木の葉に忍び込もうとしていた他里の忍を始末した黒い影。
その影は付けていた面を、そっと外した。
そこから現れたのは、冷たい光を帯びた―――美しい、蒼の双眸。
その瞳は冷たくも恐ろしい冷酷な光を宿していた。
「・・馬鹿な奴ら・・・」
ポツリと呟かれた言葉は、<火の森>に、溶けて消えた。
その言葉には、蔑みと憐憫、そしてわずかな悲しみともつかぬ情が籠められていた。
影は徐に骸へ手を翳すと、その手を軽く振るった。
―――すると。骸は青白い炎に包まれ、後には何もなかったかのように・・跡形もなく、消えた。
そこにあるのは、いつも通りの森だけだった。
『 死神 の 涙―壱 』
「・・鼠・・・か。」
火の森にわずかな気配を感じたナルトは、侵入者を始末するため、いつものようにすぐさま森へと向かった。
そこに居たのは、他里の者と思われる数人の忍達だった。
どうせ木の葉から情報を盗もうとしてるんだろ・・。最近、周りがざわついてるからなぁ。
ナルトは彼らが潜んでいる場所に、気配も音もなく近づき、紡ぎ糸〈チャクラで物質化した糸〉を使って瞬く間に敵を一掃した。
彼らは、自分たちが殺されたことにも気付かずに崩れ落ちていく。脆くも、呆気ない終りだった。
そして。それらが跡形もなく燃え尽きるのを、黒い影・・いや――ナルトは、ただ黙って見つめていた。
――――その時、ふと感じた気配。
(ちッ・・・・面を外すんじゃなかった。木の葉だからと思って油断したな。めんどくさいけど・・素顔を見られた以上、殺すしかないよなぁ・・・。)
顔を見られたからには放っておく訳にも行かず、ナルトは仕方なしに気配の方を振り向いた。
「・・・・・誰だ。」
軽く殺気を放ち、誰何を問う。
ナルトの問い掛けに、気配が揺らいだ。
まるで出るべきかを迷っているかのように・・・
ナルトは再度問いかける。
「もう一度聞く。誰だ?」
答えはない。
しかし、どうやらこの気配は見知ったもののようだった。
??知り合いか・・・?
ナルトはおぼろげな記憶を辿る。そして、答えを見つけた。
「・・・・・この気配は・・日向ネジ、か。」
名前を言い当てられたのに観念したのか気配の主、ネジは隠れていた繁みから姿を現した。
驚愕に目を見開いて、こちらを凝視するネジ。
「・・・ぉ、前は・・ナ・・ルト?」
疑問系に呟かれた言葉に、ナルトは低く哂う。
「くくッ・・・それ以外に、お前の目にはどう見える?」
「ッ・・だが!!しかしナルトはっ・・・」
ネジの言いたいことが、ナルトにはハッキリと分かった。
「ドベで落ちこぼれの役立たず?」
どうせネジが考えているだろうことを、そのまま言ってやった。
「・・そのはず、だ。」
思っていたことをそっくり返され、ネジは弱々しげに答える。
「それが演技だとも知らず・・馬鹿な奴ら。」
「・・・・・」
ナルトの馬鹿にしたような台詞に、ネジは何も答えられない。騙される方が馬鹿なのだ。自分より下だと思っていた少年が、実は自分以上の力を持っていたことに唇をかみ締める。
悔しげに唇をかみ締めるネジを、ナルトは冷たい眼で見つめていた。
「・・ふん、まあいい。さて・・・お前・・どうしようか?何といっても日向だし、殺すのはまずいか・・・・。うん!やっぱり、ここは記憶隠蔽ってことにしておくかな☆」
(まぁ、これが妥当な線だろう。なにより、日向とはまったくの無関係ともいえないしなぁ・・。)
暢気にそんな事を考えるナルト。しかし、ネジにしたらたまったものじゃない。物騒な事を、さも楽しげに言うナルトに、ギョッとして俯けていた顔を勢いよく上げた。
そしてふと目に入ったのは、暗部でも珍しい。
――――― 狐の面 ―
「そ、その面は・・・」
そう言ってナルトの持っている面を指差す。今までネジは、曝されたナルトの顔にばかりに眼がいっていたため気付かなかったのだ。
ネジの眼が自分の持つ面にいったのに気付くと、ナルトはニヤリと笑った。
「へぇ・・知ってるんだ。」
「じゃぁっ、お前が・・・
――――――”死神ッ!!!”」