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[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記  【完結しました】
Name: satuki◆f87da826 ID:2ee612d5
Date: 2009/11/06 10:47
お知らせ
09/06/19

6/19分までの話の順番を、時系列順に入れ替えました。
転生日記のタイトルを一部変更しました。


09/06/07

6/7分までの話の順番を、時系列順に入れ替えました。


09/05/24

40話の誤字があまりにも多かったので、緊急修正。
俊さん。毎度ご指摘頂き、本当にありがとうございます。


09/04/30

元ネタ板を試しに作成しました。
なお作成⇒移動中にご覧になった、悠さんをはじめとする方々。
閲覧中にご迷惑をおかけ致しました。
誠に申し訳ありません。


09/04/23

Arcadiaさんのサーバーが直ったようなので、コチラに復帰いたします。
ただ避難場所は、外部保存庫として残しておくことにしました。


http://lapislazuli1218.blog72.fc2.com/


それでは、失礼いたします。



[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 00
Name: satuki◆b147bc52 ID:ba24c843
Date: 2009/06/19 17:02


 転生という言葉を知っているだろうか。
 【転生】――今生きている人間には来世があり、来世ではまた別のモノに生まれ変わる。
 一般にはその程度の認識の知識だ。

 検証しようがない考え方。
 故に現代社会ではあってないようなモノになり果てている。
 だがしかし、転生はあった。本当にあったのだ。






 一度目の人生は、特に何の感慨もなく終わった。
 死因は癌。
 享年は六十五歳であり、現代に於いてはやや早死にとして人生に幕を閉じた。

 可もなく、不可もなく。
 ただ淡々と毎日を過ごし、程ほど――失礼。結構なオタク人生を歩んでいた。
 だが毎日が物語のように劇的なモノではなく、どちらかというと対極の位置にある日々。

 毎日が退屈の戦いだった。
 永遠に飼い殺しにされ続けると錯覚していた、昔日の思い出。
 でも。だからこそ。その次の人生では、平穏な日々が如何に大切だったかを知ることが出来た。






 二度目。目が覚めた時には、自分は赤ん坊だった。
 フィクションでは割と良くあるが、まさか己の身でソレを体験する日が来ようとは夢にも思わなかった。
 しかし同時に思った。

 二度目の人生。
 知識や思考回路は既に大人のモノ。
 ならば、なりたい自分になることが出来るのではないか?

 勝ち組になることも不可能ではないのだろうか?
 今にして思うと、我が事ながら何て浅はかな考えをしたものだと笑ってやりたくなる。
 本当に。何て浅はかな考えだったのだろうか。



 二度目に生れ落ちた先は、剣道の大家だった……と二歳位までは思っていた。
 木刀を振るう人々の姿が庭先や道場で行われていたので、きっとそうだろう思っていた。
 ソレが勘違いだと気が付いたのは、三歳の誕生日。

 何時も違う、ピリピリとした空気を不思議に思いながら、自分は道場に連れてこられた。
 道場の中央で正座するように言われ、周りを親族一同が囲むように座っていた。
 只ならぬ雰囲気。というのは、まさにこういった情景を指すのだろう。

 コレから起こる事態に全く思い当たることがない身の上としては、ただ背筋を伸ばして待機するしかなかった。
 正面に座するのは祖父――周りからは長だとか言われている人物。
 彼が瞑目から復帰した時。文字通り【ボク】の日常は終わりを告げた。

「今日からお前には、我らの剣の――【御神の剣】の鍛錬を行う」

 視界が真っ白に塗り潰された。
 耳から聞こえる音たちが、どんどん遠のいていくのが分かった。
 色々言いたいことはあるが、一言で済ませるとしよう。



 ……ココ、【とらハ】の世界か……




 


 文字通り血生臭い世界を生きることになり、鍛錬しなければ生き残れなかった。
 時代的に言うのなら、この時は不破士郎たちの生まれる前のことだったらしい。
 推定系なのは、ボクの生きた時間では彼らが生まれなかったから。

 ただ彼らの母であり祖母である、不破美影が嫁いできたのは確認。
 ソレから数週間後。ボクは二度目の死を迎えた。
 今度の死因は……若い頃に無茶を重ねた為。ちなみに、御神・不破両家併せて一番多い死因でもあった。



 一度転生したので、人の一生というモノを満喫することは出来た。
 多少……というか、かなり危険な目にもあったが、一度目の人生では出来なかった体験と考えれば、ソレ程悪いモノでもない。
 正直言えばお腹一杯だ。

 あぁ、お腹一杯だ。
 だからコレ以降の転生には、苦痛を伴うことが多々あった。
 【多々】あったのだ。







 三度目。
 今度は極普通の家庭の息子として転生。
 前回は斬ったり張ったり(誤字に非ず)な人生だったので、今回は逆に医者を目指してみた。

 流石に三度目ともなると、知識量や様々な場面でのコツというモノが分かってくる。
 だから医者になる為の勉強も、苦労はしたが絶対に無理というレベルではなくなっていた。
 ただ一つ。一つだけ誤算があるとすれば、普通の家庭ではあったけど、【異世界】での普通だったというワケさ。



 この世界には魔法がある。
 あぁ、大丈夫。頭は至って正常だ。
 嘘だと思うだろうけど、本当に魔法はあったのだ。

 後に旧暦と呼ばれるであろうこの時代で、ボクは【ベルカ式】と分類される魔法を学んだ。 
 二度目・三度目と人生を重ねるに連れ、ボクはある確信を抱いた。
 転生の環が、【都築ワールド】内で固定されているということに。






 その考えを裏付けるように四度目に転生したのが――海鳴市だった。
 





 さて――翠屋のシュークリームでも食べに行くか。







[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 01
Name: satuki◆b147bc52 ID:ba24c843
Date: 2009/06/19 17:02


 最近は転生前の経験とかも含めて、【チート】と呼ぶことが多い。
 だがそんなもの、ボクに言わせればチートでも何でもない。
 ただ人よりも人生が長くて、その長い人生での経験をフルに活用しているだけだ。

 本当のチートというのは、所謂天才系。
 何でもそつ無くこなしたり、常人が一生涯努力しても辿り着けないような領域に、アッという間に行ってしまう人間のことだとボクは思っている。
 RPGに例えるのなら、最初からレベル六十とかそんな感じ。

 さて。この度の転生は、月村さんの家にお邪魔しております。
 【月村】。
 そう、【アノ】月村家です。



 家族構成は姉とメイド……と影が薄い両親。
 明らかに可笑しなモノが混じっている……が、気にしてはいけない。
 気にしたらソコで試合終了なんですよね?

 そして当然の如く、【夜の一族】でした。
 困る。非常に困る。
 夜の一族って言ったらアレですよ?【発情期】何てモノがあるんですよ?
 
  

 転生・剣士・魔法使い兼医者とかを経験すると、もう吸血種でも驚いたりはしない。
 ふ~ん、と一言喋ったらお仕舞いなのだ。
 だがしかし、発情期となると話は別になってくる。

 人生五十年。と言っていたのは、もう遠い昔のこと。
 三回目までの人生を累計すると、少なく見積もっても百五十年は生きていることになる。
 まぁ実際には何度も死んでいるので、累計に深い意味はない。

 ところが、ある一言を頭に付け加えるだけで、この数字は意味を持ったモノへと変化する。
 そう――ボクは童貞さんなのだよ。
 百五十年という歳月を経た、生え抜きの童貞さんなんだよ。



 三十歳までDTだと、魔法使いなれるという俗説がある。
 その計算だと、ボクはプレシア・テスタロッサをも凌ぐ、大大大魔導師ということになる。
 もうSSSランクとかも目じゃない位な、ソレこそチートに分類されるかもしれない。

 取り合えずこの俗説を検証出来た身の上として、結果をお伝えしよう。
 累計百年を超えた辺りで、魔法使い(魔導師)になり、現在は恐らく――Aランク位。
 まだ幼稚園生の身の上としては十分過ぎる位。

 だけど残念なことながら、俗説は証明されなかった。
 ちょっと期待していただけに、凄く残念な気持ちに駆られた。
 軌道を修正しよう。



 とにかくそんなスーパーDT人には、発情期がある夜の一族の体質は酷過ぎる。
 事情を知っているとはいえ、姉やメイドに手伝って貰うのは……嫌過ぎる。
 まるで自分の買った十八歳未満視聴禁止なビデオを、女家族と一緒に見なければならないような拷問だ。

 ちゃんと対策を考えなければ。
 コレは本当に、生死を分かつ死活問題なのだから。






 四歳の時に妹が出来た。名前は【すずか】。
 そして確信した。
 ココが、【リリカルなのは】の世界だということを。

























 月日が経つのははやいモノで、現在小学一年生。
 何時の間にか居なくなっていた両親の存在を不思議に思うことなく、月村の家は今日も回っている。
 コレでイレギュラーはボクのみとなり、何時お迎えが来るんじゃないかとビクビクする、今日のこの頃。

 死ぬのは怖くなくなった筈。
 なのに死への恐怖が蘇ったのは、家族を喪うことからの本能的な感情なのだろうか。
 ……取り合えず不測の事態に備えて、剣術の鍛錬と魔法の練習をやっておこうと思った。



 小太刀は井関で手に入れた。
 だが、デバイスはソコらでは売っていない。
 当たり前な話だが、デバイスの材料すら売っていないのだ。

 まず、天才兼天災なお姉さまに相談してみた。
 ソコで得た結論。
 ボクは――――MADを舐めていた。



 五歳年上である姉、月村忍は天才だ。
 ソレは小学生の時分で、自動人形であるノエルを復元した時点で証明されている。
 無いのなら創れば良い。そんな何処ぞの主人公的な発言をした姉は、とても輝いていた。

 そしてこの上なく怪しかった。
 何故か前髪が両目を覆い、その前髪から覗けた瞳が光っている。
 敢えて擬音を付けるのなら、【キュピーン!】。怪しさがこの上ない。

 

「あ、ココはレアメタルで代用出来そう。う~ん、アレはノエルのフレームを流用して……」



 MADはセレブでもあった。
 故に彼女に出来ないことは殆どなかった。
 頼もしい。非常に頼もしい。我が姉ながら、これ程頼もしい存在はいないだろう。

 ……でも同時に。
 怪しい。この上なく怪しい。
 このMADが――自宅警備用の過剰防衛ロボットを作るようなMADが――何も問題を起こさないなんて、有り得ないだろう。

「え~と、自爆装置の解除コードは……」

 ホレ見ろ。
 言った側からコレだ。
 ホント、コレさえなければ……何て思ってはいけないのだろうか。

 




 デバイスが完成した。
 記念すべき第一号は、小太刀型ストレージデバイス。
 カートリッジシステムも付いてなければ、AIすら付いていない。

 本当に余分なモノを全て省き、可能な限り純粋な小太刀に近付けたシロモノ。
 名前はまだ無い。
 おねーさまは、「二本あるんだから、一本はシロでもう一本はクロね!!」とかのたまっていた。

 うん。知識としては知っていたが、月村忍はネーミングセンスの無さに定評があるようです。
 しかし折角姉が銘々してくれたので、取り合えずその名前を使うことにしました。
 ……とは言っても、ストレージデバイスなら名前を呼ぶことは、殆ど無いんだけどね。

 



















 学校から帰れば剣術と魔法の鍛錬が有るものの、学校自体は至って平和なモノ。
 小学校は聖祥に通い、今年から海鳴中央に通い始めたところ。
 成績は上の中くらいを維持しつつ、特に目立つようなこともなし。

 そんな絵に描いたような平和な学園生活。
 そう、学園生活は平和そのモノだった。
 平和ではないのは、家でも学校でもない。ある【限定的な場所】においてのみ、ボクの日常は戦争へと変化するのだ。







 アレは五歳の時の話だ。
 この頃になると、ようやく一人歩きが可能になり、公言通り翠屋に行った。
 そしてすぐさまシュークリームを注文。そのあまりの美味さに、我を忘れてこう叫んでしまった。

「(このシュークリームが)好きだーっ!!(お菓子作りの師匠として)お前が欲しい~~~~っ!!」

 目の前にいるのは、翠屋自慢のパティシエール。
 そして後ろにいるのは、パティシエール自慢の旦那様。
 旦那様の名前は【高町士郎】。永全不動八門一派御神真刀流小太刀二刀術の――御神流の師範さま。



 結論:後ろから飛針が飛んできた。



 補論:長年の鍛錬の結果、条件反射が作動。猿落としが発動し、我に還ったら高町士郎が延びていた。ご先祖様を舐めたらあかんぜよ。



 補論の補論:よって、御神流であることがバレた。







[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 02
Name: satuki◆b147bc52 ID:ba24c843
Date: 2009/06/19 17:02


 前回のあらすじ:士郎に御神流を使えることがバレた。



「……済みません。とっさに手が出てしまって……」

 取り合えず謝る。
 で、謝っている内に現状の打開策を考える。
 浮かんでは消え、消えては浮かんで。どれも説得力に欠けるようなモノばかりだった。

「……いや。先に手を出したのはコチラなんだ。そのことに関しては、俺の方が謝らなければならない」

 額にアイスノンを当てながら、若干ムッとした表情で答える士郎。
 彼が不服そうなのは、自分がのされたことが原因なのか。
 それとも、妻に愛の告白(モドキ)をした野郎(とはいっても、見た目は五歳位)を快く思っていないからか。

「それよりさっきのあの技は……」

 訂正。
 やはり師範としては、自らの流派の技を見ず知らずの少年が使う理由を知るのが優先らしい。
 優秀な人材だ。頬に出来た傷を、現在進行形で妻に治療して貰って鼻の下が伸びていても、やはり彼は優秀だった。

「(……隠し事っていうのは、バレた時には百倍になって返ってくることもあるし……)」

 長い、本当に長い人生を歩んでいると、そんな経験はゴロゴロあった。
 別に腹芸をしても良いのだが、嘘というのは自分以外の要因でバレることもある。
 本当っぽい嘘と、嘘っぽい本当。

 信じて貰えるかは別として、話すとしたら本当の方が良い。
 退魔師やHGSまでいるような世の中だ。
 良く考えれば、御神流そのものが非常識の体現者のようなモノ。上手くいけば、信じて貰えるかもしれない……自信はないが。

「……嘘っぽいし、そんなの有り得ないって思うかもしれません。ソレでも良いなら、お話ししますが……」

 一応、断りを入れる。
 同時に、士郎のみにピンポイントで殺気を向ける。
 反応アリ。でも怯まず。仕方がないので本当のことを話す。

「……良し。今から病院に行こうか?」

 予想通りの反応が返ってきた。
 仕方がないので、信じてもらえるまで御神の家のモノにしか分からないことを、延々と話し続ける。
 途中、話が逸れて鍛錬の方法に話題が飛び、漸く信じて貰えた模様。

 嘘っぽい本当を信じてもらうのには、相当な労力が必要だということが分かりました。
 あと、失伝したモノがあったようなので教えてあげたら、何か凄い嬉しそうに懐かれた。
 五歳位の男の子に、土下座せんばかりに従う中年。傍から見たら、さぞかしシュールだっただろうな。






 それ以後、翠屋はボクにとって戦場と成り果てる。
 理由は簡単。士郎が、隙あらば襲い掛かってくるからだ。
 精神年齢的には稽古を付けても問題ない。だが見た目は小さな男の子に襲い掛かる、ダメな大人の姿。

 小さななのはに注意され、正座で反省させられる士郎。
 士郎がフリーズ中のみボクは開放され、桃子さんの所に教えを請いに行く。
 その時間比、およそ二対一くらい。

 もっとお菓子作りの修行に時間を割きたいのなら、士郎を瞬殺しなければならない。
 しかし、回復魔法で完治した士郎は手強い。
 魔法の実験台とばかりに掛けた過去の自分を、呪ってやりたい今日のこの頃。

 おかげで現役最強の存在という、モンスターになってしまった士郎。
 恭也は背中が遠くなったと、喜んでいるのやら悲しんでいるのやら複雑そう。
 美由希からは、危うく【おじいちゃん】とか呼ばれそうになる始末。

 繰り返し言うようだが、ボクはチートな存在なんかじゃない。
 五歳児が大の大人をあしらえるのは、身体強化の魔法と過去の鍛錬の賜物なのだ。
 全てが努力の結晶なんだ。

 人間、相応の時間を努力に費やせば、出来ないことは殆どない。
 だからヒトは努力し続ける訳だし、ソレをやめないのだ。
 でも。それでも出来ないことだって、残念ながら存在する。

 具体的には美由希の料理とか。美由希の料理とか。
 頭の中でそんなエコーが掛かるのを感じながら、ボクの意識はソコで暗闇に閉ざされた。
 そう。美由希の料理を食べさせられながら。












 話を再び現在、中学一年の時に戻そう。

 両親が遺した莫大な財産が有るとはいえ、蓄えは多いに越したことはない。
 取り合えずMADねーさまに色々と仕込んでもらった結果、有る程度のモノなら自分でも作れるようになった。
 最初に着手したのは、自分の夢の一つ。マスクドライダーなモノを創ること。

 最初からベルト型を創ることは、世界の法則に反する。
 だから一番目は、装着スーツ型に決めた。
 名前はC3。このパチモノくささがたまらない。

 完成したC3の正式採用の為に、地道なイメージアップ政策に着手。
 この世界ではアギt(略)はやっていなかったので、まず番組を作成させてお子様と奥様と大きなお友達のハートをキャッチ。
 握手会に始まり、必要とあらばドブさらいまでやった。

 結果。
 警視庁さまで正式採用が決定。
 制式型として、C3-MILDを量産し、全国に配備された。

 おかげで、青く輝く菱形の宝石のみを対象とした、金髪のスクール水着の少女怪盗との闘い日々が始まったらしい。
 一着のみ存在するC3-Xで怪事件を解決し、現場で発見された蒼い宝石。
 少女が何故ソレを狙って現れるのかは不明だが、一つだけ言えることがある。



 【本日○時、警視庁に保管されている蒼い宝石を頂きに参上する。 怪盗 金色夜叉】



 金色夜叉って命名、一体誰がしたんだろうか。






 怪盗金色夜叉が出始めてから、はや一週間。
 警察では日夜、HGSまで導入した対策を講じていた。
 しかしそんな警察の努力を嘲笑うかのように、第二の怪盗が出現した。

 

 【本日○時、警視庁に保管されている蒼い宝石を頂きに参上するなの♪ 怪盗 ホワイトエンジェル】



 桃色の怪光線で警察の包囲網を突破し、得体の知れない環で人々と捕らえていくその姿。
 本人はホワイト【エンジェル】と自称しているが、ニュースや新聞……果ては警察内での呼称もソレとは別のモノになっていた。
 怪盗【ホワイトデビル】。ソレが世間一般での彼女の通り名である。



 何度も何度も襲撃され、その度にこ○亀のように立ち直る警視庁の庁舎。
 幾度も襲撃されたことで、警察は学んだことがあった。
 ソレは有る意味、至極当たり前のことだった。

「あの宝石を、警視庁の外に置いておけば良いんじゃない?」

 結果。なるべく更地に近い所に宝石を置いてみたところ――――翌日にはクレーターが出来ていた。











 何処から聞き付けたかは知らないが、C3システムを採用したいというオッサンが現れた。
 彼の名前はレジアス・ゲイズ。
 そう。ミッドチルダ地上本部の中将さまがいらっしゃったのだ。

「あのC3とかいうシステムは、ワシの理想そのものなんだ!頼む、アレを使わせてくれ!!」

 そう言われたら、断る理由なんか存在しません。
 すぐさま質量兵器にならないよう、武装を絞ったC3を数体導入。
 布教……もとい、広報活動は日本でやったモノを採用し、何とか各隊に二体ずつの導入と相成った。

 ただ一つ、ココで予想外の自体が勃発。
 何とレジアス自身が、C3を装着したい申し出てきたのだ。
 彼も己の力で平和を護りたかったのと、子どもの頃からの夢が捨て切れない大人だったらしい。

 熱くなる目頭を押さえつつ、彼の体系に合わせたスーツを開発しようと思った。
 ……が、ソレに待ったを掛けたのは彼自身。
 理由を聞いてみると、

「ワシ……いや、オレは特別な何かで平和を作りたいんじゃない。みんなと同じモノで平和を護りたいんだ」

 そう言い残すとレジアス中将は、次の日からリンゴダイエットやフルマラソンをし始めた。
 僅か一週間で、スーツに体型を合わせた彼が誕生。
 もうソコには、肥満体型の嫌われ者なレジアス・ゲイズはいなかった。






[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 03
Name: satuki◆b147bc52 ID:334116f1
Date: 2009/06/19 17:02


 前回のあらすじ:スーパー【レジアス】タイム発動。彼の人気の高さが確変ゾーンに突入。



 今日も今日とて平和なモノで、中学生活にも慣れてきたこの頃。
 時々世間を騒がす怪盗が二名程出没しているが、最近出現頻度が低下中。
 このままで行けば、そう遠くない内に彼女らの存在は風化するだろう。

 是非そうあって欲しいモノだ。
 魔法を使い、警察を相手に盗みを働く美少女怪盗。
 コレが小説やマンガの世界ならアリかもしれないが、生憎現実でやったら少年院行きコースだろう。

 あの顔も隠していないのに、一向に正体が掴めないという事態は、警察が無能だからなのだろうか。
 それとも警察は、彼女たちの将来が傷付かないように、ワザとお約束を守ってあげているのだろうか。
 疑問は尽きないが、ココで頭を悩ませても真実に突き当たる可能性は低い。

 ならば別のことに時間を費やした方が、建設的というモノ。
 今ボクがやるべきことは、C3システム以後のことを考えなければならないのだ。
 そう、C3以降のマスクドライダー的なモノを。






 案件一。

 カード内蔵型バックル。
 コレは鏡面世界でないと意味を成さないので却下。
 個人的にはオッサンが変身する、オルタナテ○ヴゼロを再現したかったのだが……仕方がない。諦めるとしよう。



 案件ニ。

 携帯電話型変身ツール。
 創りたい。非常に創りたい。携帯電話を片手に、何度真似をしたか不明だった程にやってみたい。
 だが現実に立ち返ると、クリアしなければ課題が大きすぎるのだ。

 ①先ず人工衛星を打ち上げなければならない。
 ②普通の人間ではエラーが出て、装着出来ない(要身体改造)。
 
 よって、涙を呑んで却下。

 

 案件三。

 十三枚のトランプ……のようなモノを利用した変身システム。
 コレもやりたい。
 ……が、前提となるアンデッドがいないので却下。



 案件四。

 ……鬼になる修行方法が分からないので終了。



 案件五。

 …………君に決めたっ!!







 















 最近何かと面白い話題が尽きない世の中ですが、昨日一つ残念なお知らせが耳に入ってきました。
 高町さんちのなのはちゃんが、夜遅くに無断外出。その結果、紅いゴスロリ服を着た少女に襲われたそうです。
 とは言っても、なのはちゃん自身には怪我は殆どない。代わりに怪我を被ったのはゴスロリ少女の方。

 何を言ってるのか分からないと思うので、経過をまとめてみました。



 ①なのは、夜遅くに無断で外出。
 ②不審に思い、士郎・恭也・美由希が尾行を開始。御神の剣士に掛かれば、尾行なんてお茶の子サイサイさ。
 ③紅いゴスロリ少女が、なのはを襲う。
 ④割って入ったのは、御神流師範【高町士郎】。直前まで、恭也とどちらがやるか揉めていた模様。
 ⑤御神流tueeee!な状態発生。応援に来たフェイト・ユーノが呆気に取られる。
 ⑥シグナム・ザフィーラ襲来……が、美由希と恭也によって轟沈。
 ⑦シャマル、ハラワタをぶちまけろな状態が出来ないまま、結界を破壊。以後逃走。



 うん。清々しいまでに原作が崩壊しているが、良く考えたら今更なことなので無視。
 それより無視出来ないのが、士郎たちが魔法を使っているところだ。
 しかも、高度なハズの飛行魔法までも。

 その答えは単純だった。
 この世界の彼らは、全員がAランク相当の魔力量を保有していたのだ。
 最近の傾向としては、魔力保有量がFランクとかの恭也が主流になりつつあるが、この世界の彼らにはソレは適応しなかった模様。






 ……ゴメンなさい。
 嘘です。
 ウソですから、モノを投げるのは止めて下さい。



 本当は、彼らにはボクが開発した試作品を持たせていたからだ。
 魔力というエネルギーの代わりに電気を利用した、魔法プログラムの使用。
 ソレを可能にするデバイスの試作品。姉命名の【タマ一号】を。

 魔法はプログラムである。
 ソレは、リリカルなのはの作中で語られていることだ。
 何とも夢の欠片もない設定だったが、今回の場合にはソレが良い方に作用した。

 元々はレジアス用に開発していたモノなのだが、彼本人は魔法という、本来人間にはないモノを嫌い辞退。
 なので彼は、非致死性のスタンガンやゴム弾、後は肉弾戦をメインに闘っている。
 そんなワケで色々と頑張ってる彼には、ソロソロC3-Xを進呈したいところだ。

 C3とC3-Xの違い。
 勿論様々な能力値が違うのだが、一番大事な所はソレではない。
 やはり一番の違いと言えば、【根性感知メーター】の有無だろう。

 アギt○本編では、そんなモノが付いているとは言及されていない。
 普通に考えたら、そんな馬鹿げたモノが付いてるハズがない。
 しかしC3-Xの元となったモノは、明らかに装着者の根性の出し具合で強さが変わっていたのだ。

 その証拠に、開発者自身が「根性出しなさい!!」って応援してたこともあったし。
 だからボクは、自らの推測を信じて【根性感知メーター】を付けた。
 一週間で、スーパースリムになってくる彼のことだ。きっと素晴らしい数値を叩き出してくれることだと思う。

 ちなみにこのメーターが付いていると、バッテリーが切れても多少は闘えるという裏技がある。
 やはり人間、根性は大事だよ。
 ……アレ?もしかしてコレって、結構な発明だったりする?






















 おまけ:今日のレジアス



 五時 : 日の出と共に起床し、ジャージに着替えてジョギング。
      十キロ程走った後に帰宅し、今度は筋トレを行う。マシーンを使って効率的に筋肉を鍛えていく。
      本当ならもっと時間を割きたいようだが、中将にはコレが精一杯なのだ。

 六時半: オーリスが作った朝食を食べ……たいのだが、残念なことに彼女は料理が出来ない。
      故に自身が腕を振るう。
      前日から仕込んであったポトフが良い感じだったので、ソレを食卓に並べる。娘が感動のあまり泣いていた。

 七時 : 時空管理局地上本部に向けて出発。自宅から大体五キロ程。
      腹ごなしも兼ねて軽く散歩気分で歩いてくる。
      小鳥たちのさえずりや穏やかな風が、ひと時の癒しを与えていた。

 七時半: 地上本部に到着。本来就業は、ミーティングも含めて八時半から。
      しかし中将は多忙なのだ。コレでも遅いくらいに。
      オーリスから本日のスケージュールを説明してもらい、業務開始。

 十一時: デスクワークをひとまず終了させて、会談兼昼食に行く準備をする。
      場所は聖王教会管理のホテル。
      会談相手はカリム・グラシアだった。

 十一時半:会談の内容は、C3システムのことだった。
      アレは質量兵器ではないのかとか、動力は何なのかなどを聞いてきた。
      答えても良いのだが、自分は開発者ではない。

      勝手に説明するのも不味い部分もある。
      仕方無しに開発者への連絡先を教え、今回の会合は終了した。
      帰りがけに、何故かカリムの側にいたシスターにサインを頼まれた。生まれて初めてのことに、緊張した。

 十三時 :地上本部に戻ってきて、デスクワーク再開。
      途中、最高評議会から呼び出しを喰らう。
      ココでもC3のことを聞かれたので、面倒なので全て【根性】で押し通した。良く分からないが賞賛された。

 十七時 :通常業務時間が終了。
      しかし残業は続く。なので今の内に息抜きを兼ねて、ゼスト隊を見に行った。
      丁度訓練中だったらしく、ゼストが模擬戦を持ち掛けてきた。

      C3の時は負けか引き分けしかなかったが、C3-Xになってからは勝ちを拾えるようになってきた。
      根性感知メーターの存在は大きい。ソレはゼストが羨ましがる程だった。
      空戦に持ち込まれた時の対処方法が、壁を蹴り上がるしかないのが辛い。今度開発者に相談しよう。

 十八時 :デスクに戻ってきて、再び書類仕事。
      このペースなら、二十一時には終了しそうだ。
      途中で仕事が増えたので、結果としては二十一時半に終了となった。

 二十二時:帰宅と同時に、夕食の支度を始める。    
      三十分後に完成し、オーリスと共に食事をする。
      この時は二人とも仕事から解放されて、頬が緩む。

 二十三時:入浴を済ませ、洗濯を始める。
      朝はやっている時間がないので、夜やらざるを得ないのだ。
      乾燥は機械乾燥。縮みやすいので、あまり使用したくないのだが仕方がない。

      はやく休日になって欲しい。
      そうすれば、日光の力で乾かせるのに。
      ……オーリスはその間、酒を飲んでいた。

 二十四時:明日の仕事を頭に描きつつ、就寝。












 あとがき

 ……何書いてるんだろう、自分。
 まぁソレはさておき、時系列が分かりづらいというご意見を頂いたので、各話を微妙に修正しました。
 あと金色夜叉のネーミングは某大魔導師が。ホワイトデビ……じゃなかった、ホワイトエンジェルは淫獣君の命名です。

 二人とも無印当時の年齢です。







[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 04
Name: satuki◆b147bc52 ID:e3d73ba3
Date: 2009/06/19 17:02


 前回のあらすじ:スーパー【レジアス】タイムなおも発動中。もう既に彼が主役と化している、今日のこの頃。



 突然ですが、姉が彼氏を連れてきました。
 お相手は、高町さんちの恭也君です。
 彼の人柄の良さや腕っ節の強さは、皆さんもご承知の通り。

 姉の彼氏としては、申し分ない青年だと思いますよ?
 逆に、どうやって彼をゲットしたのかが非常に気になります。
 ……前に【既成事実】がどうたらって言っている姉に遭遇しましたが、まさかねぇ……?

「……君のお姉さんとの――忍との関係を認めて欲しい……!」

 凄い。姉は一体どんな手段を用いたんでしょうか。
 あの究極至高の朴念仁が、こんなストレートに恋愛感情を出すなんて。
 ヤクですか?一服盛っちゃったんですか?

 知りたいけど、聞く勇気は生憎持ち合わせていない。
 君子危うきに近寄らず。
 ソレとは別に、やることもあるしね。

「……恭也さんの言いたいことは分かりました……」

 彼程申し分ない人材はいないでしょう。
 そんなことは理解しています。
 だけど感情が追いついてこないというのもまた、人間として当然のことなのだ。

「……一つ貴方に問います。もしも、なのはちゃんが彼氏を家に連れてきた場合、貴方は……」
「潰……失礼。『貴様如きになのははやらん!どうしてもなのはが欲しければ、俺を倒していけ!!』と言います」

 間髪入れずに答えが返ってくる所が素晴らしい。
 流石は御神の剣士……ではなく、スーパーシスコン人なだけはある。
 もう互いに言葉要らなかった。彼の答えそのものが、この後の展開の口火なのだから。

「永全不動八門一派御神真刀流小太刀二刀術――御神正統」
「永全不動八門一派御神真刀流小太刀二刀術――御神不破」

 瞬間、稲妻が走った。
 ソレは比喩でも何でもなく、本当に背景に雷が落ちたのだ。
 後で分かったことだが、コレには久遠が協力していたらしい。

 勿論那美経由での、忍による計画。
 我がお姉さまは、どんな時でも遊び心を忘れない一流のエンターティナーなのだ。
 その証拠に、少し離れたテラスでは観客席が設置されていた。

 小さな旗を振って応援する桃子。
 オロオロしている、なのはとすずか。
 美由希と士郎は剣士の顔付きでコチラを見ているし、ノエルに至っては彼らのお茶を提供している。

「(……どうしよう。普通にやったら負けることはないけど……)」

 流石に年季が違うので、まだ恭也に負けることはない。
 だがしかし、それでは今度は姉上様に泣かれてしまうのだ。
 手を抜くことも出来ず、また本気で勝ってもいけない状況。

 心情的には完膚なきままに叩きのめしたいところだが、ソレをやれば空気を読まなすぎる。
 悩みに悩んだ結果、彼の主人公属性に期待することにした。
 何度も叩きのめして、それでも立ち上がってくる恭也。そして彼はついに、【アノ】光を手にする……とかなってくれるのが希望する。



 その後、彼は見事に主人公属性を発揮。
 奥義の極【閃】の発動に成功し、ボクの役目は終わった。
 ただ一番のダメージは、肉体外面よりも内面――特に胃に来ていたとだけ言っておく。




 

















 だるい。
 身体が妙に火照って、疼きが止まらない。
 コレはアレか。とうとう来てしまったのか。あの【発情期】というヤツが。

 一応この日の為に色々と対策を講じてきたが、ハッキリ言って無事に乗り切る自信がない。
 なので一応事前に特別な部屋を作り、ソコに篭ることにした。
 部屋に入ってすぐ。ほんの十分もしないうちにヤバ気にになったので、対策その一を発動。



 対策その一:三百倍の重力室。

 事前に実験したところ、百倍だと耐え切れてしまった。
 流石に夜の一族のスペックは伊達ではないらしい。
 故に三百倍の重力室を作成。

 重力に押しつぶされれば、余計なことは出来ないだろう。
 単純にそう考えた過去の自分を、現在のボクが笑い飛ばしてやりたい。
 最初の頃は確かに効果があったのだ。

 でも一日二日と過ぎていく内に、効果が薄れていくことが判明。
 夜の一族の身体は、この環境にも適応出来るように進化していたのだ。
 ……本当にヒトの進化というモノを、蔑ろにする一族だこと。



 対策そのニ:スポーツとか身体が疲れることをして、発散させる。

 ダメでした。
 御神流剣士たちにも協力してもらったのですが、全然ダメでした。
 それどころか、駄眼鏡に襲い掛からんとする始末。自分の身体が怖い。



 対策その三:強制的に血液を抜いて、仮死状態。

 もうコレでダメだったら後がない。
 とか悲壮感を漂わせながら考えていたが、結果的には成功。
 次回からもコレで行こうと決意。

 別に女性が嫌いなわけではないが、こういうことには愛がないとダメだと思う。
 百五十年モノのDTは、夢見るスーパー賢者なのだよ。
 だから、機会に恵まれなかったのかもしれないが。




 補論:妹が兄の必死な抵抗を見て、発情期について異常に怯えるようになった。済まない、妹よ。






















 おまけ:中将日記。



 今日は比較的スムーズに仕事が終わったので、現在十八時半を回ったところ。
 ならばと、地上本部内のトレーニングルームに向かい、筋トレに精を出すレジアス。
 丁度ルームランナーで走っていると、隣で白髪頭の中年仕官がトレーニングを始めた。

 結構な鍛え具合に、思わずどうして鍛えるのかを聞いてみる。
 すると返ってきた答えは、

「いやぁ~、ウチの女房や上の子どもが強くてなぁ。コレ位は鍛えておかないと、付き合えないんだよ」

 とのこと。
 非常に微笑ましい答えに、レジアスは羨ましいと思った。
 ちなみ中年仕官の名前は【ゲンヤ・ナカジマ】。後に陸士一○八部隊の部隊長になる漢である。







[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 05
Name: satuki◆b147bc52 ID:108cccfe
Date: 2009/06/19 17:02

 前回のあらすじ:発情期という名のお勤め期間が終了した。



 結構な苦労と共に刑期明け……のようなモノが終了し、自室に戻ってくる。
 それとほぼ同じタイミングで、ミッドと月村家を繋ぐテレビ電話のランプが明滅した。
 発信者は見たことがない番号。とにかく出ない訳にはいかないので、恐る恐る取ってみた。

「突然のお電話をお許し下さい。月村静香さんのお電話でよろしいでしょうか?」

 そういえば今まで一度も登場する機会がなかったから言わなかったが、ボクの名前は【月村静香】。
 少々……以上に名前にコンプレックスが有る為、なるべく名前は使わないようにしている。
 コレまでに散々DTだと言ってきたので分かると思うけど、一応言っておこう。男ですよ?

「……えぇ。月村静香はボクですが……貴女はどちらさまで?」

 画面の向こう側にいるのは、黒い服を着た金髪美女だった。
 時空管理局地上本部の制服を着ていないのを見ると、少なくともレジアス経由の依頼ではなさそう。
 だがこの連絡回線は、彼や一部の施設にしか知らせていないのもまた事実。

 故にこの美女からのコンタクトは、怪しさ極まりない。
 まるで自分が怪しいですよと、宣伝しているようなモノだ。
 警戒を強める。

「自己紹介が遅れました。私の名前はカリム・グラシア。聖王教会の騎士で、時空管理局にも籍を置いているモノです」

 何と。この時期にカリム嬢が登場するとは、夢にも思わなかった。
 まぁレジアスが登場した時点で、想定してしかるべき問題ではあったのだが。
 取り合えず、彼女の要件を聞くとするか。

「これはご丁寧に。ボクのことはご存知のようなので、自己紹介は省かせてもらいます。それで、ご用件は……?」

 彼女なら、ボクの連絡先を知ることは不可能ではない。
 正規のルートでも良いし、秘密裏に入手することも可能だ。
 恐らく彼女の目的はC3システムのことだろうが、一応相手から言わせるのがマナーというものだ。

「ここ数ヶ月で、レジアス中将が【C3システム】というモノを使用し始めました……」

 黙って先を促す。
 聖王教会での導入か。質量兵器だと訴えにきたのか。
 それとも全く違った理由なのか。

「魔力を持たないモノでも運用出来る、パワードスーツ。素晴らしい発明だと思います……」
「……ありがとうございます。ですが貴女の御用件は、ただお褒めの言葉を下さったモノとは思えないのですが……」

 一瞬息を呑む音が聞こえた。
 段々と雰囲気が悪くなる。
 だがソレは仕方のないこと。避けては通れない問題なのだから。

「……ですがアレは……アレは質量兵器なのではないでしょうか……?」

 真剣な面持ちで訊ねてくるカリム。
 意外だった。彼女なら、適当にお茶会にでも誘い出してから聞き出すとか思っていた。
 STS本編まで、まだ時間がかなりある。この時は、まだ未熟だったのかもしれない。

「ちなみに、レジアス中将は何と?」
「……自分は開発者ではないので、言えない部分もある。開発者の連絡先を教えるから、自分で聞いてくれ……と」

 ありゃま、説明してくれても良かったんだけどなぁ。
 どうにも真面目さんだからなぁ、彼。
 仕方がない。面倒だけど、キチンと説明しましょう。

「結論から先にお伝えします。質量兵器に抵触するようなモノは、一切搭載しておりません」

 質量兵器が何故禁止されているのか。
 ソレはクリーンな魔法と比べると、環境に影響を与えるモノが多いからとかも言われているが、ソレだけはない。
 非殺傷設定が出来ないから。コレが一番大きな原因なのだ。

「弾丸はゴム弾。スタンガンは非致死性。C3システム自身は電力で動き、現場まで搬送する手段はそちらの世界のモノ」

 一つ一つ構成するモノを言っていく。
 質量兵器であるハズがないのだ。
 ソレはミッドに持ち込む際に、レジアスと武装を絞った時点で認められている。

「何か問題がありましたか……?」
「……武装面では問題がないことを確認しました。ですがアレは……魔導師や騎士の闘い方を、根本から崩すモノです!」

 あぁ、成る程。
 騎士道精神を重んずる教会としては、アレの存在は対極の位置に有るモノだ。
 アレに頼れば鍛錬をしなくなるとか、騎士道精神に反した闘い方をするようになるとか。

 そんな懸念からの訴えだったのか。
 何だ。このお嬢さんと比べたら、レジアス中将の方が百倍マシ。
 いや、比べるのも失礼だ。

「……そんなに騎士道精神って、大事なモノなんですか?」
「…………?」

 騎士道精神。ひいては誇りというモノ。
 有る程度は大事だと思う。ソレがなければ、ヒトは自分を律することが出来ない。
 でも、ある程度以上からは不要になる。そんなモノに拘っているうちにも、助けを求める人々は傷付いていくのだから。

「騎士というのは、誇りを守る為の生き物なんですか?違うでしょう……?」
「……!」
「騎士っていうのは、人々を護る為の剣なんでしょう?違いましたっけ……?」
「……そ、それは……」

 う~む。まだまだ甘いな、騎士カリム。
 理想は大事だけど、理想を見すぎると足元が見えなくなる。
 このお嬢さん……というか聖王教会の人々は、ソコら辺の認識がどうにも欠如しがちなのだ。

「まぁコレって、実はレジアス中将の受け売りなんですけどね?」
「……え?レジアス中将が……?」

 騎士を魔導師に置き換えてやると、まんまレジアス中将の台詞になる。
 彼がボクにC3システム導入を依頼してきた時に聞いた、地上本部を説得させる為の言葉。
 ソレがこの言葉だったのだ。

「あと誤解のないように言っておきますが、アレは訓練なしに使いこなせるモノではありません」

 地道な筋トレ。
 華やかさのないロードワーク。
 ソコにあるのは、外からは見えない努力のみ。

「その証拠にレジアス中将。彼は激務な毎日にも関わらず、必ず筋トレと走り込みをしているのですが……」
「まさか……それであんなに劇的なやせ方を!?」

 事実は違うのだが、敢えて言う必要もない。
 どちらにせよ、中将の努力が凄いということには違いがないのだ。
 なら勝手に勘違いさせておけば良い。

「……さて。お話はコレでおしまいですか?」
「エ?え、えぇ……」

 多分聖王教会では、C3システムは採用されないだろう。
 時空管理局とは別の意味で柔軟性がないから。
 ソレは歴史が証明している。というか、かつて聖王教会の信徒だった身の上としては、ソレが痛い程良く分かる。

「聖王教会では、C3システムの導入は難しいでしょう。もしかすると、検討すらしないかもしません」
「……そうかもしれません」

 こんな素直な娘が、後に豆狸のお師匠様の一人になるなんて、とても想像出来ない。
 出来るならこのまま育って欲しいが……。
 まず無理だろうなぁ。

「このままお話を終了させても良いんですが、ソレではかなり後味が悪い。ですから、こんなモノを用意してみました」

 パソコンの端末を操作し、あるモノの仕様書をカリム側に転送する。
 仕様書の中身は、以前レジアスが断った【電力式魔法導入案】。
 恭也たちで既に実践データを取ってある、【ベルカ式】のモノである。

「コレは……!」
「採用するかしないかは別として、検討する価値は十分にあると自負しております」

 コレはカートリッジシステム以上に、革命をもたらすモノだ。
 正直な話、管理世界のバランスを崩す恐れすらも含んでいる。
 でも多分。今のカリムなら、この意味が分かるハズだ。ボクの持っている、このカードの重たさを。

「……ありがとうございます。ですがこのシステムは、今の私たちには【重い】モノとなるでしょう……」
「…………そうですか」
「えぇ。かつてのベルカの土地を取り戻そうという強硬派。彼らからすれば、資質に関わらず強力な兵士を揃えられるこのシステムは……魅力的過ぎます」

 宗教戦争というのは、何時までたっても後を引くモノ。
 かつての栄光を知るモノ程、その影響は大きい。
 彼女の判断は正しい。そして心強い言葉だった。

「……分かりました。非常に残念ですが、聖王教会との商談は諦めましょう」
「フフ。そういうことにして貰えると、助かります」

 それでは……と言って、通信を切った。機会があれば、また出会うこともあるだろう。
 そうでないのなら、ソレが運命というモノなのだ。
 こうして、ボクと教会騎士のファーストコンタクトは終了した。






 おまけ:今日のレジアス中将



 今日は非番だったので、洗濯物を天日で干した。
 さらに午前中をかけて家の掃除をし、午後からの来客に備える。
 相手は家族連れ。小さな子どももいるということなので、ジュースの買出しも忘れずこなす。

 後は昨日の夜から煮込んであるビーフシチューの味見をし、塩を一つまみ追加。
 コレで準備は万端。
 ちなみに来客の名前は、先日筋トレルームで知り合った【ゲンヤ・ナカジマ】一家。

 会って早々、身体を鍛える中年同士ということで意気投合。
 互いに仕官であることもあって、会えば会話が尽きなかった。
 客を家に招くのはかなり久しぶりであることもあって、少し緊張気味。

 ――ピンポーン!

 インターフォンがなった。
 さぁ、来客を出迎えよう。






 補論:オーリスは二日酔いでダウン中。








[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 06
Name: satuki◆b147bc52 ID:b391234b
Date: 2009/06/19 17:03



 前回のあらすじ:みんなが望んでいるのは、レジアス無双。



「……さて。何でボクがココに居るのか……説明して貰えないかなぁ?」

 現在ボクが居るのは、ミッドチルダ――管理局地上本部のトレーニングルーム。
 右手にはベンチプレスをするレジアスがいて、左手にはルームランナーをしている白髪のオッサン。
 ゴメン。正直呼び出された理由が全く読めない。ただ現状から察するに、商談でないことは確かなようだ。

「フッ!ハァッ!…………良し。今日の分のノルマは終了だ。待たせて悪かったな……」

 ベンチプレスを終了したレジアスが、汗を白いタオルで拭きながらそう言った。
 爽やかだ。まるでスポーツ飲料のCMに出てきそうな程、今の彼は爽やかだった。
 もう最初に会った時とは、別の生物と捉えた方が良いかもしれない。

「フゥゥゥ……ッ!コッチも終わりだぁ……」

 左手にいたオッサンも、ルームランナーを止めて降りてきた。
 飛び散る汗。鍛えられた筋肉。
 このままでは、【ウホッ!フィジカル戦記・中年オヤジィ】が始まってしまいそうだ。

「……で?」
「いや、済まない。まだ約束の時間まで時間があったからな。その間に筋トレをしていたんだ」
「はやく来たことは謝る。ただ、何分異世界から来るワケだからね。はやめに出たんだよ」

 待ち合わせで約束の時間の前に着いておくのは、至極当たり前のこと。
 ましてや異世界まで来るのならば、相当余裕をもたせないといけない。
 ……ってそんなことを言ってる場合じゃなかった。

「オゥ、あんたがレジアスの言ってた【シズカ】か?ワザワザこんな所まで来てもらって、悪かったなぁ」

 白髪頭のオッサンが、気さくな感じで謝ってきた。
 もしかして、今回はこのオッサンがメインなのか?
 ソレをレジアスが仲介しただけなのか?

「……月村静香です。はじめまして……」
「こりゃどうも。オレは【ゲンヤ・ナカジマ】っていうんだ。よろしくな?」























 ……え?
 ゲンヤ・ナカジマ?
 あの、【スバル】や【ギンガ】の父親の?

 ちょっと待て。とにかく待て。
 何でゲンヤとレジアスが仲良いんだよ?
 しかも二人で、なに体脂肪を競い合ってるんだよ?

 コレはアレか?
 ツッコミ待ちってヤツのなのか?
 ……うん。取り合えず、二人の関係から聞いていくか。

「あの……ゲンヤさんは、レジアス中将とはどういった関係で……?」
「あぁ……筋トレしてる時に、声を掛けられてなぁ。話してみるとお互い陸仕官だし、話が盛り上がってよぉ」
「今では、家族ぐるみで付きあわせてもらってるんだ……」

 ゲンヤが説明し、レジアスが足りない部分を補足する。
 何でだろう。もの凄い息があっているように見えるのは。
 趣味か?趣味や仕事で共感しちゃったのか?

「そういやぁ、レジアス。この前のハンバーグ。アレ、ウチのやつらが気に入っちまってよぉ?また頼むわ」
「……フ。アレには自信があったからな……。良し、今度は倍の量を仕込んでおこう……」
「お?そりゃあ、助かるぜ。なんせウチの連中は、異常な程に食いまくるからなぁ」

 なんか筋トレルームの一角が、めっちゃ微笑ましいフィールドを形成してるんですけど。
 コレ、どうしたら良いの?
 入り口にいる受付の姉ちゃんが、ウットリした目で二人を見てる。彼女には、バラが舞っているようにでも見えるのか?

「……盛り上がってるところで悪いんだけどさぁ……」
「……スマン。実はお前に来てもらったのは他でもない。あるモノを作ってもらいたいからなんだ……」

 話を振って、アチラの世界からの復帰を促す。
 戻っきたレジアスから出たのは、意外にも武装の作成依頼だった。
 C3システムのヴァージョンアップでもご所望なのかね?

「あるモノ……?」
「……ナカジマ。ここからはお前が自分で説明しろ」

 やはり今回のメインは、ゲンヤの方だったか。
 彼もC3システムを使いたいんかねぇ?
 いや。それだったら、隊に支給されてるヤツを使えば良いもんな。一体何が欲しいんだ?

「いやぁ、そのよぉ?オレには妻と娘がいるんだけどよぉ……」

 何か身内語りモードが入った。
 こういう時は、何も言わずに先を促すのみ。
 さぁ、さっさと話を進めるんだ。

「昔……まだ若い時に結婚したからさ、その……指輪の交換と籍を入れただけなんだ……」

 意外だ。
 三佐にもなる位なんだから、結構派手な結婚式をしたのだとばかり思っていた。
 良く考えたら魔導師じゃないんだし、出世スピードも遅かったんだよね。

「それで……アイツには色々と苦労をかけてきちまったんだ。たから……今更なんだが結婚式をやろうと思うんだ」

 ヤバイ。
 何、このカッコ良い生物は。
 最近のミッド地上のオヤジたちは、何でこんなに輝いているんだよ。

「ソレはおめでとうございます……って、アレ?今の流れで、ボクの発明品が必要になる場面が想像出来ないんですけど……」

 ウン。綺麗なまでにボクの出番はない。
 何処を探しても存在しない。
 何だろう。超大型ウエディングケーキでも、ご所望なのかな?

「指輪はもう持ってるし、アイツはそういうのがあんまり好きじゃない。だったら、今アイツに一番必要なモノをやりたいんだ……」
「必要なモノ……?ソレは、ボクが作れるようなモノなんですか?」

 ネックレスを作れとか、ティアラを作れとか言われたどうしよう。
 そういうカタチをした、デバイスを作ってしまいそうな自分が怖い。
 円盤状になって、敵を殲滅してしまいそうなティアラとかね。

「あぁ。オマエさんじゃないとダメなんだ。手甲型のデバイスっていう、新機軸のモノを作るには……」
「……手甲型?アレは確か……もう出来てませんでしたっけ?」

 リボルバーナックル。
 ソレはゲンヤの妻――クイント・ナカジマが使用し、後に娘たちに引き継がれるデバイスの名前。
 カートリッジシステムを内蔵しって、そうか。時系列的にはA's本編の今以降に、カートリッジシステムは普及するからな。

「出来るなら【より安全】で、より【負担の掛からない】――最高のモノを使って欲しいんだ。もうアイツは、オレだけのモンじゃないからな……」
「……奥さんのこと、大事にしてるんですね……?」

 彼女の死後も、秘密裏に捜査を続けていただけのことはある。
 本当に、彼女のことを愛しているのが伝わってきた。
 引き受けよう。そして一刻もはやく、この甘々フィールドを解除しないと。

「お引受けします。やるからには、最高のモノをご用意しましょう……」
「おぁ!やってくれるか!!」

 凄い嬉しそうな顔。
 もの凄い勢いで握られ、上下に振られるボクの両手。
 抜ける。抜けちゃうから。そんな鍛えられた力で引っ張られたら、腕が抜けるだろうが。

「……では、詳細なデータの準備をお願いします。勿論秘密裏にやるんですよね?」

 返ってきた答えは、【当然】というモノ。
 男は好きな女の子の喜びそうなことを、秘密で用意するのが好きなんですよ。
 ボクも昔はソレで……ゴメン。忘れて下さい。

「じゃあレジアス。折角ココまで来たんだから、C3-Xの調整とかしていくよ」
「……助かる。あと、相談したいことがあるんだが……」

 こうしてボクのミッドでの一日はつぶれていくのだった。







 中将日記EX



 今日は非常に充実した一日だった。
 シズカにC3-Xの調整をしてもらい、例の対空戦魔導師戦をどうしたら良いか聞いてみる。
 すると返ってきた答えは、非常に悩むモノだった。



 アイディア①

 【CX-05】――所謂ガトリングガンと呼ばれるモノで、空にいるモノを薙ぎ払う案。
 ただコレだと距離限界があるため、活動に制限がある。
 取り合えずコレは保留とした。

 アイディア②

 バイクから変形し、ホバークラフトになるモノを開発する。
 しかしコレを使用する場合、C3システムでは運用が不可能だと言う。
 何でも、現在開発中の【ガトックセクター】とかいう、新たなパワードスーツが必要らしい。

 コレは大量に生産することが出来ない、ほぼ特別製になるだろうとのこと。
 自分は特別な何かでミッドを護りたい訳ではない。
 だが興味があるのもまた、事実なのである。返事は、ソレの完成を待ってからということにしてもらった。



 コレらのアイディアとは別に、シズカは今別のプロジェクトを進行中らしい。
 何でも【気合・根性・努力】を感知して、機体性能を上げる人工石を創っているのだとか。
 名前は【Cストーン】。完成したらC3にも組み込む予定らしいので、密かに楽しみである



 さて……近所の商店街で、買い物をしてから帰るとするか。






 補論:買い物中に、オーリスがおつまみばかりカゴに入れてきたので、二つまでにしなさいと言い聞かせた。












 あとがき

 怪盗たちは、彼女たち本人です。
 現在の時系列はA'sの終盤、クリスマスイベントの前辺りのつもり。
 特に書いていないところは、概ね原作どおりで進んでいると解釈して下さいませ。






[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 07
Name: satuki◆b147bc52 ID:5b6c77a3
Date: 2009/06/19 17:03

    
 前回のあらすじ:シズカ、リボルバーナックルの製作の依頼を受ける。



 ミッドチルダを後にして、自室の転送ポートに戻ってくる。
 端末を開いてメールチェックをすると、新着メッセージが三通。
 開封し、一件一件内容を確認していく。

 一件目。レジアスからの今日のお礼のメール。ホントにマメな人だこと。
 二件目。ゲンヤからのお礼&クイントの詳細データ。おぉ、出来る漢は仕事がはやいなぁ。
 三件目……何だ、コレは?






















 三つ目のメール。その中身はデバイスの作成依頼だった。
 丁寧な言葉遣いとかはこの際どうでも良いとして、差出人は誰だ?
 【ギルフォード・グレムリン】?誰だよ、この人?

 アドレスからして、ミッドチルダの人間であることは間違いない。
 そしてボクへの連絡先を入手できるのは、管理局での高位な存在か――または格の高い犯罪者だけだ。
 特製の【逆探知君ver.2】を起動し、相手の存在をハック。

 ……逆探に成功。その端末の持ち主は……【ギル・グレアム】!?
 マテ。ということは何か?コレってもしかして、【デュランダル】の発注書なのか!?
 メールの文面を読み進める。

 すると、ソコには涙無しには語れないエピソードが。
 当初は管理局内で開発しようとするも、オーバースペック過ぎて頓挫。
 次に依頼した民間業者は、前金だけ持って逃走。仕方なしにある次元犯罪者に頼ろうとするも、

「私は今、【マスクドライダー アギt○】の研究で忙しいんだよ?済まないが、他を当たってくれないかい……?」

 とか言われる始末。
 この次元犯罪者に心当たりがあるような気がするものの、突っ込んではいけない気がする。
 そんなワケで遅れに遅れた開発を、ボクに依頼してきたというワケだ。

 ……何でだろう?
 本来コレは犯罪への加担依頼なハズなのに、何で涙が止まらないんだろう?
 うん。グレアム氏も、きっと苦労してるんだよね?

 クリスマスイヴまで、およそ一週間。
 スーパー修羅場モードを発動させないと、多分ムリ。
 でも、やってやる。やってやろうじゃないか。

 そうさ、コレは未来への先行投資。
 クロノが未来の魔王さまを抑えられる位に強くなれば、きっとミッドの平和は約束されたようなモノだ。
 良し。そうと決まれば、早速作成に入ろう。ソレはもう、超オーバースペックな出来にしてやろうじゃないか。



 一日目。

 先ずは設計図を引く。
 そして管理世界まで材料の買出しに行った。
 どうせ払いはグレアムなんだ。コレ以上ないって位に奮発して、彼の財布を破綻させてやろう。

 二日目。

 基礎フレーム完成。
 剛性・丈夫さ・その他の部面において、コレ程のモノはそう存在しないだろう。
 ちなみに材料には、【オリハルコン】を使ったとだけ言っておく。

 三日目。

 クロノの考え方には反するだろうが、敢えてカートリッジシステムを搭載。
 ちなみにマガジン式で、装弾数は五十発。
 コレだけあれば、エターナルコフィンなんて打ち放題だ。

 四日目。

 デュランダルはストレージデバイス。
 故に簡単な受け答えはするものの、AIは積んでいない。
 ソコは変えてはいけないだろうから、代わりに【某赤いホウキ星】の中の人の声を登録。コレで名実共にデュランダルとなった。

 五日目。

 完成、引渡し。
 引き取りに来た女性(多分アリアの方)が、泣いて喜んでいた。
 その様子に、隠しモードを幾つか仕込んだことを少し後悔する。でも気にしない。






 場面は飛んでクリスマスイヴ。

 クロノに説得されたグレアムが、クロノに懇願して戦場に立つ。
 その手にはデュランダルを持ち、その身には前時代的なバリアジャケットを纏っていた。
 リーゼたちとそれぞれ右手を重ねて、円陣を形成する。

「正義に生まれ、正義に生きて、はや六十年……」
「何時の間に曲がってしまった私たちの正義……」
「そのわたしたちにコレまでの行いを正し、間違った行いを償えるかどうかが……」
『今、試される!』

 何か見えた。
 背景に炎が飛び交ってるのが、ハッキリ見えてしまった。
 今回の協力者は、ヴォルケンリッターの将【シグナム】さん。彼らの潔い行動に感動し、演出をしてあげたとか。

「私たちの武器は勇気……」
「正義……」
「闘志……」

 魔力が収束していく。
 グレアム・アリア・ロッテ。
 その三人の想いを乗せて、デュランダルが一つの魔法を完成させていく。

『エターナル……コフィン!!』

 その瞬間、海鳴市均衡の海が北極と化した。
 後に衛星が捉えた映像で、その事実が発覚。
 しかし気が付いた時には元に戻っており、地球崩壊の前触れかと噂が広がることになった。



 




 



 中将日記エクセリオン



 シズカが地球に帰ってから二週間。今日は地上本部に珍しい客が来た。
 本局で有名な、【クロノ・ハラオウン】執務官が訪れたのである。
 一週間前に【闇の書事件】を解決した立役者の彼が、一体何の用で来たのだろうか。

「突然の来訪をお許し下さい。ただ、グレアム提督から受け継いだデバイスの作者の作品を――C3システムを見せて頂きたいのです」

 話を聞くと、どうやらシズカの作ったC3を見に来たということだった。
 彼が今持っているデバイスも、シズカの作品。気になるのも分かる気がする。
 それに、本局ではC3システムはまだ採用されていない。その下見も兼ねているのだろう。

 快く許可すると、意外そうな顔をされた。
 そんなに出し渋りするようにでも見えたのだろうか。
 少しショックだった。

「……では、C3-Xというモノを試させて貰いたいのですが……」

 彼はいきなり上位機種の方を希望してきた。
 しかし困ったことに、今すぐに使えるのは自分のC3-Xしかない。
 コレにはAI制御チップを搭載していないので、少し待ってくれるように頼んだ。

 通常、地上本部に配備されているC3-XにはAI制御チップが搭載されている。
 この制御チップがないと、普通の人間はAIの意思とケンカをしてしまい、最悪暴走してしまうのだ。
 幸いなことに自分と、試しに装着したゲンヤ・ゼストは相性が良かったようで、制御チップは不要であるのだが……。

「いいえ、大丈夫です。お願いですから、やらせて下さい!」

 そう言われてしまうと、ダメだとは言えない。
 一応念を押し、オートフィット機能を作動させる。
 二分後。その頃から彼の様子が変化し、彼の身体が悲鳴をあげ始めた。

 すぐさま強制停止をかけ、待機させてあった救護班に引き渡す。
 医者の診断では全身の筋断裂が起こっており、二週間の入院が必要だそうだ。
 申し訳ない気持ちを抱えながら、彼の母親であり上司でもある、【リンディ・ハラオウン】に連絡を入れる。

 すると返ってきた答えは意外なモノだった。
 何でも、彼は重度のワーカーホリックで、有給が全然消化出来ていなかったとか。
 逆に感謝すらされてしまう始末。

 さすがに不憫に思ったので、彼のお見舞いの品は一番高級な果物の詰め合わせを持っていくことにした。







 補論:帰宅すると、オーリスがソファーで酔いつぶれていた。
    涙の跡があったので、何か悲しいことがあったのだろう。
    左手の薬指にあった指輪が消えていた。

    ……今日の夕食は、オーリスの好きなモノをたくさん作ることに決めた。






[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 08
Name: satuki◆b147bc52 ID:c5a83a7c
Date: 2009/06/19 17:03



 前回のあらすじ:スーパークロノタイム⇒スーパー爺タイム



 スーパー的なデュランダルの作成という、かなり良い仕事を終えたので、今の気分はかなり爽快。
 ……だったのだが、スーパークロノタイムが無くなってて、思わず飲んでいた紅茶を噴いた。
 どうにもこの世界、渋いオヤジたちに補正が掛かることが多いらしい。今更ながら、その事実に気が付いた。

 だからと言って、やることを変更するようなことはしない。
 良く言うじゃないか。どんなことでも、最後までやり抜いたモノが勝ちだって。
 似たようなことを、某【ドリル持ちの巨大顔型ロボット】のパイロットも言ってたしね。

 まぁソレより今の課題は、リボルバーナックルの作成。
 割り込みの急ぎの仕事が入ったからって、納期が延びてくれるワケではない。
 現在クイントが使っているとされるデバイスのデータを参考に、新たな設計図を作成していく。

「ふ~ん。このデバイスには、タービンとカートリッジシステムが付いてないのか……」

 ということは、まずコレらの追加が最優先事項だ。
 そういえば、クイントは両手にナックルを付けていたハズ。
 ところがこの資料では、彼女は片手のみ使っているとある。

 ……両手に追加しよう。多い分には問題ないだろう。
 今度はもう一度彼女のデータを詳細にチェックし、戦闘スタイルの確認をする。
 STS本編でのスバル・ギンガとは違い、彼女は足技も多用するとあった。

 もしかすると娘たち(というかギンガ)には、教え切れなかったのかもしれない。
 だから彼女の遺伝子を使ったノーヴェが、足技を使っていたのか……納得。
 だったらこの際、【両手両足】用のデバイスに仕上げるのも悪くない。

 ――コマ○ド、インストール!!

 何か今、変なビジョンが脳裏を掠めたような気がするが、気にしてはいけない。
 多分寝不足が引き起こす、幻聴や幻視の一種だろう。
 とりあえずこの設計図を描き終えたら、今日はもう寝よう。うん、そうした方が良いに決まっている。






















「ちーす、ゲンヤ。今、大丈夫?」

 やはり資料だけでは分からない部分もある。
 なので生じた疑問を、依頼主に確認することにした。
 折りしも今日は日曜日。ゲンヤの空き時間に合わせて通信できる。

「オゥ。シズカじゃないか?あぁ、今は昼飯中だから、時間は大丈夫だが……」

 突然の通信に、用件が分からないご様子。
 彼にしては珍しく、戸惑いのようなモノが見て取れた。
 レアショットだね。記録して、あとでクイントさんの端末に送ってやる。

「いやね?データだけじゃ分からないトコロがあってさ……」
「あぁ、そういうことか。良いぜ?オレが分かる範囲で良いんなら、教えてやる」
「そりゃあ、助かるね」

 正直、シューティングアーツという特別な格闘技を、ゲンヤが何処まで理解しているかは不明だ。
 でもこの作成は、クイントには秘密にしなければならない。
 だからダメ元でゲンヤに聞いてみたのだが……。

「ソレはウイングロードからの――つまり上空からのアタック方法の一つだ。他にも……」

 予想外にも程がある。
 このオッサン、S・Aを技術面で解き明かす程、大変良くご存知でした。
 何で?一体何で、そんなに知ってるんですか。アンタって人は?

「……実はよぉ?アイツと付き合う条件っていうのが……『私に勝てる漢よ!私と付き合いたいのなら、私を倒せる技量の持ち主じゃないと!!』って感じでな……」

 何ソレ?
 メッチャ体育会系のノリじゃないですか。
 てーことは何か?ゲンヤはクイントに勝ったってことなのか?

「最初の頃は全然ダメでよぉ。なっちゃいないからって、呆れたクイントが稽古をつけてくれてさ……」

 テンプレですね。
 最近はあまりに古典的過ぎて使わなくなった、古よりのテンプレなんですね?
 何かクイントさんの印象が、若干変わってきたような気が……。

「色々あって……まぁ、結局は一緒になれた……ってトコなんだが」

 色々の部分が一番気になるけど、突っ込んだら一年枠のドラマでも収まらなそうだ。
 加えて、桃色タイフーンが吹き荒れそう。
 惜しい気もするが、話を先に進めよう。

「……アレ?ってことは、ゲンヤもシューティングアーツが使えるの?」
「……言ってなかったか?」

 ウソォォォォォ!?
 何で?どうしてこの世界のオヤジたちは、こうまでも強いんだよ!?
 ヤバ過ぎるでしょうに!?

「まぁ、ウイングロードとかリボルバーシュートみたいな、魔法併用の技は使えないがな……」

 充分過ぎる。
 そんじょそこらの犯罪者なんか、素手で一撃。
 ハイ、終~了♪みたいなノリじゃないか。

 ……ん?
 何か閃いたぞ。ゲンヤもS・Aが使えるってことは……。
 脳裏に浮かんだ青写真を、実行可能かシュミレート。結果は……承ぉ認!!

「ねぇ、ゲンヤ。リボルバーナックルなんだけどさぁ……両手両足型のデバイスにしない?」
「そいつは……そうか。S・Aの特性を活かすためか……」
「うん。良いアイディアがあるんだけどさぁ」
「……あの予算内で可能なのか?足の出具合にもよるんだが……」
「心配ない、心配ない♪その辺のことは問題ないから……」
「……そんじゃあ、頼むわ。正直、オレには思い付かなかったから、助かったぜ?」

 ゲンヤはデバイスマスターではない。
 だから、何処までが実現可能なモノかは分からない。
 故に控えめの注文になってしまったのだろう。

 さて。通信を終了させて、早速新たな設計図を引くとしよう。
 両手はSTSに出てきたリボルバーナックルを参考にし、両足はジェットエッジの膝の突起をなくして……と。
 タービンの色は紅で統一し、オプションで銀色の角突き仮面を……は、やめよう。

 さぁ、楽しくなってきたぞ。













 中将日記アサルト in 聖王教会



 明日はいよいよゲンヤの結婚式。結婚式は教会式で行い、披露宴もちゃんとある。
 正直、聖王教会の人間が良い顔をするとは思えなかったが、騎士カリム自身が司祭役を引き受ける始末。
 事前にシズカが頼み込んでいたとはいえ、予想も出来ない事態となった。
 
 今自分は、明日の披露宴用のウェディングケーキを焼いている。
 本来のウェディングケーキは、全く食べられないか一部しか食べられないモノである。
 ……が。クイントと娘二人が、どうしても食べられるモノが良いと言い出し、ならばとその作成を引き受けたのだ。

 自分が土台を焼いていき、シズカがソレを盛り付ける。
 洋菓子屋で修行をしたことがあると、言っていただけのことはある。
 コレなら、安心して焼きに専念出来そうだ。

 ……ふぅ。コレで二十段目。
 ビルの高さに直すと五階分に相当するこのケーキは、作るのも一仕事だ。
 消化出来ていなかった有給。ソレを使わなかったら、完成は難しかっただろう。

 騎士カリムが紅茶の差し入れをしてくれた。
 ありがたい。
 シズカと共に一時休憩にして、夜の景色を堪能した。






 補論:明日の結婚式に参加するため、今日は美容院に行ったオーリス。
    ドレスも用意し、準備は万端……と思われたが、一つだけ見落としがあった。
    それは明日の起床のこと。自慢ではないが、彼女の寝起きは非常に悪い。

    いつもは幾つモノ目覚ましで半覚醒になったところで、レジアスが起こしてくれるのだが……。
    生憎彼は、今日は聖王教会に泊まりこみである。
    半分公式行事のようなモノなので、遅刻は許されない。

    仕方無しに、帰宅途中で更に目覚まし時計を購入。
    合計二十個の目覚ましによる合唱は、オーリスを覚醒させられるのだろうか?













 あとがき

 >誤字訂正

 常葉さん。ご指摘いただき、ありがとうございました。







[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 09
Name: satuki◆b147bc52 ID:0674001b
Date: 2009/06/19 17:01



 前回のあらすじ:ゲンヤとクイントは、体育会系なお付き合いから始まった間柄。



 雲一つない晴天。
 若干寒さが有るものの、冬としては有り得ない位、爽やかな天気。
 まるでゲンヤとクイントを祝福しているように、もの凄いセッティングが行き届いた一日の始まりだった。

 ……というワケで、今日は二人の結婚式。
 昨日の夜から会場入りしているボクとレジアスは、未だにケーキを作ってます。
 あとは最後の仕上げを残すのみ。

 自分たちで作っておいて何だけど、良くもまぁこんな非常識なモノを作ったモノだ。
 教会の中庭で披露宴をやる為、その中心部に設置したウェディングケーキ。
 大聖堂とほぼ同じ高さで、ビルの五階分の高さを誇る。

 ギンガやスバルだけならまだしも、クイント自身が頼んできた設計。
 ……本当にこんなに食えるのか?
 普通なら絶ぇっ対に無理だと思うのだが……

『私(たち)の胃袋は、宇宙よ!!』

 とまで言われたら、作るしかない。
 決して、滅茶苦茶期待された瞳の力に負けたからではない。
 あの期待に満ちた、三対の瞳の力に屈したワケでは……ないと思わせて下さい。お願いですから。

 式の開始まで、後三時間。
 さて……あのデバイスの最終調整をするとするか。
 ボクの視線の先には、【二つの】クリスタルが置かれていた。





















 いよいよ結婚式の一時間前です。
 オーリスさんが受付をやっているので、御祝儀とかの管理は心配ないだろう。
 あの人に任せておけば問題ないしね……私生活では説得力皆無だけど。

 式場の準備はカリムや、彼女の侍従であるシスターシャッハがやってくれている。
 そして既に来場している女性陣を、カリムの義弟のヴェロッサが口説きまくっている。
 あ、今シスターシャッハにしょっ引かれた。ご愁傷様です。

 そうだ。カリムに誓いの言葉の、若干の変更を頼むのを忘れてた。
 事前に確認は取ったものの、本番で忘れられていたら困るしね。
 こういうのは、綿密な打ち合わせが必要なのだよ。

「おはよう、カリム……じゃなかった。おはようございます、騎士カリム」
「おはようございます、シズカさん。別に言い直さなくても良いと思うのですが……」

 いつもの若干軽装な格好とは違い、見た目的にも荘厳で重装備なカリム。
 司祭役をやってもらうので、当然といえばそうなのだが。
 今日の式は、聖王教会の関係者や地上本部の関係者が多数いる。あまり彼女にフランクに接するのは不味い。

「いえ。こういうのは一応、公私の区別が必要ですからね」
「フフ、そういうことにしておきましょう。それで……何か御用ですか?」
「話がはやくて助かります。事前にお願いした、あの誓いの言葉の変更ですが……」

 今回は指輪の交換はない。
 その代わりに、あるモノの交換を入れた。
 故に、誓いの言葉も変更する必要があるのだ。

「えぇ、教皇さまのお許しも得られました。あとは実物をご用意して頂くだけです」
「ありがとうございます。実物の方はさっき調整が済んだので、問題ありませんよ」

 その後少しだけ彼女と話していたが、お互い忙しい身なのでその場を後にした。
 仕込みは上々。
 最後の仕上げは、ゲンヤに少しだけネタバレするのみ。

「お~い、ゲンヤぁ!入るよー!!」

 新郎控え室の扉をノックし、中に入る。
 ソコにいたのは、白いタキシードを着たゲンヤ。
 ……アレ?思ったよりも違和感がない。というか、オッサンに新郎用のタキシードが似合うってどうよ?

「お、おぉぉ!よ、よ、良く来たなぁぁあ!」

 ヤバイ。
 この人、メッチャ緊張してるよ。
 肩なんかガッチガチに強張ってるし、何か震えが止まらないみたいだ。

「……緊張しすぎ。それよかさ、ちょっと変更があったから伝えにきたんだけど……」
「な、何ぃぃぃぃ!?ちょっとマテ!今のオレは、既にいっぱいいっぱいなんだぞー!?」

 そんなことは知らん。
 と突き放すのは簡単だが、ここまで準備に時間を掛けたモノが、水の泡になるのは我慢ならない。
 仕方無いので、ちょっとだけ背中を押してやるか。

「ゲンヤさんよ?アンタ、今までで一番高揚したのって何時だ?」
「……クイントに、付き合うのを認めてもらった時だな……」
「そんでソコで勝ったから、今のアンタがあるんだろう?」
「……そういうことに、なるだろうな……」

 過去最高潮に盛り上がった瞬間を想起し、幸せそうに微笑むゲンヤ。
 ソコには既に焦りはなく、ただ落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
 もう大丈夫だ。このオッサンはすっかりいつも通りだ。

「……もう、大丈夫だよな?」
「……悪ぃな。みっともないところを見せて……」
「なんの、なんの♪それよかさ、さっき言ってた変更なんだけどさ……」
「おぅ。何処が変わったんだ?」

 さて、ココからは悪巧みタイムだ。
 ゲンヤに全てを教えずに、企みを成功させる。
 ソレが今のボクに与えられた使命なのだ。

「うん。実は、ゲンヤに頼まれてたデバイスが完成してね。コレがその待機状態」

 そう言って差し出したのは、紅い宝石。
 六角形のカタチをしたソレは、後に誕生するマッハキャリバーやブリッツキャリバーの待機状態……の色違い。
 ちゃんと首紐も付けてある、こだわりの逸品だ。

「おぉ、出来たのか!ありがとよ、何て礼を言って良いのやら……!」
「ストップ。まだ続きがあるんだから、最後まで聞きなって」

 感動するオッサンを余所に、もう一つ宝石を取り出す。
 コチラは水色のモノ。
 ソレを見たゲンヤが怪訝な顔をする。

「そんでコッチは、宝石としてのイミテーション。二人にはコイツらを、互いに交換してもらいたいんだ」
「おまえ、ソレは……指輪交換の代わりか……?」
「そ。指輪はイヤだって言うから、別のモノを用意させてもらった。拒否は受け付けないからね」
「…………」

 逡巡。
 そして口元を吊り上げながら、ソレを受け取るゲンヤ。
 言葉は要らない。もう感謝の言葉は貰っているのだから。

「そんじゃ、後はカリムの指示に従ってね?」

 おぅ、と小さく聞こえる声。
 こういう時は、黙って去るのがマナーなのだ。
 だからボクはオッサンに背を向け、控え室の扉を開けて退出した。












 現在、聖堂で椅子に座って待機中。
 まもなくゲンヤとクイントが入場してくるハズ。
 若干間が空いてるので、今のうちに言い忘れたことを話しておこう。



 なのはが魔法バレをした日に、ユーノ・スクライア君が入院しました。
 原因は御神の剣士無双の被害にあった為。
 彼の正体が判明した途端に鋼糸が舞い、ソコから先は生かさず殺さずのリンチタイム。

 士郎や恭也に渡した電力式デバイスの魔法で回復させられ、回復したら再び無双のお時間。
 何という生き地獄。死ぬことすら許されないというのは、本当に恐ろしいのだ。
 我が子孫ながら、中々良い遣い手に育った模様。感激でお腹一杯だよ、本当に。



 ……っと、どうやらゲンヤたちが入ってきそうな雰囲気だ。
 入り口の重厚な両扉が開かれ、腕を組んだ御両人が登場する。
 クイントのドレスの裾を持ってあげているのは、二人の娘たちであるギンガとスバル。

 子どもなりに精一杯のおめかしをした二人が、自分たちの両親の祝福をする。
 何とも心温まる光景だ。
 そういったことに縁があるかは別として、ボクもあやかりたいものだ……と、思ってみたりする。

「汝、病める時も……」

 司祭役のカリムが、お決まりの文句を次々と言っていく。
 この辺は異世界であってもそう大差はない。
 せいぜい、神様の部分が聖王さまに置き換わっているだけだ。
 
「続いて指輪の交換に代え、ネックレスの交換を……」

 クイントは聞かされていなかったのか。
 ゲンヤの顔を見て驚き……そして泣き出しそうになっていた。
 参列者たちが見守る中、二人はネックレスの交換をする。うん、良い光景だ。

「ここに交換は成りました……それでは互いに、誓いの【セットアップ】を……」

 ――ブゥゥゥッ!!

 聖堂の至る所で噴出す音が聞こえた。
 ゲンヤが一瞬フリーズし、カリムを見る。
 微笑むカリム。言い間違いではないことを確認すると、今度はボクの方を見るゲンヤ。

「(ガンバレ!!漢を魅せろっ!!)」

 アイコンタクトでゲンヤに、己の意思を伝える。
 恨めしそうな目をされても、ちっとも痛くはない。
 コレぐらいのサプライズは必要だと思うよ、ボクは?

「…………セット、アップっ!!」

 出来るか出来ないかは関係ない。
 司祭がやれと言ったら、やるしかないのだ。
 最悪、何も起こらなくても笑い話で済むだけだ。そう思い、ゲンヤはヤケクソ気味に叫ぶ。

「……!?コ、コレは……!?」

 一瞬の眩い光と共に、ゲンヤの格好に変化が生じる。
 光が治まった後に居たのは、両手両足にタービンの付いたデバイスが。
 タービンの色は黒。言うまでもなく、ソレはクイント用のデバイスの色違いだった。

 断っておくが、二つのデバイスは全く同一のモノではない。
 クイントのはカートリッジシステム内蔵のデバイス。
 そしてゲンヤのは、魔法が使えない代わりに電力で稼動するようにした、【電動式】デバイスである。

「……良しっ、私も!!【セットアップ】!!」

 ゲンヤの変化を見たクイントが、嬉しそうにそう叫ぶ。
 訪れた変化は、ゲンヤと同等のモノ。
 ソコにはタービンの紅いデバイスを纏った、クイントの姿があった。

 ――ガキィィィン!!

 二人は無言で、拳と拳を突き合わせる
 ここに誓約は成った。
 そしてその瞬間、立ち直った参列客たちからも、惜しみない拍手が巻き起こった。












 中将日記スーパー in 聖王教会



 シズカのヤツがとんでもないネタを仕込んでいたが、式は概ねつつがなく行われた。
 というよりも、アレのおかげで盛り上がったと言った方が良いかもしれない。
 本来の聖王教会式の結婚式にはなく、そしてお堅い管理局のイメージを壊す、前代未聞の試み。

 本当なら叱責モノだが、アイツはどちらの所属でもない上に、我々の常識を良い意味でぶち壊してくれたのだ。
 軽く文句を言う程度は出来ても、正式な抗議をする程のモノではない。
 その証拠に、司祭である騎士カリムも教皇が了承していたから、容認したのだろう。

 さて、次は披露宴だ。
 昨日から徹夜で作った、ウェディングケーキのお披露目。
 自分が主役でもないのに、少し武者震いがする。

 シズカがこのケーキカットの為に用意した、超特大のケーキナイフ。
 名前は確か、【アカヅキノオオダチ】とか言ったか。
 ゼストがアレを、先程から凝視している。欲しいのだろうか?並々ならぬ気配を放っているが。

 ……後で、シズカに相談してみよう。






 補論:その日のオーリスは、総勢二十体の目覚まし時計のオーケストラを聴くも、半覚醒までしか漕ぎ着けられなかった。
    再び布団のお世話になりそうになった時、彼女の携帯電話が唸りを上げる。
    発信者はレジアス。事態を予見した彼女の父親が、モーニングコールを仕掛けたのだ。

    その後の彼女はいつも通り。
    外でのキャラを作り、バリバリのキャリアウーマンになりきった。
    ソレが彼女の日常。その証拠に、この日も見事に結婚式の受付をこなしていた。












 あとがき

 >誤字訂正

 俊さん。ご指摘いただき、ありがとうございました。







[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 10
Name: satuki◆b147bc52 ID:c57d2635
Date: 2009/06/19 17:01



 前回のあらすじ:ゲンヤ・ナカジマさんが、歯車戦士に進化しました。



 ゲンヤとクイントの結婚式も終わり、ボクのやりたかったことも大体終わったので一段落。
 ……とか思っていたんですけど、また新たなる問題が発生しました。
 【アカヅキノオオダチ】をガン見してたゼスト・グランガイツが、披露宴の最中にいきなり頭を下げてきたのです。

「……失礼する。月村静香殿とお見受けするが……」
「そうですけど……ドチラさまで?」
「オレの名前はゼスト・グランガイツ。管理局地上本部の、首都防衛隊に所属するモノなのだが……」

 オイオイ、今度はゼストかい。
 どうしてボクの周りには、渋いオッサンしか寄ってこないんだよ。
 一部例外(カリムのこと)はあるものの、このままじゃあ【ウホッ!中年戦記フィジカルオヤジィA's】に進化しちゃうじゃないか。

「……コレはご丁寧にどうも。それで?ボクに何か御用ですか?」

 コレまでの経験から、多分デバイスの作成依頼だということは、想像に難くない。
 ソレにこのオッサン、さっきオオダチを凝視してたからなぁ。
 まず間違いないだろう。

「……単刀直入に言う。オレにあのデバイスと同じモノを作って欲しいんだ」
「…………何故です?確か貴方のデバイスは、槍だったと思うのですが……」

 予想通りの台詞が来たとはいえ、理由が分からない以上は聞くしかない。
 フェイトやなのはと違って、この人はずっと槍一本だったハズだ。
 何か理由でもあるんかねぇ?

「恥ずかしい話なんだが……オレはSランクを保持していながらも、長距離魔法が使えないんだ……」

 エ?そうだったっけ?
 ……そう言えば、本編でもアギトのサポートがあっても接近戦主体だったなぁ。
 するてぇと、長距離狙撃や長距離砲撃がしたいワケじゃなさそうだな。

「もしかして……デッカイデバイスを振り回して、長距離戦を近接戦闘の延長上にするつもりじゃあ……」

 まさかね?
 そんな非常識な闘い方、するワケないよね?
 いや。でも……。

「……その通りだ。良く分かったな……?」

 ノォォォォォ!!
 マジですかい!?
 リアル斬艦ソードを作れってか?

 アレ作るには、既存の材料じゃ不可能だぞ?
 ボクに材料まで作れってか?
 ……でも、オモシロそうだな。






















 久しぶりに、姉の部屋にやってきました。
 最近は全部自分でやっていたのですが、流石に材料は作れません。
 なのでお姉さまの知恵を拝借に来たんですが……

「ふ~ん。それじゃあさ、コレ使うと良いよ♪」

 そう言って渡されたのは、明らかにオーバーテクノロジーなモノでした。
 色々と呼び名はあるけど、一番有名な呼び方で言うと【ナノマシン】。
 ……近い将来、ウチってロストロギアに認定されちゃうんじゃないか?そんな心配がよぎった。

「あー、そういえば静香?最近、すずかの様子が変なんだけどさー」
「……ゴメン。心当たりはないなぁ……」

 以前の発情期事件があって以来、妹とは疎遠なのです。
 それまでは、めっちゃ仲が良いとまでは言わないまでも、普通の兄妹だったんだけどなぁ……。
 やっぱ怖がられたんかねぇ。

「……たぶんなんだけどね?私たちの秘密のことで、悩んでるんじゃないかぁ……って」
「あー、そっか。すずかももう、そんな年かぁ……」

 ボクたちの秘密。
 ソレはこの身体のことだ。
 夜の一族という吸血種の生まれであるボクたちは、普通の人間から見たら化け物だ。

 異常な力。
 紅くなる瞳などの身体変化。
 そして極めつけは吸血能力。

 どれ一つとっても異端なモノであり、純粋な人間にはないモノだ。
 ソレが原因で己の影が大きくなり、閉じ篭りがちな性格になる、夜の一族の傾向。
 姉さんは恭也との出会いや、ボクというイレギュラーのおかげでかなり明るくなった。

 そしてボクは論外だ。
 そうなると、友達にも秘密を隠しているすずかは、凄く苦しいんだと思う。
 それに多分なんだが、なのはたちが魔法バレしたのも、少なからず影響を与えているのだろう。

 友達は秘密を話してくれたのに、自分は……みたいな感じで。
 やっかいな問題だ。コレばっかりは、自分で乗り越えるしかない。
 それにボクは男だ。悲しいことなんだが、女の子の気持ちを理解しきることが出来ない。

 ……情けない話だ。
 御神の剣や魔法で身体は護ってやれても、心を護ってやれないなんて。
 鍛錬が足りないなぁ……はぁ。







 すずかが誘拐された。
 いきなりそんなことを言われても戸惑うかもしれないが、コレは覆ることのない事実。
 いつものように塾に行き、その帰りを狙って行われた誘拐事件。

 本当はバニングスのお嬢さんを狙っての犯行だったらしいのだが、現場を目撃してしまった妹も……ということらしい。
 相手はバニングス家の執事さん――鮫島さんを背後から角材で殴り、少女二人を車に乗せて逃走。
 そして犯人は、バニングス家とウチに電話で身代金を要求。現在に至る。

「…………」

 重苦しい沈黙が、バニングス家の応接室を支配している。
 今この場にいるのは、バニングス夫妻と姉とボク。そして恭也。
 中央の机の上に電話を置き、犯人からの連絡を今か今かと待っている。

 警察には知らせていない。
 もちろん知らせるなと言われたのもそうだが、ウチは特殊な家柄なので出来れば警察の介入は避けたかった。
 バニングスさんには別の思惑があったようだが、それでも警察を呼ばないという結論は一緒だった。

 ――ジリリリリリッ!!

 年代がかった黒電話が、その身を震わせて報せを届ける。
 伝えられる内容は希望か、はたまた絶望か。
 皆が一瞬息を飲み込み、代表してバニングスさんが電話に出る。

「……!…………!?」

 相手が何を言っているのかは、スピーカーを通して伝えられた。
 身代金は五億円。引渡しの場所は海鳴駅の近くのデパート。
 特定の階の特定のベンチ。ソコが指定場所だった。

 人が多くいる場所は、追跡を巻く意味でも有効だ。
 相手は馬鹿ではないらしい。
 その判明が、よりバニングス夫妻に影を落とさせる。

 人質の引渡しは、相手が逃走しきってからというモノ。
 同時交換が望ましい。だが下手に相手を刺激すれば、妹たちの命が危ない。
 かといって、相手が正直に人質を解放するとも思えない。

 すずかの携帯にGPSが搭載されている。
 が、相手も馬鹿ではなかった。その場所を遠目に確認したところ、誰かが張っていた。
 恐らく連中の一味だろう。

 相手が何人いるか分からない。
 少数だったら簡単に手が打てるのだが、下手をすると結構な数がいるかもしれない。
 何せ相手は、【バニングス】に恨みを持つモノたち。何人いても不思議ではない。

 一応断っておくが、別にバニングスさんが阿漕な商売をしているワケではない。
 ただ大企業になればなる程、いらぬ恨みを買う確率が高くなるのだ。
 ウチだって大企業ではないけど、親族から遺産目当てで狙われたことがあったし……。

「……相手の要求には従えない……」

 一企業の主として、苦渋の選択をしたバニングス氏。
 大方、ココで屈したら芋づる式。そして娘が帰ってくる確率も低い。
 そう考えての結論だったのだろう。

 分からんでもない。
 でも、だったらその握り締めた両手をどうにかしてほしい。
 明らかに虚勢だと分かるその姿。それとも、そういうポーズなのか?だとしたら、とんだ役者なのだが……。

「……分かりました。では、私が二人の分の身代金を用意します」

 そう言ったのは、我がお姉さま。
 その瞳には決意の色が籠められていた。
 隣で姉の手を握っている恭也が、静かに頷く。

 そして今度は、ボクに視線を合わせる恭也。
 ……了解。ソッチは任せた。
 ボクは、人質の方を何とかするから。

 そう視線で会話すると、ボクは応接室を後にした。
 ノートPCを立ち上げると、ソコには緑色の線で構成された地図が。
 紅い光点が、市内のあるホテルで明滅している。

 月村の技術を甘く見てはいけない。
 ナノテクノロジーを生み出すお姉さまだ。
 超々ミニサイズの発信機を妹のヘアバンドに仕掛ける位、造作もない。 

 ……断っておくけど、今まで一回も使ったことはないからね?
 だから決してプライバシーの侵害とかはしてないから、安心して下さい。
 良し、ホテルに向かおう……変装してから。













 中将日記スーパーズ



 ゲンヤの式が無事に終わり、一つ肩の荷が下りたように感じる。
 だからと言って、呆けている暇はない。
 仮にも地上本部の要職にあるモノ。時間は幾らあっても足りないのだ。

 そういえば式で思い出したが、式の最中にゼストがシズカに頼んでいたモノ。
 アレが昨日、ゼストの下に届けられた。
 試運転も兼ねて模擬戦に付き合ったが……

 アレを思い付いたゼストが馬鹿なのか。それとも、実現させてしまったシズカが阿呆なのか。
 どちらとも取れる、とんでもないデバイスがソコにはあった。
 魔力刃ではなく、実体を伴った超々大型デバイス。

 【ザンカンブレイド typeⅢ】。
 ソレがあの非常識デバイスの名前だ。
 普段ゼストが持っていた槍から、カートリッジの使用もなしに変化する巨大刃。

 何にせよ、次はあんな奇襲は喰らわない。
 本来実戦に次はないのだが、アレは模擬戦。
 相手の情報を蒐集するのも策略の内……と言うことにしておこう。

 ……次は負けないぞ。







 補論:式場で受付をやったおかげか、オーリスのことを良く思った人々が増える。
    本日の業務が終了し、帰宅しようとするところに、見知らぬ男性から花を渡された。
    突然のことに驚き、しばらく呆けていたオーリス。

    気が付いた時には相手はおらず、途方に暮れる始末。
    とりあえず、この花を父に活けてもらおうと考え、足早に帰宅するオーリスだった。












 あとがき

 >誤字訂正

 俊さん。毎度ご指摘いただき、誠にありがとうございます。

 >アカヅキノオオダチ

 くろがねさん。情報提供いただき、ありがとうございます。
 ただアレは実はワザとなんです。
 C3やCストーンと見ていただければ分かるとおり、パチモノ路線でいっていますので……。



 皆様、様々な情報提供やご意見をいただき、誠にありがとうございます。
 本来なら一人一人にお返事をしたいのですが、ちょっと処理しきれないので割愛させていただいております。
 本当に申し訳ありませんです。






[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 11
Name: satuki◆b147bc52 ID:48c3f41b
Date: 2009/06/19 17:01



 前回のあらすじ:ゼスト・グランガイツ、色々なモノを断つ剣になる。




 バニングスさん……あぁ、アリサのことね?
 アリサの持ち物から【あるモノ】を分けて頂き、ソレに袖を通す。
 ちゃんとバニングスパパから正式に譲渡して貰ったモノなので、窃盗とかじゃないからね?

 白を基調としたワンピース。セーラーカラーが付いたソレは、明らかに聖祥の制服だ。
 後ろで一本に結わっていた髪を解き、髪を縛るのに使っていた白いヘアバンドを額のやや上に付ける。
 うん。どう見ても小学生の月村すずかさんです。本当に……何て言ってる場合じゃない。

 今まで自分の容姿について言うことがなかったのは、主にコレのせいだ。
 十三歳の男子としてはかなり低めな身長。まぁ、コレはクロノも一緒だからまだ良い。
 月村家の姉や妹と比べても遜色ない、整った【女顔】。

 本当は短く切りたいのだが、そうすると某【ワカメ頭】みたいになるので、仕方無しに伸ばしている髪。
 ……コレが事実だ。
 今まで目を背け続けてきたが、この姿がボクの男としての欠点なのだ。

 成長すれば、顔はオッサン臭くなるだろう。
 身長だって、もう少しは伸びるに決まっている。
 だがソレは、【今】じゃない。今のボクは、妹と同じ位の身長のちびっ子なのだ。

 ちなみに妹は、小学三年生としては恵まれた体格。
 故に双子に間違われることもしばしば。
 ANZ○Iせんせぇ!オトコっぽくなりたいんですぅ!!

 ……いかん、また話題が逸れた。
 とにかく、普段はマイナスポイントにしかならないこの容姿だが、今回のような時だけ役に立つ。
 ホテルが見えてきた。さぁ、作戦の始まりだ。






















 光点の反応は、ホテルの中層階の一室からのモノだった。すぐさま、真上の部屋を押さえるように指示する。
 ちなみに、ブラックカードをフロントに突きつけたら、受付の姉ちゃんが文字通りひっくり返った。
 部屋に入ったボクは、カーペットを剥いで床を露出させ、点検溝の扉を開ける。

 後は人の声が聞こえるところの床に錐で穴を開け、ソコから様子を見てみると……。
 ……ビンゴ。大当たりだ。
 人質の二人は、猿ぐつわと手足を縛られるという古典的なスタイルで監禁され、その横には見張りの男。

 ひぃ、ふぅ、みぃ……三人か。
 とは言っても、【この部屋にいるのは】という条件が付くが。
 後三十分で取引の時間だ。もしココにいるヤツのうちの誰かが受け取りに行くのなら、出て行く時がチャンスだ。

「(……息を潜めて待つっていうのは、何時になっても慣れないモノだ……)」

 どちらかというと、ソレは不破の役目だ。
 ボクは御神の出身なので、ソチラは不得手。
 だけど、そんなことも言ってられない。大事な妹とその友達が危ないんだ。四の五の言ってる場合じゃない。

「………。…………!」

 動いた!
 会話から察するに、三人のウチの一人が取りに行き、残りの二人が待機するようだ。
 部屋の外に出た男を追って、ボクも部屋から出て先回りする。

 向こうはエレベーター。
 対してコッチは、エレベーターでの鉢合わせを避けて……階段だ!
 御神の剣士を舐めるなぁぁぁっ!!……と、言わんばかりの猛ダッシュ。

 この際、身体強化魔法もオマケで付けた。
 ジャスト一分。良い夢見た……なんてふざけている余裕はない。
 僅かに向こうより先回りし、さも【逃げてきました】と思われるような走り方をする。

 ご丁寧にも相手にぶつかるようにして、発見をはやめる。
 食パンなんか咥えてないし、相手はオッサンだ。
 ……ロマンスとかは、期待しないでね?
 
「気ィ付けろ、ガキが……って、オイ!?おまえは……!!」
「あ、あ、あ、あ…………!」

 絶望的な表情を浮かべ、脱出に失敗した少女のフリをする。
 妹たちの命が掛かってるから、コッチも渾身の演技をする。
 その甲斐あってか、相手はすぐにボクの手を掴んで部屋に逆戻りした。

「(……計画どおり……!!)」

 男の見えないところで、顔を伏せながらほくそ笑む。良ぉし……次はこの【腕時計】の出番だ。
 男は自分たちの部屋の前に立つと、呼び鈴で中の仲間を呼び出す。
 次の瞬間には扉が開き、男はボクを連れて中に入っていった。
 
 ――カチ。

 腕時計の蓋を静かに開けると、標準を合わせるマーカーが点灯する。
 男は後ろにいるボクの動きには気が付いていない。
 狭い廊下……というには短いが、ココは絶好の狩場だ。

 ――プシュッ!

 音と共に男の首筋に打ち込まれたのは【麻酔針】。
 意味不明な悲鳴を上げながら、男は倒れて眠りに就く。
 続いて、男の前を歩いていた別の男――分かりにくいから【ノッポ】とするか。

 そのノッポがコチラを向き、(恐らく自慢の)長い脚で攻撃を仕掛けてくる。
 しかしココは狭い廊下だ。そんな大振りの攻撃は、壁にぶつかるのが当たり前。
 ココでは、チビの方が有利なんだよ!

 若干筋違いな恨みを込めながら、ボクは背中に隠し持っていた小太刀を一閃。
 ……したいのだが、子どもたちに後で血を見せるのはなるべく避けたい。
 仕方無しに柄の部分を水月に突き入れ、相手を無力化する。意識を刈り取るのもお忘れなく。

 そのまま二人が囚われている部屋に侵入。
 そこに残っていた男――今回はデブとしよう。
 デブは幽霊でも見たかのような顔をし、ボクとすずかを見比べる。

 気持ちは分かる。
 でもその致命的な隙を見逃す程、ボクはお人好しではない。
 すぐさま飛針で相手の得物――ダガーナイフを叩き落し、鋼糸で捕縛しようとした。

 ……が、ココで予想外のアクシデントが勃発。
 何でか一番鋼糸が飛び出し、相手の服を斬り刻んでしまった。
 あげくに、あろうことかデブの豊満な肉体で鋼糸が弾かれ……隣にいた、アリサの服が切り刻まれてしまいましたとさ。

 涙目になるアリサ。そして訪れる、少女の怒り。
 ブチィッ!という心地良い音を響かせながら、アリサのその身は自由なモノになる。
 最初のターゲットはデブ。彼は何も言えないまま昏倒させられ、壁に叩き付けられた。

 何でかその表情がウットリしてたのは、気にしてはいけないのだろう。
 その方が良いに決まっている。
 さて……次はボクの番のようだ。












 補論:アリサはボクに、着てきた制服を強制的に返還させて、皆が来る前に事なきを得た。
    そして【変態!】と罵倒された。
    服を着たことと言い、事故とは言え小学生の服を切り刻んでしまったのだから、仕方無しに汚名を受けた。

    すずかは特に問題なし。
    ……と思ったのだが、何かボクを見る目がおかしい。
    まるで、肉食獣が獲物を狙うかのような瞳だ。後日その正体が、月村家のPCから発見された。

    【お兄ちゃんといっしょ♪】や、【ダメェェ!イケナイKINSHIN生活】が共用PCの履歴から発見されたのだ。
    別にフラグオンするような描写はなかったと思うのだが……。
    もしかして、女装兄が良かったのか?……とりあえず暫く身を隠そう。












 中将日記スターズ



 久しぶりに最高評議会に召集された。
 最近呼び出しがなかった原因は、【マスクドライダー アギt○】という作品を研究していたからだそうだ。
 あのC3-Xも出てくる、宣伝番組も兼ねたTVドラマ。

 自分はその内容を知らない。
 ソレを言ったら、『何ィィィッ!?レジアス、貴様!そんなことも知らないのか!?』と驚かれた。
 とりあえず映像データを全て渡され、来週までに鑑賞しておくようにと厳命が下る。

 彼らが作成するテストで、九十点以上取らないと減給だと言われた。
 仕方がない。今日からは、コレの鑑賞が日課に加わることになった。
 ……そう言えば、今回の召集の内容は何処へ行ったのだろうか?







 補論……改め、ゲイズさんちのオーリスちゃん

 先日の男性に食事に誘われたオーリス。
 相手の名前は【ティーダ・ランスター】。
 傍から見ると、美男美女でお似合いなカップルに見える。

 次にまた会う約束をし、今日のデートは終了。
 そして最寄りの駅まで送ってもらい、改札を通ろうとしたその瞬間。
 先ほどの店に、定期を忘れてきたことに気付く。

 途方に暮れるオーリスは、恥を忍んで父親に迎えに来てもらった。
 文句一つ言わずに迎えに来てくれた父親に、オーリスは感謝の気持ちでいっぱいになった。












 あとがき

 >誤字訂正

 俊さん、Yamanさん。ご指摘いただき、本当にありがとうございます。







[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 12
Name: satuki◆b147bc52 ID:faa00992
Date: 2009/06/19 17:01


 前回のあらすじ:KUGIMIY○に【変態】って言われた。




 ミッドの空の下からこんにちわ。
 現在逃亡中の月村静香です。原因は言わずもがな、実の妹から逃れるため。
 まぁ、少し時を置けばすずかも頭が冷えるでしょう。そうであると信じたい。どうか信じさせて。

「……ん?来たのか?」

 開けた空が一望出来る、この公園。
 そのベンチに腰掛けること十分くらい。
 今回の依頼主が、向こうからやって来た。

「……待たせたな」
「いやぁ?全然待ってないよぉ……って、デートの待ち合わせッポイな」
「……オレにそんな趣味はないぞ?」
「アリガト。ボクにも、そんな気はないからね?」

 ゼストと【ウホッ!】な関係になりたいとは思わない。
 というか、誰であってもそんな関係にはなりたいワケない。
 だからと言って、近親な関係なんて願い下げだ。

「んでさー、今日の用件は何なんだい?」
「……オイ」

 ゼストは短く言葉を飛ばすと、ソコにはデッカイわんこが居た。
 ……良い。凄く良い。
 自慢じゃないがボクのわんこ好きは、一番初めの人生からのモノだ。

 つまりは筋金入り。家で飼えなかったのも、ソレに拍車をかけているのだろう。
 全体に蒼っぽい毛色で、アクセントに白い毛色。
 大型犬に乗ることが小さな頃から夢なので、後で乗せてもらうとしよう。

「……ゼスト」
「……何だ?」
「この子、お持ち帰りしちゃあ……」
「ダメに決まっている」
「……ちぇ!」

 良いじゃないか。少しぐらい貸してくれても。
 この場で、有無を言わさずにお持ち帰りするワケじゃないんだし。
 ……何でだろう?今、激しくティアナの顔が脳裏に浮かんだのは?

「……そんでぇ?この子がどうしたのぉ……?」

 コンディションブルー、微妙です。
 お持ち帰りを禁止されたので、今のボクは激しくやる気ないです。
 まぁ仮にお持ち帰り出来たとしても、我が家は猫屋敷だ。結果は考えるまでもないだろう。

「……ザフィーラと言う。今日は時間を割いて頂き、感謝する」























 ……またこの展開か。
 折角プリティーわんことお友達になれると思ったら、中身は何百年も生きているオッサンか。
 萎えるわぁ……とか思いつつも、毛皮を撫でる手が止まることはない。うん、見た目って大事だよね?

「つーかさぁ?このわんこ太夫とアンタの接点が、全くをもって見当たらないんだけど……?」
「前回の闇の書事件で、少し遣り合った関係だ……」

 アレ?転生の度に記憶が飛ぶんじゃなかったっけ?
 それともアレか?もう正常に戻ったから、記憶まで復活したのか?
 いや。それよりも問題なのは、アンタたち殺し合った間柄でしょ!?何で一緒に居るのさ!?

「……ゼストさ、今普通に【闇の書】って言っちゃったけど、ボク部外者だよ?」
「心配は無用だ。コレ位ならば守秘義務にも抵触せん。ソレにお前のことだ、ソレ位は知っていただろう……?」
「……うん。まぁ、ね……」

 この話はもうココまでにした方が良い。
 ボク的にもゼスト的にも。そして今撫でまくってる、ザフィーラのためにも。
 ……うーん。猫も好きなんだけど、やっぱりボクは犬派だなぁ……本当は狼だけど。

「ハイッ!暗い話は終~了!!」

 パァンッ!と拍手一発。
 打ち切るぞ、このドンよりしたフィールドを。
 断ち切るんだ、この世界の歪みを。

「ハイハイ、それで?話題を元に戻しましょうか?」
「あ、あぁ。それで、頼みというのは……デバイスの作成依頼なのだ」

 ザピーラ犬からの依頼も、コレまでのオヤジたちと寸分違わぬモノでした。
 期待はしてなかったんだけどねー。それでもそろそろ、違う用件が来てくれても罰は当たらないと思う。
 世界はボクに優しくはない。良ぉし……【優しい世界】を作る為に、いっちょ反逆でも起こすか?

「……本来オレにはデバイスは必要ない。防御には自信があるし、攻撃にはコレがある……」

 【コレ】と言って、右足を上に上げるザフィーラ。
 多分彼は、拳を上げているつもりなんだろう。
 ……実際には、肉球ラブリーな状態だが。

「だが主に何かあった時、今のオレの戦力では打破しきれない場合も考えられる……」
「……そうだね」
「だからオレは欲する……いざという時に必要な、主を護る力を……!」

 わんこモードなので、凄まれても全然怖くない。
 だけど分かる。毛皮を撫でてるので、その身体が熱くなったのがハッキリと分かるのだ。
 さーて、頭の中をデバイス設計モードに切り替えないとなぁ。

「あいよ。どんなのが欲しいんかい?」
「……オレに足りないのは、中・遠距離の攻撃手段。それと、皆のサポートが出来ると助かる……」

 頭の中で組み上がっていく設計図。
 盾の守護獣というくらいだから、両肩に丸い盾を。
 中・遠距離の攻撃手段には、彼が持っていない大型銃。

 ついでだから、その時専用の甲冑も考えよう。
 漆黒を基調として、所々に紅を入れる。
 兜の部分の後ろからは、彼の銀髪に似せた長いウィッグのようなモノを垂らす。

 勿論狼形態でも装備出来るようにし……って、ちょっとマテ。
 【穴馬】――アレか。
 だとすれば、ゼン……じゃなかった。ゼストとの連携も出来るようにして……採用決定。













 中将日記NEXT



 先週出された課題を無事乗り切り、先ほどのテストの結果を思い出す。
 九十九点。残りの一問は番組を見ただけでは分からない、超マニアック問題だった。
 流石にソコまではチェックをしていなかったので、残念ながら満点は逃した。

 だがそれでも最高評議会の面々は満足だったらしく、減給どころか特別ボーナスを出すと言い出した。
 勿論丁重に断ったが、彼らに何があったのだろうか?
 以前とは様子が異なるようだが……。

 ……おっと。そんなことを考えている場合ではなかった。
 今居るのは戦場。模擬戦という名の戦場なのだ。
 今回は二対二のチーム戦。

 コチラはフル武装したゲンヤと自分。
 対してアチラは、例のザンカンブレイドを持ったゼストと……元闇の書の守護騎士の一人。
 思うところが無い訳ではない。だが、【アノ】ゼストが背中を任せる位の猛者だ。信じるとしよう。

 自分以外は、皆新たなデバイスを所持している。
 一方自分は、バージョンアップが適宜施されているとは言え、旧式になりつつあるC3-X。
 最初の頃から比べると中身は別物と化しているが、それでも最近は自分の動きに付いて来れなくなってきている。

 Cストーンは精製に時間が掛かっているらしく、ガトックセクターの方が先にロールアウトするとのこと。
 ……焦りが生じているのが、自分でも分かる。
 気を付けなければ、いけないな……。



 その後、ゼストとザフィーラが連携プレイを発揮。
 狼形態になったザフィーラに跨ったゼストが、ザンカンブレイドを一閃。
 一瞬、訓練室が使用不可能になるかと危ぶまれた。






 ゲイズさんちのオーリスちゃん【壱】

 アレから何度かデートをし、今日はティーダの家にお邪魔することに。
 彼の家には妹のティアナがおり、最初は険悪なムードを醸し出していた。
 何かのキッカケになればと思い、レジアス特製の飴玉を与えてみる。

 すると、見る見るウチに上機嫌になっていくティアナ。
 もっと頂戴と言う少女に、虫歯になるからと嗜める兄。
 とても微笑ましい雰囲気に、心が温かくなるオーリスだった。



 追記

 この飴玉を作ったのは誰だ?と聞かれた時、場の流れから自分だと言ってしまったオーリス。
 少女と彼氏から尊敬の目で見られ、良心がキリキリと痛む彼女。
 家に帰ったら、父親に飴玉の作り方を教えてもらおう。そう決意するオーリスだった。












 あとがき

 >誤字訂正

 俊さん。毎度ご指摘いただき、本当にありがとうございます!






[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 13
Name: satuki◆b147bc52 ID:59d65da5
Date: 2009/06/19 17:01
 中将日記TRY  スーパー拡大版



 戦闘機人プラントに強制捜査を仕掛ける作戦。
 ついに管理局の暗部の尻尾を掴むことが出来るかもしれない、その一歩。
 このミッションが成功すれば、管理局の暗い部分が白日の下に晒される。

 その結果は言うまでもないだろう。
 管理局の信頼は失墜し、様々な次元世界に波紋が生じるだろう。
 だが、だからと言って放置し続ければ、世界の歪みは尚更大きくなっていくのだ。

 時空管理局という組織は大きい。
 そして大きな組織は、どうしても末端にまで指令が行き辛くなってしまうモノ。
 コレは組織という人の集まりの、宿命なのだ。

 この宿命に立ち向かい、歪みを最小限度に(勿論目標はゼロだが)すること。
 ソレこそが組織に所属するモノの務めだ。
 故にこの作戦の指揮は自分が執る。後に続くモノたちに、悪しき習慣を残さぬために……。























 コトの発端は、ゼスト隊が追っている【戦闘機人事件】だった。
 その人の人権と倫理観を無視した実験。その足取りを追う内に、彼らはある組織に辿り着く。
 その組織の名前は【時空管理局】。

 しかもその追跡航路から判断するに、どうやら地上本部に繋がっているという結論に達した。
 信じたくはなかった。
 だが信じざるを得なかった。

 ゼストは嘘を付く様な漢ではない。
 アイツには、そんな器用な真似は出来ない。
 だからソレが真実だと判断出来てしまった。

 ……分からない。
 時としてヒトは、前情報があると冷静に物事を理解出来なくなる。
 そうだ。事前情報もある程度は必要だが、ソレに囚われ過ぎてもいけない。

 冷静に。精神を落ち着けて、心を穏やかに保つんだ。
 今回の隊編成は、ゼスト隊に加えて自分。同じく首都防衛隊から借りてきた、【ティーダ・ランスター】。
 彼は今回の任務に、志願して参加した漢である。

 娘が連れてきた交際相手。
 最初はただの優男に見えた。
 だが何度が会う内に、ソレは彼の構成要素の一つでしかないことに気が付いた。

 長距離狙撃用のライフルを常用し、近接戦闘はハンドガンを使用。
 滅多なことでは抜かない、近接用の魔力刃で構成された細身の剣。 
 ソレらは全て独立したデバイスであり、ストレージデバイスでもある。

 【バロ】と呼ばれるインテリジェントデバイスに制御を任せ、狙った標的を全て叩き落す。
 相当数のデバイスを使いこなす、異能を磨きし努力のヒト。 
 彼もまたゼストやゲンヤと同じく、己の路を突き進むモノだったのだ。良い若者だ。コレからの成長が期待出来る。

 そして何よりも彼の凄いところは、オーリスの欠点を認めた上で交際をしている部分だ。
 料理が出来ると嘘を付いたオーリス。その後自分が特訓を施したが、そんなに直ぐに上達する筈がない。
 だが彼は、『ありがとう。ボクやティアナの為に、ココまでガンバってくれるなんて……!!』と言った。

 ……凄い漢だ。
 まさか、自分の娘と変わらない年頃の青年を尊敬することになるとは、夢にも思わなかった。
 彼ならきっと、娘を幸せにしてくれるだろう。いや、彼以外には無理だ。

 ――コツ、コツ、コツ、コツ……!

 静かな通路に響き渡る足音が、イヤに耳に響く。
 イヤな汗を掻きつつ、一歩一歩進んでいく我々。
 ゼスト隊と自分。そしてティーダは適度に距離を取りつつ、ソレでいて離れすぎないように気を付ける。

 そう言えばティーダは、出撃前にオーリスに何かを言っていたな。
 同時に、蒼い小さな箱を渡していたところを見ると……。
 そうか……。もうすぐこの青年に、【お義父さん】と呼ばれる日が訪れるのか……。

 妻に先立たれてから、娘は自分一人で育ててきた。
 苦労は多々あった。だがその苦労一つ一つが、大切な思い出。
 だがソレは、ティーダとて同じ。いや、彼の方が若い時分から妹を育てているのだ。

 彼の方が、大変だったに違いない。
 ……しかし。だからと言って、【ハイ、どうぞ!】と簡単に娘を任す訳にもいかない。
 ここはやはり、彼の覚悟を見せてもらおう。

 親バカだと言われても仕方ない。
 娘に恨まれようとも、コレだけはやっておかないといけないのだ。
 ソレが死んだあの娘の母親――妻との約束。遠き日の誓いなのだ。






 開けた場所が見えてくる。
 こういった違法プラントでは、要警戒なポイントの一つ。
 必ずと言って良いほど、何かが潜んでいる空間。

 このまま平穏無事には終わらない。
 そう言われているのと同義のモノ。
 無音。その通常では有り得ない現象こそが、次の瞬間に恐怖を連れてくるのだ。

 ――ドゥゥゥゥンッ!

 上から【何か】が降ってきた。
 鋼の鎧に身を包み、土埃を巻き上げるその物体。
 徐々に視界が戻っていき、ソコから現れたのは信じられないモノだった。

「……バカな……?アレは、アレは――――っ!?」

 漆黒のパーソナルカラー。
 二股に分かれた、銀色の角。
 本来紅い瞳は、蒼く染め上げられている。

「アレは――――【C4】!?」

 マスクドライダーアギt○。その劇中に出現する、そのシステム。
 C3-Xと同時期に設計されるも、日の光を見ることなく闇に葬り去られた代物。
 人間の身体を【パーツ】として使うその概念は、明らかに倫理に反し、ヒトの手に余るモノだった。

 だが、何故【アレ】がココにいる?
 C3はシズカが作ったモノ。
 ということは、アレの設計もシズカがしたのか?

 ……いくら非常識なモノを作っても、あんな非人間的なモノを作るようなヤツではない。
 ソレは自分が一番良く知っている。
 だったらアレは、別の誰かがシズカの技術を使って作ったモノだろう。

 誰なんだ。
 そんな技術を持っていながら、アレほどイカレた発想の持ち主は。
 徐々に候補者が頭の中で絞られていき、最後にある科学者の存在が残された。

「……まさか。アレを作ったのは――――【ジェイル・スカリエッティ】か……?」

 生命操作技術で、何世代も先を行く稀代の天才科学者。
 それでいて、狂ったような発想を次々とし、既に罪状が数え切れないモノ。
 ヤツだ。ヤツ以外に、コレを作れる存在はいないだろう。

「ハッハッハ……!その通りだよ、レジアス中将……」

 C4の後方に、三方向からスポットライトが灯る。
 ソコにいたのは、年齢不詳の美形の科学者。
 スーツの上から白衣を着たその姿は、まさに【ドクター】と形容するしかなかった。

「ココは戦闘機人プラント……C4の中身は、いくらでも都合出来るからねぇ?」
「……ジェイル・スカリエッティィィィィィィッ!!」
「おや。お気に召さない様子だねぇ?折角、人数分用意したというのに……?」
「……人数分、だと……?」

 ――ガシャン。ガシャン。ガシャンッ!

 ゼスト隊と自分とティーダ。
 その数の分だけ現れた、C4の軍団。
 ……不味い。ゼスト隊の隊長格以外のメンバーでは、歯が立たないかもしれない。

 いや。もしアレが予想通りのモノだったとしたら、全く歯が立たないのだ。
 侮っていたワケでない。だが予想外にも程がある。
 コレでは、ゼスト隊の隊員を撤退させられるかどうかも、危ういだろう。

「(……やるしかない。例えソレが、どれだけ実現困難なモノであっても、諦めたらそこで終わりなんだ……!!)」

 自分に活を入れ、自らを内側から奮い立たせる。
 周りを見ると、ゼストやクイント。ティーダも決意に満ちた顔付きだった。
 スズカの作ったC3と、スカリエッティが作ったC4。

 その存在の意味を賭けて、自分は脚に力を入れた。
 倒れるC4。だが、すぐに起き上がってくる不死身の戦士。
 ……勝負だ!!












 残り四体。
 ソレがC4の残数であり、その内の一体が今の自分のダンスパートナーだ。
 ゼスト隊のメンバーを撤退させつつ、C4軍団の相手をする。

 ソレは一本の、細い細い糸の上を歩くようなモノだった。
 全てが命取りに為りかねないこの状況で、必死にもがき、そして苦しむ。
 既に右肩の装甲が吹き飛んでいる。ヘルメット部分のアンテナも原形を留めておらず、バッテリーも尽きた。

 稼動限界はとうに過ぎている。
 それでも現在闘えているのは、主に【根性探知メーター】のおかげだ。
 だがそれも、あと少ししかもたないだろう。

 あと一発被弾したら、自分は撃墜する。
 ソレは比喩でも何でもなく、自分の身体のことだからこそ、理解出来ることなのだ。
 背水の陣。

 何故だろう……?
 こんな状況だというのに、高揚している自分がいるのが分かる。
 ヘルメットに手を掛ける。視界の半分が見えなくなったモノをはずし、新鮮な空気をその顔で感じる。

「(……オレは…………オレだ!オレとして闘う以外の方法なんて、持ち合わせていないんだ!!)」

 迫り来る豪腕。
 だがそんなモノは怖くも何ともない。
 機械仕掛けの攻撃は、【拳】足り得ない。

 本物の意思がソコに通って、初めて【拳】となるのだ。
 C4の攻撃を縫うようにして、己の右手を被せて徹す。
 クロスカウンター。C4はC4自身にやられたのだ。自分は何もしていない。

「クックックック……!素晴らしい!!流石はレジアス中将!一筋縄では行かないらしい……」

 笑っていた。
 あの科学者は笑っていたのだ。
 ヒトの身体を好き勝手弄り倒し、その運命すら捻じ曲げる狂者。

 ……許してはいけない。許すわけにはいかない。
 だが自分はもう一杯一杯だ。ソレはゼストたちも同じこと。
 もしココで新たな敵戦力が投入された場合、自分たちは……。

「そんな貴方に敬意を表して、私も少しだけ力を出そう……」

 そうスカリエッティが言うと地面が裂け、ソコから金色の恐竜が出てきた。
 尻尾が二つに割れて肩を構成し、足は脚に変化する。
 やがてその身は一体の人型に変化した。

 金色の大型人型兵器。
 スカリエッティが変化の終わった恐竜に吸い込まると、恐竜だったモノの瞳に光が宿る。
 その身に合わせた大太刀は、銀色の輝きを放っている。

『さて……第二ラウンドは、この【黄金悪者・スカドラン】がお相手しよう……!』

 そこには絶望があった。






 ゲイズさんちのオーリスちゃん【弐】

 今日はティーダが、特別任務に赴く日。
 守秘義務が働くため、任務内容を聞くことは出来ない。
 だが父親である、レジアスと一緒だということは分かった。

 決意に満ちた瞳のティーダ。
 この日の為に用意した指輪をオーリスに渡し、「帰ってきたら、君の家に挨拶に行くよ……!」と言って、オーリスを呆然とさせる。
 だが何故だろう。正気に戻ったオーリスは、何とも言えない嫌な予感を感じる。

 気のせいであって欲しい。
 そう、切に願うオーリスだった。












 あとがき

 >誤字訂正

 俊さん。毎度ご指摘いただき、本当にありがとうございます!感謝の言葉しか出てきません!!
 あと、【前回のあらすぎ】と【レジアス特性の飴玉を与えてみる】以外は、ワザと何です。
 そういう仕様だと解釈して頂けると、ありがたいです。






[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 14
Name: satuki◆b147bc52 ID:31eb3111
Date: 2009/06/19 17:00


 前回のあらすじ:静香、出番なし。



 嫌な予感がする。
 そうオーリスに相談されたボクは、念のために地上本部に来ていた。
 ゼスト隊や、レジアスが大挙して行かなければならない任務。

 どう考えても、怪しさこの上ない。
 あんまりハックしたくはないんだけど、非常事態ということでレジアスの端末を開ける。
 暗証番号なんて、ちょちょいのちょい。アレ……?コレってもしかして、もう死語なのか?

「(…………有った!戦闘機人プラントの強制調査……って、ゼスト隊が全滅するアレか……!?)」

 原作ではこの事件でクイント・メガーヌ・ゼストが死亡し、クイント以外の死体は行方不明になる。
 その実、スカリエッティのラボでレリックウェポンにされたゼストと、水槽の中で生かされ続けるメガーヌ。
 最悪だ。このままでは、レジアスも帰らぬ人になるかもしれない。

「(……急ごう。急いで【ガトックセクター】の最終調整を済ませないと……)」

 そう思い、レジアスの部屋を後にする。
 既に何度もお邪魔しているので、自由に行動出来てしまうデバイス研究室。
 その一画を借りて、ガトックの調整を始めた。

 既にハード面は完成し、ソフト面が完成度八割という状態。
 完成していないのは、AIの性格設定。
 このままでは、原作と同じように暴走する切れキャラになってしまうのだ。

「さてと……後はこの配列を直して……って、何だ?この地響きは!?」

 ズン、ズン、と地面をたわませながら迫ってくる気配が一つ。
 この感じだと、結構鍛え上げた身体の持ち主だなぁ。
 ……現実逃避はココまでにしよう。この気配は、どう考えても中将様のモノじゃないか。

「シズカァァァァッ!!」

 入り口の扉を、壊れんばかりの力で開けるレジアス。
 走ってきたのだろうか?
 その額からは、汗が吹き出ている。
 
「……レジアス。とりあえずお帰り。あと落ち着けって……」

 【とりあえず】という言葉に反応するレジアス。
 その場でフリーズがかかり、手に持っていたC3-Xのヘルメットを落としてしまう。
 ボディアーマーの具合や、取り落としたマスク部と言い、もう満身創痍としか言いようがない状態だ。

「……ゼストたちが現在進行形で、非常に危険な目に在っている……」

 話を聞くと、【黄金悪者スカドラン】という人型ロボットが敵プラントで大暴れ。
 既に皆余力が殆ど残っていない状況で、救援要請を出させるという名目でレジアスを強制転送。
 確かにその面子の中では、レジアスの救援要請が一番聞いてもらえる確率が高い。

 でも多分。
 その要請ですら聞き入れられる可能性は、ないに等しい。
 スカリエッティは、最高評議会と黒い関係で結ばれている。

 最近、ネジが外れたような発言が多かったらしいが、それでも最高評議会は最高評議会なのだ。
 現にレジアスの顔色は悪い。
 明らかに要請が却下されたのが、見て取れる程に。

「聞いたよ。だからボクは、コイツの最終調整を……」
「……あと、どれ位の時間が必要なんだ……?」
「既にハード面は完成済み。ソフト面が完成度八割って状態だから、あと二時間ってところだ……ってオイ!何やってるんだ!?」

 完成しているベルトを拾い上げ、レジアスはガトックセクターの隔離されている部屋に入っていった。
 マテ。
 だからソレは、まだ未完成なんだちゅーに!!

「……ココまで出来ていれば、もう完成したようなモノだ……」

 いや、確かにそう思うかもしれないけどね?
 まだソイツの性格は、私の愛馬は凶暴モードのままなんだって。
 開けられた扉。そしてすぐに閉じられてしまった、その扉。

 オイ。何でレジアスの認証で開閉するんだよ?
 ガッツか?
 根性で、何でもなるというのか?

 ――カシャン。

 ベルトを後ろ手で固定し、閉鎖空間の中央に位置するセクターに目を向けるレジアス。
 止めろ。ソレは死亡フラグだ。如何にお前が頑丈で、勇者顔負けのガッツを持っていたとしても。
 今の状態でソイツに挑めば、待っているのは死だけだぞ?
 
「……オレの帰りを待っているヤツら居るんだ……!その為にも力を貸してくれ……ガトックセクター!」

 次の瞬間。
 トンでもない轟音と共に、部屋中の壁がへこみ始めた。
 開け放たれる扉。中から倒れ出てくるレジアス。

 やっぱ、根性だけでどうにかならないことも有るんだな。
 どうもオヤジーズを見ていると、フラグをボキっと折ってくれるような気がしてならないんだが……。
 駆け寄って、レジアスの容態を診る。

 ……アレ?
 何か……心臓が停止してるような気が……って、違う!!
 本当に停止してるんだよ!?

 すぐさま心臓マッサージを開始し、ショックを与え続ける。
 不味い。はやく医療班を手配しないといけないんだけど、そうしている時間すら勿体無い。
 何とか、電気ショックと同じ作用を引き起こせれば……。

 手を動かしかしながらも、頭は高速回転。
 部屋をグルッと見渡し、カウンターショックに使えそうなモノを探しだす。
 ……あった。コレを使えば、電気ショックと似たようなことが出来る。

 そう考えて手にしたのは、先ほどレジアスが腰に巻いていたセクターのベルト。
 コイツの中にある電力を一時開放してやれば……上手くいくかもしれない。
 失敗を恐れるな。今のオレの手の中には、過去の人生と違い、救える手段があるんだ。

 まだ医療技術や医療魔法が発展途上だった頃の、医者としての記憶。
 救えなかった命で一山築けてしまう程だった、あの頃の自分。
 補助魔法を併用し、カウンターショックの準備を整える。

「……いけぇぇぇぇっ!!」

 雷光一閃。
 プラズマ的なモノを発生させながら、強大な電力がレジアスに吸い込まれていく。
 ……威力が大きすぎると思うなかれ。このオヤジはコレ位しないと、目を覚まさないのだ。

「…………?」

 徐々に。本当にゆっくりと目蓋が上がっていき、その下に填め込まれている瞳が、コチラを捉えた。
 ……成功だ。今度こそ医療班を手配し、ボクは作業に戻る。
 そう。ガトックセクターの、最終調整の続きをしなければならないのだから。













 中将日記Revolution



 病室で目が覚めた時。
 そこには怒り心頭なゲンヤと、呆れ顔のシズカが居た。
 何故自分はココにいるのだと記憶を手繰り、そして事態の深刻さを思い出す。

 一体どれくらいの時間、自分は寝ていたのだ?
 焦る気持ちを隠せずに聞くと、アレから丁度二時間だと言う。
 こうしては居られない。

 急ぎ身体を起こすと痛みが全身に走るが、そんなことは知ったことではない。
 今ココで無理をしなければ、一体いつ無理を通せると言うのだろうか。
 病人用のガウンを剥ぎ取り、掛けてあった制服に着替える。

「オイ待てよ。テメェだけが、良い格好するつもりかよ……!!」

 ゲンヤの瞳には、覚悟の色が籠められていた。
 アイツも己の妻を助けるために、自らの立場を捨てる覚悟の様子。
 ソコまで覚悟を決めているのだったら、止めるのは憚られる。

「……医者としては絶対安静。でも無理する患者が居たら、医者も無茶しないとダメなんだよ……」

 シズカも覚悟完了済みのようだ。
 そして差し出されたモノは、先程のセクターのベルト。
 一瞬だけアノ瞬間を思い出すも、すぐに脳裏から掻き消す。

「……めっちゃガンバったから、もう調整は終了済み。オーナーの登録も済んでるから、コレは……お前のモノだ」

 先程は混乱気味だった為に忘れていたが、コレは【特別】なモノだ。
 自分の理想と反するモノであり、まだ気持ちは固まっていない。
 こんな中途半端な気持ちでは、C3-Xに対してもガトックセクターに対しても失礼だ。

「……アンタがこういう【特別】なモノを苦手とするのは分かる。だけど、ちょっとだけ待って欲しい……」
「…………?」
「今は確かに特別かもしれないけど、あと数年のウチにコレは特別じゃなくなる。いや、特別じゃなくならせてみせる……!」

 ソレは意思表明だった。
 特別なモノを良しとしない自分に、シズカが合わせてがんばってくれるという。
 ……良いだろう。その言葉、しっかり記憶したからな……。

 そうして自分たちは、シズカの転送魔法で病室を後にする。
 行き先は、スカリエッティの戦闘機人プラント。
 多数の増援は無理だったが、心強い二人の仲間を手に入れた。

 待っていろよ、ゼストたち!






 ゲイズさんちのオーリスちゃん【参】

 嫌な予感がする。
 ソレは酷く直感的なモノだったが、オーリスはシズカに救援を求めた。
 結果的には、ソレが正しかったことが証明される。

 黒猫が道を塞ぎ、カラスが上空から威嚇。
 この前下ろしたばかりの靴紐が突然断裂し、休憩時にはティーカップが割れた。
 起きてから半日もしない内に、不吉を呼ぶオンパレード。

 ……ちなみに、割れたティーカップの後片付けで、指を切ったオーリスだった。






[8085] 元ネタ帳(00~14)
Name: satuki◆b147bc52 ID:95abff31
Date: 2009/04/30 21:34
元ネタ帳を実験的に上げてみます。



⇒01

・「好きだーっ!!お前が欲しい~~~~っ!!」
 >機動武道伝Gガンダム。


⇒02

・C3、C3-MILD、C3ーX、アギt(略)
 >仮面ライダーアギト。

・こ○亀
 >こちら葛飾区亀有公園前派出所。

⇒03

・案件一
 >仮面ライダー龍騎。

・案件二
 >仮面ライダー555。

・案件三
 >仮面ライダー剣。

・案件四
 >仮面ライダー響鬼。

・案件五
 >仮面ライダーカブト。

・⑦
 >武装錬金・及びシャマルの声優ネタ。


⇒06

・しかも二人で、なに体脂肪を競い合ってるんだよ?
 >仮面ライダーキバの、マスターと嶋さん。

・【CX-05】
 >仮面ライダーアギトのG3-Xの武装。

・バイクから変形し、ホバークラフトになるモノを開発する。
 >仮面ライダーカブトの、ガタックエクステンダー。

・【ガトックセクター】
 >仮面ライダーカブトの、ガタックゼクター。

・名前は【Cストーン】
 >勇者王ガオガイガーの、Gストーン。


⇒07

・「私は今、【マスクドライダー アギt○】の研究で~」
 >仮面ライダーアギト。

・「~代わりに【某赤いホウキ星】の中の人の声を登録~」
 >機動戦士ガンダムの、シャア・アズナブル。それと声優ネタで、ギルバート・デュランダル。

・「正義に生まれ、正義に生きて、はや六十年……」
 この辺りの下りは、GUN×SWORDの【エルドラⅤ】。

・通常、地上本部に配備されているC3-XにはAI制御チップが搭載されている。
 >G3-Xには、本当にAI制御チップが搭載されている。


⇒08

・似たようなことを、某【ドリル持ちの巨大顔型ロボット】の~
 >天元突破グレンラガン。

・――コマ○ド、インストール!!
 >GEAR戦士電童。

・タービンの色は紅で統一し、オプションで銀色の角突き仮面を~
 >GEAR戦士電童の、凰牙。


⇒09

・『私(たち)の胃袋は、宇宙よ!!』
 >TVドラマ【フードファイト】。

・一瞬の眩い光と共に、ゲンヤの格好に変化が生じる~
 >GEAR戦士電童の、電童。

・名前は確か、【アカヅキノオオダチ】とか言ったか。
 >GEAR戦士電童の、暁の大太刀。


⇒10

・リアル斬艦ソードを作れってか?
 >スーパーロボット大戦シリーズの、斬艦刀。

・【ザンカンブレイド typeⅢ】。
 >スーパーロボット大戦シリーズの、参式斬艦刀。


⇒11

・本当は短く切りたいのだが、そうすると某【ワカメ頭】みたいになるので~
 >Fate/stay nightの、間桐慎二。
 
・ANZ○Iせんせぇ!オトコっぽくなりたいんですぅ!!
 >スラムダンクから。

・ジャスト一分。良い夢見た~
 >ゲットバッカーズより。

・「(……計画どおり……!!)」・男の見えないところで、顔を伏せながらほくそ笑む。良ぉし……次はこの【腕時計】の出番だ。
 >デスノートより。

・――カチ。腕時計の蓋を静かに開けると、標準を合わせるマーカーが点灯する~
 >この辺りは、名探偵コナンの時計型麻酔銃。

・アリサはボクに~そして【変態!】と罵倒された。
 >ゼロの使い魔の、ルイズの台詞――つまり声優ネタ。


⇒12

・この場で、有無を言わさずにお持ち帰りする~ティアナの顔が脳裏に浮かんだのは?
 >声優ネタで、【ひぐらしのなく頃に】のレナ。

・断ち切るんだ、この世界の歪みを。
 >機動戦士ガンダム00より。

・【穴馬】――アレか。
 >スーパーロボット大戦シリーズの、アウセンザイター。

・狼形態になったザフィーラに跨ったゼストが、ザンカンブレイドを一閃。
 >スーパーロボット大戦シリーズの技の、竜巻斬艦刀・逸騎刀閃。


⇒13

・ティーダの武装
 >ガンダム00のデュナメスのモノ。

・「アレは――――【C4】!?」
 >仮面ライダーアギトのG4。

・ヘルメットを取って、闘う
 >仮面ライダーアギト【ProjectG4】でのG3-Xの行動。クライマックスシーン。

・【黄金悪者・スカドラン】
 >黄金勇者ゴルドラン。スカ山さんとゴルドランは同じ声優。


⇒14

・「……オレの帰りを待っているヤツら居るんだ……!その為にも力を貸してくれ……ガトックセクター!」
 >仮面ライダーカブトの、加賀美の台詞。ガタックゼクターの初登場回。

・ベルトの力で蘇生。
 >これもカブトのシーン。




おまけ:中将日記特集

⇒07【エクセリオン】
 >レイジングハート・エクセリオン

⇒08【アサルト】
 >バルディッシュ・アサルト

⇒09【スーパー】
 >セーラームーンS(スーパー)。

⇒10【スーパーズ】
 >セーラームーンSuperS(スーパーズ)。

⇒11【スターズ】
 >セーラームーンスターズ。

⇒12【NEXT】
 >スレイヤーズNEXT。

⇒13【TRY】
 >スレイヤーズTRY。

⇒14【Revolution】
 >スレイヤーズRevolution。





[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 15【前編】
Name: satuki◆b147bc52 ID:42599fb1
Date: 2009/06/19 00:04



 前回のあらすじ:レジアス、死の淵から蘇る。




 戦闘機人プラント。
 レジアスが強制転送させられてから、既に半日が過ぎ去っているこの場所。
 現在ココでは、一切の戦闘行為がなされていない。

 不気味な程に静まりかえった、巨大な閉鎖空間。
 この直線を抜ければ、レジアスが転送させられた部屋に着く。
 あいつの情報どおりなら、ココで巨大ロボットとゼスト隊が闘っているハズ。

 仮にその部屋が超防音構造だったとしても、戦闘が行われていたら気が付くはず。
 故に今は戦闘が中断、もしくは終了していることが分かる。
 さっきから無言のレジアスとゲンヤ。

 二人はその可能性が高いことを理解しているからこそ、何も言葉を発せないのだ。
 鈍いながらも見えてくる光。
 アレが部屋の入り口か……!






















 大きく開けた空間。
 ソコにあったのは、戦闘の爪跡だけだった。
 黒く変色した血やデバイスの残骸。そして他にあったのは、敵さんの屍。

 二股に分かれた銀色の角。漆黒で統一されたカラーリング。蒼を填め込んだ、その瞳。
 どう見てもソレは、有るハズのない【C4】だった。
 C3とC3-Xの中間のような明らかに狙ったデザインは、【C4】としか言いようがない。

 ヘルメットの残骸を剥ぎ取り、装着者の顔を見ておこうとする。
 曲がりなりにも、ボクのシステムを使って作られたモノだ。
 黙祷を捧げるくらいはしないと、やりきれない。

 ――プシューッ!

 開放音をさせて面を外し、中から出てきたモノを見る。
 ……何だコレは?
 てっきり人の死体が出てくるとばかり思っていたボクは、その良い方に予想外の事態に戸惑った。

「(……コレは……もしかして……!)」

 ある考えに気が付き、周囲を見渡す。
 部屋の更に奥にあったのは、金色のロボット……その脚。
 鋭利な刃物で斬られたかのようなその傷口は、明らかにザンカンブレイドによるモノだ。

 徐々に集まる欠片。
 足りなかった情報が組み合わさっていき、ソレらが一枚の絵を作り上げていく。
 もしかするとボクたちは、とんだ思い違いをしているのかもしれない。

 その可能性を二人に話そうとした時、部屋の奥から幾人かの気配を感じた。
 酷く感じなれた気配が二つに、もう一つはアンノウンのモノ。
 予想が正しいのなら、その未確認の気配の正体は……。

「これはこれは……ようこそ、私の秘密基地へ!地上本部の勇者たちよ……」

 スポットライトに照らされて、人影が一つ現れた。
 芝居がかったその口調。大根役者のような、ウソくさい仕草。
 白衣を纏った、稀代の変態MAD。コイツがあの……。

「……ご丁寧にどうも。アンタが、噂の変態ドクター?ちなみにボクは、管理局員じゃないよ……?」

 一応訂正を入れておく。
 あとの二人やゼストは地上本部の勇者でも良いが、生憎ボクは違う。
 ただの人間だ……とは言えないが、部外者であることには違いない。

「あぁ……キミのことは、良ぉく知っているよ……?その地上本部の勇者たちの……ある意味、生みの親のようなモノだからねぇ……?」

 勇者たちの生みの親と言うと格好良く聞こえるが、実質はオヤジーズの世話だ。そんなに良いモノではない。
 どうせなら、原作三人娘みたいな可愛い娘たちの方が……ゴメン。やっぱ、今のナシ。
 【アノ】美少女の皮を被った魔王とかの世話をするぐらいなら、ボクは喜んでオヤジーズの方を選ぶ。

 【全力全壊のトラウマ製造機】や、【超高速のホームラン娘】。
 【ブラックストマックな狸】とか、【光にされそうなデカハンマーの幼女】。
 【最後しか働かないニート侍】に【内臓をぶちまけられそうな、似非癒し系】。
 
 ……ウン。
 オヤジーズよ、コレからもよろしくね?
 やっぱりボクは、この渋オヤジたちを選ぶぜ!

「……この金色の脚を見ると、ゼストたちがガンバったみたいだねぇ……?」
「……その通りだよ。彼らは中々手強くてねぇ……?おかげでスカドランは、現在修理中なんだよ……」

 一つ予想が当たった。
 コレをしたのはやはりゼストであり、彼の奮闘のおかげで巨大ロボットは出てこない。
 この変態ドクターを捕まえるには絶好のチャンスのハズだが、何かが引っかかる。

 飄々としたその態度。
 捕まえられるなら捕まえてみろと言わんばかりの、その余裕さ。
 ……まだ何か、伏せ札を持っている。この用意周到なドクターが、ソレを持っていないハズがないのだ。

「……ゼストたちはどうした……?」

 コッチの面子が一番気になっていることを、代表して問い質す。
 崩れない笑み。
 余裕の張り付いた、スカリエッティのその表情。

「あぁ、彼らなら…………死んだよ」

 世界から色が失われた。
 同時に全くの無音が発生し、レジアスとゲンヤの顔から生気が引いていく。
 だがボクにソレは通じない。確かにヤツは嘘を付いていないだろう。だがソレは【過去のこと】だ。

「……ふーん、ソレで?じゃあ、お尋ねしたいんだけどさぁ…………アンタの後ろに居るのは誰なのさ?」
『…………!?』

 驚愕するオヤジたち。
 それに反して変態は、興味深そうにボクを見る。
 ヤメロ。ボクは美味しくないからね?ボクにその気はないからね?

「そうか……キミは魔法に頼らずに、人のサーチが出来るんだね……?」

 気配を読むということは、魔法が発達したこの世界にはない技術だ。
 肉体派なオヤジーズだって、この技術は体得出来ていない。
 いや。その内某【野菜人の王子】のように、何時の間にか出来ていそうで怖いが。

「……マジシャンは、タネを明かしたら終わりなんだ。だからその質問には、答えることが出来ないね……」
「コレは失礼……。だが、クイズの答えとしては正解だよ?さぁ……お披露目と行こうじゃないか……!」

 変態白衣がそう言ったのを皮切りに、前に躍り出てくる二つの影。左方に居るのは、武士の意匠を施された男だった。
 紅く、鋭く尖った大きな角。白と黒をベーシックカラーに使った、その騎士甲冑。
 面頬のような仮面を被り、両肩には巨大なドリルを装備して、後方に垂らしている。
 
「彼の名前は【ウォータン・ユミリィ】。この【ドリル】は出来れば外したかったのだが、彼のたっての希望でねぇ……?」

 右方に居たのは、白銀の角突き仮面を被った女性。
 紅いタービン付きのナックルとブーツ。
 ……どう見てもボクが作ったリボルバーナックルなだけに、その正体も分かりやすい。

「彼女は【桜花】。ソコにいる【ゲンヤ・ナカジマ】と同じく、【シューティングアーツ】の使い手だ……」

 目の前の男女の正体。
 ソレは非常に分かりやすいモノだった。
 だからこそ向こうに居る理由が分からず、レジアスとゲンヤは困惑する。

「……洗脳か……?」
「……つれない反応だね?折角、趣向を凝らしたというのに……」

 別に、お前を楽しませる道理はない。
 むしろそんなことは、願い下げだ。
 空気が変わる。殺気が質量となってボクたちに襲い掛かり、ボク以外の二人がダンスに借り出された。

 ――轟。

 一瞬にして顕現したザンカンブレイドが、ガトックを纏ったレジアスに襲い掛かる。
 両肩に装備された空気弾のバルカンが回転させ、レジアスはウォータンに反撃する。
 並みの使い手ならその速度と威力によって、一瞬の内に意識を刈り取られるハズのモノ。

 だが巨大刃を手にした剣士は、その刃でソレらを全て叩き落した。
 馬鹿デカイ得物なのに、常軌を逸した俊敏な動作。
 移動速度も桁違い。現にレジアスは、そのスピードに翻弄されていた。

「ゼスト、オレだ!レジアスだ!!模擬戦なら、あとで幾らでも付き合ってやる!だからはやく、目を覚ませ!!」
「……違う。オレの名前はウォータン。ウォータン・ユミリィ!!メガーヌの剣なり!!」
「……メガーヌ、だと……?」

 メガーヌ・アルピーノ。
 ゼスト隊の准陸尉であり、クイントの同僚。
 召還魔法の適正は不明だが、ブーストデバイス【アスクレピオス】の使い手。

 後に登場するルーテシアの母親で、この戦闘機人事件で殆ど死んだような状態になった人間。
 ……人質。
 洗脳も施されたかもしれないが、人質作戦も同時に行われているようだ。

「クイントォォォォッ!!ウチには、ギンガやスバルが待ってるんだぞ!?はやく帰ってやらないと、アイツが泣くぜぇぇっ!!」
「ハァァァァッ!!」

 回転するタービン同士が擦れ合い、激しく火花を散らしている。
 誓いの儀式で重ねあったその紅と黒は、今は別の意味で重なり合っていた。
 同門同士の闘い。かつては腐る程行われたソレだが、現在のような意味で行われたことはない。

「……ねぇ?ボクたちだけ何か、雰囲気違わない……?」
「同感だね。とりあえず、【ウーノ】にちゃぶ台とお茶菓子を用意させたから、ティータイムにしないかい?」
「……まぁ、いっか。ボクに毒物は効かないしね……」

 いきなり出現するちゃぶ台。
 その上には木彫りの器に入った煎餅があり、僅かに湯気が立つ緑茶。
 ……うん、コレは美味い。

 丁度六十度で淹れられたその緑茶は、最適な方法で旨味を引き出されていた。
 バリッ!と音を立てて、煎餅をかじる。コレもまた良し。
 人の手で一枚一枚炙られ、米百パーセントで出来た至高の煎餅。素晴らしいね……この無駄なまでの力の入れ具合は。

 さて、気分もリフレッシュした。
 だから……ソロソロ始めるとしよう。
 コレまでに浮かんだ疑問を材料に、ボクの【口撃】を。

「……アンタさぁ?もしかして、【勇者に倒される巨大な悪】役のヒト……?」

 ソレは、様々なモノを根底から覆すモノだった。













 ⇒後編に続く。






[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 16【後編】
Name: satuki◆b147bc52 ID:42599fb1
Date: 2009/06/19 00:04



 前編のあらすじ:ゼスト・クイント、洗脳モード?に入る。




「……アンタさぁ?もしかして、【勇者に倒される巨大な悪】役のヒト……?」

 ソレは、様々なモノを根底から覆すモノだった。
 凡そヒトの身では考え付かない、大風呂敷。
 だがボクには検討が付いた。この科学者がやろうとしている、その【何か】について。

「…………さて。一体何のことだい?」
「……なら、独り言を言わせてもらうぞ……?C4の中身は【ヒト】じゃなかった。あの中にあったのは、機械だった……」

 先程確認した、C4の中身。
 ソコにあったのはヒトの身体ではなかった。
 生命操作技術を得意とする彼のこと。彼がその気なら、【ヒト】を生産して中に入れるハズ。

 なのにソレ以上に面倒で、ワザと手間のかかる方法を取るのは何故か。
 ソレも、その場に居た人間たちにソレを気付かせないようにして。
 まずコレが、疑念の一。

 そのニ。
 どうして彼は、ゼストやクイントを生かしているのか?
 確かに二人は優れた使い手だが、戦闘機人を生み出せるスカリエッティだ。

 いつ敵に戻るともしれない二人よりは、裏切らない味方を大量に生み出した方が、余程戦力になる。
 そして何より二人が動く原因を、【洗脳】や【人質】という、本人の意思を無視したモノにしていること。
 洗脳は未だに施されているかは不明だが、どちらにせよスカリエッティだけが悪いように仕向けている。

 その三。
 メガーヌを【生かして】いること。
 人質になるには、どんなカタチにせよ【生きて】いないといけない。

 他にも、おかしなポイントは存在する。
 その【何故?】・【どうして?】を組み上げていくと、ソコには通常では考えられない絵画が。
 おかしくなった最高評議会と、同じく変化したジェイル・スカリエッティ。もしかして彼らは……。

「……大した想像力だ。キミには、小説を書くことをお勧めするよ?」
「……そうかい」

 言葉が見つからない。
 何を言っても、どうにもならない。
 だから言えない。ボクの話は、コレで終わりなのだ。

「そうそう。一人青年の死体【のようなモノ】があったんだ。研究材料に使えると思ったんだけど、予想と違ったから、君にあげるよ?」
「……くれるというのなら、有り難くもらうけど……そんなことして、大丈夫なのか?」
「フッ、そんな心配は無用だよ?何と言っても私は、【ジェイル・スカリエッティ】だからね……?」

 少し離れたところで、レジアスと【ウォータン】が闘っているのが見える。
 素早いウォータンの動きを捉えるために、装甲をパージして剣士にぶつけるレジアス。
 剣士に一瞬の隙が生じる。ソレに乗じて、新たに現れた双刀でザンカンブレイドを跳ね除けるレジアス。

 また少し離れたところでは、ゲンヤと【桜花】が。
 ……さて。そろそろボクたちも、少しは闘っておかないとね?
 湯飲みをちゃぶ台に置き、静かに立ち上がる。

「先程の青年なら、既に地上本部に搬送されているハズだ。だから……」

 スカリエッティがそう言うと、その身を変化させる。
 ダークグリーンの体色に、緑色の三本角。
 肋骨の継ぎ目辺りには奇妙な形の石が現れ、肩や腕からは非常に鋭利な突起物が。
 背中には二本の紅い巨大な触手のようなモノが生え、その瞳もまた紅で染まっている。

「……だから思いっきり、暴れられるよ……?」
「……【イクスード・ギロス】。まさか、自分の身体を改造していたとはね……!」
「当然だよ?人体実験をするのなら、まずは自分で試さないとね……どんな危険があるか、分からないし……」

 身体強化魔法を展開する。
 同時に距離を取り、戦闘態勢を整える。
 スカリエッティラボでのボクの戦闘が、今始まった。























 ――ズシャァァァァァァッ!!

 二本の紅い触手が迫る。
 微妙にタイミングをずらして迫ってくるソレらは、まるで触手自身が意思を持っているかのよう。
 ソレらを何とかかわしたところで、一気に間合いを詰めてくるギロス。

 ズンッ!と重いパンチが鳩尾に入り、思わず咳き込んでしまう。
 身体強化魔法を掛けているのに、この威力。やはり一筋縄ではいかないらしい。
 グッと脚に力を籠めて、ギロスから距離を取る。

「……大したモンだね?正直、少し見縊ってたかも……」
「……何。この身は科学者でね?本職の戦闘者なら、もっと上手く闘えると思うよ……?」

 ……嘘こけ。
 ただの科学者が、力を底上げしただけでこんなになるか。
 コイツも鍛えしモノ。その事実は確認できた。

「……しゃーない。ならコッチも、使わせてもらうとしよう……」

 既に腰には、銀色のバックルが巻かれている。
 あとはそのバックル上部のボタンを押し、バックルカバーを前に倒すのみ。
 コレで準備は完了。

「……どうせボクなんか……ハァ。オヤジたち見たいな光にはなれないよぉ……」

 ネガティヴオーラを結集し、【アル】モノの召還を促す。
 来てくれよぉ……。
 この光り輝く、悪役を倒すためによぉ……。

 ――ビョン、ビョン!

 地面を跳ね回る音と共に、一体のバッタが現れた。
 否。バッタ型のセクターだ。
 全体的に長方形のようなカタチをしたソレは、中央部に大きな紅いボタンのようなモノがあり、ソレが往年のマスクドライダーを思わせる。

 ――ビョォォォォン!

 ひと際高いジャンプで、ボクの手に飛び込んでくるセクター。【ホッパーセクター】。
 レジアスのガトックに比べる低スペックで、結構オミットした機能が多いけど、ソレでもボクには十分。
 その代わりに装備されてる、ジャッキの方が魅力的だしね?

「……変身」

 短くそう呟くと、この身はマスクドライダーに変化する。
 全身をメタリックなグリーンで覆い、バッタを意匠として取り込んだマスクは、どこか古臭くも感じる。
 両肩には尖った突起があり、瞳の色は真紅。

 そう。
 ソレらの特徴は、目の前のギロスとも共通するモノだった。
 パッと見は全く似てない者同士。だが細部は、驚くほど似ている。まるでソレは、ボクと目の前の漢のよう。

「……どうして待ってくれたんだ?てっきり、変身中に攻撃されるとばかり思ってたんだが……?」

 浮かんだ疑問。
 ボクの変身中、スカリエッティは腕を組んで待っていただけ。
 コチラの警戒を読んだからか。それとも……?

「……お約束中の攻撃……【アレ】は、死ぬほど痛くてねぇ……?まさか!と思ったタイミングでやって来るから、精神的にもツラいんだよぉ……」
「……やけに、実感籠もってるように聞こえるけど……もしかして、経験者か?」
「…………何。昔、黄金龍との合体を邪魔されたことがあってねぇ……」
「…………そうか。大変だったんだなぁ……?」
「……うん」

 幾ばくかの同情をし、何とも言えない空気の中、ボクらは再び戦闘に移る。
 ギロスの攻撃を交わし、迫ってくるヤツに対して、ボクはジャンプして上空から攻撃。
 ……いける。左足に付いたジャッキは、コイツの動きに付いていける。

 第二ラウンドの開始だ!












 中将日記EVOLUTION-R



 相対するのは親友。
 相対するのは巨大な刃。
 今目の前にいるのは、間違いなく【ゼスト・グランガイツ】だった。

 理由は分からない。
 シズカの言うように洗脳かもしれないし、本人が言っていた名前の部下を、人質に取られたからかもしれない。
 だが如何なる理由があっても、今この場が変わるわけではない。

 いつもと同じ面子の闘いなのに、いつもとは全く異なった【戦闘】。
 向こうはスカリエッティが強化したデバイスを駆り、コチラはシズカの新造したデバイスで挑む。
 C3-Xとは違い、全てが自分の望むようにガトック。

 だがソレでも強化されたゼストの動きを捉えることは叶わず、苦戦を強いられる。
 策はある。
 そして、その為の手段も存在する。
 
 チャンスは一度。通用するのも、恐らく一度だけだ。
 ベルトに固定されたセクター。
 クワガタムシをモチーフにしたソレは、当然の如く二本の角がある。

 ――ガシャン。

 その二本の角を若干開き気味にし、装甲をパージする準備をする。
 ……まだだ。
 向こうが最大限接近してきたその瞬間こそが、コチラの最大のチャンスなのだから。

 あと十メートル。
 残り五メートル。
 そして……一メートル!

 ――ガシャァァァァンッ!!

 装甲を強制排除し、目の前に居たゼストを弾き飛ばす。
 出来た隙は一瞬。だが一瞬あれば、自分にとっては十分だ。
 装甲の下から出てきた、新たなスーツ。

 クワガタをモデルにしたマスクには、大きな二本の角に紅い瞳。
 全体を蒼で彩られたそのスーツには、両肩に二振りの湾曲刀がマウントされている。
 両手を身体の前で交差し、両肩の双刀を手に取る。

 その双刀でゼストの大型刃を跳ね除けると、相手には大きな隙が出来た。
 今の内に他の武装も無力化しようとすると、自分とゼストの間を縫うように何かが走る。
 ソレが来た方向を見ると、緑色のマスクドライダーが居た。

 【イクスード・ギロス】。
 アギt○の劇中に出てきたその姿のまま、ソイツはそこに存在していた。
 先程の攻撃は紅い触手のモノ。中身はスカリエッティのようだ。

 ――ブォォォォンッ!

