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[9208] solaの庭園(魔法少女リリカルなのは×sola)【完結】
Name: 車道◆9aea2a08 ID:555837fb
Date: 2009/06/04 20:02
 彼女が何故そこに現れたのか? その理由は本人にも分からない。
 尋ねられても、気が付いたら、そこにいたからとしか答えようがないのだ。
 そのことに関して気にならないと言えば嘘になる。だけど、そんなことがどうでもいいと思えるほどの驚きがここにはある。

 彼女、四方茉莉は夜禍人と呼ばれる存在である。
 基本的に不老不死にして、人間を大きく上回る身体能力と特殊な力を持ち、そして日の光を浴びると体が崩れ落ちて死んでしまう夜の住人。
 そんな彼女が青空に憧れるようになったのは、遠い昔に出会ったある姉弟の影響。
 青空に憧れて、でもそれが果たせなかった長い年月。
 だけど、ここに来てその望みは叶う。
 天に輝くそれは、本当の太陽ではない。なんでも魔法で作った映像に過ぎないのだという。それはそうだろうと彼女は思う。そうでなければ、夜禍人たる自分が生きていられるはずがないのだから。
 だけど、そんなことは些細なことだ。自分は今青空を見上げて、その下を歩いている。それ以上に大切なことなどあるものか。





 自分が、それと出合ったのは神の奇蹟か、さもなくば悪魔の悪戯によるものだったのだろうと、プレシア・テスタロッサは思う。
 最初、侵入者だと思った彼女は、それを排除しようと攻撃の魔法を解き放った。
 非殺傷などではないその魔法は、間違いなくそれに致命傷を与えたと思ったのだが。それは、負った傷を瞬く間に修復していた。
 何者なのかと誰何した彼女に、それは自分が夜禍人であると答えた。

 人が眠っている間に捨てた苦しさや不安や憎しみが集まったもの。人間自身が捨て去り忌み嫌う、もう一人の自分。そんなふうに呼ばれる存在。

 そして、不老不死の上、生来の夜禍人は人間を夜禍人に変え、死者の命を繋げることすらも可能にする超常の生物でもある。
 その存在は、彼女に大きな関心を持たせた。
 彼女には娘がいた。何と引き換えにしても惜しくはない大切な娘。馬鹿げた理由で幼くして命を失った可哀想な娘、アリシア。
 その娘を蘇らせる。そのためだけに自分の命はあるのだと言っても過言ではない。
 死者を還すなど不可能に近いことだということは、彼女にも分かっている。それでも諦められない彼女は、一縷の望みに全てを賭けていた。
 だが、この夜禍人を使えば、分の悪い賭けなどせずとも娘を蘇らせることができるのかもしれないと彼女は考えた。
 その考えに対し、それは難色を示した。
 夜禍人は人々に忌み嫌われ、日の下を歩くという当たり前のこともできない存在だ。小さな子供を、そんな悲しい存在にしてしまうことを、それは嫌ったのだ。

 だけど結局、それはアリシアを夜禍人にすることに同意した。実際問題として、いくらなんでも死後何十年も経つ遺体を蘇らせることができるなどとは思わなかったのだ。
 だが、それの予想に反してアリシアは夜禍人として蘇った。狂喜した彼女は自分をも夜禍人に変えるようにと、それに要求した。
 彼女は自分の命が長くないことを理解していた。
 別に、自分の命など惜しいとは思わない。だけど、幼くして永遠を生きる運命を背負った娘を置いて逝くことなどできない。
 そうして、人であることを捨て娘の蘇生と、自身の肉体の回復を果たした彼女は、そこで我に帰る。

 娘を蘇らせる。そのためだけに生きた。その想いがなければ立ち上がることもできないほどに病に肉体を蝕まれていた。だから、彼女は正気を失っていた。
 その正気を取り戻した時、彼女は自分が娘に対して、いかに残酷なことをしてしまったのかに気づいてしまった。

 不老不死。それを求めない人間などいないだろうと彼女は思う。
 だけど、アリシアは子供なのだ。たった五歳なのだ。その姿で、永遠に時の流れから置いていかれる。しかも、外で遊ぶのが楽しい盛りの年齢で、日の下に出ることを禁じられてしまったのだ。破れば死が待っているという罰と共に。
 だからといって、それ、四方茉莉という少女を恨む権利は自分にはない。
 アリシアを夜禍人にして欲しいと願ったのは自分で、茉莉は何度も思いとどまるようにと言っていたのだから。
 だから彼女は決意する。自分の永遠の時間は、すべて娘が人並みに生きるために費やしようと。






 フェイト・テスタロッサが、使い魔のアルフと共に『時の庭園』に帰った時、彼女は酷く困惑することになる。
 いつも暗く淀んでいたそこは、天には鮮やかな青空が広がり、地には緑が溢れ、そこには三人の人影がいた。そして、その三人はそれぞれがフェイトを驚かせる。

 一人は、プレシア・テスタロッサ。フェイトの母であり、ここしばらくは常に彼女を酷く虐げ続け笑顔など見せなかった女性。
 一人は、良く知った顔を持つ、知らない少女。フェイト本人とそっくりの顔をした。年少の少女。
 一人は、見知らぬ女性。紫がかった長い黒髪を腰まで伸ばし、同色の瞳を持つ明るい笑顔が印象的な女性。と言っても、フェイトから見れば年上の女性だというだけで、実際には十代の少女にしか見えないのだが。

 その三人が、楽しそうに笑い合い話し合うそこは、あまりにも彼女の日常とはかけ離れていて。だから自分は、間違った場所に来てしまったのかと彼女は疑った。

 そんな彼女に、最初に気づいたのは長い黒髪の少女、四方茉莉。

「あれ? あの子アリシアにそっくりだけど、お姉さん?」
「ううん。知らない人」

 不思議そうに顔を向けてくる二人に、フェイトは更なる困惑に襲われる。
 フェイトに妹はいない。少なくとも、プレシアから妹の話など聞いた事がない。だけど、アリシアという名には覚えがある。
 それは、一度見たことのある夢で母プレシアが自分を呼んだときの名。しかも、アリシアと呼ばれた少女は、その夢に出てきた時の自分と同じ年齢、まったく同じ姿なのだから、混乱するなというほうが無茶な話だろう。
 そんな、わけが分からないでいる少女たちに、プレシアは苦笑と共に答えを明かす。

「あの子は、フェイト。アリシア、あなたの妹よ」

 その言葉に一番驚いたのは誰だっただろう。どう見ても、ファイトの方がアリシアより年上なのだ。しかも、フェイトは姉がいるなどという話を聞いたことがないし、アリシアの方も妹がいるなどという話は初耳である。

「え~と、アリシアは何歳?」
「5歳!」

 茉莉の質問に、元気良く答えるアリシア。

「じゃあ、そっちの……、そう! フェイトちゃんは何歳?」
「9歳……」

 消え入りそうに、ボソリと呟いた小さな声であったが、茉莉にはそれが聞こえた。

「ほら。フェイトちゃんの方が年上じゃない。プレシアの勘違いじゃないの?」

 そんな茉莉の言葉を予想していたのだろう。プレシアは、くすくす笑って種明かしを始める。

「アリシアは、長い間眠っていたもの。フェイトは、アリシアが眠っている間に生まれた子供なのよ」

 そう言ってフェイトを見るプレシアの眼は、夢でしか見たことがないほどに優しくて、だからフェイトは不安になる。
 フェイトがどれだけ頑張っても、どれだけ尽くしても母は笑顔を見せてはくれなかった。その母が、笑っている。
 おそらくは、アリシアという少女が、ただそこにいるというだけの理由で。
 それは、つまりプレシアにとってアリシアこそが愛する娘であり、フェイトはそうではないということを意味している。
 今、プレシアが笑いかけてきているのも、フェイトへの愛情ゆえのものではなく、アリシアが存在することから湧き出る喜びのままに自分に顔を向けただけなのだと、理解してしまった。

 実のところ、これは誤解である。
 元々、プレシア・テスタロッサという女性は優しく包容力のある女性である。
 その彼女をフェイトへの虐待に走らせたのは、病により蝕まれた肉体が精神にも影響を与え余裕というものをなくさせたことと、アリシアと同じ顔、同じ声、同じ記憶を与えられながらも、決して消えない齟齬を持つ模造品への苛立ちゆえである。
 だが、病から解放されて精神的な落ち着きを取り戻し、アリシアの蘇生が叶いフェイトを偽者ではない一個人として認めることができるようになった彼女は、フェイトに対しても娘としての愛情を抱けるようになっていた。
 だから、プレシアは、これまでフェイトにやってきた虐待を深く後悔し、これからはアリシアとわけ隔てなく愛情を注ごうと考えていたのだ。

 そんな感情のすれ違いに気づくこともなく、プレシアは言葉を続ける。

「事故でアリシアが倒れてから、もう26年も経っているのよ。だからね、単純に暦だけで計算すればアリシアは31歳になるのよ」

 えー!? と声を上げたのは、アリシア。彼女のような年齢の子供にとっては、二十代を過ぎた人間は小父さん小母さん扱いになる。それなのに自分が三十代になっているとなれば、驚くなというほうが無理だろう。

「そっかあ、それで、母さんの顔に皺が増えてたのか……」
「…………」
「でも、それじゃあ私、茉莉さんより年上になっちゃってるの?」
「ふふーん。私は、三百年以上生きてるから、まだまだアリシアなんかに負けないよ」
「ええっ!? それじゃあ、茉莉さんって、すっごい、お婆ちゃんなんだ」
「…………」

 プレシアと茉莉が顔を見合わせる。この時、二人の心は一つになった。
 アリシアの左頬をプレシアの右手が摘む。右頬を茉莉の左手が摘む。そして……、

「痛い痛い、母さん、茉莉さん、ゴメンなさーい」


 それは和やかな光景だったが、フェイトの心を癒すことはない。
 むしろ、自分には入っていけない空気だと感じて、心がささくれ立ってしまう。
 それを最も敏感に感じ取ったのは、フェイトの使い魔のアルフ。精神的に主とリンクしている彼女は、フェイトの心を理解し苛立ちと共に、それを吐き出す。

「あんたら、何の話をしてるんだよ! フェイトはねえ、アンタの命令でジュエルシードを集めに行って帰ってきたところなんだよ。それなのに、フェイトを無視して何をヘラヘラ笑ってるのさ!」

 アルフにとって、フェイト以上に大切なものなど存在しない。その彼女だからこその憤りに、プレシアは反省し、何の話なのか理解できていないアリシアと茉莉は、ただビックリして大きく眼を見開く。

「そうね。ごめんなさいねフェイト。あなたを蔑ろにしてしまって」

 そんな風に素直に謝ってくるプレシアに、やはりフェイトは落ち着かず、集めてきたジュエルシードと、ついでにお土産にと買ってきたケーキを渡そうとする。だが……、

「本当に、ごめんなさいねフェイト。もうジュエルシードはいらなくなったの」

 そう言って、プレシアはフェイトを手で制しケーキだけを受け取る。

「え……」

 呆然と呟き、見つめたプレシアの顔は本当にすまなそうで、だけど自分の頑張りが踏みにじられた事実にフェイトは唇を噛む。

 歳に見合わない強力な魔導師であるフェイトにとっても、アルフだけを連れての見知らぬ土地でのジュエルシードの収集は簡単なものではない。
 それでも頑張れたのは、これが母の命令だったから。母が喜んでくれると思ったから。だけど、その想いはあっさりと裏切られた。

 もちろん、プレシアにフェイトの心を傷つける意図があったわけではない。
 だけど、アリシアの蘇生がなった今、危険を冒してまで死者の蘇生も叶うという伝説の地アルハザードを目指す意味はなくなった。そのために必要だった魔力結晶であるジュエルシードを無理に集める必要もなくなった。それどころか、ロストロギアであるジュエルシードの所持は、いらぬ危険を呼び込む災厄の種になりうる。
 それに、今のプレシアは、フェイトがジュエルシード集めで、どれだけ辛い思いをしていたのかを理解している。だから、もういいのだという意味を込めて伝えた言葉だったのだが、その想いまではフェイトに伝わらなかった。

