最愛の娘を失ったときから、彼女は狂気に囚われていた。
科学という名の悪魔に魂を売り払い得た代償は、娘の姿をした別物。
娘は魔法が使えない。娘は左利き。娘は快活な性格。
列挙すれば限の無い、些細な違いが彼女は認められなかった。
故に娘の形をした物に対して、苛烈に当たる。
最愛の娘を真似た物に対して、苛立ちを覚えながら。
結局、娘の形をした物は娘ではない。
硝子の檻越しに眠る娘は、その母を見てどう思うか。
最早知る由も無く。
結局、彼女は娘と共に闇の底へ堕ちていった。
そこに希望があると信じて。
報告書No.SSC866E8795:通称P.T事件についての回顧録。
「んっ お前何書いてんだ?」
「ああ… 俺が近い将来提督になった時に出版する回顧録用の原稿。」
「寝言は寝てから言ってね!」
「俺が提督になったらお前真っ先に前線に送るわ。」
在アースラ武装局員。
夢を見るだけならタダだ。
第二話 無題
裏庭に出来たクレーターから、テスタロッサさん一家(覗くテスタロッサさん)を
見つけた僕は、途方に暮れていた。
どうしよう、彼女達とこのクレーター………
そうだ、こんなときにアルが居るんじゃないか!
おーい!ア『ここに。』ぎゃあああ!突然出てくるんじゃない!!
真横に登場するのならばまだ良いが、
まさか僕の腹からにょきりと生えるように出現するとは思わなかった。
『ちょいとしたサプライズですよサプライズ。』
なんて心臓に悪い登場の仕方をしやがるんだこいつ。
『でも楽しかったでしょ?』
全然楽しくねえよ!!
SAN値が下がった気がするぞっ…
『それよりも、この御二方をどうにかするのでは?』
む、そうだった。
アル、この二人とりあえず父さんと母さんの布団に寝かせてあげて。
『どちらをお父上の方に寝かせますか?』
ん… アリシアちゃんに加齢臭は辛かろう。
ここは年長さんに耐えていただこう。
「テスタロッサさんのお母さんの方で。」
『御意。』
ふよふよと浮かびながらテスタロッサさんのお母さんたちに近づくアル。
半透明だからやっぱり幽霊みたいに見えるな。
もっと昔夜中に寝ぼけて徘徊してるアルをみてちびったのを思い出した。
…いまいましいヤツめッ!
アルはそのまま俵みたいに二人を担いで一緒に消えた。
とりあえず、アースラの画面越しに見たテスタロッサさんのお母さんは血を吐いてたので、
きっと身体の具合が悪いんだろうとあたりをつけたため、布団へと寝かせる事にした。
なんか筒にぷかぷか浮いてたアリシアちゃんも同様と思ったので、同じく布団へ。
アースラでハラオウンくんのお母さんとかが何か説明してたみたいだが、
左から右へ聞き流していたので多分そうに違いない。
要は、体の調子が悪い。そういうことだ!
僕はそう解釈したので、布団に寝かせたのだ。
おっと、人間の回復力を侮ってはいけないぜ。
昔父さんが大怪我をして帰ってきたときも、一晩寝てたらピンピンしてたからね。
その時の父さんは、右手が炭に、左手が氷付けに、首が皮一枚で繋がっているような状況だった。
そういえばお腹に大きな穴が開いていた。足も片方千切れてたし。
もう一度言うけれど、人間の回復力ってのはすごいんだ。
医学用語で言うところの「超回復」ってやつだね!
それよりも問題なのは、僕の眼前に広がる大きなクレーターだ、どうしようか。
…父さんに怒られるのは僕じゃないけど、とりあえず見た目だけ整えておこう。
恐らく母さんが乗り捨てたであろう、コックピットの入り口があきっぱの庭園整備機械に乗り込む。
あ、コックピットから母さんの匂いがする。
『実母に欲情ですか。変態ですね。』
こんどはモニターの前で逆さまにでてきやがったか!
