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[7336] カオスで混沌 [三月十七日完結]
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/03/17 17:46
 初めましての方は初めまして。
 お久しぶりの方はお久しぶりです……といっても、すいません。
 昨日最後に投稿したばっかりなので、それほど時間はたっていませんね?
 作者……時間がなくなるので前作一応の完結をもって打ち切ってしまったのですが……こらえ性のない作者……フッと思い浮かんだ話を書いてみたくてしょうがなくなりまた書き出してしまいました。
 でも……どうしよう……本当に時間ない。
 ですので……前と同じような更新は出来ないですし、完結までどれだけの時間がかかる変わりませんが、また投稿させていただきます。
 目指すは一週間に一話ペース。
 もし……興味を少しでも抱いていただける方がいらっしゃいましたら、ぜひ読んでやってください。





 ちなみに今回の作品は前作までとは全く違うものとなります。
 異世界ファンタジーでダンジョン関係ですね。
 運営とかそういうのとは少し違うと思いますが……似たようなものになるかもしれません……、今のところ作者の考えでは少し微妙に違うような? といった感じです。
 書いてるうちにどうなっていくかは……解りません、すいません。
 そして、今までの作品と同じように、全て作者の脳内によるご都合主義万歳で房二病も交じったような作品です。
 何か……色々すいませんが……それでも勘弁していただける方は是非読んでやってください。



[7336] カオスで混沌 プロローグ
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/03/13 00:02
     プロローグ~僕はしがない経営者♪~





   『パチパチっとあちこちから火花がでていた。 それは村に放たれた火矢が家や人を燃やしているからだった。 僕の目の前では両親だった二人が静かに血を流しながら火に焼かれていったんだ。 ……そう、僕の村は盗賊どもに襲われた。僕がまだ三歳くらいの頃だ。 運よく助かった僕は一夜明け、黒い墨の家であった物と人であった者を茫然と眺めていた。 他にどうしていいか解らなかったんだ。 それから……二日ほど……いや実際には何日たったかなんて覚えていない。 どれだけたったか解らないけど、その滅んだ村だった場所に一人の騎士が来たんだよ。』

  「ック! 間に合わなかったのか……っっ! まだ生存者がいたのか! 大丈夫か!?」

   『騎士はそう言って僕を抱きしめて涙していた。 助けに来たものの間に合わなかったからだって今なら解る。 だけどそのときの僕にはそんな事解らずにまた盗賊が遅いに来たのかと思って逃げ出そうとしたんだ。 だけどその騎士に抱きしめられてそれが出来なくなった。 だから必死に暴れたんだけどその騎士は僕を離さず延々と謝り続けていた。 そこで僕は漸く気付いたんだ、この人は違うって……。 それから僕はその人に連れられてこの場所に来た。 騎士が僕に色々と教えてくれた。 生きる方法、働く方法、死なない方法。 色々だ。 でも結局その騎士も僕を助けた事が命令違反だってことでしばらくして殺された。 僕も殺されそうになったけど騎士に教わった生きる為の方法と、死なないための方法を駆使して何とか助かったんだ。 そして今……こうして僕は君たちの前にいる事が出来る……。 そんな……つまらない何処にでもある話さ。 すまないね、君たちに聞かせるような話じゃなかった……だけど、どうしても誰かに聞いてほしかったんだ。 君たちは気にしないでいいさ、忘れてくれ。』

  「そんな! 申し訳ありませんでした! 私たち何も知らずに変な事を言ってしまって……。」

  「本当にすいません! そんな事情があっただなんて……知らなかったから……いえ、知らなかったからって許されないですよね……どうすれば、どうすれば許していただけますか?」

 目の前には僕の見せに買い物に来た二人の女性冒険者が酷く悲しい顔を見せながら僕にそう言ってくる。 
 彼女たちは僕の店に入るなり、僕の店を見て酷く罵倒したのだ。 
 曰く汚い、曰く辛気臭い、曰く両親の顔が見てみたい。 とね? 
 だから僕は”昔話”をしてあげたって訳さ。

   『ははは、気にすることはないさ。 君たちが悪かったことなんて何もないんだ。 そうだね……それでもどうしても気になるというのであれば、どうだろう……決して安くはないけど家の店の物を少し買っていってくれないかな?』

  「そんな事でいいのであれば!」

  「はい、是非買わせていただきます!」

 僕の話を聞いてきっと少し”昔話”に共感を覚えてしまったんだね? いい人達だ僕の店の商品を買ってくれるなんて……。

   『……ありがとう。 君たちみたいな……っあ!?』

  「ふ~ん、あんたの両親ってそんな死に方してたんだぁ? 私知らなかったなぁ。 “五歳の頃”から一緒にいるのに全然知らなかったよ。 だって……いっつもあんたの“両親”と一緒にあんたをとっちめてたんだからねぇ。 そうかそうか、そんな悲しい過去を持っていたんだね? 私はその騎士とやらを”一度も“見たことないけどさ。 ん、ごめんね? 全然気付かないで……。 それで……遺言は考えておいたかしら?」

 さて売ろう……そうした瞬間その彼女たちの背後から見覚えのありすぎる女性が現われて、そう言い放った。 
 俗に言う幼馴染と呼ばれる関係の女性だ。 
 ……今の僕には頬を引き攣らせながら微笑む鬼にしか見えない……。 
 無駄に綺麗だから映える分余計に怖い……。

   『いやいや、ちょっと待ってくれたまえ!? なに、ちょっとしたジョークじゃないか? あ、あはは、嫌だなぁ、間に受けちゃって? 解ってるだろう? ジョークだジョーク!? 嫌、本当だって! こんな嘘ついて人さまに高額な商品売り付けようだなんて全然思ってなかったよ? ってっあ! い、いやいや、本当だって、思ってないって。 幼馴染の仲じゃないか、信じてくれよ! だめ? 本気で? ああ……そうですよね~。 だめですよね~。 ならせめて最後に君の体をあz………ぐへらっ!?』

 僕は最後の望みを言おうとした瞬間その幼馴染に殴り飛ばされた。 
 彼女は武闘士、その拳は凶器ですよ? そんな物で殴られた僕は見事壁と熱い抱擁を交わし、頭から血を流す結果になったって訳さ☆

  「ほっんとうにごめんね? こいつの話は全部嘘だからさ、あんたらも気にする必要なんてないんだよ。 本当にごめんね? 達の悪い野良犬に引っ掛かったと思って勘弁してやってよ。 この通り。 こいつもこの通り反省してるからさ!」

 此処で声を出さなければさらなる制裁が加わるのは長年の経験上明らか! だから頑張ったね。 
 身体はもうあちこち悲鳴を上げて動かないんでその場で微動だにせず声だけで謝ることにしたんだ。

   『は……い。 反省しております……。 だから許して……いっそ殺してくださいっっ!?』

  「……い、いいえ、そ、それほど気にしていません。 だから……あの……病院に連れていったほうがよろしいのではないですか?」

  「し、死んじゃいますよ? 頭からあんなに血が……。 ご、ごめんなさい!」

 ああ……何てやさしいお言葉を! と思ったらそのまま逃げちゃった……。

   『あ、ああっ! た、助けて……せめてこの人から解放するか、病院につれて……っあ! い、いやいや、ごめんなさい! つい口が滑って……じゃなくてっぇぇぇぇぐへっ!?』


 次の瞬間僕はさらなる一撃をブローに頂き、意識を手放してしまった……。





 僕が目を覚ましたのは次の日のもう昼にさしかかるといったような時間帯だった。 
 彼女は既に帰ったらしい……当たり前か。 
 机の上には一枚の紙が置いてあるだけだ……って紙? 確か……気絶する前までなかったはずだから……彼女がおいてったのか? 
 そう思って僕はその紙に書かれている内容を見て……絶句した。 
 いや、っていうか……本気(マジ)で?

   『明日の昼十二時を以てその店の権利は私のものになるからね~。 自分の荷物まとめてそれまでに出て行きなさいよ。 店のものに手……出したら……解ってるわね(ニッコリ)。 ああでもそこにある何時もあんたが手放さなかった本だけは譲ってあげる。 選別よ? 土下座して頭が砕けるほど感謝しなさい。 それじゃあ急ぐのよ。 私が来るまでにいなくなってなかったら……殺す。 ……なぁんてね? ふふふ。』

 ……。 
 奴ならやる。 本気で殺る!? 
 じ、時間は今!? ……じゅ、十一時……五十分……? 後十分で……後十分でどないしろっていうんじゃぁぁぁぁ!? 
 あぁぁぁ、と、とりあえず財布と本と衣服だけは急いでまとめないとっ!? 武器? んなもん僕が持ってる訳ないでしょう!? って僕誰と話してるの!? とうとう電波拾うまでになっちゃった? ってだから急げ急げ!?

   『ズサ……ズサ……ズサ……。』

 き、きぃぃたぁぁぁぁ!? 
 来ちゃった、荷物は十分か? 解らん!? とにかく逃げろ!

 こうして……僕は自分の店を追い出され、あてもない旅に出ることになった。 
 あの紙の横に権利書とそれに書かれた幼馴染の名前があったから……あれは本当の事だったってのは解る。 
 けど……幼馴染にこれほど酷い扱いをされる謂れなど……ないとは言い切れないけど、酷いと思うよ? とりあえず……雨風防げるところを探そう……街には……もういられないっぽいなぁ。 
 此処までするのか幼馴染よ? 
 街の宿屋に行けば汚いゴキブリを相手するようにいきなり殺されそうになるし、街長に相談しに行けば、見た瞬間に魔法を撃たれて水死しそうになるし、街を歩いてるだけで街の住人に石を投げられる……。 
 僕そんなに悪い事し……てるんだよね? きっと……。 
 でも……少し嘘ついて物を高く売っただけでしょう? ……まぁその結果その冒険者が街で幾度となく暴れたのは……僕のせいも少しはあったかもしれないけど、全部そうじゃないでしょう? 街の入り口でこんな街出てってやるとか冗談で叫んだら大歓声の下見送られたよ。 
 泣いていいよね? むしろ泣くところだよね!? ……そして僕はとぼとぼと街を後にしたんだ……。 
 ちっくしょうぅぅぅぅ! 何時か……何時か仕返ししてぇやるぅからなぁぁぁぁ!?



[7336] カオスで混沌 第一話
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/03/13 00:03
     第一話~偶然でも感謝しよう……でもちょっと待って!?~





 偶然だった。 
 類まれない幸運の下訪れた偶然。 
 雨風防げそうな洞穴か何かがないかと探していた所、目の前に洞窟があったのだ。 
 丁度地震で地崩れが起き、落ちたそのひび割れの下でだ。
 それも落ちた所には何故か草が生えていたのも……きっと日ごろの行いがいい僕へのご褒美だったのだろう。 
 とりあえず僕は雨風防げそうなその洞窟の中に入ってみることにしたんだ。

   『ゾクッ!?』

 次の瞬間僕の背中に物凄い冷たさが走った。 
 何て言うか絶対零度で出来たような氷柱を背中ににある神経に直接ブッ刺されたような冷たさ? 
 うん、自分で言ってても全然意味が解らないけどとにかく冷たいものが走ったんだよ。 
 それで此処は危険だと思って引き返してみた……んだけど……僕が落ちたそこは、その洞窟以外行く場所がなかった。 
 左……一メートル先は壁でした。 右……同じく一メートル先が壁。 後ろ……おな(ry
 そして目の前にあるのがこの洞窟……。 
 諦めて一歩踏み入れるとやはり先ほどと同じ背筋に冷たいものが走った。 
 ああ……嫌だ……嫌だけど外の壁上るのなんて不可能だし此処行くしかないんだね? 
 僕は覚悟を決めてそろそろぉ~っとその洞窟を奥へ奥へと進むことにした。 
 しばらく進むと目の前にとても綺麗な透明な宝石が宙に浮いていた。 
 俗に言うクリスタルっていう奴だね? 

 ラッキー!? 

 僕はそれを見た瞬間小躍りしながら飛び付いた。 
 思いっきりだきしめるようにね? 
 だってさ、僕この後こんなことになるだなんて全く予想だにしてなかったんだから仕方ないだろう? 
 次の瞬間そのクリスタルは突然ピンク色に変わると真っ赤になって真っ白な光を放った。
 そして僕は……いつの間にかよくわからない上下左右の感覚が全くない場所に居た……居たんだ、立ってる訳でもなく座っているわけでもない、唯その場所に居るだけ。
 酷く居心地が悪い。 
 そんな風に夢なら早く覚めろと叫んでいると、突然声がかかった訳さね。

  「私に突然抱きつくような無礼を働いたの汝だな? とりあえず……死んでおこうか?」

 そう言ってその声の方を見ると、もう……人間とは思えないほどの絶世の美女。 
 ……いや、美幼女? 
 これだけの綺麗さというか可愛さというか、もう何て言うかよくわからない魅力があるのであれば僕はロリコンでもいいかもしれない! そう思えるほどの美幼女だった。 
 その髪はどういう原理か解らないけど、薄い青色でその一本一本まで何処までも隙なく流れている腰下までの髪、それと同じ色で透明感のある瞳。 
 それだけで……もう僕は彼女から目をそらせなくなっていた。 
 そして……「死んでおこうか?」とか言われていたにも関わらず僕はそんなことも忘れて思わずこう呟いていた……。 
 いや、僕も無意識にだった訳だよ。

  「……綺麗だ……可愛い……人じゃ……ないみたいだ……。」

 とね? だけど……この思わず放った呟きが僕の命を救った。

  「っっ! わ、私が可愛い? 綺麗? ほ、本当!?」

 彼女は僕の呟きを聞いた瞬間、急に顔を真っ赤にして振り上げていた腕を下ろすと僕に詰め寄ってきた。 
 まくしてたるようにそう言いながら、僕に詰め寄る彼女に呆気にとられ頷くと嬉しそうに頬に手を当てていやいや! といった感じに首を振り始めた。

  「どうしよう、どうしよう。 私の事綺麗だって。 可愛いって言ってくれたよ? 初めて……初めてだよ。 ドキドキする……そっか、これが……これが恋をするってことなの? 愛するってことなの? ううん、きっとじゃないわ、間違いない! これがそうなのね! 私は……彼に恋をして愛を抱いたんだわ!?」

 どうしよう……物凄い電波っ娘だったんだ。 
 これだけ魅力的な彼女でも……そんな娘とは余りお近づきになりたくないです。 
 でも……彼女何故か僕に向かって物凄く熱い視線を投げかけてくる。 
 ……やばい?

  「……ね、ねぇ? あなたのお名前何て言うのですか? っあ、わ、私はレイ……レイ=インドラっていいます。」

 そんな感じで普通の娘のような自己紹介をされてしまったせいと、未だ混乱の真っ最中にあった僕の素敵な脳細胞は馬鹿なことに普通に自己紹介をしてしまったんだよね。
 これにまさかあんな意味があるだなんて知る由もなくさ……。

  「えっと……僕は、ダーク=ボトムです……。」

  「はい……ダーク様……これより私は貴方が僕、貴方が半身として常に傍にありましょう。 此処に契約は完了いたしました。 我レイ=インドラは汝ダーク=ボトムの生として共に生き、共に死ぬ事を……。 ここに……交わりは完了しました! これからよろしくお願いします旦那様!」

 ……まさかこんなことになるなんて誰も思わないよね? ってか何事よこれ!? 
 契約ってなに? 旦那さまって一体何事よっ!? 
 混乱此処に極まれり!