 紅い触手が、今度はゲンヤとクイントの間を割って入る。
 何がしたいんだ?
 生じた疑問は、このすぐ後に答えを理解した。

「さて……我々も忙しい身の上でね?申し訳ないのだが、そろそろお暇させてもらうよ……?」
「……まさか!」

 一瞬で離脱し、スカリエッティの下に現れるゼストとクイント。
 更に次の瞬間にはスモークが焚かれ、視界はゼロとなった。
 煙が晴れた時には既にスカリエッティはおらず、ゼストとクイントもまた存在しなかった。

『……クソッ!!』

 重なる声。
 シズカとゲンヤ。それに、自分の声が一致した。
 想いは同じ。必ず、アイツらを助けてみせるという、決意までもが一緒。

 長い長い闘い。
 その幕開けが、今静かに行われたのだった。






 ゲイズさんちのオーリスちゃん【四】

 ティーダとレジアスが、今日は極秘任務。
 よって、お互い一人になってしまったオーリスとティアナ。
 オーリスの提案により、ティアナがゲイズ家にお泊りをすることになった。

 父が作り置きした料理を温めようとするも、焦がしてしまいそうになるオーリス。
 見かねたティアナが代わり、何とかありついた夕食。
 ……美味しかった。二人で協力したからか、その料理は酷く美味しく感じたようだ。

 食後は二人で風呂に入り、身を寄せ合うように二人で就寝。
 互いにそれぞれの家族を想い、今日という一日が終わりを告げた。







[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 17
Name: satuki◆b147bc52 ID:42599fb1
Date: 2009/06/19 00:04



 戦闘機人ラボの強制捜査から、もう八年の月日が経った。
 未だにゼストとクイントは戻らない。公的には死亡扱いとされた。
 勿論、ボクたちは彼らの生存を知っている。

 だが生きているとバレると、厄介なこともある。
 だから死者として戸籍が葬られた。
 同じように、ずっと意識不明なティーダ。彼も公的には死亡扱い。
 
 地上本部の医療棟に搬送された時、既に彼は半分死者だった。
 スカリエッティの施した治療が良かったようで、辛うじて命を繋いでる状態。
 それ以来一度だけしか意識が戻らず、今も眠り続ける毎日。

 ただその一度の目覚めで、彼の意思を確認出来た。
 完成したCストーン一号機を利用した、意思を持ったロボット。
 そのスーパーAIの人格データに、彼の人格を移植すること。ソレを願い出てきたのだ。

 ブレイブロボ一号。
 フェラーリをモチーフにした、覆面パトカー。
 ソレから変形する、隠密機動隊所属の【勇者】。

 ――【ヴォルヴォッグ】。

 ソレが彼の生まれ変わりの名前だ。
 以来【彼】は、スカリエッティの動きを追う為、日夜働き続けている。
 ……とは言っても、いつ目覚めるともしれない状態であることには変わらないので、オーリスやティアナが良く見舞いに行っている。

 ちなみにティアナやオーリスは、彼の人格が移植された【彼】を知らない。
 普通に考えれば、会う機会がないのは当然のこと。
 故に彼女たちが【彼】の存在を知るのは、まだ先のことであった。

「……機動六課ぁ?」

 ココは地上本部のボクのオフィス。
 【壊す・治す(直す)・生み出す】の三つが出来るボクは、異例の出世を遂げて現在【准将】。
 ……と言っても、コレは正規の方法で偉くなったワケではない。

 一旦教会の上級騎士となってから、管理局入りをする。
 そうすると、カリムのようにかなり高位の役職になれるのだ。
 つまりは裏技。

 一生懸命真面目に頑張ってる人々には悪いんだけど、コッチにも都合があるんだ。
 その辺は勘弁して欲しい。
 ソレにボク以上に出世したヤツが、ヴォルケンリッターには存在する。

 ボクと同じような手順で管理局入りし、現在は少将。
 ただ主より高い位に就くのを良しとせず、普段はその位を隠している。
 ソレはボクも同じで、普段の自分は一介の……何でも屋だ。




 八年。
 言葉にすると一言だが、その内容は一言では語れない。
 レジアスは大将に出世し、あまり現場に出てこられなくなった。

 だがゼストたちのことは極秘裏に調べているらしく、時々大将自ら違法建築物に調査に行っている姿を見かける。
 ちなみに帰った時には、ガトックセクターのアーマーが中破していることも少なくなく、相変わらず武者仮面なゼストと闘い合っているようだ。
 ……色々と突っ込みたいが、先に進もう。

 ゲンヤはニ佐に昇進。
 陸士一○八部隊の部隊長として、忙しい毎日を過ごす。
 だがコチラもレジアスと同じで、極秘裏にクイントの行方を捜査。

 これまた時々、違法プラントとかの強制捜査に赴き、帰ったらボロボロ。
 明らかにタービンの攻撃痕が残る腕を、非常に嬉しそうに見ていたりする。
 ……コレも突っ込みを入れたい。

 あとは、カリムくらいか。
 古代ベルカ式の使い手であり、夜天の王となったはやて。
 彼女の後見人を務めるようになるが……実質上は気の良いお姉さん。

 はやての新型ユニゾンデバイス、【リインフォースⅡ】。
 その開発援助をしたのは彼女……と、公式の記録ではそうなっている。
 しかし違う。本当に技術援助をしたのはボクであり、はやてが自らのリンカーコアをコピーしたこと以外は、全てボクの作業だ。

 ……何でボクは、いつのまにか【キワモノ】デバイスマスターになってるんかね?
 確かに、創るのは楽しいだけどね?
 今回のユニゾンデバイスは、その度を越していた。

 スーパーAIの人格を育てて、その実体化プログラムを組んだ方がはやいような……圧倒的なデバック。
 ボク自身、ユニゾンデバイスを組むことが初めてな上、確たる理論もなし。
 つまり、本当に一からのスタートなワケで……。

 あげく、向こうさんは待っていれば勝手に出来るモノだと決めつけ、完成までデバイス研究所に来ない始末。
 ザフィーラとカリムの励まし&差し入れがなかったら、とっくに投げていましたとも。
 あんまりにもムカついたので、リインフォースの根底プログラムに二つの機能を追加。

 【ボクとのユニゾン】と【CⅡモードへの変化】を可能にし、全ての作業が終了。
 あとの引渡しは、ザフィーラ立会いの下でやって貰う。
 つまりボクは、最初から最後まで八神家の連中とは会わないのだ。

 クックック……!
 可愛いマスコット的な少女が、気が付いたらドSのババァ口調に変化するようになる。勿論好物はピザ。
 ソレこそがCⅡモードである。……あ~、良い仕事をしたなぁ?




 ……さて、そろそろ現実逃避は終わりにしよう。
 話は冒頭に戻り、どうやら機動六課を成立させようという時期に来た模様。
 そこでボクに、機動六課への転属命令が下った。

 辞令を出したのはレジアス。
 大将直々のご命令なので、拒否権なんて上等なモノは存在しない。
 ……コレだからお偉いさんってヤツは。

 自分のことを棚にあげて、心中で悪態つく。
 コレくらいのことを思っても、罰は当たらない……と信じたい。
 レジアスからスッと差し出されたのは、何処かの見取り図。

 と言うよりも、コレはまだまっさらな土地だ。
 コレから何かの建物を建てるようだが……まさか、ココに機動六課の隊舎を建てるのか?
 視線を見取り図から上げて、レジアスの方へと向き直る。

「そうだ。ソレは、機動六課の隊舎を建てるために確保した土地だ……」
「……で?ボクにソレを見せて、どうしようってんだよ?」
「…………極秘裏、という程のモノではないが、我々も出向となる……」

 レジアスはボクの質問には答えずに、別のことを口にする。
 【我々】……?
 レジアスが行くだけでも問題だが、この他に誰を用意するって言うんだ?

「オレの他には、シズカ・騎士カリム・ザフィーラ……以上だ」
「…………ハ?なに、アンタ機動六課に戦争でも仕掛けに行くのか……?」
「……無論心配は無用だ。我々の目的は一年間の内定調査。故に普段の役職とは別の……つまりは変装していく」

 ……もうダメ。
 頭がフリーズどころが、強制シャットダウンになっちゃったよ。
 このオッサンが遠い。確かにいつも何考えてるんだか分からないところがあったけど、コレはないだろう!?

「……ザフィーラは、いつものように狼形態で。騎士カリムは寮母に化けて……」

 今更だが、管理局や教会の要職がそんなに集まって、何やってるんだと突っ込みを入れたい。
 でもまだだ。
 多分ボクの予想が正しいのなら、コレから先にも突っ込みポイントが待っているハズだ。

「シズカは食堂のチーフとして。そしてオレは……事務員だ」
「オォォォォォォイッ!?何処の世界に、こんだけマッチョなオッサン事務員がいるんだよぉぉぉぉっ!?」
「……問題ない。コレでもミッドチルダ文字検定や、簿記検定は共に一級だ。すぐにでも仕事が出来るぞ……?」

 違う。
 何かが決定的に違う。
 でも……ツッコミどころが多すぎて、どこから言ったら良いのかわからない。

「…………もしかしてさぁ~、ボクにその隊舎の設計をしろ……って言うんじゃないよね……?」
「?ソレ以外に、何があるって言うんだ……?」

 ……流石のボクも、建物の建築はしたことがない。
 先ずは専門業者の力を借りて……って、ちょっと待った。
 普通の隊舎を作るんだったら、何もボクじゃなくても良い。むしろ専門の業者の方が、良い仕事をするハズだ。

 なのにレジアスは、【ワザワザ】ボクに依頼をしてきた。
 コレには何か特別な理由がある。
 ソレこそ、通常の隊舎じゃ不味い理由が。

「……ねぇ。隊舎が変形しても、怒らない……?」
「……構わん。むしろ、もっとやれ……!」

 ……了解。
 そういうのをお望みなのね?
 だったらボクは、渾身の作品を創るとしましょうか……?




 ソレから一年後。
 機動六課は発足した。
 何が起こるか分からない、追加メンバーと新たな隊舎を得て。













 中将日記……改め、大将日記




 騎士カリムから出された予言。
 ソレは管理局全体を揺るがす、とんでもないモノだった。
 だがソレは、確実に起こるとも言えない代物。正規の管理局部署は使えない。

 故に我々は特別対策課を設置し、自らもソコに詰めることにした。
 ゲンヤだけが唯一別の仕事があった為に参加出来なかったが、他は概ね予定通り。
 ちなみに、ゲンヤの悔しそうな顔は忘れることが出来ない。

 ……伊達眼鏡を用意し、オールバックにしていた髪を下ろす。
 髪を下ろして外を歩くのは、妻がまだ生きていた頃以来だ。
 懐かしく思うと共に、一般陸士用の制服に袖を通す。

 これまた懐かしいモノで、昔ゼストと共に誓った理想を思い出す。
 ……ゼストよ。
 お前は今、何処にいるんだ……。







 ゲイズさんちのオーリスちゃん【五】



 今日は久しぶりに、ティアナと会った。
 彼女が陸士学校に入ってからは殆ど会えず、本当に久しぶりの再会。
 場所は地上本部医療棟。ティーダの見舞いで、バッタリ遭遇したのだ。

 一向に目を覚まさない彼。
 だが、いつ目を覚ましてもおかしくない状態。
 だからオーリスは、可能な限り見舞いに来る。あまり来れなくなった、ティアナの分まで。

 その帰り、二人はゲイズ家に。
 レジアスが作った料理を食べると、泣き出してしまったティアナ。
 その日ティアナは、少しだけ昔の自分に戻れた。






[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 18
Name: satuki◆b147bc52 ID:42599fb1
Date: 2009/06/19 00:03



 前回のあらすじ:機動六課、様々な問題点を抱えて発足。




 機動六課の隊舎から、こんにんちは。
 現在食堂のチーフをやってる、月村静香……一応准将です。
 結構な問題点を抱えたまま発進した機動六課ですが、今のところは順調です。

 何でバレないんだよ!?と、突っ込みを入れたいヤツら数名。
 彼らは極々普通に仕事をし、周囲からの評価も高いようです。
 男性職員たちには金髪の寮母が癒しになるらしく、女性事務員たちには頼れるダンディな事務員が人気の模様。

 ……何か間違っている。
 でも現実には、ソレはスルーどころか歓迎されているのだ。
 何だよ。このカオスフィールドは?

 あぁ、一つだけ順調とも言えない事態があったっけ?
 六課の開課式の前日、飛び入りで参加が決定した人物が居たのだ。
 その名は【リンディ・ハラオウン】。

 ライトニング分隊のフェイト・T・ハラオウン隊長の母親で、本人も時空管理局の提督様。
 次元航行艦【アースラ】の艦長を務めていた歴戦の猛者で、現在は孫までいらっしゃる方。
 ……どう見てもそんな歳には見えません。桃子さんとも良い勝負だ。

 そんな御方が、何故ココに配属することになったのか。
 最初はまともな理由だった。
 自分が後見人を務める部隊の、事前査察。というか様子見。

 だったのだが、何時の間にかカリムやレジアスと話が弾み、ならば自分もと言い出す始末。
 初めは不審なヤツらの監視かとも思ったのだが……このヒト、ノリノリで止められません。
 ココでオッサンが止めれば良いものの、「是非一緒に頑張りたいモノですな……」とか言い出した。

 ソコで話は終了。
 後に残ったのは、美人のウェイトレスさんです。
 ……管理局の食堂なのにメイドの格好をしているのは、ひとえに本人の趣味だ。断じてボクのせいではない。

 ボクが料理を作り、翠色の髪のポニーテールがソレを運ぶ。
 ……確認するよ?アレは殆ど変装してない、リンディ・ハラオウン。
 なのにだよ?どうして、娘にすら気が付かれないんだよ!?おかしいだろ!?























 一つ。また一つと、訓練場から花火が上がっていく。
 否。アレはそんな生易しいモンじゃない。
 高町なのは一等空尉による、【キラッ!高町なのはの残虐デストロイショー♪】の残照だ。

 ……ここ数日(六課が成立してから毎日)のことだが、フォワード陣の訓練を見るのが日課になっている。
 隊舎の屋上にテーブルを置き、提督ズが集まっての鑑賞。
 というか、お茶会モードだ。ボクの作ったクッキーに、カリムの淹れてくれたお茶。……良いねぇ。心が癒されるよぉ。

 ――ボォンッ!

 あ、また一つ花火が上がった。
 なのはの訓練方法に口を出すようなことはしないが、コレも内偵の一つなのだ。
 悪く思わんでくれよ?

 ――ボォォンッ!!

 最後の花火が上がったところで、訓練は終了。
 あとは反省会を行うのだ。
 ソレが彼女の特訓方法であり、ここ数日で見慣れた光景。

「(……さすがは魔王だねぇ?あの圧倒的なスペック。とても一回撃墜されたとは思えないよ……?)」

 数年前になのはは一度、【堕ちた】のだ。
 原因はガジェット四型の攻撃を受けたかららしいが、ソレだけが原因ではない。
 蓄積された疲労……その他云々。

 医者的見地からすれば、ベッドに括り付けてでも拘束したい相手。
 ちなみに、この時彼女の思考パターンを研究するために【あるコト】をした。
 ソレはティーダに施したモノと同じ、スーパーAIへの人格コピー。

 二体作成し、別の観点から彼女の性格を分析しようとしたのだが……。
 一体は、素直で無邪気な性格に。
 もう一体は、冷静でややリアリストの性格になってしまった。

 現在は、この二体にヴォルヴォッグのように身体を与えるか考え中。
 もし身体を与えるのなら、第二・第三の勇者ロボとし、合体機能を加える予定。
 元々一つのモノを二つに分けたので、性格の融合は難しくない。しかし……。

「(第二の魔王……残虐性を考慮すると、コッチは冥王とでも言っておくか……)」

 シミュレートの結果、合体後の性格は【非常にクール且つ冷酷、無慈悲に敵を倒す性格】になってしまった。
 ……何故だ?もしかしてコレが、高町なのはの本性なのか……?
 多分違うと思うので、取り敢えずこの計画は中止。現状維持だ。

 とにかく諸説色々とある【高町なのは式訓練法】だが、別にそんなに問題があるようには見えない。
 ……だって御神の剣士の鍛錬はあんなのの比じゃないし、レジアスたちの模擬戦から見てもアレは生温い。
 現に横で見ているレジアスやザフィーラは、ちゃんと見てはいるモノの、何処か退屈そうだ。

「……ま、訓練は問題なし……にしても良いね。レジアス、事務の方はどうだった?」
「特に問題はない。ただ若干気になるのは、若者言葉が書類に混じっていることがあるくらいだ……勿論訂正させてはいるが」
「……許容範囲だね。カリム、みんなの部屋には不審物とかはないよね?」

 寮母として活動しているカリム。
 その仕事には、部屋の掃除や洗濯なども含まれる。
 勿論自分でやると言う人間もいるが、忙しくて頼む人間が多数の模様。

「……そうですね。危険物の類はありませんでした。ですが……」

 仕事モードな彼女は丁寧語。
 なのに語尾が強くなっているところを見ると、何かしらの問題がある様子。
 一体どんな問題があったのだろうか?

「……ヴァイス陸曹・グリフィス陸准尉の部屋から……いかがわしい書物や電子媒体を発見。きちんと机の上に置いておきました……」

 所謂【母の愛】が発生したワケですね?
 潔癖……というのとはちょっと違うが、騎士カリムと言えば教会の箱入り娘だ。
 あまりそういうことには、免疫がないのだろう。

「……ですが、その二人はまだましな方でした……」

 マテ。
 その二人がマシって、他にどんな猛者が居るって言うんだ!?
 まさか実はエリオが超早熟で、その二人を上回るコレクションを……ないない。

「…………はやての部屋から……殿方同士で……その……な本の原稿が……」

 ……うん。
 ソレは泣きたいよね?
 大切な妹分がそんなモノを生産しているなんて知ったら、普通はそんな反応をするよ。

「……良し。八神はやての評価項目に、記念すべき一回目の×を……っと」

 六課内での初めての×が部隊長。
 ……色々な意味で、新機軸な部隊だな。
 斬新過ぎる。

「そんで、食堂は概ね問題なし。ただ一点……スバルとエリオが食い過ぎで、予想よりも食費がかさみそうだけど……」

 スバル・ナカジマ。
 ゲンヤの下の娘で、【アノ】究極怒濤のウェディングケーキを食べ尽くした、三人の内の一人。
 つまり大食い。

 彼女が六課に配属されると聞いて、食費の充当もしたのだが……思わぬ伏兵がいた。
 エリオ・モンディアル。フェイトの被保護者で、将来有望そうな少年。
 実は彼も、スバルには及ばないものの大食いだったのだ。

「……子どもたちは成長途上。身体が欲しているのだろう……追加予算を組むとしよう……」

 そう言うと、端末を取り出して操作するレジアス。
 恐らくメールで、地上本部に伝えているのだろう。
 ご苦労なこって。













 大将日記エクステンド




 機動六課の一日が終わり、皆が寮に帰っていく。
 だがまだだ。
 我々の仕事は、ココからが本番なのだ。

 殆ど人が来ない資材搬入用のエレベーター。
 そのタッチパネルに掌をのせ、次に網膜パターンを照合。
 最後に、声紋と暗号チェックを兼ねたモノ。

 コレが最終関門だ。
 このチェックさえ通れば、後は地下の【秘密基地】に自動でエレベーターが移動する。
 さて……暗号だ。ソレさえあれば、その扉は開くのだ。

「……我ら勇気あるモノ!その拠り所とするモノは、【気合】・【根性】・【努力】なり……!」

 エレベーターの機動音が変わり、高速エレベーターモードに移行する。
 地下二十階。
 ソコこそが、我々の真の仕事場である。







 ゲイズさんちのオーリスちゃん【陸】



 レジアスが機動六課に出向してから数日。
 ゲイズ家は腐界と化していた。
 理由は勿論、オーリスが散らかしたため。

 いつもはレジアスが片付けてくれる。
 だが彼は……今は居ないのだ。
 そう思い出し、一念発起して片付けようとするオーリス。

 しかし何処から手をつけたら良いのか迷い、明日にしようと考え直す。
 ……さて。いつになったら、この家は片付くのだろうか?







[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 19
Name: satuki◆b147bc52 ID:42599fb1
Date: 2009/06/19 00:03


 前回のあらすじ:提督ズの悪巧みは、着々と進行中。




 スカリエッティの保有戦力は不明である。
 ゼスト・クイントは当然のこと、【アノ】スカドランのようなロボットが居ることは確実。
 ならばコチラにも、ロボットが必要である。

 一号ロボである【ヴォルヴォッグ】は、純粋な戦闘には向かない。
 彼の本分はあくまで偵察であり、本格的な戦闘をするには幾つか機能を足してやらないといけない。
 まぁ、ソレはまた後日の話。今の問題は、この四号Cストーンをどうするかだ。

 【四号Cストーン】。
 この度生成に成功したモノで、順調に行けば【四号ロボ】に組み込む予定。
 しかし……この四号ロボットが曲者なのだ。

 スーパーAIを搭載しつつも、その運用には人が操縦する必要がある。
 ライオン型マシン【ギャレノン】から変化し、人型で戦闘を可能にするモノ。
 【ガオヴァー】。ソレがこの、四号ロボの正式名称である。

「……ダメだぁぁっ!パイロット候補がいないよぉ……!?」

 特殊な機体。特殊な操縦方法。
 並のパイロットではダメだ。
 溢れるパワーに、鋼のような肉体。そして何より……。

「……オヤジーズに匹敵する【根性】の持ち主……普通、いないって!」

 六課の隊長陣は最初から除外。
 彼女たちはどちらかと言うと、根性とは別のモノで動いている。
 唯一。その中でも【根性】という気骨を持ったモノは、あの【デカハンマーの幼女】だけ。

 だが彼女にしても、このシステムのパイロットは難しいだろう。
 何かが違う。
 何処がどうとは言えないけど、何かが違うのはハッキリしているのだ。

「あとは……まさかフォワード陣に任せるわけにも……」

 肉体・精神・根性。
 そのどれを取っても、フォワード陣は隊長陣に及ぶことはない。
 つまりは失格。戦闘スタイル的にはゲンヤが一番近いのだが、彼は別の仕事で離れられない。

 彼が最適。しかし彼は居ない。
 なら彼に近いモノをピックアップして……アレ?
 ……居た。彼の戦闘スタイルに近く、ある意味【根性】の持ち主。

 姉と共にクイントのリボルバーナックルのコピーを持ち、肉体・根性は申し分ない娘。
 ただ一つ。【精神】が気がかりだが……。
 最悪の場合は、レジアスの権限でゲンヤを呼び寄せよう。権力っていうのは、こういう時に使うものだしね?

 さてと……五号Cストーンの生成を急ごう。
 コレを搭載したデバイス。
 ソレこそが勝利の鍵と成り得るのだから。























 今ちみっ子たちは、デバイスルームに居る。
 ソコで新たに作られた専用デバイスを手にし、コレからの事態に備えるハズだったのだが……。
 実はココで、原作と違うことが起きているのだ……現在進行形で。

「ハイ。エリオとキャロのデバイス……外見は一緒だけど、中身は別物だからね?」

 シャリオからデバイスを受け取ったのは、ライトニングの二人だけ。
 スターズの二人は今回、デバイスを受け取っていない。
 というよりも、彼女らに与えられる程のデバイスを作れなかった、と言う方が正しいだろう。

 スバルのリボルバーナックルはクイントのコピー。
 そしてマッハキャリバーは、クイントのブーツの複製からタービンをオミットしたモノ。
 つまり、作成者はボク。持てる限りの力を費やしたので、まだまだ酢飯娘には負けませんぜ?

 ティアナに与えられたデバイスは、ティーダのデバイスのコンセプトを次いだモノ。
 耐魔力コーティングをしたクロスミラージュに、右肩にマウントされたライフル型ストレージデバイス――【CNスナイパーライフルⅡ】。
 コレは平時は二つに折れて持ち運ぶので、障害等にも邪魔はされない。

 管制AIには、ティーダから引き継いだ【バロ】。
 本当は、CNスナイパーライフルⅡの開発はしない予定だった。
 まだティアナにははやいし、バロすらもサポートさせない。

 そうして自力を作ることが必要だと、ボクは考えたからだ。
 だが、コレに待ったを掛けたのはヴォルヴォッグ。
 ヤツはコレらの必要性を説いた上で、この上でまだ武装が必要だとほざきやがった。

 流石にコレ以上は、ティアナが潰れる方が先だ。
 武器は多ければ良い、というモノでもない。
 仕方無しに折衷し、現在に至るというワケだ。

 しかしあのロボット、明らかにティーダそのものだ。
 妹を心配するがあまりボクに武装作成を頼んできたり、非番の日はティアナをコッソリ盗撮する日々。
 ……良いのかなぁ……?

 ――ヴィーッ!ヴィーッ!!

 隊舎中に響き渡る警告音。
 至る所の空間ディスプレイがアラートと書かれた紅い画面に変わり、緊急事態の発生を知らせてくれる。
 そう言えばスッカリ忘れてたけど、フォワードがデバイスを受け取った直後に初出撃だったっけ?






 フォワード陣が出撃。
 隊長二人が空でガジェットⅡ型を制し、地上の列車を止める。
 概ね原作通りの展開だ。このままで行けば、解決までにそうは掛からないだろう。

 ……って油断してるとガブっと喰われるのは、古今東西の掟。
 今回もその例に漏れず、アイツらはやって来た。
 列車を停止し、ガジェットも確保。

 そんな気の緩んだタイミングを狙って、別の車両がやって来たのだ。
 三百系のぞみをモチーフにした、黒い車両。
 四百系つばさを基にした、黒色がかった銀色の飛行機。

 ソレらより一際大きくて、明らかにSLをデザインとして参考にした、大型車両。
 更には紅い飛行物体がおり、ホバリングで空を飛んでいる。
 ……オイ。今度はアレかよ?向こうさんも、良い趣味してるよなぁ……?

 テーマソングが若干流れた後に完成する、敵さんの合体機体。
 スピーカー越しで聞こえてきた名乗りには、変態ドクターと聞いたことのない声が。
 ……その初聴きの声の方が棒読み口調なのは、やはり無理やりやらされているからなのか?

『黒い翼に殺意を乗せて、灯せ不幸の赤信号!』
『……悪者特急ブラックスカガイン、定刻破ってただ今到着……』
『到着♪到着♪』

 訂正しよう。三番目の声は非常に楽しそうだった。
 まだ誰か乗っていたらしい。
 やる気のない声が【一番】だとすると……【四番】か【六番】辺りかな?

 ――ガシャァァァァンッ!!

 周りに爆風と轟音を与えながら光臨する、その巨体。
 決めポーズをやったりする度に地響きが起こり、ソレは停止させた列車にも害が及ぶ。
 ちょうどその屋根で被害を捜査していたティアナ。当然の如く、屋根から放り出されてしまった。

「きゃぁぁぁぁぁっ!!」

 落ちるティアナ。
 ソレを救ったのは、すぐ近くで隠れていたヴォルヴォッグ。
 御丁寧にも、ステルス機能を使ってのご登場だ……タイミングを見てとしか思えん。というか、実際に見てたしね?

「……アカン。あたし、寝ぼけてるみたいや……?悪いんやけど、ちょう昼寝してくるわ……」

 皆が静止するのも聞かず、作戦司令室から退出してしまうはやて。
 気持ちは分かる。でもアレは現実だ。
 ちゃんとソレと向き合わないと、局員失格だぞ?……ということで、彼女に二つ目の×を与えよう。

「(……しかし、一体どうしようかねぇ?地下のアレはまだ完成してないし……)」

 【ギャレノン】はまだ、ロールアウトしていない。
 その制御デバイスすら完成してないのだから、どう頑張っても無理。
 ならば第二案だ。

「……フッフッフ!【こんなこともあろうかと】……!!」

 科学者が言ってみたい台詞の、TOP3にはランクインする名台詞。
 この時のために用意しておいて、本当に良かった。
 準備が無駄にならないっていうのは、凄い嬉しいことなんだよ?

 ――カシャン。

 左手にブレスレットを装着し、中央部にあるボタンを押す。
 恐竜の頭をモチーフにしたそのブレスは、あたかも口を開けるかのようにスライドする。
 その下から出てくるのは液晶画面。空間ディスプレイが跋扈する世の中だからこそ、こういうレトロなのが良いんだよ?

「カリム、レジアス、ザフィーラ……それにリンディ!」

 共有チャンネルで、全員に一斉に呼びかける。
 呼びかけを聴いた皆は、それぞれが引き締まった真顔になる。
 皆分かっているのだ。この後にボクがいうであろう、その台詞を。

「全員作戦司令室に集合!……ただし、格好はそのままでね?」
『了解!』

 一斉に駆け出す一同。
 ほぼ同時に到着し、作戦司令室の扉を開ける。
 中にあったのは混乱。指揮官が不在なのだ。ソレはある意味仕方のないことだ。

「みんな、席について!」

 メイド姿のリンディが、慌てふためく陸士たちを一喝する。
 ソレを聴いて、落ち着きを取り戻す彼ら。
 ただ、何でただのメイドに従わなければならないかは……本人たちにも不明のようだが。

「全員の着席を確認!リンディ、いけるよぉ!!」

 ボクたちも含めて、全員が着席した。
 何時の間にか席が増えたことについては、訊いてはならない。
 コレもお約束の一種なのだよ。

「えぇ!……【ダイノーズ】、出動!!」

 左手のブレスレット。
 その中央部のボタンを押し、スクランブルを掛けるリンディ。
 ボタンが押されたことで隊舎が承認を確認し、至る所に分割線が走る。

『な、何だぁぁぁぁぁぁっ!?』

 通常の隊員が驚きに満ちて叫ぶ間にも、隊舎はどんどん変化していく。
 何故か作戦司令室にある、掃除用具ロッカーや個人用ロッカー。
 イスに座ったままボクたちはソコに押しやられ、それぞれが別の場所に運ばれていく。

 移動中のダクトの中では、これまたそれぞれが割り当てられたスーツを装着していく。
 紅いスーツを着たレジアスは、真紅のカートに乗って移動。
 蒼いスーツを着たザフィーラは、プテラノドンを模したバイクに跨る。

 黄色いスーツを着たカリムはサイドカーの側車に乗り、白いスーツを着たボクがそのバイクに乗った。
 やがて皆が目的地に着き、この六課が変形したジェット機の操縦席にボクが座る。
 蒼い巨大な翼を持った、白いジェット機――【ダイノージェット】。

 コイツに乗っていけば、現場まではあっと言う間だ。
 ……良し。コレもまた、ボクの夢の一つ。
 レジアスから隊舎を変形させて良いと訊いてから、ずっと考えていたアイディア。……あぁ、叶って良かったなぁ……♪

 操縦中の考え事は禁物。
 事故の元に為りかねない。
 故に、コレからは真面目モード。さぁ、さっさと行きますか……!













 大将日記真説



 シズカから召集が掛かり、ダイノージェットを発進させる自分たち。
 対スカリエッティのロボット用に準備してきたモノは、未だ完成には至っていない。
 仕方無しに、我々が出撃することになった。

 ゼストたちは対ロボット戦の経験があるが、自分たちにはソレがない。
 文字通り、初のロボット戦だ。
 何が起こるか分からない。気を引き締めていかなければ……。

 ……そう言えば出撃直前に、

「あぁぁ!あたしの隊舎が……!!」

 とか叫ぶ声が聞こえたが……もしかしてアレは、八神ニ佐のモノだったのだろうか……?






 ゲイズさんちのオーリスちゃん【漆】



 いつもと同じ、ティーダの見舞い。
 ……だと思ったのだが、今日は彼の様子が変だった。
 別段意識を取り戻したワケではないのだが、それでもいつもよりも穏やかな顔。

 夢の中でティアナにでも会えたのだろうか……?
 そんなことを思いつつ、持ってきた花を活けようとするオーリス。
 今まで成功したのは、百回やっての一回のみ。

 成功率一パーセント。
 足りない分はガッツで補う……ことは出来ず、結局今日も看護士さんにしてもらうことに。
 ……次こそは。そう決意を新たにするオーリスだった。







[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 20
Name: satuki◆b147bc52 ID:42599fb1
Date: 2009/06/19 00:03



 前回のあらすじ:ダイノーズ、出動。



 ブラックスカガイン。
 その名前は、現在機動六課前線メンバーに恐怖を与えるモノだった。
 その圧倒的な巨体。ソコから繰り出される、驚異的なパワー。

 木偶ではないことを証明する、その小回りの効き具合。
 武装はパッと見、剣しかない。
 しかしその重量から繰り出される攻撃は、振り下ろされるだけで脅威であり、隊長陣を欠く新人たちには荷が重過ぎる相手だった。

 空には大量のガジェットⅡ型。
 スターズ・ライトニングの両隊長はその相手から抜け出せず、新人たちの救援にまわることは不可能。
 つまりは絶体絶命。正真正銘のピンチである。

「……ど、どうしよう!?こんなの訓練じゃあ、やってないよ!?」

 新人四人組の中では、ムードメーカーとして認識されるスバル。
 いつも天真爛漫で猪突猛進。
 良く言えば大物ちっくで、悪く言えば馬鹿っぽい。

 だが彼女のような存在は、いつの時代も周囲に影響を与えるモノだ。
 アイツならきっと何かしてくれる。
 そう思われる存在。

 ソレがムードメーカーというものである
 その役割に任ぜられたモノは、周囲に影響を与える――故にその存在が諦めなければ、皆にはソレが希望に見える。
 逆に言えば――ムードメーカーが諦めたら、ソコで絶望が押し寄せるのだ。

「……なのはさんたちは空から離れられないし、チビ竜でもアレは無理っぽい……スバルじゃないけど、コレは…………」

 相棒の意気消沈につられてか、フォワードリーダーのティアナの気持ちも下降する。
 こんなモノを相手にするには、隊長たちでも無理かもしれない。
 自身の冷静な部分を恨めしく思いつつも、彼女の頭脳が止まることはない。

 彼女はムードメーカーにはなれない。
 ソレは、彼女自身が一番良く分かっていることだ。
 だがそれでも。彼女の諦めの悪さはスバルにも負けないモノ。

 いや……。
 ソコだけを比較するのなら、もしかするとスバル以上かもしれない。
 諦めたらソコで路は閉ざされる。

 小さな頃から苦労してきた彼女からすれば、ソレは文字通り未来に関わることだった。
 故に諦められない。
 まだ兄が目覚めていないのだ。兄が起きたら、一番初めに【おはよう!】と言ってやる。ソレが自分に課した誓いなのだから。

「……そうよ。あたしは諦めない!お兄ちゃんにもう一度、【おはよう!】って言うまでは……!!」

 瞑目。そして開眼。
 CNスナイパーライフルⅡを展開し、狙撃モードに移行する。
 バロに演算を任せ、自分はただ……狙い撃つのみ。

「……狙うとしたら、関節の継ぎ目か外部カメラ……」

 まともじゃない相手を、まともに相手してやる必要はない。
 正面切って闘えないのなら、どうすれば相手を無力化させられるかを考える。
 そうなると狙いは決まってくる。装甲の薄い場所か、あとは外の様子を見るための【目】。

「……どっちも効かない可能性が高いけど……それならあたしは、アイツの関節を潰してやる……!」

 確かに目の方がダメージはデカイだろう。
 だがソレは同時に、針の穴を通すような技量が必要だ。
 静止目標ならいざ知らず、相手は移動目標。そこを狙うのは難しいだろう。

 ならばダメージは浅くても、面積が大きい方が狙いやすい。
 それにもしかすると、小さなダメージでもその関節の一部分は、無力化出来るかもしれない。
 大きなパーツは、小さな物質が集まって出来ているのだ。

 その小さな物質一つ取っても、大きなパーツに取っては重要であり、死活問題となる。
 ターゲットを確認。
 敵巨大兵器の膝の裏……その関節部のパイプ。

「ランスターの弾丸は、どんなモノにも負けたりはしない。だから…………」

 バロに制御を任せ、彼女はライフルの引き金に指を掛ける。
 目標がコチラに振り向く前に、片を付ける。
 はやく。はやく……!マーカーが重なるのを固唾を呑んで待ち……その瞬間が訪れた。

「だから…………狙い撃つわ……!!」

 光が一閃。
 その一瞬の後のあったのは、小さな小さな穴。
 だがソレで十分だった。ブラックスカガインの動きは鈍り、前に倒れそうになる。

 そう……【前】に倒れそうになるのだ。
 ソコには呆然としているスバル。
 声を掛けただけでは、きっと間に合わない。

 駆ける。駆ける。
 一瞬のロスさえ惜しく感じ、もっとはやく走れない己を恨む。
 あと一歩。そして到達。

 しかしその瞬間、相手の巻き起こした振動により、列車は大きく揺れる。
 当然彼女は車上から投げ出され、スバルと共に谷底へのダイブをすることに。
 スバルはウイングロードを展開して助かったが、ティアナには宙を浮く手段はない。

 模索する。
 でも、該当する手段がない。
 クロスミラージュのアンカーを打ち込もうにも、谷の側面との距離がありすぎる。

「ティアァァァァァァッ!!」

 パートナーの叫ぶ声。
 ソレを他人事のように聞きながらも、諦めることはしない。
 諦めない。絶対に諦めてやらない。最後の最後まで足掻いてやることこそが、己に課せられた唯一のモノと信じて。

「…………アレ?あたし、落ちてない……?」

 空中で静止するティアナ。
 飛行魔法の類は使えないし、土壇場で使えるようになる程、魔法は甘くない。
 ならば何故。その答えは、虚空から聞こえてきた。

『良くがんばっ…………失礼。最後まで、良く頑張りましたね……』

 その声と共に現れたのは、紫色のロボット。
 全体的に暗い色を主体に使い、忍者の鎖帷子のような装甲。
 額に走るのは十字手裏剣。

「……ア、アンタは…………一体、何……?」
『……私の名前はティ……【ヴォルヴォッグ】。貴女たちの味方です……』

 Cストーン搭載の勇者ロボ、その【第一号】。
 ソレが彼の生まれであり、身分証明でもある。
 彼は今、【妹】の危機を救い……そしてアイカメラで盗撮中である。

「……さぁ、真打の登場ですよ……?」

 自身が何をやっているのかをおくびにも出さず、彼は空を見上げてそう言った。
 大空を舞うように登場したのは、【アノ】白いジェット機。
 そう、【ダイノージェット】と呼ばれるモノだった。























 何か結構な間が空いたような気がするけど、きっと気のせいだろう。
 別にボク不在でも話は進むし、あんまり影響はない。
 ……拗ねてなんか、ないからね?そんなこと、きっとないからね?

「シズカさん、分離よっ!」
「……了~解。【ダイノーフォーメーション】!!」

 ジェット機が三つに分割される。
 一つは大空を翔る、蒼きプテラノドン。
 パイロットも、蒼き守護獣。

 二つ目は、紅きステゴサウルス。
 地を堂々と歩むその姿は、まんまレジアスのようだ。
 当然、ヤツが操縦者。

 最後。白いブラキオサウルス。
 コレを操縦するのがボク……ではなく、教会騎士のカリム様でござい。
 ……つまりボクの出番は、現地までの移動のみ。……あ。あと戦闘中の分析もやるからね?そんなに哀れまないでよ!?

『コレはコレは……!良く来たね、エ~っと…………』
『……ダイノーズ』
『あぁ!良く来たね……ダイノーズの諸君!!』

 リテイク。
 スカリエッティは、様式美を護る漢なのです。
 ソレは以前の彼の発言から分かること。故にこのやり取りは、大事なことなのですよ。

『(……ブラックスカガインは現在、あの少女に受けた傷が元で稼動に制限が出てる。今がチャンスだよ……?』
『(……ソコまでお約束を護るか……良いよ?ソッチがOK出すんなら、今回コッチの苦戦シーンは無しだ!)』

 ロボット越しだというのに、申し合わせたような意思疎通。
 良く似たモノ同士だからこそ分かり合える、この感覚。
 そして、非常に良く似たモノ同士だからこそ理解し合える、その信念。

「ザフィーラ!今のうちに、合体だ!」
「……心得た。【ゴウダイノー】、根性合体……!!」

 コンソールから蒼い端末を取り出し、決められたコードを入力する。
 コレは合体後のロボット、そのメインパイロットを務める、ザフィーラの仕事。
 コマンドの受信を受け付けた、各恐竜型ロボットが変形を始める。そう……合体のための変形を。

 ――ンギャァァァァァ!!

 恐竜の叫び声のような合成音が響き渡り、三体の恐竜が三つのパーツに変化する。
 白きブラキオが脚になり、紅きステゴが胴体に。
 残った青いプテラが腕部と翼を構成し、ココに合体は成る。

 白い身体。金色の角と胸当てには蒼い宝玉が填め込まれ、大きく突き出た両肩のパーツ。
 スラリとした体型に、引き締まった鋭いマスク。
 ……完璧だ。コレ以上の再現度は、例え変態ドクターでも無理だろう。

『……ソレが【ゴウダイノー】……。相手にとって、不足はない……!!』
『……抜かせぇぇ!!』

 ザッフィーが主人公してます。
 本編で目立たないのの鬱憤を晴らすが如く、今の彼は大変生き生きしておりますです、ハイ。
 色々と武装はあるのに彼得意の肉弾戦になってるのは、この際目を瞑ってあげましょう。

 本来のスペックで言ったら、多分向こうさんとコッチの差はそんなにないハズ。
 強いていうのなら、武装の数と飛行能力の有無。
 ソレぐらいの差しかないのだ。

 でも今は、相手がフルボッコ状態です。
 理由は、さっきティアナが攻撃した場所のせい。
 脚の駆動系をやられたので、文字通り脚が止まっているのだ。

『……一気に止めだぁぁぁぁ!!』

 何処からともなく出現する紅い盾。そして同じく現れる、紅い鍔を付けた金色刀身の剣。
 一瞬恐竜が現れて、ソレらを咥えていたような気が……多分気のせい。
 そういうことに、しておきましょう。

 ――グォォォォォォッ!!

 【何か】の叫び声がし、直後に炎のカーテンのようなモノが敵を拘束する。
 バインドなんかとは違う、もっと熱い別のモノ。
 その中を通って、ザフィーラ……じゃなくて、ゴウダイノーは敵に斬りかかる。

『ダイノー、マグロフィィィィィィッシュ!!』

 斬撃。
 そして爆発。
 直後に紅い脱出用機体が、飛行機雲を作って飛んでいく。

『おのれぇぇ、ゴウダイノーめぇぇぇぇっ!!』

 ソコまで律儀にやらんでも。
 敵ながら天晴れな精神を持った変態は、今日もお空を飛んでいく。
 ……さあ、決め台詞が待ってるぞぉ。

『根性最強!ゴウ、ダイノォォォォッ!!』

 ……ザフィーラは、すっかりゴウダイノーが気に入ったようです。
 唖然とするフォワード部隊を余所に、ボクたちはジェットで帰っていく。
 そう言えば全然触れなかったけど、ロングアーチの方々は分析の手伝いをしてくれてましたよ?

 どうして、こんなことをしてるんだろう?
 自分たちは一体……?
 とか言いたげな表情で埋め尽くされる司令室。

「皆、お疲れ様。コレでも飲んで、一服しましょう?」 

 そう言ってメイドリンディが皆に差し入れたのは、かの有名な【リンディ茶】。
 本人はあまりの美味さに意識を失うと思っているが、実際は……。
 まぁ、良いか。結果は同じだし。

 飲んだ人の意識を失わせて、記憶をトバす。
 証人の記憶隠滅には最適だ。
 本人は純度百パーセントの善意でやってるだけに、多少心苦しくはあるが。

 白い雲を突き抜けて、見えてきました我らの六課。
 予備の隊舎パーツを収容し、ダイノージェットを元の位置に戻す。
 後はオートで隊舎に戻るから、コレで一安心。

 この後は……まずは反省会からだなぁ……。













 大将日記Z



 初出動を終えて、隊舎に帰還した自分たち。
 いや。隊舎に帰還という言い方はおかしいか。
 隊舎は先程まで、自分たちと共に闘っていたワケなのだから。

 この後は反省会をするだろうが、その前にハーブティーと今朝はやくに作ったシュークリームを用意した。
 疲れている時は、糖分とリラックスが必要。
 いつも騎士カリムやシズカにやらせていては、コチラとしても申し訳なさ過ぎる。

 ところで……先程から食堂の隅でのの字を書いているタヌキは……一体どうすれば良いのだろうか?







 ゲイズさんちのオーリスちゃん【八】



 花を活けようとして失敗した先程。
 看護士さんにいつもの通りやって貰い病室に戻ると、さっきまではなかったモノが。
 ソレは、ティアナのドアップ写真。

 意識不明の重体になるまで彼は、良く妹の写真を撮っては自慢していた。
 そんな彼の想いが天に通じたのだろうか?
 この不可思議な現象を、オーリスはそう結論付けることにした。

 後日になって、任務中(バリアジャケットを着用していたので判明)の写真が何故ココにあるのか。
 そのことに漸く気が付いたオーリスだったが……ソレは数ヶ月も先のことである。






[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 21
Name: satuki◆b147bc52 ID:340b814f
Date: 2009/06/19 00:02



 前回のあらすじ:ティアナ、狙い撃つ⇒シスコン兄、ソレを盗撮する。



「みんな揃ったところで、反省会を始めま~す。司会はこの人、機動六課の癒し系【カリム・グラシア】が……」
「……シズカさん……?何故、私に話を振るんですか……?」

 小首を傾げようが笑みを浮かべようが、その声のトーンはいつもよりも低いモノ。
 つまり騎士カリム様はご立腹のようです。
 適当に誤魔化しても見破られるので、仕方がないので本当のことを言いまっしょい。

「……んーとね?その……メンドくさいから…………ウソ、ウソ!冗談だからね!?」

 無言のプレッシャーから放たれるのは、質量を持った殺気。
 この女、出来る!!……とか思わせる、トンでもない圧力がボクをズタボロにする。
 折角本当のことを言ったっていうのに、こんな扱いは酷いや……とか思うのは、やはり不味いんだろうね?

「……そうですか。それでは、さっさと始めて下さいね?コチラにも、寮のお掃除とかが残っているので……」

 納得。
 カリムの機嫌が悪い理由は、ソレだったのか。
 いつもは結構ノリ良く付き合ってくれる彼女だが、ソレは最優先事項がない時に限る。

 恐らく彼女の中では、この反省会も大事なのだが、寮の掃除の方が優先順位が高いのだろう。
 出撃したことによって、隊舎の至る所が要掃除の対象になっている現在。
 今から始めても夜までは掛かりそうな、その度合い。……正直考えてなかった。本当に済まんですたい。

「……ゴメン。それじゃ、サクっと終わらせるから…………まずは被害報告」

 ゴウダイノー系は特に問題なし。通常メンテナンスも既に終了済みだから、再び出撃が掛かっても大丈夫。
 ……とは言っても、そんな状態にはあんまりなって欲しくはないが。
 次はフォワード陣の被害報告。

 皆、肉体的には問題なし。
 ただ精神面に問題が出ている。
 あんな非常識な展開に遭い、そして巻き込まれたのだ。何かしらの影響が出ない方が問題だ。

 スバル・ナカジマ。
 任務中に絶望感を感じ、そのせいでティアナを喪いそうになる。
 結果的に無事で済んだから良かったものの、軽いトラウマになる可能性アリ。

 この前言っていた、精神面の甘さが露呈したカタチになるな。
 次はティアナ。ティアナ・ランスター。
 彼女は特に言うことなし。

 最後まで諦めずに頑張る姿勢と言い、狙撃のポイントと言い、むしろ良くやった方だ。
 フォワードリーダーとしての自覚でも出てきたのか。
 それとも原作とは違い、ティーダが存命なのが影響を与えているのか。とにかく、かなりの高評価だ。

 エリオ・モンディアル。
 ガジェットⅢ型を撃破。
 その前にⅢ型に崖に放られるも、キャロとフリードのフォローで救助され、そのままの勢いでⅢ型に向かう。

 キャロ・ル・ルシエ。
 先述したエリオの項目でもあるように、バックスとしての役割を果たす。
 ライトニングの二人は、互いを補うことで任務を達成。

 ソレには、自分たちの能力を冷静に分析出来ていることが含まれている。
 出来ることと出来ないことの区別。コレが出来ている人間は強い。
 さらにその上で、【何をしなければならないか】ということを理解しているので、この二人は理想的なパートナーと言えるだろう。

 ということは、新人たちへのアプローチで早急に行わなければならないのは、スバルだけだ。
 彼女には新型デバイスのこともあるので、コチラとしても接触するつもりだった。
 つまり、一挙両得。なるべくはやくに、話をするようにしよう。

 今度はサポートメンバー。ロングアーチのことだ。
 指揮官が不在になるという異例な事態に戸惑いつつも、何とか奮戦した彼ら。
 特にゴウダイノーのサポートは、不慣れなのにキチンとこなしていた。ソレは評価すべき点だ。

 そして……隊長陣。
 正直、どう評価したモノか困る。
 というのも、ガジェットⅡ型の相手から離れられなかったからだ。

 並の魔導師ならば、ソレは仕方のないこと。
 だが彼女たちはエースだ。
 並の魔導師と同じでは困る。

 戦力的には格下のティアナが奮戦したのだ。
 両隊長には、もっとキバって貰わないと困るのだが……。
 やはり難しいところだ。

 彼女たちは入局十年と言われているが、本業として専念出来るようになってからは、そんなに経っていない。
 当たり前だが、百戦錬磨の猛者とはワケが違う。
 ただ魔力量が多くて、ちょっと実戦経験が多いだけの……普通の少女。

 おっと。このままだと本局の批判になってしまうから、この話題は一旦終わりにしよう。
 最後にタヌキ……じゃなくて、八神はやて。
 彼女の所有デバイス【リインフォースⅡ】は任務中、優秀な上官として職務を全うしていた。

 故に、リインを育てたはやての功績は評価すべきだ。
 ……でもなぁ?
 戦闘中に現実逃避は頂けない。あげく、指揮を放棄するのも不味かった。

 まだ若いから、伸び幅があることは想像に難くない。
 ゲンヤが育てたこともあるっていうだけあって、基礎はキチンと出来ている。
 とりあえず……あの、ギャグ体質をどうにかしよう。

 多分ソレさえなければ、優秀な人材なんだろう。
 きっとそうだ。そうに違いない。
 ……そういえば彼女、×が二つあったっけ?コレが五つまで貯まったら……さぁて、何をやらせようかねぇ?























 機動六課が海鳴へ。
 翌日にカリムからその話を聞いた時、ボクは真っ先に居残り組に立候補した。
 ……だって里帰りですよ?

 【アノ】妹が待つ我が家へ、帰らなければならない。
 ソレは……何かの罰ゲームか何かかい?
 姉上様がいる時なら良い。何だかんだ言いながらも、姉とそのメイドが助けてくれるからだ。

 だが今の月村家には、すずかとそのメイド――ファリンしか居ないのだ。
 主人の望むことを実行しようとするのが、メイドの仕事。
 ファリンの主人はすずか。ボクはその次以下。

 ……姉~さ~ん、カンバァァァァァァック!!
 ドイツで恭也とウフフ、アハハな生活してる場合じゃないだろぉぉ!?
 と、いうワケでボクは帰らない。帰ってたまるかってんだ。

「……という訳で、シズカさん。貴方に現地の案内をして欲しいのですが……」
「…………マテ。行くのは六課のメンバーだろ?内偵に何人か同行するにしても、リンディがいるじゃないか!?」

 リンディは現在海鳴在住。
 何年も戻っていないボクに比べると、明らかに今の姿を知るモノだ。
 どう考えたって、彼女の方が案内には適している。

「それがね?はやてさんたちは、アリサさんに活動拠点を用意してもらうみたいなの。つまり……」
「……内偵用の拠点を、アイツらには内緒で月村家からも出せと……?」
「そう。あの子たちにバレると不味いのよ……お願い出来ないかしら……?」

 美人っていうのは、その存在自体が詐欺だと思う。
 孫がいるような歳にも見えないし、その悲しそうな顔一つで異性を動かすから。
 卑怯者め。でも抵抗出来ない自分がいる。その存在が、相手の策士さを一段と高く見せている。ちくせう。

「わかった、分かったから……!」
「ありがとう、シズカさん。きっとそう言ってくれると思ってたわ……!」

 あ~あ。
 どうしてボクは、人の頼みを断れないんでしょう?
 ノーと言える日本人。ボクはソレになりたい。

「そんじゃあ、さぁ…………どうせだし、全員で行こうよ?」
「……シズカ。無茶なことを言うんじゃない。そんなことをしたら、ミッドの平和はどうなるんだ……?」

 大将としては、ソレは最優先事項。
 んなことは分かってる。でもアンタを含めてココに居る面子は、そろそろ休暇を入れないとダメなんだよ。
 ソレが丁度良い機会だから今回を利用しようとしただけで、いつか休みを取ることには変わりないのだ。

「……ん、ふっふっふっふ!ダイジョブ、心配しなさんなって?お偉いさんって言うのは、こういう時のために居るんだから……」

 デスクの上の端末をいじり、【ある場所】への直通回線を開く。
 今日は折りしも定例会の日だ。
 三人とも揃っているから、話をつけるには丁度良い。

『……暗号を照会します』

 機械的なメッセージが聞こえ、一旦ソコでコチラからのアクセスが停止する。
 一応ボクたちよりもお偉いさんなので、最高のセキュリティが敷かれているのだ。
 ……でもなぁ?この暗号はないと思うのだが……。

『ジイチャン、バアチャン、ダイスキー』

 どう考えてもボクに割り当てられた暗号は、本人たちが言わせたい言葉だった。
 ちなみレジアスの場合は割りと普通なモノで、カリムの場合は『モウ、オジイサマト、オバアサマッタラ』だ。
 こんな暗号を考える人間が現最高権力者だとは……本部の未来は暗いかもしれないな。

『暗号を照会完了……月村静香准将と確認』

 ついでに言っとくと、最高評議会の方へのアクセスはもっと面倒だ。
 あんな脳みその集まりでも、【一応】陸と海のヒエラルキーのTOPだからね。
 ……アイツら最近、スカリエッティが開発した脳トレにハマってるらしいが……何やってるんだよ、オイ?

『おう。久しぶりじゃな、シズカ。元気にやっとるか……?』
『シズカ……最近顔を見せないじゃないか……?訓練室の調整を、そろそろして欲しいんだぞ……?』
『アラアラ。シズカちゃん、久しぶりねぇ……?今日はどうしたの……?』

 レオーネ・フィルス。
 ラルゴ・キール。
 ミゼット・クローベル。

 どう見ても老人会三人組だが、コレでもれっきとした管理局の生き字引。
 法務・武装隊・議会。その三つのカテゴリーのトップであり、かつて黎明期に大活躍した方々。
 多少代償を払うことになるが、この人たちを頼れば何とかしてくれるだろう。

「いやね?六課の連中が地球――管理外の第九十七番に、ロストロギア回収任務に行くんだけどね……?」
『……内偵としてシズカたちも行くことに、か……?』
「ん。そんでね?レジアスだけが、残るってきかないんだよぉ……」
「オイ、ちょっと待て!何で、そういう話になるんだ!?」

 隣でレジアスが何か言ってるが、気にしない。
 じいちゃんばあちゃんは、さも面白いことを見つけたとばかりにコチラを見ている。
 レジアスをからかうことにかけては、彼らの右に出るモノはいないのだ。

『ソレはいけないなぁ、レジー?』
『全くだ……団体行動は大切だと、昔から散々言ってきたじゃないか……?』
『まぁまぁ。レジー坊やも、まだまだ若いってことで……』
「御三方……!!」

 ホレ見ろ。
 ボクなんか、まだまだだ。
 はやくあの領域の住人になりたいモノだ……。

『まあ、話は分かった。シズカ。今度の休みに、訓練室の調整を頼む。重力三百倍に挑戦したいんだ……』
「OK!お安い御用だよ」
『レオーネと私は、地球の紅茶とコーヒーを希望するわ……最高のモノを頼むわね?』
「あいよぉ!任せてちょうだい♪」

 こうして、ボクたちの海鳴行きが決まった。
 向こうでの拠点は、ボク個人の所有物件を使おう。
 そうでないと……妹に見つかるかもしれないしね……?







 ……あ。スッカリ忘れてたけど、向こうには【零号Cストーン】があったんだっけ?
 あんまりにも生成に時間がかかるから、放置してきちゃったけど……もしかしたらアレ、出来てるかも。
 開発するだけして放置してきた【零号Cストーン】と、四号マシンのプロトタイプ。

 サポートメカは向こうで完成済みだし、もしかしたら四号マシンの完成を待つ必要はなくなるかも……。
 一応、コントロールユニットのデバイスを持っていこう。
 あと四号マシン用のCストーンも、念のために持って行けば……。

 ソコまで考えると、ボクは急いで準備に取り掛かる。
 地球にあるというロストロギア。
 ソイツに対して、万が一の場合には必要になるかもしれないから。

 そうならないことを祈りつつ、ボクは四号ロボットの方へ走っていった。












 あとがき

 >誤字訂正

 俊さん。保管庫までワザワザ着て頂いてのご指摘、誠にありがとうございました!!



 >今回の大将日記・ゲイズさんちのオーリスちゃん

 指の動くままに大将日記を書いていたら、大将日記とゲイズさんちのオーリスちゃんだけで一話分に……!
 なのでソレを分割して、次回はまた特別拡大版をやります。どうぞ、お楽しみに(?)。







[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 22
Name: satuki◆b147bc52 ID:e7acb2bf
Date: 2009/06/19 00:02



 前回のあらすじ:レジー、地球行きが決定する。






 大将日記ZZ スペシャル拡大版



 管理外世界への出動。
 いや、実質上は休暇に近い。
 シズカに説得された三提督が、自分にも出向くように言い出した。

 確かに休暇は必要だが、六課を空っぽにしてどうするつもりなのか?
 実際は完全に留守にする訳ではないが、ソレでも前線メンバーが総出というのは不味い。
 そう考えていたら、【海】の【クロノ・ハラオウン提督】と【ギル・グレアム提督】がやって来た。

 彼らは六課の後見人を務めているので、ある意味妥当な人事だが……。
 そんなことを考えていると、私の正体を三老人から聞いてきたグレアム提督が、彼の使い魔を交えての模擬戦を申し込んできた。
 コチラは自分とクロノ提督。

 ここ数年の内に、何回もバージョンアップしたガトック。
 同じように、幾度も改良されてきたクロノ提督のデュランダル。
 ソレを知っているハズのグレアム提督は、一体どんな手で来るのだろうか……?

「見るが良い!シズカ君の改良を経て蘇った――いや、パワーアップした【メルドラ・ソフル】を……!!」

 グレアム提督が若き日に使っていたとされる、【メルドラⅤ】。
 まだインテリジェントデバイスの開発が模索段階だった頃。
 単一機能に特化したデバイスを複数使用し、あらゆる状況に備えていた昔の話。

 そんな中、普段は五つのデバイスを使用し、窮地になったらソレらを合体させて闘っていたモノが居た。
 その漢の名前は【ギル・グレアム】。
 つまり、グレアム提督の若き日の話だ。

 もっとも、時代が進むにつれて旧世代デバイスと化した【メルドラⅤ】。
 彼が魔導師の現役を退いた時、そのデバイスも役目を終えた。
 以来、その姿を見たモノは居ない。

「(……その時代遅れとも言える往年のデバイスが、シズカの手によって改良されていたとは……!)」

 使い魔との繋がりが強くなればなる程、彼らのデバイスはその輝きを増す。
 今ソレは最高潮に達し、デバイス共々黄金に光り輝く彼ら。
 あの輝きこそが、彼らを伝説に昇華させたのだ。

「(……相手にとって、不足はない……!)」

 クロノ提督にエターナルコフィンを準備してもらい、其方への警戒を強めさせる。
 その間に自分はバイクに跨り、相手の後方へ出る。タイミングを合わせての、クロノ提督との同時攻撃。
 ソレ以外の小細工は無用。……というよりも、ソレ以外の攻撃は……あの老獪なグレアム提督に効くとは思えない。

「エターナル・コフィンッ!!」

 クロノ提督の攻撃が始まった。
 アレが老提督たちに到達する瞬間に合わせて攻撃するため、コチラもバイクをホバーへと変形。そして上昇させていく。
 同時にガトックの装甲はパージされ、素早い動きが可能になる。

『…………アン・ドゥ・トロワァ!』

 ガトックセクターのスイッチを三連打し、パワーを解放する。
 開放されたソレは、スーツに沿って片脚に集結。
 そして準備が整った。

「ウォォォォォォッ!!バイカーキィィィィック!!」

 ガトックのパワーを最大限に利用した、ジャンプ最高点での回し蹴り。
 蒼い稲妻のような軌跡を残すそのキックが、グレアム提督に吸い込まれて…………何!?
 重さに直すと何トンにもなるという、【バイカーキック】。ソレを……素手で弾いただと!?

「……若いな、レジアス提督……!」

 光り輝くその身体。
 その腕から放たれる、金色の一撃。
 ソレはエターナルコフィンすらも打ち砕き、一瞬にして我々の鳩尾に吸い込まれていった。

「……ゴハッ!コ、コレが…………【勇者グレアム】の力なのか……!!」

 青年提督は今の一撃でダウン。
 残るは自分のみ。
 ……負けられない。相手が例え歴戦の勇士であろうとも、負けるワケにはいかないのだ……!!

「……良い気迫だ。君になら、【勇者】の称号を継いで貰えるかもしれないな……!」
「その言葉は…………貴方に勝った後に、もう一度聞かせてもらいますよぉぉぉぉっ!!」

 空間が爆ぜる。
 光が二人の間に収縮していく。
 銀河の誕生と共に起こる、ビックバン。

 まさにその情景を模ったような、今の光景。
 グレアムと彼の両肩にいる猫リーゼの複層バリアが展開し、一歩、また一歩と後ろへ押し戻される自分。
 届かない。届かない。踏み出せば届きそうなこの距離が、今の自分には果てしなく遠く感じる。

 またなのか?
 ゼストをいつも取り逃がしてしまう自分。
 力が足りない。どうしてもあと一歩が足りないのだ。

 何が足りない?
 どうしたら、この一歩が埋まるというのだ!?
 暴風が吹き荒れ、目を開けていられなくなる。

 思わず瞑ってしまったその瞳は、何も映し出していなかった。
 真っ暗な、ただ暗くて黒い景色。
 見えない。見えるハズがない。だが何か聞こえる。何かが聞こえる。この声は……。

『父さん……花の活け方を教えて欲しいんですが……』

 オーリスの声だ。
 いつまでも手の掛かる、最愛の娘。
 ティーダに最初に花を貰った時の、懐かしい思い出。

『あの、父さん。あの飴玉の作り方を……教えて欲しいんですが……』

 つい、ティーダとティアナに嘘を言ってしまった時の話。
 頑張ったが結局ばれてしまい、落ち込んでいた娘。
 だが娘の頑張りを見ていると、自分も何か心に去来するモノがあった。

 何だ……?
 一体、何を感じたというんだ……?
 ただ暗い景色を進み、ソコに一筋の光を見つけた。

『……あなた。オーリスを、頼むわね…………?』

 !?
 そうか。
 そうだったのか……。

 分かったぞ。
 何故グレアム提督が、これ程までに凄いのか。
 彼は魔法が上手いのでも、速度が速いのでもない。

「(彼は…………【強い】のだ。彼を支える使い魔や、彼自身が歩んできた路が……彼を【強く】しているのだ!!)」

 ならば自分が負けるハズがない。
 彼を支える使い魔がいるように、自分には亡き妻とオーリスがいる。
 シズカが作ってくれたガトックもある。相手と条件は同じなのだ。



 …………!!



 ソレに気付いた瞬間、世界から徐々に色が抜け落ちてきた。
 フルカラーから四色刷りの世界に変わり、周りの動きが遅く感じるようになる。
 ソコにはグレアム提督がいた。コレが彼の居た空間。コレで条件が本当に五分になったのだ。

『ついにココまで来たのだね……?』
『……ココは一体……?何故貴方と話が出来るのですか……?』

 現在は模擬戦という名の、【血戦】の真っ最中。
 だが【ココ】では非常に緩やかに時が流れ、感覚が非常に研ぎ澄まされる。
 まるで時間も空間も超越したような、そんな感覚だ。

『私は便宜上、【ゼロ・テリトリー】と呼んでいる……』
『ゼロ、テリトリー……』

 鷹揚に頷く老提督。
 その目には様々なモノが映し出されているようで、彼は何処か昔を懐かしむ様子でもあった。
 やがてグレアム提督はコチラに向き直ると、覚悟の籠もった瞳を自分に向けてきた。

『ココは私の領域だ。だからココでは私に、負けはない……』
『…………』
『だがそれでも……それでも私に勝ちたいと言うのなら…………ココを、【ゼロ】を超えて挑んで来たまえっ!!』
『…………!!』

 レースに例えるのなら、最終コーナー直前。
 お互いが死力を出し尽くして回る、最後の曲がり角。
 力と力というよりは、根性同士のぶつかり合い。ココではソレが求められるのだ。

「私は両手で攻撃出来るが、君は脚での攻撃……つまりは一撃のみ!コレで…………私の勝ちだぁぁぁぁっ!!」
「(…………クッ!?)」

 グレアムの指摘通り。
 ジャンピング回し蹴りであるレジアスの攻撃は、連続して撃つことが出来ない。
 それにバイカーキックは、片脚のみにパワーを集中させるモノ。仮にもう一撃放てる体勢になっても、パワーが……。

『…………アン・ドゥ・トロワァ!!』

 !?
 ガトックセクターが、独りでに動き出した。
 もう残っていないハズのパワー。ソレがもう一度集結し、自分の脚に満ちていく。

 ……お前は最高だ。
 最高の相棒だ。
 この目の前の【最強】を倒せと、援護してくれるのだからな!!

「バァァイカァァァァァァ……………キィィィィィィィィックゥッ!!」

 迫る拳。
 ソレを装甲一枚でかわし、コチラの一撃を叩き込む。
 装甲一枚。たったソレだけの差であり、その差が勝敗を分けたのだ。

「…………見事だ。人の執念、見せて貰った……」
「……ありがとうございます……」
「……おめでとう。今日からは、君も【勇者】の仲間入りだ……!」

 【勇者】は特別な存在ではない。
 【勇気】がある、全てのモノがそう呼ばれるのだ。
 だから胸を張って頂こう。その【勇者】という称号を。

「……ありがとう、ございます……!!」

 彼らになら、六課の留守を任せられる。
 自分たちと同じ志を持つ彼らなら……。
 そう考えて、ふと周りを見回すと…………クロノ提督のステーキ(ウェルダン)が、ソコにはあった。







 ゲイズさんちのオーリスちゃん【九】



 最近ティーダの病室で、おかしなことが立て続けに起こっている。
 突然ティアナの写真が現れたり、いきなりティアナの様子を収めた映像が流れ出したり。
 念のため病室を変えてもらうも、また同様の出来事が起こり出す。

 それと関連して、その時にティーダの唸る様子が確認された。
 普段は反応一つ見せない彼。
 だがその不思議現象が確認された時のみ、ウンウンと唸りを上げる。

 医者も不思議がるが、意識が戻る可能性が高くなっていることも、また事実だと言っている。
 結局考えても解決しないので、放置することにした。
 それよりも、自分にはやらなければならないモノがある。

 ソレは……花を活けること。
 この山は、いつも自分の行く手を遮るのだ。
 今日こそは乗り越えてみせる!

 ……と意気込んだのだが、バラの棘が刺さるという大失態。
 バラの棘は花屋で処理して貰える。
 ソレをオーリスが知ったのは……六課が解散した後のことだった。












 あとがき

 >誤字訂正

 俊さん。毎度ご指摘いただき、本当にありがとうございます!!








[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 23
Name: satuki◆b147bc52 ID:171dad2f
Date: 2009/06/19 00:02


 前回のあらすじ:レジアス、勇者になる。




 とうとう、地球に行く日が来てしまった。
 この日を一日千秋の想いで待って……るワケがない。
 むしろ、転送ポートの故障を願った程だ。

 行きたくない。
 往きたくない。
 ボクを逝かせないで。

 現実は無情である。
 転送ポートの具合は通常を通り越して、快調モード。
 現地の天気も快晴。天はボクに、何か恨みでもあるのだろうか……?

「シズカさーん!準備は出来ましたか~?」

 自室の扉を、ウキウキ気分で叩くカリム。
 彼女は非常に楽しみにしている組で、ボクはその逆。
 ……というか、ボク以外には多分楽しみじゃない組はいない。

 あのレジアスでさえ、最初の渋った様子は何処へやら。
 この機会に地球のレシピと材料、調味料などを調達するつもりらしい。
 ……オイ。お前は何処のコックだ……?

 現在の本職がコックのボクを差し置いて、彼は料理ハンターになるようだ。
 その内、彼が【メイド害】に進化してしまうんじゃないかと、ただただ心配だ。
 ……やめよう。今鮮明に想像出来てしまった映像は、忘却の彼方に葬り去ろう。

「シズカさーーん?」
「……ハイ、ハイ。分かった、分かったから……」

 ボクの(ある意味での)人生が、今日幕を降ろすことになるかもしれない。
 仕方がない。覚悟を決めるしかないようだ。
 だってボクには、元々選択肢なんてあってないようなモノなのだし……。

「シズカさん、遅いですよ?出掛けに【水竜】と【火竜】に挨拶していくって、言ってたじゃないですか……?」
「あー。そう言えばそうだったね?……あんがと。忘れるとこだったよ……」

 【水竜】。そして【火竜】。
 その二つの名前は、新たな勇者ロボの名前……になるかもしれないモノ。
 というのも、その二体はまだスーパーAIの調整中だからだ。

 元々は、ちっとも働かないニート騎士に仕事を与えることが目的だった。
 でも、闘い以外はダメっ子動物な彼女。
 正直処遇に困った。

 ソコで考えたのが、スーパーAIへの人格移植への協力。
 曲がりなりにも、騎士で将な彼女。
 その思考パターンをコピー出来れば、優秀なロボになるかもしれない。

 そう考えての研究。
 そして実行された実験。
 その結果……起動するのも面倒だというダメAI、【火竜】が誕生した。

 流石にこんな事態は、ボクも予想出来なかった。
 困った。
 そんで悩んだ。

 悩みに悩んだ結果、ボクはある種の解決策を思い付いた。
 もう一つ同じタイプのAIを作り、ソイツに共振させて強制的に起こせないモノかと。
 丁度その時医務室には、ウェルダンな堅物青年提督の屍が。

 すぐさま人格コピーを始め、翌日にはスーパーAIが完成した。
 堅物兄ちゃんタイプのAI【水竜】。
 起動はコッチの方が若干ワザとはやくしたので、【火竜】は生まれた瞬間から兄が居ることになった。

「おはようさん。【水竜】、【火竜】」
『……おはようございます。月村博士』
『…………』
「……水竜。火竜はまた寝てるのかい?」
『……いえ。昨日の夜中から、【ネットゲーム】とかにハマっていまして……』

 人間臭いにも程がある。
 とりあえずこの駄ニートAI、もう少し……以上に様子を見ないとダメだな……。
 申し訳ない気持ちを抱きつつも、水竜に火竜を押し付ける。

「水竜、ひっじょ~に申し訳ないんだけどさぁ……」
『……分かっています。火竜の教育は、ボ……私が引き受けましょう』
「……別に【僕】って言っても良いんだよ?』
『……いえ。性分ですから……』

 筐体丸出しのスーパーAIの一方がネトゲにハマり、もう一方が尻拭い。
 ……ウン。コイツらに身体を与えるか、再考した方が良いな。
 なのは型AI【洸竜】・【暗竜】ですら、未だに身体がない状態。ついでに言うと、精神がまだ未成熟……先行きは思いっ切り、不安だ。

 コレじゃあ【電竜】や【嵐竜】なんて、夢のまた夢だよなぁ……。






















 六課メンバーが、無事月村家のトランスポートに到着した。
 ソレは、先行しているヴォルヴォッグから確認済み。
 あのポンコツロボは、休暇をとってまで地球に行こうとした。だから仕方なく、斥候に出させた。

 ロボットなのに、あそこまで嬉しそうに表情を崩すとは……当たり前だが想像出来るワケがない。
 ボディやら何やらの九十九パーセントはボクの設計なのに、残りの一パーセント。
 AIの中身が変態シスコンなだけで、あそこまでへんた……個性的なロボットになるとは……良い意味でも悪い意味でも予想外だ。

 まぁ逆に言えば、ティアナを含めた六課メンバーを監視し忘れるということもないのだ。
 今回ばかりは、助かった結果になる。
 何せボクは、表立って動きたくないからね……この【海鳴】フィールドの中では。

 なのはたちがアリサに用意してもらったコテージを出て、翠屋に向かった様子。
 ソレをボクたちは、ヴォルヴォッグから送られてくるリアルタイム映像で確認。
 段々密偵というよりは、盗撮ストーカーみたいになってしまった彼。

 ……アレ?
 コレは……涙……?
 ボク……泣いているの……?

「……シズカさん。泣きたい時は、思いっ切り泣いても良いのよ……?」

 違う。
 ソレ違う。
 ソレはこんなどうしようもない場面で使って良いような、安い台詞じゃないよ……!?

「そうですか……でしたら、せめて涙を拭いて下さい……」

 差し出されるハンカチ。
 騎士カリム様は気遣いの淑女です。
 人の優しさに触れたかったボクは、思わず差し出されたハンカチで涙を拭いていました。

 ……あ。ハンカチに香水の匂い。
 女の子って、こういうことするもんなのかなぁ?
 それとも、カリムみたいな良家のお嬢さんだけ?

「……ん。ありがと、カリム……」
「……どういたしまして」
「あ、ハンカチ……洗ってから返すね?」
「いえ。ソレは差し上げます。私は予備を持っていますので……」

 まぁ、人が使ったのは流石に嫌か。
 んじゃ、折角海鳴に居るワケだし……新しいの買ってプレゼントでもするかね。
 翠屋のクッキーとかを添えて渡せば、礼儀的にも問題ないハズだしね?

 ……この時ボクは、思いもしなかった。
 後に起こる異常事態への引き金。
 ソレを、このハンカチが引き起こすことになるとは……。







 久しぶりの翠屋。
 何年かぶりのその建物。
 見た目は全く変わっておらず、その事実が大事に使われていることを物語っていた。
 
 なのはたちはスーパー銭湯に移動中。
 だからボクたちは翠屋にやって来た。
 こうしてニアミスにしていけば、彼女たちの足跡を辿っても大丈夫……なハズ。

 それにボクとしては、海鳴に帰ってきたら必ず寄ると決めていた場所だ。
 菓子作りの師匠である、桃子さんに会うために。
 ……ついでに、士郎とかを揉んでやるために。

 ――カランカラン!

 入り口のベルを鳴らしながら、ボクたちは店内に入っていく。
 リンディは現在、六課のコテージで調理中。彼女はボクたちと違って、隠れなくて良いのでラクだ。
 フェイトの家族として会えば良いワケだしね。
 
「いらっしゃいませ~~!……って、アラ?静香ちゃん……!?」
「お久しぶりです、桃子さん!」

 久しぶり会った桃子さんは、以前と変わらず綺麗でした。
 とても子持ちとは思えない、その容姿。
 元気ハツラツとしたその動作。全然変わってないなぁ……。

「(……何なんですか。その礼儀正しい青年ぶりは……?)」
「(…………ボク、桃子さんの前では良い子で通ってるの!!)」

 カリムさんがボクに疑惑の視線を向けてきます。
 あぁ……貴女にそんな視線を向けられるなんて、初対面の時以来ですなぁ……?
 ……痛い。痛いよ。その真っ直ぐな瞳が、ボクのライフをオーバーキルにぃぃ!!

「(……シズカ。己を偽るのは良くないぞ……?)」

 レジアス大将様も忠告してきます。
 ボクは良い子なんだよ!!
 ……桃子さんの前限定だけど。

「(……ウッサイ!とにかく、ココではボクのこと……絶対にバラすなよ?)」
『(……条件付で可決)』

 レジアス……!

『(……否決)』

 カリムゥゥゥゥッ!!

『(……可決)』

 ……ザッフィー!!
 流石は、マイ心の友!!
 飲食店では、犬は立ち入り禁止。
 だから外で待っているというのに、念話で助けてくれるその健気さ!!

 ……ヤバイ。
 やっぱこのワンコ、めっちゃ欲しいわぁ。
 一日中肉球プニプニしたり、フリスビーキャッチをしたり……良いねぇ?最高だよぉぉ!!

「……静香ちゃん?どうしたの?すごい嬉しそうな顔して……?」

 おおっと。妄想してる場合じゃなかった。
 折角民主的に多数決で可決された、ボクの立場。
 有効に使わせてもらわないと……。

「それはもう、桃子さんに会えたからですよぉぉ!!」
「アラ。嬉しいこと、言ってくれるわね~?」



 …………!!



 瞬間的に、異常な程の殺気を感じた。
 狙いはボクのみ。
 次の瞬間に投擲されたのは……飛針だ!!

「桃子さん。今日は連れがいるので、ボックス席をお借りしますね?」
「えぇ、良いわよ!!ちょっと待っててね?すぐにお冷とか持って行くから……」

 サッと自然に身をよじり、何気なく飛針をかわすボク。
 お冷とメニューを取りに、カウンターの方へ走っていく桃子さん。
 コレで【剣士のボク】を見られることがなくなった。さぁ……懺悔の時間だよ!!



 …………!



 今度は鋼糸が。
 空気に触れる音からすると、恐らく四番。
 なら素手で掴んでも問題ない。

「…………フッ!」

 拘束用の鋼糸を右手で掴み、逆に相手を吊り上げる。
 相手もプロなので、普通は成功しない。
 でも今のボクは強い。例え【閃】が来ようとも、破ってみせる自信がある!!

「…………ぐあぁぁぁぁあっ!!」

 フィ~ッシュ!
 高町士郎、召し捕ったり!
 ……魚拓ならぬ人拓を取れないのが、残念で仕方がないが。

「……っつぅぅっ!!」
「…………士郎、久しぶりだねぇ?元気そうで何よりだよぉ……?」

 多分今のボクは、さっき桃子さんと会った時とは違う顔をしている。
 どれくらい違うかと言うと、五百四十度位違う。
 つまり正反対。般若とか羅刹とか、呼び方は色々あると思うけどね……?

「や、やぁ……静香さ……君。元気そうで何よりだ……」

 様とか付けたら、メンチ切り。
 外見上ソレは不味いからね?
 昔徹底させたハズなのに……忘れてたな?

「……それでぇ?今日ならボクに、勝てると思ったのぉ……?思ったから、仕掛けてきたんだよねぇ……?」
「い、いや!その……仕事が忙しいらしいから、鍛錬する暇がないんじゃないかと思って……!!」
「……確かに仕事は忙しいよぉ?……でもね?忙しすぎて、常に神速使わないとやってられないんだよぉ……!!」

 常に神速。
 普通は無理だ。
 神経的にも肉体的にも、無理に決まっている。

 だが人間は。
 必要に迫られれば、何でも出来るようになってしまうのだ。
 通常の食堂の仕事。リンディはウェイトレスだから、調理はしない。

 調理スタッフは途中まで……ボク一人だけだった。確かに六課は小さな組織だ。人員も少ないだろう。
 でもだよ?それでもあんな人数、一人で捌けるワケがないだろうに!!
 今は【お残しを許さない食堂のおばちゃん】が、追加で入ってくれたから良かったものの……。
 
 そして本業。
 秘密基地でのマシン&デバイス作成。
 コレもスタッフはボク一人。

 コレはアレか?
 【ジェバン2が一晩でやってくれました……】の真似をしろと!?
 明らかにイジメだろう!?

 それでも時は過ぎて行く。
 無常にも刻はその針を進め、ボクの時間を奪っていく。
 闘わなければ生き残れない!!まさにそんな状況だった。

「な、何だって~~~~!!ま、まさか……普段から神速状態になることによって、戦闘移行時での身体の負担を極小にしたっていうのか……!!」
「……まぁ、結果的には」
「…………クッ!完敗だ…………だが!!」

 目をクワっと見開き、再起動する士郎。
 どうしよう。コレが当代最強の御神の剣士だなんて、とても思えない。
 下手をすると、最盛期の最強軍団にも匹敵するんじゃないか?

「だが負けられない!!桃子は渡さん…………渡さんぞぉぉぉぉぉぉっ!!」

 凄い気迫だ。
 思わず一歩、後ろに下がってしまいそうになる。
 このオヤジも、何時の間にかヒトの壁を超越しようとしたのだ。

 ……喜ばしい。
 先達の剣士としては、後進の成長振りを見るのが一番楽しい時なのだ。
 だけど……ソコには誤解があるのだから、ソレは解いておかないとねぇ……?

「……士郎。盛り上がってるところ悪いんだけどさぁ?ボクは別に、桃子さんを恋愛対象として見てるワケじゃないからね……?」
「…………エ?そうなの……?」

 やっぱり誤解してやがったか。
 ボクの桃子さんに対する気持ちは、尊敬とかだ。
 後は……まぁ、母性に飢えてたんだよ。

 はやくに両親を亡くし、姉はあの通りの存在。
 如何に幾度もの転生の記憶があろうとも、やはり魂は肉体に引きずられるモノ。
 ボクもその例に漏れなかった、というワケさ。

「だからさ、とりあえず…………席に案内してくれ」
「…………畏まりました。お客様方、どうぞコチラへェェ……ッ!?」

 士郎の言葉が、変な所で驚愕のモノへと変化する。
 彼が見ているのは扉の向こう。
 一体何があったという……………………グハッ!!

「…………お兄ちゃぁぁぁぁん、見ぃぃぃぃつけたぁぁぁぁ?」

 ソコに居たのは……長く美しい髪を蛇のように逆立てた少女。
 紫がかった髪はボクとお揃いで、顔も瓜二つ。
 そう…………我が妹、【月村すずか】という名のモンスターが、ソコには存在していたのだ。













 大将日記V



 ソコには修羅が居た。
 それは比喩でも何でもなく、本当に修羅と見まごうばかりの猛者がいたのだ。
 その漢の名前は、【高町士郎】。

 あのエースオブエース・高町なのはの父親であり、自分と同じく魔法の才がないモノ。
 だが世界は広い。
 己の肉体と刀剣類だけで、あそこまでの領域に行けるとは……!!

 ココは管理外世界。
 故にガトックなどの使用は、緊急事態以外は避けなければならない。
 しかし挑んでみたい。異世界の技術によって支えられし、究極の戦闘。

 ……機会があれば、この漢とも闘ってみたいモノだな……。






 ゲイズさんちのオーリスちゃん【捨】



 あの不思議な現象が止んだ。
 ティーダの病室で起こっていた怪奇現象。
 ソレが今日、まだ一度も起きていないのだ。

 本来は喜ばしいこと。
 だが再び無反応になってしまったティーダを見ると、そうも言えなくなる。
 どうすれば良いのだろうか?

 何も考えられずにいると、ソコには今日持ってきた【ユリの花】が。
 気分を紛らわせるために活けようとするが……上手く位置が決まらない。
 何度もやり直す内に、気が付けば両手が花粉だらけに。

 もしやと思って鏡を見ると、やはりソコには花粉まみれの自分の姿が。
 我がことながら、笑ってしまう事態。
 仕方無しに、洗面室で花粉を洗い落としに行く。

 帰ってきた時、ソコには一枚の写真があった。
 ティアナの私服写真。
 それも、六課のメンバーと一緒に写っているモノだった。

 不思議に思いつつも、ソレ以上に心が温かくなる。
 オーリスはそう感じつつ、再びユリの花に挑むのだった。











 あとがき

 >誤字……というか、勘違いの訂正

 俊さん。毎度ご指摘いただき、本当にありがとうございます!!
 どうも、名前と実物が一致してなかったみたいでした。
 以後気を付けますです。






[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 24
Name: satuki◆b147bc52 ID:34578ed5
Date: 2009/06/19 00:01



 前回のあらすじ:逝くぞヤンデレ娘、狂気の貯蔵は十分か。



「お兄ちゃん、やっと見つけたよ!!」

 ソコに居たのは、長く艶のある美しい髪の少女。
 紫がかった髪はボクとお揃いで、顔も瓜二つ。
 そう…………我が妹、【月村すずか】という名の美少女が、ソコには存在していたのだ。






 …………アレ?
 何か前回の引きと違くない?
 もしかしてアレは、必要以上に警戒した、ボクの弱い心が作り出した幻覚?

「……?お兄ちゃん、どうしたの?」

 小首を傾げながら、可愛らしく聞いてくるすずか。
 ……素晴らしい。生きてるって、ソレだけで素晴らしい。
 さようなら昨日までの弱い自分。そしてこんにちは、今日からの清々しいボク。

「……あぁ、ごめんね?あんまりにも突然だったから、ちょっとビックリしちゃって……」
「もう……お兄ちゃんったら、相変わらずヒドいんだから……」
「ゴメン、ゴメン。アレ……?でもさ、何ですずかはココにいるの?」
「……私がココに来たらいけないの……?」

 そんな、上目遣い&涙目で訴えないで下さい。
 なのはたちとスーパー銭湯に行ったと聞いていたから、純粋に疑問に思っただけだよ?
 ソレを問うと、妹は花も恥らう女子大生のモジモジを見せてくれた。

「あのね……?なのはちゃんたちが帰ってきたじゃない……?だからもしかしたら、同じ管理局で働いているお兄ちゃんも……って」
「……何というアバウトさ。だけど結果的には、ケッコウ良い読みをしてたね?流石はすずか、昔から良いカンしてたからねぇ……?」

 兄妹でかくれんぼをした時。
 すずかはいつも、すぐにボクを見つけられた。
 そこには鋭い読みと、天才の持つカンがあったことは否めない。

「お兄ちゃんのことだもん。すぐに分かるよ……?」

 萌えっ子動物が居ます。
 我が妹ながら、この生物は一体何なんでしょうか?
 こんな娘を世に放っておくのは、とっても危険な気がします。

「そういえば、お兄ちゃん?今日はどうしたの……?管理局に入局してから、一回も帰ってこなかったのに……?」
「あー…………ソレは悪かった、ゴメン。謝っても済む問題じゃないって分かってるけど、ソレしか言えないや……」

 すずかを警戒していたせいで、ボクは海鳴はおろか地球にすら帰っていなかった。
 たまにビデオメールはするものの、ソレは一方的なモノ。
 相手からの返事が怖くて、連絡先を教えなかったのだ。

「……ううん。気にしないで?お兄ちゃん、仕事がすごく忙しかったんでしょ……?」
「…………ウン。【どっかの】上司とかが、全然休みをくれなくてねぇ……?」

 そう言ってボックス席に鎮座している大将殿に、半眼気味での視線を送る。
 ……あ。メニューの方に視線をずらしやがった。
 丁度良い。ついでだから、アイツらの紹介をしておくか。

 フロアーの隅にあるボックス席。
 ソコではレジアスとカリムが、対面するように座っていた。
 ならボクはレジアスの方、すずかはカリムの方に座らせてもらうか。

「ちょっと、ゴメンよぉ?レジアス、カリム。悪いんだけど、少し詰めて……?」
「あぁ。構わないが……ソチらのお嬢さんは、お前の妹さんか?」
「そ。それも含めて説明するから、とにかく座らせてよ?立ったまんまだと、お店に迷惑かけるし」
「……そうですね。さぁ、すずかさん?どうぞお掛け下さい……」
「あ、ありがとうございます」

 カリムよ。
 ココは聖王教会ではないのだよ?
 何でそんな、上から目線なのよ?

 如何に生粋のお嬢様と言えど、カリムの放つオーラには何かを感じたのか。
 我が妹は多少気後れしながらも、勧められるままにカリムの隣に座った。
 ……何というか。凄く不思議なモノを見た気がするな。























「そんじゃあ、すずか。パッパッと、自己紹介をば……」
「う、うん。私の名前は【月村すずか】……ソコに居る、静香お兄ちゃんの妹です……」
「……ソレだけ?」
「…………他に何を言ったら良いか、分からないよぉ……」

 そういえばウチの妹、昔は結構引っ込み思案だったよなぁ。
 ボクたちは普通の人間とは違う。
 だから夜の一族は、みんな人と関わらないように生きてたりすることが多い。その一部なのだろうねぇ。

「わかった、わかった。そんじゃレジアス、お願いね?」
「……分かった。オレの名前は【レジアス・ゲイズ】。管理局地上本部の大将で、シズカの上司をやっているモノだ。……君のお兄さんには、いつも世話になっているよ」
「た、大将さん……!?ソレって、すごく偉い人なんじゃあ!?」
「……大丈夫、大丈夫。こう見えてこのオッサン、炊事・洗濯・料理・その他と、プロ顔負けのオモシロパパだ。怖くないから、安心しなって……」
「……そうなの?何か、ノエルさんみたいだね……?」

 何か一気に親しみが湧いたらしい。
 キラキラした眼差しで、レジアスを見るすずか。
 対するオッサンは、非常に居心地が悪そうだ。

「次はカリムね?」
「はい。私の名前は【カリム・グラシア】。管理局では少将をやっており、私もシズカさんの上司をやっています。どうぞ、よろしくお願いしますね?」
「ハ、ハイッ!こちらこそ……!」
「……カリムは本来、別の組織のお偉いさんなんだけど……まぁ、兼業してるようなモノだと思えば良いよ……?」
「……お兄ちゃん。ソレって、そんなレベルの話じゃないと思うけど……」

 ニコニコと微笑みながら、ボクとすずかのやりとりを見ているカリム。
 自分とヴェロッサを重ね合わせたのか。
 それともシャッハとヴェロッサか。ともかく彼女の機嫌は、上々のようだ。

「オイオイ。リンディさんだって、あんな調子で【中将】なんだぞ?」
「エェ!?そ、そうだったの……?」

 いつも甘々なハラオウン提督様のことだ。
 そう見えないのも、無理はない。
 ……というかボクだって事実を知らなければ、あんなほんわか妖精の正体を読めるワケがない。

「シズカ……お前だって准し……」
「さぁて……!ココからは質問タイムだぁぁ!!」

 強引に話題を修正。
 ボクは一介の雑務係。
 ソレ以上でも、ソレ以下でもない。OK?

「そうですね……?それでしたら、昔のシズカさんのことでも……」

 騎士カリム様は、転んでもただでは起きません。
 今の彼女は猛禽類。
 獲物を捕らえることのみに特化した、非常に優れた存在なのです。

「昔のお兄ちゃん……ですか?」
「えぇ。私とレジアス提督は、八年前より昔のことは知らないのです。ですから、貴女の口からどんなお兄さんだったかを聴きたくて……」

 その言い方はズルイ。
 すずかは既に昔の記憶の引き出しを模索中だし、レジアスもソレを止めない。
 ……もしかして、さっき台詞を遮った仕返しか?







 ソレから数十分。
 桃子さんが注文したモノを持ってきてくれて、ソレを食べ尽くしても妹は話し続けていた。
 話題は昔、すずかとアリサが誘拐された時のこと。

 色々と尾ひれが付いているのは、すずかがソレだけ怖い思いをしたからだろう。
 何だかボクは、妹の中ではヒーロー染みたモノになっているな。
 ……そんなの、ガラじゃないんだけどなぁ……。

「あ。ボク、ちょっとトイレ……」

 居心地が悪くなったので、とりあえず戦略的撤退。
 少し時間をズラせば、ほとぼりも冷めるでしょう。
 そう思ってボクは席を立ち、バックヤードの方へ入っていった。

「桃子さ~ん。ちょっと良いですかぁ?」
「アラ、お友だちの方は良いの?」
「えぇ。今はボクの過去バナになってるんで、ちょっと逃げてきました」
「しょうがないわね~?」

 そう言いつつも、彼女は咎めることをしません。
 ほんわか優しいママさん。
 ソレが【高町桃子さん】なのですよ。

「……それで?いったい、何の用なのかしら?」
「実はですね?向こうの知り合いに、紅茶とコーヒーをお土産に持って帰る約束をしちゃったんですよ?」

 三老人の内、二人の方に頼まれた土産。
 ソレが地球での、美味しい紅茶と美味いコーヒー。
 翠屋のソレは、世界中から選りすぐった業者のモノを使っているので、分けて貰えると助かるのだ。

「モチロン御代は払いますので、少し分けてもらえませんか……?」
「えぇ。勿論OKよ?一番良いの持ってくるから、ちょっと待っててねー?」
「あ、ハイ……!」

 どうにも桃子さんの前だと、肩が強張ってしまう。
 士郎にああは言ったものの、ボクにとって桃子さんは憧れのヒトだった。
 でも既に相手の居る女性だし、憧れは憧れのままでその想いを封印。

 そして現在に至るという、コレまたテンプレちっくな展開。
 丁度、恭也の美沙斗に対する想いと同じようなモノだ。
 初恋は甘酸っぱいのです。

 ソレは幾度人生を繰り返しても同じ。
 変わることがない、ヒトの性(さが)とも言うべき存在なのだ。
 ……ヘタレとか言うなよ?

「ハイ、お待ちどうさま!!コッチが紅茶で、コレがコーヒーね?」
「ありがとうございます。それで、おいくらになりますか……?」
「……あのね?静香ちゃんは、ウチの子みたいなモノなのよ?子どもからお金を取る親がいるかしら……?」

 探せば幾らでも居るだろうが、ココではそんな話は通じない。
 申し訳ないと思いつつも、どこか有り難いと思う自分が居るのも確か。
 ソレは桃子さんに、【ウチの子】として認められたからなのか?それとも……?

「(……考えてもラチがあかん。それより、ソロソロ戻るか……)」

 桃子さんに感謝の言葉を述べて、ボクは厨房を後にした。
 出てすぐに転送魔法を展開。送り先が送り先なだけに、魔法申請とか不要だ。
 ……権力って、美味しいよね?

 あと流石に嘘はいけないので、ちゃんとトイレにも行きました。
 温風で手を乾かしても良いのだけど、今日は何となくカリムからもらったハンカチで拭いてみた。 
 デザインを良く見たら、如何にもな女性モノ。……コレからは使用を控えよう。

 そう思いながら、ハンカチをしまいつつフロアーに出ようとすると……。



「……お兄ちゃん……桃子さんと、何楽しそうに話してたの……?」



 我が妹が待ち構えていました。
 どうやら帰りが遅い兄を心配して、見に来た御様子。
 でも何だが、雰囲気が怖いです。

「ん?向こうでの知り合いに、紅茶とコーヒーのお土産を頼まれてね?桃子さんにちょっと分けてもらったんだ……」
「…………ふぅん。その割には、随分とお喋りしてたみたいだけど…………」

 ……参ったな。
 結構前から見てたらしい。
 でもおかしいな?視線や気配らしいモノはなかった。一体、どうやって……?

「…………お兄ちゃんってさ……昔から桃子さんにベッタリだったもんね…………?」
「…………あのなぁ、相手は桃子さんだぞ?恭也や美由希、あとなのはの母親。つまりは人妻だぞ?そんなヒトを相手に、お前さんは何を考えてるんだ……?」
「………………………………そうだよ。人妻じゃなかったら、真っ先に排除対象だったからね……………………」

 酷く小さく。
 それでいてハッキリと。
 聞き間違いだとは思いたいが、妹の様子を見る限りその線は薄そうだ。

「すずか、お前……!」
「…………アレェ?お兄ちゃん、そのハンカチ…………一体どうしたのぉ…………?」
「…………!!コレは…………」

 しまいそびれたハンカチ。
 何を言っても誤解しそうな妹。
 どうする。どう言えば誤解しないように、事実を伝えられるのだろうか。

「…………ソレ、明らかに女物だよねぇ…………?」
「…………」
「…………そのニオイ…………………………………………【アノ】オンナノツケテル、コウスイのニオイダ…………!!」

 ワーニング!
 ワーニング!!
 非常警戒態勢発令!!総員は速やかに退避してください!!

「……!!」

 神速発動!!
 急いでフロアーに出て、カリムを人攫い同然に引っ張っていく。
 慌てふためくレジアスを尻目に、翠屋の扉をくぐるボクたち。

 外に居たザフィーラに、後で念話することを短く伝え、超スピードで駆け抜けるボク。
 ちなみに騎士のお姉さまは、お姫様抱っこです。
 手に手を取っての逃避行なんて、やっている余裕はないのだよ。






 この日。様々な意味での忘れることが出来なくなった、この日。
 ボクは…………運命と出会った。













 大将日記G




 シズカが騎士カリムを連れて、逃避行を始めた。
 ソレは嘘でも偽りでもなく、本当のこと。
 その証拠に、彼の妹が凄まじい勢いで追いかけていった。

 自分では到達出来ないであろう、あの速度。
 まさしくシズカの妹であると、言わざるを得ない。
 【人間の真剣という行為】を突き詰めると、ヒトはあそこまで行けるという、良い手本だった。

 ……しかしこの店の菓子は、どれも素晴らし過ぎる。
 流石は、シズカの師匠が作っているだけのことはある。
 コレもまた、ヒトの行ける可能性を追求せしモノ。……自分も負けてはいられないな。



 その後、ザフィーラがシズカから念話を受けたらしく、自分は勘定を済ませて外に出た。
 ザフィーラが言うには、シズカの【地球での】秘密基地の座標を聞いたので、先に行っていて欲しいとのこと。
 その場所は……あまりに非常識過ぎて、ある意味とてもシズカらしいと思った。






 ゲイズさんちのオーリスちゃん【捨壱】



 ゆり。
 百合。
 ユリ。

 先刻から挑み続けて、三時間。
 現在の彼女は、いっぱしの不良娘になっていた。
 金色の髪。

 どう見ても金髪です。
 本当に……とか言っている場合ではない。
 彼女のコレは、ユリ花粉が髪にくっ付きまくったせい。

 コレでは一旦、家に帰らなければならない。
 だがそうすると、もう面会時間には戻って来れない。
 どうしたものかと悩むオーリスの下に、再び一枚の写真が。

 ソレは、何処からどう見ても【風呂場でのティアナ】。
 送り主は特定出来ない。故に、止めさせることも逮捕することも出来ないのだ。
 そのことを悔しく思いつつも、彼女は別のことで悔しい想いをすることになる。



 ……ティアナのある特定部位が、オーリスのソレを大きく上回っていたのだ。



 その日。オーリスは浴びるように酒を飲んだ。










 あとがき

 >誤字訂正

 俊さん。毎度ご指摘いただき、本当にありがとうございます!!




 



[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 25
Name: satuki◆b147bc52 ID:6024de10
Date: 2009/06/19 00:01


 前回のあらすじ:容疑者【月村すずか】⇒逃亡者【月村静香】⇒交渉人?【カリム・グラシア】。



 走る。走る。
 心臓が張り裂けんばかりに。
 自分の持てる全てを用いて、少しでも遠くへ逃げる。

 ココは海鳴温泉。
 つまりは翠屋から【相当な】距離を取ったことになる。
 神速まで用いての逃亡は、今ボクの身体に異常な程の負担を与えている。

 いつもの神速使用状態と違った、まさに命がかかった闘い……という名の逃亡劇。
 何回か後ろを振り返ったがウチの妹、どう考えても人間の理論限界値を超えて動いていました。
 多分、アドレナリンの異常分泌とかも入ってるんだろうね?じゃなかったら、おかしいだろう!?

「…………ハァッ、ハァッ、ハァッ…………!!」

 そういえば、ボクも妹も【夜の一族】。
 普通の人間に比べれば身体が丈夫で、その能力は通常のソレを大きく上回る。
 ならばすずかの異常な速度にも、一応の説明が付く……と思いたい。

「シ、シズカさん……コレは一体、どういうことなんですか!?」
「……あ。ゴメン。まだ抱えたままだったっけ……?」

 必死に逃げてきたから、カリムを抱えたままだった。
 だって途中で降ろそうにも、彼女の脚では妹にすぐ捕まってしまうだろう。
 その様子が容易に想像出来てしまうだけに、そんなことは出来なかった。

「よっと……!とりあえずココまでくれば、少しは大丈夫だろう……」

 カリムを地面に下ろして、ボクは一息付いた。
 滝のように流れる汗。
 拍動の勢いが治まらない、この身体。

 でも説明しないと。
 今の内じゃないと、多分妹はすぐに追いついてくる。
 ココからはカリムの協力も必要だ。仮に協力が取り付けられなくても、事情を知っているのと知らないのとでは、全くと言って良い程違うのだから。

「それでシズカさん……何故……あのようなことを……?」

 【あのようなこと】。
 ソレは明らかに、お姫様抱っこ&逃亡劇のことを指しているのだろう。
 ……今になって考えてみると、確かにアレはない。普通だったら、ソレをやった人間の神経を疑う。

「あー、あのね?カリムはウチの妹……すずかについて、どう思った……?」
「どう……とは?」
「…………オカシなトコロがあったでしょう……!?」
「そうですね~…………少し人見知りするようでしたが、素直な良い子だと思いますよ……?」

 ……そうか。カリムにはすずかの変化が見えなかったのか。
 ならその穏やかな反応にも、納得がいく。
 ……弱った。ソレなら彼女に、何て説明すれば良いんだ……?

「……あのね、カリム……?」

 仕方がない。包み隠さず話すしかない。
 だが、それでも理解は出来ないかもしれない。
 何故なら【アノ現象】は、普通人の考えの範疇外にあるモノ。常識の中には居ないモノなのだから。

「……ウチの妹――――すずかはその……ボクのことになると、周りが見えなくなるんだ……」
「まぁ……」
「……それでね?ボクに近付くヤツは、サーチ&デストロイにしちゃうんだよ……」

 前に会った時は、ココまで暴走するようなヤツじゃなかった。
 せいぜいボクに対してのみ発動される暴走で、人様に迷惑を掛けるようなことはしなかった。
 八年の月日というのは、予想以上に重かったのか。それとも何か、別の要因があるのだろうか……?

「ソレは…………まるでシャッハと義弟のようですね……?」

 カリムが何を想像したのかは不明だが、多分ソレは違う。
 確かにヴェロッサが女性に近付こうとする度に、シャッハはサーチ&デストロイになる。
 だがその対象は、ヴェロッサ本人だ。シャッハが【ヤンデレて】いるワケではない。

 ソレを説明すると、カリムは【ワケが分からん】というような顔になった。
 まぁ、仕方がないことだ。
 ソレが普通の反応というモノなのだから。

「……本当にそのようなことが……?にわかに信じがたいのですが……」
「…………ボクもね?どれだけ勘違いであれば良かったと思ったか、数え切れないよ……」
「……しかし。妹に慕われるのに、何か問題でもあるのですか……?」
「……良薬も過ぎれば、ただの毒……てね?想像してごらんよ?カリムのストーキングをするヴェロッサ。入浴中に乱入してこようとする義弟……」
「……………………!?」

 漸く分かって頂けたらしい。
 兄妹でそんな事態になるなんて、どう考えても異常事態だ。
 あ。何か両手を胸の前で抱えて、ブルブルと震えてる。

「……な、なるほど…………異常な事態であることは、【とても】良くわかりました…………!!」

 お分かり頂けて、恐悦至極。
 さて、あとは対策を練らないとねぇ?
 ……アカン。肝心の解決方法が浮かばないや。























「でしたら、こういうのはどうでしょう……?」
「……お。何か浮かんだの……?」

 流石は騎士カリム様。
 その明晰なる頭脳から弾き出された、素晴らしい答えってヤツを伺いましょう。
 もしかしたら、本当に救いになるかもしれないしね?

「今のすずかさんは、兄離れ出来ていない女の子です。つまり、兄離れが出来れば良いのです……」
「……そりゃあ、ソレが出来れば苦労はないけど……具体的なアイディアでもあるの?」

 ソレが出来ないから苦労しているのだ。
 そう言外に込めると、カリムは目を伏せて黙り込んだ。
 この流れは、あんまり良い感じがしない。というか、ヤバイフラグを立ててしまった気がしてならない。

「カンタンなことです。兄……つまりシズカさんに、恋人が出来れば良いのですよ……?」



 …………!!



 何か今、バックで雷鳴が響き渡った。
 多分彼女からしたら、何て名案なんでしょう!という感じの雷なのだろう。
 でもボクには違う。ボクからすれば、ソレは何つーことを考えやがって!と言った感じの稲妻だった。

 彼女居ない暦……百五十年以上。
 そのボクにこの方法は、敷居が高すぎる。
 もう一つ。兄に彼女が出来ましたというのは…………どう考えても死亡フラグだ。

 彼女になった方と、彼女にした方。
 その双方に死亡フラグが並び立つ、究極の選択。
 ソレが【兄に恋人が出来ました】だ。

「いや、カリムさ……その方法には穴があるよ……?」

 折角考えてもらったところ悪いのだけど、カリムには無理だと言わなければ。
 一つには【ヤンデレ】の危険性から。もう一つは根本的な問題から。
 でも何とかオブラートに包んで説明しよう。ソレがせめてもの優しさだと信じて。

「……何故ですか……?」
「いや、そのぉ…………だってボクには、彼女になってくれるようなヒトは…………居ないんだから……」

 途端に雰囲気が重くなった。
 でもしょうがない。
 コレが避けられない事実というモノなのだから。

「ソレは、その…………ゴメンなさい……」

 何か告白して振られたみたいで、ヤな感じだなぁ。
 だが事実からは目を背けられない。
 ボクに好意を寄せるオンナのコなんて、小さかった時のスバルやギンガ、あとは…………ウチの姉妹くらいしか考え付かん。

「……気にすんな……」

 コレでこの方法は潰えたのだ。
 別の方法を考えよう。
 やっぱ、例の隠れ家にまで逃げて、引き篭もれば良いかなぁ?

 アソコなら、ふつぅぅぅぅぅぅぅに考えたら追って来られない。
 でもさ?ヤンデレには常識が通用しないしなぁ……。
 脳内会議が進む中、遠くの方から地響きが聞こえてきた。



 ド、ド、ド、ド、ド、ド……………………!!
 


 どうやらタイムアップらしい。
 どう逃げたら良いか考えつつ、再び逃走劇の幕が開ける。
 ……と思ったのだが、聖母のような騎士カリム様が、ソレに待ったを掛けた。…………史上稀に見る、究極の悪手を以って。

「あの……それでしたら私が…………私がなりますよ……?」
「…………ゴメン。一体、何の話……?」
「いえ、ですから……………………シズカさんの彼女【役】を、私が引き受けましょうか?…………という意味なのですが……」

 ……騎士カリムどん。
 ソレは【一番やってはいけない手】の、上から十位までにランクインする程のモノだよ。
 多分彼女からしたら、困っているヒトを放っておけないとか、そんな感じなのだろう。

 でもその博愛精神と自己犠牲の志は、別の機会に取っておいてくださいな。
 ソレをココで使っちゃったら、貴女アボーンされちゃいますよ?
 ドンドン音が迫ってくる。本当にカウントダウン開始のようだ。



 三



 二



 一



 ゼロ……って、アレ?
 もしかしてボク、カリムへの返答を…………してないじゃないかぁぁぁぁっ!?
 ヤバイ。ヤバイ……。もうソコに居るよ。ムリだよ。この状況じゃあ、どうすることも出来ないよ……!?



「……フフ。オニゴッコは、もうオシマイなの…………オニイチャン……………………?」




 ソコに居たのは、やっぱりモンスターだった。
 左手に鉈。右手に包丁。
 ……二刀流ですね?すずかったら、そんなトコロまでボクのマネをしなくても…………なんて言ってる場合じゃねぇぇぇぇっ!!

「……すずかさん。実は貴女に、大切なお話があるのです……」
「…………ナニカシラ……?」

 マテ、マテ、マテ、マテェェェェッ!!
 ヤメロ!
 ヨセ!!引き返して来いっ!!

「…………実は貴女のお兄さん、シズカさんと私は……………………既に結婚の約束までしているんです!!」

 ブゥゥゥゥゥゥゥゥッ!?
 アリエナイ。有り得ないよ!?
 騎士カリム様の中では、【恋人=将来を約束したパートナー】になるのかぁぁぁぁっ!?

 ……良く考えたら、そういう考え方をしていても、なんら不思議はなかった。
 良いトコの御嬢様なカリム。
 ならばそういった世間ズレした箱入り御嬢な考え方でも、ある意味仕方がない。

「…………ウソですね……?お兄ちゃんの奥手具合は、妹である私が一番良く知ってるんですよ…………?」

 若干現実に戻ってきてくれたようだけど、まだまだヤンな妹。
 頼むからその瞳に、光を差させてあげて下さい。
 ハイライトのない目って、どう考えても怖いから!?

「…………私がお風呂上りに裸で会ってもすぐに逃げるし、偶然を装ってお風呂に乱入してもすぐに追い出すし…………」

 当たり前だ。
 相手は妹なんだぞ?
 義妹とかいう特殊なシチュエーションじゃなくて、純粋培養の妹なんだぞ!?

 そんな相手に反応したら、人間失格じゃないか!?
 ……とは言いつつも、おねーたまやノエルと昔風呂に一緒に入っていたのは内緒の話だ。
 ただあの時も欲情はおろか、気後れすらしたボクのこと。…………確かに妹に誤解されても仕方ないかも。

「…………とにかく。そんなお兄ちゃんが、恋人はおろか婚約者なんて……………………」
「…………ゴメンなさい。本当はもっと、はやくにお話すれば良かったのですが…………私も彼も、仕事が忙しくて……」

 まだその設定でいくつもりか。
 すずかじゃないがそんな話、ボクを良く知るモノなら絶対にウソだとばれるぞ?
 どうするつもりだ?……というか、この御嬢騎士。一体何を考えとるんだ?

「本当です!私と彼は、既に【婚前交渉】まで済ませているのですよ!?」
「……………………ウソだ」

 ハイ、ウソです。
 というか、騎士カリムどんよ。
 何だそのテンプレは?お前さんまで、【お約束】を護る騎士になっちまったのかよ!?

「だって、私のお腹には……………………彼との子どもが……………」
「ウソだ……っ!!」

 もうやだ。
 何この、カオス空間パートⅡは?
 もう誰もがボクの意思なんて、無関係に話を進めていくよ。

「……本当です。確かめる術がないのが心苦しいのですが……」



 ――カチッ!



 ヤバイ。
 ヤバイ!
 ヤバ過ぎるよぉぉぉぉっ!?

 何か今、手榴弾のピンが外れたようなヴィジョンが!!
 見える。ボクにも見えるぞ!!
 新しいタイプの人類じゃないハズのボクにも、この危険性が見えてしまうぞ!?

「……………………なら…………確かめてあげますよ…………?」
「…………エ?」

 一瞬にして風になるすずか。
 当然カリムが反応出来るハズもなく、弾丸となったすずかに建物の壁に叩きつけられる。
 こえぇぇよ。スゲェ怖いよぉ……!

「…………サァ、【コレ】デタシカメテアゲマスカラネ…………?」
 
 不味い!
 すずかのヤツ、鉈でカリムをかっさばくつもりだっ!!
 間に合え!間に合ってくれぇぇぇぇっ!!




 ――ザシュッ!!




「…………オニイチャン、ドウシテジャマスルノ…………?」

 切り裂かれたのはボクの左腕。
 丁度肘から先が無くなり、出血が止まりません。
 でも間に合った。それだけでボクは、救われた気持ちになる。

「……ボクが相手なら、最悪兄妹ゲンカで済む……じゃないか……」

 冷や汗ポタポタ。
 でも心はとってもホット。
 冷静になる思考と、熱くなる身体。今のボクは、結構スゴイかもしれないな。

「……ドいて、オニイチャン…………ソノオンナをシマツできないよ……?」
「シズカさん!しっかりして下さい!!」

 二人が何か言ってるけど、今のボクの耳には入ってこない。
 考えろ。考えるんだ。
 どうしてすずかが、アソコまで強いのか?

 いかにヤンデレても、あんな風に強くなるモノではないハズだ……!
 頭。顔。胴体。腕。脚。……何処にもおかしな要素は見つからない。
 だとすれば、あとは身に着けてるモノ以外には…………!?
 
「…………すずか。その、首から掛けてる、蒼い石……ソレ、一体どうしたんだ…………?」

 あった。
 菱形の蒼い石。
 アレはどう見てもヤバイモノだ。

 アレが原因と見て、まず間違いはないだろう。
 だが何なんだ……?
 何でそんなブツが、妹の手にあるんだ……?

「…………コレですか……?コレは【ジュエルシード】ってイって、ミチバタで会った【白衣のオジサン】がくれたんですよぉ……?」

 ……白衣のおじさんか。
 どう聞いても、アイツしか該当者がいないな。
 余計なことしやがって……!

「コレは願いを叶える石なんだっテ…………だから私は願ったノ。【オ兄ちゃんニ会いたい】。【オニチャンをヒトリ占めしたい】…………っテ」

 歪んだカタチで叶えられた願い。
 ボクを独り占めする為に必要な、邪魔な存在を排除するための力。
 どう考えても妹の本意じゃない。

 いくらヤンデレちっくだったとは言え、他人を傷付けてまで……とかは思わなかった、優しい妹。
 ソレはなのはたちなら、良く分かっているハズだ。
 少なくとも、ボクはそう信じている。

 今のボクには、抵抗する術がない。
 ならいっそのこと、一時撤退して状況を立て直すか。
 己の左腕を見る。コレは早急な治療が必要。だが【あの場所】までの超長距離転送には、身体が付いてこない。

 何処だ。
 何処なら処置出来る?
 一体この海鳴の土地の、何処でなら治療と立て直しが出来るんだ……!

「……サァ、お兄ちゃん……?はやくソンナオンナを始末して、一緒にウチにカエロウ……?」

 ……。
 ……そうだ。
 その手があったじゃないか!!

「……すずか。やっぱりお前は、最高の妹だよ…………!!」
「エッ!?ちょ、ちょっと!?シズカさん……!?」

 斬られた左腕を小脇に抱え、無事な右手でカリムをホールド。
 マーカーが既にある転送魔法は、異常な程のはやさで現地に飛ぶ。
 郊外にあって、いかにジュエルシードの力を使っても、すぐには来れないそんな場所。

 治療も出来て、体勢も立て直せるそんな理想的な場所。
 ソレはあった。
 そこの名前は【月村邸】。……つまりは現在、すずかとファリンが住んでいる【我が家】だ。

 一瞬の燐光と共に、高速で移動するボクとカリム。
 自室にマーカーがあるボクらの行き先は、当然ボクの部屋。
 あと一時間ぐらい。……ソレまでにケリをつけないとなぁ……。













 大将日記W




 シズカの言っていた、【地球での秘密基地】。
 ソコはこれまたトンでもない場所で、一言では言い表せない程に常識ハズレなモノだった。
 広大なスペース。整い過ぎている設備。

 そして何より……。
 いや、ソレはまた後ほどにしよう。
 今はシズカから出された、この課題をこなさなければならないからな……。

 シズカからの課題。
 ソレは【ある】テレビアニメの鑑賞だった。
 最初はバカなと思いながら、何気なく見ていた程度。

 だが途中で気が付いた。
 コレは何とも、熱い物語なのだろうか。
 勇者とソレをサポートする人々。そして他のロボットの存在。

 組織という異例の中での勇者の活躍は、意外なほどにマッチしていて、それでいて凄かった。
 中でも興味を引いたのは、勇者……ではなく、その司令官の存在。
 常に部下を信頼し、有事には自らも危険を被る。

 同じ司令官としては、このような存在になってみたい。
 部下に慕われ、自らの信念を突き通し、最後には若者に路を譲ることが出来る。
 ……最高だ。後でシズカには、この映像媒体のコピーを貰おう。そしてソレを、自分の道標しよう。



 …………ところで。ココがそのアニメに出てくる場所に似ているのは、一体どういうことなのだろうか……?






 ゲイズさんちのオーリスちゃん【捨弐】



 現在、自棄酒用のアルコール類を調達中。
 ただその様子を見ていたドゥー子さん(仮)の証言では、

「金髪にして、アルコールを大量購入している彼女の姿は……まるで大人になってからの不良デビューみたいだったわ……」

 とのこと。












 あとがき

 >誤字訂正?

 くろがねさん。コレは誤字ではなかったのですが……確かに分かりにくかったかもしれませんね?
 【人間の真剣という行為】を突き詰めると……に修正しましたので、コレで少しは分かりやすいかも……。


 俊さん。毎度ご指摘頂き、ありがとうございます!






[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 26
Name: satuki◆b147bc52 ID:6024de10
Date: 2009/06/19 00:01


 前回のあらすじ:ヤンデレは怖いですね。



 アレから一時間半。
 思ったよりも時間を稼げている。
 正直、もっとはやく追いつかれると思ったのだが……何かあったのだろうか?

 現状を確認しよう。
 ココは月村家のボクの部屋。
 先程まで左腕の治療をしていたので、疲労困憊気味だ。

 まず外科的手術で表面を繋げて、次にカリムに血を分けて貰った。
 そんで治癒魔法を強引に掛けて……完治!!夜の一族をなめんなっ!!とか、そんな感じ。
 とは言ってもソレは身体的なモノで、魔力はそう残っていない。それに体力とかも、ゴッソリ持って行かれたしね。

 しかしこの程度で済んだのだ。文句は言うまい。
 ソレより問題なのは、さっきカリムに血を分けてもらったこと。
 一応本人には目を閉じててもらっていたけど……。

 首筋に二箇所の痛み。
 通常では考えられない程の速度で進む輸血。
 そして……傷痕が残らない。

「(……どう考えてもおかしいよな。おかしいと思わない方が、変な位だからなぁ……)」

 気は進まないし、向こうも黙っていてくれるのだ。ならこのまま流しても……と思いつつ、ボクはあることを思い出した。
 【誓約】。別に【誓い】と言い換えても良い。
 ボクたち夜の一族は、その正体をバラした時には【ある行い】をしないといけないのだ。 
 
 【バラした相手の記憶を消して、関わりを消す】。
 【バラした相手の記憶を消さずに、秘密を共有してもらう】。
 秘密の共有を選んだ場合は、その相手との関係も決めること。

 かつて姉である忍と、後にそのパートナーとなる恭也が通った路。
 彼女らの選択は【恋人】。
 ……というか、生涯を共にするモノ。

 普通の高校生が出来るような選択肢ではない。
 でもアノ二人はソレをした。
 まるでソレが運命であるように。それでいて、二人の闇の部分が互いを惹きつけたかのように。

 考えていても仕方がないな。
 コレばっかりは、ボクが選べるようなモノでもないし。
 とりあえず、カリムに説明しておきましょうや。

「……カリム。さっきはありがとね……?その……血を分けてくれて……」
「そんな!?元はと言えば、私がすずかさんを怒らせてしまったから……!」
「……あのねぇ?ソレも含めて、ボクのせいでしょうに?ウチの妹とボクが、カリムに迷惑を掛けた。だから助けた。当たり前のことなのさ……」

 マッチポンプじゃないかって疑いたくなるような事件だ。
 いや事件とも言えない兄妹ゲンカ。
 今回はたまたまソレに変な要素が加わっただけで、内容にそう大差はない。

「……ですが…………!」
「それよりさ、少し真面目な話をしようか……?」

 自分で言うのも何だけど、いつものボクは真面目とは言い難い。
 そんなボクが見せる、殆ど見せない真面目な態度。
 その意味はカリムにも分かったらしく、彼女は姿勢を正した。

「カリムさ。さっき血を分けてもらった時、おかしなことがなかった……?」
「…………首筋の【二箇所】の痛み。通常では考えられない程の速度で進む輸血。あと……傷痕が残らないこと、ですか…………?」
「……ウン。あとさ、ボクの腕おかしくない?幾ら治療魔法をバンバン使ったからって、こんなにはやく完治するワケないよね……?」
「…………えぇ」

 疑問点を洗い出し、ボクが如何におかしな存在かを浮き彫りにする。
 そして告げる、ボクの正体。
 【夜の一族】。そういった名前を冠した、化け物のことを。

「……そうだったのですか……」
「……うん。だからさ、選んで欲しいんだ。コレからどうするかを……」

 選択基準等を話し、ソレを終えると黙り込むボク。
 瞑目する。
 ボクには初めての経験。たぶん予想だけど、カリムは記憶の消去を望まない。

 彼女の優しい性格のことだ。
 たぶん記憶消去は選ばないだろう。
 だけどソコからが分からない。

 友だち……何か違う気がする。
 恋人……ないない。
 あとは…………何か、あったっけ……?

「私は…………」

 おっと。
 流石に相手が言うのを聞く時は、ちゃんと目を開けてしっかり聞こう。
 そうでないと、相手に対して失礼に当たるしね。

「私は…………【婚約者】を選びます……!」
「……………………ハッ!?」
「ですから……」
「いやマテ。聞こえたから!聞こえたから、もう一度言うなんてしなくて良いから!?」

 【婚約者】。
 そんなの聞いたことがない。
 夫婦でも恋人でもなく、ましてや友だちでもない…………予想外過ぎる、その【答え】。

「…………どういうつもりだ?何だってそんなモンを……」
「……【婚約者】。便利な関係だと思いませんか……?【夫婦】になることも出来れば、【恋人】になることも出来る。さらには【他人】にもなれる、その立場……」

 ……呆れた。
 このお嬢さん、ボクとの関係がどう変わろうとも、決して記憶を消さない選択肢を選ぶつもりなのだ。
 【婚約者】はあくまで【肩書き】だ。実質的な関係との齟齬があることも有り得る。

 コレは言い換えれば【契約者】とも言い換えられるし、【共犯】とも言える。
 ただ嬉しいのは、彼女は決してボクを忘れないと言ってくれてるのだ。
 ……ちくしょう。泣かせるのは反則だよぉ……。

「……ありがと。お礼に、せめて君の【虫除け】にでもなるとするよ……」

 正面を見られない。
 何か思春期少年のような気恥ずかしさを感じつつ、ボクは視線を右斜め前にやる。
 ソコには古ぼけた引き出しがあった。

 昔、まだこの家に居た時に使っていた、小型発明品の保管庫。
 今程技術はなかったが、熱いモノを詰め込んでいたアノ頃。
 懐かしい思い出だ。その引き出しに手を掛け、中から一つのモノを取り出す。



 ――ドォォォォォォォォンッ!!



 敵さん……いや。我が妹のお帰りだ。
 ココは兄らしく、ちゃんと出迎えてやらないとね?
 そういえばファリンは、一体何処に行ったのだろうか……?

「オニィィィィチャァァァンッ!!」
「……ハーイ、ココに居るよぉ……!!」

 極めて自然体で。
 というかあまり力の入らない身体なので、今はコレが精一杯。
 某大泥棒の三代目のようにおどけながら、ボクは妹の前に歩いていく。

「すずか、遅かったじゃないか……?お兄ちゃん、待ちくたびれちゃったぞぉ……?」
「……ゴメンなさイ。とちゅうでファリンがじゃまするモンだから……」
「……彼女をどうしたんだ……?」
「…………ウフフ。ダイジョウブヨ?アノコなら、コワレテもナオセルシネ……?」

 ファリンはノエルと同様、【自動人形】である。
 故にヒトとは異なった存在であり、ヒトより頑丈で【修理】することも出来る。
 ……ということは、彼女の容態は深刻ではあるが直せる範囲……だということか。……安心したぁ。

「…………」

 ボクのクリア条件は、すずかを倒してジュエルシードを引き剥がすこと。
 単純な魔力ダメージで倒せそうにないのは、既に予想済み。
 想いの力が強ければ強いほど増幅される、その力。……絶対に元のすずかに戻してやる!!

「サァ、オニイチャン。ソコヲどいテ?ジャナいト、あノオンナヲシマツでキナイヨォォ!!」
「……させないよ」

 さっき引き出しから取り出した【ソレ】。
 ナックルダスターとスタンガンの中間のようなデザインに、所々に稲妻のように走った金色のパーツ。
 全体は黒色で、高圧スタンガンとしても使えるソレ。

「……オニィィィィチャァァァァンッ!!」
「……あんな天然入った娘でもさ、今はボクの【婚約者】なんだ。だから……!」

 ソレを右手で握りつつ、顔の前に持ってくる。
 なにぶん、昔作ったモノだ。
 性能は低いし、身体への負担もデカイ。だけど今の状態のボクが素で闘うよりかは、よっぽどマシで…………すずかを救えるかもしれない唯一の手段。

「【ボクの】カリムには手出しはさせない……!!」

 先程繋いだばかりの左手。
 その掌にナックル【のようなモノ】を押し付け、ソコからボクの情報を読み取らせる。
 すると途切れ途切れの合成音が聞こえ、ソレが使えるようになったことを教えてくれる。



『レ・ジ・イ…………!』



「変身……」



 叫ぶでもなく、小さく呟くようにそう言った。
 すると、いつの間にやらボクの腰に出現していた、漆黒のベルト。
 中心部に紅い宝玉を付けた大きなバックルがあり、ソコにナックル【のようなモノ】を填め込む。



『ミ・ス・ド・オ・ン…………!』



 今ココに居るのは月村静香ではない。
 白と黒のスーツに、銀色の胸当て。三叉に分かれた金色の角は、マスクも兼ねた優れモノ。
 マスクドライダー【エグザ】。ソレが、今ココに居るモノの名前である。













 暴走すずか。
 左手の鉈で攻撃してきたので、まずをソレを叩き落す。
 続いて右手の包丁で突貫。突っ込んできたところを逆手で止めて、すずかの動きを止めた。

「すずか……ボクとお前は兄妹だ。決して結ばれることもないし、ボクもそんな目で見たことはない……!」
「ウヲォォォォォォォォ!!オニイチャァァァァンッ!!」

 はやく決着を付けないと、理性を完全に持って行かれる。
 ソレだけは、絶対に避けないといけない。
 ……仕方ない。なのはじゃないけど、少し痛いの我慢出来る?……って感じで行くかぁぁっ!!

「……でも!それでもお前は、オレにとって最高の……世界でたった一人しかない【大事な】妹には変わりない……!!」
「!!」

 動きが止まった。チャンスだ!!
 USBメモリースティックのようなモノを取り出し、ベルト前面のリーダーに差し込む。
 ソコから情報を読み取ったベルトはナックル……で良いや。ソレにパワーを流し込む。



 ――パシュゥゥッ!!



 小さな白煙を上げて、ナックルが再びベルトから開放される。
 放電。
 そして炎化。



『エ・グ・ザ・ナッ・ク・ル・プ・ラ・イ・ス・アッ・プ…………!』



「だから今!ソコから…………解放してやる!!」



 轟炎になったソレを、すずかに叩きつける。
 元々のソレに、ボクの魔力を足し合わせたモノ。
 コレでダメなら、もう後がない!!

「…………」

 倒れたすずか。
 即座に脈と呼吸を確認する。
 ……大丈夫。ちゃんと生きてる。

「ふぅぅ……っ!やった、やったぞ!!」

 喜びの声を上げながらも、思考はまだ動き続ける。
 すずかの暴走の原因。
 【ジュエルシード】を探す、そのために。

「……ない。ないっ!!どうして!?一体ドコに行っ…………!?」

 窓の外。虚空に浮かぶ、菱形の宝石。ソレはまるでホラー映画のようだった。
 すずかの身体からは分離したものの、未だ封印には至らず。
 ……やっかいなこと、この上ないな……。



『…………!!』



 変化は一瞬。
 本当にその一瞬の間に、ジュエルシードは猛スピードで何処かへ行ってしまった。
 あのスピードだ。今のボクには捕まえられない。

 もしかしたら、機動六課の探しているロストロギアって、アレのことだったのか……?
 だったら丁度良い。
 あとはアイツらに任せて、ボクとカリムはすずかを連れて【あの場所】に行こう。

 すずかの治療。ボクにもソレは必要だし、それ以前に今は内偵任務の真っ最中だ。
 ならば全てがココより設備の整った場所の方が、良いに決まっている。
 途中でカリム・ファリンを回収すると、ボクたちはレジアスたちが待つ【あの場所】へ飛んだ。






















 EXTRA EPISODE



 場所はスーパー銭湯。
 ソコでは月村家の騒動もウソのように、ただ皆が日頃の疲れを癒していた。
 それには部隊長も例外ではなく、その任にある【八神はやて】もまた同様であった。

「いやぁ~~♪えぇぇモン見せてもらった上に、触り放題!!日頃のストレスがふっ飛ぶみたいや~!!」

 エロオヤジモードまっしぐらな彼女。
 だがソレも無理はない。それだけ彼女の周りには、【特定部位】がとても魅力的な女性が多いのだから。
 ……手に残る感触を楽しみつつ、はやてはふと鏡の中の自分を見た。

「…………ハァ~。あの行動は、自分にないモノの裏返し……認めたくないモンやなぁ……」

 機動六課女性陣の中では、【控えめ】な彼女。
 別に世間一般から見ればそうでもないのに、如何せん彼女の周りは【ある意味】人外魔境が多すぎる。
 故にコンプレックスが刺激される結果になり、彼女に影を落とす。

「あ~…………どっかに願いを叶えるロストロギアでもないんかなぁ……?そしたら、【デカくして下さい!!】って言ったるのに……!!」

 神は居ない。
 その代わりに、ロストロギアは存在する。
 だから彼女は予想出来たハズだ。自分の願いを叶えるロストロギアが、居ないとも限らないことを。



 ――キィィィィィィィィンッ!!



 何処からか音がする。
 それも余り大きな音ではなく、小さな何かが近付いてくるような音。
 辺りを見回す。

 前良し。
 左右良し。
 後ろ良し。

「…………別に何もないなぁ……?一体何だったんや…………ってギャパッ!!?」

 彼女の確認し忘れた上方。
 ソコから飛来した物体が、彼女の額にクリーンヒットした。
 ソレは彼女の願いを叶えるモノ。そう…………彼女はこの後、自分の願い通りに【大きくなった】のだ。












 大将日記X



 シズカが漸く合流した。
 だがアイツは既にボロボロで、妹さんも同じく傷だらけ。
 即座に医療棟に運んで行き、治療を受けさせる。

 妹さんを医療カプセルに入れ、シズカは自身に輸血を開始する。
 その後騎士カリムに事情を聴き、ソコでやっとコトの全容が掴めた。
 ロストロギアの暴走事故。

 コレは管理局としては看過出来ない事態であり、恐らく機動六課のターゲットと考えて良いだろう。
 それに関してはシズカも同じようで、とりあえずこのまま通常任務を続ければ、彼女たちが確保するだろうとのこと。
 もし彼女たちが素通りしてしまったら、その時に我々が乗り出しても遅くはないらしい。

 というのも、そのロストロギアは既に弱っていて、余程強い願いでないと反応しないのだとか。
 それ位の願いを持つモノは極めて稀のようなので、まずは一安心といったところだ。
 ……そう思っていた。

 ところがその目論見が一日以内に瓦解してしまうことになるとは……この時は誰にも予想が出来なかった。






 ゲイズさんちのオーリスちゃん【捨参】



 現在泥酔中。再起動の予定は、AM六時。
 ……現在五時五十五分。
 ちなみに髪はそのまま、金髪風味。



 ……キミ(オーリス)は、生き残ることが出来るか!?












 あとがき

 >誤字訂正

 俊さん、hibikiさん。「士郎にはああは言ったものの~」のトコロでお世話になり。誠にありがとうございます!
 satukiの見落とし&勘違いで、皆様には大変ご迷惑をお掛け致しました。
 本当に申し訳ありません!


 俊さん。前回の誤字報告も、重ねてありがとうございました!






[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 27
Name: satuki◆b147bc52 ID:330ef58d
Date: 2009/06/19 00:01


 前回のあらすじ:ジュエルシードが宿主を変えたようです。



 八神はやてが行方不明になった。
 この報せをヴォルヴォッグから受けた時、ボクたちには嫌な予感しか感じ取れなかった。
 幾らお祭り騒ぎやおふざけが過ぎる性格であったとしても、今の彼女は一部隊の長。そんな軽率な行動を取ることはない。

 つまりソコから導き出されるモノは、何らかのアクシデントに巻き込まれたということ。
 ソレが【地球独特のモノ】か【ロストロギア関連のモノ】かで対応が変わるが、出来れば前者でない方が助かる。
 というのも、HGSや退魔関係のことが管理局に知られるのは、出来るだけ避けたいからだ。

 もちろん、ボクの夜の一族関係もダメ。
 この地球独自の【コト】は、管理局の興味を引いてしまう可能性が高いのだ。
 ……いや。この場合は、最高評議会とスカリエッティと言い換えるべきか。

 【魔法】というテクノロジー以外の未知の存在。
 彼らからすればソレは、咽から手が出る程のモノ。
 故にそうならないことを祈る。そんな願いが叶ったのか、発見されたはやての変化の原因はロストロギアによるモノだった。























 地球に戻ってきて二日目。
 本来は一日、または日帰りで帰る予定だった六課の面々は、思わぬ理由で二日目を迎えることになった。
 部隊長の反応ロスト。

 この予想外の非常事態。
 事態を重く見たスターズ・ライトニング両隊長によって、六課から【ヴァイス・グランセニック】が呼び寄せられる。
 彼の役目は、部隊長不在時の魔力リミッターの解除。

 本来ははやての副官である【グリフィス・ロウラン】の仕事だが、彼ははやて不在の六課を預かる身。
 故に運ぶべき人間の居なくなったヘリパイロット、つまりヴァイスにそのお鉢が回ってきたのだ。
 もっとも他の理由としては、現在は返納しているものの、ヴァイスが元武装局員だったというのも大きい。

 六課内には既に魔導師はいない。
 もし何らかの異常事態になった時、新人と隊長陣だけでははやての穴埋めは難しい。
 だからこそのヴァイスの派遣。

 そのことは本人も理解しているらしく、本当に有事には止むなしと考えているようだ。
 ただトラウマ持ちでかつ、昼行灯な彼のこと。
 そうならないことを祈るしかなかった。












「……という事態なんだ」
「……由々しき事態だな」
「はやて……」

 状況説明ボク。
 状況分析レジアス。
 身内的心配カリム。

 そう。レジアスの言うとおり、コレは由々しき事態だ。
 【アノ】ジュエルシードが何かしたとは思えないとなると、別のロストロギアがあったのか。
 それとも地球独自のトラブルか。

 分からないことだらけだが、たった一つだけ分かっていることがある。
 ソレは、【絶対に厄介なコトが起こる】ということ。
 これはもう、経験則だ。

「……とりあえずさ、ヴォルヴォッグに警戒させているから…………今のボクたちに出来ることはないね……?」
「……悔しいがその通りだ」
「……ココの監視設備を使わせてもらっても、未だに発見出来ていませんからねぇ……?」

 ボクの確認に、ザフィーラとリンディもそう返すしかなかった。
 ならばとボクは席を立つ。
 自分にしか出来ないこと。ソレを実行中だからだ。

「……シズカさん、どちらに……?」
「……昨日からやってるのが、もうすぐ終わるんでね?あんま必要になって欲しくないんだけど…………もしかしたら使うかもしれないし……」

 昨日輸血を終えたボクは、すぐに【ココ】に来た目的を思い出した。
 【ココ】に置いてある零号Cストーンと四号ロボの試作型の回収。
 長い時間放置……というか生成期間あったからか、どちらも完成済み。嬉しい誤算だった。

 持ってきた四号Cストーンを試作四号ロボに組み込み、零号Cストーンを【左腕】手甲型のデバイスに填め込む。
 マッチングは……徹夜のバグ取りのお陰で、オールOK。
 後は……【本人】を交えた最終調整と、ロボのプログラム組みだけだ。

 プログラムはあと一つ。
 このあと一つがクセモノで、尚且つ一番重要なモノ。
 だが完成させないといけない。コレがあるのとないのとでは、文字通り戦局が左右されるからだ。

『シズカ博士!』
「ん~?ヴォルヴォッグかぁ…………何か動きでもあったのぉ……?」

 緊急通信。
 ソレも六課監視中のヤツから。
 明らかにヤバ気な事態っぽいね……。

『ハイ。八神隊長を発見しました…………ですが』
「……ロストロギアにでも取り付かれてました……とかじゃないよね……?」
『……流石ですね。その通りです……』

 ……半ば冗談半分で言った期待は、あえなく打ち砕かれましたとさ。
 ココまで予想通りだと、かえって悲しいよ。
 でもまぁ、悲しんでる場合じゃないよね?

「とりあえず、現地の映像を出して……!」
『了解です……!』

 ヴォルヴォッグのアイカメラを通して伝わってくる、現地の様子。
 ソコには大きなモノが居た。
 はやての帽子を被り、シュベルトクロイツを持った…………大きなタヌキ。

 身の丈はビル程の高さで、森林を薙ぎ払いながら進行するその様は、何処からどう見ても怪獣のようだった。
 はやての願い通り大きくなったバストは、百を超えて千はゆうにありそうである。……ちなみに、人間のソレの場所にはない。
 ただ比例して、ウェストがタヌキのように肥大化しているため、トップとアンダーの差が壊滅的になくなっていたが。

「…………ねぇ、カリム……?」
「…………シズカさん……」
『……【アレ】がはやてぇぇっ!?』

 ユニゾン率百パーセント。
 今なら分裂した神の使いも、普通に撃破出来そうです。
 でもソレくらい信じられなかったのだ。【アレ】がはやてだなんて……。

「……リンカーコア・魔力光・ソレにランクS以上の魔力量…………間違いないわね。【アレ】ははやてさんよ……!!」

 自分の手元のコンソールで一つずつ確認していき、【アレ】をはやてだと断定するリンディ。
 恐らくヴォルヴォッグもそうしたのだろう。
 そして判断に困ったから、コチラに連絡を取ってきたのだろうなぁ……。

「…………あ~、分かった分かった!!現時刻をもって、【アレ】を八神はやてと認定!!…………そんで、機動六課の連中は?」
『現在彼女たちは、ヴァイス陸曹の到着待ちです……』
「ヴァイス待ち……?あぁ、そうか……リミッターの問題か……」

 機動六課は今回の出張任務のために、全員魔力リミッターを掛けている。
 皆がDランク以下に落ちるような強固なソレは、緊急時において部隊長の許可によってのみ解除される。
 ただ現在、部隊長様は大タヌキになっている。

 故に次の責任者からその立場を預かってきた、ヴァイス待ち……ということなのだ。
 お役所仕事的だが、ある意味仕方がないところもある。
 だってボクが作った【ココ】も、そういうシステムを使ってるしね……?



 ――ギュォォォォォォォォンッ!!



 そんなことを思ってると、漸く一台のバイクがやって来た。
 ライダーは当然、我らが【ヴァイス・グランセニック】陸曹。
 バイクを止めて六課メンバーの下へ走って行き……そしてジャケットの内ポケットから、紅いケータイらしきモノを取り出す。

『皆さん、お待たせしました……!!』
『ヴァイス君!!』
『それじゃあ、行きますよぉ……!!』

 右手に持った紅いケータイ。
 ソレを天高く掲げ、中心部にある黒いボタンに指を添える。
 何だか知らんが、今の彼は輝いているな。……どうせコレが終わったら、再びライトの当たらない生活だろうが……。

『特務エス……じゃなかった!高ランク魔導師、【THE 機動六課】解禁!!』













 結論から言おう。
 機動六課の連中では、タヌキはやてには勝てませんでした。
 もっと正確に言うのなら、【無力化】することが出来なかったということだが。

 殺しても良いというのなら話は別なのだろうが、アレの中身ははやてだ。
 【元に戻す&ジュエルシードの封印】が、管理局員としての仕事になる。
 ただ素体が超が付く高ランク魔導師なだけあって、新人どころか隊長陣の魔法すら【腹】で弾き返す始末。

 スターライトブレーカーやプラズマザンバー。
 ソレらの同時攻撃を、【ポンッ!】という間抜けな音と共に弾いた時のなのはとフェイトの顔は…………忘れることが出来ない。
 ちゃんと録画したので、後で鑑賞会をやろう。

 ともあれ、市街地に行かないようにする足止めなら出来るものの、それ以外は不可能。
 ジリ貧というのが、一番シックリくる表現だ。
 ……そろそろ潮時だな。

「……みんな、今から【スバル】をコッチに転送させるけど…………良いよね?」

 周囲を見渡す。
 皆頷く。
 というか、ソレしか出来なかった。

「良ぉし……。それじゃみんなぁ、配置に就いて…………!!」

 中央一番奥。ソコにある一際偉そうな席に、レジアス。
 右手前。様々な安全装置の集うデスクには、リンディ。
 右手奥。所謂【参謀席】と呼ばれる場所は、ザフィーラ。

 左手前。オペレートシートに着席したのは、カリム。
 左手奥。ドクターズデスクと勝手に命名した所には、ボクが座った。
 コレで……準備は完了だ。

「ヴォルヴォッグ!スバルに強制転送マーカーを射出!スバル転送後は、好きにしろ!!妹の身を護ってやっても良いぞぉ……!!」
『!?……了解しました…………!』

 向こうからの合意ではない上に、かなりの速度で移動しているスバル。
 確実にコトを運ぶためには、ズレないマーカーが必要だ。
 ヴォルヴォッグにソレを射出させて、あとはコチラがコントロール。

 ただ向こうの意思を無視してやるから、多分抵抗するだろうなぁ……。
 ……あ、突然の出来事に混乱してる。
 丁度良いや。今の内に転送……っと!



「…………エ?エ!?何、ココ!?何であたし、こんなトコロに……!?」



 一瞬後。
 光と共に現れたのは、つい今しがたまで地球で闘っていたスバル。
 到着。そして混乱。ムリもないことなのだが、コチラには時間がないのだ。

「スバル・ナカジマ二等陸士!」
「ハ、ハイ!!…………って、レジアスおじさんっ!?」
「……今は仕事中だから、階級で呼んでおくれ……」
「あ、スミマセン!……レジアス大将……」

 二人は顔見知り……っていうレベルではありません。
 家族ぐるみでの付き合いがある二人。
 特にスバルにとってレジアスは、美味しい料理を作ってくれる優しいオジサンだから、すぐに分かって当然なのだ。

「ナカジマ二等陸士、先程まで戦闘中だったアレは……八神はやて部隊長だと分かっているか……?」
「……ハイ。だからあたしたち、一刻もはやく部隊長を元の姿に……って!!」
「……だが現状、君たちだけでは難しい……そうだな?」

 悔しそうに頷くスバル。
 ムリもない。スバルにとってはやてという存在は、憧れの【なのはさん】と引き合わせてくれたヒトなのだ。
 だからその恩に報いたいと思うのは、当然のことなのである。

「それなら、その為の力を得れば良い!!」
「…………エッ?ソレって一体……?」

 意味不明。
 というか、あれはフリーズだな。
 あまりにワケ分からん情報が増えすぎて、頭の回転が止まったのだろう。

「オレたちには、その【力】がある。だがソレを扱えるのは…………君だけだ!!スバル・ナカジマ!!」
「あ、あたしぃぃぃぃっ!?何で!?どうしてあたしが……!!」
「……適正がある……としか言いようがないな……」

 そう。本当に動かせるかどうかは、やってみないと分からないのだ。
 ただ現在は、【適正がある】という状態。
 あとは本当に、根性とかで乗り切らないとなぁ……。

「月村博士ぇぇっ!!彼女に説明をぉぉっ!!」

 あ。勢いで押し切りやがった。
 それに、ボクに問題を投げつけやがったな?
 ……ハァ。仕方ない。手早く行こうか……?

「ハイ、ハイ。スバル・ナカジマ……まずはコレを左腕に付けて……?」
「わ、わかりました……!」

 昔何度も会ったことがあるのだが、今の彼女はボクを認識出来ていないようだ。
 ……助かる。その方が、余計な時間を取られずに済むからな。
 本当に忘れていてくれても、ボクは一向に構わない。……むしろ、そうあってくれ。

「次は、コレ……」

 コンソールをいじり、中央スクリーンの表示画面を変える。
 ソコに出現したのは獅子型マシンと、その支援メカが三体。
 五百系新幹線型。ステルス戦闘機型。そして最後に、ツインドリル搭載の戦車……としか言いようがない機体。

「コレって……」
「そ。今からキミには、コイツらと合体して闘ってもらう……」

 獅子型マシンが変形し、人型のマシンへと変化。
 その上で他の三体と合体し、一体の勇者ロボになる。
 ココの場所が場所だけにステルスには改修が施されており、両翼の先端に円柱状のパーツが追加されている。

「コレ。このコアとなっているロボットに、キミが融合することになるんだよ……」
「……出来るんですか……?」
「なに、心配は無用。成功確率はほぼ百パーセントだから……」

 ……コアロボットへの融合確率は、だがね……?
 他のロボット……つまりサポートマシンとの合体。その成功確率は……。
 多分言わない方が良い。その方が、彼女の身のためだ。

「……そんで左腕に付けたのが、インターフェースを兼ねたデバイス。大事にしてね……?」
「ハ、ハイ……!!」

 準備完了。
 目配せすると、鷹揚に頷くオッサン。
 後はソッチの仕事だよ……?

「良しっ!ならば、ナカジマ二等陸士!…………【出撃】せよっ!!」

 いつの間に着替えたのやら。
 黒いロングコートを纏ったレジアスが、声高らかにそう言った。
 ……おかしいなぁ……?ボクはあんなコート、用意してないんだけど……?

「了解っ!!…………って、一体ドコから……って、ひゃぁぁぁぁ……………………っ!!」

 ポチっとな。
 そんな擬音を言いながら、ボクは紅くて丸いボタンを押した。
 するとスバルの立っていた場所の床が抜け、奈落の底へご案なぁい♪ってなもんよ。



 ――ガォォォォンッ!!



 あ。どうやら獅子型マシン【ニャレオン】と接触したみたいだ。
 様子をスクリーンに映して……と。
 ……何かスゴク懐かれてるな。獅子型ロボが『ゴロ、ゴロ、ゴロ……』とか言って嬉しそうなのは、とってもシュールだよ。

「良ぉしっ!!【融合】承ぉぉ認っ!!」
『ハイッ!!…………【融合】!!』

 レジアスの承認を受けて、スバルがニャレオンに喰われ始め……じゃなくて融合を始める。
 純白の獅子。本来は色々と塗装するつもりだったんだけど、流石に間に合わなかったその機体。
 ……帰ったら、その辺から始めないとな……。

 ライオンヘッドが前に倒れて、元の位置からはヒトの頭が。
 前脚の爪が折れ曲がり、ソコから出てきたのはヒトの掌。
 動物的な後脚がシャンとまっすぐになり、ヒトのソレのようになる。

 【ギャイガー】。
 ソレがこのロボットの名前であり、今のスバルの身体の名前でもあるのだ。
 あとの合体は、この基地の中じゃムリ。なので、ギャイガーとサポートマシンを外に出そう。

 マメ知識的なモノを一つ。
 一番最初だけは、ただの【融合】にも承認が必要なのだよ。
 ……っていうか、ボクもソレ忘れてたんだけど……良く覚えてたな、レジアスのヤツ……?
 
「スバル・ナカジマ。このあとの合体は外でやるんだ。今ハッチを開けるから、ソコから外へ出てくり……?」
『わ、わかりましたけど……スゴイですねぇ!!このロボット……!!』

 うん。
 分かってはいたけど、ヒトの話を聞かない娘だよね?
 ……面倒だから、さっさと次に行こう。



 ――ウィィィィィィィィンッ!!
 
 

 巨大なハッチが開き、ソコから一面真っ暗な世界が広がる。
 不思議がりつつも、言われた通りに外に出るスバル。
 そして知ることになる。ココがどんな場所だったのかを。

『アレ……?何か、身体が上手く動かないっていうか…………地面がないっ!?』
「……いや、それよりさぁ………もっとおかしなことが、有るでしょうに……?」
『他に……?そういえばアレって……もしかして地球?……ということは……………………ココ、もしかして宇宙!?』

 一面に広がるのは漆黒の海。
 キラキラと光り輝く星々が、ココを宇宙だと教えてくれる。
 地球はやっぱり丸くて蒼い。とても美しい惑星だと思うよ……今暴れ回っている大タヌキさえ居なければ。

「そだよ。あと、今オマエさんが出てきた建物を見てみぃ……?どうよ……!!」
『…………スゴイ。金色のタワーが、宇宙に浮かんでる…………!!』

 地球の衛星軌道上に位置する場所に、【ココ】はあった。
 下方に二つの円柱を付けた、金色のタワー。
 残念ながら、本来四方に位置するハズの四つのパーツは付いていないが……その辺は察してくれ。

「【ココ】がボクの地球での拠点――――【ノーヒットベース】……だよ?」

 一塁・二塁・三塁・本塁が、本来のカタチから抜け落ちたモノ。
 故に【ノーヒット】。
 ……誰が上手いことを言えと……ゴメン。ちょっと調子に乗ったみたいだ。

「……今さら何だけどさぁ……【最終融合】の確率は…………」

 一応事実は伝えないといけないだろう。
 ソレが開発者としての責務であり、矜持だ。
 だがその台詞を片手で遮ったのはレジアス。……一体、どういうつもりだ……?

「……成功率なんていうモノは、あくまで目安……あとは【根性】で補えば良い……!!」

 ……根性バカ、ココに極まり。
 オヤジーズならいざ知らず、実際にやるのはスバルだぞ?
 どうすっかなぁ……今なら止められるけど……。

「……それにオレは、あの娘を――――【スバル】を信じているっ!!」
「…………ヘイ、ヘイ……」

 相変わらずクサいというか、熱いというか。
 どっちも当て嵌まるだけに、一概に分けることは出来ないか……。
 とりあえず熱血オヤジさん、お疲れ~……って感じで。

「【最終融合】承ぉぉ認っ!!」

 何処を指差しているのかは知らないが、大声でシャウトしながら【ビシィィッ!!】と決めるレジアス。
 その様子はどう見ても熱血司令官にしか見えない。
 その承認を受けてプロテクトを解除するのは……これまた何処かで見たことあるような、【制服】に身を包んだリンディ。

「了解……!!【最終融合】プログラム…………ドラァァァァイヴッ!!」

 ガラスの上からグーパンチで、安全装置を解除するリンディ。
 ……ちなみに、彼女の制服もボクは用意していない。
 というか、何時の間にか皆が【制服】を纏っているせいで、ボクだけが空気読まない子みたいになってるじゃないか……!?

『了解ッ!!』

 安全装置が解除されたことを確認すると、スバルが復唱する。
 ……うん。実に管理局……というか軍隊らしい態度だね?
 ソレで良いんだ。ソレで良いハズなんだよ……本来の場合はね?

「違ぁぁぁぁうっ!!そこは、『よっしゃぁぁぁぁっ!!』というのだっ!!」

 ……レジアスよ。
 男らしいとは言え、一応スバルは女の子だぞ?
 流石にソレはないんじゃ……?

『わ、わかりましたぁぁぁぁっ!!…………よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 
 ……ゴメン。
 あの娘、【アホの子】かもしれない。
 今度クイントに会ったら、何て言えば良いんだろうか……?



 ドリル戦車が脚に。
 新幹線型のマシンが肩を。
 最後にステルス機が翼・腕・兜を構成し、ココに合体は成功する。



『ギャオ、ギャイ、ガァァァァァァァァァァッ!!』



 ……何か大泥棒三代目のパートナーである、渋いオジさまの声が聞こえたような気が……。
 多分気のせい。
 気にしたら負け。……最近、こんなんバッカだねぇ……?













 あとは圧倒的だった。
 如何に高ランク魔導師が素体であろうとも、物理的なダメージには弱い。
 隊長陣で物理ダメージを結構与えられる両副隊長は、己の主に牙を向けるのを良しとせず、最小限度の迎撃しかしなかった。

 故にその特性に気付くことがなかったと思われる。
 全て己の拳で攻撃し、最後も両の拳を併せた技【天国と地獄】で粉砕。
 同時に中のコアを抉り出す。ソコから先は両隊長の出番だ。

 かつてはソレが元で、争い合ったこともあるモノだ。
 その封印などの扱いはお手のモノ。
 ……ただ、はやてが元に戻った時、元々風呂場の脱衣所に居たこともあってか…………まぁ、察してやってくれ。

 ソレを見てしまったヴァイスは、両副隊長によるフルボッコ。
 同じく見ていたハズのエリオは、何故か全面スルー。
 その時のヴァイス陸曹殿のコメントは、『り、理不尽な…………』だったとか。













 大将日記∀



 昨日から徹夜していたのは、何もシズカだけではない。
 今までのパターンから推察して、鑑賞させられたアニメの内容と似たようなことをさせられるのは明白。
 ならば、やらなくてはならないことがある。



 創造の理念を鑑定し(デザイナーのイメージを鑑定)

 基本となる骨子を想定し(型紙を起こす)

 構成された材質を複製し(同じ材料を探す。ない場合は代用品を探す)

 製作に及ぶ技術を模倣し(裁断、縫製はお手の物)

 成長に至る経験に共感し(作中での作画誤差も修正範囲に入れる)

 蓄積された年月を再現する(正味一年。だが熱い魂に月日は関係ない)




 ココに幻想を結び、【服】と為す……!!







 ……完璧だ。
 コレならばシズカも、そう文句は言うまい。
 次はザフィーラの分。その次は……とやっていたら、気が付くと今日になっていた。






 ゲイズさんちのオーリスちゃん【捨四】



 一つ目の目覚まし時計が鳴った。
 神速の如きスピードでソレは停止し、ソコは再び静寂な空間に巻き戻る。
 ちなみこの時のオーリスの台詞は、『……う~ん…………あと五ふぅん……」だった。

 二つ目。
 これまた超スピードで停止、ソコには静かな空間が。
 『…………あと、十……ぷん、まってぇ~……」とか聞こえたのは、この際無視しよう。

 三つ目。
 ……敢えて語るまい。
 時間が三十分に増えたこと以外は、先程までと同じなのだから……。

 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・

 ……三十個目。
 現在六時五十五分。
 家を出る本来の時間は七時五分。

 ……目が覚める。
 時計を見る。
 トーストを焼いている内にシャワーをし、速攻で服を着る。

 一工程に三動作は当たり前。
 先程までとは別の意味で神速となり、この日彼女は定刻通りに家を出る。
 ソコに居たのはキャリアーウーマン【オーリス・ゲイズ】。

 ……こうして彼女の一日は始まるのだ。



 補論:最寄の駅まで【バターを塗ったトースト】を咥えて走るのが、オーリスクォリティ。












 あとがき

 >誤字訂正

 俊さん。毎度ご指摘頂き、本当にありがとうございます!!






[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 28
Name: satuki◆b147bc52 ID:2a163fdd
Date: 2009/06/19 00:00


 前回のあらすじ:みんなが待ってた王様、満を持して光臨。



 やぁやぁ諸兄、お元気かい?
 ボクは今……比喩表現ではなく、本当に死にそうな状態。
 何かでっかいワンコが非常に懐いてきてるんだけど、【この】ワンコはノーセンキューです。

 白い鉢巻。
 その腕にあるのはリボルバーナックル。
 そのワンコは、どう見ても【スバル・ナカジマ】という生物だった。

 コレがザッフィーとかなら話が変わるんだけど、生憎コヤツは人間。
 人語をけたたましく喋り、コチラの話を聞かない【突撃型爆裂御嬢】。
 正直相手をするのが、とぉっても大変です。

 昔以上にパワフル&大音量になったソレは、どう見ても空気読めない子でした。
 ボクもそれなりに空気を無視するけど、この娘はソレ以上。
 これじゃあ、相方のティアナがキレるのもムリはないなぁ……と納得する。

「あぁ……ホントにシズカだぁぁっ!!懐かしいなぁ……!!」

 ことの発端は、司令席で承認かましたオッサンが原因だ。
 はやてタヌキ(仮称)を倒して、ノーヒットベースに帰ってきたスバル。
 その前でレジアスが、ボクを【シズカ】と呼んでしまったことに起因する。

 【シズカ】。
 ⇒どっかで聞いたような……?
 ⇒レジアスおじさんの知り合いっぽい
 ⇒レジアスおじさんと言えば料理とお菓子。
 ⇒お菓子と言えばケーキ!
 ⇒ケーキと言えば……!!

 以上が、彼女の中での連想ゲーム。
 正直呆れる程の思考回路だが、それでも思い出せたのは大したモノだ。
 ……忘れてくれた方が、コチラは楽だったんだけどなぁ……。

「ねぇねぇ、覚えてる……?昔ギンねぇと一緒に、シズカに【プロポーズ】した時のコト……!!」



 ――ピシッ!!