ええい思考を読み取るんじゃない。
そもそもそんな感情もってなかっただろう!!
『ジョークですよジョーク。
御二方は御言いつけ通りお布団に寝かせておきました。
ババアの方はお父上の臭いで多少うなされていますが、なんら問題有りません。』
そ、そうか、ありがとう。
『すべてはルカ様の為に。』
うそつけ。
『てへり☆』
そういい残して再びアルは消えた。
……たまにこのAIがウザい。
んなことよりも、作業作業っと。
母さんトンボはドコにしまってたっけな。
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結局その日は、クレーターを元に戻す作業で一日がつぶれてしまった。
穴の周りに飛び散った土砂を持ってきて均したのだけれど、
やっぱりというか、結構な量の土砂も庭の外に落っこちていったらしく、
そこの部分だけ円形に低くなってしまった。
…バレないかな?バレないよね?
ここまでできた自分をほめてあげたい、と思いながらその日の僕は床に付いた。
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窓の外から聴こえるスズメの囀りで目を覚ました。
カーテンを開ければ、清々しい程の青空が広がっている。
昨日の庭弄りの疲労も、ぐっすり眠ったお陰で元気そのものだ!
とことこと軽快な音を立てて階段を下り、
リビングのTVの電源を入れて、チャンネルをザップ!
「所さんの目がt………ヤッターマン……だ…と……?」
いつも見ていた番組が変わっていた。
あまりのショックに思わず放心してしまい、ついつい遠くへ行きたいまで見てしまった。
旅に出たくなった。
憮然としているとお腹の減る音が聞こえ、その時に初めて我を取り戻した僕は、
とりあえず朝ご飯の準備に取り掛かる。
といっても、冷蔵庫から卵と紅ジャケを取り出し、米と味噌、ワカメと豆腐を
電子レンジに入れるだけなんだけどね。
チーン!
あっというまに目玉焼きに焼きジャケ、お味噌汁の典型的な日本食の完成だ。
うん、文明の利器というやつは便利だなあ。
この鼻をくすぐる味噌の香り…日本に生まれてよかった!!!
『ルカ様別に日本人じゃないですよ。』
我ながら会心の出来の食事に満足していると、どこからともなくアルがふわっと現れた。
おはようアル。
『おはようございますルカ様。』
それと食に国境は関係ないからね。
『さいで。』
うむ。
さあごっはんごっはん♪
ハムッ ハフハフ、ハフッ!!
『きめえワラタ』
アルがチャチャを入れてくる。うるせえ!
モノを食べる時はね、誰にも邪魔されず自由で、
なんというか救われてなきゃあダメなんだ、
独り静かで豊かで…
『い い か ら』
すみませんでした。
何か知らないが怒られたので、謝罪をしつつそのままの勢いでご飯を掻き込んだ。
アルはご飯を食べない。
こいつはトースト派なので、パンに目玉焼きを乗っけて、コーヒーの香りを楽しんでいた。
ん?
こいつAI…だよ…な…?
『こまけぇこたァいいんですよ』
さいで。
朝ご飯を食べ終わったら、庭…裏庭じゃなくて、玄関にある方ね。
庭に出て、新聞を取ってくる。ついでに牛乳も回収っと。
あれ?
いつもとっている新聞の他に、見たことの無い新聞が刺さっている。
…恐怖新聞かッ!?あそこ野球のチケットも洗剤もつけないからイメージ悪いぞっ!
恐る恐る開いてみると… なんだ文々。新聞じゃないか。
心配して損した。
それにしても珍しいな、幻想郷の新聞がこっちに来るなんて…
逆幻想入り…現代入り?
よく見ると、メモ書きが挟まっているのに気付く。
「ルカへ。なかなか顔を合わせられないでゴメンナサイね。
ご飯はちゃんと食べてますか?学校はちゃんと行ってますか?
