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[9402] 【本編・後日談完結】 小池メンマのラーメン日誌
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2015/04/25 21:41

『ハーメルン』とのマルチ投稿でございます。







作者挨拶です。



この作品は作者の趣味全開のSSです。




序~二十三話までが序章。

二十四~三十八話までが二章。

三十九話~五十三話が三章。

五十四話~六十七話までが四章、

六十八話~最終話までが五章(最終章)となっております。


ネタ盛りだくさんですが、よければ読んでやって下さい。







更新履歴


~2009年~


6/07:初投稿。

7/11:チラシの裏より転載。二十四話投稿。

7/15:24.5話投稿。

7/15:二十五話投稿。

7/19:二十六話投稿。

7/20:二十七話投稿。

7/25:二十八話投稿。

8/01:二十九話投稿。二十八話誤字修正。

8/02:三十話投稿。

8/03:三十一話投稿。

8/03:三十二話投稿。

8/04:三十三話投稿。

8/05:三十四話投稿。

8/08:三十五話・前編投稿。

8/09:三十五話・後編投稿。

8/13:三十六話投稿。

8/15:三十七話投稿。三十六話・一部を変更。

8/16:三十八話投稿。(二章・完)

8/16:閑話の1投稿。

8/18:閑話の2投稿。

8/22:幕間の1投稿。

8/22:幕間の2投稿。(やや短め)

8/22:幕間の3投稿。

8/23:幕間の3を一部修正。

8/29:劇場版の1を投稿。

8/31:劇場版の2を投稿。

9/05:劇場版の3を投稿。

9/09:劇場版の4を投稿。

9/13:劇場版の5を投稿。

9/13:劇場版のepを投稿。

9/21:幕間の4・前を投稿。

9/21:幕間の4・後を投稿。

9/21:三十九話を投稿。

9/27:ご指摘の内容を修正。

10/04:四十話を投稿。

10/11:四十一話を投稿。

10/12:四十二話を投稿。

10/14:四十三話を投稿。

10/18:四十四話を投稿。

10/24:四十五話を投稿。

10/25:四十六話を投稿。

10/26:四十七話を投稿。

10/30:四十八話を投稿。

11/07:四十九話を投稿。

11/22:五十話を投稿。



~2010年~


2/12:五十一話を投稿。

2/13:五十二話を投稿。

2/14:五十三話を投稿。

2/25:五十四話を投稿。

2/28:劇場版Ⅱ その壱 を投稿。

3/5 :劇場版Ⅱ その弐 を投稿。

3/7 :劇場版Ⅱ その参 を投稿。

3/12:劇場版Ⅱ その四 を投稿。  

3/14:劇場版Ⅱ その終 を投稿。 

3/16:閑話の3を投稿。 

3/18:五十五話 「うちはイタチ」を投稿。

3/21:五十六話 「小池メンマのラーメン日誌」を投稿。

3/21:五十七話 「別れと再会」を投稿。

3/22:五十八話 「始まり」を投稿。

3/28:五十八話 「因果の果てに」を投稿。

3/28:六十話  「譲れないもの、ひとつだけ」を投稿。

4/2:六十一話  「木の葉の忍び達」を投稿。

4/4:六十二話  「地摺ザンゲツ」を投稿。

4/5:六十三話  「泡沫の光彩」を投稿。

4/6:六十四話・前 「乱戦」を投稿。

4/7:六十四話・中 「混戦」を投稿。

4/9:六十四話・後 「決戦」を投稿。

4/11:六十五話  「犠牲」を投稿。

4/17:六十六話・前 「宴の前」を投稿。

4/18:六十六話・後 「多由也」を投稿。

4/26:六十七話  「桃地再不斬×白」を投稿。

5/1:~章前~  「終わりの始まり、始まりの終わり」を投稿。

5/4:六十八話  「月は見ていた」を投稿。

5/17:六十九話  「錯綜する運命」を投稿。

5/18:七十話   「疾走する宿命」を投稿。

5/19:七十一話  「動き出した者たち」を投稿。

5/20:七十二話  「薬と呪印と男と漢女」を投稿。

5/21:七十三話  「憤怒の炎雷」を投稿。

5/23:七十四話  「うちはサスケ」を投稿。

5/26:七十五話  「事後処理と小騒動」を投稿。

5/29:七十六話  「人の輪、外れた者」を投稿。

5/30:七十七話  「五大国、隠れ里の動向」を投稿。

6/10:七十八話  「木の葉にて・上」を投稿。

6/20:七十九話  「木の葉にて・中」を投稿。

7/19:八十話   「木の葉にて・下」を投稿。

8/2:八十一話   「決戦を前に」を投稿。

9/17:八十二話  「最後の最後の第一歩・前」を投稿。

10/11:八十三話  「最後の最後の第一歩・後」を投稿。

10/18:八十四話  「集結、予兆」を投稿。

10/31:八十五話  「五影会談」を投稿。

11/6 :八十六話  「退けない一線」を投稿。

11/21 :八十七話  「曇天、雪降る荒野にて」を投稿。

11/26 :八十八話  「意志、燦燦と」を投稿。

12/06 :八十九話  「その一歩、踏み出すのならば」を投稿。

12/11 :九十話   「風に舞い」を投稿。

12/23 :九十一話  「共に」を投稿。


~2011年~


1/8 : 九十二話  「十の尾、全の龍を前に」を投稿。

1/16 : 九十三話  「青い鳥となって」を投稿。

1/30 : 最終話   「夢の空へ」を投稿。
1/30 : エピローグ 「そして………」を投稿。

1/31 : あとがきの1 を投稿

2/6 : 「後日談の1」 を投稿。
   : 「キャラクターシート」 を投稿。
   : 「感想返信」 を投稿。


2/18 : 「後日談の2」 を投稿。

3/1  : 「後日談の3」 を投稿。

3/20 : 「後日談の4」 を投稿。

4/1 : 「後日談の?」 を投稿。

6/12 : 「忍術一覧」 を投稿。
      「キャラクターシート」に追記。

6/15 : 「後日談5・前」を投稿。

6/19 : 「余談・裏話」と「後日談5の幕間」を投稿。

6/22 : 「後日談5の幕間」を大幅に改訂、追記。

7/10 : 「後日談5・後」を投稿。

7/13 : 「後日談6」を投稿。

7/24 : 「後日談7・前」を投稿。

7/26 : 「MENNMA ~THE・MOVIE~」を投稿。

8/09 : 「後日談7・後」を投稿。

9/22 : 1~10話を改訂。タイトル追加。

10/06 : 「後日談8」を投稿。

~2012年~

01/12 : 「後日談9-1」を投稿。

01/29 : 「後日談9-2」を投稿。

02/26 : 「後日談9-3」を投稿。

03/15 : 「幕間 小池メンマ 対 桃地再不斬」を追加。(にじファンより移動)

03/20 : 「後日談9-4」を投稿。



~2013年~

05/03 : 「後日談の終」を投稿。

 : 「あとがき・その2」を投稿。



[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 一話 「知らせなき開幕ベル」
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2011/09/22 01:33
俺の名はうずまきナルト。ラーメン屋見習いである。

え、忍者じゃないのかって? ………違います。

そして実はうずまきナルト本人でもありません。

え、誰なのかって? ………秘密です。

気づいたらうずまきのナルトさんになっていました。というか、生前の名前が思い出せません。





今は小池メンマと名乗っています。ラーメン大好きです。







7年ほど前の話でしょうか。

突然です。本当は突然ではないのかもしれませんが、意識的には突然でした。

まず視界に移ったのは、血まみれになった自分の手。小さい手。

辺りを見ると、血まみれになった人達が辺りに転がっていました。

場所は森の中のようです。木々が風に揺れる音が聞こえます。

時刻は夜でしょう。暗いから。

そして向こうからやってくるは、お面の人。






その年でお面ってwww





と思っていたら何かを投げられました。刺さりました。痛いです。心の声が聞こえたのでしょうか。

それでも、こんなものを投げるとはやりすぎでしょう。






あまりにもアレな状況に、反射な思考しか浮かんでいませんでした。

身体に刺さった何か。その激痛に転がっていると、九尾が!とか化け物が!とか言いながらお面さんはドンドン投げてきます。

その尖った鉄塊が10本程、色々身体のあちこちに刺さった頃でしょうか。

それを止める人達もやってきました。

何をやっている!とか言ってます。そうそう。どんどん言ってやって。

やがて、その人達は喧嘩を始めました。仲間割れでしょうか。つか速えです。見えません。



状況が分かりません。全く分かりません。



喧嘩をやめて二人を止めて、と言った方がいいでしょうか。

ていうか、何刺さってるの? え、クナイ? 忍者? おまけに九尾?



………NARUTO? カタカナみっつでナルト?

え、どういうこと?



と頭の中の混乱が益々いい感じに。

パニックがやがて緩やかに、そして絶頂に達しようとしたときです。








吹き飛ばされました。


後で思うと、あれは起爆札だったのでしょう。


その爆風に吹き飛ばされ、意識を失いました。















その後です。

夢の中でしょうか。変な場所に立っていました。身体は痛くないようです。

立ち上がると、少し離れた所に誰か立っています。

………整った顔立ち。でも、表情を渋いもので満たしている、金髪の兄ちゃん。年は20代くらい?

今度は、うめき声が聞こえました。

声の方向を見ると、檻が見えました。でかいです。有り得ないほどにでかいです。

冗談きつい展開に、俺は呆然としました。

小一時間ほどでしょうか。やがて俺はその金髪の兄ちゃん、おそらくは――――四代目火影であろう人物に訪ねました。



これは一体どういうことっすか、と。



渋い表情のまま、説明を始めてくれました。

何でも、忍術の暴走とか、口寄せの暴走とか、九尾の暴走とか、初号機の暴走とか。

……最後のは嘘ですが。

何でもうずまきナルト少年は九尾を恨む者に、殴る蹴る刺すの暴行を受けていたらしく。

執拗に繰り返されたそれに、少年の精神が壊れてしまったようです。




そしてナルト少年フィーチャリング九尾が暴走。

暴れるナルト少年と、立ち向かう暗部の下っ端。






精神の崩壊は九尾の封印にも影響を及ぼしたらしく、事態はあわや封印解放の憂き目に。

どうしてこうなったの事態に、しかし四代目火影が精神体で復活。欠片だけらしいですが、隠していたようでう。

そこで緊急の封印をしようとしたらしいですが――――見事に失敗。

それでも何とかしようと、何らかの術を使って~、とか、辺りに漂っていた九尾のチャクラの影響で~とかなんとか。

その後、延々とうんちくを垂れ流していましたが、聞いていませんでした。


つまり、から始まる結論の言葉が予想できたからです。













「精神だけ口寄せしちゃった、テヘ(はーと)」

「もう一回死ね」










自分の頭をこつんと叩いて舌をだして笑うアホに、取りあえず全力で金的蹴りを叩き込みました。



















「……・で? これからの事は?」

「どうしようか」

無責任な親父の米神を拳で抉ります。厳密には親父じゃねーですけど。

つーか、どうしようかじゃねーだろ。


取りあえずは、現状把握から。

事態は簡単。いわゆる一つの憑依者というやつです。

いや簡単じゃねーよおのれはイタコか、とノリツッコミしましたが、うけたのは目の前にいる阿呆の波風ミナトだけ。

………この駄目オヤジにこんな立派な名前はいりません。


まるでダメなオッサン、略してマダオで十分です。よろしくなマダオ。


俺は空しくなり、つい、といった感じでそのマダオに目つぶしを喰らわしてしまいました。

かっとなってやりました。防がれたので反省はしていません。



さて、どうしようか。


自分、ぶっちゃけ原作もうろ覚えです。あまり思い出そうとしても、思い出せません。というか、記憶が定かではない。
覚えている部分と覚えていない部分がある。しかも何となく違和感がある。ナルト少年の魂が残っているのか………分からない事だらけです。

キーワードを聞くとか、そんな場面に出くわすとか、きっかけがあれば思い出すかもしれないですけど。

まあ、大筋とか名前とか、そんなんしか分からないでしょう。

というかうずまきナルトがこの時点で殺されそうになる事じたいがイレギュラーなのでもしかしたら、思い出しても意味ないかもしれませんが。




あと一つ、ここに来る前の事で直ぐに思い出せたのは。自分はここに来る前に死んだということだけ。

圧倒的な死の感触。

その強烈な印象だけが残っているらしく、それだけは今のポンコツな頭でも思い出せました。


という事はここで生きていくしかないということですか。

まあ、生まれ変わったと割り切りましょう。考えてもどうしようもないし。
死という絶対を多少なりとも誤魔化した事に多少の後ろめたさを覚えますが、ここで自殺するつもりもありません。
命は投げ捨てるものでもないとトキ兄さんも言っていたし。

ともあれ、どうしよう。

取りあえず、痛いのは嫌です。さっきのクナイで悟りました。あんなに痛い思いをするのは、ちょっとゴメンです。
なので、天才溢れる変態忍者達とのガチンコバトルもしたくありません。

アミバクラスの天才(笑)ならなんとかいけますが、大蛇丸クラスの変態(汗)とか本当にごめんなさいです。

少年相手に「やらないか?」とかいう、むしろ大蛇○とか一部伏せ字にして発禁をかけたい特殊性癖人間と関わり合いになりたくありません。

ていうかお前ら全員忍べよ。しのびねえよこっちとしては。ちくしょうめ。





「でも狙われると思うよ?」

「・・・分かってますよ」

事情がもうアレすぎます。このうずまきナルト、狙われない理由がありません。

いやケツじゃなくてタマ(命)の方ね。取りあえずマダオさんに訪ねてみます。



木の葉? 危険だろ。暗部殺したことで、更に事態というか里の忍びがヒートアップしてるかもしれんし。

砂? 論外。万年寝不足狸の相手は御免被る。

霧? 死ねよ。死亡フラグ満載じゃねえか。

雲? ワナビーイェイ。あのノリが無理です。それに、情報が少ない。

岩? 知らんがな。でも何となく危ないイメージ。カカシ編の相手とかやさぐれてたし。それに(ry




―――結論。
ぶっちゃけ何処にいても危険っていう、あんまりな状態。涙が出てきそうです。

もっと波風立たない人生を送れないでしょうか。

「あ、うまいね」

「黙れ死ね」

人中突きをかましてやりました。

怒りのあまり拳が音速を越えたもよう。悶絶しています。いい気味です。





『で、ワシは無視か?』

何やら背後から、不機嫌な声が聞こえてきます。エコーが掛かってます。

振り返ると奴がいました。でかぁぁぁぁあいッ、説明不要! 九尾のキューちゃんです!

「解放されそうだぜキャッホー」から一転して、また封印されたせいでしょうか、かなり不機嫌なご様子。


『待て! 誰がキューちゃんか!』

待ちません。こっちは本当にいっぱいいっぱいですし、勘弁してください。

『ふん………小僧よ。ならば、取りあえずだがこの封印を解いてみんか? そうすれば色々なことから開放される』

鏡見て言えって、この馬鹿。
ていうかあんた九尾でしょうか。なんで長飛丸のセリフ取ってんの。

お前は敵役というかラスボスじゃあねえか。もうつっこむのもしんどいから、あっちいけ。

『……ちっ、人間が』


あーもー。

やーたー。

「いい感じに限界に来てるね」

「ていうかホントまじで、どーすんの?」

「取りあえず………生き延びたい?」

「主観的に死んだばっかりだし、すぐには死にたくはないな」

「それなら、身体を鍛えるしかないね。何でか分からないけど、こっちの様子大まかには知っているようだし」

「まあ………それはおいといて、鍛えるっていうけど師匠おらんがな。身寄りもないし戸籍もない。誰も頼れない………それともアンタ、師匠できんの?」

この四代目はあくまでも影。本人は死んでいる――――はず。

できるのか、と聞くと困った顔をしている。うん、もしかして?


「ん、基本的に僕は四代目の人格を込めた、喋る人形みたいなものだからねえ………だったんだけど」

「その先が聞きたいんだよ。できるのか?」

「………本来なら直ぐにでも消える筈なんだけどね。どうも僕に関しても、さっきの暴走の影響が出ているようだから………まあ、消えるまでなら可能だ」

「なら、決まりだ」


思うところは色々あるが、取りあえず握手。

変態忍者と死亡フラグがひしめくこの世界だ。俺を鍛えてくれるという四代目マダオのこの手は、蜘蛛の糸に等しい。


「取り敢えずは、よろしく頼む」


「こちらこそ、よろしく」

















そして、幾許かの会話の後。

心の中というか、あの暗闇―――精神と時の部屋みたいな空間から頬を叩いて目覚める。

「ここは………川?」

目覚めた場所は河原だった。
服が濡れていて、体も冷えている。しかし、まだまだ死にそうにない。この体は随分と頑丈に出来ているらしい。
でも流石に限界なようだ。追手に出くわせば、死は必死。なので誰か近づいてきていないか、あたりを見回して確認する。

人影はなかった。

『この状況を考えるに………崖下に落ちた後、川に流されたらしいね』

「この声………マダオか。ふん、九死に一生を得たって訳か」

生きているのは九尾の回復力の御陰だろう。

疲れた身体を起こし、取りあえず自分の身体の状態を確認する。

痛みはあるが、何とか動ける。明日には回復できそうだな。

(すぐに動けそうにないから、修行は明日からでいいか?)

『OK』




………なら、今日中に済ましておくか。





















少し離れた所に、一本の大きな木があった。

そこに、石碑を建ててやる。

『………これは?』

(墓だよ。うずまきナルトのな)



これは九死に一生を得られなかった――――精神死した少年を悼む墓碑。

誰も知らず、骸も無く。密かに朽ち果てた少年を埋葬する場所だ。

俺達だけが知っている。本来の「うずまきナルト」は死んだと言うことを。ならばこれは、俺の役割だろう。



(時に父親さんとして、思うところはないのか?)

『あるよ。でもそれは君にいうべきことじゃないから………それに、押し付けたのは僕だ。何を言う資格もない』

(そうだな)


何もかもが筋合いじゃない。知らない俺が悲しんでも、それは違うことだろう。そしてある意味殺したとも言えるミナトも。

でも、同情はする。そして悼もう。

五つの年を超えられなかった少年の――――運命に巻き込まれて死んだ少年の魂を。

墓に名前は刻めないけれど、唯一知っている俺達だけは忘れないでおこう。


『………ありがとう』

(死は悲しい。当たり前に謝礼はいらねーよ)



夜の森の中。

梟の鳴き声が、森に響き渡っている。






空を見上げる。




見事な、満月だった。















そこから先は修行の日々。

最低限、逃げられるだけの力が無いと、危なくて何処にもいけません。

ぶっ倒れるまで修行して、その後回復。その繰り返し。流石は九尾。回復力すごいです。

複雑な思いはありますが、九尾様々です。まあ使えるものは使うべきだよね。

チャクラコントロールは影分身で修行しました。チート乙。

あとは実戦経験です。

これは四代目特製の術、ありったけのチャクラをつぎ込んだ変化の術の御陰で、何とかなりました。

抜け忍というか、とある組織にまじってあちこちでちっちゃい仕事をこなしました。

大きい仕事は何かフラグが立ちそうなので、受けていません。

まあ変化は完璧なので、そうそう俺がうずまきナルトとはわかりませんが、万が一を考えて。


―――まあ、色々と巻き込まれたんですがね。でも精神の健康を損ねるので、忘却に徹します。

殺しも何件か経験しました。あの、言いようのない感覚―――好むはずがありませんが、自分が生き残るためには必要な経験でしたので。

一秒の油断が死に等しくなるこの世界の戦場において、博愛主義者達は真っ先に土くれに還ることでしょう。ましてや未来の敵はかの"暁"。

二つに一つを選びました。後悔も残ってはいますが、夢を諦めて星になるのは嫌です。




そして―――――取り敢えず、金が貯まりました。


力も蓄えましたので、旅に出ました。









目的は、究極のラーメンを作るために。







生前、俺はラーメン屋を営んでいました。

ちょっと若い頃馬鹿やった後、そのつてを頼って~のパターンです。

今でもちょっと感情が高ぶると、昔の行動・思考が漏れ出ます。

不良から心機一転、一心不乱に修行しました。





そして努力の果てに何とか自分の店を持てた、その一年後でした。





交差点で事故した車が、店の中に突っ込んできたのは。




今思い出しても、悔しい思いでいっぱいになります。


ということでその悔しさを払拭するためにも、是非ともラーメン屋をしてみたい。


夢のラーメンを。一心不乱のラーメンを!


逃げるだけの生活はまっぴらですし、どうも人生には張り合いがないとやっていけないようです。

生きるに目標無くば、人は人形に等しい。どこかの愚か者の言葉ですが、一部は同意しましょう。










修行が一段落した後は、各地を回り、各里を回りました。事件にも遭遇しました。

忍務でもないのに、何故がフラグが立ってしまった場合もありました。迂闊でした。












数年が経った頃です。

頭の中に、新ラーメンのレシピと案は、ある程度ですが出来ていました。

が、いざ開店という前に、重大な事実に気づきました。

この世界にも似たような食材はありますが、調理器具が若干違うのです。盲点でした。

それに、食べ物の味も、若干ですが違います。調整しなければならないのですが、長い間料理から遠ざかっていたせいか、勘が戻りません。

そこで、もう一度修行する必要があると感じ、その修行先の店を探しました。



辿り着いたのは、この店でした。






「よろしくお願いします、テウチさん」

「・・・おう」


木の葉のラーメン屋、一楽

原作おなじみの店、あのです。



決めた要因は3点あります。

1、治安がいい。霧とかとは段違いどころか桁違いに治安が良いのです。

2、食材が豊富。砂とか無理です。というか、そもそも砂漠みたいな所ではラーメン屋がありません。

3、これからの事。色々と起こりそうなこれから、現状をいち早く把握していくためには、何より近い場所にいた方が良い。



まあ、ナルト少年の事とか、九尾について思うところはあります。

ありますが、木の葉にいる人全員が、あの暗部のように馬鹿ばっかりではありませんし。

総合的に考えて、この店に決定しました。もちろん、修行中は変化の術を使っていますが。

『ようやるわ』

うるさいわ、童女狐。

あ、ちなみにですが、キューちゃんは今、童女姿になっています。

あくまで心の中限定ですが。

馬鹿ミナトがやりました。

「これはあくまで心の中。と言うことはイメージ次第で出来るかもしれない――――否、出来るはずだ! やってやる!」

との決意のもと、連日連夜試行錯誤を続けての偉業(本人談)らしいです。





素晴らしい才能の無駄使いです。本当に。




どうせなら美女にしたら良かったのに、と聞きましたが、こっちの方が萌えるとのことです。


これでいいのか四代目………と頭を抱えましたが。



不意にこの馬鹿の師匠と弟子の顔が浮かびました。



















即座に納得しました。











『人間というのもアレだの………』

童女姿の狐にアレ呼ばわりされる人達。

シュールでした。とはいえ、可愛いので僕的にもOKですが。




同じ穴の狢?言わないで下さい、頼みますから。ただ可愛い子供が好きってだけですよ。

















今日も修行の日々は続きます。

もちろん、忍者としての修行も欠かしてはいません。

影分身乙です。

ラーメン屋の修行は、生身の方でやっています。

こっちの方でチートはしません。ポリシーです(死語?)







童女狐キューちゃんと、エロ馬鹿四代目。

むしろ四駄目といいたくなるアレな人達と一緒に。




今日も、修行に励んでいます。




[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 二話 「出会って別れて」
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2011/09/22 01:34
いいか。ラーメンにはなあ、ラーメンにはなあ………っ!

男の夢とロマンが煮られ詰まってるんだよっ!


          ~小池メンマ風雲伝、「ラーメン、その意味」より抜粋~




とある修行中の事です。

いかにも怪しい銀髪マスクの人が店にやってきました。

巷、といっても心の中ですが、で噂の変態さんです。

心の中のマダオが興奮していましたが、無視しました。


「いらっしゃい」


新顔の俺を見て、カカシさんは何やら驚いています。

取りあえず注文を聞きます。

カカシさんは、テウチさんと何やら話しているようです。

さりげなーく耳を傾け、会話の内容を聞きます。

………話の内容を要約すると、どうもテウチ師匠はナルト、というか俺が行方不明になった事で落ち込んでいるらしいとの事。

そういえば、記憶の底に、このラーメン屋に来たことがあるような光景が………。

時々ですが、落ち込んでいるような、曇った表情を浮かべていたのを思い出します。

(あの顔は、俺が原因だったのか)

………でも、まあ、取りあえずは放っておこう。今は何も言えないし。言える状況にもない。

ラーメンを食べ終わったカカシさんは、テウチさんに一言二言残して、去っていきました。




「今度、先生のもう1人の忘れ形見………娘さんの方を連れて、またきますから」

と言葉を残して。













………な、なんだってー!?








『あれ、言ってなかったっけ』

「聞いてねえよ!?」

なんでも俺とその娘は双子で。俺から見れば、妹になるらしいです。

なんじゃそりゃ。



名前は波風キリハ。父譲りの金髪碧眼の可愛い娘(マダオ談)らしいです。

ていうかお前赤ん坊の頃に一度見たきりじゃないのか?




………まあいいか。放っておこう。面倒くさいし。

縁があれば会うだろうし、というか次に来ると言っているし。








次の日。

来た。見た。成るほど、確かに顔立ちは整っていると言えるか。

俺みたいに猫のヒゲのようなものが付いていない、正統派美少女?

少女版の波風ミナトといった感じ。そう例えると、妙に癪に障るが。


『可愛いでしょ』

「……まあ、確かに」

『手出すなよ』

「妹だろ!?」



「ん?」

俺の叫びを聞いて、不思議そうな表情を浮かべる少女。

やべえ、今の聞かれてた?


「えっと……妹、ですか?」

「あ、ああ。俺、妹がいてさ。ちょっと、今思い出しちゃってさ」

キュウっていうんだ、と誤魔化しの嘘をいうと、心の中のキューちゃんが暴れ出した。

すんません。後で油揚げ食べますから、というと暴れるのは収まった。

現金な童女だ。


「へえ、メンマおめえ妹がいたのか。ここの所毎日働いているようだが、顔みせねえでいいのか?」

「はい。妹は………今は、心の中にいますから」

俺がぼかすようにしんみりとした表情で呟くと、渋い顔をして悪かったと謝る親父さん。



(うう、良心が疼く)

『アホ』

『ボケ』

心の中から、親父とキューちゃんに突っ込まれました。







次の日は、3人組の親子連れが来た。特徴的な3人組だな。


というか、分かりやすい! 間違いなく猪鹿蝶トリオですね。名乗られなくてもわかりました。

親の方はどこか暗い顔をしているな。あー、もしかして俺の事か?

食べ終わった後。帰り際、子供を外に出してから、俺にある話しをした。

四代目の忘れ形見(九尾云々とは言わなかった)の息子の方の捜索を続けているが、一向に見つからないと。

九尾が顕現していないので生きている筈、とあたりを付けているとか。

初めて見る俺にも、見かけたら連絡をくれ、と頼んでくる。



……すいません、物理的に不可能です。鏡がない限り。



どんな顔ですか?と訪ねる。昨日見たあの少女と同じ特徴で、金髪碧眼。

年は7才くらいとの事。

そうですね、分かってます。

その人は~もしかしてこ~んな顔をしてますか~、とのっぺらぼうなノリで変化を解きたい衝動に駆られたが、

どう考えてもやっかいごとになりそうなので自重した。


『当たり前だろう』


ですよねー。








その次の日、上忍らしき人がきた。

しばらくして、仕草で分かった。上忍レベルではないだろう。そのレベルに達すると、強さをを隠すのも上手いので。ということは、特上か。

あれ? この顔の傷は……この人って3代目の側近じゃなかったっけ?

すわ正体がばれたのか、と思ったが全然そんな事はなかった。

飯を食いにきただけらしい。その特別上忍の人はため息をついている。

何か気になるので、ちょっと聞いてみた。

「お客さん、随分不景気なため息ですね。何かあったんですか?」

「ああ……」

と急に事情を話し出す上忍の人。何でも、3代目の調子が良くないらしい。

うずまきナルトがどうのこうの言っていた。
またか。また俺の事情が絡んでやがるのか。

面倒臭いなあ。火影なんだからすっぱりと割り切ればいいのに。まあ、思うところはあるんでしょうけど、

それで火影の仕事にまで影響が出るようじゃあ、駄目でしょう。駄目駄目でしょう。甘いなあ。

まあ、それが短所であり、長所にでもなっているんだろうけど。

………と思いつつも、そのまま言ったら「無礼もの!」と怒られそうなので、言わないけど。











一日の仕事が終わった後、俺は里はずれの森の中にいた。

一人で修行をしている時、少し考える。昨日、今日に会った人達の話を聞いて、どんな状況になっているか。

(三代目、大丈夫かなあ。実力の低下が進んだら不味いんだけど。あの変態蛇どうすんのって話しになるし)

木の葉崩しはどうするんだろう。

『木の葉崩し?』

マダオが訪ねる。

(ああ、三忍の一人、蛇の字が音の里立ち上げて攻めてくんだよ。砂と一緒に)

『へー、そうなの』

淡泊である。冷たいもんである。見限ったか?とも思うが、お互いに突っ込まない。

割と気の利くマダオである。

(うーん、猿の爺様がそんな様子じゃあ………成るかもな。木の葉崩し)

象徴が負けたとなっちゃあ、木の葉の力も権威もがた落ちになるだろう。



その後の事を想像してみる。



(ホモ蛇が権勢を振る舞う世界………嫌すぎる)





却下である。

どう考えても平和な世界に成りそうにない。というか、生理的に駄目です。

また乱世の時代に逆戻り?忍界大戦?心底面倒臭いです。



それに、治安が荒れちゃあ、気持ちよくラーメン作れないじゃないですか。

食べる人あっての、ラーメン屋です。

『………結局、自分の都合に帰結するんだね』

当たり前だろ。


さあ、どうするかなあ――――


『あ』


(ん?)


飛び上がる。


こちらに近づく気配を感知した。


(………数は多くないな。後方から?)


振り返り、注意深く、探る。そこで、分かった事が一つ。


(ん?)


6時の方向に気配ということは、里からこちらの方角に、向かってくるということ。

『……暗部じゃないね』

それは、そうだろう。

殺している気配と、殺せていない気配を感じる。

気配の主は、誰かを連れて里の外に出ようとしているのだ。暗部ならば有り得ない行動。

気配の質から、おそらくは子供を連れている、と推測する。


(拉致か)


狙いは血継限界か。


『どうする?』


「殺す」


イレギュラーは御免だ。手の届く範囲なら、手を出す。決意を言葉に出して、俺は行動へと移した。



取りあえず、待ち伏せしてみる。

だが、相手は自分がいる場所の少し手前で足を止めた。


「………何者だ?」


ふん、ちょっとはやるみたいだな。気づかれたか。

言葉に応えるかのように、相手の正面に姿を現す。そして苦無を構え、嘲るように笑い、答える。


「知る必要な無いだろう。今からお前は死ぬのだから」

「ふ………ほざけッ!」



叫びと共に、相手は一気に距離を詰めてきた。かなり早い。



そして一閃。俺の身体が切り裂かれる。

「ふん、口ほどにもない。手間を駆け寄って………!?」

言葉は半ばで途切れる。もう次の言葉を吐くことはないだろう。永遠に。

一瞬である。俺の影分身が傷を受け、消えるまでの一瞬。

その一瞬で、敵の背後に回り、一突き。

俺の苦無が背後から脾臓を貫いている。ショック死だ。おそらくは即死だろう。

断末魔さえ上げさせない。そんな不様は犯さない。

できるだけ静かに、そして迅速に。殺しの鉄則だ。



「………あー、やだやだ」



クナイを振り、血を払う。

最初のアレは影分身の囮。

上忍でも、トップクラス以下の力量だと、面白いほどに引っかかる。

分かりやすい方に意識を集中させて、気配を殺したもう一体が影から必殺の一撃。

無音にして、無情。忍者本来の殺り方である。



『お見事だね』

「嬉しくねえなあ。さーて、攫われたのは誰かな…………!?」







うん。白い眼って、いいなー♪ ホワイトアンドホワ『落ち着けい』





はっ?

俺は今何を?


「だれ、です、か?」


薬で眠らされていたのだろう。

ようやく目覚めた少女は、おびえた表情でこちらを見ている。

その姿を見て、俺は頭を抱える。





『白眼! 日向の子だね。年から察するに………ヒアシさんとこの娘かな』




/(^o^)\


『何?それ』

「地の文に突っ込むな。あー、大丈夫か?」

取りあえず、気の毒な程におびえている少女に声をかける。

なるべく柔らかい声で話しかけたのが功を奏したのか。幾分か安心したヒナタ嬢は、安堵のため息をはいて座り込んだ。

(………どうしようか)

迷っている時だ。また背後から強烈な気配を感じた。

距離は離れているが、ここまで気配を届かせられるというと、並の忍びではないだろう。

何か忍者として間違っている気がしないでもないが、それはそれだ。


(暗部ではない。腕は相当立ちそうな気配だけど………)

『もしかしなくても日向家当主だね』

「さようなら、お嬢さん」

マダオの言葉に頷き、一礼。即座に神速でそこから遠ざかる。

白眼に柔拳、回天とか……滅茶苦茶関わり合いになりたくない手合いだ。ああいうのは。

『きっと、娘馬鹿になってるだろうからねー』

「お前がいうな」








取りあえず全速力で逃げ切った。

「旅の時にも思ったけど………何でこうなるのかな」

『運命じゃないかな』

「あーあー聞きたくない」











しばらくは騒ぎになりましたが、またもガン無視です。


そんな事よりも、ラーメンです。


(あー、癒される)

「こら、目の前の作業に集中しろ」

「はい、すいません」

戦いと違って、客にラーメン出してると癒されるんだよねー。昔を思い出して。

それに、美味しいとか言ってもらえるともう最高。

まあ、テウチさんの腕によるものが大きいけど、俺もそれを助けているのは確か。




(いつか絶対、自分の店を持とう)














そして、その日の深夜。

(おうち………またかよ?)

『また、だね』

今度は二組。どちらも分散しているため、各個撃破しなければならない。


(暗部は何やってんだ!?)

『もしかしたらだけど、うずまきナルトの捜索で忙しいのかもね』

あ、そう言うことか。

危険度で言えばS級だもんね、九尾。四代目火影でも歯が立たないくらいだしー。

強さで言えばSS付けてもいいくらいかもね。何という人間災害。

『そうじゃろうそうじゃろう!』

いや、褒めてないから。

愚痴をこぼしながら、全速で標的の元へと向かう。尻ぬぐいは嫌だが、此処で見逃せば後味悪いのも事実。

仕方ないっちゃあ、仕方ないし。

『損な性分だね』

「損得で子供見殺すのはなー。それに俺ってば、生粋の忍びでもないから」

あくまでラーメン屋目指してます、自分。

さて、どうするか。といっても、影分身しかないんですけどね。



昨日と同じ遣り取り。




そして背後から、サク、サク。



了。



木の葉に来てから、螺旋丸みたいな目立つ術は控えています。滅茶苦茶ばれそうですから。

今日の侵入者は、昨日のヒナタ嬢の時より腕は落ちてますので、1人あたりの戦闘時間は少なかったです。

ただ伏兵の数が多く、少し手間取ってしまいました。


(また、随分と多いこと………)

数の利は相手にあり。つまりは、殺す以外に選択肢がありません。
逃すという選択肢は、この場においてはありえない。

気絶させるというのも、無い。まだ、木の葉側にばれる訳にはいかないから。やな気分になります。

何で殺すのか、なんて。考えてる内に気配を感知しました。

(取りあえず、逃げるか)

そうこうしてる内でした。薬から覚醒した子供に、顔を見られてしまいました。

あれ、ちょと前ラーメン屋で見たような。


「………あ、あの………おじさん?」

(おじさんはやめてー。せめておにいさんにしてー。っていうか、奈良シカマルと山中いの?)


先日見た二人です。チョウジがいないのは重かったせいか。


いの嬢はじっと、こちらを見ています。まあ戦闘用の変化なんで、見られても構わないんですがね。

あ、シカマル君も起きそうな感じ。じゃあ、行くか。

ベストは、顔も見られないうちに去ることだったけど、まあ仕方ない。これも縁ですね。

戦闘用に使っている姿はまた違います。変化の術の応用なんですけどね。
金髪に碧眼で、背は170cmぐらい。ベースは本来のナルトのままで、20歳ぐらいに見えるような姿をしています。
もちろん万が一を考え、口元はマスクで隠していますけどね。

こっちはあくまで囮用なので、小池の方のカモフラージュになるよう、目立つ姿にしてみました。


ちなみに、ラーメン作ってる時の小池メンマの姿は、黒髪茶眼の平凡な容姿です。



「あ、ありがとうございます」

いの嬢は現状を把握したのか、俺にお礼を言ってきました。
もしかすると、俺を味方―――木の葉の暗部か何かだと思っているのかも。


まあ、成り行きなんで気にしないで、と伝えてその場を去りました。

ぼかして逃げた方が良い。零す情報は少ないに越したことはありません。
後方から怖い人達が近づいてますしね。





その場を離れながら、ため息を吐く。

『損な性分だね』

「本当にね」

先をある程度知っている分、見過ごすことができない。木の葉に来たことは失敗だったかも。


(………まあ、悪いことは無かったし。立ち回り次第で、なるようになるか)

といいつつも、不器用なんで全て上手くいくとも思えない。


まあ、いざとなったら逃げればいいか。




[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 三話 「開店」
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2011/09/22 01:35
 諸君 私はラーメンが好きだ
 諸君 私はラーメンが好きだ
諸君 私はラーメンが大好きだ

しょうゆが好きだ
みそが好きだ
とんこつが好きだ
塩が好きだ
魚介系が好きだ
付け麺が好きだ
和風が好きだ
四川風が好きだ
担々麺が好きだ

北海道で 津軽で
博多で 横浜で
神戸で 大阪で
京都で 尾道で
熊本で 鹿児島で

我が祖国で作られる ありとあらゆるラーメンが大好きだ

戦列をならべたチャーシューの一斉発射が 轟音と共に舌鼓を打ち据えるのが好きだ
油を多くふくんだ焼き豚が 口の中でとろける時など心が躍る

どんぶりの端に添えられた海苔に スープをしみこませるのが好きだ
ラーメンに巻いて食べてみた結果 一風変わった味付けになった時など胸がすくような気持ちだった

計算された量のニンニクの味が えもいわれる美味を生み出すのが好きだ
口の中を蹂躙しながらうまみを引き出す 絶妙なるハーモニーには感動すら覚える

給料日に好きな具をふんだんに頼み 思うがままに蹂躙するのなどもうたまらない
並び立った至高の具達が 私の振り下ろした箸とともに舌へと運ばれるのも最高だ

煮玉子がスープの上で健気にも抵抗しながらも やがて箸につかまれ
口の中でそのとろける黄身が 舌とスープによって蹂躙される時など絶頂すら覚える

特盛りチャーシュー増し増しに 財布の中を蹂躙されるのが好きだ
必死に守るはずだった生活費が ラーメン費に食らいつくされていくのはとてもとても悲しいものだ

背脂の物量に押され 刻一刻と太っていくのが好きだ
心配するおふくろに追い回され 豚になるから走れと懇願されるのは屈辱の極みだ


諸君 私はラーメンを 天国の様なラーメンを望んでいる
諸君 私に付き従うラーメン戦友諸君
君達は一体 何を望んでいる?

更なるラーメンを望むか?
情け容赦のない 究極のラーメンを望むか?
麺風雷汁の限りを尽くし 三千世界のうどんを殺す 嵐の様なラーメンを望むか?


 「 ラーメン!! ラーメン!! ラーメン!! 」


よろしい ならばラーメンだ


我々は満身の力をこめて今まさに振り下ろさんとする握り拳だ
だがこの暗い闇の底で5年もの間 堪え続けてきた我々に
ただのラーメンでは もはや足りない!!


大ラーメンを!! 一心不乱の大ラーメンを!!


我らはわずかに一個小隊 4人に届かぬ隠遁者にすぎない
だが諸君は 万夫不倒の古強者だと私は信仰している
ならば我らは 諸君と私で総兵力3万で1人の麺集団となろう

――――我々を忘却の彼方へと追いやり 眠りこけている連中を叩き起こそう
髪の毛をつかんで引きずり降ろし 眼を開けさせ思い出させよう

連中にラーメンの味を思い出させてやる
連中に麺をすする甘美な音を思い出させてやる

天と地のはざまには 奴らうどん主義者では思いもよらない事があることを思い出させてやる

3人のラーメン主義者の戦闘団で
うどん界を燃やし尽くしてやる

「最後のラーメン隊 小隊指揮官より全ラーメン主義者へ」

第二次 麺王強奪作戦 

状況を開始せよ


「征くぞ 諸君」



   ~小池メンマ少佐著 ラーメン全史第一巻 「終末を越えて」 序説第三章より抜粋~






と、いうことで開店だぁ!

『ちょっとは落ち着こうね君』

『まったくじゃ。第一私はきつねうどんの方が好きだというに』

「いきなり裏切り!?」



一年の修行が終わり、無事自分の店を持つこととあいまった。

テウチのおっちゃんには世話になった。あの人の仕事は、本当に勉強になったとです。

弟子として働けた事、誇りに思います。

まあ店を持つ資金もないし、この店は屋台なんですけどね。

町中に店を出すとなると戸籍関係のチェック厳しくなるし

『偽造だしねー』

「暗部の緩さも、時には良いことを生み出すんだねー」

一部死亡フラグになりそうだが、今は置いておこう。

木の葉も平和ボケしたもんだ。

『トップがあれな状態だしね』

現役バリバリがいないというのが厳しい。

色々と中途半端過ぎます。理想しか語らない上司っていうのは大変ですね。

下の方は忍びの質を保つのに一苦労でしょう。

「まあ、今はそんなことどうでもいいか」

『よくないけどね。まあ、取りあえずはおめでとう』

テウチのおっちゃんには、太鼓判をもらった

これぞ、各地を放浪し、現代人の知識を総動員して編み出した至高のラーメン!

………には、ほど遠いです。まだまだ技術的に未熟なものがあるから。

色々と試行錯誤して煮詰めていくしかあるまい。ラーメンだけに。


『上手くないよ』

「だあってろ!」



店は、木の葉の里の外れ。辺りには草原が広がります。

ここならば森の中に潜んでの修行もしやすいし、人通りもそんなに多くない。

………多すぎるとばれそうで結構危ない感じがするからです。

それでも、少なすぎても駄目、という複雑な背景。

それらの条件を満たし、かつセーフハウスに近い場所といえば、この場所しか無かった。

『ていうか、ここ僕の実家近くなんだけど』

「そうですか………はやく言えよ」

まあ、四代目の家なんて、危なくて近寄れないんですけどね。


あと、修行だが、暫くは生身で行う必要が出てきた。


口寄せの術を練習するからだ。


『基本的に影分身だと口寄せできないからねー』

血、出すとボンって消えるもんね。チャクラ篭めても、数秒伸ばせるだけで。

その次は、飛雷神の術である。

そう、究極の逃走手段、ワープを修得するためである。

これがあれば、色々と行動範囲が広まるし。

『ワープっていうのが何なのか分からないけど………難しいよ?』

まあ、簡単に修得できるとは思っていない。

最秘奥ですしね。いざとなれば自慢の逃げ足とタフネスで逃げます。

『戦わないんだ。あくまで』

「まあ、必要な時以外は」

ぶっちゃけ、面倒くさいし、しんどい。前のあれは例外でしかないです。


必要以上にそっち側には関わりたくないし。

『一理あるね』

「大体、どっちが強いとか下らない。アミダか何かで決めればいいんだよ、そんなもん」

殺すとか、殺されるとか下らない。

そんなことよりラーメン食おうぜ!である。

『それは無理でしょ』

「分かってるよ」

人間的だものね。



そう考えると、九尾とか妖魔とか尾獣とか歪な生態だよね。殺し合いで向き合う事が前提。

本質が破壊すること、なのか。

『………そのための存在だからの』

長寿の獣が、陰の気、負の気を受けることによって、妖魔になるらしい。

そしてその陰の気の大半は、人間から発せられるとか。

「………白面の者じゃん」

尾獣という存在。それは、自然の防衛機構か。

負の気、陰の気が最も発生するのは、戦争の中で。そして戦争は、その多くが自然破壊を伴う。

それを防ぐために、陰の気を纏った尾を持つ獣、妖魔が発生し、その原因である人間を殺すことで、汚物を浄化しようとしているのか。

『………ふむ、面白い事を考えるの』

「元いた世界での受け売りだよ」


最初の師匠から教えられた。

全ては自然から生まれ、自然に帰る。不自然はいずれ淘汰されるか、全体を駄目に
する。

だから、その原因を見極めろ、と。

自然の食材は自然のまま、その味を活かせと。

自然に生まれたものは何か、不自然なものは何か、淘汰されるものは何か。

そう考えると答えが出てきそうな気がする。


『………そうかも、な』


珍しくしおらしい声を出したキューちゃん。

そういった事は考えた事も無かったのだろうか。

………破壊が本質って、ちょっと悲しいかな。それは。


『同情はいらんぞ』


それは分かってますよ。

最近のキューちゃん見てると、そうでもない感じがするし。

見た目もあるけど、陰のチャクラが切り離されたせいか、柔らかくなってるような気がする。

まあ、完全に童女として扱っているんですが。ま、長い付き合いもあって………今では、俺から見れば妹みたいなもんですから。


………それは、取りあえずは置いておいて。




いよいよ、開店です。

今より、夢の一歩目を。

ここから、夢へ続く旅が始まります。





ラーメン屋台「九頭竜」!



本日開店でございます!







[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 四話 「とある木の葉のラーメン屋台」
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2011/09/22 01:37
――――やっと気づいた。

   貴方が、私の鞘だったのですね




    ~小池メンマ著 noodles/stay soup 三十二話「丼の夜、出逢った二人」より抜粋~







木の葉隠れの外れにある、とある森の中。
俺は寝ころび、空を見上げていた。

頬をなでる風の音と、運ばれてきた草の臭いに誘われ、おもむろに目を閉じる。

何も見えない暗闇の中で、今日一日の出来事と光景を思い、浮かべる。



………本当に、色々な事があった。







まず最初にカカシと妹が来た。
何でも、テウチ師匠が俺の店の事を宣伝してくれていたらしい。

ありがとうございます、師匠。

二人が注文したのはしょうゆラーメン。
というか、今はしょうゆラーメンしか置いていないのだが。

本当はもっとバリエーションを増やしたいのだが、色々と足りないので諦めた。
スペース確保にその他もろもろ。円滑に運用する技量も無い。

なんで、客に出しても恥ずかしくないメニュー一本に絞った。
とある店で教えてもらったもので、鶏がらと野菜をベースにしたオーソドックスな味のしょうゆラーメン。
それだけではリピーターも見込めないので、チャーシューには気を遣っているが。

各地を放浪し見つけてきた豚で、スープによく合う、ほどよいこってりさ加減。
旅の途中に見つけた豚で、ここより遠く離れた霧隠れの里付近に生息している。

本来ならば運搬に手間が掛かるのだろうが、そこは俺。

影分身を利用し、遠く霧の里から運んでいる。
修行の一環にもなるし、一石二鳥。マンパワーって凄いよね。



二人は美味しそうに食べている。

「おいしいですね、カカシ先生」

一生懸命食べているキリハの姿に和む………

『でも、カカシってばまたキリちゃん連れてきてるね………』

そこを怪しむのかよマダオ。
まあ、俺の方が結果的にああなったし、仕方ないんじゃ?
一人は寂しいでしょ。

『いや、でも、あやしい………ていうか娘の横でイチャパラ読むのはヤメロ』

最後の方は殺意が籠もっていた。
落ち着けって。これがバカ親か。

ちっとも分からない感覚だな。
娘とか、どんな感じなんだろう。

それは置いといて目の前のキリハの事だが、どうしても"妹"とか思えない。
それなりの修羅場をくぐってきてこっちの生活には慣れた所もあるが、これはすっぱりと受け入れられない。

いきなり妹とか言われても………という奴である。でも、全くの他人とは違う。この血に流れる何かが、目の前の少女のことを感じているのか。
どちらかといえば親戚の子に近い感覚なのかな――――と思っていた。

しかし、違った。
キリハから感想を聞いた時、その考えは一新されたのである。

二人とも美味しいと言ってくれたのだが、キリハの方はそれに加え、色々とアドバイスをくれた。

「チャーシュー焼きすぎ~」
「スープのコクがもうちょっと~」
「色にも~」

美味しいと言いつつも、改善すべき点を挙げてくれている。
なんという娘。いや、ラーメンに対する愛がそれだけ凄いのか。

(この娘できる………!)

的確な助言に戦慄する。
流石、腹は違えども兄妹と言うことか………!


(人聞き悪いこと言わないでよ!? ていうか、前に勘違いされた時とかあってさあ……!)

腹違いじゃねえと、心の中のマダオが引きつけを起こす。
その時の光景を――――惨劇を、思い出しているのだろう。

(いやあああああああああアアアアアアアアアアアアアアア………………………イアイア)

どんどん声が萎んでいく。てか最後何言った。

心の中のマダオが小動物のように震えている。
相当に怖かったのだろう。端から見るとうざいだけだが。

それにしても、そうか。うずまきクシナは恐妻家だったのか。

過去を思い出し悶絶するマダオを取りあえず無視し、帰る二人にありがとうございました。

カカシにイチャパラの事をさりげなく言ってみるが、「え、何が?」とのことです。パネエ。
そりゃアスマ熊にも負けるわ。もしかして彼女いない歴=年齢なんじゃね?
見送りながらそんなことを思う。

『そういう君は?』
「え、今の状況で誰かと縁持つとかできねえよ?」

笑顔で恫喝。下手に縁持つと敵に利用されるわ。バックも無いのに。
つーか元妻帯者は黙ってろよ! 恐妻家だけど!

『それは言わないでよ。君も、いのちゃんとか、砂の………ほらあの子、名前なんだっけ』

「砂ってーと………良き塩を求めて忍び込んだ時の………あ、もしかしてテマリか? ―――無理だろ」

容姿性格以前に、彼女風影の娘じゃないっすか。
我愛羅との一件でフラグっぽいの立ちましたけど、一般人を自負する俺にとって忍里トップの娘では荷が重すぎる。

『一般人は螺旋丸とか使えないと思うけど』

「まあ確かに」

影分身チートにより、チャクラコントロールの精度がえらいことになってるし。
原作ナルトが吸着できずツルリと滑った濡れた岩の上でも、コサックダンスが踊れる程のチャクラコントロールを持ってます。

『………踊ってどうする?』

「………自由を叫ぶ?」

童女狐の質問に首を傾げていると、また客が来た。

「いらっしゃい」

「………しょうゆラーメン一つ」

言葉少なく注文だけ。眼つき悪いし、無愛想少年だねー。
でも顔立ちが整ってるな。将来イケメンになりそうな感じ。

歩き方も結構、形になっている。そこいらのアカデミー予備生とかとは一線を画しているというか。

まあ、この年にしては、と後ろにつくけどね。

(って……ああ)

ぽんと手を叩く。

もしかして、あれか?

『ああ、うちは………サスケ君だったっけ。フガクさんとミコトさんとこの、次男の』

サスケ少年か。もうあれ起きたんだっけ。一族の虐殺。

『………うん』

(ん、何か反応が変?)

まあそれは置いといて、ということは……もう少しだな、原作開始は。
まあ俺は事件の横でラーメン作ってるだけだけど。

『ん、それは無理だと思うよ?』

『それについては、ワシも全面的に同意しよう』

うるさいよ! 少しは現実逃避させてくれよ!

介入しなければ木の葉隠れ壊滅しそうとか、気づかなければよかった。

それにしてもこのサスケ、イケメンである。さぞ将来はモテモテ(死語)になるのだろう。

こっちは基本一人で、しかも正体明かせないから、女性との積極的ふれあいもなく、独り寂しく過ごしているっていうのに………!

(いっそもいでやろうか……)

『……手をわきわきさせて何考えてるの?』

呆れたような声を出すマダオ。くそ、腹が立つ。
そうだ。巻き込んでしまえ。ということで一つ策を。

(いや、アカデミーでもキリハと一緒になりそうだし、なあ。しかも名家。キリハも結構な血筋だし、もしかしてこいつと付き合う事になるかもよ?)

キリハを見るに、忍びとしての才能はありそうだ。
と言うことは、サスケとはライバル関係に成るはず。対等であれば、サスケも無視できんだろうし。


(ありがちな展開だが、男女の仲になる可能性………ありえないとも言い切れんな!)

『さあ、もごうか!』


返答は大量の殺気を含んだ声でした。マダオ、自重せい!

ちなみにサスケ少年はマダオが声と殺気を発した瞬間、びくっと肩を跳ねさせ、辺りを見回しはじめた。

気づいたのか。良いセンスだ。

『もごうもげばもぐ時!』

割とガチっぽいからやめて。
あ、手は出しませんよ。お客さんは神様です。出来ることは祈る事だけです。

黙々と食べた後、黙って帰るサスケ少年の背中を見て、どうか大蛇○に掘られますように、と祈った。
またびくっとなった。

振り返る少年に笑顔で手を振り、見送りながら呟く。

(本当に、良いセンスだ)

『殺意を持て余す』

(だから、自重せい!)







次は眉毛が来た。

カカシに聞いたのだろうか。マイト・ガイとロック・リー、師弟セットで来た。

(しかしこの眉毛、直っつーか、生で見ると結構来るものがあるな………)

自己主張の激しいそれに指さし、「その海苔、入れます?」と言いたい衝動に駆られたが、何とか抑える。

表蓮華! とか言いながらレンゲを投げられてはたまったものではない。



『『………ッ!………ッ!』』


二人とも、というか二匹とも大爆笑である。

勝った。………いや、何にだ。

ちなみに青春師弟二人は、話して見ると割と普通の人だった。
というか普通にいい人だった。

ただ青春青春、うるさかったけど。
どこの机妖怪か。








その次は森乃イビキさんがきた。何となくさん付けである。
その溢れるダンディーオーラに、ウイスキーをロックで出しそうになった。

いや、置いて無いけどね。

この人も話してみると普通の人だった。ただ、ため息を頻繁に吐いている。

どうしたんですか?と聞くと、何でも無い、と首を振る。

(うーん、ダンディー)

『○野』

(ゲッツ)

森乃の人は、結構疲れているみたいだ。口には出さないが特別上忍の直接戦闘を指揮しない部隊だから、暗部関連の事だろうね。
ぶっちゃけると俺なんだけど。

ため息を一つついた後、静かにご馳走様、というと去っていった。


うーん、渋い。












次は女性コンビで、紅女史とアンコ女史。

ちなみに初対面。でも特徴的すぐて、一目で分かってしまった。
特に乳。いや、凄い。網がエロス。

ラーメンを出した後、横目でその自己主張の激しい突起物を見ていると、声を掛けられた。



「店主さん………なんで腕振ってるの?」

はっ!?
あまりの見事なブツに、思わず腕が動いてしまったか!

慌てて、誤魔化しの言葉を返す。

「………いえ、あまりの美しさに感激してしまいまして。それが腕の動きに出てしまったようです、お嬢様方」

そういうと、「やだ、もー」、と二人とも頬が少し赤くなっていた。

ふう、上手くごまかせたか。

『昂ぶる気持ちは分かるけどね。女性の前では止めた方がいいよ』

分かってるよ。
美味しかった、ご馳走様、と笑顔で去る二人の背を、見届ける。

そして遠く去った故郷の山のようなブツを思い、俺は心の中のマダオと一緒に、静かに腕を振った。


  _  ∩ 
( ゜∀゜)彡
⊂彡



『何をしているんじゃ?』

『ちっぱいには関係ねえですよ!』

マダオのマダオ発言。
キューちゃんがそれに噛みついた。

『………この姿になったのは己のせいだろうが!?』

また喧嘩するし。

この二人、仲がいいのか悪いのか。
結構長く一緒にいるけどわかりまへん。







次は病人がきた一目で病人で分かるってどんだけ。

すなわち月光ハヤテ特別上忍である。
名前も、言い得て妙だな。月のように顔色が白い。できれば仮面を被って欲しいが、無理だろう。

一通り食べると、色々と感想をくれた。

身体によさそうですね、といわれた。
そういえばこの人、薬効関係にも詳しいんだろうか。

参考になるかもしれないので色々質問してみたところ、以下のような答が返ってきました



「えー、薬草にも色々とありましてねー」

「はあ」

取りあえず、常備薬として持っている3つを並べて説明してくれた。

右から、

1:ほとんど気休め

2:何かと引き替えに元気になる

3:何も分からなくなる

の3本らしいです。

うん、ごめんなさい。ありがとうございました。迂闊に聞いた俺が馬鹿でした。








次は三忍の一人、自来也が来た。
ってちょっとまて。なんでこのエロ仙人が此処に来る。

「テウチに聞いてのお……良い腕を持っとるそうだな」

「恐縮です」

いろんな意味で。
師匠………有り難いのですが、この人はちょっと勘弁してもらいたい。


仮にも、四代目火影の師匠をつとめた英傑。
もしかしたら、弟子である四代目が発案したこの変化術が見破られるかもしれない。


それは困る。非常に困る。と言うことで、集中力を逸らさせるために色々と話しかけた。

イチャパラのネタについてである。
ぶっちゃけると現代のギャルゲーの知識を総動員し、アドバイスをしました。

まさか、あの知識がこんな所で役に立つとは!という奴である。
エロは運命を変える力を持つというが、本当だったのですね。

ついでに漫画のネタも話した。
随分と参考になった模様で、いそいそとメモを取っている。よし、気が逸れた。

そんなこんなで一通り話し終えると、気分良く帰っていった。

ただ帰り際に言っていた「また来ようかのお」の言葉は本気だったのかどうか。

(うぁれ? もしかしてやっちまった? 逆効果?)

『そうかもねえ』

そうかもねえって………まあ、いいか。そんなに頻繁に木の葉に戻ってこないと思うし。

『先生、落ち込んでたね』

「そうなのか?」

『………ん』

それきり黙るマダオ。俺には分からなかったが、どうやらエロ仙人さんは落ち込んでいるとのこと。
マダオにとっては長年接してきた師匠の事だし、何となくだが顔に出ない部分で分かったのだろう。

俺にはただのエロ親父が、ネタにはしゃいでいるようにしか見えなかったが。

しかし彼の飽くなきエロへの貪欲さ加減には恐れ入った。

エロのパイオニアとしては尊敬できそうだ。












………そんな一日。

俺は目を開けて、立ち上がる。
体がだるい。店を一人で切り盛りするのは久しぶりだし、精神的に疲れたのだろう。

テウチ師匠の助手だった頃とは違う疲労感だ。一人で背負う重圧というやつだろう。
まあ、久しぶりだったしな。

「でも、楽しかったな」

自分の好きなラーメンを作って、差し出し、美味いと言ってもらう――――これ以上の幸福があるだろうか。


さあ、今日も閉店だ。

明日からはリピーターも一見さんも――――って、ちょっとまて。



「忍者しか来てねえよ!?」


『そりゃ、この辺りは、一般人はあまり来ないしね。』


「先に言えよ!」






どうりで濃い面子しか来ないと思ったよ!

というか木の葉隠れの忍び、濃い面子多すぎだよ!





[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 五話 「癒しを求めて三千里」
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2011/09/22 01:38


「俺等は神様なんかやない。だから、選ばなあかんのや………!」




       小池メンマ著 「戦慄の名店・七色の味を持つ店」から抜粋



「と言うことで、売り子を確保しにいきます」

『今3ステップぐらい飛び越したよね、君』

脳内会議、というか心中会議で話し合う。

こうして文字にすると自殺について語りあっているようで嫌ですね。

正面にはマダオ、何故か小型化した檻の向こうには童女キューちゃん。
慣れたもので、これが日常の光景になっています。
当初は凄い暴れてたけど。

それは置いといて、取りあえずだが癒しが必要です。拙僧、そう考えついたで候。

開店から2年が経過しました。日々の営業は順調ですが――――加速度的に心が荒んでいっています。

原因は分かっています。あの濃すぎる面子のせいです。

『だったら場所を移せばいいのに………』

駄目です。リピーターを裏切ることなど出来ません。

『まあいいけど』

ようは、場所を移すことなく、心の平穏を保ってくれる人が必要。
解決案に気づいてから、その決断は速かった。



つまりは、だ!




「癒し系が足りないんだよ……ッ!!」



悲痛な叫びが天を打ちました。それだけ切実なのです。変人の相手はもうこりごりなんです。本当におなかいっぱいです。
せめて一時の清涼を。そう、テウチ師匠のところにいたアヤメさん――――すなわち看板娘を!

脳内原作キャラリストからリストアップ。
癒し系を検索した結果、最終的にとある人物の顔が上がりました。

時期的にもちょうどいいし………っていうかこの世界って癒し系担当の人が少なすぎるね。

『そうかもしれない………でも、どういう人なの? どうせ忍者なんでしょーけど』

「………そうだけど!」

むしろこの魔窟に一般人は立ち入り禁止です。精神崩壊でもされると後味悪い。

さて今回の癒し系、心苦しい事に男です。

『………で?』

「霧の抜け忍です。キューちゃんに近い、と言っていいのかもね」

『………え、どゆこと?』

「名前は白。元追い忍なので、面を持っています。ということは―――」

『憤!』

「ゲボァ!?」

心の中。
マダオの頂心肘が、良い具合に決まりました。

『それ以上は言わせる訳には行かないね………!』

「一話で言ったじゃん」

『グハァ?!』

未熟者めが。











「というわけでやってきました、波の国!」

『往来で何を………白い眼で見られているよ?』

そういえば日向家が一杯。
いや、いけないね。久しぶりの休暇にはしゃいでしまったようだ。

『ただでさえ目立つ容姿してるんだから、自重してね』

そうだった。今は小池ではないのだった。赤毛が素敵な男の子だった。
変化バージョン、パターン2である。

と、1人会話をしていると、テンション低すぎる民衆に既知の外を見る目で見られました。

まあ流石に声には出していないけど、1人でどんどん百面相していたらふつー引かれますね。


仕方ないので、戯れ笑います。


『誰がそのネタ分かるのさ』

(忍だし分かるでしょ。っと、それはそれとして、あの4人は来てるのかな……)

取りあえず、辺りの気配を探ってみました。
………カカシ一行はまだ来ていない。忍務を受けたのを確認してから来たのですが、まだ中忍あたりとドンパチしているところかな。

『まあ下忍にへちょられる中忍は置いといて………再不斬だっけ? あの忍刀七人衆の一人っていう』

「ああ、ももっち?」

ガイの対極に位置する人である。眉毛的に。

『いや、そうじゃなくてね』

「カカシ居るし、多分大丈夫だと思う」

はたけカカシと桃地再不斬、この二人の力量の差はほとんどない。
戦ったとして、一方的な状況――――すなわちどっちかが完殺されるといった事態には成り難いだろう。
その上、森の木陰で我らが白さんが待機している。見て聞いた所、キリハはサスケ並の力量を持ってるから、カカシ足を引っ張られて負ける、ということもない。

つまりは、細部は違うだろうけど原作以外の展開になるとは思えない。

(こっちから介入するにも、タイミングがあるしな)

あと、忍務の道中に合流とか無理です。怪しすぎる。
一応は影分身を途中に配置してるけど。


そっちはそっち。

ということで、ちょっとお掃除しましょうか。

「……ィッ!?」

「………グッ?!」


物陰でこちらの様子をうかがっていたようだけど無駄無駄。

再不斬に付いてきたらしい、霧隠れの抜け忍を昏倒させます。
方法は簡単。気配を殺して、背後からネギを一突き。

昔ながらの方法で、風邪を治してあげます。


……後は分かりますね?


『いや、それはどうかと』

「万事OK」

笑顔でサムズアップ。足下にはケツを抑えて昏倒する中忍(推定)達。

『シュールだねえ』

「大丈夫だから心配するねい」

『いや、何一つ大丈夫じゃないから!』

・・・はっ?いかんいかん、心の疲労が脳にまで達したようだ。

どうも俺らしくない行動でした。言語野も犯されている様子。
本格的に癒し系が欲しい。

『その割には笑顔だった気がするが?』

「気のせいでしょう」








取りあえず、町を見て回る。そして一句。

「何もない どこもかしこも 何もない」

『季語がないね。でも流通が抑えられてるんならしょうがないね。この国で言えば物資の、君の脳で言えば酸素の』

「失敬な、誰がテムさんか!」

『ふむ、そういうものなのか?』

キューちゃんの言葉に、マダオが真剣に説明している。

檻越しに話し会う二人。うーん、やっぱり檻ってやだなー。

「どうにかするかなー………って、ん?」


途中で配置しておいた影分身から、報告が入った。


『一人芝居みたいだね』

「まあどっちも俺だからそうだけど…………戦闘開始だってさ」

ようやく激突らしい。
 

カカシ一行 対 ももっち


『介入しないの?』

「まだね。とはいってもキリハ嬢も心配だしな………少し、見るか」

ミニミニサイズの水晶を取り出す。

『遠眼鏡の術だね』

「その通り」

便利なんで、前にマダオに教えて貰ったやつだ。
探知されるらしいけど、戦闘中ならばあの二人にも気付かれまい。


で、映った光景はというと――――

「水の中のカカシー♪ 水の上のざーぶざー♪ 白はどこーに行ーった♪ 見破られることもーなくー♪」

『歌うな。意味が分からん、3行にまとめてみせい』

「うん。
 カカシ劣勢。
 再不斬さんまじ眉毛無い。
 下忍ちょっとびびってる」

『カカシ君何やってんの?!』

水牢の術で囚われた所か………下忍3人はびびってるようだけど、腰は引けてない。

「相手に呑まれてはいない。三人とも、やる気ですな」

班編制は基本的に原作と変わっていないようだ。
うちはサスケ、春野サクラと――――ナルトに変わって、波風キリハ。


(さて、どうする?)

『まあ、ねえ』

………そうだな。取りあえず、静観するか。それはマダオも同じ。

もう、忍びなのだ。あの3人は。そしてこれは里外での最初の任務。

ここで余計な手出しをすることはならない。
忍務を果たすためには、賭けなければならないものがある。

それに、これは"初陣"である。この一戦を超えなければ、どのみちこの先に待ち受けている戦いに呑まれて果てるだろう。
特に波風キリハとうちはサスケ。ここで育たなければ、次の中忍試験からの一連の事件が厳しいことになる。

『………そうだね』

「お、動くぞ」

話している間にも、状況は変わる。

まず、サスケがももっちと対峙する。原作と変わらず、反撃は出来ていない。
しかし、防御は出来ているようだ。サスケの方は、原作より動きはいいかもしれない。もしかしてキリハ効果か。

ともあれ、3人は体勢を立て直した。
サスケとサクラは正面から手裏剣を。キリハは同時に再不斬へと突っ込んでいく。

手裏剣での援護を上手く利用し、大刀の間合いの内へと入り込んだ。
下忍の初任務にしては、かなりの速度だ。本体からすればあくびが出る速さだろうが、十分の一しか力を持っていないという水分身には、避けられない速度。

クナイが突き刺さった。水分身崩れ、ただの水たまりになっていく。

「でも、まだ出てくるか」

水分身は本体より格段に能力が劣る。影分身とは違う。
その驚異は少なくなるが―――その分、チャクラの消費は少なくて済む。

コストが安く、死んでも損がないので、次々と出すことができるという訳だ。

「しかし、まるでゾンビだな」

さて、どうするか、と言った時だった。
水分身の性質を理解したのか、キリハがサスケとサクラに耳打ちをする。

再不斬はキリハの速度を警戒してか、うかつにはしかけない。
そうこうしている内に、下忍の3人組が陣形を変える。

「おお、成るほど」

俯瞰していると、よく分かった。そして予想に違わず、それは実行に移される。

まずキリハとサクラが水分身を引きつける。キリハは前に、サクラは一歩後ろに。

サスケはそれを手裏剣で援護しながらも、じりじりと間合いを詰める――――ように見せて、側面に出る。
水分身はキリハの正面。援護しつつ移動したサスケの――――目の前に、"水分身という障害物"がなくなる。

本命の標的は、水牢の術を使っている本体の方か。

『そこだ!』

マダオの叫びと共に、サスケは一転。本体までの間合いを詰めながら印を組み、火遁を放った。
虎の印を最後に放たれる火の玉―――火遁・豪火球の術。

範囲の広いそれは、その場から動けない再不斬の本体には避けきれない。

カカシも術の範囲の中に居るので巻き添えになるが、そこは水牢の術がある。
つまり、水が守ってくれているので問題ないのだ。

再不斬は避ける為に水牢の術を解き、跳んで後ろに下がる。



「始まるか」



そこからは同じ。解放されたカカシが、再不斬を圧倒する。

写輪眼の能力を活かしきったカカシは、再不斬をもう一歩という所まで追いつめるが、

「やっぱりこうなるか」

後は原作の通り。

白の千本が再不斬の首に突き刺さり、再不斬は仮死状態になる。



去る白とももっち。倒れるカカシ。


『行ったけど、追うの?』

「もちのろん」

ガトーの会社に運ばれた再不斬・白を追って、瞬身の術を使い最速で向かった。















(この向こうだな)

気配を消して、扉の前に立つ。満身創痍の再不斬と、中忍レベルである白には気付けないだろう。

もしばれても、再不斬はしばらく起きられないので問題ない。

――――別の問題はあるけど。

『で、どうやって勧誘するの?』

「………考えてなかった」

『阿呆だの』

キューちゃんの辛辣な一言。でも言い返せない。
勢いに任せ過ぎたね。無計画っちゅーか、出たとこ勝負っつーか。

『まあ、取りあえず情報を集めてみたら?』

「あ、うん」

さすがはマダオ。伊達に元火影を名乗っていない。

助言の通り、俺は扉の向こうの会話に耳を傾けた。ついでに、短距離での遠眼鏡の術を使う。


おお、部屋の中がよく見える。


向こうでは、原作通りの会話が繰り広げられていた。

ガトーの皮肉、挑発。鍔鳴りと共に白刃を抜く居合い使い達。
それに瞬時に反応する、白。



そんな、あー、原作通りだつまんねーと思っていた時だった。

ガトーから発せられた一言に、俺は全身が凍り付いた。






「ふん、かいがいしく世話を焼き追って。流石はくの一という事か?」


(………は?)

「あなたには関係ないでしょう?」

綺麗な笑顔でガトーを圧倒する白。やがて、怒りの表情そのままに、部屋から出てくる3人。


俺は急いで身を隠しながらも、今の言葉を反芻していた。




「くの一って、え? ………くのいち? あれ、くの一ってどういう意味だっけ」

『くとノと一を書いて女と呼ぶ。つまり白は女の忍びだったんだよ!』

「そうか」








たっぷり十秒沈黙した後、俺は周りを気にせず叫んだ。



「な、なんだって―――――!?」

『リアクション遅ッ!?』



ちなみにばれました。

いかん、逃げねば。




[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 六話 「暗中飛躍」
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2011/09/22 01:40



「戦う理由は見つかったか? ――――麺棒」





~小池メンマのラーメン風雲伝 第十八話

 「スープコンバット・ZERO “意志ある大樹に夢を咲かせて”」より抜粋









「答えは得た。大丈夫だよマダオ。オレも、これから頑張っていくから」

心からの笑顔を浮かべる。
するとどうだろう。優しい日の光が俺を包みこむ。
その誘惑に抗えるはずもない、俺はあの空へ――――

『何処逝くの!?』

はっ!?

いかんいかん。予想外すぎる展開に、昇天しそうになってしまった。

「落ち着け。まだ慌てるような時間じゃない」

誰もいない森の中で1人、手をひらひらさせる。


あの後ですが、盛大に見つかりました。

当たり前ですね。取りあえず一目散に逃げました。勿論追いつかれてなんかいません。

俺に追いつきたいのならまず上忍の壁を破ってこいってんだ。

ともあれ、ちょっと考える時間が欲しかったので結構離れた場所にまで避難しています。




『えっと………何に驚いてるの?』

「だってよ………女の子なんだぜ?」

白が。シーブックさんっぽく言ってみます。



つーか"あの"白が女とか。白×TS=∞ですよマジで。


そう、∞です。でんぷしーです。
やっくでかるちゃです。わっちの歌を聞け!

………いかん、混乱が激しい。

『いつものことだと思うけどねー』

「なんせ熱い血潮を持ってますから!」

MOTTO MOTTO!

『本格的に駄目っぽい………取りあえず、男か女かの最終確認はしようね』

「それは当たり前でしょう。むしろどんとこい超常現象」

wktkが止まらない。ロマンチックも止まらない。さあどうにも止まらない。
全ては売り子改め、看板娘獲得の為に!

「ジーク、白!」

キング・オブ・良妻賢母!あ、クイーンか。

『メタ過ぎるから。あと桃地君の方どうすんの?』

「眉毛を書いてあげます」

それで協力してくれるに違いない。

『ワシ、もう寝て良いか?』

『良いと思うよ。メンマ君めっちゃ疲れてるみたいだし』

フハハハア! ―――――と笑っていたら、隣の部屋の人が「五月蠅え!」と壁を叩きました。
申し訳なくて、一瞬で正気に返りました。頼むから包丁持って襲ってこないでね。つーか壁ドンって普通にビクっとなる。

冷めたというか覚めたので、その後はすぐに寝ました。
どうも疲れすぎて、テンションがおかしい模様。












―――――翌朝。

「ということで、我が家の頭脳に期待します」

『無理でしょ』

「………」

ほじりだした鼻くそを見るかのような目で見つめてやる。

『いや、そんな顔されても無理なものは無理。男女云々はおいといて、あの人達って霧隠れの抜け忍でしょ?』

「って俺、前に言ったよね? 紹介したよね?」

何でその時言わなかったの?

『キリちゃんが心配で。てへぺろ』

「氏ね」

まあ気持ちは分かるけどさ。

『なんにせよ勧誘とという目的を達成するなら………最低でも、カカシ君一行に白の面が割れる前に何とかしなきゃ。顔見られると色々と不味いよね』

「でもそれまでに、っていうのも無理っぽいなあ。それに、それはそれで駄目っぽいし」

何とか直接対決はしてもらわんと。この任務でうちはサスケの写輪眼が覚醒しないと、中忍試験がやう゛ぁいですがな。
大蛇○が来たときに少年の貞操が散らされそうですがな。
いや、サスケ少年はいいんですけど、少年と一緒の班のキリハ嬢がやばそうで。

え、サクラ?
知らんがな。

「と、いうことで最後に介入します。そっとだぜ、そっと」

『OK、それまでに何か考えとくよ』







(しっかし、波の国か………何もないなあ、ここ)

魚介系スープの参考にと色々歩き回ってみたけど、見事に収穫がない。
こんなんだったっけ? あいつの話を聞くに、もっとマシだったような………やっぱりガトーの仕業か。
商人達からはブラックリストに挙げられてたみたいだけど、何をやっていたのやら。

『調べてみる?』

「ああ。どうせ暇だし」





と、軽い気持ちで調査をはじめて数日。えらいもん見せられました。
ぶっちゃけると人身売買。親が、養えなくなった幼子を仕方なくガトーに売り渡していた様子。

(………成程、口減らしを利用したって訳か。一応国内法では禁止されているけど、訴える奴なんていない)

力で黙らされている。国外へ出ることも容易ではない。
売り先は過酷な労働を強いられる場所だろう。五大国ではそのような場所は少ないが、この世の果てみたいな場所は探せばいくらでもある。

(しかしガトーさんよ。自分で流通を止めておきながら、よくやるもんだぜ。久しぶりに積極的に動きたくなっちまったじゃないか)

問題を前にした人達を通りすがりに見て――――助けられる力はある。それだけの力量は保持している。

だが、大抵は見ないフリをしていた。目立って暁や木の葉隠れに見つかるのはまずいというのもあるが、何より困っている人を全部助けていたらキリがないからだ。
それに助力には責任が伴う。力による解決は周囲の関係に歪なものを残す。ならば、放っておくしかない。

それに、どうしようもない状況に陥っている人間は少ない。問題は世界中のどこにでもあるが、その全部が手に負えない程酷いってこともない。
大抵が、隣人と力を合わせればどうにかなるレベルの困難だ。だから、そんな場合はスルーしてきた。

『この場合は………あの希望の橋が完成すればねえ。一変に改善すると思うけど』

「ガトーが死ぬ必要があるな。それに側近も」

『動くのか?』

「ああ。それに………子供だろ? ちょっとこれは見過ごせない」

俺の一線に触れやがった。ならば動くしかあるまい。

まずは影分身を偵察に出して、と。

準備している内にカカシ班の様子を見とくか。







「木登り修行ですね。分かります」

『………何で、こう、実戦に出た後にこの基本中の基本でもあるこの修行をやらしてるかな………あの馬鹿弟子は』

遅刻魔な先生という所でお察し下さい。

『察したくない………でもキリちゃん、チャクラコントロール上手いね』

「昨日の速さもそれのお陰だろうね。下忍であの速さは………ちょっと、な。よその里でも見たことないぞ。あの才能はマダオ譲りなんじゃないのか」

ちなみに、俺に忍術の才能は無い。五感の強化は結構なレベルに達したが、忍術に関しては風遁の上級忍術と雷遁の初歩忍術だけ。
あれだけ修行したというのに、この才能の偏り具合はなんだってんだ。ナルトって才能もとことん母親似らしいのな。金返せマダオ。

『でも螺旋丸できるから良いじゃん。素のチャクラ量もうずまき一族らしく、馬鹿みたい多いし』

「まあ、格下相手ならゴリ押しで何とかなるけどね」

あとチャクラによる肉体強化。この二つがあれば、まあ負けない。特に体術の方は徹底的に鍛えたし。
何事も体が資本ですよ、資本。体術は練習と経験を積み重ねれば才能無くても上達するからね。逃げ足とスタミナにも直結するから、逃亡生活をしている俺にとっては必須技能。

ちなみに体術はネタに走りました。源流は中国の北派、円華拳。後の先を狙う捌き主体の拳法を意識して。
割と肉体やら砂やらで堅牢な防御をしてくる忍者対策に。内部を破壊するのを目的とした拳理を徹底的に追求しました。
割と理にかなってます。鍛えるのは復讐のためにでは無いですけどね。

絶招はもちろん、あの技です。マダオと一緒にちょっとだけアレンジしました。
流石は腐っても、そこら辺は四代目。実戦に有効かどうか、実際の戦闘で試行錯誤を重ねて検討を重ね、二人で考えながら組み立てた拳法。
結構な形に仕上がっています。柔拳ほどの威力は無いけどね。でも応用力なら負けてないぜ。

「しかしこの体術、流派名どうしよう。ネタ元のあの人忍者関係ないしなー」

九○流じゃまんますぎるし。

『なら九尾流でOK?』

「厨二乙」

それにしてもキリハ嬢ってばコントロールが凄いが、チャクラ量も結構多いでやんの。
俺の立場なくないか、これ。

『いや、君も大したものだと思うけどね』

「まあ、今更普通の上忍クラスには負けんけど」

でも大蛇○クラスには通じない罠。戦争を幾度も経験した老獪な忍者には、勝てないだろう。
たった7年やそこらで化物を越えられるとも思っていない。

『でも、筋はいいよ。血かね』

「遺伝子の結晶って意味ならキリハ嬢だけどな」

こっちが考えている内に木登りマスターしてやんの。
サスケは横で悔しい表情をしている。でも、変に曲がったチャクラは出していない。

あの分では橋の上の決戦、心配いらんかもしれん。







なら、こちらも暇なので口寄せの術でも練習しよう。
忍具口寄せは出来るから、後は生物の口寄せだけ。これが出来て本当の一人前という里もあるようだし。

『そうだね』

と言うことでこちらも修行。

「口寄せの術」

ボン、と出てくるは一匹の狐。

いや、最初はガマにしようと思ったんだけどね?ぶっちゃけバレるし。

『しかし、何で狐が出てくるのかねえ』

『ワシのチャクラの影響じゃろう』

「むしろそれ以外考えられん」

気合い入れると、結構な大きさの狐が出てきます。

『全て、ワシの眷属じゃ。一定時間経つと自動で里の方に帰るようじゃが………』

里ってあるんだ。つーか口寄せってそういうものなの?
まあ、あの口寄せの巻物を最初に作った人も同じような事をしていたのかもしれんし。

深くは考えない事にしました。起源よりも使えるかどうかですよまじで。

(でも、これなら………もしかして出来るかもなあ)

ちょっと、かねてより考えていた事がある。里に帰ったら試してみるか。

『ん? 何か企んでおるようじゃが』

「いや、何でも」

(今は、最終確認と)




そのために練習の続きをするか。

大きく息を吸い込んで、と。



「イア! イア! ハスター・ウグ・ウグ・イア・イア・ハスター・クフアヤク・ブルグトム『やめい!』グフゥ!?」


怒声にびっくりして喉つまった。
なんで止める、一応風属性なのに。

『止めいでか』







次の日、例のシーンに出くわしました。とはいっても、ナルトのポジションには我らが妹。
キリハ嬢は笑顔で対応。
いや、ちょっと警戒しようよ。前から思ってたけど、あいつもしかして天然なのか?

心配だ。ちょっと聴覚を強化して聞いてみよう。

「ボクは大切な人を守りたい………」

「私も、だよ」

何とも心温まる会話。笑顔を浮かべながら、美少女二人が見つめ合っています。
絵になります。ストーカーちっくな自分が少し嫌になりました。

というか白ってば最後までキリハが言った"お姉さん"発言を否定しなかったけど、実のところどうなんでしょう。
見た目は女にしか思えん。ひょっとして期待していいんでしょうか。

『………今の会話で、思うところはそれだけ?』

ん、守る人がどうとか?
命を捨ててまで守りたいとか、そんな価値があるものは持ってねーよ。縁も物も。

あるのは夢だけ。だから、俺は俺の夢を守る。
今、夢以外に守るものがあるとでも? え、木の葉隠れ? 馬鹿いっちゃいけねえなあ。

『ん、割り切りって大事だけどね』

「大事だよね。大荷物持ってたら鈍るもんね色々な意味で」

だからといって持たないのはどうなのかと。
それに関しての正誤云々は知らんけど、俺はそう生きることに決めましたので。
というか集団が怖い。特に木の葉隠れの大人が怖いね。

俺の心の端にも、ナルトが受けた仕打ちと、憎しみが僅かに残っているから。
まあ、我愛羅とかに比べたら遥かにマシだから耐えられるけど。

『………』

マダオは珍しく、沈黙だけを返してきた。

















数日後。早朝に動き出す桃地一行を見て、俺は動き出しました。

『襲撃は橋に出てから………予定では午後らしいね』

「なら仕込みますか。ガトーはガトーで仕込んでるようだし、そいつも利用して」














と、一仕事おえて一息。そこで大変な事を思い出した。
イナリと未亡人の方、忘れてた。護衛の4人ってば全員が橋に向かっちゃってるじゃん。

『む、稲荷とな?』

眼を輝かせるなキューちゃん。
違うから。寿司じゃないから。座って座って。

「と、仕方ない………行きますか」

子供の見殺しはいくない。

瞬身の術で急いでイナリ宅へと戻った。


間もなく、居合いの二人が見える。

叫び、母ちゃんを連れて行くなとイナリが叫ぶ。
短期にも程がある居合使いが刀に手を走らせる。

「イナリ!」

叫ぶ未亡人。名前は忘れたが、手を伸ばして息子を助けようとしている。


だが、その手は届かない。

半裸と頭巾の居合使いのコンビから抜かれた白刃は、イナリの身体をそのまま切り裂いた――――




「何?!」


――――かに見えた。

だが、そこにあるのは刻まれたネギの切れ端だ。


「あぐぅ?!」


そして、馬鹿二人に突き刺さる、ネギ二つ。
つーか突き刺したのは俺なんだけどね。


「ふう、危なかった………」

あと一秒身代わりの術が遅れていたら、イナリの輪切りが出来上がっていたことだろう。

間一髪だった。思わず、額の汗をぬぐう。

そこで視線を感じた。


「「・・・・」」

口を開けてあんぐり。未亡人は地面に落ちるネギと息子とを交互に見ている。


『ん、二人とも呆然としてるね』

「な、何故に!?」

『鏡見ろ』


鏡? つまり客観的に見ろってこと?

えーと、いきなり現れてネギで身代わりの術、敵の尻にネギをさして、そして汗をぬぐって笑ってる人。




どうみても変態です。本当にありがとうございました。



(く、変態は語らずただ去るのみ)

何より恥ずかしいので。


木に飛び上がり、そのまま無言で立ち去ろうとするが、未亡人の方に呼び止められた。


「あの………助けて頂いたんですよね?」

息子を抱きしめながら未亡人。

微妙なラインだが助けたのは事実だから頷きを返すと、笑顔を返してくれた。


「本当にありがとうございました。その、お名前を聞いてもよろしいでしょうか」



少し怯えているが、お礼をいってくれた。いい人だ。



でもこっちは本当の名前を言えないのよね。

偽名を名乗るしかないか。心苦しいが、これも仕方ない。
























「春原ネギです」





俺は背中から新しいネギを取り出し、肩に担ぎながらその場を去った。





[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 七話 「橋の上の出会い」
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2011/09/22 01:40


「通りすがりの………ラーメン屋さんよっ!」




    ~小池メンマのラーメン日誌外伝

         「死闘!砂の里~赤い狐と緑の狸~」より一文を抜粋~








「うどんやがな!」

『急に何?』

いや、神からの啓示が。

『それよりも、いよいよ大詰めだよ』

未亡人を助け、辿りついた希望の橋の上。
そこには秘術・魔鏡氷晶を繰り広げる白さんの姿が。凄いです。速いです。

でも、鏡の中にいる二人を仕留めきれてない。

「おっと、サスケ君ようやく覚醒したか」

おたまじゃくしが目の中に。流石、天才(笑)。

原作ならお荷物なナルト君がいてどうこうなりますが、いません。
むしろここにいます。

キリハ嬢とサスケ少年、二人とも何とか避けています。てかキリハ嬢てば避けるの上手いよ畜生。
動体視力と反射神経、それについていけるだけの身体能力もある。

危なそうだったら割ってはいる気でいましたが、二人とも大丈夫そうです。

え、サクラは? 
霧で見えません。

さて、白対サスケ・キリハですが、決着がつきそうにありませんな。

(互いに決定打に欠ける、か)

白は千本による包囲攻撃。しかしそれは致命打には至らない。キリハとサスケは白の氷の鏡を割れるだけの威力がある術を持っていない。
それから数分、避け続けた二人と攻め続けた一人、どちらの息も上がっています。

(そろそろ、辺りへの注意力が散漫になってきた頃か)

『割って入るなら今だよ』

よしきたと、影分身を一体派遣する。

気配を殺しながら瞬身の術を使い、一瞬でサスケとキリハの背後を取る。
そして首筋に、手刀の一撃。

「ガッ!」

「えっ!?」

避ける間など与えない。
二人を一瞬で昏倒させる。

「な、何者ですか!?」

突然の乱入者。全く気づかずこの距離まで詰められたという事実に驚いた白が、まだ鏡の結界の中に居る俺に、混乱しながらも攻撃を仕掛けてくる。
しかし、遅い。早いが、俺の目には見えている。

「なっ!?」

死角からならばともかく、直線的な攻撃ならば反応は可能。
攻撃に来たその腕を掴んだ。

(術を出した直後なら、こうも容易く見切れなかっただろうけど)

術を行使し続けたせいで、スピードはかなり落ちている。この程度ならば、見切ることは可能だ。

「くっ」

だがそこで降参するわけもなく。
白は経験したことのない事態に陥ろうとも、狼狽えずに即座に反撃に移った。
掴んだ腕に白の千本が刺さった―――――が、効果はない。

(なぜなら、それは本物じゃないので!)

煙になって消える体。再度の驚愕に白は硬直する。

「影分身・・・っ後ろ!?」

「隙あり!」

同時に、背後に潜んだもう一体の影分身が白に一撃を与える。
さきの二人と同様に、白も気を失って地面に倒れる。

『ここまでは予定通りだね』

「なら仕上げに移るとしますか」

カカシ先生よお、忍法口寄せ・土遁追牙の術は出させないぜ!
建設中の橋に穴開けるとか何考えてんだ!

複数の忍犬が小規模トンネル工事とかあんた。
断面欠損でもう、あれである。強度的にぼろぼろになっちまう。

補填しても駄目なのである。そこに応力が集中して、荷重が掛かる毎にヒビが入ってしまうのである。
前世の店の常連客から聞きました。

本格的な立て直しが必要になるそうです。それはダメすぎる。
文字通り、危ない橋は渡れませんので。建設物は信用が命ですよ。文字通り命あずけるってのに。


(というか、希望の架け橋っつてんだろ! 穴開けるなよ!)

と言っても、やることは変わらず。
まずは影分身を複数体だし――――

(包囲完了)

まだ戦っている二人から離れた位置に、半円に囲むように影分身を複数配置する。

そして遠くからクナイを投げる。投げる。投げる投げる。
投げ投げイェイ。投げ投げイェイ。

気配でサクラとタズナの場所は大体分かるので、そこは避けて桃地君とカカシに向けてクナイというクナイを投げ続ける。

不意打ちかつ常軌を逸した一斉射攻撃に、やがて二人の動きが止まった。

(それでいい)

万全の状態ならともかく、疲労した再不斬とカカシなら正面から戦えば勝てる。
でも、時間がかかる。流石にこのクラス二人を昏倒させるのは容易ではない。

というか、橋が傷つく。
それは避けたいので搦め手で目的を達成する。忍者は裏の裏を読め、っていうしね。

ガトーの方の仕込みは成っている。
影分身からの報告はあった。

それまでは投げる投げる。当たらないけど――――意味はある。

「くそ、この、誰だぁ!?」

「チィ!」

叫ぶ桃地君に、舌打ちするカカシ。

カカシの方は焦っているように見える。三人の気配が消えた事に気づいたのだろう。

それはともかく、投げる。やれ投げる。それ投げる。
やがて、辺りに漂っていた霧が晴れはじめる。

(隠れるか)

霧隠れの術の効果が薄れていることを感知し、俺は“クナイに変化した”。

そして――――霧が晴れる。

そこには弾き飛ばされたクナイの群れがあるばかり。
木を隠すなら森である。

「………クナイだけ、だと?」

「キリハ、サスケ?!」

クナイしか見えず混乱する再不斬。
写輪眼を俺に向ける余裕もなく、昏倒して横たわっているキリハとサスケに注意を向けるカカシ。



そこに、向こうから武装した一団がやってきた。
いいタイミングだ。

「みつけたぞ、鬼人!よくもやってくれたなあ」

「………何?」

「とぼけんな! ガトー社長殺ったの、てめえだろ!」

激昂しながら、汚い言葉を並べ始める。
何でも、雇われた用心棒達が依頼を受け、再不斬・白以外の抜け忍を殺して―――――でもガトーの拠点に戻ってきた時には既に社長の首と胴体は別れていたらしい。

「チィ、どういう事だ?」

横目でカカシを見る再不斬。
だが、違うと思ったのだろう。抜け忍にしろ、依頼人を何の理由もなく裏切るのはあり得ない行為だ。
そんなことをすれば信用を失い、二度と仕事がこなくなってしまう。忍者は意外なことに、依頼主に対する信用が第一なのだ。

しかし無頼の用心棒達は気づかない。否、金を受け取れないことに頭が沸騰して血の巡りが悪くなっているのだろう。

「取りあえず、手前らは死ね!」

話をしても埒があかないと判断したのか、再不斬は用心棒の群れに飛び込んだ。

カカシも同時に動く。このまま用心棒の一団が橋に殺到すればキリハとサスケが危険だ。
だから先に戦闘不能にする。ここらへんの判断の速さは流石の業師といったところか。


さて、上忍二人対用心棒だが――――所詮はチャクラも使えない荒くれ者。
しかもはたけカカシと桃地再不斬と言えば、忍界でも歴戦の勇に数えられる強者。

他国に名が知れ渡っている程に強い二人だ。
端から勝負にもならない。用心棒達は触れることもできずに一人、また一人と倒されてゆき――

(準備よし、位置もいい)

用心棒の最後の一人が倒されたと同時に俺は変化を解いた。

(機を作り、会って逃さず敏となれ!)

「なっ?!」

変化を解くと同時、無防備になっている再不斬を背後から一撃。
有無を言わさず、昏倒させる。

「………何者だ?」

静かにこっちを見るカカシ。今の攻撃を見て、こちらを手練と思ったのか、その目には写輪眼を浮かべている。

雷切で一気に間合いを詰めて仕留めようというのか。

(流石にアレはしんどい――――でも、こうすれば動けない)

と、俺は倒れているキリハとサスケ、タズナと彼を守っているサクラ。
とどめに、“地面に落ちているクナイ”に視線を向ける。

「クッ………!」

(察したか)

強者は頭の良い奴が多いから助かる。
こちらの視線の意味を正確に理解したカカシは、重心をつま先ではなく、踵に戻した。
迂闊に動けないこと。そしてカウンターを狙う方が良いと判断したのだろう。

(そう、橋の上にクナイが多く転がっていて。先ほどのように変化した俺が、そのどれかに潜んでいれば――――)

人質を取られる可能性がある。そうなれば、カカシに勝ち目はない。つまりは、後方にこそ注意を向ける必要があるいのだ。
ここで突っ込むのは愚の骨頂。

でも、一人では対応仕切れまい。俺の力量を察しているのなら、もうその場から動けないはず。

(うまくいったな)

『うん。裏を読ませて動きを封じる。勝っても得られるものはない。無理はする必要ないよ』

戦わずに目的を達する。重しがあるので、それをつつけば動けなくなるのは道理だ。
事実、同時に2ヶ所を守るのは不可能。
キリハ・サスケと、サクラ・タズナ間の距離は開きすぎている。

どちらもカカシにとっては失えない大切な存在だ。後は黙って去るだけでOK。
もう、俺を追ってこれない。発案は元師匠のマダオだが、流石元火影。あくどいね。

『君も戦いたくなかったんでしょ?』

(ああ、木の葉の業師………いざとなったら、何やってくるか分からんしな)

千の術とか真正面から対応するの嫌です。戦わずに済むのなら、それに越したことはない。

(退散しますか。目が怖くなってきたし)

白はもう、移動させたのでいない。

俺は倒れる再不斬を無言のまま抱え、何も告げずにその場を去った。




後方で、安堵の息をこぼし、膝から崩れ落ちるカカシの気配がした。











ごたいめーん。睨むなって怖いから。

「で、何者だてめえ?」

「九尾の人柱力です」

いきなりぶっちゃける。再不斬はいきなりの言葉に固まった。

「あの、人柱力とは一体なんでしょう?」

知らないのだろう。白が戸惑うように訪ねてくる。

「その名の通り、人柱みたいなものかな。尾獣と呼ばれる妖魔を憑依させる事によって、莫大なチャクラを持つ化け物みたいな忍びを作り出す………一言でいうと、人間兵器?」

白の顔が真っ青になる。過去の事を思い出したのだろう。すまんね、嫌なこと思い出させて。

「証拠は?」

信じられない、と睨んでくる。まあ、当たり前か。
四方に結界を張り、最小限だが九尾のチャクラを引き出す。何かこのチャクラ黒くないし、純粋な九尾のチャクラっぽくないんだけどね。
でも威圧感はそう変わらない。その圧力に、二人は圧倒される。

「………本物か。あの野郎に似てやがる」

「それで、どうです?」

「一応は理解した。でも解せねえな。九尾と言えば木の葉隠れが保持する尾獣だろう。何故、木の葉の忍びであるあいつらを襲う。
そもそも、俺たちをここに連れてきた理由、そしてあそこにいた理由は何だ?」

おお、頭の回転が早い。用意していた答えを返すだけでいいとは。
嘘のないよう、率直に、端的に、言葉を重ねる。

「昔に、とある暗部というか、里の忍びに危険視されてね。殺されそうになって何とか生き延びて、それで今現在まで絶賛逃亡中なわけ。
 木の葉隠れの暗部とかは、今頃血眼になって俺の事を探してるだろうけど、見つかってやる義理もないし」

白の顔がまたまた白くなる。うーん、傷抉っちゃうなあ。

「ま、取りあえず盲点突いて木の葉の中で生活してるから見つからないんだけど」

「木の葉に? ………どうやってだ」

「百聞は一見にしかず、と――――変化」

といって、また別の姿に変える。
とはいっても、まだ小池の姿は見せないけど。

「これは四代目火影が発案した特製の変化術でね。影分身を応用している。まあ、馬鹿みたいにチャクラを食うから使用者は限られるよ」

白眼でも見切れない影分身を応用したこの変化は、滅多な事では見破れない。影分身を白眼で見分け割れないのと同様に。

最近、変化を補助する術を組み込んだ札の開発も成功した。
短時間だが、姿を変えられる優れものである。

「ちょっと待て。四代目火影といえば12年前に死んだはずだ。何故、手前が四代目火影の忍術を使える?」

「ん? 精神の中に入り込んでるから。封印術式の中に組み込んだんだろうねえ」

そこらへんは天才と言わざるを得ない。本人見ると甚だ疑問に感じる時が多々あるが。

「何なら、教えてあげるけど?」

「………待て。お前、一体何が目的だってんだ」

話がうますぎる。それに話過ぎている。チャクラが危険な色を帯びてきた。

「ちょっと頼まれて欲しい事があるんだけど」

「……聞くだけなら聞いてやる」

「暁、って組織知ってる?」

「いや、聞いたことがないが……」

やっぱりか。自来也でやっとだからな。知らないのも無理ないか。

「構成員全員がS級指名手配の化け物集団なんだけどね。何とその組織には、かの霧隠れの怪人も所属しているとか」

「何、あの野郎が!?」

水の国の大名を暗殺した、S級指名手配犯。忍び刀七人集の一人である。

「変化しながら動向探ったけど、どうも人柱力狙ってるらしいんだよね。そこで、僕としては少しでも護衛が欲しい」

嘘を混じえて提案をする。だが再不斬はけんもほろろにノーを返した。
即答である。誰の下にもつく気は無いということか。

「なら、取りあえず前金で五十万両」

「断る」

「任務持続の中払いで、四代目火影の術三個」
「………」

「そして成功報酬は――――先代水影の正体でどない?」

「!!?」

再不斬はその言葉に劇的に反応する。
一瞬で大刀を振り、こちらの首筋にぴたりと添える。

「……正体、だと?」

「気づいているんでしょ?」

「………どういう事だ、何故知ってやがる?」

「それを話す程、僕は間抜けに見えるのかな?」

カマをかけてくるが、乗らない。あえて誤解させる。
言葉に断定的なものは出さない。まだ交渉の途中だ。

「さて、これ以上続けるには明確な返答が必要なんだけど――――」

最終通告の意味を兼ねて、目を見る。
再不斬はしばらくの間こちらの目を観察して、やがて息を吐いた。


「……受けてやる。どうせ、コレ以外に道はないしな」

流石に乗ってくるか。まあ、依頼主のガトー社長殺したので、信用がた落ちだからね。
受けるしかないんだけどね。え、あのグラサン誰が殺したかって?

お察し下さい。抜け忍組織のブラックリストにも入っていたようだし、一石二鳥ってやつです。
下衆に情けをかけるほど博愛主義者でもありません。


『ふん。言わずに、誤魔化して協力を得るって方法もあったと思うのじゃが』

(それはちょっと。別の意味もあるし)

これは、いわば保険である。裏切らないための、保険。
旨味を見せれば、人は黙る。それ以上の不満が無い限り。ラーメンと一緒だね。


「じゃあ、自己紹介といこうか。桃地再不斬と、白嬢で良いんだよね?」

さりげなく白さんの最終確認。

「ああ」

「はい」




キタァ━━━(゜∀゜)━( ゜∀)━(  ゜)━(  )━(  )━(゜  )━(∀゜ )━(゜∀゜)━━━!!!!!





『でも、ねえ』


(ん?)(∀゜ )


『いや、ね。どう見ても白って娘が………恋する乙女にしか見えないんだけど』


(何が? 誰が? 誰に?)(∀゜ )



『ほら、白ちゃんと桃地君、見てみたら?』



(…………………………)(∀~ )


「ふんぐるい」

「何を言っている」

「いえ、何にも」

SAN値チェックに失敗しまして。

(くそ、そういうオチか! ちくしょう!)

神は死んだ。死んでないなら俺が殺してやる。

ともあれ、本物の看板娘で、かつ癒し系は確保できたから良しとしよう。
修行しながらでも、店にも出て貰うつもりだし。


まあ、当初の予定はクリアしたか。
血涙が止まらないが、ひとまずは良しとしよう。



という事で変化を解く。

そういえば、人前で元の姿になるのは本当に久しぶりだ。



「うずまきナルトだ、よろしく」




どう見ても白より年下である、子供な俺の姿を見て。

二人の新しい仲間は、その場に呆然と立ちすくんだ。





[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 八話 「新ラーメンと中忍選抜試験」
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2011/09/22 01:42


「分からんか? ……心じゃよっ!」



     ~小池メンマ・麺王への道 最終話「至高の調味料」より抜粋~










「と、言うわけで新ラーメンの開発を始めます。準備は良いですね?」

「はい、先生」

遠く、海沿いの地に派遣した影分身が戻ってきました。
両手にたくさんの海産物を携えて。

究極の味を求めて三千里。望む食材は手に入れました。
次の段階に移る事としましょう。

「目指すは和の味、魚介系スープ!」

助手も出来たことですし、新しいメニューの開発に入ります。

白嬢、侮れません。エプロン姿に悩殺されますた。
………いや、そっちじゃなくてね。

料理の腕もパネェっす。忍びなのに凄いね乙女だね、と言うと顔を真っ赤にしてました。
再不斬さんのために、ですね分かります。

………あの眉無し、いつか絶対眉毛書いてやる。
もしくは味付け海苔貼っつける。

え、噂の彼はって?
―――今は修行中です。セーフハウスの結界内で影分身相手に奮闘してます。

ちなみにセーフハウスは自分で作りました。主に影分身で。
土建屋いらずの大工いらず。前世の修行時代は土方のバイトもやっていたので、ある程度の知識はありました。内陸部なので地盤も良い感じ。
岩を風遁・飛燕で切って加工しました。暮らしに役立つ忍術です。

後は、火の国の城下町で売られている本を借りて、見よう見まね。
建設地は里はずれの森の中です。侵入者対策として、森の入り口からこの家に至るまでの経路のそこかしこに幻術系の罠を張り巡らしました。
これでもかという程ににあるので、まずたどり着けません。一見すると迷いの森のような感じになることうけあい。

再不斬氏の修行に関しては、彼の要望に答えただけ。訓練室と水を口寄せする術式が書かれた巻物を貸しました。
才能はあるので、鍛える場所があってきちんと時間をかければ鍛えれば強くなるでしょう。白嬢も同じ。むしろ純粋な才能でいえばこちらの方が上っぽい。

まあ、今はそんな事よりも今はラーメンです。

取り敢えず以前より考えていた出汁を作ります。
まずは試作をしないと話にならない。一度で求めている所に辿りつけるなどと、出汁を甘くみたりはしません。
作りながら味見をして、修正して繰り返さなければいけない。

「ん………うーん、どうにも中途半端だな」
「ですね。何か、こう、バラバラといった感じです。味にまとまりがない」

二人で唸り合う。助手さんも良い下している。

それでこの出汁だが、どうも違う。前世で食べたスープはもっと、こう、何と言っていいか………そう、整った旨味があった。
昆布の種類が違うのか。煮干しの量が違うのか。それとも、何か足りないのか。

ううむ、特定できん。
更に数を重ねますが、どうにも辿りつけない。

「………駄目だ。どうしても、はっきりしない味にしかならん」

それぞれがバラバラで、かつ具材の個性が相殺されている。
面白味の無い味の典型的なそれ。統率されていない愚連隊のような味にしかならない。

「えっと、どうします?」

いくらか、昆布の種類はあるし、量はまだまだある。

「どうしようか………うん、そうだな――――全部試す」

断言する俺に、白嬢は笑う。

「はは、本当に一生懸命なんですね」

「この道に命賭けてますから、自分」

何の気負いもなく断言できる。俺の道は忍道ではなく、麺道。

「それに、さ。一応俺もラーメン職人のはしくれだから、来てくれた客に中途半端なもの出せない」

中途半端な品を出して、そんでもって客に不味いと言われた日にゃあ――――死ねる。

「そうですね」

「じゃあ、悪いけど」

「いえ、ちょっと無理やりっぽかったですけど、こういうのも楽しいです………こんな時間、今まで無かったですから」

背景を考えると、そうなんだろうなあ。
忍者の、強くなるための修行に修行で、それ以外のことは最低限しか学ばなかったのだろう。
それでもこの腕ということは、修行の合間に見よう見まねで覚えていったのか。健気すぎる。

まあ、何にしろ。

「そう言ってもらえるとありがたい。じゃあ、続きをしようか」


その日は徹夜で魚介系スープのラーメンについて煮詰めました。





○ ● ○ ● ○ ● ○ ●



「ういー、帰ったよー」

「………おう」

こっちも疲れてるが、再不斬も疲れているらしい。
畳の上に座り込んで、こちらを見上げてくる。

「うい? どうしたのそんな疲労困憊で」

「………腕を上げれば上げるほど、貴様が遠くなって行く気がするぜ。お前、本当は護衛なんて要らないんじゃねえか?」

「そんなわけないでしょ。前者に関しては、そうだね………泥になって糞みたいに鍛えたからな」

一時期はそれこそ寝るや食わずで。
もう思い出したくない程に。マダオ死ねと何度叫んだことか。
まあそれでも、まあ夢の為にと思えば頑張れたんだけど。

えーと、話題が逸れた。
護衛が必要か、って話だったな。

「一人じゃあ、あんな奴らに勝てないよ。全部うまくいくとかあり得ないし、絶対に無理。それに今の俺じゃあ、タイマンしても暁の面々には及ばない。負けはしないけど、勝つことはできない」

「奴ら、そんなにできるのか?」

「かの五影をも上回る手練、かな。全員が全員手に負えないってことじゃないけど、そんな化物が複数居る時点で無理だ。それに、一人ってのはやっぱりきつい」

失敗すればそこで終わり、というのは心理的負担が大きい。
柵の無い吊り橋を渡っているようなもの。
それに加え、時間がなかった。あいつらが本格的に動き出すのは、早くて七年、遅くて九年。全速で危ない橋を渡るしかなくて、時折耐え切れず叫びたくなることもあった。

「それに………仲間っていうのはいいね、やっぱり。一人よりかはずっと良い。雇い雇われ、利用しあう仲でもさ」

「メンマさん」

「なんて、似合わないか」

その言葉にふん、と返しながら再不斬は家の奥へと去っていった。

「あ………ごめんなさい、再不斬さん素直じゃないから。きっと今の言葉は……同じ事を考えていたのだと思います」

「うーん、そうなのかな」

境遇的に重なるからだろうか、白は俺のことを疑うことはしなかった。むしろ好印象?
再不斬の方もそうだった。衝突があったのは、先週の模擬戦だけ。それ以外は特にない。
待遇も好条件だし、何より未来への道筋が見えてきたのが大きいのか。

でもデレるのは、隣に居る白ちゃんにしてね。
と、益体もない事を考えてしまう。疲れているようだ。

「それじゃ、今日はありがとう。おやすみ」

「おやすみなさい」

こんな会話が出来るのも良いね。



○ ● ○ ● ○ ● ○ ●



それから何日か。
白助手の協力のもと、連日連夜の試行錯誤の果てに――――やっと、求めていた味に届いた。

「………うん、これだ、これ!」

「やりましたね!」

「………ちっ、確かに美味えな」

これだよ、この深みと旨味!

『うーん、僕たちも食べたいね』

感覚はある程度共有できるとはいっても、そのものではない。

(ああ、分かち合いたいこの感動………!)

試行錯誤して、努力して、報われるこの快感は何にも代えがたいものがある。
食えば分かるだろう。味合わせてあげられる。でも無理だ。

くそ、直接食わしてあげられないのが辛いな。

「……まあ、それは後で。取りあえず、店に出すか」

「そうですね」

白と頷き合う。これならば出しても恥ずかしくないだろう。







そして、ラーメンが完成した次の日。
波風キリハ嬢が、1人で屋台に来た。

「いらっしゃい! お客さん、新しいラーメンありますよ」

「え、本当? ………じゃあ、それお願いします」

「へい」

記念すべき和風ラーメン………この世界では名前を変えて、木の葉風ラーメンにしている。
その木の葉風ラーメンの一番目の注文客は、キリハか。

(最近、一人で来る事が多いなー)

ちなみに白は微妙に変化の術を使っているので、キリハにばれる事はない。
声もチャクラで変えている。結局追い忍の面は割られなかったので、白の顔は見られていないけど、一応ね。

と、そのキリハは出汁をレンゲですくって一口食べると、驚いた表情を浮かべた。
そして、もう一口。こんどは麺とメンマとを、一緒に食べている。
はふはふ、という吐息と共に、麺がつるんと滑りこむ。

その後の感想は、一言だった。

「………おいしい!」

「っしゃあ!」

快音一閃。最高の一言に興奮し、同じように笑顔を浮かべている白とハイタッチを交わす。
うー、言われた瞬間、全身に鳥肌が立ったぜ。これだから止められないんだよな、料理って。

「あっさりしてて………お魚の風味もして、深みがある。喉の奥に広がっていく感じ」

流石の舌である。

「メンマさん………何て言うのかな、これ。えっと、旨味かな? 塩か何かですか、これ」

「ご名答にご明察」

と、キリハは解説を聞きながらも、無我夢中で食べてました。
うむ、良きかな良きかな。とか言ってる間にキリハは完食した。それだけ美味しかったのか。

そして勘定をした後、キリハ嬢がぽつりと呟きました。

「………でも、残念」

「え?」

味のことか、と思いきや全然違う事だった。

「明日からちょっと………しばらくは、来られないんですよ」

なんでだろう。その俺の疑問には、マダオが答えてくれた。

『中忍選抜試験のための、修行だろうね。少し前に連絡用の鳩を見かけたし』

(あれか。そういえば、そんな時機だったな)

キリハ曰く、「ちょっと、始まる前に修行しておきたいから」との事である。
そういえば最近、といっても波の国から帰還してからだが、服のあちこちが破れていた。
修行に励んでいるのは分かっていたが、それでも足りないのか。

あるいは、本格的な仕上げに入るのか。

キリハは残念風な顔をしながら、でも美味しかった、とだけ伝えて帰っていった。






その後も、常連の客に新ラーメンを勧めながら、考える。

ちなみに、新味ラーメンは木の葉の濃い面々に軒並み好評だった。
今までになかった新しい味とのことだ。うん、料理人冥利に尽きるね。

『それはいいけど、中忍試験の方はどうするの?』

店が終わり、隠れ家の手前まで来るとマダオがそんなことを尋ねてきた。
どうしようか、って答えは決まってるんだけどね。

『やっぱり行くの?』

「見たいこともあるし、確認したいこともある」

中忍試験。一応、出られるように仕込みはしているんで問題はない。
もちろん、前準備に加えて、現地での変装や隠蔽工作は必須になるのだが。

「噂の変態頭領とその力量は是非とも見ておきたいしなあ」

音に聞こえた変態忍者、その名も大蛇○。ぶっちゃけ怖い者見たさもある。でも、実力計りも必要だ。
あと、どうしてもキリハ嬢が心配なのである。

『でも、どうするの?』

「こうします」

隠れ家の入り口。

俺はきりと親指の肉を噛みちぎりー、ばばばと戌、猪、申の印を組んでー。

最後は、地面をバンと。これ即ち、口寄せの術。

ボン、という白い煙。手応えを感じた俺は、ぐっとガッツポーズをした。

そして煙が晴れ――――目の前に、現れたのは、金色に輝く美少女が一人。

「……は、え? 何じゃ?」

「おー、成功成功」

予想通り、心の中の姿のまんまだ。
そう、口寄せしたのは檻の向こうの童女狐、九尾の妖魔ことキューちゃん。
最近どうも妖魔っぽくないけど。

ともあれ、口寄せの術は成功だ――――って、おい。

「お前もかよ!?」

余りにも予想外。なんと、目の前にはマダオの姿もあった。

「金魚の糞かよ」

「みたいだねえ」

何か、新鮮な感じだ。外でこうして対面するのは。
その後色々と試してみたが、この二人はどうやら俺から離れられないみたいだ。
距離が離れすぎると、俺の中に戻ってしまう。

二人の実力だが…………これも、問題はない。
マダオは忍術は使えないらしいが、結界の中では使えるらしい。体術の練度は心の中と同じで、俺よりちょっと上ぐらい。
キューちゃんは身体能力と五感が鋭い。これは狐であることが関係しているのか。身体能力だけでいえば、俺よりかなり上な感じ。
というか、俺でも両手でえいこらしょとしてようやく持ち上げられるだけの岩を、ひょいと持ち上げた時には驚いた。

「うん、問題ないね………」

キューちゃんが「正気かコイツ」という目で見てくるが、どうしたのだろう。

「処置なし、だね。いや要らないのかなあ」

「お前に言われたくはない。さてと、準備は整った事だし」

と、いうことで行きましょう。
俺の提案に、二人はため息をつきながらも、分かった、と答えてくれた。





○ ● ○ ● ○ ● ○ ●

そして当日。

「準備はOK?」

「うむ。まあ、久しぶりの娑婆じゃしな………やってみるかの」

手加減しろよ、金髪美少女キューちゃんよう。
つか外で見ると美少女っぷりが半端ない。見た目十歳ぐらいだが、それでもやばい。

「中忍選抜試験とか懐かしいな~。昔を思い出すね………バナナはおやつに入るんですかっ!」

黙れ。こちらは姿を変えた、黒髪少年のマダオ。
力は十分の一程度しか出せないようだが、まあ十分だろう。経験値というか実戦経験は受験者の中でもダントツだから。





「じゃあ、行くか」

試験会場へと入り込んだ。白・再不斬は留守番です。
連れて歩くのは無理です。いくらなんでも危険すぎます。

あ、ちなみに担当上忍は影分身です。書類は偽造しました。マダオが。

よく偽造できたな、と聞くと、

マダオ曰く、「応募書類ってちょっと考えれば抜けられるんだよねー。書類を捌くものしか分からない、盲点があるんだよねー」と黒い笑みを浮かべて教えてくれました。

さすがは元とはいえ里のトップ。木の葉の閃光(爆)。
別にそこに痺れもせんし、憧れもしないが。





―――――で。

会場に行くと、例の物体が亀の上でポージングをしていました。


「青春してるな、お前らー!」

いつも絶好調、我らが眉毛の御大です。
しかし、これはきつい。

「………なあ。あの、亀に乗っているモノはなんじゃ?」

「よい子は見てはいけません」

「そうだね。行こうか」

常連とはいえ、こんな衆人環視の中で関わり合いになりたくありません。
呆然とするキリハ達が居ましたが、巻き込まれたくない。抱き合う眉毛はスルーして、通り過ぎました。

あの海苔についていけません。




「ここだな」

部屋に入ると、中にいた面々にじろりと睨まれる。
そして部屋の隅に、とあるデコ助を見かけた。

(砂の………一尾の人柱力のあの子、いるね)

(ああ)

砂隠れのチーム。我愛羅とテマリと……最後の一人って誰だっけ? 見事な歌舞伎っぷりだけど。
カンタロウだったっけ? ああ、そうだろうねそういう名前だったか。

一方、我愛羅は静かに視線を左右に動かしている。
誰かを捜しているのだろうか。

(っていうか君でしょ)
(言わんでくれ………)

全力で記憶の彼方に捨て去りたいことなんだから。

(テマリちゃんも誰か探しているようだね)
(ん~)

俺か? と思うが、違うだろうと思い直した。
無駄な期待はもうごめんなさいである。勘違いとか恥ずかしい。白嬢の一件でこりました。

あと気になるのは、木の葉の面々。
実力詐称のクスリメガネは全力で無視せざるを得ないが。

こっちは別の意味で関わり合いになりたくないしね。

と、そこで見覚えのありすぎる人達が登場。

(あ、キリちゃんだー)

(迂闊な行動は控えろよマダオ)

今にもキリハを抱きしめに走り出しそうなマダオに、釘をさす。
厳密的には初対面である女の子にしょっぱな抱きつくとか、それ変態行為だから。

(ってそういえば、名前なんて登録したの?)

そのままだが。

俺は、春原ネギ

マダオは、長谷川泰三

キューちゃんは、氷雨チルノ

(長谷川って誰。っていうか最後のはどういう意図で?)

(⑨! ⑨! ⑨!)

(……分かったよ。全然分からないけど)

取りあえず端っこに寄っておきます。目立ちたくないんで。




そして始まる試験。

我らがダンディー、森乃イビキ御大の登場です。キャーイビキサーン
















取りあえず寝ていると試験が終わりました。木の葉風ラーメンに続く新ラーメンの草案を練っているので寝不足なんです。
ってやべえよ、涎が机とテスト用紙に。

笑顔のイビキさんというレアな光景を見た後、寝起きにバナナを食べていると、妙にハイテンションなマダオが駆け寄ってきます。

ウザイ、と言って、食べ終わったバナナの皮をマダオの方に投げる。




しかしその時、事件は起きました。







俺が投げたバナナの皮を、よけるマダオ。

窓ガラスが割れる音。勢い良く着地しようとする試験管。

着地点がぴったりって、おい、そこはヤバイって―――――との言葉は既に遅く。






つるん、ゴン。



そのまま、滑って、転んで、ピクリとも動きません。





広げられた試験管の名前。

「みたらしアンコ」と書かれた巨大な幕のその下で気絶する彼女の姿は、とてもシュールでした。
















おまけ



答案用紙を回収する。あの妙な3人組の答えだが………




長谷川泰三

満点。でも何で丸文字なんだ?





春原ネギ

1「出会いが欲しい」

2「彼女が欲しい」

3「切っ掛けが欲しい」

4「ロマンが欲しい」

5「π・O・2」

6「眉無し氏ね」

7「ロン、そのドラッ………(白的な意味で)!」

8「合コンしたい」

9「安西先生………彼女が欲しいです」

………訳が分からない。ってヨダレかこれ、汚えな。






氷雨チルノ


全部同じ答えだ。

「1+1=3」



………イビキは混乱した!





[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 九話 「死の森にて」
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2011/09/22 01:42


「惜しい人を亡くしました………」

沈黙に包まれる部屋の中。黒板に広げられるは「みたらしアンコ」と書かれた暗幕。
そしてその下には、後頭部を打ったアンコさんが、まるで眠りにつくかのように………

そっと、胸の上で、手を組ませてやる。
そして振り返り、教室にいるみんなを見ながら、呟く。

「嘘みたいだろ。死んでるんだぜこれ「死んでないわよ!」」

起き抜けにアンコ女史に殴られました。


で、次の試験会場に移動するそうで全員が外におん出されました。
いや、暗幕見るたび全員失笑するから当たり前か。

「でもアンコさん、マジ短気」

グーで殴られました。本気の一撃だったせいか、結構な距離まで飛ばされました。
ちゃんと拳の勢い殺して、受け身も取ったけど。

「まあ、しょうがないよね」
「おいマダオ、お前のせいでもあるんだが」
「………どっちもどっちだと思うがの」

次の試験会場への移動中。二人とそんな会話をしているところ、予想外の人物が話しかけてきた。

「あの、大丈夫ですか?」
「ん?」

振り返ると屋台でよく見た金髪の美少女が。とういうか、キリハだ。
同時にマダオのボルテージがヒートアップしているよう。あの、落ち着こうとしているのは分かるけどチャクラもれてますよ? 無理? うん、ほっとこう。

「俺は大丈夫だよ、受け身も取ったしね。あの試験管手加減ほとんどしてなかったから、ほっぺたがまだ痛いけど」

ちっとは手加減せんかいな。いや、俺も悪いんだけどね。
あの後の失笑の嵐は、ちょっと哀れに思えるほどだったし。

空気読め、とかイビキ御大言ってたけど、空気読んだよね。
バナナトラップにわざわざ引っかかるとか。芸人の鑑だよね。
いや、偶然の産物なんだけどね。

「キリハ、何してるの」
「あ、サクラちゃん」

凸が近寄ってくる。その名は春野サクラ。そういえば近くで見るのは初めてか。
顔立ちは可愛いと言えるけど、ピンクの髪は無いわー。

「あ、さっきの人?」

面白かったねー、と会話を始めようとする二人。
だけど、それを後ろのスカした少年が止めた。

「サクラ、キリハ、何やってる。試験が終わるまでそいつらは敵だ。うかつに近寄るな」

至極ごもっともなので反論なし。
うんうんと頷いていると、キリハとサクラには引きつった笑いを返された。
あとマダオが会話邪魔されて不機嫌。サスケ君まじ逃げて。

(で、ここでサスケくーんとか山中いのが来て場が混沌と…………あれ、来ないね)

噂のいの嬢は、後ろの方で同じ小隊員である奈良シカマル、秋道チョウジと何やら話しているよう。
次の試験について相談しているのか。
ん、さっきは気づかなかったけど、いの嬢………とシカマル少年も、雰囲気が違うような。

(心あたりは?)

(ん……あれのせいかな。昔助けたやつ)

(ああ、あれでかな? いや、よく分からないけど)

何せ白少年が白少女にトランスファームしている世界だ。
何がおきても不思議ではない。驚かせたくば、女になった再不斬でも持ってこいってんだ。

あ、うそ、冗談です。



○ ● ○ ● ○ ● ○ ●



そしてやってきました死の森。何ちゅう名前だ。原作ならナルトがはしゃいであれこれなりますが、キリハ嬢はそんな事しません。
と、思ったらキバがやりました。みたらしアンコさんがすっと気配を殺して動きます。

でも何故かこっちに飛んでくるクナイ。

「危ないじゃないですか、お返ししますよ」

と、クナイを返すために差し出します。

「すわ世界の修正力か!」と驚いている暇もありません。
右肩に直撃コースだったじゃないですか。試験前に赤い血をぶちまく所だったじゃないですか。

「ああ、ごめんなさいね…………チッ」

舌打ちって、まだかなり怒ってますね。根に持ってます。
流石にあの蛇野郎の弟子。かなりの粘着気質です。みたらし団子だけはある。

更に、今のやりとりで他の受験生連中に警戒されました。
まあ、あれだけの速さのクナイを掴んで止めるとか、警戒しますよねー。
面倒くさいので無視するけど。

(ん、蛇さんいるね)

気づいたかマダオ。流石マダオ。伊達にマダオは名乗ってないな。

(三連呼はやめて………で、分かる?)

うん、汚いチャクラが少しだけもれてるからね。
というか、アンコさんも気づけばいいのに。

あんな舌を持っている人、世界で一人しか知りませんよ。

そんなこんなで巻物配布。俺のチームは天の書だった。
さっと隠す受験生達。見せびらかすような馬鹿はいません。この阿保のマダオ以外には。

で、最後に試験管から話があるようです。


「最後にアドバイスを一言…………死ぬな!」

良い言葉だ。何のアドバイスにもなってないけど。
と思ってると、綺麗な笑顔で言われました。


「アンタは死ね」


ひどい。


そんな呪いを受けながら森に入って、10分後。力量を読めてない下忍さんがこちらに奇襲を仕掛けてきた。
足音出てるし体臭消しきれてないしタイミングも甘々だったので、奇襲というよりも自殺といった方が正しいような。

だから、いっそ一思いにやってやりました。
端的にいうと、こうだ。


ガシ! ポカ! 下忍は死んだ! スイーツ、みたいな。

「いや、殺してないでしょ」

その場のノリだよ空気読めよ。まあ、本当は後ろから頭を叩いて気絶させただけ。
意味も理由も無く、しかもこんな格下相手を殺すことはしません。必要なら生け捕りするけど。

「ん、天の書か」

持っているのと同じです。かぶりました。
次です。



ガシ! ポカ! 下忍は死んだ。
ガシ! ポカ! 下忍は死んだ。
ガシ! ポカ! 下忍は死んだ。
ガシ! ポカ! 下忍は死んだ。

で、合計4チームの後頭部を叩いたけど――――――

「全部天の書とかどないなっとんじゃあああああああああああああ」

「うーむ、日頃の行いのせいじゃの」

「そうだね~」

「………そうかも知れないねキューちゃん。だがマダオ、お前が言うな」

くそ、何かの嫌がらせか?
もしかして、木の葉の陰謀か?それともアンコ女史の呪いか?
神よ降りてこい、ここがお前の墓場だ。

「くそ、こうなったら」

「あれ、それどうするの? その巻物って、試験管を呼んでしまう口寄せの巻物だと思うけど。開けたら即座に発動するタイプだから、やめといた方がいいよ」

流石マダオ。試験と巻物の関係から、中身が何であるかを一瞬で看破します。

で、俺はこれをどうするかというと。




「まずは木に登ります」

「結構高いね」

えいこらさとチャクラで吸着して木登り。
そして頂上まで来ると、いっせいに巻物を開けます。

「ええ!?」

最後に投げます。

「そぉい!」

「「「「「おわ!?」」」」」

空中に呼び出される中忍。腐っても中忍だからこの程度の高さじゃあ死にはしませんが、焦りはします。
うん、イライラしてやった反省はしていない。相手は木の葉だしこれぐらいはいいよね。

「さあ、撤収!」

「「ちょ!」」

全速でその場を退避しました。所詮は中忍なので、追ってきても無駄無駄。
数分もすれば、簡単に振り切れました。

「最悪だね君」

「悪戯がしたい年頃なんで」

「精神的にはもうオッサンでしょ」

「男はいつまでも少年なのさ。というか、マダオには言われたくないな」


「「………」」







「あー、殴り合ってるとこ悪いが、例の娘っこ。かなりまずい状況になってるぞ」

「「何!?」」





● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●




「くっ」

突然現れた下忍――――いや、あれは下忍じゃない。あんな殺気と威圧感を放てる下忍など、存在しない。

でも、考えている暇もない。私の目の前には、こちらを飲み込もうとする大蛇が居る。
どこから現れたのか、なんてこともいい。まずは、この敵をどうにかしなきゃ。

でも、見た感じかなり訓練されているようで隙がない。
私より動きも鋭く、油断すれば一気に飲み込まれそうだ。

でも、負けてなんかいられない。あの下忍に扮した化物が、二人を襲っているのかもしれないのだから。

「はっ!」

気合と共にチャクラを込めた攻撃を当てる。でも、びくともしてくれない。
術で吹き飛ばそうにも、その隙が無い。印の方に集中すれば、たちまち丸飲みされるだろう。

決め手打つ手も、無い。でもこのままじゃいずれやられる。純粋な体力といった点では、人間より蛇の方が圧倒的に上だ。
このままじゃジリ貧になる。

二人の所へ逃げるか、と考えるが、先ほどから肌にひりついているこの殺気。
どうも、尋常じゃない。自来也のおじさんに匹敵するかもしれない。

ここで私が蛇をつれて戻ったら、事態がよけいに悪化する可能性がある。


「っと!」


こちらの思考の間隙を察したのか、蛇が突進をしかけてくる。
その速度は早く、サスケ君に匹敵するぐらいだ。だが、避けられないというほどでもない。

跳んで避けられる――――だが、その直後に私は凍りついた。

「!?」

突進をかわされた蛇が、私の背後にあった木に巻き付き、その遠心力でこちらにUターンしてきたのだ。
こっちは空中に居るし足場もないから、移動できない。

(ま、ず………!)

“アレ”を使う間もない。だけど諦められなくて、クナイを抜き放ち構える。
最悪、噛み付かれても相打ちにはする。



そう、覚悟を決めた時でした。










「パ○スト流星脚ーーーーーーーーーーーー!」








まるで閃光のように、あの人が現れたのは。






● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●





危なかった。危機一髪だった。もうすこしで丸飲みにされる所だったキリハを助けられた。

うん、普通のレベルじゃ無理だよね。あの口寄せ蛇。下手すれば中忍ですら倒されそう。
蛇君、全力の蹴りを入れた後にまた反撃してこようとしましたが、キューちゃんがじろりと一睨みすると逃げました。
本能でレベル差を感じたようだ。

「で、大丈夫だった?」

笑顔で語りかける。無視するわけにもいかないので。

「………うん、大丈夫だけど、その」
「だけど?」
「えっと、どうして助けてくれたんですか?」

戸惑いながら質問してくるキリハ嬢。

そうだよね、他国の忍びなんて助けないよね。
俺はいいごまかし方を考えながら、ポリポリと頬を書く。どう言ったものか。。

(ってええい、野次馬二人、物陰から見るな! 散れ!)

「って、ああ! も、戻らないと!」

キリハ嬢、仲間のピンチに気づいたようで、急ぎ助けようときびすを返した。
でも一瞬だけ立ち止まり、振り返ると「ありがとう」と笑顔で言ってくれました。

そして顔を凛としたものに戻した後、全速で仲間の元へ駆けつけていった。

「うん、きちんとお礼を言えるなんて、やっぱりええ子やなー」

「それはそうでしょう。だって僕とクシナの娘だよ?」

「………ほんとうに、ええ子やなー」

「今の間はなに」

つつ、眼を逸らしてしまった俺を、一体誰が責められよう。

「それで、あの娘を助けにいかなくていいのか?」

「………あ!」

発禁伝説さんがあちらにいらっしゃるじゃないですか!

「まずい――――でも、この姿のままで行くのもダメか。ちょっと姿を変えていかなきゃ」

でも一人じゃ心もとない。それでキューちゃんちょっと、と呼び寄せる。

「ん、何じゃ?」

手招きしたキューちゃんにチャクラを流し込み、変化の術を発動する。


「変化!」






○ ● ○ ● ○ ● ○ ●





「そんな・・・・」

高く、大樹の枝の上。下では、何やら絶望の表情を浮かべて信じられないという顔をしているキリハが居た。

間に合ってよかった。絶対に助けねば!




「そこまでだ」

威厳が出るように意識して、静かに告げる。


「………何者?」

俺から発せられる気配で、その力量を感じ取ったのだろう。
大蛇○は即座に警戒態勢に移った。遊びのないその構えに、一切の隙は存在しなかった。

流石と言っておこうか、だがそうでなくては。











――――赤いマフラーたなびかせ、胸に宿るはただ一つ。

一心不乱の友情求め、今日も彼は世界を越える。黒い童女を傍に置き、さあ高らかに名乗りを上げよう。














「それが少女の危機ならば、それを阻止するのが我ら影。
 拙者の名はロジャー。ロジャー・サスケ! 白の真珠にして少女の盾! 世界忍者!」











雰囲気と世界観を、全て置いてけぼりにして。

俺は今の自らの姿に相応しい名を、声も高く名乗り上げた。




[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 十話 「入って乱れて」
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2011/09/22 01:43

「僕の前に麺はなく。僕の後ろに麺はできる。ああ、自然よ。マダオよ。
 僕をこの世界に呼び寄せた壮大なマダオよ。
僕から目を離さないで見守る事をせよ。常にマダオの気魄を僕に充たせよ。
この遠い麺道のため。この遠い麺道のため」


  ~ 小池メンマ風雲伝序章 「ど、ど、ど、童貞ちゃうわ!」 から抜粋 ~








「しっ!」

大蛇○から放たれた草薙の剣による斬撃を、呼気と共に立てた掌の外側で捌く。

草薙の剣の横刃を捕らえ、円を描く軌道で外側に弾く。
すかさず、空いた隙に掌打を差し込んだ。

狙いは、急所である脇腹――――肝臓への一撃。だが相手もさるもの。体勢を崩されながらも、咄嗟に身を捻り直撃を避ける。

(あれでも無理なのかよ)

内心で舌打ちする。10を越える合を交わしたが、いまだにクリーンヒットは無い。
こちらといえば、草薙の剣によって掠り傷程度だがダメージを受けている。

剣を繰り出してくるタイミングが絶妙すぎるのだ。芯で捕らえられてはいないが、斬撃の切っ先を完全に外すことができない。
浅く刻まれた傷口が、動くたびに痛みを訴える。

(流石にやる!)

流石は三忍の一人、大蛇○。今まで対峙してきた奴らとは桁が違った。

(………ならば!)

「ワガメちゃん!」

「………了解じゃ」

合図した声と共に、ワガメちゃんことキューちゃんは、心底疲れた顔をしながらも印を組み(実際は全然そんな事しなくてもいいのだが)帯状の炎を出す。


火遁・狐火の術。
だが、大蛇○の方も印を組み、術を発動させる。


土遁・土流壁の術。


狐火はその巨大な土の壁に阻まれた。表面はこんがりと炎に焼いたが、破壊するまではいかなかった。

だが、まだ焔は持続している。消えるまで数秒だろうが、これでやれる。

相手の視界は防げた。今ならば、ひっかかるだろう。


「いくぞ!」


この機は逃さない。すかさず影分身を使い、その分身対に土の壁を駆け上がらせる。
足のチャクラで吸着する、木登りの術の応用だ。

囮である分身体を前に。
俺は忍具口寄せを発動させると同時に、次なる術を使うために印を組んだ。

「一度殺されても 今に見る夢は同じなり 愛してる 愛してる 愛してる 愛してる 
この輝きは何も奪わない。麺を想う我が意志の元、ただ愛を具現するが如く、包み込むその抱擁の意味を知れ」

焔が消えたと同時、影分身が壁を登り切って跳躍。意識を若干だが逸らさせる。
だが、その一瞬の陽動で十分。

掌にチャクラを集中。アレンジにアレンジを重ね、あれ、それもう別物じゃね?

と言われた術、とくと見よ!


「完成せよ、精霊麺!」


口寄せされたもの―――白く光る布の束が、大蛇○の身体を包み込んだ。

追尾型捕縛術。封印術を組み込んだ布が、先ほど掌打と共にマーキングした大蛇○の身体の方に殺到する。

上方に意識を逸らされた大蛇○。壁の左右から急に現れた布を見てから逃れようとするが、遅い。
布は大蛇○を追って上昇し、やがてその身体を捕まえた。


そして、優しく慈悲なく容赦なく、その全身を覆い隠した。



○ ● ○ ● ○ ● ○ ●



「あの、ありがとう御座います」

「礼はいらない」

全てこっちの都合なのだから。

「あの、それであの下忍は………」

サクラは、繭に包まれた変態の方を見て、不安そうに呟く。

「あと一時間くらいなら大丈夫だろう。この隙に、逃げなさい。あれは化物なんて可愛いものじゃない。外に出てきたら殺されるだろうから、ここに残ってはいけないよ」

繭の表面に、『発禁』の札は張っている。あれならば誰も触ろうともしないだろう。
封印術を兼ねた無駄に高性能なあの術。あと最低二時間ほどは解けない。

そのままシベリアにでも郵送したいが、この世界にはシベリアは無いのである。
残念。でもあの物体をよそ送りつけるって一種のテロだよね。宣戦布告にとられかねないというか。

「あの、それであなたは一体………?」

おずおずと訪ねるサクラに、俺は名刺を渡す。

「天に輝く七星の元、友情の可能性を求め流離う紳士です」

キリハ嬢・サクラの二人が、さしだされた名刺を見て、不思議そうな表情をする。

「"七星食品、麺'sワーカー、ロジャー・サスケ"ですか・・・」

苦笑された。あ、そうか。忍者に名刺は無いのか。

ちなみにそんなもあるかとツッコミ入れてきそうなうちは少年は、あちらで絶賛昏倒中。
うめいているが、無視する他ない。そりゃあ、キスマーク付けられたら悪夢も見るだろうしなあ。

今はそっとしておいた方が彼のためである。

と、いうことでこの場は去ろう。

「いけません、そろそろ時間のようです」

「え?」

「それでは、美しいお嬢さん方………縁があれば、またどこかで」


颯爽と、その赤いマフラーを風にたなびかせて、去る。







「ロジャー・サスケね………格好良いってああいうのを言うのかな」

「ちょ、サクラちゃん正気に戻って!?」

サクラは混乱している!













で、二人と合流した俺は、元の姿というか変化体(春原ネギ)に戻り、さっき負った傷を治療する。

「あー終わった、終わった、きもかった。で、どうする?」

取りあえず変態の危機は去った。まあ、キリハ嬢その他一行だけだが。
少しだけ様子をみるか。

またイレギュラーがあるかもしれない。







● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●






死の森の中を疾駆する。

先ほどの消写顔を使われた、草隠れの下忍の死体。あんな術を使うのを、私は一人しか知らない。

大蛇丸。

………戻ってきているのだ、奴が。かつては師とも呼んだ彼が。

ならば、元弟子である私が始末をつけなければならない。

そう決意して、私は全速で森をかけていた。


(………ん?)


その時だった。森の一角、ひらけた場所に立っている、変な物体を見つけたのは。

それは、白く包まれた、蝶の繭のような塊だった。
どうしたことか、近づくと同時に、白く発光している。


その様は、凄く綺麗だった。




数秒後、その輝きは収まった。そしてゆっくりと、繭が破ける。





「………蝶々?」



まさに芋虫から蝶になる様相。

思わずつぶやいてしまった私の前で、まゆの何かが現れた。


そのあまりにも神々しい光景に、私は一瞬時間を忘れた。








―――――でも。










そこに現れたのは。























「まったく、大変な目にあったわ」

















全裸の大蛇丸だった。


























私はクナイを持ち、叫びながら突進した。

………色んな意味で、裏切りやがって!

大蛇丸がこちらに気づき、慌てて構える。



「なっ、アンコ!?」



だが構うことなく、私は突進しながら叫ぶ。

















「この、変態が―――――!」
















● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●







そこから少し離れた場所。


「サスケ君、起きないね」

「あの大蛇丸ってやつに、術を……見たことも聞いたこともないけど、何かを仕込まれたんでしょ? 取りあえず、目を覚ますまで待つしかないね。迂闊に動かすと危険かもしれない」

「うん。えーと、キリハってあの大蛇丸って変態なおっさんと知り合いなの?」

おっさんって、と呟きながら私は苦笑を返す。

「あの人は………元だけど、木の葉の三忍の一人だよ? 

知らないのと聞くと、サクラちゃんは知らないと首を横に振った。
まあ、仕方ないのかもしれない。

「今は抜け忍になってるからね。私も、自来也先生のおじちゃんが話しているのを聞いたことがあるだけで、どういう術を使うのかはよく知らないんだけど」

「やっぱり、強いの? 波の国で会った、あの再不斬って抜け忍よりも」

サクラちゃんは先ほどの事を思い出し、身震いをしている。
死をイメージさせられるほどの殺気だったらしい。それは、私にも分かった。遠くからでも分かる醜悪なチャクラと、異質な存在感。

「うん。桁違い、と言っていいかも。私達じゃ………例え相手が両目瞑って両足縛られてても勝てないよ。純粋な力量でいえば、今の三代目のおじーちゃんより上かもしれない」

最盛期ならともかく、チャクラ量も衰えしかも実戦から遠ざかっているおじーちゃんでは、きっと勝てないだろう。
昔にあったとある事件が原因で、その衰えが進んだと言われているし。

もっとも、その事件については箝口令がしかれていて、私でもその詳細は分からなかったのだけど。

(何なんだろうな………私が知ることのないよう、特に注意を払っていたようだし)

カカシ先生も、自来也のおじちゃんも、火影のおじーちゃんも。
そして、猪鹿蝶のおじさん達も。私の顔を見て、辛そうな顔をする時があった。


その答えが、その事件がなんだったのか。
あの大蛇丸が言っていた事が本当ならば、全ては繋がる。繋がってしまうかもしれない。

そう考えていると、サクラちゃんに大丈夫?と言われた。顔に出ていたのかもしれない。

「キリハ………もしかして、大蛇丸が告げたあの戯言を信じてるの? キリハにお兄さんがいたってこと」

「ん………困ったことに、そう考えれば納得できる部分もあるんだよ」

大蛇丸は言っていた。兄は、木の葉の暗部に殺されたのだと。

「まさか、でしょ? だって、キリハのお兄さんってことは、四代目の息子じゃない。そんな事あるわけ無い」

「そうだね………まあ、それはともかく」

「え、急に立ち上がってどうしたの?」


気配に気づいたと同時。

私は傍にある石を掴み、その方向へと投げつけた。そして、告げる。

「そこの人達、いい加減に出てきたら? 女の子の話を盗み聞きするなんて、マナーがなってないよ」

聞こえる息遣いとわずかに見える姿は3つ。

私でも分かるぐらいだから、手練ではないようだけど――――

「いやいや、流石は四代目火影の御息女。バレバレでしたか」

―――額当てを確認。一次試験でちょっかいをかけてきた音隠れの忍びか。
特別、できるような気配は感じられない。数年前に模擬戦で対峙した、日向のネジ君にも遠く及ばない。

「へっ、こんな甘い奴ら俺一人で十分だぜ。なあ――――」

雑音は無視して、考える。なぜ私たちを狙ってきたのだろう。タイミングと言葉から、推測してあたりをつける。
状況、時、そして言動。

つまりは、このタイミングで来る、ということは答えは一つか。
私は自分を無視したのが気に入らないのか、目をしかめる単純そうな男の言葉に口を挟む。

「大蛇丸の差金ね?」

相手が更なる言葉を発する直前、差し込むように言葉を入れたのだ。

会話の呼吸を読んだその一言。黒髪のツンツンは即座に反応できず、一瞬硬直した。
その表情には驚愕の色。

「当たり、か………音隠れの里って、新しい里のようだけどもしかして創設者は?」


続く私の言葉を聞いて、ツンツンとくのいちの方は動揺を隠せていない。いや、包帯を顔に巻いたやつも動揺している。
三人とも、未熟だね。これなら、サスケ君が目覚めなくて2対3になっても勝機はあるか。

「キリハ」

サクラちゃんが立ち上がる。
先ほどの大蛇丸との対峙で、随分と消耗していたけど………その疲労から、若干だが回復はしているよう。

私は無言で、サクラちゃんは後ろの方向をちらりと見る。
サスケ君はまだ起きる様子はない。つまり、ここは自分たち二人でどうにかしないといけないってこと。



目配せをして、頷き会う。そして、二人揃って、拳を突き出す。

そして『倒す』という意志を乗せた、戦闘開始の言葉を告げる。


「準備OKよ?」

「私達に勝てると思うのなら、かかってきなさい・・・!」



背後で未だ眠る仲間を守るために。


私たちは、武器を取り出し戦うための体勢に入った。









● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●




木の葉の死の森の中。ウチらは、大蛇丸さまの緊急指示で捜索をしていた。

「……大蛇丸様、随分と怒っていたな」

「珍しくな。それよりもクソネズミ共を速く見つけようぜ、デブ。長居しても意味無いしな」

「多由也………いつも注意しているが、女がそういう言葉をあんまり」

「いいから、行くぜ二人共」

命じられたのは一つ。
波風キリハを襲っていた、大蛇丸様の口寄せの蛇を倒した下忍を追えとのこと。
大蛇丸様が言うには、蛇は何かに怯えていたらしい。ともすれば中忍をも倒せるあの蛇があれほどまでに怯えることはあり得ない。

もしかしたら、他里の者も入り込んでいるかもしれない、とのこと。他に原因があれば、それを見つけないといけないのだ。
木の葉崩しを控えている今、余計な因子は取り除いておかなければならない。

数分ほど気配を探って、森の中を探し回る。やがて、ウチらはある気配を察知した。



「お、もしかしたらあいつらか?」



何故か森の中で競歩をしている二人。

そして、ため息を吐きながらその後ろを歩く、着物を着た童女を発見した。




● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●



気配を感知する。異様なチャクラだ。だけど気づかない振りというか競歩に夢中なので無視して、俺はその人物が登場するのを待った。

「おい、そこのクソ馬鹿共」

「「何でしょう」」

マダオと一緒に即答する。
突っ込み待ちだったので、その突っ込みの言葉に即座に反応してしまったのだ。

樹上、木の枝の上に立ちながら声を発した女の子は、俺たちの返答に変な顔をする。
やがて、ため息をついた後、そこから地面に降り立った。

「親方! 空から女の子が!」

「待て、パ○ー、よく見ろ。残念な事に男つきだ」

マダオの言葉に待ったをかける。

後ろに、デブと片目を髪で隠した男がいる。
え、もしかして音の4人衆?何でこんなところにいんの?

そんな俺の混乱をよそに、左近らしき男が酷薄な笑みを浮かべる。

「けっ、こんな間抜けじゃあり得ねか………次郎坊」

「何だ?」

「こいつらの始末を頼む。姿を見られたからな。一応、始末しておいてくれ」

いや、姿見せたのそっちじゃん!?
と突っ込むが、華麗にスルーされた。おのれ左近にうんこ。

「………なんかすごい弟がムカついているんだが、お前なんか言ったか」

「いえ、何も」

「まあ、いい。どのみちお前はここで終わりだ。多由也、ここはほっといて先に行くぞ………どうも、あっちの方で戦闘をしているらしい」

「一応、見に行かなきゃならねーか。仕方ねえ」



そういって、口の悪いくのいちと鬼太郎な顔色悪い忍びの二人は去っていった。



残るのは、腕を組んで自信満々そうに俺たちと対峙するデブ。

「悪いが、お前達にはここで死んでもらう。何、一対三はハンデだと思っていい」

自信満々にチャクラを解放する次郎坊。これもう、どうしようもねえんじゃね?

目配せをすると、二人は処置なしと首を振った。

「さあ、かかってこい!」




…………沈黙せざるをえない。

どうも彼、1対3とはいえ、下忍風情に負けるとは微塵も思っていない様子。


ならもういいかあ。


「どうした、怖じ気づいたか―――――って速ッ!?」



ボコ、ガス、ドカ、ドン、ゴス、ドキャ、ポン、ポカ、メメタァ!



取りあえず、しばらく起きられないように三人でボコっておきました。
まあ、殺してませんよ一応。あとあと面倒になりそうなんで。

「うん、仮にも忍びなら、相手の力量を見定めてからものを言おうね!」

「どう見てもアホにしか見えなかったんじゃろ」

「「ごもっともだね!」」

マダオと二人で親指を立てる。キューちゃんなにやら疲れた様子。
ま、それは置いといて、向こうの方でドンパチしてるそうですから俺たちも行ってみますか。

っていうかまたイレギュラーかよ。勘弁してくれよ。




間もなく、現場に到着した。

樹上から、戦場を見下ろします。マダオとキューちゃんは下で待機中。



辿り着いた時、決着がついていたのは、一人だけでした。

一人は犬神家の一族のような格好で、地面に突き刺さっていた。見るに、音隠れの下忍の一人らしい。
もしかしたら表蓮華が完全に決まったのか。原作通りに眉毛君が助けにきたのか。
でも彼は術の反動か、膝をついて立ち上がれないよう。

なんか、シュールな光景。



残りの二人は、まだ戦闘中。

キリハ 対 トンガリ。名前なんだっけ。
ともあれトンガリコーンな黒髪君が、衝撃波を乱発してます。

それを華麗に避けながら、衝撃波の影響範囲をさけるように弧を描く軌道で手裏剣を放ち、当てるキリハ。
華麗です。というか、初見で影響範囲と弱点を見抜いています。

あと、キリハの華麗な立ち回りに、下のマダオが静かに興奮している模様。
ちょ、うるさいよ。見つかるだろ。



残る一人は、サクラと正面から殴り合いの戦闘中。地味すぎる。



多由也、左近・右近の二人はまだ潜んでいるようで、戦闘を観戦中。
割り込む気は無いのか――――と思っていた所、動きました。

ある程度回復したのか、リー君がサクラの援護に入ろうとした時。


多由也、左近・右近の二人がようやくといった感じに動いた。


「くっ、新手………!?」

キリハが嫌悪感を顕に叫びます。
口寄せ蛇くん、大蛇○という嫌な相手との連戦の少し後だから仕方ないね。

疲労がピークに達しているのだろう。それはサクラも同じらしく、肩で息をしている。


そこで、新たな登場人物が。

リーのチームメイト、ネジとテンテンが応援に駆けつけた様子。

………これは、不味いことに。
片方は木の葉の下忍最強。片方は、ともすれば特別上忍相手に勝ちを拾える手練。

このままでは、双方に相当な被害が出る様子。
あまり、原作の展開から外れるのは不味い。特に音の四人衆だ。こいつらがここでやられると結界がどうなるか分からない。
あるいは、木の葉崩しの作戦に影響しかねない。


(ここは一肌脱ぎますか)



激突は避けた方がいい。そう思って、懐からあるものを取り出した。








● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●





「くっ、新手………!?」


気づかなかった。この距離で全く気取らせないとは、かなりの手練であることは疑いようがない。

リーさんの仲間も来たようだけど………この新手、なにか嫌な感じがする。
肌にひりつくような、『どこか違う』気配とチャクラ。先ほどの大蛇○ほどではないけど、上忍や特別上忍とはまた違う、でも同質の“外れた”気配を感じる。

容姿から、年はそう変わらないと見ていい。
それでも、ただの下忍ではない。勘だけど、間違ってないと思う。

(少なくとも中忍レベル。まったくもう、次から次へ、と……!?)




この場をどうするか。それを考えていた時だった。

空から、笛の音が聞こえてきたのは。























ピロリーリリ、ピロリリリリー。







場が硬直しました。







「チャルメラ!?」





サクラちゃんも気づいたようです。風に乗って、笛の音が聞こえてくる。

何故かわらび餅が食べたく………いや、違う。落ち着け私。

敵も、その笛の方角を見ている。
ということは、新手ではないのかも。

音の忍びらしき赤髪のくのいちの方が何かを呟いています。

え、何、この笛の音は、って何か分かったの。是非とも教えてください。もう今日はいっぱいいっぱい。




「っ、あそこです!」



リーさんが樹の上の方向を指さします。



「え………あれは、もしかして春原さん?」




そこには、静かに笛を吹く、春原さんの姿がありました。




やがて春原さんは笛を吹くのを止め、こちらを見つめます。




そして、その場を飛び降りました。




「とうっ!」





一瞬のためらいもなく、掛け声と共に飛び降りました。

って、あんなに高いのに!
















そして、まるでどこかの英雄のように。


















回転しながら振って来る、春原さん。





























やがて、着地した彼は。
























バナナの皮を踏んで、転びました。




















「大骨折したァ――――! 痛すぎるぅぅぅぅぅゥ! ってお前何すんだマダオ!」


私は見ました。着地点に投げ込まれたバナナの皮を。



(見事なバナナ投擲術・・・! って違うよ私、落ち着け私、逃げるな私)

現実逃避しようとする本能を抑えこむ。しかし、続く言葉には黙らざるをえなかった。

「いや、ネタ振りかと思って」

「……………」


ぎゃーぎゃ言いながら喧嘩する二人と、その傍らで沈痛な面持ちを浮かべながら眉間を抑える可愛い少女。


あまりにも、あまりに過ぎる光景。



誰も、言葉を発せません。







「なにコレ。え、ドッキリ?」







サクラちゃんが、その場にいた全員の心の声を代弁しました。








● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●






執務室の中。
部下からの報告を聞いたワシは、心の動揺を抑えきれなかった。

「………何?」

部下からの報告に、本当なのかと聞き返す。

「はい。どうも、幻術では無い様子で」

「そうか………」

大蛇丸がの。

部下がいうには、みたらし特別上忍からの報告とのこと。まず最初に、消写顔の術を使われた下忍の姿を確認した。
そして先ほど入った報告では、直接の戦闘を行ったと。最終的には逃げられたらしいが、アンコは瀕死の状態だったらしい。

と、すれば間違いはないだろう。大蛇丸がこの試験に潜伏しているのは。

「どうやら、覚悟を決めねばならぬか」

一時だが、四代目に火影の座を渡して。そして、火影を辞してからだ。
ワシには、何も成せなかった。四代目とクシナと九尾。うちはも、大蛇丸も…………そしてあの二人の忘れ形見である、ナルトの事も。

(だが、弱音を吐いてはおられん。一つでも多く、片を付けねばならん)


時代に遺す者として、それだけはしておかなければならない。

今だ消えてはいない、火の意志が胸にあるのを感じ。

ワシは来るべき時のために、すべき事を胸に刻み込んだ。





[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 十一話 「死の森を越えて」
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2012/03/15 21:52
「どうして分からないんだ!確かに、キューちゃんは油あげが好きかも知れない!
 だけど油あげを入れたら、それはもうラーメンでは無くなってしまうんだ!」

『何を戯言を! お前はあれを食べても分からなかったのか!
 麺などむしろ添え物! 油あげこそが本体なのだ!
 美味いもの一つを求めて何が悪い!』

「違う! ラーメンは全てで一つ!
 メンマも玉子もチャーシューも、海苔もネギもスープも麺も!
 みなスープの元に調和して合わさって初めて、一つの形になっている!
 その調和が無いラーメンを、俺は作る事などできない!」

『ならば、しょうゆラーメンとは別として、メニューにきつねうどんも
 入れればよかろう!』

「ラーメン屋はラーメン屋、そしてうどん屋はうどん屋なんだ!
 その二つの品は、同じ店では決して相容れないもの!
 どうしてそれが分からない!」

『ならば、メニューはきつねうどん一つにすればよかろう!』

「ラーメン屋でメニューがきつねうどんだけって180度反対すぎるでしょ!」

『ならば油あげをワシにくれ!』

「話変わってるよ!?」

うつむき、歯を食いしばる。

「………どうしても分からないっていうのなら。
  キューちゃん、君が退かないっていうのなら………!」

『愚問!』





『「ならばっ!今こそ我ら、真に一つとなる時!」』





   突発的ショートショート
    
    「開店前のとある一シーン~相容れない運麺よ~」より抜粋






取りあえず、音隠れの人達にはお引き取り願いました。

「次郎坊はどうした?」と聞くので、砂(フクロ)にしました、と言ったら、怪訝そうな顔をしました。
あれ、意味が通じなかったのか? 坊やだからさ、と言った方が良かったか?

まあ、次郎坊がどうなったのは別として、この短時間で俺たちがここに辿り着いたのは事実。
相手にはそれが分かったのか、油断無く身構える。

そんな二人を見て、ため息を吐きながら行ってやった。
どうやら、このまま大人しく退いてはくれないようだから。


――――ただ一言、「蜘蛛の人はいないの?」と。



その言葉は、最大限の警戒心を呼び起こしたのでしょう。
知るはずもないことを知っている。それだけで、牽制には十分。

二人は先ほどとは違い、よりいっそう緊張した面持ちになる。
周囲の状況、こっちが9人(一人昏倒中だけど)に比べ、あっちは実質4人という事を確認した後。

分が悪いと判断したのだろう、忌まわしげな表情を浮かべながら「見逃してやる」とだけ告げ、下っ端3人を連れて逃げていった。

それを見届けると、横でキリハがへたり込んでだ。
精神的にも肉体的にも疲労を重ねたから、仕方ないともいえる。

それでもすぐに気を引き締め、気丈にも立ち上がると、俺にお礼を言ってきた。

「あの………先ほどの蛇の時といい、度々ありがとうございます」

「いえいえ。さっきのも、成り行きだから気にしないで――――ってそこの3人、そろそろ出てきたら?」

ついさっきに感知した気配の主が居る場所。
背後でこちらの様子を伺っていた茂みに隠れている三つの気配に声をかける。

「………仕方ない、か」

返事と共に、苦虫を噛みつぶしたかのような表情を浮かべている、猪鹿蝶のトリオが出てきます。

「気配は消していたつもりだけど、よく分かったわねアンタ達? ………滝隠れの里の忍びにしてはやるみたいだけど」

ま、額当てのこれは偽造ですけどねー。
それにしても、強気な発言。ま、木の葉隠れは自他共に認める最大の忍里ですからしょうがないか。

「気配が少しだけ漏れてましたから。いや、実に見事な隠行でしたよ?」

「それは、皮肉?」

いかん、警戒心を高めたか。

「いのちゃん、春原さんはさっきも私を助けてくれたんだよ。少なくとも今は、敵対する必要無いと思う」

「………分かったわよ。キリハ、あんたは相変わらず脳天気ねえ?」

「ぶー」

いかん、ぶーたれるキリハが蝶可愛い。
ってこらマダオ、悶えるな。クネクネするな。変な目で見られてるだろ。

「で、あんたらは?これからどうすんだ?」

シカマル君はそれでも警戒を緩めていない様子。
うーん、やっぱり先ほどの隠行といい、原作と違うっぽいなあ。放つ気配も、下忍にしては鋭いし。

ここはさっさとずらかることにしようか。
取り敢えずは、と。

「天地の巻物がまだ揃って無いんで、取りあえず索敵かな」

「………目の前に敵がいると思うが?」

「まさか。日向やうちはを敵に回せる程の力はないよ」

とネジを見た後、サスケの方に視線を向けます。

(ってサスケ少年が起きとるがな! やべ、目があった)

黒いチャクラを体中から吹出しながら、サスケは低い声でチームメイトに声をかける。

「キリハ、サクラ………誰だ、お前らをそんな風にしたのは」

先ほどの戦闘で、少ないですが手傷を負っている二人。
それを確認すると、サスケはクナイを手に持ち、

「危ない!」

突進してきた。
傍にいたイノを咄嗟に突き飛ばし、そのクナイを手に持つクナイで受ける。

「お前は、敵か?」

「違う、と言っても、聞く耳もってないようだね」

呪印の影響が、チャクラが高まっている。
力に酔っているようだ。

「ふん!」

サスケはこちらの言葉を聞こうとせず、回し蹴りを放ってくる。
取りあえず避けよ――――ってぐあ!痛い!足が!マダオ!死ね、って痛え!

