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[8464] ヒーローって…… (非・子供向けヒーロー)
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/12/28 16:21
注意書き

この作品はネタです。
こんなヒーローがいたら嫌だなという感じの文章です。
合体ロボとか正義の味方のあり方にも喧嘩売ってます。
後、作者の文才が無いので駄文ですがそれでもよろしければ先にお進みください。

作品完結まで登場人物の人気投票を開始しています。気軽に好きな登場人物に感想くださる片手間にでも投票してもらえると作者が喜びます。投票してくださる場合は一回の投票で一人としてください。怪人とかも含みます。(追記 ヒーロー、怪人、警察 名前があるなら誰でも構いません。既に退場した人物でも可。)

30万PV到達しました。ありがとうございます。


5月3日   投稿開始。
5月13日  1,2,3話の前編と後編を統合。注意書き追加。
5月14日  4,5,6話の前編と後編を統合。
5月20日  7,8話をそれぞれ統合。
5月29日  9,10話をそれぞれ統合。
6月6日   11,12話をそれぞれ統合。
6月14日  13,14話をそれぞれ統合。
6月15日  オリジナル板に移転。閑話1~5を各話の後に統合。
6月17日  閑話6~10を各話の後に統合。
6月19日  閑話11~15を各話の後に統合。
7月4日   16~18話をそれぞれ統合。
7月9日   プロローグと1話を統合。
7月21日  19~22話をそれぞれ統合。
8月8日   23~25話をそれぞれ統合。
8月25日  26~28話をそれぞれ統合。外伝を統合。
9月8日   番外編1~5を統合。
9月14日  29~32話をそれぞれ統合。
9月28日  33~35話をそれぞれ統合。
10月11日 36~38話をそれぞれ統合。
10月18日 39~40話をそれぞれ統合。
11月4日  41~43話をそれぞれ統合。
11月22日 44、45話と番外編を統合。



[8464] 第1話 お前は本当にヒーローか
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2010/03/15 19:12
プロローグ

「悪の組織って、戦闘員が大勢いますよね」

「急にどうしたんだよ。そんな事当たり前じゃないか」

 ある暑くも寒くも無い曇りの日、悪の組織であるノクアから地球を守るために結成された戦隊、コームインジャーのブラックである黒澤薫と、ブルーである青山良二がそんな会話をしていた。

「それに対してこちらはたった五人です。明らかに人手不足でしょう」

「だから何が言いたいんだ」

 薫は苛立たしげな良二に耳打ちした。

「こちら側にも戦闘員がいれば、我々の労働条件は随分改善されると思いませんか?」

「それはそうだろうが……。いくら戦闘員って言っても、相手は一般人の身体能力を軽く上回るんだぞ。
そんな相手に、俺達みたいな変身ツールを持っていない人間が、まともに立ち向かえる筈ないじゃないか」

「ええ、別にその点に関しては期待していません。鬱陶しい戦闘員や怪人の、足止めや囮になってくれれば構わないんです」

 反論をされた薫は、そう言い放った。
 良二は驚いて目を見開く。

「お前な、そういう事平然と言うなよ!」

 熱くなった良二の発言を無視し、薫はあくまで意見を言い続ける。

「ブルー、我々は公務員なんです。好きでこんな仕事やっている訳じゃないんです」

「……それはそうだが」

「なのに、怪人の起こす被害で何時も市民から責められるのは我々なんですよ」

「俺達側の戦闘員といっても、人手はどうする気だ。それに上司の許可だって……」

 ノクアと戦うということは、死ぬ可能性もあるのだ。
 そんなことに志願者が集まり、ましてや許可がでることなんて無いだろうに。

「社会不適格者や犯罪者にやらせればいいんですよ」

「!?」

「バ○ル・ロワ○アルって小説がありましたよね。
アレに出てくるような首輪をつければ良いじゃないですか。長官の許可もとってあります」



第1話

 良二は、先日の会話を思い出していた。

 しかし長官の許可が出るとは。それに幾ら何でも、集めるのが早すぎるんじゃないのか?

 彼と薫の目の前には、“首輪”をつけた重犯罪者が50人ほど集められていた。
 その顔のどれもが不満を隠そうともしていない。

「おい、これはどういう事だよ! なんでこんなもん着けられなきゃいけねえんだ、とっとと外せ!」

 その中の一人がそう言うと、次々に文句を言う声が聞こえてくる。

「だいたい、ヒーローってのは市民を守るものなんだろ! てめえらだけでやりゃあいいじゃねえか!」

「い、いや、その、ブラックどうしよう?」

 彼には薫に頼る他なかった。

「はあ、しょうがないですね。次からはちゃんとしてくださいよ」

 そう呟いた薫が何かのスイッチを押すと、爆発音がして、最前列の最も文句を言っていた男の首が吹き飛ぶ。
 ワンテンポ遅れて首があった部分から血が噴き出し、男だったものはゆっくりと倒れた。

「う、うわあぁあああ!!」

 それを見た他の犯罪者は叫んだ後、一瞬で静かになった。
 ヒーローが自分たちに対して一切の容赦をしないということを、見せしめにより理解したのだ。

「えー、静かになってくれて僕も嬉しいです。でも皆さん、あんまり五月蝿いと、さっきの人みたいになっちゃいますから以後気をつけてくださいね」

 そう、彼は“首輪”の起爆スイッチを何の躊躇いも無く押したのだ。

「大体、市民を守るのは確かに我々の仕事ですが、その守るべき対象の中に貴方達みたいな重犯罪者は含まれていません。
秩序を乱しているという点では、貴方達も怪人と何も変わらないんです」

 まったく四十九人なんて縁起が悪いじゃないですかと、数が減ったという事しか気にしていないようだ。

「ブラック、何をするんだ!」

「僕に任せたのは貴方ですよ」

 そう言われると黙るしかなかった。良二には薫に反論するだけの気概も、それをする正当な理由も無い。

「それに皆さんにもメリットはあります。皆さんの働き次第で、刑期の短縮や判決について考慮されますよ」

「おい、それは本当か!」

「ええ、我々は嘘はつきません」

 そう言い残して、良二と薫はその場を去った。


 控え室にて、改めて先程の事を話す。

「なあブラック、彼らの罪が軽くなるって話は本当なのか?」

「いやだなあブルー、そんな筈ないでしょう」

「お前、嘘を言ったのか!」

「嘘は言ってません。考慮すると言ったんです」

「しかし、怪人を倒した後彼らが生き残っていたらどう説明する気だ!」

 今の良二の発言自体が犯罪者を使い潰すことを前提にしていることに彼自身は気付いていない。

「希望はあったほうがやる気が出るでしょう? まあどうせ途中で全員死ぬでしょうが、生きてたらその時はその時です」

 それは、どのような結末においても彼等の辿り着く終着点は決まっているということだった。


 数日後、戦闘員が完成したようだ。
 反乱防止の首輪を付けているのでこちらには逆らえないようになっている。


『ブルーにブラック、怪人が高速道路で暴れている。
現場でレッド達と合流して至急対処してくれ。なお、戦闘員の使用を許可する』

トレーニングルームに長官である白井光からの被害状況報告が入った。

「長官からの連絡ですね、行きますよ」

「あ、ああ」



 そして、現場の高速道路に到着した。

「あれが今回の怪人か。車を手当たり次第に壊しているのは何故だ?」

「そんな事どうでもいい! 早くあいつを倒して皆を助けないといけないだろう!」

 良二が状況を分析しているのに対し、レッドこと赤田太陽は焦っている。
 薫は、この状況で最も“対外的に優先される行為”を二人に提案した。

「まず市民を避難させるべきじゃないでしょうか?」

 良二はすぐ決断した。
 市民を巻き込まないよう攻撃が制限されるからだ。
 それに、心情的に一般人を危険なことに巻き込むのは避けたかった。

「そうだな。レッド、俺はブラックの意見に賛成だ」

「自分に異存は無いが、その間の被害が大きくなるじゃないか!」

「大丈夫です。我々にも『協力者』がいます。
レッド、イエロー、ピンクは彼らの半分と災害救助を優先してください。
僕とブルーはその間被害を防ぎます」

「レッド、それならいいんじゃない?」

「そうだよ! 早く助けようよ!」

 ピンクこと桃井春美と、イエローこと萌黄きいろも賛成のようだ。

「わかった、そこまでいうなら仕方が無い。ここは2人に任せる!」

 そう言って三人は災害救助に向かった。

「まったく、プライドだけは高いんだから」

 薫はそうぼやいた。

「ははは……」

 同感だが、人に聞かれたらまずいぞ。

「ブルー。危なくなったら、ヒーローバリアと叫んでください」

「なんだよ、必殺技か?」

「いいえ、“新装備”です。とりあえず不意打ちしましょう」

「分かった。ヒーローガンで撃とう」

 二人はこっそりと怪人の背後から熱線を浴びせる。
 ヒーローらしくないが、まずダメージを与えるのが優先なのだ。

「Gyaaaaaaaaa!!」

 着弾して悲鳴を上げる怪人。
 不意打ちは予想通りの成果だ。

「よし、結構効きましたね。さっさと始末しちゃいましょう。午後五時までには寮に戻りたいんで」

「あれ、怒ってるんじゃないか? おい、こっち来るぞ! 戦闘員も!」

「じゃあ僕が接近戦で食い止めてますんで、ブルーはちまちまと隙を見て攻撃してください」

 そう言って薫は駆け出した。
 周りでもこちらの戦闘員と敵の戦闘員が戦っている。
 そうこうしている内に薫が敵怪人にダメージを与え、戦闘員の数も減らしていた。

 俺先輩なんだけど、立場ないよな……。

 良二は本当にちまちまとダメージを与えることしかできなかった。
 とはいえ、それも立派な仕事なのだが。

「Gaaaaaaaa!!」

「うわ、ヒ、ヒーローバリアー!!」

 怪人がエネルギー波を放ったとき、避けられないと悟った良二はとっさに“新装備”を使った。
 次の瞬間、こちらの戦闘員数名が攻撃の前にその身を晒し鮮血が舞う。
 赤い、血だ。

「……え?」

「バリアー機能は概ね良好っと。
ああ、そろそろレッド達も来ますので手柄は譲ってあげましょう」

 太陽達が合流し、弱った怪人を見て歓声を上げる。

「おお、しっかり弱ってるじゃないか!! よくやったぞ、ブルー、ブラック!」

「うん、二人とも凄いよ」

「被害も増えてないしね」

「ああ……」

 良二は生返事を返すことしか出来なかった。

「さあ、止めを刺しましょうか。レッド」

「よし、喰らえ怪人! ヒーローバスター!!」

 五色の閃光が怪人の胴体を撃ち抜き、風穴を開ける。
 何時もの如く怪人は処理された。

「勝ったぞ、今日も自分が街の平和を守ったのだ!」

「皆さんご苦労様です。長官への連絡は僕がしておくので、ゆっくり休んでください」

「ありがとう、ブラック!」

「助かるわ」

「ああ、優秀な部下がいて自分も嬉しいぞ!」

 仲間がしている会話もほとんど耳に入らない。
 気がつくと、現場に残っているのは自分と薫だけだった。

「ああ、そうそう、ブルー」

「な、何だ?」

 薫は話しかけられてうろたえる良二を面白そうに眺めると、耳元で囁いた。

「これで、貴方もこっち側ですね」

続く




閑話

 ここはノクアの本拠地。

「ノアコガネムシがやられたんですって?」

「人間達の嫌な煙を出すものを破壊する任務の最中だった。
途中までは順調だったが、またあの五人組にやられてしまったよ……」

 彼らは人々にノクアと呼ばれ『地球侵略をする悪の怪人』と恐れられている。

「そう……、彼、侵略が上手くいったらお母さんに暮らしやすい森で暮らしてもらいたいっていってたわよね」

「ああ、親孝行な奴だった。
戦闘員のアンツもそう作られたとはいえ、我々に忠誠を誓ってくれている。その忠義にも報いたいのだがな」

 これまでの彼らの活動は、ある程度の成果をあげてはいたが肝心なところでヒーロー達に邪魔されていた。

「私やウインドホーク、フレアレオンの部下も倒されているわ。
これまで以上に作戦に力を入れる必要があるわね、ガイアビートル?」

「そうだな、アクアシャーク。我々が住みやすい星にするために……」

「私達の星はもう限界。人間達とも話し合いたいとは思うけど、言葉が通じないものね」

「話し合っても無駄な気がするがな、あんな味方を盾にするような戦い方をする奴らとは」

「あの青い奴のこと?」

「ああ! 自分の仲間を使い捨てるなど、私は絶対に許せない!」


 長官室で、光が薫と通信で戦闘員の事を話していた。

「ご苦労だったな、黒澤君。戦闘員もそれなりに使えるようで何よりだ」

『ありがとうございます。給料は約束通りお願いしますよ』

「しかし、いいのかね?」

『何がですか?』

「ブルーだよ。彼はお世辞にも使えるとは言えないだろう? もっと有能な人間に代えてもいいのだが」

『お話はありがたいのですが、結構です』

「何故かね?」

 正直、光は良二をあまり高く評価してはいない。
 せいぜい一般人に毛が生えたレベルだと思っている。

『彼は凡人ですが、それなりに訓練はしていますし、あまり有能でも扱いにくいです』

「なるほど」

『それに……』

「なんだね?」

『弾除けぐらいにはなるでしょう?』

「ははは、いや、悪かったね!」

 なるほど! 情でも移ったかと思ったが弾除けか。
 まったく彼らしいよ!

『あの化け物の遺体から何かわかりましたか?』

「ん、ああ、結果が出たら早速装備に反映させるつもりだよ」

『そうですか、では』

 薫が通信機の向こう側で通信を切った事を確認して、自分も切る。

「まったく、無能な駒も困るが、あまり切れすぎるのも困るな」

 いつかは始末すべきだな。
 
 
 長官、貴方もいつか僕を始末しようと思っているんでしょうが、それは僕も同じですよ。
 大した理由もなく殺されるなんて嫌ですからね。

「お互い様ですよね」



[8464] 第2話 俺はヒーローなのだろうか
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2010/03/13 20:54
第2話

 良二は悩んでいた。ヒーローバリアを使ってしまったからである。
 バリア、と言えば聞こえはいいが、したことは戦闘員を盾にするということだった。

「俺は助かったけど……」

 俺はレッドみたいな熱血漢ではないけど、命の価値ってこうまで違うものなのだろうか。

「いくら犯罪者っていってもなあ」
「どうしたの、ブルー。元気ないわよ?」
「っ! なんだ、ピンクか。驚かせないでくれよ」
「悩み事?」

 相談してもいいのだろうか?
 一瞬春美に対する疑念が頭に浮かぶがそれを振り払う。
 今の自分は少しおかしい、仲間を疑うなんて。

「ああ、ちょっといいか?」
「ええ」
「ブラックとレッドには黙っていてくれよ……」

 良二は先日のことを話した。それは、誰かに吐き出して楽になりたかったからなのかもしれない。

「ふうん」
「その、どう思う?」

 春美は少し考えていた。

「本音と建前、どっちが良い?」
「できれば、本音で頼む」
「じゃあ言うけど、ブラックはそんなに間違ってるって程のことはしていないと思うわ。
幼稚園児でもそう答えるわよ」
「そうだよなあ」

 この世界では、犯罪を犯した者や社会不適格者の人権など無いに等しい。
 一部の弁護士団体では現在の状況に異議を唱えているが、おそらく無駄だろう。

「USの法律が元になって私達の国の法律が出来たんでしょう。
簡単よね、『人を傷つけるのはいけないことです』」

 実際、昨日は戦闘員を盾にしなければ良くて大怪我、下手をすれば死んでいた。

「ピンクってさ、意外とドライだよな」
「まあね。テレビに映る時は演技してるもの」

 そう、俺達は公務員。
 装備等は国民の皆さんの税金をメインに調達されているのだ。

「レッドもさ、確かにテレビ映りはいいけどね……。
四六時中一緒にいると疲れるのよ」
「そうか」

 やっぱりな。気持ちは分からなくもない。

「ブラックがパートナーだってことが嫌なら、変わってあげようか?」
「ブラックは気が抜けないけど、命だけは保障してくれるしな。
レッドと2人だとすぐに殉職しそうで怖いからやめとく」

 ……保障して、くれるよな?

 完全にそうだと言い切れないのが薫の怖い所だった。

「そう。まあ割り切らないと本当に死ぬわよ」
「ご忠告感謝するよ。ちなみに、建前って俺が言ったらなんて答える気だったんだ?」
「レッドが言いそうなセリフかしら。『人の命は、皆平等なんだ!!』とかね」

 ピンクってこんな性格なのか。この分だとイエローもどんな性格してるんだか。



 ノクア本拠地にて、アクアシャークとガイアビートルは作戦について話していた。

「今回は、私の部下の作戦を見ていて貰うわ」
「そうか。どういった作戦なんだ?」
「知っていると思うけど、私たちアクア族は綺麗な水がないと生きていけないわ。
それで人間達が汚水を流す原因のひとつ、大規模な施設を襲撃する」
「しかし、あれを破壊すれば土壌や大気、水質にも悪影響を与えるぞ」

 そう、でも破壊しないで止める方法ならある。

「ええ。それにそこだけを止めれば良いわけではないこともわかっているわ。
でも、私達の今までの活動で、救われたこの星の野生生物は少なくはない」
「我々としても無意味な殺生は避けたい。
それに彼らが進化すれば、新しい同胞が生まれる可能性も低くはないからな……」

 私達の仲間はもう数少ない……。出来るだけ早く、この星を手に入れなければ!



 控え室で良二と春美が雑談していると、オペレーターからの連絡が入った。

「ブルーさんとピンクさん、重化学工場に怪人出現です! 出来るだけ早く出動してください!」

 重化学工場? 危険な場所だな。

「行くわよ」
「お、おう!」


 そして、現場の工場に到着する。
 火花を上げる機械、倒れ伏した作業員が目に入った。

「あれはウナギ? 作業員と機械に電流を流している!」
「焦らなくても大丈夫。死んでないわよ、痙攣してるもの」
「充分まずいだろう!!」
「あ、ちょっと!」

 春美の制止を振り切って敵へと向かって行く。
 ヒーローロッドを構えて近接戦を仕掛けた。

 俺だって、出来るんだ! 訓練の成果を見せてやる!

「ヒーローロッド!」

 ロッドを握る手に力を入れて殴りかかる。
 しかし、敵の体表面に着いた粘液が打撃の威力を不十分な物にした。
 気が急いて攻撃手段を誤ったらしい。

「効いていない!? そんな!」
「ブルー、下がって!」

 怪人が放電を開始し、距離を取れずにいた良二に直撃する。
 電気ショックで身体が痺れた。

「ぐあぁああ!このスーツには、耐電性もあるはずなのに……」

電撃の負荷に耐えられず、彼は意識を失った。


「まったく、使えないんだから、もう!」

 春美は、使えないがどこか放っておけない同僚を助けるために通信ツールを開いた。

「長官! 至急戦闘員の使用許可をお願いします!」
『すまないが、現在改良中だ。
前回の戦闘で壊れたり、減ったりしたからね』
「そんな……」
『なるべく早くレッドとイエローをそちらに向かわせる。
それまで持ちこたえてくれたまえ』
「ブラックは!?」
『彼なら既に向かっている』

 通信は一方的に切られた。
 舌打ちして通信機をしまうと、時間を稼ぐべくヒーローガンで怪人を牽制する。

「あの長官、覚えてなさいよ!」

 悪態をつきながらも春美は己の為すべきことをしようとしていた。


 体中が痛いし動かない。俺達側の戦闘員もいない。
 俺は、やっぱり1人じゃ何も出来ないんだろうか。

 良二は意識を取り戻していたが、身体にはまだ痺れが残っていた。

 ピンクが危ない。でも、俺の力では弾除けぐらいにしかならない。
 そんな俺にできる事は何なのだろう。

 弾除け?

 なんだ、迷うことなんてなかったじゃないか。
 答えは出ている。

「くっ、こいつ意外と強いわね……」
「Bibibibibi」
「ピンクッ!!」

 良二は怪人の前に、春美を守るような形となって立ちはだかった。

「ブルー、貴方結構しぶといのね」
「ひどいな。でも、俺の答えを聞いてくれ」
「手短にね」
「戦闘員使うのは気が進まないから、なるべく自分で戦う!」
「自己満足じゃない。
少なくとも私とブラックは使うと思うわよ」
「気分の問題なんだよ!
それに俺だって弾除けぐらいにはなる!」

 怪人は幸い工場の機能停止を優先している。
 この間になんとか体力を回復させたいところだ。

「そう」
「それだけ……?」
「ええ。他に何か?」

 良二にとっては決死の覚悟をあっさりと流され、意気消沈する。
 春美も言い方がそっけなかったとは思っているが、何を言っていいか分からない。
 そのなんとも言えない空気を破壊すべく薫が唐突に登場した。

「ブルー、貴方専用の武器を持ってきました」
「お前、本当に良いタイミングで来てくれたな」
「そんなことどうでもいいじゃない。それで武器って?」
「国民の皆さんの血税の結晶、『ブルーランス』です」

 これって、槍だよな?

 薫から手渡された武器は、ずっしりとした重みを感じさせる。

「ブルーはあまり相手に接近しすぎると不安なので、僕とピンクが援護しますからおいしい所を持って行ってください」

 ああ、俺って一応ヒーローなんだよな。
 でも、不安ってなんだよ。否定できないけど。

「行くわよ」

 春美と薫がヒーローガンで怪人の足止めをする。
 2人分の弾幕は怪人の動きを制限し、単調な物へと変えた。
 その隙を良二は見逃さない。
 
 伊達にヒーローやってるわけじゃない!

「今です」
「うおぉおお!!」

 ランスが怪人を貫いた。
 打撃の衝撃を受け流す粘液も、流石に刺突は防げなかったようだ。

「これさ、結構凄い威力なんじゃないのか?」
「ええ、それに今回は怪人が爆発しなかったので貴重なサンプルが取れました」
「サンプル?」
「ああ、こっちの話です」
「そうなの」

 俺の決意って一体何なんだろう。ちょっとご都合主義が過ぎないか?

「ブルー」
「な、なんだよブラック」
「今日はヒーローらしかったですよ」
「そうね、ここに来ていないレッドなんかよりよっぽどね」

 薫と春美に労われた良二は、少し苦労が報われたような気がした。

 ヒーロー、もうちょっと頑張ろう。死なない程度に。

 単純であるが、これが彼の良い所でもあるのだ。


「ところで、レッドとイエローは?」
「ああ、戦闘員に途中で足止めされたんで、2人を囮にして僕だけ来ました」
「……」
「いいんじゃない? 勝ったんだし」

 よくねえよ!

続く




閑話2

「怪人のサンプルから何かわかった事はありますか?」
「ええ。ウナギの方は、体内に強力な発電装置を持っています。
コガネムシの方は、身体が爆発したせいか充分なデータは取れませんでした」

 薫は自分の専用武器開発と、戦闘員の強化のために研究班のメンバーと話し合っていた。

「しかし基本的な身体能力を向上させることは、現段階でも可能です」
「なるほど。で、僕の武器はどうなっていますか?」
「出来るだけ強力な火器を希望されていたので、エネルギーを収束させて撃ち出す光学兵器を開発しましたが……」

 何か問題でもあるのだろうか。

「通常モードでの使用なら問題はありません。
ですが、より強力なビームを発射するには出力不足でして」
「出力不足ですか。今後開発する他のメンバーの武器も似たような問題が出そうですね」

 エネルギーですか。足りないのなら、他から持ってくればいい。
 そう、バッテリーです。

「戦闘員の改良についてですが、2タイプお願いします」
「2タイプですか?」
「主に災害救助や敵の足止めを担当するタイプと、体内に発電装置を持つタイプを開発してください」
「前者はわかりますが、後者は一体何のために?」

 決まっているじゃないですか。

「『電池』です。
試験的に僕の武器で運用して、結果が良好なら他のメンバーや災害時の電力にも使用させます」

「まだ技術は未知の物なので、よくわからないものが多いのです。
1回使用したら壊れますが、いいのですか?」
「『電池』ってそういうものでしょう?」
「……わかりました」

 長官も戦闘員の補充をしてくれているみたいですし、当分は大丈夫でしょう。
 頑丈なタイプもできるみたいですし。


「自分はリーダーなのだが、最近目立ってない気がする。
なんとかしないと!」

 太陽は彼の部屋で自分の境遇に文句を言っていた。

 そう、自分は選ばれたヒーローなのだ。
 だが、他の連中はどうも自分をないがしろにしている気がする。

「平和を守れるのは自分だけなのだ!」

 彼は知らない。良二と薫が自分を鬱陶しいと思っていることを。
 女性陣の自分への評判が芳しくないことを。
 そして、テレビの人気投票で最下位を獲得したことを。



[8464] 第3話 ヒーローのするべきこと
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2010/03/14 06:33
第3話

「ブルー! これは一体どういうことだ!」

 控え室で茶を啜っていると、突然太陽が駆け込んできた。
 毎度毎度騒がしい奴だと思うが口には出せない。

「ええと、何がだ?」
「この我々側の戦闘員についてだ!
幾ら救いようの無い悪人とはいえ、命を使い捨てにするような真似はこの自分が許さんぞ!!」

ああ、やっぱりこうなったか。

「……長官の許可も出ている。
それに俺は、なるべく彼らを使わないようにしている」

 言い訳にもなっていないな、俺は彼らが“備品”として消耗されるのを黙認してしまっている。
 本当にブラックと同じ側だな。

「それよりも、何故自分の人気が最も低いのだ!? お前ですら3位だというのに!」

 え?

「3位? 4位の間違いじゃあないのか?」
「ブラックと同率3位だ、腹立たしいことにな!」

 レッドもテレビ映りはいい筈なのに。

「とにかく、お前からも皆に戦闘員のことについて良く言い聞かせておいてくれ。特にブラックに!」
「自分で言えばいいじゃないか」

 俺に言うのはお門違いという物だと思うぞ。

「俺があいつに、口で勝てるならとっくにそうしている!」

 こいつ、逆切れしやがった。

「いいな、人の命は地球の未来だ!」

 そう言うと太陽は去っていった。

「ていうか、最後のセリフが言いたかっただけなんじゃないのか?」

 ん、通信?

『そうでしょうね』
「おわぁ!ブ、ブラック!? お前、まさか今の話盗聴してたのか?」
『いえ、正確にはレッドをです。
彼は面倒なことをそのうちしそうですから、長官がそう指示しました』
「言いたいことはわかるが、俺のことも盗聴して無いだろうな」

 こいつならありえる。

『していませんよ』
「本当だな、嘘だったら泣くぞ?」
『男性の泣き顔には興味がないので安心してください。
僕は隠し事はしますが嘘は言いませんよ』

女の人はどうなんだよ。

「疑って悪かった。
でもお前と俺が同率なんて意外だな」
『人気投票ですか?』
「ああ。お前ならもっと上の順位だと思ってたよ」
『そのことですか。
僕の戦い方は、テレビに映せない戦い方がほとんどなんです。
あまりカメラがあるところでは、本気を出せないんですよ』

 自覚はあったんだな。

「あれって初の試みなんだろう?
ボーナスにも反映されるそうじゃないか」
『ええ。ピンクとイエローの票は97%が男性だったようですよ』
「やっぱり顔か?」
『でしょうね』

 でもなんで、レッドは最下位なんだろう。顔だけはそこそこマシな筈なんだが。

『ああ、レッドの言ったことは気にしない方がいいですよ』
「でもなあ、俺も結局お前と同じだろう?」
『ヒーローバリアを最終的に使ったのはあなたですが、そうするように誘導したのは僕ですから』
「戦闘員が消耗されることも黙認して、人の命を使い捨てている」
『レッドはゴー○ーファイブのセリフをパクっただけですよ』

 そうなの?

『人の命は地球の未来って言いますけど、地球が荒れたのは人のせいって言っても過言じゃないですからね』
「極論だな、お前ゴ○レッド完全否定してるぞ」
『とにかく、レッドは人間を助けるカッコいい自分という役割に酔っているだけです。
人の命も大事ですけどね。ゴ○レッドには悪いこと言っちゃいましたが」

 だめだあいつ、早く何とかしないと……。

「まあ礼は言うよ。ありがとう」
『いえいえ』


 それから、戦闘員の改良の様子を薫と見に行くことになった。
 新型戦闘員の試作型が完成し、災害救助型とバッテリー型がそれぞれ5体ずつ配備されている。

「なあブラック。
ここにいるのは一番最初に集めた戦闘員を改造したんだよな」
「ええ」
「人数が重化学工場での戦闘から減っている気がするんだが?」
「それですか。
災害救助型の方は割と簡単に完成したんですけどね、バッテリー型は体内に発電装置を埋め込むのに最初は苦労しまして」
「失敗したのか?」
「はい。
任務中に完全に大破したのが11体、大破寸前で使い物にならなくなったので廃棄処分したのが10体、実験での失敗作が8体、あと最初に逆らうとどうなるかデモンストレーションした1体。
合計30体が既に壊れました」

 もう30人死んだのか。
 そのうちの数人は俺が殺したようなものだし、これからも殺し続けていくんだろうな……。

「ブルー、そんなに気にしないでください」

 慰めてくれるのか?

「既に新しい戦闘員が補充されましたから」

 また増えたのか。


『2人とも、山間部の村に怪人と戦闘員が出現した。
既に死者も出ているようだ。大至急現場に向かってくれ』

 そんな時に、光からの通信が入る。

「死人が出ましたか」
「落ち着いている場合か! 行くぞ!」


 既に現場ではきいろと春美が戦っていた。
 しかし多勢に無勢、被害は拡大していくばかりだ。

「ごめんね、怪人は何とかあたしとピンクが抑えていたけど、戦闘員は……」
「レッドはどうしたんです?」
「『戦闘員に頼らないで戦うために強くなる!』って修行に行ったきり戻ってこないわ、あの馬鹿」

 レッド、今助けを求めている人達がいるんだぞ。
 それなのに何をやっているんだ!

「ヒーローバスターは5人揃わないと使えないし、どうしよう!?」
「落ち着いてくださいイエロー。
既にこちらの通常戦闘員が、敵戦闘員と交戦中です。
試作災害救助型も活動しています」
「とりあえず、被害の拡大は防げそうね。
もっとも、あの烏を何とか出来ればの話だけど」

 そうだ、ブルーランスでは攻撃が当たらない。
 ヒーローガンではパワー不足だ。

「30秒時間をください。何とかします」
「できるのか!?」
「僕は嘘は言いません」

 そうだな、嫌な予感もするが……。

「あたしはブラックに任せるよ!」
「私も賛成」
「よし、頼むぞ!」


 そして25秒が経過した。
 ランチャーに接続された戦闘員は震え、その命をエネルギーへと変換する。

 まだ試作段階だから、発電とチャージに時間がかかるのが難点ですね。
 まあ、後々改良していけばいいでしょう。

 ランチャーにエネルギーが充填され、役目を終えた戦闘員が機能を停止した。

「お待たせしました。怪人から充分離れてください」
「ブラック、その武器は?」
「新装備です。まあ見ていてください」

 怪人の羽にもダメージは与えられているみたいですし、機動力も落ちていますね。
 この距離なら外しはしない。

「ブラックランチャー、発射」

 無機質な砲身から発射された赤黒い光が怪人を飲み込み、その身体を消失させた。


 そして戦闘が終わった。
 今回は死傷者も出たし、5人揃わないと使えないヒーローバスターの弱点も明らかになった。
 災害救助型戦闘員の活躍で救助活動は滞りなく進み、バッテリー型は避難所の電源として使用された。
 今までよりも俺達の労働条件は随分と改善された。
 事後の活動が格段にやりやすくなったからだ。

 レッド、幾ら口で偉そうな事を言っていても本当に人を助けられなければ意味がないぞ。
 俺も言える立場じゃないが、お前は、ヒーローをやる気があるのか?


続く




閑話3

「ウインドホークよ、人間をまた無駄に殺したそうじゃな」
「俺の部下も倒されました」
「わかっておるが、あまり犠牲の出るやり方は……」
「お言葉ですが長老、我々の地球侵略が成功すれば、より多くの人間が死ぬでしょう」

 ノクア本拠地で、四種族の長老フレイムレオンとウインド族の長であるウインドホークが話し合っていた。

「地球側から見れば、俺達は一方的な侵略者です。
それに、俺は自分の種族に対する責任がある。
彼等により良い棲家を提供するという」

「お主はそれで良いのか?」
「生きるか死ぬかですから、綺麗言は言っていられません」

 怪人と人間は言葉が通じない。
 それに自分たちの姿が人間からは恐怖の対象となることも理解している。

「だから、俺は迷わない。
ウインド族はあの青い空を手に入れるためなら何でもやる。
一族皆その覚悟です」
「……そうか」

 怪人にも彼らなりの事情がある。
 生きたいという意志がある。
 地球の人間と同じように。


 扉をノックする。

「入りたまえ」
「失礼します」

 良二は光と対峙していた。

「用件は何だね?」
「レッドのことです」

 彼は以前からの疑問を口にした。

「彼はリーダーとしての適正が欠けているように思えます。
何故彼がいつまでもヒーローとして活動できるのですか?
俺はチーム内では一番役に立たないけど、そんな俺だっておかしいと思います!」
「苦労をかけてすまないね。
だがこれから言うことを聞いても失望しないで欲しい」

 光は重い口を開いた。

「知っての通り、我々は公務員だ。ここまではいいね?」
「はい」
「イエローは最年少だが、スポーツのエリートだった。
彼女は最後のメンバーを決めるテストに志願してくれた」

 イエローは志願者だったのか、初耳だ。

「ピンクの経歴は話せない。了承してくれ」

 謎が深まったな。

「さてレッドだが、政府高官が自分たちも身内を怪人への人身御供として差し出しているというパフォーマンスだ」
「!?」
「不幸中の幸いというべきか、彼は性格が少々歪んでいるというか、とにかく苦痛には感じていないようだ。
元々ヒーロー願望があったようだしね」
「でも、政府の面子のために能力が欠ける人材をヒーローにするなんて!」

 自分は弱いし覚悟も足りない。
 でもレッド、それに政府の人。
 戦いはゲームじゃないんだ。

「彼を辞めさせることはできない。
自主退職してくれればいいのだがね」
「あの性格では、無理でしょうね……」
「だから、出来るだけ速やかに怪人を倒せる人材をチームに入れた」
「ブラックですか?」

 あいつは確かに有能だが、それ以上に問題がある気がするぞ。

「私も非道な事をしている」
「納得は出来ないけどわかりました。失礼しました」

 聞くんじゃなかった……。


「やっと出て行ったか」

 あの無能な男を使い続ける理由は他にもある。馬鹿息子を死なせないために父親が多額の経費を配備してくれるのだ。

「まあ、父親の任期が終わるまでの命だ。
それまで楽しんでおけばいいさ」
『あれで良かったんですか?』

 黒澤君か。

「ああ。ブルーには、自分が採用された理由を言わない方がいいだろう?」

 レッドの当て馬なんてね。






[8464] 第4話 ヒーローになった理由
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2010/03/14 06:50
第4話

 光から何故太陽をヒーローに選んだか聞かされ、良二は自分、それと仲間達のことを考えていた。

 レッドも最悪自分よりは強い筈だし、もっとあの性格が何とかなれば文句はないんだがなあ。
 でも、そんなレッドより弱い俺はどうしてヒーローに選ばれたんだ?

 良二は自分が選ばれた理由がわからない。
 色々とヒーローの方針に疑問はあるし、最初は自信がなくそんなに乗り気ではなかった。

「でもこんな俺でも人を助けることは出来るんだよな……。
戦闘員を人としてカウントしなければ」

 戦闘員の意思を無視し首輪で脅迫して使い捨ててはいるが、人を助けることは出来る。

「俺も、ブラックやピンクに影響されてきたか」

 自嘲の笑みを浮かべ、俺はトレーニングルームに向かった。
 余計なことまで考えすぎていると気が滅入る。
 身体を動かそう、自分の考えからの逃げでもあるが。

「頑張るさ、死なない程度に」


 トレーニングルームに着くと、薫ときいろが訓練をしていた。
 2人とも自分より強い。

 どっちも俺より年下なのに、凄いよなあ。

 しばらく眺めていると、2人が自分に気づいて訓練を中断した。

「あ、ブルー。あたし達今訓練してるけど、一緒にする?」
「イエローに新しい武器を渡したんです。
それを使っての感触を確かめて貰っているんですよ。
ブルーからのさっき見た感じの感想を聞かせてくれませんか?」

 新しい武器か、俺もブルーランスをまだ完璧には使いこなせないんだよな。

「それ、斧だよな。
大きいけど重くないのか?」

 破壊力は大きそうだが、あまり大柄でないきいろにはアンバランスなように見えた。

「大丈夫、鍛えてるから!」

 そういう問題じゃないけど、大丈夫なのか?

「専用武器はそれぞれコンセプトが違いますからね」

 しばらく雑談してると、太陽が空気を読まずに乱入してきた。

「ブラック! 前から思っていたが、何故自分の武器を一番に開発しないんだ!
これでは平和を脅かす怪人を倒し、人々を守ることが出来ないではないか!」

 ピンクもまだ無いけど、充分戦えてるじゃないか。

「ああレッド、そんなに慌てないでください。
あなたはリーダーですから性能の低いものを使わせるわけにはいきません。
他4人の武器からデータを充分にフィードバックして、出来るだけ良い物を作ろうということに長官との話し合いの結果決まりました」
「む、自分に最強の武器を?」
「それにリーダーなら、今までの装備でも怪人に引けは取らないはずです」

 薫の太陽の性格をしっかりと把握した会話の仕方は、良二にも見習うべき物がある。
 ただ率直に言葉を紡ぐだけでは解決しないこともあるのだ。

「うん、そうだな!
自分はリーダーだし、修行の成果も試したいと思っていたところだったからな!
邪魔したな!」

 調子の良い奴だ。

「なあブラック。今の話本当か?」
「うん、あたしも気になるな」

 まあリーダーに良い装備を持たせるのは間違ってないか。
 人格に大いに不安が残るが。

「本当ですよ。
まあヒーローとして活躍することに拘るレッドよりも、実績がある他のメンバーを優先するための方便ですが」
「方便なんだ……。
でもそれだと、あたしも少しは認められてるのかな?」
「何言ってるんだ。
イエローは良くやってると思うぞ」

 実際きいろは良くやっている。
 熱くなり過ぎないし、身体能力自体は薫より上だ。

「そうですよ。
正攻法なら最強はイエローですから」

 その言い方だと、何でもありなら勝てるってことか?

「ありがとう。
最低でもレッドよりは強いよね!」
「おい。ブラックとイエロー、お前等実はレッド嫌いだろ?」
「あたしは嫌いじゃないけど、たまに何なんだろうって思うかな」

 他人を悪く言っているのを(俺がいる時には)聞いたことの無いイエローも答えを濁すとは・・・。

「馬鹿は嫌いじゃないですよ、扱いやすいですから。
鬱陶しいですが」
「いつもどおりのお前で安心したよ」

 最近だんだん慣れて来て、薫はこうじゃないと安心できない自分がいるから恐ろしい。
 きいろも苦笑いで済ませるところを見ると同意なのだろう。

「なあ、前から気になってたんだけどさ」
「なに?」
「どうしました?」
「どうしてブラックがヒーロー辞めないのか、どうしてイエローがヒーローに志願したか聞かせてくれないか?」

 2人とも怪訝そうな表情をしている。

「え、あたしが志願した理由?」
「最近ちょっと、自分のヒーローとしての存在意義に悩んでいてな」

 だから、イエローとブラックがヒーローをしている理由を聞きたくなった。

「人に物を尋ねるときは、まず自分からということを教わらなかったんですか?」
「あたしも気になるな。
ブルーには悪いけど、なんか使命感とかそういう理由でやってるようには見えないし」

 そう切り返すか、ブラック。
 イエローもきついな、確かに向いてるとは言えないだろうけど。

「俺はさ、志願者じゃないし、能力的にも平凡でどうして自分が選ばれたのかもわからないんだ」
「うん」
「嫌ならさっさと自主退職すればいいだけですけど、それをしないんだからブルーが戦う一応の理由はあるんでしょう?」
「俺は臆病だし自分が一番大事なだけの人間だ。
前にも言ったが戦闘員の犠牲も黙認して、今じゃだんだん数字として割り切れるようになってきた」

 感覚が麻痺し始めているんだろうな。

「辛いの?」
「そうだな。そして怪人と戦うと痛いし怖い。
でもさ、段々戦ってる内に、そういう思いを人にさせたくないって思うようになってきたんだ」
「それがブルーの戦う理由?」
「まあ覚悟なんて立派なものじゃないけどな」

 この考えも何かあったらすぐ折れる脆い物なのかもしれない。
 けど、これが今の俺の正直な気持ちだ。

「それでいいんじゃないかな」
「え?」
「人を助けたいって気持ちは嘘じゃないんだよね。
だったらさ、自分の出来る精一杯で頑張ればいいじゃない。
あたしの志願理由も人を助けたいからだもの」
「ブルーは自分のことを客観的に考えることができるようですからあえて言いますが、全ての人間を助けることなんてできる筈無いんです。
でも出来るだけ多くを助けたいって気持ちは悪いことじゃないと思いますよ。
ゲームの受け売りですが」

 イエローありがとう、ブラックも。
 最後のセリフで台無しだが。

「じゃあブラックは?」

 イエローよく聞いてくれた!

「一般市民の皆さんの安全を守るためです」

 っておい!?

「ブラックも? 一緒だね」
「嘘だッ!! 大体お前やりたくも無い仕事って言ってたくせに!」
「ちっ、流石に誤魔化されませんか。まあ全部は話してないだけです」

 こいつ、舌打ちしたよ。


 ブラックって……。
 ブルーも意外と悩んでたんだね、けどあたしも隠してることはある。
 人を助けたいってのは嘘じゃないけど、あたしには何でそれをしたいかという理由が無い。
 それに怪人の攻撃を受けても痛いけど、怖いとは思わない。
 死ぬのはちょっと嫌だけど、別にあたしが死んでも誰も悲しまないし。
 だからブルーの悩んでたわけがあまりわからない。
 人助けをしていれば、あたしの生きている理由が見つかるかもしれない。
 だから戦う。


「色々愚痴聞いてくれてありがとう。
でも、これからも迷惑かけるかもしれない」
「別にいいよ。仲間でしょ?」
「今ブルーに潰れられると困りますから」

 仲間だもんね。助け合わないと。

「仲間、か」

 ブルーはちょっと嬉しそうに帰っていったけど、なんでだろう。
 訓練の続きでもしようかな。


 ブルーもいつまで悩んでるんでしょうか。
 割り切ればいいだけの話なのに。

「イエロー。僕は正直、どうしてブルーがあそこまで悩むかわかりません」
「うん、あたしも。
戦闘員には悪いけどしょうがないって思うし」
「でも、彼が僕等の中で一番人間らしいですよね。
レッドを除けば」
「そうだね」

 当て馬だって事はもう少し黙っておきますか、その方が面白そうですし。
 本当に見てると飽きない人だ。

続く




閑話4

 戦闘員の補充が難しくなってきたようだ。
 それも当然か、重犯罪者が元々そう多くいるわけではない。

「使い潰す前提なら買ってくればいいがね」

 その場合素体となる人間の経歴に興味は無い。
 ある程度の耐久性と身体能力が残っているならそれでいい。

『どうせ死なせるなら、健康体は臓器でも摘出して最後まで役に立ってもらいましょうよ』

 元々死んで当然の連中を自分は有効活用しているのだ。
 そんな彼等を人助けの道具として使う、罪を償わせる意味もある。
 壊れることを前提条件にされた道具には未来が無い。

「それもいいね。
ああ、利益はちゃんと黒澤君にもあるから安心してくれ」
『今まで、長官がそれを実行しなかったことの方が僕は不思議ですよ』
「そうかい? 私もそこまで悪辣じゃなかったということさ」

 考えてはいたがね。

『思い付くぐらいはしたでしょう?』

 お互い白々しいね、黒澤君。


 科学研究班に、太陽が突然訪ねてきた。

「ピンク! 自分達専用のマシンはないのか!?」

 そこで太陽は、唐突に春美と科学者たちに尋ねた。

「どういうこと?」

 決まっているではないか。

「怪人が巨大化したときに、それと戦う合体メカ用の専用マシンだ!」

 やはりヒーローはあれがないと。

「巨大ロボットの開発案はあるけど、合体メカはないわよ」
「何故だ!?」
「無駄じゃない」

 無駄……だと……

「貴様には男の浪漫というものが分からんのか!」
「女だもの、分かる筈ないじゃない」

 これだから女は。

「だいたい、合体なんてコストもかかるし整備も大変。
それに合体してる間に敵にやられるだけでしょ」
「なら合体済みの状態で出撃すれば良い!」
「本末転倒じゃないの。
そんな余計なことするんだったら、最初から機動兵器として完成したものを1機用意しておく方がマシよ」
「ならメインパイロットは自分か?」

 それならば我慢できるのだが。

「らしいわ。長官のお墨付きよ」
「そうか、ならいいんだ」

 彼は上機嫌で部屋を出て行く。

 合体ロボは無いが、メインは自分か!


「完成すればの話だけどね」

 それにこの設計図、よくわからない部分が多い。
 機密の固まりなのかしら。

「私は現在の世界が維持できればいいもの」

 ある程度平和なら誰も表立って文句は言うまい。
 自分達にはその裏側がどうなのか直接関係の無いことなのだから、と光は言っていた。

 実際に、社会で文句を言う人間は少ない。
 社会全体がその思想に慣れているのだ、物心ついたときには既に。



[8464] 第5話 やっぱりこいつ等はヒーローらしくない
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/12/28 09:51
第5話

ヒーローを始めてしばらく立つが、仲間との人間関係は良好と言える。
きいろとは一緒に訓練するようになって、たまに模擬戦なんかもしたりする。悲しいことに全敗だが。
春美は自分にあまり干渉してこないが、聞けば射撃のコツなんかを教えてくれる。
戦い方が前よりマシになったので嬉しい。
太陽も下手に刺激しなければ、無害(だよな?)なので軽く聞き流すようにしている。まあ、その分の皺寄せが春美に行くので悪いとは思う。
そして薫だが。

「新しい戦闘員の運用方法を思い付いたんです。
早速実戦で使ってみてください」

これさえなければ良い奴なんだよな、多分。
何かとフォローもしてくれるし、愚痴も聞いてくれる。
流石に信頼は出来ないが信用はしている。

「そうか……。
で、どんな運用方法なんだ?」

これだけで済ませられる自分はやっぱり毒されていると思う。

「ヒーローバインドです。
使い方はですね」

「あ、うん、わかった。
大体バインドってとこで想像出来るからいい」

薫の言葉から戦闘員の使い方が分かってしまったので、彼の言葉を遮る。

「そうですか」

多分怪人に戦闘員がしがみついて動きが鈍った間に戦闘員ごと止めを刺すんだろうな。

「でもブルーのランスだったら、上手く使えば怪人だけ倒すことも出来ますよ。
イエローのアックスだと戦闘員ごと叩き潰しちゃいますし、僕のランチャーだと一緒に消し飛ばしちゃいますから」

「俺の武器なら大丈夫か」

「難しいけど可能ですよ。
貴方向けの運用方法ですね」

自己満足って事も見抜かれてるか。

『ブルー、ブラック。怪人が街に出現したわ
。公園を占拠しているみたい。
被害は今の所少ないみたいだけど一応急いで』

ピンクからの通信か、相変わらずさばさばしてるな。

「行きますか」

「ああ」




「公園なんか占拠して何をする気だったのかしら」

「さあ?それよりこのまま不意打ちを」

「そうだな、それじゃあ」

「悪行もそこまでだ、ネズミ怪人!
自分の修行の成果を見せてやる!」

「……不意打ちはできそうにないですから、仕方なく正攻法でいきましょう」

不意打ちをする事に意見がまとまりかけていたのだが、太陽のせいで台無しだ。
薫もマスクがあるせいで表情は見えないが、なんとなく不満そうである。

「レッド、まだ避難も終わってないんだぞ!」

「自分が怪人を引き付けるから、その間にお前達は戦闘員の排除と人命救助を優先してくれ!」

そういうと太陽は一直線に怪人に向かっていった。

「行っちゃったね。
しょうがないからあたしとブラックで戦闘員を倒そう。
ピンクとブルーは救助活動を優先してくれる?」

「そうね」

「了解だ」

「じゃあさっさと始末しましょうか」

薫は言い終わるとすぐランチャーの通常モードで戦闘員を駆逐し始めた。
きいろもアックスで容赦なく叩き潰している。

「ここは2人がいれば大丈夫ね。
私達は市民の避難と救助を優先しましょう」

「そうだな、戦闘員はこっちにもいるんだ」




子供達に襲い掛かる戦闘員に、ランスを一薙ぎして倒す。

「早く逃げるんだ!」

「うん、ありがとうおじちゃん!」

感謝されるのは悪い気分じゃないけど、俺はまだ26だ!

春美は戦闘員を指揮して被害を抑えている。
そろそろこちらは片付きそうだ。

「終わったか?」

「ええ。はやく応援に向かいましょう」


3人がいる所に戻ってみると、太陽が怪人に捕まっていた。

「自分は修行した筈だ、なのにどうして勝てない!?」

「1人で突っ走るからだ、それより今助けに行く!」

あんな奴でも仲間だ、放っておけるか!

「ここは任せてください、ブルー」

「ブラック?」

そう言うと、薫は怪人と太陽にランチャーの照準を向けた。

その場の空気が凍った。

「ブラック、何をする!
早く自分を助けろ!」

太陽がなにやら叫んでいるが、良二は薫の行動に唖然とした。
太陽(と怪人)にランチャーの銃口を向けているのだ。

「大丈夫ですよ。
痛いでしょうが我慢してくださいね」

「おい止めろブラック!
レッドを殺すつもりか!?」

確かに俺はレッドが好きじゃないが、死んでもいいとまでは考えていない!

「イエローとピンクも、やめさせてくれ!」

この状況でも平然としている2人にも協力を求める。

「いつかはやると思ってたけど意外と早かったわね」

なんでそんなに冷静なんだ、ピンク!

「でもレッドなら撃たれても生きてそうだよ」

イエローも止める気なしか!

「おい、やめろ、やめろ、やめてくれぇえええ!」

「発射」

薫は泣き喚く太陽にランチャーを撃った。


惨状を覚悟して目を覆っていたが、どうやら直撃したにも関わらず太陽は無事のようだ。

「ランチャーは通常モードでしたから、威力は控えめです」

どうやら気絶しているだけのようだ。

「今の一撃で怪人も動揺していますね」

そりゃあそうだろうよ。

「じゃあ私も」

春美までヒーローガンを撃ち始めた。
人質が意味を持たないとわかったのか、なんとか避けているようだが、怪人の困惑する様子がこちらにも伝わってきて気の毒だ。

「いつまでお荷物を抱えたまま避けきれるか見物ですね」

「意識が無い人って意外と重いもんね」

薫ときいろは傍観している。

「お、遂に荷物を放り投げましたね」

怪人は太陽をヒーロー達のいる方向に放り投げてきたが、受け止めたのは良二だけだった。
他の3人はこの隙を逃さず容赦ない猛攻を仕掛けている。
太陽が少し哀れになったので、良二は彼をそっと地面に降ろしてあげた。

「ブルー、とどめは任せたわ」

「よし、ヒーローバインド!」

戦闘員が怪人の周りを囲み一斉に取り押さえた。

「くらえ、ブルーランスッ!!」

戦闘員を突き刺さずに、上手く怪人だけを攻撃することに成功した。
最後の瞬間、怪人が凄く悲しい表情をしたように見えたのは気のせいだろうか。

そりゃあ、あんな倒され方なら死んでも死に切れないよな。

「よし、任務完了ですね」

「よし、じゃない!
レッドは大丈夫なのか!?」

「大丈夫、気絶しただけですよ。
僕だって仲間(財布)をむざむざ殺すような真似はしません」

そうか、仲間だもんな。
でもそれにしてはみんなのレッドへの対応が酷いと思うぞ。

「あの場ではあれがベストよ」

ピンクはドライだな。

「でも後でレッドにどう説明する気なんだ?」

「心配ないですよ。
『薬』でちょっとさっきのことを忘れてもらうだけです」

こいつは……。

「ブラック。
もしさっきの戦いで、捕まったのがレッド以外ならどうしてた?」

「ピンクとイエローなら、捕まるようなドジはまずしませんよ」

それもそうか。

「じゃあ、俺は?」

「ブルーですか?
ええ、……助けますよ、多分?」

「その間が怖いよ……」

あと語尾が疑問系なところが。


医療室で、太陽は眠っている。

「ここは……?
はっ、あの怪人は!?」

やっと目を覚ましたようだ。
春美は長官に報告に向かったのでいない。

「起きましたか。
いやあ、流石リーダー。
あの状態から怪人を倒してしまうとは」

おい、なんて大嘘をつくんだ!

「倒した?
自分がか?」

「ええ」

「うん」

おいおい、皆まで。

「そうか、修行で会得した力が、自分の危機に目覚めたのか!」

信じるなよ!

「そうですね」

「やったぞ!
自分一人で怪人を倒した!」

能天気に喜ぶ太陽を残して、建物の外で会話した。

「あれでいいのか?」

「書類上ではそういうことになりますね」

「でもブルーがせっかく倒したのにね」

俺が倒す前に既に瀕死だったぞ。

「まあ、誰も死ななくて良かったよ」




「長官、事後処理は問題ないようです」

『御苦労』

しかしレッドもしぶといですね、ゴキブリみたいだ。
死んでも構わないぐらいのつもりで攻撃したのに。

『まあ、死んだら死んだで構わなかったがね』

「そうなんですか?
まあ、まだ財布としての価値は残ってますから、金蔓が無くならなくてお互い良かったですね」

続く



閑話5

良二達が帰った後、太陽は感動に震えていた。
修行の成果を発揮し、怪人に見事逆転勝ちしたのだ。

この感動を部下達にも伝えたい!

早速プライベート用の携帯番号に連絡することにした。
しかしいざという時になって、彼は自分が皆の番号を知らないことに気付いた。

「……ふっ」

切り替えが早い彼は、次に会った時に、唯一まともに話を聞いてくれそうな良二に自慢話をすることに決めて眠りに落ちた。

自分には明日があるのだから。




「ノアネズミでも駄目じゃったか」

「そうですな」

四種族の長達は、今回の作戦の様子について話し合っていた。

「でもあの赤いのが5人組の中心なのでしょう?
それなのに攻撃するなんて」

「人間も必死なのでしょう」

今までの戦いを見た彼等は、ヒーローを優先して排除することに決めた。
そして頭を潰すべきと、偉そうな赤いのから潰すことにしたのだ。

「しかし、あの青い奴は許せん!
他の仲間に嫌な役目をさせ、自分だけ最後に止めを刺すことだけやるとは!」

「私は違うと思うけど」

ガイアビートルは良二への誤解をさらに深めていた。

「奴等を盾にするような作戦は無駄だとわかっただけでも収穫とするべきじゃろう」

「そうね……」

彼等怪人は、人間が考えることがわからなくなってきた。

「今後は、最低でも2人出撃させましょう。
後、俺の種族は人間の被害など考えませんからそのつもりで」

ウインドホークは自分のテリトリーへ帰っていった。

「長老、私も彼の意見に賛成する」

「わし等も戦えるものはそう多くはないからのう」




「レッドに投薬した新薬は、戦闘力を底上げするらしいですね?」

「はい。
元々彼は身体能力が高めでしたので、あの下手な戦い方でもそれなりの成果が出るようになるでしょう」

薫は太陽に投薬した薬品のことを科学者と話していた。

「実験結果が良好なら、戦闘員にもデータを流用して強化しますので、よろしくお願いします」

「わかりました。
それと副作用ですが」

「なんですか?」

「このまま投薬し続けると、そう長くは持たないでしょう」

「そうですか」

精々少しの間本物のヒーローになった気でいるんですね。
どうせそう長くない命なんですから。




[8464] 第6話 強化されるヒーロー
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/12/28 09:57
第6話

職場に行くと、すっかり良くなったらしい太陽が元気よく話しかけてきた。
薫が加減をしたというのは本当だったようだ。

「おおブルー、自分のこの感動を聞いてくれ!」

一応自慢と純粋な喜びが混ざった話を最後まで聞いたが、しかしこいつ人間のカテゴリーからはみ出してるんじゃないのか?

異常な回復力といい、彼はヒーローに必要な身体能力を、自分には羨ましい位備えていると思った。

「おはよう」

「おはようございます」

春美も薫と一緒に入ってきた。

「レッド、大丈夫なの?」

容赦なく攻撃したとはいえ、流石に彼女は表面上は太陽を気遣っている。
薫はいつものように、何を考えているかわからないが。

「ああ、なんだか今朝からやけに調子が良いんだ!
これはあれだな、遂に真のヒーローとして自分が覚醒した証なんだな!」

いつも通りのハイテンションさ、相変わらず鬱陶しいが、太陽が無事だということがわかって安堵した。

「レッド、後で治療後の経過を知りたいので、ちゃんと科学研究班の検査を受けてくださいね」

「わかっている。
体調管理もヒーローの仕事だからな!」

今は凄く機嫌が良いらしい。

「ピンクは後で新型武器のテストをしますので、ついてきてくださいね」

「ええ」

今度はピンクの専用武器か、どんなのになるのかな?

「なあ、何か手伝えることはないか?」

俺は軽い気持ちで提案した。

「なら、ブルーには的にでもなって貰いましょうか」

へ、的って?



演習場にて、良二は、『後悔先に立たず』と言う言葉を思い出した。

「死ぬ、絶対これ死ぬって!」

彼は必死で神経を研ぎ澄ませている、なぜならば。

パンッ!

「痛い!」

ピンクの狙撃銃の的になっているからだ。
彼女によると、動くものを撃った方が調子が出るらしい。

「大丈夫よ、模擬弾だから」

「それでも痛いものは痛いんだ!」

ピンク、お前絶対Sだろう。

「でも、ブルーのおかげでこの武器の有用性が確かめられましたから。
協力感謝しますよ」

「ブラックのランチャーじゃ駄目なのか?」

あれでも充分に遠距離から砲撃できたと思うが。

「僕のランチャーはまだ試作段階ですから、精密射撃には向かないんですよ。
それに、メンバー内では近接戦が苦手な部類に入るピンクの射撃能力を生かすのには丁度良いでしょう」




「自分の体は治っているのか?」

科学研究班に訪れた太陽は、科学者達と彼の体について話し合っていた。

「戦闘にも充分耐えられるレベルにまでなっています。
しばらくは『薬』を飲んでもらうことになりますが……」

「構わん。
それより自分の専用武器はまだなのか?」

太陽の関心は既に自分の武器に移っているようだ。

「鋭意開発中です」

「む、そうか。
なら失礼するぞ。
自分はトレーニングをする」


太陽が去った後、科学者達はもうひとつのデータを見ていた。

「今回は長官と黒澤さんから思いっきりやっていいと許可が出ているからな。
あの無能から取れたデータは戦闘員や、場合によってはブルーにも適応させることになる。
各々存分に腕を振るうぞ!」

科学者達は高揚していた。
制限が付けられていた研究内容を自由にしていいことになったからだ。
倫理の制約が外された彼等を止める者はいない。
その権限を持った人間は彼等を止めるつもりがない。

彼等は人間の肉体の限界に挑もうとしていた。




「レッドが使えなくなった時の予備が必要だな」

後で黒澤君と相談してみるか。
彼ならそういったことに向いた人物を見る目はあるだろう。

光は補充人員のことを考えていた。

レッドは長期間は持たないだろう。
それと、黒澤君とも長い付き合いだが怪人がいなくなったら邪魔になるからな。
色々知りすぎているしね。




何とか五体満足で春美の武器のテストを終えた良二は、薫と話していた。

「俺の長所って何なんだ?」

「またつまらないことで悩んでいるんですか?」

自分と他のメンバーの能力を比較すると悲しくなってくる。

「ピンクは射撃、イエローは近接戦闘、レッドは人間離れした回復力がある
。お前は殆んどなんでも出来るし、反則技だってある」

「なんですか反則技って、あれは効率を最優先しているだけです。
それにブルーにも長所は有りますよ」

自分の耳を疑った。

「本当か、どこだそれは!」

「耳元でそんな大声で話さないでくださいよ。
まあいいでしょう、ブルーの長所は戦闘するごとに成長していることです。」

「成長、してるのか?」

自分に自信が持てないし、発言者が薫ということで信憑性がさらに下がった。

「事実ですよ。
前までのブルーなら、さっきのピンクの射撃にもなんら対処できなかったでしょうが、僅かではありますが防御していたじゃないですか」

いや、あれだけ撃たれれば嫌でも慣れるさ。

「順応するってことは大切ですよ。
戦闘員の消耗も前より慣れてきているようですし」

「慣れてきたわけじゃないさ……」

慣れてなんか、いない。

「成長できるって事は充分に長所ですよ。
世の中、それすらも満足に出来ない人間もいるんですから自信もってください」

彼は珍しく、裏に何も無さそうな爽やかな笑顔を浮かべた。




まさか良二がここまで使えるようになると思っていなかった薫には嬉しい誤算だった。
まだ凡人の域を出ないが、戦力としては充分に成長している。

いつまでも割り切れなかったようですし、あんまり使えないようなら薬漬けにしてちょっと『強化』しようかと最初は考えてましたがやらないで良かった。
長官は僕を怪人が現れなくなったら始末しようと考えているみたいですが、『その時』のための駒はいくらあってもいい。

薫は良二の評価を『弾除け』から『自分の役に立つ人間』に修正することにした。
利用価値が彼にある間は、良好な人間関係を演じるだろう。




太陽と良二は女性の心理なんて考えてもいなさそうだし、薫はどこか気が抜けないところがあるので、春美ときいろの女2人は消去法でお互いを相談相手にしていた。

「怪人もこう立て続けに出られるとね。
戦闘員が使えるようになって大分楽にはなったけど」

春美は薫に感謝していた。
以前より自分のために使える時間が増えたし、戦闘も有利になった。
もっとも彼に気を許す気は無い。信用は出来ても信頼は出来ない、そんな男だ。
まあ他の男よりはマシだし、気に入ってもいる。

「あたしは、前とあまり変わらないけど……。
でも戦闘がちょっと楽になったね」

きいろは自分の命に対して無頓着な所があるので、ただ敵を駆逐するだけだった。
年頃の少女らしい趣味にも興味を示さず、戦い続ける。

「……」

春美は口には出さないが少しきいろを心配していた。
仲間の中で一番生きることに執着しないから、案外一番早く死ぬのではないかと常々思っている。

他人を心配するなんて、私のキャラじゃないんだけどね。

彼女は話題を変えることにした。

「こんな仕事してると碌な出会いも無いしね。
近場で済まそうにも私の好みの男はいないし、貴女はどう?」

「急にそんなこと言われても困るよ」

明らかに彼女は困惑していた。

「そんなに気にしないで。
あくまで参考に聞いてみただけだから。」

「一緒に戦ってて一番安心できるのはブラックかな。
レッドは暴走気味だし。
ブルーは頼りないけど放っておけないタイプだね。
今、あたしが言えるのはこれだけ。」

「そう」

聞きたかったことはわからなかったが、日頃から彼女とこういった会話をしておきたいと春美は思った。

続く


閑話6


「補充人員ですか」

「そうだ。
もしも、欠員が出たときのための人材は必要だろう?」

薫と光はコームインジャー新メンバーをどうするか話し合っていた。

「で、何人程集める予定なんです?」

「まあ、1人は確実に減るから最低でも2人は欲しいね」

1人減ると言ったが、僕も消す予定とすると2人か。
まあ互いにギブアンドテイクの関係だったから、利用価値が無くなればお払い箱だということはわかりますが、僕も怪人が出なくなったらあなたに利用価値は無くなるんですからお互い様ですね。
自分は死なないとでも思っているんでしょうか、この人。

「実際に会ってみないと候補者についてはなんとも言えませんが、ある程度の目星はついているんでしょう?」

「ああ。男3人、女2人まで絞り込んである」

まずそいつ等は長官の息がかかった人間として間違いないだろう。
役目は自分や太陽の監視か。

「なら、今度候補者と僕、長官の都合が良い時に顔を合わせて、それで最終選考をしましょうか」

「そうするか。
それと、戦闘員の研究は順調なようだよ。
今度は出来れば怪人の生きたサンプルが欲しいね」

自分は戦わないから無茶言ってくれますよ。

「力が弱い個体なら生け捕りに出来るかもしれませんが、そんなに弱いと他のメンバーが捕獲するより先に倒してしまうかもしれませんね」

「ならば、新メンバーが加入した後に、君を中心とした捕獲チームを作って別行動させることも視野に入れたほうが良さそうだな。」

僕の見張りも兼ねているってことか。

「わかりました」

怪人なんか捕まえてどうする気なんですかね。




ウインドホークは次に行う作戦のことを考えていた。
他の長達は生温い。
いっそのこと人間を虐殺してやろうかと常日頃から思っているが、そうすれば我々の中にいらぬ波風が立つし、非効率的だとわかっている。

適当に人間をさらってきて、洗脳して戦闘員に仕立て上げるか……。
こちらの戦力は減らないし、人間の数も減る。
まあ、敵が同族を討つのにためらうような奴等だとは思わないが。

彼は自分達と、他の三種族が生きていければ人間はどうなっても構わない。
他の長達も、自分達がしている侵略で人間に多くの犠牲が出ることはわかっていた筈だ。

人間が住んでいるこの星は、生物が自分達とは異なった進化をしたようだ。
奴等の頭の中でも覗ければ、言葉がわかるかもしれないが、俺には今の所関係ない。

分かり合えなかったり、敵対している生物同士は滅ぼし合うしかないと彼は考えている。
野蛮だが、それも生物の歴史の一側面ではある。




[8464] 第7話 赤色の活躍
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/12/28 10:11
第7話

いつものように待機していると、オペレーターからの通信が入った。
怪人が今日は2体、それも全く別の場所に現れたらしい。

「いつもなら1体だけしか現れないのに、どうしてなんだ?」

「ケダモノはケダモノなりに頭使ったって事じゃないんですか。
相変わらず破壊行動がメインのようですが」

「しかし、場所が離れているとなると、戦力が分散することになって不利だろ」

俺達は5人しかいないからな。

「それなら、片方には戦闘員だけ向かわせて時間稼ぎをさせましょう。
その間にもう一方を始末すれば戦力を分けないで済みます」

「それだと戦闘員はどうなる?」

「最悪大破しますね。
大丈夫です、代わりはありますから」

「わかった……」

話している時間も勿体無い。
早く怪人を倒そう。
自分に出来る目の前のことをやるしかないんだ。



ダム建設予定地に到着すると、魚型の怪人が作業現場を荒らしていた。

「ねえブラック。
あの魚何かな」

「面影はあまりありませんが、淡水種じゃないですか」

きいろはマイペースだが、それに付き合う薫も相当だ。

「よし、自分は怪人をやる!」

また太陽が単独で怪人と戦おうとしている。

「レッド、勝手な真似はするな!」

良二は単独行動をする太陽を嗜めようとしたが、次の瞬間に聞こえた声により断念する。

「助けてくれ!」

「……!」


敵戦闘員が作業員の方々にも危害を加えようとしているので、そっちを先に倒すことを優先した。
太陽は怪人と戦闘中だが、前回のようにはやられずに互角の戦いを、いや、むしろ押している。

「ブルー、そろそろ戦闘員が全部片付くわよ」

そうこうしている内に敵戦闘員を駆逐することに成功した。
太陽もヒーローロッドで相手に大きなダメージを与えている。

「良し皆、ヒーローバスターだ!」

長い間使われていなかったような気がする、ヒーローバスターからの閃光が怪人を包み込んだ。

「良し、まずは1体退治完了だ!もう1体の方も続けていくぞ!」

やけにあっさり片付いたような気がするが……。


もう1体の怪人の方に着くと、こちらの戦闘員は大きな被害を受けており、既に事切れている者も少なくない。
一般市民への被害が抑えられていることがまだ救いか。

「くっ!」

怪人が鋭い嘴を上空から突き刺そうとしてくる。
何とかよけたが、後ろの木に大穴が開いたように、まともに喰らえばたまらない。

「嘴さえ何とかすれば勝機はあるんだ!」

良二はブルーランスを持って待ち構え、カウンターを取ろうとしたが、彼と怪人が交差し、吹き飛ばされたのは彼の方だった。

「ぐああっ!」

久しぶりに直撃食らったなと考えながら彼の意識は消えていった。




「ブルー!」

ブルーが怪人に負けて吹き飛んだ。
多分あれは怪我したんだろうな。
そう考えると心配、早く敵を倒して手当てしてあげないと。

そう考えていると、怪人が良二に止めを刺そうと追撃してくる。

「させないっ!!」

きいろは素早く彼を庇うように怪人の前に立ちはだかり、アックスで怪人を強打した。

「この戦闘の間はブルーは戦えませんね。
戦闘員に安全な所まで運んでもらうことにしましょう」

「うん」

薫の提案に彼女は頷いた。多分、そうすれば安全だろうから。



ブルーがやられましたか。
成長したといっても他のメンバーも成長してるから、ほんの気休めみたいなものだったんですが。
まあ、今日はレッドに投薬した新薬の効果が早速出ているようなので問題はないですが、科学研究班にはブルーを実験材料にはしないように手配しておかないと。
長官にとっては、ブルーはレッドの当て馬ですから、元々死んでも構わないような存在みたいですし。

薫はバッテリー型戦闘員を呼び寄せ、ランチャーのチャージを開始した。



太陽は良い気分だった。
今までなかなか修行の成果が出ずに怪人に苦戦したが、今日は体の調子がとてもいいのだ。
身体が自分のイメージしたとおりに動いてくれる。
敵の攻撃も難なく対応でき、自分の攻撃は面白いように当たってくれるのだ。

やはり、ヒーローとはこうでなくてはいけない!
ブルーは無様にやられたが自分は違う。

鳥型怪人の嘴をヒーローロッドで叩き割り、怪人が凄まじい悲鳴を上げるのにも構わず片方の羽を毟り取った。
毟り取った部分から体液が吹き出るのを見てますます興奮し、さらに残っているもう1つの羽も同じ様に引き千切る。

彼は強くなった自分の力に溺れていた。





明らかにこれまでの戦いとは様子が違う太陽を見て、春美は薫に問いただした。

「レッドに、何をしたの」

「『僕』は何もしていませんよ」

微妙なアクセントの違いから彼女は太陽に何が起きたか大体理解した。

「大方、薬漬けにして強化したってところかしら」

「そうならばどうしますか?」

決まっている。

「どうもしないわ」

「へえ?」

別に自分が薬漬けにされたわけではないし、今までろくな戦果が無かった太陽が使い物になるならそう悪いことではないように思えたからだ。

「レッドも良かったんじゃない?
『ヒーロー』になれて」

「貴女も、中々ドライですね」

貴方と長官の黒さには負けるわよ。




そろそろレッドのタイムリミットが近いみたいですね。
まだ初期段階の強化だからこんなものでしょうか。

太陽の動きに疲れが見え始めたが、怪人はもはや死ぬ一歩手前だ。

楽にしてあげますか、いつまでも生きているのは見苦しいですし。

薫はランチャーで怪人を焼き払い、それと同時に太陽は気を失った。



良二が気目を覚ますと、医療室の天井が見えた。

「知ってる天井だ……」

自分を落ち着けるためにあえてネタを言い、周囲を見渡した。
すると、きいろが椅子に座って携帯を弄っていた。さっきの独り言をきかれただろうか。

「あ、起きた?」

「ああ。怪人はどうなった?」

こうしていられるということは、恐らく倒したのだろうが。

「うん、レッドが凄い勢いで怪人を瀕死にしたけど気絶しちゃって、それからブラックが止めをさしたよ」

「そうか……」

俺も、成長したと思ったんだけどなあ。

「ブルーはちょっとネガティブだから言っておくけど、死んでないだけいいじゃない。
怪我も直撃を受けたにしては軽傷だったってお医者さんも言ってたから、ラッキーだったって思わなきゃ」

「うん……。
すまないが、しばらく1人にしてくれないか……」

励ましてくれているであろう彼女には悪いが、今は1人になりたかった。

「わかった。
じゃあ何かあったらそこのボタンを押してね」

きいろはそう言うとさっさと医療室から出て行った。
気を悪くさせてしまっただろうか、後で謝らないと。



レッドも活躍したのに……。
自分だけ何も役に立たないっていうのは毎回思うけど、悔しいな……。

続く


閑話7


光と薫は、新メンバーの候補者達と対面していた。
男性3名、女性2名にまで絞り込んだのを、さらに合計2名にまで最終選考するためだ。

「ブルーが負傷したそうじゃないか。
やはり彼はヒーローに向いていないのではないかね?
なんなら今からでも遅くない、早い所自主退職して貰うよう仕向けてはどうかな?」

光は、良二のことはどうでも良かった。
死んだとしても彼の代わりなら幾らでもいるし、薫に新しいパートナーをつけて取り締まりやすくすることもできる。
だが、まだ生きているようだ。案外どうでも良い物に限って丈夫に出来ているらしい。


一方薫も良二のことを考えていた。
このままの状態だと、本人も色々考えすぎて良くないだろう。
むしろ長官に良二が始末されそうだし、それは薫としても望まないものである。
だから彼は、何かされる前に新しい提案をすることにした。


「長官、しばらくブルーを『青山良二』に戻しては如何でしょうか。
彼も色々考えているようですし、その間新しいブルーをこの候補者達の中から仮に選んでみては?
結果がよければそのまま続けてもらうことにすれば良いわけですし」

薫にとって不利な提案だが、一過性のものなら問題はない。新しいブルーが自分の敵で無くなればいいのだから。
それと同時に新メンバーの懐柔、脅迫、排除方法を幾つか考え始める。



光は、薫を愚かだと思った。
もう少し利巧かと思ったが、良二にやはり情が移ったのか、彼がヒーローに戻るチャンスを残しているのだから。

この分だとそう焦ることも無いかな。流石に彼も新メンバーをいきなりどうこうするわけはないだろうしね。

彼は薫の真意に気づかぬまま、彼の提案を了承した。



結果、新しくグリーンに緑川優子、オレンジに緋崎茜、そして暫定ブルーに清水隆の女性2名、男性1名が選ばれることになった。
なお現在のブルー、青山良二にはしばらく休暇を出すこととなった。



会議が終わって夜が近づくと、薫は頃合を見計らって新メンバーの1人に接触することにした。

「どうも。
緋崎茜さん、でしたよね?」

「あれ、アンタさっきのブラックじゃない?
どしたの?」

彼は緋崎茜から攻略していくことにしたようだ。

「ええ、これから仲間になることですし、ちょっと『お話』がしたいなあと思いましてね。
奢りますからどこかで飲みませんか?」

「へえ、気前良いじゃん、オッケー。
それとさ、その敬語やめてくんない?
アタシの方が年下なんだしさ」

まずは第一段階成功という所か。



「でもさ、良かったの?
アタシまだ未成年だし、それにアンタヒーローやってて有名なんでしょ。
顔見せてまずくない?」

「大丈夫さ、黙ってりゃばれやしないよ。
それに俺だけメンバーの中で、マスコミには顔露出してないから」

自分が今話している男はヒーローらしくないと思う。法律平気で破ってるし。

「ふーん、勿体無いの。
せっかくいい男なのに」

これは本当だ。
あのオヤジからは見張れって言われてたけど、そんなに悪い人間には見えない。

「ありがとう。
まあ今日は無粋な話はやめて楽しもうじゃないか、『色々』と」

そういえば、なんでこいつあんなオヤジの部下やってるんだろう。

「ねー、なんであんな奴のパシリやってんの?
どう見ても善人には見えないじゃない」

「正義=善ってわけじゃあないからね……。
本末転倒のような気もするけど怪人が出るような物騒な世の中だから、ある程度の治安維持のためもあるんだよ」

「アンタまだ若そうなのに大変ねー。
そういえば年いくつ?」

アタシは別に他人がどうなろうと平気だけど、アイツ金払いがいいしね。
純粋な『正義感』なんて関係ない。
その点こいつはどうなんだろう。

「22だよ」

「まだ社会人1年目ってとこ?」

「そうなるね。
君は?」

「17」

多分、アタシが全メンバー中最年少になるのかな。

「高校はいいのかい?
それに年齢規定だってあるだろう?」

「大検合格してるし平気。
規定とか小難しいのは長官がどうにかするってさ」

「そうか。
まだ別な店に行くかい?」

「そうする。
アンタがなんでヒーローやってるかとかも知りたいし」

多少興味は出てきた、まあオヤジからのバイトも込みだけど、こいつのことも知れるし、上に報告もできるし一石二鳥よね。

「いろいろ教えてあげますよ、じっくりと……」

茜は何か聞こえたような気がしたが、店の喧騒に紛れてよく聞こえなかった。

今の何だったのかな?





[8464] 第8話 青の憂鬱
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/12/28 10:22
第8話

「新しいブルーだって!?」

「らしいですね。
でもまだ正式な決定じゃありませんから」

良二は、自分の代わりのブルーが来ると薫から聞いて驚いていた。

「なんでまた?」

「貴方が怪我をしているということと、元々長官が適正に疑問を抱いていたということで、戦闘力がより高いメンバーを新たに選んだそうですよ」

俺の戦闘力は正直低いが、まさか首になるとは。

そう考えていると、光が見慣れない男を連れて医療室に入ってきた。

「失礼するよ」

「あ、どうぞ」

見慣れない男は良二を無遠慮に見下ろしており、それが気になった彼は男に問いかけた。

何なんだ、こいつ。

「どちら様で?」

「あぁー、一応自己紹介しとくぜ。
もう会うことはねえだろうがな。
俺は新ブルーの清水隆だ。
ヨロシク、そしてサヨナラ旧ブルー」

この男が、俺の代わり?

「まだブルー(仮)でしょう」

まだ決まってはいない事だったので、薫が訂正した。

「いいじゃねーか。
どうせすぐ仮が取れるんだからよぉ」

やけに自信が有るようだが。

「なんつっても俺がこいつに負けてる所なんか1つもないし、大体こいつ全ヒーロー中最弱だった奴なんだろ」

痛いところをはっきりと突いてきやがって。

「そこまでにしておきたまえ、ブルー。
青山君、今までご苦労だったね。
後の詳しい説明は黒澤君がしてくれるから」

光は既に良二への興味を失っているようで、目を合わせずに出て行った。

「へいへい。
んじゃあな、アンタの代わりはこの俺がもっと上手くやってやっから。
ブラックもさっさと説明なんか適当に終わらせろよ」

清水という男は、最後まで良二を馬鹿にしたような笑みを浮かべて去って行った。

「……どういうことなんだ、ブラック」

「新メンバーを決める会議がありましてね。
そこで長官が、貴方がしばらく戦えなくなった事を良いことに交代案を出してきたんですよ。
それでしばらくは様子を見ながら比較して最終的なブルーを決めるそうですが、あの分だとブルーの復帰は厳しいでしょうね」

相変わらず事実を淡々と告げる奴だな。

「まだ貴方のヒーロー登録は残っていますが」

「そうか……」

お払い箱ってわけか、まあ仕方ないよな。俺弱いしな……。

「ブルー(仮)の他に、女性2名がグリーンとオレンジとして新たに登録されました」

合計7人か。

「ちょっと多くないか?」

「昨今の特撮とかではそれ位良くあることだから気にするな、と長官が言っていました」

まあ、追加戦士とか良くあるけどさ。

「それで、チームをレッド、イエロー、ピンク、ブルー(仮)の4人と、僕、グリーン、オレンジの3人の2チームにし、それぞれのチームを独立して行動させることになったんです」

「そうか。
じゃあ、お前はチーム2のリーダーってわけだな。
出世したな」

「別に嬉しくないですよ。
総隊長はレッドのままですし」

あ、レッド名目上はまだチーム№1なのか。

「でも、これでお前とのコンビも解消か」

「そうなりますね、寂しくなります。
このままあのブルー(仮)が正式メンバーになればの話ですが」

まあほぼ確定事項なんだろう?

「そういえば、お前なんで新ブルーのこと仮って呼んでるんだ?」

「僕にとっては、貴方がまだブルーですから」

まだ、俺のことを仲間だって思ってくれてるのか……。

「ありがとう、ブラック」

「早いところ戻って来て下さいよ。
あなたのことはイエローも、ピンクも、僕も嫌いじゃありませんから」

「好きとは言ってくれないんだな」

良二はは、この日初めて笑った。



あなたが一番都合が良いですしね。まあ、それなりに気に入ってはいますよ?
あのブルー(仮)はなるべく早くなんとかしますから。




「新メンバー?」

「うむ、どうやら長官が決めたことらしい。
まあ、相変わらずリーダーは自分だがな!」

太陽がいつもどおりのテンションで喋る中、春美ときいろは顔を見合わせた。
急な話だったし、良二もまだ復帰していない。

「あ、あの人達がそうなのかな?」

きいろが視線を向けた先に2人の女性と1人の男が立っていた。
太陽も気がついたらしく、三対三で向かい合う形となった。


「アンタ等が先輩か。
へえぇ、2人ともなかなかいい女じゃねえか」

チンピラ風の男が嘗め回すような視線で見てくる。

「よしなさい。
清水が失礼しました、先輩方」

眼鏡をした真面目そうな雰囲気の女性が男を嗜め、彼の発言を謝罪する。

「ふうん、アタシがやっぱり一番年下なんだ」

最後にまだ高校生位の女の子が春美達を観察した。

「えっと、貴方達が新メンバー?」

きいろは半信半疑なのか、確認のために質問をした。

「はい、私がグリーンの緑川優子です。
以後よろしくお願いします」

「アタシは緋崎茜。
オレンジね」

「んでもって、この俺が新ブルーの清水隆だ!」

新ブルー?

「ちょっと待って。
新ブルーって、ブルーは間に合ってるわよ?」

ブルーはあの手のかかる彼だけで充分だ。

「だぁかぁらぁ、旧ブルーは首なんだよ、ク・ビ!」

「どういうことだ!
自分は聞いてないぞ!」

春美、きいろ、太陽が3人とも混乱している中、緋崎茜が口を挟んできた。

「えっとぉ、長官が言うには使えないからだってさ」

「正確には首ではなく、あくまで保留ですが9割9分9厘首は確定でしょうね」

さらに緑川優子が余計な補足を入れてくる。

「そんな、今まで一緒にやってきたのに……」

きいろも流石にショックを受けているようだ。

「いいじゃねえか。
俺の方が使えるぜ?
さっさとあんな奴の事なんか忘れさせてやるよ」

そういう問題じゃないわよ。
さっきからこいつの言動には苛々する、まだレッドの方がましだわ。

「あんまりイエローを苛めないで下さいよ、ブルー(仮)」

険悪な空気の中、薫がタイミング良く登場した。

本当にタイミング良いわね、盗み聞きでもしてたんじゃないの?

「あ、薫!
何やってたの?」

緋崎茜が嬉しそうにブラックの方へ駆け寄った。

「ちょっとブルーに説明してて遅くなったんですよ。
すみません」

「おい、ブラック!
いつまで(仮)をつけて俺を呼ぶんだ!」

ブルー(仮)か、あいつはこの呼び方で良いわね。

薫のネーミングセンスに心の中で笑ってしまった。

「ブラック、何故ブルーの代わりにブルー(仮)がヒーローになるのか説明してもらえる?
後、なんでその子とそんなに仲が良さそうなのかしら?」

随分と手が早いのね。

「詳しいことはブルーの見舞いにでも行ったときに彼から直接聞いてください。
それと茜とは先日ちょっと『お話』して『仲良く』なったんです。
あんまりプライベートには干渉しないでくれませんか?」

「わかったわ。
レッド、イエロー。
ブルーの見舞いに行くわよ」

春美は振り返らずにブルーのいる所に向かった。




「ねえピンク、あたしはブルーがブルーじゃなきゃ嫌だな」

「自分もだ!
あいつがいないと自分のカッコよさが引き立たないではないか!」

そうよね、イエロー。後、レッドは自重しなさい。




「行っちゃったね。」

3人を見送った後、部屋には薫と新メンバー3人、計4人が取り残された。

「ブラック、てめえさっきはよくもシカトしやがったな!」

清水隆はいきなり殴りかかってきたが、彼はそれを避けカウンターを叩き込んだ。

「ぐへぇっ!!」

這い蹲る隆を冷めた目で見下ろす。

呻き声まで品が無いですね、この前の茜は良い声で喘いでくれたのに。

「わぁ、薫強いね」

「どうも」

「確かに黒澤さんは強いですね。
ブルー(仮)は、所詮補欠合格ですか」

グリーンも案外毒舌ですね。

「てめえ、覚えてやがれ!」

隆は背を向けて逃げ出した。

所詮補欠か。
それは負け犬の遠吠えですよ。

「茜、グリーン。
後で青山さんのお見舞いに行きませんか?」

「アタシはオッケー」

「私も、先任の方に挨拶しておこうかと」


ピンク達は上手いことブルーにフォローしてくれているでしょうかね。




医療室で休んでいると、春美、きいろ、太陽がやって来た。

「ブルー、貴方がヒーローを辞めることになるかも知れないってブルー(仮)に聞いたわ」

もうその呼び方浸透してるのか。

「ああ」

「あたしは、あのブルー(仮)が新しいブルーっていうのは嫌だな」

「私もよ。
あんなのとチームを組むなんて」

イエローにピンク、ありがとう。

「その通りだ、あいつは態度が気に食わん!
やはりお前の方が便利だ!」

レッド、ちょっとはオブラートに包んでくれよ。

「まあ、ブラックからも色々聞かされたけど、今すぐ辞めるわけじゃないし。
俺が残る可能性だって1割……、いや、3割ぐらいはあるよな?」

「そんな自信無さ気に言われても」

イエローも俺も苦笑するしかないな。
無理して笑ってくれなくても良いんだぞ?

「仮にあいつがあなたより何倍も使えるって言うのなら話は別だけど、実力に差がないようなら私達からも長官に進言してみるから」

「うむ、リーダーとして部下を庇うのは当然だからな。
たとえお前がヒーロー最弱だとしても自分は見捨てないぞ!」

だから、レッドはどうしてこう一言多いんだ。




「数を増やしても駄目でしたね。
やはりもう形振り構わずに、あいつらを効率よく倒す作戦に変更すべきです」

「うむ、私も人間以外に被害が出ないならその意見に賛成だ」

怪人達の中でハト派とタカ派に分かれて会議が行われていた。

「なにかおぬし等に策はあるのか?」

「次回の作戦は私にお任せください。
特にあの青い奴は、今度こそ倒します」





隆は自分を容易く倒した薫と、自分を認めない旧メンバーに憤っていた。

「ちっ、どいつもこいつも!」

最終選考の前にブルーが怪我をしたことで彼は急遽新ブルーに選ばれたが、それは補欠合格という形であって正式なものではなかった。
また以前もブルーの候補に挙がっていたが、青山良二が現在のブルーに結果的には選ばれた。
それまで挫折を知らなかった彼にとっては屈辱だった。
自分の方が優秀な筈なのだから。自分は、無能じゃない。

実際に能力的には隆のほうが良二より少し高い。
だが、長官が太陽の当て馬を選ぶためにあえて劣る良二を選んだのだ。

「今に見てろよ!」




春美達が帰った後、薫が2人の女の子を連れてやってきた。

こいつ、結構手が早いのか。

「ブラック、その2人が残りの新メンバーなのか?」

「ええ。
オレンジの緋崎茜さんと、グリーンの緑川優子さんです」

「はじめましてっ」

「よろしくお願いします」

挨拶が済んだところで、今後のことを話し合うことにした。

「知っての通り、試験的にブルー(仮)を戦わせて貴方の今までの活動と比較することになっています。
私個人としては彼の性格は好ましくありませんが、貴方も能力的に不足していますしどちらも一長一短ですね。」

この子もはっきり言うな。ピンクと似たタイプか?

「アタシと優子さんはどっちがブルーになってもいいんだけどね。
どっちにしろ別チームだし」

やっぱり俺の存在って……。

「僕も色々大変なんですよ。
グリーンが僕の指揮官適性とかを査察して長官に報告するみたいですし、茜の面倒も見なくてはいけませんから」

昇進したらしたで、大変なんだな。
ん?今こいつオレンジのこと名前で呼んだよな!?俺の事だって名前で呼んでくれないのに!

「おいブラック!
何でその子をもう名前呼びしてるんだ!」

「貴方もそれを聞きますか。
普通にプライベートで『仲良くなった』だけですよ」

今の言い方がちょっと引っかかるが。

「お前人のこと名前で呼んだことなかったのにな」

「名前で呼ばれたいんですか?
でしたらヒーローを辞めて『青山良二』に戻ってみては?」

グリーン!?この子やっぱり酷い!

「そうなったら接点なくなるじゃないか!」

「落ち着いてくださいよ。
後、僕はあなたにブルーでいて欲しいんで、これからも名前で呼びませんから」

「薫はこの人がブルーの方が良いの?」

「まあ」

「ふうん、じゃあアタシも応援だけはするね」

ありがとよ……。

続く


閑話8

薫と茜 閑話7の続き

薫は目の前の女が自分を気に入るように演技していた。
その成果は出て、彼女は既に薫に好感を抱いているようだ。

「へえ、動物好きなんだ?」

「うん、特に犬とかね」

従順な生き物が好きなだけですけどね。
まあ、なかなか言うことを聞いてくれないのを徹底的に躾けて自分に忠実にするのも楽しいですが。
そろそろ薬が効いてくる頃でしょうか。
警戒もしないで飲み物を飲むなんて。
アルコールで多少なりとも判断力を鈍らせたことも効いてはいたでしょうが。

「ところで、君は長官に何か俺について言われていなかったかい?」

「うん、あのオヤジには、見張って行動を報告しろって、あれ、なんで、アタシ……?」

「おや、やっぱり効いていたようですね。
少し休める所に行きましょうか」

「アンタ、口調……」

もうサービスは終わりですよ。
ちょっとだけでも好みのタイプを演じてあげたんだから充分でしょう?

「すいませんね、こっちが素なんですよ」

さて、あとはゆっくりやりましょうか。

自分の家族や友人達も欺き続けた彼にとって、初対面の小娘1人攻略することなど簡単だった。
物心ついたときには既に、どうすれば相手に気に入られるかを常に考えていた。
好意を持ってくれる者にはそれなりの対応を、それでも悪意を向ける相手には懐柔するか処理するかしてなんとか平穏で上等な人生を歩んできたときに長官からヒーローに指名されたのだ。
当時学生だった彼は、公務員になって安定した、人並み以上の生活を送ることを目標にしていた。
特にやりたいこともなかったし、その気になればわりと何でもできたから夢が無かったと言える。

家業は兄が継いだし、僕にはすることがありませんでしたからね。
給料もかなり良かったし、良い仕事かなと思ったんです。
それに人類滅亡したら困りますし。
長官も、向こうから声をかけておいて酷いですよね。一応人類のために頑張っているのに。
まあ自分のしていることが善とは言えないことは百も承知ですが。

彼は善人ではないが、常識は持っているし、相手がされたら嫌なこともわかっている。
だから大多数の一般市民にとっては比較的安全な男なのだ。
自分の障害には、されたら嫌なことを承知で躊躇無くやるから性質が悪いが。
女性が欲しくなったときは、適当に声をかけてしばらく話せばそれでなんとかなったので、性犯罪をする理由も無い。
あくまでも両者合意の上だ。大概一晩だけの関係だったが。

今度の相手は少しだけ長い付き合いになるから、念入りに躾けておきますか。





「緑川君、早速黒澤君を探るのに緋崎君が向かったそうだね」

「彼からの誘いだそうです」

女には手が早いか、彼も男だね。

「ですが長官、なぜ黒澤薫を見張るのですか?」

「彼の行動は最近目に余ってね。
戦闘員を発案したのも彼なのだよ」

「戦闘員を!?
あれは長官が提案したのでは?」

「強引に押し切られてね。
これ以上彼の好きにさせるわけにはいかないのだ」

私も大いに賛成していたがね。

「わかったなら、緋崎君に後で連絡を取り、経過を報告するよう手配したまえ」

「はい。
……?
長官、茜さんからのメールです」

優子が掲げた携帯の画面には、短い文が浮かんでいた。

『攻略成功』

案外簡単だったね。

「以後継続して調査するように返信してくれたまえ」

女には弱いか。

実際は、茜を攻略した薫が彼女の携帯から送った文章だということを彼等は知らない。

「緑川君、今夜どうかね?」

「丁重にお断りさせて頂きます」

つれないね。

光は優秀な人材をスカウトした。
ここまでは良かったが、それを排除しようとしたことが間違いだった。



[8464] 第9話 桃色の苛立ち
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2010/01/05 20:52
第9話

ノクア本拠地で、ガイアビートルは部下のノアクモと作戦を立てていた。

「いいか、今回はあの5人組を分散させて倒すんだ。敵側にも我々側のアンツのような存在がいるようだが、それはお前の能力で動きを封じることが出来る程度の力しかない。
連携にさえ気をつければあの青いのは怖くないのだ!」

どうやら標的を決め、それを真っ先に倒すことに決めているようだ。

「お任せを!」




どうやら怪人が駅に出たらしい。
だが今は2チーム、計7人いるのだから大抵のことには対処できる筈だ。

「ねえピンク。まさかとは思うけど、ブルー駅の近くにいないよね?」

良二は身体を動かすために、たまたま医療室を出ているらしい。

「……多分大丈夫だとは思うけど、無いとは言い切れないのがブルーよね」

「でしたら携帯で連絡を取っては如何でしょう」

優子の提案したので、きいろは早速実行した。



「もしもし、ブルー? 今どこ?」

スピーカー機能をONにしているためかどうかは知らないが、やけに騒がしい。

『イエロー!? それより今怪人が糸でうわぁあっ!?』

良二の携帯が壊れたのだろう、通話が途絶えた。


「ど、どうしよう! ブルー今変身できないから死んじゃうよ!?」

「部下の危機だ、早く駆けつけ、そして自分の勇姿を見せてやらねば!」

きいろと太陽は焦っている。
まあ、自分も表情には出ないがそれなりに心配しているけど。

あいつ、本当に運悪いわね……。よりによってこんな時に。

隆の方を見てみると、露骨に嬉しそうだ。

「随分と嬉しそうですね、(仮)」

「ホント。どうしたの?」

止せばいいのに、優子と茜も気になったのか尋ねていた。

「(仮)は余計だ! はっ、当然だろ。あいつが死ねば、自動的にブルーの座はこの俺のものだぜ!」

(仮)はブルーが死んだ方が良いみたいね。

「ちょっと! そんな言い方酷いよ!」

きいろも彼の言い草に怒っているようだ。

「まあ2人とも、今は落ち着いて。先に現場に行きましょう。話はそれからです」

今まで黙っていた薫が口を開いた。

「あぁん?リーダー面してんじゃねえよ、この優男!」

「その優男に負けた貴方はなんなんですか? 見掛け倒し。大体そんなだから補欠なんですよ。その態度に見合う能力も持ってない分際で。
もう少し自分の立場を考えたらどうなんですか。それとも考えるだけの頭を持っていないとか? 
ああ失礼、仮にもエリートコース(自称)を歩んできた人ともあろうものがそんな筈ないですよねぇ? ブルー(仮)」

容赦ないわね。
しかも相手が気にしてそうなことを抉るように。

「てめぇ! 見てろよ、俺の力を認めさせてやるぜ!」

そう吐き捨てて隆は1人飛び出していった。

「待て! リーダーの俺を置いていくな!」

「あたしも行く!」

太陽ときいろも、その後を追いかけていった。

「まったく! バラバラに動いたら駄目じゃない!」

本当に、ヒーロー休業してても厄介事のタネになるんだから!




黒澤さんは何を考えて(仮)を煽るような事を言ったのでしょう?
長官からの命令もありますし、少し探ってみますか。

「黒澤さん、随分(仮)にきつく当たっていますが嫌いなんですか?」

「いえ、嫌いじゃないですよ」

「でしたら何故あんな言い方を?」

「ブルー(仮)のテストですよ。個人での実戦経験はまだ無いようなので、どこまで1人で対応できるかなと思いまして」

「発破を掛けたんですか?」

「まあ。それにブルーも今まで怪人と戦った経験がありますから簡単にはやられないでしょう」

全部は教えてくれませんか。

「私も行きます」

流石に、このまま2人に死なれたら後味が悪いですから。



外に出てから、茜は薫に疑問点を聞いた。

「ねえ、優子さんに言ったこと建前でしょ?」

「嘘は言ってないですけどね」

この人が何を考えてるか未だにわからない。
初対面でいきなりあんなことをしてくるような奴には見えなかった。
まあ、あんまり良い人過ぎてもちょっと物足りないし、アタシには彼位怖い人のほうが良いかも。
あの時の彼が全部演技だったなんて、すっかり騙された。
動物好きには悪い人はいないって言うけど、絶対嘘だ。
でも、将来有望な優良物件だし、素の時の性格にさえ目を瞑ればかなり好みのタイプだ。
嫌いにはなれないし、それに、責任も取って貰いたいしね。




あの勢いでブルー(仮)死んでくれれば言うこと無いんですが。
彼のことは嫌いじゃないですが、どうでもいいですね。
茜とは長官の件が終わるまでは現状維持、それからの処遇は後で考えますか。



良二は、眼前の蜘蛛のような怪人と対峙していた。
きいろと連絡中に攻撃され、なんとか避けたが携帯を壊されてしまった。

散歩に出たのは良かったが、疲れたので帰りは電車にしたのがいけなかったか、と彼は後悔した。

携帯、気に入っていたのに……。
けど、持ちこたえれば皆(隆を除く)は現場、つまりここに向かってくる筈だ!
俺だって、伊達にヒーローやってたわけじゃない。こんな時どうすれば良いのか理解している!

彼は今までの経験上、今最も効果的な方法を実行した。

「いくぞ怪人!」

気合を入れて自分の方に向かってきた良二を見て、怪人は身構えた。

「これが俺の全力全開!」

某魔王様、俺に力を!

「Syaa!?」

「逃げる!!」

良二は逃げ出した。
怪人は追いかけた。


いや、ヒーロースーツもないのに戦うなんて無理だろ!?
特撮とかでは生身でもアクションしてるけどさ、俺は無理だよ!?
それに普通、怪人に生身のまま攻撃されたら死ぬよ!
現実は、テレビみたいに簡単にはいかないんだぜ……。

彼は自分の力量を弁えていたので、1人で怪人に立ち向かうことはしなかった。
戦闘員でも直撃を受けると死ぬ、まして今の彼は、精々体を鍛えた一般人レベルの戦闘力しか持っていなかった。
そういった意味では彼の判断はそう間違った物ではないと言える。
体力と脚力にはそれなりに自信があったし、時折り発射される糸のようなものは、喰らうと動きを封じるタイプのもののようだが、当たらなければどうということはない。

この場には自分だけだったから彼は逃げたが、ヒーローとして守るべき人がいたならどうなったかはわからない。


「はぁ、はぁ……」

しばらく逃げ続けて、体力が限界に近づいた。
怪人からのプレッシャー、死への恐怖、なにより病み上がりだったことが理由だ。

もう少し、もう少し持ちこたえれば!