 そんな時、茉莉から質問の声が上がった。

「ジュエルシードって何?」

 その質問に答えるのは簡単だが、魔導師でない茉莉に理解できるかどうかは疑問である。ので、プレシアは簡単に説明することにする。

「ものすごい魔力で持ち主の願いを叶えてくれるけど、なんでもってわけじゃない上に、下手すると世界を滅ぼす危険物よ」

 ものすごく、大雑把な説明であったが、茉莉はそれで納得する。

「へー。じゃあ、フェイトちゃんは、そんな危険なものを集めに行ってたんだー」
「そうね。でも、もういいわ……」

 そこで、口ごもる。そうだ、考えてみれば自分には必要がないといっても放置しておくには危険な代物であることに違いはない。本来良識ある人間である彼女に、それを見過ごすことはできない。
 他に、ジュエルシードを集めている人間がいるのは知っているが、優秀ではあるのだろうが、まだ魔法に出会って数ヶ月の駆け出しの魔導師では、いかにも頼りない。
 時空管理局にでも連絡を取ってしまえば解決する話なのだが、それでこちらの事を勘ぐられるのもマズイ。
 26年も前に死亡し蘇生したアリシアも、それをなした茉莉も、研究者などが知ればどんな手段をもってしても捕獲し実験体にしたがるだろう。もちろん、プレシア自身もだ。
 そして、フェイトの存在にも、管理局に知られると問題のある事情がある。
 それ以前に、管理外世界に勝手に降りたり魔法戦をしたりと、管理局に知られると困る犯罪行為をすでにやってしまっているわけだが。
 それを許すわけにはいかない以上、管理局との接触はできるだけ避けたい。

「そうね。ここからは私が集めるわ。フェイトはアリシアや茉莉と遊んでなさい」

 夜過人となったプレシアは、ここ時の庭園にある偽りの昼の世界でなければ日の下に出られない体だが、それなら夜に出かけて片付けてしまえばいいのだ。効率は悪いが、他に手はない。

 そう思ったプレシアに、フェイトはこれまで通り自分が行くと伝える。

「だって、私の方が慣れているから」

 そんな言葉に一番驚いたのはアルフである。彼女としても、フェイトのこれまでの努力を無視するようなプレシアに思うことがないわけではないが、もう無理をしなくていいというのなら、それに甘えればいいではないかと思う。
 だけど、そうではないのだ。
 フェイトは、ただ逃げ出したいだけなのだ。自分という存在を異物だと感じさせる、この和やかな場所から。


 
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茉莉はアニメの1話以前からやってきた設定。
リリカルの方は7話の辺りの話。


プレシアとアリシアを救済することによって、フェイトを涙目にするのが、この話のコンセプトです。

なので、フェイトがアリシアの夢を見たのは11話辺りだったとか、A's11話の闇の書の作った夢の中では、アリシアと、ちゃんと仲良くできているじゃないかというツッコミは聞こえないフリをさせていただきます。



[9208] 彼女たちの事情
Name: 車道◆9aea2a08 ID:555837fb
Date: 2009/05/31 19:35
 茉莉は、碧眼を思わせる宝石を空に掲げ、陽光に透かして見ていた。
 不思議な宝石だなと、彼女は思う。
 見た目はともかく、茉莉は長い時を生きてきた人外の存在である。その彼女の長い生においてさえ、この宝石は同じものどころか、似た物ですら眼にしたことがない。
 これが何なのか茉莉は知らない。ここ、時の庭園を訪れる少し前に海辺で拾っただけの物の詳細など、考えてみたところで分かるはずがない。
 だから、結論を出す。

「ま、いいか」

 呟くと共に、宝石をポケットに戻す。
 彼女にとって、こんな宝石のことで頭を悩ませるより、ようやく念願かなって眼にすることが出来た青空を見上げることの方が重要であったからである。





 第97管理外世界。それが、ロストロギア、ジュエルシードがばら撒かれてしまった地の呼び名である。
 と言っても、そこに住む住人たちは、自分たちの住む地に、そんな呼び名がついているとは知らないだろうが。

 その世界にある、海鳴という街にあるホテルの一室で、フェイトは膝を抱えていた。
 彼女が時の庭園を出て、この町に来たのはジュエルシードの回収のためである。だけど、そんなことに何の意味があるのだろうかとフェイトは思う。
 母に言われたから、母の喜ぶ顔が見たかったから、だから頑張れた。
 だけど、もう母はジュエルシードを必要としていない。自分が頑張っても母は愛情を向けてはくれない。事実はともかく、フェイトは、そう信じた。

 そんなフェイトをアルフは何も言えずに見ている。
 フェイトの幸せだけを考えている彼女にも、今のフェイトには何をしてやればいいのか分からない。
 これまでは、フェイトを虐待するプレシアに憤っていればそれでよかった。何もかもプレシアが悪い。プレシアさえいなければフェイトは救われる。そう信じていられた。
 だけど、その考えが揺らいできた。
 はっきり言ってしまえば、アルフはプレシアの言ったことを信じていない。何か悪い事を考えていて、それでフェイトを騙そうとしているだけだと信じている。
 だけど、プレシアが何を考えているのかなど分かるはずがない。分かるのは、プレシアが何をしてもしなくても、例えば、プレシアがいなくなったとしても、やはりそれでフェイトの心は傷ついてしまうという事実だけである。





 高町なのはは、困惑していた。

 彼女が魔法の力を手に入れたのは、単なる偶然によるものである。
 ただの小学三年生だった彼女は、ユーノ・スクライアという魔法を当たり前に使う世界の住人と出会い、自身に彼を手伝える力があると知ると共に、ジュエルシードという災厄の種になりうる宝石を集めることになった。
 そして、その途中で彼女は、ある少女と出会う。同じくらいの年齢の寂しい眼をした少女。
 同じくジュエルシードを集めているらしい、その少女との出会いは友好的なものではなかったが、なのはは、その少女、フェイト・テスタロッサと話がしたかった。
 何故、ジュエルシードを集めているのか。何故、そんな寂しい眼をしているのか。
 話を聞けば、何とかしてやれるのだなどと思ってはいない。まだ幼い彼女だが、そこまで傲慢な考えを持てるほど世間を知らないわけではない。
 ただ、話を聞けば力になれるかもしれないと思った。いや、それも正確ではない。力になりたいと思ったのだ。
 だけど、二度の邂逅で自分の力はフェイトに比べれて弱いのだと理解して、不甲斐ない自分が悔しくて、だから強くなろうと思った。次に会うときには、今よりも強くなろう。そうして、話を聞かせてもらおう。そう思った。
 そうして魔法を学び、ジュエルシードを探し、次に邂逅した時、彼女はフェイトと互角に戦うことが不可能ではない魔導師に成長していた。
 だけど結局、話は聞けず、ジュエルシードの暴走によるお互いのデバイスの破損とフェイトの負傷というお互いにとって不本意な決着をみることとなった。

 そして、その翌日、四度目の邂逅を果たしたとき、フェイトという少女は前よりも寂しそうな、というか捨てられて行く当てのない子犬のような眼をしていた。



 フェイト・テスタロッサにジュエルシードを積極的に集めなければならない理由はない。正確にはなくなったというのが正しいのだが。
 だけど、一度発動を感じてしまえば放置はできない。だから、フェイトはそこに向かう。
 あるいは別の理由もあるのかもしれないとフェイトは思う。
 行けば、きっとあの子も来るはずだと確信染みた予感を覚える。ジュエルシードを巡って何度かぶつかった白い服の少女、高町なのは。アルフから見れば、うっとおしい邪魔者でしかない彼女の言葉は、自分の心に響いていた。
 フェイトに、なのはと争う理由はなかった。それどころか今までに集めたジュエルシードを渡しても構わなかった。
 だけど、今になってフェイトが戦う理由を無くしているなどと、なのはに分かるはずがなく。同時にフェイトも、なのはとぶつかり合うことを求めていた。
 これは別に、フェイトが好戦的な性格だとか、誰かに八つ当たりをしたいと思っていたとか言う理由があったわけではない。
 半ば以上無意識にではあるが、フェイトは甘えられる誰を必要としており、何度も話しかけてくる白い服の少女を、その対象に選びかけていた。だけど彼女には、人との触れ合いの経験が圧倒的に不足しており、他のやり方が思いつかなかったのである。

 そうして、二人の魔導師がぶつかり合いかけた時。そこに、第三の魔導師が現れた。



 クロノ・ハラオウンは時空管理局の執務官である。
 才能ではなく努力で自身を高みに持って行った優秀な魔導師。
 冷徹な判断力と、法を遵守する鉄の意志を持ちながら、しかし、誰かを守りたい救いたいという熱い心を失わないナイスな少年である。
 だが、この瞬間だけは、彼は致命的に空気が読めていなかったと言わざるを得ない。。

「ストップだ! ここでの戦闘行為は危険すぎる。時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ。詳しい事情を聞かせてもらおうか」

 それは、時空管理局に勤める者として当然の言葉。だけど、ここでは和解できたかもしれない二人の関係をこじらせるだけの意味しかない発言。
 フェイトには、管理局と争う意志がない。だが、これまでに管理外世界で魔法戦をおこなったりと犯罪行為をやってきた自覚はあるし、母からも管理局との接触は避けるようにと言い含められてもいる。そもそも、管理外世界には不可侵という法があり、そこに事故でもなんでもない理由でやってきた時点で犯罪者なわけだが。
 だから、逃げる。現れた管理局執務官に隙はないが、なければ作ればいいのだ。

「ええー!? ジュエルシード!?」

 なのはが驚愕の声を上げる。それも当然、フェイトが、それまでに集めてきたジュエルシードを空中にばら撒いたのだ。
 フェイトにとっては、もはや無価値なそれを手放すことに躊躇があるはずもない。
 だけど、そんなことを知らない、なのはからすれば、よっぽどの理由があって集めていたはずのそれを簡単に捨ててしまう行為は、まったくの理解の範疇外であるし、クロノにしても、こんな風にロストロギアが、ばら撒かれては冷静ではいられない。
 だから、アルフの不意打ちの攻撃への対処が遅れたし、その結果として眼を離したフェイトの逃走を許してしまった。





 アリシアは退屈を持て余していた。
 さして広いと言えないとはいえ、時の庭園には住人が自分を含めて五人しかいない。
 そのうちの二人、フェイトと、その使い魔のアルフはジュエルシードとかいうのを集めに出て行ってて、ここにはいないし、プレシアは何やら魔法を使ってフェイトの様子を心配そうに見守っていて構ってくれない。
 後、残るは茉莉なのだが、どうにも朝から姿が見えない。
 だけど、一人は退屈だからと探し回り、彼女は何もない空を見上げる茉莉の姿を発見する。

「何を見てるの?」

 何か珍しい物があるのかと空を見上げ眼を凝らすアリシアに、茉莉は「青空」と笑みをこぼしながら答える。

「それは分かるんだけど」

 とアリシアは、首を傾げる。
 しょせん、青空に焦がれ、しかし日の射す世界に出ることが叶わずに数百年を生きた人外が心に抱いた感動など、幼い少女に分かるはずがないのだ。
 だけど、と少女は思う。
 アリシアには、魔法で作った作り物の青空の良さなど分からない。だけど、茉莉の笑顔を見れば、それは素晴らしいものなのだと思える。
 だから、少女は問う。

「一緒に見てていい?」

 ただ空を見ていても、アリシアにとっては退屈なだけである。
 でも、一人でなければ、隣にいてくれる誰かがいてくれるのなら、それだけで人は笑えるのだ。

「うん。いいよ」

 茉莉はアリシアに笑みを向ける。彼女はアリシアを友達だと思っており、友達の頼みを断ることなどありえないのだから。



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なんだか、インターミッションっぽい二話でした。



私には、クロスを書くとクロスキャラを空気にしてしまうという悪癖があるようです。
まあ、この話の主人公はフェイトで茉莉じゃないしなぁ。(酷い話だ



依人はストーリーに関係しないので出てきません。が、存在はしてます。
というわけで、その頃の森宮さん。な感じのものを書いてみましたが、本筋には何の関係もない上に、solaを知らない人にはどうでもいいというか、意味の分からない話なので、この先は、solaを知っている人だけが読んでみましょう。