 あ。今、空気の割れる音が聞こえた。
 司令席を見る。どっかのオッサンが、準備運動を始めたようです。
 オペレートシートを見る。するとソコでは、麗しの姫騎士が笑っています。……ただし、何かバックに黒いモノが漂っているけど。

 参謀席のワンコと安全装置集積デスクの奥様が、手を添えながらヒソヒソ声で喋ってる。
 ……どう見ても、下世話な奥様会議だ。
 ココにボクの味方は、最初から存在しないらしい。

「……あ~、スバル……?悪いんだけど、オイちゃんの記憶では…………そんなコトはなかった思うんだけど……?」

 つーか、全く記憶にない。
 当時スバルが大体八歳前後で、ボクは十五歳くらい。
 となると、小さな頃の記憶として捏造されてる可能性が、非常に高い。……ていうか、そうであってくれ。

「ホントだって!!昔、シズカに言ったもん!!『一生私たちのご飯を作って?』…………って」
「……マテ、マテ!ソレには、大事な部分が抜けてるだろうが!」

 ……思い出した。
 当時ボクとレジアスは、超巨大ウェディングケーキをはじめとして、様々なモノを作らされた。
 【バケツプリン】や【風呂釜サイズの釜飯】とか……思い出すだけで胸焼けがする。

 んで食欲に釣られたナカジマ家の娘二人は、どうすれば一生この食事とかを食べられるか計算。
 その結果が、まず【レジアスおじさん】のお嫁さんになること。
 だが、当然レジアスは却下(非常に嬉しそうに目尻を下げていたが……)。

 ならばと次善の策で白羽の矢が立ったのが、ボク……だったと言うワケさ。
 何てことはない、小さな頃のおふざけ程度のモノ。
 ……断っておくが、ボクはちゃんと断ったぞ……?

『……お前らの食事を毎日作られされたら、給料がいくら有っても足りないだろ?……悪いが、他の高給取りを探してくれ……』

 ……ってね?

「…………アレ?そんな話だったっけ……?」
「……お前さんの頭の中ではどうなってるか知らないけど、コレが事実だ。……っていうか、そんな昔のことなんて、どう考えても時効だろうに……?」

 小さな頃の【結婚の約束】なんて、お話の中でもない限り風化するモノだ。
 ましてや断ったモノ。
 どう考えてもソレは約束足りえない。

「……第一、ボクは言ったよね?オマエさんたちの食う量が、当時の半分以下にでもなったら、【考えてやる】……ってね?」

 そんなの、この色気より食い気の姉妹にはムリだ。それに、あくまで【考える】だけ。
 確かにナカジマ姉妹は可愛いが、【クイント・ゲンヤ・レジアス】。
 その三人を相手にしてまで、ボクはこの姉妹をお嫁さんにしたいとは思わん。

 迫り来るタービン。
 二人の共同作業・アカヅキノオオダチ。
 空から飛来するバイカーキック。
 
 …………うん。この二人の嫁の貰い手はいないな。
 っていうか、誰が来ても無理な気がする。
 ソレこそ、レジアス位しか居ないんじゃないの……?

「……で?今は当然、あの頃よりも食うんだろ……?」
「……………………ア、アハハ……ッ!!」

 沈黙は肯定。
 しかし渇いた笑いもまた、肯定の意を表す。
 ソレがはからずとも証明された。まさにそんな瞬間である。

「……それにさぁ、動機からして不純なんだよ?何だよ、『美味しいご飯が一生食べたいから』って言うのはさぁ……!?」

 そんなの女の子に対して、『美人だから付き合って!!』って言ってるのと同レベルだ。
 つーか、失礼極まりない。
 そんなの相手にするは、ゴメンでござる。

「……ま、この話はコレで終わりだ。だから…………ソコで準備運動してるオヤジは、すぐに整理体操に入れ……!!」

 いつでも人誅可能な態勢を取っていた、地上本部の大将様。
 あとブラックカリムさんも、そろそろ元に戻って下さいな。
 ……アレ?カリムが怒る理由って…………そう言えば、知らんな?

「…………シズカ。オレはオマエを信じていたぞ……?」
「……だったら何で、ガトックセクター握り締めてるんだよ……?」

 完全に武装準備完了なオッサン。
 こりゃぁ、オーリスの時も同じだったのかなぁ……?
 そういえばティーダって、どうしたんだろ?ヴォルヴォッグなら知ってそうだけど……まぁ、いっか?

「スバル。ココでオマエが体験したことには、全て守秘義務が発生する。分かってるとは思うけど……」
「守秘義務、ってコトは…………なのはさんたちにも内緒にしなきゃ、ダメってこと……?」
「当然。……って言っても、オマエさんは口が軽いからなぁ……?」

 本人の意図せず、この娘は口が軽い。
 特に【なのはさん】が絡んだり、ヒートアップすると余計にそうなる。
 ……でも、極力その傾向を押さえ込む手段は……ないこともない。

「……スバル。もし六課の解散までこの守秘義務を護れれば…………【お菓子の城】を作ってあげよう……!!」
「了解しました!!スバル・ナカジマ二等陸士、全力を以って御期待に応えてみせます!!」

 ……扱いやすくて、大変結構。
 このワンコ娘は、とりあえずコレで大丈夫。
 あとは…………ニャレオンとかか。

 はやてタヌキ(仮称)戦を終えて帰還した、【ギャオギャイガー】。
 流石に試作品だったこともあってか、至るところに破損やダメージがあって、とてもじゃないが持って帰れそうになかった。
 パーツそのものの耐久値や、合体による自己ダメージが大きい模様。

 自己修復機能を働かせて、それでも完全回復までには相当かかる状態。
 ……仕方ない。ニャレオンたちは、ココで眠りについてもらおう。
 ノーヒットベースを完全封鎖した上で、光学迷彩を掛ける。

 セキュリティも万全を期したので、地球のテクノロジーではまず発見すら出来ない。
 ……って油断してたのがいけなかったのだろうね?
 地球外の技術、特にインヒューレント・スキルには【潜行系】のモノがあるということを……ボクはすっかり忘れてたのだ。























 機動六課の食堂。
 ソコは二日ぶりだというのに、随分と久しぶりに感じる場所だった。
 食堂のおばちゃんに留守を預けていったので心配はなかったが……何だが状況が少し変わっていた。

 アレだけカマボコを残していた、【桃太郎に似た名前のヒト】と同じ声をした職員。
 その彼が涙を流しながら、ソレを食べていたのだ。
 もちろん嬉し涙ではない。だがソレでも、おばちゃんの力が絶大であることを知った。

 そして理解した。
 ココはもう、ボクの戦場ではないと。
 ソレから先は、非常に迅速だった。

 その日の内に食堂という名のボクの【戦場だった】場所を去り、地下での作業に没頭するつもり……だったのだよ?
 でも気が付いたら、六課の一画で小さな小さな喫茶店を開かされていた。
 名前は【茜屋】。

 翠屋の名前にあやからせてもらったので、半端なモノは出せない。
 幸い店舗の小ささから一定以上は忙しくならないので、妥協をしない菓子作りが可能になった。
 ついでに言うと、【メイドリンディ】もコッチに転属。

 今回の件の発案者は、レジアス・カリム・リンディ・ザフィーラ。
 店内には、ザフィーラ専用の隔離区画……という名の犬小屋の姿があり、今の彼の家はソコである。
 ……アレ?そういえばザフィーラって、今までは何処で寝泊りしてたんだ……?













「店長さぁぁん、私に出番を!!もっと活躍出来る道具、出して下さいよぉぉぉぉっ!!」

 茜屋開店数日後。そのカウンターには一人の白衣の女医……っぽい存在がおりました。
 名前は【シャマル】。ザッフィーやニート騎士と同じく、【ヴォルケンリッター】の一人である。
 ちなみにボクは蒼いタヌキ……じゃなかった。蒼い猫じゃないんだけどね……?

「……出番はともかく、何でアンタが道具とか知ってるんだよ……?」

 一応【正体バレ】はまだなのです。
 なのに、なんでこのヒトは知っているのでしょう?
 ……イヤな予感しかしないな……?

「いえね?六課に配属以来、全然お仕事がないものですから……あちこちを【観る】のが趣味になっちゃいまして……♪」
「…………【シャマル】、評価表に×を四つ。オメデトウ……現在はキミがトップだよ……?」

 アチコチ覗くのは犯罪です。
 ソレを思えば、×四つは軽い方。
 ……そういえばこの前のはやての失態、まだ×付けてなかったなぁ……丁度良いので、一つ付けておこう。

「イヤァァァァッ!!…………でも!それでも私は、活躍したい……!!」
「……めげないヒトだなぁ。でもさ、アンタが活躍する場面っていうのは、どう考えても怪我人だらけの状況だよ?ムリじゃね……?」

 医療班のシャマルの活躍する場面。
 ソレは【怪我人治療】という名の戦場だ。
 他に活躍出来る場面があれば、もう少し話は変わるのだが……。

「ハイ、ハイ!それなら、攻撃手段を下さい!!」
「……足りないトコロを補う……まぁ、その発想は正しいんだけど……」

 根本の発想の方が、既に正しくないのだ。
 出番のために攻撃手段を手にするという発想。
 どう考えても間違っています。……良ぉし。そういうことなら、コッチも本気でやる必要はないな……?

「……分かった。なら、【コレ】をキミにあげよう……」

 つい先日生成した、Cストーンとは別個の存在。
 持ち主の闘争本能を武器に変える、六角形のカタチをした金属。
 【刻金】。ソレがこの物体の名前である。

「アンタ用は、【XLIV】つまり四十四番。そんで……」

 一通りの使い方と、最悪の場合を想定して【蘇生】方法も伝授しておく。
 もしも心臓が止まる、または傷付けられた時。
 その時その患者にコレを投与すれば、コレは新たな心臓として機能することを。

「……とまぁ、そんな感じだよ?」
「あ、ありがとうごじゃいますぅぅぅぅっ!!コレで、コレで出番がぁぁぁぁっ!!」
「……泣くなよ。そんじゃ悪いんだけど、ちょっと留守番を頼む。そろそろ業者さんが、果物とか届けてくれる時間なんでね……?」
「わ、わがりまじだぁぁ!!」

 大の大人が鼻水と涙まみれなのは勘弁だ。
 ボクはシャマルに後を任せると、逃げるようにその場を去っていく。
 そういえばアイツ、今日の仕事は…………ヤメ。気にしたら負けだ。

「……そういえば留守番って…………一体何をすれば……?」

 遠慮気味にカウンターの中に入り、中を見渡すシャマル。
 ふと目に止まったのは、先程【刻金】が出てきた金庫。
 悪戯心が鎌をもたげ、クラールヴィントを用いて錠開けをする女医。……コレが見つかれば、×だけでは済まないだろう。

「コレは……さっきのと同じ【刻金】……?」

 先程とは違い、【LXX】――七十番と刻印されたモノ。
 ソレ以外は四十四番との違いは見当たらない。
 全く同じに見える……少なくとも素人目には。

「……二つあれば、出番は倍増……!!」

 右見て。
 左見て。
 カメラを騙して……ゲット!!

「貴方もこんな所で眠っているよりは、日の当たる場所に行きたいわよねぇ……♪」

 この時彼女は思いもしなかった。
 後に自らの行いによって引き起こされる、とんでもない事態。
 その引き金を、この瞬間に引いてしまったということを。






 天罰その一。

 後日性能テストをしたシャマル。
 だが刻金を武器化した時に、太腿に数本の【アーム付きの鎌】が展開し、結果ロングスカートがズタボロに。
 ついでに、これまた【たまたま】その事態を見てしまったヴァイス陸曹。その彼の尊い犠牲を以って、この性能テストは終了となった。

 その時の彼のコメントは、『何という僥倖!!』だったらしい。












 大将日記SEED



 今日も今日とて、型紙起こし。
 理由は簡単。
 何処かの女医が、『今度のオークションの警備任務用に、隊長陣はドレスを用意したいのですけど……』と言ってきたのが原因だ。
 
 その見積もりに目を通すと、ソコには信じられない程の金額が。
 当然の如く却下するが、敵もさるもの。
 『ホール内に管理局員の姿があったら、お客様の気分を害するのでは……?』と、のたまう始末。

 確かに一理あるが、それでもこのような資金運用は認められない。
 事務員として。そして大将としても認めることが出来ないのだ。
 ならばと妥協案を出し、現在に至る。

 それぞれに似合うカラーをセレクトし、デザインも個々に合わせたモノを作成。
 正装を作るのはオーリスのドレス以来だが……大丈夫。腕は鈍っていないようだ。
 後は明日にでも街に繰り出し、材料を揃えるのみ。

 ……逝くぞ、浪費女医。後悔の貯蔵は十分か……?






 ゲイズさんちのオーリスちゃん【捨五】



 オーリスの朝は【とても】弱い。
 そして炊事・洗濯は言うに及ばす、掃除すらダメな始末。
 この事態を重く見たレジアスは、思い切って【ある場所】に連絡する。

 その場所は、かつてレジアスも世話になったことがある場所。
 今の自分が居るのは、その場所のお陰だと言っても過言ではない。
 連絡を取ると、すぐ下の後輩が来てくれることになった。



 翌朝。オーリスは不思議な感覚と共に目を覚ます。
 まるで、誰かに揺すられているかのような錯覚。
 その振動で目を覚ますと、ソコには……大量の鳥が居た。

 くちばしで自分の衣服を剥ぎ取り、大型鳥によってシャワー室に引き摺られて行く。
 シャワーの熱で漸く現実だと悟り、慌てて風呂場から出た。
 すると脱衣所には、綺麗に畳まれた衣服の姿が。

 もしかして父親が帰ってきたのかと思い、リビングに行くと…………

「クックック……おはよう、ご主人。今日から貴様の世話をすることになった、メイド害の【コマラシ】だ……!!宜しく頼むぞっ!!」

 メイドの姿をした大男が、ソコには存在していた。












 あとがき

 >誤字訂正

 俊さん。毎度ご指摘頂き、本当にありがとうございます!!


 >細部指摘

 くろがねさん。ご指摘頂きありがとうございます。
 分かり難かったみたいなので、少し書き方を変えました。
 コレで、少し分かりやすく……なったのかな?

 イカゲルさん。ニャレオンとギャレノンは、別個の機体なのです。
 前者が【試作】四号で、後者が四号。
 ちょいと区別をしないといけない理由があるので、このままで行く予定です。どうぞご勘弁を……。

 




[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 29
Name: satuki◆b147bc52 ID:95abff31
Date: 2009/06/19 00:00


 前回のあらすじ:大将の固有結界は、依然発生中。



 先日地球から持って帰ってきた、【ギャオギャイガー】のデータ。
 耐久値、パーツ剛性、プログラムの完成度。
 そのどれもがまだまだ改善の余地が有るモノで、正直一からやり直した方がはやい位だった。

 ニャレオンという名の試作四号機。
 ソレを発展改良して作ってきた四号機――ギャレノンだが、ココに来て重大な問題が発生したのだ。
 極限まで強化した機体。その強化した機体から弾き出される【フルパワー】。

 様々な場面で活躍出来るようにしたソレは、どう考えても今のスバルには扱えない――【化け物】という結論が出たのだ。
 コレばかりは、ボクにもどうしようもない。
 向こうさんの成長を待つしかない……そういうことになるのだ。

「(……とは言っても、ねぇ……?)」

 敵さんはその成長を、律儀に待ってはくれないだろう。
 加えて、ボクたちが【ダイノーズ】になるのは、出来れば避けたい事態。
 本来六課の仕事はその課の人間……つまり、六課の連中がやるモノだ。

 ボクたちがそうホイホイ出て行っては、この部隊の存在意義を刈り取ってしまう。
 だからボクたちは、出来るだけ表には出ない。
 出てはいけないのだ。

「…………新しい力、か…………」

 今まで蓄積してきた技術と経験・生産工程を利用すれば、かなり短期で機体が組める。
 型は違うが【Cストーン】もある。
 その代わり、ニャレオンみたいに自立行動はムリになるが……その分は総合的な自力の底上げでなんとかなる。

 ニャレオンに代わるコアロボット。
 ソレを支える、新型サポートマシンたち。
 最低でも四体。

 さらに【天国&地獄】は搭乗者に負担を掛けすぎるため、コレもまた新たな対策が必要とされる。
 ……頭の中でシミュレートは出来た。
 でもソコへの路は険しい。……さぁて、今度は何日で出来るかなぁ……?






















「出番をちょうだい♪」
「……開口一番で、何言ってるんだアンタは……?」

 茜屋でのランチタイムが終了し、今はアイドルタイム……何て洒落たモノじゃないけど、閑散期だ。
 掃除も済み、後片付けするようなモノも今はない。
 そんな状況を見てか、メイドリンディは突拍子もないことを言い始めた。

「だって……シャマルさんには、何かあげたんでしょう?だったら私も、何か欲しいわ~♪」
「……つーかさぁ?アンタは結構出番あるじゃん?それに引き換え、娘さんとかは全然出番なし。……母親として、ソレはどうよ……?」

 元祖魔法少女三人組は、はやて以外はほとんどスポットライトが当たってません。
 最初の頃にちょっとだけ出てきただけで、あとはしょぼーんな状態。
 特にこの前、はやてタヌキ(仮称)に最強技を一蹴されてからは、尚更そういう傾向にあるのだ。

「良いのよ~。私は母親である前に、【オンナ】!!そしてオンナは幾つになっても、輝いていたいモノなのよ~~♪」

 ……原作で感動的なことを言ってたリンディさんを返せ。
 こんなの、ボクたちのリンディさんじゃない。
 あの【ポワンポワンママ】を返してっ!!

「……言っとくけど、ボクたちは基本介入禁止。ソレでもやろうとするのなら、かなり条件は苦しくなるけど……?」
「……問題ないわ。デバイスの【アフレコ】もやったことがあるのよ?ソレに比べれば、他のことなんて……!!」

 かつて、【S2U】のデバイス音声を吹き込んだこともある女提督。
 ならその経験を生かして、さらなる【アフレコ】をしてもらうとしようか……?
 ……そう言えばこの作品のタイトルには、【魔法少女】という冠詞が付くハズだ。……なら、正統派を出さないとダメだよねぇ……?

「キャロ・ル・ルシエ三等陸士。キミに少し話があるんだけど、良いかなぁ……?」

 こうしてボクの悪巧みが始まった。







「さぁ、今度はライトニングの番だよ!!」
『ハイッ!!』

 所変わって、ココは訓練場。
 時間も少しばかり後ろに流れ、現在は【高町なのは】による訓練中。
 既にスターズのターンは終了し、これからはおチビちゃんたちの出番だ。

「それじゃ…………スタート!!」

 教導官の合図と共に、散開して距離を取るライトニング。
 普段はその後になのはをけん制しつつ、再び味方同士でくっ付き、補助魔法を掛けたエリオが突っ込む。
 その時キャロはアルケミックチェーンなどで捕縛態勢を作り、ソレをフリードが補助する。

 三方向からの別種の攻撃。
 ましてや二次元的な攻撃ではなく、三次元的な攻撃陣。
 如何にエースオブエースと呼ばれたなのはでも、コレには多少隙が出来る。

 この隙に如何に攻撃出来るかがポイントなのだが……。
 これまでは、ココで終了することが多い。
 やはり経験値・リーチ・技術などが不足するおチビちゃんたちには、ココまでが精一杯なのだ…………今日まではね?

「エリオ君!ブースト、行くよ……!!」
「うん!お願い、キャロ……!!」

 ストラーダが、金色以外の【桃色の】魔力光を纏い始める。
 加速態勢が整い、エリオは目標に向かって突撃。
 ソレをフォローするようにフリードのブラストレイと、キャロのアルケミックチェーンがなのはに襲い掛かる。

 対するなのはは、まるで挑戦者を待つチャンピオンのように、ゆったりと構え出した。
 レイジングハートをモードリリースし、右手は天に向け、左手は地に向ける。
 右手で突っ込んできたエリオに魔力デコピンをかまし、左手でアルケミックチェーンを防ぐ魔法壁を出現させる。

 さらにフリードの放った火球を、ソレ以上の魔力弾で弾き飛ばし、ソレがそのままの威力でフリードに突き刺さる。
 コレこそがなのはの厚い防御であり、コレを崩すのは至難の技。
 ……つーか魔法少女って言うより、【大魔王少女】の方が板に付いてるなぁ……?

「……クッ!さすが、なのはさん……!!」
「……エリオ君。私とフリードで試してみたいことがあるの……やってみても良いかな……?」
「…………分かったよ、キャロ。やってみよう……!!」
「うん!!」

 どうにもアソコだけ空気が違うな。
 若い……というか幼いことを指し引いても、ソレだけではないな……?
 何て言うか……そう。正統派ボーイミーツガールっぽいんだよ、あの二人は。

「…………二人とも、ちゃんとしようよ…………?」

 やってます。
 そう思えないのは、貴女にさもしいトコロがあるからです。
 そう言ってやりたいのを堪えつつ、現場の様子を六課の屋上から監視。

「じゃあ、行くよっ!!」
「……うん!」
『キュクルー!!』

 再び散開し、先程と同じポジショニングを取るライトニング。
 ソレはもう通じない。
 周囲がそう言いたいのを堪えつつ続行する、ライトニング対なのは。

 少年少女の瞳を見る。
 どう見てもソレらは輝いており、明らかに諦めムードではなかった。
 逆にソレが王者の癇に障る。当たるハズがない。なのにその目は何なんだ!!……てね?

 エリオが迫る。
 キャロのチェーンが肉薄し、フリードの火炎が襲い掛かる。
 でも同じだ。

 コレでは先程と同じ。
 強いて言うのなら、エリオ以外の攻撃が先程よりはやいタイミングであるが……。
 別に恐れる程のモノではない。

 時間差を持った三撃が、三連撃に近くなるのみ。
 防げる。カンタンに防いでみせる。
 ……カンタンに、だと……?

 もしも防がれるのを分かっていたら、普通はどうする?
 その後に追撃を仕掛けるのが常だ。
 でも先程のタイミングでは、ソレがムリだった。

 だったら、可能にすれば良い。
 そう考えての三連撃。
 その為のほぼ同時攻撃なのだから……。



 ――ドォォォォォォンッ!!



 煙が巻き起こり、ソコに視覚的な壁が生じる。
 コレこそがキャロの考えた策であり、これから先の布石でもあるのだ。
 フリードがキャロに近付いて来る。…………どうやら、やるらしいな……?

『今や、キャロっ!!』
「……うん。フリちゃん!!」

 首に掛けられたアクセサリー。
 ソレは星型の鍵。
 キャロにのみ許された力。ソレを封ぜしカードを使うための――――封印を解くためのキーなのだ。

「【星】の力を秘めし鍵よ!真の姿を我の前に示せ!契約の元【キャロ】が命じる!…………【封印解除】!!」

 鍵は杖に。
 星を中心部に填め込んだソレは、そのままの状態で大きくなった。
 羽の生えたリングが星を囲い、それはとても魔法少女らしい杖に生まれ変わる。

『さぁ~、コレからが反撃や!!』

 どうでも良いことですが、さっきからフリードに声を当ててるのは…………リンディママンです。
 アフレコでも……とか言っていたので、その通りにやってもらいました。
 関西弁なのは仕様です。どうかお気になさらず……。






 この模擬戦。
 結果はなのはの勝ち。
 ……だったのだが、彼女は試合後にこうコメントしていた。

「……試合には勝ったのに、勝負で負けた気がする…………あんな【魔法少女】みたいな格好、反則だよぉ……」

 こうして【魔砲少女】と【魔法少女】の闘いは、幕を下ろした。
 そう……かのエースオブエースに【心理的ダメージ】を与えるという、予想外の結果を残して……。
 嗚呼、何とも悲しき闘いか……。コレがのちの世に語り継がれる、【正統派魔法少女】の誕生の瞬間である。













 大将日記SEED DESTINY



 連日に及ぶ作業。
 ソレによって、隊長陣のドレスは完成した。
 それぞれに合わせたサイズ。そしてデザイン。

 外面の煌びやかさを重視しつつも、決して着心地を忘れないという、妥協のない作り。
 あくまでドレスは黒子であって、主役は隊長陣。
 彼女たちの美しさを引き立たせるのが主目的であるので、その点も忘れてはならない。

 こうして理想と現実の双方に拘って作られたドレスだったが……試着してみて問題点が浮上した。
 ソレは、彼女たちがサイズのサバを読んでいたこと。
 高町なのはは問題なし。

 だがフェイト・T・ハラオウン。
 彼女はバストサイズを五センチもサバを読んでいた。
 ソレも小さい方にだ。

 対して八神はやて。
 この部隊長は逆に、バストを五センチ大きく申告し、さらにはウェストを二センチ少なめに言っていたのだ。
 ……涙ぐましいにも程が有る。

 こうして発覚した本当のサイズ。
 かつて取得した【メイド害アイ】を使えば、判別はカンタンだった。
 だがソレはセクハラだ。やはりそういうモノを使ってはいけない。

 そう考えて封印したのだが……。
 そう言えば、コレを良く使っていた後輩。
 【コマラシ】のヤツは、オーリスと上手くやっているのだろうか……?







 ゲイズさんちのオーリスちゃん【拾陸】



 あの変態メイド男が着てから、彼女の生活は一変した。
 朝は強制セクハラで目が覚める。
 職場でも気が付いたら後ろに居るし、的外れな援護をしてくる始末。

 あんまりにもムカつくので殴り倒すが、一向にダメージが与えられない。
 途方に暮れたその時、救いの女神がやって来た。
 太腿に数本のアームを付けた鎌。

 ソコから巻き起こる惨殺劇が、オーリスを救ったのだ。
 彼女を救ったモノの名は【シャマル】。
 先日シズカからもらった刻金を使いこなす為の練習中に、オーリスとメイド害を見つけ、襲われてると思って攻撃したらしい。

 感謝の念で一杯になるオーリス。
 今度二人で飲む約束をして、その日は別れた。
 そして希望に胸を抱きつつ家に帰ると……

「……ぬ?遅かったではないか、ご主人。夜遊びも結構だが、はやく寝ないと肌がボロボロになるぞ……?」

 とか抜かす、マッチョメイド男がソコには存在した。












 あとがき

 >誤字訂正

 俊さん。毎度ご指摘いただき、本当にありがとうございます!


 >元ネタ板

 【お知らせ】にも書いたのですが、元ネタ板を試しに作成してみました。
 作成⇒移動中にご覧になった、悠さんをはじめとする方々。
 閲覧中にご迷惑をおかけ致しました。本当に申し訳ありません。






[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 30
Name: satuki◆b147bc52 ID:a894f6f8
Date: 2009/06/19 00:00


 前回のあらすじ:なのは、【正統派魔法少女】にやられる。



 今更だが、ヴォルケンリッターは優秀な騎士である。
 そもそも優秀な存在でない限り【騎士】という呼称は名乗れず、その中でも群を抜いた存在。ソレが彼女らだ。
 しかし現在、その才能を無駄に発揮しているモノが居る。

 湖の騎士【シャマル】。
 コレがそのモノの名前であり、同時にトンでもないことをやってしまった…………咎人でもある。
 彼女の仕出かしたことは二つ。

 一つ、窃盗。ヒトのモノを勝手に持ち出し、着服したこと。
 二つ。その持ち出したモノを貸与されたモノと同等のモノと勘違いし、その危険性を認知しなかったこと。
 そして最後に…………【ソレ】を他人に【与えてしまった】こと。

 ……前置きが長くなってしまった上に、滅茶苦茶暗い出だし。
 重い話題は嫌いなので、今回もサクっといきまっしょい。
 というワケで、キャロ先生にありがたいお言葉を頂きました~。



 『だいじょうぶだよ!絶対、だいじょうぶだよ!!』



 ……うん。
 何だか元気が出てくるよね?
 コレなら、明日からも頑張れそうだ……!!


















 ホテル・アグスタ。
 ソレはミッドチルダにある大型ホテルの名称であり、今回の六課の任務先でもある。
 隊長陣の服装は、レジアス謹製の特別ドレス。

 修正を施したソレは、既に彼女たち専用の戦闘衣装。
 上流階級のモノがひしめく、この会場。
 その会場という名の戦場に、彼女たちはそれぞれに誂えられた戦闘衣装を纏って立つ。

 振り返る賓客たち。
 お近づきになりたいと思うモノども多数。
 だがしかし、如何せんソレらは眩し過ぎた。

 太陽と月。それに蒼い地球を思わせる彼女たち。
 どう考えても近付き難いオーラが出ています。
 これじゃあ、誰もアタックを仕掛けてこないのは明白。

 でも本人たちは気付いていない様子。
 だから、【何で灰色の青春を……】てなことになるのだ。
 狂想倍率……もとい、競争倍率が限りなくゼロに近い状態。

 今ならお買い得ですよぉ~?
 ……ただし、【最狂の高町家】や【最兄の黒乃提督】。
 それに【最凶の守護騎士】たちに勝てるのなら……だけどね?












 エリオが焦っていた。
 原作を知るモノからすると、【有り得ない】と断じられそうなコト。
 だが実際に彼は焦っていたのだ。そう……【強くなりたい】という想いに、その身を焦がしながら。

 良く考えれば、ソレはすぐに分かるハズのことだった。
 自分以外の新人たちが、新たな力を得てパワーアップしていくその姿。
 フォワード陣の中で唯一の【男性】なのに、他の【女性】たちの方が圧倒的に強いという事実。

 腕力的なモノは仕方ない。
 身体能力的なモノだってしょうがない。
 彼はまだ成長期前の身体なのだ。今は同年代の少女のソレと比べても大差はない。

 つまり、現在の彼が女性陣の中に埋没してしまうのは……仕方のないこと。
 分かっている。理解しているのだ。
 ……でも。それでも……。

 だけど……!!

 男という生き物は悲しいことに、ソレでは納得出来ないようになっている。
 オトコというモノは、生まれた時よりその役割が決まっている。
 【オンナを護る】。ソレがDNAに刻み込まれた本能であり、生きる理由でもある。

 彼が【ある程度】世の中を知った存在なら問題ない。
 割り切りというモノを知り、己が限界を見極められるからだ。
 確かに少年は、【世の中の裏】を知っている。

 ソレは彼の出自から始まり、フェイトに会うまでの間に嫌という程知ったのだろう。
 だがソレとは別のベクトルで。
 彼はやはり、【まだ少年】なのだ。

「(……もっと強く、もっと速く。もっと、もっと…………!!)」

 彼の強みは速さだ。
 だが、その速さでもフェイトには及ばない。
 自分は彼女の半分くらいしか生きていない。故にソレは当然のこと。

 だけど諦めたくない。
 皆を護りたい。
 その為なら何でも出来る。少年の心は、そう考えてしまうまでになっていた。

 焦り。
 苛立ち。
 満たされない心。

 そんな状態の彼の眼前に。
 【護れそう】なヒトが居た時。
 彼は一体どうするだろうか……?



 答えは一つ。

 その存在を護るために、無茶をする。

 ソレがその答えだった。







 その日の彼は他の前線メンバーと同じく、オークションの会場警備の任にあった。
 そして訪れる【ガジェット】たち。
 すぐに迎撃戦になり、愛槍と甲冑を装備してソレらに立ち向かう。

 圧倒的な力を見せ付ける、両副隊長。
 フォワード組もまた、それに負けじと奮戦する。
 空を【駆ける】ウイングロード。

 精密な射撃と共に、複数の敵を打ち落とすスナイパー。
 相棒との掛け合いをしながらも、【いかにも】な魔法でガジェットを追い払う少女。
 少年も敵機を墜としてはいるものの、彼女らのようにはいかない。

 何かが足りない。
 どうしてもその境界から抜け出せない。
 何故だ。どうしてボクは…………!!

「キャァァァァッ!!」

 思考の底から引き上げたのは、女性の悲鳴だった。
 即座にその悲鳴が聞こえてきた方向を見る。
 するとソコに居たのは金髪の女性。

 機動六課では女医として知られる彼女。
 悲鳴の主は……守護騎士のシャマル。
 四方をガジェットで囲まれたその状態は、百戦錬磨の猛者でも苦戦どころでは済まない。

 ましてや彼女は後方支援型。
 どう考えても危険な状態だ。
 ソニックムーブ。雷のような速度を目指すソレは、一瞬の内にシャマルとガジェットの間に割って入る…………ハズだった。

「え…………?」

 貫かれたのは己の心臓。
 貫いたのはガジェットの触手。
 普段なら予測出来たソレは、焦りを抱えた彼には分からなかった。

「……ガッ、ハッ…………!!」

 口から出るのは紅い液体。
 心臓から抜け落ちるのもまた、ソレと同じモノ。
 人間の身体を構成する上で、とても大事なモノが、二箇所から抜け落ちていく。

 ソレは致命傷だった。
 バリアジャケットすら抜いて訪れる一撃。
 本来そんなことは有り得ない。

 だが彼は高速移動中だった。
 そしてガジェットは、偶然彼の槍を回避して、その攻撃が入れた。
 つまりはカウンター。少年は高速移動で、自ら的に成りに行ったようなモノだったのだ。

 こうなってしまえば、ジャケットの強度も落ちるというもの。
 偶然が重なった結果。だが結果は動かしがたい事実。
 エリオ少年の命の灯火は、まさに消えかけていた。
 
「エ、エリオ君!?し、しっかりして下さい……!!」

 目の前で起こった出来事に、驚きを隠せないシャマル。
 彼女の予定では、ワザと悲鳴を上げて囲まれた後に、刻金を使って殲滅。
 その予定だったのだ。

 しかし実際は、ソレが成功することはなかった。
 一人の少年がソレを本当の窮地だと勘違いし、救援に来てしまったから。
 流れ出る血液。ソレは目の前の少年が、致命傷であることを教えてくれた。

「そ、そんな……!!心臓が修復困難な状態……コレじゃあ…………!!」

 すぐさまガジェットを一閃し、少年の診察をする女医。
 状況は最悪。
 どう見てもそうとしか言いようがない状況で、シャマルはあることを思い出した。

「…………そうだわ。コレを……【刻金】を使えば…………!!」

 茜屋の店主から貰った刻金。
 その使い方の説明中に聞いた、ヒトの命を救う【使い方】。
 ……迷っている時間はない。この一瞬の間にも、命はどんどん削られているのだから。

「……じゃあ、いきます……!」

 密かに入手した、【LXX】の刻金。
 ソレをエリオの胸に当てて、その身の内に吸い込ませていく。
 やがてソレは一体化し、完全に少年のモノとなる。

 安定する少年の身体。拍動も安定域で固定され、息遣いも安らかなモノになる。
 ここにクローンとして生まれた少年は死んだ。
 今居るのは……一人の【ヒト】として生まれ変わった、【エリオ・モンディアル】という名の少年である。






















「…………じゃあ次は、ライトニングね…………」 

 最近なのはの様子がおかしい。
 スターズの訓練の時には問題ないのだが、ライトニングとの訓練の時のみ、その調子が崩れるのだ。
 消える笑顔。容赦のない攻撃。特にキャロを狙ったソレは、明らかに私怨が入っていた。

『コラァァッ!キャロに、何てことしてくれるやぁ!?このオバハンがっ!!』

 吹き替えリンディ。
 どう見ても楽しんでやってるソレは、ソレによってキャロたちを窮地に立たせていた。
 今回のターゲットは、ソレのせいでキャロとフリード。エリオは放置されている。

「……キャロ、フリード…………少し、頭冷やそうか…………?」

 絶対零度の表情。
 集まっていく、【少しではない】魔力。
 ソレはティアナの得意技のクロスファイヤーだが、ソコには【大魔王と魔導師の初期炎熱魔法程の差】が存在していた。

「…………シュート」

 轟炎が迫って来る。
 【風】の壁をカードで作り、ガードに入るキャロ。
 だが甘い。今のは余のメ……じゃなかった。なのはのクロスファイヤーだ。

「…………そっか。なら、手加減はいらないよね……?」

 集まる魔力。
 その異常なほどの猛りは、明らかに必殺の構え。
 ご覧。アレがブラスタービットだよ……?

「全力全壊…………エクセリオォォォォォォォォンバスタァァァァァァァァッ!!」

 明らかに背後に般若を背負った一撃。
 表情がとっても漢らしいです。
 明らかに生まれる性別を間違えてますねぇ……?

「…………!!ダメ、防げない……!?」

 風の壁を突破して突き刺さる一撃。
 命の危機すら覚悟し、キャロはその目蓋をギュッと瞑る。
 だが、思った一撃は来なかった。頼りになるチームメイト。彼が助けに来てくれたから。

「うぉぉぉぉぉぉっ!!貫け、ボクの無双錬金…………!!」

 ソレは長槍だった。
 突撃槍と言った方が正しいかもしれない。
 ストラーダよりも打突部の面積が増し、大きな飾り布が特徴的である。

「…………!?そ、そんな!?どうして、どうしてキャロは…………!?」

 絶体絶命のピンチに助けに来てくれる相手。
 そんな夢みたいな存在は、自分には居なかった。
 羨ましい。妬ましい。そんななのはの心が、思いもしないモノを引き付けてしまった。



 ――キィィィィィィンッ!!



 蒼い軌跡が、なのはの防御壁に吸い込まれていく。
 ソレは高速で飛来したジュエルシード。願いが強ければ強い程、ソレに引き寄せられる宝石。
 かつてフェイトと競い合って封印してきたソレが、今度は自分をターゲットに選んできた。
 
「…………そ、そんな!?何で、どうして【ジュエルシード】が…………!?」

 信じられないモノを見た。
 地球ではやてに降り掛かった災い。
 ソレと同種のモノが、現在進行形で自分に襲い掛かって来ている。

 普通なら防げる。
 もしくはカンタンに封印してしまうであろう、その宝石。
 だが今の彼女には無理だった。

 全力技を撃った直後の、隙だらけの状況。
 一定時間経たないと回復しない、その魔力。
 ソレに比例して、紙っぺら同然の防御壁。

 一瞬。
 本当に一瞬だった。
 なのはが蒼の宝石に寄生され、その身に変化が訪れたのは。

 徐々に小さくなる、その身体。
 髪も段々と短くなり、衣服はバリアジャケットの元になったソレに変化していく。
 レイジングハートはその無骨な外見から、非常に愛らしいハートをあしらった短杖に【戻っていく】。

 過去からの刺客。
 ソレが今度の六課の敵であり、同時になのは自身の敵でもあった。
 ……どうなるのよ、コレ……?













 大将日記00



 エリオ・モンディアルが死んだ。
 ソレはシャマルと、【内偵軍団】のみが知っていることだ。
 無くなった刻金。蘇生したエリオ。

 どう考えてもシャマルの仕業なのは、明白なことだった。
 即座に査問し、シャマルには厳罰。
 詳しい内容は省くが、かなりの精神的なダメージを与えることに成功。

 しかし問題は別にあった。
 彼女がエリオに与えてしまった刻金。
 失敗作を偽装したソレは、どう考えても危険なモノ。

 故にその扱い方を、同じく刻金を持たされたレジアスが務めることに。
 彼の正体を隠す意味でも有効だった刻金は、レジアスの場合は防護服だった。
 頭部まで覆われる、ジャケット型の無双錬金。

 【ズィルパージャケット】。
 ソレを纏ったレジアスは、地上本部の大将でもなければ、六課の事務員でもなかった。
 【キャプテンベラボー】。ソレが少年を特訓する時の、彼の名前である。







 ゲイズさんちのオーリスちゃん【拾漆】



 先日、シャマルと仲良くなったオーリス。
 今日は女医のたっての希望により、飲み会をゲイズ邸でやることに。
 反対した。ソレはもう、反対した。

 だがシャマルは【是非とも】と聞かず、今日に至る次第である。
 あの変態メイド男が、何か粗相をしないだろうか?
 ……いや。しない方がおかしかった。

 しかしもう後には引けない。そう思って帰宅すると、あのメイド害の姿がない。
 気になって家中探すが、本当に何処にも居なかった。
 あったのは一枚の書置き。

『ご主人。今日貴様が連れてくるオンナは、オレに想いを寄せるモノだ。ソレでは仕事にならんので、暫しの間消えているとしよう……クックックック……』

 そんなバカな。そんな天変地異、有るワケがないだろう。
 そう思いながらも、オーリスは冗談半分でシャマルに問いかける。
 すると返ってきた答えは……。

「……あら、RIKIちゃんたら…………こんな所に居たなんて……♪」

 ……どうやらこの【シャマル】という女性も、只者ではないようだ。












 あとがき

 >誤字訂正

 俊さん。毎度ご指摘頂き、本当にありがとうございます!!







[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 31
Name: satuki◆b147bc52 ID:5579661a
Date: 2009/06/19 00:00

 前回のあらすじ:高町なのは、昔に【戻る】。




 ソレはトンでもない事態だった。
 前回の【はやてタヌキ化】も問題だったが、コレはある意味もっと厄介だった。
 パッと見は聖祥時代のなのは【さん】だが、その手にしていたのは【初代】レイジングハート。

 現在は気絶中のため、医務室でお休み中。
 しかしある意味においての爆弾は、ココでも落とされた。
 寝言で『……クロノ、くん……』とか言っていたのだ。

 ……いや、ねぇ……?
 そんなことには、ならないよねぇ……?
 ……と言いたくなるけど、多分予想通りのことが起きるだろうなぁ。

 仕方が無い。
 一応準備しておこう。
 それぞれに合わせた道具と【台本】。

 ボクの場合は……ハァ。
 恐らく【アレ】だけで足りるだろうなぁ……。
 【偽胸】。そう呼ばれるモノさえあれば、ボクは大丈夫なんだろうなぁ……憂鬱だ。























 なのはが目を覚ました。
 その報せは瞬く間に六課を駆け巡り、皆が医務室に殺到する。
 一番乗りは、なのはさん大好き人間のスバル。自慢の機動力を以って、最速で到着した。

「なのはさん……!!」

 バンッ!という音をさせて入室するスバル。
 ……病室ではお静かにねぇ……?
 そんな天からの声は華麗にスルーし、ズカズカと進んでいくワンコ娘。

「……あの…………晶ちゃん、どうしたの……?」

 空気が凍りついた。
 同時にスバルも凍りついた。
 無理もない。尊敬する【なのはさん】に忘れられ…………ついでに、人違いをされたのだから。

「……しょうがない。ボクが行くしかないみたいだなぁ……」

 盛大な溜息。
 それと同時にちょっとした決意を固め、ボクはボクの闘いをする。
 自己暗示だ。今のボクは月村静香じゃない。今の【わたし】は…………。

「ハイハイ。【晶ちゃん】は、ちょぉっと外へ行きましょうねぇ……?」

 我、月村。
 この身は月村のモノ。
 故に今の【わたし】は……!!

「忍さん!?」
「は~い、忍ちゃんで~す♪なのはちゃん、ちょっと待っててね?すぐに戻るから~!」

 現在の【わたし】は【月村忍】。
 とらハシリーズで唯一公式カップルに認定された、恭也の内縁の妻……!!
 ……ハァ。ソレが今のボクが演じる役割だ。

 悲しいかな、現在でもすずかと双子に間違われるくらいだ。
 偽胸を入れて髪をストレートにすれば、【月村忍】の一丁あがり。
 生まれてからずっと見てきた存在だ。マネをするのは楽勝…………なんだけど、心はズタボロさぁ……笑えよぉ。

「…………というワケで、キミたちには特殊任務に当たってもらう……!!」

 外見は月村姉なボク。
 説明先は六課の面々。
 面識……?そんなモンないヤツも居るけど、勢いで何とかなるんだよ……!!

「最初、スバル!オマエさんは、【コレ】で胸を潰して、台本読み!!」
「…………この、【晶】っていうヒトを演じれば良いの……?」
「ん。そんではやて……!!」

 晶に胸はありません。
 正確にはちゃんとあるんだけど、スバルのソレは大きすぎる。
 故に【さらし】で、フラット気味にしてもらいまっしょい。お次ははやてだ。

「オタクは、髪の毛を【緑色】に染めて、髪留め外せ。そんで中華風衣装を着ること……!!」
「なんや、ソレは!?」
「反論は認めません。次、フェイト……!」

 本音を言えば、拳法の達人じゃないと不味いんだが、贅沢は言えない。
 とりあえず外見を取り繕う。
 まずはソレからだ。

「フェイトはこの【青玉】を舐めて、巫女服。そんで狐耳と尻尾を着用!!」
「え?えぇぇ!?ちょ、ちょっと待って下さい!!何でそんな……!!」
「……この命令は、地上本部の将官連名のモノです。異議は通りません……!」
「そ、そんなぁ……」

 コレで子狐も確保。
 あとは誰が居たっけ……?
 ……そうだ。【妖精】さんも、一応用意しておくか。

「最後にリンディ。アンタは常に【羽】出したまま、身体を妖精サイズにして!」
「…………取り戻せるのね?こんなハズじゃなかった【過去】を……!!」

 息子の名台詞を台無しにするなよ……?
 まぁ分からんでもないし、本人がノリノリの方がやりやすい。
 コレで迎撃準備はOK。あとは試すしかないなぁ……。







「なのはちゃん、ゴメンね~?ちょっと晶が、変なモノ食べちゃってねぇ……?」
「変なモノ……もしかして、おねーちゃんの…………」
「……じゃあないんだけど、ソレみたいなモノかなぁ~……?」

 スバル悪い。
 今のオマエは変なモノを食べて錯乱した、可哀想な娘だ。
 ……アレ?普段と大差なくね?

「晶ちゃん、大丈夫なんですか……?」
「うん、もう大丈夫だから♪あとで会ったら、普通どおりに接してあげなよ……?」
「…………ハイッ!」

 良い娘だぁ……。
 騙してるのが悪いくらいに良い娘だぁ……。
 でもコレでほぼ確定だ。この娘は、【なのちゃん】なのだ。

『なのちゃん!!』

 バンッ!!と勢い良く扉が開け放たれて、入ってきたのは【レン】と【晶】。
 ……のパチモンである、はやてとスバル。
 どう見てもソックリさんなので、あとは中身次第だ。

「なのちゃん、無事やったんやな!?良かった~、ホンマに良かったぁ……(何か疲れる喋り方やなぁ……)」

 はやては京風関西弁がベースだけど、レンはコテコテ風関西弁。
 若干?の差異を修正すれば、あとはタヌキから亀へと変化する。
 元々タヌキは騙すのが商売みたいなモンだ。コレくらい朝飯前だろう。

「なのちゃん、ケガとかしてないよな!?ドコも痛いトコとかないよな!?(なのはさん!無事ですよねぇ!?)」

 スバルも中々の演技を見せてくれます。
 元々アホ的な要素を抜けば、頭の良い彼女。
 それも【なのはさん】のためなら、芝居に熱も入るでしょうなぁ……。

「やめんか、このおサル!!なのちゃんがビックリしてるやないか!!」
「んだと~?このカメ!!」

 熱が入りすぎて、【レン】に止められる始末。
 まぁ予定通りと言えば、そうなんだけどね?
 この【二人】らしいやり取りを見せるという点では、結構重要な場面だし……?

「ふたりともー!!ケンカはダメって、言ってるでしょう!?」
「でもなのちゃん!(!?なのはさんに、いつもと違うオーラが!?)」
「このおサルが!(ホンマにこの子、なのはちゃんなんか!?何かいつもと違うような……!?)」
「ふたりとも、ソコにすわってください!!」

 強制的に、と言ってもソレは武力的なモノではない。
 言葉の力と【なのちゃんオーラ】で二人を押さえ込む。
 ……ヤバイ。感動で視界が歪んで見える……。

「なのはちゃん、ちょっと良いかなぁ……?」

 このままでも良いんだけど、話が進まないんだよね?
 仕方ないので、二人に助け舟を出す。
 ……というかこの二人って、立場が違うとこうなるモンだったのか……意外。

「なんでしょう?忍さん……?」
「あのね?ココって、【ミッドチルダ】っていうトコロなんだけど…………知ってる?」
「えぇ~~!?ミッドチルダって……………………リンディさんと、クロノくんの…………」

 OK。
 【リリカルなトイボックス】までの記憶は、存在している……と。
 じゃあ次は、【リンディ】さんに登場願いましょうか?

「失礼します…………なのはさん、お久しぶりですね……?」
「……リ、リンディさん……?」
「ハイ♪」

 スモール&羽展開リンディ、通称【妖精さんリンディ】のご登場です。
 ココはミッドチルダなので、本来はこの姿である必要はない。
 だけど【リンディさん】だと信用してもらうには、コレが一番なのである。

「あ、あの!ここが【ミッドチルダ】だっていうのは……」
「……本当です。イデアシードとは別のモノによって、皆さんは偶然コチラの世界に来てしまったのです……」

 ウソ設定その一。
 とりあえずココに居る理由を作る。
 コレで第一関門は突破。

「そんな!それじゃあ、わたしたち…………帰れるんですか……?」

 心底心配です。
 そんな表情とオーラを出す、【なのちゃん】。
 ……もはや別種の生物だと言われても信じられるな、コレは……?

「……少し手続きとかに時間が掛かりますが…………大丈夫です。何と言っても、わたしもソレで地球に行きましたから♪」
「…………そういえば、そうでした……」

 良し。次弾装填。
 逝くぞ、金色の獣娘よ。
 覚悟の貯蔵は十分か……?

「なのはちゃん、実はね?わたしたち以外にも、【コッチ】に来てる子が居るんだぁ~~♪」
「え?そうなんですか……?」
「うん。それじゃあ、【久遠】!!入ってきてぇっ!!」

 ガタン!
 ゴトンッ!!
 どうにも不安な効果音を響かせながら、ソレはやって来た。

「…………なのは………………」

 身長が縮み、狐の耳と尻尾を装備。
 そしてその身に巫女服(風)を纏って立ったのは…………【久遠】。
 もちろん、アレもパチモノ。中身はフェイトだ。

「!!く、くーちゃん!?」
「くぅん♪(あぁ……なのは可愛いなぁ……。まるで出会った頃に戻ったみたいだ……)」

 寝かせられたベッドから飛び起きて、なのはは【久遠】に飛びついた。
 無理もない。【原典】の時系列で言えば、久遠となのはは大の仲良し。
 むしろ、こうならない方がおかしい。
 
 それから質問攻めに遭う【久遠】だが、中身はポンコツ風味であっても執務官。
 きちんと台本どおりにこなし、つっかえつっかえの【久遠語】を話せていた。
 ……段々となのはに抱きつかれてるのが、嬉しそうに見えてきた。……まさかね?

「……あの、リンディさん……?」
「?何でしょう、なのはさん?」
「……クロノくんって、今どこにいるんですか……?」



 ――ピシリッ!!



 空気の割れる音が聞こえた。
 そういえば、あやつを【用意】するの忘れてたっけ……?
 どうしよう?中身は殆ど今のフェイトなんだけど、やっぱ男装させるのはムリがあるよなぁ……?

「エーと、クロノは…………そう!!今日はお仕事なんですよ!!」
「……そう、なんですか……」

 明らかに落ち込みムードだな。
 コレで精神状態が不安定になって、ジュエルシードが暴走でもしたら……。
 堪ったモンじゃないな。……良ぉし。ココはミッドのために【クロノ】も用意するか……!!

「大丈夫だって!!クロノくんだって、明日には来てくれるから♪そうですよね、リンディさん……?」
「え、えぇ……!そういうわけですから、明日には会えますよ?クロノったら、なのはさんに会えるのを、とても楽しみにしてましたからね~♪」
「……そ、そんなぁ……♪」

 危機は脱した。
 しかし新たなるピンチの到来。
 さーて……クラウディアに連絡を取らなきゃねぇ……?













 大将日記00 second season



 エリオ・モンディアルは、実に見所のある少年だ。
 その出自に関しても、逃げることなく受け止める心。
 一時危ぶまれた精神状態も、現在は回復している。

 自らの強さに溺れることなく、ソレでいて強さを求めることを忘れない。
 焦りを抱えていた彼は、文字通り【死んだ】。
 だからこそ、今の彼は強いのだ。精神的にも……技量的にも。

「よぉしっ!!次は、刺突の型を二百回だ!!」
「ハイッ!!…………ところで、キャプテンベラボー……」
「……ん?どうした、何か質問か……?」

 実に感心。
 コレ程熱心な生徒は、そうは居ない。
 そういう意味では、少年は最高の弟子になりそうだ。

「どうしていつも、そのジャケットを纏っているんですか……?」

 成る程。そちらが気になるか。
 だがココで、己の正体を明かすわけにはいかない。
 ならば、こう答えるより他ないだろう!!

「……答えは秘密。その方が、【カッコイイ】からだ……っ!!

 バックで雷が落ちた。
 今回の音響効果は、エリオ本人によるモノ。
 ソレくらい、今の彼は感銘を受けたようだ。
 






 ゲイズさんちのオーリスちゃん【拾八】



 シャマルが家に来ると、メイド害は現れない。
 そしてその女医は、メイド害を探して家に来たがっている。
 そのコトに気が付いたオーリスは、それからシャマルを連日家に招いた。

 二人で酒盛りし、酔いつぶれる毎日。
 そして二人が潰れている間に、メイド害が掃除をする。
 まるで、小人さんや妖精さんのような働き。普段の彼からはとても想像出来ない。

 逆を返せば、それだけ変態メイド男は、あの女医を恐れているということ。
 そしてソレこそが解決の糸口と気付いたオーリスは、シャマルと一芝居打った。
 酔っ払って寝たフリをして、メイド害をおびき寄せる。

 普通なら騙されないだろうが、シャマルに認識阻害の魔法を掛けてもらい、コトに及んだ。
 結果、引っかかった。
 そして現れたのだ、あの男が。

「フッフッフッフ…………ついに捕まえましたよぉ……?」
「フン!このメイド害を欺くとは、良い腕だな…………?」

 バインドで固められた変態メイド男。
 ソレを恍惚の表情で悦る女医。
 ココに勝敗は決した…………と思われた。

「だが、このコマラシ!!これしきのことで、止められるモノか……!!」

 長い黒髪。
 ソレが針金のように変化し、女医のバインドを破り裂く。
 化け物め。その時オーリスは、改めてそう思った。

「……流石はRIKIちゃん。なら、【コレ】はどうですか……!!」

 いつの間に付けたのやら、左耳に付けたピアス。
 その中心部には絢爛な宝玉が填め込まれており、ただのピアスでないことを証明している。
 空を見上げるシャマル。

 その視線の先には月があり、ソレは一瞬にして黒く染まる。
 ソコに二本の紅いラインが走り、中心部には丸い点。
 月が紅く光り輝いた時、ピアスの宝玉が紫色の光を帯びる。

「【マデリアライス】…………!!」

 アンダースーツは白。
 外套は少しくすんだ緑。
 首・両手首・腰に銀色の金属パーツが走り、その中央線に金色の輝き。

「……ホウ。ソレが伝説の【マスターロープ】か……。良いだろう……相手にとって、不足はないようだな……?」

 メイド害VS女医……改め、【マスター乙女】。
 その闘いの火蓋。
 ソレが今、切って落とされようとしている……。












 あとがき

 >誤字訂正

 俊さん、円冠さん。ご指摘いただき、ありがとうございます!







[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 32【注:糖分過多】
Name: satuki◆b147bc52 ID:b0c74dcd
Date: 2009/06/18 23:59



 前回のあらすじ:【なのちゃん】、襲来。



 コチラ茜屋のカウンター。
 提督ズが全員集合で【ある人間】の到着を、今か今かと待っていた。
 恐らく今回の事件の切り札になるであろう、その人物を。



 ――プシューッ!!



「…………来たね?」

 六課内の扉からではなく、外の勝手口から入ってきた男。
 十四歳の頃から比べると、信じられないくらい大きくなった身長。
 高かった声は落ち着いた大人の男のモノへと変化し、それでも変わらない優しい瞳。

「……話は通信で聞かせてもらった。それで、なのは…………?」

 肩に銀のモールが付いた、着慣れぬ黒の制服。
 白いスラックスに同色の手袋をはめた姿は、まさしく将官のモノ。
 自前の黒髪と併せて、ソレはとても映えていた。

「良く来てくれたね?正直、忙しいから来ないかと思ったのに……?」

 そう。艦船を預かる身分のモノとしては、コレは些事。
 幾らロストロギアが出張って来ているからと言っても、提督が艦を放って来なければならない状況ではない。
 ましてや、彼は重度のワーカーホリック。来た方が奇跡だ。

「……良く言う。地上本部の将官連名の命令に、ハラオウンの家から根回し。……来ない方がおかしいだろう……?」

 レジアス・リンディ・カリム・ザ○ィー○……そしてボク。
 大将から准将までフルコンプ出来る、この連名。
 それにリンディとフェイトのそれぞれのルートを使っての、エイミィへの説明。

 ……うん。どう見てもコレは【脅迫】だ。
 全てコチラの掌で踊ってもらうようで心苦しいが、この際ソレは甘受してもらおう。
 なにせ冗談抜きの、【非常事態】なのだから。

「ソッチこそ良く言うよ……?【こんなこと】をしなくったって、オマエさんは来ただろうに……?」
「…………さてな」

 不器用だが本当は心優しい青年。
 故に妹の友人(ということにしておく)の危機には、必ず助けようとするハズだ。
 ましてや、【ジュエルシード】とは因縁浅からぬ仲。来ない方がおかしい。

「ま、そういうことにしておきましょう……?そんなことより、【コレ】を…………」

 手渡したのは【青玉】と【台本】。
 彼の場合は、外見は小さくすれば良いだけだし、性格も根底では変化ない。
 だがなのはとの距離が違えば、その表に出るモノも変わる。そして今求められるのは……。

「……待て。コレは何の冗談だ……?僕に…………僕になのはの、【恋人】役をやれというのか……!?」

 現在のなのはの精神は、【リリカルなトイボックス】の本編終了後。
 つまり【クロノ・ハーヴェイ】と恋仲になり、彼の再来を待ち続けている状態だ。
 そしてたぶん、その【クロノ】になら【なのちゃん】は心を開き、大人しくジュエルシードを封印させてくれる……と思う。

 出たトコ勝負。
 分の悪い賭け。
 だが……分の悪い賭けは嫌いじゃない……とか言ってみる。

「そ。コレが唯一の突破口。キミじゃないと出来ない、【クロノ】という存在にしか出来ない策…………やってくれるね?」
「…………分かった。やるしかないようだな……?」

 そう、そう。残念なことに、【この】物語の主役はキミだ。
 主役が上がらない舞台は成り立たない。
 さぁ……幕を開けるとしようか……?























「……なのは。久しぶりだね……?」
「……ク、クロノくん…………!!」

 目の前では【ハーヴェイ】少年と、【なのちゃん】の感動の対面が行われている。
 泣きじゃくって少年に抱きつく【なのちゃん】。
 何処か儚いイメージを漂わす、【ハーヴェイ】少年。

 フェイトの性格の原案となったとも言われる、その物静かで儚い存在。
 演技とか苦手な感じの【ハラオウン】少年は、何時の間にか腹芸が出来るようになったらしい。
 ……歳月は人を変える。それでも変わらないモノも、有るんだけどねぇ……?

「クロノくん!クロノくぅぅん!!」
「……大丈夫。僕はココに居るよ……」

 台本書いたのはボク。……なのだが、やはり目の前でソレをやられるのは赤面モノだ。
 ましてや【この二人】のソレは、少し見ただけで糖尿病になりそうなモノ。
 つまり、少女漫画を初めて見た時の恥ずかしさ。

「……せっかく、ミッドチルダに来てくれたんだ。少し遊びに行こうか……?」
「……うんっ!!」

 手に手を取ってのランデブー。
 ……古いか。この言い方は……?
 ともかく、子ども同士のお出かけ……という名のデート。

 何時の間にか用意されたバスケットに、クロノ手製のおにぎり。
 水筒にはお茶を入れ、敷物にするシートもお忘れなく。
 由緒正しい、小学生デート。ココに準備完了!!






 その手にしたのは、デジタルカメラ。
 写し出すのは二人の思い出。場所は草原。【かつて】一緒に行った、【あの】草原を思わせる場所。
 今度はいつ会えるか分からない。だからこそ、いっぱい記録を残したい。

 小学生の頃の記憶というのは、思い出すと恥ずかしくて、それでいて甘酸っぱいモノ。
 ソレを現在進行形で追体験している二人。
 特に思考が大人のままソレを体験しているクロノは、何とも言えない気分になっているのだろう。

「(……そうか。なのはと恋人になっていたら、こうなっていたのかもしれないのか……)」

 十四の時に感じ、暫くして置いて来た気持ち。
 特に現在は二児の父親になったぐらい月日は経過しており、当時を思い出すことは少なくなった。
 でも、なくなってはいなかった。その小さく小さくなっていた火の種が、今はハッキリと感じ取れる。

「(……気付かなかった。いや、気が付かないフリをしていた。もし彼女の笑顔が崩れるかと思うと、僕は一歩を出す勇気が持てなかったんだ……)」

 少年の心は臆病である。
 現在の関係を壊すことを恐れ、そうこうしている内に事態が変わってしまう。
 忙しくなり、環境が変わり、そして自分も何時の間にか変わっている。

 ソレが成長。
 そして忘却。
 つまり思春期の思い出……というワケだ。

「……?どうしたの、クロノくん……?」

 心底心配そうな顔の【なのちゃん】。
 ズキリと、心が痛む。
 このあどけない少女をコレ以上騙すことは…………したくない。

 だが現実に何が出来る?
 コレからするのは、少女を騙したままジュエルシードを封印することだ。
 【ハーヴェイ】少年の仮面を被り、何も知らない【なのちゃん】を騙す。

 大儀のため。ミッドのため。次元世界全体のため。
 言い繕うことは幾らでも可能だ。
 そしてソレは嘘ではない。嘘ではない…………のだが。
 
「(……大人の割り切り。十を救うために一を捨てる。ソレが上に立つモノの役割……)」

 彼は提督。
 何百人・何千人もの部下の命を預かり、大きなモノを護るためには小さなものを捨てる。
 取捨選択を強いられる立場。ソレが今の【ハラオウン】提督なのだ。

 覚悟したハズだ。
 ソレは管理局に入った時から。執務官になった日から。
 そして……提督の制服に袖を通した、その日から……。

「…………なのは、少し話を聞いてもらえるかな…………?」

 良いじゃないか。
 今の己は、【ハーヴェイ】少年なんだ。
 ココに【ハラオウン】提督は居ない。ならば、自分の心に素直になっても良いハズだ。

「なぁに?クロノくん……?」

 小首を傾げて聞き返すなのは。
 瞑目し、深呼吸をする少年。
 ……大丈夫。言うべきことは、もう決まっているのだから。

「……なのは、驚かないで聞いてね……?今の君は…………【ジュエルシード】っていうモノに、寄生されてるんだ……」
「……【ジュエルシード】……?それって、イデアシードみたいなモノ……?」

 その名前は、【ハーヴェイ】少年と【なのちゃん】を繋ぐモノだった。
 【かつて】ソレを巡って争い、そして仲良くなった。
 そう。まるで【なのはちゃん】と【フェイト】のように……。

「……うん。【ジュエルシード】の特徴は、生物の願いを叶えること…………。ただし、必ずしも想った通りにはならないんだけど……」

 かつてのP・T事件。
 その詳細を知るモノなら、ソレは嫌という程理解している。
 捻じ曲げられた願い。ソレは願ったモノの想像の範疇を超えて、異常な事態を引き起こす。

「だから…………ソレは封印しないと、いけないんだ…………」
「…………ねぇ、クロノくん……?ソレを封印したら、わたしは…………どうなっちゃうの……?」
「それは…………」

 言葉に詰まる。
 嘘を言って騙すのはカンタンだ。
 だがソレは出来ない。したくない。するワケにはいかないのだ。

「…………今【ココ】での記憶を失って…………元の世界に【戻る】ことになる…………」

 搾り出した声。
 悲しそうな瞳。
 ソコに演技の色は微塵もない。

「…………………………………………やだ」
「…………エ?」

 何かの聞き間違いだと思った。
 【なのはちゃん】は頑固だが、それでも聞き分けの良い子だった。
 ……というよりも、ハイと返事して後で命令違反するタイプである。

 だが今、目の前の少女は何と言った?
 長い沈黙の後に、搾り出すように言った【わがまま】。
 ソレは、彼女【たち】を明確に分ける、重要なラインだった。

「やだ、いやだよぉぉぉぉっ!!もう、クロノくんと【離れ離れ】は、いや…………!!絶対に、いやっ!!」
「…………なのは……………………」

 このままでは、【なのちゃん】の精神状態は危険域。
 気絶させるなりして、ジュエルシードを封印。
 上手くいくかは別として、今の彼女の精神の揺らぎによる暴走よりはマシだろう。

 だがソレよりも。
 何よりも彼自身が。
 【クロノ】という存在がソレを許さなかった。

「…………なのは。君が【この】記憶を無くしても、魔法を失っても…………僕は……………………ずっと【キミ】の【側】に居るから…………!」
「…………!?」

 なのはが成りたかったのは、【魔法少女らしい】存在。
 それと、【魔法がなくなっても居てくれる大切な存在】。
 ソレらが、今回の【なのちゃん】の記憶を引き寄せてしまったのだ。

 【魔法】というフィルターを通してでしか、自分には存在価値がないと思い込んでしまっている、その精神。
 幼い頃の孤独と、満たされなかったモノを満たす道具になってくれた、【魔法】という存在。
 【依存】。【執着】。

 それ故味わった、事故後の【喪失感】。
 この【なのはちゃん】は、そうして出来上がったのだ。
 ならば今することは…………【魔法】を介さない、【約束】による【絆】の構築。

 【隣】には居られない。
 【今回】の彼女の【隣】には、もう居る資格がない。
 ……でも。今度巡り会えたら…………その時は……!!

「…………絶対だよ……?【約束】やぶっちゃ…………いやだからねぇ……?」
「……【約束】する。必ず僕は…………【キミ】の【側】にいるから…………」

 大きな瞳に、いっぱいの涙が溢れる。
 悲しい瞳。でも希望を宿した瞳でもある。
 【なのちゃん】は二つに結わっていた緑のリボンをほどき、その内の一つをクロノに手渡した。

「…………」
「…………」

 互いに言葉はない。
 これ以上の約束は出来ないし、何より伝えたいことはもう…………分かっているから。
 緑のリボン。クロノはそれを黙って受け取り、【S2U】を展開する。

「……レイデン・イリカル・クロルフル…………【なのは】の心を…………在るべき場所に……………………居るべき場所に…………!!」

 信頼の表情。
 ソレを浮かべながら、【なのちゃん】は穏やかに目蓋を閉じていく。
 光が凝縮していく。蒼い光。ソレが結集した先には…………蒼い菱形の宝石、【ジュエルシード】があった。

「…………ジュエルシード…………封印…………」

 ソコに居たのは、既に【ハーヴェイ】少年ではなかった。
 大きくなった身体で正座し、【なのはちゃん】を膝枕した青年。
 優しい眼差しでその女性を見守るその姿は、紛れもなく【ハラオウン】提督だった。






「…………クロノ君……」
「……なんだ、なのは……?」

 草原には優しい風が吹き、それが茶色のサイドポニーを揺らす。
 ソレが顔に当たり、目覚める【なのは】。
 すぐ目の前にある顔――クロノに向かって、なのははこう言った。

「夢を……夢を見ていたの…………」
「…………」
「……夢の中の私は、私がなりたい【わたし】だったの……」
「…………そうか」

 今ココで言えることはない。
 ただなのはの言うことに、己の耳を傾けるだけ。
 それだけしか、今のクロノには出来ないのだ。

「…………クロノ君。その…………ありがとね…………?」
「……なに、大したことはしていない。それよりもなのは。君は、みんなに言うことがあるんじゃないのか……?」
「…………そうだね。帰ったら、みんなに謝って…………お礼を言わなきゃね……?」

 身を起こして立ち上がり、なのははスカートに付いた草を手で叩く。
 その様子を苦笑しながらも、クロノも同様に立ち上がる。
 彼のその手には、既にS2Uは存在しなかった。

 ソレは、今は別の所に在る。
 その場所は秘密。
 だが、誰かの白色のジャケットのポケットにある……とだけ言っておこう。



 こうして、機動六課の…………いや。【高町なのは】と【クロノ】の長い一日は終了した。













 大将日記 クウガ



 今回、高町なのは教導官に訪れたコト。
 ソレは、誰しもが抱える可能性があるモノだった。
 此度は【たまたま】彼女に寄生されたが、もしかすると自分であった可能性もある。

 ……いや。もしかしてジュエルシードは…………現在の持ち主は、ターゲットを絞っているのかもしれない。
 だがソレは、我々には判別出来ない。
 後手後手に回ってしまうが、寄生されてからでしか分からないのだから……。

 とはいうものの……それでも彼女に落ち度があったことは確か。
 怒りに身を任せた故の結果であるので、自業自得と言ってしまっても……。
 ……難しいな。このあたりの処遇は、部隊長である八神ニ佐に任せるとしよう……。



 ところで……後になって知ったのだが、今日の一部始終を録画したモノを、ノンフィクション映画として、放映したらしい。
 ソレを見た若者たちが、こぞって時空管理局を進路希望にしたらしいが…………ソレで良いのだろうか……?
 更に余談だが、その映画の放映後のクロノ提督は…………ゲッソリやつれたようだ。

 ……良し。元気の出る料理を作ろう。そうと決まれば、早速仕込みしなければ……。






 ゲイズさんちのオーリスちゃん【拾九】



 メイド害とマスター乙女の闘い。
 ソレは人知を超えたモノ同士の【死合】だった。
 乙女の巨大モーニングスターのようなモノが壁を打ち砕き、メイド害の針金のような髪がソファーを破る。

 最初はメイド害の最後の日か?と喜んでいたが、次第に被害が看過出来ない状態に。
 それでもあと少しの辛抱と耐えてきたが、乙女……つまりシャマルが、トンでもない行動に出たのだ。
 「根性ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」と言って、巨大鉄球で二階の床をブチ抜く。

 それに対して、メイド害はメイド服の裾の部分を鋭利な刃物のようにし、チェーンソーのように一階の壁を斬っていく。
 ……もう我慢の限界だ。
 そう思った時、何処からともなくサイレンが聞こえてきた。

 フェラーリ型の覆面パトカーが突如現れ、更に小型ヘリと大型バイクも姿を現す。
 『三身一体』の掛け声と共に合体していき、ソレらは巨大なロボットになった。
 その名は【ラージヴォルヴォッグ】。勇者ロボ一号の、戦闘形態である。








[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 33
Name: satuki◆b147bc52 ID:3a7edad1
Date: 2009/06/18 23:59


 前回のあらすじ:【劇場版】リリカルなのは【episode00――クロノとなのは】が、ミッドチルダでブームになりました。



 やぁやぁ。随分と久しぶりな気がするけど、こんにちは。
 本当は前回も出てたんだけど、あの【糖尿病の方の服用は禁止】な話があったせいか。
 どうにも、【久しぶり】な気がしてならないんだよねぇ……?

 そうそう。
 あの後、ハラオウン家では【第三万七千五百六十四回目】の家族会議……という名の、家庭内裁判が行われたようだ。
 被告人はもちろん、【クロノ・ハラオウン】。

 裁判官・検事・弁護士。
 その全てが【エイミィ・ハラオウン】。
 ……どう考えても、裁判という制度の皮を被った【死刑執行】だ。

 左に妹の使い魔。
 右に妹。
 後ろを母親が陣取り、正面の嫁が閻魔大王と化す。

 まさに四面楚歌。
 暗中模索。
 ……なんて格好の良いモノではないけどね?

 まず普段の愚痴(家に帰ってこない。ワーカーホリックで、たまの休日も仕事に当ててしまうなど)から入る。
 この時点では、【映画】の話は出てこない。
 バレていない。

 そう思ったクロノの気分は、裁判が始まる前より幾分か楽になった。
 自慢にならないことだが、この手の話はいつものこと。
 故に時間が解決してくれるだろう……そう考えたのだ。

 ……だが甘い。
 ココに居るのは、クロノ・ハラオウンという存在を知り尽くしたモノたちだ。
 そんなに楽な相手なワケがない。

 個々人が【クロノ攻略データ】を所有する猛者たち。
 どうあがいても、彼に退路はない。
 在るハズがない。在る方がおかしいだろう。



 裁判の終わりが見えてきた。
 ソレは話の流れから、察することが出来る。
 何とか乗り切った。彼は心の中でホッとため息をし、警戒を緩めた。

 そう……【緩めて】しまったのだ。
 ソコに隙が生じる。
 そしてそんな好機を逃す程、英雄の嫁は甘くない。

「……そう言えばさぁ……………………今、ミッドでスゴイ人気の映画がやってるんだってねぇ…………?」
「…………!!」
「えぇ♪何と言っても、なのはさんが演じた、【ノンフィクション】映画なんですもの…………おかげで、進路希望で管理局がトップになったのよ~~♪」
「…………」

 不意を付いた攻撃。
 何と有効な手段だろうか。
 クロノが伴侶に選んだだけのことはある。

「……へぇぇ…………そんで?なのはの相手役は、一体どこのどいつなんだい…………?」
「…………えっと、確か…………どこかの【青年提督】だったと思ったけど…………」

 アルフの【口撃】に、その主が合わせる。
 タイミングは完璧。
 流石に、以前はパートナーとして、共に戦場を駆け抜けただけはある。

 ちなみにクロノのライフポイントは、既にゼロ。
 コレ以上は明らかにオーバーキル。
 でも止めない。止められるわけがない。

「えぇ~~、そうなのぉ……?良いなぁ……ソレだったら、今度みんなで見に行こうよ……!!」
「良いわねぇ……何時にしましょうか……?」
「……フェイトの都合さえ合えば、いつでも良いんだけどねぇ……?」
「……そうなの?私、明日までは休暇を取ったから…………じゃあ、明日にする…………?」
「えいが~?いく、いく!!」
「うん。わたしもみた~い♪」

 しまいには、子どもたちすら敵に回る始末。
 ……というか、双子は単に映画を見たいだけ。
 大人がそのように扇動しているのだ。



 かくして、クロノ・ハラオウンの受難の日々が訪れた。
 この件に関して許しを得られるのは当分先。
 旗色が悪いので、仕事に逃げたクロノが悪いのか。

 それとも、そうなるように仕向けたエイミィが悪いのか。
 だが一つだけ言えることは、その間になのはに相談に乗ってもらう、この青年提督の姿が目撃されているのだ。
 コレが妻の怒りを長引かせているというのに、どうしてこの男は気が付かないのだろうか……?























 絶好の洗濯日和。
 そんな雲一つない天気の下、新人たちには休暇が与えられた。
 そう。今日は所謂【機動六課の休日】なのである。

 スバルとティアナは、ヴァイスにバイクを借りて街へ。
 その際、ヴァイスが『抱きしめたいなぁ……ギャンダム!!』と意味不明な言葉を発し、ティアナをホールドしようとした。
 だが何処からともなく現れた、【金色なのに】銀の月と名付けられたブーメラン。ソレが彼の頭にヒットし、彼女がソレに気付くことはなかった。

 二人が去った後に、ムクリと起き上がるヴァイス。
 デッカイこぶが在ったハズなのに、一瞬にして消え失せていた。
 どう考えてもギャグ要員。当然、この後にお決まりの台詞を吐くことも忘れない。

「フッフッフッフ…………身持ちが固いなぁ、ギャンダム…………!!」

 再び繰り出される、大型ブーメラン。
 ソレをヘリのローターで叩き落す。
 得意げな表情をし、懲りもせず三度言う。

「ヴァイス最高ぉぉぉぉ!!イヤッホォォォォォォォォ!!」

 あ。
 今度は金色の大型十字手裏剣が飛んで来た。
 南~無~。






 場面は変わって、今度はライトニング。
 エリオの身だしなみチェックをし、お決まりの子ども扱い。
 フェイトそんは、やはり天然さんでござる。

「エリオく~ん!」

 ソコへ着替え終わったキャロが登場。
 クルリとその場で一回転し、エリオに服の感想を求める。
 ……何てテンプレな。そして、何と【しっと団】のターゲットになりやすそうなことか……。

 ソレを笑顔を浮かべて見守りながらも、心では焦りを感じる執務官。
 ……オイオイ。今度はアンタかよ……?
 少年少女が、微笑ましいやり取りをしてるだけだぜ……?

 ソコは【生】暖かい視線を送るとかさぁ……。
 ……それじゃ、ダメか。
 ともかく顔で微笑み、心で懊悩する現役執務官。

「それじゃ、フェイトさん。行ってきます!!」
「行ってきます!」
「え?うん、行ってらっしゃい……」

 遊びに行く二人を、やや呆然としながらも送り出すフェイト。
 二人が見えなくなるまでは手を振り続け、見えなくなった瞬間にソレを下ろす。
 顔を俯き加減にし、まるで競歩のように足早にその場を去る。

 行き先は決まっている。
 彼女も本日は半休。
 故にこういう時は、アルコールが良き友だちとなるのだ。







「ちょっと、店長さん……聞いてます…………!?」
「…………ボク、ブランデーケーキで酔っ払うヒトって、はじめて見たよ…………」

 こちら毎度お馴染みとなりつつある、茜屋のカウンター。
 カウンターを挟んで、酔っ払いと化した金髪娘が一匹。
 ソコにはフェイトと呼ばれる物体の面影はなく、完全無欠の酔っ払いだった。

「何ですって~~?休日でも、飲んじゃいけないって言うんですか~~!?」

 誰だよ。
 フェイト執務官はおしとやかで、奥ゆかしいなんて言ったヤツは……?
 どう見ても酒乱じゃないか。

 ブランデーケーキに含まれるアルコール。
 ソレだけでこの酔い具合。
 もし普通に酒を飲ませたら…………機動六課は簡単に潰れるかもしないな。

「ハイハイ、そんで……?アンタは、家族と一緒に遊びに行けないコトと、二人がデキちゃうんじゃないかが心配と……」

 フェイトも今日は半休である。
 だが隊長職に就く彼女は、いざという時の為に六課を離れられない。
 故に家族揃って遊びに行くという彼女の夢は、あえなく散ったのだ。

 そしてもう一つ。
 彼女の感じる焦りは、コチラの方に起因する。
 もし二人が恋人になったとしよう。



 ①ミッドでは就業年齢が低い
 ②ソレに比例して、結婚もはやい。
 ③そうなると、すぐにでも結婚!?
 ④もしそうなれば、まだ若い時分から【おばあちゃん】に!?
 ⑤……そうするとリンディが、【ひいおばあちゃん】になってしまう可能性が…………。



 ……大層オメデタイ頭の構造してると思う。
 普通に考えたら、コレはないだろう。
 でもオフでの彼女は、トンでもなくポンコツだ。

 ソレはもう、ネジが二十本くらい行方不明な程に。
 故に彼女の心配は、彼女の中では至極真面目なモノ。
 更に言うのなら、もしその想像が具現化するとしたら……。

「(…………奥で聞き耳を立ててる様から見るに、あながち間違いとも言えないか…………)」

 奥の調理場で盗み聞きをしている、【ひいおばあちゃん】になるかもしれない人物。
 笑顔だ。笑顔なんだけど、黒い影が見える。
 ……うん。確かにソレは不味いかもね……?

「もう私、どうしたら良いのか…………」

 そんなコトに頭を悩ませる暇があったら、とっとと休め。
 そう言いたいの堪えつつ、ボクは聞き役に徹する。
 ココはボクの店。そして彼女は客だ。お客様は神様なのです、ハイ。

「まぁ……それでしたら、お客様が見守ってあげれば良いのでは♪」

 奥からヌッと出てきた、件の人物。通称メイドリンディ。
 このヒトのことだから、【見守る=尾行する】という意味を込めてるんだろうな。
 案の定、フェイトはそう取って、スゴイ勢いで立ち上がった。

「そうですよね?私が二人を監視……じゃなかった。見守ってあげないとダメですよね……!?」
「えぇ♪お一人で歩き回るのも不自然ですから、この店長をお付けしますね……?」

 マテ。一体何処をどうしたら、そういう流れになるんだ?
 このオバハン、明らかに遊んでるだけだろう……!!
 ……ゴメンなさい。前言は撤回しますから、そんなに【イイ】笑顔で微笑まないで下さい。

「ありがとうございます!!店長さん、メイドさん!!」

 勝手に話を進めるな。
 そう言いたいのだが、多分この母娘の前には意味を成さないだろう。
 ……ところで、ソロソロメイドの正体に気が…………付いて欲しいなぁと思うのは、いけないことだろうか……?



 ――カタ、カタカタ!



 何か、動く音が聞こえる。
 ソレはカウンターの下に置いてある、孵卵機のようなモノから聞こえた。
 その中央部にある、二つの【卵】。

 一つは上半分が赤紫で、下半分が黒。赤紫の部分の下方には黒い模様がある。
 もう一つは上半分が白で、下半分がピンク。
 ソレらはまるで孵化前のひよこのように、中から殻を震わせていた。

「(……そうか。コイツらも、ソロソロ表に出す頃合いか……)」

 新型ユニゾンデバイスの【試作一号】と【試作二号】。
 リインを創った経験からフィードバックし、さらにロード本人を投影したタイプ。
 そのプロトタイプが、フェイトの心の揺れに反応している。

「(……一応、コイツらも連れて行くか…………?)」

 反応したということは、脈アリと考えて良いだろう。
 あとはキッカケが、あるかないかだ。
 ならソレをコチラから与えてやるのも、良いかもしれないしなぁ……?












 大将日記 アギト



 シズカがハラオウン分隊長に拉致された。
 もとい、強制連行された。
 ソコには幾ばくかの事情があるのかもしれない。

 だが、そんなことは店を開けない理由にはならない。
 少数とは言え、固定客が増えてきた茜屋。
 ココでの食事を楽しみにしている人たちのためにも、店を開けなければならない。

 確認したところ、デザートは仕込み済み。
 あとはランチメニューだけだ。
 ……仕方がない。今日は代役させてもらうとするか……。

 裏の庭で育てている野菜。
 その中でも今日は、レタスとトマトが良い加減だった。
 同じく庭の鶏舎から、生みたての卵。

 コレにデザートと一緒に仕込んであったベーコンを使えば…………BLTサンドが出来るな……?
 良し。あとは野菜スープを作れば、何とかなりそうだ。
 事務仕事をはやめに切り上げ、茜屋の入り口を潜る。さぁ、戦闘開始だと自らに言い聞かせて。

 するとソコに居たのは…………大量の【砂糖とミルク入り】緑茶を製造中の、メイドの姿があった。






 ゲイズさんちのオーリスちゃん【弐拾】



 【大黒天魔弾】。
 ソレが、ラージヴォルヴォッグの攻撃名だった。
 ヘリのローターを回転させて、乙女とメイド害を一蹴。
 颯爽とオーリスの前に駆けつけた…………ように見せたかった。

 だが現実はそんなに甘くはない。
 乙女の鉄球は彼の胸部を打ち砕き、メイド害のカッターはヴォルヴォッグの右手を引き裂く。
 ……届かない。

 その身を鋼に変えてまで彼女を護ろうとしたのに、どうしても目の前の怪物たちには届かないのだ。
 その事実は、ヴォルヴォッグを大きく打ちのめす。
 ……だが同時に。

 絶対に届かせてみせるという気迫は、決して薄れることはなかった。
 胴体の内部に填め込まれているCストーン。
 その力を解放させれば、この二体の化け物を倒せるかもしれない。

 しかし……ソレ即ち、ヴォルヴォッグ自身の自壊をも意味していた。
 負けられない。
 負けられない理由があるのだ。

 なら躊躇うことなど、最初から存在しない!
 残された左手でCの名を冠する石を取り出し、ソレに籠められた力を解き放つ。
 緑色の優しい感じのする光が、辺り一体を包み込む。

 発光。
 そしてその後に訪れる暗転。
 ソコに居たいのは、勇者の亡骸。

「…………むぅ。敵ながら見事なヤツだ。貴様のようなヤツがいるのなら、オレはもう不要だろう…………」

 そう言って、ゲイズ邸を後にするメイド害。
 その変態メイド害を追って、彼同様ソコを後にする乙女。
 残されたのは、つい先程まで勇者【だった】モノ。

 そう……ココに一人の勇者が死んだのだ。
 【彼】を見上げるオーリス。
 理由は分からないが、何故か彼女の頬には涙の跡が。

 …………こうして、ゲイズ邸での大騒動に決着が付いたのだった。












 補論:次の日オーリスが目覚めると、ソコに【勇者】の亡骸の姿はなかった。












 あとがき

 >誤字訂正

 俊さん。毎度ご指摘いただき、本当にありがとうございます!






[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 34
Name: satuki◆b147bc52 ID:a9f227a8
Date: 2009/06/18 23:59


 前回のあらすじ:シスコン勇者、暁に散る?



 ミッドのお空の下から、こんにちは。
 現在、将来有望な少年少女を、絶賛ストーキング中の月村静香です。
 相棒……というか、主犯はご存知【フェイト・T・ハラオウン】……執務官。

 本来はそういったコトを取り締まるハズの方が、何故か逆にやってしまうという始末。
 ……コレって犯罪だよ?
 本当に良いんかねぇ……?

「…………オイオイ、フェイトさんよぉ~~?コレって、どう見てもストー…………」
「違います!!私は二人が過ちを犯さないよう、見守っているだけです!!」

 何かもう、絶対性格反転してるよぉ……。
 アレかな?普段良いコちゃんだから、ストレス溜まってたのかねぇ……?
 その内、【ブラックフェイトちゃん】とかに進化しちゃうのかなぁ。

 ……今度、とっておきの発明作ってやろう……。
 ターゲットが全部スカリエッティの、ガンシューティングとかそんなの。
 …………ソレじゃ、却ってダメか。世の中は難しいねぇ……?

「アッ!!」
「どうした!?二人がチンピラにでも絡まれたのかっ!?」

 突然の大きな声。切迫した声色。
 どう聞いても、二人に何かあったとしか思えない。
 そう思って、ボクは金髪娘に問い掛ける。

「……あの二人…………手を繋いで歩いてるぅぅぅぅっ!!」
「…………あのさ、ボク帰って良いかな?今から帰れば、ランチタイムには間に合いそうなんだけど……」
「何を言ってるんですか!!良いですか、二等兵?コレは極めて高度かつ、重要度の高いミッションで…………」

 ダメだこりゃ。完全に正気を失ってやがりますよ、このヒト。
 ……っていうか、いつの間にボクは【二等兵】になったんだ?
 そんな階級でもないし、そもそもその階級自体が、時空管理局にはないでしょうに……?






















「オイ、ポンコツ執務官」
「…………ソレって、もしかして私のことですか……?」
「他に誰が居るって言うのさ……?執務官って言えば、潜入捜査や尾行も任務にあるんだろう……?だったらさぁ…………」

 ヨレヨレのトレンチコート。
 サングラス。マスク。目深に被った中折れ帽。
 ……完全無欠の不審者だな。まるで、【逮捕して下さい】と言わんばかりだ。

「コレは管理局から貸与された、正式な変装グッズです!」

 …………時空管理局って、ギャグが好きなのか?
 それとも本気か!?
 だとしたら、早晩潰れる運命にあるとしか思えないのだが……。

「ともかく、その格好はココでは目立つ。だからさ、さっさと変装を解きなさいな……?」
「で、でも……」
「やっかましい!!元々コレは任務じゃないんだろ!?だったら、任務時の服なんか着るなよ!?」
「…………な、なるほど!」

 頭痛くなってきた。
 コレで敏腕執務官っていうんだから、世の中は恐ろしい。
 もしかして、任務中は冷静モードに入るのかなぁ……?ソレだったら、まぁ納得出来なくもないけど。

「ところでフェイトさんや。二人が映画館に入っていくみたいだけど……」
「…………映画館。暗闇の中で、隣り合う二人…………いつしかその手と手が重なり合って…………!?」

 ……フェイトそんは、妄想癖を身に着けたようです。
 コレはもう、手の施しようがありません。
 例えブラックショックな大先生でも、この病は治せないだろうな。

「さぁさぁ!何をしてるんですか!?サッサと追いますよ!?」
「…………この切り替えのはやさだけは、執務官向きだな……」

 ハラオウン家のオンナは、全員が全員厄介過ぎる。
 【あの】メイドを筆頭にこの娘。クロノの嫁。アルフ。
 ……ゆくゆくは、双子の片割れもそうなるんだろうなぁ……?クロノ、しっかりイキロ……!







 その映画館は、ミッドで一番大きなシアターだった。
 その中でもメイン作の上映に使われる、この大きな部屋。
 今ココには、大勢の老若男女が集い、立ち見の客すら居る状態だ。

 そんなにまでして、人々が見にきたい作品。
 ジャンルは恋愛モノ……というより、悲恋モノかな?
 ただし、なるべく分かりやすい構成になっており、子どもでも理解可能。

 ヒロインは、管理局の若きエース。
 彼女が【とある】ロストロギアに寄生され、ソレを主人公が治すために奔走する……というストーリー。
 ……なんだけど…………。

「(……何でだよ?どうして、【コレ】がココにあるんだよ!?)」

 何処かで見たような話のつくり。
 以前に聞いたような話。
 ……正直に言おう。この映画の脚本(?)を書いたのは…………ボクだ。

 そして撮影(という名の盗撮)をしたのもボク。
 …………なのだが、何故ソレが映画化されてるのかは知らない。
 というよりも、予想外の事態と言った方が正しいだろう。

 ボクの予定としては、ほとぼりが冷めた頃にクロノとなのはをからかうネタ。
 そのつもりだったのだが…………謎だ。
 一体何処のどいつが、ボクのセキュリティーを突破して盗み出したのやら…………【三人】くらいしか思い付かん。

 一人は面白いことに命を燃やす、出番頂戴娘①【八神はやて】。
 候補その②。これまた面白いこと大好き。悪戯得意。騎士の才能を無駄に発揮している、【シャマル】どん。
 その③。出番欲しさに、アフレコ(という名のアテレコ)すらしてしまった、奥様は魔女。【リンディ・ハラオウン】。

 ……どれも同じくらい怪しいなぁ……。
 強いて言うのなら、今までの犯罪暦……じゃなかった。経験からすると、ダメ女医っぽいんだけど……。
 今ある情報だけでは、判断が付かないな。






『…………絶対だよ……?【約束】やぶっちゃ…………いやだからねぇ……?』
『……【約束】する。必ず僕は…………【キミ】の【側】にいるから…………』



 映画の終盤。脚本書いたのはボクだし、撮影したのもボクだ。
 だから話の先は読めてしまうし、感動も比例して薄れる。
 ……そう。【ボクは】そうなんだけどねぇ……?

「うぅ……。なのはぁ……クロノォォ……。こんなのって、こんなのって、悲しすぎるよぉぉ…………」

 号泣者一名確保。
 隣に座っている金髪娘が、話の筋を知っているハズなのに号泣していますだ。
 前の方に座ってるオチビ二人組や、他の観客が泣いてるのは納得出来る。

 元々の【リリカルなトイボックス】の話は、ボクも【心の汗】を流したしね?
 でもさぁ、【この】執務官殿はないだろう……?
 紅い大きな瞳からは、涙ボロボロ。オマケに鼻水まで出掛かってる。……全国のフェイトファンが見たら、卒倒モノだね……?

「……ホレ。とりあえず、コレで涙を拭けや……?」

 俺の強さに……じゃなくて、ボクの映画にオマエが泣いた。
 ……何かバルディッシュ借りて、ひと暴れしたい気分になってきた。
 何でだろう?

「あ、ありがとうごじゃいましゅぅぅ…………」

 オイ。涙は拭けと言ったが、鼻をかめとは言ってないぞ?
 おかげでハンカチは…………オマエのことは忘れないぞ。
 ちゃんと供養はしてやるからな……?



 『今はM○Eだけ、MIれば良い~♪SHINじることを、SH○NJIれば良い~♪』



 映画のクライマックス。
 ソコで突如流れ始めた、聞き覚えのある挿入歌。
 ソレはどう聞いても【フェイト】の声だし、横にいるポンコツ執務官の驚きようを見れば、ソレは分かる。

 後で分かったことだが、コレは彼女が中学生時に行ったカラオケ。
 ソコで歌ったモノだと判明した。
 その時は【家族】で行ったらしい。…………コレで容疑者が、【メイド】に絞り込まれたな……。






 映画館が出てきても、未だに泣き止まないフェイトそん。
 お子様たちは既に移動を開始し始めたというのに、大人がこの体たらく。
 ……何か今のおチビたちの方が、よっぽど大人らしくないか?

「オイ。さっさと泣き止まないと、オチビたち行っちゃうぜ……?」
「ス、スミマセン……!もう、大丈夫です。ありがとうございました……!」

 ただでさえ紅い瞳を、さらに紅く染めたフェイトそん。
 ……まるでウサギだ。
 今度何かの罰ゲームで、ウサギの着ぐるみを着させたろうかなぁ……?

「(……そういえば…………)」

 ウサギか。
 ウサギと言えば、紅の鉄騎や――――【聖王】のイメージがあるんだよね。
 そういえば今日は、【機動六課の休日】。ということは…………遂にヴィヴィっ子登場かな?

「あ、あの。ハンカチ、ダメにしちゃったから…………コレを使って下さい……!」

 差し出されたのは、本日は未使用っぽいハンカチ。
 キチンとアイロンが効いていて、交換するには申し分ない。
 ただし、【女モノ】じゃあなければね……?

「(……何か、前にも同じ展開があったよね?あの時は、確か…………)」

 カリムのハンカチで、すずかが暴走した事件。
 今となっては良い思い出だが、あの時は本当に死ぬかと思った。
 【ヤンデレ】の怖さを、身を以って思い知ったからな。

「(まぁあんなことはもう起きないし、ココはフェイトの顔を立てておきますか……?)」

 右手を差し出し、ハンカチを受け取ろうとする。
 段々ハンカチコレクター(ソレも女性モノ限定)に成りつつあるような気がするが、気にしてはいけない。
 多分、気にしたらソコで試合終了だからね。



 ――パシュゥゥゥゥッ!



 ソレは一条の光だった。
 天から舞い降りたその光は、ボクが取ろうとしたハンカチの存在を【なかったこと】にした。
 軌道から察するに、コレは衛星軌道上の人工衛星からのモノ。

 ボクが【ある】目的のために打ち上げた、ソレを使っての攻撃。
 アレの操作は、地下の秘密基地からしか出来ない。
 当然、ソコに入れるモノは絞られる。

 レジアス……ないな。アイツは、そんなことする暇があったら、直に肉弾戦仕掛けてくるし。
 ザフィーラ……コレもない。相手がアルフやはやてならやるかもしれないけど、フェイトだったら仕掛ける理由がない。コレも却下。
 リンディ……一番可能性が高いけど、却下…………だな?そもそも今回の件は、彼女の発案によるモノだ。ソレをワザワザ妨害はしないだろう。



 ……
 …………
 ……………………!?



 ……マテ。
 ちょっとマテ。
 すると何か?一番やりそうにない、【あの】御嬢騎士が下手人だっていうのか!?



 ――パシュッ!
 ――パシュゥッ!
 ――パシュゥゥッ!
 ――パシュゥゥゥゥッ!!



 ボクがその結論に辿り着いた矢先。
 新たな光が四つ、連続して地面に突き刺さった。
 その跡は、明らかに【文字】という形態を象っていた。



 【ウワキ×】



 …………なるほど。
 カタチだけとは言え、一応ボクと騎士姫さまは婚約者だ。
 つまり、ソレらしい振る舞いを常日頃から心掛けろと。そういうことですね……?

 ……なんというか、カリムの恋人になるヒトは大変だねぇ?
 私生活までも監視されるんだから……。
 ボクは未来の彼女の恋人に同情しつつ、傷跡の残る地面の前から立ち去った。












 大将日記 龍騎



 目の前に居るのは、メイドの格好をしたテロリスト。
 人間の三大欲求である【食欲】。
 ソレを解消するために人々が訪れる、この【茜屋】。

 それなのに出てきたのは、客の要求を満たすモノでなく、むしろ対極の位置にある代物。
 一口飲めば、一日の糖分の摂取量を超え、二口飲めば記憶を失う。
 三口飲めば糖尿病予備軍になり、最後まで飲めば病院送りは免れない。

 一説には、【某作戦部長作成のカレー】と同様のレベルの兵器であるとされ、その存在は【ある意味】ロストロギアにも匹敵するとされる。
 その食物兵器……と呼ぶのもおこがましいブツが、大量に生産されている。
 もしコレが広まれば、六課だけの話では済まされない。

「(…………)」

 息を飲み込む。
 調理のための自分から、戦闘のための自分にスイッチを切り替えた。
 そして、両手をスラックスの両ポケットに突っ込み、六角形のモノの存在を確認する。



 ――【無双錬金】!!



 光と共に現れるのは、銀色のジャケット。
 エリオを鍛える時のみに使用している、レジアスの無双錬金。
 ソレをこの場で展開するのには、きちんと理由がある。

「……なるほど。ソレが貴方の無双錬金ですか……」
「…………リンディ提督。今すぐソレの製造を止めてくれれば、何も無かったことにしよう……」
「……申し訳ありませんが、断らせてもらいます。私にはこのお茶の素晴らしさを広めるという、重大な使命があるのです……!」

 メイド服のまま立ち上がり、右手を天にかざすリンディ。
 すると彼女の精神状態に呼応するように、一つの物体が現れた。
 ソレは水色のペンの先に金色の蓋とリングが付いたモノ。リングの中央部には蒼い石が填め込まれているのも、見て取れた。

「ハーキュリーパワー、メークアップ!」

 蒼い石の中の紋様が回転し始め、ソコから水の奔流が発生する。
 その水を纏うようにして現れたのは、セーラー服を模した衣装。
 否。コレが彼女の戦闘服なのだ。彼女の現役時代。共に戦場を駆け抜けた相棒が、今蘇った。

「水の星、水星を守護に持つ【知の戦士】!!…………【セーラーハーキュリー】参上!」

 戦士対戦士。
 ジャンルの違う、会うハズのなかったモノたち。
 そのモノたちの闘いが、ココに幕を開けた。






 ゲイズさんちのオーリスちゃん【弐拾壱】



 嵐のような日々が終わりを告げ、オーリスの暮らしにも漸く平和が訪れた。
 最近は行くことが出来なかった、ティーダの見舞い。
 今日こそはと思い、彼の眠る病室を目指す。

 そういえば昨日現れたロボットの気迫は、ティーダのソレを思わせるモノだった。
 今朝起きたら無くなっていた、【彼】の亡骸。
 自力で動けるとは思えないが、誰かが回収に来たとも考え難い。

 だったら一体……?
 そう考えている内に、目の前にはティーダの病室があった。
 久しぶりに入る部屋。

 今日持ってきた花は、ユリではない。
 だから大丈夫。
 もうあんな失敗はしない……!!

 決意の炎を胸に秘め、病室の扉を開け放つ。
 するとソコにあったのは……リアルタイムなティアナ映像だった。
 彼女の格好から察するに、今日は休暇なのだろう。

 私服でアイスを食べる姿は、歳相応のモノだった。
 傍らにはナカジマ家の末娘の姿もある。
 知り合い同士が仲良くなっているというのは、ある意味嬉しいモノだった。

 ソレを微笑ましく見つつも、オーリスはあることを思い出す。
 今日の花は【色が綺麗だから】という理由で持って来たが、以前のユリのようなオチはないだろうか。
 病人の見舞いに、持って来てはいけない花。

 ソレを持って来てしまったオーリスは、あの後少し落ち込んだ。
 端末を開き、インターネットに接続する。
 提示された情報を次々と読んでいき、そして…………持ってきた【菊】の花がパサリと落ちた。












 あとがき

 >誤字訂正?

 円冠さん。ご指摘いただき、ありがとうございます。
 ただ【フェイトそん】はワザとなんです(苦笑)。
 今回のお話を見て頂ければ分かると思いますが、フェイトの呼び方の一つと考えて頂ければ、ありがたいです。


 >誤字訂正

 俊さん。毎度ご指摘頂き、本当にありがとうございます!!



 >熱血&オヤジ成分不足気味

 ソロソロ禁断症状が出そうです。
 熱いオヤジを書きたい!!……でもソレだと、話が進まない!!
 一体どうすれば…………。





[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 35
Name: satuki◆b147bc52 ID:881b2323
Date: 2009/06/18 23:59


 前回のあらすじ:水兵服美【熟女】戦士、復活。



 尾行任務は継続中。
 もう良い加減にしてくれと言いたくなるが、ココでポンコツ執務官を放置した方がメンドいと判断。
 法に則って犯罪者を逮捕する方が、法に則られて犯罪者として逮捕されるのは御免だ。

 そうなったら、それまで一緒に行動していたボクにも被害は来る。
 そんなの勘弁してほしい。
 だから仕方なしに、この執務官殿と行動を共にしているのだが……。

「あぁ……!!二人で一本のジュースを飲むなんて…………!!」

 そろそろこの娘っ子は、【物理的に】黙らせた方が良いかもしれない。
 そう思い始めてしまうのは、ボクの立場に誰が居てもそう思うことだろう。
 きっとそうだ。そうに違いない。

 シャーリーの組んだデートプラン(本人たちにはその気はないが)を、忠実にこなしていく少年少女。
 手を繋いで歩く。映画を見る。そして、一本のジュースを二人で飲む。
 そのどれもが、あの【酢飯娘】の計画である。

 エリオたちは真面目に、オリエンテーリングのチェックポイントでの指示をこなすだけ。
 でも彼らが真面目にソレをこなせばこなす程、ボクの隣の御嬢は……その身の内から炎を出してくる。
 ……おかしいなぁ。この娘っ子の身体から出てくるのは、【電気】だったハズなんだけど……?

 そんなコチラの苦労(?)などには気付きもせず、幼きカップルは前を行く。
 手元の端末で周囲の地図を見る。
 すると、今度の行き先候補は……………………【カラオケ】、かぁ……。






















 ミッドにもカラオケはある。
 というか、在るようにした……と言った方が正しいだろう。
 少なくともボクが最初にミッドに来た時は存在しなかったのだ。

 当時、この世界に来て間もない頃。
 ボクはこういった【地球にはあるモノ】に目を付けていた。
 そういった【既に完成されたモノ】は、市場に投入しやすい。

 逆に言えば、当たればそれだけ儲けやすいということだ。
 その目論見は的を得たようで、今日に至るまで【ツキムラカラオケ】は順調に成長中である。
 つまり、ココでボクに出来ないことはないのだ。

「……あのー、ココって勝手に入ったら不味いんじゃ…………?」
「心配ないって。ココの店長とは【知り合い】だし、【許可】も貰ってるから……」

 社長と店長が【知り合い】なのは当然。
 そして【許可】なんてモノは、どう考えても出さざるを得ない。
 だってココはボクの……会社の持ち物。

 オマエのモノは、ボクのモノ。
 ボクのモノも、ボクのモノ。
 某イジメっ子の迷ゼリフをそらんじつつ、ボクはモニター室を占拠する。

「えーと、あの二人が入った部屋は…………」

 見つけた。
 カラオケを、殆ど利用したことがないと思われる二人。
 コンソールをいじりつつ、何とか知っている曲を入力し、曲が始まったら驚く。

 その光景は、明らかに歳相応の少年少女のモノだった。
 日々の訓練や任務。
 その中では影に隠れてしまっている、彼らの【本来の】姿。

 ココに入ってからの僅かな時間しか見ていないボクですら、そう感じ入ってしまう程。
 つまりソレを以前からずっと見てきているフェイトにとっては、何倍も何十倍にも感じてしまうコト。
 現にボクの横に居る彼女は、酷く嬉しそうで。それでいて、とても悲しそうな表情を浮かべていた。

「…………っ」

 何か小さく呟くのが聞こえるが、今のボクはただのモブだ。
 ただ在るだけの、背景と一緒。
 故に彼女に何かを聞くことはない。あってはいけないのだ。






 暫しの間、モニター室にはおチビ二人の声だけが響いていた。
 他の部屋の音量など、入った瞬間に下げてある。
 故に聞こえてくるのは、ライトニングのチビたちの声のみ。

 少年たちの歌う曲は、どれもが最新のモノではなかった。
 彼らが管理局に入る前の、本当に有名な歌ばかり。
 ソレは、彼らが如何に世間から離れて暮らしてきたか。ソレを物語っているようだった。

 段々とお隣の金髪娘が俯いていく。
 大方、二人がこうなってしまったのは、自分のせいだ――――とか思っているのだろう。
 そんな暗い空気が漂う中、おチビたちの選択した新たな曲が始まった。

 ソレは絶望からの希望の創造。
 金色の戦姫が、彼女の【子どもたち】から【希望】を貰い、再び立ち上がる為の【歌】。
 かつて地球のカラオケで歌われた歌が、場所をミッドチルダに移して、再び歌われたのだ。

「……こ、この曲って…………」
「…………あぁ。間違いなく、【アンタの】歌だ…………」

 厳密にはフェイトの曲ではない。
 だがココ【ミッドチルダ】に於いては、この曲は【彼女のモノ】なのだ。
 映画で挿入歌として流れた、彼女の歌声。

 ソレは原作とは違ったカタチではあったが、それでも同じように彼女を奮い立たせたのだ。
 子から親へ。
 今まで貰ってきたモノの、カタチを見せるかのように。

「…………私。さっきまでは母さんのコト、怒ってたんですよ……?」
「…………」
「……でもね?今は、凄く感謝してるんです…………ホント、おかしいですよねぇ……?」

 狙ったとは思えない。
 だが狙ったとしても、そうでなくとも。
 リンディ(母)の行いが、フェイト(娘)を闇から救い出したのは事実だ。

 昔、歌には不思議な力が宿っていると言ったヒトが居た。
 ソレは、一笑に付されてもおかしくないモノ。
 だが真実でもあるモノ。

 古来よりヒトを鼓舞し、勇気を与えるモノ。
 ソレが【歌】であり、ヒトが持つ【言葉】が生み出した究極の一つ。
 ヒトが人間に進化した時に得た、一つの【奇跡】なのだ。

「…………歌って、良いよね…………?」
「……?」
「昔ね……?まだ私が、小学生だった時の話なんだけど…………」

 まだ、【生きる】ということを良く分かっていなかった時代。
 特に母親――プレシアのことで、生きる意味を模索していた頃の話。
 普通の小学生なら考えないで良いモノを、その歳で考えてしまう苦難の人生。

 故に親友たちにも打ち明けられず、また家族にすら相談出来ないコトがまま在った。
 そんな時、彼女は決まって行く場所があった。
 海鳴臨海公園。かつて最初の親友となった【なのは】と闘い合い、後に義兄となるクロノと初めて会った場所。

 ソコは、【今の】彼女の始まりの地。
 だから迷った時は必ずココに来て、自分を見つめ直す。
 ソレが彼女の行動パターンだった。



 ――――



 その日。いつもと同じように公園を訪れた、その日。
 ソコはいつもと同じ風景でありながら、全く異なった空間になっていた。
 空気を震わせて聞こえてくる、暖かな音。

 その音が耳から入ってきて、やがて身体中を満たす。
 全身がポカポカと暖かくなり、知らず知らずの内に両の瞳から涙が伝う。
 その音の正体は、【歌】だった。

 公園の中心部に位置する場所。
 ソコを発信源として、辺り一帯に広がる黄金色の音。
 その音を出していたのは…………彼女と同じ、【金髪】の外国人だった。

「……私ね?その時まで【歌】って、そんなに凄いモノだと思ってなかったんだ…………」

 そんな彼女の価値観をひっくり返した、衝撃の事件。
 ソレがその人物との出会いだった。
 後に知ったことだが、そのヒトは世界的に有名な歌姫で、その時はたまたま日本に来ていたとのこと。

 フェイトにとって、そんなことはどうでも良かった。
 彼女にとって重要なのは、【歌】がヒトの心を揺り動かし、暖かくすることが出来るということ。
 たったソレだけのことなのに…………たったソレだけのことが、フェイトを救ったのだ。

「それからかな……?私が保護していったコたちが、心を開いていってくれたのは…………」

 執務官になった後も、その前も。
 彼女は進んで事件に飛び込んで行った。
 その過程の中で出会った、【被害者】である子どもたち。

 最初は警戒して、頑なに心を閉ざしている幼子が多数。
 事件に遭遇してしまったので、ソレも仕方のない話。
 だから、一刻もはやく表情に光を取り戻させてあげたい。

 そんな時には、必ず歌うようにした。
 最初は警戒していても、最後には優しい笑顔が蘇る。
 次に会った時には一緒に歌える。ソレがフェイトの【歌】だった。

「私って、もしも管理局に入ってなかったら――――――――歌手になってたかもね……?」

 ソレは明らかに冗談だった。
 でも彼女は思い出したのだ。
 自分の原点を。そしてソコから続いて来た、己の軌跡を。



 ――パリ。パリパリッ!!



 持ってきたポーチの中から、何か割れるような音が聞こえる。
 ソレを机の上に出して蓋を開けてみると、ソコには孵化寸前の卵が二つ。
 ……どうやら、フェイトを己のロードと認めたようだな……?



 ――バリィィィィンッ!!



 割れた。
 二つの卵はほぼ同時に割れて、中から一つずつ【何か】が飛び出してきた。
 共に掌サイズのソレらは、何処からどう見ても、【天使】と【悪魔】にしか見えない。

「うぅぅ!!良いハナシですねぇ~~!!さすがフェイトちゃんは、優しいコですぅぅぅぅ!!」
「そんなの、あったりまえだろ!!何てったって、アタシのロードなんだからなー!」
「…………ユニゾン、デバイス……?」

 新型ユニゾンデバイスの【試作一号】と【試作二号】。
 色んな意味で【純粋】なフェイト用に創った、リインとは異なったモノ。
 ソレらが今、主たるモノの【声】を聞き、ココに生誕した。

「二人とも。キミたちのロードさまに、自己紹介して」
「エ……?エェェ……!?ロードって…………私のこと!?」

 疑問。呆然。そして驚愕。
 目まぐるしく変わる、フェイトの表情。
 そんな彼女に構わず、彼女のパートナー【になる】モノたちは話しかける。

「はじめまして、フェイトちゃん!わたしは【メル】ですぅ♪」
「アタシは【ミル】!ヨロシクな、フェイト!!」
「ちょ、ちょっと待って……!?何で私にユニゾンデバイスが……!?」

 フェイトそんは混乱してるようです。
 何て言ってる場合じゃないな。
 面倒だけど、説明しないとダメだよねぇ……?

「カンタンなコトさ。アンタは精神が脆い。だから、ソレを支えるパートナーが必要なんだよ……?」
「…………エ?一体、何のコトですか……?」

 はやては生き急ぐ傾向にあるが、ソレでも守護騎士やカリムやヴェロッサとかが居る。
 なのはも危うかったが、この前の【なのちゃん】騒ぎで、多少変化して来た。
 でもフェイトは違う。

 一番物分りが良いように見えて、一番頑固かもしれない。
 特にプレシアのこととかになると、すぐに頭に血が上り、冷静さを保てなくなる。
 バルディッシュは良いパートナーだが、主人に尽くすタイプだ。フェイトに逆らうのを良しとしない。

 そういう意味では、アルフは良きパートナーだった。
 普段はフェイトの言うことを良く聞くが、主人が間違ったコトをしようとすれば、ソレを止めようとする。
 そんな彼女の引退は、非常に悔やまれることだ。
 
「だからボクは創った。キミの心を投影しながらも、キミの支えとなり、またキミを諌める存在を……」
「…………貴方は一体、何者なんですか……!」

 ソコに居たのは、既にポケポケ娘ではなかった。
 一人の敏腕執務官としての彼女がソコには居り、ボクは怪しいモノとして詰問されている。
 でも気にしない。この程度の殺気、ボクには柳に風なのだ。

「…………そうだねぇ……?リンディ・ハラオウンの【友人】にして…………キミの【親友】の兄……ってトコロかな…………?」
「母さんの……?それに親友って、一体誰の…………!?」

 今まで正体がバレなかったのが、まるでウソのようだ。
 人間、一度認識してしまうと、今まで見えなかったことが見えるようになる。
 こんな所に――ミッドに居るハズがないという思い込みが、ボクの正体を隠していたのだ。

「…………貴方は、すずかの…………?」
「……このことには、守秘義務が敷かれるからね……?部隊長や、もう一人の隊長にも言っちゃダメだよ……?」

 呆然とする彼女を残し、ボクはモニタールームを後にする。
 暫く別室でその後の彼女を見ていると、まるでキャラが変わったかのように明るい娘になって、おチビたちの部屋に入っていった。
 最初はビックリした少年少女だったが、すぐに家族三人でのカラオケ大会になり、大いに楽しんだ模様。

 尚このハジケモードのフェイトは、彼女本来のソレではなく、【メル】にキャラを乗っ取られた結果だとだけ言っておこう。













 あとがき:長くなったので、例によって分割。大将日記とオーリスちゃんは、次の話でやります。







[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 36
Name: satuki◆b147bc52 ID:881b2323
Date: 2009/06/18 23:59


 前回のあらすじ:フェイト、新たな【キャラ】を得る。






 大将日記 555 KAKUDAI版



 キャプテンベラボーの徒手空拳が、空気を振るわせる。
 ハーキュリーはソレを紙一重で回避し、その次の攻撃も避けていく。
 戦闘開始直後に出現した、彼女の蒼いバイザー。

 ソレには様々なデータが映し出されてるようで、彼女はソレに従ってベラボーの攻撃を避ける。
 レジアスが攻撃し、リンディがソレを避ける。
 ソレが闘いが始まってからずっと続くスタイルであり、段々と速度を上げても同じ展開を辿ってきたのだ。

 ベラボーには、攻撃用の武装は付いていない。
 そしてソレはハーキュリーにも言えること。
 故に今まで展開が動かなかったのだ。

「……なるほど。確かに貴女と、そのバイザーはやっかいな存在のようだな…………?」
「…………そういう貴方こそ、随分と鍛え上げた拳を使うのですね……?」
「……全く当たっていない現状を見れば、ただの皮肉にしか聞こえんな…………」
「ソレだけ、私の計算が優秀だと思って下されば良いですわ…………」

 狸め。レジアスはそう心の中で毒づいた。
 リンディ・ハラオウンは優秀な人材だ。
 提督になってからはナリを潜めたものの、執務官時代は数々の事件を単騎で解決していたらしい。

 推定系なのは、彼女の本来の所属が本局であり、その情報がソコから出てこないこと。
 二つ目には、彼女の履歴には謎が多いこと。
 そして三つ目は…………噂ではあるが、彼女の【変身】には幾つかのパターンがあると言われていること。

 ソレラを総合すると……彼女は未だ伏せ札を持っている。
 だから狸。
 もっともソレに関しては、自身も他人のことをどうこう言えないのだが……。

「……だがこのまま膠着状態が続けば、体力で勝るコチラの勝ちだ。そうならないようにしたければ、サッサとカードを切ることを勧めるが……?」
「…………やはり切れ者ですね。でも良いのですか……?先手を譲ってしまっても……?」
「…………何が飛び出してくるかは分からないが、ソレでも突破出来る自信がある。そうでなければ、敢えて自分が不利になるようなことは言わんさ……」
「……………………良いでしょう。その余裕、後悔することになりますよ……?」
「……どうかな?」

 ベラボーの挑発に乗るハーキュリー。
 一瞬の光を伴って、その姿を元のメイドのモノへと変化させる。
 それで油断するようなレジアスではない。

 きっと隠し玉がある。
 そのための準備が、恐らくアレなのだろう。
 そう確信しているからこそ、彼はその場を動かなかった。

「ハーキュリー、スタパワ――――――――メークアップ!!」

 右手を天にかざすと、その五指に独りでに塗られる【蒼のマニキュア】。
 ソレが塗り終わるのと同時に、今度はその掌に蒼いスティックが回転しながら出現する。
 先程のペンとは違い、今度のスティックの先端には、王冠のようなモノの上に金色の星型。

 その中心部には先程と同じような文様があり、スティックが彼女の掌に収まると同時に、回転し始める。
 再びの水流。再びの変身。
 ソコから出てきたのは、先程と寸分違わぬ姿。

 だが油断は出来ない。
 もし先程と同じなら、敢えて変身し直す必要はない。
 だから何かがある。さっきまでとは違った、【何か】が…………。

「……仕掛けてはこないのですか……?なら、遠慮なく…………!!」



 ――ゾクッ!!



 寒気がした。
 ソレは比喩的な殺気などによるモノではなく、本当に温度の低下を思わせるモノだった。
 ハーキュリーの手元を見る。するとソコには、この現象の答えがあった。

 収束する冷気。
 ソレが目に見える位に集まり、一つの集合体として顕現する。
 ソレは冷気を帯びていながらも、水流のようでもあった。

 先程の寒気の正体。
 ソレはまさしくこの状況のせいであり、また彼女の隠し札の正体でもあった。
 冷や汗が伝う。だがレジアスに恐れは、米粒一つ程も存在しなかった。



 ――
 ――――
 ――――――



 迫り来る水流……いや。この場合は【氷流】と言い換えた方が正しいか。
 ソレを前にしても、レジアスの心は冷静だった。
 そう、【冷静】だったのだ。酷くクールでありながらも、身体から迸るモノはとても【熱い】モノ。

 もう眼前まで迫っている氷流。
 だがソレを前にしても、彼は微動だにしない。
 接触寸前。ソコで彼は漸く動く。防ぐでも避けるでもない、【砕く】という手段を以って。

「両断!【ベラボーチョップ】!!」

 ソレは何の変哲もない、ただのチョップだった。
 手刀と言い換えても良い。
 だが彼は、たったソレだけのことで…………あの氷流を打ち砕いたのだ。

「!!そ、そんな……!?ただの手刀で、アレを落とすなんて…………!!」

 驚愕するハーキュリー。
 生まれるのは絶好の隙。
 彼はコレを待っていたのだ。

 絶大な信頼を寄せる技が破られた時に生じる、その際の大きな隙。
 この状態になれば、彼は彼の持ち技で【彼女】を捕らえることが出来る。
 その為の状況を、リンディ自身に作らせたのだ。

「ズィルパージャケット…………【リバース】!!」

 ベラボーの掛け声と共に、分解されていくジャケット。
 ソレは何本もの帯状に変化し、瞬く間にハーキュリーに纏わり付く。
 状況を理解出来ない彼女を余所に、纏わり着いた帯は再びジャケットに戻っていく。

 ただし先程までとは違い、そのデザイン・カラーは裏返しだ。
 故に【リバース】。
 強固な防護服は、裏返すと【強固な拘束服】に変わったのだ。

「コ、コレは…………!?」
「……そう。超強力な【拘束服】だ…………。オレはこの機会を、ずっと待っていたのだ…………」

 拘束されたリンディに解説するレジアス。
 その彼の姿は先程までとは違い、元の六課の制服…………ではなかった。
 ズィルパージャケットの、アナザーヴァージョン。

 大きく見ればデザイン変更はないが、細部がかなり異なっており、その様相は【海賊】のソレに似ている。
 彼は先程、【両手】を【両のポケット】に突っ込んだ。
 そして無双錬金を握り締めた。

 つまり、彼は最初から【二つ】の無双錬金を展開していたということ。
 元々持っていたジャケットの下に、新たに手に入れた無双錬金――二つ目のジャケットを重ねていたのだ。
 これならば外からは分からないし、相手に気取られることもない。

「……それなら、バリアジャケットをパージすれば…………!!」

 超強力な拘束を、無理に引き剥がそうとするリンディ。
 彼女の細腕では、魔法で強化してもソレは出来ない。
 故に彼女は、ジャケットパージの爆発を利用しての脱出を試みるが…………。

「ウソ!?どうして!?何で、ジャケットパージが出来ないの……!?」
「……そのバリアジャケットには、感謝した方が良いと思いますよ……?もし貴女の考え通りにしていたら、貴女は圧殺寸前まで行くことになっていたのですから……」

 ジャケットリバースには、拘束以外に圧殺も出来るようになっている。
 勿論レジアスはそんなことをするつもりはないが、ブラフには最適だ。
 ましてや相手のデバイスは、ソレを見抜ける程に有能。ハッタリとして使わない手はない。

「……だが物事には、【万が一】が存在する。…………貴女には悪いが、暫く眠っていて貰う…………!!」

 我ながら悪役っぽいなぁと思うレジアス。
 だが仕方がないのだ。
 茜屋の平和を。ひいてはミッドの平和を護るには、コレしかないのだから……!!

「【アナザーヴァージョン】、リバース!!」

 駄目押しとばかりに、現在その身に纏っているアナザージャケットもリバースする。
 超を超えた、【超々】強力な拘束服。
 いや。既に拘束服と呼ぶのもおこがましいモノで、リンディは封殺された。

「ミ、ミルク砂糖緑茶に、栄光あれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 最後まで迷惑な言葉を吐きつつも、ココに平和は訪れた。
 レジアスは、活動を停止した【リンディという名の】有害生物を医務室に置いてくると、まずは掃除から始める。
 ランチタイムまで、あと三十分。

 一刻の猶予も彼には……………………ない。






 ゲイズさんちのオーリスちゃん【弐拾弐】



 菊の花を持ち込んでしまったオーリスは、即座にソレを破棄して新たな獲物を探しに出た。
 向かう先は、病院内の花屋。
 こういった大きな病院では、見舞い用の花を販売する店舗を抱えることが、ままあるのだ。

 彼女はソコへ赴き、別の花を手に入れようとした。
 ……が、向かう途中の曲がり角であるヒトと接触。
 互いに角の先が見えなかったせいか、頭に大きなタンコブを拵えることに。

 相手の名前は、以前少しだけ出てきた【ドゥー子さん(仮名)】。
 秘書課の所属である彼女は、病院に来る機会が多いのだとか。
 二人は花屋の隣の喫茶店でそのことも交えながら、ティータイムへと洒落込んだ。

 最初はただの世間話。
 次第に現状へのとなり、最後には職場での不満のぶちまけ大会。
 オーリスにも多少は不満はあったが、ドゥー子(仮名)の方はソレをブッちぎりで上回る程のようだった。

 ボケ老人の介護や、マッドの入った父親の誇大妄想。
 ソレらに付き合わせながらも、他所への諜報活動。
 幾つ身体があっても足りない状況で、いつか過労死するのではないかと怯える日々。

 ……重症だ。
 コレは父に言って、配置換えをしてもらうべきだ。
 オーリスはそのことをドゥー子(仮名)に言うと、彼女は涙ながらにソレを断った。

 そうしたい。
 でも、そう出来ない理由があるのだと。
 仕方無しにオーリスは引き下がったが、納得したわけではない。

 ソレは彼女の表情からも分かったようで、ドゥー子(仮名)は嬉しそうに微笑んだ。
 自分なんかのために、ありがとう。
 そういった意味を込めて。

 それから二人は、一週間に一度くらいの割合で会うこととなった。
 場所はココで、日時は指定しない。
 それでも二人は不思議と出会う運命のようで、そのことを互いに大層不思議に思ったようだ。












 あとがき

 >誤字訂正

 俊さん、niserさん。ご指摘頂き、ありがとうございます!!


 >歌詞は禁止?

 アンデビさん。ご指摘頂き、ありがとうございます!
 satukiはその箇所を発見できなかったでの、大変助かました。
 ……というか、常識レベルですかね?どちらにしても、こういったミスをなくせるよう、気を付けていきます。






[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 37
Name: satuki◆b147bc52 ID:e8e44021
Date: 2009/06/18 23:58


 前回のあらすじ:ミルク砂糖緑茶の脅威は、キャプテンベラボーによって阻止された。ありがとう、キャプテンベラボー!



 フェイトそんはあの後、開き直っておチビ二人とお出かけに。
 現在彼女らは、デパートで昼食を済ませた後の……【花摘み】タイム。
 古来より男子はすぐに終了し、女子は何倍も掛かる。

 身体の造りやその施設の個数などが違うため、ソレは仕方の無いこと。
 更に言うと、その差は利用する人数に比例して大きくなり、結果として男子は相当待たされることもあるのだ。
 今日はその大当たりの日で、エリオ少年は今【スーパー手持ち無沙汰タイム】なのである。

「(…………今日は混んでるなぁ……)」

 律儀にも、直立不動で待ち続ける少年。
 彼の前を様々な人々が通り過ぎ、することのないエリオは、ソレを目で追うようになっていた。
 老若男女。本当に色々な人種が歩いているのを目の当たりにし、その中に不思議なモノを見かける。

 デパートの中の一つの店舗。
 所謂アンティークショップと呼ばれるソレ。
 そのショーウィンドゥの前に座り込んで、ずっと眺めている少女が一人。

 紫色の長髪に、ボロボロのマント。
 凡そ、デパートのような所へ来るような格好ではない。
 だが彼女は静かにソコに居た。

 見たところ、エリオと同い年くらい。
 特にすることもなく、そしてその【変わった】少女のことが気になった少年は、勇気を出して話しかけた。
 何を見ているの、と。

「…………」

 初対面なのに、馴れ馴れしく話しかけてくる少年。
 ソレは少女から見たら、ただのナンパ男くらいにしか見えない。
 そう思って最初は無視を決め込んでいたが、少年のあまりの落ち込みように、仕方なく答える。

「…………アレ」
「アレって…………あの【蝶々】の仮面、のこと……?」
「…………そう」

 少女の指し示す先には、一つの工芸品があった。
 いや。ソレはもう、美術品と言い換えた方が良いかもしれない。
 豪華な装飾を施されたその仮面は、まさしく華麗な蝶々だった。

 黒地に赤紫の紋様。
 綺麗というよりは、妖しさを含んだ美しさ。
 少年は、自分が思った感想を素直に口にした。

「……何ていうか…………スゴク【オシャレ】な仮面だね……?」
「……!!そう、思う…………?」
「うん。何かカッコ良い気がするんだ…………」
「…………そう」

 殆ど表情が変化しない少女だったが、その仮面を褒められた時は、感情が大きく動いた。
 ソレは喜びを含んだ瞳。
 エリオはソレを見た瞬間、心臓を鷲掴みされたような錯覚に陥った。

「(な、今のは一体…………?)」

 自分でも良く分からない感覚。
 少年はソレを振り払うように、別のことを考えるようにする。
 ふと目に留まったのは、オシャレ仮面の値札。

 芸術品故にある程度は高いが、ソレでも所持金で買えるほど。
 六課に来てからの給料が丸々手付かずの身であるため、少年の財布は軽くはなかった。
 隣の少女を見る。まだ仮面をジッと見続けている。

 その熱心さは、またも少年の心を掴んで離さない。
 逡巡。
 そして出た結論を持って、エリオは店内に入っていった。

 少年から少女に渡される紙袋。
 その中には硬い箱が入っており、更に中には…………先程の【蝶々】の姿が。
 受け取れないと言う少女。だったら話し相手になってよ、と言う少年。

 暫く物欲とプライドの間を行ったり来たりしていた少女だったが、最終的には陥落。
 互いの自己紹介から始まり、少女は旅の目的を話す。
 彼女の目的は、眠り続けている母親を起こすための、アイテム探し。

 治癒力や魔力の高いモノを探し続けているという少女の話に、エリオは感心するばかり。
 自分もフェイトがそうなったら、キャロと共にアイテム探しをするかもしれない。
 そう思いながら話を聞いていると、徐々に真剣になっていることに気付く。

 そして同時に、もの凄い視線を感じてその先を見る。するとソコに居たのは…………金とピンクの夜叉だった。






















 やぁやぁ。
 何か最近、トンと忘れられているような気がする。
 ……でも気にしない。

 影の薄さは今更なコト。
 オヤジーズが居る時点で、アイツら以上に濃くはなれないのだ。
 だから気にしてなんかやらない。

 ともかく現状を分析しよう。
 フェイトそんの介入があったものの、【機動六課の休日】は進行中。
 ポンコツ執務官と分かれた後のボクは、その足で陸士一○八部隊に来ています。

 久々に会うゲンヤは、以前と全く変わらず。
 今日はギンガがトラック横転事故の調査中に、生体ポッドの残骸を発見したらしい。
 いよいよヴィヴィっ子が登場する模様。

 だが原作と一つ異なる点があり、レリックのケースが【三つ】あるようだ。
 その一つは既にエリオたちが、幼女と共に確保。
 残りの二つを現在捜索中。コレが今起こっているコトだ。

「…………行くぞ」
「オイオイ。部隊長がそんなにカンタンに、動くなよ……?」

 硬い表情に想いを籠め、スッと立ち上がるゲンヤ。
 その手に握られているのは、クイントと色違いのデバイス――――その待機状態。
 完全に覚悟完了といった状態だ。

「……オレの予想通りなら、今回は【アイツ】らが出てくる……」

 【アイツ】。
 ソレは、ゲンヤがずっと追い続けている存在。
 ソイツを取り戻すために、彼はずっと極秘裏に動き続けていた。

「…………ギンガや、スバル。ソレに六課の面子には、【アイツ】の相手は難しい。だから自分が行く、と……?」

 アイツ――――即ち【桜花】と名乗るクイント。
 S・Aを極めしモノである彼女は、不完全な娘たちの手に負える存在ではない。
 ソレは他の隊員でも同じこと。

 彼女に対抗出来る存在は、恐らく【提督ズ】とゲンヤだけ。
 カリムは戦闘型ではないし、リンディの実力は不明だ。
 となると、ボクも含めた野郎隊。ソレしか【桜花】には対抗出来ないのだ。

「……ソレもある。だが…………」
「……?だが、何だい……?」

 力を込めた握り拳。
 ソレを顔の前まで持ってくると、ゲンヤはクワッと目を見開く。
 ソコには、尋常ならざる決意が籠もっていた。

「自分の嫁を迎えに行く。ソレをするのは、夫の務めだ…………!」

 熱い。
 何か背景に、噴火中の山が見えるような気がする。
 身体から薄っすらと、光らしきモノまで出てくる始末。…………今更だけど、何か番組ちがくない……?

「……しゃーない。ボクもお手伝いしましょう。ゲンヤにもしもがあったら、娘たちに恨まれそうだしねぇ……?」
「…………悪いな。今度何か奢るからよぉ……?」

 若干おどけて言うゲンヤ。
 いつもの調子が、戻ってきたみたいだ。
 熱くなり過ぎるのもいけないから、コレぐらいが丁度良い。

「要らない。お礼が欲しくて行くワケじゃないし、ね……?」
「そうか。だったら、ウチのギンガかスバルを…………」
「大却下。ゲンヤさ、少しでも食費の負担を減らそうとしてないか……?」

 あ。脂汗をかいてる。
 ナカジマ家のエンゲル係数は、平均の十倍以上。
 いや。以上って言うより、【異常】の方が正しいだろうな。

 彼は嫁と娘には滅法甘いけど、ソレと同時に娘たちの今後も大層気にしているのだ。
 食欲魔人で、スーパー格闘少女な二人。
 嫁に行って欲しくない反面、はやく孫の顔も見たい。

 そのジレンマを解消出来そうな人間は、残念なことに少ない。
 そして何故か彼の中では、ボクがその一人としてカウントされているらしい。
 そう考えている反面、仮にボクがそうなったらなったで、クイント・レジアスと共に決闘を挑んでくるつもり。

 ……矛盾と思うこと無かれ。
 男親とは大概、矛盾を内包した存在なのだよ。
 だからと言って、ソレに付き合ってやる義理はないのだがね……?






 ゲンヤと移動中に、六課の状況を確認する。
 そのあたりは人工衛星という目を装備した、カリムがやってくれている。
 こういう時用に提督ズには人工衛星の操作を教えたのに、先の彼女のような使い方は想定外だ。

 ……もう少し、運用形態を考えた方が良いかもしれないな。
 そんなバカなことを考えつつ、入ってきた情報を整理する。
 六課新人組は地下に潜り、隊長陣はお空へ。

 大量のガジェットⅡ型を掃討するために、はやてが限定解除して現場へ到着。
 ロングアーチのサポートを得て広域攻撃。
 その際、コレまでの鬱憤を晴らすかのように激しく攻撃し、とても【良い】カオだったらしい。

「あははは!見てみぃ、ガジェットがゴミのようや…………!!」

 表情と言い台詞と言い、コレではどちらが悪役か分からん。
 そんなイメージを払拭するように、フェイトが天使のコスプレ……のような衣装でオンステージ。
 「ウェェェェイト!!」とか言ってるトコロを見ると、またメルに乗っ取られた模様。

 そんな二人に苦労しつつ、何とかガジェットを仕留めていくなのは。
 ……おかしいなぁ。逆の光景ならすぐに想像出来るのだが、この光景は予想出来んかった。
 ハッチャケ狸&狐(原形のキャラからイメージ拝借)と、レベル不足の飼い主。

 その手に持つのが物騒なデバイスでなければ、どう見てもほのぼの風景だ。
 でも悲しいかな、ココは戦場。
 つまり敵さんの真打ちが登場、というワケだ。

 ナンバーズ。
 そのⅢ・Ⅳ・Ⅹを従えて、あの狂気の科学者が降り立った。
 いつもと変わらぬ不敵な笑み。だがいつもと違う、白いスーツ。

 【Ⅰ】と刻印されたメダル。それを手の甲に着けた黒いグローブを両手に填め、ネクタイではなくスカーフが襟元を飾る。
 普段はしていない眼鏡を着用し、ソコには王者の風格があった。
 はやてにトーレ、フェイトにディエチ。そしてなのはにクアットロを当てると、彼はその場で観戦モードに移行する。

 速さに速さをぶつけるのではなく、速さには大砲。
 拡散砲にはスピード。さらに固定砲台には幻術をぶつける。
 相手の長所と同じモノで対抗するのではなく、異なったタイプ同士の戦闘。

 ソレが彼が選んだ戦術であり、コレならカンタンにはやられないだろう。
 敵ながら天晴れだ。良く考えてると思う。
 その褒め言葉が聞こえたのか、スカリエッティはカメラ目線で宣言してきた。

「……聞いているのだろう、ダイノーズの諸君……?御覧の通り、今回は個人戦だ。よって私は、レジア…………もとい、キャプテンベラボーとの決闘を所望する!!」
『…………!?』

 明らかにコチラのカメラの位置を把握した宣言。
 挑発とすぐに分かる、ヤツの態度。
 だが解せない。アイツ程の頭脳の持ち主なら、コチラがそうカンタンには応じないということも、分かっているハズなのに……。

「……どうした?今ココで私を倒せば、君の【親友】を助けることだって、出来るのだよ…………?」

 そうか。そう言われたら、出て行くしかないよな。
 レジアスという【大将】がご指名なら無理だが、相手がご所望なのは【キャプテンベラボー】。
 敵さんながら、コチラの憂いを断ってくれるとは…………何て【悪役】なんだよ……?
 
『…………シズカ。聞こえているか……?』
「……あいよ。行くんだろ?気を付けてな。あと、お土産を忘れるなよ……?」
『…………あぁ。楽しみにしていろよ……?』

 決意を胸に。
 ゲンヤと同様、レジアスも探し続けている人物のため、闘いに赴く。
 その相手は敵の総大将。どう考えても、一波乱あることは間違いない。

 だがアイツなら。
 向こうさんの思惑なんぞ、鉄拳一つで粉砕してくれる。
 そんな期待があることも確かだ。

「……行こう。レジアスにはレジアスの戦場があるように、ゲンヤにはゲンヤの戦場あるんだ……」
「…………おう。ところで、頼んであったヤツは、もう出来てるか……?」

 ボクはバッグの中から、黒いカタマリを取り出す。
 ソレは太目のグリップのようであり、小型の端末にも見える。
 中心部のやや上に金のサークルがあり、その中には液晶ディスプレイの姿が。

 サークルがダイヤルのように回るのを確認すると、ソレをゲンヤに手渡した。
 ソレはゲンヤ・クイントのリボルバーナックル用の、追加武装。
 中には数種類のデータが入っており、ソレらは心強い武器となる。

「今使えるのは、黒いウィップだけ。どうせ撃てるのは一発分のエネルギーしかないんだ。ソレでガンバってちょうだいな……?」
「……ありがとよ。コレなら、魔法が使えない分をカバー出来そうだぜ……」

 クイントとゲンヤの差。
 力はゲンヤ。スピードはクイント。
 それぞれに得意分野があり、ソレ以外は大体同じ。

 だがクイントにはもう一つ。もう一つだけアドバンテージがある。
 その一つがとても大きな壁であり、ゲンヤの行く手を立ち塞ぐモノでもあるのだ。
 ソレは【魔法】。

 ウイングロードやリボルバーシュートなど、戦局を一変するような有利なカード。
 コレの差を無くすために、ゲンヤはボクに新たな武装の依頼をしてきた。
 ソレが腕部や脚部に取り付ける、追加武装。上手く使いこなせれば、魔法の差を縮めることが出来るだろう。

 地上ではレジアスが到着し、地下ではギンガが新人たちと合流した。
 このままのペースで走っていけば、新人VSガリュー・ルーテシアの開始直後には着くと思う。
 レリックの数が一つ多い。ソレだけが気がかりだが…………とにかく今のボクたちは、走ることしか出来なかった。












 あとがき

 >誤字訂正

 ななんさん。ご指摘頂き、ありがとうございました!


 >大将日記とオーリスちゃん。

 現在色々と迷走中なので、今回はなしで。
 次回以降も、良いネタがある時限定にするかも……。
 





[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 38【少年編】
Name: satuki◆b147bc52 ID:49dc76e7
Date: 2009/06/18 23:58


 前回のあらすじ:歯車戦士【ゲンヤ】出陣。彼の人気にボクが泣いた。



「…………何で…………どうしてキミが……………………」

 少年の心は乱れていた。
 突然の、全く予想出来なかった事態。
 目の前の現実を信じることが出来ない。

 それ程までに、彼は目の前の現実を受け入れられず、【何故】と問わずにはいられない。
 こんな場所に居るハズがない。こんな場所に居るべきではない。
 少年がそう思ってる少女は、彼の思惑とは別に、確かにソコに存在した。

 この光景が作り出される数十分前。
 少年は他の新人たちと一緒に、レリック捜索の任務に就いた。
 そしてその途中で、ギンガ・ナカジマと合流。

 レリック求め地下道を進み、その中央部の開けた場所。
 ソコに在ったのは、レリックのケースが離れて二つ。
 すぐさま確保しようと、駆け寄る少年たちを遮る黒い影。

 甲虫がヒトに進化したような、異形のモノ。
 濃い桃色のマフラーを首に巻きつけ、腕を組んでソコに【在る】。
 その自然体が余計に不気味さを倍化させ、少年たちは思わず息を呑む。

「…………ハァァァァッ!!」

 まず飛び出したのは蒼。
 つい先程合流したギンガの拳が、黒い異形に向かって放たれる。
 即座にかわす……までもない、ゆったりとした動き。

 ソレが異形にとってのギンガの速度であり、【彼】にとってはギンガは路傍の石も同然。
 次元の違う動き。
 次元の違う【速度】ではなく、【動き】なのだ。

 スピードが速いワケではない。
 スピード【だけ】が速いわけではないのだ。
 速度も。威力も。見極めの速さも。

 ソレら【全て】に於いて、【彼】――――その【異形】は、ギンガの上の階梯に立つモノだった。
 その証拠に、【彼】のマフラーは大きく揺れることが無い。
 つまり大きく動く必要が無い。まるで肩幅くらいの円があって、ソコから出ていないようにも見えるくらいに。

 全てに於いて勝る相手が居た場合、どうすれば良いか?
 自分の取り柄で勝負する……無理だ。その分野ですら、相手は勝っているのだから。
 ならば相手の短所を探し、ソコを攻める……コレも不可能。

 そもそも欠点を攻めるという手法は、相手と実力が拮抗している時に初めて有効となるモノ。
 ではどうすれば良い……?
 どうすれば、この【敵】を攻略出来るのだろうか……?

 コチラの攻撃が相手に一しか効かないのなら、手数を増やせば良い。
 ソレも複数の人間でソレを行うことによって、退路を塞ぎ、活路を見出せば良い。
 ソレはあたかも詰め将棋のようなモノ。

 向こうが一匹に対してコチラは五人。
 キャロが補助。ティアナが牽制。
 ナカジマ姉妹が時間差で左右から仕掛け、最後にエリオが上から刺す。

 ソレが彼ら考えた策であり、八割方……いや。九分九厘はその思惑通りとなっていた。
 最後の一手。
 ソレが今回の成否を分ける鍵だったのだが……。

「…………させない」

 突如乱入した物体により、その一手を仕損じる。
 ソレは少女だった。
 紫色の長い髪。黒をベースカラーとし、所々に紫色の房。

 その身にボロボロのマントは纏っていない。
 無表情だが可愛らしい顔は、今は見えない。
 だが。ソレでも少年には彼女が――――目の前の乱入少女が誰なのかが、ハッキリと分かった。

 引き寄せられるような紅の瞳は、彼の心を掴んで離さない。
 ……同じだ。
 先程見かけ、声を掛けた時と同じ。

 悲しさと儚さ。
 ソレらが同居した眼の周りを、今は【仮面】が覆っている。
 【ソレ】は【蝶々】だった。

 つい先刻。
 少年自身がオシャレだと思い、少女にプレゼントした――――【あの】仮面。
 だから分かった。如何に仮面で素顔を覆っても、その中にある真実の顔の形が…………。

「…………何で…………どうしてキミが……………………」
「…………」
「何で……?どうして、ココにキミがいるんだ……………………【ルーテシア】っ!!」

 少女の正体は、エリオが数時間前にデパートで出会ったモノ。
 彼女こそが【異形】の――――【ガリュー】と呼ばれる召喚獣の主であり、同時に優れた召喚魔導師でもあるのだ。
 ルーテシアに動揺はない。少年と違い、動揺など存在しないのだ。

 そう。彼女にとって、彼は【ターゲット】の一つ。
 故に最初から知っていた。
 ただ先刻は、忘れていただけ。

 目の前に手に入れたいモノがあり、ソレに目を奪われた。
 だから少年の正体を思い出したのは、彼が去った後。
 この時間差が後に彼女を苦しめることになろうとは…………その時は、彼女自身も思わなかった。



 



















 こんにちは。
 ボク、シズエもん…………何て言ってる場合でもないな。
 レジアスがスカリエッティの招待に応じ、ソロソロ現地に到着しようとする頃。

 我々【シズゲン組】は、丁度新人たちに追いついたトコであります。
 何やらエリオ少年が、ボーイミーツガールな青春ストライクをやっている場面。
 ……正直、介入してパッパと解決したいのだが、そうは問屋が卸さない。

 こういう【悲劇的恋愛・レベル一】に相当するような場面に遭遇した場合、観客は黙って見ないといけないのだ。
 たかがお約束。されどお約束。
 現に六課新人ズとギンガ。それにゲンヤは、何も言わずに見ているではないか。

 ただ今は黙っているものの、もし少年がコレ以上砂糖垂れ流し空間の深度を高めるのなら、多分お姉さんズ&彼のピンク髪の夜叉が許さないだろう。
 お約束はあくまでお約束。
 故により強いモノには逆らえず、ソレによって消滅する運命を辿るのだ。

 この場合のソレは、【嫉妬】という感情。
 キャロは言うに及ばず、ギンガ・ティアナは【このマセガキめっ!】みたいな感じだろう。
 スバルはただ見てるだけ。ソレこそ、ドラマや少女漫画を見るような気持ちで観戦するだけだ。

「何で……?どうして、ココにキミがいるんだ……………………【ルーテシア】っ!!」

 お。どうやら悲劇の主人公モードが入ったようです。
 ルーテシアみたいなクーデレ系は、最初は無視するんだろうなぁ……。
 だって、ソレがセオリーってモンでしょうからねぇ。

「…………アナタに教える必要はない…………」

 素晴らしい。
 何てテンプレ少女なんだ。
 コレはもしかすると、世界を狙えるクーデレになるかもしれない。

「……!!……………………もしかして…………さっき言ってた、【お母さん】のためなの…………?」
「…………っ」

 おお。どうやら少年と少女は、既に事情を説明し合うような間柄だったのか。
 若干スピードが速いような気もするが、ソレだけエリオ少年のフラグ立ての才能が稀有だということか。
 …………ちくせう。羨ましくなんか、ないんだからね!?

「もしかしてソレは…………【レリック】は、お母さんを起こすためのアイテムなのかい……?」
「…………そう。でもコレは違った。コレは…………【わたしのための】レリックだった……」
「……?ソレって一体、どういうこと……?」

 ルー子は今、【わたしのための】と言った。
 つまりこの少女は、まだ【レリックウェポン】じゃなかったのだ。
 逆を返せば、【これから】そうなるのだとも言えるが……。

「…………エリオ。アナタは管理局員。そして管理局員は、色々なヒトを救うのが仕事…………合ってる……?」
「……うん。ボク自身も、ある管理局員に救われたんだ。だから今度は、ボクが色んなヒトを救う番なんだ……!」

 聞いてもいないことまで話す少年。
 ソレは彼の根幹部分を支えるモノだ。
 だから自然に出てしまうのだろう。

「……そう。だったら…………わたしやお母さんのコトも、助けてくれるの…………?」
「…………ボクに何が出来るかは分からないけど、ボクが出来ることなら【何でも】やるよ…………!」

 少年は特別なカタチで生を受け、更に特別なカタチで育ってきた。
 だがそんな彼も、今は普通の暮らしを享受する身。
 だからこそ出て来てしまった、【何でも】という言葉。ソレは恵まれたモノが、上からの目線で言う時用いられることが多い。

 この時の少年は、無意識とは言え【その立場】からソレを言っていた。
 ソレが悪いワケではない。
 しかし【一社会人】としてソレは、言ってはならない台詞だった。

「だったら…………アナタの命を――――アナタの【刻金】をちょうだい……?」
「…………エ?」

 世界が白く塗りつぶされた。
 ソレは彼を取り巻く空間から、【色】が抜け落ちた証拠。
 言ってることが理解出来ない。少年の瞳は、酷く不安定な感情を映し出していた。

「……刻金の治癒力があれば、お母さんは起きてくれるかもしれない。だからちょうだい、アナタの刻金(イノチ)を…………」

 ……なるほど。
 大方【ドクター】あたりの入れ知恵だろうが、確かにソレは良い手だ。
 上手く行けば刻金が手に入り、プロジェクトFの成功例も手に入る。

 エリオがソレを断れば、ルーテシアは【管理局】への憎悪を募らせ、最終局面で操りやすくなる。
 コレはスカリエッティというより、クアットロの戦略っぽいな。
 歪み具合が素敵過ぎるからね……?

「ボクは…………」

 葛藤。
 一度は死んだ身。
 でもソレを蘇らせて貰った命でもある。

 この命は、自分だけのモノではない。
 貰ったモノと同じぐらいのモノを返せるようになるまでは、自分は死ねない。
 精一杯生きて、たくさん返さないと――――自分は死ぬことが出来ない。

 ソレが少年の辿り着いた結論。
 酷く儚くて、酷く歪。
 ソレは少女も同じで、だからこそ惹かれるモノがあったのかもしれない。

「…………ゴメン。ボクは死ねない。だから、この【刻金】をあげることも……出来ないんだ…………」

 苦しい。
 気持ち悪い。
 でも言わないと先に進めない。

「…………ウソつき。【何でも】するって、言ったのに…………」
「…………」

 反論は出来ない。
 少年は下手な大人よりも潔い所がある。
 今回の場合のソレは、言い訳をしないトコロ。

 少年の立場に立てば、ソレは仕方のないこと。
 だが一度少女の立場に立てば、ソレは却って反感を煽ることになる。
 ぶつけようがない怒り。苦しみ。悲しみ。ソレは自身にぶつけるしか、なくなってしまうモノ。

「…………なら、良いよ…………」

 開封されるレリックのケース。
 その光景を、誰もが止められずにいた。
 まるで金縛りにあったかのように。

 悲しみの少女から放たれる暗い感情を前にして、誰もがソレを止められない。
 ボクは迷った。ココは介入した方が良いではないかと。
 だがソレに待ったを掛けた存在が一人。

 そのせいで、彼女のレリックウェポン化を見逃してしまった。
 それ程の存在。
 ソレは、ゲンヤがとても良く知る存在だった。



 ――ギュイィィィィンッ!!



 酷く聞き覚えのあるタービン音。
 ゲンヤのソレとお揃いで作ったソレは、かつての姿のままでソコに居た。
 紅いリボルバーナックル。銀色の仮面。そして何より…………蒼い【ウイングロード】。

「……ゲンヤ。待望のお客様のご到着だよ……?」
「…………あぁ。オマエは手を出すんじゃ、ねぇぞ…………?」

 冷や汗タラリ。
 あの頃より圧倒的に増した殺気は、どう考えても優しかった彼女ではない。
 だがソレでも、ソレでも彼女の気配を取り違えたりはしない。

 ソレはゲンヤも同じ。
 いや。彼の場合は、【彼女】との繋がりがソレを教えてくれるのだろう。
 ソコに居たのは【桜花】。かつて【クイント・ナカジマ】と名乗っていた…………ゲンヤの妻の変わり果てた姿であった。












 あとがき

 >誤字訂正

 俊さん。ご指摘頂き、本当にありがとうございました!!






[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 39【歯車戦士編】
Name: satuki◆b147bc52 ID:49dc76e7
Date: 2009/06/18 23:58


 前回のあらすじ:エリオ少年が、主役を乗っ取ったようです。



 唸るタービン。
 迫り来る豪腕。
 駆け抜ける様は韋駄天のようで、その強さは女神のよう。

 ソレがゲンヤフィルターを通したクイントの評価である。
 色ボケ夫婦が!!と、馬鹿にすることなかれ。
 コレが結構的を射ているから、性質が悪い。

 一部の管理局員からは、【戦女神】と呼ばれるエースオブエースたち。
 ソレはなのは・フェイト・はやてのコトを指しているのだが、ボクは彼女たちをそう呼ぶことはない。
 何故かと言うと…………ボクは知っているからだ。本当の【戦女神】たる人物を。

 ウイングロードが、暗い地下道を走る。
 ソレに乗った鉄仮面がアタックを仕掛け、その攻撃をゲンヤがかわす。
 本来であれば、ゲンヤが力負けすることはない。

 だが今の彼女の一撃は、ウイングロードを併用した高度からのアタック。
 自重と重力落下の速度を上乗せし、その破壊力は地面を沈下させる程。
 もしゲンヤがソレを避けなかったら、彼が粉砕されていただろう。

 その威力が分かっていたからこそ、彼は避けることにしたのだ。
 足りないのなら、別のモノを使って補う。
 そしてその補えるモノを持っている。

 【彼女】は強い。
 ソレは敵方になった今でも変わらずにあって、むしろ容赦なさが上がっていると言っても良いかもしれない。
 味方には絶大なる信頼を。そして敵方には圧倒的な恐怖を。

 ソレこそが、【戦女神】の資質。
 故に彼女こそが、ボクが知るソレ。
 【戦女神】――クイント。ソレが彼女の異名でもあった。






















 避ける。除ける。
 コチラからの攻撃は無力化され、自身は攻撃を回避するので手一杯。
 ソレはS・Aをあまり知らないボクでさえ分かってしまう、ゲンヤの現状だった。

 手強い。
 ソレが【桜花】となったクイントへの感想であり、ボクの素直な戦力分析でもあった。
 一撃一撃が必殺。

 水月やアゴを狙ったソレは、喰らえばただでは済まない。
 普通は再起不能。
 良くて病院送り。

 ソレがS・Aの達人、【クイント・ナカジマ】の実力である。
 元々S・Aは、魔法と組み合わせて使われることが前提で組まれている。
 その強さは彼女が証明済み。

 そして魔法を抜き取るとどうなるか。
 その点は、ゲンヤを見れば分かる。
 高速移動や攻撃砲を持たない彼は、完全に相手待ちの状態しか取れない。

 後の先という戦法は存在する。
 だが彼の戦法は、ソレではない。
 ワザと相手に先手を譲っているワケではない。そうせざるを得ないからなのだ。

 翼の路を持たないゲンヤは、三次元的な高速移動が出来ない。
 対してクイントは、ソレを使ってヒット&アウェイが出来る。
 そうなれば、ゲンヤはただの的に成らざるをえない。

 勿論サンドバッグと違い、彼は自由に動ける。
 だから移動標的ということになるのだろう。
 だが彼が移動標的なら、彼女は【超高速】移動標的だ。

 何らかの手段でクイントの足を止めない限り、ゲンヤに勝ち目はない。
 相手との戦力差を計算し、足りないモノを他で補えないかを考える。
 思索。検索。己の脳に刻まれた記憶を総動員し、使える知識と経験をサルベージする。

 相手の足を止める。
 ソレは精神的要因でも、物理的要因でも構わない。
 考えろ。考えるんだ。今の己に出来るのは、ソレしかないと分かっているのだから。

 タービンを使った移動は却下。向こうの方が速さで勝る。
 狭い場所に引き寄せて、速度を殺す。
 ……却下。幾ら狭い地下道だとは言え、ソレでも地下鉄のトンネル位の大きさはある。

 ココはS・Aのための空間と言い換えても良い位の、適度に狭く、ソレでいて壁や天井を使いやすい空間だった。
 どうすれば。一体どうすれば、彼女の足を止められるのだ。
 二人がかりなら、退路を塞いだり出来る。

 しかしゲンヤは一人――――自分だけでやるコトに拘っている。
 ならば【手】を増やすしかない。
 自分の手だけで足りないのなら、自分【以外】の手を借りれば良いのだ。

「…………」

 仮面のクイントは語らない。
 何一つとして、言葉を発しない。
 その仮面の奥の瞳は、一体何を映し出しているのだろうか。



 ――カチ、カチィッ!



 何時の間にかゲンヤの手の内にあった、黒い端末。
 ソレは【ギアコマンドー】と呼ばれる召喚器。
 金色のダイヤルを数度回すと、液晶画面に黒い蛇が現れる。

「(…………ゴクッ)」

 ヒリヒリするような攻防で渇いた喉。
 ソレを僅かでも潤そうと、ゲンヤは唾を飲み込む。
 成功するかは分からない。

 ただ一つだけ言えるのは、コレは初見が一番効力を発揮するというコト。
 ソレ以降は、ただの攻撃手段になってしまうので、本当にコレが最初で最後のチャンス。
 最終目標は、銀色の仮面を叩き割ること。

 【桜花】と【ウォータン】の共通点である、【仮面】という装備。
 恐らくアレこそが洗脳装置であり、ソレを破壊すれば元に戻る。
 ソレがゲンヤの辿り着いた結論である。故に、その破壊が最終目標なのだ。

「…………【ヴァイヴァー】・ドライブ……インストール!!」

 ゲンヤの左手。左腕のタービンを覆うように、黒と紫の中間色の物体が現れた。
 まるでデフォルメされた蛇のような追加武装。
 ソレは小型の盾のようにも見えた。



 ――ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュンッ!!