春美は先刻から、戦闘員がほとんど役に立たない状態での戦闘を強いられていた。
太陽達と現場近くに辿り着いたが、隆の姿は見えず、そこにハリネズミのような怪人と敵戦闘員の襲撃を受けたのだ。
今回も敵怪人は複数いるらしい。

「この糸、足に絡みつく!」

恐らくもう一体の怪人が出してった糸がこちら側の戦闘員と自分たちの足を止め、動けない間にまるで機関銃のように大型の針がこちらを襲う。
ハリネズミは離れた位置から攻撃しているため糸の影響は無いが、こちらの戦闘員は何も対処できず、針に貫かれるか、敵戦闘員に撲殺されるかという哀れな末路を辿った。

「くそっ、近づけん!」

太陽はヒーローロッドを振り回して、針を防御しつつ愚痴を言っている。

「あの弾幕を、何とかして突破しないとブルーが……。」

きいろは建物や電柱から飛び掛ってくる戦闘員をアックスで迎撃しながら良二を心配している。

「ここはピンクに何とかしてもらいましょうか。ピンク、ライフルを」

味方の戦闘員を盾にしつつ薫が春美にそう言った。

実戦での使用は初めてなんだけど、出来るかしら。

狙撃銃を用意して怪人に向けて連射したが、余り効き目は無いようだ。
それに射線上に敵戦闘員が出てくるので充分に狙えない。

表情には出ないが、内心で彼女は焦っていた。
良二のことが気にかかるし、隆が血迷って何をするか解らないからだ。

「ピンク、連射モードではなく狙撃形態に切り替えてください。僕は壁を作っている雑魚を始末します」

「わかったわ」

「照準が終わるまでアタシ達がガードするから任せて!」

そして薫がランチャー通常形態で敵戦闘員を焼き払った後、彼女は充分に狙いをつけ、引き金を引いた。



良二の体力が遂に尽きた。
怪人が近づいてくる。

死んでたまるか!

良二は死にたくなかった。
結婚だってしてないし、まだ自分には会いたい人達がいるのだ。

そのとき、直感的に危機を感じたので彼は咄嗟に伏せた。
すると、彼の頭上を熱線が通り抜け、同軸線上にいた怪人に当たった。

「Guoo!」

「な、なんだ!?」

振り向くと、普段自分が着ていたヒーロースーツに身を包んだ人間が立っていた。

「よぉ、また会っちまったな旧ブルー? 今ここにいるのは俺とお前、それにその化け物だけだ。つまり、俺にとっては絶好のチャンスってことだぁ!!」

ブルー(仮)、清水隆がマスク越しに自分を睨んでいるように良二は感じた。



旧ブルーが怪人に殺られて、俺が怪人を1人で倒せば俺が本物のブルーだ!

そう考え、太陽ときいろを撒いてここまで辿り着いた。
すると、まだ生きている旧ブルーが見えたので、隆は『死体が見つからない行方不明』になってもらおうと考えた。




ちょうど体力がなくなった頃に、突然現れた隆が良二に攻撃を仕掛けた。

「止めろ、清水! 怪人がまだいるんだぞ!」

「化け物はいつでも倒せるけどよ、てめえを始末するチャンスは今しか無えんだ!」

くっ、聞く耳持たずってことか・・・。

「どうして俺を狙う?」

「簡単だぁ、てめえが生きてれば邪魔だからな! それに、今なら死体を片付けるのも楽だしな」

答えになってないぞ!

そんな問答をしている彼等をじれったく思ったのかどうかは解らないが、怪人は糸を隆に放った。

「!? ちっ、さきに化け物、てめえから始末してやんよ!」

ヒーロー(元)としてこんなことは考えてはいけないかもしれないが、無性に怪人の方を応援したくなった。




春美が放った銃撃は、怪人の頭部を撃ち抜いた。
恐らく即死だっただろう。
彼女が周囲を見渡すと、こちらの戦闘員がほぼ全滅しかけていた。

「後片付けは事後に到着する災害救助型の戦闘員に任せて、ブルーと怪人を探しに行きましょう」

「そうね。」

薫の発言には賛成だったので、彼女達は糸に注意しながら任務を続行することにした。




ノアクモは目の前の男が『青い奴』だと確信した。
非戦闘員であろう逃げ回っていた男を襲おうとした自分が言えた義理ではないが、青い奴はその男ごと自分を倒そうとしたのだ。
その行動は、かつてノアコガネムシを倒したときの行動と似ていた。
あの時は味方を盾にしていたのだ。
だから優先して青い奴を倒すことにした。
ガイアビートル様の命令通りにもなる。




隆はブルーランスを振るって攻撃を仕掛けるが、周囲の建物ついた糸に邪魔されて上手く使えないようだ。
その間に怪人は新しく糸を張り巡らせ、それを登っていった。

「この野郎、降りてきやがれ!」

言葉通じないし、それに通じたとしても普通は降りてこないぞ。

まだ体力が回復しておらず、動けない良二はぼんやりした頭でそんなことを考えていた。

怪人は上から隆の周囲に糸を発射し、彼の動きを制限する。

「せこいことしやがって!」

充分に動けない隆に、ついに糸が当たった。
そのまま縛り上げられた彼は、倒れた。

「おい、旧ブルー! 何とかしろ!」

「さっきまで俺を殺そうとした奴が何言ってるんだよ……」

良二は心底呆れた。

「それに今俺変身できないし、動けない」

「ちっ、使えねえ! それでも元ヒーローかよ! このままじゃ俺等両方怪人に殺られちまうぜ!」

それもそうかと思い、良二は最後の力を振り絞ることにした。

「わかったよ……。ブラック! ピンク! イエロー! レッド! オレンジ! グリーン! 誰でも良いから助けてくれぇええええ!!!」

「他力本願かよ! 情けねえ!」

うるさい!
これが今の俺の精一杯だ!




「今の声、ブルーだよね?」

「ええ、聞き慣れた声だわ」

春美ときいろは、まだ良二が生きていることを知り安堵したが、同時に今は彼の危機なのだと知った。

「優子さん、どっちから聞こえたかわかる?」

「あの建物の中ではないでしょうか。所々壊れているからそのおかげで声が届いたのではないかと」

彼女達は声の聞こえた方角に走った。
そして糸で縛り上げられて今にも殺されそうな隆と、座り込んでいる良二を発見した。




実に惜しいですね。
もうちょっとで(仮)は死んでいたのに。
とりあえずブルー救出を優先しますか。

薫は縛り上げられている隆を華麗にスルーし、良二を抱えあげて安全な場所に移すことに成功した。
良二の事はそれなりに気に入っているので、死なれると少し困る。

「ありがとう、本当に死ぬかと思った! マジでありがとう!」

「いえいえ」

良二は半泣きになって礼を言ってくる。

「俺も助けろよ!」

(仮)がなにやら五月蝿いですが、気にしないことにしましょう。

「『ヒーロー』なんでしょう? 自力で何とかすればどうです?」

「それより、大口叩いといてそのザマ? アタシ情けない男キライ」

「評価、-っと」

茜、良い援護射撃です、グリーンも。

「怪人! 自分が来たからにはこれ以上好きにはさせん!」

太陽が怪人に飛び掛り、その間にきいろがアックスで隆についた糸を断ち切る。

「あ! そういえば俺、そいつに殺されかけたんだ!」

良二が突然そんなことを言ったので、その場にいた者は驚いた。
今彼がいなくなって、一番得をするのは誰だか考えれば、疑われることぐらいすぐにわかりそうなものなのに。

本当に短絡的ですね。




「なんですって!?」

「青山さん、それは本当ですか!?」

春美と優子は彼を問い詰めた。
きいろと太陽、茜も驚いている。
薫だけはどこか呆れたような様子だ。

「嘘じゃない! 俺が邪魔だからとかそんな理由で攻撃してきたんだ!」

「おいおい、言いがかりは止めてくれよ。あれはお前を助けようとした攻撃だぜ? 邪魔って言ったのは戦うのに足手纏いって意味だよ。俺の評価を下げるようなことは止めろよ。それに証拠はあんのか、証拠は?」

こいつ、開き直ったわね……。

「う、俺が聞いたぞ、はっきりと!」

「んなもんは証拠になんねーんだよ!」

凄く(仮)に対してイラついてきたわ。
出撃前のこいつの言動から、多分ブルーの言ったことは本当なんだろうけど。
イエローも怒っているみたい。

ふと怪人の方を見ると、太陽と薫、茜が連携攻撃で倒していた。

「お、片付いたか。まあ、俺だけでも楽勝だったけどな。後は任せたぜ」

隆はそういって逃げるように帰っていった。

やられる寸前だったくせに、よくそんな口が聞けるわね。

「私、後で長官にもう一度ブルーの人選を見直すように進言してみます……」

優子は最後にそう言った。

続く


閑話9


優子は、ブルーの人選について意見しようとしていた。

「長官、何故新ブルーに清水隆を推薦したのですか? 彼の人格面には大いに不安があります!」

「一体どうしたのかね?」

「証拠は有りませんが、彼は青山良二を殺そうとしたようです」

「何? それは本当か?」

光は珍しく驚いていた。

「青山さんの証言と、清水の出撃前の言葉から動機は自分がブルーに確実になるためだと思われます」

そして、呆れ果てた。
まさかそこまで何も考えていなかったとは。
ブルーの最終候補にはなっていたので、当て馬として選んだ青山の代わりにはなると思ったのだが、人格面が相当駄目な男だったらしい。

「となると、青山君が危険だな」

「危険なんてものじゃありません! 正直清水を推薦した長官の人物眼を疑います。」

「わかった。代わりの案を考えておくことにしよう」

緋崎君に頃合を見計らって処理してもらうことにしようか。
ああいう思想が無い享楽的な人間は扱い易い。
それにしても緑川君は遠慮が無いね。

「黒澤君の方はどうかね?」

「戦闘では、役に立たない戦闘員を盾として運用していました。彼の考えていることが私はわかりません。ただ、ブルー2人が怪人との戦闘現場にいた時、青山さんの救出を優先していました」

ふむ。

「青山君には、警察で新設される怪人対策課にしばらく出向してもらおうか、ヒーローからの新装備の指導員として」

しばらく最前線から離れて貰おうか。
黒澤君の味方になりそうな人物は少ない方が良い。

「新装備? 警察にですか?」

「戦闘員だけでは対処できないことに対応する部隊だよ。武器の使用も許可されたね」

犯罪者上がりの戦闘員では外聞が悪いしね。




「糞! 後一歩だった所を!」

あと少しで青い奴を仕留める事ができたのに、失敗し、ノアクモ、ノアハリネズミを失った長達は苛立っていた。

「しかし、あの青い奴は本当に外道ね。同族の非戦闘員ごと攻撃をするなんて」

「人間を襲う俺達が言えたことでは有りませんが。まあ、あの青い奴が一番弱そうだとわかったことは収穫でしょうね」

「それに、また二色程増えたようだぞ。これでは一体倒せたとしてものう……」

彼等は敵がまた二体増えたことに頭を悩ませていた。
それに、以前は弱かった筈の赤い奴が最近妙に強くなっているのだ。
人間とは、短期間でああも強くなれるのだろうか?
だとしたらあの青い奴も?




太陽は自室で特撮を見ていた。
最近、修行の成果が出てきたことを実感し、機嫌がいい彼は、新しい戦い方の研究をしている。

うむ、やはりヒーローたるものこの調子でないとな!
しかし、新しいブルーは態度が本当に悪い、やはり前の方が落ち着く。

彼は彼なりに、個人的な理由で今度の人事に不満を抱いていた。
誰かに愚痴を言おうと思ったが、まだ誰の携帯番号もわからないので今度番号を聞こうと思った。

余談だが、今回の人事で一番恩恵を受けたのは彼かもしれない。
今まで女性陣からの評価は低かったが、清水隆の加入により、『アレよりはまだマシ』と評価が少し上昇したからだ。





「本当に今回は災難だったわね。まあ、元気出しなさい。奢ってあげるから」

「俺の方が年上なのに、悪いな」

春美は良二が不憫だったので、軽く、体に影響が無い程度に酒を奢ることにした。

「ところで、他の皆は?」

「イエローは19歳だからまだ駄目。レッドは特撮見たいって帰ったわ。グリーンはわからない。後、(仮)は呼ぶ筈無いでしょう?」

「ああ。あれ、ブラックとオレンジは?」

「さあ?どこかで盛ってるんじゃない!?」

春美は何処か不機嫌そうだ。

「ちょ! 破廉恥だって、ピンク!大体何怒ってるんだよ? そりゃ俺も寂しいけどさ・・・。それにオレンジって17歳なんだって?あの野郎……」

「あなたも若い方が良いのかしら?」

そう言った時の春美の笑顔が怖かったので、良二は必死に首を振った。





[8464] 第十話 ヒーロー出向
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/07/12 08:09
第十話

「え、俺が警察に出向?」

「なんでも、警察内で使われる新装備の指導員という立場らしいですよ」

良二は薫から、自分のこれからの処遇について聞かされた。

「あくまで一時的なものらしいですから」

「そうか・・・」

今自分が隆に狙われていることを考えると、しばらくチームから離れた方がいいかもしれないとは思うが、やはり寂しさはある。

「そういえば、お前なんでこの前ピンクに誘われた時来なかったんだ?」

「ランチャーの調整と、レッド、オレンジ、グリーンの新装備の開発をしていたんですよ。僕だって、遊んでたわけじゃないです」



隆以外のメンバーにも挨拶してから行くことにした。

「そう、気をつけてね」

相変わらずあっさりしてるな・・・。

「こっちは心配しないで。私達6人で大丈夫だから!」

ありがとうイエロー。
でもやっぱりナチュラルに(仮)を抜かしてるな・・・。


「いつでも戻って来い!ここがお前の居場所だからな!それに自分はあいつは嫌だ!」

レッド、正直だな。
その言葉はありがたく受け取っておくよ。


グリーンには会えなかったが、オレンジを見かけたので話すことにした。

「ふーん、行っちゃうんだ」

「ああ・・・」

どうでも良さそうだな・・・。

「まあ、ブルーはアイツより青山さんの方がマシだと今はアタシも思ってる。後、薫も同じこと言ってたでしょ?」

そういえば一つ聞きたいことがあったんだ。

「あー、ちょっと聞きにくいんだが、その、ブラックとはどこまで・・・」

「・・・興味あんの?」

聴いた瞬間彼女の顔が無表情になった。

「まあ、やることはやってるけどね。それが?」

「イヤ、スイマセン」

急いでその場を離れた。
この前の春美と同じ位怖かったからだ。



青山が詮索してきたから、正直に答えてやったのにどうしたんだろ。
噂になってもならなくても、どっちでもいいんだけどね。
薫には悪いけど、なったらなったでアタシの都合の良いように進むから。
でもコイツへタレっぽいし、多分びびって話さないだろうなぁ。




そして俺は警察に着いた。

「はじめまして、青山良二君。上から話は聞いている。私が本庁怪人対策課、係長の石田浩介だ。警部をやっている」

「はじめまして、石田警部。よろしくお願いします」

自己紹介を済ませた良二達は、早速新装備の確認に移った。

「指導員という肩書きできたんですけど、俺、まだその装備を使ったことが無いんです。ブラックからは使えばわかるって言われたんですけど・・・」

「うん、なら試してみようじゃないか」

ケースを開くと、普段自分が使っている変身ツールに良く似た機械が入っていた。

「似てる・・・、だったら使い方も・・・」

試しに使ってみると、変身することが出来た。

「これが変身か・・・」

石田警部も感心しているようだけど、これって・・・。

「特捜戦隊デカレ○ジャー・・・」

警察が変身ヒーローって・・・。

「装備の方はどうなっている?」

「はい、ええと、警杖型の打撃武器と、リボルバー式の拳銃に似た銃器が付いています」

打撃武器はブルーランスに似ているし、拳銃型の武器もヒーローガンに似ている。

「これなら、なんとか使い方も指導できると思います。それなりに慣れてますから」

「そうか!これで我々も怪人に対処できるのだな・・・」

浩介は感慨深そうに呟いた。

「どうしたんですか?」

「怪人への対応は、ヒーローやレスキュー隊に任せっぱなしだったからな。でもこの装備が制式採用されれば、ヒーローには敵わないかもしれないが、今まで対抗手段が無かった相手にも抵抗できる。そのためにも頼むぞ!」


清水隆は気分が良かった。
前回は良二を殺し損ねたが、光が彼を警察に出向という形で体よく追い払ってくれたからだ。
ということは、自分のブルーの座も安泰というわけだ。
そんなことを考えながら呼び出された長官室に向かうと、光と優子の会話が聞こえてきた。


「では、清水君のブルーの任期は、青山君の出向が終わるまでということになるが、君はそれで良いかね?」

「私はどちらでも構いませんが、清水は首を縦に振るでしょうか?」

まあ、承諾する筈ないだろうがね。

「いいさ。もともと、能力的には元ブルーと大して変わらなかったんだ。あくまで予備だからね。黒澤君の意識を分散させる役目も期待してはいたが、彼には相手にされていないようだし・・・。正式な代わりが見つかるまでは、また青山君に暫定的にだがブルーをやってもらうことにしよう」


「そうか、やっぱり、元を断たねえとなぁ・・・」

隆は科学研究班に向かって駆け出した。



一方良二は、怪人対策課の実戦メンバーに装備の指導をしていた。
彼の装着しているスーツは指揮能力が高いタイプでマスクの形状が他とは違っていた。
その他の汎用タイプが五つ、若手に支給された。
まだ試作段階なので、良二を入れても六人と少ないが、良好なデータを出すことが期待されており、結果次第で制式採用、量産が決定する。

「青山君、調子はどうだ?」

「出力とか、全体的な性能は流石にヒーロー用の装備に比べると落ちますけど、連携を組んでさえいれば戦闘員とは互角以上、怪人とも渡り合えると思います」

「現場では、ヒーローが到着するまで持ちこたえ、その後はヒーローとも協力できるわけだからな・・・。勝率も上がる」

「戦闘員だと、モチベーションが低いですし、能力も敵戦闘員と同レベルですからね・・・」

「戦闘員か・・・」

浩介は忌々しそうな表情を浮かべた。

「確か、元犯罪者を使ってるんだったな・・・」

彼は上層部から、戦闘員の『中身』についても知らされている。

「犯罪者に対しての罰則が厳しくなっても犯罪は無くならん」

「ええ・・・。長官なんかは遠慮無く運用しているみたいですけどね・・・」

「大半は『使い捨て』なんだろう?」

「はい・・・」

溜め息をつき、彼はこう続けた。

「私も一応警察だからあんまり大きな声では言えないが、犯罪者の人権まで考えてたら、今はもう怪人には対抗できない」

戦闘員は大きな功績を既に出しているからだ。

「市民の方々からは、ヒーローが出てから警察は役立たずってレッテルを貼られてるしね」

「すみません・・・」

「いいさ、本当のことだ。一般警官では戦闘員にすら対抗できなかったんだからな」

俺も、ヒーロー以外では敵と『戦うこと』はできないと、何時の間にか思い込んでいた。

「だから、あそこにいる若い奴等にはしっかりと指導してやってくれ。無力感に苛まれないように・・・」

「はい・・・!」

「教官ー!続きをお願いします!」

「あ、呼ばれてるんで行ってきます!」

「時間を取らせて悪かったな・・・」

俺も自分が役に立たないって思ったけど、今はこの人たちに自分が出来ることを教え込もう。
成果が出れば、もっと怪人に有効な対策が出来るんだから。


隆は科学研究班に辿りついた。
何か自分が強くなるためのものがあるかもしれないからだ。
ショックだった、自分の能力が旧ブルーとほとんど変わらないと知った時は。
ヒーローとしての自分が期待されていたわけではなかった事が。

「こんなところで何してるの?」

「!?・・・オレンジか。ブラックとはいいのかよ、お前あの優男とできてんだろ?」

「うん。で、アンタは何でここにいるのって聞いてんだけど」

情けなくて言えるか。

「お前には関係ねぇよ」

「ふーん。大方、なんかのデータでも探りに来たんじゃないかと思ったんだけど。いいもの見せてあげようか?」

「良い物だぁ?」

「このモニターを見てて」

「あ、ああ。」

訳が解らないまま隆は茜が操作するモニターを見つめた。

「これは、レッドのデータ!?」

少し前までは散々な戦績だったのに、今では成果を出している。
身体能力も上がっている。

「ちょっと弄ってたらさぁ、偶然見つけちゃったのよね。で、これが『薬』のサンプルなんだけど、使う?どうするかはアンタの自由」

「薬?」

「そ。いわゆるドーピングってヤツね」

決まってる、このままでは後が無えんだ!

「使うぜ!こいつは有り難く貰っとく!」

「そ、頑張ってねぇ。アタシはどっちでもいいけどさ」

隆は希望を手に入れた。
だがそれには絶望も同量存在していることを彼はまだ知らない。




「長官、言われたとおりやりましたけど」

『御苦労。緑川君に気づかれないように事を進めた甲斐があったよ』

光は、清水が自分達の会話を立ち聞きするように仕向け、自分から行動させるように仕向けた。

『しかし、本当に単純だね。青山君が殺せない位置にいると、自分の力不足を何とかしようとするなんて。実に浅はかだ』

「それは良いですけどぉ、あの薬なんなんですか?」

『レッドと同じものだよ。但し、副作用は強力にしてあるがね』

「へぇ・・・。まあアタシにはどうでもいいんで。お金は宜しくお願いしますね」

茜は通信を切り、薫へ連絡した。

「薫?オッサンの言うとおりにしたよ?副作用が高い薬だって」

『そうですか。しかし、ブルー(仮)もお気の毒に』

「全然そんな風に思ってないくせに」

『一応仲間ですからね。形だけのお悔やみです』

「まだ死んでないって」

『どうせ死ぬでしょう?長官は、副作用がどの程度か知りたいようですね』

「アタシにはその内、オッサンから(仮)を始末するように言われると思うけど、それも殺っちゃっていいの?」

『どうぞ。ただ、長官が茜にも何かするかもしれないのでそこは気をつけて』

「心配してくれてアリガト♪じゃあね!」



良二は実戦メンバーを相手に、模擬戦を行っていた。
ポリスリボルバーは殺傷能力があるため使わないが、ポリスロングロッドなら手加減すれば大丈夫なこと、また対怪人戦での基本武器になるため、最初にこの武器に慣れて貰おうと思ったのだ。

「行きます!」

ロングロッドを振りかぶって相手が攻めてくる。
良二はロングロッドの先端でそれを受け、力を加えて軌道を逸らす。
そして体勢が崩れた相手の懐に入り、受けた側と逆方向の端を向けた。

「参りました・・・」

「でも、これはあくまで対人用だからな。実戦では相手のデータなんて無いし、もちろんどんな攻撃をしてくるかなんてわからないから・・・。単独で戦わざるを得ない状況を別として、複数で連携を取るようにしてくれ」

メンバーが頷くのを見て続ける。

「今回は射撃武器は使ってないけど、日頃拳銃の訓練は受けていたよな?装備は使い慣れているタイプのリボルバー型だから、先に接近戦での戦い方を覚えて欲しいんだ」

「はい」×5

「実戦では後方援護と格闘戦担当に分かれてもらうのがベストだけどね。後、いくらスーツの耐久性があるといっても、なるべく攻撃を受けないようにしてくれ。怪人や戦闘員の攻撃力は高いから」

何回か喰らったことはあるけど、あれは痛かったな。

「ダメージ次第ではその後の戦闘が不可能になるし、何より・・・」

「?」×5

情けないけど言っておいた方が良いよなあ・・・。

「痛い。本当に痛いんだ、特に怪人のは。だから注意してくれ」

「はい!」×5

「よし、しばらく休憩にしようか」


休憩していると、メンバーが集まってきた。

「教官はロングロッドの扱い方が上手いですね。何かコツでもあるんですか?」

「いつも使ってる武器と似てたからな。ただ慣れてるだけだよ。皆もできるようになるって」

教官って呼ばれるのは緊張するけど、ここでも何とかうまくやっていけそうだ。

「あんまり相手に近づきすぎると攻撃を受けやすいしな。何も敵が持っていない場合や、遠距離攻撃を使わない場合は、ロングロッドは制圧に向いた装備だよ」

「教官のさっきの『痛い。』って言葉、凄く実感こもってましたからね。やっぱり実戦に出てる人は違うなあ」

実戦か・・・。
チームの皆やブラック、元気かな。
清水とはほとぼりが冷めるまでできれば会いたくない。
そりゃあ、本人からすれば俺が邪魔ってことはわかるけどさ。
この際、本当にあっちが俺よりヒーロー適正が上なら、あいつがブルーでもいい。
まともにヒーローやってくれるなら。

「ところで、ヒーローはメンバー増えたんすよね」

「・・・?ああ。」

考え事をしていると一番若い奴、佐藤勇太に話しかけられた。

「いいなあ、女の人ばっかりで。こっちは女っ気ゼロっすからね」

「あのなあ・・・」

確かに女性四人というのは多目かもしれないが。

「あ、俺も思いました。教官、サインとか、機会があったら貰うことできませんか?」

「自分も欲しいです!イエローのが!」

「俺ピンクとグリーンの!」

「俺はオレンジ!」

「あのなあ・・・」

大体、オレンジは売約済みだぞ・・・。

「後輩がすみません・・・」

「あ、いや・・・」

騒いでいる連中をよそに、メンバー中、最も年上の鈴木二郎が話しかけてきた。

「教官が思ったより話しやすい人で良かったです。指導もちゃんとして下さいますし」

「そうか?」

「ちょっと自分、ヒーローには劣等感持ってたんですよ。自分達は必死でやってたのに市民の皆さんにはなかなか解って貰えなかったり」

「警察の人が避難誘導とかしてくれるお陰で俺達も戦えていたんだけど・・・」

「管轄が違っていたということは解っていたんですけどね・・・、悔しかったんです。でも、これで自分達もヒーローのアシストをすることができるかもしれないんです」

石田警部も言ってたけど、警察の人も大変なんだなあ。
俺も戦闘員がまだ運用されてなかった頃は心の中で文句言ってたけど・・・。

「愚痴言っちゃってすみません」

「いや、いいよ。俺もここに来たお陰で解りそうなことがあるから」

「教官さえ良ければこのままここで一緒に働いてもらいたい位ですよ」

ヒーロー首になったら、それも良いかもしれない。
あいつらの手助けもできるしな。

「そうだなあ・・・」




薫がトレーニングルームで体を鍛えていると、清水隆がやって来た。

「いよぉ優男。頑張ってるねぇ」

「何か御用ですか?」

隆はニヤリと笑った。

「なあに、ちょっくら稽古をつけて貰いたいと思ってね」

「はあ。構いませんが、どういった風の吹き回しで?」

いかにも自信有り気な様子の隆に、薫は事も無げに返答する。

「どうでも良いじゃねえか。それより明日、朝十時に外の演習場に1人で来い。いいな、一人でだ!」

「緊急招集があるかもしれませんよ。そのことで叱責された場合の責任は全部貴方に取って貰いますが。それでも宜しければ」

「ああ、構わねぇさ」

「分かりました。1人で『行き』ます」

最後に満足げな笑みを浮かべて隆は去って行った。

続く


閑話10
薫と隆の会話後



この薬で本当に力を得られるなら、まずいけ好かねえ優男を血祭りにして、ヒーローに返り咲いてやんぜ!
あの綺麗な面をボコボコにして、二目と見れねえ顔にしてやる!
その後は旧ブルーだ!
うまく逃げやがったみてえだが、俺からは逃げられねえ。
そして、後任のブルー候補は全部再起不能にしてやる!
そうすりゃあ俺が永遠にブルーだ!

「くくく、一人で来るなんて簡単に約束して、馬鹿な野郎だ。精々そうやって俺のことを見下しているんだな!」

ブラックは一人で来ると言ったが、俺は自分一人で戦うとは言っていない。
幾らあいつが強かろうが、数の力に敵うわけが無えんだ!



優子がトレーニングルームに向かう途中、見るからに嫌らしい笑みを浮かべた清水が通り過ぎていった。

「気持ち悪いですね・・・」

彼女はチーム内の男性を余り評価していない。
太陽のテンションにはついて行けない。
隆は、殺人者一歩手前。
現在出向中の良二は普通に接するにはいいが、どうもヒーローの中では違和感を感じる、嫌いではないが。
そして、薫。
この男は、優子にとって不可解な存在である。

「グリーンじゃないですか。どうしました?」

今一番会いたくない人間の声だ。

「黒澤さん・・・。いえ、先程ブルー(仮)と擦れ違ったので・・・」

「ブルー(仮)?彼なら、さっき僕に喧嘩を売ってきましたが」

「喧嘩!?」

あの男は・・・、なんでこう厄介事になりそうなことを・・・。

「それで、どうしたんですか!?」

「一応受けましたが・・・」

ああ、やっぱり。

「そうだ、グリーン。もし貴女さえ良ければ、明日の朝九時から外の演習場に隠れていてくれませんか?面白い物を見せてあげますよ」

面白い物?

「長官の許可を取ってからなら・・・」

「ねえグリーン。貴女もいちいち、誰かの顔色を窺うのは止めた方が良いですよ」

誰かに気に入られたいことは、そんなに悪いことですか!

「そう言う貴方は、話し方が胡散臭いですね。その気持ち悪い敬語を止めてくれませんか?」

「すみませんね、これが素なので。ああ、話し方が被ってますね。二人きりのときは、僕が話し方を変えましょうか?」

「そうして頂ければ」

「で、グリーン。結局返事はどうするんだ?」

やればできるじゃないですか。

「わかりました。後で長官にも話はつけておきます」

「そうか。じゃ、またな」




あらかじめ待っていてもらうのは、一人で『行く』ことにはなりませんよね。
彼女はあくまで観客ですよ、途中まではね。
どうせブルー(仮)もまともに戦う気は無いでしょうし。
それと、『一人で』行けばルール違反ではありませんし。

「どの位(仮)は持ちますかね」

まあ、今死んでもらっても困るんですけど。






[8464] 第十一話 黒い微笑み
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/11/08 06:53
第十一話


優子は朝八時頃から外の演習場に隠れていた。
薫からは九時からと言われていたが、性分からつい早めに来てしまったのだ。
そのまま待ち続け、九時半頃になると清水隆が現れた。
どうやら戦闘員を大勢連れているらしい。
彼は戦闘員に指示を出し、それぞれ隠れさせた。

勝手にあんな真似をして!戦闘員が次の戦闘で運用出来ない位まで減ったらどうするつもりなんですか!
これだから補欠合格者は……。

そして十時頃、薫が姿を現した。



「よぉ優男。あんまり遅えもんだから逃げ出したかと思ったぜ」

「時間は十時丁度の筈ですよ。僕は約束をなるべく守りますから」

「へっ、口の減らねぇ野郎だ。まあいいさ、ちゃんとご丁寧にお一人で来たみてえだな」

隆は手を振り上げて合図を出した。
途端に戦闘員が薫を取り囲む。

「はははははっ!馬鹿が!俺は一人で戦うなんて一っ言も言ってねぇぜ!」


優子はそれを見て、隆はやはりヒーローに値しない人間だと再認識した。

あの屑!
このままでは黒澤さんが危ないですね、でも、面白いものを見せるって?

「さあお前等!やっちまえ!その後でパワーアップしたこの俺直々に止めを刺してやんぜ!」

命令を受け、戦闘員が一斉に薫に襲い掛かった。




「んっ?」

「どうしました、教官?」

「ああ、なんでもないよ鈴木。さ、続きをやろうか!」

俺もどうかしてるな、ブラックが危ないって思うなんて。
世界が怪人に侵略されても、核戦争があっても生き残りそうな奴なのに。
しばらく会ってないからな、今度プライベートでゆっくり話したいもんだ。




「しょうがないですねぇ」

薫が何かのスイッチのようなものを取り出すと、戦闘員の動きが止まった。

「どうしたお前等!早くやれ!」

隆が喚いているが、戦闘員は薫に注目したままだ。

「戦闘員の皆さん、これは一体なんでしょう?」

その後彼は続けてこう言った。

「解ってますよね?自分達の置かれた立場」

そして戦闘員は皆、薫の側についた。

「そうそう。自分達の立場を弁えているじゃないですか、どこかの誰かと違って」

いきなりの逆転劇で、隆は予想していなかった事態に混乱している。

「糞野郎!正々堂々と戦いやがれ!大体戦闘員を脅迫なんてお前それでもヒーローかぁ!?」

「貴方が言えるセリフですか?それにですね、ブルー(仮)」

ブラックは一呼吸置いて続けた。

「誰でも最初からヒーローじゃない、勝った方がヒーローなんですよ」

次の瞬間、戦闘員達は先程よりも強い勢いで、今度は隆に襲い掛かった。
それこそ命懸けで。




隆は抵抗した。
しかしドーピングで強化された体といっても、戦闘員の数には手を焼いた。
身体能力が強化されたとはいえ、戦闘技術自体が上がったわけではないのだ。

「糞!しつけぇ!」

「ふむ、この程度なら持つと。そろそろ第ニ段階に行きますか。ヒーローバインド」

薫からの命令を受けた戦闘員達が隆の四肢を押さえつけた。

「さて、攻撃に対する耐久力はどうでしょう」

薫はヒーローガンを戦闘員ごと隆の全身に浴びせた。

「ぎゃぁああ!」

全身から煙を出しているが、隆は生きていた。

「ううぅ……」

「もう頃合ですかね。グリーン、出てきてください。中々滑稽な見世物だったでしょう?」

隆が、薫の声を掛けた方に振り向くと、驚いた様子の優子が姿を見せた。




「グリーン!?なんでお前がここに!」


優子は、隆の小賢しい作戦にも呆れたが、薫の余りの所業に目を奪われていた。
第一、自分が名指しで呼ばれるなんて考えていなかったから咄嗟に返答ができなかったのだ。

「まだ解らないんですか、ブルー(仮)?さっきの貴方の無様さは中々面白かったですよ」

そして優子を見て続けた。

「グリーン、あらかじめ貴女が隠れていれば、僕一人で演習場に『行く』ことにはなりませんし、じっくりとブルー(仮)の道化っぷりを眺められたでしょう。お気に召しましたか?」

「このアマ!」

まずい、このままでは私がブラックに指示したと思われてしまう!

「ち、違います!私は!」

「違う?ああ、まだ痛めつけ足りないんですね」

「っ!?」

弁解しようとした矢先に薫が絶妙な横槍を入れ、ますます隆の誤解を深める。

「グリーンッ!!ぶっ殺してやるッ!!!」


済し崩しに隆と優子は戦うことになった。
手負いとはいえ、今の隆の身体能力は優子より上だ。

「うあぁあっ!」

ヒーローロッドでの打撃を受け大きく吹き飛ばされる。
このままではいけないと悟った優子はその勢いを利用して隆から距離を取って演習場内に隠れた。

「待ちやがれぇっ!」


追ってきた隆から逃れ、薫に連絡を取る。

『何でしょう』

「ブラック!あれは一体どういうつもりですか!」

『面白いものは見られたでしょう?それに今更弁解してもブルー(仮)は信じてくれませんよ』

怒りで通信を切りたくなる衝動に襲われたが我慢する。

「貴方は!この外道!それでもヒーローですか、恥知らず!」

『人のことを監視するのは、ヒーローとしていいんですか?』

ばれていた!?

「っ!……なんのことです?」

『惚けるならそれはそれで構いませんよ。ブルー(仮)に貴女の居場所を通信で教えるまでですから』

この男!どこまで腐ってるんですか!

『きっと散々痛めつけられた後に、(性的な意味で)美味しく頂かれた後に殺されるんでしょうね、無惨な姿で』

それこそ人事のような態度で、淡々と喋り続ける。

「何を……」

『?』

「私が何をしたって言うんですか!?」

薫の恐怖心を煽るような喋り方に心が折れた。
あの状態の隆ならそれ位やるだろう。

『別に何も?強いて言うなら監視ですかね』

「だからってこんな!長官が貴方を危険視する理由が解りました、帰ったらすぐに!」

『五月蝿いですよ、グリーン?いいから黙れ』

「ひいっ!?」

今この男に逆らえば自分は死ぬと優子は悟った。
光に許可を取って出てきたはいいが、薫なら証拠隠滅位簡単だろう。

『僕はね、自分を好きになってくれるか、普通に接してくれる人間には、大体はそれなりの対応をしますよ』

急に何を?

『でもね、悪意を向けてくる相手には……。後は、言わなくても解りますよね?』

「私は、どうすればいいんですか?」

『貴女が今一番して欲しいことを口に出してください』

「……助けてください」

『抽象的過ぎますね。誰を、何から、どのような方法で助ければいいんですか?』

そんな……。

「私を、清水から、殺されないように、助けてください」

『どのように?』

この鬼畜!

「あいつを、……殺して下さいっ!私が二度と狙われないようにっ!」

『良くできました。もうちょっと待ってて下さい』

疲れた、ここまで疲れたのは初めてだ。

『ああ、ついでに言っておきますが、今の台詞は録音してありますので。これからブルー(仮)の身に起きることは、貴女にも責任の一端がありますから。そのつもりでいて下さいね』

そして通信は切られた。

優子は全身に虚脱感を覚えた。

「もう、許してください……」

まるで薫に懇願するように、口から言葉が漏れた。



優子との通信を切った薫は早速、昨日の内に用意しておいた物を使う準備に入った。

なにも正面から戦う必要はないですからね。
グリーンには殺せと言われましたが、どちらにしろそう長くは持たないでしょう。
レッドのより副作用が強いですし。
この分だと次の本格的な戦闘で死ぬというところですか。

薫は今隆を殺す気はない。
今回は彼が喧嘩を売ってきたのを、優子を堕とすために利用したが、彼女は来る前に光に連絡をしていた。
だから、今は殺さずに瀕死に追い込むだけで済ませる。

「グリーン、これから僕が言うポイントに向かってください。準備が出来ましたので」

準備が整い、再び優子に連絡する。

『はい……』

明らかに生気がない声だ。

今度は隆に連絡を取る。

「グリーンの居場所を知りたくありませんか?」

『なんだと!?さっさと言いやがれ!』

隆には、優子が移動する予定のポイントから丁度見下ろせる位置のポイントに反対方向から移動してもらう。

後はグリーンにブルー(仮)を撃退するシーンを見てもらいましょうか、特等席で。




私の命は黒澤さんの手のひらの中だ。
正直信用も信頼も出来ないけど、私一人では確実に清水に殺される。

彼女は疲れ果てていたが、なんとか隆に見つからずに指定されたポイントに到着した。

これから私は、どうすればいいんでしょう。

そんな時に隆の憎しみに満ちた声が聞こえた。

「見つけたぞ!もう逃がさねぇ!嬲り殺しにしてやるぜ!」

見つかった!?逃げなくては!

『大丈夫ですよ。僕を信じなくても良いです。でもそこから動かないでそのままブルー(仮)が貴女の方に向かって来るのを、目を逸らさないで見続けて下さい。いいですか、動くな』

薫に念を押され、従うことにした。
どちらにしろ彼女だけでは隆に勝てない。

こうなったらいっそ、あの外道に賭けるしか!

半ば優子が自暴自棄になった時、どこかから飛んできた黒い光が隆の背後の地面に突き刺さった。

「な、なんだ!?」

当然、彼は驚いて振り返る。
すると、光の着弾点から小規模な爆発が起こり、それと同じ現象が周囲に起きる。

「ちくしょう!動けねぇ!」

爆発自体の威力は低く、スーツで耐えられるレベルだ。
それに今の隆の身体能力なら、爆発に巻き込まれてもほとんど影響はないだろう。
しかし、爆発は足止めには充分だった。
今度は赤黒い光が隆の右足の、膝から下を消し去った。




「あ、あ、お、俺の足がぁああぁっ!?」

優子は隆の足が消える一部始終を目撃した。
スーツでも耐え切れない攻撃だった。

「命中ですね。ランチャーの調整はこれで大丈夫です、ご苦労様、ブルー(仮)」

「ブラック、何しやがる!」

「感謝して欲しいですね、足一本で済ませてあげたんだから。グリーンからは貴方を殺せと言われていたのですが、流石にそれは気が咎めますので。」

「グリーンッ!やっぱりてめえか!」

「証拠も有りますよ。『私を、清水から、殺されないように、助けてください。あいつを、……殺して下さいっ!』ほらね?」

ここで薫は、会話を編集した音源を隆に聞かせた。

「ちくしょう、畜生!俺が何をしたって言うんだ!?」

「自覚して無いんですね。まあ、今日の所はこの辺で手打ちにしませんか?」

「ふざけんな!俺はその女殺さなきゃ気がすまねぇ!」

優子は絶望した。
薫によって今後の自分の人生がどうされるのか解らないからだ。

茜さんは何をしていたんですか、彼女も黒澤さんを監視している筈……!?

既に茜が薫に篭絡されている可能性に思い当たり、彼女の目から光が消えた。

「片足で僕等に勝てるとでも?それに、傷口が炭化しているから出血こそありませんが、このまま戦い続けると確実に死にますよ」

「くそ、降参すんよ!だから俺を助けろ!」

「助けろ?」

薫は変身が解けた隆の体に出力を弱めたヒーローガンを撃った。

「ぐああっ!」

「『助けてください』でしょう?」

「っ、助けてください」

「解りました。しばらく寝てて下さい。戦闘員に回収させますから」

薫はそう言って隆の側頭部に蹴りを入れ、昏倒させた。

「なんで、殺さなかったんですか?」

「どうせ長くないですからね、薬の副作用で。それともあなたが止めを刺しますか?今なら簡単ですよ」

魅力的な提案だったが、優子は頷かなかった。

「帰ります!」





薫は昨日、あらかじめ演習場の幾つかのポイントに、ある操作をしないと爆発しないようにしておいた演習用地雷を埋め込んでいた。
隆と優子がどの場所にいてもさっきの光景を演出できるように。

これでグリーンは心に影を背負うことになりますね。
ブルー(仮)は長官が、副作用で死ぬまではなんとかしてくれるでしょう。

薫は隆のこれからの運命には全く興味がない。
人事だからだ。

そういえば茜にブルー(仮)の始末指令が出るかもしれませんね。
その時は茜を手伝いますか。

「でも、グリーンが本当に解放されたかったらさっき殺しておけば良かったのに。まったく、馬鹿ですね」

彼は爽やかな微笑を浮かべた。
それは愚かな優子への嘲笑だった。

続く



閑話11

隆は薫と優子の汚い作戦(彼の主観)で、右足の膝から下を失った夜に苦しんでいた。

無くなった足だけじゃねぇ、全身が痛ぇ!
あの優男と女狐、俺の体に何をしやがった!?

「やあ、清水君。大分酷くやられたようだね」

「ちょ……か……」

朦朧とする意識の中で、光が隆を見下ろしていた。

「君が勝手に動くことを予想はしていたが、ここまで本格的に使えないとはね。駄目じゃないか、緑川君の報告書にも書いてあったよ?『完膚なきまでに無様に倒された』と」

「ちが……」

弁解をしたかったが、投薬の効果か、呂律が回らない。
薫の戦闘員への指示によるものだ。

「言い訳はいい。君レベルの代わりなら幾らでもいるからね。薬の効果で全身の細胞崩壊も始まっているようだし、君はもう用済みだ」

それは、実質隆への死刑宣告だった。

「後は科学研究班に任せるよ。精々、廃品利用の実験体として最後まで役に立ってくれたまえ。ブルーは、青山君の出向が終わったら彼を復帰させる予定だ」

青山。
その名前を聞いて、彼の中にこのままでは終われないという感情が生まれた。
それは余りにも強いヒーローの座への執着だった。

光が去った部屋で、彼はそのことだけを碌に動かない頭で考えていた。




良二は、薫に連絡を取る事にした。
昨夜も連絡を取ろうとしたが、繋がらなかったのだ。
昨日感じた予感もある。
数回コール音が鳴り、薫が応答した。

『ブルーですか、どうしました?』

「ブラックか。その、変わりないか?」

良二は安堵した。
やはり昨日のは自分の気のせいだったのだ。

『ええ、特には。貴方も指導の調子はどうですか?』

「ああ、結構順調だよ」

『そうですか。貴方、意外と人に物を教えることが向いているのでは?』

「そうかな?」

俺はブラックやピンク、イエローでも大丈夫だと思うけど。
レッドでは流石に不安だが。

『ええ。それより、貴方のヒーロー復帰が決まりましたよ』

「本当か!?」

久しぶりに驚いた。

『長官から連絡がありまして。今の出向が終わったらと』

「そうなのか。あれ、とすると清水はどうなるんだ?」

あいつ、かなり俺のこと目の仇にしてたからな。

『さあ?』

「おいおい、さあって……」

『とにかく、おめでとう御座います』

「まあ、ありがとな」

あいつも心配だが、今後の俺の身も心配だ。

「でも、もうそろそろ出向終わりか」

『残念ですか?』

「そういうわけじゃないけど、俺も色々考えさせられることがあってさ」

『貴方にとっては良い経験だったみたいですね』

回り道かと思ったけどな。

「ああ。残りの出向期間は全力で指導するよ。戻るのはそれからだ」

『解りました。新装備、制式採用になるといいですね』

「きっとなるさ。皆だんだん慣れて来ているし、成果は出る!」

『その意気ですよ。ではまた』

薫との通信を切り、良二は気合を入れ直した。

「良し!今日も頑張るか!」








[8464] 第十二話 良二達の奮闘
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/07/12 08:08
第十二話

怪人対策課に指導員として来てから、良二とメンバーは新装備をかなり使えるようになっていた。

パワーがヒーロー用の物より落ちる分、考えて動かないといけないからな・・・。
おかげで、今までよりも動きが良くなった気がする。

「良し、今日はチーム戦をしようか」

「はい!」×5

良二も入ると三対三と丁度良いので、複数の相手に対抗するための模擬戦をすることにした。

「じゃあ、俺のチームと鈴木のチームに分かれよう。鈴木はそっちの指揮を頼む。新装備が採用されたら、お前が初期メンバーのリーダーになるんだからな」

「解りました、任せてください!皆、教官に自分達の成長を見せるぞ!」

二郎も気合が入っている。





「いいか皆。自分達はあくまでオーソドックスな作戦で行くぞ」

二郎は良二に教えられた事の成果を発揮しようとしていた。

教官は、連携が基本だと言っていた。
後方援護と格闘戦担当には二人いれば充分だが、今回は三人いる。
だから、自分はそこに遠近両方対応できる遊撃を入れる。

教官の指導の成果と、新装備の有用性があれば良い勝負ができる筈だ。



良二は模擬戦前に、二郎の戦法を分析しようとしていた。

「皆、鈴木はどんなことをしてくると思う?」

「そうっすね、鈴木は基本に忠実だし、ミスが少ない戦法を使うんじゃないんすか?」

「俺も同感です」

そのためにも勇太と、その相棒である田中健にも意見を聞く。

怪人対策課が増員したら、こいつ等も小隊長レベルの働きは求められるだろうから、自分で考えることにも慣れさせておかないと。
俺が皆といた時は、結構人任せだったからな・・・。

「うん、でも基本に忠実なだけに安定している。だから、お前等は二人で一人を相手にするんだ」

「え、でも、それだと教官が一対ニになるんじゃないんすか!?」

「そうですよ!」

その通りなんだけどな。

「俺も身体能力には自信がないけど、耐えることは上手くなったんだ。それに、実戦ではより早く、確実に戦闘員レベルの相手は倒せないといけない。ならどうすればいいか、それは一体の敵を複数で攻撃すればいいんだ」

「ちょ、教官、それでいいんすか?」

「いいんだ。個人の戦闘能力も大事だけど、無理しないで皆で生きて帰れるようにする方がもっと大事だ。だから、一人になってしまった時も諦めないで粘ってくれ。それに、今日の模擬戦ではお前等が相手を一人でも先に倒せば、こっちが有利になる」

「教官・・・」

「・・・って、新装備が採用されることを前提としての会話だけどな」

俺はどうも話の最後が締まらないな。

「解りました!それでやってみるっす!」

「大丈夫ですよ、きっと採用されます!」

教官としての立場上、負けたくないしな。


そして模擬戦が始まった。
二郎は基本的な戦法に、どうやら彼自身が遊撃として入ったものを選んだようだ。
すると、相手の遠距離担当は俺にリボルバーを撃ってきた。

やっぱり俺を最初にやるつもりか!
模擬弾とはいえ、当たったら痛いからな。

良二はポリスロングロッドを自分の前面で回転させてエネルギー弾を防ぎ、相手が弾切れを起こした時を狙って、接近してきた鈴木を回転の力を利用して攻撃した。
二郎もそれを見て、ロングロッドで応戦する。
その間に勇太が相手の格闘戦担当、山田耕作に接近戦を挑み、健が後方から援護する。

「教官、一対ニで何とかなると思っているんですか!」

「倒せはしないだろうけど、耐えられるレベルだとは思うぜ!」

足払いを放って二郎の体勢を崩す。
その間に片手でポリスリボルバーを抜き、相手の遠距離戦担当、中村智が勇太と健を攻撃できないように威嚇射撃をする。

良し!

「今だ、佐藤、田中!」

「はい!」×2

佐藤と田中が一人目を倒す。

「しまった!」

「いいぞ!これで三対ニだ!」

リボルバーの残弾を撃ち尽くし、二郎とも距離を取る。

「田中は俺が弾を充填するまで耐えてくれ!佐藤は援護を!」

「はい!」×2

一人が弾切れを起こしても、残弾が残っている奴がいれば耐えられる。
佐藤はさっき銃を撃っていなかったしな。

充填が終わり、戦線に復帰する。
二人目も倒し、二郎はその後も良く耐えたが、結果的には倒れた。



「教官に礼!」

「有難う御座いました!」×4

模擬戦が終了し、なんとか勝てた良二は安堵した。

「お疲れ様でした」

「鈴木もお疲れ」

「自分なりに工夫してみたんですけど、勝てませんでした・・・」

「いや、俺も危なかったしな」

本当に自分個人の戦闘能力は、まだたいしたことが無いことが解った。

「皆、良い知らせだ!」

興奮した様子の浩介が入ってきた。
どうしたんだろうか。

「新装備が制式採用されることが決まった!テストの結果、実戦でも充分に有効との結論だ!」

制式採用!?

「本当ですか!?」

「ああ!青山君、君の指導のお陰だ!」

「指導員が俺でなくてもこの結果は変わらないと思いますけど、とにかく良かった!」

これは素直に嬉しい。
自分が関わった物の成果が認められたのだから。

「そんなことないです、教官のお陰ですよ!」

「皆・・・」

「良し、今日はささやかだが、祝いをしようか!私が奢ろう!本格的に活動するまではまだだしね」



数日後、怪人対策課に通信が入った。
怪人がニ箇所同時に現れたらしい。

「いいか、俺たちの役目は市民の安全確保が第一だ。ヒーローが来るまで持ちこたえるぞ」

「はい!」×5

流石に全員緊張しているようだが、しっかりとした返事が返ってきた。
今回は訓練じゃないからな。

「青山君・・・」

浩介から呼び止められた。

「さっそく実戦で大変だとは思うが、・・・頼む!」

この中で実戦での戦闘経験が有るのは俺だけだ。
でも、考えようによっては良かったのかもしれない。
まだ俺が教官という立場でいる内に、初戦闘のフォローができるんだから。

「ええ!」

良二達は配備されたバイクで近い方の現場に向かった。




薫は怪人出現の報告を聞き、ヒーロー達を集める。
怪人の内の片方は、良二が指揮する怪人対策課が対応することになったようだ。

「ブラック、自分達はブルーの方に向かう!あいつに自分の新装備を見せてやらねば!」

太陽が良二の方に向かうことを志願し、春美もそれに続く。

「レッドの新装備云々についてはともかく、私も位置関係的にその案に賛成よ。」

ここからは、怪人が暴れている場所がどちらも近くはないし、各個撃破が確かに望ましいですね。

「解りました。では、レッド達チーム1はブルーの増援に向かって下さい。我々チーム2はもう片方を始末します。」

「うん、解った!」

きいろも頷き、早速三人は駆け出した。

さて、僕達も仕事しますか。

そう考えていると、優子が話し掛けて来た。

「ブラック・・・、清水は、どうしたんですか?」

「現在『治療中』らしいですよ。まあ、片足吹き飛ばしましたし、しょうがないですよね」

こんな無駄話をしている間にも現場では戦闘員が消耗しているのに。

「貴方は気にならないんですか!?」

「優子さん、落ち着きなよ。いいじゃんあんなの。いてもいなくても大して変わんないし」

グリーンもこの前は殺せって自分で言っていたくせに。
喉元過ぎればとは、このことですかね。




良二達が現場に着くと、多数の敵戦闘員とクマのような怪人が暴れていた。

「皆、敵を倒せなくても良い。して欲しくないけどほんの少しは怪我しても良い。でも、死ぬな!」

戦闘員が市民に襲いかかろうとしているところに、ポリスリボルバーを命中させて倒す。

「俺は佐藤、田中、山田と前衛をやる!鈴木は中村と後方援護、警察の人達の避難誘導の警護を頼んだ!」

「了解です、教官!」

二郎が良二の意図を察し、それに答える。

避難中も敵に襲われる可能性も有るからな。

二人が格闘、残りが射撃と役割分担し、戦闘員を効率良く倒す。

「Guaaa!」

爪を振りかぶり怪人が攻撃してくる。

「三人とも、下がれ!」

咄嗟にポリスロングロッドで受けるが、余りの威力に弾かれてしまう。

「くっ!」

「教官はやらせない!」

追撃を覚悟した良二だったが、健がリボルバーで援護してくれたお陰で逃れることができた。

「有難う、助かったよ!」

「いえ!でもどうしますか、あいつかなり強そうですよ?」

そうだな・・・。

「俺達だけでは確かにきついけど、きっとヒーローが来てくれる!それまで耐えるぞ!」

「でも、それまで持たないっすよ!」

勇太が弱音を吐く。

「大丈夫さ。伊達にヒーローだって税金使ってるわけじゃない!」

それに、ピンチの時に来てくれるのがヒーローなんだ。
だから、なるべく早く来てくれ!
ブラック、ピンク、イエロー、俺達は今ピンチだ!

「中村、悪いがロッドを貸してくれないか?俺のはさっき弾き飛ばされちゃったしな。」

「はい、どうぞ!」

智からロングロッドを受け取る。
全部の装備が共通だから、戦闘中でも武器の貸し借りができるところは有り難い。

「代わりに俺の銃で援護に専念してくれ。後、攻撃はまともに受け止めるな、受け流せ!」

同じ間違いはしない!






薫達は担当する現場に、こちらの方がやや近かったのか、太陽達が良二の元に辿り着くより少し早く到着した。
既に市民にも被害が出ている。

「オレンジは戦闘員の指揮をして市民の救出を。グリーンは僕と、怪人及び戦闘員の掃討を開始します」

「オッケー!」

「今はやるしかありませんね!」

ピラニア型の怪人が人を食べているところを、戦闘員に指示を出し押さえ込ませる。
しかし、敵が強いのか、押さえ込んだ戦闘員の腕を食い千切り押さえ込むことはできない。

「ブラック、どうするんです!?戦闘員がやられているじゃないですか!」

五月蝿いな、いちいち聞く前に自分で考えたらどうです?
対抗策は有りますけどね。

「あんまり使いたく無かったんですけどね」

これ使うと採算が取れませんし。

「ヒーローボム」




薫がその言葉を呟くと、戦闘員が一斉に怪人に飛び掛って爆発した。
まだ怪人は生きているようだが、明らかに重傷だ。

「Gu,Gyaaaa!」

怪人がヒーロー達を道連れにしようと特攻を仕掛けるが、薫に受け流される。

「イエロー程じゃないですけど、僕も接近戦は出来るんですよ」

ヒーローロッドで目を潰し、続いてヒーローガンで口の中を撃ち牙を全部除去する。
彼の性格を現すかのような、えげつない攻撃だった。

「グリーン。止めを」

「え!?」

「あなたはどうやら、生き物の命が失われることに抵抗があるようなので。この前もブルー(仮)に止めを刺せなかった位ですから、この際練習台にどうかと思いまして。大丈夫ですよ?直ぐ慣れますから」

優子が呻く音が聞こえ、薫はマスクの中で微笑んだ。


良二達と怪人の戦いは長引いていた。
連携で怪人の攻撃を良く防いだが、やはり決め手に欠けるのか、相手に致命傷を与えるまでには至らない。
両者とも目に見えないが疲れが溜まっていた。

「くっ、こいつ等!」

その上、敵戦闘員の数を減らしたと言ってもまだ残っており、気を取られると怪人の手痛い攻撃を喰らうことになる。
初の実戦で良二以外の精神は消耗していた。

このままでは!

良二が不安に思った時、戦闘員の群れを桃色の光と黄色い斧が、怪人を赤い光が蹴散らした。

「この攻撃は・・・?」

「待たせたな、諸君!自分が来たからには大船に乗ったつもりでいるがいい!」

「お待たせブルー!」

「間に合ったみたいね」

春美、きいろ、そして太陽がそこにいた。

「助かった!いいか、皆!これできっと勝てるぞ!」

「はい!」×5

皆の目にも光が戻ったようだな。
ブラックがいないのはちょっと残念だが、別の現場で頑張っているのだろう。
俺もしっかりしなくては!

「見ろ、怪人!自分の新しい力を!」

太陽が銃を変形させて剣の形にする。

「必殺剣、レッドスペシャルヴィクトリージャスティスガンソードォオオッ!!!」

名前長いよ!

メンバー全員も、きいろと春美も顔を見合わせている。
マスク越しで顔はわからないが、絶対に困惑しているだろう。

「Gyaaaa!」

おお、効いてる!

「やけに動きが鈍いな?」

「きっとブルーと警察の人が粘ってたお陰だよ!」

「そうか諸君、感謝するぞ!」

そうか、俺達の攻撃もちょっとずつだけど効いてたんだ。

「皆、俺達のしたことも着実に成果が出ていたぞ!自信を持ってくれ!」

メンバーを鼓舞して士気を上げる。

「じゃあ、ラストは全員で決めましょうか?」

春美の提案に賛成し、まずきいろと太陽が怪人に斬りつける。

「止めだ、行くぞ!」

春美に続き、最後に良二達が銃を集中砲火して怪人の全身を撃ち抜き、爆散させる。

「良し、勝ったぞ!」

太陽が勝利の雄叫びを上げる。

「ヒーローの皆さん、有難う御座います」

「ううん、あたし達だけじゃなくて、警察の人達も頑張ってくれてたお陰です」

「そうね、ご苦労様です」

二郎が怪人対策課を代表してお礼を言うと、きいろと春美もそれに返答する。

「こっちの現場ではなんとか被害も抑えられたな」

今回は新装備で早めに対処したこともあって、一人の死者もこっちでは出なかった。

「お疲れさんっす!あの、全部終わってからで良いんで、できればイエローさんとピンクさんのサインを頂けないっすか?」

「こら、佐藤!」

「あ、俺達も!」

「終わってからなら・・・」

「あたしも構わないです」

まったく・・・、でも今回は無事に終わって本当に良かった。

「・・・」

「どうしたレッド?」

「・・・自分のサインは欲しくないのか!?」

やっぱりレッドはレッドだ、でも自重してくれ。





「私が?」

優子は薫からの指令に驚いていた。

「戦闘員の使用に関しても、どちらかというと否定的みたいですし」

確かに私は生き物を自分の手で殺すことに、少し抵抗はありましたが・・・。

「ブルーはね、結構簡単でしたよ」

青山さんが?

「どういう意味ですか?」

「彼は人並みの倫理観を持っていました。それでですね、ヒーローバリアの詳細を知らせないで使わせたら、予想通りに一時期落ち込みましてね」

「貴方はどこまで酷いんですか・・・」

「自分でも自覚はしていますよ。まあ、それからは戦闘員の犠牲に関しては多少割り切ってくれたみたいで。まだ慣れてはいないようですが、彼なりの覚悟でしょうね」

「優子さん、殺らなきゃ死ぬよ?」

薫と茜は彼女を追い込む。
特に薫は暗に、お前はその程度の覚悟しかないのか、ブルーも割り切っているのに、と言っているようだ。

「解りました・・・」

優子は引き金を、倒れ伏している怪人に引いた。
動かなくなるまで何度も。
そうしなければ、薫に何をされるか解らない。

「割とあっさり殺りましたね。手間がかからなくて良かったです。これで次からも使えないようだったら、もっと荒療治をしますのでそのつもりで」

「じゃあね、優子さん」

二人が去り、彼女はその場に座り込んだ。
手の震えは止まらなかった。





「ねえ薫。さっき何でアタシのことコードネームで呼んだの?」

「任務中でしたからね。一応公私は分けないと」

「ふーん。優子さんはまだ堕ちるまでかかりそうだね」

茜はそう言って腕を絡めてきたが、薫はされるがままにした。

「次は、彼女の意思で人間を殺らせましょうか」

段々と『こっち側』に傾いてきているのだ、もう一押し有ればいい。


続く



閑話12

光は、科学者と隆の改造について話し合っていた。

「清水隆はどうなったかな?」

『はい、大方の改造は終わっています。失われた足も、怪人のデータを使った生体義足が既に取り付けられています』

ふむ。

「足りんな」

『は?』

「後々面倒だからね。顔の皮を剥ぎ取って、耳と鼻を切り落とし、ついでに咽喉も潰しておいてくれたまえ。ヒーロー達に、誰だかばれると面倒だからね」

『解りました』

正体が知れない方が躊躇わずに戦えるだろう?

『それと、全身の細胞の崩壊が始まっていますので、次に戦闘したら恐らく壊れるかと』

「問題ないよ。消耗品ってそういうものだろう?」

光は薫が言ったことと、奇しくも似たようなことを言った。

『解りました。それと、実験体の洗脳レベルを上げておきます』

新装備は怪人相手に一定の成果を出したようだが、人工的に作った怪人は、果たしてどこまでヒーローに対抗できるのだろうね?




「新しい敵がまた出てきたみたいね・・・」

「これじゃあきりが無いのう。我々がいかに強靭な者を送り出しても、ああも数が多くては」

長達は今後の方針を決めあぐねていた。
ただでさえ厄介な敵が、さらに増えたのだ。
これからも増えないという保障はない。

「しかし、今回はあの青い奴はでませんでしたね」

「確かにな。どうせあの卑怯な奴のことだ、高みの見物でもしていたのだろう」

今回の戦いで、ノアクマとノアピラニアが死んだ。
既に奴等に倒された仲間の数が八になり、戦闘員の犠牲は最早数え切れない。

「次は、俺とガイアビートルに任せてくれませんか?」

「何か策でもあるの?」

「数には数です」




「皆、良くやってくれた。そして、良く無事に帰ってきてくれたな」

戦いが終わった良二達は、浩介や警察の人々に暖かく迎えられた。

「しかし、ほんとに緊張したっすよ」

「全くだ・・・」

「でも、生きて帰ってこれて良かったじゃないか」

メンバーは口々に生きて帰れた喜びを話している。

「今回の皆の活動で、本格的に新装備の量産にも力が入るそうだ」

そうか・・・、この装備が増産されるのか。
これが大規模に広まれば、怪人や戦闘員に幅広く対応できるな。

「となると、自分達のは先行量産型ということになりますね」

「そうだな、鈴木」

新しい増加装備も、後期型では追加されるんだろうか。

「俺の出向期間もあと少しだ。その間にまた怪人が出るようなことが無ければいいけどな」

「今回は教官以外皆、初戦闘でしたからね。心強かったですよ」

「寧ろ、俺がフォローされる側になってたけどな・・・」

我ながら情けない。

「次からは、お前等も実戦経験者だからな。でも気をつけてくれよ」

「はい!」×5

残り少しの出向期間、何事も無ければいいが。






[8464] 第十三話 朝の来ない夜 (第一章完)
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/09/19 06:41
第十三話


ガイアビートルとウインドホークは、作戦の打ち合わせをしていた。

「ウインドホークよ、ノアゴキブリを出すのは、物量には物量をというわけか?」

「はい」

ガイア族でも最多の数を誇るノアゴキブリだが、その戦闘力には不安が残る。

「しかし、むざむざ死なせるわけには・・・」

「そのために、司令塔としてノアフクロウを送ります。さらに夜間の作戦ですから、ノアゴキブリの数と体色が、彼等の戦闘能力を補います」

「よし、こんどこそあいつ等を根絶やしにしてくれる!」



良二達が夜間に召集されると、浩介から現状の説明がされた。
どうやら怪人が多数街で暴れているらしい。
正確な数は謎だが、これまでに無い規模の襲撃のようで怪人だけでなく、戦闘員も多数存在するようだ。

「既に警察官が避難誘導、ヒーロー側の戦闘員が囮をしているようだが、何分夜間のことだから停滞しているらしい。至急、解決のために尽力して欲しい。それと、気をつけてくれ!」

出撃前、皆と顔を合わせた。
二度目の実戦だが、前回よりはリラックスしているようだ。

「教官・・・、俺達大丈夫っすよね?」

「ああ。良いか皆、今回も生きて帰るぞ!」

「はい!」×5



一方薫達も、その報告を受けていた。

まあ、今まで夜に出ない方が不思議な位でしたから大して驚きはしませんが、面倒ですね。

「くっ、おのれ怪人!人々、主に自分の安眠を妨害するとは!」

レッドはなんというか、相変わらずですね。
本当に薬の影響あるんでしょうか?

「長官からも指示が有ったと思いますが、今回は被害が都市部に集中しているようなので全員で行動することになります。後、現地では警察の方々と連携を取ってください」

「オッケー」

警察の新装備もそれなりに使えるみたいですし、その方が効率的でしょうね。
ただ流石に今回は、僕達はまだしも、警察側は危ないかもしれませんね。
連携を取れるとは言うものの、物量が相手では装備の基本性能が物を言いますから。
ブルーも死なないと良いんですけど。

「・・・」

「グリーン、どうしました?」

「!?い、いえ・・・」

グリーンはまだ仕上げが終わっていないのですが・・・。
まあ、死んだら死んだで構いませんか。
新しいのが来ても、また堕とせばいいのですから。

「行きましょう、ブルー達も戦ってるわ」

「うん!」

何事も無い方が楽なんですけどね。





「実験体の準備は出来たかね?」

「はい」

光と科学者達は、かつて『清水隆』と呼ばれた物の前に立っていた。

「人工怪人第零号のテストをしようと思っていたところだったのだが丁度良い。このまま実戦テストといこうか。どこまでこれが、『ヒーロー』に通用するかのね」

白井は対ヒーローのための策を練っていた。

「しかし、本当に良いのですか?味方の筈のヒーローにコイツを嗾けるなんて」

「それで死ぬようならそれまでということだよ。正直ね、黒澤君や萌黄君以外なら、代わりはいない事もないから死んでくれても構わない。まあ、レッドは金蔓としての利用価値がまだ有るがね」

彼は人間を利用価値が有るものとそれ以外というカテゴリーでしか見ていない。
だから、実験体の起動によって失われる人命のことも全く気にかけていないのだ。
ヒーローの長官になったことも、単に計画のために都合が良いポジションだったからに過ぎない。

怪人には感謝しているよ。
貴重なデータが山ほど取れるのだからね。

白井光の計画は、今のところ順調に進んでいた。



街に出ると、光がほとんど無く、あっても非常用電源による灯りぐらいしかなかった。
怪人が暴れたことで、電線等が壊れたのだろう。
これまではほとんど昼間の戦いだったので余り影響は感じられなかったが、光がないとやはり人間は心細い物だ。

「暗いな・・・」

一応暗視機能が作動してはいるが、充分とは言えない。
周囲を警戒していると、暗がりから怪人が襲ってきた。

「怪人!?」

反射的に二郎がリボルバーを撃つが、狙いが定まらないのか外れてしまい、その間に接近されて格闘戦に持ち込まれる。

「鈴木!今援護を!」

また複数の怪人が現れ、メンバーそれぞれが個人で怪人と戦うことになってしまった。
さらに戦闘員も出現し、一気に劣勢となった。

この怪人、一体あたりは大して強くは感じないけど、こう数が多いと厄介だ!

良二はできるだけ仲間と固まろうとしたが、勇太と健が逸れてしまった。

「教官、二人の反応は!?」

良二は指揮官用装備の機能を使って反応を確認した。

大丈夫、まだ生きてる!

「まだ無事だ!安心しろ!」

「本当ですか、・・・!?教官、あいつ等が来ます!」

良二が身構えた時、怪人の集団の一角を赤黒い光が消し飛ばした。

「お久しぶりですね、ブルー。」

「ブラック!来てくれたのか!」

随分と会っていないような気がした薫が、茜と優子を連れて救援に現れた。

「仕事ですから。それより警察の皆さんも、一気にあそこから突破しますよ。突破口は僕とオレンジが切り開きます。ブルー、貴方はグリーンと殿をお願いします」

「でも、佐藤と田中が!」

あいつ等が心配だ!

「ピンク達も来ていますし、それにその2人もヒーローでしょう?警察官という名前の。よっぽどのことが無ければ大丈夫ですよ。だから今は早くしてください」

そうだ、あいつらもヒーローなんだ。
だったらここで俺が心配だけしていても仕方ない!

「皆、突破するぞ!佐藤と田中も後で合流用のサインを出す!」

「はい!」×3

二人とも、それまで無事でいてくれ!





「警官二名が集団から逸れたようだね」

光は、実験体に怪人や戦闘員を駆逐させながら、その様子をモニターで見ていた。
実験体の目に当たる部分から、直接映像をモニターに受信している。

「実験体をあの廉価版ヒーロー達の所へ向かわせたまえ。練習相手には丁度良いだろう」

「解りました」

科学者が実験体に指示を出し、その様子を見ながら彼は紅茶を口に入れた。

まあ、肩慣らしにもならないだろうが。
それにしても、黒澤君も余計なことをしてくれたね。
真っ先にブルー達四人を相手にテストしようと思ったのに。
私の思い通りにならない人間は好きになれないよ。





ソレは心地良い夢の中にいた。
自分が怪人や戦闘員を1人で薙ぎ倒しているのだ。
そこではソレに怖い物は無かった。
皆がソレを賞賛の眼差しで見ている。

キモチイイ・・・。

自分が誰だか既に忘れており、それでも戦い続けていると、二つの人影らしきものが目に入った。
しばらく考え、それが『ヒーロー』だということが理解できた。
その途端ソレの中に、闘争意欲が芽生えた。

オレガひーろーダ・・・。
ひーろーハオレダケデイイ・・・!

全てを失い、それでもヒーローの座に執着する。
ソレはかつて『清水隆』と呼ばれていた。





「教官達、無事っすかね?」

「教官と鈴木がいるんだ、きっと大丈夫さ」

勇太と健は、先程の戦闘で仲間と逸れてしまった。

二人でなんとか逃げ延びたのはいいっすけど、この先どうなるんすかね?

不安を誤魔化すようにポリスロングロッドを握り締め、軽い雰囲気で健に話しかけようとした時、彼等の目の前に『ソレ』が現れた。

「う、うわあぁあああ!!」

健が思わず叫んだがその気分は勇太にも良く解った。
自分は怯えて声も出なかったが。
本当に驚くと声が出ないらしい、新発見だ。

って、そんなこと考えてる場合じゃないっす!

人の顔から、皮を剥ぎ、鼻を削ぎ、口唇を切除し、耳を切り落として、触覚のような物が生えた頭部、異常に長い腕、右足だけ発達した脚部と、全身に甲殻が存在し、役に立たないような羽が左背部にある。
正に異常としか言いようの無い生物だった。
それ以外は人間に酷似しているところが変にグロテスクだ。

「田中、やるっすよ!」

「あ、ああ!」

前衛担当の自分が接近戦、後衛担当の健が援護。
教わったとおりの戦い方だ。

ちょっと怖いだけ、落ち着いて戦えば大丈夫っす!

健のリボルバーが発射され、その後ロングロッドで殴りかかる。
ここまでは良かった。

「え?」

しかし、敵はその長い腕を利用して、こちらの打撃を掴み、そのまま引き寄せた。

あ、やばい。

口癖を語尾につけるのを忘れてしまうほど勇太は恐怖した。
次の瞬間、異常な右足から放たれた蹴りが勇太に叩き込まれ、大きく後方に吹き飛ばされた。

「さ、佐藤ーッ!!」

健が駆け寄ってくるが、勇太は自分が長く持たないと直感的に思った。
全身が今にもバラバラになりそうに痛いのだ。

「へ、平気っすよ・・・。それより、田中のリボルバー貸してくれっす・・・」

喋るとさらに苦しいが、今は相棒に伝えなければならない。

「なんでだ!お前、怪我してるだろうが!」

「いいから・・・!俺等だけじゃ勝てそうにないからさっさと増援を呼んできて欲しいっす・・・。一つじゃ足りそうに無いから・・・」

この体では接近戦は無理だ。
だから少しでも抗うため、遠距離用の武器が欲しかったのだ。

「大丈夫・・・、俺、この前ヒーローにも褒めてもらったじゃないっすか・・・。だから、早く行ってくれっす!」

「・・・ッ!ああ、戻ってくるから・・・!だから・・・!」

健は敵と反対方向に走っていった。
敵はご丁寧に待っていてくれたようだ。

まるで、テレビの戦隊物の怪人みたいっすね・・・。

「待たせたっすね!」

勇太はリボルバーを撃つ。
自分のを撃ち尽くすと、健の銃を代わりに撃つ。
しかし、弾は交換式なので両方撃ち尽くしてしまうと新しく弾を込める時間が無い。

「さあ、来るっす・・・!」

もう自分から敵に向かって行く力は無い。
敵は勇太に接近し、長い腕で殴りつける。
まるで甚振る事を楽しんでいるかのように。

こいつ、性格悪いっすね・・・!

ポリスロングロッドで耐えるが、体力の限界が訪れ、弾き飛ばされ丸腰になった。
そこからは勇太に対抗手段は無く、猛攻の前に倒れ伏した。

でも、田中が逃げる時間ぐらいは稼げたっすよ・・・。

彼は立ち上がった。
それは警察官として、そして自分がなりたかったヒーローとしての意地だった。

「まだ、俺は生きてるっす・・・!」

相手の腕を素手で殴ろうとするが、リーチで負けているのでそれも叶わない。

敵は無慈悲に勇太の心臓部を貫いた。
スーツの耐久性が耐え切れなかったのだ。

中村、山田、鈴木・・・。

彼の同僚。

田中・・・。

相棒。

教官、さよならっす・・・。

短い間だったが自分達の教官。
彼等のことを思いながら、佐藤勇太の意識は消えていった。



「・・・!?」

良二は、勇太の反応が消えたことに気がついた。
さっきまで光っていた印が無い、つまり、佐藤勇太は死んだということだ。

佐藤・・・!

短い付き合いだったが、それでも自分を教官と呼んでくれた若者の命が失われた。
そのことは良二に大きな衝撃を与えた。

「ブルー、どうしました?」

自分の様子が変だということに気がついたのか、共に殿をしている優子に尋ねられた。

今、足を止めるわけにはいかない!

「いや、何でもないよ。それより急ごう」

思ったより平気そうな声が出せた自分に良二は感心した。
今皆に勇太の死を知らせれば、動揺して足が鈍る筈だ、そう考えた良二はしばらく黙っていることにしたのだ。

「そうですか、なら良いんですけど・・・」

怪訝そうにされたが、どうにか誤魔化し切れたと思う。
良二は初めて装備にマスクがあることに感謝した。
涙までは止められなかったからだ。




「一人逃がしたのかい」

「そのようですね。相手を嬲ることに快感を感じてでもいたのでしょうか?」

「人間だった時からそういう傾向があったからね、仕方ないさ」

光は目の前で警察官がその命を散らしたのを平然と眺めていた。

全く、敵わないと解っているならさっさと逃げれば良いだろうに。
若さゆえの自己満足か、理解に苦しむね。
どうせ逃げるだけの余裕も無かっただろうが。
私なら、同僚を犠牲にしても自分は生き延びるよ。

「実験体の状態が、異常です」

「そろそろ、潮時かな」

『元』清水君、精々派手に散ってくれよ?
最後に、君の欲しかった力が手に入ったんだから感謝してくれたまえ。





『ソレ』は自分の全身に痛みを感じた。
徐々に体が中から崩れるような気がする。

コノママデハオワレナイ!

燃え尽きる蝋燭の最後の輝きが、燃え上がろうとしていた。





きいろ達は健と合流したが、彼は酷く焦っていた。
話を聞くところによると、同僚が負傷した状態で怪人と戦っているらしい。
その怪人はこれまでのものとは違った様子だというのだ。

その佐藤って人、もう死んじゃってるだろうな。

きいろは負傷の状態を聞き、頭の中の冷静な部分がそう考えた。
田中も薄々感づいてはいるのだろうが、認めたくはないようだ。
自分だけ逃げたという負い目がそうさせているのだろうか。

死ぬって、もう会えないってことなんだよね・・・。

未だに自分の命を軽く考えている彼女は、健が少し気の毒になった。
そして、自分が死んだら誰か悲しんでくれるのかなと思った。

「む、あれはブラック達だ!ブルーもいるぞ!」

太陽がいち早く仲間に気づき、勇んで近づいていった。



全員と合流できた良二は、健との会話で勇太の反応が消えたことを話す決心をした。
流石に、このまま誤魔化し続けることはできないと悟ったからだ。

「くっ、佐藤・・・!」

相棒的存在の健はもちろん、普段は落ち着いている二郎も、怪人対策課のメンバーは皆声を出して泣いた。

元々関わりが無かった薫と茜は、二人で周囲を警戒しているようだ。
今はその冷たさが有り難い。
自分にはそこまで余裕が無いからだ。
一度顔を合わせている春美達は神妙な様子だ。

今までヒーロー内での殉職者はいなかったからな・・・。

「皆さん、怪人が多数こちらに向かっているようです。今は戦闘に集中して下さい」

薫の警告で、空気が張り詰めた物に変わる。
自分達は公務員だから、いつまでも悲しんではいられないのだ。

俺って、こんなに冷たい人間だったのかな・・・。

自分が既に戦闘モードに入っているのに気づき、良二は勇太に申し訳ないような気がした。

「来たよ!」

茜の警告と同時に、複数のゴキブリのような怪人が襲い掛かってきた。

「よくもお前等!」

健は熱くなっているようで、突出している。

それじゃ駄目だ、佐藤が守ったお前まで死なせてたまるか!

「イエロー、グリーン、田中をフォローしてくれ!お願いだ!」

近くにいる二人に援護を頼む。

「わかった!」

きいろがアックスで怪人の1体を倒す。
その間に優子が威嚇射撃をして、怪人を遠ざける。
離れた敵に薫、茜、春美、智、二郎が集中砲火を浴びせて倒す。
それでも接近してくる相手には太陽、耕作、そして良二が相手をする。

「戦闘員と怪人は大体倒したみたいね」

春美が一息つくと、異様な姿の怪人が現れた。

「薫、何あれ?気持ち悪い・・・」

俺でも嫌悪感を抱くような姿だ。
・・・まさかこいつが佐藤を!?

「あ、あいつだ!あいつが佐藤を殺したんだ!」

健が大声で叫ぶ。

「おのれ怪人!この自分が成敗してくれる!」

太陽は剣を構えて接近するが、怪人の長い腕が今にも彼の頭上に振り下ろされようとしている。

「レッド、危ない!」

今にもそれが当たりそうな時、春美の狙撃が敵のバランスを崩した。

「今よ!」

「はぁああっ!」

斬撃が敵の右手を切り落とす、しかし反撃の右足が太陽に直撃した。

「ぐはぁっ!」

太陽が崩れ落ちる。
その次は耕作と智が殴られて倒れ、茜にも迫る。

「気色悪い、来るな!」

ヒーローガンの連射にも耐え、彼女は吹き飛ばされてしまう。

「きゃぁああっ!?」

そのまま止めが刺されると思ったが、間一髪で薫が追撃をヒーローロッドで受けて事なきを得た。

「流石にこれはきついですかね・・・」

「薫!?」

大きく軋み、今にもロッドが折れそうだ。

「二人から離れて!」

きいろがアックスを投げて攻撃し、怪人の左腕が大きく裂ける。
その隙に、薫は茜を抱えて離脱した。

「あ、ありがと・・・」

「動けますか?」

「・・・ん、ちょっときついかも」

「邪魔ですから下がって。イエロー、オレンジを」

「うん!」

きいろに茜を預けた薫が良二の所に近づく。

「お前、案外良い奴だったのか・・・」

正直、ああいう場面では見捨てるタイプだと思ったが。

「切り捨てることも考えましたけどね・・・。それより、あの怪人今までのより強いですよ」

「そうだな・・・」

既に佐藤が死んだ。
これ以上殺させてたまるか!

「まだ幸い、ここでは誰も死んでいません。ブルー、これを」

薫は、ブルーランスを良二に差し出した。

「大分深手を負っているようですし、この武器なら急所を狙うことも可能でしょう。あの怪人は下半身が随分とアンバランスです。僕と、ピンク、グリーンが左足に集中砲火を仕掛けます。ブルーと、もう一人が奴の頭部を破壊してください」

「俺に、やらせて下さい!!」

健が名乗りを挙げた。
相当悔しかったのだろう。

「解りました。後グリーン、覚悟を決めてくださいね」

「・・・はい」

「じゃあ、殺りますよ」

怪人の左足に攻撃が集中し、体が傾く。

「佐藤の仇・・・!」

一気に頭部を貫く!

「Guaaaa!」

しかし、怪人の残った右足から必殺の蹴りが放たれる。

この距離では避けられない、佐藤、すまん・・・!

「教官!」

攻撃を喰らう覚悟を決めた時、健が間に割って入り、蹴りを喰らった。
彼の体が空中に投げ出される。

「・・・田中ーっ!」

安否が心配だが、今は奴を!

良二のランスが、怪人の頭部の右半分を破壊し、脳漿が飛び散った。

「田中、しっかりしろ!田中!」

ランスを放り出して健に駆け寄る。

「ブルー、後ろ!」

切迫した春美の声が響く。

振り返ると、奴が放り出したランスまで這い寄ろうとしていた。




目の前の物体には見覚えがあった。
ヒーローの武器だ。
これが欲しかった。
そうだ、俺はエリートで、ヒーローになって、あいつらを見返して―――

何かを思い出す直前に、彼の身体は爆発四散した。




「こんなものかな」

光は実験体の体内に仕掛けた爆弾のスイッチを押した。

本来は反乱防止のための物だが、あまりに見苦しいので介錯してしまったよ、有り難く思いたまえ。



良二の耳に大きな羽音が聞こえても、そんなことは気にならないほど良二は憔悴していた。
戦闘は終了しても、一向に夜が明ける気配は無かった。

続く






閑話13

良二達は病院にいた。
智、耕作、太陽、茜の怪我は思ったより軽傷だったが、健の意識が戻らない。
無事なメンバーも、薫以外落ち着かない様子だ。

でも、死んでいないだけまだ良いのかもしれない・・・。

勇太だけでなく、怪人や戦闘員の犠牲になった警官や民間人の数は過去最大だった。

田中、お前は生きていてくれよ・・・。

良二はそっと集団から離れた。
一人になりたかったのだ。



薫はそれに気がついてはいたが、あえて追いかけなかった。
慰めは効果がないと合理的に考えたからだ。

多分今頃自分を責めているでしょうね。
それにしても、あの怪人はおかしいです。

自分なりにあの怪人について分析したが、どう考えても異常という結論に達するのだ。
事実、これまでの怪人は獣、魚、虫、鳥など、種類こそ多いがそのどれもが地球に存在する生物にとても良く似ていた。
彼は、怪人は自分たちとは別の形で、別の星で進化した生物だと考えている。
ありえないことではない。
人間に人種があるように、生物の種一つでも様々な数に分岐するのだ。
言葉が通じないのはなぜだか解らないが、今の問題はそれではない。
あの異常な怪人はその法則から外れているのだ。

これまで戦った怪人と、所々似た部分は存在するんですけど、この仮定が正しいとしたら・・・。

この説が正しければ、自分の身も危ない。

茜を見捨てないで良かったですね。
あれで本格的に僕の役に立ってくれることになるでしょうし。
となると、後はグリーンですか・・・。

優子は今回の件で思うことでもあったのか、浮かない表情だ。

まだ証拠も出揃っていませんし、しばらくは睨み合いですか。
まだまだ気が抜けない日々が続きそうですね。




「今回の怪人と、実験体の破片は回収し終わったようだね」

ゴキブリは一匹見つけたら三十匹いるという。
その異常な繁殖力を、光は人工怪人の体組織の培養に利用しようとしていた。

怪人だけじゃない、うまく使えば人間すら培養できる・・・。

倫理上禁止されていることを、彼は何の痛痒も感じず行おうとしていた。
無論、金儲けになるからだ。

短期間での戦力増強にはこれ以上無い技術が手に入りそうだよ、怪人様様だ。

怪人がもたらす未知の物事は、長官の野望を膨らませていく。
以前から研究していた既存の技術と融合し、さらに強力な戦力を生み出そうとしていた。




気がつくと外に出ていた良二は、二郎からの連絡で我に返った。

「教官、田中の意識が戻ったようです・・・!」

「そうか、今行く!」

彼の病室に着くと、皆揃っていた。
太陽達も大丈夫らしい。
浩介も見舞いに来ていたようだ。

「教官・・・、すみません。無茶して・・・」

「違う、あれは無茶じゃなくて無理だ。でも、よく生きててくれたな」

「・・・怪人は?」

「お前のお陰で何とか倒せたよ・・・」

そのまま黙っていると、浩介から話しかけられた。

「・・・今回の事件で殉職した警官は、一度合同葬儀を行うことになった」

「俺も、出席させてくれませんか」

「ああ」

自分にまだ実力が足りないことが身に染みた。
少し成長したと思ったら、こんなことになるなんてな。

出向はこれで終わる。
しかしその前に、二郎には託す物がある。

「鈴木、俺が使った指揮官用スーツを頼む。後は任せた」

勇太が使っていたスーツは壊れたため、一つ足りない形になっていたが、これで五人分揃うだろう。

「・・・はい。」

佐藤との別れは、葬儀の時にしよう。
そこならまた泣けるだろうから。






ウインドホークは、生還したノアフクロウと話していた。

「では、あれは俺達の仲間にも、人間にも攻撃していたというのか?」

「はい。奴等の戦闘担当であろう者を殺し、その後奴等から総攻撃を受けて倒れました」

あの星特有の種族か?
いや、それならもっと早く出てきている筈。
いずれにせよ判断材料が少なすぎるな。

「今後も調査を頼む」

「はっ!」





[8464] 第十四話 ヒーロー復帰 
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/09/21 07:41
第十四話

「やあ青山君。出向ご苦労だったね」

ヒーローに復帰した良二は、長官にこれまであった出向中の出来事を報告していた。

「新装備はまずまずの成果を出したようで、大変結構なことだ。それにしても、あの警察官、なんといったか、佐藤君?のことは残念だったね」

佐藤・・・。

「はい、俺のせいで死んだなんて自惚れたことは言いませんが、悔いは残ります・・・」

「まあ、君のせいじゃないさ。運が悪かったとも言おうか。彼の他にも殉職した人間は多いのだから、いちいちその位で落ち込んでては始まらないよ」

その位!?
長官は、現場で働かないで上から指示を出すだけだからそんなことが言えるんだ!
そりゃあ、予算の獲得とかも重要な仕事だとは思うけど!

良二は光に憤りを感じた。
彼は、薫とは別のベクトルで人命を軽視しているように感じたのだ。

「我々ヒーローは、今まで幸運に一人も死なないで済んでいたからね。これを教訓に、これからは奮起してくれたまえ」

「失礼しました!」

用事は住んでいたので、これ以上光とは話したくなかった。

幾らなんでも、もう少し言い方があるだろ!
ブラックだって、オレンジを助けたくらいだからあそこまで冷たくないぞ、きっと!
清水のことなんて一言も触れてないし、俺はあいつが駄目だった場合の、都合の良い予備だったってわけか・・・。


歩きながら、合同葬儀のことを考える。
浩介によると勇太の最後は、怪人に胸を貫かれて死んだらしい。
健は葬儀の最中も泣いていた。
他の警察官の同僚らしき人も泣いていた。

たかが一人って言うけど、その一人が死んでもあんなになるんだ。
もっとたくさん死んでしまったらどれだけの人が悲しむか長官は考えたことがあるんだろうか。
これからは甘えていられない・・・。

良二は、薫のような戦闘員の使い方をする覚悟でいた。

戦闘員は元犯罪者だ、多くの人を泣かせてきたから・・・。

しょうがないとは言えなかった。
結局は自分も、これからの戦いでは薫と同じことをするのだ、自己弁護はしない。
その結果自分の心がどうなるかは考えないまま、良二は覚悟を決めつつあった。





「ここで何をする気ですか?」

優子は警戒しつつ尋ねる。
当然だ、相手は自分を嵌めて窮地に陥れたことがあるのだから。

「そんな怖い顔しないで下さいよ。ちょっと『お話』したいだけです」

目の前の男の笑顔は、爽やかだがまったく自分に安心感を与えてくれない。
既に、緋崎茜も篭絡されている。

でも、茜さんを助けたんだから全くの悪人というわけでもないのでしょうか?
彼は自分に害意を持たなければそれなりの対応をすると言っていますし。

「先日の戦闘で、警察官が一人死にましたね」

薫を観察していると、唐突に話しかけられた。

「ええ、青山さんが教官をしていたとか・・・。でも、どうしてその話を?」

「いえ、人間って脆いなってことを認識して貰いたくって」

何が言いたいのでしょう?

「貴女の新装備が出来たんですよ」

「私の?」

「これです」

盾?それにしては小さいような・・・。

「グリーンシールドです。これなら戦闘員の使用に後ろ向きな貴女にぴったりだと思いますよ」

「・・・使い方は?」

しっかり確認しておかないと、とんでもない目にあいそうですからね。

「簡単です。起動させるとエネルギー波が構えた方向に発生して、貴女『一人』を守ってくれます」

「エネルギー消費が激しいのでは?」

「それはバッテリー型戦闘員で解決しますよ」

駄目じゃないですか!

「それと、もう一つ機能がありまして」

まだなにかあるんですか?
どうせ碌な物ではないでしょうが。

「オールバリアモードといって、強制的に効果範囲の戦闘員をヒーローバリア状態にして、『ヒーロー』を守らせます」

もっと駄目じゃないですか!

「使うかどうかは貴女次第ですから、しばらく預けておきますね。でも、これでも駄目なら、死んでも貴女の自己責任ですから」

優子に盾を手渡し、薫は去っていった。

「どうすればいいんでしょう・・・」





また怪人に負けてしまった・・・。

太陽は落ち込んでいた。
修行の成果が出て最近は好調だったが、また負けたことで不安になったのだ。

はっ、これはドラゴンボ○ルや、ヒーロー物である強さのインフレという奴か!
強くなったことでさらに高い壁が見えてしまうとは、これもリーダーの宿命(さだめ)なのか・・・!

が、余り深くは考えなかったようだ。

自分がその運命にあるなら、乗り越えられる筈だ!



良二が長官室から出て歩いていると、春美に会った。

「あ、ピンク」

「ブルー・・・。報告は済んだの?」

「ああ。それと、正式にヒーローに戻ることになった。今後も迷惑かけるかもしれないけど、その、よろしく」

「そう。こんな時に言う言葉として、正しいかどうかは解らないけど、・・・お帰りなさい」

自分は帰ってきたんだなと、彼は改めて感じた。





『じゃあ、元ブルー(仮)は行方不明なんですか?』

「うん、ヒーローへの不採用が堪えたと見える。今まで清水君にも気を配ってくれてご苦労だったね。今後は、黒澤君の方に専念してくれたまえ」

まあ、頃合を見計らって君にもいなくなってもらうが。

これは当然だ。
自分の秘密を知っている人間は少しでも少ない方が良い。
そうでないと、後々不利になるかも知れないからだ。

『はぁい。じゃ、引き続きそうします』

通信を切り、思案する。

現在世界に大規模な戦争が無いのは、怪人が我が国に現れるからだ。
人類共通の敵がいることで、やっとまとまりを見せた諸国は、実に愚かだ。
我が国が滅びれば、次は自分達の国に怪人が出現する。
怪人が現れ続ければ、恒久和平が実現するだろう。
そのためにもヒーローは存続し続けなければならない。
無論、そのトップは私だがね。

彼にとって現在のヒーローは、ヒーロー、怪人双方の量産のために役立ってもらう予定だ。
警察に提供した新装備も、その前段階のものだ。
実験体零号は、諸外国に派遣する怪人の試作型で、今後も怪人が現れ、ヒーローがそれを倒すというサイクルを続けさせることが彼の目標だ。
政府暗部は彼の案に賛成している。

そのための課題は山積みだが、ゆっくりと実現させればいいさ。

新しい秩序を作るのは自分だと、白井は信じて疑わない。





『元ブルー(仮)、行方不明だってさ。アタシはどうでもいいけど。それと、今後は薫を探るのに専念しろだって』

茜から情報を手に入れ、薫はあの時の異様な怪人が清水隆の成れの果てだと結論づけた。

そういえば、僕がやった右足、あの怪人も歪でしたからね・・・。

となると、ブルーが清水隆に止めを刺したということになる。

人間としてはとっくに死んでいる状態だったから気にすることは無いと思いますが、まだ黙っていた方が良いでしょうね。

今の彼は相当参っているようなので、変に刺激しない方が良いと思ったのだ。
決して同情ではない、あくまでも打算だ。

「茜、グリーンの懐柔に関する事も頼んでいいですか?」

『オッケー!何すれば良い?』

「次の戦闘の時、ちょっと演技をしてくれれば良いんです。その時になったら指示しますよ」

あの装備がこれ以上無い程効果的な場面でね。

『うん、ところで、この後時間ある?良かったらどこか遊びに行きたいんだけど・・・』

戦闘の時に庇ってやった事でますます懐かれましたか・・・。
僕個人としては、あんまり好かれすぎるのも鬱陶しいんですけどね。

「デートですか?構いませんよ」

まあ、飽きるまでは付き合ってあげますか。
それに、単なる遊び相手としてなら、顔も良い方だからそれなりに気に入ってはいますし。

『ホント!?じゃ、三十分後に入り口前で待ち合わせね!』

通信が切れて、溜め息をつく。
これでも、彼なりに気に入っている相手の上位には入っているのだ。

「ねえ、ブラック。オレンジとデート?」

そんな事を考えていると、きいろに話しかけられた。

「・・・何時から聞いていました?」

「割と最後の方だけど」

肝心なところは聞かれていませんでしたか。
僕も鈍りましたかね。

「イエローも来ますか?」

彼女も味方には引き込んで置きたいのだ。

「ううん、ブラックの彼女に悪いし」

彼女?
心外ですね、単なる遊びなんですが。

「そうですか、後、ブルーのことはそれなりに気にかけてあげてください」

「うん、同僚の人死んじゃったんだもんね・・・」

おや、何時もとは少し違いますね。

「あたし、その人にサインせがまれたから書いたんだけど、まさかこんなに早く死んじゃうなんて思わなかった。ねえ、ブラックは、あたしが死んだらどう思う?」

別に、と言いたいところですが・・・。

「まあ、残念には思うでしょうね」

「そっか、またね」

本人なりに納得して去って行ったようだ。

イエローも、変わってきていますね。
根本的に変わらないのは僕だけか・・・。
でも、変わらないことは悪いことなんでしょうか?



「それで、長官に苛立ちを感じたってわけ?」

「ああ・・・」

別れ際の浩介の言葉を思い出す。



「早速、一人欠けてしまったな・・・」

初期メンバーのあまりに早い死は、怪人対策課に衝撃を与えた。

「上からは、すぐに補充人員を手配すると言われたが、そう割り切れる物では無いよ・・・」

「そうですよね・・・」

幾ら怪人に対抗する手段を手に入れたとはいえ、実戦に参加するのだから当然死亡率も上がる。
分かりきっていたことじゃないか・・・、たまたま今回は、それが佐藤だった。
そういうことだ・・・。

「鈴木達は・・・?」

「また、現場で会ったらよろしくお願いしますと言っていた。君は立派な指導をしてくれたんだな」

あいつ等は強いな・・・。
俺も、しっかりしなくちゃ。

「なあ、青山君・・・」

「はい?」

「自分のせいで佐藤君が死んだとは思わないでくれ」

「でも、もっと何か・・・」

できることがあったんじゃないかと思ってしまう。

「あまり自惚れない方が良い。その代わり、君はなるべく生きていてくれ」

「え?」

「今後も実戦に出続ける君に無茶な願いだということは分かっているが、頼む」

それは難しいけど・・・。

「善処します」

こう言うしか無いよな・・・。

「有難う・・・」



「話の途中で何考えてるの?」

おっと、今はピンクと話してるんだった。

「いや、出向が終わった時のことを思い出してな」

「そう。あのね、長官はそういう人だって割り切った方が精神的に楽よ。前にブルーが戦闘中に気絶した時応援頼んだことがあったけど、本当にドライな対応してくれたもの。・・・今思い出しても腹が立つわ」

いや、ピンクも割り切れてないよな、それ。

「ブルーはこれからどうしたいの?」

俺は・・・。

「ブラックみたいな戦い方がしたい」

「そう」

「それだけか?」

「貴方には向いてない戦い方だとは思うけど。決めたんでしょう?」

「ああ」

そうだ、あいつみたいな戦い方をすれば、もっと効率的に怪人を倒せる。

「でも、無理だと思ったなら途中からでも止めた方が良いわ」

「そういうわけには・・・」

「無理に変わる必要は無いのよ。適材適所。言い方は悪いけど、汚れ仕事は私やブラック、長官とかに任せてくれれば良いの」

「それじゃあピンクが辛くないか?」

「別に?とにかくブルーも色々考えたんでしょうし、やりたいようにしてみたら?」

俺は良い仲間を持ったな。

「そうしてみる。すまないな」

「・・・私らしくない。一応ね、皆程度の差はあれ貴方のこと気にかけてはいるのよ?」

「そうなのか?」

ということはブラックも?

「そういうこと。じゃあね」

石田警部、皆。
まだこれからどうなるか分からないけど、もう一度ヒーローとしてできることをやってみるよ。
まずはブラックを見習った戦い方だ!