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「蒼乃さん。できたでー!」

 元気の良い声に振り返ると、そこには車椅子の少女が折り紙で作った、かぶとをこちらに差し出している姿が見えた。
 少女の名は八神はやて。ここ海鳴大学病院に入院してから知り合った年下の友人である。
 森宮蒼乃は、およそ愛想のない少女であるが、何を思ったのか、はやては彼女に懐き最近では、よく折り紙を習いにやってくる。
 そのことに関して、蒼乃に思うところはない。
 迷惑だと思ったことはないし、友人の存在が嬉しくないわけではない。だけど、彼女が一番に大切だと思うのは弟の存在で、それ以外は切り捨てて良しとすることが可能な存在でしかない。



 はやてが蒼乃と友人になったは、蒼乃の弟が切欠である。
 足の障害で定期的に病院を訪れる彼女は、そこに行く途中で、高校生くらいであろう年上の男性と知り合った。それが、蒼乃の弟である森宮依人である。
 センスがないというか、不気味な人形を持った彼は、先日、体調を崩した姉のお見舞いに来たのだが、ついでだからと少女の車椅子を押してくれた。
 幼い少女相手の犯罪が問題になっていて、親戚の子供と遊んであげてる成人男性が職務質問されることのある昨今、8歳の幼女である自分に話しかけてくれるなんて勇気があるなぁ。もしかして本当に、そっちの趣味の人間なんかな? と思ったのは今もって言えない秘密である。
 それはともかく、彼を通じて、はやては蒼乃と出会った。
 はっきり言って、出会った直後の蒼乃の無愛想さは、自分は嫌われているんだろうかと考えてしまうに充分で、はやてをもってしても、仲良くなろうと考えるには勇気を必要とするものであった。いや、無愛想なのは今も変わらないか。
 だけど、依人が教えてくれた。蒼乃は、別に、はやてを嫌ってなどいない。ただ、感情を面に出すのが下手なだけなのだと。
 正直、それを信じるには蒼乃は無愛想に過ぎたが、それでも少女は依人を信じることにした。

 あるいは、信じたかったのかもしれない。
 はやてには誰もいない。家族を早くに亡くし、障害のために学校にも通っていないために友人もいない。
 だからだろう、同じく両親を亡くし、弟以外が見舞いに来ない蒼乃に親近感を持ったのは。
 森宮蒼乃という少女の抱える孤独など、はやてには分からない。彼女が、長き時を一人で生きてきた夜過人という孤独な存在であるなどと、知るはずもないのだから。
 はやてに分かるのは、蒼乃が自分と同じ孤独な魂を抱え込んだ人間であるということだけ。
 だから、慕った。病院に来る時は、必ず会いに行った。
 折り紙に興味などなかった。ただ、共通の話題が欲しくて教えを請うただけである。最近、楽しくなってきたが。
 そうして、付き合ううちに、蒼乃が無愛想に見えるだけで、本当は優しい人なのだと知った。
 蒼乃が、いかに弟を大切に思っているかを、はやては理解している。傍目には愛情に見えるそれが、孤独な魂の執着に過ぎないことも。
 自分たちは、似すぎていると、はやては思う。
 蒼乃には、たった一人の家族である弟以外、誰もいない。少なくとも、本人は、そう思い込んでいる。だから、依人を離せない。溺れる者のように縋りつき、それ以外から目を逸らす。
 多分、自分も、そういう存在が出来たら、同じようになるのではないかと、はやては思う。
 もっとも、そんな存在は現れないだろけど。と諦観と共に。

 そうして、近い将来、とある事情で実際に家族が出来た時、少女は自身の全てを引き換えにしてでも、家族を離すまいとするのであった。



[9208] すれ違う想い
Name: 車道◆9aea2a08 ID:555837fb
Date: 2009/06/01 19:57
 プレシア・テスタロッサは悩んでいた。
 その原因は、彼女の娘の一人、フェイト・テスタロッサにある。
 正気を失っていた頃と違い、今の彼女はフェイトに対してもアリシアへ向けるのと同じ愛情を感じていたが、当の娘に、それが伝わっていなかったのだ。
 だが、ならばどうすればいいのかということがプレシアには分からない。
 そもそも、今更母親面をすることが許されるのかとも思う。
 だけど、フェイトが母の愛を求めていることは変わらなくて。だから、プレシアも母として何とかしなくてはと思うのだ。





 時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンは考えていた。
 彼の今回の任務は、第97管理外世界で起こった、小規模な次元震の調査であったのだが、そこでよく分からない事態が起こっていた。
 現地で、ロストロギアを巡って争う二人の魔導師。そう見えたが、片方は惜しげもなくジュエルシードを捨てて逃走。
 もう片方、ジュエルシードの発見者であるスクライア一族の少年と、その協力者である現地の魔導師、高町なのはという少女に、話を聞いてみたところ、逃走した少女──フェイト・テスタロッサという名らしい──とその使い魔は何らかの理由でジュエルシードを集めており、それが原因で何度か奪い合いになったと言う。
 ならば、ジュエルシードを捨てていく理由が分からない。管理局と争うのを恐れたから? 考えられなくもないが、クロノの見たところ、フェイトの魔導師としての実力は高い。戦って自分が負けるとは思わないが、やりようによっては出し抜くことも可能なはずだ。
 それに、テスタロッサというファミリーネームも少しだけ気にかかる。
 それは、かつての大魔導師と同じ名だ。だからと言って、すぐに繋げて考えるのも早計だろうが、調べておいても無駄にはならないだろう。
 だけど、その後フェイトが現れることはなく。しばらくして、いくら探索しても、あと六つのジュエルシードが見つからないという事態に陥った。





 高町なのはは無駄に責任感の強い少女である。
 時空管理局の介入があった以上、もう関わる必要のないジュエルシード集めに自分から頼み込んで関わったり、初対面で問答無用で攻撃魔法を撃ちこんで来てジュエルシードを強奪していくという、どう考えても好意を持つことのできない出会い方をした少女が、寂しそうな眼をしているからなんとかしてやりたいと思う、お節介なまでにお人好しで責任感の強い少女である。
 そんな彼女であるから、ジュエルシードを集めていればまたフェイトに会えるだろう。その時こそ、お話を聞いてもらおうと考えていた。
 だけど、やってきた管理局に協力し始めてから、一度たりともフェイトは現れなかった。





 フェイトがジュエルシード集めに出てこなかった理由は必要がないからである。
 元々は、母プレシアに命じられていただけなのだし、今の彼女の目的はジュエルシードを万が一にも暴走させないことである。管理局が介入してきた以上、自分の出る幕はない。どころか、変に管理局を刺激してしまうと、かえって邪魔になってしまうと理解している
 なのに、何故まだこの世界にいるのだろうと、彼女は思う。
 管理局と接触することは避けなければいけないし、おそらく母に言えば、もう帰ってきていいのだと言うだろう。
 だけど、フェイトは帰れない。帰りたくない。
 怖いのだ。アリシアに優しくするプレシアを見るのが。

 アリシアが現れてからのプレシアは優しくなった。
 母が本当は優しい人間だとフェイトは知っていた。だけど、その優しさを引き出したのは自分ではない。母のために一生懸命に頑張った自分ではなく、ただ眠っていただけのアリシアだ。
 そのことで、アリシアに負の感情を持つことが間違いだとは理解している。あんな小さな子供に責任があるはずがないのだから。
 だけど、考えてしまうのだ。プレシアが自分に厳しかったのは、アリシアが目覚めない苛立ちを自分に吐き出していたのではないかと。母が愛情を注ぐ対象はアリシアだけなのではないかと。
 考えてみれば、ジュエルシード集めもアリシアのためだったのだろうと今なら分かる。
 プレシアが、アリシアを愛していることは疑いようがない。だけど、自分は愛されているのだろうか。

 そんな悩みが、彼女をプレシアから遠ざけてしまうのだ。

 そうして、ジュエルシードを集めるでもなく、この世界に留まり続けたフェイトは、あと六つあるはずのジュエルシードを管理局が見つけられずにいることを知り、それがおそらくは海に落ちているのだろうと想像するに至る。



 海が近い街である。見つからない残りのジュエルシードが海に落ちたと想像することは難しくない。だけど広大な、そこを探索するというのは簡単なことではない。
 持久戦かと思われたとき、管理局の次元航行艦アースラに置いて警報が響き、大型の魔力反応を感知したことを、なのはは知る。

 おそらくは六つのジュエルシードが沈んでいるであろう海の上空。そこにフェイトはいた。
 自分は何をやっているのだろうとフェイトは思う。もう、この世界に滞在する理由はない。だけど、プレシアが何も言ってこないのをいいことに時の庭園に帰らずに過ごし、あげく管理局に捕まる危険を冒して、こんなところにいる。

「ねえ、やめようよフェイト。管理局が来たんだ。アンタがやらなくても、連中がなんとかしてくれるよ」

 アルフの、自分を心配しての言葉に、フェイトは小さな笑みで答える。
 その通りだ。これは自分がやる必要のない行為だ。いや、むしろやってはいけない行動であろう。
 海に、大規模な電気の魔力を叩き込み、ジュエルシードを強制発動させて位置を特定させる。それには、多大な魔力の行使が必要になるし、そこから更に同時発動した複数のジュエルシードを封印するとなると、フェイトをしてもその負担は計り知れない。
 更には、管理局の介入もあるだろう。これほどの大魔力の行使のあとで、管理局から逃げ切れるものだろうかとも思う。
 同時にこうも思う。自分は管理局から逃げる気があるのだろうかと。
 フェイトは、自分が母を愛していることを自覚している。だからこそ、今は会いたくないと、会うのが怖いと思ってしまう。
 だけど、管理局に拘束されてしまえば、母の元へ戻らなくても済むようになる。
 あるいは、今の母なら管理局に自分が拘束された時、助けに来るのかもしれない。
 それを考えると、捕まるわけにはいかないと思う。彼女は別に母に迷惑をかけたいと思っているわけではないのだから。だけど、逆のことも考えてしまう。本当に、助けに来るのか試してみたいと。

 それに、管理局が来るのなら、あの白い服の少女も現れるのだろうとフェイトは思う。母という居場所を失った彼女は、逃げ場所に高町なのはという少女を求めていた。
 ちなみに、アルフはフェイトの逃げ場所にはならない。彼女はフェイトに近すぎるし、見た目はともかく精神的に幼すぎるのだ。まだ二歳なのだから、幼くて当然なのだが。



 管理局にとって、フェイトは捕獲対象の犯罪者であり、無茶をして自滅しようとしていたところで、助ける義理はない。
 だけど、なのはにとっては、そうではない。彼女には、この件に関わり続けようとした理由の一つであるフェイトを見捨てる選択はない。
 自分の行動が、管理局の協力者としてやってはいけないことだと、分かるだけの分別はある。だけど、なのはには譲れない一線というものがあるのだ。
 そんな彼女をユーノは支援する。彼には、なのはのようにフェイトに対する拘りはない。
 だけど、彼は、なのはにも負けないくらいに責任感が強い少年である。
 自分には責任のないところで起こった次元航行艦の事故で、ジュエルシードが、この世界にばら撒かれたことに責任を感じ自力での回収を考える少年であるから、非常時であったとはいえ、なのはを巻き込んだことに強い責任を感じている。
 だから、なのはがやりたいと思うことなら、手を貸すことに躊躇いはない。
 そうして、ユーノに背中を押された、なのははフェイトの元へと向かう。

「ごめんなさい。高町なのは、指示を無視して勝手な行動を取ります」

 その宣言は、アースラの乗員には、馬鹿げた発言に聞こえだろう。だけど、彼らは忘れている。魔導師として、どれだけ優秀でも、なのはは9歳の子供であり、この世界では、なのはくらいの年齢の子供に、管理局員に求められているような自制心は必要とされず、ゆえに備わっていないということを。

