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[7490] 【習作】混沌世界 【三月二十六日 完結】
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/03/26 09:16
初めましての方は初めまして。
お久しぶりの方はお久しぶりです。
……今回もまたお久しぶりと言うだけの間は開いていないですが……。
今回は新しい書き方に挑戦してみました。
読みづらいようであったり、可笑しいと思ったのであれば言ってください。
今までと同じような感じで書き直します。
そして今回は……どんなジャンルになるんでしょうかこれは……。
異世界転生物?って形に一応なるのかもしれませんね。
微妙にそれ以外の要素も交じる予定ですが。
今回の作品もいつも通り作者の脳内設定によるご都合主義万歳で房二病満載の作品ですが、そんなのでもいいという方がいらっしゃいましたら是非読んでやってください。
よろしくお願いします。



[7490] 混沌世界 プロローグ
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/03/19 19:58
          プロローグ~とある一人の冒険者の末路。~





  「見てろよ!必ず活躍してこの名を世界各地に響き渡らせてやるからな!」

 そう叫び自ら生まれ育った村を出ていくのは一人の青年だ。
 彼は今年で二十になる何処にでもいるような平凡な青年。
 顔も十人並み、体形も標準、特別凄い技能がある訳でもなく、頭がいい訳でもない。
 本当に何処にでもいる平凡な青年だ。
 彼が今……村から旅立つのは、大声で青年自身が叫んだ通り、冒険者として名をはせる為だ。
 彼に何か目標とするものがあった訳でもなく、何か理由がある訳でもない。
 ただ何となくその場の勢いでそう言って旅に出てしまっただけの、本当に何処にでもいるような馬鹿で平凡な青年だ。
 この物語はそんな彼の活躍する冒険譚……。
 その始まりであった。









 …………何て事がある訳がない。
 そんな青年がどうやったら活躍できるというのだろうか。
 運よくお姫様を助けたり、モンスター達から街を護るために立ちはだかったり等、そんな夢みたいなことがあるのは本や吟遊詩人の創作による歌の中だけだ。
 案の定この青年も何一つまともに名を馳せる様な事件に遭遇する事もなく、平平凡凡と月日が流れ、旅に出てから六十年がたっていた。
 未だ彼の名が少しでも広まっている場所はない。
 無名の冒険者……それは、駆け出しに与えあれる情けない称号。
 彼は未だにその称号を胸に旅を続けていた……八十歳という高齢になっても……。

  「はふぅはふぅ……。流石にこの年になると歩いての旅もきついものがあるのぅ。」

 青年は老人へと変わり、剣は杖えと変わった。
 彼は杖をつきながら苦しそうに息をつぎはぎし、一歩ずつ歩いていく。
 別段何かクエストがあった訳でも、モンスターを倒しに行くわけでもない。
 ただ街から街への移動の最中。
 それも普通の冒険者であれば半日ほどで着けるような距離を、彼はかれこれ既に三日ほどかけて歩いていた。

  「もう少しじゃのぅ。そろそろ一度休憩とするか。……よっこいしょっと……ふぅ……。」

 彼はちょうど日陰になるような大きめの木の根元に腰をおろしため息をつく。
 そのため息は疲れによるものだ。
 ……ただ、彼は先ほど休憩してから一時間とたたずにこうして休憩をとっている。
 高々一時間……ただ、此処までの高齢の老人にとってはかなりの難解な道程だったのだ。
 額に浮かぶ汗をぬぐい、買いだめしておいた水で喉をうるおす。

  「はふぅ……蘇るのぅ。この調子でいけば明日には隣町につかえるかのぅ。」

 独り言を洩らすのはすでに彼の癖だ。
 今までパーティーを組んだことすらない彼は、今まで只管一人で冒険を続けていた。
 これだけ聞くと凄いように聞こえるだろう。
 だが彼の冒険の中身を聞いたものはただひたすら呆れるだけだ。
 彼が今まで旅をしたのは彼が生まれ育った村から近くの街とその更に隣町までの間だけである。
 勿論その道程は綺麗に街道が整備され、モンスターだって滅多に出ないような道となっている。
 彼は生まれ育った村に意地を張って帰る事をしなかったものの、まともに強いモンスターと戦う勇気もなく、こうして村近くの街と歩いて半日程度の街の間を往復する事でモンスターを少しだけ倒し日銭を稼いでいた。
 どんなモンスターであろうと倒せば少しの金になる。
 この街道に出るモンスターはスライムとムームーだけだ。
 スライムは薄い水色というか緑色というかそんな感じの半透明のゼリーみたいなモンスター。
 ムームーとは体長が大きくても三十センチくらいのもこもこした毛皮に包まれた犬みたいなモンスター。
 共に危険度は最低レベル。
 小さな子供ですら木の棒をもってすれば倒せるような雑魚モンスターだ。
 そんなモンスターでも、倒し、そのモンスター達が落とす毛皮や粘液を売ればそこそこのお金になり、その日の宿代位は稼げるのでそうしてこの六十年間生きていたのだ。
 ある意味……凄いと思うが、誰一人として真似したいとは思えない凄さだろう。
 むしろ馬鹿としか言いようがない。
 ……馬鹿という言葉すら彼にはもったいないように聞こえるが……我慢しよう。
 さて、そんな彼は今、隣町の新しく出来たクエストセンターというところに向かっている最中だった。
 クエストセンター……最近できたばかりの新しい冒険者支援システムだ。
 そこでは簡単な低賃金の依頼から、高難度の高い賃金の依頼までさまざまなものを取り扱っている。
 今までクエストはその街の住人から直接請け負わなければいけなかったのだが、そのセンターができたおかげでそこに集中して依頼が来るようになり、冒険者達も依頼者側も共に今まで以上にやりやすくなったのだ。
 そんな話を聞いた彼は自分でも出来るような簡単なクエストをやり、日銭を稼いで生きていこうとしたため、こうして無理をしながら旅を続けているというわけだ。

  「zzz………zzz………。」

 休憩している間に余りの日差しの気持ちよさに眠りに落ちてしまったようだ。
 愚かな事此処に極まれり。
 いくら整備されモンスターが少なく、出てくる奴もスライムやムームーのように最低クラスの最弱モンスターであろうと、子供以下の体力と力しかなくなった老人にとっては下手をすれば死んでも可笑しくないモンスターであるという事をすっかり忘れてしまっているのだろう。
 期待通り、そんな彼の元にスライムとムームーが数匹おどおどと近づいてくる。
 彼等も自分達がどれだけ弱いのかを理解しているらしく、めったに人に近づいてはこないし、人を見かければ逃げるようになっている。
 にもかかわらず近づいてくるというのはよっぽど彼が弱そうに見えたからだろう。

  「ぴぃぴぃぴぃ?ぴぴ!」

  「むーむーむー……むー!」

 スライムとムームー達はお互い見やりながら何か話し合い、何か決めたようにお互いうなづいた。
 次の瞬間まずスライムが彼の顔と手足に張りついた。
 これで彼は息をすることはおろか、身動き一つ取れない状態だ。
 その次にムームーが全力で彼の腹に突っ込む。
 ドム……というどこか鈍い音を響かせながらの突進。
 正直小さな子供でも少し吹っ飛ばされて擦り傷を負う程度の衝撃だが、息をできなくなっている上、その子供よりも非力な状態の老人にはかなりのダメージとなる。
 ムームーはその突進を何度も繰り返し、スライムは苦しそうに慌てる老人の手によってはがされないように、必死に顔と手足に張り付いていた。
 そして二分後……老人はとうとう力尽きこの世からも旅立ってしまった……。
 これに喜んだのはスライムたちとムームーだ。
 彼等は最初、その事実が信じられないように茫然とし、間違いなく自分達が初めて人を倒したと認識した瞬間物凄く喜んだ。
 飛び跳ね、踊り、陽気に叫びながらその結果を喜んだ。
 そんなモンスター達をしり目に、彼は何一つ成すことなく、自分自身寝ている間にこの世から旅立ってしまったのであった。
 延々と六十年間スライムとムームーを借り続けた彼にはお似合いの最後かもしれないと……思ってくれる知人一人いない彼は、寂しく生涯を閉じ、彼としての物語を語り終えたのであった。



[7490] 混沌世界 第一話
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/03/17 23:26
          第一話~目覚めればそこは洞窟の中だった!~





 ピチョン……ピチョン……そんな水滴が落ちる音で彼は眼を覚ました。

  「ん?眠ってしまったんじゃな、危ない危ない、モンスターに襲われておったら死んでおったわ。」

 彼はそう言いながら身体を起こそうとするが……何か違和感を感じたらしい。
 身体が起き上がる感覚がなかったのだ。
 それに、彼の目線から見た風景は、眠りに落ちる前に彼が見ていた光景とは全く違う風景だった。
 
 「洞窟?何故じゃ?ワシはさっきまで確か隣町近くの木の根元で休んでおったはずじゃが……。何より異様に身体が軽いのも不思議な感覚じゃのぅ。」

 起き上がり立ち上がろうとするも、全く身体が反応しないのだが、その実、身体自体は物凄く軽くさっきまで鉛のように重かったのが嘘のように彼は感じていた。
 ただ、立ち上がれない事に困り果て、どうしようかと考えだした時、彼の目線の先に水色のゼリー状の物体が現われた。

  「まずいのぅ、逃げねば……む?起き上がっても立ち上がってもいないのに何故動けるのじゃ?」

 彼は必死に起き上がろう、立ちあがろうとするが出来ず、どうにか逃げようとした瞬間身体が動いた。
 ただし歩いて動いたような感覚ではない、地面を滑るように移動したような感覚。
 今はそんな事を考えてる場合じゃないと思った彼は急いでその場から逃げだした。

  「おおぅ!凄いのぅ、こんなに早く動けたのは何十年ぶりじゃろう!」

 少し前までの彼であれば五十メートルほどの距離を歩くだけでも数十秒から下手したら数分かかっていたというのに、今の彼は百メートルほどの距離を三十秒くらいで逃げられたのだ。
 一人その事に感動していたが、どうしてこんな場所にいるのか……何故起き上がったり立ち上がったりしていないというのに動けるのか……何よりこの異様な身体の軽さと手足が全く動かない異様さは何なのか……そんな事を考え始める。
 そう、彼が改めてモンスターから逃げ出し冷静になってから思い至ったのは立ち上がれないとか起き上がれないという以前に、手足の感覚どころか、首を回したり腰を回したりするような感覚すら全くないという事だった。
 唯……六十年もただひたすらに無駄に生き続けたような変態の彼だ、大して慌てることもなく、唯不思議がるだけ、これを他の奴が見ていたらお前それでいいのかと突っ込んでいることだろう。
 残念ながら突っ込んでくれるような奴が誰もいないのだが……。
 ひとまず動けるならどこか安全なところまで行こうと動き始めた彼の目の前に池があった。

  「ふむ、まずは喉をうるおしてからにするかのぅ。人間水がなければいきていけ……ぬ?」

 彼がそう呟きながら池に近づき、水を飲もうとすると池の中にスライムがいた。
 慌ててその場から離れ襲ってこないか警戒する。
 ……しばらく待ってみるがこちらに来ないようだ……逃げるべきなのだが、今の彼はどうしても水を飲みたくて仕方なくなっていた為、もう一度恐る恐る池に近づいてみる。
 そぉっと覗きこんでみると、彼と同じように池の底から彼を覗き込むようにスライムがこっちを見ている。
 彼は覚悟を決めて、水を飲むためにスライムに襲いかかろうとその池に飛び込むと、スライムも同じように突っ込んできた。
 これはやばい……彼はそう感じて眼をつむり衝撃に備えたが、次に彼を襲ったのは池に突っ込んだ冷たい感覚だけだった。
 次の瞬間溺れそうになった彼は必死子いて池のふちまでよじ登り、ゼェゼェと荒い息を吐きながら改めて池を見てみる。
 そこにはやはり池の底にスライムがいた。
 そこでようやく彼は気付いた……スライムは水の中で生きていけないはずじゃなかったのかと……。

  「……ま、まさかのぅ。……ほぉれぇ……今度はこっちじゃ……。……本当なのかのぅ?冗談やどっきりじゃないのかのぅ?……フェイントじゃ!……ふむぅ……やっぱりこれは……認めるしかないのかのぅ……。」

 嫌な予感がした彼が試したのは、その身を動かして池にいるスライムがどういう反応をするかという事だった。
 彼が右に動けば池のスライムは左に動き、彼が左に動けば右に動く。
 まるで鏡のように自分を映しているかのようにだ。
 諦めの悪い彼は最後諦めたような状態を見せながらとっさに右に飛び跳ねると池の中のスライムも左に飛び跳ねる。
 間違いようがなかった……認めるしかなかった。
 そう……。

  「ワシ……スライムになってもうた……。」

 という事を……。
 こうして、彼の新しい人生は始まった。
 今度の彼の物語は果たしてどうなるのか……それは彼がこれからどう動くかで決まる事だ。
 それは誰にも解らない、彼が……彼だけが決める事のできる物語。
 こうして……彼の新しい物語が……スライムとして始まった。



[7490] 混沌世界 第二話
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/03/17 23:27
          第二話~スライムも意外と悪くないもんじゃのぅ。~





 彼の今がスライムである事が判明してから数分後、彼は水を飲みゆったりとくつろいていた。
 明らかに可笑しいだろうと突っ込みたいところだが、突っ込んでくれる存在はやはりいない。

  「ふむぅ、意外と悪くないのぅ。前みたいに少し動くだけで疲れる心配もないし、予想以上に身軽に動けるしのぉ。いい感じじゃ。」

 等とのたまいながら、スライムになった事に既に順応している彼。
 むしろ上機嫌になりながら鼻歌まで歌いだした……誰でもいいから彼に突っ込みを入れてほしい。
 とりあえず、しばらくの間身体がどういう風に動くのかを確認した彼は改めてどこか安全な場所がないかを探すために動き始めた。
 この洞窟、目の前の池を分岐に三方向に別れている。
 彼が進んできた目の前の道と左右に一本ずつ。
 ひとまず彼は左の道に進んでみることにした。
 モンスターと遭遇。
 彼が何かを意識する前にそのモンスターに彼は踏みつけられ……その命を落としたのであった……。
 END……。





 と、なるはずなのだが、気付けば彼は先ほどの池の傍で気を失っているだけであった。
 数分後眼を覚ました彼は不思議そうに自分の身体を確認していく。

  「……おかしいのぅ。今確かにオークに軽く踏みつけられて死んでしまったはずなのじゃが……。」

 彼がいくら身体を調べても傷ひとつなかった。
 とりあえず考えても解らないと判断した彼は今度は左の道に進んでみた。
 モンスターと遭遇。
 気付けば……(ry
 彼が反応する前に棍棒によって叩きつけられその命を落としたのであった……。
 END……。





 二度目だが……確かに彼は殺されたはずだった。
 今度の相手はコボルトだ。
 コボルトが持つ棍棒にたたきつぶされ死んだはずだった……だというのに彼はまた池の前で傷ひとつなくピンピンしている。

  「何故じゃ?いや……生きているとい言う事は素晴らしい事じゃが……。」

 彼は諦めて自分と同じスライムがいた目の前の道を進むことにした。
 さっき確認したのは間違いじゃなかったらしく、そこにはスライムが一匹ぽつんと……たそがれていた。
 たそがれていた……大事なことなので二度確認しました。
 その哀愁漂うたそがれ方に、思わず彼はそのスライムに声をかけてしまったくらいだ。