茜と待ち合わせ、街に出かけた薫は仕事とは関係なく遊んでいた。

「ねえ薫、次はどこ行く?」

「そうですね、ちょっと早いけど食事にしましょうか。明日は茜の新装備の開発の続きをしたいから、今日はなるべく早く切り上げましょう」

「アタシの新装備・・・?なら、しょうがないね・・・」

見るからに残念そうですが、我慢してもらいましょう。

「また来れば良いじゃないですか。生きてれば何回でも来れますよ」

薫は彼なりに茜を評価しているのだ。
戦闘員を使い潰すことにも全く躊躇いが無いし、ヒーローに選ばれるだけあってそれなりに優秀だ。
戦闘では主に、自分が射撃する時の護衛を担当させている。

まだ茜には、元ブルー(仮)のことは話さない方が良いですね。
余計なことまで知って深入りすると、あの男に処分されかねない。
そうなると僕の身が危ないし、貴重な手駒が一つ減りますから。

「どうしたの?」

「いや、どこで何を食べようか考えてただけですよ」

「アタシ行きたいお店あるんだけど、そこでも大丈夫?」

今は、息抜きを楽しみますか。

「ええ。物凄く高い店じゃなければ奢りますよ?」

公務員だから、長官からの金以外はそんなに給料が大きく増えない所は辛いですが、元々好条件の給料でしたからそれぐらいの余裕は有りますし。

「ホント!?有難う!」

そう言って茜は腕を組んできた。

あまりくっつかないで下さいよ。
僕は適度な距離感が好きなんです。
まあ、無理に機嫌を損ねる必要も有りませんか。

そう考え、彼は彼女を振り解かなかった。


続く



閑話14

後日、良二は薫と話そうと思って早速実行した。

「どうしたんです?」

「ああ、お前みたいな戦い方をしたいと思ってな・・・。どうすればあんな戦い方ができるようになるのか教えて欲しいんだ」

自分に実力が無いと判断し、まずは彼を見習うことにしたのだ。

「僕のような戦い方、ですか?」

「ああ、忙しいとは思うが、頼む」

彼程の能力が自分に無いことは百も承知だが、それでも、どうしても知りたいのだ。

「そう言われても、僕は特に意識しないで戦ってますからね」

ってことは、あの戦い方は本能!?

「それに、どう考えても貴方には性格的にも向いていないと思いますが」

「お前もそう思うか・・・」

俺には無理なのか?

「まあ、向いていない=無理というわけでは無いでしょうし、それなりに協力はしますよ。で、具体的にはどうしたいんです?」

「え、手伝ってくれるのか?」

「戦闘では別チームですからね。現場ではフォローできませんから」

「有難う。早速だが聞いてもらっていいか?」

正直、助かった。
まさかこんなに上手くいくなんて後が怖いな。

「なるほど、効率的に怪人を倒す方法ですか」

薫に自分がどうしたいか説明し、彼の言葉を待つ。

「ストレートに言えば、戦闘員を使い潰すのが一番手っ取り早いんですが。貴方にそれができますか?」

できるできないじゃない・・・。

「やるさ・・・!」

しばらく2人とも話さない。
やがて薫が口を開いた。

「なら、気が進みませんが、貴方にも一応教えておきますか」

ブラックでも気が進まないことって一体・・・。

「『ヒーローボム』といってですね」

「それ、まさか戦闘員の新しい機能じゃないだろうな・・・」

いや、まさかな。
幾らこいつでもそこまではしないだろう。

「中々察しが良いじゃないですか。その通りです」

当たってた!?

「お前、それは流石にまずいだろ!」

「どこがです?」

まだまだ俺も甘いって事か・・・。

自分に薫ほどのドライさは無いと改めて理解した。

「採算が取れないんで、あまり頻繁に使って欲しくは無いですね」

「ブラック、気が進まないって命じゃなくて金の方かよ・・・」

やっぱりこいつ、凄い。
色々な意味で俺に勝ってる。
ここまで差があると比べることが馬鹿らしくなって来るほどに。

「後、少しでも躊躇いが生まれたら方針転換した方が良いですよ。大事なのは一瞬の判断力。少しでもそれが鈍ったら終わりです」

「お前はいつもどうしてるんだ?」

「僕は躊躇しないでやれますが。こればかりは個人の向き不向きも有りますし」

考える暇が有ったら、殺れってことか・・・。

「まあ、参考にはなったよ。次の戦闘からやってみる」

「余計なことかもしれませんが、ブルーにはブルーの存在意義が有りますから。駄目でも気にしないことです」

良二は違和感を感じた。

「なんかお前、最近優しいな・・・」

そういえばこの前もオレンジを助けてたし、こいつにも徐々に人間味が出てきたのか?
だとしたら怖いぞ・・・。

彼にとって、薫は腹黒い方が安心できるのだ。

「いつも通りですよ」

「そうか・・・」

腑に落ちないが、礼を言って立ち去ることにした。





どう考えても良二に向いていないことを教えたのは、彼にそう頼まれたからだ。
下手をすれば精神的な負担が大きくなるだろうが、それでも良いかと薫は判断した。

彼を慰めるのは、イエローとかピンクがそれなりにやってくれるでしょうしね。
ま、死にはしないでしょう。

頭の中から良二のことを消し、引き続き茜の武器を調整することにした。






[8464] 第十五話 黄色の疑問
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/09/18 06:42
第十五話

まず薫の戦い方を参考にしようとし、彼に尋ねた良二が得た答えは、『戦闘員を使い潰す』ことだった。
しかし薫本人や春美にも言われたが、性格的にも向いていないだろうと言われたのだ。
これは当然だ。
最近割り切るようにしていたとはいえ、未だ積極的にそういった戦法を取ることには慣れていないのだ。

でも、今までのままじゃ駄目なんだ。
弱かった自分から、俺は変わらなきゃ!

法律違反では無いとは言え、決してそれを嬉々として行うような男ではない。
今は行方が分からない清水隆なら率先してやっただろうが。

「怪人か・・・」

オペレーターからの連絡を受け、仲間たちと共に彼も出撃準備をする。
自分のことで精一杯な良二は、きいろの視線に気がつかなかった。




チーム1と分かれて自分達の担当怪人の所に向かう途中、優子の脳内は新装備を使うかどうかの悩みで占められていた。

黒澤さんも厄介な物を渡してくれますね・・・。
使わないって決め付けるには悩むじゃないですか。

実際、渡された後でゆっくり考えると性能は良いのだ。
おそらくこれを効果的に使えば戦闘はもっと楽になるだろう。
そんなことを考えていると、薫が彼女と茜に話しかけた。

「現場では既に警察官の方々が対応しているそうです。我々も急ぎますよ」

そうだ、使わなくても大丈夫な状況なら良いじゃないですか。

それは、余りにも楽観的な考え方だったが今の彼女の状態なら仕方が無いと言えるだろう。
ここの所色々有って、精神的に疲れているのだ。
判断力が鈍るのも無理は無い。


良二達が現場に着くと、既に二郎が不慣れながら警察官達の指揮をしている所だった。
そのお陰で被害は抑えられている。

「鈴木!」

「教官、待ってました!ここは自分と山田、それと避難誘導係に任せて、教官達は怪人を!」

怪人対策課の面々も健在のようだ。

「よし、待ってろ怪人!今日は自分の実力を存分に見せてやる!」

太陽がいきなりレッドスペシャル(ryを抜き、怪人のいる方角に走っていった。

「あ、レッド!まったく・・・」

良二達も後を追いかけることにした。
彼も仲間なのだから一応心配であるし。


「はあぁっ!」

群がってくる戦闘員の一体をブルーランスで突き、背後から忍び寄るもう一体には柄の底で打撃を加える。
出向で、長物は色々な部分が攻撃に使えると分かったのだ。

俺は、一体一体を確実に倒す!

派手さは無いが、きいろには援護、春美には射撃時の護衛と、仲間に対する支援能力も向上している。
出向の成果は現れていた。

「ぬうっ!この蛙手強い!」

太陽の方を見ると、変則的な動きをする怪人に苦戦しているようだ。
跳躍力を生かしたトリッキーな攻撃を仕掛けてくる。

「おとなしく自分に倒されろ!」

ガンソードで銃撃するも避けられる。
と思ったら、いきなり怪人がきいろの方に移動して、彼女に長い舌を伸ばしてくる。
今なら近くに味方の戦闘員もいる。
それを見て、良二は決断した。

「・・・イエローにヒーローバリアだ!!」




良二が叫んだ途端、こちらの戦闘員が攻撃の盾になった。
その時にできた隙を逃さず、きいろはイエローアックスで怪人に攻撃する。

「Gyaaaa!」

手応えからして決して小さくは無いダメージを与えられた筈だ。

ブルーがあんな戦い方をした?
最近様子が変だと思ったけど、こうなるなんて・・・。

彼女は、出向から戻ってきた良二が以前と少し変わったことに気がついてはいたが、特に何もしなかった。
同僚だった警察官が死んで落ち込んでいるのは分かったが、そのうち元に戻るだろうと考えてしまったのだ。

ブルー・・・。




現場にいた健と智等と協力して、チーム2は戦闘員を駆逐していた。
特に健は気合が入っているようだ。

「オレンジ、指示を出します」

薫から話しかけられ、茜は少し離れた所で智と銃撃をしている優子を見た。

とうとう本格的に堕とす気になったみたいね・・・。

「オッケー。で、何すればいいの?」

「簡単です。怪人の攻撃を受けそうなふりをして下さい。もし彼女が新装備を使うことを躊躇っても僕が援護します。オレンジには攻撃させませんよ」

うん、この前も助けてくれたし、段々絆されてきたのかな?
大事にされて悪い気はしないし。

「分かった!」



自分の意思で戦闘員を使い潰したのはこれが初めてだ。
効果はあったようで、怪人もその後のきいろの追撃と合わせて手傷を負ったらしい。

嫌な気分だな・・・。

薫に騙し討ちのような形で使わせられた時は、まだ自分の意思ではなかったと自分自身に言い聞かせられたが、今度は決定的だ。
完璧に良二自身の命令ということになる。
きいろがこちらを向いて何か言いたそうにしているが、流石に戦闘中だということで、分かった上でそれを無視した。

話なら、生きていれば後でもできる!
まずはあの怪人を倒す、それからだ!

良二は春美と共に怪人に遠距離攻撃をする。
怪人は跳躍して大きく距離を取り、そのまま逃走した。

「怪人め、自分の強さに恐れをなして逃げたようだな。中々賢いではないか!」

「いや、それは無いわよ」

太陽が空気を読めない発言をするが、春美がそれにつっこむ。
普段はドライだが、なんだかんだで付き合っているところをみると面倒見自体は良いのかもしれない。

この前も俺の愚痴を聞いてはくれたからな・・・。

「ねえ、ブルー。一体どうしたの?」

きいろが躊躇いがちに話しかけてきた。

今までの俺とは違う戦い方だったからな、その位は自覚しているさ。

「上手く言えないけど、なんか最近のブルーは変だと思う。今日の戦い方だって・・・」

「俺もいつまでも甘えていられないってことだよ。レッド、ピンク!後を追うぞ!」

半ば強引にきいろとの会話を終わらせ、二人に言う。

「リーダーは自分だ!まあ、その提案には賛成だがな」

悪いなイエロー。
今の俺は変わらなければいけないんだ!




置いていかれるわけにはいかないので、前を走る三人を追いかけながら考える。

ブラックにも、気にかけてあげるように言われてたのに、何でブルーを放っておいたんだろう・・・。
あたしの考えが甘かったのかな。

彼女も人の死について考え始めたとはいえ、まだそれがどういうことか完全に理解してはいなかったのだ。
だから良二を放置してしまった。
実際話していても彼は行動していただろうが。

でも、あたしは前までのブルーの方が良いな・・・。




「この!」

ふと声がした方を振り向くと、茜と智が、豚のような怪人の攻撃を受けそうなところだった。

どうしましょう、グリーンシールドを使う?
いや、ここで使ってしまったらあの男の思う壺ですし、それに・・・。

悩んでいるとついに、怪人がコンクリートの破片を二人に投げつけた。

間に合わない!?

「茜さん!」

叫んでもどうにもならないだろうが、そうせずにはいられなかった。

「ちっ。本格的に駄目でしたか」

すると人を蔑みきったような声と共に、赤黒い閃光が茜の方に向かう攻撃だけを迎撃した。
当然残りの攻撃は智に直撃する。

「ぐあっ!」

智は倒れ伏す。

「黒澤さん・・・」

「貴女、そこまで偽善者だとは思いませんでしたよ」

「偽善者!?」

違う、私は・・・。

今更言い訳が通用するような相手ではないのは百も承知だが、そうせずにはいられない圧迫感がある。

「もういいです。とりあえずあの警察官を安全地帯に移動させてください。それ位なら貴女にもできるでしょう?」

有無を言わせない迫力だ。

「解りました・・・」

「結構です。それと、覚悟していてくださいね」

私の人生終わった、確実に。
優子はそう感じた。




茜の方に向かう攻撃だけを迎撃したのは、当然優先順位からだ。
中村という警察官とは一応面識は有ったがそれだけだ。
守れるだけの余裕も無かったし、そうする義理も無い。

それにしても、仲間の危機には使うと思ったのに。
相当な理想主義なんですかね。

「オレンジ、殺りますよ」

「オッケー」

「俺にもやらせてください!よくも中村を!」

健と茜は接近戦で怪人を追い込む。
その間にバッテリー型戦闘員でランチャーの急速チャージを終わらせる。

「二人とも離れてください」

撃つ前に警告する。
二人が離れたのを確認して、ついでに怪人の後方の戦闘員も一掃する。

「豚が」

ランチャーからの砲撃は、敵の集団を飲み込んで消滅させた。
周囲の被害を考えなくても良い場所だから、心置きなく全力で殺す。
さらにランチャーの照準をずらして怪人の横にいた戦闘員も駆逐する。

戦闘が終わり、健が礼を言って智と帰還した。
どうやら負傷だけで済んだらしい。

「さて、グリーン」

今ここにいるのは、僕と茜、こちらの戦闘員。
それに彼女だけだから遠慮なくいきますよ。

「このまま貴女を放置していては、いずれ僕の首も絞まりそうですからね。災いの種は今の内に潰しておくことにしました」

彼女が確実に堕ちないというのなら、いらないですから。
拘りすぎるのもなんですし。

「!?あ、茜さん、黒澤さんに何とか言ってください!」

多分無駄ですよ。
茜は、意外とダークな一面も有りますから。

「ねえ、優子さん。さっきは見てただけだったよね」

「あ、あれは・・・」

ここまでうろたえられると面白いですね。

「死ねばいいよ」

茜は優子に死刑宣告を下した。

さて、執行許可も出たことですし、殺りますか。




優子が薫を見ると、ランチャーを構えているところだった。

まずいです、このままでは!

「じゃ、アタシも行くよ!」

茜はヒーローガンを乱射してくる。
なんとか避けるが、その隙に接近戦に持ち込まれる。

「茜さん、止めてください!」

「んー、でも薫が要らないって言ったし、悪く思わないでねっ!」

ヒーローロッドを叩きつけられるがなんとかグリーンシールドで防ぐ。
通常の盾としても使用可能なのだ。

「離れて」

「オッケー!」

薫の合図で茜がランチャーの射線上から離れる。

「さようなら」

ランチャーが連射される。

「くっ!」

グリーンシールドを構えてエネルギー波を発生させる。
砲撃は防げたが、エネルギー残量が一気に減った。

なんとか凌ぎましたが、次は・・・。

「もう終わりですか?」

再び砲撃が迫る。

こうなったら・・・!

「グリーンシールド・オールバリアモード!」

戦闘員達が優子の前に立ち、次々と砲撃を受ける。
しばらく三人とも動かなかったが、やがて薫が笑い出した。

「あははっ。なんだ、結局使うんですね」

「あ、薫が声出して笑ってる。珍しい」

何で私は使ってしまったんだろう、茜さんが危ない時でさえ使わなかったのに・・・。

「グリーン、何悩んでいるんですか?帰りますよ」

「え、私を殺さないのですか?」

あんなに殺気を感じたのに、今はそれが無い。

「で、どうでした?バリアを使った感想は」

「あ、それは・・・」

「使ったことは事実ですよ」

「・・・不思議ですね。自分が危なくなったら、今までの考えなんて放り捨てて使ってしまうなんて」

あんなに抵抗感を感じていたのに。

「人間そんなものですよ。自分が一番。これが人間なんですからそんなに気にしないで下さい」

よく言いますね・・・。

「使わせるまで追い込んだのは貴方じゃないですか!」

「でも、結局使ったじゃない。嫌だったなら死ねば良いのに」

言い返せない・・・。
これでは私も黒澤さんと同じじゃないですか。

「まあまあ、その位にしてあげましょう」

「・・・解った」

茜さんのマスク越しにも不満そうな様子が伝わってくる。

そうですよね、見殺しにした形になってしまいましたし・・・。

実際は薫が指示した演技だったのだが、優子は気がつかない。
その方が当人の精神衛生的にも良いだろうが。

「それよりグリーン」

「・・・なんですか?」

「『こちら側』にようこそ。歓迎しますよ」

ああ、私はきっともう抜け出せないんでしょうね。
すみませんが長官、あなたの命令は実行できそうにありません。




良二達が怪人を追撃すると、二郎達が戦闘員と怪人に囲まれ不利な状況だった。

「まずは、邪魔な戦闘員から片付けさせてもらうわ」

「うむ、いくぞ!」

春美と太陽がライフルを連射し、戦闘員を蹴散らす。

「よし、このまま一気にやる!」

このチャンスを逃さない!

「鈴木、山田!リボルバーで援護してくれ!」

「はい!」×2

リボルバーで怪人を牽制し、その間に戦闘員に指示する。

「ヒーローバインド!」

まったく、俺は駄目だな・・・。
ヒーローボムを使う覚悟がまだ無いなんて・・・。

戦闘員が怪人を押さえ込む。
その隙になるべく戦闘員を避けてブルーランスを敵に突き立てる。

「イエロー、止めだ!」

戦闘員を離れさせてイエローを呼ぶ。

「・・・うん!」

戦闘員に離脱するように指示したのは、再利用のためだ。
きっとそうなんだ!

覚悟の足りない自分に言い聞かせるように心の中で繰り返す。

「はああぁあっ!」

アックスが蛙怪人の首を刎ねる。


戦闘が終わり、二郎達と会話する。

「有難う御座いました。自分達も佐藤の分まで頑張らなきゃいけないのに・・・」

佐藤、俺には元から自分にヒーローの資格なんて有るとは思っていないけど・・・。

「俺も頑張るよ。だから、思い詰めるな」



「ブルー・・・」

きいろが話しかけてきた。

「ブルーは、それでいいの?」

「ああ。また明日な」

続く



閑話15

帰還すると、既にチーム2の面々は戻っていた。
茜は携帯を弄っていて、優子は顔を伏せている。

「お疲れ様です、ブルー」

「ああ。お前もな」

薫がスポーツ飲料の缶を渡してくれたので、有り難く受け取って、中身の液体を一気に飲み込む。

「怪しい物なんて入っていませんから」

大きく咳き込んだ。

「お、お前なあ!」

こいつのことだ、本当にやるかもしれない。

「落ち着いてください。第一未開封でしたよ、それ」

「あ・・・」

こんなことにも気がつかないなんて・・・。


「それで、使いましたか?」

何の事を言っているのかはすぐに見当がついた。
ヒーローボム。
結局使えなかった良二は、正直に答えた。

「いや。今日はできなかった」

「そうですか」

相変わらず穏やかな顔からは感情が読めない。

「でも、次はやってみせる」

自分を追い込む意味で宣言する。

「ま、好きにすれば良いんじゃないですか」

特にこちらの意見を肯定も否定もしていないが、それでもいつもの彼らしい回答だ。

「飲み物ありがとよ」

「どういたしまして」

そんなやり取りをしていると、優子がこちらを向いて視線が合った。

あまり彼女との接点は無いけど、何なんだろう?

「・・・大変ですね、貴方も」

グリーンも苦労してるんだろうか。
・・・そりゃそうか、あの二人と同じチームじゃ。
俺はブラックには慣れてるけどな。

「いや、そうでもないさ」

そう答えると、信じられない物を見たような顔をされた。

「じゃあ三人とも、俺は行くから」

良二は背を向けて立ち去った。




少しでも躊躇ったりした時は方針転換した方が良いって言ったのに・・・、まだやるつもりなんですか。
これは相当根が深いんでしょうね。

戯れに悪質な冗談を仕掛けてみたが、見事に引っ掛かってくれた。
これでかなり疲れていることが証明された。
まあ、彼の反応が、こちらの予想と寸分違わぬものだったことには楽しませて貰ったが。

イエローも、僕がブルーを気に掛けるように言ってから結局まだ何もしていないし、荷が重かったようですね。
それにしてもグリーン、余計な事を。
後で『首輪』でも付けておきますか。



光は良二に感心していた。
使えない人間は使えない人間なりに努力しているということが解ったからだ。

戦闘員の使用に乗り気で無かった彼がねえ・・・。
まあ、人間一度楽すると後は面白いように堕ちるだけだから、楽しみだね。

続いて優子の報告書に目を通す。

黒澤君も、まだ目立った動きは無しか・・・。
始末する口実が無ければ迂闊に手は出せないな。
次の実験体の用意もそろそろできるころだ、テスト代わりに彼と戦わせて見るか。
有能ではあるが、それを超える怪人ができれば用済みになるしね。










[8464] 第十六話 緑色の悩み
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/07/16 06:53
第十六話


緑川優子は困惑していた。
黒澤薫に、贈り物をされたからである。
緋崎茜と同時に渡されたのは何か意味はあるのだろうか?

「薫、サンキュー!」

茜は単純に喜んでいるようだ。

茜さんは良いですね・・・。
何の心配も無く受け取れるんですから・・・。

優子には薫からプレゼントを貰うだけの理由が無い。

そういえば、マフィアは殺す相手にプレゼントを贈るって昔聞いたことが有りますね・・・。

そのことを思い出すと、恐ろしくなる。
決して油断して良い相手ではないのだ。

「どうしたんです?」

薫に話しかけられた。
とりあえず、怪しまれてはいけないので包みを開けてみることにした。

「チョーカーですか・・・」

シンプルなデザインのチョーカーが入っていた。
センス自体は悪くない。

「優子さんのも?アタシのとはデザインが違うみたいだけど」

茜はあれから普通に接してくれる。
見捨てる形になってしまったが、まったくその影を感じさせない。

でも、かえって普通にしてくれる方が怖いですよ・・・。

「黒澤さん。これ、してないといけませんか?」

爆弾でも仕掛けられていそうで怖いんですよ・・・。

本音は当然言えないが、意向を確かめる。

「ええ、できれば」

見た感じただのチョーカーのようですね・・・。
まあ、物に罪はないと言いますし・・・。

「分かりました」

優子はチョーカーを身に着けた。
その後しばらくして、春美が入ってきた。

「あら、二人とも。それどうしたの?」

「うん、薫に貰ったの」

「へえ・・・」

春美は薫を若干冷たい目で見たが、元の表情に戻ると会話を続けた。

「ねえブラック。ブルーの事どうする気?」

「今の彼にどうこう言っても無駄ですよ。本人がやりたいようにさせれば良いのでは?」

「それもそうなんだけどね。イエローまで変になっちゃって。」

萌黄さんが?

「へえ、そうですか」

「ちょっと黒澤さん。そういう言い方は無いんじゃないですか?」

この男は冷たい。

「こういう奴だって事は分かってるから良いのよ」

良いんですか・・・。

「で、ブラック」

「まだ何か?」

「貴方、オレンジの次はグリーン?」

え、次って何ですか?

「ご安心を。グリーンとはそういう関係ではありませんから」

「そうそう。優子さん『は』関係ないから」

茜さん、何火に油を注ぐような言い方してるんですか!

「ふうん・・・」

場の雰囲気が重い・・・。

「・・・仕事はやってるんでしょう?やることやってれば構わないと思うわ」

春美は去って行った。

「ま、仕事だけじゃなくて別の事もやってるけどね・・・」

茜さん、貴女やっぱり・・・。
あれ、黒澤さんの様子がおかしいですね・・・。

「黒澤さん?」

「・・・?ああ、グリーンですか。いえ、ちょっと驚いただけです」

珍しいですね、この男がぼんやりするなんて。



ピンクは薫がちょっと気になるみたいね。
今はアタシが気に入らないことの方が大きいと思うけど。
牽制はしっかりしておかないと。

優子の事を考える。

まあこっちも騙そうとしてたからお互い様だけどね。
でも、あの時ちょっとムカついたかな・・・。

茜は根に持つタイプだった。

「茜、次からは気をつけて下さいよ・・・」

「はぁい♪」

ごめんね、でも、誰にだって独占欲ぐらい有るでしょ?




ピンクがね・・・。
僕にはそんなに良い印象は抱いていないと思っていたんですが。
まあ、それならそれで、いざという時に好都合ですね。
上手く立ち回ればこちらの味方に引き込めるかもしれませんから。

薫は今後の行動について考えていた。

現在の手駒は茜だけ、グリーンはまだ味方とは言い切れませんし、これでは少々心許無いです。

だから、優子にチョーカーを送った。
流石に爆弾等の危険物は仕掛けていないが。

茜も絶対に味方でいてくれるとは限りませんしね・・・。

そもそも、物事に絶対ということは無いのだ。
だから何事も念入りに仕組んでおく必要がある。

「チーム2!凶悪犯罪者の収容所に怪人が出現しました!至急向かって対処してください!」

彼の考え事はオペレーターからの通信により中断された。

「二人とも、行きますよ」

今は敵を排除することが最優先だ。


現場に到着すると、異様な姿の怪人が施設を破壊していた。

この怪人もですか・・・。

「ねえ薫。アタシ考えたんだけど」

「何をです?」

「いっその事さぁ、このまま怪人に犯罪者皆殺しにして貰ったら良いんじゃない?事故って事で済ませられるし」

「茜さん、流石にそれは・・・」

別に僕はそれでも良いんですけどね。

「世間体と言う物が有りますから、ポーズだけでも戦っておかないと。後、職員の方々の安全確保もしなければいけませんし」

「ふうん、分かった」

薫は光に連絡をした。
長官としての彼の言質をとるためだ。

『何かね?』

「犯罪者の人的被害は考慮しなくても構いませんね?」

『・・・構わないよ。施設の被害はなるべく抑えてくれたまえ。これからも利用するからね』

許可も取ったし、これで心置きなく戦えますね。

「・・・ということですので、犯罪者は見殺しにしても大丈夫です。邪魔になるなら積極的に排除しても構いませんから」

「うん!」

「はあ・・・」

既に職員の方々の避難は終わったようですし、始めますか。

異様な怪人は前回の物と似ているが、より強くなっているらしい。

「ヒーローボム」

早速指示を出すが、怪人の動きに戦闘員はついていけないようだ。
次々と攻撃を受ける。

「黒澤さん、こっちに来ましたよ!」

怪人はエネルギー波を放とうとしている。

「グリーンはグリーンシールドを。オレンジは僕と射撃で動きを鈍らせます」

「オッケー!」

優子がシールドからエネルギー波を発生させて攻撃を受け、その間に怪人を撃つ。

「シールドのエネルギーが残り少なくなりました、どうしましょう」

そんなに慌てなくて良いですよ。

怪人の足は焼け爛れていて、既にまともに動けそうに無い。

「二回目が来ます!」

「回避を。」

三人とも危なげなく避ける。

さて、今度こそ上手く行くでしょう。

「ヒーローボム」

今回は動きが鈍っていたこともあり、戦闘員は容易く怪人にしがみつき、その身を爆散させた。

「Gu...」

「まだ生きてるよ、鬱陶しいね」

「そうですね。さっさと楽にしてあげましょうか」

ランチャーにバッテリー型戦闘員からエネルギーを急速チャージし、怪人目掛けて撃つ。
怪人はその身を焼き尽くされた。



「終わったね」

「ええ、後は事後報告をして・・・?」

何か背後から嫌な予感がしたので、咄嗟に優子を盾にして後ろを振り向く。

「え?」

数枚の羽がグリーンに命中した。

「ああぁああっ!」

「また敵?」

茜は思ったより冷静だ。
崩れ落ちるグリーンに目もくれない。

「まったく、早く休みたいのに・・・」

どうしようもない事だが、文句ぐらいは言わせて欲しい。

「梟は主に夜行性なんじゃなかったんですか?今はまだ昼間ですよ」

ノアフクロウが、彼等三人を見下ろしていた。



「・・・はっ!」

良二はチーム2が危ないと感じた。
以前に薫の危機を感じた、結局は無事だったが。

俺の勘って、そんなに良くないんだよな・・・。

実際は彼の危機察知能力は高めである。
しかし、それはあくまで一般レベルの話だ。

「今度も外れてると良いなあ・・・」


薫は、邪魔なので優子を投げ捨てた。
その際、グリーンシールドを拝借しておく。

「空中にいられるとやりにくいね」

「建物の中に隠れましょう」

飛んでくる羽をシールドとヒーローロッドで防ぎながら、施設内に逃げる。
当然優子は置き去りだ。

「優子さん置いて来て良かったの?」

「足手纏いですから。それに、ただ置いてきたわけではないんですよ」

会話を中断し、窓から外にランチャーを向ける。

「茜も一緒に」

「何するの?」

「外を見てれば分かりますよ」




逃がしたか・・・。

ノアフクロウは長の命令で異常な生物の調査を行っていた。
以前よりも強くなっていたようだが、人間にまた倒されたようだ。
戦闘終了後、彼の中にある欲求が生まれた。

今なら背を向けている。
仲間達の仇を!

命令のことも忘れて、羽を放つ。
しかし、黒い奴が味方を盾にして防いでしまった。
そのまま仲間を見捨てて逃げたのだ。

「う、うう・・・」

まだ生きているのか・・・。

緑の奴は全員分の攻撃を全てその身に受け、しばらく動けそうに無い。

自分がこの手で止めを刺してやる!
散々苦渋を舐めさせられた奴等だ、それぐらいしないと気が済まん!

攻撃準備をした瞬間、彼の身体を幾つもの衝撃が襲った。




「上手く餌にかかったみたいですね」

薫は優子を囮にしていた。
今回は上手くいったから良いようなものの、下手をしたら優子の命は無かった。
最初の羽攻撃をされていた可能性もあったのだ。
しかし、そんなことを気にする彼ではない。

グリーンには悪いですが、僕にとってはまず自分、次に自分の気に入っている人間の生存が優先でしてね。

不意打ちをされた時、茜ではなく優子を盾にしたのは半ば本能だった。
とは言え、あの場にいたのが自分と茜だけだったら躊躇わずに自分の安全だけを優先しただろうが。

「Aaaaaa!」

怪人は飛ぼうとしたが、茜によるヒーローガンの牽制で阻止する。

「逃がさないよ!」

「じゃあ、そろそろ始末しますか」

そのまま二人は、怪人が死ぬまで銃のトリガーを引き続けた。




やられたか・・・。
だが、分かったことも多い。
無駄死にではなかった。
それにしても、あの黒い奴は非道だな・・・。

彼の警戒レベルは、黒い奴がTOPになった。

次は、俺が出るか。



さて、グリーンの意識が朦朧としている内に仕上げをしておきますか。

チョーカーに信号を送る。

「何してるの?」

「こうするとね、暗示が効き易くなるんですよ。後で騒がれると面倒ですから」

「ふうん。・・・アタシのも?」

「そっちは普通のチョーカーですよ。第一、暗示なんてする必要有りませんから」

ある程度信用はしているのだ。

「そっか♪」

喜ぶ茜と目を覚まさない優子を見下ろしながら薫は考える。

信頼はしていませんけどね。
でも、茜だけじゃありませんよ。
それから二人とも、知っていますか?
チョーカーの別名は、『ドッグ・カラー』と言うそうですよ。

続く


閑話16


優子が目を覚ますと、戦闘は終わっていた。

う・・・、確か私は・・・?

異常な姿の怪人を倒したことまでは覚えているのだが、それから後のことははっきりと分からない。
気を失う前に何か有った気がするのだが。

「あ、起きたみたい」

「茜さん・・・」

緋崎茜が優子の顔を覗き込んでいた。

「大丈夫ですか?中々起きないものだから心配しましたよ」

続けて黒澤薫が話しかける。

「ええ。どうして私は気絶していたんですか?」

「・・・覚えてないの?」

「はい・・・」

何かもう少しで思い出せそうなのだが、靄がかかったように考えが上手く働かない。
その時に薫が口を開いた。

「あの後すぐに怪人がもう一体出ましてね。その怪人がいきなり不意打ちしてきたんです。僕とオレンジは直前で気がついて何とか避けることができたんですが、残念ながらグリーンにまで避けろという暇が有りませんでした。それで、貴女は直撃を受けてしまったんですよ。本当に覚えていないんですか?どこか痛い所は?」

優子の考えを遮るかのように次々と言葉を投げかけられる。

「そういえば、そんな気も・・・」

頭の中から靄が晴れるようにそういう情景が浮かぶ。
考えているうちに頭が痛くなってきたので会話に戻ることにした。

「迷惑をかけてしまったみたいですね・・・」

「気にすること無いよ。結局は二体目の怪人も倒せたんだから」

「そうですよ。全員生きているから結果としては及第点です」

優子は申し訳なく思って顔を伏せた。
無意識の内に首に触れると、チョーカーがしっかりと存在していた。




実験体一号では駄目だったか・・・。
そう簡単に排除できる人間ではなかったということだね。

光は施設の状況を思い出していた。

人的被害も施設の被害も思ったより小さかったし、やはり優秀ではあるか。
犯罪者も数人しか死んでいないしね。
まあ、駄目で元々だった実験だ。
黒澤君には倒されても、通常の戦闘力としては大いに役立ってくれるだろう。




良二が出動する前に戦闘は終わってしまったので、彼は薫に様子を聞いてみることにした。

『はい』

当然のように返事が返ってくる。

やっぱり、こういう勘は外れていた方が嬉しいよな。

「ブラックか。今日の戦闘はどうだった?」

『僕と茜は無傷ですが、グリーンが負傷しました。でも生きてますよ』

悪い予感はグリーンに関してだったのか・・・。

「そうか、お大事にって伝えておいてくれ。じゃあな」

『分かりました。』

通信が切れる。

ヒーローの充実した装備や戦闘員があっても、怪我をする時はするもんな。
俺も気をつけないと。
下手をすると死ぬからな・・・。

優子が負傷したことを聞いて、心配はしたが命に別状は無いようなので一安心した。




[8464] 第十七話 橙色の双剣
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/09/21 07:58
第十七話

良二は光に驚くべきことを説明された。

「え、俺って正式にはチーム1じゃないんですか?」

「言い忘れていたがね。元々チーム1だったのは清水君で、君はまだどちらでもないという扱いなのだよ」

俺はそんなこと聞いてないぞ、という思いを込めて薫の方に視線を移す。

「いや、僕も知りませんでしたよ」

「そうか・・・」

「まあ、大抵はチーム1として出撃してもらうことになるが、今回のようにチーム2の人数が少なくなった場合はそちらのチームとして戦ってもらうことになる。」

そういえば、グリーンは怪我してたもんな。

「わかりました」

遊撃メンバーって扱いか。



「グリーンが戻らない間に怪人が来たら、お前と組むことになるな」

「そうですね」

歩きながら薫と話す。

「茜の新装備もできたことですし、少しの間グリーンが欠けても影響は無いです」

「オレンジの装備が完成したのか?」

これで、ヒーロー全員に専用装備が用意されたことになる、ということだな。

「ええ。接近戦用の装備が」

「そうか。でもなんでオレンジに接近戦やらせるんだ?」

俺はブラックの方が強いと思うんだけど。

「役割分担が決まっていましてね。僕は主に射撃、グリーンは防御、茜は主に僕の護衛兼接近戦です」

「ちゃんと決めていたんだな」

そういえばチーム1って、イエローが接近戦、レッドが遠近両方、ピンクが射撃だったな。
あれ、そうなると俺っていらない子?

自分の役割がどう考えても他のメンバーと被ることに気がつき、良二は少しブルーになった。

「何やってるんですか?」

「いや、改めて自分の存在意義が揺らいでいるというか・・・。自分だけができることって無いなと思って」

「良いじゃないですか、別に誰が困るわけでもないし」

ま、そうだけどさ・・・。

「茜の武器の実験に付き合って貰えませんか?」

「良いけど、ピンクの時も俺だったよな」

「貴方が一番テストに丁度良い相手ですから」

身も蓋も無い言い方だな。
その通りだろうけど。



演習場にて、良二はヒーローロッドを構えて茜と相対する。
彼女は両手に剣を持っていた。

「二人とも、なるべく寸止めにして下さいね」

「はぁい」

「おう」

そして性能実験が始まった。

「じゃ、行くよ!」

茜は開始早々接近してくる。
刃の片方を受けるも、すぐにもう片方が迫ってくる。
その繰り返しだ。

中々厄介だな・・・。

一撃の威力自体は高くはなさそうだが、手数が多いから捌き切れない。

「くっ!」

「あはっ!」

まずい、このままだとやられそうだ!
実際に彼女の剣には本物の殺気がある。

「このっ!」

大きく距離を取るが、それはすぐに追撃された。

「そこぉっ!」

手に持った剣の片方を良二に放り投げ、怯んだ隙に接近されもう片方の刃が眼前に迫る。

「うわあっ!」

刃は止まっていた。

「一応、アタシの勝ちね♪」

言い訳はしないけど、ブルーランスを使いたかった・・・。


茜に負けた良二は、トレーニングルームでヒーローロッドの使い方を工夫しようとしていた。

ここの所ランスやポリスロングロッドばかり使っていたからな。
一番の基本武器を疎かにしていたかもしれない。

ヒーローロッドは汎用性が高く、ランスが扱いにくい場所でも扱える。
以前清水隆が蜘蛛のような怪人と戦っていた時も、上手くランスを使えず窮地に陥っていた。
薫の言葉を思い出す。

確かに『俺だけにできること』は無いけど、オールマイティに近距離、中距離、遠距離で戦えるようになれば、誰かが欠けた時の穴埋め位ならできるんじゃないか?

人はそれを器用貧乏と言うかもしれないが、自分の仲間達はそれぞれ優れている部分が有るのだ。

チーム1では接近戦ならイエロー、射撃ならピンク、主に格闘戦がメインだが一応遠距離戦もできるレッドがいる。
そこにいる時は、イエローとレッドの援護に集中すれば良い。
無理に張り合う必要は無いんだ。

『良いじゃないですか、別に誰が困るわけでもないし』

そうだな、俺の役割が被っていても誰も困らない。
寧ろ、フォローができるって喜ぶべきだ!

「頑張ってるみたいね」

「オレンジか・・・」

今はなんとなく顔を合わせたくなかった相手だな。
さっきのテストでもちょっと怖かったし・・・。

しかし、会話が続かないっていうのは辛いな。

「ええと、なんでここに?」

「ん、ツインブレードの扱い方が今一つだったから。実戦ではもっと敵を切り裂けるように練習しようと思って」

練習するのは良いけど、表現が怖いよ・・・。
話題を変えよう。

「さっきブラックが言ってたけど、チーム2って結構しっかり役割分担されてるんだよな。それってブラックの指示か?」

「うん。基本は殲滅戦」

あのランチャーは強力だもんな。

「グリーンが一時離れることになったけど、そこは大丈夫なのか?」

「防御?薫が射撃と一緒にするってさ」

あいつならできそうだが・・・。

「頭数が揃っていれば、薫なら影響無いのよね。アタシが絶対に必要ってわけじゃないし」

「そうなのか・・・」

あれ、だとすると・・・。

「戦闘中の指示もブラックが出してるんだよな?」

「それが?」

「ブラックが抜けたら、チーム2ってやばくないか?」

ブラックがいれば問題ないということは、いなくなったら物凄くまずいということだぞ。

「ん、・・・!?そうだね・・・」

「その可能性は考えてなかったのか・・・」

「いや、薫がやられる所が想像できなくて・・・」

同感だけどな。

「あいつなら仲間が全滅しても自分は無傷で生き残ってるさ」

「うん、そうだね!」

自分でも無茶苦茶な理屈だと思うが、それで良いのか!?

「じゃ、後は相互不干渉ってことで。それぞれの訓練をした方が良いだろ」




うん、チーム2って薫がいればアタシ達いなくても大丈夫なんだよね。
でもさ、アタシはいないよりマシでしょ?
纏わり付く虫けらはアタシが切り刻んであげるからさ。

茜は双剣を握り締めて振るう。

だから、薫もアタシを捨てないでね。
アタシは薫を裏切らないから。




「ウインドホーク、次にお前が出ると言うのは本当か?」

「はい、そうです」

自分の目で確かめたい事もあるしな。

「止めはしないが・・・」

「なら、ガイアビートル。貴方の部下を一緒につけて下さい」

俺だけでは万全とは言えない。

「私達の一族も連れて行ってくれるかしら?」

「アクアシャーク、それに長老・・・」

ありがたい、これでやりやすくなる!

「じゃが、戻ってくるのじゃぞ。今お主がいなくなれば、ウインド族はどうなるか知っておろう?」

その時はその時さ。

「代わりならいますよ・・・」





「は、今度は実験体を複数出撃させるのですか!?」

「うん、実験体一号と同型の物を幾つかね。それと、二号を出す」

次の選挙では赤田君の父親が落選しそうだからね、そろそろ退場してもらっても良い頃だ。
まだ副作用は出ていないようだが、少し位早まっても良いだろう?

「しかし、二号は素体の元になった人物の影響で、それに急速に成長させたことから余り戦闘能力が高くありません」

「構わないよ。どうせ消耗品だからね」

「・・・解りました。早速準備にかかります」

「宜しく頼むよ」

さて清水君、君の遺伝子には充分役に立って貰っているよ。
これでそれなりの結果が出たら、次は黒澤君の遺伝情報を使った人工怪人でも作ってみるか。
じっくりと時間をかけてね。
彼は君と違って優秀だから、きっととても役に立つ作品ができることだろう。




優子は病室で本を読んでいた。
やることが無いのだ。

しかし、誰も来ないというのも退屈ですね。
黒澤さん以外なら誰でもいいから、誰か来てくれないものでしょうか・・・。

彼女の願いは半分だけ叶えられた。
ノックの音が彼女の耳に入る。

「どうぞ」

ドアが開く。

「案外元気そうじゃないですか」

「黒澤さん・・・」

「一応、お見舞いに来ましたよ」

「一応が余計ですが、ありがとうございます」

まあ、まるっきり無視されるよりはましですけど。

「おや、それちゃんとしてくれているんですね」

薫の視線が優子の首元に向かう。

「チョーカーですか。せっかく貰った物ですし」

最近は、寧ろつけていないと落ち着かないんですよね。

「貴方がいない間はブルーがチーム2の穴埋めに入ってくれます」

「青山さんが?あの人で大丈夫でしょうか」

「僕や貴女みたいに、戦闘員を躊躇無く使い捨てることはまだできないみたいですが、それならそれでフォローしますよ」

私はもう、貴方にとっては同類なんですね・・・。

「じゃ、僕は行きますよ」

「私以外の女性のお見舞いに行く時は、せめて花ぐらい持って行った方が良いですよ」

別に欲しかったわけじゃないですが。

「ご忠告有難う御座います。でもね、グリーン」

「なんですか?」

「花なんて、いつか枯れるじゃないですか。無駄ですよ」

「風情が無いですね。茜さんに嫌われても知りませんよ」

「・・・他の人はどうか知りませんが、僕は生花より造花の方が好きなんです」

薫はそのまま病室を出て行った。

何か悪いことでも言ってしまったのでしょうか?

続く


閑話17


薫は病室を出て、歩いていた。
とりあえず優子の怪我は重くないようだったので、もう見舞いは良いかと思っているらしい。
自分で彼女を盾にしておいて、まったく罪悪感を感じていない彼の神経は相当太いようだ。

花なんて持っていっても、場所取るだけじゃないですか。
それに、ちょっと乱暴に扱うと駄目になりますし。
実用的な物が一番だってことが解らないんですかね。
別に花を持っていかなかった理由はそれだけじゃないですけど、グリーンに言う義理は無いですから。

次に良二のことを考える。

戦闘時は僕が射撃と防御、茜が接近戦、とすると、ブルーには何をやってもらいましょうか・・・。

自分と茜がいれば大抵は何とかなりそうだが、万が一と言うことも有るし、念のため彼にも役割を分担しておくつもりだ。

さしあたっては、囮でもやってもらいましょうか。
ブルーもなんだかんだで今まで生き残ってきたんですから、生存を優先すれば死にはしない戦闘技能はあるでしょうし。

良二に防御役をやってもらおうとも考えたが、まだ躊躇無く戦闘員を使い潰せる領域には至っていないようなので断念した。
自分の負担が増えはするが、大したことは無い。
良二の戦闘能力以外なら評価しているのだ。
彼が戦線離脱していたとき、チーム1の雰囲気が余り良くなかったことは覚えている。
まあ、元ブルー(仮)の清水隆があまりにもアレだったということもあるだろうが。
きいろ、春美、太陽達は改めて彼の存在感に気がついたらしい。
普段は目立たないが、いなくなると困る人物なのだ。
ヒーローが五人だった頃はチーム内で唯一まだまともと呼べる人間だったことから苦労もしていただろうが、薫以外の精神状態の向上に貢献していた。
太陽も、ブルーには勝っているという自負が有ったから、充分でなかったとは言え、ヒーローとして働けていた。

それだけに、今の状態は望ましくないんですけどね。
ブルーの調子が変だと、イエローとピンクも少しおかしくなりますから。

事実、現在きいろの様子が変だ。
春美も苛立っているが、これは茜と自分に対しての物も混ざっているだろう。

長官も、一体何を考えているんだか。
これ以上余計なことしないで下さいよ。
完璧にとは言えませんが、世界はそれなりに平和なんですから。

各地で戦争は散発的に起きてはいるが。

怪人も迷惑な存在ですね。
本拠地が見つかったら、いっその事大量破壊兵器でも撃ち込めばいいのに。
某国とか某国とかが、所有しているでしょう?
まあ、地球内だったら使えませんが。

彼は半分以上本気でそれを考えている。
怪人に負けるということは、世界が滅ぶ可能性があるからだ。
世界が滅べば自分も死ぬ。
薫は生物学上間違いなく人間なのだから、当然だ。
死にたくないから、先に殺る。

怪人を全部倒すまでには、こちら側にもそれなりに犠牲は出るでしょうね。

既に清水隆が多分死んでいる。
彼の場合はヒーロー側のせいだが。
それから、良二の教え子の一人も戦闘で死んでいる。

あれ、彼の時は異常な怪人のせいで死んだんでしたね。

そう考えると、ヒーロー側の犠牲は寧ろ味方側のせいと言える。

結局、人間が一番怖いってことでしょうね。
僕が言えたことではありませんが。




[8464] 第十八話 三つ巴
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/09/22 06:34
第十八話

「ブルー、ちょっと頼みがあるのだが・・・」

「どうした、レッド?」

珍しいな、レッドがこんな殊勝にしているなんて。

「携帯電話の番号を交換してもらいたい」

携帯?

「通信機があるじゃないか、わざわざ・・・。ま、良いか」

良二は携帯を取り出し、太陽と番号を交換した。

「おお、ありがたい!」

「いや、いいけどさ・・・。なんで今更?」

そこが疑問点だった。

「・・・お前達の番号を誰一人知らなかったことに気がついてな。リーダーとして、これはどうかと思っていたのだ」

・・・それは悲しいな。

自分が薫、きいろ、春美の番号を結構前から知っていたことは言わないでおこうと思った。

「最近怪人も強力になってきているからな。特に、異常な姿の奴だ」

現在はまだ二種類しか確認されていない。
最初の一体は佐藤を殺した奴だった。
もう一体はブラックが倒したらしいが、グリーンに怪我をさせた。
両方とも戦闘能力が高いみたいだったしな・・・。

「あの怪人か!前は不覚を取ってやられたが、今度あのような怪人が出たら自分が倒してやる!」

「・・・無理はするなよ。死んだら終わりだからな」




「実験体二号の準備ができたらしいね」

「はい。今度は飛行が可能となっています。その分直接戦闘能力は落ちますが」

「そこは、一号達が補ってくれるさ。」

清水君の遺伝子は、怪人との親和性が高いようだね。
元々の人格がああいうものだったからかな?

「いつ出撃させますか?」

「次に怪人が来た時で良いだろう。怪人相手の性能実験も充分にしておきたい」

「解りました」



良二は薫に、太陽が携帯番号を聞きたがっていたことを話した。

「そういえば教えていませんでしたね。まあ良いじゃないですか、そんな義理僕達には無い筈ですから」

お前な・・・。

「お前、やっぱりレッドのこと嫌いだろ?」

「嫌いじゃありませんよ。ただ、プライベートの時間まで接したい相手とは思わないだけです」

それ、既に嫌いってレベルだぞ。

「嫌いな人間なんていませんよ。レッドの場合どうでも良いだけですってば」

「・・・顔に出てたか?」

「割とブルーは分かりやすいですね」

そういうお前は分からないよな。

その時、怪人出現の知らせがあった。

「最近多いですよね。ゆっくり休ませて欲しいですよ」

「いいから行くぞ!」


チーム2は、怪人二体が暴れている場所に着いた。
まだ怪人対策課は活動していないようで、急いで薫が連絡を取る。

「石田警部ですか?こちらには既にヒーロー三人が到着しています。もう一方の被害を食い止めることに専念してください」

『了解した!』

通信を切り、良二と茜の方へ振り向く。

「味方の戦闘員はまだいませんし、少し急ぎすぎたみたいですね。オレンジは僕の射撃時の護衛と、接近してくる相手の迎撃を。僕は防御と後方援護を担当します」

「オッケー!」

やっぱり俺、余ってる?

「なあ、俺はどうすればいい?状況次第だとは思うが、囮にでもなろうか?」

囮ぐらいなら、できるよな。

「・・・ブルーはブルーなりに、自分の役割を考えていたんですね。じゃあ、お願いします」

そして戦闘が始まった。
TVのヒーローなら名乗りを挙げてから正面から勇敢に立ち向かうことだろう。
しかし、現実はそういうわけにはいかないのだ。
まず、三人全員が火器で不意打ちをする。
これでダメージが与えられると良いのだが、生憎団子虫のような怪人は身体を丸めて攻撃を防ぎ、鷹のような怪人は素早く回避する。

「失敗しましたね。遠距離戦はあまり有効ではないようですから、オレンジは接近戦に切り替えて下さい。僕とブルーが援護します」

「でも、それだと薫は?」

「僕は一人で大丈夫ですから」

「・・・分かった」

茜は団子虫に素早く接近し、双剣で斬りつける。
怪人は防戦一方で、身体を丸め続けている。

「もう一体をオレンジに近づけさせないようにします。」

「ああ!」

薫はヒーローガンを連射して鷹を牽制する。
鷹は薫に接近して、格闘戦に持ち込もうとするが、その前に良二が立つ。

「やらせるか!」

右手にヒーローガン、左手にヒーローロッドを構えて立ち向かう。
接近されればロッド、少し距離を取られればヒーローガンで茜と薫に近づけさせない。

「そろそろ頃合ですね。虫の方を殺ります」

団子虫がエネルギー波を出して茜を攻撃するが、薫がシールドのエネルギーを放出して防ぐ。
その隙を逃さずに、茜が双剣を敵の柔らかい部分に突き刺す。

「硬いのは、外だけみたいねっ!」

剣をクロスさせるように、内部に向かって切り裂く。
切り開いた傷口にヒーローガンを撃ち込む。

「Gyaaaa!」

茜が離れ、薫がランチャーを連射して団子虫は倒れた。

「良し、後はこいつだけ・・・!?」

次の瞬間、鷹の怪人が恐ろしい速度で薫の方に接近する。

そんな!?今までのは本気じゃ無かったって言うのか?
この距離だとオレンジは援護できない!

「止まれ!」

ヒーローガンも効果が余り無いが、それでも矛先が自分に変わるようにと連射する。
しかし、怪人は止まらない。

俺は囮も満足に出来ないのか!?

「ブラックっ!」

「薫っ!!」

怪人の鉤爪は、薫が盾にしたランチャーを引き裂き、彼を吹き飛ばした。




もう一方の現場では、既に怪人対策課が戦闘をしていた。
敵戦闘員や怪人の攻撃に対し、遮蔽物を利用するなどしているようだ。

「警察と協力して早めに倒すわよ。七人いればそう簡単に負けはしないわ」

「うん!」

「自分に任せろ!」

大まかな方針を決めつつライフルの連射で戦闘員を一掃する。

「助かりました!」

鈴木の礼に軽く手を振って答える。

前衛はレッドとイエロー、それに警察の格闘戦担当に任せておけば良いわね。
私はこのまま・・・!?

異常な怪人が、複数体出現した。
そのままの勢いで、一体だけ違った姿をした奴が空中から先にいた怪人を襲撃する。
抵抗を試みるが、残り二体の攻撃により泥鰌のような怪人は倒されてしまう。

「ねえピンク、あれってこの前の・・・」

「さあね。ちょっと姿は変わってるみたいだけど・・・、でも」

「でも?」

「どっちにしろ、倒さなければいけない相手って事よ!」

この世界が維持されるためにはね!



「ブラックーッ!!」

攻撃を受けて吹き飛んだ薫のヒーロースーツは大きく裂けて、所々赤く染まっている。
反射的にランチャーを盾にしても、それを破壊し貫通するほどの威力だ。
まともに喰らっていたら自分ならひとたまりもないと思う。

「オレンジ、何を!?」

茜を見ると、既に駆け出している。

あの怪人と戦うつもりか!?

「はぁあああぁっ!!」

次々と攻撃するが、当たらない。

「今の内に薫を!こいつはアタシが相手するから!」

「あ、ああ!」

急いで薫を抱えて離れる。


「お、おいブラック!返事をしろよ!」

声を掛けるが、全く反応が無い。
まるで死んだかのように。

そんなこと考えたら駄目だ!

「ブラック!死ぬな!」

色々と性格に問題がある奴だが、決して嫌いではない。
何回かフォローもされているし、腹黒いだけの人間ではないことも知っている。
悪い奴ではないのだ、多分。
しかし、薫は動かなかった。

「そうだ、オレンジを助けなきゃ!」

どっちにしろ俺一人で逃げ切れるとは思えない。
だったらいっその事、少しでも生き残れる可能性がある方に賭ける!

茜の方に向かう前に、返事が戻ってこないことを承知で薫に言葉を掛ける。

「仇は取る」

普通なら、勝手に殺さないで下さいよ、とでも言われるだろうがやはり答えはなかった。


「きゃああっ!」

双剣の片方が弾き飛ばされ、茜にも攻撃が当たる。

「次は俺が相手だ!」

ブルーランスを構えて突進するが、空中に逃げられては当たらない。
それどころか相手の攻撃を防ぐので精一杯だ。

くっ、こいつ今までの怪人の中で一番強い!
戦闘員はまだか!?

良二は既に『ヒーローボム』を使うつもりだった。
前は心のどこかにブレーキがかかっていたのか使えなかったが、もうそんなものは無い。
この怪人を倒したいということしか考えていなかった。

「ブルー、薫は!?」

茜はやはり心配なのだろう。

「・・・戦闘員が来たぞ。今からヒーローバリアとボムを使う。手伝ってくれ」

問いには答えず、これからの行動を話す。
ブラックランチャーが破壊された今では、大火力の武器はもう無い。
ヒーローボムを上手く使うしかなかった。

「ヒーローバインド!」

戦闘員は敵に組み付こうとするが、その度に迎撃される。
しかし、少し動きが鈍るだけで良いのだ。
ヒーローガンを連射して当てる。
ダメージ自体は大きくないが、徐々に体力を削ればそれでいい。

「ヒーローバリア!」

怪人の攻撃はバリアで受ける。
まともに喰らう戦闘員は即死するが、その間に茜が残った剣とヒーローロッドで攻撃し、また体力を削る。

「よし、頃合だ!・・・ヒーローボム!」

ついに自分の意思でヒーローボムを使った事になる。
言い逃れは出来ないな。

この世界では罪になる行為ではないが、自分の心にはしこりが残り続けるだろう。

それでも、今は・・・!

戦闘員が動きが鈍くなった怪人に組み付き、爆発が巻き起こる。

「やったか!?」

爆炎の中から、怪人が現れた。

「そんな、ほとんど効いていないなんて!」

おそらく爆発の瞬間に戦闘員を引き離したのだろう、あまり堪えた様子は無い。

「薫がいないと、やっぱり駄目だったの?」

茜は自問自答しているようだ。
チーム2の戦闘能力の大半は薫が担っていたから無理も無い。

「くそっ!」

怪人はこちらに近づいてくる。

俺は、ここで死ぬのか・・・。

諦めかけながら、それでも怪人を睨み付ける。
その時、怪人の背後から何かが飛んでくるのが見えた。

「!?」

怪人は感づいたのか、避けようとするがそれに脇腹を抉られる。
茜の弾かれた双剣の片方だった。

「今、俺とオレンジがここにいる。ということは・・・!?」

「薫、無事だったの!」

返事は無いが、黒いヒーロースーツに身を包んだ薫がそこにいた。




ヒーローと協力して二体の怪人を倒そうとしたところまでは良かったが、その後おかしな事になった。
恐らく勇太を殺した怪人と同系統であろう怪人が出現し、三つ巴の戦いになってしまい皆混乱している。

「田中、山田、中村!ヒーローの皆さんの指揮下に入るぞ!どちらにせよ倒さなければいけないんだ!」

ここは決め手に欠ける自分達は援護に専念し、ヒーロー達に止めを刺して貰おう!

伊達に怪人対策課実戦チームのまとめ役に選ばれたわけではない。
自分達の力量をしっかり把握し、ヒーローが現場に着くまで被害を抑えることに専念する。
教官だった良二が抜けてからもその方針は守ってきたのだ。

「悪いけど、私達と共同作戦を取って貰えないかしら?ここは頭数が必要なの」

春美の提案は願っても無いことだったので、すぐに承諾する。
結果、太陽と智、きいろと自分、春美、健、耕作がそれぞれ組み、連携することになった。

敵は合計四体だ、それに先にいた怪人は後から来た奴等に狙われてる。
自分とイエローさんは、後から来た奴等を相手した方が良いのか?

「ぬうっ!こいつ等、何故自分を狙う!?」

気がつくと、太陽が後から来た怪人達に集中攻撃されていた。
智も援護しようとしているが、あまり効き目が無いようだ。

「私のチーム三人は、残ったカモノハシみたいなのをなるべく早く倒すわ。・・・それでいいわね?」

今にも異常な怪人達と戦おうとしていた健に、春美が釘を刺す。

「はい・・・」

「イエロー達はレッドを孤立させないように」

それだけ言うと、三人は先にいた怪人を倒しに向かった。





今回の戦いでは、確実に黒い奴を仕留めることが最優先だった。
緑の奴の代わりに青い奴が入っていたが、大した問題ではない。
黒い奴を孤立させ、その隙に全力で一撃を叩き込む。
ノアダンゴムシには結果的に囮になってもらったが、それであいつを殺せるなら安い物だ。

確実に仕留めた筈なのだが・・・。

彼の野生の勘が、背後から迫る攻撃の直撃だけは防いだが手傷を負ってしまった。

やはり、こいつは危険だ!
今この場で!?

彼が黒い奴を始末する決意を固めると、異常な姿の怪人が2体出現した。

「おい、お前達!俺の言葉が分かるか!?」

コミュニケーションを試みるが、聞いているのかいないのか、攻撃される。
こいつ等との対話は無理か・・・。



良二と茜は薫に駆け寄った。
異常な姿の怪人が、何故か鷹の怪人に攻撃を仕掛けている隙を見計らい距離を取る。

「ブラック!お前生きてたんだな!」

「うん、良かった!」

薫は血が滴る右手を上げて、良二達を制した。

「大声出さないで下さいよ、頭に響く・・・」

「あ、ごめんね・・・」

良二は彼を支える。

「大丈夫か?」

「ええ・・・。それより、撤退しましょう。今の戦力では厳しいですからね・・・」

確かにそうだ。
ヒーローボムも効かなかったし、薫の負傷も気がかりだ。

「分かった。それに、今なら逃げられそうだしね」

茜の視線の先には、争っている怪人達の姿があった。
周囲に民間人もいないし、被害は無いだろう。

「よし、行くぞ。また戦うとしても、ピンク達の増援を待った方が良い。ブラックは無理だろうしな」





こいつ等、手強い!
修行して強くなった自分でも苦戦するとは!

太陽は剣を構えて空中からの相手に立ち向かうが、如何せん当たりにくい。
それなら、と思って剣を銃に変形させるが、今度は残りの二体が接近戦を仕掛けてくるのだ。

自分は、ヒーローなのだ!
だからこんな事で負けるわけには・・・!?

突然、太陽を眩暈が襲った。
乱戦の最中に致命的な隙だ、怪人はそれを見逃さない。

「Syaaa!」

「くっ!」

自分と組んでいた智もヒーローロッドで迎え撃つが、均衡が崩れ太陽は攻撃を喰らう。

「ぐあぁっ!」

追撃は援護に来たきいろと二郎により食い止められたが、太陽にはダメージが残っている。

「レッドさん、大丈夫ですか!?」

智が心配して声を掛けるが、それに表向きは平然とした様子で答える。

「大丈夫だ、自分はヒーローだからな」


「ここまで来れば、とりあえずは大丈夫だろう・・・」

改めて薫の様子を窺う。
今は茜が肩を貸しているが、やはり辛いのだろうか。
すると視線に気がついたのか、こちらを振り向く。

「どうしました・・・?」

「あ、いや・・・。ただ、お前でも怪我するんだなあって」

正直意外だった。

「人を何だと思っていたんですか・・・。僕はごく普通の人間ですよ。血だって赤いですし・・・」

「アタシも驚いたけどね・・・」

落ち着くと、色々なことが頭に浮かんだ。
さっきは薫がやられたと思って、敵を倒すことしか考えられなくなったが、今ではヒーローボムを使ったことが恐ろしくなってきた。

まだ慣れてないなんてな・・・。
でも、後悔はしていない。
ブラックだって生きていたんだ、結果的にはあいつが起きるまでの時間を稼ぐ事だって出来たじゃないか・・・。

怪人を倒せなかったとは言え、戦闘員はある程度の役割を果たした。

「あの変な怪人、もしかしたらチーム1の方にも出てたりして」

茜が言ったことはありえない話では無かった。
そちらの人数は多いから大丈夫だとは思うが。

皆、無事でいてくれよ。




以前出現した奴等とのコミュニケーションは失敗に終わった。

人間とも対話は不可能だったが、こいつ等ともか!

ここに来た目的の一つは不可能ということが分かった。
襲ってくるというのなら、撃退するまでだ。
それに、黒い奴から受けた傷が痛む。

一気に仕留める!

向かってきた一体目を鉤爪で引き裂き、もう一体の前に放り投げる。
無事な方は、傷ついた仲間を薙ぎ払って前進する。
そこには全く配慮が存在しない。

こいつらも、人間と同じか・・・。
いや、黒い奴を倒すことしか考えていなかった俺も同類だな。

皮肉な結果に自嘲し、全力の一撃を叩き込む。
敵二体は永遠に沈黙した。

これ以上の戦闘は厳しいな。
別方面に向かった仲間にも撤退指令を・・・?
俺以外は全滅したのか・・・。

ウインドホークは彼の本拠地に帰るため、残りの力を振り絞った。

覚えていろ、黒い奴。
この傷の痛みは忘れん!




健と耕作が敵を翻弄している間に、春美のライフルがカモノハシ怪人の心臓部分を撃ち抜く。
的が大きいから当てやすい。

これでこっちは片付いたわね。
数的にも有利になったし、レッド達はどうなったかしら?

きいろと二郎が奮闘してはいるが、空中からの攻撃と地上からの妨害で中々上手くいかないようだ。

「二人とも。レッド達の援護に回ってもらえるかしら」

「はい!」×2

私には、私の役割が有る。




この怪人達は、一体の力が強い!
それに、レッドの体調も変みたいだし・・・。

実質、今はきいろと二郎の二人で三体の怪人と戦っている状況なのだ。
太陽は原因不明の不調、智は太陽を庇うことで精一杯だ。

「・・・このっ!」

アックスを振るい、地上の二体を引き離す。
しかし空中からの襲撃で調子が狂う。

「イエローさん!」

二郎もリボルバーで援護するが、弾数制限のせいで肝心なところで援護が途切れる。

「これ使って!」

きいろは自分のヒーローガンを彼に渡す。
これなら援護が楽になるだろう。

「ありがとうございます!」

しばらくそうしていると、健、耕作が援護に駆けつけて来てくれた。
これで四対三だ、しかし春美の姿が見当たらない。

「あの、ピンクは?」

「俺達に指示を出した後、どこかに・・・」

ピンクは逃げないよね、だったら、何か良い手を思いついたのかな?
ここは信じるしかないよね。

「数ならこっちが多いから、諦めないで」

「はい!」×3

「自分もいるぞ・・・!」

太陽がきいろに発言する。

「大丈夫?」

「・・・自分は、リーダーだからな」

「ならいいけど・・・」

どうも不安が残るが、今は戦ってもらうしかない。

そのまま凌ぎ続けるが、やはり今の太陽には厳しいのか、危なっかしい。

ピンク、このままじゃ・・・。

きいろが不安に感じた時、空中にいた敵が翼を撃ち抜かれて墜落した。
銃撃が飛んできた方向を見ると、高い建物の上から春美が怪人を狙撃している。
そのまま地上にいた怪人も撃たれる。

「イエローさん、チャンスですよ!」

「うん!」

墜落した怪人を、動けない内にアックスで叩き潰す。
弱った他の二体の内一体は健が、もう一体は春美が頭部を撃ち抜いて止めを刺した。

怪人を全部倒した後、春美と合流する。

「とりあえず、もう大丈夫だね。ブルー達も終わったかな?」

「そうね。ブラック達の状況を本部に聞いてみるわ」

本部に連絡を取る。

「はい、向こうも怪人の反応は無くなった?そうですか。・・・え、ブラックが負傷!?」

あのブラックが!?

「それで、・・・分かりました。すぐ戻ります。こちらもレッドの様子がおかしいので」

通信を切る。

「ブラックどうしたの!?」

「戦闘で怪我したそうよ。あの男がね・・・」

「・・・心配?」

「・・・別に」

そういった春美だが、心配そうな様子ではあった。




赤田君は始末できなかったが、まさか黒澤君が負傷するとはね。
これはチャンスだ。

光は部下に指示を出す。

「短期間でも良い。彼をなんとか入院させるように手配してくれたまえ」

上手くやれば、彼を排除でなくこちらの忠実な手駒に作り変えられるかもしれない。

続く




閑話18



怪人からの攻撃はランチャーを盾にして衝撃を軽減したが、それでもダメージを負った。
とは言え、気絶していたわけではなく意識ははっきりしていたが。
少しでも体力を回復させるために、あえて良二に話しかけなかった。
すぐに戦線復帰はできそうに無かったし、良二が何かをする気だと分かったので黙って見てみようと思ったのだ。

ブルー、一体何をする気なんでしょうね?
僕もいざとなったら不意打ちして、三人で逃げる隙ぐらいなら作るつもりですが。

一緒にいたのが茜と良二だったからある程度は援護する気でいたが、そうでなかったら怪人が他の者と戦っている間に逃げていただろう。
そうしている内に、良二がヒーローバインド、ヒーローバリア、ヒーローボムを使い始めたのだ。

グリーンは自分が危険になってから使いましたが、ブルーもとうとう自分の意思でボムを使ってしまいましたか。

薫が最初から声を掛けていれば、良二も使わなかったかもしれない。
しかし、薫にとってはあくまで他人事だ。
心の整理をどうするかは本人次第。

そろそろ僕の出番ですかね。

転がっていた茜の双剣の片方を掴み、怪人に向かって投擲する。
狙いは胴体。
致命傷にならずとも、隙を作ればそれで良い。
首尾よく命中したが、異常な怪人達が現れ先にいた怪人を攻撃し始めた。

今なら逃げられそうですね。

二人に撤退を提案し、受け入れられたので速やかに現場から離れる。
茜が本部に連絡し、医療施設に辿り着いた。

「じゃあ、俺は少し歩いてくるから。オレンジ、ブラックのこと頼むな」

「オッケー」

要らない気でも使ったのか、良二は病室から出て行く。

「入院するの?」

「短期間らしいですけどね。大した怪我では無いのに」

彼の観点からすれば、四肢が無くなったわけでも、骨に異常があるわけでもない怪我なら大したことは無いらしい。
実際に動けないほどでは無いのだ。

「ふうん。でも、一応検査位は受けといた方が良いよ。後で大事になっても困るし」

茜は心配してくれているんでしょうが、僕としては医療機関も信頼できないんですよ。
長官は、この機会に余計な事をしてくるでしょうし。

薫としては余り長引かせたくない。

「茜。ちょっと頼みが有るんですが」

「ん、良いよ」

普通は頼みごとの内容を聞いてから判断するものです。
そんなんじゃ僕みたいな人間に良い様にされますよ。
まあ、僕以外に利用させる気は今の所有りませんけどね。



良二は頃合を見計らって薫の病室に戻った。
自分では空気が読めると自認している。

「分かった。じゃ、またね」

丁度良いタイミングで茜が出て行く。

「ブラック、体調どうだ?」

入れ替わるように中に入る。

「可もなく不可もなくです。そんなに大した怪我じゃないですよ」

血が出てたしな・・・。
こいつ、本当に大丈夫なんだろうか。

「まあ、調子が悪そうじゃなくて良かったよ」

俺がヒーローボムを使っていなかったら、ブラックが俺達を助けることも出来なかったし、あの時に出来る最善の方法だったんだよな・・・。

実は、薫は最初からその時の様子を窺っていたのだが、気がつかないほうが幸せだと言える。
そのことを良二が知れば、自分のしたことは無駄だったと言うことになるからだ。

「グリーンもそろそろ復帰するそうですから、僕がいない時に怪人が来たら、ブルーがチーム2を指揮して下さい」

「俺が!?」

いや、そんな急に!

「貴方は警察出向時も指揮官役をしていたし、できなくは無いと思いますよ」

「分かった・・・。お前が帰ってくるまでやってみるよ」

ブラックに任されたんだ、期待には答えたい。

「俺も行くよ。またな」




伊達に貴方を選んだわけじゃありませんよ。
人間は慣れる動物ですからね。
グリーンよりも効果的な場面でヒーローボム等を使ってくれるでしょう。

純粋に良二の能力に期待したわけではない。
建前上のことである。

段々と、『ヒーロー』らしくなって来てますね。
『ブルーらしさ』は無くなって来ていますが。



[8464] 第十九話 求められる物
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/07/21 14:48
第十九話

「増員ですか?」

健は浩介、そして二郎と話し合っていた。

「装備の量産型も出来上がってきた頃だという事で、初期メンバーにはそれぞれ小隊長を、そして鈴木君には現場での総隊長をやってもらうことになる」

二郎も緊張した様子だ。
それはそうだ、隊員を率いるということは、現場でのそいつの命を預かることなのだから。

鈴木は今まで暫定的にとは言え俺達をまとめていたけど、俺は経験が無いからな。
余計に緊張するぜ・・・。

「一つのチームは小隊長を含め三人編成だ。四小隊、つまり計銃に人にメンバーは増える」

「自分が総隊長ですか・・・。分かりました、教官に恥ずかしくないように全力で職務を遂行します!」

教官もヒーローに復帰して活躍しているみたいだしな。
俺も小隊長を精一杯やるしかない!

「さて、増員に伴って新装備が支給されることになった」

「新装備?」

「一緒に来てくれ」

静かに立ち上がって移動し始めた浩介の後を、二郎と共に追いかける。


「これは・・・」

「ポリスシールドと言って、我々の防御用装備だ」

無骨だが、頑丈そうだ。

「でも、ちょっと大きくありませんか?」

二郎が疑問点を口にする。

「主に新人や後衛の防御や、民間人を避難する時のために作られた物だからね。・・・佐藤君のことも有って、メンバーの安全確保の為に急遽採用されたんだ」

佐藤・・・。
そうだな、あいつはニ回目の出撃で・・・。
教官も気にしていたっけな・・・。

既に帰らぬ人になった勇太を思い出すと、負い目を感じる。

俺を逃がすために、あいつはあそこに残った。
あの時、俺はそれに甘えて逃げ出したんだ。

「この装備は、民間人はもちろんだが、私達を含めて命を守るための物だ」

「命を守る・・・」

「その内に改良型が製作されて使い勝手が良くなると思うが、私達に求められる役割はあくまでも防衛。そのことを忘れずに、慎重に行動してくれ」

俺も、今度はチームのメンバーを死なせない!




「え?私が復帰したと思ったら、今度は黒澤さんが入院?」

戦線復帰した優子に状況を説明する。

「で、ブラックがいない間は、俺がチーム2の暫定リーダーという事になった。その、よろしくな」

はあ、と気の無い返事を返される。

「・・・そりゃ、ブラックに比べて頼りないのは解り切っているけどさ」

自分の能力は、良二自身が一番良く知っている。

「気を悪くさせてしまって申し訳ありません・・・。不安なのは確かですが」

最後の方は聞こえなかったが、いいよ、と返答する。


「防御は元の役割通り、グリーンに頼みたいけど良いか?」

「はい」

接近戦はオレンジだよな・・・。
とすると、ブラックがやってた射撃役がいなくなる。

「どうしたんです?」

「いや、何でもない。やれるだけやってみるさ・・・」




「それでは、黒澤君は大人しくしていると?」

「そ、まるで借りてきた猫みたいに」

「御苦労。しばらくは通常と同じくヒーロー業務をしていてくれたまえ。緑川君も復帰する」

「分かりました。で、あっちの人は?」

「黒澤君の担当医だよ」

「へぇ・・・。それじゃ、失礼しまぁす」

茜からの定期報告が終わった光は、改めて医師と対峙する。

「例の件は頼むよ」

「・・・殺さなくてもよろしいので?」

「有能ではあるからね・・・。本当に扱いに困るよ」

「分かりました。では、私も失礼します」

黒澤君もこれで扱いやすくなるだろう。
頼んだよ。




深夜の病室に、看護師が二人、医師が一人入ってくる。
薫は身動き一つしない。
一人は外の動きを警戒し、もう一人と医師は薫に薬を投与しようとした。
その時、急に薫が起き上がった。

「どうしたんです、こんな夜中に?まだ診察時間ではないと思いますが」

早速来ましたか。
予想はしていましたが、茜にも長官側の動きを聞いておいて良かった。

「い、いや、これは・・・」

有無を言わさずに医師の手の中の注射器を奪い取る。

「これはなんですか?ただの薬ではないですよね」

看護師をこちらに引き寄せる。
抵抗されるが、多少怪我をしているとは言え女性相手なら負ける筈が無い。

「よ、よせ!」

「ただの薬なら、健常な人に投与してもちょっと影響が出るぐらいで済みますよね」

押さえつけている女の目を覗き込む。

「大丈夫ですよ、死にはしません。貴女達が疚しいことをしていなければの話ですが」

笑いながら、針を首筋に宛がう。
すると看護師は恐怖で顔を引き攣らせて叫びだした。

「嫌!止めて!」

「暴れると痛いですよ。」

「待て!君の察した通りだ!」

見かねたであろう医師が止めに入る。

だったら最初からこんなことしなければ良いのに。
勝手な人達ですね。

「へえ、そうですか。で、薬の効果は?嘘はつかないほうが良いですよ」

そう言って説得を受け入れた振りをするも、看護師の首筋から、針を遠ざけない。
気分次第で何時でも刺せる状態にしておく。

「毒だ・・・。長官は別な薬を指示したが、私が差し替えた」

「どうしてです?」

薫にとっては元々の薬の効果の方が気になるが、今は続きを促す。

「君の存在は危険だからだ・・・。このまま放っておいては後々の世の害になる」

何言ってるんですか?
僕は特に何もする気は有りませんよ。

「・・・それで、僕を殺そうとしたと?」

「・・・」

沈黙は肯定と見なしますよ。

「そうですか。酷いなあ、世界平和の為に戦ってきたのに」

ややオーバーリアクション気味に嘆くと、反論が返される。

「君は、ヒーローに求められる役割、すなわち敵の撃退と、政府に対する不満のスケープゴートをこなしている」

スケープゴートか・・・。
怪人への有効な対策が余り無い政府は、僕達を戦わせているということで国民の不満を緩和しているんですしね。
まあ、所謂必要悪です。
それについてはしょうがないと思いますよ。

「だが、やりすぎたんだ」

我侭ですね。
働きが悪いと無能、やりすぎると邪魔か。

「貴女もそう思いますか?」

押さえつけている看護師に尋ねる。
他人の意見を聞いてみたくなったのだ。

「・・・」

「ここに来た者は、長官の理想に賛同している」

彼女は答えず、代わりに医師が答える。

「その理想と言う物がどういうものか分かりませんが、真面目に働いている公務員をそんなことで殺さないで下さいよ」

そう言って、注射器を看護師の首筋に刺した。
そのまま薬を注入する。
看護師は声も出さずに昏倒した。

「何て事を!君はそれでも人間か!?」

「人を殺そうとする医師は良いんですか?僕は敵を排除しようとしただけです」

好奇心でやりましたが、本当に毒だったんですね。
死んでもいいかな、位は考えましたが。

「解毒剤、持っているんだったら早くした方が良いですよ」

「くっ・・・!」

医師の処置により一命は取り留めたようだが、後遺症は残るだろう。
女性相手でも全く容赦のない行動を見て、医師は改めて戦慄した。

「貴方、斉藤先生ですよね。ブルーやグリーンの見舞いの時に顔を見かけたことが有ります」

「・・・それがどうしたと言うんだ」

「自分達の身体を任せるには、信用できるかどうか分かりませんでしたからね。色々調べさせて貰いました」

「・・・」

「娘さん、今中学生位ですか?まだまだこれから輝かしい未来が待っているんでしょうね」

「まさか、娘に何を!?」

へえ、自分の家族は大事ですか。
娘さんに貴女のお父さんは殺人をするところでした、と教えてあげたらどんな顔するんでしょう。

「僕個人と致しましては、これからも先生とは良好な人間関係を築いていきたいと思っているんですよ」

「分かった・・・。今日のことについてはこちらで処理しておく。だから、家族には・・・」

「貴方次第ですよ」



薫が入院しているので、春美、きいろ、太陽、優子は見舞いに行くことにした。
春美個人としては、あの男なら大丈夫だろうとは思っているが。

「黒澤さんは生花より造花の方が好きらしいんですが、どうしてなんでしょうね?」

「さあね・・・。ブラックの考えてることなんてほとんど分からないわ」

色々考えたが、結局何も持って行かないことにした。
それよりも、快気祝いとして一緒に飲みに行こうかと考えたのだ。

無駄な物は持っていかないほうが良いわね・・・。

そして、病室に着いた。
ノックをしてから病室の中に向かって話しかける。

「ブラック、入るわよ」

「どうぞ」

いつも通りの声が聞こえる。
許可を取ったので遠慮無く入ることにする。

「おや、ピンクじゃないですか」

「相変わらずね。イエロー、グリーン、レッドもいるわよ」

そのまま進み、残りの三人を中に入れる。

「大丈夫だった?」

「ええ」

きいろとは普通の会話を。

「貴方も大概頑丈ですね・・・」

「鍛えてますから」

優子には某鬼ラ○ダーの台詞を。

「おお、元気そうだな!自分もこの間の戦いでは不覚を取ったが、本当に今度こそは活躍するぞ!」

「はあ」

太陽には当たり障りの無い返答をした。

「レッド、最近体調はどうですか?」

「うん?たまに眩暈がするが、それ以外は至って健康だ!斉藤先生の診察でも異常は無いと言われたぞ!」

「斉藤先生ですか。・・・いえ、元気ならいいんですよ」

その後しばらくは全員で雑談をし、時間が過ぎた。

「ちょっと、ブラックと『二人で』話したいことが有るの。悪いけど、先に帰っていてくれないかしら?」

最近の事で色々聞きたいことや言いたい事が有る。

「・・・分かった。あたしの用は後でいいかな」

「気をつけて下さいね・・・」

「もうこんな時間か。では、さらばだ!」

口々に挨拶を言って帰っていく。

グリーン、何に気をつければ良いのかしら。

「さて、大体想像はついていますがどういった御用件で?」

「まず、レッドの事」

投薬の副作用だろう。

「そろそろ、弊害が出始める頃なんじゃない?」

「でしょうね」

投薬された後のレッドは、ヒーローとしてそれなりの働きを見せていた。

「人気投票でも最下位脱出したしね」

代わりにブルーが最下位になってしまったけど、あれは清水隆の分も入っていたし、しょうがないか。

「本人は何が起きたのか知らないで、喜んでいましたけどね」

私には関係ないけど、仕方ないわね。

「後どの位持つのかしら」

「さあ。まだそんなに症状は重くないようですが」

元々弱かった奴を無理やり強化したら、それは無理が出るでしょうしね。

「・・・レッドの事はもういいわ。次はブルーとイエローの事なんだけど」

「しっくり行ってないんでしょう?それは知っていますよ」

分かっているのね。

「なら、何故何もしないの?私はなるべく干渉したくないんだけど」

「貴女と同じですよ。それと、ブルーはどんどん『ヒーロー』らしくなっています」

そう・・・、彼には似合わないけどね。

「『ヒーロー』ね・・・」

純粋な正義感で戦っている人間なんて一人もいないだろう。
強いて言えば、良二が一番普通の視点で戦っている。
自分達は、そういう人間なのだ。

「どうしました?」

目の前の男は、その中でも群を抜いて違う所まで突き抜けているが。

「何でもないわ。貴方が復帰したら快気祝いにどこか行こうと思っていた所よ」

「そうですか。じゃあ、その時は『二人で』行きましょうか。」

二人か、オレンジはいないのね。

「・・・悪くないわね。じゃあ、その時に」

今の内に計画位は考えておくわ。



茜には、後で了解を取っておきますか。
ピンクに、もう少し僕に好印象を持たせておく事はマイナスにはならないでしょう。
その時は好感度を上げるだけで済ませておきますか。
深入りしすぎると面倒ですし。

次にきいろと良二の事を考える。

僕が復帰して、彼がチーム1に戻るまでは手の出しようが無いし、放っておきますか。
ブルーも、少しずつ壊れていけば楽なのに。

続く


閑話19
良二は優子と会い、そのままトレーニングルームに一緒に向かった。
話を聞いてみると、薫の見舞いに行ってきた帰りらしい。
時間も半端なので、修行でもしようと考えた時に自分に会ったそうだ。

「他の皆は?」

「ピンクは黒澤さんの所に残りました。イエローとレッドは分かりません」

何の用なんだろうな、ピンク。

「ブルーは行かなくても良いのですか?」

「ああ、俺は先に行ったしな」

ブラックも、あんまり来られると迷惑だろうし。
あいつの事はオレンジが見てくれるだろう。

自分なら、男よりも女の子に見舞ってもらった方が嬉しいと思う。

「それはそうと、人気投票、最下位ご愁傷様です」

「言わないでくれよ・・・」

予想はしていたが。

「一、ニ位は変わっていませんが、三位に茜さん、四位に黒澤さん、五位が私、六位がレッドでしたね。」

あれ、グリーンは五位なのか。

「何でブラックよりもグリーンの順位が低いんだ?あいつ顔はメディアに露出してない筈なんだが」

「・・・何ででしょうね。貴方も最下位な割には堪えてないようですが」

最下位、最下位って言うなよ。

優子も、女性陣で一番人気が低い事を気にしているのだろうか。

「人気とかをとやかく言ってもしょうがないさ。やれるだけのことをやっただけの結果だしな」

実際に実力は一番下なんだ。
今更人気まで最下位になってもどうということはない。
そんな事で落ち込んでる暇があったら、もっと有益に時間を使うべきだ。

「・・・今までブルーを見てて思ったんですが、本当に『普通』ですね」

「普通って言うなよ。大概の意味では、普通ってどちらかというと下の評価の時に使われるんだぞ」

そりゃあ、同僚の男がレッドとブラック、それに清水だったから、俺のキャラが薄いのは承知しているけどさ。

良二の自己評価は低めだが、彼を取り巻く人間の能力が高かった事からも仕方ない事だと言える。

「いえ、悪い意味ではなく良い意味での『普通』です」

「どういう事だ?」

「上手く言えませんが、黒澤さんとレッドには色々な意味で着いて行けないというか・・・」

「あー。なんとなく分かるけどさ」

でも、ブラックは慣れるとそんなに悪い奴じゃないと思うんだ、多分。

断定できないが、二人とも仲間だから。
自分はそう思っている。

「私も前まではヒーローバリアとか使えなかったんですけどね。貴方もでしょう?」

「まあな・・・」

今でも積極的は使いたくは無いが。

「私、最近は慣れてきたんですよ」

優子は首のチョーカーに手を当てながら話を続ける。

「慣れた?」

「元々戦闘員は犯罪者ですし、自分が危険な時なら使っても大丈夫だって事です」

大義名分か。

「グリーンは、『慣れた』んだな・・・」

「慣れかけてる、と言った方が良いでしょうか。大義名分が無いと実戦では使えないと思いますし・・・」

空気を吸うような自然さで使っている薫、茜、春美。
いざとなったら使うであろうきいろ。
太陽はどうか分からないが。

「そうか・・・」

俺は、まだ『普通』なんだな。

安心するべきなのか、悲しむべきかは判断できないが、優子も色々考えている事は分かった。

イエローとも、後で話すべきなんだろうか。

彼女にも彼女なりの考えが有るのだろう。
以前会話を打ち切って、そのまま話す機会が無いまま今日に至るが一度腹を割って話すべきか。



[8464] 第二十話 青と黄、黒と橙
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/07/21 14:59
第二十話

ノクア本拠地で、ウインドホークは傷を癒していた。

まだ痛むか、思ったよりも深かったらしいな・・・。
結局、目的は両方失敗し、連れて行った仲間も皆死んだ。

彼が思案に耽っていると、フレイムレオンが現れた。

「傷は大丈夫かの?」

「問題有りません」

嘘だ、今でも痛い。

「そうか・・・。今回はフレイム族とガイア族が行く事になったのでな」

味方側の戦闘が出来るものも、随分減ってきた。
その上、新たに異種族が出現したとなって、四種族全て混乱している。

「黒い奴と、新たな種族には注意して下さい」

長老は頷き、去って行く。

俺は、情けないな・・・。



きいろと話せていなかった事も有り、思い切って携帯から連絡を取る事にした。

イエローはイエローなりに心配してくれてたんだよなあ、今考えると。
やっぱり、最初に謝ってからにするべきだな。

何を謝るかではない、謝る事が大切なのだ。

数回コール音がして、きいろが出た。

『もしもし、ブルー?』

「ああ。ちょっと話したい事があってさ」

『それ、長くなる?』

「多分な・・・」

長くなると、思う。
自分でも上手く言えないことが多いから。

『だったら、直接会って話した方が良いんじゃないかな?ほら、電話とかメールじゃ伝わらない事もたくさん有るし』

「・・・そうだな」

『今から控え室に行くけど、それで良い?』

うん、そうした方が良いか。

「ああ。俺も今からそうするよ。じゃあ、また後でな」

携帯を切る。

まず、第一声で謝ろう。
話はそれからだ。



きいろは通話が終わった携帯をしまい、控え室に向かう。
それも出来るだけ急いで。

最近ではブラックも怪我したみたいだし、心配だよね。
あたしなら、怪我しても問題ないけれど。

未だ自分自身を軽く見る思想からは脱し切れていないが、それでもヒーロー発足時よりはましになったと言える。

ブルーと、何から話そうかな。


「薫、他の人達も見舞いに来たの?」

何時も通り、穏やかな表情を見せる薫に問いかける。

「ええ。それと、今度僕が復帰したら、ピンクと二人で飲みに行く約束をしたんですが構いませんね」

え、二人で?

「・・・アタシも行っちゃ駄目かな?」

一応聞いては見るが、多分駄目だろう。
承諾を取る形だが、既に彼の中では確定事項だろうから。
その証拠に、語尾が疑問系では無かった。

「『二人で』って約束なんですよ」

やっぱり・・・。

そんな彼女の心境を見透かしたように、薫は続ける。

「別にピンクにはそんなに深入りするつもりは有りませんよ」

アタシの考えてる事なんて、読まれちゃってるね・・・。
敵わないな。

「それと茜」

「何・・・?」

「これからも宜しく」

「・・・うん!」

まだ必要とはされているみたいね。
その『これから』が薫の中でどれ位の期間かは分からないけど、それを『ずっと』に変えてみせるから!



良二が控え室に着いた時には、既にきいろが来ていた。

早いな、イエロー。
俺も結構急いだつもりなんだが。

「悪い、待たせたか?」

「ううん」

彼女は静かに首を横に振る。

「そうか」

怒ってはいないみたいだな。

「話に入る前に、言っておくことがある」

「何?」

「悪かった、色々と」

「・・・主語と目的語があやふやだよ」

しまった、話を急ぐ余り会話が成り立っていないじゃないか!!

「いや、前に声を掛けてくれた時、今は話したくないって言っちゃったからな。ごめん。あの時は色々有って、自分でも心の整理がついていない状態だったんだ」

「警察の人の事とか?」

「・・・ああ」

それからも、色々有った。
ブラックみたいになろうとして、自分の意思で戦闘員を使い潰したり、ヒーローボムを使えなかった時にブラックがやられたと思い込んで使ってしまったりした。
イエローに、ヒーローバリアを使った事が最初だったな・・・。
以前までの俺の考えが甘かったって事を痛いほど実感したよ。

「謝らなくても良いよ。あたしも、ブルーがちょっとおかしくなっていた事には少し気がついて。」

自分の考えはそんなに分かりやすいのだろうか。
これでは大半の人間に気付かれているかもしれない。

「その時はね、あんまり悩みはしないだろうって思ってたんだ。ブラックからも気に掛けてあげるように言われてたのにね・・・」

ブラックが!?
あいつ、思っていたよりずっと良い奴かもしれないな。

「そうだったのか、あいつが・・・」

「人が死ぬって言う事がどういうことか良く分からない」

呟かれた突然の言葉に戸惑いながらも、返答する。

「俺だって、分からないさ」

「違うの。上手く言えないけどあたしは、死ぬ事が怖くないの」

「怖くない?」

首を縦に振り、きいろは話を続ける。

「自分でも分からないけど、子供の頃からこうだった」

良二は一つの可能性に思い当たった。
そういえば、以前長官から聞いていたことがある。
きいろはヒーローに志願したと。

「イエローは、自分が戦いで死んでも構わないと思ったからヒーローになったのか?」

「・・・分からない。でも、そうかもしれないね」



薫は茜との会話を続けていた。
特に楽しいとは感じないが、人間関係を円滑にするためには必要な事だから慣れている。

「ねえ、薫ってどういう風に育ったの?」

「そういう茜はどうなんです?」

今更だが、彼女の生まれや育ちをほとんど知らないことに気がついた。
正直興味を持てなかったからだ。

大検に合格しているという事しか分かりませんからね。
自分だけ話すというのも癪ですし。

「アタシ?・・・割と冷めた家庭環境ってとこかな」

どうりで娘にヒーローなんて危険な仕事をやらせているわけだ。
高校に行かなかったのもそのためか。

「僕は、普通の家庭で育ちましたよ。両親と兄、それに自分の四人家族です」

「ふうん。意外と普通なんだね」

そうなんです。
自分でも不思議な位、家族の誰とも似ていないんですよね。
まあ、養子とかそういったことではありませんでしたが。

「それなりに順調な学生生活をして、どこか良い企業に就職でもしようかなと思っていたんですけどね。何の因果かヒーローなんてやることになりまして」

怪人さえいなかったら、随分僕の生活は違っていたんでしょうね。

「学校とか、楽しかった?」

「浅い付き合いの友達は多かったですからね。遊ぶ相手には事欠きませんでした」

楽しいとも思いませんでしたけどね。
ほとんどの友人の名前なんて覚えていませんよ。

「高校時代に一人だけ、やけに僕に絡んでくる奴がいましてね」

「わあ、命知らず」

あれは鬱陶しかった。

「確か、金村?金田?・・・とにかく、名字に金の一字がつく男でしたね」

「なんで絡んできたんだろうね?」

「さあ?他人の考えている事なんて分かりませんよ」

心当たりは幾つかあるが、茜には言わない方が良いと薫は判断した。
多分、面倒になりそうだと思ったからだ。

『しばらく』は、茜との関係は良好に保っておかないといけませんしね。



空気が重い。
良二はこんな時にどうすれば良いのか、今までの人生経験では分からなかった。

二十六年生きてきてこれか、俺って駄目だな・・・。

「あたしの事は別に良いの。それよりブルーの事」

「俺?」

きいろも話題を変えたかったのか、半ば強引に話を展開させる。

「なんか最近のブルーは、ブルーらしくないの」

「俺らしくないって、どういうことなん。」

どういう意味か分からない。

「だってそうでしょう。前までのブルーなら、戦闘員を使い潰す事を嫌がってた」

「別にそんな事は無い。多分、前までの俺は戦闘員の命が失われる事を嫌がっていたんじゃないんだ。そうする事によって、自分の中の何かが磨り減るのが怖かっただけなんだよ」

もうそんな事は言わない。

「嘘だよ。それは、自分の本音を誤魔化しているだけ」

本音、か。

「なあ、イエロー。俺らしいって何だ?」

「え?」

「少なくとも、俺は自分の意思でああする事を選んだんだ。それについては言い訳も何も無い」

「ブルー・・・」

言い訳したら、戦闘員にも申し訳ない。
俺は自分の意思で彼等を殺したんだ。

しばらく沈黙が訪れる。
そうしていると、オペレーターから怪人出現の連絡が入った。

「今日は、ここまでだな」

今の俺はチーム2をブラックから任せられている。
チーム1のイエローとは別行動だ。

「あ、うん・・・」

「それじゃ」

「ブルー!」

出動しようとすると、背中にきいろの声が聞こえる。

「無理しないで。少なくともあたしは、前までのブルーの方が良いな」

七歳下の女の子に、ここまで言われるなんてな。
俺は、傍目にも無理をしている様に映るんだろうか。

「・・・ありがとう。またな」

今は、怪人を倒す!



その頃、薫と茜にも怪人出現の連絡が入っていた。

「じゃ、行って来るね!」

「気をつけて。なるべく怪我しないで下さいね」

表面上は茜を気遣う言葉を口にする。

「リーダーがブルーっていうのが若干不安要素だけどね・・・」

茜の不安は分かるが、それについては余り心配していない。

「危なくなったら、ヒーローバリアやヒーローボムを景気良く使っちゃって下さい。茜の安全が最優先事項です」

戦闘員は、消耗品。
それで安全が得られるのなら、使い惜しみする必要は有りませんよ。

「うん。最初からそのつもり。アタシは大丈夫だから!」

茜がいなくなった病室で、薫は身体を伸ばした。
一人の時間は落ち着く。

最近は、中々負傷などで全員が揃いませんね。
ブルーもまた怪我なんてしなければいいんですが。

戦闘中に良二が怪我をする事は、チーム2の戦力が下がる事に繋がる。
頭数が減ることは、それだけでも大きく影響するのだ。
怪人に一対多数で勝てるのならば、戦闘員なんて導入されていない。
戦いの基本は数だ。

高いスペックのヒーローが複数で怪人を潰し、戦闘員や警察がサポートに回る。
これが一番理想的なんですよね。
TVみたいにはいきませんよ。

太陽は当初、ヒーローらしくないと影で愚痴を言っていたらしい。
馬鹿か。
勝てれば問題ない、負けた時の事を考えろというのだ。

歴史っていうのは、競争に勝った方が作る。
その繰り返しなんですよ。
この国も、古代の朝廷に従わない辺境の人々を『討伐』という形で屈服させて来ましたしね。
レッド、負ければそこで歴史はお終いなんです。

続く


閑話20
「また怪人か・・・」

「言っても仕方ないさ。とりあえず、小隊メンバーを集合させようぜ」

ぼやく耕作を宥め、健は自分達の小隊メンバーを集合させた。
全員緊張しているようだ。

まるで、初出動の時の俺達みたいだな・・・。

まだそんなに経っていない筈なのに、あれから随分過ぎた様な気がする。

「シールドは装備したか?」

メンバーに念を押すように尋ねる。

「はい」

一人が代表して答える。
その様子を確認して頷き、話を続ける。

「これから現場に向かう。俺と山田は怪人や戦闘員の相手をする」

「自分達は何をすれば良いのですか?」

「シールドは大きいから、個人での格闘戦には不向きだ。だから、後方援護や市民の避難経路の確保に専念してくれ」

俺や山田だって実戦経験が豊富というわけじゃないけど、こいつ等が死なないように気をつけてフォローしてやらないとな。

視線を腰に装備したポリスリボルバーに向ける。
元々は佐藤勇太に支給されていた物だ。
支給品という事で、返還するべきだったのだろうが、自分に支給されていた物を代わりに返却することで話はついた。
殉職者の物だという事で縁起が悪いと反対されたが、石田警部や自分達、つまり怪人対策課初期メンバーの懇願によってやっと許可が出たのだ。
その際誰が使うべきか話した結果、自分の手に渡ることになった。

顔を上げて、隊員達に返事を促す。

「返事は?」

「はい!」×4

全員の返事を聞き、大きく頷く。

「良し!行くぞ!」

部屋を出て、扉を閉める時に考える。

なあ佐藤、俺もこれから生き残れるかどうか分からないけどさ。
やれるだけやってみるぜ。
この戦いが終わるまでか、それとも俺が死ぬまでな。

短い間であったが、佐藤勇太という男が怪人対策課にいた事。
怪人との戦いで命を散らした事。
多くの警察官や、市民が怪人の襲撃によって命を落とした事。

全部、忘れちゃいけないんだ。

現場に着けば、ヒーローが来るまで耐える事になる。
どれだけ耐えられるか、それが被害を少なくする鍵だ。

「なあ田中」

「ん、何だ?」

歩きながら耕作が話しかけてきたので答える。

「また、戻ってこようぜ。全員無事でさ」

「そうだな。そのためにも、俺達が注意しないとな」



[8464] 第二十一話 転機
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/07/21 15:02
第二十一話

良二が現場に着くと、既に二郎達が怪人と戦闘員の相手をしていた。

「鈴木!」

「教官、危ないです!」

駆け寄ろうとするが二郎に制される。
咄嗟に踏み止まった彼の目前に大きな影が急降下する。

「こいつは!?」

茜と優子もその影を確認して、遠くから様子を窺う。
大きな針を持った巨大な蜂だった。

「市民は既に何人もそいつに刺されています!」

何回もってことは、雀蜂か!

「ブルー、下がっててください」

「グリーン?」

一体、何をするつもりだ?

「まず、安全確保をしないと」

そう言って、彼女は盾を起動させた。

「オール・バリア」

戦闘員が集まり始め、怪人の前に立つ。

あれは、グリーンの指示か!?