  「どどどどどど、どいうこと? な、契約って何? 旦那様って……?」

 混乱しまくってる僕はとり合えず、目の前で幸せそうに微笑んでいる女性……レイといってたよね? 彼女にそう声をかける。 
 彼女は嬉しそうな表情のまま素直に今何が起こったのかを話して行ってくれた。
 ……けど、けどさぁぁぁ!?

  「精霊ぃぃぃぃぃぃ!? そんな……そんな存在架空の世界……妄想の世界の中だけでしょぉぉ!? 何で現実世界にいるんですかぁ! ってか何でそんな素敵存在が僕なんかと契約なんて結んでやがりますか? 罠ですか? 命を絞るとる罠ですか? それでもいいからいそれならいっそ苦しくないように一瞬で殺してぇぇぇぇ!?」

 混乱してる僕。 
 うん、仕方ない。 
 だっていきなり彼女、自分は精霊だって言って、今行ったのは契約の儀式だって言ったんだ。
 そして契約を交わしたものは永遠にその契約を交わしたものと添い遂げなければいけないんだってさ……。 
 つまり永遠に死ぬまで僕の命を吸い続けるってことでしょう? 
 混乱してる僕はそう勘違いをして叫んでいた訳だ。 
 余りにも僕が混乱して勘違いしていたので、見かねたんだろう、彼女は僕のそばまでよると暴れまわる僕の頭を抱えて胸に抱きしめた。 
 うん、少しってか胸……全くないね? 混乱してる頭でもそんなこと考える僕の脳細胞に万歳! 
 そんな馬鹿な事を考えてる僕に向かって、次の瞬間彼女の口から今まで聞いた事のないような言語の言葉が囁かれた。
 いや……聞いた事のない言語の歌だな、これは。 
 唯……聞いているだけでだんだん落ち着いてくる。 

 ああ……いい気持ちだ……。 

 どれだけの間そうしていたんだろう、気付くと心穏やかな状態で僕は彼女の膝の上で眠っていた。 
 そして、起きた僕にまた色々と説明してくれた。

  「つまりですね、私たち聖霊は一生に一度だけ契約を交えます。 大概はそれは精霊同士での契約なのですが、偶に私のようにダーク様のような人間と契約を交わす者もいるんです。 そして精霊にとってこの契約は人間で言う結婚式と同じようなもので、少し違うのは決して違える事が出来ず、破棄することができないということくらいですね。 人間で言う離婚っていうんですか? あれが出来ないだけなので全く問題ありませんよね? 離婚? と同じような事が起きるときは死ぬときだけですから。 そして、此処は私の家なんです。 これからはダーク様の家でもあります。 この辺一帯全て私の住む家の範囲ですので、お好きなようにお使いください。 望むのであれば街を作ることもできますし、ダンジョンなどの遊具を作ることも可能ですよ。 ダーク様が望んでくだされば全て私がやって見せます。 何せ……私の旦那様なんですからねっ!」

 話してる間中僕の瞳をじぃっと見つめ、最後の旦那様発言するときにははたから見ていれば微笑ましいなぁ~的なかわいらしいしぐさもしていた。 
 だけど当の本人になった僕には……普通にそう見えました。 

 はい、すいません。 

 僕……実際今まで女性に縁が全くなかったのでぶっちゃけ超ラッキーとか思ってます。 
 相手が人間じゃない? だからなんだ! 
 素敵であれば問題ない! 
 相手が幼女だ? 関係ない! 
 今から僕はロリコンになろう! 
 これだけ魅力がある彼女だいくらでも欲情できる……できるはずだ! きっと……。 
 だから今は……偶然でもこんな幸運に巡り合えた事に感謝しよう! 
 そう思った矢先に何か雰囲気の変わった彼女の言葉が聞こえた。

  「そう……私の旦那様……ただ唯一私だけの旦那様。 ……そして私は旦那様だけの私。 そう、ただ唯一の存在たる二人なのよ。 だから……私たちの間に入る輩は全て■してやる……。 旦那様に手をだす輩■してやる。 旦那様を傷つける輩は■してやる。 その存在が輪廻から外れるまでその魂ごと滅してやる……。 ああ、私だけの旦那様……絶対にお守りして見せます……永遠に……永遠に……フフフ。 フフフフフフフッ!」

 あーやっぱり今言った言葉撤回しても良いですか? ダメですかそうですか……。 
 すっかり忘れてた電波っ娘だったのを……。 
 こうして……僕はヤンデレって言葉が超似合う妻を手に入れたわけさ。 
 ヤンデレってか、ヤンヤンヤンデレって感じ? 自分でも言っててよくわからないけど……とにかく扱いようによってはとてつもなく危ない妻だという事だけは解った。 
 だから……殺されないよう頑張ろうと思うんだ……。
 グスン。



[7336] カオスで混沌 第二話
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/03/13 10:29
     第二話~あれ?もしかして……普段は結構普通? ってか凄くいい娘?~





 僕は死の恐怖に駆られながらも、持ち前の図太い神経で其の夜は直ぐに眠りに落ちた。
 だって予想以上に疲れていたんだって。
 突然街を追い出され、森の中歩いてると地震が起きて転落。
 そして危機感溢れる洞窟を緊張しながら進んだんだからさ。
 そして、一夜明けた今、目の前には嬉しそうに微笑み朝食の準備をしおえ、僕が起きるのを待っていたレイが居た。
 思わず飛びつきそうになったけど、寝る前に聞いた言葉を思い出して思いとどまった。
 ……それでも見た目の魅力あふれる彼女を目の前にして理性を押さえるのは大変だったよ。
 とりあえず、少しの間葛藤に苛まれながらも辛い勝利をおさめた理性のおかげで、何とか平静を取り戻した僕は、「おはようございます。」といって彼女に挨拶をした。

  「おはようございます。 旦那様。 お口に合うかどうか解りませんが朝食を準備させていただきました。 どうぞお召し上がりください……っあ? 申し訳ありません! 先に身なりを整えてからですよね……。 つい嬉しくて……少し先走ってしまいました……。 すいません。」

 …………や、やばいよ?
 これはやばい。
 何がやばいって可愛すぎるのがひたすらやばい。
 ってかこれわざとやってるなら僕はもう、騙されても良いかもしれない。
 今はまだ……彼女のこれが天然なのか、自作なのか解らない……のでとりあえず耐えろ僕!
 ひとまず身なりを整える為にその場から立ち上がると、一歩後ろを歩きながら何処に行けばいいのかと教えてくれる。
 その通り進むと洗面台が設置してあった……岩でできた洗面台みたいなものだけど。
 でも……昨日まで此処にこんなものなかったですよ?

  「はい、旦那様がお使いになると思い、昨夜のうちに用意しておきました……。 も、もしかしてご迷惑でしたか?」

 いやいや、そんな事がある訳ないですよ?
 とても感謝してますよ?
 でも……その行動力の源が少し怖いかなぁとか思ったけど僕はその事に関しては何も言わず、ただ「ありがとうございます。感謝してます。」と言ってそこを使わせてもらった。
 ……すげぇ、唯の岩で洗面台の形を整えただけかと思っていたらきちんと水まで出るよ。
 そんな感じでとりあえず身なりを整えて、彼女が用意した朝食を食べることにした。
 目の前に用意されたのはお肉と野菜とキノコのサラダ。 それに何かのスープだった。

  「申し訳ありません……。 出来ればパンかお米も用意したかったのですが、人の街を”襲う“時間がなかったもので……。 明日には必ずどこかの街から“持って“きますので今日はこれでお許しください。」

 ……はて? 僕の聞き間違いでしたかなぁ?
 今襲うやら持ってくるって言葉が聞こえた気がしたんですけど……普通行って、買ってくるじゃないんでしょうか?
 ……はい、解ってます、違うんですね? その言葉通りなんですね?
 いくら見た目素敵でもやっぱり中身は精霊様という事ですか。
 人間なんぞどうでもいいと? 僕……飽きたら殺される?
 一人そんな事に恐怖していると、精霊様が隣に寄り添って僕の口へその料理を運んでくる。
 ……これは俗に言う『あ~ん♪』ってやつですか? そうですか!
 僕はついさっきまで感じていた恐怖なんぞ何処へ追いやったのか、促されるまま頬をだらしなく緩ませて彼女の差し出す料理を口の中へ納めていった。
 旨い旨い。
 そんな感じでもう、はたから見たらラブラブで死ね! とか言われそうな光景を繰り広げながら朝食を終えた訳だ。
 お腹一杯になった僕は改めてこの洞窟がどうなっているのかを確認してみることにした。
 …………。
 ……………………。
 あら? この洞窟って……。

  「一本道の洞窟なのですか? この洞窟は……。」

 そう、僕が今呟いた通り一本道だった。
 レイが居た広間っぽい所から少し先に進むと直ぐに行き止まり。
 入り口からそこまではただひたすらの一本道。

  「はい、私が住む分には問題なかったもので……。 旦那様が望むような形へ作り変える事が出来ます! お好きなようにおっしゃってください。」

 僕が少しがっかりしたように呟いたせいなのか……? 彼女は酷く慌ててすいません! と言った感じでそう言ってきた。
 何だろう……彼女の態度を見てると勘違いしてしまいそうだ……。
 とりあえず……僕は恐る恐る「それじゃあ……。」と言った感じで一つお願いをしてみた。
 僕がお願いをするともうそれはとてもとても嬉しそうに微笑んで「直ぐに作り変えます!」といってまたあの僕の知らない言語で何かをささやき始めた。
 その言葉が終ると同時に目の前に半透明の何かが現われた。
 僕には半透明色の土色の靄のように見せる。
 彼女が言うには地の精霊で彼に僕のお願いを実行してもらうという事だ。
 僕のお願い……それは地上に出たい……というお願いだった。
 その土色の靄が彼女の言葉に頷くと、すぐさま目の前の行き止まりから階段状に僕が昇れるような地上までの出口を作ってくれた。
 ……凄い。
 凄い凄い!
 だってそれを地上まで作るのに数分もかかっていなかった!
 高さ的に僕の慎重よりも三倍はありそうだから五メートルくらいの高さがあるそれを、斜めに僕が昇れるように掘ったのか、どうしたのか解らないけどやってしまったのだ。
 僕はその光景に感動していると、レイが少し頬を膨らませて怖い事を呟いた。

  「旦那様のこんなお顔初めて……素敵……。 けど、あの地の精霊……調子に乗りすぎね……■そうかしら……。」

 その言葉が聞こえた瞬間一瞬で正気に戻ったね。
 だって、彼女かわいらしく少し膨れたような感じに見えて、その実……眼が全く笑ってないんだもん。
 とっさに無謀にもこんな事を行った僕を皆、褒め称えてしい!

  「だ、だめだよ! 絶対だめ! 殺すとか滅するとか絶対だめ! お願いだから絶対しないで!」

 とね? いやぁ……正気に戻ったと思ったけど思いっきりパニくってたんだね。
 彼女にそんな事を行ってしまえたんだからさ……自分の身だって危ないってのに。
 でお彼女は次の瞬間怯えたように僕を見て、抱きつきながら泣き出した。
 な、何事でぇぃすかぁ!?

  「ご、ごめんなさい! ごめんなさいごめんなさい! 絶対言う事聞きます! だから、だから嫌わないで! 怒らないで! ごめんなさいごめんなさい……。」

 そう言って僕に抱きつきながら謝り、泣き続ける彼女。
 ……う~ん。
 どうしよう……?
 何で僕、彼女にこれほどまで依存されてます?
 僕が少しきつい口調でそういっただけでこれほどまでの激反応。
 少々大げさな気がするけど……ああそうか、彼女どうしてか解らないけど本当に僕が好きなのか……。
 そして昨日僕が思った通りヤンデレって属性なんですね? それだと話が解ります。
 というより、これ以上理解不能が続くと僕の素敵な脳細胞が限界を迎えそうなのでそういう事にしておきます。
 ……ヤンデレの精霊に愛された僕。
 ああ、最初の単語がなければ物凄く素敵な響きになるのに……凄いな、その単語だけで全く素敵な響きに聞こえなくなったよ。
 でも、でもさ。
 僕達一応契約っての結んじゃったんだよね。
 なら……僕一勝彼女から離れられない訳ですか……そうですか。
 ……まぁ……いっか。
 僕、生きててもきっと一生彼女とかそういうの出来る事なかっただろうし、それなら時々こうやって可笑しくなっちゃうけど、さっきまでの様子見ると普段は物凄く素敵な娘っぽいし、話を聞いたり本で読んだりした限り、ヤンデレの娘って大概相手を殺して自分も死ぬか、相手に近づく他者を殺してでも相手を独り占めするといった感じだから……前者にならないようにすれば命の危機も……多少減るだろう。
 ……そうだといいなぁ。
 とりあえず……泣き続ける彼女に「大丈夫、絶対に嫌ったりしません。 だから泣きやんでください。」と、やはりどうしても恐怖があるせいか敬語になってしまうその口調であやしていく。
 しばらく泣き続けた彼女だったが、少しして「本当ですか?」と涙を瞳に貯めたままチラっと見上げられた訳だよ。
 アウトだよね?
 解るかい? 解るよね!
 これで堕ちなきゃ漢じゃねぇ!
 というわけで、あっさりそんな彼女に改めてハートをわしづかみにされた僕は、抱きしめたまま「本当だよ。 絶対の絶対だ。」等と言いながら彼女をあやした。
 その結果泣きやんでくれたのは良いんだけど、彼女真っ赤になって力が抜けてしまったように僕にしなだれかかってくる。
 ……やめて、これ以上僕の理性を刺激するのはやめて!
 もう既にライフはゼロよ!
 等と叫びたいにも叫べず、僕は彼女を抱きあげ、地上に出たいのをひとまず我慢して広場まで戻った。
 僕が寝ていた処に彼女を寝かせると、僕の手を話さない彼女がいた。
 どうしたものかと彼女を見ると、もう、成熟したトマト異常に真っ赤に頬を染める彼女が、もじもじと何か言いたそうにしていた。
 ……だぁから、やばいっての!
 そういう動作一つ一つが絵になるどころじゃないほど魅力を僕に伝えてくるんだって!
 お願いだから勘弁してください……。
 僕……理性吹っ飛んで襲っちゃいそうですよ?
 等と頑張って理性で欲望を抑え込んでいたというのに彼女の一言ですべて台無しになった。

  「だ、旦那様ぁ……。 や、やさしく……初めてだから、やさしく……してほしいです……。 っあ……で、でも、旦那様が望むなら滅茶苦茶にしてくれても良いです……。 旦那様ぁ。」

 と真っ赤にもじもじしながら、毛布に顔半分かくして言い放った。
 うん。
 解る解る。
 僕は悪くない。
 大丈夫……ダイジョウブ……。
 そうして……僕の理性は跡かたもなく吹っ飛んだ訳さ☆
 それからどうなったかって?
 言わなくたって解るだろう?
 ああ、いくらでもその罵詈雑言をうけようではないか!
 鬼畜だろうがロリコンだろうが、外道だろうがな!
 今僕は満足の真っただ中にいるんだ、後悔なんぞしていない!
 ……後悔するのは一晩明けて眼がさめてからだ……だから今だけはせめて満足したままいさせてくれよ……。
 何があったかは敢えて何も言わないが、次の日起きると彼女は内またになりながら少し頬笑み、「何か違和感あります。」と言っていたとだけ言っておこう。
 ……僕は悪くない!
 …………そう………そうだよね?



