国連軍新潟駐屯地 高効率教育訓練センター 一日目
「私が訓練教官のハートマン先任軍曹である。
話しかけられたとき以外は口を開くな。
口でクソたれる前と後にSirと言え。
分かったかウジ虫ども!!」
厳つい顔の一等軍曹が声を張り上げて尋ねる。
新兵としてここに立っている俺は、当然のように答えた。
「「「Sir,Yes,Sir!」」」
喉が痛くなるほどの大声だったが、残念な事に一等軍曹殿は満足いただけなかったらしい。
「ふざけるな!大声出せ!タマ落としたか!」
「「「Sir,Yes,Sir!!!」」」
力の限りの大声を出す。
居並ぶ同僚たちも同じように絶叫している。
「貴様ら雌豚どもが俺の訓練に生き残れたら、各人が兵器となる。
戦争に祈りを捧げる死の司祭だ。
その日まではウジ虫だ!地球上で最下等の生命体だ」
一等軍曹殿の演説は続く。
衛士としてどこの部隊へ行こうとも恥をかかない様にしようと、俺は最初に「Grand strategy」を実行した。
戦略から戦術レベルまでと幅の広い戦いを学べるこのプログラムは、どうやら新兵としての生活も体験させてくれるらしい。
「ふざけるな!大声出せ!」
「「「Sir,Yes,Sir!!!!」」」
しかし、よりによってベトナム戦争をハートマン先任軍曹の指導を受けた後に経験するのか。
これは悪夢だ。
国連軍新潟駐屯地 高効率教育訓練センター 三千六百五十日目
俺の戦争は長く続いた。
一兵卒として、下士官として、将校として、時には将軍として。
塹壕を這い回り、砲煙弾雨の中で声を張り上げ、作戦司令室で部下たちに囲まれ、様々な戦場を体験させられた。
訓練所で怒鳴られ、あるいは逆に怒鳴り、新品将校として指導を受け、あるいは指導を行った。
将軍として華々しい凱旋の先頭に立つ事もあれば、敗軍の将として銃殺される事もあった。
平和な時間が全く存在しない、息をつく暇もない戦争に次ぐ戦争の日々。
二百三高地で日本帝国軍に最後まで抵抗し、サン・ミッシェルの戦いで連合軍に押しつぶされた。
ポーランドではドイツ軍に押しつぶされ、ダンケルクでは友軍艦隊に取り残された。
スターリングラード攻防戦ではなんと爆撃から包囲されての餓死まで全てを経験させてもらい、その後で終戦まで捕虜収容所体験コースを味わった。
ノモンハンではソ連軍に叩き潰され、真珠湾では日本軍の猛攻撃に吹き飛ばされ、シンガポールでは「イエスかノーか」と迫られた。
フィリピンでは「アイ・シャル・リターン」と言い残し、ミッドウェーでは友軍空母が叩き潰されていく様を見せ付けられる。
インパール作戦で餓死し、ガダルカナル島でも餓死し、サイパン島で玉砕し、硫黄島でも玉砕し、沖縄でも玉砕した。
ちなみに、その間に十回ほど特攻作戦に繰り出されている。
ベトナムで狙撃したりされたり、待ち伏せしたりされたり、ブービートラップを仕掛けたり引っかかったりした事は特に記憶に残っている。
その間に拷問される事三十回。
核地雷を仕掛けに行く時は実に爽快な気分だった。
まあ、作戦が中止になった瞬間は命令無視をしたくなったが。
その後、イ・イ戦争で毒ガスを喰らったりスカッドを打ち込まれたり、民族浄化をしあったりと不毛な戦争を経験し、ペルシャ湾では掃海作業に従事した。
ソマリアでは民兵に追い回されて散々な目に合い、最後は墜落したヘリにたった二人の増援部隊として降下した。
湾岸戦争では米軍の最新兵器に叩き潰され、イラク戦争ではもう一度米軍の最新兵器に叩き潰された。
それからの二年間は、ただひたすらにBETA相手の戦争を味わった。
「立派な履歴書になりましたね」
泣きながら報告する俺に、少佐は優しい声音でそう答えた。
「さあ、次はこれですよ。もっと戦火を!」
この世界のアドバイザーとして存在しているらしい小太りの彼は、狂気に彩られた笑顔でそう告げた。
彼の持っているパッケージには「武装戦闘核~解~」と書かれていた。
国連軍新潟駐屯地 高効率教育訓練センター 五千四百七十五日目
「もっと弱ぇ奴と戦いてぇ」
アプリケーションを実行し終えた俺は、男らしくなったと自分では思っている表情でそう呟いた。
ただ戦闘だけに特化した経験は、実に有益だった。
己の肉体のみでぶつかり合い、ナイフでの格闘を行い、小火器で様々な戦場を渡り歩いた。
重火器で蹂躙したりされたりもあった。
特殊部隊員として様々な戦場で多種多様な作戦に従事した。
オメガやデルタ、シールズとしての戦闘経験は、人生経験も含めて多くを俺に教えてくれた。
あるときはジープやバギーに乗り込んで様々な地形を走破し、装甲車両で追い回したり逃げ回ったりした。
