとッ」

「取り敢えずッ、上に向かうぞ!!」

「りょーかいッ!!」

ひたすら逃げていた。
















































「・・馬鹿な・・・ありえない。オレは確実に急所を狙った。手応えもあった。――――それで、何で生きてるんだ??」






ネジたちの気配を察知していたナルトは、塔の内部を破壊しつつ、地を揺らしている何ものかから逃げているのだと気付いて、上階にあっただだっ広い円形の広間で待ち伏せしていた。スイへは隠れているように指示し、今か今かと彼等が来るのを待っていたのだ。

だが――――・・勢い勇んで飛び込んできたシカマルたちの背後。異形と成り果ててはいるが、見覚えのある顔に、驚愕を露わに呟いた。


そう、姿形は多少変われど、付いた顔は記憶に新しい。

彼等は、確かに自分が殺したのだから・・・・・








人間の頭二つ生えた巨体。その腕は太く盛り上がり、鋭く尖った爪が此処まで来るのに砕いた壁を抉ったのだろう。

スピードはその巨体からは想像も付かない位に速い。シカマルたちが全力で駆け上がってきたのを見るだけで分かった。

「・・・・・生きていたとはな。それもその異形の姿・・どうなっている?」

『オレだチ兄弟は不死身・・侵入者ハ排除すル』

問答無用で振り下ろされる鋭い爪に、ナルトはチッと舌打ちすると、それを難なく避けた。

「答える気はねーってか・・まあ、いい。又殺してやるよ!」

ナルトは親指を噛み切ると素早く印を組み、懐から巻物を取り出し、特殊な術式とその血で以って、チャクラを一切使わず口寄せできる口寄せの術・改を発動させた。

「――――来いっ【羅刹】!!」

現れたのは一振りの大鎌。それを素早く掴むと、ナルトは元・兄弟であった化け物へと斬りかかった。













[715] 『 死神 の 涙 』特別編~陰謀うず巻く水の国の冒険~その⑪
Name: 夜兎◆30045c03 ID:a31fd8f6
Date: 2008/09/03 09:01
※オリジナル要素満載です。








時は遡って――数刻前



ナルトによって斃された筈の黒呪白呪兄弟の屍に異変が起こっていた。

死んだと思われた兄弟のうち、弟・白呪の心臓が突然脈動を上げ始めたのだ。


ドクン、ドクンと鼓動は徐々に高まり・・心の臓に刻まれた”魂”の文字が赤く発光しだした。それに連動するかのように、黒呪の貫かれた心臓の”魄”の文字も発光しだす。

その光はゆっくりと彼等兄弟の身体を覆っていき、二人の屍を包み込んだのだった。


兄弟の亡骸は徐々に形をなくしていき、2つの肉体は融けて合わさり・・・







――――そして二つは一つとなった。












『 死神 の 涙・特別編~陰謀うず巻く水の国の冒険~その⑪ 』


















斃した筈の黒呪白呪兄弟が異形の姿となって生きていたことに驚愕したナルトだったが、愛用の武器・羅刹を口寄せすると、間髪入れずに斬りかかっていった。



「どんな術を使ったか知らないが・・立ちはだかるというのなら、倒す――――!」

ナルトは手に馴染む愛器にぐっと力を込めた。

振り上げた刃は、ザシュッ!!という音を立てて、吸い込むように肉を切り裂いた。

飛び散る血は赤く・・その化け物染みた見た目に反してそれはとても人間らしく、その鮮やかな紅がとても印象的に映った。







ナルトは攻撃の手は緩めず、僅かな隙も付かない勢いで羅刹を振るった。身の丈よりも大きな見た目に反して、重さを感じさせない身のこなしは流麗でもあり、思わずシカマルたちは見惚れた。

だが、一撃二撃と打ち込んでいく度、羅刹の動きが鈍くなっていくのをナルトは違和感と共に実感していた。まるで仕留めた感じがしない。

それは全く痛みを感じていないかのような白黒兄弟の様子からでもあったし、まるで・・態と刃を受けていっているかの様な、その異様な行動にも起因していた。

「(・・・・なんだ?何かが、おかしい。まるでダメージを受けていない?)」

確かに流れ出る血飛沫。それは切り裂くたびにナルトの目を彩ったが、その流れる量が些か少ない気がする。両手で数えられない程羅刹で敵の命を屠ってきたが、流れ出る血は、こんなものだっただろうか?ナルトの中の違和感は僅かな焦燥と共に増していった。










「なんだか、様子が変じゃねぇか?ナルトの、動きが鈍くなった?」

邪魔にならない様遠くから見ていたシカマルは、ナルトの動きがどこかおかしい事に気付いた。隣を見るといつの間にか白眼で戦いを見ていたネジが、眉間に皺を寄せているのが目に入った。