足の痛みで硬直していまい、避けきれずに横腹に蹴りを受けてしまった。
そのまま、吹き飛びます。いや、全然効いてないけど。

「次は、てめえだ!」

と、近くにいたキューちゃんに殴りかかる少年。
あー、不味いって。

「やれやれ」

疲れた声と共に。
下忍にしては速いサスケの拳だけど、キューちゃんはそれを片手で無造作に掴んだ。
見切るとかそういうレベルじゃない。ただ、其処にあるものを掴んだという風に。

掴み、動きを止めたまま、サスケの顔を凝視。その後、忌々しげな表情を浮かべて言葉を零した。

「ふん………写輪眼、か」

心底嫌そうに呟いた後、キューちゃんはその掴んだ拳を横に引っ張り、勢いのまま、頭上に持ち上げる。

「なっ!?」

驚くサスケ、そしてその他全員も動揺を隠しきれないようだ。
まあ、どう見ても自分より年下のあんな童女が、人一人を軽々と持ち上げるような怪力を持ってたら驚くよね。

キューちゃんは持ち上げたサスケを、そのまま軽く放り投げた。
しかし宙に投げられたサスケは、空中で回転して着地。

すかさず踏み込んでくる。キューちゃんはため息一つと共に、迎撃の拳を放とうとする。

(ちょ、それはまずい!)

あの一撃、直撃すれば赤い花が咲いてしまう。そう判断した俺は片足で跳躍し、その蹴り足で飛び蹴りをぶち当てる。

「てめえ!?」

叫ぶサスケ。うるせえエビフライぶつけんぞ。
その眼力に何かを察したのか、ばっと飛びず去る。

そのまま注意深くこちらを睨んできた。でも踏み込めないようで、二の足を踏んでいる。

今ので力量を察したか――――その目で俺たちの力量を察したのか。

でも数秒後、キューちゃんは何の気にもしていないという風にサスケに背中を向けた。

「………行くぞ。興が殺がれた」

「「承知」」

その威厳のある童女の声に、おもわず付き従ってしまう俺とマダオ。

ちょっとキューちゃん、何か機嫌悪くなった? 声と顔が怖いよ。
ま、それはさておいて、逃げるか。


怪我している方と逆の足で、跳躍。
ひとまず木の上に昇る。



「待て!」

「待ちません、さようなら」

マダオに肩を借り、そのまま逃げる。いいよいいよ、ってお前のせいだろマダオ!

逃げる前に、いのが何事か呟いていた。
やや神妙な面持ちだが、まあここは逃げるしかないか。








「成り行きだから、気にしないで………?」






で、その後逃げた俺たちは取りあえずそこら辺に居た下忍を狩って、地の巻物ゲット。
そのまま目的地に辿り着き、第2の試験クリア。

もちろん、到着する前に変化済み影分身と入れ替わりました。
あそこ、退屈そうだし。



――――ま、ここは取りあえず、我が家に帰るとしますか。








○ ● ○ ● ○ ● ○ ●




「はあ………」

『どうしたの?ため息なんかついて』

帰り道、二人にはひとまず中に戻ってもらった。
多人数だと目立つんで。足はすでに治療済み。

治療は未熟な掌仙術でOKなぐらいの軽傷。この程度の怪我は実戦で幾度かあったので狼狽えるほどでもない。
苦手ですが、これぐらいの怪我なら治せる。きゅーびの回復力と併用すれば、そうそう死ぬこともない。

「ため息………いや、ね。今回も出会いが無かったなあって」

『まあねー。実質助けたのはキリちゃんだけだったし。山中さんちのいのちゃんには警戒されてたしね』

「はあ………不幸だ、気が重い」

鬱だ。今ならば獅子咆哮弾を打てる自信がある。

『猛虎高飛車! 猛虎高飛車! 猛虎高飛車!』

うぜえよマダオ!
ちょっとネタ教えたら直ぐものにしやがって!

『でも反応が無かったら寂しいんでしょ?』

(………そうね。一人は、寂しいものね)

これも芸人としてのサガか………

『いいから、さっさと帰るぞ』

キューちゃん、先ほどからちょっと不機嫌です。サスケの写輪眼見てからですね。
何か思い出したのかな?




やがて、家の前の森の入り口に辿り着いた。
まずは侵入者防止用の罠を解除。

ここの罠を解除するには、俺たち(俺と白と再不斬)のチャクラパターンと、専用の合い言葉が必要になる。

合い言葉は一応週毎に変えている。

今週は確か―――――ああ、あれだったな。



「"新たなるラーメンの器よ。願わくば宿るべきあなたのそのラーメンに幸いあれ"」


封印は解かれました。
別に体重80キロの童女は出てこないけど。

そこから走って数分。玄関を開けると、なにやら食卓に座る再不斬の姿が。

「………お前、今試験中じゃなかったのか?」

帰ってくるなり、再不斬の不機嫌な声で出迎えられました。
なにこれ理不尽。

「っていうか二人とも、何してんの?」

「ちっ………見れば分かるだろ」

食卓には、白と再不斬二人の姿が。
おいおい、美味そうなもん食ってるな!

「えっと、ナルト君も食べますか?」

と言ってくれる白嬢。笑顔に心が癒されます。



――――でもね、俺は空気が読める男なんだ。


『嘘だっ!』

黙れマダオ。そしてこれを見ろ! どう見ても再不斬専用に作られた料理! そして、エプロン姿の白嬢!
ああちくしょう、ポニーテールが眩しいぜ!

そして、白嬢は俺に笑顔でこの料理を勧めてくれてはいるが、その表情はどことなく悲しそう!

総合すると、どう見てもこれはこれですよ。

「………うあ~んちくしょう――――! 眉無しなんて眉毛書かれて個性を無くしちまえ――――!」

「ちょっ!?」

泣きながら、おじゃま虫である俺はその場を逃走した。いつの間にか我が家は二人の愛の巣になっていました。
なによ、ちょっと家を空けたぐらいで!

でも見ていてすげえ微笑ましいので、許してしまいそうな自分が悲しい。
俺はフラグのフの字も立っていないというのに。今ならば最大級獅子咆哮弾でも放てる自信がある!


『猛虎高飛車! 猛虎高飛車! 猛虎高飛車!』


「だからうぜえって言ってるだろマダオォォォ!」


口寄せで呼び出したマダオと死闘を繰り広げました。





「はあ、全くこいつらは」



ため息を吐きながらも、キューちゃんはいつもの調子に戻ったのが不幸中の幸いだった。






○ ● ○ ● ○ ● ○ ●







休息を取り、第3試験が始まる前日。俺たちは影分身と入れ替わりました。
整列している中、何やら視線を感じました。

(山中いのに、日向ヒナタ。それに奈良シカマル?)

えっと、何でそんな目で見てくるのかな。

(あ、その三人って子供の頃に助けた面子じゃないの?)

(そうか………な、何だってー!?)

(落ち着かんか)

(キューちゃんに言われるとは。っていうか、ばれた? いや、姿も違うし、ばれる筈ない。なら、何で?)

(さあ。まあ、変化している内はばれないから、そう慌てる事もないんじゃない?)

(そうだな)

取りあえず、試験をクリアした面々を見渡します。お、音の三人も揃ってるか。リーの表蓮華を喰らったあの下忍も来てるな。
足ががくがく震えてるけど、立てては居る。カブト当たりに治療してもらったか?

しかし――――予定の域を大過なく。
まあ、大したイレギュラーもなかったからね。今ここに居るのは、原作+俺たち3人という顔ぶれ。
サスケがこちらを睨んでいるのが気になりますが。

(……のう、あのうちはの坊主が思いっきりワシを睨んでくるんじゃが、殺していいか?)

駄目です。我慢しなさい。

(ちっ)

うーん、どうも木の葉と音の下忍達には、警戒されているみたいだ。特に音隠れの視線がひどい。
多由也達が何かを言ったのかもしれん。本戦には出ないからどうでもいいけど。

(そういえば、第3試験まで出る必要無かったんじゃない?)

(一応出とく。イレギュラーが多すぎて、何があるか分からない。情報が足りないし………機会があるなら、情報は収集しておくにこしたことはない)






● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●




試験管による説明が終わった後。

私は試合をする部屋の外に出て、カカシ先生に声をかけた。

「ん?何、キリハ」

「サスケ君の事ですけど………」

「ああ、今から治療するよ」

カカシ先生は、その言葉に表情を曇らせる。

「取りあえず、俺に任せておいて。あの呪印も、どうにか抑えるから」
「はい。それで、ですね――――大蛇丸の事を聞きたいんです」

「大蛇丸の………そういえば、キリハは知ってるんだったっけ。あいつは自来也様と同じ三忍だものね。それで、何か言われた?」

「はい。単刀直入に聞きます………私には兄が居た。そしてその兄は、暗部に殺されたんですか?」

その一言に、カカシ先生は硬直する。

「もしその事が本当ならば、もし兄がいて、それが殺されたのであれば、色々と――――「キリハ」」

言葉を遮られた。
見るとカカシ先生は、今までに見たことが無い程に落ち込んでいるようで、弱く懇願するように言ってきました。

「必ず、後で話すから。今はちょっとだけ待って欲しい」

「え………良いんですか? 今までとは違って、私に隠すことはしないと?」

「鋭いからなあ、キリハは。それに、絶対に突き止めると決めているんでしょ?」

その問いに、私は力強く頷く。
当たり前だ。諦めるものか。

「だったら、俺から話すよ。こうと決めたら動かないでしょ?
 でも、この試験が終わるまで待っていて欲しい。俺の一存じゃあ決められないからね」

「はい」

今は追求はしない。カカシ先生に浮かんだ表情が、あまりにも悲しく見えたからだ。
それだけでも、分かる事はあった。

(少なくとも兄は居て、そしてカカシ先生が悲しむような事が合った)

立ち去る先生の背中を見つめて、私は拳を握りしめた。その時、背後から声を掛けられた。

「そこで、何をしている?」

声の方向、背後へと振り返る。其処には、着物姿をした、年下の女の子がいた。

「あなたは………」

確か、あの状態のサスケ君の攻撃を受け止め、無造作に投げ飛ばした少女。
春原さんと同じチームの子だったっけ。

「ううん、何でもないよ?」

「そうか」

それきり、女の子は黙った。

「えっと、チームの仲間は?」

「仲間? ………ああ、あやつらか。一試合目はあやつら同士の組み合わせ何でのう」


と、広場の真ん中を指さす。

「えっと、春原さんと………」


指さされた、対戦相手を示すものには、こう書かれていた。


"春原ネギ 対 長谷川泰三"


その二人は広場中央で対峙していた。しかし両者ともに、目を瞑っている。

やがて、審判である月光ハヤテ特別上忍が出てくる。




間もなく、開始の合図が出された。



それと同時に旋風が舞い、激音が鳴った。


その一連の動作を、果たして何人の下忍が視認できたというのか。

それほどの速度で二人は互いの距離を詰める。
間髪入れず、両者の腕が霞み、体が交差する。

(……は、はやい!?)

これでも火影の娘で、今まで多くの上忍さん達を見てきた。動体視力にも、それなりの自身はある。
そんな私でも、二人の動きは捉えきれなかった。

二人の口の端から血が流れ、頬が赤くなっているということは、おそらくは交差すると同時に打撃系の何かを打ち合ったのだろう。

結果は相打ちらしい。しかし、互いに不敵な笑みを浮かべている。
私は息を飲みつつ、隣に居る金色の少女に声をかけた。

「試合………始まったけど、こんな所にいていいの? 担当上忍は?」

「その者なら、今は厠に行っている」

そうなんだ。頷きつつ、風のような速度で体術の応酬をしている二人を見る。

「………凄いね、あの二人」

「ま、凄いの内容にもよるがな」

と少女はため息を吐いた。

「ええと、あの、あなた………私は波風キリハっていうんだけど」

「今は………ひ、氷雨チルノという。まあ、親しい者からはキュウと呼ばれているから、そっちの名で呼んで欲しいものだがな」

「キュウ?」

その名前、どこかで聞いたような気がするけど思い出せない。
後でカカシ先生にでも聞いてみよう。そんなことより。

「じゃあ、キューちゃんって呼ぶね」

「ごほっ」

名前を呼ぶと、キューちゃんは何故か咳き込んだ。

「どうしたの?」

「いや………何でもない」

何か、呟いている?
聞こえないけど、「血、かの」とか何とか。

「それより、二人の試合を見ていなくていいの」

「まあ、な。どちらが勝ってもあまり変わらないからかまわん」

「変わらない………?」

確かに勝ち抜けは一人だから、確実に一人は通るってことだけど。
力量が一緒なのかな。

「しかし、あやつら………本気でやりすぎじゃ」

戦っている二人を見て、キューちゃんが苦笑する。二人の顔はもうぼろぼろだ。
キューちゃんとしては、下忍に似つかわしくない速度で殴り合っている方に怒っているのかもしれないが。

(確かに、あれならば苦笑するかもね)

どれだけ健闘しようとも、この試合の勝者は一人。
普通ならば手を見せず、片方が譲るべきだ。しかし二人は本気の戦いを繰り広げている。

―――でも、それを見ているキューちゃんは笑っていた。
どこか、嬉しそうに。

「仲良さそうだね、あなたたちは」

この三人、底には信頼がある。直感だが、そう思った。
私の勘はあまり外れた事が無いのだ。

だけどキューちゃんは私の言葉に、首を振る。

「仲がいい、とは少し違う。でも、まあ」

顎で試合会場を指す。そこは既にクライマックス。
両者のチャクラが高まり、会場を静かに揺らしていた。

ハヤテ上忍でさえ、目を真剣にさせ注視している。



やがて、二人は目を鋭く、細く。

ニイ、と口の端をつり上げると、パシンと自分の手のひらを叩いた。


同時に、声が鳴り響く。


「勝負!」

チャクラが吹出し、

「応!」

両者寸分違わぬタイミングで踏み出し、その距離を一気にゼロとした。
動作は全く同じ。大きな呼気と共に、間合いに入る一歩を踏み出し、鋭い掌打を放った。

真正面から、虚の動作もない、小細工抜きの一撃勝負。
足元の床が軋むのを感じる。

そんな激烈な踏み込みと共に繰り出された互いの一撃が交差する。

矢のような掌底はぶつかり合うことなくすり抜け、互いの身体を打ちすえた。

どぐり、という鈍い音が鳴る。

やがて二人とも、時が止まったかのように硬直した後、

(あっ)

笑いながら、長谷川さんの方が崩れ落ちる。

「っと」

しかし、倒れない。立っている春原さんが、支えたからだ。
長谷川さんはそのまま、身体を預ける。その顔に――――悔しさはなかった。

負けたのに、笑っている。そして、春原さんも同じように笑顔を浮かべていた。

勝ちや負けに関係なく、二人は互いに笑っている。どちらが優れているか、などと考える様子も見せず、ただ可笑しそうに笑っていた。

そして、それはキューちゃんの方も同じで。
それは、あの二人と同じ種類の笑顔だ。

見ている者の心を揺さぶるような、一切の嘘偽りのない笑顔。


そんなキューちゃんは、八重歯を見せながら快活な声色で私に告げた。



「見ての通り――――あいつらと一緒に居ると、退屈だけはせんよ」




キューちゃんが浮かべたその笑顔と声は、一種の感嘆を覚えるほどに透き通っていて。

奇跡のように整っている容姿も相まった可憐さを目にした私は、同性ながらも見惚れてしまう程だった。





[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 十二話 「本戦予備選、試される下忍達」
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2012/03/15 21:53
「初勝利!」

「ふー、負けたよ」

試合が終わって。帰りながらマダオにサムズアップ。
苦笑しているが、どこか嬉しそうだ。というか冗談抜きでの体術オンリーのガチンコ戦闘――とはいってもイメージの中だけど、それで勝ったのは初めてだ。

まあ自分、殺し合いは嫌いですが、殴り合いはそうでもないので勝つと嬉しい。
昔の血が騒ぐというか、喧嘩に強いってのは全国の男の子共通の憧れだよね。

ともあれ、キューちゃんの所へ戻りますか。

「ただいまー、って波風さんと一緒にいるんだ」

「うむ。少しこやつと話しておったところじゃ」

とキューちゃんは答えながらも、俺の背後の方へと視線をやる。
何だろうと思いながら振り返ると、こちらをじっと見つめる視線が二つあった。

可視化すれば、ビーム出てるかの如く、強い視線。

<視線を感じます>

どこからか、そんな言葉が連想された。
我愛羅様が見てる。じっと見てる。ずっと見てる。色は赤。そんな感じ。

(絶招は使ってないから分からないはずだけど………ひょっとしたら動きでばれたのかな)

そっと、視線を逸らす。
って、テマリの方も見てるがな。

(そういえば、砂の里の一件というか立ち合い、テマリちゃんにも見られたんだっけ?)

マダオの言葉に、その時のことを思い出す。
そういえば見られてたか。微妙なタイミングだったけど、あれから戻ってこなかったとも思いがたい。

(追求されるのも面倒くさいので逃げたけど、居たのならそりゃ探すよなあ)

面倒くさい事態になりそうだ。
眉間に皺をよせながら元の場所へ戻る。そんな俺を見て何か思ったのか、キリハが俺に声をかけてくれた。

「えっと、おめでとう御座います春原さん!」

強いですね、お二人とも。
笑顔で褒めてくれるキリハ嬢。

だが、俺の横では大人げない奴の姿が。

(……ギリッ)

マダオが横目で睨んでくる。歯ぎしりしてる。

怖っ! 怖いから! 我愛羅より怖いよ!
その本気目、怖すぎるから光ってるから! ちょ、そんなに娘に褒めて欲しかったのか!

いかん、フォローせんと俺の命が危険で危ない。

「いや、たいしたこと無いよ。俺が勝ったのはほとんど運だったしね」

「そう、いつもは僕の方が勝ってるからね!」

と胸を張るマダオ。どうしようもねえな、おい。

「そうなんですか………しかし、珍しい体術ですね。見たこと無いですが、その、流派の名前とかは何と言うんですか?」


――――え、っと?

九尾流、とか流石に言えないし。あ、っとそうだ!


「木連式柔です」


ラーメン屋だけに。帰ってきたプリンス・オブ・ダークネスと言って下さい。

でもボソンジャンプこと飛雷神の術は未修得です。

「ちょっと、いい?」

背後から掛けられた声。いや、気づいていたんだけどね。
認めたくなかったというか。無視したままでいたかったんだけど。

振り返ります。ああ、やっぱり話しかけてくるか。

「え、っと。あなたは、砂隠れの人ですよね」

振り返った先には、砂隠れの三人がいた。
テマリ、我愛羅、ほか。

「何かエトセトラ扱いされた気がするじゃん………」

「黙ってろカンクロウ。お前に、ちょっと聞きたい事がある。今の体術のこと何だが、その、流派はなんという?」

「木連式柔です」

「もくれんしきやわら? そうか、そういう名前なんだ。で、あれは誰から習ったんだ?
 ちょっと、聞いたこと無いし、見たことないタイプの体術だったけど」

言えないので、誤魔化すしかねえな。

「えっと、それは口外できないんですよ。門弟にしか教えられないんで」

「お前は誰から習ったんだ?」

「旅人だった師匠から。でも、数年前に死んで………僕以外の弟子も居るようでしたが、詳しくは教えてくれませんでした」

「そうか、悪かったな」

それ以上は追求してこなかった。
追求されなくて助かったよ。まあ、よその里の事だからかな。自重の方を優先したか。

でも我愛羅さん、こっちみんな。いやあっちむいてよ、怖いから。





○ ● ○ ● ○ ● ○ ●



で、次の試合は"うちはサスケ 対 黒頭巾ちゃん"

吸うぜ~、手からいっぱいチャクラを吸引するぜ~、な人です。それなんてみのりん。

というか下忍一年目のサスケ相手に、しかも呪印の疲労が色濃いサスケに体術で負けてるけどどうなんだろう音の里。
そして術発動。異端の能力らしいですが、まずは基礎能力から鍛え直してきなさい、話はそれからです。鍛えれば使えそうな能力なんだどなあ。

そして、頭をわし掴み。いやいや、手足を固めてから使えよ。
クナイとか持ってたらサクっと刺されちゃうじゃん。それと自分からばらすなよ。

まさにヤラレ役です。かませ犬です。むしろお前がモルモット。
19号かお前は。「今だ!」とか言って螺旋丸を吸収してみい。

そんなこんなでようやく始まるスーパーサスケタイム。
写輪眼って体術もコピーできるんですねー。すごいですねー。

リーからぱくった影舞踊から、獅子連弾。
どこらへんが獅子なのか、小一時間問いつめたいです。獅子を名乗るなら衝撃破で相手を画面端まで飛ばしてみんかい。

っていうか獅子ってなに。
原作でナルトが「うずまきナルト連弾」と言っていたから、もしかして自分が獅子だと言いたいのだろうか。

かっくいー。きゃー。しびれるー。以上。
でも呪印を自力で押さえ込んだ精神力はすごい。マダオ曰く、あの手の術を抑えこむのには並大抵の気力では成し得ないとのこと。
つまりはすごい根性ってことか。復讐のためかもしれないが、あの意志の強さは目を見張るものがある。
その分、目的を果たした後とか、折れた時にはえらい方向に進むことになりそうな。

それも、呪印を抑えてからか。

というか、あの呪印って見方変えれば大蛇○のキスマーク何ですよね?
それが身体全体に広がる、って、おえ。気持ち悪いこと考えてしまった。

その後に、昏倒する名前なんだっけな人をよそに、サスケは運ばれていった。
そして、ついていくカカシ上忍。

ま、放っておくほかない。
あまりあの蛇野郎、いや、蛇女郎………蛇オカマには会いたくないですし。

会話するだけで、SAN値が減りそうだし。なふるたぐん。



○ ● ○ ● ○ ● ○ ●



次は 油女シノ 対 旧ザク

腕がぼーん。虫でぼーん。

了。
っていうか、それ以外に特筆する所がない試合だった。

所詮は旧ザク、ドラグーン持ちには勝てなかったってことか。
いや、あれをファンネルとは言いがたいよね。変態仮面のようなおばけファンネルもどき、って言った方が相応しい。



○ ● ○ ● ○ ● ○ ●



次は 歌舞伎者 対 タコ

掲示板に出された名前を見て、首を捻る。
あれ、カンクロウ? え、カンタロウじゃ無くて? だって彼って、長男なんだよね。

なんで九朗? 長男だったら普通、太郎じゃないの?
ああそういえばさっきカンクロウって言ってた。

――――不思議名前なんだな、と納得しました。
そして試合内容ですが、からくりサーカスだった。化粧の意味は全く分からなかった。
様式美なのかな。

「っていうかあの剣ミスミって人、いい年して戦術も何も練らないって………」

情報収集用に身体を柔らかく~、と言ってるけど情報収集と身体の柔らかさに何の関係があるのか。
あと、情報収集する忍びなら、もう少し相手の事を観察しようね。大丈夫か音隠れの里。

(ていうか何であの程度の実力しか持ってないのに、あの薬師カブトに偉そうにできたんだろう)

カブトって木の葉でも有数の実力を持っているカカシ並なのに。
情報収集(笑)というやつでしょうか。

それとも実力を隠しているとか。うん、きっとそうに違いない。




○ ● ○ ● ○ ● ○ ●



次は 山中いの 対 春野サクラ

(山中の……いのいちの娘だね)

その通り。しかしサクラと違っていのの方は気配が洗練されてる。
サクラの方はどうやら萎縮している様子。サスケ君が~のやりとりが無いけど、やっぱりあれが原因なのか。

で、試合が始まったけど………チャクラコントロールは互角。言えばそれだけ。
それ以外は全ていのの方が上だ。やっぱり、かなり強くなってる様子。

(ん、いのちゃんの方はよく鍛えているね。能力的に死角がないから、サクラちゃんも攻めきれない)

いわゆる万能型というやつですか。ああいうタイプは一部でも上回っている所がないと、厳しいんだよな。
あと、一芸に特化した術とか。どっちも無いサクラは、ジリ貧になってる。

(心転身の術も使わないみたいだね)

マダオが呟く。そういえば、知ってるんだっけ。

(当たり前でしょ。でもあの術、使いようによってはすごい強力だけど、博打的な要素もあるからなあ)

ついでに聞けば、俺や我愛羅のような人柱力相手に使うと、えらいことになるそうな。
さておいて、試合の趨勢はほとんど決まっている。キリハが応援してるけど、これは決まったか。

最後はスタミナが切れたサクラに距離を詰めたいの。
蹴りのフェイントから更に接近し、止めは顎への掌打。左右連撃のコンビネーションは見事の一言だ。

もろに入った。脳震盪を起こしたサクラが、倒れふす。
あれは、立てないだろう。

勝者は、山中いの。
うん、原作と違うぜ。

(まあ、あの二人の力量差からすればこの結果は必然だね。5年後は、分からないかもしれないけど)

サクラの方も、才能はあるみたいだからなあ。

(っていうか、女の子と男で露骨に扱い違わなくない?)

野郎の試合はどうでもいいです。サクラ嬢はキリハ嬢に「どんまい」と言われていました。




○ ● ○ ● ○ ● ○ ●




次は テンテン 対 テマリ

今気づいたけど、続けて言うとテンテンテマリ♪ じゃないか!
やってくれるぜ!

………それはおいといて、当たりません。
テンテン嬢、色々と忍具攻撃を繰り出しますが、掠りもしません。お団子頭が眩しいぜ。

そこで、マダオがくわっと目を見開いた。

(っ、チャイナ服が似合うと見た!)

気合入れていうことかよこのマダオが。
小声で助かりました。聞かれると俺まで品性を疑わられるだろうから、自重しろよマダオ。

テマリの方は、流石は風影の娘といった所か。完全に中忍レベルだよね、あの風遁の使いこなしっぷり。


ちなみに試合の後、テマリは我愛羅に「勝ったよ」と話しかけていた。

我愛羅の方は、「ああ」とだけ返事をしているけど、なんか、戸惑ってる?

(うーん、距離は縮まっているのかなあ)

会話だけではいまいち分からん。
でも、そうであって欲しいなあ。



○ ● ○ ● ○ ● ○ ●



次は 奈良シカマル 対 キン・ツチ

シカマルの動きがいい。鈴の引っかけに乗らない。無傷で勝利。体術もそれなりに鍛えてるようです。
まあ、遠距離で牽制しながらよりも、接近してからの影真似が一番確実性が高いからね。

距離が近いと拘束力も高まると聞いたし。
それにしても、影真似の術って異様に使えるから困る。流石は秘伝忍術ってところか。

(その分、燃費が悪いけどね)

でも破格とも言える術だ。サポートから一対一での決め技まで、応用範囲が幅広い。

(それでも、使う者の頭次第なんだけどね)

それは確かに。術者の動きの方も制限される分、使い所を見極める頭が必要になるからな。

木の葉隠れの下忍を面々を鑑みるに、中忍になるに一番相応しい能力を持っているかもしれん。




○ ● ○ ● ○ ● ○ ●




次は 波風キリハ 対 犬塚キバ

キバは開始早々四脚の術を発動。それを目で見て避けるキリハ。
地力ではキリハの方が上っぽいが。

でも流石に、速さではキバの方に分がある。でもそれを危なげなく避けるキリハ。
白の魔鏡氷晶の術ほどは速くないからか。掠りはするものの、直撃は避けている。そのうち、掠りもしなくなった。
動きのパターンを見切ったのか。うーん、でもそれを実行に移せるとか、色々な技量が伸びてるらしい。

数分後、キリハの方は避けながらの反撃に移った。
目も慣れたようだ。徐々にキバへと反撃の手裏剣を放ち、キバはそれを避けきることができない。

「ちっ、赤丸!」

不利だと悟ったのか、キバが獣人分身を使って数を増やす。でも、状況は変わらない。
1対2となった事で防戦一方にはなったが、キバの攻撃が当たっていない。

(完全に学習した。キリちゃん、分析能力も高いね)

キリハの方は、避けながら期を伺っている。体術に関してはこの短時間でほぼ見切ったよう。
やがて、業を煮やしたキバが動いた。赤丸の方が四脚の術で背後に回り込み、前後から挟み込む形となる。

繰り出すは獣人体術奥義、牙通牙。
しかし、キリハは動かない。

やがて、牙と牙が交差し、キリハに直撃する――――否、したかのように見える。

(いくらなんでもそんな見え見えの攻撃とか、当たらんって)

見えていた俺は、ため息をつく。
同時、吹き飛ばされたかのように見えたキリハの姿が、丸太に変わる。

「変わり身!?」


驚いたキバ。手応えあったと思った直後の、まさかの変わり身。
そこに、隙が生じた。

(牽制も何もなしの、見え見えの一撃だしね――――で、そこに詰めると)

十分に仕込む時間はあった、という所だろう。確かに牙通牙、威力は高いが使い所を間違えたな。
生じた隙を逃さず、キリハがキバの懐に飛び込む。変化した赤丸と、キバ。

姿は同じだが、キリハにはどちらがキバか分かったようだ。

(………まあ、赤丸はしゃべれないからね)

盲点である。


「はあっ!」

気合と共に放たれた双掌打。
それを受けたキバが、派手に吹き飛んでいく。


(って、キリハのあれは掌打か?)

(いや、違うね。まだ完全にまで至ってないようだけど、あれは螺旋丸だよ。留めきれていないから形としては見えないけど)

(でも、確かに吹き飛ばす威力は出せるか。例えるなら、簡易版の螺旋丸か?)


密度も回転数も、本来の螺旋丸に遠く及ばない。が、あれは確かに螺旋丸の術理だ。


(ん………まさか、ね。形だけでも扱えるとは思わなかったよ)


マダオも驚いてる。馬鹿みたいな精度でのチャクラコントロールが要求される技だからな。
修行をしておきたいと言ったのは、この術のためか。試験前に、決め手となる術が欲しかったのだろう。

どうせ自来也当たりが教えたんだろうけど。

(でも、まだ実用段階にまで至っていない。集中力と時間を大幅に割く必要があるね、あれは)

成程、それじゃ実戦ではそうそう使えないな。
キバが隙を見せなければ、使えなかったに違いない。

キバの短気が損気になった。
刃の下に心を置けなかったキバが負けた、術の使い所が勝負を分けた。

そういうことだろう。





○ ● ○ ● ○ ● ○ ●





次は 日向ヒナタ 対 日向ネジ

白眼同士の戦い。それは即ち、柔拳の激突。『柔らかなる拳、烈迅!』とかやってくれないかな。
それはそれとして、何やらヒナタ嬢、やるようで。
体術の練度が高い。互角とはいえないですが、ネジの方も柔拳を掠らされて手傷を負ってる。

でも、最終的な勝敗は同じだった。
点穴を見切ったネジが勝利。完勝ではなく、辛勝みたいな感じだけど。

で、原作通りに倒れるヒナタに向かって運命、運命、言ってますが………面と向かって聞くと結構辛いものがある。
その年で運命論者かよ、つまらない。言い訳が欲しいだけにしか見えん。

そんな俺と同じことを考えていたのか、横に居たキリハが会場に飛び降りた。
ヒナタ嬢を起こしながら、ネジの方を睨みつけている。

かなりの怒りを見せている。
そりゃあ、才能が全てとか言われたらねえ。努力してる者全員をを貶める言葉ですから。

キリハも四代目の娘という境遇にある。
でも、確かに才能はあるだろうけど、努力も欠かしてないのは見れば分かる。
まあ立場上、色々とあったのだろうな。

ってかネジの物言いだと、運命が全て。
才能があるから出来て当たり前、となるね。まあ力だけ見てればそうなるんでしょうけど。

キリハの"線"に触れたようだ。「アンタには絶対負けない」との宣戦布告の言葉を叩きつけて、キリハはヒナタの付き添いで医療班と共に奥の方へ消えていった。



○ ● ○ ● ○ ● ○ ●



次は 我愛羅 対 ロック・リー

ひょうたんから砂が。
オートガードって便利すぎる。

「今まで、我愛羅を傷つけた奴なんていないじゃん」

カンタロウが言ってるようだけど、テマリがその言葉を否定する。
ってことはあの時の奥義の一撃は、十分に浸透していたようだ。


やがて、眉毛の師弟愛による寸劇が。
そして発揮される海苔パワー。


………ていうか、あれだけの重りをつけていたら、蹴りの威力がもの凄い事になりそうなんですが。
え、言うなって?


後は原作の通り。我愛羅はちょっと柔らかい方向に変わっている事を期待しましたが、全然変わっていないようだ。


さて、木の葉崩しの時に、守鶴をどうするか。
面倒臭いですけど、考えなくてはいけないようで。




○ ● ○ ● ○ ● ○ ●




次、秋道チョウジ 対 ドス・キヌタ

犬神家の一族ごっこをしていた彼ですが、全快しているようです。

音の増幅器で、チョウジの体内の水分に伝播させました。勝ち。

ザクとは違うのだよ、ザクとは!とは言って欲しかったですけど。







以上、第三試験が全て終了した―――――って、キューちゃんは?

「不戦勝。試合無しの勝ち上がりだそうです」

まあ、いいか。余計なものは見せない方がいいですしね。
というか下手すれば赤い花が咲きかねん。

結果的に良かった良かった。




で、最終的に残ったのはこの面々だ。

まず俺に、サスケ。シノ、カンクロウ、いの、テマリ、シカマル、キリハ、ネジ、我愛羅、ドス、キューちゃんの合計12人。
俺とキューちゃんは出ないので、実質10人か。

砂、音、木の葉。当事者だけですね。調整した甲斐があった。
木の葉崩しが起こるのは中忍試験中の事件だから、もし本戦に他国の里の忍びが出場するとなると後々問題が発生しかねない。
いると余計な事になりそうだ。

(ああ、そういう意味もあったんだ、あの下忍狩りには)




もちろん。さあ、くじ引きか。


最終試験、トーナメントですが、組み合わせはどうなるかな――――




[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 外伝の壱 とある3匹の珍道中
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2009/06/14 20:30





空は雲一つない、快晴。

鳥の声が囀る静かな森の中、一人の少年の歌声が響き渡った。






























『go! go! Rarmen!』


「どーんーぶーりー、いーなづまはーしるー」


四川ラーメンでした。


木の葉から遠く離れた所。旅路の途中、暇なので歌う事にした。


マダオのコーラスが良い感じだ。



『・・・わしは歌わんぞ』



分かってますよ。


あの日から、もう二年あまり。

力量はある程度の域に達したので、旅に出ることにした。

いや、まだまだ足りてないのは分かるんですが、どうも修行だけだとストレスがたまっちゃって。

キューちゃんも最初の一年はつんけんしてましたけど、ここ最近はようやく構ってくれるようになりました。

ツンデレ乙!


『諦めただけだがの・・・』


キューちゃんも疲れているようだ。あ、あの町で一休みしよう。












『結構栄えてるね』


大通りに出る。人の数が多いし、建物も大きい。

これだけ大きい町だと、さぞ美味しい店ラーメン屋があることだろう。

大きい町ほど、味は洗練されている事が多い。店の味は競争して磨かれるものだからだ。


「行くぜ!!!!!!!!!!!!!!」



気合いは十分。待ってろいよまだ見ぬ麺達よ。今、同胞がそちらに行くからなーーーー



『でもちょっと待って欲しい』


なんだよ。水さすなよ。


『お金、もう無いよ?』



「何ですとーーー!?」


『いや、前の町で散々食い散らかしたでしょ。そりゃ無くなるよ』


そうだった。あまりにも久しぶりだったから、つい勢いに任せて・・・くそ。


『どうする?今日は我慢する?』


「しない。食べたい。稼ぐ」




極めて動物的な思考回路。当然の帰結といった風な面持ちで、俺は賭場のある場所へ向かった。









『え?あれってもしかして・・・』


賭場につくと、ある二人に目がとまる。

肩を落とす、黒髪の女性。美人だ。その隣には、その女性を慰めるナイスバデーなお姉ちゃんがいた。

おぱーい+背中には「賭」の一文字。




『あれはもしかして・・・!』


「知っているのか、マダオ!」


『誰だっけ』


「ズコー!」


どうみても綱手姫と付き人のシズネ女史です。


『冗談だよ。でも、どうやらまた負けたみたいだね』


流石は伝説のカモ。っていうか三忍にまともな奴はいないのか!


エロ、オカマ、バクチ狂。大三元です。親の役満です。


「あの人達の師匠である、三代目って・・・」


ため息をつく。

『まあまあ。それより、だよ。・・・行くんでしょ?』




ああ、ちょうどいいしな。






















「倍プッシュだ・・・」





俺は元岩隠れの抜け忍。今はやくざの用心棒をやっている。

そんな俺がこの雀荘に呼ばれたのは、こいつが来たからだ。

伝説のカモ相手に大きな稼ぎができた、と喜んでいたすぐ後、急にやってきた優男。

年は10代半ばだろうか。鬼のように強い。





「くそっ」



代打ちの連中は焦っている。あまりにも一方的過ぎるからだ。


俺から見ても、分かる。天から授けられたかの如き指運。魔法のように、次々に役が出来ていく。



開始から三時間。負け続け、倍、倍、倍の掛け金で、負け分がいよいよ本格的に不味い域に達している。



もう、体裁を構っている余裕は無いと、3人組のコンビ打ちで、何とか追いつめた時だ。





「オーラスです」



最終局。点差は十分にある。ここからの逆転は、役満でも上がらない限り無理だ。





そして、手は全て封殺済み。このままいったら、勝てる・・・・!?








「ロン」










優男の静かな声。場が沈黙する。ゆっくりと、牌が倒される。










まさか・・・いや、四暗じゃない、三暗刻か。どういうつもりだ?このままじゃ負けだってのに。









戸惑う俺たちをよそに、男は余裕を崩さない。口の端を上げ、山に手を伸ばす。







「ああ、俺の暗刻はそこにある・・・・・」








裏ドラ、何。






「まず一つ、ドラ3」







まさか、







「これで対子、ドラ6」









こんな逆転があるか!












「最後だ。ドラ9、数え役満。逆転だな」
















その場にいた全員が総立ちになる。


















「さあ、しめて100万両。払ってもらおうか」


「・・・・何の事だ?」


「何?」


その場にいた者のなかでは一番地位が高い。若頭のその言葉に、優男は眉をつり上げる。


「ドラ6どまりだろう。役満じゃない。お前の負けだ。お前こそ、払って貰おうか」


ドラ牌とは別の牌をつかみ、若頭はもう一度繰り返す。


驚いた表情から一転、組の者の顔が、ニヤニヤしたものに変わる。







「そういうことか」



優男はため息を吐く。随分と肝が据わっている事だ。この状況で落ち着いていられるとは。




「さあ、小僧、もう一度だけいう。払って・・・?!」




肩を掴もうとした時だ。そいつは後ろに飛び上がり、入り口まで辿り着く。

逃がすか!と距離を詰めようとした時、そいつの奇妙な行動に全員が首を傾げた。


そこらにある椅子を扉の前に置いて、まるで閉じこめるかのようにくみ上げたのだ。



そして、一言。





「これでもう、だ~れも逃げられない」





両手を広げ、嘲るかのように嬲る言葉。組員全員の頭に血が上る。それはそうだろう。

こんな小僧に舐められて、怒らない筈がない。



「てめえ「殺ァ!」がッ!?」



殴りかかった一人が吹き飛び、床に叩きつけられる。


男は振り抜いたそのネギをゆっくりと手元に戻し、やがて十文字に構えると、宣告した。













「我は麺の代理人 麺罰の地上代行者
  我が使命は麺に逆らう愚者共を その肉の最後の一片までもスープに浸すこと」









男の背後に幻視する。弁髪、細目の異人の姿を。




優男の顔は、前髪に隠れて見えない。ただその異様な眼光だけがぎらつくように輝いている。








そして最後の言葉と同時、さらに倍にふくれあがった威圧感が俺たちを蹂躙する。
























「ラーメン」

















威圧感がふくれあがる。眼光が、その場に居た全員を金縛りにする。























俺は、これでも結構腕は立つ。修羅場もいくらか潜ってきた。
























そんな者だけに働く勘がある。















俺は























ここで


























掘られる。

























アッーーーーーーーー!







































「まったくもう、酷い目にあったわプンプン!」


『お主の方が酷いと思うが・・・』


ネギ、ネギ、ネギの大乱舞。今日はヤクザ者の厄日だね。薬味だけに。

まあ生前、散々やくざには悩まされたんで。

それにイカサマやって儲けてる人には、あのぐらいの扱いでちょうど良いんですよ。


『それにしても、取り返したね』

綱手姫の負け分も取り返した。

っていうかあえて言わせて貰おう。姫って年か。

『それ絶対に本人の前で言わないでね・・・あ、噂をすれば影。綱手さんいたよ、ナイスタイミング』



店から、出てきたおっぱい+ちっぱいに声を掛ける。




先ほどの店、実はイカサマしてたんですよ、と言って、取り返してきました、と返してやる。





「あ、ありがとうございます!」


シズネさんがもの凄い勢いで頭を下げる。苦労してんだなあ。


やがて2,3言話すと、その場を去った。





いくらなんでも、まだ三忍は無理です。力量の差は歴然ですので。




例えるなら、マスターリュウとダンぐらいの差があります。


俺はダンの方が好きだけどね!










「ふいー、食った食った」




『いくらなんでも食べ過ぎでしょ・・・』




大盛り3杯、完食しました。結構やります、この店。


チャーシューとネギのバランスが良かった。あと、スープも深みがあった。


牛骨スープをベースとした、塩ラーメン。普通ならありきたりな味になるのですが、ここの店長、良い仕事してました。

チャーシューに味を付けて、ネギを多めにして、アクセントが聞いています

そうなると、スープの役割も変わってくるというものです。逆にあっさりとした方がいいので。





『で、どうするの?また野宿?』


いや、今日は宿に泊まる。

それに、


『あ・・・・』


寿司やの方に走り、そこにあった稲荷寿司を買いました。





宿で、その包装をときました。若干、ですがキューちゃんと感覚を共有します。



「好きなんでしょ?」



『ふん・・・・』



脳裏に顔が浮かびます。

キューちゃん、照れた顔を、少し横に背けています。視線は斜め上を見ています。頬は少し赤に染まって、もっっそい可愛いです。







じゃあ、いただきまーす。





















[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 外伝の弐 死闘!砂の里~赤い狐と緑の狸~
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2009/06/15 23:05






「麺道大原則ひとぉーつ!・・・ラーメンは、あまねく人に食べられなければならない!」






               麺王体系・汁ナイト 10話「豚骨のメンマ、信念の叫び」より抜粋 











「熱ちー」

きちー。熱すぎる。やってきました砂の里。
良い塩が取れると聞いたんで、心配事は色々とありますけどやってきました。

まあ、この里も広いんで、そうそう狸さんに会うことも無いでしょう。
気を付けていれば逃げられますし。それに、我が変化に死角はありません。
潜伏もお茶の子さいさいです。


「それにしても、熱いな」

『砂漠だからね。そりゃ熱いよ。それにしても、懐かしいなあ』

ちょっと昔を思い出しているようです。

「マダオ、この里に来たことあるのか?」

『第一次忍界大戦の時に少しだけね』

ああ、木の葉の里、砂の里とも血みどろの抗争してたんだっけ。

『この里に、守鶴のやつがいるのか?』

キューちゃんが聞く。割とどうでもよさそうだけど。

「うん。まあ、人柱力憑きだけど」

心底関わり合いに成りたくない手合いです。視線が合っただけで殺されます。
ヤンキーより酷いです。


さておき、噂の良い塩、探してみますか。
容器に入れた水で水分を補給し、里の中へと入り込んだ。



(警戒厳重だな・・・)
木の葉とはえらい違いです。入り込むのに苦労しました。

里への出入り口が少ない分、警備も其処に集中しています。まあ普通、忍の里は外からの侵入者に敏感にならないといけないですからね。
買い物とか色々しなければいけないので、商人に変化しました。本物は別の里に出張中です。


『ほら、あそこは?』
里に入ってすぐです。ちょっと大きめの商店が見えました。
「行ってみるか」
ついでに水も確保しておかないとね。さっきので全部飲んじゃったし。


(結構、良い塩だな)
店で一舐めさせてもらいました。良い具合です。鶏がらスープに合いそうです。大枚をはたいて、結構な量を確保しておこう。
「まいどあり~」



取りあえず、宿で厨房を貸してもらおう。鶏も買って、と。麺は市販のものにしますか。
あそこで買いましょう。


「え、ラーメンの麺がない?」

「はあ・・・」

おっちゃんにすいません、と言われました。うどんか、素麺しかないそうです。なんじゃそら!

『まあ、無いのは仕方ないんじゃない?第一、こんなに熱い里なのに、ラーメンとか食べないでしょ』
裏切り者!

『・・・あの、提案なんじゃが・・・ちょっと、ちょっとだけの、久しぶりにきつねうどんでもしてみんか?』
小さい声でキューちゃんが呟きます。・・・そんなに頬を赤くするんなら、素直に食べたい、と言えばいいのに。
『ええい!食べたいわ!食べたい!これでいいのじゃろ!』

腕を上げて怒っています。八重歯が剥き出しになってます。・・・何この可愛い生き物。
(じゃあ、まあちょっとだけ、って嘘。作るよきつねうどん)

その姿に胸を打たれました。ちょっとクラッと来ました。心の中のマダオは膝を付いてます。
足に来たようです。

じゃあ、うどん麺と、素麺を買って帰りましょうか。

そういえば、流し素麺とかしないのか・・・って無理だな。水は貴重だろうし。
いっそ、忍術でどうにかならないか。水遁・流し素麺の術!とか。

・・・それも無理だな。麺諸共に吹っ飛んでいる景色しか浮かばん。




宿で厨房を貸し切りします。
どうもこの店、客が少ないようで、多めの料金を渡したら、要望に快諾してくれました。世知辛いです。

出汁を煮込んでいる間、暇なのでマダオと一緒に術の案を練ります。
火影の知恵に九尾のチャクラ。夢は広がります。

とはいっても、今の自分が持っているチャクラ、何やら混ざり合っていて、純粋な九尾のチャクラとは違うようなんですけどね。
禍々しさは少し成りをひそめてます。きゅーびのチャクラ、と言った具合です。
原因は分かっています。

修行を初めてから数年、ここ最近やっと気づいたんですけど、どうも俺たち魂レベルで癒着してしまっているようです。

この身体の本来の持ち主であったナルトの精神が崩壊した後、取って代わろうとした九尾、封印術式に組み込んであったミナトの人格、そして暴走して時空間の隙間から口寄せされた俺の魂。
入り乱れ、頭と頭がごっつんこ♪負けたーらどんどこしょ。ってな具合です。
今の所、主人格は俺です。マダオは別人格みたいなものですか。キューちゃんはまた違った感じですが。
もちろん、記憶等は共有していません。何か、多重人格みたいですね。

これも、なんとなくのフィーリングで推測した事なので、詳細はまだ解明できていないのです。キューちゃんがまともな人格を有しているのも、このためと思われます。
まあ、解明次第ある事をしようと思っていますが、まだそれは先になるでしょう。


ともあれ、術の開発です。
一応砂の里の中なんで、普段の五倍は真面目にしましょう。囲まれると流石にやっかいなことになりそうなんで。


「捕縛系の術とかほしいな」

破壊系、というか正面から倒すような系統の術は、螺旋丸でどうにかなるし。背後からなら術なんて不要。機を読む目と気殺があればどうにかなります。
ここは一つ、正面から立ち向かう場合で、それでも相手を殺さないようにする術が欲しい。あまり殺しすぎると、どうなるか分からないし。
使えばあぼーんする術しか無いのはちょっと。

『うーん、でも基本は、動いている忍びが相手でしょ?捕縛術が必要となると、最低でも上忍クラスになるしね』

それ以下だと、殴って気絶させます。術は不要です。

『・・・そうか、そうだね。追尾型捕縛術とか、どうかな』

相変わらず頭の回転が速い。それに、知識も豊富。おかげさまで、次々とネタ技ができあがります。で、どんな具合?

『標的に術式をマーキングして、それを追尾するようにすればいいと思うよ。飛雷神の術の応用だね』
捕縛する網は、封印の術式を組んだ柔らかく強靱な布がいいそうです。

空間跳躍する飛雷神の術よりは簡単だそうです。

検討しましたが、何とか形になりそう。欠点は、チャクラを食い過ぎるのと、その捕縛布を作るのに時間と材料代がかかること。
これはきゅーびのチャクラでなんとかなりそうです。布はマンパワーですね。ちょっと金を食うけど、そこは我慢です。



そして、料理の方が完成しました。きつねうどん。
俺のテンションは余り高くないですが、キューちゃんの方はもう、有頂天です。

『『「いただきまーす」』』
三人でいただきますをします。ある程度、主人格である俺が意識すれば、感覚を共有できるのです。
初めてそれをやった時は、二人とも呆れていました。何で呆れていたんだろう。

『・・・・♪』
キューちゃん、すごい美味しそうです。聞きました。・・・無茶苦茶美味い、そうです。


あれですか。俺たちがもっっっっっっっっっっのすげえ美味いラーメンを食ってる時の味がするとか。
そういう感じなんでしょうね。好みの問題なんでしょう。俺は何よりもラーメンが好きだけど。

キューちゃんはラーメンを食べても、あまり美味しいとは言いません。
ラーメンは普通、だそうです。むしろきつねラーメンとかどうか、と言ってきます。それは・・・どうだろう。

くそ。いつか絶対、俺の作ったラーメンで、美味いと言わせて見せます。








「熱いなー」

夜。

熱くて寝られません。仕方ないので、窓を開けます。風がいい感じ。

『綺麗な満月だね』

そうだね。世界は違っても、月は変わらないね。
うん、いいこと言った・・・・って何か忘れているような?

(まあ、いいか。取りあえず寝よう)






やがて、小一時間過ぎた後です、ようやく、眠れそうな案配になりました。

(あ・・・いい感じ、このまま・・・・眠れそうかも・・・)

その時です。




「何だ!?」



飛び起きます。部屋の上から、もの凄い音がしました。
歯ぎしりします。

(せっっかく眠れそうだってのに、どこの馬鹿だ!)

怒りに身を任せ、窓の外から、音のした屋上へと駆け上がります。





「うるさいんだ・・・・ょ・・・・・・ぉ?」




屋上を上がった先、見たものは!






右を見ます。



砂の忍の死体。



左を見ます。



隈、ひょうたん、デコがチャームポイントの、少年。





おもいっきり目があいました。




「あ、およびでないようですね?・・・・じゃ」

手をシュタっと上げて、よっこいせ、と屋上から降りようとします。



ですが、



「みぎゃー!?」


砂が追いかけてきました。ちょっ、不味いって!


「取りあえず、撤退!」

屋上から跳躍。空中でくるりと一回転し、地面に着地します。

そして背後を見てみますが、

「ついてきてる!?」

まるでホラーです。いざ、自分の立場になってみたら分かりました。これ、怖すぎる。


「明日への撤退!」

得意の逃げ足。逃げます。断固逃げます。
そして、一歩目を踏み出した所、


「女の子?!」


砂の里の者でしょう。まだ忍びではないような、3歳ぐらいの女の子が地面に座り込んでいます。

(砂の忍びと我愛羅との、殺し合いを見てしまったのか?)

我愛羅は、親である風影にしょっちゅう命を狙われている、とは聞いています。
死んでいたのは、その暗殺の任務を受けた忍びでしょう。

そして、それを我愛羅が撃退。女の子はその時の現場を、全てでは無いようですが、見てしまったのでしょう。
恐怖のあまり、ガタガタと震えています。

(くそっ!)

咄嗟に助けに行こうとします。が、その前に、女の子の元へと飛び込む姿がありました。

速さから察するに、忍びでしょう。間一髪、砂が振ってくる前に、女の子を抱えて飛び上がります。

しかし、砂の衝撃で砕け、飛び散った外壁がその忍びの足に当たります。


「くっ・・・・我愛羅!もう止まれ!」


(テマリか!?)

服の詳細は覚えていませんが、その巨大な扇子には覚えがある。

テマリは未だ震えている女の子を抱え、膝を突きながら、必死に我愛羅に呼びかける。

「ぐっ・・・・ガアアアアアアアアアアア!」

ですが、我愛羅は止まりません。

(満月のせいか!)

満月の夜には守鶴の血が騒ぐ。そう言っていた気がします。

やがて、ゆっくりと腕状に変形した砂の塊が、二人を打ち据えようとします。



(仕方ない、か)




振り下ろされる、








(原因は俺なんだから)









その腕を、











(見過ごす訳にはいかない)









チャクラを込めた掌打で破壊しました。






「・・・・何?」







背後で、テマリの戸惑うような声が聞こえます。ですが、ここで振り返る訳にはいきません。






「取りあえず、下がってろ。こいつの相手は俺がするから、お前はその女の子を逃がしてやれ」



俺は、右手の掌に左手の拳を打ち付け、目の前の化け物を正面に、構える。


テマリは戸惑いながらも、後方に跳躍して、その場を退く。


対峙する。その異様と。


「ガキが・・・・」


『ナニモノダァ?オマエハ・・・』


化け物が問いかける。

それに、俺は笑って答えてやる。





「・・・・通りすがりの・・・・・・・・ラーメン屋さんよっ!」





震脚。大地を揺らすと同時、全身にチャクラを行き渡らせる。





俺の言葉、そして気迫。

それを見て、嬉しそうに笑う化け物。

そしてその笑いが収まったと同時、砂の飛礫が俺を打ち砕かんと殺到する。



砂時雨の術、か。



「憤!」




それをチャクラを込めた手の平でいなし、捌き、逸らす。同時、込めたチャクラで微塵に砕く。

捌ききったその後も、安堵のため息はつけない。

丸太のような大きさの、砂の塊。化け物の異様をそのまま現したかのような醜悪な腕が、俺の頭蓋を砕かんと振り下ろされる。



「遅え!」



その一撃を、半歩横に出てチャクラを込めた掌で受ける。
そして力の方向を逸らし、横に受け流す。


「もらったっ・・・・!?」


その砂を横に捌き、距離を詰めようとしたが、捌いた砂が解け、またこちらを捕まえようと絡みついてくる。


「破ぁ!」


絡みつこうとする砂を、チャクラを込めた裏拳で砕く。そして、後ろに飛び下がった。


また、最初と同じ距離。今なら、逃げられるだろう。


『・・・逃げないの?女の子達、もう逃げられたみたいだけど』


「逃げるよ。でもな」


こいつ、気に入らない。

あんな小さい女の子、そして実の姉を殺そうとした。

むかついたから一発だけ、殴ってやらなければ気が済まない。




『馬鹿だね』

と嬉しそうに笑うマダオ。分かってるよ。これが馬鹿な行為だって事は。逃げた方がいいって事も分かってる。


それでも、だ。俺も理屈だけで生きてる訳じゃない。計算だけで生きてる訳でもない。

取りあえず、ぶん殴る。あの光景にむかついたから、ぶん殴る。こいつがむかついたから、ぶん殴る。

痛いのも怖いのも嫌だけど。困ったことに、それでも引けない時がある。


『不器用じゃの。人間は』


器用は綺麗だけど、つまらない。そう思うんだ。

そんで、そう思っている自分としては、ここは、





「ガアアアアアアアアアアアアア!」







「行くしかないでしょう!」




捌く、捌く、捌く。

その飛礫も、波のような砂も、その腕の一槌も。全て見定め、捌く。


心技体と誰かが言う。そしてそれはその通り。

武は技。武は体。そして何よりも、武は心。



(この場は戦うと決めた、その選択、その意地、そしてその一を、)



捌いた先の間隙。攻撃と攻撃の間。


生まれた、一瞬の機。



「貫く!」




全身を強化し、全力で踏み込む。相手から見れば、消えたかと錯覚するような速度。


腕を振り、砂を弾きながら震脚。

振った時に生まれる、腕の遠心力。そして踏み込んだ地面からの、反動。

その力を全て腰に乗せ、回転させながら、腕を突き出すその先へと集中する。

同時、腕自体も回転させる。






九尾流・絶招の壱 

「螺旋螺旋(らせんねじ)」

腰の回転と腕の回転。重螺旋を一転に集中させた一撃。

衝撃を浸透させるよりも、貫く事を重視した技である。






「グアゥ?!」






吹き飛ぶ、我愛羅+守鶴。










それを尻目に、俺は撤退を開始した。









(砂の忍びも集まってくる頃だろうから・・・・?)






視線と気配を感じて、その方向、建物の上を見るとテマリが呆然とした表情でこちらを見ていた。




(おー、落ち着いて見ると結構可愛いじゃん)









やがて俺はシュタと片手を上げると、その場を去った。








「さー、逃げるか」



『塩、忘れてるよ』



「しまった!?」





といっても、今更取りに戻れない。




「ま、いいか」




収穫はあった。塩ラーメンを作る時は、ここの塩を使おう。


しかたない、と呟いて、俺は砂の里を脱出した。







[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 十三話 「人間距離」
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2012/03/15 21:54



「忘れるなよ。ラーメン、だ。麺こそすべて、スープこそ幸せ。
 ラーメンが世界を覆うとき、それは個人のものから、みんなのものに生まれ変わる。
 美味と言う、そりゃ立派な名前にな。
 ラーメンだ。いいか。最後の最後に全員を助けるのは、ラーメンだ。
 麺があれば、お前のスープが、みんなを包んでいれば、最後の最後の土壇場で、人は答える。
 感情は貯蓄じゃないが、贈り物だからな。いつか巡り巡ってこっちに届くもんだ。
 すべからく、人はラーメンという木にせっせと水をやる農夫のようなものだ。
 木が育ち、皆が憩うために、人は息をするように水をやり、世話をする。
 …お前の強い力を、ラーメンのために使ってみろよ。
 いいか、一生に一度しか言わない。
 麺道とは、愛することだ。
 お前の力を、お前の敵を、お前と一緒に居る者を、お前の知らない人を愛するために使ってみろ。
 …万物の味覚は、人間を陥れるために存在するわけじゃない。
 人がすべてを共有するように、ここにあるんだ」


    ~ 小池メンマ自伝「麺とスープと男と女」より抜粋 ~








つつがなく試合も終わり、本戦のくじ引きも終わった。
組み合わせは以下の通り。


一試合目 波風キリハ 対 日向ネジ

二試合目 うちはサスケ 対 我愛羅

三試合目 テマリ 対 山中いの

四試合目 油女シノ 対 カンクロウ

五試合目 奈良シカマル 対 氷雨チルノ

六試合目 春原ネギ 対 ドス・キヌタ


うおーいどうなっとるんだこれは。一と二試合目とはいいけど三試合目の面子を見てずっこけました。
うん、取りあえずまともに試合が行われそうなのは一試合目から三試合目までか。

サスケは遅刻するだろうし、カンクロウは棄権しそうだけどね。
俺とキューちゃんはいなくなるし。

というか、テマリ 対 いのってどうなんだ?
テマリの方が有利っぽいけど………まだ分からないか。


それで本戦の組み合わせが決まった後、解散前に三代目から出場者に向けて説明があった。
各隠れ里の戦争の縮図とか。俺にとっては割とどうでもいいことだけど。

それはともかく、随分と老けこんだな、爺さん。
あれで、大蛇○を止められるんかいな。

(まあ、その時はその時だけど・・・・ん?)

視線を前方に固定したまま。静かに、気配を探る。すると、マダオが俺の肩をつっついて、小さな声で話しかけてきた。

(ん、気づいた? 中忍が複数、新たにこの会場にやってきたみたいだけど)

(げ、こっちに注意を向けてるな。警戒混じりに監視されてる。このタイミングであの様子………目的は俺達か)

もしかして、俺たちが偽物受験者ってことがばれたか。
よし、ばれたな。そのつもりで動こう。楽観視はいかん。

ただ逃げる前に、一言だけ。
キリハに挨拶しておこうと近寄り、話しかける。

「じゃあ、また本戦でね。波風さん」

俺たちは出ないけど。
まあ、出会いも別れも挨拶は基本ということで。

「春原さんに長谷川さん、ありがとうございました。キューちゃんも、また会おうね」

その言葉にぶほっと吹き出す俺とマダオ。
何を話してたんだ、君たち。しかもキューちゃんってよばれてるし。

「いやいや、いいよいいよ」

とごまかすように、キリハの頭を撫でるマダオ。
………あ、周りの空気が凍った。カカシが見てるよ。何か目が怖い。
シカマルも見てる。こっちも同じくらいの威圧感が。

「え、あの?」

「あ、ごめん。つい、ね」

といいながら、マダオは苦笑しながら、名残惜しそうに頭を撫でていた手を戻す。

(けっ、よかったなマダオ。娘に触れられてよ)

マダオのケツを蹴った後、キリハに別れの言葉を

「それじゃあ、俺達は行くから。またね」

「は、はい」

ん、反応がおかしいな。
なんか、撫でられた頭を抑えてる?

咄嗟に手を払うとかの反応もなかったけど、何か感じ入るような事があったのか?
考えていると、マダオに肩をたたかれる。

(そろそろまずい。それで…………今回のこと、お礼を言っておくよ。ありがとう)

(よせよ。柄じゃねえし、そういうのは)

偶然だよ、偶然。まあ、でも、良い偶然だったな。
本当なら、言葉も交わせない二人だったろうし。


――――で、そろそろ視線の圧力がきつくなってきた。

なんで、その場から逃げる。

気配の在り処を把握しつつ、逃げ道を確認。
よし、あの窓からだ。

やり残した事もないし、ラーメンも恋しい。

(引けー! 引け引け、撤退だー!)

((了解))





● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●




数十分後、火影の執務室にて。

「三代目、申し訳ありません。例の滝隠れの忍に偽装した3人ですが………取り逃がしました」

「うむ……・そうか」

極めて巧妙に偽装されていた書類。気づけたのは偶然だった。
滝隠れの里に、中忍試験の参加人数の確認を取ったが、その数が合わない。

と、いうことは、だ。
春原ネギ以下、あの3人は滝隠れの里のものではない。どこかの里のスパイかと思われよう。

「その、捕らえようとしたのですが………思ったよりも足が速くて」

と、苦々しそうに報告する暗部。

(………思ったより、か)

若い暗部の言葉に、ワシは苦笑を隠せない。
言い訳じみた言葉など何の効力もない。でもそれで許してしまいそうになるぐらいに、ワシは平和ボケしていたようだ。

(が、今はそれよりも優先すべきことがある)

気を引き締め、たずねる。

「他に何か分かった事はあるか」

「は………なにやら、高笑いをしながら走っておりました。そこで、完全に距離を離される寸前、叫んだのです」

「ふむ、何と言っておった」

「『ふははは、さらばだ明智君』、とだけ」

「………は?」

予想外の言葉に、顔が強張るのを感じる。
意味が分からん。明智君、とは誰だ。

「ふむ、分からん事ばかりじゃの。取りあえず、警戒を強めよ。大蛇丸の配下の者かもしれん」

「承知致しました」





● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●


そして、試験会場から少し離れた森の中。

「ふう、木の葉の連中は巻いたか」

「そうだね。でも………」

別の忍びが追ってきてるよ、と視線だけで告げる。

「それも分かってるよ」

同時、クナイと手裏剣がこちらに殺到する。
でもそんなもんに当たるわけもない。

「ふん、音の忍びか」

ゆっくりと出てきた忍び。その額当てを確認する。
数は、1、2の、合計6人か。つまりは2小隊。俺を相手するには少ないな。

「運がなかったな………俺は、平和のために鬼になると誓った男」

禍根は根こそぎ断つぜ。
家までついてこられたらたまらない。万が一もあるから、ここで消す。

静かに、クナイを構える。
マダオも同じ、そして、キューちゃんがあくびをする。

それを合図に―――――瞬身の術で姿を現した6人の後方に移動する。

「な――――」

驚愕の声も遅い。断末魔など聞きたくもないので、"隠れていた"7、8人目の首をかっ切った。
6人は囮で、この二人が本命ってところか。なら、先に潰せば問題はないわけだ。

伏兵とはいい手だが、隠行が甘いようでは意味がない。
流石は新興の里、脇が甘すぎる。

(原作で、木の葉が乗り切れたのはこの脇の甘さが原因かもな)

そこにつけこまない理由もない。
切り札の二人を殺されて動揺する、残りの6人。
平静を保てていないようで、チャクラの練りも甘くなっているようだ。
俺はそんな馬鹿共に対し、クナイを突き出して告げた。

「この任務についたからには、覚悟はしてるんだよな? ――――誰も逃がさねえぞ。ここでその命、断たせてもらう」

派手にやるか。警告の意味も含めて。先ほどの試験の時とは違う。この場は、誰一人として逃がすわけにはいかない。
チャクラと共に、濃密な殺気を全身から放つ。殺すという意志を乗せて。

中忍試験で下忍達を相手にしていた時とは、全く違う。これはいわば、木の葉崩しの前哨戦に属する戦闘。
ここで手心を加える理由はない。

この場と機を作ったのはそちらの方だ。悪名高き音隠れの忍者相手に、遠慮などはしない、
全員殺す。誰一人として、逃がさない。

「――――残念だったな!」

殺戮の宴が始まった。





○ ● ○ ● ○ ● ○ ●


「ういーす」

「あ、ナルト君お帰りなさい。」

「ただいま。再不斬は奥の訓練室?」

「はい」

「そっか……えっと、提案があるんだけどいいかな」

「提案、ですか?」

「うん。今日はちょっと飲まない? ――――みんなで」

と、酒を取り出す。



――――そして、その夜。



「ほら、いけますよ、その豆腐」

「ああ」

「そろそろ、最後の麺にしますか?」

「もちろん!」

口寄せ成功と、新たな仲間を歓迎するということで、5人で食卓を囲んだ。
料理はラーメン――――にしたかったけど、いつもとは違う料理が食べたいと白が言ったので、せっかくだから中華風味の鍋にしてみました。
出汁は鶏ガラ、塩、そしてこしょうを少量加えた、中華風味のスープ。
具は白菜、しいたけ、白ネギ、鶏団子、水餃子、春雨。油揚げも入れました。唐辛子はお好みで。

仕上げに入れる麺は家で打った自家製です。
今回はこの中華風味のスープに馴染むように、やや太く柔らかくしてみました。

この麺は、塩ラーメン用に開発した麺で、柔らかく味がよく染みこみ、するりと口に入る。
そして、木の葉の酒屋で高い酒もたくさん用意してきた。どの酒が旨いのかまったく分からないので、取り敢えず持てるだけ手当たり次第買ってきた。

再不斬やマダオに好評で、二人は顔を赤くする程に飲んでいる。

「ほら、もう一杯!」

と、そこでマダオに酒をつがれた。
どうせなら白か、キューちゃんについでもらいたいなあ。でも、久しぶりに飲んだけど――――酒は、やっぱり美味い。

今まで、完全に安心して飲める時とかなかったからなあ。
それに、一人で酒飲むよりは、ね。大勢で騒ぐ方がずっと楽しい。
そういえば再不斬も同じような環境にいたんだよね。下手に酔うと危地に陥りそうな、気が抜けない状況に。

「ってこらこら、キューちゃん、それまだ煮えてないから」

「む、そうか」

キューちゃん残念そうに、油あげを鍋に戻す。
つーか、油あげ、キューちゃん一人でほとんど食ってるな。
誰も取ろうとしないし。や、横から取った時の顔が怖いからかな。
あと、もう一つ理由が。

「出来たよ、ほら」

出来上がったあげを、さっと器に入れてあげる。
キューちゃんはじっとそのあげを見つめながら、うんと頷いた。

「うむ………はふ、はふ」

熱そうだね。
でも、かわええ。これが理由です。可愛いは正義。これだけで酒の肴になりそうな。

これをつまみに酒3杯はいけますって――――ちょっと待て、マダオ。
鼻血ふけ。垂れる垂れる。

「はい、キューさん」

台所へ行っていた白が、何かを持って戻ってきました。

お、これは………稲荷寿司か。

「ええ。店に出している木の葉風ラーメンに合うように、ちょっと工夫してみたんですよ」

白特製の稲荷寿司である。キューちゃんの目の前に置くと、キューちゃんは目を輝かせる。

「おお!」

喜色満面とは、この事を言うのでしょう。手に取り、一つ食べました。

「む?」

一口で食べました。もぐもぐとほっぺたを動かして力いっぱい噛みしめている。そして何やら、驚愕の表情を浮かべた。
直ぐに、二つ目を食べる。

「これ、は………」

頷いています。
そして一緒に持ってきた、魚介系のスープを飲みます。



「………うむ」




そして目を瞑り、黙り込みます。・・・空気が思い。







ゴゴゴゴゴゴゴ







判定は、如何に!












「美味い!」

「わー」

「やー」

拍手が飛び交います。主に俺とマダオだけですが。
満面の笑みを浮かべているキューちゃん。何その超良い笑顔。見たことないよ、そんな顔。

「ありがとうございます」

と、白が床に手をついて、お辞儀をします。
流れる黒髪が色っぺえやね。関係ないけど眉なし氏ね。

「どれどれ、俺も一つ――――って痛え!?」

参考までに、と伸ばした手をぺしりとたたき落とされました。
何すんのキューちゃん、と言いそうになりましたが、即座に黙りました。

だって目が赤いんだもん。
うー、とか唸らないで。歯を見せないで。尖ってるから。もう取らないから。

「麺、出来たよー」

「おう」

さあ、本番です。野菜と鶏の出汁がふんだんに出ているスープ、そして特製麺!
こういう食べ方もおつなものです。

「ちょ、取りすぎ! メンマ君取りすぎだから!」

「てめえ………っ!」

「ふわーははは! 麺に関しては、遅れなど取らん!」



叫ぶマダオ。怒る再不斬。


その横で苦笑する白。

ほっぺたにご飯を付けながら、稲荷寿司10個目に入ったキューちゃん。







(あ――――懐かしいな)





前世の修行時代を思い出す。ろくに賃金も出なかった頃だ。
安アパートで店の余った食材を集めて、鍋にぶちこんで。
安酒を集めて、しょっちゅう仲間とこうして馬鹿やったもんだ。

あの時とは、面子の毛色は随分と違う。
全員が血生臭い運命に囚われている。損得あれば殺し合うような関係。

だけど――――楽しい。

(こういうのは、理屈じゃないか)


少なくとも、今は敵対する理由もない。今この場では、ここに居る全員が仲間だ。


馬鹿騒ぎをしながら、夜は更けていった。









○ ● ○ ● ○ ● ○ ●






そして、深夜。

再不斬達はもう休むというので、俺は一人屋上に登っていた。
傍らには酒とツマミ。見上げた夜空には、わずかに欠けた月が煌々と浮かび上がっている。

そんなこんなで、無言のまま月をながめ、酒を飲んでいると、後ろから声が聞こえた。

「ここにおったか」

男ではない、少女の声。キューちゃんだ。

「ん、まあね」

何ともなしに声を返す。
すると、キューちゃんが背後から近寄ってくる。
やがて無言のまま、すとんの俺の横に座った。
そのまま俺たちは黙ったままじっとその場にとどまっていた。動くのもわずらわしく、考えるのも面倒くさいといった風に。

森の中なので辺りは薄暗い。満月では無いので、月の光はまばら。
人の気配は全くしない。木々が風に揺れる音と、梟の静かな鳴き声だけが聞こえくる。

「………よう、飲むの。今まで酒は飲まんかったから知らなかったが」

「まあ、最近まではね。気の置けない環境だったから」

ちびちびと酒を飲みながら、つつとなんでもない言葉を交わし合う。
視線は交わさない。二人とも、ただ月を見上げている。

「変な顔だな。お主、月に何を見ている?」

「変わらないもの、かな」

あの輝きは同じだ。

「月と、それを見て思う感想っていうか、気分っていうか。それは同じなんだなあって」

一口、手に持つ酒を飲む。
月見をしながら飲む酒の旨さも、また同じ。

「ふん、そうか」

「ん。そうだ、キューちゃんも飲む?」

飲み終えた後、杯を差し出す。

「まあ、一口ならな」

「じゃあ」

酒をつぎます。なみなみと、いっぱい。

「おい、少しといったじゃろ。多すぎるぞ」

「まあいいからいいから」

文句を言いつつも、キューちゃんは渡された盃をクイっとあげ、一気に飲みほした。

「おお、お見事」

むせもしないで、一口で全部飲んでしまった。
かなりイケル口と見たね。

「………酒というものをはじめて飲んだのだが」

「そうなんだ! えっと、感想は?」

「慣れん感覚じゃが、悪くない。ほれ、返杯じゃ」

「ありがとう」

と、こちらもなみなみとつがれます。




● ● ● ● 『キューちゃん』 ● ● ● ● ●


木の葉に外れた、森の中。我はかつて壊滅においやろうとした里の、その守護者であった息子を前にして酒を飲んでいた。

「木の葉崩しが終わったらさ、砂隠れの里までいって、あの塩ラーメン用の塩を取ってこようと思うんだ」

目の前には、酒に酔っただろう、頬をアルコールに赤くそめながら嬉しそうに話す少年。
話題は主にこれからのことと、コヤツが何よりも愛するラーメンのこと。

―――出逢ってから数年だが、変わらない。
ワシは、この目の前の生物が不思議でならなかった。

最初は、不規則な事態に驚いた。こいつも、あのマダオも同じだろう。
誰もが想像しなかったことが起きた。そこにつけこんで体を乗っ取ろうとしたのも、今では懐かしい。

あれからもう、7年が経った。

(もう、か)

おかしい話だ。ただの妖魔であったころは、7年などあっという間に感じられた。
だが、今は違う。それほどに濃い時間だった。

修行時代を経て、例の抜け忍組織での任務。
各地を放浪して、小さくない事件に巻き込まれて。それに加えて追手の心配もあって、旅の日々は警戒の日々と同義だった。
それがこいつの心を徐々に蝕んでいたのかもしれない。自覚のない疲労が皆無だったとは思いがたい。

(あの二人を仲間に、と思ったのは寂しかったからかもな)

他人を信じる、ということはしなくなった。あの二人しても、損得が根底にある付き合いだ。
それが証拠に、あの二人を不用意に間合いの内には入らせないでいる。無意識レベルで刷り込まれているのだろう。

(ん、そうじゃ)

我ならばどうなのだろう。ふと思いついて、実行に移してみた。
横から正面に回りこみ、すっと首筋を掴もうとする。

我の握力は全盛時には及ばないが、つかめる大きさの石ならば握りつぶせる程度の握力はある。
それをこいつは知っている。ならばコヤツは一体、この手に対してどういう反応を見せるのか。

すっと、喉に手が伸ばし―――――とどいて、しまった。

「ん、どしたのキューちゃん」

人肌でも恋しくなった、と冗談気味に。
呆れるほか、なかった。

(―――は)

馬鹿な、と思う。信頼のない相手ならば、挨拶を交わす時でも警戒の心を外さなかった。
なのになぜこいつは、“この”我にここまで無造作に掴ませる。

喉は人体急所だと、こいつは学んだ。我の力においても知っているはず。
なのになぜ、こいつは何ともない風にじっとこっちを見返せる。

あまりにも無防備すぎる。今この場で。ワシの爪で、この牙で、目の前のこやつを引き裂き喰らえば――――取って代われるかもしれない。
封印が解けるかもしれない。こいつはその程度は理解しているはず。

(………どうしてじゃ?)

悩んでしまう。いくばくかの力をこめて、目の前のこいつを引き裂けば。
昔のように、我が身を得て、あの五感と万能感を取り戻して、思うがままに野をかけ、欲しいものを食らうことができるはずなのに。

だが――――なぜだろうか、手に力は入らない。

分からない。どうしてこやつは、ここまで無防備に自分に接する事ができるのか。
どうしてわしは、目の前のこやつを殺す事ができないのか。

童女と呼んだ。大切に扱った。我の笑顔を見て、マヌケ面を晒していることは知っている。
なぜに子供として扱える。ただの少女として対する。

自分でも、かつて己自身が雌であった事など忘れていた。
いや、妖魔になってからは食べる事そのものに喜びを見いだす事も忘れていた。

誰かと話すという行為、それ自体を忘れていた。破壊する事を、殺す事のみを考えていた。九尾の妖狐。
最強の妖魔。その名の通りに生きていた。

――――いや、あれは本当に生きていたのかどうか。

(しかし――――生まれてはじめて、か。このような時間を過ごすのは)

ずっと一人で生きてきた。
酒も知らなかった。誰かと二人でこうやって月を見上げながら酒を酌み交わすなど、想像したこともない。

ふ、と視線を落とす。

目の前には、ん、と不思議そうに視線をこちらに向ける少年。


笑う、少年。



馬鹿で、間抜けで、臆病で。勢い任せのノリ任せ。ギャグばかり飛ばしていて、自重する事を知らない男。
でも知っている。誰かを殺した後は、吐いている事を。本当は戦うのが怖いくせに、それでもそれでも仕方ないといいながら、誰かのために戦う愚か者。

結果、幾度も戦うことになった。砂での一件、大蛇丸との一件。あの2戦に関して言えば、それほど余裕は無かった筈だ。
正に命を張った戦い。つまりは、命を秤にかける行為。

(肝の小さいこやつが、よく戦う事を選べたものだ)

不器用すぎると言っても、それを笑って肯定する阿呆。
馬鹿者だ。アンバランスだ。不器用だ。どこか歪んでいると言ってもいい。

それでも、根底では崩れていない。それは、最優先すべき、自らの夢があるからか。
明るく、顧みず、前を見て走る。夢があると言った。それに向かっていると言った。

ぶれて、間違えて、馬鹿やって、失敗して。
それでも笑っているのは、夢に向かって走っているからだろうか。


(ふん―――――夢、か。考えたこともなかったな)


目指すためならば命を賭けてもいいと、そう呼べつような何かがあったのだろうか。


「あれ、キューちゃん………どったの、珍しくも難しい顔して」

「うるさい」

ぎゅ、とほっぺたを抓ってやる。

「う痛っ!?」

驚き、痛がっている。ざまあみろだ。
こんな難しいことを考えさせるな。大体、こんなに無防備になって我がその気になってしまったらどうする。

そんな考えが頭を巡り、気づけば両の手で左右の頬を抓っていた。

「ふぁにふんの(何すんの)」

「おしおきじゃ」

意味が分からないと馬鹿が首をかしげ。
すっと我の頬に、手を伸ばしてきた。

「おふぁへし―――げ、ふべふべ」

訳のわからん言葉を発する馬鹿の、その豆だらけの手が頬を触る。
それはごつごつしていて、ささくれだっていて、でも温かい。


そのまま、じっと触れ合ったまま数分が経った後だろうか。




「………こんな所で何してんの?」


マダオの声。驚いて、勢いよく抓っている頬を離す。


「ひぎい!」と馬鹿が叫んだが、良い気味だった。










● ● ● ● ● 『メンマ』 ● ● ● ● ● ● ●




「おはようございます」

「・・・・・おはようございます」

酒宴から次の朝。
俺は返事をするも、頭を抑える。

頭の中が痛い。二日酔いか、昨日飲み過ぎたな。

「今日は俺も店に………っつ、あっ!」

立ち上がろうとするが、襲う痛みに頭を抑える。

「いいですよ。疲れも溜まってるようですし、今日はボクと再不斬さんで開けます」

不覚過ぎる。くそう。っていうか今なんていった聞き間違いか。

「ちょっと待て、白!?」

焦る再不斬。どうやら聞き間違ってはいないようだ。
ならばすることは一つ。俺はちょいちょい、と再不斬を呼んで、ちょっと離れた位置で白に聞けないように話す。

(何焦ってんだ。前に二人きりの時の話を聞いたら「白と一緒ならな」って言ってたじゃん。今がまさにその時だけど、何か問題が?)

(黙れ・・・! こいつの目の前でそんなこと言えるか!)

と、白の方を見る再不斬。
ツンデレ乙。

ふうん、今の俺の前でそんなこと言うんだ。
ならば最終手段だ。

「白ー、よかったなー、白と一緒なら喜んでって言ってるぞー」

「てめえ!?」


と叫ぶ再不斬の襟元を掴み、引き寄せる。

(………あのね。これ以上俺の前でのろける続けるっていうんなら、こっちとしても考えがあるんだよ?)

俺の右手が光って唸るぞ、と手元に小さな螺旋丸を発動する。
白からは死角なので見えない。

(ち………分かったよ)

(じゃあ、よろしく。ほんとに悪いけど、今日は頼むわ)


嬉しそうな白。あの笑顔、曇らせるなよ、旦那。









● ● ● ● ● 『白』 ● ● ● ● ● ● ●



メンマさんに任されて、僕達はラーメン屋台『九頭竜』の中に居た。
そして準備が終わり、開店直後にすぐさま客がやってきました。

「いらっしゃいませー、ってキリハさん」

「あ、桃さん」

ばれないように名乗っている偽名。それに返事をしながら、後ろでスープを見ていた変化済みの再不斬さんを見ます。
一瞬肩が揺れましたが、何かあったのでしょうか。さておき、注文を聞かなければ。

「ご注文は………おや、今日はお友達も一緒ですか?」

「はい」

「初めまして。山中いのです」

「春野サクラです」

「はい、初めまして。桃です」

と、おじぎをし合います。

「あれ、メンマさんは?今日は休みなんですか?」

「はい。少し体調が悪いらしくて」

「そうなんだ。お大事にって言っておいて下さい」

「はい。ありがとうございます。それで、今日は何にします?新メニューもありますけど」

「へ、何?あー、あの魚介系のラーメンと稲荷寿司のセット?」

「はい。稲荷寿司の方は、今日からの新メニューです」

「・・・美味しそうだね。じゃあ、それ一つ」

「わかりました」

手順は完璧に覚えています。
麺の茹で加減も、徹底的に仕込まれましたから。

僕は再不斬さんからスープが入った丼を受け取り、茹で上がった麺を入れると具をささっと整えながら盛りつけていきます。

そして、すっとお客様に。ぱちりと、割り箸が割れる音が響きます。

「………美味しい」

「ほんとだ。ちょっと、稲荷寿司のごはんと、あげの味付けを変えてある。ラーメンとよく合うね」

美味しいものを食べる事で、自然と笑い合う4人。
ふと振り返ると、再不斬さんが居心地悪そうにしていました。

そして、食べ終わった後。
何気なく談笑が始まり、ふと気づけば互いの想い人についての話になっていました。

「そういえば、いのちゃん………見つからなかったね。探し人」

「そうねー。まあ、中忍試験だから会える、なんて思ってなかったけど。それでも何も無かったってのがちょっとへこむわー」

ほおづえをつきながら、ため息を吐いています。
「一人それらしいのもいたんだけど」と呟いていますが、「いややっぱりあんな馬鹿っぽくないし」と首を振っている様子。

「えっと、誰か探している人がいるんですか?」

「………ちょっとね。まあ、悪いけど、詳細は話せないんだけどね」

ということは、忍者関連の話しでしょう。
無理に追求することもないと、僕は聞くことをやめました。

「ん、大まかに言えば小さい頃に助けてもらった人………恩人、かな?」

探してるんだけど見つからないのよねー、といのはまたため息を吐く。

「その人のこと、好きなんですか?」

その様子から、どうやらいのさんはその人の事が気になるようす。
率直にたずねてみると、いのさnはへっ?と驚きました。

「ど、どうして分かったの?」

「いえ、だった見たままじゃないですか」

「そうなの?」

「「「………うん」」」

キリハさん、サクラさん、ヒナタさんが言いづらそうに頷きます。

「あー………まあ、一目ぼれだったからねー。出会った時は私も危険な状況に陥ってたから、勘違いなのかもしれないけど」

「吊り橋効果ってやつですか? でも、いのさん、ずっと探しているんでしょう」

「そうなんだけどね。一向に手がかりも掴めないし、それにもしかしたら………」

次の言葉は消えました。首を振って、口の中で留めることに決めたようで。

「もう、諦めた方がいいのかもね」

「本当に、それでいいんですか?」

「だって、何年も探して、それでも見つからないし」

「でも、何年も探し続けているんでしょう?だって、が付くほどに忘れられないんでしょう?」

「………だけどねー」

「私が尊敬する人に教えてもらった、良い言葉を教えてあげます」

いのが、うつむいていた顔を上げる。

「それは、何?」

「『だからどうした』です」

「………だから、どうした?」

「はい。あの人曰く、『それを言い続ける事から、希望が始まる』らしいです」

僕も同意します。

「その言葉を彼から聞いたのは最近ですが、僕も………その言葉には随分と助けられました。
 やりたい事がある。守りたい人がいる。見つけたい、会いたい人がいる。その意志を、想いを貫こうとする時に叫んでみて下さい。
 その言葉はきっと何よりも強く、あなたの味方になってくれる筈です」

「………」

「表情を見れば、分かりますよ。それでも、見つけたいんでしょう? 会いたいんでしょう? それならば、諦めたら駄目ですよ」

「………だからどうした、か」

「はい」

「だからどうした!」

「はい!」

そして、4人全員が立ち上がり、拳を空に突き上げて、叫んだ。


「「「「だからどうした!」」」」


空に叫び声が響いたあと、お互いの顔を見ながらおかしそうに笑う4人の笑い声が、辺りに響き渡った。



「ふー笑った笑った………ん、どうもありがとうございました」

勘定が終わった後、いのさんは言葉と共に頭をちょっと下げていきました。

「いえ、こちらこそありがとうございました」

「いいんですよキリハさん。皆さん、何か落ち込んでいたようですから」

「桃さんは鋭いですね。ええ、でもまあ、私もあの言葉を言い続けてみるようにします。負けないように。くじけないように」

「はい」

「それじゃあ、また来ます。後ろの無愛想なおじさんにも、よろしく言っておいて下さい」

「ふふ、はい」

と笑う僕を背後に、キリハさんは二人のところへ走っていきます。

「行きましたね」

と、振り返ると。
そこには、顔を真っ赤にして照れている再不斬さんの姿がありました。

「あれ、再不斬さん、どうしたんですか?」

「・・・うるせえ」

「???」



そんなこんなで、二人きりの一日は何の事件も起こらず穏やかに過ぎていきました。


メンマさんに感謝、ですね。



[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 十四話 「木の葉崩しに向けて」
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2012/03/15 21:55

森乃イビキ試験官は、頭巾らしき被り物と手袋を外して、ゆっくりと椅子に腰を掛ける。

そして机の上に腕を置き、祈るように手を組んだ。

部屋にいる全員の目を見据える。


沈黙が空間を満たす中、やげて試験官は笑いながら、あくまで穏やかに宣告した。


「今からここにいる皆さんで、ちょっと殺し合いをしてもらいます」


   ~ 突発的NG集 お題「説得力(パースエイダー)というもの」 ~
 
                            by 森乃の人




「ふー」


一息をつく。

今日も空は青く、ラーメンは今日も美味しい。
麺を愛でる事は我が人生の半分であり、麺を求める事は我が人生の意味である。

スープに愛を注ぎ、麺に情熱を注ぐ。
やがて二つは混ざり合い、至高の情愛となって世界を包みこむ。

―――そして。全ては、麺に『おい』

「なんでしょうか、キューちゃん」

『いい加減、現実逃避は止めたらどうじゃ?』

その言葉に、ため息をつく。

そして改めて、メニューを見ている客の顔を見る。

「………」

「………」

『………』

沈黙する2人+1人。

『僕は?』

マダオ君は欠席です。

『いや、いるから。いつも君の中に』

きめえ。

ちなみに、白ですが、今日は修行の日です。桃地君+俺の影分身と一緒に修行しています。

まあ、これから先は修羅場になりそうなんで、とのこと。目的があるのでしょう。邪魔はしませんとも。

『それより、注文聞かなくていいの?』

………聞くよ。聞けばいいんだろ。

「へい、お客さん何しやしょう」

と手を揉みながら言った。仏頂面をしながらメニューを睨む、テマリに向かって。

「………」

てかシンキングタイムが長え。

見た目と違って、こういう時は優柔不断なのか?と思っていると、



「店主」



タン、とメニューを置き、テマリは言い放った。



「しょうゆラーメンで」



普通でした。






「………美味しい」

はい。その一言のために生きてます。

テマリはコクコクと頷きながら、しょうゆラーメンを食べてます。

その勢いの凄いこと。ちょっと、テマリに対する印象が変わりました。

「ふー」

豪快にスープを飲み干した後です。



彼女は笑顔でいいました。


「木の葉風ラーメン(魚介系のやつ)に、稲荷寿司のセット追加で」


なん………だと………。


『突っ込まないんだね』

結局全部食うのかよ!なんて、突っ込めません。
歯を見せて笑うテマリ。その男気溢れる笑顔に、ちょっとだけ惚れてしまいした。

やだ、この娘………格好良い。
でも、歯にネギがついてるよ。

「へい!」

早速、作ります。
へい、の後、お嬢!とか言いそうになったが止めた。

家柄的にはぴったりなんですけどね。いや、筋モンよりも物騒な家だね。



何にしても、多く食べてもらえるというのは嬉しい。

嬉しさの余り、稲荷寿司を2個多めにしてしまったのは内緒です。







「ごちそうさま」

「ありがとうございやしたー」

テマリさん、結構礼儀正しいです。流石はいいとこの娘。
ある意味お嬢様です。でもお嬢様忍者って何だろう。

『キリちゃんも似たようなものだけど』

そうでしたね。箱入り娘忍者?それ何てスネー『それ以上言うのは止めようね?』

怖っ。背筋に寒気が走ったじゃまいか。
何でそんなに怒って………あ、そうか蛇っていったらアレだものね。

「えっと」

呼びかけられました。テマリの方を見ます。え、勘定は済んだはずですけど、何で帰らないの?

「店主」

「はい」

何でしょう。取りあえず返事しましたが、何でしょうこの緊迫感。

「あの、だな」

「はい」


「店主の知り合いに………ええと、その、変な体術を使うバカ強いラーメン屋はいないか?」

「………はい?」


一瞬だけ、思考が止まる。


(………ええと)

「はい、いないです」

本人ですから。知り合いじゃありません。

「そうか」

テマリは残念そうな顔をしながら、すまない、とだけ言って去った。

『ひゅーひゅー』

何だよマダオ。

『えー、どう見たって探されてるんじゃん。乙女に。これはあれだね、フラグたったねフラグ』

「………そう、かなあ」

『そうだって』

目を閉じて考えます。
少し前、白の一件で痛い目を見ましたが………これはあれでしょうか。期待していいんでしょうか。

スプリング・ハズ・カム?

『ホーホケキョ!』

合いの手ご苦労!
来たぜ、来た!俺の時代がやって来た!我が世の春が天から此処に!

『………だがちょっと待て、馬鹿共。もしかしたら砂隠れの一件で、指名手配になっているかもしれんぞ』

………えっと、キューちゃん?それはどういうことでせうか。

『何しろ、あの守鶴をぶっ飛ばしたのだからな。一尾を殴り飛ばせる程の実力者に、不様にも侵入を許し、あまつさえ気づかなかったとあってはな。

砂隠れの里の威信を損ねかねんし』

………ああ、そうだね。うん、きっとそうだ。
短い春だったね。さよなら、リリー。機会があれば、また次の春に。

『………ふーん』

何?マダオ。笑ってくれよ。この哀れな道化をさ。それが仕事なんだ。指さして笑われるのが、さ。

『いやあ、そういう訳じゃないんだけど』

何だよ。何ニヤニヤ笑ってるんだよ。

『春爛漫だなあ、と』

夏だよ。熱いよ。訳分からんよ。むしろ日照りが燦々だよ。

………まあ、いっか。俺には麺があるし。

『MEN?』

男じゃねえから!蛇と一緒にするんじゃねえよ!さっきの仕返しか!ラーメンだよ!

『裸・MEN?』

「よしちょっと表へ出ろ」

10分ばかりマダオと死闘を繰り広げました。





「いらっしゃいー」

「こんにちはーっと………あれ、新メニュー」

「はい、セットもできます」

「じゃあ、それひとつ」

アンコ女史がやって来ました。何やら疲れてるご様子ですが。

………まあ、そりゃあ疲れるわなあ、あんな変態と遭遇したら。

『へ、アンコちゃん、会ったんだっけ?』

そうだろ。あの術、致死性は全然無いからな。あとアンコちゃんってなんだよ。

『いや、僕自来也先生の弟子だったでしょ?』

(ああ)

『ほら、アンコちゃんは大蛇丸の弟子だったし』

(そういう繋がりか。と、いうことは綱手姫の弟子?だったっけ。あのシズネ女史とも、結構面識あるのかマダオ)

『少し、だけどね』

ふーん。まあ、今はいいか。

「何やら疲れていますね」

「………まあね。ちょっと、あってね」

深くため息を吐くアンコ女史。哀愁を漂わせています。何があったんだろう。

取りあえず、稲荷寿司を一個サービスしてあげましょう。肩を落としたその姿が、あまりにも不憫に思えたし。

「あら、これ美味しいわね」

「ありがとう御座います」

「はあ、癒されるわねえ………あんなものを見た後だと、特に」

思い出したのか、首をものすごい勢いで横に振るアンコ女史。ちょっと乳揺れ。眼福。

「あんなもの、ですか?」

「そうなのよ。まあ詳しい事は言えないんだけどさ………全裸の変態、しかもおっさんをね………見ちゃったのよ。何の悪夢かと思ったわ」

(………はい?)

ちょっと、解説のマダオさん?

『うーん、組み込んだ術式に変なの混ざっちゃったかなあ』

変なじゃねーよポケが。そんなもん組み込んだ捕縛術があるか。まるっきりエロ技じゃねえか。ああ、女の子相手に使わなくてよかった。
しかし、麗しのおぱーいをお持ちのご婦人に心の傷を与えてしまったようだ。

想像してもみよう。繭から生まれた変態オカマ、しかもおっさん。加えて蛇属性。かつ全裸。

『トラウマものだね』

夢にまで出るわ、そんなもん。
申し訳ないので、アンコさんに特製団子をあげた。
白が作ったお手製団子で、本当は三時のおやつ用だったけど、詫び料としてプレゼントしました。

心の傷を埋めるには、食べるしかないということで一つ。
後で白には謝っておきましょう。

「美味しい!」と笑うアンコさんの姿。
その眩しい笑顔を見て、何故か涙がこぼれました。





○ ● ○ ● ○ ● ○ ●



『で、だけど』

何だよ。

『真面目な話ね。木の葉崩し、どうすんの?』

若干、手は出します。守鶴だけね。猿蛇の師弟対決には手を出しません。

『何で?』

分かってるくせに聞くなよ。あの戦闘は、猿飛の爺さんのケジメなんだよ。師匠として、そして何よりも3代目火影としての最後の務めなんだよ。
大蛇○に対しての。そしてその他諸々の、な。

それこそ俺なんかがしゃしゃりでる問題じゃあない。

『三代目と共闘して大蛇丸を倒す方法は選ばないんだね?』

布石は打ったから、それもやり方によってはできるかもな。
でも、しない。
爺さん任せです。弟子のケツは師匠が拭こうね!
それが責任ってやつだから。

『まあ、そうだね』

(それにあの戦いは………火影としての、最後の戦場。死に場所みたいなもんだ)

死に場所を見つけた老兵の邪魔はしない。俺も恥をかきたくはない。

『………木の葉崩しが起きる前に大蛇○を叩くっていうのは?』

リスクが高すぎる。失敗すれば、追手がばかみたいに増えかねない。
それに、いつまでも偽装がばれないとは思えん。それこそ見つかったら一巻の終わりになる。

ラーメン屋としてのな。
今まで以上に周りに気を配る必要が出てくる。そんなストレスが溜まる余生はまっぴら御免だ。
それに何より、音隠れと砂隠れの上層部にこれ以上慎重になられるのが、ね。それが一番怖いよ。

大蛇○と風影を相手にするのは、流石の木の葉隠れの里もかなり危ない状態まで追い詰められるだろう。
あの二人に好き勝手絶頂に暴れられた場合、木の葉側の被害が洒落に成らんことになりそうだ。

イコール戦後がヤヴァイ。蝶ヤヴァイ。

それに、蛇の暗殺に成功したとしてもその後が怖い。
音の忍びに面が割れた場合、大蛇丸の信奉者、というか狂信者共に地の果てまで追われる事になるだろう。

そんなリスクは犯せない。木の葉隠れにそこまでの義理は無いし。

『まあ、そんなもんだね。よく分析できました』

(けっ、お前の受け売りだよ)

マダオのくせに、頭は回る。今まで大した危機もなく生き残れたのは、マダオの知恵による部分も大きい。

『それでも、守鶴は相手にするんだね』

あれぶっちゃけ無理ゲーだろ。
悪けりゃカカシでも勝てなさそうだぞ。例の万華鏡写輪眼でもない限り。

『確かにね。巨体、砂の防御、幅広い攻撃方法………五影が、三忍クラスでもないと無理だろうね』

何より、巨体と砂の攻撃がやばすぐる。ガマ親分でも呼ばないと相手にならないのでは。
あ、でもあの巨大ドス使って、一回やってみたいなあ。『我に断てぬもの無し!』とか。

まあそれはともかく、口寄せ使えない小兵サイズじゃあ無理無理だね。
でかいぶん削らなければいけない体積が増える、つまりは馬鹿みたいにチャクラを喰う忍術を使う必要がある。
並の上忍でもそこまでのチャクラは絞り出せまい。

まともにやり合う場合、怪獣大決戦に持ち込むしかないかもね。
正攻法では近づけそうもないし。

『でも、目立つ術は使えないっていうか………ガマ口寄せは正体バレるから無理。
 そもそも、先生の持っている巻物持ってないし、口寄せの契約もできない。
 九尾自体を呼び出すのも無理でしょ。色々な意味で』

そんなことしたら全力で死ねる。怨敵の九尾を見た時の、木の葉隠れ側の反応が怖いっす。
何より、俺がそれをしたくない。キューちゃんを今更『使う』とか、絶対に嫌だ。

だからしない。うん、自分勝手?
―――それでもよし。

だから方法を考えよう。生半可な搦手は通じない。
でも、真っ向からの潰し合いも無駄が多い。

『つまりは、短期決戦?』

その通り。一瞬の隙をついてそこに全てを注ぎ込むような戦術でGO。
あんなデカブツと力勝負なんて馬鹿馬鹿しいし。

『ということは、裏技だね? ………でも飛雷神の術は、まだまだできそうにない』

あれを自由に使えれば一番速かったんだけどなあ。戦闘における最重要項目である“間合い”の概念を崩壊させるしね、あの術。
まあ修行してできる事はできるようになったけど、厳しい回数制限付き。

『仕込みに仕込んだ術式を使って、そして術の反動を無視してやっと、だからね。肉体に掛かる負荷を考えれば、一日一回が限度だよ』

それ以上は無理なのは分かってる。前に試したけど、あの状態からもう一回とか、肉体が爆散しそう。
一回目だけですごいゲロ吐いたし。いやー酔う酔う。
視界がが沙○の唄の例のアレみたいに、グチョグチョになったよ。

2回目は無理です。決行したら、死ぬことは免れん。チャクラが爆散して自分がスープにになっちゃいます。
だから、良い方法考えといてね。俺も考えるけど。

『おk。でも良い方法あるかなあ』

そうそう裏技もないか。その時はその時だな。

取りあえず、頼むわマダオ。







午後、夕方過ぎ。
キリハ、いのが来店。何やらぼろぼろだ。一緒に修行でもしているのだろう。

注文を聞く。
今日はしょうゆの気分らしい。分かる分かる。あるよねー、そういう時。原点にかえるっていうの?

チャーシューを切っている最中、二人が何やら熱く語り合っている。
俺はその会話で出てきた単語を聞いて、少し驚いた。

「えっと、その………聞いても良いかな。『だからどうした』っていうのは」

「昨日、桃さんから聞いたんです!いいですよね、何かこう、言い続けるだけで勇気が湧いてくるような!」

まあ、言われてみれば、いのにはぴったりですね。

「ヒナタちゃんにも教えてあげたんですよ。ヒナタちゃん、嬉しそうに呟きながら、ヒアシさん相手に柔拳を練習してました」

あれ、日向家、親子の仲いいのか。意外だな。
それにしても、「だからどうした」と良いながら臓腑を抉るような掌打を繰り出す少女ってのは………絵面的に最強だな。
白い目だし。もしやってるのが妻だったら、タイトルは「浮気の言い訳を一蹴する鬼嫁」って所か。白い目ですね。分かります。

「はあ、それにしても、今日も収穫無かったわね」

「うーん、やっぱり避けきるのは難しいんじゃない? 風遁は威力が限定される分、範囲は大きいから。避けきろうって言う方が無茶だよ」

「………そういうもんかなあ」

頷きます。そういうもんです。風遁は対人戦には持ってこいですからね。

「うーん、それでもなあ………そうだ、違う視点から言ってもらうのもいいかも」

「はい?」

急に話しを振られて、びっくりする。

「えっと、中忍選抜試験の本戦で、日向の人と当たるんだ。何でもいいから、良いアイデアない? おじさん」

………おじさん?
ああ、おじさんか。おじさんね。

まあ見た目しょうがないかもしれないけど、この年の少女相手に面と向かって言われると………結構、くるものがある。

泣いてない、泣いてないもんね!

『変化を解けば戻るじゃない』

まあそうだけどね。見た目は子供! 頭脳は三十路!
名探偵小南、この後すぐ!

『えっと、突っ込む所は多々あるけど取り敢えず小南って誰?』

式紙使いです。いつか紙で城を作ってもらうつもりです。ちなみに白ではありません。
空に浮かべて里の中心部に落とします。でも軽いからみんなが和むだけで済むんだぜ。そして遊び場になるんだぜ。もしくはラピュタごっこでもいい。

………まあそんな少年の夢はおいといて。

『少年(笑)』

おいマダオ、後でセッキョーな。
それはおいといて、っと。

「お嬢さん、相手がどうでようが、構いません。むしろ構ったらだめです。
 相手の事ばかりを気にしすぎても駄目です。やることを決めて、そこを一点集中」

「一点集中?」

「そうです。真に万能なラーメンはない。であれば、“売りにする”味を――――戦闘でいえば、“他に勝る”点を。
 自分が相手より勝る場所で戦えばいいのです。問題は、負けない事ではありません。諦めないことです。
 お嬢さん、桃が伝えた言葉の中に答えはあります」

後はあなた次第です、頑張って下さいと真剣な声で答える。

「………そうか。そうよね。おじさん、ありがとう」

「いえいえ。あとできればお兄さんと呼んでくれると有り難いんですけど」

それと、話してみて思いつきました。
守鶴に勝つ方法。随分と仕込みに時間がかかるけど、恐らくは勝てるはず。

今日から当分、影分身達は内職に励ませます。道具と………後は、新術。これがあれば勝てる筈。








「ういー、帰ったよー」

と言っても、誰も出迎えてくれません。
奥で修行してるのか。ちょこっとだけ寂しいのは秘密。

「………てめえか」

「はあっ、はあっ、ナルト、くん」

二人は修行をしていました。いやしかし、肩で息をしながら喋ってる白だけど、字だけ見るとエロいなー。
………いや、ちょっと落ち着こう。話しを変えようか。

それにしても白、顔が赤いな。もはや紅白だね。際だつコントラストが色っぽいね。

『繰り返しとるじゃろ。ちょっとは落ち着かんか、この馬鹿者』

拗ねたキューちゃんの声に、我に帰る。ふー、危ない危ない。
汗をぬぐって、再不斬に向かって犬歯を剥き出しにする。

え、理由?
――――むかついたから。

「いろんな意味で精が出てるねー、じゃあ再不斬君。久しぶりに、俺と手合わせしてみようか」

「………あ? 影分身任せでラーメンばっかり作ってるお前が、どういう風の吹き回しだ。」

「いや、ちょっと試したい事があってさー」

マダオ、準備は出来てるな?

『ほいきた』

手裏剣影分身の術って………別に得物が手裏剣じゃなくても使えたよな。

『まあ、一応』



ということで先制攻撃!
忍び同士の戦いに、開始の合図など在るはずもない!

俺は懐に隠していたあるものを抜き放った後、再不斬との距離を詰め、そのの顔めがけてそれを差し出す---!

しかし、あと一歩というところで“ソレ”は止められてしまった。

「………何してやがる?」

「ちっ、惜しい」

掴まれた手には、筆。
あとちょっとで眉毛書けたというのに、いや実に惜しい。


「………」

「………」


無言のままバッ!と勢いよく離れる。
その手には凶器が持たれていた。

俺の手には、筆。墨汁のついた筆だ。

再不斬の手には、名高き七本刀が一、首切り包丁。
包丁だからいーじゃん、とあの大刀を使ってチャーシューを切っていた所、微妙な顔されたのはいい思い出。

「てめえ………もう我慢ならねえ。ことある毎に妙なちょっかいをかけてきやがって! 今日は、今日こそ俺は手前に勝つ!」

「いいだろう。来たまえ、桃地君! 俺が勝ったらガイばりの海苔眉毛を、お前の身に刻んでやる!」

それも身体のあちこちに刻んでやる。
これはこの世界の彼女無き無数の男共の怨念だと思え。

「………」

「………」


無言でにらみ合う俺と再不斬。

片や、手に筆。片や、手に大刀。傍目で見る分にはどうにもあれな光景だろうな。
もう少しこちらの筆が大きかったら、絵になったかもしれないが。

『東北宮城乙』

リバースだべ! ってネタはおいといて、行くぞ!

「嫉妬パワーぁぁあ、ぜんっかい!」

掛け声と同時に再不斬に向かって筆を投げ、高速で印を組む。

「食らえ!」

忍法・手裏剣影分身の術!

「って、ちょっと待てえ!」

再不斬に殺到する、筆、筆、筆。
百を超える筆が、再不斬の身に黒を刻まんと殺到する――――!

「くそ、アホらしい!」

といいながら、手に持ったクナイで、筆の流星群を弾き飛ばしていく。
そしてその全て弾き飛ばした後、再不斬は印を組んだ。

「水遁・水龍弾の術!」

なんと、筆についた墨汁を使って、水遁・水龍弾の術を発動。
小さいながらも、墨でできた黒い龍が襲ってくる。

「おお!?」

それを跳躍して避ける。
チィ、腕を上げたな。ああいう返し方をされるとは思ってなかった。


「今度はこっちからいくぞ!」


そして、再不斬が手に持つ大刀を、頭上に掲げた直後。







――――――室内の空気が、凍った。








「………」

「………」


俺は大刀を掲げたまま硬直している再不斬と視線で話し合う。

何が起こったのか。この空気を発している者は、一体誰なのか。

………俺ではない。もちろん再不斬でもない。とすれば、後は1人しかいない。



恐る恐る、俺と再不斬は残る1人である、白の方を向いた。



そして、すぐに後悔した。





白さん、真っ黒です。墨にまみれて真っ黒クロスケ。
どうやら再不斬が弾いた筆の墨が当たった後に、墨殺黒龍破を浴びた模様。

白黒どころじゃありません。しげるも真っ黒になるほど黒まみれ。
あと纏ってる空気も。「白から黒へバロスww」とか笑ってる場合じゃありません。
ドス黒いです。赤貧グロ魔術師殿も驚きの黒さ。

「………(汗)」

「………(汗)」

その冷え冷えとした殺気に、俺と再不斬は身動きが取れない。

――――ってあれ、足が動かないよ?

『あ、足下凍ってるね』

見れば、いつの間にか。
墨で出来た氷の手が、俺の両足を拘束している。


もちろん色は黒なので、ってまじ怖いんですけど!



「………メンマさん、再不斬さん?」



言葉と同時、部屋の壁から音が。

あれ、部屋の壁全体が魔境氷晶に包まれている!?


どこにも逃げ場がないよおとっつあん!




『まあ自業自得だね』




そして、凍りついた空気が怒声と共に開放された。



「誰が掃除と選択をすると思ってるんでかぁ―――――!」



「qあwせdrftgyふじこlp;!?」

「俺が何をしたぁぁァアア?!」





激怒した白嬢に、氷の鏡を利用した超高速エリアルコンボをかまされました。


もちろん、二人とも。





[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 十五話 「遭遇戦」
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2012/03/15 21:56

「いくぞ、饂飩王。麺の貯蔵は十分か………!」


   小池メンマのラーメン風雲伝 第七百五十四話 
 
      「麺に王は二人も要らぬ~究極のラーメン 対 至高のうどん~」より抜粋










昼の閉店後、俺は木の葉の中央にある病院の前に居た。
此処に来た目的は、リー君の見舞いである。
眉毛一号ことマイト・ガイ上忍から、リー君の容態が一応は安定したと聞いたので。

リー君はまあ常連まではいかないけど、何度か店に来てくれた客なので土産持って来ました。
お土産、といっても白特製の稲荷寿司だけどね。
リー君、前に店に来たとき美味しいといってたからなー。

受付で病室を聞いて、目的の場所へ――――ん?

リー君の病室の前に来たところで、感知出来た気配が………3つ。
3つが全部、知っている気配だ。

おいおい、リー君はともかくとして、シカマルも分かる。
でも残り一人はやばい。

と、俺はそこで原作のシーンを思い出して、あちゃーと頭を抑える。
よりにもよって、一番騒げない場所で我愛羅かよ。

シカマルが影真似の術で我愛羅を足止めしてるみたいだけど…………抑えきれてない。
このまま見捨てると、やばいな。仕方ない、割って入るしかないか。


俺は周りに誰もいないのを確認すると、変化の術を使った。





● ● ● ● 『奈良シカマル』 ● ● ● ● ●


「くっ………!」

どうしたこうなった。
チョウジの見舞いのついでに、面会謝絶が解けたロック・リーの様子を見に来ただけじゃないか。

それが―――何で今、俺はあのイカれた砂のひょうたん野郎を影真似で止めるのか。

尋常じゃない気配を察して、飛び込んだだけだ。
見過ごせなかっただけだ。というか、なんで病室によその里のこいつが侵入できる。
暗部はなにしてんだ――――早く来いよ、間に合わなくなる。

いっそ俺だけ………いや、めんどくせーけど、同じ里の下忍の事だ。
放っておく訳にもいかねえ。

「………クク」

状況を把握してやがんのか、笑ってやがる。ああ、確かに術は成功して、動きは止められたさ。
しかし、この先の手が思いつかない。

俺は、こいつの防御を破るような術を持っていない。それをこいつも察しているのだろう。

(クソが……!)

もう限界だ。目の前には、凍えるような殺気。
気を抜けば膝を屈したくなるほど濃密で、アスマ達上忍とはまた質の違う嫌なチャクラ。

こいつ、本当にヤベエ。
いったい、どうすればこの状況を抜けられるか。




――――と、あの手この手を模索している時だった。

その男が入ってきたのは。





「待てい!」





割り込んで来た声と共に、入り口の方から煙り玉が投じられた。
我愛羅の視界が遮られたそのスキに、俺は影真似を解き、リーが寝ているベッドへ駆け寄る。
俺には我愛羅をどうすることもできねえ。場合によっては、リーを連れて逃げる。

しかし、その心配は無用だった。
ベッドの横に立っていた我愛羅が、何者かによって殴り飛ばされたのだ。

(砂での防御が間に合ってない?)

驚いている内に、煙玉の煙が晴れた。

目の前に、我愛羅を殴った人物が見える。


(――――な)


その風体を見て、俺は呼吸が止まった。金髪の癖っ毛に、口を覆うマスク。
忘れもしない、あの夜に見た姿そのままだ。

子供の頃、他国の忍者に攫われたあの時に助けてくれた人だ。
その人は目を瞑ると、歌うように口を開いた。




「戦争上等のこの世界。食べ物をもって相互の理解を求めんとする我が意志の象徴。
 悠久の味の広がりと、果てしなき広がりをもつもの!」




一拍おいて、そいつは宣言する。




「人、それを『ラーメン』と言う………!」




「「何者だ!?」」




目の前の我愛羅と一緒にハモってしまう。
締めの言葉が予想外も予想外だ。色々な意味で何者だアンタ、。


「おまえらに名乗る名前は無い!」


返答と同時、男は我愛羅へと一歩踏み出した。そして更に一撃を加える。
先ほどと同じか、我愛羅が持つ自動防御の砂を上回る速度で放たれたそれは、正しく神速の掌打だ。

放たれたか、と思った次の瞬間には我愛羅の外殻がぶれた。
全身を覆っている砂の鎧ごと殴り飛ばされ、そのまま窓から外へと吹き飛んでいったのだ。

アスマ以上の速さ。
俺はその事実に混乱しながらも、目の前の男を見る。
男はゆっくりと突きだした掌を修め、ため息を吐くと窓の方へと向かっていく。

「じゃあな、少年。里の仲間をしっかりと守れよ」

我愛羅を追って窓から出て行こうとする男。
ここに留まるつまりはないらしい。俺は、とっさに叫んでいた。

「待ってくれ! アンタ確か、昔に俺を助けてくれた人だろ」

「………ああ、覚えていたのか」

「忘れるかよ。それであんた、何者なんだ? 木の葉の忍びじゃねえ、って事は親父達から聞いて知ってるけどよ」

助けられた後、親父達が言っていた。
俺たちを助けてくれた人は、木の葉隠れに属する者じゃないって事を。

暗部の警備の裏をかかれた形になったので、俺たちが攫われた事は、親父達も暗部も完全に気づいていなかった、と言っていた。
戦闘の気配で、俺たちが攫われたって事を察知したらしい。この人がいなければ、間に合わなかっただろう、とも。

それを聞いて、俺たちは唸った。

誰か助けてくれたのか。木の葉の者じゃない、でも木の葉近くにいた、凄腕の忍び。
正体不明のヒーローみたいな助けてくれた人について、昔はヒナタといのとよく話していたもんだ。

そして、それからは3人で探していた。
俺は一言、助けられた礼を言いたかったから。
あの二人はまた別の思いがあるらしいが、俺のはただ純粋な感謝だ。

だから、礼を言わなきゃならねえ。


「ありがとう。あんたが何者かは知らねえけど、あの時アンタが居なければ俺たちは死んでたよ。助けてくれて、本当にありがとう」


柄でもない言葉に、顔が赤くなる。

男は言葉では答えず、背中を見せたまま片手をあげて答えた。


一度も振り返ること無く、あの時と同じだ。

窓の外へ、我愛羅を追うためにだろう、去っていった。






○ ● ○ ● ○ ● ○ ●




両足が地面を叩く。三階程度の高さから落ちる衝撃など、チャクラで強化すれば無いも同じ。

すぐさま、先ほど殴り飛ばした我愛羅に追撃を仕掛ける。

相手が砂で防御するよりも更に速く殴り飛ばした。
で、すぐさま反対の方向へと逃げる。

ここまですれば俺の方を優先するだろう。
あとは、人気の無いところへ誘導するだけ。

そして我愛羅が追ってくるのを感知しながらそのまま数分走り、十分に病院から離れたところで立ち止まった。
ゆっくりと振りかえる。

そこには砂を周囲に浮かせ、笑っている我愛羅の姿。
この状況下で心底可笑しいという顔で声を殺して笑えるとは、まともな精神状態じゃない。

(………って、いったい何が可笑しいのかよ。あんな所であんなことしちゃって)

受験者への追撃とか、しかも予備選で負かした相手を襲うとか!
下手すりゃ本戦を待つことなく戦争が始まっちまう。

「ばかかお前、ばっかじゃねえのか!もしくはアホかあ!」と言いたい。

でも言えない。情緒不安定すぎるので、むやみに刺激するのは良くない。
しかし腹立つなこいつ。デコの右側に『麺』と書いて『麺』『愛』とラーメンの使徒にしてやろうか。

そう考えて筆を取り出そうと寸前、我愛羅が話しかけてきた。

「くっくっく………こんな所で会えるとはな。『通りすがりのラーメン屋』」

「こっちは会いたくなかったけどな。マジで。心底」

即答する。やーなの、こんな砂狸さんと殺し合いするのは。
ほら、何か強い者を殺す事で~、とか生きる意味~とか言い始めたし。
あと、目が怖い。

(――――それにしても)

誰かを殺した時に自分が生きている事を実感するってどういうことだろう。
それがなければ、己の生を実感できないのか。それじゃあ風影が望んだ兵器そのものじゃあないか。

生きているといえない。殺すために動いているだけだ。

(ここまで、壊れてるとはね)

旅の途中でも見たことがなかった。完全に壊れた敗残者ともまた違う。
そんな生き方じゃあ、行き着いた果てに見える光景など決まったものになるだろうに。

目に映る全てを殺せば、何もかも真平らになるだけだ。
そうすればみんな壊れる。狂った精神にも許容は存在する。殺して自分が壊れて、あとに残るのは地平線のみ。

それは兵器の本懐だぞ。“誰かが定めやがった”宿命をはたしてしまう行為だ。
でも、こいつはまだそこまで行き着いていない。

(――――気に入らねえ)

こちらの複雑な心境を無視して、我愛羅は殺気を膨らませる。

「………さあ、殺し合おうか!」

砂を展開する我愛羅。それを、俺は止める。

「待て。ここは木の葉隠れの里だぞ。しかもど真ん中。ここでやり合ったとしても、余計な横槍が入るに決まっている」

威圧するようにチャクラを発しながら、言う。

「はっ、誰かが来る前に潰せばいい事だ!」

「それが、可能だとても?」

視線で圧力をこめる。

「ふん、もうすぐに、だ―――――あるだろう? 徹底的にやり合う機会が。そこで決着を付けてやる。だから、今日はひとまず退け」

その言葉に、我愛羅は沈黙する。
そして、舌打ちし、何かに気付いたように後ろに振り返った。

(誰かが、近づいてくる)

我愛羅にも、その気配が分かったのだろう。また舌打ちをした後、砂をひょうたんに戻した。

「いいだろう。ただし、逃げるなよ」

肩越しに睨まれた視線。その全てを受け止め、俺は笑いながら返してやる。

「お前がな」




その言葉に、我愛羅はまたおかしそうに笑いながら、去っていった。






我愛羅の姿を見おくると、マダオが呟いてきた。

『………ああいう風に、なる。可能性も、あったのか』

「何?」

何気ない言葉。聞こえた、が――――聞こえない振りをする。
すると、マダオはなんでもないよと返してきた。いつもとは違う真剣な口調だが、それも深く追求しない。

今のはきっと、失言だから。聞かれたくない類の言葉だろう。だから、追求はしないでおく。

『………ん、いやいや強敵だなあ、って。さて、対策もあることだし、帰りますか』

ああ。でも、お客さんの応対をしてからな。
と、言っているうちに来たし。


銀髪のマスク忍者が。


「………何者だ?」

すっと目を細めて聞いてくる木の葉の業師。
ああ、カカシさんじゃないですか。気づいていたけど。

俺はその問いに答えず、煙玉を放って一目散に逃げた。
やり合ってもいいが、面倒くさい。ここはひとまず、逃げた方がいいしね。




○ ● ○ ● ○ ● ○ ●




(まあ追ってくるよな、やっぱり)

逃げは振りでもあった。追ってこなければそのまま逃げたけど。
追ってきたからにゃあ、仕方ない。人目に付かない所へ誘導して、そこで一戦した後、逃げるか。

病院近くはまずい。あそこは里の中心部に近いので、応援がやってくる可能性が高い。
流石に、複数を相手にするのは面倒だ。

(よし、ここらへんでいいか)

逃げ続けて、数分経った。
この森の中なら邪魔も入らないだろう。

俺は逃げる振りをして樹の枝を思いっきり蹴った。
その勢いのまま、追ってくるカカシの方向へ跳躍し、一気に懐へと飛び込む。

「なっ!?」

一瞬の奇襲に、不意をつかれたようだが、カカシの動揺も一瞬だった。
即座に反応し、俺の右の掌打を腕で防御すると、横にすべるように抜け、先ほどまで俺の進行方向だった場所に立つ。

「………」

「………」

退路を断ったつもりだろうか。
いや、安心はしていまい。俺がどちらに逃げるか、どちらの方向へ逃げていくのかなど、予測がつかないだろう。

(なら、ここで仕留めるのが一番ってことだ)

そして予想通り、カカシは仕掛けてきた。

(注意するべきは写輪眼!)

キューちゃんやマダオが居るので、幻術は効かない――――が、出自がばれる可能性がある。
それなくても、瞳術による幻術は危険だ。俺はガイと同じ、カカシの足元を見ながら応戦。

自然と体術合戦になった。樹の枝を足場にしながら、跳躍。
高速ですれ違う一瞬に、互いの拳と蹴りが、幾度と無く交差する。

「クッ!」

「当たらねえよ!」

カカシは体術の応酬の合間に火遁に水遁、色々な術を使ってくるが、どれも様子見程度だった。
そんなせまい範囲の術など、俺には当たらない。

そして2分が経過した。
互いにまともな被弾はなし。だけど数十を超える合の果て、俺はカカシの力量を悟った。

(やっぱり、大蛇○ほどではないか)

純粋な体術でいえば、再不斬の方がやや上。瞳術による心写しも見破っているので、アドバンテージは圧倒的に俺の方が上だ。

雷切も対策はしているので、問題ない。
万華鏡写輪眼が使えればまた違うのだろうが、それも無い。

(それよりも………カカシ、勘が鈍ってないか?)

再不斬もそうだったが、実戦だというのに緊張感が足りてない。
もしかして格上とのガチンコとか、必死になる実戦をここ五年くらい経験してないんじゃないか。

『その点、常に格上というか化物との戦闘を想定している君にスキはなかった?』

(それほどでもない)

『かっこいいなー……憧れないけど、そんな環境』

(俺もだよ!)

ともあれ、今のカカシでは大蛇○に勝てなさそうだ。
そして、更に十合。こちらは術を使っていないので、コピーしようにもできないようだ。

やがてカカシは、肩で息をしながら聞いてきた。

「………ここまで強いとはね。もう一度聞くけど、何者だ?」

「貴様に名乗る名前はない!」

もう、確認は終えた。後は、この戦闘を終わらせるだけ。


そう判断した俺は、きゅうびのチャクラを解放する。


出来るだけ後にダメージが残らない方法で、昏倒させるために。



「!?」



膨れあがったチャクラに驚くカカシ。

それを無視して、俺は構えを取って心の中に呼びかける。





(賢狼よ、導きを!)



そっちに行っていいでもありんすか?
と顔を赤らめる獣耳乙女を思い浮かべる。





み な ぎ っ て き た 。





全身をチャクラという名の何かで活性化する。

そして高めた脚力で一歩、カカシの元へと踏み出した。




「とああああっ!」


「速い!?」



きゅうびのチャクラによる運動力強化を上乗せして、先ほどとは段違いの速さで踏み込む。

飛翔するかの如き神速の一歩で、一気にカカシの懐に飛び込んだ。
先ほどの奇襲とは違い、カカシはこちらの動きに反応しきれていない。



(いくぜ、絶招の壱・改!)

チャクラを雷に性質変化させる。

微粒な電流が、手のひらを走った。


「雷・螺旋螺旋!」



螺旋を描く掌打をカカシの腹部にねじ込み、電流を開放する。


「ぐ、あっ!?」



腹に広がる衝撃と、身体を走る雷に、カカシの動きが止まる。




「とおああ――――!」




返す刀に、逆の手で掌打。止まったカカシを後方に更に吹き飛ばす。

それを追って、また一歩。カカシへと肉薄する――――!



「神手・昇打崩!」


そして、とどめの一撃。

仰け反るカカシの腹部へ、風を纏わせた打ち上げの掌打を叩き込む。



カカシはそのまま吹き飛び、やがて地面に倒れると気絶した。




「成敗!」




遅刻的な意味で。












○ ● ○ ● ○ ● ○ ●




「ただいまー」

で、帰ってきました我が家。
カカシはあと数分は身動きが取れないはず。

まあ連絡の煙玉も上げたしね。
すぐにでも医療班が駆けつけるだろう。

『いやー酷いことするね、君も』

いや、あれだとダメージが後残らないし、いいじゃん
サスケの修行に付き合うと、どうしてもカカシ自身の修行が疎かになりそうだからね。

実戦の勘も鈍っているようだし。緊張感を増やすためにも、というやつだ。それに、たまには負けないとね。
まあ全部ノリでやった言い訳なんだけど。

まあ、イチャパラとか遅刻の事もあるし、いいんでないの?
自重しろ、という意も含めてさあ。

『おぬしには言われたくないと思うが――――それと、メンマ。カカシのこととは別に、話があるのだがな?』

何、キューちゃん。気のせいか、声がもの凄い冷たいよ?

『先ほどお主が頭の中で思い浮かべた“女”の顔じゃが………』

(げ、分かるの?)

『あのチャクラを使ってる時は、の………・それで、だ』

(はい)

『何故ワシを思い浮かべん?』

(はい………え?)

綺麗に笑うキューちゃん。
うん、聞き返せないぐらい怖い。犬歯が凄い。背後に夜叉を背負っているし。

(ぐ、しまったな。賢狐とかにした方が良かったか………!)

でも賢くなさそうだし、と言ったら怒られそうなので言わない。
後悔しても遅いか。キューちゃん、どうやらハブにされたことに怒っているようだ。

(ここは………マダオ、助けてくれ!)

『只今留守にしております。緊急の用がある方は近くの詰所に駆け寄るか、諦めてください』

(居るじゃん! てか、諦めたらそこで試合終了ですよ!?)

『のう………ちょっと、表で話しをしようか?』

ぎゃあああああああ!?
フラグたった!死亡フラグ!

そんなフラグはいらねえから!

『まあ、これもある意味フラグと呼べるんだけどねえ』

ちょっとまてマダオ!
その旗、何の旗、気になる旗!?
どう見ても赤色フラグだろ!血の色だろ!

『まあ、桃色ではないかなー』

『おい、返事はどうした?』

(イエスマム! ………えっと、何もしないよね?ただお話するだけだよね?)

『勿論じゃ』

とにっこり笑うキューちゃん。あらやだ、可愛い。
………まあ、もしかしたら単にお話するだけかも知れないし。ちょっとだけ呼び出してみようかなー?

笑い顔を信頼し、口寄せを発動させる寸前だ。
マダオが何か呟いた。

『ざんねん、あなたのぼうけんはここでおわってしまった!』


(――――え?)


そして、その言葉の通り。

口寄せの煙が消えたその先には、金色の夜叉がいました。

「………そなたの中には夜叉がいqあwせdrftgyふじこlp;!?」


誤魔化そうとネタに走った所、顔を真っ赤にして怒るキューちゃんに飛びつかれて噛みつかれました。

「うわきもの!」とか何とか言っていたのはどういう意味だろう。

ってこら、マダオ。にやにやしながら見てないで、助けろよ。




[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 十五・五話 それぞれの一日
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2012/03/15 21:57
「つれづれなるままに、ラーメン」

 ~ 小池メンマのラーメン風雲伝 序章
   
   「――――そして、これより始まる」より抜粋 ~









● ● ● ● 『白』 ● ● ● ● ●


選抜試験が終わった、次の日。

メンマさん達3人は、眉をしかめながら来るべき木の葉崩しについて話し合っています。
何でも、本格的には参戦しないそうで。ですが、砂隠れの里に居るという尾獣、一尾の守鶴を宿す人柱力とは戦う必要があるそうです。

3人は難しい顔をしながら、どういった戦術で行くか意見を出し合っていますが………

「で、どうするつもりじゃ?」

「うーん、難しいんだよなあ。話し合うだけじゃ、絶対に駄目だし」

「それには同意する。自分が持つ力に囚われてるからね。自分しか見えてないっぽいよ。何をするにしても、それは戦闘で勝ってからの事だね」

「………難しいな。取りあえず殺し合いは避ける方向で行きたいんだが」

主に俺がしんどい。俺がやばい、とメンマさんは気怠そうにぼやきます。

「残念ながら、それは無理だと思うよ。話すにしても、何か切っ掛けがないとね。まあ、あの怨念じみた思考だけを取り払えれば話しは別になるけど」

「俺は人は殺さない! その怨念を殺す!! 」

「―――それはともかく」

無視するマダオさんに、「無視すんなよぉ」メンマさんはぶーたれていますが、キューさん達は完全に無視。
その圧倒的スルー力に貫禄が見えます。慣れてるんでしょうか。

「あれはあっちに置いといて………たとえば、そうだな――――"萌え"とかどうだろう」

「「・・・は?」」

僕とキューさんの声が重なります。
何でしょうかそれは。

「ああ、萌は草の息吹、即ち癒し。萌は生命の発芽、即ち潤い。萌は生命、即ち魂………そうだろう、同胞よ!」

真剣な目で訴えるマダオさんに、ナルト君は腕を組んで深く頷きます。

「ん、確かに。確かにそうかもしれん。いや、そうだな。実に理に適っていボしァ!?」

神妙な面持ちで語るナルト君ですが、キューさんに殴られて向こうの方へ飛んでいきました。

「一理も無いわ、アホども。大体『もえ』とは何だ?」

「鏡を見れば分かると思うよ。まあ、それは後々詰めるとして、今は話しを進めるけど、何か案はない?」

「はい! はいはい! 先生!」

「では、ナルト君」

しゅばっ!と戻ってきて挙手するナルト君を、マダオさんが指します。

「白のセーラー服姿で説得してはどうだろう」

え、ボク?
と驚いている暇もありません。二人はこちらを見ながら、真剣な目で考え込んでいます。
そして、マダオさんが親指を立てました。

「………ありだね」

「よし、それで行こう」

頷き呟くマダオさんに、膝をパシーンと叩いてこれで決定だとばかりに立ち上がるナルト君。

「行くな!」

そんな二人に、キューさんの狐火が炸裂。
しかし二人とも「わーきゃー」とか言いながら、その炎を避けました。
あの、狐火って結構速いんですけど………二人とも余裕がありそうですね。

それはともかく、今の話しの内容がよく分からないのですが。
取りあえず、これだけは聞いておきましょうか。

「あの、セーラー服ってなんですか?」

「清純の象徴だよ。女学生が纏う聖衣みたいなものさ。ちなみに僕は裁縫が得意でね」

「大丈夫。きっと似合うから」

と、逃げ回っていた二人が瞬身の術で近くに寄ってきます。
肩を叩かれました。無駄に速くて見えませんでしたよ、まったく。

そして二人は虚空を見上げ、なにやら語り始めました。

「想像して見るがいい! 白×セーラー服! 正しくインフィニティじゃないか! ああ、俺は自分の発想が恐ろしい………」

「これで我愛羅君もいちころだね。セーラー服の白ちゃんが、はにかみながら近づいてくる。やがて目の前に立つと、跪いて、頬を撫でてその後―――」



そこで、キューさんが一言。



「――――変化が解ける。実は変化した再不斬だった」




「「ゴハァッ!!」」

キューさんがつけ加えた一言に、二人が吐血しました。
もんどりうって倒れてます。

何やら、マダオさんの方のダメージが大きいようですが、一体何があったというのか。

「くっ、マダオ! しっかりしろ、マダオ! バカヤロウが………無駄に想像力豊かなお前のことだ。リアルに想像しちまったんだな………!」


力無く倒れ伏すマダオさんを抱え、ナルト君は必死に揺さぶります。

うっすらと目を開けるマダオさん。やがて僕の方を見ると、呟きます。


「白ちゃん………良い夢を、見させて貰ったぜ」



うわごとのように呟くマダオさん。
せーらー服とやらを着た再不斬さんを思い浮かべたのが原因でしょうか。

今にも力尽きそうなマダオさんに向かって、ナルト君は悲しそうに叫びました。


「あれが………良い夢でたまるかよ!」

「やかましいわ」

「イ゛ェアアアア!」


先ほどより巨大なキューさんの狐火で、寸劇を繰り広げている二人は、もろともに吹き飛ばされました。






「あ、再不斬さん……その、お疲れ様です」


「ああ………本当にな」


ぷすぷすと焦げた二人を見ながら、キューさんは疲れたように肩を落とします。

その姿に少し笑ってしまいます。マダオさん「すね毛が、すね毛ガっ……!」と悪夢を見たかのように呻いていますが大丈夫でしょうか。

まあ、それはともかく。

「そろそろお昼ですし、ごはんにしましょうか」

用意が出来たので、いつものとおりに食卓を5人で囲みます。

「ちょっとキューちゃん、俺の稲荷取らないでよ」

ナルト君が、キューさんに文句を言います。どうやらその箸で稲荷寿司を奪ったみたいです。
先ほどの仕返しでしょうか、僕の動体視力でさえ霞んで見えるほどの速さでした。

キューさんも凄いですが、気づくナルト君も凄い。

「はて、何のことじゃ?」

と無視して稲荷寿司を食べるキューさんのほっぺたを、ナルト君がじっと見ます。
………御飯粒ついてますね。急いで食べ過ぎです。

「はあ、まあいいか~。後一個残ってるしー」

と視線を正面に戻した後、ナルト君の目がくわっと開かれました。

「ぐううううううううう!?」

その直後、キューさんが真っ赤な顔をしながら口を押さえます。

「ふ、油断大敵、自業自得、因果応報」

にやりと笑うナルト君の手には、練り辛子が握られていました。

「うぬ、貴様………!」

「えー、何のこと?」

睨むキューさん、クマーとか言いながらとぼけるナルト君。
互いに戦闘態勢に入ろうとしますが………っていい加減にしてください。

すっと、二人の間に、僕は千本を投げつけます。

「そこまでです」

「「………はい」」

頷き、押し黙る二人に、僕は笑顔で忠告しました。

「ほんと、いい加減にして下さいね二人とも。食事中ですよ」

「「………はい」」

良かった。話しを聞いてくれたようです。あれ、どうしたんですか、マダオさん。震えちゃって
え、何?ごめんなさい、もうしません、クシナ?

誰ですかそれは。










食事が終わり、皿を洗っているとキューさんが背後からこちらに近づいてきました。
肩越しに見ます。どうやら、食器を下げてくれているようです。

「ほれ、これで最後じゃ」

「ありがとうございます」

食器を運び終わったキューさん。運び終えた後、何故かその場を動きません。
数分間、何となくしゃべることもなく、二人で黙り込みます。水の流れる音と、食器を洗う音。

それを打ち破ったのは、キューさんの声でした。

「お前は………」

「はい?」

「いや、お主達は我のことが怖くないのか?」

いきなりの言葉に、思考が止まります。

「我の事は知っているんじゃろう? なのに、そういう素振りも見せん」

「怖い、ですか………まあ、九尾のことなら考えた事はあります」

ともすれば一国をも滅ぼせる妖魔。
でも、実感がわかないというのが本当のところだ。

「それに、色々と考えたんですけどね。なんか、あの二人と話しているキューさんを見てると、そんな事を考えているのが馬鹿らしくなったというか」

「あの二人と………馬鹿らしく?」

「はい。正しくは、あの二人と話している時のキューさんの顔を見て、ですけどね」

「………そうなのか?」

「はい。それに、知識だけで人を見るのは嫌ですから。僕も………過去にそういう経験をしたことがあります」

外形だけで、形式だけで人を見る。だから、霧隠れのような血継限界狩りのような悲劇が起きるのだ。
人を見ないで、驚異を見る。保身のために、無情にもなり。

でも、それだけを優先する人は、果たして真っ当な人間と言えるのだろうか。
忍者だから、それでもいいのか。

――――僕は、違うと思う。
だから、怖がるより前にこの人の事を見る。

「昔の事は知っています。ですが、今は違うと感じられました………だから、怖くないですよ」

「そうか」

「そうです」

また、会話が途切れます。
そしてしばらく、食器を洗う音だけが響いて、数秒後。
じっと合う視線と視線。

やがてキューさんはふと俯くと、きびすを返して、台所の外へと去っていきました。

「………じゃあ、な。ワシはあやつに先ほどの仕返しをしてくるから」

照れたんでしょうか。キューさんはこちらに顔を見せようとせず、向こうを向いてます。
その姿に思わず笑みが浮かんでしまう。

………ちょっと、ナルト君と似ているとこがありますね。

「頑張って下さい。食べ物を粗末にすることはいけませんからね」

背中にかけた応援の言葉に応えず、片手をあげて答えるキューさん。

(ほんとに似てますね)

その可愛いともいえる後ろ姿を見て、僕は思わず笑ってしまった。

いつ以来だろう、前にこんな生活をしたのは。

明けない夜は無いと誰かが言った。止まない雨は無いと誰かが言った。
それが嘘だと思える程、長い夜を過ごして。

気づけば、強引に引き上げられていた。

否、問うたのだ。
一緒に来るかと、こちらに選択肢を用意してくれた。
それで仲間になって――――だけどメンマさんは、導く言葉も、甘い言葉も、教えてくれなかった。

方法を指し示しただけ。あとは自分で歩けとばかりに、環境を用意して。
まるで自分で夜をつっきれと、雨を止ませろと言っているかのよう。


――――僕、いや、私には尊敬すべき人が二人いる。

再不斬さん。私を必要だと言ってくれた人。
ナルト君。運命?何それ食べれるの?と言った人。切り開くという意味を教えてくれた人。

………そのどちらも、手を引いてはくれないけれど。

(でも、それが正しいのかもしれない)

『それでも朝は来るんだ、絶対に』とメンマ君は言った。

僕はその言葉の意味を考える。


それは、希望の言葉で、同時に絶望の言葉だと思った。
あるいは、苦しみが晴れる、清々しい朝が訪れる。
あるいは、避けようのない、照らされる日が来る。

道を往くという事は簡単なことではない。こんな世界だから、苦境という雨は誰にだって降り注ぐ。
道の途中に雨宿りする場所はない。

必要なのは、それでもと歩き続ける意志。
それは、暗闇を抜けるために必要なものと同じである。

(一人じゃ、無理だったろうな。手を掴んでくれた人が居るから)

そういえば、どちらも橋の上でだった。
再不斬さんには霧隠れの里にある橋の上で。メンマ君には波の国の橋の上で。
陸と陸を繋ぐ、その途中にある場所で助けられて、ここにいる。

(自分で立つしかないと言ってくれたのは、ナルト君だった)

だから、私は此処にいる。だからどうした、と言い続けながら。
背後を振り返るのを止めた。それだけで、強くなれたように思う。

(ありがとうございます、にはまだ速いですけど)

まだまだ始まったばっかりだ。でも、この場所では頑張れる。

(キューさんのことも、見ていて面白いですしね)

いまいち自分の立ち位置が分かっていないように感じられた。
見た目通りの幼子に見える。それでも、いつも彼の背中を追っかけてるのが分かる
可愛いとはこのことか。

私は手に持っている皿を拭きながら、笑った。

………って、何か向こうが騒がしいですね。



「ここで会ったが百年目!待っていたぞ再不斬!」

「………何でいきなりハイテンションなんだお前。それより、白を知らないか? ちっと遅れたが昼の飯を食いたいんだが」

「ふ、悪夢とは乗り越えるためにある。だから、氏ね、再不斬! 俺の明日見る夢のために!」

「微力ながら助太刀致す!」

「人の話を聞け!」

「えーい、やかましいわ静かにせんか!」


爆発音。



「ぐわあああぁぁぁ―――」

「熱いって―――」

「俺がなにをしたああああぁぁぁ――――」




ああ、今日も隠れ家は平和です。




● ● ● ● 『奈良シカマル』 ● ● ● ● ●


ラーメン屋九頭竜。ここで食うのも久しぶりだな。

「こんにちはー、メンマさん」

「あ、キリハちゃんいらっしゃい。今日は・・4人だね」

「はい」

結構キリハのやつここ通ってるのな。それにしても身体中が痛え。

「ほら、しっかり歩きなさいよシカマル」

いのが俺の背中を叩く。
お前に言われたくねーよ。あれだけぼこぼこ殴った本人が言うことか。

「あー、あははは。あれはごめんねー」

と手を合わせて謝る幼なじみ。はあ、まあいいか。いつもこんなんだし。
それでも、今日のはひときわ激しかったな。俺は昼の出来事を思い出す。



~~



「えー!じゃあ、アンタ、あの人にあったの!」

「あー、一応な。一瞬だったけど」

「何で私も呼んでくれないよ!」

急に激昂するいの。う、怖ええ。

「無茶いうなって!こっちもいっぱいいっぱいだったんだから」

「………何で私も呼んでくれなかったの?」

泣きそうなヒナタ。
………だから、俺にどうしろと?

「何で!?」

「何で?」

う、こら、詰め寄るな、拳を振り上げるな、白眼を発動させるな!

「ちょっとまてえええええええぇぇ………」



~~



「まさかヒナタに詰め寄られる日が来ようとはな」

「ごめんなさい………」

「まあごめんって。それより、アンタ名前も聞けなかったの?」

「懲りてねえな………まあいいか。名前は一応聞いたけど『おまえらに名乗る名前は無い』って言われた。
 まあ他国の忍びだから迂闊に名乗らねーのは当たり前だろ」

「え、ちょっと待って。それって昨日の話し?」

「え、うんそうだけど。キリハ、昨日に何があったか知ってんの?」

「うん、カカシ先生から聞いたよ。里に侵入した不審人物について、でしょ?」

「………まあ、一応そうなんのかな。俺は助けて貰ったけど」

「そうなんだ。カカシ先生は殴られて気絶させられたって言ってたけど」

「マジで!? え、カカシ先生ってかなり強いんでしょ!?」

「うん、いちおう、そう………なのかなあ?」

キリハが首を傾げる。遅刻魔にイチャパラ馬鹿だからな。
まあ、気持ちは分かる。ヒナタでさえ頷いてるぞ、おい。

「えっと、なんか負けた上にあのマスクに落書きされたみたいで。今日の朝会ったけど、かなり凹んでたよ」

「落書き……ちなみにどんな事を書かれたの?」

「『カミーユ参上』だって。気絶してる間に書かれたらしいけど」

「カミーユ? なんか、女の名前みたいだな」

「先生もそう言ってたけど………」

と、全員がこちらを見る。はあ。お前らもあのとき顔を見てんだろうに。

「………あの人は男だよ。顔も骨格も男のものだ。金髪の癖毛にマスク、それに………なんかカカシ先生に似ている声だったような………」

「あ、そうもいってたな」

「何者なんでしょうね。というか、何であの時病院に居たのかしら」

「わかんねえ。俺らを助けた時も、まったく意図が不明だ、とか言われてたからな」

というか、あの我愛羅を病院の中に入れんなよ。
この里の防備体勢はどうなってんだ。まあ、風影の息子らしいから仕方ねーのかもしらんけど、あれ危険人物すぎるぞ。

「どうしたの?」

「いや、何でもないさ。それより、カカシ先生は他に何か言ってたか?」

「えっと何か呟いてたよ。『いや』とか、『まさか、違うし………』とか、『ありえん』とかぶつぶつ言ってた」

「そうか………お、来たか」

木の葉風ラーメンと稲荷寿司のセット。あれ?何か量が多いような気がする。
と、メンマさんの方を見ると、親指を立てて笑っていた。

どうもボコられた事に同情してくれているようだ。


………男の情けが胸に染み渡るぜ、ちくしょう。


「あ、シカマル多いから一個ちょうだいねー。いやー、今月実はピンチでねー」

「あ、私もー。一応、情報料ってことで」

「………あの、シカマル君。元気だして」


………世の無情が胸を染めるぜ。
無情の名、それ即ち女なり。お前らちょっとはヒナタの奥ゆかしさを見習えよ。

ヒナタ? あーいいよいいよ、もってけ。
ったく女はこれだからよ………?

またメンマさんの方を見ると、渋い笑顔で首を横に振っていた。
そして、メンマさんは俺のスープの方に視線を移す。

つられてみると、って、あれ?
木の葉風ラーメンの具を見ると、チャーシューが気持ち厚く切られていた。

………渋いサービスしてくれんじゃねーか。メンマさんよ。




また来ようかな………











● ● ● ● 『奈良シカマル』 ● ● ● ● ●




「じゃあ、また明日ね。いのちゃん」

「キリハもね。あ、そうだ。明日からの修行、シカマルとチョウジも参加したいそうだけど、良い?」

「自来也のおじちゃんに聞いて見るけど、良いと思うよ。サクラちゃんとキバ君も参加したいって言ってたし。まあ、みんな木の葉の下忍だもんね」

「自来也様直々に修行を付けてもらえる、ってんだから参加するわよ。あ、そういえばサスケ君は?」

「カカシ先生と修行だって」

「そっか。じゃあ、また明日」


そこでみんなと別れた。
あとは、自分一人しか住んでいない家に帰るだけ。

まあ、お手伝いさんはいるけどね。

「あー、月が綺麗だなーっと」

見上げながら、呟く。


そして、カカシ先生と三代目のおじーちゃんに聞いた話を思い出した。

兄さんは九尾の尾獣を宿す人柱力というものだったらしい。
父さんが兄の中に九尾の妖魔を封印したのだとか。父さん自身も、その封印術の代償によって命を落としてしまって。
母さんも、同じ時期に死んで、それで今は私一人と言うことだ。

(でも、一人じゃないかもしれない)

皆は兄さんが生きている、と言っていた。
もし死んでいたら、九尾が顕現している筈だから、と。

(でも何年も探して見つかっていないって事は………止めよう)

きっと生きている。そう思うのだ。もしかしたら、身近にいて私を見守ってくれているのかもしれない。

(自分勝手な考えだね)

それでも、そうあって欲しいと思う。
兄さんの気持ちを考えれば、それは忌避すべき思いなのかもしれないけど。

「家族、かあ」

思わず口に出してしまう。
友達はいるけど、父も母も兄妹も居ない。それでも、常に周りに誰か居てくれたので、1人ではなかった。

だから寂しくはないけど………それでも家族というものを知りたい。
毎日一緒の家に住んで、遠慮なく意見を言い合って、喧嘩して。

本来ならば、きっと居た筈だった兄さんと――――本当なら、横に居たはずだろうけど。

「どうしてなのかな………」

兄さんを襲った人は、九尾襲撃の事件で家族を奪われた人だったと聞く。
九尾に恨みをもっていたのだと。

(でも、兄さんは九尾じゃないよ)

おじーちゃんから聞いたけど、兄は口数が少ないが、普通の子供だったらしい。
朝昼晩は普通にご飯を食べて、夜になれば普通に眠る子供。

どうして、そんな子供を九尾だと思って――――思い込んで、殺せるのか。


立ち止まり、虚空に訪ねてみる。

でも、頬を撫でる風も、空に浮かぶ月もその答えを教えてはくれなかった。


「って、あれ?」

何故か、月に春原さんと長谷川さんの顔が浮かんだ。
何故か、笑みが浮かんでくる。

「………まあ、あの寸劇は面白かったけど」

バナナで試験官を転ばすわ、樹上で笛を吹いた後飛び降りて骨折するわ。
まるで火の国の首都に居るって聞いた、芸人みたいな人だった。

「………帰ろっか」

今日は帰ろう。明日から、また修行だ。あの日向ネジに勝つために、頑張らなくてはいけない。
運命が全てという日向ネジに、『だからどうした!』を貫き通すために。





「やってみますか」



私は自分の頬を張った後、家に向かって思いっきり走り出した。


明日をもっと頑張るために。





[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 十六話 「嵐の前に」
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2012/03/15 21:59

「今後も我々の志を継ぎ、戦い続ける全ての同胞に幸あらん事を―――豚骨、万歳」

  ~ 小池メンマのラーメン風雲伝 第九百五十六話

    「第四次麺界大戦・豚骨派第二基地奇襲作戦

             『真白のスープを越えて』」より抜粋 ~










「と、いうことで豚骨ラーメンの開発に取りかかります。準備はよろしいですね?」

「はい、老師」

白と一緒に、調理場に立つ。今回のコンセプトはこれだ。
豚骨ラーメン、火の国仕様、こってりでもさっぱりね!

「名付けて、『火の国の宝麺』だ!」

運麺を決定する、麺族最高の武器だね!
うん、突っ込みがないね!


「………と前振りしてなんですが、すでに出来ております」

この2週間で完成させました。俺の突然の完成宣言に、皆が驚く。

「え、とかなり早いですね」

「ああ、それにはとある事情があってな」

前世で店の決め手用に研究を重ねていたのが、熊本風豚骨ラーメンだったのだ。
それにこの世界での食材でアレンジして、味を一段上のものに昇華させたので。

これが新しい店の看板麺になるだろう。

「角煮って男のロマンだよね」

「でも、太りそうなラーメンですよね………」

そうなのだ。
豚骨かつ角煮。豚の油の二重奏である。

「大丈夫だって、忍者なんだし。普通に修行してれば太らないよ」

「そうですねー」

むしろスタミナつけて修行せい、と言わんばかりのラーメンである。

「あと、このラーメンはね。豚骨だとはいってもそれだけではない、と言う風な味に仕上げるつもりなんだ」

「と言うと?」

「まったりとしてそれでいてしつこくない味」

テンプレかつ王道だね。

「うーん、分かるような、分からないような」

「それでいて栄養たっぷりこってり、でもお腹と肌に優しいラーメン」

「難しそうですね」

「うん、かなーり難しかった。試行錯誤繰り返して、まあ味の形はいろいろあったんだけど………最終形はこれを使いました」

取り出したるは例の豚の大腿骨。通称「ゲンコツ」だね。

「この豚の骨ね。煮込むと面白い味になるんだよ。これに木の葉近郊で取れる、ある鶏の鶏ガラを一定量加えて一定時間煮込むと………更に面白い味に」

「試したんですか?」

「一応ね。で、これ」

白にスープが入った小皿を差し出す。

「………ほんとだ、味は濃いめなのに、後味がしつこくない」

「そこに、味付けした角煮を加えてみました。同じ豚から取っているので、スープとのハーモニーが凄い」



キューちゃんにお椀を差し出します。中に入ってるのは、少量の角煮と麺とスープ。



「………ふむ」



一口、食べる。直後、キューちゃんの動きが止まった。




(判定や、如何に!?)












ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ















「70点、という所じゃな」



――――まじでか。



「でも、まあ………結構美味いぞ」


何!? あのキューちゃんの口からそんな言葉が!



「まじで!?」

「ぶもぎゃ!?」



ずさっと駆け寄―――あれ、何かはねた?

まあどうでもいいか。それよりも、だ!


「なっ」


キューちゃんに駆け寄り、がっしと肩を掴んで前後に揺する。



「今美味いって! 美味いって言ったよな! うおっしゃあああああーーーーーーーーーー」



嬉しさのあまり、掴んだままキューちゃんを高い高いする。

そして抱き上げたまま、一緒にクルクルと回る。

ああ、その言葉が聞きたかったんだよ!



「ちょ、っとまて、この!」



ああ、何かキューちゃんが赤い顔してるけど、可愛いな!

さあ、一緒に踊ろうか!



「ま、ちょ、口を、このぉ、お主!?」


顔を真っ赤にして、じたばたと暴れているキューちゃん。


ああ、頬ずりしたくなる程かわいいじゃねーか畜生!



「いい加減に離さんかぁぁぁ――――!」






「えらい目におうたわ………」

「正直すんません」

いかん熱くなりすぎた。淑女にこのような振る舞いをしてしまうとは、土下座せざるを得ない。
でもキューちゃん顔が少し赤い。

「大体なあ! その、こういうのはちょっと慣れておらんのじゃ」

………かわええ。おいマダオ見てみろよ、俺たちが夢見た光景がここに――――ってマダオ。
壁にめりこんでどうした、一体何があった!

―――ま、いいや放置しよう。

「あの、メンマさん。このラーメンなんですけど、材料足りるんですか?」

「あーいいところ気づいたね。実は、常時店に出すには、量が足りないんだよ。だから一日限定5~10食ぐらいになると思う」

「そうですか。それで、このラーメンは明日から出すんですか?」

「うん、その予定だけど」

「えっと………申し訳ないのですが、明日は再不斬さんとの修行の予定がありまして」

「ああ、そうだったっけ。まあ、本戦の日まで、あまり時間ないもんね………仕方ない、俺1人で開けるよ。」

本戦が近い、それは木の葉崩しも近いということ。激戦が予想される。

それに向けての修行です。ここのところ、二人は特に修行に力を入れている様子。

邪魔したらダメだね。





ま、俺も、新術の方の仕上げをしておきますか。












発掘したマダオと一緒に、訓練室に入る。

この部屋は常時結界で守られているので、滅多なことでは壊れたりしない。


「さてと………じゃあ、逝こうか?」

何か字が違う気がするんですけど。
えっとマダオさん、何やら怒ってらっしゃる?

分からんが、取り敢えず始めようか。

「あい、水入りマース」

と口寄せの巻物でで水を呼び出す。広い部屋の床が、水で満たされた。




「じゃあ、一発目いくよ………水遁・水龍弾の術!」

マダオが術を発動する。

これは、我愛羅対策の訓練だ。水を砂に見立てての、模擬戦となる。

しかし………でかいぞ、おい!
いつもの三倍はある。

「こら、マダオ、もちっと手加減しろ!」

術の規模がいつもの倍になっている。
いくらなんでもやりすぎだ、馬鹿たれ。

「だが断る」

てめえ………ってその術は!

「水遁・水牙弾の術!」

それは確か、対象の周囲から水の牙を盛り込ませ、中央へと殺到させる術!
前後左右に逃げ場なしと判断した俺は、急いで天井へと跳躍し、そのまま足にチャクラをこめて天井へと吸着する。

足は天井に、頭は地面に。
俺は逆さになったまま、マダオに向かって叫んだ。

「ってマダオ! てめえ今、俺のケツ狙っただろ!」

飛び上がる寸前、俺は見た。水の牙が、俺のケツのあった位置を通り過ぎたのを。

………あやうく掘られるところだった。

「ん、大蛇○対策も兼ねてだよ。一石二鳥とはこのことだね」

「うおい………嫌な想像させるなよ」

緊張感どころの騒ぎじゃねえ。というか、負ければそんな目にあうのか。
そんな貞操を守る戦いは嫌だぞ、負けて失うものが多すぎる。



「ま、それは置いといて………でかいの行くよ?」



マダオが印を組みながら、片方の腕を上げる。そして締めの印を組む。

あれは、再不斬の………!



「水遁・大瀑布の術!」



発動と同時、部屋にある水が集まり、全てを飲み込む瀑布となって俺に襲いかかる。

これでは、逃げ場がない。


(さあ、今日こそ………やってみせる!)