 だから、なのはは飛ぶ。ユーノにゲートを開いてもらい、フェイトの元へと。



 自分の張った結界内に転送されてきた少女を、アルフは複雑な感情を込めた瞳で見つめる。
 彼女にとって、この白い服の少女はフェイトの邪魔をする、うっとおしい子供である。
 だけど、この期に及んでは、今までのように力ずくで追い払うという手段は取れない。この少女だけがフェイトを救えるかもしれない唯一の人間であると理解しているから。
 本当なら、フェイトを救う役目は自分が担うべきなのだろうと思う。
 しかし、アルフにはフェイトのために何をすればいいのか分からない。
 プレシアへの不満を吐き出しても意味がない。プレシアはフェイトへの虐待をやめた。優しくなった。これに不満を唱えることが、いかに馬鹿げているか分からないアルフではない。
 プレシアが優しくなったのに、フェイトの心が傷ついている。その原因がアリシアにあるのなら、あのフェイトに似た小さな少女を排除すればいいのだろうか? そんなわけがない。
 あの子が来たおかげで、フェイトへの虐待がなくなったのだ。あの頃の方が良かったなどとは、さすがにアルフは思わない。
 ならば、どうすればいいのかと考えても答えは出ない。自分ではフェイトを救えない。誰かに助けを求めるというわけにもいかない。アルフの世界は、自分とフェイトだけで完結しており、他の誰かという選択が存在しないのだ。
 それは、フェイトも似たようなもので、彼女の世界にはプレシアとアルフしかなかった。
 だけど、それがいつの間にか変わっていることにアルフは気づいていた。
 アリシアが現れて、逃げるように時の庭園を後にして、そうして白い服の少女と出合った瞬間から、フェイトがジュエルシードを追う理由は変わっていた。
 フェイトが望んだのは他者との繋がり。プレシアとのそれ以外を自ら断ってきた彼女は、それが自身には決して手に入れられないものだと理解した瞬間から、無自覚にではあるが、別のものを求めだした。
 それが、高町なのはという白い服の少女だとアルフだけが知っていた。



 かくして、なのはの助力によりフェイトは無事に五つのジュエルシードの発見と封印に成功する。
 しかし、二人にとっての本番はここからである。

 フェイトが、ここにきた理由は、なのはに会うためである。会ってどうしたいと自分が考えているのかは分からなかったのだけれど。

 なのはは、ここに来て自身の気持ちを理解する。自分がフェイトと友達になりたがっていることに。だから、ここに来たのだということを。

 だが、それはお互いに個人的な事情でしかなく、ロストロギアという下手を打てば次元世界を滅ぼしかねない物品を扱う事件において、時空管理局が、そんなものを考慮するはずがないのである。

 封印されたジュエルシードは、なのはとフェイト、二人の間に浮かんでいる。
 なのはとしては、二人でやったことなのだから、この場は、はんぶんこに分けてもいいのではないかと思う。
 もっとも、フェイトがそれを受け入れるか分からないし、最終的にはお互いの持つジュエルシードを賭けて争わなければならないのではないかという思いもある。
 それは、フェイトがもうジュエルシードを必要としていないという事実を知らないことからきた誤解であり、同じくそれを知らないアースラの乗員たる管理局員も誤解から行動を起こそうとする。
 21個存在するジュエルシードは、今までに、なのはが集めたものと、前にフェイトがばら撒いたもの、そしてここに現れた五つをあわせて20個が見つかった。
 未発見のものが、あと一つあるが、それでもほとんど全てが発見された今、事件終了まであと一息である。あるいは、その一つがフェイトの元にあるのかもしれないという可能性を考えれば、ここで、フェイトを逃がすという選択肢はない。

 だけど、なのはは、そんなことは知らず。フェイトも、管理局の思惑が図れるほどに大人ではない。
 執務官であるクロノが、武装局員たちと共にアースラを出ようとした瞬間。アースラに警報のサイレンが響き、通信主任であるエイミィ・リミエッタの報告がもたらされる。


「次元干渉。別次元から本艦及び戦闘区域に向けて魔力攻撃来ます。後六秒!」

 それが、プレシアの放った魔法だと気づいたのはフェイトだけであっただろう。とっさに、それに反応できたのも彼女一人。
 魔力攻撃の一方はアースラに直撃し、運航に支障をきたすほどの被害を与え、もう一方はフェイトに直撃した。

 その後、フェイトはアルフに拾われ、アースラに保護されることになる。
 雷撃のあと、フェイトは意識を失い、やはりプレシアは何も変わっていなかったのだと確信したアルフが、管理局の方がまだマシだと考え、保護を頼むと共に、今までにフェイトがどれだけプレシアに虐待を受けてきたかを話すのであった。





「なんてことを……」

 時の庭園において、プレシアは自責の念に囚われる。
 彼女にフェイトを傷つける意図はなかった。
 なのはもフェイトも気づいていなかった管理局員の行動に、彼女は気づいていた。だから、助けようと思った。
 フェイトが逃げられるようにと、管理局の次元航行艦と白い服の少女に向けて魔力攻撃を撃ち込んだ。
 だけど、白い服の少女に当たるはずだった魔力攻撃はフェイトに直撃した。
 別に、プレシアの手元が狂ったとかそういう理由ではない。フェイトが白い服の少女を庇った。ただ、それだけのことなのだ。
 何故? と思うのは間違いだろう。自分は娘の心を理解していない。ただ、それだけのことが原因で起こったことなのだから。



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「本当は誰も悪くないのに、どうして悪いことになってしまうのでしょう」
英雄伝説Ⅱで、そんなセリフがあったと記憶しています。
というわけで、誰かが悪いというわけでもないのに事態が悪くなっていく第三話。



はたして、プレシアの愛はフェイトを救えるのか。


フェイトは自分で自分を追い込んでしまうタイプだと思います。けっして、私がドSなわけではないのです。



そして、無印、最大の見せ場、なのは対フェイトを失くしてしまうという暴挙。
まあ、小説版では事件解決後にやってたしセーフだよね?



[9208] 噛み合わない人々
Name: 車道◆9aea2a08 ID:555837fb
Date: 2009/06/02 19:50
 それは、現在に至る経緯。


 次元航行エネルギー駆動炉ヒュードラの暴走事故で、大切な娘の命を奪われたプレシア・テスタロッサは、死した娘、アリシアを蘇らせるためなら何でもしようと心に誓った。
 しかし、死者を還すなど、魔法や科学の範疇を越えて、奇蹟の領分である。いかな大魔導師たるプレシアを持ってしても、それを行うのは不可能かと思われた。
 そんな彼女が選択したのは、クローンを作ることである。死んだ娘と寸分違わぬ複製を作り、それにアリシアの記憶を転写する。いい考えに思えたそれは失敗、という以前に見当違いの選択であったとプレシアは思い知らされる。
 まったく同じ肉体、まったく同じ記憶を用意しても、そこには別の個性を持った個体が出来てしまうのだから。
 いや、それどころか、まったく同じ肉体を作ることにも失敗していたのだ。
 なにしろ、アリシアはプレシアの持つ魔力資質をまったく受け継がなかったのに、そのクローンは正しく大魔導師の資質を受け継いでいたのだから、なんの冗談なのかと思うしかない。

 そこで、プレシアは初心に戻り、アリシア自身を生き返らせることを考える。
 もちろん、彼女に奇蹟は起こせない。だが、自分に起こせないのなら、奇蹟を起こせるものを用意すればいい。
 それが、伝説の地アルハザード。死者の蘇生すら可能にする。その伝説を彼女は信じ、そこに至るための準備を始める。
 そのためには、およそ考えられないほどの強大な魔力が必要不可欠で、しかし、それを用意することは簡単なことではない。
 そんな時、彼女は偶然にも、ジュエルシードという強大な魔力を秘めた結晶体であるロストロギアの存在と、それが次元航行艦の事故で、管理外世界に、ばら撒かれたことを知る。
 だけど、彼女自身は、その身が病に犯され、管理外世界に出かけることが出来る体ではない。
 だから、フェイトと名づけた、アリシアのクローンに集めさせることにした。アリシアと同じ姿をしているくせにアリシアではない、できの悪い模造品である。そのぐらいはしてもらわないと、生かしておいてやっている甲斐がない。
 そして、フェイトがジュエルシード集めに出かけている間に、プレシアは彼女と出会った。
 
 四方茉莉。自分自身、不老不死の夜過人という存在であり、普通の人間を自身と同じ夜過人に変える能力を持つ化生の存在。
 その能力により、アリシアは蘇り、プレシア自身の病に蝕まれた肉体も癒された。
 ここでプレシアは自身のフェイトに対する態度の酷さを自覚する。
 アリシアのクローンとはいえ、フェイトは自我を持つ一個の人間である。正しく、自分の娘でありアリシアの妹であるとも言えるフェイトに、どうして、あんなに酷いことができたのだと自己嫌悪に陥った彼女は、これからはフェイトにも惜しげのない愛情を注ごうと決意する。

 ところが、その想いはフェイトには届いていなかった。
 使い魔のアルフだけを連れて、もはや必要のなくなったジュエルシードを封印に出かけたフェイトは、そこで時空管理局に遭遇する。
 マズイ、とプレシアは思った。彼女自身も、死から蘇生したアリシアも、人造魔導師と呼ばれることになるクローンであるフェイトも、プレシアとアリシアを夜過人にした茉莉も、管理局に拘束されるのは危険すぎる。
 時空管理局は、別に悪の組織ではない。むしろ、法の下に正義を行う組織だと言える。
 だけど、大きな組織には、暗部がつき物であり、管理局は大きすぎる組織であった。
 どのような高潔な意志の元に結成されたとしても、長い歴史を持つ大きな組織であれば暗部は切って離せず、その暗部が自分たちのようなサンプルを見逃してくれる保障はどこにもない。
 プレシアとしては、自分はともかく、大事な娘たちと、ついでに恩人の身の安全を、そんな賭けの盤に乗せる気にはなれない。
 だから、フェイトが管理局に捕縛される恐れのある状況に陥ったとき、迷わずに管理局の次元航行艦と、その協力者である白い服の少女に魔力攻撃をくわえた。
 それは、全て娘フェイトのための行為であったが、その想いはフェイトに届いておらず、同時にプレシアもまたフェイトの内心を理解しきれていなかった。
 フェイトが、白い服の少女を庇って墜ちるなどとは、想像の埒外であったし、結果として、プレシアが狙ってやったと思い込んだアルフが気絶したフェイトを抱えて管理局に保護を求めるなどとは、想定外にも程があるだろう。

 元々、フェイトに辛く当たってきたプレシアに対し、アルフの心証は悪い。
 きっと、管理局員に対して、いかにプレシアがフェイトに酷いことをしていたかを語り、ジュエルシードを集めろといったのも、プレシアだと訴えていることだろう。
 別に、そのこと事態は構わない。問題はフェイトとアリシアのことである。管理局であれば、自分の過去を調べるなどということは簡単であろうから、自分に娘が一人しかいないことも、その娘が26年も前に命を落としていることも、すぐに分かるはずだ。
 そこまで調べれば、フェイトがクローンであることも容易に察することができるし、あるいはアリシアのこともクローンだと考えるかもしれない。死者の蘇生などという戯言に比べれば、そちらの方がよっぽど説得力があるのだから。
 倫理的に認められない研究で二人ものクローンを作った、ジュエルシードを欲しがる違法研究者の魔導師がいて。しかも、管理外世界にばら撒かれた中で、たった一つだけ見つからないジュエルシードがあって、それを持っている恐れがある。
 それは、管理局員が、プレシアの捕縛に動くには、それだけで理由としては充分である。
 あと管理局の次元航行艦に攻撃をくわえてしまったし。
 このままでは、アルフが時の庭園の場所についても洩らすだろう。
 場所を移動する。というわけにもいかない。そんなことをしてしまっては、フェイトまで帰って来れなくなってしまう。
 しかし、やってくるであろう管理局の武装局員に、みすみす捕まるわけにはいかないし、時の庭園内に常備している傀儡兵で応戦するにしても、万が一にもアリシアを巻き込んでしまったらと思うと気が気ではない。



 カリカリ、カリカリ。

 圧し掛かるストレスに耐え切れず、猫が爪を研ぐかのように、壁を引っ掻く。

「世界は、こんな筈じゃないことばかりだわ」
「何やってるの、母さん?」

 自分を呼ぶ娘の声に振り返り、次に自分を省みて、ホント何をやっているのかしらと自問する。

 しゃがみこみ、ブツブツ独り言を言いながら、爪で壁を引っ掻く、いい年をした小母さん。
 正直、他人がやっていたら正気を疑わざるを得ない場面である。

「というか、どうしたのアリシア? 茉莉と一緒に遊んでいたんじゃないの?」
「遊んでたよ!」

 元気良く答えるアリシア。ちなみに、その遊びとは夜過人の人外の身体能力を使った鬼ごっこだったりしたが。まあ、どうでもいい話である。

「でもね。ちょっと休憩だって言って、また空を見てたんだけど。その時に、これを貰ったの」

 そう言って、差し出した小さな手の平の上には、碧眼の瞳を思わせる一つの宝石が乗っていた。

「それ……、どうして茉莉が……?」
「うん? ここに来る少し前に海で拾ったって言ってたよ?」

 なるほど、ひょっとすると、茉莉が時の庭園に飛ばされてきたのも、これが原因なのかもしれない。
 しかし、ジュエルシードのことは話した覚えがあったのだけれど、現物を見せてなかったのが仇になった。
 これでは、管理局が時の庭園に来るのに妥当な理由が出来てしまったではないか。

 どうしてこう、悪いほうへ悪いほうへ話が転がって行くのかしら。前世で何か悪いことでもした? それとも、先祖が何か呪われるようなことでも?