「・・・・ちがう。ナルトの動きが鈍くなったんじゃない。ヤツの皮膚が、硬質化してるんだ」

「・・どういうことだ?」

「さっきから気になって、白眼でずっと見ていたんだが・・・なんだか、変なんだ。アレは、どういうことなんだ?ヤツがナルトに斬られた瞬間、確かに血が流れ、ダメージを追ったように見えた・・だが、違う。血で分からなくなってはいるが、斬られた瞬間には、もう傷は塞がっている!それも、斬られた皮膚は斬られる前より、更に強度を上げて・・・・ヤツは、本当の化け物かっ?!」

途中から、まるで独り言を呟くように、ネジは自分の考えを整理するかのようにそのまま思ったことを口にしていく。シカマルはそれを聞いて思わず目を凝らして闘いに見入った。

「それって・・斬られれば斬られるほど皮膚が強化されて強くなるってことじゃねぇか・・」




シカマルと話しながらも、その間もネジの視線は逸らされることはない。そしてネジは戦闘を凝視し続けているうちに、先程はあまりの出来事に気付かなかったが、皮膚に薄っすらとだが残る線のようなモノが多数残っていることに気付いた。それは奇しくも、ナルトが斬りつけた跡の様だった。

「・・・・・否、ちがう・・のか?――――ッこれは!・・皮膚の傷自体が治ったわけじゃ、ない?血液が、結晶化・・している?それで、切り裂かれた皮膚がまるでくっ付いたように見えていたのか・・・」

上擦ったようなネジの声に、シカマルは思わずといったようにゴクリと唾を飲み込んだ。

「そんなことが、本当に起こり得るのか・・?有り得ねぇ」

「だが、こうして現実に起こっている。それも・・オレ達のすぐ目の前で・・」

近接した戦闘に、手を出すことも出来ずに見ていることしか出来ない自分にネジは唇を噛んだ。ナルトと初めて会った時、役に立つといった言葉に嘘はない。だが、それにはまだまだ己の実力が伴っていない事が悔しく、また腹立たしかった。

「(・・・それよりも気になるのはナルトだ。いつもはあれだけ忍術を駆使(聞こえはいいが、実際は仕置きという名のネジ虐めでしかない。最近はそれも単なる趣味になりつつある)して――大きな物から小技の聞いた地味に効く――攻撃をしてくるのに・・どういうことだ?
それに・・ヤツの2つの心臓。”魂”と”魄”と書かれた意味はなんだ・・・?)」













斬っても斬っても怯まない相手に、ナルトは内心苛立っていた。ただ力ばかりではないだろう事は分かっていたが、こんな隠し玉を持っているなんて思ってもいなかった。
更に加えて、今ナルトはチャクラが練れない。つまり、体術と武器で以って直接叩くしかないというのに、これでは倒すどころか、ナルト自身の体力が削がれるだけだ。

「(くそッ!・・・何か手はないのか?)」

ふと視界に入ったネジに、

「(・・・・ネジ・・あいつの柔拳なら、内臓に打撃を与えることが出来るか?)」

血液が凝固して傷を塞いでいるのはナルトも既に気付いていた。これはナルトの考えだが、傷が空気に触れる時、血液が凝固しているのではないかと推測をつけた。
実際、それに気付いてからは斬撃はやめ、羅刹の背を使っての打撃へと変えたときに付いた内出血の黒ずみ。それが、その推測があながち外れていないことを証明していた。

ナルトが、そんなふうに一瞬、思考するのに意識を逸らしたその隙をついて、ただ受け身だった黒白兄弟の動きが一変して攻撃へと変わった。

まるで何かを待っていたかのように、彼らは動きを止め・・大きく両手を天へと広げ、手前へと両手を交差させるように大きく振りかぶった。


『・・我ラ兄弟の融合忍術。喰ラえ!氷霧結風迅!!!』




途端巻き起こる旋風。







それに、ナルトはハッとしてその風を避けた。


何てことことないただの風に見えた。何故避けたかなんて理由はない。ただ、ナルトの本能がこの風はヤバイと告げていた。

案の定、ナルトの避けた後ろの壁が見る見るうちに凍っていく。ペキパキと凍っていく壁に、目を見張る。

「!・・これは、氷遁っ?!」

しかし氷遁を使えるのは血継限界の筈。それなのに何故?

湧き出る疑問に目を細めながらも、巻き起こる風の中キラキラと氷の粒子が光るのをナルトは睨み付けるようにして見据える。

幾度となく繰り出される旋風を、ナルトは避け続けながらも何とか打開策を打ち立てようと考えていた。

「(チッ・・・近付くにも、この風が行く手を阻んでくる。・・かといって、有効な手立てが今の所オレにはない。どうする?)」

八方塞がりの状態に、ナルトは次第に焦りを感じ始めていた。そして次の風を避けようと、ナルトが足を踏み込んだ瞬間。背後に感じた気配に、丁度ネジたちの姿が横目に映った。



「――――この馬鹿ッ!!」

咄嗟に踏み込むのを止め、手に持っていた羅刹を目にも留まらぬスピードで素早く回転させ、それによって沸き起こった風で相殺させようと試みるが、間に合わない。羅刹の先端からペキパキとナルトが凍っていく。


「くそっ駄目だ!!こお・・ル――――

ペキパキッペキピキンッ!