逃げ場が無いなら、逃げないだけ。
好都合だ、今ここで完成させてやる。



(―――俺の新しい術を)



意を決して、叫ぶ。




「見せてあげる………螺旋丸のバリエーション!」





そして新術と水の大瀑布がぶつかり合い、部屋の空気が激震した。
















水しぶきが晴れた後。

俺は先程のまま天井に足を吸着させながらそこに立っていた。

「………やったね」

「ああ。ラーメンに合わせて新術も、これにて完成だ」

これで何とか対守鶴戦の目処は立った。
あとは、来週の本戦を待つのみか。

「ま、その前に掃除しなけりゃね」

「うげ」

見ると、強化していた部屋の扉と壁があちこち壊れていた。






● ● ● ● 『再不斬』 ● ● ● ● ●


「さて………やるか」

「はい、再不斬さん」

明後日はいよいよ実戦の日だ。
修行の進み具合を確認するために、俺と白は訓練室にて最後の模擬戦を行っていた。

対峙してすぐ、まずは白が動いた。
千本を投擲し、距離を詰めようとする。

「甘え!」

千本を刀で弾き、その勢いのまま振り下ろす。
白は自慢のスピードを活かし、それを避けきると瞬時に反撃に移る。

「はっ!」

先と同じ、再度千本を投擲する。
だが白は、正面ではなく上方へと投げた。

そして上方から聞こえる、甲高い音。

「チッ!」

投げられた千本が、上から振って来る。
見れば、俺の頭上には氷の小さい壁がある。千本はあれに弾かれ、その軌跡を変えたのだろう。

だが避けられないほどでもない。俺はバックステップで上から来る千本を躱し、体勢を整え――――ようとするが、正面から飛来する千本が体を掠めた。

「時間差、か」

上に気を取られると、正面の千本が。正面の千本に気を取られると、上の千本が。
あるいは、後ろからも。

四方八方から、千本が襲いかかってくる。

「なるほど――――極小量の氷の壁を超速で展開する事により、千本を弾く壁を作るってところか」

小さい氷の壁を利用した全方位攻撃。
これは、初見の相手には特に有効となるだろいう。
何しろ、外れたと思った千本が急に方向転換して襲いかかってくるのだから。

死角からの攻撃も可能なので、あるいは千殺水翔より対応し難い術になる。
格下相手ならば、これだけで封殺できるほどに厄介だ。
上忍相手では通じないが、それでも応用力がある。

流石に魔鏡氷晶の術に比べれば速度は落ちるが、この幻鏡氷壁の術は応用次第で様々な場面に対処できるだろう。
一瞬顕現させる事により、相手の視界を防ぐ事もできる。

ただ、多大な集中力と使う場を見極める冷静な思考が必要になってくる。
それは、白の資質と合っているので問題はないのだが。

やがて分かったと手を上げると、白が攻撃を止めた。

「よく分かった。この術は、一対多の戦闘にも使えるな」

「そうなんですよ。応用次第で、どんな場面でも適用できそうですし………」

加えて、魔鏡氷晶よりはチャクラ消費量が少ない。決め技ではなく、戦術の要に組み込める術となる。

「後、一瞬ですが身を守る壁にもなりますので、防御にも応用できます………まあ、今の術のレベルでは、まだ無理なんですけど」

そこは今後の課題になるだろう。

「じゃあ、次は俺の番だな………と、流石に模擬戦で使うのは危ないか。白、ちょっと横に寄ってろ」

まずは口寄せの術で、大量の水を呼ぶ。
すかさず印を組み、手を前に上げ、その手のひらの前に水を集めていく。

「すごい………!」

口寄せされた大量の水は形態変化により圧縮され、やがて球の形になる。
呼び出した水のほぼ全てを固めると、俺は術の名前を告げた。

―――水遁・水甲弾の術。

そして、超圧縮された水の弾が勢いよくはじき出される。
大量の水で押しつぶすことよりも、固めた水の弾で撃ち貫く事を重視した術。
これは四代目火影と共同で考え、開発した術だ。

並の防御では防げない。
弾の速度も速いため、避けることは困難だ。
一対一の戦闘で特に使えるだろう。

「こんなところか………それに、地力もあがったしな」

「あの二人、体術もすごいですもんね………」

影分身との組み手で、体術もレベルアップした。

「さて、来週の実戦に向けて………最後の仕上げだ。いくぞ、白」

「はい!」




○ ● ○ ● ○ ● ○ ●



「今日もラーメン日和だな………」

『どんな日じゃ』

もちろん毎日だ。
晴れた日にはしょうゆラーメン、雨の日にはみそラーメン、暑い日に『もういい』

最後まで言わせてよ。

『お客さん来たみたいだよ』

「いらっしゃい………って、三代目!?」

「うむ、キリハと自来也に聞いてのう」

おでれーた。
ま、取りあえず注文を聞きますか。

「うーむ、どれにしようかのう」

「お悩みのようでしたら、新メニューの『火の国の宝麺』がオススメですよ」

「うむ、じゃあそれで」

承りました。いっちょ作りますか。

……‥至高の真白色スープに、角煮の威容。
麺は中太、やや固め。ネギは添える程度少なめで、あとは海苔を添えて、と。

「お待ち」

ごとり、と目の前に丼置いて。出てきたラーメンに、三代目は若干渋い顔をしている。
ま、見た目こってりですから、一応お年寄りになる三代目の反応は分からなくないですが。

一口食べると、驚きの表情を浮かべます。
そして二口、三口。一通り食べると、感嘆の言葉を零しました。

「うむ、美味い! 最近こってりしたものは駄目じゃったが………これは不思議と食べられるの。しかも美味い」

「ありがとうございます!」

それから、三代目は一気に食べつくしました。
うん、その笑顔のために作っています。

そして食後に、三代目の話しを色々聞いた。
キリハが、とか木の葉丸が、とか。そういえば、孫である木の葉丸君って俺見たことありませんが、どんな感じになっているんでしょう。

まさか、キリハに惚の字になっていたりしてww

『………ありえるね。キリちゃん天然だし』

少年ならば、というか普通の男でも勘違いする言動してそうだな。

あと、自来也の話も聞いた。
最近、更にいいものを書くようになった、とか。
おいじじい、顔がエロいぞ。

あと作品を聞くに、『イチャイチャ・ナイト』とか、『イチャイチャ・メモリアル』とか………え、俺のアイデアを採用したのか。
ちょっと後で見てみようかなあ、でも………

『うむ、見ると承知せんぞ?』

まいがっ!
まあ萌え最先進国から来た我が身だし。実物が足りないのなら、後は妄想で補えばいい!

『噛むぞ?』

嘘です。
犬歯を見せつけないで下さい、キューちゃん。でもその笑顔がすてき。

それから三代目と会話し続け、小一時間経ちました。
一通り話し終わった三代目は、忙しいのでしょう。

もうこんな時間か、と急いで帰ろうとします

「あ、これよかったらお土産にどうぞ。夜食にでもしてください。美味しいですよ」

と稲荷寿司を渡す。
サービスです、というと三代目は驚いた顔をする。

「………よいのか?」

「はい。あのラーメン、今日から出しましたので、三代目が初注文客になります。だから、その記念として」

「………そうか、では頂くとするか」

「ありあしたー」

礼を言う三代目。

『………もうほとんどチャクラも残ってないようだね』

そうだな。
あれじゃあ、大きな術は使えないだろう。よくて上忍の下位クラスぐらいか。

(普通のおじーちゃんなんだよなあ)

情に厚くて、甘くて。
忍者の世界じゃ、それが裏目に出るのは当たり前だろうけど。

それでも、上忍より上で、あんな真っ当な感性を残している忍者になんて会ったことない。
きっとぶつかっただろうなあ。忍界の無情さと真正面から戦って、それで今の人情味溢れる木の葉を支えてきたのか。

(………決めた)

『どうしたの?』

(んや、何でもねーよ)


そろそろ嵐が来る。

明日は休んで、明後日の木の葉崩しに備えるとしますか。





[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 十七話 「中忍選抜試験本戦・一試合目」
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2012/03/15 22:00
「心に刻みたるは唯一麺。我、ただそれを行うのみ」

  ~小池メンマ自伝「信念、永遠の恋人よ」より抜粋~




『いよいよ、だね』

ついに中忍選抜試験の本戦、当日となりましたっ!
イコール、木の葉崩しも始まるということ。

俺は変化した姿で観客席に紛れ込んでいる。
再不斬と白は、里の外れで待機中。

潜んでいる音隠れの忍を相手に、久々の実戦訓練をするとのこと。

『ま、本丸を攻める部隊よりは練度も下だろうからね。里の中心部じゃあ、人目につくし』

みつかったら、ややこしいことになるしな。
里の外れならきっと大丈夫だ。二人ともあれから、それなりに強くなっている。
引き際を間違える程間抜けでもない。

『そろそろ始まるようじゃぞ』

おっと、本戦参加者達がそろい踏みです。

(あ、サスケがおらんねい)

『………また遅刻か。あの馬鹿弟子が…………』


マダオさん、怒ってらっしゃる。まあ、上忍のすることじゃあないね。ま、あの写輪眼コンビは放っておこう。


遅れても、やって来るし。


『そうだね』


そうこうしている内に試合が開始されるようだ。

一試合目は、波風キリハ対日向ネジ。
片や四代目の忘れ形見、片や日向始まって以来の天才。

注目のカードに、観客も集中している。


そんな中、試合会場の中央で二人が対峙する。

まあお菓子をポリポリと食べながら観戦しようかね。
暗部が会場のあちこちに配属されているが、無視。
なんでもない風に装おう。見つかればことだしね。

勿論マダオとキューちゃんの二人は俺の中である。
今回は外には出さない。危険が多すぎるのだ。

(さておき、試合解説のマダオさん。この勝負はどちらが有利なんでしょう)

『3:7でネジ君優勢だね。白眼と柔拳、それに点穴だったけ。あれの有利は大きいよ。一対一だと特にね。キリちゃんの方は一撃受けるだけでもピンチになっちゃうし』

(あ、そういえば回天も使えるんだよなー)

『本当? ………じゃあ2:8、かな。うーん厳しいね、そいつは』

(技量も同じぐらいっぽいしなあ。ていうか、娘でも評価厳しいなお前)

『客観的判断だよ。予備戦までの力量じゃあ、ネジ君有利。回天を抜ける攻撃方法でもあれば別だけどね』

そうなんか。それにしても、回天ってチャクラの膜で物理攻撃弾くんだったっけ。
術も通じないんだろうなあ。見たことがないのでどの程度かは知らないが、中忍レベルの術でも防ぎそうだ。




「開始!」




開始の掛け声と同時、キリハが距離を取る。
柔拳相手に接近戦は不利と判断したのだろう。まあ、当たり前の対応か。

手裏剣と取り出し複数、投擲する。だがネジは横、上から飛来する手裏剣を難なく避けている。

さて、聴覚を強化。戦闘中の二人の会話を聞いてみようか。


――――ん、OK。


「どうした、四代目の娘。まさかこの程度ではないだろう」

「………名前で呼んでくれる? あと判断決めるにはまだ早すぎるわよ、この運命馬鹿」

挑発の応酬。どちらも、相手の言葉にツボをつかれたようだ。
纏う雰囲気に、濁った感情が漂っている。


「今度は、こちらから行くぞ!」

今度はネジが攻勢に出る。
間合いを詰めて、柔拳で仕留める気だ。

踏み出すその速度は、あるいは中忍に匹敵するほどに早い。

だがキリハは焦らず、間合いを遠ざけようと後ろに下がりながらクナイを投擲する。

「甘い!」

先ほどと違いそれなりに近い距離から放たれたが、そんな単調な攻撃がネジに当たるはずがない。
白眼でそれを見切り、手に持つクナイで払いのける。

やがて一歩、あとちょっとの所までネジが間合いを詰めるが――――

「甘いのはそっち!」

それと同時に、キリハは素早く印を組んだ。


「―――風遁・烈風掌!」



最後の印を組み、柏手を打つと同時、キリハの手から烈風が巻き起こる。

「ぐっ!?」

近距離まで間合いを詰めていたネジは、その風をまともに受け、吹き飛ばされた。
成程、点ではなく面での攻撃か。あれじゃあ見切れても避けることはできない。

ネジは正面から人一人を吹き飛ばす程の風を受け、後ろに転がりながらもその勢いで立ち上がった。

キリハの方を見る。


「………成るほどな」


――――呟き、死角である筈の頭上から飛来する手裏剣を、無造作に弾いた。

あの角度なら、普通の忍者からすれば死角になって見えなかっただろう。だけどネジには通用しなかったようだ。

「やっぱり、死角からの攻撃も見えてるのね」

「俺が転がっている刹那に放ったのか。上手い手だが………言ったはずだぞ。俺の白眼に死角はないと」


ネジは構えなおし、またキリハに接近しようと走り出す。

だが先ほどと同じだ。キリハの放った烈風が、近づこうとするネジを吹き飛ばす。

「!?」

だが、そこからは先ほどと違う。キリハはネジを吹き飛ばした後、今度は手裏剣ではなく、クナイを投擲した。
直後に再度、風遁・烈風掌を放つ。

複数のクナイは烈風の勢いに押され、通常とは倍する速度でネジに飛来。

「くっ」

だが、そのクナイもネジの白眼によって捌かれた。だが完全に避けきる事はできなかったようだ。
ネジの頬にクナイがかすった後であろう、血が一滴浮かび上がる。



術の練度も、精度も、放つタイミングも完璧だ。
ネジが唸っているのが見えるが、それもそうだろう。言うのは簡単だが、並の下忍ならばまず実行できない。

普通ならば白眼と柔拳の重圧に印をミスったりする。
あれほど冷静に間合いを読み、対応するなど下忍になってまだ一年も立っていない新人とは思えない。

『余程修行を積んだのだろうね』

マダオが呟き、俺も同意する。
2次試験の時より、かなり動きが鋭くなっている。


キリハはネジの能力を見極め、戦術を選定したようだ。

クナイにも、緩急つけているので、ネジの方はタイミングが計りづらいようだ。




やがて、キリハの力量を認めたのだろう。
ネジの表情から、侮りの色が消えた。



新たに気を引き締めなおしたネジ。同じ突進を幾度か繰り返し、近接戦に持ち込もうとする。
だが、キリハには届かない。


隙のないキリハの戦法に、これでは埒があかないと判断したネジ。
意を決した表情を浮かべ、また突進する。


正面から近づこうと踏み出した。

だが、今度は烈風に弾き飛ばされなかった。

ネジは烈風が身を包む直前に、更に一歩を踏み込んだのだ。

そして、ネジは切り札を切った。

「回天!」

日向の秘術。全身に纏ったチャクラの膜と回転力で風を弾きネジはその場に立ち止まる。

キリハは術の直後のため、即座には動けない!


「もらった!」


ネジが一歩踏み出す。
狙うのは、腕にある点穴か。あの烈風掌の術を使えなくするためだろう。

キリハは逃げきれないと判断したのか、左手を前にして防御の構えを取る。

好都合だ、とばかりに、ネジの白眼が強まる。


そして、その指が点穴を捕らえた―――――否。


捕らえ"させた"、か。

「な―――」

ネジの顔が驚愕に染まる。

そう、わざとらしく利き腕ではない左腕を前に出したのも。
ここまでの行動も、全て布石にすぎなかったのだ。
来る場所とタイミングが分かっていれば、あとは反射と集中の問題。

そして今日のキリハは最高に集中力が高まっていた。

全ては、通常ならば速くて掴めないだろうその指を―――――弱点でもある、一本だけ突き出された指を掴むために。

誘導したのだ。全てはこの一手のために。


『肉を切らせて』


直後、キリハの右手が点穴を突いているネジの指を掴んだ。


「骨を断つ」

骨が折れる音が、俺の鼓膜を震わせた。

「ぐあっ!?」

点穴は確かにキリハを捕らえた。だが、キリハは点穴を突かれた左手を囮に、右手でその指を掴み、そのまま折ったのだ。
そして痛みに仰け反るネジの足に、隠し持っていた千本を、投げる。機動力を殺ぐために。

あとは遠距離で封殺するだけだ。しかし、日向ネジもここで終わる"タマ"じゃなかった。

は指を折られ、足に千本を受けた痛みに耐えながらも反撃に出る。
詰めた間合いの、最後の一歩を踏み込み、キリハの腹目掛け掌打を放つ。

千本を放った直後のキリハには、かわしきれなかった。
直撃は何とか避けたものの、脇腹に一撃を受けて仰け反る。

(徹ったな)

あれでは、内臓の一部にチャクラが浸透したことだろう。
だが、キリハはその場に昏倒せず、痛みを耐えてまた距離を取った。

やがて一秒に満たないような、数分のような。
長いようでその実一瞬の攻防の後、両者とも少なくない傷を負っていた。

相対する二人。
にらみ合ったまま、その場から動かないでいる。

「………大した戦術だ。俺はお前の掌の上で踊らされていたと言う訳か」

「指を掴むのは、正直分の悪い賭けだったけどね。練習でも半々だったし。それに、お腹に一撃受けたのも予想外だった」


キリハの唇から、一滴の血が垂れる。
柔拳が当たった証拠だろう。ネジの顔から、わずかに笑みが溢れる。

「だが、これで決まりだ。点穴を突いた。もう、その術は使えまい。俺も折られた左手は使えんが、回天と残ったこの右手がある」

状況把握は正確なようだ。
キリハの方は、内臓へのダメージもある。今まで通りの動きは無理だろう。
あとは接近戦に持ち込まれて、キリハの負けだろう。

「この勝負は俺の勝ちだ。今のお前では俺に勝てない。これもまた、運命だ」

ネジも分かっている。

(だけどネジさんよ。勝利を確信するのはまだ早いぜ?)

そう、キリハに勝機はない。
だが―――それは、これ以上切る札がなければの話だ。

そして予想通り、キリハはまだ切れる札を持ち合わせている。
用意した、という方が正しいか。その目から、意志の光は消えていない。


「………うるさい」

「何?」

「うるさいって言ってるの。運命がどうとか、ぴーちくぱーちく、やかましいのよ。運命?それがどうした。宿命?お呼びじゃないのよ」



キリハが、唾と一緒に横に吐き出した。

それには血の赤が混じっていたが、それも完全に無視して腰を落とし、構えを取り――――告げる。


「私は、運命なんかを言い訳にしない」


ネジの目を真っ向から睨み付ける。


「関係ない。諦めろと言われても、諦めない。いつだって全力で自分の守りたいものの為に戦う。それが、私の忍道だから!」

構えた掌に、チャクラの渦が奔る。

現れたるは、螺旋の奔流。完成形に比べれば、規模、精度共に劣るがそれは螺旋丸だった。



「真っ向勝負よ、日向ネジ………逃げないでね?」



口の端に血を流しながらも、キリハは笑った。


そしてネジに向けて、一直線に走り出す。


ネジは腰を落とし、迎撃の構えを取る。




「いいだろう、受けて立つ………来い! 波風キリハ!」


ネジもうけて立った。回避に努めれば、勝てるだろう。
だがキリハの言葉と顔に何かを感じたのか、その場で迎え撃つことを選択したようだ。


やがて、放たれるはキリハの螺旋丸。対するは、ネジの八卦掌回天。


下忍らしからぬ高ランク忍術がぶつかり合いった。

そのあまりの威力に、会場の大気さえも揺れ動く。


「いっけえええええええええェ!」

「アアアアアアアアアァァッ!」


ぶつかる両者の叫び声が響き、その激突の余波で周囲の地面から砂煙が舞いあがる。








煙で見えなくなったキリハとネジ。







やがて、煙の中に一つのシルエットが浮かび上がった。








地に倒れている者が1人と―――――立っている者が、1人。






やがて、煙は晴れる。







そこに、立っている者の姿が浮かび上がった。








ぼろぼろになりながらも、その親譲りの金の髪は、陽光に照らされ輝いていた。












「一試合目、勝者・波風キリハ!」








審判の声が、会場に響いた。






○ ● ○ ● ○ ● ○ ●






キリハは仰向けに倒れているネジの元へ近寄る。

「私の勝ちだね」

笑って言うキリハ。

「ああ。俺の負けだ」

負けたネジも笑っていた。

「まったく………これでは、父上にどやされるな」

晴れ晴れとした顔をしている。
まるで憑きものが落ちたかのように。

「………いいじゃない。怒ってくれる父がいるんだから。私にしたら、羨ましい限りだけどね」

キリハの返答にしまった、という顔をするネジ。

「あやまらなくていいよ?これはただの愚痴だし。あなたも、宗家と分家のしがらみとか色々あるんだろうけど………ま、取りあえず全力でやってみたら?」

キリハの言葉に、何故知っている?という顔をするネジ。

「そりゃあヒザシさんから聞いたからよ。ヒナタの家に遊びに行ったときにね………息子が分家の呪印のことで悩んでいてで困ってる、とか愚痴られたんだよ」

キリハは苦笑する。

「一回、腹を割って話し合ってみたら?まずはお互いに思うことをぶちまけて、さ。きっと、誤解している部分も多いと思うよ」

「………そうか、そうかもしれないな。俺も、変に意地になっていたのかもしれない」

「ヒザシさん曰く反抗期かな、らしいよ?」


その言葉に、ネジは反抗期か、と呟き苦笑する。



「じゃあね」

去ろうとするキリハの背に、ネジがちょっと待ってくれ、と声をかける。



「………最後に、ひとつだけ聞きたい」

「何?」

「波風キリハ、君の守りたいものとは?」

波風キリハは笑顔で答えた。


「かつて木の葉のために死んだ人と、今木の葉に生きている人。その全ての人の笑顔を」


そして、どこかにいるはずの兄、という言葉は風に消えたが。



「亡き父が望んだこと。そして今、自分の望んでいる事。これだけは、死んでも譲れないから」




そう言って立ち去るキリハの背中をみながら、ネジは空を見上げて呟いた。





「完全に、俺の負けだな」














負けを認めるネジ。

だがその目に宿る色は、見上げた空のように澄み切っていた。










○ ● ○ ● ○ ● ○ ●







『うう、キリちゃん………立派になって』


「ええ話しや………」


マダオとナルト、二人とも号泣である。


『おぬしら、ハンカチ噛みながら泣くなよ。気持ち悪いぞ』


読唇術を発揮して、二人の会話を把握していた二人は男泣きしている。

相変わらず無駄に高スペックな二人である。


『それにしても、最後の一撃じゃが………あの未完成の螺旋丸、ネジの回天とやらを抜くには、威力が足りなかったように思うたが』

(あれ、見てなかったの?キューちゃん。俺らの体術の技術と併用しての一撃だったよ、あれ)

踏み込み、体重移動、そして掌打の回転。それが、未完成だった螺旋丸の威力を補ったのだ。

『まさか、予備選のあの試合で僅かながらも盗んで………しかも、この短期間で実用段階にまで持ってくるとはね。我が娘ながら才能が怖い』

まあキリハの才能、サスケ並っぽいし。いや、下手したらサスケを越えてるかも。

あっちには写輪眼あるし。

でも、あの体術見たろ?相当鍛錬しないと使えないと思うぞ。一朝一夕で何とかなるもんじゃないし。


『必死に修行したんだろうね』


………そういえば、修行中店にやってくる時はいつもぼろぼろだったなあ。

確かに、全力で挑んでたな。ああいうのは好きだな、俺。



『手、出すなよ』


だから一応妹だろ!まあ、今の試合みて、かっこかわいいなーとは思ったけど。

『………オレサマオマエマルカジリ?』


思っただけだよ!黒くなるなマダオ、怖いから。

『信じるよ?………あ、次の試合始まるみたいだね』


今の試合で、会場は良い具合にヒートアップした模様。


でも、次は確か………・







我愛羅 対 うちはサスケ











だがうちはサスケは現れなかった!

観客のテンションが下がる。



『『「空気読めよ」』』



3人で総つっこみ。だがサスケは来ない。カカシも来ない。

遅刻だ。ある意味忍者失格である。というか忍者以前に社会人失格である。人間失格である。




『………オレサマカカシマルカジリ』





マダオさん、是非やっちゃって下さい。機会があればの話しだけど。


ということで、遅刻者は待っていられない。


二試合目が、始まろうとしていた。



[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 十八話 「中忍選抜試験本戦・三試合目。二試合目? え、なにそれ」
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2012/03/15 22:01

「骨でも肉でも、持っていけばいい。大切なのはそんなものじゃない」

 ~ 小池メンマのラーメン風雲伝 八百十 「海の幸の底力」より抜粋 ~









次は第3試合目だ。


山中いの対テマリ。

会場の中央には、金髪の少女が二人、軽い準備運動をしながら、睨み合っている。

「ときに解説のマダオさん、この試合はどうでしょう?」

『遠距離ならテマリちゃん有利。あの風遁は上忍レベルに達しているといっても良いね。
 そして近距離でも………ま、それは見てのお楽しみだね』

「ああ………っと、始まるようだな」

聴力強化、っと。


「始め!」


審判が開始の言葉を告げ―――たと、ほぼ同時だった。

いのが開幕ダッシュ。一気にテマリへと肉薄する。

「なっ!?」

予想はしていたのだろうが、その速度は想定の外だったようだ。
テマリは迎撃の攻撃を放つ前に、懐に飛び込まれた。

いのの拳がテマリの腕を打つ。

「ッチイ!」

しかし、伊達に風影の娘はやっていないということか。
テマリはいのの拳打を受け、そのまま間合いの半歩稼ぎ、カウンターの扇子を横薙ぎにする。

「ふっ!」

だけどいのもさるもの、地面すれすれに伏せ、横薙ぎの一撃の下をかいくぐった。
そして身体を起こすと同時、また間合いを詰める。

「ハアアッ!」

懐から取り出し、クナイで一撃。
しかしクナイの重量のせいか、さきほどの拳打よりは遅い。
テマリには簡単に見切れる速度だったのだろう、扇子から手を放し、同じく腰に潜ませていたクナイを手に持っていのの一撃を受けとめた。

鍔迫り合いに似た押し引きならぬ攻防が始まる。
これは、テマリが予選で見せた力に対抗するための、いのの戦術か。

遠距離ではまず勝ち目がない。あの大扇子から放たれる風に吹き飛ばされ、近づくことすらできないだろう。
投擲武器も同じく、風か扇子に阻まれる。

つまり、遠距離では圧倒的に不利となるのだ。
だからこその、近接戦闘。開始直後に飛び込む。チャクラを込めた渾身の踏み込みで勝てる距離まで辿りつく。

後は離れなければ良い。後退する間を与えず、隙を見て心転身の術をたたき込めば終わりだ。
だが、いのにとって予想外のことがあったようだ。

拳打が、当たらない。蹴りも完全に防がれている。
体術で、完全に上をいかれている。

思えば、あの大扇子を操るテマリだ。
純粋な腕力でも、相当なものを持っているのだろう。
その過程で、体術を鍛えない理由もない。

これでいのの勝ち目は無くなった――――かに見えたが、いのはまだ退かない。
彼我戦力差は明らかだ。ともすれば、扇子で至近から薙ぎ払われるだろう。

だが、いのは歯を食いしばりながらも、必死に喰らいついていた。



● ● ● ● 『山中いの』 ● ● ● ● ●


別に自分の事が強いだなんて思っていない。
私にはキリハほどの才能はない。この女のように、任務でつちえた経験も少ない。

(それでも、負けられない理由があんのよ!)

またクナイを打ち込む。
それもまた防がれるが、"それがどうした"。

「………お前………っ!」

ふん、しつこいって?
それでもここは離れないわよ。

(あの人を探しに行くのよ………!こんなところで、負けられるかぁっ!)

腰を落とし、腕を引き、拳に力を込める。
敵は私の気勢に圧されたのか、一歩下がりながら防御の腕を上げた。

そこに私は拳を叩き込む――――腕を途中で止めた。
これは虚の動作、フェイントだ。見事に引っかかってくれた相手に、私は下段蹴りを放つ。

狙いは膝の間接部。クリーンヒットすれば、機動性を大きく減じることができる一撃だ。

「グッ!?」

苦悶の声。しかし狙っていた部位ではなく、固い脛で受けられた。
だけど私は構わず、蹴り足を引きながら逆足での上段の回し蹴りを放つ。

「木の葉旋風!」

顎先を狙った一撃。まともに当たれば脳震盪ぐらいは起こせるだろう。
しかし小憎らしいことに、当たらない。当たる寸前に腕を間に挟まれた。

そのまま、蹴りの方向に相手は吹き飛び――――

(しまっ!)

否、跳んだのだ。その先にあるのは、さっき捨てた巨大な扇子。
それを開かれたら終わりだ。間もなく風遁に吹き飛ばされてしまう。

(させるか!)

私は強引に蹴り足を地面に降ろし、チャクラで地面を弾き跳躍。
扇子を拾った金髪の頭へと、飛び蹴りを敢行する。

(遅かった!?)

足は、開かれた扇子の表面で止められていた。
そのまま、風遁を使うみたいだ。私はそのまま至近でやられれば終わると、蹴り足を踏み台に、力いっぱい後ろへと跳躍した。

「はあっ!」

そして宙に居る内に、カマイタチの術が放たれた。
ある程度は離れたといえど、十分な射程範囲内だったようで、足、腕、肩の数カ所が切り裂かれるのを感じた。

鮮血が巻い、強い風になすすべもなく、まるで木の葉のように私は吹き飛ばされた。

「ぐっ!」

そして空中で回転して着地。

「………」

「離れたな………っ!」

また扇子を構え、またカマイタチの術を放ってくる。

(あれじゃあ、無理よね)

正面から突っ込めば今度こそやられるだろう。
アスマ並、上忍にも匹敵しかねないその術の威力を見て、私は下がらざるをえなくなった。



○ ● ○ ● ○ ● ○ ●



『距離を取られた………こりゃ、決まったかな。時間がたてば経つほど、傷を負って血を流しているいのちゃんの方が不利になるし』

「いや、分からんよ。いのの目はまだ死んでないぜ」

『ほう……あそこから、何かやるつもりか』


何かを狙っているようだ。タイミングを図っているのか、近づこうとするいの。
それを防ぎ、着実にダメージを与えていくテマリ。

開始から十分たった頃、いのの方はもう、ぼろぼろになっていた。



● ● ● ● 『山中いの』 ● ● ● ● ●


「どうした?………降参、しないのか?これ以上やると命の保証はできないぞ」

「………降参はしない。あの人に胸を張って会えなくなりそうだから」

「随分と私的な理由だな………お前も、探している人がいるのか。奇遇だな。私もだ」

「へえ、あんたも?参考までに聞くけど、どんな人?」

時間を稼がなければ。こいつは油断している。
あと一息、つけば"アレ"を使う。それまでの一時の休息に――――しかし、次の言葉に脳みそが停止する。

「まあ、お前が知っている訳もないが………金髪の癖毛で、マスクをしたでたらめな男だ。木連式柔とかいう体術を使う」

「………へ?」

「通りすがりのラーメン屋だとか何とか言いながらも………私が知る最も恐ろしい存在に、真っ向から立ち向かっていった男だ。何故か怒りながら、な」

「………」

「化け物だろうが何だろうが関係ないと怒り、正面から立ち向かい、殴り飛ばす。あのでたらめな背中が忘れられなくてな。
この気持ちがなんなのかは分からないが………一度だけ会ってみたいと思った」

ま、見つからないがな、という諦めた風な金髪女。
その姿を見て、私のボルテージが最高潮に達する。

諦めた口調に、なぜだかしらないが腹がたつ。

「………そう、所詮その程度の想いか。だったら無理ね。アンタには見つけられないわ」

「何ぃ?」

私の一言に、金髪女の眉がつり上がる。

「私も、諦めかけた。でも、忘れられなかった。忘れるには、諦めるには男がよすぎた」


思い返すは、あの人の背中。
あの人の言動。………そして、あの人が殺した死体を見ながら、何かを呟いている時の、目。

戦っている時は、怒っていた。怒りのまま、真っ直ぐ練られた体術で相手を打ち倒していたあの人。
何も言わず、告げず、去っていった人。助けたことに見返りを求めず、通りすがりだと言って去っていくまるで絵本のヒーローのような人。

でも絵本とは違う。殺した事を、後悔しているようだった。
怒るような相手でも、命を命として見ていた。それで尚戦える人。
砂隠れにまで行くとか、どんな馬鹿な人なんだろう。

何も、得することなんてないのに。私と、シカマルと、ヒナタを助けた人。
会ってみたい。怒っていた理由を聞いて、それで色々な話をしてみたい。

………それなら?

「そうよ」

諦められない。

「だったら――――やれるだけやるだけじゃない!」


全身をチャクラで活性化する。
そして、地面にクナイを突き立てる。

突き立てたクナイはスタート台だ。

このまま突っ切ってやる。


「ク―――っ」


金髪女は風遁の準備中。

このタイミングじゃあ、間合いに入る前にカマイタチが来る。


「風遁・カマイタチの術!」


あんのじょうだ。しかしそれで私が止められるか。



「だからどうした!」



それに構わず、右手を突き出す。
そこから放つのは――――失敗型の螺旋丸。

キリハに教えてもらったが、修得できなかった術だ。

私のチャクラコントロール技術だと、チャクラは一点に収束しない。

故に必然として、拡散したチャクラの渦は暴風となって手のひらから溢れ出す。

(後に残る傷跡ができようとも!)

―――それが、盾になる。

螺旋丸の成り損ないは、腕を傷つけながらも目の前の突風を全て弾き返した。

右腕に走る痛み――――だけど省みてなんていられない!

私は思いっきり跳躍して、空中で体勢を整えながら、テマリへと飛んでいく。


「一点集中、一意専心………………貫く!」

先端の足にチャクラを篭めた、速度と威力を一点に集中した跳び蹴り。

扇子を振り切った体勢であるテマリは、横にも後ろにも逃げられない。













「しまっ!「はあああああああああああああああああ!」














衝撃が、私の全身に広がっていった。










○ ● ○ ● ○ ● ○ ●



「相打ちか!」

『同時だったよ!』



カマイタチの術と失敗型螺旋丸、そして二人の激突の余波で、会場の中にはまたも砂埃が立ち上がっていた。


先の試合と同じ光景。


立っているのは一人、倒れているのが一人。









そして、煙が晴れた。







『………あと一歩、か』










審判から、試合終了の宣告がされる。













「3試合目、勝者・テマリ!」












○ ● ○ ● ○ ● ○ ●


『見事な戦術だったね。爆風を追い風にするなんて、まるで君みたいだ』

「あれ背中が辛いんだよねー」

仰向けに倒れるいの。その背中は、少しだろうが焼けているだろう。
そこに、横腹を押さえながらも立っているテマリが近づいていった。

聴力強化、っと。

「………咄嗟に扇子を盾にするとはね」

「だが、衝撃は殺せなかった。肋骨を何本か持って行かれたよ」

「私も、無茶しすぎて足が折れたわよ………いたた」

いのは片足で立ち上がり、痛そうに折れた足を動かす。

「………」

その言葉を聞いたテマリは、いのに肩を貸す。

「………何?何のつもり?」

「いや、ただ何となくだ………お前の言葉、随分と効いたしな」

自分の胸を指しながら、テマリは呟いた。

「………へえ、じゃあ探し続ける気になったの?」

「まあな」

と笑うテマリ。その顔に、いのはしまったという顔になる。

「どうした? しかし、傷だらけの汗まみれだなお前。探していたとはいえ、そんな姿で会ってどうするんだ?」

特に、失敗型螺旋丸を使った右腕がひどい。その姿に、テマリは呆れたような顔をする。

「それで私を疎ましく思う人じゃない。それにそんな人なら、こっちから願い下げよ。ま、絶対に違うと思うけどね」

「………なんか、無茶苦茶だなお前。でも、そうだな………そうかもな」

と虚空を見て何かを思い出すテマリ。そこに、いのの爆弾発言が。

「………あ、そうだ。私の探している人と、アンタの探している人、多分同一人物よ」



「………何?」











『あ、肩からいのちゃん落ちたね』

急に立ち止まったテマリ。肩に捕まっていたいのがバランスを崩し、こける。

「向こうを向いているから、何を言っているのか分からんがったが………」

試合中の言動も、カマイタチの術で立ち上がる砂埃のせいでよく分からなかったし。

こけたいのが、怪我をしているだろう足を押さえて転げ回っている。

「何か言い争いを始めたけど………」

そして少女二人は、ぎゃーぎゃーと出口付近で何かを言い合っている。


『あ、特別上忍の人に連れてかれたね』


見かねた特上の人が、二人を連れて行った。









「………何だったんだろ?」


『知るか』


「?」


何故か拗ねたように怒っているキューちゃんであった。



[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 十九話
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2009/09/21 01:00


4試合目



油女シノ 対 カンクロウ


ですが、カンクロウ氏、






「俺は・・・棄権する!」




らしいです。めっちゃ怪しいですがな。ほら、横のテマリも怪しんでるし・・・?


『え、何で怪しんでるんだろ』


もしかして、木の葉崩しの事を知らされてない?



『分からないけど・・・どういう事だろう』


まあ、ここで考えても分からんか。

それよりも、次だ。


シカマルはシードなので、一回戦は試合がない。ということは・・・





我愛羅 対 うちはサスケ


出番が来たとたん、やってきました。木の葉を携えて。出待ちか、おうい。

でもあれ遅刻した人がやることじゃないよね。





『・・・』



もう言葉もないマダオさん。さて、そろそろ用意しときますか。






試合は、原作通りの展開。修行の成果を見せるサスケ。速さに翻弄され、守勢に回る我愛羅。




そして、場面は決定的なものに。壁に立つサスケと、砂玉子に引きこもる我愛羅の姿が。




(・・・ってここで覚醒するつもりか!?)


まさか、俺もまとめて此処で相手してヤルゥアー!とか思ってるんじゃ。




(流石にここでは相手できんぞ!)



焦る俺を尻目に、サスケ君が千鳥を放ちます。




(いけいけ、サスケ!ゴーゴー、サスケ!)



かつてない程にサスケ君を応援します。



千鳥、炸裂。破られる殻。そして、出てくる守鶴の腕。






飛び降りるテマリとバキとカンクロウ。


何やら、テマリがバキとカンクロウに言っているようだ。


(『どういうことだ』だって?テマリは知らんのか)



キバがなにがしか言い終えた後、我愛羅がテマリに連れられて試合会場から出て行く。


ということは、だ。








『来るよ』








「・・・イッツ・ア・ショウ・タイムってか?」














幻術。涅槃精舎の術。会場に白い羽が舞い踊る。





幻術に捕らえられた幾人かが、夢の中へと旅立っていく。




でも、俺には効かない。人柱力の特権だ。


キューちゃんと完全に共生しているので、幻術にかかってたとしても一瞬で元の状態に戻る。





(始まる、か)



3代目がいる展覧場から、煙幕が上がる。



その少し後、屋上へと飛び上がる火影と風影。それを追って、四人集も屋上へと辿り着く、






(そして、四紫炎陣で結界を・・・って、はあ!?)






四人集の顔ぶれを見て驚く。







「何で、ここに、君麻呂が来てんの?」






病気じゃなかったのか!ホネホネの実の能力者!





(・・・これも、考えても仕方ないか。イレギュラーばっかりだなクソ)



俺自体もイレギュラーか。まあ、これは仕方ないのかもしれないが、予測が外れるのは心臓に悪い。




それに、極めつけは・・・とクナイを懐から取り出す。





「甘い」






そして後ろから放たれる、クスリメガネの千本の一撃を弾く。







「・・・やっぱりね。君だったか」







『呟き、聞こえてたようだね』


(・・・流石に迂闊だったか!)


5秒前の自分を殴ってやりたい。





『・・・我愛羅追って、キリちゃん達いっちゃったね』


カカシとガイのいる方向を見る。下忍の幾人かが、試合会場から外へ、我愛羅を追って出て行った。



(サスケ、シノ・・・続いて、忍犬(名前忘れた)、キリハとサクラとシカマルか・・・でも、あいつらを追うその前に)


「まずはこのメガネを何とかするか」


構える。俺の後を追ってこられてもやっかいだ。


「この僕を前に、自信満々だね・・・時間がないし、君が何者か率直に聞くよ?」


メガネ君は、試合会場内で繰り広げられている修羅場を横目で見ながら、聞いてくる。


(ま、聞かれても答えないけど)



「大蛇丸様と互角にやりあったという・・・ロジャー・サスケの、手の者だね?」



「グホッ!」


思いも寄らない名前に、咳き込む。



『そんな反応したらダメだよ。知り合いだってバレバレじゃないか』


(いや、急だったから!ていうか真面目な顔して言われると、そんなもんいくらなんでも吹きだすわ!)


あー、といいながら、顔の前で手をパタパタと横に振る。



「・・・違うよ?」


「もの凄い白々しいよ?・・・それに、今一尾の人柱力の方を見ていたね。やはり、君は」



(やはり君は?)



「『暁』の手の者だね?」



「断じて違うわっ!あんな万国吃驚人間衆と一緒にすんな!不名誉な!」



『・・・ダウト』




(しまった!)





「万国吃驚人間衆、不名誉・・・」




とメガネ君は屋根の上の方を見る。俺も見る。蛇を見る。二人で見る。

そして思い出す。あの集団の面々を。








二人静かに、そして深く頷く。








「・・・まあ。・・・き、気を取り直して・・・『暁』の事を知ってるのは知っているんだね?」


咳をしながら、仕切り直しとメガネが真面目な顔をする。


「イエス!イエス!イエス!」



もう自棄だ。どうせ戦るしかないなら、早いほうがいい。これ以上時間取られると我愛羅を追っていった下忍達が危ない。


もう、こんなイレギュラーだらけの状態では、何が起こるか分からんし。


と、いうことで一刻も早く目の前のメガネ君を倒さなければならない。話しの途中で、俺は殴りかかる。



「くっ!」



だが、掌打はメガネ君の脇腹をかすめただけだった。




(ちっ、このメガネ慎重になってるな。もしかして、俺の事をを格上の相手と見ているのか?)



油断がない上に、守勢に回っている。それに、確かこいつは自動回復っぽい術を使っている筈。



(不味いな。かなり時間がかかりそうだ)



かといって、こんな場所できゅうびのチャクラは使えない。ここはまだ試合会場の中。いくらなんでも目立ちすぎてしまう。


螺旋丸も同じ。ばれますがな。





「今、一尾を奪わせるわけにもいかない。時間稼ぎをさせてもらうよ」



「誤解だっつーの!」



もう、言葉は意味をなさない。俺は叫びながら、メガネ君に殴りかかった。























~キリハside~




「パックン!サスケ君はどっちの方角へ行った?」


「あっちじゃ!」


スリーマンセル+1で、我愛羅って子を追いかけていったサスケ君を追いかける。


「絶対に、追いつく前に止めなきゃいけない。あれは、今の私達が策も無しに勝てる相手じゃない!」


先ほど、試合会場で見た禍々しい形をした砂の腕を思い出す。


「どういうこと、キリハ!何か知ってるの?」

「うん、サクラちゃん。あれ、きっと人柱力ってやつだと思う」


「・・・人柱力?」


初めて耳にする単語に、シカマル君とサクラちゃんが首を傾げる。


「・・・シカマル君。10年前、私達が生まれた頃に起きた、事件のこと知ってるでしょ?」


「当たり前だろ。九尾の妖狐が里を襲った事件だ・・・けど、それと何の関係が・・・」


とシカマル君の言動が止まる。人柱力という言葉と、今の私の言葉から色々と推測しているのだろう。


「・・・九尾の妖狐は父、四代目火影に封印されたって伝えられているよね?」

「キリハ殿!?それは「黙ってて」」

パックンの言葉を途中で遮る。

「敵を追っている今、伝えなくちゃいけない。・・・話すべき情報でしょう。敵の情報にもつながるんだから」

「・・・そう、いう、ことか。・・・ちっ!胸くそわりーな」


流石にシカマル君。今の言葉だけで答えに辿り着いた。・・・あまり、私も口に出したくないしね。


「人柱、そして、会場で見せたあの異形。・・・妖魔を宿した忍びってか。でも、何でキリハはその事を知ってるんだ?」

キリハが四代目の娘ってことだけじゃないだろう、と言外にシカマルは訪ねる。

「・・・兄が、ね」

「兄?初耳だぞ、キリハに兄がいたとか」

「・・・あの時、大蛇丸って人・・・『キリハのお兄さんは木の葉の暗部に殺された』っていってたよね」


サクラちゃんの口から出た新しい単語に、シカマル君が立ち止まる。そして、虚空を見上げたあと、何かに気づいたような表情を浮かべる。


「おいおいおいおいおい、まじかよ、くそっ・・・時々見せてた、キリハを見る親父達の目は・・・そういう訳か!」


珍しく激昂するシカマル君は叫びながら、地面を叩いた。


「シカマル君、きづいてたんだ・・・シカクさんの事とか」

「・・・何となく、だけどな・・・わりい。叫びたいのはむしろキリハの方だよな」

「ううん、ありがとう」

怒ってくれて、と私が笑いかけると、シカマル君は何故かそっぽを向いた。

(?どうしたんだろう、頬を赤く染めて)

「あー、話しを戻すと、だ」

ごほんと咳をするシカマル君。複雑な表情をしながらも、呆れた顔をしているサクラちゃん。


「いいよ。今考える事はあの我愛羅って子の事だから」

「・・・ああ。つまりは、だ。九尾ほどとは行かなくても、それに準ずる力を持ってるって訳だな。そりゃ勝てねーわ」

「と言うことはサスケ君見つけた後は一目散ね。でも、状況次第では仕掛ける事も頭に入れておいた方が良いんじゃない?」

「ほっとくわけにもいかんだろーしな。・・・と、その前に、だ」

「気づいておったか。追っ手がきとるぞ。後方に5、6人か。音か砂じゃな」

「次から次へと・・・」

頭を抱えるシカマル君。

「少なくとも中忍クラス。しかも音の忍びとなると、ここらの地形にも詳しいか・・・撒けないな、こりゃ」

「・・・と、いうことは待ち伏せは使えないわね」

「ああ。誰かが残って足止め、だろうな」

「私が「言うなって」」

抱えながらも、私の言葉を遮る。

「分かってんだろ?陽動に向いてるのが誰か、足止めできそうなのは誰か、試合をしていなくてチャクラがまだまだあるのは誰か」

「・・・」

「キリハ、お前が優しいのは分かるけどよ。今ここでのその判断は、優しさじゃねーぞ・・・ああ、泣きそうな顔するなって」

「・・・シカマル」

「サクラも。大丈夫だって。俺は臆病者だからよ。ちょっと足止めしたら直ぐに逃げっから。だからキリハとサスケの方頼むぞ」

「ええ」

「・・・うん」

「小僧・・・」

「じゃ、またな」

と3人で拳をこつんとぶつける。




そして、シカマル君は立ち止まり、地面に降り立って後方へと振り返る。私とサクラちゃんは木の枝の上で、サスケ君が居る前方の方向を見る。



私とサクラちゃんは、半身だけ振り返って、シカマル君へと声をかける。





「またね、だよ・・・絶対だよ?」

「ああ、絶対だ」

シカマル君は振り返らず、片手だけあげて答える。







「死なないでね、シカマル」

「死なねーよ。俺は、『死ぬ時には大勢の孫に囲まれながら』って決めてんだ」

そして、その手を横に振る。











「・・・行け。ここは任せろ」

「「うん」」















~シカマルside~





あー面倒くせーことになったな。胸くそ悪い事を聞いちまったし。


(俺、1人か)


援軍が期待できそうな、同班の面々を思い出す。


・・・いのは怪我、アスマとチョウジはその付き添い。恐らくは怪我したいのを守るために、会場に残ってる。


援軍は絶望的、と見ていいだろう。下手に援軍に期待しても危険だ。







(ここは、俺が何とかしなけりゃな)






仲間を守るために。






ったく柄じゃねーっての、と呟き頭をかく。でも、逃げる訳にもいかねえだろ、と気を引き締める。









(男が女に任せろ、って言ったんだからよ)







一試合目。キリハが日向ネジ相手に言った、あの言葉。あの言葉を、そしてあの笑顔を曇らせないためにも。






俺は頭をフル回転させ、『勝つ』方法を考え始めた。







(俺がここで死ぬわけにはいかねーよな・・・!)









[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 二十話
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2009/07/11 00:16

~シカマルside~







「さて、どうするか」



手元の起爆札を見ながら、ひとりごちる。



1人も通す事はできない。キリハの方がどのような事態に陥っているのか。確認できない今、1人でもここを通すのは避けたい。




「影真似で動き止めて・・・相手諸共に自爆すれば一番速いんだけどな・・・」



結果だけ見れば、最善だろう。確実性も高く、後ろに音忍達を通さないを至上目的とすれば、このうえない手段だと思う。


「でも、泣くだろうな・・・」


この身は最早、木の葉の下忍。仲間を守れるならば、この命が惜しくあろう筈もない。


だが、あの金の幼なじみを泣かすのは、俺と言えど忍びない。


「でも、中忍が6人だしなあ・・・・・ん?」

ため息を付いているところ、向こうの方で煙り弾が上がるのが見える。

連絡用の煙玉。それに応じて、こっちも煙玉をあげる。






「・・・そうか。じゃあ、やってみるか」

目指すは最善。柄じゃないけど、約束を守るために、いっちょ意地を見せてみるか。










取りあえず、獣の足跡を偽装して、一定距離まで近寄る。


音の恐らく中忍だろう集団は、前方を意識しているので、影真似で捕らえるのは容易かった。

全員を捕らえた後、俺は敵の目の前に姿を現した。




「・・・これが、木の葉に伝わる影縛りの術か・・・くそっ、油断したぜ」

と零した中忍、その言葉が遺言となった。


捕まえる前、予め地面に仕込んでおいた起爆札。その爆風をを至近で受けた名前も知らない中忍は、そのまま物言わぬ肉塊へと変貌した。



「・・・貴様!」


「・・・へっ、流石に蛇オカマの手下だぜ。間が抜けてやがる」


俺が発したその言葉に、音忍達の空気が変わる。それはそうだろう。里長への侮辱は、彼らが最も怒るべき事だ。

殺気を剥き出しにして、こちらを睨み付けてくる。



(挑発は成功)




遺された5人の視線にも、俺は動じない。そんな余裕はない。

やがて、俺は手に持つ5つの手裏剣を放つ。



「・・・・!?」

だが、それは樹上から放たれたクナイに阻まれた。





「そこか」



同時、俺は影真似の術を解き、



「影縫いの術!」


影の棘を具現し、樹上の敵へとその棘を向かわす。だが、それは惜しくもかわされた。





「ふっ、甘い。これで終わりだな、影使い!」



「・・・・ああ、そうだな」



俺は、諦めたように肩をすくめる。中忍相手に、不意も討たず、じかもこれだけ距離が空いている。


捕らえられるとも思えない。手詰まり、だ。










「これで終わりだ!大蛇丸様を侮辱したこと、あの世で後悔するがいい!」






音忍が宣告する。遠距離から、攻撃するつもりだろう。大量のクナイと起爆札を取り出して、俺の方へと投げようとする。








だが、それは












「てめえがな!」












背後からの奇襲で遮られた。









牙通牙。獣人体術が奥義である。前方に集中した直後の、背後からの奇襲。


回避に遅れた中忍はその竜巻じみた一撃に吹き飛ばされ、倒れ伏した。


だが、取り出していた起爆札が地面に落ち、起動する。









「くっ!」





爆発から逃れるため、俺は後ろへと飛び下がる。同時、影真似の術が解かれ、残された4人の中忍達が動こうとする。


だが、爆発の範囲から遠ざかっていた1人が、急に血を吐き倒れ伏す。




その背後には、掌を突き出した日向ヒナタの姿があった。



「・・・柔拳」


背後からの渾身の柔拳。内臓まで浸透した一撃。

あれでもう動けまい。


(これで3対3)




俺が先ほどした挑発。冷静さを失わせる本来の挑発の意味とは別に、二つの意味があった。



一つ、全員をここに留まらせるため。1人でも、背後に通すことはできないからだ。

あの言葉を発した俺を殺すまで、音忍の誰1人として、俺らを無視してこの先に進もうとは思わないだろう。俺だけが目的という訳じゃないかもしれないから、予防線は張っておく。


二つ、俺へと意識を集中させ、背後からの奇襲への注意を逸らさせるため。

煙玉の意図は見えた。だが、ヒナタもキバも下忍である。技の威力は一撃必倒に近いが、奇襲でもなければ直撃させることは難しいだろう。

言葉も仕草も全部フェイク。見事、3対6では勝ち目が薄かったが、これならば何とか『勝つ』見込みが出てきた。





(でも、こいつらイルカ先生とかに比べると、弱いな。中忍でも下の方といったところか)



俺に追いつくまで時間がかかった事といい、何か非常事態でもあってか、または誰かの代わりとなる急な編成かもしれない。





(でも、俺らより地力が上なのは確か)



単純な速さ、力においては適わないだろう。奇襲が通じない今、ここからが本当の殺し合いとなる。



こちらに集まったキバ+赤丸と、ヒナタ。


小さい声で、作戦を話す。




(ありがとよ。話はいろいろあるけど、取りあえずこいつらを片づけてからだ)

(・・・ケッ、シカマルにしちゃあ随分と熱血してんじゃねーか・・・キリハになんか言われたか?)

(うるせーよ)

(クゥ~ン)

(二人とも、それも後で、じっくりとね。それで、どうするの?正直私達じゃあ、一対一でも分が悪いよ)

(取りあえずは・・・)


と横へと逃げる。そのふりをしながら、二人に作戦の概要を話す。

相手と距離を取ったこの状況なら、聞こえまい。


(・・・という作戦だ)

(成るほどな。確かに、それなら今の俺らでもできるな)

(でもその作戦、タイミングが肝だね。それに、私達は何とか大丈夫だと思うけど、シカマル君の方はいけるの?)

(・・・やるしかねえだろ。この状況じゃあ、めんどくせーとか言ってられないしな。じゃあ、いくぞ)

(クゥ~ン)


「散!」




皆がバラバラの方向へと逃げ出す。






それに応じて、向こうの方もばらける。


その対応は、予想していた。

そも、俺らは下忍だ。その中央に残らず、激戦区から外れた俺らを狙っている。

その理由を考えれば、すぐに分かった。

あいつは影真似の術を聞いていた風だった。ということは、狙いは奈良の秘術だろう。そして今は、犬塚の秘術か、日向の血継限界か。

大蛇丸の指示だろう。そこから、対応を考える。

俺らは連携しなれてない。ヒナタとキバなら別だが、あの二人で残りの中忍を相手できるとも思えない。

それに、相手に連携を取られたら、もうどうしようもない。ゆえに、一対一に持っていく必要があった。

(誰も逃がすつもりはないなら、散らばるか。問題は、ここからだ)

やがて、相手の1人に追いつかれた。キバの方も、ヒナタの方も、追いつかれた頃だろう。

懐にある一つの忍具を握りしめる。


(タイミングを間違えれば、全滅。でもやるしかねー)







~キバside~


「ちいっ、すばしっこい!」


「へっ、捕まるかよ!」


「ワン!」

クナイを避けつつ、反撃に移る。だが、相手の速度はこちらより少し上。

敏捷性ではこちらが少し上なので、捕まったりはしないが、こちらの攻撃もそうそう当たらないだろう。

(今は、機を伺う・・・!)

迂闊に攻撃に出て、失敗すれば死ぬ。それに、キリハ戦のような不様な失敗を二度犯すつもりはなかった。




(まだか、シカマル!)







~ヒナタside~



(速い・・・!)

相手のクナイを白眼で見切り、避ける。

その速度、精度は、流石に中忍といったもので、避けるだけで精一杯だった。

軌道を見切る事はできるが、それを捌くのは自分の腕。柔拳を当てる以上、近寄る必要があるが、近づけばそれだけクナイの対応も難しくなる。

これ以上近寄れなかった。

(でも、シカマル君の予想は当たっていたね。生け捕りが目的なのか、大きい術を使ってこない)

そこを突く。シカマル君の分析も判断も、信頼に足る内容だった。間違いはないだろう。

だから、私は私の役割をする。1人でも欠ければ、この作戦は失敗する。ならば、ここは時間まで生き残る事を優先する。

(仲間を守るため)

あの人が残していった言葉にならって。私はここで退くわけにはいかない。

(キリハちゃんにも、いのちゃんにも、サクラちゃんにも。ここで失敗したら、顔向けできないもの)

生の殺気に当てられても、もう身が竦むこともない。桃さんにもらった言葉を反芻し、私は私を保つ。



「くっ、埒があかんな・・・はっ!」



音忍が瞬身の術を使う。そして、私の背後へと回り込む。


(甘い、見えてる!)


その背後から繰り出された一撃を、私は目で捕らえて避けきる。





「外したか・・・だが、もう見切った。お前に勝ち目はあるまい。所詮は平和ボケした木の葉の里の下忍。はなからお前等に勝ち目などないのだ」


得意げに語る中忍。だが、私はそれを無視する。



「だからどうした、と言わせてもらうよ。そっちが有利だろうが、私達が下忍だろうが、死ぬ理由にはならない。

第一、もう3人もやられてるのに、どの口でそれを言うの?・・・それに、能書きが長いわよ障害物。

こっちも約束してる事があるのよ」


「何ィ?」

ギリギリと歯ぎしりする中忍を睨み付け、横の木に柔拳を打ちつながら宣告する。


「往く道がある。それをふさぐ壁は、叩いて壊す。邪魔する障害物も、叩いて壊す。この目と掌を持ってね」


「・・・小娘が!」


「だからどうした!」


挑発に乗って近接戦を挑んでくる。その一撃を捌き、柔拳を叩き込む---


「甘い!」


防御の腕を掲げる中忍。


(そっちがね!)


---だが、柔拳は虚動。警戒されている柔拳を囮として、側面に回る。だが、相手も反応に遅れながらも、こちらの方向を向く。

そこで柔拳を放とうとするが、反応した中忍はその腕を掴もうとしてきた。

(触るな!)

だが、それも虚動。伸ばそうとした腕を即座に折りたたみ、肘の一撃を横腹の急所に決める。


「ぐうっ!?」


直撃。先ほどの言動を囮とした、一撃。

そして、即座に後退する。近接戦の速度で言えば、向こうの方が若干上だろう。そう分析しての判断だった。

近接距離で長居しすぎるのは危ない。無理に、ここで倒す必要はない。




機は既に用意されている。






そう思った直後、爆発音が辺りに響きわたる。




(合図!)


空へと昇る煙を確認して、その場所へと向かう。


「くっ、待て!」
















開けた場所で、シカマルが膝を突いている。相対する中忍は、無傷だった。


「苦し紛れの起爆札、か。だが、無駄だったな。もう万策尽きただろう。諦めろ」


おとなしくすれば、命までは取らない、と言う言葉を無視して、シカマルは静かに距離を取ろうとする。

だが、足がもう動かなかった。


「お仲間も、こちらの方向へと逃げてきているようだな」


その言葉を聞き、シカマルは気配を探る。確かに、ヒナタとキバは中忍どもに追われてこっちに逃げてきているようだ。


「動くな。動けば殺すぞ」


とクナイを構える中忍。既に、シカマルは満身創痍。あちこちにクナイが突き刺さり、血を流していた。


「ああ、動かないよ・・・」


そこに、キバとヒナタ、追って中忍がやってくる。





開けた場所、集まった6人。







「俺はね」






そこに、空から玉が降ってきた。







同時、光が当たりに爆発する。









「くっ光玉か!」






目を庇う中忍。



「だが、これだけでは・・・」





そこで、言葉が止まる。






「・・・何故身体が動かない!?」






そこには、放射状に広がる影があった。




中心に、シカマルの影。そして、伸びた影の先には、3人の中忍の影があった。



シカマルはめんどうくさそうにため息をつき、そこにいる全ての者に、言った。








「王手だ」



















倒れた中忍の横で、3人と一匹は安堵のため息をついていた。

「よくやったな、赤丸!」

「ワンワン!」

キバに頭を撫でられる赤丸を見て、シカマルは苦笑する。

「ほんと、ありがとよ。光玉投げ込むタイミングも、完璧だったぜ」

こちらに意識を集中させる。そこで、木に登って隠れていた赤丸が光玉を投げ込む。

開けた場所で光玉を炸裂させる。そして、その瞬間伸びた影で、シカマルが相手の影を捕まえる。

単純な作戦だったが、上手くいった。ギリギリだったが。

「相手が油断してたのも大きいね」

油断させた所を、ドカンである。何より、赤丸への注意をそらす必要もあった。

問題点は、一対一で時間稼ぎできるかということだが、何とか乗り切れた。

「あー、でももう2度としたくねーな」

増血丸を飲み込みながら、シカマルはへたりこむ。






そしてキリハが向かった先の方角を睨み、ひとり呟いた。


(約束は守ったぞ、キリハ。ちゃんと戻ってこいよ・・・)








[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 二十一話
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2009/07/11 16:28

 目覚めよ、と呼ぶ麺あり。




        ~小池メンマのラーメン日誌、序の前 「始まりはいつもスープ」より抜粋


















走り続けて数分。ようやく、キリハ達はサスケに追いついた。でも、





「ガアアアアアアッ!」





そこには、暴れ回る我愛羅の姿もあった。異形を剥き出しにして暴れ回る我愛羅に、サスケは苦戦しているようだ。




「キリハと、サクラ!?」




そこに、二人は割り込んだ。勢いをつけた蹴りで、我愛羅を吹き飛ばす。





そこからは乱戦となった。3人は連携を駆使して幾度か攻撃をするが、尋常じゃない速度で飛び回る我愛羅を捕らえきれない。

仮に攻撃が当たったとしても、その堅い砂の壁に阻まれて、ダメージを与えることができない。

それに、回避にも気を配る必要があった。あの砂に一度でも掴まれたら、そこで終わりになるからだ。

「くそっ、こいつのチャクラは無尽蔵か?それに、何だこのチャクラの質は・・・」

「・・・サスケ君、ここは分が悪いよ。一端退こう」

「・・・断る。それに、退いたとしても追ってくるぞ、コイツは」

サスケの言葉を聞いて、キリハが呻く。確かに、今背を向けたら追ってくるだろう。この速度からいって、逃げ切れるとも思えない。

何とか、隙を見て逃げ出すしかないのだが。


「ギャハハハア!その程度かァ!?」

「くそっ、化け物が・・・!?」


サスケ君が忌々しげに呟いたと同時だった。




辺りに響く炸裂音。同時、我愛羅から、幾本もの砂の槍がこちらに向かってくる。



「っ!?」


突き出された砂の槍。それを、三人とも何とか避けきった。


「何て威力・・・!?」


だが、その威力に戦慄する。後ろにあった巨木に大穴が空いている。

あれが直撃すれば、身体にも風穴が空くことだろう。

そのまえに、何とかしなければならない。

「キリハ!サクラ!連携の五だ!」

サスケが二人に告げる。同時に、手で合図をする。





直後、サスケが我愛羅との距離をある程度詰める。

中距離で攻撃を繰り返し、我愛羅の攻撃も避ける。写輪眼を持つサスケが相応しい役どころだ。


「サスケ君!」


そして、掛け声と同時に、サクラが我愛羅に向かって光玉を投げる。

視界を眩まされた我愛羅。その動きが、一瞬だが止まる。


「そこ!」

「もらった!」


その隙を狙い、全員でクナイを投げつける。


「ソンナモノハキカネエ・・・!?」


直後、突き刺さったクナイに付けられた起爆札が爆発。


我愛羅が吹き飛んだ。




「爆発は防げても、衝撃は防げないでしょう・・・!」


「ひとまず、退くわよ!」



煙の向こうに消えた我愛羅を確認し、下がる三人。




「ああ、・・・っサクラ!上だ!」

サスケが叫んだ。





「オソイゾォ!」



サクラは、サスケの言葉に反応して、上を見上げる。



だが間に合わない。我愛羅は膨れあがった腕を振り上げ、サクラの脳天めがけ、降りおろす。




間合いと腕の速度を認識した瞬間、サクラは硬直した。避けようにも間に合わないと悟って。






我愛羅から伸びる、その振り上げられた巨腕が、サクラに叩きつけられる----





「キャッ!?」


「コレハッ!?」





寸前に、我愛羅とサクラは横から吹く風で吹き飛んだ。





「あなたは、砂隠れの!?」


いのと試合をしていた、テマリ。見れば、その姿はぼろぼろだった。



「・・・勘違いするな、お前等を助けた訳じゃない・・・っ!」



痛そうに、脇腹を押さえる。先ほどの試合で痛めた箇所だった。




「・・・我愛羅!もう止めろ!それ以上暴れると、元に戻れなくなるぞ!」



テマリが、我愛羅へ向かって必死に叫ぶ。



「ウルサイ!黙れ!今更なんのようだ!俺はもう戻れなくてもいい!強い奴をこの手で殺せれば、それで良い!」


化け物とは違った語感。化け物と混ざっていない、素の我愛羅が言っているのだろう。


「生きている実感を感じられれば、何でも良い!どうせ、お前も俺の事を化け物だと思っているのだろう!」

「違う!」

「口では何とでも言えるな!暗殺されようとした時も、姉さんは何も言ってはくれなかった!怖いんだろう、俺が、化け物だから。死ねば良いとでも思っていたんだろう」

「違う!確かに私には何もできなかったけど、そんなことは思っていない」

「は、どうだか!あの時の事を忘れたのか!?あの夜、里の少女と一緒に姉さんを殺そうとした俺を・・・憎んでいるんだろう!」

「何度も違うと言っただろう、我愛羅!話しを聞いてくれ!」

「ウルサイ!どうせ、俺は化け物だ!化け物には相応しい生き方がある!化け物の俺が、姉弟とは言ってもお前達と一緒にいれるものか」

拒絶の言葉と同時、我愛羅は術を発動する。





風遁・無限砂塵・大突破





「きゃあっ!?」

「くっ!」

「くそっ!」



二人の剣幕に硬直していたキリハとサスケ。そして、近くにいたテマリ。我愛羅と近い距離にいた、3人が吹き飛ばされ、その勢いのまま木へと叩きつけられた。



「・・・・・ッ!」


激突した衝撃に、呼吸が出来なくなる。

痛みに、全身が硬直する。








風に飛ばされて遠ざかっていたサクラが戻ってきた。そこでみた光景は、


禍々しい黒が所々に入っている、砂の塊だった。


「・・・クタバレェ!」







キリハとサスケの方向へ向け、今正に放たれんとする、砂の槍。

しかも、さっきより巨大な塊となっている。


「危ない!」

サクラが叫ぶ、2人は反応する。


サスケは反応できたようだ。回避体勢に入っている。あれならば避けられるだろう。


だが、キリハの方は違った。

先の試合で内臓を痛めているせいか、動けない。痛みにまだ硬直している。






サクラはキリハに向けて手を伸ばすが、届かない。離された距離は、あまりにも遠かった。


サスケも無理だった。避けるので精一杯。迫り来るキリハの窮地に、気づいた時は遅かった。




「キリハァ!」

「キリハ!」




~キリハside~



(あ、これ死んだかな)

どこか人ごとのように、心中で呟く。

動こうにも身体は動いてくれない。知らず、口からは血が零れていた。木に激突した衝撃で、痛めていた内臓のダメージが更に広がったみたいだ。

鈍い、だが大質量の痛みが全身を硬直させる。



世界が遅くなったかのよう。ゆっくりと、私に向けて、砂の槍が近づいてくる。






でも、目は閉じない。死ぬその時までは。





(ゴメン、シカマル君。約束、果たせそうにない)

ここにいない、先ほど約束した幼なじみに謝る。

ぶっきらぼうでも、優しいシカマル君のことだから、私が死んだらきっと泣くんだろうなあ。それに、律儀だから約束は守ってくれてるんだろうなあ。

心の中でもう一度謝り、もう一つの未練ごとを呟いた。





(・・・せめて、兄さんに一度でもいいから会いたかったなあ)



一度で良いから、会いたかったのに。その呟きも適わない事となる。



















そう、思っていた。

















































「そこまでだ!」






























どこかで聞いた、誰かの声が私の身を包むまでは。





眼前で、爆裂する衝撃。











そこで、私の意識は途絶えた。




~~~






キリハを襲う砂の槍。それを、螺旋丸で砕いた後、安堵のため息をつく。



(・・・・間に合った!)



危なかった。しつこすぎるクスリメガネに、時間を掛けすぎた。



肩で息をしながら、我愛羅を睨み付ける。





『間一髪だったね』



気配を探る。道中みつけた、シカマル、ヒナタ、キバの気配。


シノはシビさんが回収しているのを、気配で確認した。カンクロウは砂の中忍が回収していった。



そして、今ここにいる、サクラ、サスケ・・・そして、キリハ。



テマリも、いた。






(全員、生きているか)




それを確認した後、サスケとサクラに向けて、伝える。



「キリハを頼むぞ、うちは、春野」


影分身が、キリハを担いでサスケの元へと運ぶ。



「・・・キリハを助けてくれた事は感謝する。だが、てめえ、何者だ?」


「今は名乗る名は持ち合わせていない。時機がくれば、必ず話すよ。だが、今優先すべきはその部分じゃない」

「・・・ちっ」

「すいません、足止めを頼みます・・・!」


サスケがキリハを担いで、後方へと下がっていく。


「ああ、任された」




背を向ける。サクラはそれを確認したあと、サスケについて下がろうとする。



そこに、安心させる一言をつけ加える。この少年、少女が、後ろを、俺の無事を気にしないように。




「・・・だが別に、倒してしまっても構わんのだろう?」



その言葉に、背後の二人がきょとんとする気配を感じた。




















『行ったね』

「ああ。後は、こいつをどうにかする必要がある」

テマリは影分身を使って避難させた。ここから先の戦闘、近くにいれば確実に巻き添えとなる。

誇張ではなく、四方半里にいて無事にすむとは思えない。


「で、何笑ってるんだ?」

心底可笑しそうに、我愛羅は腹を抑えて笑い転げている。

「・・・ッハハハハァ!倒すだと?よりにもよって、この俺を倒すだと!?」


直後、空気が変わった。我愛羅が、更なる変質を遂げる。



「・・・ヤッテミロォォォォォォォォォォォ!」





雄叫びに似た声。





『・・・・完全に覚醒したか・・・・!』



キューちゃんの叫びが木霊する。見上げる程に大きくなった、眼前の敵。それを前にして、俺は叫ぶ。







「それがどうした!」






跳躍し、辺りでも一際高い丘へ立つ。




見上げる程に高い巨体が名乗る。





『・・・・・ワガナは尾獣ガ一尾、守鶴!ワレにアラガオウトスル、オロカシイニンゲンヨ!イチオウ、名ヲキイテオコウカ!』




「応!」







呼び声に答え、きゅうびのチャクラを放つ。



全身に、凶暴なチャクラの奔流が流れ込んだ。以前対峙した時とは違う、正真正銘の全力全開だ。









「俺の名はうずまきナルトォ!麺を追い求めるラーメン探偵!あとついでに九尾の人柱力!」












チャクラの勢いそのままに。世界よ震え、といわんばかりに全力で震脚。

開幕のベルを鳴らす。







「いいか守鶴!よく聞け、我愛羅!お前の選択は、二つに一つ!

 一、ラーメン食ってぶっとばされるか、二、ぶっとばされてラーメン食うかだ!」







異端とされる者が二人。ここに、舞台は整った。





「加え、我が友の意志を汲んで!そして、遠い昔に去った、亡き少年の代役となって!」










だから、開幕の口上を告げよう。










「麺の意志の名の元に!今からお前をぶっとばす!」












直後、世界が激震した。















[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 二十二話
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2009/07/05 22:10



狸さんの返答は、風遁・練空弾の術でした。


「危ねえ!?」



迫り来る巨大な風の砲弾。足をチャクラで強化して速度を上げ、何とか避ける。



「・・・あ、そう!回答は2だな!?それでいいんだな!?」


「フザゲルナアアアァァァ!」



「ふざけてんのは手前の方だろうが!」





激昂した守鶴が、砂を操って捕らえようとしてくる。




「・・・派手にいきますよっと!」





集まってきた砂を、四方八方にばらまいた起爆札付き手裏剣を放つ





爆発。



念入りに仕込んだ起爆札だ。その威力は、通常のものとは比較にならない。




「アマイワァ!」



と、今度は超巨大な砂の槍が、地面から隆起する。






「大玉・螺旋丸!」



迫り来る砂の暴流を、螺旋丸で打ち砕く。



「どうしたあ!?デカブツ!てめえの方こそこんなもんかあ!?」




~サスケside~



走り続けて、数分。あの化け物から、大分離れることができた。

後方から聞こえた地鳴り、あいつがいる方向だ。

振り返ると、巨大な化け物の姿と。



「あいつは・・・」


丘の上に悠然と立ち、巨大な化け物を真っ向から睨み付ける、金髪の忍の姿があった。

「誰だ・・・?」

呟きながらも、足は止めない。なにやら、嫌な予感がするからだ。



さらに走り続けて数分。


「サスケ!」

「・・・キバか。それに、シカマルとヒナタも」

肩に担いだキリハをそっと地面に降ろし、膝をつく。

「サスケ、キリハは気絶しているだけか?怪我は?」

「ああ、衝撃と痛みで気絶しているだけだ。命に別状は無いと思うが、一応、医療忍者に見せた方がいい」

「ああ、で、あれは何だ?」

「あの化け物は・・・恐らく我愛羅だ。砂を纏っているからな」

「・・・あの、戦っている人は?」

「・・・分からねえ。名前を聞いても名乗らなかった・・・!?」



地鳴りが、辺りに響き渡る。遠くで、木が吹き飛ぶのが見えた。


あれは、風の砲弾だろうか。



「何て戦いをしやがる、まるで嵐だぜ・・・!」

「・・・今は退くぞ。俺等がここにいても、あの化け物相手に出来ることなんかねえ」






~キューちゃんside~



『・・・・』

覚醒した尾獣を前に吠える馬鹿をみて、戦う馬鹿を見て、考える。


(何のために?こいつは何のためにこのような強敵と戦うのだろう)


人の身で戦うならば、守鶴は強敵だ。ワシら尾獣のような巨大な体躯を持たないのであれば、あの砂の攻撃は厄介も極まるだろうに。

返答はこうだった。



「これは、俺の戦いだからさ。それに、キューちゃんにはチャクラ借りてるし、それで十分だよ」



違うだろう。ワシは覚えている。

俺は強くなんてない、力があるから強い、なんてのは違うと思う、と零していたこいつの背中を。

力はあっても、殺し合いは怖いらしい。



「それに、ある人曰くだけど、力はすぐに裏切るから」



それは、確かにそうかもしれない。



一瞬の油断で、生と死が入れ替わる。どれだけ鍛えても、その力で人の心を動かせようもない。

力は万能ではなく、逆に巨大過ぎる力を持てば、人に疎まれる事もある。




ならば、何故鍛える。何故、力を持とうとする。そう問うた。




「力は所詮、手段に過ぎないよ。これみよがしに振るわなければ、逆に持っていた方がいい類のものだと思う。

・・・俺のような境遇だと、特にね。それに、話しを聞こうとしないきかん坊には、必要なものだから・・・悲しい事だけどね」




力が欲しいのではなく、必要だから、と言う程度。だから、人柱力についても役割程度で、どうでもいいと言う。

大事なものは其処にはないといった風に。




何故お主が、守鶴と戦う。そんな義理はないだろうにと、そう問うた。


「うーん、義理ならあるよ。ある程度はね。でも、それだけじゃない」


何?


「気にくわないんだ。親が息子を兵器にしようとするのも、不安定だから殺そうとするのも、怯えた子供が力に縋り付いたままなのも

・・・人柱力の運命とやらをそのまま体現してる境遇、そして、あの目も。それを利用しようとする、砂隠れの里の意志も、何もかも」


同情か?


「俺の勝手な我が儘。そして俺としての意地だね。だから、痛みも何もかも、俺が引き受けるから。そいつが責任ってやつだよ」


正気か?ワシは九尾だぞ。最強の妖魔だぞ?


「今は、キューちゃんだね」


その言葉に、確信した。



こいつは馬鹿だ。しかも、底なしの。ワシを九尾として見ていないのだ。


いや、九尾としても見ているのだろう。だが、それはおまけで、本質的にはただ1人の個として、見ている。


それを理解した時、世界が逆転したかのような錯覚に陥った。


陰のチャクラが封印された今。

ワタシを個と扱い、個として接する馬鹿を、どうして殺せる筈もあろうか。

それに、一緒にいても面白い。


偽善を振りかざす訳でもなく、運命など知ったことかと自分のしたい事をする。

それがラーメンなのだろう。人にはそれぞれ誇るべきものがあると聞いた。大切なものがあると聞いた。

こいつにとっては、ラーメンと、ラーメンによってもたらされる笑顔が、何よりも大切なのだろう。


(なるほど、『九尾の人柱力』はついでだな)


苦笑する。


こいつは『うずまきナルト』であって。


そしてどこまでも『小池メンマ』であろうとするのだ。


ならば、自分は応援するしかあるまい。



長い間一緒にすごしてきた、1人の友として。






そして、意地を通そうとする馬鹿な男の背を、押す。





ただ1人の女として。






~~~~






「来た」


呟く。


風の砲弾と、砂の槍を避け続けて数分。


ついに、使ってきた。


守鶴が使う攻撃方法で、口寄せを使わない今の自分にとって、最も恐ろしいものは何か。



それは、練空弾でもなく、砂の槍でもなく。



「まるで津波だな・・・!」


秘術・流砂瀑流だ。


津波のような砂が、俺を押しつぶそうとしてくる。


避けようにも、範囲が広すぎて無理。


螺旋丸だけでは、効果範囲が狭すぎて足りない。特製の起爆札でも、砂の津波の大質量では、威力が足りない。


だからこその新術だ。


だが、途轍もない大質量の砂の波が迫るのを見て、内側から本能的な恐怖がこみあげる。






だが、その恐怖は内側から発せられた、キューちゃんの一言でかき消された。



『ナルトよ!メンマよ!・・・人としてのその身、宿る意地を通そうというのなら、ただ押し通せ!』



叫ぶ。キューちゃんが叫ぶ。



『馬鹿は、馬鹿らしく!一発、ガツンと、蹴散らしてやれえ!』



キューちゃんの声。その中に篭められた気持ちを受け取ると、身体の震えは止まった。

それは、歓喜。見てくれている。1人の女性が、見てくれている。


なら、格好つけるしかないよなあ!




『手は綺麗に、心は熱く、頭は冷静に、だよ』


マダオはマダオらしく、的確なアドバイスをくれる。


巫山戯ては居ても、締めるところは締めるマダオ。あんがとよ。









「応!」






身体が動く。心が熱くなる。だが、頭は冷静に。

ただ成すべき事を成すと、馬鹿の最善を、馬鹿の意地をここから貫き、押し通す!







言葉と同時に、影分身を使う。

4体の影分身が、本体の俺の前方に出て、一点に手を向ける。




「「「「アイン!」」」」




俺の前方に、大玉の螺旋丸を作り出し、留める。密度は普通より若干薄め。





「ツヴァイ!」



そこに、本体である俺が、突っ込む。両手に、超大玉かつ超高密度の螺旋丸を携えて。




「「「「「ドライ!」」」」」






5人の螺旋を一つに合わせ。


指向性を前方に。五重に重ねられた螺旋の大玉が、世界を引き裂かんとばかりに荒れ狂う。





「麺・元・突・破!」






だが俺は、手が傷つくのも構わず、その反発する螺旋の巨塊を!



助走の勢いのまま、前方へと押して押して、押し通す!






「螺旋砲弾!」







天をも貫く螺旋の瀑龍が、目の前にある全ての障害物を吹き飛ばした。


























守鶴が砂の津波を被せ、これならば逃げられまいと嗤った直後だった。


本能が危険を感じ取ったのか、守鶴が両腕を前に突き出した。




「オオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォ!?」



だが、津波の向こうから発せられた風の暴流は、天を覆う砂の津波を吹き飛ばし、前に出された、山ほどにある巨大な砂の腕をも貫いた。



そして、守鶴がその風余波を受けて、倒れる。




「おらあああああああああ!」



砂煙の向こうから、馬鹿が突っ込んだ。


助走を付けて、影分身を踏み台にして、大跳躍。守鶴の所に向けて、愚直なまでの一直線。




「ツブレロ!」



空中にいる馬鹿を潰そうと、前方を覆い、そして死角である背後から砂の塊を放つ。


だが、その砂の塊も届かない。







「派手にいきますよっとぉ!」



後方にある砂は全て、馬鹿が大量にばらまいた起爆札に吹き飛ばされた。


そして前方の砂は、莫大な量のチャクラが篭められた、ただの掌打に吹き飛ばされる。




そして馬鹿は、起爆札の爆風を背に受けた勢いのまま、着地後も転がり、勢いを殺さないように疾走を始める。



倒れた守鶴の上を全力で疾走し、ただ一直線に我愛羅の所へと向かう。





「だらっしゃああああああああああああああああ!」



「ハヤイ!?」




捕まえようにも、砂が追いつかない。

前に展開した砂は、そのことごとくが逸らされ、打ち砕かれ、届かない。


止まらない。止められない。


そう悟った守鶴は、即座に憑代である我愛羅の前に砂の壁を展開する。


だが、突進は止まらない。


「それがどうしたあああああああぁぁぁぁ!」



走る勢いのまま繰り出されたラリアットは、その砂の壁をも打ち砕いて。




「目え覚ませえええええええええぇぇぇぇ!」





本体である我愛羅をぶっとばした。

















[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 二十三話
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2013/08/14 23:24
「俺の勝ちだな」


「ああ・・・俺の負けだ」


目の前には、仰向けに倒れる我愛羅の姿が。でも、どこか清々しそうだった。

「夢うつつに見ていたが・・・無茶苦茶だな、貴様」

我愛羅のあきれた顔に、まーね、と笑ってやる。

が、全身を駆けめぐる痛みに、笑みが崩れた。

「あいてててて」

胡座をかいて、我愛羅の横に座りこむ。

全身がぼろぼろ。経絡系も痛いし、筋肉痛で全身が痛い。

足も痛いし、爆風を受けて焼け焦げた背中も痛い。その痛みのせいで、いつの間にか変化は解けていた。


「それが、貴様の本当の姿か」

「ああ、驚いたろ」

にしし、と笑う。

「どうして・・・」

「ん?」

「どうして、お前はそんな風に笑える?九尾の人柱力といったな。お前も、化け物なんだろう?そういう扱いを、受けた事があるはずだ

なのに、どうしてお前は笑う?・・・どうして、あんなにも、真っ直ぐに怒れる。どうして、そんなに強い」

「強くなんかねえよ。ただ、決めているだけだ・・・上手く言葉にできないが、あー、そうだ、ある人の言葉を借りることになるが」

唸りながら、未来という名の少女の言葉を思い出す。


「尾獣がどうか、知らねえ。運命がどうとか、わかんねえ。人柱力がどうとか、聞いてねえ」


驚きの表情を浮かべる我愛羅。

「ただ俺は俺の望む道を往く。押しつけられた役割なんてまっぴらだ。俺は俺の好きな道を行って、そこで楽しんで笑ってやる」

「・・・・はっ」

その言葉を聞いて、我愛羅は可笑しそうに笑う。


「俺には夢がある。俺が作ったラーメンで、誰かを幸せな気持ちにする。いつか、それで争いをなくすようにする。心を満たす。

心を満たせば、いずれ争いなんか無くなると思うから。そのための、究極のラーメンを作ること。それが、俺の、麺道だ」


親指を立てて、笑う。


「変な奴だな。争いを収める力があるのに、回りくどいことを。その理想を叶えるために、持っている人柱力の力を使おうとは思わないのか?」

馬鹿を見る目で、我愛羅は訪ねてくる。そんな目で人を見るな。

「ああ、変わっているのは悪いことじゃないぜ。そう、俺が信じているから。だから、俺はその選択肢を選ぶ。それ以外に何が必要なんだ?」

真理は決して一つではない。だけど、力を求めた先にある場所はどれも似通っているだろう。

「争いを収める力なんて無いんだよ。誰かを傷つける正義なんてない。力で押さえつけても無駄だ、力は反発しあうもんだからな。力だけに生きるものの末路は決まっているさ。ずっと昔から、変わらない。剣に生きる者は、いずれ剣によって死ぬ。戦って、戦って、戦って、壊して殺して失わせて――――失う。最後には、全部無くなるだけだ」


人、それを『不毛』と呼ぶ…………何つって。

呟くと、我愛羅は苦笑した。


「だから、力を隠し続けるのか。お前のいう、夢のラーメンを追い続けるのか」

「ああ。木の葉隠れの里の人の中にある、九尾への憎しみの心が消えるまでな」

「…………だが、いずれ見つかるかもしれない。力を隠し続けて、正体を隠して逃げ続けて、その果てに見つかって殺されたらどうする?」

「殺されたくはないからな。その時は全力で抵抗するさ。それでも死んだら、仕方ない。最後まで、自分の生き方に関しては嘘はつかなかったと、胸を張って………あるかも分からないあの世で誇ってみせるさ」


立ち上がり、我愛羅に背を向ける。

去ろうとする俺に、声がかかった。


「………俺を殺さないでいいのか。お前を殺そうとした、化け物を」

「回答の2を選んだんだろ? ということで、ぶっとばしたからその後だ。今度、ラーメン食べに来て下さい」

店の場所を示したメモを手渡す。

「ラーメン屋台『九頭竜』、そこの店主が俺だ。誰にもいうなよ。1人で来いよ。絶対だぞ。フリじゃないぞ、言ったら逃げるからな。空を飛ぶチキンのように」

「………ああ」

マジ逃げするぞ、という気持ちを込めた言葉に苦笑する我愛羅を確認し、背を向けた。



最後に、指を一本立てた。


「ひとつだけ、宿題だ。今度くる時に教えてくれよ………お前が今後どうするのかを」

「――――俺は」

「今じゃなくていい。風影は既に亡いだろう。音隠れの首領が風影に化けていた。本物は殺されていると見ていい」

疑問符を浮かべる我愛羅に、言う。つまりは自由だと。

「お前を狙う馬鹿親は消えたって事だ。つけ加えるなら、俺とお前では立場が違う。その守鶴の力を抑えきれば、砂隠れの里の者はお前を認めるだろう」

「………だが、どうやって。今から、俺は…………どうすればいい」

「俺にはわからん。でも、一人じゃない―――――あの娘と一緒に考えるんだな」

こちらに近づいてくる、人影を指さした。

その先には、金髪の少女が居た。

「我愛羅!」

我愛羅の姉であるテマリだ。

倒れている我愛羅のもとに駆けつける。そして、俺を視界に捕らえると、驚いた表情になった。

「お前は………!?」

「ちっす姐さん。じゃあ後は頼むわ。俺はちょっと看取らなければならん人がいるし」


返答は聞かず、片手をあげて俺はその場を去った。



「待て!うずまきナルト!」



「何だ」



木の枝の上、振り返らないで我愛羅の言葉を待つ。



「――――ありがとう。俺を、殴り飛ばしてくれて」



背中を向けたまま、腕をあげて回す。



「通りすがったからだよ。成り行きだ。いいから気にすんな。あの一撃で、目が覚めたのなら僥倖だ」




親指を立てた後、一言だけ告げてその場を立ち去る。




「悪夢は終わったんなら次の夢を。願わくば、笑っていられるような、良き夢をってな」


じゃあ、また会おう。



あとは、姉に任せようと俺は、前を見て走り出した。




















全速力で、試合会場へと戻る。勿論、変化の術は使っている。


『・・・』

「ん?どうしたの、キューちゃん」

『いや、何でもない』

『それで、どうするの?』

「影分身が会場を見張っているんだが、どうやら大蛇○と3代目、まだ戦っているらしい。今から、そこに向かう」

『え、そこに、飛び込むの?』

「ん、大丈夫。手は打ってあるから。逃げる方法も確保しているし」

『で、そこに向かって、何をするつもりじゃ?』

「嘘をつきに、さ」







痛む全身を引きずりながらも、全速で試合会場に戻った。

そして、ついた直後だった。屋上を包む結界が解かれたのは。


『結界、今解除されたみたいだね』

「決着、か」

取りあえず、4人衆が結界を解いたのを確認。

(おー、来てるわ、来てるわ)


あの時は、君麻呂に気を取られて、他の面子が見えてなかった。


えーと、君麻呂、蜘蛛、双子、次郎坊か。名前がいまいち分からん。


・・・あれ、多由也がいないな。ま、君麻呂と仲が悪いみたいだったし・・・編成からは外されたか。


大蛇○は腕をだらんと下げている。死神に取られたか。

と、いうことはだ。


『・・・屍鬼封尽、使ったんだね3代目・・・会いに行くなら、今だよ』


ああ・・・やり遂げたか。見事だ、爺さんよ。









大蛇○と4人衆が飛び去った直後、俺はこっそりと瞬身の術で、仰向けに倒れる3代目の所へと向かった。


影分身を2体ほど、囮として離れた所に出す。



そして、ありったけの煙玉を爆発させた。時間稼ぎのために。










そして、俺は倒れる火影の前に立つ。


「・・・お主は?」


返答はしない。ただ、俺は変化を解いた。




「・・・その目、その髪、その顔は・・・もしかして、ナルトか?」

「ああ。見せて貰ったよ、爺さん。木の葉を守る火の意志ってやつをな」

「だが、ワシはお前を」

「気にするな。別に、あれはアンタのせいじゃない」

沈黙が流れる。

「だが、「許すよ」」

言葉を遮る。

「全部許す。だから、笑って逝けよ爺さん。一尾もぶっとばした。キリハも無事だ。それに、木の葉の忍び達は負けない。そうだろう?」

「・・・・」

黙る火影。しかたなく、俺は小さい声で伝える。

「言葉だけじゃ、ダメか?気持ちは、全部あのラーメンに込めた筈だ、火の国の宝麺、上手かっただろ」

悪戯をした子供のような笑みを浮かべる。

「もしかして、あれは、あの屋台の主は、お前だったのか?」

ああ、と返答しながら親指を立てる。

「ああ。木の葉に戻る事はないかもしれないが、俺にも今は夢があるんだ。世界一のラーメンを作るってな。

 ・・・だから、気に病むな爺さん。俺にも明日があるから」

「・・・そうか・・・・そうか」

「旨かっただろ?」

「ああ・・・あれの御陰で、大蛇丸に勝てたのかもしれんのう」

口から血を流しながらも、爺さんが笑う。




俺は別れの言葉を告げる。


「先に逝って待っててくれ。俺がそっちに逝った時にさ・・・鍛えに鍛えた、世界一のラーメンを食わしてやっから」

約束だぜ、と笑う。







「・・・ああ。楽しみじゃなあ・・・」




笑顔のまま。



3代目火影は、逝った。















「あばよ、爺さん」


目を閉じてやる。その直後、影分身が消されたのを確認した。


「・・・そこに居るのは何者だ!?」



そして、煙の向こうから、声が聞こえた。恐らくは暗部だろう。


時間切れか・・・逃げよう。この場所で、この姿を見せる訳にはいかない。


懐かしの我が家に帰るか。


目を瞑り、飛雷神の術を発動させた。



「ジャンプ」

























隠れ家に戻った。


無事、戻れたのを確認した後、俺は前のめりに、床に倒れ込んだ。


「っつあ~~~~、相変わらず、この術使った後はくらくらすんなあ」



使った後の疲労が酷い。あと平衡感覚も取り戻せない。これは戦闘中に使える術ではないと、改めて認識した。

全身に負った傷と合わさって、体の中がえらいことになっている。

『メンマ君・・・』

痛みにうずくまる俺の耳に、マダオの複雑そうな声が聞こえた。





ああ、悪いな。

3代目に告げた、最後の言葉について、聞きたいことがあるのだろう。ま、あの言葉は、半分が嘘で、半分が本当だったからな。

・・・何しろ、ナルト少年は死んだのだから。

死人は語らない。だから、あの言葉は本人のものではないけれど。

・・・嘘をついた事。良かったのか悪かったのか。

告げた今でも分からない。でも、こうしたかったんだ。

60年、この里を守ろうと、戦い続けた爺さん。せめて、笑顔で逝かせてやりたかったと思うのは俺のエゴか?


『・・・いや』



わりい、マダオにゃあ、辛い思いをさせたか。


長い旅路に出る爺さん。死後、あの英雄の魂どうなるのか、俺には分からない。
死神に囚われるのか、それとも大蛇丸の方は魂は腕だけだったので、違う事になるのか。そもそも、死んだ後、人がどうなるのかなんて、誰にも分からない。

でも、長い旅になるのは確か。

贈る言葉は決まっている。さようなら。ごきげんよう。いざさらば。

それは、木の葉隠れの忍びが言うだろう。看取った俺は、別の事を言って送りたかった。

(別れの時は涙の代わりに笑顔と約束をってな・・・)

意地通した爺さんを、さ。笑って逝かせてやりたかったんだ。


『・・・僕の気持ちはともかく・・・これで良かったんだよ、きっと』


『火の意志、人の意地か』


ああ、キューちゃん。すげえよな火影。今まで、色んな里を旅をしてきてさ。そんで、店を開いてみて分かった。

この里の凄さってやつを。治安の良さもさることながら、住む人々の心の豊かさも。


『そうだね・・・でも、正体は告げられないけど』


それは仕方ねえよ。正体を告げる事が、真実を晒す事が良いこととは限らないんだから。

誰にだって、憎むものがある。成り行きで、今は俺がそうだってだけだ。




『それで、お主は寂しくないのか?』



キューちゃんが、つぶやく。


(二人がいるから寂しくねえよ。今更言わすなって、そんな事)





『・・・ふん、取りあえずは及第点じゃな』

キューちゃん、顔赤いぞ。あと、目を逸らさんといて。可愛すぎるから。




『てれりこ、てれりこ』

言いながら頬染めてんじゃねえよ☆。ぶち殺すぞマダオ。あと、それは俺のセリフな。








いつもの3人。

胸に秘めた哀しみの表情を互いに隠しながらも、いつもの調子に戻る。




取りあえず、重要なポイントだけ整理する。


(うずまきナルトと名乗った事に関しては、問題ないと言える。小池メンマに化けてれば、支障ない。

 九尾が具現していないということで、生存はほぼ確実視されていただろうし。現れたという事実があるだけで、小池メンマの正体までは届かない)

今までと変わりなく、小池メンマの姿でラーメン屋を続けられるだろう。



九尾を口寄せしなかった理由も、そこにあった。木の葉の暗部と『根』を刺激するのは良くないし。

大人ナルトの姿で、マダオを出さなかった理由も同じ。

口寄せ・穢土転生で四代目を使って~とか、九尾を使って復讐~などと勘違いされたら、ヤヴァイ。俺が超ヤヴァイ。

そうなったら多分、里総勢で血眼になってうずまきナルトというか、九尾の人柱力の探索。後に抹殺にという事態に発展するだろう。

誤解からそういう事態になったら、笑えもしない。見狐必殺とか、やーなの。



まあ、今のところ、正体に関しては問題ない。

我愛羅が言わなければ、というのがあるが。まあ、言わないだろう。言わないよな。

大丈夫、大丈夫。



(再不斬と白は、戻ってないな。まだ戦っているのか)



じきに戻ってくるだろう。引き際を間違える程バカじゃないし。


(・・・まあ、取りあえず、一段落、か・・・・)






キリハも無事。と、いうことで任務完了ー。




安堵のため息をついたまま、全身を襲う疲労に身を任せ、深い眠りについた。











[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 二十四話
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2010/02/14 22:22
「私はかつて在り、今在り・・・そして、あらんとする全ての麺なり」



         ~小池メンマ家、その玄関扉に書かれていた文字より抜粋~



「雨か・・・」


目覚めると、雨音が聞こえた。



「布団の上・・・ということは、誰かが運んでくれたのか」

入り口の方を見る。

すぐに、部屋の扉が開いた。

「・・・起きましたか?」

「ああ、白が運んでくれたのか。ありがとう」

重たかっただろうに。

「いえ。再不「ありがとう、白」」

白の言葉を遮る。・・・分かってるさ。でも俺だって、夢を見ていたいんだ。

「「・・・・」」

じっと見つめ合う二人。

「僕ではなく、ざ「有り難う、白!」」

また、遮る。これだけは、譲らない!

「「・・・・」」






「・・・やっと、起きたか」

「おはよーっす。無事戻れたんだ、二人とも」

「ああ。深追いする理由もないしな。適当に音隠れの奴らを狩ってきたぞ」

「ふーん、で木の葉の方、何か動きあった?」

「3代目火影が死んだらしいな・・・殺ったのは、元木の葉の抜け忍、音の首領だとよ。三忍の1人、大蛇丸だったか」

「それは知ってる。それ以外は?」

「特には無い。あれから、一日しか経っていないからな」










「それで、そっちの方はどうだった?」

「ああ。音隠れのやつらを適当に相手していただけだ。それ以外は特になにもなかた・・・どいつもこいつも、雑魚ばっかりだったのが不満だったけどな」

「まあ、新興の里だからねえ。カカシクラスの奴はそうそういないでしょ。上忍の数も少ないと思うし。層は薄いね、きっと」

「そうでしたね。せいぜいが、中忍レベルでした。妙な術を使ってくる相手もいましたが、全て対処可能な範疇でしたから」

「へえ。流石の分析力だね。でも、そこそこ戦ったんでしょ。怪我しなかった?」

「・・・まあ、流石に無傷とはいかなかったが、深い傷は負っていない」

「チャクラは?」

「・・・ああ、久しぶりってもんで、調節が緩くてな。結構、多めに使ったよ。新術も使ったしな」

「あ、使ったんだ、水甲弾の術。それで、どうだった?」

「思ったより使えるな。貫通力がある分、使い所が多い。場合によっては、複数を巻き込めるしな。まあ、味方が大勢いる場所では使いにくいだろうが」

「白は?」

「ええ。幻鏡氷壁の術、十分に役立ちましたよ。それに、体術もメンマさんに見て貰いましたからね。

この家で・・・静かな所で周りを気にせず、確実に修行できた分、基礎能力も上がりましたし。魔鏡氷晶を使うほど、追いつめらる事はありませんでした」

「よかったね」

「ええ。で、そちらの方は?確か、一尾の人柱力とやりあったんですよね。遠くから見えましたよ、あの巨体」

「・・・その巨体を倒した、馬鹿げた威力の術も見えたがな。あれは、なんだ?」

再不斬が不機嫌そうな顔をする。

「怖い顔するなって。螺旋丸の応用だよ。複数の影分身で螺旋丸を使ったの。本来の威力を殺さず、その効果範囲を広げただけ。

まあ、チャクラコントロールは激ムズだし、予備動作が大きすぎるからね。その分、貫通力と余波による制圧能力は折り紙付き。でも・・・」

そう言って、腕を見せる。そこには、治りかけではあるが、傷跡があった。

「制御しきれなかった。術の余波で腕が痛んだよ。人柱力並の回復力が無いと使えないね、この術」

今はもう治りかけているが、術を使った後は酷かった。その後の掌打も応えたね。

「隙も大きいしの。守鶴は大きい分、動きは鋭くなかったから使えたのだろう。上忍相手だと、逆に使い所が難しい術になるの」

「ていうか、あれだけの威力が必要になる場面ってそうそうないよね」

「そうですね。螺旋丸だけで事足りますもんね」



その後も、反省会を続けた。





「で、昼飯だけど。おととい作ったスープが残ってるんで、例のラーメンにしようかと」

「あ、僕作りましょうか?」


「いや、いい、白。座っておれ」


と立ち上がるキューちゃん。

「今日はワシが作る。お主等は疲れておるだろう。大人しく座って待っておれ」

「「「・・・は?」」」





「出来たぞ」

「「「おお」」」

普通に上手そうだ。


「「「いただきます」」」

一口。うん、上手い。

「まあ、いつも見ておったからの」

得意げに胸を張るキューちゃん。

「本当、美味しいですね・・・あれ、メンマさんのだけ、赤い玉のような具が入っているようですが」

「おお。色づけに少し、の。一つしか無かったので・・・メンマのラーメンに入れたのじゃ」

へえ。どこかで見た具だな・・・あれ、俺が買ったんだっけか。思い出せないな。

「まあ、いいか。いただきまーす」


その赤いブツを一噛みした瞬間。









世界が砕けた。






























ああ綺麗な星空が見える。




黒い夜の帳。

漆黒が空を占拠する中、流星が次々と流れ落ちていく。その黒を引き裂くように、光り輝いている。






(あ、降ってくる)





あまりにも、幻想的な風景。






やがて、その流星の細かな部分が見えてくる。







(ああ、ってあれは・・・・!)









戦慄する。











流星の先っちょについてたもの。












それは、マダオの顔だった。












(天から降る一億のマダオ)











わあ、綺麗とか言ってる場合じゃない。むしろ、ホラーである。



夏の夜の思い出が、一気にトラウマへと昇格する程にアレである。



絶叫しながら、俺は現世に復帰した。
















「ぶるっきゃおう、○らむに!」

「何で!?」


取りあえず、横に居たマダオを殴り飛ばす。






そして、取りあえず歌う。


「BLAZE UP 燃え上がれ、唇、焼き尽くせ~♪赤くそーめーてくー。くちーのなかーをー♪」






歌う。歌わなけりゃ、やってられない。


辛い、辛い、辛すぎる。つらい、つらい、つらすぎる。


何だこれは、『新しい世界にこんにちは』しそうになったぞ。



(・・・思い出した!これは以前、市場で・・・洒落のつもりで買った、激辛香辛料!)




色が鮮やかだったんで、思わず買ってしまったブツだ。あの時、店主は何て言ってたんだっけ。





(あ、思い出した。通称、『火の実』だったっけか。確か、口の中から尻の穴まで、全てを焼き尽くす安心保証とか何とか)


その容赦ないフレーズに心惹かれたのだ。

そういえば先の一戦に持っていった筈だったが、気絶していたせいか、忘れていた。

何かに使おうとネタで買ったのが先の戦闘で役に立ったことは嬉しい誤算だったが、今は寝たで買った事を激しく後悔している。


口の中が、火の、ようだ。(某猪風に)





「どうしたのじゃ?」



不安そうに、訪ねるキューちゃん。



正直な事を話したら・・・やめとこう。




(意地があるだろ!男の子にはよ!)




その笑顔、曇らせない!



ラーメンとスープと一緒に食べきる。


隣では、マダオ、白、再不斬の3人が静かに拍手をしていた。


(小さな同情、大きなお世話だこの野郎)

まばらな拍手は悲しいよ。


「美味かった!おかわり!」


喜色満面なキューちゃん。急いで、またラーメンを持ってくる。








だが、そのラーメンには、また例の赤いブツが乗っていた。

「よく見たらもう一つあった」らしい。

笑いながら、嬉しそうに言うキューちゃん。

・・・絶望した。

白と再不斬が俺とキューちゃんの方から、静かに目を逸らす。

マダオはどんぶりで顔を隠している。


(見てられないってか・・・・だが、麺王は、退かぬ!媚びぬ!省みぬ!)


罪なき童女の笑顔のため!私は逝く!















がぶり、どさ。

私は死んだ。スパイシー(涙)





















あれ、ここはどこだ。何か唇がひりひりするんだけど。

「目が覚めたか」

「あ、キューちゃん」

俺は布団に寝かされていた。そして、布団の横には、キューちゃんが正座をして座っていた。

「すまんかったの」

「え、何が?どうも、気絶する前後の記憶がないんだけど」

あと、唇がひりひりするんだけど、と言うと、鏡を差し出される。

「うお、なんじゃこりゃあ」

唇がタラコのように膨れあがっていた。

「ばかものが。正直に言えばよかったのじゃ」

「え、何が?」

どうも、覚えていない。脳が思い出すのを拒否しているのか。

「・・・もういい。お主は、もう少し寝ておれ。昨日の戦闘による疲労も、まだ取れておらぬのじゃろ」

「・・・ああ、ありがとう。そうするよ」

そのまま、天井を見上げる。


(でも、じっとしていたくないんだよなあ・・・どうしても、思い出してしまう)

一歩間違えれば、死。

怒りに身を任せ、意地を見せたとしても、こうして後になって思いだすと、今でも少し手が震える。


「・・・大丈夫か?」

キューちゃんが、心配そうな声を出す。

「気づいてたんだ」

「当たり前だ、ばかもの。何年一緒にいると思っている」

「・・・大丈夫、とは言い切れないかなあ。ほら」

布団から手を出す。

「やっぱり、あの巨体と真正面から戦うのは、怖かったよ。思い出すと、手が震えるんだ。情けないだろ」

「・・・いいや?」

キューちゃんは俺の言葉を笑顔で否定し、震えている俺の手をゆっくりと掴む。


「怖いものは、怖い。恐ろしいものは、恐ろしい。それは当たり前だ。人も獣も妖魔も、それは変わらぬ。何故、恐怖を感じる事を恥じる必要がある」

そして、キューちゃんはもう片方の手を、俺の手の上に被せた。

「情けない、というのはの。『怖い』という感情を、『恐怖した』という事を、誤魔化してしまう事だ。昔、お主自身が言っておったろうに」


「今は、震えればいい。身体の反応そのままに、身を任せろ」

「・・・」

「また、戦う時が来るのじゃろ?その時に備えるように、の」

その時は、また戦った後で震えればいい、とキューちゃん。・・・見透かされてるな。

「分かった、そうする。でも、キューちゃんに手を握られてたらね。何か恐怖が飛んじゃったみたいだ」

「はは、それは良かったの」


二人で笑い合う。









「ところで、襖の向こうの君達。何を聞き耳立ててやがるのかな?」

俺が言った途端、襖が揺れた。



「・・・へっ、バレちゃあ、仕方ない!」

と居直って襖を開け放つマダオ。ぶっ飛ばすぞ、おい。

あと、白。何で正座して聞いてるの。

再不斬。まだラーメン食ってるのかお前。でも、肩がびくっと跳ねたよな。それに、不自然に顔を逸らすな。もしかしてチャクラで耳強化して聞いてたんか。お前。




「っつ!・・・・お主等ァ!」

キューちゃんは握っていた手を急いで背中に隠し、入り口の方を向いて、マダオと白を睨み付ける。


だが、マダオは俺とキューちゃんの握り合った手を見たのか、ニヘラと笑った後、正座をしながら静かに襖を閉めた。




「・・・ごゆるりと」




パタン、と襖が閉まる。




「するか!待たぬか、お主等ァ!」





キューちゃんは、襖を破ってマダオ達を追いかける。




「・・・まったく」


手の震えは完全に収まった。


(相変わらず、退屈しない面子だな)








壁の向こうから、キューちゃんの放つ狐火による爆発音と、マダオと再不斬の悲鳴が聞こえてきた。













[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 24.5話
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2009/07/15 01:55







※注:今回はシリアス風味&オリジナル設定(独自解釈強目)があります。








雨の中、1人の少女が木にもたれ掛かり、空を見上げている。


「ちくしょう・・・」


赤い髪を持つその少女。名を多由也といった。

多由也は顔を伏せ、地面を見つめながら悪態をついた。


「ちくしょう・・・何もかも忘れたのに・・・なにを、今更・・・何もかも忘れた筈なのに!」

地面に自らの拳を打ち込み、顔を伏せたまま叫んだ。

世界を恨む、呪いの言葉を。

「ちくしょう・・・・!」


両手を地面に打ち付ける。何度も、何度も。泥まみれになろうとも、構わない。ただ、その悲嘆を両手に乗せ、そのまま地面に打ち付ける。



やがて、多由也は顔を上げて、自分が持つ笛を見る。

(母さん・・・)

これは、母の形見。病で死んだ母が自分に託したもの。今では、これが、母と自分を繋ぐ、唯一のもの。

目を瞑る。

(・・・そういえば、母さんが亡くなった日も・・・こんな風に雨だったな)

今では思い出せる。母が自分に遺した、数々の言葉を。




『音楽を学ぶ者にとって、大切なものは一つ。それは、文字通り音を楽しむことや』

『技だけが全てやない。人同士の関係と同じで、見た目はかなり複雑なことやけど、それはあくまで外郭や。根にあるのは、すごく単純。

・・・言葉で表すには難しいけど・・・多由也にも、いずれ分かる。きっとや』

『多由也。結局、ウチはアンタに何も遺してやれんがった。あの笛だけや、うちが遺せるのは』

『・・・ごめんな』




両手で、頭を抱える。

思い出したくない。ウチは捨てた。何もかも捨てた。生き残るために、力を得るために捨ててしまった。

(何で思い出す。あの時に捨てた筈だ・・・)





多由也を除く5人衆。次郎坊、鬼童丸、左近、君麻呂は大蛇丸様の傍についた。

多由也の役割は、監視であった。一尾・守鶴の人柱力である、我愛羅を監視する任務を命じられた。


5人の中でも最も聴覚が鋭いという理由で。





そして、監視の最中だ。多由也は見た。『それ』を見てしまった。



1人の、男の姿を。巨大な怪物を眼前に置き、それでも逃げない、出鱈目な男の姿を。




前だけを見て突き進む、その姿勢。その言葉。その意志。その覚悟。昔、絵本で読んだおとぎ話のようだった。



多由也はその後の出来事を思い出し、また歯を食いしばる。

それだけでは、思い出さなかった。

きっかけは、あの言葉だ。金の髪をした少年が、九尾の人柱力が、うずまきナルトが我愛羅に向けて言った、あの言葉。




『全力で抵抗する。それでも死んだら、仕方ないさ。最後まで、自分の生き方に関しては嘘はつかなかったと、胸を張って・・・あの世で誇るさ』



その言葉を聞いた時、体中に電流が奔った。

心の中の何かに触れた。そして、思い出してしまった。





夢を捨てて、母の遺志を忘れてしまったことを。




引き替えに、生き延びるための力を手に入れた。

結果、死なずにすんだ。生き延びられた。




(・・・それで?その先は?)

自問する。

男は断言した。

『いずれ、全部無くなるだけさ』

それが事実だ、と言わんばかりに。

・・・あれだけの力を持って尚、その終わりは変えられないという。それが不可避の結末だと、言うのなら。

(うちの選択には意味が無い。捨てて手に入れたものに、意味は無かった)

生き延びるために、大蛇丸様の配下になった。生き残るために、呪印を受け入れた。その度に何かを差し出した。

(大事なモノがあった筈なのに。それでも、ウチは諦めた)

その事は覚えていた。でも、何を差し出したのか、何を忘れていたのか・・・『忘れたモノ』さえ忘れていた。


(・・・呪印と、暗示か)


死を幻視させられる程の殺気。人格を変質させる呪印、というところか。

・・・元にある人格を蹂躙するには、酷く合理的な方法。好戦的な使える駒を作成する方法。


(でも・・・・何で)


目の端から、液体が零れる。これが雨の滴なのか、それとも涙なのかは分からない。


(何で、今更、思い出す。思い出させる・・・・いまさらっ・・・いまさら!)



力より大切なものがあると。

母から何度も聞かされた事も。

音で人を幸せにすると。

音で誰かの心を癒すと。




浮かんでは消える、過去の残滓。




両手で目を覆う。止まらない。頬に流れる水滴も、胸を襲う痛みも。

戻れる筈がない。かつての自分に。正気を取り戻したが、戻れる筈もない。この手は既に血まみれだ。

戦争の中、何十人もの忍びをこの手で・・・この笛の音で屠ってきた。

(・・・ウチは、ウチは・・)


答えがでないまま、身体はある場所へと向かっていた。


音隠れの里ではなく。


向かう場所は一つだった。

あの、うずまきナルトが営んでいるという、ラーメン屋台『九頭竜』へ。









~キリハside~


3代目が亡くなった。

あの、大蛇丸と戦って。



「・・・おじいさん」

家族のいない私にとって、3代目火影は祖父のようなものだった。

同時に、尊敬すべき忍びの頭領だった。



葬式は、戦いが終わった後、少しして行われた。あれから、ずっと雨が続いている。

(空が泣いているよう・・・)

雨の中、3代目を送る人達の顔を見る。みんな、泣いていた。3代目が木の葉からいなくなった事を、悲しんでいた。

(あれが、ジジイなりのケジメの付け方じゃったんだろ・・・)

自来也のおじさんは、虚空を見上げながらそう呟いていた。

かつての戦友が、兄弟弟子が、抜け忍が。胸中に渦巻く感情。その名は憎悪か、怨嗟か、悲哀か、後悔か、諦観か。

おじさんの五分の一程度しか生きていない私では押し計れない程、膨大な質量の感情がその胸の中で暴れているのかもしれない。




雨の中、傘をさしながら、私は里の中を歩き回った。

誰もが悲しんでいた。木の葉を照らす、優しい火の影が失われた、その事を悲しんでいる。



そして夕方。私は、里の外れで一つの灯りを見つけた。

雨のせいか、辺りは既に暗くなっている。その中で、淡い提灯の光が周辺を照らしている。



「ラーメン屋、今日もやっているんだ」

私はその火の輝きに誘われ、その方向へと歩き出した。



先客が1人いた、静かに、ラーメンを食べている。


「らっしゃい」


いつもの、メンマさんの声。

明るくもなく、暗くもなく。いつもの声色だ。


「こんにちは・・・?メンマさん、その傷どうしたの!?」


「ん?ああ、かすり傷、かすり傷」

と、腕の包帯を軽く叩く。


取りあえず、私が修行している間に新しくできた、『火の国の宝麺』というラーメンを頼む。


「あいよ」


背後には雨の音。目の前には、麺を煮込む音。



「おまち」






「・・・」

「・・・」

「・・・」

雨の中、静かに時間が過ぎる。

雨音が雨の数だけ。麺をすする音が二人分。

(滅茶苦茶美味しい・・・)

静かに、食べ続ける。

「美味しいかい?」

「「はい」」

私ともう1人の客が応える

「それはよかった」





しばらくして、私はメンマさんにある事を質問した。

「何のために・・・」

「うん?」

「何のために、人は戦うんでしょう。楽しくなんかないのに」

「そうだね・・・」

メンマさんは目を瞑って応えてくれる。

「きっと、理由があるからだろうね」

「理由?」

そう、理由、といって、メンマさんは指を一本づつ立てていく。。

「曰く、誇りの為に。曰く、夢のために。曰く、死なないために」

「・・・」

「自分だけの理由に従って、あるいは自らの誇りに従って・・・退かない。だから、ぶつかり合うんだ。世界は割と狭いからね。ましてや、この情勢だ」

「・・・そうですね」

そこで、メンマさんは戯けた口調で言う。

「俺からすれば、くだらない事だと思うよ。そんな事より、互いに腹割って、旨いモンでも食って、酒呑んだらいい。そうしたら、殺し合いなんて起きない」

「確かに、そうかもしれないですね」

互いの事を知れば、殺し合いなんか起きないかもしれない。

「俺なら、敵を目の前に叫んでやるね。『俺のラーメンを食べろぉ!』って。何せ、命賭けてる自慢のラーメンだ。食べたら、いちころだぜ」

「ふふっ」

親指を立てて笑うメンマさんの姿が可笑しくて、私も思わず笑い声が零れる。

「まあ、俺はまだまだ未熟だから、そう簡単にはいかないからね。木の葉隠れの忍者さん達にゃあ、感謝してるよ」

「いえいえ、メンマさんのラーメンのおかげです」

「ははっ」






「ありがとうございましたー」





メンマさんの声を背に、家路を辿る。



雨はもう、止んでいた。





(メンマさんも戦っているんだ)

悲しい表情を見せないで、美味しいラーメンをご馳走してくれた。腕を怪我しているのに、痛む素振りもみせず、私を元気づけてくれた。

(あそこが、メンマさんの戦場なんだ)

命を賭けているという言葉に嘘はない。私は、そう感じた。

「自分の戦場、か」

呟く。

おじいさんが自ら思い、そして選択した戦場。それは、木の葉隠れの里を守るため。火影としての存在を示すため。

最後の戦場。託されたのは何か。それは、火の意志だ。

誰かの戦場を汚さないように。それぞれの役割を壊さないように。

3代目の遺志を受け継ぐというのならば。木の葉という、大きな家を守る・・・木の葉を照らす、優しい火の影になる。

そして。

(今日は、たくさん泣こう。そして、明日からはまた笑おう)

いつまでも泣くのはやめよう。それは、『おじいさん』が望む事だとおもうから。















~メンマside~




(さて、どうするか)

目の前には、1人の客。

『あの音隠れのくの一だよね』

(ああ。でも、随分とチャクラの質が変わってる)

前のような、汚いチャクラではなかった。

そのせいで、始めに方は誰だか分からなかった。注意深く探らなければ、見分けられなかっただろう。

(・・・今は、迂闊な事はできない)

あの騒動の後だ。暗部が定期的に辺りを見回っている。ばれるリスクは避けたい。

それに、多由也に正体がばれているとも思わない。

『そもそも、正体を知られているなら・・・1人でここにはこないだろうし、ね』

静寂が満ちている空間。音といえば、時折吹く風が木々を揺らすぐらい。

そんな中、変化した多由也が口を開く。



「店主さんは」

「ん?」


「店主さんは、夢を諦めた事がありますか」

「・・・夢を?」



「・・・生き延びるために、夢を諦めたことがありますか」



多由也は言葉を一端切って、また意を決するように話しかける。


「夢のために生きたとして、それでも道を踏み外して・・・夢とは大きくかけ離れた場所で・・・戻れないところまで来たら。そこで、終わりになるんでしょうか」


言葉の途中で、質問から自問に切り替わる。混乱しているようだ。

(何を言えばいいのか、分からないといったところか)

そして、答えが欲しいと叫んでいる。



取りあえず、質問には答えよう。


「起きてみる夢に終わりなんてないよ。終わらせる事はできるけど」

「え?」

「寝ている間に見る夢が終わるのは、起きた時だけど・・・起きている間に見る夢が終わるのは、諦めた時だけだから」

「・・・夢を叶えたら、終わりじゃないんですか?」

「次の夢があるだろう。次を見ないで現状に満足したまま、というのは・・・見たくないと同義だ。上を見るという事を、諦めることと同じ」

「いつになれば終わるんですか?」

「生きている限り、いつまでも」

「夢を見る資格を、無くした場合でも?」

「それは、罪を犯したから諦めるという事?うーん、どうだろうね」

罪を犯さない人間なんて、いないし、資格、というのがそもそも分からない。程度の問題か?誰が判断するんだろう、それは。

「綺麗に生きられたらいいけどね。でも、それが無理な場合もあるだろう」

誰も、殺したくなんてない。でも、生き延びるためには、という時も確かにある。それが未熟さ故の罪だというのなら、一体誰が許されるというのだろう。

それじゃあ、生まれが全てになってしまう。それは違うと思う。

「選べる道なんて、多くなかっただろう。どこを見ても、間違いだらけの選択肢。そんな中を、必死に生きてきたんだろう」

「・・・はい。あの、どうして」

「いや・・・君の瞳を見て何となく、そう思った」

これは、半分が嘘だ。推測の情報源は、昔の噂。

音の里が興される前後だったか。各地で子供、それも浮浪児や孤児が失踪する事件が多発しているという事を、風の噂で聞いたことがあった。

(大蛇○のやりそうな事だ)

「・・・ウチは、思い出した事があるんです」

「それは、夢?」

「はい。でも、ウチはそれを忘れていて・・・最近、思い出したんです。でも、今更戻る事なんて・・・」

「例え、罪を犯したとしても。過去に苛まれながらも、それでも見たい夢があるんなら」

「・・・」

「こう、シンプルに考えればいい。夢を諦めて今の道を進み続けるか・・・あるいは、過去に魘されながらも、夢を追い続ける事を選ぶか」

「二つに一つ、という訳ですか」

「シンプルだろう」


多由也は、胸の辺りを抑えた。そこに隠している何かを、確かめるように触れて、数秒間考えていた。

そして、立ち上がる。

「お客さん、お勘定」

俺がそういうと、多由也が慌ててラーメン代を出そうとする。


が。


「あ」

急に、ポケットを探り出す。どうも、お金を持って無いみたいだ。

こっちに背を向けながら、どこかにお金が無いかを、一生懸命探している多由也。

俺は苦笑した後、背中を叩いて、優しく話しかけてやる。

「いいよ。ツケにしておくから。クサイ台詞を聞いてくれた礼と思ってくれていい」

多由也は顔を真っ赤にした後、小さい声で返事をする。

「・・・すいません。それじゃあ、また来ます」



頭を下げる。そしてその後、

「決まったか?」

「・・・はい。ありがとうございます」

例え変化の術を使ったとしても、目の奥の光まで変えられる訳じゃない。

その目を見て、俺は頷いて、笑った。


「そう。じゃあ、お気をつけて」


悠然と立ち去る背中を、俺は静かに見送った。











『よかったの?』

「色々と、ケジメつけに行ったんだろう。縁があればまた会うさ」







[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 二十五話
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2009/07/15 21:33








何故、こんな事になったのだろう。







今の状況を歌にしてみた。







あーるーはれたー、ひーるーさがりー、やーたーいーをひらーいたらー♪


イーターチーとーキーサーメーが、ラーーメーンをたべーにきたー♪




(かーわいーいキューちゃん、さらわれていーくーよー)




『何を・・・!』



(てれくさそうーなー、ひーとーみーでー、みーてーいーるーよ♪)



『○ナドナドーナードーナー♪っておーい。いい加減帰ってこいよー』

見事なノリツッコミ。やるね、マダオ。

『主旨はそこじゃないから。って聞いてる?』

(・・・なあ、マダオ。俺、このラーメンを作ったら結婚するんだ・・・!)

『いや、無理に死亡フラグ立てなくていいから。つか誰と結婚するの!相手いないでしょ!』


・・・死のう。鬱だ。


『待って、待って、待って!戦わなきゃ、現実と!』


(つまり、現実は敵なんですね。わかります)


・・・ああ神様、神様よう。


(お前ら絶対に敵だー!)

クオ・ヴァディス・パテル!(我が神は何処!)



『いいかげん、漫才止めろ・・・もぐぞ?』

キューちゃんの声が怖かったので、元に戻りました。

(からかわれたのが分かったのか、怒り心頭のキューちゃん。赤く光った彼女の眼光は間違いなく本気を示すものでした---じゃなくて)

あまりにも、危険が危ない状況に、頭を抱えそうになる。

が、何とか思いとどまった。

(怪しまれるのはゴメンですたい)



次から次へと厄介ごとがまったくもう。そんなに俺の運を試したいのか。ハードラックとダンスさせたいのか。

今回はいくらなんでも厳しいっちゅうの。ばれたら終わりじゃないすか。

その場合の展開。流れとしてはこうだろう。


ばれる→戦闘→負ける→な、何をするきさまらー!


あるいは、こうだ。


ばれる→戦闘→勝つor逃げきる→十中八九満身創痍になる→木の葉の暗部or根に見つかる→捕まる→な、何をするきさまらー!


どうやっても、ガ○ハドの後を追う事になります。

『うずまきナルト、ゲットだぜ!』

うるせーよマダオ。誰がゲットされるか。

でも、そんな事になったらもう・・・!

(確実にジ・エンドです。ダス・エンデです。ゲームオーバーです。投了です。ありません)

もてる男は辛いぜ。本当に辛いぜ。死ぬほど辛いぜ。いっそ殺せ。

『ビークール、ビークール、ステイステイ』

あ、クをグに変えるとス○ーピーになるねー。

『誰がうまいことを言えと』

『だから落ち着け、馬鹿共』

(・・・ええと、気を取り直して。取りあえず、正体は気づかれてないよね?この二人、普通に注文しようとしてるし)

『どうやら気づかれてないようだけど・・・警戒を怠ったらダメだよ』

マダオの真面目な声。

つか、警戒しすぎても藪蛇になりかせん。

もしばれたら、逃げるしかないか。この二人が相手じゃあ、勝ち目ないし。

(世界はこんな筈じゃないことばっかりだよ・・・)



注文を聞きましょうか。


「木の葉風ラーメンで」

干柿の鬼鮫さん。注文は木の葉風ラーメン。共食いですね、わかります。いや、魚介系と言っても魚だけじゃないんですけどね。

というかこの切り裂きポチョムキンっぽい人、帰ってくれないだろうか。ガーリックトーストを3回唱えるからさ。

それと、チャクラ量が馬鹿みたいに多いんですけど。それに、この大刀。ヤヴァイ臭いがぷんぷんします。

あと、口。口が、全部とんがってる。何これ、怖い。



「・・・火の国の宝麺」

そして隣のうちはイタチさん。つか、眼、眼!隠せよ!隠れないのかよ!

いや、見せるのが目的か知らんけど、全然忍ぶ気無しだよね。ああ、だから里外れのこの店に食いにきたのか。

そういえば、相対する事考えてなかったけど、万華鏡写輪眼はどうしよう。月読はいいけど、天照が怖い。

視界に入ったら終わりって、あーた。無茶にも程がありますがね。

何というチート。大蛇丸とは別の意味で、心底やりあいたくない相手です。




取りあえず、会話、会話をしよう。空気がもたん。

「・・・注文は以上ですか?」

ああ、と返事をするお二人さん。

慎重に、慎重に、と。




食事をしている間は普通でした。

これが不味いラーメンだったら、どうだったんだろう。やっぱり、不味い、死ねとか言うんだろうか。

(いや、でもこの二人は常識人っぽいしなー)

・・・着ている服以外は。




つつがなく、食べ終わりました。普通に代金を払ってくれました。「金が無いので死ね」、とか言われなくてよかったよう。


「ありがとうございましたー」

心の底からお礼を言おう。

本当に、何事もなくてよかった。



「旨かったですよ」

見た目常識人の鬼醒さんからの賛辞。嬉しいんだけど、嬉しくない。こんな時どういう顔したらいいか分からないんだ。

『笑えばいいと思うよ』

笑いました。すると、鬼鮫さんに笑みを返されました。顔の怖さが倍増しました。

(恫喝しているようにしか見えん)

歯が怖いって。頭から囓られそうで。



「・・・」

黙って頷くイタチさん。この世界でもダントツの、不幸な生い立ちのせいでしょうか。

背中に漂う哀愁が酷い。10代には見えませんよ。





やがて、二人は里の方に消えていきました。






『ひとまず、家に帰ろうか』


(ああ)

影分身を代わりに残して、急いで家へと向かった。









「再不斬!」

「何だ?そんなに急いで」

「えーっと・・・・あった」

水晶球を出します。

そして、術を発動。

「遠眼鏡の術」

そこに、さっき去っていった二人の姿が映る。

「こいつは・・・!」

再不斬が驚く。

「しっ、静かに。落ち着いて。取りあえず、相手の動きを分析しよう」

「しかし、相手に気取られないのか?」

「気取られる。でも、見ているのが誰かまでは、分からない」

迂闊に近寄ってばれる方が怖い。

だが、この二人の戦闘は見ておきたい。

まず相手の動きを見てみない事には、対策も立てられん。S級犯罪者だ。戦術の引き出しは馬鹿みたいに多いだろう。

基礎の能力だけでも、人づてではなく実際の目で見ておきたい。

「・・・最後に会った時より、動きが良くなってやがんな。それに、隣の・・・」

「ああ、うちはイタチね。あのサスケの兄貴。同じ、S級犯罪者だ」

「印のスピードもそうだが、身のこなしが異常過ぎる・・・天才、というやつか」

「そうだな・・・お、出るぞ」

カカシは一瞬硬直した後、前に崩れ落ちた。今の一瞬で、一日中戦い続けた後のように、疲労している。

「傍目で見ていると、異様だな・・・これが、万華鏡写輪眼の特別な幻術、『月読』か」

ガイのように目をあわさずに戦うという戦法もあるにはあるが。

「そうしたら、天照を避けられないんだよなあ・・・」

尾獣の力をコントロールできる人柱力なら、月読は効かないので相手にできるが・・・。

(他には・・・同じ万華鏡写輪眼を開眼した、サスケだけか)

それ以外の忍びでは、相手の仕様がない。死角が無いのだ。数で挑むにも、隣の鬼醒が厄介すぎる。

あのチャクラ量に、チャクラを喰らう大刀。そして、多様な水遁系忍術。

「極めつけは、あの・・・水遁・爆水衝波だったっけか」

「・・・ああ」

チャクラ量に頼んだ、力業。水遁使いに有利なフィールドに変えてくる。

水場の傍とか関係なく、常に高いレベルで自分の能力を発揮できす。一定の強さを保てるわけだ。




やがて戦闘は終わり、二人はカカシに止めをささずに去っていった。

「・・・それにしても野郎、何しにきやがった」

「恐らくは、俺を捜しにきたんだろうね」

目的はそれだけじゃないと思うけど。

『木の葉にいる、ってことを嗅ぎつけたと思う?』

(それも分からん。マダオはどう思う)

『可能性の問題じゃないかな。潜伏するには最適な場所だし』

(バレるってことも想定しておいた方がいいか)




「ふいー、しかし、九死に一生でした」

店に戻って一息つきます。



ああ、愛おしラーメンよ。おお、麗しのラーメンよ。

私は帰ってきた!

うきうき気分で、昼飯分のラーメンを作る。

全力で食べて、全力で癒されよう。さっきの一件で、どうも胃が痛いし。いや、ほんとにやばかった。

『大丈夫?・・・って、あれは、サスケ君じゃない?』

ラーメンを作りかけた時です。サスケがいました。何かすごい顔しながら、全力で走ってる?・・・あ、そうか。イタチ帰ってきたのを、聞いたのか。

(・・・追うか)

イタチとサスケの事。どうするか、まだ決めているわけではなかった。

情報を売ってどうにかするか、あるいは放っておくか。

(・・・マダラ対策にも、必要になるか・・・味方につけておいた方がいいかもな)

蛇の道は蛇。写輪眼には、写輪眼。それが恐らく、一番良い方法だろう。マダラの能力が不明な現状、イタチは何とでもこっち側に引き込みたい。

共通する敵もいることだし、何とかなる・・・かもしれない。

(どっちにせよ、ダンゾウは絶対にどうにかしないといけないし)

昔の襲撃の一件。『根』の首領であるダンゾウが絡んでいないとは思えない。暗部の暴走に一枚かんでいても、なんらおかしくない。

(あの結果、引き起こされたであろう、事態・・・三代目の発言力の低下、威信の低下・・・あるいは、責任問題にまで発展させようとしたのかも)

推測にすぎない。でも、どちらにせよ同じ事だ。

いずれ、普通に暮らしていくには障害となる人物。話してどうにかなるとも思えないし。

(ま、それは置いといて)

考える猶予が欲しい今・・・あの二人は会わさない方がいいと判断した。




速いといっても、所詮は下忍、せいぜいが中忍レベル。

追って間もなく、すぐに追いついた。そして、殺気を放つ。


「・・・・っつ!?」

振り返るサスケ。でも、遅い。


「ぐあっ!?」

瞬身で背後に回って、首筋への一撃を放つ。しかし、首を捩られ、狙いがはずれた。

(反応良し。以前よりは、成長している)

「誰だ!?」

(・・・答える馬鹿はいないだろ)

そのまま、正面に立つ。


一瞬の停滞。


サスケが写輪眼を発動する。


それに構わず、俺は一歩踏み込んだ。


「喰らえ!」

こちらの動きを先読みして、サスケが拳を突き出す。

だが、俺の踏み込みは虚動だ。

放たれた拳を避けながら、また虚動の拳を見せ、上半身に意識を集中させる。

そして、下からの攻撃。

「何!?」

(足下がお留守ですよ)

足払い。サスケは避けられず、体勢を崩した。

(ああ、やっぱりか)

身体の運用は大したもんだけど、判断する思考の方が疎かだ。

誰にも師事した事が無い者、特有の状態。

(目だけ良くてもねえ)

通じるのは、格下だけだよ、それじゃあ。

ため息を吐きながら、体勢が今だ崩れているサスケに掌打を放つ。だが、それは防御された。いや、防御『させた』。

当てた手のひらを開き、防御するサスケの手を掴む。そして掴んだ手で、腕のガードをこじ開ける。

「ソーラープレ○サスブロー!」

そして、ガードが開いた先に、拳をねじこむ。本気でやるとゲロ吐くので、弱設定。

「・・・・っ!」

急所であるみぞおちへの一撃。息ができないだろう。

動きを止めたサスケに近寄り、気絶させるために掌打を放とうとするが。


「くそっ!」

予想より早く立ち直ったようだ。後方に飛び退く。そしてそのまま、逃げようと背中を見せるが---


(だが、逃がさない)


印を組む。忍具口寄せ。精霊麺。


「・・・フィッシュ、オン!」


練習用に作った時の残り。簡易版の精霊麺を放つ。先ほどの鳩尾打ちで、チャクラのマーキングは済んでいる。

封印の効力は弱いし、本数も少ないが、サスケ程度ならばこれで十分。


「くそぉ!」

簡単に捕まえられたサスケが、忌々しげに叫ぶ。

「じゃあ、おやすみ」

顎へ、左右の掌打を当て、意識を刈り取る。

呪印を解放されたら面倒になるので、早めに昏倒させました。







「疲れた・・・・」

サスケは病院前に放置してきました。お医者様、後は頼み申す。

(今日はイベントが多すぎる。それも嫌なイベント)

誰か俺に癒しをくれ・・・。

『お疲れ様』

ほんとに疲れたよ。次から次へと。





そして、ラーメンができあがった時です。

「いただきまー・・・・・おいおい」

周辺を巡回していた、暗部の気配が遠ざかる。

複数の組が一定間隔で見回っているので、この屋台の近くに来る時もあれば、少し遠ざかっている時もある。

木の葉隠れは広いので、常時全体を見張ることなどできないからだ。

だが、今は少し違った。




(不自然に、遠ざかり『過ぎて』いる・・・・!)





ぽっかりと、空いていた。この屋台の周辺だけ。








そして、そのすぐ後。






とある人物が屋台の前に現れた。









『その時、特派員が見たものは!』








三忍が1人、自来也。












このタイミングで現れるということは・・・あーあー。


「・・・厄日、決定だな」


『同意しとこうか。で、どうするの?』







さあ、どうしようか。





取りあえず、俺に優しくない神にでも、祈っておこうか。



















[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 二十六話
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2013/08/14 23:14







「・・・ニンニク風は食べ終わってもニンニク味やで。分かっとるんか、くそトンガリ」


   ~小池メンマのラーメン風雲伝 「宿敵!狼麺牧師!~十字架と鐘の音に~」より抜粋










「火の国の宝麺を」

「あい、宝麺一丁承りやした」

静かに、注文と受け答えを交わす。

(さあ、みんなで考えよう。ばれた、と仮定する。だけどその場合、どこでばれたんだ?)

『横取り40萬! ………じゃなくて。まあ、はっきりとは分からないね。でも一番可能性が高いのは、木の葉崩しの時か守鶴戦の後からだろうね。身体の痛みと疲労のせいで、警戒が薄くなっていたあの時だろう』

通常状態ならば、気配に気づけたかもしれない。

でも、あの時は。タイミングが悪かったようだ。

(時間的にもぎりぎりだったからなー。まあ、それはいいとして)

問題は、これからどうするかだ。

『ばれたとして、何か不都合があるのか?』

(それも分からない。自来也の思惑もそうだけど、木の葉内で俺がどういう風に思われているか………同期かつ友達だったいのしかちょうの3人や、カカシとか………あと4代目に近しかった人は別として。それ以外の忍がどう見てるかによるね)

『そうだね。友好的ならば、良いかも知れないね。でも、その逆の場合も、十分に有り得る」

その時は、木の葉を出て行くしかない。

前門後門となる前に、隙を見て逃げ出そう。留まっても泥沼になるというならば。

『でも、その場合は暁が厄介だね』

(ああ。イタチと鬼鮫を見て分かった。ありゃあ、化け物集団だ。1人で相手するには厄介すぎる)

何気ない普段の動作から見える技量。基礎からして、普通の上忍とは比べものにならないと分かった。思い知らされたと言って良い。S級犯罪者の称号は伊達じゃなかった。

それに、どいつもこいつも結構な異能持ちだ。もしガチの殺し合いになったとして、再不斬と白を巻き込めるかどうかも分からない。

『あの二人は暁対策の援護のつもりで雇ったんじゃないの?』

(俺としては鬼鮫対策のつもりだったんだけどな。でも、同じ鍋つついた中だろ?できる限り、死なせたくないとか思っちまうよ)

実際に暁のような猛者と戦れば、5割の確率であの二人は死ぬだろう。

それほどまでに暁の連中は規格外だ。

紳士を名乗る拙僧としては白みたいな良い娘を死なせたくはないし、悲しませたくはないで御座る。おまけで、再不斬もね。

『雇ってみたはいいけど、巻き込みたくないってこと? 本末転倒だね。まあ、それが君の良いところなんだだけど』

『ふん、ただ甘いだけだろう。お主自身の安全はどうする。誰よりもお主が一番、危うい立場におるのだぞ』

(そこなんだよなあ)

『それに、あの二人も忍びだ。受けた依頼は果たすじゃろうに』

(それでも、だよ。最終的に死なせずに『勝つ』ビジョンが浮かばないからにはね)

このままじゃあ、ダメな気がするが・・・いまいち、ふんぎりがつかないな。



ばれないのが最上なのは変わらないけど。でも、ばれた時の事も考えておかないとなあ。




ラーメンを出す。食べる自来也。


二人の間に、沈黙が横たわる。



やがて、その沈黙を切り裂くように、鋭い声色で自来也が話す。


「………メンマ、3代目の事は知っているな?」

「はい。みなさん、悲しそうでしたね」

「………当たり前だ。あの爺いだからの」

こちらの返事に相づちをうたず、自来也が懐を探る。

そして屋台のテーブルに置かれるは、蛙が一匹。


「あの、これは?」

「この蛙はの――――連絡用の口寄せ蛙だ」




瞬間、空気が凍った。



だが、まだ“終わって”はいない。


「・・・はあ、それが何か?」

ひとまず、とぼけてみる。

「前に、カカシが里に侵入した賊に倒されての」


あ、あの時か。う、話しの流れが不味いな。


「カカシは里一番の忍びと言ってもよい。そのカカシが倒される程の相手・・・ワシは警戒して、里中にこの蛙を放っておった」

「はあ」


生返事をするも、冷や汗が背中を伝っていく。



「そして、その中の一匹がの。あの本戦の会場におった」



その言葉に戦慄する。そのせいか、あの会話を聞かれていたからか。


「そして、あの時、大蛇丸が去った後に爆発した煙玉の煙の中、一匹だけ屋根の上におった………後は、分かるな?」


断言する口調。こちらを睨む自来也。でも、それは逆に言えば、証拠ともなる。


(断言はしない。ということは確かな証拠がなく、そうだという確信には至っていないということか)

『そうだね』

確信を得ていているなら、それこそ問答無用だろう。こういう、遠回しな方法を取る必要もない。

今の流れから、あの時の俺と3代目のやりとりを聞かれていたのは確実だ。

だが、肝心の接点が見つからないとみた。




『木の葉にはラーメン屋が結構多いからねえ。それに、全部の言葉は拾えなかったみたいだね』

予測だが、恐らくその通りだろう。



悩む俺に構わず、自来也は決定的な問いを発してきた。






「それで・・・どうだ?いい加減、正体を現してみんか?うずまきナルトよ」


来た。






(冷静に、自然に答えろ・・・!)

動悸が止まらない。だが、ここは普通に受け答えしなければならない。







俺は極自然な動作で前髪を掻き分け、笑いながら答えた。










「そんなんちゃうで」










(いかん、動揺のあまり関西弁になってしまった・・・!)







不自然にも程がある。

あ、自来也さんが半眼でこっち見てる。






(・・・今思いついたんだけど、愛と平和に訴えるのはどうだろう)

『愛と平和?・・・いや、先生の場合だと「エロと自由」の方が効果的かと』

ですよねー。

『だが、誤魔化しが効く雰囲気では無さそうだぞ』

(まあ、流石にね)













・・・仕方ないか。














「・・・一つ。一つだけ、聞きたい事が」



「・・・なんじゃ?」



周りの空気が緊張の色を帯びる。






「アンタは、俺の敵か?」





聞きたい事を要約すれば、これに尽きる。俺を害す存在なのか、そうでないのか。

俺の言葉に、自来也は目を逸らす。

自来也は数秒沈黙した後、口を開く。


「・・・少し前までは、どう思っておったのか」

ゆっくりと、水を飲む自来也。

「姿を隠し続けるお前に、疑念を抱いていたのは確かだ。だがの」

蛙を静かに撫でる。

「あの時、3代目と・・・ジジイと交わしていた会話で、あのジジイの死に顔を見ての。お主の事が分かった気がした。だから、こう言おう」

似合わない、真摯な眼差しでこちらを見つめる。




「ワシはお前の敵ではない」






返事を受け、辺りを見回す。そして、誰かに見られていないか探る。






「そうっすか・・・じゃあ、よっと」




掛け声と共に、変化を解く。




「・・・若い頃のミナトに似ているな」


しみじみと感慨深げに呟いく。


静かに、自来也は泣いた。














その後は話し合い。いや、拳は使いませんよ?

「しかし、それだけの術を何処で覚えた?1人ではその域には辿り着けないじゃろう・・・それに、あの螺旋丸を応用した超高等忍術。師は?」

「え?この人だけど」

ど印を組んで口寄せ。

「召還、Q&M!」




ドロンと煙が立ち上る。



「お呼びとあらば即参上!」

「ぶふぅっ!」




膝を付いて両手を広げるマダオ。ポーズ取るなきめえから。

あと、自来也が呼吸困難で死にそうなんだが。




「ミミミミミナト!?」

「あ、言っとくけど、穢土転生じゃないからね」

一応、言い含めておく。



「・・・九尾の襲来で、死んだと聞いたがの」

「はい。あのとき、僕は確かに死にました。今いる僕は、封印の術式に篭められた、ただの残滓です。人格は波風ミナトそのものですが」

「ただの変なおっさんだろ」

「そうです、私が変なおっさんです・・・って酷くない!?君も人の事言えないと思うけど」

「一緒にすんな!」

「まあ、五十歩百歩じゃの」

「キューちゃん!?」

漫才をする俺等をよそに、自来也は呆然としたまま。



「あー、ゴホン、そして、童女は何者じゃ?もしかして・・・」

「九尾のキューちゃんです」

頭を抑える自来也。

「・・・はあ、何から驚いていいのやら。そういえば中忍試験に潜り込んだ忍びがおったと聞いたが・・・」

何やら考え込む自来也。

「その中に、金髪で着物を着た童女の姿をしたものがおったとか。あれは、おぬしらか?」

「その通りで御座います」

一礼をするマダオ。そのネタMエロ仙人には分からんから。




「まあ、つもる話しは後にして」

「この先の事、じゃな」

「えっと、知ってるかもしれませんが、俺は木の葉に戻る気ありません。だからどうしましょう。逃げていいですか?」

その気になれば、すぐに逃げられる。印を組んで、自来也に問うた。

「・・・むう、やはり木の葉に戻る気はないか。じゃが、この里には留まって欲しいのじゃが」

やっぱり、去って欲しくないか。まあ、四代目の忘れ形見だもんなあ。

「・・・じゃあ、条件付きということで一つ。留まるに当たって、自来也さんにはいくつか、守ってもらいたい事があるんですど」



「なんじゃ?」

「1、俺の正体を木の葉側に公表しないこと」

「それは・・・」

「俺の存在については・・・まああれこれ言ったって、暗部を含めた木の葉の忍び全員を納得させるのは無理でしょうから。

一部の馬鹿が勢いで突っ走らんとも限らんし、知っている人数は最小限でお願いしまっす・・・二度目は嫌ですし」

「・・・それは、仕方ないか」

「メンマ=ナルトは、綱手姫と自来也さんだけで。これは絶対に徹底して欲しい。生きている事実は・・・四代目と同期の面々と、カカシ」

「前半については分かった。だが、後半はもうみんな知っておるぞ」

「は!?」

「いや、三代目が事切れる時、傍におったじゃろ?色々と怪しまれておったからの・・・」


そうだったのか。危ない危ない。

「疑惑は晴らしておいた。色々とぼかしながら、の・・・そうじゃ、前半の条件についてじゃが・・・妹のキリハも駄目なのかの?」

「あー、心の準備が出来ていないので、もう少し待って欲しいっす」

「・・・そうか」

自来也もそれ以上は言ってこない。かつての事件、あの時里に居なかった事に負い目でもあるんだろう。

(まあ、こっちはもうすっぱりと割り切ってるんだけど)

向こうにはわだかまりが残っているか。



「2、俺の仲間には手を出さないで欲しい」

「仲間?」

「いや、雇った忍びが二人いるんすよ。霧の鬼人と将来有望な美少女が1人」

「忍びを雇った?何故じゃ」

「いや、『暁』対策にちょっと」

「・・・『暁』についても、知っとったか」

「ええ、まあ。さっきも暁のメンバーの二人がラーメン食いにきましたし」

「・・・先ほど、報告で聞いた。うちはイタチと干柿鬼鮫がこの里に来たそうじゃの」

「狙いは恐らく俺でしょうね」

「そうじゃろうな。で、正体は?」

「ばれてませんよ、まだ。ただ、居るならばこの里といった風に当たりは付けているでしょうね」

探索途中だろうが、いつまでも隠し通せるかどうか。



「まあ、それはおいといて・・・この二つを約束してもらえれば、逃げません。木の葉に留まりましょう。逆に、破れば二度と戻ってきません

全力で姿を隠しますから、もう二度と会うことはないでしょうね」

「・・・そうなれば、ジジイもキリハもミナトもクシナも、悲しむの・・・分かった飲もう、その条件」

横のミナトを見ながら自来也は了承の返事をする。



その回答を聞き、俺はひとまず安堵のため息をついた。

(良かった・・・一時はどうなることかと)

今更、ここから去るのも何だったし。これでいいのだろう。全てが丸く収まったとも言えないが。




「まあ、代わりといってはなんじゃが・・・一つ頼みたい事がある」

「何ですか?」

「・・・今から、ワシとキリハは綱手の探索の任務に当たる。その探索を手伝って欲しい」

「今このタイミングということは、五代目火影の要請が目的ですか?」

「ほう、よく分かるの」

「そりゃあ分かりますよ。三代目の死後、今木の葉はトップが不在。それじゃあ、色々と問題あるでしょうから。

綱手姫なら、火影になるに申し分ないでしょうね。力量も、血筋も」

三忍の1人で、初代火影の孫だ。反対の声が上がる事もないだろう。

「その通りじゃ。そこで、お主には護衛を頼みたい」

「・・・何で、俺が?」

「戦後の片づけで、皆忙しくての。それに、大蛇丸の奴が腕の怪我を治そうと、綱手に会いに行くかもしれん」

「その周りには、音隠れの忍びがいるでしょうね・・・」

十中八九、護衛の忍びがついている。

「探索は必要じゃが、大勢だと余計に目立つ。暁が動き出している今、むやみに目立つのは避けたいからの。

「少数なら、精鋭を揃えた方が良い、ということですか・・・え、それじゃあ、キリハを連れて行くのは何故ですか?」

「いや、むさい男ばかりだとあれじゃし・・・」

可愛い孫と一緒に旅をしたいんですね、わかります。

「えっと、先生?」

静かに、自来也の背後に立つマダオ。手にはクナイ。ちょっと刺さってる?

「・・・いや!見聞を広めるためにのお!」

誤魔化すように大声を上げる自来也。だが、マダオは怒っている。

「隙あり!」

「くっ!」

無駄に高度な体術を使って、自来也が危機を脱する。


(・・駄目だこのエロ仙人、早く何とかしないと)

静かに対峙する二人にため息を吐きながら、とりあえず了解ー、と返事をする。

だが。



「はあ!」

「ふっ、腕を上げたのお、ミナト!」


拳で語り合う師弟。二人とも聞いちゃいねえ。





(正直、いい加減、平穏な日々を、送りたいんだけど!)

空への叫びは、虚空に消えた。

神様のバカヤロウ。





拳で語り合う師弟を外に、俺とキューちゃんは閉店の準備をする。


「まあ、ここで要請に断ると、色々と面倒になるからの」

自来也に聞こえないよう呟いたキューちゃん言葉に、俺はそうだねと頷く。


素性については色々と納得してもらえたが、それで信頼を勝ち得たとか思ってない。まだまだ、これから油断はできない。

出した条件を確実に呑ませるためにも、ここは応と答えなければ後々に響いてしまう。


(ままならないねえ)

「ままなる人生はお主には似合わんよ。そもそも」

(それも悲しいねえ)

腕を組んで断言するキューちゃんに向かって、俺は泣いた。

「じょ、冗談じゃから泣きやまぬか!」

焦ったキューちゃんの顔に癒されました。











「と、いうことで出発!」

「あの、おじちゃん?」

「・・・何もいうなキリハ。いや、いわんでくれ」

「ラーメン食べたい」

「ワシは稲荷じゃ」


当初の予定を逸脱して、ここに5人のパーティーが組まれた。


「まあ、いいか」

それですませるあたり、キリハもキリハだった。


「いざ往かん、年齢詐欺師を迎えに!」

「・・・おまえ、それ絶対に綱手の前で言うなよ!」


前途多難の旅が始まった。




[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 二十七話
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2009/07/25 22:43




※注 オリ設定がたくさんあります。無理な方は飛ばして下さい。









「食べたいものー食べたモン勝ちー、せーいーしゅんならー♪」

「おひさーまーみたいにーわらうー、麺ーはどこだいー♪」

「「wow、wow」」


マダオと二人、一行の先頭で歩きながら歌う。

姿は、中忍試験の時のものだ。

キューちゃんはそのまま。
マダオはグラサンかけた、黒髪の少年の姿。
俺は赤毛の少年。「春原ネギ」の姿。


「あの、キューちゃん?あの二人でかい声で歌ってるんだけど、止めなくていいの?」

「・・・馬鹿は止まらんしの、馬鹿は」


「何か、キューちゃんも苦労してるんだね」

「色々と、の」

頭痛がするのか、頭を手で抑えるキューちゃん。すまんね。でも君は良い突っ込み役だよ。後で稲荷買ってあげるから。


「・・・ワシは目立ちたくないと言ったんじゃが」

頭を抑えるエロ仙人。知るか。俺の平穏を崩しやがって。このドが付くエロ野郎。あんた今、俺の中での最低番付の大関だよ。




まあとにかく。背後から色々と聞こえてきますが、無視して歌います。

周囲の気配なんか感じねーし。隠れに隠れて8年以上、通常時ならば気配を読み間違えるような愚は犯さん。

それに、旅に歌はつきものでしょう。




「でもまた会えたねー、キューちゃん」

「まあ、の。しかし、お主はワシらの事を警戒せんの」

「え、だって自来也のおじちゃんが連れてきた人だし、それに前にも何回か助けてもらったし。それに、私には悪い人には見えないんだ」

「・・・その根拠は?」

「うーん、勘かな」

「キリハの勘はよく当たるからのう」

「それだけじゃあすまされん気がするのじゃが」

「まあまあ」


結構アバウトだよねー、木の葉隠れの里って。

素性不明のカブトとか受けいれるし、スパイもたくさん居るし。





「で、やってきました短冊街」

「おお、祭りか!」

「ラーメン食いにいこうぜ、ラーメン」

「それより宿探しの方が先でしょ・・・先生、お金持ってますよね」

「当たり前じゃろ」




取りあえず、部屋に入る。

部屋割りは男女別々だ。取りあえず部屋を確認した後、祭りを見に行こうと二人をさそう。

「あれ、残りの二人は?」

「ああ、マダオと自来也さん?何か、話しがあるとかで、部屋の中にいるよ。少し話しをした後に来るから、ちょっと待ってて、らしい」









「それで、どういう事じゃ?昨日は聞けんがったが、何故お主が存在しておる」

「いや、あの日に起きた事は先生も知っているでしょう?それで、ですね」

カクカクシカジカと、ミナトは一連の事件について、自来也に説明する。

「・・・そんな事、本当に起こり得るのか?」

「事実は小説より奇なり、っていうじゃないですか。それに、馬鹿げた量のチャクラが暴走した結果ですからね。口寄せでさえ距離を超越して呼び寄せる事ができるんです

まあ、事実起こったんですから、起こり得るんでしょうね」

「それで、あの九尾はどうなんじゃ?」

「いや、良い娘ですよ。屍鬼封尽で陰のチャクラを切り離しましたからね。それに、どうもあの暴走時に、妖魔としての核も飛んでいったみたいなんですよ」

「妖魔としての核、じゃと?」

「いや、古来より尾獣ってその数を保っていたでしょう?その理由がおぼろげながら分かった気がします。

尾獣って、長生きした獣に妖魔としての核が入り込んだ結果、生まれる存在らしいんですよね」

「・・・初耳じゃの。だが、つまり、今のあの娘は九尾ではないと言うのか」

「ええ。九尾の妖魔とは、天狐以上の格をもった狐が、その妖魔としての核を飲み込んで生まれる・・・らしい、です」

「らしい、と言うことは推測か」

「ほぼ当たっていると思いますけどね。核みたいなものが、あの暴走時に飛んでいくのをこの眼で見えましたから。本来なら、あの膨大なチャクラで覆われていて、見えなかったんでしょうけど」

確かに見ました、とミナトは腕を組む。

「だから、今のあの娘は力を持った妖狐、というか天狐でしかないでしょうね。陰のチャクラと妖魔核が消えたあの娘は、1人の妖弧でしかないです。まあ、元が天狐ですから、かなりの力を持っているのは間違いないですが」

「・・・ガマ仙人に似た存在か。年経た獣は力を持つとよく言うが」

「ええ。ガマ親分などに似た存在でしょう」



そこでミナトはいったん話しを切った。

そして、ため息をついた後、頭を抱えながら真剣な表情で話す。



「問題は、その次です」


「・・・その妖魔核は何処に行ったのか、ということか」


二人は険しい表情を浮かべる。


「ええ。間違いなく、何処かに飛んでいったんでしょうね。あのまま消えて無くなったとは考えにくいですし」

「それが、世界の何処かにいる、他の天狐に宿った可能性が高い・・・そう言いたいのか?」

天狐の総数は少ないと思えるが、キューちゃんだけども思えない、とミナトが首を縦に振る。

「ええ。それが何処にいるのか分かりませんが、まず間違いないと言えます。尾獣の総数が減ることは、存在的に有り得ないでしょうから。

・・・まったく、厄介な話しですが」

「そうじゃの・・・」

「あと、それと・・・もしかしたら」

「なんじゃ?」

「・・・・いえ、忘れてください。まだ、予想の範疇ですから。時がくれば、話します」

いっそう辛そうな顔して、ミナトは首を振った。

「そうか」

腕を組み、悩む二人。また、九尾襲来が起きる可能性もある、ということだからだ。

「そういえば、あの時に九尾が里を襲った理由はなんじゃ?お主なら何かを知っていると思っておったのじゃが」

「あの場所には、うちはマダラがいました」

「・・・やはりか」

九尾を口寄せできる存在など、1人しかいない。自来也としても、ある程度は予想していた。

「マダラが生きていて、『九尾の尾獣』が何処かに存在している以上、最悪のケースも予想しておいた方がよさそうですね」

「あやつらは知っておるのか?」

「確信には至っていないけど、うすうす気づいてはいるようです。」




「伝えるべきことは、以上です。これで、僕達については安心しましたか?」

「気づいておったか」

「ええ。この状況で同行を頼む、ということがどういうことなのかね。あの後、すぐにでも逃げると思っていたんでしょう?それに、100%信用している訳でもないでしょうから」

だからの同行依頼。綱手探索という、最優先任務もあるので、といった所だろう。

「全員気づいてましたよ」

「まあ、どうしても、なんじゃ、今のナルト・・・いや」

自来也が沈んだ表情になる。

「人格的には、メンマじゃったか。起こした事象から、色々と考えてみたのだがの。

・・・あやつの思考回路が理解できんのじゃ。力を隠して隠れきる事ができるのに、あの木の葉崩しの守鶴を相手にしたり。色々と腑に落ちん事もあった」

「うーん、基本的にラーメン命。あと、人情も大事という性格でしょうか。いまいち、僕も分かり切っていないんですけど」

「そうなのか?」

「いや、そりゃあ本人じゃないですから。10割分かる、なんて言えませんけどね。まあでも基本的に忍びじゃないですから、合理的な考えもできますけど
・・・理屈だけで全部を割り切れる程、器用な性格でもないですしね。横道にそれたり、まあ色々。一貫性はあるようで無いですね。一言でいうなら、人間なんでしょう」

その場の感情で行動指針がぶれる、ただの人間。割り切る事も知っているが、全てを割り切れる筈もない、人間。

困っている人がいれば、手を差し伸べる。

敵がいれば、倒す。必要であれば、手を汚す。

時に甘くて、時に弱くて、時に厳しい。いつも迷って、悩んでいる人間。

「人間、か」

「あとは、ラーメン、ですか」

「ラーメンか。っておい」

突っ込みを無視して、ミナトは話し続ける。

「まあ、隠れきれなかった理由は・・・寂しかった、という部分があるんでしょうね。1人じゃないとはいっても、隠れ続けるっていうのは、やっぱりストレス溜まりますし」

無意識でも、とミナトは肩をすくめる。

「それに、これだけ長期間一つ所に留まることが無かったですから。精神的なガードも下がっている部分もあります。あと、縁に飢えてる部分もありますね」

よく店に来るキリハとか、その他の一部忍びとか、テウチ師匠とか。

あと、材料を買いに行くさいに話す、八百屋のおっちゃんとか、酒屋のおっちゃんとか。

・・・彼女とか。

「あと、状況と勢いとノリに流されやすい性格してますし。彼、勢いとラーメンだけで生きてますから」

「そこまで好きか」

「『それが全部だ、他に何がいる?』って言ってました」

思い出し笑いをするミナト。


そして、表情を真剣なものに一転させる。

「・・・もちろん、木の葉に留まった理由としては、それだけじゃないですよ」

「暁、か」

「ええ」

「・・・そうじゃの。それもそうか。暁という組織を相手に、1人では勝ち目がないしのお」

「それに他国の里で暁の連中に見つかった場合の事を考えると、どうも駄目ですね。派手な戦いになるでしょうし、戦った後にその国の忍びにみつかった場合とか

・・・ほら、分かるでしょう?」

自身にとっても、愛着が湧いてしまった木の葉にとっても、良くない事態になるだろう。

同盟が結ばれているとはいえ、他国を無闇に刺激するのはうまくない。

「今のところは、木の葉に留まるのが最善の選択、というわけか」

「今じゃあ、家もありますしね・・・旅もいいですけど、帰る家があるのも良いって言ってました。だから、あの家に手を出したり、仲間に手を出すようなら、本気で抗いますよ、きっと」

「そこまで聞いておいて、そのような事はせんよ。お主を敵に回す事もせん」

「それなら良かった」














「遅いぞ、マダオ」

「いや、めんごめんご」

と手を顔の前に出して謝るマダオ。

「・・・古いのお」

「・・・何か、マダオさんってオッサン臭いねー」

「ぐはあっ!?」

少女二人の辛辣発言に吐血するマダオ。もんどりうって倒れる。

「えー、君達結構言うことがシビアだね。キューちゃんはともかく、波風さんも」

「え?そうかな」

素の発言か。いや、そうなんだけど、歯に衣着せないなあ。そういえば、ネジに向かっても色々言ってたな。

(やっぱり天然分多いなあ、この娘)

外見に似合わず。

「それより、祭りを見に行かんのか?」

「ああ、そうだそうだ」

「行こう行こう!」

としゃっきり立つマダオ。復活早いなお前。






「ん、露店が色々と並んでるねー」

「でも、ラーメン屋台がないな」

「そりゃ無いでしょ」

自来也を除く4人で、店を見て回ります。

「仕方ないな・・・って、あ、そうだ。キューちゃん、波風さん、わたあめ食べる?」

「あ、はい」

「わたあめ?」

「ほら、あれ」

と指をさす。

「どういった味じゃ?」

「甘くてふわふわした感じ。おっちゃん、わたあめ二つ」

「あいよ。お、綺麗な嬢ちゃん連れてんな、坊主・・・ほら、出来たぞ。ちょっとおまけしておいたから」

「ありがとっす。ほら、これ」

「おお、美味そうじゃの・・・どれ」

とわたあめを舐め始めるキューちゃん。

「やっぱり食べたこと無いんだ。ほら、こうやってかぶりつくんだよ」

とキリハがキューちゃんに食べ方を教える。いや、舐めるのも可愛かったけどね。

「こうか・・・・うん、甘くて美味いの」

そしてがつがつと勢いよく食べ始めるキューちゃん。

「ん、美味かった。ごちそうさまじゃ」

「早いね!ってああキューちゃん、口の周りがベタベタじゃない」

布を取り出して、口の周りを吹いてやる。

「ん、ちょっと、くすぐったいの」

「・・・」

そんな俺たちのやりとりを、キリハがじっと見ている。

「どうしたの?波風さん」

「いえ・・・何か、兄妹みたいだなあ、って」

はあ、とため息をつく。

(あー、藪蛇だったか。何て言ったらいいのか)

「え、お兄さんとかに憧れていたりするの?」

とマダオが聞く。

「えーっと、その」

と指先をちょんちょんと胸の前で合わせる。そして、小さい声だが勢いよく、何事かを呟きだす。

「えっと助けられた事お礼を言いたいとか、やっぱり家族いないと寂しいとか、お兄ちゃんってどんなもんだろうなあとか

やっぱり格好良いんだろうなあとか」

「・・・え、何?聞こえないけど」

「っていえ、何でもないです!!」

「うお!?」

いきなりの大声に驚いたのか、メンマは後ろに一歩あとずさる。そして、通行人とぶつかった。

「ってえなあ、坊主ぅ。てめえ何処に目えつけてんだ・・・・・・!?」

ぶつかったヤクザ風の男。ガラの悪い口調で文句を言ってきた直後、目を見開き硬直した。

「て、て、てめえは・・・・!?」

(あれ、誰だっけこの人)

とんと思い出せない。何かすごい怯えているけど。

「ひ、ひい勘弁して下さい!すいません、もうしませんから、もうしませんからアレだけは・・・!」

とケツを抑えて後ずさるヤクザさん。

「え、ちょ、何?」

訳がわからない俺に、マダオが小さい声で教えてくれた。

(ほら、あの時の。麻雀の時の、あのヤクザじゃない?)