 蛇の頭が飛び出し、胴体部と頭部を、ワイヤーが繋ぐ。
 そのワイヤーは電気を帯びたムチとなり、ゲンヤの頭上で回転し続けた。
 ……ココに、準備は整った。

「【ヴァイヴァーウィップ】、ラストアタァァァアックッ!!」

 電力が最大に達し、その電磁鞭が地を這っていく。
 ガリガリと地面を削りながらも、高速で【桜花】に迫る鞭。
 鞭というのは厄介なモノで、避けても【返し】で当てられるモノ。

 故に回避は、ギリギリまで引き寄せてからになる。
 まだだ。まだ避けない。
 もう少し…………今!!

「……っ」

 本当にギリギリのタイミング。
 その瞬間で鞭を避けたクイントは、回避に専念した分、空中で無防備となる。
 如何に彼女が鍛えた猛者であっても、この瞬間は何も出来ない。

 あと一秒もすれば、ウイングロードを展開するなり、魔法防御を展開するのだろう。
 だが遅い。
 彼は――ゲンヤは【この】一瞬のために、既に飛び立っているのだから。



 ――ドスッ!!



 地面にヴァイヴァーが落とされる。
 鞭は返ってくるまでに時間が掛かる。
 その時間も惜しい彼は、ソレを強制排除したのだ。

 同時にデータコマンドーも地に落ちるが、今の彼には関係ない。
 ただ当てる。
 渾身の一撃を、あの銀色の仮面に当てる。

 ソレだけ。
 たったソレだけ。
 されどソレだけ。

 その【ソレだけ】のために、彼は持てる全てを籠めた。
 娘たちの想い。自分の想い。
 そして……彼女を取り戻すという、【絶対的な】想い。



 ――ギュィィィィィィィィンッ!!



 加速は十分。
 力もMAX。
 当てる。当たる。当ててみせる。

 そんなゲンヤの気迫が通じたのか、桜花は一瞬ビクッと震えた。
 金縛りか。それとも違うコトか。
 どちらにしても言えるコトは……今以外に好機はないということだ。

「…………いっけぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 入った。
 ソレは確かに渾身の一撃だった。
 だから彼女が落ちるのは当然のコト。

「(…………何かおかしい、よな……?)」

 だが変だった。
 彼女が叩きつけられた地面は、粉塵による煙が立ちこめて、視認が不可能となっている。
 煙が晴れる。晴れていく。

 嫌な予感は急速に増していき、すぐにその直感が正しかったことが証明される。
 ソコに彼女の姿はなかった。
 確かに彼女の存在は確認されたが、ソレは【ソコ】ではなかったのだ。

「…………【ヴァイヴァー】・ドライブ……………………インストール」

 決して大きくない声。
 だが不気味な静けさを持ったこの空間には、その声が良く通った。
 非常に聞き覚えのある声。

 忘れはしない。忘れられるハズがない。
 その声は。
 その声の持ち主は……!!

「……クイント!!」

 ゲンヤの叫びが――心からの欲求が、【彼女】の名前を自然に口にしていた。
 そう。あの声は、紛れもない【クイント・ナカジマ】のモノだ。
 仮面は叩き割れなかったものの、ソレだけは確かに断言出来ることだった。

「ゲンヤ……!!一旦、コッチに来い!!」
「アァ……?一体何を言って…………!?」

 先に気付いたのはボク。
 だからまだ、【ソレ】に気付いていないゲンヤに呼びかける。
 彼女は確かにソコに居た。ただ…………【ヴァイヴァーウィップ】というオマケ付きで…………。

「…………済まねぇ。折角の新兵器を、アイツにプレゼントしちまったようだ……」

 ボクと合流したゲンヤは、本当に申し訳なさそうにそう言った。
 クイントはゲンヤの攻撃を避けられないと悟ると、すぐに目的を変更したのだ。
 ソレは【敵】の攻撃手段の奪取。

 元々二人のリボルバーナックルは、【ほぼ】同一のモノ。
 互換性は当然あるし、その追加武装――【データ兵器】の装備も可能。
 だから今の彼女は、高速の鞭使い。

 先程までとは立場が逆転し、ゲンヤは鞭で狩られる側になってしまったのだ。
 その凄さは、身を以って知っている。
 それ故か今の桜花は、非常に余裕に満ちているようにも見える。

「何か手は……?」
「…………ない。悪いが、さっきので打ち止めだ……」
「……だよねぇ…………?」

 ゲンヤに残された手段はない。
 ソレは彼自身が認めているコト。
 速さ・武装・魔法。

 この三点で追いつけないのだ。
 作戦で引っくり返せる程、この差は甘いモノではない。
 ならば一点でも。何か一点でも追いつけば、その差は縮まるのではないか……?

 ポケットに手を突っ込む。
 ソコにはまだ未完成の…………【データコマンドー】があった。
 黒い完成品一号と違い、蒼を基調とした二号。

 当然、中に入っている【データ武装】も異なり、ソコに封じられているのは【黒き蛇】ではない。
 【白き獅子】。
 ソレがこの二号に封じられたモノであり、完成度八割というシロモノでもあった。

「(…………このゲンヤだったら、素手でもクイントに挑むだろうなぁ……?だったら…………)」

 迷う必要など、最初からなかった。
 そんなモノ、初めから存在しなかったのだ。
 この【オヤジ】たちの辞書には、そんな言葉は存在しないのだから。

「……ゲンヤ」
「……オイ。コレってまさか…………?」
「そ。そのまさか、だよ……?完成度は八割だけど、威力は問題なし。だから…………」

 差し出したのは、蒼いコマンドー。
 共に差し出したのは、白いライオン。
 コレがあっても、彼は勝てないだろう。

 だがその現実を覆す。
 そのための力でもあるのだ、この――【ライオサークル】は。
 ゲンヤはソレを受け取り、金色のダイヤルを回す。

 出現するのはライオンのマーク。
 顕現したのは、右脚のタービンを覆うモノ。
 白い丸鋸状に変化したライオンは、ソレそのものが蹴りを凶器にするモノ。

 エネルギーがチャージされる。
 ソレでも一発分。
 この一発が、この後の運命を握るのだ。

「…………【ライオサークル】…………ラストアタックッ!!」

 鋸は回転し、風を取り込んだエネルギーを解き放つ。
 一瞬遅れてクイントも、ヴァイヴァーのラストアタックを発動。
 強烈なエネルギー同士のぶつかり合い。



 ――
 ――――
 ―――――――
 ――――
 ――



 一進一退。
 まさにエネルギー勝負ならそう言える展開。
 だが忘れてはいけない。ライオサークルは未完成。

 闘いが長引けば長引くほど、コチラは――ゲンヤは不利になっていく。
 その証拠に、丸鋸からは白煙が上がってきている。
 一本。二本。三本。

 どんどん【火の車】と化しているソレは、ゲンヤにもダメージを与えているハズだった。
 だが当の彼はそんなコトはお構いなし。
 ……いや。もしかしたら、精神が肉体を凌駕しているっていうのか……?

「クイントォォォォッ!!どうだぁ…………オレは強くなっただろう…………!?」
「…………」

 だんまりを貫く桜花。
 それでも構わず語りかけるゲンヤ。
 少しでも彼女が元に戻るように。僅かでも、その可能性を広げるために。

「そっか……まだまだってか…………?ならまた鍛えてくれよぉ……!!【あの頃】みたいによぉぉぉぉ!!」
「…………!?」

 驚愕。……いや、違うな。
 アレは身体が悲鳴を上げたのだろう。
 何かの拍子でフラッシュバックした記憶が、現在の身体に衝撃を与える。

 ソレは決して珍しいコトではない。
 だが本人にとってのソレは、ワケも分からぬ痛みとして捉えられるコトが多い。
 つまり……彼女は、【昔の記憶】がフラッシュバックしたことで、ソレを知らない【現在の彼女】の身体が、混乱したのだ。

「ぃ、イヤァァァァァァァァアっ!!」

 突如頭を抱え、のた打ち回るクイント。
 ソレはチャンスだった。
 だが同時に、一番近付いてはいけない瞬間でもあった。



 ――ガガガガガガガガガガガガ。



 錯乱した彼女は、ヴァイヴァーを無茶苦茶に振り回す。
 ソレは柱や壁を無差別に抉り、この空間を崩壊させ始める。
 崩れ落ちる天井。倒壊する地下空間。

 苦しそうな彼女を救うかのように、敵方の転送魔法が発動する。
 居ない。彼女はソコに、もう居なかった。
 残されたのは、妻を取り戻せなかった漢と、かける言葉がないボク。

「チクショォォッ!!チクショォォォォォォォォォォォォッ!!」

 木霊する、悲しみの感情。
 ボクはこの時思った。
 必ず彼女を取り戻す。

 ソレは彼自身の手によって。
 そしてそのための【力】の習得に、全力で手を貸そうと。
 だからはやく、【二人】の笑顔を見せて欲しい。

 ソレがボクの心からの願いだった。






[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 40【大将と愉快な仲間たち①】(分割しました)
Name: satuki◆b147bc52 ID:285d48c5
Date: 2009/06/18 23:58


 前回のあらすじ:歯車戦士夫婦、共に【データ兵器】を手にする。



 ルーテシア⇒蝶人……もとい、超人(レリックウェポン)化。
 桜花(クイント)⇒データ兵器をゲット。
 現在までの状況を振り返ると、どう見てもコチラ側がヤバい。

 悪い風向きだとでも言うか。
 とにかくコチラに流れが来ていない。
 あと闘いに赴いているのは、地上のレジアス。

 対スカリエッティ戦。
 どう考えても、一筋縄で行かないことは請け合いだ。
 ソレは武装や頭脳に関してもそうだが、ソレ以上に【ドクター】なる人物は、奥の手を隠しているのだ。

 本人に言わせれば、「奥の手のつもりはないんだけどね~?」とか言いそうだが、アレは明らかに伏せカードの一つ。
 大体、【ドクター】が【格闘の才能】を持ってるなんて、詐欺に等しい。
 普通のドクターは、秘密基地に引き篭もって研究三昧。

 ソレが普通の様式美だと言うのに、ヤツはソレを破りやがった。
 鍛え上げられた筋肉。
 遅筋と速筋をバランス良く鍛え、才能の上に努力を重ねた漢。

 ヤツは既に、武道家としての【第二段階】に到達している。
 第一段階はただ鍛えれば、いずれ到達する領域。
 だが第二段階に到達するには、優れた指導者と質の高い鍛錬。

 その鍛錬の中ではじめて、第二段階の【入り口】が見えてくるのだ。
 ソレはある種の感覚。
 闘いの中でパーソナルスペースの構築をし、その空間を占領する。

 ソレが【領空権】と呼ばれるモノである。
 コレが出来るようになると、視覚に頼らずとも相手の攻撃が防げるようになるなど、様々な意味で一段上の階梯に進むこととなる。
 ……逆に言えば、コレが出来る相手と出来ない相手が闘った場合は…………正直、話にならないと言わざるを得ない。

 ソレほどまでの差。
 圧倒的なまでの、埋められない差。
 レジアスは今まで、誰にも師事せずやって来た男だ。

 筋力。持久力。瞬発力。
 彼を構成するソレらは、確かに高い位置にある。
 だがソレだけではダメだ。

 スピードがあっても。また圧倒的な力を持っていても。
 文字通り次元の違う闘いになることは、間違いないだろう。
 敵は一組織のボスだ。

 つまり強くて当たり前。
 ……そうか。奴さんは、科学者兼ボス役だからこそ、必死に鍛えたのか。
 成る程。それなら、【ドクター】としてのお約束を破らざるを得なかったのも納得出来る。

 ということは…………敵さんは、ソレだけ凄まじい精神力の持ち主だというコトでもあるじゃないか。
 精神で上を行かれ、武道家としての強さでも上を行かれ…………レジアスはまともに闘えるのか……?
 ……嫌な予感がする。ボクはゲンヤを引き摺りながらも、急いで地上を目指した。





















 ソレは圧力。無言で己に迫ってくるそのプレッシャーは、生物の本能による恐怖だった。
 全身が総毛立ち、対峙しているだけで咽が渇いてくる。
 気をしっかりと持たないと意識を刈り取られそうで、持っていても身体が小刻みに震える。
 
「……おや?どうしたんだい、キャプテンベラボー…………?ココにはキミの親友で人形遊びをしている、【正義】と対極に位置するモノが居るのだよ……?」
「…………っ」
「それを捕まえるのが、キミたちの仕事だろう……?なら、さっさと掛かって来ないと……?」

 言葉を発せない。
 発することが出来ない。
 表面上は穏やかな物腰だが、その瞳の奥にあるのは【絶対的な強者】の色。

 レジアスは震えていた。
 コレまでどれだけ不可能に近い任務であっても、必ず成し遂げ、ただの一度も怯えたことがない彼が。
 いや。確かに幼少の頃はあったが、忘れて久しいその【恐怖】という感覚が、彼の身体を地面に縫い付けてしまった。

「…………行くぞ」
「……どうぞ?」

 カラカラに渇いた口内から、やっとのことで搾り出した声。
 震える脚に力を籠めて、戒めを解くかのようにダッと駆ける。
 スカリエッティとの距離は三・四メートル。

 彼の脚力なら、一瞬にして詰められる距離。
 だがその距離が詰められることはなかった。
 狂気のドクターの二歩手前。ソコでレジアスは、言いようのない感覚に襲われたからだ。

「…………!?」

 ソレを感じるや否や、レジアスは再びスカリエッティから距離を取る。
 分からない。
 その感覚の正体が、サッパリ読めない。

「……ふぅ~む。中々の危険察知能力だねぇ……?だが、まだまだ甘い……」

 ドクターは攻撃してこない。
 しかしその身から発するモノは、レジアスを攻撃して止まない。
 【気当たり】。ソレが彼の発するモノの正体であり、レジアスの脚を止めるモノの名でもあった。

 人間には、薄れたとは言え野生の感のようなモノがある。
 相手の殺気を無意識に内に感じるコトは、野生の中では重要な感覚だった。
 ソレを逆に利用したのがドクターのソレであり、相手を【威嚇】するのに用いる。

 そしてソレを感じたレジアスの身体は、竦み上がり動けなくなる。
 破る方法はある。
 その方法は至極簡単。その気当たりを突破出来る程の、気合を出すこと。

 ようは気合の勝負なのだ。
 ならば彼が対抗出来ない道理はない。
 なぜなら彼は――――レジアス・ゲイズは、【気合で人生を乗り切ってきた漢】なのだから。

「なら…………コレでどうだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 距離を詰めると同時の、気合の籠もった右ストレート。
 ソレはドクターの顔面に目掛けてのモノで、彼の領域を侵していった。
 どうだ、と言わんばかりのレジアスの一撃。

「……良いねぇ?私の領域をココまで侵した人間は、そうはいないよ……?」

 ソコにあったのは少しばかりの驚きと、余裕を持ったドクターの顔。
 レジアスの渾身の一撃は、スカリエッティの手に吸い込まれるようにして収まっていた。
 効いていない。それどころか、届いてすらいない。

「…………バカな……」

 正真正銘の驚愕。
 ソレをさせられたのは、レジアスの方だった。
 気合とコレまでの全てを籠めた一撃。

 ソレは相手に届くことなく不発に終わった。
 その事実は、彼を酷く打ちのめした。
 気合が通じない相手。ソレは彼にとって、初めての相手だから……。

「……つまらないね。たったコレだけで戦意喪失かい……?ならキミがやる気を出せるように…………してあげるよっ!!」



 ――パチィィンッ!!



 ドクターはそう言うと、指パッチンを一つ。
 その瞬間、地下道から大量のガジェットⅠ型が現れ、ミッドの地上を覆っていく。
 その数二百。空での大量のガジェットⅡ型と合わせると、ソレは地獄絵図にしか見えなかった。

「エースオブエースたちは、空から離れられない。なら地上は、キミがやるしかないよねぇ……?」

 普段のレジアスなら、ガジェットなど物の数ではない。
 だが現在の彼は、酷く不安定だ。
 普段の力が出せるとはとても思えない。

「如何にキミが強かろうが、二百体のガジェットと私を同時に相手をするのはまず不可能。そして私を倒せば、ガジェットは止まる。なら……私を倒すしかないよねぇ……?」

 ソレはミッド全体を人質にとった脅迫だった。
 レジアスがドクターを倒せないのは、先のやり取りでも明白。
 だからベラボーが科学者を倒すには、【限界】を超える必要がある。

 窮地に陥った時、ヒトは潰れるか化けるかしかない。
 その化ける方に賭けているのがスカリエッティ。
 彼はレジアスが、自らの【対戦相手】に【成る】コトを望んでいるのだ。

 まるでソレは、ライバルの原石を見つけたような感覚。
 その対象を育てて育てて…………そして【改めて】闘う。
 限界まで成長し、【好敵手】となったソレを討ち取るコトこそ、彼が望むモノ。

 今のレジアスは、ドクターにとって唯の雛。
 ソレが鶏で終わるか、鳳凰に化けるのかは……まだ分からない。
 その【分からない】というコトは、【望みがある】というコトでもある。

 そしてスカリエッティのコレまでの行動からは、もう一つの意味が読み取れる
 彼は…………【倒す】コトが目的ではないかもしれない、というコト。
 倒すように見せかけて、その実は全く逆の意味を秘めたモノ。
 
 その為に科学者は、自然なカタチで【好敵手】を【育て上げて】いるのかもしれない。
 あくまでコレは想像の範疇。
 その真意は、彼の心の中にしか存在しない。

「(……オレは、オレはどうすれば…………!!)」

 一方レジアスの胸中は、それどころではなかった。
 スカリエッティと自分の差は認識的出来ている。
 その差が絶望的なコトまで理解出来ているのだ。

 コレが【仕合】や【死合】ならば良い。
 自らの命を燃やし、叶わぬと分かっている相手に挑むのも、また一興だろう。
 だが今の彼は一戦闘者ではない。

 彼の行動が、ミッドの運命を左右するのだ。
 間違えられない。
 間違えるワケにはいかない。

「…………っ」

 このままではどちらにせよ、ミッドの地上は殲滅される。
 ソレは間違えようのない事実。
 もし自分が失敗したら。その重圧は、レジアスの双肩に重くのし掛かった。



「…………随分と卑怯なやり方をするではないか……?」



 聞こえるハズのない、この場にいるハズのない、第三者の声。
 歴史の重みを感じさせる渋い声は、筋骨隆々な体躯から発せられたモノ。
 ココ近年は見ることが出来なかった、彼の人型。

 銀色の髪に、獣の耳。
 浅黒い肌の上に纏うのは、袖なしのロングコート。
 普段と違うその顔は、黒いサングラスによる変化故。

「……!?ザ、ザフィーラ!?何故こんな所に…………!?」
「……何。地上に害虫が大量に発生したから、駆除に来ただけだ……」

 地上を悠然と歩きながらも、ザフィーラとレジアスの会話は続く。
 大量のガジェットを前に、怯まない雄雄しさ。
 ソレは今のレジアスが失いつつあるモノだった。

「…………二百体か。リハビリには丁度良い……」

 止まる歩み。
 天に向かって放られるサングラス。
 ザフィーラの掌にあったのは、一つの証。

 ソレは彼を新たな姿に変えるモノ。
 【マイスターライセンス】。そう呼ばれるソレは、携帯用の端末だった。
 ……そう。【新たな】強化装甲を呼び出すための、彼の為の端末だったのである。

「……エマージェンシー!【デカマイスター】!!」

 開封される証。
 ソコから出てくるのは、ザフィーラの新たな騎士甲冑。
 シルバーブルーの装甲に、胸には【100】と書かれた紋様。

 フルフェイスのメットが顔を覆い、全身を黒色が引き締める。
 特徴的なのは、腰に差した大きな刀。
 太刀と呼ばれるソレは、刀身を石化することで鞘の代わりを果たしている。

「……百鬼夜行をぶった斬る……………………【地獄の番犬】、デカマイスター!!」

 決め台詞と共に、新たな姿のお披露目。
 カッコ良い。文句なしに無しに格好良いと褒めてあげたいのだが……。
 とうとう自分で、【犬】と言ってしまったよなぁ……?












 あとがき

 話の長さとネタのボリュームが過剰だったので、【40】は二つに分割しました。






[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 41【大将と愉快な仲間たち②】(分割しました)
Name: satuki◆b147bc52 ID:1eff5649
Date: 2009/06/18 23:58


 前回のあらすじ:狼が【番犬】に変身しました。



 トンネルを抜けると、ソコは…………ワンちゃん無双でした。
 ゴメン。正しく言うと、デカマイスターになったザフィーラが、ガジェット相手に無双ゴッコをしているトコロ。
 必死こいてゲンヤを引き摺って出た先がこの惨状。

 ……一瞬、出る所を間違えたかと思ったよ。
 ソレぐらい、今のザフィーラは輝いていた。
 そう。薄くなりつつあるその存在感を、圧倒的な濃さで塗りつぶすかのように。

「……ま。この分なら、大量のガジェット軍団は大丈夫ッポイな。そんで、肝心のレジアスは…………」

 ガジェットⅠ型軍団が爆散する中で、唯一と言って良いほど荒れていない場所。
 ソコに彼らは居た。
 狂気の天才科学者と、ミッド地上の大将さま。

 ちょっと見ただけで現在の状況が、最悪なモノだと理解出来てしまった。
 退くことも往くことも出来ない状況。
 レジアスはまだ強くなれる。

 そしてその強さは、スカリエッティを倒せる位になるコトも可能だ。
 だが現状のままでは、ソレは不可能。
 仮にこの場でレジアスが自分の殻を破っても、【ソレ】はまだ【第二段階】には到達出来ない。

「(……しょうがない。ガジェットはザフィーラに任せて、ボクは撤退のキッカケを作るとしますか……)」

 レジアスとスカリエッティが闘っているのは、丁度【あるポイント】の真上だ。
 ボクの横には、都合の良いことに【パイロット】まで存在する。
 コレはチャンスだ。大量のガジェットを殲滅し、レジアスの窮地を救うことが出来るプラン。

「…………オイ、ゲンヤ。悪いんだけどこのポイントに行って…………【コレ】を起こしてきて欲しいんだけど……」
「…………クイントォ……」

 まだ現実に帰ってきてないな、このオッサン。
 だが今は、そうさせてやれない状況なのだ。
 壊れたオッサンに、斜め四十五度から手刀を喰らわす。

 ソレが【月村流・壊れたモノの直し方】。
 ……良い子は決してマネをしてはいけません。
 お兄さんとの約束だよ……? 

「起きろォォォォ!!」
「んがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?……………………オイ、シズカ!!テメェ、一体何しやがんだっ!?」

 あ。漸く再起動した。
 やっぱりゲンヤはコレくらい元気がないと、らしくない。
 大人しいゲンヤなんて、アンコの入ってないアンパンみたいなモノだもの。

「やかましい。今の状況は理解出来ているな?レジアスがピンチ。下手をすると、ミッドがヤバい状況。…………んで?こんなピンチに、キミは一体何をやってるかなぁ……?」
「…………済まねぇな」
「弁解は良いから。サッサと自分のすべき行動をする。ホレ、ハリー、ハリー!!」
「……………………オウ!」

 駆けて行く戦士。
 その先に待つのは、新たなる【力】。
 はやくしてくれよ?ソレが間に合うかどうかで、レジアスの…………いや。ミッドの運命が決まるんだから……?






「どうしたんだい……?掛かってこないのかな…………?」
「…………クッ」

 膠着状態の二者。
 スカリエッティの余裕とレジアスの焦り。
 その対極的な感情は、まだぶつからずに済んでいる。

 ガジェットはザフィーラが何とかしてくれる。
 だがこの男は――――ジェイル・スカリエッティはどうしようもない。
 玉砕覚悟の攻撃も通じないだろう。

 ソレが分かっているから、迂闊に動くワケにもいかないのだ。
 この状況は、ドクターが作り出しているモノ。
 故の彼の気分一つで、すぐにでも崩壊する代物。

「(……どうすれば…………一体どうすれば…………!?)」

 焦りは頂点に達し、もはやまともな思考は出来なくなる。
 そう。ソレがスカリエッティの望んだモノであり、そうなればレジアスは…………突っ込むしかなくなる。
 ソコに生まれるのが希望か。それとも絶望なのか。ソレは誰にも分からないコトだった。

「……来ないのかい?なら…………コチラから行くよ……!!」
「…………!?」

 激突。
 もはやその未来しか、レジアスには見えなかった。
 構える。そして力を乗せる。今の自分には、ソレしか出来るコトがないのだと分かっているから。



 ――ゴ、ゴ、ゴ、ゴ、ゴ、ゴ、ゴ、ゴ…………!!



 衝突は回避された。
 突如隆起した地面が、ドクターとレジアスの間に割り込んだから。
 ソレは山のようなカタチ。

 噴火前の火山を思わせるソレは、大きく振動したまま、その身に罅を入れていく。
 一つ。また一つと。
 どんどんその罅割れの数は多くなり、その中から差し込む光がソレに比例して大きくなる。



 ――バリィ、バリィ、バリィィィィンッ!!



 割れた。
 完全に粉々になったソレは、まるで外装の取れたビルのよう。
 ただ異なっているのは、その中身がビルではなく…………一体の恐竜だったコトだ。



 ――ゥガァァァァァァァッ!!



 ブラックとグリーンの体躯。
 頭部と四肢。そして尻尾は白く、胸には紅が色を添える。
 二足歩行するその存在は、【ティラノサウルス】を象ったモノ。

「……ホゥ。中々面白いモノを出してきたね……?」

 ドクターの興味が、ソレに惹きつけられた。
 だがソレも長くは続かないだろう。
 だから今がチャンス。レジアスを撤退させて、場を立て直すための好機は…………今しかない。



 ――ドックン!



 神速。
 本来戦闘の中で使われるソレを、ボクは味方を逃がすために用いた。
 ボク自身がドクターと対峙しても良い。だが既にアイツの相手は、レジアスに決まってしまった。

 ならばキチンとリベンジするまでは、レジアスがスカリエッティへの挑戦者である。
 今回は敵わなかった。
 だが次はそうはならない。そうならない為にも、ボクはレジアスを逃がさないといけないのだ。

 レジアスを小脇に抱え、ボクはその場を離脱する。
 モノクロの世界なのに、スカリエッティは微笑んでいた。
 ソレはまるで、最初からコチラの動きを読んでいたかのように。

 ちくしょう。
 悔しい。
 だが本当に悔しいのは、ボクではない。ボクではいけないのだ。

 神速の世界から戻ってきたボクに、レジアスは何も言わなかった。
 だからボクも何も言わない。
 何か言うのは、ルール違反だと思うから。

「(…………まだまだ、だな……?)」

 反省をしつつ、ボクとレジアスは戦線を離脱する。ソレはすぐに起きるであろう、次のステージの準備の為。
 転送魔法を駆使して着いた先は、【機動六課】。
 転送するや否や作戦司令室に赴き、大型モニターで現地の映像を見る。

 ザフィーラがコレまでに倒したガジェットの数は、全部で百二十体。
 相手が残り八十体に対し、コチラはザフィーラと…………先程の【ティラノサウルス】。
 勝てる。多分六課の面子は、皆がそう思っているのだろう。

 だが甘い。
 色々な意味で【狂気】の科学者が、この程度で終わるハズがないのだ。
 その証拠にその八十体のガジェットが…………奇妙な音と共に、集結しだしたではないか。



 ピョン、ピョン、ピョン、ピョン…………………!!



 重なるように。
 八十体のソレらは、段と行を構成しつつ…………一つの巨大な物体に生まれ変わった。
 外見は巨大なガジェット。だがその頭頂部には、金色の王冠が出現している。



『ハッハッハッハ……!!どうだね?コレが私の自慢の作品、【キングガジェットⅠ】だよ……!!』



 通信越しで伝わってくる、ドクターの喜びの声。
 どう考えてもギャグで作ったとしか思えん。
 ……いや。ソレを言ったら、今までのヤツもそうか。

「ザフィーラ!その場は一旦ゲンヤに任せて、コッチに戻って来い!…………【ダイノーズ】の出番みたいだからね……?」
『……この【恐竜】に乗っているのは、ゲンヤだったのか……。分かった、すぐに戻る……』

 ティラノサウルス型ロボット。
 正式名称【マグナダイノー】。
 ダイノーズの二号ロボットであり…………ゲンヤがパイロットを務める、新たな【仲間】である。

 コレでコチラの体勢は立て直せた。
 だがコレで終わるとは思えない。
 【あの】ドクターが、この程度の策しか用意していないと、到底思えないからだ。

「(……絶対まだ何か、【ネタ兵器】を仕込んであるんだろうなぁ……?)」

 自分のコトは盛大に棚に上げつつ、ボクはそう思った。
 現に今だって向こうとコチラは、ネタ合戦のようになっているではないか。
 相手はボクと似た存在。ならばまだまだ、ネタの貯蔵があるに決まっている。

「(……って、あんまり自慢出来るコトじゃないよな……?)」

 ……でも構わない。仮に向こうさんが新兵器を出してきても、コチラには頼もしい味方【たち】が居るのだ。
 確かに何人かの心は折れかけているが、今度は【みんな】で闘う番。
 折れた心は、皆で支えれば良い。

 かの有名な武将も言っていたじゃないか。
 一冊のエロ本ではすぐに飽きるけど、三冊ならローテーションが組めると。
 ……何という素晴らしい格言なんだ。

「(……アレ?何か違ったような気が……?)」

 まぁ良い。【仲間】というのは、そうし合える存在だというコトには変わりない。
 そんなコトを考えつつ、ボクはザフィーラの到着を待つばかりだった。
 …………アレ?今回もボク、戦闘シーンなし……?












 あとがき

 >誤字訂正

 俊さん、円冠さん。ご指摘頂き、本当にありがとうございました!!







[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 42【歪んだ物語・その修正方法】
Name: satuki◆b147bc52 ID:77c66b14
Date: 2009/06/18 23:57
 前回のあらすじ:第二の恐竜ロボ、登場。



 ダイノーズ発進。ソレは前回同様、非常にスムーズに行われた。
 六課の最高責任者であるはやては、現在お空のヒトとなっている。
 故に対した突っ込みも無しに、ボクらは飛び立つことが出来ました、と……。

「(……しかし、なぁ…………?)」

 暗い。ダイノーズの面子の顔には、どう見ても余裕がなかった。
 レジアスは勿論のこと、ゲンヤを置いてきてしまったザフィーラの顔色も険しい。
 いつもは笑顔を絶やさないほのぼの組も、妹分や娘が戦場で闘っているせいか。

 その顔には珍しく(と言ったら失礼か……?)真剣な色が浮かんでいる。
 こんな時は、小粋なジョークで場を和ませなければ……!!
 とか思ってみたものの、流石に今ソレをやると、【空気が読めていない】判定を喰らいそうだ。

 だから仕方なしに、無言を貫くしかない。
 とは言うものの、現場に到着するまでには今暫しの時間を要す。
 だからボクは、ジェットの操縦をしつつも、コンソールを弄って空間ディスプレイを立ち上げる。

 現場の状況はどうか。
 ゲンヤは苦戦していないか。
 敵さんの新戦力は、投入されていないよな…………とか。

「(……ふ~ん?やっぱり、柔軟な素材を利用しているのか……)」

 ただのガジェットⅠ型ならまだしも、相手は【キング】ガジェットⅠ型だ。
 その身体は柔軟で、ダメージを受け流しやすいようになっている。
 何ともお約束どおりだが、【メタル・キングガジェットⅠ型】でないだけありがたい。

 もしメタルな奴だったら、相当梃子摺ることになるからなぁ……?
 ゲンヤ……の乗ったマシンを見ると、【口からファイヤー】や【尻尾アタック】で応戦している模様。
 あんまり余裕はなさそうなのに、何で変形して闘わないんだろう……?そうした方が、明らかに攻撃方法が増えるのに……?

「おぉ~い、ゲンヤァ~~?何で変形しないのぉ……?」
『バカ野郎……!!そんなの、知るワケないだろうが……!!』

 通信を繋げてみると、返ってきた答えは怒鳴り声。
 確かに戦闘中に呼びかけたボクも悪いが、ソコまで怒らなくても……?
 とか考えていると、ふとあるコトが頭を過ぎる。…………まさか。まさかねぇ……?

「……あ~、ゲンヤ……?キミって、そのロボが置いてあった格納庫で、説明書を見たよねぇ……?」
『説明書ぉ……?あ~、アレか……!!何かソレらしいのは在ったが、時間が無かったから読んでねぇ……!!』

 ……予感的中。
 変形出来ることを知らなかったのは、取説を読んでないからだった。
 …………この場合、逆に今まで闘えていたことを褒めるべきなのか……?

「……コンソールの光ってるボタンを押すと、【ダイノーチェンジャー】が出るから、ソレ使って変形……」
『ん~ん?お、コレだな……!!』

 コンソールから勢い良く飛び出す、【ダイノーチェンジャー】。
 ゴウダイノーで【合体・必殺技発動】の為にある端末と、外見を同じくするモノ。
 ただ中身――つまり登録されているプログラムは別物で、それぞれの機体用のモノが入っている。

『【根性進化】!!マグナダイノー!!』

 決め台詞と共に、変形の為のトリガーヴォイスを入力するゲンヤ。
 巨大な尻尾は、肩に巨大な砲を備えた腕に。恐竜の折れ曲がった脚は、人型の真っ直ぐな脚に。
 前後が入れ変わった身体に、ヒトの形をした腕と脚が吸い付いていく。

 最後にクワガタを象ったような角飾り。
 ソレを額に付けた頭が現れ、ココに変形は完成する。
 全体的に黒・紅・緑を使用し、ソレらの繋ぎ目を白が彩る。

 砲撃特化型機体、【マグナダイノー】。
 ソレがその機体の名前であり、ゲンヤの新たな相棒の名前でもある。
 ……どうでも良い話だけど、最初は【進化】って言ってたのに、後になってから【変形】に直したのは…………一体何でだろうか……?























 現場まであと一分。
 たかが一分。されど一分。
 この一分という時間は、長いようで短い。そして、短いようで長い。

『……コレならどうだぁぁぁぁっ!!』

 現場からの声。
 この場合はゲンヤのソレが、彼の現状を物語っている。
 鋸のような剣で斬りかかるも、伸びる相手を斬るには至らず。

 ならばと両肩の巨大砲を連射するも、柳に風。
 最後の手だとばかりに今繰り出したのは、紅いキューブのようなモノを投擲する。
 爆発の後にあったのは、表面が多少焦げ付いただけのキングなガジェットさん。

『……オイ、オイ、オイ…………?あんだけやって、無傷だって言うのかよ……?』

 冷や汗タラリ。
 そうとしか表現しようがない状況のゲンヤ。
 だがソレはボクだって同じだ。

 コチラの最新鋭機のお披露目回だというのに、その新型の攻撃が一切通じない。
 お約束破りも良いところ。
 ……まさか逆に、相手の新型の【お披露目回】ってコトはないよなぁ……?

 その理屈でいくと、コチラが敗れ去るコトになるのだが……。
 ……不味い。流石にソレは想定外だ。
 ゲンヤのクイント取り逃がしに始まり、レジアスの戦意喪失。

 思えば最初のルーテシアの【蝶人】化からして、ボクの想像の範疇外だった。
 一つ。また一つ。さらに一つと。
 積み重なった歪は、さらに大きな歪を呼ぶ。

 今まではソレが良い方に回っていただけ。
 つまり、運がコチラに向いていただけなのだ。
 そして今運命の女神さまは、どう見てもアチラの味方をなさっている模様。

「(……にしたって、変な話だな……?スカリエッティはお約束を遵守するヤツだ。そんなアイツがソレをしないというコトは…………?)」

 ①コチラが勝利条件を満たしていない。
 ②何処かのフラグ立てを怠った。
 ③一週目では倒せない、負け確定バトル。

「(…………まさか、なぁ……?いや、でも…………?)」

 お約束を護るドクター。
 ソレはあらゆる様式美を絶対に遵守する漢。
 ……間違っても、【絶対遵守】破りの【瞳】とかは持ってないハズ。

 ハッキリそうだと断言出来ない自分が恨めしい。
 だが、そんなコトを言ってる場合ではない。
 そんなコトを考えている暇があるのなら、現状を打開する策でも考えるんだ……!

「(……敵は軟体。ソレを潰すには、超大火力で焼き払えば可能……)」

 それなら、マグナダイノーの必殺技で何とかなる。
 問題点があるとすれば、ソレはゴウダイノーとの連携技だということ。
 故にコチラの到着が不可欠であり、ソレまで持ち堪えられるかがキーポイントになる。

「(……あと三十秒……!)」

 もうすぐだ。
 本当にあと少しで、現状打開の一手が打てる。
 焦る気持ち。逸る心。

 ……だが本当にコレで良いのか……?
 ココに来て、何もかもが敵さんの思うとおりに運んでるような気がする。
 いや。多分そうなのだろう。

 敵の掌の上でしか踊れない。ソレは非常に屈辱的なことだった。
 何とか脱却したい。でもその先には敵の次なる一手が待っている。
 まるで蟻地獄のような、一度嵌まったら抜け出せない罠。
 
「…………見えたっ!!」

 肉眼で視認が可能な距離に到達し、マグナダイノーの無事をこの目に収める。
 エネルギーを消耗してはいるが、機体そのものには大したダメージがない。
 ……イケる。これなら、合体攻撃は可能だ。

 即座に分離フォーメーションに移り、ゴウダイノーは人型に合体し直す。
 手抜きではない。物語後半は、合体シーンが省かれるコトは良くあるコト。
 だからボクたちもソレに従ったまで。……もう一度言うけど、決して手抜きなんかじゃあ、ないよ……?

「ゲンヤ!!今からソイツに、合体攻撃を仕掛けるぞ!!」
『合体攻撃ぃ……?ソイツは一体、どうやるっていうんだぁ……?』

 敵に攻撃しながらも、説明は続く。
 そして行われる合体。
 超大型双筒砲。

 ソレに変化したマグナダイノーがゴウダイノーの背中に現れて、キングガジェットⅠ型の足元が隆起する。
 ターゲットロック。
 あとはゲンヤが引き金を引くのみ。



 ――ザワッ!!



 悪寒が走る。
 咽が渇く。
 ソレは悪い予感を察知した証拠。

「(……何だ……?一体何を、見落としてるって言うんだ……!?)」

 敵は軟体。
 巨体で軟体……?
 柔らかいと…………撥ね返す……!?

「…………しまったぁぁっ!!」

 以前ジュエルシードに取り込まれたはやて。
 その変化した姿である【大タヌキ】は、その柔らかい腹で何をした?
 ……そう。【撥ね返した】のだ。なのはたちの攻撃すら、いともカンタンに…………!!

『ダイノー、ラージバスタァァァァッ!!』
「ゲンヤ、ストップ……!?」

 一瞬遅い静止。
 文字通りその一瞬が明暗を分ける。
 放たれてしまった大砲。

 ソレは唸りを上げて一直線に敵さんに吸い込まれていく。
 ……【吸い込まれていく】のだ。
 その後に【撥ね返す】、その為に……!

「ザフィーラ、緊急回避……!!」
「……む?しかし既に決着は付いて…………何ィッ!?」

 土煙が晴れると同時に、ソコにはコチラの攻撃を吸収中のキングガジェットの姿が。
 明らかに吸収だけではないその様子。
 ……もしかして、【増幅】も含まれていたっていうのか……!?

「な、何だ!アレは……!?」
「良いから回避準備!!アレを喰らったら、コチラは大破だよっ!!」
「!?わ、分かった……。すぐに回避を…………」



『……残念だったねぇ……?もう、手遅れだよ……?』



 突如として入る通信。
 ソレがドコからのモノで、誰から来たモノなんて、考えるまでもない。
 今、相対している機動兵器の開発者。つまり…………ジェイル・スカリエッティ以外には、考えられないだろうに……!?



『……さようなら。ダイノーズの諸君……?』



 倍返し。
 必殺技の後には最大の隙。
 ソレを実践するかの如く、奴さんはコチラの砲撃を増幅して撃ち出してきた。

 倍加したコチラの砲撃は、どう考えてもコチラの――――ゴウダイノーの破壊以外の光景が浮かばない。
 そう。ソレ以外の光景は思い描くことが出来ないのだ。
 幾ら考えても。どこをどうやっても……!

「(……結局、【ボク】っていうイレギュラーのせいなのかぁ……?)」

 思考は既に諦めモード。
 その沈み往く考えとは別に、ボク以外の搭乗者を強制転送させる。
 もしもの時用に仕掛けておいた、転送魔法が役に立った。

 非難は聞こえない。
 悲鳴も聞き取れない。
 そんな声を聞く前に、皆を転送してしまったから。

『……【キミ】は逃げないのかい……?』
「……何でだろうな?何でか分からないけど、残っていれば【アンタ】と【逢えそう】な気がしたんだよ……?」

 何故かは分からない。
 自分も脱出し、反撃の機会を待てば良いハズ。
 だがこの時にボクには、そうは思えなかった。

 今の時点で、【何か】が足りない。
 このまま【足りない】状態で進んでも、きっとすぐに行き詰ってしまう。
 ソレは直感だった。でも大切な感覚でもあった。

『…………覚えているのかい……?いや、【魂】が記憶しているのかもしれないねぇ……?』

 何やらドクターは、ボク自身すらも知らないような情報をお持ちのようだ。
 しかしボクには、その意味するトコロが分からない。
 故に聞き役に徹するしかないのだ。

『……今回の【キミ】の敗因は、【駒】が足りなかったコト。そして…………手を出すべき場所ではないトコロまで、手を出してしまったトコロだよ……?』
「……ずいぶん親切に教えてくれるんだねぇ……?ココはアレかい……?バッドエンド後の【ドクター道場】なのかい……?」

 某有名ゲームに出てくる、バッドエンド後の救済措置。
 ソコではバッドエンド回避の為のヒントを、本編のキャラクター(もどき)が解説するのだ。
 今の状況は、まさにソレに等しい。

『……良いねぇ?今度はウーノあたりでも連れて来て、掛け合いでも出来るようにしようか……?』
「…………またココに来るコトが前提かい。もう来ないかもしないんだぞ……?」

 ボクの転生は、時を遡るコトがない。
 なら今までの経験から予測すると、今度はJ・S事件以後に転生するコトになるのだが……。
 ……いや、待てよ?【今まで】がそうだったからといって、【今度】もそうだとは限らないのか……?

『……心配は無用さ。キミはいつか【必ず】ココへ到達するからねぇ……?』

 ソレは確信だった。奴さんは確かな自信をもって、ボクの未来を予測する。
 未来……果たしてそうなのか?
 ボクにとっては【未来】でも、この世界の人間にとっては【過去】なんじゃあ……?

『……さてと、ソロソロお別れの時間だ。【キミ】が好きな【カード】で、遠い世界に送ってあげよう……♪』

 そう言ってドクターが取り出したのは、一枚のカード。
 中央に時計の文字盤が描かれたソレのタイトルには、【TIME VENToo】の文字。
 ……知っている。ソレは刻を遡るカードだ。

『……時代は三提督が現役の頃。ソコで【キミ】は、新たな【オヤジーズ】を見つけるだろう……』
「……オイオイ。コレ以上、オッサンが増えるって言うのかい……?」

 どうやらボクは、平行世界に転生するのではなく…………【直接の】過去の世界に転生するらしい。
 しかもソレは、相手が決めた先の話。
 どう考えても、あまり良い感じはしないなぁ……?

「……まぁ、良いか?…………じゃあな、【アンリミティッド・デザイア】……」

 奴は何も言わずに、黄金に輝く羽付きの杖にカードをインサートする。
 差し込まれたカードは、人智を超えた力を振るい、ボクを過去へと飛ばす。
 ソコに苦痛はない。しかし、快楽もない。

『……また逢おう。対極の位置に在りながら、最も近しい存在の【キミ】……』

 【月村静香】という存在が消えた後で、ドクターは静かに……だがハッキリとそう言った。













 あとがき

 >誤字訂正 


 俊さん。毎度ご指摘いただき、本当にありがとうございます!!
 今回は四話分というコトで大変な量になってしまい、誠に申し訳ありませんでした!!






[8085] 【オヤジ】狩り
Name: satuki◆b147bc52 ID:ec3fdae0
Date: 2009/06/05 17:07



 今までの人生は、恵まれてたと思う。
 その時その時はそう感じられなかったけど、今ならハッキリとソレが分かる。
 だって今回の人生は、前回とは真逆。

 【前】は、月村すずかとソックリの容姿。
 人間関係にも恵まれ、裕福な家庭に生まれる。
 今まで一番激動で、ソレだけに沢山のコトがあった。

 でも……それでも【今】よりは良かった。
 現在、ボクが居るのはミッドのスラム街。
 その端に位置する、孤児院を兼ねた古い教会。

 今回のボクは、所謂【捨て子】というヤツだ。
 生まれてすぐに捨てられた、可哀想なボク。
 ……っていうのは冗談だ。

 ボクが親の立場だったら、まず間違いなく捨てたくなるだろう。
 いや。そうしない自信が、コレっぽちも存在しない。
 そう断言出来るだけのモノが、今のボクにはあったのだ。

 身長二メートル。体重百三十キロ。
 鋼のような筋肉が全身を包み、顔は【漢】前。
 眉毛は当然の如く極太で、アゴだって普通に割れている。

 ちなみに、現在十四歳。
 ……年齢さえ除けば、今のボクは某【世紀末な覇王】さまのような感じなのだ。
 道を歩けば誰もが道を開け、犬や猫に会うとすぐさま逃げられる。

 小さな子どもたちは、見ただけで泣き出しそうになるし、○ヤのヒトも見ない振りをする恐ろしさ。
 ……うん。我ながらコレは、怖すぎる思う。
 でも【ある意味】男の夢を体現しているのだ。普通なら喜ぶヤツも居るだろう。

「(…………ハァ。そう思えたら、どんなに良いことか……)」

 しかし残念なことに、今のボクではそう思えない事情があった。
 前回は【美少女風男子】だったので、ある意味コレも予想出来たハズなのだが……。
 今のボクの性染色体は、【XX】。

 ちなみに、前回は【XY】。
 つまり何だ。
 ボクは覇王風な……………………【オンナノコ】なんだよ?























 ココ【スラム街】は、ミッドでも指折りの治安の悪い所であった。
 というのも、今回の転生先は時を遡っているのだ。
 着いた先は、無印開始の二十年位前。

 だから【この】ミッドチルダは、まだまだ治安体勢が整い切っていないのだ。
 故に盗みや殺人。捨て子や売春。
 その他のあらゆる犯罪が、このスラム街には在った。

 そう【在った】のだ。
 ボクがココに流れ着いたのは五歳の頃。
 何とか生き繋いで、流れに流れて着いた先が、此の世の終点みたいな所。

 新たに入ってきた新入りは、五歳とは思えない覇王風味。
 そんな異分子が来たら、誰だって排除しようとするだろう。
 ボクも生きることに必死だったので、とりあえず不穏分子を排除していった。
 
 結果。血で血を洗うような闘いの末、ボクは確かに平和を手に入れた。
 でも同時に、この街からは犯罪者が消えた。
 犯罪者狩りで食い繋いでいたボクは、コレで究極無敵のビンボーになってしまったのだ。

 ボクが拠点としたこの教会には、十人近くの子どもたちが居る。
 十年間。犯罪者狩りで得た金塊とかを崩して生活してきたけど、もう切り詰められないし、そもそも元がない。
 ……仕方ない。ボクが高給取りになって、子どもたちを養うしかないようだ。

 そう考えた後のボクの行動は、異常な程はやかった。
 何とか管理局の士官学校に合格し(前回の人生からすれば出来ないこともなかった)、テストの成績で常にトップを取ることを条件に、自宅からの通学を許可してもらった。
 最初は非常に渋っていたお偉方も、ボクの懇切丁寧な【お願い】の前に、あっさりと陥落した。

 ……多分、美少女や美女がやる【お願い】とは百八十度くらい別の意味なのだろうが、この際気にしないことにした。
 同じ結果が出せれば、問題ないのだ。
 ともかくコレで、ボクも執務官。

 この時点で結構な所得を獲得したボクは、子どもたちを連れてミッドの都心へ移住。
 3LDKに十人住まいという、子どもだから出来る方法を取ることに。
 その結果としてボクの財布に大ダメージだが、残業をやりまくって頑張った。

 そのおかげで、ボクは結構な速度で出世中であります。
 現在の階級は一佐。
 今日から執務官長なんつー役職を拝命し、部下が与えられるのであります。

 いやね?確かに今までも部下は居たんだけどね……?
 ボクが【覇王少女】なもんだから、みんな一週間と経たずに辞めていくのだ。
 だから、いつしかボクには部下が居ないのが当然になった。

 だが季節は巡り、新たに士官学校を出たモノたちが、配属される季節となった。
 当然、ボクの所にも新人が配属される。
 ちなみに、ボクの下で何日持つかというのは、半公式の賭け行事となっている。



 ――ピンポーン!



 ボクの執務室に、心地良い音が響き渡る。
 ソレは新たなる生贄の来訪を知らせる鐘の音。
 さぁ今回のエモノは、一体どんなヤツやら…………。

「どうぞぉ~」
「し、失礼します!!本日よりシズカ・ホクト一佐の下に配属になりました…………ヒィッ!?」

 あ~あ。初っ端からコレかい。
 こりゃあ、半日も持たないかもしれないなぁ……?
 そんなことを思いつつ、その執務官殿の顔を覗き込む。

 蒼みがかった、ミッドでは珍しい黒髪(ちなみに、ボクは茶色がかった黒髪だ)。
 まだまだ幼さを残す中性的な顔立ちは、ボクの知ってる【誰か】を連想させた。
 執務官。黒髪。少年。

 …………そうだ。
 この子はアイツに似てるんだ。
 あの生意気執務官、【クロノ・ハラオウン】に。

「アンタってさぁ…………もしかして【クライド・ハラオウン】?」
「な!?何でボクのことを……!?」

 時系列的に考えて、そして容姿的に考えた末の結論。
 その結果はどうやらビンゴだったらしく、目に見えて少年はうろたえ出した。
 別に取って喰うつもりはないんだけど、多分信用してもらえないだろうなぁ……?

「……まぁ良い。ハラオウン執務官、今日からヨロシク頼むよ……?」
「…………!!ハ、ハイ……!!宜しくお願いしま……………………きゅぅぅぅぅ」

 あ、倒れた。
 ソレほどまでにインパクトがあるボクの顔。
 多分オンナだと知れば、また倒れるだろうなぁ……。

 こんな細面の少年が、後の提督様とはとても思えん。
 ……よぉし。いっちょ、揉んでやろうかね……?
 そうすれば、【闇の書事件】で死なないかもしれないしね……?












 新米執務官【クライド・ハラオウン】の業務日誌



 某月某日。
 今日は待ちに待った執務官の叙任式だ。
 憧れの制服に身を包み、高鳴る心臓の鼓動を押さえ切れない自分。

 式が終わり、興奮が冷めぬ内に言い渡される、自身の配属先。
 最初の上司は、一体どんな人物なのだろうか。
 興奮は最高潮に達し、上司になるヒトの部屋のインターフォンを押す手に、異常な程の力が籠もる。



『どうぞぉ~』



 中から聞こえてきたのは、とてもフランクなモノだった。
 どうやら自分は、当たりを引いたのかもしれない。
 そう思いながら入室すると…………ソコには【化け物】が居た。

 自分の胴回り程もある、相手の二の腕。
 制服の上からでも分かる、異常に発達した全身の筋肉。
 凡そ執務官とは思えない、まるでレスラーのような体躯と顔。

「アンタってさぁ…………もしかして【クライド・ハラオウン】?」

 !?
 何故だ……。
 どうして目の前の人物は、ボクのことを知っている!?

 新人の配属届けは、新人の手によって行われる。
 事前に察知することは叶わず、だからこそ引き抜きや贔屓が出来ないのだ。
 なのにこの【ヒト】は知っていた。

 あり得ない。
 だが現実は、認めなければならない。
 一体どういった経緯で知ったのかを確かめるためにも、まずはキチンと挨拶をしなければ。

「……まぁ良い。ハラオウン執務官、今日からヨロシク頼むよ……?」

 深呼吸をし、息を整え…………たいが無理だった。
 凡そ美女を前にしたのとは別の意味での緊張。
 ソレが自身を支配しているからだ。

「…………!!ハ、ハイ……!!宜しくお願いしま……………………きゅぅぅぅぅ」

 それでも力を振り絞り、何とか挨拶をしようとしたが……。
 ココでボクの意識は閉ざされることとなる。
 情けないことに、どうやら気絶してしまったらしい。

 後で知ったことだが、この執務官長の部下は、いずれも一週間と持たずに辞めているそうだ。
 無理もない。
 あの迫力と顔の前では、ソレも当然と言えよう。

 だが世の中には、アレ以上に恐ろしい犯罪者もいる…………かもしれない。
 そういった意味では、まさに最高の練習台とも言い換えられる。
 ……もう少し。出来る限り、がんばろう。

 そうすれば、きっと後々の為にもなるのだから。







 コレがボクにとって人生を左右する、特別な【女性】との出会いだった。












 あとがき

 >誤字訂正

 円冠さん、俊さん。ご指摘頂き、ありがとうございます!!
 今回のは特に多かったようで、本当にお手数をお掛けしました!!






[8085] 【オヤジ】狩り-01  【続いた。続いてしまった】
Name: satuki◆b147bc52 ID:e2b4a002
Date: 2009/05/18 23:29



 前回のあらすじ:【覇王少女】、爆現。



 意外なことに、一週間が過ぎようとしていた。
 エッ?何の期間がって?
 ソレは当然、クライド少年がボクの下へ来てからの話に、決まってるじゃないか?

 初日の気絶回数:一時間に一回。
 ただし、それぞれの気絶時間は五十分ずつだ。
 つまり実働、十分かける七回。

 よって、初日は七十分位しか働いていないことになる。
 ……どう考えても給料泥棒だ。
 評価に記念すべき一回目の×を入れる。

 二日目。
 気絶回数:一時間半に一回。
 気絶平均時間、約三十分。

 ……大した進歩だ。
 正直、ココまで喰らい付いて来たヤツは初めてだ。
 だから、ちょっとだけ褒めてやろうと肩を叩いたら…………いきなり壁に吹っ飛んでいった。

 うーむ。やっぱり、少し柔すぎるなぁ……。
 コレは訓練を付ける必要があると、備考に入れた。
 ちなみにこの時の彼は、壁を突き抜けて隣の部屋に行ってしまったと、付け加えておく。

 三日目。
 昨日の怪我がたたり、急遽お休みに。
 仕方ないと、就業後にお見舞いに行ったら…………会った瞬間に狸寝入りを始めやがった。

 ペチペチと頬を叩いても、起きる素振りを見せない。
 ……大した演技力だ。
 コレなら、明日は復活してくるだろう。

 四日目。
 昨日の様子から、きっと出勤してくると思ったのだが、この日も彼は来なかった。
 サボりか……?どうも、【克】を入れてやらないといけないらしい。

 そう思ってクライド少年の家を訪れると…………ソコに少年の姿はなかった。
 何でも昨日ボクが見舞ったすぐ後に、近くの病院に運ばれたらしい。
 理由は心肺停止。…………一体、何が原因なのだろうか?

 五日目。
 昨日入院したというのに、朝には復活してきた彼。
 素晴らしい。流石は後のクロノの父親なだけはある。

 そのガッツに敬意を表し、今日は軽めの仕事だけにさせた。
 本日の気絶回数:十五回。
 ただし、平均気絶時間は二十分。

 六日目。
 気絶回数:八回。
 平均気絶時間:五分。

 七日目……つまり、今日。
 今就業のベルが、響き渡った。
 気絶回数:三回。
 平均気絶時間…………一分。

「クライド少年。正直、君には驚かされた……今までのボクの部下は、ボクのあまりの恐ろしさに、一週間と持たなかった」
「…………」
「だがキミは、不可能を可能にした…………一体、どうしてそんなコトが出来たのかい……?」
「…………」

 返事がない。
 ただの屍のようだ。
 ……どうやら、立ったまま気絶しているらしい。

 面と向かいすぎたようだ。
 魂が抜けかかっているのが見える程に。
 ……やっぱり、明日からは肉体鍛錬も並行させよう。そう思った。






















 新米執務官【クライド・ハラオウン】の業務日誌【2】



 自慢ではないが、精神力には自信があった。
 ソレは体力や体術。もちろん、魔法に関してもそうだった。
 だがソレらが、とてもちっぽけな……風が吹いたら飛んでしまうようなモノだと気付いたのは、つい最近のことである。

 上司になったヒトは、凡そ普通の上司とはかけ離れた存在だった。
 その巨体も、大迫力な顔も。
 恵まれ【過ぎた】体躯から繰り出されるモノは、結構な数の物理現象を否定した。

 アレは何だ?
 あれは人間ではないだろう?
 そうだ。アレは…………化け物だ。

 そう思ってしまった自分は、きっと悪くない。
 みんなそう感じたから、一週間も持たなかったのだろう。
 だが自分は、そんな人外魔境を前にそのジンクスを破った。

 コレなら、皆が一目置く存在として見てくれるだろう。
 この先、いつ【化け物】の下を去ろうとも、評価が悪くなることはない。
 それどころか、尊敬すらされるだろう。

 コレが、一週間経過後の感想だ。
 人間慣れだ。
 慣れればどうということはない。

 まだ多少気絶することはあるが、それも時間の問題だろう。
 そう思い、ボクは浮かれていた。
 だが現実は、そんなに甘くはない。

 甘いハズがなかったのだ。
 気絶しなくなったら、次に待っていたのは地獄の行軍……のような訓練だった。
 上司曰く、【肉体の鍛錬も足りないから、鍛えるからな……?】とか。

 朝は夜明け前に起床し、二十キロの全力疾走。
 次に指一本での指立て伏せを、五指×百回ずつ。
 ヒンズースクワット二百回。

 腹筋、背筋…………エトセトラ。
 【今日は鍛錬初日だし、軽めだっただろう……?】とか言われた瞬間、ボクの意識はブラックアウト。
 生物学上、【オンナ】である上司にお姫様抱っこをされ、医務室に運ばれる。

 既に医務室の住人のようになっているボクは、専用のベッドすら存在した。
 目蓋を押し上げる。
 すると外の景色は、既に夕焼けを映し出していた。

 不味い。
 急いで上司の下へ行かなければ。
 そう思い医務室のドアを開けて、勢い良く飛び出した。

「…………でもよぉ~、あの【クライド】とか言うヤツも、良く続くよなぁ……?」

 曲がり角の先から聞こえた、ボクの噂話。
 きっと、自分の評価が良い話なのだろう。
 そう思うと少し嬉しい。もっと話を聞いていたくて、壁に張り付いて聞き耳を立てた。

「あぁ、信じらないな。ってかさぁ~、アイツって、もしかしてブス専……いや。【人外専】なんじゃないの!?」
「あ~。だから耐えられるのか…………そうだよな?それ以外、大丈夫なハズないもんなぁ……!!」
「それにMのヒトなんじゃない!?きっと、そうに違いないって…………!!」

 ……聞くんじゃなかった。
 この時ボクは、心の底からそう思った。
 酷い勘違いに、全然評価されていない現状。

 知らず知らずの内に、涙が零れ出す。
 悔しい。悲しい。
 もう、全てを投げ出してしまいたい。

 良いじゃないか。
 もう十分耐えたじゃないか。
 そうだよ。辞めるには良いキッカケじゃないか……。

 泣き崩れた顔でその場にへたり込む。
 ソコに居たのは、ただの負け犬だった。
 もうココに一秒でも居たくない。だから走り去ろう。はやくこの場を去るんだ。



 ――駄々駄々駄々駄々駄々駄々駄々駄々駄々駄々駄々駄々!!



 マシンガンのような轟音。
 ソレは壁にヒトが突き刺さる音だった。
 壁にめり込んだ人影は、先程まで自分を罵倒していたヤツら。

 何が起こったのだ。
 この一瞬の内に、何が起こったというのだ!?
 ボクはその場から立ち上がれなかったので、耳からだけでも情報を仕入れようとした。

「……貴様ら、ウチの部下を馬鹿にするとは良い度胸だ……」

 その声は、ココ一週間で嫌と言うほど聞きなれた声だった。
 ドスの聞いた渋い声。
 ソレは鋼のような意思を貫く、鋼鉄の【漢女】の…………【シズカ・ホクト】の声だった。

「……自慢ではないが、ボクの顔は人間凶器みたいなモノでねぇ……?ほとんどの部下は一週間と持たずに辞めていったのだよ……?」

 気絶することは許さんとばかりに、強烈なプレッシャーを浴びせる。
 その余波はコチラにも来ており、その一言一言が胸に突き刺さる。
 あぁ。このヒトは、非常に怒っているのだな。

「一週間。貴様らは興味本位や、ヒトに馬鹿にされるのに怯えつつも、ボクの部下をやり続けることが出来るか……?」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「……そうか。ならばやって貰おう。もしやり遂げられたら、この件も含めて謝罪しようではないか……?」

 一段と重くなる重圧。
 悲鳴にならない悲鳴は、既に沈黙してしまった。
 発狂寸前なのかもしれない。

「どうしたぁ……?出来るのか!出来ないのか!!」

 戒めが解ける。
 ドンという音と共にボクを馬鹿にしたモノたちが地に落ち、口が利けるようになる。
 ソレは最終確認のため。彼らの意思の確認のためなのだ。

「ハッキリ言わんか!!」
『す、すみませェェェェェェェェェェェェェェェンっ!!』

 落ちた。
 ソレは意識がなくなったことを意味する。
 彼らは反省させられたのと同時に、恐怖が頂点に達し、自らの意識を手放したのだ。

 上司を怒らせた彼らは、その日の内に退職願を出したらしい。
 完全にトラウマになってしまったのだ。
 それも無理からぬ話。

 だがボクは、ソレを手放しで喜べなかった。
 確かに悪口を言っていた彼らも悪かった。
 だが口にこそ出さないものの、ボクの方がある意味狡賢いコトを考えていたのだ。

 彼らが罰を受けたのに、それ以上のコトを考えていたボクが受けないのはおかしい。
 ……というよりも、その状況に耐えられない。
 悩んだ結果、ボクはあの会話を立ち聞きし、その上でのボクの考えを上司に打ち明けた。

「あぁ、ソレくらい分かってたさ」

 彼女は何でもお見通しだった。
 でも咎められなかった。
 何故。どうして。

「あのなぁ……?ただ噂をしてるヤツと、実際に歯を食いしばって頑張ってるヤツ。同じようにバカにするのなら、実際にやってるヤツの方が百万倍マシだろうに……?」

 涙が頬を伝った。
 ソレは悲しかったからか。それとも嬉しかったからか。
 多分様々な感情が入り混じっていたのだろうと思う。

 違う。ボクはマシなヤツなんかじゃない。
 そんなに良いモノではないのだ。
 なのに、どうしてそんなコトを言うのですか!?

「いや実際、オマエさんは大したモノだよ?気絶する回数も殆ど無くなったし、今日みたいな鍛錬も付いて来られる。精神的にも肉体的にも、若手ではトップクラスだろうなぁ……」

 違う。
 ソレは全て、貴女がそう導いてくれたからだ。
 ボクは一人では、何もやっていない。

「…………この分なら、何処へ行ってもやっていけるだろう。希望を言いな?ソコに配属させてあげるから……?」
「!?な、何故です!?何でそんなコトを…………!?」
「いやだって、さっきみたいな誤解はイヤだろう?それにオマエさんは、元々良い経歴を手に入れたかっただけだ」
「…………で、でも……」
「ボクの下に居れば、嫌でもさっきみたいなコトになる。ソレが分かったら、遠慮なく希望を言いなさいな……?」

 頭の中で、大きな鐘の音が聞こえた。
 このヒトは自分も馬鹿にされたというのに、ボクのことだけを心配してくれているのだ。
 凄い。そして自分が情けない。このヒトの本質を、全くといって良いほど見抜けなかった自分が、心底情けない

「……辞退します。その転属は辞退します!!」
「オイ!?本気か!?折角この【化け物】から逃げられるんだぞ!?」
「ホクト執務官長は、化け物ではありません!!ボクが全身全霊を以って、追いつくべき目標です!!」

 直立不動。
 最敬礼をしての、意思表示。
 コレが今のボクの素直な気持ちだ。

「…………大丈夫か?悪いモノでも食べたんじゃないか……?」
「いいえ!!何処までもお供させて頂きます、ホクト執務官長!!」

 こうしてボクの新たな人生の一ページがスタートした。
 第一の目標は、彼女に追いつくこと。
 酷く険しい大山脈だが、必ず登頂してみせる。

 そのボクの意思表示を、彼女は目を丸くして見ていた。






[8085] 【オヤジ】狩り-02  【また続いてしまった】
Name: satuki◆b147bc52 ID:1eff5649
Date: 2009/05/26 20:02


 前回のあらすじ:クライド少年が、【漢気】を手に入れました。






 新米執務官【リンディ・?????】の衝撃



 最近【彼】の様子がおかしい。
 【彼】とは彼氏彼女のソレではなく、この場に居ない男性を示すモノ。
 ……現在はともかく、未来では彼氏彼女の方になって欲しいとは思っているが…………ソレは未だ達成出来ずにいる目標。

 大体【彼】ときたら、鈍いというカテゴリーでは済まない朴念仁なのだ。
 今まで何度もアプローチをしたのに、一向にコチラの気持ちに気が付かない。
 いや。気が付かないだけならまだしも、いつもいつも余計な一言が付いてくるのだ。

 例を挙げてみよう。
 そう。アレは、新色の口紅を塗っていた時のコトだった。
 その時の彼のコメントは、

「アレ?リンディ、今日は唇の色が悪いね?体調が悪いなら、休んだ方が良いんじゃないかい……?」

 とのコトだった。
 さらに別の例を出してみよう。クライドと一緒に行きたくて、必死に取ったコンサートのチケット。
 ソレを持って彼の元を訪れると……

「へぇ~。誰と行くかは分からないけど、楽しんできなよ。ボクはその間に、リンディが追いつけない位に強くなってみせるから♪」

 とまぁ、かなり生意気な台詞が返ってきた。
 勿論その日は、スーパー自棄酒タイム。
 本当は、親友のレティにでも付き合ってもらいたいトコロ。

 だがこの件に関してだけは、彼女と一緒に居るワケにはいかない。
 彼女もまた、クライドを狙うスナイパーの一人。
 出し抜き、出し抜かれの繰り返しという、仁義なき攻防をしている相手なのだ。

 例え親友と言えど、【彼】に関しては別問題。
 ……いや。敵は彼女だけではない。
 彼を取り巻く、殆どの女性がエネミーなのだ。

 クライド・ハラオウンは、人気者である。
 女性からは好意を。そして男性から妬みを。
 有能で、性格も良くて、オマケに努力家な彼。

 コレで女性から人気が出ないのは有り得ないし、ソレが原因で男性から疎まれるのも、まぁ納得出来る。
 そして彼は、究極無敵な朴念仁。
 よって、女性陣から好意に気付くことはない。

 だから今までは安心出来た。
 【世話焼き幼馴染】というベストポジションを利用し、彼に一番近いのは自分だったから。
 今は女性として認識されなくても、いつかはそうさせてみせる。

 最悪の場合、強硬手段に訴えるコトも可能。
 飲食物に睡眠薬を入れたり、もっと過激な薬物を入れるコトも出来るからだ。
 いつも内心では、【既成事実って、美味しいわよね?】とか思っていた。思っていたのに……!!

「リンディ、聞いてくれ!ボク、気になるヒトが出来たんだ……!!」

 その言葉を聞いた瞬間、彼の前で表情を崩さなかった自分を褒めて欲しい。
 何を言われたか、理解出来ない。もとい、理解したくない内容。
 彼の口から出たモノは、ソレだけ己の精神をボロボロにするモノだった。

「…………そ、そうなの?それで…………その人は一体、何処の部署の方なのかしら……?」

 若干声が震えていたが、浮かれている彼がソレに気付くことはなかった。
 その変化に気付いてくれないコトを恨みつつも、すぐに頭を切り替える。
 情報が居る。彼を巡る争いで、一歩優位に立った猛者の情報が。ソレを手に入れる為にも、まずは話を聞かなければ……!

「あぁ、ボクの上司なんだけどね……?凄く強くて、とても素晴らしいヒトなんだよ……!」
「……」

 頭の中に格納されている情報を、彼から得たピースを元に検索していく。
 彼の直接の上司は、現在【シズカ・ホクト】という執務官長のハズだ。
 やること為すことが豪快で、異例のスピードで出世中の人間。

 コレまでの情報にはケチの付け所がない。
 だが彼女には多くの謎が付き纏っているのも、また事実である。
 曰く、【素手で鋼鉄の扉をブチ抜いた】とか、【念話を使わずに、何キロも離れた相手と会話が出来る】とか。

 ソレらの非常識な行動は、何かの隠し札を持っている為と推測される。
 つまり、ソレだけ【謎】な人物。
 容姿に関するデータは、管理局の個人情報ファイルに記録されていない。

 一説には【上】がそうするように指示したとも言われており、ソレが彼女の【謎】に拍車を掛ける。
 彼女に面識がある人間から情報を得ようにも、どうにも要領を得ない。
 ……分からない。分からないのなら、自ら会ってみるしかないだろう。

 そう。コレは戦争なのだ。
 【クライド・ハラオウン】という勝利の栄光を手にする為の、オンナの闘い。
 さぁ、行こう。彼を手にする、その日の為に……!























 勢い込んだまでは良かったが、どうすれば【彼女】に会えるのだろうか?
 自分の上司でもないし、合同捜査などの予定もない。
 一番理想的なのは、廊下などでバッタリ会うことだが…………どうにも渦中の人物は、なるべく自室から出ないらしい。

 徹底した秘密主義か。
 ソレとも何か別の理由があるのか。
 どちらにせよ、キッカケすら掴めないのは不味い。

 どうすれば会えるのか?
 考え事をしながら歩くこと数分。
 何時の間にか自分は、己の職場から離れていたらしい。

「……アラ?ココって一体…………?」

 執務官のオフィスの外れに位置する、普段は来ない場所。
 周囲にヒトの気配はなく、明らかに【何か】出そうな空間。
 後ろを振り返る。するとソコには、一つの扉があった。

 周りに他の扉は存在せず、明らかに上級職用の部屋といった感じが漂う。
 恐る恐るネームプレートを見る。
 するとソコには…………【シズカ・ホクト】と書かれていた。

「…………な、何かしら……?この何とも言えない、嫌な予感は…………?」

 頭の中で、アラートがレベルMAXで鳴り響く。
 ココは危険だ。はやく離れろと。
 まるでそう教えてくれるかのように、ソレは最大音量で鳴り続けている。



 ――ズン!ズンッ!ズンッ!!



 まるでソレは、巨大な動物の足音だった。
 ドンドン近付いてくるソレは、否が応でも冷や汗を流させるモノ。
 逃げなきゃダメだ。逃げなきゃダメだ……!

 そう生存本能が訴え続ける中、自身の冷静な部分がソレに待ったを掛ける。
 もしかすると、コレはチャンスなのかもしれない。
 近付いてくる足音は、件の執務官長の部屋の中から聞こえてくるモノ。

 つまりソレは、あの扉が開くコトを意味する。
 ……どうする。
 危険と引き換えに情報を収集するか。それとも、本能に従って撤退するか。

 ……愚問だ。
 ココで逃げてしまうようなオンナなら、【彼】を手に入れるのは不可能だろう。
 退かない。逃げない。前に進むしか、自分にはないのだから……!!



 ――ズゥゥンッ!!
 ――プシュゥゥゥゥッ!!



 扉に一番近い位置での足音。
 ソレが聞こえた後に、厚い扉のエアが外れる音が聞こえた。
 普通の部屋の扉より三倍は厚い……重厚【過ぎる】扉。

 まるで猛獣を飼っているかのような、その厳重さ。
 段々とその部屋の存在が、その為の【檻】であるかのように思えてきた。
 扉が開く。その先には自分が求める人物が居るハズ。居るハズなのだが……。

「……何だぁ?ウンウン唸ってるヤツがいるかと思えば…………アンタは確か、クライドの…………」

 …………何だ、【コレ】は……?
 コレが本当に【オンナ】だと言うのか……?
 ……いや。【人間】であるかどうかすら、疑わしいではないか……!?

 規格外の巨体に、はちきれんばかりの筋肉。
 化粧はあらゆる女性を【オンナ】にするというが、コレはその例に漏れたモノ。
 如何なる化粧を用いても、この【化け物】をそうするのは不可能だ。

「……あぁ、そうだ。確かリンディ執務官…………だったよね……?」

 相手は執務官長。
 だから自分のコトを知っていても不思議はない。
 不思議はないのだ。…………もしも目の前の相手が、【本当に】件の執務官長であったならば…………だが。

「…………ん?もしかしてアンタ、気を…………?」

 どう見ても目の前の存在は、そんな役職の人間には見えなかった。
 凶悪犯罪者と言われたほうが、まだ説得力がある。
 そして同時に気付いた。あの……【謎】の正体についてを。

 アレは種も仕掛けもない、【正真正銘】本当の話だったのだ。
 【素手で鋼鉄の扉をブチ抜いた】……そりゃあ、【あの】筋肉なら可能だろう。
 【念話を使わずに、何キロも離れた相手と会話が出来る】……むしろ、出来ない方がおかしいように見える。

「…………ありゃま。立ったまま、気ぃ失ってるよ……?」

 アンタみたいな存在を前にして、気絶しない人間が居たら見てみたい。
 もしもそんな存在が、居るのなら…………だが。
 そんな感想を抱きつつ、自分の意識は暗闇に包まれていった。












 あとがき

 >誤字訂正

 俊さん。毎度ご指摘頂き、本当にありがとうございます!!
 前回は分量を倍にしたら、間違いも倍に……。
 お手数をお掛けいたしました……!!


 >誤字訂正?
 水城さん、ご指摘頂き、ありがとうございます。
 パチモノなので【マグマ】にしてたのですが……確かに【ゴウダイノー】と比較すると、【マグナ】のままの方がバランスが良さそうですね?
 というワケで、【マグナ】に修正いたしました!


 



[8085] 【オヤジ】狩り-03  【またまた、続いてしまった……】
Name: satuki◆b147bc52 ID:95499a78
Date: 2009/06/02 01:26



 前回のあらすじ:リンディ、【衝撃】と出会う。



 扉を開けると、ソコには…………未来の【リンディ・ハラオウン】、通称【ロリンディ】が居ました。
 緑色の癒し系カラーの髪。
 履いてない……もとい、提督時代の服装とは違った、スカートを【履いている】状態。

 無印登場時から既にアダルティだった彼女も、今は女子高生位の年齢。
 大人っポイというよりは【キャピキャピした感じ】が強く、まだ精神的に幼いコトを思わせる。
 それでも変わらないモノも、当たり前だが存在する。

 街を歩けば、同性からは【羨望】と【嫉妬】。
 そして異性からは、【欲望】の目で見られること請け合い。
 つまり何だ。その…………とっても【我が侭ボディ】だってコトさ……?

 ボン!・キュッ!・ボン!
 そんな擬音が聞こえてきそうな、彼女のメリハリのあるボディ。
 今のボクも、バストとヒップには自信があるが、彼女ほどのバランスの良い身体の持ち主は、そうは居ないだろう。

 ……ちなみに今のボクのスリーサイズは、上から【150・135・150】だ。
 思いっきりな【寸胴】体型。
 というか、明らかにバランスブレーカーだ。

 しかも胸なんて在ってないようなモノで、逞しい大胸筋しか見えないのである。
 ……コレじゃあ、オトコだった時と変わらんよ……?
 ちなみにボクの場合の擬音は、【ドォォンッ!・ムゥゥンッ!・バァァァァンッ!】だ。

 ……悲しい。
 ひたすら悲しい。
 別にこんな容姿だから、オンナらしいコトとか出来るとは思っていない。

 だけどこの擬音を目の当たりにする度に、ボクは現実に立ち返らないといけなくなるのだ。
 まるで現実から目を背けないようにする為に。
 ソレをボクに、思い出させるかのように……!!

「ホクト執務官長……?一体、どうしたんですか……?」

 そんな現実と闘っていると、部屋の中からクライド少年が歩いてきた。
 どうやら扉の前から動かない上司を心配し、声を掛けてきたらしい。
 うむ。素晴らしい気遣いだ。後で評価表に○を一つ付けておこう。

「いや何、先程から扉の前に不審な気配を感じてね……?気になったから開けてみたんだよ……」
「そうだったんですか。それで……誰か居たのですか……?」

 クライドからの質問で、ボクは漸く【現在】に戻ってきた。
 そうだよ。リンディ少女……言いにくいな。
 リンディ嬢が居たんだよなぁ……?

「あぁ、それでね……?【こんなモノ】を拾ったんだけど……?」
「リ、リンディ……!?一体、何でこんな状態に…………!?」

 魂は口から抜けかけ、その魂魄は【ミルク砂糖緑茶最高!!】と書かれたタスキを掛けている。
 正真正銘、良く分からない状態。
 少年が【こんな状態】と言ったのも、頷けるコトである。

 とりあえず面倒ごとはイヤなので、部屋のソファーに少女を寝かし、少年に看病させるコトにした。
 美男美女……というにはまだ幼さが残るが、ソレでも容姿が整ったモノを見るのは癒される。
 特に自分の容姿が…………いや、もう止めよう。

 コレ以上自分のコトを考えるのは、どう考えても危険だ。今はリンディ嬢が目覚めるのを待つとしよう。
 逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ……!
 そんな幻聴が聞こえるのを無視すると、ボクはデスクに座って書類仕事を再開するのだった。























 新米執務官【リンディ・?????】の邂逅



 ぼやけた視界が正常に見えるようになると、ソコに映し出されたのは白い天井だった。
 どうやら自分は横になっているらしい。
 急いで身体を起こすと、ヒンヤリとした濡れタオルが額から落ちた。

「(…………ココは……?)」

 あたりを見回す。
 どうやらココは誰かのオフィスらしく、【非常に】大きな机と、その脇に小さな机が置かれている。
 大きな方は空だったが、小さなほうには【非常に見慣れた】顔が存在していた。

「……あ、リンディ!目が覚めたんだね……!?」
「…………クライド?ココって一体……?」
「ココかい?この部屋は、【シズカ・ホクト】執務官長の執務室だよ。キミはこの部屋の前で倒れてたんだけど…………何があったんだい?」

 思い出す。
 意識を失う瞬間のことを、鮮明に思い出してしまう。
 アレは仕方ない。

 ドコの世界にアレを見て、意識を失わずに済む人間が居るのだろうか……?
 いや、居るハズがない。
 冷や汗と共にぶり返してくる記憶は、またも意識を遥か彼方へと誘おうとする。

「……ディ!リンディ!!」
「…………ハッ!?」

 危ないトコロだった。
 もしもクライドが現実に引き戻してくれなかったら、自分は再びソファーに横たわるコトになっただろう。
 ……危険だ。【色々な意味】であの執務官長は、彼の側に置いておくのが危険過ぎる。

「おぉ……?目が覚めたのかい……?」
「…………!?」

 奥の備え付けの小型給湯スペースから、先程自分の意識を刈り取ったモノの声が聞こえた。
 近付いてくる巨体は、否が応にも身体を強張らせる。
 怖い。怖い……!!

 だがそんな負の感情は、その【巨体】と共に現れた、ある【匂い】によって霧散していった。
 ソレは卵の匂いと、何らかの出汁が合わさったようなモノ。
 その匂いの元は、【彼女】が持って現れた【鍋】であった。

「お昼はとっくに回ってるんだけど、起きてすぐに重いのはダメだろう……?コレなら胃にも優しいから、食べられると思うよ……?」

 ……エ?
 右の耳から入ってきた音が、そのまま左の耳から抜けていきそうになった。
 今、何て言った……?

 このとても癒されるような香りを、この【巨体】が作り上げたというのか……!?
 その情報を肯定するように、【彼女】の胴には【ピンクの】エプロンが掛けられていた。
 明らかに特注の、超巨大サイズのエプロン。

 胸の辺りに【SHIZUKA】と刺繍がされている。
 ……あまりのギャップと光景に、子どもなら泣き出してしまうだろう。
 むしろ、そうならないとオカシイと思う。

「リンディ、執務官長の料理は絶品なんだよ……?冷めないうちに、頂いちゃいなよ……?」
「……エ、エェ…………」

 色々と信じられない情報があるが、とりあえず頂こう。
 直接の上司ではないといえ、上の階級にあるモノから出されたのだ。
 頂かないという選択肢は、最初から存在しない。

「……い、頂き、ます…………」

 スプーンに似た匙のようなモノを使い、恐る恐る料理を口に入れる。
 舌の上で優しくほぐれるライスと卵。
 何処か惹きつけられる匂いは、魚介系の出汁だと後で分かった。

「お、美味しい…………です……」
「ウン。そりゃあ、良かった♪」

 笑顔だ。
 表情は相変わらず厳ついし、声も渋いままだけど、ソコには笑顔があった。
 実際にあるのは強面の【覇王少女】フェイス。

 だが本人以外のモノ(この場合は卵粥など)を見ると、その強面が【笑顔】に見えてくるという不思議さ。
 ……多分このヒトに接する回数が増えれば増えるほど、脳内変換フィルターのスキルが研ぎ澄まされるのだろう。
 それ故にクライドは、【気になる上司】と言うまでになったのではないだろうか?

 クライドは現在、彼女の元で働き始めて半年程。
 一回しか接していない自分に【笑顔】が見えたのだ。
 きっと彼にはモノ凄い美人に見えることだろう。

「トコロでアンタ、あんな所で何やってたの……?」
「エ、それは……そのぉ…………」

 言えない。
 貴女の謎について考えていたら、何時の間にかココへ来ていたとは、口が裂けても言えない。
 しかし相手は上官だ。何も言わないワケにもいかない。

「…………クライド。キミはちょっと、飲み物でも買ってきて……?」
「は、はぁ…………何時ものですか……?」
「ん~ん。今日はお客さんも居ることだし、隣街の一級品にして頂戴な……?」
「……良いんですか?時間が倍掛かりますが……?」
「ウン。構わないから、行っといでぇ~♪」

 人払い。
 というより、ホクト執務官長は【クライド】を外させた。
 まるでコチラの心の内を読んだかのような、その配慮。

「……お嬢さんはクライド少年の、【コレ】かい……?」

 左手の小指を立てて、ある種の暗号を表す執務官長。
 【コレ】。ソレはイコール、【恋人】を意味するモノ。
 その意味を理解すると、急速に顔が火照ってくる自分が居た。

「え!?そんなんじゃ、ありません……!!…………そりゃあ、そう成りたいとは思ってますが……」

 段々と尻すぼみになる言葉。
 カッとなって言ってしまったまでは良いが、どう考えても初対面のヒトに言うようなモノではなかった。
 穴が在ったら入りたい。そんな心境でいると、目の前の存在が、予想外のコトを言い出した。

「ハッハッハッハ……!!良いねぇ~♪クライド少年はモテモテだなぁ……!!」

 豪快な笑い声が、小さくないオフィスに響き渡る。
 ソコに黒い感情はない。
 どうやらこの女性自身は、クライドをどうとも思っていないようだ。

「…………お嬢ちゃんはさしずめ、囚われのクライド姫を助けに来た、白馬の王子さまって感じかな……?」
「……!?」
「どうして分かったのか、って顔だね……?カンタンだよ。ボクの外での評価は【化け物】だ。なら、気になる相手がソコで捕まってると思ったら……てね?」

 見破られている。
 流石に執務官長を務めるだけはあるらしい。
 その優れた洞察力は、大したモノだ。

「心配せんでもボクは、クライド少年を食べたりするつもりはないから、安心しなよ……?」

 恐らく彼女にとっては、彼は手の掛かる部下。
 ソレ以上に発展することはないのだろう。
 もしあっても、ソレは【弟分】とかそんな感じなのではないだろうか……?

「まぁ、気長にがんばりな……?彼目当ての大半が、そんなに長くは続かないだろうから……?」

 大半がミーハー気分でクライドに憧れている。
 ソレは裏を返すと、本当に好きな人間は少ないことを意味する。
 ……確かにそうだ。焦るばかりでその事実を忘れていたが、確かにその通りなのだ。

「だから嬢ちゃんは、今は焦らず着実に自分を磨いて行きな……?そうすれば、そう遠くないウチに…………アイツは捕まえられるさ♪」

 ……大きい。
 物理的な意味でも大きいが、今の彼女はソレ以上に大きく見えた。
 何というか……そう。人間としての器の大きさや、オンナとしての懐の広さが桁違いに感じるのだ。

「(…………そうか。クライドが【気になる】っていう意味が、漸く分かった気がするわ……)」

 確かにこの人物に惹かれない人間は、そうは居ないだろう。
 表面だけ見ていて、接するコトが少ない人間はその限りではない。
 だが一度接すれば、このヒトの【大きさ】が良く分かる。

 ……まるで広大な山脈のようだ。
 このヒトは同じ人間でありながら、まるで違う高さに居る。
 勝てない。だが、盗むコトは出来るかもしれない。

「……あの、またお邪魔しても良いでしょうか……?」
「あぁ♪気が向いたら、いつでもおいで……?その時は、なるべくクライドと一緒にさせてあげるから……?」
「……ハイッ!!」

 この日。
 偶然訪れたこの部屋で。
 自分――【リンディ・ハーヴェイ】は…………生涯を掛けて超える【オンナ】に出会った。
 






[8085] 【オヤジ】狩り-04  【狩るべきオヤジは、まだまだ存在するのだ!!】
Name: satuki◆b147bc52 ID:a428d93b
Date: 2009/06/07 19:31



 前回のあらすじ:リンディ、【漢女】を生涯の目標とする。























 前回のあらすじ:月村静香の転生。













 ……アレ?
 何だか記憶に齟齬がある。
 先日ボクは、確かに【ロリンディ】の首にロザリオを掛けて、スール関係を構築……まではしてないか?

 落ち着け。状況を整理するんだ。
 ボクの名前はシズカ。
 シズカ……ホクトだ。

 一瞬違う苗字が出そうになったが、きっと気のせいだ。
 気のせいに違いない。
 ……うん。落ち着いた。

 じゃあ次に、自分の経歴を列挙していこう。 
 現在のボクは、時空管理局本局勤めの【執務官長】。
 クライド・ハラオウンを部下に迎え、リンディ・ハラオウンとも顔見知りになった。

 そう。そうだよ。
 そしてボクは、所謂【転生者】。
 今回で四度目の転生。都合五度目の人生は、【覇王少女】としての転生。

 世紀末覇王に似た体躯と顔は、見たものを震え上がらせ、鏡で自分の顔を見るのも怖い程。
 ……それはもう、夜中に電気を付けずに月明かりに照らされたのを見たら…………思い出したくも無い!
 良し。あとは昔のコト位か……?

 一度目:ただのオタ。生涯をDTとして過ごし、癌で死亡。……むなしい人生だったなぁ?
 二度目:御神の家に転生。血で血を洗うような世界に突入し、剣術を覚えざるを得ない状況に。これまたDT。
 三度目:今度はベルカ領で、医者になりましたとさ。魔法と医術は重要です。……この度もD(もう良い!)。

 四度目:女装少年……じゃなかった。月村すずかにソックリな兄として転生。
     デバイス。兵器。その他諸々。
     非常にフリーダムに動き回り、そして…………。

「(……ん?四回目は、どうやって死んだんだっけ……?)」

 一度目は病死。二度目・三度目は老衰?
 ……ダメだ。
 どうしても四回目のコトだけが思い出せない。

 そもそも転生の際に持ち込める記憶には、限りがあるのだ。
 その全てを覚えているワケではない。
 今まではどうでも良いコトがその対象だったから、特に気にしなかったものの……。

 ……うん。今回は結構な重要情報が、その対象になってしまったらしい。
 あまり良くない兆候だ。
 だからと言って、考えただけで記憶が戻るワケではないので、前面スルーの方向だけど。

「……つまり、考えてるだけ無駄というコトか…………なら!!」

 今日も元気良く、早朝のラジオ体操。
 第一、第二は地球であったの同じ。第三は欠番で、今は何と…………第百八まであるのだ。
 恐るべしミッドチルダ。コレで今度地球人に転生したら、

『ガッハッハッハ……!!我輩のラジオ体操は、百八式まであるぞぉぉぉぉっ!!』

 って、自慢出来るのだが。
 ……ともかく。
 こうしてアバウトさにまみれた、ボクの失夢感調……もとい。執務官長としての一日が幕を開けるのであった。























「シズカちゃん。貴女、地上で働いてみない?」
「…………ハァ?」

 場所は管理局本局。
 目の前に相対するのは、後に伝説とまで謳われる【三提督】。
 その一人である、【ミゼット・クローベル】女史。

 前回の転生時には既に皺が走っていた顔も、現在はその影すら見えない。
 ちなみ現在、四十台に突入したかしてないか位。
 ……リンディと言い桃子さんと言い、みんな生物の老化を無視していると言わざるをえない。

 小柄で可愛らしくて、美人というよりは可愛い系。
 どう考えても二十代……いや。下手をすると、十代後半にも見えてしまう恐ろしさ。
 ……ババァ、結婚してくれ!!

 もしもボクがオトコだったら、きっとそう言っていただろう。
 そう言わない自信が、コレっぽっちも存在しない。
 ……良かった。本当に良かった。今回の転生が、一応とは言え【オンナ】であって……。

「……どういうツモリです?ボクのような【化け物】を地上に置いた日には、ミッドが震撼するって言ってたじゃないですか……?」

 本局が警察庁なら、地上は警視庁か県警だ。
 つまりその分だけ、住民との距離が近くなる。
 というコトは…………それだけ、住民を怖がらせてしまう可能性が増えるのだ。

 コレが今まで、ボクが地上に配備されなかった理由。
 家がミッド地上にある身としては、ソチラでの勤務を希望してた。
 しかし理由が理由だけに、仕方無しに本局勤めを了承したのは遠い思い出。

「ソレがね?最近、地上の治安が悪化してきてるのよ……?」
「……ソレって、本局が有能なヤツらを引っこ抜くからじゃあ……?」
「…………そうね。確かにソレもあるわね。でもね?原因はソレだけじゃないのよ……?」

 曰く。地上に残した人員だけでも、正常に作動すれば治安は維持出来るハズだと。
 しかし残された低ランク魔導師。または魔力を持たないモノたちは、不平不満を言うだけでちっとも鍛錬をしないらしい。
 つまり彼らの力量不足は、彼ら自身のせい。

 だが正面切ってそう言うワケにもいかないので、ミゼットは知恵を絞ったのだ。
 全体的に質を上げつつ、一人一人の才能を開花させられる人物。
 そしてソレによって叛乱が起こったとしても、可及的に速やかに鎮圧出来る人間。

 彼女は探した。
 その該当条件を満たすモノを探す為に、夜も寝ないで昼寝してガンバった。
 好きな【十五時】のオヤツを、【三時】に変えてまで探すこと数日。

 ついに彼女は該当者を見付け出した。
 ……いや。真っ先に候補に挙がったその人物だったが、ソレ以外を探していたので時間が掛かったのだ。
 【シズカ・ホクト】……つまりはボク。

 やはりというか、当然というか。
 最初から最後までボク以外に条件を満たすモノは居なくて、彼女は仕方なしに諦めたのだ。
 ……まぁ、当然か。ボクみたいな火種……いや、核弾頭か?そんなモノを好き好んで地上に送るヤツは、普通は存在しないからねぇ……?

「……本当に。ほんっとぉぉぉぉに遺憾ですが、貴女を地上に派遣するコトにしました。期間はコチラが良いと判断するまで。…………何か、質問はありますか?」
「……色々と言いたいコトはあるんだけど…………ボク一人で行くの?」
「ハイ。貴女の部下であるクライド君は、今は押しも押されぬエースとなりました。そんな有能な彼を、地上に連れて行くコトは許しません」

 そうなのだ。
 クライド少年は、ボクのしごきに耐えたせいか。
 現在は、管理局の時代を担うモノとして注目を集めている。

 つまり上としては、地上に左遷(という言い方は地上に失礼だが)されるボクのお供を、彼にさせるワケにはいかないのだ。
 コレは仕方ないコト。ボクはとっくに覚悟完了済みだ。
 ……と言うよりも、今まで良く強制配置換えをしなかったモノだと、感心する位である。
 
「あいよ。あとボクの向こうでの役職は、一体何になるの……?」
「執務官からは離れてもらいます。そして地上での貴女の役職は…………【戦技教導官】です」

 マジですか?ボクに、なのはの大先輩をやれと?
 ボクに教えられるコトと言ったら、【近付いてドン!!】位しか、教えられないのだが……。
 ……イカン。それじゃ後の、【ニートなボインナイト】と変わらないじゃないか……!?

「……本気?」
「…………本気です。それに向こうでは、貴女のファンが居るらしいので、その方々を補佐に回すコトにしました……」

 ファン?
 嘘でしょう!?
 この【覇王少女】に固定ファンが付くだと……!?

 ……どいつだ。
 一体。ドコのどいつが、そんなコアな趣味持ちなんだ……!?
 まさかアレか?【キモかわ】系が好みの、歪んだヤツとかじゃないよな……?

「……一応、その人物の名前と階級を教えてもらっても良いですか……?」
「……非常に驚くコトですが、連名です。一人は【ゼスト・グランガイツ】空曹……」

 ……エ゛?
 マヂで?
 あの筋肉オッサン【一号】が、ボクを御所望ですとぉっ!?

「もう一人は…………あった。【レジアス・ゲイズ】陸曹の、以上二名ですね……?」

 オォォォォイッ!?
 アレか!?ボクとあの筋肉ブラザーズとは、【運命の紅い糸】で結ばれているとでも言うのか!?
 勘弁。ハンペン。豚蔓延。

 ボクの――【シズカ・ホクト】としての管理局ライフの第二章は、こうして思いもよらぬ形でスタートするのであった。
 マル。
 ……って、納得出来るかぁぁぁぁっ!?













 あとがき

 >誤字訂正 


 俊さん。毎度ご指摘頂き、本当にありがとうございます!!







[8085] 【オヤジ】狩り-05  【アンリミティッド・オヤジワークス……ソレは地獄絵図でしかないな……?】
Name: satuki◆b147bc52 ID:d5531306
Date: 2009/06/29 21:16



 前回のあらすじ:覇王少女に、地上への左遷命令が下される。



 デスク周りを整理し、元の状態へ復帰させる。
 結構な月日を共にしたこの部屋だからか。
 一つ一つ荷物を整理してダンボールに詰めていくと、様々な思い出が蘇ってくる。

 長らく一人で過ごしたこの部屋。
 ソレが当たり前だったこの空間に、一・二年前に訪れた珍客。
 最初は今までの一週間も持たないヤツらと同じと思っていたが、蓋を開けてみるとソレは違った。

 徐々に長くなっていく勤続日数に、彼が引き寄せる女性陣。
 その中でも【リンディ・ハーヴェイ】と【レティ・ロウラン】は、色々な意味で仲良くなれた。
 前者は人生の先達として。そして後者は、世代を超えた飲み友として。

 ……実はこの時点で初めて知ったのだが、レティ嬢ちゃんのファミリーネームは、彼女自身のモノだったのだ。
 つまり彼女は、将来夫婦別姓か入り婿を迎えるのだろう。
 まさかシングルとか離婚とかじゃないと思うけど…………どうだろう?嬢ちゃんは性格がキツイから、もしかしたらそうなのかもしれないが……。

「執務官長!!本当に行ってしまわれるのですか!?」

 荷物の整理中も、クライド少年は必死に訴え続ける。
 ……良いねぇ?
 上司冥利に尽きるってモンだよ……?

「……任務だからね。ソレに、ボクを必要としている人たちがいる。ならその声に応えるのもまた、一佐の仕事なんだよ……?」
「そんなっ!!ボクにはまだ、貴女が必要なんです!!お願いです、行かないで下さい!!」

 ……まるで、恋人を捨てるかのような言い方だ。
 本人はきっとそんな意図はないのだが、第三者が見たらきっと誤解されるだろう。
 覇王少女に【捨てないで!】と訴えるショタ少年。…………シュール過ぎるな……?

「…………ありがとう。でもオマエさんはもう、一人で十分にやっていけるハズさ……?」
「…………だったら……だったらボクが、貴女に付いて行きます!!」

 押しかけ女房ならぬ、押しかけ部下。
 確かに少年を連れて行けば、ボクは楽し放題だ。
 でもソレは出来ない。何故ならミゼット女史に釘を刺されているからねぇ……?

「……聞き分けるんだ、クライド。今のボクやオマエさんには、上の命令を跳ね除けるだけのチカラはないんだ……」

 如何にボクが覇王少女であっても、出来るコトと出来ないコトがある。
 もしボクが管理局から放逐されたら、ウチの家族をどうやって養うのだ。
 管理局以外だったら○ヤのヒトとか以外に、住む世界がないボク。…………長いモノには巻かれないと生きていけないのだ。

「…………偉くなります……」
「……何だって?」

 ポツリと。
 だが確かな意思をもって、クライド少年はそう言った。
 コレはあれか?何か踏んじゃいけないフラグを、全力全壊でぶち抜いちゃったのか……?

「ボクが偉くなって、【上】を目指します!!」

 変わらぬ考え。
 真っ直ぐな瞳。
 ソレは彼の意思が、鋼のようにカタいコトを物語っていた。

「……いくらキミが魔導師で士官学校出とは言え、自分の意見を押し通せる位になるには、相当な努力と月日が必要だ…………それでもヤルのかい……?」
「…………えぇ。ボクは貴女に教わりたいコトが、まだ山のようにあるんです。ソレを叶える為ならば……!!」

 ……グハッ!
 ヤバイ。ヤバイよ、ヤバイよ……!
 コレが女性陣の心を掴んで離さないという、【クライド・アイ】か……!?

「いつか……いつの日か。ボクが艦船を任せられるようになったら…………貴女をお迎えに上がります!!」
「……オイオイ。その前にボクが提督になるのが先だと思うけど……?」

 決め台詞、というか。
 死亡フラグ、と言い換えるべきか。
 彼はその両方とも取れる言葉を吐き、ボクに宣言した。

 ……まさかこの約束のせいで、彼はエスティアの艦長になったのか?
 だとしたら…………不味い。不味過ぎる。
 ボクが彼の、【死亡フラグ生成者】だったのか……!?

「……ま、良いや。もしキミが艦船持ちになったら、ね……?楽しみにしてるよ♪」

 さりとて、この場はそう言わなければならないのが、上司の務め。
 嗚呼。世の中とは儘ならぬモノなのだ。
 ……ま。今の彼なら、死亡フラグをあっさり超えるだけの力はあるハズだから…………問題ないか?






















「良いか、貴様ら!!お前たちはクズだ!虫ケラにも劣る【糞野郎】だっ!!」
『…………ハ、ハイ!!』
「どうしたぁぁっ!口で糞を垂れる前と後には、【マム】を付けんかぁぁぁぁっ!!」
『マ、マム!イエス、マム!』
「声が小さい!!」
『マム!イエス、マム!!』

 前半の心温まるエピソードを吹っ飛ばすような、煤に塗れた戦場風景。
 ……もとい。海兵隊新兵用のような、訓練風景。
 現在ボクの居る場所は、ミッド地上の郊外。

 地上本部が訓練用に持っている施設を使い、ボクの教導は開幕した。
 この訓練を受けている連中の中には、レジアスやゼストのような屈強なオトコは少ない。
 というよりも、殆どが新兵や貧弱ボウヤたちだ。

 この地上では、高ランク魔導師は多くない。
 そしてゲンヤのように、己の身体を鍛えているモノも少ない。この時点ではレジアスも、多少鍛えている程度だ。
 であれば、その両方を満たすゼストのような人間は……居ないに等しいのである。

 だからこその強化案。
 全体的な力の底上げをする。
 または異なったピーキーな能力持ちを集め、ソレを組み合わせた【チカラ】を創る。

 ソレこそが今回の左遷辞令……もとい、出向命令。
 しかしながら、当然難航するであろうコトは既に予想出来る。
 皆が皆、やる気がないのだ。

 発案者のレジアス・ゼスト以外は、ボクの顔を見ただけで二日間寝込んだ。
 ある意味当たり前と言えばそうなのだが、コレではお話にすらならない。
 ……ちなみにボクの顔を見たとしても、気合が入っていれば一時間程で復帰出来る。

 ソレはクライド少年をはじめとする人間たちで、既に証明済み。
 そしてこの場で生き残った二人。
 レジアスとゼストは…………何と、立ったまま気絶してやがりました。

 さらに驚くことに、ソレは気絶というか意識が一瞬トンでいただけに近い現象。
 もっと言うなら、アレは何と言うか……。
 ……そう。まるで【あまりの美味しさに、言葉が浮かばない現象】に近いモノがあった。

「(……んなワケないよね……?しかしアレは一体……?)」

 まぁそんな【二人はムチキュア・マッスルハート】は置いておいて、初日から一週間が経過。
 漸くボクの顔に耐性が出来てきた皆を、今日からシゴくワケなのだ。
 しかしやる気がない。やる気がないのなら、無理にでもやる気を出させないといけない。

 ソレ故の海兵隊式・新兵育成。
 人間というのは、死ぬ気にならないと潜在能力が発揮出来ないモノ。
 特に魔法という便利ツールに頼ってきたこの世界では、ソコで息づいた甘ったれ精神がソレを邪魔するのだ。

「どうしたぁぁっ!!ジジイのF○cKの方が、まだ気合が入ってるぞぉぉっ!!」

 死屍累々。
 まだウォームアップの腕立て百回の最中だというのに、ソコには二つの人影しか残ってなかった。
 当然の如く、レジアスとゼスト。

 レジアスの方は息も絶え絶えという、必死こいてる状態。
 そしてゼストに至っては、息すら切れてない。
 ……既に自分の限界に挑んでいるレジアスと、準備運動にすらなっていないゼスト。

 彼ら以外は……当然の如く肉絨毯と化している。
 まったく。気合が足りなさ過ぎる。
 コレでは訓練に行き着くまでに、どれ程の月日が必要なのやら……?

「……アクマだ……」
「……ホウ。貴様、ボクが人間だとでも思っていたのか……?」
「……ヒッ!?」

 倒れ伏している内の一人が、地面に身体を預けたままでそう呟いた。
 聞こえるハズがない。
 そう思っていたソレは、諸悪の根源の出現によって打ち消された。

「糞野郎九十九番、貴様は自室の壁にアイドルのポスターを貼っているそうだな……?」
「……!?な、何でソレを……!!」
「貴様らにプライバシーというモノは存在しない!!ソレが欲しければ、はやく一人前の兵士になることだな!!」
「……クッ!!」

 何だかとっても、ドSな気分です。
 元々そんな素質はなかったハズなんだけど……この調練をやっていると、不思議とそうなってしまう。
 ……ホント、何でだろう……?

「しかも貴様の憧れは、胸だけの頭空っぽアイドルだそうじゃないか!!ソレはもう、ヒトではないな……?メスと呼んだ方が正しいだろうに……?」
「……オ、オレの癒しを……!!オレのシ○○ルは、そんなんじゃない!!」
「なら気合を見せろ!!貴様の想いが、本物であるのならな……!!」
「チクショォォォォッ!!」

 米搗きバッタのように頭が下がる。
 いや。そう見える位に、身体が上下し始めたのだ。
 ウンウン。人間っていうのは、一番大事なモノを汚される時に一番チカラが発揮されるモノ。

 面倒だけど一人一人ソレをやっていく。
 ソレが終わると、この広いグラウンドに居たのは……。
 必死の形相で筋トレをし続ける、狂戦士予備軍たちだった。













 あとがき

 >誤字訂正 


 俊さん。毎度ご指摘頂き、本当にありがとうございます!!
 再度誤字の方は……申し訳ありません!!直したつもりだったのに、直せてませんでした!!
 再びのご指摘、誠にありがとうございました!!





[8085] 【オヤジ】狩り-06  【覇王少女のファンには、彼女が女神に見えるらしい……視力検査したら?】
Name: satuki◆b147bc52 ID:bacc7f97
Date: 2009/06/09 18:10



 前回のあらすじ:地上本部に鬼軍曹(本当は一佐だが)が降臨。



 腕立て。
 腹筋。
 背筋。

 そしてスクワット。
 たったコレだけの筋トレでも、キチンと法則に則って回数をこなせば、ソレは立派な筋肉を作り上げる。
 そしてコレらだけでは足りない部分――つまり鍛え難い部分を、走り込みや別のトレーニングで補っていくのだ。

 例えば瞬発力を高める訓練。
 バッティングセンターにあるようなマシンに、ちょいと特殊な弾を込めて打ち出す。そして訓練生は、ソレを避ける。
 シンプルな特訓。だけどその裏には凶悪性が潜んでいるのだ。

 特殊弾の仕掛けは、火の玉ノックならぬ【電気玉】。
 故に少しでも当たれば感電する仕組みである。
 ちなみに電圧は百……万ボルト。

 ソレに当たれば、『少し頭冷やそうか……?』的な気絶では済まない。
 だからみんな、必死こいてソレを避ける。
 避ける。避ける。

 故に気が付かない。
 何時の間にか弾速が少しずつ上がっていき、最初と最後ではその差がゆうに三十キロもあるというコトに。
 人間は命の危機に瀕した時、一番チカラが発揮されると言われている。

 つまり【火事場のクソ力】と言われるモノを強制的に引き出すことによって、限界を超えさせるのだ。
 素晴らしい。
 人間の命の輝きというのは、何て美しいんだろうか……?

 訓練生たちを見ていると、そう思えてきてしまう。
 生きるというコトは闘いだ。
 かつて誰かが言ったその言葉は、確かにその通りだと納得させられるモノだった。ソレを今、ボクは確かに理解したのである。






















 陸曹日記【はじめました】



 話は数年前から続くコト。
 自分ことレジアス・ゲイズ陸曹は、友人である【ゼスト・グランガイツ】空曹と共に、予定が合えば一緒に食事をするコトが習慣だった。
 食事……というのは正しくないか。

 ソレは食事という名を借りた、【報告会】と言うべきかもしれない。
 互いに離れた職場に居ながらも、出てくる問題点にはそう変わりがない。
 優秀な魔導師が【海】に引き抜かれていくコトや、ソレによる残されたモノたちのやる気の減退。

 コレは地上本部では何処でも見られる……当たり前の光景。
 そしてソレは、当然になってはいけないハズの事態。
 だが今まではソレを防ぐ術は存在しなかった為、仕方なしに垂れ流されてきた日常。

 由々しき事態。
 しかし、個人ではどうしようもない規模。
 ソレが分かっているから皆が皆、目を背けて見ぬフリを決め込んでいるのだ。

 この負の構図を変えるには、上へ行き、自らがコトを為さねばならない。
 ソレは並大抵の覚悟では出来ぬコト。
 だが自分には二人でソレを為し遂げようと誓った、無二の相棒が居る。

 ソレが【ゼスト・グランガイツ】。
 ヤツと自分は新人研修時代にソレを誓い、そしてそれぞれの路に旅立った。
 ゼストは空戦魔導師というコトを活かし、空からミッドを護る【首都防衛隊】に。

 そして自分は、准キャリアとして陸から地上を護ろうとしたのだ。
 燃える精神とは裏腹に、階段を上れば上るほど理想が遠くなる事実。
 その大きさが分かるようになると、流石に向こう見ずなままではいられない。

 事実を基に、どうすれば良いのかを検討する。
 非常に悲しいコトだが、我々には検討する位しか出来ない。
 ソレ以上のコトは、もっと上に行かなければ出来ないのだ。

 悔しい。
 しかし検討するだけならタダである。
 だからこそ様々な規制に囚われない、自由な発想が可能でもあった。



 そんなある日のこと。
 地上本部では予てからの懸案事項を解決すべく、【海】から訓練のエキスパートを呼ぶコトを決定した。
 元々地上本部からは何度も【海】に打診していたのだが、向こうが了承しなかったらしい。

 ソレがこの度(何度目になるか分からないが)の要請によって、漸く【海】が重い腰を上げたという訳だ。
 ……やった。遂にやったのだ。
 ゼストと共に、筆跡を変えて目安箱に何百通も投函した甲斐があったというモノ。
 
 時に怪文書のように定規で書き、またある時は女性の丸文字を真似て。
 ソレの作業中には心の汗を掻きながら書いたが、ソコで流したモノは無駄にならずに済んだ。
 ……良かった。本当に良かった。



「本日よりキミたちを教導することになった、【シズカ・ホクト】一佐だよ。みんなヨロシク♪」



 さらに幸運は続くようで、指導教官も我々が希望した通りとなった。
 軟弱な人間が世の中の大半を占めている現代。
 その中でも自らを鍛え、チカラの本当の意味を知り、そして他人にも厳しくあるモノ。

 この惰弱な世の中を、拳一つで変えられる……その圧倒的な強さ。
 そしてソレを支える【ココロ】も一流で、強さに溺れないその精神。
 自分は見た。いや、自分とゼストは見たのだ。

 あの日の食事帰りに。
 路地裏で震える捨て猫に、彼女が暖かいミルクを差し出したのを。
 そしてその懐に猫を入れると、彼女は悠然とその場を去って行く。

 その光景は、我々が彼女を女神か何かと勘違いする程のモノだった。
 さらにその後、彼女の行く手を遮ろうとした酔っ払いを、あのヒトは手を触れることなく沈めたのである。
 ピンポイントの殺気か。それとも我々の眼に見えない程に高速な手業だったのか。

 とにかく言えるコトは、懐の猫を怯えさせずに。
 それでいて安心して眠らせてしまう程の穏やかさ。
 ……正直見とれた。彼女の背中に、後光が差しているようにすら見えたのだ。

『……ふつくしい』

 ソレはゼストと自分の胸中が一致した瞬間。
 我々はその時の光景を忘れない。
 忘れようハズがない。あの光景こそが、今の我々を形作ったのだから。



 その後に調べた結果、彼女は本局の執務官であるコトが分かった。
 圧倒的な経歴。
 しかし外見にのみしか目がいかない【海】の連中の中で、ある種の檻に幽閉されているような境遇。

 何というコトだ。
 彼女が【陸】の人間であったならば、そのような扱いはさせないのに。
 さらに調べていくと、彼女自身は地上本部の勤務を希望しているという。

 何という宝の持ち腐れ。
 我々なら――地上本部の人間なら、彼女のような英雄を隔離するコトもないのに。
 そして彼女に教えを請うコトが出来れば、本局に負けない【チカラ】を手にするコトが出来るのに……!!

 その日。その日から。
 我々の投書を書き綴る日々は始まったのだ。
 そしてその願いは…………叶ったのである。



 そして話は、現在に戻ってくる。
 常に自分の限界との闘い。
 この時。この瞬間こそが自分を高める刻なのだ。

 アドレナリンは通常値を超え、精神が肉体を凌駕する。
 一日、一日。
 一分、一分。

 そしてこの一秒……いや。この【刹那】すらも、己を高める時間。
 コレで……コレで地上での凶悪犯罪にも屈するコトはなくなる。
 大量の汗と共に流れるのは、地上での今までの被害者の涙。

「なら気合を見せろ!!貴様の想いが、本物であるのならな……!!」

 彼女の怒号が、訓練場に響き渡る。
 彼女の罵倒は、我々の血となり肉となる。
 彼女への叫びは、未来の我々への自己投資。

「(……負けない。絶対に【自分】には負けないぞぉぉぉぉっ!!)」

 苦悶の表情と必死な呻き声が犇めくこの空間で。
 我々は自分と闘い。
 そして…………未来の平和の為に闘い続けるのだ。













 あとがき

 >誤字訂正


 俊さん。毎度ご指摘頂き、本当にありがとうございます!
 【サー】の部分は、【漢女】だからこの方が良いかなぁと思ったのですが……。
 そうですよね?生物学上は【オンナ】なのだから、【マム】の方が良いですよねぇ?(笑)

 なので訂正しました。
 ご指摘頂き、ありがとうございます!






[8085] 【オヤジ】狩り-07  【イロモノはイロモノを呼ぶ…………奇跡の開幕!?】
Name: satuki◆b147bc52 ID:904ebd4a
Date: 2009/06/11 20:03



 前回のあらすじ:のちのオヤジーズも、今はただの熱きヤングである。



 ミッドの地上からこんにちは。
 ……アレ?以前にもこんな挨拶をしたような気が……きっと気のせいだよね?
 そうに決まってる。……ということで、今回もサクッといきまっしょい!

「どうしたぁぁ!!それが貴様らの本気かぁぁぁぁっ!!だったら、生まれてきたことを後悔させてやる!!」

 ボク対訓練生の模擬戦。
 数はボクが一に対して、向こうは四人。
 本当はもっと多くても良いんだけど、一人の人間に襲いかかれる数は、四人が限度。

 だからその法則に従って、ボク対訓練生四人。
 この方式で始めた模擬戦も、今日で二ヶ月が経った。
 毎日全員を相手に出来る訳じゃないけど、開始当初から比べると、それこそ【月とスッポン】状態。

 人間。死ぬ気でやれば、出来ないことは殆どない。
 その言葉を、彼らは身を以って証明してくれたのである。
 ……素晴らしすぎるね?

「……次の組、入れぇぇぇぇっ!!」

 考え事をしつつも、ボクの手足が止まることはない。
 相手にしていた四人組の内、最後の一人を倒すと次の組を中に入れる。
 しかし中に入ってきたのは一人だけ。

「……ゼスト。お前さんはボクの話を、全然聞いてなかったのかい……?次の【組】って言ったろ?他はどうしたんだ……?」
「…………他の奴らには辞退して貰いました。……と言うより、他の奴らも貴女との一対一を所望しています……」

 熱血少年と青年の間に位置する、のちのオヤジーズの一人。
 ゼスト・グランガイツ空曹はそう言うと、自らの得物である槍型デバイスを構えた。
 ……オイ。まだ一対一で闘うとは、言ってないだろうに……?

「……良いだろう。そんなにはやく地獄に行きたいと言うのなら、止めはせん。…………さぁ、掛かってこい!!」
「…………参る!!」

 ゼストの槍が迫る。
 今のボクの身体は、身体強化をすることもなく【鋼の肉体】。
 それを敢えて強化することにより、相手に威圧感と恐怖を与える。

 弾く。
 弾く。
 そして、かわす。

 スジは良い。
 鍛錬も良くされている。
 だが。だが…………それだけでは、まだまだ【足りない】!!



 ――ブゥンッ!



 ボクの右拳がゼストに襲い掛かる。
 そして奴は、当然の如く避ける。
 その隙に急所狙いの右足が、下方向から突貫。

 避ける。当たり前だが、ゼストはそれを必死で避ける。
 ……だがまだ甘い。
 それは次の本命を隠す為の、フェイントに過ぎないのだから……!



 ――グァシッ!!



 左腕による、抱き込み。
 丸太のようなボクの腕でそれをやると、それは通常のラリアットを遥かに超えたモノになる。
 ゼストの頭に当たった腕は、そのまま奴さんの胴体に纏わりつき……所謂【鯖折】状態になっていく。

「……グッ!グァァァァッ!!」

 まるで雑巾を絞るかのように。
 そんな感じで絞められていくゼストからは、苦痛の声しか聞こえない。
 奴には既に反撃の目はない。あとは絶望タイムのお時間でござる。

「ハッハッハ……ッ!!どうだぁぁ?ボクの【愛】の籠もった抱擁はぁぁぁぁ?」
「……グッ!コ、コレが愛、だと……!?何て、何て……………………スバラシイんだ……」
「…………ハッ?」

 何か最後の部分が聞き取れなかったけど、ゼストが堕ちた。
 首がガクッとなり、意識が途絶したことを確認。
 さぁて、担架の出番だ…………と思いながら、奴さんの顔を見ると……。

「…………何でコイツ、【恍惚】の表情を浮かべてるんだ……?」

 世の中とは、理解出来ないことばかりである。























「フゥ……。最近の訓練生たちは、一体どうしたっていうんだ……?」

 先のゼストに続き、レジアスが。
 そして幾人かの訓練生が、それに続くようになっていた。
 現状で四人。何とそこには女子も含まれており、ボクとしては喜ばしい限りだった。

 【レジアス・ゲイズ】陸曹。
 【ゼスト・グランガイツ】空曹。
 この二人はある意味予想どおり。

 三人目――【本名不明】一等陸士。便宜上彼の娘の名から拝借し、【ルナパパ・エドマエ】と呼んでいる。
 金髪の白人系で、体型は異常な程ガッシリしており、【鋼の身体】の異名を持つ。
 常にサングラスをし、そこからたまに【紅い光点】が見える時がある。

 元々は何処かの会社の社長だったらしいのだが、娘が誘拐事件に遭い、それを助けたボクに付いて来てしまった。
 何故か彼の現れる時には、何処からともなく効果音が聞こえてくる。
 【ダダッダッダダ…………ダダッダッダダ…………!!】。それはまるで、某未来からのターミネート戦士のバックミュージックにも聞こえる。

 ちなみに娘を救助した際に出血多量になっていたボクは、彼女から輸血して貰ったというオチがある。
 それからその娘は、程なくして歌手となり、数年もすればミッドのアイドルとなっていた。
 彼女から教えて貰った歌を唄うと、何故か訓練生たちが【狂戦士】となり、ソコに戦場が発生するのだが……。まぁボクには都合が良いので、逆に感謝である。

 四人目――【ウマ子・ハラダ】二等陸士。
 黒髪で前に垂らした髪は三つ網。
 子どもの頃は身体が弱かったのだが、行方不明の兄が助けに来てくれると妄想した結果、何故か自らの身体を鍛えるに至る。

 丁度その頃、たまたま縁があったボクが手ほどきをしたので、見事な【マッスルバディ】に。
 実は現役女子高生なのだが、管理局と掛け持ちで頑張る良い娘。
 彼女はボクと並び称される【漢女】であり、ボクの後継者とも言われている。

 この四人がボクに一対一を挑んでくる、未来の猛者たち。
 ……弱った。これは非常に由々しき事態だ。
 元々全体的な底上げが済んでから、彼らのようなピーキー戦士を育成しようと思っていたのだが……。

 これでは彼ら以外の訓練生との差が、現時点において開きすぎてしまう。
 どうしよう。どうすれば良いんだ。
 悩み・考えた挙句、ボクは地上に来てからの知り合い【ファラン・コラード】女史に、四人以外の訓練生を任すことに。

 彼女はのちに、なのは・フェイト。そしてスバルやティアナの通った、訓練校の校長になる人物だ。
 その才能は現時点で既に現れており、彼女の指導っぷりは評判が高かった。
 尚、歳を経て温厚になった彼女だが…………今はボクに負けない苛烈さだ、とだけ言っておく。






「良いかっ!貴様らは本日を以って、蛆虫を卒業する!!」

 四人組だけ、皆より一足早い卒業式。
 鬼軍曹で始まったモノは、鬼軍曹で締めなければならない。
 つまり何だ。様式美ってヤツさ……?

「そして一人前の兵士(ソルジャー)になった貴様らの赴任先は…………コレだぁぁぁぁっ!!」

 バンッ!!という効果音と共に、天井から垂れ幕が落ちてくる。
 【時空管理局特殊治安維持部隊】。
 それがその垂れ幕に書かれた文字だった。

「……教官殿!!この部隊は一体……?」
「基本的には陸の所属だけど、有事には海ですら活動出来る…………【実験型】特殊部隊のことだよ♪」
『【海】にも……!?』
「そ。普段は新型実験航行艦である、【ラグナロク】を拠点として。何処へでも行ける、どんな犯罪にも手が出せる、超スペシャルな部隊さ?」
「…………凄い。これなら縄張りなどを意識せず、犯罪者を取り締まることが出来るぞ……!!」

 興奮気味なレジアス。
 無言だが高揚した表情で同意するゼスト。
 そんな二人を見ながらも、ボクは説明を続ける。

「なおこの部隊の資金提供には、エドマエグループが全面協力してくれた!!みんな、ルナパパには感謝するように!!」
「……フン。当然のことをしたまでだ……。故に感謝される謂れはないぞ、ヒューマン……?」

 サングラスの奥の紅い光点が、いつもより短い間隔で明滅する。
 ……もしかして照れてるのだろうか?
 意外に可愛いトコロもあるんだなぁ……?

「そ、それで!ワッシらの制服はぁぁ……!?」
「ウマ子、落ち着けや?大丈夫、ボクとキミのデザインどおりだから♪」

 実は事前に、ウマ子だけには部隊設立のことを伝えてある。
 その上で制服のデザインに、協力してもらった……という訳だ。
 フリフリの白いエプロンドレス。そして頭部を彩るのは、レース付きのカチューシャである【ホワイトブリム】。

「ホクト教官、待って下さい!!我々にはそんな服は…………!?」
「そうです!再考して下さいっ!!」
「馬鹿者ぉぉぉぉっ!!メイドを笑う者は、メイドに泣くんだぞぉぉぉぉっ!!」

 案の定、レジアスとゼストは反対する。
 まぁ当たり前か。
 大の男としては、反対しない方がおかしいよね……?

「し、しかし……!!」
「良ぉし……。そこまで言うのなら、多数決にしよう。メイド服に賛成の者は、お手上げ……!!」

 ボク。
 ウマ子。
 そして…………ルナパパ。

『そ、そんなぁぁぁぁっ!?』

 レジアスとゼストの悲鳴が響き渡る中。
 ココでは確かに、【ソレ】が成立した。
 【時空管理局特殊治安維持部隊】――通称【冥土ノ土産】。

 その新部隊は、二人の絶叫がその産声を代行することで、誕生したのである。












 あとがき

 >誤字訂正


 俊さん。ご指摘頂き、本当にありがとうございます!!






[8085] 【オヤジ】狩り-08  【奇跡は続く!?遅れてきた漢……!!】
Name: satuki◆b147bc52 ID:9b9a67a8
Date: 2009/06/18 23:39



 前回のあらすじ:二人のメイドと、二人のメイド害。そして……一体のメイド(?)が集まって出来た、メイド戦隊【冥土ノ土産】。



 新型実験航行艦【ラグナロク】。
 現在その一室で、四人のメイド服に身を包んだ肉達磨が【異様な程】の緊張を伴いながら作業をしていた。
 その作業の名前は…………【掃除】。

 モップ掛け。
 シルバー洗浄。
 暖炉の掃除。

 凡そ一般家庭になさそうなモノを筆頭に、【掃除】という名の特訓は続けられてきた。
 初級編として掃除機の使い方に始まり、雑巾掛け・ハタキの使い方。
 なお雑巾掛けに関しては、絞り方も指導済みである。

「…………どれどれ?」

 窓枠に人差し指を滑らせ、埃が溜まっていないかをチェック。
 ……フム。
 流石はボクの鍛えた教え子たち。塵一つも残さないとは……。

「……合格だ。良くやった。これでキミたちは、一人前の【メイド(害)】となった!!」
『あ、ありがとうございます!!』

 涙を流す者。
 ソレは三つの影。
 残りの一つは、「はっちゃ~♪ルナちゃんに教えてあげなきゃ~♪」とか身体をくねらせている。

 もう一度現状を確認しよう。
 ムキムキマッチョな野郎隊と、ナイス(マッスル)バディな漢女組。
 そしてどちらとも区別が付かない……いや。人間かどうかの区別すら出来ない、【物体】が一つ。

 ……スゴイネ?
 マルデ、メイドノヤカタノヨウダネ?
 ……ごめん。現実逃避したかったんだけど、ダメだったみたい。

 というか、神はそれを許してくれないらしい。
 何てイケズな神様なんだ?
 もう「神様の、イ・ケ・ズ……?」とか、やってやろうか……?

「……お姉さま゛ぁぁ?一体、どうしたんじゃぁぁ?」
「……あぁ。ゴメン、ゴメン。ちょっと考え事をしてただけだから……」

 イカンイカン。
 部下に心配されちゃ、面子が立たない。
 それに心配顔のウマ子はその……【乙女力】がアップしすぎて、破壊力がスゴイしね……?

「よぉし!!それでは今回のミッションに入る……!!」
『…………!?』

 【冥土ノ土産】の、この度の任務。
 ソレはミッドとは違った次元の、異なった国々の間で行われる戦争。
 血で血を洗い、既に退くに退けなくなった戦。

 本当は誰もがもう、戦いを止めて平和に暮らしたい。
 でも面子を気にする双方の国主は、自分からは停戦を言い出せないのだ。
 そこでボクたちが介入し、【平和的に】解決するように指令が来たのである。

 ……ちなみにこの情報提供者は、エドマエグループ。
 つまりルナパパが掴んできた情報なのだ。
 だからボクはノータッチ。詳細はルナパパとミゼットばあ……もとい。ミゼット【お姉さま】しか知らない。

「【時空管理局特殊治安維持部隊】…………みんなぁ~?【戦場の】お掃除に出掛けるぞぉぉぉ!!」
『ハイッ!!メイド長っ!!』

 ナイフと懐中時計を持ったメイドさんが今の発言を聞いたら、一体どんな顔をするだろうか?
 やはり嫌な顔をされるのかねぇ?
 ボクとしては【あの】マイスター的なメイド長の仕事振りは、見習う点が多いのだが。






















 人。人。これまた人。
 視界の中には人しか存在せず。また、視界の外も同様である。
 三百六十度が人で覆い尽くされたこのフィールドは、まさしく戦場と呼ぶに相応しい場所だった。

 問題ない。確かに問題ないかもしれない。
 ボクたちは戦場に赴く覚悟はしてきたし、圧倒的な人数であっても怯んだりはしない。
 ……普通に考えられる戦力差、ならねぇ……?

「…………ルナパパ?キミは一体、どういう戦力計算をしたんだい……?」

 この情報を集め、ミゼットお姉さまにプランを提出したのはルナパパだ。
 彼のコンピュータを内蔵したような頭脳は、一体どのような計算を基に試算したのだろうか?
 比較対象は?その対象と我々の戦力差は?……疑問は尽きることがなかった。

「……ウム。何でも、左手にルーン文字を刻んだ【ギャルパーンギヴ】とかいう若造が、七万の兵隊と闘ったいうので…………我々ならその十倍は軽いと思ったのだが……?」

 一人当たり七万の十倍で七十万。
 それが五人で、三百五十万。
 ……うん。どう考えてもムリがある。

 というか、どうやってこれだけの人数をかき集めたのだろうか?
 その方が気になって仕方ない。
 この次元世界は人口が多いのだろうか?

「(……まぁ、今更何を言っても変わらない、か……?)」

 前門の虎。後門の狼。
 それどころで済まない大量の兵士たち。
 ……仕方ない。どのみちココまで来て、何もしないで帰ることは不可能。ならば我々がやることは……?

「みんな、いくぞぉぉぉぉっ!!」
『了解!!』

 答え。
 突貫。
 そして殲滅……じゃなくて、無力化だ。

『ウォォォォッ!!』

 散開。
 そして各々の戦場を展開。
 その結果聞こえてくるモノは……。

『ヒ、ヒィィィィィィィィッ!!』

 ……悲鳴だった。蜘蛛の子を散らすように、兵士たちが逃げる逃げる。
 良く考えたらボクのフェイスを見た者は、普通は気絶するもの。
 如何にココが戦場で通常よりも緊張しているとは言え、皆が逃げるのは当然のことなのだ。

 これは思いがけない幸運。
 このままいけば、本当に【戦わずの勝利】が待っているかもしれない。
 良いぞ!もっと逃げろっ!!

「逃げるなぁぁっ!!戦えぇぇぇぇっ!!」

 とか心の中で最大限に応援していたら、敵さんの指揮官らしき声が響き渡った。
 それと同時に、何やら禍々しい光が戦場を支配する。
 ……どうやら、何かしらの魔法を使ったらしい。

 その効果を見極めるべく、ボクたちは構えを取る。
 一体。二体。そして三体と。
 次々と兵士たちの身体から精気が失われていき…………同時に瞳に紅い色を宿していく。

「……そうか。この魔法の効果は……!!」

 以前ルナパパの娘に教わった歌と同じ、兵士を【狂戦士】に変えるモノ。
 まるでバイオハザードのような光景。
 ゾンビのように襲い掛かってくる兵士たち。

「……まいったなぁ。これならルナちゃんの友だちに、【眠りの歌】っていうのを教わっておけば良かった……」

 後悔とは後に悔いるから、そう言うのだ。
 泣き言は後にしよう。
 とりあえず今やることは…………戦場の【お掃除】だぁぁっ!!






 






 ルナパパのサングラスが、紅い火を噴く。
 ウマ子が良い男を見つけると、それ以外を蹴散らす。
 ゼストの槍が地味な動きながらも、確実に相手を無力化していく。

「(……でも足りない)」

 レジアスの逞しい二の腕が相手の頭に衝撃を与え、彼の蹴りがまた一人倒す。
 レジアス目掛けて突っ込んできていた兵士たちは、先頭が後ろに倒れたことで、まるでドミノ倒しのようになっていった。
 これで一割。

 今レジアスが大量に倒した奴らを含めても、まだ九割の敵さんが残っているのだ。
 ボクたちのスタミナは、確かに化け物レベルである。
 だが。それでもこのままで行けば…………恐らく残り三割位を残すことになるだろう。

「(……これはマズイ、かもねぇ……?)」

 殺さずに狂戦士たちを無力化させるのは、通常のソレの何倍も労力がいる。
 加えて言うのなら、ゼスト以外は皆が徒手空拳であり、ボクもその一人。
 ……だがボクの本領は得物、ソレも小太刀を手にした時に発揮されるモノ。

 こんな体格と力のせいで、普通の小太刀では力を発揮出来ない。
 さらに言うとボクが小太刀を持った場合…………ソレは果物ナイフ位の大きさになってしまうのだ。
 故に普通の剣が、ボクにとっては小太刀サイズ。

 そして材料には、ボクの力に負けない素材が必要。
 ソレを考慮した結果、そのスジでは有名な【伝説の名工】に、剣の作成依頼をすることにしたのである。
 材料は苦労して入手した【オリハルコン】。

 あとはボクが作成に立ち会えば、ソレは完成する…………ハズだった。
 だが任務が一段落するのを待ってから行おうとした為、現在は影もカタチもない状態。
 こんなことだったら、メイドの訓練を一週間くらい休むべきだったか……?

「(……いや。ソレは出来ない……)」

 メイドの路は一日にしてならず。
 一日休めば、それを取り戻すのに三日は掛かる。
 それは、何処かの某主人公が言っていたではないか。

 だからこの事態は、仕方のないことなのだ。
 起きるべくして起きた、不可避の運命。
 しかしこのまま諦めるという選択肢は、ボクの中には存在しない。

 運命は存在するかもしれない。
 だが運命に抗うのもまた、人間の仕事なのだ。
 みんなの命は、今ボクの掌にある。

 それが部下の命を預かるということ。
 重い。重すぎる。
 でも逃げない。逃げられない。逃げるわけにはいかない!!

「さぁ、みんなー!まだまだ【仕事】が残ってるんだぁぁ!!こんな【仕事】、サッサと片付けちゃうぞぉぉぉぉっ!!」

 鼓舞し。そして自らにも気合を注入する。
 最悪の場合、皆を強制退去させる。
 ふとそんな考えが過ぎったが、直ぐに頭の中から打ち消す。

 最悪はない。
 起こらない。
 起こさせはしないのだからっ!!



 パカラ、パカラ、パカラ、パカラ…………ッ!!



 戦場に酷く似合わない音。
 それは確かに馬の蹄の音だった。
 しかしその音は通常の馬のソレよりも軽く…………まるで【マンガの中の馬の蹄の音】のようだった。

 小高い丘から降りてくる、一つのシルエット。
 それは馬の上に二人の人間が跨っているように見受けられ、敵の大将のお出ましかと身体を強張らせる。
 …………おかしい。確かに二人の人間の【上半身】が馬に跨っているのは分かるが、下半身は一人分しかない。

 

 パカラ、パカラ、パカラ、パカラ…………ッ!!



 近付いてくる。どんどん近付いてくる。
 そしてハッキリと見えるようになる、意味不明物体の正体。
 ……それはまるで神話の中の生物のようだった。

 人間の上半身と、馬の首から下が融合した生物。
 所謂【ケンタウロス】と呼ばれるモノに、一人の男性が跨っていたのだ。
 まるで伝説の聖獣を使役して現れた、勇者のような存在。

 確かにソコだけ見れば、そのように見えなくもない。
 だが違う。それは断じて有り得ない。
 パッと見でソレが分かってしまう程、そのシルエットの正体は【おかしなモノ】だったのだ。

 まずケンタウロスの方。
 人間の上半身に、馬の首から下。
 ここまでは通常のケンタウロスと同じだ。

 違うのはココから。
 人間で言えば【頭】に該当する部分。
 そこに付いているのは、普通なら【人間の頭】だ。

 でも違う。
 ソコに付いていたのは。
 そこに付いていたのは…………!!

「……アレって、もしかして……………………【スライム】……!?」

 そう。ソコに在ったのは、紛れもなく【スライム】と呼ばれるモノ。
 何処を見ているの分からない両目が、その存在のおかしさを更に引き立てている。
 ……何なんだ、この生物は……!?

「クックック……その通り!!この生物の名は【ケンタウロスホイミ】……!!スライムの亜種だぁぁっ!!」

 その【ケンタウロスホイミ】とやらの背に乗った大男。
 筋骨隆々な体躯を、ボクらと同じデザインのメイド服が包み込んでいる。
 一点だけ違いを挙げるのなら、彼のホワイトブリムは両目を隠すラインまであること位。

「…………キミは、一体……?」

 そう言えばコラード女史から、彼女の教練を終了した生徒を一人、ボクの方へ寄越すと言う報せがあったっけ?
 本当ならもう少し先の話だったハズなんだけど…………?
 もしかしてアレか?コッチのピンチを察して、駆けつけてくれたのか……?

「ピンチの時に駆けつける、【六人目】の戦士…………ソレがこのオレ、仮面の勇者【メイド害】!!」

 新戦士参上。
 そしてお約束の、窮地からの華麗な脱出。
 その後に残っていたのは…………メイド(害)の優雅なティータイムだけだった。













 あとがき

 >誤字訂正


 E.さん、俊さん。ご指摘頂き、ありがとうございます!!


 >新戦士

 実は六人目にメイドガイ―七人目に女華姫の組み合わせか、六人目に貂蝉―七人目に卑弥呼……とかやろうと思ったのですが……。
 本筋と関係ない人々が活躍し過ぎ&目立ち過ぎになるので、それは止めました。
 さすがにソレは……ヤバ過ぎですよねぇ……?(汗)。





[8085] 【オヤジ】狩り-09  【漢女と乙女……オトメ同士の決闘!】
Name: satuki◆b147bc52 ID:93ec580c
Date: 2009/06/19 17:00



 前回のあらすじ:六人目の戦士【メイド害】、伏線通りにただ今到着!



 【ラグナロク】のブリッジ。
 今この場所には、いつもなら居ないハズの顔があった。
 一人は真新しい黒い将官服に身を包んだ男性。もう一人は翠色の髪をポニーテールにした執務官。

「執務官長。いえ、ホクト准将!!お約束どおり、お迎えに上がりました!!」

 背がスラッと高くなり、非常に良いオトコに成長したクライド少年。
 いや、もう少年という歳ではないか?
 二十歳にして艦船持ちになった彼は、現在【准将】なのである。

 つまりボクと同階級。
 さらに言えば向こうは【海】の所属で、ボクは何時の間にか【陸】の所属に変更されていた。
 オノレ、ミゼットばぁ……お姉様め。

 この際拳で語り合ったろうか!!とか思わなくもないのだが、あの外見に騙されてはいけない。
 あの可愛らしい外見は、非戦闘モードなのだ。
 戦闘モードになればボクと同じような体躯に変化し、ボク以上の力を振るうアマゾネス。

 化け物め。
 何度心の中でそう毒づいたか、数えるのも馬鹿らしい。
 ……おっと。今はそんなコトより、目の前のクライド少年だ。

「……ガンバったんだね?アレから数年。並大抵の努力ではそこまで行けなかっただろうに……?」
「そんなコトはありませんよ……。ホクト准将たちのご活躍に比べれば、自分などまだまだで……」

 例の三百五十万人破りの話をしているのだろうか?
 それとも、しっと団のミッド支部を潰した時の話のことか?
 どちらにせよ、そこには彼が羨ましがるようなエピソードは存在しない。

 ……というか、彼のような正統派主人公キャラをそんなヨゴレには出来ない。
 歴史の修正力か。はたまた側で支えている乙女の仕業か。
 とにかく彼は星の王子様。……間違ってないよね?(婦女子的には)。

「ま、そんなコトはどうでも良いかぁ……。ボクは先任とは言え、今や【陸】の人間だ。それに対してキミは【海】の若き准将様……」

 つまり向こうの方がグレードが高いのだ。
 よってボクの引き抜きも、やろうと思えば可能である。
 かなり無茶振りをすれば、の話だがね?

「……で、だ。本気かい?いや、確かに昔約束したけどさ。お互い今の立場でソレをやったら、色々と不味いんでない……?」

 こう言えば角は立たない。
 ボクの本心としても、彼に付いて行くのはないと思っている。
 常識的な見地から見てもソレは有り得ないし、そのことは他の面子の顔を見れば良く分かる。

 クライドの後ろで控えている女性とか。
 彼の後ろにいるのを良いことに、とても彼にはお見せ出来ないお顔を為さっているのだ。
 歳月は人を変える。それが良い方向か悪い方向かは置いておいて。

 続けてボクの後ろに居る面子。
 ボクからは見えないと思っているのだろう。
 だが残念。一切の手抜きを許されないお掃除のお陰で、壁が鏡のようになっているのだ。

 つまりボクからも丸見え。
 ……みんな素晴らしい程のメンチ切りです。
 と言っても、ソレはレジアスとゼストに限ったこと。

 ルナパパは何時も通り(に外見は見える)で、メイドガイはリンディの着ている服を注視している。
 大方洗濯の仕方がなってないとか言って、セクハラタイフーンをかますつもりなのだろう。
 そして残りのウマ子はというと…………何か目が輝いている。

 アレは恋する乙女センサーに引っかかったからか。
 それとも「レっちゃんも良いけどぉぉ……あの提督さんもステキじゃぁぁ……!」とか言っている独り言のせいか。
 まぁ何にせよ、現在が一触即発な状況であることには変わりない。

 さて、どうしたら良いモノか。
 ポクポクポクポク……チーン!
 偉大なる先人【イッキュー・トンチンカン】少将にならって、ボクも頭を捻らせた。

 コレだ。
 コレで行こう。
 ……というより、コレしかないだろう?

「良し、ならこうしよう。互いの陣営同士で言いたいコトもあるだろう?ココはひとつ、リンディ嬢とボクで決着を付けるというのはどうだろう?」
『…………エ?』

 普通そのリアクションが返ってくるよね?
 でも一応理由はあるのだ。
 彼女とボクは一番総合ランク的に近いし、何せ【オンナ】同士。

 さらに言えば、こうなったらオトコは介入出来ない。
 リンディ嬢の負の感情を引き受ける為にも、この選択がベストなのである。
 良し。あとは上手く言いくるめるだけだ。

「もしボクがキミの下に行くとしたら、ソレってキミの部下としてってコトだよね……?」
「……エッ?そんなつもりじゃ……!!」
「でも現実は直視しないと。そしてそうなると、先任のリンディ嬢と役割が被ることになる」
「……!!」

 実際はそうはならないだろう。
 何て言ったって、化け物と美女だ。
 比較になるハズがない。

「そうなったら、二人も副官を持つ意味は薄いよねぇ……?」

 ソコに意味はない。
 ないのだ。
 でも。それでもボクが欲しいというのなら……。

「それでもキミがボクを欲しいというのなら…………リンディ嬢を捨てるしかない」
『……!?』

 同じ役割を果たすカードは不要だ。
 チェスにはクイーンは一体。
 二体は存在出来ない運命。

 太陽と月が並び立たないように。
 月とスッポンが違うように。
 ……アレ?何か違うか?

「クライド少年。キミは心優しい人間だ。きっと今までの目標と幼馴染のどちらかを選ぶ事態なんて、考えたコトもなかっただろう……?」

 取捨選択の刻。
 クライド少年はこの事態を想定していなかった。
 まぁ当たり前だ。

 いきなりこんな超展開、予想出来る方がどうかしている。
 でも現実は現実として受け止めないといけない。ボクは賽を投げた。そして事態は動いた。
 ならば手っ取り早く裁定する方法は…………【当事者】同士の能力比較であろう。

「……でも!そんなのって、ないですよ……!?」
「……と、クライド少年は言っているが?リンディ嬢、キミはどうする……?」

 挑発めかして。
 片目を閉じてウインクする。
 ……気付け。キミなら――リンディ嬢なら分かるハズだ。

 今までずっと、クライド少年を想ってきたキミならば。
 一時とは言えボクと過ごしたコトがあるのなら、分かるハズだ。
 ボクがこの決闘めいたモノに籠めた意味を――!

「…………分かりました、お受けしましょう。…………ソレで?場所はドチラで……?」
「リンディ!?」
「止めるなよ、クライド少年?コレはオンナの意地を賭けた闘いなんだからね……」
「……!」

 押し黙るしかないだろう。
 彼とてもう【オトコ】なのだ。
 ココまで言えば、理解出来るだけの成長は遂げているハズ。



 余談だが、彼が少年だった頃が懐かしい。
 あぁ、とても懐かしくて涙が出てくる。
 最もその涙はボクのモノではない。

 リンディ嬢と面白がってやった、クライド少年の【女装】。
 つまり流れた涙は彼のモノ。
 【ハラオウン・ハーマイオニー】。当時の写真は、時空管理局裏オークションで一番の落札金額を誇る。

 そんな可憐な少年だった彼も、今ではスッカリ……男前?
 いや。どっちかと言うと女装が似合いそうな美形というか……。
 ……止めよう。コレ以上はあまりに不憫だ。

「……じゃあ訓練室に案内しよう。アソコならボクたち全員が暴れても大丈夫な設計になってるからね……?」

 【冥土ノ土産】が全員で暴れても、百人乗っても大丈夫♪な訓練室。
 ちなみに重力制御も出来ます。
 今のところ百倍が限度だから、成れても【スーパーミッド人】位が限度なのが難点だけど。























 目の前に居るのは麗しの女魔導師。
 蒼のペン型デバイスを手にかざし、その姿を氷を司る戦士へと変幻させる。
 別の次元世界なのに何故セーラー服だとか、何故サービスしながら変身するのかとか。

 気になる要素と、同数だけのツッコミをお見舞いしたいが、それはこの手合わせが終わった後でも良いだろう。
 ……強い。確かに強い。
 でもまだだ。まだボクの化け物ぶりを捉えるには至っていない。

「もう止めて下さい!!リンディは既に限界です!!」
「……この娘は、キミと一緒に居たいが為に身体張ってるんだよ?それを思い出したら、キミは黙ってて……?」

 末端はビリビリになるけど、絶対守護領域を展開する水兵服。
 中は見えません。見せるつもりもありません。
 でも世の中には、却って見えないことの方がイイッ!!っていう人たちもいるのです。

「……ハァッ、ハァッ……」

 息も絶え絶え。
 必死に頑張る姿に、全国のリンディファンは辛抱堪らんでしょう。
 しかしこの場にはそんな不埒なことを考える奴はいない。

「……リンディ嬢。キミは筋も良いし、何より魔力量が膨大だ。何年もすれば、きっとボクを倒せるようになるだろうねぇ……?」
『……!?』

 事実だ。
 彼女のその後は皆も知っての通り。
 故に【この後の】事実を口にしただけ。

「でもそれは、【今】じゃない……!」
『…………』

 希望を与えてからの絶望。
 人間はそうされるのに一番弱い。
 よく【S】の人がそうするらしいが…………納得。コレは確かに気持ち良いかもしれない。

「さぁ、どうする……?キミは既に死に体だ。そしてボクは、向かってくるモノには手を抜かない……」

 リンディに向かって放つ言霊。
 それは恫喝。脅し。呪い。
 その全てを併せ持った言葉の刃が、彼女の心の臓に突き刺さる。

「……っ」

 言の葉は鋭い重圧になり。
 そしてそのプレッシャーは彼女の動きを縛る。
 苦悶の表情を浮かべ、その場に蹲るようにしゃがむリンディ。

「……惜しいねぇ?キミが潜在能力を解放出来ていれば――――キミがもっと【自分】を解放していれば、こんな状況は簡単に覆せるのに……?」

 本来のリンディは、デバイスを必要としない程の大魔力・規格外の魔導師だ。
 レア度から言えば、それはなのはをも上回る程の代物。
 でもこの時点での彼女は、ソレを行使出来ていない。

 足りないのだ。
 あるモノが。
 その才能を爆発させるだけの【一つの感情】が。ソレが今の彼女には、決定的に足りないのだ。
 
 ソレは引き金。
 それはトリガー。
 己の感情を爆発させることによって引き出される、【魂の力】とも言い換えられる。

「ボクのモットーとして、【本気で挑んできたオンナには、本気で相手をする】っていうのがあってねぇ……?」

 壱……。
 ……弐。
 …………参!



 ――ゴゥッ!



 心に火を灯す。
 ソレは体内のエネルギーによって増幅され、【炎】になる。
 本気の乙女に手加減は不要。

 コレを喰らって生き残るか。
 それとも蛹を脱ぎ捨てて蝶に化けるか。
 二つに一つ。

 拳が燃える。
 速さはない。
 だが圧倒的。今の彼女にはそう見えるハズだ。

「…………!!」

 ボクの本気を悟ってか。
 それとも追い詰められたことによる爆発か。
 どちらでも良い。どちらでも良いのだ。彼女が…………【爆発】することが出来るのなら……!!

「…………なぁ、リンディ嬢?オトコっていうのはさぁ、もの凄い鈍いんだ」

 ソレは経験談。
 今は過去となった昔日の思い出。
 そこから得た結論は……オトコは鈍い。というモノ。

「嬢ちゃん。オンナの武器の一つに、【精神力の強さ】ってのがある。オンナは総じてオトコより、精神が頑丈に出来てるってコトさね……?」
「……?」
「だから我慢してしまう。ガマン出来てしまう。自らの想いを隠して。相手が気付かないのを悪いと思わずに……!!」
「……!!」

 勿論場合によりけりだが。
 しかし彼女は嫌われたくないが故に。
 居心地の良い関係を壊すよりかは……と言って、我慢の体勢を取ってしまった。

「己を解き放っていないモノに勝機は訪れない。悪いな、リンディ嬢……?キミと【彼】の航海は……………………コレで終わりだぁぁぁぁっ!!」

 ブォンッ!!
 我ながら野太いと思うその声と、唸りを上げる丸太のような二の腕。
 どうした?コレで終わりなのか?

 見せてくれよ?
 魅せてみろよ!!
 オンナノコには、【意地】があるっていう所をっ!!

「…………私は、私は…………!!」
『……!!』

 この場に誰もが息を呑んだ。
 ソレは羽化だった。
 蛹から蝶への華麗なるメタモルフォーゼ。

「……私はクライド・ハラオウンが好きなんです!!愛しているんです!!」
「…………!!」

 声を上げずに驚くクライド少年。
 目がそれ以上開かない位置まで見開かれ、彼の呼吸が止まる。
 ……無理もない。それは今までの彼の根幹を揺るがすモノだったのだから。

「……っと。いけない、いけない……!」

 今すべきなのは彼の心配ではない。
 目の前に光臨した、【オトメ】との対決。
 解放された彼女に追随するかの如く、比例して爆発した彼女の魔力。

 【勇気】。
 その感情が抉じ開けたのは、魔力だけではない。
 膨大な魔力の副産物として出現した、光の翼。

 彼女が動く度に、彼女が分身したかのような錯覚が生じる。
 ソレは質量を持った残像。
 その光景は酷く幻想的であった。

 まるで妖精のように。
 とことんボクとは対称的な娘っ子だよ?
 正直羨ましくもある。

「……いきますっ!!」

 リンディ嬢の氷結魔法が迫る。
 まるで永久凍土を思わすソレは、訓練室を内側から破壊する程のモノだった。
 ……恐ろしい。本当に恐ろしい。



 この後、クライド少年とリンディ嬢は結婚することになるのだが……。
 この時の光景が目に焼きついているからだろうか。
 クライドは決して彼女に逆らおうとはしなくなったらしい。














 あとがき

 >誤字訂正


 俊さん。毎度ご指摘頂き、本当にありがとうございます!!






[8085] 【オヤジ】狩り-10  【死亡フラグをブチ折ったモノ……!】
Name: satuki◆b147bc52 ID:0db72624
Date: 2009/06/20 00:19



 前回のあらすじ:リンディ、覚醒を遂げる。



 月日が経つのは早いもの。
 一番多い時は六人も居た【冥土ノ土産】だが、今はボクとルナパパしか残っていない。
 レジアスとゼストは地上へ。

 ウマ子は兄を探しに。
 メイド害は仕えるべき主を見つけに。
 皆が皆、ココを離れていった。

 ……ゴメン。約二名程強引に追い出した。
 レジアスとゼストは、そろそろ地上本部で力を付けなきゃいけない時期。
 だから叩き出した。

 「捨てないで下さいぃぃぃぃっ!!」とか、「一万と二千年前から愛してましたぁぁぁぁっ!!」とか聞こえたけど気にしない。
 一ミリ程も気にせずに、ミッド上空からノーロープバンジーを敢行。
 ラグナロクから叩き落したとも言えるけど、ソコはソレ。

 あとはミゼットばぁ……お姉さまに任せておけば、万事解決。
 コレでアイツらは原作どおりのルートに入る……ハズ。
 いや。良く考えたら、この時点で原作とは大きくかけ離れた展開になってる訳だし…………バタフライ効果とか出ないよな?

「(……ま、気にしたら負けかな……?)」

 そう言えばクライド少年とリンディ嬢との間に、とうとう【あの】クロノ少年が誕生した。
 コッチも殲滅戦が忙しくて頻繁に会いには行けないが、確か……もう三歳位だったハズ。
 会う度に泣かれるので、本当にあの二人の子か疑ったモノだ。

 まぁ、リンディから生まれたのがクライドそっくりの子どもという時点で、疑いようがないんだがね?
 ……とにかく。クロノは現在、三歳位。
 ということは……?

「(……ぼちぼち【闇の書】事件が始まる頃か……?)」

 ソレは災厄。
 アレは災害。
 凡そ人の手では解決出来ない、歪みを根源とする事件。

 今回のマスターは確か、はやてのような人物ではなかったハズだ。
 故に此度での解決は難しいだろう。
 だから暴走したのだ。

 無限書庫が稼動してないに等しい状況。
 よって情報収集は不可能に近い。
 だからこそ出来ると思われた封印処理。

 さてどうする?
 ボクが出ていって無双ゴッコをするか?
 それとも……?

「(……ふぅ。まぁ何にせよ、事態が発生してからでも遅くはないかぁ……?)」

 この楽観的な考え方を後に悔いることになろうとは。この時点ではボクは夢にも思わなかった。
 だから【あんな事態】を引き起こしたのは仕方がないこと。
 そう。再び【終わり】を迎えることになったのは、ボク自身の責任だったのだ。






















「……何だ、コレは……?」

 次元潜航中に、偶然訪れた場所。
 そこに在ったのは、【最悪】を突き詰めたような空間だった。
 ロストロギアに乗っ取られた艦船。

 その姿には見覚えがあった。
 次元航行艦【エスティア】。
 クライド少年が艦長を務めている…………ハズの、【海】の艦船。

 周りには別の艦船の姿。
 認めたくはない。
 認めたくはないが……。

 コレが今回の【闇の書】事件のクライマックスだとすると、あの艦に乗っているのは【ギル・グレアム】ということになるのだろう。
 両脇を双子の使い魔で固めた変態という名の紳士。
 ……じゃなかった。紳士という名の変態。

 未来の話でもはやての【足長オジサン】を気取り、光源氏作戦を実行していたエロジジイめ。
 そんなんだから、娘たちはお転婆に育つんだよ……!
 とか思っていると、そのロリコン提督の乗っている艦船から、魔力によるバレルが展開し始めた。

「(……マズイ。アレはアルカンシェルの準備に入ったってコトじゃないか……!)」

 基本的に【海】のコトは海自身が。
 【陸】のコトも陸自身が。
 それがこの管理局の暗黙の了解であり、悪しき風習でもある。

 故に伝わってこなかった、今回の闇の書事件。
 恐らく此度の事件は、ミッド以外の管理世界や管理外世界を中心に行われたのだろう。
 だからボクは知らなかった。

 よって、この展開を防げなかった。
 ……クソッ!
 こうなると分かっていたんだから、何とかする方法だって出来たハズなのに……!!

「……行くよ、ルナパパ。要救助者が一名、まだ艦船に取り残されているんだ……」
「…………了解した。ヒューマンよ……」

 艦同士の接触は出来ない。
 下手な動きをすれば、グレアムに気付かれるからだ。
 転送魔法も不可。下手な魔力干渉は、暴走をはやめる可能性がある。

 ならばどうする。
 どうすれば、エスティアに乗り移れる……?
 考えろ。考えるんだ……!!






 A:泳いでいく。






 阿呆だと侮ることなかれ。
 次元の海は泳げるんだよ?
 ただし、ボクたちのような屈強な人間じゃないと無理だけどね。

 グレアム艦から死角になるポイントから乗り移り、エスティアの船体に進入する。
 中は既に荒廃状態。
 こりゃあ良い。暴れまくっても、責任を取らされずに済むからねぇ……?

「ルナパパ!!蹴散らせぇぇっ!!」
「……ムンッ!」

 メイド服に身を包んだ屈強なモノが二体。
 艦長席を目指して進撃する。
 とにかく最短で。道がないなら、路を創る。

 我らの前には道がなくても、我々の通った後には路が出来る。
 文字通りソレを実践し、ドンドン壁や天井を破壊していく。
 ちなみボクは伝説の名工が創ってくれた剣を振るい、かの【ゴエモン・ザ・サーティーン】先生のようにスパスパ斬っていく。

 鳥の翼を思わせる鍔。中心部で輝く宝玉。
 まさしくソレは、伝説の剣と言い換えても良い程の代物。
 強いて言えば西洋剣であることが難点だが……。

 どのみちこの体格では、繊細な動きは出来ないんだ。
 なら大した違いはない……というコトになるだろう。
 材料不足の結果一本しか出来なかったが、コレは一本でも十分な程の攻撃力。

 その証拠に……見えてきた!
 艦橋と思わしき場所。
 メインスクリーンにはロリコン提督がアップで映っており、その前にはクライド少年の姿が。

「(……チャ~~ンス!)」

 向こうはまだ、誰もコチラには気付いていない。
 剣……ちなみに名前は【シズカの剣】である。
 ボクじゃないよ!?こんな名前を付けたのは、ボクじゃないんだからね!?