「優子さんやるじゃん。じゃ、アタシも!」

茜は離れた所にいる敵戦闘員を、怪人の行動が抑制されている今の内に駆逐しようと双剣を構えて走り出す。

「中村、被害の状況は?」

「はい、市民に多数の犠牲者が・・・。それと、部下が一人殉職しました・・・」

智の視線の先には、事切れた怪人対策課メンバーの一人が横たわっていた。

「・・・あの針か?」

「ええ。恐らく毒かと・・・」

機動性も高いし、攻撃力も有るのか。
厄介な敵だな!

良二は敵を倒すための方法を考え始めていた。

「・・・グリーン。しばらく防御を頼めるか?」

「構いませんが」

「ありがとう。鈴木と中村には、グリーンの護衛を頼みたい」

「はい!」

戦線の維持を三人に任せ、茜の方に駆ける。

「オレンジ!」

「ん?どしたの?」

既に茜が大方の戦闘員を殺していた。
接近戦なら自分よりも強いかもしれない。

「あの怪人を倒すための作戦が有る。聞いてくれ」

「ふうん・・・。オッケー。何すれば良い?」

怪人の方に向き直る。

「あの怪人は雀蜂に似ている。今はグリーンが戦闘員を盾にして凌いでいるが、怪人の攻撃が途切れる時が来る。そのときを狙って、俺が奴の動きを止めるから止めは任せた!」

「攻撃が止むって確信でも有るの?」

「有る。多分、八割方大丈夫だと思う。理由は後で説明するから、準備してくれ」

「良いよ」

確実にあの雀蜂を倒すには、俺の頭じゃこんな事しか思いつかない。
イエロー、無理しないでって言ってくれた事は嬉しかった。
でもさ、もう、駄目なんだ。
あの様子を見るに、グリーンも本当に慣れてしまったんだな・・・。

物悲しくなったが、戦況を見詰め続ける。
決して好機を逃さないように。

中村の部下の人。
俺は貴方の名前を知らない。
けれど、こいつは俺達ヒーロー全員で倒す!



ノアスズメバチは、現れた邪魔者達を倒す事だけを考えていた。
彼女の使命は、彼女達の女王の為、引いてはガイア族全ての為に敵を抹殺する事。
邪魔者達の数が多い、しかし、体内の毒が尽きるまで戦い続けるつもりだ。

ノアバッファローは、まだか?

先程から呼び続けているが、応答が無い。
彼も邪魔者達と戦っているのだろうか。

敵の頭を潰せば、この鬱陶しい奴等も沈黙する筈、しかし・・・!

彼女の攻撃は阻まれて、格上であろう奴等には当たらない。

アンツも、大半は倒されてしまったか・・・。

それでも戦い続ける。
自分にはそれしかないのだから。



色々な店舗が有る通りで、健達はバッファロー型の怪人と交戦していた。
健と耕作が前衛として怪人の相手をしている間に、市民の避難は大方終わったようだ。

「田中隊長、山田隊長!援護します!」

部下達が一斉にポリスリボルバーで、シールドの後ろから怪人の周囲の戦闘員を威嚇して引き離す。

「助かったぜ!山田、お前は戦闘員に止めを!」

「ああ!」

耕作はポリスロングロッドで敵戦闘員を行動不能にしていく。

「Gaaaaa!」

怪人がコンクリートの破片を新人達に投げつける。
援護されては鬱陶しいとでも思ったのだろう。

「シールドを使え!」

新人達は指示を受けて防御体勢になり、破片をシールドで受けた。

「くっ、凄い衝撃だ・・・」

無事だったみたいだな、でもやはり新人の本格的な参戦は期待できないか・・・。

「頑張れ、もう少しでヒーローが来る!」

耕作が大声を張り上げる。
少しでも新人達を鼓舞しようという事なのだろう。

「・・・?山田隊長、あそこに人が!」

新人の一人が指し示す先には、所々崩壊しかけた宝石店から顔を隠した男が出てくる所が見えた。
明らかに不自然な光景だ。
鞄を大事そうに抱えているが、一体何なのだろうか。

まさか、泥棒!?
こんな時に火事場泥棒みたいな真似をする奴がいるなんて!
でも、あっちに行かせては危険だ!

「そこの人、そっちは危ない!速やかに避難誘導の支持に従って下さい!」

まだ泥棒である証拠も無い、ならば優先されるべきは人命だ。
健は男に、避難するよう勧告した。

「!!」

男はそれを無視し、危険な方向に駆け出した。

やはり、泥棒だったのか!

セキュリティシステムが丁度怪人の襲来で作動していない店を、ここぞとばかりに狙った、杜撰だが大胆な犯行だった。

「山田、あの人を追ってくれ!どっちにしろこのままでは危ない!」

自分より男に近い耕作に指示を出す。

「分かった!」

耕作は男を追いかけ、捕まえる寸前まで行った時に怪人が二人に突撃していく。

「ま、待て!」

目の前の敵が、自分よりも彼等を追うことに考えが及ばなかった健は、リボルバーを撃って怪人を止めようとする。
散発の銃弾が怪人に着弾し、一瞬勢いが衰える。

良し、止まるか!?

しかし怪人は突進を止めない。
健には、そこからしばらくの光景がスローモーションのように見えた。

「山田ぁああっ!」



逃げ出そうとする男に追いつき、彼を引き止める。

「何で逃げるんです!早くあっちの方に!」

「ええい、離しやがれ!」

新人の一人に任せて、荷物も検めさせれば良いだろう。

耕作は男が盗人であるとほぼ確信していたが、それでも放っておくわけにはいかない。
自分は警察官だからだ。
彼は自分の職業に誇りを持っていた。
市民から役立たずと罵られていた時もそれは変わらなかった。

教官が来てから、俺達も怪人と戦えるようになった・・・。

ヒーローには若干コンプレックスを持っていた。
だが、恐らく警察なら誰でもある程度はそうだっただろう。
自分達は何なのかと考えた者もいる筈だ。
そんなことを思いながら男を誘導しようとした時だ、健の声が聞こえたのは。

「山田ぁああっ!」

「何だっていうんだ・・・」

振り向くと、怪人が至近距離まで迫ってきていた。

「何っ!」

咄嗟に男を庇い、ロングロッドを構える。
しかし怪人は、ロングロッドをへし折ってなお余る程の力で、耕作と男を跳ね飛ばした。

あれは・・・。

耕作が空中から、男と共に跳ね飛ばされて道路に転がる鞄を見ると、衝撃で裂けたのか、中から宝石類が零れ落ちていた。

何だ、やっぱり泥棒だったのか。
でも、どうして俺は庇っちまったんだろうな・・・。

耕作一人なら咄嗟に避けることもできたかもしれない。
しかし、彼はそのことを考えられなかった。

結局、俺は何ができたんだろうな。
怪人と戦う者として。

男に視線を向けると、血が大量に流れ出している。
恐らく助からないだろう。

無駄、ってことか・・・。

自分の行いが虚しくなり、彼は最後に呟いた。

「・・・田中ぁ、後頼むぜ・・・」

健に聞こえていない事は承知の上の言葉だった。
何も成せず、無力感を感じながら耕作は息を引き取った。



春美達が現場に到着した時には、既に遅かった。
山田耕作は死んでいたのだ。

「貴様、許さん!」

「レッド、待ちなさい!」

静止するも虚しく、太陽は怪人にソードを構えて向かって行く。
その様子を見た怪人は、今度の獲物を決めたらしく太陽に対して突進していく。
赤い色が決め手になったのだろうか。

「まったく、相変わらずなんだから!イエロー、レッドの事は任せたわ」

春美は彼の事を後回しにして、きいろに任せることにした。

「ピンクは!?」

「あの人達に話を聞いてくるわ。なるべく早く戻るから」

状況把握の為に、警察官達に事情を聞くべきだと考えたからだ。

「何があったの?」

「・・・山田が、泥棒らしき人物が逃げ出そうとしたから引き止めたまでは良かったんですが・・・」

「それで?」

「その後に怪人が山田に向かって突撃して、あいつ一人だったら助かったかもしれないのに・・・!」

春美は大体の事情を察した。

犯罪者なんて見捨てていれば助かったかもしれないのに。
私だったらそうしているわ。

彼女だけでなく、ヒーロー側なら良二や太陽はどうか分からないが、他の者ならば確実に見殺しにするだろう。
それでも、放っておけないというのは人としては美徳かもしれないが、少なくとも春美には何の感慨も起こさなかった。

無駄死によね。
まあ、そんな事は言わないけど。

社会全体が犯罪者の扱いを軽くする中で育った彼女の考えは当然の物だろう。
元々正義感などで戦ってはいないのだから、尚更である。

「そうだったの・・・。後は任せて」

心の中で考えていた事は表に出さず、警察官達を気遣う振りをして戦線に戻る。
自分は冷めた性格であるという自覚も有り、こういったことに対する春美の対応は結構冷たい。

「イエロー、どう!?」

声を張り上げてきいろを呼ぶ」

「レッドが押されてる!」

見ると、力では中々な物を持っている筈の太陽が怪人に力負けしている。

「正面から行くからよ・・・」

呆れながらライフルを構え、怪人の腕を撃ち抜いて太陽の体勢を立て直させる事に成功する。

「す、すまん」

「謝罪はいいわ。イエローもこっちに」

三人でフォーメーションを組みなおす。

「レッドは調子が出ないようだし、中距離支援を宜しくね」

「む、仕方ない・・・」

太陽は考えていたよりも素直に承諾した。
先程助けられた事に引け目を感じているのだろう。

「イエローは、近距離で怪人を殺って。見た感じだと、私が撃った傷以外にも所々有る傷のせいで弱りつつあるみたいだから」

「うん!」

話し終わると春美は太陽と共に弾幕を張り、きいろの接近を援護する。

「!」

流石に怪人もされるがままではなく、きいろの接近に合わせて力を蓄えているようだ。

「イエロー、気をつけなさい!そいつ何かしようとしてる!」

「でも、チャンスでもあるから!」

気がついた春美はきいろに忠告するも、きいろはそれを聞き入れず、さらに勢いを増して接近し続ける。
そして彼女がアックスを振り上げた時、怪人はカウンター気味の一撃をきいろの腹部に叩き込んだ。

「・・・!」

激痛で声も出ないのか、アックスを取り落とし、彼女も倒れる。

「イエロー!」

春美の懸念は当たってしまった。

どうする?今の戦力ではレッドが不安、イエローも戦闘不能ときて、私も接近戦向けとは言えない。
仕方ないわね、ここはレッドを囮にして私はイエローを連れて後退し、警察との一斉掃射で倒すか・・・。

彼女がさり気なく太陽を捨て駒同然に扱う作戦を立てた時、きいろは立ち上がって怪人の腕を掴んだ。

「イエロー!?無理はしない方が良いわ!」

あの攻撃を受けたのだ、まともに動ける筈が無い。

「大丈夫、鍛えてるからっ・・・!」

ヒーローロッドを抜き、怪人の顔面に連続で打撃を加える。

「Gyaau!?」

怪人の眼や鼻に大きな痛手を与えたのは良いが、その後の怪人の反撃を受けたきいろは今度こそ崩れ落ちる。

「・・・レッド!あいつを撃ち殺すわよ!」

「異存は無い!」

大きなダメージを既に受けていた怪人は、二人からの弾幕に身体を撃ち抜かれ、全身から体液を流れ出して死んだ。

「イエロー、しっかりしろ!」

太陽がきいろに駆け寄って呼びかけるが、返答は無い。
春美はそれを横目に、本部に連絡して病院を優先的に手配する。

「・・・はい、そうです。イエローが負傷しました。至急救急車を・・・」

会話の途中で、耕作の遺体に視線を移す。

「いえ、何でもありません。ついでに、警察側にも連絡を。怪人対策課のメンバーが一人殉職したようです」

極めて事務的に事後処理を手配し、通信を切る。

やっぱり無理したわね。
私の忠告も無視して・・・。




ノアスズメバチは、依然戦闘を継続していた。
まだノアバッファローとの連絡は取れず、孤立無援である。

やはり、毒の残量が少なくなってきたか。
・・・まさか、雑魚ばかり応戦させるのはこれを狙って!?

彼女は敵の意図に気がついた。
何の躊躇も無く仲間を見殺しにするようなことが無い怪人達には考え付かないような作戦だからである。

事前に、奴等は外道だから注意するように言われていた筈なのに!



良二は戦局を観察して、ついに好機を見つけた。

今だ!

「オレンジ、頼むぞ!」

ランスを構えて突進する。
敵の機動性は高いが、一対多数なら捉えられないほどではない。

「はぁあっ!」

ランスは回避され、反撃に大顎で噛み付かれかける。

やっぱりな、攻撃手段が無くなれば最後はそれだと思ったぜ!

しかし良二はランスを手放し、素早くヒーローロッドでそれを受ける。
毒の量が尽きるまで戦闘員を犠牲にしたのは、危険な攻撃を封じる事と、攻撃手段を限定させる為だった。
二択では確実性に欠けるが、来る攻撃が分かっているのなら対応する事は不可能ではない。
完全にではないが、一瞬だけ静止させる事ができたのだ。

長くは持たない、オレンジ、早く!

顎は強力で、ロッドにはひびが入り始めている。

「お待たせ」

茜の攻撃は、ロッドが駄目になるよりも早く怪人の羽を両方切り落とした。

「さっさと死んじゃえ!」

羽を失った怪人は攻撃を回避できず、次々と身体に傷を作ってゆく。
最後には双剣を胸に突き立てられ、ヒーローロッドで頭部を潰されて息絶えた。

「私刑みたいなやり方だな・・・」

「いいじゃん、勝ったんだし」

今回は、戦闘員の消耗が激しかったな。
全滅とまではいかなかったけど。

自分は段々と非情になっていると実感する。

イエローが言っていた、ブルーらしくないって、こういう事なんだな。

「教官」

「どうした?」

二郎からの報告は、良二を驚かせた。

「もう一方での戦いで、イエローさんが負傷」

「イエローが!?無事なのか!」

「分かりません、それと・・・、山田が、殉職しました・・・」

良二は眩暈を感じた。
これで、自分の教え子二人が既にこの世の物でなくなった事になる。

「山田が・・・?」

「・・・」

嘘だと言って欲しくて聞き返すが、沈黙で返される。
肯定、という事なのだろう。

「・・・もう、二人もいなくなっちまったんだな」

続く


閑話21
「そうか。では、毒を受けて死んだ警官の死体は、こちらが解剖をしてから返還するという事で良いのだね。早速科学研究班にその旨を伝えよう」

警察上層部に許可を取り、光は科学者達に指示を出す。
毒の成分を分析し、以後の対策に役立てる為だ。
そのついでに、人工怪人の能力強化にも使う予定だが。

戦闘員は、犯罪者の収容所が襲撃された時に被害が少なかったから当面は持つとして、問題はこれからだ。
今回、青山君や緑川君が景気良く使ったからね。

しばらく考え、何も戦闘員に改造するのは犯罪者に限定せずに、もっと幅広く候補者の層を広げれば良いのだという結論に至った。
先程の会話とは別の、警察上層部の者に連絡を取る。

「私だ。少し頼みが有るのだが」

『何だね』

「君の所で担当しているね、暴走族」

『ああ、あの社会のダニ共か。それがどうした?まさか、ヒーローが始末してくれるとでも言うのか?』

「いや、もっと有益なことさ」

『有益だと?』

会話の相手は訝しげな様子だ。
それはそうだろう、どうすれば犯罪者候補達が役に立つのか。
簡単だ。

「それぞれの家庭でも持て余していると思ってね。我々が彼、彼女等を引き受けようというのだ」

『・・・戦闘員にでも改造する気か?』

分かってるじゃないか。

「強制というわけじゃないさ。あくまでも合意という形を取る。謝礼もする予定はある」

『違法ではないな』

つくづく私には都合の良い社会だ。
正義の為と言う大義名分は用意されているし、社会秩序に反する人間ならば、それをどうにでもする事ができるのだから。

「社会が綺麗になる事でもあるよ」

『良し。今度からそちらにも『選別』に付き合って貰おうか。若いから無駄に元気が良いだろうさ』

「提案を受け入れてくれて感謝するよ」

『願ったり叶ったりさ。持ちつ持たれつ、だろう?』

その通りだね。

「そういえば、そちらの警官が犯罪者を庇って一人殉職したそうじゃないか」

『ああ、そうらしいな。まったく、馬鹿な奴だ』

受話器の向こうで、鼻で笑う様子が目に浮かぶ。
自分も同意見だが。

「怪人対策課っていうのは、愚か者の集まりなのかい?」

以前にも警官が仲間を逃がそうとして、結局死んだ事があった。

『そういう連中がいるから、我々が上手く生きていけるんだろう?』

「そうだね。彼等には感謝、しないといけないね」

お陰で甘い汁が吸えるのだから。

『暴走族の処理が終わったら、どうするつもりだ?』

「政府の担当者が困ってたからね。ホームレスに『仕事』を紹介する予定だよ」

とっても人類の為になる仕事をね。

『くくっ、仕事ね・・・』

彼もこちらの意図に気がついたようだ。

「では、また何か有ったら頼むよ」

『お前も頼むぞ』

そして会話を終わらせる。

これで、戦闘員の当てはできた。
補充も大丈夫だろう。
後で黒澤君の所に行って、彼の意見も聞いてみるかな。
どこまでこちらに有益な存在になったか楽しみだよ。



[8464] 第二十二話 苦悩
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/08/01 06:58
第二十二話

人の命は、儚い。
そして、それを使い潰す自分は醜い存在だと思う。

「イエロー・・・」

きいろの様態が気になり彼女の担当医に尋ねてみた結果、命に別状は無いが、今は面会謝絶らしい。
また聞くところによると、太陽も戦闘終了後に体調不良を訴えているようだ。
二人とも何事も無ければ良いが。

「何辛気臭い顔しているんですか」

何時も通りの声を薫から掛けられ、良二は振り向く。
さっきまで自分一人だった筈なのに、何時の間に接近されたのだろう。
暗殺者みたいな奴だ。
そのシチュエーションは、結構当てはまるかもしれないと思う。

「しょうがないだろ、こんな状況じゃ・・・。それよりも、お前はもう動いて大丈夫なのか?」

「言ったでしょう、大した事無いって」


二人で廊下のソファーに腰掛ける。

「ブラック、ちょっと相談しても良いか?」

「そういう物の言い方は感心できませんね。そんな顔で許可を取ると言うのは、強制しているのとほぼ同じ事ですよ。相手に断りにくい状況を作り出すと言う意味で」

そんなつもりは無かったんだが・・・。

「悪い・・・」

謝罪して、黙り込む。
すると、薫が少し微笑を浮かべるのが見えた。

「冗談ですよ。誰も聞かないとは言っていないでしょう」

どうやら、自分はからかわれていたらしい。
薫は嫌な時は嫌と言う人間だと短くは無い付き合いで知っているので、そんなに悪い気はしないが。

「あ、そうだったのか。でもさ、聞いてくれる気が有るなら最初からそう言ってくれよ・・・」

「所謂軽いブラックジョークですよ」

黒澤=ブラックだけに、ってか?
余り笑えないぞ・・・。

「山田がさ、死んだんだ」

少しづつ語り始める。
多少長い話になったが、薫は穏やかな表情で聞いていた。
途中で愚痴が入ってしまう事もあったが、どうにか話が終わった。

「単純な言葉ですが、そうですか、としか言いようが有りませんね」

こういう奴だと言う事も分かっていたが、そういう反応の仕方は無いと思う。
薫がいい加減に話を聞いていてこの結論なら、怒りを覚えていた所だ。
ある程度真剣には聞いていたと思うのでそうはならないが。

「だからと言って、彼の行動を否定する気は無いですよ。僕はその人のことを知りませんから」

「・・・そういうことか」

否定も肯定もしない、と言う事なのだろう。

「ブラックだったら、そういう状況になったらどうする?」

「貴方はどうするんです?」

質問に質問で返されるのは、ちょっと痛い。

「分からない、と言いたい所だけど、その時にいるのが犯罪者ならば見捨てるかもしれない」

「正直な意見ですね」

今は、これしか言えない。

「僕なら、犯罪者を盾にしてすかさず反撃しますよ」

こいつ、俺が思ってたよりも斜め上だよ!
そこに痺れも憧れもしないけど!

見捨てる、と言うだろうと予想はしていた。
しかし、まさか盾にするとは・・・。

流石ブラック、何時も俺の予想なんか軽く飛び越えていくぜ・・・。

思わず電波的な考えが心に浮かんでしまうほどだった。
敵わない、色々と。



良二が何時もの如く煮え切らないので、薫はフォローをする事にした。
色々と、扱い方に慣れたようだ。
犯罪者を庇って死んだ警官についての感想は、そうですか、位の物だ。
別に何を考えてそのような行動に及んだかなんて興味が無い。
はっきりいって、どうでも良いのである。
しかしそれを言うと、確実に良二が怒り出すであろう事は火を見るよりも明らかなので、流石に自重してソフトな意見に変更した。

本当に手間がかかりますね。

まあ、彼の考えを構成する材料の一つ程度にはなるだろう。
自分で犯罪者を庇って犬死する気は毛頭無いが。

ブルーを見ていると、子供の時に実家にいた犬を思い出しますね・・・。

薫が小学生の時、家族が兄と自分の情操教育の一環として仔犬を買って来た。
そんなに賢い犬だとは言えなかったけど、なぜか自分には懐いていた。
兄の事は下に見ていたようだが。
家族内の力関係を犬は見ると言うのは本当らしい。

ああ、優柔不断な所が似ているんですね。
うじうじと鬱陶しい部分とか。

薫自身もそれなりに可愛がった記憶が有る。
仔犬が自分に好意を持っていたからだ。
五年も生きずに病気で死んでしまったが。

確か、あの時に家族で泣かなかったのは僕だけでしたっけ。

まったく普通の状態と言うのもまずいと思ったので、悲しい顔位はした。

泣くほどではなかったけど、ちょっとは残念でしたね。
ああ、こいつ死んだ、程度でしたか。

未だに断片的に覚えていると言う事は、多少は愛着が有ったということなのだろう。
自分はどうでも良いことは忘れる性質なのだから。


薫が次の話題を振る。

「ブルーは犯罪者を使い捨てる事には慣れましたか?」

「悪いとは思うけどな、でも」

「慣れたんでしょう?」

ブラックには、口では絶対に勝てないな。

「・・・」

そうかも、しれない。
慣れて、しまった。

「で、名前を知らない警察官が死んだと聞いた時は?」

「・・・その人に面識は無いけど、怪人への怒りを覚えたな」

何が言いたいのだろう。
回りくどい。

「じゃあ、山田さんが死んだと聞いた時はどうです?」

「悲しかったよ・・・」

何で、山田まで・・・。

「皆同じ命ですよね。でも、それぞれの喪失でブルーに与えた影響は違う」

「影響?」

俺にか?

「犯罪者が死んでも、悪いとは思うけど悲しみはしませんよね。で、所謂世間一般での善人が死ぬと、その人に害をなした存在に怒りを覚える。そして、親しい人間が死ぬと悲しむ。ここまではいいですか?」

「ああ」

「つまり、個人の中のウェイトに比例するんですよ。軽い存在に対してはそれほど心が動かない。重要な存在だと心の揺れが大きくなるってことです」

何となく、俺にもブラックの言いたい事が分かる。

「それは、命は平等じゃないって事か」

「そうとも言えますし、そうでないとも言えます」

違う場合はどうなのだろう。

「個人によってそれぞれの人間の価値は違うって事ですよ」

その人によって、違うか。

「俺が今まで使い潰してきた犯罪者達を、大切に思っていた人もいるんだろうか」

そうならば、俺は・・・。

「ああ。そこら辺はカウントしてませんから、僕」

「え!?お前、さっき言ってた事と違ってないか!?」

百八十度方針転換!?

「戦闘員は、『人間の命』としてカウントしません」

薫は素晴らしい微笑みと共に冷酷な、この世界では当たり前の言葉を口にした。

「例えば僕を例にすると、知らない人間よりはペットの犬を、まったく知らない百人の人間よりも自分の気に入った人間を助けます」

「それは、お前の中の優先順位か?」

ヒーローとしてはどうかと思うが。

「ええ。分かってるじゃないですか」

こいつ、一つのルートを除く某運命の主人公とは絶対に性格が合わないな。

それだけではない、大抵の王道的作品の正義側やTVヒーローとも合わないだろう。

「お前らしいな」

「どうも」

褒めてはいないぞ・・・。

「納得いかなさそうな顔してますね。でも、一般的な意見だと思いますよ」

「生々しいほどにな」

寧ろ、人間として当然だ。

「色々長ったらしく話しましたけど、結論は一つです」

「それは?」

「気にするな、寧ろ戦闘員のことまで気に掛ける必要は無い、以上です」

やっぱり、そうなるのか。

「ブルーだけですよ、変な倫理観が有るの」

この世界での俺は、マイノリティらしい。
そのくせ、戦闘員を本気で救うつもりならとっくにそうしていなくてはいけないのに、何もしていない。

「結局、俺は自分が可愛いだけだな」

「そうですね。僕個人としては嫌いじゃないですが」

嫌いじゃない、か。

「ブラックの中の俺って、優先順位はどの位なんだ?」

物凄く気になる部分だ。

「ちょっと待ってください。・・・上位十人にはランクインしてますよ」

おお、けっこう高い!

地味に、嬉しかった。

「じゃあ、僕はそろそろ病室に戻りますよ」

「あ、うん。気をつけてな」

廊下を数歩ほど歩いてから、振り向いて口にする。

「イエローにも、自分達は彼女を必要としている程度の事は言っておいた方が良いんじゃないですか」

「・・・そうだな」

薫の姿が見えなくなるまで見送り、しばらくして良二は気がつく。

あれ、俺ってあいつにイエローとの会話内容相談したっけ?



薫が病室に戻ってからしばらくして、扉を叩く音が聞こえた。

「どうぞ」

「失礼するよ」

遠慮しないで入ってくる光と、どこか遠慮がちに入ってくる斉藤医師の二人がいた。

「体調は良いのかね?随分と動き回っているようだが」

「大丈夫ですよ」

相手は一応上司なので、建前上はおとなしくしなければならない。

「君の家族にも連絡した所、心配していたようだよ」

「そうですか」

家族ねぇ、僕への牽制のつもりですか?
だとしたら甘いですよ、長官。

光の後ろで自分の様子を窺っている斉藤医師も、興味深そうだ。

「斉藤君。しばらく席を外していてくれ」

「はい」

これで、後ろ暗い話を存分にできる環境を作ったと言うわけだ。

「戦闘員の消費についてなんだがね、当初の予想を上回っているのだ」

「結構な事じゃないですか。犯罪者が減るんですから」

「まあ、そうなんだがね。このままでは需要が供給を上回る状況になるのだ」

あれだけ使えばそうなるでしょうね。

「そこでだ、新しい戦闘員候補を暴走族など社会の迷惑となる存在にすることとなった」

「いいんじゃないですか」

別に反対する理由は無い。

「君も賛成してくれるかい。効率よく集める為の方法を考えている所なんだが」

「ほとんどは長官にお任せしますよ」

きっとろくでもない手段を使う事でしょう。

「そうかい。他に意見でもあれば聞かせてくれないかな?」

「意見ですか」

言うだけ言ってみますか。

「暴走族というのは、男性限定ですか?」

「いや、女性も含むよ。それがどうかしたのかい?」

だったら話が早い。

「女性の中で見た目がマシで、変な病気も持っていない人は、『政府御用達の保養所』に送ったらいかがです?無論それ相応の『処置』を施して」

「あそこか・・・。確かに、その発想は無かったね」

長官、貴方も良く利用しているでしょう?

「無駄にならない資源活用です」

「そうだね、そうしてみよう。ところで黒澤君は、あそこの使用頻度が我々の中では低いようだが不満でもあるのかい?」

貴方達みたいな脂ぎった老人の、手垢がついた中古品には食指が動かないだけです、と、本音では考えているが当然顔には出さない。

「今は間に合ってますから」

事実、茜がいれば事足りるのだから。

「そうか。では、斉藤君を呼び戻すよ。引き続き診察を受けてくれたまえ。復帰はもうすぐだよ」

「わかりました」

出て行く光と入れ違いに、斉藤医師が部屋に入る。

「上手くやってくれたみたいですね、先生」

「もう、いいだろう?いい加減私を解放してくれ」

彼には自分のカルテの改竄も依頼していた。
事前の事もあったので、快く引き受けてくれてこちらとしても大いに助かる。
その時の表情はなぜか青褪めていたが。

「解放されたいんですか?慌てなくてもいずれその時が来ますからご心配無く。貴方は僕に降りかかる災いを少なくしてくれればそれで良いんです」

「私の平穏はどうなるんだ・・・」

そんなもの有りませんよ、もうどこにも。

無言で携帯を取り出して、中に有る二つの画像データを彼に見せる。
そこには、三十台後半であろう彼の妻と、中学生の娘の日常風景が写っていた。

「ど、どうやってこの写真を!?」

「個人的な『友達』に頼んで撮ってきてもらいました。奥さんの方も中々美人じゃないですか、羨ましいことに」

直接どうこうするとは口に出さないが、これで自分の意図は相手に伝わった筈だ。

「斉藤先生」

「な、何だね・・・」

「素敵なご家族ですね。まるで絵に書いたように」

最後に、彼の一家の家族団欒の風景を収めた画像データを見せる。
元々、部屋に入ってきた時から青白かった斉藤医師の顔が、より酷い状態になった事が分かった。

続く


閑話22
退院した日に、以前春美としていた約束を果たす事になった。
その際にやはり茜が、顔には出ていないが若干不満そうな様子だったことを理解しつつ、何も言葉を掛けずに別の女性と会う自分は、世間一般から見ると酷い男なのだろうと言う事は充分理解している。

まあ、それがどうしていけない、ってのが本音ですが。

「何考えてるの?」

「いえ、いつもは中々こうやって二人で会話する機会なんてなかったな、と思いまして」

「そうね」

自然と、どちらも無言になる。

ピンクのことは分からないことのほうが多いですからね、慎重に行動しないと。

「イエローが、怪我したわね」

沈黙を破り、春美が話し始める。

「ええ、珍しい事もあるものです」

「私からすれば、貴方が怪我した時の方がよっぽど驚いたわよ」

ブルーもピンクも、人のことを不死身か何かと勘違いしていませんか?

「おまけに、レッドも調子が悪いみたいだしね。そろそろなの?」

「さあ、どうでしょうね」

自分としては、太陽の方が不死身だと思う。
見習いたくは無いが。

「話を戻すけど、今回イエローは無茶したのよ」

「へえ」

「へえって・・・。とにかく、あの子にとって自分の価値が低いってことが問題なの」

そう言われても、普通は他人の心の中なんて分かりませんよ。
ましてや、自分が一番大切な僕に、自分が大切でないイエローの気持ちが分かるとでも?

「一応、ブルーに彼女と何を話すかのアドバイスはしておきましたよ。僕達が言うよりも彼の口から言わせた方が良いでしょう」

「そうね、ブルーが今の所一番良い意味で普通だものね」

マイナス×マイナスはプラスになりますし、上手くいけばいいんですけどね。
主に僕の生きる世界の安全の為にも。

下手すれば余計にマイナス効果になるかもしれないが。

「ブルーと話した時に、彼自身の優先順位は僕の中でどのぐらいか聞かれましてね」

良二に薫が話した事は、嘘ではないが真実でもない。
微妙にぼかして答えたのだ。

「興味あるわね。何て答えたの?」

「上位十人以内と」

答えるまでに間を空けたのは、自分が真剣に考えていると思わせる為だ。
本当は一位が自分、二位が自分が気に入っている人間、三位がそれ以外と非常にシンプルなものだったのだが、二位は二位でも、そのなかでも多少差が有る為にああいった答え方にした。
男の中では家族を計算に入れなければ、今の所一番気に入っている。
もっとも、今後はどうなるか分からないが。

「ちなみに、私は貴方の中でどのぐらいの位置にいるのかしら?」

春美も薫の評価が気になるのだろう。

「女性の中では上位三人に入っていますね」

間髪入れずに答える。
こういう場合ははっきりと返答するのがベストだろう。

「そう」

多少は好感度上昇に繋がると良いのですけど。
中々計算通りにいきそうには無いですから。

それから、帰る時になって春美が聞いてきた。

「ねえ、ブラック。貴方って何歳?」

「二十二歳ですよ」

「そ、やっぱり年下なのね」

「年下は、嫌いですか?」

自分は好きですよ。

「嫌いじゃないわよ。貴方こそ、年上は嫌いかしら?」

「年上も好きですよ」

薫の答えを聞いた春美は苦笑した。

「正直ね。年上『も』か。貴方らしいわ」

「僕はあまり嘘をつきませんから」

それから彼女はこう答えた。

「私は、二十四歳よ」

とりあえず、味方にするための第一段階クリア、という所ですか。



薫と別れた春美は、彼との会話内容を思い出していた。

上位三人か・・・。
三人?
私、オレンジ、イエロー、グリーンが主な候補よね・・・。
それで、ブルーに言ったのは上位十人以内・・・。

自分が知っている薫の交友関係では、ヒーローだけで六人埋まる。
彼自身を含めると七人。

女性では、上からオレンジ、私とイエロー、最後にグリーンかしらね。

自分の立場が微妙な物である事を認識した。

余談だが、彼女は意図してかそうでないかはともかく、清水隆と白井光を計算に入れてはいなかった。



[8464] 第二十三話  戦闘準備
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/08/08 19:08
第二十三話

苛立っていた。
度重なる侵略も功を奏さず、仲間を失うだけの日々。
穏健派のフレイムレオンとアクアシャークからは諌められているが、それでも我慢の限界であった。
次の戦いでは、自分と腹心のノアスタッグビートル、そして大勢のアンツで敵を叩き潰す事をガイアビートルは決意した。

「その様子だと、大掛かりな事をすると見て良いのか?」

「お前か・・・」

先日敗れた、ノアスズメバチの仕えていた主、ノアクイーンビーが上方に悠然と立っていた。
この位置関係だと、何やら見下されているようで気に入らない。

「私と、腹心、それからアンツで出る」

「ほう、長自ら御出陣とは」

彼女はそう言うと、ひらりと、こちらと対等に話す事のできる位置まで降りてきた。
これはこれで、自分の心が見透かされているような感じがして落ち着かないが。

「いけないことか」

「悪いとは言っていないさ。ただ、もう少し作戦を考えた方が良いのではないか」

「作戦か・・・」

高い身体能力こそあれ、元々、戦闘を生業としているわけではない。
星が平穏になってからは、争う事など考えてもいなかったのだから。

「長老も、そして長達もやはりその方面には疎いか」

少し可笑しそうに言われた言葉に彼は、痛い所を突かれた、と思った。

「そういう物言いをするからには、何か良案でもあるのだろうな」

「無いわけではないさ」

それは多少は有ると言う意味なのだろう。
期待して、彼女の次の言葉を待つ。

「あの星に、拠点を作る気は無いか」

「拠点、だと?」

「侵略の予行演習みたいなものだと思ってくれればいい。どのみち、小さなそれですら作れないようならば、我々には滅びしか残されないぞ」

検討する価値は有るとは思う。
だが、それはあそこに孤立する形になるということだ。

「連絡や食料はどうするつもりだ」

そう、それが一番の課題だ。
敵に見つかって排除される恐れもある。

「私の一族ならば、連絡は容易い事だ。一度拠点を作る事ができればの話だがな。食料は、人間でも食べるとするさ。団子にして保存もできるしな」

「そうか」

「それで、物は相談なのだが」

この上何の用があるというのだ。

「どうした?」

「次に長殿達が出るとき、私の部下を複数連れて行って貰えないか。何、そちらは派手に暴れまわってくれればいい」

「ふん、私達は囮か」

「そう言わないでくれ。拠点ができれば今後、少しは楽になるだろう?」

悪くは無いな。

「・・・好きにしろ」

ガイアビートルはノアクイーンビーに許可を出し、その場を去る。

あいつはガイア族第二位の実力者でもあるからな。
純粋な戦闘能力では私の方が上だが、その他はどうだか分からない。
だが、あいつも仲間なのだ。
けっして我々の不利益になる行動はしないだろう。



立ち去るガイアビートルを見送り、ノアクイーンビーは笑みを浮かべた。
ああいう一本気なタイプは嫌いではない。

精々頑張ってくれよ?
長殿が死ねば、私が序列的には次のガイア族の長だが、そうはならないように。

「人間ってどういう味がするんだろうね?昔は私達の星にもいたみたいだが」

興味はあるが、自分で積極的に確かめてみたいと言うほどではない。




光は、薫、茜、優子の三人を呼び出した。
戦闘員の材料を確保する為の任務に就いてもらう為である。
任務の性質上、彼等が最も適していると考えたからだ。
良二は真っ先に候補から外してある。

「やあ、早速だが次の任務の説明をするよ。これを見てくれたまえ」

スクリーンにある場所の地図を示す。

「長官、これは?」

優子が質問するが、構わずに続ける。

「ここは暴走族が高い頻度で出現する場所なんだ。そこで、君達にはヒーローとして彼等を確保してもらう」

茜が静かに挙手するのを見て、彼女に発言を許可する。

「なんだね、緋崎君?」

「そーいうのって、普通警察の仕事なんじゃないんですかぁ?」

もっともだが、今回は『普通』ではないのだ。

「今回は『通常業務』ではないんだよ」

「・・・ボーナス出ます?」

公務員とは思えない発言だが、それで良い。

「ああ。黒澤君は、現場で特殊部隊の指揮をしてくれたまえ」

「了解しました。ところで長官」

「なんだい?」

「少しぐらいなら死んでも構いませんよね」

疑問系だが、薫の中では既に確定事項なのだろう。
同じ様な考え方をしている光にはそれが良く分かった。

「ああ、君に任せるよ」

「分かりました。茜、グリーン、行きますよ」

三人はたった今まで人の道に外れるような会話をしていたにもかかわらず、最後まで平然とした様子だった。



薫達三人は暴走族確保の為、光から示された場所へと向かっていた。
既に現場付近には特殊部隊が配置されているようで、彼等の代表者と接触してからが任務開始らしい。

「黒澤さん、本当にこんなことしても大丈夫なんですか?幾ら相手が犯罪者予備軍だとは言え・・・」

何を危惧しているのかは知らないが、彼女の考えなど自分にとってはどうでもいいことだ。
まあ、どうせくだらない倫理観の問題なのだろうが。

「大丈夫じゃなかったらやりませんよ。それに、グリーンだって今言ったでしょう?犯罪者予備軍だって」

「確かに、犯罪者同様どちらかと言えばいなくなってくれた方がありがたい存在ではありますが」

優子も踏ん切りがつかないだけで分かってはいるのだろう。
一押しさえあれば容易にこちら側に傾く意見だ。

「気にする事無いって。今は良くてもさ、いつかきっと碌でもない目に遭うんだから。それならさ、アタシ達が有効活用してあげたほうが良いって」

所々穴の有る意見だが、茜の発言は優子の考え方を傾けた。

「そう、ですよね。ええ、あんな奴等・・・」

色々と無駄な事まで考えさせてしまったようだが、任務に支障がなければ構わない。
そうこうしていると、現場付近の接触ポイントに到着した。
男が一人佇んでいる。

「ブラック、グリーン、オレンジですね。お待ちしていました。早速ですがどうしますか?」

「さっさと終わらせましょう。オレンジ」

隣にいる茜を呼ぶ。

「ん、何?」

「餌になってください。ついでにグリーンも」

彼女達二人は、薫の餌と言う発言に驚いたようだった。





「ブラックも言い方が悪いんじゃないですか。それにしても、ついでってなんですか、ついでって」

「しょうがないじゃん、それにそこが良いんだってば」

優子は微妙にプライドを傷つけられたようだが、作戦には同意したようだから薫にとっては扱いやすい方なのだろう。
暴走族は群れる為、効率良くおびき出すための囮が必要らしい。
周囲には特殊部隊が配置についている。

『被害報告によると、若い女性は彼等にとって御馳走同然みたいですからね。僕は男ですから、ここは二人に働いてもらった方がいいんですよ』

薫も、女装すれば悪くないんじゃないかなと思ったが、口には出さない。
万が一自分よりも美人になったら自信喪失するであろう。
自分の容姿にはそれなりに自身が有る。

アタシが『餌』か、薫にとってはそれだけの存在なのかな。
優子さんよりも先に名前が出たのは悪い気はしないけどさ。

しばらく二人で歩いていると、見るからにそれらしい男達が大勢出てきた。

「おい、こんな所でなにやってるんだ?」

「お構いなく」

あくまでも、つれない態度を取る優子の後ろに、怯えた振りをして隠れる。
恨めし気な目で見られたが、気にしない。

「つれねえなあ。それよりもさ、俺等と遊ばねぇ?」

「もっとも、あんた等で俺等が楽しく遊ぶんだけどなぁ!」

そう言って男達は下品な笑い声を上げる。
その中には女の姿も確認できた。

まったく、これなんてテンプレなのよ。

余りにも頭の程度が知れる。

「黙ってないでさぁ、こっち向きなよ」

急に後ろから肩をつかまれたので、反射的に男に目潰しを喰らわせる。
薫からは多少派手にやっても良いと言われたので遠慮無く実行したまでだ。
男は、血が流れ出る眼窩を押さえて蹲った。
そこにすかさず踵落としを入れる。

「汚い手で触らないでくれる?それにさぁ、そんな目で見ないでよ。妊娠しちゃうじゃない」

ぴくりとも動かなくなった男に唾を吐きながら言い捨てる。

汚い物触っちゃった。
爪の間に肉が残らないと良いけど。

爪はあまり長くしていないが。
案の定、残りの男達は激昂した。

「この女!生まれてきた事を後悔する位嬲ってやるぜ!」

「嬲る、なんて難しい言葉知ってたんだ。思ったより知能はあるじゃん」

「茜さん・・・」

二人で変身して男達を死なない程度に叩きのめす。
一部の相手は逃げ出したが、彼等の目前に飛んできた銃弾がそれを阻止する。

「そこまでですよ」

ヒーロースーツに身を包んだ薫と、銃を構えた特殊部隊が周囲を包囲している。

「三十人、ですか。一回目にしては思ったより集まりそうですね」

「てめえ等、ヒーローだったのかよ!こんなことしてただで済むと思ってんのか!?」

薫は自分の立場が分かっていない男を無視し、別の男に話しかけた。

「罪状は、発言を聞くに暴行未遂、それとこれまでの貴方達の行いをまとめたファイルがこれです。何か申し開きは?」

「ちょ・・・!?」

何かを言おうとした男を殴って強制的に黙らせ、次の話に移る。

「無いようですね。ではそこの貴女、住所氏名を教えてくれませんか?」

「はん、誰が言うか!」

頭の悪そうな女に尋ねるも、素直に答えない。

馬鹿じゃないの?さっさと素直に言っちゃえば楽なのに。

「ふむ・・・。ま、一人位なら良いでしょう」

そう言い、薫は女の頭にヒーローガンを突きつけた。

あーあ、薫は容赦無いからね。

この後の女に待ち受ける運命は、既に決まったようなものだ。
茜は心の中で十字を切った。

「あまり暴れないでくれませんか?」

女の顔を暴走族全員に見えるように、動かす。
そして自分の体の向きを変え、片手で女の体を押さえ込む。

「てめえ、離せよ!」

「皆さん、良く見ていてくださいね。あんまり我が儘を言うとこうなります」

その場にいる者全員に見せつける様に、ゆっくりとヒーローガンの引き金に指を掛ける。

「言うから、言うから!だからやめてよ!やめ」

女の泣き叫ぶ声を無視し、薫は引き金を引いた。
柘榴のように女の頭が弾け、白い物が混じった脳漿が飛び散る。
片方の衝撃に近い眼窩からは眼球が飛び出し、地面に落ちた。
上顎や鼻は原形を止めていないが、頭部全体が吹き飛んでいない所を見ると、見せしめのためにあえて威力を落としたのだろう。

対怪人用に作られた武器だからね、人間なんて、ひとたまりも無いよ。

茜は冷静だが、女の頭が砕け散る一部始終を見てしまった暴走族達は悲鳴を上げた。
他の女の中には失禁している者すらいる。

ご愁傷様。

グロテスクな映像は、異常な姿の怪人を見た時に慣れている。
命を失った女を、何の感慨も無く茜は見ていた。



「はい、次の方」

見せしめのために女を一人殺してから、ヒーロー達と特殊部隊は捕獲した暴走族の個人情報を聞き出していた。
頭部が惨たらしく砕けた死体は、尋問を続ける薫の脇に横たわらせてある。
何故か?
暴走族達の視線は自然と、見たくない筈なのにそれに引き寄せられる。
すると、彼等の脳裏にはたちまちの内に先程の凄惨な光景が蘇り、自分達はああなりたくないと大変素直に質問に答えさせることができるからである。
ヒーローは、殺す時は本当にやると見せつけたのだ。

やっと全員の情報を聞き出し、薫は隊員に指示を出す。

「それ、邪魔にならない所に片付けておいてください」

彼にとって、既に死体は物扱いである。
数人の隊員が黒い袋を用意し、淡々とそれを中に詰めてどこかに運び去った。

「なあ、答えろよ!あんた等はヒーローなんだろ!」

一人の少年が恐怖に耐え切れなくなったのか、半ば自暴自棄に薫に詰め寄る。
複数の隊員が銃を構えたが、薫は片手を挙げてそれを制した。

「ええ、僕達はヒーローですよ」

「だったら、なんで!ちくしょう、俺達はここまでされるほどのことをしたってのかよ!」

暴走族の思考回路は、清水隆に似ていますね。
何も分かっていない所なんか、特に。

「貴方は、自分にどれ位の価値が有ると思っていますか?」

「あん?」

少年は首を捻る。
そんな事考えた事すら無いのだろう。

「その様子だと、分かっていないみたいですね。まあ、良いです」

隊員に指示を出し、ある番号に電話させる。
数回コール音が鳴った後、一人の女性が電話に出た。
あらかじめスピーカーをONにしてあるので、会話内容は少年にも聞こえるようになっている。

『はい』

「お袋!?」

「もしもし、お宅の息子さんの事なんですが」

『私に息子なんていません』

おや、いきなり完全否定されるとは。
彼の顔、崩れて面白い事になってますよ。

「いえ、今ここに息子さんがいるんですよ。それでですね、息子さんの日頃の行いはちょっと私達の目に余りまして、施設送りになるのですが」

『施設、ですって?』

「ええ、無論強制ではありません。親御さんの許可を取ってからになりますが、如何しますか?何、ただとは申しません。少しばかりではありますが、こちらから謝礼を遅らせて頂きます」

断る筈はないでしょう。
問題が有りそうな家庭のようですし。

少年の情報は比較的早い段階で聞き出せていたので、隊員達がより詳細な情報を得る事に成功していたのだ。
少年が薫に詰め寄る事が無かったにしろ、全員の前で彼の家と連絡を取っていただろう。

『・・・好きにして下さい』

少年の顔が、絶望に変わった。

「お袋、冗談だろ!なあ!」

『・・・失礼します』

そして、電話は切られた。
通話終了後の音が虚しく鳴り響く。

「分かったでしょう。貴方、売られたんですよ」

「・・・俺が、売られた?」

現状が信じられないのか、焦点の合わない目で周囲を見渡す。

「まあ、当然と言えば当然ですよね。今迄の貴方達の行いを考えてみれば」

「・・・」

まだ、現実逃避してるんですか。

「ちなみに謝礼の内容ですが、大体五千円位ですね」

「・・・五千円?」

「人間の平均的な値段ですよ。脂肪は石けん七個分、炭素は鉛筆の芯九千本分、鉄分がニ寸釘一本分、リンがマッチの頭の部分二千二百個分となっていて、合計した値段がそれです」

言外に、お前はそれ以外のことにおいては無価値な存在なのだと教えてやる。
臓器でも摘出して売れば、もう少し価値があるだろうが。

「五千円、たった、それだけ・・・」

あーあ、壊れちゃいましたね。
ま、別に構わないでしょう。
いずれにせよ改造するんですから、今ここで壊れた方が幸せなのかもしれませんね。

そして、暴走族全員に聞こえるように話す。

「先程の質問ですがね、貴方達が何をしたか。それはこの世界に生きているという事です。どうせ生きていたって碌な事しないでただ野垂れ死んでいくだけなんですから、少し位社会の為になることをしてから死んで下さい」

死刑宣告を聞いて騒ぐ気力すら無くなった暴走族の中から、数人見た目がマシな少女を見繕う。

「貴女達は、こっちに来てください」

「な、何するのよ!」

明らかに怯えが見える。
それはそうだ、なにしろ自分は女でも容赦なく惨殺する人間なのだから。

「殺しはしませんよ。だから騒ぐな」

特に五月蝿い女の顔に平手を打って黙らせる。
拳で無いだけ感謝して欲しい。
そうしていたら歯が何本か折れていただろうから。
集団から距離を取って、物陰に控えていた特殊部隊に声を掛ける。

「好きにして構いませんよ。但し後から『保養施設』に送るんですから、程々に」

「いいんですか?」

どうせあの男達と一緒にいたからには中古品だろう。
興味が無い人間に関しては、薫は酷く冷淡なのだ。

「あんまり五月蝿いようなら、殺しても構いませんから」

こういうのは、鞭ばかりではなく飴も与えないといけませんしね。

続く



閑話23
二郎は、良二に連絡を取ることにした。
速やかに相談したい事が有ったのだ。
暴走族をヒーローと警察が協力して捕獲し、戦闘員の材料にするという噂も聞いた。

由々しき自体だ・・・、まさかヒーローがそこまでやっていたなんて。

浩介に相談して聞かされたことがあった。
ヒーローが使っている戦闘員は、犯罪者を改造した物だということである。
何気なく戦闘員の機能が停止するのを見過ごしていたが、そんな裏が有ったとは。
そんな話を自分に聞かせて大丈夫なのかと尋ねたが、知られても、もうどうということは無いらしい。
犯罪者の扱いが軽い事は世間一般に浸透している事なのだから。
今まで慎重にやっていたが、戦闘員の正体が犯罪者だったと言う事は公表するらしい。
しかし、世間はそれを大した騒ぎも無く受け止めるだろう。

でも、犯罪者と違って彼等には更生する可能性が有るんだ!
聞いた所教官はそれに関わっていないらしいけど、そのことをどう受け止めるんだろう・・・。

二郎は人というものを美化し過ぎている。
実際にはそんなに綺麗な物では無く、もっとどす黒く汚れた存在なのだ。
その証拠に二郎も犯罪者を戦闘員にすることにはあまり疑問を抱いていないではないか。
心の何処かに、犯罪者はそうなって当然の存在なのだ、という考えが根付いているのだ。
健と智にも相談していた。
健は、暴走族なら別にどうなっても良いじゃないか、と思っているらしい。
耕作が犯罪者を庇って死んだことも影響しているのだろう。
智は概ね自分と同意見のようだが。

黒澤薫・・・、ブラックさんか。
任務の指揮はあの人が執っていたみたいだ。

少し見た程度では、人間どうだか分からない。



二郎から連絡を受け、良二は警察署の一室で会うことにした。
極秘裏に相談したい事が有るらしい。

「わざわざ御足労すみません」

「いや、いいさ。それで、どうしたんだ?」

「教官は、戦闘員のことについてどう考えていますか?」

いきなり深い部分に入る質問だ。
しかし彼がこういった内容を聞いてくるとは、何かを知ったのだろうか。

「何か、有ったのか?」

「・・・戦闘員は元々犯罪者だったと言う事を聞きました。教官も今迄の戦闘で犠牲を黙認しているように見えたので、その・・・」

正義感が強いのだろう、半端な自分よりよっぽど立派だ。

「・・・罪悪感は、常に感じているけどな。それでも使ってるんだから俺は人殺しなんだよ」

「自分は、賛成はできません。今の小康状態がそのお陰で保たれていると言う事も分かってはいるんですが。それに、ある作戦の噂を聞きました」

その事について良二は知らない。

「暴走族を捕獲し、戦闘員の材料にしていると」

「!?」

馬鹿な!
幾ら何でもそんな事・・・!!

無い、とは言い切れない。
前例も有るのだ。

「これにも、自分は賛成できません。中村も同じです。田中は、暴走族を戦闘員にする事には反対ではないようですが・・・」

「鈴木。その事はあまり人前で言うな」

良二は熱くなりかけている彼を制する。
彼の身に何か有るのは嫌だからだ。

「俺も、何もそこまでしなくても良いんじゃないかとは思うよ」

幾分冷静になった様子で、二郎は話す。

「・・・すいません、あまりの事に驚いてしまって」

無理も無い。
自分も初めは、薫が犯罪者を見せしめの為に殺したり、薫に嵌められてヒーローバリアを使ったり、薫が死んだと思い込んでヒーローボムを使った時は、精神状態が異常になったものだ。

何だか良く考えると、ほとんどブラックのせいなんじゃないのか、俺の悩み・・・。
何かと助けてもらってもいるけどさ、原因が結果を解決するってどうよ?
嫌いじゃないけどな。

薫の事は嫌いにはなりきれないのだ。

「とにかくだ、その話題は俺も帰ってからブラックを問い詰めてみる」

「無理しないで下さいね。何だかブラックさんって危なそうで・・・」

俺には、まさか危害を加えたりしないだろう、多分。
・・・大丈夫だよな?

薫のことは今一信頼はできないから困る。



複数のモニターが有る部屋で、ある人物は二人の会話の一部始終を監視していた。
その内容をヒーロー達の長官、白井光、そして黒澤薫に知らせる。
その人物の役目は、警察内部の情報を得る事だった。
光は何者も信頼していないため、味方の筈の警察にも切れるカードを欲しているからである。
薫の方は少し違う。
いざという時のための保険のためである。
どちらにしろやる事は一つだし、報酬は双方から貰えるのだ。
そして情報を送り届ると、再び任務に戻った。



[8464] 第二十四話 ヒーローとして
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/08/08 19:12
第二十四話

光は優子を呼び出した。
警察内部で騒がしくなりそうな者がいるため、その処遇を彼女から薫と茜に伝えさせるためである。
彼女だけでは心許無いが、薫、茜も加えた三人ならば実行する事が容易になるだろう。

このところ緑川君もヒーロー業務に慣れてきたようだし、黒澤君も従順。
結構な事だ。

そして斉藤医師から聞いた話によると、太陽の肉体の状況は悪化しているらしい。
良く持っている、と言った方が良いだろう。

増員も、考えなければならないね。

自衛隊あたりから、優秀な若者を引っ張ってこようと思う。

「失礼します」

「入りたまえ」

ノックの音が聞こえたので、入室許可を出す。

「警察の怪人対策課のメンバーの事なのだがね。頼みたい事が有るのだ」

「なんでしょう」

処分するほどの事ではないかもしれないが、機会があればで良い。

「できれば、だがね。鈴木二郎、中村智は暴走族を戦闘員にする事に反対のようなのだ。それでもし、警察内部で騒ぎになると厄介なのでね」

「始末、しろと?」

分かっているようだね。

「できる時は、黒澤君達と話し合ってからにしてくれたまえ」

「分かりました」

事務的な会話が終わり、優子は足早に出て行く。

怪人対策課には、新しい人員を補充するように私からも言っておかなければね。

既に二人分空きが出ることを想定しての考えであった。



良二は薫の携帯に電話した。
二郎から聞かされたことを確かめ、本当だったら釘を刺しておくためである。
とはいえ、面と向かって話すのは少し怖いのでこうやって受話器越しの会話を試みているというわけだが。

ヘタレてるとは自分でも思うよ。
でもさ、ブラックだぜ?

心の中で誰にかは知らないが言い訳をしていると薫の声が聞こえた。

『はい』

「あ、俺だけど。今いいか?」

『構いませんよ』

よし、ここからが本番だ!

「あのさ・・・、お前が戦闘員に改造する為に暴走族を捕まえたって、本当か?」

ちょっと怖いが、こういう場合は素直に直球で聞く。

『それがどうかしたんですか?』

やっぱり、やってたのか・・・。
こういう奴だとは分かっていたが、即答してくれるとは。

「お前・・・!」

『何熱くなってるんです。長官からの指示でしたから。それに警察も同意していましたよ。保護者に許可も取りましたし』

つまり、彼等は見限られたと言う事か。

「そこまでする必要って、あったのか?」

まだ先が有るんだし、と思っていると、薫の溜め息が聞こえた。

『ブルー。それ、暴走族の被害者に目の前で言えます?』

痛い所を突かれた。
きっと自分は、そんな言葉を被害者の前で言う事はできないだろう。
自分が被害に遭っていないから、そんな甘い言葉を吐けたのだ。

「悪い・・・」

『いいじゃないですか。自業自得ですって』

その通り、なんだけどな。

『しかし、つくづくブルーって現実のヒーローには向いていないんですね』

「現実の、ヒーロー?」

どういう事だ?

『仮面ラ○ダーとか、戦隊物だったらブルーみたいなヒーローも許容されるんでしょうけどね。それでも段々と割り切れるようになってはいるみたいですが』

怪人倒して、それで犯罪が無くなって、平和な社会になるんだったらこれ以上簡単なことは無いんだけどな・・・。

『別に、今の社会だって悪くは無いじゃないですか。犯罪や迷惑行為さえしなければ、少なくとも僕達はそれなりに平穏に過ごせるんですから。まあ、世界のあちこちでは色々と問題も抱えていますが』

薫は、ドライだ。
それ故に、彼の意見は生々しい。

「ブラックは、この世界、好きか?」

良二も今まで育ってきたわけだし、愛着は有る。
成長していくにつれ、特にヒーローになってから社会の汚い部分も知っていく事になったが。

『その世界が僕に優しい限りは、僕にとって守る価値は有る、とだけ言っておきます』

ブラックらしいな。
世界が自分に優しい限りは、か。

『で、用はそれだけですか?』

「いや、ちょっと待ってくれ。そのな、できれば戦闘員に改造する事、控えめにして貰えないかな、と」

『・・・ちっ』

しばらくの沈黙の後、受話器から微かな舌打ちが聞こえた。
背筋が一瞬寒くなった。

『冗談は顔だけにしてください』

一切の抑揚が無い平坦な声だった。
それだけに、怖い。

顔だけって!?
確かに自分でも平均程度だとは思うけどさ!?

気がつくと、電話は切られていた。

結局、当初の目的果たせていないじゃないか、俺。




良二は、二十六歳という年齢の割に甘い部分が目立つ。
薫にはそれが分からなかった。
ヒーローをやっていて、主に自分が散々汚い面も見せた筈だがそれでもまだ性善説を信じていられるのだから。

まあ、嫌いじゃあないんですけどね。
それにしても、飼い犬に手を噛まれるってこういう気分なんでしょうか?

怪人対策課の総隊長は余計な事を言ってくれた。
世の中知らない方が良い事も有るというのに。

良二との電話が終了した後に優子からかかってきた電話の内容を思い出す。
怪人対策課の、田中健以外の隊長格の人間の処遇についてだ。
それに関して、薫はどうでも良かった。
別に彼等が悪事を働いたと言うわけではないからである。
しかし、全く関与しないというのも光に怪しまれるだけだろう。
そう考え、一人位なら戦闘中機会があればなんとかする、と優子に返事をした。
当然保身の為である。
何も二人とも殺す必要はないし、一人でも死ねば良二が自分に馬鹿げた事を言わなくなるには充分だろう。
既に彼の教え子は二人死んでいるのだから。
それに羽虫程度だが邪魔は邪魔だ。

本当、ブルーもヒーロー以外なら所謂『良い人』として、それなりに幸せに過ごせたんでしょうが、レッドの当て馬に選ばれたばっかりに。
ブルー本人に、全くヒーローとしての適正がなければ幾ら当て馬でも早々に首になったんでしょうけど、なまじ中途半端にできるのが彼の最大の不幸ですね。

今の自分にはブラックランチャーが無い。
基本装備でも戦えるが、少々火力不足だ。
そこで、試作新装備の『ヒーローハンドボム』を科学研究班から提供してもらった。
無論、光の許可を得てからだ。
いずれ他のメンバーや警察にも支給する予定らしい。

茜と同じ位、玩具的な意味でブルーの性格は気に入っていますが、あんまり手を焼かせないで下さいね。
少しだけ苛立ちますから。

薫は別に無感情というわけではない。





二郎はポリスロングロッドの扱い方を研究していた。
頭の中にある不安を晴らすことができるように。
他にすることもないし、これは決して無駄にはならない。

教官からは突く、払う、受け流す、の動きは教えられたけど、警杖がモチーフのこの武器なら太刀のように使う事もできる筈だ!

良二は長物に慣れていた。
今考えると地味ではあったが、その立ち回り、特にロングロッドを槍として使う時の動きは素晴らしかったと思う。
それに、二郎はこの武器を気に入っていた。
決定力に欠けるも、中距離と近距離に対応できる汎用性、それに、これはあくまでも『人を守る為の装備』だからだ。
自分達五人は、怪人対策課に選ばれて警察用の装備の教導を受けた時、コンプレックスも感じていたが嬉しさもあったのだ。
これで自分達もヒーローに近付ける、と。
良二の事は尊敬している。
しかし、二郎は『ヒーロー』が分からなくなった。

ブラックさん・・・、人を守るのがヒーローなんじゃないんですか?

基本的に、怪人対策課の面々は程度の差こそ有れ正義感は強い。
だからこそ、二郎は彼なりのヒーロー像を探している。
良二の教えには無かったロングロッドの使い方の模索もその一つだ。

ヒーローを超えようとは思わないし、自分には無理だとも思う。
それでも、せめて追いつきたい!
そして、自分なりの『ヒーロー』を教官に見せたい!

今の二郎が考えているヒーロー像もまた『ヒーロー』である。
しかし、この世界では夢物語の部類に入るだろう。



アクアシャークはガイアビートルに声を掛けた。

「行くのね」

「ああ」

短い返答である。

「拠点の事、聞いたわ」

「会議の結果だからな」

「私の部下、ノアクラゲも連れて行ってもらえる?」

「確か物理攻撃に耐性を持つ奴だったな・・・。なら、私の腹心に付けておこう」

虫の知らせというのだろうか、嫌な予感はするが自分にできる事はこの程度だ。

「ではな。次に会う時は良い知らせを持ってくる」

「そう。気をつけてね」

そして、彼女達は別れた。




良二は、面会許可が出たきいろの見舞いに行く事にした。
ついでに聞いた太陽の様子は、もう退院しているようだ。

レッド、本当に不死身だなぁ・・・。

病室のドアを、ノックする。

「どうぞ」

許可を得たので、入る事にした。

「あ、ブルー・・・」

久しぶりに見た彼女の顔は、驚いた顔だった。


「そう、そんな事があったんだ」

良二は会話の内容をきいろに話した。
きいろは、暴走族を戦闘員にする事については否定も肯定もせず、ただ話を聞いていただけではあったが、誰かに話をする事で自分の頭の中が段々と整理されていく。
薫の方が正しいと言う事は知っているが、何であの時ああいう返され方をしたかの方が良二にとっては気になった。

何時ものブラックなら、もう少しクールに返してくる筈なんだが・・・。

「ねえ、ブルー。ブラックがそういう風に言った理由、何となく分かる気がする」

「え、分かるのか!?」

だったら教えて欲しい。

「ブルーがそれを言ったからだと思うよ」

「俺が言ったから?」

「前にブラックとあたしで話してたんだけどね、ブルーがヒーローの中で一番人間らしいって」

人間らしいか。
それって、ヒーローに必要な要素かどうかは疑問だな。

「・・・それで?」

「あたしはブラックじゃないからはっきりとは言えないけど、ブラックはブルーの事、結構好きなんじゃないかな?」

え?
そういえば、前に好きな上位十人に入っているとは言っていたが・・・。

「それに、どうでもいい相手だったら適当に流すと思うな」

「そうだな、ブラックなら・・・」

・・・ちょっと、ブラックに悪かったかな。

自分の言った事が完全に間違いだとは思わないが、良二は少し反省した。

「イエローはさ、どう思う?」

無論、薫達が行った事についてだ。

「暴走族は自業自得だと思うけど、誰にも惜しんでもらえないってのはなんだか可哀想だね・・・」

会話の流れを読んでくれたのか、きいろもやっと彼女の意見を口に出す。
彼女が、死ぬのを恐れていないという状態はまだ続いているのだろうか。

「なあ、イエロー。この前の話の続きだけどさ」

「何?」

「・・・イエローが死ぬとさ、俺は悲しいぞ。後、多分泣く」

だから、彼女自身の事はどうでも良いというような態度は止めて貰いたかった。

「え」

彼女も急に言われた内容に戸惑っている。
良二は急に気恥ずかしくなった。

「・・・それじゃ!」

彼女の返事を待たずに、病室を飛び出した。



きいろは、急に出て行った良二を変に思ったが悪い気分ではなかった。

うん、少しだけ考えてみようかな。
少なくとも私が死んだら、ブルーは泣いてくれるかもしれないって分かったしね。

無意識にだが、彼女の顔には微笑が浮かんでいた。



自分の身体はおかしい。
最近、僅かではあるが太陽はそう感じていた。
このことを話すわけにはいかない。
相手が誰であってもだ。
知られたら、自分はヒーロー失格の烙印が押されてしまう。

実の所、光や薫は太陽の身体の異常を知っていた。
それでも使い潰す心算なのだ。

嫌だ、自分はヒーローでいたい!
昔からの夢だったのだ!

彼の悲壮な決意は、真相を知るものにとってさぞ滑稽に映るだろう。
太陽のヒーロー願望はエゴイスティックな物であったが、それは強い願いだった。

続く



閑話24
『保養所』内の一室で、光は少女達の肢体を楽しんだ。
薫と特殊部隊達が調達してきた少女達は、中古品だがまあ上等と言っても良い。
新品を望むのは流石に贅沢だろうが、これはこれで悪くないと思っていた。
惜しげなく使えるからだ。
紅茶を飲んでいると、優子からの通信が入った。

「私だ」

『今は大丈夫ですか?』

どうやら自分の行動は知られていないらしい。

「大丈夫だが?」

『はい。警察官の事ですが、黒澤さんは了承しました』

ほう、特に逆らう様子は無いようだね。
ヒーローハンドボムの使用許可を取ったのはそのためか。

「分かった。現場では彼に任せよう」

『了解しました』

通信を切り、携帯端末を開いてこの後の政府高官との対談の予定をチェックする。
その後の予定は、ここで高官達をもてなす予定だ。
少女達は薬で洗脳してあるので逆らう心配は無い。

個人的には、抵抗するのを無理やりというのも捨てがたいがね。




「ねー、薫。」

「なんです?」

ベッドの中から気だるげな声で話しかけられたので返答する。

「薫はさぁ、なんであの時あの女達に手出さなかったの?」

茜は薫を、僅かな期待が篭った瞳で見詰める。
もっとも、彼女が望む答えは分かっているが。

「別に・・・。女は一人いれば充分ですからね」

事実ではあるが、全てを語ったわけでもない。
しかし彼女にとっては満足できる答えだったのか、目を細めて微笑んだ。

「そっかぁ。じゃ、アタシもう少し寝てるね・・・」

茜が眠りに落ちたのを確認してから薫はシャワーを浴びに浴室へ向かった。

実際は、性病になるのが嫌だった、って事もあるんですけどね。
ああいうタイプは余り好みでもありませんし、どうでも良かったわけです。
でも、こういった部分で好感度を稼いでおいた方が良いですから、貴女の欲しがっている答えを言ってあげましたよ。

薫が捕獲した暴走族は今頃戦闘員へ改造されているか、保養所で調教を受けているかのどちらかである。
そして、死ぬまで国家への『奉仕』が義務付けられるのだ。
こう考えると最初に見せしめの為に殺した少女が一番楽だったのかもしれない。
しかし薫にはそんな事は全く関係ない。
彼にとっては自分の、今と未来が何よりも大切なのだから。

明日の朝食は、何にしましょうか。
茜に任せられれば楽なんですが、自分で作った方が信頼できますからね。



健と智は二人で酒を飲んでいた。
業務に差支えが有るといけないので軽くではあるが。

「だからさ、鈴木もお前も甘いと思うぞ」

「田中は今のままで良いと思ってるのか?」

「仕方ないだろ。そうしなきゃ勝てないんだから」

健が犯罪者や暴走族が戦闘員に改造されている事を聞いた時、驚きはしたがそれだけだった。
ああ、そうなのか、とすんなり受け入れる事ができたのだ。

「佐藤は怪人に殺されたし、山田も犯罪者を庇ったせいで死んだ。それに、部下だって死んでるんだ」

鈴木やお前まで死んだら、俺はどうすれば良いんだよ。

「・・・田中。お前最近無理してないか?」

それは事実だ。
勇太や耕作が死んでから、健は戦闘で果敢に戦い始めた。
しかし、彼の中の精神的な負担も大きくなっていた。

「・・・」

「・・・いや、答えなくても良いさ。・・・なあ、怪人が襲ってこなければさ。俺達こうやって話し合う事も無かったよな」

それはそうだが。

「あ、誤解するなよ。襲ってきてくれて良かったなんて事は全く考えてないからな」

「それ位分かるさ」

「たださ、怪人が襲ってこなくなったら、その時はまたこうやって酒でも飲みたいと思ってな」

・・・そうだな。

「その時は、鈴木と教官も誘おうか」

早く、その時が来れば良いと思う。



[8464] 第二十五話 彼にとってのヒーロー (第二章完)
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/08/11 20:17
第二十五話

怪人出現の報告を受け、今回はチームを分散させずに出撃する事になった。
なんでも、怪人達は纏まって行動しているらしい。
きいろはまだ復帰できず、太陽も本調子ではない。

今日は、六人か・・・。
現場の鈴木達は、上手くやってくれているだろうか?
怪人が纏まっているから大変そうだが、俺達が着くまで無事でいてくれ!

良二はこれ以上彼等に死んで欲しくなかった。
彼等との関わりが薄ければ、殉職してもそんなに精神的負担は無いだろう。
しかし関わってしまった。
それも、彼等に戦闘技術を教えて現場に送り込むと言う形で。
彼がやらなくても誰かがそうしていただろうが、良二はそういう風には考えられない。
一度言葉を交わしてしまうと情が生まれる。
それに縛られるのが、彼だ。
だから彼にとって、鬱陶しいと思ってしまう太陽や、何を考えているのか分からなくたまに怖い薫の事も嫌いだとは思えない。
少なくとも、関わった人間の死でもそれが自分にとってどうでも良い人間ならあっさりと流せる薫よりは人間的だと言えるだろう。
良二は特別善人だというわけではない。
あくまでも、人間らしい人間なのだ。



大型の槍を振るい、建造物を破壊する。
ガイアビートルは、拠点建設をサポートする為の大規模な陽動作戦を実行していた。
彼の腹心、ノアスタッグビートルも双剣を振るって人間を切り刻み、ノアクラゲは余り積極的に動いてはいないが、捕らえた人間を毒で犯す。

「長、もう少し派手に暴れましょうか?」

「そうだな・・・、敵が来た時の為に力は残しておけ」

簡潔な指示を出し、彼自身も戦闘準備をする。
彼は青い奴を潰す事を楽しみにしていた。

待っていろ、今日は私が引導を渡してやる!

しばらく経つと、複数の戦士が現れた。
どうやらこちらに立ち向かうつもりらしい。

「肩慣らしには丁度良い・・・。行くぞ!」

「私に肩は有りませんが・・・」

ノアクラゲが気勢を削ぐような発言をする。

「・・・き、気分の問題だ!」

照れ隠しに、槍で敵の一人を串刺しにする。
惨劇が、始まった。



指揮官用装備の機能を使わなくても分かる。
隊長格以外の怪人対策課は全滅していた。
クワガタムシの怪人の手数に圧倒され、クラゲに打撃攻撃を防がれる。
そして、カブトムシの怪人の槍は隊員達のシールドを無視するかのように貫いた。

皆・・・。

二郎は総隊長としての責任を感じていた。
クラゲの毒がスーツには効かないと分かった事は幸いだが、逆にこちらの打撃もクラゲに吸収される。
二体の虫型怪人に打撃は効くようだが、相手は接近戦に長けていた。
ポリスロングロッドをフルに活用して何とか凌いだが、何時まで持つか分からない。

「鈴木・・・」

敵からは目を離さないが、智が遠慮がちに声を掛ける。
言いたい事は分かる。

勝てない、だろうな・・・。

敵の戦闘員も残っている。
その上こちらは既に三人、持ちこたえるのが精一杯の状態だ。
せめて、街の人達の大半が避難出来るだけの時間を稼ぐ事ができた事が救いだろうか。

いや、まだだ!
自分達は、諦めちゃいけない!

勇太に耕作、そしてつい先程殉職していった仲間のためにも、二郎は諦める気はなかった。
健の方を見ると、頷きが返される。

よし、行くか!

気合を入れて突貫しようとした時、多数の閃光が敵戦闘員を駆逐する。

これは、そうか!
まだ教官達ヒーローがいましたね。
自分達だけで戦う気になっていましたよ・・・。

「ヒーローは遅れてやってくる!諸君、待たせたな!」

「そんなこと言ってる場合か!さっきレッドは何もしてなかったろ!ってそんなことより鈴木、田中、中村!今行くぞ!」

彼等が待ち望んでいたヒーローによる救援が到着した。
一名何もしていなかった奴もいるが、教官である良二の助けは再び次郎達の心を熱くさせた。


光は既に準備を整えていた。

「長官、そろそろ・・・」

「うん。行こうか」

怪人による被害を避けるためにシェルターへと向かう。
指揮ならそこからでも取れるし、最悪の場合は街ごと怪人を爆撃するつもりだった。

今回はちょっと危ないようだしね。
君達の働き次第で多くの人命が失われるのだよ?
だから頑張ってくれたまえ。
主に、私のためにね。




良二は気合を入れて眼前にいる三体の怪人を見据えた。
戦闘員を駆逐する事には成功したが、こちらの戦闘員は今回出撃できず、九対三の状況が出来上がる事となる。

なんか、虫の怪人は強そうだなぁ・・・。
クラゲなら俺でも何とかなりそうだけど・・・。

迷っていても時間を浪費するだけなので、薫に判断を仰ぐ事にする。

「ブラック、どうする?」

「そうですね・・・。特にあのカブトムシが強そうなので、チーム1とブルー、それから鈴木さんと田中さんの五人で殺ってください。クワガタムシはチーム2と中村さんで引き受けます」

五対一か・・・。
よし、それならなんとかなる!

引け目を感じはしたが、すぐに合理的思考に切り替える。

戦いは数だ!
・・・質も大事だけどさ。

自分の見たところ、怪人対策課は教え子三人以外は全滅したようなので、今日の戦いは苦労すると思った。
早速春美がライフルを連射し、怪人を後退させる。

「よし、こいつだけを孤立させる!」

続いて太陽が指示を出し、五人で銃撃を加えて残りの二体からさらに引き離す事ができた。

「ブラック!そっちは任せたぞ!」



薫はさりげなく良二達に一番厄介そうな敵を押し付ける事に成功した。
早めにこちらを片付けてから援護に行けば最悪でも六対一だし、それができる確立も高い。

「あのクラゲは打撃が効きにくいんです!」

智が敵の情報を教えてくれたので、それに合わせた編成を考え出す。

「オレンジとグリーンは虫を。僕と中村さんはクラゲに接近して撹乱しつつ銃撃を加えます。オレンジは手数で、グリーンはシールドとヒーローガンでオレンジの援護を」

「オッケー!」

「分かりました」

「はい!」

三者三様の返事を聞くとすぐ実行する。

「獲物がさぁ、被ってんのよ!」

茜は敵に理不尽な怒りをぶつけつつ連続攻撃をし、優子は後方から怪人に銃撃する。

「僕等も、殺りますか」

薫はクラゲの方に駆け、敵の触手を横に飛んで避けながら敵本体に正確な射撃攻撃をする。
智もそれに続く。
ポリスリボルバーは弾込め作業が必要なので連続しては撃てないが、薫はその時間でも敵に反撃をさせない。

「大分動きが鈍ってきましたね、ブラックさん!」

「そうですね。じゃあ、そろそろ止めを刺しますか」

そう言って小型の何かを取り出す。

「それは?」

「爆弾です」

「え」

動きを止める智を無視し、ヒーローハンドボムのスイッチを入れて投げつける。
怪人はそれを避けずに受け止めてしまうが、その瞬間爆発が起こり、柔らかい何かが飛び散った。

「Aaaaa!」

「ちっ、まだ生きてますか」

身体を引きずって逃げる怪人に、薫は感情が篭っていない視線を送る。

「どちらにしろもう一発で死ぬでしょう。追いますよ」

「・・・は、はい」

智は怯えた様子で頷いた。

「二人とも。しばらくそれの相手を頼みます。すぐ片付けてきますから」

「任せて!」



智は薫と怪人を追いかけた。
手傷を負っている割に逃げ足が速い。

「どこかに隠れているのかもしれませんね」

「そうですね」

だとしたら、一体どこに?

体液は数箇所に飛び散っている。
こちらの目を欺こうとする策だろうか。

「右に行きましょう」

「何故です?」

「体液の線の太さがちょっと違うんです」

なるほど・・・。
ヒーローには観察眼も必要なのか。

辿り着いた先には怪人が壁を背にして立っていた。

「手間を掛けさせてくれましたね」

薫がヒーローハンドボムを取り出すが、智の目は怪人の近くに怪我をして倒れている女性を見つけてしまった。

「ブラックさん!怪人の近くに女の人が!」

「知ってますよ」

「だったら何故!人を守るのがヒーローの仕事なんじゃないですか!」

そのヒーローが何故!?

「多分死んでますから」

簡潔な答えだ。
確かに女性の顔色は蒼白である。

「それでも生きているかもしれないでしょう!?」

薫は数秒間考え、こう言った。

「なら、僕があの女性を怪人から引き離すついでに囮になります。貴方はその間に怪人に接近して、これを奴の身体に押し付けてきてください」

手に持ったハンドボムを見せられる。

「良いんですか?」

「貴方の手で倒したいとは思いませんか?貴方の同僚や部下を、無惨に殺した怪人達を」

その言葉に、智の復讐心が沸き立った。

佐藤、山田・・・、俺は!

「やらせてください!」

「なら、作戦開始です」

ハンドボムを手渡すとすぐに薫はヒーローガンを乱射しつつ、女性の元に向かう。
智もチャンスを逃さないように後に続く。

クラゲは動きが鈍っていて、薫に攻撃を当てられない。

今だ!

「怪人!」

確か、押し付けるんだったな!

智はハンドボムを怪人の中心部に強く押し付ける。
確かな手応えを感じた。

良し!
後はすぐ離れるだけだ!

先程薫が使った時は爆発するまで時間が有った筈なので大丈夫。
そう考えていた矢先に、彼の身体を閃光と高熱が襲った。



背中が焼けた女性の死体を投げ出す。
薫が考えていた通り、女性は既に死んでいた。
だから爆発の衝撃から身を守る為の盾として遠慮無く使わせて貰ったのだ。
最も、生きていたとしてもこの傷では長くなかっただろうからどちらにしろ盾にするつもりだったが。

「う・・・」

智の変身は解除されている。

こっちも、この分だと死にますね。

薫はヒーローハンドボムの使い方をわざと教えなかった。
スイッチを入れて強い衝撃が加わると爆発する仕組みだったが、それを利用して怪人と智の両方を同時に始末したのだ。

一石二鳥、ってとこですか。

「な、何故・・・?」

「別に貴方への恨みは無いんですけど、僕の保身の為に死んでくれるとありがたいです。後長官の命令ですから、恨むなら彼を恨んでくださいね」

「じゃ、じゃあ、今まで俺が信じてきたヒーローって・・・、何な・・・だ」

もう息も途切れ途切れの智に、薫はさらに追い討ちをする。

「そんな物ただの偶像です。ヒーローは人ではなく、主に社会体制を守る為に存在するんですよ」

「お、俺は・・・。佐藤・・・、山田・・・、きょう・・・か・・・」

最後に何を言ったかは分からないが、中村智の死亡を確認してから薫は茜達の援護に向かった。




指揮官用装備の機能である、味方の信号把握。
先程まではまだ自分、健、そして智の信号が輝いていた。
しかし今、二郎は智の反応が無くなった事を確認し大きく動揺してしまった。

「鈴木!どうした!」

「しっかりしろ!」

良二と健が彼を気遣って声を掛けるも、身体の方が反応しきれない。

「レッド!」

春美が前線の太陽を援護する為に怪人を狙撃するが、余り効果は無いようだ。
怪人は太陽を押し始める。

「ぬうぅっ!」

太陽も剣を握る手に力を入れるが分が悪い。
すると良二がランスを握って援護に向かった。

「田中!鈴木を頼む!」

「はい!」

健と二人になり、ようやく二郎は少し落ち着いた。

「さっきはどうしたんだよ!?」

二郎は言うべきか迷ったが、自分にはこのまま隠し続ける事は出来ないと判断して健に智の事を話す事にした。

「中村が、死んだ」

「・・・嘘、だろ?」

健は信じる事ができないようだが、二郎は逆に冷静になっていた。
自分以外の人間が慌てると冷静になると言うのは本当らしい。

「死んだんだ」

繰り返し言い聞かせると、健は喋るのを止めた。

「教官達の所に行こう・・・」

「・・・」

もう怪人対策課の現場担当で生きているのは自分達二人だけになってしまった。
健が嗚咽を堪えている事を、二郎は見ない振りをした。
自分も立て続けに起こった同僚の死に平常心を保てる保証が無かったからだ。



こいつ、今まで私達が戦ってきた怪人の中でもかなり強い部類ね。
その上レッドも動きが悪いし・・・。

春美は太陽が先程戦闘員を駆逐する時に銃撃をしなかったのではなく、できなかったのだと思った。
痩せ我慢をしているようだがそろそろ限界だろう。

薬、だったかしら。

「レッド、下がってなさい」

「なんだと!?自分はまだ戦える!」

反論されるが続けて話す。

「足手纏いなのよ。使えないヒーローに存在価値は無いわ」

「自分が、足手纏い?」

まだ話を聞くつもりは有るみたいね。
でももう余裕が無いのよ。

「うぉおおおっ!!」

こちらに向いていた怪人の注意を自分に向けようと、良二が大声を出して怪人をランスで攻撃する。
待ち構えていた怪人もその攻撃に槍を合わせる。
周囲に大きな音が響き渡った。

「教官!」

「これでも喰らえ!」

力では負ける良二だが、後方から飛び出た二郎がロングロッドを太刀のように振り下ろして敵の槍に当てる。
すると槍が僅かではあるが動き、その隙に健がポリスリボルバーを連射して怪人に当てる。

「ピンク!」

良二の意図は分かった。
自分に怪人を撃ち抜けというのだろう。

ブルーは、無理に自分で敵を倒そうとは思わないみたいね。
レッドと違ってそこは好感が持てるわ。

「了解!」

ライフルの狙撃形態で怪人の腹部を撃ち抜く。
そして、怪人はゆっくりと倒れた。

「・・・死んだ、よな?」

良二は恐々とランスの先で怪人を軽く突くが、それでも動かない事に安堵して息を吐く。
そしてこちらを振り向いた。

「なんとか、倒せたみたいだ。俺達も早くブラック達の援護に向かおう」

「そうね」

警察官二人の元気が無いが、今はブラック達の方が心配だ。
あちらは怪人が二体いるのだから。

「・・・!?ブルー!後ろだ!」

全員がチーム2の援護の為に踵を返した所、今まで黙って良二を見続けていた太陽が叫ぶ。

「えっ?」

良二が彼の後方を見ると、カブトムシ型の怪人が槍を横に構えて自分を薙ぎ払おうとしている光景が見えた。

「ぐあぁあああっ!」

良二は当たる前にブルーランスで受け流そうとしたが、それすら出来ずに攻撃を受けてしまう。
吹き飛んだ彼は立とうとしたが、その場に崩れ落ちた。

「きょ、教官――――ッ!」

二郎の叫び声が、虚しく響いた。




ガイアビートルは激痛に耐えていた。
腹に穴が開いているのだ、無事であるわけが無い。
しかし彼は死んだ振りという彼にとっては姑息な手段を使ってまで、敵を倒し続ける事を選択した。

ここで私は死ぬのだろうな・・・。
だが、青い奴は倒した!
他の奴等も、私が死ぬまでに道連れにしてくれる!


首尾良くクラゲ型怪人と智を始末した薫は、ヒーローハンドボムを弱ったクワガタムシ型の怪人に投げる。
すると爆発が起こり、怪人は瀕死になった。

「Guuuu...」

「まだ生きてるんだ」

「手負いの獣は危ないって言いますし、死ぬまで撃ち続けましょう。相手はクワガタムシですけどね」

それからチーム2の三人は、怪人が死ぬまでヒーローガンを相手の間合いの外から撃ち続けた。
反撃されず一方的に、効率良く。

「終わりましたね。黒澤さん、警察の方は?」

息を吐いた優子が尋ねる。
彼女も光から指令を受けただけに気になるのだろう。

「心配しなくても仕事はちゃんとやりましたよ。済んだ事よりもブルー達の援護に行きましょう」

「そうだね」

茜も同意し、三人はその場を後にする。
かつては戦闘員を使い捨てる事にすら躊躇していた優子も、今はすっかりヒーロー業務に慣れてしまった。
茜は元々どうでも良いと思った人間への関心は薄い。
薫に至っては語るまでも無い事である。
智が考えていたヒーロー像とは対極の位置にある彼等だが、これもまたヒーローの一面なのだ。



良二が意識を取り戻すと、左腕の肘から先の感覚が無かった。

「気がついたんですね」

「鈴木か・・・」

話し掛けて来る相手の声で判断し、返答する。
ふと左腕を見ると、変な方向に折れ曲がっていた。
状況が理解できるにつれて痛みが蘇る。

「・・・ッ!!」

叫びたくなったが我慢した。
ちっぽけではあるが良二にもプライドが有る。
教え子の前で情けない姿だけは晒せない。
既に充分情けないとも思ったが。

左腕だけじゃなくて、全身にがたがきてるみたいだな・・・。

「教官が負傷したのでここまで自分が運びました。今、ピンクさん達が怪人と戦っていますが分が悪いです。自分も、すぐに戻りますから」

淡々と会話を進める二郎の姿に、違和感を感じた。

この感じは・・・、ああ、そうか。
佐藤が死んだ時の俺の態度に似ているんだ。

勇太が死んだ時、良二は指揮官用装備の機能でそれを知ってしまい教え子達には健と合流するまでそのことを隠し続けた。
だとすると・・・。

「・・・中村か田中に、何か有ったのか?」

「!・・・中村です」

「そうか・・・」

中村まで・・・。

死んだ、とははっきり言えないのだろうが、二郎の態度で分かってしまう自分が悲しかった。

「こうしちゃいられない、俺も・・・」

「無理しないで下さい!教官の身体はボロボロなんですよ!?」

それについては反論できない。
だが、ただじっと待っているだけというのはできそうに無い。

「後方援護ぐらいならできる・・・!」

「教官・・・、すみません!」

二郎が突然良二に当身を喰らわせる。

「鈴木・・・」

「今の教官を戦わせれば死なせるだけです。自分にそれを見過ごす事は出来ません!」

駄目だ、段々意識が遠くなって行く・・・。

「これ、借りていきます。大丈夫ですよ、ちゃんと返しますから」

意識を失う直前に見た物は、二郎が自分のヒーローガンを持っていく姿だった。



「ああぁっ!」

二郎が戻ってきた頃には、太陽は既に気絶し、健もロングロッドを杖にしてなんとか立っている状態だった。
そしてたった今、春美が怪人に吹き飛ばされてしまった。

「Uuuuuuu!」

怪人も大分弱っているが、力尽きるまでにこちらが全滅してしまうだろう。
チーム2はまだ戻ってこない。

中村も死ぬほどの激戦に違いない・・・。
でも、このままだと皆が殺されてしまう。
だったら、ここで倒すしかない!

「田中!」

「な、何だ?」

「あの怪人を倒したい。手伝ってくれ!」

「でも、俺たちじゃ・・・。中村も死んじまったし・・・」

健は希望を失いつつある。

「諦めるな!」

「!」

「佐藤や山田、中村、それに部下達全員の死を無駄にするつもりか!?」

「・・・ああ、そうだよな、佐藤!」

勇太の名前を聞くと、健は気力を取り戻し始めた。

そうだ。
これ以上、自分は仲間を死なせたくない!

「守るんだ。街の人達を、教官を!」

「ああ!」



小賢しい。
ガイアビートルは目の前で抵抗してくる人間をそう感じた。

一対ニか・・・。
奴等の遠距離攻撃は、自分にとって効き目が薄いようだな。
なら、私の最後の戦い相手になって貰おう!

そして、槍を構えて敵の方に突進した。



「鈴木!リボルバーはあんまり効いていないみたいだぞ!」

「分かっている!」

決定打を与える為には接近する事が望ましいと分かっていた。
しかし、二郎の脳裏にはあの怪人に串刺しにされた部下の姿が思い浮かんでしまっていたのだ。
だから躊躇した。
その結果怪人にはまだ余力が残っており、自分達を殺しに来ている。

虎穴に入らずんば虎児を得ず、って言うよな!

蛮勇は良くないが、あまりに臆病過ぎるのも良くない。
後方の健の様子を見ると、とても満足に接近戦ができる状態ではなさそうだ。

自分が、やるしかないか・・・。

二郎は覚悟を決めた。

「田中!援護を頼む!」

「す、鈴木!」

二郎は右手にポリスロングロッド、左手にポリスリボルバーを持ち、ベルトの左側に良二から半ば強引に借りたヒーローガンを装着していた。

「うおぉおおおっ!!」

左手のリボルバーを健と共に連射する。
幾ら威力が高くないとは言え、決して無視できない射撃だ。
怪人は槍を振り回して防御する。

次だ!

二郎は撃ち尽くしたリボルバーを怪人に投げつけた。

どうせ弾を込める暇なんて無いんだ!

相手も攻撃手段を捨てるという行動に驚き、防御が遅れる。
その間に近接戦闘を挑むには充分な距離を稼げた。

これでっ!

そして、右手に持ったロングロッドを振り下ろす!




攻撃は、届いた筈だった。
なのにどうして怪人は倒れていないのだろう。
何故、ロングロッドが地面に転がっているのだろう。
そして、自分の右手がロングロッドを握ったままで―――。

「うあぁあああぁっ!!」

ロングロッドが振り下ろされる直前に、怪人は槍の穂先を素早く回転させて迎撃した。
結果、二郎の攻撃は届かずに彼の右腕が半分以上切り飛ばされてしまったのだ。
そして、至近距離からの一撃が二郎の右脇腹をごっそりと抉り取った。

「ぐ、はっ!!」

廉価版とはいえ、ヒーロースーツの防御力も通用しない。
マスクの中に、二郎は血を吐いてしまった。
バイザー部分が一部赤く染まる。
そのままゆっくりと、膝を着いた。

「よくも鈴木を!」

健が自らの疲れた身体に鞭を振るい、ロングロッドを振るうが彼も槍に薙ぎ払われて跳ね飛ばされ、気絶する。

「た、なか・・・」

怪人は意気揚々と立ち去ろうとするが、まだ二郎は死んでいなかった。
もうほとんど残されていないであろう力を振り絞って立ち上がり、ヒーローガンを怪人の槍に向かって撃つ。

「!」

彼の狙い通り、怪人は槍を落としてしまった。

自分は、ヒーローに憧れていた。

腹から血が噴出すのにも構わずに歩みを進める。

結局、自分は人を守る事ができる存在になれなかったけど。

頭部に殴打を受けてバイザーが割れ、左目に破片が突き刺さる。
しかし二郎の歩みは止まらない。

それでも、先に逝った部下や同僚達へ誇れる人間でありたい。

彼は遂に、怪人の眼前に辿り着いた。

「だからッ・・・!!」

自分は一人の警察官として、皆の安全を脅かす怪人を倒す!!

ヒーローガンを怪人の胸部近くに持ち上げ、零距離射撃を連射する。

「あぁあああああああああああッ!!」

怪人の攻撃を受けた部分が黒くなり始める。
二郎は、吼えた。
全てをここで終わらせるかのように。

「あぁあああああああああああッ!!」

怪人が痙攣し始める。
それでも、引き金を引く指を動かし続ける。

「ああぁっ!!」

最後に一際大きく痙攣してから、怪人の動きは完全に止まって崩れ落ちる。
それを確認した二郎の左手からヒーローガンが零れ落ち、彼自身も仰向けに倒れた。

「や・・・った・・・」

腹部からの出血は止まらない。



薫達が現場に着くと、戦闘は終わっていた。
ふと目を向けた方にカブトムシ型の怪人が死んでいて、そのすぐ傍に二郎が倒れていたので近寄った。

これはもう死にますね。

二郎の傷を見て、薫はそう判断した。
まず、助からないだろう。

「うっ・・・」

意識がまだ有るようなので、話しかける。

「大丈夫、じゃないですね」

「ブラック、さん・・・」

しかし、この人も運が無いですね。
中村さんを始末したからこの人まで殺す必要は無かったのですが。

「教官を・・・」

考えた所、二郎の左手が指し示す先に良二はいるらしい。

「ここまで連れてくれば良いんですね?」

「お願いします・・・」

薫は軽く息を吐き、優子に指示を出した。

「ブルーをここまで連れてきてくれませんか?もし意識が無いようなら叩き起こしても構いませんから」

「了解しました」

走っていく優子を見てから薬の準備をしていると、茜の方から何か言いたげな視線を感じたので振り向いた。

「どうしました?」

「んー、別に。珍しく甘いんだなって」

「どうせ助からないでしょうしね」

二郎の付近でそんな会話をする彼等からはやはりどこか冷たい印象を感じる。



良二が目を覚ますと、優子が立っていた。

「やっと目が覚めましたか。あんまり起きないものでしたからもう少しで蹴り飛ばす所でしたよ。さ、立ってください」

「・・・悪い」

優子の手を借りて立ち上がる。

まだ左腕は痛むな・・・。
グリーンが焦っていない所から見ると、戦闘は終わったんだろうか。

「早くした方が良いですよ。鈴木さん、虫の息です」

「何だって!?」

良二は、自分の身体の痛みも忘れて全速力で駆けた。

二郎の所へ着くと、酷い状態だということが分かった。
右腕と右脇腹が欠損し、左の眼球からも血が流れている。

どうして・・・。
何で、鈴木が、こんな。

「僕達はピンク達の介抱と、それが終わったら救急車を呼びますので」

「ああ・・・」

薫への返答も機械的になってしまった。
三人は気を遣ってくれたのか、離れていく。

「教官・・・。これ・・・」

二郎が残った左腕を上げ、ヒーローガンを良二に返した。

「ちゃんと、生きてる内に返せて良かった・・・」

「馬鹿野朗!まだ・・・!」

大丈夫、なんて気休めは言えない。
激しく動いたのか大量に出血している。
こうやって会話しているだけでも辛いに違いない。

「結局、自分達はヒーローに、なれません、でした・・・。教官達みたいに、上手く、いきませんね、ほん、とうに」

息も絶え絶えに話し続ける二郎の言葉を聞き、良二の目から涙が溢れた。

「ヒーローだよ!お前等の部下も!佐藤も!山田も!中村も!」

駄目だ、涙で二郎の顔が見えない。

「田中も!そしてお前も!!俺なんかよりも、ずっとヒーローだよ!」

涙を拭って二郎の顔を見ると、彼も泣いていた。
しかし、その顔には嬉しそうな笑みが浮かんでいた。

「だから、死ぬなよ!」

「きょう、・・・かん」

しばらく、良二は二郎の意識を繋ぎ止める為に怪人対策課との思い出を話し続けた。
無駄だと分かっていても、そうしたかったのだ。
二郎からの返答は無かったが、穏やかな様子で聞いてくれていた。
健との思い出を話していた所で、良二は二郎が呼吸をしていない事に気付いた。
何時の間にか彼の目は閉じられていたが、涙でそれが見えなかったのだ。

「・・・鈴木?なあ、起きろよ。なあ・・・」

脈に触れて、もう二郎が死んでしまったことを理解した。
そして良二は再び泣こうとしたが今度は涙が出なかった。
先程泣いてしまった為だろうか。
それでも、声を上げて泣き続けた。

「うあぁああぁっ!鈴木ーッ!!」

続く



閑話25
ガイアビートルの死により怪人達は大きく動揺していた。
特に、長を失ったガイア族は顕著である。

これで私が次の長か。
まあいいさ、『元』長殿が暴れてくれたお陰で拠点を作る事には成功したんだ。
後はじっくりこちらから戦力を移していけば良い。

「しかし、私の名前も変えなければならないな」

これからは、ガイアクイーンビーか。
早速混乱している一族を宥めてくるとしよう。




「怪人対策課は一人を残して壊滅、か」

報告書に目を通し、紅茶を啜る。

今回は被害も大きかったようだね。
生き残った警官も茫然自失といった状態のようだし、即刻新しい人員を手配しなくては。
戦闘員よりは、長持ちするんだけどね。
コストを掛けていない分強くも無いという点は少々困る。

太陽も最近では実戦で活躍できていない。
まるで強化する前に戻ったかのように、いや、さらに弱くなっているのではないかだろうか。

前線ではもう限界かな。
以前から計画していた試作マシンにでも乗せてみるか。
あくまでもサブパイロットとしてだが。

一人乗りの案を破棄し、複座式を正式採用する事にした。

それにしても、街を無駄に壊すような事がなくて良かったよ。
処分予定だった人間は二人纏めて消えてくれた事だし、今回は結果としてそう悪くはなかったね。
さて、海外に『派遣』する人工怪人の仕上げを指示しよう。

民間人の死も、警察官の殉職も、光には全く影響を及ぼさなかった。



警察病院に入院している健は、同僚達の事を思い出していた。
ここに運ばれた後に二郎までもが殉職した事を知り、自分が意識を失う前に見たものから覚悟はしていたがやはり悲しかった。

皆死んでいく。

見舞いに来た浩介に良二の容態を聞いたが、特に左腕の状態が酷いらしい。
でも、健は生きていてくれればそれでいいと思った。

俺は、一人になってしまった。

無論増員はされるだろう。
しかし、最初から一緒だった同僚達はもういない。
智と語った事も、良二以外が死んでしまった今は不可能になってしまった。

俺はこれから戦えるんだろうか。
警察官として、佐藤や鈴木みたいに。

自分が見捨てた形になった勇太と、自分の目の前で脇腹を抉られる二郎。
最後に見た彼らの姿が心の中に残り続けた。





[8464] 外伝 数ヶ月間とヒーローの歩み
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/08/25 06:57
薫の構えた火器から放たれる光が、動く標的を焼き尽くす。
標的は人間、いや、今は戦闘員と呼ばれていた。
既に戦闘には耐えられないと判断された個体はこうして最後まで有効活用される。
普通の人間を的にするよりも、戦闘は不可能とは言え身体を弄られて強化されているので、訓練になるし人道的でもある。

「新しい武器の調子は悪くないですね」

ブラックランチャーⅡ。
まだ開発中だが、破壊された旧型のデータを利用して性能を高め、今は性能実験の最中だった。
彼はさらに新しい機能を付加する為に近くに控えていた科学者と話し合った。

「連射性能とチャージにかかる時間が問題なのです」

「そうですね。威力は実際に使ってみて問題無いと分かったのですが」

薫は問題点を解決するために考え、あることを思いついた。

「バッテリー型戦闘員がいますよね」

「ええ」

「試作品だった旧型は直接戦闘員からチャージして威力を高めていましたが、それを効率的にするためにバッテリーパックを開発していただけませんか?」

あれだと現場にバッテリー型戦闘員がいないと使えませんし。

「そうですね・・・。他の武器にも転用できそうですし、やってみましょう。出力全開の砲撃一発が人一人分の命か・・・」

「人じゃなくて戦闘員ですよ」

「ああ、そうでしたね。これは失敬」

別に守るべき市民を犠牲にしているわけではないでしょうし、構わないでしょう。

「なるべく小型の物をお願いします」

ヒーロー達の武器開発は、時にこういう過程を辿りながらもにこやかに行われていた。



光は太陽を長官室に呼び寄せた。
ある決定を下すためである。

「失礼します」

「やあレッド」

太陽は若干緊張しているようだ。

「今日呼び出したのは、君が直接現場で戦闘することを止めてもらいたいからだ」

「!!」

元々コネで採用したヒーローだ、強化が切れてきた今となっては足手纏いだしね。

「ま、待ってください。自分は・・・」

「いや、何もクビとは言っていないよ」

父親の任期は切れたが、まだモルモットとしてなら使えるしね。

「新しくマシンを開発したのだが、それのパイロットが一人だけでね。彼と協力してマシンの担当をしてもらいたいんだ」

「それは、ロボットですか?」

そんな筈ないだろう。
運用も難しいし、手間が掛かる。

「違うよ。まあ、小型飛行機に分類されるね」



健と浩介は、新しく配属された新人達の教導を行っていた。
怪人対策課には新装備が支給され、新人達に扱い方を教える前に自分が使いこなさなければならない為、健も努力を強いられていた。

俺が、教官役か。
満足に教えられるといいが・・・。

基本装備は変わらないが、旧型より小型になって扱いやすくなったポリスシールドⅡと、ヒーローハンドボムの威力を落としたポリスハンドボムが全員に行き渡り、総隊長の健には至近距離での試作格闘装備としてポリストンファーが一対特別に支給された。
ヒーロー側は武器が決まっているので、警察でも一番実戦経験があるという理由でテストを頼まれたわけだ。

経験豊富と言うよりも、生き残っちまった、ってのが正しいんだろうな・・・。

生き残った事自体を悔やんだりはしない。
勇太のお陰で拾ったのだから。

俺が死ぬとしたら、何時なのだろう。

四人の同僚は二十五歳以下で死んだ。

「田中君」

浩介からスポーツ飲料を渡される。
ちょうど喉が渇いていたのでありがたい。

「警部・・・、すいません」

「あまり、思いつめないでくれ」

ドリンクを口に含み、吐こうとしていた弱音と一緒に飲み込む。

「大丈夫です。無駄死にはしませんよ。そんなことしたらあいつ等に叱られますって」

そういって彼は新人の指導に戻った。





良二は病室で目を閉じていた。
酷い状態であった左腕は幸いな事に、日々進歩していく医療技術のお陰でほとんど前と変わらない状態まで持っていけるらしく、少しのリハビリでほとんど前と同じ様に動かせるようになるらしい。
肋骨に入った皹も直す事ができた。

くっ・・・。

左腕を動かそうとしたがまだ動かず痛みが走る。
こうしている間にも仲間達は戦っていて、そう考えると自分がふがいない。

まだ、焦るなってことかな・・・。

見舞いに来てくれた健は、複雑な表情で自分が総隊長になったと報告してきた。
良二はその事について、そうか、とだけしか言わなかった。
祝福できるような経緯で就任したのではなく、おめでとう、などとは口が裂けても言わないつもりだった。
健も祝福されない事は分かりきっていたらしく静かに、はい、とだけ答えた。
その後新人への教導に関する注意点を聞いてきたので、良二自身が初期メンバー五人に教導していた時の心境を話した。
技術ならば既に身についていると思ったからである。
どこか納得した様子で帰ってもらえたので良かった。

窓の外を眺め、これまでにあった事を思い返す。

色々有ったなあ・・・。

そんなに長くもなく、短くもない。
それなのにヒーローになってからの出来事は、それが良い物であれそうでないものであれ、ほとんど印象に残るようななものばかりであった。
出会いと別れ。

あいつ今頃何してるんだろう・・・。

自分を殺そうとしていた清水隆。
次にあったら殺されそうなので、出来れば二度と会いたくはない。

それから、死んでしまった四人を思い出す。
その中でも未だに自分の目の前で死んでいった二郎の顔が忘れられない。
何処か満足していたような顔だった。

あいつは、死ぬ間際に何を考えていたんだろうか。
警察官として、そして人の命を守るヒーローとして。

自分はヒーローをやっているが、胸を張って自分がヒーローだと誇れる存在であるとは思っていない。
戦闘員を犠牲にして人の命を守るヒーロー、一見矛盾しているがそうではなく、戦闘員は人間にカテゴライズされていないので問題は無いのだ。
だが、あくまでも自分の中でしこりになっているだけである。

こうやって思い返してみると、ブラックからの影響が大きいよな・・・。

薫と初めて出会った時は礼儀正しい若者だと思っていた。
実際礼儀正しく、有能。
頼りない自分のフォローもしてくれて、自分の情けなさに目を瞑れば後輩としては得がたい人材と言える。

だが、たまに見せる冷酷な一面が恐ろしかった。
最初に良二の目の前で戦闘員の首輪を爆破した時も普段通りで、その後も色々有った。
日常生活ではそれなりに友好関係を築いていると自負しているが。

あいつも、あれさえなければ完璧なんだけどなあ・・・。

それでも良二は薫が嫌いではない。
寧ろ彼が冷酷でないと彼らしくない気が最近するのだ。
あの一面が寧ろある意味人間らしいとまで思っている。

あんまり完璧すぎてもそれはそれで怖いしな。

玉に傷どころか致命傷クラスの欠点だが、自分も欠点だらけの人間だ。
それに効率重視の彼は頼りになる。

なあブラック。
お前は何が有っても最後まで生き残れそうだから何時か言おうと思うけどさ、お前って本当に好きな人間はいるのか?