ああ、いかさまヤクザの1人か(※外伝1参照)

人聞き悪いなあ。理由も無しにあんなことしないっての。

「え、春原さんって大蛇丸と同じで、そっち系の人だったんですか!?」

「ぐはあっ!?」

キリハの言葉に吐血する。

いやアレと一緒にせんといて!後生だから!

「いや、こやつは男色ではないぞ。むしろ、ワシ一筋じゃ」

と胸を張って言うキューちゃん。

・・・あれ、キャラ変わってね?

「・・・え、春原さんってそっち系の人だったんですか?」

と今度は頬を染めて、静かに驚くキリハ。キューちゃんと俺を交互に見て、小さい声できゃーと言いながら、一歩退く。

「いや、違う、違うから!逃げないで、頼むから!」

「え、ワシとの事は遊びじゃったのか?」

と、悲しそうに顔を伏せるキューちゃん。

「キューちゃんも!分かって言ってるでしょ!」

俯きながらも、肩震えてるし!

「え、僕との事は遊びだったの?」

「きめえ!」

「げふぁ!?」

頬を染めるマダオに飛び後ろ回し蹴りを喰らわす。天誅じゃ!これ以上、場を混乱させんな!

ああ、周囲の視線が痛い。



「えー、あんなに可愛い娘いるのに男同士で・・・でもそれもありかも」

「ほら、やっぱりねえ、そうじゃないかと・・・」

「きっと毎晩がフィーバーなんでしょうね・・・」

「ハアハア、着物童女、ハアハア・・・」


どうしてこうなった・・・。とがっくり肩を落とす。

あと最後の1人ですが、教育的指導を叩き込んでおきました。









「まったく、酷い目にあった。親父さん、とんこつラーメン一つ」

近くにあったラーメン屋に入り、取りあえず注文します。

「じゃあ、私も同じので」

「ワシは塩ラーメンじゃ」

「じゃあ、僕はしょうゆラーメンで」


「で、これから先どうすんの?」

「取りあえず、そこらへんの賭場回って、聞き込みするしかないだろう」

「伝説のカモだもんね」

ラーメン食べながら、会議します。

「うーん、やっぱり九頭竜のラーメンの方が美味しいなあ」

その一言に、メンマの耳がダンボのようになる。

「絶妙だったもんなあ。特に、あの角煮の味付けとスープのバランスとか」

「そ、そう?」

と頬を赤らめるメンマ。

「え、どうしたの?」

「いや、なんでも。いやー、しっかし熱いねえ」

とぱたぱたと団扇で自分を仰ぐメンマ。照れているようだ。

「ふむ、この塩ラーメン変わっておるのう。スープ自体を冷やしておる。熱いこの季節には最適じゃ」

「あ、そうなんだ。冷麺みたいなもんかな」

「食べるか?」

と箸を差し出すキューちゃん。恥ずかしいって。

「いや、俺も頼むよ。すいませーん」

「え、もう一つ頼むんですか?春原さん」

「ラーメンは別腹だから。むしろ、ラーメンが本腹で、他のものが別腹かも」

本腹ってなに、というマダオを無視し、注文をします。

「ふーん、冷やしたらこんな味になるんだ」

魚介系スープをベースとした、塩ラーメン。夏の野菜に彩られて、ただ冷たいだけでもない。バランスも良く、結構な味に仕上がっている。

多々あるメニューの中で、季節の一品にするのもいいねえ。あ、そういえば砂隠れの里に塩取りに行くの忘れてた。

ということで、木の葉に残っている影分身を一体、砂隠れに向かわせます。

「と、いうことでみそラーメン追加」

「どういうこと!?まだ食べるの!?」

いや、最近各地のラーメン屋食べ歩きツアーしてなかったもんで。

「す、すごいですね・・・」

「育ち盛りだからねー」

店員さんも驚いていました。









「ふー食った食った、そろそろ戻るか」

「そうですね・・・ってあれ、自来也のおじちゃんじゃないですか?」

「あ、ほんとだ」

こっちに気づいたのか、エロ仙人は手を振ってます。

「帰ったか。綱手の居場所が分かったぞ」

「ほんとですか?」

「うむ。ということで、急いで向かうことにする。カカシの治療の事もあるしの」

ああ、そういえば月読のせいで寝込んでいたっけ。

「嫌な予感がする。明朝、一刻も早く、出発するぞ」

「了解」


大蛇丸とカブト、やっぱり動いてるんかね。

(取りあえず、辺りに音忍を含む忍びのの気配は無いけど)

ここからは、ちょっと気を引き締めていくか。

マダオと自来也と二人、目配せをして、確認を取る。

「ところで、手に持っているものはなんじゃ?」

やまもり、といった感じの紙袋を見て、エロ仙人が訪ねてくる。

「え、稲荷寿司ですけど何か?」

「いや、いい」

横でお日様みたいに笑うキューちゃんを見たあと、自来也がため息をつく。

「まだ食べるの・・・?」

「いや、これはキューちゃんの分」

食べておかないと、外部での行動に支障を来すかもしれないし。まあ、それは建前で、この笑顔のために買いました。

ちくしょう、かわええ。







「・・・じゃあ、今日はひとまず宿で休むか」

「「「異議なし」」」





マダオと二人で、大蛇丸対策用の作戦でも立てておきましょうかね。






[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 二十八話
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2009/08/01 15:05
「お?」



綱手姫が居ると聞く街へと移動する途中、その街の近くで丸々と太った豚を発見した。


(うん、美味しそうだね)


マダオと顔を見合わせ、頷き合う。


そして、素早く捕獲した。



「ブキー!?」


何故か忍犬並に動きが鋭かったが、マダオと俺にとってはなんてことない。飛ばない豚はただの以下略。まあ、ほんとに飛ばれてもそれはそれで困るんだが。


がっしと二人がかりで捕まえ、素早く紐で縛り付ける。


「あらこんな所に豚肉が♪」


歌いながら、暴れる豚の4足を木の枝にくくりつける。

そして肩に担ぎながら、はいほーはいほーとはしゃぎ街に入っていく。


「今夜は豚肉だ!」

腕を上げて、勝利宣言。宿で調理しようぜ。

「やったね!」

喜ぶ俺とマダオ。ハイタッチを交わす。

「さあ、塩で丸焼きがいいかなー、しょうゆで味付けするのもいいかなー」

「いや、ここはチャーシューの一択で」

鶏と麺とあと具を買って、即席ラーメンを作ろう。

「旨そうじゃの!」

笑いながら豚を見るキューちゃん。よだれ拭いて、よだれ。そして何故か震え出す豚。


「ふむ、しかしその豚どこかで見たような・・・」

自来也が首を傾げる。だが、豚と思い出せないといった風に、首を振る。

「何か、服着てますね。腹にサラシ巻いてるし」

キリハが首を傾げて、考え込む。

だが、「ま、いっか」と結論づけ、先を歩く二人についていく。




だが、街の入り口付近に来ると、




「ちょーーーーーー!?」




何故だが、黒髪の女性に叫ばれた。



その女性は豚を確認し、担いでいるこちらを睨んだ後、何故か上忍に匹敵する速度で襲いかかってきた。

速い。

だが、それで大人しくやられる馬鹿二人ではない。


「甘い!」


木の葉瞬身。襲撃者の攻撃を避ける。そして二人は豚を抱えたまま、屋根の上へと逃れる。


「何処の誰かは知らないが、俺たちの夕飯は奪わせな・・・・い・・?」


勝ち誇るように胸を張り、言葉を発する二人だが、泣きそうな顔をしている襲撃者の顔を確認した途端、硬直した。


「あれ?」


薄幸さがにじみ出ている顔と、



「ちっぱい?」

思わず声に出してしまいました。


「お、シズネか?」


自来也がシズネ女史を見て驚いています。その本人は、何故だが俯きながら、肩を震わしていますが。


「取りあえず、言いたいことは色々とありますけど・・・」


途端、シズネ女史の全身から、黒いチャクラが溢れ出す。怒れる鬼の背後には、棍棒を持ったパンチパーマの赤鬼が映っていた。


「チャ、チャクラが具現化するだとぉ!?」


お約束ですので、取りあえず言ってみますた。そして、チャクラが高まりきった瞬間、シズネ女史が叫びます。





「・・・誰が行かず後家シスターズの貧乳の方ですかーーーーーーーー!!」



「そこまでは言ってねえーーーーーー!?」



魂の叫びと共に、毒針の嵐が吹き荒れました。












「あー、死ぬかと思った・・・」

何とか逃げ切りましたが。いや、多分ですがあれ、当たると即死級の毒でした。色が何て言うかこう、虹色でしたし。当たるとパラレルな気持ちになれそうです。


「あー・・・・これはどういう状況だ? 自来也」

そこに、背中賭一文字のおぱーいが現れました。相変わらずの若作り。年齢不詳の綱手姫(51)。変化を駆使して、借りた金を誤魔化してるそうです。

・・・きたないさすが忍者きたない。

ちなみに『忍者』を『三忍』に入れ替えても、意味は通じます。大事なのでここテストに出ます。

「人のこと言えるの?」

「正直あまり・・・」

逃げるためじゃん、仕方ないじゃん。怪人ストーカー集団に狙われてるし。ほぼ全員、大蛇○クラスの力量持ってるし。

「そうだったね・・・」

遠い目をするマダオ。大蛇丸×9という事実を改めて認識してしまったらしい。

「いや、でも流石に大蛇丸ほどでは・・・」

一部、大蛇○に匹敵する程のキワモノはいるが・・・イタチとか、あのあたりは人格的にはまともだろう。

まあ、なめとんのか、と言いたくなる程に強いので、見つかってはいけないという意味では変わらないが。


視線を綱手の方に戻します。対する自来也は何か戸惑っている様子。

「いや、のお」

二人とも、も、何か話しづらそうな雰囲気。そりゃあねえ。シズネさん、隅っこの方で1人三角座りになってますし。

落ち込んでます。豚に慰められてます。

・・・正直すまんかった。





10数分後、居酒屋に移動してシズネさんを励ます会を開きました。

「大丈夫ですって!ほらシズネさん綺麗だし!」

宴もたけなわの頃、我が妹がシズネ女史の慰めに入りました。

「ほんとうですか?」

ぐしぐし、と泣きながら、こっちを見るシズネ女史。いや、ほんとうに正直すまんかった。

ということでフォローに入ります。良心がずきずきと痛んでますので。

「大丈夫ですって!シズネさん若いし、綺麗だし、気だてもよさそうだし!」

「・・・いやあ、それほどでもないですよ・・・」

まくしたてる言葉に照れ始めるシズネさん。めちゃめちゃ耐性無いな、おい。ほんとに出会いも何も無かったのか。

こういう美辞麗句を言われた経験もないのか・・・あ、ちょっと涙が。

「28なんて、まだまだですよ!というか、これからですよ!シズネさん程の美人なら、絶対にいいひとが見つかりますって!」

「ほんとう!?」

俺の言葉に喜ぶシズネ女史。はい、頑張ればきっと。というか、今までが今までだったんで、木の葉隠れの里に帰ればいい人が見つかる・・・・かも。

「ちなみに私はどうだ?」

笑顔で聞く、綱手姫。

「いや、それ無理」

こっちも笑顔で答えました。途端、強烈なプレッシャーを感じたと思うと、次の瞬間、俺は建物の外まで吹き飛びました。

「春原さーん!?」

叫ぶキリハ。



「・・・何をするんですか、綱手さん」

腕をさすりながら、店の中に戻ってきます。

アブねーアブねー、ガードしなきゃ死んでたぜ今の拳。


「いや、つい」

てへ、と言いながら頭をかく姫(笑)。
というか、ついで人を撲殺するのかあんたは。いや、間違いなく加減してたんだろうけど。

でも一般人なら粉砕されてますよ今の拳。



おほん、と咳をする綱手姫。笑顔で、また言いました。


「もう一度聞こう・・・私は?」

「51歳はちょっと・・・」

唸る閃光。吹き飛ぶ俺。

「春原さーん!?」

叫ぶ以下略。





そして、帰ってきた俺に向かって、綱手姫は満面の笑顔でおっしゃります。

拳に浮かぶ青筋は無視しましょう。

「これが、最後だ・・・・私は?」

どんよりと光る綱手姫の目。頬が赤いのは酔ってるからでしょうか。

(ここは、言葉を選んだ方がいいか)

所詮、この身はしがないラーメン屋。三忍の相手は無理ですたい。というか、相手したくないですたい。

「年齢詐称はちょっと・・・」

綱手から、膨大な量のチャクラが吹き上がり、腕に集中される。

だが、そのチャクラによる怪力が発揮される前に、言葉を紡ぎます。

「って自来也様がおっしゃっておりました」

「ぶほっ!?」

1人静観していたエロ仙人が、飲んでいた酒を吹き出します。

「自来也?」

笑顔の綱手姫。

「ワ、ワシは言っとらんぞ!?」

必死で弁解するも、無駄でした。怒れる乙女に慈悲の心はありません。


「ネギ、貴様・・・謀ったな!?」

「いや、ね・・・」

小声で囁きます。俺の正体を探り当てたあなたが悪いんですよ、と。

がびーん、とショックを受ける自来也。古い?いや、だってエロ仙人だし。

「だが、ワシも男だひでぶ!?」

怒れる綱手を前に、男らしく立ち上がりましたが、怪力の拳が自来也の腹部を直撃しました。チャクラと体術で衝撃は殺してるようですが、ありゃあ痛い。

そして綱手さんは、うずくまる自来也の襟元を掴み、勢いよく前後に振り始めました。

「私だってなあ、私だってなあ!」


襟元を締められ振り回され、蟹のように泡をふいているエロ仙人。

ここに、新たな英霊が1人生まれた。

自来也様、あなたの事は忘れない。

「死んど・・・らん・・・わ・・・」

大丈夫そうですね。

取りあえず、あっちは無視しましょう。見てても面白くないし。こっちの綺麗所の方が良い。

「あ、これ美味しいですねー、シズネさん・・・ってキューちゃん、どんだけ食べてるの!?」

皿を山積みにして、色々と食べてるキューちゃん。

「ん?」

「だから、口の横を拭いてって」

そりゃ、昔は作法も何もなかったのかもしれないけど。

「だが、それがいい」

「おい、マダオ!」

怒りの声を浴びせます。

「ありがとう」

そしてお礼。

今の怒りは自分に向けてでした。そう、マダオの言うとおり、口の端を汚さずに食べるキューちゃんなど、キューちゃんじゃねえ!

・・・でも、

「横で豚のトントン君が震えてるのはなんで?」

「ん? ・・・さっき、裏でちょっとお話をしただけじゃが」

それが何か?と首を傾げるキューちゃん。今はその可愛さが逆に怖え。

「・・・可愛い娘ですね。妹ですか?」

「いや、恋人じゃ」

「キューちゃん!?」

「やっぱり春原さんそっちの人!?」

「だから違うって!」

「え、僕とのグフォア!?」

先制攻撃!マダオは死んだ。

「やっぱり、私は年なんだ・・・」

「違いますって!」

「ダンはなあ、縄樹はなあ!」

「死ぬ・・・死んでしまう・・・」



「あの・・・お客様方、ちょっと・・・」

「「「え?」」」


そこには、額に青筋を浮かべた店長さんがいました。












騒いだ結果、店の外にたたき出されました。

二度とクルナ、と念を押されました。邪神みたいな睨み付けに、俺たち全員が硬直。逆らえないって。

まあ、かなり迷惑だったしなあ。悪魔みたいな客に対しては、店長も邪神になるか。

「ま、仕方ないねえ」

「誰のせいだと思っとるんじゃ」

半眼でエロ仙人が睨んできますが、無視します。

おかしい・・・とか、思ってたのと違う・・・とか、そういえば昔ミナト、というかクシナも・・・とか。

色々と呟いていますが、ガン無視です。




(・・・・っと)



「ほら、話しあるんでしょう?」

と言いながら、視線で合図します。

「ああ、分かった」

一瞬の合図。自来也は反応を返し、頷きながら綱手に話しがある、と言い出します。

ついていくキリハとシズネ。それを見送った後、俺は背伸びをしながら、マダオとキューちゃんに視線で合図します。


「食後の運動と行きますか」















と勇んで行ったはいいものの。

「この先は行けないか・・・」


監視であろうこちらを見張っていた音の忍びを追っていった先。

とある宿の中に、大蛇○と眼鏡君の姿があった。


「深追いは禁物、か」

あの様子から察するに、すでに綱手とはコンタクト済みだろう。

(ここは・・・うん、邪魔するのは駄目だな)

火影の事や戦うことなど、綱手には未だ迷いがあると見た。

それらを断ち切るためにも、大蛇○との戦闘は必要になる。


あわよくば、大蛇○護衛の音忍の戦力を削って起きたい所だが、それも無理。

気づかれると、事態がどういった方向に転がるか予測できない。

五代目火影の誕生は、できるだけ早いほうがいいしな。




恐らくは、自来也とキリハが話しをしている筈だ。

火影を尊敬するキリハにとって、迷っている綱手の言葉は許容できないものがあるだろう。

(殴り合いでしか、分からない事もある)

迷いを断ち切るためにも、一度本気でぶつかるしかないだろう。

女性同士、何か間違っている部分があると思うのだが。

(まあ、すっこんでろと言われるわなあ)

まあ、意地の張り合いを邪魔する気はない。静観しておこう。





「ちいーっす、戻りました」

肩を落とし歩いている自来也の元に駆け寄った。

「・・・戻ったか。音の忍びは?」

「いや、追いついたんですけどね」

町中でおっぱじめる訳にもいかんですし、と肩をすくめる俺に、エロ仙人は仕方ないの、と呟く。

「んーなんか、暗いですねえ。何か言われました?」

「実は、の」

先ほど、綱手と交わした言葉の内容が語られる。

三代目の死。五代目火影の要請。それを断る綱手。年甲斐も無く~とか、火影になる奴は馬鹿だ~という言葉を聞いたキリハが、切れたらしい。

ぷつん、と。


「見たこともない程の怒りっぷりですね・・・」

頭から湯気が出ている。

「当たり前です!」

激昂するキリハ。やべえ、ネジの時よりも怒ってる。


「で、勝負ですか・・・勝算は?」

「意地と努力でカバーします」

と手のひらを拳で打ち付けるキリハ。無駄に男前だ。

「いや、そこでだのう。お主に頼みたい事があるのだが・・・」

「は?」

いや、ちょっと待て。この会話の流れは不味い。




「お主も、螺旋丸は使えるだろう? 少し、キリハの修行を見てやってくれんか」


「「え?」」


互いに、驚きの表情を浮かべながら、顔を見合わせる。



驚く点は互いに違う。だが、その直後。





「「えーーーーー!?」」







俺とキリハの驚く声は重なり、青い空の下響き渡った。














[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 二十九話
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2009/08/01 15:37





 「・・・麺のメンマのラーメンは、銃弾よりも強いのさ」



     劇場版・小池メンマのラーメン日誌「美味という力」より抜粋













翌日。


何故か俺はキリハの修行を手伝うことになっていた。


「ワシは綱手を説得するから」らしい。あのガマじじい、いつかコロス。



(みえみえ過ぎて嫌なんだよ、あのエロ仙人の気遣いは)



「よろしくお願いします、春原さん!」


でも、勢いよく頭を下げるキリハに今更無理だとも言えない。


(・・まあ、仕方ないか)


了承はしたんだし。報酬は後でせびるが。高い酒とかで。


「うん、じゃあ始めようか、キリハ」

名字ではなく、名前で呼びます。


「名前で呼んで」と言われたので。それなんてフラグ?

それはともかくキリハさん。額当ての上に鉢巻きを巻いているけど、それはダサイのでよしなさい。


「え、でも特訓なんだから・・・」


お約束はいいから。ていうか誰が教えた。もしかしてガイか。あるいはリーか。大穴はカカシか。




「分かりました・・・」

としょぼくれて、鉢巻きを外すキリハ。やっぱり天然なのか。



ま、まあここは気を取り直して。

「じゃあ、始めようか」

・・・とは言ったものの。何を教えたらいいのやら。

(どうしようか、マダオ)

(うーん、まずはアレを教えたら?)

アイコンタクトで確認。ああ、あれか。その方が早く修得できるかもな。

「えーと、手の平の中心部に何か書いて、チャクラの集中点を示すっていう方法は知ってる?」

「はい。自来也のおじちゃんに教えて貰いました」

「で、だ。あれに工夫をこらすとこうなる」

俺はキリハにその書いた文字を見せる。



「『麺』、ですか」



「そう、麺」




頷き、俺はキリハから少し距離を取る。




「そして、これに魂を注ぎ込む感じで・・・!」




チャクラを放出し、そしてスープをかき回すかのように回転させ、その場に留める。



「凄い・・・」

「とまあ、こんな感じ。まあ、これはあくまで補助用だけど、実戦でも使えるよ。手のひらにさらされと書けばすむことだけどね」

愛用の筆を取りだして言う。

「イメージしやすいように、力を注ぎ込みやすいように、何かを書く・・・キリハも、何か書くかい?」

「えっと」

首を傾げて考えるキリハ。

「じゃあ・・・これで」

「これは、うずまき?」

螺旋ともいう。ペロペロキャンディーの中心のアレ。

「はい。『螺旋』丸ですし。あと、母と・・・兄の名字が『うずまき』だと聞いたので、私はこれにします」

少し悲しそうな顔で、それでも笑うキリハ。

うう、胸の奥が痛むぜ

あとマダオ。鼻水垂らして泣くなきめえ。

(だってだってだって!)

急に乙女になるな。え、何、キュンと来たから仕方ない?

知るかヴォケ。

「・・・それじゃあ、サラサラサラリと」

手のひらに渦巻きをかく。くすぐったいのか、キリハの肩が跳ねる。

「はい。じゃあ、乾くまでちょっと待ってね・・・あ、あと構えについてなんだけど」

「構え、ですか?」

「そう。キバ戦で使った時の構え。右脇に抱え込むかのような構えだったっけ。あれがいいね。逆に、こういう構えはよくない」

と左手で右手首を掴み、右手の手のひらを上に向ける。

これじゃあまるで操気弾。

死亡フラグになっちゃいます。あと、口に出しては言えないが某カ○シ上忍と同じになっちゃうし。

(・・・かませ犬属性?)

あ、ほんとだ。良いところに気がつきましたね、マダオ君。

「キバ君と戦った・・ああ、中忍試験予備戦の、あれですか。」

「そう長い間留められない以上、発動から当てるまでの時間は短い方がいいし。そして、抱え込む事で相手の視線を防げるから、術の正体を悟られにくい」

「そうですね」

「あと、邪道だけどこんな方法もある」

まず影分身を発動する。


「あ、影分身の術」


「そう。それで、こうやって」


原作のナルトと同じ方法だ。チャクラを出す役と、抑える役を2分する。

「分割思考、展開・・・なんちて」

「いや、思考は分割できてないでしょ。それに、本格的にやるにはミニスカニーソが必要になるけど・・・はく?」

「きめえ」

「噛むぞ?」

「すんません」

笑顔で八重歯剥き出しにするキューちゃん。即座に謝るマダオ。

「あの・・・」

あ、ゴメン話がそれたね。

「まあ、こんな方法もあるって事。おすすめはしないけどね。馬鹿みたいにチャクラ使うし、発動時に影分身が必須になるようじゃあ、使い所が限られてくるからね」

「そうですね。1人で発動できた方が、使い勝手が良いです」

不満顔で頷くキリハ。

「・・・あと、そういう方法では勝った事にならない?」

「はい。螺旋丸は以前から練習していた術ですから、1人で完全に発動できるようにならないと・・・勝った事にならないです」

真剣な表情で手のひらのうずまきを見つめる。

「意地じゃの」

「意地です」

むん、とガッツポーズをして気張るキリハ。



「じゃあ、墨も乾いたようだし、やってみようか」








「はああぁあ・・・!」

キリハ頑張ります。完成一歩手前までのレベルには至ってるけど・・・もう少しって事か。全力で放出すると、未だに留めきれてない感じ。

でも、うずまきマークが効果あるのか、前にみたアレよりは大分コントロールできている。

「全力で放出し、留める・・・!」

が、失敗。

「きゃあ!?」

抑えきれなかったチャクラが散乱し、その余波の風に弾き飛ばされる。

だが懲りずに、また立ち上がり続ける。



それを少し離れた場所で見ている。まあ、1人で集中するのが一番だからね。

チャクラコントロールが肝の術だから、これ以上こっちが教える事もできないし。

あとは、本人の感覚と技術次第。


まあ、それにしてもだ。

「懐かしいなあ・・・」

「そうだねえ・・・」

失敗して弾き飛ばされるキリハを見て、自分の修行時代を思い出す。

1人森の中、必死に頑張ったもんだ。



あと、『麺元突破・螺旋砲弾』の術の開発中の時にあったことも思い出した。

「最初、失敗して酷い目にあったもんなあ・・・」

「あれはもう局地的な台風そのものだったねえ・・・」

分かりやすくいうと空子旋だった。風龍のケツ触ってないのに・・・。

余波で部屋がえらいことになるし、もう散々だった。



「しかし、見ているだけっていうのもな。時間がもったいない」

「こっちも、何か術の開発でもする?」

「そうだなあ」

「案としては、こういうのあるんだけど、どう?」



言うと、マダオは印を組んだ後、両手を上げて術の名前を言う。



「ばーりーあー」



言葉と共に、術を発動。激しい風の壁が、マダオの周囲を包んでいく。成るほど、確かに使える事は使えるだろう。


だがしかし!


「人生守りに入ってるやんけー!」


術が切れたマダオの顔面に、ドロップキックをかます。


「チグリス!?」


反応できなかったマダオが顔面に蹴りを受け吹き飛んでいく。

俺は倒れ込むマダオに駆け寄り、襟元を掴んで引き起こす。


「てめ、そんな事で視聴率取れると思っとんのか!芸なめとんやないで!」


怒りのあまり、関西弁になってしまう。


「もっと派手に!そんでもって漢気でも女の柔肌でもええから、色気を前面に出す方向で!・・・ということで、キューちゃんが見本を見せてくれるようです」


無茶振りする俺に、キューちゃんは真っ赤な顔で「せんわ!」と怒鳴る。


「えー・・・」


俺とマダオはキューちゃん白けた視線を送る。


「そもそもこの外見でそんなこと出来るわけなかろう!」


と、自分の胸を叩くキューちゃん。


「えーっと、本来の姿ならできるの?」

「当たり前じゃろう」

ふふんと胸を張り偉ぶるキューちゃんだが、無い胸を張られても痛ましいだけだ。

おいたわしや。

(・・・ってそれどころじゃなくて!)

「マジで・・・!?」

あの大きい狐の姿で色気を出す?

え、どういう事?


「む、そういえば一度も戻った事なかったのう・・・やってみるか」



「ちょ!?」



こんなところで!?と叫ぼうとするが、時既に遅し。



「変化!」



ボンという音と共に、キューちゃんの姿が煙りにつつまれる・・・アレ?



(大きくならない・・・?)


と不思議に思う時間もなかった。




煙が晴れた先には、






「どうじゃ」


桃源郷が存在していた。




背が高くなっただけではない。

長く美しい睫に、切れ長の赤い瞳。

顔には、健康的な白い肌の上に、天上の桃のような美しさをもつ、形よく色もいい整った唇が浮かび上がっている。

腰まで伸びて風に棚引く、絹のような金の髪を手でかきわける。仕草が色っぺえなおい。

小さくなく、そして大きすぎない、着物の上からでも分かる美しい胸元の稜線。

折れるかという程に細く、たおやかな腰。





其処には、この世全ての美そのものが顕現していた。





だが、



「あ」



呟きと共に、変化が解けた。


煙が晴れた先。

そこには、子供ながらに大人なセクシーポーズを取っている童女キューちゃんの姿があった。

髪も元に戻ったので、手が空しく虚空を彷徨っている。

何か盆踊りのワンカットみたいなポーズ。


夏だなあ、って言ってる場合じゃねーや。


「「「・・・・・」」」


あまりの状況に、3人全員が固まる。


(なんか、何ていったらいいのか分からねえ・・・!)



子供セクシーポーズみたいな何かを取ったまま、赤い顔で固まるキューちゃん。

予想外の事態に驚いているのか、微動だにしない。今の自分がどう見えてるのか、分かっいるようだ。

爆発する火山の前のように赤い顔をするキューちゃん。迂闊な事はいえない。噴火は嫌で御座る。



フォローについて、マダオとまたアイコンタクトで会議する。


(お前言えよ)

(やだよ)

(俺が言うとまた噛まれるだろ)

(いいじゃない。それも一つの愛の形っていうことで)

(それは食料に対する愛なんじゃないか?)

(食べられる男。いいじゃないかちぇりーぼーい)

(ど、ど、ど、ど、童貞ちゃうわ!)

会議らしく、脱線した。意見がまとまらない。


そこに、キリハが何かあったのかと駆け寄ってきた。



「何やってるんです・・・うわー、キューちゃんかわいー」

と、キリハは顔を真っ赤にして固まるキューちゃんの頭を撫でる。

「うーん、でもキューちゃんにはちょーっと早いかなあ」

キリハは苦笑しながら、キューちゃんの頭をポンポンと叩く。


「・・・う」


「う?」



「うわーんちくしょう、全員狐のうんこ踏んで死んでしまえーー!」



キューちゃんはいつぞやの俺の口調をまねて、泣き真似をしながら森の方へ走っていく。


「え、え、どうしたんですか?」

いきなりの逃亡にキリハが焦る。

「いい。何も語るな。言ってやるな。追ってやるな。武士の情けだ」

忍者だけど。

キリハの肩をポンと叩いて、目頭を抑えながら首を振る俺とマダオ。

「え、でもここらへん熊が出るって聞いたんですけど、大丈夫ですか?」

「・・・あー、それはあぶないねさがしてこよう(棒読み)」

キリハの心配を聞いて、すぐさま後を追おうと走り出す。

まあ熊より強いキューちゃんだから食われる心配はないけど、離れすぎるのもまずいしね。



「・・・って、え?」



ところが、キューちゃんはすぐに戻ってきた。



片手で何かを引きずっている。




「熊、取ってきたぞ」

「うそお!? ってか早いね!?」


襲ってきた所を、八つ当たりも兼ねて返り討ちにしたらしい。


うん、弱肉強食だね。







ということで、その日の特訓が終わった後。

夜飯は、熊を材料とした即席ラーメンとなりました。他の材料は街で購入済みです。

火力調節役はキューちゃん。昼頃から長時間煮込んでいます。

熊で元の出汁を取ってラーメン、これぞ熊元(熊本)ラーメン!

「熊本って何処さ」

「肥後さ♪」

「肥後って何処さ」

「熊本さ♪」

「だから熊本って何処さ」

「船場さ。船場山には狸がおってさー♪・・・っていらんこと思い出した」

狸を撃ったのは鉄砲どころか風の砲弾でしたが。でも砂狸さんの相手はもうしたくないでござんす。煮ても焼いても食えんし。むしろ泥団子になるし。

もう戦う事はないと思うけど、次対峙する時があれば自分、木の葉隠れの里でちょっと隠れます。

(あ、そういえば砂隠れの里で塩取ってきてないなあ)

守鶴で思い出した。

・・・いやな思い出し方だなあ。

「それ、何かの歌ですか?」

「へ? ・・・そう、童歌の一つで手鞠歌・・・って言っても分かんないか」

「テマリ歌?」

「そう、テマリの歌・・・って違う」

思わずテマリ=猟師、狸=守鶴で考えてしまったじゃないか。そんな姉弟で繰り広げられる火サスな展開は心底ゴメンです。

「手鞠ってこれさ」

忍具口寄せの応用で、自作の手鞠を口寄せする。

「これをこうやって、つきながら歌うんだ。やってみる? 息抜きも大事だからね」

「はい」

スープを煮込んでいる間、鞠つきで遊びました。



優勝は、ジョン・ウー監督作品並にアクロバティックな鞠つきを披露したマダオに決定。

歌も何故かロック風になってました。肥後ってここさー、イエイ!じゃないって。

「自重しろマダオ。動きは凄かったけど」


だがマダオは親指を立て、笑いながら歯を煌めかせ、言う。


「心はいつでも15歳。愛されるボクでいたいのザヴォィ!?」


ボディが甘いぜ! と、突っ込み待ちのマダオに一撃。


続いて、キューちゃんとのツープラトン攻撃だ。


「いくぞ!」


キューちゃんがマダオの肩を掴み、こっちに飛ばしてくる。


「ちょ、ちょ、ちょ!」


そこを。


「直径10mm! 氏ね、マダオ」


飛びつき、足でマダオの首を挟み、地面に投げる。


フ ラ ン ケ ン シ ュ タ イ ナ ー 。完全にきまった。


頭から地面に突っ込んで、マダオは死んだ。


「死んでないから・・・」

「ち」

しぶといな。


「あはは、仲いいんですねー3人とも」


一連の光景にを見た後で、俺たちの仲が良いと断定するキリハ。

やっぱり天然なのか。








さあ、出来上がったので食べましょう。

「あ、美味しいですね意外と」

「うん」

店で出される洗練された味じゃないけど、野性味があっていい。

野菜もあれこれ入れたから、栄養も抜群だ。

なんか熊鍋ラーメンみたいになったけど、旨いことは旨い。

「おかわり!」

疲れて腹が減ってたのか、キリハがもの凄い勢いで一杯目を食べ終わりました。

「はい。今日一日頑張ったから大盛りね・・・螺旋丸だけど、一週間以内に出来そう?」

「・・・正直、わかりません。ですが、やってみま・・・いえ、『やります』」

「その意気だ!」

じゃんじゃん食べて!

とどんぶりに大きい肉を入れます。




食べ終わった後、全員で寝ころびながら夜空を見上げる。

「綺麗ですねー」

「そうだねー」

マダオが星座について色々と説明している。

キリハは興味を引かれたのか、その説明を受けながら「そうなんですかー」とわくわくした声で相づちをうっている。

(『父親』っていうのは、こういうものなのかね・・・)

前世も今も親父というものを知らない俺に、二人の姿は眩しく映った。



横目で見ていた二人から目を正面に戻し、1人空の星を見続けている。



すると、



「ん?」


不意に、手が握られた。

横を見ると、キューちゃんが悪戯な表情を浮かべている。これはキューちゃんの手か。

「そんな顔をするな。似合わんぞ」

「悪かったね」

といいつつも、手を握り返す。

すると、キューちゃんはそういえば、と前置きしてある事を質問してきた。

「・・・昼前のあれ、どうじゃった?」

昼前のあれ・・・というと、童女セクシーポーズ事件?

「そっちじゃない」

「痛い」

思いだし笑いしていると、手に爪が立てられた。

そっちじゃないとすると、本来の姿という、あの美女姿の事か。

「・・・うん、綺麗だったよ。今まで出逢った誰よりも綺麗だった」

「・・・そ、そうか」

ストレートな言葉が返ってくるとは思わなかったのか、キューちゃんの頬が桃色に染まる。

でも、本当に綺麗だったし。

「・・・でも、持続はできないみたいだね」

「ん、まあ、そのようじゃのう・・・」

(・・・ん?)

何か、キューちゃんの返答に含まれたものを感じる。

(何か知っている、いや感づいている?)

それで、それを知られたくないのか、そういう感じがする。

「キューちゃん?」

「ん、なんじゃ?」

「・・・いや、なんでもない」

何を隠しているのか知らないが、言うべき時がきたら自分から言ってくれるだろう。

(ここで追求する必要はない、かな)




今は黙って、星の煌めきと手の温もりを堪能しよう。



(本当、贅沢な時間の使い方だな)



流れる風の音と共に、夜は更けていった。







[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 三十話
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2009/08/02 02:08







「・・・ラーメン!」


「俺の名だ。地獄に落ちても忘れるな」





  小池メンマのラーメン風雲伝「暗闘~黒板に隠された秘密の塩」より抜粋









それから、一週間後。



訓練が終わり、4人は宿に戻ってきた。



約束の日になったので会いに来たのだが、肝心の本人がいない。

代わりに、

「・・・エロ仙人!?」

「ネギ・・・」

(っち。一服もられたか)

壁によりかかって何とか立っているエロ仙人。

(説得するって言ってたじゃん)

あまりのアレっぷりに思わずカンクロウ弁になってしまう。

「はあ・・・」

ため息を吐いてやる。何やってんですかチミは。

嫌味を言おうとすると、シズネさんが慌ててた様子でやってきた。

「自来也様!? ・・すいません、綱手様は・・・」

「すまん。ワシも一服もられて、この通りの様だ」

二人の話を聞く。

シズネさんの方は、止めようとしたが腹に一撃くらって気絶させられたらしい。

自来也の方は無味無臭の薬を飲み物に混ぜられたらしい。ま、確かにそりゃ気づけんか。


手出したら藪蛇になりそうだったし、放置しておいたけど、それが裏目に出たか。


(それも仕方ないことだな)

あれこれ手を出す気もない。

細かい所まで気にして動き回るのは性分に合わないし。それに、基本他人の俺が割り込んでどうにかなるとも思えんし。

(でも、ここはまあ俺がやるしかないか)

「・・・取りあえず、シズネさんは自来也さんの治療お願いします・・・俺は先に行ってますから」

「春原さん!?」

「キリハも、此処に残っててくれ。相手が相手だし・・・じゃあ行こうか」


「・・・いいのか、の?」

自来也が聞くが、俺は肩をすくめて答える

「まあ、仕方ないでしょ」

状況が状況だ。でも、これだけは言っておこう。


「これっきりだからな・・・いこうか、マダオ、キューちゃん」


「「応」」




これで自来也に借りは作れた。後は、約定を完全に認めさせるまでだ。

付きそうのはこれっきりにする。

隠れ家の場所もばれてはいないし、木の葉に戻ってからはラーメン屋でしか顔を合わせないようにしよう。

後は、次代火影である綱手とも約定を定めるだけだ。

頼まれたのもあるが、元々そのためについてきたのだし。


ギブアンドテイクという奴だ。それで完全に安心できる訳でもないが、留め金にはなる。




馴れ合いはゴメンだ。そもそも、俺と自来也では守るものが違う。

俺にとっては、ラーメン。自来也にとっては、木の葉隠れの里。


道の途中で接しはすれど、何れは分かたれる。

当然だろう。目指す場所が違うのだから。


接点は作るが、属しはしない。それが互いにとっての最上だろう。

俺は、忍び稼業で生きていくつもりは無い。期待されても無駄だ。

暁対策に向け、互いに協力はするが、それだけだ。三代目にも告げた。戻る気は無い、と。




そして、恐らくはピンチな状況に陥っているだろう、綱手の元へ急ぐ。

「あっちだな・・・」

場所はすぐに分かった。戦闘の余波か、何か向こうから破壊音が聞こえてくるからだ。





ちなみに、キューちゃんは幻術への対処策として、俺の中に戻っている。

外に出ているのはマダオだけだ。



「・・・ちょっと待って欲しい」

「?」

そのマダオが、何か意を決した声で俺に提案する。

「せっかくの男同士ですぞ。もったいないとは思わない?」

「・・・イヤな響きがするな。で、何が言いたい?」

「それは・・・・」












「フフフ、相変わらず、血に対する恐怖は抜け切れてないようねえ・・・」


震える綱手を見て嗤う大蛇丸。だが、急に何かに気づいたかのように、右の方を見る。


「ちっ、新手か・・・・!」

飛んできた手裏剣とクナイを、カブトが弾く。


そのまま、綱手から距離を取る。





そこに、二つの影が降り立った。







「「そこまでよ」」





「アナタは・・・!」

「君は・・・・!」


こちらの姿を見て、大蛇○とクスリメガネが驚く。






「「ロジャー・サスケ・・・!」」

ともう1人。




警戒の態勢を取る大蛇○とクスリメガネ。






「「でも・・・・」」






と前置きして、二人は俺とマダオを指さす。心なしか、その指は震えていた。









「「・・・何故、女装しているんだ(の)!?」」








「・・・は?」




背中しか見えてない綱手が、何それ?といった風に呟く。



「ついに来た、やっと来た。新世代超ヒロイン伝説でござる」

「いくわよ、ロジャー子」

別名ナル子とも言う。その口には艶やかな紅が引かれていた。

「ええ、お姉様」

マダオの口にも、紅が引かれていた。グラサンとのコラボレーションが良い感じにキモさを引き出している。




これが、マダオの提案した作戦であった。

大蛇○はキモイ。超キモイ。対峙するのに、多大な精神を使う。それに、力量も凄い。超ヤバイ。

これは、それに対抗するための画期的な策である。

化け物を倒せるのは、より強い化け物だけ。つまり、オカマを倒せるのは、より強い化け物だけ!

『いや、その理屈はおかしいんじゃ・・・』

いやだってこの世界の強い忍者って、人としての大切な何かを捧げてるの多いし。

存在の引き算ってやつで、力と尊厳を等価交したんだよきっと。

『本気か?』

全部冗談です。いや、意表をつくのと、時間稼ぎが狙いですけど。

ここで大蛇○を殺るわけにもいかんし。音の残党に破れかぶれに攻めてこられても困る。

あと、音の里はできれば対暁戦の時に利用したい。それまでのまとめ役が必要だ。



「・・・・何なのよ、アンタ達」


「いやねえ、他人行儀で。同じオカマ同士じゃない。もっと奔放になりましょう!?」


俺の言葉に、クスリメガネは大蛇○とこっちを見た後、虚空を見上げながらため息を吐く。


「・・・何か、帰りたくなってきた」


心底疲れた声を出すクスリメガネ。曇っている眼鏡が余計に哀愁を誘う。



「ふふふ、何か言っているわよお姉様」

「きっと照れているのよ」

「いや、もう、それでいいよ・・・」

諦めの声を出すメガネ君。

「それで、何のよう? いつもとは違った格好だけど・・・目的はあの死の森の時と同じかしら?」

大蛇○が聞いてくる。確かあの時は少女の盾、と言ったか。

でも。

「いや、今回は助ける相手が少女じゃないので趣向をこらしてみました・・・どう?」

といいつつ、背後の綱手に紙を投げる。



書かれている内容はこうだ。

『自来也、シズネ、キリハは後で来る』


「お前・・・・!」


こっちの正体に気づいたのか、背後の綱手が驚いた声を出す。あと殺気も出してくる。いやだって少女じゃないじゃん。




「巫山戯ているの・・・!?」

大蛇○が怒りの声と共に、殺気を放ってくる。

「いつにない真剣な声ね・・・でもアナタに言われたくないわ」

「それぐらいで怒るなんて、典雅ではありませんわね。オフォフォフォフォ」

もう誰がだれやら分からない。

『・・・はあ』

心の中のキューちゃんはまた眉間を抑えている。小じわになるよ。

『誰のせいだ』

油断した自来也のせいです。





キューちゃんと話していると、大蛇○が動き出しました。

「もう、いい・・・全員、死ね!」


宣言と共に、森の中から口寄せの蛇が現れた。

その数、3体。どれも、大きい。

(前もって潜ませておいたのか)


唸りを上げて、襲いかかってくる蛇。俺は避けようとするが、咄嗟に身体が動かなかった。


(金縛りの術か。だが!)


「甘いわ!」

大蛇の牙が届く前に、力任せに術を振り切る。

(くそ、良いタイミングで術を使ってくるな)

下忍でも使える基本忍術。下忍レベルなら拘束はされないが、カブトレベルの術者に使われると一瞬だが硬直してしまう。

今のはちょっと危なかった。

(舐めてかかれんな)

そういえば、多対多の戦闘は始めてになる。

(まずは、影分身を使っておくか)

「影分身!?」

驚く綱手の前に、護衛として一体置いておく。

(潜んでいる暗部がいつ襲ってくるとも限らんからな)

前に追撃出来なかったツケがきている。



一方、大蛇○の方は口寄せの蛇を前面に出して、自身はこっちに近づいてこない。腕を使えない今、勝ち目は無いと見たか。

慎重になっている証拠だ。力量を知られている故の対応だろう。

油断の欠片もない大蛇○。手傷を負っているにしても、そう容易く御しきれる相手ではない。

3体の蛇が織りなすコンビネーションも厄介だ。螺旋丸を使うにしても、一瞬だが溜めが必要になる。その隙もない。

(百戦錬磨ってことか)

腕が無い程度、やり方次第でいくらでもカバーできるか。引き出しの多さは現存する忍びの中でもトップクラス。

機を待つしかない。







マダオの方はカブトを抑えている。

「こっちだよ!」

「なんの!」

こちらはガチの近接戦闘だ。

基本、チャクラのメスを武器とした近接戦闘が得意なカブトは、もちろん体術のレベルも高い。

ガイみたいに体術専門の忍びほどではないが、通常の上忍よりも高い。

だが、マダオもさるもの。身体能力やチャクラ量は本来のものと比べ大分落ちているが、腐っても元4代目火影だ。

忍界大戦を生き延びた猛者。こちらも、潜ってきた修羅場の量が違う。

上忍にしても速いカブトの猛攻をしっかり目と勘でとらえ、回し受けで凌ぎ、逸らし、避ける。

(受ければ斬られるからな)

手のひらでカブトの攻撃する腕の側面を引っかけ、攻撃の軌道を外側に逸らし続ける。

あれだと、連続攻撃もし辛い筈だ。攻撃を逸らされると言うことは、重心が崩されるのだから。

防戦一方にはなっているが、時間稼ぎはできている。勝つことはできなそうだが、負けもしないだろう。



「っとお!」


森の方から飛んでくる、複数のクナイと手裏剣群を避ける。

護衛の忍びだろう。気配を察知するに・・・3、の、4人か。

木の葉崩しの後だし、音隠れの方もあの戦争における消耗が酷いということだろう。

(どれも中の上といった力量だけど、この人数なら何とかなるか・・・!?)



「春原さん!」

「綱手様!」

後方から、シズネとキリハの二人が駆けつけた。


(やばい!)


それを見た音隠れの暗部が、一斉に手裏剣とクナイを投げつける。






そこからは一瞬。




マダオと視線を交錯して、目配せだけでスイッチ。




俺がカブトを抑え、マダオはキリハの方を対処する。シズネさんの方は対処できるだろうとしての判断。



キリハに飛来する手裏剣とクナイに向け、マダオはクナイと手裏剣を投擲して弾き落とした。


投擲術の腕は落ちていないらしい。神業だ。


(そういえば、飛雷神の術を有効に使うために、投擲術は徹底的に鍛えたと言っていたな)


流石の腕である。







「隙あり!」




よそ見をしている俺に向け、カブトがチャクラのメスを突きだしてきた。




「見せたんだよ」



だが、そのよそ見はフェイクだ。


隙見せは誘い。実際は、注意を逸らしていない。


突き出された手を左手で外に逸らしながら、左足を一歩踏み出す。


そして、右の掌底で顎をかち上げる。



かこん、という打撃音。カブトの視界が上にそれる。




同時、左足を震脚しながら、左の掌打をカブトの腹に繰り出す。




「ぐっ!?」



こちらは反応され、ガードされる。だが、威力は殺せなかったのか、後方へと吹き飛ばされる。






一方、あちらではマダオが大蛇○の口寄せ蛇を抑えていた。


そして、キリハとシズネさんが近寄ってきた音の暗部と対峙。


「ふっ!」


仕込み針による毒弾を受け、1人が倒れ伏す。


そして、後方から忍び寄った1人は、気配を察知したシズネさんの忍法・毒霧の術を真正面から受けて、こちらもまた倒れた。


(やっぱり、毒使いは初見の相手だと強いな)


一撃受けたら終わり、っていうのが容赦ない。



一方、キリハの方は。




「つっ!?」


防戦一方だ。だが、手を貸せる状況ではない。シズネさんは残りの1人と対峙しているし、マダオも蛇の相手でせいいっぱい。

こっちも、カブト相手では気を抜ける状態ではない。

互いに油断なく対峙している今、一瞬の隙が致命傷になっていてもおかしくない。

ある程度のレベル、致命打を持つような力量に達する者同士の死合では、互いの地力の差など、一瞬の隙があれば埋まってしまう。

(チャクラのメスによって心筋とか肺を裂かれるのは不味いしな)

呼吸が出来ない状況では、追撃もかわせないかもしれない。

だから、俺は目の前のカブトに集中する。それに。


「死ね!」


突き出された暗部のクナイ。




「死なない!」




それを、キリハが手のひらで受け止める。






「ぐうううっ!」




血が吹き出るが構わず、そのままその暗部の腕を力任せに引き寄せる。





そして、空いているもう片方の手のひらを突き出した。






「あれは・・・・!」





成り行きを見守っていた綱手が、驚きの声を上げる。







一週間前に約束した、あの術だ。






「螺旋丸!」







正真正銘、全力全開の螺旋丸が、音の暗部を吹き飛ばした。







(本当に、やった・・・)




修行の段階では五分五分だったのに。

それを、実戦でしかも掌を貫かれ激痛に耐えながらも完成させるとは。


本番に強いというレベルじゃない。これが天性か。

思わず笑みが零れる。


『油断するな!』


(分かってるよ)


気は抜いてないから大丈夫・・・・!?


「一体、行ったよ!」

マダオが相手していた蛇が、一体こっちに来た。


(ちい、マダオの攻撃能力が乏しいと見て・・・!)

残りの二体で十分だと思ったのだろう。一体を、こちらに向けてきたか。

「だが甘え!」

と螺旋丸を繰り出そうとするが、また身体が動かない。


「同じ手を食うか!」

先ほどより速く、その拘束から抜け出る。

そして蛇の突進を跳躍して避けた後だ。

再び正面から向かい、螺旋丸を発動する。


「これで終わり・・・・!?」


そして、螺旋丸を繰り出そうとした時。







蛇の中から、残りの1人が飛び出てきた。





「大蛇丸様、万歳!」






そして俺は、音忍が全身に纏っているものを見て戦慄する。








(大量の、起爆、札、まずっ・・・・!)




避けきれない。






一瞬後、爆音と共に、視界が閃光に染まった。










~キリハside~




「春原さん・・・・!」


口寄せの蛇も巻き込んだ、自爆。

あの爆発の規模だ。避けられたとも思えない。




「他人の心配している暇はないよ!」


呆然としている私のところに、カブトさんが襲いかかってきた。


「くっ!」


まともに相対しても勝てるとは思えない。そう判断し、木の葉瞬身を使って距離を取る。


(悔しいけど、私じゃかなわない)

カカシ先生に匹敵するレベルと聞いた。

(自来也のおじちゃんが来るまではもたせないと・・・!)


と決めたが、それも無理そうだった。



(速すぎる・・・!)



瞬身後の所を捉えられた。間合いを詰めてくるカブトさんを見て、私は悟った。



(この間合い、逃げ切れない・・・!)



「殺った!」


勢いのまま突き出されたメスが、私の胸を貫いた。



「・・・・!?」


その直前、カブトさんの動きが不自然に止まる。


「隙あり!」



混乱していた私は、咄嗟に掌打を突き出す。


「ぐうっ!?」


それを避けられず、吹き飛ぶカブトさん。



「くっ、今のは、金縛りの術?」


「お返しだ」



驚くカブトさんの後方、まだ漂っている爆風で起きた煙の中から、声がする。



「春原さん!」

生きていたんだ、と安堵のため息を吐く。






だが、煙が晴れた先、現れたその姿を見て、硬直する。










「・・・・・・・・・え?」





息が止まったかのように錯覚する。







あちこち跳ねている、金髪の癖毛に、青い瞳。







「はっ!」




私の隣に降り立つ。その姿を見て、鼓動が早くなる。





小さい背丈に、何処かで見た顔立ち。





夢にまで見た人の姿が、あった。







~side out~





危なかった。発動前のなり損ないの螺旋丸を盾代わりにしないと、結構なダメージを被っていただろう。


まあ、余波で変化が解けてしまったけど。



(仕方ない、か)



隣で硬直するキリハを見て、苦笑する。



(ま、遅いか速いかの違いだし)



「説明は後だ」



取りあえず今やる事は一つ。



まず、口寄せの術で例の布を取り出す。途端、カブトが警戒の態勢に入る。



「一度殺されても」



それを聞いたカブトが、詠唱の間に逃れようと、俺から距離を取ろうとする。



(大蛇○から要注意術として、事前に詳細を聞いていたんだろうが)



「今に見る夢は同じなり、以下省略!」


「ええ!?」



事前知識が仇となったな!術の発動に、詠唱は要らないんだよ!



「精霊麺!」



不意をつかれたカブトは避けきれず、封印術を組み込んだ布に腕を拘束される。




「キリハ!」



隣のキリハに視線を送る。




「はい!」



キリハは俺の呼びかけに応える。




そして、一緒にカブトの元へと走り出す。




そして、横並びに走るキリハに、左手を差し出す。



「いくぞ!」


「・・・了解!」


握手するためではない。


キリハは俺の呼びかけに応え、怪我をしていない右手の方をこちらに差し出す。





これは、そう、訓練中に冗談で語った、双子の協力技だ!





互いにチャクラを放出し、回転させ、留める。






大きさは二人分、その更に倍だ。






喰らえ!







「「双龍・螺旋丸!!」」








螺旋の大玉が、封印の布ごとカブトを吹き飛ばした。








[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 三十一話
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2009/08/03 07:50


「おーおー、でかいねえ」


自来也のガマ文太、綱手のかつゆ、大蛇○のマンダを見上げ呟く。


ちなみに先ほど吹き飛ばされたカブトも、マンダの上に乗っている。

死んではいない。拘束の封印布からの一撃だったし、あの布の防御力で、螺旋丸の威力も殺されたみたいだ。

まあそれでもかなりのダメージを受けているようだが。




状況だが、カブトが吹き飛んだ直後、遅れてきた自来也が到着。

まずは土遁・黄泉沼を使って、口寄せの蛇を沈めた。


そして大蛇○との攻防後、ガマ文太を口寄せした。


同時、大蛇○の方もマンダを口寄せ。


同じく。綱手の方もかつゆを口寄せ。


3すくみの硬直状態に陥った。




マダオはチャクラの消耗が激しかったので、俺の中に戻っている。


キリハとシズネさんは俺の隣にいる。

・・・あと、キリハの輝かんばかりに何かを期待している視線がな。

痛いぜ。


(シカマルじゃないけど、めんどくせーことになったな・・・)


深い付き合いは無理だっちゅーのに。

火影目指しているのに、木の葉ではある意味鬼門な俺と一緒にいることになるってのもなあ。

無理でしょ。


『・・・・ま、それはともかく。どうするの? 大蛇○にはばれたようだけど』

(どうもせん。暫くは戦いも無いだろうし、メンマの姿で一日過ごすよ)


後は自来也に釘を刺しておくだけだ。スタンスは変えない。

(どうも、ね。木の葉にはいらんお節介を焼く人が多そうだし)


ここ2週間に満たない付き合いだが、分かった事がある。

善意は嬉しいが、時には重荷になるってことを。

狙われる身としては、基本独りの方が気楽で良いのだ。

白と再不斬でさえ、いつかは別れる事前提の付き合い。

(ま、あの二人は一緒にいて気楽だけどな。白は基本優しいし、再不斬も同じ。それなりの過去持っているし、深くは踏み込んでこない)

触れられたくない場所があるってことは、互いに分かってる。

(でも、自来也とか木の葉の忍びは違うんだろうなあ)

俺を俺として見てない感じがする。四代目の息子ってフィルターがかかってるんだろう。

仕方ないとは言えど、ね。


正直うっとうしい。


『え、彼女欲しいんじゃ無かったの?』

(・・・暁を倒すまでは無理だよちくしょう)


屋台でイタチと鬼鮫を見て、分かったことがある。

今まで、暁の事を甘く見てたってこと。大蛇○と対峙した時点で気づくべきだった。


(どうにかなると思ってたけどな。いやー、どうにもならんわ)

一対一ならどうにかできる。イタチが絡まなければ、一対二でも何とかなる。

でも、イタチ絡んでの一対二だとアウトだ。

(それに、1人であれだけの力量だとねー)

6人いるっていうペインにも勝てない。

(・・・ペインが自来也と対峙する所まで見たんだっけか)

それ以降は分からない。勝敗の行方も分からない。

まあ、負けイコール死の世界だし。


(今までより慎重に行くしかないかあ)

『ま、そうだね』


その前に、大蛇○を無事逃がさないとな。

情報の使い方次第で、暁と音隠れを対峙させる事も可能だ。

互いの消耗を狙う俺としては、3年後までは生きていてもらう必要がある。


『じゃ、行く?』

レッツゴー、と足にチャクラをこめて跳躍する。


「・・・何のよう? 九尾のガキが」

「まあまあ蛇さん。そう怒らんと。そんで、お三方に話があるんだけど」


軽く切り出した後、告げる。




「うちはイタチと干柿鬼鮫が近づいてるんで、ここは一つ退いてくんない?」

「「・・・何?」」

自来也と大蛇○がハモる。


もちろん、嘘である。


だが、俺が出す情報だ。一部では、信じざるを得ないものがあるだろう。

俺が暁に追われる身だってのは・・・自来也と大蛇○は知っている。その対策に云々~と、良い感じに裏を考えて、納得してくれるだろう。

そして、追撃の一言。

「いや、俺としては・・・今は、対峙したくないんだよね。暁と」

「・・・へえ? そこまで知ってるのね」

言外に含ませたニュアンスも悟ってくれる蛇さん。

(うん、やりやすいな)

今は、と対峙。これだけで、俺を追う事はないだろう。暁にも情報は流さない筈。

大蛇○としては、俺が暁に捕まったら困るのだ。故に情報は流さない。

今は、という言葉から、暁という組織としての目的も知っている、という事を連想させる。

そして、俺が暁と対峙する意志を見せているならば、今もしくは3年の期間内という時間制限はつくが・・・俺を害すという選択肢は選ばない。

俺と同じく、俺と暁でつぶし合って貰うという状況が最上となるのだから。


「と、いうことで、一刻も早く退いてくれ。このままじゃ全滅する」

手負いの大蛇○と綱手、そして完調ではない自来也だと、事実そうなる可能性が高い。

(仙人モードになれば分からんけどね)

薬が抜けきってない状況で使えるかも分からんし。



「ふ、ふん、いいわ・・でもこの借りは必ず返すからね!」


大蛇○がツンデレのテンプレを発動。


俺の精神に多大なダメージ。


いや、表情はね。睨んでるし、殺気もあるし、ちょっと怖いんですけど。

でも、そういう言葉の使い方をされるとちょっと・・・連想してしまった。

自分の現代知識を憎んだのは初めてでした。


『き め え』


全力で同意する。テンションだだ下がりじゃあ、ボケ。


「・・・はあ。じゃあ解散、解散」


とやる気なく手を叩く。


gdgdな空気のまま、戦闘は終了となった。















その夜。


あの後、宿に戻った俺たちは、一泊した後木の葉に戻ることとなった。

キューちゃんは、少し話があるとのことで、離れている。どうも自来也と話をする約束をしているそうだ。

俺はといえば、キリハ待ち。


(話すと約束したからな)

綱手と話した後のことだが。

現在、窓の外ではキリハと綱手が何ごとか話している。あの首飾りを見るに、話は上手くいったのだろう。

(五代目火影の件は問題ない、か)

二人を遠目でみながら安心安心と呟いていると、声を掛けられた。



「少し、話があるのですが」

「ん? 何、シズネさん」

「・・・今日の事です。綱手様が1人で大蛇丸に会いに行ったと聞かされた時、あなたは慌てなかった」

「え? ああ、まあ、ねえ」

「大蛇丸の誘いについては、分かっていたのでしょう? 何故・・・」

と、うつむくシズネさん。

(ああ、ちょっとだけとはいえ、裏切ったと思ってしまったんだっけ。付き人なのに、とか考えているんだろうか)

うーん、何ていったらいいのか。

「えーと、綱手さんって医療忍者でしょう?」

「え、ええ」

「医療ってものは、生きている人を治すわけで」

「はい」

「つまり、ね。誰より腕が良い医療忍術の使い手である綱手さんは・・・誰より知っていると思ったんだよ」

「何を、ですか?」

「死人は蘇らない、ってことを」

その言葉に、シズネさんは息を飲む。

死人が蘇る。それは、医療忍術の存在意義を根底から覆す理だ。

それに、人体の理不尽を誰よりも熟知しているだろう綱手の事だ。

(生き返る? そんな事は有り得ない、ということは分かっていた筈だ)

死は死で。生は生だ。

覆すことなどできない。生きる者、死んだ人、その両方を冒涜することになる。

「それに、大蛇丸の目的については知っていたんでしょう? なら、協力するはず無いじゃない。木の葉を潰すってことは、大切な人の遺志を潰すって事なんだから」

ダンと縄樹の話は、5ヶ前にキリハと一緒に聞いた。

(火影は俺の夢だから、か)

今はキリハが持っているだろう、夢。木の葉を守る火の影になるという夢。

ならば、答えが出るだろうと言う。

「そう、ですね」

「まあ・・・確かに、大切な人だったんだろうね。知っていながら、それでも期待してしまう程に」

「・・・はい」

と落ち込むシズネさん。

甘く誘う夢に陥り、眠るように腐っていく。

辛い現実、それを良しとする選択もあるが、内に残る誇りが勝った。

そういう事だろう。

「はいはい、この話は終わり終わり。過ぎた事でしょ? 明日からまた頑張ればそれでOKOK」

「はい・・・」

いかん。暗い。ここは話題を変えよう。

「でも寂しいなあ。会うのは二度目だってのに、俺の事忘れてたんですか?」

「え?」

「ほら、あの時、麻の里での事覚えてません?」

「えっと・・・・・あ!」

思い出したようだ。

「あの時、お金を取り戻してくれた人ですか! 思いだしました!」

「忘れられてたんだ・・・」

やっぱり。ノーリアクションだったし。

「いや、すいません・・・恥ずかしながら、今思いだしました。えっと、あのときは本当に有り難うございました」

「ま、いいよいいよ。あの時は路銀を稼ぐついでだったし」

本命はラーメン代ですが。

「それでも、助かりましたから」

と顔を赤くしながら、頭を下げるシズネさん。

「でも、奇妙な縁ですよねえ。あの時はただ綺麗なお姉さんを助ける事が目的でしたから。まさか忍びだなんて、気づきもしなかったですよ」

「え、ええ?」

と、一部の言葉に反応して、赤い顔を更に赤くするシズネさん。

(ほんと、耐性ないなあ)

年上だってのに、からかい甲斐がある。

「ま、あの時は失礼しました。でも、木の葉に戻ったらね。心配ないと思いますよ?」

本心である。アクが強い木の葉くの一群(代表格:アンコ)の中、トップクラスの癒し系要素を持つシズネさんはもてにもてるだろう。

姑(綱手)がちと難問だが。

(でも、綱手の付き人ってだけでなあ)

ものすごい忍耐力を持っている良妻賢母、と思われるんだろう。料理の腕も立つと見た。

「そうでしょうか」

「そうですよ。保証します・・・っと」


窓の外を見ると、綱手の姿はすでに無かった。

キリハが1人、佇んでいる。俺を待っているのだろう。


「・・・じゃあ、キリハと色々話す約束してるんで」

「はい。あの、有り難うございました」

「って俺の方が年下ですって。敬語はいらないです」

「あ、そっか。じゃあ・・・ありがとうね?」

微笑むシズネさん。



「それですよ。その微笑みがあれば、男なんてイチコロです」


親指を立てながら、「笑顔を忘れずにー」とだけ言って、その場を後にした。















約束の場所に来ると、キリハが1人星空を見上げていた。

そして俺の気配を察知すると、すばっと視線を正面に戻す。


「「・・・・」」


ちなみに、変化は解いている。

背丈は同じくらい。いや、キリハの方がやや上といったところか。


「え、えっと・・・」

「ん?」

何を話していいか分からない、といった風なキリハ。

なんでか、頬が赤い。


でも、


「お、お兄ちゃん!」

その口から出た言葉に、俺の頬も赤くなった。




「な、なんでせう妹」

「お兄ちゃん!」

「いもうと」

「お兄ちゃん!」

「妹!」

『・・・な、何してるの?』

(はっ!)

マダオの突っ込みを受け、我に返る。


『いやあ、眼福眼福』

とによによした笑い顔をしているであろうマダオ。

ふと周りを見ると。


綱手:宿の扉の裏でゲラゲラと笑っている。

シズネ:宿の三階の窓の上で、微笑まし気に見守るように

自来也:屋上でにやにや笑っている

キューちゃん:同じく屋上。若干不機嫌に見える。え、何で?



つまり。

要約すると羞恥プレイだった。





(ど、どうしたら良い!?)

かつてない危機的状況に、焦る。












~キューちゃんside~


「まったく・・・」

屋上から見える、兄妹の姿に苦笑する。

(何をやっているのだあやつは)

抱きつこうとする妹と、何故かそれを避けようとする兄。

いつのまにか一進一退の攻防になっている。

(照れているのか。相変わらずあほじゃのう・・・)

傍目から見れば随分とアレな絵だ。

まあ、笑えるが。


攻防の途中、キリハから聞こえる、

「見守ってくれていたんですよね・・・・・・・ずっと」

とか

「ずっと会いたかった」

とか

「これからは一緒だよね」

とか。

一々言葉に反応しているあやつに、何故か不機嫌になる。









(まあ、不機嫌になるのは、の。それだけではないだろうが)

と、その原因を横目で見ながら、訪ねる。

「それで? 話があると言っておったが、ワシに何が聞きたい?」

「いやのお・・・」

「妖魔核の事か?」

その言葉に、自来也とやらの動きが止まる。

「気づいておったか・・・いや、思い出したと言う方が正しいのか?」

「ふん、その通りじゃ。もっとも、思い出したのは最近じゃがな・・・それで? それだけじゃなさそうだが」

「妙木山の蛙の爺様から聞いたんじゃがのお・・・本来、天狐とは気位の高いものだと」

「うむ」

その通りだ。遙かに高い霊格を持つワシ達・・・といっても、極々少数じゃがの。

そのどれもが、気位の高い奴らばかりじゃ。

「有り得ないと言われた。本来の自我を取り戻した天狐が、宿主である人間を殺さず、自由も求めないで・・・その現状を良しとするというのは」

それも然り。妖魔核が抜けた今、ワシが外に出たとしても、問題はあるまい。

すでに、新たな九尾は生まれておるじゃろう。断言しても良い。絶対にそうなっている。

(容赦など無い存在だからのう)

今宿主であるあやつを殺しても、ワシが再び堕ちる事はあるまい。

「それでも、お主は動かない。宿主を殺そうとしていない・・・それは何故じゃ?」


「そうじゃのう・・・」


満ちる月を見上げながら、呟く。




「雌として生まれ、妖魔に堕ち、災厄の権化となって生きた」




そこからは無色の日々。

ただ目の前にあるもの全てを、喰らって生きてきた。


人を、獣を、草花を。目の前に移るものすべて、動く者全てを屠り尽くした。

あるいは、己の存在でさえも。

殺さずには生きていられなかった。


あれが・・・己に根ざした妖魔核が、どこから生まれたものなのかは知らない。

妖魔に堕ちた時の記憶も曖昧だ。でも、あの殺戮の日々は肉の隅々まで、骨の芯に至るまで染みついている。


考える事もできず、いつの間にかそれを受け入れ、ただ殺すだけの日々。



「そこで、出逢った」



人でないものでも、その目で見つめ、言葉を交わし、理解しようとする馬鹿者を。

人が持つ悪意に怯え、驚異に怯え・・でも人が持つ誇りも大好きだという馬鹿者を。

損得だけで動かず、感情のままに動き、そして時に間違え、それでも諦めない馬鹿者を。

目覚める時も眠る時も、明日の事を信じている馬鹿者を。


思い出すだけで笑ってしまう。そして、胸の中の灯火が揺らぐ。

暖かい音を発しながら。



「そうじゃの。確かに。『天狐』としては、おかしいのかも知れぬな」



問うてくる人間、自来也に視線を戻し、その問いの答えを言う。




「でも、決めたのだ。あの馬鹿者の傍にいられるなら、そんな位などいらないと。そんなつまらないものなど、必要ないと」



今、ワシは笑っているだろう。誇らしげに。

出会えた幸運を思い、そしてこれからも共に在れるであろう巡り合わせに感謝しつつ。





「雌として生まれ、妖魔に堕ち・・・・・・それでも、だ」




生まれは選べない。でも、死に方は選べる。


そして、譲れないものがある。望む事がある。





「死ぬときは、女として死にたい・・・あやつを愛する女として、な」





それが、共に有る理由だと。



月の光に負けないように、いっそ輝かしく微笑みながら。



天上の美しさを持つ天狐は、歌うように告げた。









[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 三十二話
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2009/08/05 22:37



「うーし、じゃあ出発するかあ」



翌日、早朝。

宿の前には、出立しようとする、一団の姿があった。




「それにしても頭が痛い・・・」

昨日の夜の事を思い出す。

あの後、キリハの攻勢を凌ぎきれず捕まった俺は、色々なことを話すはめになった。



人柱力とか、暁のこととか。

それで、木の葉には・・・木の葉の忍びには戻れない事を告げると、

「・・・仕方ないかもね」

と、悲しそうに笑いながらも、納得してくれた。考えていた事なのだろう。




そして、マダオとかキューちゃんのことを説明すると、

「ええ?!」とか「お父さん!?」とか滅茶苦茶驚いていた。

キューちゃんに向けられた視線の中、含まれている感情は複雑そうだったが、何とか納得してくれたらしい。


ちなみに、マダオのマダオっぷりについて聞いてみたところ、

「え? 別に想像の範囲内だよー」らしい。



まあなあ。



自来也(エロ仙人) → 【  】 → カカシ(遅刻王・イチャパラ狂)

という構図で、「【 】に入る答えを書きなさい」という問題の答えだからなあ。

それに、小さい頃からそういう人達に囲まれて育ってきたしなあ。


・・・キリハの常人のラインは何処にあるのか、激しく気になる出来事だった。


(我が妹に幸あれ)

強く生きてくれ。

ちなみに、好きな人はいないのか、と聞いたところ、「いない」だそうだ。

笑顔で断言された。


「サスケは?」と聞くと、「チームの仲間だよ?」らしい。

「シカマルは?」と聞くと、「幼なじみだよ?」らしい。

・・・あの二人に幸あれ。

まあ、サスケの方はどう思ってるのか知らんけど、シカマルの方はなあ。

たまにラーメン屋に来ていたが、キリハを見る視線が、こう、あれだ。

いわゆる、ばればれである。いのとかサクラとかヒナタ辺りは気づいているだろう。ああいうのは、女の子の方が聡いもんなあ。

この妹、天然入ってるし気づいてないだろうけど。


ちなみにマダオだが、キリハの「いない」発言を聞いた後、手に持っていた釘バットを静かに床に置いた。

何するつもりだった、とは聞かない。

・・・あとその赤い染みはケチャップだよね? てかどこから取りだした?





そして、テンション上がった全員で酒盛りをした。

何か色々とめでたいということで、飲めや歌えの馬鹿騒ぎ。




そして、その後、酔ったキリハが俺の部屋にやってきて、「今日は一緒に寝ようよー」と主張したが却下。




・・・キリハの背後で素振りしているマダオが怖かったし。

スイングスピードが速すぎて、バットのヘッドが霞んでたし。何をかっとばすつもりだったのだろう。あと無表情でバットを振らんでくれ怖い。


あの夏の空に消えた白球には成りたくないので、必死に説得した。

てか、その速さでジャストミートされたら、頭蓋が粉微塵に砕け散るわ。

え、何?「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ~♪」?

・・・色々な意味でふざけんじゃねえよ。


と、いうことでマダオとキリハが一緒に寝ることになった。

ま、その方が良いよ、きっと。親子水入らずってね。次の機会がいつになるかも分からないし。




だが、1人布団に入って眠った後だ。思わぬアクシデントが俺を襲った。

夜中にふと目覚め時に気づいたのだが。


・・・いつの間にか、キューちゃんが俺の布団に入り込んでいたのだ。


誇張ではなく、一瞬鼓動が止まった。

間近で見るキューちゃんの顔。すう、と静かな寝息を立てて俺の顔の真正面。

もうあれです。今まで近場でみたこと無かったので、気づかなかったですが。


・・・金糸・真白の輝きに、寒気がする程の美貌。子供ながらに、反則級の綺麗さでした。

幸せそうに笑っているその表情が倍率ドン・・・今思えば意味が分からない。それだけ錯乱していたということだろう。


大人の時の姿を思い出し、なんか、こう、今までにない変な感情が湧きでてきた。


『・・違う! 俺はペドじゃないロリじゃないんだあああぁぁあぁぁあ! はっ、これはまさか魔導探偵の罠!? おのれチョウジぃぃぃ!』


とか、一晩中心の中で錯乱していたので、眠れませんでした。

まる。




朝、起こしに来たキリハに見られて、怒られたし。

「えっと、流石にそれはどうかと思うの。ってキューちゃんもあくびしてないで聞いて!」

「眠いし今度」

床をばんばん叩いて怒るキリハと、目をごしごし擦って面倒くさそうにしているキューちゃん。


ちなみに俺は隣で悟りを開いていた。目玉は狩らんけど。

煩悩退散だ。今ならば仙人になれるかもしれない。




「えっと、現実逃避してるみたいだけど、止めなくていいの?」というマダオの言葉に、

しゃーねーなーと応えながら、口を挟む。

・・・でも何か怖かったので

「えーと、波風さん? そのへんでどうか」

と言うと、予想外の反応が。涙目になったキリハに、「名前で呼んで!」と怒鳴られたのだ。

そして何故か、今度はこっちが怒られることに。

キューちゃんはあっちの方で二度寝してるし。



(いや、こそばゆいっていうか面倒くせえな、おい)

そんな事がありました。








「ふー・・・」

色々と思い出して、また頭が痛くなる。


「なんじゃ、元気ないのう」


「ちょっとね『ナルトさん、事件です!』ん?」


「あれ、呼んだ?」

「ワシじゃないぞ」

「僕でもない」


(・・・あ、木の葉に置いてきた影分身か)


「ちっと悪い。外すわ。マダオ、キューちゃん」

「うむ」

「了解」

二人を中に。


「おい!? ちょっと・・・」

「お兄ちゃん!?」

自来也とキリハが叫ぶが、取り合わない。

事件、と言っている。急いで対処する必要がある。


「先に木の葉に戻っておいて。大丈夫、絶対に戻るから」

「・・・うん」

返事を聞いた後、俺は走り出した。







「事件、か」



呟く。

そしてふと頭をよぎった単語について、マダオとキューちゃんに聞いてみる。

「平穏ってなんだっけ?」

俺にとって、平穏とはラーメンだ。ラーメンがが恋しい。お家帰りたい。ラーメンを食べたい。

白い鳩並に平和の象徴となってもおかしくないぜ!

『疾く、過ぎ去るもの?』

・・・忍びねえなマダオ。流石は元火影。

『風と共に漂い、また何処かへと流れ伝わっていくものじゃろう・・・一つところには決して留まらぬもの』

追い続けないとすぐ無くなるし、下手に留めると濁るしの、と笑うキューちゃん。

うーん、経験談みたいで、反論できん。

でも、何か台風みたいな厄介毎が次から次へとやってくるんですがどうしたらいいんでしょう。

いっそ旅にでようかなあ。でもなあ。

「平穏はコボルトよりも弱く、トーレナ岩よりも消えやすいしなあ」

『誰が分かるのそのネタ』

反省。

でも赤宝箱は男のロマンだと思うんだ。

『白宝箱はだめ?』

リスクのない冒険は冒険とは言わないよ。危険の無いギャンブルなどちっとも面白くないしね。

『-1000000G、次ターン即死』

それでも、だ。

その果てに得られるものがあると信じて、人は挑み続ける!



『何を言っておる?』

いかん、話がそれた。



取りあえず、だ。

「これが終わったら、絶対に休暇(ラーメン三昧)取ってやるーーー!!」

小池メンマ13歳、魂の叫びだった。

このままでは「 ガ ッ ツ が 足 り な い !」という事態になりかねんし。





『そもそも、この面子で平穏に暮らせると思うのが間違いなんじゃない?』

・・・嫌な締め方をするな、マダオ。










そして、数分後。

「ここまで離れたら、十分か」

白にこちらの言葉を返す。

「何があったの?」

影分身を媒介とした連絡方法だ。

相変わらず便利すぐる。ま、維持に馬鹿みたいなチャクラ使うし、そうそう使えるもんでもないんだけどね。

『あ、はい。今木の葉の外れの・・・森の中に居るんですけど』

「うん」

『その、女の子が1人・・・こっちも、忍び・・・うん、抜け忍みたいなんですけど。4人の追忍らしき忍びに襲われてるみたいなんです』

「特徴は?」

『追われている方は・・・額当てを外してますので、どこの抜け忍かは分からないんですが・・・赤毛の、女の子です』

赤毛。

もしかして、と思ったけど、ビンゴか。

『追っているのは、音隠れの忍びですね。何やら、不穏なチャクラを纏っています。あと、面はつけていないですが・・・』

こっちもビンゴ。

「・・・もしかして、その女の子を追ってる連中の中に、デブとか麻呂とかいる?」

『ええ? ・・・はい、太っている人はいますけど、麻呂ってどういう意味ですか』

「あ、ゴメン。何か、眉毛がこう、黒丸二つみたいな」

『あ、はい。います。こっちはまだ気づかれてないみたいなんですけど、どうします?』

「再不斬は?」

『隠れ家です。留守番してます』

じゃあ、不味いな。白だけじゃ危険だ。

今の白なら、2対4でも勝てるかもしれないが、万が一があれば再不斬に顔向けできんし。

「取りあえず、すぐそっちに向かうから・・・っち、遠いな」

間に合うか?

「なるべく戦闘は避けてね。その中には、あのかぐや一族の生き残りもいるから」

『・・・』

え、何か白の空気が変わったんだけど・・・俺、地雷踏んだ?

『かぐや一族、ですか。そうですか・・・まだ、生き残りがいたんですね?』

「そう、だけど」

怖ええええ。なんだ、怒ってる?

『そうですか』

「え、ちょっと、手を出さないで欲しいなー・・・なんて」

下手に殺すと、ね。

サスケは向こうに渡す気ないし、次の転生先であろう君麻呂を殺すと、音とのあれこれが、色々とややこしいことになりそう。

『・・・はい、わかりました』

「悪いね」







通信を終えた後、マダオが言葉を挟む。

『かぐや一族って、霧隠れの・・・骨の血継限界のあの一族だよね、確か』

「そう。クーデター起こしたけど滅びたっていう・・・あ、そっか」

その事件のせいで、血継限界持ちの立場が余計に悪くなったのかも。

「そりゃ怒るわあ」

いらん事思い出させたかな。




『まあ、それはともかく』


やりますか。




「さてと」

一度止まり、屈伸する。


(それが少女の危機ならば、それを阻止するのが我ら影ってね)

格好だけじゃない。ノリで言った言葉だけでもない。心の中にある言葉だ。


見ず知らずの少女でも、目に映れば助ける。

それに、追われているということは、抜けたのだ。

・・・選んだのだ。

誇りに殉じる生き方を。



(なら、助けてやりたい)



力、有る。

機会、有る。

方法、有る。




改めて自己に問う。


(・・・見捨てるか?)


その答えは、ノーである。





さらに、問う。



ただの女の子が、それでも夢に命を賭けた女の子が、助けを必要としています。







(・・・その手を差し伸べるか?)








『「その答えは、イエスである!」』

昨日の酒が抜けきっていないのか、マダオもハイテンション。

でも、悪くない。

悪くない、酔いだ。







力に生きる道を選ばずに。

別の道で、力に頼らない道を選び、誰かを幸せにしようとする少女を。

それでも夢を諦めない、意地を通すと決めた、誇り高い馬鹿者を。

助けない道理などない。





傲慢結構。そうしたいから、そうする。俺の十八番だ。

危ない橋を渡る事になるが、今は忘れよう。


世界は優しくなんてないが、それほどでもないと伝えに行こう。


そして戦友のために血を流す勇気を、俺はまだ持っている。







「ならば俺は手を差し出しに行こう! 木の葉を駆ける麺となって!」







『応!』



マダオも、同じ気持ちなのか、応えてくれる。




「チャクラ全開!」





全速力で現場へと急行した。
















~多由也side~




うちはサスケを音に勧誘する任務の前。

ウチは、かつての仲間に追われていた。




(甘かった)

任務中の死亡、ということにして里抜けしようと思ったのだが、考えが甘かった。

ウチの思惑など、大蛇丸には既にお見通しだったらしい。





先ほどの事を思い出す。

周囲の地形を確認して、逃走経路を確認していると、いつの間にか4人に囲まれていたのだ。

「・・・任務前に、大蛇丸様からある事を伝えられた」

正面の君麻呂が、淡々と話し出す。

「多由也が、木の葉に寝返った可能性があると」

心臓が跳ね上がる。

「動揺したな?」

背後から、左近の声が聞こえる。それは確認の声じゃない、まるで裁断する時の声のよう。

正面に立つ君麻呂が、眉間に皺を寄せながら首を振る。

「妙な真似をすれば・・・また、木の葉のだれかと接触するようなことがあれば直ぐさま殺せとのお達しだ・・・僕としてはまさか、と思っていたんだけどね」

君麻呂が信じられない、と言った風に首を振る。

彼にとっては、大蛇丸を裏切る事など、既知の外の理念なのだろう。


「裏切り者には、死を」

四方から、制裁を目的とした死の一撃が繰り出された。






「くそ・・・」

走りながら、毒づく。

囲まれた状態での初撃こそ何とか避け切れたものの、浅くない手傷を負ってしまった。

(これじゃあ、血の臭いのせいで・・・)

追手を、あの4人を撒けないだろう。

かといって、木の葉に行くこともできない。せいぜいが、拷問されて情報を聞き出されて終わりだろう。

木の葉の忍びは甘いと聞くが、火影を失った直後だ。

捕まった結果どのような目にあうかなど、想像もしたくない。





走り続けながら、また毒づく。

「八方塞がり、か」

「その通り」


呟いた瞬間、上の方から返答が返ってきた。


「!?」


その声の主を視認、左近だ。


「多連拳!」


「くっ」

(左近の多連拳は、紙一重で避けても意味がない!)


掴まれる事だけはさけたいと、大きな動作で何とか避けきる。


だが、足が止められた。



(---殺気!)


瞬間、後方から飛来する何かを感じたと同時、横に跳躍する。


直前まで乗っていた木の枝が、骨の弾に貫かれた。


十指穿弾だ。


「くっ・・・」


そして、前後に挟まれる。



前には、左近。後ろには、君麻呂。




遅れ、次郎坊と鬼童丸も追いついてきた。





「くそ・・・」

また、囲まれた。

手負いの今、この包囲を抜けられるとも思えない。でも、ここで死ぬわけにはいかない。


(まだだ、諦めるな!)

弱気になる心を奮い立たせるが、状況は絶望的だ。


数十秒、硬直状態が続いた後、

「・・・何故だ、と聞いてもいいかな?」

君麻呂が後ろから話しかけてくる。

「何故、大蛇丸様を裏切った?」

声には、硬質の殺気が篭められている。

四方への警戒を消さないまま、背後の君麻呂を肩越しに見ながら、答える。



「へっ、カマヤローについていっても、先は無いと思ったんだよ」


空気が凍る。

だが、構わず続ける。

(挑発して怒らせる。怒りに我を失ってくれれば、抜けられるかもしれない)


危険な賭けだが、このままではやられる。それに、こいつらに向かって、言いたいことでもあった。


「実際、木の葉崩しは失敗したじゃねえか。それに、首輪付きで飼われている状況に嫌気がさしただけだ」




途端、ウチを囲む3人の呪印が解き放たれる。

怒号が飛ぶ。


「で、外に出て野垂れ死にたくなったのか? ・・・けっ、雌野良犬風情が、まあよくも語ってくれるもんだぜぇ!」

「ふん、飼われているんじゃないぜよ。牙を与えてくれた大蛇丸様に仕える、忠実な狼になっているだけぜよ!」

「図に乗るなカスが・・・!」

殺気とチャクラと怒声が荒れ狂う中、それでも言いたかった一言を告げる。



「へっ、野良犬で結構! 鎖で繋がれた家畜よりはな!」


同時、チャクラを解放する。でも、呪印は使わない。使えない。

精神暗示を断ち切った結果、ウチは呪印を解放できなくなっていた。


(また、殺意に、黒い感情に身を任せれば別かもしれないけどな・・・!)


でも、それはしない。

もう、堕ちないと、そう決めた。




場が沸騰しきった後、初撃がくる。


「・・・終わりぜよ!」


一つ目の攻撃。

右から、鬼童丸の蜘蛛巣花が複数飛んでくる。


(・・・狙いが甘い!)

顔を真っ赤にする程の怒りのせいか、通常時よりは狙いが甘くなっていた。


何とか避けきることができたが、安心などできない。


(そのまま左・・・次郎坊!)


「突肩!」

左に抜けようとするが、待ちかまえていた次郎坊が肩での体当たりの一撃を繰り出してきた。


だが、それは読んでいた。


「な!?」

咄嗟に次郎坊を踏み台にして跳躍。



囲いを抜けた、かと思った。



だが、その先には、



「甘いぜ!」




左近が待ちかまえていた。



(誘われた!?)



「いい音奏でろよお!」



空中なので逃げ場はない。


(呪印解放状態での多連脚!)


余裕はないと判断。チャクラを腕に全力で集め、ガードする。


衝撃。


「くっ!」


直撃は避けられた。今のを胴体部に受けていれば、危なかっただろう。

だが、

(腕が、折れたか・・・・)


痛みに耐えながらも、着地する。





直後、全身が逆立った。





「死ね」



背後から、声がする。

あまりにも簡潔な一言。

だが、全ての意志が篭められている。



先ほども感じた、骨の如く硬質で、かつ膨大な量の殺気。



振り返る直後、ウチはみた。




君麻呂は、呪印を解放していなかった。

だが怒りのせいか、そのチャクラは解放状態に匹敵する程に高まっている。


(避けられない)


既に、君麻呂の間合いに入ってしまっている。

そして、既に手には



(骨の、刀、まず・・・!)


そして、この構えから来る舞は一つだけ。




「椿の舞」




骨の刀による、連続刺突。


5つある舞の中でも威力は低めだが、その分速度に優れる舞だ。



「あああああああぁぁぁあ!?」



腕が、足が、肩が、胴体が。


貫かれ、血を吹き、その度に激痛が頭の奥を襲う。


「っ殺ぃ!」


そして止めとばかりに、後ろ回し蹴りを繰り出してきた。



「ぁあっ!」



吹き飛ばされ、背後の木へと叩きつけられる。



その拍子に、懐に隠し持っていた笛が、前方に転がる。


だが、手を伸ばすこともできない。

激痛の中、俯せに倒れ込むことしかできない。



「・・う・・・ち、の・・・・・・ふ・・・・え・・・」


痛みで意識が朦朧とする中、それでも眼前に転がる形見の笛を求めて、必死に手を伸ばす。

そして、掴んだ瞬間。


「ぐっ!?」


笛を掴んだ手が踏まれた。

折れたのだろう、更なる激痛が意識を揺さぶる。

君麻呂は、ウチを見下ろし、つまらなそうに呟く。


「ふん、急所は外したか」


椿の舞、避けきれずとも急所だけは避けられたし、最後の蹴りも受けられた。


だが、それに意味はないだろう。もう、動けないのだから。




「終わりだ」



背中から、骨が抜かれる。最硬を誇る、背骨の槍が君麻呂の手に掲げられる。


(な・・・ん・・て、顔を・・・して・・・)


その顔は、憎悪に染まっていた。



「・・・まったく、気が遠くなるよ。僕の前で、大蛇丸様へ暴言を吐くとはね」


狂おしい程の憎悪を隠そうともせず、言葉と殺気と共に叩きつけてくる。


(そう、いえ、ば)

怒る程、強くなるタイプだったな、と思い出す。

策の失態を悟るが、もう遅いだろう。




「・・・万死に値するよ」




それが、振り下ろされる。



「不様な犬が・・・這い蹲ったまま、死ね!」






ウチは地面に俯せになったまま、目を瞑った。

(・・・ダメ、か・・・・・外道は所詮、外道止まりか・・・・・・・一度堕ちたら・・・それで終わりか・・・)


元に戻ろうなどど烏滸がましい。

この結末は、一度諦めたウチへの、そしてまた戻ろうとしたウチの傲慢さゆえの、罰かもしれない。


でも。


(最後まで、嘘はつかなかった・・・だから、後悔だけは、ない・・・・・こっちの道を選らんだことを・・・・)


誇る。逆に、この選択を選ばなければ、ずっと悔やんでいたと思うから。




(でも・・・悔しいな・・・)




槍が。




(悔しい)




振り下ろされる。





(死にたくない)





背中に向けて。





(助けて)




思いながらも、分かっている。いないのは、分かっている。


それでも、言わずにはいられない。



(誰か)




ずっと前、忍びになる前も、叫んだ。

母が死んで。路頭に迷った時もだ。

だが、誰も、応えてくれるものはいなかった。誰もいなかった。


その時に悟った。

世界が優しくないって事を。見返りなしに、世界は動かないのだと。




(たすけて)


それでも、だから、きっと。


思うだけは、いいだろうと。最後まで諦めないと思い、縋る。




(だれか)






誰もいない。助けにくる者など、居はしない。このまま、骨の槍に貫かれて死ぬのだろう。






































そう、思っていた。













(?)




そこで、気づく。いつまでたっても、槍が降ってこない。




いつの間にか、手を踏んでいたままだった、君麻呂の足もない。





「・・・ううっ」



呻き声を上げながら、何とかうつぶせの状態から仰向けになるよう、横に転がる。




そこには。









「・・・何とか間に合ったか」











太陽を背に重ねながら安心したように微笑む、金髪のあの人の姿があった。

私の頭上にしゃがみ込み、傷の状態を確認している。

金髪が背後の陽光に照らされ、煌めいている。まるで後光だ。

その姿はまるで、昔母に読んで聞かされた絵本の中の英雄のよう。



『閉じ目闇に現れて。開き目光に姿を消す』



夢のような光景。


『それでも、そこにいるのよ。呼べば、必ず応えてくれるはず。だから、諦めないで』


光に、涙が溢れた。


それを見たあの人は、歯ぎしりをした後、立ち上がる。




「・・・・さて、お前等。事が前後になったけどな」




これだけは、言わせてもらう、との言葉と同時、チャクラの奔流が吹き荒れる。




警戒する4人に背を向けたまま、宣告する。
















「そこまでだ」



























[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 三十三話
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2009/08/05 22:35



「あ・・・」

「いいから・・・しゃべるな」

傷は酷いが、何とかもちそうだ。




「何者だ・・・それに、どこから現れた?」

今し方俺に蹴り飛ばされた君麻呂が、こちらを睨みながら訪ねてくる。

うん、間一髪だった。

白からの中継で状況を聞いた後、やむを得ず使ったのだ。足止めを頼む事も思いついたが、止めた。

札は見せない方がいいとの判断だ。


(・・・飛雷神の術を使わんと、間に合わんかったな)


前にラーメンを食べに来たとき・・・背中を叩いた時、一応マーキングしておいたのが役に立った。


『・・・チャクラごっそり減ったから、短期決戦でいかないと不味いことになるかも』


(そこそこの体調で使ってもこれか。まあ、前よりは大分ましだが)

どうにかせんといかんか。それよりもまず。

(・・・白、治療を頼む)

『了解です』


多由也を安全な場所へ移す事が先決だ。


そして、背後の4人を最速で倒す。


「てめえ、無視してんじゃねえ! 質問に答えろ!」


「・・・・」


答えず、煙玉を使う。




「!?」


直後に影分身を使い、多由也を運ぶ。

見た限り、急所は外れているから、白の所まで連れて行けば大丈夫だろう。


(応急処置程度だが、掌仙術が使えると聞いていたし)


任せるしかない。いざとなれば、綱手に借りを作ってでもどうにかする。

じゃ、やりますか。




「・・・さてと」



一息いれて、意識を変える。


『負けるなよ?』


当たり前っす。・・・ちょっと、怒ってるし。


『随分と優しいことじゃのう』


賢く生きられないような・・・ああいう多由也みたいなタイプは、好きだからね。

だから。


「殺し合おうぜ、音の4人衆!」


ここはガチでぶっ飛ばします。








宣告と同時だ。


煙の中からクナイが一つ、空に向けて飛び出した。



「!?」


それに釣られ、視線を上へと移す4人。


だが、何かに気づいたのか、君麻呂が叫んだ。


「気を付けろ!」



直後、煙の中から今度は手裏剣が飛び出した。


真横から弧を描き、4人の元へと飛来する。



「くっ!」




その表面に付いている起爆札を視認したと同時に、上へと跳躍。


回避する。





「ぐうっ!?」






爆発。







「そこ、ぜよ!」



そして即座に反撃に移る。

鬼童丸が後ろに飛び退きながら、蜘蛛穿弓・凄裂を発動。


矢を番え、煙の中に佇む影へと撃ち放った。凄まじい速度で放たれた矢は、標的へと吸い込まれ、




「命中・・・!?」


爆風が消えると、そこには巨大な矢に貫かれたナルトの姿があった。


口から血を流している。



だが、



「・・・覚悟はいいか?」



一言呟いた後、ボンと煙を立てて消え去った。


「なっ」


分身体の言葉に気を取られ、しかも直後に消えた事に驚こうとした瞬間だ。


「影ぶんし「愚か者め!!」」


その頭蓋を打ち砕かんと、上から勢いよく手刀が降ってきた。




「ガっ!?」



避ける間もなかった。

落下エネルギーが上乗せされ、そしてチャクラで強化された振り下ろしの手刀が、鬼童丸の頭部に直撃。

そのまま前のめりに倒れたまま、起きあがらない。

気絶したようだ。だが、残心は怠らない。気絶を確認したあと、ゆっくりと残りの3人の方へと向き直る。



「ちっ、投げたクナイに化けてやがったな!?」



左近が叫ぶ。


フェイクで上側に投げたクナイ。注意をそらすための囮に見せたが、アレこそが本命。


手裏剣と、それに付けられた起爆札に注意を集中させて、上からだ。


裏の裏を付いたのである。


加え、爆発音と爆風がが注意力を散漫にさせてくれる。



「一人目・・・次!」



ナルト(変化モード)は左近の言葉に答えず、今度は次郎坊へと肉薄する。



「崩掌!」

まともに当たれば、大樹をも破砕する次郎坊の一撃。



だが、当たらなければどうということもない。

「見える!」


元々が、相手の攻撃を正面から受け止めず、逸らして防ぐ事に特化した拳法。

次郎坊が使う大威力低速度を信条とする羅漢拳との相性は抜群と言える。大きな力も、当たらなければ意味がない。

次郎坊の掌打、その腕の側面に掌を引っかけ、円を描く軌道で外へと逸らす。


少し前、カブトに対しても使った技。


同時、その勢いを利用して、逆の手で顎をかち上げる。


だが、ここからは、前回と違う。


「ふっ!」


かちあげられた後、もとの位置に戻った顎へ、左右の掌打を交互に叩き込む。


「・・・!?」




左右に脳が揺らされ、一瞬だが脳震盪を起こす次郎坊。


そこからは、一瞬だった。


「憤!」


まず懐に踏み込み、渾身の震脚と同時、崩拳。


「破!」


鳩尾への一撃に硬直する次郎坊。

間髪入れずにその側面に回り込み、震脚とともに鉄山靠をぶち当てる。


「覇ぁ!」


そして、とどめ。体勢を崩し、がら空きになった背中に向かい、一歩、震脚。

・・・背面は脂肪が薄く、筋肉にも守られていない。

前面よりは、背骨や臓器までの距離が近い。急所と言える。


そこに、渾身の双掌打を叩き込む。


「ガアアアッ!?」


震脚による打撃と、チャクラによる強化を併用した三連撃。



「10年早いんだよ!」


コマンドが難しい、アレである。

・・・そして、実践するのも難しい。体重移動と震脚を会わせるタイミングがシビアすぎるからだ。

少しでもずれると、手打ちだけの打撃になってしまう。



「二人目、だ」


「「・・・・」」


一瞬にして、二人を撃破したナルトに、警戒態勢を取る左近と君麻呂。



対峙しながら、数秒間にらみ合う、



そして、君麻呂が眉間に皺を寄せながら、訪ねる。



「何故、邪魔をする?」


「・・・・・」


ナルトは、答えない。


「お前が誰だかしらないが・・・多由也とは何の関係も無い筈だ。あの女に家族はいない。味方する人間などいないはずだ

・・・お前は、何者だ? 何故、僕達の邪魔をする?」


その問いに、ナルトは空を見上げる。


「・・・夢をみようと思った」


「何?」


「ゴミのような世界で・・・それでも、夢をみようと思った馬鹿者がいた。だから俺は戦う。命を賭けて」


視線を元に戻す。その中には、とある意志の光が灯っていた。


「確かにあの少女は一人なれど、今此処には似たような夢を見ている者がいる・・・同じような志を持つ友がある。だからこの一戦だけは、少女のために」


両手を広げた直後、印を組む。


「一心不乱の友情のために! 俺は少女に手を貸そう! 理由などそれで十分だ、貴様らなどに俺の心友は殺させん!」


「音隠れの里を、大蛇丸様を敵に回す事になってもか!」


「だからどうした!」



印を組み終え、術を発動する。




風遁・大突破。



「くあああああぁぁぁ!」


念入りにチャクラを篭めた、暴風に左近が飛ばされていく。

だが、君麻呂は地面に刀を突き刺し、耐えている。




そして暴風が収まった。目と目が合う。


・・・飛ばされた左近はすぐに戻ってくるだろうが、それまでは、1対1。




「さあ、踊ろうか!」


「ほざけ!」


君麻呂が呪印を発動させる。


同時、ナルトは神速で踏み込み、君麻呂へと間合いを詰める。






「舐めるな!」


迎撃に、椿の舞を繰り出す。


連続刺突。


それを、ナルトは掌で逸らす。


「どうしたあ!?」


「くっ!」


防ぎきった後、円を描くように走り、また激突。


だが、君麻呂の体術が変化する。

柳の舞。

風に揺れる柳のように、流麗かつ不規則な連続体術が繰り出される。

だが、ナルトはその流れに逆らわず、動きに合わせて運足を組み、舞の切り返しの一瞬を狙い、掌打を当てる。

「破!」

それは骨の膜に阻まれ、ダメージにはならない・・・筈だった。

「ぐっ!?」

だが、そこは九尾流。外部の硬度に関係なく、そしてチャクラを使わず、特殊な打撃法を用いることで、ダメージを与える事ができるのだ。

元より、内部を破壊するのを目的とした拳理を持つ拳法(六話参照)。その意味では、君麻呂の天敵と言える拳かもしれない。



一歩下がった君麻呂に、ナルトは追撃しようとするが、


「!?」


悪寒を感じて、飛び下がった。

直後、君麻呂の全身から、骨という骨が飛び出す。



「唐松の舞」

放射状に、骨が飛び出ていた。防御用の舞だ。その姿はまるで、

「・・・ハリネズミかよ、ちくしょう・・・でもな!」


その姿をと、戻ってきた左近を見て、ナルトはにやりと笑う。



「こういうのはどうだ!?」



印を組み、再び風遁・大突破を使う。



「またかああああああぁぁぁあ!」


左近がまた吹き飛ばされた。

戻ってきて着地した瞬間を狙われたので、避けられなかったのだろう。




「・・・僕には通じない!」


先ほどと同じ状況だ。


だが、ナルトは表情を崩さない。


「こっからがお楽しみだ!」


風が止まないうちに、「我愛羅、技を借りるぜえ!」と叫びながら、素早くまた印を組む。



「風遁・封刃縛風!」



直後、風が変化する。

ハリネズミ状に広がった骨に、風の乱流が絡みついたのだ。


「・・・なっ、動けない!?」


尖った骨に、風が複雑に絡みあう。巻き取られた君麻呂は、動きを封じられた。


「はあっ!」



そしてまた印を組み、今度は地面を両手で叩く。


同時、君麻呂の直下から、爆発するような勢いで上昇気流が吹く。




「ぐっ!?」



その下から吹き上げる爆風に耐えきれず、君麻呂が宙に浮かされる。




更に絡み合う風の中、ナルトが懐から起爆札を取り出し、叫ぶ。



「仕上げだ!」



唐松の舞を解いて骨の膜で防御してはいるが、風は未だ君麻呂を束縛している。


そして放たれた数枚の起爆札が、風に乗って君麻呂の元へと運ばれた。





そして風の中心部、君麻呂の元へと起爆札が届いた瞬間、


ナルトは両手をパンと叩き合わせ、叫ぶ。




「風・塵!封・爆・札!」





術名を叫んだと同時、幾重にも重ねられた起爆札が、一斉に爆発した。
















「くっ・・・」

爆発が収まった後、全身から煙をあげている君麻呂が、地面に倒れ伏す。


「爆発によるダメージは防げても、爆圧の衝撃によるダメージは防げないだろ」

我愛羅さんの言葉です。

骨で防御した結果、外傷はないだろうが、内部にはダメージが残っている筈だ。爆圧も、ある程度は内に向かうようにした。


四方八方の爆発による衝撃だ。脳震盪のせいで、視界は今ぐちゃぐちゃになっているだろう。


「俺の勝ちだな・・・・ん?」

と、何かに気づいたように、遠方を見る。



「暗部か。くそ、こんなときに」

呟き、焦るようにきびすを返す。



・・・全部、嘘である。


先ほどからカラータイマーが鳴っているのである。

チャクラが限界なのである。思ったよりてこずったのである。


(仕方ない、といった風に逃げよ)


これもハッタリだ。虚勢とも言う。みっともないし。

苦手意識を持ってくれれば良し。


「じゃあな」


その場をひとまず去った。






(ひとまず、白の元へと戻るか)

『そうだね』


本当に疲れたよ・・・









[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 三十四話
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2009/08/09 17:47





とある屋敷の中、女の子達の声が飛び交う。



「しっかし、ご苦労だったわねえキリハ。大変だったでしょ?」

「ううん、そうでもなかったよ?」

キリハの家の中、テーブルを中心において、3人がそれを囲むように座る。。

いのとサクラとキリハ、いつものくの一3人組で談笑している。ヒナタは本家に用事があるとかで、来れなかった。

キリハの家は、波風ミナトが四代目火影に成ったと同時に移った家だ。日向本家までとは言わないが、それなりに広い家である。

「それにしても、さあ」

果汁水を飲みながら、いのがキリハに質問する。

「五代目火影は綱手様になるんだ・・・ねえキリハ、綱手様ってどんな人?」

自来也と大蛇丸を見たサクラだ。三忍の最後の1人について、なにか心配があるよう。おそるおそる、といったふうに訪ねる。

「うん。まあ・・・・・・・・・・・いいひとだったよ?」

「その間は何!?」

突っ込むサクラに、キリハはあははと笑う。

「大丈夫だよ? ・・・・強いし」

「念押しが必要なの!? っていうか大丈夫って何に対しての保証なの!?」

あと強さと人格関係ないわよね! と叫びながら、サクラが頭を抱える。

どうも大蛇丸の一件がトラウマになってしまっているらしい。

いのがため息をつきながら、言葉を挟む。

「うるさいわよサクラ。で、キリハ・・・・強いって、実際に力を見る機会があったってことよね。あんた、またやらかしたの?」

「・・・今回は向こうから来たんだよ。音の連中だった。それにしてもまた、って人聞き悪いなあ。来るのはいつも相手のほうからだって」

正直、対忍者という状況での戦闘が多すぎる。一介の下忍では、有り得ない回数だ。普通、もっと弱い相手・・・せいぜいが、山賊を相手にするぐらいなのに。

「ふーん、でも人間相手に戦闘した後だってのにアンタ、嬉しそうにしてるわねえ。何かあったの?」

「・・・え?」

とキリハが自分の顔をつねる。

「何か嬉しいことでもあった? ・・・たとえば、待ち人に会えた、とか」

いのが悪戯な笑みを浮かべる。

「・・・うん。実は。あのね、驚かないで聞いてくれる?」

キリハが俯きながら、何か落ち行かない様子をみせる。おずおずとしているそれは、まるでヒナタのようだ。

やがて、意を決したようにがばっと顔を上げた後、言う。


「うん?」


いのは、果汁水を口に含みながら返事をする。



「・・・あのね。むしろ・・・いのちゃんの方の待ち人に会っちゃった」

てへ、と舌を出しながら、爆弾発言。



「ぶっ!?」

それを聞いて驚いたいのは、思わず口に含んでいた果汁水をはき出す。

「眼があ!? 眼があああぁぁぁ!?」

果汁水の噴射攻撃を顔面に受けたサクラが、眼を押さえて床を転がる。

眼球にグレープフルーツはきつかったようだ。水遁・愚冷腐負流痛の術。

「ど、ど、どど」

「ど?」

いのは立ち上がり、キリハの肩を掴んで、力一杯前後に揺らす。

「どういうこと!? 何で!? ホワイ!? どうやって会えたの!? ていうか何で黙ってた!?」

錯乱するいの。キリハはがっくんがっく揺らされながらも、至福の表情を浮かべてほやー、と笑いつづける。

「うふふふふふ」

「え!? 何笑ってんの!? どういうつもり!? ・・・あんた、キリハ、もしかして!?」

「え? いやあ、まあ、それはないけどねえ・・・うん、格好良かったなあ。ぬふふ」

「何で頬染めてんのよ! ああもう、いいからきりきり説明しなさい!」

「うう・・・ハンマーで頭叩かれたみたい痛い・・・」

サクラは泣きながら、ハンカチで顔を拭いていた。


カオスだった。




もう、いのの正面には座らないとサクラのみ席替えをした。

話を仕切りなおす3人。

「で、そこで助けてもらったわけね?」

「うん」

「・・・・はあ。まったく」

会えなかった無念さもあるのだろうが・・・いのが、キリハの方を向き、心配そうに声をかける。

「あんたも、もう少し用心しなさいよ? 下忍のあんたが中・上忍クラス複数相手に乱戦とか・・・正直、正気の沙汰じゃないわよ?」

「うん、確かに・・・危なかった」

と、貫かれた手の方を見る。

「うん?どうしたの・・・って、医療忍術の後じゃない。あんたまさか」

「ちょっと痛かった」

てへ、と笑うキリハに、いのの拳骨が降る。

「みぎゃ!?」

「・・・・アンタは!」

怒るいのと言い訳するキリハ。いつもの、幼なじみのやりとりだ。

昔から無防備なところがあるキリハに、いのが注意する。何十回も繰り返されたやりとり。


「シカマルに同情するわ」

「うん? いのちゃん何か言った?」

「何も言ってないわよ」

それでもこの笑顔見ると怒る気なくすよのねえ、といのがため息を吐く。

「で、その人の名前は聞いたの?」

「えーっと・・・聞けなかった」

間が空いた上での返答。それにひっかかるものを感じつつも、いのは問いつめない。

「言えないなら言えないでいいわよ。どうみてもA級ランクに匹敵するの任務だったんだし。言えないっていえば、無理に問いつめないわ」

「でも・・・」

いのに悪い、という顔をするキリハ。それに、いのが腹を立てる。

「お互い下忍になったんでしょ? そんな事もあるわよ。私としてはひっっっっっっっっっっっじょーーーーーーーーーーに聞きたいことではあるけど・・・我慢するから」

「あはは・・・」

苦笑しか返せないキリハ。


その隣で、サクラが別の話を切り出す。

「そういえば砂隠れとの休戦協定、今日だっけ?」

「そう、今日。火影就任から2日経ったし、まあ言い頃合いなんじゃない? もちろん、含む気持ちはあるけど・・・」

「それでも、今揉めるのは得策じゃないよ。そこらへんはみんな分かってるから」

「でも、使者に来るのが・・・あの、我愛羅なんだよね」

中忍試験の時に起こった出来事を思いだし、サクラがため息を吐く。

「でも、前に比べると格段に落ち着いていたってアスマが言ってたわよ? 使者を迎える時に見たらしいけど・・・人柱力だっけ。その力を随分と使いこなせていたようだって」

「へえ、何かあったのかなあ」

「それは知らないけど・・・テマリにでも聞いてみようかなあ」

「・・・へ? いのちゃん、テマリさんと仲いいの?」

「はあ!? 仲なんて良くないわよ! あんな奴と!」

「そういえば、本戦の試合終わった後・・・いの、喧嘩してたよね。何かあったの?」

サクラの質問に、いのはああと手のひらを叩きながら、答える。

「大したことじゃないわよ。言ってなかったっけ? テマリとアタシはね・・・・」

「うん」

「何?」

二人はストローでちゅーちゅー果汁水を飲みながら、答えを待つ。


「所謂、あの人を巡る恋のライバルなのよ!!」

「ぶっ!?」

と、キリハが口に含んでいた果汁水を正面に吹き出す。


「眼があ!? 眼がああああああ、あああぁぁぁ!」

果汁水・蜜柑が全力でサクラの眼球に直撃。サクラは眼を押さえながら、床の上をのたうち回る。


「ど、ど、っっどお」

「うん?」

「どういうこと!? 何てお・・・」

「・・・お?」

訝しげに、いのが呟く。

「お、お、お」

「続きをいいなさいよ」

「・・・眼・・・・柑橘・・・・全力で・・・・」

二人とも、サクラはガン無視である。

やがてキリハは、何とか答えを口に出す。

「・・・お・・・大蛇丸」

「なぁ・・・・何てこというのよ! キリハ、アンタ、ちょっとそこに直りなさい!」

嫌な想像をしてしまったのか、いのが立ち上がり激昂する。

それを見て、キリハがすばっと後退する。

「いや、御免なさい! ついノリで・・・ん?」


と、手を前にしながら、後ずさるキリハの背中に、何かがぶつかる。



「あ、シカマル君だ」

「・・・何やってんだ? お前等」


床で転げ回るサクラと、殺気を放ってこちらを睨むいの。シカマルのその明晰な頭脳をもってしても、その状況は理解できなかったらしい。











「へえ、あの人に会ったのかキリハ」

「うん。シカマル君と同じ、二回目だね」

「・・・一回目はほぼ気絶寸前だったらしいじゃねえか。しかも死ぬ寸前だったとか。サクラとサスケから聞いたぞ」

キリハの言葉に、シカマルが不機嫌そうに答える。

「そうよ、キリハ。このむっつり、随分とアンタの事心配してたんだから」

何でもない風に言うんじゃないの、とキリハを叱るいの。

「・・・ごめんなさい」

と素直にシカマル頭を下げるキリハ。

「・・・まあ、お前が無事だったらそれでいいんだけどよ」

と頬を若干染めながら横を向くシカマルを見て、いのとサクラがひそひそ話す。



「あんなに慌ててた癖に、ねえ」

「やっぱりそうなんだ。で、幼なじみのいのから見て、あの二人はどうなの?」

「暖簾に腕押し。糠に釘。柳に風に、水遁に火遁」

全て手応えなし、という意味である。



「うるせえぞ、そこ」

聞こえてはいなくても、何を言われているか、気づいたのだろう。また不機嫌そうに、シカマルが言う。

「でも、格好良かったんだよ? 大蛇丸とも渡り合ってたし」

「・・・ま、あの人だからな」

うんうん頷くシカマル。

「・・・時にシカマル君。シカマル君は、あの人についてどう思っているの?」

「え? っと・・・だなあ」

「うん」

「まあ、憧れるよな。男の俺からしても、魅力的だと思うし」

あの背中が良いよなあ、と言うシカマルに対し、キリハは慌てながら告げる。

「同性愛は駄目だよ!? 非生産的な!」

「己の言動に責任もってるのかお前・・・ていうか、そんな言葉、誰から教わった?」

「え!? お・・・」

「お?」


「お父さん、とも言えないし・・・」

極々小さい声で、キリハが呟く。



「ん? 何か言ったか? 聞こえねえぞ」

シカマルが聞き返すと、キリハは慌てながら何とか答えを探す。

「えっとね。お、お、お・・・」

「お?」

口に茶を含みながら、シカマルがからかうように笑う。

「・・・大蛇丸」

「ぶはっ!?」

「今度は熱い!?」

ほうじ茶を全身に浴びたサクラが、床の上を転げ回る。


「・・・よりによってあの大蛇丸がそんな事言うわけねえじゃねえか! むしろ推奨するわ!」

オカマの三忍は随分と有名らしい。

「だよねえ」

えへ、と困ったように笑うキリハに、シカマルはすぐ引き下がった。

「まあ、それも言いたくなかったらいいんだけどよ・・・」

「このチキンが」

「何か言ったか、いの」

「いいええ、ちっとも?」

心底おかしそうに笑ういのに、シカマルがよりいっそう不機嫌となる。


「医者をー!? 医者を呼んでー!」

隣では、火傷したサクラが空に手を伸ばしながら叫んだ。






「で!?」

「いや、でっていうか」

三人ともサクラに拳骨を喰らったのか、頭のてっぺんから煙が立ち上っていた。

怒るサクラの気を紛らわそうと、シカマルが話題を変える。

「そういえば、火影の執務室前でサスケを見たぞ?」

「・・・サスケ君が? そうなんだ、退院したんだ」

何者かの襲撃にあって、入院していたサスケの事を聞いて、サクラが安堵のため息を吐く。

見舞いに行くと、何故か面会謝絶だと言われた。肋骨が折れていただけらしいので、サクラはそれを訝しみ心配していたのだ。

「ああ。なんか、自来也様と会っていたみたいだぜ。相変わらずのつんけんした態度・・・いや、いつも以上に険悪な空気を撒き散らしてた」

「そうなんだ・・・」

サクラがため息を吐く。キリハが、ぼつりと呟いた。

「誰に襲われたんだだろう・・・それに、4日前だったっけ。木の葉の森の外れの方で、大きな爆発があったのって」

「ああ。戦闘の後らしいな。起爆札を使った後らしいのが見つかったってアスマが言ってた」

「ああ、それ私も聞いた。でも、見回りの中忍の人が爆発音を聞いて辿り着いた時には、誰もいなかったって」

「そう、なんだ」

「戦後の処理も終わっていないのに・・・あ、そういえばカカシ先生と会ったよ。今日退院だったんだね」

「ああ・・・正確には昨日だったけどね」

後半だけ、小さい声で呟く。


「何言ってるんだキリハ? 『まっくのうち!まっくのうち!』って・・・何だそれ?」

何かの名前か?と首を傾げるシカマルの隣、サクラが不思議そうに呟く。

「そういえばなんか、カカシ先生の顔に青痣ついてたけど、アレ何だったんだろ」


「まあ! それはおいといて!」

と、強引に話を断ち切って、キリハは提案をした。





「これからお昼、食べに行かない?」

九頭竜に、というキリハの言葉に、全員が頷いた。







「あれ? 無いね、屋台。」

「あ、ほんとだ。どうしたんだろう・・・」

「ここ最近、休んでる日ってあったっけ?」

「定休日は今日じゃないよ。それに休むなら前もって言ってくれてた筈だけど」

首を傾げて不思議そうにするキリハ。


「どうしたのかなあ・・・・・・っ!?」


4人とも背後に何かを感じたのか、素早く振り返った。




「っ我愛羅!?」

「・・・と、確か、テマリだったっけ?」

キリハとサクラが驚いたように呟く。

「一応年上なんだから、さんを付けろよデコ助野郎」

「そうよ、デコ助野郎うおっ、眩しっ!」

呆れたように言うテマリと、しみじみと諭す風にサクラの肩を叩き、即座に仰け反るいの。

「あんた等・・・いい加減にしないと挽肉にしてくれんゾ?」

肩を震わせながら殺気を放ち怒るサクラ。ブラッドがヒートしている様子だ。デコから火が出そうとはこのことだろう。

テマリはため息を吐きながら、言う。

「それに、一応命の恩人だろう?」

「いや、その原因が横にいる状態で言われても・・・・」

サクラがじと眼になる。


「・・・正直すまん」

急に、我愛羅が頭を下げた。

だが、すぐに頭を上げて言う、


「と謝っても、今更意味が無いことは分かっている。これからは行動で示すこととしよう」

同盟は成ったのだから、と我愛羅は真剣な表情で言う。

「・・・言いたいことは山ほどあるけど、何もかもがも・・・今更、だしね」

肩をすくめながら、いのが呟く。

「ここで俺たちが諍いをおこして、木の葉と砂の同盟を台無しにするわけにもいかないしな」

シカマルがいのの言葉に同意する。

「・・・それより、だ。ここはラーメン屋じゃ無かったのか?」

「え? そうだけど」

我愛羅の言葉に、キリハが応えた。

「小池メンマさんのラーメン屋だよ。ラーメン屋台九頭竜。あなた、知っているの?」

「知っている、というか・・・」

我愛羅が、キリハの方をじっと見つめる。

「な、何?」

聞き返すキリハに、我愛羅は首を振って答えた。

「・・・いや、何でもない。ラーメン屋だが、今日は休みなのか?」

おかしいな、と首を傾げて言う我愛羅に、テマリがフォローする。

「そんな筈ないと思うけど。前にきたときはこの曜日で開いていたから」

「臨時休業みたい。何かあったのかな」

何気ない言葉に、我愛羅が舌打ちをする。






「やはり、あの時聞こえた声は・・・」

「え、何?」

呟く我愛羅に、テマリが聞く。

「何でもない・・・まあ、休みなら仕方ない」

いくぞ、という言葉と共に、我愛羅とテマリは去っていった。








「・・・どうしたんだろ」

「知らないけど・・・なんか、最後の方、焦ってたみたいだよ?」

我愛羅の方が、と呟くキリハ。

「ここにいても仕方ないな。ひとまず、街の方に戻るか」

「うん」












「どうしたの、我愛羅?」

「・・・大至急だ。5代目火影に会う」

「え?」

「伝えなければならんことがある」

急ぐぞ、と二人は走り出した。





火影執務室


「・・・失礼する」

木の葉の忍びに通されて、我愛羅が執務室に入ってくる。

「何だ? 本日の会見をする予定は無い筈だが」

「・・・大至急、話したい事がある。『とある友人』の事で、だ。悪いが、人払いをしてほしいのだが」

一呼吸おいて、綱手が答えた。

「・・・分かった・・・下がれ、お前等」


「綱手様?」

訝しむシズネに、綱手はいいから、と退室を命じた。





「で、どういう用件だ? お前の要件、人柱力に関する事のようだが」

眉間に皺をよせながら、綱手が我愛羅に訪ねる。

「・・・先ほど、だ。2時間程前の・・・そうだな、12時ぐらいだったか」

「ああ。何でも、お前の自信のチャクラが大きく乱れたそうだな。報告には聞いている」

まったく、という風に呆れる綱手に、我愛羅は真剣な表情で答える。






「別に、言い訳をしているんじゃない。あの時、チャクラが震えたのには原因がある」

「・・・原因?」


腕を組んて聞き返す綱手に、我愛羅は自分の頭を差して、いった。







「聞こえたんだ・・・・・ただ一言」


我愛羅にしては珍しく、恐怖に震えたかのような表情になる。














「『殺す』と」

















「・・・何?」


「氷より冷たい声だった。そしてその一言で、たった一言で、俺の中にいる守鶴が・・・まるで恐怖に震え上がったかのように、暴れ出した」


「・・・それを証明するものは?」


「無い。だからうずまきナルトに会って確認しようと思ったのだが」

「そういえば、知っているんだったな」

「会いに行ったのだが、いなかった。どうも今日は店を休んでいるらしいな。臨時休業だと聞いたが」

「ああ。確かに、そうだが・・・くそ」


綱では、胸を抑えながら毒づく。


「・・・どうにも、いやな予感がするな」

「まずはうずまきナルトと至急連絡を取って欲しい。あと、こちらでも対応するが・・・他の里の人柱力にも確認を取るべきだ。あの声、ただ毎じゃない」

「たった一言で、尾獣を震え上がらす、か」

お前が、そういう事でつまらない嘘をつく奴にもみえないしな、と綱手は了承の意を示す。



「分かった、至急・・・・」


と、呟いた時だ。






遠くで、遠雷のような音が聞こえた。


「何だ!?」





「・・・爆発による揺れ、か。かなりの規模みたいだが」



急ぎ、窓の外を見る二人。






「煙が・・・あそこ、か。くそ、妙な予感が収まらん」

胸を押さえながら、綱手はシズネを呼ぶ。


「至急、現場に急行しろ。上忍も何人か連れて行ってかまわん」

「承知しました」










木の葉の少し外れの森の中。そこは、爆風によって辺りの木々が蹂躙されていた。

「ここで爆発が起きたのか・・・」

シズネとアスマと紅、他中忍複数名が、現場に到着する。


「かなりの爆発だったようね・・・何かしらの建築物・・・家、かしら。あったようだけど、全て吹き飛んだようね」

「その割には、延焼の類は起きていないようだな。不幸中の幸いだったか」

「それにしても、この辺りに家なんてあったでしょうか?」

「どうも誰かの隠れ家みたいだな。それにしても・・・この有様は、なあ。容赦ってもんが無いやり方だ。これをやった奴は、相当にアレな野郎だぜ」

「・・・まあ、火遁ではないようだけどね。何かの秘術かしら・・・・・・あれ、これは?」


紅があるものを見つけ、立ち止まった。


「箱?」

吹き飛び損ねたのだろうが、あちこちぼろぼろになっている。


その焼け焦げた箱を、慎重に開き、中のものを確認した。


「これは・・・」











「で、見つけたのはこれだけか」

「はい。他のものは全て吹き飛んでいました。手がかりになりそうなものは、これだけです」

「そうか・・・」



「失礼します!」

そこに、キリハが執務室に入ってくる。

「おお、きたか」

「はい。あの・・・皆さんは?」

「ああ。先ほどの爆発跡を調査していた者達だ」

「とはいっても、ねえ。何もかも吹き飛んでいたし」

派手すぎるわよ、とアンコが愚痴る。

綱手が頭を抑え、愚痴るように言う。

「手がかりがこれだけっていうのもな・・・・キリハ?」

どうした? という言葉は繋がらなかった。







キリハの眼は、一点だけに固定され、動かなくなっていたからだ。

蒼白になっていく顔色。驚愕に染まっていく表情。





「っ!」




焼け焦げたそれに走りより、手に持って間近で確認する。






そして変わり果てたそれを確認すると、信じられないといった風に呟く。






「嘘だ・・・・」








何とか原型を留めていた球型。









焦げた表面の隙間に残るは、星空の下で遊んだ時に見た、あの模様。






「・・・・・・嘘だ!!!!!!!!!」







慟哭が響き渡る。涙がその球に落ちた。





それは、あの時4人で遊んだ時に使った、手鞠の成れの果ての姿だった。















突然の悲痛な叫びに、その場にいた全員が狼狽える。



そして、その慟哭が冷めやらぬ内に。


「失礼します!」



1人の暗部が、慌てた様子で火影の執務室に入ってきた。


「至急、報告します!!」


「今度は何だ!」


綱手は声を荒げ応答する。



「・・・うちはサスケが失踪しました! 里内の何処にも・・・その姿を確認できません!」


「何・・・・!?」

「何だって!?」


また、その場にいた全員が驚愕する。



「・・・確かか?」

嘘であってほしいと、聞き返す綱手。

「はい」


だが、答えは覆らなかった。



「・・・分かった。下がれ」




綱手は頭を抑えながら椅子に座り、呟いた。






「何が起こっているんだ・・・?」







[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 三十五話・前編
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2009/08/08 20:40



---メンマ邸爆発より、遡ること1日前。




「この一杯のために生きてるわ~」

火の国の宝麺をすすりながら、恍惚の声を上げる。これでもう3杯目だ。

昨日の夜:しょうゆラーメン。今日の朝:木の葉風ラーメン。

そして今、火の国の宝麺を食べている。久しぶりのラーメン三昧だ。何かこう、生き返るって感じ?

「煮玉子と肉の旨味も、スープのコクも、ネギの香りも・・・そして麺も」

何もかもが懐かしい・・・と浸っている横で、マダオがため息を吐いていた。

「・・・生き返るって・・・言い得て妙だね。チャクラ回復速度がほんとに上がってるし」

キューちゃんが呆れながらも頷く。

「・・・ラーメンは有る意味こやつの魂そのものなんじゃろう」

最初からそう言ってるじゃん。

「で、戻った?チャクラ」

「いいや、まだ」

使い切る寸前までいったのは初めてだったりする。木の葉崩しの時よりもヤバイ領域まで使ってしまったし。

「やっぱり、今の状態だと飛雷神の術は危なくて使えないね」

「・・・今回は術の反動を抑えるのを、チャクラ量で補ったからなあ。相変わらずコントロールが激ムズだし」

御陰で、戦闘前にチャクラ量がごっそりと減ってしまう事態になりました。

まあ、視界がぐちゃぐちゃになるよりはマシだったけど。

「純粋なチャクラコントロールの技術で言えばねえ。もう十分使用可能なレベルなんだけど」

「それでも使いこなせていないのは、別の要因・・・コツというか、感覚が掴めていないってことか?」

「そうだと思う。要練習だね」

「・・・イメージが明確にできれば、結構形になるもんなんだけどなあ」

ワープのイメージが固まっていないのが不味いんだろう。そも、ワープってイメージするものなのか?

「イメージが無理なら、方法は一つしかないね・・・ある程度の回数使って、身体で覚えるしかないと思うよ」

「結局それしかないのな・・・ってもうこんな時間か」

時計を見ながら、立ち上がる。

多由也は白に任せてあるし。容態を聞いたが、心配ないとの事だ。

「そろそろ、エロ仙人とこ行くか」








呼ばれて着いた先。

木の葉隠れの里、その演習場に、鈍い音が響き渡っていた。


ボグシ、ドゴォ、メメタァ!、メキョ、ドコ、づがん!


拳がめり込む毎に、骨と肉がぶつかりあい、軋みを上げる。




「「まっくのうち!!まっくのうち!!」」

マダオとキューちゃんが、背後から応援してくれている。



説明しよう。

事の発端は、カカシの一言だった。

自来也に連れられ、やってきたカカシ。月読の後遺症は消えたそうだ。まだ全開ではない、と言っていたが、まあそれはいい。

問題は、だ。

その初めて対面するカカシが、俺に向かって、こういったのだ。あの時、お前を守れなかったのは俺の責任だ・・・とか、どうか殴ってくれ・・・とか。

目を瞑るカカシ。俺は無言でカカシを指をさしながら、自来也に聞く。

(これ、どうすんの?)

もう過ぎた事なので・・・というか、思い出す事はあれど、あの時にリアルタイムで俺が受けたわけじゃないから。

クナイと起爆札はかなーり痛かったのだが、別に死ぬ程じゃなかった。いやほんとは致命傷だったか知らんけど。

本当に殴る権利のある人は、既に他界しているので・・・うん、正直俺にこんなこと言われても困るのだが。

(まあ、仕方ないじゃろ)

だが、自来也は殴るのを促す。

(まあ一応、ケジメは付けておきたいのか)

それも今更なんだけどなあ、と思いつつも殴ることにした。これがいのしかちょうの親父さん達だったら話は別だったろうが、なにしろ相手はカカシだ。

日頃のアレっぷりを矯正する意味も兼ねて。

またマダオの怒りを拳に篭めて、ね。

(・・・前にしこたま殴ったけど、まあそれはそれだ!)

頷き、まず右を振りかぶって

「歯あ食いしばれぇ!」

と顎を引くカカシに向けて、一歩踏み出す。

だが振りかぶった右は囮。本命は違う。

インステップしながらの踏み込み、それににより発生する地面からの反発力を腰に溜め、回転。

地面から伝わる反力+拳の推力を左の拳の先に乗せる。

稲妻の如き一撃が、カカシの肝臓を打ちすえた。

「グホォ!?」

予想外の角度からの打撃に驚いたカカシ。膝から崩れ落ちようとするが、何とか踏みとどまったようだ。

・・・それでいい。

「もういっちょ!」

「ヘグン!?」

しゃがみ込み、立ち上がるその勢いのままにアッパー。足のバネを活かしたカモシカの如き一撃が、カカシの脳を縦に揺らす。

・・・そして、ここからが本番だ!

「おお、あれは・・・!」

「知っているのか、マダオ!」


マダオとキューちゃんの解説を背後に、俺は身体を左右に揺らし始める。


最初は右、左。やがて軌道が弧を描き出す。


「ローリングトゥエンティーズ」


やがてその軌道が、∞に変わる----!


「古のブロー!」

「ろーりんぐとぅえんてぃーず? いにしえのぶろー?」

キューちゃんがマダオに聞き返す。意味が分からないのだろう。つか一度話しただけなのによく覚えてるなマダオ。何その無駄な記憶力。

てか首を傾げ、ひらがなでしゃべるキューちゃんがかわええ。

・・・テンションゲージが最高に。ボルテージがマックスに。


み な ぎ っ て き た 。


更に速度が上がる。


高速の体重移動(シフト・ウエイト)。


「っらあ!」


身体を振った反動で・・・


「っああ!」


左右の拳を叩きつける!


「さあ、皆さんご一緒に!」

マダオがコールを始める。

「まっくのうち!!まっくのうち!!」

キューちゃんも真似し始める。

「「まっくのうち!!まっくのうち!!」」

更に、キリハが加わった。日頃の不満と鬱憤が溜まっていたのだろうか、ヤケにノリノリだ。

日頃の行いが悪いんだろうね。俺の中では数時間待たされる=宣戦布告だし。

そりゃ、どんなに忍耐強い人でも、いい加減キレるよなあ。

「「「まっくのうち!!まっくのうち!!」」」

3人のコールにより、テンションは最骨頂となった。

そして拳は続く。

「遅刻すんな! かつ開き直るな! 公衆の面前でエロ本読むな!」

めり込む。めり込む、めり込む。

「サスケをちゃんと見てろよ! 担当上忍だろ! あと修行の順番滅茶苦茶! ロリコン乙!」

あと遅刻を真似るのはオビトに対しての羞恥プレイか!と付け加える。

・・・流石に口に出すと不味いことになるので、心の中のみでの叫びだが。


「フィニッシュだ!」


拳を止め、一歩下がり、


「ダスヴィダーニャ」


また再度踏み込む。


さようならの言葉と共に、拳が閃光となる。


「・・・適当に!」


まずは右のアッパー。


「生きるな!」


同時、左の打ち下ろしが、カカシの顎を打ち据えた。

上下の高速コンビネーション。

下の牙を止めても、上の牙が突き刺さる・・・!(注:両方突き刺さってます)

「これは、親父さんとマダオからの一撃だと思え・・・!」

技名と中の人的に。

「・・・ありがとうございましたっ!」

カカシは前のめりに倒れ込んだ。







痙攣するカカシを放置し、俺はエロ仙人と多由也の処遇について話す。

「・・・それで? 音の抜け忍・・・たしか、多由也と言ったかの。怪我をしたと聞いたが、傷はもう良いのか?」

「ああ。掌仙術と秘薬を併用して治癒したからな。明日には歩ける程度には回復するらしい・・・ああ、言っておくけど尋問なんかさせないからな?」

完全にタメ口であるが、もういいのである。取り繕うのも面倒くさいのである。

「・・・どういう事じゃ?」

「今現在、多由也は仲間、つまり身内だ・・・最初に約束したことだよな? 身内及び仲間に手え出すなって」

覚えてる? と聞くと、自来也が渋い表情を浮かべる。

「まあ、のう」

「これで貸し借り無しって事にしていいから。大蛇○戦の手助けを含めて、これで差し引きゼロね」

忠告はしておく。

(・・・強めに言わんとなあ。これ以上近寄りたくないんだよなあ。距離を保ちたい。そうしないと、なあなあの関係になってどこまでも利用されそうだし・・・本人には自覚なさそうだけど)

良かれと思ってやっているのか分からないが・・・正直迷惑だ。うっとうしい。

元より、表向きでも関わり合いを持つ気は無かったのだから。

(自来也もなあ。基本、善人だからなあ)

良心が邪魔をするのか、すっぱりと割り切って物事を考えてくれない分、付き合いが面倒くさいのである。

非情に徹しきれないのは優しさであり美点なのでもあるが、俺に取っては有り難くない事実。

「・・・分かった。それで、あの娘の処遇はどうするつもりじゃ?」

「どうもしないよ。自分で決めて貰う。面倒見るし、可能な限り手助けはするけどね・・・あ、そうだ」

「・・・まだ他に何かあるのか?」

「明日だけどさ。うちはサスケとサシで会いたいんだけど」

「何とか上手くやってて、場を用意して欲しい」という。

自来也は渋々といった様子で、了承した。




別れた後、家に戻った。

「・・・で」

一言置き、マダオが訪ねてくる。

「サスケ君を呼ぶってことは・・・これから、動き出すんだね?」

「ああ」

「・・・このまま木の葉に潜伏するつもりじゃ無かったの?」

「それが一番安全だと思ってたんだけどなあ」

頬をかきながら、答える。

「別勢力について、考えて無かったよ。下手に留まると・・・綱手とか自来也とかキリハとかの傍にいると、ダンゾウ率いる『根』が裏から絡んでくるやもしれんし」

「確かに、ねえ。そうなると・・・木の葉が二つに割れるか」

「そうなるね。・・・手はあるし」

憂鬱そうに呟く。

「正直、木の葉隠れの里人が持っている九尾に対しての悪感情・・・あれほどまで酷いとは思わなかった。ありゃあ、情報の使い方次第で、どうとでも利用できるわ」

九尾のあることないこと色々な噂を流布すればイチコロだろう。その場合、民衆と木の葉の忍びの一部・・・暗部を含めて、だ。


確実に俺の敵に回るだろう。


(木の葉に居なかったのが不味かったな。怨敵について、想像するしかなかったんだろうなあ・・・頭の中のイメージでしか存在しなくて、それでどんどんと悪い方に印象が傾いて)

今や九尾とうずまきナルトは木の葉の者から蛇蝎の如く嫌われていると見ていい。

事情を知らない者が大半なのだから、それは仕方ない事なのだけど。

(あるいは、『根』や暗部かの仕業かもしれないが)

考えるが、すぐ止めた。探している理由なんて一々考えたくもない。

(迂闊に動きすぎたしなあ)

でもまあ色々と狙いは達成できたので、動いた事については後悔していないが。そも完璧にばれずに器用に全てを丸く収めるなんて、不可能だし。

「そうなった場合、ねえ。カカシとか先生とか」

「キリハとか・・・俺を庇うよなあ。今更見捨てるってのは無さそうだし」

「当たり前でしょ」

「そうだよなあ・・・ああくそ。近づきすぎた」

失敗した、と愚痴る。自来也もああだし、緊張感が足りてない気がする。どうも危機感にギャップがある気がするのだ。いやまあ俺もそう人の事は言えないが。

で、結論。木の葉にいると別の意味でやばい。

「内乱の出汁にされるのはなあ・・・上手くない展開だし」

擁護派VS抹殺派とか・・・まあ考えられる中では最悪のケースだけど。有り得ない事もないってのがどうもね。

ダンゾウが綱手落としに取りうる手段の中では、一番効率的な方法だという事は分かっている。

現状、5代目火影、綱手への信頼感は揺るがないものがある。何しろ、初代火影の孫だ。血統で言えば文句なし。それに、三忍としての功績もある。

火影の座を狙っているダンゾウが、現在の綱手の盤石の地位あるいは信頼感を崩そうとするために、逆に一部を味方にするために、俺が利用されるかもしれない。

材料が揃ったら、即座に実行に移すだろう。手段は選ばないだろうし。あの根暗さんなら。

「ダンゾウならやるね。昔から、そういう人だったよ」

でもその可能性についてよく気づけたね、と言うマダオに、お前に教わったんだよ、と返す。

「『考え得る限り、最悪のケースを予想して動け。それならば、最悪を上回る事態が起こっても、いくらかは耐えることはできるかもしれない』」

「『後は運だ。最悪は予想できないから最悪なのだ。だが、備えは常にしておけ。それはきっと無駄にはならない』・・・うん、よく覚えてるね」

「基本、俺はチキンだからな」

常に最悪を考えて備えてないと不安になるんだよ、と笑う。

「・・・どうだか」

俺の言うことが面白かったのか、マダオも笑った。

「ははっ・・・ん?」

起きる気配を感じた。

「じゃ、ちょっと行ってくるわ」

多由也が寝ている部屋へと向かった。



「入るよー」

部屋に入ると、目に映ったのは放心状態の多由也だった。

まだ布団に入っている多由也は、身動きせずに天井を見上げながら硬直していた。

(現状が把握できていないのか)

「大丈夫?」

「・・・はい。ええっと」

「今はうずまきナルトでいい。それで、だけど」

「はい」

「色々と、聞きたいことがあるんだけど、話せる?」


順序だてて、色々と話してもらった。

呪印の事、施された洗脳のこと、忘れていた夢の事。驚いたのは、小池メンマ=うずまきナルト、というのを知っていた事だ。

「あの時のガアラとの会話、もしかして聞いてた?」

「はい。遠間だったんで、全部は聞こえなかったですけど」

あぶねえ、ともしかしたらの事を想像してみて、震えた。

周囲への警戒が散漫だったにしろ、もしばれていたら致命的な事態に陥ってたかもしれない。

「それで、ウチはこれからどうなる・・・んですか?」

「ああ、敬語はいいよ。一応タメなんで。タメ口でおk」

「ええ!?」

それを聞いた多由也が驚く。

「えっと・・・参考までに聞くけど、何歳ぐらいだと思ってたの?」

「・・・」

沈黙が雄弁に語ってくれた。そうか、口に出せない程、あれに見えたのか。

「・・・ま、それはおいといて、取りあえず木の葉に渡したりはしないから、それだけは安心していいよ」

「本当、か?」

「そうそう。タメ口でおk。そも、渡すつもりなら端から助けたりなんかしないって」

多由也が、安堵のため息を吐く。

「傷は明日ぐらいには完治すると思うから」

放浪中に見つけた秘薬。俺は傷薬要らずだったので、使わずに取っておいたのだが、こんな所で役に立つとは。

「それでも、体力はまだ完全には戻らないと思う。今日いっぱいは休んでた方がいいから」

「そう、か」

黙り込む多由也。やがて俺が立ち上がろうとすると、服の裾を掴まれた。

「何?」

「・・・あ」

「あ?」

「・・・あ、あり、ありがとう」

言い慣れてないのか、かなり顔が赤くなっていた。

「どういたしまして」

微笑ましすぎるので、笑みを浮かべながら一礼を返す。

「・・・・あ」

すると、多由也の腹の虫がなった。真っ赤になった後、顔を向こうに向けてこっちに見せないようにする多由也。

「何か食べる?ラーメン・・・は流石に重たすぎるか」

おかゆと薬膳スープでも作るか。前に白が得意だと言っていたな、そういえば、よし頼もう。

「・・・じゃ、適当に持ってくるよ。お大事にー」





夕食時。

「・・・では。これより、第2回ラーメン会議を始めます」

「まず始めに、宣誓の言葉」

「宣誓!我々は、ラーメンマンシップに則り!正々堂々戦い抜く事を誓います!」

「・・・ラーメンマンシップって何だ?」

「メンマさんの生き様そのもの何でしょう。つまりは勢いですね」

「というか、会議で宣誓はないと思うんですけど」

「でも会議ってそういうものだし」

「あー・・・早くもグダグダに成っておるのお」

うん、仕切りなおして。

「あー、その、ここ隠れ家な・・・放棄する」

はは、と笑うと、場が静かになった。

「そうなんだ」

「それでその、次の拠点とする場所に関してですが・・・ツテはあるんですか?」

ネタ振りは無視されました。マダオのスルー。僕ちょっと寂しい。

「・・・俺達が昔修行していた所にね。現在、木造の隠れ家を作っている最中です」

「影分身建設」に発注済みです。工期は3日らしいです。チート乙。でも使いすぎかもしれん。

「そのうち影分身に反乱とか起こされたらどうしよう」

「・・・有り得んじゃろ。なんじゃ、その1人芝居は」

1人クローン戦争である。主人公:俺、敵:俺、ヒロイン:俺。脚本:俺、監督:俺。

これがほんとの全部俺である。

「絵を想像しちゃったよ。シュールだなあ・・・ま、それはともかく、次の秘密基地だけど、山奥の中だから見つかりにくいし、周囲3里に渡って、隠蔽・遮音用の結界も配置済みだから、今よりも安全と言えるよ。

広いのもあるし、修行には最適の環境と言えるかもね」

秘密基地は男のロマンである。異論は認めない。

「それであの元音忍の・・・多由也さんでしたっけ。連れて行くんですか?」

「ああ、勿論だよ・・・・帰る場所も、ないだろうからね。それと、あともう1人連れて行こうかと思ってる。ま、こっちに関しては、ほら、気むずかしい相手だし」

話してみないことには何ともいえないんだけどね、と苦笑する。

「僕達が知っている人なんですか?」

「一度、戦ったことあるね」

うちはサスケだよ、と言うと、再不斬と白が驚いた表情を浮かべる。

「・・・正気か? うちは一族の最後の1人なんだろ。血継限界の事もあるし、連れ出すのは不可能だろ」

「大丈夫だよー。きっかり置きみやげもするし。まあサスケに関しては、木の葉に残られる方が危ないんだよね」

ダンゾウとか、ダンゾウとか、ダンゾウとか。あと大蛇○とか、オカマ○とか、お○とか。

・・・今思うとサスケも不憫だなあ。

「・・・だが、本人に聞いたとしても了承するとは思えんが。何か、考えがあるのか?」

「一応は、ある。それも含めて・・・そうだな。本人の前で話すよ。前々から聞きたかったであろう情報も含めて」

「・・・!」

では、本日はこれまで。






---次の日。

街の茶屋にて、サスケと待ち合わせ。隣には、同じく変化した影分身がいる。

ちなみに今は変化中。見事な一般人になりすましているのだ。

やってきたサスケは、俺を見るなり顔をしかめた。

「・・・アンタか? 兄貴の居場所を知っているっていう奴は」

後半は小声。まあ当たり前ですが。

「ああ」

乗ってくれたか。エロ仙人、上手く説明してくれたようです。

「で・・・」

せっかちなサスケの言葉を遮り、ひとまず提案する。

「あー、そうだな・・・まず話す前に、やることがあるんだけど」

周囲の気配を探る。

(見られてるな・・・1・・・2、と離れた所に3人目。こっちは相当な手練れだな。単独だし。『根』か)

サスケを監視しているのだろう。

「ラーメン食べてから話そうか」

「・・・ちっ」

焦っているのか、舌打ちをするサスケ。

・・・まあ原作と違って、あれっきり一度も再会してないから、焦るのも仕方ないか。




その10分後。

「・・・撒いたな」

気絶したサスケを肩に担ぎ、一息つく。

『やったね』

「ああ」

作戦は簡単だ。

まず、影分身と俺がとサスケとでラーメン食べる。食べている最中、ちょっとトイレと席を外す。

あらかじめ出していた影分身を1人残し、俺とサスケがトイレに行く・・・振りをして、サスケ気絶させる。そしてトイレの窓から脱出。

俺の姿をした影分身と、サスケの姿に変化した影分身を、元の席に戻す。残っているのは影分身だけ、という作戦だ。

「話を聞かれる訳にもいかないからな」

すぐにばれるだろうが、一瞬見失わせるだけでいい。後は影分身をばらまけばいい。数にものを言わして攪乱すれば、どれが本物が特定できまい。

・・・これからサスケに話す内容は、極秘中の極秘。木の葉のトップシークレットだ。

おいそれとそこら辺で話す訳にもいかない。




「う・・・」

「あ、目醒めた?」

「!?」

ばばっと起きあがるサスケ。即座に、俺から距離を取る。

「・・・ちっ、ここはどこだ!?」

「俺ん家」

「・・・何ぃ?」

「怒るなって。事情があるんだ」

警戒するサスケに、ここに運ばざるをえなかった事情を説明する。だが、サスケはそれを聞いても、まだ警戒体勢を解かない。

「そもそも、だ・・・お前は一体何者だ?」

「ああ。そういえば変化解いて無かったな---よっと」

変化を解き、

「!?」

更なる警戒態勢に入ったサスケを無視し

「口寄せの術」

キューちゃんとマダオを呼び出した。

「・・・お前、確か」

キューちゃんを見て驚くサスケ。あ、こらこら指ささない。キューちゃんもにっこり笑って「無礼な小僧じゃの、噛むぞ?」とか言わない。

「名乗るのは初めてだね。俺の名前はうずまきナルト。四代目火影、波風ミナトとうずまきクシナとの間に生まれた、長男坊です」

これからもよろしくね、という言葉に、サスケは驚く。

「・・・つまりは、キリハの兄貴か!?」

そんな話、聞いたことないぞ、とまだ警戒を解かない。

「で、こちら元九尾の妖魔。今は怪力八重歯油揚げ好き童女、キューちゃんです・・・痛い」

説明が不味かったのか、ものを投げられました。

「そしてこちら」

ボン、と元の姿に戻るマダオ。

「夢見るダンディー、今や引退したみんなのアイドル、波風ミナトです。ミナもしくはガッカリウルフって呼んでぐぇ」

しばらく生き返らないように、キューちゃんと俺でボコっておきました。

「・・・(唖然)」

後に、隠れて見ていた白が語ってくれた。


『その時のサスケの顔。口を開けて驚いているアホな表情は見物だった』と。







[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 三十五話・後編
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2009/08/09 18:08
「さてと。気を取り直して」

血まみれで転がるマダオを足で端によけて、話を続ける。

複雑そうに横を向くキューちゃんに苦笑して、サスケと向き合った。

「まず、俺が木の葉にいなかった理由についてだけど・・・分かる?」

「・・・いや、はっきりとは分からない。でも・・・」

サスケがキューちゃんの方を見て、呟く。

「九尾絡みってことか。それも、元九尾の妖魔と言っていたがどういうことだ?」

「九尾の伝承について、覚えてる?」

歴史の授業みたいなのがあった筈。それで習ったと思う。

「ああ」

サスケは頷き、口に出す。

「昔、妖狐ありけり。その狐 九つの尾あり。その尾一度振らば、山崩れ津波立つ。これに困じて人ども、忍の輩を集めけり

僅か一人が忍びの者、生死をかけこれを封印せしめるが、その者死にけり。その忍の者名を四代目火影と申す―――だったか。でも・・・」

血まみれで痙攣するマダオを見て、不安そうな顔をするサスケ。

「いや突っ込み所はそこじゃなくてね。確かに十分に突っ込みたい所ではあるんだけど」

腕を組んで

「うむ」

頷くキューちゃん。

「ヒント1。封印された、ってあるよね。さて問題。四代目火影は九尾を何処に封印したのでしょう」

その問いを聞いたサスケが、考え込む。

「ヒント2。九尾は、尾を持ち多大な力を誇る妖魔、尾獣の中の一体でもある」

「つまり、尾獣は一体じゃない。他にもいる・・・妖魔?」

何かに気づいたかのように、顔を上げる。

「・・・妖魔・・・化け物?」

「最近、何処かで見たことある筈だ」

気づいたのかくい、と顔をあげ、サスケが答えた。

「・・・砂瀑の我愛羅、か」

全てを理解したのか、サスケが唸る。頭の回転は早いんだよなあ。暗記力も凄いし。俺ならそんな長文、5秒で忘れる自信があるね。

「ということは、九尾を・・・息子であるお前の中に封印したのか。でも、元九尾の妖魔と言ったよな。それは、どういう理由で? 見たところ、今は違うようだが。それに、キリハが知らないのも、おかしいんじゃないのか」

「生まれてすぐキリハとは隔離されてね。ま、尾獣を宿す人柱力としては、周囲の人間から忌み嫌われるのは宿命とも言えるけど」

肩をすくめて答える。

「知っての通り、木の葉隠れの忍びは九尾の妖魔との一戦で、に多くの仲間を殺された。その恨みと憎しみは消えなかった。後は簡単だ」

単純だ。川が上から下へと流れるように、簡単な一連の流れ。問題は、その流れを止めきれる堰が無かったって事だね。

「7年前に木の葉の暗部に襲われてね。それで、九尾を封印していた術式に組み込まれた四代目火影の意識が覚醒。緊急の封印を施そうとするが失敗。術は暴走して---」

キューちゃんを見る。

「狐の変化を妖魔たらしめる、妖魔核と言われるものだけが飛んでいった。だから、ここにいるのは長年生きた狐の変化。“天狐”と呼ばれる存在だ」

「・・・気づいておったのか」

「そりゃあ、ね。ていうか、ほんとに天狐っていうんだ」

余談だが、千年を生きた妖狐のことを“天狐”と言う。前世の知識だ。この世界でも同じ意味をもつようだが。

「だから元妖魔。今は妖狐。それでも俺と魂レベルで癒着してるから・・・俺とキューちゃんの関係は、人柱力と尾獣と似たような関係となるね」

少し違うけど。それに九尾の妖魔程にチャクラが多いわけでもない。

「・・・で、だ。俺の事はともかく。ここからが本題」

「本題?」

「そう。そもそも、聞きたい事があるから、俺に会いに来たんでしょ? 拉致するような形になったけど、ここでなら答えられる」

ここにいる者に聞かれても、問題ないからね。

「さて、何が聞きたい?」

「・・・俺が聞きたい事は一つだ。兄貴は、うちはイタチは何処にいる?」

「暁という、大蛇○クラスの手練れ・・・S級犯罪者のみで構成されている組織に所属している。ちなみに今現在、その組織の主な目的は尾獣の回収。だから俺も狙われてる」

「・・・大蛇丸クラス、か。全員で何人いるんだ?」

「大蛇丸が抜けて現在9人。全員が抜け忍だ。うちはイタチ、元霧隠れ、霧の怪人の異名を取る干柿鬼鮫、元岩隠れ・デイダラ、元砂隠れ・赤砂のサソリ、元滝隠れ・角都、元湯隠れ・飛段」

「・・・今上げた名前の総数、9人に届かないけど他の構成員は?」

「それについては調査中だ。だが他の面子同様、異能染みた固有の忍術を持っているんだろうよ」

「そうか」

忌々しげに唸るサスケを見ながら、心中で呟く。

(・・・ペインと小南については伏せておくか。いまいち技とか術とかの詳細がはっきりしないし)

知っている情報を全て話す必要もない。

「しかし、組織だろ? まとめ役・・・頭はいないのか?」

「そりゃあいるさ。組織よろしく表と裏2種類のまとめ役が、な」

「それも、調査中なのか・・・なあ、表の頭と裏の頭、どちらも分からないのか?」

「実は、裏の方は分かっている。名前だけはな・・・でもなあ」

頭をかく。

「順序だてて説明する必要がある」

だからひとまず座って話そうか、とサスケの肩をたたき、促す。

「・・・ああ」

椅子に座り、対面に座る。俺は目の前に腕を組み、淡々と話し続けた。

「・・・さて。話はまず、木の葉隠れの里設立にまで遡る」

千手一族の話とうちは一族の話だ。サスケが訝しげな顔をしたが、無視して続ける。

「このとき、うちは一族の先頭に立って初代火影・・・千手柱間と戦った者がいた。その時のうちはの頭領だな。それが誰なのか知ってるか?」

「ああ。うちはマダラだろう。父上から聞いた事がある。確か、追放された後、もう一度戻ってきて木の葉の里を襲撃したとか」

「・・・補足しよう。当時のワシを瞳術で従えて、だ」

キューちゃんが不機嫌な顔で言葉を横合いから差し込む。

(あちゃー、嫌な話だったか)

後で謝ろうと思いつつも、話を続ける。

「その時の対立・・・結果、勝利したのは千手一族の方だった。その時の争いのしこりが残っているのだろう。うちはは木の葉隠れの中の忍びではあれど、木の葉自体との関係は良好とも言えないものだった。

木の葉を襲撃したマダラの件もあったしな」

千手一族とうちは一族。

木の葉設立のため手を結んだ、ともあるが、実際は千手一族が勝って、うちは一族が負けた結果の果てに、手を結んだに過ぎない。

それまで互いに争っていたという事実が消えるわけもない。木の葉の下、一緒に仲良くやりましょうなんて、出来るはずがない。

・・・それまで、互いに殺し合いをしていたのだから。

人の心は理屈だけで白黒つけられるほど、簡単なものじゃない。互いの関係を結ぶものを橋とすると

・・・その橋は急な事情で仕方なく建てられたもので、実は建設当初からあちこちに罅が入っていた、と表現するのが正しい。

「そして後年だ。四代目が死んだ時、九尾が里を再襲撃したあのとき・・・里の上層部が何を考えたか、分かるか?」

「・・・!」

疑念が橋に負荷を掛ける。疑いが疑いをよび、罅は加速度的に増え続ける。

「そう。背後にうちは一族がいたと考えた。そして、だ」

いつの間にか隣にきていたマダオが、波風ミナトが説明を引き継ぐ。

「それはある意味で正しかった。僕はあの時、対峙したんだ・・・死んだ筈のうちはマダラと」

「・・・何ぃ!?」

サスケが立ち上がる。

「有る意味だ。まだ話は続くから最後まで聞け。続きは、木の葉上層部の対応についてだ。まあ、うちは一族としては関与していなかった事だが、疑いをかけられたため、

確たる証拠もなく中枢から遠ざけられ、縮小を迫られた」

橋を壊した。壊れたのではなく、上層部側が壊したのだ。

同じ木の葉ではあれど、うちはは中央、つまり政治に携わる役職には関わるな・・・“こちらには来るな”と、そう告げたのだ。

「だが、うちはは警務部隊を任されていたはず・・・それは嘘だろう!」

立ち上がりながら叫ぶサスケ。だが、俺は間髪入れず答える。

「警務部隊。警務のみを任務とする部隊で・・・中枢には、関われない」

警察が政治に関われないのと同じ。俺は首を横に振る。

「当然、うちは側は不満を抱く。当たり前だろうな。事実、“うちは一族”としては身に覚えのない事なんだから。

・・・謂われのない罪を被せられて、不満を抱かない者などいない」

人間ならば誰でも。ここから、悲劇が始まる。俺は目を瞑り、サスケに問うた。

「・・・さて、うちはサスケ。本題はここからだ。今日この家に連れてきたのは他でもない、ここからの話を聞かせるためだ。そしてこの話は・・・お前の心を更に抉ることになるだろう」

覚悟はいいか、聞く準備は出来たか? と目を開け、真正面からその目を見据え、問う。

「・・・ああ、話してくれ」

すでに憔悴しているサスケ。若干うなだれながらも、続きを促す。

「・・・その一連の出来事が原因だった。九尾襲撃、四代目死去からいくらか経ったある日・・・うちは一族の中である事が決定された」

一息おいて、告げる。

「クーデターを起こす事だ。木の葉隠れの里を乗っ取るための計画が立案され、そして実行に移されようとしていた。革命のリーダーは当時の警務部隊部隊長・うちはフガク。

そして里側の動向を探る役として選ばれたのが・・・うちはイタチだった」

「・・・!」

二重の衝撃。だがそれだけでは終わらない。

「だが、クーデターは起こらなかった。里側が事前にその情報を察知していたからだ。それは何故か? ・・・うちはイタチが里側に情報を流したからだ」

「嘘だ!」

サスケが泣きそうな叫び声を上げる。

だが俺は無視して、続ける。

「本当だ。うちはイタチは二重スパイだった。そして役を任せられたあの時・・・あの時、もう既にうちはイタチは決断を迫られていたんだ。木の葉とうちは一族の間に立たされた状況の下、1人だけで。

・・・選択肢は二つで、選べるのは一つしか無かった」

里か、係累か。木の葉の平和か、一族の更なる発展か。

「・・・!」

あまりにも非情すぎる選択。

その結果、幼少の頃から戦争というものを嫌ほど知らされてきたうちはイタチが選んだ選択は・・・。

「後は、お前が一番知っているだろう? うちはイタチは木の葉の平和を選んだ。そしてその時里側から与えられた任務は一つ。

・・・うちは一族全員の抹殺だ」

写輪眼には写輪眼。そんな理由があるにしろ、あまりにも酷な任務だと思う。里の上層部もたいがい黒い。組織としては当たり前なのかもしれないが。

俺が木の葉に戻らない理由もここにある。血なくして平和は語れない。だが、あいつらは自身の血を流そうとしない。平和ボケしているのか、自分たちが里に必要だと思っているのか、それは知らないが。

唯一違ったのは三代目火影だったが・・・

「・・・何故・・・・なぜ、俺だけは殺されなかった?」

父さんと母さんも殺したのに、と呟くサスケに、再び俺は目を瞑る。

「それを改めて問うのは酷だと思うぞ。お前を殺さず里を抜けた理由、未だにお前が生きている理由。考えれば分かる筈だ。

・・・それに、だ。お前に何かを言っていなかったか?」


「・・・あ」


力無く、サスケが椅子に座り込む。背もたれに身体を預け、虚空を見ながら思い出した言葉を呟く。


「別れ際・・・『俺と同じ眼を持って、俺の前に来い』と言っていた。あれは・・・」


うちはイタチの取った行動として。その心境とした。殺さなかった、そして再び来いと言う言動。

続く言葉は一つだろう。

「・・・『そしてお前の手で俺を殺せ。それを手柄として』」

俺の続きの言葉にサスケは俯き、静かに言葉を発す。

「『うちはの仇を討った英雄となれ』、か」

顔を両手で覆い、サスケは呟く。

「・・・馬鹿だよ兄さん。アンタ、本当に馬鹿野郎だ。全部、自分で背負い込んで。全部、自分の、心の内にしまいこんで

・・・ほん、とうに、不器用すぎる。そしてほんと、う、に」

優しすぎる。

最後は泣くのを我慢しているのか、言葉が途切れ途切れになっていた。


「・・わる、いけど・・ひとりにしてくれないか」


頷き、静かに部屋の外へと出て行く。

マダオとキューちゃんもそれに続き、部屋の戸を閉める。


「・・・・っ・・・あ」


やがて、戸の向こうから、声を殺して泣くサスケの声が聞こえだした。





「ちょっと時間を空けるか。それと、だ」

修練部屋に入った後、ポケットから黒い札を取り出す。

「ちゃんと聞いた? ・・・・自来也さんよ」

さっき、サスケの肩を叩いた時だ。

サスケの背中についていた、服の色に紛れ込んでいた黒い札を剥がし、自分のポケットへとしまい込んだのだ。

「確かに・・・先日、影分身の有効利用については教えたけど、まさかこういう使い方してくるとはねえ。

・・・家の周囲に展開している結界が無ければ気づかなかったかもしれんよ」

『・・・』

「だんまりか。ま、それでもいいよ。それと、サスケは連れて行くから・・・抑え役だった三代目が死んだ今、ダンゾウと木の葉上層部がうちはサスケに対してどんな動きをするか分からないし」

『・・・一つだけ聞いてよいか?』

「何なりと」

『ワシですらも知らなかった、その情報だが・・・どこでどうやって知った? 』

「・・・明かすと思ってんの? ああ、明かすけどこれ貸しね? ・・・我が組織『機動食品』の努力の賜だよ」

社長:俺、参謀&ギャグ担当:マダオ、マスコット:キューちゃん、出向社員:白、用心棒の先生:再不斬、音楽家:多由也、若手のホープ:うちはサスケ(予定)

協力会社:影分身建設、影分身運送、影分身警備。

・・・何かどこかの海賊団みたいだなー。後半から突っ込み所満載になってるし。

まあようするに超嘘なのではあるが、ハッタリにはなる・・・かもしれない。

(まあエロ仙人だし・・・最早どうでもいいか)

盗聴するし。

俺の中の自来也株価、大暴落である。

「五代目になら話してもいいけど、それ以外には話さないでくれよ? ああ、それと---」







と、続きを話そうとした瞬間である。











予兆も何も無く。








声が頭の中に響いた。












『殺す』









「っっっっっっっっっっっっっっっ!?」





前触れも無く聞こえたその声に、全身が総毛立つ。


自分の奥底を鷲掴みにされたかのような感覚。だが、それは俺だけではなかった。



キューちゃんのチャクラが爆発したかのように高まる。





「ヲオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!」





獣の咆哮。同時、チャクラが吹き出す。




「ぐあっ!?」


「くっ、キューちゃん!?」






余波だけで壁にまで吹き飛ばされる。くそ、何てチャクラだ。

「眼が赤く・・・!」

そして獣の眼になっている。暴走しているのか。

感じ、チャクラの質は変わっていないみたいだが・・・

「・・・くそっ!」


辺りを見回しながら、息を荒立てているキューちゃん。

(興奮状態なのか?)