「「ナルトォーーーー!!!」」














後に残されたのは・・・・大鎌を構えたまま、全身を氷に包まれたナルトだけだった。




















≪あとがき≫

一日遅れとなりましたが、一話分何とか投稿です。ぶっ飛びすぎてる内容ですが、少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。
続きはすみませんが暫らく掛かると思います。その時に良かったらまた読んで下されば幸いです。





[715] 『 死神 の 涙 』特別編~陰謀うず巻く水の国の冒険~その⑫
Name: 夜兎◆30045c03 ID:a31fd8f6
Date: 2009/03/01 01:56
※多々おかしな所あり。矛盾なんて何のその!ちょっと(大分)くらい大目に見れるよ!という方以外はバックプリーズ。済みませんが、よろしくお願いします。














バンッ!!!

「――――ええぃッ!一体何が起こっている?!」

塔の外から聞こえた破壊音が漸く収まったと思ったら、今度は塔内部から響いてくるのに、苛立ちを持て余すようにアジは机を力一杯叩き付けた。

誰もいない室内に、自身の声だけが虚しく響き渡った。




此処の実質の責任者でもある彼は、この土地を提供した北領にあたる貧しいが小さな領地を持つ大名の一人だった。
そもそも彼が今回の叛乱に手を貸したのも、あの大災害から一度は援助を得て何とか飢えは凌いだものの、一向に改善されない現状を憂いてのことだった。

その援助も国からではなく、この地方に偶然立ち寄った商人によって得られた物だ。

その事も、アジを叛乱へと導くこととなった大きな起因となる原因でも会ったが、何よりもアジを駆り立てたものは、傲慢にして怠惰な北領主や、国を支配する一族の在り方だった。

小さいながらも領地を預かる者として、民の苦しむ様を見ているしかない現状に、アジは唯々頭を抱えた。
勿論手を拱いてばかりいたわけではない。まずアジは自身の属領でもある北領の当主に訴状を出した。だが、それが受け入れられることはなく・・返答は説明も何もない援助出来ないと書かれた素っ気無い書状一つだけ。
当然それで納得出来るはずもなく、アジ自ら出向いたが、それも”国から得られた物資は僅かばかりで、それを足りぬというとは何事か!貧困に喘いでいるのはお前の所だけではない”と門前払いされてしまった。
どうにも諦めが付かず、再び直訴する為踵を返したアジの耳に、門番たちの軽口が聞こえてきた。
「――――全く、ひでぇもんだよなあ。貧困に喘いでる奴等がいるってのに、ここじゃあ以前と変わらず呑めや唄えやの大騒ぎだ」「だが・・そのお蔭でおれ等末端の奴等もおこぼれに預かれるってこった」「ハハッ、ちげーねぇ!」
アジは怒りの余り震えた。飢餓に苦しんでいる民のその裏で、領主が以前と変わらぬ贅沢三昧をしているというのだ。門番たちに気付かれないよう、アジはその場を立ち去った。自身の欲を満たすことばかりに目を向けている領主に直訴しても全くの無駄だと悟ったのだ。

いくら訴えても受け入れては貰えない要請・・その一方で土地も人も疲弊していくばかり。そんな生活に、このままでは餓死者を増やすだけだと、気持ちばかりが急く。何も変わらない現実は、重責となってアジの胸に重く圧し掛かるばかり。
やがてその鬱憤は積もる塵の如く、蓄積され・・・・それはやがて国への憎悪へと変わっていった。それを決定付けられたのは、この一件が大きく左右したのは言うまでもない。

そして――――後に出会った革命を謳う人物によって、アジの人生は大きく変わっていく事となった。




その意志に同調したからこそ、北領にあたる、霧の里と首都の中継地であり通行の要所でもあるこの場所を、それらの動向を監視し見張る為、そして武器や食料の保管庫ともなる二重の意味を持った塔を作ったのだ。だからこそ武器を集めるのにも協力し、その為の意志と覚悟も見せた。しかし結局それも、責任者という肩書きだけを残し、その他のことは部下として派遣されてきた男が指揮を取っていた。

薄々彼もその事に気付いてはいたが、いざその場の指揮を取れといわれたら、一介の小さな領地を預かる大名でしかない自分に、有象無象の衆である抜け忍にも等しい荒くれどもを纏めること等出来ないだろうし、無理なことは分かっていた。本来領地を管理し治めるのが彼の仕事であって、戦争屋ではない。そんな自分に行き成り何かを指示しろといわれても、戸惑うばかりで何も出来はしないだろう。

だが、だからと言って此処で見捨てられるわけにはいかない。場所は提供した。少なからぬ財も投げ打った。自分はもう、しっかりと反逆者という枠組みに入っているのだ。




(っこのままでは・・私が行ってきた事が全部無駄になってしまう!何とかしなければ・・・)