  「どうしたのじゃお主、そんなたそがれておって……。」

 彼は此処で気付いた……普通にモンスターに声をかけた所で話が通じるわけがないと。
 慌てて距離を取ろうとした彼に帰ってきたのはため息による返答だった。

  「はぁ……何でもありません。」

 という……普通に会話が成り立った。
 その事を不思議に思いながらも、深く考えず便利だなぁ程度で済ませた彼は重ねて理由を尋ねるべく話しかける。

  「何でもないという感じじゃないのぅ。ひとつこのワシに話してみてはどうじゃ?一人……一匹で抱え込むよりも話してしまったほうが楽になるという事もあるもんじゃ。」

 彼がそう言うと目の前のスライムはぽつぽつと語り始めた。
 スライムの話によると、彼はこの洞窟にいじめられ放り込まれたらしい。
 ただ、この洞窟にいるモンスター達はどれもスライムと比べると余りにもレベルが高いモンスター達ばかり。
 どうにかして洞窟から抜け出そうとするも、どう頑張っても道に入った瞬間にオークかコボルトに殺されて再生ポイントに戻されてしまい、そのため此処でたそがれていたという事だ。

  「再生ポイントとはなんじゃ?」

 彼の説明の中でどうしても解らない言葉があった彼は思わず彼の言葉が止まった隙に尋ねていた。

  「……再生ポイントをご存じないのですか?池の水が再生ポイントです。あれに触れてしまった以上、死んでしまったらあそこからやり直さなければいけなくなってしまうんです……知っていますよね?」

 不思議そうにそう言ってくるスライム……だが、彼がそんな事を知っている訳はない。

  「うむ、勿論じゃ、少々度忘れしてしまったようでのぅ。にしても……どうしたものかのぅ。」

 だというのに彼はいけしゃあしゃあとそんな事をのたまって、知っている事にしてしまった。
 怪しまれないため……というよりも、相手の上位に立っていたいが為の行動だった。

  「せめて……僕でも倒せるようなムームーとかがいるなら、倒してレベルを上げて……いつかは抜け出すこともできるかもしれないんですが……、今この場には僕が倒せそうなモンスター何ていませんので……本当に絶望的何です……もう二度と僕はこの洞窟から抜け出す事が出来ないんです……。」

 彼はそう言って泣き始めた。
 ……彼はスライムでも泣く事ができるんじゃなぁ……等と考えながら今彼が言った言葉について考えていた。
 そして……ひとつ思い浮かんだ事があったので提案してみることにした。

  「のぅ、お主ワシならどうじゃ?ワシを倒す事ならできるのではないかのぅ?それともワシを倒したところでレベルが上がったりはせぬか?」

 という事だ……この提案には勿論裏があった。
 これが当たれば、彼も目の前のスライムを倒してレベルを上げる事が出来るかもしれないという考えがあっての提案だった。

  「そんな!同族を倒すなんてそんな事出来ません!……倒せばレベルは上がりますけど……。」

 目の前のスライムも最初とんでもない!と言った感じで叫んだが、少し考えてぼそっとそういった。
 つまり可能だという事だ。

  「ではどうじゃろう、此処は覚悟を決め、互いに倒しあいレベルを上げ合うというのは。」

 彼がそう言うと目の前のスライムは「う~んう~ん。」と悩み始めて、しぶしぶうなづいた。
 こうして……まずは提案者の彼が倒されて、目の前のスライムがレベルを上げることになった。
 
  「ぬぅいた、いたたっ!いたっ!…………ぐふぅ!」

 彼は予想だにしていなかった、さっきまでは一撃で気付く暇さえなく殺されたので痛みさえ感じていなかったが、普通に死ぬまでじわじわと攻撃されれば物凄く痛いという事に。
 その痛みに臆病風を拭かれた彼が逃げ腰になったのは言うまでもないが、スライムは一度やってしまった以上気合を入れてやろうと思ったらしく、容赦なく彼を倒していく。
 一回、二回……五回、六回……十五回……三十回。
 彼がもうそろそろある種の達観を得られそうになったころにスライムがこれくらいなら……と満足したように呟いた。
 どうやら、目の前のスライム、レベルを一上げるだけじゃなく、コボルトを倒せるくらいまで一気にレベルを上げたらしい……少し彼もムカっときたが、先にコボルトが本当に倒せるかを試してみるべきだと判断し、スライムと共にコボルトのいる左の道に進むことにした。

  「懲りずにまたきたのかスライムが……二匹程度集まったところで一撃で終わりだってのがわかんねぇのかよ。いい加減諦めて一生あの場所で暮らしとけや。」

 そう言って振り下ろされる棍棒。
 だがスライムはそれを華麗に避けた。
 ササッっと。
 驚いたのはコボルトだ。
 その隙を見逃さず目の前のスライムはコボルトにタックルをかます。
 予想以上にダメ―ジを与えたらしく、たたらを踏んでこちらを睨みつけてくる。

  「手前ぇ!片方を殺しまくってレベル上げやがったな!外道が!」

 そう叫びながらスライムに突っ込んでくるコボルト。
 スライムはその攻撃をササッとよけながら何度かタックルをかます。
 そろそろ限界に近付いてきたあたりでスライムが油断したのだろう、コボルトの棍棒の一撃を受けてしまった。

  「ぐぅぅぅ!い、痛い……。」

 レベルが上がったせいか一発では死ななかったものの瀕死で身動きが取れないらしい。
 一歩ずつ嫌な笑みを張りつかせながらコボルトがスライムに近づいていく。

  「ククク、一番の雑魚モンスターの分際でこのコボルト様に戦いを挑むのが間違いなんだよ!死………ぐふぅ!」

 コボルトがそう言って棍棒を振り下ろそうとしたところに、隠れていた彼がこっそりと背後に忍び寄り思いっきりタックルをかましたのだ。
 コボルトももう瀕死の状態まで来ていたため、彼のような最弱の一撃であってもくらった瞬間倒れてしまった訳だ。

  「おおぅ!これがレベルが上がるという奴なのかのぅ。身体全体に力がみなぎってきおった!」

 コボルトを倒した瞬間、彼は今までに感じた事のない感覚を味わっていた。
 そしてどこか……本当に何処からか解らないが電波を受信していた。

     『レベルアップ!
      レベルが1から3に上がりました。
      HPが20上がりました。
      MPが10上がりました。
      STRが2上がりました。
      VITが1上がりました。
      AGIが5上がりました。
      DEXが3上がりました。
      INTが6上がりました。
      速度増加を覚えました!』

 こんな電波を受信したのだ。
 思わず叫んだ後どうしたものかと黙り込んでしまった彼に、スライムが近づいてきた。

  「良かったですね!レベルが上がったみたいで!神のお告げが聞こえたんでしょう……もしかして何か特殊技能覚えたりしましたか?」

 どうやらスライムもレベルが上がったときにあの電波を拾ったらしい。
 ただ、スライムの話によるとあれは神のお告げだという……どう考えても電波にしか聞こえないと彼は思いながらも、さっき聞こえた電波……改め神にお告げの最後の速度増加を覚えたといったら、酷く驚きながらうらやましそうにこっちを見てきた。

  「いいですね……。僕はレベル4になったのに何も覚えませんでした……。運がいいんですね……。っと、そんな場合じゃありませんね、今のうちに早く逃げちゃいましょう!」

 そう言って先頭を切って走り出すスライム。
 その速度はやはり遅い。
 唯……最初の彼よりは比べようもないほど早かった。
 大体百メートルの距離を二十秒くらいかかるくらいの速さだ。
 レベルが上がった彼も多少遅れ気味になりながらもかろうじて付いていくことができている。
 そして三百メートルくらいきた時、目の前に日の光が見えた。

  「あれが出口かのぅ?意外とちかかったんじゃな。」

  「そりゃそうですよ。僕をいじめる程度の奴がそうそう奥まで来れる訳ないじゃないですか。」

 そう言って洞窟を抜けだす彼とスライム。
 だが……スライムが洞窟を抜けてその事を喜んでいるのを見ながら……彼はその場から消え去った。
 そして気付くとまた池の目の前に……。

  「どういう事なんじゃ?」

 彼は一人何故じゃ……と言いながら途方に暮れる。
 すると、後ろの方からさっき倒したコボルトが現われた。

  「何だ……お前もこの洞窟に縛られたモンスターだったのかよ……。ならお仲間じゃねぇか。」

 コボルトはさっきまでの見下したような感じを一切感じさせずそう言って彼の隣に座り水を飲み始めた。

  「しばりつけられた……とはどういう事かのぅ?」

 彼が意味が解らないといった感じでコボルトに尋ねると、ニィと笑いながら説明をし始めた。

  「なぁに簡単な事さ。神だかって奴に決められちまった不運な奴って訳だ。縛られたってのはこのダンジョンから抜け出す事が不可能だってだけだ……唯それだけだ。まぁ……唯一抜け出す方法ってのもあるが現実的じゃねぇ……殆ど不可能に近いもんがある。……一応教えておいてやるか……俺はもう諦めちまったが、この洞窟の主になれば自由にこの洞窟に出入りできるようになるんだが……俺達のような低レベルモンスターじゃ絶対に不可能って奴だ。何せ最下層にはドラゴンがいるってんだからな。そんなもん倒せるわけがねぇ……ってことで、俺は諦めてこの入り口で役割を果たすことにしたってわけだ。幸い、縛られているせいか空腹とかはおきねぇし、慣れちまえばまぁ悪いもんでもねぇさ……まぁ、今でも時々外に出たくなる時があるけどな。」

 意外とこのコボルトいい奴なのかもしれない、彼はそう思ってコボルトの説明を考えていく。
 この洞窟の主になる……つまりは最下層にいるといわれるドラゴンを倒さなければいけない。
 コボルトに言われるまでもなく彼だって無理だってことは解るだろう……だが。

  「ワシは諦めぬぞ、もしかしたら可能かも知れぬのであれば、それに挑んでみようと思うのじゃ。」

 そう言ってコボルトを見つめた。
 ……彼に一体何が起こったのだろうか、人間だった時の彼であればコボルト同様、何不自由なく生きていけるのであればそのままそれを受け入れ、生きていたであるはずが、愚かにも不可能に近いドラゴンを倒しダンジョンの主になる道を選ぶとは。
 …………そうか、スライムになったことにより少し調子になっているのかもしれない。

  「……お前さん意外と凄い奴なんだな。俺よりレベルが低く最弱のモンスタースライムだってのに、それでもなお挑もうなんてな……。よしっ!俺はもう諦めちまったがお前はまだ諦めないんだな。なら俺はお前の糧になってやる。俺程度でも倒し続ければレベル八くらいまでは上がるはずだ。そうすればもしかしたらオークを倒せるようになるかもしれねぇ。……かもしれないだけだけどな。諦めないんだったらやるしかないだろう。さぁ、俺を倒せ!」

 そう言って仁王立ちになるコボルト……どこか酷くかっこよく見える。
 彼はそんなコボルトの言葉に感動し、感謝の言葉を呟きながら容赦なく攻撃を加える。
 だが最弱のスライム……レベルが少し上がったところでダメージを与えるのはささやかなものだ。
 さっきスライムが攻撃をしてダメージをくらったように見えたのはただ運がよくいい場所にあたったせいだったらしい。
 十数回のタックルの結果何とかコボルトを倒すことに成功する。
 さっきと同じようにでん……神のお告げが聞こえてきた。

     『レベルが上がりました!
      レベルが3から4にに上がりました!
      HPが12上がりました!
      MPが6上がりました!
      STRが3上がりました!
      VITが1上がりました!
      AGIが4上がりました!
      DEXが3上がりました!
      INTが4上がりました!
      小ヒールを覚えました!』

 復活してきたコボルトにレベルが上がりまた新しい特殊技能を覚えた事を伝えると酷く驚かれた。
 滅多に特殊技能を覚えることなんてないらしい。
 よっぽど運がいいんだなぁとコボルトは言った。
 それから……二日かけてコボルトを倒し続け、少し戦い方を学ぶためにもコボルトと一対一で戦ったりを繰り返し、三日後とうとうレベルが八に上がった。

  「コボルトよ、初めての我が友よ、世話になったのぅ。お主の事は忘れぬよ。いずれ……ワシが無事ダンジョンの主となれればお主に会いに来ると約束しよう……。その時までさらばじゃ。」

  「おう、期待しないでまってるぜ!せいぜいがんばってきな。俺の初めての友よ!」

 そう言って……三日間共に過ごした初めての友達ともいえるべき存在のコボルトと別れることになった。
 彼にとってこう自分のために身を張ってくれる者等、人として生きている時ですらだれ一人いなかった。
 だから彼にとってこのコボルトは本当に初めてできた友達だったのだ。
 それはコボルトも同じようで、ニィっと笑った。
 こうして……彼の新しい……初めての挑戦が始まった。
 未だ最弱のモンスターの名をほしいままにするスライム、それの低レベル。
 そんな彼がこれからどう成長し、進んでいくことになるのか……彼の頑張り次第だ。
 是非とも……いい感じに踊って……コホン!いい感じに冒険してくれる事を祈ろう。









          『彼の現在のステータス』
           ・レベル:8
           ・HP:85
           ・MP:40
           ・STR:12
           ・VIT:8
           ・AGI:23
           ・DEX:17
           ・INT:22
          『特殊技能』
           ・速度増加レベル1
           ・小ヒールレベル3
           ・毒無効化



[7490] 混沌世界 第三話
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/03/18 12:17
          第三話~素早さって重要なんじゃのぅ。~





 ササっとよけながら鈍いオークの攻撃を避け、隙をつき僅かなダメージを与えていく。
 そう、彼は今右の通路にいるオークと戦闘中だった。

  「ぬぬ、反応が鈍いおかげで攻撃はくらわんのだが……いかんせん、ダメージが余り通らぬ……。」

 そう、オークの特徴であるタフネス。
 大して防御力も高くはないものの、コボルトと比べると高いその防御力は彼程度の攻撃力だと殆どダメージを与える事が出来ないのだ。
 ただ全くのノーダメージというわけでもないので時間さえかければ何とか倒すことは可能だろうと、彼は考え戦う事二時間ほど……。

  「流石にタフじゃのぅ。にしても……この身体便利にできておるな、二時間近くたたかっておるというのに、余り疲れがでぬは。」

 と、嬉しそうに呟く。
 オークの攻撃は単調だ。
 ただひたすら踏みつぶそうとするか、殴り潰そうとするかの二パターン。
 コボルトと違い、知能がないらしくただひたすらそれだけを繰り返すだけだ。
 素早さが比較的高くなっている彼にとって時間さえかければ大して脅威になりえぬモンスターになっていたという訳だ。
 それから一時間後、地道にダメージをくらわせ続けた彼はとうとうオークを倒すことに成功した。

  「ふぅ、流石に少々疲れたのぅ。ただ三時間近くの戦闘でもこの程度であれば、一日中でも戦い続けられるかもしれんのぅ。」

 彼は感心したようにそうつぶやくと、またでん……神のお告げが聞こえてきた。

     『レベルが上がりました!
      レベルが8から12に上がりました!
      HPが50上がりました!
      MPが23上がりました!
      STRが6上がりました!
      VITが3上がりました!
      AGIが8上がりました!
      DEXが5上がりました!
      INTが7上がりました!』

  「ふむ、特殊技能はおぼえなんだか、まぁ攻撃力が今回高く上がったので良かったと思っておこうかのぅ。」

 彼はそして先に進みだす。
 少し進むと少し広めの広場となっており、真正面の少し進んだところに先に進む道が一つあるだけの広場。
 元来臆病者の彼は、何か怪しいなぁという思い、左側の壁際をたどりながらその広場を歩いていくと何やら違和感がある壁がある事に気づいた。

  「なんじゃこれは?壁……じゃないのぅ。」

 そう呟きながらその違和感のある壁に近づくとスゥっと彼はその壁を通り抜けてしまった。

  「ぬぅ!……何と隠し部屋であったのか。という事は宝でもあるのかのぅ!」

 彼は少し浮かれ気味にそう呟きその隠し部屋となっていた部屋を見渡した。
 結構広めの部屋で入り口から奥までは見えなかった。
 彼は浮かれながらも慎重に壁際を歩き奥へ奥へと進んでいく。
 結果何事もなく部屋の奥につき、そこに宝箱が設置してあった。