それはそうと、この間新聞に掲載されたので、その時の記事を送ります。
寂しいときはこの新聞の私でもみて心を癒してね♥ 愛する母より」
へぇ~ 母さん載ってるんだどれどれ……
メモ書にはあまり突っ込まない事にして、新聞を手にとって見てみる。
………紙面を見て僕は直に新聞を折り畳んだ。
たしかに、一面トップ記事で、大きな顔写真いりで載ってるけど……
『明けない夜に終止符!!迷いの竹林で起きた謎の爆発と関係が!?』
…何やってるんだよ母さん……。
『容疑者A氏』って……目線……ずれてるし…。
なんだか妙な気持ちにさせられながら、リビングに戻っていった。
『おふぁ?ふぉーふぁふぁれふぁふぃたふふぁふぁま(おや、どうかされましたルカ様?』
ん、ああちょっと新聞が、ね…。
それよりも口にものを入れながらしゃべるんじゃあないよ。
それと一応僕お前の主だぞ。
だが、なんだかそこまで怒る気にはならなかった。
さっきの新聞のせいで朝からドッと疲れちゃったなァ…
折角だし、もう一眠りしちゃおうかな…
とか考えている時、客間の方から耳慣れない声が聞こえてくる。
「…ここが… アルハザード…?」
後ろで衾が開く音が聞こえた。
どうやら先に起きたのはテスタロッサさんのお母さんのようだ。
「あ、おはようございます。」
『夕べはおたのしみでしたね。砲撃的な意味で。』
うるさいぞアル。
「…あなたたちは… その子、管理局の艦に乗ってたわね…。」
「巻き込まれただけの一般人です。」
「嘘おっしゃい!!!」
途端になにやら杖っぽいのをどっからか取り出し、僕に向けて──雷を飛ばしてきたッ!!!
ぎゃあああ!か、雷じゃ!雷様じゃ!!
たたたたすけてアルえもーん!!!!
『だが断る!
気持ちいいですねこれ。岸辺先生もいい言葉を知っていらっしゃる。』
いいいからはははは早く!!
縄だ縄!!
テスタロッサさんのお母さんを縛につけてはやくーーーーッ!!!!!
バチバチと僕に電撃を浴びせるテスタロッサさんのお母さんだったが、
僕の頭がアフロになる前に、部屋中のありとあらゆるところから鎖が飛び出し、
テスタロッサさんのお母さんをぐるぐる巻きにして拘束した!
「ばっ バインドッ?!」
GJだアル!そのまま椅子に縛り付けてしまえッ!!
「ま、魔力が… 押さえつけられるッ…!!」
そしてそのまま、力なく手から杖を離すテスタロッサさんのお母さん。
電撃も収まったか。
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そのまま椅子に鎖でがんじがらめにしたまま、アルに説明を促す。
「とりあえず、ココがどこか説明してあげてよアル。」
『それでは、僭越ながら~
ゴホン。
ようこそ「~快適な休暇と娯楽を貴方に~」全次元型総合娯楽施設ALHAZARDへ。
私、当施設の管理運営をサポートさせていただいております、
中央集積・愉快型万能萌AI「アルハザード」と申します。
気軽にアル様、もしくはアルさんとおよびください。アルたんは却下です。
そしてこちらが、当施設の第458,813,224代目のオーナー。
“ルカ・トゥリッリ”様です。』
全然気軽な呼称じゃないぞアル。
しかし知らなかったな。
ずっとアルアル呼んでいたんだけど、コイツ
『アルハザード』なんて立派な名前もってやがったのか。
つーかここの場所とおんなじ名前だったんだな。
『そうですよ。判ったらもっと敬いなさい。』
それと敬うのとは関係が一切無いがな。
「ど、どういう事なの…?ここが、私の求めたアルハザードとでも言うの?!」
椅子に縛られたままガタガタと激しく暴れ、
なにやら混乱していらっしゃるご様子のテスタロッサさんのお母さん。
「ああ、貴方の世界では、虚数空間に存在する失われた地とか言われているんでしたっけね。
まぁ、所詮はおとぎ話って事ですよ。
そもそも失われたも何も、最初からココに存在していましたし。」
「そんな…… アルハザードが…… ただの、保養所だったなんて……」
目から光が消えて、がっくりと項垂れるテスタロッサさんのお母さん。
お、おいアル、鬱はいっちゃたぞ!なんとかしろ。
『ただの保養地だなんて失敬な。
私は、あらゆる次元時空の技術を持って作られた、一級保養施設ですよ!