 ブツブツ、ブツブツ、独り言をもらすプレシアをアリシアは生暖かい視線で見守るのであった。





 後に、プレシア・テスタロッサ事件と呼ばれることになるはずだった今回の事件は、急速に解決へ向けて突き進み始めた。
 次元震をも起こしかねないロストロギアであるジュエルシードが、第97管理外世界に散らばってしまったのは、純粋に事故によるものであろうと、クロノ・ハラオウンは思っている。これは、次元航行艦アースラの艦長にして、クロノの母であるリンディ・ハラオウンも同じ考えである。
 人為的な犯行であったなら、犯人はかならずジュエルシードを確保に動くはずだが、実際に現れたのはフェイト・テスタロッサただ一人。
 しかも、彼女が活動を始めたのは、事故の後しばらく動けなかったユーノ・スクライアに代わってジュエルシードを集めだした高町なのはに、二週間以上も遅れを取っている。
 これで、事故と繋げて考えろというのも無理があるだろう。

 だが、ジュエルシードを巡っての管理外世界での魔法戦。それに、アースラへの攻撃。そして、ジュエルシードの最後の一つを隠匿している疑い。
 それらを含めた様々な理由で、ハラオウン親子は、プレシアの捕縛に動き出す。
 プレシアが隠れているであろう場所の情報も手に入った。あとは動くだけである。

 そうして、プレシアの身柄確保のために、何人もの腕利きの武装局員を時の庭園に送られた。

 そして彼らはプレシアの魔法の一撃で全滅した。別に死んだわけではないが。

 その後、局員と共に送り込まれたサーチャーがプレシアの言葉をアースラに伝える。

「ごきげんよう。時空管理局の皆さん。私は、別にあなたたちと争うつもりはないの。あなたたちの目的は、これでしょう?」

 そう言って、差し出した手の平の上には、一つの宝石。唯一つ見つからなかった最後のジュエルシードは、やはりプレシアが持っていたのだ。
 だが、ここで、それを取り出す意図が分からない
 どういうつもりかと考えるアースラクルーに、プレシアは告げる。この最後の一つと、フェイトを交換しないかと。
 その提案に、クロノは混乱する。プレシアはジュエルシードを必要としていたのではないのか。そして、フェイトなど、そのための道具でしかなかったのではないのか。フェイトの使い魔からもたらされた情報から考えれば、それは間違いないはずなのだ。
 なのに、プレシアは、フェイトのためにジュエルシードを手放そうとしている。
 アルフが嘘を言っていたのかとも考えるが、それはないなと判断する。あの直情な使い魔に、そんな器用な嘘が吐けるとは考えにくい。
 では、何が狙いだとクロノは考える。ここで、素直に取引に応じるつもりはない。相手は、犯罪者なのだ。必ず何かの裏があると考えるべきである。
 そうして頭を悩ませた結果、クロノは正解ではないかもしれないが、それに近いと思える回答をひねり出す。

 フェイト・テスタロッサは、プレシアが自分の娘を基にして作り上げたクローン人間である。彼女は、果たしてこの少女を何者だと認識していただろうか。
 娘? ありえない。アルフから聞く限りでは、プレシアにフェイトへの愛情は感じられなかった。まあ、あの精神的に幼い使い魔の言うことを一から十まで鵜呑みにするのも問題があるだろうが、信用に値する情報であろう。
 では、なんだ? そう考えて、ふと気づく。フェイトは、本当の意味で道具だったのではないのかと。
 プレシアが必要としたのは、自分の作った道具の性能を測る機会と、経験を積ませることだったのではないだろうかと。
 つまり、元々プレシアはジュエルシードなど必要とはしておらず。たまたま、それを集めている魔導師がいたので、ぶつけ争わせる目的で集めさせていたのではないだろうか。だから、もはや用のなくなったジュエルシードを手放すことで、自分の作った道具を回収しようとしたのではないのか?
 これは推測に過ぎない。だけど、プレシアの元の望みがアリシアの復活だなどと知らないクロノは、これをありえないことではないと思い、この考えが正しかったなら、自分はプレシアを許すことが出来ないなと憤る。

 もちろん、その考えは間違っているのだが。

 プレシアの目的は、アリシアとフェイト二人の娘──ついでにアルフと茉莉も加えていいかもしれない──と穏やかな日々を過ごすことである。
 まあ、ジュエルシードに、もはや用がないというのは間違ってないが。今のプレシアにとって、大切なのは家族であり、そこに裏などない。本人的には、フェイトが帰ってきたら、もう魔導師も辞めて、どこかの管理外世界に家族で、こっそり住み着いてもいいかななどと考えていた。住み着かれたほうは迷惑するかもしれないが。

 しかし、世の中は、ままならないもの。プレシアの来歴やアルフの証言から、彼女が悪人であると、ほぼ確信してしまったクロノは、決してフェイトを渡せないと決意する。
 最悪の場合、ジュエルシードを持って逃げられるかもしれないが、それでもフェイトを渡すわけにはいかない。
 それは、人として正しく、組織人としては間違った判断なのかもしれない。だけど、管理局は人を守る組織であり、そこに所属することに誇りを持つ自分の判断は、褒められたものではなくとも、恥じるべきものではないと、胸を張って言える。
 だけど、引けないのはプレシアも同じ。自分の持ちかけた取引が断られたからと言って、大切な娘を諦めることなど出来ようはずがない。

 かくて、両者は激突する。
 自身の誇りと、娘への愛ゆえに。



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難解な問題から正解を解き明かす優秀な頭脳を持ってても、前提となる情報の重要な部分が抜けてたり間違ってたりしたら、見当違いの発想をしてしまうんじゃないかと思った第四話。


フェイトは睡眠中で、今回涙目になったのはプレシア。


実は、この話に置いて、バトルを書く気がまったくなかったりします。
デバイスに英語やらドイツ語やら喋らすの面倒だし、その辺り頑張って書いても、プレシア無双になるだけなので。


ところで、

 しゃがみこみ、ブツブツ独り言を言いながら、爪で壁を引っ掻く、4ピー歳の小母さん。

とか書こうと思ってたんですが、プレシアの年齢がいまいち分からなくて断念しました。
アニメ1期11話だと、アリシアが死んだのは26年前。
それだけじゃ、分からないなとWikiを見たら、1期SS02だと、プレシアの1期時点での年齢40歳。
つまり、アリシアを生んだのは、9歳の頃か? と思ったら、小説版だと、アリシアが産まれたのはプレシアが28歳の時。

分かんねえよ。



[9208] 決着
Name: 車道◆9aea2a08 ID:555837fb
Date: 2009/06/04 20:00
 最初、プレシアから、今日は部屋で大人しくしているようにと言われた時、アリシアは、その言葉に逆らうつもりなどなかった。
 幼い少女にとって、親の言葉は絶対であり、逆らおうなどとは考えもしないのだから。
 だけど、同時に子供とは約束を忘れてしまいがちな生き物である。
 約束を破るのではない。忘れるのだ。
 アリシアは、プレシアには部屋から決して出てはいけないと言われた。だが、理由は説明されず、しばらく大人しくしていた後、暇をもてあました少女は、母との約束を曲解し始める。
 外を出歩いてはいけなくても、他の部屋に行くのなら許されるのではないかと。
 そうして、部屋を出ようとしたアリシアは、自室の扉が施錠されていることに気づく。
 これは、別にプレシアがアリシアを信用していなかったからというわけではない。時の庭園に入り込んできた管理局員が、万が一にもアリシアの部屋に入り込んだりしないようにという保険のようなものである。
 だけど、そんな事情を知らないアリシアは、ほっぺたを膨らませる。
 たった今、約束を破ろうとしていたという事実を棚に上げて、母さんは、わたしを信じてくれていないんだと憤慨する。
 そっちが、そういう考えなら、こっちも約束なんか知るもんかと力ずくで扉を開けてしまおうと考えたアリシアだったが、それは早々に諦めることとなる。
 そもそも、管理局員の侵入を阻止するための施錠である。間違っても、魔法で扉を破壊されたりしないように、防護の魔法もかけてある。
 だけど、アリシアは諦めない。夜過人がどうとか言う話は理解していないが、今の自分が物凄い力持ちになっていることは理解している。
 だから、拳を握りしめる。叩きつける先は、目の前の扉。

「たぁーっ!」

 響く轟音。砕ける拳。扉にはベッタリと手の形の血が張り付く。

「いたああぁぁっ!!」

 いくら夜過人の身体能力が優れていても、肉体の強度は常人と、それほど変わらないのであるのだから、これは当然の結末。しかし、その結果、どういうわけか扉にかけられた魔法が消え、扉は開くのだった。



 時の庭園を訪れたクロノと、協力者である、なのはとユーノを迎えたのは、幾多の傀儡兵である。
 魔導師で言えばAランクに相当する、それらは、しかし長き努力と経験の果てにAAA+のランクを持つに至ったクロノには敵足り得ない。
 消耗を抑えて発動させた魔法の一撃だけで、複数の傀儡兵を破壊し先に進む。彼にとっては、その程度の相手。
 魔導師になって日の浅い、なのはでは、全開の魔法でやらなければ出来ない芸当を容易くやってのける。
 だけど、油断は出来ない。進む、この先には管理局の武装局員を一蹴した大魔導師プレシア・テスタロッサがいる。負けるつもりはないが、勝てるのかと問われれば、難しいと答えるしかない相手だ。
 そうして傀儡兵を蹴散らし進む三人は、プレシアの前に一人の少女と邂逅する。



 茉莉もまた、アリシアと同じように部屋から出るなとプレシアに言われていたが、それを守る気はなかった。
 彼女は、この時の庭園で自分が青空を見れるのはプレシアのおかげだと理解していて、そのプレシアが、何か困っているのなら手を貸さなくてはと決心していた。
 もちろん、アリシアの部屋と同様、彼女の部屋の扉も魔法で封じられていたが、彼女にとって、それは意味を成さない。
 夜過人には特殊な能力を扱える者たちがいる。そして、茉莉の持つ能力は、触れたものを風化や老化させる能力。
 それを使えば、魔法に封じられた扉を腐食させ破壊することなど造作もない。
 そうして、部屋を出た茉莉は、プレシアの元へ向かう途中で、三人の子供たちに出会う。