[7336] カオスで混沌 第三話
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/03/13 18:11
     第三話~金……金が必要なんだぁぁぁ!多くの人の命を救うため!~





 うん、とりあえず急いでお金を手に入れないとやばいね。
 レイがお金ありませんから、盗ってきますね、とか言っていたんでこれはいけないと思い、急いで金策をするために僕の素敵な脳細胞をフル回転させている訳さ。
 ……彼女の場合、下手したら死人が出るっぽいからなぁ……それだけは避けねば。
 人が死ぬところなんて見たくないし、僕のせいで間接的にでも人が死ぬのはいただけない。
 だから今のところ必死になって止めています。
 まぁ彼女は僕の言う事であれば比較的……いや、絶対的に言う事を聞いてくれるので必死になって……というのは少し可笑しいかもしれないけど。
 とりあえず……どうしようかと考えている時、最初に彼女が説明してくれた時の話を思い出した。

  『……望むのであれば街を作ることもできますし、ダンジョンなどの遊具を作ることも可能ですよ。」

 確かこう言っていた。
 街を作る……それはそれでいいかもしれないけど……追い出された時のように乗っ取られると怖いので却下。
 ……そのときの彼女がどれだけ暴れるかが想像できない……。
 という事で僕が注目したのはもう一つのほう。
 ダンジョン。
 そうダンジョンだ。
 この洞窟、驚くことに僕の住んでいた街と物凄く近い。
 歩いて二十分くらいしかかからないような距離だ。
 まぁ……入り口ないけどね?
 今僕が居る場所が、それくらいの距離にある地面の下だって言うだけだ。
 だけど、昨日やってくれたみたいに土の精霊に頼んで入り口を作ってもらえば問題ないんじゃないか?
 彼女だって好きなように作り変えられるって言ってたしね。
 ダンジョン作って、適当に噂流して、宝がある事を証明さえすれば後は自然と人は集まる。
 ……最初入り口で入場料をとろうかなぁ程度の考えで考えていたんだけど、普通に考えてそんなダンジョンに入るような変な輩はそうそう居ないだろう。
 ならば……ダンジョン内で店を開きつつ、中で力尽きた冒険者の身ぐるみ頂けばいいんじゃないかと思いついた。
 ただ……その場合の問題点は相手を殺してしまうという事だ。
 僕は人であろうと何であろうと直接的にも間接的にも手を下したくない。
 そんなことで悩んでいたんだけど僕の素敵な脳細胞じゃ答えを出すこと出来なかったんで、彼女に試しに駄目もとで聞いてみた。
 不思議そうに「何でそのようなめんどくさい事を行うのですか?」というような事を言ってきたけど、僕がそういうのが嫌だからと言えば素直にうなづいて、ならば……と駄目もとで聞いたことに可能だという答えを返してくれた。
 ……言ってみるもんだねぇ。
 どうやら彼女より力が下のモンスターであれば従える事が出来、この洞窟全体に一定以上のダメージを負うと自動的に転送させるような魔法をかける事が出来るという。
 そして転送させる場所はある程度自由に設定できるが、五か所までだという。
 五か所も必要ないので、とりあえず、僕の住んでいた街のすぐ近くの休憩所に設定できるか聞いた見たら問題ないという答えが。
 もう一つ、彼女が従えるモンスターも死ぬところなんて見たくないので、危なくなったときに避難できる部屋を作って、その部屋に転送するようにしてほしいと言ったらこっちも問題なく大丈夫だという事だ。
 それも思わず僕ですら呟いてしまったほどのご都合主義万歳な効果まで付いているという事だ。
 その転送された場合、所持しているお金、またはアイテムや装備品の一部をその魔法をかけた者の所に贈られるという素敵な効果が付いていた。
 ああもう、ご都合主義万歳!
 僕そういうの好きだよ!
 嬉しそうにそうはしゃいでいると、好きという言葉に反応して彼女が真っ赤になった。
 うん、こうして見てると可愛いんだけどなぁ……はぁ。
 僕が問題としていた最大のところが解決したので、彼女にダンジョンを作ってそういう風にしたいんだ……という話をしてみた。
 最初どうしてそんなめんどくさい事するんですか? みたいな感じで見てきたけど「レイ……君だけが頼りなんだ。 僕には君しか頼れない……出来ないかな?」と言ったら、眼の色変えてさっそく色々やってくれた。
 うん、本当にいい娘だなぁ。
 ……僕、何かだんだん彼女の扱いに慣れてきたような気がするよ。
 通常時限定だけどね……。
 とりあえず、一つ作るごとに僕のところに来て凄い何か期待してるような感じで話しかけてくる彼女……酷く解りやすいね?
 だからとりあえず大げさに感謝しながら抱きしめたり、頭をなでたり、時々キスとかしたりしていただけで次の日には立派なダンジョンが出来ていた。
 ……思わずあんぐりと大口開けてしまったね。
 彼女は誇らしそうに、僕に褒めてほしそうに僕の一歩後ろで控えている。
 しっぽがあれば物凄くブンブンと振っているだろうなぁ。
 此処で褒めなくても問題は全くないと思うけど、褒めない理由もないので素直に褒めておいた。
 ……申し訳ないほどすっごく喜んでくれるのは嬉しいけど……どうしよう、少しだけ罪悪感がぁぁぁ。
 ち、違うよ? 彼女を利用してる訳じゃないですよ? エエチガイマストモ。
 そんな自分自身にいい訳にならないいい訳をしてごまかしながら、ダンジョン全体がどうなっているかを彼女に説明してもらった。
 大体どこがどういう部屋でどういう風になっているかっていうのは、彼女の魔法で見せてもらったが、全体図を見るのは初めてだった。
 ……広い……広いなぁ。
 予想以上に広い。
 十階層もあるよ……。
 本当に……一日でよくもまぁこれまで……僕の一言って……もしかしてかなり彼女にとってあれなのか?
 ……うん、気をつけよう。
 調子に乗らないように気をつけろよ僕……。
 とりあえず各階層に隠し部屋が最低一部屋、財宝部屋が最低一部屋があり、三階層めと七階層めは隠し部屋が五部屋、財宝部屋が二部屋ある。 十階層は一本道で大きめの広間に繋がっており、そこに彼女が扮したBOSS的な役割を果たす存在がいる。 そしてその後ろに全階層で一番すごい量のお宝を用意するようにした。
 勿論各階層の下へ降りる階段の前には中BOS的な役割を果たすモンスターを配置するつもりだ。
 ダンジョンの用意は整った!
 最初用意するような少しの量の宝はこの洞窟にある宝石類でいいだろう。
 ……これを売れば一年はきっと遊んで暮らせるだろうけど後が続かない……だからこそ餌にしてこれ以上の利益を生むために我慢しよう。
 後は……ダンジョンの中に配置するモンスターだ。
 完璧に思考能力がない雑魚中の雑魚でめったに冒険者を殺すほどのダメージを与えられない程度のモンスターとある程度思考能力があり、群れを作ったりできる程度のモンスターをまず集めよう。
 勿論これは最初の三階層までのモンスター達だ。
 流石に最初の階から強い奴を置いておくと余り人が来ないだろうからね。
 だから最初は冒険者じゃない普通の人でも倒そうと思えば倒せるような雑魚モンスター。
 少し奥に行けばそれより多少強くなった程度の思考力のあるモンスター。
 思考力があるだけで、全然モンスターとしてのレベルは違ってくる……らしい。
 全部本で見たことだけどさ。
 一応……階段がある部屋に配置するモンスターも探さないといけない。
 という事で彼女にお願いしたんだけど……一人で行くの寂しいといって涙眼になるんだよ?
 卑怯だよね……女性の涙に漢なら勝てる訳ないってのにさ。
 仕方なく怖いけど僕は彼女について行くことになった……なってしまったんだよぉ。
 ああ……怖い。
 とりあえず地上に出るとそこは僕が落ちた森の中央付近に位置する湖の近くだった。
 余り見つかりにくい場所ではないけど……注意しないと解らないからまぁいっか。
 周りを見渡すと……いるいる。
 雑魚モンスターと呼ばれる奴らが大量に。
 片っ端から彼女が『お願い。』してダンジョンに連れて行く。
 ……思考能力のないモンスターたちは楽だね、本能的に逆らっちゃいけない相手ってのが解るらしい。
 その後多少知力がありそうな野生の狼みたいな奴等も数十匹ほどダンジョンに連れて行き一階層から三階層まである程度まばらに配置が完了した。
 後は……各階層に配置する中BOSSモンスターだな。
 何かいいモンスターいないかなぁと少し足を延ばして散策してみることに。
 彼女は物凄くご機嫌だ。
 小声で独り言のつもりなんだろうが……ごめんね、聞こえてる……。
 さっきからデート……デートうふふとか行ってる。
 うん、頬を染めながら嬉しそうにそう言ってる姿はかわいらしいよ。
 だから時折出る「邪魔……した……殺したい……。」という黒い正気のようなものだけはお願いですので出さないでください……。
 たいてい……捕獲するモンスターが見つかったときなんですけどねー。
 その目的出来てるのに……相手にとっちゃ理不尽で仕方ないんだろうな……ごめん、僕には何も言えない諦めてくれ。
 多少モンスターたちに同情しながら散策すると小さな池がある場所に出た。
 あれ? こんなところこの森にあったんだ……。
 僕は不思議そうにその池に近づくと……今までと比べ物にならないほどのプレッシャーがかかってきた。
 うん、あれだ。
 でもこの程度なら彼女の黒い正気に似たあれより全然ましだから大丈夫。
 僕が平然としてるのが気に食わなかったのか、ごそごそと近くの茂みの中からそのプレッシャーの正体が現われた。
 ……骸骨?
 スケルトンってやつかな?
 でも……あいつらって夜しか活動できないうえこんなところにいないはずじゃなかったっけ?
 何より……雑魚モンスターの一種じゃないか……だけど……何だ? 此奴は少し違うぞ?

  「森を汚す人間が何の用だ。 これ以上この場にとどまるならば死をもってその生涯を……っっ! あ……あぁぁぁぁぁ! ひぃぃぃぃぃ!?」

 何やら威圧感を放ちながらその骸骨はそんな事を僕に言ってきたんだけど……死をもってのあたりから後ろにいるレイが黙っていなかった。
 いや、黙ってはいたんだけど……なんていうか空気がね?
 解るだろうぅ? あれだよあれ。
 いつものあの黒いのだよ。
 かわいそうに……本気で抑えが効かないといった感じの怖いのを真正面から全部受け止める形になっちまったんだからなぁ。
 なむなむ。
 でも……此奴これだけ話せるって事はかなり知識があるって事だろう……強いのか?

  「ごめんなさいごめんなさい!許してください!許してください!何でもします殺さないで!」

 骸骨完璧に戦意喪失……いや解るよ……解る。
 仕方ない……こればっかりは仕方ないよ……君は頑張った方だって。
 だからそんな落ち込む必要ないよ……僕じゃ絶対真似できないし……。
 とりあえず、今にも塵へと返そうとする彼女を押さえ、その骸骨に話しかける。

  「このあたり……見たことないけどもしかして、君が結界張ったりとかしてたの?」

 普通の人間には見つからなくする魔法、結界。
 ある程度力のある魔法使いかその結界を張っている者より強い存在でないと発見できないようになる魔法だ。
 なんとなく今まで何度も遊んだ森にも関わらず発見できなかったので聞いてみたんだけど、言葉を発することなく怯えながらうなづいた。

 へぇ!

 素直に凄いと思った。
 結界を晴れるモンスター何てかなりレアなのだ。
 強さもさることながら魔法といったものを使うにはそれ相応の知識と知力がなければいけない。
 この骸骨はそれらを持っていることになる。
 使えるな……そう思った僕はレイに頼んで彼をダンジョンに配置する中BOSSとして仕えるようにいった。
 殺さないのかと怯えながら聞いてくる骸骨に、僕の言う事を聞いてる間は絶対に彼女に手を出させないから大丈夫。
 そう言ったら物凄く感謝されて、僕のために精一杯働きます! と言ってくれた。
 結果オーライってやつ?
 いやぁ……ラッキーっていうのかねぇ。
 とりあえず……この子普通に強そう何で三階層の中BOSSにすることにした。
 その後しばらく歩いていると、巨大な猪のようなモンスターが居たのでそいつを一階層めのBOSSに、普通の狼程度の大きさだけど物凄く素早く分身何て言う技まで使えるモンスターがいたのでそいつを二階層めの中BOSSにした。

 よし!

 これで最低限の準備は整った。
 後は街で噂を……街で?
 …………あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁ!?
 ど、どうしよう、どうしよう!
 僕街いけないじゃん。
 …………やばい……こんなところで計画が頓挫するなんて想像してなかった……。
 っていうか敢えて考えてなかったよ……僕が街を追い出されたって事……。
 忘れたい事実だったしなぁ……。
 とりあえず……どうしようかなぁ……。
 そんな風に僕が困ってるとさっき仲間にした骸骨が「チラシを作って配ってみればどうでしょうか?」と提案してきた。
 ……そ、それだ! それしかない!
 僕はその提案に飛びつき、徹夜で骸骨とレイの三人で百枚ほどのチラシを用意した。
 それを彼女に魔法で街の空から降らせてもらったわけだ。
 少し変わったやり方だからこそ、何かあるかもと思ってくる好奇心あふれる冒険者達がいるだろう……と考えたんだよ。
 案の定、チラシを配った次の日から冒険者たちはちらほらと現われるようになった。
 やっぱり来るのは低レベルの駆け出し冒険者達だ、好都合。
 ってか高レベルの人にこられるとやばいんだけどさ……その場合レイに頼んでなんとかしてもらわないといけなくなるなぁって思ってたから正直助かった。
 そんなこんなで……お金を稼ぐための……僕の生活のためのダンジョン制作っていうのかね? よくわからないけどそんなのが始まった訳だ。
 とりあえず……最低限ごはん食べられるだけは……お金ほしいなぁ……。



[7336] カオスで混沌 第四話
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/03/15 10:33
     第四話~少しずつ収入が増えてきましたよ~♪~