アジは足早に部屋を出た。

















『 死神 の 涙・特別編~陰謀うず巻く水の国の冒険~その⑫ 』













「おい、ネジ。やべぇッ、こっちに来る!!」

「待てッ・・後、あと少しなんだ!あと少しでヤツの力の発生の秘密が分かりそうなんだ!!」

「だが、ほんとにやべぇんだ!!これ以上は無理だっ。此処から離れねぇと!」

「分かっているッ。だがもう少しなんだ。これが分かれば、ナルトを助けられる!」

ネジは白眼を駆使し、ダメージを全く負わない黒白兄弟の力の源を探していた。
いくら異形と成り果てたとしても、全く傷付かないのは可笑しい。ならば、それを補うだけの何かがある筈だとネジは考えた。彼らがこの世に生きている限り、不死なんて事はありえない。"力"となる何かがある筈だと、ネジなりに考えた末の力の行使だった。


だが・・――――







ナルトが目の前で凍っていく。

ナルトを助けるはずの己が、そのナルト自身をピンチに陥れるという最悪の事態を引き起こしてしまった。そのことに、唯ネジは呆然としていた。目の前の出来事が信じられない。
だってあのナルトの事だ。女子供は兎も角、きっと自分たちを守ることは視野になんて入れもしていないだろう。”自分の身は自分で守れ”それがナルトだ。

だから認識が遅れた。氷に包まれたナルトの背中が、目から脳に漸く信号を送り到達する頃には唯無我夢中に名前を叫んでいた。





「―――――――ナルトぉッ!!!!」



顔を青褪めさせ、ネジはしかし、次を考える余裕もなく拳を振り被って跳んでくる異形の主に気付き、すぐさま動いた。
横を見ればシカマルも、ナルトの身体を守ろうと動くのが見えた。

”役に立つ”と最初に啖呵切った自分の言葉を、違えたくないという思いが焦りとなって仇となった。その事ばかりに捉われて、目の前が見えていなかった。今も、やるべき事を見失いそうになる己を叱咤する。


「(・・後悔も懺悔も、今は必要ない!今考えなければならないのは、ナルトやシカマルと共にどう生き残るかだッ)」





兄弟の拳が、ナルトのいた場所を抉る。<ドゴォォンッ>と破砕音が辺りに響き渡る。轟音と共に辺りを粉塵が舞い、視界を覆い尽くした。

氷柱に包まれたナルトは重く圧し掛かり、抱えたネジとシカマルの身体を切り裂くような冷たさが苛む。

だが、それでも自分たちの代わりに凍ってしまったナルトに比べたら、なんて事はなかった。


しかし、状況は悪いままだ。いつまでも避け続ける事が出来る相手ではないし、氷の重みに二人の動きは鈍るばかり。先程の戦闘で足場は最悪。氷に覆われた床に足を取られる。水とも違った感覚に、チャクラコントロールがしにくく、慣れるまでに暫らく掛かりそうだった。

戦おうにも、あの術は厄介だ。折角助けられたのをナルトと同じ二の舞を踏むわけにはいかない。しかし、一人では到底ナルトを運ぶことができる重さでもない。絶体絶命のピンチだ。


せめて、ナルトだけは安全な場所に運べれば・・

そんな焦りばかりが二人を襲う。

「(・・どうすれば、どうすればいい?ナルトを置いて戦おうにも、あの術では近付くことは難しい。シカマルとのコンビネーションで縦しんば近づけたとしても、待ってるのは硬い皮膚。今だ残っている柔らかい部分を斬ったとしても、血が結晶化しては意味がない。飛び道具は意味がない。ならば・・ヤツの内はどうだろう?ナルトによる打撃で内出血していたのをこの目で見ている。
どんな化け物とて、臓腑は鍛えようがないのだろう。それは目の前の異形も同じらしい。だったら、より脆い部分を狙うしかない。幸い、オレにはそれを可能にする術がある。だが、高質化したあの皮膚を柔拳でどのくらいのダメージを与えられるか・・・。もし失敗して、動けないナルトを敵が放って置くほど甘くはないだろう。・・・・それに、心臓に描かれた呪印らしきものも、気になる)」