古ではヴァルハラ、アヴァロン、ヘヴン、ニルヴァーナと呼ばれた
それこそ由緒正しきリゾート施設です。
温泉スパリゾートから各国のグルメを取り揃え、
図書室では、無限に転生しても読みつくせないほどのあらゆる書物が閲覧可能!
ブルーレイからHD-DVDはもとより、ベータデッキまで完備!
施設内には他にもカラオケ、マッサージ、ダーツにビリヤード。
お子様の為にも託児所は当然、
大人様の為にも世界の酒を取り揃えたバーカウンターもございます!
たまには育児を忘れて、奥さんと二人でソーマで乾杯…
そんなロマンチックなひと時はいかがでしょうか?
さらには完全個室!あ、もちろん家族連れやカップルのお客様用の
複数人部屋もご用意させていただきました!
そこらにあるスーパー銭湯や安い食べ放題の店じゃあちょっとね…
なんて言っている貴方ッ!!
そう、そこで何故か鎖で拘束されている特殊な趣味をお持ちの貴方ッ!!
貴方の想像とは一味も二味もちがう、至極のリゾートを、是々非々に体感していただきたいッ!』
なんかホテルか旅館の宣伝みたいになっているぞ。
ほらみろ、テスタロッサさんのお母さんぽかーんとしてるじゃないか。
『だが私は謝らない。』
さよか。
ちらっとテスタロッサさんの方を見ると
「…もういいわ。すべてがどうでも。
…こんなものがアルハザードでもいいわ。
最早…私の目的が果されない事がわかった…」
ありゃりゃ、鬱を通り越して捨て鉢になってるし。
世界はこんなはずじゃないことばっかりだな。
「……それで、私をどうするつもり…?」
さらに突然どうすると言われても…お出口は玄関ですけど?
「……私を管理局に引き渡さないのかしら…?私は重罪人…。
アリシアも、アリシアを元に生み出したフェイトも、私にはもう居ない。
私に構ったところで、意味は無いわ。
それどころか、犯罪者の隠匿で貴方も罪に問われるわよ。」
ん、そうなのかアル?
『ワッハハハ。まさか。
虚数空間移動の技術すら持たない管理局程度のコンコンチキが、
私を補足できるはずがあるとでも?』
まぁ、そうだろうなあ。
アースラぐらいの船だったら、たぶん母さん生身で墜とせちゃうぞきっと。
「……何回か魔法を使ったのに身体が軽いわね…。
それより貴方、ここのオーナーとか言われていたけど…
ここに一人だけなのかしら?」
『私も居ますよ。』
「いえ、父さんと母さんがいますよ。
いまはどっかの仕事に飛んでってますけど。」
「…そう… 私も… アリシアと…
もう少し遊んであげればよかったわ…。
もっと、アリシアに注意をしておけば…
あんなことに…。ううううううううううううううう」
ああっ鬱モード再発か!!
どっどうすればいい?助けてアル。
『とりあえずご自身のご家族のご紹介でもされて
お茶を濁してみては?』
な、なるほど流石は中央集積AIだ!