 ダンジョンを作りだしてから早一カ月……いい感じに噂は流れ、冒険者達は噂を確認するために何人もこのダンジョンに潜りこんできた。
 半数の人間は途中で力尽き宝を手にすることなくお帰りいただいたが、もう半数の人間は見事に宝を持ってダンジョンから出て行った……結構盗られるっていうのは嫌な気分になるけど……先行投資だと思って我慢してよう。
 そんな感じで過ごした一カ月、効果がちらほらと見えてきて僕は少し安心した……と、共にダンジョン内の罠やモンスターの強さを変更しないといけないなぁと思い始めた。
 だって、噂を聞いた冒険者達の中にちらほらとそこそこ旅慣れたような冒険者や、どう考えてもベテランですよね? 的な冒険者が出てきたからだ。
 一応……様子見で来たせいなのか二階層あたりまで進んで財宝部屋から宝を盗って行った後、直ぐに帰ってくれたんだけど……本気で攻略に乗り出されたら危ないかもしれない。
 僕がそんな風に考え事をしていると、レイが突然「旦那様のためなのでしたら……私頑張ってきます!」と言って突然ダンジョンから姿を消した。
 ……ちょ、ちょっとまって!?
 何するのか解らないけど僕を一人残して行かないでぇぇぇぇ!
 ああ……叫んでも……返事がない、本当にダンジョン内にはいないっぽいな……。
 どうしよう……今この場に間違えて冒険者とかきたら僕一発でアウトだよ……即死だよ。
 …………(想像中♪)。
 駄目だ!
 どのビジョンを覗いても死以外の結果が思いつかない!
 ……よし、隠れよう……レイが帰ってくるまで隠れていよう。
 一応……骸骨……と呼んでいたんだけど、名前があるという事なので聞いてみたら「スケールです。」と名乗った……そのまんまかい。
 スケールに僕が少しの間、諸事情により身を隠すので自分の命に危険がない程度でダンジョン内の事を頼み、僕は最下層の更に下に新しく作った僕達の住居にもぐりこんだ。
 此処はまず発見させる可能性が低い。
 此処に来るためには特定の魔法陣の上で特定の呪文を呟き、この場所をイメージしなければいけないからだ。
 ……ああ、早く帰ってきてくれレイ……もう僕は君なしじゃ生きられない!(命の危機的な意味で……)。
 まだ……レイと一緒にいた方が命の保証があるってもんだ……最近僕も可笑しくなってきたのか普通に彼女が可愛いと思えるようになってきた。
 あれほど可笑しくなるのも僕を好きなため……そう考えると受け入れても良いかなぁ等と……考えたのが始まりで、それ以来段々そんな彼女ですら可愛いと思えるようになってきたというわけだ……怖いものは怖いけどね?
 スケールにその事を相談しに行ったら引かれた……。
 僕……今相談できるような相手スケールしか居ないんだよ……んでもって、そのスケールに思いっきり引かれ……「やはりあの方の伴侶たる貴方も普通ではないのですね……。」と言割れた時には思いっきり凹んだ。
 そのまんまその場所を逃げ出してしまったくらいだ……その後スケールがわざわざ謝りに来てくれたあたりあいつ意外といい奴なのかもしれない。
 というか苦労性な雰囲気を感じた……ストレスためすぎなければいいけど……まぁ頑張ってほしい。
 それ以来……僕は自分が可笑しいという事を多少感じながらも、彼女に惹かれていくのは止められなかった。
 それに比例して彼女が僕にデレてくる率というか、ラブってる時間が増えてきたわけだが……それが加速度的に僕が彼女の全てを段々受け入れていったきっかけにもなった。
 だって、その間に少しでも違う女性(幼馴染とか街の人とかね?)の話になると焼き餅……ごめん、そんな甘ったるいもんじゃなかったあれは……嫉妬に狂いそうになって、その街滅ぼそうとしたりするので、そんな様子を何十回、何百回と見る羽目になり、そのたびに僕が止めている。
 普通スケールに言わせるとそんな状態疲れ果て、嫌になる……というらしいが、逆に僕はだんだん嬉しくなってきてしまったわけだ。
 僕のためだけに此処までしてくれる……。
 どうやら僕もどこかおかしな属性の人だったらしい……。
 もう否定しないさ……どうでもいいさ……。
 きっと僕もどこか病んでいるんだろうさ……でも、彼女と一緒に幸せを感じられるならそれでいい、それがいい。
 そう思えるようになったのがつい最近だ。

 そんな風に回想しながら現実逃避していたのだけど、レイが帰ってこない。
 あれから一週間……こんなに長い間離れているのは出会ってから初めてだ。
 どうしても……寂しいと思ってしまう。
 レイの事が心配にもなってきたし、怖いけど……周りを調べにいこうかなぁとすら思い始めていた。
 レイ……早く帰ってきてよ……。
 僕がそんな事を考えて、住居の中で落ち込んでいると、漸くレイが返ってきた……血まみれで。
 いや……恐らく血まみれ……だと思われるのだが、その血と思われるものの色が緑であったり青色であったりするので……恐らくとしか言えない。
 だけど一週間も離れていた恐怖感と、無事なレイの姿を見れた僕は思わず抱きついていた。
 抱きしめた……訳じゃない、抱きついたのだ。
 彼女はそんな僕に驚いたような表情をしたけど、直ぐにとても嬉しそうに僕を抱きしめてとびっきりの笑顔で僕を見つめてくれる。
 ……うん、僕はこんな彼女にやられてしまったんだ、満足さ!
 そんなこんなで一緒にお風呂に入りながらいちゃついて三時間ぐらい凄してから、どうして一週間も家を離れていたのかを聞いた……聞いたんだけど……改めて彼女の凄さをというか、怖さを思い知った。
 それすらも愛おしいと思える僕は完全にもう駄目ですね?
 とりあえず彼女がこの一週間やってきたのは、他の精霊達から力を奪い取ってきた……からだしい。
 幸い誰も殺さずに、唯力だけを奪ってきただけだという。
 でもね……。

  「一生もう真面に魔法一つ使えないでしょうけどね……旦那様のためだから問題ないですよね。」

 等とボソっと呟いたの聞こえているよ……。
 ……ま、まぁ相手も命に別状がないんだ、別にいいや。
 基本的に僕、他人がどうなっても良いしね?
 ただ、僕が少しでも関係するところで死んだり、殺したり、殺されたりするのだけが嫌なだけ。
 ……死っていうのが……とても嫌いなだけだ。
 だから、死ななければ基本どんな事やっても僕どうでもいいかなぁ? とか思ってる。
 こんなんだからきっとあの街も追い出されたのかなぁ?
 んでもって、どれくらい強くなったのかを聞いてみたら、もともとレイは光の精霊で中くらいの強さを持っていたらしい。
 そしてこの一週間光と闇以外の下級から中級までの精霊から只管力を奪い続けたという。
 五十を超えてから数えていないって言ったけど……どれだけやってきたんだよ。
 流石に冷や汗を流しながらその話を聞いていた僕だけど、今の彼女はそのおかげで上級にはまだ届かないものの、中級の中では最上位の力を持っている……と言っていた。
 勇者や英雄と呼ばれるような化け物クラスの人間じゃない限り、人間にこれで絶対に負けませんと言っていたので、とりあえず……僕の命の保証はされたのだった。
 彼女に「僕のためにありがとう……。だけど無理はしないでほしい。」と言ったら彼女が壊れた。
 きっと思いっきり抱きしめながら耳元で呟いたのがいけなかったのだろう……僕は自分が呟いた言葉に後悔した……んだけど、それを認識できたのは次の日の夜に差し掛かろうという時間だった。
 だって……精魂付き果てるまで彼女と……ね? を繰り広げた結果、僕の限界を超えてまで彼女が頑張ったおかげで僕は気絶し、目覚めたのすらそんな時間になってしまったんだよ。
 ……解ってるさ、はたから見たら死ねとか言われながら嫉妬されるほどの事だってね。
 ふふん、存分にうらやましがれぃ!

 ……とりあえず……眼が覚めたものの動けない僕はそのまままた意識を手放したけどね……。





[7336] カオスで混沌 第五話
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/03/15 23:11
     第五話~僕が剣を握った日……以来、武器を装備出来ません……。~





 何の特別なイベントがないまま、一年、二年……そしてとうとう五年もの年月が流れてしまった。
 僕にとっていい事だとは思うんだけど……何もないとなるとないで、何かだんだん不安になってくるものがある。
 だって……未だ最下層にたどり着いた冒険者すら居ないのだから……。
 何時か……本当に化け物クラスの人間が来るんじゃないかという恐怖心が日に日に強くなっていく。
 そして、僕の妻であるレイ……彼女がもう誰にも手を付けられないほど強くなりすぎた件に関しても、何時か制裁するものが来るんじゃないかとひやひやしている。
 彼女……初めて同じ精霊達から力を奪ってから毎日のように数時間程度、外に出て精霊達から力を奪い戻ってくる……そんな事を繰り返していた。
 僕が怖がるのと、寂しいといったおかげで最長でも三時間程度しか離れることはないけど……その間に数人から数十人の精霊から力を奪ってきている。
 僕がお願いした日は、その数時間すらなくなり一日中いちゃついてたりする時もあるけどね。
 彼女の行動の全てが僕を基準として動いているという事がこの五年間で嫌というほど解った。
 そして驚くほど僕の一つ一つの言葉に反応し、僕の体が少しでも怪我したり病気になったりするとこの世の終わりだ! とばかりに慌てるので、下手に怪我したり病気になったりもできないのだ。
 前……冒険者が落としていった武器があったので試しに装備してみたんだけど、いい感じに手になじむその剣を気に入ったので、少し身を護る程度出来るかもしれないと思って振っていた訳なんだが……間違って手首をひねり、剣を落とす際に少し切り傷を作ってしまった事があった。
 それを見たレイがもう全身から血の気が引いたように真っ青になりながら慌てて僕を布団に寝かし込み、どこかに消えたかと思うと十数分後、身体をぼろぼろにしながら飲み薬を持ってきた。
 話を聞いてみると他のダンジョンにあった『エリクサー。』という伝説級の秘薬を取りに行ってきたという……ていうか、僕が飲んだ薬がそれだった。
 どおりで飲んで数分で捻った手首や切り傷はもちろん、身体全体の疲労や肩こりとかそういったものまで全てなくなっていると訳だ。
 それにしても、かなり強くなってきた彼女が此処までぼろぼろになるという事は……そのダンジョン未だ人間に発見されていないような凄いダンジョンか、発見されていても普通の人間じゃ全く太刀打ちできないような高レベルなモンスターがいるダンジョンなんだろう。
 彼女からどういった所だったかを聞くと慌てて余り覚えていないものの、転移した場所から一直線に地面を力技でぶち抜いてこのエリクサーがあるところまで行ったという。
 途中でケルベロスのレベルが低い奴や、ヒュードラ等が居たらしい……本当によく無事だったと聞いた瞬間冷や汗がでたもんだ。
 ちなみに……ケルベロスとは地獄の番犬の名をほしいままにする三つ首の化け物犬だ。
 強さ的に……伝説級の化け物。
 英雄や勇者と呼ばれる化け物クラスの人間ですら一対一であったら倒せるかどうか微妙な程の化け物だ、今回その低レベルバージョンだったおかげで彼女でも何とかなったらしい。
 ヒュードラはケルベロス程じゃないにしても、普通の人間じゃ太刀打ちできない化け物だ。
 彼女が見たのは三つ首のクラスらしいが最高レベルで九の首をもつらしく、九の首を持つヒュードラであれば、ケルベロスとどっこいどっこいの強さを持つらしい……。
 僕が知っていた話では最高で七つ首のやつまでしか知らなかったので、酷くその話を聞いて驚いたよ。
 三つ首のヒュードラならば、普通の人間には無理だが、英雄や勇者と呼ばれる化け物クラスの人間であれば何とか無傷で倒せる程度のモンスターだ。
 そんなモンスター達がうじゃうじゃとしてるような可笑しなダンジョンに潜り込んだ彼女に僕は感謝しながらも思いっきり怒った。
 もう……彼女とあってから初めてかもしれない、こんなに怒ったの。
 余りにも怒ったので彼女が凹みに凹み自殺しようとしたあたりで逆に謝るはめになった。
 ……僕の言葉は彼女に対して神の一声以上の代物だという事をはっきりと感じた場面だったね。
 そんなこんなな感じの五年間……ダンジョンも勿論成長しているよ。
 十階層なのは変わらないけど、入り口が三つになり、それぞれ別な地形のダンジョンになっている。
 それを下に降りるにつれて複雑になり、九階層めにて三つのダンジョンが合流するようになっているわけだ。
 広さ的に二つくらいの国がすっぽり入るくらいの広さがあるかもしれない……。
 だって、広げてる間に他のダンジョンにぶち当ったりしたんだけど、彼女が強制的にそのダンジョンの主やら持ち主やらを追い出し、そのダンジョン地域を自分のものにしていったからね。
 たぶん……無理やり追い出された奴等は納得できていないだろうなぁ……理由が理由だし……。

  「旦那様が望んだんです。だからしょうがないというのが解りますよね?解らない訳がないですよね?」

 とかいつもの黒い奴を発揮しながら追い出していた。
 僕……後ろで可愛そうになぁと思いながら見ているだけでしたよ……止めるなんてとんでもない!
 僕のためにやってくれているのに何で僕が止めるんだ?
 むしろ……そいつらはかわいそうだなぁとは思ったけど、僕のために動いてくれた彼女を僕はほめちぎったさ。
 スケールはもう諦めたようなどこか達観したような感じでため息をつくと、僕達がいちゃついてラブってるのを傍らにモンスター達に指示を与えて配置や、ダンジョン内の構図を変えていった。
 そうそう、今まで知らなかったけどモンスターってレベルアップしたり、クラスが上がったりするんだね。
 スケール、最初は唯のスケルトン騎士というスケルトンの少し強いだけのモンスターだったんだけど、二年くらいたったあるとき突然クラスアップしましたとか言い出した。
 驚いたね……すっごく驚いた。
 だって……強さが比べ物にならないくらい上がっているんだもの。
 見た目からして変わった。
 前は唯の骨が盾やら剣やらを装備していただけだったんだけど、今のスケールは全体を透明な膜で覆い、その下にはミスリルと呼ばれる金属で全身を人間と同じような形で覆っている。
 つまり、人間でいる肉体をミスリルという金属で構築しなおしたらしい……けど、僕には全然分かんなかった。
 ただ、見た目骨からロボットみたいな感じになった……と思えばそれでいいかなぁと思って納得した。
 驚くことにスケールは自分より低いレベルの相手からの魔法を一切無効化する事が出来るようになったという。
 クラスの名前がミスリル騎士というらしいけど、僕今までそんなモンスター聞いた事がない。
 レイが非常に驚いているので聞いてみると、モンスターや精霊達の中では比較的有名らしい。
 ただ、その存在が確認されているのがまだ三体だけだったので、スケールで四体目という事になると言っていた。
 俗に言うレアモンスターという奴だね。
 強さ的にケルベロスやヒュードラには全く及ばないものの、普通の冒険者が太刀打ちできるような強さじゃないみたい。
 英雄や勇者なら問題なく倒せるレベルだって言ってたね。
 そんなに強くなったにも関わらず、スケールは黙って僕達についてきてくれた。
 逃げようと思えば逃げるくらい簡単にできるのに、そんな事一切しなかったんだ。
 後々……どうしてか聞いてみたら頬を書きながら苦笑を洩らしてこんな事を言ってきた。

  「そうですね……逃げるだけなら出来ると思いますが、逃げて何がしたいというのがある訳じゃないですし……何よりも、私は貴方達二人が好きなんですよ。 特に主人は私を唯の友人のように扱ってくれる……初めての人でしたからね。 使われる奴隷のごときモンスター相手にこんな風に気を使ってくれる人等、普通いないんですよ? それはもちろん人に限らず神となのる者であっても主人の伴侶の精霊達であっても同じです。 だからですかね……何時の間にやらこんなのも良いと感じるようになったんです。 私は今この場所をとても気に入っているんですよ、だから逃げるなんて考えませんでしたね。」

 流石に……僕もこの話を聞いて嬉しくなったよ。
 だって、僕にとって普通に話したりできるのってスケールだけだったんだからね。
 僕的には友達になりたいなぁ位考えていた、そういう風にしていたけど……スケールもそういう風に感じていてくれた事が凄く嬉しかった。
 ……でも……その後レイが酷く嫉妬して危なかったのは……ご愛嬌というものだろう。
 うん、いつもの事いつもの事。
 慣れたけど怖いものは怖い……これだけは変わらないねぇ。
 それから直ぐにレイもスケールに対抗するかのようにクラスが上がりました! と言ってきた。