一瞬の間に、ネジがそんな事を考えていると、それより先になにか決意をしたような切羽詰ったシカマルの声が掛かった。

「――――・・聞いてくれ。オレが影真似で、少しの間足止めする!その間に・・引き摺ってでも、ナルトを安全な場所に運んで欲しい」

「なッ!そんな無茶な。馬鹿なことを言うな!!」

到底承服しかねない言葉にネジが驚き振り向けば、真っ直ぐこちらを見る迷いないシカマルの目とかち合った。

「無茶も馬鹿も承知だ。めんどくせ~が、今オレ達が全員助かるには他に方法がねぇんだ」

「そんなこと出来るか!!」

「じゃあどうする?!!ここで全員殺られるのか!?だったら僅かでも、部のある方に掛けたい。それに・・ナルトを安全な場所に置いてきたら、戻ってきてくれるんだろう?」

「・・っ当たり前だ!!」

「うっし。じゃあ、合図したら行くぜ」

「ああ」


二人の意見が一致した。と同時に、ガラガラという大きな音がし、瓦礫の残骸がパラパラと音を立てた。


ザリッザリッという、砂利を踏みしめるような足音と共に、粉塵の中から這い上がってくる姿が影となって映る。

それに向かってシカマルは構える。ネジはナルトをしっかりと抱え込むと、警戒しつつも僅かでも離れようと腕に脚に力を込め、ゆっくりとなるべく氷を傷付けないようにだが、移動し始める。


「「(粉塵が晴れた一瞬が勝負だ!!)」」






粉塵が晴れていく。薄っすら見えていた姿が、その全容を現した。

そこへ、素早くシカマルの影が伸びる。

「繋がったッ――――今だ!!」

余裕からかゆったりとした動きで近付いてくるのが幸いした。狙いを外す事無く相手が攻撃してくる前にシカマルは己の影がしっかりと敵の影を捕まえたのを感じ、ネジへと合図を送った。ネジはそれを受けると、すぐさま敵を見ながらゆっくりとじりじりと後ず去っていたのを力一杯引き摺る。足元の氷が床と擦れてズガガガガガッと耳障りな音を立てるが気にしない。さっきの様子では引き摺った程度でどうこうなるような軟な氷ではないのは分かっていたから、それこそ全力で引き摺った。

ネジは振り返らずに、ただ出口だけを目指した。それが希望であるかのように・・。シカマルに、必ず戻る。と心の中で呟いて。



永遠とも思える時間をネジは歩く。最初は快調だった滑り出しも、今は氷の重みと冷たさに、一歩一歩が重く増していく。進もうにも中々進まずもどかしさが募る。だが、それでもネジは前へ進んだ。

「(・・もう、少しっ)」

歯を食いしばる。出口はもうすぐそこだ。あと三歩、二歩・・・・


――――しかし、

あと一歩・・僅かで出口に到達するかしないかの所で、



「ーーーーぐッ・・押さえ、切れない!!」

シカマルはダラダラと額から汗を垂らして耐えるが、縛り付けておくには、あまりにも相手の力が予想以上にその力を上回っていた。純粋にパワー負けという言葉がシカマルの脳裏を過ぎる。ぶるぶると身体が震え、全身の血管が悲鳴を上げる。

「(ちくしょ、あんだけ格好つけて言ったってのに・・くそ格好、悪ぃ・・・)」

押さえつける為力を籠め過ぎた所為か、いくつかの細い血管が破れ、必死で耐えていたシカマルの身体から血が吹き出る。肌を伝うツーー・・という感触に、鼻血を出して意識が朦朧としていたシカマルは、その思考を最後に、影真似の術が跳ね返されるのを感じた。抑え付けていた力が反発し、その反動でシカマルの身体が吹っ飛ぶ。そしてそのまま思い切り壁へと叩き付けられた。
衝撃にグッと息が詰まり、シカマルは床へと滑り落ちるように崩れ落ち、その場に倒れ伏した。

目と鼻の先で起こった出来事に、瞬時に理解出来ずにいたネジだったが、漸く理解が追いつくとその白い瞳を見開いた。

「ッシカマル!!」

そんなネジの心情を慮る事無く、そして一気に稼いだ距離を詰められる。倒れ込むシカマルを気遣う余裕もなく振るわれる拳に、ネジはナルトを庇うように立つと、受け身の態勢をとった。太い腕から繰り出される威力に備え、グッと足に力を込める。せめて相手にも僅かでもダメージを与えられればと柔拳の構えを取った。













――――その頃、一人放って置かれる形となったスイはというと・・・完全に迷っていた。

「う~~ん・・シンに安全な場所に隠れていろと言われたのはいいが、どこが安全なのやら・・」

敵のアジト。しかも真っ只中にいるとなれば、どこも安全とは言い難い。しかもこの階には円形の広間がほぼ場所を占めており、隠れるような丁度いいスペースが見つからない。仕方なくもう一つ上の階を目指す。余り離れて見つけられなかったとなってもよくない。

それに自分だけ、ただ守られている現状が只管に口惜しくも情けない。せめて、武器庫で見たもの以外の物的也何か証拠を見つけたいが、これ以上何かしてお荷物になる訳にもいかない。元々無理を言って連れて来てもらったのだ。そのくらいの自覚はあった。


「・・それにしても随分揺れが激しいな。一体戦況はどうなっているのか。・・・シンたちは、無事だろうな?」


突然、先程よりも一層激しい揺れが襲った。その拍子に、スイの懐に入っていた首飾りが飛び出る。だがそれには気付かず、揺れから身を守るように足を踏ん張る。

「なッ、なんだ?!」

何か、上から力が圧し掛かったかのような揺れに、側の壁に手を突いた。と、その拍子にガコンッという音がし、手を付いた場所の壁が凹む。引っ繰り返る壁面。それに驚いてる間もなく、スイは吸い込まれるように壁の内側へと放り出された。