 ……コホン。
 シズカの剣を逆手に持ち、槍のように投擲する。
 クライド少年の前にあったコンソールがそれによって破壊され、メインスクリーンは死亡。

 どうでも良いけど、ロンギヌスの槍ってカッコ良いよね?
 あの紅いところや、二又に分かれる生物学的なフォルム。
 是非使って見たかったなぁ……?

「…………ホクト執務官長……?」

 やはり彼にとっては、ボクはいつまでも執務官長らしい。
 まるで幽霊でも見たかのような顔。
 額や全身から流れ出る血。

「……やぁ。帰りが遅い旦那を捕まえに、リンディ嬢に代わって迎えに来たよ……?」
「…………何で。何で来たんですか!?ココはもう、二分後にはアルカンシェルによって消滅するんですよ!?」

 息も絶え絶え。
 やはりグレアムとの通信の時は、無理してカッコ付けてたらしい。
 今にも崩れ落ちそうな身体が、ソレを証明している。

「バカモノ。キミは若い身空で、リンディ嬢を未亡人にするつもりかい……?そんな勝手、ボクが許さないよ……?」
「な、何を言ってるんですか……!?リンディだって覚悟の上です!逆の事態だって想定してました!」
「……でもさぁ?想定と【実際になる】のとでは、全然違うと思うけどねぇ……?」
「…………」

 それは分かっている。
 でもそう言わずにはいられない。
 ソレが彼の表情から伺いしれた。

「……どうせ死ぬんだったら、少しでも長く生きた者の方が良い」
「…………え?」

 今この船に闇の書が留まり続けているのは、リンカーコアの反応があるからだ。
 暴走し転生するまでの間、少しでも魔力を集めようとする習性。
 だから彼は退艦しなかった。出来なかった。被害を最小限に食い止めるには、彼が残るのが一番だったから。

「……ルナパパ。この不心得者に、子を持つ親としての心得を教えてあげて……?」
「…………良いだろう。ヒューマン……」
「ちょっと、何を…………グハッ!?」

 ルナパパの一撃が炸裂し、昏倒するクライド少年。
 どうでも良いけど、コレで死んだりしないよね?
 コレから次元の海を泳いで帰るというのに。

「この状態だと、ラグナロクの最新式を使っても…………下手すると何年もかかるなぁ……?」

 医療カプセルを使った肉体の修復。
 今のクライド少年の状態を考えると、完璧に治るまでに数年はかかりそうだ。
 だが仕方ない。その際には、リンディ嬢の手厚い看護で奇跡の復活とやらに期待しよう。

「……じゃあ、頼んだね……?」
「……分かった」

 ズンッ、ズンッ!と凡そヒトの物とは思えない足音をさせ、ルナパパは艦橋から去っていく。
 その腕にはお姫様抱っこのクライド少年。
 ……つくづく彼は、巨体にお姫様抱っこされる運命にあるらしいなぁ……?

「…………ルナパパ!」
「……?」

 去り往く巨体に、最期の声を掛ける。
 やっぱコレを言わないとダメでしょう?
 ダメな気がするんだよねぇ……?

「I’be back!!」
「……フッ。ソレは私のセリフだ……」

 僅かに口元を歪ませ、微笑を表すルナパパ。
 再び遠ざかる背中を見ながら、ボクはコレまでの人生を想う。
 懐かしい思い出。忘れてしまった、思い出せない記憶。



 ……
 …………
 ……………………













 ……………………
 …………
 ……



「……アレ?」

 走馬灯が、何時の間にか消えている。まるでスクリーンが霧散するように。
 そして代わりに浮かび上がってきたのは…………白衣ではなく、剣道着を来たドクター。
 それと…………ブルマ姿の【ウーノ】。

「やぁ、やぁ。また会ったね?ようこそ【ドクター道場】へっ!!」
「…………いらっしゃいませ」

 ノリノリ【ドクター】と、非常にイヤイヤ【一番】。
 ココはドコ?
 死後の世界?それとも……本当に【ドクター道場】だとでも言うのか!?

「……おや。折角前回のお約束どおりにしたというのに…………何が足りなかったのかなぁ……?」
「…………ドクターの常識、ではないでしょうか……?」
「手厳しいね、ウーノ?」
「……全てはドクターの教育のおかげです……」

 皮肉を言う戦闘機人と、皮肉が通じない生みの親。
 どっちがより人間に近いかなんて、敢えて論ずるまでもないだろう。
 これではドチラが親か、分かったものではない。

「まぁまぁ。とにかく今回の敗因は、常に情報をキャッチするアンテナを張り巡らせましょう、ってコトだね……?」
「……です」

 息が合ってるのか。
 それとも、合わせたくないのに合ってしまうのか。
 どちらにせよソレは、彼にとっての幸運であり、彼女にとっての不幸。

 そういえば今の彼女って、何歳位何だろう?
 どう見ても小学生位な彼女は、まさしくロリブルマだ。
 ……どういうコトだ?この時代では、成長促進は出来なかったのか?

「今度は一度、【元の世界】に戻ってもらうよ?永いコトこちらの世界に居るせいで、もう記憶も曖昧だよねぇ?」

 何の、とは聞かない。
 当然【リリカルなのは】の記憶のことだ。
 それ位言わずとも理解出来る。

 そう。言わずとも理解【出来てしまう】のだ。
 まるで考えるまでもないように。
 極自然な思考の切り替えで。

「……また、【転生】かい……?」
「ウン。また、【転生】だよ……?」

 何となく。
 何となくだが、【ココ】へ来る度に【ナニカ】が蘇る。
 まるで自分の生まれる前。自分が何者か。

 ヒトが凡そ考えもしない筈のことを、ココに来ると考えてしまう。
 もしかしたら……。
 まさか……ってね?

「それじゃあ、また【逢おう】ねぇ……?」
「……ハァ。またココに来るの確定なのかよ……?」

 再びの転生。
 都合何度目かも忘れそうな転生。
 その度に零れ落ちる記憶。

 でも繋がないといけない。
 ソレらの記憶を繋いだ先に、一体何が待っているのか。
 その答えは…………転生の先にしかない。














 あとがき

 >誤字訂正


 俊さん。毎度ご指摘いただき、本当にありがとうございます!!






[8085] 妖精00 【良く考えたら、コレが全ての始まりなのかもしれないなぁ……?】
Name: satuki◆b147bc52 ID:593d9cb9
Date: 2009/06/05 16:52



 現実は何時だって優しくない。
 極稀に優しいだけの人生を送れる勝ち組もいるが、そんなモノは千人に一人いれば良い方だろう。
 それだけ現実は優しくないのだ。そう、ソレが誰にとっても……。



『もしも過去に戻れたら……』
『もしも自分が■■■だったら……』
『もしも■■が実在したら……』



 人間、必ず一度はそんな想いに――――【希望】に胸を馳せる。
 それだけ現実に傷付き、絶望し、そして夢を見る。
 夢は優しい。誰にだって優しい。ソコでは、自分が願ったことが、全て本当のことになる。

 誰にも邪魔されない絶対領域。
 ある者は争いからも開放され、またある者は勉学から開放される。
 人が現実という逃れられない事実から解き放たれる唯一の瞬間。

 ある科学者は、人が夢を見るのは心のバランスを取る為の無意識下の行動だと述べている。
 辛い現実で受けたダメージを夢で癒し、再び現実に戻っていく。
 人の身体は全てが奇跡の結晶のようなモノであるが、特にこの部分は良く出来ている。

 そして夢が優しいモノであればある程、現実に戻りたくなくなるのもまた事実。
 しかしソレは叶わぬ願い。
 いつまでも夢を見続けることは不可能である。
 
 ソレは起きている間に願う夢であっても。
 寝ている間に見る夢であっても。
 どちらであっても、そんなことは出来ない。



 ――そう、不可能なハズなのだ――



 だが仮に、もしも自分が現在の現実から解き放たれて夢の続きを見ることが出来たら?
 ヒトは一体、何処へ向かうのだろうか……?
 コレはそんな【if】という可能性を秘めた出来事。

 誰もが夢見て、そして誰も見続けることが出来なかった境地。
 その結果として残ったのは――――幾度となく人生を歩み。何回も【死】という体験をし。
 そして…………現在に至っても、【運命の輪】の内側から逃れられない【モノ】。

 【輪】という存在には、【終わり】と【始まり】が存在しない。
 故に一週目が終われば二週目。ソレが終われば三度目と。
 始まりと終わりを失った人生は、ただの生き地獄だ。

 例えソレが物語の中の出来事でも、残った結果は同じこと。
 幾度も幾度も。
 人生という旅を続けていく内に、劣化していく記憶。そしてソコにあったハズの【想い】。

 記憶と想いを忘れた転生は、もはや普通の生まれ変わりである。
 普通に家族と接し、普通に学校に行き、そして普通に一生を終える。
 ソレを終えた瞬間。その瞬間に次の転生が始まり…………また同じことを繰り返すのである。

 無くしていく【記憶】。零れていく【想い】。
 ……でも。
 それでも決して無くならない、【心】という存在。
 
 さぁ、物語の幕を開けよう。
 自分を取り巻く登場人物たちは、自身にとっての【物語】の中の人間たち。
 その中で己は一体、【何】と出会うのだろうか……?



 ――ようこそ、【夢】の世界へ――






















 もう助からないと思った。
 ソレは車に轢かれた瞬間、ハッキリと感じられたコト。
 あぁ。自分は今まで生きていたんだ……てね?

 今まで生きてきて、良いことは殆ど無かったと思う。
 だがそれでも、死にたいと思ったことは一度もなかった。
 多分親の教育によるところが大きいのだろう。

 きちんと常識を叩き込まれて、そして自分が死んだらどれ程の人たちが悲しむのか。
 ソレらのコトを、キチンと教えられていたから。
 それに加え、自分は意外にも負けず嫌いだったから……だと思う。

 

『逃げたら負けだ』
『死んだら何も出来ない。自分を苛めたヤツらの存在が認められてしまう』



 今思えば、なんとも穴だらけで拙い考え方だったことか。
 適当に肩の力を抜いて、周囲の空気を適度に読みつつ、可も無く不可も無く。
 そんな人生を歩んでいれば、きっとそれなりに幸せだったのだろうに。

 だがソレは出来なかった。
 頭が固かったのだろう。
 同時に子どもだったのだ。

 だから大人に為りきれなかったのだと思う。
 大人に為るということは、灰色になるということ。
 白でも黒でもない、灰色という混沌に。
 
 ソレは必要な過程なのだ。
 何時までも青臭い考え方が通じないと知り、ソレから目を逸らす為にはどうしたら良いかを考え出す為に。
 そしてその匙加減を間違えた者は淘汰され、その加減を知る者が生き残る。

 どうにも救われない構図。
 認めてはいけない現実。
 だがコレが、世の中を動かしている理論なのだ。



 『何故こんなことをしてしまったのだろうか?』



 今にして思えば、そんなことをする必然性は無かったハズだ。
 大人になるということを知り、灰色に殆ど染まったこの身体。
 目の前に困った人がいても素通りし、自分を優先するようになって随分と経ったハズなのに。



 『どうして自分は、轢かれそうになっている子どもを見捨てなかったのだろうか?』



 自分はスーパーマンではない。
 運動神経だって人並みか少し上な位だ。
 決して短距離走が速い訳でもないし、瞬発力に優れているということもない。

 よって目の前に車に轢かれそうな子どもがいたとしても、普通なら反応出来ずに事態が終結してしまうハズだった。
 だが違った。違ってしまった。
 何故か今日は視えてしまった。そして身体が動いてしまった。

 動き出してしまった身体。
 轢かれそうになっていた子どもを反対側の歩道にまで突き飛ばし、自らは身代わりだと言わんばかりに吹っ飛ばされる。
 だから今は、空を舞っている最中だ。

 意外に余裕がある。
 感覚が引き伸ばされているようだ。
 コレではまるで、自分が好きな物語に入り込んだような錯覚をしてしまうじゃないか。

 感覚の引き伸ばしを自在に使用することが出来る主人公。
 そして主人公を取り巻く優しい人たち。
 昔はいつも夢見ていた。その物語に入っていくことが出来たら。

 その物語の登場人物になることが出来たら、自分の人生は――自分は変わることが出来るだろうと思っていた。
 だけどソレは夢のままだった。当然だ。夢は夢なのだ。現実にならないから夢だというのだ。
 だが現在、人生最大の危機に瀕してその夢は、僅かな断片だけだが現実のモノとなっている。

 恐らくこのまま地面に叩きつけられれば、夢の続きを見ることが出来るだろう。
 覚めない夢――永久の眠り。決して長いとは言えない人生だったが、最後には夢を現実にすることが出来た。
 自分は神の存在を信じていない。

 もしそんなモノが存在するのなら、何故この世界は不平等なのだ。何故争いは無くならないのだ。
 言ってやりたいことは、それこそ山程もある。
 だから自分は、【神】という存在は居ないと思っている。もしいたとしても、人の世には手出しが出来ないモノなのだろうと。

 ……だが今だけは。今だけは、その存在しないと思っている神に、祈っても良い気分だ。
 むしろ感謝の祈りをさせて貰いたい。
 僅かとはいえ、自分の願いを――夢を叶えてくれたことに感謝を。そして――――。



 ココで自分の意識を手放すことになった。
 だからその後のことは知らない。
 自分がどのような傷を負い、そしてどのように死んでいったのかは。だからコレは、ソレらとは別の話になるだろう。























 目が覚めた。
 眼前に広がる真っ白い天井が、やけに高く感じる。
 そんなコトをボーっと考えていると、ふとあるコトに気が付いた。

「…………ボクは…………は生きているのか……?」

 絶対助からないと思った。
 即死。もしくは何とか命を取り留めても、一生身動き一つ出来ない状態になる位だと思っていた。
 だが現実に、今の自分には意識がある。そして言葉を発することが出来た。ならば次は、別のコトを確認しようではないか……?

「右手……良し。左手は…………コッチも良し」

 とりあえず両手が無事に付いていることを確認し、握ったり開いたりする。
 動作に異常は感じられない。両の手は無事なようだ。
 では足はどうだろうか……?

「右足……ある。左足も……良かった。ちゃんとあるな……?」

 存在を確認し、足の指を曲げたりする。同時に膝を曲げて、脚の動きもチェックする。
 コチラも手と同様に、特に問題はないようだ。
 あと確かめなければならないのは、せいぜい顔位なもの。

 決して美男子と言えるような顔をしている訳ではないが、それでも生まれてからずっと共にいた存在だ。
 気にならない方がおかしい。
 さて鏡でも探すか――――と。ココまで考えて、ボクは一つ奇妙な点に気が付いた。

「……なんで眼鏡かけてないのに、天井がハッキリ視えるんだ?」

 現代社会の日本では、三人に二人が眼鏡やコンタクト無しでは生活出来ない程の視力だそうだ。
 自分もその例に漏れず、裸眼の視力はどちらの目も0.1以下である。
 だからコレはおかしい。

「ん?聴力には自信があったんだけど…………耳はいかれたのか?」

 落ち着いて自分の声を聞くと、ソコにはいつもより1オクターブ程高いモノが。
 元々高めの声だったが、コレでは小学生の頃に戻ったように感じる。
 恐る恐る自分の手をもう一度、今度はもっと良く、そしてジックリと観察してみる。

「…………笑えない冗談、だなぁ…………?」

 小さかった。それはもう、完膚無いほど小さかった。
 節くれのような両の手は、皺一つない小さな手に変わっているではないか。
 ソレを認識した瞬間、頭の中が急速に冷えていくのが感じられた。

 想像を超えた、いや理解することが出来ない現状。
 何か少しでも情報が欲しくて、横たわっていた身体を起こす。予想どおり、やはり視線が低かった。
 今までの情報を総合する。そして考えられる結論は三つに絞られた。

 一つ目は、身体が縮んだ可能性。
 つまり若返ったということだ。
 そう考えれば、コレらの情報の矛盾は生じない。

 二つ目は、過去に戻った可能性。
 この場合は過去の自分の身体に、現在の自分の意識や記憶が乗り移ったということになるのだろう。
 この考え方でも、情報の矛盾はないだろう。

 三つ目は、ある意味一番現実的だ。
 自分の脳を、子どもの身体に載せたのだろう。
 こうすれば、自分の身体が子どもになっていることには説明が付く。

「――――って、そんな訳あるか……!」

 情報に矛盾は存在しない。
 非現実的な一番目と二番目。
 現代科学で実現可能な三番目の考え方。
 
 だがソレを自分に行う理由がない。
 もしかして助けた子どもが大富豪の子息で、その親がお礼代わりに…………というのも非現実的だ。
 だから理由が分からない。理由が分からない以上は、結論も出ない。

「……しょうがない。分からないのなら、聞くしかないよね……?」

 分からない以上、ジッとしていても事態が好転することはないだろう。
 仕方なしに、枕元からナースコールを探す。
 怪我人(?)の自分が運び込まれているなら、ココは病院に違いない。

 そんな勝手な思い込みから、自分の状況を断定しようとしていた。
 そして思惑通りに現れるコードの先に、ボタンの付いたナースコール。
 ボタンを押し、看護士が現れるのを待つ。

 ……。…………。
 来ない。中々ナース様が、ご光臨されないではないか。
 段々と退屈になってきたので、再び情報探しをすることに。

「オ……?ココが鏡になっていたんだ…………って、エェェェェェっ!!」

 ベッドサイドに設置されていた棚を開ける。
 するとその扉の内側には、顔一枚分位の【鏡】がくっ付いていた。
 起きてから自分の顔を確認していないことを思い出し、コレ幸いとばかりに自分の顔を映し出そうとする。

「…………オイ、オイ。コレって何かのドッキリじゃあ……ないよなぁ…………?」

 別に怪我はなかった。
 以前よりも肌が艶々していているのは、子どもの身体なのだから当然だろう。
 だから驚いたのはそんなことじゃない。

 問題があったのは、顔そのものだったのだ。
 紫がかった蒼い瞳。銀色の、肩甲骨の辺りまである髪。
 そして、自分の過去の姿とは似ても似つかない顔。

「誰だ、コレ…………」

 ソレは明らかに男の顔付きではなかった。
 端的に言うのなら、少女の顔。
 どう見ても、過去の自分ではないということが証明された。

「まさか、まさかね……………………おーまいごっと」

 確認のためにパンツの下を確認しようとする。
 まず目に入ったのは女性用と思われるパンツ。この場合、ショーツと言った方が良いのだろうか……?
 そして、いざご対面――――その後に訪れる、完璧なる敗北。

 神を信じた矢先にコレか。
 やはりこの世には、神も仏も存在しないらしい。
 もう二度と、お祈りなんてするものか……!!













 あとがき

 >誤字訂正 


 俊さん。毎度ご指摘頂き、本当にありがとうございます!!



 >このお話に関して。

 この話は、satukiが自サイトでかつて掲載していたモノを、改稿したモノです。
 思えばコレが転生日記の原点だったと思うのですが…………暗いなぁ(苦笑)。






[8085] 妖精01 【妖精爆弾……じゃなかった。爆誕!!】
Name: satuki◆b147bc52 ID:593d9cb9
Date: 2009/06/05 16:52


 ナースコールから数分後。医者と看護士が、それはもう【凄まじい勢いで】現れた。
 即座に診察が行われ、自分がきちんと回復していることを確認すると、その医者は唐突に説明し始める。
 その内容は、予想外の――――何ともトンでもない、【誇大妄想】で塗り固められたモノだった。

 曰く、自分は【ある犯罪組織】が違法に造り出した、【クローン人間】……であると。
 そしてその組織が摘発されたことにより自分の存在が露見し、この病院に担ぎ込まれる運びとなったと。
 ソレが医者が語った内容だった。

「(…………耳がいかれたのは、どうやら覆せない事実らしい……)」

 耳には自信があったので、結構ショックだ。
 クローン技術は、未だに発展途上のモノ。
 羊のクローンなどは生み出せても、人間のクローンは未だに誕生していない。

 いや、出来ないのではなく、しないだけなのかもしれない。
 倫理的な問題がクリア出来ない以上、仮にクローン技術が完成したとしても、ソレは世に出せる代物ではない。
 だから実際には、既にクローン人間が誕生している可能性はあるのだ。

 だがしかし。だからと言って、自分がそのクローン人間になっているということには結び付かない。
 というか、結び付いてたまるか。
 挙句、さっき鏡で見た限りでのこの身体の年齢は、大体十歳位というところだった。

「(……そんな子どもに、なんて説明するんだよ。このオヤジは…………?)」

 普通そんな子どもに、こんな説明はしないだろう。
 もしもクローンであるという事実を告げるとしても、それはもっと分別がついてからだ。
 それとも何か?この世界は自分の住んでた世界とは別物で、この世界ではクローン人間が普通に存在してるとでも言うのか……?

「君は睡眠学習を施されていたから、今の説明で大体のことは理解出来たと思うが……」
「(オイオイ。どんだけオーバーテクノロジーな嘘ついてんだよ……)」

 睡眠学習。今目の前の男は、確かにそう言いよった。
 そんな便利な技術があったのなら、世の中の受験戦争に終止符を打てるだろう。
 ……いや、もっとエスカレートするだけか……?

 ともかく、さっきから聞いていればトンでもない話ばかり。
 一体、いつから自分が住む日本は、こんなに意味不明な世界に突入したのだろうか……?
 ……そろそろこの暴走医師を止めるべきだな……。

「あの……先程から何を仰ってるんですか?睡眠学習やクローン技術なんて…………未だに完成してないじゃないですか」
「いや確かに君の言う通り、発展途上である上に一般社会には出回っていないが……」

 話が合わない。そんな感情が見て取れる。
 医者はどうにも要領を得ないようだった。
 それは一緒にやって来た看護士の方も同じようで、お互いに顔を見合わせている。

「もしかして…………記憶がないのでは!?」
「まさかっ!!…………だが、有り得ない話ではないな……?」

 何となくこの後の流れが読めた。
 だがソレは、ボクにとって好都合でもあった。
 全くを以って意味不明な現状で、知らぬ存ぜぬで通すには…………記憶がないというのは良い隠れ蓑になるからね……?

「……一つ訪ねても良いかい?もしかして君、今までの記憶がないなんてことは……」
「…………今までのこと?…………というか、自分の名前は何と言うのですか?」
『!!』

 息を呑む音が聞こえる。
 予想外だったのだろう。医者と看護士は二人して慌てている。
 少し。ほんの少しだけ良心が痛んだが、コレは必要なことだと感情に蓋をする。

 ……そうさ。コレ位で落ち込んでたら、この【海鳴】では生き残れないのだから……?





















 ただ今医者とナースが、ブリーフィングを開いています。……患者の目の前で、だけどね……?
 ソレで良いのかと突っ込みを入れたい。だけど、記憶喪失の少女がソレをやるのは不自然だ。
 故に待機。二人の作戦会議が終わるまで、ボクはただ待っていることしか出来ないのだ。

「矢沢先生……どうしましょうか……?」
「う~ん……(流石にコレは予想外だったな……。まさか【LC―40】と言うわけにはいかないだろうし……)」

 自分の内側に埋没していると、二人のやりとりの他に、もう一つ別の声が聞こえてきた。
 その声は自分の【内側】から聞こえてくるモノ。しかしその声色は、目の前の医者の声と同じモノでもあった。
 ……何だ。この奇妙な感覚は……?これではまるで、人の内心が聞こえてくるようではないか……?

「【LC―40】?……何なんですか、ソレ……?」
「!?……そうか。心を読んだんだね……?」

 電波が聞こえてきました。そう言ったら、どんな反応をするだろうか。
 怖いモノ見たさで見てみたい気もするが、流石にふざけられる場面ではないだろう。
 仕方無しに、ありのままを語った。

「そうか……。やはり能力は発現しているようだな……」

 【能力】。
 【LC―40】。
 そして……【矢沢】という医師。

「(もしかしてアレか?コレが世に言う、トリップってヤツか……?)」

 成る程。そう考えれば、全ての事柄に筋が通る。
 ココは【とらいあんぐるハート】の世界で、自分は【リスティ・槙原】――――かつて【リスティ・C・クロフォード】と名乗っていた少女のクローン。
 つまり【フィリス・矢沢】や、【セルフィ・アルバレット】の妹、そういうことになるのだろう。

 今は時系列的にいつの出来事になるかは分からないが、そんなことは瑣末なことだろう。
 トリップというのは、実は未だに結論が出ていない理論だ。
 いつか覚める夢の中の話なのかもしれないし、本当にその世界に転生したのかもしれない。

 何せソレを経験するということは、棺おけに片足を突っ込んでいる状態で行われるのだ。
 誰もが経験出来ることではない。よって、確たる理論は存在しない。
 どちらにせよ、結末が訪れるまではその世界で生きることになるのだ。…………だったら、精一杯生きるに限るよね……?

「(まぁこの後の生活については、それ程心配する必要はないだろうな。お人好しが山程いるこの街だ。どうにでもなるだろう。ソレよりも…………)」

 名前だ。英語で言うなら、マイネーム。
 何て名乗るべきか。どうせ新しく考えられるなら、格好良いモノに限るだろう。
 だが生憎、この脳みその中身は日本人。格好良い外国人の名前なんて、カンタンに思い付くハズがない。

「(師匠……もとい、【アノ人】なら考え付くかもしれないけど…………連絡が取れる訳ないしな。自分で考えるしかないだろう……)」

 仕方無しに、今まで見聞きしてきた名前からチョイスすることにする。
 最悪、ソレらをもじれば良いのだ。
 何とかなるだろう。

「(ヒイロ、カズマ、キラ、タクト、ルルーシュ……………………って、違っ!!コレは男の名前だっ!!)」

 中身は純然たる男、出来れば【漢】認定を受けたい位の男性だが、今の身体は少女のソレなのだ。
 流石にコレらの名前を付けるのは不味いだろう。
 非常に残念だが、コレらの候補はゴミ箱行きだ。

「(とりあえず、とらハに出てきた名前は除外すると…………シャロン、キャロル、アメリア、シャーロット、カレン、フランソワーズ…………)」

 過去の記憶を振り絞り、可能な限りの外国人女性の名前を思い出す。
 だが、どれもがしっくり来ない。とらハの世界に相応しくないように感じてしまうのだ。
 それにリスティを筆頭とした、あの三姉妹の名前に出来るだけ近いモノが良かった。つまり、音の通り方も重要視したい。

「(うーん、やっぱり難しいな。そもそも、人の名前なんて付けたことがないからなぁ……?)」

 ネーミングセンスというモノは確実に存在する。
 とらハの登場人物の名前も、造物主のネーミングセンスによって決定されているのだ。
 本人でない以上、似せることは出来てもそのものズバリとならない。



 フェアリィ

 ミルフィ

 ミスティ

 シルフィ

 シルキィ

 サンディ

 シェリス

 クリス

 ジュリア

 エミィ

 ソフィ

 セフィリア

 シルヴィア

 シルヴィ

 ナタリィ

 シンディ

 エルシィ



 多分こんなところだろう。
 ただ最後のヤツは最初から除外した方が良いだろう。
 何せ【LC】の読みかえだ。リスティにとっては特に呼ばれたくない名前だろう。

 ソレを除外しても、あと十五個も候補がある。
 流石に一々選んでいたら、日が暮れてしまうだろう。
 ……良し。アミダで決めよう……!!

 世間の皆様から非難が飛んできそうなアイディアだが、生憎コレ以外に良い解決方法が浮かばない。
 「なら目の前にいる矢沢医師に決めて貰えば?」とか思うかもしれない。
 だがソレは無理な相談だ。彼は目下、心の中で必死に目の前の少女(つまり自分のこと)にどう説明したら良いか考え中である。

 真剣に、それはもう熟考中な彼に声を掛けるには、少々気が咎めた。
 というか、今の彼にはあまり近付きたくない。
 真剣になるがあまり、周りが見えなくなっている。つまり、ちょっと怪しい人に見える位だった。



 ――キュッ、キュッ!



 ベッドサイドに置かれたメモ帳を目ざとく発見し、筆を走らせる。
 直線と幾ばくかカタカナを書くだけだったので、アミダ自体はあっという間に完成した。
 ……さて。ココからが長いのだ。

 自慢にならないことだが、この身は非常に優柔不断である。
 対象となるモノが二つ以上ある場合は、ソレらから一つを選ぶのにエライ時間が掛かるのだ。
 それはもう、べらぼうに。

 目の前には、傍から見ると非常に怪しいオヤジが突っ立っていらっしゃる。
 彼のその姿は、様々な事柄から一つのモノを選び出そうと頑張っている末のモノなのだ。
 つまり、恐らく自分もあんな感じでクネクネしながら優柔不断ゴッコをしていたのだろう。

「(……良しっ。今日からは優柔不断を卒業しよう……!!)」

 人の振り見て我が振り直せ。昔の人は良いことを言ったものだ。
 お蔭で、将来はあんな怪しい方の仲間入りを免れそうである。
 ……さぁて、気を取り直して、アミダ選びをしようではないか……!!

「(…………それじゃあ、コレに決めたっ…………!!)」

 即断即決。最初に目に付いた選択肢を選ぶ。
 つまり一番最初のヤツを選んだのだ。
 ソレから辿っていき、右に左にと途中で何度か曲がっていく。

「(……んで、コレになった訳だけど…………)」

 辿り着いた答えは、【フェアリィ】というヤツだった。
 コレは一番最初に考え付いた名前。
 ということは、アミダ作りは壮大な無駄だったということになる。

「(…………まぁ、こういうこともあるってことにしとこう……)」

 そういうこともある。
 世の中、そういうことは山程存在するのだ。
 だから別に泣いたりなんかしてない。泣いてなんかやるもんか……!!

「……ということで先生。今日から【ボク】は、【フェアリィ】です。どうぞヨロシク」
「(う~ん。どうせ心を読まれてしまうのだから、最初から全部話しといた方が……)――――って、今何て言った!?」

 自分の思考に埋没していた矢沢医師は、ボクの言ったことに直ぐに反応出来なかった。
 コチラから声を掛けられて漸く現実に戻ってきた彼は、すぐさま聞き返してくる。
 やっと怪しい男Aから、矢沢医師に戻ってくれたようだ。…………本当に良かった。

「今日からボクは、【フェアリィ】です。言いにくいようだったら、【フェル】とでも呼んで下さい。以後ヨロシク」

 新たな【人生】。再びの【誕生】。
 ソレが何を意味するのか、現時点では不明。
 だが一つ言えることは、新たな出会いが待っているということ。ただソレだけだった……。






[8085] 妖精02 【やって来たのは運命にかぶれたロリジャイと、その家族】
Name: satuki◆b147bc52 ID:593d9cb9
Date: 2009/06/05 16:53



 前回のあらすじ:怪しさ爆発の中年オヤジ、【ドクター矢沢】との邂逅。



 精密検査をしてみて分かったこと。ソレはこの身体のスペックのことだった。
 劉機関のHGS研究の集大成になる予定だったことから、スペック上は最強のモノ。
 リスティ、フィリス、セルフィ、知佳――――そしてフィアッセ。

 彼女らのうち、リスティしか使えないテレポートの使用が可能であり、フィールド出力はソレに特化したセルフィをも上回る。
 情報処理能力はフィリスを凌駕し、ポテンシャルは知佳を超える。
 そして何より、メンテナンスが必要不可欠であるHGSでありながら、一切のメンテナンスを必要としないというデタラメさ。

 このメンテナンスとは手術(機械の埋め込みも含む)、投薬、そして大規模な検査を意味する。
 よってコレらをパス出来るということは、それだけ費用が喰われずに済むようになる。
 そして喰われずに済んだ費用で、新たにクローン体を作れる。研究者たちにとって、そして兵器として運用するモノたちにとって、これ程使い勝手が良いモノはないだろう。

「(……でもまぁ。世の中そんなに、都合良く出来てはいないんだよねぇ……?)」

 だが少し考えれば分かるハズだった。
 肉体を強化・改善する策も無しにそんなことを実行すれば、一体どのような結果が待っているのかを。
 能力に肉体が追いつかないという結果。つまり肉体の崩壊だ。

 ボクと同タイプのクローン体は、幾つも作成された。ソレはフィリスとセルフィの時と同じ。
 優秀なモノを残し、劣っているモノを淘汰させるため。
 しかし今回は、そうはならなかった。

 能力をきちんと発現出来たモノには肉体崩壊が起こり、逆に能力が殆ど開花しなかったモノ――作成者たちに言わせれば【失敗作】に該当するモノだけが、生き残ったのだ。
 失敗作は生き残る。つまりボクは失敗作なのだ。辛うじて発現した能力は、テレパシーのみ。
 そして【ある意味】成功作とも言える、メンテナンスのいらない身体。

「(……まぁ、なんだ。ちょっとテレパシーが使える以外、普通の少女――――ってことになるんだろうなぁ……?)」

 本来ならテレパシーが使える時点で、既に【ちょっと】の枠を超えている。
 だがココはとらハの世界だ。ソレぐらい普通のカテゴリーに含まれるだろう。
 ……というか、含ませて下さい。

 ついでに言えば、リアーフィンすら出ない状態だ。
 出ないというよりは、恐らく出す必要がないのだろう。
 つまり、そこまでの放熱を必要とする能力ではない、ということだ。
 
 有難い。コレならテレパシーさえ隠せれば、HGSとして狙われることは殆どなくなるだろう。
 しかし裏を返せば、狙われたらすぐにでも捕まってしまうことも確定したということだ。
 普段は欲しくない能力だろうが、いざ狙われたとなると欲しくなる。ソレがHGSの能力。

「(……ってことは別の、何らかの自衛手段が必要だよな……)

 もしも狙われた時に何らかの対抗手段を持っていなかった場合、待っているのはモルモット化だろう。
 死ぬことも許されない実験の数々。
 想像しただけで背筋が凍りそうだ。
 
「(さて……どんな方法で身を守れるようにしようかねぇ……?)」

 方法はいくつか存在する。
 だがそのどれもが、簡単に手に出来るモノではない。
 しかし手にすることが出来れば、ソレらは強力な力となるだろう。
 
「(一つ目――HGSの能力を発展させる方法……)」

 現在この身体は、十歳位の身体なのだ。
 ならば今後、身体の成長と共に能力も成長する可能性がある。
 本来のHGS患者からすれば望まざる事態。だが副作用などの心配がないであろうこの身ならば、望むモノになるのだ。

 能力の発展という発想は、知佳の能力の成長という事例で既に検証されている。
 それとは対照的に、LCシリーズは最初から圧倒的な力を持たせることが目的だった為に成長が描かれたことはない。
 だから能力を発展させることが出来るかは不明。実際になってみないと分からないだろう。

「(そんで二つ目は……霊力を用いた戦闘技術、か……)」

 退魔の技。ソレを使用できるようになるかは、本人の資質によるところが大きい。
 霊が見えることや、霊力の大小。そして霊力技を行使出来る武具など。
 超えねばならないハードルは山程存在する。

 そしてソレらは、特殊な一族によってのみ教えられるモノだ。
 とらハの世界で登場し、退魔の一族として存在する者は確かにいる。
 だが彼女らの本拠地は鹿児島。分家があるのは東北と関西。ココ海鳴からでは遠すぎる。

「(……三つ目。ココ海鳴に拠点を構えていて、それでいて本人の才能と特訓次第で化け物レベルになれる技術を伝えし一族――――御神流、か……)」

 コレはまず無理だろう。
 検討する前から、そうだと断言出来る。
 ソレはもう、これでもかっていうぐらいの自信を持って。

「(たぶん今は、香港警防隊と海鳴を行ったり来たりしている時期だよな……?恭也にしてみれば、これ以上自分の鍛錬時間を減らすようなことはしたくないだろうし、彼が美由希以外に弟子を取るとは到底思えない……)」

 彼らの学ぶ剣は表舞台に立つモノではない。
 故にその力を持つ意味を正しく理解し、ソレを正しく振るえるモノにしかその業を教えてはくれないだろう。
 ましてや今の二人は、剣士として完成にまでは到っていない段階。ならば尚のこと、弟子は取らないだろう。

「(…………っていうか、ソレは神咲も同じだよなぁ……?)」

 御神流とは違った意味で表舞台に立たないその業。
 ソレらをこんな訳の分からん少女に教えてくれるということは―――恐らくないだろう。
 それこそ、かつて耕介が見せたような圧倒的な才能の片鱗でも見せない限りは。

「(つまり、現時点では打つ手無し。HGSの能力だって、完全に解明されてる訳じゃないし……)」

 打つ手無し。まさにそうとしか言えない状況だ。
 コレがもっと年が上だったら話は別なのだが、この年齢ではしょうがない。
 出来ることは殆どないのだ。

「(それより……もっと重要なことがあったな。ハァ……)」

 現状で十歳くらい。ということはバイトをして金を稼ぐことも出来なければ、その金で部屋を借りることも出来ない。
 もっと言えば、入院費の支払いすら出来ない。
 流れ的に、誰かに引き取られることは確実だろう。

「(この精神年齢でもう一度子ども時代をやり直すというのは…………地獄だな)」

 人間一度は、【大人の精神を持ったまま子ども時代に戻れたら……】と考えたことがあるだろう。
 つまりはコ○ン君現象。コレを夢見る大人はさぞ多いことだろう。
 だが実際にこの状態になった時、そんな夢は儚く消え去る。

 隣の芝は青く見える現象。そんな名前を付けてやりたい位だ。
 傍で見てる分には天国に見えるが、実際に経験すると天国なんかではないということが明らかになる。
 コレは一種の恥辱プレイだ。幸い大人の精神のまま赤ん坊に戻るよりかはマシだったが、それでも【マシ】だという程度だ。

「(まぁ、今何を言っても無駄だよなぁ……。なるようになるさ、だから今は……)」

 死んだように寝るのみ。
 子どもの一日の活動時間は短い。コレは体力などによるところが大きい。
 だから今は寝るだけ。何かあった時に――有事の時に頭がキチンと回るようにすること。ソレだけが今出来ることだった。






















 【その時】は、意外にもすぐ訪れた。
 ボクが意識を取り戻してから二週間後、その男はボクの病室に現れた。
 矢沢医師に伴われて。そして二人の女性を連れてご登場である。

「君がフェアリィちゃんだね?」
「……そうだけど。アナタ、誰……?」

 その男性は、かなり大柄の男性だった。
 人の良さそうな容姿に、腰の低そうな態度。典型的なお人好しと見える。
 こういう人間は生きていくのに苦労する。まさにそんな人物だった。

「率直に聞くよ?君は見知らぬお兄さんに引き取られるのと孤児院に行くの、どっちが良い?」

 ちょっと待て。ソレは某運命の名を冠する、超有名ソフトに出てきた台詞じゃないか。
 一部、特に【おじさん】という部分が修正されているが、内容は殆どそのまま。
 この男、見た目はかなり純朴そうな人間だ。だがその実、かなりのA系なんじゃないのか?

「……【おじさん】、何言ってるの……?」

 一瞬、目の前の男の顔が引き攣った。
 ソレを見て、一緒に来ていた女性――――セミロングの銀髪の方が吹き出した。
 彼女の口には、病院内だというのに煙草が挟まっている。

 銀髪セミロングで、銜えタバコ。
 ふてぶてしい態度に、両手には手袋を填めている。
 もしかしてこの人物は…………【銀髪の悪魔】か……?

「済まないね、お嬢ちゃん。この【おじさん】はね、『ウチの子にならないか?』って聞いてるんだよ」

 【おじさん】という単語を殊更強調して、その女性は説明した。
 その横では男性が涙を流し、もう一人一緒に来ていた女性に慰められている。
 栗色の襟足ぐらいで揃えられた髪に、桃色のヘアバンド。特徴的な、長い三つ編みが既に切られていたから気が付かなかったが、コッチの女性は……。

「大丈夫ですよ~、とても三十過ぎには見えませんからー」
「愛さんっ!?俺はまだ三十路行ってませんからっ!?……っていうか、夫の年齢を忘れないで下さいよっ!?」
「あらあら、ごめんなさい。ついうっかりしてました……」

 銀髪の女性は【リスティ・槙原】。
 そして栗色の髪の天然さんは、【槙原愛】なのだろう。
 ……そうなると、あの妙にカッコ付けてた痛い【おじさん】は……。

「(……【槙原耕介】って、ことになるよね……?)」

 天然の愛のボケに、それに絶叫ツッコミする耕介。
 ゲームで擬似的に体験したことはあったが、目の前で実際に見られるとは思わなかった。
 まぁ結果的に、非常に面白いものをタダで見られたので、何だか得した気分ではあるが。

「……矢沢先生。この人たちは……?」

 事前情報があるとは言え、目の前の槙原家御一行様とは初対面なのだ。
 うかつにコチラから話せば、何らかのボロが出る可能性がある。
 なので矢沢医師に説明を求める。そうすれば、彼らのことを語ってくれるだろうと思って。

「この人たちは、高台の上に住んでる槙原さんだよ。君の引き取り手を探していた時に、自ら名乗り出てくれたんだよ?」

 確かに引き取り手を探してくれるように頼んではあった。
 だがコレはいくら何でも出来過ぎだ。
 事前の検査で、ボクの証言や記憶に嘘がないことは証明されている(その検査員の心を読んだので、まず間違いないだろう)。

 ということは、ボクの正体をリスティに探らせようとしている訳ではないだろう。
 では一体、何の為に彼らが来たのだろうか?
 まさか本当に、引き取ろうとして来ただけなのか?いくらお人好しを絵に描いたような夫婦だからって、二人も子どもを引き取ろうとするものか?

「(……そうだった。それが【とらハの世界の住人】だったよな……?)」

 リスティは基本的に斜めに構えたスタンスを取っている。
 だから愛や耕介のようにお人好しという訳ではない。
 だがフィリスやセルフィに対しては、きちんと姉として接しており、見た目には分かり辛い優しさを持った人物だった。

「(なら本当に、引き取ってくれるつもりなんだ。…………でもそれじゃ、あんまりにも面白くないよねぇ……?)」

 このまますんなり行けば、ボクは愛・耕介夫妻の(恐らく)二人目の子ども。
 つまりリスティの三人目の妹になるのだろう。
 ……でもそれじゃあ、面白くない。面白味に欠けるというモノだろう。
 
「(せっかくこの世界に来たんだ。もっとイレギュラーに動いてみたいよね……?)」

 最終的には向こうの思惑通りになるのだろう。
 だがそれならば、途中で面白いことをして――イレギュラーな動きをして、皆をあっと言わせてみたい。
 ソレは心から思っていることだった。

 普通に、無難に生きてきて面白くもなんともなかった一生。
 ソレが終わり、新たに受けた一生。
 ならばこれから、今までとは違った生き方をするべきだ。そう思い、銀髪の小悪魔様の方を見やる。

「……ん?どうしたんだい、お嬢ちゃん?ボクの顔に何か付いてるのかい?」

 怪訝な顔でコチラを見返してくるリスティ。
 コレはチャンスだ。ざさなみの二大魔王の一人に一撃入れる、最初で最後のチャンスなのだ。
 コレ以降は、どうせからかわれ続ける人生を歩むのだろう。ならば最初くらいは、せめてこの瞬間だけは勝ってみたかった。

「(よしっ!作戦実行っ!!)」

 小首を傾げる。そして純真な目をする。
 ……実際に出来ているかは不明だが、多分問題ないだろう。
 もっとも、精神年齢的には大幅にアウトなしぐさなだけに、自分に戻ってくる精神的ダメージも結構ある。

「(……準備完了。――――行くぞ、さざなみの魔王。覚悟の貯蔵は十分か?)」

 耕介が某運命ネタをやったせいか、コチラも自然にそのネタになってしまった。
 だが問題ないだろう。親(耕介)の責任は、娘(リスティ)に取って貰えば良いのだ。
 いざ行かん。最初で最後の攻撃へと。

「ママ……?」
『……エ゛ッ!?』

 いつもニヒルな笑みを浮かべているハズの銀髪の小悪魔。
 しかしその笑顔は、今は凍結している。
 轢き潰れた蛙のような声と共に。そしてその声は耕介と矢沢医師からも同時に発せられていた。

「あぁ~、なるほどー。同じ銀髪だし、顔も似てますからねぇー…………リスティとフェアリィちゃん」

 愛の天然が炸裂する。
 そう、まさにそう勘違いしたと思って欲しかったのだ。
 幼い子どもだ。そういう間違いはあってもおかしくはない。

 年齢的にも不可能ではない。
 だからそう勘違いしてもおかしくはない。
 だがコレ程【年頃の女性】にとって、心臓に突き刺さる攻撃はないだろう。

 更に言えば、怒りの矛先をコチラに向けることは出来ない。
 初対面の子どもに怒りをぶつけられる程、彼女は子どもではない。
 だからこそ出来る、一回限りの攻撃。アンコールに応じられないのが、誠に残念だ。

「ま、待てっ!?ボクはママじゃない!!」
「でも矢沢先生が……」
「矢沢っ!?」

 微妙に涙を溜めつつ、捨てられた子犬のような目をする。
 うん。アカデミー賞モノとは言わないが、それでも結構良い線だろう。
 蚊帳の外にいた矢沢医師に話を振り、リスティの意識をそちらに向ける。

 既に矢沢医師にはネタを仕込んである。
 もっともソレは、彼が共犯という意味ではない。
 彼には無意識のうちに自爆するように、ある質問をしておいた。後は、上手く作動してくれることを祈るのみ。

「いや、確かに母親が誰かって聞かれた時、【遺伝子上】は君だって説明したけど……!?」
「あ、アホか~~~~っ!!そんな勘違いしそうな説明、こんな子どもが理解出来ると思ってるのか!?」

 細工は流々。矢沢医師はボクが仕掛けておいた罠に気が付かずに、ソレを発動させる。
 よって、トラップ発動。
 これにより矢沢医師は、フルボッコ確定に。

「(……さよなら矢沢医師。おかしい人を亡くしたなぁ……)」

 【惜しい】人ではなく、【おかしい】人。
 目が覚めてからの二週間、その間に彼の人となりは把握した。
 確かに優秀な人間のようだ――――ことHGSのことに関しては。

 人柄も良く、医師・看護士・患者からの信頼も厚い。
 ココまで聞けば「そんなパーフェクトな人間がいるかぁ?絶対どっかに欠陥があるんだろう?」とか思うだろう。
 安心して欲しい。ご期待の通りだ。彼には重大な欠点が存在するのである。

「何ぃぃぃぃっ!!ウチのフィリスは、子どもの頃からソレぐらい分かってたぞ――――っ!?」

 親バカ。この場合はバカ親と言うべきだろうか。
 コレが欠点。矢沢医師の、人間としてのダメなところだった。
 以前は本当に欠点がない、極めて有能な医者だったが、フィリスを引き取って以来、バカ親父の一途を辿っているらしい。

 曰く、「フィリスは絶対に嫁にやらないぞっ!!『フィリスはお父さんのお嫁さんになるんだー』って言ってたんだ!!」とか、真剣に口走る位。
 つまり完全無欠のバカ親。
 医者を相手に言うのは何だが、付ける薬がないとはこのことだろう。

「子どもの頃って……それって、十年くらい前のことだろうがっ!!いくらフィリスが小さいからって…………えぇぇぇぇっ!?」
「何だとぉぉっ!?フィリスは今も可愛いじゃないか…………って、どうしたんだいぃぃぃぃぃっ!?」

 リスティの激しいツッコミ。だがソレは当然のことだった。
 十年前のフィリスは、肉体的には既に小学校を卒業しているハズの年齢だったハズ。
 特殊な育ちをしているから、精神年齢が微妙に幼かったらしいが、知識はその時点で大人レベル。

 まぁコレには説明がいるだろう。
 フィリスはリスティのクローン体であり、同時期に生み出された十体(この中にはセルフィも含まれる)の指揮官タイプとして生み出された。
 だから彼女は、他のクローン体より知能面や知識面がもっとも高めに作られている。

 よって彼女は、生まれながらにして並の大人以上の知能と知識を持った、スーパー天才児だったのだ。
 そんな彼女と比較するなんて、どうかしてる。ソレはリスティだけでなく、矢沢医師の発言を聞けば誰でもそう思うだろう。
 だか今話題にするべきことはそんなことではない。リスティ、そして矢沢医師のセリフが、変なところで切れたところに目を向けるべきだろう。

「あら?私なんかに構わずに、続けてくれて良いのに……?」

 ソコには銀髪の妖精さんがいらっしゃいました。
 リスティそっくりな顔に、煌くシルバーブロンド。性格に比例するかのように、大変控えめな某所。
 表情は素晴らしいほどの笑顔で飾られているハズなのに、何故か底冷えするほどの冷気。

「フィ、フィリス……一体、何時からいたんだい……?」
「そうねぇ?リスティが、【ママ】って呼ばれたところ辺りからだったわね?」
「…………ソレって、ほとんど最初からじゃないかい……?」
「……そうとも言うわね?」

 つまりアレだ。この妹君が自分をネタにされていたのにソコまで怒髪モードに入っていないのは、普段見られない姉のうろたえる様子が見られたからなのだろう。
 そうでなかったら、とっくにこの病室は戦争地帯になっていただろう。
 ネタでやったことなのだが、結果的には被害が少なくなった。

 いや。もしかしたら、ボクが最初から余計なことをしなければ…………こうはならなかったのか?
 ……まぁどちらにせよ、フィリス先生のご登場だ。
 この入院生活でまだ出会うことはなかっただけに、ココで知り合っておけるのは都合が良かった。

「二人とも!いつも病院で騒いじゃダメって、言ってるでしょう!?」
「いや、それは……」
「フィ、フィリス!?お父さんはお前の聡明さを訴えてただけだぞ!?」
「同罪ですっ!!」

 少し思考の渦に巻き込まれてただけなのに、帰ってきたらこの騒ぎ。
 槙原夫妻は未だにコッチの会話に戻ってこれてないし、目の前に繰り広げられているのはフィリスによる説教タイム。
 ……カオスだ。物凄い混沌とした空間が、ソコには広がっていた。

「あ、あのぉ……?」

 流石にこのままにしておく訳にはいかないだろう。
 というか、このままにしておいた場合、被害とか割を喰うのは間違いなくボクの方だろう。
 この世界の法則でいけば、ソレはまず間違いない。だから収拾する。何としてでもこのカオスフィールドを、早急に撤去しなくては。

「……エッ?あ、ごめんなさい!?貴女のこと、すっかり忘れてたわ!?」
「…………(一人の人間として素直なのは大変良いことなんだけど、一人の医者としてはどうなんだろう?)」

 すっかり置いてけぼりな、ボクの状態。
 遅まきながら。非常に遅まきながらそれに気付いたフィリスは、慌てた拍子に思ったことが口から出てしまった。
 憎めない人物。だからこそ許されるのだが、もしコレをさざなみ寮の二大魔王にやられたのなら…………。

「(……何か、物凄くムカつきそうだなぁ…………?)」

 彼女らにからかわれる人物たちは、こういったことをきっかけに突っかかっていくのだろう。
 ソレが魔王様たちからの、仕掛けだということには気が付かずに。
 そしてその後に待っているのは、良いように踊らされる自分だとは知らずに。

「リスティ、さっきの【ママ】っていうのなんだけど……」

 フィリスが再び口を開く。
 そこから出てきたのは、先ほどの続きを意味する言葉。
 それは同時に、リスティの機嫌を損ねるモノだった。

「……まだその話題を引っ張るか。よっぽど後の仕返しが怖くないと見えるな……?」

 普段やられている、その仕返し。
 リスティはそう取ったのだろう。
 だから予想できなかった。この後に続く、先ほどのボクの発言よりも凄い返しが待っているとは。

「なってあげれば?フェアリィちゃんの【ママ】に……」
『…………エッ?』

 今度はリスティと矢沢医師だけでなく、槙原夫妻も呆然とした。
 それはそうだろう。自分たちが引き取りに来たハズなのに、いつのまにか話は別の方角に行っているのだ。
 そういう意味でも当然の反応。

 ついでに言えば、勿論ボクも同じ心境だった。
 冗談で言ったのに、まさか本気で取られるとは思わなかったのだ。
 だから今更、「実はからかっただけなんですよ?」とは、とても言える雰囲気ではない。

「……あー、済まないフィリス。一瞬だけ、耳が遠くなったようだ。悪いんだけど、もう一度……」
「フェアリィちゃんのママになってあげたら?」

 間髪入れずに返ってくる返事。
 ソレは空耳ではなかったことを意味していた。
 リスティがどう返したら良いものかと考えていると、フィリスが続けてこう言った。

「リスティ。ちょっと廊下まで付き合って……?」
「ちょっ!?ちょっと待て、フィリス!?一体、どういう……!?」

 片手を引っ張られ、妹に廊下に連れ出されるリスティ。
 予想外に次ぐ予想外の事態。
 彼女には妹が何を考えているのか、理解出来なかった。

「フィリス!一体、どういうつもりなんだ!!」

 訳も分からないうちに連れ出されたのだ。
 リスティの反応は当然のモノだろう。
 それに対してフィリスが取った対応は、リスティの質問に答えるというモノではなかった。

「……リスティ。私たちは今まで、様々な人たちのお世話になってきたわよね?」
「なんだい、やぶから棒に……?」
「良いから答えて」

 有無を言わせぬ迫力。
 普段のフィリスからは想像も出来ない行動。
 その迫力に押され、リスティは詰まりながら返した。

「あ、あぁ……。確かにその通りだよ……」

 元々身寄りの無かった自分たちを引き取ってくれたこと。
 温かい家族の一員にしてくれたこと。
 そして特殊な生まれである自分たちに、生きるということを教えてくれたこと。感謝の念は尽きない。

「……でも私たちは、未だにその恩を返せてないわ」
「…………確かに、ね……」

 リスティは警察の民間協力者からキャリアを積み、特例措置でようやく刑事として働き始めたところ。
 そして、フィリスは研修医に毛の生えたようなモノ。
 年齢的に仕方ないとは言え、二人はまだまだひよっ子なのである。

 つまりそんな彼女らからすれば、【まだ何も返せてない】という気持ちがあった。
 彼女らの引き取り手からすれば、「もう、いっぱい――色んなモノを貰ったよ」とか言うだろう。きっとそうだ。
 だがリスティたちからすれば、そういう訳にもいかない。

 ソレは彼女たちの(ココにいないセルフィも含めて)、一致した考え方だった。
 だからこそ彼女たちは、少しでもはやく大人になって、親たちに恩返しがしたいと思っていたのだ。
 まぁそれが原因で、リスティの人生は少し遠回りなモノになってしまったのだが、ココで語ることではないだろう。

「もちろん、金銭的なモノで子ども一人養うのは無理よ。私たちにはまだ、そこまでの経済力はないんだから」
「だったら……」

 リスティからの言葉を手で制するフィリス。
 まだ続きはある。ソレを聞いて欲しい。
 まるでそう言っているかのような仕草だった。

「……でもね?ソレ以外なら、貴女にも出来ると思うわ」
「他人事だからと思って……。そんなに言うんなら、フィリスが引き取れば良いだろう?」

 厄介ごとを押し付けるな。
 言外にそんなことを言っているように聞こえる。
 だがフィリスにはそう出来ない理由があった。

「リスティ、私はまだ自分を一人前の医者だとは認められないわ。それに、私があの子を引き取ったら……」
「…………あー、なるほど。確かにフィリスとあの嬢ちゃんが並んだ場合……」

 まず親子には見えないだろう。
 良くて姉妹。もしフェアリィが成長したら、双子くらいにしか見えないだろう。
 その点リスティなら、親子に見えなくもない。それでも、ヤンママが精一杯だろうが。

「フゥ……出来るだけ、手伝いに来いよ?」
「当然でしょ?そうなったら、あの子は私にとっては姪ってことになるんだから……」
「……シェリーのヤツ、自分の知らないところでオバサンになったなんて知ったら……」
「大丈夫よ。あの子も――シェリーもこの場にいたら、私と同じこと言ってくれると思うわ?」
「ソレは双子だから……っていうワケだけもなさそうだね?」
「まぁ、ね……」

 独特の、ある種の空気が緩やかに流れていく。
 ソレは決して不快なモノではなく、とても心地良いモノだった。
 無言で微笑む二人。数年前までは他人だった者たちは、今では立派に姉妹をしていた。
 
「……まぁ、良いさ。結局、日中は耕介に丸投げすることになりそうだし……」
「それは…………否定できないわね……」

 もしリスティが結婚し子どもを産んだとしても、それは変わらないだろう。
 彼女はキャリアウーマンタイプだ。
 そして何より、彼女たち三姉妹は自分たちの能力を世の中の役に立てることに行使したいと考えている。

 自分たちの力と生まれ。ソレから逃げるのではなく、ソレを背負って尚立ち向かう。
 そういったスタンスを持っているので、もし子どもが出来たとしても日中は誰かに世話を頼み、自分らは仕事に行く。
 そうなれば、子どもは誰かに世話して貰うしかないだろう。リスティの場合は、一番都合が付きそうな【主夫】――耕介に頼むことになるのだろう。

「あ~あ、これでボクもコブ付きか~……」
「リスティの性格なら一生独身だったかもしれないんだし、コレで良かったんじゃないの?」
「……やっぱ一度、お前がお姉さまをどういう目で見ているのか、確認する必要があるな……」

 彼女たちは気が付いているだろうか。
 今の会話が、かつての仁村姉妹のソレに良く似ていることを。
 かつて姉妹同士で――同じ遺伝子を持つ者同士で闘い合った姿は、もうソコにはない。

 ソコにいるのは、少し意地悪だけど本当は優しい姉。
 そして普段はまだ幼さが残るが、イザという時には毅然とした態度を取れる妹。
 そんな二人が作り出す、仲睦まじい光景があるのみだった。







[8085] 妖精03 【蝶人になった日】
Name: satuki◆b147bc52 ID:593d9cb9
Date: 2009/06/07 19:32



 前回のあらすじ:矢沢医師は、バカ親である。



 アレから色々あった。
 廊下で何やら話し込んできたらしい、リスティとフィリス。
 その二人が帰って来た時のリスティの第一声がまた、とんでもないモノだったのだ。

「お嬢ちゃん――イヤ、フェアリィ。今日からボクが君のママだ。ヨロシク♪」

 自分で蒔いた種だったが、さすがにコレは予想外だった。
 ましてや、【アノ】リスティがそんなことを言い出すなんて、誰が予想出来ただろうか?
 ……きっとフィリス以外は、誰にも予想出来なかったに違いない。

「ちょっ、リスティ!?犬猫を飼うのとは違うんだぞ!?」
「心外だな。これでも真剣に考えた上での結論だったんだぞ?」
「いや、だからって……。愛さんからも何か言ってやって下さいよ!?」

 当然の如く反応する耕介。
 しかしリスティはソレを流す。
 普段は適当にやっていることが多いが、芯は固く、頑固な所がある愛娘。
 
 恐らく自分が何かを言ったところで、状況は変わらないだろう。
 耕介はそう考えた。
 ならば自分が言うよりも影響を与えてくれそうな人間――自分の妻へと話を振る。

「……リスティ」
「愛……」

 いつものほんわかした雰囲気は一時的に消失し、一際真剣な瞳を見せる愛。
 それに対し、リスティも真剣な対応をする。
 普段はこんな構図が出来ることはない。

 二人が親子になった時ですら、ここまでの状態にはならなかった。
 だからコレは、母と娘の真剣な話し合い。
 一切の虚偽は許されない、誓いの儀式でもあるのだ。

「……本当に、あなたが引き取るの……?私たちに気を遣って言ってるとかじゃあ、ないわよね……?」

 もしそうだと言ったのなら、愛は絶対にリスティの引き取らせないつもりだった。
 恐らく夫である耕介も、同じように考えているだろう。
 だが娘から――リスティから返ってきた言葉は、ソレとは違ったモノだった。

「う~ん、そういうのもナイっていったらウソになるけど…………違うんだよ」
「じゃあ、どうして……?」

 娘からの一言一言を聞き漏らさないようにする。
 愛には自信があった。自分の――自分と耕介の娘が、キチンとした【答え】を聞かせてくれると。
 だから一生懸命聞いていた。その答えを聞き漏らさないように、と……。

「ボクがみんなから貰ったモノを、この娘に分けてあげたいんだよ……?」

 あぁ、良かった。やっぱり私たちの娘は、最高の娘だった。
 こんなにも良い答えを聞けたのなら、親としては何も言えないではないか……?
 ソレは愛と耕介の表情から読み取れたコト。あんなに嬉しそうな顔をされたら、誰でも分かるコトだとは思うが。

「……そっか。それなら良いわ。ちゃんと面倒、見てあげるのよ?」
「Thanks......ありがとう、愛……」

 心温まるワンシーン。
 まさにそうとしか言えない光景だった。
 そしてそんな感動的なシーンを眺めている耕介。

 彼にとっても他人事ではない事態なのだが、彼も愛に同意するつもりだった。
 娘が出した答え。ソレは、親としてどこに出しても恥ずかしくないモノ。だから彼は、先ほどのように、もう反対はしなかった。
 だからこの件でもっとも蚊帳の外にいたのは……。

「(何かすごい展開になってきちゃったけど…………まぁ、良いか?元々、ボクが蒔いた種だしねぇ……?)」

 渦中にいるハズの銀髪の少女、フェアリィ。
 つまりボクだったという訳だ。
 まぁ今のうちに、慣れておかなければいけないだろうな。こういった、さざなみの人たちのペースには。























 ……前言撤回させてもらいたい。というか、させて下さい。
 はやくさざなみのペースに慣れないといけないとか言ったが、そんな気持ちは雲散霧消した。
 だって、無理。こんなペースに慣れるなんて、胃の弱いボクにはハードルが高すぎる。

「ふーん。コイツが、愛と耕介が引き取るっていってたヤツか。……そんで?ドコをどーやったら、こうなるんだ?」

 リスティに引き取られることになったボクは、その日の内に退院し、その足で直接ココへ来た。
 ……そう。人外魔境――伏魔殿と名高い、【アノ】さざなみ寮へと。
 昼間ということで多くの寮生はいなかったが、ソレらが束になっても敵わないであろう、最強の住人――ヌシとも呼べる存在が出迎えてくれちゃいました。

「……オイ、ぼーず」

 事情を聞き、少し逡巡した後にヌシ様が口を開いた。その声は、静かなリビング中に響いた。
 普段は銜えタバコをし、不敵な笑みを浮かべている彼女。
 リスティのお師匠様なだけあると納得してしまう、その態度。

 まさにさざなみの魔王。
 いや、リスティが魔王なら、彼女は大魔王なのかもしれない。
 そう言われてもすぐに納得してしまうだけの何かが、そうとしか思えない何かを、彼女は持っていた。

「心配ないって。愛や耕介のお墨付きだよ?真雪よりかは、上手に出来ると思うけど……」
「……言ってくれるじゃないか?お前、知佳を育ててきたの、誰だか忘れてないか!?」

 まるで鏡写しを見ているかのようだ。
 師匠と弟子。お互い似ているということが、【不本意】だと言う二人。
 しかし現実には、見事なまでにソックリだった…………その外見以外は。

「…………(ガクガクガク)」

 だからボクが耕介の後ろに隠れているのも、仕方がないことなのだ。
 ……仕方がないということで、納得しておいて下さい。
 そんなボクの様子に気が付いたのか、眼鏡のお姉さまはこちらを一瞥する。そして溜め息交じりにこう言った。

「……っま、愛と耕介が認めたんなら良いけどな」

 過去の自分と照らし合わせているのだろうか。
 かつて彼女――【草薙真雪】は、妹を連れて家出をした。
 そしてこのさざなみ寮に流れ着き、以来ずっとココで妹を育ててきた。

 まぁ協力者多数な状況であり、かつ妹が彼女を反面教師として育ったため、彼女が一人で立派に育てきったかと言うと、微妙に疑問が残るが。
 とにかく今の彼女は、【仁村真雪】として立派に妹の【仁村知佳】を育ててきたという結果がある。
 だから彼女からリスティに言うべき言葉は、コレ以上存在しなかった。そして――――。

「キャーッ!!誰ですか、この子ぉ!?すっごく可愛い子ですね!?」

 一人。

「ん?何なのだ、この【ちっこいの】は?フィリスが縮んだのか?」

 そして二人。昼間は出払っていた、残り二人の寮生が帰ってきた。
 前者は海鳴大学在学中の、ドジ属性持ちの巫女。
 次いで帰ってきた後者は、猫耳・尻尾を常に装備している、元さざなみ寮の破壊王。

「……ちがう……フィリスのにおいじゃ……ない…………だれ……?」

 一体、いつからソコにいたのか。
 少なくともリビングにはいなかったハズの人影が、今は存在していた。
 人影――そう、人影だ。現在の【彼女】は、人型をとっていたのだ。

「あーもう、次から次へと!……良いか!?一回しか言わないから、しっかり聞けよ!?」

 示し合わせたかのように帰ってくる寮生たち。
 若干一名ばかし元から寮にいたモノもいるが、都合三人(?)の質問が繰り広げられた。
 対するリスティとしては、説明するなら一度で済ませたかった。恥ずかしいとか色々な感情が、彼女の内側にあったからだ。

「ふんふん?」
「そ、それでっ!?」
「……だれ……?」

 計六つの目が、リスティに注目している。次の言葉を今か今かと待ち望んでいる。
 人から注目されるのは慣れているリスティだったが、こういった純粋な瞳を向けられるのは結構堪えるようだ。
 微妙に頬の辺りが赤らんでいる。

「こ、この子は今日からボクの娘になった、フェアリィだよっ!!」

 妙にどもっている上に、最後は勢いで流そうとした。
 本人としてはさっと流してしまおうと思っていたためにこうなってしまったようだが、ソレが逆にアダとなった。
 それに対して言われた側は、『普段とは違うリスティ(さん)を見れて新鮮だなぁー』とか感動してる半面、何を言われたのか一瞬理解出来なかった。

「そうなんですかー。リスティさんの娘さんなんですかー……………………エ゛ッ?」
「……那美、そんなワケないのだ。……そんなのあちしは、聞いたことないぞ?」

 最近は以前のように【あちし】とは言わなくなった美緒だったが、今ばかりは【あたし】というだけの余裕がないようだ。
 それだけ動揺しているということだろう。動揺するあまり、普段は隠している猫耳がピンと立ってしまっている。
 そして狐さんはどうだったかというと、「……そうなの……?」と言って、小首を傾げていた。

「……フェアリィちゃんって、十歳くらいですよね……?」
「あぁ。ボクらもそうだと思ってるけど……」

 リスティが那美の疑問に答える。
 正式にはいつ創られたのかはハッキリしていない。
 だが恐らく、開発コード【LC-40】はフィリスやシェリーとほぼ同時期に、平行して作成されたのだろう。

 同じ遺伝子を使いながら、少し手を加えたタイプと大幅に手を入れたタイプ。
 そして前者は成長の促進をされて、生まれてからすぐに戦闘に出された。
 後にロールアウト予定だった後者は、研究機関が壊滅したことで発見されず、十年もの月日を試験管の中で過ごした。

 コレが報告書に書かれた内容だった。
 つまり真偽の確認はしようがない。
 だからリスティも曖昧にしか答えられなかった。

「そんでもって、十年前のリスティはっていうと……ココに来た頃だ!!」
「エッ!?ちょ、ちょっと待って下さい!!…………と、ということは!?」

 美緒が。そして那美が。ほぼ同時に到達した考え。
 ソレはある意味妥当で、一番真実味がある答えだった。
 だから良く考えずに発言してしまった。ソレがどんな影響を及ぼすかどうかを、深く考えずに。

『こーすけ(耕介さん)とリスティ(さん)の子どもぉぉぉぉおっ!?』
『…………エッ?』

 リビングに絶叫が響き渡る。ソレは美緒と那美によるハウリングヴォイス。
 対する耕介・リスティはというと、何を言われたのか分からず、反応が遅れた。
 ……奇しくもその光景は、先ほどの逆ヴァージョンだった。

「……こーすけ……ほんと……?」
「こーすけはケダモノなのだっ!!ロリコンなのだっ!!」
「そ、そんなっ!?耕介さん、ひどいですっ!!自分の娘に手を出してたなんて!!」
「待てぇぇぇいっ!!ソレはないっ!!……というか、君たちは俺をそんな目で見てたのか!?」

 そう言われたということは、それは既に意味のない問いなのだ。
 つまり真偽は置いておいても、耕介にはそう見えるだけの【何か】があるというコト。
 流石はロリジャイ――【ロリコンジャイアント】と陰で言われているだけのことはある。



 ――――バンッ!!



 何かが壁に突き刺さった。
 ソレは、確かに耕介の頬の横を通り過ぎて行った。
 耕介の頬に一筋の、紅い線が走る。そう、ソレは包丁傷だった。

「……あら?私ったら、つい…………」

 一体いつ、そしてどうやって。
 その途中経過を全くすっ飛ばしたカタチで起きたその事故(?)は、愛の手で行われたモノだったようだ。
 ソレが故意か不可抗力か。ソレを確かめる術は存在しなかった。

「…………ア、アイサン?オレハソンナコト、シテナイヨ……?」
「……そうですよね?私、信じてましたからね?」
『(…………絶対疑ってたな……)』

 図らずも愛以外の心中が一致した。
 コレにより耕介は酷く傷付き、夕飯まで自室でプチ引きこもり状態に。
 だから分かるハズだったのだ。彼が――耕介が夕飯を作っていないという【情報】は。

 しかしボクがこの重大な事実に気が付いたのは、全てが終わった後。
 そしてその時、【後の祭り】という事態はこういうことを指すのだなぁと、身を以って思い知った。
 同時に、コレは耕介を擁護しなかった罰なのかもしれないとも思った。





  










 プチ引きこもりだった耕介が、ようやく現実に戻ってきた。
 奇しくもソレは、夕飯時のこと。
 管理人として、一人の大人として、コレ以上寮生や家族をほったらかしにしておけなくなったのだろう。

 立派な心がけと言うべきか、それとも悲しい主夫の性と言うべきか。
 とにかく憔悴しきったその精神、その肉体は、彼を十歳は老け込ませてしまった。
 恐らくすぐに戻るとは思うが、あまりの変貌振りにゾンビと見間違える程だった。

「……さて。皆さん揃ったようなので、ココでフェアリィちゃんに自己紹介してもらいましょうか?」
「それって、あたしらがってことか?」
「えぇ、そうです。勿論最初にフェアリィちゃんにもやって貰いますけど……」
「……ボクも?」
「そうよ?」

 寮生が増える度に行われる自己紹介。
 だからコレは、恒例とも言える行事なのだろう。
 ソレに対して不満などはない。だが一つ困った点があるのだ。

「(……記憶がない少女の趣味があったり、特技があったら問題だよなぁ……?)」

 流石にソレはおかしいだろう。というか有り得ない。つまりアヤシイ。
 だったら二週間前に決めた名前以外は、分からないということにしておいた方が良いだろう。
 そうでなかったら、逆におかしいからな。

「エッと……フェアリィです。フェルとでも呼んで下さい。……どうぞヨロシク」

 必要最低限のことしか言わなかったせいか、どうもとっつき辛い印象を与えてしまったらしい。
 だがコレは仕方がないことだ。
 それに、あのリスティだって昔はこんなモノだったハズだ。多分大丈夫だろう。

「そんじゃ、あちし――じゃなかった。あたしからなのだ!」

 そう言うと、黒髪を肩まで伸ばした少女が立ち上がった。

「あたしは陣内美緒。海鳴大学一回生。趣味はバイクで、特技は猫と話せること!!んっと……こん中じゃ、愛の次に古株なのかな?以上っ!!」

 元気娘は、大きくなっても元気娘のままだった。
 今は隠しているが、先ほど慌てていた時にはしっかり出ていた猫耳。
 見てはいないが、恐らく二本の尻尾も健在なのだろう。ただ年齢の変化と共に、暴君振りは鳴りをひそめたようだが。

「えっと、私の番ですか?私は神咲那美です。海鳴大学の二回生で、鹿児島出身です。あとは……」
「那美は趣味で巫女やメイドのコスプレをするから、今度見せてもらうと良いぞー」
「ま、真雪さんっ!?アレはコスプレじゃ、ないですよ~~!!」
「似たようなモンじゃん」
「ぜんぜん違いますよ~~!!」

 ドジ巫女は、未だにドジ巫女から脱却出来ていないようだ。
 それにメイドというのは、恐らく月村家でのことを言っているのだろう。
 そしてからかい甲斐があるのも、相変わらずのようだった。

「……つぎ……くおんのばん…………よろしく……」

 狐耳と尻尾を付けた、金髪の少女。
 巫女服のような服を身に纏い、たどたどしい言葉遣いで喋るその様子。
 間違いなく狐の久遠だった。

「……んー?あたしの番か?あたしは仁村真雪だ。今はいないけど、千佳ってやつの姉貴をやってる」

 銜えタバコに、ふてぶてしい態度。
 第一印象から恐怖の対象として認識されてしまった、このお方。
 えぇ、大丈夫ですとも。貴女のことは、紹介されなくても身を以って知りましたから。

「俺の番かな?俺は槙原耕介。フェアリィ……じゃなかった。フェルのお母さんのお父さんだよ。さざなみ寮の管理人もやってるから、分からないことがあったら遠慮なく聞いてね?」

 洗いざらしのジーンズに、黒いトレーナー。
 身長190cmはあるであろうその体躯は、小さなボクからすれば巨人に見える。
 彼がとらハ2の主人公であり、不運の管理人。……そういえば、霊力には目覚めているのだろうか?

「じゃあ、私の番ですね?私は槙原愛。ここさざなみ寮のオーナーと獣医さんをやってるから、怪我した動物とか見かけたら、連れきてね?すぐに治療しちゃうから?」
「愛~!耕介とリスティとの関係が抜けてるぞ~?」
「あ、いっけない!言い忘れてました……」
「……忘れないで下さい」
「……ボクたちって、愛にとってどんな存在なんだろうね……?」
「あと耕介さんの奥さんで、リスティのお母さんもやってます」

 天然、再び炸裂。
 忘れられた二人はそっと涙する。
 この人は無敵の存在だ。そう思って対応することにしよう。

「さて……最後はボクだね?一回自己紹介したけど、もう一回しとこう。ボクはリスティ・槙原。職業は刑事……になったばかりの、君のママだ。コレからヨロシク♪」

 二度目の自己紹介。ソレと共に語られる、リスティの謎だった職業。
 彼女は社会に出るのを急ぎすぎたせいか、最終学歴は短大卒である。よってそこから現在の場所に来るまで、回り道を余儀なくされた。
 だからこの一言だけで、この経歴だけで、彼女が見た目通りの人間ではないということが、とても良く分かる。

「どうだい、フェル?みんなの名前……覚えられたかい?」

 耕介が白い歯を、『キラッ!!』とかいう音を立てながら尋ねてくる。
 ハッキリ言って芸風が古い。ゆうひあたりがこの場にいれば、「なんやソレは~~っ!!」とか言って突っ込んでくるだろう。
 しかもソレは、選ばれし特権階級(ようは美男子)にのみ許されたスキルだ。残念ながら、耕介がソレを使ってもただのギャグだ。

「……美緒、那美、久遠、真雪……」

 一人一人指差しながら、それぞれの名前を言っていく。
 本来なら人のことを指差してはいけないとか言われるだろうが、今は言われないだろう。
 そして真雪まで言ったところで、今度は反対から――つまりリスティの方から言っていく。

「ママ……バーバ、ジージ!」



 ――――ピシッ!!


 空気が凍った。
 勿論その原因は、ボクのセリフ。
 そして被害を被ったのは、今日からマイ・グランドペアレンツになったお二人さん。
 
 この後に起こったことは、敢えて語るまでもないだろう。
 暴走した耕介が魂から叫び、愛が【笑顔】でプレッシャーを飛ばしてきた。
 愛の場合、呼び方を変えないと心が痛み始めたので、それで自発的に呼び方を変えた。

 だがコレは、ある種の強力なプレッシャーと言い換えても問題はないだろう。
 結局愛は、【ママのママ→ママまま→愛ママ】という経過を経て、【愛ママ】に。
 そして耕介は……何故かストレートに【耕介】になった。我ことながら、何故こうなったのかサッパリ分からない。ホント、何でだろう……?


 













「それじゃ冷めないうちに、夕ご飯を頂いちゃいましょうか?」

 ……おかしいな。さっきから全然冷めていく気配がしない。
 自己紹介を始めてから随分経っているのに、全く冷めない料理たち。
 コレはそういう料理たちなのだろうか?流石はさざなみ寮の【主夫】が作った料理。期待が持てるな。

「…………なぁ、リスティ。この料理を作ったのって……」
「…………済まない耕介。ボクたちも一生懸命抵抗したんだけど……」

 小声で会話する耕介とリスティ。
 今日の料理は彼が担当したモノではない。
 ソレは耕介が引きこもっていたという事実からも明らかだろう。

 だがボクは失念していた。
 少なくとも見た目は美味しそうに見える料理たち。
 だからスッカリ油断していた。この料理を作った人物が、誰かということを考えない程に。

「頂きます」

 愛ママに勧められたので、ボクは料理に箸を伸ばす。
 色とりどりな野菜と肉を使った、野菜炒め。
 スゴク美味しそう。それが感想だった――――実際にソレを食べるまでの感想は。

『フェル!!ちょっと待った!?』
「(モグモグ)……………………!?」

 油断していた。完膚なきまでに油断していた。
 まさかコレを作ったのが、いや【創った】のが愛ママだったなんて、誰が予想出来ただろうか。
 ……イヤ。寮生や耕介が手を付けていないのを見ると、ボク以外は予想出来ていたようだ。

「…………(コ、コレが……!!噂に名高い、【愛さんの料理】かっ!!もう……ダメかも……)」

 後で聞いた話だが、この時のボクの顔色は黄・赤・青と、さながら信号機のように変化していたらしい。
 何たる毒性。何たる味。
 いや、コレを料理と言っては失礼だろう。料理と素材に対しての冒涜だ。

「(ボクは、死ぬの……?せっかく助かったのに……せっかく新しい人生を掴んだと思ったのに……」

 非常に情けないことだが、再び命の危険に晒されている。しかも本来なら、もっとも安心出来るこの場所で。
 死にたくない。コレを【創った】愛ママが悲しむのがイヤだというのもあるが、それよりも自分が死にたくないと思っていた。
 こんな情けない死に方で、こんなにあっさり死んだのなら、優しくしてくれた人たちに顔向け出来ないじゃないか……?



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「(…………アレ?ボクは死んで――――ないみたいだな……)」

 死んでない。
 何があったのかは分からないが、とにかくボクは生きているようだ。
 誰かが蘇生術を行ったのだろうか。閉じていた目蓋を勢い良く開けてみる。

「フェルちゃん!!目が覚めたのね!?」

 誰だろう、ボクよりずっと下にいるこの人は。
 濃い桃色のヘアバンドをした――って、愛ママじゃないか。
 あまりにインパクトが強い料理だっただけに、一時的とはいえ記憶がとばされたようだ。

「アレ……?何で愛ママがそんなに下にいるの――――って違う!?ボクが浮いてるの!?」

 もしやコレは、幽体離脱ってヤツか?
 随分とレアな経験をしたもんだ。こんな体験、一生に一度出来るかどうか。
 ……まぁ、あまり体験したいとも思わないけどね……?

「あのね?そのー、すごく言い辛いんだけどね……?」

 愛ママがそれはもう、もの凄く言い難そうに切り出した。
 多分今のボクは、異常事態発生中なのだろう。
 そしてソレを引き起こしてしまったのは、多分彼女。申し訳なさそうにしているのも、当然だろう。

「愛、待った。ボクが説明するよ……」

 とても言い難そうにしている義母を気にしてか、マイマザー様が代理を買って出た。
 ふと彼女を見ると、背中から何かが生えているのが見える。
 光り輝く、三対六枚の黄金の羽。

「……フェル。今のオマエには、コレと同じようなモノが生えてるんだよ……」

 彼女が【コレ】と表現したのは、恐らく【トライウィングス】のことで間違いないだろう。
 トライウィングスはリスティ(正確にはフィリスとシェリーもそうだが)のHGS患者としての象徴のようなモノである。
 HGSとしての能力を行使する時に現れ、リスティたちの場合は放熱も兼ねる羽。ソレと同じようなモノが生えているということは……。

「…………あ、ホントだ。羽が生えてる……」

 つまり、ボクにもリアーフィンが出現したということだ。
 コレは予想外。まさかの事態だ。命の危機にあったせいか、潜在能力が目覚めてしまったらしい。
 その【命の危機】というのが、身内の作った料理のせいだと言うのが、かなりアレだが。

「コレって、まるで……」

 蝶の羽のようだった。
 光り輝く、粒子が集まって出来た二枚の羽。
 ソレは金で出来た芸術品のよう。とても現実のモノとは思えない代物だった。

「(……でもおかしいな。なんで【トライウイングス】じゃないんだろう……?)」

 リアーフィンは、その所有者の能力をイメージ化した形状をとるモノだ。
 だからもしかすると、コレは問題無い事態なのかもしれない。
 しかし気になる。リスティら三姉妹は同じ遺伝子を持ち、そして同じ形状の羽。

 細かな名称や能力の差があっても、同一の形質を発現させている。
 なのにボクは、一人違ったカタチ。
 コレには、何か意味があるのだろうか。

「(普通に考えれば、ボクは別の目的の為に創られたのだから、おかしくないって言えばそうなんだけど……)」

 考えたって、結論は出ないだろう。
 それは追々分かっていくか、もしくは一生分からないかもしれないモノだ。
 だったら、その時になってから考えれば良いのだ。

「(ソレに、こーゆー【蝶の羽】っていうのも、なんかオシャレっぽいしね♪)」

 ソレは違う。お前はオシャレを勘違いしている。
 もしこの場に戦乙女なスカートを装備した某少女戦士がいたら、間違いなく指摘されただろう。
 そして同時に、彼女の連れがいたのなら、彼は間違いなく「オシャレだっ!!」と言ってくれたに違いない。

「フェル。信じられないのもムリないけど……とにかく今は、ソレを制御するんだ」
「制御?…………どうやって?」

 ボクが動揺していると思ったご母堂さまは、ボクを落ち着かせようとする。
 そうした上で、能力の制御――つまり降りてくるように言ってきた。
 だがしかし、ボクはそんな方法を知る訳がない。だから逆に訊ねた。どうすれば良いのかと。

「…………そう言えばボクって、物心ついた時から能力使ってきたから、最初の部分って覚えてないや……」
「そ、そんなー!?ど、どうするんですか!?今からフィリスさんを呼びますか!?」
「いや、アイツもボクとそう変わらないハズだけど……。HGSの患者も診てるハズだから、まだマシか……」

 何とも頼りない年長者たちだ。
 逆にコチラが冷静になってくるではないか。
 だからと言って、冷静になっただけで制御出来るほど、簡単なモノではなかったが。

「と、とにかくボクは今からフィリスを連れて来るっ!!……愛!耕介!あとヨロシクっ!!」

 テレポートで――HGSの能力をフル活用しての移動。
 こんな時間に連れ出される妹君は、エライ災難だな。
 他人事のように考えているが、この件の当事者はボクだ。もっと慌てろよ、ボク。

「(……今日中にカタ付くかなぁ……?やっぱ、ムリかな……?)」

 慌てふためく面々を尻目に、のんびりとしたボク。
 さざなみ寮でのドタバタペースに対応出来るか不安だとか言ったが、そんなに心配はないようだ。
 数時間で馴染んでいるところを見ると、ボクも結構マイペースらしい。

 とにかくさざなみでの一日目は、こうして幕を閉じ――――るには、もう少し時間が掛かるようだった。






[8085] 妖精04 【淫獣殲滅作戦――全ては清い【なのちゃん】のために】
Name: satuki◆b147bc52 ID:2933c326
Date: 2009/06/10 00:10
 淫獣殲滅作戦――全ては清い【なのちゃん】のために



 前回のあらすじ:蝶が羽化しました。



「…………五十回だ」
「そうだねぇ……?」

 現在ボクは、ママ上様と二人で優雅にティータイム中である。
 場所はさざなみ寮――つまり自宅のリビング。
 そして給仕するのはイケメンのホスト……などではなく、我が親愛なる祖父――もとい、耕介。

「一年間で五十回……つまり一週間に一回ってことになるね……?」
「……まぁ、一週間に二回【遭った】時もあるし、無事に一週間過ごせた時も、あったにはあったけどね……」

 何やら不穏な雰囲気が漂う会話。何が一年に五十回なのか。
 一週間に一回とは、一体何のことを指しているのだろうか。
 ソレは自分でも信じられない結果の数だった。

「フェルの誘拐未遂の件数…………そこまで伸びたのか?」
「……うん。途中から恒例行事みたいになっちゃったからあんまり気にしなかったけど、結構スゴイ数になっちゃたみたい……」

 ホスト……ではなく耕介が会話に混じってきた。
 誘拐未遂の数――何か物凄い物騒な単語が聞こえてきたが、別にコレは聞き間違いではない。
 その証拠に、耕介の問いにボクは、キチンと返事をしている。

「そうだったなぁ。最初の頃はスゴイ気を張ってたんだけど…………中盤辺りからは、日常の一コマになってたからなぁ……?」
「……まぁボクとしては、そのおかげで能力の制御の実験台になった方々には、感謝しても良いと思っているけど……」

 自分の義娘が誘拐未遂にあった。
 最初にソレが起きた時のリスティの反応は鬼気迫るモノがあった。
 普段の彼女の飄々とした態度からは想像出来ない位に焦り、そして全力で駆けつけて来てくれた。

「(……あの時は、正直ジーンとしたよね。本当に心配してくれたんだなーって感動したし……)」

 感動した。確かに感動した。普段は見られない母上様の姿が見られたことに。
 そして自分のことを本気で心配してくれたことにも。
 だから感激もした。だが……。

「(……でもみんな来てくれた時には、もうカタが付いてたんだよなぁ……?)」

 あの時はさざなみ寮の持ち得る戦力総出で、出撃して来たのだ。
 耕介は御架月装備プラス式服で。那美は雪月プラス式服with久遠(アダルトヴァージョン)。
 真雪鉄芯入りの木刀を片手に、そして美緒はバイクでシャッターを突き破ってきた。

「(だけど……ボクが先に全部倒しちゃったんだよねぇ――――能力が暴走しちゃって)」

 さざなみ寮御一行様が到着した時、既に状況は終了していた。
 ボクは誘拐されたことで気が動転し、能力が暴走した結果を目の当たりすることになったのである。
 その光景はハッキリ言って、嵐が過ぎた後のようになっていたらしい。

 そしてその中心部で気絶しているボク。
 かなり意味不明な光景だ。
 そしてソコで得た結論は、ボクは誘拐されるだけの容姿だということ。

 元々リスティのクローンなので美少女には違いない。
 だが自分がソレになってみると、そういう認識が綺麗サッパリ無くなっていた。
 だから自分のことを美少女だとか思ったことは、今まで一度も無かった。

 それにこの世界に来る前は誘拐されるような容姿をしてなかったせいか、まさか誘拐されるとは思わなかった……というのも大きいだろう。
 全くの予想外の事件。
 そしてそれ以後、一週間に一度のペースで起こり出した誘拐未遂。

「(色んな組織があったよねぇ……?【全日本ロリコン同盟】とか、【全国美少女を愛でる会】とか……)」

 犯人が捕まる度にその尋問が行われ、バックの組織などが明らかになっていった。
 半数は個人による単独犯(衝動的なモノらしい)だったが、残り半分は組織ぐるみの犯行だったらしい。
 別段、HGSの能力のことが洩れたとかではなかったので、純粋に(こういう言い方は甚だ不本意だが)ボクの容姿目当てだったようだ。

 そして捜査の目は、あまりにも頻繁に事件が起こるので、内通者が手引きしているのではないかと考えられた時もあったそうだ。
 
「(……その筆頭として、ダントツで耕介がトップだったっていうのは、何て言ったら良いやら……)」

 永遠のロリジャイ。
 一時期警察では、耕介をブラックリストに入れるか考慮したことがあったらしい。
 結局愛娘(この場合リスティのことだが)の説得でソレは免れたようだが。

「……ボクはお手柄が山のように積まれていくから、そのお蔭でまた異例の昇進やボーナスが出た」
「そんでボクとしては、能力の制御が出来るようになるまで、彼らが実験台――じゃなくて、貢献してくれたから結果オーライ」

 母は昇進&ボーナスを手に入れ、娘は能力の制御が出来るようになった。
 ココだけ聞けば、良い点しか浮かんでこない。
 だがちょっと待って欲しい。

 それで済ませて良い問題ではないだろう。
 何故ボクがそんなに誘拐されるのか?
 それはきっと、容姿の問題だけではない。その考えは、この時に漸く考え至った結論である。

 そして矢沢医師の研究の下で分かったことは、ボクにとってはとてもありがたく【ない】結論だった。
 それはある種の能力。
 テレパシーと同じように相手の精神に進入し、そしてその方向性を変えてしまうモノ。

 【チャーム】――所謂【魅了】または【操心】という奴だったのだ。 
 もしもボクの精神が【オンナ】だったら。仮にボク以外の女性がその能力の持ち主だったら、ソレは武器になったかもしれない。
 だが待ってくれ。見掛けは美少女(自分で言うと鳥肌が立つが)だが、中身は違うのだ。

 何が悲しくて男に追い回されたり、挙句誘拐までされなければならないんだ!!
 しかし嘆いても悲しんでも、現実とは変わらぬもの。
 だからボクに残された路は、一つしか無かった。

 研究と特訓のローテーション。その繰り返し。
 コレが出来るようになるまでは、外出すらままならないのだ。
 病院とさざなみ寮の往復にはテレポートを使い、本当に軟禁に近い状態。

 ……欝だ。
 憂鬱だ。
 はやくこの状況を脱したい。

 ただソレだけだった。
 ソレだけがボクの希望だったのだ。
 だから頑張った。

「……久しぶりの外界は、見るもの全てが懐かしかった……」

 HGSの能力制御は一日してならず。
 どこかの偉い人が言っていそうな言葉だが、生憎コレを考えたのはそんな人たちではない。
 その能力制御を散々苦労しながら、それこそ血反吐を吐きそうになりながら習得した、ボクの心からの言葉だ。

「(……生き残れた。ソレだけでも凄いことだと思えてしまうな……)」

 元々能力が開花した姉妹たちを死なせてしまう程の【チカラ】。
 ソレを制御するなんて、普通に考えたら無理なことだった。
 だから特訓を受けた――――特訓という名の【地獄】を体験した。

 具体的な特訓内容を挙げるのは、ボクの精神衛生上宜しくないので割愛させて頂く。
 だが抽象的な例で言うのなら、瞬間移動魔法を習得するのに際し、大きな岩を括り付けられて湖に放り込まれる。
 ソレと同じぐらいには頑張ったつもりだ。

「(あぁ……。生きているってスバラシイ……)」

 良い感じに壊れてきた思考。
 それはこの世界に馴染んできた証拠だろうか。
 それともコレが、ボクの本当の姿だとでも言うのだろうか。

「(……まぁおかげで、【チャーム】の暴走はなくなったしねぇ……?)」

 現在自分の制御下にある能力は、テレパシー・サイコキネシス・物質転送・読心・操心。あとは…………サイコバリア。
 これらはあくまで【制御下】にあるだけで、能力を完全に引き出せている訳ではない。
 さらに言えば、【LC-20】――つまりリスティの得意とする【サンダー】も使用不可能。

 きちんと使えるのはバリアと物質転送(テレポート及びアポーツ)だけ。
 あとは制御……という名を冠した、リミッターが抑えている状態。
 ようは逃げることと味方を呼ぶこと。それと防御しか出来ないのだ。

 ……うん。完全なサポート要員である。
 これらだけでも、普通は大した物なハズ。
 だがココは海鳴。

 人外魔境なのだ。
 今のボクは、その中では路傍の石に等しき存在。
 そんなヤツは、目立たずにひっそりと暮らすのが良い。

 ……そう。その方が圧倒的に良いハズ、なんだが……。



 ⅰ.【とらいあんぐるハートシリーズ】登場人物の、微妙にズレた事柄。
 ――アリサ・【バニングス】の生存と、ファミリーネームの違い。

 ⅱ.いないハズの存在の確認。
 ――高町士郎。
 ――月村すずか。そしてその従者であるファリン・エーアリヒカイト。

 ⅲ.いる筈の人間の未確認。いや、いたとしても本来居るべき場所にいないという決定的なズレ。
 ――城島晶。フィアッセ・クリステラ。
 ――そして鳳 蓮飛。



「……フゥ」

 予想出来たハズだ。この世界に来て、原作の登場人物が何処まで存在するのかを確かめた時から。
 分かっていたはずだ。いつか、この日が来るかもしれないということが。
 理解していた筈だった。愛ママが苦労して開いた彼女の城が、原因不明の破壊活動に遭うことは。

「……にしたって……」

 今日でなくても良いだろう。そう思ってしまうのは、イケないことなのだろうか。
 何で自分なのだろう。第一発見者は別に自分である必要はないというのに。
 どうして自分はココにいるのだろう。愛ママが忘れ物をしなければ。ソレの回収役が自分に回ってこなければ。

「……ハァ」

 後悔はある。腐る程に存在する。
 だが今は、ソレに浸ることは出来ない。
 だって今すべきことは、別にあるのだから。

 山狩り……という表現は正しくないな。
 ならばコレは魔法使い狩り。将来白い魔王と呼ばれる少女の修正と、ソレを誕生させた少年の粛清。
 目標は決まった。対象も決定した。ならば後やることは、とりあえず意志表明か。

「あんのぉ、淫獣めぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 声を大にして、殲滅対象に恨みをぶつける。
 その一瞬後に、罅割れていた病院の窓ガラスが粉々に砕け散ったが……ボクのせいじゃない。
 たぶん。きっと。そう思わせて下さい、後生だから。























 唐突だがボクは、【なのはちゃん】があんまりスキではない。
 と言っても、【なのちゃん】は大スキだ。
 何訳分らんことを言ってんだって?いや、だってこの二人は別人ですよ?

 知ってる人もいるとは思うが、【高町なのは】という存在は、二通り――または皆の心の数だけ存在する。
 【なのはちゃん】と呼ばれるのは、【魔法少女リリカルなのは(TV版以降)】の方。
 【なのちゃん】と呼ばれるのは、【とらいあんぐるハート3】に登場する方だ。

 基本的にボクは、チャラチャラしたヤツや、空気の読めないヤツ以外は好き嫌いがない。
 だから外から見ている分には、どちらの【高町なのは】も好きなキャラクターだったりする。
 だがしかし、事実は小説よりも奇なりとは良く言ったモノだ。

 現実の世界で、かなり深いトコロまで容赦なく踏み込んでくる少女を、ボクはあまりスキになれそうにない。
 【あの】アリサだって、現実には空気をある程度は読んでくれる。
 踏み込んではいけないと判断したら、その場で引いてくれる。

 だがソレを、【なのはちゃん】は読んでくれない。
 まだ小学生だから仕方がない……というレベルの話ではない。
 なんというか、彼女の中ではソレが極当たり前の行動。

 というか、自分の言動からブレているヤツが悪だ。みたいな思考をしてるっぽい。
 それはある意味、仕方ないことだとは思う。
 この世界の高町なのはには、父親である士郎が生存している。

 ということは連鎖的に、孤独な年月を過ごしてきたということになる。
 情報という大事なファクターの収集先はTVやインターネットのみ。
 一般知識に疎く、自らが主人公であるという認識。

 そんな状態が何年も続けば、【なのちゃん】が【なのはちゃん】に変化しても不思議ではない。
 というよりも、変化しない方が奇跡だ。
 ……で、そんな状態の【なのはちゃん】は、ある日運命の出会いを迎える。

 生涯の(?)親友とも言うべき存在。
 月村すずかとアリサ・バニングスとの邂逅。
 ソレ以降は、二人の親友と付き合うようになったおかげか。後はTV版を御覧下さい、みたいな状態となる。

 別に熱血でも良い。頑固でもOK。
 漢らしくても……まぁ良しとする。
 今のままの生活を送っていくのなら、ただの美少女ってことで終わるだろう。

 だったら何の問題もないさ。
 また、彼女が関わるのが【PC版】の【リリカルなのは】なら、むしろ良い影響を与えるだろうさ。
 ……だが。

「(……恐らく【この】高町なのはが関わるのは、【TV版】の方……だよなぁ……?)」

 状況から察するに、その確率は九十パーセントを超えるだろう。 
 となれば、行き着く先は【魔王】だ。
 【魔王】という存在は、彼女自身だけではなく、周囲の環境にも影響を及ぼす。

 もっと言えば、管理局の存在が認知される次元社会全てに、その影響が及ぼされる。
 そうすると、彼女の持つ【信念=力、力=正義】のような考え方が、常識とされてしまうようになる。
 ソレは本来、余り良くないことなのだ。彼女という英雄の誕生は、逆影響として今よりも強い影を作り出してしまう。

 より魔法という力が重要視され、ソレ以外のモノが零れ落ちていく世界。
 幾らクリーンなエネルギーだからと言っても、その先に待っているのは……核戦争と変わらない世界だろう。
 ただその手段が魔導師ないし、次元航行艦に置き換わっただけのモノ。



 ……別に構わない。
 本来別世界のことだ。自ら首を突っ込む趣味はないし、そんな余裕もない。
 他の世界が滅ぼうが知ったことではないし、よそ様の家庭に口を出すのもどうかと思う。












 ……でもさぁ?
 たぶんコレって、もう関わっちゃってるよねぇ?
 恐らく。およそ八割くらいの可能性で。

 それよりもさぁ。
 家族の経営する店を破壊されて、そのまま引き下がるなんてさぁ……出来る訳――――――――ないよねぇ?
 自分の身体を構成するDNAが言っている。淫獣の所業を許すなと。ヤツにとびっきりの雷を御見舞いしてやれと。



 ――バチ、バチッ!



 火花が見える。
 ソレは、雷の具現化の前触れ。
 今後出現するであろう、【金色の夜叉】とは能力の源を別にする、それでも同じ現象を引き出すモノ。

 今までまったく発現する気配すらなかった、【サンダー】という攻撃手段。
 ソレは怒りからの発露か。
 それともこの場で発現するのが運命だったのか……?

 ……どちらでも構わない。
 この手で愛ママの城を破壊した下手人に、鉄槌を喰らわせられるのなら。
 あの【淫獣】を、丸焼きに出来るのなら……!

「……ま、なのはのことは、逐次修正していく方針で……」

 清く健やかな少女にする為に。
 本人からしたら、要らぬお節介だと言われること極まりない、介入の開始。
 多分サンダーが使えるようになっても、ボクの強さはまだまだだ。

「(……万魔殿とは、良く言ったもんだ……)」

 パンデモニウム。ソレはさざなみ女子寮の別名。
 退魔師。HGS。妖狐。喋る刀。武闘派な少女漫画家。殺人料理の作り手である、本来は命を救うモノである獣医師。
 退魔から掃除洗濯、調理まで完璧なロリコン巨人。

「(……正直ボクの強さなんて…………ハァァァァ……)」

 上には上がいる。
 ソレは世の中の常識。
 だけど、上限ってモノがない場所が存在するなんて……神様って残酷なことをするよね?

 ……神は死んだ。
 というか、あんまり信じてもいないんだけど。
 とりあえず、居たのなら拝み倒して運命を変えて貰うか、出会い際にサンダー落とすか。そのどちらかだろう。

「でもまぁ、そんなこと言ってたら、物語は進まないんだよねぇ……?」

 さぁ始めよう。
 ある少女の光源氏計画を……違った。
 異物の入り込んだ、物語への介入を。













 あとがき

 >誤字訂正


 sgさん。ご指摘いただき、ありがとうございます!
 【ソレ】とか【コレ】とかは、強調の意味とかで使っていたのですが……う~ん、読み難いですか……(汗)。
 いきなり全部はムリですが、今回からなるべく減らしていくようにしますので、どうかそれでご勘弁を……(マテ)。


 >【サー】と【マム】

 powerLさん。ご報告頂き、ありがとうございます!
 う~ん。どちらもあるというコトは、ドチラにすべきか……悩みますねぇ?(オイ)。
 ギャップを楽しむという意味で、とりあえずは【マム】のままで逝きますが(誤字にあらず)、違和感を感じたら修正することにします。







[8085] 妖精05 【遠足。それは至上最強の闘い!?】
Name: satuki◆b147bc52 ID:a086bde5
Date: 2009/06/20 00:20



 前回のあらすじ:そうだ、【淫獣】狩りに行こう!!



 さぁ始めよう。
 ある少女の光源氏計画を……違った。
 異物の入り込んだ、物語への介入を。






 





 ……とは言ったものの。一体、どうやって物語に介入すべきだろうか?
 下手にセオリー通りの介入をした結果、目も当てられないことになったりはしないよねぇ……?
 それは懸念。だが当然の疑問。

 大体魔力を持たないボクが、どうやって介入するっていうんだよ?
 アレか?HGSだから大丈夫だってか?
 そんなの無理に決まってる。

 第一、コチラを大木を墨に変える位のチカラだと仮定すると、魔導師…………この場合はフェイトが比較しやすいな。
 フェイトの雷撃魔法は、一つの都市を壊滅させられる。
 如何にHGSの能力が常人から逸脱したモノとは言え、それはあくまで地球での話だ。

 良く、高ランク魔導師は歩く核兵器だと揶揄されるが…………ソレは正しい。
 一介の魔導師が核兵器のボタンを持ち歩く状態。
 それは非常に危険な状態でしかない。

 だからボクがフェイトに挑むというコトは……。
 【雷神】VS【珍しい程度の羽虫】。ということになる。
 ……嫌だ。ソレってどう見ても瞬殺フラグじゃないか!?

「(あ~。ほんと、どうしようかねぇ……?)」

 もういっそのこと、全て忘れてしまおうか。
 そうすれば関与しなくても良いしね?
 ……うん。そうと決まったら、テレビでも付けて怠惰ライフをエンジョイしないと♪



『昨夜未明、警視庁に怪盗【金色夜叉】の予告状が届きました。コレを重く見た警視庁は……』



 ――ピッ!



『本日零時、金色夜叉の狙う【蒼の宝石】を頂きに参上する。怪盗【ホワイトエンジェル】…………コレが、予告状の内容です……」



 ――ピッ!!



『いやぁ~、さる筋からの情報では【金色夜叉】も【ホワイトデビ……エンジェル】も、まだ年端もいかない少女だとか……!』



 ――プツッ!!



「……はぁ~~。世の中平和だねぇ……?こんな、お子チャマ【怪盗】が出現するような世の中だとは……?」



 子どもの愉快犯。
 若干微笑ましいような気もするが、やはり逮捕すべき存在であるコトには変わりない。
 しかし、よりにもよって【怪盗】かぁ……?チョイスが古いと言わざるを得ないねぇ……?

「(やっぱ、今の時代はアレだよ!)」

 チェスのキングの頭部を模った、怪しいヘルメット。
 紫と黒をベースカラーにした、ピッタリとしたスーツ。
 勿論片目だけヘルメットの部分展開アリ。

「私は…………【エロ】!!全てのブラジャーに対する反逆者なり!!」

 とか言って、最初は怪しい奴だと思われて。
 でも何だかんだで仲間が増えていき、新しい組織を作ることになるのだ。
 その名は【エロの騎士団】。

「今からこの建物が、【エロマンガ王国ニッポン】の領土となる!!」

 てっぺんにピラミッドが付いたような建物。
 凡そ日本の建築物っぽくない、その浮き具合。
 ソコは誰がどう見ても、国会議事堂にしか見えなかった。

「全ての服を着る者よ、我を恐れよ!」

 ……あ。
 女性限定にしないとダメだよね?
 メタボなオヤジたちの裸なんて、頼まれても見たくないしね?
 
「チカラ無き者よ、我を崇めよ!そして明日からは、【プライド】という名のバリジャケットを着るのだぁぁぁぁっ!!」

 段々妄想が一人歩きしてきたな……?
 流石にコレでは危ない人だ。
 クールダウン、クールダウン。



『エロ!エロ!エロ!エロッ!!』



 エロの騎士団の仲間が、喝采を送ってくる。
 それはさながら【聖者】の誕生。
 モーゼの十戒レベルの奇跡だ。



『エロ!エロ!エロ!エロッ!!』



 ……素晴らしい。
 そんな国なら、是非とも住んでみたいモノだな……?
 誰か実行してくれないかなぁ……。ま、実際にされても困るんだけどね?























「ちょっ、マテよ!今から緊急手術だって~!?それじゃあ、コッチの約束は……!?」

 妄想ニッポン万歳。
 仮面の人間【エロ】のサクセスストーリーが頭の中で展開中に、突如として響き渡る怒声。
 声の主は御母堂様。……あんまり、カリカリしちゃダメだよ?そんなんだと、真雪みたいになっちゃうからね……?

「あ~ん?オイ、ボーズ二号……」
「……居たの、真雪?」

 地獄耳ならぬ、テレパシー。
 というか読心術だにゃ、コレは……?
 ……話題を逸らそう。逸らさねば!!

「あ、真雪さぁ……?腐女子狙いの、良いネタがあるんだけど……」
「ホゥ。ソイツは良いなぁ……?何せオマエさんのネタは、どれも使えそうなモンばかりだしな……」

 そりゃ、そうだ。
 ボクが自分の元居た世界にあった、既存の人気漫画たち。
 その存在が無いのを良いことに、ボクはソレをさざなみ大魔王に提供しているのだ。

「……で。それはそれとしてだなぁ…………さっき何考えてたんだぁ……?」

 隊長、無理です!
 戦略的撤退は不可能です!!
 ……流石はさざなみ寮の生き字引。年季が違い過ぎる……!!

「えっと、それはぁ……」
「……フーン。ま、言いたくないなら、言わなくても良いんだけどさぁ……」

 視界がブレる。……否。真雪の姿がブレたのだ。
 ボクの視界から、アッという間に消え失せた彼女。
 次に彼女が現れるポイントは……!



 ――ムニュ。



「……う~ん。やっぱ小学生じゃあ、まだまだだなぁ……?」

 被害はボクの胸部。やられたのはボクの精神。
 ……オノレ。
 元オトコとしては無くて当然なハズなのに、いざ無いと言われるとソレはソレでムカつく。

「……真雪。キミには有るのか……?【覚悟】ってヤツが……!!」
「覚悟ぉ~?一体何のコトだよ……?」

 HGSさまを舐めるな!
 超短距離テレポートで、真雪の背後に出る。
 その後にPKを発動。彼女には凄まじい重しが圧し掛かったのと、同じ状況になる。

「揉んで良いのは、揉まれる覚悟があるヤツだけだ!!」
「何っ!?」



 ――ポヨン!



 隊長!!
 ユートピアは在ったんですよぉぉっ!!
 ココに存在したんですよぉぉぉぉっ!!

「……チッ!やり返してくるたぁ、良い根性してるじゃないか……?」
「……やられたらやり返す。ソレが家の家訓なんだよ……?」
「…………オーイ。槙原家には、そんな物騒な家訓はないぞぉ……?」

 あら、ママ上様。
 どうやら電話という名の闘いから、帰って来たらしい母上。
 呆れ顔でコチラを見る限り、ボクと真雪は同一線上の存在らしい。

「そういえばママや。さっきのお電話は何だったんだい……?」
「あー。最近、警視庁に怪盗が出現するって知ってるかい?」
「うん。さっきニュースで見たばっかりだけど……?」
「……でだ。相手が何かHGSみたいなチカラの持ち主らしくて、警察側もHGSで対抗するコトにしたんだ……」

 毒を以って毒を制す。
 あまり褒められたモノではないけど、この場合は仕方ないか。
 HGSのチカラは絶大。普通の人間では手出しが出来ないしねぇ……?

「だから攻撃はボクが担当して、もしもの為にバリアー要員にフィリスを連れてくつもりだったんだけど……」
「……緊急手術だったっけ?それでドタキャン、と……?」
「そ。だから困ってるんだよねぇ……?」

 攻撃は大事だ。
 しかしその他の人々を護るには、防御も大事なのである。
 一人ではない。皆で闘う場合には、皆のことを考えて行動しないといけないのだ。

「あ~、困った。今からじゃあ、他のHGSは探せないぞ……!?」

 HGSは稀少です。
 その中でも戦闘に耐えうる程の能力を持った者は、さらにレアな存在である。
 ……嫌な予感がする。ナニか背筋に冷たいモノが伝い、ソレがボクの嫌な予感を倍化させる。

「…………良ぉし、フェル!!今からママと一緒にお出掛けだぁ~~♪」
「イヤァァァァッ!!お決まり通りの展開過ぎて、イヤ過ぎるぅぅぅぅっ!!」

 何やら【ド】とか【ナ】が交互に聞こえてくる。
 それはまるで、市場に売られる子牛への追悼歌のよう。
 ……あぁ。こんなコトになるんだったら、能力制御を出来るようにならなきゃ良かった。

「耕介~!お弁当二つ、準備しといてねぇ~~♪」

 まさに遠足気分。
 でもボクにはそんな余裕はない。
 強いて言うのなら、初めてジェットコースターに乗る前の気分だ。



 ――カッ!



 ――――ゴロロロロッ!!



 外では先程までの晴れ具合を吹き飛ばす、雷雨が渦巻いていやがりました。
 ソレはボクたちへの歓迎の挨拶か。それとも、【金色夜叉】とやらの歓迎か。
 ……ま。こうなったら、なるようにしかならないよねぇ……?














 あとがき

 >誤字訂正


 俊さん。毎度ご指摘頂き、本当にありがとうございます!






[8085] 妖精06 【掟破り!?……覇王の蘇る日!】
Name: satuki◆b147bc52 ID:aa1b084d
Date: 2009/06/27 20:12



 前回のあらすじ:はじめての遠足(?)にお出掛け。



 テレビとかで良く見る庁舎。
 角ばっているカタチに、てっぺんにはアンテナが伸びる。
 ソレは警察。そこは犯人を取り締まる人間が居る方の建物。

 だが現実には、今から犯人が取り締まられにやって来るのだ。
 警視庁に保管された【蒼の宝石】を狙って。
 それも二組の怪盗が今夜、警視庁へのテロを行うというのだ。

 それは異常。
 通常では有り得ない現象。
 でも在る。これは紛れも無い現実。

 頑健さと【常識】によって護られてきた、【正義】という名の社。
 幾度目かの怪盗の来襲はその常識という鎧を剥がし、代わりに置いていったのはズタズタにされた【プライド】。
 過去の失敗を活かし、専門家に協力を依頼。

 そして新生した庁舎は、まさにグレート。
 外見は変わらないものの、名前は【グレート警視庁】だ。
 ……実は合体済みとかってオチはないよな?

 旧警視庁と新警視庁が合体してたとか言われても、その名前では不思議にすら思えない。
 その場合、【大警察合体】なのか?
 それとも【超警察合体】になるのか?

「やぁやぁ。皆、ご苦労さま~」

 その声は上から聞こえてきたモノ。
 現在ボクは、地べたを這いずって光を見上げる者。
 ならばソレを引き摺っているのは、当然ご母堂さましか居ない。

『お疲れ様です!槙原刑事!!』

 野太い野郎隊の声。
 整列した野郎たちの間を、まるで廊下のように歩いていくママ上様。
 これは警視庁精鋭とやらの歓迎と受け取って良いのだろうか?

 どれ。どれ程の強者たちなのかな……って、オイ!?
 メカニカルな脚の束。
 ソレと同じように、その脚の持ち主たちの身を包むのは…………マスクドライダーな軍団。

「(!?ちょ、ちょっとマテェェェェッ!?何なんだよ、この世界は!?この世界は、アギt○の世界なのか!?)」

 全身装甲の鉄仮面軍団。
 それは○3-MILDの群集。
 その中に一体だけいるG○-Xさん。

 名前を聞いてみると、【C3-MILD】と【C3-X】だそうだ。
 ……パチモンらしくて涙が出る。
 でもこういうのは大好き。良いぞ、もっとヤレ!!

「(……つーか、一体どんなヤツがコレらを作ったんだ?もの凄いオーバーテクノロジーなネタ兵器なんだけど……)」

 その製作者とは絶対に趣味が合う。
 断言出来る。
 何というか、同属のニオイがするのだ。

「(……しっかし良いなぁ~。こんだけたくさん有るんだから、一体くらい持って帰っても……)」

 それはアカンて。
 警察に予告状を出す怪盗と、どっこいどっこいになってしまう。
 自分の欲望に盛大に突っ込みを入れつつ、ボクは母上さまに引き摺られていく。

 C3シリーズ専用トレーラー。専用バイク【ガードチョイサー】。
 ソレらが数え切れない程存在する。
 ……ココは理想郷か?実はボクの能力に、【妄想具現化】とかないよな?

 まぁそんな美味しい能力は残念ながら存在しない。
 そう。とっても残念だけど、存在しないものはないのだ。
 それよりも注視すべきなモノ。ソレがボクの眼前に現れた。

 菱形の青い宝石。
 ただの一般市民でも分かる。
 その存在の異常さ。

 ボクは確かに一般人だ。
 それは地球上に無いモノ……に関しては、ということだが。
 コレは明らかに地球上のモノではない。ましてやこの次元のモノですらない。



 ――!



 不思議な光を放ちながら、ソレは己の存在を主張する。
 自分はココだ。ココに存在するんだ。
 そんなことを誰かに報せるように。

「(…………コレって、【ジュエルシード】以外の何物にも見えないんだけど……!?)」

 何故ココに。
 どうやってココに来たのだ。
 一体誰が。誰がジュエルシードと闘い、そして封印までしたというのだ!?

「(ボク以外の転生者?いや、だとしたら何故こんな所で保管するんだ……?メリットがないじゃないか……?)」

 基本的に転生や憑依が為され、物語に介入しようとした場合。
 その人物が取る行動は大体決まっている。
 特にジュエルシード事件に介入するとしたら、捕獲したソレをどうするかは……。



 ①自分で持ち続ける。
 ②途中まで自分で持っていて、どちらかの陣営(なのは側かフェイト側)に引き渡す。
 ③ソレで願いを叶えようとする。



 まぁ、③は殆ど無い。
 だから①か②が大半を占めるのだ。
 ワザワザ危険を犯してまで警察に保管させる。ソコにはどんな狙いがあるのだろうか?

 普通に考えればない。
 だがもし、その人間が警察と――というか、【地球】と別次元が争うように仕向けていたら?
 事情を良く知らない地球側からすれば、【管理局】が災厄の火種と信じてしまうモノもいるだろう。

 ではその人間の狙いは、地球と管理局を対立させるコトか?
 答えはNO。確かにソレで地球側に管理局を憎ませるコトは出来ても、地球には次元を超える手段が無い。
 つまり、最初から話にもならない。
 
「(……何なんだ?一体何をしたいんだ?その人物の狙いは一体……?)」

 分からない。
 理解出来ない。
 そして理解出来ないのなら……知っているヒトに聞けば良いじゃないか。

「あの~、スミマセ~ン」

 C3軍団の長っぽい、C3-Xの中の方に聞いてみた。
 中のヒトはどうやら良いヒトだったらしく、コチラの質問に逐一答えてくれた。
 普通なら子どもがそんなコトを聞いても誤魔化すか言わないだろうが、今回のボクは民間協力者。

 無下にせずに、教えてくれましたとさ。
 ちなみにその中のヒトは【水河真】というらしく、彼がジュエルシードの暴走体を止めたらしい。
 封印処理に関してはC3-Xが勝手にしてくれたらしく、彼自身は魔力の欠片もなかった。

 ……ということは。
 彼は【転生者】でも【憑依者】でもない。
 それは【読心】で分かっている。

 じゃあ誰が?
 どうやって?
 【C3-X】の作成者がそうなのか?





 ……マテ。
 【魔力の欠片もなかった】……だと?
 ボクはそれをどうやって確かめた?

「(……気持ち悪い。何だかボクの中にもう一人、誰か居るみたいな感覚だなぁ……?)」

 まるで誰かの知識が勝手に流れ込んでくるような。
 いやソレはある意味当たり前なのだ。
 何せこの身体には、【フェアリィ・槙原】と【それ以前のボク】の知識が有るのだから。

 ……でも何でだろう?
 ナニカが違うと訴えている。
 ボクをボク足らしめている【何か】が。

 その何かが、全力でソレを否定している。
 ソレは確信?それは当然?
 何で?どうして?一体何故……?



 ――ガッシャァァァァァァァァンッ!!



 窓ガラスが割れる音。その音は屋上から聞こえてきた。
 響き渡るのは非常事態警報。
 夜の闇を引き裂いて現れたのは稲妻。

 今宵。雷光と共に現れたのは、雷に愛された少女。
 その傍らには紅い狼を連れ、その手には黒き大斧。
 怪盗【金色夜叉】は――――フェイト・テスタロッサは、予告通りにやって来たのである。























 同時刻。
 警視庁の庁舎を訪れたのは、【金色夜叉】だけではなかった。
 彼女とは別に出された予告状。

 フェイトとは違う場所から現れた、茶髪の少女。
 白い制服……のような戦闘衣に身を包み、その手に持ちたるは金色と桃色を合わせたような杖。
 中心部の紅い宝玉がその存在の現実感の無さを助長させ、それはさながらアニメやマンガの中のモノだった。

 お供に居たフェレット……は置いておいて。
 ともかく金色夜叉と同様、彼女【ホワイトエンジェル】も警視庁を襲撃にきたのだ。
 ただし金色夜叉とは違い、【非常に】目立つ【玄関】からだが。

「すみませ~ん!お邪魔しますね~~?」

 大声で言えば。正面から来れば、何でも許される訳じゃないんだぞ!?
 でも彼女の表情には悪気はなさそうである。
 オイ。マテや。どうしてそうなんだよ?何で謝れば許されると思ってるんだよ?

 おかしいだろ?
 ダメだろうが?
 両親は一体、どういう教育を……って、そうだ!!

 この【なのはちゃん】は、要教育対象だったじゃないか!
 ある意味ゆとり教育?の被害者。
 我正義。我最強みたいな思考を直す、絶好の機会。

 クックックック……!
 メイド害ではないけど、笑いが止まらない。
 って、だからメイド害って誰だよ!?また知らないハズの知識!?もう勘弁してよ!?

「ジュエル……じゃなかった。【蒼の宝石】を頂きにきました!」

 だから堂々とすれば良いというモノじゃないんだって……!!
 それじゃあ、【赤信号、みんなで渡れば怖くない】と同じだってば!?
 ちくしょう!淫獣は何処だ!?アイツさえ抑えれば、何とかなるハズ……!

「なのは!ジュエルシードの反応は、中層階にあるみたいなんだ!だから……」
「うん!わかった!!」

 ちょっと?
 少し待って下さいよ?
 何でレイジングハートさんをシューティングな状態にするの?

 どうしてソレを、天井に向かって構えるの?
 彼女の本領は大魔力による一切の障害の排除。
 だから壁抜きなんてお茶の子サイサイ……って!?

「ディバイィィン、バスター!!」

 その声は引き金。
 トリガーヴォイスの名の通りに役割を果たしたソレは、そのモノによって破壊をもたらした。
 貫かれる天井。

 警戒態勢を強いていた庁舎内には、警官がいっぱい。
 となると、答えはどうなるか?



 A:みんな吹っ飛ぶ。



 極めて単純明快。
 その結果はすぐに分かった。
 C3軍団の屍(中身は生きているが)を越えて現れる、【魔砲少女】。

 いくら中身が無事だからと言って、ソレは許されることではない。
 それは少女の怪盗【ゴッコ】では済まされないのだ。
 そしてソレは、上の階から進撃してくる雷少女にも同じことが言える。

 ただソチラは広域魔法などは一切使わず、雷撃の初級魔法をスタンガン代わりにしようとするのみ。
 ……お~い?
 コレじゃあ、どっちがジュエルシードの強奪&襲撃犯か分からないじゃないか!?







 ――ドォォォォォォォォンッ!
 ――パリィィィィン!!



 ソレは人の形をした兵器。
 まるで屍で築いた路を行くが如く。
 その少女はあっさりとジュエルシードの待つ部屋にやって来たのだ。

「チィッ!!いくら何でも、あっさり来すぎだろう!!」

 ママ上様の怒声が響く。
 無理もない。
 警視庁の精鋭――C3-MILD軍団が一方的に蹂躙されているのだ。憤慨しない方がおかしい。

 ココは蒼の宝石を保管した部屋。
 今回の為に耐震・耐熱はおろか、複層構造で再設計された壁。
 ソレをいとも簡単に。非常にアッサリと破って来たのは、【ホワイトエンジェル】――――高町なのはの方が先だった。

 現在フェイトはC3-X、つまり水河真氏と交戦中。
 大魔法を庁舎内では使わないフェイトと、C3の上位機種で必死に闘う水河氏。
 そのチカラは……まさに拮抗している。

 同じ【科学】というベクトルで創られた、存在を異とするモノたち。
 片や【魔力】という存在を介して進化したモノ。
 そしてもう一方は【科学】のままで進化したモノ。

 フェイトの方が全力でないとしても、この庁舎の中がバトルフィールドなのだ。
 その【全力でない】力が、今の彼女の全力であると置き換えられる。
 故にその闘いは互角。

 人の行きつく先の光。
 ソレを確かに水河氏は掴みかけていた。
 まるで人の可能性を示すかのように。【ただの人間でも、ココまで行けるぞ】と言っているかのように。



 ――ドォォォォン!



 また一つ。また一つ花火が上がった。
 ソレはなのはの砲撃の結果。
 一つのC3と一人の装着員を吹き飛ばし、彼女は爆炎と共に現れる。

「そのジュエルシード…………渡して貰います!」
「……違うだろ?奪いに来た――――【盗み】に来ました……だろ?」
「……!!」

 ホワイトデビ……じゃなくて、ホワイトエンジェルと御母堂さまの会話。
 やっぱ現実を突きつけられるのは厳しいんだろう。
 覚悟はした。だから突き抜けてきた。

 でもいざソレを思い出させられると。
 自分の内側から嫌悪感と後悔と……凡そ負の感情のミックスが込み上げてくる。
 ソレが犯罪。ソレが人を傷付けるということ。

 確たる想いもない暴力は、人を簡単に瓦解させる。
 それは彼女の実家の剣術――【御神流】がそうであるように。
 正しき理と精神で抑えられない力は、ただの暴力。

「……そうです。だから…………ソレを渡して下さい!!そうすれば……!」
「……そうすれば?何だい?ソチラの要求を呑めばボクたちを傷付けない、とでも言うつもりなのかい……?」
「…………はい」
「……………………ハッ!」

 あ、キレた。
 それはもう、プッチンと。
 綺麗サッパリと、後腐れない程に切れてしまった。

「ジョーダンはそのカッコウだけにして欲しいね!!」

 切れてしまったのは【堪忍袋】。
 その持ち主は御母堂さま。
 つまり親愛なるマイマザーは、ホワイトマジシャンガールにご立腹なようです。

「良いかい?悪いコトをしたら、謝罪して罪を償う。ソレは何処の世界でも一緒なんだよ!例えソレが【魔法】だとか、【管理外世界】だとか、訳の分からん世界の話でもねぇ!!」
『……!?』

 驚愕は三者のモノ。
 一つ、【高町なのは】。二つ、【ユーノ・スクライア】。
 そして三つ目は言わずもがな、ボクのモノ。

「(……そうか、【読んだ】のか!?)」

 【読心】。
 ソレはボクとママ上さまが使える、共通の能力。
 レベルを上げれば上げる程、読み取れる情報は多くなる。

 故に心の奥底まで覗けてしまう、反則な手段。
 そう認識しているからこそ、普段はボクも母上さまも封印している能力。
 でもその必要は無い。そう判断したのだろう。

 だからこその封印解除。
 それ故の読心。
 よってなのはの内面情報は丸裸だ。

「オイ。ソコのフェレット!キミの方が詳しい情報を持ってるみたいだなぁ……?」
「心を……読めるっていうのか!?」
「……フン。やっぱり、しゃべれたのか。まぁ喋って変化する動物がいるんだ。オマエさんも同類か何かなんだろうねぇ……?」

 そう言えば久遠が居たか。
 ならそんな不可思議世界の話も、すんなり飲み込めるよな?
 ……というか、ボクたちHGSの存在も、普通に考えれば五十歩百歩か……?

『(フェル、バリアーを頼む。ボクは…………あのちっこいのに【お仕置き】してくるから……)』

 テレパシー。
 念話なんか使えなくても、ボクたちにはコレがある。
 だから負けない。魔砲少女になんて、負けてやらないんだから!








 




 無常だ。
 リスティがサンダーを幾ら落としても。
 またボクが如何に最大出力でバリアーを張っても、悪魔を止める術はなかった。

 非殺傷設定でも、人は傷付くし血を流す。
 ソレを見て心が痛もうとも痛まなかろうとも。
 止まってくれなければ、そこに大した差は存在しない。

「(ち、っくしょぅ……!やっぱ悪魔は悪魔なのかよ……!?)」

 未来は変えられない。
 いや。それどころか、ボクの知る【歴史】よりも悪くなっているじゃないか?
 どうして?ボクというイレギュラーが居るから?

 ならボクが死ねば?
 元通りになるっていうのか?
 ……いや。もうココまで来てしまったら、今更ソレだけで片付くとは思えない。

 悔しい。
 くやしい。
 スゴク、クヤシイ。

 転生して。HGSになって。力を手に入れて。
 何が足りないっていうんだよ!?
 どうしてこの【怪盗】たちを止められないんだよぉ!?

「……もう、立たないで下さい。すぐにいなくなりますから。お願いですから、その間だけ見逃してください……!」

 勝者の余裕か?
 それとも弱者への哀れみか?
 確かに彼女は――なのはは優しいかもしれない。

 でも違う。ソレは強者の優しさ。
 彼女の【強さ】というベールを剥いだ時、ソコには優しさよりも【恐怖心】が先に出てくる。
 他人への恐怖心。家族からの疎外心。それらが彼女を偽りの優しさや【チカラ】への依存を促す。

 それは違う。
 そんなモノに頼ってはダメだ。
 そんなチカラに頼らなくても、キミには大事な友だちも居るっていうのに……!

 【アリサ・バニングス】。
 【月村すずか】。
 少なくともこの二人は、魔法がなくなっても――そんなモノがない【素のままの】高町なのはの親友だろうに!!

「(……言葉にしたい。でもチカラのない言葉は、なのはの心には響かない。どうすれば、どうしたら……!!)」

 ……ん?
 何だ?何かが今、引っかかったような気が……?
 アリサ……違う。すずか…………違う、けど……何か近いような……?

 ソレは予感。
 何かが開く。何かを思い出すキッカケ。
 もう少し。あと少しで、【何】が開くっていうんだ……?

「(【す・ずか】……【せ・ずか】…………違う。何か遠くなった。じゃあ、【し・ずか】……?)」



 ――カチリ。



 何かが填まった。
 まるで穴だらけのパズルのピースが埋まるように。
 奔流が巻き起こる。

 まるで八ミリビデオのテープが巻き戻されるように。
 一コマ一コマが鮮明に蘇り、そして流れていく。
 逆行する記憶。思い出される存在。



 覇王少女。
 シズカ・ホクト。
 メイド害。 
 ルナパパ。
 クライド。
 レジアス。
 ゼスト。
 リンディ。

 三提督。
 機動六課。
 勇者ロボたち。
 スカリエッティ。
 そして。
 そして…………【月村静香】の、姉妹たち。



「(ボクは……ボクは…………!?)」



 最初の人生。
 御神の剣士として生きた人生。
 魔導師として。そして医者として生きた人生。

 【月村静香】。
 【シズカ・ホクト】。
 再び一般人の人生を歩み…………そして【今のボク】が居る。

 もしかして最初の人生は、ボクが初めだと【思い込んでいる】だけかもしれない。
 でも関係ない。ボクは既に幾つもの人生を生きた。
 その分の記憶が、いっぺんにボクに還ってくる。

「(…………ッ!?痛い、痛いって……!?)」

 頭が焼きつきそうになる。
 元に【戻った】記憶は、魂が記憶し、そして【封印】していたモノ。
 魂は同じ。魂は消滅せずに、ずっと生き永らえてきた。

 つまりボクは死んでいない。
 ずっと死んでいなかったのだ。
 故にボクが死なない限り消滅しない、【ボクの剣】はボクの下へやってくる。

 ボクだけの剣。
 ボクの為だけに創られた、【シズカの剣】。
 時も場所も。あらゆる障害を越えて、アイツはボクの手に戻ってくるんだ!



 ――キィィィィン!



 鳥の翼を思わせる鍔。
 その中央に填め込まれた宝玉。
 ボクが死なない限り、その輝きが失われるコトはない。

 故に輝き続けていた。
 まるでボクの【帰還】を待っていたかのように。
 そしてソレが、当然だと言わんばかりに。



 ――シャァァァァァァァァ!



 スプリンクラーが発動し、ソレが煙と混じって霧状になる。
 好機だ。
 その霧はまるで、ボクの帰還を祝福するかのように、ボクに纏わり付いてくる。

 メキ。メキメキ……!
 バキィ。ボキボキボキ……!!
 ソレは【変身】。

 ヒーロー戦隊や、マスクドライダーとは違う。
 正真正銘の【変身】。
 強いて言うのなら、【オカマ口調の変身型宇宙人】に似ているかな?

「……あなたは…………誰、ですか……?」

 霧が晴れると、ソコに居たのは別の生物でした。
 そんな状況に遭ったら、誰でも驚くし恐怖するだろう。
 今度恐怖するのは向こう。そんで恐怖させるのは……当然ボク。

「……覚悟するんだね?この姿になったら、前ほど優しくはないからねぇ……?」

 そこに居たのは。
 今ココに居るのは……。
 紛れも無くその存在は……!

「……元【時空管理局特殊治安維持部隊】部隊長――――【シズカ・ホクト】。ボクがキミたちを【お掃除】しよう!!」

 かつて【覇王少女】と呼ばれた存在だった。






[8085] 真・転生日記【オヤジ】風味 ――『妖精は覇王の夢を見る!』 01
Name: satuki◆b147bc52 ID:af7c659b
Date: 2009/06/29 21:17



 前回のあらすじ:皆が待ってた【覇王少女】。常識破って、ただ今復活!



「……覚悟するんだね?この姿になったら、前ほど優しくはないからねぇ……?」

 そこに居たのは。
 今ココに居るのは……。
 紛れも無くその存在は……!

「……元【時空管理局特殊治安維持部隊】部隊長――――【シズカ・ホクト】。ボクがキミたちを【お掃除】しよう!!」

 かつて【覇王少女】と呼ばれた存在だった。























「さ~て、レッツお仕置きタ~イム♪」

 小脇に抱えたのは【魔砲少女】。
 既にレイジングハートさんは待機状態に戻っており、淫獣は逃げないようにケージに入れました。
 えっ?何でバトルパートが飛んでるかだって?

 だって意味が無いんだよ?
 たった一行で終わるモノを、延々と書き綴れと?
 そう。本当にたった一行で済むんだ。



 【顔を合わせた瞬間に、勝負は付いていた】



 ホラ?たった一行だろ?
 大体基本スペックからして違うんだ。
 魔法がないと運動音痴な少女と、屈強な歴戦の勇士なボク。

 一瞬で間合いを詰めて、レイハさんを叩き落す。
 そして首に手刀一発。
 ……ってしたかったんだけど、最初に対峙した時には既にケリが付いてしまっていた。

 ボクの顔は凶暴です。
 すっかり忘れかけてたけど、ボクの顔を初見で気絶しなかったのはリンディ嬢のみ。
 つまり如何に未来の【魔王】とて、ボクの【顔撃】からは逃れられなかったという訳さ。

「良~し。それじゃあ、【オシリペンペンの刑】の執行だぁぁぁぁっ!!」

 古来より、悪いことをした子にはコレが一番。
 ただ従来のモノと比べると、ボクのはもっと恐ろしいモノだけどね?
 一応手加減はしてるんだけど、ソレでもこの刑の受刑者は素晴らしいヒップの持ち主になる。

 つまり【腫れてる】とも言うべき現象。
 小さな子どもでも、大人顔負けのヒップに大変身。
 ……どうだい?スゴイだろう……?

「いたい!痛い!」
「痛くなくちゃ、罰にならないだろうが……!」

 悪い子には容赦の無いボクであります。
 ともかく、コレでなのはサイドは抑えた。
 それじゃあ…………フェイトの方に行くとしますか?

「御嬢ちゃん……?ココから先は、ボクが相手だよ…………って、キミもかい?」

 以下省略。右に同じ。
 フェイトもボクの【顔撃】には耐えられませんでした。
 ちなみに水河氏は、ボクが行くまでフェイトと互角の闘いをしていた。

 素晴らしい。
 地球で、それも御神とかの化け物集団でもない一般人が、【逸般人】になっているとは……。
 コレだから人間って言うのは面白いよね?












 警視庁の取調べ室。
 流石にいつまでもシズカ・ホクトで居ると、被害が甚大過ぎるので、フェアリィに戻っておりまっする。
 御母堂さまには【ホクト形態】を、能力の一つッポイと言って誤魔化した。

 流石、顔を突き合わせて説得した甲斐があるっていうモノ。
 途中で何度も気絶されたのは若干ショックだったが、ソレだけで納得してくれる(させたとも言う)なら、お安いものだ。
 さて……話を元に戻すか?

 現在この部屋に居るのは、ボクと母上さま。
 そんで、捕まえたフェイトとアルフ。
 そして……。

「……本当に申し訳ありませんでした。私の監督不行き届きで…………」

 何故か涙を流している、【プレシア・テスタロッサ】さんです。
 未成年が犯罪を行った場合、保護者を呼び出すのが通例でござる。
 だからその慣習に従い、呼んでみました。以下はその時のやり取りである。

『もしもし?テスタロッサさんのお宅ですか?』
『……そうだけど…………貴方何者?』
『警視庁の水河と申します。本日お電話したのは、娘さんであるフェイトさんの事でお電話したのですが……』

 ココは次元空間に浮かぶ、【時の庭園】。
 今この手に有るのは、何時の間にか存在していた黒電話の受話器。
 ……マテと。色々と突っ込みを入れたいが、プレシア・テスタロッサは頑張って耐えた。

 小皺が気になり始めて、はやウン年。
 四十歳という、【年齢】という名の自分との闘い。
 ソレは日々の生活の中でも行われる。

 洗顔一つとっても気を使い。ずっと引き篭もり生活をしているのに、UVカットとかにも気を遣い出す始末。
 【どっこいしょ】という言葉が無意識に出るわ、風呂に入れば【ふぃぃぃぃ、極楽極楽♪】と言ってしまう現状。
 そんな自分に嫌気が差しつつも、必死に抵抗するプレシアさん。

 だからこの程度の状況を耐えることなど、彼女にとっては造作もない。
 顔では困惑、心で涙。素晴らしい程の演技派である。
 ……でも何故だ。何でこんな状況になっているのだ……?

『……ッサさん?テスタロッサさん?』
『…………ハッ!?ご、ごめんさい……ちょっと放心してしまって……』
『いえ。無理もないと思います。娘さんがそうなったら、誰だって同じような反応をしますから……』

 内容を要約すると、フェイトが警視庁とかいう治安維持組織の本丸に突っ込んだ。
 ソレはジュエルシードを盗む為。
 ただ幸いなことに、フェイトは殆ど警官を傷付けていないので、保護者を呼んで【超】厳重注意。

 それは元々、罪がもう一方に比べて軽いというコトと、対峙した水河の嘆願によるモノだった。
 何か、【仕方なしに闘っているような眼】だったと。
 ソレを見抜いた水河氏が、保護者の話を聞いてから判断することで終結。

『……ということなので、申し訳ないのですが……』
『…………分かったわ。ソチラまで行けば良いのね……?』

 かくしてプレシア・テスタロッサの、【初めての(管理外世界第九十七番での)お出かけ】イベントが発生したのである。
 「あの人形、本当に使えないんだから……!」とか思いながらも、この事態を平然と受け入れている自分が居ることに、彼女は最後まで気付くことがなかった。
 ……余談だが、【警視庁を騙った詐欺】かもしれないとビクビクしながら出て行ったのは、彼女だけの秘密である。







 こうしてフェイトの方は意外な程あっさり片付いたのだが……。
 なのはの方は、そうは問屋が卸さない。
 彼女は傷害や公務執行妨害など、罪状を挙げればキリが無い状態だった。

 勿論フィリスやセルフィのような状況もあるので、ソレでも無罪放免にすることは出来なくも無い。
 この世界はそういったコトに寛容らしく、ソレは【リリカルなのは】シリーズでも随所に登場する。
 だから地球だろうがミッドだろうが。

 無罪で釈放や、保護観察処分などが可能なのである。
 ……だがそれをやる為には、彼女に責任能力がないことを証明しなければならない。
 そして登場したのは、彼女の(頭がぶっ飛んでる)父親【高町士郎】。

 保護者を呼んだので来るのは当然だが、事情を説明している内に、何だか怪しい雲行きになってきた。
 「ウチのなのはが、そんなことをする訳がない!!」とか、「貴様ら!さては御神に恨みを持つ奴らだな!!」とか。
 勝手に勘違いし、どんどんエスカレートする思考。

 ついには隠し持っていた小太刀を抜き、警官に襲い掛かる始末。
 ソコで警察は思った。
 こんな親では、この娘がこうなってしまったのは仕方が無いことだと。

 幸い、次になのはを引取りに来た人間(桃子)は常識人だったので、なのはは母と共に帰宅。
 その代わりに喫茶【翠屋】のマスター、高町士郎が逮捕されましたとさ。
 ……まぁ。彼が居なくても翠屋は普通に回るので、問題ないと言えばそうなのだが……。
 
 後日。釈放された士郎となのはは、揃ってフィリス・矢沢のカウンセリングを受ける羽目に。
 ソコでフィリスの出した結論は、【娘の方は矯正可能。父親の方は…………お気の毒ですが……】だったらしい。
 こうして警視庁のブラックリストに、【高町士郎】の項目が加わり、そしてソコには★★★★★の評価が下されたのだった。













 ――プシュゥゥゥゥ!



 地球ではない【何処か】。
 今その場所では、シズカ・ホクトの覚醒と合わせたかのように、一つの医療カプセルの扉が開いた。
 黒髪の美青年。

 まるで以前から時が止まっているかのような、老いの皆無さ。
 長い間閉じられていた双瞼が、ゆっくりと。本当にゆっくりと開かれていく。
 刻が動き出したのだ。

 彼の目覚めは、【彼の者】の覚醒が引き起こしたモノ。
 変わる物語。
 その変化の先に何が待っているのかは…………今は誰にも判らないコトだった。














 あとがき

 >誤字訂正


 俊さん。毎度ご指摘いただき、本当にありがとうございます!!
 今回は凄く多かったようで…………本当に申し訳ありませんでしたぁぁっ!


 >感想


 皆が大好き、覇王少女。
 ……の復活だったせいか、感想数が十四個も!!
 皆様、ありがとうございます!

 頂いた感想は、いつもsatukiのエネルギーとなっています。
 なので、すごい嬉しいです!
 ありがとうございました!!













―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 以下、本編とは何の関係も無いお話。
















【デザイア】






「……バブー」

 目が覚めたら赤ん坊になってました。
 コレで幾度目だろうか?
 もう数えるのも馬鹿らしい位の転生人生である。

「……ウゥ」

 今までを振り返ってみると、ボクは一体何処の聖人君子なのだろうかと問い詰めたくなる。
 思い返すと、何時も何処かでフラグらしきモノはあった。
 でもボクは気が付かなかった。

 フザけたフリをしながらも、結局ボクは何時も世界平和の為に奔走していた。
 本人はそんなツモリはないのに。
 結果としてはそんな【善】を押し付けられた人生を、幾度も幾度も繰り返していた。

 良く馬鹿は死ななきゃ直らないというけど、まさにその通り。
 死んだら理解出来た。
 きっとこの言葉を考え付いた人は、転生者だったに違いない。

 ともかくボクの人生は【エロス】の欠片もない、エロゲーからエロを抜いたようなモノだったのだ。
 ……ソレって商品価値あるのか?
 どうせだったら、最初からコンシューマ機体でのデビューがしたかった。

 まぁ、中にはエロを抜いても成立する素晴らしい作品もある。
 ……というか、エロスがオマケ程度のモノもある。
 だがソレでもその内容はスバラシイのだ!

 とか、今受信した毒電波を言葉にしてみる。
 病気かな?病気じゃないよ?電波だよ?
 ちょっと有名な歌のリズムで歌ってみたけど、明らかに内容が浮いている。

「ブゥ……」

 何回も転生を繰り返すと、若干肉体の影響を受けるものの、その精神は達観したモノとなる。
 つまり常時賢者モード。
 ……有り得ない。我がコトながら、良くそんな人生を幾度も歩んできたものだ。

 通常の人間だったら、恋人作って結婚して……子どもを作っていることだろう。
 でもボクはそういう考えにならなかった。
 思考回路の破綻か。それとも脳に異常があったのか。

 どちらでも良い。
 今の現実として、それらを過去の自分として見られるのは幸いなこと。
 そのキッカケが看護士に頭から取り落とされたからとかいうのは、どうかと思うが。





 良し。まずは聖王教会を目指そう。
 あそこに行けば、きっと誰かしらが保護してくれるに違いない。
 時代背景は不明だが、きっとカリムはいるだろう。居るに決まっている。

 じゃないと話が進まない。
 病院をハイハイで進み、入り口までやってきた。
 ……弱った。自動ドアが反応してくれない。

 最初の敵は、無機物だった。
 それもストライクゾーンが(体重的に)小学生からご老人までというツワモノだ。
 そんな強者が、おいそれと通してくれるハズはない。

 仕方が無いのでストレッチャーの脚にしがみ付き、ソレの移動と共に病院を脱出した。
 おのれ、自動ドアめ……。
 この借りは、いつかキッチリ返させて貰うからな!!









 ――【拾ってください】



 聖王教会の門の前。
 乳幼児の入ったダンボールが一つ、ポツンと置かれている。
 中に入っているのは、厚顔美麗な赤ん坊。

 ……ウソです。
 まだそんなコトが判明する前の、猿みたいな時期です。
 何とかハイハイと強化魔法だけで、ココに辿り着いたボク。

 とりあえず転生者のスペックを活かして、人払いの結界を設置。
 こうすれば弱者は近付かず、強者が見に来る。
 そこから辿っていけば、きっといつかはカリムの所に着くでしょう。

 以前の転生の時を思い出すと、彼女はとってもグラマラスになるコトが確定済み。
 ならば変な虫が着く前に、ボクが抑えてしまおう。
 と、いう作戦なのだ。

「……?こんな所に赤ん坊が……?」

 誰かが網に引っかかったようです。
 長い髪……○。
 丁寧な喋り方……○。

 カリムか?カリムなのか!?
 ハリー、ハリー!!はやくその顔を見せてちょうだいな!!

「参ったな……。キミもボクと同じ境遇なのかい……?」

 ……チェンジ。
 ねーよ。この展開はねーよ。
 男だったら、そんな糞長い頭に何かするなよ!!紛らわしいだろうに!!

「……ブゥゥッ!!」

 将来のスケコマシ査察官を、魔力を込めた拳で殴る。
 例え赤ん坊の力でも、握る力は大したモノ。
 ソコに魔力を加えれば、腕白の小僧などイチコロよ。

「ブファァァァッ!!」

 派手に吹っ飛ぶヴェロッサとかいう人。
 良いリアクションだ。
 ミッドでお笑いを普及したらどうだい?






「ブゥゥ……(良いか?あの胸は既にボクのモノなんだ?コレで分かっただろう?義弟フラグなんてとっくにスルーで、今は【養子】フラグの時代なんだよ!)」
「な、何だってぇぇぇぇ!?」
「ロッサ……?赤ちゃんを相手に、一体何をやってるんですか……?」

 ヴェロッサにのみ伝わる念話。
 ソレが分からない周囲からすると、今の彼は頭が可哀想なヒト。
 ケッケッケ……!コレでヤツの評価は、どん底よ……!






「あのね?ボクが大きくなったら、おかーさんをお嫁さんにするの!!」
「……まぁ。ありがとう、嬉しいわ♪」

 お子様恒例の、【将来ママ(パパ)のお婿さん(お嫁さん)になる!】発言。
 当然カリムは本気にしていない。
 だがソレは、ある意味チャンス。

「……ホント?」
「えぇ♪」
「ホントにホント?」
「本当に本当よ?」
「じゃあ……コレにサインして!!」

 取り出したのは一枚の紙切れ。
 しかしただの紙切れと思うこと無かれ。
 それはある意味世界で一番重い紙なのである。



 【婚姻届】



 軽い調子でサインしてから。
 カリムはその用紙に、司祭のサインが入っていることに気が付いた。
 つまりソレは正式なモノ。

「…………きゅう」

 あ、倒れた。





[8085] 真・転生日記【オヤジ】風味 (以下略) 02  【復活したイレギュラー】
Name: satuki◆b147bc52 ID:357ed953
Date: 2009/06/29 21:25



 前回のあらすじ:復活したのは覇王少女と…………誰?



 暗い空間。
 その場所に最後に灯りが照っていたのは、もう数年前のことになる。
 広大なスペースの中に、ポツンと置かれた生体ポッド。

 そのポッドのみが静かに動き続け、その中身が癒され続けて数年。
 かつて大量の血を流し、皮膚が抉られ、そして歩くこともままならなかった身体。
 だがそのどれもが、今の【彼】には存在していなかった。

 完璧。
 此の世に完璧というモノは存在しない。
 だからこの言葉を使うこと事態が、本来ならあってはならないモノ。

 しかし現実に。
 負傷箇所はおろか、嘗ての鍛え上げていた筋肉までも元通りとした場合。
 それは完璧と呼んでも、差し支えはないのではないだろうか?

 やや蒼みがかったワイルドな黒髪。
 意思の強そうな瞳。
 医療ポッドの脇のケースに入っているのは、黒いカード。

 ソレは有り得ざるモノ。
 柄の先端に円柱状のパーツ。
 更にその側部には翼状のパーツが一つ。

 最先端には円状のパーツが取り付けられて、そのデバイスは完成する。
 そのデバイスの待機状態が、その【カード】。
 黒い長方形の中央部に輝く、蒼い宝石。

 そう。
 ソレは【クロノ・ハラオウン】が所有し、今も彼の手元にあるハズの存在。
 【S2U】と呼ばれるデバイスと、相違ないモノだった。























 死んだ人間は生き返らない。
 コレは何処の世界でも共通の理である。
 中には教会に行って、金で蘇らせてくれる世界もあるらしいが……それは現実とは別世界の話だ。

 つまり何が言いたいかと言うと。
 【シズカ・ホクト】は蘇っていない。
 今のシズカ・ホクトは、【フェアリィ・槙原】の偽装なのだ。

 勿論中身は同じだし、変身すれば外見はおろか、DNAまでも一緒になれる。
 だがソレは、本来あってはならないコト。
 自然という理を捻じ曲げ、ボクのみが出来る【反則】。

 コレは【蘇生】でなく、まさしく【変身】なのだ。
 故にこの姿になることは、普段はあってはならない。
 特にミッドでは(ある意味)有名人だったボク。

 つまり【ホクト形態】は奥の手。
 切り札というヤツだ。
 ……でも待てよ?

 ホクト形態になっていても、変装していれば……?
 う~む。
 一考する価値はある……かな?

「え~と。静香、静香。月村、静香……っと」

 インターネットに接続し、検索サイトで嘗ての自分の名前を入力する。
 恐らくボクの予想が正しければ。【この世界】の【この時間】には、【月村静香】が存在する。
 この考えに至った経緯は幾つかある。

 一つ。警視庁にC3軍団が居たコト。
 二つ。【ホクト形態】にはなれるのに、【月村静香】形態にはなれないコト。
 三つ。【接触】が出来ないコト。

 偶然を装ったり、ありとあらゆる方法を考えて実行したのだが……。
 ダメだった。それは【シズカ・ホクト】としても【フェアリィ・槙原】としても。
 ともかく月村家の【長男】という存在に接触するコトは出来なかった。

 ソレは偶然ではないのだろう。
 【彼】は、過去の自分だ。
 今のボクが居るのは彼のお蔭。

 つまり【彼】の人生は既に固定されたモノで、だからこそボクの存在が肯定されるのだ。
 よって【彼】の人生には干渉出来ないし、【彼】もボクの人生には関与出来ない。
 ボクは【彼】の行く末を知っている。

 だからやろうと思えば、【最期の刻】を回避出来るのでは?と思った。
 だがソレをやれば、【今のボク】は存在しないコトになる。
 親殺し……とは違うが、ある意味同じなのかもしれない。

「…………あった」

 【月村静香】。
 警視庁に協力するような人間。
 ならばインターネット上で名前が載ってない方がおかしい。

 そしてこのワードのヒットは、ボクの考えの裏が取れたことにもなる。
 干渉出来ない、【もう一人のボク】。
 ココから先はただの予測だが、【彼】の死後に【彼】の姿と能力を引き継ぐコトになるのだろう。

 世界は循環する。
 止まることはなく。止まったように見えても、ゆっくりと先に進もうとしている。
 この世界は……一体何処へ向かおうとしているのだろうか……?














「……なぁ、フェル……?」
「な~に?こうすけ~?」

 さざなみ寮のリビング。
 平日の昼間は殆どの人が出払い、ココに居るのは耕介とボクのみ。
 耕介が忙しなく掃除やら洗濯やらで動き回る中、ボクはソファーに寝転んでテレビ三昧。

「……学校は行かないのか……?」

 ……あぁ良かった。
 ココで【働け!この駄ニートがっ!!】とか言われたら、どうしようかと思った。
 考えたら、ソレは無理な注文だよね?

 如何に中身が大人(というには歳が行き過ぎているが)であっても、外見は子どもなのだ。
 某【子ども先生】でもない限り、この歳から働いているヤツはいないだろう。
 ……【子ども先生】、だと……?

「(……なのはの【教育】の為にも、ボクはいずれ聖祥に入学するつもりだった。ならいっそ、【先生】として……?)」

 有りと言えば有りだ。
 先生なら思想誘導だって、簡単に出来てしまう(本当はダメだが)。
 ならば【子ども先生】も有りだ。

「(……でもまだ確定しない方が良いな。他にも方法があるかもしれないし……)」

 手の一つとして、頭の片隅に置いておく。
 今はその程度で良い。
 それよりも今は、現実に戻ってこよう。

「……う~ん。今年中には行くから、もうちょっと待ってくんない?」
「まぁリスティたちだって、すぐには行かなかったから良いけど…………何か理由でもあるのかい?」
「何となく、かな……?」

 勿論理由はキチンと存在する。
 今学校に行っても、なのはは【上の空】か【自主休校中】だろう。
 つまりボクが学校に行っても、なのはを【教育】出来ない。

 ならば【P・T事件】が終わってからの方が、何かと都合が良い。
 それより今は、【月村静香】と活動範囲が被らないようにしつつ、力を蓄えた方が良いだろう。
 いつ。そして何処で本筋に関わるかは不明なのだ。

 なら【その刻】の為に、少しでもチカラを手に入れる。
 ソレが今のボクのすべきコト。
 だから学校には行かない。……別にサボリって訳じゃ、ないんだからね!?

「こーすけ。ちょっと出かけてくるね?」
「良いけど……誘拐犯には気を付けろよ?」
「ノープロブレム。もし来たら、返り討ちにしてあげるよ……♪」

 約一年間で鍛えられた能力。
 その発露のキッカケとなった、【超】連続誘拐事件。
 別に油断するつもりはないが、今はさらに【ホクト形態】まであるのだ。

 最悪、捕まってからソレになれば良い。
 美少女を捕まえたと思ったら、ソイツは【覇王少女】でした。
 ……何だそれは?明らかにホラー映画級の怖さじゃないか?

 我がことながら、非常に恐ろしい。
 どう考えても、トラウマ確定だ。
 もしそうなったら、犯人にはご愁傷様としか言いようが無いね?






 転送魔法を使用し、かつての職場に。
 次元空間に浮かび、光学迷彩などで秘匿された【ソコ】は、数年の歳月を経ても埃一つ落ちていなかった。
 昔はそれが全て人の手で行われていたのに対し、今は全自動で行われている。

 そう設定したのは、かつての部下。
 ボクが。ボクたちが【ココ】に帰ってこなくなった時に、そう設定したのだろう。
 彼らしい不器用な心遣い。ありがたくて涙が出そうだ。

 長い廊下を進み、漸くお目当ての部屋の前に来る。
 プシュー!という音と共にロックがはずれ、扉が開かれる。
 ……暗い。だが【何か】が居る。

 静かだが、何者かの気配を感じるのだ。
 誰が。と問うのは、この場合相応しくない。
 復活していたのか?と問うのが正しいだろう。



 ――キィィィィンッ!



 甲高い音と共に、蒼い光が一筋。ボクに向かって飛んできた。
 ソレは見慣れたモノ。
 見慣れ【過ぎる】くらい良く見たソレは、避けるコトも容易かった。

「……ハァッ!」

 避けた先への攻撃。
 定石通り。
 ボクが教えた、【ホクトの教え】の通りだ。

「……来い、剣よ!」

 光と共に現れるのは【シズカの剣】。
 ソレに雷撃を絡ませれば、雷撃剣となる。
 雷を帯びた剣で一閃。一閃。もう一つ斬撃。

 すると相手の移動範囲は狭められ、そこに固定空間が出来上がる。
 でも相手は障壁を張っている。
 ならばどうすれば良い?

「(決まってる!障壁ごとふっとばせば良いんだ!!)」

 筋肉が隆起し、体格が変わる。
 この身体になれば、障壁など関係ない。
 文字通り、特殊なことは必要ない。【気合と根性】で、全てを吹っ飛ばせるからだ。



 ――ドォォォォンッ!



 壁に叩きつけられる対象。
 その気配には覚えがあった。
 というより、覚えが無い方がおかしかった。



 ――カチ!



 電灯のスイッチの場所を思い出し、ソレを押し上げる。
 黒髪。黒い将官服に、白いスラックス。
 そう。ソコに居たのは……。

「……退院おめでとう、とでも言えば良いかな……?久しぶりだね、クライド少年……?」
「…………お久しぶりです、ホクト執務官長……!!」

 在りし日のままの【クライド・ハラオウン】。
 若き提督として活躍していた時のままの彼が。
 本来居るはずのない存在の彼が。

 刻を越えて復活したのだった。














 あとがき

 >誤字訂正


 俊さん。毎度ご指摘いただき、本当にありがとうございます!!