  「旦那様!私やっと光の精霊の上位種になれました!」

 と言って飛び込んできた。
 見るからに褒めて褒めてといった感じの彼女が微笑ましくてその日から三日間ほど燃えに燃えたね……色々と……。
 ダンジョンは……めったなことがない限り全部スケールが切り盛りしてくれてるので問題ない。
 だから僕達は何時もこんな感じだ。
 だからと言って全部を任せているわけでもないよ?
 時々ちゃんとダンジョン内を見回ったり、どんな状態なのかを確認しているからね。
 何よりスケールって本当に真面目な所があって、毎日毎日きちんと報告しに来るんだ。
 どれだけの収入があったかとか、どれだけの宝を持って行かれたとかね。
 時折出るレアクラスの武器防具やアイテム以外は全部遠くの街に行って換金してある。
 だから今僕達は結構裕福なのだ……と言いたいんだけど、実際はそうでもない。
 普通より少しいいかなぁくらいなんだよねぇ。
 何故か……それはダンジョンが広がり、配置するモンスターの数が増えたからだ。
 モンスター達だって知恵のある奴らならば金を欲しがる。
 金以外に色々な装備であったり食べ物であったりとそのモンスターによって変わるけど……それらを用意するのにお金をつかる……給料みたいなものだね。
 知恵のないものに関しては、本能でほしいものを選別していくが、大概が食糧だ。
 中には宝物を集める癖のある奴もいるが、めったにいない。
 そのおかげで、冒険者が結構な額を落としていったとしても、九割はモンスター達に支払う給料とかすのだ。
 まぁ……残り一割で標準より少し上くらいの生活を維持できてるので、順調と言えば順調なんだけどね。
 それに……段々冒険者の数も増えてきているから、これからは収入だって増えるはずだ。
 ……最初に考えていた英雄や勇者クラスが現われなければね……本当に来ないでほしい……っていうか来るな! お願いだから……。
 そんな事を考えながら、今日も今日とてレイは少し出かけてきますと言って精霊狩りに出かけ、僕はのんびりと住居で彼女の帰りを待っている。
 これが僕達の日常。





 帰ってきた彼女から久しぶりに狩りの相手の話を聞くと、驚くことに精霊以外の相手もしているらしい。
 魔族や神族相手に力を強引に奪っていると聞いた時には流石に驚いたけど……だから彼女最近一気に可笑しいくらい強くなったんだなぁって納得できた瞬間だった……。



[7336] カオスで混沌 第六話
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/03/16 02:02
     第六話~僕の弱さは天下逸品ですよ?~





 ダンジョンを作ってから六年目、事件が起きた。
 そう、事件だ……それも僕の命を脅かすほどの事件が起きたんだ。
 何が起きたか……簡単に言うと襲撃された。
 以前、レイが数か所のダンジョンを強制的に自分のものにして、その場所の主等を追い出した事が何度もあった。
 僕のお願いがあったので、殺す……という事だけはせず、ぼろぼろの状態にしてどこか解らないところに放り投げていたんだけど……そのおかげで酷く恨みを買っていたらしい。
 そんな奴らが集まって、大量のモンスターによるダンジョン襲撃が行われたというわけだ。
 何やら……僕は狂精使いと認識され、モンスターや精霊達から恐れられる半面、狂った精霊達からはおかしな程人気の存在になっているらしい。
 ……その狂った精霊達からってのだけは……勘弁してほしい……僕にはレイだけで十分です。
 まぁ……そういう狂った僕の事を気にする精霊から狩りとっていってるらしいので、僕の所まで来る聖霊は皆無なんだけどね。
 そんでもって、その大量のモンスターによる襲撃によってダンジョンは段々制覇されるとともにぼろぼろにされていった訳だ。
 先頭を走ってくるのは中レベルのモンスター、後方に高レベルから化け物クラスのモンスターが控えているらしい。
 そうレイが言っていた。
 今のレイなら何とか倒せる程度のレベルのモンスター達だ。
 危険かもしれない……最悪このダンジョン破棄して逃げることも考えよう。
 そう僕が言ったら、素直にうなづいて、何処までも僕についていくだけだってレイが笑ってくれた。
 自分の生まれ住んだ所を離れるというのに、僕の言葉だからと言って直ぐに肯定してくれる彼女が愛おしい。
 でも……そんな事を考えている間に最下層まで制覇され、その上僕達の住居までそのモンスター達が来てしまった。
 来たモンスターは全部で二十匹……そのうち五匹が化け物クラスのモンスターだ。
 ケルベロス……勿論レベルが低い奴が一匹、ヒュードラの三つ首と五つ首が一匹ずつ。
 信じられない化け物が後二匹……というか、この二匹が今現在このモンスター達を指揮して動かしている存在だ。
 ちなみに恨みを持って攻めてきた馬鹿な奴等はこの二匹にダンジョンに入った瞬間殺されたらしい。
 そしてその二匹とは……。
 一匹目……信じたくないけどフェンリル……世界に一匹しかいない本当の神クラスの化け物だ。
 神クラスといっても神からすれば一撃のもとに下される程度の力だが、人間であればもうたいして変わらないように見える。
 英雄や勇者のような化け物でも最高レベルの奴らが数人でかからなければ真面な戦いにすらならない化け物だ。
 もう一匹が……もう、どうなってんだか……っていうか何であんたみたいなのがこんなところにいるんですか? と聞きたくなるような化け物……テュポン。
 そこにいるケルベロスの最上位レベルの奴やヒュードラの七つ首以上の産みの親とされてるような化け物だ。
 正直……フェンリルよりもレベルは上。
 ただ戦いとなればどっこいどっこいのレベルになるのでこの二匹は争わず、協力することにしたらしい……互いに潰しあっとけよ!
 勿論……この二匹最初は唯の雑魚モンスターの一匹として紛れ込んでいた……だって、最初のこの二匹なんてフェンリルがケルベロスの一番レベルの低い奴でテュポンがマンティコア程度の奴だったんだ。
 ……ごめん、雑魚とはいったけど今のこの二匹からしてってことね。
 それにしても……此処まで来たのが二十匹……予想以上に少ない。
 攻め込んできたときの数でいえば二百近くは居た筈なんだけど……それでも、この二匹がいるだけでもう駄目だ……無理。

  「漸くこのダンジョンの主たる狂精使いの所か……ずいぶんとミスリル騎士の奴にやられたものだが……高々一匹と一人を殺す程度であれば、我一人でも問題無いか。」

  「そうじゃのぅ。あ奴を仕留め切れなかったのは厄介じゃったが、あれだけの傷じゃ、そうそう身動きはとれんじゃろうて。何よりワシ等が出れば一秒とかからずに殺す事ができるよて。」

 最初がフェンリル、次がテュポンの言葉です。
 ……スケール……本当にぎりぎりまで頑張ってくれたんだな。
 この二匹を見ながら逃げないで最後まで……、一応生きてるみたいだから良かったけど……転位先の部屋が無事である事を祈ろう。
 ってかそれよりまず、僕達の命がどうなるかが問題ですよね!
 レイも少しどうしたものかしらと言った感じでモンスター達を見ているし、結構厳しい状態じゃないか? ってか普通に絶望的な状態ですよね。
 勘弁してください……。

  「貴方達のような方が何故このような場所に?現世に普通体現する事はないはずですが……。」

 とレイが尋ねる。
 ……なんと!
 そうなのか?
 目撃表現があるんだから何度かこの世界に現われているはずですよ?
 僕が不思議そうにしていると、こんな状態にもかかわらずレイが僕にその事を説明してくれた。
 どうやら、フェンリルやテュポンのような化け物の目撃表現のほとんどはその世界から来たモンスター達によるものらしい。
 モンスター達の中には人間に紛れ、共存している奴等もいるらしくそいつらが危険なので情報だけでもと流したもの……驚いたねぇ。
 んでもって……余裕を持っているせいか、僕達が話してる間何もしてこない二匹とその他。
 話し終えた所で律儀にもレイの質問に対しての答えをテュポンが返してきた。

  「その質問の答えじゃが、何簡単な事よ。お主達の存在が危険視されたので排除して来いと上から言われただけでのぅ。お主達に直接の恨みはないが死んでもらう事にしたのじゃ。」

 ……はぁ?
 ちょ、ちょっと待ってくれよ!
 何で……何でこいつら以上の化け物が僕達を危険だと思うわけですか!?
 僕が只管混乱しながら喚きたてようとすると、フェンリルがそれに続いてこんな事を言ってきた。

  「流石に上級精霊や上級魔族すら殺さず力だけを奪うような力を持った狂った精霊がいれば、危険視もされようというものだ。何よりそれを見事使役している狂精使いまでいるという……。今まで何もなかった事の方が奇跡だと思え。」

 は、ははは。
 何時の間にそんな事に?
 っていうかレイ……君そんなレベルの相手から普通に数時間で力奪って帰ってきてたんだね?
 どんだけ強くなってるですか?

  「さて、そろそろ終わりとしようかのぅ。死した世界で共に後悔すると良かろうて。さらばじゃ。」

 その言葉と共に僕が聞いた事のないような言葉を紡ぐと空間が爆発した。
 レイがとっさに僕を護るために障壁を張ったおかげで直接ダメージを受けることは全くなかったもののその爆風で吹き飛ばされ壁に激突。
 瀕死の重傷です……って、僕どんだけ弱いの!
 でも……叫びたくても声も出ない……きっと身体のあちこちの骨も折れてるっぽい。
 痛い……イタイイタイ。
 いっそ……こんなに痛いなら楽に殺してほしい……そう思えるほどに痛い。
 僕がそんな感じで叫んでいるとレイが駆け寄ってきてヒーリングをかけてくれる。
 とりあえず血は止まったものの骨折まで直ぐに治る訳がない。
 一応痛み止めの効果もあるらしく、痛みがすぅーっと引いて何とか普通に思考出来るだけの僕の素敵な脳細胞が戻ってきた。
 でも……彼女はもう完璧に……狂っていた。
 今までに見た事がないレベルでの狂いようようだ……傍にいる僕ですら殺されるんじゃないかという錯覚すら覚える。
 でも……僕の方しか見ていない彼女のそんな雰囲気に、二匹は全く気付かない。

  「何と!あれを完璧に防ぐ障壁を張れるというのか!恐ろしいのぅ……。故にもったいない。狂ってさえいなければ我等と同位の存在として受け入れられたかもしれないのにのぅ。」

  「っは、何を言っている。たかが精霊ごときどれだけ力をつけようと我らに並ぶなどありえぬ。さっさと始末してしまうぞ。」

 それが彼らの最後の言葉でしたマル。
 狂った彼女はその言葉を聞いた……いや、聞いていなかったんだろうけど、ある程度僕の治療を終えると振り返り……虐殺の限りを尽くした。
 今まで……きっと苦戦したりしたという話を聞いていたのは相手を殺さないように気を付けていたからだ何だろう……僕はその戦いを見てそう思った。
 だって……あのフェンリルやテュポンすら全く彼女を傷つけることすらできていないのだから。
 というよりも、彼女に攻撃するだけの時間すら与えてもらえていないのだから……。
 レイは振り返ると同時に姿を消した……とおもったらフェンリルとテュポンを吹き飛ばしていた。
 驚く二匹だが……表情を驚きに変えた瞬間既にレイは次の行動に移していた。
 壁に叩きつけられると同時に何が起こったのか解らなかったがもうすべては終わっていた。
 残ったのは壁に残ったその二匹の血のみ。
 それ以外の肉片一つ残らず消え去っていた。
 一応……その二匹の力だけは彼女が奪い取っていたらしく……彼女は更に強くなっていたみたいだけど……。
 ……僕の妻は一体何者なのでしょうか?
 あの化け物クラスですら瞬殺とか……絶対に精霊のレベルを超えてると思うのは僕だけじゃないと思います。
 ちなみに僕はその光景を見てもう顔を真っ青にしています。
 だって……モンスターであろうと人であろうと目の前で死んだところを見たのは初めてなんだよ。
 しょうがないじゃないか……。
 せめてもの救いはスプラッターにならなかったあたりだね……残ってるのは血の後だけだし……それだけでも十分怖いけど。
 それからしばらくしてスケールがこの部屋に走ってきた。
 申し訳ありません! と叫びながら部屋に入ってきたスケールは僕達の現状を見て直ぐに行動を開始した。
 まず僕を治療するために部屋を映しベッドに寝かせた。
 次にレイを何とか僕のそばまで連れてきて近くの椅子に座らせる。
 その後にモンスター達に指示を出してダンジョン内の整備と片付け、僕達の住居の後始末をしてくれた。
 彼女は……殺してしまってから初めて僕のお願いを無視してしまったことに気づいたらしい、僕に眼を合わせることなく茫然としている。
 僕が話しかけるとビクッ! として身をすくませて泣きながら謝ってくる。

  「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!許してくださいお願いします何でもしますお願いしますごめんなさい!」

 と言った感じに延々と、泣きながら只管僕にすがりつき謝り続ける。
 だけど僕は最初から彼女を怒ったりなんてしていない。
 彼女は僕が傷ついたからあんなに怒ったのだ……狂ったっていったほうが正しいけど。
 いわば僕のせいだ。
 僕がもう少し身体を鍛えていればあんなことにはならなかったかもしれない。
 ……だからそう謝り続ける彼女にかろうじて動く手を伸ばした。
 謝る言葉が泊まりがくがくと震えながら身をすくませる。
 拒否されるかもしれないという恐怖に完璧に支配されている状態だねぇ。
 だけど僕はそんなことしないよ。

  「怒ってないよ……ありがとう。助けてくれてありがとう。大丈夫……僕はレイが大好きだから……絶対に嫌ったりしないから、だから謝らないで。レイは何も悪くない。だからありがとう。」

 そう言って彼女の頭をなでる。
 しばらくその言葉と行為に身をすくませたまま茫然としていた彼女だが、さっき以上にわんわんと泣き始めた。
 しばらく泣き続けた後、気付いたら眠っていた……泣きつかれたようだ。
 その表情はとても安心していたので僕はほっとした。
 とりあえずこのまんまにもしておけないので出来うる限り大声でスケールを呼び、来た彼にレイを僕の隣に寝かせてほしいと頼んだ。
 本当にスケールがいてくれた助かる……彼には感謝してもしきれない……。
 そんな事を考えながらもレイの体温を感じ僕も眠りに落ちた……。









     視点、死に幾魔物。




 余りにも馬鹿らしい仕事だとワシは思ったものじゃ。
 高々一匹の狂った精霊とそれを使う一人の人間を殺しに行くだけに我とフェンリルを遣わすなどと。
 それが上のよまごい事じゃないと解ったのは相対した瞬間じゃった。
 見た瞬間寒気がした……ワシがそんな感情を持ったのは久方ぶりで流石に油断する気はなかったのじゃ。
 だからかのぅ、一気に最初から一瞬で攻撃できる魔法攻撃の中で最強の一撃を放ったのは。
 だがあ奴は全くの無傷じゃった……信じられん。
 ワシのエクスプロージョンを完璧に受けきるほどの障壁を張るなどと想像だにしておらなんだ。
 だがワシの魔法の爆風で使いのほうの人間は吹き飛び瀕死の状態に陥った。
 ふむ……使いがいなくなれば精霊も理性をなくしどうにでもなるじゃろう。
 そう考えたワシはフェンリルと共に一気に決めようと思ったのじゃが……次の瞬間吹き飛ばされておった。
 何が起こったのじゃ!
 ワシすら吹き飛ばされた後まで何が起こったのか理解できておらなんだが、どうやらワシ等はかの精霊に殴り飛ばされたらしい……信じられん、ありえぬ!
 ワシ等の障壁をくぐりぬけてただ殴っただけの一撃で何故吹き飛ばされるほどのダメージを負うのじゃ!
 あれが精霊だというのは嘘じゃったのか!?
 隣ではフェンリルも驚きの表情じゃ。
 とりあえず体勢を立て直そうとしたのじゃが……次の瞬間眼の前にかの精霊が存在した。
 
 ゾクッ!