薫は以前、嫌いな人間はいないと言った。
それはいいが、同時にその事が怖い。
他人を嫌いになるのは、嫌いになる人間の中に自分が嫌っているその人自身の一面を見つけてしまうからだと良二は考えている。
清水隆の事はそんなに好きではないし、彼も自分を嫌っていたが、蜘蛛型怪人との戦闘を見るに彼自身もそんなに有能ではないと思った。
恐らく隆は、良二の弱さを見て無意識に憎んだのではないだろうか。
邪魔だった、という事もあるだろう。
だが、あそこまで自分に因縁をつけてきたのは何かそれ以外の根深い理由があった筈だ。
隆自身も気付く事ができないような。
問答無用で殺されるのは勘弁だが、もう少し話をしておいた方が良かったかもしれない。
そういう風に考えると、薫は他人にあまり関心がないので嫌いな人間はいないという事なのだろう。

嫌いじゃないって事は、おまえ自身にとってどうでもいいって事なんじゃないのか?

それは嫌われるよりも恐ろしい。
薫は、見せしめとして犯罪者を殺した事が有る。
あの犯罪者は彼にとってどうでもいいからああなったのだろう。
そして、大部分の人間は彼にとってどうでもいい存在なのだと良二は考えてしまった。

嫌われる方が、まだマシかな。
それはそれで物凄く怖いけど。



時系列は二十五話と二十六話の間です。



[8464] 第二十六話 数ヵ月後
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/08/25 06:48
第二十六話

良二の身体が完治するまでの数ヶ月間で、遂に怪人の魔手が国内だけでなく海外にまで伸びていた。
それらの怪人達はいずれも異様な姿で、襲撃回数や一度に攻めてくる数そのものは少なかったものの怪人の脅威に晒された事が無かった人々の驚きは相当な物だった。
今の所海外では軍が迎撃を担当しているが、何時まで持つか分からない。
国内での怪人の襲撃はますます盛んになっている。

レッドも前線を退いちまったしなぁ・・・。

太陽は一時的に前線を退き、その分の負担が良二を除く五人にかかっている。

早く、戦いたい。
何もしていないと鈴木達の事を考えてしまう。

現時点の良二には、余裕が無かった。
退院は迫っている。






光は海外へ『派遣』した人口怪人のデータを見ていた。

「で、取引材料の量産型ヒーロースーツは用意できているのかい?」

「はい。向こう側の取引材料によって渡す数は違ってきますが」

「向こうも単なる防衛でなく、軍事転用しようと考えているだろうが、そうできないようにしてあるね?」

自分達で外国に怪人を嗾け、それの対抗手段を売りつけて代価を得る。
下手に追跡などされないように送り込んである協力者の存在もそれを後押ししていた。

「ヒーローの増員の方は、自衛隊からは得られませんでした。しかし代わりに丁度優秀な人材が見つかっています。また自衛隊の方にもヒーロー装備の量産化が本格化したら配給する事を条件に更なる協力体制を確立しました」

「ほう。で、名前は?」

「金井瞬です。ブラックの高校時代の同級生とか」

黒澤君の?

「よし、彼の適性をテストしたいから後日呼んでくれたまえ」

扱いやすい人物なら良いんだがね。



健は街に現れた怪人達と戦っていた。
周りにいる新人をフォローしつつ、自分にも被害を出さないのは大変な事だった。

「うわぁっ!」

新人の一人が敵戦闘員に一撃を受けそうなのを見て、素早くポリスリボルバーで対処する。
撃たれた戦闘員は絶命した。

「立てるな!?」

「はい!」

部下の無事を確認して戦闘を続行する。
しばらく戦っていると三人のヒーローと多くの戦闘員がやってきて怪人を駆逐し始めた。
戦局は一気に人間優勢となる。

「す、凄い・・・」

指示を出して味方の戦闘員を盾にする優子、敵陣に穴を開けるように強力な砲撃を正確に放ちながら進む薫、そして薫が砲撃に専念できるように双剣で接近する敵を切り裂く茜。

新人達はヒーローの圧倒的な戦いに心を奪われる。
健もその光景には微かに憧れを抱くが、今はそれよりも大事な事が有る。

「俺達も自分の仕事をするぞ!」

そうだ、俺達は警察官。
ヒーローじゃない。

大分戦闘員の数が減った時、傷ついた怪人がこちらに向かってきた。
ポリスシールドⅡを左手に持ち、右手にポリスロングロッドを構える。
片手でも充分戦えるのだ。

この程度なら!

狸型の怪人は太い尾を振って攻撃するがそれを盾で受け、ロングロッドを突き出して怪人の右目を奪う。

「Gyaaaaa!」

五月蝿い!
佐藤も、山田も、中村も、鈴木も、皆お前達が攻めてきたせいで死んだんだ!

「お前達がいなければ!」

盾を捨ててロングロッドを両腕で握り、更に追い討ちをする。
骨の砕ける感触が伝わった。
とても、嫌な感覚だ。

「Aaaaa!」

「しまった!」

少しの躊躇が危機を招く。
怪人は全力で健の武器を叩き落し、そのままの勢いで健を殴りつける。

「ぐっ!」

形勢逆転、しかしその直後、怪人の後方から黒いシルエットが高速で自分の方に向かってきて怪人の頭部に蹴りを叩き込んだ。

「Gya!」

そんな勢いの蹴りを喰らった怪人は当然無事ではなく、首が曲がって倒れた。
その後黒い影、薫はヒーローロッドを抜いて怪人の頭部を完全に破壊するまで殴り続けた。

「ブラックさん・・・」

「こっちは片付きましたね。僕は戦闘員を始末してくるので」

薫は健に見向きもせず、用は済んだとばかりに戦闘員の駆逐に戻った。
たった今怪人を始末した一連の行動を何でも無い事の様に振舞われ、健は自分の非力さを憎んだ。

やっぱり、俺はヒーローになれないのか?
皆の意志を継ぐ事は、出来ないのか?




襲って来た怪人達を首尾良く始末し終え、茜は機嫌が良かった。
薫の方を見ると、誰かと電話で話しているようである。

「ピンクの方も片付きましたか。え、今夜ですか?構いませんが・・・」

そこで通話の相手が春美だと分かると、彼女の機嫌は一気に悪くなった。

またピンク?
この数ヶ月間で何回目になるの。

通話を終えた薫は茜と優子の方に歩いてきて、現場は警察に任せる旨を告げた。

「じゃあ、今日はこれで」

「あ、薫!」

声を掛けられた薫は振り向き、茜と目が合った。
にこやかではあるが、感情が読めない。

「どうしました?」

「今夜もピンクの愚痴を聞きに行くの?」

「ええ。向こうも吐き出せる人間がいないのかストレスが溜まっているみたいで。レッドは纏め役になっていませんしね。ピンクもドライですが人間でしょうし」

愚痴聞くぐらいで済んでればいいけど。

薫が去った後、優子は呟いた。

「良いんですか、黒澤さんの事」

「優子さんに言われるほどの事じゃないけど・・・」

何となく、あの女気に入らないのよねぇ。
向こうもアタシの事嫌ってそうだけどさ。

「邪魔よね」

特に大きな声を出したつもりは無いが、不思議とその一単語だけは良く響いた。




フレイムレオンは他三人の長を集め、拠点の成功について話していた。

「今の所、拠点は上手く機能しているようじゃの」

「それぞれの種族から徐々に送り込んでいるから、そう遠くないうちに大規模な攻撃が可能になるわね」

ガイアビートルが欠けたが、その代わりをガイアクイーンビーが良く務めている。
先頭に向いていない家族も拠点に連れて行き、そこで養う者も出始めた。

「こうやって徐々に我々の居場所を増やせると良いのだがね」

「敵も手強いですがね」

ガイアビートルよ、お主の犠牲は無駄にせぬ。



良二は光に退院の報告をしていた。

「暫定的にだが、君はチーム1へ所属してもらう。新しいリーダーはピンクなので、そこに注意してもらいたい」

レッド、リーダー降ろされたのか・・・。

「レッドはどうなったんです?」

「別任務に就いてもらっている」

そこでも迷惑掛けてないといいけど・・・。

「分かりました。失礼します」

扉を開けてしばらく歩くと、きいろが待っていた。

「イエロー・・・」

「久しぶりに一緒に戦う事になるね。お帰りなさい」

「ああ」

二郎達は健以外死んでしまったが、まだ自分達ヒーローは誰も死んでいない。
それが良二のせめてもの救いである。

怪人との戦いが終わるまで、皆は死なないでくれよ。
死ぬとしたら多分俺が最初だろうけど、皆が傷つく所を見ないで済むならそれも良いかな。
でも、俺が死んだら家族にも心配掛けるだろうな。

隣を歩いているきいろを横目で見る。

チーム2はブラックがいるから大丈夫だろうけど、ピンクとイエローは無理してないだろうな。
この数ヶ月ほとんど二人でやっていたんだろうし。

「ブルーは、この後どうするの?」

「カブトムシ型怪人との戦いでブルーランスが壊れたから、代わりの武器を試そうと思っている」

良二はブルーランスを気に入っていたが、壊れてしまった物は仕方が無い。
代わりの武器が早く馴染んでくれる事を祈るだけだ。

あそこでランスを攻撃に割り込ませなければ、もっと重症だったろうしな。

怪人の攻撃を喰らわなければ、その後二郎と一緒に戦えていたら、負傷しなかったなら。
仮定ではあるが二郎が死ななかった可能性も有ったかもしれない。
それも全て、済んでしまった事だ。
結果は変える事が出来ない。
これから自分にできる事は二郎達の分まで戦うだけだ。
後悔は数ヶ月間、たっぷり病院のベッドの中でしてきた。

行くか!

良二は、彼なりに遅くても一歩ずつ進んでいる。




春美の愚痴を聞くのは、この数ヶ月で何回目になるだろうか。
チーム1が三人だった時も実質彼女が纏め役立ったのだから、特に怪人の襲撃が激しかったこの数ヶ月は相当疲れていたのだろう。
たった二人で(戦闘員もいたが人間としてカウントしない)戦っていたのだから。

「・・・ブラック。聞いているの?」

「ええ、ちゃんと聞いていますよ」

イエローにはあまり負担を掛けたくない様だし、他の女性とはそこまでの話をするほどの仲ではない。
また男もブルーでは頼りないと思ったらしく、必然的に自分が選ばれてしまうわけだ。
ちなみに太陽は論外である。

それにしても、もう少し手間が掛かると思いましたが案外そうでも無かったですね。

深い関係にはなっていないが、この数ヶ月間で彼女の好感度を大きく稼ぐ事ができた。
それぞれチームを束ねている立場というのがやはり決め手になったらしい。

後は、茜ですか。

別に彼女の事をないがしろにしているわけではないが、やはり春美の方に時間を割かれるのが不満らしい。
自分はそれを分かってやっているが、別に茜に秘密で会っているわけではないし、後ろ暗い事もまだしていないのだから薫に引け目は無い。

束縛されるのはあまり好きではないんですけど、しょうがないでしょうね。

今度時間がある時は茜の為に時間を使おうと思った。
ぎりぎり爆発するポイントを見計らって行動する事が重要だと思う。



長官室をノックする音がした。

「入りたまえ」

「失礼します」

彼が、金井瞬か。

光は改めて目の前の男を観察した。
第一印象は可もなく不可もなくと言った所だ。

「経歴自体は問題無いね。後は、少し実技テストを受けてもらってその結果が良好なら採用という事になるが、いいかな?」

「はい」

少し表情が乏しいが、そこは問題にならないだろう。
彼が使えるかそうでないかだ。
光は少し聞きたかった事が有ったので質問する事にした。

「よし、もう少ししたら始めよう。それと、君の知り合いに黒澤薫という人物はいるかね?」

薫の名前を聞いた時、初めて瞬の顔に表情が浮かんだ。
怪訝そうな表情である。

「君の履歴書を見せてもらった所、彼と高校が同じで年も同じじゃないか。何か関係が有ると思ったのでね」

「知っているんですか、あいつを」

低く呟いた声は室内に響いた。

「彼はヒーロー。ブラックだよ」

黒澤君は、マスコミへの露出が少ないからね。
知らないのも無理ないか。

「さっきの質問の答えがまだでしたっけね。ええ、知っていますよ。それも良くね」

瞬の顔には、少しではあるが歪んだ笑みが浮かんでいた。

ほう、良い顔しているじゃないか。
黒澤君も何をしたんだろうね。

彼等の関係には興味が無いが、いざ薫を切らなくてはならなくなった時の駒に使えるかもしれない。
斉藤医師から薬を使ったと証言されても、完全に疑いを捨てたわけではないのである。
人間は、まず疑う事から始まるのだ。

「それで、実技テストとは?」

「簡単だよ。戦闘員と戦ってもらう。ああ、殺しても大丈夫だよ」

「分かりました」

「ああ、ついでに言っておくが、黒澤君は何の躊躇いも無く戦闘員を壊すよ」

光の言葉を聞くと、瞬は笑みで答えた。
自分も躊躇いは無いと言う事なのだろう。




地下の実験場で、金色のヒーロースーツに身を包んだ瞬は戦闘員数体を破壊した。
彼自身が言ったとおり全く躊躇が無い。

なかなか使えそうじゃないか。
今までのヒーローの時は選抜だったが、今度の彼も悪くないね。

「そこまで」

指示が出ると、瞬は光の所に戻ってきた。

「おめでとう。今日から君もヒーローだよ、ゴールド」

ヒーローのナンバー8、ゴールドを新たに迎える事にあたり、色々説明をしていく。
戦闘員が元々人間だった事も話した。

「へぇ。それがどうかしましたか?」

罪の意識などは全く感じていない様子なのでこちらとしてもやりやすい。

「・・・以上だ。ヒーロー達には後で私から紹介する」

「じゃあ、失礼します」

そう言い残し、瞬は帰っていった。

これからも『平和』の為に働いてくれよ、ゴールド?

続く




閑話26

思わぬ所で懐かしい名前を聞いたものだ。

黒澤か・・・。
まさか奴と同じ職場で働く事になるとはね。

高校時代、瞬と薫は同級生であった。
同じクラスになったのは高三の一年間だけだが、それ以前も名前は知っていた。
最初に見た時から、何となくではあるが気に入らなかった。
一種の同族嫌悪なのだろう、後に振り返ってみると、瞬にも薫と似た嫌な一面があったのだから。
そして、自分よりも薫の能力の方が上だと分かるまで因縁をつけたりもしたのだ。
単なる優等生かと思ったが、何回目かの勝負を挑んだ時に一瞬、薫が自分を無機物でも見るような目で見た事を瞬は見逃さなかった。
あれは、人間に向ける目ではない。
見下されているのだと思った。

そうだ、あの目が俺の心から離れない。

薫の方から直接暴力に訴えるような事は無かったが、いっその事そうされた方がどれほどましであったか。
誰に聞いたのかは知らないが、いいな、と思っていた女の子も、自分が告白する前に奪われてしまった。
薫の方から口説いたのか、それともその子の方から告白したのかは今でも分からない。
友人も瞬から離れて薫の方へ集まっていった。
その中には自分が親友だと思っていた人間もおり、好きだった子の事も彼から聞いたのだろう。
瞬は、その親友によく相談をしていた。


器が小さいって他人は思うだろう。
ああ、分かっているさ。
最初に喧嘩を売ったのは俺だからな・・・。
だけど、あの一言だけは許せなかった。


ある日、瞬は薫と二人になった時に暴力を振るった。
薫も避けようとしていたようだが、瞬の拳が彼の顔を捉えたのだ。
あの時の瞬は、おかしかった。
精神の方はとっくにまいっていたのだろう。
教室での孤独が、それを後押しした。
殴った瞬間の高揚感は今でも覚えている。
そしてその後の絶望感も。

『これからする事は、正当防衛ですからね』

血が混じった唾を地面に吐いた後の薫の第一声が、それだった。
喧嘩なんかした事が無いと思って、相手を見縊っていたのだ。
瞬も体力にはかなり自信が有り、喧嘩でも負けた事は無かった。
だが、一方的に叩きのめされた。
ボディだけを重点的に狙ってきた所を見るに、証拠が見つかりにくいようにする事には慣れていたのだろう。
瞬が胃の中の物を吐き出しても、薫は止めなかった。
倒れかけても襟を捕まれ蹴られ続けた。
そして瞬が自分の吐瀉物に顔を押し付けられるまでそれは続けられ、起き上がったところ汚物まみれの顔を携帯で撮られた。


『もうよしましょうよ。お互い内申は大事でしょう?』

薫にとっては自分との喧嘩より、内申書の方が大事なのだろう。
いかにも降りかかる火の粉を払っただけ、という態度だった。
事実そうなのだろう。
用が済むや否や踵を返そうとしていたのだから。

『まだだ・・・!』

瞬が薫のズボンの裾を掴むと、薫は溜め息をついて瞬の手を蹴り飛ばした。

『いぎぃっ!』

汚い物に触れられたかのようにズボンの汚れを手で落とした後、彼はこう言ったのだ。

『やめてくださいよ。本気で喧嘩したら、貴方が僕に敵う筈ないってことが分からないんですか?』

心底呆れたような顔をしていた。
自信を打ち砕かれ、それ以来瞬は薫と高校を卒業するまで一言も喋らなかった。
向こうからも関わってくる事はなく、会話のきっかけすら無かったのだ。
好きだった女の子と薫は高校卒業時に別れたようだった。

あいつに関わってからだよなぁ、俺がおかしくなったのは。

自業自得である事は分かっていた。
だが、薫に勝ちたかったのだ。
何でもいい、何か一つだけでいい。

黒澤、今度はお前に俺の存在を認めさせてやる。
俺もあれから成長したって言う事を教えてやるよ。



[8464] 第二十七話 再会
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/08/25 06:52
第二十七話

「新メンバー?」

ってことは、八人目になるわけか。
だんだん増えてきたなぁ。
でも、今はレッドが離脱しているからちょうどいいかもしれない。

ヒーローが集められたところ、光から新メンバーの話があった。
ゴールドを追加し、その名前は金井瞬というらしい。
良二にとっては仲間が増えた、程度の感想しかなかったが。

「金井瞬です。よろしく」

瞬は、特に何をするわけでもなく薫の方を見ていた。

「ゴールドにはチーム2に入ってもらおう。頼むよ、黒澤君」

どうやら人数が三人だったチーム2の方へ配属されるようだ。
それを聞いた時、瞬は僅かだが笑みを浮かべていた。

「では、これで解散とする。ゴールドは黒澤君の話を聞くように」

それだけを言うと、光は足早に去って行った。

「私達は私達の仕事をしましょうか」

春美に声を掛けられ、それに従う。
良二は現在チーム1にいるからだ。

「ああ」

ゴールドか。
良好な人間関係が築ければいいんだけどな。



数年ぶりに、目の前の男を見た瞬は軽く興奮していた。

相変わらず女には困っていないようだな・・・。

この時点で初めて、薫の周りに二人の女性がいる事に気がついた。
薫以外目に入っていなかった、ということだ。

「俺の事を覚えているか?」

まだるっこしいのは嫌いだ。
ここはいきなり本題から入る事にしよう。

「ええ」

そうだ、忘れていてもらっては困る。

「高校卒業以来だな、黒澤」

「そうですね」

「まあ、昔話は後日にするとして、今日はヒーローの仕事についてだ。長官が言っていたように教えてもらいたい」

黒澤に教えを請う、なんて普段なら御免だが今は我慢だ。
つまらないことで本当の目的を見失ってはいけない!

「分かりました」

それから、茜と優子も含むチーム2全員による瞬へのヒーロー業務に関する注意事項が話された。

「分かった。黒澤、また後で話そう」

別に復讐がしたいわけじゃない。
あの時は俺が悪かったからな。
ただ、見返してやりたいだけだ!



瞬が去った後、茜が話しかけてきた。

「ねぇ薫。アレが前に言っていた金なんとか?」

「そうでしょうね。高校卒業以来って言っていましたし」

薫は瞬の事をほとんど忘れていた。
記憶を掘り起こして金井瞬の当時の様子を思い出し、汚物まみれの彼の顔が思い浮かんだ。

ああ、アレですか。
まだ画像残っていますかね。

次に絡んできた時の為に、一応彼の情けない写真を撮影しておいたが、幸か不幸かそれが使われることはなかった。

「大丈夫?なんか考えてそうだったけど」

「用心はしますよ」

なんだかんだ言って、瞬の能力は高い。
だから二度と歯向かって来ないように潰したつもりだが、思ったよりしぶとかったようだ。
あれだけの事をすればもう関わりたくないと思う筈だが。

それにしても、事務的な会話と相槌だけで会話って成立するんですね。
こちらから話しかけなければ、ですが。

まだあまり瞬の事を思い出せていなかったので、彼との会話は適当にそれらしい相槌をうって凌いだ。
それでなんとかなるのだから、結構な事だ。




春美ときいろとの会話を終えた良二は、新しい武器を使いこなす為の練習をする為にトレーニングルームへと向かった。
実戦でのぶっつけ本番というのは物凄く不安だし、問題外だからだ。
それになるべく早く手に馴染ませておきたい。
それが生死を分けるポイントになるのだ。

ん、あれは・・・?

どうやら先客がいるようだ。
集中力を途切れさせるのも悪いし、しばらく見ている事にする。

ゴールドか、加入してきたばかりなのに真面目だな。

そうしていると、瞬もこちらに気がついたようだ。
そのままというわけにもいかないので挨拶する事にする。

「ゴールド、お邪魔するぞ」

「・・・ご自由に」

すると少し良二の方を見て、また鍛錬に戻ってしまった。
会話が続かない。

ヒーローロッドの訓練か。
まだゴールド専用の武装はないのかな。
まあ、俺も今は自分の訓練をするか。

ブルーランスⅡ。
片手で扱えるやや短めの槍で、突くのも薙ぎ払うのにも使用可能な物が二つ。
更に連結して威力とリーチ重視の形態にもなる。

一対多数の格闘戦向きだな・・・。
俺自信の戦闘能力は低めだし、サポート用のこういう武器がいい。
多くの戦闘員を俺が相手にすれば、その間に怪人と戦うメンバーを多めに割り振れる。
自分の命ぐらいは守れるようにしないとな・・・。
人を助ける側のヒーローが真っ先に死んでたらどうしようもない。

ブルーランスⅡの一本自体はやや短めとは言え、ヒーローロッドよりもリーチはある。
しかし、強度はヒーローロッドの方が上だ。
連結機能を付加した結果、旧型のブルーランスより剛性に劣るが普通に使用していれば問題はないらしい。
ただし、ランスで馬鹿正直に敵の攻撃を受けないよう注意された。
受け流すことで防御しろと言う事だ。

それに、これならちょっと狭い場所でも連結しなければ使えるしな。

旧型は少し狭い場所での取り回しに劣っていた。

「ふう・・・」

ランスの訓練を終えると、今度は瞬がこちらを見ていた。

「あー、なんか変だったか?」

「いや、別に。それがブルーの専用武器か、と」

普通にタメ口だよ・・・。
まあ、俺に威厳が無い事なんて百も承知だけどな!

少しだけ悲しくなった。

ブラックとグリーンは一応敬語使ってくれるから少し嬉しいよ。
あ、イエローとかピンクとかオレンジとかは別にタメ口でも構わないぞ。

女性にはやや甘い良二だった。

「そうだよ。ゴールドは、まだ無いのか?」

「そのうち支給されるんじゃ?」

いや、疑問系で聞かれても・・・。

しかし、男同士なのに会話が続かないな・・・。
レッドは向こうからガンガン話題振ってくるし、ブラックは聞き上手だったから今までこういう事では困らなかったけど、やっぱり俺の会話スキルって低いんだろうか。

「そ、そうか。ところで、ゴールドって年はいくつだ?」

まず、無難な所から始めよう。

「・・・二十二歳。それが?」

こいつも、年下か。
レッドって何歳だったかな・・・。

年長なのに、このままではヒーローで最下層のレベルになってしまう恐れがある。
とっくにそうじゃないかと言う突っ込みはやめて欲しい。

「いや。ブラックと同じだなって」

「知ってる」

「え、そうなの?」

何時の間にそんな会話を。

「じゃ、俺はもう行くんで」

「あ、うん。またな」

あんまり話が出来なかったな・・・。
でも、俺よりも年下の人間が皆まともにヒーローやってるんだ。
俺も負けないように頑張らないと!




しばらくトレーニングをしていると、薫がやってきた。

「よ、よぉ」

以前に暴走族を戦闘員にする事に賛成しなかった時に凄く冷たい声で電話を切られて、それから碌に話していなかったので咄嗟に単語が出てこない。
まだ根に持っていないといいが。

「トレーニングですか」

どうやら杞憂だったようで、表面上は普通だ。
裏では何を考えているか分からないが。

「ああ。そうだ、さっきゴールドがお前の来る前に出て行ったんだけどな、お前と同い年って事知ってるか?」

「ええ。それがどうかしましたか?」

「いいや、別に」

そのままランスの訓練を続けていると、薫が声を掛けてきた。

「身体、大丈夫そうですね」

「お、分かるか?斉藤先生からもそう言われたんだけど、まだ不安でさ」

実戦にも出られそうなのだ。
次が復帰戦という事になる。

「心配、してくれるのか?」

「多少は」

ブラックらしいな。

「斉藤先生ねぇ・・・」

薫が小声で何か呟いたが、はっきりとは聞き取れなかった。

「ん、どうした?」

「いえ、お大事に」

そう言うと、薫は踵を返しトレーニングルームから出て行った。

あいつ、何しに来たんだ?



病院の一室をノックする。

「どうぞ」

「失礼します」

ドアを開けた自分の顔を見て、とても嫌そうな表情をした斉藤医師の顔がおかしかったので薫は微笑を浮かべた。
その笑みも、斉藤医師にとっては己を喰らわんとする捕食者のそれに見えるであろう。

「君か・・・。今日は何をしに来たんだ」

「ブルーが完治したようなので、ちょっとカルテを見せてもらうついでに先生の話を聞きたいなと。ついでにゴールドのデータを見せてもらいに来ました」

「守秘義務が・・・!」

何か文句を言われる前に、携帯を開いて斉藤医師の家族の写真を見せつける。
以前見せた物とはまた別の物だ。

「・・・分かった」

そうそう。
そうやって最初から素直にしていればいいんです。

渡されたカルテには特に変な物は見当たらない。
最も、改竄されていなければであるが。

「ねえ、先生。ブルーの身体、弄ってませんよね」

弄られてたらそれはそれで構いませんが、なるべくならそうでない方が良いですからね。

「ああ・・・」

一応家族を人質にしているので、そうそう馬鹿な事はしないと思うが、念には念を、という事だ。

「ゴールドのデータも貰っていきますね」

「好きにしてくれ・・・」

早い所彼についての情報を把握しないと。

「それと最後にもう一つ」

「まだ有るのか・・・」

「この前僕に返り討ちにされた看護師さん、どうしてます?」

「まだ入院してるよ」

なんだ、まだ生きてたんですか。
まあいいです。
それは先生になんとかして責任を取ってもらいましょう。

「病死に見せかけて殺してください」

「!」

もう一人は僕の方で黙らせておきましょう。

「君は、どうしてそこまで!」

「いいじゃないですか。どうせもう回復する見込みは無いんでしょう?だったら、いっその事楽にしてあげるというのが慈悲というものです。それに、元はと言えば貴方達が先に仕掛けた事ですよ」

拒否権が無い事は分かっているのに、どうしてこう物分りが悪いんでしょうね。
仕方ない、後押しをしてあげますか。

「先生。赤の他人と自分の家族、どちらが大切ですか?簡単ですよね」

「分かった・・・」

自分にとって優先順位が高い物を優先するのは、人間として当然な事なんですからそんな泣きそうな顔しないでもいいのに。
僕を殺そうとしていた時は明確な殺意が有ったんでしょう?
こんな事ぐらいで躊躇うなんて。

続く





閑話27

「これが俺の専用武器か・・・」

トレーニングが終わった後、光から科学研究班に行くよう指示された瞬は彼の専用武器を支給された。
ゴールドサブマシンガン。
薫のブラックランチャーⅡが威力を重視するなら、こちらは手数と扱いやすさが売りで、バッテリーパックの使用により威力と連射力が向上する優れものだ。

黒澤と俺とは、求められる役割が違うって事か。
それならそれでいい。

瞬は一通りだが近接戦、遠距離戦両方に対応できる。
チーム2には遠距離、近距離、防御担当者が揃っているので空いている距離を担当しろ、と言う事なのだろう。

実戦に出たら、黒澤の足を引っ張る事だけはしない。
そんな事をして怪人に負けたら元も子も無いからな。

一応だが、怪人との戦いで何を優先するべきかという分別はついている。



ゴールドの運用データ次第で、今後が決まるね。

光は新しく量産する予定のヒーロースーツ用武器を決めていた。
サブマシンガンなら多少技量が低くても扱えるし、一般兵用には丁度いい。
まだ時期尚早なので発表はしないが、人工怪人の脅威を広めると共にヒーローの勢力も強めていく。
人々はヒーロー無しでは生きていく事さえ困難になり、ますます救いを求めるようになる。
そして、ヒーローの実権は政府ではなく自分が握る。

さて、次は人工怪人にどこを襲わせようか。



薄暗い部屋で、薫は目の前で泣き喚く看護師を数人の男と眺めていた。
男達の中には警察の特殊部隊にいた者もいる。
その他、見るからに堅気でない人物も複数。

「やめて!私が何をしたって言うの!?」

皆そう言いますね。
自分が無垢な善人だと言うつもりですか?

「泣けば済むとでも思っているんですか。心当たりはあるでしょう?」

「ブラックさん、どうします?」

「あれは僕を殺そうとしていましたからね。最終的にこちらの言う事に反抗する気が無くなるまでたっぷりと可愛がってあげる事にしましょう」

薫は既に相手を物扱いしており、危害を加えるつもり満々だ。
周りの男達も下卑た笑みを浮かべながら看護師ににじり寄る。

「なるべく跡が残らないようにしましょう」

「分かってますって!」

斉藤先生だけが病院内での駒というのも戦力不足ですし、ここら辺でもう少し駒を増やしておきましょう。

「貴方、それでもヒーローなの!?」

「そのヒーローを殺そうとしていたくせに。黙って殺されていろと?」

「そうよ!貴方は社会の癌だわ!」

自分の立場が分かっていないみたいですね。
癌、ですか。
ならそれらしく振舞わせてもらいますよ。

「酷いですね。まあ、自分が善人では無い事は知っていますが」

薫は手を前に振って男達の『おあずけ』を解く。

「あんまりやりすぎないように。人間は結構簡単に壊れてしまいますから」

造花と違って、生花がすぐ駄目になるようにね。

助けを求める看護師の声を無視して薫は部屋を出た。
茜との待ち合わせが有る。
彼女との用事が終わる頃に事は済んでいるだろう。

ヒーローは、自分の救おうと思った人間しか救わないんですよ。
残念ですが貴女はその範囲外です。
今度からは大人しく言う事を聞いてくださいね。
でも、貴女は『今度』があるだけ幸せですよ。
もう一人にはそれすら無いんですから。

黒澤薫は、これでもヒーローである。



[8464] 第二十八話 金色の初陣
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/08/25 06:55
第二十八話

『怪人が複数出現しました!現在、怪人対策課が対処に向かっています!ヒーローの皆さんも至急出動願います!」

オペレーターの通信を聞き、良二は多少緊張していた。
これが復帰してから初の実戦になる。
仲間の足手纏いにならないようにしないと。

お、ゴールドじゃないか。
そういえばあいつも初陣だったな。

瞬を見かけたので、声を掛ける。

「よ、ゴールド」

「ブルーか。何?」

さほど緊張しているようには見えない。

「いやな、ゴールドは初陣だろ?大丈夫かなって」

「大丈夫じゃないように見えるか?」

いや、全然。

「俺の初陣の時よりよっぽどしっかりしてるよ」

瞬はしばらく黙っていたが、少し口元を緩めた。

「あんた、普通だな」

「・・・意味合いによっては怒るぞ」

ゴールドにまで普通って言われたよ・・・。

自分にはやはり威厳が無いのだろうか。

「普通に良い奴って意味だよ。黒澤は最低限事務的な事しか言ってくれなかったからな」

「・・・まあ、ブラックもあれで結構良い奴だぞ、多分。頼りになるから、安心していいと思う」

ブラック・・・。
お前さぁ、せめてもう少し気遣ってやれよな・・・。

「良い奴ねぇ・・・。今回は一箇所に纏まってるらしいな。行こうぜ、先輩」

「・・・ああ!」

口調はまだ荒っぽいけど、少しは認めてもらったのかな。




今回の人口怪人の襲撃は、主に瞬のサブマシンガンの性能実験が目的だ。
今後量産される主力武器として人工怪人に充分な成果を示せば、外国はこぞって手に入れようとするだろう。
現在裏ルートで取引しているのはポリスリボルバーと同程度の性能だ。
無論こちら側に都合がいいように進めるが、テロリストに横流しして対立国の治安を悪化させる事もできる。
その際被害がどれ程出ようが知った事ではない。

まあ、今回のは多少怪人の性能を落としてあるから問題無く勝てると思うけどね。
出来レースを演出するのも疲れるよ。

今までの物より多少弱いとはいえ、今回の人口怪人の襲撃でも犠牲者は既に出ている。
だが、それは光にとって大事の前の小事なのだ。



健は現場に到着するとすぐに部下達に指示を出す。

「A小隊は避難の補助を!B小隊は怪人二体の相手を!俺とC小隊は怪人三体を!」

それぞれが自分の役目を果たすべく奮闘する。

皆、俺はちゃんとやれてるか?

襲い掛かってきた一体をトンファーで殴りつけて後退させる。
C小隊は残りの二体を銃撃で寄せ付けない。

「このっ!」

敵の打撃を回避してリボルバーを至近距離から撃ち込む。
健はよろけた隙を逃さず、そこをトンファーで一気に畳み込んだ。

「C小隊!今だ!」

指示を受けたC小隊は健の攻撃で弱った一体を集中的に銃撃し、さらに追い込む。

「お前等は、地球からいなくなれ!」

止めに健がポリスロングロッドを脳天に振り下ろしてやっと一体を倒す事ができた。

「はぁ、はぁ・・・」

やっと一体か・・・。

部下達も実戦経験の少なさが災いして形勢が不利になっていく。
健も一人気を吐くが劣勢を覆すまでには至らない。

でも、戦闘員がいないだけマシだよな!

指揮官用装備の機能からも、まだ部下は一人も死んでいない事が分かる。
他力本願な話だが、後はヒーローが来るまで持ちこたえるのが自分達の仕事だ。
怪人を一体だけでも減らせたのが僥倖だったのだろう。

負けないさ・・・、俺達は警察官だ!




現場に着くと、早速チーム別に掃討を始める。
最も、今回は味方の戦闘員もいるし数でも勝っている。
後は確実に殲滅するだけだ。

「ブルー、ヒーローハンドボムを!」

「おう!」

春美の指示を聞いた良二は怪人が二体固まっている所にハンドボムを投げ込んで分散させる。

くっ、倒せなかったか・・・。

「ぼんやりしてないでイエローの補助をお願い!」

「ああ!」

気持ちを切り替えて接近戦を挑むきいろをサポートする。
怪人を二本のランスを使って牽制し、その隙にきいろがアックスを叩き込んだ。

「Gyaaaa!」

「ピンク!」

きいろの合図が出ると春美はライフルで弱った怪人を撃ち抜いた。

よし、まず一体目だ!




「ヒーローバインド!」

瞬は戦闘員に命令して怪人を押さえつけさせた。
怪人も抵抗するが、そうすぐに解放されるような物ではない。

どれ、専用武器の実戦初披露だ!

バッテリーパックをサブマシンガンに装着して動けなくなった怪人を戦闘員ごと蜂の巣にする。
強化された弾は容易く怪人の表皮を貫通し、戦闘員をミンチに変えた。

見たか黒澤!
俺だってやればお前と同じぐらいの事は出来るんだ!



ゴールドも、それなりに戦力にはなるみたいですね。
こっちも片付けましょうか。

薫が指示を出す前に瞬は彼自身の判断でヒーローバインドを使った。
その方針自体は評価する。

僕に自分の実力でも見せつけるつもりだったんでしょうね。

自分は、瞬の実力には使えるかそうでないか程度の関心しか無い。

「グリーンはヒーローハンドボムを敵の目前に放り投げてください。僕はヒーローガンでそれを撃ち抜いて目くらましにします。その隙にオレンジが接近戦を」

瞬が怪人一体を倒すのに景気良く戦闘員を使ってしまったせいで節約しなければならなくなった。
消耗品とはそういうものだが。

「分かりました」

「オッケー」

優子が指示通りの位置にハンドボムを投げ込み、衝撃を受ける前に薫がそれを撃ち抜く。
爆炎が怪人の身体を覆い隠し、敵の視界を閉ざす。

「じゃ、行って来るね!」

茜はその間に接近し、煙が晴れた瞬間まだ体勢が不十分な怪人を切り裂く。
怪人は苦し紛れに反撃しようとするも、薫が放ったランチャーの通常砲撃で阻まれる。

「黒澤!止めは俺が刺す!」

「御自由に」

こちらに向かって来た瞬がサブマシンガンを怪人にばら撒く。
誰が倒そうが結果は同じだ。
薫はそこには拘っていない。

「きゃあ!」

茜の声がしたので視線を移すと、彼女が危うく被弾しかける所であった。
見た所怪我は無いようだが。
怪人は見事に蜂の巣になっていた。

「黒澤、俺もヒーローとして戦力になるだろう!?」

「そうですね。戦力になると思います」

薫の言葉を聞いた瞬はどこか誇らしげであった。
瞬自体に興味は無いが、せっかくの手駒に傷を付けられそうだったのは少々腹立たしい。
薫自身の行動によって傷つくのは構わない、しかし茜の事は気に入ってるので瞬に僅かではあるが殺意を抱いた。
優子の場合は別になんとも思わないが。

僕が駒を傷つけるのは構いませんが、他人に傷つけられるのは面白くありませんね。



怪人の残りは一体だけとなり、それからは一方的だった。
チーム1が追い詰めた怪人を合流した怪人対策課とチーム2が囲み、一斉射撃を浴びせたのだ。

自分達でやっておいてなんだが、これは酷い。

まあ今回は戦闘員の被害も少ないようだし、ヒーロー、警察双方怪我人一人出ていない。
良二にとっても納得のいく戦果だったと言えるだろう。

警察側を見ると、部下達に指示を出している健の元気が無いようだ。
今ではたった一人生き残った自分の教え子という事もあり、注意して見ていたのだ。

「田中」

「あ、教官・・・」

「報告は、済んだのか?」

「はい」

どうして元気が無いのかは分からないが、知ろうとする事はできる。

「どうした?」

「・・・俺は、あいつ等に恥ずかしくないような隊長ですか?」

あいつ等とは、殉職してしまった二郎達四人を指すのだろう。

「何でまたそんな事を」

「この前ブラックさん達と怪人の戦いを見たんですが、俺が負けそうになった怪人を瞬殺していました」

それって、ブラックと自分を比べたって事か?
・・・比較対象が悪いと思うぞ。
あいつは、色々と規格外だ。

そんな事は言えないので、なんとか元気づけようと自分の乏しい言語の中から言葉を選ぶ。

「警察の装備は威力がヒーローと比べて控えめだしな。怪人を瞬殺出来ないのは仕方が無い事だと思うぞ。それに、今日だって田中達は怪人を倒したじゃないか」

健の隊長適性は一定の基準を満たしていると思う。
この数ヶ月間で努力もしていたようだし、彼が引け目を感じる事は無いのだ。

「後な、田中。そういう事で悩んだ時は、今度から俺の顔を思い出せ」

「教官の顔、ですか・・・?」

怪訝そうな顔をされる。

「他のヒーローと同レベルの武器を使ってるけど、俺だってヒーローの中で一番弱いぞ」

そうだ、以前清水隆から言われた事だ。
ヒーローの中で一番格下、と。

・・・思い出したら切なくなる、否定できないからな。

「そんな、教官が自分を卑下する必要は無いと思います!俺達に教導をしてくれたし、今だってヒーローとして立派に戦っているじゃないですか!教官には教官の役割が有ります!」

健は少し憤慨した様子だ。
それでも一番弱いという事は否定してくれなかったが。

「だったらさ、お前にもお前の役割が有るんじゃないか?」

「俺の、役割?」

「そう。皆、怪人達と戦うヒーローなんだよ」

誰一人、そうでないものはいないと思う。
科学者達は武器を作り、警察関係者は避難誘導。
直接戦闘をしなくても、皆何らかの形で戦っているのだ。
それぞれの意志とは無関係だが戦闘員もヒーローに使われる道具として戦っているのだろう。
戦闘員についてそう考えると、良二は自分の欺瞞に吐き気がした。

・・・だからさ、鈴木、佐藤、山田、中村。
お前達はヒーローだったよ。
少なくとも、俺はそう思っている。
俺みたいな中途半端なやつより、よっぽどな。

「教官、有難うございます」

「まあ、俺だって偉そうな事言ってる割には結構な頻度でうじうじ悩むけどな」

お互いに苦笑して、それぞれの仕事に戻った。
少しは健の心理的負担を取り除く事ができただろうか。
元教官として、それが気がかりだった。



「ちょっとゴールド!さっきアタシにアンタの撃った弾が当たりそうになったよ!」

瞬は目の前で自分に苦情を言う茜を苦々しく思った。

当たらなかったんだから、いいじゃないか。

顔は中々高レベルだとも思うが、恐らく薫のお手つきなのは少々残念だ。
積極的に肯定はしていないが、薫も特に関係を隠すつもりは無いのだろう。
ヒーローになって薫を観察しているとそれが分かった。
自分の所有物が傷つけられそうになってどんな反応をするのだろうか。
そう思って横目で薫の様子を窺った。

また、あの目か・・・。

アレと目を合わせるつもりは無い。

「悪いな」

そう言って踵を返した。

でも、今日は無機物を見る目の中に、ほんの僅かではあったが少しだけ殺意が感じられた。
薫にも少しは人間らしい所が有るのだろうか。

全く相手にされないより、百倍マシだ。

瞬は誰にも見られないように口元を歪めた。

続く




閑話28

「お疲れ様」

帰還した良二はきいろに話しかけられた。
それから、今回の戦闘では戦闘員以外の犠牲が出なかった事を喜びあった。

「そういえば、最近レッドを見かけないな」

「うん。どうしたんだろうね?」

現在チーム1は春美が纏めており、きいろはその補佐をしている。
太陽がいた時よりも円滑に動いてはいるのだが、やはり人手が足りなくなってきた。
怪人達の出現頻度が増えているからだ。

レッドも、いないと寂しいものだな。

無くなってから初めてありがたみに気がつく、というやつだろうか。
思えばうざったい奴だったが、他のメンバーには無いそのハイテンションさがムードを盛り上げていなかったというわけでも無い。
鬱陶しかったのは確かだが。

あれで迷惑がこっちまで来なければなぁ・・・。

太陽が嫌いというわけではないのだ。

「ねぇブルー」

「どうした?」

きいろは良二とは別の方向を見ながら話を続ける。

「最近、怪人が増えてきたよね?」

「ああ・・・」

それに伴い、犠牲者も増えていた。

「皆さ、怪人との戦いが終わるまで死なないといいね」

その『皆』の中に、イエローは入っているのか?

「そうだな。イエローもな」

そっちも死ぬなよ、という意味を込めて返答する。

「・・・うん。できるだけがんばるね」

こう言ったからには、俺も自分の発言に責任を持って死なないようにしないとな。
だからレッド、俺の生存率を上げるためになるべく早めに帰ってきてくれ。

今の良二は藁にも縋る気分であった。



薫は未だに不機嫌そうな茜を観察していた。
さっきの瞬の態度を根に持っているらしい。
言葉には出していないが、彼女の表情は冷たさを増していた。

「行きましょうか。今夜は明日の業務に支障が出ない程度なら付き合いますよ」

「・・・うん」

多少表情に喜色が混じる。
この程度で機嫌が良くなるなら時間を割く価値は有るだろう。

ゴールドも一応戦力になる間は煽てておきますか。
あっちから喧嘩を売ってこなければ、の話ですが。

もし瞬が入院するような事があれば、斉藤医師と先日手懐けた看護師に処理させようと思った。
別に瞬が嫌いなわけではない。
自分の中ではどうでもいい寄りの普通、といった所だ。
高校時代でもクラスメイトという以外に接点は無かった筈だ。
それでも瞬が絡んできたので、彼の友人や好意を抱いていた女生徒を奪ってみた。
理由は瞬が薫にとって邪魔だったから。
それだけである。
瞬が憔悴していく過程を見るのが楽しかった、という事は否定しないが。
女生徒を堕とすのは楽だったが、元々そんなに興味を持っていたわけでもなかったので高校卒業時に自然解消という後腐れの無い形で別れた。

本当に、どうして僕に絡んできたんでしょうね?

薫は、瞬にあまり関心を持っていなかった。
言い方はアレだが、瞬の片思いである。



[8464] 第二十九話 雌伏
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/09/14 06:58
第二十九話

太陽は今、自分が置かれている状況がもどかしかった。
ヒーローとしての自尊心を満足させてくれる物は怪人との戦いだが、現状はそれすら許されない。

しかし、新しい試作マシンのメインパイロットはこの自分だ。
・・・複座というのが少し不満だがな。

自分専用ならなお良かったが、これから他のヒーローが使う可能性もあるというのでこういう形の設計となったのだ。

「レッドさん、少しは手伝ってくださいよ。今は猫の手も借りたいほど忙しいんすから」

「おお、すまんな!」

太陽に声を掛けた男は羽田翼。
主に操縦をサポートする為に採用された人物である。

「で、自分のマシンの調子はどうだ?」

「・・・別にあんただけの物じゃないんですから。もう少し調整すれば実戦にも出られますよ」

「うむ!頼んだぞ!」

「だから手伝ってくださいって!レッドさん、アホっしょ!?」

自分の助けを求める人々よ、もう少しだけ待っていてくれ!
このマシンが完成すれば自分は再び不死鳥のように蘇るのだ!

彼自身は以前とあまり変わらないが、直接戦闘には耐えられないとの自覚はある。
だから自分に再起のチャンスを与えてくれた光や、自分をメインパイロットとして扱ってくれる科学者達、そして自分を補佐する新入りにもいい所を見せようと彼は気合十分だった。
・・・翼が最後に自分をアホと言った事は覚えておく。
記憶力もヒーローには必要なのだ。






「長官。そろそろ試作機が完成するようです」

「そうか」

パイロットに太陽を選んだのは、他に回せる人材がいなかったからだ。
一応あれでもヒーローだし、ヒーローが乗っているという名分は立つ。
新しく採用しても良かったが、その代わりにサブパイロットを送り込んだ。
羽田翼が実質あの試作機のパイロットなのだ。
太陽は、ほぼ不要だ。
火器もサブパイロットの操縦席から扱えるようになっているのだ。
太陽には操縦している気分だけ味あわせればよい。
それに、あれは試作機なのだ。
武装も強力な物は搭載しておらず、機動性を重視したもので主目的は偵察。
飛行する怪人との戦闘もできるが、あれはあくまで制式機を作る為のデータ取り用に過ぎない。

レッド自体は死んでも惜しくないからね。
事故があってもそれはそれで済ませられるし、金蔓としての価値もほとんど失われている。
まあ、実際はほとんど羽田君に任せるから大丈夫だとは思うが。

続いて瞬の戦闘報告書に目を通す。

戦闘能力には問題が無いようだね。
実戦でも躊躇いが無い。
多少人当たりが悪いようだが、黒澤君のようなのも困るし、これはこれで程よくバランスが取れているだろう。
黒澤君との関係性はどうでもいいが、できるだけ利用できそうな状況になる事を祈るよ。

光は正義の味方の長官という立場だが、彼自身は正義という言葉を信じていなかった。
大義名分として、己の『正義』を全うして新たな秩序を体系付ける。
それが人類の為にもなるのだ。
彼はその事を信じて疑っていない。
無論、その世界は光に優しい世界だ。




的を狙って、撃つ。
もう動作を身体で覚えるほど練習してきた。
実戦ではその的である戦闘員と怪人は動くが、初陣の時よりも命中率が上がったように思える。

「射撃訓練ですか?」

「ブラック・・・」

そこで、春美はトレーニングルームに入ってきた薫に話しかけられた。
丁度一息つこうと思っていた所だ。

「ええ」

「貴女の射撃における命中率はヒーロー内でも上位の方だと思いますが」

そんな事、分かっているわよ。

「そうね。けど私の場合、接近されたら弱いから」

だから、近づかれる前に出来るだけ数を減らす。
接近戦は自分にとって不利だからだ。

「別に全く駄目ってわけでもないでしょうに」

確かにそうだが、他のメンバーに比べると見劣りする事は事実だ。
優子は盾で耐え、良二はロッドとランスを駆使して彼なりに敵と渡り合う。
最近は不調だが太陽も身体能力は高い。
茜は素早さと手数、きいろは一撃の重さ。
瞬は未知数なので分からないが。

「万能タイプの貴方には言われたくないわ」

遠近両方こなせる薫には、分からないだろう。

「失礼。つまりピンクにとっては射撃が生命線と」

「ブラックには分からないでしょうね」

接近戦では、恐らく自分がヒーロー最弱だ。

「人の気持ちなんて誰にも分かりませんよ。分かるって言う人は、推測か、もしくは分かっている気になっているだけです」

「そうだろうけどね」




春美もここ数ヶ月間の激務でいい感じに疲れているようだ。
以前の彼女なら文句は外に出さず自分の中だけにしまいこんでいた筈。
それが少し突いただけで、自分の前限定だが今はこんなに感情を露にする。
相手の弱っている時につけこむのが最も効率がいい。

「いいじゃないですか。チーム1にはイエローがいますし、敵が近寄ってきたら彼女が叩き潰してくれますよ」

「それは、少しぐらい接近戦が不得手でもいいだろう、という解釈でいいのかしら?」

「貴女が言うほど酷くはないと思いますけどね」

ここはカバーをしておいた方がいいでしょう。

「そう言ってもらえるとありがたいけど、なんとなくブルーより下、っていうのが複雑なのよ。前まであんなに頼りなかったのに」

ブルー、物凄く下に見られていますよ。
否定はしませんが。

「ブルーだって男性ですし、それなりに戦力にはなっているでしょう?ああ、イエローは一般的というカテゴリーから外れますが」

きいろは我が身を省みない攻撃をするだけの事がある。
小柄だが、ドーピングしたレッドと同等の身体能力を誇るだろう。

イエローと戦う場合にピンクのようなタイプは重宝するんですがね。

「適材適所ですよ。遠距離戦はピンク、接近戦はイエロー」

「・・・ブルーは?」

「まあ、遊撃要員という事で」

「こうやって見ると、どっちのチームもバランス取れてるのね」

戦力は均一化されていた方がチームごとに活動しやすい。

「私らしくなかったわね。ありがとう」

「いえ」

こちらも打算込みでやっていますから。




自分は、世間一般で言う所の常識人だと思っている。
思ってはいるのだが。

「羽田、マシンの名前は何にするべきかな?」

「名前って、そういうのは上の方で決めるもんっしょ?」

赤田太陽は非常識人だった。

「自分で名前を決めた方が愛着が湧くじゃないか!」

「だからそういう問題じゃないって!あくまであんたの心の中だけにしておいてくださいよ!」

ああ、こいつの相手をしていると精神的に疲れる・・・。
長官もこんな人と組むんだったら早めに言っておいてくれれば良かったんだ!
そしたら俺は、絶対に断っていたぞ。

翼は試作マシンのサブパイロットに抜擢された。
自分の操縦技術には自信を持っているし、飛行機乗りは子供の頃からの夢だった。

「うーむ、レッドファルコン、レッドサン、レッドドラゴン一号・・・。どれも捨てがたい・・・」

しかし、現実は甘くなかった。

どれもセンス悪いよ!
大体、なんで全部あんたに関係する名前なんだ!
一応俺も乗るんだぞ!

どう見ても操縦に関しては素人の太陽と同じ機体というのも不安を煽る。

勘弁してくれよ・・・。

すると、太陽が急に顔を上げた。

「おお、そうだ!羽田の名前も入れなければな!」

あ、一応俺の存在覚えてたのね。

「そうだな・・・、レッドウイングというのはどうだ?」

俺に意見を求めんな。

「あー、もう好きにしてください」

そう投げやりに言い捨てると、太陽は嬉しそうな顔をした。

「よし、これでマシンの正式名称は決まったな!頼むぞウイング!」

え、ウイングって俺!?

「ちょ、俺は別にヒーローってわけじゃなくて、パイロットなんですけど!?」

「コードネームがあった方がカッコイイじゃないか!」

何だその理由は。
というか、この人本当にヒーローか。

「はあ・・・、好きに呼んでください」

うざい・・・。
駄目だこのヒーロー、早くなんとかしないと・・・。

早くも太陽がどういった人間か、身をもって体験した翼だった。




良二はきいろから、太陽の復帰について知らされた。

「え、レッドが帰ってくるって?」

「うん。長官からそう知らされたんだけど」

彼女によると既に他のメンバーにも伝わっているらしい。

そうか、遂にレッドが戻ってくるんだな。
人手が増えるというのはありがたいが・・・。

「でもね、レッドは別任務に就くんだって」

「なんだ、人手が増えるわけじゃないのか・・・」

きいろも複雑そうな表情だ。

「新しく組む人がいるみたいだよ」

「あのレッドと?二人で?」

首を縦に振られた。

「・・・その人と会ったら、仲良くなれるかもしれない」

良二は、まだ見ぬ太陽と組む人に妙なシンパシーを感じてしまった。

続く





閑話29

ウインドホークは、怪人達の拠点の一つに到着した。

「お待ちしておりました」

ウインド族の怪人が彼を出迎え、今後の方針を話し合う。

「出撃は容易になったが、人間に撃退されてしまうのか?」

「はい、他の種族とも協力して出撃しているのですが・・・」

ウインド族には飛行が可能な怪人が多く、他の種族よりも生還率は高い。
ただ、飛べても攻撃する時は地上に近づかなければならずそこを狙われて敗北する事が多いのだ。

やはり、一般の怪人が奴等の戦闘担当者に勝つ事は難しいか。
並の人間程度なら一捻りだが・・・。

長クラスならそう簡単にやられはしないが、ガイアビートルでも結局は倒されたのだ。
かといってこのまま諦めるわけにはいかない。

おかしな姿の者達、あいつ等も増えてきている・・・。

鉢合わせになった場合はまず戦闘を覚悟しなくてはならない。
彼等は問答無用で襲ってくるのだ。
人間に対しては積極的に侵略対象だとみなしているが、自分達と同じ特徴が一部に見られる者達とは戦いにくい。
とはいえ、彼等との対話は成功した例がない。
もはや敵と見なすべきだろう。





優子が休憩していると、瞬が近づいてきた。

「少しいいか?」

「・・・どうぞ」

貴重な休憩時間だが、ここは手早く会話を終わらせて満足させた方が得策だと優子は判断した。

「黒澤をどう思う?」

答えにくい質問ですね・・・。

嫌いではない、しかし信頼できる相手ではないからだ。

「同僚ですね」

「そうか」

「それだけならもういいでしょう?」

「いや、もう一つ聞きたい事がある。そのチョーカーは黒澤から?」

瞬の視線が自分の首に注がれているのを感じ嫌な気分になる。

「何故そう思うんです?」

「オレンジも似たようなのしてたからな」

周囲に無関心というわけではないようですね。

「質問には肯定しましょう」

「ふん、やはりな。女には手が早い」

私は黒澤さんとは関係ありませんよ。
というか、人を修羅場に巻き込もうとするのは止めてもらえませんか。
今は茜さんとピンクが仲悪いんですから。

「奴には気をつけろよ」

「貴方は何か黒澤さんと関わりがあるんですか?」

「奴は、俺の全てを奪った」

その声には苦渋が込められていた。

ああ、この人も黒澤さんに碌でもない目にあわされたんですね。

優子自身も過去に薫の罠のせいで追い込まれ、服従せざるをえなくなった。
現在は安全だが、それが何時まで続くかは分からない。
しかし、彼女は瞬とは必要以上に関わらないようにしようと思った。
理由は簡単だ。
薫の方を瞬より脅威に感じているからである。



[8464] 第三十話 飛翔
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/09/14 07:03
第三十話

薫が一人で報告書を纏めていると、優子が話しかけてきた。

「黒澤さん、貴方ゴールドと昔何かあったんですか?初対面の時から貴方に熱視線を注いでいたようですし」

意外な人間から出た話題だったが、あらかじめ聞かれる可能性も考慮していた為慌てずに答えた。

それにしても嫌な言い方ですね、熱視線って。

「その言い方だと、ゴールドと話したんですね?」

「ええ。貴方に全てを奪われた、と言っていました」

全てね。
あの程度ではまだ全てではないと思いますが。

自殺に追い込んでも良かったのだ。
瞬から友人を奪って孤立させたが、彼を攻撃させる事はしなかった。
遺書でも残されて道連れにでもされたら内申書どころの話では済まない。
元々あちらから喧嘩を売ってきたのだし、そんな馬鹿馬鹿しい事で自分の一生を台無しにする気は無い。
また、瞬にそれだけの価値があるとも思えなかった。

「ああ・・・、前にも言いましたよね。相手の態度次第だって」

「では、ゴールドは黒澤さんに悪意を?」

「ええ」

薫の返事を聞いた優子は納得がいった、という表情をしていた。

「それ・・・自業自得、ですよね」

「まあ、今でもそれなりに元気にやってるみたいですし。何より昔の事ですからどうでもいいです」

「そんな他人事みたいに・・・。ゴールド、今でも貴方の事恨んでいるのでは?逆恨みだと思いますが」

「一応、今は同僚ですからね。それ以上でもそれ以下でもありません」

『こちらから』進んで騒ぎを起こす必要は無い。
あちらを攻撃するだけの材料や理由があればすぐさま行動するつもりだが。

「聞いている限りだとゴールドの一人相撲ですね。黒澤さん、ゴールドの事はどうでもいいんでしょう?」

「ええ」

即答した。

「可哀想に・・・」

屠殺場に連れて行かれる豚への哀れみと同レベルの響きを持った言葉だった。





「おお、遂に完成したか!」

太陽はお台場の巨大な某白い悪魔を見る純粋な少年のような瞳で愛機となるマシンを見ていた。

「スペックは高いけど、攻撃力はそうでもないんだから・・・」

太陽を嗜めようとする翼だったが、焼け石に水だった。

「このレッドウイングがあれば、怪人が来ても安心だな!来るなら来い!早く来い!」

「ヒーローが怪人の襲撃期待しちゃ駄目っしょ!?」

翼の正論も今の太陽には追い風となる。

「なあに!大船に乗ったつもりでいろ!」

「うわあ・・・」

冷たい視線もなんのその、太陽はレッドウイング(仮称)に乗って活躍する自分を思い浮かべて悦に浸っていた。

「ヒーローの他の人達、今まで大変だったんだろうなあ・・・」

傍らで疲れた声を出す翼と対比して、底抜けに明るい太陽だった。




できるなら来て欲しくなかった。

「ウイング!怪人が襲来したそうだ!」

ああ、出撃しなければいけないのか・・・。

「準備するんでレッドさんはどっしり構えてて」

「ああ、任せろ!」

どうしてここまで明るいのだろう。
翼は太陽に余計な事をして欲しくなかった。
この戦闘が一区切りつけば光からの指令通りに動かなければならない。
テストでいきなりそんな事を任せて欲しくは無かった。




「怪人が出たって!?」

「レッドが先に現場に駆けつけるそうよ。試作機の実験も兼ねているみたい」

試作機?
テストを実戦でするなよ・・・。

良二は太陽と組む破目になった人の苦労を推し量った。

いきなり実戦で大変だろうなぁ。
レッドもその人も無事でいてくれよ。





今日は晴れていたので、テストには良好だったと言えるのだろう。
これからもこういう調子で進めばいいのだが。
レーダーが、作動した。
離れた距離からも敵を捕捉する機首部分のメインカメラにより入手した情報を翼は本部に送る。

「怪人は四体!内二体は翼を確認、飛行可能と思われる!戦闘員多数!」

『了解しました!こちらも相応の戦闘員をヒーローと出撃させます!怪人対策課もすぐ到着すると思われます!』

すぐに警察にも全く同じ情報を送る。
この情報が少しでも戦いの足しになってくれればいいが。




太陽は翼が後部座席で報告をしている時に、既に今回の戦闘計画を立てていた。

このレッドウイングのファイアーバルカンで、地上にいる怪人など蜂の巣にしてやる!

一応ではあるが、武装として機銃が装備されていたので翼にもっと高度を下げるよう言った。
太陽だけではそこまで近づく事がやや困難であるからだ。

「高度を下げて敵に接近するんだ、ウイング!」

「んな事したら危ないっしょ!?それになんで!」

ええい、気の利かない奴だ!

「怪人にファイアーバルカンで先制攻撃を仕掛けるのだ!」

「また勝手に名前付けて!機銃は牽制用ですってば!それにどうせすぐ警察やヒーローが来るって!」

それでは間に合わないかもしれないではないか!

「俺等の今の仕事は、偵察!この後でもっと大きな仕事が待ってるんですから!」

「仕事?」

「いいから!」

太陽は不満だったが、その仕事が自分に相応しい内容である事を期待して待つ事にした。
せっかく華麗に大空を舞う愛機の勇姿を他のメンバーに見せつけてやろうと思ったのだが。




『情報が先行したパイロットから届きました!怪人四体の内二体は飛行可能のようです!敵の数に負けないよう、戦闘員を不足なく出撃させます!』

「いつもより情報が早いなぁ・・・」

良二の呟きに春美は内心で賛成した。

「今の内に作戦を立てておきましょう」

春美の提案に、他のメンバーも迅速に考え始める。
やがて薫が案を出した。

「飛行可能な怪人には、ゴールド、ピンク、それと僕が担当するのはどうでしょう」

「俺がか?」

「サブマシンガンは弾幕が作れますから、それで怪人を追い込んでください。僕のランチャーも攻撃範囲が広いので同様の事をします」

そこまで聞いて、春美は薫の言いたい事が分かった。

「私が一瞬の隙をついて、狙撃ってわけね」

「ええ。でもこの作戦の要はゴールドです。頼みましたよ」

「・・・ああ!任せろよ、黒澤!」

瞬は呆けた表情をした後、快諾した。

「地上の戦闘員は俺と怪人対策課、味方の戦闘員でなんとかする」

良二が発言した。

「だから、イエロー、オレンジ、グリーンは残り二体を」

「ブルーはそれでいいのね?」

確認の為に念を押す。

「考えたけど、これが一番効率がいいと思う。怪人にはグリーンの盾のエネルギー波の防御があるし、ブラック達も終わったらすぐに地上の怪人と戦えるだろ?」

「そうね」

他のメンバーが出て行った後に薫と話す。

「さっきのアレ、本音?貴方が人を褒めるなんて」

「建前ですよ。ああ言っておけばやる気になるかなと思って」

ああ、やっぱりブラックはブラックなのね。

いつも通りの薫の行動に、少し肩の力が抜けた気がした。




良二はヒーローガンを抜き敵戦闘員に乱射した。
怪人対策課と膠着状態であったがそこで動きが出る。
健達が近接戦で敵の一角を崩したのだ。

「教官!」

「味方の戦闘員もいる!数では負けていないぞ!」

良二の言葉で他のメンバー達にも勢いが出る。

「田中、指揮はお前だ!」

「はい!いいか、もはや敵戦闘員に有利な部分は何一つ無い!怪人達もヒーローが倒してくれる!だから、お前達は自分が出来る目の前の事を全力でやれ!」

そして、敵戦闘員への掃討が開始された。



「この、当たれ!大人しく死ね!」

ヒーローとは思えないような口振りで瞬はサブマシンガンを撃ち続けていた。
バッテリーパックまで使っている所を見ると、致命傷を負わせようという魂胆なのだろう。
そんな瞬を薫はマスク越しに若干冷ややかな目で見ていた。

牽制でいいから、バッテリーパックまで使う必要はないんですよ。
それに少しでも当たれば致命傷じゃなくても動きが鈍るからそこを狙えばいいのに。

まあ、命令に逸脱した行動を取られないだけましだろう。

「ピンクは狙撃の用意を」

「ええ」

薫は瞬の大雑把な射撃の間を狙ってランチャーを撃ち、怪人を一定のポイントに誘導する。
そのポイントはサブマシンガンの射程外だが春美のライフルなら充分に撃ち抜ける場所だった。
春美に顔を向けると、それが合図だと分かったのか彼女は躊躇わずに引き金を引き、大地に怪人を一体墜落させた。

「よし、止めだ!」

瞬はまだ息があった鶴型怪人の頭部に向けて、サブマシンガンを放ち止めを刺した。

「いつもの事ながら結構なお手前で」

「もう一匹は逃げちゃったわね」

もう一体の怪人は味方がやられるや否や早々に逃げていった。
しかし、ここからは自分達の仕事ではない。

「後はオレンジ達の方に行きましょうか。でもまだ何も言っていなかったのによく撃てという合図だって分かりましたね」

「ブラックは無駄な事をあまりしないから、貴方が射撃を止めた瞬間にそろそろだと思ったのよ」





両手に持った双剣を目の前の怪人達に振るい、茜はきいろに合図を出した。

「イエロー!」

「うん!」

きいろはヒーローガンで茜の右側にいた卑猥な形の海鼠型怪人を撃った。
右手が自由になった茜はそれを左側にいるゴリラ型怪人に突き刺して傷が開くように引き抜き、素早く離脱する。
優子はその間に接近して盾を構え、海鼠型怪人が茜に放ったエネルギー波を受け止めた。
ゴリラ型怪人は負傷したとはいえ凄まじい膂力を持つが、きいろがアックスで応戦している。
流石近接戦ヒーロー最強だけの事はあるな、と思った。

じゃ、アタシは今の内にこっちに止め刺しておこうか!

「優子さんは盾を!」

「分かりました」

茜と優子は並走し、海鼠型怪人に向かって駆ける。
エネルギー波は優子が受け止め、茜は双剣の片方を投げつける。
見事に腹部に命中し、怪人の攻撃を強制的に中断させた。

「気持ち悪い動きしてんじゃないわよ!」

残った一本の剣を両手で持ち、全体重をかけて振り下ろす。
怪人の頭部は両断されて生命活動を停止した。

「っと・・・」

突き刺さったままの剣を抜く為に柄を掴み、怪人の身体を足で押し退ける。
ずるり、と音がした。
もう一度剣を振るって刃についた体液を可能な限り落とす。

「薫も来たみたいだし、アタシも合流しよっと」

空の方は片付いたのだろう、三人がこちらに向かってくるのを視認してから茜は
優子ときいろの加勢に向かった。




ランスを連結し、敵戦闘員の集団に向かって駆け出す。
前方にいる二体をまとめて薙ぎ払い、左方向にいた奴を突き刺す。

「撃て!」

後方では健の部下達がリボルバーで良二の死角から襲い掛かろうとしている敵を迎撃し、攻撃のサポートをしてくれる。

「よし、俺は前線を維持する!お前達は弾込めと撃つ係を交代しつつ援護に専念してくれ!」

健はトンファーを構えて良二の元へ走った。
勢いをつけて繰り出される打撃は敵戦闘員の頭部を容易く粉砕する。

「教官は中距離を!俺は至近距離の相手を狙います!」

「よし!」

田中も自分なりに戦っている。
俺も、全力を尽くす!

良二は戦闘員に敵を囲い込むよう命令した。
包囲された敵戦闘員は良二達を突破しようとするが次々と良二のランスに貫かれる。

これでニ十体・・・。
すっかり慣れてきたな。
怪人は、殺さなくちゃいけない。

敵戦闘員は健達の援護の甲斐あってどんどん数を減らし、遂に残り一体となった。
自分の仲間の死体に囲まれているそれを、良二は容赦せずに突き刺した。

これでこっちは片付いたな・・・。

こちらの現場を健に任せると言い残し、良二は生き残った味方の戦闘員ときいろ達の援護に向かった。



ヒーロー六人の絶え間ない攻撃に晒され続けたノアゴリラは、既に倒れる寸前であった。
身体にはサブマシンガンによってつけられた弾痕が幾つもついており、左腕はランチャーの砲撃で消滅し、右腕はアックスで切り飛ばされていた。
また多数の切り傷がつけられ、そして今右足をライフルで撃ち抜かれた。
片足では体重を支えきれず、遂に彼は崩れ落ちた。

フレイムレオン様、申し訳ありません・・・。
皆、済まない・・・。

自らの一族の長、そして拠点に残してきた家族の顔が脳裏に浮かぶ。
しかし束の間の思い出に浸る事も許されず、再び彼の身体を激痛が襲う。
唯一無事だった左足も砲撃で消し飛ばされたのだ。

ぐあぁっ!

これで彼の四肢は全て役立たずとなった。
右足もかろうじてちぎれていないという状況、その激痛に耐えつつ体を起こそうとすると、頭部に激しい衝撃を受ける。
その際に右目が眼窩から零れ落ちた。
残った左目でせめて敵を睨みつけようとするも、その左目すら硬い棒状の物で潰される。
彼が光を失う寸前に見たものは、黒い影であった。

私達には、滅びしか残されていないのか・・・。




良二が駆けつけた時には戦闘が終了していた。
全員の無事を確認し、彼は安堵し軽く息を吐いた。

それにしても、今回の怪人の死に方は酷いな・・・。

敵の自分が言っても怪人に対して何の慰めにもならないだろうが。
それは、まさに嬲り殺しといってよかっただろう。
全身に斬撃の痕跡と弾痕。
右足だけが残った胴体。
残った頭部も原形を止めないほど破壊されていた。

「皆、無事か?」

「うん」

怪人の事は気にしない事にする。
襲って来た彼等が悪いのだ。

「ブルーも戦闘員はそんなに減っていないみたいね?」

「・・・そんなに気軽に使えるようなものじゃないからな」

春美の確認も、少し居心地が悪いような気がした。

続く




閑話30

戦いの場から離れていく影を確認し、翼は太陽に話しかけた。

「レッドさん、今から仕事。怪人が一体空に逃げたんで」

「おお、遂に自分の出番が来たか!」

太陽は嬉しそうな声音で返答する。
そしてそのまま操縦桿を握り締めた。

「さあ、行くぞウイング!その怪人を撃墜すればいいのだな!」

「人の話は最後まで聞け!」

ああ、胃が痛い・・・。

「俺達は今回、あの怪人を追跡するのが任務!」

「・・・追跡?」

今日の戦いでは偶然にも怪人が一体逃げたので当初の予定通りの行動をする事になった。
わざと怪人を逃がせという命令も上層部は考えていたようだが、数が多かったし、そこまで余裕な作戦は立案しなかったようなのでそれは断念したらしい。
怪人が全滅しても、それはそれでよかった。
翼が太陽を宥める手間が増えるだけであったから。

「この機体は偵察を主任務としているだけあって隠密性と速度が高めだから、今まで決行されなかったこういう任務を担当できるんです」

「そうか!流石はレッドウイング!」

いや、だからその名前はどうかと思う。
ついでに機体の色、灰色と黒に近いし。

どうしてこんな時にまで無駄にテンションが高いかは分からないが、突っ込まずにはいられない。


「それで奴等の来る所が分かれば、逆にこっちから攻め込めるって事!」

「!」

そして、彼らを乗せた機体は怪人の追跡を続けた。

・・・俺、無事に任務を終えて家まで帰れるかな?

翼の不安は増える一方であったが。




瞬は順調にヒーロー業務を遂行できている事に安堵していた。
薫の前で無様な姿だけは見せられないからである。
そんな事を考えていると、春美と薫がそれぞれ本部への報告を終えている所であった。

「じゃあ、今日はこれで撤収ね。後は警察の人達が残るみたいだし」

「そうですね」

そして薫がチーム2のいる場所に戻ってきた。

「じゃあ、今日は戻りましょうか」

「さんせー」

茜が気の抜けた声で返事を返す。
優子も異存はないようだ。

「おい黒澤」

帰ろうとする薫を呼び止める。

「どうしました?」

「お前の目から見て、今までの俺はどうだ?」

率直な意見が聞きたい。

「いいんじゃないですか?別に戦績が悪いというわけではないみたいですし」

及第点ってところか。



茜は隣を歩く薫に質問した。

「さっきさぁ、ゴールド自身の戦い方が良いか悪いかは答えてなかったよね」

相手の機嫌は損ねず、こちらの意図も明確にしない。

「ええ。それが?」

「別に。アタシ、アイツ嫌いだし」

だからこのままの戦い方を続けて瞬が殉職しても茜にとって困る事は何一つ無い。
その時にこちらを巻き込まないようにしてもらえると尚良いのだが。



[8464] 第三十一話 拠点侵攻
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/09/14 07:07
第三十一話

良二達は会議室に集められていた。
何故かというと、怪人達が出てくる場所が分かったかららしい。
そして、ヒーロー達の中に見慣れない男性が一人いた。
どこか所在無さ気なその男性は、良二の視線に気がつくと軽く会釈した。
良二も会釈を返す。
すると光が部屋に入ってきて、会議を開始した。

「さて、これを見てもらいたい」

立体的な地形図が浮かび上がり、そこのある位置に赤い点が記されていた。

「これは?」

疑問に思った良二が尋ねると、光は続けた。

「怪人が出現するポイントだ」

「!?」

怪人が!?

「まあ、出現するポイントの一つと言った方が正しいがね」

その後の説明によると先日の戦いで逃げた怪人はここの付近で反応が消失し、また様々な観点から考えた結果、そこを怪人の出現位置の一つとしたそうだ。
何故そのような言い方をするのかは怪人の出現頻度が高くなってきており、どう考えても一つの出現ポイントから発生するには多すぎるというかららしい。

「そして、君達にはこれを殲滅してもらいたい」

「外からミサイルでも撃ち込めばいいのでは?」

瞬が物騒な提案をする。
効率的にはそれが一番な気もするが。

「野生生物や自然環境の保護の事もあるからね。そこは自然が多いからそういった方法は使えないんだよ。それに、『ヒーロー』が戦う事に意味があるのだ」

ただでさえ地球環境が危うくなってきてるからなぁ・・・。

「怪人倒す前に人間が死んだら意味無いと思いますけどね」

隣に座っている薫が小声で良二に呟く。

「同感だ」




会議が終わると光は退室し、先程の男性がヒーロー達の前で挨拶をした。

「初めまして、試作マシンのサブパイロットを務めさせて頂いている羽田翼です。以後は主に偵察等で皆さんの戦いに貢献させて頂きます!」

この人がレッドと組んでいる人か。

「俺はブルーの青山良二だ。よろしくな」

「私はピンクの桃井春美よ」

「あたしはイエローの萌黄きいろ。よろしくね」

「ゴールドの金井瞬だ」

「グリーンの緑川優子です」

「アタシはオレンジの緋崎茜」

「ブラックの黒澤薫です。こちらこそよろしくお願いします」

「はい!」

顔合わせも順調だ。

「そしてウイング、自分がレッドの赤田太陽だ!」

「いや、知ってるから!」

思わず翼は突っ込みを入れる。

「ウイング?」

「・・・レッドさんが勝手に命名しただけだから」

良二が聞きなれない名前に首を傾げるが、翼は律儀に答えてくれる。

ああ、『翼』でウイングね。

「しかもマシンにまでレッドウイングなんて名前つけちゃうし・・・」

太陽に聞こえないようにして話を続ける。

今度はレッドとウイングかよ・・・。

「なあ、羽田。大変?」

「まあ・・・」

色々と疲れているようだ。

「頑張れ・・・」

「どうも・・・」





自然が多く残っている場所。
そして、人からの発見を発見を妨げられる場所。
そこに怪人達の拠点があった。

「お母さん、お父さん遅いね・・・」

「そうね・・・」

怪人の家族も暮らしており、ある程度の数までならその拠点一つで生活していける程であった。
しかし、今話している家族の父親であるノアゴリラは先日の戦いで帰らぬ怪人(人と読む)になってしまった。

「でもお父さん強いもんね!だから、きっと無事だよね!」

「・・・っ!ええ、そうよね・・・!」

そしてその光景を見詰める影が一つ。
命辛々逃げる事ができたノアハゲタカは自分を情けなく感じていた。

「奥さん・・・」

「あ、おじさん!」

「ちょっと話が・・・」

子供を宥め、妻の方を呼び出す。

「恐らく、あいつは・・・」

「分かっています・・・。けど、あの子にはまだ・・・」

俺達の故郷が荒れ始めたのは、そんなに昔じゃなかった。
でも、今はもう他の星を襲わなきゃいけないほど追い詰められている。
そんな事にならなければ、俺達は平和に暮らしていけたのかなぁ・・・。

せめて、この残された親子にはこれ以上不幸な目に遭って欲しくない。




ヒーロー達は、怪人の出現するポイントがあると思われる場所の付近まで来ていた。
その際作戦に参加できない太陽は残念がっていたが、翼が何とか宥めすかして納得させたようだ。
出発の時に見た彼の顔はさらに疲れが増したように見えたので、良二は帰ったら彼の苦労を個人的に労おうと考えている。
その類の苦労は自分にも経験があるからだ。

「羽田頑張れ。超頑張れ」

「何言ってるんですか?」

薫の問いに、良二は簡潔に答えた。

「残された生贄山羊への激励さ・・・」

「ああ」

それだけで幸いにも分かってもらえたようだった。

「お前とまともに話すのも久々だな」

「そうですね。ブルーが惚けた事を言ってから」

ちくちくとこちらの心を責める薫。

それについては言ってくれるな。

「田中さんに聞きましたよ。ブルーが戦闘員を虐殺したって」

「人聞きが悪いぞ」

内容自体は合っている。
良二は自分があそこまで大量の命を一度に殺したのは初めてだ。
罪悪感も多少ある。
味方の戦闘員にヒーローバリアやヒーローボムを使わせなかったのは僥倖だった。

怪人側からみれば俺は虐殺者だな。

だが怪人にむざむざやられて多くの犠牲を出し続ける事だけは出来ない。
それだけは、死んでしまった人達の為にも絶対にしてはいけない事だ。

そのためなら、怪人の命なんて幾らでも奪ってやる。

自分の家族や仲間達、良二にとって大切な物。
他の人達の大切な物。
それらを守る為に。
自分が何故ヒーローに選ばれたかは未だに不明だが、それでも選ばれたからには努力してきた。
そして、今まで生き残ってきた。
これからも良二は戦い続ける。
彼に安息が訪れるその日まで。




実際に攻める段階になって、ヒーローは皆一箇所に集められた。

「チーム1とチーム2は別々に動くと言う事になりました」

チーム1は陽動を、そして実際に破壊活動をするのがチーム2という事になった。
戦闘員はチーム1に多めに配備され、チーム2は少数精鋭で動く作戦を上層部が指示したらしい。
命令されたからにはそう動くしかない。
宮仕えの辛い所だ。

とはいえ、ポイントの中まで探るっていうのは怪人の殲滅後にして欲しいんですけどね。

薫達はポイントの中を戦闘の傍らに調査する事も命じられていた。
さすがに撤退の判断をするタイミングは任されているが、正直勘弁して欲しい。

「ブラック・・・」

作戦の方針を説明し終わると良二が薫の前に立った。

「どうしました?」

「いよいよだな」

彼も怪人との戦いを経験して、さらにそれによって生まれた悲しみを経験している。
顔つきがいつものどこか頼りなさ気な物とは違い、気迫に満ちていた。

「陽動の方は頼みましたよ。ブルーはオールマイティに戦えるんですから」

接近戦のきいろ、狙撃の春美。
そして何でもある程度こなせるようになった良二。
チーム1は安定している。

「オールマイティか・・・。器用貧乏とも言うぞ」

若干自嘲気味に言うがその表情はさほど悲観的ではなかった。
ある種の覚悟をしたのだろう。
段々と戦闘員の死に慣れさせただけの甲斐はあったというものだ。
そして、今の彼は『ブルーらしさ』を失っていない。
色々な部分が麻痺してはいるが、彼は『青山良二』のままだった。

主に僕の安全の為に敵を引き付けてくださいね。
多分、今のブルーなら生き残れますよ。

自分のチームにも盾用の戦闘員と、非常時の盾となる同僚が三人いる。
薫は瞬に最前線で戦わせようと思っていた。
一番自分にとって被害が少なくなりそうだからだ。




ノアハゲタカが拠点の周囲を警戒していると、多数の動く影が見えた。

遂に来たか・・・。

今までは自分達が人間を攻めていたが、とうとう逆の立場になる時が来てしまった。
だが、自分達の秘密は守り通さなければならない。
たとえ拠点が全滅しても、自分達の種族全体を危機に晒すような真似はできないからだ。
彼はすぐに他の怪人達に指示を出す。

「奴等の目に触れると不味そうな物は、全て処分しろ!戦えない者は比較的安全な場所に隠れるんだ!」

慌しくなる拠点。
そして、ノアゴリラの妻子の元に向かった。
自分達は恐らく戦って死ぬだろうが、未来への希望を枯らすわけにはいかない。
彼女達には非戦闘員を纏めてもらうつもりだった。

今度は逃げない。
最後まで戦ってやる!

一つの生活圏を巡る人間と怪人との戦いが幕を開けた。

続く





閑話31

アクアシャークは悩んでいた。
侵攻は進まず、こちらの犠牲はますます増えてゆく。
人間にも被害は当然あるだろうが、こちら側は何しろ時間が限られているのだ。

「人間の言葉は、本当に分からないのかしら・・・」

昔は故郷にも人間はいたが、自分達によって滅んだ。
その時以来今まで人間との接触はなく、当然コミュニケーションの方法も失われている。
しかし言葉が分かったとしても、それで現在の危機が解決されるわけではない事も知っている。
自分達が一方的に攻め込んでいるのだ、客観的に見てどちらが悪いかなど一目瞭然。
ある種の講和を成立させたとしても自分達の種族全てが助かる方法は無さそうだ。
星にも許容量がある。
あの星は見た所、余裕が無さそうであった。
現在進行形で進んでいる汚染も自分達が止めれば抑えられるかもしれないが。

「人間の言葉が分かる可能性があるのは、フレイム族かウインド族・・・」

人間は骨格的にもフレイム族の一部、ノアサル等に類似している。
また、ウインドホークも古くからの資料を持っている。

「私だけじゃどうにもならないわね」

ガイアビートルも死んでしまった。
生物は皆いつかは死ぬが、まさかこんなに早く死んでしまうとは思いもしなかった。
古くからの付き合いだった。
寂寥感だけが残っている。

最初にこちらが強行手段を取っていなくても、人間からは攻撃されただろう。
彼等と自分達とは、あまりにも違いすぎる。
最初に侵攻した者達の一部はやりすぎてしまった。
これで彼等は自分達を脅威とみなし、それからが大変だった。

あの鮮やかな色をした人間達・・・。

それまで優勢だった自分達が押され始めた。

それでも私はアクア族の長なのよ。

自分はこれまで戦いには積極的ではなかったがもうそんな状況ではない。
あの海。
そうだ、あの海から少しづつ勢力を広げていけば・・・。

アクア族の中から戦闘能力が高い者を選りすぐり、新たな侵攻方法を考えなくてはならない。
そう考えたアクアシャークは今いる自分の一族を集会場に招集する準備に取り掛かった。




翼は不機嫌な太陽の相手をしていた。
直接戦わないで済むのはありがたいが、彼の相手をするのも結構疲れる。
特別手当を出して欲しいものだ主に自分の精神衛生のために。

「戦えないというのは歯痒いものだな・・・」

そんな時、不意に太陽が真剣な声を出した。

「急にシリアスになって何なんです」

この男にそんな光景は似合わない。

「分かっている、自分が足手纏いだという事は」

「・・・」

翼は否定しなかった。
その通りだと思っていたからだ。
戦績に目を通してその考えは固まった。

「ピンクにそう言われた時、自分の中に積み重ねてきた物が無くなったような気がしたのだ・・・」

太陽に何があったかは知らないが、暗い。
鬱陶しいのが半分、もう半分は純粋に放っておけない気持ちから翼は彼の独り言に割り込んだ。

「今はさ、レッドさんはその・・・『レッドウイング』のパイロットしょ?」

太陽が付けた名前を言うのは気恥ずかしいが、今の彼にはその方が良いと判断したからそう言った。

「正直さ、俺はヒーローじゃないから分からないけどパイロットとしての矜持は持ってる」

「自分も、ヒーローでいたいとは思っている」

「だったらさ。尚更早く前線復帰できるようにすればいいんじゃ?体調は悪く無さそうだしできなくもないっしょ?」

それを聞いた時の太陽の顔は、形容し難い笑顔だった。

「そうだな!礼を言うぞ、ウイング!」

「好きに呼んでいいとは言ったけど、この会話の流れでそれはどうかと思う!正直そのセンスは無いっしょ!?」

「何だと!」



[8464] 第三十二話 拠点攻略
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/09/14 07:10
第三十二話

拠点に残っている者で戦えそうな者とアンツをそれぞれの担当箇所に配置した。
自分を含めたウインド族や大柄な怪人は拠点の外で出来るだけの敵を迎え撃つ。
残りのアクア族やフレイム族は拠点内部の防衛を。
援軍は、無い。
絶望的だった。
拠点は一つ一つが独立している為こういう状況に陥る事は想定されていたのでノアハゲタカは遅滞無く布陣を固める。

「・・・」

視力には自信がある。

「あの列の一番薄い所を突き、素早く後退するぞ!相手と真正面から戦うな!俺達には翼がある!」

指令を出すと共にウインド族の飛行部隊が敵を襲った。





薫が良二達がいる方角の空を見た時、怪人が多数空から攻めてきていた。
こちら側はあちらの大規模な陽動のお陰で何の障害も無く進む事ができる。
そして、怪人の拠点らしき物の入り口らしき穴が見えた。
ここだけで出入りしているというわけではないだろうが、見張りらしき物も『付近には』見当たらない。
やはり入って調べるしかなさそうだが・・・。

ある程度以上知性がある生物なら、あの中に見張りもいるでしょうしね。
外からヒーローハンドボムでも投げ込んでやればその敵は片付くけど大きな音が出ますし。
ここはゴールドに任せましょうか。

「ゴールド。様子を見てきてもらえませんか」

「任せな」

「ヒーローハンドボムは使わないようにしてくださいね。音が少々五月蝿いですから」

瞬は素早く穴に近寄り、サブマシンガンを中に撃ち込んだ。
何かの悲鳴が聞こえたからやはり中に見張りはいたのだろう。
しかし、その音は内部に響いたようであった。

「黒澤。ハンドボムを使わないで倒したぞ。さっさと行かないのか?」

出来るだけ静かにしたかったのだが仕方ない。
どちらにせよ戦いは避けられないのだから。
サブマシンガンも使うなと言わなかった自分にも責任がある。
様子見だけでよかったのに余計な事を。

「行きますよ。ゴールドと戦闘員は前衛を。グリーンは中衛。オレンジは僕と殿を」

消耗しても惜しくない順番から危険な位置に配置した。
まあ編成的にもそれなりに理に適っているだろう。
内部は頑丈そうだし多少なら暴れても大丈夫そうだ。

長官は調査と言っていましたが、怪人のサンプルまで残す義理はありませんしね。
どうせ碌でもない事に利用される位ならいっその事楽にしてあげるのが慈悲でしょう。

「怪人は皆殺しで。安全第一に行きましょう」




戦闘員の一角が破られて隊列に乱れが生じる。
一度の攻撃で敵は距離を取ってこちらを窺い続ける。

飛べる奴があんなに・・・。

五体程度だが空中にいられると攻撃しにくい。
向こうもヒーローには痛手を負わせられないからまだ余裕が無いわけではないが、側面から比較的大きな怪人と敵戦闘員が攻撃してくる。

「ブルーとイエローは地上の怪人をお願い!そいつ等の攻撃力はヒーローにも辛い筈よ!私は空の奴等をやるから!」

春美は良二ときいろに指示を出し、ライフルを空に向ける。

「任せろ!こいつらはイエローと俺が何とかする!」

良二は味方の戦闘員に敵戦闘員を足止めするよう指示を出す。
ランスを接近した怪人に向かって突き出し胴に穴を開ける。
きいろもアックスを淡々と振るう。
そうしている内に春美が空の敵を一体撃ち落とした。

「よし!一体撃墜だな!」

「気を抜かないで!」

地上には、敵の怪人がさらに現れた。

油断大敵だな、本当に!

良二は思わず歯噛みした。




「お母さん、何か大きな音がするよ・・・」

「静かにしていてね・・・」

拠点内に心を不安にさせる音が響く。
この親子の隠れている場所には、戦闘に不向きな者ばかり。
子供が不安になるのも無理は無かった。

「もう駄目なのかも・・・」

母親の友人が弱気な発言をする。
顔面蒼白で今にも倒れそうだ。
・・・顔色は皆個性的なので本当はよく分からないが。

「私達、ここで全員」

友人の言葉は途中で遮られた。
轟音が鳴り響く。
途端、その友人の頭部が無くなった。

「お、おばさん・・・」

子供もあまりに衝撃的な光景を見てしまったせいか震えている。
母親は友人を失った事を理解し、子供を自分の影になるよう庇った。




「どうやらここに隠れていたようですね」

怪人が纏まって隠れていた場所を発見した。
内部が崩壊しては自分の身も危険なのでランチャーを通常形態で適当な怪人を狙って撃つ。
首尾良く一体を駆除し終えた。

「グリーンは戦闘員で壁を作ってください。数は少ないけど当面は持つでしょう。オレンジは僕が援護しますので手近な敵から切り刻んであげてください。・・・後ゴールドは僕等が仕留め損ねた奴等の始末を」

優子が戦闘員を強制的に盾にさせる。
薫は逃げ出そうとしている怪人に射撃を浴びせ、それを茜は切り刻む。
瞬は弾幕を張って次々と怪人を穴だらけにする。
稀に反撃してくる怪人もいたがそれも戦闘員という肉の壁に阻まれ、隙ができた所を優子がヒーローガンで撃つ。
それらで即死できた怪人はまだ運が良い。
酷い個体の場合はそのまま放置され、逃げ惑う仲間に踏みつけられる苦痛の内にその生涯を終える事となった。
そんな阿鼻叫喚の光景の中、薫は茜が二体の怪人に接近するのを見た。





茜は小さな怪人を庇っている怪人を見て不快感を感じた。
個体の大きさから判断すると親子かもしれない。
怪人に生殖の概念が有ればだが。

何?
子供を庇ってるってわけ?
化け物の分際で随分生意気じゃん。

彼女自身の家庭が冷えた物だったからこそ、これ程感情が揺らいだのだろう。

死んじゃえ。

茜は自分の欲求に従った。
殺す。
まずは親だ。
じっくりと薫に迷惑を掛けない程度に憂さ晴らしをさせてもらおう。
ここの所瞬に撃たれかけたりでストレスが溜まっていたのだ。
だから。

運が悪かったと思って諦めて殺されてね♪



子供は母親が切り刻まれるのをただ見ている事しかできなかった。

「お母さん!」

母親の身体から体液が流れ出てゆく。
その度に母親は呻き声を上げる。

「大丈夫・・・。お母さんは大丈夫だから・・・」

どうしてこんな事になっているのだろう。
助けを求めようと周囲を見渡すも、動く物は自分と母親、それと鮮やかな色をした四体の影以外に何も無かった。

「あ、あ、あ、ああぁぁぁああ!」

母親を斬り刻んでいる橙色はよく分からない事を言いながら母親を攻撃し続けている。
他の三体もゆったりと自分の方に迫ってくる。

嫌だ、嫌だよ!

「お母さんはだいじょ」

母親が自分をせめて怖がらせないようにしようという試みも、言い終わる前に首を斬り飛ばされて永遠に言えなくなってしまった。
橙色は母親の首を自分の方にぞんざいに放り投げる。
ごろり、と転がった。
大好きだった母親。
今はもう見る影も無い。

「お母さぁあああぁん!お父さん助けて!助けて!助けて!お父さん!お父さん!誰か助けてよ!死にたくない!嫌だ、痛い、止めて、目が」

たすけて。
たすけて。
だれかたすけて。

子供は目の前で母親を惨たらしく殺された。
そして、父が既に死んだとは最後まで分からないまま助けを求め続けた。
死ぬその瞬間まで。



「あー、すっきりした!」

薫達はこの場にいた怪人達を全滅させた。
どの個体も弱かったので、戦闘員は全部壊れたがヒーローは無傷だ。

「楽しかったですか?」

薫は上機嫌な茜に声を掛けた。

「うん!化け物なのに家族愛(笑)があるなんて生意気だよね?だからさぁ、殺しちゃった!ま、どのみち皆殺しにする予定だったからいいよね?」

「ええ」

さっきの茜は実に生き生きとしてましたね。

「うーうーあーあー五月蝿いから、大きい方は途中で首斬って二度と喚けないようにしてあげたよ!小さい方はね、滅多刺し!」

「始末する時はあんまり音を立てないように。これで大部分は始末できた筈ですし急いで一度地上に戻りましょう」

「はぁい」




気がつくと、多くの味方戦闘員がその活動を停止していた。
敵にもそれ相応の被害を与えたがこちらが不利である事には変わりない。
上空の怪人は遂に一体だけとなったがその最後の一体が手強い相手だった。
せわしなく動いて地上の春美を撹乱して狙いを絞らせない。
その上良二達にも他の怪人達と連携して攻撃をしてくる厄介な相手だ。

また外れた!