  「おおぅ!人生初の宝箱じゃ!何がはいっておるのかのぅ!」

 彼はそうして、何の警戒もなく宝箱を開けはなった。
 開けた瞬間に彼はハッと罠があるかもしれない事に気付き、直ぐに離れるが……罠はなくそのまま宝箱は開いていった。

  「ふぅ……良かった良かった。なにもなかったのぅ……さて中身は……薬草じゃのぅ。」

 宝箱の中には十五個程の薬草が入っていた。
 少しがっかりしながらそれを取ろうとするが……。

  「はて、この身体でどうやって薬草をもてばいいのかのぅ?」

 という事に気付き、どうしたものかと考え込む。
 試しにと身体で押しつぶすようにその薬草の上に乗ると不思議なことに身体の中にその薬草が入り込み、薬草はきれいさっぱりとその姿を消し去った。

  「ぬぅ……どうしたことじゃ?取り出すことは……できんようじゃのぅ。つまり……ワシは宝を見つけても手に入れる事が出来んという事か……。」

 がっかりしながら宝箱の中から出るとふいに神のお告げが聞こえてきた。

     『上薬草を十五個吸収しました!
      小ヒールのレベルが上がりました!
      小ヒールのレベルが3から5に上がりました!』

  「何と!なるほどのぅ……アイテムを手に入れることはできん代わりに吸収できる……という訳であったか。……武器や防具であったらどうなるのかのぅ?」

 驚き、特殊技能のレベルが上がった事に喜んだ後、ふと疑問に思った事が口に出た。
 だがそれに応えてくれるものは存在せず、彼はとりあえず見つけた時に試してみるかのぅと言いながら隠し部屋から出ることにした。
 隠し部屋から出た後、試しにと右の壁も調べてみると同じように隠し部屋があり、そこの奥にも宝箱があり、中には毒消しが十五個入っていた。
 同じように上に乗り吸収するとまた神のお告げが聞こえてくる。

     『毒消しを十五個吸収しました!
      毒無効化が強化されました!
      毒無効化から毒吸収に変化しました!』

  「はて?毒吸収とは……よく解らん効果じゃのぅ。毒にかかったら回復し続けるという事かのぅ?……実際経験してみねば解らぬか……。」

 そして隠し部屋から出ると、漸くもともとあった道へ進み始める。
 少し進むとその通路の先には一匹のモンスターが待ち構えていた。
 ビックウルフ……その名前の通りばかでかい狼型のモンスターだ。
 レベル自体は大して高くないもののやっかいなモンスターとして知られている。
 その理由は……素早いからだ。
 低レベルの冒険者であれば間違いなく殺されてしまうであろう強さ。
 さきのオークであれば全く問題にならず倒されることだろう。

  「……一気にモンスターの強さのレベルが上がりすぎではないかのぅ?流石に……今のワシで倒すことはふかのうじゃないのかのぅ?」

 冷や汗を流しながらそうつぶやくが、その先に階段が見える為、どうしてもビックウルフを倒さないと先には進めない。
 戦おうと覚悟を決めると、彼は特殊技能、速度増加レベル1を使った。

     『速度増加を使いました!
      AGIにプラス3の修正が加わりました!』

 という神のお告げが聞こえ、ビックウルフに相対する。
 気付くと池の目の前にいた。

  「……あれはむりじゃ、絶対に無理じゃ。」

 ビックウルフに相対した瞬間、爪が襲いかかり一撃で死んでしまったのだった。
 避けようとしたが、反応するよりも早くその爪が彼を切り裂いてしまった。
 つまり圧倒的に素早さが足りていないのと耐久力が足りていないのだ。

  「……レベルを上げねばいかんのぅ。……オークでレベル上げ……ちとしんどいのぅ。」

 そう呟き動きだそうとしたときにまた神にお告げが聞こえてきた。

     『レベルが下がりました……。
      レベルが12から11に下がりました……。
      HPが12下がりました……。
      MPが4下がりました……。
      STRが1下がりました……。
      VITが1下がりました……。
      AGIが3下がりました……。
      DEXが2下がりました……。
      INTが2下がりました……。』

 そのお告げと共に彼はそう言えばそうじゃったのぅと呟きながらコボルトが言っていた事を思い出していた。

  『一つ言い忘れていたが、レベルは相手を倒すと上がるが、逆に倒されると下がるから気をつけろよ。まぁ……下がるといってもレベルが1下がるだけだが……後になればなるほどその1を上げるだけでも大変になるはずだ。気を付けるに越したことはない。ん?俺が倒され続けてレベルは大丈夫なのかって?ああ問題ない。俺の最低レベルは基本4なんでな。それ以上は下がらないようになっている。スライムであるお前は最低レベルが1だから、下手したら1まで下がっちまうけどな。』

  「そうじゃったのぅ……せっかく忠告を貰っていたと言うのにすっかり忘れておった……。もっと気を引き締めねばな。」

 そう言ってオークのいる右の通路に再度進む。
 復活を果たしたオークが先ほどと同じようにそこにたたずんでいた。
 今度の戦闘は先ほどレベルが上がり、攻撃力が上がっていたせいか二時間ほどで倒す事が出来た。

     『レベルが上がりました!
      レベルが11から13に上がりました!
      HPが22上がりました!
      MPが8上がりました!
      STRが4上がりました!
      VITが1上がりました!
      AGIが7上がりました!
      DEXが7上がりました!
      INTが5上がりました!
      速度増加のレベルが上がりました!
      速度増加のレベルが1から2に上がりました!』

 いい感じじゃのぅ……そう呟きながら一度池の前までもどり、数十分後また右の通路へ。
 そして復活を果たしたオークを更に倒していく。
 それを二十回ほど続けると、二日程の時間がかかってしまった。

     『レベルが上がりました!
      レベルが19から20に上がりました!
      HPが5上がりました!
      MPが2上がりました!
      STRが2上がりました!
      VITは上がりませんでした……。
      AGIが4上がりました!
      DEXが2上がりました!
      iNTが5上がりました!
      速度増加のレベルが上がりました!
      小ヒールのレベルが上がりました!
      速度増加のレベルが3から4に上がりました!
      小ヒールのレベルが5から6に上がりました!』

 その後、再度オークを倒したのだが、次に聞こえてきた神のお告げはこんなものだった。

     『……経験値を得られませんでした……。
      レベルに対して相手のレベルが低いので経験値は入りませんでした……。』

  「なるほどのぅ。コボルトの奴がレベル8までにしたのはこういう理由があったからなんじゃな。……あ奴教えたつもりできっと忘れておったな……。」

 彼はふぅとため息を吐きながら少し疲れがたまった身体を休ませる。
 一度池に戻り水で喉をうるおしながら今日は残り時間休み、明日改めてビックウルフにチャレンジしようと呟くと、そのまま池のほとりで眠りに就いた。





 そうして、再びビックウルフと相対する。
 前回反応すらできなかった爪の一撃をかろうじて躱すことに成功し、そのすきを突きタックルをかます。

  「ぐぅぅるぅ!?」

 驚いたように叫び声御あげ、警戒したように一度距離を開けた。

  「むぅ言葉を操るほどの知性はなくとも本能レベルの警戒は出来るという訳じゃな……やっかいな。」

 彼はそう呟き特殊技能小ヒールを使う。
 神のお告げで『HPが全快しました!』というのを確認し、改めてじりじりと近づいていく。
 速度増加をかけてかろうじてついていける程度の速さだ。
 油断すれば一気に負けてしまう。

  「ぐぅるる!」

 近づく彼に素早く移動をしながら横に来たビックウルフがその爪を再度振り下ろす。

  「ぬぅ!き、きっついのぅ。」

 死にはしなかったものの一撃でHPの六割を持っていかれる。
 再度小ヒール二度ほどかけ、HPを全快させると、今度は彼が全力で突っ込んだ。
 流石に突っ込んでくるとは予想していなかったのか、反応が遅れたビックウルフは逃げそこなり、横っ腹に全力のタックルを食らう。

  「いい感じに決まったのぅ!クリティカルヒットという奴じゃな!」

 彼はそう叫びながら追撃する。
 もう一撃タックルをくらわせるのに成功するが、ダメージをくらいながらもビックウルフはその爪を彼に振り下ろし、彼はカウンター気味の一撃をくらう事になった。

  「ぐぅふ!……や、やばかったのぅ……というか、身体が動かぬ!」

 今のカウンターがいい感じに決まったせいで彼のHPはレッドゾーンだ。
 瀕死の状態になってしまい身動きが取れなくなった彼は急ぎ小ヒールをかける。
 三回の小ヒールで体力を全快にさせた時、目の前にはビックウルフが迫りその爪を振り下ろしていた。

  「あ、危ないのぅ、少し遅れておったらおわりじゃったわい。」

 そう呟き名がもぎりぎりで躱し距離を開ける。
 ビックウルフは自分を回復する手段がないらしくダメージを負ったまま……それもかなりのダメージを負っているらしく動きが鈍くなっている。

  「ふむ……何とかなったのぅ。」

 彼は動きの鈍くなったビックウルフに注意しながら近づき、爪を振り下ろした後そのすきをついてタックルをくらわせる。
 動きが鈍ったビックウルフであれば、今の彼にとって問題となる相手では既になくなっていたのだ。
 それから数度タックルをくらわせると、断末魔を上げながらビックウルフは倒れた。

  「……やはりしんどいのぅ。素早さ……これ意外と大事な要素じゃな……。ワシのステータスの上がり方が素早さ重視で本当に良かった……。」

 そう独り言を漏らしながらため息をつくと神のお告げが聞こえてくる。
 もういい加減その神のお告げにもなれたものだ。

     『レベルが上がりました!
      レベルが20から26に上がりました!
      HPが25上がりました!
      MPが20上がりました!
      STRが5上がりました!
      VITが3上がりました!
      AGIが16上がりました!
      DEXが10上がりました!
      INTが14上がりました!
      身体硬化を覚えました!』

 そのお告げを聞きながら満足そうに、嬉しそうに彼は笑うと目の前の階段を下りて行った。
 こうして……彼はとうとう第一層をクリアし二層へ進む。
 彼は気付いていないがこれは今までにない驚くべき事であった。
 今までこのダンジョンに一層から二層に下ったモンスター等存在しなかったのだ。
 一層にいるようなモンスターであれば絶対に階段前のビックウルフを倒せない……そう思われていたためである。
 それを彼はやってのけた。
 この洞窟が生まれて初めての快挙……ただ……今それを知る存在は誰もいなかったので、その事をたたえられる事が……この先あるかどうかも今は解らない。
 唯解るのは……これからも何とか彼が冒険を続ける事が出来るという事だけだ。
 こうして……彼の冒険は続く……。










          『彼の現在のステータス』
           ・レベル:26
           ・HP:210
           ・MP:107
           ・STR:34
           ・VIT:16
           ・AGI:70
           ・DEX:49
           ・INT:63
          『特殊技能』
           ・速度増加レベル4
           ・小ヒールレベル6
           ・毒吸収
           ・身体硬化



[7490] 混沌世界 第四話
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/03/19 19:57
          第四話~第二層……って、狭いのぅ。~





 気を引き締め直し挑んだ第二階層……階段を降りた先に続くのは一本の道だった。
 彼はその一本道を進んでいく。
 しばらく進むと左右への分かれ道になっていた。
 彼はまた左の道へ進み、少し進んだところにモンスターが腰をおろして座っていた。

  「ん?珍しいねぇ。こんなところにスライムが来るなんて。……って初めての事じゃないか!いやぁ……此処に来たって事はビックウルフを倒してきたって事だろう?スライムなのに強いね君。」

 彼に気づいたそのモンスター、マミーと呼ばれる包帯を巻いたモンスターはそう気安く声をかけてきた。

  「ふむ、そうなのかのぅ?というよりもお主は……戦わなくても良いのかのぅ?」

 最初普通に珍しいという発言に疑問を投げた彼だったが、直ぐに正気に戻り多少距離をとりながらそう聞き返す。

  「ん?いいのいいの。だっていくら頑張ろうと頑張らなかろうと給料変わんないんだしさ。それなら楽~にしてた方がいいっしょ?ああそうそう、この先に行くと行き止まりの上、罠があるからやめておいた方がいいよ~。ちなみに今進んできた所の分かれ道から左の道はいった?まだなんだぁ……ならあっちにはリザードマンがいるから気を付けてねぇ。彼……戦闘マニアだからさ、きっと君みたいな珍しいスライム喜々として襲いかかられちゃうと思うからね。」

 それにしても良くしゃべるマミーである。
 一応……マミーの言葉を確認するためにその通路の奥に進む。

  「ん~疑い深いなぁ……って、まぁこんなマミーを素直に信じるような正直者じゃ、この先危ないからそれくらいでちょうどいいのかな?」

 等とからからと笑いマミーは彼の後をついてくる。
 ただマミーが言った通り通路の先は行き止まりになっていた。
 彼はそこに何もないのかを調べ……罠が発動した。

  「ぬぅ!……ぬ?……なんと、お主が助けてくれたのか、すまぬのぅ。助かった感謝するぞ。」

 そこで発動した罠は落とし穴。
 下にはとがった針が敷きしめられているので落ちたら一発死亡間違いなしだった。
 それを助けてくれたのがついてきたマミーだった。

  「もぅ……少しは忠告ききなよ。危ないなぁ。でも間に合って良かったよ~。ほんともう少し気を付けなよ?」

 そう言ってマミーは彼を罠から救い、何事もなかったかのようにまたぺらぺらと話しだす。
 来た通路を今度は戻り、分岐点まで来たあたりでマミーと別れることになった。

  「ん~僕、彼と相性が悪いからさ、ここまでだねぇ。久しぶりにお話しできて楽しかったよ~。もし縁があったらまたね~。」

 そんなマミーの言葉を聞きながら彼は右の通路に進みだす。

  「モンスターも色々いるもんじゃのぅ。あんなマミーがいるとは夢にもおもわなんだ。」

 彼はそう呟きながらマミーの忠告通り少し注意しながら道を進む。
 しばらく行くと少し広めの広場に出た。
 そこにはマミーが言った通りリザードマンが待ち構えている。

  「ぬ?スライムか……スライムだと!何故お主のようなモンスターが此処におるのだ?……と、答えは決まり切っているな。つまり一つ上の階層のビックウルフを倒してきたというわけか。なるほど……これは久しぶりに楽しめそうだな。」

 問答無用でそう言うと剣を構え今にも襲いかかってきそうなリザードマン。
 彼も特殊技能の速度増加をかけ戦闘準備を済ませる……と、素早い動きでリザードマンが彼の目の前まで走り寄った。
 とっさに横に逃げる彼だが、リザードマンは冷静にその動きについてきて剣をなぎ払う。
 無理やりに後ろの飛び跳ねた彼は軽くかする程度で何とか回避に成功した。

  「良い動きだ……とてもスライムとは思えん。久しぶりの好敵手だな!」

 楽しそうに笑いながらリザードマンはなおも彼に襲いかかる。

  「きっついのぅ。ワシは余りこういう暑苦しいのは苦手なんじゃがなぁ……。」

 彼はそういうと突っ込んできたリザードマンに……同じように突っ込み始めた。
 これに驚いたのはリザードマンだ。
 流石に真正面から突っ込んでくるとは予想していなかったようで、突っ込んできた彼にその剣を振り下ろす。
 だが、慌ててふるった剣に当たるほど彼の素早さは低くはない。
 ササっと躱し、隙ができたその腹に思いっきりタックルをかます。
 これでもかなりレベルが上がり攻撃力も上がってきている彼の攻撃だ、大ダメージとはいかないまでも普通にダメージを与えることに成功した。

  「やるな!まさかスライムがこんな積極的な戦い方をするとは思わなかったぞ!楽しいな!」

 そう言って笑い続けるリザードマンに彼は疲れたようにため息をついた。
 しばらく互いにけん制し合いながらの様子見を続けながらジワリジワリとダメージを与えられ、与えていく。
 ただ彼には特殊技能の小ヒールがある。
 体力が半分を切ったあたりで小ヒールを使い回復する。

