第十二話
怪人対策課に指導員として来てから、良二とメンバーは新装備をかなり使えるようになっていた。
パワーがヒーロー用の物より落ちる分、考えて動かないといけないからな・・・。
おかげで、今までよりも動きが良くなった気がする。
「良し、今日はチーム戦をしようか」
「はい!」×5
良二も入ると三対三と丁度良いので、複数の相手に対抗するための模擬戦をすることにした。
「じゃあ、俺のチームと鈴木のチームに分かれよう。鈴木はそっちの指揮を頼む。新装備が採用されたら、お前が初期メンバーのリーダーになるんだからな」
「解りました、任せてください!皆、教官に自分達の成長を見せるぞ!」
二郎も気合が入っている。
「いいか皆。自分達はあくまでオーソドックスな作戦で行くぞ」
二郎は良二に教えられた事の成果を発揮しようとしていた。
教官は、連携が基本だと言っていた。
後方援護と格闘戦担当には二人いれば充分だが、今回は三人いる。
だから、自分はそこに遠近両方対応できる遊撃を入れる。
教官の指導の成果と、新装備の有用性があれば良い勝負ができる筈だ。
良二は模擬戦前に、二郎の戦法を分析しようとしていた。
「皆、鈴木はどんなことをしてくると思う?」
「そうっすね、鈴木は基本に忠実だし、ミスが少ない戦法を使うんじゃないんすか?」
「俺も同感です」
そのためにも勇太と、その相棒である田中健にも意見を聞く。
怪人対策課が増員したら、こいつ等も小隊長レベルの働きは求められるだろうから、自分で考えることにも慣れさせておかないと。
俺が皆といた時は、結構人任せだったからな・・・。
「うん、でも基本に忠実なだけに安定している。だから、お前等は二人で一人を相手にするんだ」
「え、でも、それだと教官が一対ニになるんじゃないんすか!?」
「そうですよ!」
その通りなんだけどな。
「俺も身体能力には自信がないけど、耐えることは上手くなったんだ。それに、実戦ではより早く、確実に戦闘員レベルの相手は倒せないといけない。ならどうすればいいか、それは一体の敵を複数で攻撃すればいいんだ」
「ちょ、教官、それでいいんすか?」
「いいんだ。個人の戦闘能力も大事だけど、無理しないで皆で生きて帰れるようにする方がもっと大事だ。だから、一人になってしまった時も諦めないで粘ってくれ。それに、今日の模擬戦ではお前等が相手を一人でも先に倒せば、こっちが有利になる」
「教官・・・」
「・・・って、新装備が採用されることを前提としての会話だけどな」
俺はどうも話の最後が締まらないな。
「解りました!それでやってみるっす!」
「大丈夫ですよ、きっと採用されます!」
教官としての立場上、負けたくないしな。
そして模擬戦が始まった。
二郎は基本的な戦法に、どうやら彼自身が遊撃として入ったものを選んだようだ。
すると、相手の遠距離担当は俺にリボルバーを撃ってきた。
やっぱり俺を最初にやるつもりか!
模擬弾とはいえ、当たったら痛いからな。
良二はポリスロングロッドを自分の前面で回転させてエネルギー弾を防ぎ、相手が弾切れを起こした時を狙って、接近してきた鈴木を回転の力を利用して攻撃した。
二郎もそれを見て、ロングロッドで応戦する。
その間に勇太が相手の格闘戦担当、山田耕作に接近戦を挑み、健が後方から援護する。
「教官、一対ニで何とかなると思っているんですか!」
「倒せはしないだろうけど、耐えられるレベルだとは思うぜ!」
足払いを放って二郎の体勢を崩す。
その間に片手でポリスリボルバーを抜き、相手の遠距離戦担当、中村智が勇太と健を攻撃できないように威嚇射撃をする。
良し!
「今だ、佐藤、田中!」
「はい!」×2
佐藤と田中が一人目を倒す。
「しまった!」
「いいぞ!これで三対ニだ!」
リボルバーの残弾を撃ち尽くし、二郎とも距離を取る。
「田中は俺が弾を充填するまで耐えてくれ!佐藤は援護を!」
「はい!」×2
一人が弾切れを起こしても、残弾が残っている奴がいれば耐えられる。
佐藤はさっき銃を撃っていなかったしな。
充填が終わり、戦線に復帰する。
二人目も倒し、二郎はその後も良く耐えたが、結果的には倒れた。
「教官に礼!」
「有難う御座いました!」×4
模擬戦が終了し、なんとか勝てた良二は安堵した。
「お疲れ様でした」
「鈴木もお疲れ」
「自分なりに工夫してみたんですけど、勝てませんでした・・・」
「いや、俺も危なかったしな」
本当に自分個人の戦闘能力は、まだたいしたことが無いことが解った。
「皆、良い知らせだ!」
興奮した様子の浩介が入ってきた。
どうしたんだろうか。
「新装備が制式採用されることが決まった!テストの結果、実戦でも充分に有効との結論だ!」
制式採用!?