[8085] 真・転生日記【オヤジ】風味 (以下略) 03  【お約束は突然に】
Name: satuki◆b147bc52 ID:6f9d5233
Date: 2009/07/03 18:58



 前回のあらすじ:復活したのは、【ハラオウン・ハーマイ……じゃなくて、クライド・ハラオウン】。



 【ラグナロク】の中からコンニチワ。
 ……そう言えば、こういう挨拶って凄く久しぶりな気がする。
 こういう、ユル~いテイストを忘れちゃダメだよね?

「……で?クライド少年も、ちょっと前に目覚めたばかりってコト、なのかい……?」
「ハイ。相当な深手だったからでしょう……。完治するまでに、これ程の年月を費やしてしまうとは……」

 死に掛け。
 ソレも五分の四程、【三途の川】に浸っていたクライド少年。
 そうなれば、どう考えても完治には時間を要する。

 ……というか、助かったコトが奇跡に近いのだ。
 本来死ぬはずだった彼。
 その生存が決定した今、今後の見通しは立たなくなった。

「まぁまぁ。助かっただけ、良かったってコトに……」
「……出来る訳ないじゃないですか!?ボクのせいで、執務官長を死なせてしまったのですよ!?」

 そうだった。
 ボク的にはもう昔の思い出の一つなのだが、彼にとっては先日の出来事。
 それも、自分の代わりに嘗ての上司が身代わりとか……。ウン、確かに引き摺るなって方が無理だな?

「……アレ?そう言えば執務官長……何で生きてるんです!?」
「…………遅いよ。時間差ボケかい?」
「だ、だっておかしいじゃないですか!?実は死んでなかったとかですか!?」

 覇王少女なら、確かに生き残っても不思議は無い。
 それ程異常なスペックと、物理法則とかを無視出来る存在だからだ。
 でも残念。

 覇王少女にも不可能はある。
 ボクには【アニキ成分】が不足しているから、【不可能を可能にする】コトは出来ないのだ。
 ……ほんっとぉ~に残念だけどね?

「つまりぃ、カクカクシカジカ…………という訳で」
「……何と。この世界には、不思議なコトがあるのですねぇ……」

 こういう時、付き合いが長い人間はラクだ。
 説明が一行で片付くからね?
 流石はボクが鍛えただけある。意思疎通はバッチリだ。

「と、いう訳で復活したボクらだけど……」
「……今後どうするか、ですね……?」

 理解がはやくて助かる。
 実際ボクは苦労しない。
 【フェル】としても【亡霊(ホクト)】としても活動出来る。

 だが問題はクライド少年だ。
 戸籍上は死んだコトになっている彼。
 別に戸籍の復活は難しいコトではない。

 しかしそうすると、別の所に歪が出来る。
 下手をすると【闇の書】事件そのものが、おかしな方向に。
 クライド復活→グレアムもしかしたら撤退(デュランダル創らないかも)→ヴォルケンズ、蒐集が上手く行かないかも。

 結果。海鳴市をというより……【地球】を巻き込んでの大暴走。
 …………どうしよう?
 ボクという存在が居る以上、【月村静香の最期】までは歴史に干渉は出来ない。

 つまり闇の書事件は、解決するのだ。
 ソレは確定事項。
 つまりクライドの復活は、【歴史】にあったかもしれないが、表世界には出現しなかったということ。

 よって【クライド・ハラオウン】の復活は、少なくとも【機動六課の休日】以後というコトになる。
 でも戸籍がないと、生きていくには不便だ。
 それに定職にだって就けやしない。

 ……うん。
 とりあえず地球での――海鳴での戸籍を用意しよう。
 ボクが現在ソコを拠点としているから、その方が都合が良いしね?

「と、いうワケでクライド少年?キミの(仮)の名前を決めようと思うのだけど……」

 黒髪だし日本人名の方が良いかな?
 そうすると……【クライド・ハラオウン】→【ハラオウン・クライド】→【原尾倉井戸】。
 ……井戸は無いか?【蔵人】にするか?

「良し。今日からキミは、【原尾蔵人】だ♪」

 こうしてクライド少年は、第二の名前を使って生きることとなった。
 もっとも、この日の内に【コードネーム】という名の【第三の名前】を使うことになるとは……。
 流石にこの時点では想像出来なかった。























 名を決め、戸籍を用意し、そして居所をどうするか考え中に。
 その事態は起きた。起きてしまった。
 どうしてボクは、ラグナロクに乗っていると【事件】に遭遇してしまうのだろう?

 前回は【シズカ・ホクト】の最期の時。
 つまりクライド少年を助けた時。
 どうにもボクとラグナロクは、luck値が低いらしい。

「……ところでクライド少年や……?」
「……何でしょう、執務官長?」
「あすこに見えるのは……もしかしたら時空管理局の艦船じゃないかい……?」
「…………本当だ」

 現在ラグナロクが漂っている次元空間は、管理局に見つかりにくい空間である。
 ところが先程から、その【見つかりにくい】空間に異物が二つ程現れた。
 先に来たのは本局のような広大さを持った、まるで【島】のようなモノ。

「ん?もしかしてアレって…………【時の庭園】か?」

 無印のボスキャラ、【プレシア・テスタロッサ】の居城。
 次元空間に浮かぶ広大なソレは、明らかにボスキャラの城だ。
 そしてソレに対面するのは、【正義の味方】――【アースラ】というコトか。

 既に庭園のアチコチから火花が出ているのを見るに、なのはやクロノが既に潜入済みなのだろう。
 アースラの内部はどうなっているのかな?
 ちょちょっと、ハッキングして…………出た。

 既にフェイトは立ち直り済みで、リンディも現地入りしたトコロ。
 ……さて、どうするべきか?
 この件に【月村静香】は関わっていない。

 つまり【ボク】が関わっても問題はないのだろう。
 でも出来るなら、正体は隠した方が良いだろう。
 むむむ……!どうする?知らん振りする?それとも……。

「……リンディ。ちっとも変わらない……昔のままだ」

 思考するボクの横では、クライド少年が奥方の活躍場面を、目尻に涙を溜めつつ見ている。
 場面が切り替わり、今度はクロノを映す。
 無論、コチラでも感動。

 まだ五歳にも満たなかったクロノが、今は十四歳だ。
 成長著しい……とは言えないが、それでも我が子の成長振りを見て、彼は感動している。
 無理もない。今のクライド少年は浦島太郎状態なのだ。

 ……っていうか。
 今気付いたんだけど、リンディ嬢が【昔のまま】っていうのは……。
 やめよう。女性には様々な神秘が隠されてるんだ。

 例えばボクの【漢女力】とか。
 ……え?
 ソレは違うって?

「(リンディ嬢が【羽】を広げてるところを見ると、ソロソロ終了かな……?)」

 リンディは現地入りはするものの、駆動炉やプレシアの所へは行かない。
 彼女の役割は【次元震】を食い止めるコト。
 だから、当然のコトと言えばそうなのだが……。
 
「(……ちょっと気になるのは、まだ駆動炉が停止していないことだな。このままだと、リンディ嬢のトコロにも敵の兵隊が現れることも……)」

 在り得る。
 そう言いたかったのだが、それが最後まで続くことはなかった。
 巨大な鎧たちの群れが。彼女目掛けてやって来たからだ。

「!?し、執務官長!!」
「…………良いよ。どうせ止めてもムダでしょう?ならせめて、【この格好】をして行きなさいな……?」
「……!あ、ありがとうございます!!」

 手渡したのは、黒衣の正装。
 タキシードなスーツに、シルクハット。
 勿論マントと仮面はお忘れなく。







「……ッ!?そ、そんな…………。まだ機械兵が動けるというの……!?」

 それは予想外。
 戦力の見積もりミスとも言える結果が、今リンディの目の前に迫ってきていた。
 本来だったら駆動炉を止め。プレシアを押さえ。そして自分が次元震を抑える。

 それで解決するハズだった事態。
 ところが予想外に駆動炉に戦力を固めていたのか、なのははまだ駆動炉を止められずにいた。
 エイミィからの通信で、フェイトがなのはの援護に回ったコトを聞く。

 だからあと少し。
 あと少しで、全てが終わる。
 そうなるハズだったのに……!

「(……次元震を抑えるのに殆どの魔力を費やしているから、簡単な障壁魔法位しか張れない……)」

 かと言って、自身の防御に魔力を割けば、今度は次元震が起こり得る。
 アチラを立てれば、コチラが立たず。
 まさに二律背反。

「(任務か。自分の命か……【あの人】だったら、どちらを選んだかしら……?)」

 亡き夫と共に、沈み逝く艦船に残った【あの人】。
 自分の尊敬するべき存在だったヒト。
 いや。それは今でも変わらぬことだ。

 あれから数年。
 自分はどれ位、【あの人】に近づけただろうか。
 きっと、まだまだだ。

 【あの人】ならこんな事態、「どっちも護るに決まってるだろう?」とか言うに違いない。
 あぁ、そうだ。
 そうに決まっている。

「(自分を犠牲にして皆を護るのは簡単。でも……!)」

 それでは残された人間はどうなる?
 そのことは、自分と息子が一番良く知っている。
 ……諦めない。だから絶対に、諦めるわけにはいかない……!



 ――ブゥゥゥゥンッ!



 機械兵の巨大剣が迫る。
 でも動かない。
 ギリギリのギリギリまで。

 最後の最後まで、知恵を振り絞るんだ。
 ソレが今の自分に出来る、唯一のコト。
 そうだ。今の自分には……!



 ――キィィィィン!



「…………え?」

 最後の瞬間は訪れなかった。
 巨大剣はリンディには届かず、機械兵自身を護る為に使われていた。
 それは突如現れた、【紅い薔薇】から身を護る為に。

「……戦場に咲く一輪の華。ソレを摘み取ろうとする事は、この【タキシードマスク】が断じて許さん!!」

 薔薇を投擲したのは、仮面の紳士。
 黒いタキシードに身を包み、シルクハットとマントを纏い。
 そして鋭い双眼を、白いマスクが覆い隠す。

「タキシード、マスク……?」
「その通り!!」
「今度は誰!?…………って!?」

 呆然とするリンディの疑問に答えたのは、逞しい体躯。
 否。逞し【過ぎる】体躯。丸太のような四肢。
 その屈強な身体を包むのはセーラー服で、鋭【過ぎる】双眼を隠すのは紅い仮面。

「タキシードマスクに続いて、セーラーハーキュリーを助けるモノ。ボクの名前は【セーラーV(ヴィクトリャァァァァ)】!!」

 リンディの窮地を救ったのは。
 仮装パーティーのようなコスプレ……ではなく変装をした、【正体不明】の二人組。
 その正体をリンディは、知る由も無かった。







[8085] 真・転生日記【オヤジ】風味 (以下略) 04  【突撃、となりの小学校!?】
Name: satuki◆b147bc52 ID:3a0b9a1f
Date: 2009/07/12 18:30



 前回のあらすじ:謎仮面二人組、参上!!



「タキシードマスクに…………セーラーV(ヴィクトリャァァァァ)……?」

 リンディの窮地を救ったのは、謎に包まれた二人組だった。
 片やタキシードにマント。シルクハットに仮面。
 どう考えても来る場所を間違えている。お前が行くのは結婚式場か、もしくは仮面舞踏会だろうに?

 そしてもう一人は…………ソレ以上の曲者だ。
 曲者というより、【怪しい者】と言った方が正しい気がする。
 または不審者。変態。変質者。怪物。

 呼び方は様々。でも本質は一つ。
 素晴らしいマッスルバディを、パッツンパッツンになったセーラー服が無理やり隠し。
 そしてその正体を隠すための、紅い仮面。

 前者は百歩譲れば、正義の味方と出来なくもない。
 しかし後者は。どう考え。様々な角度から見ても。
 ……【アレ】は正義の味方には見えない。見えるハズがない。

「タキシードマスク!キミは、セーラーハーキュリーを頼む!!」
「分かりました!それで、執務……失礼。セーラーVはどちらに……?」

 呆然とするリンディを余所に、仮面の二人は話を進めていく。
 どうやら残るのは、常識的な方らしい。
 ……助かった。流石にあの【異次元物体X】を見続けるのは、無理だったから。

「……最深部にいる【オバハン】を見に行ってくる」

 タキーシードな男性の問いに、仮面の漢女――つまりボクはそう答える。
 一瞬後にはダッシュ……というには速度が出過ぎの俊足。
 もはやソレは、【神速】の域だろう。

 スカートの裾は翻さないように。
 ……そういえばミニスカートなのに、【元ネタの人たち】はどうしてソレが出来たのだろうか?
 絶対守護領域か。はたまたお約束か。

 どちらでも良い。
 ボクにそのお約束が適用されれば良いだけだ。
 覇王少女のパンチラは…………それこそ【視覚破壊】のアルティメット・ウェポンだからね?
























『みんな、大変!もうその空間は崩壊するの!!だから、はやく逃げて……!!』

 アースラからの通信。
 後にクロノ・ハラオウンの妻になる、【エイミィ・リミエッタ】の声。
 ソレは悲鳴に近い。だが自らの職務を放棄せず、きちんと報告された声でもあった。

「フェイト!もうムリだよ!?」
「でも……!母さんが……!?」

 虚数空間に落ちるプレシア。
 崩壊する時の庭園の中では、あらゆる床は罅割れていき、そして無に帰ろうとしている。
 つまりこの崩壊空間と虚数空間が入り乱れる中では、動ける者は居ない。

 故にフェイトはプレシアを助けたくても、助けることが出来なかった。
 一度虚数空間に巻き込まれれば、二度と戻って来れなくなるという。
 ソレを彼女の使い魔であるアルフは恐れた。

 だから絶対に、ご主人様を止めようとした。
 行かせてたまるか。
 逝かせてたまるか……と。

 この虚と実が入り混じった場所では、少年少女たちに為す術はない。
 つまり誰もプレシアを助けられない。
 まぁ本人の意思というモノもあるが、あんな狂った最期は人として悲し過ぎる。

 母として。
 ヒトとして。
 あんな悲しくて。寂し過ぎる最期は…………認められない!



 ――ギィィンッ!!



 その空間に二つ一対の、金色の光が出現した。
 ソレは眼光。
 鋭過ぎるその眼光は、高速というスピードによって、金色の軌跡を見せる。

 ソレはヒトのカタチをしているか不明。
 だが中身は確実にヒト。
 そんな【化け物】。

 だがこんなビックリ空間を移動出来るモノが、普通の人間であるハズはない。
 だからソレは、普通の人間ではない。
 嘗て…………【覇王少女】と呼ばれた生物なのだ。

「フィ~~~~ッシュ!!」

 渋い声が木霊し、その巨体が既に意識が無いプレシアを小脇に抱える。
 その大木のような寸胴ボディ。それに巻きつけられているのは、【超】特性鋼糸。
 番目で言えばそう……【五十番】位になるだろう(実際にそんなモノがあれば、の話だが)。

 まるで蜘蛛の糸のように垂れ下がったソレの伸びる先は…………紅い龍を模った航行艦。
 勿論そのボディは、光学迷彩によって隠されている。
 つまりラグナロクは、外からでは見えない状態なのだ。

 よって……本当に【何もない】所から、糸一本で釣られている【蜘蛛】のよう。
 このぶら下がっている人物が普通の女性だったら、補正効果で女神や天使に見えるだろう。
 だが生憎、この生物は普通ではないのだ。

 想像してみよう。何も無い所から、糸一本で浮かぶ…………覇王少女。
 ソレは何だ?コレはホラーだ。
 ただの怪奇現象にしか、見えないじゃないか?

 しかしこのトラウマ確定モノの光景を、目撃した者は居ない。
 既にフェイト以下数名はアースラに転送済みであり、この場には本当にボクとプレシア。
 そして【あと一人】しかいないのだ。

「……何とかプレシアはGET出来たけど…………アリシアのポッドは何処だ……?」

 まるで魔女のような扮装をしたプレシアは抱えながら、右見て、左見て。
 ……あった。
 もうかなり下の方に流されてるけど、アリシアin生体ポッドを発見。

 どうしよう。
 かなり下にいるから、普通にやったら間に合わない。
 考えろ。考えるんだ。どうすれば一気に距離を詰められる……?

 上は通常空間。
 下は虚数空間。
 そしてこの腕に抱えるのはオバサン一丁。

 下に行くには、何かを上に上げれば良い。
 そうすればバランスを保とうとする働きが出て、ボクは下に行くことが出来る。
 …………チーン!

「プレシア……悪いんだけど、娘の為に【ちょっと】【たかいたかい】しようかぁぁぁぁっ!!」

 ココでマメ知識を一つ。
 リリカルなのはの世界では、【ちょっと=いっぱい・たくさん・思いっきり】という意味があります。
 つまりボクが何をしたかと言うと……。






 A:プレシアママンを、【思いっきり】上に放り投げた。







 こうすれば、ボク自身は一気に下に行くことが出来る。
 ね?カンタンでしょう?
 プレシアが既に気絶してくれているのも、この作戦の勝率を上げる要因の一つ。

 起きていれば無駄な力や抵抗が入るが、気絶していればソレはない。
 だから軌道計算もラクチンなのですよ?
 こうすればプレシアもアリシアも救える。まさに一石二鳥のアイディアだ!



 ――ガシィィッ!



 力強くホールド。
 まさにその画は、【フ○イトォォォォ!イッパァァァァツ!!】な状態。
 こうして二人ともゲットしたボクは、ラグナロクに帰還するのでした。

 ……今思うと、コレって【人間クレーンゲーム】だよね?












 覇王少女がクレーンゲームを堪能中に。
 崩壊する庭園では、もう一つの闘いがあった。
 次元震を食い止めているリンディに襲い掛かる、機械兵の数々。

 そしてソレを迎撃するのは、正体不明の仮面の紳士【タキシードマスク】。
 ステッキで相手の攻撃を弾き(良く考えれば変だが)、真紅の薔薇で機械兵を撃ち抜く(コッチは考えないでも変だ)。
 その見たこともない戦法と、知略張り巡らせた闘い方。

 しかし流麗。
 そして華麗。
 その動きの一つ一つに、リンディは妙に惹きつけられた。

 何故かは分からない。
 どうしてかは分からない。
 でも。でも……。

「(……何て。何て、【懐かしい】感覚なの……?)」

 高揚する。
 感情のセーブが外れそうになる。
 理由が分からない。

 疑問符を幾つ重ねても、その答えは出ない。
 どうして?
 何で……?

「……!そろそろ、この空間も崩壊するようだ。アースラの魔導師も次々と撤退している。キミもはやく逃げるんだ……!」
「……エ!?でも貴方は……?」
「ボ……私には、行くべき場所がある。だからキミたちと一緒には行けない……」

 正体がバレないようにか。
 それとも役に成りきっているからか。
 クライド・ハラオウンは、久方ぶりの奥方との会話を、まるで【ロミオとジュリエット】のように仕立てていた。

「さらばだ、また会おう…………トゥッ!」

 ハッハッハッハッハ…………!!
 そんな高笑いと共に、闇に消えていく仮面の男。
 何処からそんな闇を出したのか?

 どうして重力を無視して跳躍出来るのか?
 そんな疑問を無視しつつも、彼は明日の為に跳んでいく。
 残されたリンディは、両手を胸の前で組みながら、お決まりのセリフを口にする。

「…………タキシード、マスクさま……」

 ソレは夫の片鱗を見たからか。
 それとも新たな恋の始まりと思ったからか。
 本人のみしか与り知らぬこの光景の録画映像を、息子は頭を抱えながら悩んだそうだ。






















 数週間後。
 聖祥の初等部には、【ある変化】が訪れていた。
 その変化の名前は【人事異動】。

 図画工作と体育担当に新しく入ったのは、【原尾蔵人】というイケメン男性教師。
 次いで養護教諭も変更になり、代わりに入ったのは【鉄砂譜麗亜】という妙齢の黒髪女性。
 その保健室に同時に現れたのは、保健室児童の【フェアリィ・槙原】。

 転入した次の日から教室には寄り付かず、そのまま保健室での学習になった変り種。
 そして……。
 その一週間後。最後にして最大の変化が訪れた。



 ――ズン!ズゥゥン!!



 廊下を歩く音は、人に非ず。
 まるで巨大生物を思わせるその音は、好奇心旺盛な小学生と言えども、まるで破滅の迫る音に聞こえたそうだ。
 あと二歩。一歩……!



 ――ドォォォォォォォォン!!



 明らかにいつもよりも迫力のある効果音を背負い。
 その存在はやって来た。
 まるで、恐怖の大王がやって来たかのような破滅度。

 身長二メートル以上。下手な樹木など、このモノの前には苗木同然。
 それ程の胴回り。それ程の腕周り。
 その者は……。そのモノは…………!!

「え~。今日からこのクラスの担任になった、【北斗静香】です。皆さん、ヨロシクお願いします♪」

 眼鏡を掛けた三人の教師と、妖精のような少女。
 その者たちがもたらすのは……破滅以外の何物でもない。
 少なくとも。この学校の誰もが、この時はそう思わずにはいられなかった。









 余談だが。
 フェアリィ・槙原が保健室児童になったのは、最初の挨拶で失敗したせいとの噂もある。
 それはどんなモノだったのか……。こんな感じだったらしい。

「ボクの名前はフェアリィ・槙原。推定年齢九歳の、蟹座のB型さっ!!」
「び、美形だ……っ!!」

 このやり取りのせいで、男子からは優遇されたが、女子からはハブられた。
 故に保健室へ。というのが噂である。
 しかしあくまで噂は噂。

 一説には最初からやる気がなくて、敢えてそういう行動をしたという説も……。
 中身を知っているモノが誰も居ない状況では、どれも証明しようが無い仮説。
 だから今日も、妖精は悠々と保健室に行くのだった。














 あとがき

 >誤字訂正


 俊さん。毎度ご指摘頂き、本当にありがとうございます!!






[8085] 真・転生日記【オヤジ】風味 (以下略) 05  【誕生!?養護教諭プレシあ!?】
Name: satuki◆b147bc52 ID:786e8b4d
Date: 2009/07/14 20:13



 前回のあらすじ:【妖精生徒フェアり!?】・【覇王先生シズか!?】……始まります。



 夢を……夢を見ていました。
 夢の中の私は魔法という不思議な存在に出会い、請われるままに魔法少女になってしまいました。
 まるでモノクロ。良くてもセピア色だった私の世界は、その日を境に劇的に変わっていきます。

 魔法という、家族や友だちをとおしても【私にしかない】力。
 私にしか解決出来ない事件。
 だから……その事件の解決には、少しくらいの被害はしょうがないと思ってしまった。

 自分は正義の味方。
 ジュエルシードに取り付かれたモノは、悪の手先。
 同じようにフェイトも悪の幹部で、プレシアがボス。

 それはゲーム。
 ゲームやアニメ、マンガの中の話。
 現実じゃない。

 悪いのは向こう。
 正しいのはコチラ。
 正しいから何をやっても良い。

 普通だったら犯罪になることも、マンガやアニメでは捕まらない。
 モノを壊しても。警察を襲っても。正義のためなら仕方ない。
 地球にはない概念の事件。

 だから理解を求めてはいけない。
 自分が悪に見えても仕方ない。
 でもきっと。きっと魔法側の人間なら。

 絶対に私を理解してくれる。
 正しいことをしていると。
 間違っていないと。

「なのは!ジュエルシードの反応は、中層階にあるみたいなんだ!だから……」
「うん!わかった!!」

 警視庁にジュエルシードを回収しに行った時。
 すごい警備で固められたソコは、普通に考えたら突破出来そうになかった。
 でも私には魔法の力がある。

「ディバイィィン、バスター!!」

 引き金を引く。
 そしてその一瞬後に、一本の道が出来上がる。
 その道の途中には、鎧を着たおまわりさんがいっぱい寝ていた。

 寝ていたのではない。
 強制的に気絶させられたのだ。
 他ならぬ私の魔法で。

 ゴメンなさい。
 ゴメンなさいっ!!
 心の中でたくさん謝りつつも、その脚が止まることはない。

 もうすぐだ。
 あと少しガンバれば、この気持ち悪い状態も治まる。
 ジュエルシードを手に入れれば。もう誰も傷付かずに済むようになるから……!!

「そのジュエルシード…………渡して貰います!」
「……違うだろ?奪いに来た――――【盗み】に来ました……だろ?」
「……!!」

 覚悟を決めて。
 心が泣き叫んでいるのを知っていて。
 それでもガンバって言ったセリフは……銀髪の女性によって、すぐに打ち消された。

「……そうです。だから…………ソレを渡して下さい!!そうすれば……!」
「……そうすれば?何だい?ソチラの要求を呑めばボクたちを傷付けない、とでも言うつもりなのかい……?」
「…………はい」

 振り絞る。
 それでも何とか勇気を振り絞る。
 そうしないと日本が――地球が危ないと聞いているから……。

「……………………ハッ!」

 一蹴。
 まさにそうとしか、言いようのない事実。
 勇気を以って紡いだ言葉は、呆気なく破られてしまった。

「良いかい?悪いコトをしたら、謝罪して罪を償う。ソレは何処の世界でも一緒なんだよ!例えソレが【魔法】だとか、【管理外世界】だとか、訳の分からん世界の話でもねぇ!!」
『……!?』

 ……!?
 何で……どうして……?
 どうして魔法とかのコトを知ってるの……?

「オイ。ソコのフェレット!キミの方が詳しい情報を持ってるみたいだなぁ……?」
「心を……読めるっていうのか!?」

 心を……読める?
 ……イヤだ。
 見ないで。私の心の中を、のぞかないで!?

 認めたくない。向き合いたくなんてない。
 ずっと考えないようにしてきた、【本当の自分】。
 そんなモノを……私に見せないで!?






「……もう、立たないで下さい。すぐにいなくなりますから。お願いですから、その間だけ見逃してください……!」

 ソレは心からの願い。
 気が付くと砲撃を滅多打ちしていた少女は、正気に戻ると同時にそう言った。
 実際は何とか取り繕うとした。ただそれだけだったが。

 コレで終わる。
 ようやく終わる。
 そうだ。コレが終わったら、いっぱい寝よう。

 たくさん寝て、次に起きたら忘れてしまおう。
 そうしたい。
 ココでの出来事は、全て無かったことにしよう……!



 ――シャァァァァァァァァ!



「…………エ?」

 スプリンクラーが作動し。
 煙と混じって霧が出来た。
 見えない。視界が塞がれて、何も見えない。



 ――メキ。メキメキ……!
 ――バキィ。ボキボキボキ……!!



 聞こえてくるのは不気味な音。
 まるで何かが変形しているような、そんな気味の悪い音。
 ……大丈夫。でも大丈夫。コッチは【正しい】のだ。例え何が来ようとも、決して負けるはずがない……!

「……あなたは…………誰、ですか……?」

 霧が晴れると、ソコに居たのは別の生物。
 いくら魔法があるとは言え、それでは説明出来そうにない程の変わり様。
 アレは何?どう見てもアッチが悪で、コッチが正義だよね……?

「……覚悟するんだね?この姿になったら、前ほど優しくはないからねぇ……?」

 二メートルはあるであろう、その身長。
 凄まじい筋肉で固められた身体は、どう考えても鎧にしか見えない。
 ……優しくないだけで済めば良いが。そう思うだけで精一杯だった。

「……元【時空管理局特殊治安維持部隊】部隊長――――【シズカ・ホクト】。ボクがキミたちを【お掃除】しよう!!」

 この先は思い出せない。
 いや、思い出させないでほしい。
 この時の記憶は盛大に封印して、その後も闘い続けた。

 おかげでフェイトちゃんと仲良くなった。
 友だちになれた。
 そうだ。そうだよ。

 やっぱり私は、間違ってなかった。
 だからハッピーエンドになったんだ。
 【あの時】だけ、つまづいてしまったけど。

 それを乗り越えたから事件は解決した。
 リンディさんたちとも知り合えた。
 まだ魔法少女で居られる。

 だから私は、やっぱり正しかったんだ……!!












『残念ながら、ボクの存在は夢じゃないよぉぉぉぉ!』



「にゃ、にゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 盛大に迫ってくる【覇王】の顔。
 それから逃げるように、ガバっと跳ね起きる。
 ……アレ?ココはどこ?何で私、教室に布団を敷いて寝てたの……?

「……ん?あぁ、高町嬢…………起きたのかい?」
「…………エ?」

 その声は聞いたことがあった。
 確か今日の朝、ホームルームで聞いたハズの声だった。
 自身の記憶が確かなら、その声は……【新しい担任】と名乗っていたハズである。

「まったく……皆してコレだ。ココは保育園じゃないんだぞ?寝るのは夜の仕事だというのに……?」

 近頃の親は、自分の夜更かしに子どもを付き合わせるから、昼間起きていられない子どもたちになってしまうんだ……。
 などと、その【新しい担任】は愚痴を零す。
 ソレは正論。正し過ぎるまでに的を射ている。

「そうは思わないかい?高町なのは嬢……?」

 正しい。
 でも。如何に正しいことを言っても、その存在の【異様さ】が打ち消されることはなかった。
 逆に正しいことを言っているからこそ、さらにその異様さに拍車が掛かっているとも言える。

 まるで丸太のような胴体と手足。
 女性用のスーツが弾けんばかりの身体を隠し。
 そしてインテリ調の逆三角形メガネが、鋭い目付きを隠し……切れていない。

「え、えーと……」

 すぐに答えを返せない。
 というか、直視することもままならない。
 でも見ないと。先生とお話しする時は、目を逸らしてはいけないのです。

「あ、そっか。まだボクの名前を覚え切れてないんだね?」

 違います。
 確かに記憶から消去したい程のインパクトですが。
 それ故に簡単に忘れられるハズがありません。

「じゃあもう一度言うよ?今日からこのクラスの担任になった、【北斗静香】だよ?ヨロシクね♪」

 直視した先に居たのは、やはり先程気絶する前に見た存在そのものでした。
 目を擦っても変わらないし、頬を抓っても……痛い。
 であれば、あと出来ることはコレしかないだろう……?

「…………きゅぅ」

 パタ。
 そんな音が聞こえてくる中、少女の意識は再び闇に閉ざされた。
 コレがのちに【魔王少女】または【冥王少女】と呼ばれる存在と、【覇王少女】のサードコンタクトだった。






















 聖祥初等部からコンニチワ。
 覇王少女から【覇王先生】にジョブチェンジした、中身【フェアリィ・槙原】です。
 初日の挨拶から、みんなスーパー気絶タイム。

 仕方がないとは言え、一人くらい骨の有るヤツが居ても良いと思う。
 まぁ、小学三年生にソレを求めるっていうのは酷というモノか。
 なので教室に布団を敷きまくって、皆でお昼寝タイム。

 まるで保育園のような光景。
 だがコレも良いか。
 子どもらしく。ソレが今の子どもは出来なくなりつつある。

 だからコレはコレで良い。
 寝ている時は、誰もが歳相応になる。
 例えソレが社長令嬢、夜の一族。そして……魔法少女であろうとも。



 さて。皆がお休み中に、コレまでの経過を説明しておいた方が良いかな?
 プレシア女史を助けた後。
 ボクは彼女に治療を施した。

 クライド少年と同じように医療ポッドに入れて、待つこと一週間。
 そこには、以前とは比べ物にならない位血色の良くなった女史が居た。
 黒髪と肌にも艶が戻り、そこに居たのは【本来の】プレシア・テスタロッサだった。

「…………ココは……ココがアルハザードなの……?」
「違うよ。確かにアルハザードは存在するけど、ココはそんな場所じゃないねぇ……?」
「誰……!?」

 医療ポッドから上半身を起こした先に居たのは……異次元物体X。
 黒髪の妙齢女性は頬を抓り、目を擦る。
 ウン。気持ちは痛い程理解出来る。

 だが諦めてくれ。
 コレは現実。
 そして現実からは逃れられないのだ。

「コンニチワ、そしてはじめまして。ボクの名前はシズカ・ホクト。何処にでも居るような、ただのメイドさ♪」
「……何処にでも居るとは思えないし、そんな筋骨隆々なメイドは見たことが無いわ……」
「ありゃ、手厳しいね?……ってか、もしかして初めての【突っ込み要員】?」

 今までボクが会ってきた人間たちは、どちらかというと【ボケ】に偏っている。
 もしくは、ツッコミをしないだけだったのか。
 とにもかくにも、プレシア・テスタロッサとんは貴重な【突っ込み要員】ですた、と。

「ともかくボクは自己紹介した。だから今度は、アンタの番だよ……?」
「……プレシア。プレシア・テスタロッサよ……」

 良し。
 とりあえず第一関門は突破。
 ボクの顔を初見で気絶しなかったのは、リンディ嬢とコラード女史、それとミゼットば……お姉さまのみ。

 あとは全員が全員ダメだった。
 しかしコレらの結果は、ある種のデータを弾き出していると言っても過言ではなかった。
 三者に共通するポイント。それは……。



 【美人】
 【精神力が高い】
 【漢女力が高い】



 一つ目の共通点を除けば、ソレは【シズカ・ホクト】と中身は変わらない。
 つまり彼女たちとボクは、見た目以外変わらないのだ。
 ……まぁ、その【外見】が大事なのは、世の中を生きていれば分かることだが。

「……で、プレシアさんよ?身体の調子はどうだい?一応、治せる限り治したんだけど……」
「問題ないわ。……というよりも、良くもまぁココまで治したものね?相当ボロボロだったと思うんだけど……?」
「ラグナロクの医療設備を舐めんでほしいなぁ?瀕死の者まで完璧に治せるんだよ?ソレ位、お茶の子サイサイさね」
「……【ラグナロク】?それってもしかして…………【在リ得ズのラグナロク】!?」

 何だか【中学二年生辺り】が好きそうな二つ名。
 でもまぁ、ある意味この船を的確に表現しているとも言える。
 様々な次元の(作成当時の)テクノロジーを結集。

 エドマエグループの莫大な財力を惜しみなく注ぎ込んだソレは、完成してみると……ロストロギアに似た存在になっていた。
 それはロストロギア未満、という意味ではない。
 ロストロギア【以上】という意味で、【似た存在】なのだ。

 勿論ロストロギアにだって等級はある。
 故に本当に役立たずのモノもあれば、ジュエルシードやレリックみたいなモノもあるのだ。
 そしてラグナロクは、【ゆりかご】と同クラスだ。

 実質はロストロギアと殆ど同じ。
 しかし【ロスト】したモノではないので、古代遺失物ではない。
 両者の違いを分けるとしたら、ソレだけ。

「まぁ、そうとも言われてるけど…………娘さんは生き返らないよ」
「……!どうしてよ!?肉体は完璧に修復されてるのよ!?」

 下手な希望は抱かせない方が良い。
 それに今のプレシアの場合、肉体が健康状態になったおかげで、精神もそれにつられて【ある程度】回復している。
 つまりヤンな状態は脱している。キチンと説明すれば、理解してもらうことも可能……かもしれない。

「肉体はただの器だよ。魂が既に失われている以上……いや。失われつつある以上、回復は見込めないさ……」

 肉体はただの器。
 ボク以上にそれを知っているモノは居ないだろう。
 そしてアリシアの魂は、非常に信じられないことだが、失われ【つつある】のだ。

 本来ならとっくに転生ルートにのっているハズ。
 しかし信じがたい現実として、まだ完全に失われてはいなかった。
 だがそれは、既に転生してしまったコトよりも……ある意味では諦めのつかない事態だった。

 基本的に物事は、足りないのならソレを補えば良いという。
 ソレを今回のケースに適用した場合、アリシアの魂の欠損部分を別の何かで補えば良いということになる。
 でも待って欲しい。それはダメだ。ダメなのだ。

「魂を補うこと自体は可能だ。だけどソレをやった場合…………【キミの】アリシアは消える」

 それは既に別人だ。
 如何に記憶を与えようとも。記憶転写は完璧でない上に、フェイトと似たり寄ったりの結果しか出ない。
 プレシアが欲しいのは、【プレシアとの思い出がある、性格も再現できたアリシア】なのだ。

 それを創るのは簡単。
 アリシアの姿をしたモノが、アリシアのふりをすれば良いのだ。
 簡単だ。あぁ、カンタンだとも。

 でもそうじゃないのだ。
 そのアリシアは、【本当の意味での】アリシアではない。
 ソレを彼女は分かっている。

 分かっているからこそ、アリシア【自身】を蘇らせたかったのだ。
 自分でも気付いていた。
 しかし認めたくなかった。一度それを認めてしまえば……今までの自分を否定することになるから。

「アンタはもう、自分で気付いてるハズだ」
「…………イヤよ」
「じゃあ、どうする?キミが嫌だと言っても、現実は変わらない。変えることが出来ないんだ」
「それでも、イヤァァァァッ!!」

 無理もない。
 だが現実は覆らない。
 覆せないのだ。

「どうして?どうして私を助けたのよ!?アリシアが助からないなら、何であのまま逝かせてくれなかったのよ!?」

 ……そういえば、ボクは何でプレシアを助けたんだろう?
 特に理由はなかったハズなのに。
 …………アカン。本当に理由がないではないか?

「……何となく?」
「…………もう一度聞くわ。どうして私を助けたの……?」
「だから何となくだってば。目の前で死にそうなヤツを見たんだ。放っておける程、人間捨ててないさ」
「…………」

 とっくに捨ててるだろうに。
 そんな冷ややかな視線を感じつつも、ボクは平然とプレシアを見る。
 どうしようもないのだ。

 例え過去に戻れても。
 仮にアリシアの魂が完全なモノになっても。
 ソレは全てifの物語。今の現実が覆るワケではない。

「……ま、憤るのは無理ないけどさ。でもアンタには……アンタには死ぬ前に、やらなければならないコトがあるんだよ?」
「…………何かしら?まさか、今更フェイトと親子ごっこをしろとでも……?」
「いんにゃ。そんなコトを言っても、アンタはしないだろう?それより、もっと大事なコトさ……」

 アリシアの魂はココに、プレシアに囚われてしまっている。
 ソレでは何時まで経っても転生することが出来ない。
 しかも彼女の魂は、既に完全なモノではなく、自力での転生は不可能。

「問うよ?もしもアンタのせいで、アリシアが永遠に転生出来なかったとしたら……アンタはどうする?」
「…………」

 もしもこの答えとして【永遠にこのまま】とか抜かしたら……。
 たぶんボクは、プレシアを許すことは出来ないだろう。
 自らの盲執で娘を不幸にするものは……流石に許すコトが出来ないから。

「さぁ、教えてくれ。キミの答えってヤツを……!」
「……………………どうすれば良いの。アリシアを解放するには、どうしたら良いの……」

 力は籠もっていない。
 当たり前だ。
 自らの手で娘に引導を渡すようなモノなのだ。

 揺るがない方がおかしい。
 でも確かに言った。
 娘を助けて欲しいと。アリシアを解放して欲しいと。

 今のプレシアは、ヤンデた時とは違う。
 だから考えられたのだろう。
 今までの自分の行いを。そして、ソレらを冷静な目で見ることが出来たのだ。

「今のアリシアは、自分の力だけでは転生出来ない状態だ。なら、誰かの手を借りるっていうのが一番はやい手段だね?」

 自力では不可能。
 だから人の手を借りる。
 ではその方法は?

「アリシアに近い存在に一体化し、その人生が終わると同時に、彼女の転生も始まる」

 ソレは誰かを宿主にすると言っても良い。
 しかし手段はそれしかない。
 寄生と言うよりは【融合】。それこそ先程、【足りない部分を補う】と言った時に出した例と相似なモノ。

「それは…………フェイトに融合させると、そういうこと……?」

 普通はそう思う。
 【近い】というのは、そう取られても仕方ない。
 だが違う。真の意味でアリシアに一番近い存在。ソレは……。

「違うよ。アリシアに一番近い存在。ソレは…………彼女を産み、そして育てた人物のコトさ……?」
「……!?そ、それって…………私のこと……?」
「ココでまさか、『リニスの子でした』なんて、衝撃の事実が出ない限りはね……?」

 文字通り【血肉を分けた】。
 その身体に流れる【遺伝子】すら分け与えた存在。
 そういう意味でアリシアに一番近い存在は……プレシアなのだ。

「……そう。それでアリシアと一体となったら、すぐに死ねと……」
「……説明しなかったボクも悪いけど、悪い方向に解釈するのは止めて欲しいなぁ?」
「…………違うの?」
「違う。言っとくけど、自殺なんかしたら意味ないんだよ。きちんと人生を終えて、娘と二人で幸せに転生する。そうじゃないと、アリシアの転生はムリだよ……?」

 元々自然な転生がムリだからやってみよう、という話なんだ。
 これ以上【自然なカタチ】から外れたコトをすれば、アリシアの魂は永遠に転生不可能だ。
 ……エ?なんでそんな知識を知ってるって?

 いや、さざなみ寮には居るじゃないか?
 神咲に名を連ねる人や、こういう時には役に立つグランド・ファーザーさま。
 その方々に聞けば、これ位は教えてくれるのだ。

「つまりアリシアと共に精一杯生きて、自殺しなければ良いんだよ?」
「……私にはもう、生きる資格なんて……」



 ――ズビシッ!



 チョップを一発。
 覇王チョップは、手加減をしていても脳震盪を起こさせます。
 使用には十分気を付けましょう。

「……っ!?……………………な、何するのよ!?」
「愛の籠もったお仕置きだ。有りがたく受け取っときなさいな♪」

 下らんことを考えるな。
 後ろばかり見るな。
 キチンと前を見据えて、自分の足で立て。

 どれも言いたい。
 ぶん殴った後に、天高く説教したい。
 でもダメだ。

 そもそも説教とは、その世界・その人物に近しい存在がすることによって、その効果を発揮する物だ。
 いきなり出てきた怪物がして良いものではない。
 ……もっとも、ココまでで多少その要素を抵触してしまった感はあるが。

 元々ボクが得意なのは、背中で語ること。
 言いたいことはソコに全て籠めてある!!……という考え方だ。
 まぁそのうち、背中に【天】とか【嫁】とかを、浮かび上がるようにしたくはあるが……。

「そんじゃ、サクッといきまっしょい♪」

 チョップによって再び横になった(したとも言う)プレシア。
 彼女の入っている医療ポッドの蓋を閉めて、強制的にオヤスミ状態に。
 あとはアリシアの入ったポッドとラインを繋げて、待つこと数分。

 紅。
 白。
 黄。

 目まぐるしく変わる、ポッド内の光。
 今あの中では、プレシアをベースにした、アリシアとのフュージョンが行われている訳で。
 コレは超常現象……に近い、行き過ぎた科学の力。

 元々あらゆる科学力を結集した艦船だ。
 特に、あの【ルナパパ】がその総指揮を執った建造である。
 だから驚いてはいけない。

 仮に【未来】のテクノロジーだと言われても、ボクは決して驚くことはないだろう。
 だって、【あの】ルナパパなんだよ?
 不可能を可能どころか、タイムトラベルすら可能な気がするし。



 ――チーン!



 まるで電子レンジのような音を立てて。
 ココに全ての工程は終了した。
 白い煙(まるでドライアイスのようだ)が中から発生し、中の人が上半身を起こす。

 こげ茶色に近く、ややウェーブの掛かった黒髪。
 皺など一つも存在せず、ハリのある艶々お肌。
 ゆっくりと開かれた瞳はクリムゾンで、その双眼が収められた顔は……。

「…………アリシア?」

 そうだ。
 髪の色とウェーブ。
 その二点を除けば、今の彼女は【大人版フェイト】なのだ。

 そしてフェイトはアリシアのクローンである。
 つまりアレは、大人版【アリシア】。
 ……強いて言うのなら、髪の色が違うので【アナザーバージョン】と言ったところか。

「……いきなり人をカプセルに押し込んで。その挙句に【アリシア】ですって……?」
「……良かった。中身はプレシアのままだ。ちょっと待ってな?今、鏡を出すから……」

 外見大人フェイト。中身プレシア。
 ソレって、何てアンバランスな。
 ともかく、本人に現状を見せねばね?

「……………………ゥッ、ゥゥッ!」

 何かいきなり泣き出した。
 それは、アリシアの外見になってしまった自分を見てか。
 それとも、そこからアリシアとの思い出が蘇ってしまったからか。

「お帰りなさい!!昔の私……!!」
「…………ハァ?」

 ゴメン。
 プレシアさんは、あまりの事態に錯乱しているようです。
 昔の自分って。そりゃあ、ないでしょうに?

 手元の端末を弄り、プレシアに関するデータを洗い出す。
 確かアリシアと暮らしてた時は、既に黒髪魔女だったから……探すとしたらその前か?
 その一年前。二年前……!?

「…………嘘だ」

 刻が見える。
 恐らくアリシアを身体に宿す前の写真だろう。
 確かにそこには、今のプレシアとほぼ同じ外見の少女がおった。

「あぁ!アリシアが生まれる前の私……!!本当に懐かしいわぁ……!」
「…………結果オーライってコトに、なるのかなぁ……?」

 もうコレで良いや。
 あとは小学校の先生でもさせれば、優しかった(と言われている)昔のプレシアに戻るかもしれない。
 別に小さな子どもと接することで、癒しになれば……とか思ったワケじゃ、ないからね!?






 数日後。
 聖祥付属小学校の保健室で、【何故か】白衣を纏い、丸い眼鏡を掛けた【若プレシア】が居た。
 怪我や病気で来室する小学生たちに優しく接し、時折生徒の見えないトコロで涙や鼻血を流す怪しい存在。

 ソレが今の彼女。
 【鉄砂譜麗亜】なのである。














 あとがき

 >誤字訂正


 俊さん。毎度ご指摘いただき、本当にありがとうございます!






[8085] 真・転生日記【オヤジ】風味 (以下略) 06  【予定とは、乱される為にあるのだ!】
Name: satuki◆b147bc52 ID:7ef573f1
Date: 2009/07/16 21:43



 前回のあらすじ:oldプレシア→youngプレシア



 聖祥の初等部に来てから一ヶ月。
 子どもたちというのは、予想以上に柔軟な思考の持ち主だったようで。
 今ではクラスの誰もが、ボクの顔を見ても気絶しなくなりましたとさ。

 それは柔軟性か。
 はたまた生存本能による進化だったのか。
 その真なる意味は不明。

 だが結果がある。
 今はそれだけで良い。
 その結果こそが、一番重要なのだから。

「……というワケで、今日はゲームをしましょう♪」

 ボクの言葉を聞いて、途端に目の色が変わり始める生徒たち。
 本来は授業中というコトもあってか、その盛り上がり度は更に上昇する。
 しかしちょっと待ってくれ。仮にも授業の変わりに入れるモノが――【覇王先生】が提案するゲームが、楽しいだけのゲームなワケがないだろうに。

「ちょっと待ちなさいよ!?授業はどうするのよ!?」
「バニングス嬢や。今ボクは、ゲームをすると言ったんだ。当然授業は中止さね……?」
「ハァ……?だって、まだテスト範囲すら終わってないのよ!?」

 どうせキミたちは塾で勉強してるんだから、別に良いでしょう?
 そう言ってやりたくなるのをグッと堪え、ボクは別の言葉を模索する。
 辛い勉強は塾にお任せ。なら学校でやることは?

「良いかい?キミたちはあと数年もすれば、イヤでも社会の歯車になるでしょう。勉強なんて、やる気になった時が一番ガンバれる時なんです」
「……例えソレが事実でも、先生が言っちゃあダメでしょうに……?」

 金髪御嬢は、頭を抱えている。
 しかしそんな常識は、普通の先生にしか適用されないのだ。
 ボクは普通……とは何億光年も掛け離れた存在。故にそんなモノは知らん。

「でも、遊ぶのは後回しに出来ません。子どもの頃にしか出来なくて、子どもだから許される遊びは特に、ね……?」

 確かに普通の遊びは後でも出来る。
 しかし子どもの時にしか許されなくて、それ以後は出来なくなってしまう遊びもある。
 しかもこういった【悪巧み】系の遊びをしなかった為に、大人になってからイキナリ犯罪に手を染めてしまう人々が居るのだ。

「よぉし、まずは【校長のズラを剥ぐ】ゲームの為の、作戦会議をしようではないか……!!」
『は~~~~い!!』

 皆普段は良いとこのお坊ちゃんや御嬢ちゃんだから、こういうのはやりたくてもやれなかったのだろう。
 だから良い刺激になるのだ。
 やっぱ人間、チョイ悪な遊びも必要なんだよね♪

「……不安だわ。果てしなく不安だわ……」
「……ま。まぁまぁ、アリサちゃん……きっと先生には、深い考えがあるんだよ……?」
「…………覇王、怖い……ハオウ、コワイ……」

 金髪御嬢に、紫御嬢。
 そして若干トラウマが抜けきっていないのが、魔砲使いの一般人。
 このクラスで覇王の授業に疑問を持っているのは、この三人のみ。他は既に覇王のペースに巻き込まれている。

「ではまず、どんな場面なら校長は皆の前に姿を現すかな……?」
「ハイ!校長室の前で『火事だぁー!』ってさけべば、きっと出てくるとおもいます!」
「え~~?それだったら、全校朝礼の時の方が、警戒が薄いんじゃない……?」
「だったら、こんなのは?」
「イヤ、それだったら……」

 切欠は確かにボクだが、あとは子どもたちが勝手に発展させていく。
 子どもの発想は、柔軟で多岐に富む。
 凡そ凝り固まった大人では考えも付かないような、魅力的な考え。

「じゃあ、実行はこの日にしようよ!」
「賛成!」
「じゃあ、道具を作らないと!」

 子どもたちは、本当に無邪気で可愛いモノです。
 故に校長先生。今回は運が無かったと思って下さい。
 子どもたちの笑顔の為の、生贄になったと思って下さいな?



 数日後。
 全校朝礼という、全校生徒と教師陣が揃った中で、校長のヘアーは空を舞った。
 最初はもの凄い落ち込んだ校長だったが、すぐに他の先生たちもターゲットになった為に、落ち込んでいる暇はなくなったそうだ。

「北斗先生!!子どもたちを悪い道へと誘導するなんて、どういうコトですか!?」

 どの学校に一人は居そうな、感じの悪い先生。
 今回はそれが教頭だったのが良くなかった。
 理由を言っても認められず(当たり前と言えばそうかもしれないが)。

 そしてPTAまで焚きつけてボクを辞めさせようとする始末。
 ある意味当然。しかし教頭の背後には、業者との癒着や権力的な絡みもあったコトが分かった。
 ならボクが、そんな教頭に負けてやる理由はない。

 その日の内に理事会の面々に、ちょぉっと【お願い】をして、ボクは理事長になりましたとさ。
 あとは放置。
 教頭が良くならないなら切るし、良くなるならソレに越したことは無い。

 こうして聖祥初等部は、今日も平和に営業中。
 だからボクは、安心して授業に専念する。
 そして今回の授業内容は……コレだぁ!!

「え~。今から皆さんには、殺し合いをしてもらいます♪」






















 昨今、キレやすい若者が多発。
 常識では考えられない動機で、殺人事件を起こす。
 二十年くらい前までは、考えられなかった事態だ。

 電子機器。特にゲームやインターネットの発達。
 核家族化が進み、更には少子高齢化社会。
 その全てが人間を幸福にさせると同時に、その心を壊していった。

「皆さんに今回やってもらうのは、ヴァーチャル空間でのバトルロワイヤルです♪」

 ヴァーチャルダイブ装置。
 ソレを人数分用意し、今回の為に特別に誂えた特殊教室。
 今ココでは、皆がその装置を接続し。そしてヴァーチャル空間にダイブする為の準備をしている。

「設定日数は一週間。その間に皆さんは、自分の手持ちのエネルギーを好きに割り振って、闘い合って下さい」

 エネルギー総量の中では、どんなことをしてもOK。
 そしてエネルギーは使えば消耗するのは当然のこと、休めばある程度回復もする。
 そのエネルギーを使い、文字通り殺し合いをしても良い。

 また仮想空間とは言え、睡眠や食事は擬似的に必要とする。
 なので畑を耕しても良いし、株で儲けても良い。
 仮想空間と言うよりは、仮想社会。

 つまり大企業の社長になって、社会的に殺しに来ることも可能。
 まさに現実と変わらない。
 ソレを子どもたちにやらせる。いや……子ども【だからこそ】やらせる。

「それじゃあ、レッツ・ヴァーチャルダイブ!」

 まさに【ポチッとな】。
 そんな擬音を口にしながら、ボクは紅いボタンを押す。
 その瞬間に生徒たちの目の前の景色は変わり、それぞれのスタートラインに。

「はやく戦争になぁ~れ!…………じゃなかった。はやく争いが起きてくれると、分かりやすいんだけど……」

 それこそが、この【授業】の真骨頂。
 人は【自分と他人】が居る限り、争いが止むことは無い。
 そしてそのエスカレートが、他人の追い落としやイジメ。さらに行くと【殺人】などになってしまうのだ。

 真の意味でのぶつかり合いを恐れ。
 仮想空間に籠もりきり。
 そしてその空間での考え方を、現実に持ち込んでしまう、現代の人々。

 つまりこの【授業】の真なる狙いは、先送りや表面化しない心の闇を早期に顕現させ、本人に意識させること。
 大概大人や準大人になってから【ソレ】が現れるから、人は暴走してしまうのだ。
 なら子どものウチからソレと向き合えれば。攻略法だって見つかるし、大人になって突然の事態に困惑するコトもなくなる。











「……フゥ。やっぱり予想通りになったか……」

 仮想生活三日目。
 元々大企業のお坊ちゃんや御嬢ちゃんが多いので、それぞれの才能を生かした会社が乱立した。
 そして得た利益で装備を拡充。まさにリアルと同じ状態になった。

 四日目。
 とうとう殺し合いが勃発。
 (本人視点で)努力してもエネルギーを溜められないなら、他人から奪えば……という思考に行き着いた模様。

 五日目。
 ゲーム慣れした連中が、裏技を使い出す。
 簡単に言うと、【自分さえ良ければ……】的な最低技。コレによって、大半の人間が脱落。

 六日目。
 裏技にも潰されなかった、月村・バニングスなど数名が、逆に潰し返す。
 この時点で、残ったのは月村・バニングス・高町。あと男子が一名。

 七日目。
 決着を着けるべく、それぞれが闘い合うことに。
 高町が【闘いなんて……】とお決まりのセリフを吐いたので、【最後の一人】が決定しないと皆が帰れないと教える。

 仕方無しに、高町も闘うことを決意。
 月村VSバニングスは爽やかに各種ゲームや、経営シミュレーションで決着。
 勝者はバニングス。まぁ、月村は得意分野ではなかったので、ある意味当然かもしれないが。

 高町VS男子生徒。
 男子生徒が特撮が好きだったせいか、本当の意味での【闘い】に。
 何故か顕現するレイジングハート。男子生徒にはマスクドライダーなベルト。

 本気を【出せた】高町。
 しかし接近戦で圧倒的に敗北する。
 フェイトの時は何とかなったが、今回は言葉でも力でも【自分】を通せなかった。

 痛いと言っても止めてくれず。
 止めてと言っても続く暴力。
 結果…………高町がキレた。

 覚醒した【力】を以って、それまで自分がされたように相手を蹂躙し。
 そして気が付くと、止めに入っていた親友二人をも倒していた。
 冷たくなる背筋。血の気が引く音すら聞こえてきそうな状況。

「オメデトウ。キミが最後の勝者だ。喜ぶが良い……!」
「イヤァァァァァ!!」

 勝者の悲しき咆哮が響き渡る。
 子どもたちは学んだ。
 何故犯罪はいけないのか?どうして他人を殺してはいけないのか?

 自分がやられて嫌なことは、絶対にしてはいけない。
 そしてやられたらやり返される。
 正義などない。在ったとしても、ソレは自分だけのモノではないと。

 こうして様々な問題を浮き彫りにした仮想生活は……苦い思い出を残して終了した。
 なお、今回の件で精神的なケアを求めて保健室に行く生徒が増えた。
 ソレをプレシアは、貧血になりながら喜んで相談に応じたらしい。












「う~ん。GTHへの路は遠いなぁ……?」

 グレートなティーチャーになるには、まだまだ修行が必要なようです。
 仮想空間での【授業】から帰って来た生徒たちは、一週間くらい落ち込んでいた。
 でも復帰もはやいモノで。その一週間後には大体元通りになっていた。

 回復ははやい方が良い。
 しかし、忘れないようにしなくてはいけない。
 その匙加減が微妙……って言うか。この話は、何時の間に教育路線に乗り上げたんだ?

「わっぷ……!」
「……ん?」

 何かがボクの腹の辺りにぶつかった。
 下を見る。
 ソコに居たのは、こげ茶色の髪の毛を肩辺りまでで切り揃えた生徒だった。

 黄色い二本の髪留め。
 そしてバッテン状にされた、紅い髪留め。
 何処かで見たことがあるような……ハテ?一体何だったっけ?

「ス、スミマセン!!ちょうよそ見してたら、ぶつかってしもて……」
「…………キミはまさか……」

 独特のイントネーションを伴った言葉。
 特徴的な髪留め。
 そして髪の色もピッタリと一致している。

「あ、北斗先生はあたしのコト、知っとるん?いやぁ~~、有名人になったもんやなぁ……♪」
「…………【八神はやて】……?」

 居るはずがない。
 しかし現実にはココに居る。
 本来もっと後で登場するはずだった【はやて】の登場は……一体何を示しているのだろうか……?














 あとがき

 >誤字訂正


 俊さん、円冠さん。ご指摘いただき、本当にありがとうございます!
 特に今回は誤字が多かったので、ご迷惑をお掛けしました!
 本当に申し訳ありません!!







[8085] 真・転生日記【オヤジ】風味 (以下略) 07  【イレギュラー戦隊、参る!!】
Name: satuki◆b147bc52 ID:3f224d59
Date: 2009/07/24 16:48



 前回のあらすじ:全ての授業を破壊するグレートなティーチャー(?)【北斗静香】。



 検索。
 思索。
 再び検索。

 映し出された情報は、ボクが予想していたモノと寸分違わぬモノ。
 髪の色も。住んでいる家の住所も。
 その全てが。【あの存在】を――【八神はやて】という存在を指し示している。

「……でも、そんなバカな……?」

 ボクの居た――つまり【月村静香】の歴史では、八神はやてが聖祥に編入するのはA'sが終わってからだった。
 しかし【あの】八神はやては、入学当初から居たことになっている。
 一応身体が弱いということで、体育などの授業は見学オンリーになっているが……。

「どう思う、(若)プレシア?」
「……とりあえず、今心の中で思ったコトを言って御覧なさい……?そうしたら、考えてあげるから……」
「…………ごめんなさい」

 現在保健室。
 そして本来は体育の時間。
 保健室児童であるフェアリィ・槙原は、この時間と図工の時間だけはココに【存在する】。

 あとの時間は、プレシアと口裏を合わせてアリバイを作っているだけ。
 実際には【覇王先生】として授業をしているのだ。
 だから今は、ちゃんと保健室に居る貴重な時間。

「罰として、この時間は【されるがままの刑】よ……♪」
「……仕方ない。それで手を打つか……」

 ボクは今、フェアリィとしてこの場に居る。
 だから当然、その姿も妖精さんである。
 そして現プレシアは、小さい子が大好き。ダイスキー。それはもう、鼻血が出ちゃうくらい。

「コラ、ツインテールにするな……!」
「あぁ……アリシアも昔はそう言って、良く私を困らせたのよねぇ♪」

 変態さんが居ます。
 鼻血を必死に堪えながら、恍惚の表情でヒトの髪をツインテールにしていく、外見【アダルト黒フェイト】。
 そう言えば、【月村静香】の時の大人フェイトは……若干今のプレシアに似てたなぁ?

「……で、本題に戻りたいんだけどさぁ……?」
「そうねぇ……。【確定された未来】説なら、単に知らない事実。そして【確定されてない未来】説なら……」
「未来は変えられる。変えるコトが出来ると。そういうことだね……?」

 つまり、どちらにせよ現状で出来ることは殆どない。
 【月村静香】から見れば、今のボクは知らない事実。
 でもそれは、【月村静香】からは確かめようのないコト。故に出来ることはない。

 そんな中で。
 差し当たってボクがやること。
 ソレは……。

「……頬を摺り寄せるな。鼻血を垂れ流すな。あと写真を撮るのは、もっとするな……!」

 未来の【ポンコツ】のマザーの暴走を止めるよう、注意を促すことだけだった。























「あ、そうだ。レジアスに匿名メールを出しとかないと……」

 内容はC3システムについて。
 放っておいたら、多分管理外世界のコトなんか調べもしないだろう。
 だからタネを蒔く。そして芽吹いた先が……あの【オヤジ無双】な世界。

 若干の後悔はある。
 でもコレで良いのだ。
 ボクの――月村静香の終わった先には、きっと【何か】がある。

 だからソレを、見なければならない。
 そして見るためには、歴史の再現を行わなければならない。
 ……とは言っても、多分ボクがやらなくても【誰かさん】経由で、レジアスは知ると思うけど。

「もう冬かぁ……」

 季節は春・夏を通り越し、既に秋すらも終わってしまった。
 と、いうことは……来ますよ。
 もう来ちゃってますよ、【闇の書】事件という厄介なモノが。

「蒐集は既に百件を越える状態。でも犠牲者はゼロ。というか……」

 まさか【リンカーコア、高く買い枡】とか書かれた広告を見るとは、夢にも思わなかった。
 それも地球というフィールドの中で。
 誤解があるようだけど、地球人にもリンカーコアが在る人は居ます。

 ただ【膨大な】魔力量を秘めたモノは稀少――というより、突然変異ということ。
 よって、塵も積もれば山となる。
 オラにみんなの魔力を分けてくれ!な作戦。

 管理局が情報をキャッチできない世界での、まさかまさかの大々的作戦。
 蓄積された頁は、恐らく四百はいっているだろう。
 この分ならクリスマスには完成する。

「……で、だ。そんな矢先に起こったのが……」

 第一次【御神の剣士】暴走事件。
 その日ヴィータは、たまたま空を移動中だった。
 アフリカでの蒐集を終え、帰宅途中。やけに大きな魔力反応をキャッチ。

 今までは自主的に協力してくれた人たちが対象だったが、その作戦にも限界がある。
 そこでその膨大な魔力の持ち主に直接協力を要請し、蒐集させてもらおうと思ったのだ。
 しかし……ココからが悲しいすれ違いの始まりだった。

 原作の如く、家を飛び出すなのは。
 そしてソレを追尾する、御神の剣士――という名の、過保護軍団。
 なのはに接近し、話をしようとするヴィータ。

 それに応じようとするなのは。
 だがこの時、ヴィータの手には闇の書と……グラーフアイゼンという名の鈍器があったのだ。
 警戒心ゼロの娘。そしてそれに近付くのはハンマー少女。

 それを見た御神の剣士たちは……当然の如く、勘違いをした。
 必要もないのに神速で間合いを詰め、そして一気に斬撃。
 たまたま防御魔法を張っていて助かったヴィータだったが、それが却って剣士たちをヒートアップさせてしまった。

 あとは泥沼。
 誤解が誤解を呼び。
 新たに双方の仲間が来たことによって、誤解は解けぬままになってしまった。

 月村静香謹製の電力式デバイス。
 ソレを装備した御神の剣士は、異常な程の――アレはバランスブレーカーと言っても良いレベルだろう。
 その力を行使し、tueeeeな状態に。

 そして今回の件で闇の書事件は、管理局の知るところとなりましたとさ。
 ……そうか。
 前回は偏った(士郎サイドの)情報だったから分からなかったけど、コレが真相だったのか……。

「何という。何という…………凄まじいほどの、勘違いからの泥沼なんだ……」

 とにもかくにも。
 これで史実どおりに管理局が介入してきて、そしてヴォルケンズは闘わざるを得なくなるのか。
 ……何でだろう?どうして視界が歪んで見えるんだろう……?

「でも、ヴォルケンズが居るってことは、はやてが主に目覚めたってことなハズ……」

 原作では車椅子がないと移動出来ない程に、彼女の脚は麻痺していた。
 しかし小学校に通うはやては、以前と変わらない。
 単に侵食具合が緩いだけ?それとも別の要因があるのか?

「えっと……フィリスのカルテ群から、はやての頁を抽出して、と……」

 原作では石田医師が主治医だったが、この世界ではフィリス【おば様】がはやての主治医。
 電子カルテ万歳。
 手書きカルテだったら、こんなコトは無理だったからねぇ……?

「…………何だよ、コレは……?」

 クランケ名:八神はやて。
 原因不明の病により、下半身不随に。
 小さな頃から入退院を繰り返し、現在もソレは変わらず。

「何なんだ……。この決定的なまでの矛盾は、一体何なんだよ……!?」

 有り得ない。
 しかし現実には在る。
 現実は直視しないといけない。

 もしかしてこの八神はやては、すでに魔法に目覚めていて、学校に来る時はソレを使ってるとか?
 有り得ないことではない。
 この様々なコトが【予想外】な世界だ。それくらいのイレギュラーなら、その範囲を脱することはない。













 そう思っていた時期が、ボクにもありました。

「時空管理局だ。ただちに武装を解除し、投降してもらおうか……!!」

 元気一杯。
 身長はすりきり一杯。
 ショタ執務官こと【クロノ・ハラオウン】が、ヴィータと守護ワンワンを捕まえようとしている。

 先日の騒ぎのせいで、地球での蒐集が出来なくなったヴォルケンズ。
 仕方無しに別の管理外世界で協力者を募り、今はその蒐集帰りだった。
 そして運悪く待っていたのは、黒い少年。

 先日の件で誤解が進行中のアースラチーム。
 当然の如く、その中核人物であるクロノも、絶賛誤解中。
 争いは争いを呼ぶ。例えそれが、誤解によるモノだったとしても。

「……投降の意思はなしか。仕方ない……!」
「そこまでだ!!」
「!?だ、誰だ……!?」

 クロスケの活躍を遮る、謎の声。
 それはクロノとどっこいどっこいな幼さを残した、子どもの声。
 少年執務官はその声がした方向を振り返る。

 そしてソコでは……信じられない光景があった。
 一人。二人。三人。
 さらに先程までクロノの眼下に居た二人も、いつの間にソチラに移動してる。つまり計五人。

 金髪。銀髪。
 反対側に桃髪と紅髪。
 中央部にはこげ茶色の髪が陣取り、皆が皆【管理局武装隊のアンダースーツ……のようなモノ】に身を包んでいる。

 ちなみに男子は紺色がベースで、女子は紅色が基本色だ。
 そしてその背後には【天幕】が在る。
 もう一度確認しよう。ココは【空】だ。

 なのに天幕がある。
 さらにその天幕を支えるのは、何故か【猫耳】がはみ出している黒子集団。
 集団と言っても、その数は二人。

 異常なまでにはやく動くことによって、分身しているように見える。
 ただそれだけのコト。
 ……まぁ、それだけ黒子には負担が掛かるコトでもあるが。

『羽ペンフォン!』

 五人の武装隊【もどき】が、携帯電話を取り出し……そしてその形態を変化させる。
 縦方向ではなく、横方向に割れる携帯。
 割れた先端には、Gペンのペン先のようなモノが出現し、後端には羽のようなモノが現れた。

『一筆入魂、ハァッ!!』

 達筆なドイツ語の筆記体。
 その内容はそれぞれ、【剣】・【鉄槌】・【湖】・【盾】。
 最後の一人である、中央に位置する者の文字は……【双刀】、であった。

 それぞれの文字は、それを書いた人物に吸い纏わり付くように吸収され……そして騎士甲冑が形成される。
 ソレらは【八神はやて】がデザインしたものと寸分違わぬモノ。
 つまり幼女と犬は、着替え直したようなモノだが……。まぁソコは、お約束だから仕方ないのだろう。

 ボイン騎士=シグナム。
 準ボイン騎士=シャマル。
 【微】乳騎士=ヴィータ。

 胸囲だけならナンバーワン=ザフィーラ。
 しかし……。
 しかし最後の一人だけが、アンノウンだった。

 こげ茶色の、肩辺りまで揃えた髪。
 ここまでなら、はやてが早期に覚醒したのかな?で済む。
 だがその考えは否定される。

 アンダージャケットは、はやてのものと同じ。
 しかしその上にくるハズの白いジャケットは、肩の所が広がることはなく、ただの長袖。
 そして下を見ると、ハーフパンツだかキュロットパンツだか区別が付かない、黒いパンツ。

 髪留めなんか付いてない。
 当然の如く、白い大きな帽子なんかも被っていない。
 堕天使のような六枚の羽もないし、何よりその手にしたのは……二本の【小太刀】だった。

「時間がないから、代表してボクの挨拶だけでお許し願おう……」

 そう言うとその存在以外の面子は、傅くように膝を立てて屈みだした。
 一刀を抜き放ち。
 そしてそれと同時に名乗りを上げる。

「ヴォルケンレッド――――【御神あらし】……」

 続いて二刀目も抜き、今度は皆が立ち上がる。
 それぞれが己の決めポーズを取り、中央の【御神あらし】と名乗る人物が最後を締めくくる。
 うん。何故だろう?ボクはこの先のセリフを、何となくだけど予想出来てしまうんだよ?

「天下御免の騎士(リッター)戦隊、――――【ヴォルケンジャー】、参る!!」

 ……予想通り。
 中々に良いセンスとチョイスだ。
 ボクと趣味が合いそうだなぁ……?

「(でも……【御神】、それに【二刀小太刀】だってぇ……?)」

 つまりアレは、はやてではない。
 少なくとも(確定されているかは不明だが)未来を知っている身としては、はやてとは別個の存在だと認識出来る。
 しかしソレでは、ヴォルケンズが付き従っている意味が不明だ。

 良くある介入モノで、騎士たちの信頼を得たからか。
 それとも全く違った答えなのか。
 ボクみたいな転生者が居るんだ。別に他に似たような存在が居ても、おかしくはない。

 だがそういう存在は、大概Sts編まで出張るモノなのだが……。
 ……居なかった。
 それとも、表舞台には出てこなかっただけなのか。

 不明。
 未確認。
 予測不能。

「ま、どちらにせよ……もう少し高みの見物といきますか……?」

 現在ココは、ラグナロクのブリッジ。
 海鳴市の上空での闘いに介入するか、モニターしながら考えてたところに、正体不明の存在が現れた。
 おまけにヴォルケンズを従えての登場という、トンでもないオマケを付けて。

 介入のタイミングを見計らっていて正解だった。
 だってもし今同時に介入していたら……多分恐ろしい程のカオスになっていただろうしねぇ?
 主にタキシードなマスクとか。セーラー服のボクとか。あとプレシアの新装備とか。

「でも一体……今回の闇の書事件は、何処へ向かおうとしているんだ……?」

 もし居るとすれば、それは神のみぞ知るところ。
 もしくはソレにケンカを売れる、狂喜の科学者くらいだろう。
 それだけは確実なことだった。














 あとがき

 >誤字訂正


 俊さん。毎度ご指摘いただき、本当にありがとうございます!


 >株式会社の小学校


 クラインさん、SMさん。ご指摘頂き、ありがとうございます。
 株式会社の中学と高校はあるけど、小学校は記憶違いで、なかったみたいです。
 その箇所は修正を加えました。本当にありがとうございました!





[8085] 真・転生日記【オヤジ】風味 (以下略) 08  【仮面対仮面(オマケ付き)】
Name: satuki◆b147bc52 ID:c1b896f6
Date: 2009/07/27 16:53



 前回のあらすじ:天下御免の騎士戦隊【ヴォルケンジャー】、参る!!



 管理局サイド。
 クロノ、ユーノ、アルフ。
 そしてデバイス強化済みの、なのはとフェイト。

 ヴォルケンジャーサイド。
 守護騎士四人。
 それに【御神あらし】を名乗る人物。

 人数は同数。
 そして戦力差にも、大きな開きはない。
 強いて言うのなら近距離特化か遠距離特化の差くらいだろう。

 【大鎌】対【剣】。
 【砲撃】対【鉄槌】。
 拳には拳がぶつかり合い、翠には翠が当たる。

 残ったのは【正統派】魔導師と、【邪道派】剣士。
 体格はほぼ同等。
 一本の杖と、二振りの刀。

 単純な手数で言えば、二倍の差。
 しかしそう簡単に行かないのが、戦闘というモノなのだ。
 スフィアを設置し。バインドを使い。そして頭を高速回転させる。

 するとどうだろう?
 手数の差などあっという間に消滅し、下手をすると逆にも成り得る。
 だからカンタンには行かない。行かないのだ。

「(……でも、妙だなぁ……?)」

 仮にも【御神】を名乗っているのだ。
 神速・奥義(種類は問わず)が使えて当たり前でなければ、そう名乗ることはないだろう。
 ならばクロスケなど、一刀の下に叩き伏せることも可能なハズなのに……?

 ベルカの騎士が【魔導師キラー】なら、御神の剣士は【魔導師ジェノサイダー】だ。
 別にどれが一番優れているとか、そういう話ではない。
 単に相性問題。あたかもジャンケンでのグー・チョキ・パーの関係のようなモノ。

 【なんちゃって御神の剣士】か、それとも実力を隠しているのか。
 それは画面越しでは判別出来ないが、ただ一つだけ分かってることが在るとしたら……。
 【アレ】はボクではない、ということだけだ。

 ボク同士は干渉し合えない。
 それは直接対峙だけでなく、映像での確認も不可能なのだ。
 だからボクは月村静香に会うコトも出来なければ、彼の映った映像を見ることさえ叶わない。

 だから【アレ】はボクじゃない。
 それにアレがボクだというのなら、今回【全て】の記憶を【走馬灯】ではなく、窮地において取り戻した意味が分からない。
 そしてアレがボクだと言うのなら、魔王少女の警視庁襲撃事件でボクは……死んでいないとおかしい。

 ソレが今までの法則。
 ボクの転生のルール。
 これまでのボクの……人生。

 それはただの経験則。
 もしかしたら違うかもしれないし、まだ知らないパーツがあるだけなのかもしれない。
 でも何年。何十年。何百年と。

 生まれては死に。
 死んでは生まれて。
 その繰り返しを延々と。

 言葉では一瞬。
 しかし実際には、悠久とも思えた日々。
 それが全てでなくて。

 まだ自分の知らないコトがあるとしても。
 アレは……アレはボクではない。
 確信がある。魂もそう言っている。

 だからアレはボクじゃない。
 ボクじゃないんだけど……。
 何か非常に【近い】感覚はする。

 コレ以上は映像では判別出来ない。
 でも多分、ボクが現地入りするのは止めた方が良い。
 【御神あらし】が居る以上、何が起こるか分からないからだ。

 プレシアは却下。
 何て言ったって現場に居るのは、フェイト・アルフ・なのは・ユーノ、そしてクロノだ。
 刻の庭園で辛酸を舐めさせられた連中。

 下手をすると、ヴォルケンの方に加勢してしまいそうで怖い。
 そういえばヴォルケン勢には、【エターナルロリータ】と【御神あらし】が居るけど……。
 ……却下。絶対にプレシアの参戦は却下だ。

 そうなると消去法で、クライド少年の参戦・または観戦となる。
 確か今回の戦場には、【仮面の戦士】が現れるハズ。
 さっきの猫耳黒子のドチラがやるのかは不明だが、それだけは確実だろう。

「(……なら、ちょっと仕掛けをするとしようか……?)」
























 相対するのは黒と黒。海鳴の闇夜に溶け込む者同士の闘い。
 時空管理局が誇る最年少執務官合格者、【クロノ・ハラオウン】。
 その対面にいるのは経歴が一切謎の剣士、【御神あらし】。

 守護騎士は四人。
 その情報から察するに、目の前の存在は騎士たちの将か、もしくは書の主というコトになる。
 それがクロノの辿り着いた結論。

 現状盤面に出ている駒から推察すれば、それは的を射たモノ。
 だがそれを決定付ける為には、まだまだパーツが足りない。
 ならばどうすれば良いか。足りないのなら仕入れれば良い。ソレが少年執務官の考えだった。

「君は守護騎士ではない。ということは、君が主なんだな……?」

 別に答えは期待してない。
 ただ反応を見たいだけ。
 それだけでも、少しは情報が得られるから。

「違う、と言っても……信じてはくれないだろう?」

 判断に困る。
 普通に考えれば、【御神あらし】が主なのは確実。
 だから今の言葉は、揺さぶりの為のモノというコトになる。

 しかし世の中、特に犯罪に関するコトに於いては。
 その【普通】程、当てにならないモノはない。
 普通を覆すのが犯罪。そう言ってしまっても過言ではない位だ。

 とすれば、裏の裏で本当。というコトも有り得る。
 有り得る、のだが……。
 裏の裏の裏でないとも言い切れない。

「……さてね?だが、もし違うというのなら……何故君は、守護騎士に協力しているんだい……?」

 それは冗談に付き合った場合でも。
 または本当の言葉に耳を傾けた場合でも。
 どちらの場合でも有効な問い掛け。だからクロノは聞いた。その真意を。

「……良い質問だ。流石は史上最年少で執務官に受かっただけはある……」
「……情報は筒抜け、という訳か……」

 管理局の情報を手に入れる術が有る。
 剣士の台詞は、それを証明するモノだった。
 執務官は考える。次の手は如何するべきか、と。

「そう睨まないで欲しいねぇ……?誠意の証として、さっきの質問には答えてあげるから……?」
「…………」
「カンタンな話さ。闇の書をコントロール出来れば、それは大いなる力となる。ソレだけで選択肢は増える。如何に人を従えるか。どうすれば更なる【チカラ】を得られるか。その為の選択肢がね……?」
「!?」

 結局は他の、今まで自分が逮捕してきた犯罪者たちと変わらない。
 極々在り来たりな答えは、それだけに信憑性があった。
 つまり。結論として。少年執務官のやるべきことは、これまた何時もと変わらぬモノだった。

「……させない。そんなコトをさせる訳には、いかない……!!」
「そう。それで良い。どんなに言い繕ったところで、ボクは既に犯罪者だ。だからキミのすることも、いつも通りで良いんだよ……?」
「……哀れみで僕が手を緩めるとでも……?」
「思わない。キミは良くも悪くも真面目さんだからね?今頭の中にあるのは、ボクの逮捕。それからその後のことだろう……?」

 答えは無い。
 だがそれは、答えたのと同じことを意味する。
 沈黙は肯定。

「しかしまぁ、キミは若いねぇ……?そんなに真っ直ぐなのを見ると、思わず背中が痒くなりそうだよ?」
「見たところ僕とそう変わらなそうだが……変身魔法か」
「いやぁ、キミは十四歳の平均身長からは大きく離れているから、自分を基準にするのは良くないんじゃ…………って、あぶな!?」

 剣士の台詞が最後まで紡がれることはなかった。
 少年執務官の一撃が、剣士に向かって投じられたからだ。
 避ける御神あらし。だがその隙をクロスケが、逃す訳がない。

「オイ……!コレじゃ……!どっちが正義の味方なのか……!分からないじゃないか……!?」

 クロノのスナイプを避けながらも、言いたいことはキッチリ伝える。
 それは余裕。
 全く息を切らさずにそんな芸当を出来る時点で、それは確定された事実。

「文句は逮捕後に幾らでも聞いてやる!だが、その前に……!」

 スナイプ。
 スナイプ。
 も一つおまけにスナイプ。

 御丁寧にもほんの僅かな時間差で迫ってくるソレは、どれも身体の正中線を狙ったモノ。
 一撃一撃が必殺。
 否。非殺傷設定を用いているから、生き地獄への招待状だ。

「貴様の逮捕が先だぁぁ!!」
「……あかん。クロノ少年が、若干暗黒面に落ちかけてる……」

 目的の為には手段を選ばず。
 とまでは行かないが、決してスマートなクロノ執務官ではなくなっている。
 頭の内部は沸騰し、さぞや蒸気機関がフル回転モードなのだろうねぇ?



「……トゥッ!!」



 それは上空に行き成り現れた。
 変な白い仮面を被った、ツナギ風の衣服を纏った戦士。
 学説名【カメンノユウシャオウ】が、クロノに向かって飛び蹴りをかましたのだ。

「…………がぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 遠ざかる悲鳴は、クロノが吹っ飛ばされたのを意味する。
 それまで上空に浮かんでいたクロスケは道路に叩き落され……そうになる瞬間に、飛行魔法を駆使して事なきを得た。
 苦悶の表情でさっきまで自分が居た場所を見上げる。するとソコに居たのは、変態仮面……もとい。仮面の戦士。

「誰だ!?仲間か!?」
「……今は待て。それが正しいとすぐに……ぷろぁぁぁ!?」

 クロノと仮面の戦士の真面目な問答。
 だが悲しいことに、仮面の戦士の格好良い台詞は、最後まで聞くことが出来なかった。
 つい今しがた、自分がクロノを蹴り飛ばしたように。今度は自分が、何者かに蹴り飛ばされたからだ。

「何者だ!?」

 今度は仮面の戦士が問う番。
 しかし自分を蹴り飛ばした相手を見た瞬間。
 仮面の中身はフリーズした。

「この偽者が……!!ボ……私こそが真の【仮面の戦士】だ!!」

 クロノが右見て。左見て。
 そして頬を抓る。
 ……痛い。クロノの痛覚は、無事に働いているようだった。

「どういうつもりだ!!まだお前の登場は先のハズだろうに……!?」

 仮面の戦士が見たもの。
 それは自分と寸分違わぬ格好をした、全く同じ【仮面の戦士】だった。
 その中身に思い当たる節があるからか。仮面の戦士は、新たに現れた仮面の戦士にそう呼びかける。

 ……失礼。殆どの部分は同じだが、仮面のデザインが一部異なっていた。
 逆二等辺三角形に、右に四つ・左に三つ。計七つの目を描いた仮面。
 ……どう見ても神の使いッポイデザインである。

「……ホウ。生憎私は君のことを知らないのだが……誰かと勘違いしてないか?」
「!?」
「そして勘違いするということは、君以外にもその格好をしている人物が居ると、そういうコトで良いかな……?」
「…………」

 仮面の戦士は狼狽する。
 つい口走ってしまったコト。
 それが己の――自分たちの計画を歪めてしまうモノだと。そのことに気が付いたから。

「騙すような真似をして失礼した。私は……」

 白いツナギを一瞬で脱ぎ去り。
 そして人類を補完してしまいそうな仮面も、同時に取り払う。
 白いツナギから黒いタキシード。ゼー○仮面の下からは、目元だけを覆う白い仮面。

「お前は……!?」
「確か……タキシードマスク……?」

 いつの間にか被ったシルクハット。
 勿論漆黒のマントもお忘れなく。
 黒いステッキは紳士の必需品。

 仮面の戦士は驚愕し。
 クロノの脳裏に現れたのは、母の窮地を救った正体不明の男。
 どう考えてもその存在が、目の前の存在と重なる。

「その通り。私こそが愛と正義と美の【仮面】戦士…………タキシードマスク!!」

 無風なハズなのに、何故かはためく黒マント。
 さっきまでは何も無かった場所には、煌く三日月。
 ……真の仮面の戦士は、天候すらも操ることが出来るらしい。

 未知に次ぐ未知。
 コレには流石のクロノも頭が働かず、そして仮面の戦士もペースを乱された模様。
 この場で自分のペースを保てているのは、もはやタキシードマスクのみ。

「…………何か存在を忘れられているような気がするけど…………今がチャンスか……?」

 ……訂正。もう一名居た。
 存在が抹消されかかっている【御神あらし】。
 そのコトに若干落ち込みつつも、チャンスはチャンスとしてきちんと活かす。

 こうして海鳴の夜に、破壊の雷が降りましたとさ。マル。






















 おまけ:覇王先生の課外授業【テスト】







 【第一問】―― 国語



 以下のA群とB群の中から二文字ずつ抜き出し、四字熟語を一つ完成させなさい。

 【A群】:馬、近、朝、立、木、耳、礼、令、見、男

 【B群】:女、西、東、風、暮、母、改、相、非、豆






 アリサ・バニングスの答え

 【朝令暮改】【馬耳東風】


 教師のコメント

 流石はバニングスさん、完璧な答えです。
 しかし【一つ】と書いてある所にそれ以上書くのはルール違反です。
 出来ることをアピールしたいのは分かりますが、今後は気を付けましょう。



 高町なのはの答え

 【朝礼母改】


 教師のコメント

 国語が苦手な高町さんとしては、すごく頑張ったことが見受けられます。
 しかしこの文字だと、朝礼でお母さんを改造することになってしまいます。
 もしかして高町さんのお母さんは、既に改造済みなのでしょうか。だからあんなに若いのですね。



 月村すずかの答え

 【近親相姦】


 教師のコメント 

 二文字ずつではない上に、【女】という文字を三回も使っていますよね。
 それにこれを四字熟語として認めるのは、学校の先生としては無理です。
 まさかとは思いますが、月村さんの願望ではありませんよね。もしそうだったら、すぐにでも親御さんと話をしないといけないのですが。














 あとがき

 >誤字訂正


 俊さん。毎度ご指摘頂き、本当にありがとうございます!






[8085] 真・転生日記【オヤジ】風味 (以下略) 09  【隣の市は危険がいっぱい!?】
Name: satuki◆b147bc52 ID:265be704
Date: 2009/07/31 21:08



 前回のあらすじ:真の仮面の戦士、決定戦。



 ワードを打ち込み。
 検索条件を絞り込み。
 捜査対象を探し出す。



 【 ― No Date ― 】



「ふ~~。やっぱり、何にも分からないかぁ……」

 【御神あらし】と名乗る人物のデータ。
 少しでも情報が得られればと探したのだが、収穫はまるで無し。
 そもそも戸籍がない。

 過去。
 現在。
 その全ての戸籍をさらっても、何も出てこない。

 ということはあの名前は、【偽名】ということになる。
 偽名。
 しかし偽りの名前で、何故ワザワザ【御神】を持ち出すかの意味が分からない。

「(二刀小太刀を持っていた以上、【御神】の意味を知らないというセンは無いよなぁ……)」

 そもそも【御神】を名乗るのが許されているのは、現在に絞れば美沙斗と美由希に限られる。
 士郎や恭也は不破で、仮になのはが名乗るとしても、それは【不破】だ(まぁ、そんな事態はないだろうが)。
 美沙斗が養子を取ったという話は無いし、美由希に義弟が居るという話もない。

 じゃあ静馬が実は生きていて、その子ども(養子)か?
 ……確かに【この世界】なら、静馬が実は生きていたとかでも不思議は無い。
 でもそうすると、可能性は無限大に広がり過ぎる。

「(……とりあえずは保留、しかないかな……?)」

 パーツが足りなすぎて、全体像が掴めない。
 仮にDNAデータが在ったとしても、比較対照が無ければ意味を成さない。
 だから保留。今はどうにも出来ないのだ。

「そう言えば…………もう一人。【ある意味】御神を名乗れたヤツが居たなぁ……」

 かつての名前は、既に知る者が居ないが。
 確かにもう一人。かつて【御神】を名乗ったモノが居た。
 その者の現在の名前は、【フェアリィ・槙原】。



 つまり…………ボク、ということになる。























「いやぁ、先生!!最近、良く会いますなぁ♪」
「……八神さん。君は一体、何処から湧いてくるのかなぁ……?」

 現在、聖祥小の職員室。
 もっと限定的に言うのなら、ボクに割り当てられたデスク。
 もう一度言おう。ココはボクの机だ。

「ちょう春風に身を委ねたら、何時の間にかこんなトコロに来てしもて……」
「……今は冬だし、勝手に来ておいて【こんなトコロ】はないと思うぞ……?」

 どうにもこの【八神はやて】。
 ボクとのエンカウント率が高過ぎる。
 一日最低一回。酷い時には十回以上も遭遇するのだ。

 ただの偶然。で片付ける程、ボクはお人好しではない。
 ソコでわざと泳がせたりもしたのだが、結果はイマイチ。
 一応証拠は残さないようにしているようだが、ボクの机を漁ったり、ノートパソコンの情報をコピーしたり。

 どう考えてもボクの情報を欲しがっている。
 まぁボクの存在は怪しすぎるから、納得といえばそうなのだが……。
 問題は奴さんが何者か、ってトコだな。

 【八神はやて】。
 身長・体重などのデータは、プレシアが管理する身体測定データで判明している。
 そこにおかしな点は存在しない。

 しかしその身体測定のデータ自身が信用出来ないとしたら?
 実は学校での測定の日。
 八神はやては学校を休んでいる。

 そして後日。最寄の病院で受けた結果が、学校に提出されているのだ。
 その病院の名前は海鳴大病院であって、それを測定したのがフィリスであることは言うに及ばず。
 つまり【この】八神はやてのデータなのか、それとも【入退院を繰り返している】八神はやてのデータなのか。

 もちろん、同一人物である確率が一番高い。
 だがそうでない確率が消えないのも、また事実なのだ。
 仮面の戦士が二人居るように。八神はやてもまた、二人居る可能性がある。

 そう思って不可視にして掛けた、【ストラグルバインド】。
 変身魔法も解除するから、これで分かるハズ。
 ……しかし目論見は崩れる。つまり何の変化も起きなかったのだ。

 もしやと思って病院に来ていた【車椅子】はやてにも仕掛けたが、結果はシロ。
 白。
 シロには違いないのだが……限りなく灰色に近い白。

 黒に近い灰色でない分、尚更面倒。
 これ以上の調査は守護騎士たちに勘付かれるので、不可能である。
 故に目の前の存在は、気の許せない訪問客。そんな位置付けにしか出来ないのだ。

「(はぁ……。最近アンノウンや、不可解なことが多すぎるんだよ……)」

 最大のイレギュラーはボク自身。
 だからそれに付随するように、どうしてもイレギュラーが連鎖的に発生する。
 あの騎士戦隊になってしまった、ヴォルケンリッターにしたってそうだ。

 リーゼによる黒子。
 変な変身道具。
 極めつけに【御神あらし】。

「(……考えることが山積み。……って、アレ?あの【羽ペンフォン】とかいうのは、一体何処から手に入れたんだ……?)」

 リーゼが居るから、グレアム経由はあってもおかしくない。
 ただこの頃のグレアムは、デュランダルの開発がたらい回しにされてた時期だ。
 最終的に【月村静香】がデュランダルを作ったけど、生憎あんな変身道具、作った記憶はない。

「(グレアム自身やリーゼには、そんなスキルはない。かと言って、スカ博士はこの頃【アギt○】にハマッてたハズ……)」

 スカリエッティなら可能。
 しかし彼の線はない。
 彼やボクと同等の技術を持つ者。

 そして【ボク】でない者。
 居るか不明の、他の転生者か。
 転生者……何か引っ掛かるモノがあるな……?

「……先生?北斗先生?」
「……ん?あぁ、済まないね?少し考え事をしててね……?」

 そういえばスカリエッティは、ボクが転生する度に【また逢おう】と言っていた。
 もしかして奴は、ボク以外の転生を繰り返すモノを知っている……?
 ……違う。それは奴こそが……。

「(スカリエッティが【転生者】だったってコトか……!!)」

 そうすれば話に筋が通る。
 奴さんの、妙に達観した感じも。
 スカリエッティの前身(若しくは逆)がこの世界に居るのなら、あの変身道具なんて、カンタンに作れるハズだ。

「(転生スカリエッティが何処かに居る世界。そして彼クラスの技術で作られた、【変身道具】。ソレを持っているのは、居ないはずのアンノウン……)」

 証拠は無い。
 ただ在るのは、一つの【確信】。
 転生スカリエッティが幾度目の転生で【御神】だったのかは不明だが。
 
 だがあの【御神あらし】の中身は、【ジェイル・スカリエッティ】。
 そう考えると、気味が悪い程にパズルが勝手に組み上がっていく。
 何処か超然とした雰囲気。自らを【悪役】にしたがるような言動。

 ……似ている。
 似すぎている。
 こうなると逆に、胡散臭さを感じる位に。

「……ありがとう、八神さん。君のおかげで、色々と考えが纏まってきたよ♪」
「?何のことかは分からんけど……どういたしまして!」

 結局ボクを探ろうとして来ていた【八神はやて】は、何の収穫も掴めぬまま帰って行った。
 ……と普通ならそう見えるが、ボクにとっては逆に映った。
 ボクに手掛かりを【蒔く】為にやって来た。

 そう考えた方がしっくり来るのだ。
 その考えを裏付けるように、帰ってからあるキーワードを入力してデータを検索すると……。
 ……有った。在ってしまったのだ。



 【八神あらし】



 八神はやての双子として、この世に生を受け。
 近年、生来の身体の弱さから小学校を休みがちになり、休学となる。
 二卵性でありながら、姉と容姿は瓜二つ。そして――――【男】である、と。













 全くの余談だが。
 このデータの信憑性は折り紙付きのハズ。
 しかし試しに、【ゲンヤ・ナカジマ】の祖先を辿っていったら……。



 【焔の錬金術師】



 と注釈が有ったのは、一体どういうコトなのだろう……?
 データの信憑性について、考えさせられる一件だった。





















 おまけ:蔵人先生の課外授業【テスト】







 【第二問】―― 図工



 次の文章の【①】、【②】、【③】に文字を入れて、文章を完成させなさい。

 ・厚みのある材木と材木を直角でくっ付ける場合、まずは【①】で仮止めし、次に【②】で穴を開け、そして【③】を打つとしっかり固定されます。






 アリサ・バニングスの答え

 ①【木工用ボンド】 ②【錐】 ③【釘】


 教師のコメント

 流石はバニングスさん、優秀です。
 ただのボンドではなく、木工用と付けたのも良いですね。
 【錐】と【釘】は、大人でも漢字で書けない人が多いのですが、良く勉強していますね。



 月村すずかの答え

 ①【荒縄】 ②【女性用のG補助具】 ③【男性(兄限定)の猛った分身】


 教師のコメント

 毎度月村さんの知識の深さには、頭が下がります。
 しかしコレは図工の知識を問うテストで、断じて保健体育のテストではありません。
 そういえば隣の市では、荒縄で自らの身体を縛った【係長】という変態が出没するそうです。隣の市に行く際は、くれぐれも気を付けましょう。



 高町なのはの答え

 ①【バインド】 ②【ディバインシューター】 ③【スターライトブレイカー】


 教師のコメント

 イマイチ良く分かりませんが、明らかに間違いであることは事実です。
 時にスターライトブレイカーは、【打つ】ではなく【撃つ】です。
 まぁ、こんな間違いをするのは高町さんだけ――――



 フェイト・テスタロッサの答え

 ①【バインド】 ②【フォトンランサー】 ③【サンダーレイジ】


 ――――かと思ったのですが。
 テスタロッサさん、あなたもですか。














 あとがき

 >誤字訂正


 俊さん、鱸さん。そしてsinkingさん。ご指摘頂き、本当にありがとうございます!!






[8085] デザイア!?
Name: satuki◆b147bc52 ID:455a9652
Date: 2009/08/02 16:08



 我輩は猫である。名前はまだない。
 ……失礼。ちゃんと人間である。
 良いねぇ?これが管理外第九十七番流のジョークかぁ……。

「やぁやぁ諸君、はじめまして。いや、それとも【久しぶり】になるのかな?私はかつて、【ジェイル・スカリエッティ】と呼ばれたモノ……」

 無駄に迫力が有り。
 そして同時に不気味さが漂っていた、昔のスカリエッティ。
 しかし今の彼からは、そんな気配は微塵も感じられない。

「此度は、ギル・グレアムという【悪役】の穴を埋める為に、私自らが転生することとなった……」

 正確にはただの転生ではなく、【魂を分割した】上での転生だ。
 己の魂を割り、その片方の魂を本来死産するはずだった赤子に入れる。
 こうすることで通常の転生なら【一人→一人】なのに対して、【一人→二人】に出来る。

 数の上ではたった一人の差。
 しかしこの一人分の差が、時には戦局を左右するコトもある。
 ましてや【ジェイル・スカリエッティ】が二人居るという状況は……管理局的に考えれば恐ろしい状況である。

「そして私は二年前の六月……」

 身長はかつての三分の一以下。
 体重なんて、女性モデルをブッちぎり出来るほどに、軽い軽い。
 そして容姿はと問われれば、昔とは違うものの、【ある意味】様々な者たちを魅了する程のモノであった。

「この地【海鳴】に再臨したのだぁぁぁぁっ!!」

 握りこぶしを作り。
 そして天高々に吼える。
 成る程。確かに一連の動作を見れば、ジェイル・スカリエッティ本人だと思えなくもない。

 しかし。
 極一般的な二歳児がそんなコトを吼えれば、どう贔屓目に見ても異常事態だ。
 そして彼の転生先の両親もその例に漏れず。だからこその当たり前が行われた。

「あなた!あらしが……あらしが!!」
「え、えぇぇっと……!こういう時は精神科か!?それとも小児科!?」

 未だ名の知れぬ八神父と八神母。
 その二人があたふたと慌てる様は、とても癒される。
 そんなことを思いながら狂喜している二歳児。

 ……歪んでいる。
 明らかにそれは、人として歪み切っているではないか。
 ちなみにそんな珍妙な芝居が行われているすぐ横では……。

『意地を張りすぎたな……。お前のブレンドはモカの入れすぎで、酸味が強すぎる……!』
『う、うぅぅ……!』
『そのままのブレンドで出せなかったのは、お前の心の狭さだ……!』

 テレビの中の登場人物。
 片やヨレヨレの黒いスーツを着ている、サラリーマン風の男。
 そしてもう一人は、大柄な身体を着物がゆったりと包み。そしてその中身は獅子の如き、苛烈な親父。

 一応断っておくが、これは【料理対決】を題材にしたドラマである。
 そして前述の二人は実は親子であり、その人間性を主軸とした話としても有名である。
 子どもなら【ミスター味皇】でも見てれば平和なのだが、何故か今日の八神家のチャンネルはこの【壮絶親子喧嘩バトル】だった。

「……これが、りょうりのせかい……!」

 だから勘違いしてしまった少女が一人。
 少女の名前は八神はやて。
 のちに【ミス・味っ娘】や【オッパイマイスター】として名を轟かせる、将来有望なオンナノコだった。



 ちなみに【ミスター味皇】とは、美味い物を食うと壮絶なリアクションを取る、変態爺さんの活躍を描いた作品である。
 中でも素晴らしいのは、あまりの美味さに巨大化して城を一つ破壊してしまった回か。
 アレは子ども心に、良い感じでトラウマを刻みこんでくれた。























 我輩はただの子どもである。
 名前はもうある。
 ……え?引っ張り過ぎだって?それは失礼した。では真面目にやろうか?



 如何に叡智とも呼べる知識を持っていても。
 またどれだけ頭の中で新しいアイディアを練れたとしても。
 ただの子どもには何も出来ないのだ。

 金もない。
 研究設備もない。
 ないない尽くしで、何も無い。

 これならいっそ、知識や頭脳など無いほうが良いのかもしれない。
 宝の持ち腐れ。
 そう思っていた時期が、私にもありました。

『ギンの翼にノゾミを乗せて!灯せ正義の緑信号!勇者電鉄マイトギャイン……線路内に人が立ちいった為、十分遅れでただ今到着!!』

 テレビの中では、今日も地球の子供向け番組が流されている。
 今回のは新幹線とSLが合体すると言う、オジサン鉄ちゃんが憤慨しそうな代物。
 でも子どもは大喜び。ついでに大きなお友だちも大喜び。

「う~む。実に勉強になるな。この常識に囚われない発想が、管理外世界の強みだな……」

 この場合の常識は、【管理世界】の常識である。
 当然【管理外世界】には別の常識が有るのだが……。
 この番組は……というか、フィクション世界はやりたい放題である。

「さ~て。次は【世紀末ラオウゲリオン】でも見るとしようか……?」

 二十世紀の末。人類にケンカを売ってくる怪獣を退治するため、一人の漢が立ち上がる。
 その名は【シンヂ・イカリガタ】。
 彼は究極の人型逆汎用兵器【ラオウゲリオン】に乗り、怪獣相手にギャンダムファイトを始めるというお話。
 
 勿論攻撃手段は、肉体言語のみ。
 そして闘いが終わった後には、夕日がまぶしい土手で相手と寝転ぶことはお約束。
 『お前……中々やるな』とか『フッ……お前こそな』とか言うのも外せない。

「今はやれることが少なくても、後になったらどうせ否応なく働くことになるんだ。なら今は、少しでも発想を豊かにしておかないとねぇ……?」

 どう見ても楽しんでいる。
 その姿を見るに、【発想を豊かにする】とかいうのは建前にしか聞こえない。
 しかしその姿は子どもらしくて、外から見る分には安心させられるモノだった。






 そして。
 そんな矢先のことだった。
 両親が死に。そして姉が半身不随になったのは。

 見た目は少年だが、中身は老成している位の年齢。
 だからその光景を、だたありのまま受け入れていた。
 それよりも困るのは、今後のこと。

 八神家はそれなりに貯蓄はあるものの、姉と二人で大きな家を維持しつつ暮らせるのは、せいぜい十五歳位までだ。
 それならば、今から引越しや節制をする必要がある。
 そうすれば、少なくとも社会人になるまで大丈夫だろう。

 そんな所帯じみたのか、それとも生き残る術を計算したのか分からない状態で居ると。
 【運命】が向こう側からやって来た。
 それも【足長オジサン】というスタンスを取りながら。

「こんにちは。私の名前はギル・グレアム。君たち二人に聞きたい。このまま施設に行くのと、知らないおじさんと一緒に暮らすの。どっちが良いかな……?」

 長身のイギリス人。
 管理局提督【ギル・グレアム】。
 その老紳士っぷりを遺憾なく発揮し、彼は上記の台詞を平然と吐いた。

「あらし、変態や!!最近はやりの、誘拐犯が出よった!!」
「……良し。では取りあえず、警察に電話を……」

 とりあえず彼は、自らの登場シーンで格好つけるよりもはやく、日本の常識を学んでくる方が先だった。
 このご時世で先の彼のような台詞を吐き、そして小さな子どもを前に同居を迫ってくる者を何というか。
 答えは三文字。



 【変質者】



 百十番をコールしたので、彼とは違った【この世界の守護者】たちが来るのは時間の問題だ。
 で、五分後に来た。
 警察という名の召喚獣は、八神邸を取り囲み、外から拡声器で呼びかけてきた。

『この家は完全に包囲されている!逃げ場はない!それが分かったら、大人しく出てきなさい!!』
「なん、だと……?」

 これに焦ったのはグレアム氏。
 子どものすることと見逃していたが、まさか本当に警察を呼ぶとは思わなかったらしい。
 しかし、これでも彼は時空管理局では上に立つもの。

 はやく誤解を解かねばならない。
 そう考えて玄関の前に出てくる。
 するとそこに居たのは、山のような人・人・人。

 どう考えても説得で応じてくれるような段階は過ぎており、そして既に駆逐するしか手段がないことを悟る。
 何といっても、彼は時空管理局では提督様なのだ。
 似たような組織のこと故、理解出来てしまったのである。

「え~い、仕方ない!ならば……!!」

 上着をサッと脱ぎ捨てて。
 その下には嘗てのバリアジャケットが展開されている……ハズだった。
 そしてその格好で、警察官たちを魔法で昏倒させる予定、だったのだが……。

『き、貴様!その格好は我々に対する挑発行為と解釈して良いのだな!?』
「……!?何故だ……何故バリアジャケットが展開していない!?」

 防護服がない。
 となれば、今の彼は見たくもない生まれたままの姿。
 言うまでもなく、文字通りの非武装である。

『確保――――!!』

 呆然とするグレアムをよそに、皆が皆彼に襲い掛かる。
 触りたくない。触れたくない。
 しかし宮仕えは厳しいのだ。そんな悲哀が漂うような光景だった。

「リーゼ~!!リーゼ~~!!」

 最後には自らの使い魔に助けを求めながら、彼は最寄の警察に護送されていった。
 そして助けを求められた方の二人はというと。
 何故か少年少女の横で、猫の姿で目撃された。

「(ふ~む。接触時に即効でプログラムを書き換えたのだが……少しやり過ぎたかな……?)」

 最近はアニメ・特撮が大好きな子どもになっているは言え、それでも中身は天才科学者だ。
 故に接触時に即効でデバイスプログラムを書き換えることなど、彼にとっては造作もないこと。
 こうして彼は、猫たちの咽をゴロゴロさせながら、その主が手錠を掛けられてパトカーに乗るのを見ていた。



 二日後。
 人型リーゼが迎えに行ったお陰で出てこれたグレアムが、再び八神家を訪れていた。
 今度はリーゼも居るので、いきなり通報されることはないだろう。

「生活援助してもらうのは良いけど、一緒には暮らしたくない」

 当たり前といえば当たり前。
 しかしこの意見は、ある意味グレアムの狙い通りでもあった。
 干渉が少なければ、管理局は自分の正体に行き着くことは難しくなる。

 だから元々、引き取ったとしても放置するつもりだったのだ。
 それが思わぬカタチで願いどおりになったのだ。
 これには喜ぶしかない。

「なぁなぁ、あらし。いくら相手は変質者のおっちゃんかて、さすがにソレは失礼なんじゃ……」
「姉さん。これは生き甲斐をなくした老人への、有料ボランティアなんだよ」

 ボランティアなのに【有料】。
 つまりソレは、無料奉仕活動ではなく、ただのお仕事。
 良い金づる。それがあらしにとっての、ギル・グレアムの正しい使い方だった。



 こうして変態提督を排除した後、少年と少女の共同生活は始まった。
 しかし最初から上手く行くことなどはなく、当然の如く失敗の連続だった。
 その失敗を乗り切れば、何とか回せる状態になる。

 ……というのが、世間一般的なプロセスだ。
 だがコレを良しとしなかったのが、【一応】身元引受人であるグレアム氏。
 彼は子どもたちだけの生活は無理があると【勝手に】判断し、自らの二体の使い魔を世話に行かせた。

 こうして八神家には、二人の世話役が現れた。
 彼女たちの働きぶりは素晴らしく、殆ど非の打ち所ないモノだった。
 近所付き合いも完璧で、困った人たちが居たら即座に助けるという素晴らしさ。

 ただ一つ。
 いや、この場合は二つか。
 大きな謎があった。

 一つは彼女たちは決して喋らないこと。
 そして二つ目は……彼女たちの格好が、何故か【黒子】のモノだったこと。
 黒子ならば喋らないのは当然。

 しかしそもそも【黒子】である必要が何処にあったのか。
 それはギル・グレアムという、変態紳士にしか分からないことだった。














 あとがき

 >誤字訂正


 俊さん。毎度ご指摘頂き、本当にありがとうございます!!







[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 43【本筋は、忘れた頃にやって来る】
Name: satuki◆b147bc52 ID:5685c1aa
Date: 2009/08/04 23:55



 時空管理局地上本部。
 本来今日行われるハズの【公開意見陳述会】は、未だをもって開始していなかった。
 その代わりに、皆が皆【喪服】を纏い。そして壇上の遺影を眺めていた。

 白黒の写真に写るのは、美女と見まごうばかりの男性。
 長く緩やかなウェーブがかった髪を後ろで一本にまとめ、その身には将官の制服。
 屈託のない笑顔は、本来真面目な写真であるハズの遺影を、尚のこと悲しい存在としていた。

「本日は【月村静香】中将の葬儀に来て頂き、誠に有難う御座います。司会進行役は私、【レジアス・ゲイズ】が務めさせて頂きます……」

 二階級特進による、准将から中将への昇進。
 リンディとカリムは、遂に並ばれてしまったなぁと思いながら、その胸中は複雑だ。
 そしてザフィーらに至っては、抜かれてしまった悔しさよりも、護れなかった悔しさをかみ締めていた。

 あの時、シズカの言うとおりにしていれば……。
 もし自分がもう少しはやく反応出来ていれば、あんなことにはならなかったのに……と。
 【盾の守護獣】。それは己を表す言葉。

 そこに嘘偽りは存在しない。
 如何なる虚偽も許さないその二つ名を、例え対象が主でなかったとは言え反古にしてしまった。
 自分の自尊心は傷付いた。

 だがソレ以上に、彼には後悔の念が込み上げている。
 彼は守護獣だ。
 引き摺るような、柔な精神はしていない。

 しかし彼は、今回のことを敢えて心に留めた。
 あんなことは二度とないように。
 自身を戒める【楔】として、彼は彼自身に誓約を課したのである。

「それでは生前の彼の人となりを振り返る為に、彼の人生を振り返ってみたいと思います……」

 会場の明かりが落とされ、正面には巨大なホログラフ映像が。
 彼が時空管理局に入る前からの、地上本部の現中心人物や騎士カリムたちとの出会い。
 そして奇妙な関係を形成しつつ、今日に至るエピソード。

 ソレらがダイジェスト方式で流され、最後は【超特殊任務】に就いているところで締めくくられた。
 言うまでもなく、それは機動六課の内偵任務のコトであり、その秘匿性から情報開示が出来なかった為である。
 しかしそれが開示されなくても、彼は時空管理局の中では有名人であり、同時にもたらした影響も大きい。

 彼が考案・開発した【C3システム】などを筆頭に、供給された発明品の数々。
 そのお陰で、魔法に頼らない部隊も実働可能になった。
 非魔導師の救世主。それが【月村静香】の肩書きの一つでも在った。

「我々は素晴らしい友を亡くした……。そして同時に、非常に重要な存在を失ってしまった……」

 英雄の価値は生きている時は元より、死んだ後にもその価値を発揮させる。
 つまり【あの英雄の敵討ちだぁぁぁぁ!!】と宣言し、誘導することでモチベーションを上げられるということ。
 偉い人は、友の死をも有効に利用しないといけない。

 悲しくないと言えば嘘になる。胸が痛まないかと聞かれれば、痛むに決まっている。
 しかし。だからと言って。
 このまま【彼】の死を無駄なモノにしてしまうのは……もっと出来ないことだった。

「彼の死を無駄なモノにしない為にも……我々は一意団結して、未曾有の危機を乗り切らなければならない!!」

 ザワザワと聴衆が怯え出す。
 未曾有の危機とは何なのか?
 そしてソレは本当に乗り切れるモノなのかと。

「この後行われる【公開意見陳述会】に、世紀の大犯罪者【ジェイル・スカリエッティ】が襲撃を仕掛けてくるという情報が入っている!」

 今度はガヤガヤと皆が焦り出す。
 スカリエッティの名は、上に行けば上に行くほど知られているモノ。
 その大犯罪者が、今日この場に襲撃してくるというのだ。焦らない方がおかしい。

「静粛に!!皆が焦る気持ちは良く分かる!!しかし、しかし!我々には、ヤツらにはない素晴らしい武器がある!!」

 一瞬にして静まりかえる会場。
 それは何なのか。
 皆がレジアスの言葉に耳を傾けた。

「それは……【勇気】・【気合】・【根性】だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 間が空く。
 思考が一瞬停止する。
 しかしその停止は、大将の次なる行動で再び動き出すのであった。



 ――ズゥゥゥゥン!!



 深く。
 そして静かに練られた【気合】。
 それが質量を伴って、聴衆の身体に叩き付けられたからだ。

「……コレが【気合】だ。人間、魔法などに頼らなくてもコレ位は出来るようになるのだ!」

 皆が色めき立つ。
 当たり前だ。
 これほど頼りになるボスは、そうそう居ない。

「自分の可能性を信じ、努力し。そして最後の最後まで立っていようという気合が、自分自身を救うことになるのだ……!!」

 もうどよめきは無かった。
 流石は地上の実質的なトップ。
 人身掌握から鼓舞。そしてパフォーマンスはお手の物のようだ。

「故に、我々が負けることはない!!」
『レジアス!レジアス!レジアス……!』

 会場の何処からともなく始められた、【レジアスコール】。
 まるで、プロレスの会場かと見まごうばかりの光景。
 しかしコレが現実の、合戦前の大将挨拶だった。

「さぁ、立ち上がれ!!地上の勇者たちよ!!皆で地上の平和を勝ち取る為に……!!」
『サー、イエッサー!!』

 一糸乱れぬ、統率の取れた敬礼。
 完璧なチームワークとも取れるソレは、気合と信頼の証。
 こうして地上本部は、最高の状態で戦争前準備が整いましたとさ。



『やぁやぁ諸君。ソロソロ私の話を聞いてもらえないかい……?』



 ……例えソレが、相手側の情けによるものの上にあるもので、あったとしても。























 被害は変わった。
 本来地上本部に与えられるはずだった、人的・物的ダメージの内、およそ三割に留まる快挙。
 完全に抑えることは出来ない。

 相手はなんと言っても、スカリエッティの【最新型】戦闘機人なのだ。
 元より敵わぬことは当然。しかしそれらを相手に、この程度の被害で済んでいる。
 これこそがヒトの起こした、【奇跡】というモノに他ならないだろう。

「(……だが。戦闘機人の相手をしている奴らは……機動六課のメンバーは……!)」

 レジアスは内心で、指揮などを放り出して【一戦士】として現場に向かいたかった。
 しかしそれをすれば、今度は全体的な指揮を出来るモノが居なくなってしまう。
 そしてソレは、他の提督ズも同様。

 彼・彼女らがそれぞれの方面の指揮を執らなかったら。
 三割に押さえ込まれた被害は、あっという間に本来のソレになるだろう。
 断腸の思い。まさに身体の内部が引き裂かれるような感覚を感じながら、彼は必死に指揮を執っていた。

 戦闘機人に対抗出来るのは、地上では機動六課のみ。
 如何に【C3システム】などがあるとは言え、それでもまだ【地上】と【戦闘機人】の力には差が存在するのだ。
 故に機動六課だけ。彼女たちだけが、対スカリエッティのカードとなる存在。

 だからこそ、彼女たちへの心配度は上がり調子なのだ。
 特にスバルやティアナは、娘も同然の少女たち。
 気にならない方がどうかしている。

「大将!地下設備に戦闘機人反応!!……!?お、及び【ザンカンブレイド】の反応をキャッチ!!」
「何!?現場に一番近いのは誰だ!」
「……現在、ギンガ・ナカジマ陸曹が交戦中!あ!スバル・ナカジマ二等陸士も接近中!!」
「…………っ」

 よりにもよって、【あの二人】だとは。
 レジアスは周りの人間に気付かれないよう、内心で舌打ちした。
 私情は優先するべからず。

 今の自分は大将なのだ。
 勝てるためのオーダーを組み。
 そしてソレを実行する義務がある。

「……高町なのは一等空尉の反応は?」
「現在接近中です。あと三分後には到着するかと……」

 三分。
 微妙な時間だ。
 戦闘機人が何人居るかにもよるが、ナカジマ姉妹ではウォータン・ユミリィの相手は難しい。

 ならば出来るかどうかは不明だが、なのはをウォータンに当てるのが定石だ。
 考える。考える。
 しかしソレに変わる代替案は見当たらない。仕方無しに、レジアスはなのはにソレを通達する。



 そしてその一分後。
 ギンガ・ナカジマは戦闘不能になり、捕獲され。
 次いで到着したスバル・ナカジマが残りの戦闘機人を一掃した。

 騎士仮面はその間、終始見学に徹していた。
 そうして向かえた、なのはの到着。
 それを見た仮面の騎士は、なのは目掛けて突貫していく。

 アクセルシューターで相手を近づけないようにし、持ち前の堅牢な守護壁で相手の攻撃を受けないようにする。
 ソレは近接戦闘者と闘う場面での、高町なのはのセオリー。
 間違ってはいない、事実彼女は、今までそれで生き延びてきたのだ。

 だがそれは、あくまで【常識的な相手】の場合に限られる。
 騎士仮面は【常識的な相手】の範囲を大きく逸脱したモノ。
 だからそんな【なのはのセオリー】は、彼に通じるハズがなかった。

「……どうした。貴様の魔法は、この程度のモノだったのか……!!」

 吼える騎士仮面。
 アクセルシューターをなます斬りにし、ディバインバスターを正面から斬り付ける。
 どう考えても、それは【人間】を止めている。

「違うというのなら、貴様の全てを賭けて挑んで来い!!」

 強い。
 騎士仮面は、明らかに今までの相手と異なった次元の敵だった。
 こちらの攻撃手段は無効化され。

 そして尚、向こうから攻めてくることはない。
 こちらの――【高町なのは】の全力を出させた上での対決を望んでいる。
 それを強いと言わずに何と言うのだろうか?

 咽が渇く。
 カラカラになって、唾の飲み込む音すら聞こえてくる程に。
 どうする……?リミッターの解除申請をするべきか?この相手なら、恐らく喜んで待ってくれるだろう。

 だが。
 しかし……。
 もしもその上で――全力を出した上で敗北してしまったら?

 エースの敗北。
 それも全力を出し切っての惨敗。
 それは自分のみならず、管理局全体にも影響を及ぼすモノ。

 負けられない。
 しかし勝てるイメージすら浮かばない。
 どうする……?どうすれば、この戦局を乗り切ることが出来るのだ……?

『高町一等空尉……貴官のリミッターは全てコチラで解除した。目の前の仮面の男を、得意の【全力全開】で粉砕するのだ……!』

 身体を押さえ付けていた戒めが取り払われ、それと同時にレジアスからの指令が入る。
 何故彼がリミッターの解除をしてくれたのか――解除出来たのかは不明。
 しかしコレでなのはを縛るものはなくなった。

 同時に、彼女自身の逃げ場は消失した。
 全力でなければ、相手に負けた時の言い訳は出来る。
 だがその言い訳が出来なくなってしまった以上、彼女は逃げ場をなくした子羊のようなモノになってしまった。

「……レジアス大将……相手はストライカークラス以上です!増援の手配を……」

 結局なのはに出来たのは、自分だけでは無理。
 だから味方を寄越してくれ、というモノだった。
 ある意味客観的に自分を見れる証拠。

 しかし現状でそんな余剰戦力がないのは、火を見るより明らか。
 そこに彼女の迷走っぷりが、垣間見れた。
 レジアスは理解した。彼女の迷いの理由を。だから一言。一言だけ言った。

『貴様は、いつからそんな大人しくなったのだ……?』
「……え?」
『以前の貴様らは周りの迷惑などは考えず、ただただ自分を通すことだけを考えていただろうに……?』
「そ、それは……」

 考えると恥ずかしいことだ。
 今回の機動六課にしたって、結局は夢見がちな少女たちの我が侭。
 そう言い切れてしまうモノだと分かってしまった。

 例え騎士カリムの予言があろうとも。
 元々ははやての夢に余禄がついた程度。
 いや。その余禄によって、はやての夢は、夢から脱却したのだ。

『貴様はそんな余計なことを考えんで良い。後の責任は【上】が取るモノだ。故に貴様は、後先考えずに……これまで通りに【全力全開】で己の路を抉じ開ければ良いだけだ……!!』
「……!?」

 考えもしなかった。
 陸の総大将が。
 まさかそんな考えをしてくれるとは。

『例え今の貴様が通じなくても、その次は分からん。だから自分から逃げるな。一度でも自分から逃げれば、この先立ち上がることは二度とないだろう……」
「……」
『エース・オブ・エースの看板が重いというのなら、そんな物は今すぐ下ろしてしまえ!貴様は……貴官は【ただの】高町なのはとして闘うのだ……!!』
「……ハイ!!」

 その瞳には紅蓮の輝き。
 真っ赤に燃える焔を灯して。
 彼女の心は、【不屈の心】を取り戻したのだ。

「…………覚悟は出来たようだな……?」
「……ハイ。でもそれは、貴方を逮捕する覚悟です!!」
「……良い覚悟だ。ならば貴様の全力を以って、俺を止めてみろ……!!」

 騎士仮面の問いかけ。
 それになのはは、今度は力強く返す。
 満足そうに頷くウォータン。もはや待つ必要は無くなった。

「レイジングハート!ブラスター3!!」
《All right!》

 ブラスタービットが現れ、高町なのはの最終形態が完成する。
 ビットを併用した、周囲の魔力残照をも利用した【スターライトブレイカー】。
 その威力は、非殺傷設定を用いていなければ、都市が一つ二つは軽く蒸発するほどの代物。

「全力ぅ……全開!!」
「…………」

 騎士は語らない。
 ただこの後に訪れる最大の一撃に対して、己を高めて待つのみ。
 故に微動だにすることすらなかった。

「スターライトォォォォォォォォ…………ブレイカァァァァァァァァ!!」

 非常に漢らしい声で叫びながら、彼女の渾身の一撃は騎士仮面に迫っていった。
 文句の付けようの無い、最大最強の一撃。
 コレを止められるモノはヒトに非ず。

 それ程の力と心胆を振るわせる一撃。
 もう一度言おう。コレを止められるやつは人間じゃない。
 だからなのだろう。騎士仮面は、臆することなくその一撃に立ち向かっていった。

「……流石だ。ならばオレも、最大の一撃を以って迎撃するとしよう……」

 満足げに瞑目するウォータン。
 次の瞬間に見開かれた瞳は、なのはと同じく【紅蓮】の輝きを秘めたモノ。
 つまり彼もまた、全力全開で挑戦者を退けようとしているのだ。

「我はウォータン。ウォータン・ユミリィ……メガーヌの剣なり……!」

 いつものように、槍がザンカンブレイドに変化する。
 長大な柄。巨大な鍔。
 しかしそこからが、何時もとは……通常とは異なった展開だった。

「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

 普通は長い長い刀身が形成されるモノ。
 しかし今回に限っては、刀身は形成されず、ただエネルギーを垂れ流し続けるモノと化した。
 通常の刀身よりも明らかに長大・巨大なエネルギー体。

「伸びよぉ!ザンカンブレイドォォォォ!!」

 伸びる。
 伸びる。
 何処まで伸び続けるのか想定不可能な、エネルギー体の刀身。

「薙ぎ払え……星ごと奴をぉぉぉぉ!!」

 その凄まじい質量と長さを伴った一撃が、なのはのスターライトブレイカーと接触する。
 削り。削られ。
 一進一退の攻防は、その持ち手たちではなく、放たれた一撃同士が演ずる死闘。

 星の一撃と、星を薙ぎ払う一撃。
 最初は拮抗していた両者だったが、次第にその差は歴然としてくる。
 確かにその魔導師ランクは拮抗したモノ。

 だが違う。
 気迫はある。力もある。
 だが……だが最後に勝負を分けるのは……!

「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」
「……!?」

 星が薙がれる。故に【星薙の太刀】。
 それこそが彼の――【ウォータン・ユミリィ】最大の【努力】と【根性】と【気合】の結晶。
 年季が違う。籠められた想いが違う。そして何より、気合が違う。だからこの結果は、ある意味当然のことだった。

「ァァァァァァァァ!?」
「……素晴らしかったぞ。もしも次があるのなら……その時はまた、さらに威力が増していることだろう……」

 勝者は去る。
 そして敗者は立つことすら不可能だった。
 地上本部地下施設での攻防は終わり……残されたのは傷付いたエースと、その部下。

 こうしてギンガ・ナカジマは……【予定通り】連れ去られるという展開となった。














 あとがき

 >誤字訂正


 俊さん。毎度ご指摘いただき、本当にありがとうございます!






[8085] デザイア!? 02
Name: satuki◆b147bc52 ID:118c893b
Date: 2009/09/04 19:03



 前回のあらすじ:八神家に黒子が現れた!!



 我が家にメイドは居ない。
 しかし見た目を問わないのなら、似たような仕事をしてくれるモノたちが居る。
 ソレが黒子。

 身体つきから女性であること。
 そして何故か猫耳が付いていること。
 何より、最低二人はいること。

 それが確認されている、数少ない情報だった。
 たまに、やけに背の高い男性と思われる黒子も出現するのだが……仕事が殆ど出来ずに邪魔ばかりするので、二人の黒子に追い出されている。
 ……多分中身はグレアム氏なのだろう。だから気にしない。

「……おかしい。なんで塩化ナトリウムの分際で、わたしの思い通りにならないんや!?」

 現在双子の姉上様――つまり【八神はやて】は、アニメや漫画の影響で料理に挑んでいる最中だった。
 その第一歩。
 味付けに至る最初の段階の【さ・し・す・せ・そ】。

 その【し】に当たる塩で、彼女は奮戦していた。
 彼女に与えられた課題は、【塩のみでお澄ましを作ること】。
 どう考えても料理初心者の、それも子どもがやるような課題ではない。

 どう考えても、彼女が考え付いた練習ではない。
 であればそれを考案し、彼女に課題として与えた者が居るはずだ。
 その者は今も、はやての後ろから彼女を見守っている。

 決して喋らず。
 そして指示する際には文字でのみ。
 その黒衣の下は未だに正体不明。

 つまり……。
 その、なんだ……?
 はやての料理のお師匠様というのは……。

「なぁなぁ、黒子さん?ほんまにこんなんで、お澄ましが出来るん……?」

 コクコク。
 ただ頷くことしかしない。
 そして【No】だったら、首を横に振るか、手刀のようなモノを横に振るのみ。

 【ミス・黒子】。
 その内の一人が、姉上様の料理の先生なのである。
 明らかに厳しすぎるその課題は、はやての将来性を見越してか。

 それとも己の持つ技術の全てを、叩き込みたいという思いからか。
 どちらにせよ、八神はやてはこの後、黒子の技を全て受け継ぐこととなる。
 それは料理だけではなく、洗濯・掃除などの【主婦】スキルの全てを。

 だから自分は、今日もテレビを観賞するのみ。
 電源を入れると、そこには【勇者翁ギルガイガー】の姿が。
 その姿がどこか、嘗て断ったデバイスの発注者を思わせるモノがあったが……。

 たぶん気のせい。
 そう思い、ふと後ろを振り返る。
 するとソコには、何故か頭を抱える黒子の姿が二体、確認されてしまった。






















 小学生というのは、存外退屈なモノである。
 しかし一つ。
 たった一つ通常と異なるエッセンスを入れるだけで、それは退屈しない……もっと言えば、危険を孕んだモノへと姿を変える。

「八神はやてさん」
「ハイ!」

 八神はやては現在、八神家で絶賛主婦の修行中である。
 しかし今。この学校というフィールドで、確かに【八神はやて】と呼ばれた存在は出欠確認がされた。
 結果は出席。

 有り得ない。
 だが現実に【八神はやて】は返事をした。
 そしてその声は、自身の内側から来たモノ。

「八神さんは、いつも元気ね~」
「いやぁ、そんなことないですよぉ~♪」

 まただ。
 その声は自分の口から発せられる。
 自身の声帯を使い、その舌を振るわせ。

 だからその声は、どう考えても自分が――【八神あらし】が出したモノに相違ない。
 よって【八神あらし】こそが、【八神はやて】である。
 ……少なくとも、この【学校】というフィールドの中では。

「はやてちゃ~ん!この前病院で見かけたけど、車椅子なんて使ってたよねぇ?大丈夫なの?」
「え?いややなぁ……見てたんかぁ~?だいじょうぶ、だいじょうぶ♪ちっと調子が悪かっただけやし……?」

 病院に居たのは、正真正銘の【八神はやて】だ。
 そしてココに居るのは【八神はやて】――のフリをした【八神あらし】である。
 きっかけは小さなこと。姉の脚が動かなくなり、休学を余儀なくされた時。

「いややぁ!ぜったい、学校に行く!!」

 普段は決して我が侭を言わない姉。
 しかしこの時は。
 珍しく。

 非常に珍しく、その内から来る我が侭を口にした。
 それも大泣きするという、壮大なオマケ付きで。
 姉は頑固である。

 こうと決めたら、梃子でも動かない。
 従って、今回はそれが悪い方に作用した。
 そしてそれに対処できるのは自分のみ。方法だって限られていた。

「……わかったよ。姉さんの脚が治るまで、私が代わりを引き受けるよ……」

 人間なんて非力だ。
 絶対的な強者(衣食住を持つ者)には勝てない。
 だからこの日、【八神あらし】は学校から消えた。こうして登場したのが、姉の皮を被った弟であったとさ。






 算数や理科には興味がない。
 というか、既に知っている。
 しかし歴史や地理はそうもいかない。

 だから軽い気持ちで授業を受けていたが、意外にも意外。
 結構楽しめている自分がいることに気が付いた。
 考えてみれば、この身は生まれながらにして最高の知能と知識を持った者。

 だから新鮮な情報というモノには目がなく、探究心と知識欲が入り混じった感情が顔をのぞかせた。
 そこには【要らん】の一言で切り捨てられるモノもあれば、非常に有益な情報も混じった世界。
 ただ楽しかった。だから彼は、この世界を意外にも気に入っていた。



 そんなある日。
 六月四日。つまり自身と姉の誕生日。
 ささやかながら……という表現はとても似合わない誕生会。

 黒子二人と姉が、非常に気張って作った料理の数々。
 それに舌鼓を打ちつつ、その片づけをしてる最中に起こった出来事。
 その時姉は、自室に戻って就寝の準備中。

 すると突然不気味に光り出した【闇の書】。
 鎖を解かれ、戒めから解放されるソレ。
 床に古代ベルカの魔法陣が形成され、ソコから出てきたのは怪しげな四人組。

 女子が三人。男性が一人。
 しかも揃いも揃って、黒いぴちっとしたアンダーウェアのみでのご登場。
 姉は気絶しなかった。そして自分が姉の部屋に到着するなり、彼女はこう言った。

「……あらし。また不審者や。悪いんやけど、また警察の人を呼んでくれんか……?」

 その言葉に対して自分が出来ることは、以前と変わらず。
 一、一、零。
 そうプッシュすると、白黒の正義の召喚獣がやって来た。



 二日後。
 またまた猫姉妹の力を使って、警察からの脱出をした。
 ただし今度の対象は、グレアム氏ではなく、四人の新たな変質者だったと記しておく。














 あとがき

 >誤字訂正


 俊さん。毎度ご指摘いただき、本当にありがとうございます!







[8085] 真・転生日記【オヤジ】風味 (以下略) 10  【近付いてくる真相!?】
Name: satuki◆b147bc52 ID:118c893b
Date: 2009/09/04 19:04



 前回のあらすじ:海鳴の隣の市には、変態が跋扈しているらしい。例として【係長】・【親方】。そして【裸王】。



 海鳴市は大きい。
 その広大な面積の中には様々な施設・家屋が乱立しており、八神の家もその例に漏れない。
 若干内装がさざなみ寮に似ている所も見受けられるが……気のせい。多分気のせいだ。

 その家屋に近付く、小さな人影が一つ。
 こげ茶色の髪に、紅と黄の髪留め。
 さらに聖祥の【女子用】制服に身を包み、ピョコピョコ歩いている。

 呼び鈴は押さない。
 懐から取り出しだ首紐付きの鍵を使い、自ら扉を開錠する。
 そう。ココは自身の住む家なのだから。

「ただいま~~!誰もおらんのか~~?」

 シーン。
 そんな擬音が聞こえてきそうな静寂。
 車椅子が何処にも無いことを見るに、皆で病院か買い物と言ったトコロか。

「(……ふぅ。これでわたしも…………いや。【私】も一息つけるというモノだな……?)」

 フェアリィ・槙原の推測は、全てに於いて的中しているとは言い難い。
 しかし、その全てが外れているとも言えなかった。
 【この】八神はやては、戸籍上での八神はやてではない。

 八神はやての双子の弟、【八神あらし】である。
 小さな頃から女の双子に間違われる事多数。
 ならばいっそのこと、はやての病気が治るまでは代理にと影武者を買って出たのだが……。

「(……参ったねぇ。まさか八神はやての病気の回復は、【闇の書事件】以後だったとは……)」

 ドクタースカリエッティは、凡そ人の身には収まり切らない程の知識を有している。
 だが残念なことに、自身の知らぬ知識が何時の間にか脳に収まっているというコトはない。
 つまり自分で興味を持って、自らが仕入れた知識しか知らないのだ。

 プロジェクトF関係や、戦闘機人。
 もう少し範囲を広げても、それに付随するようなことだけ。
 コレがSts当時の彼の脳内であり、八神はやてなど【多少珍しい】程度の、小娘部隊長くらいしか思っていなかった。

 故にそんな興味対象外のタヌキのことなど、知る由もない。
 だから彼女に関しては、簡単な概略くらいしか知らなかったのである。
 ……のだが。

「(……家族、か……。未来では闘い合う関係だというのに、何故私は甘いことを……)」

 八神はやては、八神あらしにとって。
 【姉】。
 だとしか、言いようが無かった。



「あんな、あらし……?お父ちゃんとお母ちゃん…………もう帰って来れなくてなぁ……」



 今でも思い出す。
 双子の両親が死んだ日のことを。
 最初にその報せを受けたのは、姉であるはやてだった。

「……?そうなの……?」
「…………うん。ちょう、遠いところへ行ってもうたんや……」

 その時点であらしは理解した。
 己の今生の父と母が、他界したというコトを。
 そして姉はそのことを、遠まわしに自分に伝えようとしていることも。

「そやから……。これからは…………これからは……!!」

 目尻に涙が浮かんでいる。
 しかしこの時点であらし少年に出来ることは、残念なことに何も無かった。
 ただこの後の姉の発言に耳を傾けるだけ。本当にそれしか出来ない程に無力だったのだ。

「これからはねぇちゃんのコトを、【お母ちゃん】だと思ってくれてえぇんよ……!!」
「…………は?」

 この後、八神はやては変わった。積極的に弟の世話をするようになり、掃除・洗濯は言うに及ばず。
 料理の腕も積極的に磨き、何時の間にか【主婦】にクラスチェンジしていた。
 ……まぁその影には、【黒子】の存在が在ったことは間違いないが。

 あらしとしても、それで不自由が有った訳ではなかったので、放置していた。
 しかしその後に……放置するべきではなかったと悔いることとなる。
 はやての部屋には、ロストロギア【闇の書】が在る。

 だがその存在は、姉や親とあまり関わろうとしていなかったあらしにとって、認識外のモノだった。
 それを理解したのは、姉が――はやての脚が動かなくなった時。
 今までのように、全てのことを一人で出来なくなった姉。その世話を始めた時のことである。

「……!?ね、ねぇさん…………この本って、何……?」
「……ん?それか?それはわたしが生まれてから、ずっとこの部屋に置いてあるモンやよ……?」

 禍々しい気配。
 鎖で雁字搦めにされたソレは、紛れもなくロストロギアであった。
 そして同時に理解した。これのせいで、姉の脚が動かなくなった、ということも。

 ジェイル・スカリエッティは天才科学者である。
 挑むものが難物であればあるほど、その頭の回転は増していくのだ。
 しかし悲しいことに。

 例えどれ程の天才であろうとも。
 また如何に様々な知識を持っていたとしても。
 それでもどうにも出来ないことも、この世の中には存在するのだ。

「(……情けない話だ。やれ【天才】だの【無限の欲望】などと呼ばれはしたが、こんな小さな命すら助けられないとは……!)」

 彼は未来を知っている。
 だからはやてが助かることは、確実だということも知っている。
 だが。しかし。それは己の力で行われたモノでないとも、同時に知ってしまうこととなった。
 
 それからの彼は 姉の代わりに学校に行き。
 そして適度に普通を装い。
 極々普通な態度で姉に接してきた。

 余計なことはしない。
 姉は自分では治せないし、未来では己と闘い合う存在なのだ。
 深入りは禁物。時が来れば自分は消え、そして【無限の欲望】に【戻れ】ば良い。

 ただそう考えていた。
 そんな考えで日々を過ごす内に。
 【あの】ストレンジャーが、己のフィールドに侵入してきたのだ。



「う~ん。GTHへの路は遠いなぁ……?」



 ソレはどう見ても異質な存在だった。
 丸太のような腕と脚。
 ドラム缶のような胴体に張り付いたのは、覇王の如き厳つい顔。

 一目で分かった。
 アレはどういう存在なのか。
 そして【アレ】が居るのなら、自分は今後どうすべきか。

 だからその後は、その考えに従って行動した。
 守護騎士たちを蒐集に使い、そして自らが開発した道具で変身させる。
 そうすることによって、今回の守護騎士たちは【違う】ことをアピールし、自身を黒幕とした。





















 それは本来、フェイトの蒐集が行われるハズの日だった。
 管理外世界を移動中のヴィータに、待ち伏せをかますなのは。
 しかし、ソコに居たのはヴィータ……ではなく【御神あらし】だった。

 なのはのディバインバスターは強力だ。
 それもカートリッジシステムを搭載したレイジングハートからなら、その強力さは更に拍車を掛ける。
 しかしそれと比例するように、その隙も大きくなるというもの。

 彼女自身の障壁は強固なモノだが、常時展開している訳ではない。
 その証拠に、仮面の戦士(たぶん中身はアリア)の長距離バインドは防げずにいた。
 つまり何を言いたいかと言うと。



 結論:なのはは御神あらしの一撃で昏倒し、無力化された。



 この一言に尽きる。
 もちろんなのはの蒐集はしない。
 しかしだからと言って、このまま放置も有り得ない。

 せめて管理局がこちらの様子を掴むまで。
 それぐらいは側に居てやろう。
 そう思ったのが間違いの元だった。

「……ふぅ。私も存外、甘くなったモノだなぁ……?」

 それに答える者は居ない。
 今この場には、気絶中のなのはと自身。
 この二人しか居ないのだから、それは当然のことだった。

「……いんや?あの【お人好し】一家に居れば、誰でもそうなると思うよぉ……?」
「……!?キ、キミは……!?」

 答える者が居ないハズ。
 なのにその答えが聞こえてきた時は……必ず良くないことが起きる。
 それはお約束。あんまり有り難くない方の、マイナス面でのお約束だった。

「いやぁ、探したよぉ……?管理局のマークが緩んでて、それでいて【御神あらし】の状態のキミと接触出来る場面をさぁ……?」

 巨体。
 大木。
 そんな感じでしか言い表せない、異質な存在。

「北斗、静香……」
「ノンノン!今のボクは、【ただの通りすがりの】セーラー服美少女戦士さ♪」

 ただの通りすがりで、こんな化け物が居てたまるか。
 そんな常識的な突っ込みは、この場では何のチカラも持たない。
 だから彼は、ソレを頑張って無視した。もしこの場に居たのが本当にただの小学生なら、そんなコトは出来ないと思いながら。












 時間は有限である。
 そしてこの場面ほど、それを言い表した箇所もないだろう。
 黒ベースの騎士甲冑。ソレに対峙するのは白ベースのセーラー服。

 片や美少女と見まごうばかりの少年。
 そしてもう一方は、世紀末覇王にソックリさんの女性。
 様々な意味での対極な存在。

「……ココに。この場面で登場したということは……答え合わせに来たというコトで、間違いないかな……?」
「そ。モチロン、百パーセント合ってるとは思わないから、適宜修正してくれると有り難いんだけどね……?」
「……聞こうか。キミの辿り着いた、考えってヤツを……?」

 先に口を開いたのは少年。
 そしてそれに応えたのは、妖精であり覇王であるモノ。
 少年は先を促す。そして真偽を修正する。

「結論から言おう。キミはジェイル・スカリエッティの転生体で、御神あらしは八神あらし。そして学校に居る【八神はやて】はキミの変装。……ココまでは問題ない?」
「…………あぁ。では聞こう。その上で何が分からないと……?」

 それはどう聞いても百点満点の答えだった。
 流石は小学校の教師を務めているだけはあるらしい。
 要点を押さえ、最小限の言葉でまとめている。

「うん。じゃあ聞こう。キミは……【ジェイル・スカリエッティ】とは何者なんだい……?」
「……【無限の欲望】、【狂気の天才科学者】。呼び方は幾らでもあると思うけど、そんな感じだよ……?」
「聞き方が悪かったか。何故キミは、いつも【悪役】を引き受けているんだい……?」

 【月村静香】の時系列で会ったスカリエッティも。
 そしてこの時間軸で会っている【御神あらし】も。
 彼らは何故か、【悪役】を引き受ける傾向にある。

 御神あらしは闇の書事件の主犯として。
 守護騎士たちはそれに従ったのみ。
 当然姉は知る由もない。

「そんでもって、【悪】を一手に引き受けた後に消える。そんなトコじゃないかな……?」
「……驚いたね。そこまで予想出来ているとは……」

 当然その際には、はやてたちの記憶を消していくつもりなのだろう。
 何とも念の入った悪役ぶり。
 しかしそれだけに謎だ。何が彼を、そこまでさせるかを。

「…………少し、昔話をしようか?あるところに、神様が居ました。その神様は、人間や動物・そして天地を作ったのだけど、中々自分の思い通りにはなりません……」

 人の進化にしろ、他の動物にしろ。
 その動きを全てコントロールするのは、例え神様であっても無理である。
 数が膨大過ぎる。その為の労力が足りなさ過ぎる。など等。理由は山ほども存在する。

「神様は全知全能ではない。しかし神様は全知全能になりたかった。いや……それが当然だと思っていた」

 まるで裸の王様だ。
 過ぎたチカラを望む。
 その先に待っているのは、大概破滅的な考えか、本当の意味での破滅である。

「そこで神様は考えた。人間たちのリーダーと、ソレを支える仕組みを作り。ソレらを自分が裏から操れば良いと……」

 それは箱庭だ。
 自然状態ではなく、明らかに手の加えた人工物。
 つまりこの世界は、ヒトの作りしモノだったということ。

「……そんで?そのリーダーが脳みそたちってことまでは分かったけど…………肝心の神様は何者なんだい?」
「さぁ。残念なことに、私には【ソレ】に関する記憶がない……。いや、【今の】ジェイル・スカリエッティなら知っているかもねぇ……?」
「その口ぶりだと、キミは――キミ【たち】は、ただの転生者ではないのか……?」
「オヤ、鋭いねぇ?その通り。私は――【ジェイル・スカリエッティ】は転生者でありながら、【魂の分割】を行える者でもあるんだよ」
「…………魂の分割、だって……?」

 有り得ない。
 有り得ないなんてことは、有り得ない。
 誰が言ったかは忘れたが、その台詞を考えた者は偉大である。

「そうさ。そもそも、おかしいと思ったことはないかい?何故私は、【今】この時間軸に居るんだろうねぇ……?」

 八神あらしの役割は【悪役】。
 しかしこの事件、【闇の書】事件には既に黒幕が居る。
 【ギル・グレアム】。彼こそがこの事件の真犯人。または黒幕と言える人物なのであるが……。

「……そうか。グレアムは勇者爺になってしまうから、そのバランス取りか……!?」

 グレアム提督は本史と違い、この世界では管理局に居続けることになる。
 それどころか、熱い【勇者魂】を思い出し、レジアスとバトルを繰り広げたりもしていた。
 となると、グレアムが本来引き受けるはずだった、【負の感情】を引き受ける役が空席となってしまう。

 足りないのなら、補えば良い。
 それは物では簡単なことだが、人では簡単にいかない。
 だから己を分割し、その席を埋めた。そういうコトなのだろう。

「イエス。そして魂を分割すると、【かつての自分】に変化させることも出来れば、転生することも出来るんだよ」
「……ちょっと待て。それじゃあ、キミたちの記憶の繋がりに説明が付かないじゃないか……」

 今研究所に引き篭もっているスカリエッティが居るのなら、八神あらしが【戻る】と言った意味が分からない。
 分割されたモノが戻る……。
 もし戻るという言葉を信じるのなら……。

「……再統合が出来るのか……?」

 考え付いたのは、恐ろしい考え。
 凡そ普通の思考回路では到達し得ない、異常な考え。
 それを、何故すんなりと考えられたのか。それは【ある考え】を肯定するモノだった。

「……残念、時間切れだ」
「……え?」

 空を見上げると、そこにはアースラがやって来ていた。
 タイムリミット。
 つまりはそういうコト。

「さらばだ、セーラーV。次会うときは……良くも悪くも【終わり】を告げる時だろうねぇ……?」

 瞬時に飛び去る後姿。
 普段の自分なら、今からでも追いかけられる。
 しかし現在の自分は、そんな気すら起きなかった。




















 おまけ:覇王先生の課外授業【テスト】







 【第三問】―― 家庭科



 次の文章の【①】、【②】、【③】に文字を入れて、文章を完成させなさい。

 ・ふつう【①】をさばく際には、【②】で三枚に下ろすのが普通です。しかし中には【③】のような金っ気が移りやすい【①】もおり、その場合は【④】をします。






 アリサ・バニングスの答え

 ①【魚】 ②【包丁】 ③【鰯】 ④【手開き】


 教師のコメント

 流石はバニングスさん、優秀です。
 鰯を手開きするのは、知らない人も多いので、知っておくと便利ですね。



 月村すずかの答え

 ①【兄の衣服】 ②【伸ばした爪】 ③【甲冑】 ④【メイドによる実力行使】


 教師のコメント

 これはもしかして、家庭内暴力の一種なのでしょうか。
 それとも、そういう【プレイ】の一種だとでも言うつもりですか。
 どちらにせよ、お兄さんがかわいそうです。止めてあげて下さい。



 高町なのはの答え

 ①【フェレット】 ②【ディバインバスター】 ③【ユーノ君】 ④【スターライトブレイカー】


 教師のコメント

 高町さんは、フェレットに何か恨みでもあるのでしょうか。
 ユーノ君というのは、以前夏休みの日記に書いてあったフェレットのことですよね。
 【お友だち】とまで言っているのなら、三枚に下ろすのはダメですよ。



 フェイト・テスタロッサの答え

 ①【フェレット】 ②【ザンバーフォーム】 ③【ユーノ】 ④【ジェットザンバー】


 ユーノ君というフェレットは、何かマズいことでも仕出かしたのでしょうか。
 いつもは優しいテスタロッサさんが、テスト中に怖い顔をして回答していたのが非常に気がかりです。
 






[8085] デザイア!? 03 【女(装)王、誕生】
Name: satuki◆b147bc52 ID:1cf8700d
Date: 2009/09/07 02:14



 前回のあらすじ:騎士という名のニートが現れた!!



 何故か警察から釈放された四人の変質者。
 そしてそれらを引き連れてきたのは、ファースト変質者(ギル・グレアム)。
 確認しよう。

 彼の後ろに居るのは、ピンクのボイン騎士。
 準ボインの金髪ヤンママ風騎士。
 オレンジっぽいツリ目のロリータ。

 そして少女がやればまだ可愛げがあるが、大の大人――それも筋骨粒々な男には犬耳と尻尾。
 ……カオスだ。変態の見本市みたいだ。
 こんな連中、普通に考えたら門戸を開く国はないだろう。

 故に我が家も同様。
 誰があんな変態ズを、我が家に入れるものか。
 しかし奴らは既に、玄関の前に居る。

 そう、【また】八神家玄関なのだ。
 どうしてココは、毎度戦場になってしまうのだろうか?
 玄関というのは、外界と個人宅を分断する、ある種のゲートだ。

 そしてそのゲートには、開閉を司る【ゲートキーパー】が必ず付いている。
 その名は【鍵】。
 ソレの動き一つで、家と外は繋がるのだ。

「……姉さん。またあの変質者たちが来てるよ?それも、最初の変態爺があの人たちを引き連れてるんだけど……?」
「ハァ……またかい?しゃ~ないなぁ……水でもぶっかけてやり?」
「了解」

 ザブ~ン!
 そんな音でも聞こえそうな、気持ちの良い感触。
 季節は夏です。だからコレは、彼らへの労いなのだ。

 ……ただし、その水が乾くと余計に暑く感じるという嫌がらせも兼ねているが。
























「……粗茶ですが」

 舞台は何時の間にか、八神家のリビングに移っていた。
 あの後、何分も彼らを外に出したままにしていたら、黒子からNGが出たのである。
 【近所から変な目で見られてしまいます】――と書かれたホワイトボードが、現在の状況を教えてくれたから。

 仕方なしに中に入れ、現在はリビングのソファーに座らせている。
 しかし一体……変態爺は何を考えているのやら……?
 その当の変態代表は、持ってきたアタッシュケースを開き、その中身を自分と姉に見せてきた。

「……また仕事、なのかい……?」
「そう取ってもらっても構わない」

 そう取るも何も、どう考えてもそうとしか考えられない。
 明らかに買収。
 アタッシュケースを引っくり返してやろうと思っていると、横からその中身を取り出した輩が居た。

「いやぁ~、悪いですなぁ♪」
「……姉さん」

 スッカリ瞳に映っているのが【¥】になった姉。
 そしてこうなってしまえば、己の意思などない事は明白。
 京女のハズなのに、金を目の前にした姉は【難波の商人】に変身する。

「まぁ、元々はあたしが持ってた本から出てきたんや。そんなら、あたしが責任取るのスジっちゅうもんやろ?」

 正論だ。
 あぁ、正論だとも。
 しかしその目が【¥】でなく、そして手に持っているのが札束でなければ、その台詞は感動出来るモノだったのだが。

「いやぁ、この歳で【酒池肉林】とは……今までの不幸がふっとぶようやなぁ~~♪」

 まるで刻の権力者だ。
 そしてそうなってくると、その末路は既に見えてくる。
 【酒池肉林】を行う者の末路。それは……どう考えても【破滅】、なのである。



 だがそんな姉の姿が、ただのやせ我慢であることに気付くのに、そう時間は掛からなかった。
 日々悪化する身体。
 その原因が【闇の書】にあることも明白。

 姉自身は原因不明の奇病だと思っていたが、それでも自分の身体の異変は分かってしまうもの。
 恐らく長くはないと分かってしまったのだろう。
 だから今のうちに、楽しめることは楽しみ。そして残される弟――つまり私にも楽しい思い出を。

 そう考えていたのだ。






「騎士たちよ。蒐集を行うぞ」
『……!?』

 時は深夜。
 はやてが寝たのを見計らい、リビングに集合したのは自身と騎士たち。
 今ここに在る四対八つの瞳が、己を貫いている状況。

「……ど、どういうことですか!?はやてちゃんは、そんなこと望んでませんでしたよ!?」
「……声が大きいよ。それに君たちは気付いているハズだ。姉さんの病状の悪化……その原因は闇の書にあると……」
『……』

 沈黙は、下手な肯定よりも雄弁である。
 そして彼女らの様子から察するに、本当は独断でやるつもりだったことも伺いしれた。
 まったく……どうして私の周りには、お人よしが多いのやら……?

「ともかく……明日から【蒐集】を行う。方法は……【郷に入っては郷に従え】ということで……」
「……それは、一体どういう意味なのですか……?」

 将は問う、その言葉の意味するところを。
 だから返す。
 その意味は、ある種の仕事であると。

「何、単純なことさ?アルバイト情報誌やインターネットを利用するだけ……のことさ」

 かくして歴史上初の【無血蒐集(リンカーコアを売って下さい作戦)】が行われたのである。
 ……余談だが、この作戦のせいでグレアム氏の貯蓄は三分の一以下になり、彼が目に見えてやつれたのが分かった。
 良し。ようやくこれで、一つ返したぞ?













 おまけ



 かくして守護騎士たちが八神家の一員となった。
 そのことで、今まで以上に姉の世話をする必要性はなくなった。
 皆が分担してはやての世話をするということは……自分に【自由な時間】が増えたことになる。

 そんな訳で、今まで来れなかった隣の区との境にあるPCショップに来てみた。
 確かに十年後のミッドのテクノロジーと全く違うモノたちだが、それでも興味は尽きない。
 そもそもベクトルが違うモノたちなのだ。故に飽きることは、まだ先の話になりそうである。

「……ん?」

 何か視線を感じる。
 しかし気配は感じない。
 このチグハグな感覚の正体は一体……?

「……まただ」

 またしても同じ感覚。
 そして二度目ともなれば、どう考えても気のせいではない。
 右を見る。左を見る。上、下、後ろ……そして正面。

「……いない」

 だが捕捉出来ない。
 まるで、姿無き監視者に見られているかのよう。
 しかしこの感覚は、監視カメラなどではない。

「(右見て、左見て……もう一度左を見る!)」

 フェイントを混ぜる。
 そうすれば、何らかのリアクションはあるハズだ。
 そう思い、ソレを実行に移す。

 ……居た。
 白いタキシードに裏地が紅の派手なマント。
 シルクハットも被っているが、どう見てもその姿は【怪盗1412号】や【タキシードマスク】ではない。

「おや、気持ちの良い風につられて少し足を伸ばしてみれば……何とも素晴らしい【同志】がいるではありませんか……」

 そこに居たのは、紳士という仮面を被った変態。
 隣の市の一部では有名な変態紳士。
 【ドクトル】と呼ばれたモノが、存在していた。














 あとがき

 >誤字訂正


 俊さん。毎度ご指摘頂き、本当にありがとうございます!!






[8085] 真・転生日記【オヤジ】風味 (以下略) 11  【混沌の始まり】
Name: satuki◆b147bc52 ID:be8a4b8e
Date: 2009/09/13 12:20



 前回のあらすじ:隣の市の変態の元締め(代理?)、変態紳士の参上。



「……やぁ、コンニチワ。【女(装)王】さん?」
「……これはこれは。奇遇だねぇ?【覇王少女】さん……?」

 今宵の海鳴は、血に餓えている……訳ではなく。
 まるでフェイトの儀式魔法の如き雷が、各地で鳴り響いていた。
 比喩ではなく。現実のものとして。

「いやぁ……ボクの【覇王少女】っていうのは、真実そのものだから良いんだけどさぁ~♪」
「……っ」

 言外に、『お前はそうでないのに、そういうあだ名を付けられたんだよね~♪』と言っている覇王少女。
 そして相対する存在がそれに気付かない訳が無く。
 キッと奥歯を噛み締めながら、どう反論したものかと考えを巡らす。

「あ、ゴメンゴメン!気が付かなかったよぉ~~……本当は真実だったんだよねぇ?配慮が足りなくて悪いねぇ……?」
「……いやぁぁ。気にしてないから、安心したまえぇ……」

 凄い【笑顔】の覇王少女と、かなり顔が引き攣っている女(装)王。……もとい、八神あらし。
 対称的な巨体と小柄な少女の対比は、表情を含めて異常なまでに対照的だった。
 体型。ごつい漢顔と、可愛らしい容姿。女と男。

 まるで鏡合わせのように、対称的な二人。
 しかし鏡の本質は、己の真の姿を暴き立てる物。
 つまり何処からどう見ても似ていない二人だが、実は本質が同じということに……。

「……止めよう。何だか自分で自分を、貶めているような気がする……」
「……同感だ。ここで我々が言い争っても、何の実りもないからねぇ……」

 ……似ている。
 元々、人をくったような話し方をする二人。
 そして思考パターンも論理展開も、異常なまでに酷似している二人。

「しかし……まさか、こんな所で出会うことになるとはねぇ……?」
「同感だよ。ちょっと息抜きに、翠屋のシュークリームを食べに来ただけだというのに……」

 現在地=喫茶翠屋の目の前。
 目的=翠屋のシュークリームを食べることによって、リフレッシュするため。
 つまり……覇王少女の目的は、目の前の少女……もとい。少年と、寸分違わず同じもの。

『……はぁ』

 前回の接触の折、御神あらしは『次会うときは……良くも悪くも【終わり】を告げる時だろうねぇ……?』と言っていた。
 つまり、次の接触は最終決戦時。
 そう想定していたのだろう。

 無論これは、フェアリィとしても同意だ。
 だからそのつもりで、準備をしてきた。
 最終決戦の、どの場面で介入するか。

 またその後、どう流れを持っていくかなど。
 想定をし、それに基づく展開を予想し。そしてそれに対する対抗策を用意する。
 ……という流れを実践中だったのだが……。

「……人生とは、ままならない物なんだねぇ……?」
「全くだ。流石の私も、これにはビックリだよ……?」

 体格も性別も全く違う二人。
 だがその二人が、今は同じ動作をしている。
 肩を落とし、頭を垂れている状態。

『…………はぁ』

 そして再び。
 今度は先程よりも、もっと溜めが長い嘆息。
 まるでユニゾンしているかのようなその動作は、互いが互いに疲れさせる原因にもなっていた。























 場所を移して、現在【翠屋】内部のボックス席。
 ……にでも行こうかと思ったのだけど。
 残念な事に、ここは【ラグナロク】の艦橋である。

 あの後、翠屋のシュークリームを食べるべく店内に入ったのだが……待っていたのは、謂れのない誹謗中傷。
 ……いや。この姿(覇王少女)を見れば、あれはある意味当然の反応だったのかもしれない。
 保護者会などで面識がある高町父母を除けば、あの店の従業員でボクと面識がある者は居ない。

 故にあれは必然。
 しかし、そうと分かっていても悲しい。
 そんな事態だったのだ。



「いらっしゃいま……貴様!この店に何の用だ!?」

 そう言って出迎えてくれたのは、稀代の朴念仁剣士【高町恭也】。
 苦手である営業スマイルから一転して、普段以上に険しい顔に。
 うん。そっちの方が【らしくて】、格好良いとは思うよ?でもさぁ……実際に相対したいとは思わないけどね?