 アルフの望みは、フェイトの幸福である。だけど、見た目とは違い幼い精神しか持たない彼女には、何がフェイトのためになるのかを理解できず、暴走する思考のままに突き進む。
 本来なら、自分は意識を回復しない主から離れるべきではないのかも知れない。
 だけど、アースラに来て、そこにいる人たちに触れて、彼女は考える。この人たちはフェイトに優しくしてくれる。フェイトに必要なのは、プレシアなどではなく、ここにいるような人たちであると。
 だから、彼女は時の庭園に向かったクロノたちの手伝いをしようと、後を追うことにした。
 そうして、破壊された傀儡兵の残骸の転がる通路を進む彼女は、小さな少女と出会う。



 最初アルフは、その少女をフェイトなのではないかと思った。見た目の年齢からして違うのだから、少し考えれば別人だと分かったのだが、それでも間違えてしまうほどに二人は似ていた。
 アルフが、その少女、アリシアと出会うのは、これで二度目である。
 だけど、前に会ったときは、その場にフェイトとプレシアがいて、主を盲愛するのと、それがためにプレシアに激しい怒りを覚える彼女は、それ以外の存在を薄い印象でしか認識していなかった。
 そのために、管理局でプレシアや時の庭園の事を話したときも、アルフはアリシアや茉莉のことは、一言も話していなかったりする。
 とはいえ、まったく覚えていないというわけでもない。アリシアを、あの時にいた少女であると思い出したアルフは、一瞬、強い憎しみを燃やすが、それもすぐに消える。
 アルフにとって、プレシアは憎むべき敵であり、その仲間と思われるアリシアも、憎しみの対象であるはずであった。
 しかし、それ以上に主を愛する彼女には、フェイトに似すぎているアリシアを憎むことが出来ない。
 もしもクロノが、フェイトはプレシア・テスタロッサが作った、アリシアのクローンであると話していれば、アルフはアリシアを憎むにしろ愛するにしろ、その感情を定めることが出来ていたのだろうが、余計な心労を与えることもないだろうと黙っていたために、彼女は少女をどう扱っていいのか分からない。

「えーと、アルフだよね?」

 尋ねてくる声は、フェイトと、まるで同じで、アルフは困惑し「あ、ああ」と呟き頷くことしか出来ない。

「ねえねえ、あなたフェイトの使い魔なんでしょ? フェイトはどうしたの? まだ帰ってこないの?」

 人懐っこい笑顔で聞いてくる少女の、その質問の内容に、アルフは一瞬にして湧き上がった怒りに身を震わせる。

「どうしたも、こうしたも、あるかい!」

 怒声を上げた彼女の内心に浮かぶのは、プレシアの魔法を身に受け、眠り続けるフェイトの姿。
 あんなことをしておいて、何を言っているのかとアルフは憤る。
 だけど、怒鳴られたアリシアの方は、ただ、ビックリした顔でアルフを見返すだけである。
 当然だ、アリシアは何も知らない。アルフの怒りも、フェイトが今どうしているのかも、自分が目覚めるまでに、フェイトがどんな仕打ちを受けていたのかも、自分を蘇らせるためにプレシアが、どれほどのことをやっていたのかも、そもそも自分が死んでいたことすら知らない。
 だが、ここでアルフは苛立ちと共に、自身の知る怒りに満ちた真実を吐き出す。フェイトが、いかにプレシアに虐げられていたかを、そうして扱き使っておいて、最後には魔力攻撃をくわえて使い捨てにしたことを。
 それは、アルフにとっての真実であり、事実とは異なるのだが、それを聞いたアリシアは顔色を変える。

 アリシアにとって、プレシアとは優しい母親であるというのが絶対の真実である。
 それは、間違いではない。プレシアの狂気はアリシアの死と共に生まれ、アリシアの復活と共に消えたのだから。
 だけど、アリシアにはアルフが嘘をついているとは思えない。そもそも、まだ幼く人を疑うことを知らない少女なのだから。
 だから、少女は言う。

「母さんの所に行こう」

 別に、プレシアの捕縛に協力しようと考えたわけではない。アルフの言葉を信じたというわけでもない。
 ただ、話を聞くべきだと、そうして結論を出すべきだと思ったのだ。だから、自分は母が何を言おうと、それを信じ受け入れようとアリシアは決意するのだった。



 クロノたち三人が出会ったのは、自分たちよりは年長の少女である。
 穏やかな顔の、その少女は人に警戒心を抱かせない無垢な表情で、彼らに話しかけてきて。だからこそ、クロノは警戒する。
 ここは、大魔導師であり、今では犯罪者であるプレシア・テスタロッサの住処である。そこにいる人間が無害な一般人のはずがない。
 と、クロノは思ったのだが、他の二人はそうではない。

 なのはは、プレシアについて詳しい話を聞いていない。だから、ここはクロノに協力することよりも、話をしたいという考えの方が強いし、目の前にいる優しそうなお姉さんとも話をしたいと考える。

 ユーノがここにいるのは、義務感による。自分がなのはをこちらの世界に引き込んでしまった。しかたのない事情があった。だけど、その責任は取らなくてはいけない。だから彼は、なのはを肯定する。それが、彼の責任の取り方であるし、なのはなら間違った選択はしないと信じてもいる。

「あ、あの、あなたは、誰? どうしてここに?」
「ん? 私は、四方茉莉。あなたたちは?」

 あっさりと返ってくる答えに、問いを放った、なのはは拍子抜けしながらも、自分たちも自己紹介をした後、問いを重ねる。

「茉莉さんは、どうしてここに? あなたもプレシアさんの仲間なんですか?」
「プレシアは、友達だよ。アリシアもね」

 アリシアという名に、クロノはピクリと反応する。なのはには話していないが、それは26年前に死んだ、プレシア・テスタロッサの娘の名である。その友達というのは、どういう意味なのか。どう見ても、十代の少女である茉莉が生前のアリシアと顔見知りであったとは考えにくい。であれば、友達というのは言葉通りの意味ではないのではないかとクロノは考える。
 例えば、茉莉はプレシアとはクローン兵士を作る研究者仲間であり、そのクローンの素体がアリシアであり、それを友達と呼ぶ異常者なのではないだろうか。
 そこまで考えて、いや、と首を振る。
 クローンの素体がアリシアであることを考えれば、その研究は、その死後から始まったものであるはずだ。どう見ても20年も生きていない少女が、仲間だということはありえない。
 もちろん、そんな考えを口に出すはずもなく、だからアリシアのことを知らない、なのはは心に浮かんだ疑問を、そのまま口にする。

「あの、アリシアって誰なんですか?」
「プレシアの娘だけど?」

 茉莉にとって、プレシアは友達であり、アリシアの母親であるということ以外の知識はなく、アリシアに対しても同じである。だから、他に答えようがないのだが、それに、なのはは困惑する。

「プレシアさんの娘って、フェイトちゃんじゃないんですか?」
「そうだよ。それで、アリシアはフェイトちゃんのお姉さん」

 あっさりと明かされる事実に、なのはたちは理解が追いつかない。
 なのはたちが、アルフから聞いた話には、フェイトとプレシアのことしかない。
 フェイトに姉がいるというのなら、何故フェイトは、あんなに一人ぼっちの寂しい目をしているのか。何故、アルフは話さなかったのか。
 例えば、そのアリシアと言う女性が自分の家のように忙しくて妹に構っている暇のない立場の人間なのかとも思うが、それならそれで、アルフが妹を構わない薄情者と文句を言わないのはおかしい。ちなみに、この時点での、なのはのイメージするアリシア像は、フェイトさん19歳である。

 そして、クロノは別の事を考えていた。
 彼は、アリシアが随分と前に死んでいることを知っているし、死者の蘇生だなどと聞かされたとしても信じはしない。
 だから彼は、こう思う。
 プレシア・テスタロッサが作ったクローンは、一人ではない。まず最初に作ったクローンに、死んだ娘と同じ名前をつけて、次のクローンには、別の名前をつけたのだと。

 とんでもない勘違いである。

 だけど、この女性は何者だろうかと、クロノは考える。プレシアを友達と言っているのだから、この事件にも何らかの関与があるのだろうと思うのだが、とても、そうは見えない。というか、魔導師ですらなさそうなのである。まったく魔力を感じないどころか、リンカーコアがあるのかも怪しい。
 魔導師ですらない、歳若い女性。それが、この事件にどう関わっていると言うのか。
 頭を悩ませるクロノだったが、こういう場合は、下手に頭のいい人間より、素直な人間の方が正しい行動をとるものである。

「えっと、友達と言うことは、茉莉さんはプレシアさんのやっていることに協力してるんですか?」

 直球で、質問をぶつける、なのはにクロノは目を剥くが、この場合は、それが正しい。この場合、一番正しい選択は、それなのだから。

「協力って、プレシアは何をやってるの?」

 質問に質問で返されて困惑する、なのはだが、実際、茉莉はプレシアが何をやっているのか知らない。いや、プレシアが『じゅえるーど』とかいう何かを集めに行ったフェイトを見守るために部屋に篭もっていたことは知っているが、さすがに、それのことではないだろうと思う。
 
「というか、私が、ここに来る前のことは知らないけど。プレシアって、基本的に私やアリシアとご飯食べたり、お茶飲んだり、散歩してる時以外は、ずっとフェイトちゃんを見守っていたと思うけど?」

 その見守るという言葉が、監視の意味にしか聞こえないのは置いておくとして、気になったのは、「私が、ここに来る前」という部分である。

「茉莉さんは、いつからここにいるんですか?」

 無邪気に尋ねる少女に、茉莉がニコリと笑って答えた日付は、今から二週間ほど前。

「それって……」

 思いつくのは、なのはとフェイトがジュエルシードを奪い合い小規模な次元震が起きた日だということ。
 どういうことかと疑問を覚える三人に、茉莉は、あっさりと解答を口にする。

「なんかね。歩いてたら、空を飛んでる人を見たんだよね」
「空を?」

 うん。と、なのはに頷いて見せて茉莉は続ける。

「多分、子供だったんじゃないかな。黒い服を着た子と、白い服を着た子が空で喧嘩してたんだよね。それで近くで見ようと思って、そっちに走っていったら、その子たちの間で何かが光って、そしたら、その前に海の近くで拾って持ってた宝石が光ったなぁって思ったら、ここにいたの……」
「その宝石というのは?」
「なんか菱形の青い宝石。アリシアにあげちゃったから、今は持ってないけどね」

 クロノの質問に答えながら、茉莉は三人を、まじまじと見つめる。

「黒い服……」

 そう言って、クロノを見つめ、

「白い服……」

 呟きと共に、なのはに視線を移す。

「もしかして、きみたちが喧嘩してたの?」

 そんな疑問に、三人は答えられない。なのはには心当たりのある話だったし、クロノも当事者でこそないが、その話は聞いている。
 そう、その黒い服と、白い服の二人の子供とは、フェイトとなのはである。
 つまり、茉莉の言うことを信じるなら、彼女は元々第97管理外世界の住人で、なのはとフェイトのジュエルシードを巡る争いに巻き込まれる形で、ここに転移してしまったということになる。

 なのはとフェイトが、ジュエルシードを奪い合いぶつかったことで、それが暴走。それ自体は、フェイトがその身をもってして収めたが、おそらくジュエルシードだったのだろう茉莉の持つ宝石が共鳴し発動。そして、彼女を転移させ、その先がたまたま時の庭園だった。
 だが、そんな偶然がありうるのだろうか? というか、ありえたら茉莉はプレシアの協力者でもなんでもなく、ただの被害者ということになってしまう。
 しかも、加害者の一方が、今は管理局の協力者になっているとなると、真面目なクロノとしては、茉莉に負い目が出来てしまう。
 当事者の、なのはは尚更だ。
 と言っても、それは茉莉の言葉が事実であったらの話である。ジュエルシードを巡った争いの場は結界で外部から遮断されていたはずである。拾ったジュエルシードの不思議パワーっで、何故か結界を越えてしまったとも考えられるが、今は、それを検証している時間はない。
 自分たちは、プレシアの捕縛に来ているのだ。こんなところで、足止めを受けている暇はないのだ。