「本当ですか!?」
「ああ!青山君、君の指導のお陰だ!」
「指導員が俺でなくてもこの結果は変わらないと思いますけど、とにかく良かった!」
これは素直に嬉しい。
自分が関わった物の成果が認められたのだから。
「そんなことないです、教官のお陰ですよ!」
「皆・・・」
「良し、今日はささやかだが、祝いをしようか!私が奢ろう!本格的に活動するまではまだだしね」
数日後、怪人対策課に通信が入った。
怪人がニ箇所同時に現れたらしい。
「いいか、俺たちの役目は市民の安全確保が第一だ。ヒーローが来るまで持ちこたえるぞ」
「はい!」×5
流石に全員緊張しているようだが、しっかりとした返事が返ってきた。
今回は訓練じゃないからな。
「青山君・・・」
浩介から呼び止められた。
「さっそく実戦で大変だとは思うが、・・・頼む!」
この中で実戦での戦闘経験が有るのは俺だけだ。
でも、考えようによっては良かったのかもしれない。
まだ俺が教官という立場でいる内に、初戦闘のフォローができるんだから。
「ええ!」
良二達は配備されたバイクで近い方の現場に向かった。
薫は怪人出現の報告を聞き、ヒーロー達を集める。
怪人の内の片方は、良二が指揮する怪人対策課が対応することになったようだ。
「ブラック、自分達はブルーの方に向かう!あいつに自分の新装備を見せてやらねば!」
太陽が良二の方に向かうことを志願し、春美もそれに続く。
「レッドの新装備云々についてはともかく、私も位置関係的にその案に賛成よ。」
ここからは、怪人が暴れている場所がどちらも近くはないし、各個撃破が確かに望ましいですね。
「解りました。では、レッド達チーム1はブルーの増援に向かって下さい。我々チーム2はもう片方を始末します。」
「うん、解った!」
きいろも頷き、早速三人は駆け出した。
さて、僕達も仕事しますか。
そう考えていると、優子が話し掛けて来た。
「ブラック・・・、清水は、どうしたんですか?」
「現在『治療中』らしいですよ。まあ、片足吹き飛ばしましたし、しょうがないですよね」
こんな無駄話をしている間にも現場では戦闘員が消耗しているのに。
「貴方は気にならないんですか!?」
「優子さん、落ち着きなよ。いいじゃんあんなの。いてもいなくても大して変わんないし」
グリーンもこの前は殺せって自分で言っていたくせに。
喉元過ぎればとは、このことですかね。
良二達が現場に着くと、多数の敵戦闘員とクマのような怪人が暴れていた。
「皆、敵を倒せなくても良い。して欲しくないけどほんの少しは怪我しても良い。でも、死ぬな!」
戦闘員が市民に襲いかかろうとしているところに、ポリスリボルバーを命中させて倒す。
「俺は佐藤、田中、山田と前衛をやる!鈴木は中村と後方援護、警察の人達の避難誘導の警護を頼んだ!」
「了解です、教官!」
二郎が良二の意図を察し、それに答える。
避難中も敵に襲われる可能性も有るからな。
二人が格闘、残りが射撃と役割分担し、戦闘員を効率良く倒す。
「Guaaa!」
爪を振りかぶり怪人が攻撃してくる。
「三人とも、下がれ!」
咄嗟にポリスロングロッドで受けるが、余りの威力に弾かれてしまう。
「くっ!」
「教官はやらせない!」
追撃を覚悟した良二だったが、健がリボルバーで援護してくれたお陰で逃れることができた。
「有難う、助かったよ!」
「いえ!でもどうしますか、あいつかなり強そうですよ?」
そうだな・・・。
「俺達だけでは確かにきついけど、きっとヒーローが来てくれる!それまで耐えるぞ!」
「でも、それまで持たないっすよ!」
勇太が弱音を吐く。
「大丈夫さ。伊達にヒーローだって税金使ってるわけじゃない!」
それに、ピンチの時に来てくれるのがヒーローなんだ。
だから、なるべく早く来てくれ!
ブラック、ピンク、イエロー、俺達は今ピンチだ!
「中村、悪いがロッドを貸してくれないか?俺のはさっき弾き飛ばされちゃったしな。」
「はい、どうぞ!」
智からロングロッドを受け取る。
全部の装備が共通だから、戦闘中でも武器の貸し借りができるところは有り難い。
「代わりに俺の銃で援護に専念してくれ。後、攻撃はまともに受け止めるな、受け流せ!」
同じ間違いはしない!