「何の用って……翠屋のシュークリームを……」
「買占めに来たというのか!?……そうか。買い占めた挙句、高値で売り捌くつもりだな……!!」

 言ってねーよ。
 何その発想?
 とても頭コチコチな高町恭也君とは、思えない発言なんですけど?

「お兄ちゃん、どうしたの!?声が奥まで聞こえたけど……」

 そこへやって来たのは、我らが魔王。
 ……失礼。
 未来の魔王、【高町なのは】嬢でありました。

「なのは!?こっちに来ては駄目だ!!」
「え!?ど、どうしたの!?何があったの!?」
「……化け物だ。翠屋を狙う……いや。我が家の人間を狙う、狩猟者(ハンター)だ!」
「…………気のせいかな?私、お兄ちゃんの目の前にいるヒトを……よく知ってるような気がするんだけど……?」

 知ってるも何も、担任ですから。
 とは言っても、それをこの場で言って、何処まで説得力があるのやら。
 とりあえず、成り行きに身を任せるしかないな。

「何!?既になのはと接触済みだったとは……どこまでも用意周到な奴め!!」
「……何でだろ?今のお兄ちゃんを見てると、【かわいそ、かわいそなのです】とか言いたくなるのは……?」

 頭が、【可哀想】な人認定を受けた兄。
 その内容が理解出来た時。その時こそが彼の人生の終着点かもしれない。
 しかしそれは今じゃない。だから彼は暴走し続ける。

「……グハッ!な、何て破壊力なんだ……!!待っていろよ、なのは。お前のことは、兄が必ず護ってみせるからな!!」

 妹の仕草にときめき、そして勘違い街道まっしぐらな(駄目)兄貴。
 鼻から人体を構成する上で大事な液体が、滝のように流れていく。
 ……アレ?恭也がKYOUYAでもなく、【きょうや?】に見えてきたような……?

「化け物め!貴様には御神の業を使うまでもない!!新たにこの身に宿った技で倒してやる!!」

 ……うん。
 とりあえず鼻血を止めろや?
 どう考えてもシスコンを越えたシス魂です。本当にあり(以下略)。

「喰らえ!【癌魔砲】!!」

 恭也の掌から怪光線……ではなく、衝撃を伴った気合砲のようなものが飛び出してくる。
 あまりにも予想外で。そして想定外の出来事に。
 ……ボクは反応出来なかった。つまりそれは、どういうことかと言うと……?

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ…………!?」

 当然翠屋から物理的に追い出されましたとさ。
 まぁ、どのみち。
 その一件で入り口の扉が壊れた翠屋は、本日の営業が終了したらしいけどね?













 ……で。現在ラグナロクのブリッジに、話は戻ってくる。
 どさくさに紛れてシュークリームを買っていた、八神あらし。
 彼のおかげで普段は無機質な艦橋が、ちょっとしたお茶会モードに。

「……さて。そろそろ本題に移ろうか?」
「同感だね。お茶会も楽しいんだけど、今はそれより重要な事があるしね?」

 本来はラストバトル。つまり戦場で会う予定だった二人。
 当然場が盛り上がった状態のハズ。
 しかし今はそうじゃない。ならば一体、何をしようと言うのか?

「……気付いているんだろう?我々がどういった存在なのかを?」
「……多分ね。だから今から話すことは……」

 騎士からの問い掛けに、覇王は頷く。
 そして続ける。
 己が。いや、自分【たち】が、何を話し合うべきなのかを。

「……やっぱり、【二人で前転宙返りしながら、合体する】のが良いかな……?」
「いやぁ、【変な振り付けをしながら、融合する】っていうのもアリだと思わないかい……?」

 傍目には訳が分からない状態。
 一体に何について討議し、そして模索しているのだろうか?
 その答えは、二人以外には分からないように思える。

「それとも、互いに片耳ずつ変なイヤリングをするか?」
「いいねぇ……って、良く考えたら我々には必要ないんじゃないかい……?」
「そうだよ?でもさぁ、見せ場って必要だと思わない?」
「成る程。しかし人知れずというのも、おつだと思わないかい……?」
「……確かに。今回の場合、そっちの方が良いか」
「うん。そうだと思うよ……?」

 意味不明な会話。
 しかし本人同士には通じる、魔法の会話。
 結論は出た。ならばこれから先は……実践である。

「私が帰らない場合、シャマルにはやての記憶操作を頼んである。そしてそれは、闇の書の管制人格にも同様だ。そうすれば、はやてはおろか、守護騎士たちからも【あらし】の存在を抹消出来る」

 最悪の事態の備え。
 ……いや。この場合、来るべき日に備えてのものというべきか。
 八神あらしは既に準備を整えていた。

「キミはどうなんだい?準備は整ってるのかい?」

 ドクターは問う。
 己の準備は十全かと。
 その言葉にボクは――【フェアリィ・槙原】はこう答えた。

「【北斗静香】は転勤させる。そして【フェアリィ・槙原】の方は……」

 思い出すのは、さざなみの住人たち。
 義母。その父母。義母とツートップな魔王。
 巫女。猫又。狐。

「……大丈夫さ。あすこの住人たちは、良い人ばかりだ。ちょっと異世界を救ってくると言えば、最終的には許してくれるよ……」

 勿論最初に手紙を送って、向こうには承諾なしの事後承諾ですが。
 帰ってきたら、一体どういう目に会うのか。
 想像するだけで冷や汗が出てくる。

「良いのかい?記憶を処理することも出来るのに……?」
「…………良いんだよ。帰る場所があるのは、きっと良いことだと思うから……」

 互いが互いに別の選択肢を選ぶ。
 一方は消滅。もう一方は存続。
 だがこれは、ある意味仕方のないこと。相反する者同士。陰と陽を分かたれた者たちなのだから。

「……分かった。それと注意事項として、【その後】がどうなるかは……私も分かっていない」
「ボクが残るか……」
「キミが残るか……」
『それとも両方消えるか……』

 合わせようとした訳でもないのに、二つの声は重なる。
 合わせた訳ではない。
 合わせようとする必要すらないのだ。

「まぁキミの清らかさと、私のステキさが同居することになるのだろうが……」
「……ここまで不幸か。ボクの人生……」

 嬉しそうに言うあらしに、いつの間にかフェアリィに戻ったボクが、嫌そうな声を上げる。
 だがチャンスは今回しかない。偶然という機会を利用し、【神様】きどりな馬鹿野郎に鉄槌を下す。
 その為の最重要チェックポイントは、恐らく【ここ】しかないのだ。

「……まぁ良いさ。とにかくそうしなければ、どうしようもない」
「……その通り」

 ボクは右手。あらしは左手。
 互いが鏡合わせのように立ち、掌を合わせる。
 もう戻れはしない。永遠は、ここで終わりを告げるのだから。

「……往くよ」
「……あぁ」

 光が満ちる。
 艦船の艦橋という狭くはないフィールドに、光が溢れる。
 長い、永い、発光。

 黒い光と白い光。
 それらは今、白でも黒でもない色に混ざり合っていく。
 そしてそれは、物語の【続き】が――【混沌】を内包した物語の続きが、再び始まったということも意味していた。














 あとがき

 >誤字訂正


 俊さん。毎度ご指摘いただき、本当にありがとうございます!!






[8085] 真・転生日記【オヤジ】風味 (以下略) 12  【長い伏線(その一)】
Name: satuki◆b147bc52 ID:990b2e27
Date: 2009/09/18 00:37



 前回のあらすじ:【フェアリィ・槙原】+【八神あらし】=???



 【アンリミティッド・デザイア】。それは【ジェイル・スカリエッティ】の開発コードだと言われている。
 無限の欲望。そう言い換えられたそれは、ただの人だった。
 人間。その存在の思考を有る一定の方向で固定し、ただただ、その感情の赴くままに突き進ませる。

 人はヒトである限り、その脳の力を百パーセント使いこなすことなど出来ない。
 それは本能がリミッターを掛けるため。
 天才と呼ばれる人間たちですら、そのリミッターを完全に解放している訳ではないのだ。

 だが、もしも人為的にそれを完全解放させたら?
 その被験者は、人間という枠組みを越えたことになる。
 もちろんリスクはある。

 元々施されているリミッターを外すのだ。
 そこに無理がない訳がない。
 どれ程肉体を改造しようとも。

 また如何にDNAレベルからの、根本的な見直しをしようとも。
 そこには必ず【限界】という概念が壁となって立ち塞がり、行く手を阻む。
 だから人は例え思考操作されようとも、無限に欲望を持ち続けることなど、出来るはずもないのである。

 よって【アンリミティッド・デザイア】は、単体では用を成さなかった。
 次に行われたのが、それを二つに分けるという発想。
 元々、最大限までヒトとしての可能性を引き出した者。

 一人では無理でも二人なら。
 陰と陽を分けて、対極的なアプローチをし続ければ。
 限りない【可能性】を人類から引き出し、そして同時にコントロールする。

 この相反する矛盾した考えを内包した考えが、この――【箱庭】のシステム。
 明と暗。正道と邪道。正義と悪。
 与えられた役割を続けさせられる人類。そこに……彼らの意思は存在しないに等しい。

 駒は駒らしくしていれば良い。
 何とも使い古された台詞だが、それは上位者からすれば当たり前の考え方。
 反吐が出る。同時にそう言った統治者たちは、必ず足下をすくわれる。

 人は見えない支配は嫌がらないが、それが見えた時――必ずと言って良いほど反発する。
 だから人は、神に成り得ない。
 人は何処まで行っても人であり、また神は何処まで行っても人には成れない。






 ……とまぁ、これが【アンリミティッド・デザイア】プランの概要だったのだけど……。

「…………随分とふざけたプランね……?いえ、これは【プラン】と呼ぶのもおこがましいわ……」

 黒髪ウェーブ版のフェイト――つまり久々登場の【若】プレシア。
 その彼女は、現在怒り心頭モードである。
 それも当然と言えばそうだろう。

 この次元世界の全てを、裏からコントロールしてきた存在。
 もしもそんな存在が居ると言うのなら、彼女の行動もそれによって誘導されたものだということになる。
 即ち、かつて彼女が失敗した魔力駆動炉の実験も。また、そこから始まる悲劇の全てが……その存在の介入が在ったせいだということになる。

「ということは……まさか【闇の書】事件も、全て仕組まれたものだったと!?」

 以前自分も関わり。そしてその日から、家族の運命が変わってしまった事件。
 クライドはその考えに至り、そして驚愕する。
 驚愕……せざるを得ない。



 建造から既に幾年も経た実験次元航行艦だったラグナロク。
 今その内部では、黒と蒼。そして紫が対面している。
 ジェイル・スカリエッティと月村静香に共通した色――【紫】。

 その姿は月村静香と呼ばれた存在に酷似しており、唯一の違いは服装くらいだった。
 かつて着ていた将官服や茜屋の制服とは違い、黒と紫を基調とした燕尾服風のデザインの服。
 とても美形でないと着こなせない、奇怪極まる格好である。

「じゃあ、あの事件も……全てあなたが仕組んだ事だったというんですか……?」

 クライドは問う。かつて師事し、今でも憧れている存在に対して。
 何を?
 震える声に載せられたのは、信じたくない事実。

「そうだよ。ボクの中の【ジェイル・スカリエッティ】がやったんだ」
「……っ!?」

 声に震えはない。
 淀みもない。
 それはただの事実だから。

 月村静香の――月村静香【の姿をした者】にとってそれは、ただの事実確認でしかなかった。
 知らなかった。自分ではなかった。そう言うことは簡単だ。
 しかしそれは、彼の矜持が許さなかった。

 合一。この場合は、再統合と言った方が良いだろう。
 つまり自分の分身、自分そのものと言っても良い存在の所業なのだ。
 それを無かったことには出来ないし、避けて通ることも出来ない。

「……ふぅ。止めておきます」

 今にも殴りかかりそうな気配だった、クライド少年。
 しかしため息を吐くと、その気配は一瞬にして霧散する。
 そしてそれはプレシアも同様。

「どうしてだい?ボクはキミたちにとって……」
「それでもです」

 最後まで言わせて貰えない言葉。
 遮るように言われた一言は、その言葉に全てが込められていた。
 まるで奪われた物より、貰った物の方が多いと言わんばかりに。

「……プレシアも?」
「…………えぇ。恨まないであげるわ(今はね?)」

 明らかに台詞と表情が一致していない彼女。
 だがそれは仕方のないこと。ボクは彼女から、彼女にとっての全てと言い切れるモノを奪ってしまったのだ。寧ろ当然である。
 それでもプレシアから出た言葉が剣呑なものでないということは、己の感情よりも優先すべきものが有ると理解しているからだろう。

「……分かった。ならこの話は、ここまでにしておこうか?」

 無言で頷く二人。
 さてと、それでは次の話題に移るとするか。
 思考を切り替え、話を振ろうとしたした時。クライド少年が思い出したかのように、言ってきた。

「そう言えば……今のあなたは、何者なんですか……?」

 一瞬呆気に取られるが、すぐに現実に回帰する。
 ボクが何者か……。いや、それ以前に最初の名前って、何だったっけ……?
 ……思い出せない。思い出せないなら、正直に答えるしかない。

「……もう名前も忘れてしまった…………ただの三次元人さ」

 背中に漂うのは哀愁。
 まるでターバンとマントを纏った宇宙人が見えそうな、今のボク。
 そう言えばあれも、善と悪の再融合だったよね?

「…………何というカオス!!執務官長……やはり、あなたは素晴らしい!!」

 クライド少年が、何かに取り憑かれたようです。
 前回の恭也と言い、真面目な二枚目キャラが突然暴走する現象が、最近は流行っているのかもしれない。
 そんな少年を見て――いや。少年【たち】を見て、プレシアが三白眼になってこう呟いた。

「……駄目だわ、コイツら。はやく何とかしないと……」






















 ラグナロクはルナパパ謹製の、謎の技術が満載である。
 故にタイムスリップなんてお手の物。
 とは言っても、彼の技術を以ってしても片道切符がせいぜいではあるが。

「この時代。月村静香とジェイル・スカリエッティが同時に存在する時代は、ボクたちにとって不都合極まりない」

 何せ彼ら自身がフリーダムに動き回っている時代なのである。
 当然、ボクたちが動ける幅も限定されるし、第一やることがない。
 ならばいっそのこと、彼らの居なくなった後の時代に――少なくとも【月村静香】が死亡した後の世界なら、自由度はグッと上がる。

「だからボクは提案する。刻を越え、歴史の【続き】から再び始めることを……」
「異議はありません」
「そうね。大局的に見た場合、その方が良いことは確かね…………だけど」

 プルプルと震えるプレシア姐さん。
 何やら理性と感情が闘っているらしい。
 先程の己の激情すら押さえ込んだ彼女が、一体何を気にしているというのだろうか?

「……?どうしたの、何か問題でも……?」
「有るわ。有るわよ。大有りよ!!」
「ちょっと、落ち着いて下さいよ!?一体どうしたって言うんです!?」

 激昂プレシアを、クライド少年が抑えようとする。
 結構良い組み合わせだな。
 あんま考えたことは無かったけど、【クラ×プレ】っていうカップリングも、有りなのか……?

「だって!せっかく、美人の保健の先生って評判になったのよ!?毎日可愛い子どもたちが遊びに来てくれて、一緒にお茶したり……」

 【イヤンイヤン】な状態に突入しているプレシア。
 鼻から大量の血液が流れ続けているのを見ると、そろそろ輸血パックを用意した方が良いかもしれない。
 そう思ってしまう程だった。

「このまま行けば、一緒にお昼寝とかも出来るようになりそうだったのに……!!」

 先生、大変です!
 ここに(性)犯罪者が居ます。
 しかもそれは、そもそも小学校でやるようなことではないのにねぇ?

「じゃあ良いよ。プレシアだけ、この時代に置いていくから」
「そうして貰えると助かるわ。仮にも教師たるもの、子どもたちを置いて何処かへ行くような真似は……」

 繰り返すが、彼女の鼻血は滝のように流れ続けている。
 つまり真面目ぶった台詞は、全て台無しな上に、全く以って説得力に欠ける代物。
 これで説得される奴が居るのなら、是非とも見てみたいものだ。

「ただそうすると…………今度会った時には、プレシアだけがオバハンに……」
「さぁ、行きましょう!!さっさと未来に行く準備をしなさい!!」

 一瞬の迷いも生じない程の、華麗なる転進。
 さっきまでごねていたのが、まるで嘘のようだ。
 ここまで来ると、却って清々しさすら感じる。

 結論。
 女性は、自分自身が一番大切なようです。
 プレシアお姉さんは、ボクたちに大切なことを教えてくれました。

「あぁ、ちょっと待っておくれ。まだこの時代で、一つだけやらなきゃならない事が残ってるんだよ……?」

 そう。大事な大事な、お約束を。
 この為に次元航行艦の名前を、態々自分で決めたのだ。
 これをやらないと、【A's】は終われないよねぇ……?












 十二月二十四日。
 世間ではクリスマス・イヴと呼ばれるその日。
 ただ高町なのはと愉快な仲間たちにとっては、その日は違った意味を持っていた。

 闇の書を滅し、事件に終止符を打つ大事な日。
 現在、闇の書の防衛プログラムの複層式バリアは破壊され、三人娘のトリプルブレイカーの準備中。
 既になのは・フェイトと詠唱が終わっており、残すははやてのみ。

 リインフォースによって【八神あらし】の記憶を消されたはやての胸中には、防衛プログラムへの申し訳なさしか存在しない。
 だがそれも一瞬のこと。
 気持ちを切り替え、そして最後の詠唱を始める。

「響け終焉の鐘……ラグナロク……」

 本当はこの後に三人娘の【ブレイカー】という台詞が待っているはず。
 しかし今回は台本通りにはいかなかった。
 何故ならそれは、予想外の事態が起きるからだ。

「「「ブレイ『お呼びとあらば、即参上!!』…………へ?」」」

 大音量スピーカーから放たれた、意味不明な言葉。
 それを発した主は、雲を突き抜けて上空から現れた。
 紅い、西洋龍の一種を模した体躯。その姿は何処からどう見ても、【ラグナロク】だった。

「そんな……あれは、【ラグナロク】!?」

 その声はラグナロクに乗船経験もあり、何かと縁深いリンディ・ハラオウンのものだった。
 【在り得ず】。その別名通りの感想が、彼女の脳裏を駆け巡る。
 有り得ない。だって、あの人たちはもう……。

 遺影のような白黒の風景。
 その空間の中で微笑む、夫と人生の先達。
 同時に呟かれたのは、彼女の名前。

『『リンディ(嬢)!』』



「……ハッ!?」

 現実に戻される。
 戻った彼女の前にあった光景は、ラグナロクが防衛プログラムに突っ込んでいくところだった。
 何の悪夢だ。またラグナロクが消えるのを、今度は己の目で確認せよというのか。

「エイミィ、ラグナロクに通信繋いで!!」
「ハ、ハイ!!…………駄目です!通信繋がりません!!」

 半ば予想通りの答え。
 しかしそのままには出来ない。
 次なる一手を考えないと。リンディがそう思った瞬間、ラグナロクに更なる動きがあった。



 ――ギュィィィィィィィィン!!



 次元航行艦に搭載されている、【ディストーション・フィールド】。
 それを最大限に展開した状態で、ラグナロクが突貫していく。
 しかしそれは、防衛プログラム本体に対しての攻撃ではなく。その端末たる大型触手たちのみが対象であった。

「……何を、しているというの……?」

 湧き上がる疑問。
 ラグナロク程の大質量の物体が突貫すれば、プログラム本体は一旦壊滅寸前までいくだろう。
 例えばこんな感じで。



『往けぇ!ラグナロクよ!!忌まわしき記憶と共に……!!』



 しかしあの艦船は、それをしようとはしてない。
 何故?どうして?
 その解けないはずの答えは、意外にもアッサリと解けた。

『……露払いはこれ位で良いだろう……。さぁ出番だぞぉ……【勇者翁】!!』
『…………任せたまえ』

 そう、ラグナロクは時間を稼いでいたのだ。
 この事件の当事者にして、氷結の杖を持った老提督の到着の為の時間を。
 これで真の意味での事件の決着が、漸く付いたのであった。












 おまけ



 翌日。所謂【お別れの儀式】のクライマックスにあった出来事。
 リインフォースが段々と粒子化していき、まさに光になる瞬間のこと。
 『ポンッ!』という音と共に、一枚のカードが回転しながら一直線に突っ込んでくる。

「「「……!?」」」

 その場に居た、誰もが息を呑んだ。
 カードによって【お別れの魔法陣】は破壊され、霧散していく魔力。
 そして目撃した。白いマントとシルクハット。モノクル(片眼鏡)から見えるのは、独特の紅い瞳。

「メリークリスマス、魔法使いの皆様……」
「「「誰!?」」」
「……おや。アースラ宛に予告状を出したのですが……どうやら、本気と受け取られなかったようですね」

 白い紳士は続ける。
 己の目的。
 そしてそれを実行する為に来たのだと。

「まぁ良いでしょう。私は【祝福の風】を頂きに参上した……ただの怪盗ですよ」
「「怪盗……!?」」

 怪盗という単語を聞くや否や、なのはとフェイトがガクブルし始めた。
 どうやら彼女たちにとっては、既にトラウマものの出来事らしい。
 無理もない。警視庁での事件は、ボクにとってもやり過ぎたと反省すべき点があったからな。

「えぇ。それでは早速で悪いのですが、煩いのが来る前に退散させて貰いますよ…………目的を果たしてからね?」
「な!?それは……!?」

 リインフォースの首筋に手刀を一発。
 本当なら優雅に魔法か眠り薬とかでやりたいのだが、如何せん相手はプログラムだ。
 成功しなかった場合、厄介なことこの上ない。

「……という訳で」

 慇懃に、恭しく礼をする怪盗――というか、変装したボク。
 リインフォースを片手で抱きながら、白いマントで己たちを覆う。
 やっぱ怪盗って言ったら、こうでないとねぇ……?

「それでは皆様、御機嫌よう……」

 転移魔法ではなく、ワザと白いハンググライダーを展開して逃走する。
 様式美を重視するのが、日本人の美徳なのです。
 偉い人にはそれが(以下略)。

「皆、大変だ!リインフォースが狙われて……って、既に遅かったか!?」

 一同が呆気に取られている間に、少年執務官が怪盗とタッチの差で現れた。
 大急ぎで来たのだろうが、僅かに及ばず……といったところだろう。
 歯噛みしているのが見て取れる。

「……奴はとんでもないモノを盗んでいった…………キミの、家族だ……」

 それはリインフォースと、彼女が持っていた【あらし】の記憶という、二重の意味。
 つまりクロノは、二人の家族が盗まれたと言いたかったのだ。
 しかし当人たちにとっては、あらしの記憶などなく、祝福の風が奪われたのみ。よって……。

「何、当たり前のこと言っとるんや!?さっさと追えっちゅうに!!」

 八神家の主に怒られたのは、至極当然のことだった。














 あとがき

 >誤字訂正


 俊さん。毎度ご指摘いただき、本当にありがとうございます!






[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 44【長い伏線(そのニ)】
Name: satuki◆b147bc52 ID:5af1912c
Date: 2009/09/19 19:34



 前回のあらすじ:真の敵は歴史の道標……ではないよなぁ?



 時空管理局地上本部。
 闇夜にそびえ立つそれは、さながら現代のバベルの塔。
 そして今その体躯には、向かい風というには強力過ぎる風が吹いていた。

 その風の名前は、【ジェイル・スカリエッティ】。
 管理局の暗部が生み出し、そして利用し続けてきた【悪役】。
 彼の大規模テロ活動によって、公開意見陳述会を行っていた本部は襲撃され。

 そして同時に、機動六課に保管されていたロストギア【レリック】も強奪された。
 機動六課の魔導師が総出で陳述会――という名の【葬式】に出ていたのが、やはり大きかったのだろう。
 如何に月村静香謹製の隊舎であろうとも。その殆どは彼の管理・メンテナンスを要するもの。

 故に彼亡き後には、その全てを発揮することなど出来ず。
 また地下の発明品の数々も、放置されたままとなっていた。
 しかしそんな中でも、既に着工されていたものたちもおり。無事に難を逃れたそれらが今、最終チェックを受けている最中なのである。



「…………これが私の、新しい相棒……?」

 機動六課内の地下工房。
 つい最近まで超機密空間であったそこに、蒼いワンコが居た。
 と言っても、ザフィーラさんでありません。彼は蒼の守護獣。間違っても犬なんて……。



『……百鬼夜行をぶった斬る……………………【地獄の番犬】、デカマイスター!!』



 …………ってオォォイ!?
 言ってるよ!?言っちゃってるよ、あの守護獣様!?
 どうしよう?このままじゃ、アルフとじゃなくてスバルとのカップリングに……。

『この泥棒猫!!』
『猫じゃありません!人間です!!』
『…………(何故、こんな展開になったのだ……)』

 何でだろう。
 微妙にネジの外れた会話が簡単に描かれる。
 しかし彼(彼女)の出番はSTSでは殆どない。よってこれは想像の域を出ない。



 ……リテイク!!



「…………これが私の、新しい相棒……?」

 機動六課内の地下工房。
 つい最近まで超機密空間であったそこには、姉を攫われ、己自身もダメージを負ったスバルの姿があった。
 彼女の見上げる視線の先には、ハンガーにぶら下げられた銀色の戦闘機の姿。

 Cストーン内蔵型――新型勇者ロボ【ファントムギャオー】。
 地球に置いてきた【ギャオギャイガー】のコントロールユニット、【ニャレオン】に代わるロボットとして、このファントムギャオーは生を受けた。
 獅子型から戦闘機型に変更し、更にはサポートメカも新調。

 こうして新たに誕生した勇者ロボの名は……【ギャオファイギャー】。
 そしてそのロボを更に強化・サポートする為に生み出されたのが、超巨大ハンマー搭載型勇者ロボ。
 紅を基調としたカラーリングに、力強い角ばったフォルム。

 にも関わらずフリルが随所にあしらわれたデザインは、どう見てもいかついゴスロリオカマ。
 【ゴスロリマーグ】という不名誉な名前からも、人格移植元がすぐに割れるというもの。
 機動六課スターズ分隊副隊長――【ヴィータ】。彼女こそが、このデカヴィータの元となった人物である。

 ちなみにマーグが完成した直後の彼女のコメントは、

「ふざけんな!!やり直せぇぇ!!やり直しを要求する――――――――!!」

 だったとか。























「ここが山場、って所か……」

 陸士一○八部隊の部隊長室。
 今その部屋には灯りが灯っておらず、しかし中には人影があった。
 この部屋の主である彼は、己のデスクに座ったまま、身動き一つ取らずにいる。

「クイントに続いてギンガまで……。オレは…………オレは一体、どうすれば良いんだ……?」

 両肘を机に付き、両の手を顔の前で組みながら、白髪頭の部隊長は悩んでいた。
 目の前には蒼いギアコマンドーが置かれており、そのディスプレイからは白いライオンがホログラフのように浮き出ている。
 データでありながらも、心配する様が見て取れるライオン。しかしそれを癒しだと思える余裕が、今の主――【ゲンヤ・ナカジマ】には無かった。

「如何にデータ武装の数が増えようとも……いや。それは向こうも同じだろうなぁ……」

 ギアコマンドー内のデータから作られた、新たなデータ武装。
 オレンジの闘牛である【ブルフォーン】と、緑の突撃猪【ガトリングヴォア】。
 これに紅い西洋龍型の【ドラゴンフレイア】を加えた計四体が、ゲンヤの保有戦力である。

 対してクイントのデータコマンドーには、元々入っていた【ヴァイヴァーウィップ】。
 そして内蔵データに入ってた、蒼の一角獣である【ユニコーンドリィル】。
 この内蔵データから武装を完成させることは、スカリエッティにとっては容易いことだろう。

 何せ静香亡き後、本局の技術スタッフですら出来たことだ。
 そのスタッフは特別優秀だったらしいが、【あの】スカリエッティがそれに劣るとは、到底思えない。
 故にクイントもまた、新たなデータ武装を持っていると見て間違いないだろう。

「数の上では四対ニ。しかし……」

 元々のポテンシャルに違いが有り過ぎるのだ。
 それに数が増せば、勝てるようになるとも限らない。
 却って、数に振り回されるということにも為りかねないのだ。

 使役するか、それとも装備に回すか。
 いったい何体までなら同時装備が可能で、そして戦略を立てられるのだろうか。
 ゲンヤの思考は目まぐるしく回る。

 可能性と己の限界との板挟み。
 妻を取り戻すという大前提で動く彼は、どうしても容赦のない動きをするクイントには届かない。
 殺す気で来る相手を捕獲するには、その何倍も強くなければならない。

 それが常識。
 だが常識通りでは、何時まで経っても妻を救うことなど出来ない。
 ゲンヤは考えた。己の手で、愛する妻を助ける方法を。

 そして理解した。
 自分は強さで勝ることは出来ない。
 もしも自分が彼女を止められるのなら、それは強さではなく――――。

「……ふぅ。やっぱオレには、【コレ】しかないか……?」

 魔導師ではなく。そして騎士でもない彼が今まで信頼し、使い続けてきた己の武器。
 強大な魔力でもなければ、強力な魔法でもない。
 【知恵】。彼流に言うのなら、【小賢しい悪巧み】とでも言った方が良いかもしれない。

 次いで頼りにしているのは、努力の結晶とも言える【己の身体】。
 筋骨隆々という言葉が相応しい身体付きに、その中には持久力を支える別種の筋肉。
 その信頼する二つの武器を駆使し、彼女を――愛する妻を救いだす。



 【出来るのか?】――――ではない。
 





 【やってやるんだ!己の全てを賭けてでも!!】



 というのが、彼の胸中だった。
 可能性は低い。それはもう、とびきり低い。
 しかし、諦めたらそこで試合は……じゃなかった。【勝負】はそこで終了である。

 一人では無理でも、二人なら。
 二人でも無理ならそれ以上で。
 データ武装は、スタンドアローンが可能である。

 電子に籠められた想いは、人に劣るものではない。
 だからこそ、マスター&データ武装同士の闘いは、その持ち得る武器と戦略が重要になってくるのだ。
 ギリギリの、ギリギリまで自分を追い込んで。その先に待っている、妻の笑顔の為に。ゲンヤは瞑目し、そして目蓋の裏に家族が揃っていた頃の光景を思い描く。

「…………ん?もう、朝だって言うのか……」

 ブラインドの隙間から漏れてきた、外からの白い光。
 暗き夜が終わりを告げ、日の光が徐々に上ってくる時間。
 すっかり冷めてしまったブラックコーヒー。ゲンヤはそれをぐいっと飲むと、

「……苦いな」

 とだけ言った。






















「……あれからもう、何年も経ったような錯覚に陥ってしまいそうです……」

 聖王教会、その深奥部。
 大礼拝堂と呼ばれたその場所で、一人孤独に祈りを捧げ続ける女性が居た。
 金色のロングヘアーに、紫の髪留め。

 黒を基調とした修道服に似た制服。
 それは聖王教会の中でも、限られた者にしか貸与されない代物。
 これらのパーツが組み合わさる人物は、残念ながら彼女以外には存在しない。

「…………シズカさん。どうして、貴方は…………」

 【逃げなかったのか?】。
 これが彼女が飲み込んだ言葉である。
 あの時。ゴウダイノーが敵にダイノーラージバスターを撥ね返された時。

 月村静香は、自分以外の面子――つまりロングアーチと提督ズを避難させた。
 現場に残った彼。
 何を以って残ったのか。

 もしかしたら、本当に避難出来なかっただけかもしれない。
 でも。そんなことより。
 生きながらその身を焼かれた青年を想うと、涙が溢れて溢れて仕方がない。

「シズカさん…………っ」

 カリム・グラシアは騎士である。それも教会を代表するほどの。
 そして同時に、時空管理局の将官でもあるのだ。
 ジェイル・スカリエッティの起こした事件のせいで、管理局のみならず、教会にもその小さくはない影響が出る始末。

 そんな中で彼女に求められるのは、婚約者を亡くした美女役ではなく、毅然とした【上に立つ者】。
 そして緊急事態が続く中で、彼女に――彼女たちにプライベートは存在しない。
 故に嘆き、悲しむことは出来ず。ある程度日が経ち、漸く訪れた一時。それが今この時なのである。

「ぅ……っ」

 はらはらと頬を伝うのは、溢れんばかりの涙。
 その一筋一筋が、月村静香との思い出を蘇らせていく。
 最初は本当に、同年代の友だち感覚だった。

 だがカリムは生粋のお嬢様であり、その同年代の【男友だち】という存在が新鮮でならなかった。
 面白い人間だった。
 変わったヒトだった。

 一緒に居て飽きない人物。
 それが彼の評価であり、それ以上にはならない予定だった。
 そんな考えが一変したのは、地球に遠征した時のこと。

 ちょっとした逃亡劇。
 ……と言うには、少しばかりおっかなかった事件。
 月村静香の妹に追いかけられ、そして彼に命を救われたこと。

 少女趣味だと笑うなかれ。
 だが、今までそういったことに縁が無かった無菌状態に、まさかまさかの【どストライク】なシチュエーション。
 これで惚れない人間がいるのなら、そいつは恋愛回路が錆付いているか、さもなくば百戦錬磨の猛者だろう。

「……本当に、我ながら呆れてしまいますよね……?」

 必死に取り繕って、茶化したように【婚約者】と言った自分。
 胸中では心臓が早鐘を打つ中、表情筋を最大限活用して我慢した己。
 本当に呆れてしまう。

 お前は一体、何処の女学生だと。
 『最近の初等部の子どもでさえ、もう少し進んでいるぞ?』と、馬鹿にされてしまうだろう。
 でも幸せは長くは続かなかった。

 想いを告げる前に件の人物は戦火に消え、そして残されたのは泣く事も許されない自分。
 泣きたかった。声を上げて、もっとはやく泣きたかった。
 でも出来なかった。そしてそれが、漸く泣けるようになった今では、今度は声が上げられなくなってしまった。

「…………でも」

 お陰で少し冷却出来たのもまた、事実である。
 際限なく泣くことは、ただの力の浪費である。
 今すべきことは、そんなことではない。

 溢れんばかりの悲しみを、己の歩む力に変換する。
 それが出来なくて、何が月村静香の【婚約者】か。
 涙をハンカチで拭く。と同時に、そのハンカチを見てあることを思い出す。

「……そういえば」

 月村静香とカリム・グラシアの駆け落ち劇。
 その最中に彼にあげたハンカチの代わりに、あとで渡されたもの。
 ハート型のコンパクト。その蓋を押し上げると、中には大粒のダイヤが鎮座していた。

「これって、もしかして……」

 カリムの同僚、リンディ・ハラオウンが持っていたスティックと、似たような系統のデザイン。
 明らかにオーバーテクノロジーなそのコンパクトは、恐らくは己の身を変化させる代物。
 手の中のそれは何も言わず、ただ静かに光輝いている。

「…………カリムさん」

 聖堂の入り口から聞こえた、透き通るような女性の声。
 カリムがそちらに向き直ると、そこには居るはずのない人の姿が。
 翡翠色の長髪を結ったその女性は、紛れもなく【リンディ・ハラオウン】だった。

「リ、リンディ提督……!?い、一体何時の間にいらしたんですか!?」
「少し前よ。ただその…………声を掛けるのが忍びなくて……」

 大慌ての騎士カリム。
 そんな彼女に対して、申し訳なさそうに謝罪するリンディ。
 静と動。対極的な図式だ。

「こちらに御用があったのでしたら、仰って下されば良かったのに……。すぐにでもお迎えに行きましたものを……」
「気にしないで。ちょっと、私用で……というか、貴女個人に用があったものだから……」
「……?私に、ですか……?」

 一体どんな用だろうか。
 生憎思い当たる節が無い騎士は、緑の提督に尋ねた。
 如何なる用向きかと。

「えぇ。…………シズカさんのことよ」
「!?」

 ドクンと。
 再び心臓の拍動が大きなる。
 折角止まった涙が、再びダム崩壊の準備に差し掛かった。

「彼…………もしかしたら、生きているかもしれないわ」
「…………ぅそ……。…………それは……本当なんですか!?」

 呆然。
 そして再起動。
 瞳に宿るのは精気と、情熱。

「確証はないわ。ただの感よ。でも…………良く考えたらあの子が、あんな簡単に終わると思えないでしょう?」
「……………………そういえば、そうですよね……?」

 良い意味でも悪い意味でも。
 月村静香という人物は、常識を破壊してきた人物だ。
 特に時空管理局においては、その影響が色濃く残されている。

 ミスター破天荒。
 歩く新兵器。
 腕を斬られても死なない、生けるゾンビ。

「それにね?十年前だけど、死んだと思った人間が生きていた――――と思われる事象があったのよ」

 リンディが語るのは、PT事件と闇の書事件に介入してきた【タキシードマスク】。
 仮面越しではあったが、あの中身は恐らく自分の夫であろう。
 いや。彼しか有り得ないという、確信に似た想いがあった。

「だからシズカさんも、きっと生きているわ。今は多分、表に出て来れない理由があるのよ……」
「……そう、ですよね?あのシズカさんが…………【あの】シズカさんが、あんなに簡単に死ぬ訳ないですよね!?」

 もう大丈夫だ。
 リンディはカリムを見て、そう思った。
 立ち止っている後輩を支え導くのは、先達の務め。

「(…………ホクト執務官長。私……立派に【良いオンナ】をやれてますか……?)」

 リンディは昇ってきた日に照らされた、教会のステンドグラスを見ながら……その光に向かって問い掛けた。
 そしてその向こう側に向かって微笑むと、カリムを伴って聖堂を後にした。
 二人の手に握られたコンパクトとスティック。その二つが、彼女たちの決意の表れでもあった。
























 大将日記クライマックス



「……ハァァッ!セェェェェイ!!」

 地上本部のトレーニングルーム。
 かつて一緒に汗を流した面子は居らず、今は自分の声だけが響く状態。
 サンドバックにぶつけるのは、己の想いか。それとも不甲斐無い自分に対する気持ちを、ただ八つ当たりしているだけか。

 ……どちらとも言えるし、どっちも違うとも言える。
 猛る己を抑え。そして迸る力を発散するように拳に籠める。
 まるで蒸気のように立ち上るものは、明らかに普通の人間が出すものではなかった。

「…………ゼスト、クイント。それにギンガ……」

 攫われた者たち。
 そして旧友たちの状況を鑑みるに、今度はギンガも洗脳されて敵となるだろう。
 想像に難くない。

「……しかし。クイントとギンガは、オレの出る幕は無いだろうな……」

 クイントにはゲンヤが。
 そしてギンガにはスバルが。
 それぞれに対決すべき相手が存在し、そのカード以外は論外とも言える位だ。

「……ゼスト。オレは…………今回こそ、お前に勝たせて貰う……!!」

 ゼストが仮面騎士になってから、彼と自分の決着が付いたことは無い。
 その前にゼストが撤退し、それを自分が追いきれないからだ。
 不安が募る。しかしそれ以上に胸が躍る。

「……」

 刻金を握り締め、今度は別の相手を思い浮かべる。
 圧倒的な力と、それを支えてきた努力量が見え隠れする相手。
 自分を軽く凌駕した、白スーツの男――ジェイル・スカリエッティ。奴にも借りを返さなければならない。

 そして危惧する問題も一つ。
 もしかすると、ゼストとスカリエッティ。
 その両方か、どちらか一方。自分が相手を出来るのが誰なのかは、その時にならないと分からないのだ。

「(……誰でも良い。どちらでも良い……)」

 最終的に皆を救い、そして事件の被害を最小限に食い止める。
 それが出来るのなら、自分は何だってやってみせよう。
 ……そうだ。『何でもやってやる!』という覚悟。これこそが、前回スカリエッティと闘った時に、自分に足りなかったものだ……!!

「…………まさか【コレ】に、再び袖を通す日が来ようとはな……」

 タオルと共に置いておいたのは、嘗ての部隊の制服。
 除隊以来、階級と年齢が上がるに連れて、どうしても羞恥心が先立って着なくなった【コレ】。
 だが足りない覚悟を引き出すには、昔日の自分を思い出す以外に方法はない。

「……朝日が、綺麗だ……」

 ふと視線を上げると、そこには既に朝日の姿があった。
 どんなに辛い状況でも、朝は必ず来る。
 だから負けない。敵に――そして己自身に。

「…………さて。今日の朝食は、何にするかな……?」

 まずはオフィスで突っ伏している、オーリスを起こすことから。
 自分の【今日】は、それから始まるのだ。














 あとがき

 >誤字訂正


 俊さん。毎度ご指摘いただき、本当にありがとうございます!







[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 45【アインヘリアル?何それ、美味しいの?】
Name: satuki◆b147bc52 ID:9c4db251
Date: 2009/09/25 21:50



 前回のあらすじ:熟年組の、熱き夜明け!!



 地上本部及び、機動六課襲撃事件から幾日後。
 襲撃されたはずの機動六課隊舎は、既に完璧に復元されていた。
 しかしその館に明かりが灯ることはなく、現在稼動してるのは地下の施設と……その隊舎【そのもの】である。
 
 忘れているかもしれないが、機動六課の隊舎は【ゴウダイノー】に変形する。そして【マグナダイノー】が戦線に加わったことで、隊舎の殆どのパーツが使用済みとなった。
 それらが稼動中には予備のパーツが展開し、機動六課は普段と変わらぬ姿を保ち続ける。
 つまり今の機動六課は、その予備パーツで構成されている状態。

 では本体は何処にいる?
 戦線?修理中?それとも……。
 それは全て的外れな答え。その真なる答えは、青く澄み渡った大空の下に在った。



「いやぁ~、まさか機動六課が変形するとは……って二人とも!?何や、その視線は!?」

 変形後の機動六課は、基本的に元の内装のまま保管されている。
 故に部隊長室なんてものも存在し、その部屋の主は自分の椅子に座りながら、そう漏らした。
 だがそんな彼女に向けられたのは、冷たい視線。

「いや、だってその……」
「はやてって、機動六課では一番エロい……じゃなかった。エライ人なのに……」
「「何で、こんな分かりやすいことも知らなかったの?」」
「ぎゃふっ!?」

 登場するのは実に久しぶりな彼女たち。
 しかしそのチームワークには乱れが生じているようで。
 なのは→フェイトの連撃は、親友であるはずの少女【八神はやて】に向けられていた。

「し、仕方なかったんや!?地下の区画は普通には分からんように隠蔽されとったし、それに関わってたのが、将官たちだったし……」
「「ふ~ん、それで?」」
「だから、その…………ゴメンナサイ」

 デスクの上に正座し、その勢いで土下座。
 きちんとした形の正座であり、そこには非の付け所がない。
 しかし【ココ】はデスクの上なのだ。つまりそれ以前の問題だとも言える。

「……まぁ、本当ははやてちゃんだけの問題じゃあ、ないんだよね……?」
「……うん。私たちも本当は、もっとはやくに気が付いてなきゃダメだったしね……?」

 土下座モードに移行しているはやてを尻目に、なのはとフェイトはそう言った。
 仕方ない。では済まない問題。
 今回は相手が良かったものの、もしも敵対組織が同じようなことをやっていたらと思うと、背筋が寒くなる。

「……でももう、終わってしまったことや」
「あれ?もう土下座タイムは終わり?」
「なのはちゃんが、ものっそドSな女王さまに!?」
「なのは、これで良いんだよ……」
「あぁ……フェイトちゃんが、いつも以上に天使に「はやてはこれから、床で土下座をやり直すんだって」見えん!?むしろ、悪魔やないか!?」

 親友たちのフィルターのない言葉が、今は異常な程痛い。
 あぁ、本当に世の中は【こんなはずじゃなかった】ばかりだ。
 二人の(間違った方向への)成長は、部隊長から涙を流させるに値するものだった。

「……さて、そろそろ本題に戻ろうか?」
「そうだね。はやても反省したみたいだし……」
「…………もう、それで良ぇわ……」

 本来は皆で気が付かなければならないこと。
 しかし魔王とその嫁は、その責をはやてに丸投げした。
 ……あれ?親友って、こんなもんだったっけ?はやての胸中は疑問符で一杯である。

「ともかく!これからの指針を発表します…………わたしたち【機動六課】は、ロストロギア【レリック】の捜索・回収任務を……」

 広域指定犯罪者【ジェイル・スカリエッティ】。
 彼と管理局の繋がりは深く、その為彼の逮捕は難しい。
 故に【レリックの捜索・回収】という大義名分を立て、その先に【たまたま】居るスカリエッティを逮捕する。それがはやての考えなのだろうと、なのはとフェイトは思った。

「……全て打ち切ります!!」
「「……………エェェェェェェ!?」」
「ナイスな反応や♪そうや……やっぱわたしは、【コッチ側】の人間でないと……!!」

 ニヤリ(計画通り)!
 そんな擬音が聞こえてきそうな、はやての悪役笑い。
 どう見ても新世界の神並に黒い笑顔です。本当に(略)。

「ちょっと、それってどういうこと!?」
「そうだよ!ちゃんと説明、してくれないと!!」
「わーっとる、わーっとる。今からキチンと説明するから、まずは落ち着きや……?」

 我が事成れり!!
 そんなはやてを余所に、暴走特級高町号と、突撃戦闘機テスタロッサが発進。
 そして墜落。これが管理局のエースたちなのかと思うと、きっと一般人は涙で視界が曇ってしまうだろう。

「いやな?もうそんな、大義名分を立てる必要が無くなったってことや」
「……それって、つまり……」
「普通にスカリエッティたちの逮捕が、可能になったってこと……!?」
「そうや」

 冷静に聞き入れるなのはと、驚愕を以って聞いてしまったフェイト。
 無理もない。フェイトはずっと水面下でスカリエッティを追ってきたのだ。
 それは公には捜査出来ない為。

「…………なのは、はやて」
「「……」」

 その胸中は複雑なものだろう。
 長年親友をやって来た二人は、フェイトの言葉に耳を傾けながらそう思った。
 
「……アレェ?どうして母さんがそこにいるの~?アリシアやリニスも、なんで川の前で手招きしてるのかな~?」
「あかん!?フェイトちゃんが、あまりのショックに臨死体験を!?」
「フェイトちゃん、戻ってきて!?それは渡っちゃ、ダメな川だよ!?」

 三途の川を幻視するフェイト。
 トランスしてしまった彼女を、必死に連れ戻そうとする狸と魔王。
 ……平和である。非常事態の中の、一時の平穏。どうかこの瞬間を、一生忘れないで欲しいものである。

「ちょっと、綺麗に纏めようとしないで!?まだ終わってないんだからね!?」
「ど、どうしよう!なのはちゃん!?」
「フッフッフ……ここはメルにお任せですぅ」

 白い天使のようなユニゾンデバイスが、卵に戻り、そしてフェイトの胸の辺りに吸い込まれていく。
 その後の様子は、敢えて語るまでも無い。フェイト・オン・ステージ。
 ……良く考えれば『これって、融合事故じゃない?』と思えるような光景だったが、

「フェイトちゃん、次は【エターナル・ブレ○ズ】ね!!」
「いや。それよりコッチの曲の方が……!!」

 繰り返す。
 機動六課は、今日も平和である。
 ……きっと平和なのである。
























 紅髪の少年は考える。
 己に出来ることは何なのかと。
 あの少女を救いたい。

 だが言葉にするだけでは何も成せない。
 だから徹す。
 己の意思を、自身の突撃槍に込めて。



 ――ドックン!



 心臓のあった位置で、重く静かな拍動がする。
 少年の新たな心臓。
 それは確かに、彼の新たな命として活動していた。













 桃色の召喚師は思う。
 紅の少年のことを。
 そして同時に考える。

 あの紫の少女の存在について。
 同じ召喚師。
 次にぶつかり合うのは、恐らく自分だろう。

 究極召喚。
 ヴォルテールで負けるとは思えないが、油断は禁物。
 龍の世界において神の如き強さを持つヴォルテールだが、その他の世界では如何なるものか。

 相手にも究極召喚は存在するのだろう。
 だから考える。
 勝てる方法を。

 リミットが解除されたケリュケイオン。
 そのサードモードは、これまでとは形態を異にする代物。
 腕にディスク状のものが付き、カードを搭載するスペースの姿。

 鍵は龍騎でない。
 キーとなるのは、龍魂なのだ。
 彼女は一人特訓する少年を、木の影から見守っていた。

 











 橙の少女は、二丁の愛銃を手に瞑目し続ける。
 その目蓋に裏側に映っているのは、これまでの戦闘記録。
 そしてこれから先には、未来のシミュレートが待っている。

 皆がそれぞれに因縁の出来た相手と闘うだろう。
 ならば自分は、それ以外を一手に引き受けることになる。
 ほぼ自分と同程度のスペックの戦闘機人。それも複数。

「……普通に考えれば、どう足掻いたって無理……」

 しかしこの世の中に、【完璧】や【絶対】と言った言葉は意味を成さない。
 エースオブエースだって、地に堕ちることもあれば、敗北することもある。
 前回の公開意見陳述会でのなのはの敗北は、ティアナ・ランスターにはプラスに働いた。

 確かに相手もまたエース・ストライカー級だっただろう。
 だが闘いにおいて重要なことは、魔力量でも魔法の凄さでもないことを思い出させられた。
 【根性】。彼――仮面の騎士は、【ソレ】で勝敗を決した。

 ティアナ・ランスターは【根性】を拠り所とする人間ではない。
 それは本人も分かっている。理解出来ている。
 ならば彼女は、一体仮面の騎士に何を見たのか?

「……根性じゃなくても良い。自分の自信の拠り所になって、それでいて【負けない力】になるモノなら……」

 体力はスバルに劣る。
 腕力だってそうだ。
 スピードはエリオが勝る。

 キャロのようなレアスキルはないし、当然のことながら隊長陣には遠く劣る。
 では何が。
 一体何なら、自分は人に【勝てる】のだろうか?

「……何もないわ」

 だが現実は無常である。
 如何に努力しようとも。
 またどれだけ血と汗を流そうとも。

 一流になれる人間とそうでない人間との差は。
 確かに。それでいて明確に存在するのだ。
 だが闘いにおいて――特にスポーツなどのルール有りの勝負を除いたモノは、勝利するものが一流である必要は無い。

「勝てなくたって良い。負けなければ……!」

 視点の違いだ。
 別段、いつもいつも勝たなくてはならない、ということではないのだ。
 最後に立っていた者が勝者である。

 卑怯。姑息。大いに結構。
 別に正義の味方(と俗に言われている管理局員)が、それらを使ってはいけないという法律はない。
 ただイメージの為。クリーンでエコなイメージを魔法に定着させる為に、使ってはいけないという【暗黙の了解】となっているだけの話。

 これはただの切欠だ。
 イメージ、というか先入観という壁を取り払うことで、人間は今まで見えなかったことが見えるようになる。
 良く考えれば分かることなのに、常識などという厚い壁で見えなかった隣の芝生。

「新装備……この子たちも、キッチリ使いこなしてみせるんだから……!」

 【ビット】と呼ばれるそれは、己の分身にも成り得る存在。
 高町なのはのリミットブレイク状態にも顕現する、【ブラスタービット】と定義を同じくするもの。
 ただ違いを挙げるのなら、ティアナ・ランスターのものはリミットブレイク時に使用するものではなく、通常装備の延長上だが。

「……負けない。【絶対】に、負けない……!!」

 この【絶対】は、己の心を補強する魔法の言葉。
 実際の効力は不明。
 だけど効く。本人には、これ以上とない力になる。

「お兄ちゃん……これが終わったら、またお見舞いに行くからね……?」

 決意。
 そして報告。
 この日ティアナ・ランスターは、確かに自分に強大無比な【魔法】を、使用したのである。






















『……ティアナ。良くぞ、ここまで立派に……!!』

 決意を新たにしたティアナの様子を、逐一記録映像に落とす影が一つ。
 光学迷彩をも使用し、大質量を隠すその技術。
 もしも迷彩が無ければ、そこにはフェラーリ型の覆面パトカーが一台、怪しさ爆発で見ることが出来たであろう。














 あとがき

 >誤字訂正


 俊さん。毎度御指摘頂き、本当にありがとうございます!







[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 46【少しだけ本気を出した。後悔はしている】
Name: satuki◆b147bc52 ID:296b0534
Date: 2009/09/27 21:52



 前回のあらすじ:オンナの友情とは、かくも脆いものなり。



 機動六課襲撃。
 その際に聖王の遺伝子を持つ少女――ヴィヴィオが連れ去られてから、はや幾日。
 表面上はいつもと変わらない様子のなのはだったが、彼女を良く知る者からすれば、どう見てもそれは空元気以外の何物でもなかった。

 それを差し引いたとしても。六課の――地上の士気は下がり調子だった。
 如何にレジアスたちが被害を最小限に食い止めようとも。
 【負けた】という事実は覆らない。

 その事実は重い陰となり、復旧作業を急ぐ地上の局員の心を沈み込ませる。
 いつ次の襲撃があるともしれない状態で。
 ただ震えながらも復旧をしなければならない現実。

 それは恐怖だ。
 生き地獄とも言い換えられる。
 だから皆が沈むのは当然。そしてそれに追い討ちを掛けるように出現した、超弩級のロストロギア。

「あれが……あれが【揺り籠】……」

 正式名称:聖王の揺り籠。
 古代ベルカ時代の遺物であり、同時にこの時代であっても【異物】と成り得る代物。
 日本の古墳に一部似た形状とその大きさ。

 そんな巨大物体が地中から現れ、そして宇宙へと向かっていく。
 さらにその体躯から飛び出してくるのは、ガジェットの大群。
 どう贔屓目に考えても、これは悪夢以外の何物でもない。

 現在本局が大艦隊を率いてミッドに向かっている途中らしいが、どう考えても揺り籠の大気圏突破には間に合いそうにない。
 揺り籠の――スカリエッティの目的は、揺り籠を宇宙に出すことによって、二つの月の魔力を吸収して無敵の存在になること。
 だからこのままで行けば、管理局の敗北は必須。

「戦闘機人の反応が、地上本部に向けて進行中!!これは…………別のルートから、例の騎士も進行中です!!」

 オペレーターのシャリオから届けられたのは、最悪の報せ。
 スカリエッティの戦闘機人たちが、一番・二番・四番・五番を除いて全員出撃。
 さらに空いた穴を埋めるように、番外番とも言うべき存在の姿が。

 廃棄された高速道路を、二つの人影が颯爽と駆けていく。
 その一つには、その両足に銀色のインラインローラースケートを模したデバイスが。
 その左手には同じく銀色のリボルバーナックル。

 普段とは異なっている戦闘衣。
 しかし全く変わらない紺色の長いリボン。
 瞳を彩る色は金。それは戦闘機人の証。

「……ギン姉」

 変わり果てたギンガ・ナカジマ。
 彼女は今、スカリエッティの戦闘機人と共に、地上本部に向けて走っている最中だった。
 全く動揺のない、無感情・無機質な瞳。そこに彼女の人格はないのだろう。

「それに、あれは……!?」

 ギンガと並走する影。紅いタービンの付いた、両腕装備のリボルバーナックル。
 それと同デザインのタービンが装備されたインライン。
 銀色の仮面こそ見覚えがないものだったが、それ以外のものにスバル・ナカジマは見覚えがあった。いや、そんなレベルの話ではなかった。

「お、お母さん……?」
「「エッ!?」」

 スバルの側に居た、ヴィータ以外のスターズが驚愕する。
 スバル・ナカジマの母親であるクイント・ナカジマは、随分前に死亡しているはずだ。
 任務中の事故であることも判明している。だからあの銀色仮面が、そうであるはずがなかった。

「ちょっとスバル!!アレがあんたの母親な訳がないでしょう!?」
「そうだよ、スバル。アレはきっと、スカリエッティがこっちをかく乱させる為に用意した――――」
「……違います。アレはお母さんです。走り方とか、ちょっとクセがあるんで、すぐに分かっちゃうんです……」

 スバルの言ったこと。それを確かめようと、なのはとティアナは戦闘機人の移動映像をもう一度見る。
 するとそこで分かったのは、ギンガと銀色仮面。
 そして更に後ろを走る戦闘機人――ノーヴェは、それぞれが異なった走り方をしているということ。

「昔母さんが、ギン姉にS・Aを教えてた頃のままなんです。あの頃のあたしは、直接母さんにS・Aを習ってた訳じゃないんだけど、良く見てたから……」

 【間違いない】。
 きっとスバルは、そう繋げたかったのだろう。
 その尻切れトンボになった台詞は、それを雄弁に語っていた。

「……厄介な事態だね」
「えぇ……って、アレはまさか!?」

 地中を抉って地表を飛び出したのは、いつぞや地球で見たドリル戦車。
 何時の間にか近くの線路には、ミッドでは在り得ない五百系新幹線の姿。
 極めつけは天空から舞い降りる、黒いステルス戦闘機。

「スバル!アレって、確か……!?」
「…………うそ。だってアレは……ギャオギャイガーは、地球で修理中なはずなのに!?」
「……っていうことは、それをスカリエッティが奪取したんだね……」

 三つのパーツが揃ったのならば、どう考えてもそのコアとなる存在が居るのだろう。
 地球でスバルが直接融合し、共に戦場を駆けた存在。
 純白の獅子型マシン。その名前は……。

「やっぱり…………ニャレオン!」

 スバルの口から出たのは、自身の予想が間違っていなかったことの裏付け。
 想像通りの白い獅子は、高速道路と並走する廃区画を走ってきた。
 完璧に修復された体躯。そこには隙など存在しない。

「……【融合】」

 精気の宿らない金色の瞳。
 スバルと様々な意味で対となる少女――ギンガはそう呟くと、白い獅子に喰われた。
 否。喰われたように見えるが、その獅子と融合しただけである。

『ギャイ、ガー』

 抑揚のない声。
 しかし白獅子から変形した人型ロボットは、確かに。そして小さくそう言った。

「「「そんな……!?」」」

 走る緊張。
 予想も出来なかった事態。
 その衝撃度は様々な意味で、やはりスバルが一番だったようだ。

 カチカチカチ……!
 それは歯が震え、身体が強張る音。
 今スバル・ナカジマの身体は、これまでの人生の中で一番緊張し、同時に震えていた。

「スバル!?」
「スバル、大丈夫……?」

 相棒と上司からの心配の声。
 聞こえている。確かに聞こえているとも。
 だがそんなことよりも、今の自分には大事なことが――大切なことがある。待っているのだ。

『……』

 純白の勇者ロボは、ミッドの廃高速道路で待ち続けている――己の倒すべき存在が到着するのを。
 負けてやるつもりはない。だから招待には応じる。
 そしてその上で、絶対に姉と母親を取り戻す。

 緊張と高揚。
 低くはない敗北の確率と、勝利するんだという重圧を伴った意気込み。
 それを抑え・止められる程、スバル・ナカジマという人間は理知的ではなかった。

「……行きます」
「ダメ!待ちなさい、スバル!!」
「……行きます」
「スバル、待って!!危険過ぎるし、個人行動は駄目だよ!!」
「……行きます。ギン姉と母さんが、私を待ってるんだ……!」

 その瞳は既に決意を秘め、どうあっても変わらないことを示していた。
 それは例え、【憧れのなのはさん】が立ち塞がっても変わらないだろう。
 事実高町なのはは、既に待機状態のレイジングハートに手を掛けている。しかしスバルに動揺は感じられない。

『オイオイ。そいつは違うぜ、スバルよぉ……?』
「……エ?お、お父さん!?』
「「ナカジマ二佐!?」」

 突如会話に割り込んできたのは、ここには――ダイノージェット内には居ないはずの、ゲンヤ・ナカジマ二等陸佐。
 その話し方から察するに今の彼は、どちらかというと他部隊の部隊長というよりは、スバルの父親としての色が強いらしい。
 だが瞳に秘めた力は、おどけた口調とは裏腹なもの。

『割り込みで悪いな……だがな、スバル。一つだけ訂正してもらうぞ』
「……?」
『ギンガはお前が当たれ。そんでクイントに当たるのは…………オレだ!!』
「「「……!?」」」
「何驚いた顔してるんだよ?当然だろ?妻を助けに行くのは、夫の役目だ。もしもオレ以外の奴が行くって言うんなら……そん時は、例えスバルだって倒していくぞ?』
「「…………」」

 唖然とするなのはとティアナ。
 自分で妻を助ける為なら、娘さえも倒していくという、信じられない考え。
 常識とは対極。いや、ある意味非常に常識らしいとも言えるが。

「……プッ!あははは……!!そうだよね?お父さんって、昔からお母さんが一番だったもんね?」
『何当たり前のことを言ってるんだ?こればかりは、誰にも譲れねぇなぁ!!』

 驚愕するスターズ(-2)を余所に、何時の間にかアットホームな雰囲気のナカジマ家。
 内容はそんな暖かいものではないはずなのに、不思議と和やかな空気になっている現実。
 これがナカジマ・クオリティなのだろうか?ティアナは頭を抱えた。

「うん、分かったよ!じゃあギン姉はあたしが……」
『オゥ。そんでオレがクイントを……』

 S・A部隊、出撃準備完了。
 気合の入りまくった二人の前には、恐らく壁になるものは存在しない。
 仮に存在していたとしても、一秒後には地に伏せているだろう。

『そういうワケだ……。オイ、聞いてただろ!まめ狸さんよぉ!!』
『……あー、ハイハイ。出来ればあたしの格好良い号令で、全員出撃とかやりたかったんですけど……』

 新たに立ち上がる、空間ホログラフ。
 そこにはゲンナリした六課の部隊長の姿が。
 きっと出撃の為に、凝った台詞や動作を用意していたに違いない。それは守護騎士たちの騎士甲冑の拘り具合からも推察出来た。

『悪いがそんな暇はない。愚痴なら後で付き合ってやるから、今はさっさとしやがれ!』
『…………了解。機動六課フォワード陣、全員出撃や!!』
「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」

 ダイノージェットの各部が解放され、エアロックが解放される。
 そこから空戦魔導師は空を飛んで。そして陸戦部隊はヘリに乗って、それぞれの現場に向かう。
 そのどちらにも当て嵌まらないスバルは……格納庫から双頭型戦闘機、【ファントムギャオー】で出撃をする。

 天翔ける、銀色戦闘機。
 最新鋭の技術で造られたそれは、ストライカークラスの空戦魔導師の速度を上回る。
 加速。加速。加速。

 猛烈な加速を伴った物体は、そのままの状態で別の物体に衝突すれば、大きなダメージを与えられる。
 故に翔ける。そして雲を突き抜ける。
 その先に待っている、己の相対すべき存在にぶつかる為に。



 ――キィィィィン!



 雲が割ける。
 そして備え付けのレーダーに示されていた、二つの赤と緑の光点。
 それが今……一つに重なった。

『うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』

 極限まで加速した戦闘機。
 その最大の威力を付加されたそれは、一直線に下降する。
 重力加速をも伴い、更に加速するファントムギャオー。

 普通に巨大な質量が高高度から自然落下するだけでも、相当な被害が出る。
 しかも今回のそれは、最初から高速というおまけ付き。
 これならば如何に純白の敵機と言えども、ただでは済むまい。そう考えるのが普通。そう、それが普通なのだ。

『うぉぉぉぉ!』



 ――ガッキィィィィン!



『……っ!』

 しかし普通ではいかない、一筋縄ではいかないのが、現実というもの。
 高高度から落下してきた戦闘機を、ギャイガーは両の腕で受け止め、そして堪える。
 足の下のコンクリートは蜘蛛の巣のようにひび割れ、それでも沈むことはない。

 受け流した訳ではない。
 純粋に堪えただけだ。
 だがその一連の動作だけで、ギンガの操るギャイガーが、如何に強敵かも思い知らされた。

『なら……融合ぉぉぉぉ!!』

 ジェット噴射をし、ギャイガーから逃れるスバル。
 同時にその機体を変化させる。
 着艦用フックのような鉤爪は、折れ曲がり腕に。

 双頭のようだった艦首は、パーツを展開して両脚に。
 後は頭部が迫り上がり、ここに変形は完成する。
 白を基調としたギャイガーとは違い、鈍い銀色と青緑の装飾。

『ギャオ、ファァァァァァァァ!!』

 ギャイガーに代わって新造された勇者ロボ。
 その名は【ギャオファー】。
 飛行能力が付与されたこと以外は、武装などに変化はない。故に影響されるのは、操縦者の腕一本。

『ギン姉ぇぇぇぇぇ!!』
『……』

 新生勇者の右ストレート。
 体重の乗ったそれは、旧式に軽く避けられる。

『……あ!』
『……』

 そしてその右腕を外側から掴み、その勢いのまま投げる。
 体重の乗ったことが仇になり、スバルは予想以上のダメージを受ける。
 相手は旧式のはず。しかし現実には、そのスピードもパワーも以前とは異なっている。

 それは乗り手のせい?
 確かにギンガ・ナカジマは優れたS・A使いだ。
 しかしロボ戦闘は、これが初のはずである。

 ならば以前との違いは何処から?
 ……簡単だ。
 ギンガのバックに居る人物は、地球から勇者ロボを奪取してこれる程の存在だ。強化することなど、容易いだろう。

『……いてててて』
『……』

 ギンガは何も言わない。
 だから妹には、姉の考えが読めない。
 仮に何か言葉を発せられても、多分同じ結果だっとは思うが。

『……』
『……』

 互いに間合いを取ったまま、動けずにいる現状。
 次のカードは何か。
 ……決まっている。これは【全力】を賭した闘いなのだ。ならば次にやることなど、他にあるまい。

『ギャオーマシン!!』
『……ギャオーマシン』

 全く同じタイミングで召喚される、サポートメカたち。
 地中から二体のドリル戦車。
 空からは漆黒のデザインの異なった、二つのステルス戦闘機が。

 近接する線路からは五百系新幹線。
 そして最後に、蒼き新型戦闘機の姿が。
 それぞれが主とする機体を取り囲むように飛翔し、準備が整ったことを報せる。

『最終ぅぅぅぅ、融合ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』
『最終、融合……』

 旧世代勇者の腰が回転し、嵐のようなフィールドが発生、そこに三体のサポートマシンが飛び込んでいく。
 新造勇者もまた、胸のパーツを解放し、強烈な光でフィールドを形作る。

 ドリルが両の脚を。
 ステルス戦闘機が、翼及び両腕と兜を構成。
 残った肩を作るのは、旧式では五百系であり、新型では中開きされた蒼い戦闘機。



 ――ガッキィィィィン!



 この後に待っているのは、考えるまでもない結果。
 スカリエッティや管理局の技術者がプログラムを間違えていない限り、絶対にそうなるであろうと予想出来る結果。
 そしてそれは、本来あってはならない邂逅を意味する。



 ――キュィィィィン!!



 味方であれば頼りになる音も、敵方に回れば死神の足音にしか聞こえない。
 一歩一歩、近付いていく完成。
 そしてその瞬間は、何事もなく訪れてしまった。

『ギャオ、ファイ、ギャァァァァァァァァ!!』
『ギャオ、ギャイ、ガァァ…………』

 訪れたのは、二体の破壊神の到来。
 音は無い。
 しかしそれは嵐の前の静けさ。

 ここに。
 空前絶後の姉妹喧嘩の幕が、今斬って落とされようとしていた。






















 ミッドチルダ未曾有の危機。
 この究極的な状況に、地上本部に出来ることは少なかった。
 首都防衛隊並びに、なけなしの空戦魔導師を投入しても、揺り籠に傷一つ付けられない事態。

 C3システムの影響で、地上での活動は飛躍的になったものの、やはり空は地上本部では対処し切れない事実。
 さらに言えば、スカリエッティの軍勢が地上本部【も】目指しているとあっては、そちらにも戦力を割かなければならない。
 その中には敵の奪取した勇者ロボの姿もあり、手が足りな過ぎるのが現実。

「スカリエッティの狙いは…………やはり【最高評議会】か……」

 地上本部の執務室で一人、レジアスは敵の狙いを読んでいた。
 それと同時に、この事態をどう対処すべきかも考えていた。
 敵の二箇所同時展開。

「これはオレたちにとっても好機だ。しかし……」

 最高評議会という存在は、ミッドを――管理局を裏から牛耳っている、ただの神様気取りの厄介者だ。
 それがレジアスの中での評議会の評価であり、同時に事実でもあった。
 だから機会があれば滅したい。常々そう考えてはいたが……。

「だからと言って、奴らを素通りさせる訳にもいかん……」

 もしもそれを許せば、確かに最高評議会は倒せるだろうが、その代わりをスカリエッティがするだけだ。
 事態は更に悪くなるかもしれない。
 だからそれは却下だ。

「……ホクト教官。貴女なら一体、どう対処しますか……?」

 彼の胸中と脳裏に描かれる、嘗ての職場の上司。
 憧れとそれ以外の感情が入り混じった、若干酸っぱい思い出。
 もしもあの人が居たなら……と思うと、彼は自分が弱っていることに気付いた。

「いかん、いかん!こんな調子では、あの人に笑われてしまうだろうに……」

 思考を切り替える。
 先ずは揺り籠について。
 あの空飛ぶ巨大要塞を、どのように料理するか。

「現在飛行可能な艦艇はない。そしてそれに匹敵するものは、機動六課が保有している……」

 変形機動六課――ダイノージェットは、現在ミニ版飛行要塞として稼動中。
 故に中の人物的にも外の器的にも、彼女たち以外に適任はいないだろう。
 彼女たちの戦力からすると、更に戦闘機人の方にも戦力を割ける余裕がある。

「正確には余裕ではなくギリギリの戦力分散だが……これなら何とかなりそうだな」

 これで空と地上の対処は一応目処が立ったと言える。
 であれば、自分たち――提督ズのとるべき行動は?

「スカリエッティ……それに最高評議会……」

 両者の繋がりは既に調べてある。
 彼らは次元世界の悪を作り続け、同時に正義を作り続ける。
 そんな箱庭は、人の住む世界ではない。人によって管理された、極一部の人間が支配する世界。そんなものは、誰が行おうとも変わらない。

「スカリエッティをここで逮捕出来ても、まだ最高評議会の支配は続く……」

 下手をすれば、第二・第三のスカリエッティを生み出すであろう、最高評議会。
 それは断じて認められない。
 こんな事態は、一回だけで十分だ。

「……決まりだ。スカリエッティは機動六課たちが。そして最高評議会は――――」

 拳を握る。力一杯。
 それこそ血が出そうになる位。
 それがレジアスの意思表明。

「我々の手で、滅してくれる……!!」

 すぐさま彼は、秘密裏に提督ズに連絡して戦力を集める。
 しかしゲンヤは、クイントの下へ行く為にパス。そしてザフィーラも六課の隊員として事件に当たっている為、不参加。
 故に集まったのは、リンディ・カリムのみ。

「(ムゥ……リンディ提督はともかく、騎士カリムを戦力として考えても良いのだろうか……?)」

 リンディはセーラーハーキュリーとして闘える。
 しかしカリムの戦闘力は未知数だ。
 下手をすれば死ぬ可能性が高いだけに、レジアスの懸念は当然だった。

「ご安心下さい、レジアス大将……」

 決意の宿る瞳で、そう言い返すカリム。
 その手にしたハート型のコンパクトが一閃。すると彼女の着ていた衣服が吹き飛び、同時に紅いリボンが全身を包んだ。
 胴、腕、脚と新たな衣服――戦闘衣が構成され、彼女の髪の色と併せてトリコロールカラーを構築する。

 白地に蒼いセーラーカラーの付いた騎士甲冑。
 紅いブーツと金色のティアラは、普段の彼女から想像も出来ない服装。
 まるでエースオブエースや、金色の執務官のようにアップされて両側で纏められた髪は、ツインテールと呼ばれるもの。

「この【セーラーカリムーン】が、ミッドチルダを照らす双月に代わって、天誅を下します!!」

 その姿は贔屓目に見ても、強そうには見えなかった。
 しかしレジアスの鍛え抜かれた眼は感じ取った。
 その内側から溢れてくる、凄まじいプレッシャーを。

「(な、何というプレッシャーだ…!このオレが、押されているだと……!?)」
「どうです?これでもまだ、力が足りないと……?」

 ニッコリ。
 そんな擬音が聞こえてきそうな笑顔。
 笑顔。あぁ、笑顔だとも。そこに強烈な重圧が込められていなければ、それは間違いなく純度百パーセントの笑顔だっただろうに。

「……分かりました。では早速向かいましょう。時間は……一分でもはやいほうが良い」

 レジアスは胸中で少し焦りながらも、表では平静を装った。
 決意は出来た。覚悟もした。ならば後は、突き進むのみ。
 己の手の中の刻金を見る。そしてそれを展開しようとした途端、

「待ちたまえ!!レジアス、キミには倒さなければならない相手がいるのではないかい?」

 突如背後から現れた気配によって、その行動は遮られた。

「だ、誰だ……!?」
「最高評議会の方は、二人のセーラー戦士と【我々】に任せて貰おう!!」

 何故か背後からのライトアップ。
 そしてそれらのライトに照らされた人物たちは、投光機の配置のせいか、放射状に四つの影を作っていた。

「先ずは、【セーラージュピタリス】……!!」

 緑のライトに照らされたのは、黒いウェーブのかかった長髪の女性。
 それを頭頂部のやや後ろで一本に纏めた、セーラー戦士。
 緑色のセーラーカラーとミニスカートは、ピンクのリボンと相まって活動的に見える。

 ちなみに紹介しているのは非常に漢らしいヴォイスだ。
 間違っても、目の前の【黒フェイト】ではない。
 それだけは断言出来る。

「お次は、【セーラーマース】!!」

 紅色のスポットが当たる。そこに居たのは、銀色のストレートロング。
 雪のような髪に映える、紅の瞳。
 それらのパーツを合わせ持つその姿は、ホワイトクリスマスに消えたはずの、祝福の風。

 ……なのだが、紅のセーラカラーとミニスカート、そしてハイヒール。
 それらを装備した彼女は、どう見てもそんな感動は吹っ飛んでしまう艶姿(?)。
 きっとはやてが見たら、卒倒してしまうことだろう。

「さらには、【タキシードマスク】!」

 面識のあるリンディは、彼の登場を別の意味で驚いた。
 まさか本当に。本当に【あの人】が自分の目の前に現れてくれるとは……!!
 そういった驚愕だった。

「そしてぇぇぇぇ!!最後はご存知、セーラーV(ヴィクトリャァァァァ!!)」

 基本はセーラーカリムーンと変わらない装備。
 唯一の違いは、仮面を付けていること位。
 唯一という枠組みに入れるのもおこがましい違いは、セーラーVの体型は標準的な女性のそれではなく、非常に屈強なマッスルバディだということ。

「貴女たちは……!?」
「そうさね、レジアス。恐らくは……キミの考えている通りさ!」
「では……では……!!」

 驚愕し。一瞬後には最大限の喜びを。
 レジアスの内心は今、最高にハイな状態になっていた。
 ここで興奮せずに、いつ興奮しろというのだ!!

「セーラーVとは世を忍ぶ仮の姿……」

 仮面。
 次いで身に纏っているセーラー服に手を掛けるセーラーV。
 バッ!という効果音を引き連れて、見たくもない脱衣が始まる。

「ボクの本当の姿とは……!!」

 しかし御安心下さいませ。
 皆が見たい魔法少女たちならいざ知らず、ここに居るのは対極の存在。
 故にスロー再生しても見えません。これが覇王クオリティ……!!

「美しき金星の女神――――【セーラーヴィィィィナス】!!」

 黄色と橙色に変更されたパーソナルカラー。
 当然仮面は消失しており、セーラー服の下からセーラー服というマトリョーシカもどきは、腕を組んで正面に向かって斜め四十五度に身体を向けている。
 勿論顔だけは正対している。これこそが、登場シーンのジャスティス!

「ホ、ホクト教官!!(……くっ!鍛え上げた心眼を以ってしても、着替えが見えなかった……!!)」
「やぁやぁ。久しぶりだねぇ、レジアス?」
「お、お久しぶりですぅぅぅぅ!!」
「……ウザい。流石にオッサンがやるのはキモいから、サッサと涙を拭け!」

 内心の邪な考えなどをおくびにも出さず、レジアスは嘗ての上官との再会を喜んだ。
 見事な使い分けである。
 伊達に地上の守護者と呼ばれてはいないらしい。

「あなたは……」

 一方リンディは覇王の存在よりも、その供をしている人物の方に駆け寄っていた。
 黒いタキシードとシルクハット。白い仮面をしているところまで、十年前と寸分違わない。
 思わず距離を詰める。その後の行動は、驚く程素早かった。

「……これは美しいお嬢さん。再びお会い出来て、非常に嬉しく思って――――ン!?」

 距離を詰めてくるリンディに驚き、クライドは身動き一つ取れなかった。
 それは一瞬の出来事。
 リンディは瞬動かと疑いたくなるような速度を出すと、一気にタキシードマスクの仮面を剥ぎ取った。

 その下にあったのは、どう見てもかつて己が愛し、愛され、そして……喪ってしまったと思った宝物。
 見た。見えた。そして予想は正しいと証明された。
 だったら次は、何をすべきか?リンディの行動は、その問いの答えを示した。

「……!!…………」

 クライドの声にならない声。
 実に二十年ぶりという逢瀬は、暗く沈んだ地上本部の一画で。
 だがハラオウン夫妻には、それでも十分だった。今まで止まっていた時計の針を、再び動かすには。そしてそんな光景を、覇王は何故かハンディカメラで撮影していた。

「セーラーヴィィィィナスさんですか……。気のせいか、私の良く知る人物に非常に良く似いてる気がするのですが……」
「……これは驚きだね。まさかこんな【異様な】存在が、ボクの他にも存在していたとは……」

 そんな混乱状態の中、カリムは覇王に近付き、そして暢気に会話をしてきた。
 普通の人間なら、顔を見るだけでノックダウンの覇王フェイス。
 しかし稀少技術を持った騎士は、まるで何事もなかったようにしている。

「いえ、背格好や容姿などではなく……。何というか、性格や行動パターンが似通っているというか……」

 鋭い。
 流石は【自称】月村静香の婚約者。
 その眼力は、些かも衰えていないらしい。

「まぁ、世の中には似たような人が三人は居るって言うからねぇ?ただの空似じゃない……?」
「あの……それは容姿の話だと思うのですが……」

 言えない。
 言えません。
 実はキミの婚約者は何度も転生していて、今回と前回はオンナに転生してしまったとは、口が裂けても言えない。

「そうですか……ところでシズカさん?妹さんの――すずかさんのお加減はいかがですか?」
「いやぁ、最近すずかには会えなくてねぇ……………………アルェェ?」

 何か今、おかしな会話がなかったか?
 そう覇王が気付いた時は、既に状況は終了していた。
 チェックメイト。そんな宣言が、何処からか聞こえてきたような気がする。

「やっぱり!!あなたは、シズカさんだったのね!?」
「ひぃぃぃぃぃぃ!?何で!?どうして、ボクだって分かったの!?常識的に考えれば、違うと思うのが当然でしょう!?」

 何だが騎士カリムが、人間を辞めたような気がしてならない。
 まるで今の彼女は、完全犯罪の犯人が『実は怪人がやってました』とかいうのを、ズバリ言い当てたみたいに見える。
 それ即ち、人じゃねぇ。

「簡単なことです。貴方に【常識】なんてものが、当て嵌まる訳がないでしょうに……?」
「「「「「全く、その通り」」」」」
「ギャポ!?」

 グウの音も出ない。
 しかしこれ以上に的確な答えも、恐らく次元世界には存在しないだろう。
 こうして月村静香は、再び騎士カリムの婚約者として生還しましたとさ、マル。













 あとがき

 >誤字訂正


 俊さん。毎度御指摘頂き、本当にありがとうございます!







[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 47【もう少し本気を出してみた。さらに後悔している】
Name: satuki◆b147bc52 ID:24ad9a45
Date: 2009/10/02 21:46



 前回のあらすじ:誘導尋問→蝶シマッタ!!



『ギン姉ぇぇぇぇ!!』
『……』

 今ミッドの地上は、まるで大怪獣の進撃中であるかの如く、強烈な地響きと破壊が行われていた。
 共に【最終融合】を果たした、ギンガとスバルの――壮烈な姉妹喧嘩。
 と言えばまだ響きは良いのだが、実質はただの潰し合いである。

 新型の右腕が、唸りを上げて突き出される。
 それは回転というファクターを加えながら、旧型に向かって一直線に突き進む。
 一、二、三……着弾。

 旧式はそれを真正面から受け止め、そして脚に力を入れる。
 当たり前だが、ほぼ同スペック同士の闘いだ。
 少しもダメージを受けないなんて、絶対に有り得ない。

 事実ギンガの機体は、少しずつ後退している。
 それはスバルの攻撃が徹っている証。
 ジリジリと下がっていく、ギャオギャイガー。

 それを好機と見たのか。
 スバルはもう片方――左手の方も射出した。
 回転しながら突っ込んでくるそれは、粉塵と強力な風圧を伴ってやってくる。

 HIT!
 まさにその瞬間だった。
 右腕ロケットパンチの側面を僅かに掠らせ、ギンガはまず右腕を後ろに受け流す。

 次いで彼女の行ったことは、既に眼前にいる【左腕】を右脚のドリルで、上方に蹴り上げること。
 これでスバルは丸裸だ。
 まだ脚があるとは言え、戦力の五十パーセント以上はダウンしたと見て、間違いないだろう。

 己の目論見が外れたスバルは、慌てて後方へ下がる。同時に飛翔し、なるべく最短距離で両腕を回収しようとする。
 しかしその斜線上に立ち塞がるのは、彼女の姉であり――そして現在の対戦相手であるギンガ。
 どうする?飛び回って活路を見出すか。それとも膝のドリルのみで応戦し、その向こう側に突き抜けるか。

『…………考えるまでもないよね!!』

 既に飛翔していたその身体を、両の腕がある方向に【一直線】に向ける。
 当然その巨体は、間にある遮蔽物に構わず突っ込んでいく。
 その【遮蔽物】の名前は、ギャオギャイガー。つまり対戦相手である。

『……!?』

 その予想外過ぎる行動。
 凡そ常識やセオリーを無視した考えなしの行動は、戦闘機人ギンガの思考を鈍らせた。
 有り得ない。何故そんな無茶を?どうして一時撤退をして、態勢を立て直すなどをしないのか!?

 機人状態となっているギンガの思考は、極めて合理的な考えをするようにされている。
 だからこんな無駄な動作を取る相手の対処法など、考え付くはずがない。
 一瞬後には思考は切り替わり、向かってきた馬鹿を殲滅する考えにシフトするだろう。

 しかしそれはあくまで【一瞬後】の話だ。
 この高速戦闘での一瞬は、まさに命取り。
 【突っ込んでくる】と思った相手が、一瞬後には既に自分を吹っ飛ばし、更には後ろに居るような状態。それが現実である。

『てゃぁぁぁぁぁぁ!!』
『…………っ!』

 一瞬。
 結果は語るまでも無し。
 吹っ飛んだのは自分。吹っ飛ばしたのは相手――つまりスバル。

 クリアな思考の中に混じるノイズ。
 それは自分の想定範囲を超えた、【非常識】が目の前に居るから。
 機人ギンガは、それを透明な思考から追い出し、建て直しをしようとする。

『良ぉし!!両腕、ゲットぉぉぉぉ!!』

 戦場に響く、能天気(そうに聞こえる)声(ヴォイス)。
 苛つく。苛立つ。
 小さなノイズは次第に大きくなり、数も増していく。

『今後はぁ……コイツだぁぁぁぁ!!』

 スバルの右腕の周りに光が集まり、それがリング状になる。
 右腕の回転ロケットパンチを更に強化して撃ち出す。
 その意図がありありと感じ取れた。

『…………』

 対するギンガは。
 相手の意図を正確に読み取り、そして自身も同じ攻撃方法を用意する。
 金色のリングを翼から射出し、それを右腕の周りに纏わせる。



 ――ギュィィィィン!!



 重なるのは双方の音。
 重ならないのは、双方の意思。
 片や姉を止めよう――倒そうと思っているが、もう一方は敵を破壊しよう――殲滅するのだ、と思っているのが違い。



 ――ギィィィィン!!



 回転数は充分。
 覚悟も十分。
 あと足りないとするのなら、それはタイミングだ。

 同時に撃つか。
 それとも一瞬ずらすか。
 はたまた、相手の攻撃を回避した後に、相手の射出後の隙を狙うか。

 選択肢は幾つもある。
 そしてその選択肢の分だけ、その後の展開は存在する。
 どうする?相手はどうするつもりだ?ギンガの思考は、相手の出方を気にしていた。

『ギン姉ぇぇ!!行くよぉぉぉぉ!!』
『……!?』

 まただ。
 またもやクリアなはずの思考に、異物であるノイズが走る。
 痛い。何故か頭に、痛みを感じる。機人である自分は、そんなことを感じない。例え感じても、思考まで到達しないはず。

 他の戦闘機人とは違い、自分はただの戦闘人形。
 確かにナンバーズもそうとも言えるが、そこには距離がある。
 他とは違った存在。だから自分は、機械とイコールである。だから余分なものはないはず。ギンガへ施された洗脳は、彼女を人形にするもの。だからその思考パターンは正しい。

『ブロォォクン、ファントォォォォム!!』
『……!!』

 射出された。相手の拳は、既に発射されてしまった。
 こうなっては、後の先を取るしかない。
 轟と迫り来る豪腕を、人体で最も硬いと言われる箇所の一つ――左の【肘】で受け、さらに右手は引き手とする。

 攻防一体の構え。
 そして次の瞬間には、右手は射出する為前に行き、代償運動として左手は後ろに下がる。
 相手の攻撃を後方に流すと同時に、コチラの一撃を叩き込む。

 高等な武術の業は、攻撃と防御が一体となったものである。
 故にこれは格下の相手――目の前に常識外れには出来ないこと。
 ノイズはない。大丈夫だ。これでもう、その不協和音が聞こえることはない。

『ブロゥクン、ファントム……!』

 身体の前後が、一瞬にして入れ替わる。
 攻守逆転。さらに相手の窮地と来る。
 完璧だ。これ以上完璧な攻撃もないだろう。

『……!?うぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 悲鳴がどんどん遠ざかる。
 それ即ち、相手に自分の攻撃がHITしたことになる。
 それも予想通りの効力で。ギンガの思考は、己の計算が正しかったことを確信した。



 ――ガァァァァァァァ!



 削られるのはアスファルトと、廃棄されたビルの数々。
 後方へ、後方へと流されるスバルは、ダメージと共に強制的に後退させられていた。
 決して薄くない装甲を、その廃墟たちは薄皮を剥ぐように削いでいく。

『…………てぇやぁぁぁぁ!!』

 それまで正対していた状態を、自ら倒れることで崩し、相手のブロゥクンファントムをかわす。
 対象を見失ったそれは、持ち主の下へ戻っていく。それはこちらも同じ。
 帰ってきた右腕を装着し、スバルは思考を落ち着かせる。

『(どうしよう……?【天国と地獄】は、負担が大きいから何度も使えないし……)』

 ギャオファイギャー・ギャオギャイガーの双方の最大技。
 それは右手に攻撃のパワーを。そして左手に防御のパワーを宿した状態での、両手を合わせての突貫。
 磁場は歪み、圧縮されたプラスとマイナスの力は、強力無比な破壊力を生み出す。

 これもまた攻防一体のカタチの一つ。
 しかし強力な技は同時に自身の身体も傷付ける、諸刃の刃でもあった。
 故に乱発は出来ない。出来る訳がない。

『(……そうだよね?ならギン姉を助けるには、もう一つの方を使うしか、ないよね……?)』

 【もう一つ】。
 そうスバルが考えたのは、【天国と地獄】に代わって開発された新兵器。
 巨大なハンマー型のサポートメカを内蔵した、新たな勇者ロボ。

 正式名称:ゴスロリマーグ。
 ギャオギャイガー・ギャオファイギャーの新たな切り札となるべく創られた、【ゴスロリオンハンマー】と強化右腕に変形する、新しい仲間である。
 ヴィータの思考パターンを組み込んだそれは、この場で切る為のカード。

『……』

 グゥウォン!グゥウォン!!
 そんな駆動音と地響きが混じったような音が、どんどん近付いてくる。
 時間は無い。カードを切るタイミングは、ココしか存在しないのだから。

『……ゴスロリマァァァァグ!!』
『相手はギンガだぞ!!お前に出来るのか!?』
『急いで!!』

 上空のダイノージェットから返ってきたのは、件のゴスロリマーグからの心配。
 しかしその心配は無用だ。
 出来ないでは済まされない。だから【出来る】。やってみせる!!

「どうします……?承認、するんですか……?」

 本来の長官(レジアス)の不在時は、その場に残る最高責任者がその任を代行する。
 よってはやてが現在、その任に就いているのだが……副官であるグリフィスの声は困惑気味。
 しかしそんな心配性な補佐官を、部隊長は一蹴した。

「…………あたしはスバルの判断を信じる。信じとる!!」

 そう断言すると、彼女は懐から一枚のカード型ホルダーを取り出す。
 シュィン!という機械音をさせて、その中から一つの鍵が姿を現す。
 これこそが【勝利の鍵】と、ゲンを担いで命名されたもの。よってこれを以って開錠されるのは、当然紅い巨大鎚である。

「ゴスロリオンハンマー、発動…………承ぉぉぉぉぉぉぉぉ認!!」

 無駄に気迫が籠もった開錠。
 はやては何故か劇画調になり、そして一瞬後に元に戻る。
 やはり彼女には、普段のタヌキモードが良く似合う。

『よっしゃぁぁぁぁ!!』

 以前レジアスに指導を受けたままの、気合の入った叫び声。
 年頃の女子にあるまじきその叫びは、今この場では突っ込みを入れるものは居なかった。
 誰も彼もが、彼女を――スバルを【漢】認定してしまったせいか。真実は闇の中である。

『ハンマァァァァ、コネクトォォォォ!!ゴスロリオォォン、ハンマァァァァ!!』

 マーグの変形した強化右腕がスバルの右腕に重なり、それと共に超重量の規格外ハンマーがその掌に吸い寄せられる。
 勇者の身体は黄金色に染まり、その強大なパワーが全身に回ったことを物語る。
 飛翔。そして光で構成された【杭】を左手に持ち、それをギンガに――ギャオギャイガーに突き立てようとする。

『……!』

 既に相手は必殺の構えを取っている。
 そんな状況下での選択肢など、二つに一つしかない。
 撤退か。それとも最大の力を使っての迎撃か。ギンガは逡巡する。

『ハンマァァァァ、天国ぅぅ!!』

 杭が迫ってくる。
 もう時間は無い。
 猶予もない。

 逃げる――――違う。
 避ける――――違う!
 迎撃…………するしかないだろう!

『……、…………、…………、……!!』

 ギャオギャイガーの体色が翡翠のように変化し、同時にそれは【天国と地獄】の準備段階に入ったことを示す。
 相対するのは、ハンマー版【天国と地獄】。
 その相容れぬ存在同士は、ハンマー自身と両の腕をチップとしてぶつかり合う。

『くぅぅぅぅぅぅぅぅ…………!!』
『…………!!』

 ほぼ互角。
 拮抗する力と力。
 一進一退。まさにそう言える状態だった。

『ングググググ…………!!』
『……、……、……!』



 ――ピシッ!!



 その瞬間は、あっと言う間に訪れた。
 最初は小さな亀裂。しかしその亀裂はこの力と力のぶつかり合いでは致命的であり、すぐさま連鎖的に傷が広がっていく。
 その患部はギャオギャイガーの両腕から。

 自身の力に耐え切れなくなったせいか。
 それとも相手からの攻撃のせいか。
 または両方かもしれない。

 しかし理由はともかく、現実にその身は崩壊へと向かっている。
 勝った――!!
 スバル・ナカジマは確信した。

 そして油断した。
 遠足は帰るまでが遠足である。
 そんなこと、小学校に通ったことがある人間なら、誰でも知っている常識である。

 その心は、最後まで気を抜くな。
 家の直前で交通事故が起こる可能性を、否定は出来ない。
 故に、家に帰るまで気を抜くべからず。

 気を抜けば連鎖的に、力も抜ける。
 ……となれば、今まで押していた力は何処へ行くのか?
 答えは自分自身に跳ね返る――と言ったところだ。

『■■■■――――!!』

 その隙は逃さない。
 ギンガ・ナカジマというモンスター少女は、好機をモノにし、そして攻め入った。
 破滅の音が聞こえる。



 ――ピシッ!ピシィッ!!



『そ、そんな!?』

 先程までとは一転して、今度は攻め入られる方に転換したスバル。
 もう余剰の力など残っていない。ただ踏ん張るだけしか出来ない。
 ただこの場で踏ん張ることが、一体何を意味しているかを、彼女は忘れていた。

『グァァァァァ!?チックショウ!!身体が持たねぇぇぇぇ!!』

 剛性に富んだ素材を使い。
 これまでの勇者ロボ以上に頑丈に創ったはずの、ゴスロリマーグ。
 しかし現実には、その超硬度設計の身体は今……。確かに、それでいてハッキリとひび割れていく。

 まるで無に帰されるように。
 虚無に帰れ!――とでも言われているかのように。

『!?ゴスロリマーグ!?』

 今は右腕となっているマーグの崩壊を、スバルは驚きと共に情報として受け取る。
 砕けていく相棒。それは己の未熟さ故の喪失。
 例えるのなら、スバルの【甘さ】がリボルバーナックルやマッハキャリバーを――もっと言えば、ティアナを【壊した】ようなものだ。

『グォォォォ……!!』
『ゴスロリ!!しっかりしてぇぇぇぇ!!』
『……オォォイ!変なトコロで区切るなぁぁ!!』

 ティアナを【ティア】と呼ぶように。
 自然と出ていたその言葉。それはゴスロリマーグの略称。というか、彼女的には愛称のつもりなのだろう。
 しかしそう呼ばれた方は、絶対的な窮地だというのに力一杯の突っ込みを。やはりそうは呼ばれたくないらしい。

『オイ、スバル!!前に言ったが、お前の防御はまあまあだ!』
『……ハイ!』

 ヴィータ語で【まあまあ】は、かなりの高評価である。
 しかしそれをヴィータは、決して褒めたりしない。
 だってツン娘なんだもん!!

『だからソイツと、攻撃に回すパワーをありったけ籠めて…………ギンガの眼を覚まさせてやれ!!』
『ハイ!……ハイッ!!』

 崩壊する身体。
 紅いパーツはどんどんひび割れ、零れ落ちて往く。
 崩壊は止められない。しかし最後の最後まで、抵抗することは忘れない。

『そんじゃ――――あとは頼んだぞ!!』
『!?』

 バッシュゥゥ!!
 その音の正体は何だったのだろうか?
 スバルには分からなかった。相対するギンガにも不明だった。

 しかし次の瞬間には理解出来ていた。
 強制的に理解させられていた。
 その音の正体は、ギャオファイギャーの右腕がパージされた音。

 パージされたということは当然、今まで前に向かっていた新式勇者は、その衝撃で後ろに吹っ飛ばされる。
 残ったのは、紅いロボットが一体。
 既に金色のコーティングは剥げ、今までの力とは比べ物にならない程、その出力は低下している。

『おりゃぁぁぁぁぁぁ…………!!』
『■■■■……!!』

 だけど引かない。
 引くことはしない。絶対にしない!
 自分は彼女の上司だ。そして任務を成功させる為なら――【勝つ】為なら、自分が血路を開く!

 【彼女】は――【ゴスロリマーグ】は、スバル・ナカジマの上司ではない。
 しかし【彼女】の元となった人物は、紛れもなくスバルの上司だ。
 故にそこには些細な差しか存在しない。まだまだ頼りないひよっこを教え、導くのは――先達の務めだと。

『■■■……』

 一方のギンガはというと、少しばかり焦りを感じたが、それもすぐに収まった。
 何故なら相手の攻撃という名の特攻は、ただの自爆である。
 故に恐れることは何もない。

 ただ自分の攻撃を完成させ、そしてそのまま押し徹せば良い。
 最高出力の【天国と地獄】は、目の前の相手など一蹴することだろう。
 事実もう相手は、粉砕寸前。勝敗は見えている。だから次は、新式勇者だ。

『……へっ!傷の一つでも、付けさせてもらうぜぇぇ!』

 崩壊寸前の身体から、緑色の光が漏れ始めた。
 それはCストーンの力を解放していく証拠。
 【彼女】は本気だ。本気で【自爆】を以って、相手にダメージを与えるつもりだった。



 ――キィィィィン!!



 その音は解放音。
 安全弁という楔を外し、【根性】を解き放つ。
 その最終工程が今……終了したのだ。

『喰らいやがれぇぇぇぇ!!』
『■■……!?■■■■■■…………!!』

 解放の瞬間。
 ギンガは両の腕に更に力を加える。
 オーバーブーストされた両腕は、紅き巨人の胴体を正面から分割していく。

 ズブ!ズブゥ!!
 そんな嫌な音を周囲に響かせながら、その瞬間は訪れる。
 バァァァァン!!という音。それは崩壊の音色。



 ――カッ!!



 翡翠の光が十字に走り、そして眩い閃光となる。
 暗転。
 そして眼が慣れてきた頃には……あったのは紅い鉄屑だった。

『…………ギィィィィン姉ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』

 吼えた。
 爆ぜた。
 紅い相棒を失ったスバルは、そこから漏れる感情を、そのまま解き放った。

『天国ぅぅ……そしてぇぇぇぇ、地獄ぅぅぅぅ!!』

 右腕と左腕から、それぞれ異なった色の光が解放される。
 収縮。圧縮。そして濃縮。
 最大限まで威力を凝縮されたそれは、両掌を合わせることで爆発する。

『……、…………、…………、……!!』

 その呟きは聞こえない。
 だがその台詞は、先程ギンガが唱えたものと同じもの。
 故にこの後来るものは、ギンガには簡単に推察出来た。

『ウォォォォォォォォォォォォ!!』

 【天国と地獄】同士のぶつかり合い。
 翡翠色のコーティングが為された二つの機体は、惹かれ合うように吸い寄せられる。
 まるで太陽は二つ要らない。だからお前は、邪魔だとばかりに。

『…………ス、バ、ル……』
『!?ギン姉…………』

 正気に戻ったのか!?
 淡い期待をしたスバルだが、その答えは不明だった。
 代わりに返ってきたのは別のもの。

『……カツ。ワタシガ、カツ……!』
『!!……………………忘れちゃったの、ギン姉ぇ……?』

 姉からの勝利宣言。
 しかしその勝利宣言は、スバルを悲しい気持ちにさせた。
 姉が忘れてしまったからだ。勝者の条件を。その心の支えとするものを。

『勝利するのは…………勝利するのはぁぁ…………!!』

 嘗て自分が姉から教えられたS・Aの講義。
 その中でも重要だった、戦闘者の気の持ちよう。
 忘れてしまったのか。…………だったら良い。今度は――――自分が教える番だ!!スバルの輝きが、一層眩いものとなった。

『【根性】あるモノだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
『!!!!!!』
『ぁぁぁぁぁぁぁぁ…………!!』

 ギャオギャイガーの胸――ライオンヘッドのある位置に、スバルの拳が到達した。
 ゴリッ!!鈍い音と同時にやって来る、ギャイガー崩壊の瞬間。
 コアとなる区画から、ギンガを周りのパーツごと抉り出し、そして引き抜く。

 全身にひびが入り、そして緑色の光が漏れ出す。
 それは先程のゴスロリオンマーグと同じ。
 だからギャオギャイガーの末路は、既に見えていた。

 光の解放と、それに伴う暗転。
 スバルは光が収まると、閉じていた両手を開く。
 その中に居たのは、服装はややボロボロになっているものの、普段と変わらぬ姉の姿が。

『ギン姉……。良かった…………本当に良かった……!!』



 ――プシュゥゥゥゥ!



 操手の安堵と同時に、各部から強制的に煙が排出され、立膝の状態になるギャオファイギャー。
 限界だったのだ。
 パーツの耐久値を越え、エネルギーの過負荷でパイプがイカれ、それでも最後まで闘い抜いた勇者。

 スバルは姉を取り戻すのに全力を尽くしてくれた【物言わぬ友】に、最大限の感謝をした。























「ルーテシアァァァァ!!」
「……邪魔。ガリュー、お願い……」
「……」

 地上に破壊神が降臨し、そして闘い合っていた頃。
 同じく地上の別の場所では、少年少女が闘い合っていた。
 紅髪の若き槍騎士と、紫髪で蝶々の仮面を付けた、幼き召喚師。

 少年はターゲットを確認すると、すぐさま飛んでいった。
 己の所有する槍をブースターとして。
 少しでもはやく、紫の少女に会う為に。
 
 そしてそんな小さな騎士を後方から追っていたのは、桃色の召喚師。
 想いを寄せる少年が、自分ではない別の存在を追い求めている。
 その事実に、キャロ・ル・ルシエは複雑な気持ちだった。

 別にエリオはたぶん、そういった恋愛要素でルーテシアを見ている訳ではない、と思う。
 しかしそれでも気になる男性が、別の異性に突貫していく姿には、思うところがあるのだ。
 今回は恐らく、正当魔法少女のスタイルでは勝てないだろう。

 だから戻す。
 普段の――本来のスタイルに戻し、そして闘う。
 これまで使ったことのない切り札――デバイスの【サードモード】を以ってして。

「……っ!ガリュー、退いてくれ!!ボクはルーテシアに用があるんだ!!」
「……」
「ダメ。貴方はガリューの相手でもしてなさい。もしもガリューに勝てたなら、相手をしてあげるから……」

 まるで羽虫を見るかのように。
 ルーテシアの瞳は、光を灯さない状態で少年を見据えた。
 まるで自分の意思がないかのように。ギンガ・ナカジマと同じように。

「私の相手は、貴女でしょう……?同じ召喚師でありながら、ぬくぬくと暖かい環境で育った、貴女……!!」
「……!?」

 ルーテシアの言葉は、鋭い矢となってキャロの心に突き刺さった。
 そんなことはない。自分だって一族に放逐され、管理局の施設をたらい回しにされたのだ。
 確かにフェイトに保護されてからは暖かい環境だったが……あの過去は忘れられない。

「違うよ!違うよぉ!!」
「……何が違うと言うの?貴女なんかの過去は、どうでも良い。貴女は今、優しい保護者と大切な家族を手に入れた。…………私には無いものを!!」
「!!」

 貴女と同じだよ。
 キャロはそう言いたかった。
 しかしその言葉は伝わらなかった。何故なら分かってしまったから。

 今の自分は幸せで、今のルーテシアは不幸なのだと。
 【優しい家族】。もしもこれがキーワードだとするのなら、今の彼女にはそれすらも居ないということになる。
 そこに血の繋がりは関係ない。暖かい家族。愛情。それに餓えた――過去の自分が居る。キャロの胸中で、この後にすべきことが決まった。

「……貴女たちみたいな甘ったれを見ると、虫唾が走る。だから倒す。目の前から消す為に……!」
「…………良いよ。貴女の好きにすれば良いと思うよ……?」

 重なる。
 フェイトに保護される前――まだ力を持て余していた時期の自分と、彼女が重なる。
 あぁ。だからエリオは、真っ先に彼女に反応したのか。

 同じような境遇を、心の何処かで感じ取ったから。
 キャロの中では、これは避けて通れないイベントだと理解した。
 そう。彼女と――【ルーテシア・アルピーノ】と言葉を交わし、そして【友だち】になるには、避けられない闘いなのだと。

「ただし、私が勝ったら…………お話を聞かせて貰うんだからね!!」
「……勝手にすれば良い。出来たら、だけどね……」

 白き竜に乗った桃色の召喚師。
 そして紫色のベルカ式の魔法陣の上に立つ、紫の少女。
 その間を、一陣の風が通り過ぎる。その後をピンクとパープルの光がぶつかり合い……そして爆ぜた。

「キャロ!?ルーテシア!?」

 ガリューと相対しながらも、その爆音で二人が気になったエリオ。
 白煙が立ち昇り、女子二人の周囲が白い空間となる。
 こうなってしまっては、エリオからはキャロの無事を確かめる方法はない。

 念話を使えば可能なのだろうが、敵は念話を傍受出来る相手なのだ。
 使用は避けなければならない。
 だったら今のエリオに出来ることは、目の前の相手をさっさと倒し、そして少女たちの待つフィールドへ行くことだろう。

「行くよ、ガリュー!!」
「……」

 虫の化身である沈黙者は、何も言わず構えを取る。
 その濃いピンク色のマフラーが風にたなびく
 その刹那。ガリューの鋼のような爪と、エリオのストラーダが音を立ててぶつかり合う。

 こちらもまた、闘いのゴングが鳴ったようであった。























「いやはや全く…………皆、シリアスすぎると思わないかい?」
「……取りあえず一番真剣にならなければいけないのは、あなただと思うのですが……」
「そうかな?」
「えぇ。絶対にそうだと思いますよ……?」

 地上本部の地下道。
 今そこを歩く面々の中では、そんなほのぼの会話があった。
 発信者は覇王。受け手は金髪騎士。

 双方共にセーラー服(風な戦闘服)を着てはいるが、片や若作り。もう一方は怪獣がコスプレをしているようなもの。
 誰が見ても思うだろう。
 何なんだ、この組み合わせは……!!

「そうかぁ……。具体的には、どのあたりだい?」
「そうですねぇ……。まずは【その服】を脱ぐことから、始めるべきでは?」
「何と!騎士カリムどんは、羞恥プレイがお好みとな!?今のボクはこれを脱ぐと、素晴らしいマッスルバディしか残らないのだが……」

 衝撃の事実。
 出会ってからもう、結構な付き合いだが、彼女の新たな一面が垣間見れた。
 ……決して見たいとは思わなかったが。覇王の胸中は、驚きで満ちていた。

「……違います。というか、何で今のあなたは【女性】なんですか!話を聞く限りではもう、【月村静香】の姿を取り戻したのでしょう!?」
「いや、確かにそうなんだけどさぁ……」

 この時系列に来た時、既に【月村静香】は死亡していた。
 故にその姿に――嘗ての自分の姿にはなれる。
 しかしなれる【だけ】である。

 本質的に【女性】の身体であるこの肉体は、【男性】というファクターを取り込むことで、【月村静香】と同じ容姿を保っていたのだ。
 そしてそのパーツは、今はお散歩中である。
 なので今は、カリムの知る【月村静香】にはなれない。

「……という訳でさ、無理なんだよ。ゴメンして下さい」

 素直に理由を言ったから、これで終わり。
 ……にしたかった。
 しかしそれで終われないのが、オトメというもの。

「でしたら!せめて別の服を着るか、その服を着るのなら別の姿になって下さい!」
「……何で?」
「先程からレジアス大将が、出血多量なのが見えないんですか……!?」

 カリムの示す先を見る。
 するとそこには出血多量なレジアスの姿が。
 その出血箇所が切り傷などではなく、鼻から出ているのは如何したものか。

「…………これは熱射病です。どうぞお気になさらず……」
「……って言ってるけど?」
「どう見ても違うでしょう!?」

 レジアスは何やら、【何か】と闘っている最中らしい。
 残念なことに覇王には見えない。
 だがエールくらいは送るべきだろう。

「がんばれ、レジアス!!何と闘っているかは分からないけど、ファイトだぁぁぁぁ!!」

 魔法でポンポンを出し、右手を上げたり、開脚ジャンプをしたり。
 これでレジアスも冷静になるだろう。
 ……見たくもないものを見たせいで、血の気が引くという意味で。

「ぐふぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「……!?不味いぞ。レジアス大将のバイタルが、急激に低下していく……!」

 先程とは比較にならない程の多量の血液。
 それが今、地上の守護者の中から失われていく。
 それを報告するのは、人間デバイス――じゃなかった。ユニゾンデバイスのリインフォース(初代)。

「御覧なさい!!どう見ても、あなたの格好のせいでしょうが!?」
「……騎士カリムよ。これは性質の悪い熱射病だ。だから気にするな……」
「何でそこまで我慢するですか!?」

 おかしい。
 ヒステリックに叫ぶカリムと、瀕死状態のレジアス。
 あまりに現実離れした光景に、覇王は何も考えられなかった。

「……不味いわね。これじゃあ、もって後数分よ……」
「レジアス大将……我が永遠のライバルよ。何か言い残すことはあるかい……?」

 プレシア先生の診断結果。
 その非情な結果を前に、嘗てライバルとして火花を散らした相手。
 クライド・ハラオウンが、大将の遺言を聞く。

「今度生まれ変わったら、大空を翔ける空戦魔導師になりたい……」

 それはレジアスの願い。
 恐らく空戦魔導師となって、それでも地上を護り続けたいのだろう。
 慢性的な空戦魔導師の不足への懸念。彼は最後の最期まで立派な大将だった。

「そうすれば、今度こそは…………教官の着替えを空から……」
「……分かる。分かるぞ!嘗てはボクも、そうだったから……!!」

 ノー。
 レジアスとクライドの、意味不明な会話。
 しかし理解出来た者も居るようで。リンディ・ハラオウンはタキシードを来た変態に、百tハンマーなるモノを喰らわせていた。

「……何だかよう分からんけど、それでこのカオスな事態が収まるのなら……」

 バキボキと、覇王形態から妖精形態への逆変身。
 まるでホラー映画のような光景の後に訪れる、妖精さまの降臨。
 順当に時を重ねた三人娘とは違い、時を越えてこの時代に来た妖精は、小学生のままだった。つまり何が起こるかと言うと……。

「あぁ……!!その姿、久しぶりだわぁぁぁぁ!!さぁ、ツインテールにしましょう!?お着替えしましょう!?一緒にお風呂に入りましょう!?」
「だぁぁぁぁ!!今度はプレシアか!?もう、イヤだぁぁぁぁ!!」

 暴走特急(特級)・テスタロッサ号。
 そのバインドを必死こいて外した後に、即効で覇王に戻る。
 そして間髪入れずにレジアスを、転送魔法でスカリエッティのアジトの近くに送る。

「……もうヤダ。はやく【野暮用】を終わらせて、帰ってきてくれよぉ……」

 現在別行動中の半身を思い、覇王は一人溜息を吐く。
 そんな様子を見て騎士カリムは、渇いた笑みを浮かべることしか出来なかった。













 あとがき

 >誤字訂正


 俊さん。毎度ご指摘いただき、本当にありがとうございます!!







[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 48【ついに登場、最高評議会!?】
Name: satuki◆b147bc52 ID:b82c1ae2
Date: 2009/10/09 11:11



 前回のあらすじ:暴走レジアス←こんなの、俺たちの大将じゃねぇ!!



 ミッドチルダの空は蒼く、そして大きい。
 その広大な空は今、金色に染まったり紅く染まったりと、非常に忙しい状態である。
 それは別段、自然現象ではない。

 黄金色や燃えるような夕焼けではない。ましてや朝焼けであるはずもない。
 真昼間からそんな現象が起こるとしたら、それは人為的なもの以外に有り得ないだろう。
 事実そのことを肯定するかの如く、先程から幾体ものロボットが緑光の柱を上げていた。

 そしてそれらの自然界には在らざるものが、更にこの大地に降臨する。
 黒い龍人と、白い蟲人。
 その大きさは雲に達する程に大きく、そしてそれに見合う力強さと異様さを、彼の者たちに与えていた。

「……それが貴女の究極召喚……?」
「……一応そういうことになるの、かな?」

 紫の少女は問う。
 桃色の少女が召喚した龍は、自分の最高カードと同ランクのものかと。
 それに対し問われた少女は、それを曖昧にしか肯定しなかった。

「……どういうこと?まさかソレ、究極召喚じゃないって言うの……?」
「……」

 キャロの究極召喚。
 それは極めて複雑なものだった。
 【単体】として究極召喚に該当するのは、間違いなく漆黒の竜巨人【ヴォルテール】である。

 その巨大さ。風格。強さ。そのどれもが、歳若のフリードリヒに敵うものではない。
 それは他の竜たちと比べても同じ。
 彼の前では――ヴォルテールの前では、どんな龍を連れて来ても霞んでしまうのだ。

「私の【究極召喚】は、間違いなくこのヴォルテールだよ……」
「……なら良い。こっちも遠慮、しないから……」

 唐突に話を変えるが、機動六課には【シャリオ・フィニーノ】というマッドが存在する。
 その壊れ具合と言い、デバイスへの傾倒ぶりを見る限り、彼女は間違いなくマッドだ。
 しかし彼女は残念ながら、究極のマッドではない。

 何故なら彼女を越える者など、この世界には山ほど存在するからだ。
 分かりやすい例を出すと、本局所属のマリエル・アテンザなど。
 彼女はシャリオよりも先に生まれ、その路に入った。

 故にマッド暦はそれ相応に長い。そしてそのイカレ具合も相応に酷い。
 だが本局まで行かなくても、彼女を越えるマッドは――――【究極の】マッドは存在する。
 永い歴史を持ち、更に創るデバイスは殆どが現代のロストロギアと呼ばれる【化け物】。

 その名は【月村静香】。
 彼が関わった機動六課。
 その中心メンバーである前線フォワード陣。

 殆どが魔改造されている現実。
 それはデバイス・その他の要素を問わず。
 故にキャロの究極召喚がヴォルテールのまま――――であるはずがない。

「(……でも)」

 その更なる【究極】を呼び起こすには、幾つか条件がある。
 まず【ケリュケイオン】が、サードモードであること。
 次にそのサードモードを起動してから、何回かの攻防を必要とすること。

 【条件付け】。これは誓約と制約が掛けられたもの。
 ヒトは全くの無条件下よりも、条件付けをされた方が素晴らしい力を発揮する。
 それはその制約を跳ね除けるように、考えに考え。そして打破する為に、新たな考えをするようになるからだ。

「……フリード、いったん戻って!!」

 キュクルゥ!と一鳴きすると、白き飛竜は主の下へ戻っていく。
 飛竜は主を――親とも言える存在のキャロを護るべく、少女の前に降り立つ。
 まるでルーテシアやその召喚蟲から、親を護るように。

「白天王……!」
「!?ヴォルテール!!」

 白き巨人の腹部から発射される、凄まじい力の奔流。
 一瞬遅れて、キャロもそれに対抗すべく、ヴォルテールの口から似たような攻撃手段を展開させる。
 力と力のぶつかり合い。拮抗する、その【力】たち。

「(……用意するのなら、今しか……ないよね)」

 ケリュケイオンのデバイスコアが、桃色の光を放つ。
 まるでそれは、彼女の意見に同意したかの如く。
 デバイス自身が認めたのだ。自分の命を【運】に預けることを。

「(……わかったよ。ありがとう、ケリュケイオン!)」

 サードモード起動。
 今まではただのグローブ状だったデバイスは、左手に着けている方だけが変化を始めた。
 手の付け根に円状のパーツ。そしてそこに収められた、数十枚のカード。

 そのパーツから飛び出るように、腕の外側に鋭いエッジが付いた、ブーメラン状の大きなパーツ。
 ブーメランというよりは逆【への字】と言った方が正確かもしれないソレは、良く見るとカードを安置するスペースが付けられていた。
 【カード】。それは【あるフィールド】内に於いて、空想を現実へと昇華する為の【媒体】。

「……ルーちゃん、これって【決闘】だよね?」
「…………そう、とも言える」

 己の力を出し切り、対象を粉砕するのが決闘だというのなら、これは間違いなく決闘だろう。
 決闘の意味を咀嚼し、そして同意するルーテシア。
 【超】究極召喚の第ニ条件は、相手にも【決闘】の同意を得ること。

「【決闘】……そう。確かに【決闘】……」

 気に入らない者を打ち倒し、【気になる者】を手に入れる。
 そう……。確かに決闘だ。
 それ以外の何物でもない。

「……良いよ。【決闘】…………始めようか……」
「ウン――――【決闘(デュエル)】!!」

 開幕。
 それは両者の同意を以って行われる。
 これが工程の二。



 ――ヴゥゥゥゥゥゥン!!



 二人が決闘に同意した瞬間、空気が変わる。
 まるで当事者を囲むように薄っすらと色の付いたフィールドが覆い尽し、そこは外界とは隔絶された空間となる。
 これで邪魔者は入らない、決闘場の完成を意味する。

「これは……」
「……どう?これで邪魔は入らない、私たちだけの決闘場が出来たよ……?」
「……良いかもしれない」

 少女たちは決闘に臨む。
 己の矜持と――そして、自分の未来へ続く【路】を賭けて。






















「う~む。頭に【ド】が付くほどのシリアスだなぁ……」

 地上本部の地下道からコンニチワ。
 現在走りながらワンセグ中の、永遠の覇王少女(17)……と何十ヶ月かは、数えないように。禁則事項です♪
 色々と混ざってるけど、気にしないように。それが覇王クオリティ!!

「これは……今の子どもは、随分と進んでるんだね……?」
「そうねぇ?ウチの息子(クロノ)や娘(フェイト)は奥手だけど……そうかもしれないわね?」
「……マテ。それは、本気で言っているのか?こんな凄まじい武力に訴えた会話が、【進んでいる】ものになるのか、お前たちの中では!?」

 クライド→リンディと来て、そして流れがぶった切られる。
 そのなます斬りを行ったのは、【この面子の中では】常識人――もとい、常識的【デバイス】のリインフォース。
 ラインナップとしては、子育て経験【低】→【熟】→【無】な筈なのに、【無】の者が一番常識的とは、どうしたものか。

「……ま、天然軍団は置いといて……」

 月村印のスーパー携帯電話は、通常の電波の届かない場所だろうが、宇宙だろうが通話可能。
 故にミッド地上のスカリエッティTVを受信するなど、お茶の子さいさい。
 だもんで、移動中も状況把握が可能ですたい。

「キャロ子さんは、【アレ】をやる気だね……?」

 以前【月村静香】であった頃に組み込んだ、ケリュケイオンのサードモードから繰り出す【超】究極の召喚。
 召喚条件はやたら面倒だけど、その価値はあると断言出来るそれ。
 しかし現実問題として、実力が拮抗する相手との戦闘中に、果たして条件をクリア出来るか。そこが鍵となる。

『まず私のターン!!ドロー!……私は【紅瞳白竜(レッドアイズホワイトドラゴン)】を守備表示で召喚!そして場に一枚カードを伏せて、ターンエンド!』

 一旦下がった筈のフリードが、キャロのコールに応えて、再びその姿を現す。

『……地雷王を召喚して、攻撃……!』

 それに対してルーテシアは、ゴキボー……じゃなかった。地雷王という巨大蟲を召喚し、白き飛竜を攻撃しようとする。

『!!かかったね、ルーちゃん!!』
『!?』
『伏せカードオープン!罠カード【アルケミックチェーン】!』
『……っ!』

 あ。地雷王が、アルケミックチェーンで拘束された。
 そして再びキャロっち様のターン。
 ……どうでも良いけど、何故か今のキャロ・ル・ルシエには威厳とか迫力が有るように見える。……気のせいか?

『ドロー!……フハハハ!!私は二枚目の【レッドアイズ】を召喚!地雷王を攻撃!!』
『……クッ!!』
『私は場に一枚のカードを伏せ、ターンエンド!!』

 キャロ社長は快調に飛ばす。
 一方ルーテシアの顔色は冴えない。
 ……つか、いきなりこんなトンでもバトルになれば、それも当然の気がするが。

『……私の番…………白天王、召喚……!!』
『!!』

 決闘フィールドが形成された時に、全ての召喚はリセットされている。
 つまりキャロのヴォルテールは、今この場には居ない。
 ということは、白き竜を護る獣は居ないのだ。

『白天王……!』
『あぁぁ……!!レッドアイズが……!』

 葬り去られる、一体の白竜。
 これでキャロのフィールドには、もう一体の白き飛竜が居るのみ。
 他には伏せた札が有るものの、それはこの場では役に立ちそうにない。

『(ど、どうしよう……!?もしも次のターンで【アレ】を引けなかったら……!!)』

 既に手札には別の【パーツ】が有る。
 勝利という二文字を引き寄せる為に必要な、重要な【切り札】。
 あと一枚。あと一枚あれば、【勝利】の方程式は完成する。

『(でも……でも!)』

 もし【ソレ】を引けなければ、待っているのは【敗北】だ。
 そうなれば、目の前の少女と――ルーテシアと話すことなど不可能になる。
 【昔の自分】を救いたい。かつてフェイトにそうされたように。そう考えているキャロにとって、【敗北】はあってはならないことだった。

『……どうしたの、かかって来ないの……?』
『!!』
『やっぱり……甘ちゃんにはムリ。私に勝つ方法なんて、有る訳がない……』

 有る。
 そう言ってやりたいが、例え有っても顕現させられなければ――――意味はない。
 だからキャロは、俯いて臍を噛むことしか出来なかった。

『わ、私のターン……』

 その手をカードの山に掛ける。
 いや。掛けようとした。
 しかしそれは実現されなかった。何故なら、彼女に目に――キャロ・ル・ルシエの瞳に、衝撃的な光景が映ってしまったから。

『『……エ?』』

 重なったのは、二人の少女の声。
 計らずも重なってしまったソレは、ルーテシアにとってもその光景が予想外だったから。
 ガリューの主である彼女ですら、予想もしていなかった事態が起きてしまったからである。

『……ガハッ!!』

 口から零れるのは、赤い、紅い液体。
 人体を構成する上でとても重要なその液体――血液は、最初は少し。しかし直ぐに噴水のように噴出した。
 それは年端もいかない少年の口から。エリオ・モンディアルという少年の口から、噴出していたのだった。

『エリオ君!?』
『……そう。彼は死んだのね……』

 ビルの屋上で、膝から倒れこむモンディアル少年。
 相対するのはルーテシアの召喚蟲では最も人型に近い、ガリューという名の戦闘者。
 別にエリオに外傷はなかった。ただ彼の持っているランスの一つが――ストラーダではない、見慣れぬ槍が粉砕されただけ。

 それはキャロにとっては初見だったが、エリオにとっては【文字通り】彼の生命を左右する代物であり、同時に強力無比な槍でもあった。
 粉砕された槍は徐々にその姿を霞ませていき、後に残ったのは一つの【刻金】だった。
 エリオの刻金は、彼の第二の心臓。故にそれが壊れし時は、彼の【二度目の】死亡を意味する。

『エリオ君!エリオ君!!』
『……残念。もう少しはもつと思ったのに……』

 ルーテシアは別段、エリオを殺すつもりがなかった訳ではない。
 ただ【武器破壊=死亡】になるとは思っていなかったので、それで驚いただけだ。
 そうだ。それだけだ。それだけの筈だった。

『(……何で?何でムカムカするの……?)』

 しかし現実には、ルーテシアの胸中はスッキリしないものが有った。
 まるで、エリオが死んだことにショックを受けているような。
 そんな筈はない。そんなことは、有り得ない……!

『ルーちゃん!何であんなことを!!』
『……私じゃない。ガリューがやったこと……』

 ルーテシアとしては、ただ事実を言っただけ。
 しかしキャロにとっては、それはただの【逃げ】だった。

「…………重い。重過ぎる。これが十歳の世界なのかぁ……?」

 多分この中継は、世界で一番重いTV放送だろう。
 携帯が異常な程に、ズッシリと重く感じる。
 しかしエリオも不甲斐ない。いや、この場合はガリューが凄かっただけか?

「あぁ、エリオが!!どうしましょう、フェイトさんに何て言ったら良いか!!」

 立場的にはエリオのお婆ちゃ(ズキューン!)に当たる、緑の提督。
 顔が真っ青になり、隣に居る夫に支えられている状態。
 しかしご安心下され。【月村静香】プロデュースの【作品】たちは、そんな簡単にくたばったりしないのである。

「リンディ嬢、大丈夫。心配はないさ……」
「で、でも……!!」

 親指をグッと立てて、超絶スマイル。
 それは覇王フェイスと相まって、胡散臭さ極まりない。

「古来より男の子は、一度敗れても次は負けない。そうなるように、ガンバル生き物なのさ♪」
「……?」

 【訳が分からん】という顔のリンディ嬢。
 それは周りの皆の衆も同じようで、覇王の周りは怪訝な顔でいっぱいである。
 【一度負ける】というのは、ある種のスイッチだ。【次は勝つ!】という装置を作動させる為のボタン、またはフラグとも言うが。

「ほぅら……始まったぞぉ……?」

 画面の中のモンディアル少年は、倒れ伏したはずの身体を起こしている。
 おかしい。普通なら重症を通り越して死亡だ。
 事実彼は一度、一切の生命活動を停止した。

『……根性』

 聞こえる。
 彼の呟きは、狭くはない戦場全体に響き渡る。
 それは呪文だった。

『根性……根性……』

 俯いた顔から聞こえるのは、徐々に大きくなる声。
 落ちた筈の刻金は彼の掌に自動で納まり、そしてその身にひびを入れていく。
 まるで中から【何か】が出てくるように。今の姿が、【仮の姿】だったと言わんばかりに。

『……』

 対戦者であるガリューも、その光景には驚きを隠せない。
 人語を喋る訳ではないが、それでも彼が目の前の少年が放つ、異様な迫力に押されているのが分かった。
 まるで野生の本能が、危険な存在を察知したように。

『根性……根性……根性……根性…………根性!!』



 ――パキィィィィン!!



 割れた。
 あたかも卵の中から孵ったようなソレは、カタチは先程までと同じ刻金だった。
 しかし決定的なまでの違いは存在し、先程までのソレは灰色だったのに対し、今度は黒色。さらにシリアルナンバーが【Ⅲ】に変更されていた。

『……』

 少年の身に変化が訪れる。
 紅い逆立った髪は蛍色に変化し、肌の色は赤銅色に。
 そして刻金があった胸には、黒い刻金と同じようなデザインが印された。

『……勝つのはボクだ、ガリュー!!』

 まるで少年漫画の主人公のように。
 死の淵――というか、向こう側から帰ってきたエリオ少年。
 同時に現れ出でる、一本の槍。

『悪いけど、肩慣らしはしない……最初からクライマックスだから……!!』

 月村静香印に、【成り立て】なんて単語は存在しない。
 最初から全力全壊が出来る、素晴らしい程の安心設計。
 だから最初から無双錬金ver.2。エネルギー内包型の、トンでも槍の御登場である。



『……そう。やっぱり貴方も、【力】を【命】に代えた者だった…………私と【同じ】存在……』

 何かルー子様に、フラグが立ったみたいです。
 その旗の名前は【エリ×ルー】フラグね?わかります。
 
『……はぅっ!?』

 紫の少女の発言が槍となって突き刺さる。
 そう感じたのは、現エリオ少年の相棒である、キャロ・ル・ルシエ三等陸士。
 しかし直ぐに気持ちを切り替える。そして心を燃やす。

『ルーちゃん……エリオ君は渡さないよ!!』
『……でもエリオは貴女の物じゃない』
『で、でも!!これからそうなる予定なの!!』
『予定は未定……。なら私だって同じ……』

 自分と【同じ】存在であるエリオに、自らの存在意義を求め、依存しようとするルーテシア。
 似たような境遇故、そこに同属意識を持ち、そこから派生する依存心に身を任せるキャロ。
 ……同じだ。二人の深層意識は、驚く程似ている。

『……でもこの闘いは、私が勝つ。貴女は【今】、新しい【駒】が召喚出来なければ、ここで負けるのだから……』
『…………だったら、【今】引けば良い……!今このターンで――――このドローに、私は全てを賭ける……!!』

 カードの束――正式名称は【デッキ】というのだが――に手を掛け、そして瞑目する。
 来て、来よ、来たれ、等。
 そこにはあらゆる言葉が込められていた。

『……私のカードは……』

 キャロはカードを引く。
 そして引いた札の絵柄を見る。
 背景で雷が落ちた。実際は同時戦闘中のエリオが、ガリュー目掛けて最大雷撃を喰らわせただけ。しかしキャロにとっては、まさに雷が落ちる程の事態だった。

『……私は今――――【運命】を引き当てた!!』
『!!』
『運命のカード、それは――――【三体目の】レッドアイズ!!』

 キャロのコールに対応するように、彼女の手札には新たなレッドアイズが宿る。

『さらに手札から、【死者蘇生】を発動!!』
『……何、で……?』

 死滅した召喚獣が黄泉から帰って来る。
 その獣の名前は【紅眼白竜】。
 先程ルーテシアに葬り去られた、二体目のレッドアイズだった。

『まだだ!伏せカードである【融合】を発動!!手札にある【三体目】のレッドアイズと、場に存在する二体のレッドアイズを融合させる!!』
『レッドアイズの……三体融合……!?』

 キャロ子嬢のカードから呼び出され、そして融合するレッドアイズたち――というか、フリード軍団。
 白い体躯に、三つの頭を持った竜が誕生する。
 その名は【紅瞳究極竜】。この僕(しもべ)こそが、キャロ・ル・ルシエの持つ、最強の切り札である。

『次元を越え、私の未来を切り開く光よ!レッドアイズ・アルティメットバーストォォォォ!!』
『白天王……!!白天王が……!?』

 三つ首から放たれる、一撃必殺砲。
 白き巨人はそれに当たると、一瞬にしてその身を崩壊させる。
 強大な力の象徴はその姿を消失し、同時にルーテシアの中の戦意をも消し去っていく。

『粉砕!玉砕!大喝采!!……やったぁ!!やったよ、エリオ君!!』
『うぅ……私、負けちゃったよ……。エリオ……こんな弱い子はダメ、だよね……?」

 ……何か恐ろしい少女たちがいます。
 片やライバルを蹴落として御満悦の桃色。
 そしてもう一方はやられたことで儚さと、女の子としての弱さをアピールしている紫色。

「二人とも……恐ろしい娘!!」

 というか、何だか性格が変わっているぞ、二人とも!?
 これが最近の(年齢的には)小学生かぁ……。
 確かにクライドの言う通り、【進んでいる】のかもしれないなぁ……【異常な】程に。



 その後【フェイトさん、負けないで!】イベントは来たものの、エリオは(フェイト主観では)不良化しており、キャロは勝利に酔いしれていた。
 そんなカオスな状況では、流石のフェイトそんも勇気付けられる訳がなく。
 何とか真ソニックフォームにはなったものの、スカ博士をバスターホームランするには至らなかった。

「……キミには失望したよ。まさか私の【ホームラン】フラグを回収出来てないとは……」
「……クッ!!何のことだか分からないけど、スカリエッティを目の前にして逮捕出来ないなんて……!!」

 フェイトそんはクライマックスを前にして、一番重要なフラグが回収出来ていない事実に気が付いたようです。
 恐らくさっきの【フェイトさん、負けないで!!】が、最終チェックだったのでしょう。
 まぁ気が付いたところで、過去には戻れない訳だけど。

「……ふぅ、仕方がない。キミにはココで大人しくしていて貰おうか。私にはまだ、やらなければならない事があるからねぇ……?」

 ココはまだ、【ジェイル・スカリエッティ】のオールアップの場面ではない。
 故に、【まだ】退場する訳にはいかない。
 そう。彼にはまだやることが――やらなければならないことが有るのだ。【悪役】として――――やらねばならないことが。

「フフフ……」

 掌に着けたグローブ型のデバイス。
 それは本格的なデバイスではなく、あくまで彼のサポートを行うだけの代物。
 それでも彼のアジトであるこの空間では、十分過ぎる程の役割を担う。

「!?しまった……!!」

 フェイトを拘束していく、紅い糸。
 それはAMFを内包し、彼女の力を奪っていく。
 だから彼女自身には為す術がない。全ての力を使い切った、彼女【自身】には。

「さらばだ、プロジェクトFの残照よ……。次に会う時は、私が世界を変えた後だろうねぇ……?」

 白衣を翻し、フェイトから離れていくスカリエッティ。
 不気味な程静まりかえった廊下に、スカリエッティの足音が響き渡る。
 素晴らしき漢スカリエッティ。こんな時まで、【お約束】を忘れないらしい。

「待てぇぇぇぇい!!」
「!?……そうか。リベンジに来たのか――――キャプテンベラボー!!」

 立ち去る背中に掛かる声。
 その姿はどう見ても、スカが立てたフラグを回収する漢、レジアス・ゲイズである。
 彼は腰を落とし、一閃。

「ベラボーチョップ!!」

 手刀で斬られて行く、紅い糸たち。
 たちどころにフェイトそんは、元の姿に戻っていく。
 野郎連合涙目。拘束フェイトそんは、高速フェイト執務官に戻ってしまいましたとさ。

「あ……ありがとうございます」
「何。大したことはしてないさ……」

 フェイト嬢のピンチに、立てんでも良いフラグを立ててしまった(?)、レジアス・ゲイズ。
 エリオがあんな状況だからとは言え、歴史の修正力は一応存在するらしい。
 ……だって、代わりの者を寄越したのだから。

「クックック……。そうか、キミが立ち塞がるのか……いや、これも運命なのかねぇ……?」
「下らん。オレは運命など信じない!!オレが信じるのは、【コレ】だ……!!」

 握り拳を顔の前に持っていく。
 その力の入り具合は、傍から見ても凄まじいの一言。
 気合・気迫共に、充実し過ぎって感じで。

「……良いだろう。では私も、【コレ】を以ってキミを粉砕するとしよう……」

 スカリエッティもまた、握り拳を固めて構えを取る。
 緊張する人間たち。緊迫する空気。
 これが達人同士の闘いの始まり。その様をフェイトは、身を固くして見守ることしか出来なかった。

















「執務官長!見えました!!アレが最高評議会の居る部屋です……!!」
「……ん?あぁ、そうか……。色々と有り過ぎたせいか、当初の目的を忘れるところだったよ……」

 クライド少年の声で、覇王は漸く現実に還って来た。
 短い筈なのに、何だか異常な程に長かったように感じる。
 それだけ濃い時間だったのだろう……。覇王本人は、見てるだけだったけど。

「……にしても、これは……」

 最高評議会の脳みそたちが居る部屋。
 部屋の名称:パンドラボックス。
 どう考えても【希望】なんて出てくる筈がないのに、何故かそんな名前が付けられている。これはアレか?本人たちは大真面目なのか?

「ま、考えても意味ないか……。各自、準備はOK?」
「問題ありません」
「同じくです」
「……はやく成長した主を見たい……」
「私もはやく終わらせて、まだ見ぬ子どもたちとの触れ合いがしたいわ……」

 覇王の問いに、ハラオウン夫妻は普通に。
 しかし祝福の風や若プレシアは、心底面倒くさそうに言う。
 それでも【はやく終わらせる】という意思があるので、一応やる気はあるのだろうが。

「あれ、カリムは……?」
「え?えぇ……!!大丈夫です、準備はバッチリですよ!?」
「……ふーん。分かった。なら行くとしますかぁ……?」

 明らかに挙動不審な彼女だが、きっと何か言えない事情があるのだろう。
 今までそういった行動がなかっただけで、彼女もこの【歩く非常識チーム】の一員なんだ。
 秘密の一つや二つ、有るのかもしれない。

「(……出来ればその秘密とやらは、どうかボクに優しいものでありますように……)」

 一応今まで関わった中では、一・二を争う常識人なだけに、そう切に願う自分が居る。
 ……分かっている。きっとそれは、ただの希望に終わる。
 でもちょっとだけでも希望に縋るのは、間違いではない筈だ。

「……でわでわ。『ちわ~!三河屋です――――!お届け物を持ってきました~!開けてくださ~~い!!』」

 若干作り声で。
 ボクは扉の前でそう叫ぶ。
 背後で壮大にズッコケる音が聞こえるが、そんなモノは無視。だって……。

『スミマセ~ン!今手が離せないんで、入ってきちゃって下さ~~い!!鍵は開いてますから!!』

 中からそんな、ほのぼの的回答が返ってくる。
 すると巨大な開き戸に見えた扉は、横にスライドしていく。
 ……つまりは、引き戸だった訳だ。

「あ、あの……シズカさん……?」
「なんだい?騎士カリムどんや?」

 微妙に頬が引き攣った、金髪のセーラー服お姉さんが居ます。
 何だかとっても、新鮮なものを見た気分。
 しかしその背後に似たような表情の集団が居たので、直ぐに新鮮味は薄れたけど。

「もしかして、今のが暗号だったとか……言わないですよねぇ?」
「いや?もしかしなくても、今のは扉の開錠キーだよ?」
「「「「「…………」」」」」
「本当なんだって。最高評議会っていうのは、意外にもお茶目な思考をしてるんだから……」

 【信じられない】。皆の顔に、そうありありと浮かんでいる。
 だがコレは事実なのだ。
 そしてこの先には真実が待っている。皆が滅すべきだと思っている、最高評議会の真の姿が。

「さぁて……管理局の底へ、ご案な~~い♪」

 胡散臭そうな視線を一身に受け、ボクはさらに先を行く。
 この先にはメンテナンスポッド――つまり【脳みそ補完ケース】が有る筈。
 まずはそこまで行かないとねぇ?






「あった、あった♪こんにちわ、最高評議会の皆さん。ご機嫌は如何かな~?」

 五分後。
 長い廊下の果てに、それは存在した。
 三つのカプセルと、三個の脳みそ。

『……貴様が覇王少女(17)のシズカ・ホクトか……』
『いや。この場合は、月村静香と言うべきかな……?』

 脳みその内、その右側と中央の二体がそう話し掛けて来た。
 左の脳みそは微動だにしない。
 本当に何も言ってこない。

「おやぁ?左のヒトは、もしかしてお休み中かい?」
『何、気を遣う必要は無いよ……。彼は今、散歩中でね?ここには居ないんだよ……?』
「……あぁ、そうか」

 合点がいった。
 この三つの脳みそ。何か変だと思ったら。
 色が【灰色】なんじゃないか……?

「これは【灰色の脳細胞】と掛けた、ブラックユーモアなのかい……?」
『そんなところだ。ならば理解している筈だね?【我々】はまだ、死んでいないということも……』
「「「「「!!?」」」」」

 驚くボク以外の訪問客。
 無理もない。最高評議会は、その支配を永遠にする為に肉体を捨てた。
 捨ててまで、それに固執した……というのが、管理局の究極の暗部だった筈だから。

「……あのさぁ、そろそろ面と向かって話したいんだけど……?」
『これは失礼をした。いや、私としたことが……』
『……そうだね。僕たちも、ココまで来たキミたちに敬意を表するべきだったね……?』

 ヴィィィィン!という音を立てて、【脳みそカプセル】が床下に収納されていく。
 その全てが消えた後に、また別の何かが入れ替わるように床下から出てくる。
 それは二本の柱だった。天井まではない、やや短めな柱。ただし、前面に扉が付いていることを見ると、柱【に見える】移動手段なのだろうが。



 ――プッシュゥゥゥゥ!!



 扉が開くと同時に、白いスモークが排出される。
 徐々に露わになる、二つのシルエット。
 旧世紀から愛用され続ける、悪の組織の首領(または幹部)御用達の演出装置。

「いや、お待たせして申し訳ない」

 そう言ったのは、黒くウェーブの掛かった長髪の――――男。
 白地に紅いラインの入った外套を羽織り、その手には白木拵えの刀を所持している。
 その長身と甘いマスク(額にある傷を含めても)から、きっと今でも寄ってくる女性陣は多いことだろう。

「私の名前は、【キャスバル・南雲・デュランダル】。そして……」

 キャスバルなる人物は、そう言って隣に居る男に先を促した。
 蛍光緑のような髪に、やや小柄な体躯。
 そしてその迫力不足な身体を覆うのは、ブロンズの鎧。

 頭部を白いターバンが彩り、口元を白い布が覆い隠す。
 鎧の背中に何故か漢字で【亀】と書いてなければ――いや。あったとしても変わらない、その不統一な装い。
 しかし美形は何を着ても似合う。これはムカつくが、世の中の真理でも有る。

「僕の名前は、【アムロ・アルマーク】。旧暦から生かされ続けている、ただの亡霊みたいなものさ……」

 旧暦に於いての三英雄。
 まさかその生きた伝説が自分たちの目の前に――。
 提督ズは息を呑んだ。そして覇王は……。

「……面白い。面白過ぎるぞぉ♪素晴らしきネタ世界!!コレなら三人目も期待出来る!!」

 異常な程、喜んでいましたとさ。













 あとがき

 >誤字訂正


 俊さん。毎度ご指摘頂き、本当にありがとうございます!!







[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 49【三人目は…・・・グハッ!?】
Name: satuki◆b147bc52 ID:2bdbd27b
Date: 2009/10/11 22:41



 前回のあらすじ:全開のネタまみれ。



 舞台は前回の引きの続きで、最高評議会ズ・ルームから送りいたします。
 インタビュアーは当然の如く、覇王少女。
 突撃取材の相手は、旧暦では【紅い箒星】と呼ばれた者と、同じく過去に【白いデビル】と呼ばれた者。

「我々は旧暦において、様々な【奇跡】を起こした者――――と呼ばれている。実態はどうであれ、ね……?」
「……その言い方だと、本当は違うってことかい……?」

 これは軽いジャブだ。
 相手が真相を語ってくれるとは限らない。
 だから返答は期待しない。そう思っていると、白いあく――ゲフン、ゲフン!【アムロ・アルマーク】なる闘士から予想外の返しが来た。

「その通り。僕たちは様々な時代・様々な姿で歴史に干渉した――いや、【させられた】という方が正しいかな?そしてそれらは全て、【あの存在】の掌だった……」

 彼らは語る。
 ある時は物語の主人公として。
 またある時は、ラストを飾る悪役として。

「そして訪れた新暦。そこでの我々の役割は、時空管理局という【正義の組織】の親玉。しかしその実態は……」
「世界の悪と正義をコントールし、【あるモノ】にその全てが行くように仕向けること……」

 白い外套を羽織った剣士の言葉を、内情を知っているボクが引き継ぐ。
 これは自分にとっての常識。
 そうだ。ボクの――月村静香であり覇王少女でもある、妖精な【ボク】の常識。

「その通り。流石は【原初のヒト】。【あの存在】と同じところから来た者だね……?」
「……そうか。【アイツ】がキミたちに話したのか……」

 闘衣を纏った男の問い掛け。
 それはボク自身の正体に関するもの。
 以前冗談めかして言ったことは有るが、ボクの正体。それは……。

「その通り。キミと同じ――【三次元人】である、【クイーン】という存在がね……?」
「「「「「さ、三次元人!?」」」」」























 三次元。
 それは縦・横・高さを概念とした次元論だ。
 当然二次元は高さがない、平面の世界。

 現実の人間が物語を作れば、それは二次元の世界の話になる。
 つまりは、そういうこと。
 この世界は。この【次元世界】という概念は――――。

「……そうさ。この世界はクイーンとボク【たち】、有志数名により創られた……【人工の世界】なんだ♪」
「「「「「な、何だってぇぇぇぇぇぇ!?」」」」」

 衝撃の事実。
 それは広大な空間である最高評議会ズ・ルームに静かに、だがハッキリと響いていった。

「流石は皆の衆。返し方がM○R風だとは……ワビサビを理解しているじゃないか♪」

 別に隠すつもりは無かった。
 というか、ちゃんと以前発言した。
 しかし本気に受け取らなかったのは、皆の方だ。だからボクは悪くない。良し、理論武装終了!!

「ちょっと待って下さい!!じゃあ、じゃあ我々は……!?」
「あ~、心配は要らないよ?別にキミたちはゲームのキャラクターでも無ければ、架空の存在でもないから」

 代表して質問してきたクライド少年の問いを、ボクは簡単に否定する。
 確かにこの【世界】は人工だとは言った。
 しかしその中に居る人間たちが人工だとは、言った覚えはない。

「……どういう事?返答次第では、妖精に強制変身の上に、一週間為すがままの刑よ……?」

 黒フェイト――若プレシアが睨みながら、そう告げる。
 あぁ。確かにその刑は嫌だ。
 本当はもっと勿体ぶって言おうと思ったけど、それは止めよう。ワザワザやられに行く程、ボクはMじゃないしねぇ?

「分かった、分かった!それじゃあ、【超】簡単に説明するよ?世界を作ったと言われている【神】って言うのは、実は人間でした。オーケー?」
「「「「「………………………………………………ハァッ!?」」」」」

 たっぷりと長い沈黙の後。
 訪れるのは、意味不明というニュアンスの驚愕。
 まぁ当然と言えばそうだけと。

「もう少し分かりやすく説明しようか?」
「……頼む。流石に理解不能だ……」

 【叡智】とも言われる知識を蓄えこんでいる、【魔導書】であるリインフォースでも。 
 流石にボクの話の突拍子の無さには、付いて来れなかったらしい。
 ……あ。銀髪紅瞳の美少女が、若干上目遣いでお願いしてくる動作って……良ぃ!!

「この世界は、遥か昔に【人間によって】創られたんだよ。分かり難いなら、良くある神話の【神】の部分を【人間】に置き換えれば良い」

 それだけのことが出来る程、原初の人間はスペックが高かった。まさに【次元が違う】というレベルで。
 だから同時に危惧もした。同じ力を持った人間が増え続けるのは危険だと。
 よって次の世代には、力を十パーセント以下にしか伝えないようにした。

 そうすれば世代を経る毎に強大な【力】は劣化し、それを補うように皆で協力して生活するようになる。
 これが原初のヒトの思惑。
 そして後世の人間は自分と原初のヒトとの絶対的な力を前に、自分たちを【人間】。原初の人間を【神】と区別したのだ。

「ボク自身【神】だなんて名乗るつもりもないし、自分のことをそう思ったこともない。けど……」

 やっぱり強大な力を持ってしまったヒトの中には、絶対に暴走する者も出てくる。
 これはここまで強い力でなくても、一般社会でも見られる光景だ。

「地球風に言うのなら、【オーディーン】とも言うべき存在の暴走と言うか……」

 強靭な精神力がない企業のトップというのは、得てして暴走しやすい。
 それだけ【権力】や【金】という物には魔力が込められていて、同時に憑かれやすい。
 また最初は意欲に燃え、素晴らしい考えの持ち主でも、堕ちる時はあっと言う間。それが【魔力】を秘めたもの。

「ようは社長の暴走は、他の取締役が団結して止める――ってことさ」
「……そう言われると、もの凄く分かりやすいというか、大した問題に聞こえないというか……」
「うん。しかし大した問題なんだよ、現実にはね?」

 翠提督――リンディ嬢の発言に、前半は同意して後半は否定する。
 これが会社の問題だったら、確かに社会に与える影響はその周囲くらいだ。
 しかし仮にも【神】とか呼ばれたりもする者の暴走が、そう簡単に片付く訳が無い。

「……アレ?カリムは……驚いたりしないんだねぇ?」
「…………いえ。これでも十分驚いては居るのですが……」

 どうにも歯切れが悪い。
 もう少し驚くような演出を凝らすべきだっただろうか?
 いやでも、そんなことをすればプレシアがキレてたかも……。

「あの、もしかしてシズカさんは……念じると右手の甲に、紋章か何かが浮かび上がったりは……しませんよね?」

 出来れば違っていて欲しい。
 そんなニュアンスが、ひしひしと伝わってくる。
 だけど騎士カリム様に嘘は付けましぇん。……というか、付いたら後が面倒すぎる。

「あー、もしかして…………こいつのコトかい?」

 軽く右手を胸の前に持っていき、拳に力を籠める。
 すると浮かび上がってくるのは、トランプのジョーカーのような絵に、【BLACK JOKER】の文字。
 かつて四人の同士と共に魂に刻んだ、五つの紋章。

 トランプのジャック・クイーン・キング。
 そしてエースとジョーカーを核としてデザインされた、それらの紋章。
 五人でこの世界を創り、そして護っていこうと誓って作った、【同盟】の証。

「あぁ……。出来れば違っていて欲しかったのに……!!」

 騎士カリムの憂鬱。
 ……なんてレベルの話ではないらしい。
 全身で苦悩を表現する年頃の娘さん。人生の先達としては、その【ムンクの叫び】っぽいのは止めた方が良いと思うが。

「懐かしいなぁ……。この紋章を受け継いだのは、もう随分前のことのように感じる……」
「全くだね。あの頃はまだ、我々も【この姿】ではなかったしねぇ……?」
「……エ?」

 緑色のブロンズ闘士と黒髪の剣士が、そう言った後にそれぞれの右手に紋章を顕現させる。
 クラブとエースをモチーフにした【クラブ・エース】と、ダイヤとジャックが盛り込まれた【ジャック・イン・ダイヤ】。
 その輝きは、紛れもなく本物。つまり目の前の二人は、遠い昔――ボクと同盟を結んだ二人ということに……!

「マテマテマテェェェェ!?そんなハズはない!!だってキミたちは――【あの二人】じゃないじゃないか!?」

 ボクと【同盟】を結んだ【エース】と【ジャック】は、この二人ではなかった。
 転生する度に、【次の】自分に受け継がれる紋章。
 だから外見は違っても、中身は――魂は同じ筈である。

 しかし闘士と剣士の魂は、かつてのソレとは別物。
 分割や再統一では説明の付かない、まるで別人の魂。
 ……というより、完璧に【別人】の魂である。

「ジョーカー、君とクイーンは【器】は違っても【本人】だ。しかし我々は違う」
「キング・ジャック・エースはそれぞれ、【次の世代】に継承するスタイルにしたんだよ?」
「【子ども】や【弟子】などの、形態は様々だが自分の【意思】を継ぐ者に――【継承者】にその紋章と【誓い】を託したのだよ?」
「……そういうことだったのか」

 漸く腑に落ちた。
 目の前の彼らは、ボクの知るジャックやエースではない。
 しかし【誓い】は、彼らの胸の中に生き続けている。

「ヒトという存在は世代を経る毎にその力を増し、可能性を広げていく。子が親を超えるように……ってか?」
「その通り。まさにそう考えた初代のキングは、ジャックとエースに提案し、それが今日にまで至る――ということだ」

 成る程。
 確かに代を経る毎に原初の力は薄れていくが、それ以外の力やファクターは強くなっていく。
 オリジナルの強大さを残すか、進化の先にあるものに賭けるか。ボクとクイーンは前者で、それ以外の三者は後者を取った。ただそれだけのこと。

「……あれ?じゃあ【当代】のエースとジャックは、何でクイーンに従ってるんだい?」

 【誓い】には、暴走した同志を止める意味合いも含まれている。
 しかし二人は止める側ではなく、暴走側に加担していた。
 これは一体、どういうことなのだろうか?

「……情けない話だがね。我々では暴走を止められなかったのだよ。だったら相手の下に付いた【フリ】をして、被害を小さく留めた方が良い」
「そうして人類の中に、【クイーン】を倒せる可能性を秘めた原石が出現するのを待っていた、という訳さ」

 肩をすくめるアムロ・アルマーク。
 確かにそれが最善だったのかもしれない。
 こうして【管理された】世界は完成し、現在まで続いてきたということか。

「あの……執務官長はその間、どうしていたんですか……?」

 む。クライド少年の、容赦ない突っ込みが。
 確かにそういう疑問が湧くのは無理もない。
 ……仕方ない。疾しいことが有る訳でもないので、ちゃんと説明するか。

「ボクはね……。クイーンが暴走した時に隣の部屋で寝てて――そのぉ」

 直ぐに起きたんだけど、起きた瞬間に二つに分けられてしまいましたとさ。
 情けなさ過ぎる。
 だから言いたくなかったんだよぉ……。

「それは、その……」
「あぁ、痛い!?その遠慮に満ちた瞳が痛い!!」

 自分の弟子とも言える存在からの気遣いが痛い。
 そしてそれと同じ視線は、他の方角からも感じる。
 気まずい。何とかして、話題を逸らさないと……!

「そう言えばキングは!?もしかして評議会最後の一人が、今代のキングなんじゃ!?」
「……その通り。しかし【彼】は今――というか随分前から、行方不明なんだよ」
「行方、不明……?」

 苦し紛れの質問は、意外にも正鵠を射ていたようで。
 しかし引き出された応えは意外の一言。
 
「あぁ。彼は聖王教会の教皇も兼ねていてね?ココを空けることは多いのだが……」

 ピクッ!
 その音は、金髪の騎士の肩から聞こえたものだった。
 明らかに動揺の色を示す、騎士カリム。

「管理外第……あぁ、君たちには【地球】の方が分かりやすいかな?そこに現地調査に行ったきり、帰って来ないんだよ?」

 また地球か。
 どうにもあそこは、様々な要因を引き付ける場所らしい。
 ジュエルシードしかり、闇の書なんかね?

「教皇か……そう言えばカリム?キミなら教皇に会ったこと、有りそうだよね?」
「!?きょ、教皇様、ですか……!?た、確かに有りますが……!」

 騎士カリムが体育座りで両肩を抱いて、ガクブル状態になってます。
 これ何てトラウマ?
 明らかにその教皇、カリムに何かしたよね?

「ちょっとカリム!?落ち着きなって!!どうしたの、何があったの!?」
「教皇様……教皇様……教皇さま……きょうこうさま……!?」

 トランス。
 どう見ても錯乱様です。
 いつもクールで、ほんわか姉さんのカリムをここまで追い込む教皇……一体何者だ?