『えっへへへへ・・・まあね!』
「チッ……
えーっと、改めて自己紹介をしますと、
僕の名前はルカ。ルカ・トゥリッリって言います。
私立聖祥大学付属小学校3年生です。
父さんはエドワード、母さんはアンジェラっていって、3人家族です。」
『私は…?』
「…………4人家族です。」
そこまで言って、なにやらテスタロッサさんのお母さんの表情に変化が出た。
「………エドワード・トゥリッリですって…?
“孤独の撃墜王”エディ・ザ・ヘッド!?あ、あなたの母親の旧姓は?」
「アンジェラ・ゴソーだけど?」
「…“魔王(アークエネミー)”アンジェラ…」
今の父さんからは想像できないなんかスッゲーカッコいい二つ名と、
今の母さんからは想像できないなんかスッゲー物騒な二つ名を聞かされた。
「知ってるのテスタロッサさんのお母さん?」
「…ええ。ミッドチルダ… いえ、管理局の管理下世界で、
知らない人間はいないんじゃあないかしら…。
それよりその言い方、長ったらしいから辞めなさい。」
「んーじゃあプレシアおばさ「感電したいのかしら」……」
縛られた状態でどうやったのかは判らないけれども、
何時の間にやら手には先ほどの杖が握られていた。
杖…つーかデバイスだ。高町さんのレイジングハートさんとかバルディッシュとかと一緒。
あれ、なんで僕レイジングハートさんにだけ敬称をつけているんだ…?
そのプレシアさんの持ってるデバイスの先っぽから、紫の電気がバチバチ言っていた。
『ババアでいいんじゃないですか?』
アルのばかやろお!
瞬間的にプレシアさんを拘束していた鎖が全て弾け飛んで、極大の大きさの紫電が
僕とアルを飲み込むむむむむむバチバチバチバチバチ
『残念!私の耐電圧は108億Vまであるぞ!』
ああああらかた電気をほほほほ放出し終えたプレシアさんははははは、
つつつつつ疲れた顔をししししして、でででででデバイスを消したたたたたた。
というか、どうやら魔力が切れた見たいで中空に浮いていたばらばらの鎖は
再び絡みつくようにプレシアさんを拘束していった。
『ちっ 贋作野郎の作った鎖じゃ所詮贋作ですね。
今度でBETAが居る所に派遣してやりますか。』
アルは何事かをぶつくさ言っているが、こいつなんで僕に障壁を貼らなかったんだ…。
「ハァ ハァ…なんて忌々しいAIなのかしら… ハァ ハァ…」
髪が乱れ息も絶え絶えに捨て台詞を吐くプレシアさん。
それについては全く同感ですとしか言わざるを得ないだろう。
「まったく… 製作者の顔が見てムグッ」
危ないッ!慌てて僕はプレシアさんの口を塞ぐ。それ以上はいけない!
「ムッムガムガムガッ(なっ 何をするの!!)」
「アルは、自分の製作者を誇りに思ってるんです!!
アルから延々と製作者の自慢話、その生い立ちから終世までを、
映像音源資料として脳にダイレクトに送ってきますよ!!
腹が立つ事にエンドロールにはNGシーン集とかありますし。」
「ムッ ムゥーム(そ、それはひどい)」
一度うっかり聞いてしまった人がアルから解放されたのは、32時間後でした。
あれほど口がタコになるぐらい注意したのに……。
気絶すら許されずに脳直で話を聞かされる青崎のお姉ちゃんの横で、
ゼルレッチの爺ちゃんが死ぬほど笑ってたのを思い出した。
「んっ ゴホン。それよりも、私の身体… 治ってるみたいなんだけど…」
おっ どうやら話題の転換は上手く言ったようだ。しめしめ。
電撃を浴びた甲斐があったぜ。
ああ、一晩ぐっすり眠ってましたからね。お陰でピンピンでしょ?
「ええ、こんなに肌のツヤがいいのは3十ン年振り… って、違うわ!!
