俺が、アカネイア大陸に来てから何年の時が過ぎただろう?
この世界に来たのは暗黒竜と光の剣の物語の十年以上も前の話。
本編の話が始まるまでの間、俺は必死に修行した。闘技場にも入り浸ってレベルを上げてお金を稼ぎ、いまでは大金持ちでLV20の勇者様だ。
秘密の店で能力アップアイテムも買いまくって強化しまくったこのチート能力と、その後の展開を知ってるゲーマー知識をもってすれば、勝利は約束されたようなものだね☆
「レッドーっ! なにブツブツ独り言、言ってるのーっ」
なんか呼ばれたみたいなので声の方を見たら、俺の尻尾に抱きついてる幼女がいました。
ええ。俺には、尻尾があります。だって人間じゃないもの。竜だもの。
さっきの説明は何かって? ただの妄想ですよ。悪い?
俺が自分を竜だと自覚したのは……、何年前だっけ? ニートだから時間の感覚がありません。
気が付いたら竜になってた俺は大層慌てましたよ。何故か密林にいたしね。
それで、最初は人里を目指そうとしたんだけど、考えてみたらこんな怪獣が街に現れたら普通、人は話なんて聞いてくれないだろうと気づきました。
だけど、密林で一人で暮らすってのもねえ。俺、インドア派のオタクだし、サバイバル技能なんてありませんよ。竜になってもサバイバル技能とか役に立つのか知らないけど。
というか、食い物はどうするのよ? 生で丸かじり? そもそも狩猟なんてできませんよ。
困った俺は、とりあえず密林を探索する事にしました。熊とか狼が出たらどうしようかとビビリながらです。笑うなよ。
今思えば、ビビって逃げるのは向こうだろう、こっちは竜なんだから。って分かるけど、当時はマジで怖かったんだってばよ。
何日か密林を迷った後、俺は自分とよく似た気配を感じました。気配ってなんぞ? と思わなくもないけど、なんかそんな感じの感覚が働いたんだよ。
多分、竜が当たり前に持つ感覚なんじゃね?
んで、少し考えた後、その気配の方に行く事にしました。ここに来て、人間はおろか獣にも一度も会ってないんで寂しくて死にそうだったんだもん。仕方ないよね。
当然、何も喰ってないけど、腹は減ってません。爬虫類は、月に一度食事を取れば生きていけるって聞くし、そんなもんなんだろうと判断した俺です。
行った先には、爺さんがいました。爺さんは俺を見て驚いてました。
いや、森の傍を歩いてて、そこから竜が出てきたら普通、驚くか。
人恋しくてここまで来たけど、爺さんに悲鳴とか上げられたら心が死んじゃいそうだわ。
というわけで、そのまえに逃げようかと思ったら、爺さんは柔和な笑顔で、「ここは、お主のいるべきところではない。そなたの、いるべき所へ帰りなさい」とか言ってきました。
「帰るって、どこへ?」
思わず、聞き返してしまった俺は悪くないよね?
そしたら、爺さんは驚愕を顔に貼り付けた表情になりました。
「お前には理性が……、知性があるのか?」
はい。ありますよ。というか、理性や知性のないオタクってどんなんよ? 今は、竜だけど。
それ以前に、竜にそんな事を質問するとか、爺さんも相当アレな人だね。
とりあえず、答えてあげたら、爺さんは難しい顔で考え込んだ後、色々と質問して来ました。別に隠すようなことじゃないし人恋しかった俺は全部話しましたよ。
で、俺も爺さんに色々聞いてビックリ。なんと、ここは異世界で、何故か俺は異世界で竜に憑依してしまっていたのです。原因は今も分かりません。
更に色々聞いて二度ビックリ。爺さんの名前はガトー。ここは、アカネイア大陸のマケドニアとドルーアの境で、俺は竜族のなかでも火竜という種類に憑依したそうなのです。
ファイアーエムブレムですね。わかります。
マジか! サジだ! バーツだ!