 カツンッ

壁がしまる瞬間に挟まったのか、首飾りが千切れ落ちる。しかし、持ち主の姿は壁の中へとその姿を消し、龍の文様が彫られた宝珠だけがコロコロと音を立てて廊下を転る。



――――・・それを、拾う手があった。

アジだ。彼は侵入者の存在に気付き、身を隠し様子を窺っていたのだが、その侵入者が偶然にも隠し扉の仕掛けを発動させ、姿が見えなくなったと同時にその場へとそっと近付いていった。そして、廊下に光る宝珠に気付く。
拾おうと手を伸ばす。だが、それもバチッという音と共に跳ね返された。思わず手を引っ込め、痺れた手を覆う。その拍子に動いた宝珠が、その全容を露わす。

そこで見たものは・・・

「!この文様は・・・・」

末端のアジとて知っているその文様は、紛れもないこの地を支配する直系血族しか持つことを許されないモノだった。
若い時、一度訪れた首都の書庫の文献で見たそれは美しく、アジの目に焼き付いて離れなかった。今も記憶するそれと瓜二つの宝珠をじっと見つめる。
髪と目の色彩は違えど、そんなものどうとでもなる。そしてこの宝珠を持つことが許されるのは直系のみ。今現在それを持つにあたる少年は一人だけだ。次期国主である存在。

アジは懐から布を出すと、それでもってそっと宝珠へ触れてみる。反応はない。
どうやら直接触らなければ大丈夫だと気付き、今度は大胆にも布で包み込むように拾い上げると着物の袖へと仕舞うと、足早にその場を去った。
















それは突然のことだった。ズガンッ、ゴオオオォン・・ガラガラガラッという音と共に何の前触れもなく突如天井が崩れ落ちてきたのだ。丁度運悪く(ネジにとっては運良く)下敷きになったらしい黒白兄弟の腕が僅かに覗いている。その開いた天井上から高速球で何かが降って来たと思ったら、次にひらりと今度は軽やかに何かが降りて来た。

唐傘が床にドガッという音と共に突き刺さる。高速で降ってきたそれは唐傘だった。そしてその上を軽い身の熟しで足をカッと付け、傘の柄に乗るようにして一人の少女?が、場を崩すようにして軽やかにその場へと降りたったのだった。

「なッ・・・・・」

思わず口を開け、それを唖然呆然と見やるネジ。何だか傘にしては落ちたときの音が重量と比例しない、しかも石床に突き刺さる程の強度に、一体何で出来ているのかと今はどうでもいい事が気になった。

「・・・もうッ、ここ無駄に階数があって厭だ。思わず床ぶち抜いて来ちゃっ・・た」




「――――・・ナル君の匂いがするから来て見れば・・・コレってどーゆー事?」

ランは一瞬で状況を見ると、剣呑とした目をネジへと向ける。怒り心頭の様子で見据えられ、何故かさっきよりも命の危機を感じたネジだった。

しかし、そんなネジの懸念も、ランによって下敷きにされた黒白兄弟によって運良く免れることとなった。幸か不幸かどちらともいえない状況には変わりなかったが。



突如沸き起こった下から突き上がる力に、ランはすぐさま傘を手に、その場を離れる。


「(コイツはッ・・さっきの化け物?!!)」

瓦礫を吹き飛ばす勢いで起き上がったモノの姿に、ランは顔を顰めた。

恐らくナルトを凍らせたであろう元凶を、鋭く睨みつけランは考える。ナルトの下僕その一は昏倒中。その二も色々と消耗気味。その後ろにはナルトの氷像が・・・。
まともに相手するにも、厄介そうな相手。

「(ここは取り敢えず、時間稼ぎが必要ってとこかな?)」

向かってくる異形姿を冷静に眺めつつ、ひょいひょいとその拳を交わしていく。相手の周囲をぐるりと回るように避けるランは、その合い間に目にも見えぬスピードで石床に自慢の傘で穴を開けていく。

『ちょごまかとッ、うおオおお゛ぉォォ!!』

怒りに駆られ、黒白兄弟が立ち止まったラン目掛けて襲い掛かる。しかし、ランは避ける素振りも見せず、その場に屈み込むと徐に床へと拳を叩きつけた。

「砕」

叩きつけた拳は黒白兄弟のそれとは違って派手ではないが、しかし、威力は全く劣らない。頑丈な石床に亀裂が入り、山を作るように盛り上がる。それはランが傘で穴を開けたのを縫い目に沿って、丁度円を描くようにして湧き起こり、崩壊し、それは重力に沿って下の階へと落下していく。