別のあるときは戦車に乗り込んで塹壕を蹂躙し、あるいはより高性能な敵戦車に一瞬で撃破された。
自走高射機関砲でヘリを撃ち落し、攻撃機に乗り込んで地上部隊を撃破する事は快感である。
まあ、戦闘機に追い回されて最後は燃料切れで墜落という締まらない最後となったのだが。
エースコンバットの世界は痛快だった。
理屈はわからないが数十発から百発近いミサイルをどこかに搭載し、大空を縦横無尽に駆け回る。
トンネルをくぐり、挟まり、巨大レールガンを破壊し、トンネルをくぐり、レーザー砲を潰し、巨大爆撃機を破壊した後にトンネルをくぐる。
その後も地上部隊や艦隊の直衛を勤め、巨大要塞を攻略し、トンネルをくぐり、落下する巨大な衛星を破壊する。
ヴァンツァーでハフマン島を駆け抜け、ジムに乗り込んでソロモンを攻略し、レイバーでの格闘戦も体験した。
それからはやはり、マブラヴの世界が待っている。
光線級に撃墜され、要塞級に溶かされ、突撃級に串刺しにされ、要撃級に殴り飛ばされ、兵士級に食われ、闘士級に頭を引き抜かれた。
殴り合いから核兵器の発射まで、一通りの戦い方は経験させてもらったと思う。
「戦いのやり方はもういいかな」
別のアプリケーションを手に取る。
「まだまだ足りないが、しかし君にとって時間は有限だ。
次に移るとしよう」
少佐は愉快そうに笑いつつ、俺にそう告げた。
全ての物事には十分ということはない。
それは、今までの人生でもこの部屋での経験でも理解できている。
俺はアプリケーションを実行させた。
国連軍新潟駐屯地 高効率教育訓練センター 八千六百四十目
「高速モードって凄い便利だな」
十五個の破綻した市町村、二十個の破産した国家、三つの成長中の国家指導者である俺は、手に持った「シミュレートシティ」を見た。
対人関係と政治的駆け引き、そして退屈な日々の中に潜む突発的な危機。
ただ椅子に座って、戦争の推移を見守るという事の恐ろしさを思い知らされた。
そのうちの五回は首相官邸に突入してきたBETAたちによって終わりを迎えるという最後であった。
その前にやった「α Train GO!」もなかなか興味深い一品だったが、これには負ける。
本来であれば膨大な時間を必要とするのだが、高速モードにより一日がこの部屋の中での数秒で経過する事で問題は解決された。
良く分からなくなっているが、表の世界で24時間が経過した現在、俺は四十年近い時間を経験している。
「もう行くのかね?」
少佐が尋ねてきた。
答えは決まっている。
「もう行きますよ。表の世界で24時間、いつBETAが侵攻してきてもおかしくない世界としては、椅子を空けておくには長すぎる時間です。
それに、正直なところ頑張りすぎました。
これからは、ゆっくりとチート的な生活を楽しみますよ」
にこやかにそう告げると、俺は表の世界へと通じる扉を開こうとする。
「まあ待ちたまえ、少年」
少佐はそういうと、俺に何かを押し付けた。
「これは?」
手渡されたそれを見る。
ディスプレイとキーボードの付いた巨大な腕時計に見える。
「これはPip Boy3000という装置だ。
大人になった証だよ」
受け取って装着する。
なるほど、原作と同じくいろいろと便利な機能が付いているようだ。
それに、こいつからもチート的な機能を実行するためのあの画面にアクセスできるらしい。
これは便利だな。
「ありがとう、SS大隊指揮官殿。
貴方には本当にお世話になりました」
ナチ式の敬礼で最後の別れをする。
ドイツ第三帝国の軍人として様々な実戦を経験した俺にとって、この敬礼は慣れ親しんだものだ。
そして、礼の言葉は本心からのものだ。
精神が崩壊しそうになるたびに、泣き言を言いながら表の世界へ逃げ出そうとするたびに、彼は狂気で俺を鎮圧した。
彼がいなければ、とうの昔にどうにかなっていただろう。
「ありがとう戦友。
表の世界で私が必要になったら、いつでも呼び出してくれ。
あの世界では戦争が尽きないようだからね」
頼もしい言葉で彼は俺を送り出した。
さて、それでは戦争の日々に戻ろう。
ちなみに、表の世界で俺を待っていたのは、仮想現実の世界での戦果も、一回だけはポイントに加算されるという驚異的な事実だった。
2001年11月10日土曜日 14:00 日本帝国 新潟県第十五防衛ライン 海岸より24km地点 国連軍新潟駐屯地
「大盤振る舞いじゃないか、ええ?」
画面に向かって俺は嬉しそうに呟いた。
十一万ポイント、そして大きく上がったコマンダーレベル。
俺に与えられた自由度は、以前よりもさらに拡大されている。