本当に素早い相手には単独で狙撃するのは難しい。

せめてブラックがいて援護してくれたら・・・。

この前ので味を占めてしまったのだろうか。
春美はそんな弱気になった自分に苛立つ。

私は一人で大丈夫よ。

すると赤黒い砲撃が空中の怪人へ向かっていき、怪人は紙一重でそれを回避する。
しかし急な動きをした為に隙が出来てしまった。
それを見逃す春美ではない。

ブラックね・・・。

すかさず照準を空に向けて怪人を撃ち抜く。
今度は成功し、怪人は森の中に墜落した。




地面に身体が打ちつけられる衝撃で目を覚ます。
身体を撃ち抜かれた時に気を失ったがこうして覚醒できたのは幸いだった。

う・・・。

ノアハゲタカが落ちた所は拠点の複数存在する入り口付近だった。
どちらにせよこのままでは戦えない。
そう考えて拠点内部に戻った彼を待っていた物は絶望だった。

何だ、これは・・・!

死屍累々。
かつて仲間だった物。
既に無惨な屍となったそれらの中にはあの親子らしき姿も発見できた。
原形を留めている物はまだましな方だった。

この星を侵略しようとした罰か・・・。

割り切れる物ではない。
確かに自分達が助かる為に他の生命を脅かすのは悪い事なのだろう。
しかし、それらの責めは戦えない仲間達にまで負わせられるべきものだったのだろうか。
人間を殺めた。
そこでノアハゲタカは理解した。

ああ、俺達はここに受け入れられていない存在なんだ。

仲間達に安心できる暮らしをさせてやりたかった。
だが、自分が思い描いたその光景の中に人間は含まれていなかった。

これも、俺達がしてきた事をやり返されたと言う事か・・・。

ノアハゲタカは死体達に囲まれ、誰にも知られず息を引き取った。



怪人を二体同時に突き刺し、ランスを回収する暇は無いのでヒーローロッドを構えて応戦する。
空にいた怪人は既に倒したようなので良二も地上の怪人に専念できる。

「ブルー危ない!」

きいろが良二の背後に迫る怪人の攻撃に身を晒し、その攻撃を腕で掴んで無力化する。

「今だよ!」

「ああ!」

まず現在相対している怪人の脳天を殴打して昏倒させ。続いてきいろが抑えている怪人をヒーローガンで撃つ。
そして倒れた怪人の首をきいろが踏み付けてへし折る。

「助かった、ありがとう。でもなるべくああいう自分の身を粗末にするような助け方は止めてくれると嬉しい」

その方が良二としては望ましかった。
きいろが自分を軽く見るのはまだそのままのようだ。

「あたしなら平気だけど?」

「そういう事じゃなくてだなぁ・・・」

「?」

援軍に駆けつけたチーム2の働きもあって、目に見える範囲の怪人掃討は終了した。
こちらの犠牲は今回運用した戦闘員全て。
『人間』の被害はゼロだった。

続く




閑話32

「それでは、あそこにいた怪人は全滅と言う事で良いのだね?」

「はい」

大規模に怪人が生活していた場所での初の実戦を終えて帰還した薫達チーム2は光に結果報告をした。

「何か目新しい物は無かったのかい?」

「一応一通り探してみましたが、あの場所にあった何らかの発見物は故意に破壊されたような痕跡が残っていました。怪人が破壊したとするなら大体の理由は想像できますね」

薫の言った事に光は内心で賛意を示した。
怪人は敵である我々人間に自分達の手掛かりとなる物を少しでも残しておくつもりは無かったのだろう。
そしてその目論見は彼等自身の犠牲と引き換えに成功した、という事か。

「もう少し本格的な探索チームを派遣すれば何か見つかるかもしれないな。御苦労、もう結構だ」

「では失礼します」

薫達が部屋から出て行くのを見送り、光はしばらく目を瞑った。

戦闘員はそろそろゼロから作れそうな技術が整ったし、これで集めた人間は全て人工怪人の製作に回せるな。
今回の収穫は、怪人の死骸が大量に入手できた事か。
しかし、黒澤君達ももう少し綺麗に殺してくれると色々と有り難かったのだがね。





良二が歩いていると、一人でコーヒーを啜る瞬の姿が目に入った。

「よ、ゴールド」

「ブルーか」

瞬はコーヒーを飲み干して屑篭に投げ捨てる。

「行儀悪いぞ。ブラック達は?」

「・・・三人でどっか行ったよ」

目を逸らしながら答える彼を見て、良二は若干気の毒に感じた。

ゴールドって、もしかしたらはぶられてる?

直接そんな不躾な事を聞くのも憚られるので、良二は沈黙した。

「これから羽田を誘ってどこか行こうと思ってるんだが、ゴールドも来ないか?」

だから瞬も誘う事に決めた。
翼との約束は既に取り付けてある。

「ああ、あのパイロットか・・・。俺が混ざってもいいのか?」

「全然オッケー。人数多い方が楽しめるだろ」

「なら、俺も混ぜてもらおうか」

ブラックは両手に花か・・・。

薫の事は確かに羨ましいが、こっちはこっちで楽しむ事にしよう。
両手に花でも、花にもよるのだから。



[8464] 第三十三話 謀
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/09/28 06:40
第三十三話

薫はある活動家について書かれた書類に目を通し終えた。
ごく少数派であるが、犯罪者への扱いに対して現在でも異議を唱える者達のリーダー的存在。
はっきり言ってこの時世では邪魔者である。
法律でもそう決まっているのだから。

「まだこんな人いたんですね」

「犯罪の被害者やその家族の気持ちになって考えていないのだろうね」

光は悲しそうな身振りをする。
実に白々しい。
彼本人も全くそんな事は考えていないだろうに。

「で、僕は何をすれば?」

「何とかしてくれないかね?このままのさばらせておけばヒーローにも不利益な事になりかねないのだ」

それについては同意だ。

まあ、大体の一般人は犯罪者を『どうでもいいもの』と認識しているから大丈夫だと思いますけど念の為、ですね。

「そうですね・・・、じゃあその人にも犯罪被害者の家族の気持ちになってもらいましょう。こういうのはトップが崩れれば早いですからね」

「協力はするよ」

その活動家には家族がいた筈だ。
果たして自分の家族に犯罪者の魔の手が及んだ時にどういった対応をするのかが楽しみだ。
その時には他人事ではなくなるのだから。

人間って他人事に関しては大概冷静でいられるんですよね。






怪人対策課に浩介が入室し、隊員全てにある事の報告をした。

「ヒーローが怪人を大量に倒した!?」

「そうらしい。これで全ての怪人が倒されたと言うわけではないが、現時点で充分に圧倒できる事がこれではっきりした。だが油断はしないで欲しい」

そこで浩介は一呼吸する。

「現在ヒーローが運用している戦闘員が元犯罪者だという事は皆も知っていると思うが、戦闘の激化に伴いその消耗が激しくなっている。だから私達はヒーローに掛かる負担を少しでも軽くする為にもより精進しなくてはならない!」

その後隊員全ての賛同を得て浩介の話は終わった。

「田中さん、私達怪人に勝てますよね?」

少し上気した風に後輩の女性警察官が健に賛意を求める。

「違う、勝つんだ」

「そうですよね!」




「こんにちわ」

「・・・今日は私に何をさせる気なんだ?」

薫はもう何度目になるか分からない斉藤医師への訪問を行った。
顔を見るや否やこの対応、いい具合に嫌われているようで結構な事だ。

「安心してくださいよ。今日の事は長官からの命令でもあるんですから」

「長官が?」

光の名前を出すと露骨に反応が変わる。
自分も彼もやる事に大きな違いは無いだろうに。

「ちょっと数日後にある事件が起きる予定なんですけどね、その後の検証を手伝ってもらいたいんです。警察関係の医師も参加する至って真っ当なお仕事ですよ」

「裏があるんだろう」

お察しの通りですよ。

「ええ。それは後に連絡しますので」

「まあいい。私は長官の理想に賛同したんだ。長官が了承したなら異存は無いさ」

貴方、明らかに人を見る目が無いと言わざるを得ないと思いますけどね。
よりによって長官なんて。




まだ公にはなっていない事だが、ある活動家の一人息子が誘拐された。
未だ動機は不明。
犯人は身代金を要求しており、警察側は犯人の逮捕を被害者である活動家の一家に提案したが一家はそれを却下した。
曰く、身代金さえ払えば息子は無事に帰してもらえるのだ、と。
彼等からすれば下手に誘拐犯を刺激したくはないらしい。
流石は犯罪者に寛容な対応を求める擁護派、大事な大事な一人息子が現在進行形で犯罪の被害に遭っているというのにご立派な事だ。

「今の所上手く行っているみたいですね。長官が手配した人員は役に立ってくれていますよ」

「そうかい、それは何よりだ」

薫と光は現在の状況を話し合っていた。
ヒーローにとって好ましくない活動家。
それを直接排除するのではなく、方針転換を狙うついでに世間からの犯罪者への風評をより厳しくする事が今回の目的だ。

「その一人息子とやらは確保してあるのかい?」

「ええ」

「結構」

薫は席を立って部屋を去る。
光はその後姿を黙って見送っていた。




ウインドホークは一族に人間について調べさせていた。
そのなかでどうにか手掛かりになりそうな物が見つかったのだ。

「ノアオウム、奴等の言葉は解析できそうか?」

「難しいですがやってみましょう」

アクアシャークからの頼まれ事を、ウインド族は言葉と言う方面からアプローチしていた。
ウインドホーク自身も和平は無理だと思っているが、戦いの材料は多ければ多いほど良い。

分かり合えるなんて思わないがな。





「ようあんたか。ガキは攫ってきたぜ」

「ご苦労様です」

薫は活動家の息子を攫わせた男と秘密裏に会っていた。
薫の他にも警察の特殊部隊を何名か控えさせてある。

「お金は貴方が好きなように交渉してください」

「おうよ。にしても助かったぜ。あんた等みたいな奴等が手伝ってくれるなんてな」

この男は光が見つけた金に困った人間だ。
そのまま放っておいたら犯罪者に成りかねなかった男に最後の一押しをさせてもらった。
男の方も食い詰めており、こちらの提案に飛びついてきた。
彼だけでは成功しなかったであろう。

「あ、後よぉ、ガキに顔見られちまったんだがどうすりゃいいか・・・ひぃっ!?」

男の間抜けさに薫は意図的に舌打ちをして睨み付けた。

「顔を見られた?いけませんね」

「あ、ああ。それでよお、何とかしてもらえねえかな・・・?」

今すぐ何かするつもりではない事を男も察したのだろう、薫に縋ってくる。

「甘えるな。自分の失敗だろ?」

「それは・・・」

「だったら何をすればいいか分かるよな」

「?」

ここまで言っても分からないとは。

「口封じ」

「!?おい、そりゃあ人として!」

「五月蝿い。ここまでやっておいて今更人としてどうかなんていってる場合じゃあない事位貴方でも分かるだろ。どう転んでも貴方は犯罪者確定なんだ。でもばれなきゃ大丈夫」

「俺に、殺せって言うのかよ・・・」

「ええ。別に僕が殺すわけじゃあないし他人事ですから。選ぶのは貴方です」

犯罪者として非人道的な扱いをされるか、心に重荷を背負ったまま生きるか。
その二つに一つ。

「分かったよ・・・」

「賢明ですね」

どちらにしろ子供は始末する予定でしたけどね、活動家の犯罪者への憎しみを煽る為に。
貴方が間抜けだったお陰で手間が省けましたよ。




薫は顔面蒼白な男に口封じをするよう促した。

「どうしました?早く済ませちゃってくださいよ。こっちも何時までも付き合うわけにはいかないんですから」

「・・・本当に俺がやらなきゃなんねえのか?だったらせめて銃とか薬とか、そういうのを貸してくれよ・・・。血を見るのは嫌だぜ・・・」

我が身可愛さに子供を始末する事を選んだ男も、自分の手に人を殺す感触が残りそうな刃物類等は嫌らしい。
だったらもっと嫌がる選択肢を突きつけてあげよう。

「だったら、こう、キュッと」

素早く男との間合いを詰めて、軽く首を絞める。
男の顔色がますます悪くなった。

「は、離してくれよ・・・」

「貴方の首を絞めるわけじゃないですよ」

そう言って手を離す。
男は咳き込んだ。

「絞殺なんて、そんな残酷な・・・」

まだ文句を言っているがここは畳み掛ける場面だ。

「お前が血が出るのは嫌だってグダグダ五月蝿いからわざわざそうじゃない方法を考えてやったっていうのに言うに事欠いてこれも嫌だ?元々お前が顔を見られたのが原因なんだ、殺る為の道具を貸せだなんて贅沢言ってるんじゃねえよ。さっき言った事もう忘れたのか?この餓鬼始末しないとお前に未来は無い。理解できたか?理解できてもできてなくてもいい。お前は余計な事を考えなくていいんだ。だからさっさと殺れ。さもないとお前を先に始末してもいいんだぞ?ああ、安心してください、子供にはしっかりと後を追わせてあげますから。ちなみに紐は貸してあげませんよ。貴方自身の手でやってくださいね」

有無を言わせない調子で暴言と敬語混じりの脅迫をする。
それとなく会話の中に殺人方法まで教唆してあげるという丁寧さに男も涙を流しながら感謝しているようだ。

「・・・」

もう既に考える事を放棄したような顔つきで子供を監禁してある部屋にふらふらと向かう。
身代金を受け取る為の映像は既に用意してあるので子供は用済みなのだ。
開け放ったままの扉から中の様子を窺うと、猿轡を噛まされ、両手両足を縛られ身動きが取れない少年の首を男が絞めていた。

早速実行に移すとは。
そうそう、自分が一番。

涙を流す少年と、目が合った。
その瞳からは、助けて、という意思が感じられた。
薫は、少年に向かって微笑んだ。
状況によっては人に安心感を与えるその笑みを見た少年は、自分の願いが拒絶された事を悟りながら息絶えた。

そういえば絞殺された死体って、中に入っていた老廃物とかが出てくるんですよね。

男は未だ物言わぬ骸となった少年の首を絞め続けている。

「もう大丈夫ですよ」

薫にそう言われて初めて少年が死んでいる事に気付いたようで、ゆっくりと手を離した。
彼は震える己の手を見続けている。

「お疲れ様でした」

「・・・」

さて、後始末に移りますか。
色々やる事があるから忙しくなりますね。





良二がTVを見ていると、衝撃的なニュースが流れていた。

『・・・両親は身代金を引き渡しましたが、以前行方の知れぬままでした。しかし必死の捜査も虚しく、児童の遺体は都内のゴミ捨て場にダンボールに詰められて発見されました。続いて次の・・・』

そのニュースを見て良二は怒りを覚えた。

子供をあんな風に殺すなんて!
こんな事をする奴は何を考えているんだ!

「何かあったんですか?」

薫が尋ねてくる。

「今のニュースだよ!子供を誘拐して殺すなんて!」

「怖いですね」

こういうニュースを見ていると、犯罪者に対する現在の対応も真っ当な物だと感じてしまう自分がいる。

「こういう犯罪者がいるから!人の命を何だと思っているんだ!」

「まったくです」

続く





閑話33

『どうして息子が・・・』

殺害された少年の両親が涙を流す。
それはそうだろう、少年はゴミ捨て場にまるでゴミのように打ち捨てられていたのだから。
しかも死因は絞殺。
遺体の死に顔は苦しみ続けた挙句に死んだ事が一目瞭然な凄惨な物だった。

『我々も手を尽くしましたが、残念です」

壮年の警察関係者が沈痛な面持ちで両親に答える。
両親はその返答に顔を上げ、話し続けた。

『私達の今までやってきた事は、間違いだったのでしょうか?』

自分達が擁護してきた存在に最悪の形で裏切られたのだ、そのショックは計り知れないだろう。

『現在の法律からすれば、間違いでしょう。しかし、我々とて無闇に犯罪者を弾圧しようというつもりではないのです』

そこで男は手元の資料を両親に見せる。

『これは・・・?』

『年間の凶悪事件の発生数です。少ない数ではありますが、やはり犯罪はなくなりません』

『私達は、人間の善性を信じたかったのです。今の法律のように上から押さえつけるだけでは駄目だと思って・・・』

それも人としては当然ではあるだろう。
ただこの世界では当てはまらないというだけだ。

『今でも、その気持ちは変わりませんか?』

『・・・いいえ!』

男の問いに、両親ははっきりと否定した。

『自分の家族が被害に遭ったからと、このように意見を翻すのは浅ましいとは思います!しかし!それでも私達は犯人を許せないのです!』

その言葉には激情が込められていた。

『だからこそ、我々に賛同してもらいたいのです。このような悲劇を少しでも減らす為に!』





薫はモニターに映された映像を止めた。

「以上です。後はお涙頂戴な展開が続くのであえて止めました」

「うん、気が利くね。私もそういうのには辟易するよ」

光は満足そうな笑みを浮かべた。

「この警察の人も随分と演技が上手なようで」

「何はともあれ、活動家の懐柔にも成功したようだしね。上出来だ」

この後活動家は子供の死を切っ掛けに犯罪者を積極的に排除する事に賛成する事になり、国内の他の犯罪者擁護派の勢力を減らす事に貢献する事になる。

「で、実際に手を下した男はどうするつもりだい?」

「当然始末しますよ。それからは斉藤先生と警察関係の医師に手伝ってもらって死亡推定時刻とかを誤魔化してもらいます」

その答えに頷く。

「死因もかい?」

「ええ」

そうかい、とだけ光は言った。

「しかし、黒澤君。あの活動家も他人が死んだ時はあれこれ理由を付けて犯罪者を庇っていたというのに、いざ自分の家族が、となると途端にああいった姿を晒すんだ。滑稽じゃないか」

「そうですね」

「君も家族が死んだら悲しむかい?」

その質問に、薫は即答した。

「多分人並みには。昔飼っていた犬が死んだときに、それなりにそういう感情を抱いた気がするので」



[8464] 第三十四話 誕生
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/09/28 06:43
第三十四話

ニュースを見ていると、以前子供が誘拐されて殺された事件の続報が報道されていた。

『・・・目撃情報等から容疑者と見られた男性の部屋からは大量の現金が発見されました。確保した所容疑を認めた○○××は現場の警官の隙を見計らって拳銃を奪って逃走しようとしましたが失敗し、発砲して抵抗しましたがやむなく射殺されました。続いて次のニュースです・・・』

あの事件の犯人死んだのか。
こうあっさり死んだんじゃ親御さんも納得いかないかもな。

良二がこの事件の結末について感じた感想はこれだけに過ぎない。
犯人の扱い方が乱暴なのも仕方ないと感じてしまう。
これこそが子供を残酷に殺した人間への報いなのだと。







目を開けると、様々な物が認識できた。

「やあ。意識の覚醒には成功したようだね」

身体を動かそうとするが、それはできなかった。
ぼんやりとしていた視界も鮮明になり、自分が何かの容器の中に入っている事も理解できた。

『ここはどこ?』

「もう話そうとしているのか・・・。遺伝子のベースにした人間が良いだけの事はあるね」

目の前の相手が何を言っているのか分からない。

『ぼくはだれ?』

「まだ誰でもないよ。君には名前が無いからね」

何故?
しかしそう言われると自分に記憶と呼べるべきものが無い事が自ずと認識される。

「会話も出来るほどの知能レベル・・・、これなら使い物になりそうだな」

小声で話す声も聞こえてしまう。

『つかいもの?』

「聞こえていたのかい・・・。聴力も素晴らしいな」

相手は満足そうに独り言を言う。

「そうだ、私が君に名前を付けてあげよう」

『ほんとう!?』

「本当だとも。君の名前は、トール・ブラックだ」

『それが、ぼくのなまえ?』

「そうだよ。まだ教えていなかったね、私の名前は白井光だ」

トール・ブラック・・・。
それが、自分の名前。

それは、初めて自分と言う存在を確立した。




ガイアクイーンビーは自分が作った拠点の中に有る、卵達を至福の表情で見詰めていた。

もうすぐ、私の新たな一族が誕生する。

「長、人間の住処への侵攻の用意が整いました」

「よし、すぐにでも始めろ」

「はい!」

人間の味はそれほどでもなかったが、今度生まれてくる子達の為にも食べ物がたくさん必要だからね。
肉団子を、いっぱい用意しなきゃ。




翼が慌てた様子で部屋に入ってきた。

「レッドさん、また怪人!」

「何だと!?」

怪人め、この前大規模に倒したというのにまだ懲りないのか・・・。

腕を組み自分がかっこよく見える角度で翼に相対する。

「早く準備!急いだ方が良い事はあんたも分かってるっしょ!?」

「・・・分かった」

翼の言葉はもっともなので黙々と準備を整える。

「じゃ、早くマシンに乗りましょう!」






マシンに乗り込んだ二人は怪人が出現したとされる方向へ偵察に向かう。
ある程度飛行した所でレーダーは数多くの影を捉えた。

「これは、軽く十以上はいるね・・・!」

翼はそれを本部へ伝える。
太陽もレーダーを注意して見ていると、こちらへ向かって来る幾つかの影が確認できた。

レッドウイングは空中にいるから地上からは捉えられない筈だ。
だったら何故?

そこまで考えて、太陽は翼に警告した。

「ウイング!何か来るぞ!」

「?・・・!」

翼はそこで操縦桿を握る手に力を入れて方向転換をした。

「おい、何故引き返す!?戦えば良いだろう!?」

「無茶言わないでください!このマシンには機銃位しか武装が無いんだ!そんな状況で積極的に戦うのは自殺行為って事、分かるっしょ!?」

「むう・・・」

「それに本部へ情報は送ったんだ!これ以上余計な仕事をして無駄死にする気は無い!」

空中にいる怪人も地上にいる相手と戦うにはある程度高度を下げて接近しなくてはならない。
だから後はヒーローに任せる、と言うのだろう。

だったら、ここでまた何の役にも立たない自分は、一体何なんだ・・・。

レッドスペシャルヴィクトリージャスティスガンソードは操縦席のすぐ傍に置いてある。
いざとなったらキャノピーを開けてこれで怪人を撃墜してやろうとも思っていた。

「分かった、後退する・・・」

「そうそう!」

空を飛ぶ怪人に捕捉される前に現在いる空域を離脱するべく翼は可能な限り早く後退した。





街の人を攫おうとしている戦闘員を片っ端から撃ち殺すも数が多すぎて全てを倒す事はできない。
しかも怪人の中には明らかに死んでいると分かる人達まで抱えて運んでいくのもいるくらいだ。

いくら遺体だからって、お前等に人の尊厳まで汚させるわけにはいかないんだ!

健はトンファーを握り締めシデムシ型の怪人に殴りかかって遺体を取り戻した。
この遺体をどうする気だったかまでは知らないが、何もかも奴等の好き勝手にさせるつもりは無かった。

「隊長!周囲の避難は大方完了しました!しかし犠牲者は多数、怪人達はその遺体を集めて何処かに持ち去ってしまいました・・・」

「くっ!」

生きている人の命だけでも守れて良かった、そう思わなければいけない場面なのだろう。

「ヒーローは現在空中から飛来した怪人の相手をしていて到着が遅れています!」

そうしている内にシデムシ型怪人は逃げてしまった。
去り際に部下が一人殺されているのを見て、健の心に怒りが生まれる。

「畜生・・・!」

死んだ部下はやや未熟ではあったが、その分目をかけていた。

これからって時に、何で死んじまうんだよ!





「今日もまた、一段と多いな!」

良二は上から襲ってくる戦闘員の攻撃を避けつつランスを突き刺す。
そう、上からだ。

空を飛ぶ戦闘員の存在はこれまで確認されていなかったが、今回初めてその姿を現した。
また怪人と連携して攻めてくるので地上型の戦闘員よりも戦いにくい。

「くそっ!当たらねぇ!」

瞬がサブマシンガンを掃射するが、単独では効果が薄い。
しかしすかさず薫と春美がそれぞれ攻撃から逃れた戦闘員を撃ち落とす。

「闇雲に撃っても、弾の無駄遣いよ」

さらっと毒を吐く春美。

二人の周囲には茜と優子が控えて、彼等が射撃に専念できるように待機している。

そうして着実に敵の数を減らしていると、怪人達が撤退し始めた。

「引いた・・・?」

「ええ、恐らく」

茜と優子がそれを確認して一息つく。

「思ったよりあっさり逃げてくれたな・・・」

「怪人対策課が相手をしている怪人達も撤退したようです」

良二が薫に話しかけると、通信機を使って薫は本部の指示を仰いでいた。

戦闘員まで飛べるようになってきたのか・・・。
ただでさえあの数は厄介だって言うのに・・・!






ガイアクイーンビーの前に人間の死体が積み上げられる。
ノアシデムシ達が戦いの間に集めてきた物だ。
今回の襲撃の主目的は『人間』を手に入れる事だった。

「御苦労様。後で使い終わった物は食べていいよ」

「はっ!」

部下達が退出する。
彼女は人間の構造を調べる事をアクアシャークやウインドホークから頼まれていた。
言葉が分からない存在ではあるが、互いに知的生命体なのだ。
特にウインド族からは熱心に中枢部を調べるよう言われている。

まあ、私は今更人間の事を学ぶ暇はあまり無いと思うのだけどね。
当座の食糧事情もこれで大丈夫だし、あの子達の様子でもこれを調べ終わったら見に行こうかな。





光と科学者は、『トール・ブラック』の教育方針について話し合っていた。

「では、あれは対人用の戦力と見ていいのですね?」

「ああ。必要に応じて怪人とも戦わせるがね」

薫の遺伝情報を使って作られた、人工怪人。
姿形は人間と相違無いが、身体機能の強化は勿論怪人からのデータも使った攻撃も可能だ。

「しかし、あのブラックと同じ遺伝子を持っているとは思えないぐらい素直ですね」

「誰だって子供の頃はそれなりに可愛いものだよ」

トールの名前はある程度前から考えていた。
本当の、を表す『true』。
光達にとって都合が良い、本当のブラックとして作られた存在。
そして、道具を表す『tool』。
これらの英単語をもじって名付けたのである。
都合の良い、道具。
光がトールに抱く感情はそれだけである。

続く






閑話34

仕事を終えた翼が帰ろうとしていると、太陽が何かを握り締めて立っている所を見つけたので話しかけようとして近づいた。
よく見ると、それは太陽の実戦で使う武器だった。

「何物騒な物持ち出してんのさ」

「・・・ウイングか」

翼の存在に気がつくと彼はゆっくりと振り向く。

「今日も被害が出たそうだな」

「戦闘員まで飛ぶ時代になってきたしねぇ」

帰還してからその情報を良二から知らされた時は、あの時引き返して良かったと思った。
怪人だけでも対抗できるかどうか怪しいのに、戦闘員までマシンに襲い掛かられては撃墜される可能性が大幅に上がる。

「マシンにもっと強力な武装があれば話は違うけど、無いから流石に無理っしょ。機銃だけじゃね」

「むう・・・」

翼としても危機感は感じているのだ。
偵察だけならまだしも、その最中に襲われる可能性が高いとなっては自分も危ない。

そういえばマシンは複座敷だから俺が操縦をして、レッドさんが攻撃にそれぞれ完全分業できるように調整してもらえばいけるか?
試作機の新しい武装テストの名目でもあればオプションパーツとして何か取り付けてもらえるかもしれないし、上に提案するだけの価値はあるか・・・。

機体には現状、それだけの改良をする余地があるだろう。
となると、太陽にも協力してもらった方が良い。
一パイロットとしての自分だけが発言するよりも、仮にもヒーローなのだから少しは好影響になるだろう。
善は急げだ。

「俺の勝手な考えなんすけどね。マシンの武装を強化してもらえるようあんたからも提案してもらえませんか?」

太陽に自分が考えた事を伝えると、彼の目にはたちまち生気が戻った。

「レッドウイングが新しく生まれ変わるというわけか!まるで不死鳥のように!」

いや、別に撃墜されたわけじゃないから。

「よし!早速行こう!」

強引に翼の手を掴んで引っ張っていく太陽には、既に先程の影は無かった。






瞬は茜と優子を連れて帰ろうとする薫を発見したので引きとめようとして呼び止めた。

「待てよ、黒澤」

茜は露骨に不機嫌さを隠さない様子で瞬を見る。

「アタシ達これから帰るとこなんだけど」

「お前に用は無い」

優子も瞬を厄介そうな目で見る。

「たまには話してもいいんじゃないか?」

「・・・二人とも五分待っていてください」

薫は少し思案すると、僅かだがこちらに譲歩したようだった。



「で、どうしました?」

「お前は、何も言わないんだな」

「?」

薫はわけが分からない様子だ。
しかしそれも演技かもしれない。

「俺があまり戦果を出さなくても、って言う事だ」

「責めるだけじゃ何もなりませんよ。それに貴方は僕の事が昔から気に入らないようですし、深入りするとお互いの為に良くないと思いまして」

違う、嫌いじゃない。
そう言おうとしても口が動かなかった。

「なら、コードネームじゃなくて名前で呼んでくれ」

「はあ。分かりました」

自分の正直な気持ちを口にする事は出来なかった。

「そろそろ五分経ったので行きますね、金井さん」

それだけ言うと薫は去って行った。

「・・・名字か」

薫からは対等の存在としては認められていないような気がした。



[8464] 第三十五話 ヒーロー対ヒーロー
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/09/28 06:48
第三十五話

量産を進めていたヒーローの装備が、犯罪者集団に奪われた事を光は部下からの報告で知った。

「そうか。で、どうしてそんな事になったんだい?」

物言いこそ穏やかだが冷たい視線を注がれた部下は、どこか気後れした様子で続けた。

「・・・その、敵の中に恐ろしく戦闘能力が高い相手がいまして。警備用の戦闘員も瞬殺されたそうです」

「下がっていいよ」

「はっ!」

特に叱責されなかった事が意外そうではあったが大人しく命令通りに出て行く部下を見送る。
そして、光は彼を呼んだ。

「トール」

次の瞬間目前にトールが現れる。

「ちゃんと出来たようだね」

「うん」

トールの戦闘能力テストがてらに味方である筈の存在を襲わせた張本人は光だった。

「あの人達に、あれ渡したよ」

「御苦労様」

裏で糸を引いているのが敵であるヒーローだと知ったら、犯罪者達はどんな顔をするのだろう。

「次の指示が欲しいって言ってた」

「分かった。近い内に出すよ」

犯罪者への対応が児童誘拐殺人事件から一層厳しくなっている事から、犯罪者達はますます追い詰められていた。
そんな時に自分達を導いてヒーローに対抗しようと言う者が現れたのだ。
藁にも縋る可能性であっても、彼等はそれに賭けるしかなかった。

さて、後は本当の意味での実戦テストだ。




その知らせを聞いた時、浩介は思わず唸り声を上げそうになった。
人々を守る希望である筈のヒーロー用装備が強奪されたというのだ。
あれは犯罪者が人を傷つける為に使われていい物ではない。

「田中君も、聞いたな!」

「はい!」

健も怒りに燃えていた。
それはそうだろう。
現在の警察で使われている量産型の装備も、教官であった良二と今はいない二郎達とでテストして、その結果採用された物なのだから。
言わば、量産型の装備は怪人対策課と共に歩んできたと言っても良い。
そんな存在が悪用されようとしているのだ、彼等の胸中は如何程であろう。

「ヒーロー側からも協力要請が出ている。もしも強奪した犯人が現れたら、装備の奪還か破壊を頼まれた」

本来は管轄外だが、ヒーローに対抗できるのもまたヒーロー、という方針らしい。
その時はヒーローからも数名出動させるようだ。

「絶対に、好きにはさせない!」

健が力を込めて言う。
浩介も同じだ。
彼は拳を知らない間に握り締めていた。






怪人が攻めてきた、ここまではいつもの事だ。
しかし、今回は違う。
ヒーローの装備を身に着けた犯罪者集団までが動いているという。

「まじかよ・・・、なんで人間まで相手にしなくちゃならないんだ」

良二が唸るのも無理は無い。
第一彼等は、怪人と最前線で戦ってその侵攻を阻止しているのは一体誰だと思っているのだろう。
いや、案外分かっていてやっているのかもしれない。

「俺が、止める。仮にも俺が関わった物が間違った使われ方をするのは見過ごせない」

良二は強い決意を込めて集まった同僚達に宣言した。

「まあ、何にせよ手早く片付けなくてはいけない事ですから。でもブルー、止めるって事は犯罪者と戦う事になりますよ」

薫の言葉を聞いてふと考えた。
自分に人を殺す覚悟はあるのか、と。

「・・・、戦う覚悟はある!」

鈴木達だって、生きていたらそう言う筈だ!

「それならそれでいいです。今回は主に怪人と戦うメンバーと犯罪者と戦うメンバーとに分ける必要があったので、とにかくまずブルーは対犯罪者、という事で」

それから薫はてきぱきとメンバーに役割を指示していった。
その結果、怪人と戦うメンバーはきいろ、茜、優子、瞬の四人と戦闘員。
犯罪者と戦うメンバーは良二、春美、そして薫の三人と警察という事になった。

「・・・自分は?」

太陽がぽつりと呟く。

「羽田さんと何か命令があるまで待機していてください」

薫がばっさりと切って捨てる。

お前、もう少しソフトに言ってやれよ。

良二はフォローをする事にした。

「あー、レッド達はさ。俺達の帰る場所を守っていてくれよ」

「物は言いようだね」

しかしすかさず茜の追撃が入る。
一旦は立ち直ったかに見えた太陽だったが、再び落ち込みだした。

「・・・ここは俺に任せてください」

翼が戦闘中に言ったら死亡フラグ間違い無しの台詞を言って、良二達に出動準備をするよう促す。
その言葉に甘える事にした。

「ああ。・・・気をつけろよ」

「・・・はい」





来た、怪人だ。

茜は遠くに怪人の一団を確認した。

「茜さん、黒澤さん達から犯罪者を確認したと連絡があったのですが・・・」

「何なの?」

はっきりしない優子に続けるよう催促する。

「怪人の一部と犯罪者の一部が交戦状態に入ったと・・・」

「・・・え?」

予想外だ。

「何でなのかな・・・?」

きいろと瞬も考え始める。
そして、茜は一つの可能性を考えた。

「あ、もしかしたら・・・。基本的に量産型の装備ってアタシ達のと外見似てるじゃん?怪人からは見分けがつかないじゃ・・・」

「「「・・・」」」

全員その可能性が妥当なものだという結論に至ったようだ。

「・・・馬鹿?」

「だね・・・」




「ああ、やっぱりこうなったか」

「あまり残念そうじゃないね」

当たり前だ、こうなる事を見越して怪人の襲撃に合わせたのだから。
対人、対怪人両方の性能を一度に試せる。
一石二鳥だ。

「それに、なるべく味方側の被害は出したくないものさ」

「・・・」

どこか冷めたトールを見ながら、光は続けた。

「これでも色々考えているのだよ?」





犯罪者で怪人との戦いから逃れた者達がこちらへと向かってくる。
あのまま共倒れしてくれれば良かったのに。

「・・・なんだかなあ」

良二の気合も削がれ気味になっている。
怪人も犯罪者も、敵の敵は味方、というわけにはいかないらしい。

「どっちにしろ仕留める相手。好都合じゃない」

春美の意見には薫も賛成だ。

「じゃ、早速害虫駆除を始めますか」

薫はランチャーにバッテリーパックを使い遠距離から犯罪者の一群に向かって砲撃した。
何人かが閃光に飲み込まれる。

「ピンク」

「分かっているわ」

春美もライフルで狙撃を始める。

「遠距離攻撃で大分数を減らしました。次はブルーの番ですよ」

「任しとけ!行くぞ、田中!」

「はい!」

警察官を率いた健と良二が前線の維持を受け持ち、犯罪者を薙ぎ倒していく。
しかし、彼等に共通している事はできるだけ無力化を優先させているという事だ。
ああ言ってはいたが、良二にも越えられない一線という物があるのだろう。
健達警察は職業上のプライドからか。

どっちにしても、くだらないですね。

だから薫は、良二達が見ていない内に倒れ伏している犯罪者達の頸部を一人ずつ踏んで息の根を止めていった。
もし復活されて邪魔をされたら面倒だし、それにこれだけの事をして命が助かるなんて事は無いだろう。
どうせ死ぬのなら、自分達に迷惑を掛けない内に死んでもらいたい。
躊躇せずに人の命を奪える自分が良二達とは違う存在だという自覚はあるが、別に間違った行動をしているとは思っていない。
自分が死ぬ可能性もある事を理解しているからだ。
その光景を横目で見ていた春美は、何も言わなかった。




犯罪者を追い詰めた良二達は、狭い通路のような所に入った。
しばらく足止め役であろうスーツを着ていない犯罪者を倒しつつ進むと、良二の目の前に見覚えのある物が投げ込まれてきた。

「!?」

ヒーローハンドボム!?
やばい、なんとか・・・!

「ぶぎゃ!」

あれ?
なんとも無い?

ボムが投げ込まれた位置を確認すると、薫が反射的にまだ生きていた犯罪者を爆発する寸前のヒーローハンドボムの上に放り投げたのだろう、その爆発の威力を最小限に留める事に成功したようだった。
その代償に犯罪者の胴体は吹き飛んで見るも無惨な状態になっていたが。

「ブラック・・・」

「手近に丁度いい物があって良かったですよ」

やり方に言いたい事はあるが、薫のお陰で味方への被害が無かった事も事実だ。

「くそっ!」

量産型ヒーロースーツを着た犯罪者達が臍を噛んでいる。
多分今の奇襲でこちら側を爆殺する気だったのだろう。

お前達の味方もいたんだろう?
それなのに・・・。

良二は、理解した。

ああそうか、犯罪者だからだ。

「お前等!」

良二がランスを両手に構え突進する。
相手はロッドを抜き応戦した。

「この野朗!お前等ヒーローや警察だからってでかい面しやがって!」

好き勝手言ってくれる。

「何を!」

「お前等が使ってる戦闘員だって、俺達を改造したものだろうが!そんな事を正義がやっていていいのか!?」

お前等に何が分かる。

「犯罪者には言われたくない!」

良二のランスが背後から挟撃しようとしてた相手を薙ぎ払う。

「言い返せねえのか?そんな奴等に俺達が迫害されてたなんてな!」

「うわっ!」

敵の銃撃を手に受け、武器を片方落としてしまう。

「あばよ!」

「くっ・・・」

良二の頭部にロッドが叩き込まれようとしている。
その寸前、割って入った健が盾でその攻撃を受け止めた。

「邪魔すんじゃねえ!」

「早く体勢を!」

「すまん!」

起き上がるついでに犯罪者に足払いを仕掛け、倒れた隙を逃さず喉元にランスを突きつける。

「武器を捨てろ!命までは取らない!」

「・・・ま、参った」




戦いは終わった。
茜達の方で相手をした怪人は途中から乱入してきた異様な怪人達の事もあり、それほど被害を出さず撤退していったらしい。
こちらで撃退した犯罪者も生きている者は警察により連行された。
去り際に彼等が憎憎しげにこちらを睨んでいたが、そのうち一人が薫によって強制的に黙らされたのを契機に大人しくなった。

正義か・・・。

「ブラック、正義って何かな」

「一つだけ確定している事があります」

「それは?」

「勝てば官軍、昔からこう言うでしょう?」

・・・。

それにしても、なるべく殺さないようにしていたのにやけに死人が多かったな・・・。

続く






閑話35

良二達が鎮圧した犯罪者は結局処刑された。
流石に非公開であったが、碌に審議もされないまま最終的には銃殺刑となったようだ。

『弾が勿体無いわね』

以上は、春美の感想である。

子供を誘拐され殺害された元活動家等が積極的に死刑を主張していたらしい。
自分と健達がした事は、少しだけ彼等が死ぬまでの期間を延ばしただけであった。
要するに、自己満足。

ははっ、・・・生殺しか。

そして死人の数が多かったので薫に問いただした所、彼が犯罪者を始末したという答えが返ってきた。
どうしてそんな事を、と言ったがどちらにせよ死ぬ運命ならばすぐさま殺した方が戦闘中の不確定要素を排除できるからだという理由だった。

人間扱いされてないって事だな。

『だからブルーがあの時に犯罪者を殺していても、大丈夫だったんですよ?』

積極的に命を奪うような事はしたくないが、犯罪者から製造された戦闘員を使い捨てた事は何度かある。
自分も、犯罪者視点で見れば薫と五十歩百歩なのだ。

「でも、犯罪者は許せない」

いつか自分の意思で一線を越える事になるのだろうか。





「レッドさん。マシンにつけるオプションの案、上手く行きましたよ」

「おお!これで偵察だけでなくまともに戦えるのだな!」

茜によって気落ちした太陽を宥めるのは苦労したが、ある程度持ち直してくれて良かった。
すると太陽が咳き込み始めたので、翼はティッシュを取り出して渡す。

「おお、すまんな」

「風邪?最近流行ってるから気をつけた方がいいんじゃね?」

太陽は軽く口元を拭って、翼が視認できないような速度でそれを懐にしまう。

「親父も任期が切れて、ちょっと家の方が大変でな」

「任期?」

翼は太陽の父親が政治家だという事を思い出した。

「はあ」

人って、見かけによらないんだな。

太陽が良い所の御曹司のような立場である事は、似つかわしくないように思える。

「なあ、ウイング。自分がヒーローじゃなくなっても、影響はないんだろうか」

「・・・少しは出るっしょ、流石に」

「いや、気にするな」

「へいへい」

なんだか知らんけど、辛気臭いのは性に合わないからとっとと復活して欲しいね。



[8464] 第三十六話 もしも翼があるならば
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/10/11 07:16
第三十六話

ノクアの海中にある拠点の一つで、アクアシャークは作戦の最後の打ち合わせをしていた。

「アクア族の精鋭、それとガイア、フレイム、ウインド族からの増援である対空部隊の準備が整いました」

「そう、ありがとう。ノアクジラの調子は?」

「良好です」

いよいよね・・・。
ガイアビートル、見てなさいな。
結局人間の事に関する理解はまだ不十分だけど、これ以上はアクア族が限界。

故郷の星には、遂にアクア族が住めなくなってしまった。

だからこれが私達アクア族の生存を賭けた勝負!





長官室に呼び出された太陽は中に薫もいるのを見て不思議に思ったが、用件を尋ねる事にした。
だが、そこから彼は衝撃を受ける事になる。

「今、なんと・・・?」

太陽は光の発言が信じられなかった。

「だから、今まで御苦労だったね」

何故だ。
自分は、ヒーローなのだ。
ヒーローとして戦ってきた。
それを・・・。

「君の身体は戦闘には耐えられない。前にも言った筈だよ」

「っ!・・・、しかし!」

そこで傍観していた薫が口を挟む。

「長官。もう少し直球で言ってあげたら如何です?せめて原因をはっきりと分からせないと本人も納得しないでしょう」

「君に任せるよ」

「そうですか」

自分に向き直った薫の目を見て、太陽は後ずさった。
同僚の中で一番太陽が苦手なのが薫である。
自分が口で勝てない事も知っているし、果たして何を言われるか・・・。

「レッドのお父様は政治家でいらっしゃいましたね」

「ああ・・・、だが今は違うぞ」

「それです」

「は?」

親父とヒーローがどう関係していると言うのだ?

「レッドはですね、政治家の息子だったからヒーローに選ばれたんですよ」

「!?」

なん・・・だと・・・?

そして光が言葉を拾って続ける。

「ヒーローにも色々あってね。政治家も身内を危険に晒しているという事で支持率を上げたりと、そんな事だ。もっとも君の御父上はせめて少しでも君の安全に繋がるようにと資金面での援助に役立ってもらっていたがね」

止めろ。

「実力で選ばれたわけではないという事です」

止めろ!

「その援助も無くなった今、君を使い続ける必要性は存在しないのさ」

「止めてくれ!」

聞きたくないんだ!

「つまり、要らないって事です」

「うわぁあああああ!」

自分は、ヒーローに・・・!

「五月蝿いね。黙らせてくれ」

「分かりました」

薫は隙だらけの太陽の鳩尾に拳を叩き込んだ。
朦朧とする意識の中で、太陽は光の声を聞く。

「なに、いきなり辞めてもらうわけじゃないさ」

その言葉は、今の太陽にとって何の救いにもならなかった。





太陽が目覚めると、医務室のベッドの上だった。

「夢・・・、か?」

「現実ですよ」

驚いて顔を声が聞こえた方向に動かすと、薫がいた。

「ブラック・・・」

「今後の説明を頼まれましてね」

薫は弄っていた携帯を折り畳んで、太陽の目を見る。
ただそれだけだったが、恐ろしく思えた。

「マシンのパイロットは羽田さんと、誰かを新しく選出する事になりました」

「!?」

そんな、自分にもできる事が!

「レッド」

「何だ」

「最初は御世辞にも役に立っているとは言えなかった貴方の戦闘力が、どうしてある時期から急に上がったか分かりますか」

「自分の修行の成果だ!」

そうだ、修行をしていなければ、急に強くなる筈がない!

「違いますよ。長官から言う許可をもらったから言いますが、科学研究班の投薬の効果です」

「え・・・?」

投薬、だと?

「どういう事だ・・・」

「貴方自身の身体能力はそんなに悪くありませんでしたから、良い部分を生かす方向での実験が功を奏してある程度使い物になるようになったのです」

「・・・」

馬鹿な!
自分の修行は、何の役にも立っていなかったというのか!

「最近身体に違和感を感じていませんか?それは薬の副作用です」

「・・・」

次々と聞かされる衝撃の事実に言葉も出ない太陽。

「何故、俺にそんな事を聞かせる・・・」

「口調が変わってますよ?」

「答えろ!」

知りたくなかった!
俺が自分の能力を認められていたわけではなかった事を!
自分の力で強くなったのではなかった事を!

「何故聞かせた!」

「別に知られたからといってどうという事はないからです。長官が、情報統制もしてあるそうですし」

その瞬間、太陽の中で何かが切れた。

「俺を・・・」

「?」

「俺を、舐めるな!」

渾身の力を込めて薫に殴りかかる。

「事実ですから」

しかし、怒りの篭った拳も簡単に受け止められる。

「離せ!」

「相当体力も落ちていますね」

あっさりと太陽の拳を離す薫に、太陽は屈辱を感じた。

「ああ。それとですね、レッド。貴方もう、長くないですよ」

「!?」

可能性の一つとして考えていた事だった。
だが、こうして言葉となって聞かされると絶望感を感じる。

「長官からの伝言です。死ぬ時までヒーローでいさせてあげるよ、ですって。勝手ですよね」

「・・・」

太陽はそのまま医務室を後にした。





良二はこの世の終わりのような顔をしている太陽を見つけた。

うわぁ、物凄い落ち込み方だ・・・。

「レッド、どうした」

「俺の事なんて、放っておいてくれ・・・」

俺?

「お前、口調変わってるぞ」

「?ああ、そうか・・・。こっちが俺の地の喋り方なのだ」

「それは分かった。じゃあ、何で普段は自分、って言ってたんだ?」

最初から俺、でも良かったと思うが。

「・・・自分、の方がヒーローらしいではないか」

「そんな理由かよ!」

太陽と話すと、こうなってしまう。
最近ある程度スルーする事も覚えていたのだが。

「ブルー、もし自分がもう少しで死ぬと分かっていたら、どうする?」

「え?」

「答えてくれないか」

真剣なその表情に押されつつ、良二は自分の考えを述べた。

「まず、思いっきり泣くかな」

「泣くのか・・・」

「それから、自分に悔いが残らないよう、精一杯生きる」

「随分、達観しているな」

達観?
違うさ、ヒーローをやっていると何時死ぬか分からない。
だから日頃から覚悟をしているだけだ。

「ていうかさ、死ぬなんて縁起悪いぞ」

「すまんな」

「俺は皆に死んで欲しくないよ」

「・・・そうだな、俺もだ。ブルー、イエロー、ピンク、オレンジ、グリーン、ゴールド、・・・それとブラックにもな」

話していると、太陽の顔が少し寂しそうな気がした。

「お前、自分を計算に入れてないんじゃないか」

「・・・おお!」

忘れてたのかよ!




ある日ヒーロー本部に怪人の拠点らしき物を発見したとの情報が入った。
その場所とは、海上。
しかもそれはゆっくりと本土へと近づいてくるらしい。

「自衛隊への出動要請は?」

「とっくにやったさ。だが、戦闘機がそこへと近づくまでに撃墜されてしまう」

薫と光が現状把握の為の会話をする。

「となると、米軍も駄目ですか」

「こういった時の為に駐留させているというのに、役に立たないね。けれど国土防衛の為に彼等の装備や艦、戦闘機を徴発させてもらったよ」

抜け目無く自分達の利益になる行動をする光であった。

「では、国土にこれ以上接近される前に喰い止める方法は考えてありますか?」

「一応ね。でも確実に犠牲が出るよ」

「何を今更」

何時もの事でしょうに。

薫は皮肉気に微笑んだ。

「とはいえ、それは最終手段だ。次善のプランで行こう」





集められたヒーロー達と翼は、怪人の拠点の事を知らされた。

「で、だ。羽田君には改良した試作機を操縦して拠点に直接攻撃をしてもらう」

「俺が、ですか?」

指名された翼も驚愕しているようだ。

「一機だけで攻撃させるわけではない。米軍も空母や戦闘機を使って協力してくれる。ただ、要が君というだけだ」

「・・・うわぁ、そりゃ流石に責任重大過ぎるっしょ・・・」

やや萎縮気味なのも仕方が無いであろう。
多くの人命が自分の双肩に掛かっているのだから。
そこで、太陽が発言する。

「俺に、行かせて下さい」

その言葉を聞いた光は、やれやれといった様子で返答する。

「これはヒーローごっこじゃないんだよ?」

「分かっています」

思いの他はっきりした態度を取る太陽を見て、光も考え始める。

「そこまで言うのなら、任せよう」




格納庫に一人佇む太陽は、新しい装備を追加されて赤く塗装されたマシンに手を当てていた。

本当に俺が死ぬなら、ヒーローとして死にたい。

「レッドさん」

「・・・ウイングか」

翼がコーヒーの缶を持って近づいてきた。

「何で、志願したんです?」

「あまり聞いていて楽しい話じゃないぞ」

「期待してないっしょ」

「そうか・・・」

そして太陽は、語り始めた。

「俺はな、ヒーローになりたかった。その為に、まず一人称を自分にしていた」

「何でさ」

「その方がヒーローらしく見えるのと、変わりたかったからだ」

だが、俺はあの時から何も変わっていなかったのかもしれない。

「母がな、俺が小さい時に死んでるんだ。俺は何も出来なかった」

「子供だったんだし、しょうがないっしょ?」

「・・・そうかもな。病気だったし、仕方の無い事だったのかもしれない。親父も俺を可愛がってくれてはいたんだろうが・・・。だから、よく母と見ていたヒーローのようになりたかった」

修行もした、だがそれは無意味だった。
ブラックには歯が立たなかった。
それに俺が勝手な行動をしていたせいで皆に迷惑を掛けた事もあった。

自分がどれだけ滑稽な存在だったか、今になって思い知った。

「なるべくポジティブな、悩みの無い人間でいたかった」

「ポジティブ過ぎるのも良くないと思うけどね」

それは反省している。
以前は自分が選ばれた、ヒーローに相応しい存在だと疑ってもいなかったのだから。

「俺は今のレッドさんの方が話しやすいと思うけどね」

「こっちが地なんだが、そんなにか?」

「以前のあんた、かなり損してたよ」

結局、他の皆には迷惑の掛け通しだった。

「ま、念の為様子見に来て良かったよ」

「?」

「俺も作戦に参加するように、長官に許可取ってきた」

「!」

最近驚く事が多かったが、これも驚くべき事だ。

「何故だ!俺が行くと言ったろう!」

「俺にもさ、家族とかダチとか、人並みだけど守りたい物があんの。それにさ、元々マシンは複座っしょ?」

そう言われれば、その通りだ。
だが改良され一応一人でも操縦は可能になっている。
危険な任務だから、どうせ近い内に死ぬであろう自分が行こうと思っていたのに。

「ウイング・・・」

太陽は感動していた。
翼の心意気に、そして自分が仲間に恵まれていたという事に。

「あんただけだと失敗しそうですし」

「・・・否定はできんな」

その一言が無ければ、より嬉しかっただろう。

続く





閑話36

良二達は本土に上陸する怪人を迎え撃つ事となった。
ただ、薫だけは太陽達と共に戦闘機で空へ向かうらしい。

「ブラックも、気をつけろよ。飛行機事故は普通の事故より死ぬ確立が高いんだからな」

「うん。レッドは割とどうでもいいけど薫は死なないでね」

茜も薫の事を心配しつつさらりと酷い事を言う。
この場に太陽がいなかったのは幸運だっただろう。

「死なないように頑張ってきますよ」

空中戦での指揮用に、量産試作型の機体に乗るらしい。
自衛隊やレッドのマシンに本部からの命令などを伝えるのが主任務だとか。

「お前、戦闘機の操縦なんて出来たんだな」

「一通りは」





良二達に見送られた後、他のメンバーには伝えていない事を光と話し合う。

「レッドと僕以外の戦闘機は、僕の裁量で使っても構わないんですね?」

「そうしないと無駄な犠牲になるだけだからね」

薫の今回の作戦での役割は後衛機だが、実質はほぼ全権を握っていると言っていい。

「レッドが立候補したのは想定内の事でしたけど」

「君から自分に待ち受ける運命を聞かされれば、ああいった作戦にも彼自ら立候補してくれると思ったよ」

光が薫に、太陽の身体の事を話させたのもそれが狙いだった。
薫も太陽がそうするだろうと分かりきっていて話したのである。

「しかし、羽田君も志願するとは」

「お陰で作戦成功率は上がりましたけどね」

「まあいいさ。優秀なパイロットだが代えはあるからね」

既に光は、翼の命を諦めていた。

「新しいパイロットをもう一人手配しておかないと」

「面倒なら止めれば良かったでしょうに」

すると、光は何を馬鹿な事を、と言わんばかりに言った。

「そうする程の人材でもないしね」

ご愁傷様。

薫は翼に心の中だけで黙祷した。



[8464] 第三十七話 沈み行く夕陽に (第三章完)
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/10/11 07:22
第三十七話

怪人達の動く拠点、その中心部にアクアシャークはいた。
先鋒はノアクジラとアクア族の精鋭に任せてある。
自分は、他の部族とここを守るだけだ。

「長!」

「何事?」

「人間の物と思われる飛行体がこちらへと向かってきます!」

「私達も空を飛べる者を出撃させて!」





太陽と翼の乗った機体を中心とした飛行隊は海上の拠点へと向かう最中、拠点とは別の大きな物体が本土へと移動しているのを発見した。

『黒澤さん、どうしましょう!?』

一人の隊員が薫に問う。

『本土防衛は他のヒーローに任せてあります。今は、一刻も早く敵拠点を攻撃しましょう』

彼等の会話が太陽の耳に付けた通信機から入ってくる。
あんな大きな物を放っておいていいのか、という気になったが、自分が決める事ではないと思った。

これで、俺が戦闘行為に参加するのは最後になるな・・・。

出撃前に、太陽は斉藤医師の手によって更なる投薬を受けていた。
今回だけは激しい戦闘にも耐えられるが、以後は二度と戦えなくなる。
それでも彼は了承した。
何か自分がヒーローだったという証を残しておきたかったのかもしれない。

「レッドさん、来る!」

翼の声で我に返った太陽は、火器管制装置を手で握る。

「操縦、任せたぞ!」

「そっちも、攻撃はよろしく!」

ブースターが勢い良く吹き出し、二人の乗った機体は空を駆けた。
オプションに取り付けられた小型ミサイルポッドからミサイルが射出され、前方から飛来する飛行可能な敵戦闘員に次々と着弾する。

「よっしゃ!」

翼が歓声を上げる。

「回避は頼んだ!」

「あいよ!」

敵怪人からのエネルギー波を軽やかに避ける。

「もう一撃!」

ミサイルポッドの残弾を撃ち尽くし、デッドウェイトになったそれをパージして機動性を向上させる。

「ウイング!他の皆は!?」

「ブラックさんを筆頭に、今の所全員無事!」

怪人を無理して倒す必要は無い。
拠点撃破が最優先なのだ。

雑魚の数は大分減ったが・・・。

『うわぁああああああ!』

「!?」

太陽が思案していると、一機の戦闘機から悲鳴が上がった。

「どうしたんです!?」

『怪人が機体に!』

翼が慌てて尋ねると、自衛隊員が焦った様子で答える。

くっ!
待ってろ、助けに・・・!?

太陽が翼に機首を返して味方を助けに戻るよう促そうとすると、突然通信機から聞こえた爆音と共に、先程の機体の反応が無くなった。

「な、一体何が・・・」

『レッド』

「?」

何が起きたのか理解できていない太陽の耳に、薫から通信が入った。

『そのままで聞いてください。秘匿回線です』

他の機体と、ヒーローが使っている機体とでは系列が違う。
だからこのような事も可能なのだ。

『さっきの爆発は、僕がやりました』

「!?ブラック・・・!」

「マジかよ!?」

翼も驚きを隠せないようだ。

『あのままだったらどうせ墜とされていました。レッドの事だからヒーローらしくあの機体を助けに戻ろうなんて考えていたでしょう?』

自分の思考は薫に読まれている。

『そういうの、時間の無駄なんで止めてください。それに、敵も巻き添えに出来たし無駄死にじゃあないですよ』

「あんた、それでもヒーローか!?」

『黙っていろ。これから通常回線に切り替えますので』

翼の抗議も無駄なようだ。

『皆さん。彼の犠牲を無駄にしない為にも、ここを早く突破しましょう』

あまつさえ自分の所業を怪人の仕業にして味方の士気を向上させてしまった。

「レッドさん・・・」

「これも、ヒーローなんだな・・・」






怪人上陸予想地点に待機していた良二は、何か大きなものが向かってくるのを見た。
陸地からでも楽に目視できるのだ。

「あれは、鯨か?」

その時、自衛隊の艦から通信が入った。

『済まない、鯨型怪人を止め切れなかった!幾分小型のはこちらが喰い止める!・・・人々を、救ってくれ!』

唐突に始まったその通信は、終わりもやはり唐突だった。

「随分切羽詰ってたみたいだね・・・」

「ああ、けど今は戦うだけだ。そうだろイエロー!」

「うん!」





気がつけば味方の数が大分減っていた。
途中で怪人達に組み付かれた機体は全て薫によって爆破され、それと同時に怪人の数も減っていったのである。

「レッドさん、ブラックさんって一体・・・」

「俺は、何も言えない」

太陽に聞いてもそう答えるだけであった。
翼に今できる事は、できるだけ迅速に敵拠点まで到達する事だけである。
主に薫による味方の被害を減らす為にも。

見えてきた!

敵の拠点を確認する。
ゆっくりと、しかし確実に本土へ近づいている。

「よし、行くぞウイング!」

「はい!」

二人が言葉を交し合った直後、拠点から多数のエネルギー波が放たれた。

やばい!

神経を集中させ、翼はそれを避ける事ができた。
しかし他の味方はそう上手くいかなかったようで、次々と翼に被弾し高度を落としていく。

『駄目だ、落ちる!』

『助けてくれ!』

悲痛な叫び声が通信機越しに翼の耳に入り、冷や汗が流れるのを感じた。
あれは、自分がなるかもしれない姿だ。
落ちていく戦闘機はそれを否応無く気付かせる。

「拠点まで戦闘機が一機落ちていきます!」

翼は薫に報告した。
敵の真っ只中に墜落すれば例えパイロットが死んでいなくてもすぐに怪人達の餌食になってしまう。

『そうですね・・・。とりあえずレッドと羽田さんはランチャーの用意をしていてください。頃合を見計らってあの機体を爆破させて隙を作りますから』

やはりというべきか、冷酷な答えが返ってくる。

「・・・分かった」

だが、太陽は了承した。
優先されるべき事が拠点の破壊だという事が分かっていて、尚且つ味方の被害を少しでも減らす為にはそれしかないと思ったのだろう。

「ランチャーにバッテリーパックからエネルギーの充填を開始する!」

薫のブラックランチャーを大型化しオプションとして取り付けた兵装にエネルギーが集まる。
携行可能な物よりもエネルギー効率は悪いが、その分威力は強力で拠点にも有効な装備だと言える。

『今から爆破します』

再度薫からの通信が入り、太陽がトリガーを引く準備をする。
拠点に墜落するかと思われた戦闘機は、爆発炎上して一時拠点からの攻撃が止む。

「発射!」

ランチャーから、閃光が放たれた。







沿岸に上陸しようとする鯨型怪人は、大きかった。
優子がこれまで見てきた怪人の何倍あるだろうか。

「この!」

瞬はサブマシンガンにバッテリーパックを使って高威力の弾丸を連射するが、いかんせん相手が巨大な事もあってか効き目が薄い。

「Oooooooooooo!」

「くっ!ヒーローバリア!」

その体躯を生かした力任せの攻撃に、戦闘員の壁は時間稼ぎ程度にしかならない。

こんな時、黒澤さんならどうするんでしょうか・・・。

「ねえ、優子さん!」

茜に呼び止められる。

「何ですか!?」

「あのデカブツさぁ、中は弱いんじゃない?」

なるほど、外側程強くはないだろう。

「でも、どうやって内側から攻撃するんですか!?」

そうだ、攻撃するならばあの口から入っていかなければならないだろう。

「もっと柔軟に考えなよ。嫌な事は戦闘員に任せればいいじゃん」





ランチャーから放たれた光は敵拠点に降り注いだ。
特に下からの対空砲火も目に見えて減少し、それが味方に安心感を与える。
この調子ならば、自分の最後の任務も無事に終える事ができそうだ。
帰ったら、良二やきいろ、春美、そして薫に何を言おう。
自分がヒーローになってから以来の付き合いなのだから。

俺がいなくなっても、大丈夫だろう。

しかし、順調な時ほど危険が迫る。

「下から何か、物凄い速さで来る!」

羽が生えたような魚だった。

「飛魚か!?」

ランチャーの充填は間に合わない。

「レッドさん、機銃を!」

「ああ!」

牽制用の機銃を放つが、敵は被弾するのもお構い無しに突っ込んでくる。

特攻、だと!?

自分が良く見ていたヒーロー物では、こういった場合ヒーロー達も手痛い一撃を貰っていた。

だが、今レッドウイングを操縦しているのは俺ではない!

「ウイング!」

「っ!」

返事を返す暇も無い程集中しているのだろう、その甲斐あって怪人の特効を回避する事に成功した。

「どんなもんっしょ!」

「流石、本職のパイロットだな!」

途端、機体に衝撃が走った。

「何があった!」

「右翼が大きく損傷!・・・!?何か翼の上に取り付いてる!」

鮫だった。
鋭利な剣を持ち、それで翼を切ったのだろう。

あの時に、飛び移ったのか!

飛魚の特攻が回避される瞬間に、何処にいたかは知らないがこちら側に組み付いたのだろう。

これ以上やられたら、墜落する!

太陽はキャノピーを開放しヒーローガンを怪人に向けて連射するが、剣で防がれてしまう。
このまま接近されればまともに戦えないまま二人とも死んでしまうだろう。

「だったらぁっ!」

翼が機転を利かせて機体を大きく傾けた。
傾斜ができた翼の上に立ち続けるのは困難なのだろう、怪人の体勢が崩れ始める。

「喰らえ!」

太陽は翼の意を汲んで更にヒーローガンを撃つ。
怪人もここでこれ以上戦うのは不利だと思ったのだろう、身を翻し海へと飛び込んだ。

「とりあえず、凌げたか・・・」

太陽が若干安堵すると、翼が硬い声で話しかけてきた。

「レッドさん、脱出してください」

「何?」

「さっき突破してきた怪人達が、こっちまで戻って来てるんだ!」

示された方向を見ると、確かにその様子が分かる。

「さしあたって、あの拠点までパラシュートで降下するっしょ!」

先程の怪人を追い払っている間に薫達が戦闘機から攻撃を加えていたのだろう、拠点からの攻撃は止んでいた。

「お前はどうする!?」

「・・・あの怪人からあんたが攻撃されないで無事に降りられるように、囮になってくる」

「なら、俺が操縦するからお前が脱出しろ!」

太陽としては、未来が無さそうな自分より翼に脱出して欲しかった。

「あんたの腕で、無事に済むと思ってんのか?そんな事したら両方死ぬ可能性が高いだけっしょ!」

自分には翼ほどの操縦技術が無い。
それは分かってはいた事だったが。

「・・・無理はするなよ」

「あんたじゃあるまいし。本職の腕、良く見てな!」

太陽は、後ろ髪を引かれる思いで空中にその身を投げ出した。






「さて、強がっては見たけどそうとうやばいっしょ・・・」

機体のバランスを保つのも苦しくなってきた。
主翼の損傷は、やはり痛い。

ま、レッドさんに任せてちゃ一分以内に墜落するのが落ちだろうしな。

ランチャーのチャージが終わりかけているのが救いだった。
上手くいけば怪人の空中戦力を一網打尽にする事ができる。

貧乏籤、引いちまったな。

吶喊する。

機銃を掃射して怪人の注意を自機に向けさせる。
無事だった味方機に群がろうとしていた敵は、狙い通りこちらへ向かって来た。
それを逃さず薫の機体が何体か撃墜する。
集中して放たれるエネルギー波を避けるが、傷ついた機体では全てを避けることはできなかった。

「堕ちるのも時間の問題っしょ・・・」

やがて、怪人に包囲され始める。
ゆっくりと、だが確実に機体は徐々に高度を落としていく。

そろそろ、潮時か。

翼はランチャーを怪人が一番密集していた空間に撃ち込んだ。
そこにいた怪人達は消滅するが、残った怪人は包囲網を狭めて機体を取り囲む。
直撃を喰らった。
機体の揺れが激しくなる。

ああ、俺死ぬんだな。

操縦席の損傷により、比較的大きな破片が自分の身体を貫くのを翼は感じた。

痛ぇ・・・。

生命維持の為に重要な部位も傷ついていた。

『羽田さん、まだ生きてますか?』

「ブラックさん・・・」

通信はまだ、使えるらしい。

「もう、駄目っぽいです・・・」

『でしょうね。機体の損傷状態からそう思っていました。で、怪人のほとんどがそちらに取り付いているんでその機体を爆破します』

予想していなかったわけではないが、この機体にも爆破できる仕掛けがしてあったらしい。
翼は考えた。
このまま怪人に嬲り殺しにされるくらいなら、一思いに消し飛んだ方がいいかもしれない、と。

『最後に何か言いたい事は?遺言があるなら聞いておきますよ』

「レッドさんに、もうちょっとセンスを何とかしろって言っといてください・・・。後、あんたの事、たまにうざかったけど結構嫌いじゃなかったって・・・」

『分かりました。僕は羽田さんの事、そんなに嫌いじゃありませんでしたよ。さようなら』

朦朧とする意識の中で、翼は思った。

こういうの、俺の柄じゃねえよな・・・。
俺も、何かを守れたんだろうか。

「親父、お袋、皆無事で――――」

彼の最後の言葉は、爆発する機体、そして彼の身体と共に爆炎の中へ消えた。






太陽は見ていた。
自分が脱出した後、翼が残っていた機体が怪人達と戦うのを。
そして攻撃を受けて傷ついた事を。
空中に、紅い炎の花が咲いた事を。

「ウイングーッッッ!!」






茜の発案で、戦闘員を使った作戦が行われるようになった。

「あの馬鹿力は侮れないしね。イエローとブルーは少しだけ足止めしてて」

「うん」

「ああ」

腕力に優れるきいろとある程度接近戦をこなせる良二、そして発案者の茜が怪人の動きを止める役目を担う。

「私とゴールドは?」

「・・・アンタ達二人は怪人の意識を逸らす為に撹乱してて」

春美と瞬にも役目が告げられる。

「じゃ、優子さんはさっき言った事お願いね!」

瞬と春美はそれぞれの武器を連射して怪人の気を引く。

「!?」

その隙に接近戦担当の三人が懐まで忍び寄り、怪人の四肢を痛めつけていく。

優子は、ここだというタイミングで戦闘員に指示を出した。

「怪人の口の中に入りなさい!」

控えていた戦闘員達が一斉に怪人の口目掛けて駆け出した。
それに気がついた怪人も防ごうとし、大半の戦闘員を弾き飛ばすが何割かの侵入を許してしまう。
そして、ある言葉を優子は口にした。

「ヒーローボム!」

爆発が起こり、怪人の口内から炎が吹き出る。
ヒーロー達が狙いをつけなくても自走できる戦闘員なら、ある程度の損失を考慮する事で味方の安全を確保したまま敵に痛手を与えられるのだ。

「ブルー達は一回離れて!」

茜の指示で良二達が安全圏まで退避すると、彼女は怪人に更なる追い討ちをかけた。

「ピンクはデカブツの目を狙って!」

春美はすぐさまライフルを狙撃形態に切り替え、怪人の両目を狙い撃った。

「Ugyaaaaaa!」

凄まじい叫び声を上げる怪人だが、まだヒーロー達の攻撃は終わらない。

「それじゃ、後はこれで仕上げね!」

茜がヒーローハンドボムを怪人の口腔内に向けて放り投げる。
戦闘員の強制的自爆によって焼け爛れたその部分は、より酷い刺激を受ける事になった。
呆然としている同僚を見て、彼女は促す。

「何やってんの?ほら、楽に殺せるよ」

はっとしたヒーロー達は次々と茜に習いヒーローハンドボムを同じ箇所に投げつける。
やがて、怪人の下顎部が本体から千切れるように落ちた。

「あはっ、そろそろ終わりね」

弱点が丸見えになった怪人をヒーロー全員で遠距離から攻撃し、頭部が原形を留めなくなるまでそれは続いた。
夕陽が見え始める頃には捕鯨反対運動化が見れば絶叫するような光景が出来上がる事になる。
後は、海上の艦が取り逃がした怪人達を掃討すれば陸に残ったヒーローの仕事は一段落する事になる。

「薫も、上手くやってるでしょ」





拠点に降下した太陽は、爆散した機体が落ちていった海を呆然と眺めていた。

「・・・俺は、ヒーローの筈だ」

ヒーローならば人を救えるのが当たり前だ。
格好良く、人に認めてもらえる。
その筈なのに。

やはり俺は、本当のヒーローじゃなかったのか・・・。
親父の力でヒーローになった、ただの、道化だ。
ウイングを助けられなかった、違う、助けられたかもしれなかったけどしなかった。
残り僅かな自分の命を惜しんでしまった。

ヒーローに選ばれてから、いや母親が死んでから初めて彼は深く後悔した。
そんな彼を、現在の状況は休ませてくれない。

「!」

眺めていた方向から、一体の怪人が姿を現した。
鮫の怪人、太陽と翼の機体を損傷させた奴だ。
その怪人と、太陽の目が合った。
怪人は剣を構え一気に間合いを詰めに来る。
だが、太陽もとっくに剣を構えていた。

あの怪人が機体を傷つけなければ、ウイングが死ぬ事も無かった筈だ!

「貴様ァアアアアアアッッッ!!」

太陽は叫んだ。
叫んだからといって強くなれるわけではない。
しかし、己の中に生まれた怒りを抑える事は出来なかった。




赤い奴。

アクアシャークは何やら叫び声を上げている相手の息の根をすぐさま止めてやりたかった。
拠点の損傷は酷く、既にほとんど動きが止まっている。
上空や拠点に対空部隊として配備されていた者の姿も無い。
人間達の攻撃で倒されてしまったのだろう。
まだ先鋒のノアクジラ達からの連絡も無い。

アクア族も、お終いかもね・・・。

だが、彼女はまだ終わるつもりは無かった。

ガイアビートル、せめて貴方を殺した奴等を私の命がある限り殺してあげるわ!

互いの剣が、命を刈り取ろうと舞う。
太陽の剣は力強く、また敵の剣は鋭い。
殺す、ただそれだけを目的とした純粋な殺意を太陽は感じていた。
それに何か形容し難い感情を覚えたが、自分にも相手を殺す理由ならある。

分かっている、こんな物はヒーローとして抱いてはいけない感情だ。
ヒーローは私怨で戦ってはいけない。
だが、それなら俺はヒーローじゃなくていい!

「ウイングの仇、討たせてもらう!」

「Syaaaaaaaaaaaa!」

幾度とぶつかり合う剣、拳。

「はぁあああああっ!!」

太陽の剣が、敵の腹部を切り裂く。

「!」

だが、怪人もその鋭利な歯を使って太陽の首を噛み千切ろうとしてくる。
腹を切られた事で怯むと思っていた太陽は、命は永らえたが代償として右肩の肉を骨ごと持っていかれた。

「ぐうっ!?」

肉どころか、骨までやられたか・・・。

利き腕をほとんど動かせないこの状況は、不利だ。
太陽は剣を左手に持ち替え、怪人に膝蹴りを入れて間合いを取る。
更に剣をライフルに変形させ射撃攻撃を仕掛けた。
しかし銃撃を受けつつも怪人は一心に自分目掛けて襲ってくる。
空での飛魚と同じだ。

「ならば!」

もはや接近戦で決着をつけるしかない、とライフルを投げ捨てヒーローロッドを抜き放つ。
一閃。
かろうじてぶら下がっていた程度の右腕が、今度こそ完全に失われた。
だが不思議とさほど痛みを感じない。
続いて腹部。
内臓が腹圧で飛び出す。
ふと見ると、怪人の腹部からも臓器らしきものが出ていた。

俺は、何も成さないまま死ぬのか。

諦めかけた太陽が空を見上げると、薫の戦闘機が近づいてくるのが見えた。

ブラック・・・。

そこで、思いついた。

「!?」

残った左腕で怪人を押さえつけて密着する。
離れようと必死に剣や歯を使って抵抗するが、逃すまいとさらに太陽は力を込める。

ブラックなら、きっとやってくれる!

太陽の願いは叶った。
薫の機体から、機銃が放たれたのだ。





一瞬だが、気を失っていたらしい。
立とうとして、太陽は自分の下半身が消失している事に気がついた。
周囲にそれらしい肉片が飛び散っている。

あまり、痛くないな・・・。
限界を超えた時に出る、脳内麻薬だろうか。

怪人はどうなったか気になり首を動かすと、自分と同じ様な状態になっていた。
何かに救いを求めるように腕を空に向かって伸ばしている。

「お互い、死に損ねたか・・・?」

「Uuuuuu......」

怪人とは意志の疎通が出来ない。
しかし、何故か話しかけてしまった。
物音がしたので、もう一度首を動かすと薫がいた。

「・・・ブラック」

薫はそれに答えず、怪人の近くまで歩いていくと無造作にヒーローガンを怪人の頭部に撃ち込んで息の根を止めた。

「意識はまだあるようですね。羽田さんからの遺言です。『もうちょっとセンスを何とかしろ、後、あんたの事、たまにうざかったけど結構嫌いじゃなかった』・・・以上です」

ウイング・・・。

翼は、一応自分の事を気に掛けていてくれたらしい。

「もう、センスはどうにもならないな・・・」

「こんな状態になっても生きてるなんて、投薬は割と効果があったみたいですね」

「投薬か・・・」

確かにこんな状態になっても喋れるのだ、よほど強い薬なのだろう。

「レッドウイングを爆破したのは、お前か・・・?」

「ええ」

否定せず、あっさりと薫は肯定した。
彼にとってはそれだけの事なのだろう。

「そうか・・・」

「怒らないんですか?」

「少し、疲れた・・・」

あのままでは、遅かれ早かれ翼は死んでいたのだ。
何も出来なかった自分に文句を言う権利は無い。

「ブラック、ありがとう」

「え?」

珍しい。
マスク越しだがこんな薫は初めて見た。

「何で礼を言うんです?貴方の寿命を縮めたのは僕と長官達ですよ?」

「それでも、強化されなかったら俺はヒーローとして戦力外だったから」

「・・・、理解できませんね。どうしてヒーローなんかにそこまで拘るんです?」

「俺にとっての、憧れだったから・・・」

強い自分に、なりたかった。

「お前なら、俺に構わず怪人を倒してくれると思っていたぞ・・・」

「まあ、仕事ですし」

ブラックは、ブラックだったか。

薫は、ぶれない。
ヒーローの中で、唯一最初から変わっていないのだ。

「・・・お前も、何時か変わる時が来るのか?」

「何だか分かりませんが、変わる必要は特に感じていませんね。それより苦しいなら楽にしてあげましょうか?」

「いや、いい」

この命が尽きる瞬間まで、自分が生きた世界を見ておこう。
翼が、良二達が、両親が、薫がいた世界を。

夕陽か、俺の名前も太陽だから同じだな・・・。

太陽のような子になって欲しい。
そう願いを込めて命名したと聞かされた。

結局、俺は何者でもなかったな。
ヒーローに、成りたかっただけの馬鹿だ。

夕陽が、沈んでいく。

ウイング、次は友達になってくれるか?
今日は、夕陽が綺麗だったぞ・・・。






先程の提案を断られてから太陽が身動き一つしない。

「レッド?」

返事は無かった。
軽くヒーローロッドで突いても反応が無い。
薫は、太陽が死んだ事を理解した。

「・・・」

ヒーロー結成当初からのメンバーだったので、結構長い付き合いになる。

「時々真剣に鬱陶しかったけど、嫌いではありませんでしたよ」

嫌いではないだけだったが。

でも、貴方は最後までヒーローだったから殉職扱いになりますね。
満足ですか?
今となってはよく分かりませんが。

続く





閑話37

ヒーロー殉職。
その報道は全国に広まった。

「やっと死んでくれたか」

光は呟く。
元々力不足だったのだ、今日まで生きてこられたのは運と投薬、肉体改造があったからである。
後は精々、プロバガンダ番組の役に立ってもらう事としよう。

最後までヒーローだったんだ、君の夢が叶って良かったねレッド?
どうせ役立たずだったのだから惜しくは無いがね。
君のヒーロー在籍期間に御父上から提供された資金は有効活用させてもらうよ。






その知らせを聞いた時の皆の反応は似たような物だった。
茜は、『ふうん、死んだんだ』と。
優子は、『・・・そうですか』と。
春美は、『意外と早かったわね』と。
瞬は、『そうか』と。
皆あまり悲しんでいるようには見えなかった。

「あたしは、実感湧かないの。あのレッドが死ぬなんて」

きいろは普段よりも少し大人しい。
良二自身も最初は嘘だと思った。
だが、太陽の酷く損傷した遺体を見て、そして彼の最期を看取った薫からの話を聞いて漸く太陽が死んだのだと理解できた。
翼に至っては、死体すら残っていない。

「なあ、イエロー」

「?」

「レッドと羽田さん、死んじゃったな」

「・・・うん」

悲しくないわけじゃない、けど何か素直に涙を流せるというわけでもないのだ。
戦闘員の死については最近冷淡になってきたのに、太陽が死んでまた揺らぎ始めた。

「最初からの付き合いだったのに、死んじゃったな」

「羽田さんも、ね」

「ああ・・・」

最期を看取った薫は、常日頃と全く変わらなかった。

「あたしも、正直他の皆と似た感想かな。悲しい、っていう気分じゃない。でも、喪失感は感じてるよ」

「喪失感、ね」

言い表すなら、それが一番しっくり来るかもしれない。

「ブラックは、あっさりしてたね」

「あいつは凄いよな」

「あたしも、ブラックみたいになりたいな」

きいろは、少しだけ憂鬱そうな声音で言った。

「何でだ?」

「あそこまで突き抜けてたら、楽だと思う」

「・・・」

きいろの考えている事は分からない。
でも、彼女も何かに悩んでいるのだと思う。

「俺は、生きたい。死ぬのは嫌だ」

「あたしはそれほど嫌じゃないな」

「イエローが死んだら、皆泣くぞ」

「そうかな?レッドが死んだのに、皆あまり影響ないみたいだよ?」

「じゃあ、俺が泣く。大泣きする」

「だから、死ぬなって?」

「ああ」

我ながら酷く情けない脅迫だと思う。

「安心して。無駄死にする気は、今の所ないから」

きいろは、今日初めての笑顔を見せてくれた。



[8464] 第三十八話 移ろう季節
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/10/11 07:28
第三十八話

TVから赤田太陽のヒーローとしての活動が放映されている。
それも、生前の不都合な情報は隠し、ヒーロー側にとって都合が良いと思われる事だけを視聴者に見せているのだ。
これだけを見ると、赤田太陽とはどんなに素晴らしいヒーローだったのだろうと思ってしまうだろう。

まあ、生前は人気投票の結果があまり良くなかったから少しはイメージアップしたんでしょうか。

薫はそれを醒めた目で見ていた。
こういった追悼番組を放映するのはこれが初めてである。
以前から警察官なども数多く殉職しているというのに。
何より、太陽とほぼ同時に死んだ翼や自衛官の事に関しては一言も触れていないのだ。
これが公正な報道機関ならば、聞いて呆れる。

でもそこそこ視聴率は取れてるみたいですし、ヒーローへの支持も高まっているからこういった番組は必要なんですよね。

茶番ではあるが。

『・・・お前も、何時か変わる時が来るのか?』

死ぬ間際の太陽に言われた言葉が、脳裏を過ぎる。
あの時は聞き流していたが、多少時間が経ってから思い出すと、お前もと言っていたから太陽の中では何か言葉にするだけの価値がある変化が、ヒーローとして戦っていく中で起こったと言いたかったのだろうか。

僕は僕です。
それ以外形容し難いですしね。

生存、そして自分が死ぬ瞬間に良いと思える人生を過ごす事。
これが自分の夢である。
人として生を受けた以上死は避けられない事柄であるが、その結果に行き着くまでに人生という過程をどれだけ満足して生きたか、これが重要だと考えている。
その為なら他人を利用して、排除しても心は痛まない。
というより最初からそんな事は一切感じなかった。
そうやって生きてきた。

両親は僕より兄を可愛がっていたみたいだけれど。

それなりに愛情を注いではいてくれたのだろうし、育ててもらった立場であるから恩義も感じてはいる。
だが、あまり手の掛からなかった自分より、両親も人並みに手の掛かる兄の方が可愛げがあったのだろう。
子供らしく振舞っていたし、一度として外での問題を家に持ち込む事は無かったというのに。
兄は、そんな優等生であった自分をどこか疎んじていたのかもしれない。
成績や素行は自分の方が良好であったし、兄も彼が自分と同じ年頃だった時の事を何かと機会があれば比較されていた。

年齢もちょっと違うし、兄弟を比べるのはどうかと子供心に思ってたんですけどね。

無論兄が面白い筈はなく、自分が小学生であった時は多少迷惑を被った物だ。
しょうがない人だ、と思いながら兄弟関係を続けていた。

馬鹿な子の方が可愛い、とは良く言った物です。

両親や兄、そして自分で構成された家族は、世間一般で言う『普通の家族』なのだろう。
兄は色々困難にぶつかりながらも人並みに成長し、家業を継いだ。
自分が高校三年生の時の事だ。

両親に気に入られようと子供の時から打算交じりで良い子を演じていたのに、無駄になったじゃないですか。

順当に行けば自分が家業を継いで、それなりに平穏で満足の行く人生を送れた未来もあったかもしれない。

あの時は金井さんがいろいろちょっかいを出してきた時期でしたね。

今となってはどうでもいい事だ。
瞬に関しては単なる同僚、それだけ。

兄は今でも僕をあまり好きでないようですし。

嫌っているわけではないだろうが、何処か自分への苦手意識があるのかもしれない。
自分は兄を嫌いではない。
これも今となってはどうでもいい事だ。

ヒーローになった事自体は高給取りですし後悔はしていませんよ。

さしあたって、太陽のようにプロバガンダ番組で追悼されないようにする事が大事だった。





怪人達は重苦しい雰囲気に包まれていた。
アクア族全滅。
この事は彼等の生態系に大きな影響を及ぼす。

「・・・アクアシャークも、逝ってしまったか」

「長老、いなくなった者を悼んでいる場合ではないのではないかな?」

フレイムレオンはアクアシャークやその一族の死を悲しむも、ガイアクイーンビーはそれを良しとせず、次の行動に移るべきだと促している。
ウインドホーク自身も、そう思ってはいるが。

「一応ではありますが、ノアオウム達に頼んでおいた人間の言語。あれの解析を大体終えました」

まだ一部の者しか理解しておらず、自身も完璧に理解したとは言えない。
それでも、未来に繋がる可能性が開けたのだ。

「おお。それでは我々にも教えてもらえないかね?言葉が通じるようになれば色々侵略する時に便利そうだ」

「ええ」

既にガイアビートル、アクアシャークという長達が命を落としている。
自分のウインド族をむざむざ滅ぼすような真似だけは御免だ。

「言語検証の為に、私の一族に人間を適当に攫わせてこようか?」

「より確実性を出すには、それしかないのかのう・・・」

フレイムレオンは人間との交渉も考えに入れているようだが、同時にそれは難しいと理解もしているようだ。







レッドの後任をどうするかという事で会議が行われたが、結局は欠番になるという事で合意を得た。
清水隆のように闇へと葬られたのならともかく、公式に死亡したと発表された現状では人々の感情的に受け入れられないようだ。
現在でもチームを二つに分けての戦闘で上手く機能しているのだ、それに警察との協力体制も上手くいっている。

「トール」

「何?」

「君には量産型ヒーロー隊を統括してもらいたい」

「顔は隠して?」

「ああ」

トールには既にヒーロー達の資料を見せており、薫と自分の顔が似ているという事も理解している。
彼の遺伝子情報からトールを作ったと光が言ったその際に嫌悪感を示していたのが印象的だった。
これも同族嫌悪なのだろう。

「あいつと僕が似ていると、面倒になるからでしょ?」

「その通りだよ。良く分かっているじゃないか」

「僕、あいつ何か嫌な感じがする」

「ほう、具体的にどのような?」

ここまで自分の分身と言うべき存在に嫌われるとは、黒澤君もよっぽどだね。

光は笑いを噛み殺した。

「直接会ったわけじゃないけど、あいつがいると僕の存在が許されないような気がするから嫌なんだ。僕は僕だ」

「なら、君が唯一無二の存在である事を証明すれば良いじゃないか」

「どうやって?」

「それはこれから次第さ。任務中の君は、黒河透と名乗ってくれたまえ」

トール・ブラックとオリジナルの黒澤薫をもじって付けただけの、単純な名前。

「名前まであいつと似ているね・・・」

トール自身も気がついているようだ。

続く





閑話38

施設内を歩いていると瞬が話しかけてきた。
良二も手持ち無沙汰だったので、誘いに乗ってしばらく暇を潰す事にする。

「時間が経つのは、早いと思わないか?」

「そうだな」

問われた瞬も同意する。
自分がヒーローになって、どの位経つだろう。
その間は戦いに次ぐ戦いの日々だった。
敗北即ち死、気が抜けるような楽な戦闘は凡人の自分には一度たりとも有りはしなかった。

「俺は途中からだが、そういえばレッドも死んでたな。飲み会に一緒に行った羽田も」

呟く瞬の表情からは悲しみ等の負の感情は窺えない。
太陽にしろ翼にしろ、付き合いが短すぎて悲しむだけに値するような感情が育たなかったのだろう。

「俺が一番付き合いが長いのは黒澤か・・・」

「大丈夫、ブラックは絶対死なないって」

「いや、そういう意味で言ったんじゃねえよ」

薫の名前が出たので心配になったのだろうと良二は考えたが、どうやら違うらしい。
そう言われると、彼等二人は距離感が有る。

「あいつが簡単にくたばるような奴じゃないって事は、俺が一番知ってるんだ。そんな奴だったら高校の時に・・・」

なにやらぶつぶつ言い始めたので怖い。

「でも、お前はコードネームじゃなくて名字で呼ばれてるじゃないか」

少し羨ましい。

「ま、まあな!」

途端にテンションが上がる瞬。
顔が微妙に誇らしげだ。

「・・・俺が頼み込んで妥協してもらった結果だけどな」

しかし、テンションが急降下する。
そんな事情があったとは知らなかった。

「黒澤に俺を、必ず認めさせる・・・」

何か執念じみた物を感じる。

ブラックはああいう奴だから、無理しない方がいいと思うけどな。






瞬と別れた良二はまた一人になった。
静寂は色々な事を考えさせる。

佐藤、山田、中村、鈴木、羽田、そしてレッド・・・。
もう、六人も知り合いが死んでるんだな・・・。

自分はまだ、生きている。
しかし何時彼等の元に逝くか分からない身の上だ。
自分と太陽達の違いは単に運だったのだろう。
良二自身重傷は経験しているが、それも一歩間違えば死んでいた可能性がある傷だ。

・・・ヒーローで真っ先に死ぬのは俺だと思ってたけど、ブラックと並んで死にそうに無かったお前が死ぬなんてな、レッド。

太陽でさえも死んだ。

本当に平和な世界だったら、皆死ななくて良い筈だった。
ヒーローなんて仕事でもやってない限り会う事は無かったと思うけど、それでも、皆幸せに生きられたんだ!

人間が何時の日か死ぬ定めにある以上、死は避けられない。
だが、病気や不慮の事故さえ無ければ、己の一生を全うできる筈なのだ。
ヒーローの仕事はそんな世界を守る為にある。
けれど、犯罪者への対応だけには違和感をずっと感じていた。



[8464] 第三十九話 対話
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/10/18 06:31
第三十九話

ガイアクイーンビーはノアシデムシに、人間を生きたまま本拠地へと持ち帰るよう命じていた。
自分達が検証した人間の言葉が通じるかを調べる為である。

「ですが長、人間が生身でゲートでの移動に耐えられるかどうか」

「ああ、最小限生きていればそれでいいよ」

「分かりました」

彼女達にとって人間は研究の為の材料、侵略すべき敵でしかない。

うかうかしていたらアクア族のように滅びてしまうからね。
多少強引でも問題解決の為なら仕方ないさ。




ノアシデムシは人間の街へと到着すると、活きの良い人間を捕獲する為に手当たり次第に人々を捕まえ始めた。
逃げ惑う人々の悲鳴を無視し、老若男女区別無く襲い掛かる。

「この位でいいか・・・。よし、引き上げるぞ!」

戦闘員達に指示を出し本拠地へ帰還しようとした時、彼等の後方から銃声が聞こえた。
ノアシデムシはそれを回避して後方から現れた人間を睨みつける。

人間の戦闘担当か・・・!

「ここは俺とアンツ達が喰い止める!フライアンツ達は急いで人間を運べ!」

機動力に優れるフライアンツに人間を運ばせ、敵の方へ駆け出す。

また貴様等か!
我々の生存を邪魔する奴等は、殺す!







自分の目の前で、助けを求める人々が攫われていく。
健はポリスロングロッドを構え、こちらへ猛然と駆けて来る怪人へ振り下ろす。

「邪魔を、するなぁーッ!!」

怪人の外殻で覆われた腕とロッドが交錯して音が響く。

また、引き上げていく!
こいつらの目的は何なんだ!?

部下の隊員も必死で追撃しようとするが、敵戦闘員の抵抗に遭い阻まれる。
明らかな時間稼ぎだ。

「!」

「くっ!?」

だが怪人は引く気配を見せない。
あくまでもここで健達を足止めするのが目的なのだろう。
競り合いに負けてロングロッドを弾き飛ばされてしまう。

間合いを何とかしなきゃな・・・。

ポリストンファーとヒーローガンをそれぞれ持ち、トンファーで素早く敵の追撃を受け止める。
更に零距離射撃を叩き込むと怪人はたたらを踏んだ。
その隙に引いてはじかれたロングロッドを拾って構えなおす。

「Aaaaaa!」

怪人は細いエネルギー波を放ち、こちらに仕切り直す時間を与えない。
まともに受けると危険なので避けられる場合は避け、無理そうな場合はポリスシールドⅡで受ける。
そうやって耐えていると数人の部下が加勢に来た。

「隊長!」

「まずはこいつを倒すぞ!」

「はい!」

部下達がポリスハンドボムを投げると流石にその威力は無視できないと踏んだのか、怪人も防御姿勢をとる。

今ならやれる!

健は助走をつけて勢い良く跳躍すると、全体重をかけて怪人の脳天にポリスロングロッドを振り下ろす。

「Gugya!」

怪人の頭部が歪み、力を失った体が仰向けに倒れた。
それでも油断しないせず怪人の頭部を砕くようにトンファーで殴りつける。
怪人の動きが完全に無くなったのを見て、健は部下達の話を聞いた。





「そうか・・・」

大部分の人達は後から駆けつけたヒーローの尽力と戦闘機方マシンの存在もあって無事救出できたが、それでも一部はそのまま連れ去られてしまったらしい。

「またか、またなのか!」

今回も犠牲をゼロにはできなかった。
怪人に連れ去られた人達がどうなるかは分からないが、五体満足でいられるとは思わない。
健は悔しさから唇を噛み締めた。
血の味が、忌まわしく感じられた。





その男が目覚めた時、見た事が無いような意匠の部屋の中にいた。
訝しく思って周囲を見ると、何人かの人間が無造作に横たえられていた。

ここは・・・!?
そうだ、俺は怪人に連れ去られて!

「ちょっと、起きてくださいよ!起きてくれ!」

異常な状況下で自分一人だけが活動しているという恐怖感から最も近くに倒れていた高齢者の女性を起こそうとして駆け寄り、体を掴んで揺さぶるが反応が無い。

「ちょっと・・・!?」

力を入れて仰向けにさせた瞬間、息を呑んだ。
充血した白目、だらりと垂れた舌。
反応が返ってこないのも当然、既に死んでいたのだ。

「う、うわぁあああああぁっ!?」

一般人ならこのような事態に陥った時混乱してしまうのも無理は無い。
だが、彼は常人より若干だが冷静であった。
思わず異の中の物を吐き出してしまいたくなる欲求に襲われるが堪えて、顔を背ける。
そして必死に自分を落ち着けた。

ひ、人が死んでる・・・。

「う、ううん・・・」

「!?」

俺以外にも生きてる人がいる!?

「すいません、大丈夫ですか!?」

素早く意識を取り戻しかけた成人男性の元へ向かい、声を掛ける。

「ああ・・・。だがここは?」

「俺も分かりません・・・」

それから、数人の生存者が目を覚まして顔を見合わせていた。
いずれも健康な成人や若者で、高齢者や幼い子供は目を覚ます事はなかった。
現状把握の為に話し合った所、怪人に連れ去られた事は分かるが他の事は未だに分からないという事しか収穫は無かった。
しかし、それでも周りに人がいるという事が心強く感じられた。
一人だったらもっと恐ろしかっただろう。
男は本当の意味で、『人は一人では生きていけない』という言葉の意味を思い知ったのである。

「Katamezame?」

唐突に彼等がいる空間に何者かの声が響いた。
男達は身を寄せ合い、怯えだす。

「Ruitesiwonina?」

オウムに良く似た怪人、それと他複数の怪人が姿を見せる。

「Aaaaa.....,ワカルカ?」

「喋った!?」

何より、怪人が人語を話した事に彼等の驚きは頂点に達した。




怪人の語ることによると、彼等は言葉が話せなかったのではなく彼等自身の言葉を持っていたらしい。
しかし敵の言葉を理解するのも大切という見解により古代の文献や現代の人間の死体から、遂に人間の言葉を解するに至ったという事だ。

「・・・だったら、何で俺達を連れてきた」

「オマエラ、コトバワカルカ、ジッケン」

「・・・」

そんな事の為に自分達を攫ってきたのか。
中には死んだ人達もいるというのに。

「ふざけるな、俺達を元の場所に戻せ!」

「ムリダ」

抗議するも即効で否決される。

「オマエラニ、キクコトマダアル」

「何だそれは!?」

「ワレワレノジャマスルヤツラ、ナンダ?」

怪人の邪魔?

「・・・ヒーローか?」

「ヒーロー?ソウカ、ソイツラガナカマヲ・・・」

オウムは少し怒っているようだった。

「ヒーローノコト、モットオシエロ。カタキ」

拒否権は無さそうである。

「ざけんなよ!?元々お前等が地球侵略してきたからだろうが!逆恨みすんじゃねえよ!」

自分もそう思っているが、怪人のあまりの言葉に短気そうな男が怒りを覚えたようだ。

「俺等何もしてねえだろ!?皆死んでるんだぞ!なのn」

男は最後まで言葉を言い切る事無く頭部を砕かれた。
悲鳴が挙がる。

「ワレワレモナカマコロサレタ。ミンナイイヤツダッタ。オマエライキテルダケデアノホシヨゴス」

怪人は、人間は生きているが敵だと見ているようだ。
ここは大人しくしないとさっきの男の二の舞になる。
凄惨な光景を見せつけられた男は吐き気を再び堪えた。





それからの怪人の言う事によれば、彼等自身の故郷が住めなくなる一歩手前になったので地球に住む為に侵略しに来たらしい。
かつては人間もいたそうだが、生存競争に敗れ淘汰されたとか。

「・・・つまり、人間には悪いけど死ねってことか」

「ソウダ」

人間は異物を排除するであろうかららしい。
最初からそのように想定して侵略を開始したが、思ったより人間は強く犠牲は増すばかりのようだ。

ざまあみろ。

当然の報いだと思った。

「ニンゲンモ、ソウヤッテココデイキテキタノダロウ?」

しかし、その事は否定できない事実だ。
今でも争いは小規模だが続いている。

「この後、俺達をどうする気だ」

「オマエラツカッテ、モットタタカイヤスクスル」

碌な未来は待っていないのだろう。
ヒーローは果たして自分達を助けてくれるんだろうか。
様々な不安を感じるが、今自分達にできる事は助けを信じて下手に出て待つことしかない事だけは理解してしまった。

続く




閑話39

ノアオウムは人間達から聞き出した様々な事を長達に報告しようと考えを纏めていた。

奴等から聞き出した情報は有用だ。

敵の構成、本拠地、そして人間にとって重要な場所の事まで知る事が出来たからである。
ただ、一つ気になる事を言っていた。
あの星の彼方此方へと我々が攻めていると言うのだ。
そんな事実は無いと否定したが、最初から疑って掛かっているのか信じてはくれなかった。
化け物などどれも同じだ、とその目が何よりも雄弁に語っていたのである。

あの、異様な種族の事か?