『ッ?!!ナッ、何――――!!!』

足場が崩れ、バランスを崩す。咄嗟に無事な場所へと移ろうと跳躍しようとするが、勿論そんな事をランが許す筈がなく真上に陣取ると、その細い体から繰り出される拳を振り上げた。

「型式・熊猫!部分変化、熊猫の手。熊掌烈波!!」


ランの右腕部分が巨大な獣の腕へと変化する。そして繰り出される掌底。衝撃波と共に、巨体が開けられた床穴へと兆速で突き飛ばされる。

それは勢い余って下の階を突き破りドゴォンドゴォンッと2つの階を跨いで突き破る。それに追い討ちを掛けるようにランはその辺に転がった大きな瓦礫の山を次々に打ち込んでいった。

「っと・・・・よし、これで一先ずちょっとは時間稼げたかな?」

不意を衝いて大分叩きのめしたが、感触からみて、あのくらいでは大したダメージは負っていないだろう。時間は限られている。ランはすぐにでもナルトの安全を図る為動き出した。

しかし、そんなランを阻む者がいた。


「待て!お前は何者だ?ナルトの事を知っているようだが・・」

そう、ネジだった。


「待つ心算も、お前にボクのことを教える心算もないよ。邪魔。どいて、時間が余りないんだから」

「な!!・・・・それより時間がないというのはどういうことだ?」

色々と言いたいことはあったが、それは一先ず我慢してネジが訊ねる。

「アレ、まだ死んでないよ。大した手応えなかったし。だからその前にナル君を――――ッ?!」

「?どうしたんだ?」

「安全な所に運ぼうと思ったんだけど・・ムリみたいだ」

「え?」

「なに呑気にしてんの?お前も早くあっちで寝てるヤツ起こして来なよ。・・くるよ」

「はぁ?」

と、次の瞬間――――ドゴオオォォンッ!!階下から轟音が轟いた。そして大穴から何かがこちらに向かってくる気配を感じた。それに、ネジは慌ててシカマルに近寄る。何者かは分からないが、どうやらナルトを助けようとしていることだけは分かった。ナルトのことは任せても問題ないと判断しての行動だった。
それにあの怪力だ。自分よりは、今のナルトを助けることが出来るだろう。

慌ててシカマルの方へと駆け寄ると、意識を取り戻したのか呻き声を上げた。今だ朦朧とした様子を見せていたが、名前を呼べば反応したことから、声は聞こえているらしい。その事にホッとしつつも、まだ何も終わっていない事実に、真実安堵する事は出来ない。何よりナルトが今だ凍ってままなのだ。

「シカマル、返事はしなくていいから聞いてくれ。ナルトが凍らされる前に、アイツの血液が結晶化していることは言っただろう。ナルトに殴打されているのを見て気付いたんだが、確かに空気に触れて結晶化するが、逆に言うと、空気に触れなければ結晶化されない。この目で殴打された場所が内出血を起こした。

そしてもう一つ。あの氷霧が起る時に、アイツの魂と魄と刻まれた2つの心臓の文字がその瞬間力を持ったように同時に赤く浮き出るのを見た。そしてこの2つの心臓は別々のチャクラを有し、それぞれの流れを持って同時に生成させているようだ。それらが交じり合って融合したチャクラが両腕を通り、掌に集中させ、それを一気に放出しているように見えた。

理屈は兎も角、これらが関係してるんじゃないかとオレは踏んでる。高質化した皮膚は気になるが、オレの柔拳なら十分対応出来る筈だ。・・ただ、それにはヤツに接近しなければならない」

それを静かに聞いていたシカマルがちらりとネジの方を見る。

「・・・・・」

まだ話す気力はないのか無言ではあったが、シカマルのその瞳には意志の力が宿っていた。


因みにその時ランは、取り敢えずナルト氷像をひょいと軽く持ち上げると四隅に寄せていた。それをふと視界に入れたネジはギョッとするよりも、複雑な気持ちを抱いたは蛇足だ。

しかし、数分にも満たない遣り取りは、それでも黒白兄弟が再び這い上がってくるのに十分な時間だった。


『――――お゛前ラ・・殺ス』

床穴からその姿を現した黒白兄弟は、地獄の底から唸るように、殺意だけを込めたような声が辺りを響かせる。その眼光は射抜くだけで人を殺せそうな兇悪なものだった。

ランとネジの二人は動けないナルトとシカマルから離れると、怒りに我を忘れ、怒濤の勢いで襲い掛かる兄弟に向かって自ら飛び込んでいった。ネジは白眼全開で2つの心臓の動きを視つつ、氷霧にすぐに対応出来るようにと注意していた。
先程よりも俊敏な攻撃を、しかしランは踊るように交わしていく。ネジも瓦礫のお蔭か、凍った床よりも身動きが取れやすかった。

攻撃をかわすばかりだったが、転じて打って出る。ランは小柄な体格を活かして大降りになる黒白兄弟の振り下ろされる腕を掻い潜って懐に飛び込むと、二つある頭部は外して狙いやすい鳩尾目掛けて下から抉り込むように連発で両拳を打ち込んでいく。