取りあえず、放ってはおけないので、すぐさま駆け寄る。

「キューちゃん!」

「・・・っァア!」

間合いに入った途端、迎撃の抜き手が俺を襲った。

俺の目でも見えなかった。

神速の抜き手。

「っつ!」

俺の肩が貫かれる。

(でも、途中で軌道が逸れた?)

視線と挙動と動きから、どうみても最初は心臓を狙った一撃に見えたのだが・・・放つ前に不自然な挙動が生まれ、狙いが若干逸れたのだ。

「っ!?」

鮮血が舞い散り、それを見たキューちゃんの肩が驚いたかのように跳ねる。

(怯えている? 気が立っているのか・・・ええい、ままよ!)

一歩退いたキューちゃんに、一歩詰め寄った

「キューちゃん!」

そのまま、思い切り抱きしめる。

「・・・・・っ!」

途端、キューちゃんの全身が跳ね、その後硬直した。

「大丈夫、大丈夫だから」

声を掛ける。どうも怯えているみたいだ。あの声のせいで恐慌状態に陥ってしまったのだろう。

安心させるため、キューちゃんを抱きしめたまま、後頭部辺りを撫でる。

「・・・・」

キューちゃんは無言のまま俺の背中に手を回し、抱きしめてくる。

「「・・・・」」

無言で抱きしめ合う二人。

「あの、二人とも・・・?」

「!?」

マダオから声を掛けられた瞬間、キューちゃんが俺の腕から逃れようと後ろに下がる。

そこで、俺はキューちゃんを抱きしめたままだったので、前に引っ張られたのだ。

そして、体勢が崩れる。

「おわ!?」

更に体勢が崩れた。地面に飛び散った血で、足下が滑ったのだ。


そのまま、二人とも前方へと倒れた


「っっっつ~~~・・・?」


咄嗟に手をついてキューちゃんを潰さずにすんだが、貫かれた肩が痛む。


「・・・あ」


痛みが治まり、正面を見る。そこには、


「・・・・」


呆けた表情をするキューちゃんの顔が見えた。


眼が丸くなっているのが可愛い。


(・・・睫長えー肌きれいー・・・とか、言ってる場合じゃねえ!)


体勢に気づき、慌てて起きようとする。


(これじゃあ、押し倒しているようにしか見えん!)


だが、神様はどうにも俺の事が嫌いらしい。


「ナルトさん!? 今のチャクラは・・・・」


白登場。同時に硬直。



「・・・・・」


そして俺とキューちゃん、視線を交互に向けた後、笑顔でおっしゃった。


ただ、何故か眼だけが笑っていない。



「 な に を や っ て い る ん で す か ? 」


「え?」


何で怒って・・・いや、ちょっとまて。
現状を確認しよう。


押し倒されてちょっと涙を浮かべているキューちゃん。(何で!?あと顔が真っ赤になってるし!)
血が出ている俺。(肩が痛い)
先ほどのチャクラ。(相当な大きさだったからな。そりゃ分かるか)
壁に吹き飛んで、後頭部を押さえているマダオ。(そそくさと逃げようとしている)


あれ? 客観的に見たらこの状況・・・・やばくない?


「実は---」


と事情を説明する間もない。白の黒いチャクラが吹き荒れる。


「そんな、チャクラが具現化するなんて・・・!?」とか言っている場合ではない。


そこに、白い夜叉が顕現した。


コマンド。






「ナルトさん!!!!!」

だがコマンドを選ぶ前に先制攻撃された。不意打ちだ!

「ありがとうございますっ!」

乙女の拳が俺を吹き飛ばした。










「いちちちち」

「・・・どうしたんだ? それにさっきのチャクラは」

寝ころび、天井を見上げていたサスケが身体を起こした。

「ああいい。気にしないでくれ。白も謝らなくてもいいから」

誤解が生んだ悲しい悲劇だ。こちらは語るまでもない。

白も謝ってくれたので良しとしようか。キューちゃんにも後で謝ろう。

・・・でも一つだけ、気になる事がある。


(あの声は何だったんだ?)


初めての体験だ。


声だけで死を連想させられたのは。


(それに、あのキューちゃんをあそこまで恐怖させるとは)


他の皆には聞こえなかったようだが、俺だけの空耳では有り得ないだろう。あの声、あの感触。

耳にこびりついて離れない。

頭の深奥に刻まれたかのようだ。

それに、嫌な予感が止まらない。

(共通点は、人柱力か・・・ここを出たあと、我愛羅にも接触してみるか)

あるいは、他の人柱力にも。居場所はまだ分かっていないが、探せば分かるかも知れない。


(あの声。どこから・・・いや何より『誰が発したのか』を突き止める必要があるな・・・予想はある程度ついているけど)

それも、ここを出てからにしよう。キューちゃんが元の状態に落ち着いてからにした方がいい。


今は何故か顔を真っ赤にして、部屋の隅で三角座りしたまま、こっちを睨みながら1人唸ってるし。


(・・・後で聞こう)


話しかけたら噛まれそうだ。


(でも柔らかかったなあ)


「・・・おい? 急に黙り込んで、何か俺の顔についてるのか」

「うん。赤い眼だね」

「ああ・・・」

と、頬をかいて眼を逸らして照れるサスケ。泣いたのが丸わかりだ。気が動転していたのか、気づいていなかったようだが。

うーん、自分が泣いた、という事実を恥ずかしがっているのだろう。泣いたと悟られた=弱さを見せたとか思ってるのかねえ。

「悲しい時に泣けるのも、強さだと思うけど」

泣ける強さと泣かない強さ。二つあるが、今は泣いた方が良い状況だし。

「うるさいな」

だが怒るサスケ。反骨精神溢れる若者、青臭いのう。重畳重畳。

「おっさんくさいよ。あと君が言うな」

腕を組んでいると、マダオに突っ込まれた。ていうか心を読むなよ。

でも、少年をからかうのはここら辺にしておくか。

「で、だ。ここで、話は戻る。うちはイタチ。現在抜け忍となり、暁に所属している理由は一つだけ」

「さっきいっていた暁の裏リーダー・・・うちはマダラを見張るため、か」

「そうだ。うちは強襲の折、うちはイタチに手を貸したのもあいつだからな」

「・・・成るほどな。兄さんがいくら強くても、うちはを1人で壊滅させるのは・・・」

拳を握る。

「実際の所1人では無理だと思っていたんだが・・・謎は解けたよ。そういえば、うちはマダラは昔追放されたんだったな」

「その通り」

後、色々と現状について説明する。

3代目の死。“根”の存在。イタチが提案した、木の葉上層部との取引。

「つくづく・・・自分が情けないな。俺だけが、何も知らなかった。知らされていなかった。いや、知ろうともしなかったのか」

「反省は後だ。3代目が死んだ今・・・抑える役割を担う者がいなくなった今、サスケがこの里に残るのは危険だ。“根”の首領、ダンゾウの存在もあるしな」

「俺が邪魔なのか。はっ、それも分かる話だがな」

うーん、吹っ切ったのか、頭の回転が早いし、現実的なものの見方が出来てる。

(どうだ?)

マダオの方を見る。

「決まりだね。大丈夫だと思うよ」

「了解」

「何だ?」

座り込んだまま、サスケが訪ねる。

「えーとね・・・・!」


だが、その時。





『・・・探知結界作動』



突如鳴り響く警報音。アラームレッドだ。


「・・・何!?」


突然の警報に、場が緊張する。


俺は即座に影分身を使い、森の入り口へと向かわせる。俺のチャクラでは、罠は発動しない。


そして、1分後。


『影分身から入電中・・・結界内に入り込んだ敵を確認。練度B、数は8。チャクラ量と身のこなしから、最低でも中忍クラスと考えられる』

「・・・くそ、見つかったか」

さっきのチャクラの暴走が原因だろう。試練場とはいえ、相当な大きさだったからな。

・・・試練場に張っていた結界札も最近張り替えてなかったし、家の壁面に張っている隠避結界の上限を越えてしまったか。

ここのところ忙しくて忘れていた。うーん、失敗失敗。


「マダオ」

視線で合図する。

このタイミングで来る、しかも2小隊編成ということは。


「そうだね。恐らくは“根”だと思う。まあ森の入り口からここまで、幻術系・物理的を罠が色々と張り巡らしてあるからすぐには来られないでしょ。

・・・ここに辿り着くまで、最短でも一時間はかかると思う」

「・・・そうだな。白、多由也を連れてきてくれ」

「はい」

白が出て行く。

「そして再不斬、脱出に持っていくものは以前説明したよな?」

戸の向こうにいる再不斬へと話す。

「・・・ああ」

数秒経った後、再不斬が姿を見せた。

「・・・お前!?」

サスケが驚き身構えるが、俺は手で制して、説明をする・・・時間もないか。

「あー、あとあと。今は俺の仲間だから。別に見られただけで噛みつくわけでもないから、心配しないで」

「・・・お前には噛みつくかもしれんがな」

「いいねえ、久しぶりにガチでやってみる? でもそれは避難した後な・・・頼むわ」

「・・・はあ、分かったよ。でも貸し1だぞ」

「了解」

ため息を吐きながら、再不斬が部屋の外へと出て行った。

「サスケも、説明は後ね。ついでにいうと、さっき君がちょっと見とれてたあの美少女は白といって、波の国で戦ったお面ちゃん」

「・・・は?」

眼を点にするサスケ。どうも、あれ程の美少女だとは思っていなかった模様。



「まあ、それはおいといて、だ」


組んでいた腕を降ろし、サスケの眼を見ながら問う。




「選択の時だ、うちはサスケ君・・・・今から俺達は木の葉を出て、新しい隠れ家へと移動する。そして、対暁のため、動き出す。

再不斬も白も、それが目的で俺に協力している」


鬼鮫がマダラのことを水影と言っていたからな。大名暗殺の時の水影

・・・その詳細はまだ分からないが、水影と言われていたうちはマダラが絡んでいない筈がない。これも後で言ってやるか。


「そこで、提案だ・・・手を組まないか?」


「・・・手を組む?」


「ああ。俺にとっての今一番の強敵・・・それは暁に所属しているうちはイタチだ。万華鏡写輪眼は厄介すぎる代物だからな。それに対抗するには・・・」

サスケは頷いて答えた。

「・・・写輪眼には写輪眼。つまり俺が抑えるわけか」

「ああ。鍛えるに相応しい場を提供する。師匠も、このマダオがいる。普段はあれだが、師匠としては超一級品と言っていい。

5歳の時点では何も知らなかった俺を・・・大蛇丸とほぼ互角に戦えるまで鍛え上げたのだからな。たった7年で。腕に関しては俺が保証しよう」

やるときゃやる男だぜ、と推してやる。

実際、能力的には文句なしだ。天地共に鍛えるには、最適の人材だと言える。

「お前ほどの才能があれば、3年程鍛えれば十分だ。いや、もっと早くうちはイタチに匹敵する腕前にまで成長するかもしれない。

元々、兄を討つために鍛えてきたのだろう? 今の目的は知らないが、俺達はその手助けができる。

それに、今の木の葉にとって、お前が成長するという事態は望ましくないことだろうからな。色々と妨害があるかもしれない」

「・・・」

それも予想に過ぎないが、十分に考えられる。


「そこで、問おう・・・選択肢は二つに一つ。共に来るか、1人で木の葉に残って戦うかだ」

見下ろし、続ける。

「悪いが今この場で決めて貰う。制限時間は一分だ。時間がないからな」

「・・・ここに来るまで、後1時間はかかるって言ってなかったか?」

「ああ・・・っと白」

白が多由也と共に急いだ様子で戻ってきた。うん、流石は元追われる身。分かってるね。

「レッスン1だ、サスケ君。“動くと決めたらできるだけ早く”・・・悪戯好きな神様に足下をすくわれないよう、な」

常に余裕を持って、だ。

「それに、相手が血継限界持ちの場合もありますしね。数分の遅れが生死を分かつ状況も十分あります。

・・・逃げる場合は特に、です。ノロノロしたせいで追いつかれて、結果、後ろから討たれるって事もありえますからね」

そんな不様で間抜けな死に方はまっぴらゴメンです、と白がフォローする。



「問おう。うちはサスケ」


共に来るか、残るのか


選択を迫る。


だが、手は差し伸べない。自分で選んでもらう必要があるからだ。



「・・・俺は、今まで流されるままだった」

やがてサスケは座ったまま俯いて、ぽつりぽつりと呟きだす。

「・・・そうだな」

同意する。選択肢など無かっただろう。復讐の一択のみ。それも兄の言葉に誘導されて、だ。それはまるで運命の糸に繰られた人形。

・・・舞台で踊らされる道化だ。

「この眼に、うちは一族の力と宿命とやらに、その流れで起きた悲劇に飲まれて、流されることしかできなかった。

血の池の中で道を見失って・・・自分で道を選んだことなんて、無かったのかもしれない」

「・・・力は血を求める。才能がある者ほど余計に、な。それが力持つものの運命、そして宿命らしいが」

それを聞いたサスケが、キューちゃんと白と俺を見た後、ため息を吐く。

「・・・そう、なんだろうな。だけど・・・・それは、嫌だ」

そして面持ちを上げ、意を決したかのように一歩踏み出す。


「ああ、俺は嫌なんだ・・・そうだ。運命がどうとか、知るか。知るもんか。俺は、俺のやりたい用にやる」


自分の拳を握り、それを見つめながら宣言する。


「俺は強くなる。自分で、自分の道を選べる程に強くなってやる、そして・・・俺に何も告げないまま、1人で全てを背負う道を選んだ兄さんを!

・・・一度ぶっ飛ばして、そして一言だけ言ってやる」


「一言?」


「・・・兄弟なんだから・・・辛い事なら一緒に背負わせろと。それを言うために、殴りに行くために、俺は行く」


眼に光りが灯る。


明日何かを遂げて終わらせるという瞳ではない。



それは、生きて再び明日をみようとする瞳。



「選ぼう、うずまきナルト。俺を連れて行ってくれるか?」



サスケは座ったまま、手を差し出す。



「ああ、もちろんだ」



俺はそれを握る。



新たな仲間の誕生だ。同じ志を持つもの。運命を敵に回し、それをぶっ飛ばしに行く者。


「だけど」

一つ置いて、告げる。

「機会は用意できる。鍛えたいなら、手伝おう。だが、その中で選び勝ち取るのは自分自身だ。血反吐を吐きながらも、つかみ取るのは自分次第になるだろう。はっきりいって楽な道じゃない」

・・・それでもいいな?」

悪戯な笑みを浮かべ、サスケに問う。そしてその問いに対し、サスケは挑戦的な笑みを浮かべ、答えた。



「上等だ」


握った手を引っ張り、立たせる。



ここに、約定は成った。


俺は機会を用意する。鍛える場を用意する。

サスケはそれに答え、イタチを抑える。そして、できればだけどうちはマダラの方も抑えて貰う。

それぞれの目的のため、道を同じくする。

・・・あるいは、それ以外の何かが含まれているのかもしれないが。

(それを口に出したら、安っぽくなってしまうな)

同情でもないし、哀れみでもない。

ただ、言ってやるだけだ。



「じゃあ、決まりだな・・・一緒に行こうぜ?」


腕を振りかぶる。



「ああ!」



勢いよく、ハイタッチを交わす。












木の葉隠れに外れた場所で、警報響く家の中。


世界に抗う男二人の、始まりの音が鳴り響いた。













[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 三十六話
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2009/08/16 23:02
ナルトの「40秒で支度しな!」発言の後。

一同は隠れ家から遠く離れた場所へと通じる、秘密地下通路を伝って外へと脱出。


地上に出て数分を歩いた後、立ち止まった。


「ここまで来れば大丈夫だろう・・・一旦休憩にするか」

ナルトの言葉を聞き、皆が足を止める。

「よっと・・・多由也、随分揺れたと思うけど大丈夫か? 傷は広がってない?」

「あ、ああ。傷は塞がってるから、問題は無いと思う」

「でも顔色は良くないね・・・まあ、血が足りないのかも。あれだけ出血したし。体力の方もまだ回復はしていないだろうから、無理はしない方がいいよ」

「・・・あり、がとう・・・ほんと、何て言ったらいいか」

「いいよ、別に。それに役得だったしねー」

と、ナルトは少し笑いながら、先ほどまで背負っていた背中を指す。

そのやりとりを見ていたサスケが、顎に手をやり何のことか分からないと首を傾げている。

やがて、ポンと手を叩いて解答を口に出した。

「ああ、胸が「うるせえ!」うお!?」

サスケの呟きを聞いた多由也が、顔を真っ赤にしてサスケに殴りかかる。

それを間一髪で回避したサスケが、多由也へと文句を言う。

「危ねえな、てめえ! いきなり何すんだ!?」

「お前が悪いんだろうが!?」

ぎゃーぎゃー言い合う2人の間に、マダオが入る。

「ほらほら、2人とも。今は逃げてる最中なんだし、騒がないの。できるだけ静かに争いなさい・・・ほら、ああやって」

マダオが指さす先には、静かに地面に屈み込んでいるナルトの姿が合った。

「・・・ふん、人誅じゃ。何、急所は外してある。安心せい」

「・・・てか・・・お・・もい・・・っきり急所・・・・・でしょ」

ここが急所で無かったら、どこが急所だというのか。

股間を抑えて悶絶するナルトの背中を、白が優しく叩いている。更にその背後では、再不斬が「へっ、ざまあ」と言う表情を浮かべていた。

「「・・・・」」

その光景を見て、沈黙する2人。顔を見合わせてため息をつく。

先ほどまでと違う、あまりのギャップの激しさに「なんだかなー」と思うサスケ、多由也であった。




「ありがとう、白。こんなに優しくしてくれるのはお前だけだよ・・・」

「でも、本当にいいんですか? 全部爆破しちゃって」

ナルトのボケを華麗にスルーした白が、残してきた隠れ家の処置について聞く。

「・・・まあ、急ぎだったからねえ。それに、爆破した方が後腐れなくていいよ。戻れないなら、いっそ無くなってしまった方がいい。その方が割り切れるし」

痕跡も何もかも全て吹き飛ばせるし。主に、木の葉側に見られたら不味いものとか。

ありったけの起爆札をセットしたので、何も残らないだろう。それだけの威力はある筈だ。

脱出路用として地面に掘った、あの隠し通路も全て埋まるだろうから、追跡もし難いだろうし。

「ダミーの隠し通路も作ったしねえ」

本命、つまり俺達が使った脱出路は跡形無く消えるように細工した。

ダミー用・・・今いる位置とは別方向に伸びる脱出路の方は、ある程度痕跡が残るように細工をしたのだ。これで脱出後の足取りはある程度攪乱出来るはず。

影分身に足跡も付けさせた。それも、あからさまなものではなく、細かく調査してようやく分かるといった程度のレベルのものだ。

「それにほら。秘密基地が見つかって、それで脱出する場合には・・・跡形もなく爆破するのはお約束ってやつでしょ?」

「・・・でもそれは悪の秘密基地のお約束なんじゃあ」

多由也が突っ込む。

(うむ、この世界にも漫画文化はあるようだなあ)

そういえば、自来也も書いたんだっけか。俺は読んだこと無いけど。

「でも俺達ってどっちかっていうと悪者だよね? ・・・だってほら」

みんなが、俺の指さす先・・・再不斬の方を見る。

「・・・そうだねえ」
マダオがしみじみと呟く。

「そうじゃな」
キューちゃんが頷く。

「・・そうかも」
多由也がぽつりと呟く。

「否定できないな」
サスケが顔を逸らす。

「ちょっと、皆さん! ええと、ほら、再不斬さんだって、悲しい話を聞いたら涙流すことだってあるんですよ!」
白のフォローが入った。

「・・・」
だが、容姿についてのフォローは入らなかったので、再不斬がちょっと涙目になる。

「ああ、そういえば以前、俺が○ランダースの犬の話を聞かせたとき・・・見事に泣いてたよなあ」

話し終えた後、即座に逃げていったけど。いや、しかしもしかしてとは思っていたが、まさかホントに泣いていたとは。

「・・・眼を押さえて静かに泣く再不斬さん・・・あれは、可愛かったですねえ」

白がその時の顔を思い出して、うっとりと呟く。その表情は色っぽくて綺麗でとてもとても見応えのある顔なのだ。

だが皆は眼を逸らし、おのおのの言葉を呟いた。

「鬼の目に涙だねえ」
誰がうまいこと言えとマダオ。

「でも、可愛いってなあ・・・」
想像できん、とサスケ。

「まあ、人好き好きだから」
うんうんと頷く俺。

「割れ鍋に綴じ蓋?」
割と多由也が酷い。でも合ってるかも。

「豚に真珠?」
キューちゃん、それ意味が違うから。


「・・・・・」

再不斬はじっと、屈辱に耐えているのであった。



数分後。


「そろそろ、ですか?」

「いや、まだだ20分ぐらいしか経っていない」

脱出後、ここまで移動した時間を含め、まだ予想時刻より30分は余っている。

「爆発作動まで待つか・・・一応、見届けなくちゃならんし」

「それまでじっとしているってのも芸が無いね・・・そうだ」

そこで、マダオがある事を提案した。

「ねえねえ、これだけの人数が集まったんだし・・・何か、チーム名とか決めない?」

その言葉に、皆が考え込む。

「いいな、それ」

「確かに」

夢見る少年世代(身体は)のナルトと、正真正銘の少年世代であるサスケが同意する。

「とはいってもなあ」

「僕たちに共通点ってありましたっけ?」

「ああ、有ることはあるなあ。ほら・・・『帰る場所が無い集団』」

「・・・ずばっときたね」
ちょっと切なくなる。

「直球過ぎないか?」
ど真ん中である。

「・・・そうだね。それじゃあ語呂も悪いし・・・他に何かある?」

一瞬の沈黙の後、多由也がぽつりと呟いた。

「そういえば・・・里抜けするとき、左近に野良犬とか言われた」

多由也の言葉を聞き、その言葉にある集団の言葉が浮かぶ。

「うん、それなら『リザーブ・ドッグス』何てどう?」

親父は事故死しました。

「正に俺達のフィールドだね」

「うん、意味がわからん。却下じゃ」

キューちゃんに笑顔で却下された。

まあ、そりゃ分からんか。だがマダオ反応してくれてナイスジョブ。

「それ以外だと、そうだなあ」

考え込む。目的に添う名前にした方がいいかもしれない。

「そう、『暁』に対抗して・・・『夜明けの船』なんてどう?」

絢爛で舞踏な祭りが起こるかもしれない。

「いや、船なんてないでしょ。てか何で船?」

夜明けときたら船でしょう。

「じゃあ、曙ってのは? もしくは曙光」

「ごっつぁんです! ・・・却下」

どっちなのさ。

「黎明はどう?」

マダオが言う。

「王子ものぞむーもいないので却下」

暁と一緒に太陽を支えるのは嫌です。叢雲にも進化しません。

「じゃあ、反対の意味で・・・宵闇とか」

サスケが呟く。だが、それはちょっと・・・

「サスケさん、サスケさん。それだと暗殺専門組織にしか聞こえないんで・・・」

誰を屠るの、誰を。落ち込むサスケをよそに、別角度から切り込んでみる。

「じゃあ、『傭兵騎士団』は?」

水素の心臓持ってないけど、あの団長には適わないけど、響きが好きだから。

「・・・傭兵は分かるけど、きしって何?」

遠い世界の侍みたいなものです・・・といっても分からんか。

「じゃあ、大逆転号は?」

「7つの世界最後の希望を託されるのはちょっと・・・」

大役過ぎる。荷が重い。プリンセス・ポチもいないし。

・・・プリンセス・キューちゃんはいるけど。

「・・・7、7か。そういえば、7人なんだね・・・それじゃあそのままセブンなんてのはどう?」

「コード・スクエア! ・・・でも俺が批判されるから却下」

カルバリー・ディスピアー!ってか。まあ転生とはちょっと違うけど。

もしくは魔王ナグゾスサールでも倒しに行くのか・・・いいね。

「えっと、じゃあ七星は?」

セプテントリオン?

「いや、コードネームがちょっとつけられないし」

それに名字無い人いるし。白がHになちゃーうよ。サスケがステイツになっちゃうし。

「それじゃあ、七色・・・“虹”なんてどう?」

「あ、なかなかいいね・・・でも保留」

「う~ん、何かこうびりっと来る者が無いね」

「そうだなあ。隠れ家につくまで時間があるし、それまでに少し考えておくか」


立ち上がり、時計を確認する。まだ、予定時間より10分あるが・・・ん?

「来た、か」

影分身から連絡が入った。根が隠れ家に急接近中らしい。

「・・・よっと」

足にチャクラを篭めて、岩場の上へと跳躍する。気配は消したまま、隠れ家のある方角を見て呟く。


「想定していた時間より早いけど・・・始まるか」











一方、同時刻。森の中静かに建つ、メンマ邸周辺。

そこには、“根”の部隊、2小隊が展開していた。

幾多の罠の群れを、僅か40分足らずで潜り抜けた手練れ揃い。

ハンドサインで合図。

1小隊が周囲を警戒する。

そしてもう1小隊が、メンマ邸へと静かに忍び寄る。

近接し、壁に触った後、ハンドサインを送る。

その内容はこうだ。

(隠避結界が張られている模様)

再び互いにハンドサインを交わし、頷きあう。

「・・・」

そして無言のまま、正面入り口に小石を投げつける。

数瞬置いて

「・・・!」

もう一つの窓から侵入する。


最適のタイミングでの侵入、そう思っていた。


だが侵入した直後だ。


突如、家の中から大声が発された。


『だが足りない! 足ぁりないぞぉ!!』


「!?」


驚きに硬直する4人。


『お前達に足りない物、それは情熱、思想、理念、頭脳、気品、優雅さ、勤勉さぁ、そして何よりもぉおおおおおおお!!」

同時、起爆札が一つだけ爆発した。

「く!?」

後退する4人に向け、どこかの世界のアニキの名言が告げられた。

『速さが足りない!!!』

同時、ボンと煙玉が破裂する。

そして煙の中から、アヒルのおもちゃがよちよちと歩きながら出てきた。

『・・・と、いうことで既にポックン達は脱出済みダピョーン・・・ユー達がノロノロしてっから、クスス、間抜け。アホだね。馬鹿だね。トンマだね。マダオだね。

入り口に探知結界が張ってあったの気づかなかった? 御陰でゆっくりと逃げ出せました。あと手始めの爆発だけど、驚いた? 身構えちゃったりした? ねえ今どんな気持ち? ねえどんな気持ち?』

ねじ巻きで動いているのだろう。変な顔をしているアヒルのおもちゃが、おちょくるように左右に動き出す。

それを見た4人が、思わずといった風に呟く。

((((・・・うぜえ))))

感情を知らない筈の『根』が心底苛立っていた。拳を力一杯握りしめている。余程むかついたらしい。

硬直したまま動かない根。

その前で踊るように歩くアヒル。

だが歩き出して数秒後、急にアヒルがその動きを止めた。

・・・あるメッセージを残して。

『尚、この家は後十秒で大爆発人生劇場になるので、お近くにいる皆様は避難の準備をして下さい・・・それでは“根”の諸君。ごきげんよう、さようなら』


突如、部屋の四方から光りが沸き上がる。


「・・・っくそ、光玉か! ・・・退け!!」

小隊長が叫び、危険を察知したのか、瞬時に外へとでる。光に防がれた視界の中でも鼻と耳は効く。

火の臭い、そして起爆札が作動するような音を感じ取ったのだろう。

察知から決断。

その間、僅か3秒。手練れ故の速さである。

「・・・ここから離れろ!」

家を脱出後、即座に外にいた小隊へ告げる。それを聞いた小隊は、何故の言葉を問わずに従い、木の葉瞬身を使い家から離れる




そしてきっかり十秒後。

家の隅々にまで仕込まれている、特製の起爆札が一斉に爆発した。




「「・・・・・・・っ!!」」


根の小隊は爆風に飛ばされないよう、地面に伏せてやり過ごす。





外壁と柱を粉砕され、屋根から崩れ落ちる隠れ家。


構造物が破砕する音がする。


「・・・まだ、か・・・!」



そして倒壊しきった直後、もう一度爆発が起きた。


「・・・・・・!!」

先ほどと同程度の爆発。それは倒壊した家屋全てを砕き、打ち壊し尽くした。


「・・・・・くそ」

崩れ落ちた瓦礫を念入りに砕くため。痕跡を無くすための細工。

二段仕掛けの爆発が起きるよう、前もって細工されていたようだ。

あまりにも念入りな仕掛け。次の目的地の地図など、見られたら不味い情報は軒並み消去されたのだろう。

それを悟った小隊長が毒づく。

「どうします? 追いますか?」

小隊員が苛立たし気に、小隊長へと訪ねる。

「・・・・・これ以上深追いすると危険だ。待ち伏せされている可能性も無いとは言い切れん」

だが、隊長は撤退を選択した。

撤退する理由・・・それは、あの置きみやげのせいだった。

「・・・我々“根”も舐められたものだ」

わざわざ爆発する事を知らせてくれた。しかも時間通りに。
それは、逃げる側の自信の現れだと感じ取ったのだ。

『別に追ってきてもいいよ。返り討ちにしてやるから』、と。

「・・・撤退だ」

不用意に追跡したとして、捕まえられるとは思えない。そして待ち伏せされていた場合、それを退けて捕獲しきれるとも思えない。

そう判断した小隊長は、撤退の選択を取った。

爆発音を聞いた暗部が調査に来る。

今、ここで顔を合わすわけにもいかない、と“根”の8人はすぐにその場を去っていった。






「・・・どう?」

「・・・退いたな。気配が遠ざかっていく」

隠れ家周辺に置いておいた影分身から、情報が入る。

「成功したみたいだな。それじゃあ」

呟き、岩場から飛び降りる。

「次の我が家へと、行こうか。このまま、国境を越えよう」

「「「了解」」」


一行は立ち上がり、並び歩き出す。




「・・・どうしたんですか?」

だがメンマだけは立ち止まっていた。それを見た白が、心配そうに話しかける。

「・・・・いや」

白の問いかけに首を振り、頬を張って自分に活を入れる。

「・・・大丈夫そうですね。じゃあ、僕は先に行ってますから」

「ああ」


白が先に行くのを見て、砕け散った・・・自分が爆破した隠れ家の方に振り返り、1人呟く。


「・・・・あばよ、今まで世話になったな」

初めて持った、自分の家。それに対しての別れの言葉。

「これで、いいんだ・・・行くか」

そして皆の方へと振り向き、その場を駆け足で去っていった。



「グッバイ、我が家」

少し寂しい。その言葉は、虚空へと吸い込まれすぐに風と消えた。







そして旧メンマ邸爆発から2時間後。


調査隊が帰還した時刻へ、時は戻る。



サスケ失踪の報が届いた直後である。

自来也が慌てた様を見せながら、火影の執務室へと入ってきた。

「・・・綱手! 少し話したい事がある。今、いいかの?」

「自来也か。悪いが今忙しい・・・・?」

不機嫌な顔をして、自来也の誘いを断ろうとする綱手。

だが、自来也の顔色を見て、何かを悟ったのか、その部屋に居る忍びに向けて、退室を促す。

「悪いな。追って命令は出すから、それまでは待機。ああ、キリハは残れ」

「「「「了解」」」」

その場にいた木の葉の上忍・中忍全員がその場を立ち去る。



「・・・で? このタイミングで話があるということは、勿論うずまきナルトの事だろうな」

「うむ」

頷いた自来也に、項垂れていたキリハが顔を上げる。

「・・・おじちゃん!? 兄さんは、兄さんは無事なんですか!?」

自来也を掴み、必死に問いかけるキリハ。手には青筋が浮くほど、力が込められていた。

「・・・どういう事じゃ?」

何故お前等が知っている? と不思議そうに呟く自来也に、一連の出来事が知らされた。

「手鞠、か。成る程のう・・・こりゃ、ナルト。お前から説明せんか」

「・・・いやあ、まさか手鞠が残ってるとは思わなかったわ」

そういえば頑丈な箱にしまってたっけと声が聞こえる。同時、自来也のポケットから一枚の白札が飛び出した。

「札が、喋った・・・・あ!?」

そしてその札は音を立てながら、仮初めの姿からとある少年の姿へと戻る。

「心配かけてすいません。今噂の人物です」

「・・・兄さん!? 無事だったんですね!?」

「ああ・・・っておーっと、掴みかかってくれるなよ。これ影分身だから。衝撃与えられるとすぐに消えちゃうから」

影分身の唯一とも言える弱点だ。外側から一定以上の強い衝撃を受けると、すぐにでも消えてしまう。

「で? 話は聞かせてくれるんだろうな」

綱手が不機嫌そうな顔のまま、ナルトへと事の次第の説明を迫る。

「ええ、勿論。そのために、影分身を潜伏させていたんだし」

サスケを拉致した後ね、と呟く。

「で、何があった?」

「はい、実は---」

と、一連の事を説明し始めるナルト。

ただ、嘘を一つ混ぜた。襲ったのは、“根”ではなく暗部なのだと。

キリハが此処にいる今、ダンゾウの事を話すのはまずいと思っての事だった。

「木の葉の暗部、か」

「そう。隠れ家は放棄して、今は新天地を求めて驀進中---じゃあ、納得しないよね」

「・・・当たり前でしょ!! いいから、今何処にいるの!?」

詰め寄るキリハに、ナルトは咄嗟に答えた。

「ええと、終末の谷近辺。そこに・・・おい!?」

ナルトの言葉が終わらないうちに、キリハが執務室を出て行った。何としても本体に追いついて、面と向かって話をするようだ。

「・・・はあ。話は最後まで聞けというのに・・・それで、だ」

自来也の問いかけに、ナルトは首を傾げる。

「はい?」

「お主を襲撃したのは“根”の者か?」

「ご明察」

「はあ、ならば仕方ないかもしれんが・・・このまま出て行く気か? せっかく兄妹、長年の時を経て会えたのだというのに」

キリハはどうするという問いに、俺は首を振りながら答える。

「どうするもないですよ。どうにかできるんだったら、どうにかしてます。それができないからの選択です。分かってないとは言わせませんよ」

「・・・だが、あいつは納得せんと思うぞ」

自来也が唸る。頑固だからの、と呟きながら。

「・・・でしょうね。まあ取りあえず、直に会って話をしてみます・・・・ああそれと」

「何だ?」

「我愛羅に、伝えておいて下さい。『約束は必ず果たすから』と。それだけ伝えたら分かる筈ですから」

「ふん、それ以外は聞いてくれるな、と言うことだな? まあ、わかった。それで、だが・・・」

綱手の表情が、真剣なモノに変わる。

「・・・分かってますよ。『あの声』に関してですね?」

対するナルトも同じ。どうやら、自分だけの空耳ではなかったようだ、と表情を真剣なものに変える。

「どうもな、我愛羅に聞いてから、心中に漂う嫌な予感が消えてくれない・・・そういえば、お前の方はどうだったんだ?」

「聞こえましたよ。たった一言。それだけで、キューちゃんが恐慌状態へと陥りました・・・俺も、聞こえました。正直、心の臓を抉られたかと思いましたよ」

「・・・それほどまで、か。それで? お前はあの声の主について、何か心当たりはあるか?」

「いえ。まだ、声の主については分からないです。ただ・・・」

「ただ?」

「どういう意図であれを発したのか、と考えましてね・・・あれ、あの言葉なんだと思います? どういう意味で繰られた言葉だと思いますか」

「・・・『殺す』か。端に脅しという訳ではなさそうだが」

「脅しではないでしょうね。他意は含まれていませんでした」

そこで、一端おき、ナルトは断言した。

「そう、本当に他意は無いでしょう。ただ、殺す。その事しか考えていないような声でした。正直、初めて聞きましたよ。含むものの無い、純粋な殺意のみで構成されている声ってやつを」

思い出しただけでも震えが来る。ナルトはそう言って、小さな声で続きを話す。


「殺す、か・・・ねえ、どういう時に『殺す』という言葉を使うと思います?」



「・・・そうだな。脅しか、苛立った時とか、敵意を示す時とか・・・・後はそう」



「宣戦布告、ですか」



「・・・ああ」


告げる言葉。お前を殺すと、亡くすと、消すと。存在の否定を示す言葉。

「それか、あるいは・・・いえ、何でもないです。今のは忘れて下さい。」

言葉を発するも、即座に否定するナルト。

「しかし、だ。その場合、宣戦布告をするにも・・・誰に向けての言葉だ? 尾獣にか? もしくは人柱力に対してか?」

明確に聞こえたであろう者、もしくは存在は、今のところその2種のいずれかとなる。

「情報が少なすぎるな。それだけでは何とも言えんだろうから・・・ワシも、ガマ仙人の方を当たってみる。お主も、それ以外の情報が掴めたら、即座に連絡をくれ」

何か嫌な予感がするからの、と自来也が肩をすくめる。

「・・・了解っす。じゃあ俺はキリハを待って「ちょっと待て」」

との言葉は途中で遮られた。

「それと、だな」

「何ですか? 綱手姫」

「気持ち悪い言い方をするな。5代目火影と呼べ」

「了解、5代目火影。それで、何かあるんですか?」


「ああ、キリハの事を含め、少し頼みたい事があるのだが・・・」

そして始まる、綱手の説明。それを聞いているナルトの顔が、徐々に不機嫌なものになっていく。


「・・・正直、そういうのは趣味じゃないんですけど・・・まあ仕方ないですか。でもこれっきりですからね。ああ、それとサスケの方ですが・・・」

と即座に交換条件を出すナルトに、綱手はお人好しめと思いながらもその条件を了承した。


やがて、時間が来る。


「じゃあな、うずまきナルト・・・死ぬなよ」

「ええ、5代目火影姫も、末長く健やかに」

それを聞いた綱手が、おかしそうに笑う。

「・・・っ、医療忍者に言う言葉か」

「・・・ああ、確かに。そりゃそうですね」



火影の執務室に、2人分の笑い声が響き渡った。



「ワシは無視なのか・・・」


との自来也の呟きは黙殺されたようだった。





[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 三十七話
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2009/08/16 04:05
~キリハside~


「もっと早く・・・!」

陽が落ち真っ暗になった森の中。

足をチャクラで強化し、ただ走る。兄の元へ。

ようやく会えた兄。幼い頃生き別れになった兄。

ついこの間まで、その存在すらも知らなかった兄と再会して、色々と話をして。

見守ってくれていたという事実を知った時は、涙が出る程嬉しかったっけ。


・・・私が生まれた日に死んだという、父さんとも再会できた。

厳密には違うと言ってはいたが、私に向けられるその暖かい感情と柔らかい表情は、きっと生前の父さんそのものだったに違いない。


ずっと続くと思っていた。

九尾の事があるにしろ、木の葉の忍びに戻らないにしろ、ずっと傍に居てくれると思っていた。


「・・・行かないで、欲しいのに」

焼け焦げた手鞠を思いだし呟く。何があったかは聞かされた。

木の葉暗部の襲撃。あの手鞠の惨状を見た時に、察しはついたが実際に聞かされると、もっと堪えた。

その理由も・・・分かってはいる。他ならぬ兄さんから聞かされた事なのだから。



木の葉隠れの里、忍びにとって、九尾とその人柱力と認識されている兄さんは、憎悪の対象になっていると。

『うちはマダラの意志とはいえ、九尾が里を襲ったのは事実だから』

キューちゃんは悪くないけど、憎まれるのを止める事はできない。兄さんは悲しく笑ってそう言った。

『どう思う? 例えば、さ。九尾を目前に出して、これこれこういう理由があったから、九尾は悪くないんです・・・とか聞かされて。それで、家族を失った人が納得すると思う?』

無理だ、と首を横に振った。勿論、うちはマダラにも憎しみの感情は向く。だがそれでも九尾への憎しみは消えてくれないだろうと言った。

『もう、里の者にとって、『九尾』とはそういう存在なんだ。何よりも憎むべき対象であること。それが共通認識・・・常識になっている。12年が経過した今、言葉だけでその認識が覆るなんて、さ』

有り得ないと。

『考えてみりゃあ、暴力さ。事情を話して納得しろっていうのは。それまで憎み続けた十何年かは嘘で、こっちが本当なんだと。突きつけるのは』

ため息を吐きながら。

『いい人達なんだよ、本当に、本当に・・・本当に、そうなんだけどなあ・・・ままならないよ。生きるってのは』

どうしようもないってところが、特に悲しいね。

そういいながら、兄さんは笑みを浮かべた。何かを隠すかのように。




「兄さん・・・」

暗部に襲撃を受けた兄が、どういう選択をしたのか。さっき、兄は新天地へ~と行っていた。つまり、それは。


・・・察しはついている。

木の葉に戻れない事情、それを聞いたときから薄々と感じてはいた。予感はあった。

考えないようにしていた可能性。現実に起こってしまった事。


『里の人達に憎まれている兄が、それ故に木の葉隠れから出て行く』

考えないようにしていた。十分に起こりえる事だったのに。

そう聞かされていたのに、考えて




---現実はどうあっても現実で。夢は何処までも夢だ。



そう、誰かに笑われた気がした。


突きつけられ、目が覚めた今でも。


それでも、例え、そうだとしても。


「・・・一緒に、いてほしい」


無理だと思ってはいても、そう願わずにはいられない。














「・・・悪いけど、先に行っててくれ。影分身に案内させるから」

綱手との約束を了承した後、俺は他の皆に説明をした。

俺を追ってキリハが来ると。終末の谷といえば国境付近。そのまま帰ってこないと思っているのだろう。

それを止めに来るだろうキリハと、対峙しなければならない。キリハとしては、ようやく会えた兄である俺に行って欲しくないのだろう。

でも、それはできないから。

「・・・マダオとキューちゃんはこっち。再不斬、一応影分身は付けるけど・・・万が一敵に遭遇した場合はよろしくな」

「ああ」

「・・・キリハさんが来るんですね」

「ああ・・・でも、どう話したらいいやら」

頭を抱えて唸る俺に、サスケが訪ねてくる。

「キリハに全てを話さないのか?」

「・・・話さないっていうか、話せないよ。全部包み隠さず言った場合・・・その後、キリハがどういう動きをするのか。それを考えると、ね」

それに、“根”の事とか、うちは関連に対する木の葉上層部の暗部とか。

知るにはまだ早すぎると思う。

今頃、自来也が綱手に説明しているだろう内容を、そのままキリハに聞かせる訳にはいかない。

まだ一介の下忍でしかないキリハが知るべき内容ではない。四代目の娘だとしてもだ。

火影を目指す者として、いずれは知るべき内容なのかもしれないが、それは今ではない。

「・・・でも、話して欲しいと思っている筈だ」

イタチの事を思い出したのだろう。サスケが、真剣な顔で詰め寄ってくる。

俺はため息を返しながら、一つ呟く。

「・・・裏を知るには、まだ早い。今、“根”に食ってかかられるのも不味いしな」

戦争の傷跡が癒えていないのだ。忍びの総数は減ったままなので、今“根”と対立するのは上手くない。

内乱になるともっと不味いし。それを他国に知られたら、更に面白くない事態になるだろう。

大蛇○の襲撃後、また内部抗争でごたついているとか知られたら、木の葉の威信は地に落ちる。

戦力ダウンしている木の葉の体勢を綱手が整えるまで、ダンゾウに関する問題・・・内に抱える火種は、種のままにしておきたいのだ。

ダンゾウが暗躍を続けるのであれば、それなりの対応を取る。だが、時機が悪い。

然るべき時に処置するのが最善だ。そのための逃亡でもあるのだから。

「・・・まあ、それでも。できるだけ悲しませないようにはするよ」

「ああ」

渋々、といった表情でサスケが了承する。



「それじゃあ、行くか」

俺は1人、今から終末の谷へ向かう、

さっき綱手と自来也に教えた場所は大嘘だ。

今現在、俺達がいる場所は火の国の南西部。そして、音隠れの国境付近に存在する“終末の谷”がある場所は火の国の北側だ。

ようするに、追ってを北側に意識させる為のブラフなのだ。ちなみに脱出路が延びている方向は北側である。

「よっと」

キューちゃんとマダオを戻し、少し準備運動をした後、気配を消す。

その気配を消す時の俺の様子を見ていたサスケの顔に、驚きの表情が浮かぶ。

「・・・凄いな。全然気配を感じない。“根”の気配を簡単に察知したこともそうだ。一体、どんな修練を積んだんだ?」

「それも、新しい隠れ家についてからね・・・まあ、気配察知と気配遮断は隠密行動する際の必須スキルだから」

幼少時から数えて7年。それはもう、念入りに鍛えました。基本、遭遇戦=死亡フラグだったので。

「1人だったし、余計に鍛えたよ。頼れる誰かもいないしね・・・そんで、その鍛えた結果が、ほら。波の国のあれだよ」

再不斬の方を見る。

無音暗殺術の達人は舌打ちしたあと、全く持って情けないが、と前置いて話し出した。

「不覚にも程があるが・・・俺も、後ろを取られた事がある」

不意打ちだったしね。

「波の国って事は・・・俺とキリハを気絶させたのもお前か!?」

「ご明察・・・っと、時間が無いな」

木に登り、当たりを探る。この当たりの地形は把握している。見つからないよう、ぐるりと回り込んで終末の谷へと向かうか。



「じゃあ、行ってくるわ」

「行ってらっしゃい」

白の言葉を背中に、俺は夕焼けに染まる森の中駆け出した。








夕陽が落ちて当たりが薄暗くなってきた頃。

1人の忍びが、かなりの速度で夜の森の中を駆け抜けていた。

『・・・日が落ちたね』

「ああ・・・今日は満月なんだな」

走りながら、空を見上げる。

『でも、よく引き受けたね』

「頼まれると嫌とはいえないタチなんで。あと、俺にとっても悪い話じゃないし」

逃げた方向を勘違いさせるのにも役立つしな。ちょっと面倒臭いけど、手間をかける事で安全が買えるのなら、そっちを選ぶ。

「・・・もうすぐ・・・ついたな」

『キリハの方はまだ来ていないようじゃの』

気配を探ってみるが、キリハの気配は感じられない。というか、誰の気配も感じ取れない。

「・・・少し待つか」


チャクラを足に纏わせ、水面の上を歩く。


足下の水面には、満ちた月が映っている。






それを見ながら、頭の中で状況を整理する。



キリハの方は、こう思っている筈だ。

『木の葉暗部(根)に襲撃されたであろう兄が、この里を去るという選択肢を選んだ』と


だが、実際は違う。俺の方はこう思っているのだ。

『自分の居場所が知れた場合、木の葉内部で混乱が起こる可能性がある。“根”が現存し、時機も悪い今、自分が里にいても厄介な事態しか引き起こさない

サスケの事もあるので、この里を出て行った方が良い』と。



だが、その事は言えない。言うことができない。



どうしようかと悩んでいるが、答えはでない。互いの認識がずれている今、色々と話してもそれは無駄にしかならない。

説明できないのだから。



「ままならないよなあ」

『そうだね・・・』





「来たか・・・」


月明かりの下。



「・・・来たよ」





キリハが水面歩行を使い、俺の元へと近づいていく。



満月の夜の下。



2人は静かに対峙する。



「サスケ君を連れて、この国を・・・出て行くつもりなの?」

「・・・ああ」

「どうして?」

「サスケがそれを望んだからだ。それに、サスケを木の葉に残したままだと、色々と厄介な事になるんでな」

詳しいことは説明できないが、と首を振る。

「そのことを、あの2人は了承しているの?」

「・・・ああ。事後承諾になったけど、先ほど了承させた」

「・・・そう。それなら、私が話しを挟む余地はないね。残念だけど・・・・でも、兄さんが出て行く理由は・・・やっぱり、今日の事?」

「それもある。それだけじゃないが、今は言えない」

「・・・どうしても、出て行くの?」


ああ、と頷きため息を吐く。

そして真剣な表情を浮かべ、告げる。


「ああ、どうしても、だ。俺が木の葉に残る事で、厄介な事態に陥る可能性がある」

火種は撒かれている。爆発すれば、大勢の人にとって望ましくない事態となる。

その爆発が、他国へと飛び火する可能性・・・・無いとは言い切れないのだから。


「だから出て行く。そう出て行った方がいいんだ、きっと。誰にとっても、俺のいない方が「でも!!」」




俺の言葉を途中で遮り、駆け寄ってくる。

服にしがみついてくるキリハに手を伸ばそうとするが、止めた。


しがみついて離れない少女。そのの柔らかい髪が、風に靡く。


「私は兄さんに傍にいてほしい」

あまりにも真っ直ぐな。含むものもなにもない、ただ純粋な想いが篭められた言葉。

だが、ここで俺は頷く訳にはいかないのだ。



キリハの頭を撫でながら、優しく告げる。


「大丈夫だ、キリハ。これっきりって訳じゃないから・・・いつか必ず、戻ってくるから」



「・・・いつか何て日は、いつなの? それに、兄さんは暁に狙われているんでしょ?」


1人じゃあ、危ないよとぐずるキリハ。

何とか説得しようと、言葉をかける。



「ああ。でも俺は強いから、大丈夫だ。それに俺は1人じゃないから。だからいつか・・・必ず戻ってくるから。戻ってきたら、一番先に・・・お前に、会いに行くから」


説得しようと、連ねた言葉。それを聞いたキリハが、何故だか硬直した。

『・・・君、今自分が口に出している言葉の意味・・・ちゃんと分かってる?』

(・・・え? 俺何か不味いこと言ったか)

『『・・・・はあ』』

呆れたかのように、ため息を吐く2人。


(ん?)


キリハの方はというと、顔を少し赤くしてこちらを見つめていた。


「・・・絶対に戻ってくるって・・・約束してくれる?」



「ああ」



「・・・だったら」



とキリハは少し離れ、構えを取る。



「証明してみせて。生きて必ず帰ってくるその日まで、絶対に死なないって事を・・・誰にも負けないって事を、私と戦って証明してみせて」


「いや、だけどな」

妹との真剣な殴り合いはちょっと。正直、勘弁して欲しいのだが。

だが、キリハはそう言っても退いてはくれなさそうだ。

「・・・絶対に戻ってくるんでしょ? なら、私ぐらい簡単に倒してみせてよ。安心させて欲しいから・・・それに」

「それに?」

悲しそうに笑うキリハ。

俺は言葉の続きを訪ねる。

「・・・この模擬戦で、兄さんの強さを目に焼き付けるから・・・その背中に追いつけるよう、兄さんが戻るまで私も頑張るから・・・だから!」


叫びと共に、キリハの表情が真剣なものとなる。同時、そのチャクラが膨れあがった。


「・・・分かった」



水面の上、対峙する2人。

月が雲に隠れ、辺りがより一層薄暗くなる。


「「・・・」」



そして月が再び雲から出た瞬間。



「「・・・・!」」


2人が同時に走り出す。


「はあああああぁぁ!」

交差する手前、キリハが更に加速。拳をナルトの顔面に向け突き出す。

ナルトはそれを目で捉え、いつもの通り左手で捌く。身体の外側に弾かれるキリハの拳。

「・・・・はっ!」

だがキリハはその流れに逆らわず、体を弾かれた方向へと傾ける。向かって左、捌いた手の側へと倒れていくキリハ。

自分の左手が邪魔になり、ナルトは捌きの後の返しである、右の掌打を打つ事ができなくなる。

逆にキリハの方は、身体が傾いていくという動作を利用し、ナルトの右顔面に左足で蹴りを放つ。

「!」

だがそれは掌打を打とうとしていた、ナルトの右手で防御された。

「しっ!」

直後、キリハが身体を縮め、今度は左足の前蹴りを放つ。

ナルト、今度は左腕で防御する。キリハはその蹴りの衝撃の勢いを殺さず、後方へ跳躍。

再び水面へと降り立つ。


元の距離に戻る2人。互いの顔を見て笑い、そして互いにまた走り出す。


一合、二合、三合。

月光に照らされる水面の上で、幾十もの攻防が繰り返される。


片方が攻め、片方が凌ぐ。

攻め手の動きがどんどんと鋭さを増していく中、それでも守り手は凌ぎきる。




秒を重ね、分に届き、やがてそれが10を数えた時。




「はあっ、はあっ」

息切れしたキリハが距離をあけ、両手を自分の脇元へと引き寄せる。


それを見たナルトも、ゆっくりと掌を脇元へ引き寄せる。

発動は同時だった。

「「螺旋丸!」」

同時に走り出し、やがて距離はつまり、その距離がゼロとなった。

面前で急停止し、双方の螺旋が突き出される。



眼前で、螺旋のチャクラが衝突する。


「「ああああああああぁぁ!」」


互いに打ち消しあうチャクラの塊、それが完全に相殺された。直後、ナルトが一歩踏み出す。余力を残しての一撃だったので、体勢は小揺るぎもしない。

キリハの方は、全身全霊を篭めた螺旋丸の一撃、そしてその衝突による衝撃にチャクラコントロールを乱され、体勢を崩す。

「・・・しまっ?!」

そして突き出されるナルトの掌打。それをキリハは回避するも、完全に体勢を崩され、死に体の姿勢になる。

ナルトは避けられた掌打を手元に引き戻す動作を利用し、キリハの襟元を掴み、引き寄せる。自然、抱きしめるような体勢となった。

「・・・終わりだな」

「・・・そう、みたいだね」

一瞬の硬直。キリハは全身を弛緩させ、ナルトの元へと体重を預ける。



「・・・待ってるから。絶対に、帰ってきてね」

「ああ、承知した」


次の瞬間、ナルトの手刀がキリハの首筋を捉えた。


「・・・っ」

キリハは気絶し、ナルトの方へと倒れてくる。その顔には、涙が浮かんでいた。

キリハの身体を黙って受け止め、そのまま横抱きにするナルト。


「・・・ゴメン、な」

聞こえていないだろうが、呟かざるを得なかった。

やがて、地面に降ろそうと川の上から川岸へと移動する。



そこで、気配を察知した。


キリハが来た方向、木の葉隠れの方向からこちらに接近する気配を察知。






すぐさま変化し、面を装着した。

変化した後、髪は赤・・・春原ネギの姿だ。

面は、暗部の面。木の葉ではまず見られない狐の型。



ようやく、だ。

「来たか」


「・・・キリハ、無事か!」

「キリハ!」

「波風さん!」


気配の主。それは木の葉の下忍達だった。

シカマル、いの、チョウジ。ヒナタにキバにシノ。

サクラにネジにテンテン。

キリハを含めれば、総勢10人。





「・・・てめえ!」

シカマルが俺に横抱きにされているキリハの姿を見て、怒声を叩きつけてくる。

(・・・まあ、いいタイミングなのか)

内心で呟く。





下忍達がここに来たのは、理由があった。それは、五代目火影から与えられた任務を果たすためだった。

五代目火影から託された任務


それは、『うちはサスケ奪還任務』である。



「返すぞ」

キリハをシカマルの方向へと投げる。


「・・・っ!」

シカマルがキリハの身体を慌てて受け止め、まだ息をしているのを確認した後、静かにその身体を地面に横たえる。

その身体の各部には、青痣が浮かんでいた。

「・・・やってくれたな・・・」

下忍達の怒りがヒートアップする。やがてサクラが、「キリハ、後は任せて」と言った後、歯を食いしばり一歩前に出る。


「・・・あなたね! サスケ君を攫っていった犯人は! サスケ君を返して!」


サクラが俺を指さし、その怒りの声を俺に叩きつけてくる。





---そう、俺はサスケ拉致の犯人。そういう事になっているのだ。

・・・まあ有る意味で事実なのだがそれはおいといて。

下忍達がここにいる理由、そして今この場で俺が彼らと対峙する理由は、双方共に同じ理由だった。


理由・・・それは、綱手の依頼を果たすためであった。


五代目から俺に向けての依頼の内容は、こうだ。


『奈良シカマル以下9人の下忍と真剣勝負をして・・・そして完全に打ち負かしてくれ』


確かに、才能には溢れている者達。砂との戦争もあったので、実戦に対する緊張感も満たされてきている。

だが、まだ緊張感というか、下忍になったという事実に対する逼迫感が少し足りない。

そう感じた五代目が、その緩さをある程度ひきしめるため起案した有る意味での“模擬戦”なのである。

(まあ、本人達はそれを知らされてないけど)

俺を本当の敵だと思っているのだ。そういう意味では、実戦と変わりない。

しかし、荒療治にも程があると思う。

実戦で敗北し、自分の力の無さを自覚すれば、そして生死を賭けた勝負である実戦での本当の恐怖を知れば、気が引き締まる。

慎重な思考ができるようになるし、修行にも身が入る。そう考えての事なのだが・・・

(でも趣味が悪いし、人が悪いな・・・まあ、今の木の葉の下忍達には必要な処置なのかもしらんけど・・・正直、ようやるわ)

そしてそれは、命を賭けた本気の勝負で無くては意味がないとの事だ。

加え、仲間を取り戻せなかったという無力感が、意識向上の効果をより上げてくれる筈だと言っていた。


(・・・まあ、今の状況では俺が適任だよな・・・正直、こういうのは趣味じゃないんだけど)


原作では、シカマルとネジとキバがその事実を思い知ったであろう事件・・・・対“音の4人衆”戦は起きまい。



それを考えればこれから起こる戦闘、無くても良いとは言い切れないが。

ちなみにキリハの方は、その必要無いと言われた。この行動を予想していたのだろうか、それとも大蛇○とカブトというかなり格上の相手と対峙した経験があるせいなのか。

(確かに、自来也より数段頭がキレそうだな・・・)

五代目火影に相応しい、て事か。


(でも、こういう依頼は・・・)

本来ならば受けなかった依頼である。それでも受けたのは、二つの理由があるからだ。

一つ目は、あの声。

既に原作から筋は外れた。その上でのあの声。
すでにあった不安要素に加え、あれである。しかも、完全に常軌を逸している声で、『殺す』なのである。

・・・何が起こるのか分からない今、木の葉側の力を付けるための方策は、出来るだけ講じておいた方が良い。

まあこれはおまけだ。

そして二つ目の理由。

むしろこれが本命だといってもいい。

(・・・『縄樹と同じような死に方だけはさせたくない』ってなあ)

正直反則だろ、と思う。年齢関係なく、女の悲しい顔は反則だと。

悲しそうに言う綱手の依頼・・・断れる筈もなかった。



(・・・受けたからには、役割を果たす)

そう、ここは悪役に徹しなければ依頼を受けた意味がない。


(・・・でも、悪役か。誰かの真似を・・・・そういえば、今晩は満月だったな)


それで悪役というと・・・決めた。


(あれ行くぞ)

『了解。でも力の加減間違っちゃ駄目だよ?』

分かってるよ。ほんとに殺してしまったら、本末転倒だもんな。


(まずは広い場所へと移動しよう)


まず岩場から降り立ち、森の方へと走る。


「・・・っ待て!」

追ってくる下忍一同を確認。


目的の場所へと移動する。






そして、数分後。

あたり一帯、広い平原。

その中心に立つ俺を、下忍達が包囲する。


「・・・もう逃げられんぞ、諦めろ」

ネジが正面に回り、腰を落として構えを取る。そして掌を前に・・・柔拳の構えだ。ヒナタの方も俺の背後で、同じ構えを取っている。

「綱手様の依頼・・・何がなんでも果たさせて貰うわ」

テンテンがやや離れた距離で忍具口寄せの巻物を取りだし、構える。シノも似たような距離を保ち、静かに虫を外に出している。

「めんどくせーけど、サスケは木の葉の忍び・・・俺達の仲間だ。返してもらうぜ? それとよりにもよってな・・・キリハ、を泣かせたんだ・・・ボコボコのズタズタにしなければ気がすまねえ」

シカマルがやや離れた距離から、俺を観察している。動きを見て対策を講じ、そして封殺するつもりだろう。チョウジはシカマルの傍にいる。何か作戦があるのだろうか。

というかモノホンの殺気を放ってきてますがな。愛されてるな、キリハ。

「仲間がいる場所まで、案内してもらうわ! サスケ君は返してもらう!」

側面、いのが叫び、クナイを取り出す。サクラもそれに呼応し、クナイを取り出す。



「・・・いいだろう」


気持ち、殺気を多めに。

チャクラを開放する。


「・・・・・!?」


キバと赤丸が総毛立った。一歩後退する。

俺の力量を嗅ぎ取ったようだ。顔色が急激に悪くなっていく。

「みんな、気をつけろ! こいつ、相当ヤベえぞ・・・!」

「ワンワン!」


同時、やや近くにいた近接戦闘組も、キバの言葉と自分に降りかかってくる威圧感に気圧され一歩、後ろに下がる。



(できるだけ悪役風に、できるだけ悪役風に・・・行くぞ?)


『了解』








風が止んだと同時、俺は一歩踏みだし、地面を打ち鳴らす。


震脚。




マダオが叫ぶ。



『謳え!』





マダオのオーダーに従い、俺は静かに謳い出した。







「私は、ヘルメスの鳥」






チャクラが膨れあがる。






「・・・!?」





趣味じゃないが、仕方ない。

全員、実戦に対する本当の恐怖と、己の無力を知って貰う。


この敗北が、明日への糧となる事を信じて。









「私は、自らの羽根を喰らい」








顔の眼前で、指を十字に合わせる。


いつも使っているあの術だ。




ただ、いつもとは。







「虫達が、怯え・・・!?」

シノの呟きを無視し、俺は最後の言葉を発する。







「飼い、慣らされる」










規模が違うが。










「・・・・何!?」

「分身、いや違う?!」

「これ、多重影分身の術!? でも、何て数よ・・・!」



平原を埋め尽くす程の影分身。

それを見た全員が、驚愕の表情を浮かべる。




「・・・さて」

完全に、形勢は逆転。


数で勝っていた状況から一転、数で劣る事となった下忍集団に、俺は一歩詰め寄り、問う。


「哀れな哀れな雛鳥諸君。小便は済ませたか? 神様にお祈りは? ズタズタのボコボコにやられた後、命乞いをする準備はできたか?」


殺気を含ませ、意識的に低い声を放ち、脅しの言葉を叩きつける。


「・・・っ!!」


しかし下忍達は圧倒されてはいても、その場を逃げ出す者は誰1人としていない。


「は、っははは、そうこなくちゃなあ。Aランク任務だ、あれだけじゃあ無いとは思っていたよ!」


キバが獣人体術特有の構えを取る。だが、その声は震えていた。強がりなのだろう、本心では恐怖を感じている筈だ。


だが、強がりとはいえそれだけの言葉、言えるだけでも大したものだ。


・・・俺達が思っているより、下忍達は強いのかもしれない。だがまだ足りない。

圧倒的に足りていない。そして足りなければどういう事になるのか。


実地で知って貰う。


実戦では敗北=死だ。それが、戦いに生きる者の理。


それを考えれば、これは破格の状況だと言えよう。

片方が本気で、片方は模擬戦という状況、普通ならば有り得ないのだから。




(今宵の戦闘を、貴重な経験とさせるために)



できるだけ悪役を演じきる。



「では教育してやろう。本当の“闘争”というものを」


蹂躙が、始まった。



[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 三十八話
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2010/05/02 01:14




「成る程成る程。なおも正面から挑もうとするとは。仲間を取り戻したいという気持ち、素晴らしいことだな? 何とも心温まる話だ・・・おかしくて涙が止まらない」


笑う。

       ・・・
「その程度で、か細い体躯で挑もうとするとはな。は、成る程・・・命に代えてもという訳だな?」



笑い、腕を上げる。



「ならば死ね。死んで果てろ。望み通りだ。文句はあるまい? ・・・風の前の塵芥に過ぎないお前達よ」




そして腕が降ろされた。宣戦を告げる言葉と共に。






「灰は灰らしく。塵は塵らしく・・・不様に吹かれて散り消えろ!」





一斉に動き出す影分身。





「くっ!」


一瞬の状況変化に、シカマルが部隊の全員に指示を出そうとするが、間に合わない。


(まずは、散らばらせる。一対一の形に持ち込む)

放射状に展開。連携を封じ込めながら、平原の外にある森の中へと追い込んでいく。






~side日向ネジ~


「くそっ!」

森の中、対峙する相手を睨み毒付く。


先程から繰り出されるのは、クナイか手裏剣という遠距離からの攻撃のみ。

鋭く、急所ばかりを狙ってくるので、気が抜けない。


「ちっ!」

それに、クナイ自体の飛来速度が速い。

基本能力が違いすぎるのだろう。


戦い初めて数分後には、悟っていた。

絶妙な遠距離攻撃に、近接する糸口が掴めない。柔拳を振るうこともできない。

完全にこちらの得意な戦闘方法を封殺されている。

「・・・」

内心で舌打ちする。父上に逆らった結果がこれか、と。

確かに、日向にはその性質上、遠距離戦に対応する戦術がいくらか練られてきたと聞く。

だが、少し前から最近までの俺は父上の教えに逆らうことばかりで、回天や点穴の修行ばかりを重点的に行ってきた。

父上と和解した後、その戦術の話を聞きはしたが、まだまだ修行は足りていなかった。

(その結果がこれか)

近づけないのでは、点穴も柔拳もくそもない・・・・!?