「――――知りたいですかな?」
「「「「「「!!」」」」」」

 響く。
 殆ど遮蔽物のないこの空間に、渋いオヤジの声が響く。
 気配はない。いや……酷く薄い。

 そして視線は感じ……るのだが、これまた非常に分かり難い。
 覇王少女のスペックを以ってしてもこれだ。
 常人である皆には、全く分からない位だろう。

「……ソコォォォォ!!」

 酷く薄い気配を辿って、その先にある対象にシズカの剣を投げる。
 すると、今まで何も無かったように見えた空間に、一人の初老の紳士が現れた。
 白いタキシードに黒のシルクハットとマント。

 ボクは知っている。
 直接出会ったのは【ボク】ではない【あらし】だが、あの存在をボクは――知っている。

「……ドクトル。キミがココに居るということは……」
「その通りです。この姿は、諸国を巡る際のカモフラージュ。しかしその正体は……!!」

 バッ!!
 そんな音でも聞こえてきそうな、ドクトルのマントを翻す音。
 どうでも良いけど、爺の脱衣シーンなんて残念過ぎる。

「私の――――儂の正体は!!」

 マントが床に落ちる。
 老紳士は既に、白いタキシードを纏ってはいなかった。
 老人だというのに、非常に逞しい身体。

 そしてその身体を包むのは、暗色のロングコート。
 ただし、裸身に超ミニサイズのビキニを纏った上にだが。
 そして素晴らしい口髭に、髪型はサリーち○んのパパのような悪魔ヘアー。

 しかし後ろ髪は弁髪にしており、何やら拘りが見られる。
 もう一度、今まで言った特徴を頭の中で思い浮かべて欲しい。
 ……うん。ただの変態だ。

「儂の名前は、【東方腐敗マスター大佐】!!先代のキング・オブ・ハートよ!!」

 右手の紋章が痛い。
 永いこと生きてきたけど、始めてこの紋章を抉り出したいと思った。
 【アレ】と同類は嫌過ぎる。しかし――セーラー服な覇王少女も、多分同類に見られるだろう。それが何よりも嫌だった。

「ゆくぞ、カリムゥゥゥゥ!!」
「ヒィィィィ!!」

 そうか。
 カリムは【コレ】が嫌だったのか。
 確かにこんな教皇は嫌だ。

 ……でも待てよ?教皇は先代じゃなくて、今代の筈だったよねぇ?
 この数年の間に、代替わりしたのか?だとしたら誰が今のキングなんだ?
 …………止めよう。自分をも騙せない嘘は、却って虚しいだけだ。

「流派ぁぁ!!東方腐敗はぁぁぁぁ!!」
「……王者の枷よ!!」
「全身痙攣!」
「切羽詰まった!」
「見よ東方は……!!」
「紅く【萌え】ている!!」

 激しく殴りあいながら、何やら挨拶らしきものを交わす教皇と騎士。
 キミの知ってるカリム・グラシアは死んだ。彼女の生きた証、受け取って欲しい――とか言って、ラーメンスープのレシピをプリーズ。
 じゃないと、現実が受け入れられない!

「……シズカさん、その……」

 あぁ。
 しかし現実は何て無常なんだ。
 申し訳なさそうなのと、恥ずかしさをブレンドしたかのような、騎士カリムの表情。

「私が……私が今代の、【キング・オブ・ハート】なんです……!」

 結論。
 神は死んだ。
 ……というか、ボクたちが神様代わりをしている時点で、最初から存在はしないのだが。













 あとがき

 >誤字訂正


 俊さん。毎度ご指摘頂き、本当にありがとうございます!!







[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 50【歯車戦士、愛の決闘】
Name: satuki◆b147bc52 ID:9ffdbde4
Date: 2009/10/16 18:38



 前回のあらすじ:東方は紅く【萌え】ている。



 破壊神の決戦が行われた、廃高速道路付近。
 そこに近い高架下では、もう一つの闘いがあった。
 姉妹対決とは異なった意味での、望まれない闘い。

「……やっぱ強ぇなぁ、クイントはよぉ……?」
「……」

 答えは返ってこない。
 鉄仮面は沈黙を保ったまま。
 血を分けた者同士ではないが、ある意味それよりも濃い関係。

 生涯を共にし、死が二人を分かつまでという契約を交わした――夫婦という関係。
 元々他人同士が手を取って新たな関係を構築しただけに、その絆は【ある意味】兄弟姉妹よりも固いかもしれない。
 しかしその強固な絆は今、二人の間にある壁によって阻まれてしまっている。

「(……どうする?普通にやってちゃ敵わないのは、今までのやり取りで理解出来たが……)」

 元々自力に差があるのだ。
 魔法が使えず。ウイングロードを使用出来ない。
 故に力の差は歴然。

 ……分かっている。
 そんなこと、勝負の前から分かりきっていた。
 だから現実として認識しただけ。

 ただそれだけだ。
 それだけ――のハズ。
 だが……。

「(コレでも結構鍛えたハズなんだけどよぉ……。やっぱ現実ってヤツはキッツイなぁ……?)」

 本人は【結構】と表現しているが、現実はそんなものではなかった。
 部隊長としての業務時間以外は、その殆どを鍛錬に当ててきた。
 クイントが奪われてからの月日は長い。

 だから総じて鍛錬量は恐ろしい程であるし、その密度も凄まじいもの。
 しかし人間である以上――彼が成長期をとうに過ぎた人間である以上、残念なことに【老化】という現象は誰にでも近付いてくる。
 そこには(殆ど)例外はない。

 緑色の提督や、某喫茶店のパティシエなんて、例外中の例外である。
 あれは比較基準にしてはならない。
 何せアレらは、【人外】生命体なのであるから。



 閑話終了。



 だが目の前のクイントはどうであろうか?
 どう見ても昔と変わらぬ――全く衰えを見せない身体つきである。
 想像の域を出ないが、多分スカリエッティがそういった処理を施したのだろう。

 だから彼女は在りし日のクイント・ナカジマのままである。
 よって衰えのあるゲンヤとの差は開く一方。
 彼女は変わらない。本当に変わらない。変わったのは――変わってしまったのは夫の方。

「(だからってよぉ……だからってよぉぉぉぉ!)」

 そこで諦めることは簡単だ。
 自分の限界はココまでとし、あとは誰かに任せる。
 それが普通。それが賢い選択。

 でも。
 だからといって。
 全ての人類が賢い訳ではない。

 この【ゲンヤ・ナカジマ】という人物もその例に漏れず。
 決して賢いと言われる生き方をせず。というよりも、彼には出来なかったのだ。
 賢くなくて良い。この手で、愛する妻を救う事を諦めるのが賢いことなら、自分は喜んで馬鹿になる。

「(オレはぁ……最強の大馬鹿野郎だ!!)」

 右腕は空を切り。左足は軽くいなされ。
 左腕のエルボーは相手のタービンに阻まれ。
 そして渾身の力を籠めた右脚は、正面からの打ち合いの末、コチラが力負けした。

 普通に考えたら、もうコチラに打てる手はない。
 だがまだギブアップする訳にはいかない。
 少し離れた所では、下の娘が上の娘を必死に取り戻そうと頑張っている。

 だったらまだ自分は、降参する訳にはいかないのだ。
 子どもはいつか、親を超えていくものだ。
 それは分かっている。それは避けられない運命だとも理解出来ている。
 
 でもそれは今じゃない。
 まだ自分は、娘に負けてやれない。
 娘が自分を追い抜こうと迫ってくるのなら、自分は大きな壁となって、正面からそれを粉砕する。

 それは人生の先達として。
 まだまだ若い世代には、負けられない。
 負けてやれないんだと、己に言い聞かせて。

「出ろ、【ライオサークル】!!【ガトリングヴォア】!!」

 データコマンドーのダイヤルを回し、データ武装から白き獅子と翠の猪を呼び出す。
 それに呼応するように二体の電子の獣は現界し、ゲンヤの左右で待機状態に入る。
 本当はもう二体召喚出来るのだが、クイントの武装は二体のみだと思われる。

 数で勝負が決まるとは思わない。
 だがそうならないとも限らない。
 だからゲンヤは、自分の意思で二体までしか召喚しなかった。

 それは相手と対等な条件で闘う為。
 妻と同じ条件――同一のフィールドで闘わなければ意味がないから。
 それは矜持の問題を越えたトコロに有るモノだった。

「……」

 一方クイントの方はと言うと、ゲンヤの動きに合わせるように【ユニコーンドリィル】と【ヴァイヴァーウィップ】を召喚する。
 そしてそれらをゲンヤの二体の仲間に襲い掛からせると、自分はゲンヤとの距離を詰め始める。

「「……」」

 距離にすれば大体十メートル。
 普通に考えれば中距離に該当しそうな距離だが、ローラーを履いた二人には一瞬の距離。
 だから接近戦。これは二人にとっては、接近戦以外の何物でもないのだ。

 ギィン!ドドドド……!
 そんな戦闘音が聞こえる中、二人の動きは驚くほどなかった。
 まるでオブジェの如く。地面に根っこが生えてしまったかのように、その場を動くことはなかった。

「(……動けねぇ)」

 【ラストアタック】は、未だに一発しか撃つことが出来ない。
 だから相手もコチラも、迂闊にそれを出すことは出来ないのだ。
 だからこその相手との動きの読み合い。

 その場を動かなくても、僅かに動く肩や視線などで相手にフェイントを入れ、どうにかして相手を先に動かそうとする。
 フェイントVSフェイント。
 まるで冷戦下の某巨大国家たちのように、そこでは水面下の戦いが勃発していた。

「(考えろ。考えるんだ……!優先すべきことは何だ?自分の矜持か?目標を完遂することか?それとも……?)」

 自分が夢見たのは、かつての一家の光景。
 別に金持ちになりたい訳でも、特別な存在になりたい訳でもない。
 ただ家族が当たり前に生活している風景を、もう一度見たいだけ。

 あぁ、それだけだ。
 それだけなんだ。
 そしてそれを見られると言うなら、家長は――自分は全力を賭してそれを実現しなければならない。

「(条件を対等にした闘いなんて、クイントが帰ってくれば何時だって出来る――)」

 男という生物は不器用なくせに、やたらとプライドが高かったりする。
 だから出来もしないことに延々と時間を使い、そして無駄(実際にはそうではないかもしれないが)とも言える努力を続けていく。
 別に本人の人生だ。他人がとやかく言う必要はないし、言う権利もない。

「(……ったく!どうしてオレは、もっとはやくに気が付かなかったんだ……!!)」

 気付けば一瞬。
 しかし気付かなければ一生。
 人生に於ける価値観の変化など、そんなものだ。

 別に目的の為なら、何をやっても良いと言う訳ではない。
 しかし目的が手段になってはいけないのと同等に、手段が目的と化してもいけないのだ。
 ゲンヤは長きに渡る闘いのせいで、後者よりの考え方にシフトしてしまった。

 それは本人も気が付かないうちに。
 意地と根性が絡み合った結果、何時の間にかそうなってしまったのだ。

「(……フッ)」

 頭の中が、流麗な河川へと変わる。
 今まで地盤沈下をも起こしていた大地に――渇ききっていた地面に水分が注入され、元の肥沃な土地へと戻っていく。
 不思議な感覚だ。身体の至る所から湯気のようなモノが噴出し、火照りを抑えることが出来ない。



 ――プシュゥゥゥゥ!



 蒸気のように立ち上る【何か】。
 ゲンヤ本人には分からなかったが、それは相対していたクイントには理解出来た。
 まず変化は口元からだった。

 如何に鍛えていても、歳には勝てない。
 だからゲンヤ・ナカジマの顔やその他の部分の表面――肌には、既に消えることのない皺があった。
 それは決定事項。覆すことの出来ない、【現実】の証。

「……!」

 しかしどうだろう。
 クイント仮面の無言ながらの驚愕は、どう見てもそれらの現実が引っくり返されているのを、目の当たりにしているとしか思えない。
 勿論見間違いなどではない。ゲンヤの肌の皺は、【現実】になくなっているのだ。
 
 変化は続く。
 次の変化は、体型の変化。
 経年による若干の猫背は改善され、中年男性として避けては通れない腹回りの肉も、スッキリと落ちていく。

「オレは――何としてもお前を取り戻す……」

 同じだ。
 その昔、圧倒的な力の差が有りながらも、目の前の人物と交際したくて――クイントが欲しくて挑んだ、あの時と同じ。
 強くはなった。だが力の差は縮まっていない。

 コチラが成長すれば、向こうも成長する。
 そしてあちらさんには上限がないと来た。
 詐欺だろう。新手の次元犯罪の一種かもしれない。

 だが一つだけ変わったことがある。
 それはあの時とは、己の背景が違うということ。
 自分には娘が居る。そしてそれらの存在の為にも、母親は絶対取り戻さなければならない。

 重圧ではない。
 それは力だ。
 自分だけでは無理だが、娘の分の力が自分に力を貸してくれる。

 十に挑むのに自分は四。
 だが娘の存在は、四でしかない自分を手助けし、十にも百にもしてくれる。
 ……余談だが、妻の助けなら千は固いだろう。

「【ドラゴンフレイア】、【ブルフォーン】!!お前たちは、クイントの動きを一定範囲内に留めさせろ!!」

 それ即ち【牽制】。
 二体にはクイントを倒させる訳ではなく、その活動範囲を狭めるように指示するゲンヤ。
 データ武装ではクイントを倒すことは出来ない。それは向こうも同じ武装を持つ者なのだから、有る意味当然のこと。
 
「……【ユニコーンドリィル】」

 この状況下で二体しかない武装の内、一体を戻したクイント。
 そうなれば数の上では五対ニだ。
 その差は開く一方。

 だが代わりに強力無比な攻撃手段――それこそ一撃必殺砲のようなモノを手に入れた鉄仮面。
 量を捨てて、質を取ったクイント。
 しかしその質は、取るだけの価値があるもの。

 そして質を選んだクイントに対抗するには、ゲンヤもまた同じ手段を取らざるを得なかった。
 この【質】は、簡単に【量】など引っくり返してしまう程の代物。
 故に対抗手段は、同じ【質】を用意する他有り得ない。

「(さぁて……一体どいつを使うべきだろうなぁ……?)」

 新規加入の武装も居る。
 相手は御新規さんを使う模様。
 だから自分も……というのは早計過ぎる。

 別に新規加入の武装に不満が有る訳ではない。
 勿論火力不足ということもない。
 ならば何故使おうとしないのか?

 違う。
 事は新旧を問わず、如何に自分の目的に合ったヤツを選ぶのか。この一点に尽きる。
 白き獅子は丸鋸。翠の猪は胸部武装。そして橙の水牛はその角が強力な突撃槍に為りかねない。

 ならば。
 紅い西洋竜はどうだ?
 彼の者はラストアタック時に脚に装着され、その体躯は丸くなる。

 想定する。
 ラストアタックを放った――その後のことを。
 ……行ける。というか、手持ちの駒で適任なのは、コイツ以外には存在しない。

「ドラゴンフレイア、戻れぇぇ!!」

 竜を呼び戻し、左脚部に武装として顕現させ直す。
 黒いタービンに紅い武装が加わり、それは嘗ての結婚式を――カリムの前で誓った【セットアップ】を思い起こさせる。
 【紅】のタービンと【黒】のタービンが重なった【あの時】。それは今、あの時とは立場を入れ替えて行われている。

「ドラゴンフレイア……」
「……ユニコーンドリィル……」

 両腕・両脚のタービンが、ラストアタックに備えて回転し始める。
 まるで最大限発電量を上げようとしてる発電機のように。
 その回転数はどんどん上がっていき、巻き込まれる風や熱量も半端でなくなっていた。

《……》

 そして渦中の二人を囲むように、残りの四体のデータ武装が顕現している。
 まるで二人の決着を見守るように。
 それで居て、二人の決着を誰にも邪魔させないように。

「「……」」

 四体に囲まれた【闘技場】は、ウイングロードを展開出来る程の高さも無ければ、幅も無かった。
 故に逃走は許されず。クイントは自分の意思でそれを行ったように見える。
 つまり彼女は、ゲンヤを正面から叩き潰すつもりだ。



 ――ギュィィィィィィィィン!!



 タービンは回転し続ける。
 己の主が良いと言うまで。
 主は良いと言わない。だからその時は、まだ先なのだと理解しながら。

「ラストォォォォ……!」
「……アタック!!」

 大量のエネルギーを秘めた熱線。
 同じく膨大なエネルギーが籠もった渦。
 それらはぶつかり合いながらも、尚止まることない。



 ―――!!

 ――――――――!!



 元々上限スペックは、ほぼ同等に設定されたモノ同士。
 故に勝敗を分けるのはデータ武装の強さではない。
 その主たる闘士の力量。つまり二人の力の強さが、そのまま現れるのだ。

「ッグ!ッグ……ッグ……ッグ……!!」
「……、……、……!……!!」

 一進一退。
 だがその一進一退は、徐々に。だが確実にゲンヤよりの場所に移ってきた。
 つまりゲンヤの方が押されているのだ。

 S・Aの力量がそのままの形で吐き出されるのなら、どう考えてもゲンヤが不利なのは予想出来た。
 しかしそれでも挑んだのだ。
 ゲンヤには何か考えがあるのだろう。

「……の、ヤロウがぁぁぁぁ!!」
「……!!」

 徐々に。だがハッキリとゲンヤの攻撃は押されていく。
 もう彼の眼前に迫っているクイントのラスト・アタック。
 後ろには逃げられない。それは横も上も同じ。

「(なら……下に行くしか、ないだろうに!!)」

 旋風が迫り、それをあわやという瞬間に回避。
 いや。回避と言うよりは、全身の力を抜いて、脱力したと言った方が良いかもしれない。
 そうすることによって、自分の意思でしゃがむよりも速く、彼は――ゲンヤ・ナカジマは【下】に行った。

「……!?」

 予想外の行動。
 それはそうだ。
 こんな動き、シューティング・アーツには存在しない。

 強いてこの動きの元を辿るのなら、古武術――【柔術】に近い。
 S・Aで敵わないなら、それ以外も取り入れる。
 ましてやナカジマ家は、昔地球に――日本に居た一族だ。柔術との親和性は高い。

「コレでぇぇ……!」

 クイントの反応は付いてこない。
 予想外の動きに、ラスト・アタック後の硬直を狙われたからだ。
 動け。動け。そう脳は指令を送るが、残念なことにそれが実行されることはなかった。

「その【けったいな】仮面は――――コレで、終わりだぁぁぁぁぁぁ!!」

 銀色の仮面に、紅いデータ武装が叩きつけられる。
 そう。ゲンヤがドラゴンフレイアを選んだのは、まさにこの瞬間の為だった。
 鋸では必要以上に傷付けてしまうし、胸からダイブすることは出来ない。

 さらに二又の槍と化した水牛では、仮面ごとクイントを破壊してしまう危険があった。
 その点ドラゴンフレイアなら、仮面全体に一気に体重を掛けられ、同時に必要以上に力が籠もることはない。
 目論見通り。まさにゲンヤの考え通りに事は進み、そして今――それが終わった。



 ――ピシッ!ピシィィッ!!



「クイントォォォォ!!」



 ――バリィィィィン!!



「……なた……あなたぁぁぁぁ!!」
「クイントォ、クイントォォォォ!!」

 仮面が割れる。
 そしてその中から出てきたのは、当然の如く無傷のクイント。
 覚醒。そして愛する人との抱擁。これ以外に、再会を祝う方法はないだろう。

「「……!?」」

 彼らの戦闘によってこの区画は地盤沈下を起こしていた。
 そして今、最後の一撃によって真上にある廃高速は倒壊。
 よって彼らは、上下左右が塞がれた状態となってしまった。

 だが関係ない。
 この二人の――【今の】この二人の行く手を阻むことなど、誰にも出来るハズが無い。

「行くぞ、クイント……?」
「えぇ。結婚式の再現ね?」

 二人はそう言い合うと、それぞれのデータ・コマンドーを取り出し、そして同時に叫ぶ。

「「【KIVAドライブ】、インストール!!」」

 ゲンヤのコマンドーからはライオサークルが。
 そしてクイントの方からはユニコーンドリィルが飛び出し、空中でその姿が重なり合う。
 二体のデータ武装が合わさり、そこに刃の翼を持った、新たな一角獣が誕生する。

 【KIVA】。
 それが新たなデータ武装であり、同時に二人が力を合わせた時のみ現れるモノでもある。
 本来はクイントが装着し、そして放つラストアタック。

 しかし今回は別だ。二つある装着口を一つずつ分け、そして空いた掌を重なり合わせる。
 変形が完了したデータ武装は、まるで巨大な剣だ。
 全てのエネルギーが解放され、二人と一体の武装は黄金色に光り輝く。
 
「「【KIVAブレイカー】…………」」

 まるでケーキの入刀のように。
 かつて行った、結婚式でのそれにように。
 二人の再会は、二人の門出を再現する光景から――――今、スタートする。

「「ラスト、アタァァァァック!!」」

 黄金色の剣閃が見えた後。
 そこには二体の巨大ロボットが待っていた。
 父が母を取り戻してくると信じた娘たち。

 その娘たちが、二人の帰還を祝福しに来たのだ。
 それを夫婦が理解した時。二人の頬を、一滴の水分が塗らしていた。
 涙。それも【嬉し涙】である。

 ゲンヤ・ナカジマは今日。
 人生で一・二を争う場面を、漸く乗り越えられたのだった。





















 舞台は再び最高評議会――あぁ、もう言い難い!
 この際【脳みそ部屋】にしよう。
 その方が分かりやすいしね?

「……という訳で、再び脳みそ部屋からですたい」
「誰に言ってるんですか、執務官長?」
「気にしない。気にしない♪」

 若干暴走というか、現実逃避モードに入っているボク。
 流石の覇王少女と言えども、唯一かそれに類する【癒し系】が、肉体言語で会話する女性だったことには……驚きを隠せない。
 逆に驚かずに済む人類に、心当たりなどない。

「ま、取りあえず話を戻そうか?」

 色々とあって忘れがちだが、この部屋に来たのには目的があった。
 次元世界の暗部である、最高評議会を滅すること。
 しかし蓋を開けてみれば、その面子は滅すべき相手では無さそうな感じ。

「確認するよ?もしクイーンが倒れたら、キミたちはどうするんだい?」
「恥ずかしながら、まだ決めていないんだよ?教皇をやっているマスターは良いが、私とアムロは職無しでね?暫くモラトリアムを楽しんでから、就職活動でもするんじゃないかな?」
「その通り。実は声優になってみようかとも思ってるんだけど……」

 キャスバルとアムロが声優に……。
 何という未来の見えっぷり!
 新しいタイプの人類じゃなくても、未来が見えるぞ!?

「つまり、最高評議会なる組織は解散すると。そういうコトで良いのかな……?」
「あぁ。そう取ってもらって構わない」

 これでハッキリした。
 元々ボクは理解していたが、それでも皆を納得させるには足りなかった。
 ジャックとエースが嘘を付いていないなら、これで終了。もし嘘を付いていたとしても……まぁ、何とかなるか?

「じゃあココには、もう用はないね?倒すべき相手が居ない以上、早急に次の目的地に移動するべきだ」

 次の目的地――それは最終目的地のこと。
 歴史を裏から操る【クイーン】の排除。
 故にクイーンの居るべき場所こそが、これから行くべき場所となる。

「待ちたまえ。今の君たちには、クイーンを倒すことは出来ない」
「……どういうことだい?」
「私たちの手の中にあるからね?クイーンを倒すのに必要な、最後のカードはね……?」

 黒の剣士は止める。そしてその手札を晒す。
 女王を倒すのに必要な手札を。
 最後の切り札とも言える、そのカードを。

 ヴィィィィン。
 剣士が床を――床に有るスイッチを踏むと、彼らの背後の壁が取り払われた。
 真っ暗な空間。そして新たなカードの披露となれば、次の展開は簡単に予想出来る。



 ――カッ!



 眩しい位のライトアップ。
 どうにもこのキャスバルという男、何度姿を変えようとも、この演出が気に入っているらしい。
 まぁそれは、どこぞの歌姫も同じかもしれないが。

「これは……」

 蒼い体躯。
 紅い頭部。
 そして黄色の角に、灰色の四肢。

「似ているだろう?他のダイノーロボに。やはり同じコンセプトの下に作ったから、似ているのはある意味当然何だがね?」
「……良い仕事だよ。素晴らしいの一言だねぇ……♪」
「名前は【グランダイノー】。君の作ったゴウダイノーやマグナダイノーと同じく、恐竜形態・人型に変形し、更には単独で戦闘機形態になれる優れものだよ」

 グッジョブ過ぎるぞ、この似非紳士め!!
 しかし名前に【南雲】が入ってることから鑑みるに……コイツは大したモンスターだ!!

「このマシンには、私とアムロが持てる知識を全て注ぎ込んだ。そしてそのナビシステムには、バイオコンピュータを搭載している」

 キター!
 どう聞いても、【私の愛馬は凶暴です】フラグが立ったー!?
 一体何処のどいつだ、不幸にも――じゃなかった。幸運にもこのマシンのパイロットになる人間は!?

「しかし、乗りこなせるはずだよ?レジアス・ゲイズと同等の力を持つ者なら――【クライド・ハラオウン】、君にならね……?」
「……僕、ですか……?」

 素晴らし過ぎる。
 マシンスペックやコンセプトと言い、パイロットの人選にすらボクと似た匂いを感じる。
 流石は企みごとが得意な御方。その恐るべき手腕が発揮され過ぎである。

「何と!貴様らはそんなプレゼントを用意していたのか!?ぬぅぅ!ならば儂も、カリムに最終奥義を伝授しようぞ!!」
「いやぁぁぁぁ!?またあの悪夢が!?もう私は、ただの細腕騎士で一生を過ごしたかったのに……!!」

 砕かれた幻想は、さらに分割されるようです。具体的には十七分割くらいに。
 本気を出した東方腐敗が、どれだけカリムを【人外魔境】にしてしまうのか……。
 考えただけで涙が止まらない。

「ねぇアムロさんや?」
「……何だい、覇王少女?」
「結局クイーンって、揺り籠に居るってことでFA?」

 ココに居ないのなら、もう選択肢はそれ位しかない。
 でもそうすると、ヴィヴィオやなのはが危ないのか?

「その通り。しかし君の心配は杞憂だろうね?クイーンは全ての事が終了してから、その姿を現すつもりだ」
「……相変わらず【イイ】性格してるみたいだねぇ、クイーンは……?」
「全くだ。希望の後に絶望を持ってきたがる性格。実に悪役向きだよ、本当……」

 つまり大ボスは最後になって、やっと登場する。
 その法則を地で行く奴なのだ。
 クイーンという存在は。

「さて、では簡単にこのマシンについて説明しようか?」
「お、お願いします!」

 グランダイノー組と。

「往くぞ、この馬鹿弟子がぁぁ!!」
「ま、待ってください!?師匠ぉぉ!?」

 流派東方腐敗コンビ。
 ボクを含むその他勢は、その様子を何とも言えない表情で見守るのみ。
 ……どれ。今のうちに、ゴウダイノーとマグナダイノー用の新プログラムを組んでおくとするか……?













 あとがき

 >誤字訂正


 俊さん。毎度ご指摘頂き、本当にありがとうございます!



 >クラブ・オン・エース


 前回のお話を書く前は、satukiも【クラブ・オン・エース】だと思っていたのですが、調べたところ……

 【クラブ・エース】=シャッフル同盟(元ネタ、Gガンダム)

 【クラブ・オン・エース】=シャッフル騎士団(新SDガンダム外伝)

 のようです。なのでSS本文の記述は、そのままで行かせて頂きますです。







[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 51【人生は闘いだ!!】
Name: satuki◆b147bc52 ID:b75e703a
Date: 2009/10/17 21:59



 前回のあらすじ:みんなの期待は、【キング】の降臨。



 ミッドチルダの憂鬱。
 ……というタイトルを付けても良い位、今日のミッドチルダは頑張っていた。
 具体的に言うのなら、大地が抉れ、空が爆ぜ、そして地中が爆発すると言った状態。

 これでは流石に、『もう止めて!ミッドのHPはゼロよ!?』となってもおかしくはない。
 というか、そうならない方がおかしいだろう。
 これで全く無傷な惑星があるのなら、それは既にテラフォーミング済みか、稀代のマッドによる改造済みなのであろう。

 その超常現象が当たり前に起きている今日のミッドの中で、現在【空】は比較的まともに運行中である。
 別に破壊神が舞ってもいないし、巨大な竜が火炎放射をしていることもない。
 それは先程までのこと。

 だから今は静かなものだ。
 ……ただ一つ。
 【超】巨大な刀が存在すること以外は。

「……クッ!強い……ユニゾンをしても、コレほどの差があるというのか……?」

 リインinシグナム。
 そんな奇跡の融合戦士は、残念ながらこれまでの出番の少なさを覆すような活躍は出来ていなかった。
 それもその筈。何たって相手は、【超】巨大刀を持つ漢――【ウォータン・ユミリィ】なのだから。

 ちなみに仮面の騎士は、炎の融合器とのユニゾンすらしていない。
 つまり実質二対一の状態で、歯が立たない守護騎士二人。
 良く【言葉で通じないのなら、剣で語れ】と再三言ってきたシグナムだったが、それはあくまで【これまで】のこと。

 自身が有利な立場にあり、そして実力も勝り、そして――自分に驕っていた時の話。
 騎士シグナムという【プログラム】は、自他共に認める、古代ベルカの【騎士】であった。
 そして永い年月を経るに従って、その【考え】は【常識】へと昇華されてしまった。

 故に我不敗。
 我最強。
 我こそは――騎士の中の騎士也。

 頂点を極めたと思い込んだ人間は、自分ではその後も研鑽し続けているつもりでも、やはり心の何処かでハングリー精神が薄れていくもの。
 だから彼女は、【古】の騎士であり、【現代】の騎士には成れなかった。
 そして先達の方が後発の者より強いなんて、一体誰が決めたのだろうか?

「……脆いな」
「……何?」

 騎士仮面は放つ、真実という名の槍を。
 そして古の騎士は理解出来ない、何故自分が脆いのかを。

「優れた融合器を用いながらも、これ程にしかならないとは……。余程微温湯で過ごした月日が長いと見える……」
「何だとっ!?」

 激昂。
 そして頭に血が上る。
 かつてなら――はやてと出会った頃なら、それはヴィータの役回りだった。

 しかし今は御覧の通り。
 普段は冷静沈着な将。
 だが一皮向けば、そこには冷静とは言えない存在の影。

 それだけ彼女が感情豊かになったとも言い換えられる。
 そしてそれは、普段の生活ならば良い方向の進化である。
 そう。【普段の生活】ならば、である。

「……如何に古の騎士と言えど、一旦錆び付いた剣は簡単には治らない」
「私が――錆びた剣と同じだと言うのか!!」

 錆びた剣は、自身が錆びたという自覚があるのだろうか?
 恐らくそんなモノはない。
 だから当人が気付かないのは、当然のこと。

「騎士ならば、言いたいことは剣で語れ――」
「……っ!?」
「大体貴様のような剣士は、皆口を揃えてそう言う」

 その結果が、現在の状況である。
 シグナム自身の騎士観に照らし合わせるのなら、彼女の今の行動は、それを破ることになる。
 自分は良くても、相手はダメ……では、話にならないのである。

「だから我々は、剣を賭して闘った。結果が――コレだ」
「…………」

 もう言えない。
 かつて自分が斬ってきた相手たちの気分が、今になってようやく分かった。
 だがそれは手遅れだ。今の反省は、今の状況に生かすことは出来ない。

「さて――――ではそこを通して貰おう。我々には、やらねばならないことがあるのだからな……」
「……………………そうはいかん」

 長い沈黙の後に出たのは、騎士の誓約とも言うべきモノを反故にした騎士の姿が。

「……正気か?騎士としての矜持すら捨てるというのか……?」
「…………構わない。今のこの身は、管理局の局員だ。自身の矜持よりも優先すべきことがある。ただそれだけの事……」

 苦しい。
 まるで【闇の書事件】の時にように、主との誓いを破って行動する己。
 そんな自分に、シグナムは言い様のない濁った感触を受けた。

「それは成長か?それとも堕落か……。まぁ、どちらでも構わない」

 騎士仮面の意識は、既にココには存在しない。
 彼に視線の先には、地上本部がある。
 そしてその暗部たる、最高評議会が目的地。

「ならば今度は、その剣ごと【魂】をも砕かせて貰うとしよう……!」

 来る!!
 シグナムの胸中は、どうしようもない程固くなっていた。
 先程一度、圧倒的な力の差を見せ付けられた上で敗北した相手。

 それが今度は、更に本気を見せるという。
 並みの人間ならば、とうに気絶しているであろう状態。
 しかしシグナムは並みの騎士ではなかった。

 そしてそれが、彼女にとっての不幸。
 膝を折ることも出来ず。
 意識を手放すことも許されず。

 まさに生き地獄。
 生きながら灼熱地獄に放り込まれるとは、こういった状況を指すのだろう。
 脂汗が止まらない。しかし表情を緩めることはない。彼女に残った、最後の矜持が自らを律し続けるからだ。

「さらばだ、古の騎士よ……!」
「……!」

 眼は瞑らない。せめて最後の瞬間まで、自分は騎士であり続けよう。
 騎士仮面の巨大刀が、唸りを上げて迫ってくる。
 不甲斐無い従者をお許し下さい。そう主に心の中で謝ると、彼女の意識はそこで途切れ――――

「クックック……。いやぁ、これは絶体絶命のピンチってやつだねぇ……?」

 ――なかった。
 シグナムの眼前に飛び込んできたのは、記憶にない背中。
 しかし見た覚えがある【ハズ】の背中だった。

「良くも【家】の大事な次女をこんな目に遭わせてくれたねぇ?代償は、高くつくよぉ……?」
「主……はやて……?」

 その手に持った二刀の小太刀。
 白い騎士甲冑に、黒いショートパンツ。
 はやてそっくりの顔は現在も健在。故にシグナムの勘違いも理解出来る。

「残念。確かにこの顔は自前だけど、私はキミたちの主ではないねぇ……?」
「お前は……お前は……」

 頭が痛む。しかし目の前の人物の名前を思い出すことは無い。
 知っている。知っているハズだ。
 だが思い出せない。思い出すことが出来ない。それがシグナムの思考回路を狂わせる。

「私の名前は【御神】あらし。とうの昔に消えたハズの……今回限定のお助けキャラさ♪」

 現在散歩中の覇王の半身。
 その存在は今。
 かつて切り捨てたモノの為に、そこに居た。























「……そうか。貴様は、あの存在の――――」
「おや?御存知だったとは……」

 シグナムには信じられなかった。
 目の前で喋る二人。
 片や先程まで相手をしていた強者。そしてもう一人は、忠誠を誓った主――にそっくりな存在。

「まぁそんなことは、どうでも良い。私としては、キミを倒せば良いだけだからねぇ……?」
「……このザンカンブレイドを前に怯えぬ胆力。確かに只者ではないのだろう。だが……!」

 まだ足りない。
 そう言う代わりに、騎士仮面は巨大刀を薙いできた。
 轟という音が迫る。そして風が生まれる。

「如何に巨大で強力な刀であろうとも……!」

 刀には【切っ先】が存在する。
 そしてソレは、少し力を加えるだけでその軌道を逸らすことに繋がる。
 故にそれが実現出来れば。

「私の領空権の前には、無いに等しい!」

 言うは簡単。
 しかし現実にするのは困難極まる。
 それをあらしはやった。高速の剣が迫る中、超絶的な動体視力と反射神経で、それらを為したのだ。

「……!?」
「隙だらけだよ!」

 二刀が騎士仮面に迫る。
 超が付く程の巨大刀は、当然の如く取り回しが悪い。
 対する小太刀は、元々小回りが効き、防御に向いている仕様。

 防御に向いているということは、それだけ素早く反応出来るということ。
 故に攻撃に移る速度もまた、速いのである。
 だからこの攻撃が当たるのは必然。

「何ぃ!?」

 当たった。
 確かにあらしの攻撃は、ウォータンの仮面にヒットした。
 二刀の小太刀が交差する。故にその威力も半端なモノではない。しかし……。

「堪えた……というのか!?」

 騎士仮面のマスクには、薄っすらと傷が付いた程度。
 そしてその薄い傷も、すぐに見えなくなり、完全になくなってしまう。

「……そうか。ナノマシン……で出来ているのだね、その仮面は……?」
「……」

 騎士仮面は黙して語らず。
 元々ザンカンブレイド自身がナノマシン製なのだ。
 ならばその持ち主の仮面がそうであっても、不思議はない。

「(……さて。一体どうしようかねぇ……?)」

 生憎超強力な魔法などは、使えない。
 更に言うのなら、今放ったのは奥義の一つ。
 つまりこれ以上威力を上げることは出来ない。

 だから独力では、悲しいかなこれが限界なのである。
 ならばどうすれば良いのか?
 簡単だ。足りないのなら、どこからか持ってくれば良い。

「シグナム。リインフォースを私に」
「何!?何を言っているのか、分かっているのか!?」

 シグナムにとっては、家族を渡せと言われているのだ。
 おいそれと頷く訳にいかない。
 増してや、それを求めてきた者にユニゾン適性があると思えない。だから彼女は首を横に振る。

「承知の上だよ?それに適性なら、私の方が上だからね?何と言っても私は――――」

 本当は【月村静香】が作成したデバイスだ。
 しかし同一存在である自分なら、問題なく使えるはずだ。
 だからあらしは言った。

「リインフォースⅡを創った、デバイスマイスターなのだからねぇ……?」
「!?ば、バカな……有り得ん!」

 これ以上は時間の無駄。
 そう判断したあらしは、管理者権限を発動。
 そしてシグナムの身体から、強引に絶賛気絶中のリインⅡを射出させた。

「管理者権限発動。裏モード【CⅡモード】に移行し、ユニゾンを開始……!」

 以前。
 本当に随分前に仕掛けた――【月村静香】が仕掛けた、二つの隠しメニュー。
 それが漸く、漸く陽の目を――――

《……随分と待たせられたな?……ん?貴様は【静香】ではないな?私とユニゾンしたいのなら、アイツを連れて来い。私の共犯者は、あくまで【アイツ】なのだからなぁ……?》

 ――見た途端に、フリーズしやがった。
 どうしよう。
 まさかこんなに扱い難いキャラが管制人格だとは、想像していなかった。

 ものっそい【ドS】。
 声の感じからしても、簡単に予想出来る仕様。
 どうしてこんなAIにしたのだろうか?あらしには己の半身の意図が理解出来なかった。というか、遥か遠くの存在にも思えた。

「……ど、どうしよう……?」

 今までの余裕っぷりは、一体何処へ行ったのやら。
 頬が引き攣り、渇いた笑みしか浮かばないあらし。
 やる気満々な騎士仮面を前にしながら、彼は現実逃避をするしか出来なかった。












「……!真っ直ぐ、走らない……!?」

 紅い顔のトリケラトプスが、ミッドの地上を爆進する。
 だがその軌道は真っ直ぐな道を、身体を斜め四十五度にしたまま走っている。
 所謂【直ドリ】と呼ばれる状態。

 ただし現在のそれは、意図したものではなくただの偶然。
 偶然……というのは御幣があるかもしれない。
 【制御不能】というのが、正しい答えであろう。

「何て……何てピーキーな機体なんだ!このグランダイノーは!?」

 クライド・ハラオウンは驚愕していた。
 グランダイノーのスペックに。
 そしてそれが吹き飛んでしまう位の、制御の難しさについて。

「ハァ……!ハァ……!!」

 絶え間なく変化する状況に、どんどん悪化するコンディション。
 精神力が削られ、体力も容赦なく低下する。
 判断力。反射神経。そのどれもが常人のそれを大きく上回るクライド。だがそんな彼でも乗りこなせないマシン。

 まさしくそれは、【モンスター】だった。
 時折とんでもない挙動をするグランダイノー。
 それに【ハッ】とすることは有るが、それは意図して出たものではない。

「どうして……どうして僕なら、使いこなせるんだ……?」

 キャスバルは言った。
 レジアス・ゲイズと同等である自分にならと。
 だから出来る筈だ。しかし今の自分にはそれが出来ていない。

 足りないのは何だ?
 覚悟か?気合か?
 それとも、アクセルを踏む込む勇気か?

「なら……コレで!」

 僅かにアクセルを踏む。
 先程までよりも大きく。
 反応が少しだけ変わる。そして世界の色が抜け落ちてくる。

「コレは……!?」

 まるでフルカラーから、四色刷りに落ちたかのような錯覚。
 その色の抜けた世界では、全てのものがゆっくりと進行していた。
 鋭くなる感覚。異常な程繊細に出来るようになった、ステアリングの精度。

「コレが……コレがレジアス・ゲイズの居る世界……!」

 踏み込んだ。
 そしてさらに踏んだ。
 まだ先に居る。

 先にこの領域の住人となったレジアスは、もっと先で闘っているのだ。
 ならば自分もそこへ行く。
 そこへ行って――最低でも肩を並べなければ、共に闘うことすら、出来ないのだから。

「負けない……。僕はこんな領域なんかには、負けてやらない……!!」

 踏む。
 踏む。
 踏み込む。

「これ以上は……。でも踏む込む!AIを信じて……。自分の相棒を信じて……!」

 真っ直ぐだ。
 これ以上ない程の真っ直ぐなそのラインは、凄まじい速度と重圧を伴って疾走する。
 まさにAIと主が一体となった瞬間。次元が変わった瞬間だった。

「今のは!?…………そうか。そうだったのか……。よくよく意地の悪いお姫様だよ、君は……!!」

 自らの限界に挑み、そして殻を破ったクライド。
 それは人機が一体となった証。しかし注意せよ。
 必要以上に仲良くなると、黙ってはいない人物が居ることを……君は忘れてはいけない。

「……クライドがあのマシンに掛かりっきりだからって、悔しくなんてないんですからね!?」

 現在ツンデレ状態。
 気を付けよう。
 もうすぐヤンデレの扉が見えてくるぞ?

 翠の【元】癒し系提督は、今日もまた新たなキャラチェンジを身に付けたとさ。












 あとがき

 >誤字訂正


 俊さん。毎度ご指摘頂き、本当にありがとうございます!






[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 52【魔神の生まれちゃった日】
Name: satuki◆b147bc52 ID:8d30dd20
Date: 2009/10/22 22:08



 前回のあらすじ:リンディ、新たなる【デレ】の扉を開け――る手前まで来る。



「クライドは何とかグランダイノーに乗れるようになったし、他の面々もそれぞれのステージをクリアしてきた……」

 各地でほぼ同時に行われていた戦闘。
 その殆どが片付いていき、残るカードも僅かとなった。
 そしてそれは同時に、ラストステージが近付いてきたことも意味する。

「……で。あいつは一体、何をしてやがりますかねぇ……?」

 この時代に来てから、お散歩タイムに突入した半身。
 そんな彼は、現在……何故かピンチだった。
 リインⅡとのユニゾンをしようとしたらしいが、CⅡモードを起動したものだから、結果は――当然の如く失敗。

 奴さんはボクと同一存在。
 しかし分かたれている時は、微細な差が生じる。
 その一つが【契約】。

 CⅡモードのリインⅡとのユニゾンが出来るのは、あくまで【月村静香】なのだ。
 だから【御神(八神)あらし】には出来ない。
 しかしそれが出来ないと、現在進行形の窮地は脱せない。

「ったく。格好つけて飛び出したのは良いけど、収束出来ないとは……。仕方ない、ボク【も】行くかぁ……?」

 本来ボクは、部外者である。
 しかしそうも言ってられない状況になってしまった。
 それに騎士仮面――ゼストとは因縁浅からぬ仲である。

 そもそも今彼が所有してるザンカンブレイドを創ったのも、若き日の彼を鍛えたのも【静香(シズカ)】なのだ。
 ならばその責は、取らないといけない。
 そしてあわよくば、彼を取り戻す。

 それは友人として?
 それとも教官として?
 答えは……どっちもだ!

「(若)プレシア」
「……もう突っ込まないわ。その代わり……」

 何故かプレシアとボクの背後に、雷鳴が響き渡る。

「…………仕方ない。一時間為すがままの刑で」
「短いわね?せめて五時間が妥当な線よ?」

 何時からここは値切りの会場になったのだ。
 どう考えてもおかしな状況である。

「……二時間」
「四時間」



「「三時間」」



 二つの声が重なった。
 ここに誓約はなった。
 誓約という名の、【(悪魔)契約】でもあるが。

「じゃあ、後は頼んだよ?クライドはそのまま、グランダイノーで。それ以外は転送魔法でゴウダイノーへ」
「分かったわ。さぁて……どんな格好をさせようかしらぁ……!!」

 迸るリビドー。
 プレシアが夢想し、そして暴走秒読み段階に移行する。
 ……うん。この闘いが終わったら、何処か遠くの世界に行こう。ボクの事なんか誰も知らない、遠い遠い世界に。

「ゆくぞ、カリムゥゥゥゥ!!流派東方腐敗が最終奥義――!!」
「責」
「破」
「「天狂けぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」」

 スパークするマスター大佐と、見目麗しいまま暴走中の、騎士カリィィムサン。
 もうあれは、ボクの知るカリムではない。
 カリム自身がもう戻りたくないといった訳が、理解出来てしまったから。

「どうしたぁぁぁぁ!!もっと腰を入れんかぁぁぁぁ!!」
「う、うるさい!!今日こそ私は、貴方を越えるんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 何かカリムの声が、いつもより野太く聞こえる。
 熱血成分がリミットブレイクな感じで。

「ばぁくねつ!!責破天狂ぉぉぉぉ――ゴォッデス、フィンガァァァァァァァァ!!」
「ぬぁにぃぃぃぃ!?」

 元々の最終奥義に自分の業を入れて、アレンジする。
 彼女は今、己の師を越えた。
 そしてその勢いのまま、勝負を決めようとする。

「ヒィィィィトォ、エェェェェェェンd…………!?」

 もの凄い穏やかな顔で、カリムの業を喰らうマスター。

「今こそお前は、本物のキング・オブ・ハートに……」
「師匠ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」



 ……ウン。確かにアレはない。
 年頃の娘ならば、尚更である。
 訂正しよう。遠い世界に行こう――――生物すら居ない、【虚数空間】という場所にでも。























 リリカルなのは3【ミッドは萌えているか?】。
 ……じゃあ、なかった。
 ミッドの空は燃えている。

 具体的には巨大刃を手にした騎士が、二刀の小太刀を持った少年を追い回すという具合に。
 ここだけ聞くと若干犯罪チックだが、実際はそんなことはない。
 そんなことでは済まない位、洒落にならない事態なのだ。

「どうした……!何か策があるのだろう?ならばソレを見せてみろ!!」
「見せ、たくたって、見せ、られない、んだよぉ~~!?」

 巨大刃をかわし、逸らしつつ、あらしは今後についてどうしようか考え中である。
 既に万策尽きた。
 でも誰にも助けを求めれません。

 唯一助けを求められる自身の半身には、自信満々で来ただけに、助けを求める訳にはいかなかった。
 格好悪すぎる。
 だから呼べない。助けなんか、呼べるはずもない。

「こうなったら、【ジークフロート】を召喚して……!」

 ジェイル・スカリエッティ専用ロボ。
 オレンジの楕円形の体躯に、緑色の大型の角のようなアンカーを持つ、超トンでも挙動を可能にするチートマシン。
 この時代ならスカリエッティが創ったソレが、もう存在している。

 そしてスカリエッティと同じ存在であるあらしなら、それを呼ぶことが出来る――ハズ。
 断言出来ないのは、先程リインⅡとユンゾン出来なかった為。
 さりとて手段は他に見当たらない。だからあらしは、ジークフロートを呼び出そうとする。

「来い、ゴルゴォォォォォォ「違うだろうに!!」――ギャポッ!?」

 金色の恐竜を召喚しようとしたあらしに入る、容赦のない突っ込み。
 それは物理攻撃を伴った、容赦の無さ過ぎるツッコミだった。
 分かりやすく言うと、シズカの剣が頭に刺さっている感じ。

「い、痛いじゃないか!!」

 突如現れた半身――覇王少女に対して、そうツッコミ返すあらし。
 しかし、知らなかったのかい?
 覇王少女の半分は、マイペースで出来ているんだよ?

「やかまし。ホレ、さっさとやるよ?あんまり時間、ないんだから……」
「ちょ、おま……!」

 待ったは聞かない。
 それが覇王クオリティ。
 強制的に再融合を果たした二者は、すぐに【月村静香】の姿に戻る。

《ようやく戻ったか。遅いぞ静香?一体どれ位、私を待たせれば気が済むんだ……?》

 元に戻った途端、【静香】に掛けられる【ドS】ヴォイス。
 どうでも良いけど、外見ロリ少女からそんな声が出ると違和感バリバリだ。

「黙れ、魔女が。……と言った方が良いのかな?」
《良く言う。まぁ良い――ピザ百枚で手を打とう》

 本当に嬉しそうな【S】顔。
 Mの人ならこれだけで大満足で、昇天してしまうことだろう。
 ……ちなみにボクはチガウヨ?

「……それは一ヶ月でかい?」
《まさか!……一週間で、だ……》

 凄まじい程のピザ愛。
 自分で性格設定しておいてなんだが、現実にこれは【ない】。
 しかし後悔しても遅い。だから原初のヒトは諦める。

「……良いだろう。結ぶぞ!その契約――!!」

 若干カリスマ的な声を出しつつ、ポージング。
 忘れているかもしれないが、【静香】の時は紫燕尾の服にマント姿だ。
 つまり――全てはこの瞬間の為!!

「「……ユニゾン・イン」」

 紫だった髪は白く染まり、瞳の色も抜け落ちる。

「「【術式――ハドロン】展開」」

 両肩の上、今まで中空だった場所に、黒い光球が一つずつ出現する。
 禍々しい光を放ちながら、そこからは紅い電撃にも似た光がバチバチと漏れている。
 ……今更ながら、これはどう見ても正義の味方には見えない。良くてダークヒーロー。悪くて……普通に悪役だろう。

「「発射!!」」

 勿論両腕は地面に対して水平です。
 これはある種のポーズ。
 偉いヒトにはそれが、わからないのです!

 禍々しい紅い光。
 まるで悪魔の一撃のようなソレは、ウォータンのザンカンブレイドに当たり……そして侵食していく。

「クックック……!やれるぞ……やれるじゃないか!!」

 悪役顔で【笑み】を浮かべるボク。
 そして己の得物の変化に気付いたウォータンは、直ぐに驚愕の声を上げた。

「何!?」

 マシンセ――じゃなかった。
 ナノマシンは、普通自己再生を行うべく使われる素材である。
 しかしその再生を破壊するモノがあった場合、どうなってしまうのだろうか。

 考えるまでもない。
 再生出来ない。
 つまり一度折れた剣は、再生しないのである。

「キミ(たち)の敗因はたった一つ。たった一つの単純な答えだよ…………キミ(たち)は、ボクのナノマシンを改良しなかった」

 正確には【ボクの】ではなく【姉の】なのだが、敢えて語る必要は無いだろう。
 ともかく何年も前のシステム、それも自分が作ったデバイスのことだ。
 当然対策も出来ている。

 ただナノマシン自身が既にオーバーテクノロジーなだけに、改良が加えられなかったのかもしれない。
 でなければ……ワザとか。
 ここでウォータンは退場し、ゼストが蘇る。スカリエッティのシナリオでも、そうなっているのかもしれない。

「故に――これでチェックメイトだ」

 僅かに紅い光を仮面に掠らせて、仮面も砕く。
 解放。
 これでゼストは、元の根性オヤジナンバーⅡに戻るだろう。

《……おい、静香》
「ん?なんだい?」
《やっておいて何だが、コレは――――流石に圧倒的過ぎる。つまらんではないか……?》

 歴戦の将でありシグナムが手も足も出なかった相手に、無傷で勝つ。
 それも一手で。
 どう考えても、これではバランスブレイカーである。

「そうでもないよ。もしこれでナノマシンが壊されてなかったら、大層苦戦したことだろうしねぇ?それに……」
《それに、何だ……?》

 誤解のないように言っておくが、如何に自分が作ったものであっても、薬とは違うのだ。
 最初から解毒剤を用意する訳ではない。
 今になって――現在になって、漸く出来るようになった手段なのだ。

「一応チート属性持ち扱いされてるからねぇ?あんまりにも使わな過ぎると、存在が消されそうな気が……」
《…………そう、だな》

 一応何件か苦情が来ており、端的に言うと【活躍しろ】・【働け】。
 だから働きますた。
 ただ……これはこれで、苦情が来そうな気もするが。

「……ぅぅ、ココは……?」

 もの凄いテンプレな台詞を吐いて、マッスルオヤジ【ゼスト・グランガイツ】の復活。

「おぉ?目ぇ、覚めたみたいだねぇ……?」
「シズカ、なのか……?」
「……他に誰が居るっていうんだい?」
「その物言い。やはり本人か……」

 かなり不愉快な表現だが、どうやらゼストに【月村静香】本人であると認証された模様。
 まぁゼストとしては、目が覚めたらいきなり訳の分からん事態に巻き込まれていたのだ。
 誰が味方で、誰が敵かを見極めるのが先決だろう。

「でさー、ゼスト?今の状況、理解……出来てる?」
「……恐らくは。若干捕捉が必要であるがな」
「んじゃあ、さっさと確認しましょうかね?」

 ウォータンだった時の情報は、殆ど間違いはなかった。
 ただ一点、自分たちが正義だと洗脳していたこと以外は。
 だから訂正は非常に簡単であり、すぐに済んでしまう程だった。

「……それで?スカリエッティは何処に居るんだ?」
「?そりゃあ、奴さんのアジトだろうけど……」

 言ってからハッとした。
 騎士ゼストは、やられたらやり返す御方である。
 事実、昔のレジアスとの模擬戦は、今回やられたら、次は倍返しを心掛けていた。

「もしかして……借りを返しに行くなんてことは……」
「違う」
「だよねー!?いくら今までのことが有るからと言っても「単純に礼を言いに行くだけだ」って、ちょっと――――!?」

 それってどう考えても、【御礼参り】だよね!?
 もしくは、高町式【お話ししようか?】シリーズですよねぇ!?

「あまり時間はない。だから話は後だ……!」
「オイ、ゼスト……って、はや!?」

 簡単に分かれの挨拶を言うと、ゼストはあっと言う間に遠くの空を飛んでいた。
 ……仕方がない。レジアスVSスカリエッティの邪魔はしないだろうし、行かせてやるとしますか。
 ん?そういえばゼストのヤツ……

「ザンカンブレイドが壊れてるのに、どうやってスカに御礼参りするつもりなんだ?」

 それは正しく、本人のみにしか分からないことだった。
 さ~てと。とりあえずボクに出来ることと言えば……

「オイ貴様!今までのやり取りはどういうことだ!何故リインフォースが変化した!どうして貴様とユニゾン出来るのだ!!何で……」
「……ノーコメントですたい」

 非常にウザク……じゃなかった。
 ウザくなっている、ニート騎士から逃げることだった。
 勿論リインは置いていきます。当然CⅡモードも解除済みで。

「あぁばよ、とっつぁん!!」

 逃げるとき。逃げれども。逃げれ。
 三十六計、逃げるに限る!
 ……なんか違うって?大丈夫、許容範囲内だ!

「……とっつぁん?何かの暗号か?しかし……」

 ほらね?
 世間から隔絶された頭コチコチ騎士には、これでOKなのである。
 だからこの隙に逃げる。それでは皆さん、さよなら。さよなら。さよなら♪












 あとがき

 >誤字訂正


 俊さん。毎度ご指摘頂き、本当にありがとうございます!






[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 53【アニキ+ナイスミドル=???】
Name: satuki◆b147bc52 ID:e3e0b1dd
Date: 2009/10/27 16:33



 前回のあらすじ:CⅡモードは、やはり【ドS】。



 スカリエッティのアジトは悪の美学を追求した結果、さも当然の如く地中に存在する。
 従って無駄に広大なスペースや、その終端が彼の部屋――RPGで言うボスの部屋となっていた。

「復讐者(リヴェンジャー)か――――凡そ正義の組織の、それも実質上のトップには似つかわしくない行動だねぇ……?」
「……別に復讐のつもりはない。ただ現状を鑑みるに、オレがココへ来るのが一番だと判断したからだ。ただそれだけのこと……」

 レジアスの言い分は正しい。
 機動六課はおろか、提督ズすらも出払っている状態。
 そして【海】の連中は、大挙して艦船に乗ってやって来る最中。だから他に適任が居ない。



 実力:スカリエッティと闘えるクラス。
 権限:ワンマンアーミーが出来る位には必要。
 機動力:海の上を走りながら渡れる程。
 幸運値:紅い糸で結ばれた、宿命のライバルに行き着く位(何という僥倖!)。


 こんな化け物は、広い次元世界を探しても該当者は少ない。
 もしも三提督がこの場にいれば状況は変化するが、それならそれで三提督(超の付く化けモノ)よりも階級が下の彼が行くだろう。
 つまりどのような状況でも、彼がココに来ることは決まっていた。まるでそれが運命であるかのように。

「ふぅむ?成る程、成る程……。随分と冷静なようだねぇ?」

 まるで値踏みするかのように、レジアスをしげしげと眺めるスカリエッティ。
 そこにお茶らけた色は見られない。
 つまり真剣に研究者として――格闘者として、レジアスを監察しているのだ。

「いや結構。前座があまりに歯応えが無かったものでねぇ……?」
「何!!」

 【前座】扱いされたフェイトは憤る。
 しかし結果が伴わない反論は反論足り得ない。
 つまり彼女の激昂は、子どもの癇癪と同レベル。

「ハラオウン執務官……」
「……ハイ」
「貴官は外まで帰れるか?」
「!?じ、自分は……!!」

 まだやれる、そう言いたい。
 事実その台詞が咽元まで出掛かった。
 だが一管理局員として、そして一人の社会人としてそれは、外に出す訳にはいかない言葉だった。

「……オレは【帰れるのか?】と聞いているんだ……。出来るのか……?」
「…………出来ません。申し訳ありませんが、もうそれ位の力も残っていません……」

 フェイトは確かに戦乙女の素質がある。
 だがそれは今の彼女ではない。
 対するレジアスは――彼女の主観からすれば戦神だ。故に逆らえる筈も無い。

「そうか……。ならこれを着ていろ」
「え……?」

 レジアスの手に握られていたのは、一つの刻金。
 現在纏っているモノとは違う、【アザータイプ】を展開する為のソレ。
 レジアスはそれで六角形の粒で出来た糸を形成させ、その糸をフェイトの身体に纏わせていく。

「レ、レジアス大将!これは……!!」
「今オレが纏っているジャケットのアザータイプ。故に防御力には自信ありだ」
「何で!?こんなことをしたら、大将は!!」
「……心配要らん。オレには――【今の】オレには不要なモノだ。だからキミに預かって貰う。ただそれだけのこと……」

 AMF力場で強制的にリミットブレイクしたフェイト。
 それは強制ブーストと同義。よってすぐに無理が来るし、長時間は維持出来ない。
 つまり行動不能。

「……一応言っておくが、ヤツとオレの闘いに乱入しようとするなよ……?」
「な、何言ってるんですか!!相手は犯罪者なんですよ!?逮捕するのに一対一に拘るなんて……!!」
「違う。自分では気が付いていないのか……なら!!」

 既にフェイトの絶対防御となっている【アザータイプ】。
 今度はその上から、現在レジアスが纏っているジャケットが糸状となってフェイトに纏わり付く。
 ただし、今度のは正規のタイプの裏返し――【リバース】と呼ばれる状態だった。

「な!力が……入らない!?」
「先程のものは【絶対防御】。そしてそれは【完全拘束】。つまり貴官はそこでただ待つことだけしか出来ない。というより――――させない!」
「ど、どうして、ですか……?」

 既にフェイトへの拘束は始まっている。
 元々ナンバーズやスカリエッティとの闘いで消耗し切っていた彼女には、それに抵抗出来る力など残っていない。
 だから簡単に【落ちる】。

「自身のコンディションを把握しつつも、己の目的のみを遂行させようとした。つまりこの場での貴官の扱いは、【安全を確保した上での拘束】ということになる」
「で、でも……。私が、このジャケットを、使ってしまったら……」

 既にリバースジャケットは九割方フェイトに纏わり付いていた。
 そして最後の一割が――最後まで彼女の双眼の視界を遮っていた糸が、彼女のアウターの一部となる。
 同時にフェイトの視界からは障害物が排除され、クリアになった先に居たのは……。

「心配は無用。どの道スカリエッティとの戦闘では、使う予定はなかった。だから……安心して眠れ」

 畜生、格好良過ぎるぞ渋オヤジめ!
 そんな突っ込みが入りそうだった。
 ……今の彼の服装を見なければ、だが。

「な、なんで……メイド、服……?」
「それは――――これがオレの、戦闘服だからだ……!!」

 ジャケットを脱ぐとそこは雪国――何ぞではなく、メイド服姿のオヤジが一体。
 フェイトの気絶前の最後の映像は、そんな怪奇極まるショッキング映像だった。























「フンフンフンフンフン…………!!」
「アダダダダダダ…………!!」

 マンガの中でしか見たことのないような、そんな掛け声。
 字に書き起こしてしまうと緊張感が薄れてしまうが、屈強な男が目の前でそれをやっているとなると、やはりトンでもない迫力である。
 そしてお約束ごとだとばかりに、高速ラッシュ対決。まさに目にも止まらぬ早業で、投げる手裏剣ストライクな状態。

「良かったのかい……!私を相手にするのに、あのジャケットを脱いでしまって……!!」
「……フン!アレは確かに優れたモノだが……そのせいでオレは、大事なことを忘れていた!!」

 レジアスは忘れていた。
 シズカという師を失い、そして静香に出会うまでの間に。
 権力闘争や、理想と現実の剥離。

 そんなリアルを生き抜く内に、彼は大事なことを失ってしまった。
 確かに新たな技術は、その身の活動限界を引き上げてきた。
 そしてソレを御する為にも、身体を鍛えることを再び始めた。

 だが違ったのだ。
 スカリエッティに勝つには――素手・無手の達人に勝つ為には、それではダメだったのだ。
 スーツや身体強化アイテムの使用を前提とした鍛え方ではなく、身体【そのもの】を武器とした鍛え方。それが必要だったのだ。

「オレは思い出した……!!もう昔になってしまった【あの時】を!!嘗て所属していた、【冥土ノ土産】のことを!!」

 その身一つで戦場を駆け抜け、様々な世界の【お掃除】をしていたあの頃。
 尊敬する部隊長の下、共に汗と血を流しながら研鑽を続けた同士たち。
 懐かしい。全てが忘れ去られ、【黒歴史】と成り果てそうだった時代。

「だが違った!!黒歴史などではない!あの頃が――あの頃こそが、最も輝いていた時期だったんだ!!」
「……」

 しゃがんで脚払いする、レジアス。
 それをジャンプでかわす、スカリエッティ。
 宙を浮いたドクターに迫る、メイドの上段蹴り。

 まるで詰碁のような戦略の読み合い。
 高度な格闘者の闘いは、寧ろ戦略合戦だと言う。
 その言葉を証明する光景が、今まさにココにあった。

「オレはそれを忘れていた!しかし――――思い出したんだ!!」
「……ホウ」

 ラッシュ!
 ラッシュ!!
 ――ラッシュ!!

 大将の蹴りが、宙を浮いたままのスカリエッティに吸い込まれていく。
 百烈キックもかくやという勢いで、彼は蹴る蹴る蹴る。
 空中コンボ――というか【ハメ技】チックではあるが、とにかく彼の猛攻は収まることを知らない。

「昔には戻れない!だが――――だが!!」

 昔日の志は思い出した。
 そして現在(いま)の自分と融合した。
 力が足りなかったが、心が強かった昔。

 力は付いてきたが、心が弱くなっていた現在。
 それが一つになる時。
 そこには【弱い自分】を捨てた、一人の戦士が居た。

「今の自分に活かすことは――――出来るんだ!!」

 蹴りを止め、天を穿つように下からアッパーを繰り出すレジアス。
 その渾身の一撃は、スカリエッティの身体に炸裂――しなかった。
 レジアスの突き出した右手に纏わり付いていたのは、紅い触手のようなモノ。

 見たことがある。
 自分はコレを、嘗て見たことがある。
 大将の脳内にアラートが響き渡る。

 危険。
 危険。
 警戒レベルをマックスまで引き上げよ!!

「くっ!このぉぉぉぉ!!」
「…………遅いよ」

 無理やり触手を引きちぎり、距離を取ろうとするレジアス。
 だが一瞬判断が遅かった。
 その一瞬の間に相手は――スカリエッティは、変化を遂げていた。

「……素晴らしい。まさにソレだ。前に闘った時のキミに足りなかったのは、その心の強さだよ……」

 もしもドクターがこの時素顔だったら、きっとそれはそれは愉快そうな表情をしていたことだろう。
 しかし現実にソレが見られることはなかった。
 何故なら今の彼の姿は……。

「……イクスード・ギロス。漸く本気を出したと、そういうことか……?」

 緑色の体躯と、三又に分かれた角。
 全身から刃物が飛び出たような武装に、背中からは紅い触手が二本。
 それはどう見ても【イクスード・ギロス】だった。

「いやいや、本気だったよ?…………これからが【本気の本気】というヤツさ」

 右手は触手に絡まれたまま。
 そしてそれは相手の意のままに動く。
 背中を冷や汗が伝う。

 レジアスはその全身が、小刻みに震えていることに気付いた。
 まるで自分が目の前の男に恐怖するように。
 絶対的な強者を前にして、震えることしか出来ない、ただの獲物のように。

「……っ」

 咽が渇く。
 カラカラになって、唾液すらも貴重な水分となっていく。
 焦るな。飲み込まれるな。踏んばるんだ!

 震えは治まらない。
 寧ろより酷くなっている。
 だが同時に。

 その胸中を、自分でも制御不能な感情が満たしていった。
 湧き上がる高揚感。
 そこにあるのは、恐怖ではない。恐怖ではなかったのだ。

「(そうか……。これは、これは――――!!)」

 嬉しいのだ。
 自分の全力を賭して、闘いを挑めることに。
 そしてそれは、身体の振るえが【武者震い】だと証明していた。

「ゥォォォォォォォォ!!」

 これまで静かに事を運んでいたスカリエッティが、突如雄叫びを上げる。
 すると紅い触手は彼に回収されるように引き寄せられ、それに巻き付いているレジアスも引き寄せられていく。
 力が足りない。レジアスには、この剛力に対抗するだけの力は無かった。

 力は足りない。
 力が足りないのなら――――力で勝負しなければ良い!

「ォォォォォォ!」

 雄叫びが近付いていく。
 それはスカリエッティとレジアスの距離が近くなっていく証拠。
 五メートル。三メートル。一メートル……!!

「(今だ!!)」
「!?」

 レジアスのやったことは、実にシンプルだ。
 引き摺られる速度を利用しての、カウンターパンチ。
 これならば力は要らない。

 要るのはタイミングを見切る眼と感。
 そしてそれを実行に移す勇気。

「ぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 今度は雄叫びではない。
 カウンターパンチを喰らったドクターが、頭部に受けたダメージのせいで悲鳴を上げたのだ。
 傷を受けた場所を左手で押さえつつ、それでもレジアスから視線を放さないギロス。

「……やって、くれたねぇ……」
「何の。これでもまだまだだ……」

 まだ足りない。
 人の身では――現在のレジアスの力では、これが手一杯である。
 どう望んでもこれ以上の威力はでないし、速度も上がることはない。

 でもダメだ。
 このままでは負ける。
 負ける。負けることは、管理局の敗北に繋がる。

 だから負けられない。
 負けてやらない。
 負ける訳には、いかないのだ……!



 ――パァァァァァァ!!



 後光が差す。
 というのとは違うだろうが、レジアスを天から眩い光が照らした。
 室内であるのに起こった、不可思議な現象。

 これには流石のスカリエッティも呆然としている。
 そんな二人の間には、いつの間にか一人の少年が居た。
 白い服を着た、見た目幼稚園位の少年。

「これ、は――――」

 見たことがある。
 自分は――レジアス・ゲイズは、これに似た光景を見たことがある。
 最高評議会に厳命された、【アギt○】の鑑賞。

 その場面場面で出てくる、白い少年。
 彼の出現は、新たな力の発露。
 人が人を超える時、彼は出現する。

「……選べと言うのか。人を捨てるか、否かを……」

 目の前のスカリエッティは、人を捨てて自分の前に立ち塞がっている。
 ならば自分も捨てなければダメなのか?
 だとしてもこれは、【特別】な存在になってしまうのではないか?

「――――」

 レジアスの嘗てからの命題が、自身を苦しめる。
 自分は特別な何かで皆を護りたいのではない。
 だから特別な存在になってはいけない。ずっとそう考えてきた。
 
「…………違うな。人を【超える】か否か――ヒトのまま【進化】するか否かを――」

 レジアスには大切な娘が居る。
 そして同じくらい大切な仲間が居る。
 ミッドの地上を護る。

 そこに嘘偽りは無い。
 だがここに到って、彼は漸く気が付いた。大切な娘や仲間がいるからこそ、ミッドを護りたかったのだと。
 自分にとって【特別】な存在たちの為に、自分はミッドを護りたかったのだ。

「なのに……オレという奴は……!!」

 覚悟が足りなかった。
 元よりミッド全てを護ることなど出来ない。
 ならば自分の手の届く範囲だけでも――大切な人たちだけでも護りたい。

 だがそれだけでも。たったそれだけを護るだけでも、今の自分には不可能だった。
 【特別な力】だとか、【皆と同じ】が良いなどは、自分に対する言い訳だ。逃げ道だった。
 己の全てを賭けて。それでも足りないのなら、全てを捨ててでも――そういった覚悟が足りなかったのだ。

「あぁ、そうだ……それだけだ。その為に何かを捨てなければならないと言うのなら……!」

 白い少年がレジアスに近付いてくる。
 一歩、二歩、三歩。

「要らない……!!(人間としての)命さえ、要らない……!!」

 少年の姿がレジアスと重なる。
 完全にレジアスに吸収された少年は、消える前――確かに笑っていた。

「……そうか。最終チェックポイントを、超えたか……」

 小声で。
 本当に呟くように言うギロス。
 その声は、先程の雄叫びとは百八十度異なった、穏やかな声だった。

「……ムン!」

 光が収まる。
 その中心に立っていたのは、筋骨粒々なメイドだった。
 彼は両腕を腰の前でクロスさせる。すると腰の周囲の空気がブレて、幾何学的なベルトが一本が現れ、レジアスの腰に装着される。

「…………変身」

 変化が訪れる。そしてその変化を噛み締めるかのように、右手を顔の横、左手を腰の横まで引く。
 先程のベルトが出現した時と同じように、今度は全身が変化する。
 ギロスよりもさらに深みにあるグリーンの体躯に、紅い双眼と金色の角。

 【ソレ】は紛れも無く、マスクドライダーだった。
 ただ通常のそれらに比べると、異常な程【生物染みた】デザインの、源流に近いモノ。
 その証として、風もないのにたなびく真紅のマフラー。

「……【アザーアギt○】。まさか、本当になってしまうとはねぇ……?」

 その姿は、紛れもなくアギt○の劇中に出てくる、渋いオッサンライダー【アザーアギt○】だった。
 まさに漢の中の漢。
 その異形性も従来のものと一線を画したデザインも、全てはナイスミドル専用だからである。

「……フン!」
「っ!」

 ゆったりと。本当ゆったりと歩いてきて、パンチを一発。
 一発。たったの一発。
 しかしその重過ぎる一発は、スカリエッティの身体をくの字に折り曲げさせた。

「……ぐっ。…………素晴らしい。まさにキミは、今!本物のヒーローとなったのだ……!!」

 歓喜。
 狂気。
 今のドクターは、純粋にレジアスの進化を喜んでいた。

「……そんなこと。今のオレには…………どうでも良い!!」

 スウェーだけでスカリエッティのパンチをかわし、そして手刀を脳天に喰らわせる。
 重い。
 本当に重い、レジアスの一発。

「フ、ハハハハハ……!!これだ、これが見たかった!!私には到達出来なかった――――私の夢見た、人類の行き着く先!!その答えの一つが……!!」

 一方的にやられている筈のスカリエッティ。
 しかし今の彼は、非常に楽しそう。
 ……と言うよりは、愉悦に浸りきっている感じである。

「……」

 アザーアギt○の口元が―― 一枚の装甲で覆われていた口元のマスクが、今――その封を解かれた。
 まるで生物の歯のような口元が露わになり、彼の足下には緑色のアギt○の紋章が浮かび上がる。
 両手を一度上に上げ、そして腰の高さまでゆっくりと下ろす。

 己の中の力を溜め込み、そしてそれを両足に集中させる。
 同時に右手は顔の横、左手は腰にくっ付けて、構えを取る。
 渾身の一撃。それをドクターに喰らわす準備は、これで全て整った。

「……良いだろう。ならば私も、【全力で】それに応えなければ……!!」

 殊更【全力で】という部分を強調し、スカリエッティも必殺の構えを取ろうとする。
 元々のギロスの必殺技は、踵にエッジのようなものが付いた状態でのジャンピング踵落とし。
 そしてソレを高める方法として、彼は――ドクターは触手を最大に伸ばした。

「ォォォォォォォォ!!」

 雄叫びを上げ、触手を伸ばしていく。
 地面に向かって伸ばしたそれは、彼を天高く舞い上げる。
 高く、高く舞い上げ――そしてその高さからドクターは、最強の踵落としを放った。

「ムゥゥン!!ハァ……!!」

 それにつられるように、レジアスが力の溜め込まれた両足で地を蹴り、踵落としの体勢に入っているドクターと交錯する。
 蹴り対踵落とし。
 本体なら在り得ない対決が、今――超常の力を手に入れた二人の【ヒト】によって行われた。

「ヌォォォォォォォォ!!」
「ハァァァァァァァァ!!」

 文字通り火花がバチバチと飛び交い、そしてぶつかり合う二者。
 ほぼ同等の力。大体同じ位の鍛錬量。
 ならば勝敗を分ける境目は、一体何処に存在するのだろうか?

「ヌ、ヌ、ヌ、ヌ、ヌゥ……!!」
「ク、ク、ク、ク、クゥ……!!」

 拮抗する力。
 力と力が互角ならば、あとは心構え――心の強さが勝敗を分ける。
 レジアスは放つ。己の言霊を。

「貴様に足りないモノはぁぁぁぁ――それは、【情熱】【思想】【理念】【頭脳】【気品】【優雅さ】【勤勉さ】――そして何よりもぉぉぉぉ!!」

 押される。
 押されていく。
 拮抗していた力のぶつかり合いは、レジアスに軍配が上がる。

「【根性】が足りなぁぁぁぁぁぁい!!」
「ァァァァァァ…………!!」

 吹っ飛んだのはギロス。
 つまり吹っ飛ばしたのはアザーアギt○。
 さしもの【天災】ドクターと言えども、【アニキ】と【ナイスミドル】の集合体には勝てなかったらしい。

「……どうだ。オレの全てを籠めた一発は…………重かっただろう……?」
「あぁ……。ズシンと来たねぇ……?」

 地に叩き付けられたスカリエッティ。
 その【敗者】に向かってレジアスは、自身の一撃の重さを確認する。

「……だが、まだだ!まだ終われんよ!!」
「何!?」

 地に伏していたスカリエッティ。
 その姿は既に元の白衣姿に戻っている。
 そんな彼が口にしたのは、敗北宣言ではなく【続行宣言】だった。

 背後の壁がメキメキと音を立てて崩壊し、そこからオレンジ色の機体が現れる。
 それはあらしが召喚しようとした、【ジークフロート】だった。

「済まないね?確かにこの勝負は、キミの勝ちだ。しかしこの【戦争】は――――私の勝ちでなければならないんだよ!!」

 ダメージの残る身体のハズなのに、それでも軽やかに跳躍してジークフロートに乗り込むドクター。
 神経接続をし、そしてその天衣無縫とも言える動きをする機体を動かす。
 ――筈だった。

「スカリエッティ、覚悟ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 しかしそこに飛び込んできたのは、眼前のレジアス――ではなく、洗脳の解けたばかりのゼスト・グランガイツだった。
 既に巨大刃も破壊され、その攻撃手段は失われた筈の騎士。
 だから彼がその手にしたモノは、剣でも槍でもなかった。

「ドリルブーストォォォォ、ナッコォォォォォォォォ!!」

 ギュィィィィン!!
 そんな削岩機の如き激しい擬音は、ゼストの騎士甲冑の両肩に装備されていたモノからだった。
 それを彼は今、剣を手にしていない両の手に一つずつ填めている。

 ドリル少女スパイラルなm――ではなく、ドリル中年【スパイラァァァァゼストォォ!!】。
 そんな熱い中年オヤジが一体、目標に向かって突貫する。
 その目標とは言わずもがな。ジークフロート以外には存在しないだろう。

「レジアスの仇ぃぃぃぃ!!」

 【死んでない】。
 そうツッコミを入れたかったが、真剣な場面に水を差すのは憚られる。
 レジアス・ゲイズ大将は、空気の読める漢なのである。

「ウォォォォ……!!」

 如何に超起動大将軍なジークフロートだろうと、起動前ならそれはただのデカイ的である。
 故にその装甲は一枚、一枚と削られていき、そして最後の大穴が開く。
 それは鮮血を伴った大穴。【ジェイル・スカリエッティ】という、大きな存在に空いた穴であった。

「……ゴフッ。だから……ドリルはイヤだと、言ったのにぃぃぃぃ!!」

 天晴れかな。
 最後まで悪役に殉じた漢、その名はジェイル・スカリエッティ。
 僕たちは忘れない。君という素晴らしい悪役が居たことを。













「やぁ、【また】会ったねぇ?」
「あぁ。今度はボクの方がホストだけとねぇ?」

 以前に何度も来たことがある、アンリミティッド・デザイアの精神世界。
 今その部屋の主は自分ではなく、かつて何度も招待したお客様だった。

「これで私も、ようやく退場出来るよ」
「……良いねぇ?ボクも、さっさと退場したいものだよ……?」

 これより先、ジェイル・スカリエッティは消滅する。
 残ったのは【静香】という存在。
 その存在の中で生き続けることになるのだ。

「まぁ、あらしが融合している時点で、もうそんなに変化はないんだけどねぇ……?」
「あと判っていないのは……クイーンの正体、だったっけ?」
「そう。そしてその正体は――あぁ、止めておこう、楽しみは先に取っておくものだしねぇ?」
「……なんて意地の悪い。流石はもう一人のボク。清々しいまでの根性悪だ」

 鏡を見ながら会話しているようなモノだ。
 その性格など、読むことすらしない。
 する必要がない。

「まぁ、一つだけアドバイスするのなら……」
「……なんだい?」
「物事には偶然に見えることでも、必ず理由が存在する。と言ったことかな……?」
「うげー。どうとでも取れる、とっても有り難くないアドバイスを有難うございますぅ……」

 つまり当たって砕けるしかない。
 現実を見てから判断するしかないのだ。

「さて……。それではお別れ、というか【再会】かな……?」
「んだね?」
「ではベースとなるキミが、私に触れるんだ」

 右手を伸ばし、掌をドクターの水月の辺りに添える【静香】。

「……って、またDBネタかい!」
「やはり我々は、最後までこうでないとねぇ?」
「サッサとやれ!!」
「ハイハイ……では!!」

 真面目な表情に切り替わったドクターが、発光すると同時に【静香】の身体に吸い込まれていく。

「さよならドクター、死なないで……」
「ってウォイ!!居たのか、ウーノ!?」

 ドクター道場のアシスタントである、戦闘機人No.1【ウーノ】。
 今回もブルマ姿で、彼の主人のお見送りに来ていた。

「……二度ネタになるけど、やんなきゃダメ……?」
「ハイ……。ドクターの遺言ですから」

 何て傍迷惑な遺言だ。

「……もうドクターじゃない。本当の名前も忘れてしまった…………ただの【三次元人】さ……」

 こうして物語は、終章に突入したのであった。












 あとがき

 >誤字訂正


 俊さん。毎度ご指摘頂き、本当にありがとうございます!







[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 54【変形する揺り籠!?至上最悪の悪魔の登場!!】
Name: satuki◆f87da826 ID:ced3a688
Date: 2009/11/06 10:46



 前回のあらすじ:スカ博士は、最後までネタを仕込んでた偉人。



 終わった。
 え?何が終わったって?
 全ての状況は終了した。そんな感じですたい。

 分かんない。
 分かんないって?
 どうしよう……。正直、あんまり詳しく説明したくないんだよねぇ?

 この説明にしたって、ただの現実逃避だし。
 あんな現実に戻りたくはない。
 誰だって苦手なことの一つや二つ、あるでしょう?

 そう。
 今の状況こそ、ボクにとっては鬼門の一つ。
 トラウマ……とまではいかないけど、恐ろしくて現実回帰したくもない、辛すぎる現実。

 ……良し。
 少しだけ冷静になった。
 だからちょっとだけ、現状を報告しよう。

 現在提督ズ+αの面々は、スーパーダイノージェットとグランジェットに乗って、ミッドのお空を徘徊中。
 眼下には先程まで破壊神や究極的なドラゴンが居た場所が広がり、その中央部には新たに巨大過ぎるクレーターが出現していた。
 その巨穴を瞬時に作り出した奴は、先程まで揺り籠と呼ばれていたモノ。

「シズカぁぁぁぁ!!立ち上がれ!この現実がどんなに辛いものであっても、逃げることは出来ない!!だから、だから……!」

 最初から全力全開の熱血オヤジ、前回中年の夢に辿り着いた漢【レジアス・ゲイズ】大将殿。
 まさに最初からクライマックスなこの状況に、彼はしっかりと付いてきていた。
 てか熱い。暑苦し過ぎる程に熱い。

《そうだよぉ……。せっかくの最終ステージなのにぃ、【ジョーカー】がそんなんじゃ、話にならないじゃないのぉ……?》

 数分前まで揺り籠【だったもの】から聞こえてくる、広域放送。
 クイーンの出現は、非常に素晴らしいタイミングで行われた。
 原作風に言うのなら、



 【なのは様のお仕置きタイム】
  ↓
 【スバ・ティアの突入】
  ↓
 【魔王や狸を回収して、ヘリに乗り込む】
  ↓
 ――――――――――――――――――――  
  ↓
 【クイーンの登場】



 と言った感じだった。
 つまり本当に最後の最後。全てが大団円に終わりました、というタイミングで出てきたのだ。
 どう考えても絶望タイムである。

 もしくは絶滅タイム。
 青年クロノにそう言って貰いたい位だ。
 まぁ言われたら言われたで、悲壮感が全く無くなってしまうのだが。



 ■■■■■■■■――――!!



 聖王の揺り籠はなのはたちの脱出が終了後、本来であれば衛星軌道上に達した時点で本局の艦隊に殲滅される予定だった。
 しかしそれは実行に移されなかった。
 理由は簡単。揺り籠がミッドを脱出しなかったから。

 そのままの流れなら、衛星軌道上までコースそのままで行く。
 だが揺り籠は突如、その歩みを止めた。
 そして浮遊も同時に止めてしまった。

 超の付く巨大質量の落下。
 場所が廃棄区画だったから良かったものの、あと少しズレていたら、間違いなくミッド最期の日になっていた。
 まぁ、まだまだその可能性は高いままであるのだが。



 ――■■■■■■■■!!



 咆哮だった。
 揺り籠から聞こえた、その大地を震わせる大音量。
 そして変化が訪れた。そう――揺り籠が変形を始めたのだ。

 前回【超機動大将軍】なんて冗談を言ったせいか。
 ある意味ソレ以上に凄まじいモノが降臨してしまった。
 何て言うか、その敵役――のデザイン元。

 紅い両肩。蒼い胸パーツ。頭部と腕部は白く、そこまでならちょっと悪役入ったギャンダムに見えないこともない。
 しかし。しかしだ。
 上半身の下に来るはずの下半身がなく、その代わりにあるのはぶっといケーブル(?)。

 そしてその下には、この揺り籠【だったもの】の異質性が顕著に現れる場所。
 蟹のような鋏……の超巨大バージョンを持った、亀の親分のようモノ。
 つまり鋏を持った亀らしきモノの顔の部分に、ロボットの上半身がくっ付いた状態なのである。

 更には触手にロボットの頭部が付いたようなモノが存在し、それが幾本も亀の甲羅らしき場所から生えている。
 ……認めよう。
 認めたくはないが、認めざるを得まい。

《せっかく永い年月を掛けて創った、この【デビルギャンダム】――――》

 よろしい、それでは殲滅だ。
 という風に出来たら、どれだけ楽なことか。
 確かにデビルなギャンダムは脅威だ。

 しかしコチラにもカードは幾つもあるし、何だかんだで熱血オヤジたちが根性で乗り切ってくれると思う。
 これは希望的観測ではない。
 過去の事実に基づく、未来予測だ。

 だから悪魔は大して怖くはない。
 怖いには違いないが、ソレ以上の恐怖という存在のせいで、恐れが薄れてしまっているのだ。
 
《楽しんでくれないと、困るんだよぉ。ねぇ…………【お兄ちゃん】?》

 悪魔のコックピットが開かれる。
 するとソコに居たのは、何本ものケーブルで繋がれた――まるでマリオネットのように吊るされた、一人の少女の姿があった。
 聞き覚えのある声。

 見たことがある容姿。
 そして……覚えがあり過ぎるほどに呼んだ、彼女の名前。
 そうだ。彼女は、彼女の名前は――

「…………【すずか】、だったのか。今回の【クイーン】の転生した姿は……」

 ボクとソックリの紫ウェーブの長髪。
 未だに男性的な変化のないボクと比較すると、DNAレベルで一致していると言われても不思議はない顔。
 あぁ、そうだ。あれは変装や変身魔法などではない。

 ボクには解る。
 血の繋がりがあるボクには、【アレ】が月村すずか本人だと理解出来てしまう。
 本能が。魂が。ボクをボクたらしめている、全ての要素が。

 彼女を――【月村すずか】だと認識している。

《そぉだよぉ……?とは言ってもぉ、記憶が戻ったのは、ジュエルシード暴走事件が終わった後のことなんだけどねぇ……♪》

 この場合の【ジュエルシード暴走事件】とは、すずかやはやてにジュエルシードが取り憑いた時のことだろう。
 そしてアレが【クイーン】覚醒の引き金だというのなら……やはり世界はクイーンの掌だということになる。
 偶然を装い、本人すら忘れていることをも利用し。

 最後には全て自分の思い描いたとおりに事を進める。
 策士にして、最悪の――神の如き【人間】。
  
「そうやってお前は……いつまでもボクの【妹】であり続ける訳か……」

 ジェイル・スカリエッティとの融合で思い出した、最後の欠片。
 それはクイーンとボクの関係だった。
 クイーンとボクは、親が同じ。つまりそれは――。
 
《違うよぉ……いつまでも【兄妹】の因果から抜け出せないから、この世界を自分の思い通りに造り替えるんだよぉ……》

 前世でも兄妹。
 その前もそう。
 さらにその前も……。

《……何でだろうねぇ?私はこんなにもお兄ちゃんがスキなのに……コンナニモアイシテルのニ……!!どうして……ドウシテ兄妹にしか生まれて来れないノ!!》

 強すぎる力を持つ者同士が、交じり合うことは危険だ。
 戦力の一極集中にも繋がるし、もし子どもが生まれれば、親以上に危険な存在に成り得る。
 だからボクと――ジョーカーとクイーンが結ばれることはない。

 よって何時まで経っても、【他人】にはなれないのだ。
 他人になれなければ、結ばれるコトもない。
 だから負の感情が積もっていく。

 本来正の感情から来る想いは、裏返って負の感情の溜まり場となってしまったのだ。
 つまり妹は――すずかはヤンデレに目覚めた訳ではない。
 生まれる前から、ヤンデレで【あった】のだ。























 うぞうぞうぞ。
 そんな気味の悪い音を立てながら、【顔付き触手モドキ】たちがダイノーロボたちに迫ってくる。
 実際はそんなに生易しくはない。もっと俊敏で、もっと強力な――凶悪な代物。

 口から光線を出したり、鋭い牙で廃ビルとかを噛み砕いていく。
 どう見ても、出演する番組を間違えている気がする。
 とは言っても、このリリカルな世界に様々なカオスを持ち込んだボクが、今更言うのもおかしな話ではあるが。

「……どうしよう」

 言葉では短く。
 しかし脳みそはフル回転。
 それ程までに今の状況はボクにとって衝撃的で、同時に十分予測出来た筈の未来でもあった。

 ゴウダイノーとマグナダイノーのスーパーダイノージェット時は、その操縦を行うのはボクである。
 故にこの思考は、操縦しながらのもの。
 普通に考えれば、それはかなり危険だ。

 実際。
 とっても危険だったらしい。
 同乗者たちの言葉を借りるのならば。

『シズカァァァァ!!ちゃんと操縦しろぉぉぉぉ!!』

 通信で何か叫び声が聞こえる。
 失礼な奴らだ。
 被弾は無いのだから、文句を言うのはおかしいだろうに。

『バレルロールなんて、こんな巨体でやるなぁぁぁぁ!!』

 別に良いではないか。
 かのアーノルド・ノ○マン氏は、戦艦でのバレルを得意としていたんだ。
 それに比べれば、ボクのやっていることなど、無茶の内には入らない。

「……それよりも」

 どうする?
 すずか=クイーン。
 そうすると、ボクは彼女を倒さなければならない。

 しかしボク【たち】は無限転生者だ。
 ここで倒せたとしても、いつかはまた闘わなければならない。
 つまり根本的な解決にはならない。

 確かに【今】倒せれば、【次】までに新たな策を考えられるのかもしれない。
 でもそれはあくまで、可能性の話。
 そう出来るという保証は一切ない。

 それにそれは、倒せ【たら】の話。
 倒せるのか……?
 ボクに――月村すずかの【兄】に。

《フフフ……つかまえたぁぁ♪》
「はぃぃぃぃ!?」

 ロボ面付きの触手をかわしつつ、空いたスペースを目指していたダイノージェット。
 しかしソレは予想された動きだったのか。
 それともボクは、追い込まれただけだったのか。

 どちらかは分からない。
 ただ事実として、ダイノージェットはデビルギャンダムの両掌に収まっている。
 つまりそれが、今の現実なのだ。そしてボクが某【舞姫】チックなアニメの主役、のような奇声を上げてしまったのも、また事実なのである。

《お兄ちゃん……お兄ちゃん!》

 ヤンデレ妹に愛され過ぎて、戦闘が出来ません。
 つかそれ以前に、戦闘するかも決められませんですたい。

《あぁ……すずかの、お兄チャンだァ……》

 恍惚の表情で言う、クイーンすずか。
 見えない。見えないよ?
 だがしかし。相手の表情が見えなくても、過去の経験則で分かってしまうこともあるのだ。

《アレ?………………………………【アノオンナ】のニオイがする》

 【あの女】というのは、カリムのことだよね?
 だったらそれは正解だ。
 何たってこのジェットの中には、その匂いの持ち主がいるのだから。

《オニイチャンの……体中に、ついてる……ワタシの、ニオイ、つけたハズなのに……!!》

 嘘を言わんで下さい。
 そんなことをこの、【最終局面】というシリアス場面で言うと、皆に誤解されちゃうでしょうに。
 第一このジェットの中には、他にも人が居るんだよ!?どうしてカリムの匂いだけ、ピンポイントで分かるのかな!?

《あぁ……ああぁ……!!》

 悪魔の――デビルギャンダムのダイノージェットを握る力に、熱が籠もり始める。

《ああああぁ!あああああああぁ~~~っ!!》

 メキメキと。ミシミシと。
 破滅へと繋がる音が、外壁から聞こえてくる。

《もう、イヤ、嫌ぁぁぁぁ!!こんな残酷な世界ハ……もういヤぁァぁぁ!!》

 バキバキと。
 ボキボキと。
 非常に破滅的な音を立てて、ダイノージェットはダメージを負っていく。

《つくリかエル……世界ヲ、正シク、作り替えるノ!!》

 成る程。
 【新世界の神に成る!】発言ですね?わかります。
 でも残念!!それは負けフラグだから!!【言った後には、逆転負け】斬りぃぃぃぃ!!

《ワタシと……【オニイチャン】だけの、正しい、世界へト……!》

 逆転の発想かい。
 世界に二人しか人間が居なければ、そこには家族だとか関係ない。
 というか、言ってられない。

『シズカさん。あの人は、あの娘は……!!』
「あぁ……。家の娘――ボクの妹だよ」

 この中で、唯一【キモウト】モードのすずかと面識のあるカリム。
 そんな彼女だからこそ、事の成り行きを冷静に受け止めていた。
 いや。表面上【だけでも】、冷静になれていた。

『でも……!すずかさんは、地球に居て……ココに居るのはおかしいわ!!』

 通信に割り込んでくるリンディ嬢。しかし分かってないな、リンディ嬢は。
 すずかは【クイーン】だったんだよ?
 そんなこと、彼女には関係ないのだ。

『どうするのですか、シズカさん……?』
「…………それは《ミツケタ……カリム、サン……》!?」

 ボクとカリムの通信機越しの会話に割り込む、クイーンすずか。まるでホラー映画だ。
 いや。それを実体験でやられると、それ以上に怖い。
 これならまだ、【冥土ノ土産】で駆け抜けていた戦場の方がマシだった。

《どうしてアナタハ……ワタシのタイセツナものを奪おうとするノ……?》
『……わかりません。そんなこと……』

 超展開過ぎる。
 そんな飛躍した話が出来るクイーンも凄いが、それに付いて行けるカリムも凄い。
 流石に、人間を止めてるだけはある。

《ワタシなんかよリ、十年以上モ、あとカラ割り込んできたくせニ……!》
『……そう、ですね』

 カリムの表情は硬い。
 それは今、会話している相手の説得が不可能だと分かっているからか。
 それとも別の思惑のせいか。

《ほんノつい最近、ちょっと気が変わっただけなのにィ!!》
『……弁解、しようがありません……』

 頼むから、当事者を抜きにして話を進めるのは止めて欲しい。
 なんか何時の間にか、カリムがボクの恋人【ポジション】で話が進められている。
 マテや。確かアンタは、【婚約者】だったハズだろ?

《イラナイ……アナタが一番、イラナイ……!!》

 スーパーキモウト人の覚醒です。
 勘弁して下さい。
 もう表情筋と涙腺、それとダイノージェットが崩壊寸前だよ。これ以上は、レッドゾーンの領域なのに!!

《コレで。これでカリムサンは……終ワリだよぉぉぉぉ!!》

 今まで以上に両手に力を入れるデビルなギャンダム。
 ……って、オイ!!ちょっと待て!!それじゃあ、カリムだけでなく、ボクまで終わりだよ!?
 どんだけ本末転倒なんだよ!?

『そうは……させない!!』

 ダン!ダン!ダンッ!!
 三連のミサイルが、デビルギャンダムの腕部に炸裂する。
 
《ァァァァァ!?ダレ!誰なのヨ!!》

 思わぬ攻撃。
 威力は大したことがないものの、関節を正確に狙い撃ったその一撃一撃。
 それはデビルギャンダムの掌から、ダイノージェットを取り落とさせるのに十分なものだった。

『如何に執務官長の妹さんだとは言え、今のキミは――――我々の止めなければならない相手だぁぁぁぁ!!』

 グランダイノーが――ジェット形態のグランダイノーが、デビルギャンダムに向かって突っ込んでくる。
 そしてギリギリまで近付いてミサイルを発射。
 同時に上方へ機体を押し上げ、ヒット・アンド・アウェイ。

 惚れ惚れする程の、教科書どおりの戦い方。
 それを教えたのはボクであるのだが。

「クライド少年……」
『何をしているんですか!!』
「……え?」

 予想外の台詞。
 想像範囲外の叫び。
 弟子から師へのその一言は、本当に考えてもいなかった一撃。

『あなたは――――【シズカ・ホクト】は、そんなにも弱い人間だったんですか!?』
「!?」
『違うでしょう!?いつものあなたなら、こんな局面……鼻歌交じりに乗り切ってしまうでしょうに……!!』

 ガツンと来た。
 まさかまさかの一撃は、ボクをノックアウトしそうな威力だった。
 それ程までにボクは、【らしく】なくなっていたのである。

『手がないのなら、考えれば良い!隙がないなら、作れば良い!解決する方法が浮かばないのなら――――』
「…………生み出せば良い」
『そうです!そうでしょう!?これは全て……執務官長が教えてくれたことではないですか!!』

 そうだ。
 そうだったよ。
 妹が相手というコトで、すっかりペースが乱れていたが、ボクの本性は真面目クンではない。

 いつも飄々として、相手の裏を掻いて――それで相手が【予想外の一撃】でやられる顔を楽しみにする、【イヤな奴】。
 それだ。
 それこそが、ボクの本当の姿じゃないか。

「(……すずかのことは、闘いながらでも考えられるじゃないか……)」

 だがその前に撃墜されてしまったら、元も子もない。
 【たら・れば】の台詞を吐く訳にはいかない。
 だったら今は――――相手と同じ土俵に立たなければ!!

「……ありがとう、クライド少年」

 激励を受けて、師は再び立ち上がる。
 激の中に籠もった想いをも力に換えて。
 その力で、新たな【力】を創造する。

「キャリブレーション取りつつ、ゼロモーメント・ポイントおよびCPGを再設定……」

 実は未完成なプログラム。
 あらしのあほんだらのせいで、作業を途中で切り上げてしまったのだ。
 だけどデビルなギャンダムに対抗するには、そのプログラムの完成が必須である。

 ならばどうすれば良いか。
 簡単だ。ないのなら創れば良い。
 今ないのなら、【次の瞬間】にはあれば良い。

「……ちっ! なら擬似皮質の分子イオンポンプに制御モジュール直結、ニューラルリンゲージ・ネットワーク再構築、メタ運動野パラメータ更新、フィードフォワード制御再起動、伝達関数コリオリ偏差修正、運動ルーチン接続、システムオンライン、ブートストラップ起動!! 」

 グランダイノーは既にプログラム搭載済み。
 なら後は、ゴウダイノーとマグナダイノーへのプログラム搭載・及び書き換えが終われば。
 それさえ終われば、事態は次の段階にシフト出来る。

「CPG設定完了、ニューラルリンケージ、イオン濃度正常、メタ運動野パラメータ更新、原子炉臨界、パワーフロー正常。全システムオールグリーン。ストライクフリーダ……じゃなかった!【超根性合体】プログラム……起動!!」

 スーパーダイノージェットでアクロバティックな機動をしつつ、手元の端末でプログラムを組み上げる。
 コーディネートされた人類に出来て、ボクに出来ない訳がない。
 だからやった。そして――状況は変わった。

『これは……!』
『……何なんだ、これはっ!?』
『執務官長……やりましたね!!』

 ザッフィー、ゲンヤ。そしてクライド少年から届く、それぞれの声。
 驚き。驚き。若干の驚きを伴った歓喜。
 彼らの持つブレスとチェンジャーが光を放つ。

「良しっ、準備は完了!!さぁ出番だぞぉ……ザフィーラ!!」
『……承知!』

 渋いヴォイスを響かせ、スーパーダイノージェットは分離し、即座にゴウダイノーとマグナダイノーに変化する。
 同時にクライド少年の乗る、グランダイノーも人型へと変形する。
 非常に格好良い機体なのだが、その単体での活躍は今日はお預けにさせて貰おう。

「みんな、ブレスのボタンを!!」

 ブレスを持つ全てのクルーに、ボクは伝達する。
 そこには提督ズとゲンヤ・クライドの他に、新規メンバーのプレシア・リインフォース、そしてゼストの姿もあった。
 全員着席済み。ならばやることは、ただ一つのみ。

『行くぞ、皆……!!』
「「「「「「「「「応!!」」」」」」」」」

 カリムとレジアス。ゲンヤとクライド少年。
 その二組が腕を合わせ、そしてザフィーラが一人で登場。
 最後にはゲンヤとクライド少年が、ザフィーラとダイノーチェンジャーをトライアングルに合わせる。

 見える。
 見えるぞ!
 ボクには―― 子どもの心を持った大人には、その光景が見えるぞぉ!!

『キングゴウダイノォォ――――超・根性合体!!』

 ダイノーロボ三体が揃い踏みし、宙でその身を分割させる。
 まるでパズルのような光景。
 マグナダイノーの腕部と脚部が合体し、ゴウダイノーの足裏にくっ付く。

 さらにその脚にグランダイノーの胴体が下半身として変形し、合体する。
 下半身とゴウダイノーの胴体が接続、既に合体を終えた新たな腕部が接合。
 最後にグランダイノーのトリケラトプスヘッドが胸に、新たな【王冠】がゴウダイノーの頭に被さる。

 諸兄にはこの合体の間、何故か熱いテーマソングが聞こえただろう?
 それは当然だ。
 何故なら、クルー全員で熱唱していたからだ。

 この日の為に用意した、各端末専用のマイク。
 若干オッサンたちがシャウト気味だったせいか、女性陣が負け気味だったが……それはそれで良い。
 とにかく歌が聞こえたのは幻聴なんかではない。安心したかい?

《……そう。オニイチャンは、またワタシと闘うンダ……》
「……うん。そういうことに、なっちゃったねぇ?」

 ファーストフェイズ終了。
 次の問題は、【すずかをどうするか?】である。
 機体ごと叩き斬る?内部に侵入して、すずか本人だけを滅する?

 ……いや。相手は【あの】クイーンだ。
 いざとなったら、気が付かれないタイミングで脱出してしまうだろう。
 それ程に策士。そして策士を上回るには、それ以上の策か【奇策】が必要。

「(考えろ。考えるんだ……!)」

 向こうさんが脱出する方法は、幾つか存在する。
 物理的に脱出する場合。転送魔法で脱出する場合。
 でも転送魔法での脱出は不可能だ。

 何故なら、現在この空域にはデビルギャンダムの出す超強力なAMFがある。
 それが存在する限り、こちらは元より、【本人】ですら魔法を行使するのが不可能となるのだ。
 ……では他の方法は?

 物理的→魔法的と来れば、最後に来るのは【それ以外】の力での脱出となる。
 それ以外。他にどんな力があると言うのだ?
 クイーンならではの【その他の力】。

 クイーンにあって、普通はないもの。
 ……ダメだ。
 考え付かない。

『ウォォォォォォォォ!!』

 キングゴウダイノーは、ボクが思考中でも頑張って闘っている。
 ザッフィー以下、パイロット組の奮闘のお陰だ。
 ボクはジェット機の操縦時以外は司令室にいるお陰で、こうして考え事に集中出来るのだが。

「(……発想を変えてみるか。もしもボクがクイーンの立場だったら――すずかだったら、どう考える?)」

 ボクだったら物理的・魔法使用以外に、デコイ(囮)の使用を考える。
 囮という手段は、古今東西に於いて非常に有効な手段である。
 
「(あと場合によっては、あらしを残して覇王が脱出とか……って、それは酷過ぎ、る、か……!?)」

 閃いた。閃いてしまった。
 確証はない。
 でもたぶん正解だ。

《オニイチャン、ムダダよ……?例えココでワタシを倒しても……またいつかハ同じことをヤルんだかラ!!》
「……だからと言って、ボクが考えも無しにここまで来たと、そう思ってるかい?」
《……エ?》

 凍りつくすずかを見て、ボクはこの策がイケルことを確信する。

「偉大なる先人、アバン・○・ジニュアール三世が生み出した技――【空絶斬】!!これなら身体に傷を付けずに、【負の部分】のみを斬れる!!」

 小学生の時、雨の日に友だちと【アバンス○ラッシュ!!】ごっこをしたのは、今となっては懐かしい思い出。
 しかしそれは、【シズカの剣】を手に入れてからは夢ではなくなった。
 夜も寝ないで昼寝して、とうとう現実のものに出来た時の感動は、筆舌尽くしがたい。

《ナ、ナニヲ言ってるノ?そんなこと、出来るハズがないじゃないノ……?》

 そんなモノはない。
 そう自分に言い聞かせるクイーン。
 ……そうか。【彼女】を滅する手段は、ちゃんと存在したんだ。

「ボクを舐めるなよ?何たってボクは、不可能を可能にするオトコなんだからねぇ……?」

 シズカの剣を手に、ボクは司令室での自席を立つ。
 これは賭けだ。
 上手くいけば【クイーン】と呼ばれた存在を滅することが出来、そして失敗すればミッド最期の日になる。

 当たりだろうとは言ったものの、それでも確信はない。
 だから震えが止まらない。
 今からすずかの――クイーンの前に出て、ちゃんと演技が出来るだろうか?

 この土壇場まで来てそんなことを考えてしまう自分は、本当に心臓が小さいらしい。
 剣を握る手がカタカタと震えている。
 止まらない。止まらない。止ま――った?

「……シズカさん」
「カリム……」

 震えが止まった。
 それは物理的な干渉のせい。
 騎士カリム・グラシアの両掌による、ボクの左手のホールドのせいだった。

「(……!?カリムは今、コックピットにいる筈だよねぇ?どうやって一瞬でココまで来たんだ!?)」
「流派東方腐敗に、不可能はありません」

 ご尤も。
 確かに人間を、軽く超越してるしねぇ?

「それよりも……」

 騎士カリムは真剣味を帯びた瞳で、ボクをまっすぐに見据えている。
 本当に真面目モードのようだ。
 心して聞こう。

「貴方の、為すべきことを……」
「……ん」

 不思議だ。
 たったこれだけのやり取りなのに、ボクの恐れは取り払われていた。
 恐るべし、カリム・グラシア。まさかこのような業を使えたとは!!

「……シズカさん。帰ったら――――全てが終わったら……」
「終わったら?」
「……何でもありません。ただちょっと、言いたいことが有りますからね……?」

 なんじゃらホイ。
 もしかしてお説教かな?
 今まで、散々引っ掻き回したからなぁ……?

「もう……。本当にシズカさんは――執務官長は、鈍いわねぇ……?」

 ふと周りを見ると、ニヤケ顔のリンディ嬢。
 声にこそ出さないものの、彼女と似たような表情でコチラを見ている面々。
 何だって言うんだ?何がそんなに、面白いんだ?

「……よく分かんないけど、微妙に不愉快だからもう行く!」

 震えは止まった。それには感謝だが、あまり時間はない。
 だから行かなければならない。
 妹との永きに渡る因縁を――因果の鎖を断ち斬る為にも。










 ――プシュゥゥゥゥ!!



 エアロックが解除され、目視で禍々しい機体と――直にデビルギャンダムと対峙する。
 丁度キングゴウダイノーの首筋辺りから出てきたので、同じ視点の高さにすずかが居た。
 ケーブルで固定されたその身体。あどけない笑顔は歪んだ笑みに変わっているが、その姿は紛れもなく【月村すずか】だった。

「クイーン」
《お、オニイチャン!》

 悲しい再会だ。
 地球での一件以来、特に今度会った時はすずかと過ごす時間を大事にしようと思っていたのに。
 そんな決意は、こんなにもアッサリと崩れてしまった。

「……いくよ?」
《マッテ!オニイチャン、すずかのコトがキライにナッチャッタの!?》
「……好き、だよ……?」
《な、なら……!!》

 狼狽するクイーン。
 まるで藁にも縋るような彼女。
 しかし希望はない。そう【思わせなければ】、ボクに勝機はないのだから。

「だから……だからこそ、ココで【オマエ】を倒す。【すずか】という存在の為にも――――これ以上、【クイーン】という存在に、【すずか】を穢されない為にも!!」
《!!?》

 シズカの剣を逆手に構える。
 別に逆手である必要は無いのだが、この方が気持ちが入りやすい。
 眼に見えない【負】の部分を斬り、それ以外は斬ることのない業。

《どうして……!ナンデ!?ワタシだって、イモウトなのに!!すずかと同じ、ソンザイなのニ!!》
「……違うよ」

 クイーンの叫びは、ボクには届かない。
 だって彼女は【すずか】じゃない。
 すずかと同じ姿をした、別のモノなのだから。

「家のすずかは、幾らお兄ちゃん大好きっ子でも、ここまではしない」
《……?》
「確かに兄妹喧嘩が行き過ぎて流血沙汰になったことはあるけど、それでも世界中に迷惑を掛けるようなことはしない!!」
《!!!!》

 それは明確な違いだ。
 すずかはクイーンではない。
 クイーンの一部が、すずかなのだ。

「もう、良いだろう……?なら――――いくぞ!!」
《チィィッ!!》

 構え、そして放つ一撃。
 光はデビルギャンダムに吸い込まれるように一直線に進み、装甲とぶつかる。
 斬、残、懺。

 斬られた装甲の中からパイロットが――すずかの姿が放り出された。
 これで彼女を護る鎧はない。
 この一撃。この一撃で、全てが決まる。

《ココで、ココでヤラレル訳にハ、イカナイのよォォォォ!!》
「いくぞ、クイーン!これが――――【空絶斬】だぁぁぁぁ!!」

 一閃。
 煌きを伴ったその一撃は、宙に放られたすずかの身体に向かって飛んでいく。
 五、四、三……!!

《逃げナクチャ!逃げなくチャ!!》

 攻撃が着く寸前に、すずかの身体から【何か】が出た。
 まるで蝉の脱皮のようにすずかの身体から分離したのは、これまたすずかと同じ姿をしたものだった。
 それはすずかの真上に出現し、そのまま上方へ飛んでいく。

《ワタシは死ネないノ!!お兄チャンとのシンセカイの為ニモ……!!》

 クイーンは見捨てたのだ。
 己の分身を。
 己という【負】の部分を逃がす為に、【それ以外の部分】を――【月村すずか】を見捨てたのだ。

「…………計画通りぃぃ」
《……ハ?》

 完璧に、悪役的な笑み。
 これではどちらが悪役は、分かったものではない。
 ……アレ?前にも同じようなことをしたような気が……。気のせいか?

「ありがとよぉ!!コッチの思惑通りに、動いてくれてさぁぁぁぁ!!」

 すずかに命中する筈だった、ボクの一撃。
 それはすずかに当たる直前で、その軌道を真上に変更した。

《そ、ソンナァ……!?ドウシテ、どうしてワタシに当たるノ……?》

 すずかの上には、【負】の部分として分裂した【クイーン】が居た。
 つまり直角に曲げられた一撃は、クイーンに命中したのだ。

「簡単な話だよ。クイーンはヤバくなったら、絶対に逃げると思ったから。それだったら【空絶斬】なんて業、使えなくても何とかなるしねぇ……?」
《ウソ……嘘だったノ!?》
「現在練習中であることには変わらないよ?ただ、負の部分【だけ】を斬るなんて器用な芸当、まだ出来ないだけだから♪」

 負の部分も含めて【完全滅殺】の攻撃なら、既に完成している。
 でも負の部分【だけ】を斬ることは叶わず。
 しかし必要なのは今。

 足りないのなら、あるように見せれば良い。
 これこそがペテン師の基本。
 【ジョーカー】の本質であるのだ。

「ま、本来ならコレだけじゃ弱い。普通の人間ならともかく、ボクたちは【特別製】だしねぇ?」
《……?》

「だから使わせて貰ったよ、ボクたちのみに有効な――【三次元人】のみに有効な、【イノセントウェーヴ】を!!」

 対三次元人用特殊サポート機器。
 通称【イノセントウェーヴ発生装置】。
 別にGが三つ並ぶ正義の組織のような勇者ロボでもなければ、それ専用のツールでもない。

 元々はボクたち三次元人を、どうすればこの世界の標準的な人間と同クラスの存在までに【堕とせるか】を研究する段階で生まれたモノ。
 強過ぎる力は災いを呼ぶ。
 災いからは生まれるものが少な過ぎる。

 だから考えた。
 しかし完成前にボクが【分割】してしまったせいで、そこで頓挫していたが。
 さっき作っていたプログラムの中盤部分は、この装置の中身。

 つまりジェットの操縦と合体プログラム。
 さらには装置をも作っていたことになる。
 見たか!スーパーコーディネーチャンよりも優れた、三次元人の力!!

「この装置を使えば、ボクたちは【二次元人】に変換される。なら後は、ただ【斬る】――――それだけだよ!」

 酷い。
 最終決戦で見たこともない決戦兵器が登場するなんて、一体いつの頃の作風だろうか?
 色々と前提条件を整え、そしてさりげなく伏線として登場させておく。

 そんな配慮を気持ち良くスルーした、この展開。
 一応チラホラ伏線【らしきもの】はあったものの、果たしてあれらは伏線と呼べる代物だっただろうか?
 ……良いんだ。こういうインチキらしい手法が、ボクの本質でもある訳だし。

《ワタシは消えるノ……?オニイチャンと、結ばれルことナク……?》
「……ゴメン。でも因果は消えた。それすらも【斬った】。だから……」

 全てを斬る。
 それならば、因果すらも斬れることになる。
 何とも物騒だが、そのおかげで少しだけ希望が見えた。

《……そう。だったら今度こそ……今度こそ、お兄ちゃんと恋人になってみせるんだから!!》
「…………そうだねぇ?また【今度】――――次に会った時は、そうなるかもしれないね?」
《うん。絶対、絶対そうなってみせるから!!》

 霧散するクイーン【だった】モノ。
 光の粒子となって天に昇っていくその姿は、蛍のように綺麗で、そして悲しい光景だった。
 永い月日を兄妹として過ごした存在は、今後どうなるのか?

 もうこの世界に神【の如き存在】は居ない――ボクと言う例外を除いては。
 そのボクにしたって、イノセントウェーブを使う予定だ。
 これでこの世界からは、【異端】は消える。漸く消える。やっと……消えるのだ。






「……さぁて、気を取り直して!!」

 しんみりとした空気を払拭すべく、ワザと大きな声で言うボク。
 まだ終わりじゃない。終わりじゃないから、やらねばならないコトが残っているのだ。

「よっ……と!!」

 宙を浮かぶ【すずか】をホールドし、キングゴウダイノーへ戻る。
 医務室は変形後も存在する。
 そこのベッドにすずかを寝かせると、館内放送でコックピットのパイロット組と連絡を取る。

「ザフィーラ、皆――!!」
『……言葉は不要。ただ――――【斬る】のみ!!』

 【盾の守護獣】という字を持ちながら、鋼の軛(くびき)なんていう攻防どちらにも使える業を持っているザッフィー。
 デカマイスターになった時から、段々剣持ってるのが違和感なくなっていたが……まさかここまで板に付くとは。
 こんなのは正直、誰も予想していなかっただろう。

『キングゥ、ブレイドォォォォォォォォ!!』

 ダイノーチェンジャーが銃型に変化する。
 三丁の銃から射出されるのは、(年齢的には)オヤジたちが放つ、最後の一撃。
 天に向かって放たれたその一撃は、雷となって地に戻ってくる。

 地を割る。
 地面が割れていく。
 真っ二つに裂けていく大地。マグマの底から現れ出でるのは、一振りの――超絶巨大な両刃の剣。

 先端が三叉に分かれた、珍しいデザインの剣。
 しかし格好良い。
 流石はキャスバルが製作し、最終工程をボクが担当したモノ。

 漢の夢を剣に変えたら、その一つの完成形として辿り着く姿。
 それを創ったという自負は、確かにあった。



 ――■■■■!!



 クイーンと言う【核】を抜かれたデビルギャンダムは。それは当然の如く、暴走し始めた。
 止める。倒す。破壊する。
 それがミッドを――――この世界を護ることになるのだから。

『ダイノォォキィィングゥ、フィィィィィィィィッシュゥゥ!!』

 斬。
 断。
 転。宙でクルッと前回りし、爆発を背中で受ける。

 破壊された悪魔。
 顔面付き触手は全て自壊し、大型の鋏を備えた亀の部分にも罅が入っていき――そして崩れ去った。
 残ったのは、ロボット部分の上半身のみ。

 そのロボット部分にしたって、既に装甲は殆ど剥げ、アイカメラには電気が通っていない。
 それは事実上の【終わり】を意味していた。
 終わった。終わったのだ。

『根性最強ぉぉぉぉ!!キィィング、ゴゥダイノォォォォォォォォ!!』

 キングブレイドを地面に突き刺し、決め台詞を叫ぶザフィーラ。
 多分彼が【造られてから】、今が一番輝いている時だろう。
 不遇の犬。犬。えっ?犬じゃなかったの?とか言われ続けた月日は――今日の為の肥やしだったのだろう。

『(……生きていて良かった。これであと、八十年は闘える……!!)』

 後年彼が記した自著、【ザフィーラ列伝】から抜粋されたこの台詞は、多くの男性読者の涙を誘ったそうな。






 余談だが。
 活躍が全く描写されなかったガンナー少女の闘いについては、変態ロボの殉職や、意識不明の兄が華麗に復活したなどの未確認情報が入ってきている。
 そしてただのヘリパイロットだった男が、「君の存在に心奪われた者だぁぁぁぁ!!」とか言って乱入したなどとも言われているが――真偽の程は定かではない。












 あとがき

 >誤字訂正


 俊さん。毎度ご指摘頂き、本当にありがとうございます!
 前回はいつもよりも多くて、ご迷惑をお掛けいたしました!!



















 次回予告



 時空管理局本局に回収されるデビルギャンダム。
 静香はそれに同行し、そんな静香を待ち続けるカリム。
 事態は終わった。

 終わった【かのように】見えた。
 しかし最後の闘いは、まだこれからだった。



 次回【デビル管理局始動!】を、皆で見よう!!(飛田ヴォイスで)










 追伸:ワルノリが過ぎたかもしれませんが、どうかご容赦を。
    あと予告の内容は、変更される可能性がございますので、ご了承下さいませ(笑)。






[8085] リリカル・とらいあんぐる転生日記 55【ラスト・ラストをキミに……】
Name: satuki◆f87da826 ID:8181284b
Date: 2009/11/06 10:47



 前回のあらすじ:遂に登場、超根性最強ロボ。



 終わった。
 ようやく終わった。
 え?前回の冒頭とそっくりだって?

 大丈夫!今回の【終わった】は、安心的な意味での【終わった】だから♪
 決して【○○終了のお知らせ】とかではないので、どうぞご安心下さいませ。

「(これで……あとはボクだけか)」

 クイーンは居ない。
 そして他の【最初の】シャッフルも、既にこの世には存在しない。
 だから――あとは本当に、自分だけという状況なのである。

「(いつ、【堕ち】ようかなぁ……?)」

 三次元人の二次元人化。
 既に手段は出来ている。
 異物は排除されなければならない。

 強すぎる力は、災いを呼ぶ。
 それは今回のクイーン暴走事件で、イヤと言う程証明された。
 もう人間は――人間【たち】は、自分たちの手を離れた。

 良い機会だ。
 これを【最後】にしよう。
 もう【三次元人】は終わりだ。次からは――今回の【途中】からは、ただの二次元人として生きて……そして死のう。

 未練がない訳ではない。
 しかしそれ以上に、妹や仲間との日々が大切だった。
 だから生きる。自らを【堕として】。

「……シズカ。本局がデビルギャンダムを回収するそうだ……」

 現在地は地上本部の会議室。
 そして今の発言は、議長であるレジアスから漏れたモノ。

「ハァ!?ちょ、ちょっと待って!?いくらもう壊れたと言っても、【アレ】は危険すぎる代物なんだよ!?」
「あぁ、それはオレも分かっている。しかし【アレ】の構造やデータは、これからの発展に必要不可欠とか言って、開発部門が煩いらしい」

 レジアスの説明を、ボクは呆れながら聞いていた。
 確かに科学者というモノは、得てしてそういうトコロがある。
 それは知識欲にも似ている。

 しかし大抵の場合、未知のテクノロジーを解析しようすると――待っているのは【暴走】か【大失敗】だ。
 そしてそれが引き金になり、さらなる異常事態が……って考えたくなぁぁい!

「つまりアレか?ボクに監督として付いて行けと?」
「……妹さんがあんな状況で、お前には申し訳ないと思うのだが……」

 すずかの側にいてやりたい。
 それは心からの願いだった。
 今度こそ新たなスタートを切る為に、妹の目覚めに立ち会う。そんで一番に【おはよう】と言ってやる。

 ちっぽけだけと、とても大切なこと。
 でもそれは……どうやら今回も、出来そうにない。

「わかってるよ。ボク以外に、【アレ】を理解出来るモノは居ないからねぇ……?」
「…………済まない」

 これはボクにしか出来ない。
 だから自分がやるしかない。
 わかってる。わかってはいるのだが……それでも悔しい。

「カリム」

 この会議には、現役将校は殆ど揃っている。
 だからボクの隣にカリムが居るのは、ある意味当然のこと。

「すずかのこと、頼んだよ?」
「……ハイ。お任せ下さい」

 【あんなこと】があったばかりだというのに、カリムはコチラのお願いを聞いてくれた。
 責任感が強いのも確かだろう。
 しかし今のカリムは、何かそれ以上の感情が感じられるような。

「うん。悪いけど……頼むね?」

 だけど聞けない。
 分からないけど、聞いてはいけない気がする。
 何かこう、ボクには理解出来ていない感情な気がするから。

「あ、そうだ。カリム、帰ってきたら話があるとか言ってたけど……何のこと?」

 ずっとシリアスムードが続いたせいか、カリムに言われてたことをすっかり忘れていた。
 もう帰ってきたんだし、何の話か聞かせてもらっても良いだろう。

「エ……!?そ、それはそのぉ……」

 何だ、この生物は?
 騎士カリムが、まるで【思春期御嬢】みたいに変態しているではないか。
 何を思ったのかは不明だが、身体をくねらせて頬を紅く染めている姿は……正直別の生き物に見える。

「……シズカ、察してやれ」
「鈍いわねぇ、シズカさんは?」
「執務官長……鈍いと言われた、自分でも分かりますよ?」

 レジアス、リンディ。そしてクライド。
 三人の波状攻撃が、ボクに――【静香】に突き刺さる。
 ジェットストリーム的な攻撃ですか。なら……踏み台にしてやる!!

「やかまし。散々リンディ嬢を梃子摺らせて泣かせた、クライド少年には言われたくないよねぇ?」
「……申し訳ありません!調子に乗りすぎましたー!!」

 ドーンと黒い影を背負うクライド少年。
 キミたちの仲を取り持ってやったの、誰だか忘れてないよね?

「な、何でもないんです!?後日でも良い用件なので!!」
「そう?なら別に良いんだけど……」

 珍しく慌てた様子のカリム。
 最近、【東方腐敗なカリム】や、今のように取り乱したカリムを見るが……何か、今までの印象が変わってきているなぁ。
 悪い訳ではないんだけど、純粋に驚く。ただそんな感じ。

「まぁ、なるべくはやく用事を済ませてくるから、すずかをヨロシクねぇ?」

 こうしてボクは、本局の艦船と共に本局へ向かった。
 デビルギャンダムの残骸という、厄介なおまけ付きで。
 そしてコレが、新たな――本当の意味での【最後の事件】になるとは、想像もしないで。






















「はじめまして、月村提督!自分は【マリエル・アテンザ】技術主任であります!」
「どもども。はじめまして、【月村静香】です」

 元祖メガネっ子が出現した。
 MAD。MADだ。
 酢飯娘を越えるマッドが、今目の前に存在している。

「……で。キミたちが、【アレ】を研究したいと言い出したのかい?」
「ハイ!確かに危険な兵器だとは思います。しかしそこからフィードバック出来ることは、きっと今後の為にも……」

 予想通り。
 全く予想通りなだけに、却ってつまらない。
 まぁこういうのに、【オモシロさ】を求めてはいけないんだけどね?

「本当は許可したくない。【アレ】は人の手に負える代物じゃ、ないからねぇ……?」

 ロストロギアの危険度が、マックス【以上】の危険度。
 下手をすれば次元震では済まないだろう。
 まさしく【ミッド崩壊のお報せ】に為りかねない。

「しかし。既に許可が下りている以上、そうも言ってられない。だからキミたちは、ボクの指示に従うこと」

 だが危険を恐れて、【別の危険】を呼び出す可能性も高い。
 だったら自分が管理し、その下で作業をした方が百倍マシなのだ。

「ハ、ハイ!!」

 流石に常に上官が監視する中、余計なことはしないだろう。
 結果的にボクの目論見は成功した。
 しかし、それ以外の【アクシデント】を見抜けなかったのは、やはり自分の責任なのだろう。

「それじゃあ、作業を開始する!」
「「「「了解!」」」」

 マリー嬢の部下数名と、彼女自身が動き出す。

「先ずはケーブルを接続。でも絶対に、電力ケーブルは繋がないこと!」
「ハイ!」

 電力はもっとも都合の良いエネルギー源だ。
 逆に言えば、それだけ危険を孕んでいるとも言える。
 だから、絶対に繋がない。

「次にデータの吸出し。この時微量だけど電力が流れるから、内部の熱反応に気を配って!」
「分かりました!!」

 次々と収集されていくデータ。
 確かにこれらのデータには、危険を冒しても手に入れる価値があるだろう。
 次世代はおろか、数世代は先の技術。

 これがあれば、ヒトはさらに先に進める。
 今までは救えなかった人たちが、救えるようにもなる。
 だけど……それは同時に、傷付かなくて良かった人たちが傷付くことにもなる。

「(わかってるさ。矛盾だってことは……)」

 この段階に人間が【自ら】来たのなら、文句はない。
 だが今回は、そうではない。
 だから……何かが起こる。すぐ先かもしれないし、数年後……もしかしたら数十年後かもしれないが。

 ヒトは罰を受ける。
 自らの手に余るものを【借りた】ことで。
 それは虎の威を借る狐であり、その報いはいつか受けることになるだろう。

「(……ま。そうならないように、ボクが気を配らないとね……?)」

 クイーンの残した痕は、兄である自分が背負い、そして癒していく。
 兄妹って、そういうモンだしね?

「(……って、イカンイカン。どうも真面目すぎるよなぁ……?)」

 こんなの、ボクのキャラじゃない。
 もっとかる~く。そして飄々と。
 これがボクの本性でしょうに?

「提督!これより最終フェーズに入ります!!」
「了解、了解。始めちゃってー」

 最後まで油断は出来ないけど、これなら大丈夫そうだ。
 九十八、九十九……百パーセント。
 作業は終了した。さーて、とりあえず一服しますかぁ。



 ――バンッ!!



「停電!?」

 作業が終了した、その瞬間。全ての電子機器がストップした。
 照明は非常灯を残して全滅。
 PCも全てディスプレイがブラックアウトし、本体の方も停止する。
 
「……イヤ~な、予感がする……」

 どう見てもコレは、良い感じがしない。
 むしろ嫌なことが起きる前兆にしか思えない。
 それ以外に思える奴が居るのなら、そいつの脳みそはさぞかし幸せな構造をしているのだろう。



 ――ブゥゥゥゥン



 何かが起動した。
 その駆動音が聞こえる。
 最初は極小さく。しかし次第に大きくなっていき……最後には騒音となっていた。

「まさか!?ラインから電力を吸い上げてるのか!?」

 最悪が起きた。
 在り得ないなんてことは、在り得ない。
 この言葉を考えた奴は、きっと天才だったのだろう。

 万難を排しても、在り得ないことは在り得たのだ。
 その実例が今――ボクたちの目の前に居る。

「デビルギャンダム、再起動……ってか?」

 ロボットの頭部アイカメラに光が灯り、どう考えても暴走フラグが入りました。
 こぇぇぇ!?
 生物的な感じが、尚恐怖心を増長させるではないか。

 すっかり忘れていたが、コイツには【自己増殖】や【自己進化】という、恐ろしい機能があったのだ。
 それは使い、状況に対応。
 【死んだフリ】をして機会を窺い、そして好機を逃さないと。……我が妹ながら、何てトンでもないモノを創ってくれたんだよ、クイーンさん!?

「皆、急いで避難して!!あと館内に避難警報を!!急いで!時間がないんだ!!」
「「「「……りょ、了解!!」」」」

 皆を避難させる。
 この復元――いや。【進化】の具合なら、あと三十分は保つ。
 その間に自分は――ボクは少しでも、その時間を遅らせるように頑張らなければ。

「提督もはやく避難してください!!」
「ムリムリ!責任者は、最後に逃げるものだし……ボクにはやらなければならないことが、あるんだから……!!」

 マリー嬢の言葉は聞けない。
 だってこれは、ボクの責任だから。
 だから彼女たちには、【強制的】に退出してもらう。

「て、転送魔法!?提督、お止め下さい!!」
「良いの、良いの。責任者は責任を取る為に存在するの。それに簡単にやられるつもりはないから……ボクが無事な内に、はやく助けにきておくれよ?」
「て、提督――――!?」

 転送魔法の光を残し、ボクを除いた全ての人間がココから消えた。
 扉を内側からロックする。
 これで外からは、誰も通れなくなった。

「さぁて……ガマン比べと、いきますかぁ♪」

 ウィルスを作成したり、ロジックモードを変更したり。
 やってみたいことは、山ほど存在する。
 往くぞ、悪魔王よ。エネルギーの貯蔵は十分か?――――なんつって。







 二時間後。

「……パチラッシュ、もうボクは眠いよ……?」

 限界が訪れた。
 全ての局員が避難し、そして結構距離を離すまでは頑張れたけど、根本の解決は無理だった。
 ゴメンね、クイーン。不甲斐無い兄を許しておくれ……?



 ギュオォォォォン!!



 あ、ぶっといケーブルが。
 数え切れない程無数の太すぎるケーブルが、ボクを捕らえにやって来ました。
 おーい、ボクは美味しくないぞぉ?

 それにこういうのは、本来美少女ヒロインがやるもんでしょう?
 何コレ?最後の最後に来て、まさかのどんでん返し?
 実は【月村静香】は、ヒロインだったのですか!?

 驚愕過ぎるぞ、その新事実は!?
 ……在り得ない。
 まじありえなぁぁぁぁい!?

《オレサマ、オマエ、マルカジリ……》

 悪魔がコミュニケーションをとってきました。
 しかしその内容は、どう考えても友好的ではありません。

《イタダキ、マス……》

 ここまで来たら、言うコトは一つしかない。

「……優しく、してね……?」

 そう言い終わると、ボクの意識はそこでプッツリと落ちた。













 場面は変わり、そして主役も変わる。
 ここから先の主演は、【三次元人:月村静香】ではない。
 【二次元人:カリム・グラシア】。彼女が、彼女こそが【主役】となるのだ。

「すずかさん……まだ目が覚めないんですね」

 場所は時空管理局地上本部――内の医療棟。
 そこに収容されたすずかの病室に、カリム・グアラシアは居た。
 時折花を活けたりする以外は、ずっとベッドサイドの椅子に座り続けている彼女。

 ベッドに横たわる少女――月村すずかが目覚めるまで、彼女はそうし続けるつもりなのだろう。
 それは約束だから。
 そして――約束がなくても、最初からそのつもりだったから。

「……フゥ」

 この少女があの【クイーン】と同一の存在だとは、未だに理解しきれない。
 例え以前、【ヤンデレ】モードのすずかを見ていたとしても。
 それが騎士カリムの偽らざる本音だった。


 ――バン!



 病室の扉が、勢い良く開け放たれる。
 次いで入ってきたのは、カリムが良く知る少女だった。

「カリム、あかん!!マズイ事態になってもうた!!」

 八神はやて二等陸佐。
 カリムにとっては妹のような存在にして、つい先日までカリムたちが居た【機動六課】の長である。

「どうしたの、はやて?ココは病室よ?そんなに騒ぐ程のことが「あったんや!!」……わかったわ、外に出ましょう」

 病室を出る。
 はやての言う【マズイ事態】とやらの、詳細を聞く為に。
 そこに居たのは、既に【上に立つもの】としてのカリム・グラシアだった。

「…………ぁれ、ココは……ドコ……?」

 だから彼女は気が付かなかった。
 眠り姫の目覚めの声を。
 カリム自身に喝を入れる、眠り姫の覚醒の瞬間を。



「それで?何が起きたと言うの……?」
「説明するより、見た方がはやいわ!!」
「ちょ、ちょっと!はやて!?」

 はやてに引き摺られるようにして、カリムは同フロアのパブリックスペースに連れて来られる。
 そこにはソファーやTVがあり、入院患者と見舞いの客が談話出来るようになっていた。
 その中央に位置する場所で――件のTVが、大音量で臨時ニュースを伝えていた。

《……の予定を変更して、【時空管理局本局】の事件について報道致します!!》

 TVから聞こえた単語、【時空管理局本局】。
 それは今まさに、【静香】がいる場所ではないか。
 何が起きたというのだ?一体、どんな【マズイ事態】が起きたと言うのだ?



《現在判明していることは、先日ミッドチルダに出現した巨大ロボットを回収・収容した本局が数時間後、突如としてその姿を変貌させていったことです!!》



「!?」



《ご存知の通り、本局は次元空間に浮かぶ【超巨大次元航行艦】です。しかしその姿は今、別の【生物】のように変化しています!》



「はやて……これって、まさか……」
「……たぶんな」



《尚殆どの人間は避難が終了していますが、ロボット回収任務の責任者【月村静香】准将のみ、内部に残っている状態です……》



「……ウソ」



《准将の下で作業をしていた局員の話では、異常事態が起こると准将は皆を早急に避難させ、そして自分は避難時間を稼ぐ為に中に残ったそうです……」



「ウソ、でしょう……?」



《あ!!御覧下さい!!本局がさらに変形していきます!!コレは……まるで超巨大な【ロボット】のようだぁぁぁぁ!?》



 変形。
 ……いや。ココまで来ると、変貌や【進化】という方が相応しくなっていく。
 本局サイズのロボット。羽のようなモノが付き、巨大な顔の上には更に小型のロボットの上半身があった。

 色は違う。
 デザインだって全然違う。
 悪魔というより天使的なリファインが加えられているので、その差は歴然だ。

 ……でも。
 それでも変わらない事実がある。
 【アレ】は知っている存在だ。そうとしか思えない。

「デビル……ギャンダム」

 悪魔の再来、であった。













「……落ち着いたか、カリム?」
「……えぇ。もう、大丈夫よ……」

 顔面は蒼白。
 手の震えは健在。
 しかし本人ははやてからの問いに、気丈にも大丈夫だと言う。

 これは彼女の責任感の強さの表れだろう。
 教会の上位騎士として。そして管理局では中将として、人の上に立ってきた彼女。
 それは逆を返せば、そんな立場がなければ――本来のカリム・グラシアは、非常に脆い存在だということだ。

「本当に大丈夫なんか……?」
「……えぇ」
「……なら管理局側の対策を伝えるわ。変貌した本局――仮に【デビル本局】と命名するけど、そのデビル本局を数十発の【アルカンシェル】で殲滅する予定や……」
「せん、めつ……?」
「ちなみ発案者は――――三提督や」

 目の前が真っ暗になった。
 後日カリム・グラシアは、この時の様子をそう語る。
 まさに光が消えた瞬間だと。彼女にはそう感じられたと。

「……カリム・グラシアです!三提督の方々に、すぐに繋いで!!」
「カ、カリム……!?」

 しかし光がなくなっても、彼女はすぐに先に進んだ。
 強い……訳ではない。
 ただ一秒でも、ジッとしていられなくなっただけだ。

《……そろそろ、連絡が来ると思っていたわ》

 接続された先は、三提督の一人【ミゼット・クローベル】本局統幕議長の端末。
 そこには人の良い婆ではなく、老獪な提督の姿があった。

「お久しぶりです、ミゼット・クローベル統幕議長……」
《無駄なやり取りは止めましょう。それで貴女は……何を聞きにきたの?》
「……では率直にお聞きします。アルカンシェル数十発を使い、変貌した本局を滅するというのは……」
《本当よ》

 アッサリと。
 本当にあっさりと、その疑問は肯定されてしまった。

「そんな!?あの中には、まだシズカさんが残っているんですよ!?」
《冷静になりなさい、グラシア中将。一人の命とそれ以外の数多の命。優先するのならどちらか――――簡単な答えです》
「ですが!!」

 分かっている。
 理解している。
 だが。だが……感情が納得出来ていない!

《これは決定事項です。本日二十三時、整備を終えた艦船は順次本局に向かい……そして任務を実行します》
「「!!?」」

 はやい。
 予想よりもはやい動きだ。
 確かに一刻を争う事態だけど、はやくても明日になると思っていたのに!

《なお、この任務にはゲイズ・ハラオウン・グラシア・ナカジマが関わることを禁止します。意味は……言わなくても分かりますよね……?》

 その意味は、任務妨害を防ぐ為。
 ……やられた。
 これでは、本当に……為す術がない。

《そもそも、貴女が彼を救おうとするのは何故ですか?彼が創ったモノたちが素晴らしいから?彼という頭脳が惜しいから?それとも……?》
「…………それ、は……」

 言いたいことがある。
 まだ言っていないことがある。
 だから、いなくなられたら困る。まだ……想いを伝えていないのだから。

《ストップ。それを言う相手は、私ではないでしょう?》
「……ミゼット、提督……」

 もうそこに居たのは、いつもの人の好い老婆だった。
 本当に【狸】であることも含めて、いつものミゼット・クローベルだった。

《……実行は、今日の二十三時から。この意味……分かるわよね?》
「!?…………ハイッ!!」
《それじゃ今度会う時は【みんな】でお茶会をしましょうね♪》
「ハイ!!」

 通信が途切れる。
 今度こそ真意を悟った。
 ならば次は、動く番だ。

「すずかさんにも報告、していかないと……」

 未だ眠る姫君にも、一応報告していく。
 そこには親愛なる兄を略奪するからか、それともライバルとしての宣戦布告か。
 その内容は、カリム自身にもイマイチ分かっていなかった。

「……その必要は、ありませんよ?」

 振り返る。
 するとそこに居たのは、カリムが想いを伝えに行く相手――に瓜二つの少女が居た。
 白と翠が交じり合ったような色の入院着。しかし中身は、今目覚めたばかりとは思えない程凛とした状態だった。

「すずかさん……目が覚めたんですね!?すぐに医師を手配し「違うでしょう?カリムさんは、私に何か言いたいことがあったんでしょう?」そ、それは……」

 遮られた。
 そして言われてしまった。

「私なら大丈夫です。だから貴女は、言いたいことを言って下さい。時間……無いんでしょう?」

 その通りだ。
 こうしている間にも、砂時計の砂は落ち続ける。
 無駄には出来ない。この一瞬すらも、無駄には出来ないのだ。

「……わかりました。ですが、ショックで倒れたりしないで下さいよ?」
「心配ありません。こう見えて私、結構強いんですよ?それは……カリムさんなら、一番理解していると思うんですけど」
「……そうですね。そう、でしたよね……?」

 一息入れる。
 そして……宣言する。

「すずかさん。私【カリム・グラシア】は、貴女のお兄さんを――【月村静香】さんに告白してきます!」
「はい」
「上手く行けば、私は貴女は義姉ですよ?それでも良いのですか……?」
「……仕方がありません。そうなった場合は、貴女で【妥協】してあげますよ」

 強かだ。
 本当に女性というのは、誰もが強い存在なのだ。

「【妥協】、感謝しますね?」
「まだ決まった訳じゃありませんから。感謝するのは、ちゃんと決まってからにしてくれません?」
「……残念です。貴女となら、きっと良い友人関係が築けると思ったのに……」
「そうですね。お兄ちゃんが貴女を振ったら、きっと残念会で仲良くなれると思いますよ?」

 残念だ。
 こんなにも会話が弾むのに……。
 本当に残念だ。

「……言ってきます」
「言ってらっしゃい」

 【行ってきます】ではなく、【言ってきます】。
 中々に洒落た言い回しだ。

「では……」
「あ、カリムさん。ちょっと……」
「え……?」



 ――パァァァァン!



 スナップの効いた、良い音が炸裂する。
 それを生み出したのは、すずかの【右手】。
 それがヒットしたのは、カリムの【左頬】。

「……気合を入れました。これで全部チャラですよ?」
「……確かに。気合、入れてもらいました」

 すずかの脚から力が抜ける。
 その場に膝から倒れ、立膝の状態になってしまう。

「はやて!すずかさんをお願い!!」
「了解や。すずかちゃんのことは、【親友】に任せとき♪」

 素早くすずかの脇に回り、支えるはやて。
 流石に【親友】と名乗るだけのことはある。

「あと貴女の【隊舎】……借りるわね?」

 【隊舎】とは文字通りだ。
 より正確に言うのなら、隊舎が【変形】したものを借りるという意味だが。

「ハァ……。出来るだけ無傷で返して欲しいんやけど……ま、しゃーないか」
「ありがとう!それじゃ!!」

 妹分からのOKを貰い、カリムは駆ける。
 彼女も務めていた妹分の城――機動六課へと。
 切り札の眠る、自分にとっても大事な場所へと。






「……遅かったではないか、騎士カリム」
「皆さん……どうして?」

 機動六課の司令室。
 カリムがそこに辿り着いた時には、既に【全員】が集結していた。

「アイツには借りばかりだからな。ここらで返しておかないと、利子が膨らむばかりだ」

 ゼスト・グランガイツ。

「不本意だけど、今の私が在るのは【シズカ】のお陰だし……」

 プレシア・テスタロッサ。

「右に同じ。主はやての成長を見守れるのは、【不本意】だが奴のお陰だ」

 リインフォース。

「ウチの家族にとってシズカは、大事な友人だ。結婚式のこと然り、クイントとギンガのこと然りな?」

 ゲンヤ・ナカジマ。

「文字通り【命の恩人】ですから、執務官長は。ですから今度は、コチラが助けになる番なんですよ」
「そうよ?クライドを私の許へ帰してくれたお礼は、まだ出来てませんから♪」

 クライド、リンディの両ハラオウン。

「……決まっている。我々の目指す平和とは、シズカを犠牲にしたモノではないからだ!」

 そして……レジアス・ゲイズ。

「皆さん……!!」

 目頭が熱い。
 カリム・グラシアは、階級や部署を超えた友人たちの心遣いに、感謝するしかなかった。

「さぁ騎士カリム、出発の号令を……!」
「……ハイ!!」

 涙を拭う。
 そして自分に喝を入れ直す。
 気合は十分。あとは――宣言するのみだ。

「これより我々【ダイノーズ】は、本局を乗っ取ったデビルギャンダムを破壊し……そして【月村静香】の救助活動を行います!!」
「「「「「「「了解!!」」」」」」」



 ――ヴィィィィン、ドォォォォンッ!!



 ジェット機二機が隊舎直上に舞い上がり、そして空中で合体する。
 最初から合体しておくことで、総合的な推力を高める計算なのだ。

「……アラ?コレ、何かしら?」

 リンディのコンソールに、光るボタンが一つ。
 今までの経験則からすると、新たな【何か】が起動する合図だ。
 こんな場面で起動するモノとは、一体何なんだろうか?

「……押しましょう」

 好奇心に負けた。
 そしてどんなネタが仕掛けてあるかが、明かされる。



 ――ヴォォォォォォン!!



「「「「「「「ハァァァァァァァァ!?」」」」」」」

 流石に度肝を抜かれた。
 それは様々な非常事態に慣れている、この面子ですら予想も出来なかった【非常事態】。

 既に予備パーツが出ていた隊舎。
 それらに分割線が入っていき、そして宙に浮かんでいく。
 これで正真正銘、隊舎のあとは更地となった。



 ――キィィィィン!ガッキィィィィン!!



 腕に。
 脚に。
 胴体に。

 そして……頭に。
 隊舎予備パーツは、全てキングゴウダイノーの鎧へと変化した。



 【超根性最強ロボ:キドウロッカー】



 コンソールに出た文字が、全てを物語っていた。
 つまりこれはアレだ。
 はやての隊舎を全て使った、文字通り【機動六課】なのである。

「それでは【キドウロッカー】、全員まとめて――発進!!」

 あらゆる事態を乗り越えてきた面子は、不測の事態であろうとノリで越えていく。
 実に素晴らしい環境適応だ。【進化】とも言えるが。
 なお、この時【全員】に含まれなかった部隊長は、この時の映像を生で見ながらこう叫んだそうだ。

「あわわわ……!?わたしの隊舎は、一体どうなってしまうんやぁぁ!?」

 御後が宜しいようで。



































 エピローグ



「何処へ……行くんですか?」

 管理局をあとにして、自分の世界に帰ろうとする紫色の長髪。
 そんな【彼】に、後ろから声が掛かる。

「おや?天下の【大将】閣下が、こんなトコロで油を売ってて良いのかな?」

 あれから、ちょっとした騒動があって。
 独断専行した提督ズ+αは、全員が一階級降格。
 しかし直後に二階級の特進を果たし、カリム自身は【大将】となった。

 余談だがレジアス【元帥】は、崩壊した本局を地上本部と統合して再編した為、【今まで以上に】忙しい日々を送っているらしい。

「一応教会側からの出向組が、【あんなこと】を起こしてはダメでしょう?ですから責任を取って、管理局も聖王教会も辞めてきました」
「……もったいない。これからだって時に……」

 勿体無いと言いながらも、その声にそんな色は籠もっていない。
 どちらかと言えば、【あぁ、やっぱり……】という色が強く見られた。

「それで、質問には答えて貰えないんですか?」
「……妹を連れて、地球に【帰る】んだよ。今度こそ、間違わないように……ってね?」
「やっぱり、そうなんですね……」

 カリムから蒸気のようなモノが立ち昇る。
 最近すっかり見慣れたその光景は、彼女が体温が急激に上昇している証だった。

「どうして、言ってくれなかったんですか……?」
「……?何を?」

 不思議がる男。
 そんな男の様子に苛立ち、声を荒げるカリム。

「どうして、【自分に付いて来い!】って言ってくれなかったんですか!?」
「いや!それは、そのぉ……」

 男は言い淀む。
 「そんな恥ずかしいこと、言えるかよ……」とか漏れているが、そんなことは今更過ぎる。

「そんなこと、今更過ぎますよ。ほら、先日の【大告白大会】のことを思い返せば……」

 カリムはそう言うと、手元に持っていた端末から先日の記録映像を立ち上げる。






 次元空間に浮かぶ、デビル本局。
 その異様さと巨大さは、まさに神か悪魔かと言ったところ。
 射出される機動兵器を【キドウロッカー】が破壊・破壊・破壊していき、そして突貫していく。

 斬って、斬って、また斬って。
 デビル本局の内部に突入してから数時間後。
 まさに【ラスボスの間】らしき部屋に出た時、本当にラスボスが出現した。



 ――ヴォォォォォォォォンッ!!



 進化の最終型。
 デッカイロボットの顔の上に、小さなロボットの上半身がくっ付いたモノ。
 デビルギャンダムの中に、更に進化したデビルギャンダム。……まるでマトリョーシカのようだ。

「シズカさぁぁぁぁん!!お願い、話を聞いてぇぇぇぇぇ!!」

 ピタ。
 そんな擬音が聞こえてきそうな、デビルギャンダムの静止。
 ラスボスながら、実に律儀な奴だ。それさえしなければ、負けることもなかっただろうに。

「シズカさん、私言いましたよね……?帰ったら【言いたいこと】が有るって……」
《……》

 悪魔は静止し続ける。
 どう見ても突っ込みどころ満載なのだが、お約束を護っているのだろうか?

「私はご存知の通り、キング・オブ・ハートだったことを隠していたり、肉弾戦が出来ることを隠して【オンナらしい】ことに拘った、卑怯な人間です……」

 いや、あれは隠したくなるだろう。
 普通の感性をしていれば、それは当然の選択だと思うが。

「でも、今だけは感謝しているんです。いちいち【恥ずかしいこと】を絶叫出来る流派をやってきた事に――これから言う【恥ずかしいこと】を、絶叫出来る事に!!」
《……》

 絵図としては、デビルギャンダムを真正面に見据えたキングゴウダイノー。
 その掌には、騎士カリムの姿が。
 なお、この時点で【キドウロッカー】の装甲は全て破壊され尽くしており、ノーマルのキングゴウダイノーに戻っていた。

「私は、私は……!」
《……、……》

 徐々に。徐々に開いていく、デビルギャンダムの胸部ハッチ。
 空気読みすぎだ。
 ラスボスながら……。いや、ラスボス【だからこそ】、空気を読んでいるのかもしれない。

「貴方が好きでぇぇぇぇす!!貴方が欲しいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 恥ずかしい。
 確かにコレは、恥ずかしい。
 管理世界【三大恥ずかしい告白】の、ぶっちぎりのトップにランクインしたというだけある――その恥ずかしさ。

「シズカさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 カリムの大告白。
 それを聞いたデビルギャンダムは、まるで【静香】を吐き出すように射出する。
 糖尿病はゴメンだと。これ以上の砂糖は要らないと、そう言わんばかりに。

「シズカさん!シズカさん!!」

 吐き出された【静香】を、宙に飛んでキャッチするカリム。
 身体能力が異常すぎる。
 流石は流派東方腐敗。

「……カリムさんや。これってもしかして……やらないとダメですか?」
「ハイ♪やらないとダメですよ♪」

 【静香】の意識が戻った時、前門にはカリム・グラシア。
 そして後門には、デビルギャンダムがいらっしゃった。
 これはアレか?空気を読むと……砂糖を吐くような展開に殉じろと?

「……わかった。やるよ、やれば良いんだろ!?」
「ご理解頂けて、嬉しいですわ♪」
 
 周囲が言っている。
 ラスボスですらも、その目が言っている。
 【空気を読め!!】――と。

「「二人のこの手が真っ赤に萌える!」」
「幸せ掴めと!」
「轟き叫ぶ!!」

 騎士カリムと両掌を合わせ、まるでダンスを踊っているかのような【静香】。
 ……男女逆転しているような気がするのは、きっと気のせいではない。

「「ばぁく熱!ゴッデス、フィンガァァァァ!!」」

 もしもココに冥王さまが居れば、「チャージなどさせるものか!」と突っ込んでくれただろう。
 だが生憎彼は居ない。
 よって、砂糖垂れ流しシーンは続く。

「責」
「破」
「「ラァヴラヴ――――天、驚ぉ、けぇぇぇぇぇぇん!!」」

 何か出た。
 二人の掌から、何かハート型の怪光線が出た。
 そしてその光線の上には、何故か初代キング・オブ・ハートが腕組んで乗っかっているではないか。

「「ヒート、エンド……」」

 ハート型の穴が空き、そしてデビルギャンダムは爆散した。
 ちなみこの一部始終は、キングゴウダイノーの外部カメラによって生中継されており……その視聴率は、歴史上最高の数値だったらしい。
 ……これじゃあ、ミッドに居づらくなる訳だ。






「思い、出して貰えましたか?」
「……忘れたくても、忘れられないよ。アレから、ミッドを歩く度に言われるんだよ?「告白のヒトだー!」って!?」
「フフ……。これでもう、全管理世界公認の恋人同士ですよ?」

 黒い。
 何か【既成事実】並に黒いよ!
 コレ、本当にカリム・グラシアなの!?

「……違うよ」
「え?」

 【静香】は否定する。
 カリムの言った【恋人】発言を。

「ボクたちは、【恋人同士】なんかじゃあ、ないんだよ……」
「……」

 だって【静香】はまだ、【返事】をしていない。
 なのに【恋人同士】はないだろう?
 当人を置いてけぼりにするのは、ダメでしょうに?

「……【今は】、ね?」
「エ……?」

 不意打ち。
 それは本来、【静香】のようなジョーカーがやることだ。
 正統派であるカリムにやらせることでは、断じてない。

「今度はコッチから言わせてもらうよ?……カリム・グラシアさん。ボクとの【婚約】を解消し――――【コレ】を受け取って下さい」
「コレって……?指、輪……?」

 ちゃんと給料三か月分ですよ?
 准将の給料なので、その凄さは押して知るべし。

「ボクと……【結婚】して下さい、カリムさんや?」
「ッ、……ッ!ハイ……ハイッ!!」

 ボロボロと涙を流しながら、カリムは了承する。【静香】からの【プロポーズ】を。

「そんじゃ、さっさと地球に「シズカァァァァ!!これから式だぞ!!準備は良いだろうなぁぁぁ!!」……って、何ですとぉぉぉぉ!?」

 【静香】のセリフは、突如乱入したレジアスによって遮られた。
 つーか今、レジアス元帥殿は何と言った?

「…………やられた」
「♪」

 全ては策士【カリム・グラシア】の掌だったということか。
 彼女は正統派【策士】だったようだ。

「(……でも良いか。コレだけ清々しいやられ方は、他にはあるだろうしね?)」

 【静香】の胸中は穏やかだった。
 まるで雲一つない、快晴のように。

「しゃーない。これからもヨロシク頼むね?……【ボクの】カリムさんや?」
「……ハイッ!!」

 この日。世界から一人の三次元人は消滅し、新たに二人の二次元人が誕生した。
 その名は【月村静香】と【月村カリム】。
 そして物語は、大人数を巻き込んだ【超恥ずかしい結婚式】に移行するのだった。




















               了



















 あとがき


 コレで終了です。
 本当に終了なんです。
 延々と九十話もお付き合いして方々、誠にありがとうございました!!

 特に殆どの話に誤字訂正&感想を付けて下さった【俊さん】には、感謝の言葉しかありません!
 本当にありがとうございます!!



 この物語の発想について>

 元々はネタでした。
 それも、ただの実験作のつもりだったんです。
 ですがレジアス中将(当時)を出したところから、変化が訪れました。

 みんな大好き、熱血オヤジ。
 サツキも最初は受け狙いに書いていただけでしたが、今は一番書くのが楽なくらいに愛着が湧いています(笑)。
 
 出来るだけネタを仕込んで、仕込んで。
 いくつか回収できなかったモノもありますが、これ以上にネタを放り込んだSSはないでしょう。多分ないと思います(苦笑)。
 全部のネタがわかる人は……多分satukiと友人になれます。嬉しくは、ないと思いますが(マテ)。


 最後になりましたが、今一度感謝の言葉を言わせて頂きたいと思います。



「本当に、ありがとうございました!!」



































「馬鹿者!!事件は会議室で起きているのではない!現場で起きているのだぁぁぁぁ!!」

 主演:レジアス・ゲイズ大将。

「レジアス……オレはこれから、現場に向かう。あとのことは……頼んだぞ」

 助演:ゼスト・グランガイツ。

「この事件は……また随分と【きな臭い】ことだなぁ……?」

 同じく助演:ゲンヤ・ナカジマ。

「このミッドチルダは――この次元世界は、【あのヒト】が護ったものです!!」

 客演:月村カリム(旧姓:カリム・グラシア)。

「さぁ……ゲームの始まりだぁ♪」

 謎の敵:????

「そんな!?オマエは……!?」
「久しぶりだねぇ、レジアス……?」

 物語は、かつて出会った二人が【再び】出会うことから始まる――。



 映画【真レジアス・ゲイズ――ミッドチルダ最期の日】



 新暦七十七年十二月二十四日、全次元【一億五千万】のシアターで、みんなのレジアス元帥が帰ってくる!!



「オレの正義は……オマエと共に在ったというのに!!」



 Coming soon!












 あとがきのあとがき

 ……済みません。調子にのって書いてしまいました(オイ)。
 どうかお許しを……(逃)。





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