しかし、次のネジの一声でその場を離れる。

「離れろ!!」

ランはその声に逆らわず、滑るようにして兄弟の股座を潜ってその場を避ける。すると、次の瞬間――ランの居た場所に氷霧が吹き起こり、その場が凍っていく。それを振り返り目にしたランは、これが原因でナルトが氷像となったのを知った。

「(・・・これは確かに厄介だね)」

先程盗み聞いていたネジたちの会話からして、どうやら術の行使時を予測できるらしいが、箍が外れたように氷霧を放って来られれば予測も意味はない。こう彼方此方に放たれたんじゃ、近付こうにも近づけない。氷霧から逃れたランは思わず舌打つ。

様子を窺っていたネジは、ランの動きに気を配りつつも、氷霧の嵐から逃れながらチャンスを待っていた。

「(何とか隙を作ってくれれば)」

襲いくる氷霧に、ランは周囲に転がっている瓦礫を掴むと黒白兄弟に向かって放り投げた。剛速球で飛来してくるそれにはさすがに避ける為にか、一旦氷霧の嵐は治まる。それに僅かながらも手応えを感じたランは、粗方投げ終えてしまった為無くなった瓦礫には目もくれず、無事な石床に拳を振るった。

「破っ!!」

石床を打ち砕き、新たな巨大な瓦礫を作り出す。そしてそれを更に防戦一方だった黒白兄弟に向かって思い切り投げつけた。

それは速度は無いものの避けるには既に遅く、でか過ぎた為に、さすがの黒白兄弟も片手だけでは塞ぎ切れず、両手を頭上に掲げた。そこをネジは見逃さなかった。

つかず離れず近くに位置していたネジは、すぐにその隙を見誤る事無く懐深くに飛び込んだ。

「絶招・八門崩撃!!!」

硬くなった皮膚に点穴が深く入るか判断に迷ったネジは、八卦六十四掌よりも確実に入るだろうこの技を選んだ。

「(やったかッ?!)」

一瞬、黒白兄弟の動きが止まる。

だが、それだけだった。そのことに、術の失敗を悟ったネジはすぐにそこを退いた。

普通の人間の経絡系に存在するべき八門とは違った為か、上手く入らなかったようだ。それを口惜しげに睨みつけ、折角の好機を不意にしてしまったことを悔やんだ。

「何やってる!避けろ!!」

その間に、いつの間に巨石を放り投げたのか、その腕は自由だ。白眼で視なくても分かる。すべてを凍らせる霧が降って来る。
すぐに足を動かすが、それでも霧の範囲から外れるには距離が足りない。ネジは思わず覚悟を決めた。

が、いくら立ってもその腕が振るわれることは無かった。

「!!?」

何が起こっているのか、まじまじと見ると、足元には細い影が伸びている。そしてその背後に佇む見慣れた姿に、思わずネジは名を呼んだ。

「シカマル!!」

「ぎり・・セーフ・・・ッ」

その顔は今だ青褪めてはいたが、地にしっかりと足を着け立ち上がっていた。

「もう大丈夫なのか?!」

「ッそれ、よりも・・早く。あまり持たねぇ・・・」

「だが、」

「これは、オレの推測だが・・・2つの心臓が、鍵だ。さっきのを見てたが、恐らく片方の心臓には効いていた、筈だ。だから、同時に打ち込めば・・」

「2つの心臓だな・・――――分かった。タイミングを合わせてくれ!」

「ッああ!」

ネジとシカマルの二人の息を合わせる。

「「いち、にの・・さんッ!!」」

両足に力を込め、両掌からチャクラが放たれる柔拳に合わせ、シカマルの影がスッと引いていく。

大量の汗がネジの身体を流れる。


「(あと少し・・・届いてくれッ!!!)」


だが、片方の心臓にチャクラが到達し、動きを止めたのを白眼で視認したと思った次の瞬間。ネジは驚愕することとなる。

「バカなッ・・・・」

そう、確かにこの眼で”魂”と書かれた方の心臓を駄目にしたのを確認した。片方ももうすぐだ。しかし・・それよりも前に、もう片方の”魄”の文字が赤く怪しくも禍々しく輝きだした。と同時に、魂の文字も淡く発光し出す。それはまるで、もう片方から力を注がれたかの如く力を吹き返していく。

そして、動き出す2つの心臓――――

『・・・我ラ兄弟は、フタリで一つ・・オ前の術ナド効かヌ』

今度こそ駄目だと思ったネジ。シカマルも背後で固唾を呑んだ。






「――――なら、一つが駄目なら二つ同時に打ち込んだらどうなるんだろうな?」


ネジの背後から腕が伸びる。それと共に掛かったどこか不遜な声。久しぶりに聞いたようなそれを、だがネジとシカマルの二人は呆気に取られたように聞いていた。




「「ッ・・・・ナルト!!!」」
















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