おまけに、高効率教育センターに引きこもっていた24時間の間に、BETAの回収作業は大きく進展していた。
現在のクレート量は二十万八千トン。
今すぐ宇宙船の建造を進めるべきだろう。
幸いな事に、五万ポイントですぐさま降下部隊付きの恒星間往復船を建造できるそうだ。
別の惑星に植民基地を設けるまでにそれなりの時間はかかるだろうが、少なくとも送り出すだけならば今すぐ出来る。
悩む必要はない。
「宇宙戦艦ヤマトはすぐさま発進だな」
そう呟き、実行を指示する。
今頃は地球付近に突然現れた巨大な宇宙船が、その内部にG.E.S.Uを満載したまま目的地へ向けて発進したところだろう。
一瞬だけ監視衛星に探知されたであろうそれを、果たして米軍はなんと思うだろうか。
まあ、常識的に考えればエラーと判断するだろうな。
文字通りの意味で光よりも早く移動する物体など、人類の常識の範囲内には存在しないのだから。
「そして、クレートが十分にある以上、技術の入手を優先だな」
俺は発展度が3のプラントが生成できる全てを手に出来る。
しかし、新兵器については、残念ながら関連技術の入手が必須だ。
それならば、クレートを多く入手できている現在では、旧式になる兵器をポイントで購入するよりも技術の獲得を優先すべきである。
第四世代戦術機開発技術の01から05を、合計で一万ポイントを使用して入手する。
これは装甲強度、機動力、火力、全てが向上した次世代の戦術機である。
BETA相手に強度を上げる意味は薄いのだが、対人戦闘を考えれば逆に必須項目だ。
「失礼します」
ダン・モロが入室してくる。
思えば、この基地には俺以外にも人間がいた。
人数のわりに巨大すぎる敷地面積のおかげで、それぞれが出会う事は少なかったが。
「今から一時間前に、国連軍の香月副司令より、夕食を食べたいので当基地へ来てもいいかという問い合わせがありました。
一個中隊の戦術機と、護衛の歩兵一人、そのほかに同行者二名を考えているそうですよ」
護衛部隊はヴァルキリーズと呼ばれる第四計画直属部隊だろう。
護衛の歩兵一名は、恐らく神宮寺軍曹だ。
同行者二名のうち、一人は恐らく社霞だが、もう一人は誰だろうか。
「ああ、そういえば同行者はどちらも子供だが、できれば食事に同席させてやりたいとも言ってましたね。
この世界の食事は酷いものだし、いいんじゃないですかね?」
ああ、もう一人とは白銀 武か。
そういえば、彼もこの世界へ召喚されているはずだったんだよな。
今更登場と言うことではないだろうし、恐らく今まで存在を秘匿していたのだろう。
三周目の彼ならば期待できるが、二周目の彼だった場合には困るな。
まあ、いずれの場合にしてもエースパイロットとして活躍してもらおう。
「そうだな、こちらの作業も終わったし、今日はゆっくりと夕食を楽しむとしよう」
残る五万ポイントの使い道は後で考えるとして、俺は夕食までの時間を仮眠にあてる事にした。
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第18次BETA殲滅作戦途中経過
2001年11月10日土曜日 14:00:12
コマンダーレベル:4→5→6→7
NEW!新しい技術が選択可能になりました
NEW!新しい施設が選択可能になりました
プラント発展度 :3
現在所持ポイント:110,000
保有技術:
01:XM3開発データ
02:新型合金開発
03:エンジンの効率化
04:戦術機携行火器の強化
05:スラスターの改良
06:ブースターの改良
07:発展型不知火
08:第四世代戦術機基礎理論
09:戦車級用近距離防護火器開発
10:発展型不知火改良型
11:生産の効率化技術
12:AL(アンチ・レーザー)弾頭の改良
13:発展型AL弾頭
14:長距離火砲の改良
15:無人防衛システム開発
16:発展型無人防衛システム
17:地中振動監視技術の改良
18:発展型地中振動監視技術
19:G弾(BETA固有の元素使用の大量破壊兵器)の改良
20:発展型G弾技術
21:超光速恒星系間移動技術
22:第四世代戦術機開発技術01:軽量高密度装甲
23:第四世代戦術機開発技術02:発展型FCS
24:第四世代戦術機開発技術03:XM3改初期型
25:第四世代戦術機開発技術04:高初速側面スラスター
26:第四世代戦術機開発技術05:戦術機用重火器
※新兵器開発は関連技術01~05を取得で完了
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