 背筋からすさまじいほどの寒気がしたのぅ。
 初めてじゃ……初めての経験じゃ、震えが止まらぬ。
 かの精霊の口からは同じ言葉しか漏れておらぬ……それがまたワシを恐怖させる……ありえぬ! たかが精霊ごとに恐怖するなど!

  「ダンナサマヲキズケタコロスコロスコロシテタマシイスラメッシテヤル。」

 狂ったようにその言葉だけを呟きながら只管ワシ等を殴り飛ばす。
 ありえぬありえぬありえぬ!
 ワシ等を相手に反撃すらできないほどの速さで殴り続けるなど不可能じゃ!
 何故そんな事が出来るのか解らなぬ……意識がそろそろ朦朧としてきたとき、とんでもない圧力を感じた。
 一瞬にして意識が戻った。
 フェンリルの奴はもう戦意喪失ししっぽすら丸めて震えておる。
 ……情けないが、しょうがないとすら思える。
 目の前に迫りくるこの圧力……恐怖にはワシすらもう戦意等とうになくし、許してもらえるのであれば地に頭を付けて謝っても良いと思えるほどじゃ。
 目の前に起こる現象……漆黒の闇の中に確かな光がある空間がワシ等を押しつぶしていく。
 振れた先から肉片一つ残らず消滅していく……。
 余りのも圧倒的な暴力……戦いにすらならないほどの圧倒的な暴力……まるでワシ等の頂点に立つ存在と戦っているのではないか……そんな錯覚すら覚えた……。
 次の瞬間……ワシ等は………………………。



[7336] カオスで混沌 第七話
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/03/16 14:42
     第七話~鍛えました!……嘘です無理でした……。~





 あの事故以来ますますラブっぷりが上がった……というかヤンっぷりが上がったレイは今まで以上に僕に対して過保護になった。
 前まで多少武器や防具を手に取ったり、外に出て散歩したりすることくらい全然問題なくやらせてくれていたのに、最近だと駄目……とは言わないものの、やろうとした瞬間泣きそうな顔で悲しそうに僕の裾を引っ張るのだ……。
 無理だろう?
 うん、無理だ。
 不可能だよ!
 畜生……。
 スケールが運んできた剣や防具を手に取ろうとしただけで過敏に反応して、触らせてもくれないってどんだけですか……むしろ防具は付けてた方が安心すると思うですけどそのあたりどうなんですか?
 レイにそのあたりを聞いてみたら……。

  「私がどんな状態からも護りますから必要ありません。」

 と言い切られました。
 うん、そう言われちゃうと……反論できない……訳じゃないけど、悲しそうな彼女を見るくらいなら納得した振りだけでもしておこうと思った訳だ。
 外に散歩に出る時も常に彼女が一緒に付いてくるようになった。
 街に行く時ですらもう、彼女が離れる事がない。
 住居にいる時は流石に自由に過ごすことができるが、住居にいるときにやることと言ったらレイといちゃつくくらいしかやることないのでどっちにしろ殆ど一緒にいる状態だ。
 何だろう……どこか嬉しく感じる僕がいる。
 明らかに変だ!
 と言われそうだなぁ……僕の素敵な脳細胞も答えとしてはそういう答えを出してはいるんだけど……なんていうかね、本能的な何かが嬉しくて幸せだなぁって思える何かが僕を支配しているわけだ。
 良く解らん……きっと僕も彼女と同じように狂ってるんだろうね。
 うん、ある意味お似合いって奴なのかもしれない。
 いい事だ。
 多少身体を鍛える……と言っても本当に軽い筋トレくらいしかやれない状態で、どうやったら強くなったり頑丈になったりできるかと……もう、諦めました。
 最低限身体が可笑しくならない程度の筋トレだけを毎日続けてます、それだけです。
 なんだか……レイに全部護られっぱなしっていうのも情けない気がするけど……これが僕達の関係なんだし……まぁいいかな?
 というか、良くなくても彼女以上に強くなるのなんて不可能だしね。
 人間諦めが肝心という言葉を聞いた事があるけど……それに思いっきり同意したい。
 それにしても……冒険者の人達を見ていたせいで勘違いしてたなぁ……。
 人間多少飛ばされたり、壁に激突したくらいじゃ多少怪我するくらいだと思ってたけど、鍛えてない人間だと普通に死んでも可笑しくないくらいのダメージを受けるって事を。
 いい経験になったよ、本当に……もう二度と体験したくないけどね。
 まぁ……あれ以来無謀にも突っ込んでくるようなモンスターや精霊がいないので、平平凡凡とダンジョンに潜り込んでくる冒険者達からの収入を楽しみにするだけが最近の楽しみです。
 最近結構チャレンジする人数増えてきたから収入もうなぎ上りに増えているのさ。
 前の大量のモンスターによる襲撃で一気に知名度が上がった僕達のダンジョン。
 それほどまでにモンスターが集まるところであれば凄い宝があっても可笑しくない……そう判断されたらしい。
 ただ、来る冒険者のレベルが明らかに上がっているのも事実だ……だからこその高収入なんだけどね。
 強い人だけを見ていても余り面白くない……というか、僕にどこか通じる初心者の冒険者をみたい……と思った僕は、ダンジョンを少し作り直した。
 今三つの入り口があるダンジョン、そのうちの一つを一定レベル以上の冒険者は入れなくしたのだ。
 制限レベルは10、初心者という名前がとれ、一般的な普通の冒険者とみなされるレベルまでの初心者限定のダンジョン。
 最初看板も何もないので今まで普通に入れたところに入れなくなった冒険者たちは、何かあると思い無理やり入ってこようとしたけど、レイの魔法結界ですよ? 敗れるわけがない。
 不可能というものだ。
 色々試しても全く入れないそのダンジョンの入り口は段々人がいなくなり、まばらに試しに来る人が来るくらいに……一時的になった。
 どうしようかなぁと僕が考えているときに、弟子を連れた歴戦の冒険者がそのダンジョンにチャレンジして入れないので戻ろうとした。
 そのとき偶然にも弟子の初心者と思われる子が滑ってダンジョンの入り口に入ってしまった。
 二人とも酷くおろどいたような表情で、弟子の子は怯えたように直ぐに起き上がって歴戦の冒険者のところに走り寄った。
 歴戦の冒険者の方も試しにともう一度入り口に行くが相変わらず入れない、そこで試しに弟子に進んでみるように言うと何の障害もないように勧めた……まぁ当たり前だよね、そのための結界なんだから。
 歴戦の冒険者は何かを考えるように頷くと、そのままで詩を連れて帰って行った。
 何かに気付いてくれてるといいなぁ……と僕が思っていると一週間くらいで明らかに初心者ですみたいな感じの冒険者を連れた多数の高レベルっぽい冒険者がその入り口に来た。
 いい感じ、ナイスこの前の冒険者!
 僕は普通にそう思って喜んだね。
 何やら今回集まった冒険者たちはレベル1から20くらいまでの子を一人ずつ用意して試したみたいだ。
 一人ずつ入れるかどうかを試して、レベル10までなら入れると、漸く判断してくれた。
 良かった……これで漸く……初心者の子もこのダンジョンに来てくれる。
 高レベルの強い人だけを見ていると段々自分が情けなくなるというか、嫌になるというか……そんな感じを受けるので、僕よりは強いけど少し頑張れば追いつけるかも? 程度の初心者冒険者をみると慰められる。
 それだけのために用意した訳だ。
 僕の期待とは裏腹に最初それが判明してもなかなかそこに訪れる冒険者はこなかった……スケールが言うにはこういう事だ。

  「恐らく高レベルですらクリアできないダンジョンに潜るのが怖いせいでしょう。」

 とね。
 なるほど……と納得してしまった。
 だけど、やはり人間の好奇心というのはそういった恐怖心を超えるものなんだね。
 数人でPTを作った初心者の冒険者がこのダンジョンに挑んできた。
 久しぶりに見る初心の者冒険者の戦い方はみていて本当に危なっかしい、だからこそ安心できる……人間強い奴ばかりじゃないという事に。
 そんなこんなで、そのダンジョンだけは中に余り強いモンスターがいない事が判明してから数多くの初心者の冒険者が来るようになった。
 なんてったって、このダンジョンで死ぬ事がないのだから練習したり、レベルを上げたりするのにはとても好都合な場所だからだろう。
 その上宝まであると来たもんだ、人が来ないわけがない。
 そんな感じでとりあえずにぎわう僕達のダンジョン……ただ見てるだけにも飽きてきたころ一つやりたいなぁと思った事があった。
 最初はレイにもスケールにも猛反対されたけど、僕がどうしても! と言うと条件付きで許してくれることになった。
 僕がやりたかったのは入り口付近での雑貨屋だ。
 武器防具は勿論、回復役から食糧、ダンジョン内の探索に必要な各道具。
 それらを扱う雑貨屋。
 レイとスケールは僕がそれで人間に襲われる可能性があるからという事で猛反対したわけだ。
 レイに関しては僕が本気でお願いすれば簡単に折れてしまうので問題なかったが、スケールは最後の最後まで反対していた。
 危険だからと。
 本気で心配してくれる彼女達の気持ちはとても嬉しかったけど……どうしても時間がたつにつれてやりたいという気持ちが強くなっていった僕は、最後条件付き、レイの魔法で姿を変えたスケールと一緒にやるという事で許可を貰った。
 やっぱりもともと雑貨屋を営んでいた僕は、その手の血が流れているんだろうな。
 やりたいと持ってからはもう、やらないという選択肢がなくなってたんだからさ。
 結構長い間僕を護るために働いてくれるスケールをレイも多少は認めてくれているみたいだからこそ何とかなった問題でもある……本当にスケールが傍にいてくれて良かったよ。
 そんなこんなでとんてんかんてんとダンジョンの入り口に少し大きめの雑貨屋を建てた訳です。
 最初何かの罠かと警戒されていたんだけど、何の問題もない普通の店だと解ると大いに繁盛した。
 ダンジョンで得られる収入の十分の一位稼げてる。
 ……それだけ聞くと余り稼げてるように聞こえないけど、ダンジョンでの最近での収入は一日約十五万ゴールド。
 そして一般家庭の三人家族が一カ月に必要とするお金は3000ゴールドくらいだ。
 少し裕福な家庭での一か月のお金ですら一万ゴールドは行かないくらい。
 つまり、一日で一万五千ゴールド程稼げてるだけでも異常なほどの繁盛と言っていい。
 僕の場合はダンジョン内のモンスター達に払う給料で約十万ゴールド程かかる。
 少し前までは本当に少し余裕がある程度だったけど、最近になってかなり余裕が持てるようになってきた。
 貯金というか財宝も増えて凄くいい感じ。
 僕が雑貨屋を作ってから一年くらい、時々強盗のように無理やり商品を奪い去ろうとする馬鹿な奴等もいたけど、そんな輩はスケールが片手間に追い出してくれた。
 そんな感じで順調にダンジョンにも生活にも満足して、余裕が出てくると過去に誓った一つの事に思いをはせられるようになってきた。
 その思いとは……僕を追い出した街と幼馴染への復讐。
 ……でも、あんまりひどい事はしたくないから……少し嫌がらせ位でいいんだよなぁ。
 なんだかんだ言ったって生まれた所だし、殺したいほどに組んでるわけじゃないしなぁ。
 せいぜい幼馴染には路頭に迷う程度の嫌がらせをしたいけどどうすればいいかな……?
 と、最近の僕はそんな事を考えるようになっていた訳だ。
 スケールやレイにも相談して何かいい事がないかと話してみるが、レイはこういう事にむかない事を僕は知っていたはずだろう?
  「殺しますか?いえ、殺しましょう。」

 とか普通に言ってくるんだからね。
 とりあえず、スケールと二人でその事については話し合う事になった。
 嫉妬に狂うレイを慰めつつ話を進める僕達……本当にレイの扱いに慣れてきたなぁって思うよ。
 っていうか、きっとこういう風に嫉妬してくれなくなったら僕が逆に可笑しくなるかもしれない……今なら。
 うん、本当に可笑しな夫婦だね僕達。
 でもそれがいいと思えるからもう、駄目だと思う。
 さぁて……どんな嫌がらせがいいかなぁ……?



[7336] カオスで混沌 第八話
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/03/16 20:37
     第八話~復讐という名の嫌がらせ。~





 スケールと話し合う事一週間、色々な案が出た。
 僕が出したのは、風呂の水をスライムに入れ替えるとか、靴の中にスライムを入れておくとかそういったものばっかりで、それじゃああんまりにも……という事だったんで他に考えることになった。
 スケールも色々と案を出してくれたんだけどどうにもしっくりこない。
 そんなこんなで一週間たってしまった訳だが、とうとう作戦が決まったのだ。
 そこそこ街の皆にもダメージがあって、一番に幼馴染にダメージが行くような作戦。
 うん、いい感じだと思う。
 それを実行に移すために、スケールに色々と準備を頼み、僕もまた計画が旨くいくようにもう少し計画を練ってみることにした。
 そして三日後……準備が整ったので僕の生まれ育った街に向かう事にしたのだ。





 今僕の目の前には平和な毎日を当たり前だと思って過ごしている街がある。
 僕の後ろには姿を隠したモンスター達が五十匹、隣にはレイがしっかりと付き添っている。
 僕は……街の人にぎりぎり気付かれないような所まで近づき合図を送った。
 その合図とともにモンスター達が街を襲撃する。
 狙うのは建物……ただし全壊はさせないで半壊程度だ。
 そして街の人間を絶対に殺さないで痛めつけるだけにする事。
 これだけを徹底させて街を襲っている。
 自衛団があるとはいえ、大した強さの自衛団じゃないのでスケールが一瞬で壊滅させ、自由気ままに街の破壊を楽しんでいる。
 ただ……街を破壊しているにも関わらず僕のお店であった場所だけは一切手を出していない。
 そこ以外の場所は数時間でもうほぼ全部半壊状態だ。
 むろん街長の屋敷も半壊している。
 街の皆は茫然と怪我した部分を押さえながらも悔しそうに膝をついて泣いたりわめいたりしているね……いい感じだ。
 唯一人、僕の幼馴染だけは全くの無傷、その上家というか店も無傷。
 街の皆が凄く疑わしげに幼馴染をみている……当たり前だよねぇ。
 一生懸命いい訳してるけど、そんなの通じる訳ないじゃん……でも、これで終わりじゃないんだよ?