  「何と……お主そんな特殊技能まで持っていたのか……これは少し厳しいかもしれんな……だが、こういう戦いだからこそ燃えるというものだろう!」

 少し厳しめの表情でそう言いながらなおもリザードマンは彼に近寄り剣をふるう。
 回復された事できりがないと思ったのだろう、先ほどと違い休むことなく連続で追撃をしてくる。
 流石に全部躱しきるのは無理で、じわじわとダメージが追加されるが、小ヒールを唱える暇もなく少しずつ追い込まれていく。
 このまま終わるかもしれない……そう彼が考え始めた時漸くリザードマンの動きが鈍くなり始めた。

  「ふぅ……危なかったのぅ。もう少しお主に体力があればワシの負けじゃったぞ。」

 そう言い、鈍くなった動きのリザードマンから逃げ、距離を開け改めて小ヒールをかけ直す。

  「はぁはぁはぁはぁ!駄目だったか!今ので仕留め切れないとなると……やばいかもしれんな。」

 リザードマンは汗をびっしりと書きながらそれでも諦めることなく剣を構え彼の次の攻撃に備える。
 疲れ切った身体で攻撃するよりも、体力が回復するまで防戦に徹しようと考えたためだろう。
 このままだと回復するまで粘られる……そう考えながらどうしたものかと考えを巡らせていると先ほど覚えたばかりの一つの特殊技能の事を思い出した。

  「(ふむ、あれは通常防御力を上げる為のものじゃが……試してみる価値はあるかのぅ。)」

 彼はそう考えると特殊技能身体硬化を使った。

  「ぬ?そこで防御力を上げ防戦に徹するのか……。違うな……素早さ重視のお主がそんなことするとは思えない以上……何か作があるのであろう。良かろう、真向からその策打ち破ってくれるわ!」

 防御の体勢をとったリザードマンは剣を腰に戻しそう叫び、どんな攻撃でも耐えて見せるといった感じで構える。

  「ふむ、行くぞ!」

 彼はそういうと、一度距離を開け、思いっきり助走をつけたうえで真正面からリザードマンに突っ込んだ。
 助走をつけた分当たればダメージがでかいだろう。
 防御態勢をとっているリザードマンは反撃は出来ない……が、その状態のリザードマンにする攻撃としてはこの程度の攻撃大したダメージになりはしない。
 通常の状態でくらわせれば大ダメージとなるだけだ。
 だが……。

  「ぐぅ!……な、なるほどな、そのための身体硬化……スライムである己の特徴を利用した独特の攻撃方法だな……。」

 結果はかなり大きくダメージを与えることに成功した上、防御した右腕を負傷させることにまで成功した。
 これでリザードマンはまともに剣を振るう事も出来ない。
 今彼が行ったのは唯のタックルだ。
 通常身体硬化は身体を堅くし敵の物理攻撃に備える特殊技能だ。
 この特殊技能……特徴は身体を固くすることにある。
 決してVITに補正をかけて防御力を上げるわけではないのだ。
 通常人型のモンスターや動物型のモンスターであれば身体の一部だけが固くなるだけの防御用の特殊技能だが、スライムである彼が使うとその体全体堅くくなる。
 それを利用したタックル……。
 その上身体は堅くなる者の素早さが落ちたりする事がないので、彼本来のスピードを生かした上での大ダメージとなったわけだ。
 その後はもう、利き腕の右を負傷し剣をふるえなくなり、動きも鈍くなってきていたリザードマンに勝ち目がある訳もなく何もないまま倒すことに成功した。

  「見事だ!こうも満足する戦いは久しぶりであった。もし……また巡り合う事があれば是非もう一度手合わせを願おう!さらばだ!」

 リザードマンはそれだけ言うとその姿を消した。

  「ふぅ……本当に疲れる奴じゃのぅ。ワシはああいう奴は苦手でな、もう二度とごめんじゃよ。」

 そう言って力の入っていた身体から力を抜く。
 そこでまた神のお告げが聞こえてきた。

     『レベルが上がりました!
      レベルが26から27に上がりました!
      HPが4上がりました!
      MPが6上がりました!
      STRが2上がりました!
      VITが1上がりました!
      AGIが3上がりました!
      DEXが2上がりました!
      INTが3上がりました!』

  「ぬぅ……最初と比べると明らかに体力の上りが下がってきおったのぅ。これからはずっとこの調子でしかあがらぬのか?」

 体力の上がり方が少なくなってきたことに少し不満を感じながらも彼は先へと続く道を進み始める。
 それから数分進んだところでまた左右に分かれる分かれ道だ。
 また左の道に進み、今度はモンスターが出ることなくその奥まで進む事が出来た。
 そこには宝箱が一つぽつんと置いてある。

  「罠は……ないようじゃな。さてさて中身は……ぬぅ、でおったな……盾……鉄の盾じゃな。」

 彼が最初の宝箱をの中身を吸収した時に浮かんだ疑問。
 武器や防具の場合どうなるのか……その疑問に回答を得るべく、彼はその鉄の盾の上に降りる。
 すると……不思議なことに薬草と同じようにその体内に鉄の盾が吸収されていった。

  「なんと!こんな武器防具まで吸収できるというのか……何と便利な……というより不思議な身体じゃのぅ。」

 感心したように呟きながら、聞こえてきた神のお告げの効果を聞いていく。

     『鉄の盾を吸収しました!
      身体硬化の硬度があがりました!
      身体硬化が身体硬化小に変更されました!』

 これは彼にとってかなり嬉しい効果だ。
 身体硬化の硬度が上がれば上がるほど純粋に彼の一撃の重さが変わってくる。
 それに間違って攻撃を受けても今までよりダメージを軽減できるのだ。
 いいことづくめの能力である。
 効果に満足しながら先ほどの分かれ道を今度は右へ進む。
 現われたのはスケルトン……正直先ほどのリザードマンと比べるとこちらの方が弱いモンスターだ。
 身体硬化小を使い思いっきりタックルをかますと……一撃で終わってしまった。

  「なんと……予想以上の攻撃力じゃのぅ……。いやスケルトンが弱すぎただけかのぅ?」

 神にお告げが聞こえる事がなかったので、そのまま奥へ進むことにした。
 少し進んだあたりにいたのは今度はビックスライムだ。

  「ぬぅ、ワシと同種族……なのかのぅ?」

 見た瞬間そう思った彼だが、目の前のビックスライムには知性というものがかけらも存在していないようだ。
 その大きな身体を震わせながら鈍い動きで彼に近づいてくる。

  「遅いのぅ……スライムという名が付いているが……ワシとは種族が違うのかのぅ。取りあえずは……倒してしまうとするか。」

 彼はそういうと身体硬化小を使い思いっきりタックルをかます……が。

  「なっ!……物理攻撃が聞かないじゃと?偶々か……それならもう一度試してるかのぅ。」

 もう一度タックルをかますが、やはり聞いた様子もなく跳ね返されることになった。

  「ぬぅ……純粋に攻撃力が足りないだけなのか……本当に物理攻撃が無効化されているのか……解らぬが今のワシでは倒す事が出来ないのは確かじゃな。」

 どうしたものかと困り果てていた彼だが……ふと気付くと普通にくぐりぬけその後ろの階段までいけそうだった。
 試しにと……攻撃してくるその体を躱しながら進んでみると……意外と簡単に抜ける事が出来た。

  「……なんなんじゃ?……と、とりあえず今は倒せぬのじゃ、このまま進ませてもらうかのぅ。」

 彼はそう少し何かしらけた感じを受けながらもその階段を下りて行った。
 後ろではビックスライムがブルブルと震えながらどこか落ち込んだように肩を落としているようにも見える。
 そんなのを全く気にすることなく彼は階段を降りきった。
 こうして……意外と短かった第二層をクリアし第三層へ。
 レベルが殆ど上がらなかった事に不安を覚えながらも、モンスターにも本当に色々いるものなんじゃなぁ……と考えながら先へと進む。
 こうして……彼の冒険は続けられることになった。
 一体……何処までこのように進めるかは解らぬ道のりだが、こうして彼の物語は続いていくことになったのだった……。









          『彼の現在のステータス』
           ・レベル:27
           ・HP:214
           ・MP:113
           ・STR:36
           ・VIT:17
           ・AGI:73
           ・DEX:51
           ・INT:66
          『特殊技能』
           ・速度増加レベル4
           ・小ヒールレベル6
           ・毒吸収
           ・身体硬化小



[7490] 混沌世界 第五話
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/03/26 09:19
          第五話~この調子なら余裕かもしれんのぅ~。~





 第三階層におりて一本道を進む事十分程……余りにも長い道の先にあったのは行き止まりだった。

  「ぬぅ!……どこか……隠し通路か隠し部屋があったのかのぅ。めんどくさいがもう一度調べ直しじゃな……。」

 彼はそういうと、壁際を注意深く調べながら少しずつ来た道を戻っていく。
 来たときの二倍ほどの時間をかけ、階段の目の前まで戻ってきた。

  「……い、意地の悪い所に作るもんじゃのぅ。」

 階段の直ぐ左の壁を調べるとそこに隠し通路がある事が判明し疲れたように彼は呟く。
 少し肩を落としながらその新しい通路を進んでいく……今度は最初から壁などを調べ注意しながら進んだため、その移動速度は非常に遅い。

  「ぬぁ!っっ!吸血蝙蝠か!」

 壁と地面を調べながら進んでいた彼に突然背後からモンスターが襲いかかった。
 油断していた訳じゃない、人間くらいの大きさがあれば気付いたことだろう……ただ、今の彼はスライム……非常に背の低いスライムだった……。
 どうしても上への注意は行き届かず、こうしてバックアタックを受けてしまったのだ。
 ただ、レベル的に彼を一撃で殺せるほどの強さを誇るモンスターではない。
 むしろ、今の彼であれば雑魚として倒せる程度のモンスターだ。

  「……油断したつもりはなかったじゃがのぅ……。上への注意は……難しいもんじゃなぁ。」

 彼は倒し終えると小ヒールを唱え回復し、ため息をつきながら先へ進む。
 それから三度ほど吸血蝙蝠に襲われるが、やはり上へいくら注意しようと彼の視線から天井までを完璧に見る事が出来ず、二度ほどバックアタックを受けてしまった。
 幸いだったのは相手のモンスターのレベルが低かったことだろう。
 助かったと思いながら、漸く少し広めの広場に出た。

  「池……じゃな……。もしやこれは……復活ポイントという奴かのぅ?……念のために水に触れておくべきじゃな。」

 そう呟き、彼は水を飲むついでに一度池に飛び込んだ。
 その後、少し休憩をはさみ、少し先にある一本道へと進み始める。
 長い……ただひたすらにこの階層の道は長かった。
 そして……モンスターの数がさっきまでの階層と比べて段違いに多い。
 池から進み続けて一時間ほど……まだ一本道は続いている……少しずつ下りながらのスロープ状になっているのかもしれない……そうじゃないと明らかに広すぎることになる。
 その間に出てきたのは全部吸血蝙蝠だがその数全部で五十三匹。
 一度に最初は一匹ずつだったのが途中から二匹三匹と一気に襲いかかってくるようになった。
 初めての複数戦に少し焦りを見せた彼だったが、明らかにレベル差があるため問題無く対処することに成功し、今こうして道を進み続けている。
 流石にそれだけの数を倒していればレベルも上がり、今の彼のレベルは二十九になっていた。

  「ようやっとこの道も終わりじゃのぅ。……また……これから同じような道が続くのだけは勘弁してもらいたいもんじゃ……。」

 疲れたようにそう呟きながら、大きめの広間に彼は入って行った。
 かなり広めの広間……奥が全く見えないほど広い。
 彼は注意深く周りを警戒しながら壁際を歩き、奥へ進む。
 奥にはまた……一本道。
 そしてその前には一匹のモンスター。
 ……その名はトロール……オークを更に一回り大きくし、醜くしたようなモンスターだ。
 強さは……今まで出てきたモンスターの中で一番強い……。
 注目すべきは一撃の攻撃力とタフネスさだ。

  「ガァァァァァァァッ!」

 トロールは雄たけびと共に手に持っていた棍棒を思いっきり彼に向かい叩きつける。
 地響きが起きるほどの振動が地面を襲うが、彼は難なく避けていた。
 一度攻撃してから次の攻撃へ素早く行動することができないらしく、そのすきをつきいつもの通りタックルをかますが……。

  「……きいているのかのぅ?」

 タックルをかましても呻き声一つ上げないトロール。
 冷や汗を流しながらきいているか実感がないまま攻撃を躱しタックルをかます……それを只管繰り返す。

  「ぬぅ、……これでどうじゃ!」

 大振りの一撃をしたトロールの攻撃をかわし素早く後ろに回り込んだ彼は、身体硬化小を使い思いっきりタックルをかます。
 
  「ぐぉ!ッガァァァァァァ!」

 この一撃はそこそこきいたらしい、少しうめき声が漏れた。
 それに安堵した彼は、攻撃を注意深く避け、地道に攻撃を重ねていく。
 三時間……四時間……これだけの長い時間をかけ、漸く彼はトロールを倒すことに成功した。

  「もう駄目じゃ……流石に……疲れたわい。精神力も限界に近いのぅ。」

 そう呟いた彼は少しだけ先に進みトロールとかみ合わないであろう距離を開けると少しの間休憩することにした。

  「やはりワシの身体では一撃一撃が弱すぎるのぅ。その上一撃食らえばかなりの確率で死ぬ可能性が高いとは……厳しいのぅ。流石は最弱モンスターと呼ばれるだけはあるもんじゃな。」

 もう気にもならなくなった独り言を呟きながら精神力がある程度回復するのを待つ。
 二時間ほど休憩し、そろそろ進もうと思った矢先に吸血蝙蝠から攻撃をうけた。

  「ぐぅ!本当に厄介じゃ!上からの攻撃に弱すぎる!」

 彼はそう愚痴りながら襲いかかってきた吸血蝙蝠を倒し、先に進むことにした。
 その後……ただひたすらまた一本道が続くだけの長い道。
 またも一時間ほど歩き続けて行き止まり……。
 また……隠し通路か隠し部屋を見逃したのかとため息をつきながら突きあたりを調べると……。

  「……階段まで隠す事なかろうに……。気付かなければどうするんじゃ。」

 疲れたようにそう呟きながら彼は階段を下りて行った。
 今までの階層の中で一番多くの戦闘をこなし、長時間の戦闘をこなしたせいで体力的にも精神的にも疲れた彼は、こうして次の階層へ冒険を続けることになった。
 彼の物語はこれからも……何とか続く事に成功したのであった……。










          『彼の現在のステータス』
           ・レベル:30
           ・HP:230
           ・MP:121
           ・STR:40
           ・VIT:18
           ・AGI:80
           ・DEX:56
           ・INT:72
          『特殊技能』
           ・速度増加レベル4
           ・小ヒールレベル6
           ・毒吸収
           ・身体硬化小



[7490] 混沌世界 第六話
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/03/26 09:08
          第六話~……難易度の上がり方が可笑しい……気がするのぅ。~





 四階層……階段を下りた場所は小さな広場になっており、徒党を組んだモンスターが居座っていた。
 階段を下りてくる足音で何者かが来るのを予想していたのであろう、彼が下りた瞬間まず三匹のモンスターが襲いかかってきた。
 モンスター名、狸……動物の狸と同じ名をしているが凶暴さが違う。
 まず見た目……これは動物の狸と同じで見ようによっては愛くるしい外見をしている。
 だがしかし……本性を見せた瞬間口からはギザギザのいかにもかみちぎるのに特化しような歯と一瞬にして伸ばした鋭い爪。
 そして全身の毛が伸びいかにも化け物といった感じになるのだ。
 今は勿論化け物化した狸が彼を襲っている状態だ。
 部屋にいる狸は全部で十二匹。
 階段を囲むように三匹がまず襲いかかりその後ろで油断なく他の九匹は待機している。

  「なんじゃいったい!下りた瞬間に襲うとかありなのか!」

 叫びながらかろうじて狸の攻撃を二発くらうだけで一発躱し、何とか体制を整え、一匹倒す。
 だが、倒された穴を埋めるべく後ろで待機していた狸がそのポジションにつき彼を襲う。
 倒す、また現われる、倒す、また現われる。
 その繰り返しで隙なく攻撃をしてくるため小ヒールはおろか、速度増加、身体硬化小すら使えない状態だ。
 回復なしで……何とか善戦し残り三匹……。
 目の前で階段を囲っている三匹だけになった。
 だが、彼の体力は既に赤くなりそうなほどやばい状態だ。

