序章 月下の出会い
「い、いや、やめて、近づかないでっ!」
その小さな悲鳴は、確かに彼に届いていた。
月の光も届かない暗い裏路地。
小さな白い女の子が、その行き止まりに追い詰められていた。
こんな小さな子相手に発情しているのか、詰め寄っている雄達は、涎を垂らさんばかりに歯をむき出し喉を鳴らしていた。
やれやれ、と彼は思ったが、黙っている訳にも行かなかった。
彼はこの界隈を仕切るボスだった。
自分でなろうとした訳ではなかったが、この世界で生き抜くために岩に齧りつくような努力をし、生傷の絶えないケンカをし続けた結果、周りが彼の事をそう認識してしまったのだ。
ともあれ、
「やめな、そいつは俺の女だ」
そう言って、姿を現す。
女の子の前に立つと、興奮して自制が効かなくなっている相手に対し、鋭く一睨みし犬歯を剥き出させる。
その殺気に肝を冷やされたのか、相手が何者か悟ったのか、雄達はすごすごと立ち去って行く。
「あ、あの…… 助けてくれたんですか?」
「ああ、おせっかいかも知れなかったがな」
彼女を先導して、裏路地から連れ出す。
月明かりが両者を照らし出した。
狼の血でも混ざっているのか、灰色の毛並みを持つ非常に大柄な雄犬。
そして、可愛らしい、白い小さな雌犬。
先ほどから人語によらぬ会話を交わしていたのは、この犬達だった。
現実からドラクエ世界の犬に憑依してしまった主人公。
オス犬たちから襲われそうになっていたメス犬を助けたところ、その正体は犬に姿を変えられたムーンブルクの王女だった!
人間に戻った王女×犬というお話。
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