  「ご主人様!ご命令通り街の破壊は完了いたしました!そろそろ街の人間の皆殺しを行ってもよろしいでしょうか?」

 そういったのはスケールだ……ただし僕にじゃない。
 僕の幼馴染に頭を垂れそう言っている。
 その後ろにはスケールが率いた五十匹のモンスターも同じように待機して頭を下げている。
 もう街の皆は怯えた視線を幼馴染に投げながらも、憎しみで人が殺せたらっ! みたいな感じで見つめている。
 だがしかし、今一番混乱し慌てているのは幼馴染だろう。
 全くの無実だが、今の状況からそれを信じる人はいないのだからね。

  「では、これより皆殺しを開始します。皆の者!ご主人のお許しが出たぞ、皆殺しだぁっ!?」

 スケールはそう叫び幼馴染をにらみつけていた街の人達に向き直った。
 次の瞬間泣き喚きながら逃げ惑う街の人がお互いを押しのけ合いながら逃げ出した。
 うんうん、いい感じいい感じ。
 さぁて最後の締めだねぇ。

  『キィィィンッ!』

 レイが結界を張り、誰一人街の外へ逃げられないようにしたのだ。
 これでもう、誰一人逃げることなく皆殺しにされる……そう思うことだろう。

  「や、やめてぇ!」

 此処で漸く幼馴染が言葉を発した。
 その言葉を聞いてモンスター達は全員動きを止める。
 命令を聞いているかのように。

  「ご主人様いかがなさいました?」

  「私はご主人様じゃない、貴方たちなんて知らないわ!」

 そりゃそうだろうさ、知ってるわけがない。
 だけど……誰がその言葉を信じるかなぁ?

  「(ご主人様……今更そんな事を言ったところで誰一人信じる人はおりませんよ?それならばいっそ私どものご主人として振舞って、この街を支配するでも逃げ去るでもなさった方がよろしいと思います。少し考えれば解りますよね?)」

 スケールの台詞は僕が考えた通りの言葉。
 僕の幼馴染、あれで結構機転がきくというか頭の周りが早い。
 ただ今は混乱しパニック状態のため間違いなくそんな状態じゃないだろう。
 だけど……そんな状態で逃げる手段ないし打破する手段があるのであればどうだろう?

  「……め、命令です。街の皆を傷つけないでください。」

 震えながらスケールにそういった幼馴染……って、おいおい、本気で同意すんのかよ。
 もっと喚きながら意味不明な事を叫んでくれると思ってたのに……。
 混乱した状態で頭を回したなきっと……。

  「ご主人様の願いのままに……。皆の者集まれ!」

 スケールのその言葉でモンスター達は幼馴染の傍にあつまる。

  「それではいかがいたしますか?」

  「……わ、私が逃げるのを手伝って……。」

 もう街にはいられない、例え誤解でも街の人からすれば完璧な真実となってしまっているから……それを理解してしまったのだろう。
 泣きながら震える声でそう言ってスケールに頼む……だが……。

  「……聞けませぬなぁ……。ご主人様のご命令を聞くのは一度限りの契約です。先ほどやめろというご命令をお聞きしたのでもうお聞きできませぬ。街の人間どもよ!我が主人は今よりこの街より逃げ出すそうだ。だが我等はもう主人に従う契約は全うされた。我等は二度とこの街のものに手を出しはしない。よって……主人をどうされようが我等は関知しない、好きにすればいいだろう。ではさらばだ!」

 完璧に茫然とした幼馴染を放置して、そう叫んだスケールたちは素早く僕達の方に走ってきて街から見えないところでレイの魔法でダンジョン内に戻った。
 残ったのは半壊した街と怪我した街人。
 それに無傷の幼馴染……怒りの矛先が幼馴染に向くのもそう時間はかからなかった。
 その怒りを感じ取り、とっさに逃げ出す幼馴染だが街の人間のほうが早かった。
 直ぐにつかまり殴られけられ、そんな事が数時間続いた後もう意識をなくした彼女は街の住人に連れられて木でできた牢屋の中に放り込まれた。
 うんうん、いいざまだ、僕を街から追い出して店を乗っ取ったからそんな事になるんだよ。
 でも……まだ終わらせないよ。
 彼女は数時間後かろうじて身体は動かないものの意識だけは取り戻した。
 僕はそんな彼女の元にレイと一緒に赴き、声をかける。

  「大丈夫!た、助けに来たよ。早く逃げよう!」

 僕がそういうとレイは木の牢を破壊して彼女を普通に歩けるくらいまで回復させる。
 ヒーリングだ。

  「ぁぇ……あ、あんた……た、助けてくれの?」

 どこか怯えながらも救われた! と言った感じで僕を見つめてくる幼馴染……お願いだからもう少しだけ我慢してレイ。
 後ろで「コロスコロスコロスコロス。」とか笑顔で呟くの怖いからお願いやめて。
 とりあえずレイが暴走する前に幼馴染の手をとって逃げる。
 僕が逃げた後レイが広間で大爆発を起こし大きなクレーターを作った。
 集まりだす街の人、僕は幼馴染から手を離しその広場の近くで放置する。

  「あっ、えっ!?ど、どこいったの!?」

 と、突然消えた僕を探す幼馴染……今僕はレイに抱きしめられながら街の上空にいる。
 そこで街の人達が漸くそこに牢屋の中にいるはずの幼馴染が逃げ出しているのに気づいた。
 その上その目の前にはこのクレーターだ……またこいつがやったのかと街の人達は彼女に詰め寄ろうとするが、此処で僕が姿を消したまま叫ぶ。
 勿論レイに姿を消す魔法を使ってもらい、声を大きく響き渡らせる魔法を使ってもらってる。

  「我が主に触れる者には死の呪いが降りかかるぞ!今より……我が主に振れた者は三日以内に死ぬ呪いがかけられる、我は契約を果たした。これ以上の手助けはせぬ。直接手さえ出さなければ呪われる心配はない。せいぜい人と触れ合うことなく暮らすといい!」

 僕はそう言ってそれ以上声を出さないようにする。
 幼馴染に近寄ろうとしていた街の人達はその声を聞いた瞬間足を止めて距離を開ける。
 今の僕の声が本当だったらと考えたからだね。
 さっきのモンスターに今のクレーター……これだけの事をやったんだからそれくらいの呪いがあっても可笑しくない……そう考えるだろう?
 だけど、我慢できなかった村の子供が幼馴染向かって石を投げる。
 とっさに止める母親だがもう石は投げられたあとで、見事その石は彼女に当たる。
 子供を抱きしめる母親だが……何も起こらない。
 それで数人の街の人間は気が付いたらしい直接触れなければいいのかと。
 それから街の人はもう足もとに転がる石ころを幼馴染めがけて全力で投げ始める。
 それより先に、命の危機を感じ取った幼馴染は情けない悲鳴を上げながら逃げ始める。
 街の外へと……。
 後ろからは街の人達から数多くの石が投げられ、何度も当たる……だが、足を止めたら本当に最後になってしまうかもしれない……恐らくその気持ちが彼女を今突き動かしているのであろう。
 街の外に出てしばらく走ると漸く街の人は追いかけてこなくなった。
 あれ以上追いかけるとモンスター達に襲われる危険があるからだろうね。
 幼馴染はそれからしばらく街から逃げるように走り力尽きて倒れた。
 僕はそんな幼馴染の前にもう一度姿を現す。

  「大変だったね……。大丈夫だった?御免んね、さっき手を離してはぐれちゃって……。」

 僕はそう言って手を差し出し回復役を彼女に振りかけていく。
 骨折はしていないらしく全身打撲と多数の切り傷が全身にあるだけなので、回復薬を数個振りかけただけで血は止まり、ある程度歩いたりできるくらいの回復になった。
 
  「た、助けて……。助かった……。」

 僕を見て、とっさにおびえた彼女だったがその後安心したように僕に手を伸ばしてくる。
 さっき助け出したから僕を味方だとおもっているのかな?
 さっき手を離してあの場所に放置したっていうのに……。

  「あはははは。馬鹿だなぁ助けるわけないじゃないか。僕を追い出した張本人なのにね?」

 少し安堵した瞬間に僕の突き離すような言葉。
 うん、こういうのってのは上げて落とす……これが重要だよね。
 いやぁ、幼馴染の絶望ににじむこの表情、うん、スカッとしたよ。
 満足満足。
 街の皆もかなりの被害をこうむっただろうしもう復讐とかどうでも良くなったよ。
 と、僕が一人満足していると突然幼馴染が殴りかかってきた……。

  「……旦那様に何をしているの雌豚。唯でさえ旦那様に迷惑をかけてたのに……私以外の存在が旦那様にあったというのに……何をしでかしたか理解しているのか雌豚?お前ごとき雌豚が気安く口を利けると思うな。旦那様には私だけでいい、私以外誰もいらないのだ。いい加減にしないと……コロスシマスヨ?」

 僕に殴りかかってきた幼馴染の拳を握りつぶしながらレイはそういった。
 表情は笑ってる……笑ってるけど眼が笑ってない。

  「ヒィ、ヒィィッィィ!た、助けてたすけてぇぇぇぇ!」

 一種にして手を握りつぶされた幼馴染な痛みに喚く前に目の前の脅威……レイに怯えて逃げようとするが腰を抜かす。
 眼に入った僕にじり寄って助けを求めようとするあたりもう馬鹿だね。

  「ダンナサマニチカヨルナメスブタガ!」

 狂ったようにそう叫ぶとレイは彼女を吹き飛ばす。
 ……うん、こんな状態になっても僕が言った事を護っているんだね、凄いよレイ。
 殺さないように……それをまもって手加減するなんて……成長したね?

  「旦那様には私だけ……私には旦那様だけいればいい、他はいらないイラナイ!エイエンニキエウセロ!」

 レイはしばらく殴り飛ばしたり蹴り飛ばしたりした後彼女に光り輝く空間をぶつけた。
 瞬間……幼馴染の姿はなくなっていた。

  「……レイ?」

 僕がどういう事か聞こうとすると僕の胸に飛び込みながら抱きつき説明してくれた。
 どうやらさっきの光の空間は異次元に通じているらしい。
 そこには時間の概念がない場所で永遠に死ぬことがない空間。
 そして時間の概念がないため、今負った怪我も永遠に治る事がないという。
 つまり……これより永遠に幼馴染な痛みに苦しみ、一人である事に苦しみ、狂って死ぬことも許されない状態が続くというわけだ。
 う~ん……僕そこまでするつもりなかったんだけどなぁ…………。
 まぁいっか。
 僕の胸の中で「ワタシダケノダンナサマワタシダケノダンナサマ……。」とか呟きながら抱きついてるレイの頭をなでながら帰ることにした。
 これで……胸のつかえもとれて満足したなぁ。



[7336] カオスで混沌 第九話
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/03/17 16:24
     第九話~僕は人間やめてたぞぉぉぉ!?……気付いたらね……。~





 ダンジョンを作って早十五年……これだけ長い間過ごしてどうしても可笑しいと思うようになった。
 何がというと、僕の姿が全く変わらない事にだ。
 十五年……人が全く変わらないことなんてありえないだろう……いや、まぁ確かに髪が伸びたりとかはするけど顔が老けこんだり、身長が伸びたり縮んだりとかそういった事が全くないのだ。
 これはおかしい……明らかに可笑しい……そう思った僕はレイに何か知らないか聞いてみた……らあっさりとこんな風に答えたんだ……。

  「旦那様、私と契約した時点で永遠を生きる者として世界に縊られる存在となっているからですよ。私が死なない限り旦那様は年をとる事がありません。ただし私が死んでしまえば旦那様も死んでしまいます……どんな事をしても旦那様をお守りして見せますから安心してください!」

 とね。
 うん、永遠を生きる……とかいわれたってさ、それって人間っていえるのかなぁ?
 どうなんだろう……素直にレイにそれでも僕って人間なのと聞いてみた。

  「旦那様はもう私と同じ精霊に近い状態になっています。精人霊と呼ばれる存在です。精霊と契約を交わした存在の中で……自分で言うのも恥ずかしのですが命をかけてまでの愛を受けた者だけがいたれる精霊より格が上の存在です。幻獣や聖獣と同じクラスだと思っていただければ、問題ありません。」

 ……つまり僕はもう人間じゃないと……。
 まぁ別段そんな事は良いんだけどね、実際。
 たいして人間という種族にこだわっていた訳じゃないし……でもさ、精霊より上位の種族って割には僕普通の人間並みにしか力がないんだけどそのあたりどうしてな訳なんだろう?

  「ああそれは……鍛えれば際限なく力を身につける事が出来る……それが精人霊の特徴なんです。通常人であればどうしても限界というものがありますし、私のような精霊に関してもそうです。幻獣や聖獣と呼ばれる存在も限界はあります……、ただ精人霊だけが限界というものが存在しないのです。だからこそ特異にも私達のような精霊よりも上位の種族で幻獣や聖獣と同格として扱われるんです……。ただ、鍛えない限り強さは普通の人と同じ程度でしかありません。旦那様は私がいるので今のままでいいんです。何があっても護ります、私だけの旦那様……私だけの……フフフ。」

 普通に離してる時に狂うの最近少なかったんだけどなぁ……僕の話題が多かったせいか久しぶりに狂ったね。
 ひとまず……僕は力は人並みしかないけど、一応回復力だけは人より強いらしい。
 だからだかな、今まで多少怪我したとしてもその日のうちに完治したり、前に大量のモンスターが襲撃した際瀕死のダメージ受けたにも関わらず一週間ほどで完治したのは。
 とりあえず……気になっていた疑問がはっきりして良かった良かった。
 今はまぁ、レイが正気に戻るまでいちゃついて過ごしますか。
 何でもない一日……退屈だけど……幸せだなぁ……。