問題はソコじゃない!!私が言いたいのは、私に巣食っていた病魔…。
ミッドチルダの中央病院ですら匙を投げたほどの重病が、こんなにあっさりと
治っている事なのよ!!」
だから、一晩ぐっすり寝たら治ったんですよ。
ほら、証拠を見てください。
「アル、昨日から今日にかけての客間の映像を出して。」
『御意。オプションで私のナレーションとか、キャプションをつけましょうか?』
「それはいい。」
『えー。御意に。』
がっかりしながらアルは、僕たちの目の前に立体映像を流す。
ただ寝てるだけの映像につけるキャプションとかあるのだろうか?
『そこが腕の見せ所ですよ』
うるせえ。
次々と再生されていく映像を、食い入る様に見つめるプレシアさん。
そもそも事実なんだし、何がおかしいんだろうか?
ふと時計を見れば、いつのまにやら11時50分。
そろそろお昼か…。
朝からどたばた続きで時間がたつのがヤケに早いな。さて何を食べようか…。
この間エミヤ兄ちゃんが作ったご飯はおいしかったな。
ギル兄ちゃんに教えてもらった中華はアホみたいに辛かったけど。
んー……… 中華しよう。でも麻婆じゃなくて小龍包が食べたい。
おっと、どうやら映像再生が終わったようだ。
どうでしょ、プレシアさん… ん?プレシアさん?
な、なんかすっげー驚いてる顔してる…
も、もしもーし?
「わ… 私の隣… あ、アリシアが… ね、寝てるわ…」
震えながら、停止した立体映像を指差すプレシアさん。
そりゃそうですよ。一緒に連れてきたんですから。
「い、息を し て る」
ええ、息が止まっちゃう病気なんでしょう?
でも一晩ぐっすり寝たんで大丈夫ですよ。
人間の免疫力は、強いんですよ。
「 ア り シ A 」
そろそろ起きてくるんじゃないですか?
お昼だしお腹もすいてきたと思うし。
と、再び客間の衾が空く音がした。起きてきたな腹ペコさんめ。
『“客間”と“衾”で韻を踏んだんですね。わかります。
リトルヒップホッパーマジパネェっすね!』
うるせえ。
おお…テスタロッサさんに瓜二つだ…。
小さい頃のテスタロッサさんは知らないけれど、きっとそう。
「お腹すいた… あ、おはよう母さん。 ……このお兄ちゃんだーれ?」
寝ぼけ眼をこすりながら、真っ裸で出てきたアリシアちゃん。
そういえば裸だったな。
「おはようアリシアちゃん。僕の名前はルぎゃああああああああ!!」
後ろの方で、何か金属製のものが弾けとんだ音が聞こえたかと思ったら、
高速で接近してくる紫の影に僕は吹っ飛ばされた。
『ルカ くん ふっとばされたー!』
ぎゃあああああああああああああああ!!
僕の身体はベランダの窓をぶち破り、庭を大きくえぐると、そのまま庭の外に放り出された。
戻りたくても戻れなかったので…
僕は考えるのを、やめ
というのは嘘だが、プレシアクレーター(プレシアさんたちの落下地点をそう名づけた。
ちなみに銘を彫った大理石の碑を建てておいた。)
まで吹っ飛ばされた。
体中が痛い。
足を引き摺りながら家に戻る。
「ああAAAAAAアリシアああああああああああ!!!!!!!
おーいおいおい!おーいおいおい1!!」
「んーそんなにきつく抱きしめると痛いよ母さーん」
なんだかドラマチックな展開になってた。
でも、四十ン歳の人がおーいおいおいって泣くのはどうなぎゃあああああああ!!!
アリシアちゃんに抱きつきながら涙を流すプレシアさんは、
僕に指を向けて紫電を打ってきた。
器用な人なんだな…実生活は不器用だったのに…。
上手い事を考えながら、僕の意識は暗転していった。
『別に全然上手くないですよルカ様』
最終話 「自宅がアルハザードだった 後編」
END
後書き
ツッこみは厳禁
正直本筋は以前書いたのとあんまり変わんないよ