言ってたら、ガトーの視線が可哀想な子を見る眼になりました。違うんだよ。確かに俺は可哀想な子だけど、頭が可哀想な子じゃないんだよ。
しばらく話した後、ガトーにこれからどうするのかと聞かれたので、とりあえず人里に住みたいと言いました。
だって、俺に野生動物の生活をしろとかマジありえない。動物園の見世物でもいいから人のいるところで住みたいわ。
そしたら、ガトーは俺とマケドニアまで一緒に行ってくれました。この国なら、飛竜の飼育とかしてるし暴れなければ大丈夫だろうと言ってくれました。そこの住人にも紹介してくれました。普通、気性の大人しい飛竜でも中々人間には慣れないのに、火竜が大人しくしてるなんてと驚かれました。喋ったらもっと驚かれました。いいじゃん、マムクートだって喋るじゃん。
後で分かったけど、その人はマケドニアの王様でした。そりゃあ、大賢者ガトーと直接面識があったり火竜が飼育できる環境を用意したり、王様以外じゃありえないよね。
そうして、マケドニアにて王族のペットとして生きていく俺の新生活が始まったのでした。
完
いや、終わってないし。
で、まあ、王様には三人の子供がいたわけなんだけど、それがミシェイルはまだ少年だわ、ミネルバは幼女だわ、マリアはまだ赤ちゃんだわで、暗黒戦争は、まだ始まってなかったという状況。いや、始まってもらっても困るんだが、英雄戦争後だったら安全だったのにね。俺の今後が。
このままでは、ドルーア帝国が興ったり、暗黒戦争が始まったりで俺の人生が死亡フラグです。
そこで俺は考えました。
なるようになるだろ。ここがアカネイア大陸だからってゲームの通りになるとは限らん。そもそも、ここがゲームの世界だと決まったわけじゃないし。
はい。問題を先送りにしましたよ。ヒキのオタに、何を期待してんのさ?
そんでもって、王様のペットな俺はミシェイルやミネルバとすぐに仲良くなりました。いや、子供の順応力って凄いね。王様だって俺を前にすると及び腰なのに。
城の人たちは、しばらく俺が人を襲うんじゃないかとビクビクしてましたが、しませんよ。人喰うとか。
性的な意味では喰ってみたいけど、竜だしね。マムクートみたく人間になれればいいんだけど、無理っぽい。
代わりに特典もあったけどね。
この世界の竜族は、知性を失っていく病気だかなんだかで、人の姿であるマムクートになるか獣になるかの二択を選ばされてて、マムクートの変身した姿の竜も、野生の獣の竜も、本来の神の如く力を失っているそうな。
だけど、どういうわけか竜の姿のままで理性を保っている俺は、本来の竜族の力が使えるらしい。一介の火竜のクセに神竜族のマムクートより強いらしいよ。密林で迷ってた時に腹が減らなかったのも、このおかげらしいね。真なる竜族は食事を必要としないんだとさ。
なんというチート。だから、どうしたって感じなんだけどね。神の如く力を持ってても、中身がただのオタじゃ何ができるわけでもない。
そんなこんなで、マケドニア王族と仲良く何年か暮らしてたんだけど、ミシェイルに段々と不穏な言動が目立ってきた。アカネイア聖王国討つべしとかなんとか。
まずいよね。このままじゃ、ゲームの通りに、話が進んで俺はアリティアの王子に討伐されそうだわ。それ以前に、ミシェイルとミネルバが殺し合うことになるってのも長らく見守ってた立場としてはキツイわ。
困った俺は、とりあえず、自分の知る物語という注釈をして、アカネイア大陸の歴史を知る限りゲームのEDまで説明してみました。
ミシェイルが改心して、スターライト取りに行って死ぬ所もしっかりとね。
全部話したら、竜族の預言と思い込んだらしいミシェイルは頭を抱え込んで悩みだしました。
「俺は……、どうすればいいんだ」
知らんがな。神童だの天才だの言われてるミシェイルに分からんことが、俺に分かるわけないだろ。
なんにしろ、ずっと頭の中を悩ませていたことを丸投げできた俺は心が軽くなって、今日も俺の尻尾を弄くってくるミネルバと遊ぶのでした。
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チートでニートなオリ主竜というのを思いついたので、思いつくままに書いた。後悔も反省もしていない。
続くかもしれないけど、続かないかもしれない。