     視点、街の住人。





 私の街の近くのダンジョンには恐ろしい存在がいる。
 魔王だ……魔王がいるのだ。
 何故解ったのかというと、時折ダンジョンから出てくる謎の人物がいるからだ。
 その人物は人なのか何なのか解らないが、ダンジョンに巣くうモンスター達が頭を垂れ従っているのをみた事があったのだ。
 今や大陸中にお触れが出て、毎日のように勇者や英雄と呼ばれる人達がダンジョンに潜り魔王を打ち倒そうと頑張っているが、未だ誰一人魔王と戦ったことすらない。
 何故か……それは、最下層にいる魔王が従えるという狂った精霊がいるからだ。
 彼なのか彼女なのか、漆黒の闇に包まれた影のようなその存在は解らないが、その強さだけは圧倒的だ……それ以上の魔王となると一体どれだけの強さを誇っているのだろうか……。
 ちなみに……先にも話した人物が魔王だと思われている理由がもう一つ、この闇に包まれた影のような存在すらその人物を前にすると怯えていたと、冒険者達が言っていたからだ。
 恐ろしい……。
 もしかしたら過去、私達の街が壊滅の危機に陥ったモンスターの襲撃も魔王の仕業なのかもしれない……そうだとしたらあの女性への認識は誤解だった事になる……が、もう過ぎた事だそんな事はどうでもいい。
 一年前……最強の英雄と呼ばれる人や、世界一の勇者と呼ばれるような人達がダンジョンに挑んだ……。
 それでもその精霊に傷を負わせることすらできず、一瞬のうちに負け街に戻ってきた。
 その報告を受けた大陸全土の王や領主は余りの事に軍隊を送り込もうという話にまで発展しかけた……。
 それを止めたのは私達の街の住人だ。
 私たちは過去、数え切れないほどのモンスター達があのダンジョンを襲ったのをみている。
 中には幻のモンスターと呼ばれるケルベロスやヒュードラすらいるモンスターの軍団。
 それが……唯の一匹すらダンジョンから戻ってくる事はなかった……、その後に潜った冒険者の話で中にそれらの屍があったので、全滅した事が解ったのだ。
 あり得ない……あり得ない存在があのダンジョンには住みついている。
 ちなみに……ケルベロス一匹で国を滅ぼせるほどの力を持つといわれている。
 そんなケルベロス等ですら何匹もいる軍団を全滅させるような存在がいる所に軍隊などをいくら送り込んだところで無駄になるだけだ。
 ……下手したらそれに怒り、大陸全土の支配をもくろむかもしれない……そう考えた私達街の人間が各国の王にその話をし、止めたのだ。
 間違ってそんなことになれば一番最初に終わるのは一番近くにある私達の街だからだ。
 ダンジョンの魔王は普通にダンジョンに潜ったりする限りじゃ外界に手を出そうとはしない……むしろ人を殺そうとすらしないのだ。
 ならば触れずにいた方がいい。
 ……だというのにそれでも諦めきれなかった各国の王は、百人以上の勇者と英雄と呼ばれる存在をそのダンジョンに送り込んだ……。
 私たちは絶望した……怒りをかったかもしれないと思ってだ。
 しかし、ダンジョンの魔王にとってその程度の勢力など気にする価値もなかったようで、いつものように街の近くの休憩所に誰一人死ぬことなく送り返されてきたのは翌日だった。
 安心したとともに……人間ではあのダンジョンを攻略する事は不可能だと悟ってしまった。
 未だに諦めきれない英雄や勇者は懲りずに潜り続けているが、結果は変わらない。
 それでもダンジョンに潜ることをやめないのはあのダンジョンにある宝が凄い価値を持つからだろう。
 最下層で十階層だという話だが、四階層め以降からの宝は一つ手に入れただけで一年以上は遊んで暮らせるような宝らしい。
 そんな話を聞いた冒険者たちは、死ぬ心配もないという事もあってあり得ないほどの数が毎日のようにダンジョンにチャレンジしている。
 私からしてみれば本当にやめてほしい。
 まかり間違ってそれでダンジョンの魔王の怒りを買ってしまえばどうなる?
 世界の終りだ……。
 ああ……お願いだから……魔王様、私は貴方に危害を加えるつもりも、何をするつもりもありません……命さえ助けていただけるのであれば一生ので隷属を誓っても構いません。
 ですので私だけはどうか……襲わないでください……お願いします……。



[7336] カオスで混沌 第十話
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/03/17 17:16
     第十話~何時の間にやらそこまで強く……。~





 僕が人間じゃないと気づいてから五十年くらいがたった。
 いつも通り何事もなく平和な日常を過ごしていると、世界が突然ぶれた……。
 感覚的なものだ、普通の人だったら解らないかもしれないけど、何かがぶれた感じがした。
 酷い違和感がまとわりつくが決して嫌な感じじゃない……むしろレイがすぐ隣にいるような感じの違和感だ。
 今現在レイはいつもの通り数時間ほどの狩りにいっている。
 何があったのかを聞くこともできないので、とりあえずスケールを呼ぶことにした。
 スケール……何と十年くらい前にスケルトンとして至れる最高のレベルにまで達したらしい。
 生前の姿に戻る事が出来るようになったのだ。
 僕は最初、生前の姿なら今より弱いんじゃないかと思ったんだけど、何処をどう間違ったのか……っていうか、何で人型だったのか解らないけど彼はドラゴンに変わりだした……ありえねー。
 ドラゴン……最強の幻想種族だ。
 正直テュポンやフェンリルよりも上の存在である……何故そんな存在であるものが人型のスケルトンなんかになっていたのか聞いてみると……。

  「いえ、暮らしていくのにあの大きさでは邪魔になるばかりでしたので人型をとっていました。」

 という事だ。
 ……僕には良く解りません……だけど、とりあえず狂った強さの仲間が増えた瞬間だった。
 ドラゴンだけあって昔からの知識を持っている……スケルトンになってもそれらの知識があったため色々と僕の手助けができたと言っていた。
 そんなスケールに今の違和感を感じたかを聞いて、頷くのを見て何か知らないかを聞いてみた。

  「恐らく……神の一柱が変わったのでしょう……。」

 と、余り答えを期待していなかったにもかかわらず、きちんとした回答が返ってきた。
 けど、神が変わった?

  「この世界、四つの神がいるんですが、そのうちの一柱が恐らく変わったのでしょう。神が変わる方法はその神である存在を打ち倒す事。神であるだけで世界から恩栄を受けることになるので通常そんな事不可能なんですが……。」

 スケールが説明してくれる話だとそういうことだった。
 つまり神様の一人が誰かに倒されてポジションチェンジをしたから今みたいな違和感というかブレを感じたらしい……。
 うん、解ってる……解ってるさ……。
 予想はしてる、信じられない……とは言わないさ。
 だって僕の奥さんだからね……彼女なら何をやっても可笑しくない。
 僕がスケールの話を聞いてから乾いたような笑みを浮かべている事に、スケールが気付いたらしく、ため息をついた。
 彼もどうやらなんとなく予想は付いたらしい……本当に常識外の奥さんだ。
 そんな感じでどうしようこの空気!みたいな状態になった僕達の所にレイが帰ってきた。
 だから開口一番聞いて見たさ、神様にもしかしてなっちゃった?ってね。

  「良くご存じですね……流石旦那様。ほんとは成りたく何てなかったんですが精霊王を倒し力を奪ってしまったせいか私にその役回りが回ってきてしまいました……。」

 さらっとそんな事を言っちゃいました。
 うん、予想はしてたけど聞いたら驚くね。
 最近めったに驚くことなんてなかったんだけど、これには流石に驚いた。
 スケールも完璧にドン引きだ。

  「な、何故精霊王たる神をお倒しに……?」

 恐る恐る……スケールがレイに尋ねる。

  「旦那様の悪口を言ったんですよ……本当はコロシテヤリタカッタンデスケド………ふぅ。とりあえず力を奪う程度で許してあげました。まぁ……力を奪った際、次元の狭間に送り込んだので力をなくした彼じゃもう二度と戻ってこれないと思いますけどね。私の旦那様……私だけの旦那様に向かってあんな口をきいたんです……これでも感謝してほしいくらいですね。私も少し我慢強くなりました……。全部全部旦那様のお陰です、私の旦那様……ダンナサマワタシダケノ……フフフフフフ。」

 いつも以上にテンションが高く、狂うのが早い。
 どうやら戦ったことによって高ぶってるらしい。
 僕はスケールに視線で逃げるように指示を出すと素直にうなづき、素早くこの場所から逃げ出した。
 下手にこの状態の彼女のそばに僕以外がいるとどうなるか解らない。
 とりあえず……彼女が落ち着くまでいちゃついたんだけど……今回の彼女の高ぶりようは凄かった……。
 流石に僕も……死ぬかもしれないと本気で思った。
 だって……一週間ほどぶっ続けで頑張るはめになったんだから。
 ……僕も自分で凄いと思うけど、やっぱり僕を持続させ続けた彼女の魅力が一番すごいと思ったね。
 一週間で漸く落ち着いた彼女は、それから三日ほど僕を全く離さず二十四時間一緒にいた……けどそういった行為だけはしなかった……僕が限界だったからね!
 とりあえず……世界の神にまでなってしまった僕の奥さんに改めてほれなおした訳だ。





     視点、とある神の一柱。





 あり得ない……そう思った。
 目の前の光景がありえない。
 目の前には我と同格となす神の精霊王が一方的な暴力の上その存在をこの世から追放されているところだったからだ。
 本当にありえない……それを行っているのは狂った唯の精霊だ……いや、唯の精霊とはいえないかもしれないな、かの倦族であるテュポンやフェンリルすら一方的に殺してしまうような精霊だ。
 あのものは本当に精霊なのか問い詰めたくなるほどだ……俗に言う突然変異という奴であろう。
 それも……このあり得ない光景を作りだしたのはたったの一言のために……これもまた信じられない。
 かの精霊は普段何を言われても全く気にせず耳を貸そうともしない、それでも怒る事も刃向かう事もしてはこなかった。
 それが精霊王が洩らした言葉で今このありさまだ。
 その言葉も……大した言葉じゃない。

  「お前の主人等唯のお荷物であろう、何時かえるのだ?」

 という、確かに聞きようによっては悪口に聞こえるかもしれない、唯の質問だった。
 だがかの精霊を狂わせるに十分すぎる一言だったらしい。

  「お前程度が旦那様にそんな口を利けると思っているのか?私だけの唯一の旦那様……ダンナサマダンナサマダンナサマ!侮辱……ブジョクスルモノハユルサナイ……ユルサナイ、ゼッタイユルサナイ!」

 その後はもう、旦那様という言葉と殺すという言葉、死ねという言葉を只管繰り返しながら一方的な暴力を振るわれている。
 何気に精霊王の力を奪ってるあたりやりなれている。
 精霊王と我ではたいして力の差は存在しない……つまり、かの精霊に主人の悪口と盗られる発言をすれば我も同じ末路をたどることになるというわけだ……気をつけよう。
 いくら神と呼ばれる身となろうと死なぬ訳ではない。
 他の二柱にも注意しておこう、かの精霊にだけは手を出さぬようにと……。
 ふむ、とうとう終わったようだな、まぁそうだろう、精霊王を打ち倒したのだ次の神はかの精霊になるのは必然。
 これでかのものに今までのように苦言を洩らすことすらできなくなってしまったわけだな……。
 ……まぁこんな光景を見てしまえばそうでなくてももう苦言を言えないだろうが……。
 とりあえずこの映像を他の二柱に見せに行くとするか。
 ……金輪際かの神には誰もかかわらないように、我の倦族にも厳重に注意しておかねばな……。
 だから、我等は関与せぬので好きに自分の住処でおとなしくしていてくれ……かの神を止められる存在はもう……この世に存在しないのだから……。
 ……いや、一人だけいるのか……かの神の旦那……彼だけはかの神を止める事が出来るかもしれない……が、彼はすでにもうかの神と同じ精神状態だ……不可能だろう……。
 願わくは……ただ汝達で静かに暮らしてくれる事を……。



[7336] カオスで混沌 エピローグ
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/03/17 17:41
     エピローグ~最終的にやっぱり平和が一番!~





 レイが神となってから千年ほどの時が流れた。
 あれ以来……というよりも、あれ以前より比較的やる事がなかった僕はダンジョン制作にいそしんだ……というか頑張りすぎた。
 世界全部の地下のダンジョンが僕のダンジョンになるくらいに……。
 作って広げてる間やっぱりたくさんのダンジョンにぶつかる事があって、それを見て僕は今までの僕のダンジョンは何てつまらないダンジョンだったのだろうと思いいたった。
 何故か……それは攻略不可能なダンジョンだからだ。
 僕のダンジョンの最下層には必ずレイが姿を変えてその場所を護っている……勝てるわけがない……神ですら一方的に虐殺出来る力を持つ彼女を倒せる存在なんているわけがない……そんな攻略不可能なダンジョンだったんだ。
 僕はそれ以来、レイをダンジョンに置く事を禁止した。
 最下層にはスケールを置き、適度に手加減して時々倒されてあげるように指示もした。
 それ以来今まで以上の冒険者が僕のダンジョンに来るようになった……やっぱり、攻略できるか出来ないかだけでもかなり違いがあるんだね。
 それからも頑張って周りのダンジョンを分捕りぶち壊し、再構成しながらダンジョン制作にいそしんでいると……こうなってしまったわけだ。
 正直やりすぎた……普通にやりすぎた……どうしよう。
 そう考えけど……まぁ別にどうでもいいかと、考えること自体めんどくさくなった僕は今度は中に色々な仕掛けや店を作ったりして過ごしてきたけど……流石に何百年もそれをやっていると飽きる。
 っというか飽きた。
 それでも我慢して百年ほどやってみたけど……もう正直どうでも良くなってしまった。
 だから僕は今……。





 僕とレイは世界で誰一人未だ到達した事がないといわれる辺境の地にいた。
 そこは豊かな緑あふれる平原と、周りを取り囲む登頂が見えないほどの山に囲まれた場所だ。
 時折吹く風がとても涼やかで、僕とレイの身体を覚ましていく。
 ダンジョン制作に飽きた僕達は二人だけでこの辺境に引きこもることにした。
 思いだしたからだ。
 昔……僕が最初本当の人間だった時、一番最初に夢見ていた夢。
 平和で平凡な幸せな家庭……。
 そう、その夢を思い出した。
 だけど今の僕達が人やモンスター、精霊や神、そういった者達がいる場所だとそんな事は不可能だ。
 だから未だ誰一人として到達した事のないこの場所に引きこもり、その夢を実現させた。

  「旦那様……幸せですか?」

 少したそがれていた僕にレイがそう声をかけてくる。

  「うん……。」

 僕はそれだけ返事してレイに向き直る。
 彼女は微笑むだけだ。
 前のように狂った感じは今はしない。
 彼女が狂うのは僕が他の存在に認識され、話をされたり話をしたりするからだ。
 僕が彼女だけを見て、彼女だけを感じ、彼女以外を必要としなくなった今、もう彼女が狂う必要など何もない。
 ……いや、もう完璧に狂いに狂ったからこそこうなっているのかもしれないな。

  「本当に……幸せだ……レイがいてくれるだけでそれだけでいい。」

 微笑む彼女に僕はそう言って手を握る。
 未だに手を握るだけで顔を染める彼女が愛おしい。
 彼女も僕のその言葉にうなづいて風に身を任せる。
 今までと全く違う環境、違う世界、だけどこれがこれから一生を共にする僕達の世界。
 二人だけの、唯二人だけの世界。
 僕達はこれからも……この世界で……唯二人だけのこの世界で暮らしていける。
 それがたまらない幸せだと……そう感じ、二人で笑い合いながら世界を見つめる。
 なにもない、唯彼女だけがいるこの世界こそ一番の幸せな世界。
 僕はとうとう……手に入れたんだ……幸せな辺凡な家庭を……。
 これが僕達の物語の終わり、これ以上は何もない、なにも必要ない。
 だから終わり。
 幸せなハッピーエンドだ。



[7336] カオスで混沌 感謝の言葉。
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/03/17 17:45

最後まで読んでくださった皆様ありがとうございます。
十話の段階までを考えていた作者はそれ以降を考えていませんでした。
よって……旨い感じに終わらせることはできませんでしたが、完結とさせていただきます。
全く考えもせずただ良く解らない話になりながら長くしていくよりはすっぱりと終わらせてしまおうと思いました。
そんなことしていたら作者きっと完結させること出来なくなると思ったからです。
今まで色々と応援してくださった皆さま、読んでくださった皆様本当にありがとうございます。
これからも、違う作品を色々と書いていきたいとは思うんですが……どういったものを書こうかと未だ決まっていないので、しばらくは書かないかもしれません。
もしかしたら今回のようにまた直ぐに書き始めるかもしれませんが……。
何か……皆さまのほうで提案や面白そうな設定の話などあれば教えてください。
作者が書けそうであればそれをもとに書いてみたいと思っています。
唯基本、恐らくこういった感じの物語しか作者は書けないと思われます。
もし……気が向いた方がいましたら是非お願いします。
最後まで長々と申し解りませんでした。
では、またいずれか……会える日まで……。
ありがとうございました。


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