その直後、クナイと手裏剣が四方八方から飛来した。

「回天!」

回避できないと瞬時に判断し、回天を使う。飛来したものを弾けはした。




・・・だが。



「悲鳴を上げろ」



直後、正面に見えたのは狐の面。

回天の終わりを、待ちかまえていたのだ。



一歩、懐に踏み込んで来る。

次の回天、いや間に合わない。




「・・・豚のような!!」



屈辱の言葉が浴びせられる。


だが、その言葉に怒る暇もない。


「ガアッ!?」



・・・まるで、内臓が破裂したかのよう。


激烈な威力の掌打が俺の腹部に叩き込まれたのだ。



「・・・グッ・・・・が、あ」


俺はそのまま前のめりに倒れ込み、意識を失った。





~~~





(・・・終わったな)

連携を封じ込められた下忍達は、次々と影分身達に打ち倒されていった。

忍術は使わない、遠距離が得意な下忍達には体術、体術が得意な下忍達に対しては、クナイ・手裏剣の投擲による遠距離を保った戦闘

長所に応じて戦闘方法を変え、打ち倒していく。


(成る程? 各員、長所は確かにあるけど・・・)

秘術に血継限界。それは確かに使えるものだろう。

適した状況で使いこなせれば、この上ない武器となるだろう。

それでも、だ。


・・・・・・・・・・・ 
出す前に打ち倒されれば、意味がない。


長所を発揮する状況があるとして、だ。

それは何時訪れるのか。相手が同じく勝利を目的として戦闘に挑んでいる以上、自分に都合の良い状況など、待っているだけでは訪れないだろう。

自分で、そういう状況を作り出すしかないのだ。



当然、それまでに倒されれば意味が無い。

例えば日向ネジ、ヒナタ。

白眼は近づかなければ、その特性を発揮しずらい。

それに、防御も同じ事が言える。回天による防御は成る程素晴らしいものだが、駒のようにグルグルと回り続けられるものでもない。

直上もしくは直下からの攻撃に対しては、防御力も落ちるだろう。

ならば、遠距離で戦えばいい。そして隙を見て、回天の直後に近接して一撃を与えるか、奇襲による直上からの攻撃を加えるか。

相手の都合に合わせる必要など無いのだ。


戦闘は、戦術次第。


どんな忍者だって、長所があれば短所もある。

近接戦闘が得意ということは、遠距離戦闘に弱いということ。その逆もまた然り。

じゃあ長所が無ければいいのかと言えば、そんな事はない。

長所が無いということは、場合によっては短所にも成りうるからだ。場合によっては、一部に特化した能力が必要になる事もある。

器用貧乏という言葉もある。それも、上手くないことだ。

まあどれもこれも得意で隙の無い、真に万能な忍者というのが理想だが、理想は理想。

そんな忍者などまず存在しない。



秘術も然り。影真似、心転身、倍化の術、成る程、場合によっては決定打と成りうる秘術だが、もちろん付けいる隙がある。

忍具口寄せによる兵器術も同じだ。ようは、出させなければいい。口寄せをする前に近接されれば、そしてその後近距離で張り付かれれば出す暇もあるまい。



・・・まあ、上忍レベルが使う術は違うのだが。

それぞれが工夫されているので、付けいる隙がほぼ無くなっているのだ。

その分チャクラを喰ってしまうので、そうそう乱発できないというのが短所と言えば短所となるが。



戦術云々に関して。

まあ、某アゴヒゲメガネの鬼指揮官が言っていた、戦術の基本の通りだと言えよう。

“こちらのしたいことをして、逆に相手にはさせない”

得意な状況、適した状況、それに持ち込むには、どうしたらよいか。どういう方策をとれば良いか。何が必要となるのか。


戦術を組むに辺り、基本として“何”を知っておかなければならないのか。


忍術を扱う者、忍者として最も大切なのは、一つ。


“自分の足りない点を自覚する”ことである。


欠点を自覚すれば、どういう状況に持ち込ませなければいいか、逆にそういう状況に陥った時、どういう対処方法をすれば良いのか。

長所がない場合は、短所を持つ人間のフォローをする。器用貧乏は器用貧乏なりに、役立てる所があるのだ。短所がないという長所があるのだから。

場合によっては弱点を囮に、相手を嵌める事もできる。

連携の大事さも再確認することだろうし。


(無力感を味合わせる事もできたな)

何もできずに倒された、という結果。その後、どう立ち上がってくれるのかは木の葉隠れの指導者次第だろう。

俺はきっかけを与えるだけだし。


後は・・・まあ基本だが、基礎能力。動体視力、投擲能力他、チャクラコントロールの修行の大事さも認識する事だろう。

忍者に取って必要不可欠な能力を鍛える事だ。基礎がきちんとしていれば、それぞれの特性も発揮しやすくなる。

基礎は全てに通じるしな。

(どうも、最近の下忍はそこらへんを蔑ろにする傾向があるらしいからな。聞いた話だけど)


俺の場合、修行を始めて最初の半年は徹底的に基礎を叩き込まれた。

思い出しただけでも吐き気がする。マダオ死ねと何回呟いた事か。

『酷っ』

・・・まあ、御陰で今の俺があるわけなのだが。気配遮断に気配察知、チャクラコントロールに基礎体術。

全てがかなりのレベルに達しているので、戦術の幅も広がった。

影分身を併用すれば、大抵の事はできるようになった。逆に、基礎能力が疎かになっていれば、何をするにも中途半端になってしまっただろう。

今でも、基礎に関する修行は怠っていない。ラーメンを作っている時でもそうだ。合間を見て鍛えてはいた。



(まあ、そこらへんの事・・・まとめるのは、5代目に任せるか)

そこからは知らん。頼まれた分は果たすけど、そこからは5代目の仕事だろうし。




『得意な分野だけの知識では、生きていくのは難しい・・・人生と一緒だね! 好きな事だけ選んで、それを行って・・・それだけを考えて生きていければいいんだけどねえ』

(そうだなあ・・・まあ、そんな事は不可能だけどな)

苦笑する。そこら辺は前世と同じだ。全くもって世知辛いぜちくしょう。


(・・・っと。終わったな)


1人を除く、8人の気絶を確認。


(残る1人は無事・・・影分身4体を退けたか・・・・うん、残ったのは、やっぱり)



「・・・・」

残った下忍の中の1人・・・満身創痍だが、しっかりとした足取りでこちらに向かってくる。


「よく、あれだけの影分身を消し去る事ができたな。恐れ入ったよ・・・・奈良シカマル」


そう、1体4にも関わらず、すべての影分身を消し去ってみせたのだ。シカマルは。

まさか影縫いを使っての死角から攻撃を仕掛けてくるとは思わなんだ。月光を使っての影からの攻撃は、致命には至らずとも影分身を消すには十分だった。

影分身の、少しでも攻撃を受けたら消え去るという弱点を突いた、見事な戦術と言える。


「あんたもな。よく、やるよ・・・“うずまきナルト”さんよ」


その言葉に、一瞬虚を突かれる。

「へ、気づいたんだ・・・というか、知ってるんだ」

「木の葉流の多重影分身を使った時に気づいた。あれだけのチャクラ、普通有り得ないだろ・・・キリハを殺さずにこちらに渡したのも、な。

まあ気づく要因は色々とあったから別に驚くことじゃねーだろ」

名前だけはキリハに聞いていたしなと言うシカマル。

大したものだと言うと、嫌な顔をして訪ねてくる。

「この“模擬戦”、五代目も承知の上なんだろ? ・・・めんどくせーことこの上ないし、趣味が悪すぎるぜ? ・・・あんたら」

「俺も、趣味じゃないけどな。頼まれて了承したからには手を抜くわけにもいかん。この戦闘、色々と意味があるのも分かるだろう」

「・・・ああ。でもこういうのは、相手方、つまり俺に悟られたら意味が無いんじゃないのか?」

「これがネジあたりなら話は違ったがな。お前なら別にいい。今更だしな。でも、指揮官として・・・学んだ事はあるよな?」

「・・・ああ。色々と、な」

シカマルは顰めっ面をしながら答えた。

俺が敵ならば、本来の殺し合いであれば、部隊は全滅だ。

学ぶ事なんて探そうとすれば腐る程あるはず。一々口に出したりはしないけど。

「それに、キリハも死んでいた・・・っとそう睨むな」

「うるせーよ・・・で、サスケの事に関しても、五代目は承知しているんだな?」

「ああ、それはな・・・」

と話し出す俺。内容を聞く内に、シカマルの顔がみるみる青くなっていく。

「ちょっと、ちょっと待ってくれ。色々と聞きたい事があるんだけど、まず、これだけは聞かせてくれ」

青白い顔色になったシカマルが、訪ねてくる。

この情報の秘匿度は? と。俺は笑顔で告げてやった。

「特A級。五代目と自来也、里の上層部と“根”のダンゾウしか知らない」

「それを、俺に、聞かせたってことは・・・」

「ああ、俺達の事、知っているのが1人いた方が色々と動きやすいと思って。シカマルならば情報を洩らすようなヘマはしないだろうし」

「・・・聞くんじゃなかった。ああ、ちくしょう、聞くんじゃなかった・・・」

眉間を抑えて落ち込むシカマル。

「まあ、勘弁してくれ。もう中忍なんだし、な?」

「・・・あと、一つだけ聞きたい。小さい頃俺達を助けてくれたの、アンタ・・・ナルトだったんだよな?」

「うんその通り。とはいっても、修行中偶然見つけた程度のあれだし、特別感謝されてもね。そのために助けたんじゃないし」

「・・・はあ。でも、何で助けてくれたんだ? ・・・木の葉隠れの里の忍びに対する恨みとかは、無かったのか?」

言いにくそうに視線を落とし、シカマルが訪ねてくる。

うーん、木の葉に対する恨み辛みねえ。

「うーん、有るといえば有るかもしれないし、無いといえば嘘になるかもしれない。今の状況が状況だし。いまいち自分でも複雑で分かっていないんだけど」

成り行きとはいえ、その場に出くわしてしまって。そこで、年端のいかない子供が死んでいくのを見過ごす程憎んでいるわけじゃない。

「九尾とかはほっといて・・・見てしまったし、そこで見捨てたら後味も悪いし、助けたいから助けた・・・うん、そんな感じ?」

皮肉なもんだけど、力もあったし。そう言うと、シカマルは目を丸くした後、笑った。

「・・・・はっ、案外お人好しなんだな、アンタ」

「はっ、シカマルには負ける・・・えっと、それじゃあ、な。キリハとか他の下忍に対するフォロー、頼んだ」

「・・・案外人使い荒いんだな、アンタ。でも任されたよ・・・借りは必ず返す主義だしな。めんどくせーけど。それにキリハの事に関しては、アンタに頼まれなくても・・・いや、何でもない忘れてくれ」

急におし黙り、そっぽを向くシカマル。

俺は苦笑しながらあるものを懐から取り出す。

「それでこそ、だ。じゃあこれを渡しておくから」

一切れの紙を渡す。飛雷神の術の転移先を示す術式が刻まれた紙だ。

「・・・これは?」

「内緒。でも、肌身離さず持っていてくれ。万が一の時、役に立つから」


そこで俺はきびすを返す。向かうべき方向(偽装の北側の方向だが)を向き、背中越しに別れの言葉を継げる。


「じゃあなー、未来の弟君ー」


「ちょっ!?」

『おま!?』

シカマルの慌てた声を無視し、俺は構わず走り去っていった。


『無自覚ってねえ・・・もう何ていったらいいか・・・うーん、どうしてくれよう・・・でもねえ』

『間違いなく無駄骨じゃと思うぞ。自重すればコヤツでは無いような気がするしの』

(ん、2人ともなんか言ったか? うんうん唸ってるし、何事?)

『・・・・いや、もういいよ・・・なんか疲れたし』

『疲れたの・・・』

(へえ、珍しいな。誰のせい?)

『いや、君のせいなんだけどね・・・』

『そうじゃな・・・』

珍しく意見の合う2人。


(何だよ、聞かせろよ)


『だからいいって。多分言っても無駄だし・・・それより、そろそろ方向転換したら?』

「そうだな」

森の中、針路を偽装の北側から、隠れ家のある南西側へと変更する。

目指すは皆が待つ隠れ家だ。

『・・・でも、変わったね。君も』

(うん、急になんだ?)

『いや、昔・・・木の葉に来る前の事を思い出していてね。結構、何もかも割り切って行動していたし、誰かとずっと行動を共にするとか考えもしなかったでしょ?』

『・・・そういえば、そうじゃな』

(え、そうかあ? ・・・いや、そうなのかもな。あんまり・・・特別変わったって自覚は無いけど)

『明確に変わったのは、あの時からかな? テウチさんを師事した時もそうだけど・・・ももっちと白ちゃん連れてきて、僕たちを口寄せした辺りから』

(まあ、そうかもなあ)

『他人に触れた時から? 僕たちの事もそうだけど、心の中と外とでは・・・また違った?』

(それは確かに有るな)

外部で触れあう事で、何かが変わった気がする。明確に存在を認識できるというか・・・うん、何か温もりを感じるし。

『それに、木の葉隠れの里を意識して考えるようになったけど・・・それも?』

(ああ、それに関してはちょっと違うかも。多分だけど、お前の思念というか魂的な何かが少し混じってるからそのせいじゃないか? お前も、実際に木の葉隠れの里とその人達をその目で見たろ?)

『・・・そうだね・・・うん、そうかもね・・・・でも、君はそれで良いの?』

何を心配しているのかは分かる。でも、それはある程度は予想していた事だし。根本から変わった訳じゃないし。

(それにまあ、今のところはな。力にはリスクが付きものだし、精神の浸食という観点で見れば、他の人柱力と大差ない・・・でも、悪くない浸食なのかもしれないし)

特に、キリハに対しては前より明確に妹としての意識を持つようになった。

さっき言った、マダオとキューちゃんの口寄せが成功してからは特に、かな。

明確な意識を持つようになってから、その存在を認識してから、浸食が進んだと思うが・・・

『前より積極的に戦う事を選ぶようになったのもか?』

(そうだね、キューちゃん。キューちゃんに関しても同じ事が言えるのかもしれない)

木の葉に来てからは特に・・・チャクラ消費量が段違いだしなあ。

(まあ、いいよ。“我思う故に我あり”だ。陳腐だが、それしか言えない。実際、俺自身が変わっていったのかもしれんしな)

人と接するということはそういう事なのかもしれない。変わっていくのも、当たり前なのかもしれない。

自分で違和感を感じないのは、そういう想いを元々持っていたのかもしれないし。

この肉体に刻まれた意志なのかもしれないし。そこまで細かい事は分からんけど。


(はっきりとは分からないけど・・・まあ、俺の夢は無くなっていないし、胸に確かに残ってる。何より優先すべき事としてね。

それに助けたい人を助けるというか、したいことをするという意識も別段特別変わったという訳でもないし)


割り切って夢を叶えるという目的に全部つぎ込んで。

それに徹しきれば、木の葉側に追われるとかのリスクも無く、今のような事態にはなっていなかったのかもしれないけど。


(しょうがないじゃん。色々な意味で・・・出逢っちゃったんだから)

出逢うたびに選び続けた。そのどれもを、今は後悔していない。


『まあ、そこで見捨てるっていうのも、君に関しては・・・うん、無いねえ。そういえば昔、言ってたね“人は損得と理屈だけで動くわけじゃない”って』

『“器用は綺麗だけどつまらない”とも言っていたな』

(ぐおおおおぉぉお! 頼むからむしかえすのは止めて!)

思わず頭を抱えてしまう。

改めて聞かされるとなんかすげえこっぱずかしくなるよこれ!


『はは、他にもたくさんあったねえ』

『そうじゃな、次は・・・』

(もう話さないで! 私の羞恥心ポイントはとっくにゼロよ!)

慣れていない悪役の演技とかしたし!

『HA☆NA☆SE!』

『HA☆NA☆SE!』

でも話せコールを続ける二人。

・・・・キューちゃんまで!

「聞けよこの無視野郎共!」





そんな、いつものやりとり。


心の中だが、相変わらずの笑い声が木霊していた。










・・・そう、騒ぎながらも。


3人共分かっていた。



いずれ、別れの日は来るのだと。選ぶ時はやってくるのだと。



でも、今は笑おうと。それが一番良いということも、分かっていた。



胸中に秘する互いの思い、全てが共通している訳ではないし、互いに把握している訳でもない。



だけど、3人は笑っていた。













そしてこの時、ナルトでメンマな1人の少年な男は、心の中で一つの選択肢を選んでいた。





人と接して、変え変わり。それが世の常、人の常。

平穏と同じく、いつまでも同じとは限らない。

心の中もラーメンの味も。まだまだ完成したという訳じゃない。

まだまだ未熟で、まだまだ過渡期で。分からない事は山ほどある。知らない事も山ほどある。

この選択、正しいのか、間違っているのか。


それは、終わってみないと分からないだろうけど。振り返ってみて、後悔するのかもしれないけど、もっと楽な道があるのかもしれないけど。

それでも、譲れないものがあると知ったから。


数え切れない程の戦場を共にした、親友で戦友で悪友で相方で師匠的兄的存在のマダオ。その本当の願いを知っているから、その願いを否定せずに。

数え切れない程の喜び。そして怒り、哀しみ楽しさを共にした、親友で戦友で悪友で相棒で妹的女友達的存在のキューちゃん。ようやく掴めた自分の意識持つ在り方、その在り様を誰にも汚させないように。

そして2人に誇れる自分で在れるように。



時の流れの中生まれた、血よりも濃い絆。


日々の思い出が胸に残り、自分の今を形取っているから。


思いつく限りでいい、3人にとっての最善を目指そうと思った。




選んだのだ。皆が望む結末を目指して。

この先の荒野を駆け抜けようと。

傷つき、苦しくとも、冗談を飛ばしながら行こうと誓った。




ただ、走り抜ける事を。





















――――はるか未来。



この時、この選択肢を選らんだ事を改めて思い出す事になる。


ここで拒絶すれば。

自らの変化を恐れ、かごに籠もり、隠暁の影に怯えながらも、平穏を望み隠れ暮らすような日々を望み選んでいれば。

あるいは違った結末になったのかもしれないと。







でも、こうも思うのだ。

どちらが良くて、どちらが悪かったのかは分からないが、こう思うのだ。







――――この選択を選んだ時から。



あの激動かつ極彩色な日々の全てが、本格的に始まっていったのだと。













[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 閑話の1:その後、それぞれの一日
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2009/08/17 01:51
閑話の1:その後、それぞれの一日
   
  ~A day in the Life~




●音隠れの里



玉座に座る大蛇丸。その全身は包帯で覆われていた。

カブトからの報告を聞いた大蛇丸が、眉をしかめる。

「・・・うちはサスケが、何者かに攫われたのね?」

「はい」

「そう・・・まあ、写輪眼は残念だったけど、今はこの君麻呂の血継限界があるしね。とりあえずだけど、今回はこれで良しとしておきましょうか・・・でも、諦めたわけじゃないわ。

うちはサスケその後の消息は聞いているの?」

「スパイからの報告では、木の葉の北側、終末の谷近辺で消息を絶ったと」

「・・・近いわね。無駄かもしれないけど、探索は続けなさい」

「了解しました・・・で、大蛇丸様、君麻呂の身体にはもう馴染まれたのですか?」

不屍転生の術である。

腕が使えなくなった前の身体を捨て、君麻呂の身体に移ったのだ。

「いいえ、まだよ・・・もう少し時間がかかるようね」

「そうですか・・・ああ、それと、抜け忍の多由也の事ですが」

「ひとまず放っておきなさい。あの九尾のガキと一緒にいるんでしょ? ・・・迂闊に手を出した所で、どうにかなる相手じゃないわ。木の葉には渡っていないようだし、機が来れば殺しなさい」

「・・・はい、了解しました」

「用はそれだけ、カブト?」

「あ、いえ。その、大蛇丸様宛へと、手紙があるのですが・・・」

「手紙? 誰から・・・いえ、どこから届いたの?」

「うずまきナルトに気絶させられた時にですね・・・その、次郎坊の服の腰元に挟まっていたようで」

「そう・・・で、中身は見たの?」

「それが白紙で・・・3枚綴りなのですが、どれも何も書いていませんでした」



「いいわ、取りあえず貸してみなさい・・・あら、文字が浮かんできたわね」


私のチャクラに反応したのかしらと呟きながら、一枚目を読み出す。





「・・・ええ、と? 『これだけは言っておきたかったんだけど』」





ぺらりと二枚目をめくる。





「『オカマで忍者って』」






オカマの下りを見た後、怒りに手を振るわせながら、3枚目をめくる。







「『どんだけ~』」






大蛇丸の空しい声が、玉座の間に響き渡った。




「「・・・・」」





場が沈黙する。






「・・・・って何よこれは!」



興奮した大蛇丸が、紙を破り捨てる。



「ってああ、怒ったせいで目眩が。うう、魂が抜けそう・・・」

「ええ、大蛇丸様!? 誰か、ええと・・・い、医療忍者ァ~~~!」

「いや医療忍者はアンタでしょ! ってああ、怒鳴ったらまた目眩が・・」

数分後。何とか容態を持ち直した大蛇○は、天井を見上げながら呟く。


「・・・ここまで私を虚仮にしてくれるなんてね・・・」


うずまきナルトいつか絶対殺す、と誓う大蛇○であった。


●木の葉隠れの里


「以上で、報告は全てです」

「そうか・・・奈良シカマル」

「へい」

「・・・そう怖い顔をするな」

「まあ、ね。まあ先の戦闘の事・・・理屈は分かるんですが、納得は出来ないっつーか」

「それでも、貴重な体験はできただろう? 前の大戦ではそんな事をしている暇も無かったからな。下忍だから、などと言い訳にもならん状況だったのは聞いているだろう」

「・・・親父達から、話を聞いてはいますが・・・」

「ふん、無理に納得しろとは言わんぞ。文句があるなら言ってくれてもいい。別に咎め立てたりはせん」

「・・・いえ、いいです。ようするに、何であれ・・・勝てば良かったんですから。負けた俺達が何を言っても・・・情けなくなるだけです。そういう事ですよね?」

あの一戦で、同期の面々の忍者としての意識が変わるのも確かだし、視野が広がるのもそうだ。強くなるんだから、特別悪いこと何て無い。

そう思っていたシカマルは、しっかりと割り切って答えた。

「・・・ふん、思考も中忍らしくなってきたな。それに、木の葉崩しの後、上がってきた報告書で見たのだが・・・慣れないチーム編成で音の中忍を相手取って、勝利を収めたそうだな?」

「あのときは・・・相手がこっちを舐めきっていたってのもありますよ。それに、運の要素が強かったですから、アレは」

二度とやりたくない、と肩をすくめるシカマル。だが、綱手はそれでも大したものだと返す。

「それでも勝てる道筋・・・あの絵図を短時間で思いつき、描ききったというのも事実だろう。無理な作戦ではなかったし、十分現実的で堅実な策だったと思うぞ」

綱手の褒め言葉に、シカマルは頭をかきながら、嫌そうに答える。

「・・・止めて下さいよ。褒めないで下さい。俺はそんなに大した奴じゃないですよ・・・それに、今回は不様に負けちまったんだから」

「なら次の場で勝てるようになればいい・・・奈良シカマル、そんなお前に任務を与える」

「・・・何でしょう」

「先の戦闘に参加した下忍達、その敗因を聞きながら、全部説明してやれ。全員だ。仲間の欠点を知っておくのも重要な事だしな」

一緒の任務に当たってもらう事が、これからも多くなっていくだろうしな、と呟く綱手。

「・・・了解。何かキリハの奴がやる気になってるんで、それに関しては心配ないと思いますけど。あいつに引っ張られて、同期の連中も色々と動き出すでしょうし」

落ち込む暇も無いでしょう、と肩をすくめる。

「引っ張るのは俺の役目じゃないです。柄じゃないし、適任でもないですから」

シカマルが頭をかきながら、答える。

「何でか、あいつに『頑張ろう』とか言われると、何かそういう気分が沸き上がってくるんですよ。不思議と。士気に関しては問題無いでしょうから、後は時間の問題ですね」

そういう気分にさせる。これも、力なのだろうか。

(そういえば、兄貴の方もそんな感じがするな)

不思議と、聞いてしまうような。疑いを持つ気持ちが薄れていくような。

「・・・そうだな。そうかもな。だが、纏め役は任せるぞ。勢いだけじゃ駄目だからな」

「了解です・・・あと、春野サクラと山中いのについてですが」

「ああ、それについては聞いている。医療忍術を学びたいと言っていた件に関してだな?」

そう、前の戦闘で場を決定できるような、自分だけの武器が足りないと気づいた2人は、あの戦闘の翌日、医療忍術を学びたいと綱手に申し出ていたのだ。

元々、くの一の方が微細なチャクラコントロールは得意だ。統計をとっても、その傾向は顕著に出ている。

前々から、2人で話には出ていた。自来也との修行でも、その事は聞いていた。

そこに、医療忍術のスペシャリストである綱手姫が五代目火影に就任したのだ。

「自来也からも話には聞いていたしな・・・分かった。そちらは私の方で面倒を見よう」

「お願いします」

「ああ。で、だ」


と退室しようとするシカマルを綱手が引き留める。




「あともう一つ、聞いておかなくてはならん事がある」



机の前で腕を組み、綱手が眼光鋭くシカマルを睨み付ける。



「・・・何ですか?」



気圧されながらも、何とか返事をするシカマル。



やがて、綱手の方がゆっくりと口を開いた。




「波風キリハとは・・・どこまでいったんだ?」



それを聞いた途端、シカマルは頭から転げ落ちた。



「な、な、な」

「いや、自来也がしつこく聞いてくるんでな。人の執務室で愚痴るし。うざいことこの上ない。お前とキリハ、山中いのと秋道チョウジは幼なじみだと聞いていたが・・・そこら辺はどうなんだ?」

「いや、俺とキリハは何でも無いですよ!」

「ほう・・・ということはAまでは行ったんだな? やるな」

自来也に報告だと呟く綱手に、シカマルは慌てたように答えた。

「何も無いって言ってるじゃないですか! まだ手を繋いだだけで・・・!」


言葉の途中、しまったとばかりに口を紡ぐシカマル。その顔が赤くなる。


綱手はいいことを聞いたとばかりにニヤリと笑みを浮かべ、更に問いつめる。


「ほう、やはりな。そこまでしか行っとらんか・・・まあキリハの奴は何処か鈍い所があるし、仕方ないのかもしれんが・・・」


うんうん、青春だなと呟く綱手にシカマルは「このババア」と思ったが口には出さなかった。本能で危機を察知したが故の英断である。

幼なじみのいのと、母ヨシノ相手に磨いた、女の逆鱗。そのラインに関しての勘は、今日も冴えわたっていた。

本人に聞けば、そんなの欲しくなかったと涙を流しそうだが。

「で、今もアタックはしているのか? ・・・まあアタックしても、全部さらっと流されていそうな雰囲気だが・・・」

「・・・そうなんですよ、聞いて下さいよ、ちょっと」


と、隣にシズネがいるにもかかわらず、色々と愚痴り出すシカマル。




小一時間愚痴った後、其処には同盟が生まれていた。


「分かります分かります!私も、ミナト兄さんにアタックしても、さらりと流されて・・・」


シズネの幼少の頃の四代目火影との出来事が、色々と話される。自来也の弟子ミナトと、綱手の弟子兼付き人であったシズネ。


四代目が生きている頃は、少しだが親交があったらしい。


そこで起きた涙なしには語れない事件の数々が、次々と場にぶちまけられる。






そして話が終わった後。

「シズネさん!」

「シカマル君!」

がっちりと交わされる握手。


「・・・・え、何だこの状況? 私が収集つけるのか?」


その横で、どうしてこうなったと呟きながら、綱手が汗を一滴流す。



自業自得であった。






●砂隠れの里


「・・・はあ」

風影の葬儀が終わった後。

その風影の長女である、テマリは物憂げに窓の外を見ながら、ため息を吐いていた。

元気が無さそうだ。


「・・・・」

風影の次男、尾獣が一尾、守鶴の人柱力である我愛羅も同じく黙り込んでいる。

こちらも元気が無さそうだ。



(・・・いったい何があったじゃん?)

元気のない姉と弟の姿を見て、長男・カンクロウが慌てる。

木の葉崩しの後、2人と話し合って何とか和解したものの、未だに信頼関係は厚いとは言えない。

そんな2人が、間近で背景に黒いものを背負われて落ち込んでいるのを見ると

(何とも落ち着かないじゃん)


そんな時、2人がほぼ同時にある言葉を呟いた。


「ラーメン・・・」

「メンマ・・・・」

直後、2人は顔を見合わせて、その後また落ち込んだ様子に戻る。



(!?!?!?)

一方、カンクロウは訳が分からないという表情になる。


(ラーメンって・・・砂隠れではまず見かけない食べ物じゃん・・・・なんかますます分からなくなったじゃん)

訳が分からないと、ため息を吐く。

そこで時計を見て呟いた。

(・・・時間じゃん)


あと数十分後、昨日里から依頼された任務が始まるのだ。

任務の内容は簡単だ。アカデミーで下忍候補である訓練生を相手に、兵器術、忍具を使った戦闘に関する講師、教官を務める事。


「そろそろアカデミーに向かう時間じゃん、2人とも・・・」


とカンクロウが2人に話しかける。


「ああ・・・」

「分かった・・・」


だが、2人とも元気が無い返事を返す。それを見たカンクロウが怒った風に言う。


「いいかげんにするじゃん! そもそもラーメンって何じゃん! そんな熱くて不味い物なんかほおっておいて、教官の、し、ごと、を・・・」

最後までは言えなかった。



「ラーメン・・・」

「なんか?」



前者の呼び声は我愛羅。俯いたまま、肩を振るわせている。あ、ひょうたんの蓋取れた。

後者の呼び声はテマリ。こちらに笑顔を向けたまま、ゆっくりと背中の鉄扇に手をかける。


(ふ、2人に一体何が!? というかこの殺気、洒落にならないじゃん! 何でここまで怒ってるじゃん!?)


急に訪れた修羅場に狼狽えるカンクロウ。

だが2人は殺気をおさめ、武器を収めた後、カンクロウの襟元を一緒に掴んで引きずりだした。


「そうだな・・・アカデミーの訓練生に手本を見せてやるか」

今日の授業は血の雨が降るな・・・と呟く我愛羅。アレ、試すか、って何を? え、最硬絶対攻撃・守鶴の矛? 何それ、怖い。


「そうだな・・・忍具の威力を知って貰うためにも、的になるのはできるだけ本物がいいよな」

知識には代償がつきものだよなあと笑っているテマリ。見えないが、目は笑っていないのだろう。そういうチャクラを発している。

等価交換、等価交換と呟いているが、何と何を交換するのだろうか。怖くて聞けなかった。




「ちょ、ちょっと待つじゃん!」

「「待たない」」

ハモる姉と弟。


(い、いつの間にそんな仲良くなったじゃん!? ていうか、このままじゃガチで殺されるじゃん!)




・・・その後アカデミーの訓練場で、3姉弟による大乱闘スマッシュブラザース的な激闘が開催されたらしい。


未来永劫語られない、砂隠れの里の恥部であったので、事実に関しては定かではないが、取りあえず風と砂が訓練場を蹂躙したらしい。


目撃者によると、人形が空を舞っていたとか何とか。



またそれを見た砂の忍び達の証言に、「我愛羅様って変わったよな・・・」という呟きがあったが、それも語られていない。



らしい。








●麺隠れ邸


~多由也side~


「らあっ!」

「甘いし遅い! 寝てんのか!」

隠れ家の外。窓から、2人の声が聞こえてくる。

毎度のごとく、うちはサスケが体術の修行をしているのだろう。とにかく攻め続けるうちはサスケと、それらを全部捌ききるナルトさん。

(・・・いや、ナルトか)

頼むからさん付けは止めてくれと言われたばかりだ。何か変な感じだから、と。


「あれ、多由也さん、仕込みは終わったんですか?」

「ああ。全部終わったよ、白」

返事をすると、早いですねと白が微笑んだ。

「それにしても昼から動きっぱなしなんだけど・・・大丈夫なんかな、あの2人」

「まあ大丈夫でしょう。サスケ君の方は知らないですが、ナルトさんの方はこの程度でバテる程、柔らかい鍛え方していないでしょうから」

「・・・それもそうか」

何せ大蛇丸様・・・いや大蛇丸に勝る迄はいかないが、それでも真っ向から打ち合える程だ。

基礎能力だけでも相当な域に達しているのだろう。

「そういえば多由也さん、例の呪印に施した封印ですが、どんな感じですか?」

「・・・ああ。封印を施してもらう前から発動は出来なくなっていたから・・・再び発動する心配は無いよ。封邪法印も、保険みたいなもんだったしな」

「そうですね。でもマダオさんが『凄い』って言ってましたよ。念入りに仕込まれた洗脳と呪印による人格変化。その両方を気力で振り切ったっていうのは」

「・・・それも、切っ掛けがあってこそだ。情けないが、自力だけでは不可能だっただろうから」

あの言葉を聞かなければ。

今でもウチは、音隠れの里で忍者を続けていたに違いない。ひょっとしてナルトと戦う事になって、結果誰かに殺されていたのかもしれない。

「それでも、ボクは凄いと思いますよ? 切っ掛けは何であれ、断ち切っれたのは自分の意志の強さによるものでしょう?」

「・・・よしてくれ、何かそんな直球の言葉・・・恥ずかしいから」

聞いているこっちの方が照れる。

「はは、すみません・・・あ、終わったようですね」

白が窓の外を見ながら言う。

「そうだな・・・あーあー、うちはサスケの奴、ぐったりして動かないぞ」

「限界ぎりぎりって所ですね。まあ数分もしたら立ち上がるでしょう・・・・それじゃあ、夕食の用意を始めますか」

「ああ」

白と2人で、下ごしらえが済んだ食材の調理に入っていく。

そこに、入り口の方から声が聞こえた。

「ただいまーっと、お・・・今日は肉か!」

「ええ。出来上がるまでもう少し時間がかかりますから、先にお風呂の方、済ませておいて下さい」

「了解。って事だけど・・・サスケー聞こえたかー」

ナルトが外でへばっているうちはサスケの方へと声をかける。

声を返す気力も無いのか、あいつは寝転がりながら手だけ挙げて答えた。

「うっし。でも多由也って料理上手いんだな」

意外だ、という顔をするナルト。

(まあそう思うだろうな)

覚えたくて覚えた訳じゃないけど、ウチは料理が得意だ。

元4人衆・・・とはいっても、次郎坊、左近・右近、鬼童丸の事だが。

忍者に成り立ての頃、まだ一緒に訓練をしていた頃は、ウチが料理担当だったのだから。

(あいつら、クソみたいに料理が下手くそだったからな)

どうせなら上手い物を食べたいということで、多少なりとも母に仕込まれていたウチが料理を担当していたのだ。

(・・・そうだな。何時からだったか)

思い出す事も無かったな。今となって振り返ってみれば・・・あいつらも、変わった、いや。

(変わり果てたといった所か)

呪印を刻まれる前と後を思いだし呟く。

(何もかもが変わっていったな・・・)

昔はもう少しまともだったと思う。少なくとも、血に飢えた猟犬のような言動も、嫌っていた筈だ。

ウチら全員、戦災孤児だったのだから。

(思い出しても、な)

どうにもならない。どうにもできなかった。

「多由也さん?」

「あ、すまん」

白の心配そうな声に返事を返し、ウチは夕食の支度を再開した。



「・・・ただいま」

「おかえりなさい、もう出来てますよ」

「ああ」

うちはサスケ・・・ああもう面倒臭い、サスケは席に着くなり、ものすごい勢いで晩飯・・・豚肉のしょうが焼きとみそ汁、野菜サラダを食べ始めた。

「・・・旨い」

まともに話す気力も無いのか、感想も単語だけだ。だが、旨い、美味しいとは言ってくれる。

(そういえば、ウチが料理できると知った時、滅茶苦茶意外そうな顔をしてたな、こいつ)

思わず殴りかかってしまった。訓練後疲れていたこいつは、ウチの拳を避けきれずに殴り飛ばされていた。

その後怒ってはいたが、ウチが作った飯を食った後何ともいえない驚いた表情を浮かべこっちを見ていたっけ。

(あの表情は笑えたな・・・あと、そうだ、アレもあったっけ)

この隠れ家に来て、初めて訓練をした日。ボロボロになりながらも、この家に帰ってきた時だ。

(白とナルトのおかえりって言葉になあ)

今思い出しても笑ってしまう。きょとんとした表情を浮かべた後、顔を赤くして「た、ただいま」とか返して、ナルトに爆笑されていたっけ。

でも互いに、ちょっと嬉しそうで。

(そうだよなあ)

実際、ウチも初めてそう言われた時はびっくりした。



おかえりなんて。ただいま、とか。

そんなの、言う相手なんかいなかったから。

迎えてくれるのは、暗い部屋。帰った部屋はいつも暗くて、明かりも点いていなくて・・・

(・・・よそうか)

考えると、どんどん暗くなっていく。よそう、今考えるのは。

その時、また入り口の方から声が聞こえた。

「帰ったぞ」

「あ、再不斬さん! おかえりなさい」

白がもの凄い綺麗な顔で、再不斬を出迎える。再不斬の方は、何かぶっきらぼうな応答を返しているが、あれは照れているのだろう。傍から見たら分かる。ばればれだ。

(ウチでも聞いたことがある、あの霧隠れの鬼人とも呼ばれている再不斬もな・・・)

白の笑顔の前では形無しである。まあウチでも見惚れる時があるもんな。


「多由也ちゃん?」

「・・・えっと、マダオさん。前から言ってるけどちゃん付けはちょっと」

「ああ、ゴメン。えっと多由也さん?」

「多由也でいいです」

「じゃあ、多由也。練習始めるよ」

「はい」

そういえば、マダオってどういう意味なんだろう?

ナルトは『まあ名前みたいなもの』って言っていたけど。





結界が張られている室内。

ウチは笛を取りだし、指にチャクラを篭める。

そして、曲を奏で始める。

室内に、音が響き渡る。

「・・・そう・・・・いや、そこはもうちょっと・・・・そう、いい感じかも」

「・・・こう、ですか?」

「そうそう、そんな感じ」

手探りしながらも、練習は続く。


ウチが何を練習しているのか。

それは、ウチが音忍になると決めた時、心に描いていた理想の忍びの形に関係している。


(この形見の笛の音で、人を癒す。そういう術を使えるようになる)

最近思い出した事。あの日までは、忘れていた事。

ウチは、そういう決意を抱いていた筈だ。

そして、大蛇丸の元でチャクラなど、必要な技術を鍛え続けていた。

(・・・いつからだったのか)

呪印が刻まれた頃かもしれない。

少しずつ、ずれていった。

確かに描いていたのに・・・例えそれが子供の戯れ言でしかなかったにしろ。

夢は砕かれ、音は赤く染まり、血へと落ちた。

(大蛇丸・・・『様』には、どうでもいいことだったのかもしれないけど)

皮肉を篭めて、揶揄する。

結局は駒だったのだ。それ意外の価値など、ウチの意志など求めていなかった。

使いやすい駒を作るため。ウチの想いを踏みにじった。

(それでも、ウチには大切な事だったんだ。何に代えても守るべき大切なものだった)

でも、いつの間にかすり替えられて。それでああいう風に落ちていった。思い出したくないけど、忘れられないだろう。

(・・・思えば、今こんな生活ができてる事自体が夢のようだ)

自分1人では、到底掴めなかっただろう。全て、ここにいる全員の御陰だと思う。


そう言った時、ナルトは笑って否定した。


・・・切っ掛けは多由也が掴んだのだと。

・・・クソみたいな世界の中、それでも足掻こうと手を伸ばす事を選んだのは多由也なのだと。

・・・俺はその手を掴んだに過ぎないと。


(その手を掴んでくれる人が、どれだけいるか)

リスクが大きすぎるのに。まあ仕方ないと言いながらも、手を差し伸べてくれた人。


(そのためにも、そしてウチの夢のためにも)

絶対に完成させる。ウチだけの術を。



~うちはサスケside~


「・・・くそ」

食後、疲れ切った身体を引きづり、何とか自分の部屋まで戻る。


「・・・ふう」

そして、着くなり布団へと倒れ込んだ。

日中、外に干していたのか陽の匂いがした。


「・・・何か、変な感じだな」

ずっと1人で暮らして・・・まあお手伝いさんとかいたけど、基本は一人きりで暮らしていた。

「おかえり、か」

笑ってしまう。そう言われただけで、涙が出そうになったなんて。

「あいつ、馬鹿みたいに笑いやがって」

(それも、嬉しそうに・・・痛え)

筋肉痛が全身を襲う。ここに来てからずっと、容赦無い体術訓練。時には水面の上で、時には樹上で。

“チャクラコントロールを鍛えると同時、体術に関しても鍛える”らしい。

実戦訓練みたいなものだ。俺は殺す気でやっているのだから。まあそれでも、掠りもしないのだが。

「・・・くそ、体力馬鹿め」

あいつは、今日も食後にラーメンの研究をしていると聞いた。何か、インスピレーションが煌めいたとか何とか。

「・・・まさか、あの屋台の親父だったなんてなあ」

告げられた時、俺はどういう表情を浮かべていたのだろう。あの『してやったり』な笑顔を思い出す。

(なんか、ムカツク)

看板を持って走り回っていたし。何だドッキリって。マイクを向けられて『今のお気持ちは?』とか聞くし。何かむかついたので、即座に殴りかかっていったのは仕方ないと言える・・・筈。

・・・まあ勿論、ひらりとかわされたのだが。

「・・・くっ」

仰向けになり、天井を見上げる。

(あー、眠い。今日も疲れた・・・・・ん?)

扉の向こうから、僅かだが笛の音が聞こえてくる。

(・・・綺麗な音色だな)

夢うつつに、その笛の音を聞く。

外の鈴虫の鳴き声と合わさって、耳そして頭へと入ってくる。

何ともいえない感情が浮かぶ。



(・・・明日も、頑張るか)


まだ走り始めたばかり。

先はまだまだ遠くても・・・それでも、ここならば、何かを諦める事なく頑張れる。


窓から流れてくる風が、頬をなでる。


その風が運ぶ、鈴虫の鳴き声と綺麗な笛の音に誘われて。


俺は目をつぶり夢の中へと旅だった。





[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 閑話の2:そして、そんな日々
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2009/08/18 23:35
閑話の2 




~そして、そんな日々





●キューちゃんの本名


「あれキューちゃん、畑の見回り終わったの?」

「ああ。そこらの鳥に言い聞かせておいたから、もう畑の方は襲われんじゃろ。あと野犬共が畑を狙っとるのか、周りを彷徨いておった」

「そうなんだ。で、一睨みすると?」

キューちゃんは口の端を上げ、答える。

「一目散に逃げ追ったわ。野犬共も、もう近寄ってくる事もないじゃろ」

「ありがとう。で、キューちゃん、身体の方はもう大丈夫なの?」

ナルトが心配そうに訪ねると、天狐のキューちゃん・・・本名を“九那実”というらしい。

が、大丈夫じゃと微笑みながら答える。

「まさか名を思い出しただけで、ああなるとは思わなかったがの」

木の葉を抜け、皆が待つ隠れ家に到着して間もなくの事だった。急に、キューちゃんが顕現したかと思うと、卒倒したように倒れたのだ。

「力が戻ってきた反動だって言ってたけど・・・」

その後、数日の間は高熱が収まらなかった。数日後、ようやく熱が収まったが、原因は何だったのか。未だはっきりとは分かっていない。

「まあ、恐らくはお主の決心による無意識かによる心、魂の変化と、ワシ・・・いや私に起こった変化が原因だろう」

「俺の方は分かるけど・・・キューちゃんの方は?」

「・・・さあの。名前を思い出した、いや思い出せた瞬間にアレじゃったし、はっきりとは分からんが」

「あの声と関連があるのかな」

「そうじゃろうな。何、ある程度は独立して動けるように成ったし、姿も・・・ほれこの通り」

言葉と同時、キューちゃんは今までの7、8歳ぐらいの姿から、13,4歳ぐらいの姿へと変化する。

「この程度の姿になら、数時間は元に戻れるようになったしの。便利といえば便利になったと言える」

あの姿では、小さすぎて何をするにも大変じゃったしの、と笑う。

ちなみに大人の姿・・・・人間で言えば22,3歳ぐらいの姿には、まだ戻れないらしい。戻れたとしても、数秒でまた元に戻ってしまうとか。

「白と再不斬が模擬戦相手に困っておったようだしの。ちょうど良いと言える」

「そうだねえ・・・俺としてはあまりそういう危ない事はしてほしく無いんだけど」

「何、たかが模擬戦じゃから心配するな。実戦には出んようにするしな。ほれ、あのとき・・・ワシが起きあがった時に言ってくれたじゃろう?」

悪戯な表情を浮かべ、キューちゃんは質問してくる。

「“絶対に守る”と・・・それとも、あれはその場凌ぎの嘘じゃったのか?」

少し悲しげな表情を浮かべるキューちゃん。それが嘘泣きだと分かっていても、ナルトが答えられる言葉は一つしかない。

「いや、嘘じゃないから」

「ならば良し。過保護はやめい」

童女姿に戻り、胸を張るキューちゃん。ナルトはそんなキューちゃんをさっと抱き上げ、耳元に囁いた。

「了解・・・九那実さん」

キューちゃんの顔が爆発したかのように真っ赤になった。

「な、な、何を」

「いや顔を真っ赤にする魔法・・・って痛い痛い、噛まないで!」

「うるさいうるさいうるさい!」


普段はキューちゃんで良いと念押しされたナルトであった。







●修行風景 ~忍具のお勉強~


隠れ家の広場で、ナルトとサスケの2人が座りながら忍具についての話をしている。


「ほら、これは鋼糸で、これは光玉。煙玉に起爆札」

「いや、一通りは知ってる。今更何でまたこの忍具について勉強しなきゃならないんだ?」

若干不機嫌そうな顔を浮かべ、サスケがナルトとマダオに反論する。

その反論された2人は、何も分かっちゃいないと言った風に首を振り肩をすくめながら諭すように語りかける。

「いつも、忍具が揃っていて万全な状況で戦えるとも限らないだろ? 例えば・・・」

ナルトは煙玉を取りだしながら、言う。

「クナイも手裏剣も起爆札も無い、この煙玉だけで戦わなきゃいけない場合もある」

敵の攻撃で、忍具が入った袋を落としてしまうかもしれない。

大勢の敵との戦いの後、手裏剣もクナイも全て使ってしまっているかもしれない。

「そんな時、この残った忍具をどう有効に使うか。単品でどう使って対処するか・・・まあ、その時その時で思い浮かぶかもしれないけど」

場合によっては、浮かばないかもしれない。そんな状況を防ぐ為に、今から訓練をするのだ。


「まだちょっと、頭が固いしなあ、サスケは。実戦経験が少ないのが原因だと思うけど・・・行動に余裕が無い」

一撃一撃を決める気で戦っている。虚もそれなりにあるが、僅かだけだ。十分に活かせていない。

「まあ、自分より弱い相手なら力押しで勝てるだろうけど、それが自分より強い相手の場合は?」

「・・・修行してそいつより強くなるって事だろ?」

「それが最善だけど、それは答えになってないよ。時間は待ってはくれないんだから。答えは簡単、イカサマをするのさ」

「イカサマぁ!?」

「そう。相手の弱点、苦手とするものを見つけ、そこで勝負をすればいい。自分が勝てる所で勝負をすれば、勝てる」

「・・・いや、でも、どうやって」

「まあそれは戦闘中に考えるしかないんだけどね。その為にも、思考に幅を持たす必要がある。忍具も然りだ。使いようによっては、場を決定する武器となるかもしれない」

「・・・煙玉、光玉も使ってか」

「そう。逃げるのが最善、っていう時もあるしね。ようは視点を集中させなければいいって事。冷静に全体を把握して、対処すればいい。

それができれば、戦術の幅が広がる。忍具の特性を知る事も大事だね。この2つがあれば、対処方法は色々と浮かんでくるから」

「全体を把握する・・・」

「そう。自分の死角を無くして、逆に相手の死角から攻撃する。忍者の基本でもあるしね。裏の裏っていうのは」

「そうだな・・・・っと、これは何だ?」

とサスケが箱から一つの武器を取り出す。

「ああ、それはトンファーだよ。貸して」

サスケからトンファーを受け取り、練習用の的の方へ向かう。

「これは・・・こう!」


フォフォフォカン!フォフォフォカン!

トンファーを回転させながら、的を打つ。

「突くのにも使えるし、こうやって防御するのにも使える。まあ扱いが難しい武器だから、これは止めといた方がいいけど・・・そうだな」

ナルトは何かを思いついたのか、サスケの方を向き笑う。

「どういう角度から攻撃が来るのか、一度見ておくのもいいか」


ちょっと立って、とサスケを立たした後、ナルトはサスケの方に近寄り、対峙する。




「じゃあいくよ?」

「ああ」



と対峙する2人。


「受けよ、我が必殺のトンファーを!」

トンファーが勢いよく回転し始める。


「・・・!!」

サスケはトンファーを凝視し、それに当たるまいと構えを取る。



直後、ナルトが一歩前に出て、サスケが防御しようと腕を上げる。


勝敗は一瞬にして決した。


      






















       ∧_∧  トンファーキ~ック!
     _(  ´ナ`)
    /      )     ドゴォォォ _  /
∩  / ,イ 、  ノ/      ∧ ∧―= ̄ `ヽ, _
| | / / |   ( 〈 ∵. ・ (サ  〈__ >  ゛ 、_
| | | |  ヽ  ー=- ̄ ̄=_、  (/ , ´ノ \
| | | |   `iー__=―_ ;, / / /
| |ニ(!、)   =_二__ ̄_=;, / / ,'
∪     /  /       /  /|  |
     /  /       !、_/ /   〉
    / _/             |_/
    ヽ、_ヽ













上と見せて、下である。まさに外道。きたないさすが主人公きたない。

「・・・・て、めえ・・・っ!」

予想だにしない角度からの攻撃をくらい、腹を抑えながら蹲るサスケ。

「と、こういう使い方もできる」

そんなサスケを見ながら、しれっと話を続けるナルト。

「いや、それは人としてどうかと・・・」

「いやいや、マダオさん。そう強く蹴ったつもりは無かったんだけど」

これぐらい避けて貰わないと困るなあ、と肩をすくめるナルト。

「・・・・っ」

サスケは腹を抑えながら、唸っている。どうやら前蹴りがまともに腹部へと入ったようだ。

「先入観を利用すれば、こういう事もできる。武器ってのは持っているだけで意味があるってことだね。相手は、その方向へ意識を集中するから、場合によってはわざと見せてそれを囮にするのも

・・・ん、何? トンファー貸せって?」


うずくまったままのサスケが手を差し出すので、その手にトンファーを渡す。


(ふん、同じ手は通用せんぞ)

にやりと笑うナルト。まるで悪役である。


サスケはおもむろに立ち上がったあと、一歩踏み出した直後、何故か正面から横に視線を逸らした。


そして、ポツリと呟く。

「・・・・あ、九那実さんが全裸で水浴びしてる」

「「マジで!?」」

即座に反応し、サスケの視線の方向を見る2人。



同時、サスケがニヤリと笑いながら、ナルトの懐に入り込む。


今までの修行の成果を思わせる、神速の踏み込みからの一撃。




トンファーパンチ!
                   _ _     .'  , ..∧_∧
          ∧  _ - ― = ̄  ̄`:, .∴ '      ( ナ )
         , サ'' ̄    __――=', ・,‘ r⌒>  _/ /
        /   -―  ̄ ̄   ̄"'" .   ’ | y'⌒  ⌒i
       /   ノ /~/         ドゴォォォ  |  /  ノ |
      /  , イ )フ /               , ー'  /´ヾ_ノ
      /   _, \/.              / ,  ノ
      |  / \  `、            / / /
      j  / / ハ  |           / / ,'
    / ノ  ~ {  |          /  /|  |
   / /     | (_         !、_/ /   〉
  `、_〉      ー‐‐`            |_/






サスケの拳がナルトの横っ面にクリーンヒット。

だが、その直後であった。

「影分身!?」

殴られ吹き飛んだナルトの姿が、煙と共に消える。

同時、樹上の方向から声がした。

「ふははは、甘い! 甘いぞ甘すぎる! 狙いは良かったが・・・俺が今更キューちゃんの貧乳如きに、本気で釣られると思うたか!」


樹上で腕を組み、ロリとちゃうわ! といいながら高らかに笑い声を上げるナルト。


とうっ、と地面に降り立ち、また腕を組みなおしてうむうむと感心したような声を上げる。


「しかし、やるようになったものよ。おしむらくは囮にする相手が悪かったな

・・・実は隠れ巨乳であった多由也とか、清純派アイドルそのものの白ならば話は別であったろうが・・・ん?」


途中、背後に気配を感じたナルトが、言葉を止める。


「・・・ず、いぶんとまあ・・・面白い事を、いうておるのう?」


ナルトがピシリと硬直する。

地を這うように低い声。濃密なその殺気。

(・・・いる、振り返ればヤツがいる!)

「のう、こっちを振り向かんか?」

「イエス、マム!」

逆らう=死という方程式を瞬時に解いたナルト、もの凄い勢いで振り返った瞬間。


「乳がそんなに偉いのかーーー!」


目尻に涙を溜め顔を真っ赤にしたキューちゃんに、ぶん殴られた。

夜空に瞬く星となった。


ぷんぷんと怒りながら隠れ家の方へと戻っていくキューちゃん。



しばらくして、車田落ちで落下してきたナルト。

サスケはニヤリと笑いながら、告げる。



「ふっ、気配は察知していたからな・・・裏の裏だ。これで、いいんだろう?」




絶対にボロを出すと思っていたからな。やれやれだぜ言いながら笑い、ナルトに背を向ける。



その隣ではマダオが染まってきたねえ、と言いながらうんうんと頷いていた。







●修行風景その2 ~忍具と忍術~


「次は忍具を併用した術の練習を始めます」

「どうでもいいけど回復早いなお前」

「それが取り柄じゃからの」

キューちゃん酷え、と呟いた後睨まれたナルト。急いで、術の説明を始める。

「えっと、サスケは雷遁と火遁が得意だったよな?」

「ああ」

「よし、じゃあまずは俺でも使える雷遁を・・・」

メインは風遁の方だが、雷遁の方も初級限定だが、扱えるのだ。

「そして道具はこれ・・・」

ナルトは鋼糸を手に取る。そして地面に落ちてあった枝を手に取り、空中へと投げる。

「雷遁、雷華の術!」

それに鋼糸を巻き付けたまま、術を発動。雷が鋼糸を伝導して、木へと流れていく。少し焦げたようだ。

「と、こんなもん。火遁にも似たような術あった・・・・たしか、火遁・龍火の術だっけ」

「そうだな・・・大蛇丸のヤツ相手に使ったな、そういえば」



「大蛇○ねえ・・・あ、ごめんちょっとトイレ」

悪い、と手を前に出して謝る。

「まったく。早くすませてこんか」





~数分後



「よし、じゃあ次はまた鋼糸を使って・・・2人ともちょっと離れて」


キューちゃんとサスケが離れたのを確認したあと、ナルトは説明を始める。


「今から使うのは光遁といって、世界でも恐らく俺しか使えない忍術だから・・・よく見ててね」


直後ナルトはエイやっと飛び上がり、左右の木へと鋼糸を投げつける。



固定され、空中で静止するナルト。



そして足を上げて、叫んだ。







「光遁・かっこいいポーズ!」







太陽をバックに、ポーズを決めるナルト。


サスケがずっこけた。


「・・・一応聞いておくが・・・・何だ、それは?」


「え、だからほら、かっこいいポーズ」


(・・・視線がやや上を見てるのがまた妙にむかつく・・・、とかそういう事を言ってるんじゃない! ほらほら、じゃねえよ!)


「一体何の役に立つんだその術は!」


「え、見る者を惹きつけ動きを止め、熟練者になると暗黒属性の敵ならば消し去ることもできる、超高等級忍術だけど」


それに、と続ける。


「特に大蛇○相手に有効。サスケが全裸でこれをやれば・・・大蛇○を悩殺できるZE!」


キラ☆っという笑顔を浮かべるナルト。


サスケがぶち切れた。


「気持ち悪い想像させんじゃねえ!」


空中に浮かぶナルト目掛け、跳躍。


飛び蹴りを敢行するサスケ。


ナルトは空中で身動きが取れないので、その蹴りを避ける事はできない。


だが、それはナルトの読み通りであった。




「甘いわ!」


「がああ!?」


接触と同時、ナルトが爆発した。


巻き込まれるサスケ。



「・・・あほじゃの、こやつら。・・・後ろの。隠れておらんで、さっさと出てこんか」


ため息を吐きながらキューちゃんが後ろの藪に声をかける。


「ありゃ、ばれてたか。と、かっこいいポーズだけど、こういう使い方もできる。挑発した後、ボン、ね。

ちなみに今併用した忍術は“分身大爆破”といって、影分身を併用したA級難度の忍術で、うちはイタチも使えるそうだから気を付ける事ー。

今のは威力極小だったけど、本物はもっと凄い・・・ん? 何だ、この・・・鳥が泣くような音は」


直後、全身から煙りを立ち上らせながら、サスケが立ち上がった。

千の鳥を鳴らしながら。



「勝身煙・・・!?」


「いやさっきの爆発のせいじゃろ」


キューちゃんの冷静な突っ込み。それを合図として。


「死ね」


サスケが写輪眼を発動させながら特攻してきた。


右手に雷を携えて。





「あ、キューちゃんどうしたの、あの2人・・・何か映画のラストシーン並の死闘を繰り広げてるけど」


向こうでは、サスケとナルトが「俺の右手が真っ赤に燃えるぅ!」とか、「このぶわぁか弟子があぁぁ!」とかいいながら殴り合っている。


「ただの、模擬戦じゃろ。しかし成長したのうあやつ」

サスケの方を見て、キューちゃんが呟く。

「うん、元々才能はあったからねー。飲み込みが早いし、頭の回転も早いからそりゃ本格的に鍛えれば成長も早いよ」

「しかし体術の方も一から教えるとはの。ほら、写輪眼でコピーできるのじゃろう? 今また、基本から体術というか併用したチャクラコントロールを教えておるのは何故じゃ?」

「いや、体術に関してはちょっとね。忍術とはちょっと勝手が違うんだ。筋肉の問題だから、コピーしてOKというにはちょっとね・・・」

「筋、肉?」

「そう。体術とはおおまかに言うと、筋肉の運用方法だから。個人個人、肉の付き方は違って当たり前だし・・・パンチ一つ打つにも、筋肉の使い方自体が違うんだ。

コピーして無理に真似したら、いつもは使っていない筋肉に妙な負荷がかかっちゃったりして、すぐに身体が痛くなってくる」

一時的な動きとか、短期決戦なら問題無いんだけどね、と言いながらマダオは肩をすくめる。

「何をするにも体術は基本となるから。だから、素の状態・・・本人に一番合った体術を覚えさせる方が良いんだ」

「それでか。で、次は何の修行をする?」

「そうだねえ。軸となる戦術・・・今のところ、刀を使った戦術を考案してるけど」

「何か、問題があるのか?」

「ももっちのあの大刀みたいな、良い刀が無いんだよ。来週あたり、ナルト君がメンマ君に変化して砂隠れの里に赴くらしいから・・・その時に、調達しに行こうかって話してるところ」

「匠・・・おお、かなり昔に行ったあそこか。確か、忍具開発専門の里じゃったか」

「そうそう。手裏剣とかクナイとか、前に一括で購入した忍具も、使って残り数少なくなってきたから。補充も兼ねて」

ちなみに、忍具を購入する際、顧客情報は絶対に漏れないようになっている。忍具に関しては時に戦局を左右するものなので、5大国はその方針を受理。

この規定は未だ破られていないのだ。下手に手を出すと、周りの里全てを敵に回す恐れがあることから、半ば争いの無い不可侵領域と化している。

皮肉な話だが。

「しかし、金はあるのか? この家の結界を張る時、材料代とかで滅茶苦茶多く金を使ったと聞いたが」

千鳥や螺旋丸にも耐えうる結界。その強度から、この隠れ家と周囲3里程は半ば異界と化している。

煙も外には漏れない。

辿り着くにも、狐里心中を駆使した迷いの森を抜けなければならない。堅牢きわまりない隠れ里と化している。

メンマをして「パーフェクトだマダオ」と呟いてしまった程の仕事っぷりである。

だが当然、製作資金もかなりのものとなった。

「そこなんだよねえ。まあ、そっちも案があるにはあるけど」

「・・・また、抜け忍の仕事を請け負うのか?」

「信用度は特Sだったでしょ? だから、何とかなると思うよ」

「そうじゃの・・・というか、あやつらまだやっとるのか」


向こうでは手裏剣とクナイの投げ合い合戦になっている。

「あーあー、畑の方に飛んで・・・おお、さすがキューちゃん早い」


一歩で間合いを詰めて、二歩目でサスケの膝を蹴って駆け上がり、とどめの膝蹴り。

その見事すぎる手際を見て、マダオが戦慄する。

「光魔術師・・・!」

あらゆる意味で。

マダオはそんなキューちゃんをすげえ男前な顔で見ながら、「ナイス太もも」と呟いた。

キューちゃんは留まらない。返す刀でナルトにもシャイニングウィザード。一瞬にして2人とも昏倒させた。


「お疲れ様ー、キューちゃぶらほっ!?」

そして3人目、マダオにも炸裂した。


「何で・・・」

と呟くマダオにキューちゃんは着物の裾を抑えながら、顔を真っ赤にして答える。


「見るなっ!」


いや見せたのそっちの方、と呟きながらマダオは意識を失った。一瞬見えた白い理想郷を思いだしながら。

ぐっじょぶといいながら鼻血を吹く。親指だけを立てて、マダオは逝った。


薄れ往く意識の中、見えたのは自分と同じように親指を上げて気絶している2人の漢の姿だった。


ちなみに飯の時間なので3人を呼びに来た多由也がこの光景を見て、

『何がなんだかさっぱり分からない』と小一時間立ちつくしたのは別のお話である。











●男達の挽歌





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      Λ_Λ . . . .: : : ::: : :: ::::::::: :::::::::::::::::::::::::::::
     /:彡ミヽ;)ー、 . . .: : : :::::: :::::::::::::::::::::::::::::::::
    / :::/::ヽ、ヽ、 ::i . .:: :.: ::: . :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
     / :::/;;: ヽ ヽ ::l . :. :. .:: : :: :: :::::::: : ::::::::::::::::::
 ̄ ̄ ̄(_,ノ  ̄ ̄ ̄ヽ、_ノ ̄ ̄ ̄ ̄






「白、どうしたんじゃ、あの男共?」

テーブルではナルト、サスケ、再不斬、マダオの4人の男衆が落ち込んでいた。


「いや、ほら多由也さん今風邪ひいているでしょう?」

「うむ。今は寝込んでいるのじゃろ?」

「ええ。それで、ですね。風邪を引いて倒れる直前に事件が起こったんですよ」

「ふむ、事件とな?」

「ええ。練習中の笛の術ですが、ちょっと暴発しちゃったらしくて」

「ほう・・・しかしそれで何で、あの4人が落ち込んでいるんじゃ?」


「音色を間近で聞いたらしくて、ですね。・・・ボクが部屋に入った時にはもう手遅れで・・・幻術作用があったんでしょうか」



いや絶対にそうだろう、と呟いた後、白の顔が赤くなる。



「びっくりするほどユートピアってどういう意味でしょうか・・・」



白が部屋に入った瞬間、目にした光景は衝撃的だった。



おしりを両手で叩きながら白目を剥き、「びっくりするほどユートピア!」と叫びながら、椅子で踏み台昇降運動をしている4人。


それを目撃して、硬直してしまった白。それを間近で見てしまったのだろう、多由也は倒れてしまっていた。



---悲劇であった。



正気に戻った瞬間、椅子に座り・・・・30分間、あの体勢のままである。

ちなみに倒れた多由也は白に運ばれ、今は部屋で眠っている。



「うむ、私が畑に行ってる間にそんな面白い事が・・・」

「キューさん・・・今はそっとしといてやりましょう」


後生ですから、と2人はその場を立ち去った。




小一時間後。


男達は記憶から今回の事を消し去ったらしい。全てを忘れ、朗らかに笑い合ったという。

ちなみに、多由也の事は責めなかった。わざとじゃなかったし、何より彼らは紳士だから。





余談だが、この日より4人に取って『ユートピア』は○禁ワードとなったらしい。

2年後、彼らの前でその言葉を口にしたカカシがどうなったのか。




・・・それは、また、別の、お話。













[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 幕間の1 ~我愛羅~
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2009/08/22 02:17
幕間の1


~我愛羅~




「・・・ようやく、終わったな」

2週間前から始まった任務だが、今日で終わりを迎えた。

アカデミー生相手に、忍具の使い方を教える任務。それぞれの生徒を指導し、実技の訓練も終わった。

後は専門の教官に任せるだけだ。

任務後、後片づけはアカデミーの教官の方でやてくれるらしい。

「じゃあ、俺はバキに報告してくるじゃん。テマリと我愛羅は先帰っててくれ」

「ああ、そうだな。頼むカンクロウ。じゃあ行こうか、我愛羅」

カンクロウと別れ、姉さんと2人で家に帰った。


「私は少し汗を流してくる」

今日は最後の日だったので、教導にも力が入っていたようだ。

汗を多くかいたから、と苦笑しながら姉さんが風呂に向かう。

「ああ。俺は少し休んでおく」



返事を返し、傍にあった椅子に座る。

(・・・疲れたな)

2週間に渡る任務を終え、ため息をはく。

実は長期任務を任されたのは初めてだった。今まで任された任務とは、全て短期の任務。

誰かを殺しに行くという、殺し専門の任務のみ。情緒不安定だったのが原因だろう。長期任務には向いていないと思われていたのだ。

(力を抑える事が可能になった途端、これか・・・)

木の葉崩しの後、テマリとカンクロウと色々話した。カンクロウは最初の頃はやや怖がっていたようだが、日に日に接していく内に変わっていった。

(今までが今までだったからな)

呟き、苦笑する。守鶴の力を扱えるようになった今、何故怯えられていたか分かるのだ。

最終兵器とまで呼ばれる力の、その全容を把握したから、その力が持つ怖さと異様さが分かるのだ。今でも、完全にはコントロールできていないのがその証拠だ。


だが、今までは全く抑える事が出来ていなかった。それは何故か。

その答えは酷く単純だった。

(守鶴の事・・・今まで俺はその事を、見ようともしていなかった)

力を力とだけ認識し、そう捉え、でも本質を掴もうとしなかった。

自分の中で暴れる力に対し、抗ってはいても流されるままに受け入れるだけで、その力が持つ意味を考えようともしていなかった。

流されるのを、半ば受け入れていたのかもしれない。その結果、どうなるかを考えもせず。


(あのラリアットは効いたな・・・)

あの一撃で目が覚めたのだろう。久しく感じた事の無かった、衝撃。痛み。敗北。

馬鹿みたいに真っ正面から突っ込んで。砂を吹き飛ばした後、一直線に突っ込んできた勢いのまま、いっそ清々しいまでの一撃。



その後に続けられた言葉もそうだ。荒唐無稽で馬鹿みたいだけど、馬鹿らしく一本芯の通った理念。

あいつはいった。

『尾獣がどうか、知らねえ。運命がどうとか、わかんねえ。人柱力がどうとか、聞いてねえ』

衝撃的だった。

そういう生き方があるのか、とそう思った。

そしてその在り方に憧れた。

俺は思った。俺もアイツみたいに生きてみようと。

自分が望む何かに成ろうと思った。そう、新しい夢を見たのだ。そして、生きるための目的が生まれた。


(まずは認める事だ。そう、俺の中には、確かに化け物がいる)

事実を認識する。まずは自分の足場を見る。誤魔化さず、自分の中にいる守鶴に、正面から向き合う。

そこから始める。あいつも、自分の中にいる者は認識しているだろう。ただそれに流されないだけで。あるいはもっと別の考えを持っているのかもしれないが。

認める。守鶴。お前を。

(だが、俺はお前の思い通りにはならない。守鶴、お前のような災厄を撒き散らすだけの化け物にはならない)

そして、俺が望まない全てを否定するのだ。

うずまきナルトと同じように。例え化け物と呼ばれようと。化け物だと思われていても。

俺は俺の望む在り方を目指す。

思えば、簡単な事だった。

何を認め、何を否定し、最終的に何を肯定し続けるのか。誰しもが行っている、考えている事。

・・・そう、簡単な事だったのに、それすらも見失っていた。

夢現に微睡んで・・・不抜けていたのだ。


(そういえば・・・)


その簡単な事が見えなくなったのは何時からだったろう。考える事を止めた時は何時だっただろう。

誰かを憎む事に逃げたのは、どの夜だったろうか。

(・・・ああ、そうだ。あの夜からだったな)

俺に付き人だった、母さんの弟・・・夜叉丸に殺されそうになったあの夜。

(アナタは愛されてはいなかったと言ったよな、夜叉丸・・・)

今も胸に残っている、突き刺さっている楔の言葉。

あれは、夜叉丸の憎しみが具現した言葉・・・呪いの言葉だったのかもしれない。

(俺を生んで死んだ母さん・・・加流羅が、俺の事をどう思っていたのか)

今はもう、永遠に知ることが出来ない。母は俺を生んで死んだ。我愛羅という名がもつ意味、その本当の意味は、知ることができない。


(我だけを愛す修羅、か)


呪いの言葉、呪いの名前。その事を考え無かった日など無い。

・・・思えばずっと、悩んでいたのかもしれない。


本当は愛されてなどいなかったのかもしれない。本当は愛していてくれたのかもしれない。

答えの出ない問いを延々と考え続けて。その度にどうしようも無い解答を導き出して。

誰かを憎んで。誰かに憎まれて。

力とそれにまとわりつく宿命とやらに囚われて。



俺は、誰かを憎む事に逃げた。



(だけど、それはもう昨日の事だと知った・・・過去に囚われるのはやめにしようと決めた、あの日から)

選んだ瞬間、在り方を決めた瞬間、昨日は過去になった。思い悩む事もあるが、それはどうしようも無い事だと気づいた。

明日があると知った。望めば道は開けると知った。苦悩しながらももがけば、そして立って歩き続ければ。

足下を見て、行く先を決めたならば。後は歩くだけで良いと知った。

(でも、1人だけでは無理だったろうな)

肩を貸してくれる人がいる。だから、こんな俺でも歩き続けられる。


今の俺には失いたくない人がいる。

姉がいる。兄がいる。俺を心配し、俺と共に生きてくれる人がいる。

目を覚ましてくれた人がいる。荒唐無稽かつ天衣無縫。変人の極みとも言える馬鹿がいる。

これは予想だが、あいつと一緒にいると面白い事ばかり起きるのだろう。そんな気がする。



そして、失いたくない人の中に、とある生徒の顔が浮かんだ。


(・・・マツリ)


この2週間。忍具の扱い方を教えた生徒。



・・・忘れもしないあの夜。

暴走する守鶴を抑えきれず、姉諸共に殺そうとしてしまった少女。


天井を見上げながら、任務の初日に交わした会話を思い出す。

授業の初日、まず最初に行ったのは生徒達による先生の選択だった。俺、テマリ、カンクロウと他中忍3人の計6人。

生徒のほとんどが、俺を除く5人の元へと言った。だが1人だけ、俺の元へ一直線に駆け寄ってきた生徒。それがマツリだった。

『お願いします!』

綺麗な声で、茶色の髪持つ頭を下げて、マツリはそう言った。


忍具に対するトラウマが合ったようだが、何とか自分で克服しようとするマツリ。

初日、授業が終わった後、マツリに訪ねた。

『昔の事を忘れた訳でもないだろう・・・何故、よりにもよって俺を教官に選んだんだ?』

マツリは

『・・・確かに、怖かったです。でも、あの夜・・・部屋に戻った後、なぜだか涙が止まらなかったんです』

恐怖のせいだろう。そう言う俺に、マツリはしっかりと首を振って答えた。

『怖くて、泣いたんじゃありません。悲しかったんです・・・・あの時の我愛羅先生、何だか泣いているようだったから』

『お前も、姉さんも殺そうとしていたのに?』

『・・・一瞬、留まってくれたじゃないですか。抵抗しているように、見えたんです・・・違うんですか?』

『・・・いや』

首を振り、答える。

『殺したくなかった・・・姉さんも、お前も・・・殺したくなんてなかった』

『やっぱり、そうだったんですね』

そういうと、マツリは花咲くように笑った。

『でも、私も・・・今までは、もしかしたら違うのかな、って思っていたんです。あの後、我愛羅先生荒れていたようだったから』

『ああ・・・』

『でも、今の我愛羅先生を見て、何だかあの時感じた事は間違いじゃ無かったのかなって・・・』

『ああ、確かに。最近は抑えられるようになったからな』

腹を撫でながら、言う。

『すいません。疑ったりなんかして』

申し訳なさそうに、こんな私軽蔑します? と訪ねてくるマツリの頭を撫でながら、俺は言った。

『いや。軽蔑しない・・・・むしろ礼を言いたい程だ』

『へ?』

『ありがとう、マツリ』


その後に起きた騒動を思い出し、苦笑する。

近くにいた姉さんが言っていたが、その時に俺は笑顔を浮かべていたそうだ。自分でも思い出せないのだが。

だが、俺の顔を見た姉さんが混乱のあまり、隣にいたカンクロウの顔面を殴った後、『え、嘘、痛い? 夢じゃない?』とか呟いていたので嘘では無いようだったが。

・・・とにかく色々あった。





「・・・ん?」


物思いにふけって10数分が経った頃だ。

玄関からノックの音が聞こえた。


「こんな時間に客か?」

珍しい、と呟きながら立ち上がる。元々来客自体が少ない。加え、夕方を過ぎてのこの時間だ。客が来る可能性など皆無と行ってもいい。

(カンクロウが戻ってきたのかもしれないな)

急いで帰ってきたのかもしれない。そう思い、入り口の方へと向かう。

途中、忍者の習性ともいえるべき、気配探査を行いながら。

そして玄関から感じる気配を感じた後だ。その気配に、俺は驚いた。


(・・・いや、ちょっと待て・・・この気配には覚えがある。確か・・・!)



思い出したと同時、もしかしてと入り口の扉を開ける。するとそこには。





「御麺に参りましたー」





銀色の出前用の箱を片手に携えた、うずまきナルトの姿があった。


「・・・うずまき、ナルト?」

一瞬その事実を認識できなかった。思わず、口に出してしまう。

「ういっす。ラーメン食べさせるっていう約束を果たしに来たよー。じゃあお邪魔・・・していい?」

「あ、ああ」

急な展開に、頭の中身がついていかない。即座に頷き、とりあえず家の中へと招き入れる。

「広い家だな。そういえば、姉兄のお二人さんは?」

と、うずまきナルトが入ってきた数秒後。


風呂場の方から、扉が開く音、そしてこちらに駆け寄ってくる足音が聞こえた。


「ん、これ誰の足音?」

「いや・・・」

風呂場に姉さんが、と言おうとした瞬間だ。

「・・・我愛羅、今うずまきナルトって!?」

バスタオルを胸に巻いたまま出てくる姉さん。

「お邪魔してますーって・・・」

「あ・・・」

予想外の姿に硬直するナルト。そして自分の格好を認識したのか、同じく硬直するテマリ。

静止する時間。痛すぎる沈黙が、空間を満たした。

静寂のひととき、それを破ったのは、姉さんの悲鳴であった。

「1qうぇ34r5t6ゆ7いお!?」


姉さんは悲鳴を上げながら印を組み、そして拳を突き出した。


風遁・旋空破だ。


弱い威力だったが、硬直しているナルトには十分に有効となったらしい。


「風に流されて!?」

その風に飛ばされ、入り口の方へと吹き飛ばされるナルト。


俺の方は砂のオートガードが間に合ったので、飛ばされる事はなかった。同時、ラーメンの箱もガードする。

そして、玄関の扉がまた開いた

「ただいまふぅ!?」

飛ばされたナルトが、空中で回転。着地しようと足を突き出した先に、カンクロウの顔面があったのだ。

吹き飛ばされるカンクロウ。

「あれ、何か誰かにライダーキックかましちゃった!?」

慌てるナルト。

「うわぁぁぁぁー!」

悲鳴を上げながら風呂場に戻っていく姉さん。



「・・・・・・・」

大混乱だった。





「取りあえず、偽装結界張るねー」

監視を警戒し、ナルトが家の周囲に結界を張る。即席のやつなので、一晩しかもたないそうだ。

それが終わった後、取りあえず3人で挨拶をする。

「ちゃっす。うずまきナルトaka小池メンマでっす。よろしくシンタロー」

「カンクロウじゃん! ロウしか合ってないじゃん!」

「よろしく、テマリ」

「よろしく」

「聞けよ! っていうかテマリの名前は覚えてて、何で俺の名前忘れてるじゃん!?」

「え、言っていいの? どうしても、っていうなら事細かに嫌という程説明するけど。懇切丁寧に。容赦なく」

「・・・」

黙るカンクロウ。メンマはそうだろうそうだろうと言った後、脇に抱えていた紙袋を目の前に置き、袋を破り出した。

「それより、君にプレゼントあるんだー」

「え、マジで? ・・・って何これ、革ジャン?」

黒の革ジャンを差し出した後、ジェスチャーで着てみてよと言うナルト。

「・・・・着たじゃん」

即座に鏡を持って来るナルト。鏡に映る自分の姿を見たカンクロウは感想を一言。

「・・・似合わないじゃん」

「ブラボー!」

親指を立ててにかっと笑うナルト。何がしたいのかさっぱり分からないという風に首を傾げるカンクロウ。

「・・・一体、何がしたいじゃん?」

「いえいえ。それプレゼントです。耐毒性能がある優れものだがら、2年後の決戦には是非ともお試しを」

「・・・2年後? 決戦?」

不穏な言葉に、3人が黙り込む。

「いや、それはまた後で。・・・で、どう、我愛羅。あれから何か変わった事あった?」

「特には無い・・・しいていえば、約束を果たしにラーメン食べに木の葉隠れに行ったが、お前が姿を消してしまっていた事ぐらいか」

「すみません」

土下座を敢行し、謝罪するナルト。



そしてかくかくしかじかと説明を始める。

「・・・成る程。だから木の葉から脱出したのか。それならば仕方ないとも言えるな」

「そうなのよ。妹、キリハには泣かれるし、慣れない悪役演じる事になるし・・・もう散々だったよ」

「・・・えっと、我愛羅?」

初めの挨拶からずっと、硬直していたテマリが動き出す。

「何だ、テマリ」

「その、本当に、こいつが?」

「ああ、うずまきナルトだ・・・どうした?」

「いや・・・その姿だけど、変化しているのか、本当に?」

「してます」

「・・・いや、全く分からないな」

「7年間、全くばれなかったからね。日向家当主クラスの白眼でもないと見破れないよ」

隠密術も世界で五指に入るぜ! 全く嬉しくない特技だけどな!

と偉ぶるナルト。

「どういう原理の術だ? 変化のじゅつだけじゃないだろう?」

ナルトはテマリの質問に対し、口に人差し指を当てて答えた。

「禁則事項です・・・いや、それよりも早く、これ食べて食べて」

と、出前の箱の中からラーメンを取り出すナルト。

「小池メンマ特製、夏塩ラーメンでっす」

「塩ラーメン?」

「そう。砂隠れ産の塩を使った、特製冷やし塩ラーメン。味は食べてのお楽しみってね」

自慢げにずずいと突きだしてくるメンマ。

「・・・頂こう」

我愛羅が頷き、レンゲを片手にまずはスープを一口飲む。

「・・・これは何だ? 塩だけじゃない・・・この深みのあるコクは」

「魚介系の出汁・・・いや、これは・・・貝か? 添え物はトマトとレタス、夏の野菜か・・・鳥のささみも入ってるな。他は分からないが」

「貝は火の国の南にある海でとれる貝。ナルキ貝っていう。後は鳥と、玉ねぎの甘みを交えて、砂の塩をちょっとね。こういうのに、豚のような油っぽいのは合わないから。でも、ここの塩いいね。深みが合って。これなら、砂隠れみたいな、暑い地域専用って事で。これなら、このクソ暑い砂隠れの里でも、美味しく食べられるだろ?」

そして、胡麻を少しまぶしてある。栄養も抜群だ!

「・・・ああ、確かに。上手いし、何だか食べていて涼しくなる」

「何か、癖になるな。食べ始めると止まらん」

「っしゃあ!」

とメンマがガッツポーズする。

そしてそろそろとレシピを差し出した。

「これ、このラーメンのレシピ。結構簡単に作れるから、里中に広めてみるのもいいね」

「いいのか? 苦労して考えた味だろう?」

「多くの人に食べてもらえれば、一番。今はそうそう外に出られる状況じゃないし、砂隠れに頻繁に来られる訳でもないしね。ま、食べた後の感想は聞かせてくれ。

改良の余地があるかもしれないし。それだけでいいよ」

「そうか・・・ってカンクロウ、お前もう食べたのか」

「いや、だって美味しいじゃんこれ」

あうあうと一気に食べて、スープまで完食したカンクロウ。それを見たテマリが、呆れた声を出す。

「ちょっと前、ラーメンなんかとか言っていたのになあ?」

テマリが悪戯な笑みを浮かべ、カンクロウに言う。

だが。その直後である。



「ラーメン、“何か?”」


眼前の男が放った、たった一言でによって。


場が凍った。













~カンクロウside~




(体が、動かないじゃん)




---死んだと思った。




大型の獣に昆虫が蹴散らされる様に---。




(・・・・っつ)




想像を絶する深い情熱が、一瞬その灼熱の淵をのぞかせた。


眼前の男の内側から----。



全身が沸騰する。汗が止まらない。





「・・・」



直後、眼前の男の背中からするすると、とあるものが引き出された。



(ネギ?)


白と緑のコントラストが美しい、一本のネギ。だがそれは、異様な輝きを放っていた。



(冷や汗が止まらない。何故? なにゆえ---)


十字に合わせられるネギ。まるで誰かの墓標のようなそれを見て、俺は戦慄した。


・・・理解しなければ、俺はここで掘られる。これでも、幾度もの修羅場を潜ってきた忍びだ。



直感的に理解した。




(そう、俺はさっき何を言った? さっき俺は何を知られた---)



ラーメン、“何か”? ・・・そうか、それが原因か。


謎は解けたじゃん!


「いや、違うじゃん! 麺って本当に美味しいじゃん!」



その返答が正解だったのだろう。


「・・・嘘、偽り無いな?」




「おう! 素麺てほんと最高だよな」





言葉を最後まで口にする事は適わなかった。




我愛羅とテマリの2人が目を逸らし「さらば、我が兄」とか、「達者でな、愚弟」とか呟いている。







「ラーメン」








かくあれかしとばかりに、いっそ神々しい一本のネギが、とある男の肛門をするりと貫いた。











「アッーーーーーーーーーーーーーー!」












~我愛羅side~


隣で尻にネギを挟んだまま倒れているカンクロウは放置して、情報を交換しあう。

暁という組織の事。その目的。構成員。

「・・・以上だ。取りあえずあいつらに対する策とかは今考えている途中なんで・・・後日また話に来るよ」

「そうか・・・・」

俺は呟き、考え込む。取りあえずで伝えられた内容でも、十分に衝撃となる事だった。

(暁・・・)

この人柱力の力を欲しているらしい。

そして、砂隠れの抜け忍・・・“あの”赤砂のサソリと、デイダラとかいう岩隠れの抜け忍。

(・・・どうにかせねばならんな)

至急、対応策を練る必要がある。だが、3人だけでは少し厳しいとも言える。

今の俺達は下忍か、もしくは中忍程度の扱いでしかない。前風影の子という立場はあるが、それも一応の事。

(・・・この情報をそのまま上の連中に言うのは止めた方がよさそうだな)

良いように利用される可能性が無い事もない。上層部は今だ俺を疎んでいる筈だ。

迂闊に情報を渡すのはよした方がよいだろう。

そしてあるいは、情報を提供してくれたうずまきナルトへ迷惑がかかるかもしれない。

(そうしないためには・・・)

いっそ、上り詰めるか。一番、上まで。この里の頂点まで。俺のしたい事をするために。

「・・・分かった。貴重な情報、本当に感謝する」

「いやいや、どういたしまして。細部の説明に関しては・・・また後日、詰めに詰めて持って来るからその時に。こっちでも対策案まとめ中だしね」


「ああ。暁の件に関しては了承した・・・で、だ」

「ああ分かってる・・・・あの『声』に関してだな?」

「やはり、お前にも聞こえたのか・・・」

俺とナルト、2人が沈黙する。

「正直・・・俺は今までに、ああいう『質』の声は聞いた事がない。憎みもなく、怒りもない・・・ただ純粋な殺意のみで構成された声など」

本能を直撃する爆撃のような声。理性も何もあったものじゃなかった。あの声を聞いて恐怖しない者など、いはしまい。

「同じく。そして俺達にだけ聞こえたというのは・・・ねえ。やっぱり人柱力に対してのみに発せられた声なのかね」

「恐らくはそうだろうな。現状、砂の方に動きは無いが、他国の人柱力に関しての事は、五代目火影が動いてくれているらしいから。

五代目の動きに追随して、俺達も調査を始める事になるだろうが・・・」

「そうか・・・でも、あれは何だったんだろうな」

「情報が足りない今、俺には分からないとしか言いようがないが・・・」

何ともいえない危機感が消えてくれない、と2人がため息をつく。

「・・・お前達がそれほど迄に怯える、声か・・・どういう声だったんだ?」

「ん・・・そう、何て言うか・・・殺気ってあるだろ?」

「ああ」

「あれを煮詰めて煮詰めて抽出して濾過して蒸留したような声・・・殺意の結晶っていうの?」

「ああ、それに近いな」

頷き合う2人を見て、テマリがため息を吐く。

「まったく、次から次へと・・・」

「本当にね・・・」

テマリのため息に同調して、メンマがため息を吐く。


「こうなれば・・・今日はもう飲むしか!」

「ええ!?」

「あら、こんな所にお酒が」

と、紙袋から酒を取り出すメンマ。

「賛成じゃん! 明日は久しぶりの休みだし!」

その銘柄を見た瞬間、カンクロウが尻のネギをスポンと放ち、起きあがってはしゃぎだした。

直後、「恥ずかしい事をするな!」とテマリのドロップキックを喰らって吹き飛んだが。

「これは・・・確か、銘酒“乱れ雪月花”?」

俺でも聞いた事のある程に有名な酒だ。かなり高額なものだと聞いたが・・・

「そうそう。前に自来也からがめたヤツでさー」

借りを返してもらう代わりに、らしい。悪党の表情を浮かべながら言うメンマが、どことなく怖かった。


とくとくとく。酒が流れる音がする。


テマリが持ってきたグラスに、酒をそそいだあと、それぞれがそのグラスを取る。


「お、いいグラス使ってんね。・・・それじゃあ、かんぱーい」

「・・・お、うまいじゃん!」

「・・・確かに。これは凄いな」

「ああ、確かに。初めて飲むが、酒とは美味いのだな」




確かに、美味かった。美味すぎた。

・・・それが良くなかったらしい。




そこから先にあった事はあまり覚えていない。



何故かカンクロウがテマリの鉄扇の上で転がっていたのは覚えている。

テマリが赤い顔をしながら「いつもより多く回していまーす」と笑いながら、クロアリの中に入り込んだカンクロウを風で包み込み、回転させていた。

ナルトが「流石はエアマスター・・・!」とか言っていたが、意味が分からなかった。

というか腕がカクカク動いて気持ち悪かった。それを見ていたナルトが「ゲッダン~」とか歌い出したが、それも訳が分からなかった。




そして何事かを愚痴りあったのは覚えている。

「キューちゃんがさ~」とか愚痴るナルトのヤツが、急に自分の頬を殴りだしたのは驚いた。本格的に酔ったのだな、と聞くと「あー、まあそんな所」と苦笑していた。

次に俺は好きな人が居ないのか、とか聞かれたので、そういうのはいないが気になっているヤツはいると答えた。

凄い驚かれた。テマリとカンクロウに。

テマリは「赤飯、赤飯を炊かないと!」とか言い出した。酔っているのだろう。そっと忘れる事にした。

カンクロウは「いいなー彼女。いいなー・・・俺、いっつも戦化粧してるから女の子にもてないんだよなー」とか愚痴り出した。酔っているのだろう。

「いっそ男前な意味での化粧はどうだ?」とかナルトに言われていたが、「想像したが、キモイな」とテマリに断言されて、凹んでいた。今はあっちでずっと鳥のささみを毟っている・・・兄に幸あれ。

ナルトは「あー分かる分かる。俺も今までずっと流浪の日々だったし、木の葉に着いても正体もあんま明かせなかったから、縁なんて無かったし・・・って痛い!? キューちゃん何すんの!?」

と、呟きの途中、また頬を殴りだした。酔っているのだろう。



それから数時間後。酒を飲み干した後だ。

カンクロウは床に大の字になって寝ている。テマリとナルトは少し話があるらしい。向こうの部屋へと行った。


俺も、天井を見上げながら眠りにつこうとしている。




(馬鹿騒ぎだったが・・・・楽しかったな)


目を瞑り、眠りに落ちる寸前、呟く。


(夜叉丸・・・俺を愛してくれる人はいたよ)


家族に共に生徒。縁の名前に違いはあれど、それは暖かい縁。

絆という名の、縁の環。

もちろん、恨みで繋がる縁もあるだろうけど。


(顔を見たこともない母さん。俺はこれから頑張るよ)

繋がっている以上、何処かで分かり合える時が来ると思うから。例えそれが許されなくても。

ただ、憎むことは止めようと思った。憎しみからは何も生まれないと、誰よりも知っているから。



(だから、全てを愛そうと思う)


人となり、人と共に人として生きる為に、力を振るい、この里にいる人を守ろう。隣にいる人を守ろう。


故に我、人を愛す修羅。


力を使って、愛する人を守る。修羅と呼ばれようとも誰かを憎まずに、人を愛せるようになる。

“力は所詮、手段に過ぎない”

そう、教えられたから。そう在りたいと思うから。

もっと大事なものが其処にはあると、そう思うから。



---答えは無い。

未だ見つかっていない。

それはきっと、この道の先に有る。



故に、俺は行く。過去を振り切って、ただ前を見つめながら。



(・・・・だから)




さようならとの別れの言葉を告げて。




俺は眠りに落ちた。

















---悪夢はもう、見なかった。












[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 幕間の2 ~テマリ~
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2009/08/22 16:23
※オリジナル設定あり。無理な方は飛ばして下さい。





~テマリ~



「で、話って?」

移動した先の部屋。

2人は、テーブル越しに対面する形で椅子に座った。

話を聞こうと切り出したナルトに、テマリは深く頭を下げる。

「まずは礼を言う。4年前のあの時・・・私たちを助けてくれてありがとう」

「・・・いや、まあ、成り行きだったし、気にしなくても・・・」

「でも、助けられたのは事実だろう? ・・・っと、そういえば、何でお前はあの時私たちを助けてくれたんだ?」

「いや、先に遭遇したのは俺の方だったし。俺が原因で、そして俺の目の前で誰かが殺されるのを見てるだけっていうのはちょっと、ね」

「それだけの理由で? 暴走した守鶴と対峙しようと決めたのか?」

「それで十分。それに、完全には暴走していなかったしね。完全体にも成っていなかったし」

「ああ・・・」

その言葉に何か思うところがあるのか、テマリが少し考え込む仕草を見せる。

「そういえば、もう眠れるんだな、我愛羅のヤツ」

「ああ・・・木の葉崩しが終わって、少し経った後でな。バキが言っていたよ。眠れるようになったのは、人柱力をコントロールできるようになった証拠だ、とな」

でも悪夢に魘されているようで、と心配の表情を浮かべるテマリに、ナルトは笑いかける。

「優しいなー。俺もそんな心配をしてくれる人が居たら・・・って痛いってばよ、キューちゃん」

「・・・どうしたんだ、いきなり?」

「いや、何でもない」

「急に口調は変わるし・・・何か、病気でも持っているのか?」

心配の表情を浮かべるテマリに、ナルトはありがたやありがたやと拝みだす。

「ほんまに優しい、ええ娘や・・・」との呟きを聞いたテマリの顔が、少し赤くなる。

「や、その、だから・・・お、恩人だから心配するのは当たり前だろ?」

両手を前に突き出しながら違うと動かすテマリ。

かわええと思うナルトだったが、一つの言葉に引っかかったのか、椅子に深く座り、俯きながら呟きだす。

「・・・恩人、ねえ」

そして、沈み込んだ表情を浮かべる。テマリには見せないようにしながら。

「どうなのかなあ。確かに、助けたっていうのはあるんだけど」

酒を飲みつつ、言葉を続ける。

「そんなつもりで助けたんじゃ無いんだよなあ。だって卑怯じゃん、それって。恩を売るために助けたわけでもないし・・・」

「ナルト?」

テマリの呼びかけに顔を上げ、何でもないからと返し、頭を抑える。

「・・・いかん、酔ってるな、俺。しっかしテマリは結構酒強いよな」

さっきは酔っているように見えたけど、と聞くナルトに、テマリはああ、と頷きながら返す。

「私は、回復するのは早いんだ。とはいっても、シラフの時と比べたら十分に酔ってるけどな」

「へえ、ということは結構飲んでるんだ」

「ああ・・・まあ、飲みたい事が多かったしなあ」

「そうだねえ・・・カンクロウも、そうなのか?」

「ああ。まあ、色々と見てきたしな。我愛羅の事も、死んだ四代目風影の事も・・・」

「でも、カンクロウの方も、我愛羅に結構歩み寄ろうとしてるみたいだったけど」

「話を聞かされてからはな。我愛羅も以前と比べればかなり落ち着いた状態になったし・・・元々、嫌いという訳でも無かったんだろう」

「我愛羅の方は気づいてるのか?」

「何となくはな。まだあの子は人の機微に疎い」

「浮世離れしてたって事か・・・それは、ひょっとして、自動防御する、あの砂のせい?」

文字通り、殻だろうあれは。

「ああ。あの事件があった夜。・・・まあ、内容は流石に言えないけど・・・あの夜以来、自分が傷を負う機会が完全に無くなったからな・・・他人の痛みが分からなくなったのかもしれない」

「自分が傷つけられる事も無かったもんね。他者の存在も、自分の存在も、明確に実感できなくなったのかもしれないな」

「それも、お前に殴られてから変わったよ・・・というか、話には聞いたけど、ほんと正面から殴りに行くとはな・・・」

あの時もそうだったがと呟きながら、その光景を思い出したのかテマリの顔が赤くなる。

「ああ。なるべくは、人を傷つける時でも、拳かクナイか、直接手に感触が伝わるようにしてるんだ」

殺す時は絶対に、と呟き、手を見る。

「嫌いというのもあるけど、あの感触を忘れたらいけないと思うんだ。そうしないと、変わってしまいそうだから」

止めを刺す時には必ず、拳かそれに類するものを使う。

「自分も、痛みを感じる方がいい。それを忘れると、本当のクズになってしまいそうだから」

そういいながら酒を煽り、グラスを置く。

「俺は所詮、こんなもんだ。結局は誰かを傷つける事が出来る男だ。だから、恩人とかそんな大層に言われるような存在じゃあない」

「でも・・・今まで、何人かを助けてきたんじゃないのか?」

「誰かを傷つけてな・・・自分のために」

それに、助けられなかった人も居る、とポツリ呟く。

「それは、誰だ? 木の葉の関係者か?」

「いや・・・まあ、とある昔にあった、情けない男の話だから」

言いたくないと首を振るナルト。

「そうだな・・・」

「だから、さ」

「うん?」

「恩人とか、そういうんじゃなくて。何て言うか、こう・・・」

ナルトが手を差し出す。

同時、何を思ったのか、テマリの顔が赤くなる。



わたわたと慌てるテマリに、ナルトは告げた。



「そう、友達に成ってくれないか?」


テマリはずっこけた。


『いや、それは無いわー』とか、『・・・この鈍ちんが』と誰かの声が聞こえた気がした。




テマリは何とか床から起きあがり、言葉を反芻する。


「と、友達?」


「そう。テマリってラーメン好きなんだろ?」

「ああ、まあ」

「だから、友達。正直言えば、男前にラーメン全種を食べ尽くした姐さんに少し惚れました」

喜んでいいやら旅立っていいやら~と、頭を抑えながら叫ぶテマリ。

「でもあの時言えなかったんだけど・・・」

「な、何?」

乙女の期待が高鳴る。

「あの時、笑った時ね・・・」

「あ、ああ」











「葱が前歯に挟まっていたんだ」


言えなくてゴメンと頭を下げるナルト。



「・・・・」




テマリは黙って横に倒れた。




「あれ、どうしたの・・・て痛いよキューちゃん!? 何、デリカシー? 何か言ったか俺・・・って痛い!」


自分の頬を乱打するナルトと、倒れるテマリ。






カオスだった。












いっそ殺せ・・・とか、どうしたらいいんだ・・・とか、呟きながらも立ち上がるテマリ姐さん。

漢である。

「こういう時、どんな顔をしたらいいのか・・・」

「・・・笑えばいいと思うよ? ってちょっと待ってストップストップ」

鉄扇に手をかけたテマリをどうどうと言って落ち着かす。

駄目だ、笑顔は今禁句らしいとナルトは悟った。

「それで・・・今、お前の横にはうちはサスケと・・・他に誰がいるんだ?」

「霧の抜け忍、再不斬に白。音の抜け忍、多由也」

「・・・色々とカオスだな」

「まあ、各員に共通点はあるけどね・・・今は留守番しつつ、修行中ってとこ」

「うちはサスケか・・・以前も見たが、やはり才能はあるのか?」

「うーん、はっきり言って天才だね。基礎がしっかりしてきた今、余計にそう思う。戦闘センスが段違いだし、戦えば戦う程に強くなると思う」

「そうなのか?」

「戦いながら技を開発する術にも長けているしね。出来れば実戦を経験させておきたいんだけど」

「・・・抜け忍に任務を斡旋する組織があると聞いた。そこに、任務を斡旋してもらったらどうだ?」

テマリの不意の言葉に、ナルトは驚愕の表情を浮かべる。

「・・・びっくりした。テマリ知ってるんだ、あの組織、『網』の事を」

「これでも風影の娘だったからな。弟2人があの調子だし、知っておかなければならない事は山ほどある」

「そうなんだ。“網”・・・その成り立ちについても、聞いた?」

「ああ。忍界大戦の落ち忍と、少しチャクラが使えるヤツらに任務・・・とは言っても、道の整備とか畑の開拓とかを斡旋する組織だろう?」

「そう。忍界大戦時、色んな所で戦いが起きたせいで、自然のバランスが乱れた所があったからね」

表向きは、といってもそれも裏の顔となるが、その復旧を補助する組織だ。

「その責任を負うべき立場にあった忍び達も、自分たちの勢力を早く取り戻そうと、躍起になってたからね」

国力回復というか、里の力を回復するのが優先であった。

「中途半端な血継限界も持たない奴らを追う余裕が無かったからな・・・とある人物がそれを纏めて、今の組織になったとか」

「負い目が有る分、黙認されているようだね。山賊になられるよりはマシだと考えたのかな? それに、ある程度は里側にも釘を刺されているようだし」

荒らすだけ荒らすまま里に帰っていった忍者達を見て、里の外の人間がどういう感想を持ったのか。想像するに堅くない。

「でも、無茶はしないみたいだけどね」

外部に秘密を漏らせば、必ずと言っていいほど追ってが差し向けられる。戦争と、里の暗部の冷酷さを知っている抜け忍達も、迂闊な事はしないと聞く。

「まあ、里との間との小競り合いは絶えないが・・・頭がやり手なんだろう、各国の有力者とも裏で取引をして、何とかだが存続を保っていると聞いた」

つぶすべきだという声もあるが、抑えが無くなると困ると言う声もある。

一枚岩でない組織だし、いろいろともめ事とかあるらしい。

「裏の組織だけど・・・まあ、お約束通りに、裏の仕事も持ってるから・・・潰されると困るマフィアとかヤクザとか居るんだろうね、きっと」

ガトーとか、ああいった種類の人間が必要とするのだろう。

「しかし・・・ずいぶんと詳しいな」

「一時期だけど、任務を斡旋してもらってましたから」

「・・・成る程」

テマリは納得したとばかりに頷く。

確かに、幼少時に里を抜けた・・・というか、追い出されるような形で外に放り出されたナルトが、実戦を経験するには、それしか手が無かったのだろうと納得した。

互いに、それ以上は何も言わないし、詮索もしなかったが。

「まあ、本来ならば存在さえ許されない組織なんだけど、無くなっても色々と困る点があるのは・・・まあ、否めないね」

忍び5大国って、任務依頼料が基本的にくそ高いし、と肩をすくめる。

「・・・耳が痛いな。だが、その組織に本当の面は割れていないのか?」

確か、『うずまきナルト』は指名手配されている筈だが? と訪ねる。

しかも特A級首である。オラ何にも悪いことしてないのに、というが、結構な事をやっているのである。あと、存在が存在なだけに、賞金クラスも高くなっていたのだ。

「それはほら、あの特製の変化の術だよ」

「・・・便利な術だな」

「ほんとにね。あれが使えなかったらと思うとぞっとするよ」

その場合、今以上に窮屈な日々を送る事しかできなかっただろう。


「そういえば、話は変わるけど・・・マツリって誰? どんな娘?」

ああ・・・と頷き、テマリは説明を始める。

それを聞いてナルトは大きく頷き納得したとばかりに手を叩く。

「あの時、助けた娘だったんだ・・・どうりで」

記憶にない娘だったと、ナルトは心の中で呟く。

「ああ。少し頼りないが、心の優しそうないい子だ」

「成る程ねえ・・・・世界が違えば、人も組織も違ってくる可能性があるってことか」

白もそうだったし、と呟く。

「こりゃ、情報収集を続ける必要があるな」

ため息を吐くナルトに、テマリは首を傾げる。

「そういえば、我愛羅から聞いたが・・・」

「うん?」

「お前の夢は、世界一のラーメン屋になる事じゃなかったのか? どうして、戦いに身を投じる?」

「ああ・・・そのことね」

説明し辛いんだけど、と腕を組んで考えるナルト。

「最初は成り行きだったけどね・・・ほら、あの声、あったでしょ? あれがどうも引っかかるんだ」

「そんなにか?」

「そう、何か・・・放っておけば、全て終わってしまいそうな・・・そんな予感がする」

何もかも終わってしまいそうで、と虚空を見上げ呟く。

「放っておいて・・・もしそうなったらと思うとね。怖いし、落ち着いてラーメンを作れないし。それに、お客さんが死んだら、誰にラーメンを食べてもらう?」

「そういう事か。でも、それほどまでに怯える必要は無いと思うが」

それに、そんな化け物が居るならば、噂になっている筈だろう? とテマリが訪ねる。

「まあ、準備はしておくに越したことはないよ。俺は神様なんかじゃないからね。出来る事は、来るべき事態に備えて、用意しておくことだけだから」

これからの展開は読めないし、と呟くナルト。

「目の前に映る人ならば助けてあげたいし、今隣に居る人を失いたくないし・・・そんだけだから」

と、一気に酒を煽る。グラスを置いた後、テマリを見つめながら告げた。



「だから別に夢を捨てた訳じゃない」


子供みたいな笑みを浮かべ、断言するナルト。


その笑顔につられ、テマリもはは、と笑みを浮かべた。


それを近距離で見たナルトは、指をパチンと鳴らしてはしゃぐ。


「今の笑顔! 綺麗! ナイスショット! いやー、今のは写真に収めておきたかった」

歯を見せた男前な笑みもよかったけど、今みたいな綺麗な笑みも素敵! とか身をくねくねしだす。大分酔っているようだ。

というか、今の一杯で危険度域まで達したようだ。限界突破である。

「・・・!?」

ナルトの不意打ちの言葉に、テマリ顔が爆発したかのように赤くなる。


「いや~、さっきのバスタオル姿も色っぽくて良かったけど、今の笑顔もイイ・・・ってあれ、姐さん? どうして鉄扇を持ち上げて震えてらっしゃる?」


目の前のテマリを見ながら、首を傾げるナルト。



「・・・っ、っつ!」


その眼前に、リンゴのように真っ赤な顔をしたテマリ。鉄扇を持ち上げながらプルプルと震えている。


喜びと怒りと恥ずかしさがミックスされた感情。それが何なのか分からないが、


”取りあえず今は目の前の男をぶっ飛ばす事だろう”という結論に達したようだ。傍目で見ていれば、『何故そうなる』という思考の帰結だ。



そして、もう1人。油に火を注ぐ達人が居た。


ナルトが緊張した空間の中、場を決定する致命的な言葉を吐きだしたのだ。



胸を凝視しながら、頷き、言う。




「・・・うむ、多由也と同等・・・いい胸してますね!」

サムズアップをしながら、朗らかに笑った。




普通にセクハラな発言をするナルトに、乙女の怒りの一撃が叩き込まれた。




「この、馬鹿!」




砂隠れのとある家の中に、鉄扇が頭にめりこむ音が響き渡った。








[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 幕間の3 ~サスケと多由也~
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2009/08/23 19:42
樹上、2つの影が交差する。


同時、鉄同士かぶつかりあう、甲高い音が森に響き渡る。


それを幾度。繰り返され、やがて2つの影は地上に降り立つ。




「・・・!」

影の傍ら。写輪眼を携えた忍び。

うちはサスケが相手方へと突進する。

そして、迎撃の構えを見せた相手を見つつ、突進を止め、横へ跳躍する。


そして樹にへばりつく。足底に纏わせたチャクラで吸着し、相手の出方を警戒しながら、上の方向へと少し移動する。


そしてまた跳躍。繰り返し、高速で相手方の頭上を往復する。


サスケは飛び回る自分を捉え、警戒態勢を維持し続ける相手の姿を見ると、懐の忍具を取り出す。



「はっ!」

そして、飛び立ちながら投擲する。


縦横無尽に飛び回りながら、クナイと手裏剣を放つ。


四方八方から、鋭利な切っ先をもつ鉄塊が飛来する。

だが敵は焦らず、事もなげに手に持ったクナイで全てを弾き飛ばす。

高速で飛来する物体を目視し、チャクラで肉体を活性させ、一瞬のうちに幾十ものクナイによる斬撃を繰り出す。

修練の末身につけた、熟練の技である。


「ちっ!」

それを見せつけられたサスケは、舌打ちを放つ。

その直後であった。



「!?」

相手が飛び上がり、自分に追随してきたのは。

一瞬で近接され、高速の拳が放たれる。

だが、それは捉えている。腕で防御しながら、後ろに飛び衝撃を逃がす。

「・・・!」


その拳の威力に押され、同時に後方に飛ぶ。

身体が宙に舞った。

そのまま何もしないままだと頭から落下するような体勢。だがサスケは空中で回転して、頭ではなく両足で着地する。


そして警戒。


程なく、追撃が来る。


目に捉えたのは、直線の軌道で迫り来る拳の乱打。
                                         ・・・・・・・・・・・・
それを写輪眼で捉えて、チャクラを纏わせた腕で弾く。そう、防御するのではなく、弾く。本命の一撃に備えるために。


「・・・っ!」

そして、腕が引かれる。同時、その反動で繰り出された回し蹴りがサスケの身に迫る。

常人が受ければ、内臓が破裂するような威力を持つ蹴り。初撃は牽制で、こちらが本命である。先の拳に気を取られていれば、こちらの蹴りを避けきることはできなかっただろう。

だが連携を読んでいたサスケは、跳躍する事で回避を敢行。同時、身を捻らせ、飛び後ろ回し蹴りを相手の頭部に放つ。


衝撃。


顔を捉えた衝撃ではない。蹴りは、片腕だけでしっかりと止められていた。そして、空いている方の手が自分の蹴り足を掴む。

強烈な力で締め上げられる足。サスケはその痛みに絶えながら、全身のバネを活かして身体を持ち上げる。

足を軸に力を込め、相手の頭上へと身体を移動させる。

直後、先程まで頭が在った位置を、相手の蹴りが通り抜ける。


「はあっ!」

そして、掴まれていない方の足で蹴りを繰り出す。相手は掴んでいた腕を放し、両腕で頭部を防御する。

サスケの方は、その蹴った足に力を込めて後ろに跳躍。


また、距離を開ける。

そして着地した。だが、その時である。




「くっ!」


足の痛みに気を取られ、少し体勢が崩れた。

そして、相手はその隙を逃すような甘い存在ではなかった。


瞬時に間合いに入り、追撃。


サスケは対応に一歩遅れてしまう。

その一歩を丁寧につめ、やがて連続して繰り出される体術。

精密な猛攻は徐々にサスケを追いつめる。


距離を開ける事もできないサスケは焦りだし、やがて決定的な隙を作ってしまう。


詰めからの一撃。王手を思わせる拳の一撃が、サスケの腹部を直撃する。



「・・・ぁあっ!」

腹筋を締めることは間に合ったものの、威力が威力であった。後方へ吹き飛ばされ、背中が樹の幹へと叩きつけられる。


打たれた腹部と、打ち据えた背中。

一瞬、呼吸が止まる。そして回復したと同時に動き出そうとするが、目の前に立つ相手の姿を確認する。


終わりだった。



「俺の勝ちだな」

模擬戦の終わりを告げる声。

再不斬がサスケを見下ろしながら、口を開いた。


「・・・ああ、俺の負けだ」

サスケは不機嫌そうに舌打ちしながら、自分の敗北を宣言した。








早朝の朝練が終わった後、サスケは隠れ家へと戻る。

「ただいま」と告げた後、居間へと入る。

そこには、多由也が用意した朝食が並べてあった。

「・・・帰ってきたか」

サスケが帰ってきたのを察知したのか、台所から多由也が出てくる。

マダオと白に新しく買ってきてもらった服。

赤い髪の女性によく似合う服を知っていたマダオと、サイズを知っている白が選んだ服だ。

その上にエプロンを付けていて、まるで主婦のようだった。

加え、以前よりずっと柔和になった表情。そして吊りながらも、以前とは違う、澄んだ瞳。



今、朝食を作り終えたのだろう。赤い髪を後ろで束ねている。

サスケはその姿と、少し見えるうなじを直視した後、少し顔を赤くしながら返事する。

「・・・ああ。朝練は終わりだけど」

髪の方を見るサスケ。多由也は今気づいたとその髪を触る。

「ん? ああ、今作り終えたところだから・・・」

外すかと呟きながら束ねている髪に手をやる。そして髪を纏めていた紐をそっと外す。

髪の毛が解かれ、すっと重力に引かれ、下に落ちる。

「・・・で、今日も負けたのか?」

やや落ち込んだ表情を浮かべていたのだろう。サスケの顔を見た多由也が、率直に訪ねる。

「ああ・・・」

「ま、そうだろうな」

音に聞こえた霧の鬼人。

ナルトにも聞いた。出逢ってからまた修行を重ねる事で、更に力を付けたと。

体術が売りの大刀使い。その冴えは今や世界でもトップクラスの域に達しているだろう。

「でも、何合かは打ち合えたんだろ? 大した進歩じゃねえか」

「まあ、そうなんだけどな・・・」

多由也の仕方ないという言葉を聞いても、サスケの表情は晴れない。どこか、焦っているようにも見えた。

「・・・じゃあ、ウチはこれで。今日は結界の調子を見回らないといけないから。」

だが、それは自分で解決する問題だと判断した多由也。さっと席を立って、台所へと戻る。

「食べたら下げておいてくれ。夕方に戻ってきて、すぐに洗うから」

「ああ・・・ごちそうさま」

「早いな、お前」

食べ終わり、食器を下げるサスケ。


そして再び居間へと戻ると、包みを持った多由也の姿があった。


「ほら、これ。弁当」

包みが手渡される。


「中身は?」

と思わず聞いてしまったサスケ。直ぐ後、「俺は子供か」と思ったのだろう。顔が少し赤くなる。

多由也はそんなサスケをからかうように笑みを浮かべ、中身を告げた。


「お前の好きな“おかか”のおむすびだ」


この前の詫びも兼ねて作った、と頬をかきながら言う。


「・・・・」

確かに、自分の好物だ。あの白米とおかかのコンビネーションに適うものなどいるのかと、サスケは常々そう思っていた。

梅干し派のナルトとの抗争は小一時間に及んだ程だ。

その第一次おむすび大戦だが、白の鶴の一声によって終戦とあいなった。

「このおむすびを見なさい。全てを内包するこの母性の極みとも言えるおむすび。その中に入っている具・・・いわばその子供の事で争うなど、あってはならない事ですよ」

綺麗な微笑みを浮かべながら言う白の姿。その背中に後光を見た。その場にいた全員が泣いた。


ちなみに九那実さんは「ならばそれを更に包む、稲荷寿司は全ての頂点に立つ存在じゃな?」

とその場の空気完全無視な発言をしていたが、胸を張るその姿と鼻の頭にくっついている御飯粒、その絶妙のコラボレーション。ナルト曰く“蕩れ”クラスの至高の可愛さによって、全ては許された。

可愛いは力だと、そして正義だと知った14の夏だった。サスケは少しだけ大人になった。


・・・「空気読め」と呟いたマダオ師は九連の狐火によってあの空の向こう側まで吹き飛ばされていたが・・・それはまあ、余談である。




思わず話が脱線してしまったが、何が言いたいかというとサスケはおかかのおむすびが大層好きだった。前の8行、完全に無視である。

おかかと聞いてにやりと笑ってしまうサスケ。その顔を見た多由也がぷっと笑う。


「・・・・!」


多由也の笑い声が聞こえたのだろう。サスケの顔がまた赤くなる。


「あはは、じゃあな」


軽快に笑いながら、多由也は部屋を出て行った。



「・・・まいったな」

サスケは、頭を抑えながら恥ずかしそうに呟く。


「まいった」

これだけで頑張れそうだ。そう思った自分に呆れる声を出す。



「・・・今日も、頑張るか」


午前は基礎訓練。それからは、再不斬と白との連携術の訓練。

以前から暖めていた術だが、そろそろ実戦に使える練度まで鍛え上げなければならないだろう。


「行ってきます」

サスケは勢いよく訓練場へと走り出した。










そして夜。帰ってきた多由也と白で、再不斬の好きな料理を作った。

再不斬の好物は白から聞いていたらしい。鮎の塩焼きと、だし巻き玉子。

それを食べている途中、無表情を装おうとしている再不斬のその姿を見た全員が、笑いをこらえようと肩を振るわせていた。



思えば、最初の頃とは印象がまるで違う。

サスケと多由也は語る。

最初に見た時は、凄いヤクザ顔でほんともうどういう人なんだろうと。

サスケは特に、波の国での一戦があったので、緊張していた。


だが、日が経つに連れ、その認識は変わっていった。

遅刻しないし、修行はちゃんと見てくれるし、文句も言わずに相手をしてくれる。アドバイスも的確だった。本人曰く、『任されたからにはやり通す』だそうだ。何故だが涙が溢れた。

カカシとは大違いだ。

風呂に入っている途中、サスケが再不斬にそう告げると、何ともいえない表情をしていた。ちなみにそれを聞いていたナルトは爆笑していた。

マダオ師は憤懣やるかたないという表情を浮かべていた。

・・・遅刻はやっぱり駄目らしい。駄目駄目らしい。当たり前だが、感覚が麻痺していた。雨の中3時間待ち続けたあの日を思い、涙を流した。そういえば、あの同志達は元気にしているのだろうか。

とまれ、あれが普通だと思っていたと再不斬に言うと、直後「俺はあんなヤツに・・・」と呟きながら凹んでいた。


あと、ナルトから聞いた情報だが、というか見ていて分かるが、実は白の尻の下に敷かれているらしい。

2人は即座に納得した。というか、今更的な感があった。時たま起きるロマンス空間は正直見ていられませんと首を振りながら。




総評として抱いた感想。

基本は真面目。敵には容赦無いが、味方側にはそうでもない。


纏めてみると、割と普通の人だった。

・・・酒盛りの席ではそれが特に際立った。

「きゃっほー! まっゆなし! まっゆなし! ところで白とはどこまで行ったの? 対流圏? 成層圏? ・・・それとも、熱圏?

きゃー、熱っつーい! 恋の摩擦で焼け死ぬわー! 周りの目という重力など、ロケットみたいな情熱力で振りほどくんだね! 一直線でぶっちぎるんだね! ・・・何という純粋で一途な、悲しい機械!」

顔を真っ赤にしてまくしたてるナルト。

・・・正直、とてもうざかった。


後日、「最近マダオ師に似てきたぞお前」と伝えると凹んでいた。未だにあいつらの関係が掴めない。


ちなみにマダオ師だが、「白ちゃんにセーラー服をプレゼントしたいんだけど・・・いいかな?」

と、再不斬に真顔で詰め寄っていた。その手の中には、純白の聖衣があった。

答えは簡潔だった。

「死ね」

その後はいつもの光景。

大刀を振るう再不斬と、逃げる2人。白が微笑みながらそれを見ていた。

ちなみに、九那実さんは一心不乱に稲荷寿司を食べていた。あまりにも一生懸命で、声がかけられなかった。

そしてそのほっぺたに御飯がついていたのだが、それを見た多由也が口を押さえながら顔を真っ赤にして、「・・・かわいいな」とか呟いていた。


・・・どうやらこの口調だけど、可愛いものはとてもとても好きらしい。

俺はそう理解した。


酔った勢いで、素直にその事を伝えると、顔を真っ赤にしながら「クソネズミが!」と怒鳴られ、殴られた。

理不尽だと思う。



「女心って難しい」と呟くと、暴れていた3人がこっちに近寄ってきて、もの凄い勢いで同意してきた。そして肩を叩かれた。

・・・・向こうで笑みを浮かべている白と九那実さんの笑顔が怖かったのはここだけの話だが。




そして、一緒に過ごし始めて数ヶ月。

再不斬の真人間っぷりを理解した2人は、その再不斬に対して尊敬の念さえ抱いていた。

周りが周り故に、まともにならざるを得なかったのだと。そう悟されたから。



まあ再不斬本人も、気兼ねなく接してくるナルトとマダオ師に対して、悪い気分は抱いていないのかもしれないが。

何しろ、あの顔だ。少年期は大層荒んでいたと聞くが、それも顔が原因だったのかもしれないと・・・白が酔った勢いで語っていた。

どこまで本当かは分からないが、妙な説得力があった。これからはまゆなしさんと言うことは止めようと誓った2人であった。


ちなみに白に対しての感想だが、2人結論は同じ。

綺麗だし、基本的に優しいんだけど、怒らすと誰よりも怖いというか・・・まあ、再不斬一直線で再不斬ラヴなのは分かるけど。

ちなみに2人は白の事を心の中で『白の姐さん』と呼んでいた。








「思えば、変な関係だよな・・・・」


温泉に入りながら、空を見上げ呟く。

今日は快晴だった。秋の最中、やや澄んだ空気が夜空を照らしている。

見上げると、満点の星空が広がっていた。



「まったくだな」

問うわけでもなく零れ出た独り言に、答える声。

衝立の向こうから声が聞こえた。


多由也の声だった。



「というか、変なヤツだらけだな。この家は・・・皆、優しいが」

「まあな」

と同意し、笑いあう。


「考え方というか、思考が大人なんだよな。一体どういう人生を送ってきたのか・・・」

「まあ、色々とあったんだろう」

俺達と同じくな、とは心の中で付け足す。

互いに、それなりの過去を持っているのは分かっていた。だが、今はだれ1人としてそれを口に出そうとはしない。

今が大事だと、過去の相手と付き合う訳ではないと理解していたからかもしれない。

「あと・・・今日は、弁当美味かった」

「・・・どうした? 変なモノでも喰ったか?」

と、からかうような多由也の声。

「いや・・・っていうか、お前の作ったもの以外食べてないよ」

「・・・いや、そうか。それもそうだな」

衝立越しに会話を続ける。

「お前、本当に口が悪いよな。何か、親がそうだったのかあるのか?」

サスケが訪ねる。多由也はうーん、と呻き、何かを思い出すような声をだす。

「いや、下忍に成り立ての頃・・・女だから舐められないように、って事で始めたんだと思う・・・・大蛇○の周り、男だらけだったしな」

「やっぱり・・・そういう趣味があるのか? あのオカマ」

「いや、ウチは良く知らんけど」

知りたくないし、と首を振る多由也。水が跳ねる音と同時、温泉の水面に波紋が広がった。

「そういえば、結界の方はどうだった?」

「問題なし。いや、凄い出来だし、一応の見回りだったからな」

結界術の知識に関してだが、ナルトとマダオを除けば多由也が一番詳しい。そういう術を重点的に修行していたらしい。

「結界の整備に、家事食事か」

忙しいな、とのサスケの呟きに、多由也は笑って返す。

「逆に、ウチでも手伝える事があるってのが有り難いよ。手持ちぶさたじゃなあ・・・在る意味で、居心地が悪くなっていただろうから」

ナルトもそうだけど、マダオ師も大人の考え方が出来るよな、と呟く。

・・・持ったことも無いし、全く知らないが、父のような兄のような存在。そして、恩人だ。それを伝えると少し嫌がられたが。

恩を売るために助けたわけじゃないと、そう言っていた。その話に加え、夢とか音楽の話を聞いた多由也は、尊敬の念で2人を見ていた。

ちなみにキューちゃんは、哀れな・・・と呟いていた。少し嬉しそうだったが。


「・・・例の、笛の練習は?」

「ああ、順調だ。術は一つだけだけど、完成した。明日にはあの3人が隠れ家に戻ってくるらしいから、その時に聞かせるよ」

「・・・・」

「大丈夫だって。前のような事には成らないから」


『俺達ユートピア事件』

誰にとっても、忌まわしい記憶しか残さなかった、凄惨な事件である。

特にマダオ師の混乱が激しく、「次は腰ミノを着けながら!」と訳の分からない事を叫んでいた模様。

その傍ら、ナルトが多由也に向かって「あれは素だから心配しないで」と告げていた光景。

サスケは思い出して、笑った。シュールだった。まあ、俺達も十分に・・・

「いや・・・」

思い出したくないのだろう。サスケが急に話題を変える。

「今、口調が少し女っぽかったぞ」

「そうそう。少しづつ直していってるんだ。隠れ家の外に出るときだけど、色々と直す必要があると言われたから」

「・・・ああ、そういえば、屋台を持って全国武者修行の旅に出るとか言っていたな」

「売り娘を手伝うしな。代わりに、そのラーメンを食べに来たお客さんに笛を聞いて貰えるから」

「感想でも聞くのか?」

「それで見えてくるものもあるだろうしな。独りよがりの音を奏でるつもりはない」

多由也はサスケの問いに、力強く答えた。

「そうか・・・」

「ん? 何だ、まだ落ち込んでいるのか?」

「まあな。俺は本当に成長しているのかどうか・・・」

周りがあれ何で、実感が沸かないと呟く。

そして、何気ない仕草だったのだろうが、封邪法印で封印されている呪印を撫でる。

「もしかして、呪印の力を使おうとか考えているのか?」

「・・・」

「止めた方がいいぞ。そんな力、あったって良いことなんて一つもない」

「だが・・・」

「ナルトとマダオ師にも言われたんだろ? お前が目指す者は憎しみを積み上げたぐらいで成せるものなのかって」

「・・・」

「それに、そんなに便利なものじゃないぞ、呪印・・・大蛇丸とか、カブトとかが、自分に呪印を刻んでいないその理由を考えろ」

「・・・確かに、そうだな」


頷き、衝立に背中をもたれさせるサスケ。


「本当の目的すらも見失うぞ。その気は無くたってな。だから、今のまま頑張るのが一番良いよ」


多由也は衝立に背中をもたれさせ、星空を見上げながらその向こうにいるサスケに対して質問する。


「お前も、あの言葉を聞いたんだろ?」

「ああ・・・」




「「意地を見つけたのなら、その意地を貫き通せ・・・善いとはただそれだけだ」」


2人の言葉が響き渡る。



「九那実さんも言っていたよ。人の意地とは大したものだってな。化け物には無い、人だけが持つ立派な剣だと」

「そうだな・・・」

少し、焦っていたのかもしれない。そう呟いたあと、サスケは多由也にありがとうと返す。


「そうだったな。力に使われるのも、力が持つ運命に囚われるのもまっぴらゴメンだと・・・そして、選んだんだったな。忘れていたよ」


「・・・まあ、私もそうだったから、強くは言えないんだけどな・・・」





衝立越しに背中合わせになりながら、同じ星空を見上げる2人。




互いに抱く気持ちは同じだった。




それはかつて、ナルトが思った事。選んだこと。




自らの意志を恥じぬなら。

力持つ存在に媚びぬなら。

そして、運命とやらに抗うと決めたのならば。




同じく、やり直す機会を得た2人

その心に宿る意志は同じだった。


「多由也は、本当に音楽が好きなんだな」

「ああ。好きだ」

「明日、聞かせてくれるんだよな?」

「あの3人が帰ってきたらな。色々と、曲の案についても聞いてるし」

「・・・なんか、意外だな。あのナルトが?」

ラーメン命と思っていたが、と呟く。

「音楽も好きらしい。特に歌が好きだそうだ。自分を奮い立たせるには基本麺だが、食べられない時は謳っていたらしい」

少し前に聞いたんだ、と肩をすくめる多由也

「1人、森の中で修行している最中だけど、静かに謳っているのを聞いた」


確か、こういう歌詞だと多由也が歌い出す。


夜空の下、多由也の声が響き出す。

光が無くても、歌は歌える。夜にあって尚、歌は響く。

誰にもそれを止めることはできない、誰もが持っている偉大な力だという。

声ある者ならば、誰もが持ち得る、人が生み出した偉大な力という。

1人だけでは持ち得ない、誰かと一緒にいて始めて理解できる、最強の力だという。

相手を害するだけの力ではない、本当の力というものを謡った歌だった。


「・・・」

「・・・」


抜け忍に混ざって任務をこなしていた時代。

その任務につく前に、必ず歌っていたらしい。自分の弱さに負けないようにと。


「・・・あいつも、色々とあったんだろうか」

「そうだな。色々とあったんだろうな」



少しの沈黙。

そして立ち上がり、温泉から出る2人。



「・・・明日も早いし、もう出るか」

「ああ」






2人は、より一層頑張ることを決めた。

俺も、ウチも、意地を通すと。絶対に負けてなんかやらないと。

2人同じ思いを抱きながら。








[9402] 劇場版 SASUKE ~大疾走!雪姫忍法帳・その虹の先に~ 1
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2009/08/31 02:43


風が。風が吹きすさぶ。
モノクロの荒野の上、折れた矢と持ち主のいない剣の残骸がそこかしこに散乱していた。
兵共の後である。生死の残骸が、ばらまかれていた。
だが何もかもが居なくなったその中、まだ生きている人間達が居た。



その誰もが疲れ果てた顔をしていた。
弱音を吐きながら、今までの旅、その辿ってきた道程の全てを否定する言葉を吐く。
しかし、その中の1人だけは、まだ諦めてはいなかった。


「・・・道はあります。信じるのです」


膝をついていた姿勢から、言葉と共に立ち上がり、その行く先を見据える。

「しかし、姫」

「・・・諦めないで」

弱音を重ねようとした従者の1人に振り返り、凛とした表情を浮かべた姫はその眼差しのように強い言葉を重ね、見つめる。

「姫・・・」

一言。だたの一言で。空気が変わった。

風雲姫の言葉に気圧され、呟きを洩らす従者達。



その緊迫した空間

横合いから、突如笑い声が差しこまれる。



年を重ねた。そしてその年月の全てを、悪にのみ注いだ、そんな声だ。



一行の行く先の前、その荒廃した城壁後の上に、白髪白髭の老人が現れた。

「風雲姫よ。そなたらはこの先に行くことなどできんのだ」

「魔王!」


構えを取る一行。やがて始まる戦い。

魔王と呼ばれた老人の一括の直ぐ後。荒野に倒れていた死体が突如起きあがり、その眼光を白く光らせた。

その手には、各に武器が握られている。

一行へと襲いかからんと整列を始める鎧の兵士達。

そんな中、高みから全てを見下ろしている魔王、その最後の言葉が宣告される。


「諦めろ、観念するがいい」


絶対絶命の窮地。その上に更に重ねられた命令するかの如く一言は、しかし風雲姫の心を折ることは出来ない。


魔王に背を向けたまま、従者達へ語りかけるように言葉を発する。


「私は諦めない。この命ある限り、その全てを力に変え」


荒れ狂う暴風の吹く荒野に長い髪を靡かせながら、振り返り、告げる。



「必ず道を切り開いて見せる!」



やがて吹き出すチャクラの光、白黒の世界にあって鮮やかに、七色のチャクラが風雲姫の全身から溢れ出す。

「行こう」

「俺達もチャクラを燃やすんだ!」

風雲姫の勇気とそのチャクラを眼前に見せられ。奮い立った3人の従者達は、互いに顔を見合わせ、姫の元へと集結する。

『笑止!』

それをあざ笑う魔王が、手に持つ杖を回転させる。

地面の岩を吹き飛ばす、強大なる竜巻の塊。雄叫びと共に、その先から荒れ狂う暴風が放たれた。


『はあああああ!』

だが、その暴風は4人には届かない。

七色に輝くチャクラが、その暴風を消し飛ばしたのだ。


虹の奔流、その中央に立つ風雲姫。その美貌を見て、サスケは息を飲んだ。

「ああああああ・・・!」

やがて、風雲姫の雄叫びと共に、虹色のチャクラの砲弾がその前方に放たれた。


その奔流は、暴風を消し飛ばし、魔王を吹き飛ばした。

虹はその勢いを弱める事なく、前方の空へと突き進んでいく。

そしてその勢いのまま、空を覆う黒い雲の壁を突き抜けた後である。


空が、光りを発した。

何も見えなくなる。




やがて、光が収まった後。

「おおおお・・!」

観客が感嘆の声を上げる。

前方の空の彼方には、本物の虹の橋が掛かっていたからだ。


風雲姫と3人の従者は互いに顔を見合わせ、力強く頷き合う。

そして、手に持つ剣を悠然とした動作で持ち上げ、次に行くべき場所。



いかなければならない場所を指して、言う。











「さあ、行きましょう・・・・あの虹の向こうへ」




立ち塞がる者全てを吹き飛ばし。



そこに行くのだ、と力強い声で、風の雲の名を持つ姫は、歩き出した。



















小池メンマのラーメン日記

 SASUKE ~大乱闘!雪姫忍法帳~












時は、昨日まで遡る。




「・・・富士風雪絵?」





ナルトから告げられた、今回の護衛任務の対象となる人物の名前だ。

サスケはその名前を自らの口で反芻しながらも、首を傾げる。


「・・・え、もしかして知らないのか? ほら、あの『風雲姫の大冒険』に出演していた女優だよ。あれはシリーズの一作目らしいけど、結構な話題になっただろ」

と、ナルトは説明をつけ加える。

「・・・ああ、映画の名前だけなら聞いた事があるが・・・」

その女優の事はよく知らないと答えるサスケに、ナルトはため息を吐く。

「その映画の主演女優を務めた、結構な有名人なんだけど・・・もしかしてサスケ、映画を見たことないのか?」

「・・・ああ、無いな」

サスケは少し考えた後、眉間に皺を寄せながら頷く。

実はサスケ、『風雲姫の大冒険』どころか映画自体、一度も見たことが無かったのだ。

それもそのはず。うちは一族が滅びたあの事件が起きるまでは、兄さんに追いつこうと、毎日修行をしていた。
事件が起きた後も同じ。復讐のため、自らの牙を研ごうと、以前より修行に割く時間は多くなっていった。
真実を知り、木の葉を出るという転機が訪れてからは。修行の日々は相変わらずだが、それ以前の問題だ。
人里そのものと縁が無かった。そんな環境では、映画など見られる筈もない。

「・・・仕方ないな。明日、依頼人と会う約束をしているんだが、その約束の時間は夕方だ。幸い、それまでに時間はあるから、一度映画を見ておくといい。いまいち反応が薄かった多由也、白、再不斬もな」

サスケと同じく、よく知らなかったようだ。

「依頼人がどういう人なのかを知っておいてくれ」

何かの役に立つかもしれないからな、とナルトは肩をすくめる。

「しかし・・・よくそんな任務が回ってきたな。有名人の護衛、下手すりゃAランク任務じゃねえか・・・以前聞いた“網”という組織、それほどまでに力があるのか?」

「五大国ほどは無いよ。でも、今はちょっと緊張状態にあるからね」

五大国でも最大の勢力を持つ、木の葉隠れの里のトップ、火影が代替わりした。加えて砂隠れのトップである風影も今は不在だ。

何が起きても即応できる体勢を保持しておきたいらしい。

「それに、依頼人の方がね。木の葉隠れには頼みたくないそうで・・・」

網の任務仲介人・・・通称エージェントの情報だ。内容は聞いていないが、どうもそういう素振りを見せていたらしい。

「で、実際の所。お前は今回の任務の事、どう思ってるんだ?」

何か裏はありそうか、との再不斬の質問に、ナルトは深いため息を吐きながら答える。

「あるだろうね。というか、俺が受け持つ任務で、裏が無かった事なんて・・・」

言葉の途中、ナルトはマダオの方を向いて、「あったっけ?」と尋ねる。

「記憶にございません」

その問いに、マダオは笑顔で返答する。

「そうだのう・・・毎回毎回、なぜだか事態がどんどんと大きくなって・・・」

哀愁を漂わせながら、キューちゃんが呟く。その視線の先にいるナルトは、慈母すら思わせる笑みを浮かべながら、ただ一言呟いた。

「大丈夫。裏があると最初から知っていれば、そうショックも受けないから」

それが、特異点の運命だ、と笑う。「ネオ・グランゾンていうか白河博士連れてきて誰か、誰かー」と切実に呟いていたが、誰も反応できなかった。

「取りあえず、だけど」

今までの任務と事件。様々な彩り溢れる過去を振り返ったナルトは、1秒で全てを諦めた。

「成るようになるさ」

サムズアップしながら、告げる。

もの凄い開き直り。最早、悟りの境地である。第3の目でも開眼したのか、ナルトは仏様のような笑みを浮かべながら告げた。

「と、いうことで。最低Aランク、段階的にSランク任務になるかもしれないけど」

みんな、その時の覚悟だけはしておいてね? と言いながらも朗らかに笑うナルトに、一同は沈黙を首肯を返す事しかできなかった。







そして、時間は現在にまで戻る。

映画館を出て、近くの空き地へと集合した7人。

昨日の会話を思い出し、ぼうっとしていたサスケを見ていた多由也がどうした、と話しかける。

「あ、ああ。すまん。考え事をしていた。で、何の話だ」

「いや、そろそろ依頼人の元へと向かうってよ」

「はーい、注目。ちょっと今から依頼人に会いに行くから・・・」

注目するみんなを見た後、ナルトは各員に指示を出した。

「キューちゃんは俺の中に戻って。マダオはそのまま、外に出たままでいい。再不斬は俺とマダオと一緒に依頼人の所へ・・・っと。そのまま“再不斬”じゃあ、不味いよな」

“桃地再不斬”という名前をそのまま使うのは不味いだろうと、俺はは首を捻らせる。

「じゃあ・・・ジェット・ブラックでよろしく」

微妙な表情を浮かべながら言うナルトに、再不斬はため息を吐きながら答える。

「・・・まあ、いい。響きは悪くないしな」

その言葉の後、黒だしと呟いたが、その場にいた全員は聞こえない振りをした。

「あと白はいつもの名前ね。桃。多由也は・・・“クシナ”でよろしく」

「ちょっ、おまっ」

マダオが騒いでいるがナルトは無視して言葉を続ける。他の5人はマダオが焦っている原因が分からない。

「まあ、私もいいよ。響きが良いし、綺麗で覚えやすそうな名前だし」

承諾する多由也。マダオは少し引っかかった表情をしていたが、多由也の褒める言葉を聞いた後はうんうん頷き、やがて仕方ないかと呟いた後納得した。

「サスケは・・・まあそのままでいいか。この世界じゃあよくある名前だしな」

「・・・そうだな」


裏の世界で、『サスケ』と名乗っている抜け忍は多いらしい。

ナルトが実戦経験を積む為に、傭兵みたいな仕事を受け持っていた頃にも、よく聞いたという。

“うちは”の姓と続け、名を呼ぶことさえしなければ、ひとまずバレる事はないだろうとのことだ。

変化の術を使っているため、その点はぬかりないといえる。


「・・・まあ、十全な隠蔽とは言えないけど、取りあえずはこれでいいか。何か気づいた事があれば、俺に言って下さい。都度、対処致しますんで」

それじゃあここはひとまず解散、と言いながらナルトはポケットに手を入れる。

「じゃあ、サスケ、多由也、白は3時間後にここに集合ね。あとついでに、昼飯代を渡しておくから」

集合場所の地図と、3人分の昼飯代を受け取ったサスケはそれを確認した後、首を傾げた。

「・・・これ、金。随分と多くないか?」

昼飯代で使う平均の金額の倍はある、と質問してくる。

サスケの質問に、ナルトはああ、と言いながら答えを返す。

「町に出て、買い食いでもしてきたら? 依頼人との話、どんなに短くても2時間はかかるだろうから。気晴らしに町に出てみるといいよ。集合する前に何かあったとしても、俺達でフォローするから」

任務に入ってからはそんな事もできなくなるだろうしね、と肩をすくめながらナルトは話す。

サスケは少し悩んだ様子を見せた後、頷いた。

「・・・分かった。多由也と白はそれでいいか?」

「ああ、いいぜ」

「はい。でも、再不斬さんはナルトさんについていくんですね」

「ああ。初対面だからね。依頼人を安心させたいし」

見た目もそれっぽい雰囲気も持っている再不斬だ。一緒に居れば、それだけで効果があるとナルトは苦笑する。

「こういう任務はね。案外、第一印象って馬鹿にならないよ」

特に、俺達のような抜け忍にとってはね、とナルトは苦笑を返す。


5大国の忍びならばその里のネームバリューもあるし、それまでの実績による信頼感も抜け忍組織とは段違いなので、そのような信頼に対する心配は要らないかもしれない。

が、ナルト達のようなはみ出し者は違う。組織の権威はあれど、信頼の重きは個人の見た目による場合が多い。

その中で信頼を得ようとするためには、第一印象が特に重要となるのだ。



信頼を得るためには色々と必要なものがあるが、外見と言動は特に大事な要素だ。

これはナルトの経験談だが、依頼人との初対面時、“頼りない”や“抜けている”などの負の方向の印象を持たれてしまうと、後々の任務の遂行にも、影響が出てくる場合が多い。

依頼人に「信用ならん!」と怒鳴られた後、代わりの者を呼べとか訳の分からない事を言われた事もあったらしい。

自分が狙われているという事に対しての危機感が薄いのか、依頼人が護衛の者に非協力的になってしまい、結果余計な所に気を遣わなければならない場合もある



だから、再不斬とマダオを一緒に連れて行くのだと、ナルトはみなに説明する。

再不斬は力。マダオは頭。

それぞれの方向において非常に優れている。

「せっかくの機会だしね。初っ端でとちる訳にもいかないから」

説明の結の言葉を聞いたサスケが、反射的に言い返してくる。

「俺達じゃあまだ役不足って訳か」

少し険のある声。

「そういうこと」

ナルトはサスケの言葉に即答を返した。

そして時刻を確認すると、空き地の出口の方へ歩いていく。

「そろそろ、依頼人の所へ向かわないと不味い」

それじゃあね、と歩き出す。


少し不満顔を見せるサスケを背に、ナルト達は依頼人の元へ向かった。












「まだ怒ってんのか?」

町中の、ラーメン屋の中。みそラーメンを食べながら、多由也はサスケに対して声を掛ける。

「怒ってねえよ」

「怒ってるって。ほら、眉間に皺が寄ってる」

多由也が自分の眉間を指さしながら、茶化すように言う。

「さっきの、ナルトの言葉のせいか? まあ現実実際そうなんだから、しょうがねえだろ」

多由也の言葉を聞いたサスケは、今以上に眉間に皺を寄せながら手元のおにぎりを食べる。

「もしかして、怒ってるわけじゃない、とか?」

その隣、稲荷寿司ときつねうどんを食べている白が、サスケに訪ねる。

多由也はそれを聞き、反芻した後そういうことかと言葉を発した。

「もしかして、今更不安になってんのか?」

「・・・」

図星だったのか、サスケは言葉を返さずに、黙ってお茶を飲む。

「大丈夫ですよ。あの3人に、お墨付きもらったんですよね? そう不安になる事もないと思います」

「いや、でもな・・・」

はっきりしない。自信が持てないのだ。以前つ比べ、自分はずっと臆病になったとサスケは思う。

負けることを知って、信じる事を知った。でも、今自分は弱くなっているのではないか、そう考えてしまう時があるのだ。

多由也にはよくある事だと苦笑されたが。

「修行は目一杯やったんだろ? なら、あとは腹を決めるだけ。今できることは、腹一杯メシを食う・・・食べるだけだ。食事を取るのも重大な任務の一つだからな」

腹が減っては戦は出来ないから、多由也は笑う。

その笑顔を見て、サスケはそうだなと同意する。あの地獄の日々を思い出し、精神状態を整える。背骨たる基礎はしっかりと鍛えた。嫌と言うほど。

とりあえずの落ち着きを見つけたサスケは、ふと白が食べているものに目がとまり、それを訪ねる。

何ですか、と首を傾げる白。

その手に持つ稲荷寿司と、置かれているきつねうどんを指さし、サスケは訪ねる。

「それ、どっちも油あげだよな。九那実さんと同じで、お前も好きなのか? 油あげ」

「いえ、これはですね。今度ナルト君が作るラーメンの資料用にちょっと」

「・・・もしかして、きつねラーメンとか作るのか?」

「そうみたいですね。以前、キューさんと一悶着あったようで」

その時の様子を、白が説明する。







『笑止! うぬは所詮そこまでの男よ!』

『・・・聞き捨てならないな。俺の麺に対する情熱が、全然足りていないだって?』

『そうだ! 何故お主はきつねラーメンを作ろうとしない?』

『いや、だからそれは邪道で・・・』

『だぁかぁらお主は阿呆なのだ! 挑戦もせずに、やる前から邪道と決めつけて、それで良いのか? 

自らの内のみで世界の枠を決めつけ、囚われているだけの小さい男だったのか・・・お前は!?』

『俺が、小さい…?!』

『そうだ。何故やる前から諦める。何故挑もうとしない。いつものお前なら、言っている筈だ。“邪道?はっ、俺の麺に邪道なんてねえ!”とな』

『…!』

『留まるな、ナルト。お前らしく、走って見せろ。その先にあるものを目指して・・・!』

空を指さすキューちゃん。その先には、太陽が映っていた。

『眩しい・・・でも、俺には・・・』

『お前ならやれる。私はそう信じている。他の誰ができるのだ。お前以外の、誰か!』

膝付くナルトの肩に手を置き、キューちゃんは優しく語りかける。

『・・・俺、俺・・・俺、やるよ! キューちゃん!』

『ああ!』

2人、空を見上げる。その先にある、太陽を見つめ、いずれは其処に辿り着いてやる、と。

そう、お日様のような、キューちゃんの笑顔を求めて---!







「と、いうことがあったんですよ」

「何か、途中から話がおかしくなってないか?」

サスケが呟く。

「微妙に、論点のすり替えがあったような。いや、でもキューさんがそんな事できるわけないしな・・・」

多少はましになったものの、キューちゃんのおつむの方はそれほど賢くもなっていない。

基本、食べる、遊ぶ、寝るしかしてこなかったので、仕方ないといえば仕方ないと言えるが。

その事を聞いたナルトは、「お化けには学校も試験も無いんだよ、きっと」と頷いていた。

「誰かの入れ知恵か・・・・はっ!」

「どうしました?」

「いや・・・」

サスケと多由也の2人は微笑む白からさり気なく目線を逸らし、顔を寄せながら話し合う。

「白って結構策士だよな・・・」

「マダオ師もだけどな。というか、何故そんな事を・・・ってそうか」

白も、キューちゃんの極上の笑顔を見たいのだ。それが故の行動だと、多由也には理解できた。

「やっぱり、白も女の子だし可愛いものが好きなんだよ、きっと」

顔にはあまり出さないけどな、と話す多由也。
サスケは今の言葉の中にあった“も”という部分に突っ込みを入れたかったが、逆に拳を突っ込まれそうだと思い、自重した。
賢い選択である。

「・・・何か、失礼な事考えてねえか?」

「・・・ん、やっぱりおかかのおにぎりは最高だな」

半眼になりながらの多由也の問いに、サスケは話題の変更を試みる。

「そういえば、サスケ君はおかかのおにぎりが好きなんでしたっけ」

「ああ」

それに、白が乗ってきてくれた。サスケは心の中でガッツポーズを決める。

「そうなんだよ。で、この前弁当でおかかのおにぎりを作って渡したんだけどな。こいつ、素直な反応を返さないでやんの」

「・・・まあ、嬉しい! とか、感激! とか言っているサスケ君は想像し辛いですね」

白の呟きに、2人は肩を振るわす。想像してしまったようだ。

「まあ、感謝されるために作ってる訳じゃねえけど。こっちとしては、こう・・・あのキューさん見たいなストレートな反応が欲しいっていうか」

それだと作った甲斐があるってもんよと頷く。

「まあ、ストレートですもんね。キューさんは」

ストレート過ぎて破壊力も凄いと白は笑う。

「・・・本人曰く、『何故嬉しいという感情を誤魔化さなければならんのじゃ?』らしいけどな」

サスケが苦笑を返す。そういう感情を隠す事が分からないと言う九那実の、その時の顔を思い出して。




(前よりは、素直になったつもりなんだが)

サスケは心中のみで呟く。

誰かに教えを請うなんて事は、何時ぐらいだったか。

いや、教えてくれてはいた。だが、肝心のサスケの方が、それを素直に受け入れていなかったのだろう。

それなりに修羅場を潜ってきたナルト、再不斬。

そして実際の戦争を経験し、本物の地獄を潜り抜けたというか本当は死んでいるのだが、四代目火影であるマダオ師の教えは深く心に響いた。

押すだけが戦いじゃない。戦術に拘るな。思考を固めるな。
基本的な事なのだが、実体験を交えて説明されるそれは、大きな説得力を持っていた。実際の窮地に立った場合での話なので、臨場感に溢れている説明は、深く頭の中へと刻み込まれた。


『皮肉なものだけどね。死を前にして初めて、人は強くなるんだ』

戦場は難問の連続らしい。間違えた場合、支払う掛け金は命。
だが、その分得るものも大きいと。
命を失うかもしれないという、危機感が人を成長させるのだと教えられた。



その点でいえば、自分の今置かれている環境は恵まれていると思えた。
荒唐無稽な人格だが、非常に優れた師である。そう認識できた。

同い年であるナルトがあれほどまでに強いその理由が分かった気がした。

そして、教えを受け手数ヶ月。

サスケの成長は早かった。ナルトとマダオ師も言っていたが、サスケ自信もそう思っていた。
1人でやっていたのが馬鹿らしく思える程に、自分でも急速な成長をしていると見て取れたからだ。

(それに・・・)

サスケが心の中で呟く。
可能性が変わった事も関係しているのかもしれない、と。

自分にはまだ取り返せるものがあるという事を知ったからかもしれない。
そして、そこに辿り着くために。

(まずは、この任務をこなす)

お茶を飲みながら、サスケはこの任務に対しての覚悟を決めた。






「まいどあり~」

会計を済ませた3人。店を出た後は、目的もなく町の中を適当に歩いていく。

そんな中、多由也がサスケに話しかける。

「そういえば、サスケ。さっきの映画だけど、お前凄い面白そうに見てたよな」

「・・・そうですね。スクリーンを前に、目を輝かせていましたもんね」

思い出したのか、白が同意する。2人のからかいの言葉に、サスケは少し頬を赤くして答える。

「そんなに、顔に出ていたか?」

サスケの問いに、白は微笑みを浮かべ答えを返す。

「出てましたよ・・・まあ、気持ちは分かりますけどね」

「凄いよなあ。特に、風雲姫。ウチ、途中からだけど完全に魅入ってたよ」

「あれが今回の護衛対象なんだよな・・・」


雑談を交わしながら、3人は町の中を進む。

「そういえば多由也、お前最近修行とかしてたっけ?」

「まあ、体力が衰えないように、ちょっとな。動かないままっていうのも、チャクラコントロールが衰えていくだけだし」

体術の方も、基本だけはやっていると答える。健全な肉体に健全なチャクラは宿るそうだ。

一理ある、とサスケは呟く。笛の術の事もあるのだろう。

サスケの言葉に、多由也は説明を補足する。

術の研究やその他の事に専念し、根本である身体の能力が衰えてはチャクラコントロール技術も鈍ってしまい、逆に成果を得られなくなるらしい。

「適当に術の方も使ってるしな」

「・・・術? 結界術はまあ使わないとして、5行の術の・・・そういえばお前、得意な術なんだったっけ」

「・・・そういえば言ってなかったか。土遁だよ。あそこに居た時は親衛隊、つまり護衛の任務を主としていたからな」

「土遁ですか・・・何か、イメージと違いますね」

「お前等はイメージ通りだけどな」

サスケは火遁と雷遁。白は主に水遁で、同時に風遁も使える。その血継限界から、氷を使った秘術も扱える。

「あの2人も、そうだな」

サスケがキリハとナルトの事を思い出し、呟く。あの2人が得意なのは風遁。恐らくだが、マダオ師もそうなのだろう。イメージ通りだと言える。

「キューさんは火ですか」

「ああ。主に火らしい。前に、無印で発動できるあの術の原理を聞いてみたけど、感覚的に扱っている所があるから、説明しずらいとも言っていたが」

以前、サスケがその術をコピーしてみようと写輪眼を発動したが、我愛羅の砂の術の時と同じで、全然コピーできなかった。

人の扱う五行の術とは、根本的に原理が違うらしい。

「再不斬は・・・まあ、別の意味で水だな」

「そうですね」

水の厳しさというものを表しているように感じる。実は真面目な所とか。

「その点でいえば、多由也もイメージ通りだけどな」

「・・・土臭い女って事か?」

半眼で睨む多由也に、サスケは真顔で否定する。

「いや・・・料理が上手いし、しっかりしてるし、実は母性的な一面を持っている・・・・とか、何とか」

考え込みながら言葉を並べていく途中、素に戻ったのだろう。何を言ってるんだ俺は、と首を振り出す。

対する多由也は、「あ~」とか気まずそうな声を上げた後、顔を背ける。その首筋がほんのり赤くなっていた、

何でしょう、この空気、と白が呟く。何とか空気を変えないと何かがいけなくなると思った白は、前方にとある店を発見し、2人に話しかける。

「あ、あの店・・・すいません、アイスを買っていいですか?」

白の言葉にびくっと反応した2人は、店の方を見るとどうしようか考え出す。

「・・・ウチも欲しいな」

アイスは久しぶりだ、と喜色満面な顔を浮かべる多由也。

「お前、甘い者が好きなんだな」

俺はいいけど、と言いながらもサスケは店の方向へと歩き出した。

財布を持っているのは自分だ。ここで財布を渡して買ってきてというのも違う気がする。

(マダオ師も言っていたしな)

女の子には優しく。そして日頃世話になっている人には、何か別の形で返す事。

その言葉を思い出したサスケは、行動に移したのだ。

「いらっしゃい」

「おっさん、アイスを2つくれ」

「はいよ」

代金と引き替えに、手渡されるアイス。

店の外に出たサスケは、待っていた2人に両手のアイスを手渡す。

「ありがとうございます」

「ありがとよ」

「毎度あり・・・って坊主~」

店主はにやけ顔を浮かべながら、サスケの肩を叩く。

「おめえ随分と色男じゃねえか~、こんな可愛い娘を2人も連れてよ」

不意打ちとなる店主の言葉に、サスケは慌てて否定の言葉を返す。


一方、多由也は「2人・・・?」と呟いていた。どうやら、昔から今にいたるまで、そんな言葉をかけられた経験がないようだ。

訳が分からないという表情を浮かべている。


ちなみに今の多由也は、活発的な服装をしている。

帽子は被っておらず、伸びた長髪を後ろで一つに纏めている。赤髪のポニーテールだ。

服は黒のTシャツに、白の素朴なジャケット。胸元は開いている。あと、動きやすいように、下は黒のスパッツをはいている。

開かれた胸元に見えるのは、14の少女という年齢を鑑みればそれなりに大きい2つの大自然の象徴。

音忍時代はサラシを目一杯、これ以上ないという程にきつく巻いていたそうだが、マダオと白の提案から今は動きの邪魔にならない程度のきつさで巻いている。


ナルトがいう隠れ巨乳の秘密はここにあった。

前隠れ家を脱出する時にあった、あのやりとり。

ナルトが怪我をしている多由也を背におぶったのだが、怪我の治療のため、通常時ならば巻かれていたそのサラシは、その時に限っては外されていたのだ。



全体的に細いが、出るところは出ている多由也の姿を見て、サスケの顔が少し赤くなる。

表情も、1年前のそれとは一変しているらしい。サスケは見た事が無かったのだが、以前は濁ったような、何処か諦めたような表情がその顔には含まれていたそうだ。

今は、しっかりとした芯を持っている女性が浮かべる顔。嫌味の無い強気な表情が現れている。

可愛いと言うよりは、綺麗。儚いというよりは、負けない。呪印で性格が変わる、その前の状態に戻っているのかもしれない。


一方、もう1人。白の方だが、こちらも同じようにナルトと出逢う前と比べて、浮かべる表情は随分と変わった。

儚さを思わせる顔は成りを潜めて、今はその心の優しさからにじみ出るような、柔らかい表情が全身に現れている。

身体の方も成長し、多由也のように胸は大きくないが、女性らしい丸みを帯びながらもほっそりとした体つきになっている。


「・・・何処見てんだよ」

「サスケ君?」

額に井の字を貼り付けた少女2人が発する言葉を受けたサスケ。


店主の指摘の後、2人の全身を見ながら物思いにふけっていたのだが、それが乙女の逆鱗に触れたらしい。

怒りを撒き散らすその姿にただならぬ威圧感を覚えたサスケは、その圧倒的な雰囲気に押されて一歩下がった。

ちなみに危険をいち早く察した店主はすでに店の中へと戻っている。振り返れど、その姿はもうない。

(あの店主・・・生きてこの場を潜り抜けられたら、覚えてろよ)

だがその前に、この2人の鬼をどうにかしないといけない。一歩一歩近づいてくる2人から後ずさりながら、何とか良い言い訳は無いかと思考を回転させる。

任務前に、とんだ苦境である。

(ええと。胸・・・って言ったら殺されそうだな・・・・・ん?)

その時である。

サスケは後方へと振り返り、耳を澄ませる。

店が建ち並ぶ広い道の向こう。

まだ遠くだが、こちらに向かって走ってくる馬の足音が聞こえた。

視線を白と多由也の方へと向けると、2人は頷きこの足音について話し出した。

「・・・先頭に1、それを追って・・・4、5、いや、もっとですね」

「チャクラは小さいな。全員が素人だぞ、恐らく・・・来た」

視認できる距離まで近づいてきた、先頭の馬を見て3人は驚いた表情を浮かべる。

「富士風雪絵?」

「それに、後方のは・・・あれ、映画で見たよな」

あの鎧姿は、先程見た映画の、その劇中に登場していたものだ。

「現状が把握できない以上、迂闊な事はできないな。追手は白と多由也で引き受けてくれ。気絶させればそれでいいと思う。俺は風雲姫・・・富士風雪絵の方を追う」

「了解しました」

「・・・分かった。でもどさくさに紛れて、風雲姫の胸とか触るなよ」

「触るか!」

「どうだか・・・よっと」


了解をした2人は、食べ終えた後のアイスの棒をくずかごに放り投げた。


視線を交わす3人。頷くと、サスケが号令を放った。


「散!」








「近いな・・・」

白と多由也と別れて数分。

サスケは風雲姫が乗っていた馬の足跡を辿りながら歩き続け、町の外れにまでやって来た。

「・・・いた」

河の横を走り、10数秒。馬の横、川縁で水の流れを見つめながら座り込む、1人の女性の姿を発見した。

まるで、名のある画家が描いた一枚絵のよう。圧倒的な存在感を持つ女優の姿が其処にはあった。

サスケは驚かせないように、わざと足音を立てながらその女性の元へと近づいていく。

驚かせて河に落ちられでもしたらコトだ。やがて、ある程度の距離まで近づくと、声を掛けた。

「・・・富士風雪絵?」

「・・・・」

サスケの声に反応するも、力無く振り返るだけ。

だが、その衣装、その美貌は先にスクリーンの中で見た、風雲姫のものだった。

サスケの呼びかけに返事を返す事無く、ゆっくりと立ち上がると、即座に馬へと駆け上がる。

「・・・っておい!」

間一髪。

横に避けたサスケの傍を、馬が駆け抜けた。


「・・・一体、どうしたってんだ」

スクリーンの中で見た姿とは、あまりにかけ離れているその姿。

困惑しながらも、サスケはその後を追った。



「・・・・」

馬上にて。風雲姫事、富士風雪絵は何の感情も浮かばせず、今見た少年の事を考える。

「撒いたようね・・・」

「誰をだ?」

答える者はいる筈の無い、問い。独り言に対しての、返答。

すぐ後ろから聞こえた声に、雪絵は驚いた表情で振り返る。

「あんた・・・?」

振り返った背後に見えたのは、馬の尻の上に悠然と立っているサスケ。

雪絵の疑問の声に、サスケはため息を吐きながら質問をしようとする。

「あんた・・・って危ない!」

前方、町の入り口の方。遊んでいる子供達の姿が映った。

「・・・・!」

手綱を引き、馬を止める雪絵。

それにより馬は確かに止まったが、余りに急な制動のため、馬は驚いたのだろう、前足を上げながら鳴き声を上げる。

「くっ・・・!」

馬の体勢に翻弄された雪絵は、そのまま馬上から放り出される。

近づく地面、来るべき衝撃に備えて目を瞑るが、その衝撃はやってこなかった。

その変わりに感じるは、自分を抱き上げる誰かの手。


「危なかったな・・・・」

「あんた・・・!」

安堵のため息を吐く少年の姿。だが、問題はそこではない。

「ちょっと・・・! 何処を触っているのよ!」

お姫様抱っこをされている姿勢で、雪絵が叫ぶ。普段には珍しく、声を怒りで染めている。

それもそのはず。

雪絵を抱き上げるサスケの手の一部が、その女性の神秘に触れていたのだ。

女性の中央に位置する、大自然を象徴する双子山。全てを包み込むその雄大さは、いかなる悪者をしても許してしまう。


かつて、マダオ師は言っていた。胸は良い。胸は歴史で、そして神秘だと。

胸は胸でそれ以上でも、以下でもない。でも、大きいに越したことないよね、とか。

白と多由也の白眼をものともせず語り続けるマダオ師の真剣な顔は、成る程4代目の火の影の名を継ぐに相応しい、確たる威厳に満ちていた。

隣ではナルトがうんうんと真剣な顔で頷いていた。でもでかすぎるのも勘弁な!とにかっと笑っていた。


ちなみに、再不斬は既に外へと逃げ出していた。経験の成せる技か、サスケには逃げる時の気配も姿も感じ取れなかった。

流石は無音暗殺術の達人。



そして、ナルトの一言・・・油に火を点ける行為が完遂されたコンマ数秒後、2人は九つに束ねられた紅蓮の炎が起こすその爆発に巻き込まれ、親指を立てたまま屋外へと吹き飛ばされていた。

サスケは、真っ赤な顔で荒い息を吐いている九那実嬢のナイムネ・・・・いや内心は如何なものだろうと思い、そっと涙を流した。

直後、サスケも殴られた。


九那実嬢曰く、“同情するなら胸をくれ”らしい。

その言葉に深く頷いた多由也も、腕をかじられていた。ざまあ。

(って現実逃避している場合じゃあない)

サスケは、首を振って唸る。覚悟して任務を受けたはいいが、こんな覚悟は持ち会わせてはいなかった。
というか、そんな覚悟を持てるのは変態だけだ。噂に聞くエロ仙人とか。そもそもそれは覚悟ではない。

現実に戻ってきたサスケはひとまずこの窮地を脱する方法を考える。
長い現実逃避を終えたのだ、次は、この現実を越えなければならない。

(よし)

まずは、現状を一言で要約しよう。話はそれからだと息巻く。
時間にしてコンマ数秒の思考。

その後、ようやく現況の分析に入ったサスケは、愕然とした。

思考に雑音が走る。解答が導き出せない。

それもその筈。

護衛対象のおっぱいをタッチしているのである。

サスケはこの状況を乗り越える知識を持たない。経験の差がここに出た。今ならばカカシを師と仰いでも良いかもしれない。

でも遅刻はやっぱりゴメンだ。


「・・・!」


静止を続けるサスケを尻目に、雪絵方は顔が真っ赤に染まっていく。
羞恥ではなく、怒りが故の赤であった。


「・・・・っこの!」

悲鳴は無かった。

静かな呼気と共に放たれた、閃光のような張り手が、ただサスケの頬に炸裂した。


乾いた音が、辺りに響き渡る。



そして、その場面を途中から見ていたものが居た。

護衛の者達を気絶させた後追いかけてきた、多由也と白である。


その光景の結のみを見て、2人は頷きあう。


胸を抑えて真っ赤になる護衛対象と、頬に紅葉を貼り付けるサスケである。




赤髪の鬼と黒髪の夜叉が、こちらを見て顔を青くしている少年を見つめながら、笑みを浮かべた。

ただ、目だけは一切決してこれっぽっちも笑っていなかったのだが。



サスケはその日、絶望を知った。






「どうも、すみません」

「いえいえ・・・」

今日の撮影の全てが終わった後。

楽屋の中で、依頼人である浅間三太夫と、変化したナルトが向き合っている。

顰めっ面をするマネージャーを前に、ナルトは先の出来事に関しての謝罪をしていた。

頭を下げるたび、身につけているコートが浮き上がった。


ちなみに今のナルトの外見は、顔は30代半ば、スーツの上にトレンチコートを着た探偵のような姿だ。むろん、変化の術である。

この姿は昔駆け出しの時代に使っていた姿で、同じ任務を請け負っていた抜け忍と組織の長からは、「土<アース>」の2つ名で呼ばれているらしい。

何でも、まだ下積みの時代信頼度を審査する段階で行われた、土木作業関係の任務を請け負っていた時に、伝説を作ったのが原因らしい。マグマ大使。

閑話休題。

謝罪と注意を終えた2人は、やがて席へと着く。

そこには、“風雲姫の大冒険”シリーズの監督であるマキノ監督と、やや年若い助監督。

そして富士風雪絵のマネージャーである浅間三太夫と、ナルト達6人の姿があった。

関係者が揃った所で、これからの事に対しての説明が成される。


護衛対象は女優、富士風雪絵。任務期間は雪の国で行われる撮影、その期間内。

「雪の国とは、随分と遠くまで撮影に行くもんだな」
多由也が不思議そうに訪ねる。

「ああ、完結編のラストシーンを、ね。その雪の国にある虹の氷壁の前で撮るんだ」
マネージャーの浅間三太夫さんのオススメでね、と助監督が説明をする。

「虹の、氷壁?」
「・・・ああ、確か、春になると七色に輝くっていう、あれ?」

マダオの説明に対し、三太夫がよく知っていますねと言いながら、説明を加える。

「ええ、完結編のトリを飾るシーンに相応しいと思いまして」

三太夫は糸目を崩さないまま、虹の氷壁と雪の国について説明を始める。


「・・・そうですか」

「はい」

笑顔を浮かべながら説明を聞いているマダオだが、少し様子がおかしかった。

その事にナルトは気づいていたが、今は話す事じゃないと依頼人との会話を続ける。

「で、その肝心の護衛対象ですが・・・」

「・・・申し訳ありません」

監督と助監督が言うには、雪の国にロケに行くことが決まってから、こうして撮影から逃げ回るという行動を取るようになったらしい。

仕事をすっぽかすような女じゃなかったとのマキノ監督の言葉を聞いたナルトは、マダオに対して視線を送る。


(・・・分かるか?)

(断片はね。でも、それも後で)


「そういえば、その雪絵さんはどうしたんですか?」

「ああ、撮影が終わったので1人で町に出ているらしい。サスケとジェット、2人が追ってるから・・・」

途中、言葉を途切れさせたナルトは、やがて応答が帰ってきたと同時、その場にいる全員に笑いかける。

「心配ない、だそうだ」









「・・・とは言ったもののな」

「する事が無いな」

表通りから少し離れた位置にあるバー。

その正面に位置する屋根の上に、サスケと再不斬2人の姿があった。

「・・・痛い」

頭とほっぺたを抑えながら、サスケは呟く。

「手ひどくやられたようだな」

再不斬が少しからかうような声を掛ける。

「思い出したくねえよ」

あの後、駆けつけた多由也を白が見たのは、自分の胸を抑えながら後ずさる富士風雪絵と、顔に紅葉を貼り付けたサスケの姿だった。

その経緯を話す間もなく、である。

まず多由也には思いっきりビンタされた。紅葉が2つに増えました。

白には何もされなかった。ただ、任務が終わったら・・・分かってますね? と綺麗に微笑まれた。

「何を分かればいいんだろう」

「取りあえずは女心だろう。俺も未だに分からんが」

「そうか・・・」

2人の間に、寒風吹きすさぶ。

そんな中、再不斬はふと考え込む仕草を見せると、サスケに話しかけた。

「・・・護衛対象から目を離し過ぎるのも不味いな。1人、至近で付いている方がいい」

「・・・もしかして、俺が?」

「他に誰がいる。それに、俺はどうもああいう女とは合わんからな」

再不斬の苦虫を噛みつぶしたかのような声を聞くが、サスケも眉間に皺を寄せて言い返す。

「いや、俺もそうだ。というか、先にやらかした件もあ「そうだ、先の失態もあるんだろう? 取り返してこい」」・・・

良い経験にもなる・・・かもしれないしな、と再不斬が言う。サスケは、ため息を吐いた後、分かったよと了承する言葉を返しながら、その指示に従う。

険のある表情を隠そうともしないサスケ。だが、離れ際に再不斬が放った一言によって、その険は取れることとなる。



「白も、怖いしな・・・」


サスケは再不斬のその言葉に成る程と言いながら頷くと、バーの中へと入っていった。


戸を開けると、そのすぐ先には、酒を飲んでいる雪絵の姿があった。

サスケはその近くにより、斜め後ろにある壁に背をもたれさせると黙り込んだ。

酒を飲んでいた雪絵はバーのマスターの訝しむような視線の先を追い、その先にあるサスケの姿を確認して、呟く。

「アンタ・・・」

「・・・護衛、だ」

バツが悪そうな顔をしたサスケ。雪絵は苦笑すると、酔った調子で手招きする。

「・・・何だ? っておい!?」

近づいた瞬間、雪絵のイヤリングから、なにがしかのスプレーが吹き出される。

挙動を察知したサスケは一歩後ろに飛び下がり、そのスプレーを避ける。

「痴漢撃退用のスプレーよ」

あんたにピッタリでしょうと言う雪絵の姿を見たサスケは、何ともいえないという表情を浮かべる。

スクリーンとは違う、其処には何かに疲れた女性の姿があったからだ。

「アンタ、酔ってるのか?」

「・・・そうよ、見て分かんない?」

「いや・・・」

サスケはその姿に、いや視線に含まれた感情を見て困惑を覚えた。何か、どこかでみたような、誰かの目。

「とにかく、俺は護衛だから」

「・・・分かってるわよ・・・」

呟きながら、雪絵は杯に酒を注ぐ。透明な酒が、小降りの陶器の中へと注がれる。

「・・・・」

音楽が流れる店の中、サスケは雪絵の背後にある席に座り、静かにその後ろ姿を見つめる。

(全然違うな・・・)

目の前に映る女性の背中を見て、サスケは呟く。自分が今日見た映画の中で目を奪われた、大女優富士風雪絵のその姿は無かった。


そして、時間にして十数分。音楽が耳を鳴らす中、小銭が置かれる音が店内に響く。

「・・・」

奥で飲んでいた客が帰るようだ。

やがて、店の奥にいた男は酔った様子で歩き出す。

(・・・・)

胸中、悟らせないように緊張を高めたサスケは、じっと動きを止める。

だが何事もなく、男はサスケと雪絵2人の間をそのまま通り、店の外へと出て行った。


(何もないか・・・)

緊張を解き、1人安堵するサスケ。

そして、ふと視線を上げた時である。



カウンターの奥にある照明を後光のようにした、富士風雪絵の横顔が目に映る。

雪絵は手元の杯を、何か悲しそうに見つめながら憂いの表情を零している。

そこには、様々な感情が見て取れた。

だが、表情を見るに、心中の大半を占めているのは、諦観が混じった悲哀。

劇中からは想像もつかない、雪絵の小さな背中を見つめるサスケは、そのように思えた。




サスケには何故か、富士風雪絵が声を殺して泣いているように見えた。

そして泣く代わりに酒を飲んでいるように見えたのだ。

(・・・いったい、何だってんだ・・・)

大女優が浮かべるような顔ではないだろう。

だが、目をこすっても映るものは変わらない。サスケの目には、相変わらずの富士風雪絵の姿が映っていた。


杯に酒が注がれる音。店内に流れる音楽。マスターがコップを布で拭く音。

薄暗い店の中、サスケはじっと動かないままでいた。

そんな途中、ふと外の気配を探ってみる。

(・・・再不斬の気配が無い?)

先程まではあった筈だ。気配を消しているのか? と思ってみたが即座に否定する。

サスケとて、修行した身。最初からそこにあるものとして気配を探れば、全く見つけられないという事はない。

だが、感じられる気配は皆無。


訝しむ表情をうかべた、その数秒後だ。

この店に入ろうとする者の気配を感知したサスケは、即座に立ち上がり、入り口の方を注視する。

が、その気配の主が分かったと同時警戒を解く。


「雪絵様!」

マネージャーの三太夫が店の中へと駆け込んできた。

2人は船に乗る、乗らない、役を降りる降りないで揉めに揉めている。




その背後には、ナルトとマダオと多由也、3人の姿があった。

言い合う2人から離れ、サスケの元へと近づくと開口一番でこう言った。

「お疲れ、エロ猿」

「・・・」

出会い頭の一言に、サスケが沈黙する。やがて、頭に手をやりながら、多由也に訪ねる。


視線を斜め前にそらし、すっとぼけたような表情で「へっエロ猿はエロ猿だろ」とか投げやりに言ってくる。

そこに、ナルトが説明をする。

「いや、俺としては最初はエロ河童にしようと思ったんだけどね。桃が、波の国の時のやりとりを思い出して」

「ああ・・・」

写輪眼と口には出さないまま、サスケはため息を吐く。

成る程、サル真似野郎とエロで、エロ猿ね。

「聞くところによると、最低接触事件前にもか弱き女性2人にセクハラを働いていたそうだね?」

最低接触事件とは先の女優の神秘に触れた事件を表しているらしい。

サスケは優しい笑顔を浮かべるナルトから目を逸らし、誤解だと呟いた。か細い声だった。

マダオはか弱い・・・と呟いていたが、多由也の笑顔を見た後、黙って一歩下がった。

そして背を向けた後、「違う、違うんだクシナ」とガタガタ震えていた。何か触れてはいけない所に触れてしまったらしい。


「・・・まあ、今はいいか。サスケ」

と、ナルトは合図を送る。

いい加減、船の時間だ。仕方ないかと呟き、多由也に合図を出す。

多由也は三太夫の名前を呼び、少しお話がと言いながら、三太夫の肩をすっと掴み、後ろに引かせる、

それと同時だ。

ナルトとマダオが三太夫とバーのマスターの視界を塞ぐ。

サスケは死角となった場所へ歩き、雪絵の方へと近づいていく。

「ちょっといいか?」

「・・・何よ」

面倒くさそうに振り返る雪絵。その目に、サスケの両眼が映る。

時間にして2秒。雪絵は写輪眼の催眠により意識を失った。起きたときは写輪眼の事を覚えていないように若干の暗示を掛けながら。

気絶し、倒れ込む雪絵の身体は、戻ってきた多由也によって受け止められた。


「行きましょうか」



出航の時間だ、とのナルトの言葉に促され、一行は店を出る。



「・・・戻ってきたか」

やがて、その場を離れていた再不斬と白が、一行に合流した。


船のある方向へと夜道を歩きながら、再不斬とマダオは2人だけ後ろに少し下がり、小さい声で話しをする。


「どうだった?」

「・・・クロだ」

2人が一連の出来事に関して話す。内容は、先程店から出ていった男の事だ。

屋上にいる再不斬に気づかず、店を出た後に怪しい動きをしていた男。

再不斬はそれを見て、こいつは何かあるかもしれないと思い、後をつけてみたのだ。結果はクロ。
夜空に向かい、通信用の鳩みたいなものを飛ばしているのが見て取れた。

夜でも使える伝書用の鳥である。

恐らくは口寄せの類で、特殊な生き物によるものなのだろう。
男は鳩らしきものを飛ばした後、人混みの中へと消えていった。
人が入り乱れている中、男の気配は何とか追えていた。だが深追いは藪蛇になりかねないし、船の出航時間の問題もある。

ここで尾行を続けるのは得策ではないと判断した再不斬は、ひとまず一行の元へと戻ってきたのだ。



「・・・ややこしい任務になりそうだな」

経験をふまえた上で分析し、再不斬は呟いた。マダオが同意する。


敵は十中八九、忍者。

平時でさえ忍者が相手に回る任務は、Bランク以上ろなる。護衛しながらと言うことは、少なくともそれ以上。

加え、相手は不明。
雪の国に忍びはいないと聞くが、それも分からなくなった。

護衛対象は有名人。厄介な任務になる事は明確だった。

一連の事を話し合った後、ため息を吐く再不斬。


マダオは、そんな再不斬に対し、笑顔で答えた。


「いつもの事だよ。普通、普通」

「・・・おまえら、一体どういう人生送ってきたんだ?」

「ごらんの通りです」

ひきつった顔を浮かべる再不斬とは対象に、マダオの顔は笑みを浮かべていた。
人間、どうしようも無い事に対しては笑うしかなくなるというが、これはその典型であろう。

ナルトの方もこっちを振り向き、棒読みでいえーといいながら親指を立てていた。同じ、笑顔である。




その胸中。ナルトは笑顔を浮かべながら、現状を分析する。

先の話でも、きなくさい所というか、うさんくさい所はあった。

マダオが言うには、雪の国には春がこないそうだ。
そして春になると虹色に輝く、虹の氷壁を撮りに行くという話。提案したのは浅間三太夫。これはマダオの推測だが、浅間三太夫は雪の国出身らしいという事。
話の途中、まるで懐かしむかのような表情が見て取れたらしい。郷愁は結構だが、それを明確にしない理由も気になる。
春がこないのにどうするつもりだ、あんた知っているだろとも言えない。依頼人に対しての余計な詮索は御法度である。
これで満貫。

そして、辺りを動き回る忍びらしき者の影というドラが乗っている。
まだ断定はできないが、おそらくはその想定は正しいだろう。

加え、今回の依頼を仲介した組織“網”の首領、地摺ザンゲツのこと。
・・・あれでかなりイイ性格をしている。
久方振りの任務に随分な内容のものを回してくる可能性は、大と考えられる。
組織加入の話を蹴ったのがいけなかったか。まあ、話して分かってはもらえたのだが、未だ思うところはあるだろう。

とどめは、砂隠れの里に行った後赴いた匠の里、その里で懇意にしていた刃物職人に聞いた“あの”噂である。


(これで到着直後に襲われでもしたら・・・数え役満だな)

リーチ一発平和ツモ、純全三色一盃口ドラ3といった所か。糞厄介な任務になる予感がする。
だが、危険を犯すに足る見返りはある。

1に経験、2にお金である。

サスケだが、そうそう外へと連れ出せない。数少ない任務で、実戦の感覚を掴んでもらうしかない。
それを考えると、困難な任務は逆に喜ばしい事なのかもしれない。

報酬もそう。契約齟齬の部分を突けば任務達成料を引き上げる事ができるかもしれない。

非常に危険な任務になりそうだと、予感はする。
それでも、今は取りあえずリーチせずにはいられないのである。
何よりもまず、お金が無いのである。仕方ないのである。最低限の賃金を得られないと割とやばい事になるのである。

サスケ専用の刀を作るのにも大金が必要なのである。
それに、これから先の事を考えると、お金は有るに越した事はないのである。
麺開発にもお金がかかるのである。きつねラーメン開発にもお金がかかるのである。キューちゃんの笑顔を見るために、いわば太陽を取り戻すために仕方がないのである。

(さて、と)

分析をまとめると、眼前には今夜乗る船が現れていた。


(凪か嵐か、鬼か蛇か)


でも蛇は嫌だなーと呟きながら、ナルトは船へと乗り込んだ。






--その数十分後。


撮影隊一同を乗せた船は、夜の闇の中、目的地である雪の国へと出航を開始した。







[9402] 劇場版 SASUKE ~大疾走!雪姫忍法帳・その虹の先に~ 2
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2009/08/31 02:52
※オリ設定多数です。











「冷えてきたな・・・」

船の甲板の上。

船の欄干に背をもたれさせながら、サスケがつぶやく。
寒さのせいで白くなる息を吐きながら、町で買った防寒用の赤いマフラーをたなびかせ、隣にいるナルトへと話しかけた。

ナルトの方は欄干に腕をついて体重を預け、少し前傾姿勢になりながら水平線の向こう側を見ている。

赤い夕陽に照らされた海面が赤く染まっている。


「・・・何を歌っているんだ?」

「・・・陽が落ちる、という題名の歌だけど」

コートを風に棚引かせながら、ナルトは鼻歌を歌っていた。特に誰かに聞かせるでもない、まるで何かを思い出すかのように。

「・・・多由、いや・・・クシナに聞いてはいたが、お前は歌が好きなんだな」

「そりゃあね」

リリンの生み出した至高の芸術だよ、とお茶らけていった後、海面に目を落として言葉をつづけた。

「それに・・・まあ、ずいぶんと遠い場所に来てしまったけど、歌は変わらずに歌えるからね」

「・・・?」

サスケは意味が分からない、という風に首をかしげる。それを見たナルトは苦笑しながら、分からないでいいよとつぶやいた。

「まあ、昔から好きだったからね」

少し哀愁を漂わせながら、ナルトは昔の事を思い出す。




---前の世界でもそうだった。

一人きりの時、悲しい時、お金は無くとも音楽だけは傍にあった時代。
土方のバイトをしていた時代も、歌が自分を支えてくれた。

金は無くても、歌は歌えたから。

そして目を閉じながら、色々な歌を教えてくれた幼馴染のことを思い出す。
それは昔の自分ならば忌わしい過去の記憶だったが、今ではそうとも思わなかった。
昔のことだ。こちらに来たばかりの時はそうでもなかったが、今は過去に対する割り切りというのは上手になったと思う。

昔。幼馴染の女の子。いいとこの令嬢だった。
音楽が好きだった。バイオリンやピアノを習わされてはいたが。本人はギターに憧れて。
親の反対を押し切って、ギターを勉強したと聞く。まだ大人に成りきっていない頃は、随分と彼女に歌を聞かされたものだ。
うたうたいになるのがわたしの夢です。そう、作文で読んだ少女がいた。親の反対という心の重荷を背負いながら、それでも歌を続けようとした少女。
親の妨害工作に遭っていた、彼女の夢は、はたして叶えられたのかどうか。


少し道に外れてからはしばらく、考えないようにしていた。
その事は長くトラウマになっていたから。
夢とその儚さについて。大人の醜さについても、面前で見せられたから。

勝気な女の子が、諦観を表情に含ませていく。徐々に、ゆるやかに、確実に。
その過程を、まざまざと見せつけられたから。

そして、別れの日。海外へと移住する時の言葉。

夢を諦めないという言葉。

それは彼女の別れ際についた、自分を安心させようとした、彼女の夢を一番きかされたであろう自分に対して見せた、優しさからくる最後の嘘だったのか。
それとも、ウソ偽りのない本心から来る言葉だったのか。

断片で残る記憶。思い出しても虚しいだけだったが、胸の奥へと塊は残った。

黒く、白く、セピア色に。

それでも、そんな事があっても、彼女の口癖だったあの言葉だけは思い出せた。


「階梯と旋律。音楽は、それを組み合わせることで、無限の世界を描く事ができるのよ。
そして色んな世界を描くために、私は想うがままに目を閉じて、ただ感じるままに、音と心と世界を思う」

そうすればほら、私は無限でしょう? と微笑む彼女は、今でも思い出せた。

印象深い言葉だった。チーズのように穴あきになった記憶の中、そんな印象深い言葉達だけは残った。
俺も同意した。彼女の歌には、それが感じられたから---





「イワオ?」
『ナルト?』

サスケとキューちゃんに偽名と名を呼ばれたナルト。我に返ると、首を横に振る。

「ああ、何の話だったか・・・」
考えるナルトに、歌が好きだという話だったがとサスケが返す。

「・・・ああ。俺は、歌が好きだよ」

ラーメンと同じように。
挫けた時には勇気の歌を、悲しい時には明るい歌を、ピンチの時はおとぎ話のような歌を

「例えどんなところに居てもね。歌は、昔と変わらずに歌えるから」

ラーメンの味もそう。
多少の差はあっても、だ。
どんな場所にいようとも、歌に込められた想いだけは変わらない。

「夕陽の時には夕陽の歌を、寒い時には寒い歌を。夏には夏の、冬には冬の」
季節が移り、景色が変わり、人が変わっていったとしても。

「歌いながら感じればね。見える景色の何もかもが、綺麗に思えてくるから」

例え、血なまぐさい、クソのような世界にあってでも。それでも、綺麗なものは変わらないだろうと。
そう言いながら、ナルトは笑った。

歌の中に勇気を見つけるも同じ。歌と思いを感じれば、戦う恐怖も少しは薄らぐ。

サスケはナルトの言葉を聞いたあと、多由也に聞かされた例の歌を思い出す。

そして、同じように欄干の上に腕をおき、夕焼けに染まる海面を見つめた。

「・・・お前の目には、色々なものが見えているんだな」

サスケの言葉に、ナルトはそれなりにね、とだけ答える。苦笑が含まれているのは、柄にでもない事を語ったからか。


その時、背後から聞き覚えのある笛の音が聞こえてきた。


「・・・そういえば、例の笛の術のことだけど」

「・・・まあ、俺も詳しくは聞いていなかったんだけどな」

驚いたよな、と二人呟く。任務のため、隠れ家から出かけるその前日の事だ。

マダオと二人完成させたという例の術について


チャクラの流れを整える作用を持つらしい。そして、回復を早める作用も持つと聞いた。

確かに、とサスケは呟く。夜な夜な聞いていた彼女の笛の音、そういう効果があるかもしれないと思ったのは、修行を始めてから数ヶ月後のことだった。
笛の音が聞こえた時の夜と、それ以外の日ではあきらかに身体・精神の回復具合が違った。

「音楽療法という言葉もあるし」

そう驚くこともないのかもね、とつぶやく。むしろそっちが本来の用途だろうと思うが故の言葉だろう。

「夕焼けの音の色を吹いているのか・・・」

どこかせつない音色が甲板の上に響き渡る。

撮影は終わったので、問題はないだろう。