  「……ぎりぎり倒せるか、どうかじゃのぅ。ええい、やってみねば解らんじゃろう!」

 彼はそう叫び目の前の一匹をまず倒す。
 そのすきにサイドから襲われ、かろうじて一匹の攻撃を躱すが、もう一発はくらってしまう。
 次に攻撃を外し体制を崩した一匹を倒す。
 背後を見せたせいでまともにもう一匹の攻撃をくらった。
 既に瀕死状態。
 最後の力を振り絞り全力で唯突っ込むタックル……。
 避けることなくあたり何とか倒すことに成功した。

  「……ふう……なんとかなったのぅ……。なせば……。」

 彼が成せばなる……そう言おうとした次の瞬間、彼は池の目の前に戻っていた。

  「……もう一匹隠れているとか卑怯じゃろう……。」

 そう、全部倒し終えたと思った彼だが、ちょうど階段の影になるように一匹隠れ、彼が油断するのをただじぃっと待っていたのであった。
 そして狸が予想した通り彼は倒した事に安堵して気を緩めた……回復すらせずに。
 そこに背後から忍び寄りの一撃だ。
 驚きながら攻撃した狸を見る彼だが……次の瞬間には此処に戻ってきていたという訳だ。

  「……此処は……第三階層の池じゃのぅ。やはり復活ポイントじゃったんじゃな。」

 がっくりと肩を落としながらも周りを確認してそう呟く。
 さっきの戦闘レベルが一上がったが、死んだのでまた下がっている……全く意味がない。
 そして……ため息をついた。
 もう一度あの面倒なトロールを相手にしないといけないと気付いたからだ。
 しばらく……哀愁を漂わせながら現実逃避していたが、一時間ほどそれを続けて諦めたように道を進む。
 そして目の前にはトロールが現われた。
 前回と同じように戦い、前回と同じ時間をかけて倒す。
 確かにレベルは上がっているが一上がった程度のステータスの上がり具合だけではそうそうすぐに強くなる訳ではない。
 それに今回トロールを倒してもレベルが上がる事がなかった。
 前回休憩していて襲われたところを注意して確認しているとまた同じように吸血蝙蝠が襲いかかってきたので、慌てず倒す。
 そして階段前で一度休憩し、体力と精神力を回復させると、今使える特殊技能をフルに使い階段を降りる。
 今度の彼には油断はなく、モンスターがいるのも解っている。
 その結果……かなり厳しい戦いではあったものの、ある程度余裕を持って敵を殲滅することに成功した。
 階段の陰に隠れている一匹も油断なく倒し、他にいないか警戒するが……いないと解るとそそくさとその広場を後にした。
 広場から続くのは一本道、少し進むと三又に通路が別れていた。

  「久しぶりの分岐点じゃな……やはり左じゃのぅ。」

 彼の癖なのか、何なのか解らないが、いつもの通り左の通路から調べることにした。
 だが、直ぐ行き止まりにぶつかる。
 罠も宝箱も、階段や隠し通路など何もない唯の行き止まり。
 素直に戻り今度は真正面の通路を行く。
 五分ほど歩くと宝箱が三個置いてある行き止まりにぶつかった。
 明らかに罠がありますよー的なその場所に、彼は警戒しながら近づいていく。
 恐らく罠であろう……そう思える場所が二か所。
 そして……宝箱を開けた瞬間に罠が出そうなのが一個あった。
 とりあえず罠がなさそうな宝箱を二つ開けることにした彼、まず一つ目の宝箱……。

  「初めての武器じゃな!鋼の剣……なかなかいいものが落ちているではないか。」

 嬉しそうにそう呟くといつもの通りその上に乗り吸収していく。

  『鋼の剣を吸収しました!
   身体変化を覚えました!』

 あたらしい特殊技能を覚えたので試しに使ってみる……。

  「ぬぉ!これは……便利に使えそうじゃな……違和感があるが……。」

 身体変化……通常手や足を剣に変えたり、盾に変えたりするような特殊技能。
 だがスライムである彼が使うと身体全体を使った変化になってしまうため、剣や盾には変化が出来ない……否、出来ない訳ではないがしてしまうと身動きができないため自爆するも同然なのだ。
 なので試しに身体を平らにしてみたり、盾に伸ばしてみたりと色々試してみた。
 結果……身体を好きに変化させる事が出来ることが解った訳だ。
 そしてもう一つのほうの宝箱には良く解らない文字の書いてある紙が置いてあった。

  「はて?なんじゃろうかこれは……。取りあえず吸収してみるとするかのぅ。」

 そうしてその上にのる。

  『火焔の式符を吸収しました!
   火炎のブレスを覚えました!』

  「おおう!ブレスじゃと!」

 初めての魔法に近い身体強化以外の特殊技能。
 それに驚き喜んだ彼は上に向かって試しにそれを使ってみた。
 サァァァァ!
 という少し軽めの音と共に少し弱めだがそれでも確かに火のブレスを彼は吐いていた。
 これには彼、物凄く喜び子供のように少しの間はしゃいでいた。
 しばらくして落ち着くと、とうとう最後の罠が掛かっていそうな宝箱に近づく。
 まずは身体硬化、そして速度増加。
 それらをかけ宝箱の留め金を開け蓋をあけると同時に飛びのいた。
 その瞬間地面と天井から槍が出、その場にとどまっていた場合串刺しになっていたのは火を見るより明らかだった。
 冷や汗を流しながらも槍を避けながら宝箱に近づき中を確認する。
 中には白い羽の首飾りが置いてあった。

  「アクセサリーというのは解るんじゃが……どういったものかはさっぱりじゃ。」

 そう言いながらその上に乗り吸収する。

  『韋駄天の羽飾りを吸収しました!
   速度増加が高速移動に変化しました!』

 いまいちその特殊技能の効果が解らなかった彼はとりあえず宝箱から出て特殊技能を使ってみようとするが……常時発動型の特殊技能らしかった。

  「ふむ……どういうぅぅぅ!?っっは、はぁはぁはぁはぁ!な、なるほどのぅ……普通の動きが物凄く速くなるんじゃな……って、これはつかいずらいじゃろう……。」

 彼が少し前に進もうとした瞬間消えたようなスピードで十メートルほど先に息を切らせながら進んでいた。
 普通に動こうとしただけでこの動き……注意深く動かなければ普通に動くことすらできなくなってしまったのだ。
 とりあえず宝箱をとり終え、他に何もない事を確認すると道を戻り今度は右側の通路を進んでいく。
 今度の通路はかなり長く二時間ほど進むことになったが、今回に限ってはそれが幸運となった。

  「なるほどのぅ。慣れてくると意外と便利じゃな……というよりも、なれれば強力な戦力になるのぅ。」

 と嬉しそうに呟いた。
 そう、この道がてら彼は高速移動を発動させながら色々と練習をしていたのだ。
 最初間違って壁にぶつかったりを何度も繰り返したが、二時間も経験していればある程度全力での移動はまだ無理だが、今までの三倍くらいの速度での移動はできるようになった。

  「欠点は通常以上に疲労がたまりやすいということじゃな……。」

 今回の特殊技能はこういった欠点もあったが、それ以上になれればメリットになる事の方が大きいじゃろう……彼はそう考え少しずつ練習をしながら先を進む。
 道の先は今度は右と真ん中の通路に分かれている。
 まず真ん中の通路を行くが……先には罠があっただけで行き止まり。
 次に右の通路を進む。
 また一時間ほど何もない道が続いた。
 そして着いた所は大広間。
 モンスターが大量の……。
 ざっと見るだけでも三十匹以上のモンスターがいるのが解る。
 それも雑魚モンスターと呼べるような奴ばかりじゃない。
 中にはさっきの階層で苦労したトロールやビックフットと呼ばれる熊を更に一回りでかくした大熊のモンスターまでいた。
 そんな色々なモンスターがいる大広間……彼はさっき思い浮かんだ技を試してみることにした。
 高速移動と合わせるとかなりいい線のダメージを与えることができるだろう……そう考え……高速移動の全力でその広間に突っ込んだ。
 そしてモンスターとぶつかる瞬間……その勢いのまま身体変化、そして身体硬化小を使う。
 身体を全身鋭い棘状にしその上で身体硬化小で堅くする。
 その効果は予想より大きいものだった。
 ……全力での高速移動が通常移動の十倍もの速度で動けるという凶悪な速度をかもしだしていたせいもある。
 一直線に大広間の奥までモンスターを蹴散らしながら突っ込む羽目になってしまった……が、結果として十数匹のモンスターを一瞬にして倒すことに成功したのだ。
 ……ただその勢いのまま壁にぶつかったせいで大ダメージを受けもしたのだが……。。

  「ぬぁ……ふらふらするぞぉ……。」

 周りで茫然と何が起こったか理解できていないモンスター達はその彼の言葉で正気に戻り、彼に詰め寄ってくる。
 小ヒールで回復を済ませ、さっきのに多少手加減を加えた高速移動に身体変化と身体硬化小の合わせ技の特攻。
 正直トロールやビックフットクラスのモンスター以外は速攻で倒すことに成功するが……彼もかなりのダメージを負う事になった。
 ある意味この技自爆技に近いものがある事に漸く気付き、よっぽどの事がない限り封印しようと決めた。

  「残りはあの二匹じゃな……一番厄介なのが二匹のこりおったわい。」

 目の前にはビックフットとトロール。
 小ヒールで回復を済ませながら高速移動(三倍速度)で素早く動き攻撃を躱しながら攻撃を加えていく。
 高速移動のおかげで攻撃力自体が上がっているので、ビックフット自体は大してタフネスがそこまで強い訳じゃない事もあり直ぐ倒すことに成功した。
 問題はやはりトロールだ。
 このタフネスさは本当に厄介じゃのぅ……そう思いながら、しょうがないと覚悟を決めて自爆技に手を伸ばす。

  「これで倒れてほしいもんじゃが……行くぞ!」

 そう言って少し距離を開けた彼は全力の高速移動に身体変化と身体硬化小にさっきとは違う鋭い一本の棘……というよりも針のような形に変わり飛ぶようにトロールにつっこむ。

  「ぐぉぉぉがぁっ!?」

 見事に……突き抜けた。
 そして壁に突き刺さる。
 身体硬化と身体変化をといて通常の状態に戻り後ろを振り向くと見事にトロールは倒れていた。

  「……これは使えるのぅ。壁に突き去った瞬間を狙われると危険じゃから決め技じゃな。」

 そう呟き、モンスターが復活してくる前に彼は奥にあった階段を下りて行った。
 こうしていきなり難易度が上がった第四階層も無事クリアすることに成功し第五階層へ。
 ……少々最初倒された事でそろそろ限界なのか……という期待があったがまだまだ彼の物語は続くようだった……。










          『彼の現在のステータス』
           ・レベル:33
           ・HP:250
           ・MP:129
           ・STR:46
           ・VIT:20
           ・AGI:91
           ・DEX:64
           ・INT:81
          『特殊技能』
           ・高速移動
           ・小ヒールレベル6
           ・毒吸収
           ・身体硬化小
           ・身体変化
           ・火炎のブレス小



[7490] 混沌世界 第七話
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/03/26 09:08
           七話~ようやく半分じゃ……モンスター強くなりすぎじゃよ……。~





 五階層へ注意しながら階段をおり、小さな広間にでることになった。
 階段の目の前には前に進む一本道がある、彼は底を進む前に周りに隠し通路、隠し部屋がないかを調べていく
 周りを調べ何もない事を確認した彼は目の前の道を進み始めた。
 少し進むと……突然前の方から何かが伸び、彼に襲いかかってきた。

  「なんじゃ!しっぽ……じゃと?」

 ぎりぎりで躱すことに成功しその通り過ぎて行ったものが何かを確認すると何かの尻尾だと解った……だが、そのしっぽの長さはどう見ても五メートル以上にのびている。
 攻撃が当たらない事に気付いたそのしっぽの主は直ぐに尻尾を自分の方へ戻したらしい、ブゥゥン!という音と共に彼にかなりの速度で近づいてきた。

  「ビックテール!一気にレベルがあがりすぎじゃないかのぅ!?」

 ビックテール……トンボを大きくして人間の半分ほどの身体の大きさにしたモンスターだ。
 特徴として羽が四枚あり、そのしっぽは最長で十メートルほどにまで伸ばす事が出来る。
 そのしっぽの先には棘があり、その棘に刺されると麻痺、毒、盲目といった状態変化を受けることになる。
 そして……堅いうえに早いという厄介極まりないモンスターだ。
 正直……今の彼では勝てるかどうか解らないほど強いモンスター。
 今彼が行えるぎりぎりの速度で攻撃を躱しながら倒せるか倒せないかを考える。
 何度か攻撃を躱しながら攻撃を加えようとするが……攻撃が当たらない。

  「空に逃げるのは卑怯じゃよ!」

 そう、素早く突っ込むのだが空に逃げられると手も足も出なくなる。
 彼のブレスも天井までは届かないので攻撃手段がない。

  「……一か八かじゃ!」

 そう叫び小ヒールをかけ、身体硬化で身体を固くすると……。

  「逃げるるのじゃぁ~!」

 全力で高速移動を行い、前方の通路へ突っ込んだ。
 ……何とか逃げることに成功はしたが……予想した通り壁に激突しかなりのダメージを負っていた。

  「い、痛いのぅ。ただまぁ……何とか逃げることには成功したようじゃな……。」

 安心したように呟き、改めて周りを確認していく。
 そこは最初に降りてきた小さな広間と同じくらいの小さな広間。
 通路はまた一本……ただ、その一本道の先からは……先ほどから嫌な音が聞こえてきている。
 ズルズル……そんな重たい何かを引きずりながら動いているような音だ。

  「行きたくないのぅ……。じゃがそこ以外進むべき道がないんじゃな……。」

 覚悟を決め、諦めたように呟きながらその通路を進んでいく。
 勿論小ヒールで完全に回復してからだ。
 少しずつ進むごとに嫌な音は大きくなっていき……数分後目の前には二匹のモンスターがいた。
 ワームイータ……。
 その身体は人間の二倍ほどある三メートル半ばくらいの巨体。
 その上……人間を一飲みに呑み込んでしまう事が出来るような恐るべきモンスターだ。
 先ほどのビックテール程じゃないにしてもなかなか素早く、その身体は柔らかいため打撃系の攻撃が聞きづらい特性まで持っている。
 彼とはかなり相性が悪いモンスターだ。

  「次から次へと……一気に難易度があがりすぎじゃ。もう少し段階というものをふんでほしいもんだのぅ。」

 疲れたように呟きながらも、しっかりと距離を開けどうするかを考えていく。
 普通に突っ込むだけでは恐らく全く無意味だろう……そう考えた彼は仕方ないとばかりに、諦めたようにため息をついた。

  「後ろにモンスターがいない事を祈るばかりじゃ!」

 そう叫び高速移動で勢いを付け身体変化と身体硬化小の合わせ技の自爆技。
 今回の形は一番最初に変化した全身を棘状に変化させた棘付きの鉄球の球みたいな変化だ。
 そこでその二匹に突っ込む。
 声を出す事の出来ないその二匹はその攻撃を受け……吹っ飛びながら大ダメージを受ける。
 そして彼の突っ込んできた衝撃と相対し、彼はその場にとどまることに成功した。
 だが、流石に先ほどまでの雑魚とは違いあの一撃をくらってもまだ余裕があるようだ。
 じわじわとこちらに近寄ってくる。
 幸い……今の一撃を警戒したらしく無暗に近づいてこないのでもう一度同じように攻撃を加える……。
 当たった……そう思ったが彼の攻撃は見事躱され、少し後ろにあった壁に思いっきり激突する羽目になった。