薫達は担当する現場に、こちらの方がやや近かったのか、太陽達が良二の元に辿り着くより少し早く到着した。
既に市民にも被害が出ている。
「オレンジは戦闘員の指揮をして市民の救出を。グリーンは僕と、怪人及び戦闘員の掃討を開始します」
「オッケー!」
「今はやるしかありませんね!」
ピラニア型の怪人が人を食べているところを、戦闘員に指示を出し押さえ込ませる。
しかし、敵が強いのか、押さえ込んだ戦闘員の腕を食い千切り押さえ込むことはできない。
「ブラック、どうするんです!?戦闘員がやられているじゃないですか!」
五月蝿いな、いちいち聞く前に自分で考えたらどうです?
対抗策は有りますけどね。
「あんまり使いたく無かったんですけどね」
これ使うと採算が取れませんし。
「ヒーローボム」
薫がその言葉を呟くと、戦闘員が一斉に怪人に飛び掛って爆発した。
まだ怪人は生きているようだが、明らかに重傷だ。
「Gu,Gyaaaa!」
怪人がヒーロー達を道連れにしようと特攻を仕掛けるが、薫に受け流される。
「イエロー程じゃないですけど、僕も接近戦は出来るんですよ」
ヒーローロッドで目を潰し、続いてヒーローガンで口の中を撃ち牙を全部除去する。
彼の性格を現すかのような、えげつない攻撃だった。
「グリーン。止めを」
「え!?」
「あなたはどうやら、生き物の命が失われることに抵抗があるようなので。この前もブルー(仮)に止めを刺せなかった位ですから、この際練習台にどうかと思いまして。大丈夫ですよ?直ぐ慣れますから」
優子が呻く音が聞こえ、薫はマスクの中で微笑んだ。
良二達と怪人の戦いは長引いていた。
連携で怪人の攻撃を良く防いだが、やはり決め手に欠けるのか、相手に致命傷を与えるまでには至らない。
両者とも目に見えないが疲れが溜まっていた。
「くっ、こいつ等!」
その上、敵戦闘員の数を減らしたと言ってもまだ残っており、気を取られると怪人の手痛い攻撃を喰らうことになる。
初の実戦で良二以外の精神は消耗していた。
このままでは!
良二が不安に思った時、戦闘員の群れを桃色の光と黄色い斧が、怪人を赤い光が蹴散らした。
「この攻撃は・・・?」
「待たせたな、諸君!自分が来たからには大船に乗ったつもりでいるがいい!」
「お待たせブルー!」
「間に合ったみたいね」
春美、きいろ、そして太陽がそこにいた。
「助かった!いいか、皆!これできっと勝てるぞ!」
「はい!」×5
皆の目にも光が戻ったようだな。
ブラックがいないのはちょっと残念だが、別の現場で頑張っているのだろう。
俺もしっかりしなくては!
「見ろ、怪人!自分の新しい力を!」
太陽が銃を変形させて剣の形にする。
「必殺剣、レッドスペシャルヴィクトリージャスティスガンソードォオオッ!!!」
名前長いよ!
メンバー全員も、きいろと春美も顔を見合わせている。
マスク越しで顔はわからないが、絶対に困惑しているだろう。
「Gyaaaa!」
おお、効いてる!
「やけに動きが鈍いな?」
「きっとブルーと警察の人が粘ってたお陰だよ!」
「そうか諸君、感謝するぞ!」
そうか、俺達の攻撃もちょっとずつだけど効いてたんだ。
「皆、俺達のしたことも着実に成果が出ていたぞ!自信を持ってくれ!」
メンバーを鼓舞して士気を上げる。
「じゃあ、ラストは全員で決めましょうか?」
春美の提案に賛成し、まずきいろと太陽が怪人に斬りつける。
「止めだ、行くぞ!」
春美に続き、最後に良二達が銃を集中砲火して怪人の全身を撃ち抜き、爆散させる。
「良し、勝ったぞ!」
太陽が勝利の雄叫びを上げる。
「ヒーローの皆さん、有難う御座います」
「ううん、あたし達だけじゃなくて、警察の人達も頑張ってくれてたお陰です」
「そうね、ご苦労様です」
二郎が怪人対策課を代表してお礼を言うと、きいろと春美もそれに返答する。
「こっちの現場ではなんとか被害も抑えられたな」
今回は新装備で早めに対処したこともあって、一人の死者もこっちでは出なかった。
「お疲れさんっす!あの、全部終わってからで良いんで、できればイエローさんとピンクさんのサインを頂けないっすか?」
「こら、佐藤!」
「あ、俺達も!」
「終わってからなら・・・」
「あたしも構わないです」
まったく・・・、でも今回は無事に終わって本当に良かった。
「・・・」
「どうしたレッド?」
「・・・自分のサインは欲しくないのか!?」
やっぱりレッドはレッドだ、でも自重してくれ。
「私が?」
優子は薫からの指令に驚いていた。
「戦闘員の使用に関しても、どちらかというと否定的みたいですし」
確かに私は生き物を自分の手で殺すことに、少し抵抗はありましたが・・・。
「ブルーはね、結構簡単でしたよ」
青山さんが?