化け物扱いされたのには腹が立ったが、そう何人も景気良く殺すわけにはいかないと思って何とか自分を抑えた。
それよりもあの種族の事が気になったからである。

我々はあそこにしか攻めていない、だが彼等は一体・・・。

人間の声には自分達への嫌悪感と恐怖があった。
恨まれてもいい、しかし我々も座して死を待つわけにはいかないのだ。

奴等の今後は、人間の情報源だな。
それと人間と交渉する必要が出てきた時の交渉役には丁度良いかもしれない。

一応自分達の言葉が人間に通じる事が分かったとはいえ、まだまだ不明瞭な部分も多い。
そういった状況下でこちらが交渉に使える物を有している事は重要だ。
奴等自身も何かの交渉材料になるかもしれない。

長とガイアクイーンビー様はともかく、長老はこの後に及んで人間との妥協案を見つけようと模索しておられる。
だが、意思の疎通が出来なければどうにもなるまい。

人間と自分達は完全に違う生き物だとノアオウムは思っている。
社会や集団の形成には幾らか共通点があるものの、外見があまりにも違うのだ。
それに、人間は脆い。

先程も黙らせようと思ったらあっけなく死んでしまった。

ここまで連れて来る道程でもそれは同様だったのだがな。

だが、その脆弱な生き物に我々は負けている。
確かに身体能力ではこちらが勝るが、それだけでは勝てないのだ。
奴等は道具を使う。
元々そんな物を使わなくても暮らしていくだけの力があった我々には必要なかったので武器以外は発展しなかったが、それがここにきて致命的な痛手となって襲い掛かる。

今更か・・・。

人間を同族と無理やり戦わせる案も考えてはいたが、断念した。
それは流石に気が進まなかったし、奴等の弱い体では道具を持った敵に殺されるのが関の山だ。
人間は同族相手にも容赦しないのも知っている。

滅びてたまるか・・・。







トール・ブラック、黒河透。
両方僕の名前、だけどまだ落ち着かないな。

黒澤薫は自分の存在を知らないからのうのうと暮らしていられるのだろう。
それが憎らしかった。

あいつは『自分』を持っている、けど僕はあいつがいると自分になれない。
本当にどうしよう・・・。

光から聞かされた薫の話は、トールに決定的な薫への悪感情を植えつけた。
その根は深い。





ヒーロー本部の一室で薫が光への報告書を作成していると、優子が彼女の仕事を終えて戻ってきたようだ。

「黒澤さんも仕事ですか」

「ええ」

彼女の首にはまだ以前に贈ったチョーカーがある。

「レッドが死んで、マスコミからの取材もあったけどそろそろ落ち着きそうです」

「僕達の仕事にはたいして影響はなかったですけど」

「でも、レッドの父親ってあんな人だったんですね」

TVの取材に答えていた太陽の父親は、息子が死んで気落ちしているようだった。
自分で送り出していても辛いものがあったらしい。

「やっぱり普通の親は子供が死ねば辛いんでしょうか?」

「さあ?その家族次第でしょう」

茜の家庭は冷え切っており、以前その事を彼女の口から聞いた事がある。
自分は何も感じなかったが、それは実際にその家族を見たことが無いから仕方が無いと思う。

「何でそんなどうでもいい話するんです?」

「・・・いえ、ただ私の両親は厳格だったもので」

「へえ」

「本当にどうでもよさそうですね・・・」

事実どうでもいいからだ。

「聞いて欲しいなら聞きますが?」

「まあ、その事もあって昔から人目を気にして生きてきたんですが、レッドが死んだのを聞いてこのまま死んだら私の人生ってなんなんだろうなと」

人目を気にしていたのは、常に両親からの期待に応えるようにしていたからですか。

「でもそうやって生きてきたから社会的に認められるヒーローに選ばれたんでしょう?」

「それは、まあ」

「だったらこれから好きなように生きてみては?」

「・・・それができたら、苦労しませんよ。馬鹿ですか」

最初から無理しなければ良かったのに。

特に自分の生き方に負担を感じた事が無かったから薫はそう思った。



[8464] 第四十話 救出
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/10/24 21:16
第四十話

ある式典が催されているビルで、警備員達が雑談をしていた。

「今日も平和だな」

「結構じゃないか、余計な仕事が増えなくてさ」

「それもそうだな」

明るい笑い声が響く。
しかし、その笑い声は永遠に止まる事になった。

「「ぎっ!」」

警備員達の命は一瞬で刈り取られた。
即死だった事がせめてもの救いだろうか。

そして、一斉にビル内へ怪人と戦闘員達が雪崩れ込んだ。






「怪人がビルに!?」

「うん、それとこれから流れる音声を聞いてもらいたい」

ビル内にいる人達の安否が気にかかる良二だったが、それを問う前に光は機械のスイッチを入れ音声をヒーロー達へ聞かせる。

『・・・ワレワレハ、コイツラノイノチヲドウニデモデキル。ココヲワレワレノキョテンニスル』

たどたどしくはあったが、自分にも意味の分かる言語であった。
そして、今こんな発言をするような存在は一つしかない。

「怪人って、喋れたんですね」

良二の考えを薫が先に口に出した。

「ああ。まさか怪人が喋れるとはね。今まで全く言葉が通じなかったが今更になってとは、面倒な事だ」

光は若干忌々しそうに吐き捨てる。

「で、だ。普通なら強行策なんだが今回はちょっと厄介でね」

「何故です?」

「とりあえず作戦概要を黒澤君と吟味したいから、他の皆は下がっていてくれるかな」

丁寧に言っているが、命令口調だったので今は二人が作戦を決定するまで待つしかない。
それがどんなものになるかは知らないが、早く決めてビル内にいる人々を助けに行きたいと良二は思った。







「さて、本音を言うと人質なんか無視して一斉攻撃で殲滅したいのだがね。あの中で催されていた式典には、ヒーロー関係の政府高官が交ざっているのだよ」

光から話された内容は大方予想されていた事だった。
自分としても人質に構っていてはまともに戦えないので無視したい所だが。

「それでだ。君達には彼等を助けてもらいたい」

「優先的に、ですね?」

「そうだよ」

こういった機会にも恩を売っておくのが光のやり方だという事は学んでいる。

まあ、僕も少し個人的なコネを作っておきますか。

「なるべくなら他の人質も助けたいけど、どうしようもない時は見殺しにしても構わないからね」

「分かりました」

最初からそのつもりですから心配しなくてもいいですよ。
僕にも有益になるかもしれない事ですから、しっかりこなしましょう。





フレイムレオンが肩を怒らせてガイアクイーンビーへ歩み寄る。

「何故、こんな早まった行動をしたのじゃ?」

「・・・」

ガイアクイーンビーは肩を竦めるだけで何も答えない。
その態度に苛立ったのか、フレイムレオンは彼女の肩を掴む。

「答えんか!」

「人間達からノアオウムが聞き出した事を、試してみたいと思いましてね」

「何?」

軽く身体を動かし、手を顔に当てながら話し続ける。

「敵、ヒーローといいましたかあいつら。それの役割は我々を殺す事と、非戦闘員を守る事と見て宜しいでしょう」

「・・・そうだのう」

「今まで奴等が見殺しにしたのは、自分達の仲間であろう奴等だけです」

「つまり、非戦闘員には手荒な事はしないと言うんじゃな?」

ガイアクイーンビーの意向は分かる。
だがその為だけに仲間を危険に晒す事は頂けない。

「我々には考えられないですがね」

「お主の考えだけで、仲間を危険な場所へ行かせたのか?」

「いいえ、それは彼等が志願したからです」

声が引き締められた。
彼女なりに本気、という事なのだろう。

「・・・もう、余裕が本当に無いんですよ」





怪人達に占拠されたビルの周りは、見張り役であろう敵戦闘員が徘徊している。
正面からの強行突破で中に侵入する事自体は難しくない。
しかし、その際の騒ぎを聞きつけられたら人質の身に危険が及ぶ可能性がある。

「正面からは、危険か・・・」

良二が頭を抱えて言う。

「ヘリや戦闘機を使っても駄目でしょうね」

春美も視線を少し厳しくして答えた。
彼女の言うとおり、駆動音でばれてしまうだろう。

「人質さえいなければな」

人質の人数もネックだ。
極少数なら、無理をすれば全員助けられる可能性はある。
だが聞かされた人数は多かった。
ヒーローが少数で潜入してそのまま気付かれずに連れ出せる数ではない。

「式典会場にいた人が全員無事なら、そのままそこに押し込められている可能性が高いでしょう」

「何故だ?」

薫の発言に皆が耳を傾ける。

「多くの人数を一度に収容できる部屋は、そのビルにはそこ一つだけです」

「てことは、そこを最初から狙って進めば良いわけだな?」

瞬は合点がいったようだ。

「監視するには一箇所の方が楽でしょうしね。怪人がビルを占拠した時点から人数が大幅に減っていなければの話ですけど」

最後に悲観的な考察を付け加えつつ薫が補足する。
人質の価値を怪人達が理解していれば起こり得ないだろうが、相手は言語が通じると分かったとはいえ未知の生命体、何が起きてもおかしくない。

「例えこっちが攻めても、すぐに人質がどうこうされる事は無い・・・、のかな?」

「長引けばそれだけ危険だしな・・・」

きいろと良二はすぐにでも救出作戦を実行に移したいようだ。

「じゃあ薫、その場所までの最短距離をヒーロー全員で一気に攻めるの?」

「人質奪還までは概ねその方針ですが、奪還してからは二手に分かれて逃走経路を確保しつつの救出になりますね」

「オッケー」






宣戦布告は要らない、最初から奇襲だ。
春美のライフルがビル前をうろつく戦闘員の何体かを撃ち抜く。
今回は、人質を危険に晒すという意味では最もその可能性が高い方法だが、それだけに上手くいけば長い目で見て被害を抑えられる。

「怪人はあたしとピンク、ゴールドと警察の人達に任せてブルー達は先に進んで!」

「ああ、頼んだぞ!」

開けた場所できいろ達が外にいる怪人を抑える。
これは救出後の人質の保護を迅速、尚且つ安全に行うようにする為でもある。
せっかく逃げてきても外と内から挟み撃ちにされれば元も子もないからだ。

「早速出てきたか!」

良二達を先に進ませまいと、蟷螂らしきシルエットを持つ怪人と戦闘員が立ち塞がる。

いくらお前達が話せるからって、今まで俺達の星を侵略してきた事実は変わらないんだ!
だから!

「どけぇぇぇっ!」

掛け声を上げて連結したランスを突き出す。
怪人は右手に持った鎌で突きをいなし、左手の鎌で良二の首を刈ろうと薙ぎ払う。
それを視認した良二はランスの後ろ半分を持っていた右手に力を入れ、ランスを分離させる。
短くなったそれの柄で斬撃を受け止め、互いの武器が拮抗する。
その拮抗が、突然崩れた。

「ご苦労様です」

音も無く怪人の背後に忍び寄った薫が、ヒーローロッドで痛撃を怪人の後頭部に入れて昏倒させる。
さらに倒れた怪人が手放した鎌を素早く拾い、頸部をざっくりと切り裂いて止めを刺した。

まるで暗殺者みたいなやつだな・・・。

「悪い、助かった」

「いえ」

交わす言葉も少なく、その場の敵を手早く全滅させる。
ここで足止めを喰らっている暇は無い。





途中で邪魔をする怪人を始末しつつ、遂に式典会場と思われる場所へと着いた。

「あそこがそうみたいね」

「入り口近くには見張りがいない、とすれば中ですか・・・」

部屋の右側面と左側面にある扉は閉ざされており中の様子を窺う事はできない。

「このままこうしているわけにもいきませんし、時間差で攻めましょう。ブルーとオレンジは右から。頃合を見計らって僕とグリーンが左から部屋に入って人質の当面の安全を確保します」

「よし、やるぞ!」





良二はわざと大きな音を出して扉を開き、中の注意を自分達のいる方へと集中させた。

「オマエラ、ヒーローカ!」

中にいた猫型の怪人が叫ぶ。

「知ってるなら、話が早いな!」

人質の安否を確認する為に怪人の後方を見ると、戦闘員の集団が周りを取り囲んでいるようだがこれといった被害は出ていないようだ。

「何故、地球に攻めてきた!」

「ソウシナケレバシヌカラダ!」

そう言うや否や、怪人は爪を振りかざし間合いを詰めてくる。

「じゃあ死ね!アタシ達に迷惑掛けてんじゃないわよ!」

本音をオブラートに包まず茜が双剣で対抗する。
手数では互角だ。

「ワレワレ二、ホロビロト!?」

怒りを露にして更に怪人の攻撃は激しさを増すが、茜はそんな事を一切気にしない。

「どうだっていいよ!寧ろ死ね!」

良二達と戦う為人質への包囲が緩んだ瞬間、見計らったかのように薫と優子が逆の扉から突入して人質を確保し、怪人と敵戦闘員を背後から不意打ちする。

「ガッ!?」

怪人は茜の一撃で喉を切り裂かれ、絶命した。

「皆さん、もう大丈夫です!」

良二の言葉に歓喜の声が上がる。

「後は脱出だけですね。ブルーとオレンジは、比較的体力がありそうな人たちを誘導してください」

「お前とグリーンは?」

薫の言葉に疑問を持った良二が尋ねる。
その言い方だと薫達の脱出は困難になるだろうからだ。

「グリーンのシールドがありますから、ある程度までは敵の攻撃を防ぎつつ進めます。それに全員で纏まっていると機敏な動きが出来ません」

「分かった。じゃ、また後でな!」

ここにこうしていては、まだ多数存在するであろうビル内の敵の生き残りが押し寄せてくるだろう。
そう思って、当初からの作戦案どおり良二達と薫達は二手に分かれた。




敵戦闘員から人質を助ける際、隅の方で縮こまっている初老の男性達が救出する予定の政府高官であると理解した薫は、そっと彼等に歩み寄った。
彼等はヒーローによる助けが来たと知り、居丈高に姿勢を正す。

別にそんな事をしても今迄の醜態が消えてなくなる筈は無いのに。

「遅いぞ!さっさとわし等を助けんか!」

「大体何をやっている!あんな化け物さっさと殺してしまえ!」

周りの人間に聞こえないよう小声で怒鳴るという器用な真似だ。

「こんな時の為にヒーローを支援してやっているのだ、とにかく他の奴等なんかよりわし等を優先して助けろ!」

「そうだ、あんな奴等よりわし等の命の方が遙かに重い!」

緊急時には人の本性が出るというが、ここまで酷いと笑えてくる。
まあ、自分にとっては都合のいい事だったが。

「お静かに」

「何だその口の利き方は!?わし等を一体誰だと「これを聞いてください」・・・何?」

彼等の罵倒を遮り、小型の機械を出して再生し始めた。

『とにかく他の奴等なんかよりわし等を優先して助けろ!』

『そうだ、あんな奴等よりわし等の命の方が遙かに重い!』

それを聞かされた彼等は一瞬で押し黙る。

「こ、これは・・・」

「いやあ、流石に国政に携わる方々は言う事が違いますね。実に御立派だと思いますよ。中々言える内容の台詞じゃない」

以前優子を嵌めた時と似た手法だが、意外とこういった単純な物の方が上手くいく事もある。
後からより自分に有利になるよう動くのは当然だが、まずこの場で自分に従わせるように仕向けるのが重要だった。

「この後は僕の指示に従ってください。心配しなくても大丈夫ですよ?貴方達が指示に従ってくれさえすれば、当面生き延びられますから」

以上が、薫達が良二達と二手に分かれる前に行われた短いやり取りの一部始終である。






優子がグリーンシールドを展開させて敵の攻撃を防ぐ。
その間に薫がヒーローガンで敵を攻撃して追撃を止め、それを繰り返しながら進んでいく。

「バッテリーパックの残りは?」

「まだ持ちます」

「ならいいです。無くなったら僕のランチャー用のを渡そうと思っていたので」

薫の確認に返答し、周囲を警戒しながらも歩みは止めない。
しかしその速度は速いとは言い難かった。
元々体力的に劣る人達を守りながらの撤退だ、守る方も守られる方も神経を必要以上に使う結果となり、必然的に効率が悪くなる。

「茜さん達は大丈夫でしょうか?」

「さあ?」

そんな事を話しながら進んでいくと、薫が初老の男性達が遅れているのを見て彼等に駆け寄った。

「大丈夫ですか?」

「おお、すまない・・・。我々はもう駄目だ、君達だけでも先に行ってくれ」

傍目に見ても辛そうな様子だ。
薫は彼等が先に進む意志が無いらしい事を確認すると、優子の元へ戻り幾つかのバッテリーパックを手渡した。

「黒澤さん?」

「先に行ってください」

その言葉を聞いた優子は驚愕した。

「ちょっと、何を言ってるんですか?」

「いいから。僕はここにしばらく留まって敵を食い止めます」

「それは自殺行為ですよ!?」

怪人の追っ手は幾ら薫でも、一人では多勢に無勢、食い止められるような物ではないだろう。

「僕の場合少人数の方が生き残れる確率が高いんですよ。それに彼等はしばらく休めば何とかなりそうです」

「でも・・・」

「それにさっきの襲撃で怪我した人もいるでしょう?早く手当てができる場所まで連れて行かないと」

確かにそうだ、ここまで来る途中の襲撃で人質に死者こそ出なかったものの僅かに攻撃を防ぎきれず負傷者も出た。
そして負傷者からは僅かだが出血があり、血痕が廊下に確認できる。

「さあ、早く。僕なら大丈夫です」

「・・・」

「それに、それだけバッテリーパックがあれば、僕が怪人を食い止めたならばもうしばらく持つでしょう」

薫の言葉は優子の頭に説得力を持って入り込む。

そうです、今までも黒澤さんの指示に従っていれば大丈夫だったんですから。
ブルー(仮)の時だって・・・。

隆の件は薫が原因とも言えるが、今の状況でそこまで思い出す余裕は優子には無かった。

「お先に・・・!」

薫と数人の男性を置いて、優子は先に進んだ。






「皆さん、もう少しです!」

薫を置き去りにした事には負い目があるが、彼から渡されたバッテリーパックのお陰で犠牲者を出さずに進む事ができた。

後少しで、外に・・・!?

外まで後僅かという希望を抱いた優子達の前に、戦闘員を従えた怪人が立ちはだかる。

くっ、ここまで来て!

「う、後ろからも・・・」

「そんな!?」

後ろからも追っ手の姿が確認でき、優子は嘗て無い絶望感を味わった。
彼女一人でこの状況を打開できるとは思えない。
グリーンシールドは防御能力こそ高いが、武器ではない。
さらにこの場にはヒーローバリア、ヒーローボム用の戦闘員もいない。

「ヤッテクレタナ・・・」

犬の姿をした怪人が怒りを滲ませながら優子達を睨みつける。

「ノアネコノカタキ!」

先程殺した怪人とは化け物なりに親しかったのだろうか、犬の怪人から溢れる殺気が増す。
優子はグリーンシールドを展開してエネルギー波をドーム状に放出し、人質全体を覆って防御体勢をとる。

後ろからも来た、って事は黒澤さんは・・・。

薫も無事ではないだろう。
藁にも縋る思いで薫への通信を出す。

「黒澤さん!?」

『はい、どうしました?』

しかし予想に反し、通信機から聞こえた薫の声は普段と変わらず穏やかな物だった。

「え・・・?何で、生きて・・・?」

シールドが攻撃で削られる。

『グリーン、貴女には感謝してますよ』

注意していないと聞こえない音量の薫の声は、何故か優子には良く聞こえた。

「・・・どういう意味ですか?」

『血痕って、目印になるんですよね。それを垂らしたまま進んでいったグリーン達は、僕等が別ルートから逃げるのにとても役に立ってくれましたよ』

じゃあ、何で?

「・・・何で、私にバッテリーパックを渡したんですか?」

震える声で優子は問う。
自分の考えを否定して欲しいから。

『できるだけ囮が長持ちするように、です』

シールドに新しいバッテリーパックを機械的に装填する。

『今、外にいるんですけどね、オレンジ達も無事脱出できたみたいです。つまり、そちらにはほぼ全ての敵戦力が集中しているんですよ』

そうか、つまり自分は。

『グリーンが生きて外に出る可能性は、ゼロです。そうでなければこんな話しませんよ』

ただの囮。
薫にとって仲間ではなく、どうでもいい存在だったという事だ。

「黒澤さん・・・」

『じゃあ、さよなら。割と嫌いじゃなかったですよ』

そして通信は一方的に切られた。

「あはっ、あはははははははははっ」

ねえ、黒澤さん。
私、何か悪い事しましたか?
最初は長官の命令で貴方の事を監視してたけど、弱みを握られてからはちゃんと言う事を聞いてきたじゃないですか。

シールドのエネルギー波が弱まる。

「私は、ちゃんと誰の言う事も聞いてきたじゃないですか・・・。優等生、だったじゃないですか」

「君!?」

五月蝿いですね、人が考え事をしてるのに。

肩を助けた人々に掴まれたが、優子はそれを振り払った。

「お父さんもお母さんも、そうすれば人よりいい暮らしができるって、言ったじゃないですか・・・」

「ねえ、私真面目に生きてきましたよ?」

遂に、シールドが破られた。

「う、うわぁああああああ!」

怪人達の攻撃で血飛沫が舞う。
身を守る物が無くなった人々はいとも容易くその命を散らした。

「た、助けて・・・」

救いを求めて優子に縋りつく女性を抱えて攻撃の盾にし、ヒーローガンを連射する。

「私は、絶対に生き残るんです!だってそうじゃないと、今までの私の人生って、私って何だったんですか!?馬鹿みたいじゃないですか!」

優子の独り言は、何時の間にか絶叫の域に達していた。

人に気に入られるように言う事を聞くだけで、最後は言う事を聞いてきた筈の人に利用された挙句、捨てられて!
私の人生って、無意味じゃないですか!

それを認めるのが嫌で、優子は守る筈の人々すら盾にして生き延びようと足掻いた。
だが、しばらく怪人と戦った後、優子は周りに盾にする人がいなくなっている事に気付いた。

「あれ?」

犬の怪人が、目前に立っている。

「オワリダ!」

「!?」

怪人の爪が優子の首を深く抉る。
気管が露出し、既に用を為さなくなった喉から声にならない音が漏れ出した。

え?

大きく首が横に傾き、遅れて身体がそれを追って崩れ落ちた。

「ひゅぅ」

致命傷だった。
動脈が引き裂かれて凄い勢いで血が噴出す。

何で、私は絶対生きて・・・。

彼女の首には、最後までチョーカーがかかっていた。
持ち主が死しても尚、その身を縛るように。
最後まで、優子は己の身に降りかかった災いから逃れようとしていた。

続く





閑話40

ビルからの脱出に成功した薫と政府高官達は、彼等に与えられた一室で顔を合わせた。

「皆さんどうしたんですか?せっかく無事に生還できたんですからもっと喜んでもよさそうな物を」

「・・・」

「君、別の方向に逃げて行った人は、どうなったかね?」

罰の悪そうな顔で薫に他の人質達の安否を尋ねてくる様子は滑稽だ。

「ご安心ください、ブルーと一緒に逃げた人達は負傷者こそあれど全員生存しているようです」

「では・・・」

お察しの通りです。

「途中で分かれたグリーンと、彼女と一緒に逃げた人達は絶望的ですけど」

聞かされたくなかった事実を聞かされた彼等は顔を見合わせる。

「何も、本当に死ぬとは思わなかったんだ。そうだ、わし等は悪くないぞ」

言い訳がましい事をこの期に及んで口走るので、先程と同じ手段を取る事にする。

『とにかく他の奴等なんかよりわし等を優先して助けろ!』

『そうだ、あんな奴等よりわし等の命の方が遙かに重い!』

「違う、違うんだ!」

彼等のような人間でも罪悪感というものはあったらしい。

「先程御自分達自身で仰っていたとおりになりましたよ。何かご不満でも?」

命が助かったのだから文句はあるまい。

「命の重さが違う、ですか」

「そ、それは・・・違うんだ」

さっきから否定しかしていませんね。
利用できるという意味では貴方達の方が価値がありますけど。

大体、現在の位置まで政界の中でのし上がってくるまでに、相当汚い事にも手を染めてきた筈だ。
本当に良い人はこの地位を得る事はできやしない。
誰でもある程度は後ろ暗い物を抱えているのだ。

「今更、貴方達にとっては『些事』であろう事に良心の呵責なんて感じているんですか?それとも直接的な人死にが恐ろしい?馬鹿言っちゃいけません、今迄貴方達がやってきた事で不幸になっている人間なんて、それこそ現在進行形で増え続けているんですから」

「・・・わし等に、隔意でもあるのかね?」

「いえ、特に何も」

「・・・なら、わし等に何を求める?」

話が早いですね、ついさっきまで囮の死がどうこう言っていた人達には見えませんよ。
政治家だけに切り替えも早い事で。

「そうですね、これからはお互い『仲良く』していきたい物です。無論双方にメリットはありますよ?」

「・・・」

「異論は無いようですね、ではまた後日」

薫は部屋の出口まで足を進め、その背中を見送る高官達の表情は苦々しい物だった。

「あ、それと僕に何かあればあの音声の内容は、即座にマスコミへと知れ渡るでしょう」

「「「!?」」」

去り際に釘を刺す事もしっかり行って、今度こそ薫は帰路についた。







優子が帰って来なかった。

「ブルー、大丈夫なの?」

ドライな春美にも心配されるほど、今の自分は顔色が悪いらしい。

「ああ、大丈夫だ・・・」

また一人、仲間がいなくなってしまった。
無事に脱出してきた薫からの話によれば、優子にバッテリーパックを渡してから薫は体力的に劣る人達と別ルートを進み、そこから後の事は知らないらしい。

でも、こんな時間まで帰って来ないとなると生存は絶望的だな・・・。

ヒーロー本部からも、既にそう取り扱われている。

怪人め、どこまで俺達を苦しめれば気が済むんだ!?
お前達にだって事情があるらしいけど、俺達だって生きてるんだ!
お前達と戦って死んだ奴は皆、大切な仲間だったんだ!

良二の心には、既に怪人への憎しみが生まれている。

「殺してやる・・・」



[8464] 第四十一話 反攻
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/11/04 14:58
第四十一話

トールは光からの指令で、量産型ヒーロー部隊を動かす事になった。
既に人質は救出済みなので、多少派手に暴れてもいいから敵の殲滅を優先しろと言われている。

「現場でヒーローと合流して、協力しろ、か」

正直、黒澤薫とは会いたくない。

「今は警察がビルを取り囲んで見張っているらしいけど、僕達も早く行って包囲を手伝った方がいいかな」

彼等だけでは心許無い。

グリーンが死んだのは、きっとあいつのせいだね。

光も、政府高官だけが無事だった事からそう思っているようだ。
とはいえ、それで薫をどうこうするつもりは無いらしい。
あくまで自分の命令を忠実に実行した結果だから、という理由である。

僕はあいつと怪人の遺伝情報からできてるけど、オリジナルがどっちも碌でもないよね。

人でなしと、化け物。
どちらに似てもお先真っ暗だ。

グリーンと一緒に怪人達に殺された人々についても些事らしいけど、情報統制の結果かな。
一応、ヒーローは信頼に値するだけの実績を上げているし、これといった失態も無い。
警察との連携も良好で、被害を少しでも抑えるのが警察、迅速に敵を倒すのがヒーロー、と体制も整っている。
戦闘員にした犯罪者への扱いも、問題にすらなっていない。

水面下ではそういった問題に対する火種が燻ぶっているだろうけど。

人々への被害に対する責任も、怪人という明確な敵が存在する為、恨み等はそちらへと向けられているようだ。

怪人がいる内はまだいいけど。

とはいえ、今は邪魔な怪人達を始末するだけだ。
そして自分は光達に作られた存在、拒否権など存在しない。

「ノクア殲滅作戦、スタート・・・」

怪人達の仮称だが、滅多に使われる事の無い呼称を呟くトール。
怪人、と呼んだ方が未知の相手に対する民衆の敵意を煽れるからだ。

実際は、宇宙人という扱いになるんだろうけど。
姿が違いすぎるし共存は無理だね。

自分を人間の形に作ってくれた事にだけは、光達に感謝してもいい気がした。





ノアイヌは殺された仲間達の死体を一箇所に集めてから、人間の事を考えていた。

非戦闘員がいても躊躇わずに攻撃を仕掛けてくるとは・・・。

ヒーローは、本拠地に捕まえてある人間が言っていたような存在ではない。
今日、それがはっきりと分かった。

強硬手段を取った結果、奴らの仲間も討ち取られた。
非戦闘員の犠牲も出た。
だが、あのまま我々に確保されたままではどうにもならないと分かってもいたのだろうな・・・。

建物の周囲は抜け出す隙間も無い程包囲されている。
先程、敵の増援が到着した結果だ。

まさか無理やり攻めてくるとは思わなかった・・・、これも価値観の違いか。

我々は、この星にとって異邦人(エイリアン)なのだ。

奴等の言葉で言えば、そうなるな・・・。




薫は量産試作型のマシンへ搭乗する準備をしていた。
新たに実装される武器も搭載し、支援の為の部隊も控えている。
既に、オリジナルよりもその性能が上回っているのは皮肉であろう。

邪魔な人質もいなくなった事ですし、遠慮無くやれますね。
正々堂々と怪人と戦うなんて非効率的な事は、今回はやりません。

せっかくマシンが使える状況だし、ビルの持ち主への許可も本部が作戦を実行する前にとっている。
何でも、人死にが出ているからこの際構わない、との事らしい。

今の内に何か口に入れておきますか、栄養と水分補給は大切ですし。

薫の中では、もう優子の事など過去の事になっているらしい。
直接殺したわけではないにせよ、死因を作ったのは彼だというのに。






再び現場に到着した良二が空を見上げると、薫を乗せたマシンがこちらへと向かってきていた。
あんな物まで持ち出すとは、本部もこの件に本腰を入れているらしい。
ヒーローが一人殉職しているのだ、それも当然か。

「失礼」

「ん?」

ヒーローの物よりやや無骨で、どちらかというと警察のそれに近いヒーロースーツを装着した一団から、一人の男が良二に話しかけた。
手持ちの武器は瞬のサブマシンガンをマスプロ化した物か。

「えーと、俺に何か用なんですか?」

「はい。僕は量産型ヒーロー部隊を率いる、黒河透。今回の任務に参加する事になったのでよろしく」

マスク越しなので顔は分からないが、どこかで会ったような、不思議な印象を受けた。

この感じ、どこかで会ったかな?

「あ、はい。よろしく」

そういえば量産型の装備って、犯罪者に悪用されかけた事があったな・・・。
でも今はこうやって正しい目的に使われているんだから良かった。

そこまで考えて、良二は不思議な感覚に思い当たった。

あ、まさか・・・。

「あの!」

「?」

去って行こうとする透を呼び止める。

「親戚か、関係者に黒澤薫って奴がいません?何か似た雰囲気なんですよね」

「・・・」

薫の名前を出した瞬間、急に押し黙る透。

「いや、別に」

しかしすぐ何事も無かったかのように否定した。

「隊長」

「ああ、分かったよ。ではこれで」

一礼して、今度こそ彼等は自分達の配置に就いた。

・・・うーん、ブラックに似てると思ったんだけど、気のせいだったかな?
あの感じはブラックといる時によく感じるんだけど・・・。
それなりに長くブラックと関わってるから、自信あったんだけどな。

気を取り直し、良二はマスクを装着した。

「さて、グリーンの弔い合戦だ。頼むぞブラック・・・」





薫はビルに、武装が射程距離に入るまで接近し、威力を抑えたランチャーを撃ち込んだ。
ビルの外壁に穴が空き、内部が大きく露出する。
威力を抑えた理由は、フルパワーだと街の他の部分にまで被害を及ぼす恐れがあるからだ。
無駄な犠牲は無くすに限る。

威力は大体この程度でいいでしょう。

そして機体を動かし、ビルの周囲を旋回しながら砲撃を続ける。
聳え立っていたビルの形は、見る影も無くどんどん崩壊していく。
内部にいる怪人にも甚大な被害を与えた筈だ。

よし、次ですね。

新装備のナパーム弾を装填し、穴が空いた場所へと発射する。
炎が燃え広がり、ビル上部は完全に崩壊した。

お、出てきましたね。

耐え切れなくなった空を飛べる怪人が飛び出してくる。
地上にもちらほらと、それらしい影が確認できた。
ビルから怪人を燻りだす事は成功したらしい。

これまでの攻撃でダメージは蓄積している筈ですしね。
馬鹿正直に相手の舞台で、しかもこちらが少人数でやる必要はありません。
篭城策をされたら、城ごと壊してしまえばいいだけです。

人質がいてはそれも世論の反発を招いて出来なかっただろう、早期段階で救出を断行していて正解だったようだ。

地上の掃討は任せましたよ。

空を飛んでいる怪人達の移動速度は遅い。
しかし薫は絶好の機会とばかりに襲い掛かる。
機銃で弾幕を張って、何体かを叩き落した。

弱ってますね、片付けるのが楽で結構です。

地上では、弱った怪人を取り囲むようにヒーローと警察、量産型ヒーロー部隊と戦闘員が間合いを詰めていた。
少数の怪人に大勢で襲い掛かるヒーロー、効率を重視するならこの上ない方法だろう。





ビルへの攻撃、そして崩落から逃れた怪人が虫のように這い出てくる。
崩落に巻き込まれぬよう、多少距離を取って包囲していたヒーロー達は射撃攻撃を浴びせ始めた。
じわじわと消耗していく仲間達を前にノアイヌは決断を下す。

「いいか、誰か一人でもいい!必ず長達の下へ辿り着くのだ!何としてもゲートまでの血路を開く!」

ここで全滅すれば、仲間達は人間への対応を誤るだろう、それだけは避けなければ!

人間一人の戦闘能力は、相手がヒーローでも、こちらが万全の態勢ならば勝てなくは無い。
現に彼も、仲間達の犠牲はあったがヒーローを一人倒す事はできた。

ここから一人でも生きて戻れたら御の字だな・・・。




量産型ヒーロー部隊がサブマシンガンを構える。

「撃て」

トールが命令を下した直後、強化された弾丸が一斉に怪人達へ襲い掛かった。
それでも生きている怪人が、尚もこの一角を突破する為に歩みを止めず進んでくる。
しかしそれも束の間であった。
幾つものヒーローハンドボムが投げ込まれ、爆発と同時に怪人達の肉片が宙を舞う。

「さて、そろそろ止めだね」

トールはすっかり瀕死の彼等の元へ向かい、立ち上がってきた怪人の頭部をヒーローロッドで打ち砕く。
通常の人間より強化された彼の腕力の前に、次々と頭部を弾けさせる怪人。

「オ、オノレ・・・。キサ」

「まだ生きてるのかい?」

その怪人の二の句を聞く前に、この世から強制的に退場してもらった。






良二は健と組んで怪人と戦っていた。
こちら側へ来た怪人は量産型ヒーロー部隊の方へ向かった奴等より多少元気があるようだ。

「教官、後ろ!」

「サンキュ!」

振り向きもせず、気配を頼りに背後から襲撃した戦闘員にランスを突き刺す。

「これ使え!」

リボルバーの弾丸を補給する手間を省く為、健に自分のヒーローガンを貸す。
これで効率的な戦いが出来る筈だ。

「助かります!」

春美は十八番の狙撃、きいろは近接戦で奮闘し、茜と瞬は戦闘員を駆使した戦いを見せる。
時折、薫が撃ち落とした怪人達が墜落してくるので、息のある奴を見かけたら止めを刺す事も忘れない。

「アアアアアアアアァッ!!」

「!?」

犬の怪人が吼えて良二達の元に突っ込む。

「ソコヲドケ!」

「誰が!」

爪と槍が交錯する。
リーチで勝る良二は間合いを詰めようとする相手から距離を取り、健に指示を出す。

「田中、援護を頼む!あいつの動きを鈍らせてくれ!」

「了解です!」

ランスを連結して両手で構え、勢いをつけて突き出す。
回避した相手は健の銃撃に当たるまいと機動力を削がれ、動きに精彩を欠く。
それを繰り返し、相手に疲れが見え始めた頃に良二はランスを捨ててヒーローロッドで殴りかかった。

「Gaaaaa!」

脳天を潰せはしなかったが人間で言う鎖骨の部分に当たり、怪人が呻く。

「皆の!グリーンの仇だ!」

何か内に篭った鬱憤を晴らすかのように良二は殴打を止めない。

「ナゼ・・・」

「あ!?」

「ナゼ、セメテキタ・・・?」

「何だと!?」

地球に攻めてきたのはお前等だろうが!

「ワレラハアソコヲキョテンニシタカッタダケダ、ソレニキサマラノナカマモイタハズダ・・・」

「・・・」

「ナノニ、ナゼセメタ?ナカマヲキケンニサラスノニ、ナゼ?」

怪人は片方の目が潰れていたが、それでも純粋な疑問を良二に叩き付けていた。

「お前等が、危険だからだ!いつまでもお前等なんかと一緒にいたら絶対に危害が及ぶ!だから早い内にお前等を倒さなきゃいけないんだ!」

良二はそう叫んでヒーローロッドを振り上げる。

「ソンナコト、ワレラハシナイ・・・」

「・・・っ、侵略者なんか信じられるか!死ね!」

そして振り上げたままだった手を、渾身の力を込めて敵の頭部に振り下ろした。





戦闘を終えて本部に戻り、トイレで顔を洗って火照りを冷ましていると、タオルが手渡された。

「お疲れ様です」

「ブラックか・・・」

「検死の結果が出たそうですよ」

怪人を殲滅した後に犠牲者の遺体を収容し、検死を行った結果、その中の一つが優子だった物だと判明したようだ。
顔は崩落したビルの破片に当たって、生前の端正な面影が見るも無惨に崩れていたらしい。
装備や歯型、血液からの情報、そして薫が送ったチョーカー等から判定した結果だ。

グリーン、やっぱり死んでたんだな・・・。

良二は心の中で、優子に哀悼の意を示した。

「で、さっきは随分憂鬱だったようですが」

「・・・ちょっとな。怪人が死ぬ前に俺に話しかけてきたんだ」

先程怪人と交わした会話内容を薫にも伝える。

「俺はあいつ等が許せないし、だから戦う。でも、あの怪人がが最後に言った言葉が耳に残ってるんだ」

「・・・で?」

「・・・いや、別に」

薫は優子が死んだと確定したのにも関わらず冷静だ。

「屠殺する時って、動物は鳴きますよね」

「・・・?あ、ああ」

「あれと似たような物ですよ。鳴き声。人間と同じ言葉を話しても、そう思えばいいのでは?」

「・・・」

そうすれば、楽になるのか?

「僕達は動物や植物の命を食べて生きてますが、それは必要だから仕方ありませんよね?」

「食わなきゃ死ぬしな」

「怪人も、倒さなければこっちが死にますよね」

「・・・そうだな」

向こうも、生きるために俺達を攻撃しているのだろうが。

「相手も僕達を倒さなければいけないんでしょうけど、僕達は当然それを嫌がりますよね」

「ああ、俺もできれば死にたくない」

「僕も嫌ですよ。だから駆除するんです。それだけの事です」

続く




閑話41

結局、人間達の建造物を攻めた者達の中で、生きて帰ってきた者は皆無であった。
多少の犠牲を黙認して人質を早期に奪還し、そして建物ごと攻撃されて全滅してしまったようだ。

「・・・ガイアクイーンビー」

フレイムレオンが沈痛そうな口調でガイアクイーンビーの名を呼ぶ。
呼ばれた彼女は、俯いていた。

「・・・捕らえた人間達から聞いた話では、ヒーローがあんな強引な事をするとは考えられませんでした」

「その結果が、これではのう」

「・・・」

「わしは、降伏を視野に入れておる」

「降伏ですって!?」

それまで黙って事の成り行きを見ていたウインドホークが思わず声を荒げる。

「無理です!今更、人間が俺達を生かしておく筈が無いでしょう!?」

「それは分かっておる」

「だったら何故、そんな事を!」

「わし等が、減ったからじゃ」

改めて二人の目を見詰め、語りだす。

「アクア族に至っては全滅、わし等の三種族も、もはや限界だという事は知っておるな?」

二人は頷いた。

「ガイアクイーンビーの先日言っていた事は、わしも痛いほど分かっておる。そして、度重なる戦いでの犠牲。これでわし等が勝つ可能性は、ほぼ無くなった」

「和解など、できる筈ありません。人間は私達を許さないでしょう」

「だから、降伏なのじゃ。まず、わしの首を渡す事を前提に考えろ」

「長老!?」

「全ての責任をわしに背負わせ、その上で人間にも利益がある事を示唆するのじゃ」

「ですが・・・」

納得がいかなさそうな彼等を慈しむように見て、フレイムレオンはこれまでの生涯を思い出していた。

そもそも、わしがもう少し力を持っていれば。
対抗する相手がいない星を早く見つけることができていればこのような事にはならなかったのじゃ。
アクアシャークやガイアビートルも、そのせいで死んだようなもの。

「ヒーローとやらを束ねている者が、心から仲間を大切に思っているならこの降伏は突っ撥ねられるじゃろう。しかし、皮肉にも先日の攻撃でそうでない事は分かった」

「・・・同族がいるのに構わず攻撃してきましたからね」

「無論、わし等もただではすまないじゃろう。しかし、種の滅亡を避けるにはこれしかないのじゃ」

もう、他の星を見つけるだけの力は無い。
最初にこの星を見つけられただけでも僥倖だったのだ。

「人間には、わし等の技術を全て渡す。その代わりにわし等が静かに暮らしていける場所を設けてもらうつもりじゃ」

「どうやって、その交渉を?」

ガイアクイーンビーが尋ねる。

「捕らえた人間に、わし等の意を伝える為の伝言を書いてもらうのじゃ。わし等も人間の言葉が分かるようになったが、まだたどたどしい」

「それを届けるのは、どうするので?」

「わしが行く」

「「!?」」

「他の者を危険に晒すわけにもいくまいて。準備にはもうしばらくかかるじゃろうが、わしが戻ってこなかったら後は頼んだぞ」

ノアオウムと人間達のいる所へ歩いていくフレイムレオンを、残された二人は複雑そうな表情で見送った。



[8464] 第四十二話 束の間の休息
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/11/04 15:02
第四十二話

優子の追悼番組が放送された。
方向性としては太陽の時と同じで、これといって目新しいものはない。
しかし、この短期間でのヒーローの相次ぐ殉職が国民の話題になっていることは確かなようだ。
他には、異様な姿の怪人による襲撃回数が、海外では最近少なくなっているとのことである。

「・・・よし、少し休むか」

自分の分の仕事を終えた良二は、誰に言うわけでもなくそう呟いた。
怪人との戦闘があれからないことは喜ばしい。
だが、少し気分が閉塞気味になっていることもまた事実であった。

前までの俺だったら、素直に喜んでた筈なんだけどな・・・。

すっかり怪人との戦いが日常の一部と化してしまった己の姿を振り返り、肩を落とす。

「あれ、ブルーも仕事終わったとこ?」

「イエローか。まあな」

きいろも丁度仕事を終えて戻ってきたようだ。

「他の皆は?」

「俺以外はいないぞ」

「ふうん」

街の警備は警察が担当しており、そして本部には先日の戦いで初出動した量産型ヒーロー部隊が待機している。
そのため一部を除いてヒーロー達は、ぽっかりと空いた時間を持て余していた。

「これからどうする予定?」

「・・・やることないからトレーニングでもしようかな、と思ってた」

良二の返答を聞いたきいろは何かを考えるような仕草を見せると、顔を上げた。

「だったらさ、何処か行かない?」

「え、俺とか?」

「他に誘う相手もいないしね」

「消去法かよ!」

「ごめんごめん、冗談だって」

薫と茜は二人で何処かに行ってしまい、春美は所在不明。
瞬は一人でトレーニングルームへ篭っていた。

そういう意味では、俺以外の皆は誘えないけどさ・・・。

「でも、いいのか?何時怪人が出るか分からないのに」

「皆も変身ツールは持って出て行ったでしょ?それに、必ず都内にはいる筈だよ」

「まあ、そうだな。ヒーローだし」

都内ならば、何時でも現場に駆けつけられる。
警察も交通機関も協力してくれるからだ。

「ブルーもさ、考え事ばっかりしてると息が詰まっちゃうんじゃないのかな?」

「・・・」

思考が停滞していたことは否定できない。

「だから、ね?」

「分かった。俺でよければありがたくつき合わせてもらうよ」

「じゃ、行こうか」

そういえば、これって俺の初デートになるのか!?

今まで、良二のデート経験はゼロである。
そう考えると悲しくなってきたが、これが最初なら上々だと考え直す。

うん、何時じゃなくて、誰と、が大切だよな!






一方その頃、薫と茜は都内のブティックで、茜のための品を買っていた。

「薫ってさ、こういうの慣れてるよね」

「昔からよく、女性とどこかに行く時の定番でしたから」

「ま、いいけど。でもいいの?アタシばっかり買ってもらって」

「僕は特に欲しいものはありませんし、大丈夫ですよ。こういう時は遠慮しない」

「そういうもんなの?アタシ、薫以外とこういう所来たことないから」

「そういうものです」

茜の問いに、薫は自然に答える。

「んー、でもこれだけにしとく。もっと別なことがしたいから」

薫はどうだか知らないが、茜はその時間を楽しんでいた。




良二なりに頑張って、デートコースの定番らしきものをきいろと一緒に回ってみた。
途中の反応はあまり芳しくなかったが。

「なあ」

「どうしたの?」

「・・・その、楽しいか?」

「うん、それなりに」

「・・・」

自分の女性と接した経験の乏しさを、改めて悲しく感じる。




やがて日も暮れ、夕陽が見え始める。
思っていたよりも時間は早く過ぎていたようだ。

「あ、もうこんな時間なんだ」

きいろが赤く染まりかけた空と、時計を見比べて呟く。

「そうだな。もうちょっと俺の段取りが良ければ、もっと楽しめた筈なんだけど・・・」

良二は、きいろが楽しめなかったのではないかと、申し訳無く思った。

「ねえ、ブルー。楽しい時は時間が早く過ぎて、つまらない時はその逆だってよく言うよね」

しかし、きいろは良二の言葉を否定するように話す。

「あたしも今日、時間が経つのが早く感じたよ。だから、きっと楽しかったんだと思う」

「そうか?だったらありがたいけどさ。でも、なんだかそんなに楽しんでるようには見えなかったから、ちょっと不安だったんだ」

俺に気を遣って心にも無いことを言わせてしまっているんだったら、悪いよな。

「そうだった?そう見えたんだったら、あたしが悪いね。今まで趣味らしい趣味も無かったし、どうやって楽しめばいいのかがあんまり分からなかったんだ」





光は本部に残っていた瞬を呼び出した。
用心のため、傍らにはトールを控えさせてある。

これからの彼の反応次第では、トールに働いてもらうことができるかもしれないからね。

「失礼します」

おっと、考え事をしている間に金井君が来てしまったようだ。

「早速だが本題を話すよ。君は、怪人を全て倒した後どうする気だい?」

「・・・特に考えていません」

「うん、なら新しい仕事を与えようじゃないか」

トールに視線を送って合図をし、サングラスを外させる。

「黒澤!?」

予想通りの反応だ。
薫に対して強い執着心を抱いている瞬ならば当然か。

「僕は、黒澤薫じゃない」

そしてトールは、瞬の言葉を苛立たしげに否定する。

黒澤君、君、本格的に嫌悪されてるね。

まあ、そう仕向けたのは自分であるわけだが。

「長官、これは一体・・・」

「彼のことについても、説明はするよ。怪人を倒した後、手伝って欲しいことがあるんだ」

一番ヒーローの中で、これからすることに必要な人材は君だからね。
能力的にも悪くないし、黒澤君にぶつけるには充分かな。

斉藤医師の様子を見て、薫を洗脳することができたかどうか疑念を抱き続けていた。
そこで光は、彼を呼び出して問い質したのである。

やはり、手懐けることは出来なかったようだね。

斉藤医師は家族に何をされるか分からないという恐怖から、薫に従っていたらしい。
家族などの重荷になるものは、自分には無い。
煩わしいだけだ。

黒澤君のことだ、他にも何をしているか分からない。
今すぐに始末するのは得策ではないね。

彼の戦闘能力は高い、だから、怪人を全滅させるまでは役に立ってもらう。
だが、その後はもう要らない。

人工怪人も、量産型ヒーロー部隊の準備も整った。
後は、怪人を全滅させさえすれば世界をより良い形へと持っていくことができる・・・。

人工怪人の海外派遣を中断したのは、大分データが集まりテストも終わったこと、それと本物の怪人が喋れることが判明したからである。
だから、人工怪人を使い続けて、怪人から余計なことを言われる前に存在を隠蔽したのだ。

「金井君、君には選択肢が幾つかある」





きいろは、今日のことを思い返していた。
楽しかった、と思う。
推測なのは確信が持てないからだ。

「だったらさ、これから新しい趣味でも見つけたらいいじゃないか。俺と違ってまだ若いんだしさ。生きてりゃ何だってできるよ。怪人との戦いが終わったらさ、ゆっくり考えろよ。」

良二が、彼らしい普通の意見を言う。
気遣ってくれたこと自体はありがたいが、やはり月並みな言葉にはそれなりの感想しか出てこない。

あたしの場合、その生きていればっていう前提にも特に執着が湧かないんだよね。

良二のような一般的な人間の感覚からすると、異常なのだろう。

「でもさ、死ねばそこでお終いだよね」

「イエロー・・・」

「それにさ、怪人との戦いが終わったらあたし達失業するよね」

戦いに染まりきった自分、そして戦っている時は『生』を一番実感できるという事実。

「戦っている時、あたしはあたしとして生きていけるんだ」

「疲れてるのか?・・・今日のイエロー、何かそんな感じがする」

心配げな表情をする良二。

「・・・そうかも。レッドとグリーンが死んじゃって、『死』が近くにあるものだって再認識したからかな」

「・・・イエローも、二人のこと堪えてたんだな」

不思議なものだ。
優子とはあまり接点が無かったし、太陽も彼の生前はたまに鬱陶しいと思った時もあった。

それでも、もう会えないって分かると少しだけ寂しくなるね。

自分にもまだ、人並みに感傷を抱く部分があった。
だからといって、どうということは無い。

「なあ、戦いが終わったらさ」

「?」

物思いに耽っていたが、良二の声で現実へと引き戻される。

「新しい仕事、一緒に考えないか?」

「・・・何で?」

「・・・いや、俺二十六歳だしさ。この年でゼロから新しい仕事始めるってのも不安なんだよ。ヒーローやる前はそこそこ有名な大学行ってたけど、そこでも際立って優秀ってわけでもなかったしさ」

そういえば、大学を卒業したばかりならブラックを同い年な筈なのに。

「三浪して入った大学卒業した時に二十五歳で、それから訓練とかしてた」

「あたしはスポーツ推薦で入った大学やめて、それからかな」

そう言われると、自分も学歴では高卒同然か。

「俺達公務員だし、給料も貯めこんでるからしばらくは何とかなるだろうけどさ。やっぱり働かないとって思うんだ。でも一人じゃちょっと寂しいしさ・・・。長官達が何らかの救済処置でもしてくれれば御の字だけど」

「だから、一緒に考えようって?」

「駄目か・・・?」

自信が無いような顔の良二を見ていると、少しだけ気分も晴れてくる。

うん、悪くないよねそれも。

「駄目じゃないよ」

僅かに微笑を浮かべて、きいろは返事をした。

ブルーは、このままが一番いいよね。






「ねえ、薫」

ホテルの一室で茜は薫に話しかけた。
当然、周囲に人はいない。

「何ですか?」

「優子さんの死んだ間接的な原因って、薫?」

「ええ」

常人なら答えにくい質問だろうが、薫は即答した。

「ふうん、やっぱり」

「それがどうかしましたか?」

薫は、心底どうでもいいような口調だ。

「アタシは、役に立ってるよね?」

「ええ、色々と」

「アタシのこと、好き?」

「はい」

薫の返答は何時もはっきりとしている。

「なら、アタシと一緒になる気ある?」

「まだありませんよ」

「・・・薫って、正直よね」

「茜には、嘘をついたことは無いですよ」

薫のアタシに対する感情って、長く使ってきた道具への愛着みたいなものかもね。

それでも、今の所は優しくしてくれると思う。

アタシも、ちょっと打算的な感情で薫といたしね。

自分は薫を、好きなのだろう。
たとえそれが、純粋な感情からでは無いとしても。

「基本的に、アタシ達って善人じゃないじゃん」

「茜はどうか知りませんが、どちらかというと、僕は悪人の部類ですね」

「幸せになる資格、あるのかな。無いって言われても、強引に掴み取る気だけど」

「他人のことは気にしていませんし、そういう生き方をしてきました。だから何時も、覚悟はしていますよ。そういう時には徹底的に足掻くつもりですけど」

アタシ達って、ちょっと似てるよね。

同族嫌悪の感情が湧かないのは不思議だが。

「そうね、アタシもそう思う」

続く




閑話42

男達は鸚鵡型の怪人から、降伏の準備を進めているという事を聞かされた。

「それは、本当か?」

「アア、ダガオマエラニヤッテモラウコトガアル」

「それは何だ?」

「コウフクニツイテ、ニンゲントコウショウスルタメノコトヲカイテホシイ」

「え?」

どういうことか、頭の中で整理する。

交渉って事は、言葉を上手く伝える為か?

その考えに思い当たると、怪人にその意を確かめる。
男の考えていたことと同じ答えだった。

「分かった・・・。だが、俺達は無事に帰してくれるんだろうな?」

人間の命をあっさりと奪う奴等だ。
どれだけ用心しても、一般人の俺じゃ抵抗すら出来ないだろうけど。

「コウショウシダイダ」

結局、奴等の掌の中って事かよ。

その交渉とやらが、上手くいくように祈るしかなかった。
怪人自体は全滅してくれて構わない、いや、寧ろヒーローに皆殺しにされてしまえと常々思っている。
今回の拉致された件で、それがはっきりした。

でも、交渉決裂するとこいつらに何されるか分からないしなぁ。

人間の法律で裁けない分、犯罪者よりも性質が悪い。
自分達は罰を受ける事を恐れ、それによって犯罪は抑止されている。
中には己の欲求を抑えられずに犯罪を犯す人間もいるが、それ相応の報いを受けることになる。

ヒーローの犯罪者に対する扱いは正しいさ、いい気味だ。
少しは他人の役に立ってから死ね。

「ナニシテル?ハヤクシロ」

「分かった・・・」

こっちが逆らえる立場にないのをいいことに好き放題やりやがって。
今に、お前達も罰を受けるさ。
俺達は助かるんだ、そうさ、生きるんだ。

男は内心の憤慨を隠して怪人の言葉に従った。
だが、彼の願いの一部は大きく裏切られることになる。



[8464] 第四十三話 矛先
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/11/04 15:08
第四十三話

怪人対策課に、ヒーロー本部から連絡が入った。
犯罪者と怪人が、手を結んだというのだ。
既に量産型ヒーロー部隊の装備も強奪され、悪用されているらしい。

「怪人と手を組んだですって!?」

「ああ。このままでは不味い事になるぞ」

健と浩介も、その知らせを聞いて驚愕していた。
怪人が話せるようになったのは知っていたが、まさか協力体制ができるとは思わなかったのだ。

敵の敵は味方、ってわけか・・・。

どちらも人間社会から排斥される運命。
このまま座して死を待つよりは、と一か八かの凶行に及んだのだろう。

たとえ犯罪者を縛る法律や警察から逃れられたとしても、怪人が大手を振って歩くような世界になったらお前等もまともに生きていけるわけ無いじゃないか!
それとも怪人に人類を売って、自分達の立場だけを固めでもしたのか!?

「田中君、出動準備だ!」

「はい!」

見てろ、お前等の好きにはさせない!

健は、平和を脅かす二つの存在を倒す決意を固めた。





周りには人工怪人の実験体と犯罪者。
どちらも、屑だ。

トールは光の指示でその集団に紛れ込んで、人工怪人を統率していた。
今回装備は強奪されたのではなく、光が日本中に散らばっていた犯罪者組織を燻り出す為に各地に横流しして、意図的に武装蜂起させたのである。
当然市民の危険は増すが、光本人はヒーロー本部の安全なシェルターの中で、ゆっくりとこの光景を眺めている。

「いいか、俺達はヒーローや警察によって自由を奪われた!今こそ自由をこの手で掴み取るのだ!俺達の為の社会にするのだ!」

一人の犯罪者が勇ましく演説すると、取り巻きであろう犯罪者達も吼える。

犯罪者の分際で、何高尚な事言ってるんだか。
結局、自分が好きなようにしたいだけだろ。

それからトールは、自分の兄弟とも言える人工怪人の実験体を横目で見た。

お前達も可哀想だね。
さんざん使い倒された後は用済みで、こんな消耗前提の作戦に使われるなんて。

海外派遣した人工怪人からのデータは確保済みで、ここにいる人工怪人達は作戦で使われなかった余り物だった。

僕は運良く完成品として作られたけど、一歩間違えばこいつ等と同じ。

多少憐憫を覚えなくもないが、それも『自分はあいつらとは違う』、という事からくるものである。

これで国内の凶悪犯罪者は、全滅させる予定だ。
その後に本当の怪人も殲滅すれば、光の言うより良い世界とやらが待っているだろう。

僕も、所詮道具か。

自分の役目は認識している。

でも、道具だって使い方次第で色々な事ができるよ。

例えば、鋏は主に紙を切る為の道具だが、人を殺す事もできる。
ベルトでも、人は殺せる。
アイロンでも、殺せる。
考え付く用途は極端だが、自分には意志があるのだ。

今回は黒澤薫を殺すなって言われてるけど、どさくさに紛れて殺しても、いいよね?
寧ろ、あんな奴いなくなった方が人類の為だよ。

それに、そうすれば自分は本物になれる。

身体能力だって僕の方が強化されて作られた筈だし、僕は生きていていい筈なんだ。
後から作られた物の方が、問題点も解決されていて大概は優れているんだ。
オリジナルより、優れている筈なんだ。





敵の攻撃を集中させる囮として、戦闘員を先行させる。
数の上では劣ってはいないが、ヒーローの装備と怪人の攻撃力、どちらも侮れるものではない。
そこで、惜しげなく使える戦闘員が攻撃を受けている間に間合いを詰めるのだ。

「ブルー。分かってるとは思うけど、犯罪者はしっかりと殺しておかないと後々厄介な事になるわよ」

ライフルの点検をしながら春美が忠告する。
以前に、良二がヒーローの装備を着けた犯罪者の命を奪わなかったからだろう。

「・・・分かってるさ。怪人も犯罪者も、殺す」





戦闘員は、その身に銃撃を受けつつも愚直に前進することを止めない。
それしか選択肢がないからだ。
敵前逃亡は、それ即ち死に直結する。

「よし、そろそろいい頃合ですか」

ある程度敵まで接近すると、薫は次々と戦闘員を自爆させた。
爆発は怪人と犯罪者を巻き込み、こちらの侵攻を助けてくれる。

「行くぞ!」

「うん!」

良二ときいろが先陣を切って飛び出す。
薫、茜、瞬が戦闘員を引き連れてそれに続く。
そして春美は、健達警察と共に後方援護に回っていた。

「死になさい」

春美の容赦無い一言と共に放たれた銃弾が、良二と相対していた犯罪者の一人を撃ち抜く。
何だかんだ言ってはいるが、良二が『人間』を殺す事が辛いと分かっているからの処置だろう。
その春美の心遣いに感謝しつつも、自分が情けないと良二は思った。

「はぁああっ!」

隣では、きいろが二人の犯罪者を同時に相手していた。
左手に持ったヒーローロッドで攻撃をいなし、右手のイエローアックスで必殺の一撃を叩き込む。
敵も近接戦闘の心得ぐらいはあるのだろうが、為す術も無く痛撃を受けて沈黙した。

「・・・っ!」

良二は、後方からの支援を受けながら怪人と戦う。
今日の怪人は喋らないから少しだけ気が楽だ。

「ブルー、さっさと殺れ!」

瞬がサブマシンガンを連射して弾幕をばら撒き、その怪人と良二が一対一で向き合える状況を作り出す。

「サンキュー!」

僅かな時間だが周囲に気を配る必要が無くなったので、怪人の隙を見逃さずにランスでの攻撃が成功した。





トールは、腕に幼い少女を抱えていた。
無論、助ける為ではない。

「よぉ、あんた。その餓鬼どうすんだい?楽しむんだったら、後で俺等にもやらせてくれよ」

きひひっ、と下品な笑いを漏らす男達。
少女は、声も出ないほど怯えていた。

「ちょっと、ね。ヒーローを倒す為に使うんだよ」

「人質にでもすんのか?」

「まあね」

だが人質がいる程度で、薫が攻撃しない筈が無い事をトールは直感的に理解していた。
認めたくは無いが、もう一人の自分と言ってもいい存在だ。
その考え、行動パターンは自分と似通っている筈。

「でも、終わった後に生きてるかなぁ?」

少女の目から、はらはらと涙が零れ落ちた。
それを見ても、トールの心は動かない。

他人なんて、どうでもいいさ。
だって僕は人間じゃないからね。

本人は否定したいだろうが、紛れも無くその思考回路は薫に酷似していた。





薫と茜が戦闘員を率いて開けた空間に出ると、犯罪者と怪人の集団が待ち構えていた。
しかし、攻撃してくる様子は無い。
すると少女を抱えた一人の犯罪者が何事か言ってきた。

「この子供の命が惜しければ、武器を捨てろ!」

ああ、TVとかでよくありますよね、こういうの。

子供向けのヒーロー番組ならば、絶対に人質を救出しなければいけない場面だろう。
そしてある程度苦戦するが、何らかの行動の結果人質は無事に救出される。
だが、これは現実だ。

「嫌です」

決まりきっている事だ。
武器を捨てても人質の無事が保障されるわけではないし、何より自分達を倒してからどうにでもできるのだから。

僕は他人の命より、自分の命の方が大切なんですよ。
それに、今日初めて会った人間の為に命を懸ける義理なんて無いです。

ヒーローとしては最低だが、事故の生存を優先する人間としては当然の反応である。

「アンタ達馬鹿でしょ?そんな事でアタシ達をどうにかできると思ってんの?」

茜も同調し、敵を挑発する。
薫はランチャーを構え、先に怪人を始末するべく砲撃を放った。

「ひぃっ!?」

少女を抱えた男達のすぐ傍を閃光が通り過ぎる。
直撃を受けた怪人の集団は、攻撃に耐え切れずに全滅した。

とりあえず先に敵戦力を減らしておけば、後でどうなっても対処が楽ですしね。

「さあ、次は貴方達です」

ランチャーの砲身を男達へと向ける。
このまま発射すれば、少女も巻き添えになる事間違い無しだ。

「わ、分かった!こいつは解放する!」

「待ってください」

そう言って少女を解放しようとする男達を、薫は制した。

「薫、何で止めたの?」

茜が不思議そうに尋ねる。

「おかしいと思いませんか?自らの生命線である筈の人質をこうもあっさりと手放すなんて」

「そう言われればそうね」

マスク越しでよく分からないが、男達の様子が目に見えて変わった。

「先程慌てて見せたのも、演技でしょう?」

自分がそれに慣れているだけあって、他人の演技を見抜く事も容易である。


「大方、その子の体に爆弾でも取り付けてあるのでは?それで、こちらに充分近づいた所を爆破するとか」

「それに何の根拠がある!ただの推測だろうが!」

声を荒げて否定する男達に、薫は冷たく言い放った。

「こちらとしては、その子供ごと貴方達を葬り去ってあげても一向に構わないんですよ?」

「・・・っ!」

その言葉が脅しではなく、本気だという事が理解できたようだ。
事実、薫は本当にやる人間であり、その判断は間違ってないと言えよう。
程無くして、一人の男が少女から爆弾を取り外した。

「へえ、そこまで分かるなんてね」

どこか余裕がありそうな声だった。

「・・・?」

その声を聞いた茜は首を傾げ、薫も何か変な感覚を覚えた。

「まあ、いいさ。これから先に幾らでもチャンスはあるんだ」

そう言うと、その男は少女を先程まで抱えていた男から引っ手繰るように奪って逃走した。

「お、おい!あんた!」

「どっちにしろ君達はそいつ等に勝たないと未来が無いんだ、死ぬ気で足止めを頼むよ!」

鮮やかな逃走劇である。

「さて、後は掃討ですね」

「あいつ放っておいていいの?」

「一人ぐらい他の皆に任せましょう。僕達は、塵掃除です」

「あはっ、そうだね!」

もはやこれまでと悟ったのか、文字通り死ぬ気でこちらへ向かって来る犯罪者達を、二人は迎え撃った。






トールは、薫の行動について考えていた。

人質がいても構わずに攻撃してくるとは思ったけど、まさか、直接人質を攻撃しようとするなんてね。
あれには驚かされたよ。

薫が自分より勝っているのは、経験。
それと、容赦の無さ。

まあ、問答無用で撃ってこないだけましかな?
ただ単に状況判断をする時間が必要だったからかもしれないけど。

「あははははははっ」

哄笑を上げながら、トールは駆けて行く。

でも、このままじゃ収まりがつかないや。

今回、人工怪人と犯罪者は一応味方なので、手を出すわけにはいかない。
そんな事を思っていると、手近な獲物を発見した。

「見ぃつけた」

マスクの中で、獰猛な肉食獣のような笑みをトールは浮かべた。

あいつ、前に僕と黒澤薫が似てるなんて言ってくれた奴だ。
青山良二、どうせレッドのオマケでヒーローになったような奴だ、ここで死んでも構わないよね。
丁度いいから嬲ってあげるよ!





ポリスロングロッドで犯罪者をしたたかに打ちのめす。
自分達警察の役目は、敵の侵攻阻止。
止めは、ヒーローか戦闘員が刺してくれる。

「死ねぇ!」

犯罪者の一人がサブマシンガンを放ってくる。
健は、転がって可能な限りの弾を回避し、ポリスリボルバーを攻撃直後の隙のある相手に撃つ。

「ぐあっ!」

何発か、喰らったか・・・。

スペックは警察用の物よりも、量産型ヒーロー部隊の装備の方が高い。
警察は装備面では多少不利なのだ。

それでも、俺達には戦い続けた経験がある!

敵が取り落としたサブマシンガンを回収し、迫ってくる怪人の一団へと弾幕を張る。
既に多少使われていた事もあって、すぐに弾切れとなってしまった。
しかし、時間は稼げた。

「感謝するわ!」

春美が、その僅かな時間の間に全ての敵を狙撃して沈黙させる。

「おのれぇぇっ!」

側面からまた一人、犯罪者がヒーローロッドで殴りかかってくる。
役立たずのサブマシンガンを捨て、ポリストンファーで受け止める。

くっ・・・!

痛みに耐え、奥歯を噛み締める。
被弾した傷から、徐々に力が抜けていくのが分かる。

「どうした、国家権力の犬が!」

「・・・っ、たとえ犬でも、溝鼠よりは数千倍マシだ!」

トンファーを敵の武器ごと横方向へ払い、足払いを入れた。
未だに熟練しているとは言い難いが、蹴りと絡めるとなんとか実戦でも使い物になる領域まで持っていける。

スペックで、負けていても!

体勢が崩れた敵の顎目掛けて、渾身の力を込めたトンファーを叩き込む。
そして戦闘不能にした事を確認して、健は後退する。

「お疲れ様」

戻り際に、春美が自分の肩を叩いた事までは覚えていた。





少女を抱えた不審な男が、良二の前に進み出てきた。

あの子は!?
とにかく、助けなきゃ!

きいろともはぐれてしまい、この場にいるのは自分一人。
不意打ちも、敵が自分をはっきりと認識しているこの状況下では不可能。

何が狙いだ!?

「その子を放せ!」

「嫌だね」

そう言って、サブマシンガンを良二に向ける。
ヒーローガンを構えて対処しようとしたが、その時に再び男が口を開いた。

「武器を捨てないと、これ殺すよ?」

その言葉が事実だと示すように、今度は銃口を少女へと向けた。
少女は震えながら、助けを求めるように良二を見ている。

「卑怯だぞ!」

「それが?勝てばいいんだよ」

こんな時に薫ならば、少女を見捨てるか、鮮やかな策を考え付くのだろう。
だが、自分は凡人だ。
何も考えられない。

そう、理解はしているんだ・・・。
俺が戦闘不能になったら、犯罪者は人質を好きなようにできるって事を。
約束なんて、守る筈が無いって事を。

それでも、良二は少女を見捨てられなかった。
その選択が愚かな事だと分かっていても、彼の中の、磨耗していた良心がそうさせたのだ。

「・・・っ!」

ランス、ヒーローロッド、ヒーローガンを全て放り投げる。
ヒーローハンドボムは、今日は持っていない。

「あはっ!本当に捨てたよ!」

嘲笑と共にサブマシンガンが放たれ、良二の足に被弾する。

「ぐ、あっ・・・!」

威力を抑えてあるのか、多少痺れるが動けない事は無い。

「何のつもりだ・・・?」

「嬲り殺しにしてあげようと思って」

続けて、腕。

「ぐっ・・・!」

「おじさん!」

痛ましい様子の良二を見て、思わず少女が声を出してしまう。

「だ、大丈夫だ・・・。それと、俺はまだ、お兄さんだ・・・」

少女を安心させるべく、努めて軽い雰囲気を出す。

「まだ余裕あるのかい。もういい、飽きた。次ので殺すよ」

その様子が癇に障ったのか、敵は不機嫌そうな声音で良二に死刑宣告を下した。

俺も、終わりか・・・。
こんな所で死ぬのか、目の前の子供一人助けられないで・・・。

「っ!?」

良二が諦めかけた時、何かが恐ろしい速さで飛来して、敵のサブマシンガンを持った腕を切り飛ばした。

「何だ!?」

慌てて少女を手から離した時に、きいろが物陰から飛び出して少女を奪還した。

「ちっ・・・」

淡々と、残った左腕でサブマシンガンを回収する敵の無機質さが恐ろしい。

「大丈夫?」

「うん、でも、おじ・・・お兄さんが・・・」

きいろは少女の安否を確認し、少女はたどたどしくそれに答えた。

「イエロー・・・」

「ごめん、助けるタイミング見計らってたんだ」

そう言うと、彼女は少女を良二の方へ押しやった。

「動けるよね?」

「ああ・・・」

「この子を、どこかに逃がして。それに今のブルーは足手纏いだから」

「・・・悪い」

少女の手を引き、後ろを気にしながら良二は来た道を戻った。





「手の分は、高くつくよ」

トールが忌々しげに吐き捨てる。

「悪い事をしたからだよ。それとブルーの分、しっかりと償ってもらうから!」

その言葉に対して怒りを込めた声を発し、敵を睨みつける。

きいろはヒーローガンを、トールはサブマシンガンをそれぞれ互いに向け放った。



痛む足を引きずりながら、必死で少女の手を引いて逃げる。

「お兄さん、さっきの人大丈夫?」

「ああ。イエローは正攻法なら俺達の中で最強だからな!」

不安そうに尋ねる少女にそう言って安心させ、先を急ぐ。
きいろが食い止めてくれているとはいえ、何時敵が現れるのか気がかりでしょうがない。
今の自分の状態では、まともに戦えるかすら怪しいのだ。

イエローに迷惑掛けてるのも、俺が甘かったせいだ。

彼女が来てくれなかったら、この少女共々自分は殺されていただろう。

今は、この場を離れるしかない!





互いの火器が相手を抹殺するべく火を噴く。
連射力ではどうしてもヒーローガンではサブマシンガンに劣るが、敵は片腕というハンデがあり、稀にできる隙を突いて確実にダメージを蓄積させることには成功した。

「やるじゃないか、でも、君の方が手傷が多いようだけど?」

その言葉通り、きいろの身体には直撃こそ無いものの大小の弾痕ができている。
持ち前の身体能力から、戦闘そのものに支障は無いが、厄介である事に変わりは無い。

「うん、でも、そっちにもダメージが多い事は確かだよ?」

最初に腕をとった、このアドバンテージはあたしに有利に働いている。
出血量からして常人ならそう長く持たない筈だけど・・・。

間合いを詰め蹴りを放つが、敵も同じ行動をして互いの脚がぶつかり合う。
傷が少し開くが、構わずに殴り、拳が敵の顔面を捉えた。
このまま一気に決めてしまいたかったが、至近距離からサブマシンガンを撃たれる前にバックステップで距離を取って、ヒーローガンを撃つ。
敵は地面を転がって回避し、平然と立ち上がった。

「普通の人間なら、まともに動くことも出来ないと思うけど?」

「まあ、ね。そろそろきついのは否定しないよ」

「じゃあ大人しく」

死んで、と続けようとしたきいろの言葉を遮るように、新手の犯罪者と怪人が現れる。

「くっ!?こんな時に!」

「一人でも勝てないことは無いだろうけど、ちょっと傷が痛むからね。ついさっき呼んでおいたんだ。僕はさっき逃げた獲物を追う事にするよ」

「あ、逃げないでよ!」

素早く良二達が逃げた方向へと駆ける男を追おうとするが、その前に新手が立ちはだかる。

「このっ、邪魔、しないでよ!」

ヒーローロッドでまず一人目の頭部を強打して昏倒させ、続いて左手で二人目の頸部を掴んで一気に締め上げる。

「ひいぃっ!この化け物め!」

撃たれる前に、声が聞こえた所へ掴んだ人間を投げつけ、同時に戦闘不能にする。

三人目。
邪魔しないでよ。
あたし、怒ってるんだから。

どうして自分がここまで怒りを感じているのか分からないが、先程痛めつけられていた良二を見てから、こうだ。

あたしが来なかったら、ブルーは多分あの子と一緒に殺されてた。

薫なら、少女を見捨てていただろう。
そして、被害を最小限に抑えて勝つに違いない。

でも、確実に犠牲は出るよね。

今回は、偶々良二が死ぬ前に助けられたからいいが、今後このような事がある度に彼は傷つき、命を危険に晒すのだろう。

だから、そんなブルーだから!
あの『普通さ』は無くしちゃいけないんだ!

薫のようになりたい、今もそう思っている。
けど、それとは別の部分で、良二の在り方が愛おしく思えるのも事実なのだ。

「だから、どいてよ!」

迫る怪人を蹴り倒し、首を踏んで圧し折り止めを刺す。
ヒーローロッドを怪人の口内に突き刺し、横方向に頭部を引き裂く。
犯罪者の胸部にヒーローガンを零距離で撃つ。

いちいち数えるのも面倒になってきたよ。

きいろは全力で、立ち塞がる敵を排除する。
良二を助けたい、その一心で。





「・・・ここまで来れば、大丈夫か」

心臓の動悸が激しい。
少女も、息を吐いて呼吸を整えている。

「良く頑張ったな。後少しで安全な場所に着くから、待ってろよ」

「・・・うん」

きいろも気がかりだが、まずは少女を避難させる事が先決だ。
できれば味方と合流して、更に安全性を高めたい所だが自分で何とかするしかない。

「待ってよ」

そう思っていた矢先に背後から声を掛けられると共に、腹部を熱い何かが貫通した。
同時に聞こえた銃声で、自分が撃たれたのだと分かった。

「お兄さん!」

激痛に、倒れ伏す良二。

「お前、何で・・・」

「僕がここにいるって意味、ちょっと考えれば分かるんじゃない?」

イエローがやられた!?

「っ!よくも!」

「碌に動かない身体で、よくやったと思うよ。あの世で再会させてあげる」

「ふざけるな、俺は!」

ヒーローガンを抜き、撃つ前に腕を撃ち抜かれる。

「うあぁっ!」

「無駄な抵抗しないでよ」

無駄?
いいや、今の間に女の子は物陰まで行くことができたよ。

「・・・」

「だんまりかい?まあ、いいよ」

今度こそ、もう駄目かな。
そう都合良く何度も助けが来るとは思えない。
イエロー、ごめん・・・。

きいろに謝りつつ、目を閉じて最後の瞬間を待つ。

「勝手に、人を、殺さないでよ・・・」

「イエロー!?」

「馬鹿な!?」

満身創痍、そう呼ぶのが一番なのだろう。
バイザー部分が半壊して顔が露出し、可愛らしい顔にも傷が見える。

「あの人数を、たった一人で・・・?」

「うん。最初は突破口を開いて、真っ先にこっちへ来ようとしたけどね、後ろから撃たれるから全部倒してきたよ」

律儀に敵の質問に答えながら、少しずつきいろは歩みを進める。

「それ以上近づいたら、こいつを殺すよ」

「やってみたら?その瞬間にお前の頭を粉砕するから」

口調も普段より荒々しい。
アックスを投げつける構えを見せ、言葉と態度の両方で牽制する。

「ちっ・・・。次はただじゃ済まさないよ」

捨て台詞を残し立ち去った敵の姿が見えなくなると同時に、きいろは膝を着いた。

「イエロー!」

腹部の痛みを堪えて立ち上がり、彼女へ駆け寄る。

「・・・大丈夫だよ。それにしても、お互い酷い格好だね」

苦笑を浮かべられ、良二も安堵する。

「間に合ってよかったよ。ブルー、頼りない割に無茶するんだもん」

「すまん・・・」

「いいよ、そういう所に少なからずあたしも救われてるんだから・・・!?」

「それ、どういう」

きいろがいきなり良二を突き飛ばした。
聞きなれた銃声が響き、きいろの腹部、胸部に着弾して血飛沫を上げる。

「お姉ちゃん!」

「イエロー!」

弾が飛んできた方向には、片腕の無いあの男がいた。

「駄目だよ、気を抜いちゃ。命取りになる。こんな風にね?」

「・・・」

「イエロー!しっかりしろ!」

膝を着いた姿勢のまま動かないきいろに、良二は声を掛け続ける。

「イエロー!」

「じゃあ、今度こそお別れだ」

「・・・させない!」

きいろが立ち上がり、アックスを敵に投げつける。
不意に投げられたそれは、敵も視認していたにも関わらずに残ったもう一つの腕も切り飛ばした。
それほどの速度だったのだ。

「・・・さっきよりも速かった?明らかに身体は限界を超えてるのに?」

「・・・消えて。じゃないと、バラバラにするよ」

「・・・分かったよ。本当に、大人しく退散するよ」

きいろは、それを確認する前に倒れた。






胸の中で、何かが破れたのが分かる。
軽く咳き込むと、口から血の味がした。
鼻の奥も鉄臭い。

「お姉ちゃん!」

「イエロー、嫌だ、死ぬなよ!目、開けろよ!」

目を開くと、良二がマスクを外して泣きじゃくっていた。
少女も泣いている。

あ、今度こそあいつは行ったんだね。

「ブルー?」

「よかった、生きてたんだな!ブラック達もすぐ来る!連絡が取れたんだ!」

「もう、いいよ・・・」

「イエロー!?」

ただでさえ傷ついてた身体を酷使しすぎた。
常人ではまともに戦うのも難しかっただろうが、持ち前の身体能力でそれを何とか誤魔化してきたのだ。

「諦めんなよ!言ったろ、お前死んだら泣くぞって!本当に泣くぞ!」

「もう、泣いてるよ・・・」

確認するまでもなく、良二は己の身も気遣わずにきいろに寄り添っている。

「・・・ねえ、ブルーはあたしが死んだら嫌?」

「当然だろ!」

「そっか・・・」

ちょっと、今日は無理しすぎたかな。
何時もと同じで、あたしの体はそれができたから。

自分は、親の顔なんて分からない。
この身体だけが、頼りだった。

あたしの身体、ごめんね。
今までも、粗末に使ってきたから・・・。

自分の命に執着はしなかった。
それが、今日、遂に終わる。

「・・・ブルー」

「何だ!?どこか痛むのか!?」

「死ぬって、こういう感じなんだね」

「馬鹿!そんな事言うな!」

自分という存在が、無くなる。
他に表現しようが無い。

「・・・さっき、あたしが死んだら嫌だって、言ってくれたよね。少し、嬉しかった・・・」

「おい・・・」

これは、本音。
自分が、少しでも彼の心にそういう存在として残るのなら、最後に何か人の役に立って死ぬのなら。

でも・・・。

「・・・あたしね、今、死にたく、ないな」

「イエロー・・・っ!」

怖くは無い、でも、ブルーの重荷になるのは嫌だ。

「分からないよ・・・、今まで、何とも思わなかったのに、何で、今になって・・・」

涙が、零れた。
頬から口元にまで伝わったが、それも、ほとんど感じられなかった。

「嫌だよ・・、もっと、ブルーや、ピンク、ブラックと、皆といたいよ・・・」

一人は、嫌だよ。

ヒーローをやってきて、最初からいた三人。
太陽は死んでしまった。
途中で何人か新しく入ってきたけど、やっぱり、この三人との関わりが深かった。
何だかんだ言いつつ、ドライだけど世話を焼いてくれる春美。
どこか自分と似ていた薫。
そして、普通の『いい人』だったブルー。

気がつくと、誰かの腕の中にいた。

「あったかいね・・・」

「なあ、お前まで死んじまうのかよ・・・?嫌だよ、俺は」

良二が、静かに自分を抱きしめていた。

「ブルーは、いい人だね・・・」

「・・・違う、俺は、身近な人間が大切なだけの凡人だよ」

「それでも、優しいと思うよ・・・」

良二と、目が合った。

「最初で最後のお願い、するね」

「・・・何だ?」

「・・・ブルーは、そのままでいてね。普通の、いい人で、いてね」

変わらないで欲しかった。
今のまま、その優しさが何よりも、彼にとって大事だと思うから。

「・・・善処、するよ」

「うん、よかった」

最後に、聞いてもらえた。

「・・・ブルー、できれば」

また会おうね。

きいろの無意識に発せられた呟きは、彼女自身には聞こえなかった。

続く





閑話43

失った両腕の治療を受けながら、光からの詰問を聞く。

「トール、どうしてイエローを殺したんだい?」

「殺したかったわけじゃないけど、ブルーを殺そうとした時に邪魔されたからだよ」

ただ、それだけ。
出て来なければ殺さなかったのに。
包囲を一人で突破してきたのには驚いたが。

しかし、あれだけ出血しても死なないっていうのは便利だけど、改めて自分が人間じゃないって思い知らされるね。

身体のスペックの高さに助けられたのも、屈辱だった。
あの男のお陰で生かされた、という形だからだ。

感謝はしないよ。
僕が作られたのも、お前の所為なんだから。

「じゃあ、ブルーを殺そうとしたのは?」

「前に、僕を黒澤薫に似てるとか言ったからさ」

「・・・彼がそんな事を言うとは。まあ、死んでいてもたいして痛手にはならないだろうが・・・」

余計な事をしてくれた、というニュアンスできいろを殺した事を婉曲に責めているのだろう。

「君も、自分の意思で動くんだね」

「まあね」






「教官、止めてください!一体どうして!」

健が良二に縋り付いて静止させようとするも、それを力無く振り払って、また一人、捕縛した犯罪者の頭部にヒーローガンを撃ち込んだ。

「三人目・・・」

「教官!」

「止めろ、俺が悪かったからぁ!」

命乞いの言葉を無視し、次の犯罪者の頭部へと狙いをつける。

「ブルー!」

頬に衝撃が走る。

「・・・ピンク?」

「貴方、自分の怪我の治療もしないで何やってるの?」

「何って、人殺し」

「・・・もういいわ。ブラック」

「え?」

薫が素早く薬品を付着させた布を良二の顔面にあてがい、意識を強制的に失わせる。

なんだ、ブラック。
邪魔するなよ、俺は、イエローの仇を・・・。






「ん・・・?」

「気がつきましたか」

どうやら自分は、ヒーロー本部の病室に運び込まれたらしい。
何度も見慣れた造りの部屋だから、すぐ分かった。

「ブラック・・・?」

「他の誰に見えます?」

「・・・いや、お前以外の何者でもないよ」

全身の傷には、既に治療の形跡があった。

「・・・イエローは?」

「死にました」

きっぱりと言い放たれる。
薫の表情には変化が無い。

「そうか・・・、やっぱり、いなくなっちゃったんだな」

薫の容赦無い言葉に残酷な事実が突きつけられると、涙が溢れてきた。

「くっ・・・」

視界がぼやけたので、慌てて目を擦る。

「・・・すまん。他の皆は?」

「茜は休憩してます。確か、金井さんもどこかに行っていたと。警察の田中さんは怪我の治療を受けています」

「・・・、ピンクは?」

春美の名前が出ていなかったので、気になって尋ねる。

「それなりにショックだったのか、部屋に引き篭ってます」

「・・・」

春美も、本当に冷たいわけではない。
少なくとも、きいろの死を彼女なりに悲しんでいるのだろう。

「あの子は?」

「現場付近にいた子なら、保護してあります」

こちらの用途を明確に察し、迅速に返答する薫は普段と変わらない。
それだけに、つい苛立って声を張り上げてしまう。

「・・・、ブラックは、イエローが死んでも何とも思わないのか!?」

「まあ、それなりに好きでしたけど。僕はこういう人間なので。香典くらいは出しますが」

「悪い、感情的になりすぎた・・・」

「別に構いませんよ。それより、さっきは随分貴方らしくないことをしていましたね」

抵抗が出来ない犯罪者を、殺していた事か。

「イエローに、言われたんだ。そのままで、いてねって。・・・でも、できるわけ無いだろ!?イエローが死んで、やった奴はそのまま逃げて!それで、平気でいられるわけ無いだろ!?」

だから、八つ当たりだった。
片っ端から、彼女が死んだ原因を引き起こした奴を、殺してやりたかった。

「善処するって、言ったさ!せめて、イエローが安心して逝けるように!でも、やっぱり無理だったよ!」

「傷、開きますよ?」

「そんなのどうだっていい!」

息が荒くなり始めた。

「・・・なあ、ブラック。俺、イエローに嘘ついちまったよ。人、殺しちゃったよ」

「ブルー?」

「イエロー、俺、どうすればいいんだよ」

「聞いてないみたいですね。僕は出直しますので、後はお一人で御自由に」

薫が静かに立って、部屋を出て行く。
一人になった病室で、良二は嗚咽を漏らし続けた。

「う、くっ、・・・うぁああああああああああ!」



[8464] 第四十四話 滅びへと
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/11/22 12:58
第四十四話

きいろが死んで、しばらく経った。
良二の身体の傷は癒えたが、そうでないものもある。

俺は、どうしてまだヒーローでいるんだろう。

怪人と手を組んだ犯罪者達との戦いが終わり、生き残った犯罪者を主に薫と茜が拷問にかけて聴き出した所によると、一人の男が怪人を手引きしていたという話であった。

一人の男……。

それを聞いて、きいろの直接の死因を作ったあの男の姿を脳裏に思い浮かべた。
腕を両方とも失っても、平然としていた異様さが恐ろしい。

あいつなら、頷ける話だ。

戦闘中は焦りのために気がつかなかったが、どこかで感じた事がある雰囲気を持っていた。

ブラック、は俺達と一緒に戦っていたしな。
両腕もちゃんとついてたから違う。

薫は、殺す時はもっと容赦無くやる筈だ。
無駄話などせず、ただ目的を遂行する。
こういう理由から仲間を信用できるという事も中々悲しい。

黒河透、でもない。

あの日、確かに透も出動していたらしい。

考えても、分かる筈がないか。それに……。

きいろは、もういないのだ。

イエロー、約束は多分、もう守れない。ごめん。

尋問という名の拷問が終わった後、光に許可を得て犯罪者達を全員殺した。
許可は簡単に取れ、即座に実行に移した。
命乞いの声も、怨嗟の声も、嘆きの声も、全て無視してひたすら殺す。

これで、俺は本格的に殺人鬼だ。

殺し終わった後、洗面所に行って、吐いた。
胃の中にあった物を全て吐き出し、出る物が胃液だけになってもしばらく吐き続けた。
それから、手を洗い続けた。
自分の手が、どうしようもなく汚れているように感じられたからだ。

実際には、ヒーローガンで殺したから血はついていない筈なんだけどな。

あくまで、自分の中の問題である。

現場で犯罪者を殺した時は、その場の怒りに任せて殺した。
だが、後で殺した犯罪者には明確な殺意を抱いていたのである。

こうなると、今まで戦闘員を殺すことにすら怯えていた俺がどうしようもなく馬鹿に見えてくるな。

落ち着きを取り戻してから一人殺すまでは、引き金がどうしようもなく重かった。
二人目からは、軽くなった。
三人目は、もっと軽く感じられた。

こんなものかという思いと、罪悪感が同時に俺の中に存在している。

自分は、もう家族とまともな暮らしはできないだろう。
擦り切れてしまった、そんな、どこか心に穴が空いたのが分かる。

ブラックみたいだったら、こうならなかったのかな?

つくづく薫が羨ましいと思う。
彼は、何も変わらない。
出会った時からずっと。






目の前にいる春美は、意気消沈していた。

「そんなにショックだったんですか?」

何が、とは言うまでもない。

「ショック?……ええ、そうかもしれないわね」

彼女は、再度杯を傾けて口の中に酒を流し込んだ。

「今まではそんな醜態見せなかったのに」

太陽の時も、優子の時もそうだった筈だ。
薫自身と同じく、どちらかというとドライな性質を持っているのが春美である。

「ちょっと、あの子が不憫でね。戦うだけで死んでいったのかと思うと」

「ふうん」

気の無い返答を返して、水を飲む。

「貴方、どうでもいいとか思ってないでしょうね」

「割と」

じと目で睨まれるが、こればかりは生まれ持っての性質なのだからしょうがないではないか。

「冷酷よね、貴方。女がこんな格好晒してるのにその態度」

「本当に冷酷だったら、貴女の誘いにも乗らないで茜と一緒にいましたよ?」

「ふふっ。だったら、人でなし」

香典程度は出すつもりだが。

「まあ、いいわ。一人でいると碌でもないことばっかり考えつくもの。貴方でもいないよりはマシ」

「だったらブルーでも誘って、傷の舐めあいでもしてればよかったのに」

「辛辣ね。ブルーは今、それどころじゃないこと知ってて言ってるでしょう?」

寧ろ、二人ともきいろが死んだ事で動揺しすぎなのだ。
付き合いが長いという点だけなら、太陽が死んだ時も動揺していないとおかしい。
茜と瞬は、割り切っている。

「貴方以外に、吐き出す相手がいないのよ」

「こっちとしては、そう言われても鬱陶しいだけですが」

落ち込んでいる女性相手に、我ながら中々の人非人振りだと思うが本音である。

「悪かったわね……」

ふらつきながらも、春美は立ち上がる。

「かなり酔ってますね」

「……いいじゃない、別に」

受け答えも的を得ていない。

やれやれ・・・。

仕方なく、春美の財布から金を抜き出して自分の分の代金と合わせ、会計を済ます。
奢る義理は無い。

「ほら、しっかり歩いてくださいよ」

「ん、わかった」

肩を支え、歩き始める。
それから携帯を取り出し、茜に連絡を入れる。

「ああ、茜ですか。今ピンクがかなり酔ってましてね」

『ちっ、あの女?』

一瞬かなり不機嫌そうな声になったが、それを気にせず続きを話す。

「事と次第によっては遅くなりそうですが」

『事と次第って、まあ、しょうがないか』

幾つか連絡を済ませて、通話を終了する。

ブルーは、自分の意思で人を殺したみたいですけど直に慣れるでしょう。
問題は、犯罪者が大規模な攻勢に出た事。

それに関しては鎮圧されているが、その際に出現した怪人が異様な姿だったという事が問題だ。

あれは僕の推測が確かなら、長官の手駒の一つ。
それをあそこまで大々的に使い捨て同然にしていたということは、ある程度その機構が完成に至ったことでしょうか。

優子の犠牲によって、政治家にも渡りをつけることはできた。
今迄の光の所業に関しての様々な事物も確保してあり、彼が自分を社会的、もしくは法的に抹殺しようとすれば、お互いただでは済まないだろう。

そこら辺は、当然長官も理解している筈。
だったら、怪人を殲滅した後の対応がどうなるのか。

有無を言わさずに自分を殺しに来る可能性は高い。
死人に口無し、自分も度々行ってきた。

それこそこの国を独裁体制で支配するつもりでもないとそんな凶行はしないでしょうが、有り得なくはないでしょうしね。

先手を打って先に始末するか?
いや、斉藤医師などを手駒にしているとはいえ、現状では難しい。

何時までも長官が手をこまねいている筈もないですし、斉藤医師が泣きついている可能性もある。
家族を抑えているとはいえ、結局、人間は自分が一番可愛いものですし。

人間は自分を基準に物事を考えるというが、これは、薫も例外ではなかった。
だから、本当の意味で人間の愛情を理解してはいないのだ。
自分が異質ということを理解していても、尚。



怪人の襲撃も無く、つつがなく日々は過ぎていく。時は過ぎるものだ。
そんな中、怪人が出現したがどうも様子がおかしいとの連絡が本部に入った。

「それで、おかしいとは?」

「はい。一応、警察が遠巻きに包囲しているのですが、一向に攻撃に移る様子を見せないのです」

「ふむ、それは変だね。よし、至急現場に出動してくれ。ピンクは付近のビルで待機。いつでも狙撃ができるようにしておいてくれたまえ。現場の指揮はブラックに任せる」

「分かりました」

部下から連絡を聞いた光は、それに対処すべくヒーローを出動させる。

来やがったか……。

良二は拳を握り締め、心の中で悪態をつく。
犯罪者を殺しても収まらなかった胸の痛み、それが一層彼の闘争心をかき立てていた。

たった一匹で来たってことは、大層強さに自身があるってことか?それでもいいさ、お前達は一匹残らず殺してやる。

その時、以前優子を殺されたときに怒りのままに殺した怪人の言葉がよぎった。

ソンナコト、ワレラハシナイ……。

しかし、良二はそれを無理やり頭の中から追い出した。





現場に到着し、すぐに怪人を見ることができた。獅子のような姿である。

「教官……」

健がおずおずと話しかけてくる。この前の自分の行いを見ているからだろう。

「大丈夫、今は、大丈夫だから」

怪人も自分達に気がついたのか、大声を出して呼びかけてくる。

「ヒーローカ!?」

「ええ。貴方の御用件は何でしょう?」

薫が前に出て答える。それにしても、怪人相手にも敬語を使うとは。

「ハナシアイガシタイ」

話し合い!?

怪人は何か紙片のような物を取り出し、薫に渡そうと近づくが彼はそれを制する。

「それを地面に置いて、両手を上げて少し後ろに下がってください。近づいた所を攻撃されたらたまらないので。ちなみに妙な真似をしたら、一斉に貴方を狙っている銃口が火を噴くことになります」

流石に、用心は怠っていないようだ。

「シンヨウ、シテイナイヨウダナ」

「僕は現在進行形で自分の敵である存在を、全面的に信じる馬鹿じゃないので」

「ワカッタ……」

思いのほか大人しく言う事を聞いて、怪人は指示に従う。
充分に距離が離れたのを確認して、紙片を拾い上げた薫はしばらくそれに目を通していた。

「まず、聞きたいことがあります。この文字を書いたのは、貴方達じゃなくて捕らわれた人間で間違いありませんね?」

何!?あいつらそんなことまで!

「アア」

「まあ、それはいいです。問題は、貴方達に講和の意思があるということ。どういう風の吹き回しで?」

「カゼノフキマワシ?」

「どういうつもりで、って意味です」

「コレイジョウタタカッテモ、ワシラハフリニナルダケダ」

「後は、これに書いてある通りと」

「アア」

「随分と虫のいい話ですね。散々そちらから人類に喧嘩を売っておいて、不利になったからもう止めて仲良くしましょう?」

そうだ、ふざけるなよ!お前達のせいで皆死ななくてもいいのに死んだんだ!

良二は薫の言葉に頷いていた。

「……」

「だんまりですか?まあ、そちらが下手に出るつもりがあるというなら、我々もやぶさかではありません」

「コウショウ、シテクレルノカ?」

「上司に連絡するので、本番はそれからです」

あんな奴等と!?正気か!?

「ブラック!」

通信機を出そうとしている薫の傍まで走る。

「本気か!?」

「しょうがないでしょう、僕の一存で決めるわけにもいきませんし」

薫の指は、ある一文を指し示した。

「これ、こちら側にも利点はあるみたいなんですよ。それに、捕まっている人を見捨てるのも世間体が悪いですし」

「……そうだな。見捨てるつもりは、俺もない」

だが、奴等があっさりと許されるというのは納得がいかない。

そんなことになったら、俺達は何の為に戦ってきたんだ!?

仲間や教え子の死は、良二に根深く怪人への恨みを残した。
それは、簡単に拭い去れるものではないのだ。

「怪人の処遇は後ほど決めますので」

連絡を取り終えた薫は、警察と協力して怪人を連行していく。

「そいつを何処へ連れて行く気だ?」

「本部です。指示がありましたので」




ある堅牢な建物、その中の一室にフレイムレオンは入れられた。殺風景な空間で、目に付く物といえば壁に備え付けられていた機械のみ。
さらに、部屋の外にはサブマシンガンを構えた量産型ヒーロー部隊が、建物の外には怪人対策課がそれぞれ待機している。
そして、『首輪』がつけられた。説明によると、おかしな行動をしたら爆発するらしい。
いささか過剰な防衛体制とも言えるが、人間はこれぐらいしないと安心できない生き物なのだ。

やはり、警戒されるのも当然かの。

あの黒い奴の対応からもそれがひしひしと感じられた。
しばらく待っていると、機械から声が聞こえる。

『私がヒーローの上司だ。そちらの前に姿を見せる気は無いから、こういった形での対談にさせていただく。
殺されるかもしれないしね。ああ、心配しなくても構わないさ。私達からは一方的にそちらの姿を見ることができるから』

どう解釈しても非友好的な挨拶が発せられた。

「ワカッタ、ワシノナハ……」

『特に名前を覚える気も無いから、言わなくて結構です。僕達にとって貴方は、怪人、そして交渉の余地がある敵。
この二つのカテゴリーに属しているという情報だけで充分です』

今度は黒い奴の声が聞こえる。
対等な関係での交渉ではなく、こちらの立場が弱いからそれも仕方が無いのだろう。

『それで、君達化け物が攫った罪も無い一般市民のことだがね。攫う最中、そして君達の巣の中で殺した人数分、さらに、見せしめによる恐怖で強制労働。
いやあ、実に非道な行為だね。ブラックもそう思うだろう?』

『その通りですね。それだけじゃありません、怪人から一方的に仕掛けられた侵略行為による多数の人的、物理的被害。
被害者の心境を考えると胸が痛くなります』

これまでのこちらの悪行をあげつらい、心理的に責め立てられる。
だが、悪いのは一方的に自分達なのだ。反論する資格はない。

『ブラック、そこまでにしておきたまえ。大切なのはこれからどうするかだよ』

『はい』

糾弾は一段落したようだが、こちらの要求は呑んでもらえるのだろうか。

『で、だ。君達は我々にとって未知の技術を全面的に提供する。その代わりに、この星に住む場所を提供してもらいたい。
……その住む場所に該当する条件とは?』

「ワシラハ、シゼンガオオイバショガスミカダ」

『うん、分かった。今までの話からすると、こちらにもそう悪い話じゃないね』

ああ、良かった。思ったよりも好感触だ。

「コウショウハセイリツカ?」

『そうだね、それでは……』

『長官、少しいいですか?』

交渉が纏まりそうで安堵しかけた時に、黒い奴が横槍を入れる。

せっかく上手く行きそうだったものを……。

『どうしたんだい?』

『よく考えてください。怪人の技術は我々にとって有益になるかもしれません』

『そうだよ。だから私は交渉成立させてもいいと思ったんだ』

『でも彼等を現在のまま地球に受け入れたら、確実に人類にとっての災いとなるでしょう』

「ワシラガ!?」

『人間よりも強靭な身体、そして高い戦闘能力。こんな存在が増えたら、どうなると思います?世界は彼等に乗っ取られてしまうでしょう。
大体持ちかけられた『交渉』にしたって、充分な戦力が整うまでの時間稼ぎに決まっています』

『それはいけないね!』

「ワシラハヤクソクヲヤブラナイ!」

不味い、今この交渉が決裂しては!わし等は破滅じゃ!