むしろ、監督とかスタッフ連中も多由也の笛の音を聞いて、うっとりしているように思える。

波の音と合わさっていて、今しか存在しない、まるで映画のような風景が甲板上には現れていた。

白と再不斬は甲板の後ろの方で何やら話をしている。再不斬が頭をかいているのを見ると、そういう話をしているのだろう。
というか桃色空間が出来上がっている。

独り身と思われるスタッフの方々が胸を押さえながら苦しんでいる。
切ない音色と重なって、何やら涙を流しそうになっているのスタッフを目にした多由也が、ゆっくりと目を瞑る。

曲調が変わった。

音色の骨子は変えず、その旋律を変える。

先ほどまでは一日の終わりをあらわしているかのような。
そして今は、“明日がある”と励ましているような。

ちなみにマダオの方は、操舵士と一緒にいる。
そして船の前方に広がる海面を見ながら、腕を水平にしている。突っ込み待ちだろうが放置である。
ただ、放置する。そういう優しさもあるのだ。

旋律に耳を傾け、帽子をくるくると回転させるナルト。
サスケはそんなナルトの様子を見ながら、ふと気づいたように尋ねた。

「そういえば、その格好・・・けっこう、様になってるよな」

大人っぽいくて、違和感が少ない。
正直驚いた、との言葉に、ナルトは苦笑を返す。

「昔から、ね。正体を隠す必要があったから」
『そうさのう』

時には奇天烈な格好を、時には普通の格好を。その場に適した格好を選び、使い分けながら生きてきた、とため息混じり答えた。

「おかげで演技の方も上手くなったよ」
『まさに男狐だの』
「それは使い方が違うような気が・・・」

むしろ男狐という言葉はあるのだろうか。

「まあ、上手くなったといっても、ね・・・あの、富士風雪絵程とはいかない」

昼間の撮影現場を見た時、衝撃が走ったと呟きながら、ナルトは苦笑した。

「そうだな・・・・」

サスケも同意する。カメラが回った瞬間だ。まるで別人。

スクリーンの中で見た風雲姫の姿がそこにはあった。

撮影途中、涙を流す場面で目薬を指してもらっている様はアレだったが。そのほかの演技は、超一流に相応しいものだった。

大女優だけが持つという、華。スクリーン越しでなくても、それが分かる程の存在感。

「あれを見るとな・・・撮影をすっぽかそうとした人物にはとても見えないが・・・」
「・・・まあ、逃げる行為もどこまでが本気だったのか分からないし。どうも、本意って訳じゃあなさそうだけど」

本気で逃げようとは思っていなかっただろう、とナルトは思っていた。
逃げている時の、その格好を見ればわかる。
一目見れば風雲姫と分かる格好。名は売れている。つまり富士風雪絵とすぐにわかるのだ。
そんな姿で逃げようとする馬鹿はいない。変装もしていなかった。

逃げるけど、逃げきりたくないのだ。

何かに迷っている。ナルトは彼女の顔を見て、そう思った。

「まあな・・・」
サスケもその意見に同意する。

「そういう、撮影をすっぽかす・・・逃げるという行動を始めたのもね。雪の国でのロケが決まってからだと、マキノ監督に聞いたけど・・・」
どうも引っかかるとナルトは呟いた。

「嗅ぎまわっている連中その他、裏事情については昨日の夜聞かされたが・・・やはり、富士風雪絵本人にも何か裏があると思っているのか?」
小さい声で話す。両者、チャクラで聴覚を強化しながら、小さい声で会話を続けた。

「三太夫がな。昨日、ふとした拍子に彼女の事を雪絵“様”と言っていたんだ」
『ふむ』

「ああ、それは俺も聞いたが」

よくは知らないが、マネージャーならばそう呼ぶんじゃないのか? とサスケが尋ねる。

ナルトはその答えに首を振りながら、呼び方とその時の視線、言葉使いを見て引っかかるものがあるんだと答えた。

「それに、彼女の様子も変だ。彼女本当は演技が好きなはずなんだ」

「それは・・・・そうかもな」

昨日は女優なんて、という愚痴みたいなことを言っていたが、本気で女優の事を疎ましいと思っているわけでもないだろう。

今日の演技、他の俳優とは桁違いの存在感を演技力を発揮する彼女を見て、サスケは何となくだがそう思っていた。

「俺も同意だ。でも、実際は違う。と、いうことはだ。何か、意味が・・・背景があるんだと思う」

それに、と言葉をつけ加える。

「演技のこと、女優の事。本当は好きな筈なのに・・・好きとは言えない、言ってはいけない」

そんな感じがする、と呟いた。

昔の彼女の姿に似ているから、とはナルトの心中で零された言葉だが。

「・・・なにがしかの理由があるんだ、きっと」

相反する思いに葛藤しているだろう彼女。隠している事はいまだ分かってはいない。

「それが今回の事に絡んでいる事は、間違いないだろうけどな」
「・・・すべては雪の国の中にある、か」
「そういうこと」

帽子を深くかぶりなおしながら、ナルトは答えた。

『・・・ふん、もしかしたら本当に姫なのかもしれんのう』

演技中の姿を思い出したのか、キューちゃんが呟く。
ナルトはまさか、と言いながら笑う。

だが、今回の依頼を仲介した組織、網の首領である“奴”の性格を思い出した直後、頭を抱えだす。

「やりかねん・・・あいつならやりかねん・・・」

「・・あいつ?」

って誰だと聞くサスケに、ナルトは網の首領だよと答える。

「網、か。俺は聞いたことが無かったが」

「そりゃそうでしょ。下忍に聞かせられる内容でもないし」

中忍でも知っているのは一部じゃない? と肩をすくめる。

「隠れ里の者は知らない筈だよ。里の外の人間なら知っているかもしれないけど」

木の葉隠れとか、五大国の中での知名度は低いだろうと説明する。

「地方は特に、ね。猛獣がいる森の中を、商人が行き来する時とか・・・一々、大国の忍びを雇っていられないからね」

依頼料は基本、高い。

「それに、大国の里の忍びの場合、だ。地方かつ危険なところに長期間滞在する任務・・・土木作業者の護衛任務とかね。基本受けてくれないし」
「それはどういうことだ?」

「まず、忍術や何やらで破壊された道や橋を修復する必要があるのは分かるだろ?」
「ああ」

道がなければ荷を運べない。橋が無ければ荷を運べない。
波の国を思いだしたサスケが、うなずく。

「でも、それを護衛するとなると、どうしても長期間の滞在が必要となる。そこに、だ」

もし本国の方に、他国が戦争を仕掛けてきたら? と問いを発する。

「そうか。依頼人ほっぽり出して帰還する訳にもいかないしな」

「それに、長期間任務だと依頼料も馬鹿高くなる。そこで、だ」

「安上がりでそこそこ腕の立つ抜け忍、もしくはチャクラを扱える者達が必要になるわけか。でも、土遁の忍術で橋を建設するっていうのは・・・」

「それも不安、だとよ。忍術の精度もあるし、土で道を作ってはい終わりってわけにもいかない。それに、人の手で作った道や橋の方が安心できるらしい」

「・・・そうなのか?」

「そうらしい。直接聞いた事はないけど、気持ちは分かるよ」

人によっては毎日通る橋や道。それが一瞬で作られたものならばどうか。

「俺達なら、なんとも思わないかもしれないけどな。チャクラを扱えない者は、不安になるってさ」

原理が分かってはいても、理解できないものはお断りらしい。
皮肉な話だけどな、と苦笑を返す。

「でも、戦争の後、復旧作業が手伝われる事はなかった。各国とも、里の軍備とか人員育成の方が最優先事項だったから」

そこに、網の登場だ。
大戦で負傷し、身体の一部分を失い、帰還するにもできなかった忍びや、長く続いた凄惨な戦場の後、戦う事自体が嫌になった忍び。
チャクラを扱えるが、忍びの才能は無いと判断された忍び。才能無く、アカデミーを卒業できなかった者。
戦争で親を亡くした孤児、村を焼かれ職を失った者。

戦禍の後、何かに取り残された者達。
それを集め、組織した揚句、そのあぶれた者達に職や、生きる場所を与えた。
先代の“網”首領、地擦ザンゲツ。各農村から英雄と称えられた偉人である。


「まあ、当然裏の顔も持っているんだけど」

表の顔も裏の顔も持ち合わせている。清も濁も合わせて飲み干せる人間。故の怪物。
戦闘能力は高いとも言えない。だがナルトにとっては、かの五影以上に敵に回したくない人物だ。

「それと、一部だけどな。抜け忍と依頼人との仲介も行っているらしい」
「・・・波の国のあれは、そうなのか?」
「いや。再不斬に聞いたけど、依頼人に直接交渉しにいったってさ」

賞金首になっていた事から、網に身を置くという選択肢は選ばなかったらしい。

「今は仮名で登録しているけど」

「・・・そんな事が可能なのか?」

「まあ、ようは信用の問題だよ。登録の際の仲介をしたのは、俺だからね・・・ああいう人間は信義と約束に重きを置くから」

信頼が何よりものをいう。その点でいえば、ナルトは問題ないといえた。

渡世の仁義、ってやつだ。

苦笑しながら、ナルトは答えた。はぐれ者同士でも、いやはぐれ者ならば余計に。
徒党を組む組織を立てるならば、信義が重要になってくる。

「そうしないと、組織の人員を統制できないからね」

個人にできる事はたかが知れている。個人は組織に勝てない。人は集まればより多くの事ができる。
はぐれ者達にはそれが分かっていた。

居場所を失わないための、最低限の事は守る。それが暗黙の了解。
そして、それを守れない者、裏切りに者には相応の制裁がある。専門の処理屋もいるらしい。

「組織幹部への加入。その話を蹴ったという前科があってもね。俺にはそれまでに任された仕事に関する実績があったから。
だから、今でも多少の無茶は聞くんだよ。それに網の頭領ともね。知らない仲じゃないから」

代替わりの時にも現頭領側に立って力を貸したし、と言いながら遠い眼をするナルト。

「・・・それも、色々のうちに入るのか?」
「入るねえ・・・」

と、答えながらも内容はぼかす。
サスケはそれを察し、まあいいとだけ答える。

「あと二つだけ聞きたいことがある・・・今更だけどな。俺達7人全員をこの任務に連れてきてよかったのか?」

「ん? ・・・そりゃそうでしょ。敵対する相手の戦力・規模は不明だし、失敗が許されない以上出し惜しみは無しだ。万が一だけど、留守中に隠れ家が見つかった場合を考えてもね。
誰かを残すのは不安だよ。それに、護衛任務だから護衛に割ける人数は多い方がいい。まあ、連携その他は臨機応変に対処していくよ。マダオとキューちゃんはそもそも直接の殴り合いには参加させないつもりだし」

今回はその意味もないだろうしね、と答えるナルト。

サスケそうだな、と答えた後、もうひとつを尋ねる。

「しばらくは任務を受けていなかった・・・ブランクがあったと聞いたが・・・よく、こんな大きな仕事を任されたな」
信頼があるとはいえ、それもおかしくないかと言うサスケ。


対するナルトは、それなんだけど、と一泊おいて。

「例の、頭領にだけは、俺の正体を告げたからね・・・おっと」

大声で「はあ!?」といいそうになったサスケの口元をふさぐ。

「まあ、交換条件だよ」
「・・・いいのか? 裏切られる可能性は?」

木の葉側に漏れるかもしれないぞ、とサスケ。

「限りなく零に近いね。そういうことをするような女じゃないし」
「・・・そうなのか・・・ってちょっとまて。そいつ、その頭領って女なのか」

「ああ・・・怖い、女だよ」

各農村から英雄と呼ばれていたに先代、組織の法と在り方を作った先代に勝るとも劣らない。
幼い頃失ったと聞く独眼と合わせ、迫力のある外見。打算だけでは動かない、人情に厚く仁義を知っている頭領。

思い出し、ナルトは苦笑をする。

「リスクとリターンも分かる奴だから。そもそも、俺の情報を売るような状況になる筈がないし」

俺のことを探している連中は特にそう。網が無くなると困る連中だし、網を構成する人員も仁義に厚いやつらばかり。
報復は熾烈を極めるだろう。

暁もダンゾウも、そんな悪手は打たないだろう。

「信頼を得るには、自分の手の内と身分を明かす必要があるからね」

事情を説明すれば分かってくれたし、とつぶやく。

「その組織に取り込まれたりは?」
その問いにナルトはまさか、と言いながら首を振る。

「爆発物危険お断り、ってところだね。考えるだに恐ろしいんだろう。五大国の隠れ里が保持している筈の人柱力の一柱を、網が保持していると知れたらね」

それだけで大事になる。

それに、そんな大きすぎる力は必要ないだろう。大きすぎる力は禍を呼ぶ。
力は必要なだけあればいい、というのが組織の方針だと聞いた。

「今、網が潰されないのは、五大国にとっても、網に無くなられたら困るからだよ。地方に関しては特にね。大戦後の復興を手伝わなかったという負い目もある」

戦争に巻き込まれ死んだ者達が遺した子供、戦災孤児の一部を保護する孤児院も建設していると聞いた。
大人になってから返してもらうらしいのだが・・・それでも餓えて死ぬよりはずいぶんとましだと言える。

「そうだな・・・壊すだけの力じゃあ・・・どうしようもないし、な」
「掌を固めた拳で出来る事はひとつ。目の前の壁を打ち壊すことだけだよ」

助けるには、手を引くのは、その拳を解く必要がある。
忍者はそれが下手だ。なまじ力があるだけに。

別方向の力が必要になるのだ。

「この音色のようにね・・・・あとはラーメンとか、ラーメンとか、ラーメンとか」
『結局はそれか!』
「きつねラーメンとか」
『それならば良し!』

急に独り言を言いだすナルトを見たサスケが、溜息を吐いた。
「・・・もしかして今、夫婦漫才でもしているのか?」

サスケにはきゅーちゃんの声は聞こえない。
だが、おそらくそうだろうとナルトに尋ねてみる。

「いや・・・っておわ!」
『そ、そんなんじゃないわ!』

戯けが!とキューちゃんがナルトの体を動かす。

放たれた拳が、サスケの頭部を捕えた。


「・・・あ?」


「あ」


その不意打ちを受けたサスケは。


「ちょっとまてぇぇぇぇぇ」


間抜けな声を上げながら甲板から落ちていった。

「・・・・」
『・・・・』

ナルトとキューちゃん、二人が沈黙しながら固まった。

「面舵いっぱーい」

「よーそろー」

甲板の前方で、未だ後方の惨劇に気づいていない操舵士とマダオ。
二人の間抜けな声が、甲板上に響き渡った。


その直後である。


「っつぶねえなテメエぇぇぇえ!」


船の後方。足にチャクラを集中させたサスケが海面の上を走っていた。

波を越えながら。

海上に吹く風は強く、帆船であるこの船の船足は結構速くなっているのだが、サスケは必死に走っている。

船に追いつこうと、全力疾走で追いかけてくる。

甲板上、後方にいた白と再不斬はいきなりあらわれた光景を見て硬直した後、即座にナルトの方へと駆け寄って行く。

「・・・何をやっているんですか?」

「・・・流石にあれはあんまりだと思うぞ」

溜息混じりの二人の言葉に、ナルトは「いや、まあ・・・」としか返せない。

後方を見る。

夕陽をバックに、赤いマフラーをたなびかせながら船に追いつこうと全力疾走する、サスケの姿。

・・・確かにやりすぎたかもしれないが、ナルトは不思議な達成感を得ていた。

その時である。


「・・・何、あれ」

着替えが終ったのだろうか。甲板に上った雪絵が、走っているサスケの姿を直視する。

「はっ、はは・・・あはははは!」
何あれ~、と言った後、心底おかしそうに腹を抱えて笑っていた。


それを見たサスケは怒りに顔を真っ赤に染めた後、急激にスピードを上げた。

どんどんと迫ってくるその姿に、雪絵の表情が驚愕を表すそれに変化する。

そして近づいた直後。

サスケが、甲板の上に飛び乗ろうと、跳躍を決行した。


でも、その寸前に。

船の前方で、操舵士が舵を回した。


「取舵少しー」

「よーそろー」


面舵とりすぎたとばかりに、取舵を取って針路を調整する操舵士。

マダオもまた、操舵士の隣で号令を一緒に発していた。

二人は未だ、サスケの事に気づいていなかった。

もしかしたら、桃色空間が展開されている後方など誰がみてやるものかと考えていたのかもしれない。
操舵士は孤独な者である。



そして一方、大跳躍を決行したサスケ少年は。


「え・・・・?」

急にずれた船の針路のせいで、甲板上には降り立てなかった。


きょとんとした表情を浮かべながら、船の横を通り過ぎるように落下していく。

そして、海面に着地・・・いや着水したサスケは、肩を震わせた少しあと、「誰が諦めるかー!」と叫び、再び船に向けて走り出した。

ちなみに雪絵の方だが、甲板上で腹を抱えて転げまわっていた。先ほど見えた、海面に落ちていく際のサスケの表情が止めとなったのだろう。
三太夫が「ゆ、雪絵さま!?」と言いながら何とか立ち上がらせようとするが、彼女の笑いは止まらない。

「そういえば笑っている彼女を見たのは、これが初めてですね」
「そうだな・・・」

二人は遠い眼をしながら、何でも起こるんだなこいつの周りは・・・と呟いていた。

ナルトの方は「無茶しやがって・・・・」と呟きながら、夕陽の上にサスケの顔を浮かべる。

親指を立てながら、歯をキラリと光らせたサスケ。

一等、男前だと思った。


ここで一句。

「夕暮れの 海面走る サスケかな」
『・・・そのまんまじゃの』

季語は夕暮れ。
そして、夫婦漫才の直後である。

「勝手に纏めるんじゃねえ!」


最もと言えばごもっとも。
海面ジャンプから空中で回転。

赤いマフラーたなびかせたサスケの突っ込み蹴りが、ナルトの横頬へと炸裂した。



[9402] 劇場版 SASUKE ~大疾走!雪姫忍法帳・その虹の先に~ 3
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2009/09/05 02:05

錨を降ろし、船を停泊させて一夜が明けた。


朝の時。曇る空は朝日を見せず、ただ暗澹たるものを教えてくれるのみであった。

船の上では鶏もいない。さあどうして朝を感じようかと言うときだ。助監督の叫びが甲板上に響き渡った。

「か、監督! 大変っす!」

興奮する助監督に、「何でえ騒々しい」と江戸っ子みたいな返事を返しながら外へ出てくるマキノ監督。

だが爺さん、目の前に映るその光景を見て、驚愕する。

「こ、こいつは・・・!」

「朝起きたら、ここで針路が塞がれてたんですよ!」

どうしましょう、と助監督がマキノ監督聞に訪ねる。

だがマキノ監督、そんなもん聞いちゃいねえ。

「バカヤロウ! 絶好のロケーションじゃねえか!」

ここでカメラを回さないでどうする! と大声を張り上げる。

一方、ナルトだが。

「・・・無いわー」

一夜明けました。船の針路の先に氷山が出来てました。まる。で済むような事態ではない。

隣で「この映画、化ける!」と興奮しているマキノ監督とは対照的に。ナルトの方は頭を抱えていた。

敵、恐らくは忍び数名が近くにいると分かったから。

その事を告げた上で撤収を進言しようと思ったナルトだが、首を振り諦めることにした。

自分が何を言っても聞いてくれないだろうと思ったからだ。

ナルトは今のこの監督の様子を見て、分かった事があった。映画という芸術に、命を賭けている人間。骨の髄まで写真屋なのであろうと。

半端な言葉は意味がないと悟ったナルトは、もう一度ため息を吐きながら、皆の元へと向かった。取りあえず最低限の方針を決めなければならない。


「総員、上陸準備だ!」


監督の指示が下される。

撮影隊を乗せた船は、前方に見える流氷へと近づいていった。








そして上陸後。


撮影の準備が整うまで、役者とメンマ達は複数あるストーブの前で別々に暖を取っていた。

あちらのストーブには役者達と護衛のサスケ。

こちらには俺とマダオだけだ。

多由也と白は船の方に行って貰っている。

再不斬は周辺を哨戒中である。単独行動となるが、あれだけの力量を持つ再不斬だ。心配は無いだろう。
水も周りにあるから、水遁もつかいやすい場所。戦う場所としては悪くない。

それに、いざとなれば鬼斬り包丁を口寄せすればいいのだから。
初対面時より更に強くなった、今の再不斬。その上、本気で本装備のフルアーマー再不斬ならば、そこらの忍び程度なら簡単に蹴散らせるだろう。

「しっかし、何もないなあ・・・」
「そうだねえ」
『氷ばっかりじゃのう。何か、動物などはおらんのか』

3人はストーブの前、周辺に声が漏れないよう、小声で話し合っていた。
キューちゃんは相変わらずナルトの中だが。

「・・・気配は感じない。いないみたいだねえ」
「しっかし僻地も僻地。田舎だよなあ・・・そういえば、この国の君主ってどういう人なんだろう」

各地を放浪したが、雪の国には訪れた事が無かった。現君主はどんな人なのだろうか。

「そうだな・・・例えば・・・」

2人は頭の中で想像描く。

「冬と君主・・・冬と国王・・・」

そこでポン、と手を打って納得したとばかりに語り出す。

「私は王女オリゲルド・・・」
「冬将軍・・・勝てる気がしねえ・・・!」

アルディスはキリハかな、と呟くナルト。

『・・・訳が分からんぞ?』

「「馬鹿な!?」」

目を白くして驚く2人。
あの大作を知らないと!? と叫ぶが、無茶振りもいいとこだった。

『・・・だから・・・私には分からんもん、それ』

取り残されたせいか、落ち込みちょっと拗ねるキューちゃん。
ナルトとマダオはそんなキューちゃんの言葉を聞きながら胸をときめかせる。そしてテンションゲージをマックスにまで高めるのであった。
実にどうしようもない2人である。

「・・・さあ。身体も温まった事だし、別の話題に移ろうか」

これ以上、からかうというか、キューちゃんをおいてけぼりにすると後が怖い。
そう判断した2人は、即座にフォローに入る。

「・・・とはいってもねえ。何の話をしようか」
「雪の国、か。雪・・・北・・・ああ、そうだ」
「決まりだね」

ナルトとマダオは顔を見合わせ、頷きあう。

やがて手元のホットコーヒーを飲んだ後、何かを思いついたのか、虚空を見上げる。

そして、キューちゃんに向けて口笛のような歌を聞かせる。

「「ルールルルル、ルールルルル・・・・・・」」

男2人が奏でる気持ち悪いハーモニー。

だがキューちゃんは反応した。

『・・・何だ? 何か、誰かに呼ばれているような感覚が・・・』

「「マジで!?」」

目を白くして驚く2人。どうやら本当に効果があるようだ。
蛍、恐ろしい子・・・!とか呟いている。

そこに、助監督の声が聞こえた。

「はい、準備終わりましたー!」

スタンバイが終わったようだ。

「じゃあ、行くわよマヤ!」
「ええ、亜弓さん!」
『待たんかお前等』

どこへ行く、とばかりに殴られる二人。

ノリと勢いのままカメラの前に行こうとする馬鹿の顔面へ、キューちゃんの拳が炸裂した。

ナルトの身体を動かしての、鮮やかな一撃である。

「・・・いや、流石に冗談だって」
ナルトが自分の頬をさすりながら答える。

「でも、始まるようだよ」
精悍な顔つきで役者達を見つめるマダオ。だがその鼻からは血が流れていた。

「いや、拭けよ・・・」





そして間もなく。

役者の方の準備も終わり、『風雲姫の大冒険』on雪の国、最初の撮影が始まる。

「うーん」
「寒いねえ・・・」

その後方。撮影が始まりいよいよ暇となった2人は、コーヒーを飲みながら雑談を始める。
この寒さを紛らわすためだった。

「ああ、そうだ」

そこで、先程のやりとりを思い出したナルトがぽつりと呟いた。

「・・・いつか、シカマルに『妹だぞ!』とか言う日が来るんだろう、か・・・」
「いったい君は何を言っているのかな? かな?」

ナルトの呟きから、刹那の後。瞬きする間もない一瞬。
脾臓の真後ろ背中には、ヒタリヒタリと冷たい冷たい、クナイの先端が向けられていた。

「しょうじきすんませんでした」
だからそのクナイを仕舞って下さいと、ナルトが平謝りする。

「・・・まったく。そもそもそんな事許すわけないでしょ。そんなふしだらな交際は認めません。最初は交換日記が基本でしょ」

文句を言いながらも、マダオは離れていく。

ナルトはその呟きの内容に何時の時代の話だよ、と突っ込もうとする。

だが、そこであることを思い出したのか、小声で1人呟いた。

「・・・交換日記、か。そういえばキリハに聞いたことあるような、気が・・・」

「誰と?」

また脾臓。暗殺技能者真っ青のマダオの隠行である。

その道の職人が見れば、こう評したであろう。何気ない動作に忍びの業が光ります、と。

呼吸を読まれたのか、間を外されのか。相も変わらず無駄な才能を遺憾なく発揮する男である。

娘バカにゃあ適わないと判断したナルトは、素直に答えを教える。許せ、友よ。

「シカマル君です」

あの日の夜の酒の席で聞きました、とつけ加える。

ガキの頃の事らしいけど、と更に付け足すが、マダオはその言葉には反応しなかった。

「・・・」

ただ無言でナルトから離れ、持ってきた包みからバットを取り出すだけだった。そして構える

「・・そういえばお前、隠れ家で何か作ってたようだけど」

それか、と呆れた声を出すナルト。

「こんな事もあろうかと」

だがマダオはナルトの言葉を無視し、鼻歌を歌いながら、木のバットをスイングし始めた。

え、なに? ・・・キルゼムオール?

「・・・待てマダオ。さすがに皆殺しは不味い」
「大丈夫だよ? 肉体で語り合うだけだから・・・そう、何も、問題は、無い」
「・・・問題は、ない・・・って大ありだよ。この馬鹿野郎」


「・・・お二人とも、一体何をやってるんですか?」

魔空間と化したそこに、白がやって来る。

「だって、暇だし・・・ねえ」

撮影の邪魔ができない以上、カメラの前に出ることはできない。
後方で気配を探りつつ警戒を続けるしかないのだ。

「あと、船の上で真面目にしすぎたから。ギャグ分を補充しとかないと、顔が保たないんだよ」

冗談交じりに答えるナルト。だが白は成る程、と頷いた後一言告げる。

「もう、シリアスには戻れない身なんですね・・・」

「うむ、5分以上はちときついのう」

帽子を持ち上げながらかんらかんらと笑うナルト。

「じじむさいですよ?」

「ぐはっ!?」

天使の微笑で悪魔の言葉。鋭角の突っ込みである。そのあまりの威力に、ナルトは吐血した。

「何やってるんだ?」

そこに、多由也が戻ってきた。

「こっちは一段落ついた・・・あれ、サスケが居ないみたいだけど、何処にいったんだ?」

「ああ、サスケくんなら」

あそこですねと白が居場所を指さす。

多由也は白の指す方向の先を見ると、サスケの姿を見つけた。

カメラのやや後ろ側。富士風雪絵の演技がよく見えるだろう、特等席にサスケはいた。

「・・・」
それを見た多由也は、何か面白くないという空気を纏いながら、目が半眼になっていく。

「・・・ほ、ほら! 護衛ですから仕方ないかと!」
それを察した白が慌ててフォローをする。

が、多由也の半眼は直らない。

「こらこら。そんな目つきを続けているとやくざ屋さんになっちゃうよ?」

あと某グロ魔術師殿とか、といいながら、多由也にココアを渡した。

「・・・ああ、ありがとう」
砂糖とミルクありありのココアを飲む多由也。

半眼になっていた目がようやくほころぶ。

甘いものが好きなようだ。まるで猫のような表情を浮かべる多由也を見た3人が笑う。

「でも、じっとしていると身体が冷えますね」

防寒着は着ていますが少し寒いです、と言いながら両手に白くなった息を吹きかけ、手をすりあわせる。

「そうだねえ。まあ戦闘とか始まったら、そうでもないんだろうけど・・・」

「それもそうですが、口に出すのやめましょうよ。噂をすれば影って言いますし」
ただでさえリーチ状態なんですから、と白がため息を吐く。

「このまま、何事もなく撮影が終われば・・・まあ、一番良いんだよな」

「そうだねえ。サスケに実戦を経験させるっていう目的は果たせなくなるけど・・・何事もなければきっと、それが一番・・・」


なんだろうけど。という言葉は続かない。


ナルトは何かに気づいたように一瞬硬直した後、手元のコーヒーを一気に飲み干した。


そして深く、白い息を吐いて2人にだけ聞こえるように、小さい声で言葉を発する。


「まあ、ね」


コーヒーを地面に置いた後、カメラの方向から背を向け、即座に懐へと手を伸ばす。

やや遅れて察知した2人が手元の飲み物を飲み干した。

同じく、構える。



「やっぱり、そういう訳にもいかないねえ」



渋い表情を浮かべ、ナルトは懐から黒い玉を取りだした。



「・・・!」


そのナルトの背後。

海面を背に、という方向で言えば前方、雪山側にいたサスケは、突如変化したナルトの気配を察知し、振り向いた。

そして、2人と同じく、警戒体勢に入った。



ナルトはやがて黒い玉、焙烙玉を手元で一度軽く放り投げると、口の端だけで笑みを浮かべる。


そして、雪山の方に振り返った直後、助走をつける。


そして一歩踏み込む。そのまま踏ん張り、足を根に、そして腰に重心を落とし、腕は鞭のようにしならせ、そのまま振り抜く。


唸りを上げる腕。その手の先から、高速の弾丸が放たれた。




「鳥羽一郎、GO!」




チャクラで強化し、全身の筋肉を連動させた上での投擲。

放たれた弾丸は、閃光が如く。その速さを保ちながら、空気を切り裂き飛んでいく。


数秒後、氷山の一角にぶつかる。


直後、爆発した。



「なっ!?」

魔王役の役者が背後の氷山で起きた爆発に、驚きの声を上げる。


爆発跡からは、黒い煙が立ち上がった。


「何するんだ、あんた!」

撮影の邪魔をするな、と助監督の怒声がナルトへと向けられる。

「全員、下がってくれ」

だが、ナルトはそれを意に介さず、指示を飛ばす。そして、焙烙玉を投げ込んだ場所を睨み付けた。


そして、すぐさま前方へと跳躍。

撮影隊を庇える位置へと移動した。


そして。


「流石に、これ以上は近づけないか」

その爆発跡から、1人の男が姿を現した。白は出てきた男の姿を見て、その身に纏っている見慣れない鎧のようなものを見ながら、呟いた。

「黒い、鎧?」

「忍びか・・・?」

ナルトは相手を観察する。

男は氷のように鋭く冷たい視線をこちらへと向けながら、不適な笑みを浮かべている。

その頬には、大きな傷跡があった。かなり古い傷のようだ。

男は笑みを浮かべたまま、その場にいる一行を歓待するかのように両手を広げ、言葉を告げた。

「ようこそ、雪の国へ」

演技臭い男の仕草。

「歓迎するわよ、小雪姫。六角水晶は持ってきてくれたかしら」

視線の先。別の雪山からまた1人、今度は女性の忍びが現れた。

ナルトは2人が身につけている額当てを見た後、舌打ちをした。

何処の里なのか分からない。その額当てに刻まれている紋だが、ナルトが知っているどの紋にも該当しない。

女が身に纏っているのは、先の男と同じく黒い鎧。やや軽装になっているが、感知できるチャクラの大きさはそう変わらない。

女が言った名前。小雪“姫”という名前も引っかかったが、今は無視だ。まずは目の前の敵をどうにかしないといけない。

それに、だ。

「どうせ、歓迎するなら全員でして欲しいな・・・なあ、アンタ。別に恥ずかしがり屋ってわけでも無いんだろう?」

だから出てきてくれないか、と告げながら、ナルトは最小限の動作でクナイを投擲した。

一般人ならば目にも映らないだろう。
かなりの速度で放たれたそのクナイは、一直線に飛んでいく。

投げられたクナイの先。誰もいないはずの右方向の丘の上を狙った一撃は、そのまま地面に突き刺さると思われた。

だが落ちる寸前、クナイは不可視の何かに弾かれて、あらぬ方向へと飛んでいった。

「はっ!」

直後、地面から人間が出てくる。

熊のような巨体を持つ大男。

他の2人と同じ、黒い鎧を身に纏っていた。

「この距離で気配を察知されるとはな・・・それに先程の動作。抜け忍の癖になかなかやるようだ」

不適な表情を浮かべた男は、後方へと跳躍する。


それが開戦の合図だった。




悟ったナルトは即座に指示を飛ばす。

指示に従い、多由也は撤収する撮影隊を護衛。サスケと白が前に出る。

「了解!」

「ああ!」

2人が即座に応答し、各の役割を果たすべく動く。

だが、撤退していく撮影隊の方へと向かった多由也のみ、その場で足を止めた。

「おい!?」

撮影隊の中、ただ1人だけ、その場を動かないで佇んでいる者がいたからだ。


その人物は風雲姫。

最優先護衛対象である、富士風雪絵だった。


「・・・アンタ!?」

多由也が叫ぶ。

「ちっ!」

それを見たナルトは舌打ちをすると前方を向き、即座に駆け出した。
撮影隊が撤退する時間を稼ぐために、敵首領を抑えようというのだ。迎え撃つよりは打ってでる方を選ぶ。


かなりの速度で近づき、やがて一定距離まで近づくと印を組み、術を発動した。

「風遁・大突破!」

ナルトの口から全てをなぎ払う豪風が放たれる。

だが、その風は相手には届かなかった。

それなりのチャクラが込められた暴風は敵の眼前で弾かれ、後方へ逸れていくだけ。男は悠然とそこに立っていた。

そしてナルトの方を見て鼻で笑いながら、言葉を発する。

「その程度の忍術など・・・我々には通用しない!」

見れば、男の前方にはチャクラの膜のようなものが張られていた。

「その、鎧は・・・?」

「これは、雪の国が開発した最新鋭のチャクラの鎧」

聞けば、相手のチャクラを無効化する、逆位相のチャクラを発しているらしい。
そして、着ている者のチャクラを増幅してくれるとか何とか。

「つまり俺達の忍術、幻術は通じないってわけか・・・厄介な」

「そういうことだ」

男は笑みを絶やさないまま、ナルトの問いに答える。

一方ナルトの方も内心では笑みを浮かべていた。

(まさか、聞いた事に素直に答えてくれるとは・・・あと匠の里での噂話、どうやら真実だったようだ)

チャクラの鎧。一つ情報を得たナルトはどうしたものかと思考を走らせる。

そんな黙り込むナルトを見た男は、それを弱気になったと取ったのか、高らかに笑い声を上げて追撃を開始する。

「所詮は抜け忍風情! この鎧を身につけている我々には適うまい!」

敵の首領格の男が空中へと跳躍。

そして印を素早く組み、忍術を発動した。

「氷遁・破龍猛虎!」

突出しているナルトの元へ、氷で出来た巨大な猛虎が突進していく。

「水遁・水龍弾!」

だが、その直後。

横合いから水でできた巨大な龍が飛来する。荒ぶる龍はその水圧で猛虎を打ち砕かんと、その横っ面へ突っ込んでいく。

だが、水の龍は氷の虎を打ち砕く事ができない。逆に凍らされ、砕かれてしまった。

しかし、若干だけど術の圧力は猛虎の身に通ったのだろう。氷虎の軌道は逸れ、ナルトから大きく離れた場所、氷の地面を抉るだけだった。

「ダンナ・・・!」

「誰がダンナだ」

哨戒に出ていた再不斬が戻ってきた。

「こいつは任せろ。お前は後方へ」

「ああ、任せた」

「ふっ、どちらが来ようと同じ事だ!」



一方、サスケの方は。

「ここから先は行かせねえ!」

女の忍びを止めるべく、叫び前へと出る。

女はサスケの力量を見ようと、ひとまず距離を取った。

そして印を組み、術を発動する。

「氷遁・ツバメ吹雪!」

氷で出来た燕が数十羽、飛来しサスケへと殺到する。


「火遁・豪火球!」

サスケから放たれた豪火球が、燕全てを溶かし尽くした。


「・・・!」

だが、その後方。

棒立ちになっていた雪絵が、サスケの放った豪火球を見た途端、小さな悲鳴を上げる。

そして手に持っていた撮影用の模造刀を地面に落とす。

「おい、アンタ! 早く逃げるぞ!」

多由也が怒鳴りつける。
が、雪絵は何の反応も返さなかった。

「ん?」

そこで多由也は後方から、聞こえてくる誰かの声・・・三太夫の声が聞こえ、訝しげな顔を浮かべる。

それは雪絵も同じだった。

三太夫の放った一言はそれほど場違いなものであったからだ。

その言葉を聞いた雪絵は驚愕の表情を浮かべ、後方から駆け寄ってくる三太夫の方へと振り返る。

「・・・三太夫、あなた・・・!」

「爺さん、あんた・・・」

続く声は、跳躍し後方へと飛んできたサスケによってかき消された。

「・・・何をしている! さっさと行け!」

怒鳴りながらサスケは印を組む。
虎の印を締めに繰り出されるは、火遁・鳳仙火。

そして印を組んだあと、手裏剣を素早く取りだす。手裏剣に火の小花を纏わせ、同時に敵に向け放つ。

「氷遁・ツバメ吹雪!」

対するは氷燕。だが競り勝ったのは火の鉄花の方であった。
鳳仙火手裏剣は氷の燕を溶かした後、その勢いを殺さずに標的へと殺到する。

舌打ちした女は、地面へと手をつけ、告げる。

「氷牢の術!」
手裏剣は女の身体に突き刺さるその一歩手前で、防がれた。

地面から生えてきた氷の柱に弾かれたのだ。

そして柱は次々とその数と勢いを増し、今度はサスケの方へと襲いかかった。
かなりの速度で迫り来るそれを、サスケは後方へと跳躍し続ける事でかわす。

やがて、再び多由也の横まで下がったサスケは、気絶する雪絵の姿を見て驚いた。

「おい、何があった!?」

「わかんねえよ! 火を見た後急に叫びだして・・・くそっ、後だ、後! ウチが担いで撤退するから、援護を頼む!」

「ああ、分かっ・・・ってナルト!」

「おいおい、その名で呼ぶなよ」

敵首領は再不斬に任せたのだろう。
後方へと戻ってきたナルトは、多由也を見ながら指示をする。

「雪絵さんを頼む。俺は三太夫さんを運ぶから。急ごう」

「分かった」

多由也は雪絵を肩にかつぎ、後方へと下がっていった。その後方、殿としてナルトが追随する。

その光景を見ながら、サスケはよし、と一息入れる。

(これ、使えるか)

地面に落ちていたある物を見つけ、手に持つ。

そして敵、女忍者のいる方向へと走り出す。


チャクラで足を強化し、全速力。

「おおおおおぁぁ!」

「氷牢の術!」


突っ込むサスケの足下から、氷の柱が次々とせり出してくる。

サスケはそれを走りながらも視認し、左右へジグザグに走りながら回避する。

氷柱を後方へ置き去りにしながら、どんどん間合いを詰めていく。




ちなみにサスケだが、今は写輪眼を使っていない。

上陸する前にナルトから釘をさされたからだ。戦闘が起こった場合、一戦目はひとまず様子見に徹しろ、と。

初戦の方針簡単。あくまで様子見程度に抑える事だ。切り札は見せない。適当にやりあった後、多由也の合図と共に退くとのこと。

ちなみに、もし使わざるを得ない状況になったら? とサスケが問うた。

その問いに対し、ナルトはこう答えた。

『そうしなきゃ勝てないのなら、使っていいよ』と、嫌らしい笑みを浮かべながら。



思い出したサスケは、不適に笑いながらも、叫ぶ。

「誰が思うか!」

ついに距離を詰め切ったサスケ。だが女忍者は鎧の背中にあったのだろう、翼みたいなものを展開し、宙へと逃れる。

そして着地後、再び氷牢の術を発動。

先程より速い。

回避しようと、サスケは後方へと跳躍する。

だが氷柱の方が速かった。


「しまっ」


氷柱に、サスケの足の一部が捕まってしまう。それを基点に、サスケの全身が氷に覆われていく。

氷牢の術、完成。

氷で出来たの牢の中に囚われてしまったのだ。




---偽物が。



「何!?」


変わり身の術。

氷の中、囚われたと思われたサスケの姿が変化する。

代わりに現れたのは、先程サスケが拾ったストーブ。表面には起爆札が貼られていた。
直後、氷の中で起爆札が爆発した。

爆発はストーブ内の油に引火し、周辺の酸素を急激に燃焼させる。

起爆札よりも大きい規模で、爆発が起こる。


「ちっ!」

氷柱を盾に爆発を逃れた女忍者。

「あいつは・・・!?」

その後方にサスケが回り込む。

「終わりだ! 火遁・豪火球の術!」

逃げられない間合いとタイミング。サスケの豪火球の術が女忍者へ向かい放たれる。

だが、女は避けなかった。背にある翼を再び広げながら、火球に向かい突撃していった。

「なっ」

鎧から発せられた障壁だろうか。チャクラでできた膜のようなものが、火球を弾き飛ばしてしまう。


そのままクナイを取りだし突進する。術を放った後のサスケに向かい、襲いかかった。

だがサスケは焦らない。反応できる速度なので、焦る必要もないと、冷静に対処する。写輪眼を使うまでもない。

サスケは相手のクナイの軌道を見切り、自分のクナイで横に弾いた。

鉄と鉄がぶつかる、甲高い音が辺りに響き渡る。

「ちいっ!」

「そんな遅い攻撃で!」

余裕を持って避けきったサスケは、再び構え直す。

女忍者はそれを見た後、地上戦では分が悪いと見たのか、そのまま空中へと浮かび上がる。

そして懐から黒い玉を取りだし、サスケへと複数投じる。

投じられた玉は地面に落ちると同時に破裂し、氷の刃をはき出した。

サスケはその刃も余裕で避けながら、何とか反撃しようとする。

だが、空中に飛び回っている相手を捉えきれない。術も放たない。

中途半端な威力の術では、あの障壁を貫けないと判断していたからだ。

どうするか、と考えている最中。


背後から、笛の音が聞こえた。


「・・・合図か」




一方、白の方だが、こちらも状況は膠着していた。

熊男の攻撃は単調で、鉄製の板に乗って滑りながら突撃を繰り返してくるだけ。

鋼線のついた鉤手を飛ばしてくる事もあるが、白とマダオならばゆうゆうと避けられる速度。

最初、男は2人の間を抜け、船の方へ行こうとしていた。

そこにマダオが立ち塞がる。熊男の鉤手がワイヤードフィストよろしく、マダオに向けて発射された。

だが、マダオは「ゴーブリンバット!」の雄叫びと共に、手に持ったバットの一撃で鉤手をピッチャー返し。

まさかそういう返し方をされると思っていなかったのか、熊男は戻ってきた鉤手を顔面に受け、そのまま吹き飛んだ。

足についていたスノーボードみたいな鉄製の板も、そのままどこかに飛んでいった。


機動力を失った相手。そこにたたみかけるマダオ。


「ガトチュゼロスタイル!」とか、「ケンチャァァァァン!」とか叫びながら、熊男をたこなぐりにしようと一気に攻勢に出る。

だがその攻撃は障壁に遮られてしまう。

「舐めるな!」

色んな意味で頭に血が上った熊男が、反撃に移る。

だがそこは流石のマダオである。雪上の戦闘をも苦にしない動きで、攻撃を避ける。

そして隙を見て間合いを広げた後、遠距離戦へと持ち込む。白もそれに加わり、再び攻勢に移るが、千本やクナイは尽くが弾かれる。

鎧から発せられる障壁に防がれ、ダメージを与える事ができない。

「・・・埒があきませんね。様子見程度の攻撃では駄目なようです」

「そうだね・・・でも、そろそろ時間だよ」

初戦、この状況。目的は時間稼ぎだ。そして、十分に時間は稼げた。

「そろそろ、ですか」

2人は後方から感じる気配を確認し、呟いた。


撤収は完了したようだ。船が出ようとしている。


残っているのは、自分たち6人と敵の3人だけ。

「仕上げっと!」

マダオが起爆札が付いたクナイを複数投じる。

それも障壁に阻まれしまうが、男は爆風によって後方へと飛ばされてしまう。

その後、岸の方から甲高い笛の音が聞こえてきた。

見れば、船は既に岸を離れている。頃合いだ。

「さて、退こうか」

「了解です」






同じ時、再不斬にも撤退を知らせる笛の音は聞こえていた。

「・・・悪いが、ここいらで退かせて貰う」

「・・・ふん、させると思うか?」

笛の音を聞きながら首領格の男は不適に笑う。

直後、逃がさないとばかりに、今までとは少し違う印を組み始めた。



「氷遁・一角白鯨!」



叫びと同時、氷で出来た地面の下から、一つ角を持った巨大な氷の鯨が飛び出してくる。

だが再不斬はそれを難なく避け、そのまま船の方へと疾走する。


そこで、既に陸から離れているに出た船を見た。

全員が既に、岸まで退避しているようだ。そのやや離れた場所には、敵の姿もあったが。


「来たぞ。どうする」

「俺と再不斬が残る。他は退避。でかい術で足止め。後に撤退」

時間が無いので、簡潔に作戦内容を告げる。

「ナルト、空のやつはどうする?」

少し離れた空中、女忍者は空に浮かびながらこちらの頭上を越え、船へ向かおうと機を伺っていた。

それを、どうするかのサスケの問いに、ナルトではなくマダオが答えた。

任せて、と言いながら、あるものを頭上に掲げた。

「こんなこともあろうかと!」

バットだった。だがそのバットは普通ではない。その表面には、大量の起爆札が貼られていた。

「空を往け! ボンバー君4号!」

無能部下爆殺器、ボンバー君4号が空を飛ぶ。ちなみに火薬の量は企業秘密らしい。


やがて、ボンバー君は空中で爆発。

宙に浮いていた女忍者は強風に吹かれた蠅のように、地面へと落とされた。



「・・・撤収!」


号令と共に。

ナルトと再不斬以外の全員が船へと走り出す。



「さて、やろうかダンナ」

残ったナルトは懐から煙玉を数個取り出し、炸裂させる。そして弱めの風遁でその白い煙を広がらせ、岸当たりを白い煙りで完全に覆い隠す。

「誰がダンナだ・・・ぶちかました後、一気に退くぞ」

「一目散だね」


ナルトは親指を立てながら返事をする。再不斬は少しため息をはいた後、顔を真剣なものへと変化させ、構える。


「水遁・大瀑布の術!」


そして素早く印を組み、手をかざしたあとそれを振り下ろす。

同時、海面が急激に隆起し、そのまま螺旋を描く瀑布となって敵へと襲いかかった。

煙で視界を防いでいたので、敵から見れば白い煙を突き破って突如大瀑布が襲ってきた風に見えるだろう。

辺りに浮かんであった巨大な氷塊が組み合わさり、いつにもまして危険さを増した水の竜巻が、陸にある全てを押し流していく。


「風遁・大突破!」


加え、ナルトも通常より多くのチャクラをこめた大突破を使う。風により氷塊が飛ばされ、陸の方へと飛んでいく。



不意を打たれた形になった敵は驚き、その場に留まるのが精一杯となった。


術を放った2人は動かない敵の気配を察知した後、その場に背を向け、撤退を開始した。




















[9402] 劇場版 SASUKE ~大疾走!雪姫忍法帳・その虹の先に~ 4
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2009/09/09 18:46




先の撤退戦が終わり、その数時間後。

ナルトは、護衛対象である富士風雪絵の部屋を訪れていた。

未だ目を覚まさない雪絵の寝顔を身ながら、三太夫が言っていた言葉を忌々しげに復唱する。

「姫様、ね・・・・」
『うむ。ワシの勘も捨てたもんじゃないのう』
「そうだね・・・」

心中、胸を張るキューちゃんの姿を見た後、ナルトは帽子を深く被ってため息を吐く。

『お主、最近ため息を吐いてばかりだの』

「世界が俺に優しくないからねえ」

キューちゃんに冗談を返した後、ナルトは陽光に照らされる光につられ、窓の方を見る。

「ん・・・?」

そして棚の上、光に照らされ反射し、紫色に輝いている首飾りを見つけた。

「これは・・・?」

随分と変わった形の首飾りだ。まじまじと見つめるナルト。

「六角形の水晶・・・?」

紫に輝く首飾り。

そして何かを閃いたナルトは、その首飾りを手にとった。

「保険、かけとくか・・・」









やがて、撮影隊を乗せた船は、当初の目的地である雪の国の港についた。

一行は港町で予約していた宿を借り、ひとまずは休む。

しかし、あんな事があったのに、撮影隊の誰もが逃げ出さないでいるのは驚いた。
流石は音に聞こえたマキノ監督直属の撮影隊。多少の動揺はあるようだが、パニックは起こしていない。
いつもの通り撮影に使う機材をチェックし、次の撮影に備えている。

「そういえば・・・」

ナルトは思い出したかのように呟く。
彼らは映画界では有名なスタッフで、「マキノ隊」と呼ばれているらしい。
成る程、あの監督に付いていくだけあって、精神的なタフさも兼ね備えているらしい。

「職人だなあ」

彼らは彼らの仕事を全うしている。なら、こちらも仕事を全うしなければならない。
ナルトはそう思った。


宿について一段落した頃。ナルトは部屋の一室を借りて、皆そこに集まるように指示を出した。

「さて、と。三太夫さん。詳しい事情を説明してもらいましょうか」

会議室と貸した部屋の中、監督、助監督、三太夫と、ナルト達護衛の面々が集まっていた。

ナルトは黙る三太夫に質問を続ける。

「あなた富士風雪絵の事を姫、って言いましたよね。そしてあの忍らしき女も“小雪姫”と呼びました・・・今までの事から察するに、あなたは雪の国出身者だ」

何か、知っているんじゃないですか? と詰問する。

「・・・私が雪の国の出だということ・・・口には出さなかったつもりですが、あなたには気づかれていましたか」

「ええ。まあ確たる証拠は無かったですけどね。それをふまえ、今一度、問いたい。浅間三太夫さん。あなたの口から言ってもらえませんか?」

小雪姫と富士風雪絵の事を、と言う。三太夫はため息を吐き、観念したのか真実を話し出す。

「はい・・・雪絵様は、先代の雪の国の君主である風花早雪様の御息女・・・本名は風花小雪姫様と申します」

その言葉にナルトを除く一同は驚いた。

「つまり・・・次代の君主足る資格を持っていると?」

「はい」

そして、三太夫の口から色々な言葉が綴られる。昔の雪の国の事、小雪姫の事。そして、現雪の国君主である風花ドトウの事。

「雪忍・・・?」

「左様。10年前のことです。早雪さまの弟風花ドトウめに雇われたそやつらが、あの城を攻め落としたのです。あの忌まわしきチャクラの鎧を使って・・・」

敵の首領格である男も言っていた。チャクラの鎧。

聞けば、元は何処かの里の抜け忍であったやつらが、風花早雪の友人であった職人に作らせたものらしい。

特殊鉱石と六角水晶が原材料らしい。10年前の時点で完成していたとか。

「しかし、小雪姫ですが・・・そんな中よく無事でしたね?」

「はい。聞けば、木の葉隠れの忍者に助け出されたそうで」

あの時のクーデターで死んだ重臣が、死ぬ前に木の葉側に依頼していたそうだ。

しかし、雪忍の全てを屠る事はできなかった。そのほとんどがやられ、小雪姫1人を国外へ脱出させるだけで精一杯だったとか。

ナルトはその話を聞き、だから木の葉を頼らなかったのかと、ザンゲツから聞かされた事情については納得した。

「私は姫様にこの国へと帰ってきてもらうために・・・」

雪の国へ帰ろうとする素振りを見せない富士風雪絵を見た三太夫は、映画の撮影と女優ということ利用して、今回の事を考えていたらしい。

「じゃあ・・・俺達はあんたに利用されてたってことぉ!?」

助監督が驚きの声を上げる。

「すいません。皆様を騙していた事はお詫びします。ですが、それもこの雪の国の民のため・・・姫様をこの国の君主にするためでございます」

三太夫の謝罪の言葉が発せられる。だが後半の言葉はあまりにも自分勝手な都合。

「国を追われた姫様のために、力を貸していただけないでしょうか」

ナルトは一言入れようとするが、その言葉は入り口から放たれた女性の声に遮られた。

「冗談じゃないわよ・・・・」

「姫様!」

「・・・三太夫、あなた雪の国の人間だったのね・・・」

雪絵は頭を片手で抑えながら、三太夫に尋ねる。

「はい! 姫様は幼かった故、覚えられてないようですが・・・」

三太夫は現れた雪絵の元へと小走りで近づき、その前で両膝をついて話す。

だが、雪絵の三太夫を見る目は冷たい。

「そんな事はどうでもいいわ。三太夫、あなたもしかして、私に・・・」

「はい! 雪の国の民のため、ドトウをめを打ち倒し、新たな君主となっていただけないでしょうか!」

両膝をつき、懇願する三太夫。


だが、雪絵の返答はノーだった。

「いい加減諦めなさいよ! バカじゃないの? あなた1人が・・・例え協力者がいたとしても、ドトウに勝てる訳ないでしょう!」

怒鳴り声を上げる雪絵。それは、三太夫の無謀と蛮勇に対する怒りであった。一番信頼すべきマネージャー騙された、という怒りの気持ちもあったのかもしれない。

そしてもうひとつ、別のものが含まれているようだったが。

「しかし・・・姫様も、今一度、故郷に戻りたくはないのですか!?」

「・・・っ、私は・・・」

怒りの表情を浮かべていた雪絵が、三太夫の言葉を聞いて、その表情を歪ませる。

「無理よ。また、あんな事が起きるに決まってる。あんたも、今度こそ死ぬわ・・・だから、諦めなさいよ」

そして諦めの表情を浮かべ、三太夫に静かに告げる。

顔を背ける雪絵と、頭を下げ続ける三太夫。

そんな2人の間に、サスケの言葉が飛び込んだ。

「あんたは、本当にそれでいいのか? 故郷に帰れるかもしれないんだ。待ってる人もいるだろう。それを、諦められるのか?」

「サスケ・・・」

ナルトが驚きの言葉を発する。まさか、言葉を挟むとは思っていなかったからだ。

「・・・私、は」

「サスケ殿・・・」

真っ正面から告げられたサスケの言葉を聞いて視線を落とす雪絵。

その横合いから、今まで沈黙を保っていたマキノ監督の言葉が発せられた。


「・・・諦めないから、夢は見られる。夢が見られるから、未来が来る・・・いいねえ。風雲姫完結編に相応しいテーマだった」

「か、監督ぅ!? ・・・まさか、まだ撮影を続けるつもりじゃあ・・・」

「言ったろ? この映画化けるって」

「そ、そんなあ!?」

「それに、考えても見ろ。本物のお姫様を使って映画を撮れるなんて、そう滅多にあるもんじゃねえだろう」

「・・・そうか。話題性抜群! メイキングを出してもうける! これを公開したら、ヒット確実っすよ!」

「ちょっと!?」

今までの話を聞いていなかったのか、と雪絵が焦り怒鳴り声を上げる。

だが写真馬鹿の2人は聞く耳をもたない。



一方、マキノ監督の言葉を聞いたナルト。

成る程、と1人頷いていた。





雪の国に行くと決まってから、雪絵が度々脱走を繰り返していた事。

でも、本気で逃げなかった事について、謎は解けたとばかりに頷く。

(女優の意地、か)

先に見た演技の事を思い出し、納得する。
逃げなかったのは、映画の事があったからだろう。
雪絵自身、本当は映画の撮影から逃げたくはないのだ。表面上どう思っているかは知らないが、きっとそうだ。

彼女の心の奥底には両天秤があった

片方、雪の国で起こるであろう、トラブルに関する危険。対すは、女優としての意地と想い。

さぞ、葛藤していたのだろう。あの中途半端な行動にも納得できる。

(・・・幼心に、なあ。クーデターとかいう凄惨な場面を見せられたら)

その光景は、当時の少女の心を深く傷つけたに違いない。重たいものになっていたに違いない。
間違いなくトラウマになるだろう。あのイタチでさえそうだったように。

その光景を思い出してしまったのか、今は逃げ腰になっている彼女。

元の状態に戻って貰うには、どうしたらいいか。それは、映画の続行を続ける・・・というより、禍根を断つ事だ。

ドトウを倒せれば、何も問題は無くなる。危機に恐れる必要は無くなるのだから。
そのためには、この国に留まる必要がある。だが、彼女は逃げたいという。葛藤の故の言葉なのだろう。

あの光景を思い出した今、その選択を選んでしまう気持ち、分からなくもない。

それを察したのだろう、マキノ監督の言葉。

監督が映画を撮ると決定すれば、彼女も反対は仕切れまい。彼女は超一流の女優なのだから。

マキノ監督は、そんな彼女の思いを理解して、続行の決断をしたのかもしれない。

(さて、と)

そして残る問題といえば、俺達護衛の事だ。

そこまで考えた時、ナルトはふと視線を感じて、顔を上げる。すると、マキノ監督がこちらを見ていた。
何かを求めるように。同意を求めるように。

ナルトはその眼に含まれた意を察し、視線を返す。

(分かりましたよ)

そして、決断をする。心情的にも任務的にも問題はない。ザンゲツも、説明すれば分かってくれるだろう。というか、知ってたんじゃないかとも思っている。
後で問いつめよう。

「ええと、いいですか?」

まとまり、心中で意を決したナルトは、横合いから言葉を発する。

「・・・残念ながら。取れる選択肢は一つしかない。ドトウに見つかった以上はね。それに、すんなり逃がしてくれるとも思わない。
そして、例え逃げ切ったとしてもです。奴らは地の果てまで追ってくるでしょう」

それからは追われる毎日ですが、それでいいのですか、と問う。

ナルトの言葉を聞き、雪絵は顔を背ける。

一方、再不斬は少し眉を上げた。跳ね上がった任務の難易度を鑑みて、ナルトはこの任務を断ると思っていたからだ。

だが、ナルトはその言葉を撤回しない。視線を再不斬に投げかける。

(おい・・・)

(後で話すから)

視線だけの会話。

やがて、まあいいといいながら再不斬はため息を吐いた。

再不斬にしても、やられっぱなしは癪にに触るのだろう。それに、実戦を積める数少ない機会だ。このままで終わった方がいいとは思っていない。

「禍根を断ち切る為には、一つ」

「ドトウを倒すという選択肢を選ぶしかないってことか」

「ああ、そういう事」

「・・・ふざけないで!」

何でもないかのように話すナルトとサスケに、雪絵は怒鳴り声を上げる。

「映画とは違うのよ? ・・・そんな、簡単にドトウを倒せたら苦労はしないわ! 現実は、映画とは違う・・・ハッピーエンドなんて、この世の何処にも無いのよ!」

悲痛の声を上げる雪絵。だが、マキノ監督はその弱気の声を一括した。



「そんなものは・・・気合い一つで、何とでもなる!」



爺さんの芯の通った声。説得力を多大に含んだ怒声に、雪絵は眼を丸くする。

それを聞いたナルト達全員だが、その言葉に心から同意し、腕を組みながら頷きを返していた。何か感じ入るものがあったのだろう。

「三太夫さん。依頼内容の変更、受理しました。富士風雪絵の護衛から、風花小雪姫の護衛兼、復権の補助へ」

「イワオ殿・・・」

依頼途中の任務内容変更は、本来ならば御法度だ。多大な違約金が必要となる。

それを問いつめず、新たな依頼を受理したナルトに、三太夫が感極まった声を出した。

「感謝します」

「いえ・・・夢と意地を持った人間を助ける、というのは、私の・・・そう、趣味ですから」

「趣味、ですか」

「はい。命を賭けるに値する趣味ですな」

ナルトは冗談口調で笑う。

「・・・決まりだな」

マキノ監督がにやりと笑う。

「ハッピーエンドの、いい映画にしましょうね!」

助監督がはりきって答える。ナルトは苦笑を返す。



「では、私達はこれで。作戦を練りますから」








次の日。撮影隊は蒸気車である場所へと向かっていた。

三太夫と同じ、反ドトウ派の人間が隠れ住んでいる場所へと。


道中、蒸気車の中。

個室をあてがわれた雪絵は、窓の外の風景を見ながらため息を吐く。

「どうして、こうなったのかしら・・・」

1人、呟く。だがその問いの答えは分かっていた。自分が逃げなかったからだ。

「無理に決まっているのに・・・」

懐かしい故郷。戻れたはずなのに、心は浮かない。どうしても思い出してしまうからだ。

雪忍。木の葉隠れの忍者を打ち倒し、兵士達を次々と惨殺していった、強敵。

「勝てるわけないじゃない・・・」

たった6人で、雪忍、そしてドトウの手勢を相手にして、勝てる筈がない。雪絵はそう思っていた。

「勝てますよ」

「・・・アンタ?」

「すいません。ノックもなしに」

いつの間にか入り口に立っていた白が頭を下げ、謝罪する。そしてその後、手に持っていたコーヒーを雪絵に手渡す。

「・・・ありがと。それで? あんた、今・・・」

「勝てる、と言ったんです」

白は柔らかな微笑を浮かべ、雪絵の問いに答えを返す。

「確かに珍しい術を使うようですが、ただそれだけです。珍しいというだけで、手強くはありません」

「・・珍しい?」

「ああ、そうでしたね」

普通の方は知らないんでした、と説明を始める白。

「氷を操る忍術というのは秘術に該当する忍術で、その一族の系譜のみ使える術・・・血継限界と呼ばれるんですけどね」

水と風のチャクラを同時に操れ、そして合成できる者のみに扱える忍術だと言う。

「それでも、彼らは水と風のチャクラを同時に使っている訳ではないようですから。そこにある氷に干渉しているに過ぎません」

恐らくは鎧の力を借りて、操れているのだろうと白は分析していた。

「それに、見た目は派手ですが、中身がありません。あの程度の術、一度見れば十分対処できますから」

「・・・でも、あいつらにはその・・・忍術を防ぐ壁みたいなものがあるんでしょう? こっちの攻撃が通じなければ、意味ないじゃない」

「そうですね。術で破ろうとすれば、それなりに大技が必要になります。ですが、別の方法もありますから」

「別の方法?」

「はい。ボクの上司の人・・・イワオさんが言いました。“忍術が通じなければぶん殴ればいいじゃない”と」

「・・・ぶん殴る?」

「そうです。幸い、物理攻撃に対する障壁は緩そうですから。それに、昔はどうだったか知りませんが、彼らは体術の方が疎かになっていますから」

先の作戦会議でも言われていた。

チャクラの鎧から発せられる力、その利点と欠点について。

あの雪忍の能力は厄介だが、それだけ。

力に使われている感は否めない。体術が疎かになっているのが良い証拠だ。

戦術次第で何とでもなる、というのが全員の意見だった。

「それに、あの障壁を真っ正面から突き破れるような術も持ち合わせています。だから、心配しないで下さい」

「・・・なんか、にわかには信じがたいんだけど」

どうみても10代半ば程度にしか見えない、しかも綺麗な顔立ちをしている少女の言葉だ。

雪絵は半眼になりながら疑り深そうに見つめてくる。白は苦笑をしながら「そうでしょうね」と返した。

「まあ、論より証拠ですから。分析は終わりましたし、問題はありません」

「だといいけど・・・」

その言葉の途中、雪絵は窓の外を見る。

「あ、雪が・・・」

窓から見える外は、一面の銀世界。そして現在は、雪が降っていた。

「・・・」

白はその雪を見た後、眼を瞑った。

「どうしたの?」

「・・・いえ。何でもありません。それより、この国には春が来ないと聞いたんですけど、本当ですか?」

「ええ。私は昔、父から教えられたんだけどね」




雪の国は春が来ない国。雪絵自身は、小さい頃に父からそう教えられたそうだ。

その時の光景を思い出す。

その時の言葉を思い出す。




『諦めないで、未来を信じるんだ。そうすればきっと、春は来る』

何かを作っていた父。何かを成そうとしていた父。

その優しい笑顔を、私は今でも思い出せる。


だが、あの日。炎が全てを焼き尽くし、人が大勢死んだ。

今でも夢に見る事がある。何も出来なかったあの日。脱出してからの日々。
何も出来なくて、そして悲しくて。泣いているだけの毎日。やがて涙は枯れ果てた。

それからは全てに無気力になった。

悲しみから逃れるため、もう一度信じた人に死なれるのが嫌で。

やがて私は信じることをやめた。信じる事が怖くなったのだ。

そして逃げて、嘘を付いて。自分にさえ嘘をついて。
そして自分を演じ続けて。

気が付けば私は、女優になっていた。

・・・何故、女優という職業をを選んだのか。その切っ掛けは思い出せないが。

今逃げていない理由も、あるにはある。だが、迷っているのだ。

帰りたい、帰りたくない。逃げたい、逃げたくない。



やがて過去と今の自分の事を考え終えた雪絵は、何の感情も込めずに呟く。

「・・・でも、春は来ないのよ」

そんな雪絵に白は謝罪の言葉を返す。

「・・・すいません。嫌な事を思い出させてしまったようですね」

「・・・別に」

構わないわよ、と雪絵は窓の外を見る。

そして気のない風に、そういえば、アンタは? と白に問うた。

「さっき、雪を見ていたアンタ・・・一瞬だけど空気が変わったわよ?」

「・・・分かりましたか」

「それは、ね。相手の呼吸を察するのも、演技するのには必要だし」

と言ったところで、また黙り込む。

白は苦笑を返し、先の問いに答えた。

「はい、少し昔を思い出していました」

「・・・昔? あんたの故郷にも、雪が降るの?」

「はい。そして、春も一応は来ます」

「そうなんだ・・・でもあんた、暗い顔をしていたけど」

「ええと・・・話せば長くなるんですけど」

そこで白は印を組み、掌の上に蝶を発生させる。氷で出来た蝶を。

「・・・あんた、それ」

「はい。あの雪忍達とは一緒にして欲しくはないですけど・・・これはボクの血継限界です」

呟き、悲しそうに笑う。

「ボクの故郷では、この能力は戦争を引き起こす忌むべき力と認識されていまして。それで、ボクは故郷から出てきたんですよ」

「・・・そうなの」

「はい。そこでボクは、力というものがどういう事態を引き起こすのか・・・一端ですが、知りました」

詳しくは話したくないため、笑顔で誤魔化す。雪絵も深くは聞かないでいた。

「今回、護衛に携わるボクの仲間も、大抵がそういう過去を持っています。だから、ボク達は負けません」

そこで白は表情を真剣なものに変え、告げる。

「力に使われているだけのあいつらに、負ける筈が無いですから」

意地も何も無い、道具に頼っているだけで、それもその力に使われている奴らなどに負けない。白はそう言った。

「それに、ボクは、こう思うんです。力とは本来、誰かを守るために振るわれるものだと」

「それは・・・そうかもしれないわね」

あの鎧が無ければ、もしかしたらクーデターは起きなかったのかもしれない。雪絵はそう思い、同意を返す。

「その意味を知らないあいつらには、絶対に負けません」

「そう・・・そういえばあなた達、どれくらい強いの?」

雪絵の問いに、白は難しい表情を浮かべる。

「どう説明したらいいのか・・・」

「ええと、昔私を助けた忍者・・・名前は・・・そう、はたけカカシとか言う銀髪の忍者よりは強いの?」

「・・・はたけカカシ、ですか」

呟いた白は部屋の入り口に視線を向けた後、言葉を続ける。

「別名、木の葉隠れのコピー忍者と言いまして。ええと、現在の木の葉隠れの里で、1、2を争う実力を持っています」

「・・・そうなの。で、どっちが強いの?」

「ボクは勝てないでしょうけど、そうですね・・・ジェットさんとイワオさんなら、はたけカカシにも勝てると思いますよ」

と、白はそこで席を立った。

「すいません。呼ばれているようですので、これで。今の話の続きは、実際に眼で見て下さい」

「待って。あと、一つだけ」

「何ですか?」

「あの、変態痴漢芸人忍者って、強いの?」

雪絵のその言葉が放たれた途端、入り口から物音がする。

白は笑顔で物音を無視しながら、告げた。

「そうですね・・・今は、ボクより少し下ぐらいです・・・・でも、誰よりも強くなる可能性を秘めていますよ」

笑顔で返し、白はドアを開け外に出る。


そして、そこにずっこけていたサスケに冷たい視線を向け、呟く。

「レディーの会話を盗み聞きするのは、マナー違反ですよ?」

「・・・すまん」

「で、どこから聞いていたんです?」

「雪が降り始めたところからだ」

「・・・そうですか」

「スマン」

「別に、謝らなくていいです。それよりも、ナルトさんに報告を」

「・・・カカシの事だな。分かった」



その後、2人はカカシの事をナルトに報告する。が、ナルトは既に知っていたと返す。

「いや、ザンゲツに連絡を取ってね。影分身使って。・・・まあ、それで色々と情報を得られたから」

ついさっきだけどね、とラーメンを食べながら話す。

「そうなんですか・・・で、依頼の方は?」

「まあ、色々と。全体的にはうまくいったから、そういう事でよろしく」

「・・・分かりました。あと、敵の狙いについてですが・・・」

「六角水晶だね。富士風雪絵が常に身につけているあれが狙いなんだろう。ご丁寧に教えて下さったし。

まあ、それに対する対策というか、保険は既にかけてあるから、心配は要らないよ」

「そうなんですか?」

「うん。これから姫様にも説明はしてくるから。作戦内容はその後に伝える。動く時が来れば合図するから、その時まで待っていてくれ・・・っておい」

ラーメンを食べていたナルトの動きが止まる。

「・・・・くそ。少々厄介な事になったな」

「え、どうしたんですか? 急に」

「網の諜報員からの連絡だ・・・反ドトウ派の村が襲撃にあったらしい」

「間諜・・・内諜ですか?」

「ああ。覚えておくといい。五大国と隠れ里を除いた場所以外、だが・・・“網”は、何処にでもいると」

雪忍の下忍の中に、網の手の者がいる。組織の諜報部が前もって忍ばせておいたのだ。

「ドトウも、最近特にきな臭い動きを見せていたって話だからね。商人からいくらでも情報は入るし、網も懸念事項として挙げていたんだって」

「それで、今回の依頼斡旋ですか」

「そういうこと」

「で、情報は?」

「襲撃を受けて、一部が負傷。全員が捕縛されている。殺されてはいないと言っているけど、この先どうなるかは分からないな」

見せしめに、民の前で処刑を行うつもりかもしれない。あるいは、だ。別の使い道もあるだろう。

「・・・こちらに対する人質、ですか。どうします?」

「強攻策に出るのもちょっとなあ。やってやれんことはないけど、人質は死ぬだろうね・・・うん、それは不味いな。姫様にこれ以上重荷を背負わせるのも何だし」

自分のせいで人が死んだと思ってしまうだろう。それは良くない。

「そうですね・・・それじゃあ、こんなのはどうですか?」

白がナルトとサスケに策を提案する。

「・・・人質が取られている現状、それしか手はないか。一応、俺の影分身を村の方に向かわせておくから。あと、三太夫さんには内緒な」

「敵を欺くのは、ですか。承知しました」

「俺はどうしたらいい?」

「そうだな。サスケには・・・・」

ナルトがサスケに説明をする。

「・・・責任重大だな。分かった」

「これも修行と思って。絶対に依頼人を傷つけないように守りきってくれ。あと、再不斬と多由也にも作戦変更の旨を。マダオには俺から話すよ」

「了解」

そして部屋を出て行こうとするサスケに、ナルトは声をかける。

「しくじるなよ、サスケ」

「はっ、分かってるさ。こんな所で死ぬ訳にはいかないからな」

肩越しに振り返り、一瞬時間をおいて返答する。

だがその次の問いには、即答を返した。

「エロいことすんなよサスケ」
「もうしません」

敬語口調で即答しながら、顔を前に向けるサスケ。死角となったので、ナルトからは顔色を伺えないが、きっと青いのだろう。

「・・・次、やったら十倍ですからね」

「何が!?」

サスケの突っ込み。

「頼もしいな。じゃあ、頼んだぞ」

「何を!?」

それもダブルである。

二重突っ込みである。天然ボケもいけるが、突っ込みもOKとは、とナルトが唸る。

「大したヤツだ」

流石は期待の新人、と繋げようとしたが、サスケに拒否された。順調だな、とナルトが呟く。いったい何に順調なのか、白もサスケも突っ込まなかった。

「・・・それじゃあ、準備しましょうか」

白が一言入れて場を締める。ナルトはそれに頷き、呟いた。



「ああ。望む結末をこっちに引き寄せるためにな」








そして、撮影地に到着後。

蒸気車から降りた撮影隊は、しばらくしてから撮影に入る。


そして、撮影が終わった直後の事だった。

「ん? そういえば、三太夫さんは何処にいったんだ?

助監督がナルトに聞いてくる。ナルトは知りながらもとぼけた口調で嘘をいう。

「ええと、いつの間にかいなくなって・・・あ」

答えた、その時である。

丘の向こうから、縛られ猿ぐつわを噛まされた三太夫と、それを引きずっている雪忍が姿を現した。

瞬時に悟る。

「・・・ふん、人質という訳だ」

反ドトウ派の村とやらは既にドトウに知られていたのか、と悟る。

「ああ。陳腐な言葉で申し訳ないが・・・こいつの命が惜しければ、富士風雪絵をこちらに渡してもらおうか」

同時、背後から飛空挺のようなものが姿を現す。

ナルトはそれを見ながらも、こちらの意志を取りあえず示した。


「ふん、応じると思って「待って」・・・富士風さん?」



だがその途中。一歩、雪絵が前に出て自分の意志を示す。

「いいわ。私が行く。だから、三太夫を離して頂戴」

もうこれ以上。誰かが死ぬのを見たくないから。

雪絵はドトウの顔を真正面から睨み付け、答える。

「・・・ふん。いいだろう」

そして連れられていく雪絵。

「姫様~!」

その背中を見ながら、三太夫は叫んだ。

1人、事情を知らない三太夫の、迫真の演技である。本人としては、勿論演技では無いのだろうけど。

飛空挺が去った後、ナルトは1人呟く。

「敵を欺くにはまず味方からってね」

三太夫さんにはちと悪いが。

それにしても、予想通りの動きだ。反対派を全滅させるより、旗頭の方を抑えに来たか。水晶の事もあるし、一石二鳥というやつだな。

「・・・でもまあ、予定通りですか。サスケ君も、上手くいったようですね」

「ああ。後は、仕上げだな」

相変わらずの余裕をもって、2人は頷く。

そして、取るべき行動を始めたのである。






一方、雪絵を乗せた飛行船の中。

ドトウの対面に座らされた雪絵は、テーブルに置かれたワインを飲み干しながらも、叔父に嫌悪の視線を向ける。

「久しぶりだな、小雪。10年振りになるか」

「・・・ええ。こちらは心底会いたくなかったのだけれど。ドトウ叔父」

「ふん、そういうな。さて、小雪」

「・・・一体、何?」

ドトウは小雪の首に手を触れ、その首飾りを取り外す。


「おお、これが・・・!」

と感極まった声を上げるドトウ。

「・・・それが、何か?」

内心で笑いを押し殺し。だが雪絵は、表面上は演技を続け、ドトウに話しかける。

やがて、ドトウの口からあることが語られる。曰く、この六角水晶は、兄が遺した風花の秘宝を開けるために必要な鍵なのであると。

「これで、秘宝が・・・?」

手に入る、とは続かなかった。


高らかに掲げ上げたその水晶が一転、煙を上げ“スカ”と書かれた紙切れに変わったのだから。

スカのカードを掲げ上げるドトウ。それを見た雪絵と、雪忍配下の一般兵の顔が歪む。笑いをこらえようとしているのだ。


「・・・これは・・・小雪!」

「偽物、らしいわね?」

怒るドトウと、不適な笑顔を浮かべる雪絵。

やがて雪絵は、気丈にもドトウに対して挑発の笑みを返す。

「残念だったわね? お・じ・さ・ま?」

「く・・・」

屈辱に染まるドトウの顔。そして、そのスカのカードを地面に叩きつけようとする。

それと同時、スカのカードが煙を上げてまた別のものへと変化した。ナルトである。

「影分身の術・・・はっ!」

飛び上がり、高い段に上がると見習いであろう、雪忍を下に蹴り落とす。

そして、ドトウに向けポーズを取り高らかに笑い声を上げる。

「はっはっはっはっはっ!」

そして高いところから、ドトウに嘲笑を浴びせる。

「貴様・・・!」

「こんなこともあろうかと! ・・・すり替えておいたのさ!」

「くっ・・・本物は何処だ!」

「もちろん、俺の手の中さ。ただし、本体のな。いや、迂闊だったな鼻野郎・・・おっと。小雪姫には手え出すなよ? 鍵となる六角水晶がどうなっても知らんぞ?」

「・・・貴様・・・何が望みだ!・・・って何を踊っている!」

ナルトは段上で、へこへこと人を逆上させるダンスを踊っていた。とことんドトウを虚仮にしているようだ。

ドトウの方はといえば、それを見ながら憤怒で顔を赤くしていた。

そんなドトウを見た雪絵は顔を逸らしながら、忍び笑いをかみ殺していた。肩が震えている。

「ええと、望み? ・・・そうだな。俺達の望みは一つ。撮影が控えている今、お前のような身の程しらずのガキ大将には、自殺してもらいたい。でも、残念ながらその望みが叶う可能性はとても低い・・・そこで、だ」

ニヤリ、と影分身が笑う。

「今宵今晩お前の城に、しっぺい・・・じゃない。俺達7人が会いに行こう。例の水晶を携えて、だ。そこで決着をつけようじゃないか」

事実上の宣戦布告。七対数百の無謀な勝負。それを事前の宣戦ありで、真っ正面から打ち破ると。ナルトはそう言っているのだ。

「・・・まさか、逃げないよな」

「・・・ふん! ネズミ如きに我が逃げる道理があるか! いいだろう、受けて立とう」

虫は虫らしく、一ひねりに潰してやると顔を真っ赤にしたまま答える。

「貴様こそ、逃げるなよ!」

「了解。墓穴はこちらで掘ってやるから、別に墓地の予約は要らない。俺達7人でお前の墓を掘ってやるから」

「・・・ネズミ如きが、吠えるな! ナダレ!」

ドトウの叫びと同時。敵首領格である狼牙ナダレがクナイを投じる。

だがクナイが当たる寸前、ナルトの影分身は自分で姿を消した。

「・・・ちっ」

「・・・ナダレ、雪忍および私の手勢を集めろ。全員だ。ご丁寧に今夜攻め込む、との宣告だ・・・返り討ちにしてやれ!」

自信満々に答えるドトウ。それはそうだ。彼はこの後、風花の財宝を手に入れ、五大国をも制する気でいるのだから。

ここで、抜け忍風情に破れるなど、あってはならない事だ。

「承知しました」

それはこの雪忍、元雨隠れの忍者、狼牙ナダレとて同じ事だった。元雨隠れの忍者、里を抜けてから十数年。

木の葉との戦いでは、あの忌まわしきはたけカカシの雷切にこの頬を切り裂かれてはいても、野心は未だ消えてはいなかった。

体術だけしか才能がないと言われ、謂われのない差別を受けて抜けた里。それを見返してやる為にも、そしてあのはたけカカシに借りを返すためにも、こんな所で負けてはいられない。

(そうだ、このチャクラの鎧があれば・・・!)

何でもできると、そう思っていた。鎧の力を借りてでも、術が使えるようになった時は、本当に嬉しかった。

この鎧は自分に夢を与えてくれた。かつての自分には見いだせなかった夢を、この鎧は見せてくれる。

だから、負けない。負ける筈が無い。ナダレは、そう思っていた。心の底から。


誰にも指摘される事のない、誰の意見にも耳を貸さず。

外界から取り残されている、この雪の国という井戸の中で。只1人、かつて幼い頃に夢見た、そしてそのまま止まっていた。

忍びの世界の頂点に立つという夢を再び見られるのだと。本気でそう信じていた。

「ドトウ様。小雪姫はどういたしましょうか」

「ふん、牢にでも入れておけ。人質交換の際に使えるからな・・・それに、あの下郎は小雪を傷つけるなと言った。万が一もある」

「承知いたしました」

「あと、念の為だが、例の装置を牢に仕掛けておけ。あやつら、予想外にやるようだからな」

「はい。それでは、早速手配をいたします」

答えながら、ナダレが下がり、配下であるフブキとミゾレに指示を出す。

「今夜、か・・・」




そしてしばらくして。

飛空船が辿り着いたのは、ドトウの居城であった。

城の中は夜襲に備える忍び、兵士達であふれかえっていた。忍びには、例のチャクラの鎧の旧型、白いチャクラの鎧が支給されていた。

みな、厳重警戒をしいている。


そんな中、雪絵は1人牢に入れられていた。

入り口には見張りの忍び。極寒の中、雪絵は牢の中で膝をかかえ、寒さに震えていた。

入ってからしばらくして。

入り口の方で物音がしたかと思うと、とある人物が入ってきた。

「・・・遅いわよ」

雪絵はその人物、サスケに向け憎まれ口を叩く。

「そいつはすまなかった」

言葉だけの謝罪。だが、肩はすくめなかった。肩には、見張りの者を担いでいたからだ。

「・・・そいつらは?」

「ああ、見張りだ。今当て身で気絶させたんでな。あと数時間は起きないだろう」

代わりの見張りは既に立っているからバレることもない、とサスケは答え、牢の中へ気絶している見張りの忍びを横たわらせる。

一応、縄で後手に縛っておくのも忘れない。

「ふん、冗談よ。でもアンタ、随分と速かったようだけど?」

撮影していた場所から、ここまではかなりの距離がある。雪絵は最初こそ憎まれ口をたたいたものの、正直驚いていた。
ここまで短時間で自分の元へやってくるとは思わなかったのだ。

「ああ。アンタが攫われたあの時、俺は奴らの隙を突いて船の中に乗り込んでいたからな」

ドトウがどう出るか分からない以上、いざとなれば助けに入れるよう、変化の術を使って、船の中へと侵入していたようだ。

ちなみに、ナルトの影分身もいた。

「それに、あの雪忍の・・・恐らく下忍か。まるで素人同然だったしな。内諜もいたし、この牢を見つけるのは苦労しなかった」

「・・・そういえば私、さっきあいつらから聞いたんだけど」

雪絵が話しだす。今の雪忍は民の若い者から、徴兵と偽って招集していたらしい。

「まあ、そうらしいな・・・」

サスケもナルトからそれは聞いていた。作戦の方針としても、あの幹部3人以外は極力殺しはしないと言っていたと説明する。

安堵する雪絵に大丈夫だろ、とサスケは返しながら、雪絵の牢の隣にある部屋へと座り込む。

「作戦まであと数十分ある。見たところ、その牢限定で結界が張られているようだし・・・決行時間になったら破るからそのつもりでいてくれ」

「ふん、分かってるわよ。でも、この牢結界みたいなものが張られているようだけど、破れるの?」

「問題はない。何とかする」

「そう・・・」


そこで、会話が途切れる。

すきま風の音だけが聞こえる牢の中、2人は壁越しに背を向け合い、話し合った。



「・・・ねえ、アンタ。暇だし、何か話してよ」

「あんた、本当に我が儘だな」

まあお姫様なら当然か、とサスケがため息を吐きながら言った。

「・・・しかし、お姫様なアンタが、よくもまああんな危険な作戦を承知したもんだな・・・ドトウが怖くは無いのか?」

「・・・ふん、自分が原因で、これ以上誰にも死んで欲しくなかったからよ。考えた結果じゃないわ。

・・・それに、元はと言え主君である私が、自分だけ安全な所にいるなんて事、できるわけないでしょうが」

「策を了承したイワオ達も、驚いていたよ。即決だったらしいな」

「別に。私としてもドトウ叔父の間抜けな顔とか見たかったしね」

あの顔。傑作だったわと笑う。

「・・・なんともはや」

多由也といい、白といい、九那実さんといい。

女ってすげえなあ、とサスケは呟く。

「でも、声。震えてるぞ」

「それは、まあ。流石にね・・・」

怖いわよ、と小声で呟く。

サスケも、先程ちらりと見ただけだが、雪絵の手は震えていた。

「でも、アンタ達が何とかしてくれるんでしょ? 木の葉一番の忍者とかいう、あの銀髪・・・はたけカカシに勝てるっていうんだから」

だから大丈夫よね、と雪絵は答える。

「カカシか・・・」

顰めっ面でサスケは呟いた。その表情は見えなかっただろうが、その声に含まれていた複雑な感情は察知できたのだろう。

雪絵がサスケに訊ねる。

「へえ、アンタも知っているの?」

「・・・ここからはオフレコでお願いしたいんだが・・・それを承知してくれるなら、話す」

「いいわ。忍びとの契約を、それが口約束でも破らない」

雪絵もそれほど馬鹿じゃない。姫なりの知識は備えている。というか、裏の世界の常識だ。雪絵も女優として一流となった身。

それに、何故だろうか、破る気も起きない。

彼女自身、それも不思議な感じだったが。

「カカシは・・・元、だがな。俺の先生・・・だ?」

「・・・え!? というか何で疑問系なの?」

「色々あったからなあ・・・」

遠い眼をするサスケ。遅刻とか、遅刻とか、遅刻とか。色々な事を思い出してしまい、サスケのテンションが徐々に上がっていく。

主に怒りで。

「・・・まあ、俺は木の葉を抜けた身なんで、今は関係無いがな」

でも次あったら殴ろうと決めているサスケであった。

「そうなんだ・・・そういえば、あんたらは全員抜け忍なのよね?」

「あ、ああ。そうだが?」

「・・・それにしては、ねえ。あのジェットとかいうの以外は、全員脳天気だし。変に殺伐としていないし、やさぐれていないわよね」

今までも、抜け忍を何度か見る機会はあったらしい。それとは全然違う、と雪絵は言う。

「夢とか・・・ほんと、クサイ事を真顔で言い出すし。趣味とか言うし。あんたは人の胸触るし」

「本当に申し訳ありませんでした」

壁の向こうで頭を下げるサスケ。雪絵は苦笑しながら、言葉を返す。

「ほんっと。アンタ達って変わってるわよねえ」

真摯に謝るサスケと、あの時の赤鬼と白夜叉の表情を思い出したのか、雪絵が笑う。

「・・・それは、まあ。頭からして、ああだし」

サスケは話を逸らしながら、ため息を吐いた。

「やっぱりそうなんだ。あの、海面を走っていたあれも、その一部?」

「・・・それは聞かないでくれ。頼むから」

「あと、アンタもあの・・・桃って子と同じ、里を出てきた口なんでしょ?」

「ああ・・・まあ、俺は少し違うが・・・結果的には似たようなものか」

少し沈んだ声。雪絵はそれを察したのか、小さい声でサスケに訊ねる。

聞こえるかどうかの、小さい声。何となくいった言葉だったのかもしれない。だが、サスケの耳はそれを捉えていた。



「・・・故郷に帰りたい?」



突発的な雪絵の質問。それは、誰への問いなのか。

サスケはその問いに、考える事もせず。ただ今思っている事を答えた。

「・・・それは、正直・・・まあ分からないな。今思うことはその一つだな」

少し沈んだ口調で、返す。元々、と呟き、そして話し出す。

「忌み嫌われていた一族だっただろうからな。それで全員死んで、俺だけが生き残って・・・」

詳しい事は話せないが、単語だけは話す。思い浮かんでしまった言葉を羅列していくだけ。

だが、その言葉は苛烈も極まるものだった。聞いた雪絵は息を飲む程に。

「・・・アンタ、だけ?」

「ああ。父さんも母さんも死んで。兄はその犯人で。そして里を抜けて・・・」

「・・・」

思い出す度に、考えてしまう。


「・・・すまん」

これ以上思い出しても何にもならない、とサスケは言葉を切る。

「・・・」

返す雪絵も無言。

だが2人は同じ思いを抱いていた。





共に、取り返せない過去を持つ2人。失った場所がある2人。

失った時の事を思い出す2人。

大切な人達が一緒にいた、セピア色の風景を思い出して。

もし。あの時。繰り返す。思い出す度に考えてしまう。囚われているのだろう。輝かしい過去に。





「情けないっていうのか・・・この想いは」

「・・・・アンタも、か」

サスケの自問に、雪絵が言葉返す。同じではないが、似ている過去を持つ2人。白もそうだ。

だから、話を聞く気になったのだろう。話をする気になったのだろう。

同じ匂いがする3人。辛い過去を持つ3人は、過去に囚われている時があった。

もしかして、何て思いながら。辛い現実から眼をそむけ、偶像を見てしまう時がある。

「あのときもしも、か・・・それでも、何にもならないんだけどな」

「・・・確かに、ね」

はっきりとした言葉では表したくは無い。そんな、説明を省いた言葉でもある程度の意味は2人とも理解できていた。

それはそうだろう。やり直したい過去を持っている人間であれば、一度や二度は思う筈だ。



---昔に戻りたいと。

---あの風景の、その先に自分は在りたかったと。


風が吹いて、時が流れて。

それはもう、夢の中にしか無いのだけれど。






物思いにふける2人。そこに、入り口から扉をノックする音が聞こえてきた。

「・・・合図だ。時間だ、な」

「・・・」



「時間だ。続きは全部終わってから「待って」」

サスケの言葉は雪絵の言葉に遮られた。


「あんたは、何故戦うの?」


「・・・横にどいててくれ。こじ開けるから」


「アンタ・・・分かったわよ。もう」


サスケの気配の変化を感じ取ったのか、雪絵が言葉の途中で牢の端へと寄った。


サスケは牢の前に佇み、自分の右手を見つめる。





そして、先に言っていた話の続きを呟きだした。





「そうだな・・・あの時、俺は何も出来なくて。真実を知らず、父さんと母さんを殺した兄を憎むことしか出来なくて」


右手には何も乗っていない。全て、こぼれ落ちてしまった。

月が怖いくらいに綺麗だった、あの夜に。

思い出す度に考えてしまう。横たわる屍を思い出し、考えてしまう。



兄さんも。

自分が手にかけた一族の者達を見て、そう思ったのだろうか。

もっといい方法はなかったのかと。何でこんな事に、と。



「それでも・・・」


サスケの両目に映るは、虚ろな光。


でも、見つめる右の掌、その腕に左手が添えられる。


「・・・それでも!」


叫びと同時、サスケは両の手を下げる。


顔を俯かせ、だがサスケは叫び続ける。



「それでも・・・俺は真実を知って!」



鳥が。




「もう一度、やり直せる機会が出来て!」


憎しみに逃げたけど。


鳥が鳴く。



「まだ、取り戻せる人がいると知って!」


残っていた。たった1人。


更に、更に、更に。



サスケの右手の先、鳥が鳴き始める。



千の光を背負う、雷鳥の鳴き声が。




「志を共にする、仲間が出来て!」



そこでサスケは顔を上げる。

先程の様子とは一転していた。その眼光はいつもの、そして何時かの純粋な輝きを取り戻し、両眼の底に宿っていた。


雷光が地面を抉る。サスケは跳躍し、牢の正面に右手を突き出す。

一点集中。余波を殺しきるチャクラの形態変化。貫通のみを目的としたそれは、牢の結界を容易く突き破る。


雷光が牢の結界を焼き切る。

そして牢の格子を叩き切る。


囚われる必要など無いのだと。昔を思う事は大事だが、それでもまだ諦めるのには速いと。

自分で作り上げた牢に留まる必要は、何処にも無いのだと。死んだ者も、生きている者も、誰もそれを望んでいないのだと。


教わった事がある。

知った言葉がある。

見つけた意地がある。


「貫け!」



叫びと同時、その結果が訪れる。

一転集中された一撃が、結界の防護を貫いて基点を破壊した。




「さっきの質問に答えよう。俺が今戦う理由は、ただ一つだ」




囚われる何もかもを無視して、取り戻す者を取り戻す。

かつての光景、失われた人もいるけれど、それを振り向かない。


想いは此処に。ただ胸の中に。


それを礎として、ただ走るだけだ。

もう、失わないために。




力なんて関係ない。もう誰にも、俺の大切なものは渡さない。

例えそれが運命であれ、譲らない。力持つ者に付きまとう宿命であっても、それは変わらない。



俺は、俺の望むままに生きる。

そんな意地である。




「見つけた意地があるんだ。俺は、ただそれを通すため、戦っている」

あんたの、女優に対する意地と同じくだ。サスケはそう言った。


雪絵は牢の中から出てきた後、サスケのその眼光を見ながら呟く。


「そうね・・・そうだったわね」


雪絵は初めてマキノ監督に会った時のことを思い出す。

監督の言葉を思い出す。


『お前以外に、この役を演れるヤツはいねえ』


誰の代わりでも無い。自分にしか出来ない役。女優として、これ以上の誉れがあるか。

途中、様々な意図が絡んできても、それだけを信じて演じてきた。

雪の国に訪れると決まった時も、その言葉が胸に残っていたから、逃げられなかった。




“誰にも、この役は渡さない”



そんな、女優の意地である。



昔を思い出して、強がりを言って、自分を卑下して。

風雲姫と昔、過去に怯えていた自分とのギャップが激しすぎて、自己嫌悪に陥る事があった。

それを、変えられるかもしれない。全てを解決すれば、もっと良い演技が出来るかもしれない。

逃げたいという気持ちと、帰りたいという気持ち。


様々な葛藤の中、それでも、雪絵は今この国に居た。

恐らくはそれが答えなのだろう。

雪絵は、情けない自分と、それでもここに居る自分の両方を感じた。

どっちが自分なのか。分からないけど、それでもいいのだろうか。


「・・・ねえ。今からでも、やり直せると思う?」


雪絵がサスケに問う。こんな自分でも、これから先望む未来をつかみ取れるのだろうかと。


「ああ。遅すぎる何て事はない筈だ。今、あんたは此処に居て・・・それで、生きているんだから」


それはサスケが常に自分に問うているもの。そして、それに対する答えだった。


「それに、俺はアンタの演技が見たい。あの続きをな。だから、止めるなんていってくれるなよ?」


雪絵はきょとんとした表情を浮かべた後、不適に笑った。


「上等よ。絶対に死なないし、何としてもカメラの前に立ってやるわ・・・だから」


手伝ってくれる? と問う雪絵に、サスケは不適な顔を浮かべ返答した。




「勿論だ」


今、失いたくないものを見つけ、サスケはそれを守ろうと決意した。


そして、冗談の言葉を投げかけながら、手を差し出す。




「行きましょうか、風雲姫」



雪絵は笑いつつ、その言葉に応えた。




「ええ。虹の向こうにね」




極寒の牢の部屋の中、忍びと姫の両手がしっかりと結ばれた。








[9402] 劇場版 SASUKE ~大疾走!雪姫忍法帳・その虹の先に~ 5
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2009/09/21 01:12
「喰らえ!」


「死ねえ!」



城の入り口。


ドトウ配下の雪忍、白いチャクラの鎧を着込んだ下忍達が氷遁の術を使ってくる。


一つ一つの術は大した威力ではない。

最新式の黒色のチャクラの鎧を着ている、あの幹部の忍びが放つ術に威力には、到底及ばない。



「休むな! 物量で押せ!」



だが、術の数だけは多い。

城門の前、開けた広場の真ん中に立っているナルトに向けて容赦のない氷の散弾が放たれる。

その散弾の数は百にも及ぶ。

逃げ場は無いと思われた。



「・・・・甘いな」


だがナルトは生きている。その全てをかわし、捌き、弾いてなお、そこに立っていた。

髪の色は赤。顔は狐の面で遮られて見えない。だが、その威圧感はその場にいた全員を圧倒している。


「くっ、ならばこれはどうだ!」


次に放たれるは大きな氷の槍。複数の人間で発動したのだろうそれは、大きな岩をもつらぬくほどの質量を持っていた。



「潰れろ!」



だが遅い。ナルトは構えもせず、ただ歩くだけ。前に歩くだけで、その巨大な氷の槍を交わしきる。



「遅い」



「何ぃ!?」


その動きを見た下忍、その小隊長らしき男が驚愕の声を上げる。



「喚くな」


風遁・大突破を使うナルト。その風に、下忍達は吹き飛ばされたかに見えた。

だが、チャクラの鎧がそれを阻む。

全員が突風に耐え、そこに健在していた。



それを見たナルトの口の端が歪む。



未だ戦意が消えていない相手に向け。

ナルトは手を翳す。


---少し赤を帯びたチャクラが

その手に重なる。

内なるあやかしのチャクラが鳴動し

ナルトの四肢に流れ込む。


そのチャクラの意味を、目の前の雪忍達は知らない。


---右手を握る。様々な障害を殴り飛ばしてきた右手を。

この手で何を為すべきか。未熟なる我が身は、未だこの方法でしか障害を蹴散らせなくても。

それでも為すべき事があるならば、ためらいはしない。時間は待ってはくれないのだから。


「巫山戯るな!」


氷の槍が、散弾が。

矢が剣が斧が、ナルトを貫かんと全方位から殺到する。



逃げ場などない。避けられる数ではないだろう。



---しかし、生きている。ナルトはまだ。

傷一つ無く立っている。先程までは様子見。今は世界でもトップクラスのチャクラコントロールを身につけたナルトだ。

氷の凶器群が襲ったのはナルトの残像。この程度のスピードの攻撃、避けきれない筈がない。


「く・・・だが、まだまだ! 我ら1人ではお前に適わなくても、数がある! 術を防ぐ鎧もある! ・・・怯むな、攻撃を!」


成る程。チャクラの障壁は強力だ。

しかもこの数。術を主体とした忍びならば、勝てないかもしれない。

倒すには体術による攻撃しかなく、それでは1人1人倒すのに時間が掛かりすぎる。

そもそも、正面突破を選ばない。そんな非効率、選択しはしない。



「成る程・・・確かに。並の忍びならば、お前達を倒しきる事はできないだろう」




---けれど。


けれど、けれど、けれど。



『だがどうやら、彼はただの忍びでは無いらしい』



マダオの相づちと同時。

ナルトのチャクラが更に膨れあがる。ナルトの意志に呼応して。




「麺の君・・・我が相棒、“九那実”。俺は君と共に、こう言おう」



チャクラが膨れあがる。その勢い、まるで天を貫くかのよう。




迫力に圧され、後ずさる雪忍達の目の前。



その中心で、ナルトは一言、告げた。





『「最初はグー」』













「遠くから爆音が聞こえて、数分・・・どうやら始まったようだな」

しかし、真っ正面からか、と呟く。サスケと雪絵は廊下にある棚の陰に隠れながら、会話を続ける。

「真っ正面からって・・・大丈夫なの?」

雪絵が心配そうにサスケに訊ねる。サスケは肩を竦めながら言う。

「むしろ負ける理由がみつからない・・・あいつは、強いからな。それに、チャクラの鎧についてはもう分かった」

サスケは答え、今居る廊下の曲がり角へと走る。

音も立てず忍びより、廊下の向こうから現れた雪忍に奇襲。

一歩踏み込み、軸足を回転させて回し蹴り。鳩尾へ一発、手応えを確認しながら跳躍し、回転の勢いを殺さないままもう1人の顎へと後ろ回し蹴り。踵が顎の先端を捉える。

急所への的確かつ鋭い打撃により、2人はなすすべもなく昏倒する。

「・・・ってな具合だ。術の障壁は確かに驚異だが、体術に関してはノーマーク。それに、チャクラの鎧に関しても万能じゃない。
身につけている者の任意で障壁を展開させる必要があるからな」

術のように印を組む必要は無いが、障壁を展開するには術者の意志が必要となる。

「今のように、死角からの一撃で事は足りる。気配察知とか、基本の技量が疎かになっているこいつらならば勝つのは容易い」

もし手練れの忍びが身につけていれば、それこそ驚異となるだろう。

「あとは、容赦のない強烈な一撃で粉砕するとかな。チャクラで身体能力を活性した上の一撃なら、障壁の上からでも突き破れる」

忍具や体術による衝撃を和らげるであろう障壁も、その範囲には限度がある。

「でも、そんな事が出来るの?」

「急所なら、今みたいにある程度和らげられても関係ない。まあ、力一杯打つ必要があるけど。俺とは・・桃とクシナならば、その方法で十分対処できる」

「・・・残りの2人は?」

「そうだな。例えば・・・・!」

サスケが答えようとした時だ。横の壁に亀裂が走ったかと思うと、そこから人が勢いよく飛び出してきた。

白い鎧を身につけている雪忍は、衝撃で気絶しているのかピクリとも動かない。

それを指さしながら、サスケが言う。

「・・・まあ、ああいった風に。馬鹿みたいなチャクラを篭めた拳で力一杯殴り飛ばされれば、耐える事もできない」

「ん? サスケ、呼んだ?」

壁の向こうから瓦礫を踏み越えながら、ナルトが姿を現した。

「呼んだよ。しかし、もうここまで来たのか」

速いな、と言うサスケに、ナルトはああ、と言いながら返す。

「全員倒してないからね。倒したのは、ほら・・・例の、元抜け忍の一味だけ」

あの黒い鎧を身につけた幹部3人。

網からの資料によると、首領が狼牙ナダレ、女が鶴翼フブキ、巨漢の男が冬熊ミゾレというらしい。

そして、それ以外にも僅かだが生き残りが居るとのこと。

「真っ先にそいつ倒して、後はちらほら。それだけで戦意は喪失したよ。元が雪の民って下忍も、結構多いからね」

ナルトの説明に、サスケが頷く。

どうりで速かった訳だ。あと、後方の撮影隊と三太夫の護衛には多由也が居るとしてだ。

残りの2人はどうしたのかとサスケが訊ねる。

「ん? あの2人は別行動。忍び込んで、背後から一撃ってのを繰り返してるよ。元が得意分野だしね」

「ああ、そういえばそうだったな・・・」

再不斬が得意とするのは、無音暗殺術。今回に限っては本当に殺す訳でもないが、急所を狙う業は長けている筈。

気絶させるのも容易いだろう。


「そっちも、上手く脱出できたようだね」

「ああ。牢の結界壊すのに千鳥使ったけどな。他は問題ない」

「そう・・・チャクラ残量はどのくらい?」

「・・・あと2発って所だ。まだまだ行ける」

「そうか・・・じゃあ、雪絵さんは撮影隊の所まで戻ってくれ。護衛はつけるから」

そういいながら、ナルトは影分身を使う。姿はイワオのもの。

そして本体の方は変化を解いた。金髪の少年の姿が現れる。

「・・・え?」

雪絵が驚き、イワオとナルトの姿を交互に見ながら不思議そうな声を出す。

「まあ、説明は後で。今は避難を最優先に」

「・・・分かったわ」

「あと、マキノ監督と三太夫によろしく・・・じゃあ、行こうかサスケ」

言葉と共に、2人は並びながら歩いていく。

そこに、再不斬と白が合流した。

4人は頷きあうと、城の最奥をめざし、歩を進めようとした。

その時、4人の背中に向け、雪絵が声をかける。



「・・・最後に一つだけ、聞きたいんだけど」


雪絵の言葉に、ナルトとサスケが足を止め、振り返る。


「あなた達は、ドトウに勝てるのよね?」


その問いに、4人は頷きながら答えた。





「大丈夫です。絶対に、負けませんから」
















そして最奥。

ナルトは玉座の間の扉を蹴り破る。


勢いよく開いた扉の向こうから、煙が上がった。


「煙玉?」



玉座の間にいる雪忍の幹部3人が呟く。


同時、煙の中から、1人の金髪の少年が姿を現した。


「・・・何者だ?」


ナルトの姿を見たドトウが、言う。

玉座から立ち上がり、石の階段の上、高みから見下ろすドトウが訊ねる。

背後には、護衛の抜け忍が3人。



ナルトはドトウ問いに答えず。

ただ、為すべき事を言い放つ。




「返してもらいに来た・・・・」


「何・・・?」


水晶はナルト達の手の中。「返してもらう」というのはおかしい。

疑問の声を上げるドトウに向かって、ナルトは叫んだ。






「・・・ハッピーエンドを、返してもらいに来た!」






同時、ドトウに向けて紫水晶を投げる。



「・・・貴様、これは何のつもりだ?」

先程の報告で、ドトウは既に知っている。

不様な事に、正面を破られ、敗退し戦意を喪失している部下の事を。

そして小雪に逃げられた事も知っている。

既に人質が無い今、これを何故こちらに渡そうとするのか。



その場にいる雪忍の幹部と、その他雪の下忍達から疑問符が上がる。


意図が理解できないドトウに対し、ナルトは水晶を投げたままの姿勢を崩さず、真剣な顔で言い放つ。




「・・・ひとまず、預けといてやる」



そして一拍おき、自然体に戻り何でもないように告げる。


笑うように、宣戦を布告する。




「そんで、お前達潰して奪い返してやるな?」




同時。



その正面にいたドトウ、雪忍。その全てが圧倒された。



広場の中央に悠然と立つ、4人のチャクラを目の前にして。



「くっ・・・舐めるなあ!」




ドトウが立ち上がり、腕を振り払う。


そして来ていた上着を脱ぎ捨てる。

黒く光る鎧。しかも、動力らしき陰陽を示した球が胸の中心と両腕、合計3つもついている。

紛う事なき最新型。しかも、より改良が加えられているようだ。


「氷遁・黒龍暴風雪!」


印を組んだドトウから、全てを吹き飛ばす黒龍が放たれた。

しかも三頭。威力と規模で言えば、A級に匹敵するであろう大術。

氷遁というよりは、むしろ風遁に近い。



だが、その一撃はナルト達に届かない。




「太陽の如く、溶かせ」




入り口の後ろから、それを相殺するべく、放たれたからだ。



九連の狐火。貫くまでは至らずとも、その強力な火炎は黒龍を消し尽くした。



相殺の余波で、広場に暴風が吹き荒れる。





「・・・そこの、お前等。死にたくなければ動くな!」

視界の端、怖じ気ついている下忍達に言い放つ。一連のやりとりで、既に戦意を失っているだろう。

圧倒的余裕を持つ格上。それに正面から対峙して尚立ち向かえる程、こいつらは忍びとして鍛えられていない。

意識と心の方は、まだ民である部分が大きいからだ。



「散!」



そしてナルトが号令をかける。




キューちゃんは一瞬でナルトの中に戻る。



再不斬はナダレ、白はフブキ。




そして、ナルトはミゾレを抑えながら、外へと出ていく。






「貴様・・・!」


「お前の相手は俺だ!」


そしてサスケがドトウへと突っ込んでいく。














「くっ、いい加減放しな!」

外、森の中。

白のクナイによる攻撃を防ぎ、叫びながら赤い髪の雪忍、鶴翼フブキは背中の翼を展開する。

「おっと」

対する白はフブキから手を離し、近くにあった木の枝の上に立つ。

「・・・さてと」

ここまでは作戦通り、と白が呟く。

対するフブキは木々の間を飛び回り、白の方へと手裏剣を投げる。

例の氷の刃が詰まった玉、氷玉を交えながら。

「・・・秘術」

対する白は、その飛来する凶器を前に、印を組む。


「堅牢氷壁」


直後、白の前に大きな氷の盾が現れる。見るからに分厚いそれは、飛来する攻撃の尽くを防ぎ、砕いた。



「何ぃ!?」


自分たちにしか扱えない筈の氷遁。それを使った白を見て、フブキは動揺する。


「お前、どうやって!」

「・・・一緒にしないでくれます?」


白はフブキの問いに答えず、呆れた声を出すだけ。フブキはそれを信じられず、また同じ攻撃を繰り出す。

今度は氷遁・ツバメ吹雪を交え、更に数を多くする。


「そんな力の無い攻撃、通りませんよ」

だが、氷壁の防御は貫けなかった。


「くっ・・・じゃあこれはどうだ!」


フブキは埒があかないと判断し、飛行するスピードを上げながら隙を見て、白の背後に降り立つ。

そして地面に手をつき、叫ぶ。



「氷牢の術!」


中距離で放たれた術。白は避ける間もなく、氷の柱に覆われる。



「・・・学習しませんね」


だがそれはフェイクであった。


「秘術・幻鏡氷壁。学習能力もゼロですか・・・」


呆れた声を出す白。フブキは焦りながらも、再び飛行を続ける。


飛行している限り、白は自分に攻撃を届かせる事はできない。そう考えての事だった。


再び、手裏剣とクナイ、ツバメ吹雪の攻撃。


「一緒だと思わない事ね! 氷遁・燕嵐の術!」


渾身のチャクラが篭められた、黒色の燕。

氷壁に当たる寸前、その身を針に変え、堅牢たる氷壁に突っ込み、それを貫通する。

そして、白の身体を貫いた。


「分身か!」



だがまたしても偽物。砕けたのは、氷で出来た分身でしかなかった。


分身が砕けたと同時、氷壁にも罅が入り、辺りに散乱する。




そしてその樹上に居た白は、素早く片手で印を組み、告げる。



「千殺氷礫」

千殺水翔の氷版である。

砕け宙に舞っている氷の破片がフブキに殺到する。

突如飛来し、更に結構な速度と数を持つ氷の飛礫にフブキは焦って障壁を展開する。



「くっ、術は効かないと言っただろう!」

冷静に対処すれば、負けはない。そう判断したが故の言葉だった。

だが、背後。

前方に注意を集中していたフブキは、木に張り巡らされていた鋼の糸に絡め取られる。

白が氷分身であらかじめ用意していた場所である。

絡め取られ、地に落ちるフブキ。だがその鋼糸は背後の翼によって切断された。

再び飛行し始めるフブキは、白の方を見ながら叫ぶ。


「これしきの事でやられる雪忍じゃないわよ!」

「いえ、そうでもありません」

その背後から、白の言葉。


「いつのま・・・ぐっ!?」

白の回し蹴りを受けたフブキが、今度こそ地面に落ちる。




白が行った事は簡単だ。


千殺氷礫で視界を防いだ間に、氷分身と入れ替わっただけ。

元が速度に優れる白だ。絡め取られている間に、フブキの死角から背後に回り込むのは造作もない事だった。



攻撃を受けたフブキは吹き飛ばされ、地面に降りてしまう。

そこに、白が着地する。


対峙する2人は、互いににらみ合う。



そして白が印を組んだ。こんどは両手の印である。

「馬鹿の一つ覚えかい・・・」

互いの周りに氷の壁が張られた。

木々の間に張られたそれは、まるで自分達を取り囲むが如く。



---フブキはこのとき、先程と同じ術、堅牢氷壁の術が使われたと思った。




「・・・ふん。かなり、やるようだね。でもお前ではこの鎧の障壁は破れまい」

「いえ、そうでも無いです。隙はありますから。例えば---」


と、印を組む。

フブキは話す白を無視し、隙を見て再び上方へ飛行しようと試みる。この場は離脱するしかない。そう判断しての選択だった。

だが、隙はない。だったら隙を生み出すまで、と印を組み術を発動する。



「氷遁・ツバメ---」


だが、その刹那。


白の、切り札が出された。


「秘術」


フブキが印を組み、その術をチャクラの鎧が増幅し、今正に放たれんとした刹那。

そのタイミングを狙った一撃。

フブキは気づかなかった。自分達を中心として取り囲むよう、周りの六角形の頂点である位置に氷の壁が置かれた意味を。

先程とは違い、その氷の壁は鏡のように磨かれていた事を。



「六華散魂無縫針」



白の最大の切り札、秘術・魔鏡氷晶を使っての一撃。

速度を極限まで高められた千本での、六ヶ所同時点穴である。


雪の結晶、六華の如く六芒に配置された鏡から六つの必殺が放たれた。


一カ所を防いでも残りの5つが相手を襲う、正に秘術である。




だが通常時、防御に意識されていれば、チャクラの鎧の障壁に阻まれていただろう。

だが、攻撃時であれば別である。




術が発動される刹那の六針は、弱まった障壁を貫き、フブキの身体にある点穴を貫いた。


悲鳴もなく、倒れるフブキ。


「・・・終わりです」











それとほぼ同時刻。

ナルト対ミゾレの方も決着が付いていた。

「ぐっ、馬鹿な・・・!」

「・・・馬鹿はお前だ」

ナルトの肘がミゾレの懐深く、鳩尾に突き刺さっていた。


「チャクラの基本は自然、即ち五行の性質との吸着、そして合一。分厚い鎧に身を纏い、それを忘れたお前達が・・・」


ナルトが一歩退き、そこにミゾレが攻撃を加えんと腕を振りかぶる。

「うおおおおぉぉ!」

黒い暴風を纏った豪腕の一撃。それをかいくぐって踏み込む。


「道具に頼りきり、自分の強さも分からなくなったお前達が!」


同時、交差法による一撃が放たれる。

螺旋を描いた掌打が、相手の鎧越しに衝撃を浸透させる。


「力の意味を忘れたお前達が!」


血を吐き、倒れるミゾレ。


ナルトはそれに背を向けながら、言い放った。



「・・・勝てるわきゃあねえだろう」



そう言いながら、ナルトはザンゲツから聞かされた情報を思い出す。

術が禄に使えなかった忍。

それが原因で里を抜けた忍び。体術・基礎技術の方はそれなりに高く、鎧を着けた当時は木の葉の忍びをも圧倒したと言う。

道具に頼り切り、術を使えた喜びに本来の力を見失った、哀れな忍び。


弱い、と言い切れる程弱くはない。ただ、疎かだったと言うほか無い。

さっきの体術の打ち合いを思い出す。

例のスノーボードからの攻撃は開始僅か数秒で使えなくなった。

ナルトが鋼の糸で注意をひいた後、渾身の両足蹴りでミゾレをボードからたたき落としたからだ。

そこからは体術というか、殴り合いの攻防。

ミゾレの正面から破らんとする暴風を利用した一撃は、ナルトに届く前に横に弾かれた。チャクラが篭められた掌によって弾かれたのだ。

そしてチャクラ吸着を利用した袖つかみ、同時重心を崩され、足を掛けながら投げられた。地面に叩きつけられたミゾレは、自らが持つ重量によりダメージを受けた。

衝撃は殺し切れないのだ。受け身も取れていないミゾレの身体の各所に、着々とダメージが積み重なっていった。

逃げる、という手もあっただろうに、自らより小さい、しかも少年の容貌を持つナルトだ。何処か、意地になっていた部分もあったのだろう。

相手の力量を計れなかったが故の、この短時間での敗北だとナルトは思った。

「ドトウと同じだな・・・」

この程度の戦力で五大国に勝てると思っているドトウ。

まるで相手が見えていない。自国の戦力だけしか見えていないのだ。自分しか見えていないそれは、この鎧に似通っている。

偉そうな事を言っている割に、肝心な所が抜けている。ガキの要塞だ、まるで。

相手の力も知らず、戦に勝てるわけがない。戦争は1人でやるものではないのだから。

「まあ、狼牙ナダレの方は少し違うようだが・・・」

カカシの雷切で頬を裂かれたと聞く。慢心はしまい。1人技量が勝っているのも、それが原因だろう。


「まあ、何とかなるだろ・・・!?」



その時である。

居城の一番上。天守閣に位置する場所から、煙が上がっていた。


「あれは・・・飛空挺?」


何かあったのだろう。そう判断したナルトは白の元へ急いで向かった。







一方、撮影隊もその光景を見ていた。

撮影隊に戻った雪絵、そして護衛についていた多由也が上空を見上げる。

「何かあったな・・・ってアンタ!」

多由也がマキノ監督に叫ぶ。監督が雪上車で飛空挺を追おうとしていたからだ。

危ないぞ、と言っても耳を貸さない監督と撮影隊。助監督までもが止めない。

『撮る』

その一言を主張するだけである。

「仕方ないな・・・ウチ達で守れるか?」

多由也が隣にいるナルトの影分身に訊ねる。その影分身はため息を吐きながら、仕方ないな、と返した。

既に大勢は決したと言っていい。それにドトウが向かっている方向は虹の氷壁がある場所だ。

恐らく、鍵で秘宝とやらを手にした後、逃げるのだろう。

「俺とサスケで追うから、後はよろしく」

「策は?」

「ある。問題無し」

自信満々に頷くナルト。

「ちょっといいかしら?」

それを聞いた雪絵は、私も行くと言い出した。父が残したという物を見ておきたいのだろう。

止めるべき三太夫は絶賛昏倒中である。手勢を率いて討ち入りに行こうとした所をナルトに殴られ、気絶させられたのだ。

無謀と蛮勇を止めるためではない。ただ、依頼人を死なせる訳にもいかないという理由でのことである。

もちろん、雪絵の気持ちも考えての事だが。

「・・・どうしても行くのか?」

多由也が雪絵に問う。

「・・・ええ。それに、見ておきたいの。あの少年が約束を果たすところを」

「・・・分かった。そういう事なら仕方ない」

頭をかきながらも、多由也が了承する。

「いいの?」

「いいさ。どうせ危険はないだろうし」

「・・・随分と、信頼しているのね」

「ああ。そりゃそうさ」

多由也が頷き、口の端を上げる。

「あいつらが負ける訳ないからな・・・本体も、これから直ぐ現地向かうとの事だ。行ってみようか、虹の氷壁へ」







一方、残る一組。

「あれは・・・」

城の横にある岸壁、その切れ間にある平らな場所で、再不斬と雪忍・狼牙ナダレが対峙していた。


初戦と同じ、互いに術を打ち合って数分。

膠着状態に入ったと同時、城の方から煙が上がっていた。



「ふん、よそ見していいのか? 氷遁・破龍猛虎!」

気を取られた再不斬に、氷の虎が襲いかかる。

「ちっ!」

再不斬は岩場から横に跳躍。崖を飛び回りながら、襲ってくる虎を避ける。

そして崖の下に降り立つ。



ナダレはそれを見て口の端を上げ、笑いながら新しい術を繰り出す。


「氷遁・狼牙雪崩の術!」


ナダレの背後にある雪。それが狼となり、雪崩の如く規模で襲いかかる。

氷の群狼。


再不斬は後方に跳躍しながら、親指を噛みちぎり、呟く。


「・・・仕方ねえな。口寄せの術!」


忍具口寄せ。再不斬の背後には大刀。

霧の忍び刀7人衆、その象徴である首斬り包丁が出現する。



そして腰元には3つ。

大きなひょうたんが口寄せされた。



「水遁!」


叫びと同時、ひょうたんの一つを上へ放り投げる。


そして素早く印を組み、両手を前方に突き出す。ひょうたんが壊れ、中から水が溢れ出した。



ひょうたんの中にあったのは水。だが、ただの水ではない。

再不斬は毎日チャクラを篭めていた、いわば再不斬特製の水である。

それが両の掌の前に凝縮された後、一気に放たれる。


「水甲弾の術!」


全てを貫く水の甲弾が放たれる。

後ろに下がった再不斬を襲おうと、縦一列に並んでいた群狼は、その甲弾に貫かれた。


「何!? ・・・くそっ!」


自慢の術が破られたナダレ。舌打ちをしながら、再び術を使ってくる。


「氷遁・黒狼牙雪崩の術!」


大きさは先程の倍、しかも渾身のチャクラが篭められているのか、色も黒。

そして今度は横一列になって再不斬へと襲いかかる。


「成る程・・・だが」


再不斬の方は、水甲弾では打ち漏らしが出ると判断。

背中の首斬り包丁を持ち、構える。


そして印を組んだ後。


「ふん!」


ひょうたんを包丁で叩き斬る。

同時に、首斬り包丁に水を纏わせながら、身体事勢いよく回転させる。


「水遁!」


そして、着地と同時、遠心力を活かしたなぎ払いの一撃を放つ。


「水刃翔!」


その切っ先から、水の刃が放たれる。巨大な鉄塊故の大重量、その強大な遠心力で放たれた一撃。

かつ凝縮された水の刃は、目の前の群狼全てをなぎ払った。



「馬鹿な!」


動揺したのか、叫び動きを硬直させるナダレ。再不斬はそんなナダレに向け、回転の勢いのまま大刀を投げる。

それを何とか避けるナダレ。しかし反応が遅れたせいか、隙が大きくなる。

そこを、詰められる。

隙をつき、瞬身の術により接近した再不斬はナダレの頬を殴り飛ばす。



「ぐあっ!」

吹き飛ぶナダレ。再不斬はそれを無視し、壁に突き刺さっていた愛刀を抜き取り、両手に構える。




「さてと」


そして接近。様子見ではなく、本気の踏み込み。

ナダレは反応できない。

鎧の加護で、成る程身体能力は確かに上がっただろう。

だが、状況判断力が上がる訳ではない。精神力が上がる訳ではない。

術を真っ向から破られた事、そして飛来する大刀に加え、再不斬自身が発する本物の上忍の威圧感と殺気に圧されていたせいだ。

通常時よりも、動きと頭の回転が鈍くなっている。



だが、ナダレ自身はそのことには気づけない。

何故だ、と問う暇も無く。原因を理解する時間も無く。


「こんな・・・」


首斬り包丁の柄を握る再不斬の手に、力が込められる。音を立てて軋み、白くなる再不斬の手がぶれる。


「仕舞だ、雑魚助」


鍛え、鍛えられた怪力で握られた鬼斬り包丁が、ぶれる。

渾身の踏み込みと共に。


「こんな、所で!」


「・・・ぶっ散れ!」



再不斬の渾身の斬撃が放たれた。



「ぎあああああああぁぁ!?」



ナダレの身に宿る野望も、肉体も諸共に。


その全てが両断された。


ナダレが倒れる。


「・・・つまんねえな、お前。こんなことじゃあ、どうせカカシにも勝てなかっただろうよ」


体術も技術も、お粗末に過ぎる。忍術と壁だけで勝てる程、戦闘は甘くない。

この程度の力で、カカシに勝てる訳が無いのだ。


「・・・はっ。昔の強さのまま、素直に鍛えていれば・・・分からなかっただろうがよ」


再不斬はつまらなそうに言うと、背を向けその場を後にした。












「くそ・・・」


一方、天守閣の上では、遠ざかる飛空挺を見ながら、サスケは1人失態を恥じていた。


先程の攻防、優勢なのはサスケの方であった。

黒龍暴風雪他、大技を連発してくるドトウに対し、サスケは写輪眼を駆使して回避。

その間隙を縫って近接し、攻撃を与えていたのだ。元が武人でしかないドトウ、チャクラの鎧の加護はあれど、生粋の忍びとは言い難い。

その強力な最新鋭のチャクラの鎧をして、ようやく互角に持ち込める程でしかなかった。

サスケの方も、体術その他のスキルは上がっている。修行を始める前ならばひとたまりもなくやられていただろうが、今は違う。

だが、その攻防の途中、ドトウは自分の不利を悟ったのだろう。

一際大きな術を放つと、屋上へと逃げていったのだ。そして、飛空挺に乗り込まれ、今はこの様である。


「くそっ」

「サスケ、無事か!」

そこに、ナルトが現れた。チャクラ吸着を利用して、城壁を昇ってきたのだ。

「ああ。でもすまん、ドトウに逃げられた」

「そうみたいだな・・・でも、まあ」


ナルトはサスケに笑いかける。

その背中には、冬熊ミゾレが乗っていた鉄製の板を背負っていた。

両手には、鎧の核らしき球が2つ。



「追いつけるさ」

ナルトは笑って答えながら、スノーボードらしき板を足下に置く。そして、白に合図を送った。

ナルトの意図を察したサスケは、顔を青くしながら叫ぶ。

「ちょっと待て、本気かお前!」

サスケの叫び声を無視し、ナルトは足下のボードをチャクラで吸着させる。

その具合を確認した後、手に板を持ち、遠ざかっていくドトウの方を見た。


『用意完了。風向き良し。角度良し』

『準備完了』

「発射まで、5、4、3・・・」


そして「ええい、ままよ!」と叫びながら、サスケがナルトの背におぶさる。


同時、白からの合図。ナルトは走り出した。


そして、叫ぶ。



「アイ、キャン・・・!」




同時、足を活性化させて大跳躍を敢行する。



「・・・フラーーーーーーーーイ!」



ナルトが即座に足下にボードを吸着するも、失速を続ける。


そこで、白の出番である。




「行きます! 即席秘術・氷道天翔の術!」




白の即席な秘術。

氷で出来た道がナルトとサスケの足下に出現する。



自由落下による速さを活かし、氷の道を一気に滑る2人。

加速をしながら、少し上向きの角度になった氷の道の終点にさしかかろうとした時、ナルトが印を組む。


「風遁・風龍波!」


弾というよりは波。火遁・水遁と同様の、龍を模した風遁術である。


無事術は発動し、板の下方に風の塊がぶつかった。



加速したスピード、上向きの発射台のような道。

それに上向きの風が加わった2人は。




『『「いいいいいいいいいいやっほおおおおぉぉぉ!」』』

「まじかよおおおおおおおおおおおおおぉぉぉ!」




3人+1は叫び声を上げながら空の向こうへとすっ飛んでいった。


虹の氷壁を目指して。






一方目的地である虹の氷壁。風花ドトウは激怒していた。

かの兄王が残したという秘宝。

期待して、いざ鍵を手にして秘宝を開けてみれば。

「発熱機だと!?」


そう、発熱機だった。だが、ただの発熱機ではない。

地面にある氷をも溶かす程の発熱機である。

そして、溶かしきった直後である。


「これは・・・」


その下から草原現れた。

これこそはそう、先代君主である風花早雪が愛娘である小雪姫のために作った装置。


雪の国には来ないと言われる、春を作り出す装置である。


「こんな、こんな物・・・!」


だが、これはドトウの望んでいたものではない。

ただでさえ金がかかる鎧の開発、それを補うための資金となるべくものだった。

金と、あの鎧の設計図、そして飛空挺に詰んでいる鎧の材料さえあれば、後は何とでもなる。

雪忍共も、今頃は目障りな抜け忍共を始末している事だろう。だが万が一、やられている場合も考えたドトウは、この秘宝を優先すべくここに来たのだ。

設計図と、金。それさえあれば何とかなる。


「秘宝さえ、あれば・・・!」


何とでもなる。ドトウは心の底からそう思っていたのだ。


「・・・ぉぉ」

「?」


失意とそれに対する怒り。その対象であるのは、先王である兄・早雪である。

「くそ、春だと・・・? こんなもの、何になるのだ」

顔を真っ赤にして怒るドトウ。

確かに、侵略の役には立つまい。だが、これを利用すれば、ともすれば雪の国に春を訪れさせることが出来るかもしれない。

農作物を育てる事が出来るかもしれない。貧乏国家を脱出できるかもしれない。これはまさに、希望の塊であった。

だが、ドトウは気づかない。



平和を謳う草原、春の光景の中、1人野心に燃えている王。

何とも滑稽な絵であった。

そこに。



「何だ、気のせいか・・・?」

ドトウが後方を振り返り、呟く。



「いや、これは・・・まさか!」


そこでようやく。

ドトウは後方、遠くから聞こえてくる声を察知した。



「ぉぉぉぉぉ」



最初は豆粒だった。



「何だ・・・アレは?!」

だが声が大きくなると共に、それはどんどん近づいてきた。

信じがたいスピードだ。




「ぉぉぉぉおおおおお!」


そして豆粒が大きくなり、いよいよかなりの距離まできた所である。




ドトウはこのこみあげる怒りをぶつけんと、印を組み術を発動した。



「氷遁・七龍暴風雪!」



限界まで高まったチャクラによる、ドトウ最大の術。

七つの頭を持つ龍が、飛来するナルトとサスケの元に殺到する。



だがナルトは器用にも板を滑らし、風圧による力を利用しながら黒龍を横に捌いていく。、


正面から衝突すれば飲まれるだけだが、横を滑るだけならば問題は無い。

次々に横に上にと避けていく。



「ナルト、正面だ!」

「分かってるよ!」



だが、途中、黒龍の一頭が正面からぶつかってきた。

避けられないタイミング。だが、そこでマダオが叫んだ。



『強請るな・・・勝ち取れ! さすれば与えられん!』



板を真っ正面に立てかけ、チャクラを集中。直進していた軌道を強引に真上に跳ね上げ、空中で回転する。

空に板、地に頭。

ナルトとサスケ、2人の天地が逆転する。



『『「「いいいやっほおおおおおぉぉぉ!」」』』

そして全員で興奮の声を上げる。

サスケは飛び始めた最初は怖がっていたのだが、空を飛ぶ事にだんだん楽しくなっていったのであった。

少し壊れた、とも言う。



「何い!?」


それを見ていたドトウは、そのあまりにもデタラメな2人の行動に我が眼を疑った。



一方、跳ね上がった軌道をそのままに、ナルトとサスケはボードに乗ったままドトウの元へと急襲する。


直上からの攻撃。対するドトウは動揺するも、即座に次弾を放った。




「七龍暴風雪ぅ!」



2人を襲う黒龍。

今度は逃げようもない軌道。しかしナルトとサスケは、ボードを蹴って。





「「離脱!」



勢いよく横方向へと逃げる。


そしてボードは軌道を若干変え、黒龍の間を縫うように進む。

「しまった!?」


そこでドトウが見たのは、迫り来るボードとあと一つ。


ボード先端に鋼の糸でくくりつけられた、鎧の核の部分である。それも2つ。

赤い核の球が光り輝き、ドトウの障壁を浸食する。

「だが、甘いわ!」

避けられないと判断したドトウが、自前の障壁を全開にして、その一撃を防ぎきる。


砕け散るボードと核2つ。

だが、そのドトウの鎧についている三つの核内、その右腕の一つが破壊される。


「よっしゃ、効いたぜ!」


ナルトが叫ぶ。

相手と逆の位相のチャクラを発すると聞いた時、思い浮かんだ策だ。

2つの力が作用しあえば、どうなるのかと。

核の部分だけなので、いまいち威力が足りなかったようだが、ミゾレとフブキが持っていた2つ分の核で一つは壊せた。



「くっ・・・おのれ・・・おのれおのれ、おのれえぇぇぇぇ!」


ドトウは顔を憤怒の形相に変え、再び黒龍を放ってくる。

だが当たる2人ではない。


「影分身の術!」


ナルトは黒龍による攻勢を捌きながら、一体の影分身を出す。



「行け!」


そして特攻させる。



「そんなに死にたいか、小僧!」


至近まで近づけたが、黒龍による一撃で吹き飛ばされる。


「まだまだあ!」


多重影分身。だがその尽くが黒龍に吹き飛ばされる。


「後ろ、もらった!」

「気づいておるわ、馬鹿め!」


影分身を囮にしての、サスケの奇襲。

それを見破ったドトウは、後方へ振り返りそのチャクラ量を活かした一撃を繰り出す。


「ぐうっ!?」

「あま・・・!?」

甘い、と言おうとしたドトウ。だが、その言葉の途中に凍り付く。

サスケへの変化が、解けたのだ。


「これも影分身か!?」

「それも、おまけ付き!」


直後、分身体が爆発する。


分身大爆破の術である。


「・・・くっ、所詮は浅知恵! ワシとこのチャクラの鎧には通じぬわ!」

だが、それも障壁に阻まれ、ダメージを与える事ができない。

爆発の向こう、障壁の向こうからドトウが健在を叫ぶ。


「・・・ぬ」


だが辺り一体にはいつの間にか白い煙りが舞っていて、視界が防がれている。


そして煙の向こう。



「風花ドトウ・・・!」


後方から、鳥の音が聞こえ出す。



「偽りの君主、偽りの力・・・その全てを!」

かたや前方からは、チャクラの渦が輝き出す。




「「俺達が打ち砕く!」」


同時、術を発動したサスケが駆け出す。


千鳥は既に発動済み。

分身大爆破で硬直した時間を利用したのである。


「速い!」


チャクラによる全身の活性。鍛えられた四肢を更に活性したサスケは、上忍、いやそれ以上の速度でドトウに迫る。

赤いマフラーを風にたなびかせ、地面を削りながらまるで疾風のように接近し、突き出す。


ドトウは振り返るので精一杯で、それを避けきれない。



「千鳥!」



雷の形態変化による、貫通を目的とした高速突き。

雷遁・千鳥がドトウに炸裂する。



「ぬうううううぅぅ!」


それを防がんと、障壁をサスケの方に集中させる。

性能が上がった鎧、もしサスケ1人の千鳥ならば、通じなかったのかもしれない。

だが、サスケは今、1人ではなかった。



「螺旋丸!」



サスケの方に集中しているドトウ、その後方からナルトが螺旋丸をぶち当てる。


「く・・・・ぁっぁぁぁああああああ!」


両方の同時攻撃を防がんと、ドトウが障壁を全開にした。

だが。



「・・・鎧が!?」


限界を突破したのだろう。その前の黒龍乱発で疲弊していた事もあり、残りの鎧の核の一方が砕け散り、もう一方に罅が入る。


螺旋丸と千鳥も、障壁の霧散と核の亀裂と同時、共に吹き飛んだ。



「サスケ!」

「応!」

だがそこで終わる2人ではない。

同時、叫びながら追撃を加える。


「はっ!」


まず、2人同時に回し蹴り。サスケが写輪眼でナルトの動きに合わせているのだ。

ドトウの腹と背がまったく同時に打たれる。

「ぐう!?」

衝撃を前後に逃がせないドトウが呻き声を上げ、前方へと倒れようとする。


「はっ!」

そこに、サスケが蹴り上げを放つ。リーの蓮華、サスケの獅子連弾と同じ入りである、あの蹴りである。


「もういっちょ!」

そこを、ナルトがさらに蹴り上げる。


「更に一つ!」

サスケが今度は跳躍し、ドトウを蹴り上げる。

そしてナルトと視線を交わし、動きを写輪眼によりコピーする。

思考もある程度は読む。写輪眼の心合わせの法の応用である。




「昇竜!」

蹴り上げ。

「ぐうっ!?」

「連牙!」

更に蹴り上げ。

「あがっ!?」



多重影分身の残りが同時に跳躍する。

それを足場としたナルトとサスケが、まるで駆け上る龍の如く、ドトウを連続蹴りで上へ上へと蹴り上げていく。



そして、頂点に達したと同時、蹴りを止める。

そして2人は身体を捻りながら、ドトウにとどめの一撃。

振り下ろしの回し蹴りを放った。



「「流星脚!」」


「ぐあああああぁぁ!」


2人同時の蹴りを受けたドトウが、勢いよく地面に叩きつけられる。


「「どうだ!」」

これでもう、起きあがれまい。それだけの手応えはあったが故の宣言。


「ぐ・・・まだ、だあああああ!」

「何!?」

「馬鹿な!」


障壁が軽減したとはいえ、ダメージは相当なもの。だが、ドトウの戦意は失われてはいなかった。

爛々と輝く眼光は未だに健在。ドトウは印を組み、額についている血をぬぐわないまま、術を発動した。


「氷遁! ・・・九龍暴風雪!」


残るチャクラの全てを使い、最後かつ最大の一撃を上空にいる2人に放つ。


それを見たナルトは、サスケと視線を交わす。


(・・・やれるな?)

(応!)


その直後、サスケに蹴り出されたナルトは、勢いよく黒龍の群れへと突っ込んで行った。

一方、サスケは更に上空へと跳躍していた。

ナルトは掌にチャクラを手中。黒龍に真っ正面から突っ込んでいく。

そして発動。螺旋の奔流。


「・・・大玉、螺旋丸!」


激突する黒龍と螺旋の塊。


勝ったのはもちろん、螺旋の方だった。

九つの龍の内八つを、大玉螺旋丸で消し去ったのだ。

だが、一頭は殺し切れなかった。


「行ったぞ!」

ナルトが上空を見上げる。

残りの龍の内、一頭がサスケに向かったのだ。



「応・・・」

一方。サスケはあくまで冷静に、思考を加速させる。

(千鳥・・・はリーチが短い・・・ならば!)



同時、懐から鋼糸を取り出す。

そして足に巻き付ける。



ナルトを足場に更に上へと飛んでいたサスケが、やがて自由落下を始める。

そして途中、ナルトの影分身を足場にして、跳躍した。



そのまま、襲い来る黒龍にへと、正面から突っ込んだ。



「血迷ったか、小僧!」



だが、その暴風の龍に飲まれる寸前である。




サスケが叫び、チャクラを全身から振り絞った。



「雷よりも速く・・・強く・・・熱く!」



黒龍に飲まれた直後、空に千の光が輝いた。









「あれは・・・!」

一方、虹の氷壁近くまで来ていた撮影隊、多由也、雪絵、白、再不斬はその光景を眼にする。

虹の氷壁に輝く、七色の光。

上空のサスケは、それを背に受け虹色に輝いている。


そして直後。サスケから発せられた雷光が、空を輝かせる。


それは、まるでおとぎ話のような光景。


「・・・虹色の、翼?」















「負けるかあ!」



渾身のチャクラを篭めた雷光が、黒龍を吹き飛ばす。


サスケはその雷光を維持したまま、片方の足に鋼糸を巻き付ける。

鋼糸を締め付けようと両手を上げた直後、背後に雷が走る。


落下の勢いを殺さず、そのまま足にチャクラを集中させる。

雷光を足先に集中させたのである。



驚愕に眼を見開くドトウだが、戦意は未だ衰えず。


「くうっ、小僧おぉぉおぉ!」


最後とばかりに、迎撃せんと右腕を振りかぶる。





サスケは、ただ一点。



足先にチャクラを。

為すべき事を。

果たすべき約束を。

望む結末を。





集中させ、全てをつかみ取るそのために。


・・・邪魔する障壁を打ち抜くために、全てを篭めた右足を、ただ前へと撃ち放つ-------!





「貫けえええぇぇぇ!」





雷光の突きである雷遁・千鳥に対する、もう一つの切り札。


コントロールが難しい足先のチャクラ、弱まる威力を、鋼糸による伝導集中と落下速度で補った、必殺技である。





その名、雷遁・雷鳳。





雷の鳳凰が如く、雷の残光を背に纏った必殺の蹴りが、ドトウの一撃が届く前に突き刺さった。



均衡は一瞬。




直後、雷鳳が最後の障壁を突き破る。

ドトウの胸に残った核は、完全に破砕され、だが蹴りの勢いは衰えず。





「ぐああああぁぁぁぁ!?」





そのまま、ドトウの身体を吹き飛ばした。


地面に降り立ったサスケ。倒れるドトウを前に、赤いマフラーをたなびかせながら宣告した。




「俺達の・・・勝ちだ!」







[9402] 劇場版 SASUKE ~大疾走!雪姫忍法帳・その虹の先に~ ep
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2009/09/13 22:52





虹の氷壁の前。


そこに、今回の関係者、全員が集まっていた。



「・・・少し、演出を手伝いますか」

カメラが回っているのを見た白が、死角に移動する。

そして多由也を見ながら、お願いします、と呟いた。

「ああ、そうか・・・・じゃあ、吹くぞ」

「はい」

多由也の笛の音が、大気を満たす。

それを聞きながら、白は印を組む。


「えい」

軽い掛け声と同時だ。

そらから、雪が降り出した。

密度は本来の雪と比べ、大分小さい。


「おお・・・!」

だが、周りから感嘆の声が上がる。


「虹色の・・・・雪?」







虹が降る氷壁前の広場。

その中心で倒れるサスケの元へ、雪絵が歩いていく。

「・・・終わったようね」

チャクラをほとんど使い果たし、力尽きて仰向けに倒れるサスケに、雪絵が話しかける。

「ああ。約束、果たしたぞ」

サスケにしては珍しい。笑顔を浮かべながら、雪絵の問いに答える。

それを見た雪絵は、サスケの横に座り込むと。

「・・・よいしょっと」

「おい!?」

頭を持ち上げて。


「どう?」

「いや・・・」

どう言えと、とサスケが口ごもる。大女優の膝まくらだ。恐れ多いにも程がある。




一方、膝まくらした瞬間だが、多由也の笛の音が一瞬だけ崩れた。

「・・・あの」

「・・・」

額に青筋を浮かべながらも、演奏を続ける多由也。無言だが、全身から発しているえもいわれぬ迫力が怖い。







「しっかし、本当にドトウ叔父をぶちのめしたわねえ」

向こうで転がるドトウを見ながら、雪絵が呟く。

まだ、死んではいないようだ。

「結構、ギリギリだったけどな・・・」

玉座の間での一対一でも、そう。サスケの修行が目的とはいえ、死線と呼べる程にぎりぎりの所での戦いだった。

その時である。

「・・・って、あれは・・・」

雪絵の固有チャクラに反応したのだろう。


氷壁が本格的に崩れだし、雪絵の昔。幼い、小雪姫だった頃の映像が流れ出す。



「・・・私、あんなこと言っていたんだ・・・」

雪絵は呟く。

幼い、今はもう思い出せない。過去の小雪姫は言っていたのである。

正義の味方のお姫様に成りたいと。

そして、もう一つの夢があった。


「“女優さんになりたい”、か・・・・そうか、そうだったわね」


雪絵の頭の中、胸の底、色々な想いが交錯する。

悔恨の日々。絶望を見た後、夢が闇に隠れた日。夢を、夢と認識できなくなった日。


「もう、叶えていたんだ・・・」

「・・・いや、たった今・・・叶ったんじゃないか?」

サスケは身体の痛みを感じながらも、何とか呟く。

「夢を、思い出したんだから」

思い出した瞬間に叶うとか、皮肉な話だけどな、と苦笑する。


「そうね・・・」


雪絵は笑いながら、空から降ってくる虹色の雪を掌に包み込む。


あれから、もう10年。

夢とか、悲しみとか。絶望とか、色々あったけれど。


「夢も望みも・・・本当に、叶ったんだ」


「・・・そう、だな・・・だって、ほら」


サスケが、雪絵の掌を指さす。





もう、虹は。


その手の中にあるんだからと。









その言葉に、雪絵はきょとんとした表情になる。


そして。



「・・・そうね」




空に映る映像。小雪姫と、何ら変わりない程に。




心の底からの笑みを、浮かべたのである。




サスケはその笑顔を見ながら、呟く。




「これで、ハッピーエンドだぜ・・・・・」





満足の笑みを浮かべたサスケは、笛の音に導かれ、そのまま意識を落とした。


















---そして、2週間後。


「色々と、本当にありがとう」

富士風雪絵、いや風花小雪が頭を下げながら、お礼を言う。

「いえいえ! ・・・任務でしたから、お礼を言われるまでも」

白が慌てたように切り返す。

「それでも、よ」

「はい」

白と小雪、2人が微笑みあう。顔立ちが整っている者どうし、非常に絵になっていた。



あの一戦が終わって。決着がついてから、二週間が経過した。

偽王ドトウは処刑され、小雪姫が新たな雪の国の君主となったのだ。

雪忍達は、首領であるナダレが再不斬との戦いで戦死。
ミゾレはナルトの一撃で気絶、フブキは白の点穴で仮死状態にされていただけなので、その2人は“網”の方に連行されていった。

そして雪の国内部の豪族の承認を得た末だ。

戦後の処理が全て終わり、本日風花小雪姫の戴冠の儀が執り行われることとなったのである。


「あの発熱機。まだ、未完成だそうですが・・・実用化できるといいですね」

「ええ。例の組織の人達が、匠の里の技師を紹介してくれるらしいし」

そう遠くない内にこの国にも春がくるようになるらしいわ、と小雪が笑う。

匠の里の技師の方だが、ナルトが裏で“網”と取引したのだ。取引材料は、雪忍の裏事情。

あの3人他、一部の抜け忍は一時期“網”に所属していたらしい。諸々の責任、その一部はドトウというか、雪の国にもある。
だが勿論、網にも責任はあるとのことで、組織お抱えの技術者を紹介するという事になった。

あと、チャクラの鎧は設計図ごと葬られる事になった。ナルトも、匠の里の技師達も、網も。全員がそれに同意した故の事である。

あれは、無い方がいいものだ。様々な観点から、そう結論づけられたのである。

「複雑な気持ちは、あるけどね・・・でもドトウ叔父にも責任があるからには、これ以上は望めないわ」

それよりも、この先である。三太夫他、一部の家臣達からは責任追及の声が上がっていたそうだが、小雪姫の一言で沈静化したらしい。

「これからが大変ですね」

「でも、やりがいがあるわ。白も、いつか見に来てね」

「はい」

白というか全員が、小雪限定で名前を明かしていた。決して他言しない、という条件付きでだ。

「で・・・あの、金髪の少年は?」

「ナルトさんですか? ええと・・・」

白が困った表情を浮かべる。何でも、ナルト曰くジモティー秘伝の味噌ラーメンがあるとかで、それを食べに町の方へと下りていってしまったのだ。






「これは・・・・!!」

ナルト(イワオ変化済み)の眼がくわっと開かれる。

流石は極寒の地、雪の国。素材は木の葉周辺に比べ劣るが、その分料理法へのこだわりは侮れないものがあった。

この味噌ラーメンだが、ともかく味が深い。塩、とんこつには無い、また違った味の深さがある。口の中に広がる味噌の風味がそれを教えてくれる。

そして、身体の芯から暖かくなる。

「これは・・・香辛料か」

「うち特製の、な。まあ、客の好み次第だが・・・辛い分、味が引き締まるぜ」

「・・・くっ、恐るべし、味噌バターラーメン・・・!」

奥が深い。かつてない強敵である、とナルトが戦慄する。

「・・・ほらよ」

その戦慄するナルトに、親父さんがあるものを渡す。

「これは・・・レシピ? おいおいオヤジさん。秘伝と書かれているぜ? ・・・・俺に、渡していいのか」

「こいつは、俺の・・・いや、俺達雪の国の民の気持ちだ・・・取っておきな」

オヤジさんが笑う。

「あんた、小雪姫の護衛だろ? ってことは、あの偽王ドトウを倒してくれた忍びの1人だ」

ここ数日、小雪の護衛についていたナルト達は、変化済みの姿だがその外見を覚えられていたのだ。

「遠慮はいらねえ。それに、海の向こうにまで俺の味が広まっていくってのもな。悪くねえぜ・・・あと、海向こうの素材と掛けあわせたら、また別の味を引き出せるかもしれねえ」

そう考えたら、わくわくしてくるだろ? とオヤジさんが男前に笑う。

「・・・有り難く。有り難く頂戴するぜオヤジさん。最高のもの、作ってみせる」

「へっ、ばっきゃろー。ラーメン屋名乗る以上、それは当たり前だあ」

「そうでしたね。それじゃあ、お元気で」

笑い、頷きあいながら、麺に命をかけている男2人は、固く握手を結んだ。






「・・・そ、そうなんだ。じゃあ、サスケ達は?」

白は、「よ、呼び捨て・・」と内心で思いながらも、小雪の問いに答える。

「サスケ君は、どうも経絡系の調子が良くないそうで。多由也さんの治療を受けてます」






「痛ってええ!」

「・・・我慢しろ」

音による秘術のよるチャクラ流の調整。かつ、無茶な酷使で痛んだ経絡系の治療である。

「まったく、もうちょっとスマートに勝てなかったのか?」

「いや、結構相手も強かったし・・・まあほとんどがあの鎧の加護だったんだろうけど」

「・・・まあ、それでも無茶しすぎだ。後ほんの一握り残っていたからよかったけど・・・チャクラを使い切っていたら、呪印の封印もやばいことになるのを忘れるなよ」

「ああ、すまん・・・で、それとは別に」

「何だ?」

不機嫌そうに片眉を上げながら、多由也が返事をする。

「お前、何を怒ってるんだ?」

「・・・怒ってないぞ」

「いや、怒ってるだろ。気絶して、意識を取り戻してから、ちょっと・・・変だぞ」

「・・・怒ってないて言ってるだろ」

「嘘だ。言ってくれ、何を怒って「怒ってない!」」

サスケの言葉が遮られる。それにむっとしたのか、サスケの方も口調が荒くなる。

「いいから、言えよ! そんなんじゃあ、どうしていいか分からないだろ!」

「怒ってないって言ってるんだ! 私がそう言ってるんだから、気にする事もないだろ!」

多由也も言わない。というか、言えない。
膝枕をしていた雪絵とサスケ、あの時の光景を思い出す度、何故か怒りがこみあげてくるなんて言えないからだ。

「・・・!」

「・・・!」

無言でにらみ合う2人。

「・・・あほらしい。白の所に戻るか」

その部屋の外、様子を見に来た再不斬がその一連のやりとりを耳にした。

そして心底呆れた風にぼやきながら、部屋に入らず去っていった。












戴冠式の翌日。

港で、出航する船を見上げる三太夫と小雪、そして船に乗り込んでいる撮影隊と護衛の面々が居た。

「本当にありがとう・・・元気で」

「いえいえ、そちらの方も。それでは、私共はこれで」

見送る小雪と三太夫に向かい、ナルトが会釈する。


「監督も。次回作が決まったら・・・私にも、一報を頂戴ね?」

「ああ、勿論だ。真っ先に連絡を入れるぜ」

渋い声でマキノ監督が返す。まるで、娘を見るかのような目で語りかける。

「しかし、君主と女優の両立とは・・・随分とまた、思い切った事を」

サスケが呟く。

「私は欲張りだからね。それに、ファンの期待は裏切れないし・・・それに、三太夫他、重臣達も協力してくれるらしいし」

「姫様・・・」

三太夫が複雑な表情で返す。

「良いと思うよー。ファンも凄い多いようだし、ね」

ナルトが複雑そうな表情で答える。

(言えない。依頼の理由が、“網”内での士気維持のため、なんて)

どうにも、想像以上にファンが多かったようである。ザンゲツの夫もそうらしい。男ってやつは・・・と呆れるザンゲツにあの時だけは同情したくなった。

(まあ、仕方ないか)

ナルトも男なので、同意できる部分もある。それを考えれば、止めて欲しくないとも思う。

「・・・まあ。それに、誰かに勇気を与える仕事なんて、そうそう無いぜ?」

「確かに、ね。まあ、両立は辛いだろうけど。みんなと頑張って、何とかするわ」

「へっ、そうこなくちゃあなあ。まあ、次回作に関しては時間がかかるだろうが、待っててくれや。それよりも先に、完結編を仕上げなくちゃあよ」

この二週間で、あらかたの部分は取り終えたらしい。後は、編集するだけだ。

「まあ、それでも撮った一部は編集してもらいますがね」

守秘義務、と一言呟く。

「そりゃあ、まあなあ・・・ちっ、それに関しては仕方ねえか」

編集無しにそのまま流されたら、正体がばれかねない。そして、雪の国にまで追求の手が及ぶかもしれない。

ナルトが監督に交渉した結果、ナルト達の素性がばれない範囲で、編集と再撮影をしてもらう事になった。

まあ、カカシやサクラ、シカマルにキリハ辺りにはばれそうな気もするが。まあ暗部というか、ダンゾウにばれなければ問題は無い。

それに、相手は世界のマキノ監督だ。そう、無茶な事もできまい。雪の国にしてもそう。確信が無い限り、迂闊な真似はできないだろう。

「それでも、最高の絵が撮れたからな・・・今回の完結編、大ヒット間違いなしだ!」

「そう、かつてない程の、最高の完結編に! 絶対、仕上げましょうね、監督!」

「応! 次回作はそれからだ!」

何でも、あの忍び同士の一戦を見たマキノ監督だが、次回作のインスピレーションが浮かんだらしい。

ともすれば命を落としていたのかもしれない時に映画の事しか考えないとは、とことん写真しか頭に無いのだと一行は苦笑した。

「あんた達は・・・変わらないわね」

雪絵が苦笑する。

「それじゃあ。船が出るようですので」

「・・・ええ。名残惜しいけど」

「さようなら、ですね」




同時、船が動き出す。


船にいるサスケと、港にいる小雪。

2人の目が交錯する。

今回の一件で、距離が近くなった2人。見つめ合いながら、視線だけで会話をする。




(・・・頑張りなさいよ?)

(はっ、言われるまでもない・・・あんたもな)


互いに、親指を立てながら、不適な笑みを交わす。

その背後、白が手を振る。


「それじゃあ、お元気でー!」

「あんたもねー! 結婚式には私も呼びなさいよー!」

『「「「ぶっ」」」』

ナルトとサスケ、キューちゃんにマダオと多由也が吹き出す。

一際大きい吹き出しをしたのは再不斬であるのは言うまでもない。

「・・・白?」

「ええと、何か?」

白の満面の笑みを前に、再不斬が目を逸らす。その頬は若干赤く染まっていた。

「・・・いや、何でもない」

(((このヘタレが)))

当事者の2人以外の全員が、内心で呟く。


「・・・ともあれ、だ」

視線を感じながらも、状況を打破すべく再不斬が動く。


「これ、手紙だ」

再不斬が懐から一枚の手紙を取り出し、サスケに手渡す。

「これは・・・・・って」



中に入っていたのは、一枚の写真と、メッセージ。


そこには、眠っているサスケの頬に口づけをする、小雪が映っていた。



『うちはサスケ殿。願いを叶えた先、いつかまた会いに来てね』


そして、写真に書かれているメッセージを読み切ったサスケの顔が、真っ赤に染まる。



「どうしたんだ・・・っておい」

素早くのぞき込んだ多由也が硬直する。


背後、それを一瞬だけ見た他の面々が、うあちゃーと呟き、頭に手をやる。


「うはー、大胆だなお姫様」

「しかも、女優・富士風雪絵のサイン付きだ。これ、ファンに見られたら殺されるねサスケ君」

『ふーむ、お姫様もやるのう・・・というかサスケのやつ、今にも殺されそうなんじゃが』

「うーむ、ボクとしてはどちらを応援したらよいやら」

「・・・やれやれだぜ」


と言いながらそそくさとフェードアウトしていく4人+1。

触らぬ神に祟りなし~といいながら、船室の中へと入っていく。



残されたのは、妙な威圧感を発する多由也と、その威圧感に呑まれたサスケだけであった。

そして多由也が顔を真っ赤にしながら、神速の手を動かす。

「・・・痛ってえ! なんで頬をつねる!?」

「・・・知るか! 手が勝手に動くんだ! ・・・ああああ、何だこの気持ちは!」

「知るか・・・ぐあっ!」



顔を真っ赤にしながら、サスケと多由也の2人はぎゃーぎゃーと言い合う。






相変わらずの一行、相変わらずの喧噪を乗せた船は、吹きすさぶ風と、波に運ばれて。

















雪の国に春と虹を呼び込んだ一行は、名前を残す事無く。











風花小雪姫の心にだけ、その名前を刻んで去っていった。












虹色に輝く氷壁を、背にして。











望む者を、その手に掴む為に。






















小池メンマのラーメン日記・劇場版

 SASUKE ~大疾走!雪姫忍法帳・その虹の先に~







                                      了




























~次回予告~




「で、このまま帰るんですか?」

「いや。匠の里でサスケの刀を発注した後・・・」


そこで、ナルトがにやりと呟く。


「今回の任務でみんな疲れたようだし。途中にある温泉街で、一泊止まっていこうぜ」

『「「賛成!」」』

白と多由也、キューちゃん達女性陣が賛成する。

「でも、隠れ家にも温泉があるんじゃあ・・・」

サスケが口を出す。抓られた頬が赤く染まっていたが、誰も指摘しない。

「いやー、家だと女性陣が家事とかしなきゃならんでしょ? ・・・大金も入ったし、慰安だからね」

「ありがとうございます」

「いや・・・でも、何か」

「何?」

マダオが訊ねる。

「誰かと会いそうな気がしたんだ。そんだけ」

「はは、そういえば木の葉の方も、慰安旅行とか在ったねえ」

「まあ、シーズン外れてるし、問題無いだろ」

「決定~」






[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 幕間の4 ~宿は道連れ湯は色気・前編~
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2009/09/27 19:46

日が暮れ、少し過ぎた時間。

とある旅館に、木の葉隠れの忍び達が来ていた。

その筋では有名な宿で、ここの湯は疲労に格別効くらしい。



「ふー・・・流石に、疲れたな」

「・・・おい、チョウザ。もうちょっと端に寄ってくれ。座れんから・・・しかし、何か湯気が多いなここ」

周りがよく見えん、とシカクが呟く。

「おお、すまん。久しぶりの休みだしつい、の。ようやっと一区切りついたな・・・」

「ああ。十全とは言えんが、何とか他国の里に侮られんぐらいには回復した」

「で、何でお前はそんなに不機嫌なんだ、いのいち」

「いや、忙しくてな・・・愛しの娘に、稽古付けてあげられなかったことが・・・」

ため息を吐くいのいちに、シカクが呆れ声をかける。

「まあ、担当上忍が何とかするだろ。アスマとか紅とかガイが」

1人挙がらないが、誰も指摘しない。信頼って難しいのである。

「いや、でもカカシも、なあ。最近凄い真面目になったと聞くし・・・」

「キリハちゃんともうひとりの娘・・・何だったか、チョウジ」

「サクラだよ。春野サクラ」

「ああ、サクラちゃんか。その2人で狼狽えていたと聞いたぞ。すわ、天変地異の前触れか! ってな具合に」

とある温泉宿。木の葉隠れの里の、旧家名家の家長達が一同に介していた。

とはいっても、温泉に入っているだけだが

「そういえば、最近キリハちゃんとはどうなんだ、シカマル」

「・・・だからどうもこうもねーよ。それよりも修行風景を見てるだけではらはらするぜ」

まったく、とシカマルは1人深いため息を吐く。
こんな場違いな所に連れてこられたのと日頃のキリハの行動を思い出して。

「・・・相変わらず、無茶ばっかりでよ。俺が止めても聞きゃあしねえ。親父達からも何とか言ってくれねーか」

「ミナトに似て、人の言うことを聞かん所があるからなあ。凄い頑固だし」

「怒ると怖いのはクシナさん譲りかな。日向のヒザシさんから聞いたんだけど、あの日向ネジ君も、中忍試験本戦時のキリハちゃんの怒気は正直怖かったと言っていたらしいよ」

「・・・尻に敷かれんなよ、シカマル」

「突っ込み所が多すぎるわ! あと、キリハ本人は兄貴・・・ナルトの事で頭いっぱいだよ!」

シカマルの一言に場が凍り付く。

「・・・そういえば、お前ナルト君と話しをしたんだっけな」

「ああ? まあ、話したけどよ」

「どんな感じだった? その・・・」

シカク達の顔が少し不安気になる。

「ああ・・・何て言うか・・・」

「「「何て言うか?」」」

その場にいる親父共全員が迫ってくる。シカマルは何この拷問、と呟きながら答えを返す。

「一言で言うと・・・」

「「「一言で言うと?」」」

合唱する親父ズにシカマルはあっさりと言い切った。

「変なヤツだった」

その場にいる全員がずっこけた。

「二言でいうと・・・凄い変な奴だった」

シカマルは1人思い出す。それとなく自来也から聞いた特徴と照らし合わせて。そしてキリハから耳にタコが出来るぐらいに聞かされた活劇を思い出しても、だ。
人格が把握できない。つかみ所が無いというのか。

「・・・まあ、馬鹿に明るい奴だったのは確かだ。前もって想像していたのとは全く逆の印象だった」

助けられた時は、もっとこう、ぶっきらぼうな感じな人だと思いっていた。
キリハから人柱力の話を聞かされた時に思い浮かべた兄貴像もそうだ。もっと歪んでいるかと思っていたのに、実際は違った。

それでも、起こした数々の事件というかイベントは、明るいだけの者では到底不可能な、奇天烈かつ破天荒なものばかり。

そう考えれば、キリハにも似ている。まるで風だ。時に凪。時に嵐。気まぐれにも程があるが。

シカマルがそう語ると、親父ズは皆が苦笑を浮かべていた。

「・・・ふん、ミナトに似てやがる」

「はあ!?」

シカマルが驚く。火影の執務室にかけられていた写真とか、キリハに見せられた写真を見るに、もっと威厳があって真面目一徹な人かと思っていたのに。

「ああ。まあ、任務の時はそうだったな。私生活ではだらしがないのにも程があったが」

「ガキん頃は悪戯好きだったしなあ。色んな術を試して、暴発させて・・・当時のアカデミーの先生によく怒られていたな」

「それでも、才能は本物だったからなあ。俺らが中忍になった頃、当時のアカデミーの先生と話をした時に聞いたよ。怒るに怒れなかったって、愚痴られた」

「・・・想像とは全然違うな」

「まあ、カカシとか教え子に対しては真面目な顔しか見せてなかったからな。知っているのはそれこそ、俺達のような昔なじみの奴だけだ」

「仮にも火影だったしなあ」

「いや、仮にもとか・・・」

シカマルが突っ込むが、親父ズは昔話モードに入っていて聞いちゃくれねえ。

「・・・はあ。俺はもうあがるぞ」

これ以上つかってるとのぼせそうだし、といつものぶっちょう面をしながら、シカマルが言う。

「もっとゆっくりつかっていかねえのか?」

お前も相当に疲れてるんだろ、とシカクが訊ねる。

「シカマル、同期のみんなの修行を見ていたせいか、疲れ気味だもんね・・・ほんと、お疲れ様だよ」

「けっ、お前に言われる事じゃねーよ。同期の面々の修行を見るっていうのは、綱手様からの直々の命令だ・・・でも」

気を遣ってくれてありがとよ、と幼なじみのチョウジに告げる。

「でも、本当にのぼせそうだからあがるわ」

「あ、じゃあボクも」

つられ、チョウジも一緒に入浴場から出る。

そして服を着ようとした時だ。

「ん、これは・・・?」

脱衣所に置いてある服。その下に、何かがあるのに気づいたシカマルはそれを慎重に手に取り、呟く。

「・・・手紙?」








「それでチョウザ。シカマル君は実際どうなんだ?」

「ああ、修行の事か? チョウジが自慢げに話してたな。みんな驚いてるって。知識の豊富さもそうだけど、状況設定が秀逸だってアスマがかなり褒めてたらしい」

「・・・だ、そうだぞシカク」

「けっ、お前ン所のいのちゃんも医療忍術頑張ってるそうじゃねーかよ」

「いやいや。チョウジ君の方も頑張ってるそうじゃないか」

「まあな。シカマル君に負けたくないとかで、最近特に力が入っとるらしい。まあ、任務に失敗した下忍の全員が頑張っとるらしいが・・・」

一端話が切れる。

「それにしても、うずまきナルト、か」

その場にいる3人、上忍、山中いのいち、秋道チョウザ、奈良シカクは波風ミナトとはかなり長い付き合いだった。

戦友であり、親友でもあったミナトの忘れ形見。

「・・・クシナの妊娠が聞かされる前ぐらいだったか。約束したのは」

「ああ。一度休暇を取って、4人男同士水入らずで旅行に行こうって話な」

「きっかけは何だったか・・・ああ、お互いの結婚生活の話だ」

「愚痴りあうのが目的だったかなあ・・・子供できた後はそんな事考えなかったけど」

3人が苦笑しあう。

そして全員が、あの時九尾に立ち向かっていくミナトの背中を思い出した。

「・・・バカヤロウが。笑顔のまま、走って行っちまいやがって」

「・・・屍鬼封尽、か。あの時は相談も何も無かったな。まあ、言えば止められると思っていたのだろうけど」

「最後の言葉が笑顔だけ、っていうのも・・・あいつらしいな」

3人、様々な事を思い出し、少し顔が俯せになる。

「・・・いけねえ。辛気くさくなっちまった」

こんな顔してると、あいつに怒られちまうな、とシカクが無理にでも笑いながら呟く。

笑う時は笑おう、というのがあいつの信条だった。それに今、俺達に出来る事は思い出して悲しくなる事ではなく、あいつのやった事を誇るべきだ。

木の葉を守り死んでいった英雄達と、同じに。

「・・・でも、経緯はともあれナルト君が生きていてくれてよかったよ。もし死んでいたらミナトに顔向けできない所だった」

「自来也様から話しを聞いた時には心底驚いたが。今の、シカマルから聞いた話にも驚いたな」

「色々と助けられたらしいからな・・・何から何まで、大きすぎる借りだな」

子供達を助けられた事とか。返す借りが多すぎて、どうしたらいいのかと唸る。

もっとも、メンマ本人はそんな事気にもしていなかった。誰が悪いわけでもない、というのが彼の考えだったからだ。


「これから、返していこうか・・・いかん、これ以上入っていると本当にのぼせてしまうな。あがるか」

「ああ」










一方、女湯では。


「ふい~・・・・たまらないねえ、いのちゃん」

「オヤジか、あんたは」

相変わらずの突っ込みっぷりである。

「シカマルから聞いていたけど・・・あんた、今本当に疲れてるようだから、きっちりと休みなさいよ?」

「分かってるよ~」

「駄目だこの娘・・・」

ふやけきっている。それほどに過酷な修行を自分に強いていたのだろう。

「シカマルの胃は大丈夫かしら・・・」

心配性の幼なじみの胃を気遣ういのであった。


そこに。


「あ、こっちですね」

「九那実さん、足下気を付けて」

「うむ、すまんうおっ!?」

自分たちと同じぐらいの背丈を持つ、3人組の女の子が入ってきた。

1人は滑ったのか、一瞬体勢が崩れていた。

「あはは、気を付けてくださ・・・」

笑おうとした白が、湯船に使っている2人を見た途端、一瞬だが硬直した。

直後に何でもない風に取り繕ったので、ばれなかったが。

「あはは、多由也さんちょっと」

白は入り口、キューちゃんの手を取っている多由也の方に行くと、近づき小声で話す。

(ボクの本名禁止、九那実さんは九那実さんと呼んで下さい)

「・・・はあ?」

告げられた白の言葉にわけがわからない、という風に首を傾げながら湯の方へ歩いていく多由也。

そして2人を見たあと、白の言葉に内心で頷いた。

(了解)

(いえいえ。それにしても何ていうタイミングですかまったく・・・)

マダオが選んだ宿だが、時機が重なるとは。偶然にも程がある。

(そういう星の元に生まれておるのかもしれんのう・・・)

(すごい説得力ですね・・・ともあれ、気づかれてないようですから入りますか。今の2点に気をつければばれませんよきっと)

(うむ。キリハのやつふやけておるのう。まるでクラゲのようじゃ)

会議が終わった3人は、やがて湯船に入る。


「失礼します」

「いえいえ・・・ってあなた達肌白い~・・・綺麗だしー!」

いのが騒ぎだす。

「そうだねえ。まるで新雪のようだねえ」

白とキューちゃんを見ながら、キリハが呟く。

「だからオヤジっぽいわよアンタ。すいません、彼女ちょっと今、ふやけてて」

「ふむ。どうしたのかのう」

変わったしゃべり方をするキューちゃんにいのは驚く。

が、即座になんでもないように言葉を返す。変人の巣窟、木の葉隠れの里で花屋を経営する彼女。

日々の戦場で鍛えられた彼女の経験値は、伊達ではないようだ。

「そう、接客は戦争なのよ・・・」

思わず呟きが零れてしまう、花屋の看板娘。

ちなみに白の方は、その呟きを聞いた後、深く同意の頷きを返していた。

キリハの方は、脱力の極致にあるのか、目が糸目になっていた。その糸目で多由也達3人を見ながら、訊ねる。

「ん~・・・みんな、何処かであったっけ?」

キリハの唐突な質問。

だが、白は焦ることなく対処する。

「いえ、初対面の筈ですが・・・」

心底不思議そうに首を傾げる。

勿論、白の演技であるが、キリハはそれを見破れなかった。というかふやけているので、観察眼も鈍っているのだろう。

それに、白の容姿は前とはかなり違っている。儚さが消えた力強い容姿は、その綺麗さを増しに増している。

加え、キリハが白の顔を見たのは、白が通りすがりの一般人の格好をしていた時だ。あの橋の一戦では、白の面は割れていない。

敵として出逢った訳でもないので、自然その警戒は緩くなっている。

「そういえば私も・・・いや、やっぱ違うか」

いのは多由也を凝視しながら、呟く。だが多由也はの容姿と雰囲気は、呪印から開放された前後ではまるで別人のように変わっている。

気づける筈もない。

(・・・やっぱり、勘違いね)

そもそも、超人じみた勘の持ち主であるキリハが疑っていない。だから、大丈夫だろうと判断した。

幼い頃から様々な人間と接してきたキリハ、彼女の人間の観察眼は結構なものだ。

下心のある人物なら、そして危険な人物なら直ぐに分かる。それに、自分も花屋として結構な客と接してきた。

その経験をふまえ、この人達は別に警戒する必要は無いと結論づけたのである。

「それに、キューちゃんはもっと小さいしねえ」

糸目のまま、ぼそりとキリハが呟く。

「・・・・」

危なかった、と内心で安堵する多由也と白であった。





数分後。話をしているうちに、互いの警戒は緩くなっていた。

何というか、互いにシンパシーを感じるものがあったらしい。

「へー、旅行の帰りなんだ」

「そうですね。仲間の1人の提案で、温泉に行こうという事になりまして」

「ワシは疲れてはおらなんだがのう」

「あー・・・・まあ、そうだな」

あまり外には出ていなかったキューちゃんの愚痴に、多由也が反応した。

「あなた達も旅行ですか?」

「いや、ちょっとね。こっちの勉強が一段落ついたのと、パパ達の仕事が一段落ついたのと、タイミングがかぶってね。こうして慰安みたいな旅行に行こうかって話になったのよ」

「う~、癒される~」

「あの、こちらでふやけている方は・・・?」

「ああ、ちょっと疲れが溜まっていたそうでね。こんなになっちゃってるのよ」

「ん~」

「うおっと危ねえ」

倒れそうになるキリハを、多由也が受け止める。

「お~、大きいクッションだー」

キリハは多由也の胸にもたれかかる。そしてその双子山を枕にしながら、頭を振り出した。
金色の髪が多由也の双子山の稜線をくすぐる。

「ちょっ・・・・んっ」

「あんた、キリハ!? 何やってんの!」

慌てたいのがキリハの頭を鷲掴みにして引き寄せる。そして、ぽかり頭を叩いた。

「痛いよいのちゃん~」

叩かれたキリハだが、糸目のままだった。本当に今日は駄目モードらしい。

「だってでかいし~、やーらかいしー・・・」

「ふむ、確かに・・・・そい」

キューちゃんが頷きながら、湯の中静かに多由也に近づく。

そしておもむろに、双子山の頂上にある桃色の果実を指でつついた。

「ちょっ・・・あっ、んうっ?!」

止めようとした多由也だが、あまりにも神速かつ精緻な指捌きに防御する事あたわず。侵略を許してしまった。

「・・・エロい声ね。しかし、やっぱりでかいわー」

いのが悔しそうに呟く。

「そうですねえ」

ちなみに白は笑顔でその光景を見ていた。

「ちょっ、お前ら止め・・・!」

やがて水面下を移動しながら接近したキリハも、頂上攻略に乗り出した。目は糸目になっている。

「・・・・・っ!」

金髪コンビの2重奏に圧倒される多由也。





一方、男湯。

シカク達木の葉の忍びに気づいたメンマ一行は、姿を隠しながら入浴場を出てシカク達が出て行った後に入り直した。

・・・のだが、そこでとんでもないものを聞いてしまっていた。

女湯で始まった会話を聞こうと、耳にチャクラを集中して聴覚を強化。こちらの音は漏れないように消音結界。
これも修行だというメンマとマダオの提案にサスケが頷き、なんだかんだと言いながらも気になる再不斬も参加。


---それは当然であろう。桃源郷の会話である。

男ならば聞かないという選択肢は無い。そんな奴は男じゃねえとメンマは断言する。


だが。そこで悲劇は起こったのである。

予想以上に過激な展開とその声の艶やかさに当てられた少年が、開始僅か数分でダウンしてしまった。

「しっかりしろサスケ! 傷は浅いぞ!」

「ごぼごぼごぼ」

顔を真っ赤にしながら鼻血を出しているサスケが、湯船に沈んだ。多由也のあの声にやられたらしい。

最も接する時間が長かったサスケだ。普段とのギャップにやられたのだろう。こうかはばつぐんだ!というやつらしい。

「くっ、多由也ちゃん恐るべし。流石は音使い・・・!」

マダオが戦慄する。

「いや、違うだろ」

メンマが突っ込むが、そのメンマに再不斬が更に突っ込んだ。

「・・・お前も、鼻血を拭いたらどうだ?」

「おっと失敬」

紳士の顔をして鼻血を拭うメンマ。湯船に沈んでいたサスケだが、何とか意識を取り戻したようだ。

「・・・・」

「お~い、サスケ。生きてるかー」

「・・・」

返事が無いただの屍のようだ。

「まったく・・・・ん?」








「いい、加減、放してくれ!」

胸を抱え込んで退避する多由也。

「いやあ、大きいっていうのも一苦労ですねえ」

見ながら、笑顔を浮かべている白。

多由也はそんな白に一言、お前も大きくなったと言っていただろうがと言う。

「え? ・・・ボクのは駄目ですよ。触って良いのは」

白は、恋をしている乙女の笑顔を浮かべながら、そっと自分の胸を隠す。

そして、静かに言い放った。


「たった、1人だけです」



その、迫力。

そしてあまりにも綺麗な笑顔に、その場にいた全員が圧倒される。









一方、男湯では。

「・・・てめえら、何をしやがる!」

白の言葉を聞いた男3人。嫉妬力による高速の拳で殴られた再不斬が、鼻を押さえながら文句を言っていた。

だが、男3人の嫉妬パワーが篭められた視線を前に、それ以上は言えないでいる。

「・・・殴った事に理由はない。ただ、羨ましかっただけだ」

メンマが目を閉じながら腕を組み、渋い声で言う。

「殴りたかったから殴る。これ、正論でしょ?」

マダオは人差し指を立てながら、言う。。

「・・・いや、つい」

サスケが視線を逸らしながら答える。


「くそったれが・・・」

と言いながらも、追求してこない再不斬。よく見れば、耳が赤くなっているような気がする。


「俺はもう出るぞ」

「分かった。ちなみにトイレはあっちだぞ・・・おっと」

指さすメンマに向けて、クナイが飛んできた。下ネタは禁句らしい。

「うーん、ダンナもねえ。恥ずかしさの限界だったのかなあ」

「まあね。案外照れ屋さんだし」

「それは見てれば分かるが」

「「あ、やっぱり?」」








所、戻って女湯。

「く・・・・! これが、恋をしている乙女の力なのね!」

屋台の桃さんを思い出すわ! といのが戦慄する。ちなみにその言葉を聞いた白も内心で戦慄していたが、表情には出さない。

キューちゃんは多由也に振りほどかれた後、自分の胸をじっと見ていた。

「うーむ。ワシには平均というものがよく分からんのじゃが・・・今のワシの、これは・・・・大きいのかのう?」

キューちゃんが自分の胸部にある泰山を見ながら、呟く。

「えーっと・・・そういえば、ボクも分かりません」

「ウチもだ」

他のくの一との接点が無い白と多由也には、所謂女史の平均胸囲というものが分からなかった。

「ん~・・・私も、分からないや」

「そういえば、アンタもそういうのには疎かったわねえ」

いのが呆れ声を出す。

「えっと・・・見た目、平均より少し上ってところじゃない? それよりも形が美しすぎるわ!」

美乳にも程があるわよ! といのが悔しげな声で言う。

「将来性も抜群ですしねえ」

一度だけ大人verを見たことがある白と多由也が頷きあう。

「・・・・てい」

「んっ・・・って何をする?!」

そして、そキューちゃんの背後から静かに近寄ったキリハが、徐に肌を触り出す。

「ん~、肌も綺麗だねー」

まるで絹のよう、とキリハが呟く。それを聞いたいのも、肌の感触を確かめんとキューちゃんに近づいていく。

多由也も、先程の逆襲とばかりにキューちゃん近づき、ゆっくりと肌を触りだした。

「どれどれ」

「ちょっ、お主等やめんかっ・・・・んうっ」

静止しようとしたが、その感触に声を出してしまうキューちゃん。

「凄い・・・何これ」

「・・・ふっ・・・んっ?!」

いのは“黄金比ってレベルじゃねーぞ!”と内心で叫びながら、背中から腰のラインをゆっくりと触り出す。

「完成された造形美・・・一種の芸術だな、これは」

さっきの攻勢でテンションがおかしくなった多由也もキューちゃんの胸元の稜線を指でなぞる。

「ちょっ、たゆ・・・く、は・・・んっ・・・!!」

柔肌が蹂躙される度に、キューちゃんの声が響き渡る。

魅了の効果でもあるのか、その声は人には出せない程に艶やかだった。

その肌の触り心地と声に当てられた乙女3人の勢いは止まらない。むしろ勢いを増していく。



















そして数分後。



「ふーっ・・・!」

キューちゃんは胸元を抑えながら八重歯を剥き出しにして、全員を威嚇していた。

全身がピンク色に染まっているが、顔は真っ赤である。

多由也、いの、キリハの3人はキューちゃんから羞恥による怒りの拳骨を喰らったため、頭を抑えている。

「いたた・・・ちょっと調子に乗りすぎたようね」

威嚇のうなり声を上げるキューちゃんに、調子に乗ってしまったのを謝罪する3人。

「うー・・・・!」

だが、キューちゃんは4人を警戒しているのか、距離をおいたままだ。

だが、白を含む4人全員がその仕草に少しやられていた。


何て言うか、仕草が全て子供っぽいのだ。年にしても幼い。

天上の華とも言える程に整ったキューちゃん容姿だ。その上、こんな可愛いというか子供っぽい仕草をされたら、同姓でもたまらないというものである。

しかも、八重歯だ。

何をいわんや、である。


「こほん」

気を取り直した白が、一言入れる。

「・・・えっと、少し興奮しているようですから後でまた」

そういいながら、会話を続ける。

「・・・それにしても、いのさんも結構大きいですねえ」

「まあ、そうね。同年代でもトップクラスだし」

多由也の方を見ながら、自信を無くしたけど、と呟いたが。

「ん~、私は少し小さいね」

殴られて若干覚醒したキリハが、自分の胸を自分で鷲掴みにしながら、何でもないように言う。

「ちょっと、アンタ・・・」

少しは乙女としての恥じらいを持ちなさいよ、と言う。

だがキリハは糸目のまま「何を~」と返してくるだけであった。

「ははは・・・でも、誰かに揉んでもらえれば大きくなるそうですよ?」

白の爆弾発言。

「そうなのっ!?」

いのが食いつく。

「ええ」

「・・・ああ。でも私には心に決めた人が!」

頭を抑えながら苦悩の声を上げるいの。白が苦笑する。

「ええと、確かにねえ。それに、女同士っていうのもあれですし」

「ん~、私は別に大きくなくていいよ」

「そうそう。邪魔になるだけだぞ」

「・・・そうじゃのう」

警戒しつつもこちらに戻ってきたキューちゃん。少し距離を取りながら、呟く。

「ん? ・・・でも、大きい事に越した事はないわ! だからキリハ!」

キューちゃんの返答に首を傾げながらも、いのはくわっと目を見開く。

シカマルの為にも! と内心で叫びながら両手を湯船から出す。

「行くわよ!」

「来ないで?!」

真正面からダイレクトアタックを仕掛けるいの。

キリハはそれを見てとっさに横に逃げようとする。

「・・・しまった?!」

だが逃げられなかった。

背後から忍び寄った多由也とキューちゃんに両の肩を掴まれたため、身動きが取れなくなってしまったのだ。


「・・・ふっふっふっふ。さあ、さあ!」


ラスボスのような笑みを浮かべながら、両手をわきわきして近づく乙女、山中いの。

キューちゃんの艶やかな声が発する色気とその肌の感触に当てられて、どうもハイテンションになっているらしい。

「いや・・・!」

首を振りながら、抵抗するキリハ。



だが、その抵抗も空しく。




「・・・・・・!!」


侵略されること、火の如し。


艶やかな金の涼声が、湯気立ち上る星満天の夜空に響き渡る。




1人、白が空を見上げる。


「あ、流れ星・・・・」













一方、男湯では。




「お客様!? お客様ーーー?!」

様子を見に来た旅館の従業員が、その惨状を見て叫んでいた。





男3人は湯船の外の床を血の華で染め上げていたのだ。




「永遠はあるよ、ここにあるよ・・・・」

「はちみつくまさん・・・」

「もう・・・ゴールしてもいいよな・・・・」




だが、その顔は安らぎに満ちていた。
そして倒れながらもその掌は、天にある星を掴まんと突き上げられていた。






















後編へ続く。






・・・あと、お知らせです。

幕間4の後編の次、本編再開しますのでよろしく。





[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 幕間の4 ~宿は道連れ湯は色気・後編~
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2009/09/21 06:09




数時間後。


「で、シカマル君との話はどうったったの?」

マダオが訊ねてくる。



先程、俺は手紙で呼び出したシカマルと情報を交換していた。

こちらは暁の構成員について。前もって紙に書いていたのを渡したのだ。

シカマルの方は、最近の各地の動向についての情報をくれた。後、一つある事を依頼された。

匠の里の話を聞いたシカマルが、キリハ専用のお守り作ってくれと頼んできたのだ。材料もあるので、後は加工費だけになるだろう。

交換条件もあったし、何よりキリハの事もあるので、俺は後払いでその頼みを聞くことにしたのだ。

「お守り、か・・・どんなものを考えているの?」

「職人と相談して考えるさ。それより、だ」

一息区切って、話し出す。

「どうも、最近雨隠れの里の動向がおかしいらしい」

「雨隠れって・・・確か、あの“山椒魚の半蔵”が頭の里ですよね」

無敵の忍びとして名を馳せた程の実力者。その強さは伝説になる程だ。

「・・・少し前までは、ね。今は、暁の首領であるペインっていうのが頭張ってるらしいけど」

「ということは・・・あの半蔵を殺ったのか、そいつは」

「らしいね・・・」

それにしても、雨隠れの行動がおかしいとはどういう事だろうか。

メンマは1人、唸っていた。

(何か、変わった事があったのか? ・・・くそ。イレギュラー要因が多すぎて、何が起こっているのかさっぱり分からん)

雨隠れに侵入するという手も使えない。相手が輪廻眼である以上、迂闊な手は使えないのだ。

どんな術を使ってくるのか分からない。有り得ないかもしれないが、影分身体の逆探知でもされたら事だ。

「まあ、地道に情報収集していくしかないね・・・」

「そうだな。それで、暁の動向は分かったのか?」

「いや、分からない。けど、痕跡は見つかったらしい」

「・・・痕跡?」

多由也が訊ねる。

「ああ。どうも、三尾が狩られたらしい」

シカマルの話を聞くに、三尾がいたとされる沼で戦闘が行われた痕跡があったらしい。

「暁、と見るべきだろうね。それに、他にも奇妙な点があったらしい」

「・・・奇妙な点?」

「ああ。何でも、戦闘が行われた辺りのね・・・その一帯の植物が全部死んでいたらしい」

「・・・それはどういった風に?」

「まるで何かに吸い取られたかのように、しおれて枯れていたらしい。調査班が調べたけど、原因は不明だって」

「・・・うーん、何とも不気味ですね」

「俺が中忍試験の予備戦で戦ったグラサンのように、チャクラを吸収する能力じゃないのか?」

「違うと思う。植物そのものから生命エネルギーを吸い取るなんて、できない筈だし」

それこそ、木遁の領域になるだろう。

「加え、沼も濁っていて・・・そこにいた魚というか、水棲生物の全てが死んでいたらしい。まるで、死神が通り過ぎたかのようだと言っていたよ」

「死神・・・・と言うことは、例のあの声の主ですか?」

「残念ながら、その可能性は高いだろうね。皆殺しっていう感じだし」

声の印象と一致する。そしてその異様性を見るに、同一としていいのかもしれない。

「断定するのは危険だから、あくまで可能性としておくけどね」

「・・・それで、こちらはどう動くんだ? 暁とその死神ってやつ、関連性はあるのか?」

再不斬が訊ねてくる。

「それは帰ってから検討する。今はとにかく、食べよう。ちょうど用意もできたようだし」

麺は熱いうちに食べろという言葉もある。今はとにかく食べるべきだ。

「・・・そうですね」

海鮮の幸が並べられる。

「あと、例の味噌もらってきたから。これで、味を調整して・・・よっと」

影分身が調達してきた業務用の麺を取り出す。

「海鮮味噌ラーメンに挑みます。キューちゃんはこれ」

と、少し焦げ目がついた油揚げを取り出す。

「味噌塗り油あげ焼き~メンマ風~でございます。冷めないうちに召し上が」

瞬間、風が生まれた。

既に箸はキューちゃんの箸の中にあった。

それを見た再不斬が呟く。

「・・・この俺が、見えなかっただと?」

全員が戦慄する。

「いただくぞ」

「たべてたべて」



はむっ、とかじりつくキューちゃん。

熱いのか、はふはふと白い息を吐きながら、結構大きめな油揚げをものすごい勢いで食べ尽くす。




「・・・感想は?」








遠雷を背後に、訊ねる。










対するキューちゃんは飲み込んだ後、すぐさま答えた。









「うまい!95点!」


「っっしゃああああああああ!」


マダオとハイタッチ。

白とハイタッチ。

初めてなので分からない、という顔をするサスケと多由也にも強引にハイタッチ。

(どうでもいいけどハイタッチとパイタッチって似てるよね!)

と、思わずエロい事を考えてしまう程にテンションは最高潮になる。






「うむ、腕を上げたの」

「恐悦至極。さあ、どんどんどうぞ」









その一時間後。


「ふい~」

勢いに任せ、いつもよりハイぺースで飲んだせいかアルコールの周りが早い。

少し酩酊状態になりながら、俺は例の去り際の言葉について聞いた。

「結婚式・・・ということは、プロポーズは済んだんだね君達」

俺の唐突な断言に、再不斬が酒をはき出した。

「げほっ、ごほっ・・・突然、何を言い出す」

「えー、だって雪絵・・・じゃなかった、小雪姫が言ってたじゃん」

思い出したのか、再不斬の顔が赤くなる。


「で、プロポーズの言葉は?」

「してねえよ!」

再不斬が顔を真っ赤にしたまま怒鳴る。

「まあまあ、それぐらいで。ちなみに、どんな言葉を考えているの?」

「まだ考えてねえよ!」

マダオの言葉に怒鳴る再不斬。その一瞬後、言葉を理解した5人がにやりと笑う。

(((まだ、だって・・・)))

ちなみに白は真っ赤である。

「ふん、お前の方はどうだったんだよ」

「ええ、ぼ、僕? ・・・ええと、何だったかなあ」

焦るマダオ。矛先を逸らそうと、こちらに訊ねてきた。

「ちなみに、メンマ君はどんな言葉を考えているの?」

「え、俺? 俺なあ・・・」

アルコールの勢いのせいなのか、真剣に考えてしまう。

(うーん、やっぱり、結婚相手には麺に対する理解が欲しいし・・・)

それに、定番もやはり必要だろう。

(“毎朝俺のラーメンを作って下さい”・・・いや、やっぱり違うな。”一緒の墓に入って下さい”・・・・これも違う)

常に一緒にいて、隣にいて、それで・・・・同じ湯に・・・うん、これだ!



「俺の出汁になって下さい!」



場が静寂に包まれる。

(・・・あれ? 何か、口に出したら違う感じが・・・)


その一瞬後、酔った多由也が箸で陶器を叩く。

ちーん、という音が部屋に響いた。


「残念、不合格です」

「メンマ君、それプロポーズと違う。宣戦布告や」

マダオの突っ込み。

「ちなみに、それ誰かに言ったことある?」

「いや、そりゃ無いけど」