「どういう意味ですか?」
「彼は人並みの倫理観を持っていました。それでですね、ヒーローバリアの詳細を知らせないで使わせたら、予想通りに一時期落ち込みましてね」
「貴方はどこまで酷いんですか・・・」
「自分でも自覚はしていますよ。まあ、それからは戦闘員の犠牲に関しては多少割り切ってくれたみたいで。まだ慣れてはいないようですが、彼なりの覚悟でしょうね」
「優子さん、殺らなきゃ死ぬよ?」
薫と茜は彼女を追い込む。
特に薫は暗に、お前はその程度の覚悟しかないのか、ブルーも割り切っているのに、と言っているようだ。
「解りました・・・」
優子は引き金を、倒れ伏している怪人に引いた。
動かなくなるまで何度も。
そうしなければ、薫に何をされるか解らない。
「割とあっさり殺りましたね。手間がかからなくて良かったです。これで次からも使えないようだったら、もっと荒療治をしますのでそのつもりで」
「じゃあね、優子さん」
二人が去り、彼女はその場に座り込んだ。
手の震えは止まらなかった。
「ねえ薫。さっき何でアタシのことコードネームで呼んだの?」
「任務中でしたからね。一応公私は分けないと」
「ふーん。優子さんはまだ堕ちるまでかかりそうだね」
茜はそう言って腕を絡めてきたが、薫はされるがままにした。
「次は、彼女の意思で人間を殺らせましょうか」
段々と『こっち側』に傾いてきているのだ、もう一押し有ればいい。
続く
閑話12
光は、科学者と隆の改造について話し合っていた。
「清水隆はどうなったかな?」
『はい、大方の改造は終わっています。失われた足も、怪人のデータを使った生体義足が既に取り付けられています』
ふむ。
「足りんな」
『は?』
「後々面倒だからね。顔の皮を剥ぎ取って、耳と鼻を切り落とし、ついでに咽喉も潰しておいてくれたまえ。ヒーロー達に、誰だかばれると面倒だからね」
『解りました』
正体が知れない方が躊躇わずに戦えるだろう?
『それと、全身の細胞の崩壊が始まっていますので、次に戦闘したら恐らく壊れるかと』
「問題ないよ。消耗品ってそういうものだろう?」
光は薫が言ったことと、奇しくも似たようなことを言った。
『解りました。それと、実験体の洗脳レベルを上げておきます』
新装備は怪人相手に一定の成果を出したようだが、人工的に作った怪人は、果たしてどこまでヒーローに対抗できるのだろうね?
「新しい敵がまた出てきたみたいね・・・」
「これじゃあきりが無いのう。我々がいかに強靭な者を送り出しても、ああも数が多くては」
長達は今後の方針を決めあぐねていた。
ただでさえ厄介な敵が、さらに増えたのだ。
これからも増えないという保障はない。
「しかし、今回はあの青い奴はでませんでしたね」
「確かにな。どうせあの卑怯な奴のことだ、高みの見物でもしていたのだろう」
今回の戦いで、ノアクマとノアピラニアが死んだ。
既に奴等に倒された仲間の数が八になり、戦闘員の犠牲は最早数え切れない。
「次は、俺とガイアビートルに任せてくれませんか?」
「何か策でもあるの?」
「数には数です」
「皆、良くやってくれた。そして、良く無事に帰ってきてくれたな」
戦いが終わった良二達は、浩介や警察の人々に暖かく迎えられた。
「しかし、ほんとに緊張したっすよ」
「全くだ・・・」
「でも、生きて帰ってこれて良かったじゃないか」
メンバーは口々に生きて帰れた喜びを話している。
「今回の皆の活動で、本格的に新装備の量産にも力が入るそうだ」
そうか・・・、この装備が増産されるのか。
これが大規模に広まれば、怪人や戦闘員に幅広く対応できるな。
「となると、自分達のは先行量産型ということになりますね」
「そうだな、鈴木」
新しい増加装備も、後期型では追加されるんだろうか。
「俺の出向期間もあと少しだ。その間にまた怪人が出るようなことが無ければいいけどな」
「今回は教官以外皆、初戦闘でしたからね。心強かったですよ」
「寧ろ、俺がフォローされる側になってたけどな・・・」
我ながら情けない。
「次からは、お前等も実戦経験者だからな。でも気をつけてくれよ」
「はい!」×5
残り少しの出向期間、何事も無ければいいが。