「その話は……」

 また後にしよう。そうクロノが言いかけたところで、爆音が響いた。
 その音は、彼らが向かおうとしていた方向。プレシアのいるはずの部屋の方から響いていた。





 フェイトが目を覚まさなかったのは、プレシアの魔法で大きなダメージを受けて昏睡状態にあったからというより、母親の邪魔をしてしまった自身が、これからどうすればいいのかを悩み続けていたからという理由が強い。
 だけど、どれだけ悩んだところで答えはでない。
 フェイトは、常に母のために働いてきた。ただ母に愛されることだけを考えて生きてきた彼女には、それ以外の思考がない。
 だから、彼女は目を覚ます。自身の答えを探すために。
 病み上がりと言ってもいい体で、フェイトは時の庭園に向かった。平時ならアースラのクルーに見咎められただろうが、今は多くの武装局員たちが返り討ちになったりと非常時である。誰にも見つからずに時の庭園まで来たフェイトは一直線に母の元へと向かう。
 元々、時の庭園はフェイトにとって家と言っていい場所だ。母の居場所など、聞かなくても察しが着くし、そこに向かうのに迷ったりはしない。ここを守る傀儡兵もフェイトに攻撃をしかけたりはしない。だから、彼女は誰よりも早くプレシアの元に辿り着いた。

「あら? お帰りフェイト」

 そんな、笑顔で迎えてくれる母の姿に、フェイトは嬉しくて、同時に悲しくもなる。
 彼女が求めていたのは、母が自分に笑いかけてくれる日常。それは、叶えられたはずであるのに、泣きたい気持ちが湧いてくる。
 だけど、ここに来て、やはり自分がどうしたいのか分からないフェイトは、泣きそうな顔のまま黙り込む。

 実のところ、ここにきて、何を話せばいいのか分からないでいるのは、プレシアも同じである。
 プレシアには、母と娘としてフェイトに向き合った記憶がない。
 実際には、アリシアの記憶をフェイトに書き込んだ一時期に親子として向き合っていた頃があるのだが、それはあくまでアリシアを相手としてのものだったので、フェイトという一個人を娘と扱った覚えはないのだ。
 だけど、今現在のプレシアがフェイトを娘として愛しているのも事実で。だから、向き合わなくてはと、そう思う。

「フェイト。あなたは、何を望むの?」

 その問いに、フェイトは自身の心の裡を探り、しかし首を振る。

「分かりません」

 そう。分からないのだ。
 フェイトの望みは、母に笑顔でいてもらうこと。だけど、それは愛し愛されているという前提があってこその結論である。
 自分が愛されてなどいないと考えてしまえば、もう母と共にありたいとは思えなくなってしまう。
 そして、アリシアの存在は、彼女の心から、その前提となる思いを否定してしまう。
 ならば、アリシアがいなくなればいいのかと言えば、そうではない。
 別に、フェイトはアリシアを疎んじているわけではない。そもそも、アリシアがいるせいで、母に愛されないというわけでもない。ただ、思い知らされるだけなのだ。自分は、アリシアのように愛されてはいないと。
 そんな、娘を見るプレシアの眼は優しい。母たる彼女には、娘の考えが理解できていた。ただ、解決の方法が思いつかないだけ。だから……、

「フェイト。デバイスを構えなさい」

 言うと共に、自身の杖型のデバイスを構える。
 思えば、自分たちは、きちんと向き合ったことがない。最初は、アリシアの身代わりに、その後は人形としか見なさなかった自分と、母の顔色を窺うことしかしなかったフェイト。
 そんなだから、自分たちの思いは、すれ違ってしまうのだ。
 だから、一度ぶつかり合おうと、プレシアは思う。それが正しい選択なのかなど分からない。だけど、何もしなくては自分たちは、ここから一歩も進めなくなってしまうのだから。





 なのはとユーノとクロノと茉莉、それに遅れてアルフとアリシアが、やってきた時、そこにはバリアジャケットをボロボロにして膝をついたフェイトと、息一つ乱していないプレシアがいた。

「フェイト!」

 叫び、駆け寄るのはアルフ。ただひたすらに主を思う彼女にとって、フェイトが傷つき倒れるなどという事態は許容できるものではない。
 そして、それによって、ここにやってきた六人にプレシアが気づく。

「あら? アリシア。それに茉莉。部屋から出ちゃいけませんって言ったでしょう。どうしてここにいるの?」
「そんなのどうでもいいよ! なにやってるの! 母さん!」

 問いに答えず、叫ぶように尋ねる娘に、プレシアは困ったような顔をする。

「なにって、親子のコミュニケーション? 私もフェイトも、アリシアと違って口下手だからね。こうでもしないと、ちゃんと向き合えないのよ」

 それは、プレシアの本心からの言葉だが、当然、誰も同意してくれない。いや、茉莉だけは、そうなんだと納得したが。

「ふざけんじゃないよ!」

 怒声を上げたのはアルフ。彼女から見れば、またプレシアが無抵抗のフェイトを一方的に痛めつけた後のようにしか見えない。
 そんなアルフに、フェイトは首を振る。
 これは本当に、お互いが向き合うための儀式とも言える戦いの結果であるし、一方的にやられたのも、純粋に実力差によるものであり、非殺傷に設定されたプレシアの魔法は、フェイトの肉体に、わずかな傷もつけてはいない。
 だけど、アルフは納得しない。出来るわけがない。彼女にとってプレシアは、フェイトを不幸にする元凶なのだから。
 自分の言葉を信じず、睨みつけてくるアルフに、プレシアはふと思う。
 使い魔とは、主にとって家族に等しい存在である。ならば、フェイトの母である自分は、この使い魔も家族として受け入れる必要があるのではないかと。

「いいわ。なら次はフェイトと二人でかかって来なさい。あ、でも管理局の三人は黙って見ててくれるかしら。これは家族の問題ですから」
「ふざけるな!」

 プレシアの言葉に、クロノは怒声で応じる。彼は犯罪者の捕縛に来ているのだ。当の犯罪者に黙って見ていろと言われて納得が出来るわけがない。
 だけど、そんな彼を止める者がいた。

「だめだよ、クロノくん。親子の問題に他人が口出ししちゃあ」

 何を馬鹿なことをと茉莉を睨みつけるクロノだが、考えてみれば、彼らは彼女に対してプレシアが犯罪者だと話していない。
 その時間がなかったからだと言ってしまえばそれまでだが、その辺りの説明がなければ、プレシアを友達だと言う、この少女が止めてくるのは当然のことである。
 とはいえ、ここで引き下がるわけには行かないし、説明している暇もない。すでに、三人は戦闘を始めたのだ。
 仕方がない。力ずくでと思った時、その気配を察したか茉莉がクロノのデバイスを掴んできた。
 何を? そう思った瞬間、彼のデバイスは、腐食し崩れ落ちた。

「な!?」

 何をしたのかと叫ぶ彼に、茉莉はニコニコ笑い、指を振りながら「秘密」と答える。基本的に能天気で隠し事のない彼女だが、ここで悠長に夜過人の説明をしようとは思わない。
 そして、始まるプレシアとフェイト、アルフ組の戦いを横目に、クロノは歯噛みする。
 別に、デバイスがなければ魔法が使えないというわけではない。だが、プレシア・テスタロッサはデバイスなしで立ち向かえる相手ではない。。
 プレシアは強い。というのが、クロノの感想だ。AAAの魔導師ランクに相当するフェイトが、アルフと二人がかりで、まるで相手になっていない。
 この戦いに、デバイスのない自分が介入したところで、足を引っ張ることしか出来ないだろう。
 一縷の望みを込めて、協力者の二人に眼を向けてみるが、どうも介入する気があるようには見えない。

 そもそも、なのはがここまで、この件に関わった理由はフェイトにある。ここで自分が介入することがフェイトのためになるのだという確信がなければ。彼女は動けないし、なのはが動かなければユーノも動かない。
 なのはの気持ちも、分からないではない。だけど、ここを逃せばプレシアを捕らえることは不可能なことになってしまいかねない。
 プレシアは強すぎるのだ。たとえば、デバイスが無事であったとして、自分がフェイトたちに加担しても、勝てるかどうか怪しいくらいである。フェイトが敗れてからでは、なのはやユーノでは、まず勝ち目がない。
 クロノたちは知らないことだが、元々、大魔導師であったプレシアは、夜過人になることで人外の身体能力をも手に入れたことにより、同程度の力量の魔導師では問題にならないほどの戦闘力を持つに至った。

 その彼女に、魔導師としての力量ですら劣るフェイトたちが敵うはずがない。
 その辺の事情はともかく、決して勝てないことを理解した上で、フェイトたちは退かない。
 フェイトにも、これが自分が母と向き合うために必要な儀式だと理解できたから。
 アルフは、ただ、一度でもプレシアを、ぶん殴ってやらなくては、気が済まないから。

 超高速移動魔法を発動させたフェイトが、魔力刃を発生させたサイズフォームのバルディッシュを振るう。アルフが拳を振るいつつも、バインドでプレシアを縛ろうとする。
 広いとはいえ、室内で行われるそれは、自身にとってすら危険な行為であるのに、フェイトは一向に構わずに乱用し天井や壁を蹴り、多角的な攻撃をくわえる。アルフは、他の人間──クロノたちのことだ──を巻き込むことも構わずに魔力弾を撃ち込み続ける。
 それを、プレシアは余裕を持って回避する。どころか、部屋の入り口で固まっているクロノたちが巻き込まれないように、そちらに向かう魔法は、防御魔法を張って防ぎさえする。
 まあ、プレシアが守りたいのはアリシアと茉莉で、他の三人、管理局組の事など知ったことではないのだが。

 ともあれ、その戦いの中で、フェイトは理解していく。
 プレシア・テスタロッサは、意味のない事をしない。何をする時も、そう研究をしている時も、アリシアと散歩をしている時も、お茶を飲んでいる時も、そこには何らかの意味がある。
 では、その気になれば一撃で打ち倒せるフェイトの相手を、長々と続けている意味はどこにあるのか?
 フェイトには分かる。誰よりも母を愛していると自負している彼女には、これがプレシアにとって必要のない行為であると理解できる。
 つまり、これはフェイトのための戦い。確かに、フェイトを愛していると教えるための戦い。
 その理解が深まると共に、フェイトの顔に笑みが浮かんでくる。最初は薄く唇の端を曲げる程度のものが、それに気づいたプレシアが同じく笑みを浮かべると共に、誰が見ても分かる笑顔に変わる。

 ここまでくれば、なのはやユーノはもちろん、クロノにすら、これがプレシアとフェイトが、家族として新しく始めるためには必要な行為なのではないかと思えてくる。
 クロノからすれば、だからと言って、ここで黙って見ているだけの自分が許容できなかったりするのだが。
 しかし、それを理解できない人間もいる。
 アルフではない。プレシアを認められない彼女にも、彼我の実力差は理解できる。それでいて、勝負がつかないのはプレシアが手加減をしているためだと理解ができる。もっとも、それを自分たちを、いたぶって楽しんでいるだけだと、自身に言い聞かせたりもしているが。

 では、誰なのか?
 アリシアである。明るく、誰とでもすぐに仲良く出来てしまう少女には、不器用な二人の、不器用な対話など分からない。
 少女には、母と妹が喧嘩をしている。というか、母が妹を苛めているように見えてしまう。
 この時、アリシアの動向に注意していた者はいない。魔法をぶつけ合う親子は、お互いしか見えておらず、管理局執務官と、その協力者たちも、高度な魔法戦から眼を離す余裕はなかった。茉莉にいたっては、親子だけでなく、管理局組の動向も観察していたので、アリシアにまで眼を向ける余裕はなかった。
 だから、砲撃魔法を撃ち合う両者の間に、アリシアが飛びだした時、それに気づき止められた者はいなかった。