  「ぬぅ!か、躱すのかあれを。」

 後ろかかなり早い速度で襲いかかってくる攻撃をかすりながらもかろうじて躱し、また距離を開ける。
 高速移動の上の一撃を躱され冷や汗を流す彼。
 どうすればいいかと考える。

  「と言っても……今まともにダメージを与えられるのはあれくらいじゃからのぅ。」

 といくら考えても決定打を与えられる攻撃はさっきの一撃くらいしか思い浮かばない。
 ため息をつきつつ、攻撃をかわし、隙を見つける為注意深くモンスターを見ていく。
 しびれを切らしたのか、その口を大きく開け彼を飲みこもうと突っ込んでくるのを躱し後ろに回り込む……もう一匹がそこに控えており、同じように襲ってくるがそれも何とか回避して二匹の背後を盗ることに成功した。
 そのすきを見逃さず一気に攻撃を加える。
 一匹はクリティカルと言っても良いダメージを当てることに成功し倒すことに成功したが、もう一匹はかすった程度でそれほど大きなダメージを負っていないようだ。

  「厳しいのぅ。負けるとは……思わぬが、決定打を決める隙がなかなかのぅ……。」

 そう呟きまた攻撃を回避していく。
 攻撃するすき……それがあるのは先ほどと同じように大口を開けて襲いかかってきた瞬間だ。
 だが、先ほどので警戒しているらしくなかなかその攻撃をしてこない。

  「(むぅ、しょうがないのぅ。かなり危険じゃが……。)」

 彼はそう考えながら攻撃をかわす時、わざとに横の壁にぶつかり隙を作る。
 その隙をチャンスと感じたのだろう、モンスターは大口を開け、おもいっきり突っ込んでくる。
 少しふらつきながらも、かろうじて躱し、背後から一撃を放つ。

  「ようやっとじゃのぅ……。にしても……流石に高レベルモンスターじゃ。」

 そう呟く理由は、今上がったレベルにある。
 一匹目を倒した時点でまずレベルが三十三から三十六にあがり二匹目で三十八にあがったのだ。
 特殊技能は覚えなかったまでもかなりの戦力が上がったのは間違いない。
 そして彼はモンスターが復活する前にと先へ進むことにした。
 曲がりくねった一本道。

  「……もしかして……ワームイータの巣窟かなにかかのぅ……ここは……?」

 目の前の光景を見て思わずそう呟いてしまう彼……それも仕方ないことだろう。
 前方の通路には数匹のワームイータ……その先でも同じような重いものを引きずる音が聞こえてきているのだから。
 やけくそ気味に彼は思いっきり最高速でワームイータ達に突っ込み始める。
 少しずつ……倒しながら先へ先へと進む。
 精神力がもう空になる……といった状態になりながらもかろうじて通路を抜けるとまた小さな広間になっていた。

  「復活ポイントじゃな。助かったのぅ、間違って倒された場合もう一度あれをしなければいけないかとおもったぞ。」

 そう言って池に飛び込む。
 その後……疲れた身体と精神力を回復させるためしばらく休み、完全に回復したのは六時間ほど後だった。
 そして……目の前にある一本道をまた進み始めた。
 今度は直ぐに突き当たりになり、そこに階段がある。
 だが……。

  「…………何故じゃ?何故こんなところにハ―ピーなんぞがおるのじゃ!」

 モンスターハーピー。
 鳥系人型モンスターで、ビックテール以上の高レベルモンスター。
 彼はそう叫びながらハ―ピーの攻撃を……くらう。
 躱す事が出来なかった。
 ハ―ピーは空を飛びながらその羽を飛ばし攻撃してくる。
 その速度は彼の高速移動五倍ほどの速さで、今の彼がよけれるほどの速さではない。
 確実にダメージを食らいながら近づき攻撃をするが……逆にこちらの攻撃は当たらない。

  「……何のいじめじゃ……あれは……。」

 そう呟く彼の目の前には池があった。
 ……つまるところ、一撃も与えることなう負けたのである。
 レベルも一さがり今のレベルが四十三。
 大量のワームイーターのおかげでレベルはかなり上がったのだが……それでも倒す事が出来なかった。

  「レベルを……上げるしかないのぅ。」

 そう呟き彼は……疲れたようにとぼとぼとワームイーターが大量にいる通路に戻っていく。
 一日……一日休憩をはさみながらも戦い続け新しい特殊技能を覚えた。
 特殊技能、状態無効……毒や麻痺などの状態変化を無効化する技能だ。
 毒吸収が進化したわけではないので、別技能になる。
 それと身体硬化が中にレベルが上がった。
 ハ―ピー戦で最低でも高速移動の五倍は使いこなせないとまともに戦えないと感じ取った彼は、多少無理をしながらその速度でワームイータ達と戦い続け、何とかその速度になれる事にも成功した……。
 だが最低限の速度であり、その速度であれば全部を躱しきることが出来ないのは明らかだ。
 そんな事は解っているらしく、彼は体力と精神力を回復させるとハ―ピーのいる道を進んだ。

  「リベンジじゃ!」

 そう言って最初から決め技と決めた針状態になりながら全速力でハ―ピーに突っ込む。
 流石に高速移動の全速の動きには反応する事が出来ずにまともにその攻撃をくらう。
 右の羽を貫通し、背後の壁に突き刺さる。

  「グゥギャァァァァァァ!?」

 そんな悲鳴をあげながらもハ―ピーは突き刺さった彼を思い切り地面にたたきつけるように上から殴り飛ばす。

  「ぐぅっがぁっ!」

 彼は地面にたたきつけられると同時に自分に小ヒールをかけ、素早く逃げる。
 小ヒールをかけてもまだ瀕死に近い状態……危なかったらしい。
 少し距離を開けて小ヒールを連続でかける。
 ハ―ピーは怒り狂ったようにこっちに突っ込んでこようとするが右の羽が動かずなかなか旨く移動が出来ないようだった。
 彼はそれを見てもう一度針状になり今度は左の羽を貫通する。
 今度は叩きつけられる事はなかったものの……炎でやかれた。

  「あつぅ!あ、あっつ、あついのじゃ!?」

 急いで離脱しながらもまたも小ヒールを連発。
 精神力がもう既に危険な領域になっていた。

  「な、なんじゃ、あ奴炎なんぞはけるのか!」

 驚いたように見つめる彼。
 目の前のハ―ピーは口元を少し焦がしながらこちらに向かってもう一度口を開こうとしていた。

  「ま、まずいぞ!」

 攻撃が来る前に素早くハ―ピーの後ろに回り込む。
 そして今度は棘状になりながら背後からおもいっきり突っ込んだ。
 悲鳴を上げながら彼に振り替えるハ―ピー。
 かなりのタフネスだ……流石レベルがかなり高いモンスターだけある。
 しかし、ハ―ピーは炎を吐けるとはいえ、その特徴的な素早さや空を飛んでの羽攻撃が使えない。
 その状態で……彼といい勝負をしていた。
 数十分の間戦い続け……漸く彼が勝利をおさめながら戦闘が終了した。
 彼の精神力は既につき、体力ももう少しでレッドゾーンに突入するところだ。
 そこで……いつもの神の声が聞こえてきた……。

     『レベルが上がりました!
      レベルが51から65に上がりました!
      HPが60上がりました!
      MPが42上がりました!
      STRが30上がりました!
      VITが10上がりました!
      AGIが50上がりました!
      DEXが35上がりました!
      INTが40上がりました!
      衝撃吸収を覚えました!』

 その神のお告げには流石の彼も驚いた。
 一気にレベルが十四も上がったのだ……驚かないわけがない。

  「何と……此処まで上がるものなんじゃな……。というよりもそれだけ絶望的な差があったという訳か……良く勝てたもんじゃ……。」

 改めて冷や汗を流しながらそう呟く。
 最初の不意打ちの一撃が成功していなければ勝てない戦いだっただろう。
 倒せた幸運に感謝しながら彼は目の前にある階段を下りて行った。
 かなり……もう駄目だと思わせる場面が何度もあったにも関わらずこうして彼は無事第五階層をクリアした。
 レベルも一気に上がり次の階層から楽になりそうだと彼は感じながら階段を下りていく。
 ……そんな彼の希望を打ち砕く事を祈りながら、彼の物語はこれからも続いていくことになった……。









          『彼の現在のステータス』
           ・レベル:65
           ・HP:420
           ・MP:210
           ・STR:102
           ・VIT:40
           ・AGI:150
           ・DEX:115
           ・INT:133
          『特殊技能』
           ・高速移動
           ・小ヒールレベル6
           ・毒吸収
           ・身体硬化中
           ・身体変化
           ・火炎のブレス小
           ・状態無効
           ・衝撃吸収



[7490] 混沌世界 第八話
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/03/26 09:08
          第八話~中ボス……みたいなかんじなのかのぅ?~





 第六層に降りた先にあったのはたったひとつの大広間。
 左右をみても奥を見ても壁が見えないほど広い部屋。
 彼はそんな部屋の中を壁伝いに調べながら進み始める。
 調べながら一回りするのに八時間……。
 余りにも広すぎる部屋だった。

  「ふむ、隠し部屋……隠し通路はなしじゃのぅ。という事は……。」

 一種し終え階段まで戻ってきた彼はまっすぐ……中央へ向かって進み始めた。
 三十分程進み続け、そろそろ中央付近じゃないかと思い始めた時そいつの姿が見え始めた。
 そのモンスターの名前はメデューサ。
 姿かたちはとても美しい女性。
 白い腰下までの綺麗な髪……ただ白いだけのはずが銀色の光り輝くようにも見える。
 肌も白く……そのスタイルもかなりのものだ。
 顔形の造形など人間では表現できないほどの高みに登っている。
 一目で人外だと解るほどの美しさ。
 そんな彼女がこの部屋の中央で椅子に腰かけながら優雅に紅茶なんぞを飲んでいた。
 すさまじく絵になる……ただ、この洞窟の中でなければだが……。

  「あら?お客様かしら……。まぁ!珍しい……スライムね。私はこの第六層の階段を守護しているメデューサよ。よろしくね。」

 彼に気づいたメデューサはそういって朗らかに笑いながら挨拶を交わしてくる。
 思わず……見惚れてしまった彼に罪はないだろう。

  「っは、す、すまぬのぅ。階段の守護……という事はすぐそばに階段があるのかのぅ?」

  「ええ、このテーブルの下にあるわよ。ただし私を倒さないと通れないけれどね。どうします?挑戦してみますか?」

 メデューサはそう言って彼のほうに視線を向ける。
 みられただけで背筋がゾクッっとし、かなり危険な存在だというのが解った。

  「……下に行くにはやらねばならんのだろうぅ?なるべく戦いたく何てないんじゃがなぁ……。痛いし疲れるからのぅ。」

 彼はそう言って距離を開ける。
 メデューサも彼の姿に満足そうに頷くと立ち上がり……その姿を豹変させた。
 美しかった髪は毒蛇に……白かった肌は青銅色に。
 その顔は醜い化け物に変わったのだ。
 これには彼……大いに落ち込んだ。
 先ほどまで見惚れていた女性がこうも見事に変わってしまえば仕方がないだろう。
 とりあえず……今一番早く動ける動きで近づきタックルをかます。
 やすやすとよけられる……。

  「洞窟に眠りし土の力よ、今我が命ずるがままにかの敵を押しつぶせ。」

 躱したときすれ違いざまにそんな言葉が聞こえてきた。
 着地した彼は素早く距離を開けようとしたが……それが叶う事はなかった。
 地面が盛り上がり、彼を取り囲んでしまったためだ。
 その上上からはばかでかい岩が落ちてくる。
 ドンッ!
 そんな音と共に彼は押しつぶされた。

  「あらあら……終わってしまったわね……。」

 少し残念そうにメデューサがそう呟くと土の壁と大岩はきえ、ペチャンコにつぶれたスライムがいた。

  「次また頑張ってくださいねぇ~。」

 メデューサはそう声をかけながらテーブルに戻るべく彼に背を向けた。
 次の瞬間……メデューサの身体を彼は貫いていた。

  「がふぅっ!?な、……なるほど……身体変化の応用ね……面白いわ。」

 そう、彼は潰された事は潰されたが、それ以前に今のペチャンコになった状態に身体変化で姿を変えていたのだ。
 その上に衝撃吸収の特殊技能で大岩自体が当たったダメージはくらうが、その衝撃によるダメージはくらわずに済む。
 その結果……かなりの大ダメージを受けるには受けるが、死にはしない程度で済んだのだ。
 そして油断したところを、圧倒的な戦力差だと判断した彼はメデューサの心臓めがけ針上に身体を変化させながら貫いた。
 だが……。

  「おしかったわねぇ。私の心臓は逆位置にあるのよ。……それでもかなりダメージがあったのは確かですけどね。」

 少し口元から血を吐きながらそういうメデューサだが……未だ多少余裕があるようだ。

  「残念じゃのぅ……。せっかくの唯一のチャンスじゃと思ったんじゃがなぁ。」

 彼はそう言いながら自分に小ヒールをかけていく。
 そして……互いに距離をとりながら向き直った。
 最初に動いたのはやはり彼だ。
 まず何処にでもいいからとにかく当たればいい……そういう考えの元、全速力でメデューサに突っ込んだ。

  「ぐぅ!なるほど!身体の範囲を広げての攻撃ね。良い判断よ。」

 彼は身体変化で今までのような破壊重視じゃなく、とにかく長くしようと思い鞭のような状態に変わり、メデューサに突っ込んだのだ。
 流石にあの速度プラス範囲で、完璧によけきることが傷ダメージを食らうが、その代りしっかりと彼にもダメージを与えていく。
 当たった瞬間に思いっきり土のつぶてを彼にあてていた。

  「がぁ!……い、痛いのる……。魔法という奴じゃな……今のといい先のものといい。ワシも一度でいいから使ってみたかったものじゃ。」

 そう言いながらまた距離を開けながら動き、攻撃をくらわないようにする。

  「あらあら。こればかりは運任せに近いものがありますからねぇ。もしかしたらこれからでもその夢かなうかもしれませんよ?」

 メデューサはそう言いながらもしっかり岩を飛ばしてきている。
 何発かはよけきれず当たるが、今は立ち止まり小ヒールを唱えている暇もない。
 しばらくそんな事を続け、戦い続けていたが、メデューサが先ほど自分で流した血に足を盗らせ体制を崩した。
 そのすきに一気に彼は突っ込んだ!
 ……だが。

  「っっ!?………危なかったわねぇ……。私の特殊効果のある瞳の事忘れていたのかしら?」

 そう言って石化した彼を見下ろす。
 石化は死亡とみなされ、一定時間後復活ポイントに戻されるとメデューサは知っていた。
 そして石化してからの回復は仲間がいれば可能だが、一人では不可能だという事も。
 だからこそ彼をそのまま放置し疲れた感じでテーブルに戻ったのだろう。
 まさか……彼が特殊技能で状態無効を覚えているとはつゆほどにも思わずに。
 メデューサが歩き始めてすぐ、パリーンという音と共に心臓を貫かれていた。

  「がぁふ!……凄い、わねぇ……あなた……石化無効化の……特殊技能ま、で持っている何て……。」

 メデューサはそう言いながら戦意をなくしたように地面に倒れ呟いた。

  「いやいや違うんじゃよ。石化無効じゃなくてのぅ、状態無効というものじゃ。」

 彼の言葉を聞き苦笑を洩らしながら……。

  「ど、ちらにして、も私には……変わ、らないですね……。」

 と言って消えていった。

     『レベルが上がりました!
      レベルが65から70に上がりました!
      HPが20上がりました!
      MPが8上がりました!
      STRが9上がりました!
      VITが2上がりました!
      AGIが13上がりました!
      DEXが9上がりました!
      INTが10上がりました!』

 そんな神のお告げを聞きながら彼はテーブルをよけて階段を見つける。

  「疲れたのぅ……。」

 彼はそれだけ呟くと階段を下り、第七層へ進んだ。
 彼がスライムである事が幸いし、相手が油断してくれるという大きなメリットがあるためまたもや無事この階層もクリアしてしまった。
 こうして……彼の物語はまだかろうじて続いていくのであった。