『怪人なんか、信頼できる筈ないでしょう』

人間を信じさせるには、自分達のこれまでの行動が悪すぎたということか……。

『うん、やはり駄目だな。確かに未知の技術は魅力的だが、そんな事の為に人類を危険に晒すわけにはいかない。
無理に和平を結ばなくても、何時かは我々の勝利する日が来るんだ。早期決着は不可能だろうが……』

話の流れがどんどん悪い方向へと向かっている。

『妥協点も無いわけではありませんが』

「ナンダ!?デキルコトナラスル!」

フレイムレオンは、黒い奴の言葉に望みをかけて縋りついた。

『そうですね……。僕達は、自分達より強い怪人が怖いんです。だから、お仲間を間引いてください』

今、この男は何と言った?

「マビケ?ナカマヲコロセト?」

『自殺でも何でも構いません。とにかく、数を減らしてください。
そうすれば、貴方達を受け入れる土地も探しやすくなります』

『……数が多いと、条件に合う土地を探すのも大変だしね』

既に、選択の余地は無かった。
全滅か、それとも一部の生存か。
長老として取るべき道は、言うまでもない。

「ワカッタ、ナカマトハナシアッテミヨウ……」

『そうかい。ならば、こちらとしても話を前向きに検討するよ』

『あ、怪人さん』

今度こそ話が終わりかけた時、また黒い奴が発言する。

「コンドハナンダ?」

『世界中に現れたおかしな怪人も、お仲間ですか?』

『!?』

おかしな怪人?……あやつらか。

「チガウ」

『そうですか。いえ、失礼』

そして、部屋に静寂が戻った。

続く




閑話44

やられた。

交渉の話が終わる直前に、薫は怪人から人工怪人に関係する情報を怪人から得た。おそらく、前々から疑念を抱いていたのだろう。
光は、元々怪人との約束など守る気はさらさら無かった。そもそも、約束とは互いが対等な関係にあって初めて成り立つものだ。化け物達がするべきだったのは、寧ろ懇願なのである。

みすみす私の目の前であんな行動を取られるとはね……。

途中までは光の考えていた以上の展開だった。
予定では比較的温厚に対応し後に殲滅するだけだったのだが、薫が発言した結果により怪人達は自らの仲間を殺す破目に陥ったのだ。
窮状に付け入り、通常なら決して呑まないであろう要求を押し通す。
だから、光も薫に会話の流れを委ねた。

問題はその後だ。

殲滅はやりやすい形となった。
要求をそのまま実行してくれればそれでよし、そうでなくても、討伐する大義名分ができた。
怪人とて一枚岩ではない事は、捕まっている人間の書いた文書からも理解できる。恐らく、全面的にこちらの要求が通ることはあるまい。何しろ、向こうは『人間よりも強い生物』なのだから、自分達より脆弱な存在にあれこれと指図されるのは我慢ならない個体もいる筈だ。

やはり、油断をしたのがいけなかったね。

気も緩んでいたのだろう、薫に会話を任せっきりにしたのは。

あれで確信しただろうし、彼のことだから言質を何らかの形で残しているだろうね。周りにも聞いていたオペレーター達がいるし。

オペレーターに関しては、処分を真っ先に考えた。しかし、それをやるには少しばかり人数が多すぎるのである。一人二人と消している間に薫が対処手段をとるだろう。
そして、自分の行いだけが明るみに出る。一環の終わりだ。
自分の理想が潰えることは避けなければならない。
強引に事を運べば、独裁者まっしぐらだ。

だが、それも悪くないか。

それに近い存在になる予定だったのだから、その言葉の響きに何ら嫌悪感を抱く事はない。

それにしても、『黒澤君』はつくづく私の思い通りにならないね。

トールも、自分の命令とは無関係に良二を殺そうとした。その結果が、きいろの死だ。
彼女も、自分より劣った存在だった良二を庇ったせいで死ぬとは愚かしいとしか思えない。結局は、そこまでの人材だったということか。

全てが終わった後は、生かしておいてもよかったんだけどね。

薫は、一番排除すべき人間だ。自分の暗部を誰よりも知っている。
彼が死ぬまで安心は出来ない。

黒澤君の家族にも、一応手を伸ばしておくか。

良二は、どうでもいい。毒にも薬にもならないだろう。

警察の閑職にでもまわしておくか。それぐらいは報いてやってもいいだろう。監視はつけておくがね。

茜は、薫とつながっているだろう。今までの経緯でもそれが分かる。

うん、彼女も処分するか。最初からそういう予定だったしね。

その前に、薫を殺すかどうか選択させてやろう。そこでどうするかは彼女の自由だ。

春美の狙撃能力は惜しい。薫ほど暗部を知っているわけでもないし、生かしておいてもいいか。手始めに薫を処分する際に役立ってもらう事にしよう。
瞬は、かねてからの予定通りだ。

こうして考えてみると、ヒーローも碌でもない人間が多いね。

集めたのは自分だが、自分はもっと崇高な理念を抱いて行動している。己の保身の為だけに人を陥れる薫のような男とは違うのだ。

トールも、新しいのを作るか。

所詮『tool』である。道具は、使えなくなったら取り替えればいい。
それができる技術もある。唯一無二の存在というわけではないのだ。



[8464] 第四十五話 命
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/11/22 13:05
第四十五話

怪人との交渉内容が、ヒーローと怪人対策課に伝えられた。

「和平か……」

これ以上俺達に犠牲は出ないし、方針としては間違っていないんだろうさ。
ブラックの進言であいつらも間引かれるってことになってるし、これでいい筈なんだ。

椅子にもたれかかり、溜め息をつく。
無駄な殺生は好んでいないが、怪人だけはどうしても許す気にはなれないのだ。

これで、俺達の戦いも終わりか。

何か、張り詰めていた糸が切れたような感覚だ。
怪人を倒す為なら犠牲も厭わないという決意をしていたのに、それが空回りになってしまうからだろう。

やりきれないなぁ……。

人類の平和という全体の結果を見ないで、私怨からそんな風に考えてしまう。やはり、自分はヒーローとしての資質が劣っているようだ。

「ブルー」

鬱屈した気分でいると、薫が何か資料を抱えて立っていた。

「ブラックか。悪い、気がつかなかった」

「いえ。それよりもこれを見てください」

渡された資料には、怪人の本拠地へと人質を迎えにいく案が書かれていた。

「警察用のヒーロースーツを、武装を抜いて人数分用意するそうです。奴等が拉致した人々の中には、途中の移動に耐え切れずに命を落とした方々もいたそうなので」

「なるほどな。だからこれで、確実に生還させるってことか」

「物事に確実っていうのはありませんけどね」

人質の安全を憂うなら、当然の処置だろう。

「で、誰が迎えに行くかなんですけどね」

「奴等の本拠地だもんな……」

薫を見ると、笑顔を返された。

「僕は嫌ですよ」

「言うと思ったよ」

良二も苦笑する。

「ちなみに、警察からは田中さんが行くそうです。ご苦労なことで」

「田中がか……」

交渉をしたとはいえ、反故にされるかもしれない。人間の自分から見てもそう思える内容だったのだから。
それに、良二は怪人を信用していない。健も、仲間を殺された恨みがあるだろう。

「俺も、行っていいかな」

「止めませんよ」

そこまでの会話で、自分が薫に誘導されて敵本拠地行きを選んだことを知った。

「こうなること分かってて田中の話したか?」

「ええ」

「お前は、変わらないよな」

「三つ子の魂百まで、です」

こういうやり取りも久しぶりだ。
良いように扱われたとしても、自分はやはり薫のこういう部分が嫌いではない。

「別に、怒ってないさ。田中も心配だしな」

「そう言うと思っていました」





本拠地へと戻されたフレイムレオンは、仲間達に交渉の結果を打ち明けた。
そして、予想通り混乱が起きる。

「それでは、我々の自衛力は大きく減ってしまいます!」

「だが、そうしなければ皆死んでしまう……」

意見は割れた。中には、人間に屈せず最後まで戦おうとする者もいた。
そこで、年老いた怪人が発言する。

「若い女や子供は最優先で守られるべきじゃろう」

「とすると、死ぬのは老人や男か」

それが、次代に多くの可能性を残せる選択肢だという事は分かる。誰を殺せ、とは指定されてはいなかった。
フレイムレオンも続く。

「ウインドホークとガイアクイーンビーも、生きるべきじゃ。わしは、既に死ぬ覚悟はできておる」

「それしかないんですね……」

生きるべき者は優先的に若くて元気がある者が選ばれた。
年老いた個体は、皆要求を呑む覚悟を決めたのだ。

「ウインドホークよ」

「何でしょう」

「よいか、元々わし等が一方的に悪いのじゃ。それを、恩情をかけてもらったのじゃからな。恨みに思ってはならぬぞ」

「……」

ウインドホークは返事をしなかった。



こちらが指定した日に、怪人は再び姿を見せた。

「ちゃんと、捕まっている人達は無事なんだろうな」

もし死んでたら、皆殺しにしてやる。俺だけじゃできる筈ないだろうけど。

「アア」

短く言葉を交わすと、怪人は背を向けて歩き始める。

「コッチダ」

ついていくと、鳥型の怪人が多数控えていた。

「ゲートニハ、カレラガハコブ」

「それにしては、一度に運べる人数が少ないようだが」

個別撃破されてはたまらない。移動中は、完全に怪人に身を委ねるしかないのだから。
量産型ヒーロー部隊や健を連れてきてはいるが、どうなるやら。

「……シンジロトハイワン。ダガ、ワシラモナカマノイノチガカカッテオルノダ」

「分かっている」

それは、あの犬の怪人が言ってた通りなんだろうさ。
生き残る為に侵略してきた、っていうのも分かってる。

「お前等が仲間を助けるために行動した結果、俺達の仲間も死んだんだけどな」

「皆……」

嫌味の一つくらい、言ってもいいだろう?

健も、苦々しげな様子である。

「……」

怪人が手を振り上げ、何らかの合図を出した。
すると鳥型の怪人達は一斉に翼を広げ、今にも飛び立とうという準備ができた。

「行くぞ」

まず良二が前に出て、怪人に抱えられる。
自分の生存権が握られている感覚は、嫌なものだ。

「俺も、行きます」

次に健も良二と同様の状態になる。
そして、人質用のスーツを持った量産型ヒーロー部隊もそれに続く。

「コレカラ、トブ」

「一思いにやってくれ」

自分を抱えた怪人に返答すると、全身が浮遊感に包まれた。

「うおっ」

飛行機のような安定感は感じられず、それどころか速さが増すたびに気分が悪くなっていく。

「コレカラゲートニハイル」

進行方向にあった山岳上空に、何か黒いものがあるのが見えた。あれがそうなのだろう。

「っ!」

そして、良二の意識は遠くなった。





「オイ、オキロ」

身体を揺すられる感触に目を覚ますと、見覚えのある怪人がいた。

こいつ、鷹の怪人か!?

慌てて身体を起こして離れる。その様子を見ても、怪人は何の反応も返さない。

「お前、あの時の?」

「アオイヤツ、ツイテコイ」

「……」

他のメンバーも意識を取り戻したので、後を追う。

「クロイヤツハイキテルカ?」

相手も良二の事を覚えていたようで、道すがら話しかけられた。

「ブラックか?あいつが死ぬはず無いだろ」

「オマエガマダイキテルトハナ」

何でこう、神経逆撫でするような話をするのか。

「五月蝿い。お前等なんか全滅すればいいんだ」

「オレハ、ナットクシタワケデハナイ」

交渉のことか。

「俺だってそうだ」

「タガイニカンガエテイルコトハ、オナジノヨウダナ」

マスク越しに鋭い視線を感じる。

「ここで何か騒ぎを起こす気は無い」

「……、オレモイチゾクガゼンメツスルノハイヤダ」

険悪な雰囲気のまま、ある部屋のような場所へ通された。中には若い成人を中心とした一団がいる。

「おい。聞いておくが、亡くなった人達はどうした?」

「クッタ」

やっぱり、こいつらとは分かり合えない。

罪も無い人間を拉致しておいて、死んだら食料にする。こんな存在、許しておけない。

「ナンダ?オマエラモ、ホカノイキモノヲギセイニシテノシアガッテキタンダロ?」

「……」

弱肉強食か。

「そうだよ。だから、お前等がやった事が悪いとは言わないさ。俺が、個人的な感情で許せないだけだ」

「フン」

部屋の中では健が人質達に助けに来た事を知らせている。

「俺は、これ以上仲間に死んで欲しくないからな」

「ソレダケハドウカンダ」




引き渡された人質にスーツを装着させていると、透が何やら怪人から受け取っているのを見た。

「それが取引材料か」

「そうなるね」

光の指示で量産型ヒーロー部隊の中に紛れ込んでいたらしい。

「結構量があるな。重くないのか?」

「平気さ」

事実、箱のような物を抱えても平然としている。相当な膂力を誇っているのだろう。
人質達を連れ帰る準備ができると、それを見ていた怪人が集まってきた。
自然と身構えてしまうが、どう見ても戦闘の意思は無い。どうやら取り越し苦労だったようだ。

「ヒーロー」

獅子の怪人が良二達を呼ぶ。

「コレヨリ、ヤクソクヲハタス」

「……」

怪人達のおよそ半数が、互いに向き合って攻撃態勢を取っていた。
約束、それは怪人達に仲間を殺させる事。

「死ぬのか、そいつ等」

格別驚くような事ではない。交渉成立した時からの決定事項だったから。

「ソウダ」

それから獅子の怪人が、良二には理解できない言葉を二言三言その集団に話しかけ、頭を下げた。
それを聞いた怪人達の様子から判断するに、怪人特有の言語で別れを済ませたのだろう。
やがて次々と怪人達は互いを攻撃していく。
ある怪人の爪が向き合った相手の首に食い込み、その怪人自身の胸も相手の貫手が貫通した。
攻撃手段こそ違えど、同じ様な光景が視界いっぱいに飛び込んでくる。

「……」

良二はそれを固唾を呑みながらじっと見ていた。
人間にとっては害悪でしかない存在だが、生きているのだ。見ていて気分が良くなるものではない。
だが、同時に少しだけ胸がすくような気分も味わっている。

「ふふっ」

「黒河?」

「ざまあみろ、って心の何処かで思ってない?」

「……」

「いいですよ、否定しなくても。普通の人間なら当然抱くべき感情だよね。だって、仲間を殺されてるんだから」

普通か。俺は普通なのかな。

普通でありたいと思ったことはないが、きいろに自分らしくいて欲しいと言われたから気にはしている。

「正直、ざまあみろって思ってるよ」

「やっぱりね」

満足そうに話を打ち切ると、透は再び怪人が死んでいく姿を見るために顔を前に向けた。

「俺も、あいつ等が憎いですよ」

健も、自分と同じ様な気分なのだろう。

「お、そろそろ終わりそうだよ」

透の言葉通り、死に切れなかった怪人は獅子の怪人が息の根を止めて回っているようだ。

ああ、死んでいくな。
でも、あっさりと死にすぎな気がする。もっとあいつ等が、俺達に何をやったのかを思い知らせながら殺してやりたかった。
そう、例えば大事な存在を目の前で殺す。
鈴木も、イエローも俺の目の前で死んだ。あの時の痛みは忘れない。

「……オワッタ」

何時の間にか『間引き』は完了したようだ。
憔悴している様子の獅子の怪人は、間引かなかった怪人達を集めている。
どの怪人達も元気がない。仲間が大勢死んだからだろう。

「はい、ご苦労様。同類に手を下した感想はどうだい?」

「……」

答えたくないと、顔を背けられた透は残念がっていたがすぐに次にする事の準備に移った。

「これから地球に行くけど、怪人達は仮住居を用意してあるからそこにしばらくいてね」

「ワカッタ」

行きと同じように、鳥型の怪人がやってくる。

「イチドニワシラヲフクメタニンズウヲハコブノハムリダ。ダカラ、サキニオマエタチヲハコブ。ソノアトニワシラダ」

「好きにしろ」

ここを早く離れられるのなら、それでいい。
怪人達の恨めし気な視線がたまらなく嫌だった。

自分達も、同じような気分を俺達にさせてたって分かってるのか?




良二達が無事帰還したと報告が入った。
さらにトールによると、怪人達は本拠地を放棄して完全に地球に渡る心積もりらしい。二度と行く事はなさそうなので、一応記録機器に収めておいたとか。

「さて、黒澤君。他のヒーロー達の準備は済んでいるかね?」

「ええ」

まったく馬鹿な生き物だ。でも、君達化け物のお陰で私の計画は上手く行っているよ。
せめてもの情けだ。一思いに始末して、先に死んだ仲間に会わせてあげよう。無論、あの世でね。

化け物に死後の世界が存在するかどうかは分からないが。

「後は頼むよ。私は安全な所から見物させてもらうとしよう」

「分かりました。ごゆっくりとお楽しみください」





間引かれなかった怪人全てを収容しても尚余裕がある広い部屋に、良二達は怪人を引き連れて入った。
気まずい雰囲気の中でしばらく待つと、薫が他のメンバーを伴って部屋の中に入ってきた。後ろには量産型ヒーロー部隊の残りのメンバーも控えているようである。

「お帰りなさい。とりあえず、ブルー達はこちらへ」

そう言って手招きされるので、それに応じる。

「ちゃんと怪人達は、自分の仲間を間引いてきましたか?」

「大丈夫。この目で見たさ」

薫の問いには透が答える。それにしても、やはりこの二人どこか似ている。

「そうですか。それならばこちらとしても問題はありませんね」

「ヤクソクハハタシタ!ワシラハ、ウケイレテモラエルノカ?」

「はい、さしあたってはこの部屋だけですがね」

その言葉の意味を考えていると、薫が手を上げた。

「ブラック?」

「オレンジ、ピンク、金井さん。それと量産型ヒーロー部隊の方々。お待たせしました、殺っちゃってください」

指示が出ると、皆一斉に武器を構えて攻撃準備をする。

「オッケー!」

「分かったわ」

「任せろよ!」

放たれる射撃攻撃。怪人達は絶え間なく殺到する射撃に次々と倒れていく。
物音がしたのでふと振り返ると、一緒に敵本拠地に行った量産型ヒーロー部隊も攻撃をしていた。参加していないのは自分と健だけだ。
何が起こっているのかも把握していないようで、互いに顔を見合わせる。

「コレハドウイウコトダ!」

「ははっ、正義の制裁だ!人間様にたっぷり迷惑掛けてくれたからな、その報復だよ!」

「ハナシガチガウゾ!」

「あはっ、まさか許されるなんて思ってたの?だとしたら、相当おめでたい頭してんのね!」

「……」

突然の攻撃に獅子型の怪人は抗議するも、それを受けたヒーロー達は三者三様の対応をした。
瞬は大義名分をふりかざし、茜は嘲笑、春美は黙殺を行った。

「ワシラガイッポウテキニワルイノハワカッテイル!ニンゲンニモサカラワナイ!ダカラ……!」

「じゃあ、逆らわないで死んでくださいよ」

怪人の必死の懇願をあっさりとスルーし、薫も無慈悲に殺戮を行っている。

「どうしました?田中さん、今なら仇を討つチャンスですよ。ブルーも早く」

「……!」

仇という単語に健は過剰反応し、ポリスリボルバーを抜いて乱射し始める。

「田中……」

「ブルーはやらないんですか?」

「いや、やってやるさ」

高揚感は感じていない。しかし、千載一遇の機会だ。これを逃すわけにはいかない。

そうだ、迷う必要なんかないじゃないか。

「オノレ!」

一体の怪人が立ち上がり、銃撃に身体が傷つくのも構わずにこちらへと進んでくる。
ここを抜け出すには、ヒーロー達が背にしている扉からしか手段はない。その判断は悪くないと言えるだろう。

「だから、おとなしく死んでくださいと言っているのに」

だが、すぐさま薫の射撃により物言わぬ骸と化す。

「タノム、コノコダケデモ……!」

「おや」

全身に傷を負っているが、子供を庇った結果なのだろう。
一体の怪人が訴えている。

「射撃、やめ」

一旦射撃が止まる。

「カンシャスル……」

「妙な真似したら、即殺しますからね」

警告を受けた怪人は、子供を抱いてこちら側へ歩いて来る。
他の怪人は、傷ついている者が多くそれを見守る事しかできない。

「オシエテクレ、ワレワレトニンゲンノナニガチガウノダ?」

「ん?」

薫はヒーローガンを怪人の腕の中の子供目掛けて撃った。

「そうですね、『これ』が答えです」

「ア、ウアアアアアア!」

正確な射撃は頭部に命中し、大きく背筋を伸ばして動かなくなった子供を抱えたまま怪人は慟哭する。

「さっきからうっさいのよ」

音もなく歩み寄った茜は双剣でその怪人を切り裂いた。

「化物のくせに、親子ごっこなんて生意気だっての」

「ご苦労様」

「はぁい」

もう、動く怪人は少なくなってきた。
冷静に観察している良二も虐殺に参加している。

「ナゼ、コンナコトニ……」

獅子の怪人は呆然としている。

「何故、ですか。僕は貴方達が悪いとは言いませんよ。これは生存競争なんですから」

「ナニ?」

「貴方達が攻めてきたことも、責める気はありません」

「ダッタラナゼ、ココマデ!」

「だって、生存競争なら負けた方が淘汰されるのは当然じゃないですか。
僕達は貴方達がいると嫌だ。貴方達も僕達を滅ぼそうとしていた」

「モウ、ニンゲントタタカウキハナイ!」

「だから、そういう問題じゃないんです。僕が、僕の意志で、貴方達が邪魔だから殺すんです。理由なんてそれで充分じゃないですか」

薫が合図を出し、射撃が再開される。

「これで、良いんだよな……」

「人間にとっては良いんじゃないかな?」

透が良二の呟きに答える。

「全滅はさせませんよ。これで生き残ったしぶとい個体には、晴れて実験材料の名誉が与えられるそうです。生き残れてよかったですね」

その残酷な結果に、怪人達は打ちひしがれた。

続く




閑話45

人類の脅威としての怪人はもはや存在しない。
数を事前に減らしていた事もあり、その『駆除』はとても容易いものだった。

「これで世界は平和になるね」

「表向きはでしょ?」

とはいえ全滅させたわけではない。生き残った怪人を何体か研究所に収容してあるのだ。
さらに、人工怪人のこともある。

「そうだね。確かに、そういう意味では怪人という存在は滅んでいないよ」

トールも怪人の一種だし、これからも似たような存在は作られていく。

「怪人から提供された技術、あれも人類の更なる発展に貢献してくれることだろう」

「まあ、人間じゃない僕には関係ないけどね」

政界での協力者達も、利権を求めて群がってくる。
光は彼等を無下に扱わず、現状を維持するつもりだった。
彼等が利権を獲得する事によって生まれるであろう数々の不幸も黙認する。
全体的に見れば社会全体の利益に繋がるからだ。

やっぱり、助け合いは大切だからね。
彼等が潤えば私も潤う。

「トール、捕らえた怪人の具合は?」

「ライオンと鷹、蜂はわりとまともな状態だよ。原形も留めているしね。他のは使い捨てだね」

「そうかい。でも、我々の大義の為に死ねるんだから光栄に思って欲しいね。害獣として一斉に処分されてもおかしくない事を今までしてきたのだから」

怪人の幼生体は、皆殺しにした。
親らしき怪人が庇っていたのか息のある個体が多かったが、一匹では寂しいだろうという配慮で親と同じ所へ逝かせるように後から指示したのだ。
その際に叫んでいたが、きっと我々の慈悲深さに感動していたのだろう。そうに違いない。
自分は安全な場所から見ているだけだったが、実際に実行した良二はさぞ喜んだと思う。
何せ、わざわざ敵討ちの機会を与えてやったのだから。

「さあ、新しい秩序を制定する為の行動を始めようじゃないか」

戦闘員、人工怪人、量産型ヒーロー部隊。駒は揃った。

「黒澤薫は僕に任せてくれるんでしょう?」

「君と、ゴールドにね」





良二と健は慰霊碑に花を捧げ、手を合わせて黙祷した。
目を閉じると今までの事が次々と頭の中に浮かんでは消えていく。

「イエロー、レッド、グリーン、羽田さん。それに鈴木、佐藤、山田、中村。
戦いは終わったよ……。だから、ゆっくり休んでくれ。」

「……」

人間は些細な事で死んでしまう。ヒーローとして戦って、それが嫌というほど分かった。

「教官は、これからどうするんですか?」

「さあな。ただ……」

「ただ?」

「人の命を預かるような仕事だけはできないだろうな。俺には、重い」

自分に力があれば、などという思いあがった考えはしていない。
俺程度の人間がどう足掻いたところで結果は見えている。

でも、何もしなかったよりはマシだったと思いたい。
俺にも救えた命があった、そう思っていたい。

きいろが死んだ日に助けた少女からは、手紙が届いた。
退院して何事も無く日々の生活を送っているらしい。
その手紙には良二ときいろへの感謝、そしてきいろへの哀悼の意が記されていた。

「……俺は、怪人対策課に残ります。何時またああいった存在が出るかもしれないから、規模は縮小されますが組織自体は存続するようになったんです」

「そっか、なら、俺の最初にやったことも少しは残るんだな」

「ええ、残してみせます」

それからしばらく、二人は慰霊碑の前で佇んでいた。



[8464] 設定 人間
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/11/04 14:47
最初に言っておきますが、作者はネーミングセンスがないです。ご了承願います。

公僕戦隊(仮)コームインジャー
それぞれの思想と性格をメガテン風に追加しました。メンバー全員に死亡フラグが有ります。
名前は主に色からつけました。

ヒーローの強さ
強 ブラック、レッド(ドーピング)、イエロー
中 ピンク、グリーン、オレンジ、ゴールド
弱 ブルー、ブルー(仮)

人間の『普通』さランク
まとも    浩介、二郎(故)、勇太(故)、健、耕作(故)、智(故)、翼(故)
結構まとも  良二
やや危ない  春美、きいろ(故)、太陽(故)、茜、優子(故)
危ない    隆(故)、瞬
とても危ない 薫、光



・ブルー
属性 Neutral-Neutral
本名は青山良二で、強くないけど主人公。主人公としての地位が薫に脅かされているけど主人公。
薫ほど非道にはなりきれず、かといって太陽の様に熱血でもない中途半端な人。
戦隊内ではナンバー2(ということになってる)だが、一番弱い。
結局は自分が一番大事だが、普通はそんなものではないだろうか。
モデルは仮面ラ○ダーファイズの三原。
テレビ人気投票三位、後最下位。
太陽の当て馬ということが判明。
だんだん薫に毒されてきており、彼が黒いと安心する自分が最近怖い。
二十六歳ということが発覚。結構リアルな数字。
主人公なのに一時戦線離脱し、戦えない間怪人と隆に襲撃される不運っぷり。
警察に新装備の指導員として出向。主人公の武装がランクダウンという珍しいパターン。
出向して、彼なりに成長するが、勇太が殉職してショックを受ける。
ウインドホークとの戦闘で薫がやられたかもしれないと思い、ついにヒーローボムを使ってしまった。
ガイアビートル襲撃時に智と二郎が殉職し、数ヶ月間悩むもまた一つ成長した。
太陽と翼の死を悼む。
戦闘経験を積んで、怪人を圧倒しないまでもまともに渡り合えるまでになった。
きいろの死で、忌避していた『人殺し』を行ってしまう。


・ブラック
属性 Neutral-Dark
本名は黒澤薫。
戦隊内ではナンバー4。
温厚であるが最も腹黒く、外道、えげつない、冷酷。
戦闘では手段を選ばなければ一番強い。
特技は良いタイミングで登場することと演技、言葉責め。
今の職場では特に演技する必要を感じていない。
良二に潰れられると困るので一応フォローはする。
テレビ人気投票三位、後四位。
感想でも酷い言われようで、彼にも死亡フラグが立っている。
二十二歳。
チーム2のリーダーに出世。
主に自分の保身のため、異様な姿の怪人に疑問を持ち分析する。
戦う理由自体はシンプル。
ウインドホークとの戦いで負傷し、一時戦線離脱する。
入院していても相変わらず外道だったが、復帰。
春美の好感度を稼ぐ。
良二の甘さに少しだけだが苛立つも、一応彼の身体を気遣う。
病院側に駒を作る。
相手から喧嘩を売ってきたとはいえ瞬が歪むきっかけを作った。
とうとう犯罪者への殺人教唆まで行う。
結果的に見れば太陽と翼に止めを刺したのは薫である。
優子を利用して囮にし、最後は使い捨てた。
彼の中の好意度
気に入っている オレンジ ブルー
まあまあ気に入っている イエロー ピンク
普通 グリーン レッド 翼 ゴールド 長官
どうでもいい ブルー(仮)、戦闘員

・レッド
属性 Chaos-Neutral
本名は赤田太陽。
戦隊内ではナンバー1。
熱血漢でやや自分のプライドを優先する傾向があるが、戦闘能力は実は三番目。
良二と薫にはうざいと思われている。
自分がいかにカッコよく敵を倒し、人の命を救うことができるかを重要視している。
テレビ人気投票最下位、後六位。
父親が政府高官ということでコネでなったヒーロー。元々ヒーロー願望があった彼には渡りに船だった。
謀殺フラグが立ち、現在最も危険な立場。
ドーピング中で、自分に酔っている。
危なくなり始めたことは彼自身自覚していたが、一時的にだが前線から外され、試作マシンのパイロットになる。
実は自分の立場をそれなりに理解していたが、父親の辞職と共に今まで知らなかった真実を聞かされる。
幼い頃の母との死別が現在の彼を形作った。
目の前で翼の乗ったマシンが爆発するのを見て、直後現れたアクアシャークに怒りを向け、その時は拘り続けたヒーローとしてでなく一人の人間として戦った。
自分の不利を悟った時に薫の乗った機体が来るのを目撃し、薫が自分ごと敵を倒すのを期待してアクアシャークを押さえ込んだ。
その賭けは成功し、薫は容赦無く太陽ごと敵を攻撃する事となる。
自分への投薬をしていた薫を恨まず、沈み行く夕陽と共にその生涯を終えた。
合掌・・・。


・ピンク
属性 Law-Neutral
本名は桃井春美。
戦隊内ではナンバー5。
戦闘能力は四番目。
テレビに出るときは猫を被っている。
若干ドライだが、仲間にはそれなりの対応をする。
でも犯罪者とかはどうでもいい。
長官への好感度が一減った。
テレビ人気投票一位、後も一位。
薫について「いつかやると思った。あんな人だと思っていた。」
年齢は二十四歳と判明。
良二をそれなりに気にかける。
薫が少し気になるが、茜はあまり気に入らない。
太陽不在のチーム1を纏める。
きいろの死に、彼女なりに落ち込む。

・イエロー
属性 Neutral-Light
本名は萌黄きいろ。
戦隊内ではナンバー3。
戦闘能力は正攻法なら一番強い。
テレビ人気投票ニ位、後も二位。
唯一の志願者。
前向き、でも自分には結構無頓着。
太陽は殺しても死なないと思っている。
良二のことは心配した。
結構空気?
死について少し考える。
十九歳。
ノアバッファローとの戦闘で負傷する。
チーム1で春美の補佐をする。
トールとの交戦で死亡。
最後は、死にたくないという感情が芽生えていた。
ブルーによって救われていた部分があったのだろうか。
合掌・・・。

・グリーン
属性 Law-Light
本名は緑川優子。
追加メンバーその一。
戦隊内ではナンバー6。
眼鏡っ娘で、結構毒舌。
テレビ人気投票五位。
長官から薫監視の命令を受けるが、彼に嵌められて心が折れる。
とうとう堕ちて、順調に薫からの調教は続く。
薫の盾にされて負傷するが、暗示をかけられその事実を隠蔽される。
一時戦線離脱したが復帰、その後、どうやら戦闘員を使い潰す事に慣れた様子。
薫と関わって色々な意味で成長した。
厳格な両親に育てられた『優等生』。
式典会場から人質を救出する際に薫に囮にされ、それを認められず他人を犠牲にしても生き残ろうとするが、ノアイヌに首を抉られる。
薫から贈られたチョーカーは最後まで彼女の首にかかっており、死んでも優子を拘束し続けた。
己の生涯に疑問を抱いたまま死んでいった。
合掌・・・。

・オレンジ
属性 Neutral-Dark
本名は緋崎茜。
追加メンバーそのニ。
戦隊内ではナンバー7。
テレビ人気投票三位。
十七歳。
薫に攻略されました。あくまでも『合意』です。
長官からの命令も受けている。
打算交じりだったが危機を薫に救われる。
ヤンデレの素質有りだったが開花。
手駒としてだが、薫は彼なりに彼女を気に入っている。
春美の事は好きではない。
冷えた家族関係であるため、拠点進行の際怪人の家族を見かけて苛立ち惨殺する。

・ゴールド
属性 Chaos-Light
本名は金井瞬。
追加メンバーその三。
戦隊内ではナンバー8。
23歳。
薫とは高校時代の同級生。
良二にタメ口をきく。
彼もどこか壊れている。
薫に構って欲しいが薫は瞬にほとんど無関心。
茜には嫌われる。
薫に名字で呼ばれる事に成功する。

・ウイング(仮称)
属性 Neutral-Light
本名は羽田翼。
試作マシンのサブパイロットだが、実際は彼がメインパイロットと言える。
比較的常識人を自称。
太陽に振り回されるがなんだかんだと放っておけない。
ウイングは太陽が勝手につけた名称。
アクアシャークにマシンを傷つけられ、太陽を無事に敵拠点まで降下させるため単身戦うも傷ついた機体では限界があった。
満身創痍であったが薫からの通信を受け、死ぬ覚悟を決め太陽への遺言を薫に託す。
機体を薫により爆破され多数の怪人を道連れにして死亡した。
色々あったが太陽とは良いコンビだったと言えるだろう。
合掌・・・。

・ブルー(仮)
属性 Chaos-Dark
本名は清水隆で、彼だけヒーロー側の中で名前に色が入っていない。
あくまで仮の暫定ナンバー2。
モデルはガ○ダム00のトリニティ次男。
補欠ヒーローで、物凄い死亡フラグが登場時から立ちっぱなし。
良二を亡き者にしようとするが失敗、次の機会を窺う。
薫との戦いで右足の膝から下を失い、長官に用済みと見なされ改造される。
実験体零号として再登場し、異様な姿になり人間としての彼は死を迎えた。
合掌する気は起きない。
怪人とは親和性が高いようだが、これは彼に限ったことではない。


・白井光
属性 Law-Dark
コームインジャー長官。
警察、裁判所、弁護士(の中の彼と同類の人間)に太いパイプを持つ。
薫とは気が合う(お互い性格が似ている)。
善人のカテゴリーに入らない正義側の上司。
こいつにも死亡フラグ。
隆の改造で、とても外道な指示を出した。
他人の命はなんとも思っていない。
実験体となった隆を始末する。
新たに人間の体組織培養なども考えている。
人工怪人を生み出すなど、正義の味方側とは思えない所業をしている。


警察

・石田浩介
属性 Law-Neutral
怪人対策課係長。
階級は警部。
ヒーローとの連携のため、怪人対策課のメンバーの指揮を通常は行う。

・鈴木二郎
属性 Law-Light
怪人対策課実戦メンバー最年長で、実質まとめ役。
階級は巡査部長。
名前に困ったので良くありそうでなさそうな名前に。
実戦配備されたときのリーダー。
良二から指揮官用装備を受け継ぐ。
増員で、現場での総隊長になる。
ヒーローが暴走族を戦闘員に改造すると聞き、彼の中のヒーロー像が揺らぐ。
ガイアビートルとの戦いで、満身創痍だったにも関わらず相打ちに持ち込み、その後来た良二に自分の心情を吐露するも、確かに二郎達はヒーローだと認められ、そのまま良二の前で静かに息を引き取った。
合掌・・・。

・佐藤勇太
属性 Neutral-Light
怪人対策課メンバー最年少。
主に前衛。
語尾に「~っす」がつく。
戦闘の最中、田中と二人で逃れるが、長官による『テスト』の生贄になる。
実験体零号の攻撃で重症を負うも、田中だけでも逃がそうと踏み止まる。
奮戦虚しく心臓を貫かれて殺され、名前付きの人間初の死者となってしまう。
彼もまたヒーローだった。
合掌・・・。

・田中健
属性 Neutral-Neutral
主に後衛。
特徴は無し。
佐藤が殉職したことを負い目に感じる。
実験体零号との戦いで、良二を庇い負傷するが、生存する。
増員で小隊長になるも、ガイアビートル襲来時に彼一人を残して怪人対策課の現場担当者が全滅する。
怪人対策課の総隊長になって自分の非力さを嘆いていたが、良二に諭される。

・山田耕作
属性 Law-Neutral
主に前衛。
増員で、小隊長になる。
ノアバッファローとの戦闘中、逃亡しようとする犯罪者を庇ってしまい死亡した。
救われない。
合掌・・・。

・中村智
属性 Law-Light
主に後衛。
増員で、小隊長になる。
ノアクラゲとの戦闘時に薫の話術で復讐心を煽られ、敵ごと謀殺されてしまう。
自分の信じてきたヒーロー像を打ち砕かれて死んでいった。
合掌・・・。

戦闘員
元犯罪者など。
消耗が激しいので常に補充が行われている。
主な用途は盾、爆弾。

災害救助型・・・主に普通の人間では危険な救助を担当する。

バッテリー型・・・主にヒーロー専用武器の外付け動力源。バッテリーパックのエネルギー源にもなる。




[8464] 設定 武器、メカ
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/10/06 17:48
ヒーロー

共通装備

・ヒーローロッド
打撃用武器。イメージは警棒を長く、太くしたような形。

・ヒーローガン
射撃用武器。オートマチック拳銃がモチーフ。

・ヒーローハンドボム
小型爆弾。スイッチを入れてから、強い衝撃が加わると爆発する仕組み。

ブルー専用
・ブルーランス
近、中距離用格闘装備。相手に近づきすぎると危ないブルーには合っていると思う。警察用装備の原型になった。威力は高い。
ガイアビートルとの戦いで破壊される。

・ブルーランスⅡ
ブルーランスの発展型。片手で扱えるやや短めの槍で、突くのも薙ぎ払うのにも使用可能な物を二つ装備する。更に連結して威力とリーチ重視の形態にもなる。
旧型よりも多機能だが少し強度に劣る。普通に使用する分には問題無い。


ブラック専用
・ブラックランチャー
中、遠距離用射撃装備。まだ試作段階なので通常形態で運用されることが多い。バッテリー型戦闘員と同時運用することで、射程、破壊力が大幅に向上するがチャージ時間に課題があった。
改良によりチャージ時間が短くなり、命中精度も向上した。
ウインドホークとの戦闘で破壊される。

・ブラックランチャーⅡ
ブラックランチャーの発展型。旧型よりも性能が向上した。バッテリーパックを用意する事でチャージ時間をさらに短くする事に成功する。旧型で使えた機能は全て継承している。


ピンク専用
・ピンクライフル
遠距離狙撃用装備。アウトレンジからの狙撃を目的とする。威力を下げることで連射も可能。

イエロー専用
・イエローアックス
近、中距離専用格闘、投擲装備。強力な斬撃、投擲攻撃を可能とする。

レッド専用
・レッドスペシャルヴィクトリージャスティスガンソード
正式名称はレッドガンソードだが、本人は上記のように呼んでいる。
剣、銃に変化する。

オレンジ専用
・オレンジツインブレード
近距離用格闘装備。一撃の威力自体は高くないが、手数でそれを補う。
投擲攻撃も可能。

グリーン専用
・グリーンシールド
試作防御用装備。性能は高いがエネルギー消費が大きい。また効果範囲内の戦闘員に、強制的にヒーローバリアをさせることが可能。

ゴールド専用
・ゴールドサブマシンガン。
近・中距離用射撃装備。バッテリーパックを装着することで高威力の弾を連射する事が可能。量産を前提として作られた。


特殊武器

・ヒーローバスター
作者もその存在をすっかり忘れていた不遇の装備。
威力は高いが五人揃わないと使えず、その威力もブラックランチャーチャージ形態には劣る。
第一話から出ているのにニ回しか使われていない。
今後もほとんど使われる見込みはないであろう。

・ヒーローバリア
戦闘員を盾にする。
ブラックはかなりの頻度で使う。
良二も最初はブラックに嵌められて、次は自分の意思で使った。

・ヒーローバインド
戦闘員を怪人に組み付かせ、動きを鈍らせる。
やっぱりブラックがかなりの頻度で使う。

・ヒーローボム
戦闘員が敵に組み付いて、自爆する。
当然の如くブラックがかなりの頻度で使う。
良二はついに使ってしまった。


マシン
・レッドウイング(仮称)
主に偵察、情報収集の為に開発された。レッドウイングとは、太陽が勝手に名付けた名前である。武装も機銃を搭載してはいるが、威力は高くない。翼の発案によりオプションパーツが追加される。戦闘で傷つき、薫の手によって爆破された。

・量産試作型
レッドウイングを量産化する為に作られた。武装は素体のままのレッドウイングより強化されており、指揮能力も高い。薫が搭乗する。



警察

共通装備

・ポリスリボルバー
威力はヒーローガンより劣るが、その分反動が少ない。
実際のリボルバーと同じく、六発撃つと弾を交換する必要がある。

・ポリスロングロッド
警杖をモチーフとしていて色々応用が可能。
ブルーランスのデータも使用されている。

・ポリスシールド
機動隊の盾をモチーフとした防御用装備。
格闘戦には不向きなので、後衛のメンバーが装備する。

・ポリスシールドⅡ
旧型より小型になって扱いやすくなった。
取り回しに優れる。

・ポリスハンドボム
ヒーローハンドボムの威力を落として支給された。
それでも充分な攻撃能力を持ち、警察の決め手となり得る。

健専用
・ポリストンファー
ヒーロー側に手の空いた人物がいなかった為に支給された。
ロングロッドよりも扱いが難しい。



[8464] 設定 怪人、人工怪人
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/11/22 13:04
ノクア
「あくのそしき」の、「あくの」を反対にして名前にしました。
これは、人間側が相手を識別するためにつけた仮称です。
怪人達の会話では彼らが自分たちはノクアだとは言っていません。

ガイア族・・・主に虫の怪人が所属する。
・ガイアビートル
カブトムシの怪人。
ガイア族の長。
仲間意識が強く、部下にも信頼されている。
味方を犠牲にする戦い方(誤解だが)をする良二を許せないと思っている。
ますます良二を誤解し、優先的に狙う。
大型の槍を武器とする。
春美に腹部を撃ち抜かれるも奮戦し二郎を死に至らしめる原因を作るも、最後はその二郎により相打ちに近い形で倒される。
合掌・・・。

・ノアコガネムシ
黄金虫の怪人。
故郷の母親を地球に呼び、良い生活をさせてあげたいと思っていた。
最後はヒーローバスターで胴体を撃ち抜かれて倒される。
彼の死後、その遺体はコームインジャーの科学研究班で解剖されることになる。
合掌・・・。

・ノアクモ
蜘蛛の怪人。
ガイアビートルの命令で人間に被害を与える作戦を実行する。
隆を追い詰めるも、死に際の描写すらなく薫、太陽、茜に倒される。
良二はこいつを応援したくなった。
合掌・・・。

・ノアゴキブリ
ゴキブリの怪人。
特筆すべき能力は無いが、怪人内では数が多く、集団戦が得意。
夜間にノアフクロウと出撃、街を混乱させる。
戦闘でほぼ壊滅したと思われるが、長官の野望の礎にされる。
合掌・・・。

・ノアダンゴムシ
団子虫の怪人。
外殻は硬かったが、隙をつかれて茜の双剣に切り裂かれ、最後はブラックランチャーで止めを刺される。
しかし、薫負傷のきっかけを作った。
合掌・・・。

・ノアスズメバチ
雀蜂の怪人。
強力な毒針と、高い機動性を持つ。
彼女達は複数存在する。
毒が尽きた所を狙われ、惨殺された。
合掌・・・。

・ノアクイーンビー→ガイアクイーンビー
雀蜂の怪人。
女王の役割を持つ。
拠点を作る事を提案する。
ガイアビートルの死後、名前を変えて新たなガイア族の長になる。

・ノアスタッグビートル
クワガタムシの怪人。
ガイアビートルの腹心。
双剣での連続攻撃を得意とする。
位置づけ的にはもっと活躍しても良い筈なのに、弱った所を間合いの外から撃ち殺された。
合掌・・・。

・ノアシデムシ
シデムシの怪人。
人間を襲撃しその死体を持ち帰る。
言語検証の為生きた人間を拉致するが、怪人対策課を食い止めるために残り、健と戦う。
力尽きたが目的は達した。
合掌・・・。

・ノアカマキリ
蟷螂型の怪人。
良二と互角の戦いをするが、背後から薫の不意打ちで倒される。
合掌・・・。


アクア族・・・主に水を棲家とする怪人が所属する。
・アクアシャーク
鮫の怪人。
アクア族の長。
女性型の怪人。
極力殺生はしない方向の作戦を展開するがガイアビートルの死により積極策に転換。
アクア族の総力を挙げた戦いを挑むがヒーロー達の活躍により阻まれる。
太陽と一騎打ちをするが薫の上空からの味方ごと機銃掃射というヒーローのセオリーを無視した攻撃により瀕死に陥り、マシンから降りた薫にヒーローガンを頭部に打ち込まれ死亡した。
ガイアビートルの仇討ちに拘っていた。
合掌・・・。

・ノアデンキウナギ
デンキウナギの怪人。
強力な電気攻撃と、粘液の防御を持つ強敵。
の筈だったが、良二の新装備のための噛ませ犬に。
今後のコームインジャーの戦闘のためのサンプルとなる。
合掌・・・。

・ノアタナゴ
タナゴの怪人。
ダム建設を阻止しようとする。
強化された太陽の噛ませ犬その1。
合掌・・・。

・ノアピラニア
ピラニアの怪人。
肉食で、アクア族では凶暴な方。
ヒーローボムと薫の攻撃で瀕死にされ、優子に止めを刺される。
合掌・・・。

・ノアカエル
蛙の怪人。
跳躍力を生かしたトリッキーな攻撃を仕掛けてくる。
動けなくなったところをきいろに首を刎ねられる。
合掌・・・。

・ノアドジョウ
泥鰌の怪人。
特に見せ場も無く、人工怪人に倒された。
合掌・・・。

・ノアクラゲ
海月の怪人。
毒を使い、打撃攻撃を吸収する。
『私に肩は有りませんが・・・』が唯一の台詞。
薫により智ごと爆殺された。
合掌・・・。

・ノアナマコ
海鼠の怪人。
卑猥な形が特徴。
茜に頭部を両断されて死亡。
合掌・・・。

・ノアクジラ
鯨の怪人。
巨大な体躯が武器。
茜の指示で動いた戦闘員の口内への侵入を許し、内部で自爆され多大なダメージを受ける。そしてそこにヒーローハンドボムを複数投げ込まれ死亡した。
合掌・・・。

・ノアトビウオ
飛魚の怪人。
跳躍力は空中の戦闘機にまで届くほど。
捨て身の特攻を仕掛けたが回避される。しかしそれはアクアシャークが戦闘機に攻撃する為の布石となった為無駄ではなかった。
海に墜落し、力尽きて死亡する。
合掌・・・。


ウインド族・・・山岳を棲家とし、綺麗な空を求める。鳥類がメイン。
・ウインドホーク
鷹の怪人。
ウインド族の長。
人間には長達の中でもっとも容赦ない。
薫を危険視し、優先的に排除しようとするがその彼により手傷を負う。

・ノアカラス
烏の怪人。
山間部に拠点を作るため村を攻撃した。
薫の攻撃により消滅する。
合掌・・・。

・ノアキツツキ
啄木鳥の怪人。
嘴の突撃攻撃は強力。
自分に酔った太陽の残酷な攻撃により瀕死になった噛ませ犬その2。
薫に止めを刺される。
合掌・・・。

・ノアフクロウ
梟の怪人。
表立っては行動せず、ノアゴキブリや戦闘員達にどこかから指示を出す。
状況が不利と見るや撤退した。
その後ウインドホークの命令で、引き続き異様な怪人やヒーローの調査をすることになるが、調査中に命令を忘れてチーム2と戦ってしまう。
囮の優子にかかって全身を撃ち抜かれた。
合掌・・・。

・ノアツル
鶴の怪人。
空中に弾幕を撃たれ、それで追い詰められた所を春美に狙撃される。
墜落して瞬に頭部をサブマシンガンで撃たれた。
合掌・・・。

・ノアハゲタカ
ハゲタカの怪人。
ヒーローに発見された拠点を守る為に抵抗する。
戦闘で負傷し、最後は拠点の中の仲間達の死体を見て自分達の行いとその未来に絶望しながら死んでいった。
合掌・・・。

・ノアオウム
オウムの怪人。
人間について過去の資料を使い調べる。


フレイム族・・・主に獣系の怪人が所属する。
・フレイムレオン
獅子の怪人。
フレイム族の長で、四種族の長老でもある。
人間との戦闘の結果から、種族の全滅を避けるために降伏を考える。
結果、約束を反故にされ怪人達はほぼ全滅した。

・ノアネズミ
鼠の怪人。
公園を襲撃。
太陽と一対一で勝った。
しかし主に薫の外道な攻撃で瀕死の重傷を負い、良二に止めを刺される。
合掌・・・。

・ノアハリネズミ
針鼠の怪人。
駅周辺で交通機関に被害を与えつつ、アンツと共にコームインジャーの足止めをした。
春美に頭部を討ち抜かれる。
合掌・・・。

・ノアクマ
熊の怪人。
良二達と対峙する。
爪は強力。
ヒーローと警察の同時攻撃で倒される。
合掌・・・。

・ノアブタ
豚の怪人。
中村を負傷させた以外は特に見せ場も無く、ブラックランチャーのチャージ形態で瞬殺される。
合掌・・・。

・ノアカモノハシ
カモノハシの怪人。
春美に心臓部を撃ち抜かれる。
合掌・・・。

・ノアバッファロー
バッファローの怪人。
強力な突進が持ち味。
山田を犯罪者ごと葬り、きいろに負傷させた。
最後は春美、太陽に蜂の巣にされる。
合掌・・・。

・ノアタヌキ
狸の怪人。
あっさり薫に殺される。
合掌・・・。

・ノアゴリラ
ゴリラの怪人。
強靭な膂力を誇る。
ヒーロー六人に嬲り殺しにされる。
拠点にいた家族を案じていた。妻一人子一人。
最後は薫に頭部を滅多打ちにされる。
合掌・・・。
彼の妻子は拠点に侵攻した茜によって惨殺された。

・ノアネコ
猫型の怪人。
爪を使った攻撃をする。
茜の双剣で喉を切り裂かれて死亡する。
合掌・・・。

・ノアイヌ
犬型の怪人。
ノアネコとは仲が良かった。
ヒーロー達に数で負け、良二に疑問を投げかけて散った。
合掌・・・。



ノクアの長達以外の怪人はクを抜いた『ノア○○○○』で表記します。
種族名が名前の頭に付くのは長だけです。
何故ノアと自分達で名乗るかは謎です。

・アンツ
戦闘員。
各種族のために尽くすよう作られた種族。
しかし彼らは忠義を尽くし、各種族もそんな彼らに敬意を払いつつ良い共生関係が成り立っている。
少なくともヒーロー側よりは格段にマシだろう。

・フライアンツ
戦闘員。
飛べるようになったアンツ。



人工怪人
白井光の、ヒーローとは別に作った勢力。
怪人のデータを元にできている。

・トール・ブラック
薫の遺伝情報とこれまでの実験体のノウハウを生かして作られた。
名前の由来はtrueとtool。
偽名は黒河透。
量産型ヒーロー部隊を率いる。
自分を薫に似ていると言った良二を戯れに殺そうとするがきいろに阻まれる。
撤退したと見せかけ、再度襲撃するがきいろに腕を切り飛ばされて退く。

実験体・・・改造の試作型。無茶な改造のせいでその寿命は短い。
・実験体零号
元ブルー(仮)の清水隆が改造されて生まれた。
誕生までの過程は「設定 人間」を参照。
グロテスクな外観になり、見る者に嫌悪感を抱かせる。
素体が投薬の副作用に犯されていたこともあり、使い捨て同然の扱いを受けている。
元々人間だった物を改造することは当然無理が生じるので、全身がアンバランス。
勇太を殺し、その後の戦闘で自我を取り戻しかけたが、長官によって始末された。
ある意味自業自得な所はあるが、哀れであった。
以後の実験体のノウハウは零号がベースとなる。

・実験体一号
戦闘データがフィードバックされてできた実験体。
ヒーローボムを一度は破るも、攻撃され動きが鈍ったところに再びしがみつかれ、致命傷を負う。
最後はブラックのランチャーで消滅した。
後に複数体生産され、登場する。

・実験体二号
空中戦が可能となった。
その分、直接戦闘能力は下がったが、他の人工怪人との連携でそれを補う。
翼を春美に撃ち抜かれ、墜落した所をきいろが叩き潰した。

・実験体四号
三号は海外に『派遣』したが、四号は三号の性能を意図的に落とした物である。
主に出来レースの負け役として生産される。

・実験体三号
『海外派遣』された人工怪人の余りを処分同然にヒーローとの戦いに投入され、トールの指示により犯罪者と共闘するが全滅した。



[8464] 番外編1~5
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/11/22 13:33
舞台裏 ―色々とアレな番外編― キャラ崩壊

「この番外編はぁ、ネタバレ、本編中のキャラの性格からはありえないような会話、メタな話を含みますっと……。薫、こんな感じで良い?」

「上出来ですよ」



・レッドのこと

「お、ブラック。何見てるんだ?」

「自分にも見せろ!」

良二と太陽は何かを読んでいる薫に近づく。

「ああ、なんでもレッドが『作品後半に物凄く活躍する時のタイトル』が幾つかの候補に絞られていまして」

そう言って薫は小冊子を差し出す。

「これか……」

良二が見たものは、なんとも言えないタイトル候補だった。

「沈む太陽、落日、夕日、黄昏時……、おお!いかにもヒーローって感じだな!カッコイイじゃないか、自分の活躍にぴったりのタイトルだ!」

太陽は単純に喜んでいるようだが、良二はそれどころではない。
薫にだけ聞こえるような小声で会話を試みる。

「なあ、アレってもしかして」

「多分考えている通りの事だと。最後の見せ場というやつです」

やっぱり……。

「あんなに喜んでいるのに……。教えてやらなくて良いのか?」

良二は、早いうちから知っておいた方がいいと思うのだ。

「ブルー。せめて夢ぐらい見せてあげましょうよ。死んだらそこで終わりですから、どうせ後のことは分からなくなりますしね」

ブラックなりの慈悲なのか?

良二は複雑な思いを込めて太陽を見続けていた。


・ブルーとブラックのこと

「ところでブラック。何で俺が主人公なんだ?」

「なんですか、藪から棒に」

いきなり作品の根幹に関わる部分を良二は話し出す。

「いや、俺には能力的にも性格的にもインパクトが足りないと思って」

「はあ」

呆れた様子の視線を向けられるが気にしない。

「他にも良い主人公候補がいたんじゃないのか?例えば、お前とか……。あれ、二者択一?」

「今更どうしようもないことです。諦めて苦労し続けて下さい」

容赦無く切って捨てられる。

「そりゃお前は良いよ。地味にハーレム作っておいて」

「それを言うなら、最初から明確にキャラクター設定が決まっていたのは貴方ぐらいですよ。僕なんて性別すら未定だったんですから」

「え、マジで?」

「さらに他のキャラなんて、初期から改訂が「わー!わー!」……五月蝿いですね」

言ってはいけないことを!

「まあ、僕が女じゃなくてお互いに良かったですね」

「え、なんで?」

まだ解らないのかこいつ、というニュアンスで続きを言われる。

「下手をしていたら、僕がヒロイン候補だった可能性も有ったってことですよ」

「お前が?」

意外と悪くないかもしれない……。

「それにですね、ブルー」

「?」

「僕が主人公だったらXXX板行き確定ですよ、この作品」

「納得したよ……」

説得力がある言葉だった。


・退場した人

「本日はゲストに、まあこうなるんだろうなと登場した時から囁かれ続けていた清水隆さんを招いています」

まばらな、尚且ついい加減な拍手が聞こえる。

「こいつ呼ぶ位なら、佐藤に会いたかったんだが……」

「もし天国という物があって、貴方がいつかそこに辿り着く事ができるなら、その時に会えますよ」

「ブラック……」

良い話になりかけた時、忘れられていた男が乱入してきた。

「俺を無視すんじゃねぇ!」

「ああん?」

「あ、何でもないです、はい……」

しかし、薫の絶対零度の視線を浴びせられて引き下がった。

「あ……、久しぶりだな清水。それと、よくも佐藤を殺してくれたな!」

ここぞとばかりに嫌味を言う良二。
殺されかけたこともあって、やはりストレスが相当溜まっていたのだろう。

「うるせぇ!結局俺に止めを刺したのはお前じゃねぇか!」

二人の口喧嘩は続く。
薫はそんな光景を横目で見ながら進行させる。

「飽きるまでやらせておきましょうか」


・外道達の夜

「長官、これ以上余計なことしないで下さい。あんまり調子に乗っていると消しますよ?」

「君も邪魔な存在だからね。さっさと消えてくれないかな?」

これ以上は書けないです。


・男達の会話

「お前等の女の好みの年齢層を教えてくれ!」

「とうとう脳味噌が薬の副作用にやられたんですか?今ならサービスで頭をかち割って脳漿全部摘出してあげますが」

唐突に太陽が変な話題を振ってきたので、薫が蔑みきった視線と共に、本編中では言わなさそうな台詞を放つ。

「まあまあ、抑えて。俺はやっぱり同年代かな」

薫を諌めつつも、馬鹿らしい会話に参加してあげるあたり、人の良さで苦労することだろう。

「うむ!俺はやはり女子高生だな!」

何気に犯罪的なことを言う奴だ。

「はいはい。じゃあ、ブラックは?せっかくだからお前の好みも知りたいんだが」

こういう時でもないと、ブラックとはこんな話できなさそうだからな。

「ローティーンから、四十代中盤ぐらいまでですかね」

「ストライクゾーン広いな!それに、何さりげなく犯罪的な嗜好を語ってるんだ!」

「いやだなあ、これはあくまでも番外編ですから」

そんな問題じゃないって!

「ちなみに、判断基準は?」

「顔九割に、性格一割です」

最低だ!




もしもヒーローが異世界に行くことになったら

・ブルー編

「本当に唐突だな」

「まあそう言わずに。スピンアウトで本当に行く事になるかもしれないんですから」

行きたくない。今でさえ戦闘に苦労しているのに。

「で、俺の場合はどうなるんだよ」

「多分ですけど、世界崩壊の危機に呼ばれて勇者として戦う事になるんじゃないかと」

「嫌だよ、そんな厄介事。大体俺は弱いぞ。そういうかっこいいのはブラックとかに任せるから俺は一般人Aとして生きたいよ」

俺を召還しても戦力にならないぞ。

「で、最初は拒否するんですが目の前で苦しんでいる人々を見捨てられず、なんだかんだで戦ってしまい、傷つきながらも強くなる、と」

最初に拒否するだろうって所まで読まれた……。

「何だよその厨ニ設定は。それなんて主人公」

「……ブルー、本編の主人公は貴方ですよ。忘れていたんですか?」

忘れていた。俺、一応主人公なんだよな。

「主人公ならさ、なんでもっと戦闘とかが楽にならないんだよ。鈴木達も死んじゃうしさ」

「いや、ブルーは主人公だけどあまり強くないってのがコンセプトらしいので」

俺って一生苦労し続けるのかよ!?

「話を戻しますよ。そんな王道設定の中で、自分を召還した王女かなんかと愛が芽生え、遂に魔王を倒して世界を平和に導き、元の世界に帰らずその世界で生きていく決心をするブルー」

おお、本当に主人公っぽいな。

「で、平和になった世界の権力闘争に巻き込まれて死ぬ」

えええええええええええええええ!?

「何で!?何でそこで俺死ぬの!?普通はハッピーエンドだろ、そこまで来ればさぁ!?」

「いや、英雄なんてそんな物ですよ。生きていれば災いの種にもなりますし。例えば本人も多少は自業自得だったと思うけど源義経とかですね。ある意味リアルでしょう?」

現実は、優しくないな……。

「嫌だぞ、そんな異世界トリップ」



・ブラック編

「ブラックがそうなったらどうするんだ?」

一応本当にトリップしたときの為に聞いておこう。
参考になるもしれない。

「そうですね……。一応、権力者の言う事は聞いておいたほうが無難でしょう」

いきなりそれかよ、夢も希望もないな。

「装備品とかも檜の棒とかだったら満足に戦えませんからね。魔法が存在するならそれの訓練期間を設けてもらって、旅のお供には奴隷をつけて貰いましょう」

奴隷?

「仲間とかじゃなくて?」

「監視役なら要りませんよ。着いて来たら途中で殺して魔物の餌にしますね」

うわぁ……。

「一人だときつくないか?」

「道中で雇いますよ。惜し気なくて良いでしょう」

もっとこうさぁ、ファンタジーらしくね……。

「ところで、どうして奴隷なんて連れて行くんだよ。普通の主人公ならそんな事しないだろうが」

「そうなった場合、僕は普通の主人公じゃないので」

こいつ、前提条件を覆しやがった。

「奴隷だって役に立ちますよ。ブルーだったら自分が今まで奴隷にされていた国をどう思いますか?」

どうって、あっ!

「好印象は抱かないだろうな」

「でしょう?特に奴隷が女性なら、命令一つで自らの命をも投げ出すほどに調教してあげると立派な戦力になりますよ。後々に召還された国を潰す時まで生きていれば役に立ちそうですし」

……。

「一つ聞くぞ。どうして女の人なんだ?戦力としてなら男の方が良いだろうに」

「道中の性処理の為に決まってるじゃないですか。娼館だと性病になりそうですし、なるべくなら中古品は避けたいですね」

嫌だよ、そんな殺伐とした世界。

「後は邪魔になったら見捨てますし、いざという時の盾にもなります」

こいつは……。

「村とかを山賊が占拠して、村人を助けられそうにない時はどうしますか?」

「え?思いつかないけど」

「村ごと焼き払えば良いじゃないですか」

お前、どこまで外道なんだ。

「魔王が倒せなさそうだったらどうする?」

「魔王側になるか、諦めて世界崩壊まで快楽を追及しますね。魔王だったらなんとなく元の世界に戻してくれそうですし、自分の世界以外がどうなってもどうでもいいです」

魔王側になる勇者って……。それに諦めるってなんだよ。

「自分を召還したのが魔王だったら?」

「魔王が女性で自分にチート能力が有れば、魔王を堕としてその世界を支配と言うパターンも。男性の場合はその場のノリで。世界の半分をくれてやるとか言われたら迷わず味方しますね」

ブラックって。

「お前、自分に正直なんだな」

・レッド編

「じゃあレッドは?」

「無改造だったらすぐ死ぬでしょう」





・もしもブラックが女だったら(性格改変少々)

俺は今、幸せなのだろうか。

青山良二は悩んでいた。
というのも、自分のパートナーについてである。

「こんな所にいたんですか」

「ヒイィッ!?か、薫か……」

突然背後から掛けられた声に、心臓が止まりそうなほど驚かされたがすぐに落ち着いてしまうのは慣れだろうか。
すっかり慣らされてしまった自分が少し悲しい。

「いきなり女性の顔を見て叫ぶなんて失礼な人ですね」

「ごめん……」

そう、悩みと言うのは黒澤薫についてである。
第一印象は最高であった。容姿は良二の好みであったし、先輩である自分に対する気遣いも完璧。
そのとき良二は、『俺にも春が来た!』と思ったくらいである。
だが初めて一緒に戦った時、薫は自分を盾にしたのだ。
その後、怪人は彼女によって効率的に殲滅されたが、当然良二は食って掛かった。

『生きてたんですか』

この一言である。
その後日常生活で多少距離を置く事になったが、ある日泣いて謝られたので思わず許してしまった。
後に知ったが、涙は自由に流せるそうである。
段々と飼い慣らされている気がしたが、薫の魅力に良二は参ってしまい、ある日意を決して告白した。
それで、今は一応恋愛関係らしきものに発展しているのだが……。

「また調教されたいんですか?」

「ごめんなさい……」

女性に耐性の無い自分には凄かった。特に夜が。
彼女はかなりのSだった。
幸か不幸か自分に少しMっ気があったので関係は続いている。
彼女にどうして告白をOKしたのか聞いた所、色々な意味で面白そうだったからという素晴らしく正直な答えが返された。
でも、まだ自分の名前を呼んでくれない。ずっとブルーのままである。

さてそんな関係が続いたある日、良二は戦闘で負傷してヒーローを降ろされかけた。
現れた新しいブルー候補の清水隆は、良二に喧嘩を売った後早速薫に色目を使ったわけだが。

『ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ……』

再び彼の姿を見たときには、なんというか廃人同様になっていた。
ついでに、緋崎茜と緑川優子も性的な意味で薫が喰った。女の方もいけるらしい。

清水隆をあそこまでの状態にした理由は、『ブルーがブルーじゃないと嫌ですから』という個人的には嬉しい理由だった。
そういえば彼女を名前で呼ぶ事を許可されているのは自分だけだ。
たまに良二に見せてくれるデレが物凄く貴重なので、ここまでのめり込んでしまうのだろう。まるで麻薬だ。

ツンデレというにはツンツンしていないし、クーデレというのも少し違う。
となるとヤンデレか?
いや違う、彼女はサドデレだ。

「さあ、今日はどうやってブルー『で』遊びましょうか」

「ブルー『と』じゃなくて!?」

なんだかんだ言いたい事はあるが、やはり俺は今、それなりに幸せなのだろう。
薫に引きずられていく良二の顔には、笑みが浮かんでいた。

終わり


「……」

「……」

「なあブラック。なにこれ?」

「ありえたかもしれない可能性の一つらしいですよ」

「いや、難しく言わなくていいから。」

ブラックが女だと俺も彼女持ちだったのか。惜しかった。




・夏だから、怖い話を

「なあブラック。なんか恐怖体験したことはないか?」

「この暑さで頭が沸いたんですか?」

相変わらず辛辣だな・・・。

「まあ、有るといえば有りますが・・・」

「お、期待してるぞ」

そこで薫は電気を消した。
どうでもいいことだがまめな奴だ。

「あれは、僕が大学生だった時の夏に起こった出来事でした」

薫は静かに語り始める。なかなか雰囲気が出てきた。

「ちょうど僕はクーラーの効いた部屋でゆっくりと読書をしていたのですが、その時に顔見知りの女性が尋ねてきたんです」

「何だか思いつめた表情だったので、僕は、彼女を部屋に入れました。」

「女性はしばらく黙っていたのですが、やがてこう言いました」

良二も続きが気になったので身を乗り出す。
薫はまだ続きを言わない。

『あの日から、アレが、来ないの……』

「以上です」

「え?あ……」

話を頭の中で整理し、良二はやっと内容を理解した。

「怖っ!」

「あの時は僕も焦りましたよ」

「その後どうしたんだよ?」

「本気を出して問い詰めた所、狂言だったようです。女の人って怖いですね」

お前が一番怖いよ。




楽屋裏ネタ含みます。

・青山良二は欝

「最初から重いタイトルだね……」

きいろは少々欝気味の良二を見下ろしていた。

「イエローか」

「茸でも生えてきそうな淀んだ空気がブルーから出てるよ」

普段から快活というわけではないが、今日は一段と酷い。

「感想でも言われてたけどさ、俺よりブラックの方が主人公らしいって」

「でもさ、ブルーは強くない主人公って存在意義があるし」

それに、本人が言う割には出番多いし優遇されてると思うな。

「ねえ、俺の生きてる意味ってそれだけ!?泣くよ」

もう、頼りないなあ。

「……それなりにまともな人がいないと話が成り立たないとか?」

「自信無さ気に言うなよ……」

あたしもまともじゃないって自覚はあるし。

「でもさ、この作品の主人公はブルーしかいないと思う」

だってね。

「突っ込み役不在になっちゃうから。グリーンには荷が重いし」

「突っ込み所が濃すぎるんだよ」

それは分かるよ。ブラックとか、長官とか、ブルー(仮)とか。

良二には矛先がこちらに向かないように頑張って欲しい。
彼が倒れたら、次は自分かも知れないのだから。
そういう意味では良二は主役に適任だと言える。




・異世界にブルーとブラックが、同時にトリップしたら

「一長一短ですね」

「どこがマイナス!?」

悪い所があったら言ってくれ、直すから!

とても女々しい事を無意識に考えてしまった。

「もしそういう事になって、お前に見捨てられたら俺はどうすればいいんだ!」

「いや、まだ見捨てるとは言ってませんよ」

もう支離滅裂である。

「まずプラスですが、野宿時の見張りを交代でするとか、食事の用意等をある程度安心して任せる事ができる事ですね」

「あ、そうだな。一人で野宿とか危ないよな。他にも一人だと危ない事でも二人なら何とかなりそうだし」

ん?

「完全には信頼してくれないのか?」

「当然ですよ」

うわ、即答された!
そりゃ、俺はどっちかっていうと足手纏いの部類に入るけど……。

「まあ、それは置いといて。次はマイナスですが」

「出来るだけ直せるようにするからさ」

すると薫は良二を見て、無理でしょう、と言った。

「なんでさ」

「ブルーには、自分の為に罪も無い人間を利用すると言う事は出来そうにないですから」

「あ……」

自分は薫ほど徹底してはいない。

「だから、ブルーがいると思い切った行動が取りにくいのです。どうせ反対するでしょう?」

良二は頷いた。

「ですから、プラスマイナスゼロです」

「なあ、本当に俺の事見捨てたりしないよな?」

しばらく黙って、薫は結論を出した。

「ケースバイケースで」

「状況次第!?」

良二はそういう状況になったら困るので、今の内から薫の好感度を上げる努力をするべきだと決意した。




・異世界トリップ~予告編~

とある世界に、一人の男が呼び出された。

「ここはどこですか?」

彼は自分を召還した王族からその世界の状況を聞かされる。

「魔物ですか」

魔物の脅威、その他国と国の諍いが絶えず、平和な世界とは言えなかった。

「つまり、元の世界には帰れないんですね」

さらに帰還は絶望的な事を知る。

「僕が魔王や他の国を倒す英雄に?」

その為に召還した事も教えられる。

「訓練期間とか武器とか、女の奴隷を提供してくれるのなら引き受けましょう。せっかく召還した人間を無駄に死なせるよりはましだと思いますが。あ、奴隷は自分で選びますから後で見に行きますね」

他に選択肢はなさそうなのでせめて快適な旅が出来るように努力する。

「え、旅のお供ですか?」

自分を召還した王国からつけられる人物。
そして裏切り。

「何故だ!?何故俺が王国からの回し者だと分かった!?」

四肢を斬られ倒れる男。
その男に、『英雄』はこう答えた。

「いや、別に貴方が回し者じゃなくても殺す気でしたし」

裏切り(主人公が相手を)。

「この悪魔!私やお父様達が何をしたと言うの!?」

それなりに良く収まっていた地方の領主一家を謀殺する。

裏切り(主人公が相手を)。

「おのれ!よくも我が主君を!」

民衆の不満を利用して一つの国を滅ぼし、国王一家を見せしめに殺された騎士の恨み言。

裏切り(主人公が相手を)。

「俺達、仲間じゃなかったのかよ!?」

暴動を起こすために利用した少年を口封じする。

そんな彼だが、民衆からの評価は上々だったりする。

「いやぁ、あの人はわし等の為になる事してくれるしなぁ」

真実はただの打算である。

「さて、魔王を殺しますか」

遂に魔王の元へ!
そこで彼が見た物は!?

スピンアウト作品、『暗黒騎士~英雄(ヒーロー)って~』、現在構想中!



[8464] 番外編6~9
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/11/22 13:21
色々酷いネタが含まれます。




・それなりに平和な世界で

青山良二、二十六歳。
サラリーマンやってます。

「裏切られたッ!」

ある日勤めている会社まで出社すると、拳を握り締めて絶叫する同僚の赤田太陽がいた。
割と頻繁にこの同僚は奇行に走る。今回も碌でもない理由なのだろう。

「どうした、赤田?」

「青山か?聞いてくれ、この俺の悲しみを、そして、やり場の無い憤りを!」

「はぁ……。外、行こうか」

人目が気になるのでトイレまで引っ張っていく。
タイムカードも通したし、まだ業務開始まで少し余裕があるからできる事だ。




「で、何があったよ?」

「信じていたんだ、彼女は俺を裏切らないと!」

芝居がかった話し方である。

「彼女……?女か!?」

意外である。自分と同じく女っ気が無いと思っていたのに。
こちらの方が裏切られた気分だ。

「そこの所、詳しく吐いてもらおうか」

肩を掴んで嫉妬と共に力を込める。

「痛っ!痛いではないか!」

「五月蝿い!俺なんか、俺なんかなぁ!」

しばらくその調子でいたのだが、ふと我に帰る。

「悪い、つい……」

「いや……」

「で、どんな女なんだ?」

裏切られたと言うからには、既に脈は無いのだろう。
太陽には悪いがほっとした。

抜け駆けさせてたまるか!

「この子だ」

「どれどれ」

太陽が取り出した物を見て、良二は驚愕した。

「……って、か○なぎじゃねえか!」

裏切る以前の問題である。

本当に人騒がせな奴だ!

「仕方ないではないか!ヒーローにはなれないと分かった少年時代、俺は激しく傷ついた!そして、美少女ゲームやアニメに走った!」

「素直にエ○ゲーって言えよ!」

赤田太陽、彼は特撮、二次元オタクである。

「なら俺は何を信じれば良い!?二次元だけは、二次元だけは俺を裏切らないと思ったのに!!」

聞いているこちらが切なくなってくる悲痛な叫びだった。

「せめて、せめて夢ぐらい見ても良いではないか!美少女ゲームの中だけなのだ、俺が主人公になれるのは!……他にもエ○フのゲームとかにも裏切られた」

下○生の何番目だったっけ?

太陽の話に日頃から付き合っている内にその類のゲームやアニメに詳しくなってしまった自分が悲しい。

「もう、俺にはDREAM ○ CLUBしか……」

「それは止めとけ!金が、ただでさえ少ない俺達の給料が羽が生えたように飛んでいくぞ!」

「離せ!俺には、俺には雪ちゃんが待ってるんだぁーッ!間違ってるのは俺じゃない、社会の方だ!」

駄目だこいつ、早くなんとかしないと。
そう痛切に感じたある秋の日の事であった。




昼休み、二人で会社近くのコンビニまで行き昼食を購入する。

「またオニギリ一個か?」

かく言う良二自身もサンドイッチセットだ。

「特撮のDVDレンタル代と、美少女ゲームの購入費用に回すのだ」

自らの健康管理を犠牲にしてでも、その分で浮いた金を趣味に当てる男、赤田太陽。
駄目な大人の見本である。

「エ○ゲーって結構高いだろ?」

「それでも、守りたい世界(趣味)があるんだ!」

『官房長官の白井光氏は容疑を否認しており……』

電気店のTVから流れるニュースをBGMとして黙々と食事を済ませる。
立ち食いで手早く栄養補給しゴミをコンビニ備え付けのゴミ箱に入れた。

「ん、どうした?」

太陽はある四人組を穴が空きそうな視線で凝視していた。
一人整った顔立ちの男がいた。
他に女子高生らしい少女、OLらしい眼鏡をかけた女性、男よりやや年上であろう女性がその男を中心に歩いている。
どこのエ○ゲの主人公だ。

「リア充死ね」

「うん、気持ちは分かりたくないけど分かる」

するとやはり太陽と同じ様な気持ちになった奴がいたのか、チンピラ風の男がその一団に因縁をつける。

「よし、頑張れ!」

「応援するなよ」

『どうする、薫?』

あのリア充は薫という名前らしい。

『どうした優男?びびってんのか?だったらピギョ!?』

「あ、やられた」

物凄くあっけない幕引きだった。
巡回中の警官らしい三人組がやってきて、事情を聞くとチンピラを連行していった。
その際リア充が何か警官の耳元で囁いていたのはなんだったのだろう。

『続いて次のニュースです。女子陸上の萌黄きいろ選手が日本記録を……』

そんな、一日である。





・本編では絶対にやらないけど、ヒーロー物でよくあるネタ(性格崩壊)

その日は、普段と変わらない日だった筈なんだ。

何時も通りに怪人と戦っていたのだが、怪人の攻撃を薫が、怪我をして動けなかった茜を庇って浴びてしまった。とはいっても掠る程度だったのだが。
怪人はその隙に逃げてしまった。

「薫、大丈夫?」

「戦闘に支障はありません」

だが本部に帰ってから、薫が苦しみだしたのだ。

「くっ、これは……?」

何時もは顔を歪める事などほとんど無かったのに、この日だけは違っていた。
珍しく苦悶の表情を見せていたのだ。

「ブラック、しっかりしろ!」

まさか、あの怪人の攻撃で!?

皆、そう思った。
そして、薫の身体が光ったと思った次の瞬間、ぶかぶかの服を着た幼稚園児位の男児がそこにいたのだ。

「あれ、ブラックは?」

今までそこにいた筈の薫の姿が無い。

「あの、すみません。ここはどこなのでしょうか?」

異常事態に気を取られていた一同は、その男児の声で現実に引き戻された。

「あ、ああ、すまない。君、名前は?」

「くろさわかおるです」

舌足らずの話し方だったが、そうはっきりと名乗った。




「やだ、可愛いじゃん!」

茜は薫(小)を撫で回しており、薫は目を白黒させている。

「や、やめてください」

それを見ていた他の女性陣も恐る恐る近づく。

「ブラック、子供の時は可愛かったのね……」

感慨深そうに呟く春美。

「この子がどう育ったらああなるんでしょうね?」

少し切なそうな優子。

「今の内に撫でとこうよ」

茜に負けじと薫の頭を撫で始めるきいろ。

「「「……」」」

それを見ていた他の男性陣は、寂しくなった。

「俺達も、いるのにな」

「ああ、そうだな」

良二と太陽は既に達観している。

「くそ、黒澤め。餓鬼の頃から女をああやって侍らせていたのか?そうやって高校の時もあの子の心を盗んでいったのか?
そうだ、あいつは俺から全てを奪っていくんだ、何時だって。ああ妬ましい妬ましい。餓鬼の頃から女に不自由しなかったであろう黒澤薫妬ましい」

「戻って来いゴールド!」

トラウマが発動して何処か別の世界に行ってしまいそうな瞬を、必死で現世に引き留める良二だった。

その後落ち着いたヒーロー達は、薫を斉藤医師へ診察させた。
結果、肉体年齢が本当に幼稚園児程度まで若返っているらしい。

「どうしよう……?」

「私に聞かないでくださいよ」

不安そうな良二に話を振られた優子は嫌そうな顔をした。

「いいじゃない、しばらくこのままでも」

「ピンク!?」

春美の言葉に驚く茜。

「何でよ!?」

「可愛いから、いいじゃない」

場が、凍りついた。

「……そっか、怪人倒せば元に戻るのがこういう場合の定石だもんね」

きいろが今迄で一番真剣な顔でそれに答える。

「じゃあ、今を楽しまなきゃね」

茜もそれに続く。

「そういう事。ショタブラックを楽しめるのも、今だけなのよ」

「ピンク、お前まさかショタコnおぼぐぁ!?」

問題発言のあった春美を詰問しようとした良二は、最後まで言い切る前に裏拳を叩き込まれて沈黙した。

「ブルー、失礼な事言わないで頂戴。私はちょっと自分より年下の男が好みなだけよ。普段のブラックは二十二歳。つまり、合法ショタ!何も問題は無いわ!」

力強く宣言する彼女に、優子、太陽、瞬は何も言えなかった。
そして、薫を抱えて春美達は去って行く。

ニヤリ。

「「「!?」」」

「……今、黒澤さん笑ってませんでしたか?」

「ああ」

「あいつは、餓鬼の頃からああだったのか……」




・モビルス○ツ

「自分がガ○ダムの世界にいたら、どんなMSに乗りたい?」

やる事がないので、男三人ならではの会話をしようと思う。

「うむ、自分はやはりストライクフリーダムだな!もしくはダブルオーライザーだ!」

太陽は良二の予想に違わず、厨設定の機体を選択した。

「ストライクフリーダムって、某ヤマトさんの不殺(笑)の結果からジェノサイドフリーダムにでも改名した方がよっぽど相応しい気がするのは僕だけですか?」

「戦艦とか普通に撃墜してるしなぁ。俺もそう思う」

正直、あれはない。

「ええい、人のチョイスに文句をつけるな!そういうブルーはどうなんだ!」

「俺か?ジムかザクⅡ」

いや、エース級の機体って動かせそうにないしさ。身の程を弁えた選択だと思うよ。

「夢が無いな」

「うっせい」



「ブラックは?」

「できれば乗りたくないですね」

「何でだ?」

薫なら、嬉々としてカミ○ユのごとく人間相手にバルカン撃ったりしそうだが。

「だって、一回やられたらリセットできないじゃないですか」

「まあ、そうだけど。そういう野暮な一般論は置いておいて」

「……じゃあデナンゲーかジムクゥエル」

「これまた微妙なチョイスを」

割りとマイナーな機体だと思う。

「性能は悪くないでしょうし、敵が自機より格下だったら乗ってもいいかなと」

「つまり、まともなMS戦はやる気がないと?」

「当然です」







・この作品が『まとも』だったら

「それはないでしょう」

「話題を全否定するなよ!」

危うく話が成り立たなくなる可能性を全力で阻止する。

「でも王道的なヒーロー物なら、大概はハッピーエンドで終わるでしょう?」

「どう考えてもそれは無理そうだもんな」

犠牲者続出してるしさ……。

第一、最初の五色から死人が二人以上出ているという点でおかしいし、その中にレッドのポジションが含まれるというのも恐ろしいことだ。

「獅子身中の虫もいますし。長官とか」

「それ、お前もな」

味方が外道、ある意味では頼もしいかもしれないが不安でもある。
人質や仲間を見捨てるヒーローというのも斬新だ。

「主役がブルーというのも『まとも』じゃないよな」

「多くの作品は、主役格がレッドですから」

もし自分がレッドなら、プレッシャーに押し潰されていただろうが。

「巨大ロボも出てないぞ」

「それをやると、各話の最後が巨大戦で締め括られるワンパターンになると思いますけど」

「それを言っちゃお終いだろ」




「でも、戦いが無くならないのにも理由があるんですよ?」

「どうしてだ?」

「例えば、ガ○ダム」

「どの作品でも、結局戦いになるよな」

そうじゃないと売れないんだろうけど。

「あの世界観から戦いが無くならないのは、バ○ダイがあって、僕達が戦いを望んでいるからです」

「あー、……言われてみればそうだな」

「ヒーロー番組も同じ」

巨大ロボや変身グッズを売り出す為か!

「ということは、もしこの作品が放映されてたらだぞ?イエロー達はそんな事の為に殺されたっていうのか!?」

「物語を盛り上げる為に、製作者によって。登場人物からすれば堪ったものじゃないですよね」





・君は生き延びることができるか?

「……何だよ、この不吉なフレーズ」

ガン○ムの次回予告か。

「最近、ブルーは最後まで生き残れるかという事が話題になる事が多いので」

「大丈夫だよな?俺主人公だし、大丈夫だよな!?」

「さあ?」

「おい!?」

嘘だと言ってよブラック!

「じゃあ、そんなブルーに朗報を。ヒーロー物では、追加戦士が死ぬ可能性はありますが、主人公ポジションは大概大丈夫です」

「そっか……」

「でも」

「?」

「主人公ポジションって、どの作品でもレッドなんですよね」

「……」

レッド、この世界では死んでるよな。

「ちっとも安心できないじゃないか!」

「いいじゃないですか、一応終盤まで生きてるんですから」

最後が肝心なの!最終話で死んだら、なんにもならないの!

「落ち着いて。次は悪いニュースです」

聞きたくない気持ちが心の大半を占めている。

「仮面ラ○ダーもヒーロー物に分類するなら、主人公が死ぬ可能性もあります」

「ええー」

「そうですね、例示するなら龍騎とか。あれは最終話直前で主人公が死ぬという斬新な平成ライダーでした。後、555は最終回にどことなく漂う救いがない世界観の雰囲気が個人的に壷だと」

555、主人公に未来がないもんな……。生き残ってもあれじゃ……。

「俺、どうなるんだろう」

「作者次第でしょう。というか、皆に死亡フラグが立ってますよ。筆頭は長官と僕ですが」

「確かに半端じゃないもんな」





・RPG

「レッドは戦士かな?」

「イメージ的にも妥当でしょう」

他のメンバーはなんだろう。

「ピンクはアーチャーっぽいよな。イエローは……うーん」

「理性があるバーサーカーとか」

「それバーサーカーじゃないってw」

「グリーンは僧侶がいいか。オレンジは何だと思う?」

「茜は遊び人でしょうか。ただし好戦的な」

「危ないな!」

何しでかすか分からないだろ!

「警察の方々は王宮の衛兵、羽田さんは御者でしょうか」

「うん。そんな感じだな」

後三人か……。

「ゴールドは?」

「どうでもいいです」

「……」

不憫だ。

「ブラックは、盗賊とかアサシンとか魔法使いかな?」

「魔法使いはブルーの方が適役だと思いますが」

まだ四年あるぞ!その間に何とか……!

「怪人はモンスターだよな。長官は?」

「大国の大臣で悪人でしょう」

ピッタリだ……。



[8464] 第四十六話前編 祭りの前と、その後と
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/11/22 21:22
第四十六話

怪人の本拠地から救出された人々は、未だにヒーロー本部へ留められていた。
ニ、三日なら我慢も出来ようが、それが一週間も続くといい加減飽きてくる。
担当者の言葉によると検査が長引いているかららしい。
確かに、長期間防護服無しで得体の知れない場所にいたことが危険だというのは、一般人の自分達にも理解ができるのだが。

待遇はいいからまだマシだけどさ。個室だし。

この青年も、先日の生還時に生きているということの喜びを思いっきり噛み締めた一人である。

怪人め。ざまあみやがれ。

ここに来てしばらくしてから怪人を打倒したことを聞いた。
交渉による人質の解放を優先させた結果、怪人との講和がひとまず成立したかのように見えたのだが、それはすぐ破綻したらしい。
怪人は人間の寛大な措置を受けておきながら反旗を翻したというのだ。
止むを得ずヒーロー、警察はそれを撃退。
以上が彼等に伝えられた事の顛末だった。

馬鹿だよな。折角拾った命をドブに捨てるようなことをするなんて。

天罰でも下ったのだろう。






数分間怪人の無様な最期を想像しながらにやけていると、部屋の扉がノックされる音がした。

「どちら様ですか?」

「担当の者です」

「分かりました」

扉の前に近づいて鍵を解除する。
すると扉は勢いよく開けられ、何者かが素早く青年の顔に何か布のような物を被せてきた。

「眠ってください」

青年の意識が混濁していく。
結果的にこの直前に見たものが青年の最期の記憶となった。
彼は、二度とその目を開く事は無かったのだから。








「長官。敵本拠地からの生還者全ての、本当の検査を始める準備ができました」

「御苦労」

元々彼等を生かして社会へと帰す気は無い。

あの環境下で生き残ったことを考えると運が良かったのだろうが、残念ながらここで我々の為にその身を捧げてもらうことになるね。

このケースのサンプルの数は多くないし、以後は確保することもほぼ不可能になるだろう。何しろ、そこへ行く手段は殺してしまったのだから。

人工怪人も、より本物を越える能力を手に入れることができるかもしれない。
捕らえてある強力な怪人は、徹底的にその全てを解き明かすつもりだ。
生存者があの環境下でどういった体質の変化を起こしたか、そのデータも使えばそれこそ今よりも性能がいい『tool』を作れるだろう。

「これも必要な犠牲だからね、しょうがないよ」

「ええ、しょうがないですね」

光と部下の科学者は傲岸不遜な会話を続ける。

「黒澤君の家族はどうなった?」

「はい、既に処置は施してあります」

「よし」

薫に対する抑えも万全だ。
トールも使う予定だが、やはり『黒澤薫』は信用も信頼もできないからああしたのだ。

「怪人を倒して平和を取り戻したヒーロー、その功績は国を挙げて大いに賞賛されるべきものだ」

後日の祭典の時に、一気に事を終わらせよう。
そして、その時が始まりでもあるのだ。

続く







あとがき
更新が遅れております。
なるべく定期的に更新したいのですが……。



[8464] お知らせとお詫び
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/11/25 19:07
11月に入ってから更新速度が落ちてきましたが、これからもっと落ちそうです……。
年内に完結できるかどうか。
今までの内容の修正もありますので……。
更新は不定期になってしまいますが、完結させる意志はあるのでどんなに遅くても投稿開始から一周年が経過するまでには終わらせたいと思います。



[8464] 第四十六話中
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/11/28 19:40
ヒーロー本部内に設置された会場の受付にマスコミや警察関係者、それに政治家が続々と集まり始める。
人類の脅威を取り除くことができたということで、海外の軍関係者もその中に入っていた。

「こうやって『終わり』を形にして見せられると、感慨深いな」

「そうよね」

春美も少し憂鬱そうだ。

「ピンクは、これからどうするんだ?」

「長官から、今と似たような仕事の誘いは受けたけど」

「そうか」

ピンクも、自分の道が決まってるのか。

慰霊碑に花を捧げてからしばらく経った日、良二は光から警察の仕事を紹介された。
健と近い職場だったため、話に乗ってもいいかなとは思う。
どう考えても閑職だったが、そんなことはどうでもよかった。
何をしていいかも分からない状態が続いていたので、何かをすることがそれを脱却する切っ掛けになるかもしれない。
そう思うと、前向きになる価値もあるのではないか。

「ん?」

良二の視線の先では、薫と茜がマスコミ関係者や政治家を集めて何事かを話していた。

「ブラックじゃないか。あんな所にいないでこっちに来ればいいのに」

「仕事でもあるんじゃない?」

「そっか、でも、相変わらずオレンジとは上手くいってるみたいで安心したよ」

俺とイエローは別に男と女の関係ってわけじゃなかったけど、あの二人には悲しい別れ方はしないで欲しいよ。
ブラックもそれなりにオレンジのこと気に入ってるみたいだし。

目の前できいろに死なれた身としては、余計なお節介かもしれないがそう思ってしまう。

「ピンクも、そう思うだろ?」

「……そうね」

歯切れが悪いな、何時もならもう少しはっきりしてるのに。

「なあ」

「何?」

「もしかしてさ、ピンクってブラックのこと好きだったりする?」

こうやって聞きにくいことも聞いてしまうあたり、自分は他人の心の機微は分かっていないだろう。

「……ちょっとね」

「悪いな」

「構わないわ、別に否定するようなことでもないから。……貴方も、イエローのこと好きだったんじゃないの?」

イエローか……。

「たとえそうだったとしても、もう、いないから。だから、どうしようもないな」





「お待たせしました、これより、祭典を始めます」

アナウンスが響く中、光は壇上にゆったりと上がってマイクに向かって話し始める。

「まずは、こうして平和な一時が過ごせるということに、怪人との戦いに協力してくださった全ての皆さんへ感謝を」

光の演説を聞いた薫は、あまりの滑稽さに微笑を浮かべる。
それに目敏く気付いた茜もまた同様に。

「絶対感謝なんてしてないよね」

「でしょうね」

長官の性根が僕と同じくらい腐ってるのは承知してますよ。

「そして、戦いの中で失われた全ての命に哀悼の意を」

聞いてて凄く説得力が無いですよ。
貴方の本性を知らない人なら騙されるかもしれませんけどね。

「そろそろこの茶番にも飽きてきましたし、動きますか」

「オッケー、こっちは任せて」

祭典が始まるまでに期間があったことで、充分に準備ができました。
各方面の協力者にも話をつけましたし、僕にとって都合が悪い情報だけを抜いた証拠も確保。
異様な怪人、人工怪人でしたか。あれの製造過程の情報も入手できました。
政府高官の方々など、保養所の件を利用してこの機会に政敵を始末する算段まで立てている有様ですからね。

以前救出した高官達は、トカゲの尻尾を切るように光一人に罪を被せることに即決した。
薫から持ち込んだ話だったが、ヒーローのトップとはいえ挿げ替えれば済むことらしい。

でも、やっぱりブルー(仮)は死んでいましたね。

隆が一番最初に出現した人工怪人の正体だった。
手に入れた情報からそれは確認した。

ここ数日家族と連絡が取れませんでしたが、おそらく何らかの形で僕にとって不利益になるだろうことに利用されているでしょう。

そのことは茜に話してはいない。
それに、マスコミ関係者がいるのだ。利用しない手は無い。

家族の話が出たら、うろたえて悲痛そうな声でも出せば世間はさぞかし同情してくださることでしょう。

まったく無事な状態で家族が帰ってくるということは、もう無いだろう。
光はそういう事に関しては容赦しないタイプだ。

無駄な努力をするつもりはありません。
家族といっても、所詮は血が繋がっているだけの他人ですしね。
子供は絶対に両親や兄弟を助けなければならないと決まっているわけでもありませんし。
両親には育ててもらった恩はありますが、それはそれ、これはこれ。自分の命が最優先です。
兄には特に恩を受けた覚えはありませんし、どうでもいいですね。

ペットの犬と同じく、死んだら多少は残念に思うだろうがそれだけだ。

薫は、既に家族を見捨てる心算だった。

続く







あとがき
大体一週間ぶりに最新話投稿です。



[8464] 第四十六話中 2
Name: きりやまかずお◆b03072df ID:4647e8f9
Date: 2009/12/06 14:30
光の演説が終わりかける直前に、室内のスピーカーが急に動かなくなった。

「どうしたんだね?こういう時にミスがあるとは感心しないな」

「は、いえ。人をやって急いで何とかさせますので」

傍に控えている秘書を呼んで不手際を責めるが、彼も訳が分からないようだ。

この不具合の原因が人的な理由だとすれば、心当たりは一つしかないな。

「黒澤君はどこだね?」

「ブラックですか?先程までは会場の後方にいた筈ですが」

ああ、やはり黒澤君が何かしでかしたようだね。嫌な予感が的中してしまったよ。

先手を打たれた形になったが、自分は薫に対する手札を何枚か所有している。ここは、その内の一つに役立ってもらうことにしよう。
光は通信機を取り出し、瞬に連絡を取る。

「ゴールド。ブラックを何とかしてくれ。恐らく管制室だ」

『了解』

会話内容はそれだけで終わったが、瞬もこちらの意図は汲んでいるだろう。薫を始末しろ、ということだ。
会場を見渡すと、どよめきが起きている。演説が途中で中断されたからだろう。

「長官、何があったんですか?」

良二が春美と連れ立って壇上まで上がってきた。そこに茜の姿はない。おそらく薫と一緒なのだろう。

「たいしたことは無い、すぐに何とかなるさ」

「はあ」

気が抜ける声で返答される。

「君達、ヒーロースーツの準備はしているかね?」

「え?は、はい。一応」

「私もです」

「そうか。ならいいんだ」

もしもの時は、ブルーの部下だった警察官の死に黒澤君が絡んでいるという事を話して逃げる時の時間稼ぎにでもなってもらおう。




人気のない廊下をサブマシンガンを抱えながら、なるべく足音を立てないように進む。

待ってろよ、黒澤。

光からは今後の身の振り方を色々言われたが、そんな事はどうでもいい。
ただ、薫との決着をつけられるならそれでよかった。

俺は、あいつを倒さなきゃ先には進めない。それがどんな形でも!

管制室まで後少しという所まで来ると、戦闘員が何人か道を塞ぐように立っていた。

「死ね!」

有無を言わさず弾幕を浴びせ、崩れ落ちる瞬間を見ようともせず駆け抜ける。
こんな奴等に構っている暇はないのだ。
そして扉の前に辿りつくと、慎重にノブへ手を伸ばす。
薫のことだ、どんな罠が仕掛けられているか。
また、開けた瞬間に銃撃を受ける事も考えられる。

黒澤を殺す前に死ぬわけにはいかないからな……。

このままでは埒が明かないので、意を決して一気にドアを開けると予想通り銃撃が瞬を襲う。

「ちっ!」

やはりか!

身を捻って避けると、部屋の中から哄笑が聞こえた。

「へぇ、よく避けたじゃん。そのまま死ねば良かったのに」

「オレンジか!」

「アンタ一人で来たの?だったらいい度胸してんのね」

「お前に用は無い!黒澤はどうした!?」

薫がいないのではここまで来た意味が無い。

「さぁ?アンタに教える義理は無いし」

「なら、無理やりにでも聞き出してやるよ!」

部屋の中にサブマシンガンを撃ち込む。機械が傷つく事もお構い無しだ。

「ヒーローバリア」

どうやら戦闘員がいたらしく、それを盾にして茜は銃撃を防ぎ、瞬との間合いを詰めるべく管制室から飛び出す。狭い所では不利と判断したのだろう。

「この女!」

左手でヒーローロッドを引き抜いて斬撃をいなす。
至近距離から銃弾を叩き込んで蜂の巣にしてやろうと思ったが、茜は双剣の使い手だったことを思い出し、サブマシンガンでもう片方向からの攻撃を受ける。

「お前じゃ俺の相手には役者不足だ、もう一度聞くぞ。黒澤は何処だ?」

「役者不足ねぇ……、随分舐めた口利いてくれるじゃない。けどさ、ここに薫がいないって事は、アンタ程度ならアタシでも充分だって事じゃないの?」

「……それは自覚してるけどな。お前より強い事は、今すぐ証明してやるよ!」

茜を無視して来た道を戻ろうとしても、そうはさせまいと妨害してくるだろう。
ならば、ここで始末しておいた方がいい!

続く

あとがき
一週間以上経ってしまいましたが投稿しました。


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