「やめてよ。母さん!!」

 両手を広げて、自分の前に立ちふさがったアリシアに、プレシアは放ちかけた魔法を止める。
 だけど、フェイトには、アリシアに気づいても、魔法を止めることができない。
 元々、人のそれを超える反応速度を持ち、相対する二人を余裕であしらっていたプレシアはともかく、そんな母と戦っていたフェイトとアルフに、他に意識を回す余地はない。
 プレシアがそうであるように、フェイトの魔法も非殺傷に設定してある。だけど、それの直撃を受けて肉体に何の衝撃も受けないというわけにはいかない。小柄なアリシアであれば、派手に吹き飛ばされることになるだろう。そして、壁なり床なりに叩きつけられれば、ただでは済まない。アリシアが夜過人であると知らないフェイトたちにしてみれば、すわ自分は殺人犯になってしまうのかと誤解してもしかたのない場面であり、知っていても娘を溺愛しているプレシアには見過ごせない事態である。
 だけど、フェイトの魔法はアリシアを襲わなかった。
 フェイトが何かしたわけではない。プレシアが、どうにかしたわけでもないし、もちろん、クロノたち管理局組が助けたわけでも茉莉が手を出したわけでもない。
 ただ、アリシアに触れる前に、魔法が勝手に消えたのだ。フェイトの攻撃だけではなく、室内に充満する全ての魔力がだ。

「まさか、希少技能か?」

 呟いたクロノの言葉を聞いた者はいない。何故なら……、

「みんな、そこに座りなさい!」

 直後の、怒りに満ちたアリシアの言葉の前に、それは小さな囁きであり、逆らい難い迫力を持った命令を前に、プレシアやフェイトのみならず、巻き添えにバリアジャケットまでも解除されいしまった、なのはなんかも含め、その場にいた者は皆、有無を言わさず正座を、させられたからである。

「もう! 母さんも、フェイトも何考えているの? 親子喧嘩にしたって、やりすぎでしょ!」
「これは、親子喧嘩なんかじゃなくて……」

 言いかけたアルフの言葉は、アリシアの一睨みで消える。主、第一のアルフには、フェイトにそっくりなアリシアに逆らう気概がない。

「大体、向き合うためって何? 言いたいことがあるなら、口で言えばいいでしょ。人間には分かり合うために言葉があるのよ」
「ほら、言葉では伝わらないこともあるから……」

 何とか反論を試みるプレシアだが、ジロリと睨んでくるアリシアに「ごめんなさい」と一言呟いて黙り込む。

「伝わらないなら、何度でも話せばいいでしょ。一回や二回、上手くいかなかっただけであきらめてどうするの。茉莉さんも、なんで止めてくれないの!」
「え? 私? だって、家族の間のことに口出すのって、よくないでしょ?」

 能天気なことを言い出す友人に、アリシアはため息をこぼす。

「時と場合によるでしょ。耳に痛いことでも、言うのが本当の友達ってものでしょ」
「えーと、ごめんなさい」

 茉莉を黙らせた後、次にアリシアが視線を向けたのは管理局組であり、その迫力に、なのはとユーノは竦みあがる。
 だけど、クロノだけは退かない。犯罪者の捕縛に来た自分にはやましいところなど、一つもないのだから。
 正座はしているが。



──────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────



うわようじょつよい



[9208] 終幕
Name: 車道◆9aea2a08 ID:555837fb
Date: 2009/06/04 20:01
 本来、P・T事件と呼ばれるはずだった事件は解決した。
 プレシアのやった犯罪行為は多岐にわたり、軽犯罪と呼べるものではなかったが、大事件と呼べるものに発展することはなかった。
 詳しい話を聞くに至ったクロノには、プレシアを捕縛するというわけにはいかなくなったのだ。
 それは、彼女が夜過人という人外の存在になってしまっていたからである。
 不老不死や死者の蘇生に憧れる人間は少なくない。プレシアやアリシアは、その体現者である。つけ加えれば、夜過人には固有の特殊能力を持つ者がおり、アリシアは魔法を消去する能力を持っていた。そんなものを捕縛し、今回の事件をまとめた報告書を提出などすれば、管理局内は大騒ぎになって、本来の業務にすら差しさわりが出てくるだろう。
 いや、もしも不死の秘密が管理局にあると他所に知れでもしたら、次元世界の平和と安寧のためにある管理局こそが、管理世界の平穏を乱す火種になってしまう。そんなことが、認められるわけがない。
 だけど、ならば、どうすればいいのか?
 アリシアのことはともかく、プレシアには、フェイトを管理外世界に送り魔法を行使させたり、アースラに魔法を撃ち込み、その運行を阻害する損害を出したという誤魔化しようのない犯罪行為がある。真面目なクロノには、それをなかったことにすることなどできない。
 そんな風に苦悩するクロノに、茉莉が悪魔の囁きを吹き込む。

「じゃあ、プレシアのやった犯罪は、その辺りの問題のないところだけを上に報告して、本人には逃げられたことにすればいいんじゃないの?」

 そうすれば、最後のジュエルシードの回収さえ済めば、とりあえず事件は解決したことになり、プレシアの存在が争いの火種になることもなく、同時に彼女の罪をなかったことにして許す必要もなくなる。
 もちろん、それはそれで納得し難いものではあるのだが、より多くの人の幸せを願うクロノには、それ以上にいい考えと言うものが思いつかない。
 そもそも、プレシアの不老不死やアリシアの死者蘇生を可能にしたのが、この四方茉莉という第97管理外世界の住人であり、同じ存在が他にいないわけではない少女だと知れれば、多くの次元犯罪者が不老不死を求め、不干渉であらねばならないはずの管理外世界に押し寄せるだろうし、そこに管理局が加わらない保障もない。
 だから、彼は茉莉の言うとおりにするしかなかった。

「くそ。汚れた大人になった気分だ」

 後に、そんな呟きを聞いたアースラの通信主任は、何を今更という顔をしたという。





 そして、長い年月が過ぎた。



 管理局で嘱託魔導師として働いたフェイトは、そのまま正規の管理局員となり、執務官にまでなった。その生涯において独身であった彼女は、思うところがあったのか、血の繋がらない子供を引き取り育成した。彼女の傍には、常に使い魔の狼の姿があったという。
 同じく管理局に入り、フェイトの親友でありつづけた、高町なのはは、親友に合わせたわけではないのだろうが、こちらも独身を貫き、やはり同じく血の繋がらない子供を引き取ることになる。そんな彼女の傍には、常に使い魔のイタチの姿があったという。
 管理局の執務官、クロノ・ハラオウンは、次元航行艦の艦長となり、またアースラ時代の通信主任であったエイミィ・リミエッタとゴールイン。彼女との間に子供も生まれた。

 その後も、色々な事件が何度も起きたが、それらに彼女たちは立ち向かい、解決して言った。

 だけど、それも遠い昔、数百年も前の物語。
 だけど、ここは変わらない。時の庭園と、そこに住む三人の夜過人。時の流れに置いていかれた彼女たちに変化と言うものはない。

 それでいいのだと彼女たちは思う。
 見上げれば、いつもそこ広がる青い空。この空は、どこまでも繋がっている。人と海と街と昼と夜と過去と未来に。
 空を見れば、彼女たちはいつでも、懐かしい大切な者たちを思い出せる。
 だから、自分たちは空の下を歩くのだと、茉莉とアリシアは笑いあう。

 おわ……、

「終わらせるな!」

 静かな時の庭園に、クロノの叫びが響き渡る。
 色々と事後処理が終わり、今は一時的に時の庭園に宿泊している、なのはたちを呼びに来たところで、聞こえてきた会話に聞き耳を立ててみたら、おかしな会話だったので、つい突っ込んでしまったのだ。

「黙って聞いてれば、何を話してるんだ君たちは!?」

 叱りつけるようなクロノの叫びに、二人、茉莉とアリシアは顔を見合わせる。

「何って……」
「後日談ごっこ?」
「なんだよ、その遊びは!? というか、なんで僕がエイミィと結婚してるのさ?」
「え? だって、リンディさんが、クロノくんとエイミィさんが良い仲だって……」
「うん。結婚したらすぐに子供が生まれるはずだよって言ってたよ。半年くらいの計算が合わない期間で。クロノくんはムッツリだからって」
「そうそう。絶対双子だとも言ってた。クロノくんスケ……」
「断じて違う!! ていうか、それむっつりとか関係ないし」

 なんだそれはと、母に内心で怒りを吐き散らすクロノ・ハラオウン14歳。エロいことに興味津々思春期のはずの少年である。
 どうでもいいことだが、エイミィの話を聞いていなければ、後日談ごっこのクロノの、その後は、なのはを嫁に貰っていた話になっていただろう。

「大体、どうして、そんな遊びをやってるのさ」
「ん? 暇だから」
「うん。母さんとフェイトの邪魔をしたくないし、他のみんなは、ほら」

 と顔を向けた先には、木やら茂みに隠れて、ある一方を見ているなのは、ユーノ、アルフの三人がいて。

「私たちも行く?」

 そう言って茉莉が立ち上がり、三人の方に歩くと、彼女たちと同じものを視界に入れる。つまりは、プレシアとフェイトを。



 青い空の下を、フェイトは母プレシアと共に歩く。
 その空が、魔法により作り出された幻影であるという事実はどうでもいい。
 重要なのは、共に歩いている母を自分が愛し、愛されていることだとフェイトは思う。

「本当に、管理局に行くの?」

 尋ねてくる母に、フェイトはコクリと頷き肯定する。
 いくつかの犯罪を行い逃走したことになるプレシアは、この後、時の庭園と共に行方をくらますことになる。
 そこにフェイトは同行しない。
 フェイトは、自分が母に愛されていると理解はしたが、それでも自分は母には必要ないと判断していた。それに、自分は良くても、アルフがわだかまりを捨てられないでいる。だから、一度、距離を取ったほうがいいだろうと考えた。
 精神的に未成熟なくせに、そんな物分りのいいことを考える娘が心配であったが、プレシアは、フェイトの好きにさせるつもりだった。
 フェイト自身、管理外世界で魔法を行使した犯罪者ではあるが、プレシアの命令に従っただけである。あの、人のいい執務官なら、きっと悪いようにはしないだろし、それに……、

「うわっ、こっち見た。ひょっとして、気づかれてる?」
「そりゃ、気づくよ」
「だから、もっと遠くから見守ろうって言ったのに」
「だって、何言ってるか聞こえないし」
「だから、魔法を使えばよかったんだよ」
「なんで、僕まで」

 少し離れた木の影で、そんなことを言い合っているのは、茉莉とユーノとなのはとアリシアとアルフである。あと、執務官もいるのは何故だろう?
 この後、時の庭園ごと姿を晦ませる予定のプレシアには、アリシアと茉莉がついて行く予定である。
 だけど、当然アルフはフェイト共にあるつもりだし、なのはやユーノも管理局の民間協力者として、フェイトと友達でいてくれるらしい。
 フェイトが精神的に余裕を持てるようになったのは、自分は母に愛されていると言う確信が出来たからというのも有るのだろうが、友達ができたからだとプレシアは思う。

 だから大丈夫だとプレシアは思う。フェイトの周りには、優しい人たちがいてくれるのだから。

「そう。あなたが決めたのなら、私は何も言わない。だけど、いつでも帰ってきていいのよ。ううん。いつでも遊びにいらっしゃい」

 笑いかける母に、フェイトは衝動的に抱きついてしまい、プレシアも応えて娘を抱き返す。そこに、かつての、わだかまりは存在しない。

「それなんだけど」

 と、盗み聞きメンバーの一人、ユーノが呟く。

「ここに、遊びに来る時とかに、時の庭園って名前のまま話してると、不信感を買わないかな」

 なるほどと頷く一同の中で、茉莉がいいことを考えたと笑顔を輝かせる。

「だったらさ。こういう名前にしようよ」

 言って空を見上げる彼女に、一同は、ああと苦笑し、声をそろえる。





   『solaの庭園』 完



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振り返ってみると、プレシア救済のためのプレシアの話だったなという感想。
フェイトは、完全に割を食った感じです。
自分で書いといて言うことじゃありませんね。


プロットなしで最後だけ決めて書いた話なんだから致し方なし。

でも、最後があっさりしすぎかな。


最後まで読んでくださった皆様に、感謝を。


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