          『彼の現在のステータス』
           ・レベル:70
           ・HP:440
           ・MP:218
           ・STR:111
           ・VIT:42
           ・AGI:163
           ・DEX:124
           ・INT:143
          『特殊技能』
           ・高速移動
           ・小ヒールレベル6
           ・毒吸収
           ・身体硬化中
           ・身体変化
           ・火炎のブレス小
           ・状態無効
           ・衝撃吸収



[7490] 混沌世界 第九話
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/03/26 09:07
          第九話~一本道は良いんじゃが……この数はなんじゃ!~





 第七階層……降り立って目の前にあるのは唯の一本道だった。
 少し先からはざわざわと何かの音がしているので、モンスターがいるであろうことが予想できる。

  「……いると解っているところに進まねばならぬというのも……切ないものじゃのぅ。」

 彼はそう呟き、先へ進む。
 進むにつれて音が大きくなり、ブゥゥゥンという羽音が数多く聞こえてくるようになった。

  「なんじゃろうか……嫌な予感がするのぅ……。」

 引き返したくなる感覚を覚えながらも、何とか我慢して先へ進む。
 直ぐに……モンスターがいることが解った。
 モンスター名、ミストレス……蜂を馬鹿でかくしたかなり厄介なモンスターだ。
 その針で刺されれば、毒に麻痺、稀に石化といった状態異常が起こるうえ、遠距離からその針を飛ばすこともできる。
 素早さは大した事がないが、どういった理屈なのか不明だが、回避能力だけは可笑しいほどにある。
 幸いなのは一撃の重さが余り大きくないことくらいだが……。

  「この数じゃ……慰めにもらなんぞ。」

 目の前には十匹以上はいるミストレスの大群だった。
 少し進んだ瞬間ミストレス達は彼に気づいたらしく突然襲い掛かってくる。
 確かに普通にしっかりと防具を身につけていればさほど脅威になる攻撃力じゃない……だが、彼は生身の上、かなり防御力が低い。
 そのため……一撃一撃が致命傷にはならないもののかなりのダメージをくらう事になった。

  「ぬぁ!い、いたっ、いた!」

 彼は一度に数匹ずつ倒しながらも倒している間に襲われ、一進一退を繰り広げる。
 数度の攻撃で倒した数は十二匹……目の前にいるミストレスの数まだ十匹以上……。

  「いったい何匹いるんじゃ!」

 彼はそう叫びながらも必死に襲いかかるミストレス共を蹴散らして、少しずつ前に進む。
 五十を超えてから数は数えていないが、下手したらもうそろそろ三ケタに届くのではないか……それくらい倒した時点で漸く……ミストレスが全滅した。

  「ふぅ……ふぅ……。な、なんなんじゃあれは……小ヒールがなかったらとても抜けられるような所じゃないのぅ。」

 とりあえず半分近くまで減った精神力を回復させるため一度休憩をはさむ。
 少し回復した時点で、通り抜けてきた道からまた羽音が聞こえ始めてきた。

  「……ふ、復活するの早すぎるのではないかのぅ?]

 冷や汗を流しながら呟き、逃げるように先へ進みだす。
 少しの間……モンスターもなく進んでいたのだが……。

  「ぬぁ!な、何事じゃ!……がぁふぅ!……しょ、触樹じゃと……この階層もう……嫌じゃ
……。」

 モンスター名、触樹。
 文字の通り触手のような樹だ。
 本体は地底深くに成りをひそめ、その枝を触手のようにのばし攻撃してくるところからこの名前が付いている。
 強さ的に言うとかなり弱めのモンスターだが……滅多に倒す事が出来ない。
 それもそうだろう、地底深くに潜んでいるモンスターを倒す事が出来るのは地の高レベル魔法を仕える者くらいだからだ。
 襲い掛かってくる触手のような枝は正直彼の通常のタックル一発で難なく倒す事が出来る程度の相手だ……が。

  「通路いっぱいの触手の枝は流石になえるぞ……。」

 そう、彼を捕まえ後方に投げ飛ばした触手の枝が出た瞬間目の前に草原の草のごとく触手の枝が生えてきた。
 もう……嫌になった彼は、少し助走をつけ、最高速で棘の球状になりまっすぐに突っ込んだ。
 相手が弱いからこそ……抵抗力がほとんどないからこそ出来ることであり、先ほどのミストレスくらいの強さで数だと自殺行為だが、今は逆にこの手が一番有効だった。
 ……ただし、道が直線であればだったが……。

  「ぬぁ!いた!……くはないのぅ。衝撃吸収のおかげじゃが……いた、痛いのじゃ!」

 壁に当たった衝撃は吸収されたため痛みを殆ど感じなかったが、その結果地面に無防備に落ちた。
 そして……そこは触手の枝の真っただ中だ。
 四方八方から攻撃が来る。
 一撃一撃は正直殆どダメージにならないものの、数が多すぎる。
 小ヒールを唱える暇も全くないので、破れかぶれでとにかく身体変化と身体硬化中を使い特攻しまくる。
 五度ほど……前と思える方に突っ込み……六度目……もう、何も確認せずに突っ込んだ。
 また……壁に叩きつけられそのまま地面に落ち触手の枝から攻撃を受けると思ったのだが……そうはならなかった。

  「今度はなんじゃぁぁぁぁ!?」

 地面に落ちた瞬間……更に下へと転がり落ちていったのだ。
 触手の枝が邪魔で見えなかったものの丁度そこは第八層へ続く階段だった。
 偶然が重なり……運よくそこに落下し、運よく階段を落ちて行ったというわけだ。
 ……はたして運がいいというのかどうか……微妙だが。
 こうして……彼本人も微妙に納得できないまま第七層をクリアした。
 先ほどまでの階層と比べると比較的楽に、だが色々と納得がしずらい階層だったと思いながら転がり続ける彼。
 こうして……偶然が重なった運のおかげで彼の冒険は続くことになったのだった……。










          『彼の現在のステータス』
           ・レベル:72
           ・HP:450
           ・MP:223
           ・STR:116
           ・VIT:43
           ・AGI:170
           ・DEX:130
           ・INT:148
          『特殊技能』
           ・高速移動
           ・小ヒールレベル7
           ・毒吸収
           ・身体硬化中
           ・身体変化
           ・火炎のブレス中
           ・状態無効
           ・衝撃吸収



[7490] 混沌世界 第十話
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/03/26 09:08
          第十話~もしや此処は……休憩ができるのではないかのぅ?~





 第八階層。
 転がり落ちた彼は……そのまま……池に落ちた。

  「ぶぐ!?ぶぐぅぅぅ!ぷっはぁぁぁはぁはぁはぁはぁ。し、死ぬかと思ったぞ……。」

 何とかおぼれ死ぬ前に池から脱出することに成功した彼は、ぜぃぜぃと荒い息でほっと溜息をついた。

  「ぷくくっ!あははは!面白い子が来たねぇ。なんだい……どんな強そうな子が来たのかと思ったら……まさかスライムだとはね。これは傑作だよ!いやいや、馬鹿にしてるわけじゃないから気を悪くするんでないよ。」

 次の瞬間、そんな笑い声と話声が聞こえてきた。
 バッと距離を開けるべき飛び跳ね、そちらのほうに向きなおると……。

  「……九……尾じゃと……。」

 九尾のキツネが面白そうに彼を見つめていた。
 モンスター名、九尾のキツネ。
 伝説の妖狐と同じく九つの尻尾を持ち、その戦闘能力は幻想種のモンスターとも渡り合えるほどの強さ。
 余りの出来ごとの茫然と……見つめることしかできなくなった。

  「あらあら、何だい……此処まで無事辿り着いた猛者なんだろう?そんな呆けてないでしゃきっとしな!」

 九尾は無造作に近寄るとばしばしと彼を叩き笑う。
 どう考えても戦闘意識が感じられない。
 その事を不思議がりながら彼は聞いてみることにした。

  「……お主と……戦わなくてもよいのかのぅ?」

 少し声が震えているのはしょうがないだろう。
 心の準備ができていない状態でこんなモンスターと相対してしまったのだから。

  「戦いたいのかい?それなら構わないけど……あたしとしちゃ~そんなめんどくさい事したくないんだよね。だからさ、やめとかないかい?」

 そう言ってニヤっとする九尾。
 彼はまだ緊張したままだが、それに素直にうなづいた。
 明らかに倒す事が出来ない程……強さに開きがありすぎる。

  「にしても……よくもまぁスライムがこんな階層まで下りてこれたもんだねぇ。正直本当に凄いよ。」

 ひとしきり笑い終えた九尾は、そう言って今度はそう言ってほほ笑む。
 その顔を見て思わず緊張が解けてしまうほどどこかほっとするような笑顔だ。

  「そ、そうなのかのぅ。ワシには良く解らんのじゃが……レベルさえ上がれば何とかなるものではないのかのぅ?」

 少しどもりながらも話を続けていく。

  「レベルが上がるって言ってもねぇ。大概……スライム以外のモンスターはレベル50くらいから上がりづらくなるんだよ。恐らくコボルトですらこの洞窟にいる倒せるモンスターを倒してレベルを上げた所で58が限界だろうね。スライム特有のレベルの上がりやすさがあってこそレベルがぽんぽんあがるってわけさ。」

 ちなみに自分はレベル既に最高値だから上がりようがないけどねぇ~等と恐ろしい事を何でもない事のように言う九尾。
 話を聞くともともと此処に来たときには最高レベルに達していたらしい。
 そのせいか、この洞窟の中のモンスターじゃまともに戦える奴なんかいないという事で……日々ごろごろと此処で寝くさっているという事だ。
 ため息をつきながら……休憩も兼ねて九尾をしばらく話を続けることにした。
 どれくらいの時間が経っただろう、彼も意外と九尾との話が楽しく時間がたつのを忘れて話し込んでしまっていた。

  「ぬぅ!流石に……ちとはなしすぎたのぅ。そろそろワシは行くとするかのぅ。」

 彼はそう言って立ち上がる。

  「あら残念、せっかくの話相手だったというのにねぇ。まぁいいか、最下層……いくんだろう?ならまた直ぐ戻ってくることになるだろうしね。最下層のモンスターは……まぁあったら解るよ。楽しみにしてな。」

 九尾の口ぶりからすると酷く楽しそうに聞こえるが、彼にとってはかなり重要な話だった。
 直ぐに戻ってくる……つまり勝てないということだろう。
 一応……その事を胸に秘め九尾にお礼を言いながら階段を下りていく。

  「頑張んなよ~。こんなとこまで来たスライムなんて初めてなんだから、歯を食いしばって頑張んな~。」

 階段を下り始めた時後ろからそんな応援の声がかかってきた。
 ……酷く嬉しいものがある。
 こうやって応援されたことなど殆どない……むしろ初めてかもしれない。
 だからこそ……旨い返事が思い浮かばず彼は……。

  「ありがとうなのじゃ!?」

 と叫んで急いで階段を降りた。
 酷く照れくさかったのだろう……初めての応援に対して自分が答えるという事が。
 とにかく……何事もなく唯休憩と九尾との会話だけで第八層はクリアされ第九層へ。
 余りにもあっさりと行ってしまったが……最下層の一歩手前である第九階層……それだけあって今までよりなおも強いモンスターの反応が多数あることだろう。
 それを楽しみに……彼の冒険はまだ続くことになっていまったのだった。










          『彼の現在のステータス』
           ・レベル:72
           ・HP:450
           ・MP:223
           ・STR:116
           ・VIT:43
           ・AGI:170
           ・DEX:130
           ・INT:148
          『特殊技能』
           ・高速移動
           ・小ヒールレベル7
           ・毒吸収
           ・身体硬化中
           ・身体変化
           ・火炎のブレス中
           ・状態無効
           ・衝撃吸収



[7490] 混沌世界 第十一話
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/03/26 09:09
          第十一話~流石……最下層一歩手前じゃのぅ!~





 階段を駆け降りた先にあったのは大きな広間……そこに待ち構えるモンスター達だ。
 モンスターの数六。
 イシスが三匹にキングオークが三匹だ。
 モンスター名、イシス。
 下半身が蛇で上半身は人間の女性というモンスターで、石化能力がある。
 動き自体はそこまで早くはないが、尻尾での一撃はかなりのダメージが予想できるうえ、間違えてつかまってしまえば逃げ出す事は不可能な状態になる。
 モンスター名、オークキング。
 オークを強くしたモンスター。
 オークと違いきちんと考えながら戦う事ができ、時間がたつにつれて相手側の癖を見抜いたりする事ができるめんどくさいモンスター。
 イシスより更に力が強く、タフ。

  「……一度に相手をするのは自殺行為じゃのぅ。」

 彼はそう言うと……逃げるようにその場から離れ、通路がないかを探し出す。
 しばらくの間逃げ回っていると奥の方に一本道の通路があるのを発見した。
 急いでそこに飛び込む。

  「……意外と広いのぅ……じゃが、一度に二匹くらいならば何とかなるじゃろうて。」

 彼はそう呟いてモンスター達を迎え撃つ。
 最初に入ってきたのはイシスだ。
 入ってきたと同時に身体変化と身体硬化中を使い思いっきり突っ込む。
 一撃で死ぬことはなかったが後ろにいるイシスを巻き込み後ろへ少し吹っ飛んだ。
 そのすきにもう一匹のイシスが入り込んでくる。
 素早く離れ、もう一度攻撃。
 彼の攻撃をかわせるほど素早さがないせいかすんなりと当たって吹っ飛ぶ。
 それを繰り返しまず、イシスを倒した。
 オークキングは結構広めの通路であっても流石に二匹は入ってこれなかった。
 かなりでかいのだ。
 全長三メートル半ばに横幅だけでも一メートル以上ある。
 素早くないモンスターで一対一であれば今の彼にとって大して問題となる相手ではない。
 攻撃、離脱、攻撃を繰り返しノーダメージで倒していく。

  「ふぅ、これで最期じゃな。意外と……戦えるようになってきたのぅ。」

 嬉しそうにそう呟きながら通路の先へ進んでいく。
 少し進むと今度はビックテールが襲いかかってきた。
 前みたいに不意打ちを食らう事はなかったものの……なかなか空を飛んでいる相手に攻撃を加えるのは難しい……。
 と考えている間に一つの特殊技能の事を思い出した。

  「そう言えば……レベルが上がってから試しておらんかったのぅ。」

 彼はそう言ってビックテールのほうに向きなおり……思いっきり息を吸い込む。
 近寄ってこないビックテールをさほど気にせず……そのままその息を吐いた……炎として。
 ゴォォォォ!
 そんな効果音がしそうなほど強めの炎の息がビックテールを襲い……その羽を焼き尽くしていった。
 未だ死んではいないが……羽がなくなったビックテールは身動きすらまともにできず何もしないまま彼に倒されていった。

  「……小から中に変わるだけでこれほどまでに威力がかわるんじゃなぁ……。予想外じゃ。」

 彼はまた道を進み始める。
 しばらく何もなく進んでいくと……また少し広めの広間に出た。
 そこにはまたモンスターがいた……。

  「グリフォンにヘルドックじゃと?流石に……最下層一歩手前になるとレベルが違うモンスターがおるもんじゃのぅ。」

 モンスター名、グリフォン。
 上半身が鷲で下半身がライオンといった化け物だ。
 素早く堅いうえに攻撃力まで高い。
 特殊な効果を持つ技は基本は持っていないが……そんな物を必要としないほどの強さを秘めたモンスターだ。
 モンスター名、ヘルドック。
 地獄の犬……唾液の代わりに血をたらしながら迫りくるモンスターだ。
 その素早さはグリフォン以上で、百メートルを一秒切るくらいの速度で走り切る事が出来る。
 攻撃手段は爪と牙……だが、ヘルドックの血は強力な酸性を含んでいる為、その血に触れた瞬間身体は解けてしまうので、かなりの注意が必要だ。
 そんなモンスターが一匹ずつ……二匹だけだが今の彼では勝てるかどうかが非常に怪しいほどの強さを持った二匹だ。

