夜逃げ同然で屋敷から逃げ出した俺は隣町へ到着した
隣町は港町で、威勢のよい漁師たちの掛け声が響き渡っていた
昼過ぎ頃に不動産屋へ行き、ボロいアパートの一室を借りた
住む準備は着々と進んでいる
仕事は十分ある
俺が暮らしていける給料も、酒を買える金もある
この町の領主とは知り合いだ
夜中突然訪れた俺を一晩泊めてくれたのも彼だ
何故かずっと屋敷に住んでもいいといわれたが・・・断っておいた。何か怖い。
実は屋敷にいるときに彼と出会っており、仕事をもらっていたのだ
仕事といってもドレスのデザインだ
元の世界の、ゴスロリをラクガキしているところを見られたのだ
そういえば何で領主はあの屋敷にいたんだろうか
俺の知ったことではないが。
領主はゴスロリを気に入り、俺が描いた服を作らせて販売しているらしい
欲は出さずに売り上げの5%をもらうことにしていた
金をもらっても、今まで使う場面なかったからな
しかし溜まっていた金も馬車代金に足りず、渋々装身具を売り払うこととなった
ちなみに領主も俺が”本”だと思っている
デザイン関係の本と思っているみたいだな
火気水気厳禁で風呂にも暖炉にも近づかせてもらえないのは辛い
まぁそんなこんなで仕事はあるし、今まで使うこともなかった金で暫くは食いつなげるだろう
息子達に言われたとおり屋敷からは出たし、文句は言われないはずだ
俺は、息子達の言い分も分からないでもない
得体の知れない男を人知れず屋敷で住まわせ、大量の酒や服を贈っていたのだ
事情を聞かされていなければ、愛人を囲っていると思っても仕方がない
彼女は屋敷に来ると2,3日は帰らなかったし、愛人疑惑は濃くなる
この手の勘違いをするのは、多分、長男のアドルフ・ジュニアだろう
彼女の話ではコイバナの好きな被害妄想の激しいオトメ・・・男らしいから、深読みしたんだろう
そういや彼女の夫の名はアドルフなんだろうか
長男にジュニアってついてるしきっとアドルフなんだろうな、うん
他にもアクの強い息子達がいるらしいが、この手紙をだしたのはジュニアで間違いないだろう
・・・そういえば領主は彼女の従兄弟だったな
今のところ俺の事情を知っているのは領主と、メイドのジェシーぐらいか
領主から色々助言をもらっている
曰く、次男に気をつけろ、とのことだ
彼女の次男と言えば・・・近衛隊に所属していたんだったな
ジュニアは色々ヤバイが臆病者なので直接手は出してこない
というよりも屋敷を出たならそれで良い、そう考える奴らしい
次男はヤバイジュニアよりヤバイヤバすぎる
こっちの世界にはSなんて言葉はまだないが、きっと次男が語源となるだろう
そう思ってしまうほどのサディスティック男
やれ戦場で死体を○○しただの、捕虜を拷問にかけて昇天させただの、女スパイを未成年には言えないことをして殺しただの・・・
本当にヤバイと彼女からも聞いている
領主からも新しい情報を聞いた
隣国との戦争が終わって暇らしく、新しい獲物を探しているとのこと
ちなみに獲物とは、虐めようが拷問しようが殺されようが何をしても罪に問われない人間のことです
今までの情報だと捕虜とかスパイとか奴隷とか戸籍のない奴のことだな
スパイとか戸籍がない奴とか、この国の法律で裁けないもんな
むしろそういう奴らは犯罪者だったりするので殺すのを・・・推奨されているらしい
本気でヤバイ
次男もヤバイが国も世界もヤバイ
しかもこのままだと俺が獲物になりそうな勢いです
この国の戸籍ないし、完全にフラグ立ってるよな