  「っっ!流石に早いのぅ!」

 彼が広間にはいると同時にヘルドックが彼に襲いかかる。
 かろうじて躱すが……それにつづいてグリフォンも攻撃をしてくるので全てを躱しきる事が出来ない。
 かすったりしながらも何とか致命傷をくらわないように逃げ回る。
 少し……距離が開いたのを見計らい思いっきり息を吸い込んだ。
 やはり最初に突っ込んでくるのはヘルドック。
 近づいてきた瞬間真正面から炎の息を吹いた。
 ジュゥゥゥっと血が蒸発する音が聞こえ、ヘルドックの悲鳴が鳴り響く。

  「がはっぐ!」

 見事にヘルドックにダメージを与えた彼だが……そのすきにグリフォンからの攻撃を受けてしまった。
 爪による攻撃だ。
 かなり深いダメージながらもまだ死んではいない。
 小ヒールを使いながらまた距離を開ける。
 ヘルドックは動けはするものの先ほどまでの動きが嘘のようにヘロヘロと……かろうじて立っているような状態になった。
 運よく弱点属性の攻撃だったらしい。
 グリフォンが襲いかかってくるのを躱し、そのままヘルドックにとどめをさす。
 これで一対一。
 それでも……グリフォンとの一対一はかなり……不利だ。
 相手が空を飛んでいるというのが特に彼をフリとしている。
 とりあえず……下りて襲ってきたときにカウンター気味に攻撃を加えるが……旨く当たらない。
 運よくかする程度だ。
 三時間ほど互いに躱しながら徐々にダメージを与えていくが……さほどダメージをくらっているようには見えない。

  「むぅ……ワシも空を飛べればのぅ。」

 そう呟きながらどうにか倒す方法はないかと考える。
 ダメージ覚悟で真正面から突っ込むか……炎の息を吹きかけるかだ。
 ……炎の息は明らかに分が悪い。
 という事で……一か八か……このままじゃきりがないと思った彼は襲い掛かってくるときに合わせ、真正面から突っ込むことに決めた。
 身体変化は針だ。
 鋭く貫通させる勢いで思いっきり突っ込んできたグリフォンに突っ込む……。
 突き抜ける……そう思った瞬間グリフォンの体内で勢いが止まってしまった。
 ……どうしたものか……そう考えていた彼だが……ふと、今炎の息を吹けば一発じゃないかと気付いた。
 そして……体内からグリフォンを焼き……絶命させることに成功した。

  「ふぅ……何とかなっっがぁぁぁ!」

 一息つこうとした瞬間……背後から噛み付かれた。
 ヘルドックが復活してきていたのだ。
 とりあえず……瀕死に近いダメージを食らいながらも死ななかったので小ヒールで回復しながら離れる。
 ……時間をかけていては次はグリフォンが復活してしまう……そう思った彼はさっきと同じように炎の息を思いっきり吹き掛け、攻撃を加えて倒す。
 一度やってしまえばなんとでもなるものだと思いながら急いで奥にある通路へ進んだ。
 通路には数匹のビックテールがいたが……多少ダメージを食らいながらも問題なく倒していく。
 そして……しばらく進んだところで行き止まりとなっていた。
 勿論底に階段もある。
 モンスターもいるのだが……。
 モンスター名、サラマンダー。
 炎のトカゲだ。
 全身を灼熱といっても良いほどの炎で包み、素早さはヘルドック並み。
 その上堅さはグリフォンより更に堅く、攻撃力もグリフォンを軽く凌駕するほど高い。
 精霊に成り損ねたモンスター……そう言われている。
 同じ名前の精霊がいる為……そう言われているのだろう。
 通常攻撃だけでもそれほどまでに強い存在なのに、炎の息まで使ってくる。
 彼が使うようなレベルじゃない……それこそ全身を覆う灼熱レベルの炎を吹いてくるのだ。
 彼と……眼が合うサラマンダー。
 先に動いたの……何と彼のほうだった。
 まず先制攻撃とばかりに身体変化と身体硬化中を使った突撃。
 棘条の球になり当たるが……。

  「ぐはぁ!あつ、熱い!あつっ!」

 普通に攻撃しただけで全身やけど状態だ。
 慌てて小ヒールを使い回復していくが……一撃くらわせてもこっちがダメージを食うとは割に合わない。
 せめてもの救いは今の一撃でそれなりにダメージを与えたれたことくらいだろう。
 今の一撃で怒り狂ったかのようにサラマンダーも襲い掛かってくる。
 爪、牙、尻尾……そして距離をとれば炎の息……全てぎりぎりでかすりながらも回避出来たのは運が良かった……それ以外の何物でもない。
 とりあえず……一連の動きの後少し動きが止まったので更に攻撃を加えていく。
 レベルがもう少し低かったら攻撃を加えただけで死んでいたかもしれないのぅ……そう考えながら小ヒールを使う。
 サラマンダーが攻撃してくる間は必死に逃げる事だけを考え、反撃などそんな余計な事を考えない。
 そして、少し動きが止まった時にとにかく次は攻撃の事しか考えず唯突っ込む。
 それを繰り返し……精神力ももう尽きるといった段階に至って……漸く倒すことに成功した。

  「……熱いし痛いし疲れるし……もうこんな奴の相手はこりごりじゃ。」

 そう呟きながら疲れたように肩を落として……階段を下りて行った。
 こうして……彼は漸く最下層に到着することになった。
 はたして……最下層に待ち受けるモンスターとはいかなるものか……彼は……無事倒す事が出来るのか……。
 不安な気持ちを抱えながら彼は……第九階層をクリアした。
 こうして……彼の冒険は続くことになったのだった……。










          『彼の現在のステータス』
           ・レベル:81
           ・HP:533
           ・MP:250
           ・STR:140
           ・VIT:55
           ・AGI:220
           ・DEX:170
           ・INT:200
          『特殊技能』
           ・高速移動
           ・小ヒールレベル9
           ・毒吸収
           ・身体硬化大
           ・身体変化
           ・火炎のブレス大
           ・状態無効
           ・衝撃吸収



[7490] 混沌世界 第十二話
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/03/26 09:10
         第十二話~本当に噂は本当じゃったんじゃな!~





 最下層……そこにたどり着いた彼の目の前にいるのは……ドラゴンだった。
 幻の幻想種。
 幻想種の中でも一際存在を信じられていないモンスターだ。

  「むりじゃろう……。」

 彼はそう呟いてため息をついた。
 ドラゴンはそんな彼を見つめながら可愛そうな者を見るような視線を投げかける。

  「……でも、此処まで来たのじゃ挑まず終わるのは……情けなかろうて。」

 彼はそう言うと……とりあえず何時でも戦闘に移れるように距離を整える。

  「この階層まで来る珍しいスライムよ。本気で戦うのか?こんなこと言いたくはないのだが……無理だろう?」

 ドラゴンも流石にこの戦力差の戦闘は気が引けるのかそう言って忠告してくる。
 だが、一応目の前の主を倒して洞窟の主となるべくおり続けてきた彼だ……此処まで来て何もあせずに終わることはできない……例え、無理だったとしても。

  「解っておるわい。それでもじゃ、戦わずして終わる事だけは出来ん。」

 彼がそう言って覚悟を決めたようにドラゴンを見ると……ドラゴンもその覚悟をみとったのか、しっかりと名乗りを上げて礼を尽くしてくれた。

  「……すまなかった。我が名はスケール!我が主■◆■によりこの洞窟を任されし者!主が命によりこの洞窟は我が護りとおして見せようぞ!さぁ来るがいい!」

 ドラゴンはそう言って一声鳴いた。
 というよりも叫び声をあげた。
 彼はそれだけで身がすくむ思いだったが……とにかくがむしゃらに突っ込んだ。
 彼が今最高の攻撃力を発揮することができる、身体変化と身体硬化大でのタックル。
 だが……カーン!といういい音がしそうなほどドラゴンの全身をおおる鱗に跳ね返され……途方に暮れた。
 そして……彼が最後に見たのは振り回される尻尾だった。

  「おかえり~ずいぶんとお早いお帰りだったねぇ。凄いよ。こんな短時間で九階層抜けるなんて普通のスライムじゃないねぇ。」

 とからかい混じりに九尾が言ってきた。
 そう彼は今池の前にいる。
 戻ってきたのだ……一撃で倒されて……。
 だが、今の彼にとってそんな事よりも大事な事があった。
 凄い……今までどこか心の底で臨んでいた言葉をかけてもらえた……そんな事の方が彼にとっては重要だった。
 『おかえり。』何でもない言葉……だが、彼によってはまさにこれを求める為に冒険していたといっても可笑しくないほどの言葉だ。

  「ただいまなのじゃ。あれはむりじゃ……あんな者存在しておったことすらびっくりじゃ。」

 彼はそう言っててれた感情を隠すように苦笑する。
 彼が望み続けていた本当の望み……それは自分の居場所を手に入れる事。
 人間として……生きてきた彼には誰一人そんな言葉をかけてくれる人はいなかった。
 皮肉なことに……人間として終わり、スライムとして訳も解らずこんなところに来てしまったおかげでそんな言葉を貰える事になるとは……。
 彼自身驚くほどにその一言が心を満たしてしまった事に、ワシは馬鹿じゃのぅ。そう思いながら九尾と話を続ける。
 話の内容はドラゴンの事。
 九尾は何度もあのドラゴンに挑んだらしい。
 結局一度としてダメージを負わせることなく倒されてしまったという事だが……。
 負けたのにレベルは下がらなかったのか……不思議に思ったことについても聞いてみた。
 最高レベルになるとレベルは下がらなくなる……そんな情報も手に入れた。
 それから……本当に何でもないような事を離しながら彼は……洞窟を攻略するのを諦めた。

  「あんたも諦めて私達とこの洞窟で気ままに暮らそうや。給料も出るし意外となれりゃ、いい所だよここもねぇ。」

 という九尾の一声があったからかもしれない。
 こうして……彼の冒険は……最初の目標としてささげた洞窟の主を倒し、自分が主になる。
 それを達成することなく終わることとなった。
 代わりに……無意識にも心の底から望み続けた本当の望みをかなえることによって。
 自分の居場所を得る。
 たった……たったそれだけの彼の本当の望み。
 それを今手に入れた。
 彼は……手に入れてからその大事さと、それを求め続けていた事に気付き、本当に馬鹿だと自分を笑っていた。
 こうして……無謀にも挑み続けた彼の冒険は幕を閉じた。
 失敗と言っていいのか……成功といっていいのか微妙に解らない終わり方。
 だが、彼が幸せだと……そう感じているのだからいいのだろう。
 彼の物語は……これで……終わりを迎えることになったのだった……。










          『彼の現在のステータス』
           ・レベル:99
           ・HP:800
           ・MP:500
           ・STR:300
           ・VIT:150
           ・AGI:500
           ・DEX:350
           ・INT:400
          『特殊技能』
           ・高速移動
           ・ヒール
           ・毒吸収
           ・身体硬化大
           ・身体変化
           ・火炎のブレス大
           ・状態無効
           ・衝撃吸収



[7490] 混沌世界 エピローグ
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/03/26 09:10
          エピローグ~こんな世界でも臨んだ居場所じゃ!~





 彼が洞窟攻略を諦めて早十年。
 最高レベルにまで達した彼はこの洞窟の中であれば自由に行き来が出来るようになっていた。
 基本の居場所は九尾のいる第八階層。
 互いにちょくちょく出かける癖はあるものの、しっかりとそこに帰ってきて、互いにどちらかが「おかえり。」「ただいま。」を言えるような状態だ。
 この洞窟に骨をうずめる事を決めてから彼はドラゴンにも何度も会いに行っている。
 時々戦う事もあるがほとんどは唯話をしに行っているだけだ。
 九尾ですらドラゴンに会いに行くのは戦いに行くときだけ……そう聞いた彼は思ったのだ。
 一人きりというのはとてもつまらなくてさびしいものだと。
 彼が……ドラゴンやモンスターから比べれば短い人生だがその中で心の底から思った事だった。
 だから……彼は時々は戦いにも行くものの、ほとんどは世間話をする程度に行くだけだった。
 そして、しばらくして落ち着いたころ彼は約束は護れなかったが第一階層にいる初めての友に会いに行った。
 戻ってきたときにはコボルトは非常に驚いていた。
 本当に最下層までいくとは……と。
 そこで……下にもぐる間にあったいろんなことを話した。
 大変だったモンスターとの戦闘。
 可笑しなモンスターとの話。
 九尾やドラゴンの事等色々と。
 コボルトと彼は本当に面白可笑しくそんな話をした。
 それ以来、彼は時々ふらっとこうして第一階層にもくるようになった。
 次に行ったのは第二階層にいる可笑しなモンスター……マミーの所だ。
 話好きのマミーは彼が来た事を非常に喜んだ。
 そして前と同じように何でもないような事から洞窟のモンスターの弱点などを色々と一方的にはしてくる。
 時折彼も話しをするがマミーが十話をする間に彼が一話をすればいいくらいだった。
 こうして彼の散歩コースに第二階層も入ることになる。
 次に行ったのは第六階層のメデューサの所だ。
 前は先頭になってしまったが今回は本当に唯話とお茶を飲みながら穏やかに談笑をする事が出来た。
 もともと好戦的じゃないらしく、メデューサは始終穏やかに彼と話、帰る時には別れを惜しんでくれもした。
 こうして……彼はこの洞窟の中でかなり充実した毎日を送ることになったのだ。
 基本は第八階層で九尾とだらだらと怠けながら何でもいいような話をしたり、時々たわむれに戦ってみたり、一緒にドラゴンに挑んだりとと色々と楽しい毎日を送っている。
 それもこれも……彼が望んでいた自分の居場所というものを手に入れられたからだろう。
 きっかけは九尾だった。
 だけど……九尾だけではなくこの洞窟にいるたくさんの彼を認めてくれるモンスター達……そんな者達がいたからこそ今彼はこうして楽しく幸せに生きていくことができるのだ。
 彼もまた……その事を理解して本当に今の状態に満足していた。
 何故彼が人間からスライムに生まれ変わったのか……何故こんな洞窟にいたのかは彼自身解らない。
 だが、今の彼にはそんなことどうでもよかった。
 今という現実……幸せで楽しい現実がある、それだけでいいのだ。
 こうして……彼の楽しく平平凡凡とした日常は続いていく。
 永遠に近いほどの寿命を持つモンスター達……それは……彼らが消滅するまで続くだろう。
 この小さな洞窟の中の世界で。
 本当にこの小さな世界の中だけで、彼は今もこれからも幸せをかみしめながら生きていくのだ。
 これで本当に彼の物語は終わりになった。
 これ以上語るべき事もなければ、話していい事も何もない。
 だからこそ……後は、彼がこれからもこうして生きていくことを願い、終わりとしよう。
 彼にとってのハッピーエンドで。



[7490] 混沌世界 感謝の言葉
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/03/26 09:16

皆さんこのたび自分の紡いだ物語を最後まで読んでくださりありがとうございました!
色々ご指摘、ご感想をいただき非常に嬉しかったです。
まだまだ未熟な作者は、皆さんがご指摘していただいた事を全部反映させたりすることはまだまだできませんが、いつか出来るように頑張ります!
今回この物語はこのアルカディア様が引っ越ししている間に完結いたしました。
実際書き終えたのは三月の二十四日には書き終わっております。
この最後の言葉までしっかりと読んでくださっている皆さん……本当にありがとうございます!
アルカディア様が引っ越ししている間にまた新しい物語を書いてみました。
もしよろしければ是非そちらも見てやってください。
気が向いたらでいいです。
自分が書いたような、作者の脳内によるご都合主義万歳やらそう言った作品でもよろしければ是非お願いします。
次回作は学園都市系統のダンジョン探索といった最近ですと結構よくある話になっております。
……力量の足りない作者では力不足かもしれませんが、それでも読んでやるって方はぜひお願いします。
最後に……最後まで読み、応援、ご感想、ご意見、ご指摘を下さった皆さん……本当にありがとうございました!


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