「「「良かった・・・」」」

再不斬とキューちゃんを除く全員が頷く。

「ん?」

例の味噌油揚げに加え、それに御飯を加えて海苔をまぶした味噌焼き油揚げ御握りをようやく食べ終わったキューちゃん。

が、顔を上げる。

「何か言ったか?」

「いいえ、何にもないですよ・・・ああ、ほら御飯粒がついてます」

さっと頬にある御飯を取る白。まるで母のようだ。

それを横目に、俺はマダオに耳打つ。

(そういえば、マダオ。こっちの結婚式ってどんなだ?)

(各地で違うようだけど・・・里によっても違うね。ちなみに、君の所は?)

「何を男同士で内緒話をしておる?」

キューちゃんが訊ねてくる。

「いや、宣誓の言葉とかどんなかなって」

「・・・ほう。ちなみにお主が知っておる言葉はどんなじゃ?」

「ええっと、確か・・・」


何とか思い出しながら、言葉を紡ぐ。

「その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、 悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも・・・・」

そうだ。こんなだった。


「スープを愛し、出汁を敬い、具を慰め、麺を助け、その魂のある限り・・・真心を尽くすことを誓いますか」


メンマ流のアレンジである。


直後、多由也の箸が容器を叩く。

キンコンカンコーン、という音が鳴り響いた。


「・・・韻が美しいので合格」


酔った多由也は厳しかった。


「ちなみに、元の言葉は何ていうんですか?」


「ええっと、それはねえ・・・・」


元になった言葉を教えると、白は真っ赤な顔をして頷いていた。興奮しているようだ。


(そりゃあ、なあ。白にはぴったりの言葉だもんな)

と、いうことはもう何年も前から2人は結婚していたのかもしれない。

(というと暴れるからな)

一応、自嘲しておいた。


「ふーむ・・・」

キューちゃんも思う所があるのか、腕を組んで唸っていた。

「どうしたの・・・ってそろそろ仕上げというか最後のラーメンに入るけど・・・」

食べられる、と聞くまでもない。既に全員が準備完了であった。

「じゃあ、味噌を入れましてっと」

即興の海鮮味噌ラーメンである。味噌の風味と魚の風味、それに野菜出汁の甘みが加わった今日だけの一品。

今回は味噌は薄目である。魚の風味を殺さない程度の量でいい。後は、魚の風味と合わさってくれる。

これから開発する新ラーメンへの実験を兼ねたものである。ちなみに事前に味は検討済み。


「で、近場でとれた海苔を上において、と」


完成である。

具は鍋の残り物の野菜しかないが、それでいい。出汁の味が生きているので、後は海苔を添えれば問題はない。


「ん・・・暖まるな、これ。それに、スープに深みがあっていい」

「未完成ですし、要検討と思いますが・・・面白い方向性ですね、これ」

「・・・うまい」

細かい事はわからない男連中は、ただうまいと言っていた。

「あと、キューちゃん。これ」

「ん? これは、油あげか。随分と薄いし、味付けもしていないようじゃが」

「スープに浸して、麺と一緒に食べてみて」


「ん・・・ほう、これはこれは」

「まだ完成にはほど遠いんだけどね」

「でも旨いぞ、これ」

「いや、油揚げの味がまだ勝ってるから。周りの味との調整がまだまだ。至高の一品とは言い難い・・・でも、例のラーメン。やるなら味噌ベースかな」


前に約束した、きつねラーメンの案である。

試してみるが、俺の作るしょうゆラーメンとは合わないような気がするし。

塩は・・・無理だろう。味が違いすぎる。

「・・・ふむ。約束を守ってくれるのか」

感慨深げな表情を浮かべ、こちらをじっと見るキューちゃん。

俺は照れ隠しに頭をかきながら、言う。

「・・・当たり前じゃん。何より、キューちゃんとの約束だし」

長年付き添ってきたキューちゃん。今や、家族も同然だ。
それに、麺について嘘を付くわけにもいかない。


笑顔でキューちゃんにそう告げる。


「・・・うー・・・」

すると、何故か顔を真っ赤にしながら俯き出した。


「あれ、どうしたの?」

キューちゃんも酔ったの、とのぞき込む。

「・・・何でもないわ!」

と言いながら、目をそむけられた。

そして。


「おかわり!」


鍋に残っているラーメンに向け、器を突き出すキューちゃん。

白が苦笑しながら、器におかわりのラーメンを入れていく。



「・・・ああ、そうだ、多由也。例の屋台の事なんだけど」

「え、決まったのか?」

「ああ。出来れば全国を行脚したかったんだけど、雨隠れの動向がおかしいらしいし・・・“網”の紹介で、孤児院とか、現場周りに屋台を開く事にした」

「・・・ということは、極々短期間の出店になるのか」

「時機を調整してね。安全には気を付けないといけないし」

「・・・それも、そうか。うん、ウチはそれでいい」

「工事現場とか、特に良いかもね。疲労回復にも役立つし」


夕方、もしくは宵の口。

仕事が終わった後の疲れている作業員に、スタミナ満点のラーメンを出す。

そして満腹になった後、疲労を回復する演奏会っていうのも乙なもんだ。

「孤児院も、ね。ラーメンも音楽も、子供に好かれるっていうのは大事だと思うし」

率直な感想を聞かせてくれそうだ。

「そうだな」

多由也が笑う。

「まあ、暁対策に移った時は休むようになるけど」

始まるまでは。そして終わった後は、その範囲で動いて行こう。終わった後、っていうのは気が早いかもしれないけど。


「そういえば、キリちゃんとか、木の葉隠れで言われた感想をふまえて・・・ここ数ヶ月で、整理したんだっけ」

「よりよいものを、ってね。俺もまだまだ、まだまだ未熟だし」

道はとてつもなく長い。だからこそ、やりがいがあるのだが。

「・・・ウチも、頑張るから。よろしくお願いします」

「勿論」

「俺も、だな。雪の国での一戦で、足りない所は見えた。これからも頼む」

「ああ。今以上に厳しくなると思うけど・・・まあ、諦めないか。今のサスケなら」

「ボクも、ですね。秘術に磨きをかけます」

「・・・ふん、俺もだな。まだまだ、あの鬼鮫のヤロウには勝てそうもねえ」

「・・・そうだね」

賞金クラス、A級とS級の壁は厚い。

かつてのカカシ、再不斬がA級、S級は大蛇丸クラスと言うとわかりやすいか。

鮫肌の性能も厄介に尽きる。再不斬も相当強くなったが、まだ鬼鮫の力量には届かないだろう。




「ま、それぞれの夢を・・・叶えるために、頑張りますか」

「僕も、手伝うよ」



「・・・・そうじゃの」


「じゃあ、部屋に戻りますか」








そして深夜。

俺達は男女で別々の部屋で眠っていた。

再不斬もサスケも寝入っているが、俺はというと。

(・・・眠れんな、畜生)

目を閉じても眠る事ができない。

それには原因があった。

(・・・痛え・・・)

身体の奥底に響く、痛み。

外傷でもない。内臓器官の痛みでもない。ただ、身体の芯がシクシクと痛むのだ。

数ヶ月前からだ。チャクラを特に多く使った後の数日間だけだが、全身に痛みを感じるのだ。

考えられるのは一つ。

(魂、か)

癒着している魂の連結部に異変が生じているのだろう。

心身共に酷使し続けたのが原因と思われる。

(それでも、仕方ないことだよな・・・)

他の人柱力はもっと苦しんでいるだろう。それに比べれば、軽いものだ。

(でも、眠れないのはつら・・・い?!)

背後に、気配。思考に没頭している隙をつかれてしまった。


(・・・入るぞ)

(キューちゃん!?)

キューちゃんが背後から布団の中に入ってくる。

少し離れた場所にいるサスケと再不斬との距離は遠い。気づかれていないだろう。

(しかし、すごい隠行・・・)

(元が獣じゃ。造作もない)

布団の中、小声で話し合う。

(のう、メンマ)

(何か・・・・って!?)

背後から、優しく抱きしめられる。背中に、キューちゃんの胸の感触が感じられた。

14歳バージョンになっているのだろう。そういえば声も少し違う。

とっさに何かを言いそうになる。だが、続くキューちゃんの一言に、俺は何も言えなくなった。

(・・・身体は、痛むか?)

一瞬の硬直。

直ぐ後、何のことか分からないと言うが、取り合ってもらえなかった。
身体の事、確信されているらしい。

(何で分かったの?)

上手く隠しているつもりだったのに、と訊ねる。

(何となく、な)

これでも長い付き合いだ、とキューちゃんが背後で苦笑するのを感じる。

(大量のチャクラを使うたびに・・・大きめの術を使うたびに、そうなるのだろう)

(・・・そうだけど)

(やはりな・・・・)

キューちゃんが黙り込む。

(先程、な)

(ん?)

(それぞれの夢、と言っただろう)

(・・・うん)

(多由也は音楽。サスケはイタチを取り戻す事。再不斬と白は・・・霧隠れの里を立て直すことだろう)

前に、ちらりと零していた事。思い出して、俺は同意する。

マダラの傀儡であっただろう、先代水影を殺そうとした再不斬。目的を察するに、それ以外は無いだろう。訊ねると、再不斬は否定しなかった。

少し、違うがなと返しただけで。

(それぞれに、夢がある。お主の夢と同じような、成すべき事が、叶えたい夢ある)

(そうだね)

(・・・我の夢がなんだか知っているか?)

(・・・いいや、知らない)

聞いたことが無かった。聞くのが怖かったのかもしれない。

もし、“自由になることだ”と言われたら、この上なく悲しい気持ちになるだろうから。

だが、俺のそんな考えを。キューちゃんは一言で吹き飛ばしてくれた。


(ずっと、お前と、マダオと・・・いっしょに居たいんだ)


息が止まる。


(お前と一緒にいると、な。楽しいんだ、毎日が)


感じた事も無かった。一緒に馬鹿をやれる相棒など。

孤独の中、そんな生き方があるなど、知りもしなかったとキューちゃんは言う。


(マダオも、な・・・色々抱えていて、隠している事もあって・・・今は全部は言えないけど、優しい奴だ)

(・・・隠している事?)

(ああ。最近というか、徐々に色々と分かってきた。あいつの考えが。そして分かったんだ)

(訊ねても、答えてくれなさそうだな)

(お前のためだろう。お前が隠していた痛みと同じく、な)

互いに思い合っている以上、話したくない事もある。キューちゃんは暗にそう言っているのだ。


(多くは、言えん。だが、これだけは一度問うて見たかった)

(・・・何を?)

そう返す事しかできない俺に、キューちゃんは告げた。


(あくまで、遠い未来じゃが)


一泊置いて


(・・・このまま戦い続ければ、チャクラを酷使し続ければ)


その後に続く言葉。それは、半ば予想していた事だった。

だから、その可能性を聞かされた時に、俺は驚かなかった

けれど。


(・・・お前は死ぬだろう)


言葉にして突きつけられると。

自分の弱さが見えてしまう。

死の恐怖が、俺の全身を支配した。



(・・・原因は、何て・・・分かり切っているか)

何とか声を絞り出す。


(九尾・・・いや、天狐のチャクラか。それを使うたびに、我の魂の締める範囲が大きくなっている)


名前を思い出せたのも、その影響らしい。

(・・・ちなみに、マダオの量は一定だ。元が分御魂のような存在じゃからの)

例の屍鬼封尽を使うとき、分割した魂の一部を、八卦の封印術式に組み込んだらしい。

そして、暴走時に再起動した。

(・・・あやつも大した奴じゃ。お主が呼ばれた後の数日間。あの短期間で、内部の我と己自信、そしてお主の魂に関する制御術式を描ききったのじゃから)

(・・・その結果が、あの童女姿か)

(我も、当時は気づけなかったしの)

制御術式による封印。そして、妖魔核が抜けた後、キューちゃん錯覚していた外観をあるべき姿に戻した事。

(そして、内部のチャクラ循環による、我の力の抑制までもな。まったく天才というのはあやつのような者を言うのじゃろう)

(・・・じゃあ、普段のマダオは)

(いや、あれはあやつの素じゃ)

(素なのかよ!)

思わず突っ込んでしまう。




(じゃが、最近の酷使で状況は変わってきている。我達を正しく認識した事もある。不安定な魂の揺らぎがお主を蝕んでいるのだ。

同時に、我の魂の分量も大きくなっている)

天狐の霊格は、人間の霊格より上位に位置する。
術式を利用してようやく、対等近くに持って行けるのだ。

だが、俺は違う。癒着した原因が歪だし、本来のナルトの精神、魂がほぼ死滅しているのが原因で、安定していないそうだ。
天狐のチャクラを使い、術式が揺らぐたびに天狐側の浸食が大きくなっていく。そしてそれは戻らない。

塑性を保てる限界を超えてしまうのだ。

繰り返す度に天狐の容量が増し、魂の歪みは大きくなる。

いずれ、破砕点を迎えてしまうだろう。容易に想像がついた。


(・・・歪みを止める方法は、一つしかない)


ごくり、と唾を飲み込む。





(それは・・・・)




(それは?)














(・・・ラーメンを作り続ける事じゃ)

(そうか、ラーメンを・・・っておい!)


てっきり戦いを止める事か何かだと思っていた俺は、布団の中で突っ込む。


(・・・食べる事じゃないんだ)

(うむ。まあそれもあるが、不思議な事にお主が誰かにラーメンを食べさせて、の。それを美味しいといわれるたびに・・・魂が充足するのか、満ちたりるというのか。

術式も安定して、その量を増していくのじゃ)

(そうなのか・・・)

(我だってそうだった。長き時を生きて、様々な事を経験しつつ、魂を錬磨して・・・天狐となったのじゃ)

今はほとんど忘れておるがの、と呟く。

(そういえば、納得も出来るか)

仙人も、己の魂を錬磨、充足させながらより高純度なものに変えていき、そしてその位を高めていくと聞く。

俺に取っては、“魂の充足”=“ラーメンを美味しいと言われる”、なのだろう。


うむ、隙が無い理論だ。



(・・・しかし、お主のラーメンに対する思い。そこまでのものに至らせた原因は、何じゃ?)


(・・・どん底から、救い出してくれた。生きる理由を、教えてくれた。世界が変わっても、変わらずに生きられるっていう事を、教えてくれた)

思いつく限りの言葉を並べていく。

(前も今も変わらない。俺の誇るべき夢そのものだ)

(・・・そうか)


(まあ、今は他にも守りたいものが増えたんだけどな)

キューちゃんに聞こえないよう、小さい声で、呟く。

(ん? 何か言ったか)

(いや、何も・・・で、話の続きだけど)

(まあ、回復するといっても、徐々にじゃ。その回復速度を上回る勢いでチャクラを酷使し続ければ、危ないからの)

(戦うのを止められたらいいのに、ね)

(といっても、夢を叶えるため。あと、許せない事があったらお主は戦うのじゃろう?)

(独善的に、ね。まあ夢に対する障害・・・暁なんかは、避けて通れない障害だから仕方ないんだけど)

(そうじゃの・・・力があるが故に、狙われる。じゃが、力があるが故に乗り切れる・・・何とも複雑な話じゃのう)

(隠遁生活を送れば、誰かを見殺しにすれば、あるいは狙われる事もないのかもしれないけどね)

(・・・それを選ぶお主でもあるまいに)

(いや、考えたことは考えたよ。でもね、やっぱり無理だ)

俺が馬鹿だって事は分かってる。頭の悪い選択だって事も分かってる。

突きつけられた選択肢を前に。

逃げる道が、目に浮かぶ事もある。
見捨てる事も、考える時がある。

(だけど、無理だった)

もっと綺麗に生きられたらいいのに、と思う。
もっと賢く生きられたらいいのに、と思う。

(不器用なお主らしい、というべきかな・・・どうせ、止めても戦うのじゃろ)

キューちゃんは抱きついたまま、俺の後頭部にそっと頭を押しつけてくる。石けんの香りがした。

(・・・ああ。でも、キューちゃんの夢を叶えられるよう、頑張るよ)

(・・・うん)

そういいながら、更に抱きついてくるキューちゃん。

(あの、九那実さん?)

(何じゃ?)

からかうように、キューちゃんが俺の耳元に囁いてくる。

(実はですね。先程から、ずっと言いたかったんですけど・・・)

(何を、じゃ?)

(背中に、その・・・胸が、当たっています)

(当てているのじゃ)

こうすればイチコロだと教わったんでのう、と悪戯口調で返すキューちゃん。

(何、皆は寝ておるのでこのまま・・・ん?)

そこで、異変に気づく。

(あれ、いつの間にか布団がもぬけの殻に・・・っておい)

少し開いた襖の向こうから、5対の視線がこちらを除いていた。

全員が目をチャクラで補強しているらしい。微妙に光っている。

そして、その中の一対に至ってはおたまじゃくしが浮かんでいた。

(何この才能の無駄使い・・・・「って違え!」

叫びながら勢いよく立ち上がる。


「何時から見てた・・・!」


俺が問いかける。返答がわりに、文字を書いた紙が部屋の中へと投げ入れられた。


「・・・何々、“オープン・ザ・ワールド。世界が始まるその時から、世界が終わるその時まで”・・・って何じゃこれは!」


答えになってないわ! とキューちゃんが襖の向こうに怒鳴りつける。


その直後、一枚の紙がまた投げられ、そっと襖が閉められた。


「・・・“こちらの事は気にせずに。いけいけゴーゴージャンプ”・・・・ってマダオてめえぇ!」



今日こそ決着つけたらぁ!と叫びながら俺は部屋を出て行く。

背後、キューちゃんを1人残して。


















---メンマはこの時、気づけなかった。

キューちゃんが1人、部屋に残った後。


最初に投じられた紙の裏に書かれた文字を読みながら、悲しく笑っていた事を。




「・・・“永遠になる嘘をついてくれ”、か・・・ふん、分かっているわ、そんな事」












呟きと共に紙は焼かれ、一瞬で焼失した。




そこに刻まれた言葉を、九那実とマダオの胸にだけ残して。


































~お知らせ


次回から3章本編開始です。



[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 閑話の3:夏祭り
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2010/03/16 00:36


―――事の発端は、キューちゃんが発した一言によるものだった。


あの、木の葉から出奔した日から数えて2年。
一心不乱に修行に励んでいたうちはサスケも、ようやく上の中クラスの力を持つに至った頃の事。

その日の修行も終わり、多由也と白が作った晩飯を食べた後、キューちゃんが居間に残っていたメンマ達に、唐突に告げたのである。

「明日は麻雀をしてみたい」と。

メンマの中にいるときは見るだけしかできなかったが、今ならば自分も参加できる。
前から興味をもっていたので、ちょうどいいからやってみようと言うのだ。

何がちょうどいいのか。
一名を除く皆は不思議に思ったが、明日の天候はひどく、今晩の様子だと豪雨になりそうなためその提案に了承を返した。




そして、次の日。この地方で催される「夏祭り」を明後日に控えたその日。

前日の予想通り、天候は朝から豪雨となった。
修行を行うのは危険と判断したメンマ達は、その日だけ修行を中断し、昨日のキューちゃんの提案を実行に移すこととなった

麻雀につかう牌だが、これは秘密箱の中にあった。
秘密箱には、木の葉に来て師匠に弟子入りをする前、まだ各地を旅してラーメンの案を求め旅している時に手に入れたモノがしまってある。
トンファーなどの武器から、特殊忍具の素材となる鉱石まで入っている不思議BOXだ。

ちなみに匠の里の職人さんの協力の元、開発された武器もある。




その一。

「唱えるもの!」

古式銃、キャスターともいう。なんつーかあれである。いわゆるひとつの魔弾銃を模したものである。
だが実態は勢い良く起爆札を射出するだけというこの武器、アウトローなスターであるならば、こういうのを持たなければならないとメンマが開発したのだが―――結果は失敗。

手元で爆破してしまうという、問答無用自決兵器に成り下がってしまった。まあ遊び半分のネタなので、それでよかったのだけれど。



その二。

「天変地異下駄占いの術!」

デカイ絵筆が使えないのであれば、と開発した――――ただの起爆札を貼り付けた下駄である。ちなみに天気は爆発のみである。
頑張れ鳥取。それゆけ鳥取。

出来ればトントンにぶちかまして、「晴れ時々ブタ!」とか言いたいメンマであった。





その三。

「魔法札・エーテルちゃぶ台返し!」

言うまでもなく起爆札を(ry

ミニサイズ。

魔装機神復活祝いに作られた、祝賀用武器である。やったぜ畜生、遂にキタ―ー! という次元を越えて集う、魔装機神ファンの歓喜の悲鳴を聞き届けた職人が作った、謹製の一品である。

シュウが好きなのはモニカではなく、セニアだと思うんだとはメンマの談である。




閑話休題。




その色々とカオスな道具袋中に、とある雀荘で手に入れた麻雀牌は眠っていた。


男たちは場の用意を始める。テーブルの上に布を被せ、即席の麻雀台を作り、その上に麻雀牌を放り込む。
じゃらじゃらという牌同士がこすりあわさる、独特の音が部屋の中へと鳴り響いた。

何も賭けないのは面白くないと、順位毎に点数をつけ、最大点を獲得したものが最低点のものに罰ゲームを指定できるという形になった。



祭りの前だ、景気よくいこうやとメンマが言うと、全員が頷いた。



―――ーかくして、場は用意された。

にやりと笑ったのは、はたさて誰だったのか。




「最初は誰にする? 取り敢えず俺は“見”に徹するけど」

タバコを吸う真似をしながら、メンマがそんなことをほざいた。
華麗にスルーされ、メンマ他6人はじゃんけんを始める。無視されたメンマは部屋の隅でいじけていた。

やがてじゃんけんの勝敗が決まる。
勝った4人は東西南北それぞれに座った。


―――さあ。戦の始まりだ。
どこかでゴングが鳴り響く。

勝った4人、最初の面子は以下の通りである。

東、再不斬。
西、キューちゃん。
南、サスケ。
北、多由也。

一戦目はこの4人で、メンマとマダオと白は後ろで観戦である。

ちなみに、復活したメンマは4人を見ながら「四方を守る四匹の守護獣……」とかほざいたが、意味が分かるマダオを含む皆に無視された。
もし元ネタを知っていれば、多由也あたりは「誰が亀だ」と怒ったことだろう。

凹むメンマをよそに、ゲームが開始される。



「カン!」

まず多由也が速攻でしかける。鳴きの多由也とはウチのことだ、とか言っているが、誰も聞いてはいない。
ただ、カンされた牌を見て驚くだけ。

「ドラ4……!?」

サスケがしまったと言う。

対する多由也は不適な笑みを浮かべていた。

だがそんな不利など、どこ吹く風。キューちゃんは涼しい顔を保ちながら、どんどんと手を作っていく。
再不斬はしかめっ面のまま。どうやら配牌が悪かったらしい。
サスケも顔だけは無表情に保ちながら、じっと牌を見つめている。だが空気が重い。唯一純粋な初心者なので、無理もないだろう。

「……」

多由也のポンを最後に、場は派手な動きはなく進んでいく。
どんどんと残り牌が少なくなっていくが、動きはない。

そのまま静かに進行し、やがて残り2巡というところまで来た、その時―――キューちゃんが、動いた。

「リーチ」

たん、と牌をおいて横にする。
ここにきてまさかのリーチである。

場にいる他の3人はわずかに動揺を見せた。

だがその後、「どうせ初心者のやることだから」と再不斬だけは冷笑を見せる。

だが、その笑みはすぐに凍りついた。

「――ツモ」

キューちゃんの明朗な声が響き渡る。

ゆっくりと、牌が倒されて行く。


「何ィ!?」

「馬鹿な……」

「くっ……」

「リーチ・一発・面前清摸和・タンヤオ・海底摸月そして―――」

裏ドラが開かれる。カンされたので、裏ドラは増える、そして――――

「裏ドラでみっつ! 倍満じゃ」


その時3人電流走る――――


(―――馬鹿な。狙ってやったのか!?)

(くっ、ウチのカンが裏目に出たか)

(――――あれ、そういえばドラが増えてるな。何でドラが増えたんだ? 裏ドラ? 何だそれは――――)

黒髪のあの子はどうやらルール理解していないようだ。自分の牌で精一杯だと見える。

理解できぬまま、疑問符で頭をいっぱいにする。




―――やがて、4人の勝負は進み、終局を迎えた。

最終の結果は以下に通り。

トップ:キューちゃん
二位:多由也
三位:再不斬
ドベ:サスケ

ていうかキューちゃん以外の皆は配牌が悪く、ドジを踏んだサスケが多由也に振り込んだこと以外、急激に点数が上下することも無かった。


そういえば俺達って幸運ランクつけるならD以下だよねー、とメンマが笑えないジョークを飛ばすが、わりと洒落にならなかったので皆が押し黙った。

口は災いの元である。


そして次の場が始まる。


面子はキューちゃん、白、メンマ、マダオ。

トリオ対白である。まず最初に白が動いた。


「―――ロン。そのドラですっ!」

「何っ」

キューちゃんが不意に出したドラに、白が飛びつく。

三暗刻、純全帯ヤオ九、ドラ3。

すーぱーづかん、炸裂。

「くっ、しまったっ!」

「―――油断大敵ですよ?」

機を見るに神速。氷の微笑を浮かべる白に、場にいる全員が凍りつかされた。

すげえ怖い、と。


白のポーカーフェイスと場の読みっぷりはハンパなく、終わって見ればダントツの首位。

白、メンマ、マダオ、キューちゃんの順位となった。

それからも勝負は続き、最終的な総合順位はこうなった。


一位、白。
二位、メンマ。
三位、マダオ。
四位、再不斬。
五位、多由也。
六位、キューちゃん。
ドベ、サスケ。


安定した白の強さは他の追随を許さず、終わってみれば圧倒的首位。

メンマはそれに追いすがるも、一歩及ばず二位。

功名な組み立てかつ神速の上がりで、マダオが三位。

地味に再不斬は四位。

鳴きに徹したがうまくいかず多由也は五位。

上り下りが激しい、キューちゃんは六位。今はふて寝するために部屋に戻っていった。

いうまでもなくというか、相手が悪い。サスケはドベ。

「…………やだ奥さん、あの子“ドベ”ですってよ?」

「まあまあ、可哀想に。しかし“ドベ”ですかあ。しかし、ダントツでドベとはねえ」

マダオとメンマは態とらしく、サスケの前でひそひそ話をしつつ、ドベを強調する。

それを聞いたサスケは怒りに打ち震え、ぷるぷると震えていた。


「くっ、もう一度だ!」

「あれあれ? 泣きのもう一勝負ですか? しかし、ねえ」

バツゲームがありますし、と白の方を見る。

ボクは良いですよ、と言ってくれた。

「そう言ってくれているようですし――――ここはどうだ。俺とタイマンでも」

「いいのか?」

「ああ。ただし――――負ければ真っ二つだぞ? もとい、罰ゲームのグレードも上がるぞ?」

当初の罰ゲームはトイレ掃除と部屋掃除一ヶ月だった。それが、更にグレードアップするが構わないかとたずねる。

「くっ…………」

「さて、どうする? ここで終わるか、続けるか! 選べ、サスケぇ!」

その言葉に、サスケは奮起する。舐められたままでは終われないと、戦意を奮い立たせる。

「――――やってやる…………やってやるさ!」

「―――やるのか」

再不斬が目を閉じる。

「サスケが燃えてるぜ………」

多由也が面白そうに笑う。

「どちらが勝つんでしょうか」

白はあくまで冷静だ。

「―――あー繰り返す。お客は今入店した。繰り返す、お客は今入店した」

マダオは向こうを向きながら、訳の分からないことを言っていた。



二人は至近距離でにらみ合う。

「―――トイレの後に、最後の勝負だ。ああ、どんな手を使っても構わんよ?」

だから逃げるなよ、とメンマが言う。

「―――上等だ」

いつもの借りを返してやると、サスケは息巻く。


そして最後の一勝負が開始された。

ルールは簡単で、三本勝負の二本先取制。終局時に点数の多い方勝ち。つまりは、二回負ければそのまま負けとなる。

序盤は二位の貫禄を見せつけ、メンマが一方的に点を積み重ねる。

タンヤオ、ピンフなどの基本的な役を連続で上がり、徐々にサスケの点棒を掠め取っていく。

そのまま、一局目が過ぎた。まずは、メンマの一勝だ。




―――だが、次の局。初手でサスケが見せる。

「ロン」

その時、歴史が動く。

「ちっ、しくじったが…………って、何ぃ!?」

三暗刻、純全帯ヤオ九、ドラ3。先程の白の手だ。

「馬鹿な………っ、それはッ!」

メンマがサスケを見て―――サスケの、目を見て、叫んだ。


「写輪眼っ!?」

目にはあの模様が浮かんでいた。

「―――どんな手を使っても良いと言ったな」

サスケが嗤い声を上げる。

「こんなこともあろうかと―――白の打ち筋を、コピーしたおいたのさ!」

その場にいる全員に電流が走った。つまりはこのエリート、自分のドベを確信していたということか―――。


ドベに容赦なく勝負を仕掛けるメンマといい、何でも使っていいからと写輪眼を使う、というか使う気満々の準備万端なサスケ。

マダオを除く3人が、こいつらもう駄目だと思った。

「―――まさか。初心者だと、甘く見ていたぜ。さすがはうちは………!」

天才だ、と戦慄くメンマに対し、サスケは不敵な笑みで返す。

「写輪眼の力を舐めるなよ………!」

ごごごご、と周囲を置き去りにして更に戦意を高める二人。


そしてサスケは相手の打ち筋を写輪眼の心移しの法で読みつつ、序盤のリードを守りきって勝利した。

二局目はサスケの圧勝に終わった。




そして、終局。

写輪眼の優位はゆるぐこと無く、また白の卓越された打ち筋は綺麗に緩やかに威力を発する。

気づけば終局。サスケとメンマの点差は実に28000点。

「どうやら、俺の勝ちのようだな」

そういいつつも、サスケは写輪眼を緩めない。まさに外道。

いつも修行でぼこぼこにされている恨みというやつでもあるが。


「―――――」

対するメンマは、黙りながら無表情のまま、黙って打つ。

場は進み、残る牌は4つ。

サスケは勝ったと確信した。心移しの法で、相手の手を大体読むことができるのだ。

間違いなく、大きい手は作れていない。そう信じ、手元に残った“中”の牌を放った。


――――そう、場に白も中も発も、2牧以上出ていないのに、だ。


メンマの口の端が上がる。


「――――昔、とある妖狐はこういった」

ゆっくりと、牌が倒される。そしてその場にいる全員が―――いや、マダオ以外の3人が、驚愕の表情を浮かべる。


「切り札は先に見せるな。見せるなら、さらに奥の手を持てと――――至言だな」

故に先に切り札を見せたお前に、勝ち目はない。そう言いながら、笑った。

「っ、馬鹿な!」


顕にされた牌に揃うは、三元牌。

全てが刻子となっている。


つまりは、役満。


「ロン、大三元だ!」

しめて32000点。逆転だ。

予想だにしていなかった展開に、サスケが呻く。


「くっ、どうして………!?」

心移しの法が役に立たなかったのか。そう思った時、あることに気づいた。

この場にいない、誰かに思い至った。

そして、チャクラの色は―――――!

「まさか! 最後の1局は………九那実が打っていたのか!」

いつの間に合体を! とサスケが戦慄く。

「I do I do I do!」

ポーズを決めてそんなことを言うメンマ。


ここに、勝敗は決した。


「―――俺の、負けか」

「イエス、イエス、イエス、だ」

ばれなきゃあ、イカサマじゃないんだぜと不適に笑うメンマ。

ドーンという効果音がどこからともなく聞こえた気がした。


打ちひしがれたサスケは、その場に膝まついた。








「さて、罰ゲームだが………この中から選んでもらおう」

と、メンマは箱の中を指差す。この中に、罰ゲームの内容が書いた紙が入っているのだ。

「参考までに聞くが………いったいどんな罰ゲームが入ってるんだ?」

「ああ、軽いもので言えば、そうだな」

ひとつ指を立て、事も無げに言う。

「木の葉の中心で若作りと叫ぶケモノ、とか」

もちろん火影に向かって、だ。

「………ひき肉にされるんじゃないか?」

綱手のことに関しては、噂には聞いたというかメンマに聞かされた。

てかサスケ君は木の葉に行けないのでこれは不可なのだが。

「カカシの目の前でイチャパラの展開をばらす、とか」

メンマは私的見解だが、ネタバレという罪は七つの大罪に入ってもいいんじゃないかというぐらいの犯罪だと思っている。

イチャパラを神聖視しているカカシにとっては、宣戦布告と同意だろう。

これもサスケには出きないだろうが。

「そういうのなら、俺がやってもいいんだがな」

むしろリベンジできるし、望む所だと再不斬が言う。

「――――再不斬さん。もしかして…………イチャパラを、読むんですか?」

それを聞いた白が、怖い笑顔で再不斬に詰めよる。

「読むんだよ。つーか全巻読破済みらしい。ま、桃地君だって男の子だからねー」

メンマが間髪居れずに説明をする。言われた桃地は「ちょっ、おまっ!」とか叫んでいるが時既に遅し。

「―――そうですか。それではちょっとあっちに行きましょうか再不斬さんなに時間は取らせませんすぐにすみますのでほらあっちに――――」

哀れ桃地君は白さんにひきずられ連れて行かれました。まる。

「何やら悲鳴が聞こえてくるのじゃが………」

むしろあっちが罰ゲームなのでわ、とキューちゃんが哀れみの視線を悲鳴がした方へ向ける。

「まあ、それはおいといて。はい、早く引いて」

「くっ…………!」

サスケはおそるおそる箱の中に手を突っ込む。

やがて紙は取り出され、書かれた文があらわになった。




「―――まじで、か?」

「―――まじさ。てか難度低いし、いけるだろ」


その文を見た多由也は、腹を抑えてうずくまっている。

キューちゃんの目は面白そうに輝いている。

マダオは「僕の仕事が増えるねえ」と呟いた。


紙に書かれた内容は、こうである。

『罰ゲーム・その7。浴衣を着て祭りに行け! スネ毛の処理は忘れずに! …………難度:C」


沈黙が場を支配する。

やがてそれは絶叫によって破られた。


「っ女装ぉぉぉおぉおぉぉぉぉぉ――――!?」


サスケの悲鳴が、嵐の中の隠れ家に響き渡った。
























祭り、当日。全員が祭りに繰り出していた。

「――――随分と。遠い所にきちまったもんだな」

目の前に映る光景を見て、サスケが呟く。

陽が落ちた夜の時間。暗くなるはずの視界だが、そこには人の灯す明かりがあった。

「ふふ、提灯って綺麗ですね」

白がぽつりと零す。その隣にいる多由也もうんうんと頷いている。二人とも着物姿だ。

白は一年前、初めて祭りに来た時と同じ、黒い着物を着ている。白い肌と黒のコントラストが見事で、年齢に似つかわしくないエロスを醸し出している。
隣の再不斬はたじたじだ。

多由也は薄い桃色の着物。少女と女性の中間点にある多由也は、独特の色気を醸し出している。特に後ろで括られた髪、その下にあるうなじがとってもエロスだ。
隣にいるサスケはそれどころではないが。

「いや、俺が言いたいことはそうでなくてな……」

ため息まじりの言葉。
心底深い心持ちで放たれたその言葉は、背後に控えるメンマを爆笑させるに至った。

「笑うな!」

美顔の美少年、かっこもとい、『女装した美少年』はメンマに怒鳴り声を撒き散らす。

「……っ……っ」

メンマは腹を抑え、痙攣を返すのみ。

「呼吸困難になるほどにうけているね。ツボったというやつだよ」

マダオが歯を光らせながらそんなことを言う。

「うむ、中々見ごたえがあるのう」

昔に集めたウィッグ。その中に黒い長髪バージョンがあったのでかぶせてみました。

「肩幅がちょっと広いけど………くく、サマになってるぜ」

多由也は顔を背けながら、ぷぷ、と笑う。

ちなみにメイク担当は多由也と白である。

「しかし、この着物はどうしたんだ? 俺のサイズにぴったりなんだが」

「マダオが一晩でやってくれました」

「実に作成意欲が湧かない一品だったけど………まあ、中々にあってるよ」

元々が美少年顔、いわゆるイケメンなので、少しメイクと詰め物をすればそれらしくなるのだ。

加え、無駄にノリ気だった多由也と白のメイクにより、サスケは見事な『美少女☆』になっていた。
マダオが縫った青い着物も見事で、一端の美少女に見えるものだから変装というものは恐ろしい。

「………泣いていいか?」

「一応罰ゲームだから駄目ー。サスケは多由也と回ってきてね。俺はちっと、運営の人と話があるんで」

「運営の人? ………ああ、“網”関連の仕事か」

「そうだ。この祭り、場を仕切ってるのが網なんでね。そんで、昔知り合いに遊び半分で提案してみたアレが親方達の努力で、どうやら形になったらしいから」

ロマンを求めて、らしい。一度見たかったからといって作り上げる網の職人さんには頭が下がる。匠の里も一枚かんでいるとか。

「一応発案者だからな。現場に行っとくわ」

「………まあ、俺達は行かない方がいいか」

というかこの格好で行くのは死んでも嫌だと、サスケが沈痛な面持ちを見せる。

「身内の恥をさらす必要もないな。いくぜ、サス子ちゃん?」

「っ多由也、てめえ………ちょっ、待て!」


二人はぎゃーぎゃー言いあいながら、人ごみの中へと消えていく。



「ちゅーことで、白と再不斬もよろしく」

邪魔する気は毛頭ないあるよー、とメンマは言う。

「ちなみに何で俺はサングラスをかけさせられているんだ?」

「気分」

サングラス強面眉なし筋肉隆々かつ浴衣。
どう見てもグレートヤクザです本当にありがとうございました。まあこれならば超弩級美少女白に手を出そうとするような、ふてえ輩は現れないだろう。

多由也とサスケ、あっちはあっちで楽しいことになりそうなので放っておくが。

「分かりました」

白が苦笑する。

「まあ、いいか。じゃ、例のあれとやらを楽しみにしてるぜ」

「ああ。がっかりはさせないつもりだ。だから――――」




一息入れて、メンマは言う。




「空を――――空を、よく見ておくといいよ」



「それは色々な意味でまずいフラグでしょ………」



マダオのツッコミと共に、3人は去っていった。
















一方、サスコと多由也。

「ったく、なんで俺がこんな目に」

「勝負に負けたからだろ? なら潔く負債を払うのが男ってもんじゃねーか」

「………潔く女装するのは男っぽいのか?」

苦悩の少年、うちはサスコは頭を抱えて悩む。

「しっかし、相変わらず人多いな。去年以上じゃないか?」

「まあ、年々戦災からの復興は進んでいるらしいからな。忍界大戦の傷跡とかどうにも知らないけど、復興も進めば祭りも賑わうし、人も増えるだろ――――っと」

サスコはそう言いながら懐から財布を取り出し、屋台に向かう。

たこ焼きを二船6個づつ買って、多由也のところへ戻ってくる。

「さんきゅ。でもお前何で凹んでんだ?」

「………べっぴんさんって、べっぴんさんって言われちまった………」

サスコは全身に立つ鳥肌に耐え、俯きながらたこ焼きをもくもくと食べる。

多由也はそんなサスコに対し、けけけと笑う。

そして歩くこと数分、二人は珍しい屋台を見かけた。祭りの時以外はみかけない店、お面屋。

「って何処かで見たことがある面が………」

「おいおい、暗部っぽいぞこの面。さすがに原料は違うようだが」

柔らかい面を手で触りながら、サスコが言う。

「曲がるな。白が持ってたあの面より断然柔らかいようだ」

「いや、暗部の面をそのまま売ってたらマズイだろ………あ、狐の面もある」

多由也が狐の面を手に取り、まじまじと見る。

「お、姉ちゃんら良い所に目をつけたな! 良い仕上がりだろ! ……何でか、火の国では一個も売れないんだが」

そりゃそうだろうよ、とサスコは心の中だけで言う。だがおっちゃんは構わず、一気にまくし立てる。商売人の口の饒舌さはとどまることを知らない。

「ま、最近ようやくひとつ売れたんだけどな。木の葉の忍者が何故かこの面を持って―――身に着けている忍者がいたら知らせて欲しいって言われたんだよ」

何言ってるか意味わからねえし、そんな変なヤツいねえよなあ? と言いながら、おっちゃんがからからと笑う。

「うーん、知らねえな。というか、そんな面をしながら戦うやつは馬鹿以外の何者でもないだろ」

「ウチも知らん。そんな変人がいたら、こっちから話のネタにするよ」


(※実はオタクのところのラーメン屋です)


そのまま二人は面屋を離れた。

しばらく歩き、二人が夜店を見回していると、何やら一箇所だけ賑わっているところがあった。

ずいぶんと広い。見れば客が向こうの方へなにかを投げているようだ。

まだ遠いためその店で何をやっているのか分からないが、「あ~おしい」とか、「ヘタクソ!」とかいう声が聞こえてくる。

興味を持った二人はそこに近づき、夜店の看板に書かれている文字を見た。

「………射的屋?」

そこにはクナイと手裏剣の絵が書かれていた。

「………面白そうだな。サスコ、やってみろよ」

「サスコっていうな!」

そうして二人は順番待ちの列に並ぶ。この射的屋、従来のものよりも標的までの距離が遠く、難易度が高いようだ。
その分、景品も豪華になっているのだが、まだ誰も的にすら当てられないらしい。

中心の赤丸(犬ではない)に当たれば100点、あとは外側に外れるにつれ20点ごと減っていくらしい。

商品も100点が一等、あとは20点ごとにグレードが下がっていく形式だ。
つまりは外れれば0点で6等、外れ。
60点ならば3等となる。

一投500円で、2投700円。ずいぶんと高いが、商品も豪華だからか、珍しいのかで客が集まっているのだろう。

やがて、二人の順番が回ってきた。

「おっちゃん、2回だ」

「おっ、今度はきれーなお嬢ちゃん達が挑戦か! はいよ。みんな、応援してやってくんな!」

おっちゃんが場を盛り上げると、祭り独特の熱気が店の前に立ち込めた。

「おい、誰だよあの美人」「横の赤い髪の娘も綺麗だなー」「でも黒髪の娘、肩幅が広くないか?」「………だがそれがいい」
という、周囲の喧騒は全て無視し、サスコは商品を熱心に見つめている多由也に話かけた。

みょーに尻に視線を感じるが、取り敢えず無視した。
触ってきたら千鳥だが。

「おい、どれがいい?」

「え、そうだな。さん―――いや」

多由也は咄嗟に口に出かけた言葉を途中で止め、首を横に振った後勿論やるからには一等だろ! と言う。

「―――分かった」

サスケはクナイの手元、わっかのところに指を入れてくるくると手元で回す。

いつものクナイならばこんな距離目を瞑ってでも当てられるのだが、この模擬クナイは刃引がされており、重心の位置もずれている。
本来のものよりずっと軽いし、いつも通りというわかにはいかなさそうだ。

だが取り敢えず投げてみないことには分からない。

サスコはクナイを構え、無造作に投げる。投げられたクナイは的に当たらず、的の横にある樹へと当たり落ちた。

「あー、大暴投! ほら、もう一回!」

頑張って、と二本目のクナイが渡される。

「さて、と」

修正完了、風の影響も考慮。投擲の軌道も確認。

分析、完了。


「よっ、と」

サスケの手が一瞬だけぶれる。直後、クナイは的に刺さっていた。

「お、当たり~!」


おっちゃんは小さい鐘をからんからんと鳴らす。


その背後で、多由也はきょとんとした表情を浮かべていた。






「ほら、お求めの品だぜ」

「って、お前、なんで――――」

多由也が息をのむ。サスケの腕ならば、的の中心に当たることなど容易かっただろう。

だが、なぜ、60点の線に当てたのか。わざわざこの“3等”の景品を選んだのか。

そう多由也が言うと、サスケは溜息をついた。

「………あんなに一心不乱に見つめてたくせに。気付かれないと思ったのか?」

と言いながら、サスケは3等の景品である、耳飾りを投げて渡す。

安物だが女の子向けの可愛いデザインをしている。

「………ちょっと、待っててくれ」

多由也はその場に立ち止まり、耳にかかる髪を払い上げ、でその耳飾りを着ける。
その後、サスケに向けて似合うか? と聞いた。

サスケは多由也の笑顔と耳飾り、そして耳飾りを付ける際に見えたうなじ、それらが折り重なって出来た桃色オーラに心撃たれ、動揺。

一歩、後ずさってしまう。

「………悪かったな。変なこと聞いてよ」

多由也はサスケの反応を見て勘違いをし、その笑顔を曇らせる。
そして早足で、人ごみの中へ逃げようとする。


「………って、待て。ちが―――」


追うサスケ。逃げる多由也。だがそこは人ごみの中。


「っつ!」

「いってえなあ!」

早足だった多由也は勢い良く、誰かとぶつかってしまう。


「っ、どこ見て歩いてんだオマエ!」

いかにもチンピラ風味な若者。怒りながら、多由也の肩を掴もうとするが、多由也はそれをすっと避ける。

「へっ、触んじゃねーよクソボケが」

「あん? 口の悪い女だな」

へっ、とチンピラが下卑た笑いを上げる。

「っつーか似合わねえ耳飾りしてよお! 何を色気づいてやがんだガキがげふぉう!?」

チンピラの言葉は、追いついてきたサスケが繰り出した前蹴りによって遮られた。

「うるせえぞチンピラ」

「ごふっ、げふっ、このアマ、何しやがんだあ!」

チンピラが叫ぶ。すると、何処からとも無く男の仲間が出てきた。その数4人。

「……っテメエら、何してんだ! おい、大丈夫か」

「ああ。しっかし、いきなり蹴りくれるたあ、酷えなおい。あーあー痛え痛え。こりゃあ、ケガしちまったよ」

男は腹を抑えながら、下卑た笑みを再び浮かべる。

「こりゃあ、慰謝料が必要かなー?」

横にいる仲間、を見ながら、にやにやと笑いあう。

「こういう場合のお礼って言ったら分かるよなあ?」

「おう、黒髪のオマエも、みりゃあキレーな面してんしよお。一緒に―――」

助平な顔を浮かべながら聞くに耐えない言葉を連発する男達。
その言葉に晒されるサスケ(男)。

ぷるぷると怒りに震える。やがて―――

「そうだなあ、口悪いそっちのねーちゃんも、身体だけはいいもん持ってんし、ちっとあっちで―――」

―――その言葉が決定的となった。

サスケの頭の中で、何かがぶつりとキレる。

「あん?」

何の音だ、という暇も無く。

「――あた!」

「へぐぉ!?」

ワンストライク。

「あたた!」

「ゲフィ!?」

「グフン!?」

ツーストライク。

「おわったあっ!」

「ほーむらんっ!?」

無頼の輩のゴールデンなボールに一撃ずつ、雷光のような踏み込みかつ蹴撃を加える。

「―――これにて、終劇」

悶絶する男たちを見下ろし、またつまらぬものを蹴ってしまった、とサスケは呟く。いい加減ストレスも限界にきているようだ。

そして、背後で呆然としている多由也に向き直り―――


「へっ!?」


―――手を握る。


そのまま引っ張り、人気の無いところへ向かって走り出した。








「お、おい!?」

「いいから、ついて来い!」


必死に走るサスケ。

だが手を握られている多由也も、別の意味で必死だった。







それを高台から見下ろしているメンマは。

「おーおー、若いっていいねえ。しかしサスケもやるもんだ」

二人を見ながら、「一目瞭然なんだけどねえ」と笑う。

「―――じじむさいぞ。ついでに我にとっての挑戦と取ってよいか?」

意味不明の怒りが去来し爆発しそうになるキューちゃん。

「え、何で?」

「ほらほら二人とも喧嘩しない。それより、もうそろそろ準備できるらしいよ」


「おう、分かった」







「………そういえば、難度:Aの罰ゲームってどんなの?」

「白にπアタックツー。再不斬の目の前で」

「 死 ぬ わ !」

「………ハリネズミにされた後、超究武神覇斬っぽいなにかでメッタ切りにそうだね………」


















祭りのある通りから、少し離れた廃寺の前。あたりにはちらほらと林があるそこで、二人は足を止めた。。

「………ここまで来ればいいか」

サスケは握っていた多由也の手をはなし、傍に誰かいないか周囲を見回す。

「って、どうしたんだよ、急に走り出して」

多由也は握られていた手を自分の胸に寄せながら、サスケに聞く。不意打ちで手を握られたせいか、顔が赤くなっていた。

(い、いきなりすぎるんだもん、コイツ)

多由也の胸の内から、何か得体のしれないもやもやが出てくる。それが頬を赤くしているのだ。

「………どうした? ああ、走ったから暑いのか」

「違うにきまってんだろ、ボケ! だいだいオマエが―――」

言いかけるが、何やら薮蛇になりそうだと思い、多由也は途中で言葉を止めた。

「―――それより、こんなところまで来てどうすんだ?」

「ん、いや………さっきの、ことだが」

耳飾りな、と言いながらサスケはぽりぽりと自分の頬をかく。

「まあ、なんだ。ちょっと、その、耳飾り………似合ってるから―――というか俺に聞くなよ! 言われても何言っていいか分かんねえんだから!」

急に怒りだしたサスケ。怒鳴られた多由也は一瞬だけ鼻白むが、即座にサスケへと怒鳴り返した。

「っ怒るなよ! というか、何でウチが怒られてんだ!?」

「知るか!」

二人は顔を真っ赤にしながら言い合う。




そして数分が経過した。




「疲れた……」

精神的に疲労しているサスケはぐでんとなっていた。

「何で怒ってるんだろうなウチら……」

あほらしい、と空を見上げる。


「全くです。怒鳴り声がこちらまで聞こえましたよ?」

聞こえた、いつもの声それにこの気配はあの二人のものだ。

「白? と、再不ざ―――」

暗がりから現れたグラサン装備の再不斬、そして白を見た二人は硬直する。

((………完っ全にヤクザとお嬢じゃん………))

思わずカンクロウ口調になってしまう程の衝撃だった。

「おふたりは何故ここに?」

「いや、ちょっとあってな」

多由也が少し頬を赤くしながら答えると、白はふふと口元に手をあてて笑う。

「………どこから聞いてた?」

「いえいえ。それよりも――――そろそろ、例のアレとやらが始まる時間ですよ?」

言われたサスケと多由也ははっとなる。そして、空を見上げた。



少し遠い喧騒。祭ばやしの音も遠い。

ここは高台にもなっているので、見晴らしもよかった。

そんな4人がいる前で――――――



夜空に、花が咲いた。




「あれは……………!?」

多由也が驚き、目を見開く。

「火遁、じゃないようだが」

サスケは夜空に神神と広がるそれに心を奪われた。心ここにあらず、うわ言のように呟く。

「――――綺麗ですね」

夜空に咲く一輪の花。生まれては消えるその儚さと、咲いた時の鮮やかさに見惚れ、白は感嘆の声を上げた。

開花は一瞬、だがその鮮烈さは心に刻まれる。

「成程。言うだけのことはある」

見事だ、と再不斬にしては珍しく、口の端だけでなく顔全体の笑みを浮かべる。




火薬と金属によって織り成される、一瞬の芸術。

『夜空にどでかい花を咲かせようぜ!』というそのロマン。

最初に考えた者は間違いなく弩級の馬鹿かつ極みにある天才であろう。


そう、夏の風物詩が一つ――――花火である。








見たことのない、掛け値なしに綺麗なものを見た4人は、知れず傍にある人と手を握り合っていた。










この温もり、できるならば失いたくはない。


来るべき戦いを備えた忍者達。


皆、心の内で同じことを願った。







































































おまけ


打ち上げ現場にて。


「ほら次い! ほら次い!」

「う~む、真下から見る花火とやらも乙だのう」

「団扇片手に優雅にひたってないで手伝ってよキューちゃん!?」

「ああ、ちょっとイワオさん! マダオさんが一個だけあった外れの、不発の、爆発に、巻き込まれ――――!」

「アフロー!」

「ララァ!」

「いやそれは何か違うと次元の彼方からツッコミが――――」

「親方、親方ー!」

「へっ………『咲かば散れ 夏の夜空と 火の大花』」

「親方が辞世の句を―――」

「いや、こっちもアフロになっただけじゃん―――」
































あとがき

忍びも息抜き。作者も息抜き。

季節外れの閑話は終り。


次は五十五話です。









[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 三十九話
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2009/10/04 17:52
暗い、洞窟の中。


雲隠れの尾獣、生き霊と呼ばれる化け猫である二尾をその身に宿す人柱力、二位ユギトは、背後から襲い来る恐怖から逃れようと、必死に逃げていた。


齢二つで人柱力となった彼女は、その当時は忌まれる存在となったが、修行の末に尾獣の制御に成功。自ら信頼を勝ち得た程の努力家で、実力者でもある。


だが、そんな彼女でも、背後にある強敵からは逃げるしかなかった。


対峙した瞬間、理解したからだ。真正面からやりあっても勝てない、と。




「くそ・・・・何なんだ、アイツらは・・・!」


修行中、目の前に突如現れた一人と一体を思いだし、下唇を噛む。

一体は、怪物。自分の覚醒体に匹敵する程の巨躯を持つ化け物だ。
尾は無かった。尾獣では無いだろう。その身は漆黒に包まれており、形が安定していなかった。
亀のような、獣のような形状をした、黒い塊というのが正しい表現だと思われる。

そして、一人はその怪物を従える・・・恐らくは忍びであろう。フードを被っているので男か女かは分からないが、強敵だと言うことは理解できた。
相手のチャクラを感じた、正直な感想だ。今までに感じた事の無い凄みがあった。
あの化け物を従えているのを考えても、ただ者ではない事は分かる。




(この先に行けば・・・!)



少し、開けた場所がある。その広場の天井には、万が一の襲撃を考えて起爆札をセットしているのだ。
幸い、ここは雲隠れ近くの里。自分の修行場だ。地の利はこちらにある。

あいつらがいかな規格外の怪物とはいえ、洞窟の崩落による巨岩の圧殺からは逃れられまい。



全速で洞窟を駆け抜ける。背後からは、化け物の足音が聞こえるので、どうやら追い続けてくれているようだ。


(後、少し・・・かかった!)



洞窟の広場の向こう。安全地帯に逃げ込んだと同時、化け物が結界内に入る。同時、起爆札が爆発した。


自分と、あと特定の忍び以外が侵入すると同時に、爆発するように結界を組んだのだ。


獲物は罠にかかり、天井から巨大な岩が降り注ぐ。


こちらの通路は、崩落から免れていた。土遁を扱える忍びに協力してもらって作った自慢の罠だ。


逃れる術は無い。確実に殺った、と確信した瞬間だ。







怪物が吠えた。





「・・・・!?」



その、雄叫びを聞いたユギトは、一瞬意識が飛んだ。

気構えも何もない。ただ、本能に直撃するかのような、慈悲の無い鳴き声。

威嚇するための、ただの咆哮。死を告げる声。

だが、その絶望感はどうだ。忍びとしての気構え、そして人としての理性を飛び越えた音の暴力。




「な・・・・!?」




直後、黒い巨大な塊から、尾が三つ飛び出し、降り注ぐ巨岩へと突き刺さる。



そして、容易くその巨岩を打ち砕き、その上にある天井までも突き破った。



砕かれた巨岩。だが、その欠片はまだ残っている。一つでも頭部に直撃すれば、即死は免れない程の大きさの岩の数々。

それが、雨の如き規模で男と怪物に降り注ぐ。


男は、その岩の雨を避けようともしない。

ただ、手をかざして一言だけ呟いた。



印も何もない。チャクラの性質変化も、形態変化も感じられない。

ただの言葉と手掌で、岩の雨は全て弾かれた。


「なっ、馬鹿な・・・!?」


それを直視したユギトが、驚愕し、硬直する。

だが、ユギトとて熟練の忍び。見たことも無い術だが、忍びの世界ではそのような事態は珍しくもない。

一瞬硬直しただけで、瞬時に思考を回転させる。その術理、そして対処方法を考え出す。


飛んでくる岩を避けながら、ひとまず退こうと後方の通路へと跳躍する。

だが、その途中。

ユギトは男がこちらに手を向けているのを見た。また、あの弾く術だろう。
顔面を両腕で交差し、そして来るであろう衝撃に耐えようとする。


だが、起きたのはまったくの埒外の事態。



言葉と同時。ユギトの身体は後方へと弾き飛ばされず、逆に男の方へと引き寄せられていった。


「なっ!」

そして、男の刀がユギトの腹部へと向けられた。


致死のタイミング。だがユギトはその一刀を、咄嗟に上げた膝で受けた。

膝に刀が食い込む。ユギトは激痛に耐えながら、返しの一撃を入れようと拳を振り上げた。

だが、振り上げた拳は黒い獣の尾に貫かれた。


「ぐっ、ああああああああ!」

そのまま、岩壁へと叩きつけられる。

そして獣は退避路である通路にも尾の一撃を見舞う。崩れる通路。

それを見たユギトあ、広場の奥へと一端退く。



「・・・退路は防がれたか・・・・!」

もう一つ、出口はあるが、ここで背後を見せる訳にもいかない。あの奇妙な術でまた吸い寄せられてしまうだろう。

それに、この間合い。素直に逃がしてくれるとも思わない。


腹を決めたユギトは、痛めた片手を何とか動かし、印を組む。

そして、自らを尾獣化させた。


具現する二尾が尾獣。死を司り、怨霊を常に纏っている化け猫が、咆哮する。


「・・・・」

だが、相手は何の反応も示さない。

ユギトは、一瞬まるで死人を相手しているかのような錯覚に陥った。

だが、事実はどうであれ、今は関係ない。

どうみても、こいつは里に取って有害な存在にしかならない。

黒ずんだ死の具現。ここで倒さなければ、里の皆に危害が及ぶだろう。



「・・・里の仲間を、守るために! 雲隠れの二位ユギトの名に懸けて・・・お前を殺す!」






雄叫びと共に、巨躯が疾駆する。



打って出るユギト。迎えるは、黒い獣。


怪物同士が、激突しあう。






衝突と同時、その衝撃で洞窟の全てが激震した。





















----



サスケの偽造誘拐から、2年半後。

満月のあの夜から18ヶ月が経過した後。


木の葉隠れの里で、恒例の中忍選抜試験が行われようとしていた。

前回、2年前は砂隠れの里で行われたので、今回は木の葉の番だ。


町はずれ、砂から木の葉隠れへの道中。とある宿場で俺は口寄せの屋台を開きながら、我愛羅達一行の到着を待っていた。


それもこれも、数日前。

テマリが木の葉隠れへと中忍試験の打ち合わせに行っている最中、来るはずのサソリとデイダラの襲撃が無かったのだ。

俺はあらゆる可能性を考えたが、情報が少なすぎるため断定できず、戦力を分散させる事にした。

砂隠れには、サスケと再不斬と白と多由也。あと砂隠れで一番の腕を持つバキと、それに準ずる腕を持つテマリ。

俺は我愛羅と話し合い、万が一の可能性を考えてこの5人に砂隠れの里へと残ってもらったのだ。
バキにも、ある程度の情報を流してある。

元が里第一の考えを持つバキだ。顔に渋面を浮かべながらも、何とか了承してもらえた。何より、三尾の件が頭に残っていたのだろう。

不気味すぎる相手に、一時は手を組む事を選んだのだろう。








数日後。俺のいる宿場町へ、砂隠れの忍び達がやってきた。

我愛羅とカンクロウはすぐさまこちらの屋台に気づき、若干の笑顔を浮かべながらラーメン2つを頼んできた。

「あいよ、ニンニク味噌ラーメン一丁。細切れチャーシューましましだ」

スタミナ抜群の一品である。頓挫しつつあるきつねラーメンの開発の他、現場のおっちゃん達のニーズから生まれたメニューで、旅の疲れも吹き飛ぶというものだ。

「いや、でも口臭が・・・」

「案ずるな、兄弟」

カンクロウのもっともな心配を指す言葉を一蹴し、さっと取り出したるは一粒の飴。

「食後に一粒。すると、あら不思議。一時間後には口臭が消えているという、魔法の飴だ」

開発者は白である。何でも、女性のたしなみらしい。


あと、口の中でころころと飴を転がすキューちゃんを見て俺達全員が和んだのはここだけの話だ。


「まじで! 助かる」

カンクロウと我愛羅に飴を渡す。

「じゃあ、じゃんじゃん喰ってくれ」


「「いただきます」」





「それにしても、2年前の中忍試験は凄かったらしいな」

テーブルの正面でラーメンをすする我愛羅に向け、俺は話しかける。

「・・・ああ。特に、3年前の本戦予備試験まで来ていた木の葉隠れの下忍の面々はな・・・1人を除き、全員が合格した」

「1人を除き、ってああ」

サスケか、と頷く。

「正直、あいつらの成長は異常だったじゃん」

「・・・ああ、まあ、なあ」

何ともいえない罪悪感が胸を襲う。

『メンマ君、相当に酷いこと言ったもんねえ。そりゃあ、必死になって修行もするわ』

うるせえよ。仕方なかったんだよ。

『うむ。受けたからには最後まで、徹底的にというお主のスタンスは知っているが、あれは正直我も引いたぞ』

(え・・・そんなに?)

『『うん』』

2人に念押しされ、少しへこむ。そして、恐る恐るカンクロウと我愛羅に、木の葉の下忍達の様子について聞いてみた。


我愛羅とカンクロウは、渋い顔をしながら、説明をしてくれた。

何でも、木の葉無双だったらしい。


キバは「俺は狗なんかじゃねえ!」 といいながら、持ち前の勢いに虚実の内合を組み合わせた、高度な体術で相手を粉砕したらしい。

(えっと・・・あの時俺、何ていったっけ)

『“狗では私は倒せない。フェイントに容易く引っかかり、突っ込むだけの狗なぞ踏みつけて終わりだ”とか、いいながら打ち下ろしの回し蹴りで一撃昏倒』



シノは「我、虫を極めし者・・・!」とかいいながら、時間差の全方位攻撃で相手のチャクラを食らいつくしたらしい。

『“この虫野郎! 見込みが甘え!”とかいいながら、風遁で一蹴したんだっけ。その直後に頭部への掌打八閃で昏倒』 


ヒナタは豪快な踏み込みで一気に接近。「貫け、柔拳!」の掛け声と共に柔剛一体の全力全開の一撃。防御諸共、相手を打倒したらしい。

『ええと、“慎重大いに結構、だが中途半端では意味がない。何より踏み込みが浅い、浅すぎる!”といいながら、強引な剛の力と柔の技でヒナタちゃんの一撃捌いた後、カウンターで腹部に一撃。昏倒』

力無き柔に意味は無い。柔無き剛は体術とは言えない。武は剛柔一体こそが真髄だ。その意味を知ったようだね。


テンテンは「見せてあげる。これが私の全力全開・・・!」とか叫びながら口寄せによる様々な武具攻撃を容赦なく繰り出し、圧倒的制圧力で相手を完封したとか。

『“質が足りない時は手数で補え! 何より武具を使う以上、相手を傷つける事をためらうな。迷いがあるならばここから去れ!” だったっけ。武器攻撃を受け流しで弾いた後、延髄に手刀で気絶』

「一応、相手は死んでいないぞ。でも、その砂隠れの下忍からは、“木の葉の白い悪魔”と恐れられているらしい。まあ、可愛い笑顔を浮かべながら、徹底的に攻撃する姿は」

・・・すげえ怖かったじゃん、とカンクロウが呟く。

その下忍には励ましのお便りをだそうと決めた俺であった。



いのは、「腸を・・・ぶちまけろ!」の雄叫びと共にボディーブロー。弱怪力の一撃だったが、見事に急所にきまったようだ。

『まあ、あの時は特に言うこともなかったね。状況を打破する力が無いっていうのは、いのちゃんもあの戦いで気づいたようだけど・・・成る程。医療忍術と怪力を選択したか』

綱手やサクラほどの威力は出せないだろうが、いのの体術のセンスはサクラより上だ。何より、幻術も忍術もそれなりのものを持っている。

秘術もある。あらゆる状況で活躍できるだろう。



チョウジは「いのに、シカマルに、キリハ・・・僕1人だけ、置いていかれるわけにはいかないんだよ!」と、部分倍化の術で一撃。術スピードと予備動作に磨きが掛かっていたらしい。

『“遅すぎる。当たらん、当たらんなあ!”って言いながら肉弾戦車を軽く回避した後、浸透の掌打一撃で昏倒だったが・・・』

動きではなく、攻撃の速度と精度を重点的に鍛えたか。破壊力はピカイチだし、賢い選択かな。


サクラも同じ。2年前はまだ医療忍術もそれなりのレベルだったが、「しゃーんなろ!」と同時の頭突きが決まったらしい。

さすがはデコりん。デコすぎるぜ。

『意味が分からないけど・・・なんか、凄いね』

加え、今じゃあ相当の医療忍術の使い手になっているだろう。もしもの時は頼もうかね。サスケ拉致ってしまったんで、逆に殴られるかもしれないけど。

『ふむ。あの2人、一時期は喧嘩をしておったが、最近馬鹿に仲がいいのう』

年頃だしね。青春だね。ああ、そういえばリーはどうなったんだろう。


リーは相変わらずの青春パワーで相手をのしたらしい。まあ、八門遁甲の体内門があるし、努力の天才だ。

あの夜に対峙はしなかったが、問題ないだろう。






キリハは普通に勝ったらしい。相手は、木の葉隠れの別の小隊。

開始直後の相手のクナイ攻撃を、風遁・烈風掌で打ち返した後、追撃。

返ってきたクナイを避ける下忍に瞬身で接近。隙をついて、顎へのフック気味の掌打の一撃から回し蹴りへつなげ、ノックアウト。

開始数秒で決着が付いた。

「印の速さも威力も、体術のキレも格段に上がっていたじゃん・・・正直、真正面からはやり合いたくない相手じゃん」

底が見えなかった、とカンクロウが呟く。

「ああ、そういえば姉さんや日向ネジと同じく、波風キリハも上忍に昇格したらしいぞ・・・異例の速さだな」

「いや、我愛羅の方が異例だろ。その年で影を務めるとか、聞いたことないぞ」

『そうだね。最年少じゃないかな』

我愛羅の方を褒めるが、勢いよくスープを飲み込む振りをしながら、どんぶりで顔を隠してしまう。

「照れてるねえ」

「・・・聞こえてるぞ」

我愛羅は照れながらも、ドン、とラーメンのどんぶりを勢いよくテーブルに叩きつけた。


「・・・ああ、伝えておかなければならない情報が一つあるんだが・・・もしかして、既に掴んでいるか?」

「まあ、一応はな。雲隠れの二尾の人柱力が、一ヶ月前から消息不明のなっているらしいな」

俺も、それを聞いた時はびっくりしたよと肩をすくめる。

「恐らくは、暁の仕業だろう。だが、話はそれだけで終わらない」

「ん、何だ?」

昨日掴んだ情報だが、と前置いて我愛羅は話し出す。

「その、戦いがあった現場・・・崩落した洞窟のあった山を見ていた猟師から掴んだ情報なんだが」

「何か見たのか?」

「ああ、恐らくは、洞窟の天井にある岩層を、突き破ったのだろうな。轟音と土煙と共に、黒い柱のようなものが三つ。山肌に突如現れたらしい

その後、幾たびか激震が走った後、静かになったらしいが・・・」

「・・・うおい、山突き抜けるって一体どんな威力だよ。それに・・・三つ?」

「ああ、三つだ。ちょうど、消えた三尾の数と一致するな・・・これは、偶然か?」

「うーん・・・正直、それだけの情報じゃあ、分からないな。だが、可能性は高いと思う」

「そうか・・・・厄介な事になったな」

「全くだ。もしかして、その尾獣と暁がつるんでたりして」

「・・・でも、それだとおかしいな。尾獣はとにかく巨大だ。故に目立つのは避けられない。隠密を主とする暁が、尾獣を使う理由も無いのではないか?」

「そうだなあ・・・そもそも、そんなモノを使わなくても、奴らなら生身だけで倒せるだろうし」

そのような存在を使うメリットが無い。あるいは、他に何らかの理由があるのかもしれないが、手持ちの情報だけでは判断できない。

「で、お前が今回俺の護衛に回るとは・・・どういう風の吹き回しだ?」

「いや、護衛もあるけどね。雨隠れの里というか、暁の動向も探っておきたいんだ。とにかく今は情報が足りないから。
アホ面下げて爆心地っていう事態は是非とも避けたいんで」

失敗したら死である以上、それは洒落になってないのだ。

「・・・成る程な」

「ああ。あと、木の葉側にも確認したい事がある。だから、よろしく頼むよ」

「分かった・・・こちらの上忍の一人に変化していてくれ。前もって、本人には連絡してある」

「ああ、ありがとう」

「気にするな。じゃあ、行こうか」






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所変わって、木の葉隠れの里。

「お久しぶりっす」

「おお、来たか」

やってきた風影一行+メンマを迎え入れる綱手。

「風影殿も、もう少しで到着するようです」

「ああ、分かった。シズネ、お茶の用意をしてくれ」

そして数分後。一同は同じ部屋に介していた。

砂隠れは、五代目風影である我愛羅、補佐兼護衛役のカンクロウ。

木の葉隠れは五代目火影と、同じくシズネ。そして、もう一人。

「遅いぞ、自来也」

「すまん。情報収集に手間取っての」

三忍の一人、自来也。

「それじゃあ、始めようか。以前も知らせたと思うけど、まずは情報の整理を」

外部の情報提供者として、メンマ。総勢6人での会議が始まる。

「暁に関しては、以前知らせた通りだ。他の五影もこれくらいの情報は掴んでるだろうが・・・問題は」

一区切り置いて、メンマは話し出す。

「ここ数年。最近は特に動向が怪しいという、雨隠れの里にある。原因は分かっている。数年前にかの山椒魚の半蔵が殺されて、頭が交代したらしい」

恐らく、だが。
動きが変わった理由、これ以外にあるまい。ペインがどういう考えで動き出したのかは分からないが。

「まさかあの、半蔵が・・・!?」

自来也と綱手が驚く。動向がおかしい事は知っていても、その原因は知らなかったのだろう。あと、半蔵とは直接の面識もあるので、驚きの度合いも大きいのだろう。

「事実だ。クーデターの際、一族郎党皆殺しにされたらしい。とある筋からの信頼できる情報だ」

「しかし、一体誰が・・・?」

S級クラスの賞金首といえ、単体でそれを成し遂げるのは困難だ。内乱も考えにくい。半蔵はそれほどの権威を保持していた。

ということは、答えは一つ。

「暁、か」

自来也が訊ねる。

「そうだ。だが、それはたった一人によって行われたらしい」

「馬鹿な、それこそ有り得ん!」

自来也が叫ぶ。半蔵の慎重さについて良く知っている故の叫びだろう。

仙人モードの自来也とて不可能な所行だ。世界は広いとはいえ、それほどの実力者ならば顔は売れている筈。
単独で半蔵を殺害できる程の忍びの存在など、自来也も綱手も思い当たらない。

「・・・追加情報がある。これも、噂だけの眉唾ものなんだが・・・」

少し、もったいぶって話す。これは本来ならば有り得ない情報、俺でも知り得ない情報だからだ。

余計な猜疑心を生みたくない俺は、慎重に言葉を選んでいく。

「・・・何だ? 取りあえず、聞かせてくれ」

「それが、暁の頭であるということだ。そして、もう一つ」

一拍おいて、俺は自分の目を指さす。

「そいつの目には、螺旋の紋様が刻まれていたらしい」

「・・・螺旋の、紋様?」

カンクロウが首を傾げる。その問いには、我愛羅が答えた。

「三大瞳術の一つ、輪廻眼か。かの六道仙人が宿したとされる・・・だが、それはあくまで伝説ではなかったのか?」

「知らん。あくまで噂だ。でも、それだけの事をやってのける人物だ。伝説の輪廻眼、持っていてもおかしくないだろう」

「そうだな・・・どうした、自来也。顔色が悪いぞ」

「いや・・・話を続けてくれ」

「そうだな。ともあれ、暁の狙いは一つだ。人柱力の確保。これに関しては、間違いないだろう」

「雲隠れの二尾の人柱力が行方不明らしいが」

「ああ。それについては木の葉でも確認が取れている。今までは情報交換もままならなかったが、やっこさんも焦ってきているらしい。限定だが、情報交換もできた」

「・・・あの声に関してか。他の人柱力も聞こえていたのか?」

綱手は重々しくああ、と返しながら内約を話し出す。

「確認が取れているのは雲隠れの二尾、八尾。そして滝隠れの七尾・・・全員が、その声とやらを聞いたらしい」

「ええと、他の人柱力の面々は?」

「霧、岩とは接触できていない。霧に関してはいつも通りの秘密主義。岩も、連絡したが返答が無い」

「非同盟国の霧、岩とは連絡が取れていないって事っすか」

それもまあ当たり前か、と呟く。

「ああ。あと・・・ここ最近だけど、霧隠れの里近くの孤島と、岩隠れ近辺の山場で大きな戦闘の形跡があったようだ。これは、“網”からの情報だからまず間違いはないだろう」

一つ、情報を提供する。

「・・・ほう」

「だが人柱力の生死は不明らしい」

首を振りながら、肩をすくめる。

「・・・不明な点は多々ある。だが、方針は決まったな」

「確たる情報が無い今、迂闊には動けない・・・ということは、雨隠れの忍者の監視か。そういえば、今年の雨隠れの里からの中忍試験受験者、例年にくらべてかなり多いと聞いたが」

「ああ・・・去年の3倍だ」

「え、マジですかシズネさん?」

「はい、マジです」

「う~ん・・・・あ、もしかして暁のメンバー全員が受験に紛れていたりして」

「ははは、有り得んだろうそれじゃ」

「そうですよねえ、あはははは」

「あはははは・・・」

だんだん、声が小さくなっていく2人。

「・・・本当にそうだったらどうしようか」

ぼそり、とメンマが呟く。

「怖いこと言うなよ・・・」

綱手もまた顔を逸らして呟く。

「ちなみに、暁の構成員、個々のメンバーの力量はどうなんだ?実際対峙した事がないので、いまいち力量が掴めない」

と、我愛羅が訊ねてくる。

「ほぼ全員が大蛇丸クラス。かつ殺傷能力に優れた固有忍術の使い手。性格も極めて危険」

約一名を除いては、とつけ加える。

「・・・すまん、ナルト。試験の間だけ、試験会場周辺に潜んでいてくれないか」

「元よりそのつもりっす。次に狙われるのは、まず間違いなく我愛羅だろうし」

自分の存在は未だ把握されていない筈だから、判明している標的といえば、我愛羅しかない。

其処を重点的に守ればいい。木の葉の忍びもいるし、そうそうやられる事はないだろう。

「ともあれ、今最優先でやるべき事は、暁と雨隠れの関係性を確かめる事だ。明確な証拠を握れれば、後は五大国の隠れ里で連携、総力を持って叩き潰すまでだ」

「全方位に喧嘩売ってますもんね・・・尾獣を奪うとか、宣戦布告と同意ですし」

「いかな暁といえど、五大国を敵に回して勝てる筈もない。まずは、証拠を掴む事だ」

「・・・てことは、襲ってくる暁の構成員を捉えて、情報を吐かせろと?」

「そこまでできれば上出来だろう。迂闊に動いて無駄な戦争を起こす気もない。確たる証拠があれば、同盟の理由も立つ」

「了解。やれるだけやってみます・・・ああ、そういえばキリハは? 今、里にはいないんですか?」

「今は任務で出ている。一週間後には戻ってくるだろう・・・さあ、一端置くか。あと、すまんがナルトだけ残ってくれ」

「分かった。こちらは宿に戻って待っている」

「ああ。俺も直ぐに行く」

我愛羅とカンクロウが退室する。


「一週間、か。多分会えないなあ」

そのころには予備試験も終わっているので、木の葉の里を出ているだろう。

「・・・会いたいか?」

「ええ、まあ」

まだ戻れないですけど、と呟く。

「それもそうか・・・まあ、ダンゾウの影響力も、ここ数年で大分落ちてきた。キリハの、里の皆への説得も進んでいるし」

「え、説得?」

「そうだ。主に、九尾と兄を同一視するなって事だな。ダンゾウの手のモノが流した噂で、里の者も先入観に囚われていた。その先入観を解くために、一生懸命話して回っているらしいぞ」

『キリハちゃん・・・』

「そんな事して大丈夫なんですか?」

「もう、16年も前の事だ。怨恨が薄くなっている者もいる。何より、元が筋違いな話だ。キリハが正面から話せば、分かってくれるというものさ」

「そう、ですか・・・」

それでも帰る事はないと思う。

「まあ・・・お前の気持ちもあると思うがな。それでも、キリハはお前が帰れる環境を作って起きたいんだよ。それに何より、兄が忌み嫌われているのが嫌なんだろう」

「・・・・」

「加え、あいつにとっての矜持もある。だから、止めるなよ?」

「・・・分かりました。あと、ダンゾウの方は大丈夫なんですか?」

「おおっぴらに妨害もできまい。それに、現在私はあいつと根の動向を探っていてな・・・そうしたら出るわ出るわ」

火影の認可を得ていない、不正な暗部派遣の痕跡など、色々と見つかったらしい。
三代目の頃からそれは行われていたらしい。時にはあの雨隠れの半蔵にも、暗部の一部を派遣していたとか。その部隊は壊滅したらしいが。

「ん・・・? そういえば、クーデターがあったとされる時機と、暗部が壊滅した時機・・・重なりそうだな調べてみるか」

「そう、ですね。また、こちらでも調べておきます」

「頼む、シズネ。あるいはあいつを抑えられるかもしれん。これ以上、ダンゾウの好きにはさせないさ」

「・・・随分と、警戒しているんですね」

「うちはの裏事情を聞かされたんだ。それなりに警戒もするさ。上役にかんしてもな。私も正直、あのヒヒ親父と相談役の2人を甘く見ていた所もあったからな」

「ヒヒ親父、の・・・」

自来也が苦笑する。

ダンゾウも、えらい言われようである。

「それに、戦災孤児を“根”に引き入れて自分の私兵として扱っているという情報もある」

「まあ、暗部の育成など、“根”の文字通り木の葉の大樹を支えてもらっている部分もあるが・・・明らかにやりすぎたの」

火影の座に妄執し、暴走して目的を見失っているふしがあるらしい。

まあ、ダンゾウ云々は取りあえず今の俺には関係ない。

暁撃退が俺の至上目的だ。まずは、それを果たすこと。その後はもう狙われる心配も無くなる。

「・・・じゃあ、そろそろ戻ります」

「ああ・・・・ナルト」

自来也に呼び止められる。



「・・・死ぬなよ」

「エロ仙人もね。くれぐれも一人で無茶はしないように・・・・何かあれば、キリハが悲しむだろうから」

「・・・分かったわい」


肝に銘じておく、と笑う自来也に背を向け、俺は部屋を出て行った。









[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 四十話
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2009/10/04 19:20





まさか、と思った。あるわけない、と叫びたい衝動に駆られる。





まさかまさか、かの童謡のような事態が現実に起こる得るとは。様々な難事、珍事に携わってきた不肖、小池メンマ。

これだけの無茶振りな状況にはついぞ出逢ったことがない。





ある日、森の中、神様に、出逢った。

死の咲く、森の道で。



(まずいまずいまずいまずいまずい)

頭の中ではデフォルメされたマダオがどうしてこうなったと言いながら踊っている。


ありがとうマダオ。少し落ち着いたよ。

『どういたしまして』

目の前を敵を見据える。

滝のような汗が全身から吹き出ている。もうどうにも止まらない。それほどまでに目の前に映る人物が強いからだ。



通称“雨隠れの神”。

今思い出した。彼はそう呼ばれていた筈。


一人呟き、納得する。これだけの力量、神と呼ばれる筈だ。

(不味いな・・・)

対峙する相手を見据え、どうしようか、とひとりごちる。

先の会議でも名前が挙がった、というか俺が挙げた噂の人物。
最も崇高たる螺旋の目を持つ暁の首領、ペインその人である。

(・・・それよりも)

若い。それに、髪の毛の色が黒い。
(原作知識、今はもうほとんど思い出せないけど・・・)

こんな容姿をしていたか、と首を傾げる。記憶では確か金髪だったような気がするが、よく思い出せない。長門という、かつて自来也の弟子だった少年の髪は黒かったが、こいつがそうなのだろうか。

(分からない事が多すぎる)

能力に関しては印象深いものもあるし、書きためたものがあるので覚えてはいるが、人物の容姿に関してはその限りではない。

(こんな顔だったか?)

目の前の人物を見据える。黒い髪と螺旋の瞳。そして尋常ではない程に研ぎ澄まされているチャクラ。

(それに・・・一人か)

六道と言うことで、分身体のようなものが6人いるとまでは覚えているが、そいつらはいない。
気配を探ってみたが、影も形もない。

(・・・不味いなあ)

気配を隠しているのか、それとも今は周囲にはいないのか。

前者だと本格的に不味い。後者でも、安心はできないが。

(口寄せを使うんだろうなあ・・・)

もしかしたら此処にこれない、などという希望的観測は持たない。現実は非常に非情である。
来る、と想定して動かないと予想外の事態になった時に動揺してしまう。
戦闘の最中、思考と動きが止まってしまうのは不味い。

加え、不味い事がもうひとつ。

相手の能力の全容が分からないのだ。
口寄せを使うとか、螺旋丸を吸収するとか、一部分の術に関しては覚えているがその他の術については定かではない。

情報が戦場の命運を左様する昨今、108の秘技(予想)を持つであろうこのお方とのチキチキ遭遇戦ガチバトルは是が非でもお断りしたいものだが。

『・・・結界が、張られてるね』

飛雷神の術対策だろうか、それとも別の何かが目的なのか。時空間移動忍術を封じる結界が張られている。
随分と高度な結界術だ。が、目の前の人物ならば確かに可能なのだろう。

『大魔王からは逃げられない、というものか』

(そうだねキューちゃん)

しかし、大魔王との遭遇戦とか笑えない。乾いた笑いならばいくらでも出てくるが。

「どうしてこうなった・・・・」

思わず呟き、このような事態に陥った原因を探してみよう。


















会見から数日経過した。俺は朝もはよから宿の前に立ち、欠伸をしていた。

「ふわああ・・・ねむ」

昨日、エロ仙人とカンクロウ、任務を終えて戻ってきたカカシを交え、遅くまで作戦会議・・・をする訳もなく。


「語り合おう」

カカシの一言によって急遽漫談会議となったのだ。

議題は“俺の嫁”。

テーマは“イチャイチャメモリアル”に継ぐ新作漫画、“イチャイチャナイト”についてだ。互いに己の魂を主張しあい、時には殴り合い、時には肩を叩きながら激論を交わしていたのだ。

カンクロウは眼鏡お嬢様のセーラ一択。なんでも周りが気の強い女性ばっかりなので、癒しを求めたいらしい。テマリに後でちくっておこう。じゃん。

カカシはロリなロリィだった。駄目だこいつ早く何とかしないと。ちなみに自来也の書いたロリィは何故か金髪だった。こいつも何とかしないと・・・。

ちなみに俺はライズだ。それ以外有り得ん。キューちゃんに後で噛みつかれようが、それだけは譲れない。

ちなみにサスケはジーンがいいらしい。再不斬は読んでいない。読ませてからかおうと本を持っていった所、部屋から出てきた白にみつかったので。

・・・後はお察し下さい。

あと、我愛羅は読んでいないらしい。流石は風影。真面目ですな。彼女的な存在がいるし。

ちなみにマダオには聞いていない。リアル嫁がいたマダオなどに聞くことなど、一つもない。

すると、心の中のマダオが突然叫びだした。

『・・・やさしくない。やさしくない!』

・・・ちょっ、おまえ、それは。

『はやく、きえて!』

それは、まさか・・・!

『あなたには.・・・ この人の・・・ 負ける者の悲しみなどわからないのよッ』

ぐあああああ! やめろ!

『ねぇ・・・ビュウ。大人になるってかなしい事なの』

トラウマをほじくり返すなああああああ! 復讐か、復讐なのか! てめえに聞かせたのはこういう使い方をさせるためなんかじゃねえ!

『サラマンダーより、ずっとはやい!!』

「マダオぉ、表に出ろおおおおおおおお!」

最後の一言が決定打。トリガーワードを連発された俺はぶちきれた。






数分後。

「おはよー・・・って随分と疲れてるけど」

どうしたの、と背後から銀髪マスクさんがやる気のない声で聞いてくる。

「・・・何でもない。男達の慟哭について話していたのさ」

拳を交えて。主に前半はいいが、後半は許せんということで。


(・・・それはひとまずおいといて。このマスクさん時間通りに来ましたがな)

昨日自来也から聞いた話は本当だったようだ。

どうも、依然と比べて任務に対する構え・・・いうかぶっちゃけていえば遅刻に関してはましになったらしい。

でも、やる気満々というわけでもない。さもあらん、人は容易く変われないという事だろう。

『お主とマダオも似たようなものだろうに』

ごもっともで。


ともあれ、カカシと一緒に俺は試験会場である死の森へと向かった。

何でも、雨隠れの受験生を見て欲しいとのこと。2年前、砂で行われた時の受験生とは随分と様子が違っているらしい。



「じゃあ、これを」

「ん、これは暗部の面か」

「顔を隠しておいた方がいいからね。後、例の赤髪の姿には変化しない方がいいよ」

カカシに忠告された。あの時こっぴどくやられたというか俺がやってしまった面々が俺の事を探しているようだ。
“赤毛の狐面、コロス”とよなよな森の中から声が聞こえてくるらしい。

そりゃ、あんなに徹底的にぶちのめしたらなあ。温厚なヒナタでさえ怒るだろうね。

「とまれかくまれ・・・逝こうか」

都合の悪い事は忘れるに限る。何時かは爆発するのかもしれないが、その時はその時だ。


「いや、字が違う気が・・・まあいいか」

流石は面倒くさがりやナンバー1。年期の入ったスルーっぷりです。



道中。カカシはかつての生徒であったサスケの事を聞いてきた。

あの後、カカシに限ってはうちはの顛末を話すことにしたらしい。

「うちはが、ねえ・・・」

カカシは自分の写輪眼を抑えながら、ぽつりと呟く。亡き親友の事を思い出しているのかもしれない。

「それで、サスケはどうする事にしたの?」

「まずはイタチと話をするって。どうも、イタチ本人は裁かれる事を望んでいるようだから」

これは俺なりに考えた末の結論だ。万華鏡写輪眼の開眼ということもあるが、何よりイタチは殺される事を望んでいる。

本来は優しい心根の持ち主であるイタチの事だ。罪の呵責に苛まれているに違いない。

「それ以外の道は見えなくなっているだろうね。復讐される事、死ぬことしか望んでいないと思う。だから、ひとまず殴って眼を覚まさせるって」

「そうか・・・サスケは、強くなったんだな」

「あらゆる意味でね」

基礎能力を磨きに磨いた。マダオと俺の経験談を元に状況を想定した模擬戦闘を重ね、戦術にも幅ができた。
体術も血反吐が出るまで鍛えた。頭の固さも取れた。

それに、匠の里の業師に特注で作ってもらった刀もある。チャクラの形態変化、性質変化の助長を促す特殊な金属鉱を合成して作った刀。


銘を“雷紋”。


雷紋とは力の集約を意味する紋様。魔除けの意味もあるらしい。ラーメンのどんぶりに刻まれる模様としても使われている、不思議な紋様だ。

雷紋は、サスケの戦闘能力を飛躍的にとはいわないが、かなりの度合いで高めてくれる。

元が速度に優れるサスケだ。再不斬の持つ首切り包丁のような身の丈にも匹敵するような大刀ならばその速度を殺すことにもなろうが、雷紋はせいぜいが打刀程度。

刀を持つ事によって速度は多少落ちることとなったが、それよりも間合いの広がりと、忍術運用の助長という利点の方が大きい。

「・・・やっぱり呪印は、使わないんだ」

「ああ」

一時期は迷っていたようだが、多由也の気持ちの事もあるのだろう。それに何より、もう憎しみや恨みで戦うのは嫌だと言っていた。

それは甘さともいう、弱さともいう。だが、強さとも言う。

長い夜でも己を失わず、暗い闇を前にしても尚、戦う意志を維持できる心を持っている。

奪い勝つための力ではなく、守り負けないための強さだ。

「今の俺でも、サスケとは正面切って戦いたくないね」

成長したサスケを前に、再不斬も同じ感想を抱いていた。

「そういえば、あの映画じゃあその一端を見られたっけ・・・」

カカシが半眼で見つめてくる。まずい。やはりばれていたらしい。

「風雲姫の冒険・完結編・・・出てたでしょ」

「やっぱり分かる?」


あの雪の国での事件、そしてその事件後の撮影とを編集し、掛け合わせて作成した、マキノ監督渾身の作。

今も上映中の大ヒットロングラン映画、”風雲姫の冒険・完結編”に、サスケが登場するシーンが在ったのだ。

あのとき、俺の影分身体と再不斬とが担いで連れて行った監督とカメラさん。見事にあの最後の一撃のシーンをカメラの中にとらえていたらしい。

編集と合成で顔は変えてもらったが、動きを見れば分かる人には分かる。
とはいっても、はっきりとサスケと分かるのは、カカシとかサクラとかキリハなどの、日頃身近でサスケの動きを見ていた者だけなのだが。

「裏の人間には、あれが忍びの動きだって事は分かってたみたいだけどね」

だが、取り立てて追求することも無かったらしい。何しろ、富士風雪絵はいまや世界で3本の指に入る程の有名人だ。
いかな忍びとはいえ、迂闊に手を出すことも出来ない。というか、出す意味もない。
あれがうちは一族の生き残りだと分かればまた違ったかもしれないが。

「五代目にはオレが進言したからね。サスケの事云々は裏で話したから」

木の葉も静観を選んだらしい。カカシグッジョブ。

「しかし、雪の国の忍び相手にねえ・・・」

やや不機嫌そうに、カカシは頭をかきながら呟いた。
彼の中でも、12年前の雪の国での一戦は忌まわしき思い出として胸の中に残っていたようだ。

もう仇はいないが、できるなら自分で借りを返したかったのだろう。

「ま、あの鎧は厄介だったけど、中身がスカだったからね。何とかなったよ」

「・・・狼牙ナダレは?」

「用心棒の先生にばっさりやってもらいました」

「用心棒、ねえ・・・そういえば、最後の一撃。サスケのあれ、新術のようだったけど」

あれは何、と訊ねてくる。

「俺案、サスケ改良の新技です」

「そうなんだ・・・結構な術使うねえ。見栄えもいいし。サクラが映画館できゃーきゃー叫んでたよ」

「・・・というか聞きたいんだけど、あれがサスケだって気づいていたのは誰と誰?」

「まあ、キリハとサクラぐらいかな。サクラがラストのシーンを見てまた、別の意味で叫んでたけど」

「マジでか」

「真剣と書いてマジです」

映画を見た後、演習場の広場にて「しゃーんなろー!」とか言いながら赤毛の人形を殴っていたらしい。
とどめは師匠譲りの怪力拳で破砕。哀れ赤毛の人形は空に散ってしまいましたとさ

キリハはそれを苦笑して見てたそうだが。

「いや止めろよ。つーか怖いよ」

「・・・無理だね」

カカシは目を瞑ったまま首を横に振る。

「いやだってね。その後ね・・・そこらの岩掴んで握力だけで粉砕していたんだよ?」

「はっはっは」


怖い。冗談抜きで。
月のない夜の帰り道は、気を付けるようにしよう




もし、出逢ってしまったら・・・・その時の事を想像してみる。



満月の夜。

人気の無い小道。

其処には、月の光をデコで反射する女神の姿が---!


「・・・いや、女神は無いな」

『無いねえ』

『無いのう』

きっと邪神かなにかだろう。
でも桃色の邪神って・・・何か良いな。

『良いのかよ!』

「で、何で赤毛? もしかしなくても拙者の事でござんすか?」

「うん。ちなみに“赤毛の狐面の忍”を見つけたら山中花店まで連絡を~とか張り紙があったらしいよ」

その紙の端には禍々しい血痕が付いていたらしい。
みんな、良い感じに暴走しているなあ。一番暴走しているのは間違いなくサクラだろうけど。

『これで、サスケくんが最近多由也ちゃんとちょっと良い感じに仕上がってるとか悟られた日にゃあ・・・』

・・・怖いこと言うなよマダオ。
もしかしてを想像しちゃうじゃないか。

『・・・摺り下ろし林檎?』

キューちゃん、素で怖い事言わないでくれ。

いや、しかしピンクの邪神は恐ろしいな。

決めセリフはこうだ。「自慢の怪力で粉砕しちゃうぞ(星)」とか。地味に怖い。映画化決定。

『いや、お子様には見せられないでしょ』

ホラー映画なら有りだと思うけど。

『何処の世界に邪神が勝つ映画があるのさ』

つーかサクラが勝つんだ・・・。





そんなこんなを話ながら数分後。

俺達は死の森入り口に到着した。

今年も試験官の役割を任じられたアンコ女史。随分と不機嫌そうな顔をした彼女に挨拶をした後、死の森の中へと入っていく。

相変わらずの網タイツっぽいインナーに締め付けられる巨大なπO2に合掌したくなるが、何とか踏みとどまった。






森に入って数刻後。

試験開始、つまり受験生が死の森に入ってから115時間が経過したらしい。

俺とカカシは先程見た雨隠れの忍びについて話し合っていた。

「随分と珍しい術を使うヤツが多かったねえ」

「・・・そんなに珍しいのか?」

カカシ曰く、“俺でも見たことの無い術”らしい。

「・・・失伝した忍術、とかその辺りだろう。問題は、なんであの雨隠れの・・・恐らくは下忍~中忍クラスの忍び、か。
あいつらがそんな忍術を扱えているかって事だ」

しかも、よりにもよってこの時機に。

「どうにも・・・きな臭いね」

カカシがため息を吐く。

「でも、迂闊に手を出せないしね・・・このまま、調査を続ける?」

例の予備試験会場までいくか、とカカシが訊ねてくる。

「そろそろ、五代目が会場に到着する予定だし・・・?!」

カカシは最後まで言えなかった。言葉が爆音にかき消されたからだ。

「・・・受験生同士の戦闘かな」

そろそろ時間切れだし、と言おうとするが、言葉は再び爆音にかき消される。

「随分と派手だな・・・」

受験生が忍術を使ったのであろう。そう思ったと同時、森の向こうから暗部が駆け寄ってきた。

「カカシ上忍!」

「何だ、随分と慌てた様子で。何かあったの?」

「火影様が何者かに襲われております!」

「「何!?」」

話を聞くと、どうやら雨隠れの受験生の一部が、移動中の綱手とその護衛の一団を襲ったとの事。

この新米の暗部は、隊の上司に命令されて近場にいたカカシの元へと救援要請をしに来たらしい。

「分かった、護衛の忍びは?」

「名家、旧家の面々に加え、猿飛上忍と日向上忍が応戦中です」

「そうか・・・」

カカシは思案顔になる。そしてすぐに判断を下した。
自分は綱手様の元へと救援に向かうから。俺は外にいる我愛羅の元へと行ってくれ、とのことだ。

「了解」

確かに。今、俺がその襲撃場所に行くとややこしいことになりそうだし。
それに、同時襲撃の可能性もある。我愛羅の方にも刺客が向かっているのかもしれない。

「良し。じゃあ、急ぐぞ!」

俺はカカシと別れ、一人森の外へと急いだ。




そして、その道中。

森の中を全速の一歩手前の速度で走っている最中だ。

ふと見えたものに気を取られ、俺は足を止めた。

「・・・」

ほんの僅か。俺でも警戒状態でなければ分からなかったであろう、ほんの僅かな気配を感じ取ったのだ。

(・・・誰だ?)

気配の消し方から、隠れている相手は相当の手練れだという事が予想される。

だが、その刺客が何故こんな所に居る? 現在戦闘が行われているという試験会場付近から、ここは随分と距離が離れている。

此処に隠れている意味が分からない。

『襲撃実行者の撤退を支援する忍びじゃない?』

(そうかもな。だったら・・・)

倒しておくか、と思うがやっぱり止める。

『我愛羅君の方に向かうの?』

(ああ。そっちを優先する・・・・っと)

舌打ちをする。隠れていた気配が通常の濃度に戻り、それがこちらに近づいて来たからだ。

(足を止めたのが仇になったか)

俺が気配を察知した事、相手も悟ったのだろう。間違いなく俺を消しに来ている。

(速い)

尋常な速度ではない。

(・・・俺より速い、か)

逃げようにも普通に逃げるだけでは補足されそうだ。

『走って逃げるの?』

(・・・いや。煙玉使って目を眩ませた後、飛雷神の術を使う。相手の足も速いし、普通じゃ無理っぽい・・・でも)

『その前に相手の顔を見ておきたい?』

その通り。誰が動いているかを見ておきたい。

逃げるのはそれからでもできる。飛雷神の術も、前よりは安定して使う事ができる。
一日三回程度ならば副作用も起きない。


(あと少し・・・さて、鬼が出るか蛇が出るか・・・・・・っつ!?)


現れた人物を見て、俺は目を見開く。


結論から言うと神が出ました。
藪蛇ならぬ藪神です。


いきなりラスボスである。どないなっとるんじゃ。
金返せマダオ。

『いや、僕のせいじゃないけど・・・』

いや、分かってるけどね。











そして、場面は冒頭に戻る。

(何でこいつが此処にいる?)

綱手襲撃に一枚噛んでいるのは分かる。だが、それならば何故綱手襲撃に参加しない?

困惑の表情を浮かべる俺。

互いに対峙してから、分を越えたその時。
目の前の男、ペインは口を開いた。

「ふん、まさかこんな所で会うとはな」

(・・・こっちのセリフだっちゅーに・・・っていや、待て)

俺は今変化している上に、面を被っている。こんな姿をした人間、この世界の何処にもいない筈だ。

(それなのにこいつ、まさか・・・!)

俺の予想の答えは、すぐに相手の口から出された。

「影分身の原理を応用したか。成程、随分と高度な術だが・・・俺には通用しない。元の姿に戻ったらどうだ」

うずまきナルト、とペインが言い放つ。

「・・・何のことだ? いや、それにどちら様でしょう?」

ひとまず惚けてみる。だがこの相手には通じなかったようだ。

「とぼけるな。いや、なんならその姿のままでも構わないぞ」

苦心の演技も、ばっさりと一刀両断された。

何もかも見抜かれている。この変化している姿だと若干だが戦闘能力が落ちる事をも見抜かれている。

「仕方ない、か」

一言呟いた後、変化を解く。

それを見たペインはため息を吐いた後、首を振る。

「・・・イタチが分からない筈だ。まさかこれほどまでに高度な変化を身につけていようとはな」

「どうしてお前には分かった?」

「なに、簡単だ。お主の身の内に潜むものを見ただけだ」

答え、ペインは印を素早く組んだ後、告げた。



「土遁・土流槍」



地面を足で踏みつける。

同時、地面が形を変える。



「くっ!?」

俺の下にあった地面が隆起。形状が槍の姿に代わり、俺を貫かんと殺到する。

俺は目視と同時に咄嗟に飛び上がり、背後の木の枝の上へと退避する。



「・・・ほう、なかなかやるようだな」

今の俺の動作を見たのだろう。ペインは感心したように頷く。


「あんた程では無いけどね」


印の速度、そして印を組むに至るまでの造作。共に一流だ。

咄嗟に距離を詰められなかった。術を妨害する事もできなかった。

あまりに洗練された動作。間違いなく、今まで対峙した相手の中でも一番強い。


「・・・ふん、チャクラ量にものを言わせた力押しタイプだと思ったがな。どうやら違うようだ」

「・・・・」

ペインの呟きに俺は言葉を返さない。

確かに、そういう戦闘方法も・・・あるにはある。
剛で柔を断つ、という戦闘方法も小細工を要する相手など、時には有効となる場合もある。
とりわけ、人柱力みたいな莫大なチャクラを保持するタイプはその戦術を頼る傾向がある。

(でも、この相手にはその戦術は通用しないだろうな)

いなされるだけだろう。力の底が見えない。相手の戦術も見極められない。

『・・・底が知れない、ってこういう事を言うんだね』

確かに、力量差はある。確実に相手の方が上であろう事は理解できる。

それは間違いないのだが、問題はそこではない。

『どれだけの力の差があるか・・・正直、分からないね』

動作や雰囲気、術の精度からある程度の力量は測れる。修行時代、かの忍界大戦を経験した忍びほどではないが、それなりの実戦をこなしてきた。
そこそこの修羅場は潜ってきたつもりだ。

だが、そんな俺でもこのペインの力量がどの位置にあるのか、はっきりしない。

『それだけ、相手の方が上手って事だね』

マダオの呟きに、俺は頷く。

恐らくは、その推察は正しいのだろう。だが、腑に落ちない点がある。

(こいつ、これほどまでに強かったか・・・?)

一対一、いや一体六でも、仙人モードの自来也なら対峙できていた筈。

だがこの相手、どうにもおかしい点が多すぎる。力量もそうだが、存在が異様すぎる。
単純な力量を見ても、それが分かる。図抜けているというレベルではないのだ。



思考の最中、知らず俺の口から言葉が零れ出す。



「・・・お前は、何者だ?」


その言葉に、ペインらしき男は嘲笑だけを返す。


「・・・聞いて答える馬鹿がいるのか?」


「それもごもっとも」

俺は言葉を返しながら、内心で首を傾げる。


奢りも無く、稚気の欠片もない相手を前に。
油断も隙もないこの目の前で考える仕草を見せ、俺を誘っているこの神とやらに対して、俺はかつてない危機感を抱いていた。


加え、胸中にあるのは違和感。

何かが致命的に違っているという予感。何かが盛大にずれているという確信。



『・・・でも、それを考えるのは後だよ』

『今はこの場を凌ぐ事に集中じゃ』

(・・・ああ)

何とか、揺れる心を押さえつける。

だが、ペインから発せられた言葉を聞いて、俺は再び動揺した。

「ふむ・・・どうやらお前、俺の正体に関して心辺りがあるようだな。成程、成程?」

どうしたものか、と顎に手を当てる。

俺は何の事だ、という言葉を返せない。
洞察力に優れているだろうこいつに、俺程度の下手な演技は何の意味も成さないようだからだ。

これ以上話すと不味いことになるかもしれない。

そう判断した俺は攻撃に移ろうとするが、相手に機先を制された。


「ふん」


螺旋の目が輝く。そして膨れあがる莫大なチャクラ。


「・・・今更、お前の中にいる九尾の残骸などに興味は無いが」

「・・・なっ!?」

気づかれている、と狼狽える暇も無い。



異様な速度で組まれた印。直後、ペインらしき男の周りの空気が帯電し始めた。



「不穏分子には消えて貰うに限る」


だから死ね、と告げられたと同時。




「雷遁・雷流閃」



幾重にも束ねられた稲光が、視界を覆い尽くした。







[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 四十一話
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2009/10/11 15:59






「風遁・風陣壁!」

雷光が見えた時点で、俺は印を組み始めていた。

性質変化の理からいうと、風は雷に勝る。

周囲に風の壁を張り巡らせる。重なった雷光の帯は、俺の身体に届く前に、全て風の壁に弾かれて消え去った。


だが、向こうの攻勢はまだ終わっていない。


風の壁の向こう、再び印を組み始めるペイン。



結の印は、虎。


つまりは、だ。


(火遁・・・!)

性質変化の理の一つ、火は風に勝る。




(まずい!)


風の壁を消し、俺の方も印を組む。

防ぐには水遁による迎撃か防御しかないが、俺は水遁系統の術は扱えないのだ。


ならば、避けるしかない。俺は瞬身の術で樹上から地上へと移動する。


だが、相手の方が一枚上手だったらしい。


俺の動作を見切るや否や、奴は先程の“土遁・土流槍”隆起した岩に向かって、その龍の形をした火を放ったのだ。

当然、炎は岩にぶつかった。


「なっ!?」

だが、炎の豪龍は二つに砕かれながらも、その勢いに衰えを見せなかった。

勢いのまま岩の周囲を沿うように走り、岩の後方にいた俺に左右から迫ってくる。


「ちっ!」


予想外のことで反応が遅れた。

(避けられない)

---ならば防ぐまで。

懐から起爆札が張られているクナイを四つ取り出し、左右に二つ、同時に投げる。


俺と匠の里の職人さんの合作。

謹製の起爆札だ。普通の数倍の威力があるその起爆札は、炎に当たると同時に爆発し、相殺した。


(・・・しかし、何だ今の術は)

豪龍火に見えた、いや火龍炎弾か?

(・・・岩にぶつかっても、消えない? 柔らかい炎とでもいうのか?)

疑問符の嵐が頭の中を駆けめぐる。

(・・・例えるならば岩炎の術と言った所か)

『って言ってる場合じゃないよ!』

(分かってるよ)

問題は、普通の豪龍火の術ならばこうは行かないという点だ。通常ならば岩に当たってそれで岩を砕くか、少し拡散して終わり。

あのように広がり、そして統制を保ちながら標的に向かってくるなど有り得ない・・・筈。

(いや、そもそもあれは豪龍火の術だったのか?)

それすらも定かではない。いったいどれだけの術を保持しているのか。

限定された能力なれば対処する方法も浮かぶといものだが・・・相手が万能に近い能力を持っていた場合、どう対処すればいいのか。

最善の戦術が分からないというのは厄介だった。気が付けば落とし穴にはまってしまいそうで。

俺は知らず、口の中で舌打ちをしながら、ひとまず状況を整理することにした。

(・・・こっちが不利だな)

口寄せの術が使えない以上、忍具口寄せも使えない。起爆札付きクナイも、先程の4つで完売だ。

(忍具を口寄せに頼りきっていた事が仇となったか)

だが、それは向こうも同じ事だ。他の六道を呼ばないということは、相手も口寄せを使えないのだろう。

それでも時空間忍術を防ぐ結界内を張った。つまり奴は、それを補ってあまりある程の忍術を駆使できるのであろう。

火・水・土・風・雷・・・五行全ての忍術を。

(カカシは・・・五代目の方を優先するだろうな)

他の可能性、木の葉からの増援を事を考えるが・・・切って捨てる。

少なくともあと数分はこちらにはこれないと考えていいだろう。

(カカシは火影護衛の方を優先するだろうし)

『里一番の忍び』というポジションにおける責任もあるし、それをほっぽってこちらに来る、なんて事はできないだろう。

自来也も、比較的手薄である我愛羅の方の護衛に回っている。つまりは里の中心部で待機中。間に合わない。

(・・・ま、それでいいんだけどね)

正直こちらの方を助けて欲しいのだけれど、そうもいかない。それぞれの位置による役割があるのだから、仕方がない。


(と、いうことは・・・やるしかないか)



横に唾を吐き、拳を握る。



対する神様は相変わらずの無表情。ペイン・・・いやもう長門と呼ぼう。


(こいつは多分、ペインじゃない)

少し、思い出した。ペインの顔には何か黒い釘のようなものが刺さっていた筈。

(こいつは・・・長門かな?)

恐らく、としかいえないが、多分・・・間違いないかもしれないけど。

『・・・はっきりしないのう』

迂闊に断定するのは危険だから・・・・まあ、ここはイレギュラーってことで一つ。

『相手も、君の事をそう思っているだろうね』

(ああ、だから消すのか)

どうにも、短絡的だね。

『死人に口無しという所じゃの』

(キューちゃんそれちょっと使い方違う)


内にいる心強い味方の声を聞きながら、気を引き締める。



「・・・」



そして無表情なままの長門に向け、クナイを取り出す。



「・・・」



対する長門も、懐から千本を取り出す。






「「・・・」」






互いに構え、動かない。



空が曇る。


朝の空は青を示していたが、今はあいにくの黒模様。

まるで現在の状況を現しているかのように。



(・・・・)


口の中に血の味が広がる。命が脅かされているという、独特の感触だ。

修羅場が生み出す空気、その味が唾液と共に口の中に広がってゆく。





いつかの、雪の国での忍び(笑い)との戦闘とは明らかに違う。


本物の忍びと対峙する事によって生まれる、独特の緊張感。




殺気によって硬質化された大気が、肌を締め付ける。





互いに動かない。





静寂が世界を支配する。








そして、風が吹き森がざわめいた瞬間。







「・・・・!」





まず、長門が動いた。





「あぐあっ!?」


動いたのは手ではなく、その瞳。



瞳孔に浮かぶ螺旋の紋様が見えたと同時だ。




『「・・・・・っ!?」』



両手と両足に、まるで杭を打ち込まれたかのような激痛が走る。



『幻術か!?』

『っち!』

瞳術による幻術だ。俺とキューちゃんの様子を悟ったマダオが、すぐさまその幻術を解除した。

しかし、随分と“深い”幻術だ。まさかキューちゃんまで囚われるとは思わなかった。

マダオがいなければ危なかっただろう。

幻術を解除した後、四肢を襲う激痛はすぐに消え去り、元の状態へと戻る。

だが、痛みによる思考の停止と幻術特有の酩酊感が、一瞬だったが五感を鈍らせた。


その間、僅か2秒。


だが隙は隙だ。


幻術を解かれた事を悟った長門は、次の行動に移った。



手に持っていた千本。そして懐から新たに取りだした手裏剣、千本を空に放り投げた。


そして印を組む。


(な、速すぎる!?)


下忍レベルであれば目視もできないような速度で印を組む長門。

複雑怪奇な印だったが、俺が元に戻って一歩踏み出すまでの時間、即ち僅か2秒で組み終わったのだろう。

結と思われる印を組んだ後、空中でボン、という音が多数、鳴り響く。


「これは・・・!」


音がした方向、上空を見上げた俺は、そこで我が目を疑う。


それぞれ一つだったはずのクナイ、千本、手裏剣が増殖していたのだ。


その上、それらはチャクラで統制されているのか、空中に浮いたまま落ちてこない。


(無機物の影分身か!?)


手裏剣影分身の術と同じ原理だろう。やがて長門は指揮者のように片手を上げた後。




「鉄雨の術」




深く静かな声で術の名前を告げた後、俺に向けて上げた片手を振り下ろした。




同時。




宙に浮かんでいた凶器の群が、俺を目掛けて降り注いでくる。

千本、クナイは真っ直ぐ、手裏剣は俺を包囲するように回り込む軌道で。


(死ぬ)


瞬時に判断した俺は、天狐のチャクラを解放した。

(・・・命は惜しいけど!)

ここで死んでは意味がない。持てる全てで抗わなければ、ここで俺は終わってしまうだろう。



降り注ぐ鉄の雨を冷静に見据える。

そして十分に引きつけた後、チャクラで身体能力を強化。

しゃがみ込み全身のバネを活かして、地面を蹴り、前方へと走り出す。






蹴った地面が、その勢いに押され爆発する。




土が宙に舞い上がった。




俺は低姿勢を保ちながらも更に加速する。

目の前に僅かだがあった凶器群を、チャクラを篭めた掌打で弾く。

背中にいくらか当たったが、防刃を施している服の御陰で、刺さりはしなかった。


守られていない腕と頬の部分をいくらか掠めたが、気にせず直進。


障害を取り除いた俺は、立ちすくむ長門へと肉迫。


(よし)


後方から、何かが地面に突き刺さる音がした。クナイ群だ。急加速した俺の動きを捉えきれなかったのだろう。



「ふっ!」


近接した俺は間合いに入ったと同時、牽制である右掌打を放った。

体重の載っていない軽い一撃だ。当然、それは片手で弾かれてしまう。

(かかった)

弾かれた手、狼狽えずにすぐさま引き戻すと同時、逆手、左手でで返しの掌打を放つ。

狙いは腹部だ。

だが、それも片手で弾かれてしまう。

『・・・其処じゃ!』

(ああ!)

両手は封じた。

初撃、牽制の掌打で出した手は、二撃目の腹部の掌打を放つ際に引き寄せている。


(裏の裏!)


二撃目も牽制。

牽制で手打ちだった初撃とは違う、倒すための一打。

至近で最速、最小限の震脚、同時踏み込みによる反動を殺さず、腰に乗せ、その腰をひねる。

全身を連動させた上で、生まれた力を作用点である掌に手中する。

最速を意識した一撃。

狙いは肋骨。相手の動きを制限するためだ。ここが折れれば、痛みにより相手の動きは制限される。

(なっ、固い!?)

だが、掌に感じた手応えは満足できるものでは無かった。


固い・・・まるで岩か何かを殴ったかのような感触。


(・・・くそ!)


心の中で叫ぶ。

恐らくは土遁による防御術だろう。

(裏目に出たな)

奥義・・・衝撃を浸透する掌打を放っていれば、あるいは幾らかのダメージを与えられていたのかもしれない。

だが、今のは速度と外部破壊という観点での威力を重視した掌打だった。土遁による防御で防がれてしまったので、ダメージはほぼゼロであろう。

俺はその事実を悟り、内心で舌打ちをする。


「しっ!」

長門は手を退いた俺に向かって、追撃をしかけてくる。

袖口から黒い刀を取りだし、俺の首目掛けて振り下ろしてきた。

「ん!」

結構な速さだったが、防げない程でもない。俺は懐から再びクナイを取り出し、その一撃を防ぐ。

合わさる刃。鉄と鉄がぶつかる音がする。

相手は刀で、俺はクナイだ。お互いに突き出し、力を篭めて押し合う。

(・・・どうする、どうする・・・)

押し合いながら、一連の攻防を思い出しながら戦術を考える。

(・・・中距離では相手の方が有利だな)

見たところ術の種類、印の速度、忍術の威力・精度・・・全てにおいて相手の方が圧倒的に上だ。

(近接戦闘に限っては・・・俺の方が有利か?)

長門の体術の練度、まあ普通の上忍に比べても高い位階にあるが・・・俺よりは若干下だ。

今の土遁による防御忍術は確かに厄介だが、浸透の一撃ならば問題は無いだろう。


それに、防御の上から打ち砕く事のできる、俺の切り札・・・螺旋丸もある。

それは相手も察したのだろう。


「くっ・・!」


長門は刀を押すのをやめ、その力を横に逸らした。

押していたクナイを横にいなされ、俺は体勢を崩した・・・かのように見せる。

フェイクによる誘いだ。だが、長門は乗ってこなかった。

取りだした黒い刀を再び袖口に収めながら、後方へと跳躍したのだ。


「・・・っ逃がすか!」

距離を離されてはたまらないと、俺は下がる長門に追いすがる。

長門は後方に着地した後、再び距離を取るために後方へと跳躍するかのように思われたが、その場に留まった。

直後の動作は予想外だった。



印を組まず、ただこちらに向かって手をかざしただけ。



「っなん・・・!?」


それだけで、俺は弾き飛ばされた。

予想外の事態に混乱し、体勢を整えることもできずに、後方の大樹へと叩きつけられる。


(・・・っつ~、今のは一体何だよ・・)

困惑する。

だが、考えている暇は無い。この中距離という間合いは不味いのだ。

背にある大樹をスタート台代わりに、勢いよく蹴りつけながら俺は再び間合いを詰めようとする。

対する長門は、後ろにさがりながら印を組みだした。

(忍術!)

迎撃の忍術だろう。

(ここは行くべきか、退くべきか)

一瞬の思考。

逡巡しながらも決断する。

(・・・肉を切らせて骨を『退け!』)


その直前、キューちゃんが俺に向かって叫ぶ。


(了解!)


距離を詰めるため、前方に体重を傾けていた俺だったが、キューちゃんの声に従い、その体重を後方にシフトさせる


後ろに跳躍。着地する。

その直後だった。


「風遁」


尋常じゃない速度で印を組んでいた長門。

複雑かつ長大な印を組み終えたと同時、両手を少し広げた。



森の中、柏手が鳴る。




「風神烈破」




手と手が合わさり、乾いた音が周囲に響いた。




同時、大気が鳴動した。



合わされた掌から生じた烈風が、全てを蹂躙したのだ。

周囲にある大気、岩、木々、地面・・・大小問わず、一定の範囲内にある全てのものが切り刻まれた。

真空の刃、恐らくはカマイタチの術と同じ原理の術。



「なんつー無茶苦茶な・・・!」


だが、威力も範囲も桁違い。真空の刃による全方位無差別攻撃だ。

極大かつ多数の烈風は勢いのまま広がり、数秒後には全てを飲み込む竜巻となった。


「くっ・・・・!」


俺はそれに呑まれないよう、地面にしがみつく。

冗談みたいな規模の術だ。突っ込まなくてよかったと心底思う。背中には冷や汗がびっしょりだ。

『冗談じゃないね、まったく』

(・・・同意)

Aランク、いやSに近いのではないかという程の風遁術。あれだけの術・・・今までお目に掛かった事がないね。

あのまま突っ込んでいたら骨も肉もなかった。挽肉にされていた。

『・・・迂闊じゃぞ!』

(ごめん、キューちゃん)

キューちゃんの怒鳴り声。俺は謝罪する。

『あれ、誘いだったね』

(・・・そうだな)

誘い込み、仕留めるつもりだったのだろう。まんまと引っかかる所だった。

『ひとまず、落ち着いて』

(ああ)

深呼吸をする。

やがて竜巻は拡散し、消え去った。

俺はしがみついていた岩を放し、立ち上がった後に長門の方を見る。

(あれだけの忍術を使ったってのに・・・!)

まるでチャクラが減っていないかのよう。無表情のまま、腕を組みこちらを見ている。どうやら、まだまだ余裕がありそうな長門を前に、俺はため息を吐いた。

(迂闊には近づけないな・・・)

まだまだ使える、と判断した方がいいだろう。

(札の枚数が見えない。切り札がいくらあるのか・・・)

予想していたより遙かに厄介な相手だ。結界の中ということもあり、口寄せの術は俺と同じで使えないようだけど・・・

『底が見えないね』

(そうだな・・・)

『不用意な踏み込み、御法度じゃぞ』

(そうだね・・・)

風遁・風神烈破。

俺はあの術の威力と範囲を思い出し、身震いする。

『・・・あれを完全に防ぐ手だては・・・・無い、ね』

マダオの呟きに同意する。火遁忍術が使えない俺には、あの術は破れない。

(そうだ、キューちゃんの狐火・・・無理か)

『・・・瞳術による幻術が厄介じゃの』

キューちゃんを外に出した直後、先程のように幻術を使われるかもしれない。

『う~ん、まず間違いなく使ってくるだろうね』

それを見越しての風遁術かもしれない。どこまで見透かされているのかわからない今、最悪を考えて行動しなければいけない。

(いよいよ手詰まりか・・・)

頭を抱え込む俺。

長門はそんな俺の様子を見た後、嘲笑を浴びせかけてくる。


「・・・どうした?」

(・・・どうしたもこうしたも)

俺は頭をぽりぽりとかきながら答える。



・・・あ、そうだ。


「・・・いや、俺一般人なんで・・・・デタラメーズのやりとりにはついていけないんで」

首を振る。

「・・・お家に帰っていいっすか?」

塾があるんで、と笑ってみるが、長門は取り合ってくれなかった。


「駄目だ・・・ふん、時間稼ぎにも付き合わんぞ」


一瞬で狙いを看破された。ちくしょう、増援を期待しての時間稼ぎも無駄か。

(・・・はははのは)

『・・・げへへのへ』

『お主ら・・・』

いや、だってねキューちゃん。もう苦笑するしかないじゃないですか。




「かくなる上は・・・」

「ふん、かくなる上は?」

俺は両手を前方に翳し、その手を踊らせる。


円を描くかのような軌道。深く呼気を発しながらチャクラを身に纏い、相手を睨み付ける。



(手詰まりな以上、取れる選択肢はたった一つ)

『・・・手は、あるのか?』

『まさか、あれを使うのかい!?』

(できれば使いたくなかったがな)


足を広げ、構えを取る。


「九尾流奥義・・・」


奥義、という言葉を聞いた長門は表情を真剣なものに替え、迎撃の構えを取った。



直後、俺は両目をキュピーンと光らせた後、片腕を腰にそえる。



「・・・敵前!」


片方の拳を前に出し、全速力で駆け出す。



「大逆走!!」



後方に。



「・・・は?」



長門の間抜けな声を尻に、俺はマジで逃げ出した。












「何とか逃げ出せた・・・ってそりゃ追ってくるよな」

遠く、後方から、長門の怒声が聞こえてくる。どうやら正気を取り直したようだ。

(・・・足はあっちの方が速いか)

振り返り、呟く。なにやら足に少量の雷を纏って移動しているようだけど。

『うーん、どこかで見たような・・・でもちょっと違うようだし・・・』

(つーか速すぎるよ・・・)


僅か数秒で結構な距離まで近づかれてしまった。


「・・・待て!」

はっきりと声が聞こえる距離まで近づかれた。

だが、無視だ。

「けっ、待てと言われて待つ馬鹿がいるか!」

尻を叩きながら答え、逃げ続ける。


方針変更だ。


ここは、時間稼ぎに徹する。自来也か誰か、この結界内に介入するまで逃げまくる。


避けと逃げに徹すれば、何とかしのげるだろう。

『かつ、戦術を考えるんだね』

(その通り。まず俺を吹き飛ばした術だけど、あれ・・・どう見た?)

『限定した対象を弾き飛ばす術だね』

確かに。地面には何の影響も及ぼしていなかったし、弾き飛ばされたのは俺だけだった。

『つまり飛び道具は不可。クナイも手裏剣も無駄。あるいは中距離術全てを防ぐ・・・しかも、無印。厄介な術だよ』

精霊麺も弾くだろう。まあ口寄せが使えない以上、それも使えないんだけどね。

『ああ、くそ・・・万能の防御忍術だね』

(全てを遠ざけるんだもんな)

マダオの呟きに同意する。単純が故に破る手段は限られてくる。

しかし、弾き飛ばす、遠ざける力とは・・・いったいどういう力なんだろうか。

(・・・斥力、みたいなもんか)

弾きとばされた様子を思い出しながら、俺は別の事を思い出していた。

昔見た漫画、タ○るーと君だ。

(確か、斥力んだったっけか)

すると、あいつは重力でも操っているのだろうか。

(・・・まあ、影を操る忍者もいる事だし)

そう珍しい事ではないのかもしれない。

(引力も操る、とかありそうだな)

『そうすると厄介だね』

(ああ。でも、近接戦は望む所だぞ?)

『・・・まあ、こちらに分はあるかもね。だけど、そんなに甘い相手ではないよ』

(それは分かってるよ)

不意を打たない限り、あるいは向こうから来ない限り、近接戦に持ち込むのは無理だろう。迂闊に近づけばやられるだけだし。

近接するにしても一瞬で懐に飛び込み、一撃加えた後は直ぐに距離を取らなければならないだろう。

(まあ、油断はしないが・・・!?)

『っ回り込まれたよ!』


一瞬だった。背後の気配、木の枝の上で止まったかと思うと、消えた。

目の前に現れたのだ。

先程とは違い、何やら全身に雷を纏っているが、あれは何かの術だろうか。

『あれは・・・・!』

マダオが叫ぶ。だが、今は取り合っている暇はない。

余裕の表情を浮かべる長門。その面に。

「克ッ!」

一発くれてやる方を優先する。

回り込んだ長門を前に、俺は止まらない。

俺がたじろぐとでも思ったのだろうか、長門の目が驚愕の色を見せる。

即座に構えるが、少し遅い。

だが、タイミング的には微妙だった。


相討ちになるか・・・こちらが若干遅いか。


(だが、ここは行く!)

先程とは違い、長門は印を組んでいない。つまり、あの風遁術は使えない筈だ。

決断した俺は最後の一歩で更に速度を上げる。


『いけ、吶喊じゃ!』

「応よ!」

大きさよりも速度重視。突っ込みながら小規模の螺旋丸を叩き込む。

「くっ!」

だが、それは後一歩の所で届かない。例の斥力を操る術だろう。当たる前に、弾かれてしまった。


(も、いっちょ!)


だけどまだまだ。

俺は弾き飛ばされながらも、後ろ手に持っていたクナイにチャクラを込めた後、無造作に投じる。

それを操襲刃の術で操り、死角から長門を襲わせる。

だが相手は手練れ。そのクナイに気づかない筈がない。

長門は飛来するクナイの軌道を見切り、たたき落とそうとクナイを振る。



だが。


「・・・ボン」

俺はつぶやきと同時に、そのクナイを爆発させる。

影分身+クナイ変化+分身大爆破の術。

禁術クラスのチャクラを消費する忍術だが、効果はあったようだ。


先に見せた起爆札付きのクナイも、フェイクとなった。直撃とはいかないが、ダメージは与えられたようだ。


「・・・くっ」


爆発する一瞬前に悟ったのか、長門は後方に飛んだようだ。だが、爆圧の影響範囲からは逃れられなかった。

そのまま吹き飛ばされ、後方にあった大樹でしたたかに背中を打ったのか、咳き込んでいる。


(まずは、一撃)

何とか、一撃だ。


まともに正面から対峙すればこちらが負けるだろうが、逃げながらの乱戦に持ち込めば何とかいける。

相手のペースに合わせる必要もないし、ここで踏ん張る理由もない。

(臨機応変に・・・追ってこなければ・・・そのまま、逃げてもいい)

何より、生き残る方を優先する。


『距離を取った方がいいよ』

(分かった)

次は煙玉を使って、距離を取ろう。

そう思った俺は跳躍し、少し離れた所に着地。

その時だった。


(・・・・・・っ!?)

鋭い殺気が相手から発せられた。

強烈な殺気に、身が竦む。


(・・・)


だが、ここで弱気を見せてはいかない。

俺は何とか余裕の表情を取り繕い、肩を竦めてやる。


「・・・・」


長門が、額に青筋を浮かべる。


そして印を組み始めた。

再び、なにがしかの術を使おうというのだろう。


だが、俺は煙玉を炸裂させる。

「・・・また、逃げるか!」

「明日への撤退だ! いい加減お家に帰れ、神様!」

煙の中、俺は再び逃げだそうと、後ろを向く---

「させるか!」

---振りをして、長門がいる方向へと全力で跳躍する。

「万象天引!」

長門の声を聞き、そして身体に作用した力を感じた俺は、ほくそ笑む。

(やっぱり!)

「なっ!?」

跳躍力に引力を加え、全速で接近。

相手にとっては予想外の速度。

迎撃も、間に合わない。

「しっ!」

黒い刀を取り出そうとしていた長門の手を払い、逆手で掌打。

長門の胴部に浸透の掌打を放つ。

「ぐあっ!?」

困惑気味の叫び声が聞こえる。

今度は、例の土遁術で防げなかったようだ。斥力で弾き飛ばされもしなかった。

掌の先、手応えを感じた俺は即座に後方へと跳躍し、距離を取る。深追いは禁物だ。

(これで、逃げられるか・・・)

手応えはあった。戦闘不能、とまではいかないが、痛撃は与えられた筈。

『逃げようか』



(ああ、そうだな・・・・・・・・・・・っ!?)


全身に悪寒が走った。


尋常じゃない殺気を感じた俺は、その発生源・・・・木の枝で俯き佇む長門の方を見る。


視線の先、長門は顔ゆっくりと上げる。

その顔には、笑みが浮かんでいた。


「・・・本気になったようだな?」

俺の問い。

それに対し、長門は笑みを浮かべながら「ああ」と答えた。

「正直、お前の事を舐めていた・・・それについて、謝罪しよう」



「・・・それは別にいいです。それより、お家に帰して下さい」

「・・・駄目だ」

笑顔で、断言された。

「眠る場所なら作ってやる・・・・だから、泊まっていけ」


---此処に、永遠に。


そう言いながら、長門は木の枝から飛び降りた。



(印、また長いな・・・!)


先程のような大威力広範囲の忍術を使うつもりなのだろう。


(目で見ながらきっちりと避けきる)


迂闊に逃げれば、やられるかもしれないと考えた俺は、防御の体勢を取った。


(さっきは風遁だったけど・・・)


見るに、どうも五行の忍術の全てを使いこなせているようだ。


(雷遁ならば風陣壁で防げる)

だが、その可能性は薄い。

雷遁はもう使ってこないだろう。五行の術全てを扱える相手が、わざわざ相性の悪い術を選んで使ってくるとは思えない。


果たして、その通りであった。


長門は地面に着地した直後、そのまま地面に両の手を叩きつけ、静かな声で告げる。



「土遁・千山峰」



手をついた箇所の地面が僅かに撓む。


直後、土は山と成り、牙となった。


最初に見えたのは、先程と同じ土の槍、その数は僅かに三つ。

だが、槍の大きさも長さも、その迫り来る速度も桁違い。

まるで先程の土流槍の術がつまようじに見えるほど。

あまりにも巨大な槍であった。



「くあっ!?」





かなりの速度で迫り来る巨大な槍を、俺は何とか斜め後ろ方向に飛び退く事で避ける。

際どいタイミングだったが、避けられた。


『まだ終わってないよ!』


マダオの叫びと同時だ。土の巨槍が僅かに蠢く。


「ってまたかよ!?」


巨大な土の槍の側面から、土の槍再び生えてきたのだ。


再び俺を貫かんと、槍が殺到する。


「くっ!」


そこからは繰り返し。

槍から槍が生まれ、繰り返し俺を貫かんと襲ってくる。

瞬身の術で大きく距離を取ろうとするが、隙がない。避ける事だけで精一杯だった。注意を術の方に逸らしてしまうと、たちまち貫かれてしまう。

跳躍しながら逃げ続ける俺に向かって、幾重にも襲ってくる土の槍。


9割9分は砕き、あるいは逸らす事で捌いていったが、全てを防ぎきるのは無理だった。


「あぐっ!」


細く尖った土の槍の先端が、左手と右足を貫いた。

だが、まだ動ける。


俺は山の頂上から、長門がいる方向とは逆の方向に飛び降りる。

そして、再び逃げようとする。


(・・・・!?)


直後、背後から熱気を感じた。


振り返る。


目の前にあるのは、幾百の土の槍が折り重なってできた山だったが、その向こうから熱風が吹いていた。


山の死角にいるせいで、長門の姿は見えなかったが・・・



「火遁・火龍槍」

声が聞こえた。

同時、山の向こうが一際大きく、更に赤く染まった。

土の槍で出来た山、その僅かな隙間から燃えさかる炎が見えた。



「なっ!?」


直後、その隙間を砕きながら二つ。

そして山の上方と左右から迂回して、八つ。

合計で十を数える炎の槍が俺目掛けて飛んできた。


(速っ!)

まず最初にやってきたのは、隙間から一直線にこちらにやってきた炎。

数は二つ。

火遁にあるまじき速度で飛来したそれを、瞬身の術で横に移動し避ける。

標的を見失った炎の槍は、俺の背後にあった大樹を焼き貫く。

(マジかよ!)

刺さった直後、一瞬でその大樹を貫通したのだ。

大穴が開き、支えである幹の部分を失った大樹が倒れていく。


(まだ!)

だが、それを見ている暇は無い。

四方八方から迫ってくる炎の槍をどうにかしないといけないからだ。


「・・・こなくそ!」


俺はほぼ同時にやってくる炎の槍を見切り、その間を何とかすりぬけ、そのまま飛び上がった。


標的を見失った炎の槍は互いに激突しあい、合わさった後爆発して四散する。


「熱ちちち!」


予想が出来た事なので、距離は十分取っていたつもりだったが、距離が足りなかったようだ。

服がある場所は無事だったし、顔は腕で庇っていたので問題はなかったが、剥き出しになっている両手部が熱い。

軽度の火傷を負ってしまったようだ。髪の毛の先も、ちりちりと焼けている。

とんでもない熱量だ。

(ってパンチパーマになってしまうがな!)

正真正銘の小池さんになってしまう。

小池さんは尊敬に値する人物だが、パンチパーマは嫌だ。
ラーメンは大好きだが、金髪のパンチパーマは嫌なのだ。
キリハが見たら卒倒してしまうことうけあいだ。

『でもパンチパーマに悪い奴はいない』

(・・・それ、天然の間違いだろ・・・っておい)

視界の端に、赤が移る。そして、再び熱気を感じた。

(まさか・・・!)

炎の槍。

再び、迫り来る。

(おかわりかよ・・・くそ!)


決断は一瞬だった。

影分身の術を使う。

チャクラを大量に消費する影分身の術はあまり使いたくないのだが、そうも言っていられない。

余波と大樹の傷痕を見て分かったが、あの火炎の槍の威力・・・ちょっと洒落になっていない。

直撃されれば即死は必死。即死せずとも、重度の火傷を負うことだろう。

(・・・それは不味い)

切り傷や擦り傷はともかく、火傷はまずい。

痛みにより集中力が下がってしまう。そうなると負けは確定だ。


「「「螺旋丸!」」」


それを防ぐため、まず俺と2人の影分身が大玉螺旋丸を使い、それを胸元で合わせる。

螺旋の大玉が合成し、超大玉の螺旋丸が出来上がる。


(螺旋砲弾の応用だ!)


失敗技の応用とも言う。


合わさった大玉を尻に、本体の俺だけその大玉から距離を取った。


制御する者が一人欠けたことで、抑えきれなくなった大玉が暴れだす。


「「「解放!」」」


留めるのを止め、解放する。

砲弾のように、留めながら相手に放つのではなく、その場で拡散させたのだ。


抑圧された大量のチャクラは拡散しながら渦を生み出す。

やがては、小規模の竜巻となる。

その竜巻は襲い来る炎の槍を全て飲み込んだ上で、消し飛ばした。



同時、竜巻の余波で影分身体も消し飛ばされた。



少し離れていた俺も吹き飛ばされるが、それが狙いでもある。


(このまま!)

弾き飛ばされた勢いを活かして、距離を離す。即ち、逃げるのだ。

結界の外まで行けば、飛雷神の術を使える。

相手の本気に付き合う義理はないし、守らなければいけない何かがある訳でもない。

相手の方も、この一戦で随分と消耗した筈だ。このまま綱手の方に行くとも思えない。


(・・・長門の位置は・・・・)


逃げる直前、俺は上空高く舞い上がりながらも、長門の位置を確かめようと振り返る。



すると。


(・・・飛んでる!?)


火遁を放った直後、飛び上がったのか。


(また・・・!)


印を組んでいるのが見える。

こちらに向けて、最後の術を放つようだ


(だが、距離は離れている・・・いける!)


この距離ならば、術を使っても辿り着くまでにいくらかの時間がかかる。

どんな術がこようとも、防御する時間は十分にある。直線でくるならば、螺旋丸で弾ける。

術の衝撃による反動を活かして、弾き飛ばされれば更に距離を稼げる。



このまま何事もなく逃げられる。

そう思った。




だが、その考えは甘かった。




印を組み終えた後、長門は両手を重ねて抱え込み、脇に添える。



(両手に・・・大気が吸い込まれてく?)


周囲の煙が、長門に集まっていくのが見えた。


(大気の、凝縮・・・・・っ来る!)


長門は両手をこちらに突き出し、何事か呟いた。


距離が遠いので音は届かなかったが、唇は読めた。



(風遁・風神砲弾?)


長門から、不可視の何かが放たれる。

大気が唸る。

空気を切り裂く音が聞こえる。

(速すぎ・・・・)

背筋に悪寒が走る。

繰り出しておいた螺旋丸を両手に展開、そのまま突き出す。

だが、核の部分が見えないため、何処に突き出せばいいのか分からない。

(優先して守るのは・・・!)

二つ。頭と、急所である。

両部を守るため、俺は螺旋丸を前に構える。


・・・手応えは、あった。

二つの螺旋丸で風の砲弾、その一部は削れたようだ。





だが、全ては防げなかった。




肝心の砲弾の核部は消せなかったのだ。




「ガアッ!?」

腹に、衝撃が走る。

大気の塊で出来た砲弾は、頭と急所を守るために突き出された螺旋丸の防御をすり抜け、腹部へと直撃した。

肋骨が折れる音が聞こえる。



直後、砲弾が破裂した。


「・・・・・・・・!?」


あまりの激痛に声も出せなかった。


腹部を中心として、全身が切り刻まれたのだ。


防刃服の上を、風の刃が蹂躙する。

風神烈破ほどの切断力はないようだが、それでもかなりの威力だった。




俺は炸裂する風の刃と激風に押され、矢のような速度で更に空中へと吹き飛ばされた。






『メンマ!?』

吹き飛ばされる中、キューちゃんの悲痛な叫びが聞こえた。



『気絶しちゃ駄目だ!』


(ああ、分かって、る)

吹き飛ばされた勢いで、頭が揺さぶられた。

しかも、身体が前後左右に回転している。脳が揺れる。

体勢を整えなければ・・・

(えっと、着地、しなけりゃ、不味い、もんな)

高度が高度だし、勢いもある。

このまま受け身もとらずに地面に叩きつけられれば、ひとたまりもないだろう。




だけど、身体が上手く動かない。





『メ・・・・・』

声が遠い。

全身を襲う疲労感と激痛、そして三半規管に掛かる負担。

『まず・・・・・』

遠雷のような声が、頭のどこかで鳴り響く。



「く・・・・ゴホッ・・・・ゴボッ・・」


体勢を整えるのには成功したが、咳が止まらない。


(血が・・・・)

胸が痛い。咳に血が混じっている。

どうやら折れた肋骨が肺に刺さったようだ。


(まず・・・・)


息がはき出せない。気管が血で詰まっているのか。


(呼吸が、できな・・・・)


意識が遠ざかる。


『・・・駄目!』

『気を確か・・・・』



キューちゃんとマダオの悲痛な叫びを聞きながら。



(・・・・ごめ・・・・ん・・・)





俺は意識を失った。









[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 四十二話
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2009/10/18 11:24




『ここは・・・・・?』



暗闇の中、目が覚めた俺はあたりを見回す。


『いや、夢か』

そして、現実では無いことを悟る。

今までも、何度か見たことがある。これは、夢と分かる夢だろう。


『・・・あれは・・・・キューちゃんとマダオ・・・?』


暗闇の向こう、2人の姿が見える。

マダオは本来の姿、キューちゃんも大人の姿になっている。

こちらには気づいていないようだ。


『・・・・・で・・・お主は・・・・』

『・・・・仕方な・・・・・既に・・・・・』

何やら話し合っているようだ。途切れ途切れだが、2人の話声が聞こえてくる。




『・・・・・すまな・・・・・本当に・・・・・』

『なに・・・・出来すぎ・・・・・』


謝るマダオに、ため息を吐くキューちゃん。


『・・・・それで、いいの?』

『・・・・』


そして、最後。


キューちゃんは悲しく笑いながら、言う。


『叶わなくても・・・・夢は、夢じゃろう?』


本当に綺麗な、そしてどこか儚い笑顔だった。

いつも浮かべているものとは、違う。



『ま・・・・・・』


「待ってくれ」と言おうとした。

だが、声が出ない。


手を伸ばしても届かない。


叫ぼうとするが、声にならない。


足も動かない。




『く・・・・』



唇を噛みながら、それでも手を伸ばし、叫ぶ。





『・・・・・・ま』








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「・・・待ってくれっ!?」

「痛い!?」

視界に星が舞い散る。

そして、次に訪れたのは額の痛み。

だれかの頭とぶつかってしまったようだ。

「っつ~・・・」

「あいたたた・・・」

額を抑えながら呻く。


「・・・・あれ?」

そして、困惑する。

「あいたたた・・・目、覚めました?」


ぶつかった相手。額を抑えながら涙目になっている人物を見た俺は、思わず呟く。


「・・・・邪神?」

「何ですかそれは・・・」

桃色の邪神は額に青筋を浮かべながら、口をひきつらしている。


『・・・コマンド?』


「→逃げる・・・って違うよ」

余計な事言うなマダオ、と言いながら頭を振った後、状況を把握する。


「えっと、ここは・・・」

「日向の屋敷です。キリハのお兄さん」

「え・・・俺って確か・・・」

何が何だか分からない。

何で此処にいるのか、額に手を当て思い出そうとする。

(それよりも・・・日向? いや、それよりも何で・・・・・・ん?)


考え事をしている最中、襖が開く音がした。






入り口の方を見る。其処には、金髪と黒髪、2人の少女の姿があった。


「お兄ちゃん・・・・?」

声を発した金髪の少女の方の耳には、見覚えのある・・・というか俺が注文したあの緑色のイヤリングが付いていた。


「・・・まさか、キリハ?」

「・・・お兄ちゃん!」


目尻に涙を浮かべながら、こちらに駆け出そうとするキリハ。

だが。


「それは待ってねキリハちゃん」

「モルスァ!?」


キリハは足を出した直後、その足を隣にいたヒナタにすくわれた。

そして踏み出した勢いのまま、顔から畳へと突っ込む。

「ああああああああぁぁぁぁ・・・・」

そして転んだ勢いのまま、隣にある部屋まで転げ回っていく。


「・・・・」

『・・・・』

『・・・・』

地獄の様な沈黙。

そんな中、ヒナタは俺の横に座った後、話しかけてきた。

「初めまして・・・と、いうか」

あの時以来ですか、と正座しながらヒナタが、笑みを浮かべる。


キリハが転げ回っていった向こうの部屋から、どんがらがっしゃーんという音が聞こえるが、あくまで無視である。


「・・・ええと、そうだね」

俺は何とか気を取り直して、返事をした。


「まずはあの時のお礼を。助けていただいて、本当にありがとうございました」

「・・・ええと、シカマルから?」

「はい。中忍試験に合格した時に、シカマル君から教えられました」

あの時はちょっと手が滑ってしまいましたけど、とヒナタは笑う。

サクラが少し引いているが、どうしたのだろう。

「そう・・・・」

礼を言われた俺は考える。

あの行動は偶然の産物、出くわしたが故の成り行き。所謂意識しての事ではなかった。

ので、こうお礼を言われても・・・何と返したらいいのか。

『無難に言えばよかろう。どうしたしまして、で良いのではないのか?』

(そうだね、キューちゃん・・・・ん?)


キューちゃんの声を聞いた時、両肩がびくっと跳ねる。


(何か・・・・言わなければならない事が・・・)


頭をよぎる。だが、思い出せない。


(・・・後で聞くか)

ここはひとまず、ヒナタの礼に答えよう。

「・・・どういたしまして。それよりも、何で俺は此処に?」

「え、覚えていないんですか?」

ヒナタが首を傾げる。

「いたたた・・・・酷いよ、ヒナタちゃん」

その時、向こうの部屋から、キリハが戻ってきた。

「ごめんね、キリハちゃん。でも、あのままだとお兄さんも危ないと思ったから」

まだ怪我の方も完治していないしね、と笑う。

対するキリハはその笑顔から何かを感じ取ったのか、「そ、そうだね」とひきつった笑みだけを返す。

「そういえば・・・まだ、痛むな」

胸を抑える。

「一時は本当に危ない状態でした」

「・・・というか、かなり不味い状況で気絶したのに」

よく生きてたな俺、と安堵の息を吐く。

「・・・・本当に、間一髪でした。死の森の方から、急に人が飛んでくるものですから・・・」

すごく驚きました、とヒナタが言う。

「・・・えっと、ヒナタ・・・さん? が助けてくれたのか」

「そうです。あと、ヒナタと呼んで下さい」

ちょっとはにかんだような笑顔で言ってくる。

「え、でも」

「呼んで下さい」

「え、で「呼んで下さい」」

(え、何か性格違くね?)

何が彼女にあったのだろうか、と首を傾げる。

「ええと・・・ヒナタ?」

「はい!」

ヒナタは少し頬を赤くしながら、大きな声で答える。

(おおう、癒し系オーラが・・)

白に匹敵する程のほんわかオーラを感知。キューちゃん、事件です!

『・・・お主、後でセッキョーな』

(そんなご無体な!)

『・・・いや、それよりも。キリちゃんが何か言おうとしてるよ』

マダオの言葉を聞いた俺は、キリハの方を見る。キリハはため息を吐きながら、語り出す。

「・・・死の森の外で待機していたヒナタちゃんが、白眼で見つけてね」

咄嗟に追いかけ、回天で受け止めたんだよ、と言う。

それを聞いた俺は、ヒナタに向かって礼を言う。

「そうなんだ、ありがとうヒナタ・・って何で顔が赤いの?」


見れば、ヒナタの顔は林檎みたいに真っ赤になっていた。


「ああ・・・その、えっと」


ヒナタは指をもじもじさせながら、視線を下に逸らしている。

(あれ? 俺変な事いった?)


と、思った時だ。


「・・・回天でも受け止めきれず、結果的に姉上はその大きな胸で受け止めたのですよ」


入り口の方から声。見れば、ヒナタとおなじ黒髪、そして白い眼をした少女が佇んでいた。

「あれ、ハナビちゃんだ」

何処か気の強そうな少女。これが、日向ハナビか。

「いらっしゃいませ、キリハさん、サクラさん・・・・それに、初めましてうずまきナルトさん」


「ああ、初めまして・・・・ってそれよりも。

胸で、ってどういうことと、突然乱入してきた日向ハナビに聞いてみる。

「いえ、回天というか、全身から発したチャクラの膜であなたを受け止めるまでは良かったらしいのですが・・・」

そこから、まさか回転して弾き飛ばす事はできないでしょう、とため息を吐く。

「勢いを殺しきれないまま・・・それでもナルトさんを離さずに、全身で抱きしめながら転がったそうですよ」

加え、胸に常備している大きい二つのクッションが良かったようです、と呟きながら、ハナビはため息を吐いた。

何処か憂鬱な表情を浮かべているのは何故だろう。

「でも、そこで姉上は気絶したようで・・・ってすいません、姐上」

それ以上の黒いチャクラは勘弁して下さい、とひきつった笑いを浮かべる。

「2人、抱き合ったままの状態で気絶していたとか。傍から見れば、お兄ちゃんがヒナタちゃんを押し倒しているように見えたらしいよ」

俺の顔がヒナタの胸の間に挟まっていたらしい。

「ちなみに第一発見者は近くにいた父上と私でした」

その後、同じ班の忍びも追いついてきたらしい。

『・・・ええと、よく生きてたね』

マダオが言う。

(ぼそっと呟くなよ。怖いだろ)

「ちなみに父上はその光景を見た途端、八卦六十四掌の構えを取っていました」

(よく生きてたな俺・・・)

虚空を見上げながら呟く。

「えっと、それは流石に冗談だよね?」

キリハが訊ねる。

「本気と書いてマジでした。すんでの所で私がナルトさんの名前を呼ばなければ・・・」

ハナビはそこで黙りこみ、視線を逸らした。

「ハナビちゃんに話しておいてよかった・・・」

キリハが安堵のため息を吐く。

「あ、ちなみに中忍ですんで、私」

「そうか・・・ありがとう。本当にありがとう。命の恩人だよ」

『ヒアシさんも大概だねえ・・・』

『・・・・お主、キリハが見知らぬ男に押し倒されていたらどうする?』

『・・・え、螺旋丸で挽肉にするよ?』

当然じゃない、と言うマダオ。

俺とキューちゃんは、五十歩百歩ということわざを思い出していた。


「それにしてもクッション、か」


キリハの呟き。

それを聞いた俺は、思わずヒナタの方を見てしまった。


(・・・・しかし、確かに)


でかいなおい、と呟きながら小さく頷く。

(でも、覚えていないのか・・・・・・くそ、もったいねえええええええええええええ・・・え?)


心の中心で悔しさを叫んでいる最中、後頭部を誰かにぐわしと掴まれた。


「・・・何を見ているのかなお兄ちゃん。あと、何を考えてるのかな?」


「・・・今は遠き理想郷を」


富士の如く聳えるそれを、見つめながら、返答する。


ハナビやキリハ、サクラとは明らかに違う。

多由也以上かもしれぬ。多由也は日本で言えば駒ヶ岳クラス。

テマリは宝剣岳。

それすらも上回る、圧倒的な戦力だ。正に日本一。


『・・・確かに、でかいね』

『・・・・マルカジリ? スリオロス?』


その山と、隣にいるハナビを見ながら、俺は思わずとある歌を口ずさんでしまいそうになる。

直後、乙女達は何かを悟ったのかぴきぴきと額に青筋を浮かべる。

「・・・何か、失礼な事を考えていませんか?」

「いや、確かにヒナタには叶わないけど・・・でもサスケ君に手伝ってもらえれば・・・キャッ」

「お兄ちゃん? 山は分かるけど、谷を越えてって、どういう意味かな? かな?」

『・・・ちくわ、美味しいよね。鉄アレイは御免だけど』

『・・・後で説教じゃ。火の実の刑じゃ』



場は混沌の渦と化した。

その後にあった事は思い出したくない。

俺は“人には未来がある”、という言葉だけを残して、ひとまず場を沈静化させた。


『いや、それだとシズネさんとかどうするの?』

(それは言わない約束だよおとっつあん)



閑話休題。



「そういえば、誰か治療してくれたんだ?」

「応急処置はシズネさんと火影様。その後は、サクラちゃんといのちゃんかな」

「・・・えっと、いの、ちゃん? 此処にはいないようだけど」

何かあったの、と聞く。

「どうもいの、全力を出しすぎたようで」

なんでも、俺の容態が安定した直後、ぶっ倒れたとの事。

今は実家の方で静養しているらしい。

「そうか・・・後で礼を言わなければなあ」

「・・・そうですね。そうすれば、いのも喜ぶと思います」

「うん・・・・あと、お兄ちゃん。これだけは聞いておかなければいけないんだけど」

そこで、キリハは表情を変える。忍びらしい、真剣な顔。

「一体、あの場所で誰と戦ったの? 戦った後の痕跡を見たけど・・・どうにも普通じゃなかったよ」

「ああ・・・・」

『そういえば、随分と派手にやりあったもんね』

死の森、随分と破壊してしまったなあ。そういえば。でも、仕方ないとも言える。

相手が相手だし。

「・・・暁の首領だよ。輪廻眼を持った忍びで・・・・」

「ちょ、ちょっと待って!?」

「暁の首領ですか!?」

「うん。というか、敬語はやめてほしいんだけど」

「ええと・・・いや、それより、あの暁・・・です・・・よな?」

「サクラちゃん、それ変だよ」

「・・・ええっと! 気を取り直して・・・それよりも!」

「はい!」

何故か背筋をただしてしまう。

「暁って、その・・・サスケ君のお兄さん、うちはイタチが居るっていう、あの?」

「・・・そう。その暁」

五代目から聞いてると思うけど、とため息を吐く。

「変態蛇・オカマ○もいた、あの暁」

「・・・元三忍の、大蛇丸ですか」

「そう。で、首領の奴は・・・それはもう凄かったよ。サシでは二度と戦りたくないね」

勝つビジョンが浮かばない。

「単純な力量で言えばあの大蛇○より確実に上だね。間違いなく。正に、変態的な強さだったよ」

「え、アレ以上・・・・ですか・・・」

大蛇○の強さと、師匠の事を思い出したのだろう。

あれ以上ですか、と呟いたサクラ。顔がどんどん青くなっていく。

「それよりも、あの後誰もあいつの姿を見てないの?」


「・・・はい。襲撃者は雨隠れと岩隠れ、それに霧隠れの中忍・上忍クラスの忍びによるものだけで」


首領のように、突出した能力を持つ忍びは、あの場には現れませんでした、とヒナタが言う。


「ちょっと。ちょっと待ってくれ。ええっと」


俺は驚いた。


「雨隠れはともかく、岩と霧もか!?」

「・・・はい。一体どこから侵入したのか・・・・襲撃班の中に、何人か混じっていました」

「何とか撃退しましたけど、かなりの被害を受けました。キバ君とシノ君、それにネジ兄さんも、少し前まで入院してましたし」

「・・・え、そんなに?」

「いえ、軽度の怪我でしたから。先週、退院しました」

「・・・先週? っていうか、あれから何日たったっけ」

どうにも、思考がはっきりしない。

「え、十日だけど・・・」

「十日・・・・じゃあ、我愛羅・・・いや、風影は?」

「砂隠れの里に帰られました。何でも、向こうでも襲撃事件があったらしくて」

聞けば、向こうも岩と霧と雨の混成部隊に襲撃されたらしい。

(・・・デイダラ、サソリは居なかったようだな)

『そうだね・・・でも、これってどういうことかな』

(・・・正直、分からん)

ため息を吐きながら、訊ねる。

「それで・・・雨はともかく、岩と霧に使者は出したのか・・・ってこれ以上聞くのは駄目か」

「いえ。火影様から、許可は出ていますので」

「そうか・・・それで?」

「・・・まだ戻ってきてないんです。もう一週間も経つのに」

ヒナタが悲しそうな表情を浮かべる。

『向こうで里の者に殺されたか、道中で暁の手の者に殺されたか・・・いずれにせよ、きな臭い事この上ないね』

「しかも、それに加えて、ね・・・・」

「何かあったのか?」

「霧と岩の方から・・・使者が来てね」

岩と霧、それぞれの使者が言うには、木の葉と砂の忍びに水影様と土影様が襲われた、らしい。

「・・・は? え、どういうこと?」

「行方不明になっていた忍びが、その・・・死体を見るに、木の葉と砂の忍びには違いないようで」

「向こうも、襲撃者の死体を見た時は随分と驚いていたようだけど」

何でも、日向ネジが白眼の洞察眼によって相手が動揺するのを察知したらしい。

「・・・それもあって、現在五大国の隠れ里は厳戒態勢に入っています」

「迂闊に動けば戦争、か」

『・・・いやはや、どうにも・・・分からない事が多すぎるね』

「ああ・・・ひとまず、綱手姫に報告するか」




そして、数時間後。

変化をした綱手が、日向邸にやってきた。


「おお、意識は回復したようだな」

「ええ、おかげさまで。それで、俺を襲った相手ですが・・・」

綱手に経緯を説明する。

今この場にいるのはシズネさん、キリハ、俺に綱手様だけだ。

ヒナタとサクラには悪いが、席を外してもらった。

「それにしても、輪廻眼か・・・」

綱手は顎に手を当てながら、忌々しげに呟いた。

「そうです。対峙して分かりましたけど、あれ尋常じゃないですよ・・・いくらなんでも強すぎる。

チャクラ量も馬鹿みたいに多かったし、忍術はどれも極めて殺傷能力の高い、厄介なものばかり」

思い出すだけで、手が震えてくる。

「ふむ・・・私も、そんな術は・・・・見たことも、聞いたこともないな」

「まあ例の、黒い何かは出てきませんでしたけど」

「・・・それは恐らく、正体を隠すためだろう。そんなデカブツを口寄せしたら、襲撃者が誰かすぐに分かるからな」

「で、しょうね。それはともかく、各里を襲った忍び達ですけど・・・どう見ます?」

「誰かが裏で糸を引いているのは間違いないだろう。だが、それが誰か・・・どうにも、確定できない」

そもそも情報が少なすぎる、と綱手は言う。

「他の里も馬鹿ではないでしょうから、すぐさま戦争・・・という事態にはならないでしょうが」

シズネさんがため息を吐く。

「まあ、今は軍備収縮の時代だからな。極めて明確な理由が無い限り、どの里も宣戦布告といった・・・まあ、迂闊な行動はできないだろう」

大名の意向もあるしな、と綱手は肩を竦める。

『それでも雷影殿あたりは迂闊に動きそうだけどね・・・』

マダオの呟きを聞いた俺は、問い返す。

(え、そんなに短絡的なのか?)

『うん』

すぐさま断言するマダオの言葉を聞き、雷影とは一体どういう奴なんだと頭を抱える。

「ん、どうした?」

「いえ、何でも雷影は短絡的だと、うちの居候が」

「・・・ああ。それだけど、な」

綱手の顔が曇る。

「・・・雷影殿がな。どうやら何者か襲撃されて・・・」

意識不明の重体らしい、と綱手が言った。

「・・・はあ!?」

俺は、驚愕の声を上げる。

「例の二尾が行方不明になった場所に雷影自ら出向いてな。そこで、何者かに襲撃されたらしい。
 雲隠れの里側はその事実を隠したかったようだが・・・どうにも動揺が大きすぎたらしい」

外まで情報が漏れていたんです、とシズネさんが苦笑する。

「・・・ああ、情報を封鎖しきれなかったのか」

二尾を失った直後、その動揺を収める立場にいる頭を更に失ったのだ。

(そりゃあ、動揺するか)

しかし、雷影って強かったのだろうか・・・ん?

(どうした、マダオ)

『ええっとね・・・あいつが使った、あの雷を身に纏う術なんだけど』

(ああ。あの移動速度が滅茶苦茶速くなる術か?)

どうにも完全には使いこなせていなかったようだけど。

『・・・うん。思い出した。あれ、雷影殿の得意忍術だよ』

(・・・は、まじで?)

・・・いや、そうか

「どうした?」


訊ねてくる綱手に、再び事情を説明する。


「・・・・頭が痛いな。あれは写輪眼でもコピーできない類の術だった筈だが・・・」

「・・・考えられるのは、輪廻眼の恩恵ですか。確かに、奴は五行の術、その全てを使いこなしてましたからね」

写輪眼のコピーとはまた違う原理を持っているのかもしれない。

「そもそも、忍術を開発したのは六道仙人。今、術が開発されて・・・昔よりその数は増えたんでしょうけど、あくまで輪廻眼によって生まれた術からの派生ですからね」

「そう言われれば、そんな気もするが・・・まあ白眼や写輪眼とは違い、今まで輪廻眼の使い手が現れた事などないからな」

そういった能力があるかもしれない、と綱手が言う。

「・・・そうですね。しかし、あの眼には何が見えているのでしょうか」

「知らんよ。私たちには理解できない何かが見えているのかもしれないが・・・」

それに共感する事はないだろうな、と綱手は言う。

「今までの行動、どうにも理解し難いものがある。何を目的としているのかは分からないが・・・」

そこでお茶を飲んで、言葉を続ける。

「どうにも、嫌な予感がする。防ぐために動かなければならないだろう」

「そうですね」

それには全面的に同意する。

「しかし、暁と雨隠れの里が此度の事件に関わっているのは間違いないようだな」

「ええ、そうですね」

「だが、暁や雨隠れ程度の大きさの組織だけで、あれだけの事が成せるとは思えない」

「・・・すると、他に協力者・・・もしくは、協力する組織がいるって事ですか? そんな、いったいどんな奴が・・・・・」

ってああ。

『・・・そういえば、いたね。』

一人、いや2人心当たりがあった。

「大蛇丸・・・音隠れと、ダンゾウ。そのどちらか、あるいは両方ですか・・・」

どちらも木の葉隠れ出身ですね、と言うと綱手姫は頭を抱えだした。

「それは言うな。頭痛が酷くなるから」

「すいません・・・・あ、そういえば我愛羅は何か言っていました?」

「ああ、例の奴らはこちらで預かっておくから、後で迎えに来てくれとのことだ」

「了解しました」

「ああ、ついでに。例の風影殿の姉・・・テマリといったか。随分とお前の事を心配していたようだぞ」

「・・・テマリが?」

「ああ。お前が意識不明の重態になっている事を伝えた時・・・あの娘、随分と狼狽えていたぞ」

「・・・そうですか」

ぽりぽり、と頬をかきながら答える。

『よ、色男』

(うっせ)

まあ、あの後も何回か会っていたしな・・・友達に成ったし。

しかし、心配してくれるとは嬉しいねえ。

『・・・まあ、初回の別れ際はアレじゃったがな・・・』

(それは言わんで下さい)

散々だった初会話。あの扇子の一撃により気を失った俺は、何を話していたのか、細部を思い出せなくなっていた。

『何忘れようとしてるの。あの後、何度も説明したでしょ』

(・・・・)

『助平な事はいかんと思うぞ』

(すんません。まじですんません)

平謝り。



だが、俺はあの後もテマリとは何度か会っていた。

例の冷製のラーメンの事とか、後は新作のラーメンの事で相談があったからだが。

『いやあ、それにつけても見事な闘牛士っぷりだったよ・・・』

『華麗にスルーとはああいう事をいうのじゃな・・・』

キューちゃんとマダオが何事か呟いている。

(ん、何か?)

『『いや、何にも』』

(?)



そして、会話は進む。


「敵の狙いは・・・恐らく、こちらの動きを硬直させる事だろう。実際、各国が緊張している今、木の葉としては迂闊に動けない状況にある」

「そうですね・・・あと敵の狙いははっきりとは分かりませんが、それでも分かっている事が一つだけあります」

「尾獣、か。しかし、ある程度は奴らに捕獲されたのだと思うのだが」

「現状、生存が確定しているのは・・・一尾の我愛羅と、滝隠れにいる七尾、あとは雲隠れにいる八尾だけですか」

「ああ。二尾、三尾は捕らえられたと見て間違いないだろう。あと、襲撃があった日に、滝隠れ付近で何やら大きな戦闘音、そして戦いの後があったらしい」

何でも、其処は七尾の人柱力である少女の家がある場所だったらしい。

「ん? らしいって、確定では無いんですね」

「ああ・・・七尾の少女は、滝隠れの里からは忌み嫌われていたそうだからな」

「・・・・」

その話を聞いた俺は思わず拳を握ってしまう。

「・・・話を戻そう。今まで得た情報から、岩にいる四、五尾と・・・霧にいる六尾。そして滝にいる七尾も恐らくは・・・」

互いに暗い表情を浮かべる。

「・・・そうですね。となると、我愛羅の方を・・・ってキリハ?」

何か言いたそうな仕草を見せるキリハに対し、俺は何かあるのか、と訊ねる。

「ええっと・・・落ち着いて聞いて欲しいんだけど」

「うん」


「えっとね。私、任務で滝隠れの里の近くに居たんだけどね」

「あ、そうなんだ・・・・え、それで?」



あの時は分からなかったんだけど、と前置いて。









「その襲撃があった二日後だけど・・・私、その七尾の人柱力の子を見たんだ」







[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 四十三話
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2009/10/14 01:45



「で、今お前達は滝隠れの里に向かっている訳か」

「ああ。そこで、七尾を保護する」


砂隠れの外れにある岩場群。その影で、俺は皆と話していた。

ちなみに今話している俺は影分身だ。

影分身を紙に変化させ、木の葉最速の忍鳥である鳶丸の足に括り付けたのだ。


「しかし・・・まさか、一対一でお前が負けるとは思わなかった」

「いや、まさかって・・・そりゃあ、黒星負った事は少ないけどさ」

今まで戦って負けた回数、か。まあ殺されはしなかったけど、それでも勝てなかった事は何度かあった。

「・・・決して零ではないから、そう珍しい事でもないよ」

そう言うと、我愛羅は驚いた表情を浮かべていた。

「そんなに驚くもんでもないんじゃないかなあ。そりゃあ、最近に限っては、負けは無かったけどね」

それでも今回は相手が悪かった、と愚痴りながらため息を吐く。

「・・・そいつ、それほどのものか?」

「正直、今まで戦ったどんな奴より強かった。それも一段ではなくて・・・まあ少なく見積もっても、二、三段上ぐらいの強さだった」

五行の術全て扱えるんで、弱点が無い。その上大火力の術も勢揃い。
近接戦に持ち込もうとしても斥力で弾かれるし、例の雷遁の移動術もあるんで逃げ足も速い

まるで死角が無い。今度対峙したらどうしたものか、と首を振る。

「・・・恐らくだが、写輪眼による幻術も通じないだろうな」

サスケが呟く。

「そうだな。いくら写輪眼とはいえ、相手はあの輪廻眼だ。視覚を媒介とした幻術は通用しないと見た方がいい」

「加え、正体不明の巨大な黒い“何か”を従えている、か」

我愛羅にしては珍しく、ため息を吐きながら首を振る。

「・・・厄介ですね。しかし、チャクラ量に関しては疑問の余地が残ります」

「ああ。どう考えてもおかしい。あいつのチャクラ量・・・まるで底なしだった」

「狩られた尾獣、二と三尾だったか・・・それが関係しているのかもね。あと、ナルト」

「ん、何だテマリ」

「怪我の方はもう大丈夫なのか?」

「ああ、もうばっちりだ・・・と、言いたい所だけど」

まだ完治しちゃいない、と肩をすくめる。

「そうなのか? お前、七尾の人柱力保護の部隊について行っていると聞いたが」

大丈夫なのか、というテマリの問いに、俺は苦笑をまじえながら返す。

「まあ、仕方ない。今現在、あいつらが尾獣確保に動いているのは間違いないからな。
それに、医療忍者・・・いのとサクラが随伴してくれているから、明日か、明後日には怪我はほぼ治ると思う」

「・・・山中いの、か?」

「あ、ああ。そうだけど・・・・あれ、テマリさん、何か・・・怒ってらっしゃる?」

「・・・いや。何でもない。それで、今お前はその部隊に混じっているんではなくて・・・」

「流石に、全員に俺の事を話すっていうのは無茶だからね。だから部隊の後方、姿を隠したまま、ついていっている」

前の部隊の内、何人かには話している。

「いざとなれば乱入するつもりだし。そうそう、保護部隊はシノ、キバ、ヒナタの感知系に、いの、サクラ、キリハの益荒男系。粒が揃ってるよ」

「・・・本人に言ってしまっていいですか?」

「嘘です御免なさい」

笑う白に、即座に謝る。

(ああ、そういえば三人共九頭竜の常連だったな)

思えば数奇な巡り合わせだな、と少し過去を思い出して笑う。

「ナルトさん?」

「いや、何でもない。それより、戦力は十分とは言えないけど、それぞれかなりのものを持ってるから心配は無いと思うよ」

流石、一時期一緒に修行していただけある。

キリハ曰く、連携もOK。かなりの練度を保っているらしい。

加えて、同じ目的を共にする同士だ。団結力もかなりのもの。

『えっと、その目的に関してはどう思う?』

ああ、赤い狐か。

(ノーコメントで)

悲しいけど、あれ依頼だったのよね。

「しかし・・・上忍は、キリハだけなのか?」

「いや、シカマルも・・・後からだけど、チョウジつれて合流するって言ってた」

「それにしても、随分と若い面子ですね」

「いや、七尾の人柱力・・・名前を“フウ”っていうらしい。その、俺達と同い年ぐらいの娘なんだけどね」

何でも、滝隠れの里の忍びから、村八分の酷い扱いを受けていたらしいから、と説明する。

「それは・・・えっと、それで、やっぱり・・・?」

「・・・中忍試験で怪我を負って、まだ木の葉で療養していた滝隠れの里の忍びから聞いた話なんだけど。
年上の忍・・・特に、男の忍びだと酷く警戒されてしまうらしい」

「・・・だから、か。そういえば紅上忍は身重だったな」

他に適任はいないな、とテマリが呟く。

「みたらし特別上忍は・・・・お察し下さい」

「そうだな・・・」

テマリが遠い眼をしながら再び呟く。アンコさんとの間に何かあったのだろうか。

「いや、でも他に人材は・・・って、いないか。女で上忍まで達するっていうのは少ないからな」

テマリがため息を吐く。

「まあ、仕方ないかもね。ただでさえ体格で負けてるんだから。その差を覆すためには・・・」

俺はカンクロウの方を見ながら言葉を続けた。

「・・・カンクロウが言うように、男を尻に敷けるぐらい気の強い女性じゃないと」

「ちょっと待つじゃん!?」

と叫ぶカンクロウ。

一瞬後、ぐわしと何者かに後頭部を掴まれた。

「・・・・カンクロウ。後で話がある」

「いや、今のは「ああ?」何でも無いです」

がくっと肩を落とすカンクロウ。そして、もう一組同じやりとりをしている者達がいた。

「・・・サスケ? お前今、ものすごい勢いで頷いていたけど」

多由也は「どういうことか、後でウチに説明してくれるよな?」といいながらサスケの肩を掴んでいた。

「・・・いや、今のは「あ?」何でもない」

がくっと肩を落とすサスケ。

そこに、再不斬が口を挟む。

「ああ、確かに・・・それぐらいでないと、務まらねえな」

「・・・再不斬さん?」

白の背後から、黒いチャクラが流れ出す。

「違う。お前じゃない。今の・・・恐らくは水影になっている、あの女の事だよ」

「ああ・・・あの」

納得した、といった風に白が頷く。

「え、どんな人?」

「嫁き遅れという言葉に敏感に反応する野郎でな。それ以上は言えんが」

「ちなみに野郎じゃなくてアマですよ再不斬さん」

「・・・ああ、まあ、そりゃあ、ね。しかし水影は嫁き遅れなのか・・・そういえば木の葉もそうだな」

『まあ、あの人は色んな意味で規格外だから』

え、そうなのかマダオ。

『私的には先生に頑張って欲しいんだけど』

エロ仙人に? まあ、規格外には規格外。案外、サイズがぴったりと合うかもな。

「まあ、それはともかく、話を続けるぞ」

((この野郎・・・))

とばっちりを受けたカンクロウとサスケ。

いつかやり返す、と心に誓うのであった。

「ええと、唯一適任と思われるシズネさんも、五代目火影綱手姫の護衛兼付き人兼ストッパーだから、無理。下手すれば木の葉が崩壊するから」

『そうだね』

「まあ、他の上忍達は里を守るっていう重要な任務もあるから。古参の上忍も、里の防備に回っているらしいよ」

「今は膠着状態だけど、いつ戦争が始まってもおかしくないような状況だからね」

「・・・だが、里の貴重な戦力である人柱力をこの時機に手放すとは・・・滝隠れの里は一体何を考えてやがるんだ?」

再不斬が唸る。

「いや、逆にこの時機だからだろう」

我愛羅が腕を組みながら答える。

「尾獣の力をコントロール出来ない人柱力など、人の手に余る。はっきり言ってお荷物になるだけだからな・・・正規の作戦にも組み込みにくい。とても、戦力としては数えられない」

「・・・我愛羅」

「・・・大丈夫だ。気にするな、姉さん」

少し笑い、我愛羅は話を続ける。

「滝の狙いは恐らく、現在尾獣を保持していない木の葉に人柱力を保護・・・提供して、形だけでも貸しを作る事だろうな。まあ、手に負えない危険物の厄介払いという意味もあるのだろうが」

「・・・そうですね。滝隠れと、フウという娘・・・先程の滝の下忍の話が真だとしたら、今現在の互いの関係は最悪に近い状態でしょうから」

「普段は忌み嫌っておいて・・・今更、“戦争が始まりそうだから手を貸して下さい”、なんて言えない。保護を申し出た木の葉の意図は察せず、それを口実として借りを作るだけってか・・・ちっ、胸糞悪い」

多由也が忌々しげに吐き捨てる。

他の面々も同じ思いのようだ。

「今ここで木の葉貸しを作っておけば、同盟を組んでいる他の国・・・草や砂よりは、こちらを優先して支援してくれるだろう・・・なんて。それが狙いなんでしょうけど」

「まあなんだかんだいって木の葉は大国だからな・・・それより」

一息ついて、話を変える。

「今は、滝隠れの事はどうでもいい。問題は、フウって娘が暁に襲われたって事だ」

「それは、確かなのか?」

「ああ。キリハが見たらしい」

何でも、羽根を背中に生やした少女が森の奥へと飛んで逃げていったらしい。腕には傷を負っていたとか。

「それで、追っ手の方も見たらしい。東雲の模様をした服をきている忍び2人が、その碧髪の少女を追って現れたとか」

「え、大丈夫だったのか?」

「キリハの部隊も、かなりの数がいたからな。一戦交える前に、そいつらは去っていったらしいが」

特徴を聞くに、出くわしたのは飛段と角都らしい。

「火影急襲の報を受けて部隊はそのまま帰還した。少女の行方は不明のまま」

そして綱手姫と滝の忍び頭とで話し合った結果、木の葉の方で保護する事に決まった。

「それで、木の葉の忍びが迎えに来いってか?」

「あのコンビがいつ来るか分からないからな。それで無くても戦争前だ。いらん負担は負いたくないんだろう」

「・・・分かった。そちらは任した。死ぬなよ」

「そっちもな。我愛羅、お前も狙われてるっていう事を忘れるなよ」

「ああ、もちろんだ」

「ああ、それと、多由也」

「・・・え、何だ?」

「暁と音、どうも組んだ可能性が高い。音の方も暗躍していると思うから、迂闊に一人になるなよ」

また追ってくるかもしれない、と言い含める。

「しかし、大蛇○は暁を抜けたんじゃなかったのか?」

今更手を組むとか有り得るのか、とサスケが訊ねてくる。

「先の木の葉崩しで連中、どうにも大きな被害を受けたそうだからな。背に腹は代えられないと考えたのか・・・あるいは」

「あるいは?」

「あのペインが何かをしたのかもしれない。そこら辺は調査中だ。だが、気を付けておくに越したことはないから、くれぐれも用心は怠らないように」

「了解」

「頼んだぞ、サスケ。それじゃあ後で・・・おっと。再不斬に白とは少し話があるから・・・」

「分かった。俺達は席を外そう」


俺の言葉を聞いた我愛羅とカンクロウとテマリが去っていく。


「それで、このまま巻き込む事になるけど、いいのか?」

「今更何をいってやがる。それに、何か手土産が無いことにはな」

鬼鮫の野郎の首を持っていかなければ、霧には戻れないと再不斬は言う。

「うちはマダラの事もある。それに、ここまで来たんだ。最後まで付き合うぞ」

「ありがとう。白も」

「いえ。恩もありますし、返すまでは」

「気にしなくても、というのは不粋かな。素直にありがとう、と言っておこうか」

「ああ・・・お前も、ここまできて死ぬなよ」

「へっ・・・」


予想外の言葉。再不斬が俺を心配している!?

『成る程、これがツンデレという奴だね!』

うるさいよ。


「ああ。お互いに、生き残ろうか」


笑いながら、俺は影分身を消した。






とある岩陰。

「・・・そろそろ、事態は終局に近づいているな」

「そうですね」

再不斬の問いに、白は笑みを絶やさずに答える。

「なあ、白。俺はあの野郎に勝てると思うか?」

「・・・再不斬さん?」

いつになく弱気な再不斬の言葉に、白は驚いた表情を浮かべる。

「奴は、強い。チャクラ量も去ることながら、基本能力も・・・あの頃の俺と比べても、段違いだった」

「そうですね」

再不斬を小僧呼ばわりする、霧隠れの怪人、干柿鬼鮫。

A級とS級。その差である。

「確かに、俺は強くなった。だけど、俺はあいつに勝てるのか?」

強とはある程度の指標はあれど、数値では決して表せない。

場所、天候、体調。そして能力の相性もそうだ。勝負は時の運と言うとおり、勝負の故の生死の判定も時の気まぐれが定める通り。

誰だって死は怖い。不安にならない筈がない。

「勝てます。だって、再不斬さんですから」

だが、白は断言した。

「今までずっと、再不斬さんの事を信じてきました。そして、見てきました。」

そして今、と言いながら白は笑う。

心からの笑み。いつかとは違う、本当の意味での笑みを浮かべ、女は男に伝える。

「そして今、ボクが信じています。ボクが見ています。だから、再不斬さんは絶対に勝ちます」

聞けば、何の根拠も無い言葉。

だが、絶対の自信を持って言われた言葉だ。

「・・・・・・・・ああ」

長い沈黙の後。再不斬は笑いながら、白の言葉に答えた。

「そうだな」






数分後、別の場所では。


「話は終わったのか?」

「ああ。それで、俺に話しとはなんだ?」

「いや・・・」

返す我愛羅は無表情。だが、何となく言いにくそうな事を言おうとしているのが見て取れた。

「別に、何でも聞いていいぞ。答えられない事ならそう言うから」

「・・・ああ。いや、お前も変わったなと思ってだな」

その心境の変化、どういったものか聞きたかったと我愛羅が言う。

対するサスケは苦笑しながら、言葉を返す。

「確かに、まあ・・・変わったのは否定しないな。むしろ成長したと言って欲しいもんだが」

「何が原因か、聞いてもいいか?」

「ああ・・・何」

肩肘はるのを止めただけだ、とサスケは笑う。

「以前の俺は、囚われていた。復讐とか、運命とか、目に見えないものに」

写輪眼に付随する、目に見えない黒いものを見続け、それに囚われながら生きてきた。

「それが、見えなくなった。いや、正確に言うと、無かった事に気づいたとでも言うのか・・・」

上手く言葉にできない。だが、あの雪の国での一戦。そして、修行の日々。


そして、多由也と一緒に、ナルトと一緒に、網の孤児達と接している時。


「ふと、思ったんだ。何かが分かった。俺の持つ力の意味を」

何でもない日常。


ナルトのラーメンを食べて、笑う子供達。

多由也の笛の音に酔いしれて、時には笑い、時には涙を浮かべて感動する色々な人達。

あの光景。あの笑顔。あの歓声。あの日の風の匂い。


「この力は、ああいうものを・・・守りたい何かを守るために生み出されたものなんじゃないかって」

写輪眼が生まれた、その意味。何かを壊す、それだけがのが目的、なんて思いたくないという考えもあるけれど。

「この世界は優しくない。戦う事は必要だ。確かに、平和も大事だけれど、叫ぶだけでは何も守れないから」

だから、刃を持つとサスケは腰の刀に手を添え、鯉口を切る。


「想いだけでは、何も守れない。守るためには、力が必要なんだ」


だけれども、と零してサスケは刀を抜く。


「だけど、それは守るために。恨み辛みではなく、誰かのために」


白刃に映る己の顔を見ながら、サスケは呟く。


「ナルトも言っていた。その言葉、誰かに借りた言葉だとは言っていたけど」

それでも、その言葉に篭められた意味は分かるし、その考えには全面的に同意する。

心の底から、そう思っているというナルトの顔を思い出しながら、刀を鞘にしまう。


「俺もそう思った。どうせなら、恨みも辛みもなく。ただ、大切な人のために、そして大切な場所を守るために。奪わせないために戦いたいと」

帰りたいと願った姫君の笑顔。

あまりにも酷すぎる運命の前、月光の下で泣いていた、兄の涙の滴。

理不尽なんて、掃いて捨てるほどある世界。


それを、壊す。理不尽を、ぶっつぶす。

ナルト曰く、世界が優しくなりますように。


「全てをあるべき場所に戻したい。そう、思うようになったんだ」


「・・・そうか」


「お前も、そうなんだろう?」


振り返りながら、サスケは我愛羅を見る。


思えば、話したのはいつかの中忍試験本戦の何日か前。


カカシと修行しているサスケの元へと姿を現した、我愛羅。


あれから、約3年。

一人の少年は真実を知って、戦うべき相手を知った。

一人の少年は真実を知って、守るべき何かを知った。


つまり、それは、こういう話。



「・・・ああ」


負の遺産はあまりあれど、我愛羅は風影となった。

罵倒を受け入れ、怒号を受け止め、人と人とで話をした。

そこで人を知った。誰かが其処にいることを知った。話し合える意味を知った。

同じ故郷を持つ、戦友の事を知った。砂に覆われたこの町で、賢明に生きる人達を知った。



---優しさを持つ。武器を使う事に恐怖する、心優しい少女の事を知った。


「そうだな」


我愛羅にしては本当に珍しく。

サスケの問いに笑い、答えた。






一方、別の部屋では。


「・・・話は終わったか?」

「ああ。それで、ウチに話があるらしいが」

何のようだ、と多由也はテマリに訊ねる。

「うずまきナルトの事だ。あいつ、何かおかしくないか? さっきの影分身も消してしまったようだし」

テマリが腕を組み考える。

「・・・ああ。確かに、何かあるんだろうけど」

それを3人共話してはくれないと多由也が呟く。

「それぞれに隠してる事があるんだろうけど、それをウチらに話す事は無いだろうな・・・特にナルトに関しては、誰かを頼るという発想も無いようだし」

気を遣ってはくれるけど、と多由也は愚痴る。

「見えない壁があるんだ。ウチらに対して。あくまで一歩、最後の一歩は踏み込まないというか・・・」

「・・・ああ。それは、分かるような気がする」

惚けているのか、分かっているのか。いくらなんでも鈍すぎるとテマリが愚痴る。

「いつか言っていた、助けられなかった人・・・関係があるんだろうか」

「え、あいつ、そんな事言ってたのか?」

「あ、ああ。最初、一緒に飲んだ時に零してた」

話した事は忘れたようだけど、とテマリが頭をかく。

「・・・あー。そういえば、ウチも、九那実さんから何か聞いたような・・・」

決して、口に出そうとはしない名前。一緒にいた2年間を思い出す。

「そういえば、ウチらに何も告げずに、一人隠れ家を出て行く日があったような・・・あれに関係しているのかな」

「そんな日があるのか?」

「ああ。花を持ったまま、ふっと消える日があったんだ」


「その、花の名前は?」


「えっと、たしか・・・」


考え込む多由也。

そして思い出した、と言いながらながら掌をたたく。







「紫苑だ」







[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 四十四話
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2009/10/18 11:22



一方、そのころ。

ナルトの話を聞いた自来也は、妙木山に足を運んでいた。

輪廻眼を持った忍びの事、またその能力と容姿を聞いた自来也は妙な胸騒ぎが消えないでいた。

妙木山は、古来より忍界に多大な影響を与えてきた蝦蟇達の総本山である。

ここにくれば。そしてこの妙木山の長老である大ガマ仙人に聞けば、何かが分かると思ったのだ。

だが大ガマ仙人から帰ってきた答えは、自来也をもってしても予想だにしないものであった。

「何も、見ることができないですと?」

「・・・うむ。こんな事は初めてじゃ」

渋い表情を浮かべながら、大ガマ仙人はため息を吐く。

「ううむ。しかし・・・何か、分かる事は無いのですかの?」

「そうじゃのう・・・手がかりがあるとすれば・・・あの時の夢か」

「・・・夢、ですか?」

「そうじゃ。お主が言うところの、五大国の里の同時襲撃の前日に見た夢の事じゃ」


「それは・・・一体なんですかの?」


不安そうに、自来也が訊ねる。音に聞こえたガマ仙人の頂点である長老、大蝦蟇仙人が見たことのない程に憔悴していたからだ。



「夢といっても、大層なものではない。ワシが見たのは一人の人間。とある男の姿じゃ」


「それは一体・・・」

一息ついて、大ガマ仙人は言った。


「混沌の色を帯びたチャクラを纏い、誰かの亡骸を抱え、泣きながら笑っている男の姿じゃ」





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滝隠れの里からの返事を受け取り、木の葉の里を発ってから二日後。

砂隠れにいる我愛羅とサスケ達に連絡を取ったその日の夕方である。

「あ~、やっぱり癒されるなあ」

滝隠れの里と火の国との国境線より少し離れた宿場町で、俺は口寄せ式簡易屋台を開いていた。

(テウチ師匠に会いたかったけどなあ)

なんやかんやで日向家に居候だった身。迂闊に「外に出たい」などと口に出すことはできなかった。

師匠のラーメン、今一度食べてみたかったものだけど。

『それでも、ヒナタちゃんが料理作ってくれたでしょ。贅沢な』

(ヒアシさんの眼が怖かったけどなあ)

恩があるとはいえ、娘の胸に顔を突っ込んでいた輩だ。あれで内心複雑だったのかもしれないが・・・

『ヒザシさんとかネジ君と一緒に、お礼は言われたでしょ』

(まあ、そうなんだけど)

ようするにヒアシさんは娘バカということだろう。マダオと同じく。

『ありがとう』

(褒めてないぞ。胸を張るな、鼻をかくな、頬を染めるな!)

『まあ、それはともかく。無事合流できたようだし、明日には滝隠れの国境を越えられるだろうね』

(そうだなあ・・・まあ、何事も無くというのは有り得ないだろうけど、今度はどんな奴らが出てくるのか)

前情報として、あの不死コンビが出張ってきているということは分かっているが。

(それでも、イレギュラーはあるだろうな)

『まあ、そうだね』

俺の言葉を聞いたマダオは、苦笑しながらもとある質問を投げかけてきた。

『・・・それにしても、大丈夫なの?』

(・・・ああ? 言っただろ、傷はもう大丈夫だから心配は無いよ・・・)

と、茶化そうとするが、途中でやめる。

どうせマダオの事だから、俺の内心の事についてはお見通しなんだろう。

『勿論分かってると思うけど、僕が言っているのは傷の事じゃないよ?』

(・・・大丈夫だ。次は、ちゃんと戦うさ)

『・・・・』

2人、黙り込む。
マダオの言わんとしている所は分かる。先の長門との一戦、どうも覚悟があやふやになっていた。
遭遇戦故の気の動転も多分に含まれてはいたが、どうにも集中力が続かなかったのだ。

最後の風遁・風神砲弾への対処の仕方など、戦闘思考のキレもいまいちだった。

『まあ、相手の方も強かったしね・・・殺気も凄かったし、弱気になるのは分かる。失敗するのは仕方ないかもしれないけど』

次は恐らくないよ、とため息を吐くマダオ。

そして小さい声で何事かを呟いた。

(ん、今なんか言ったか?)

『いや・・・まあ、次は大丈夫だろうと思うから。今は心の安息を優先した方がいいかもね。明日は恐らく戦闘になるだろうし』

(・・・ああ。言われなくても分かってるよ)



そして、夜。夕飯時を過ぎた後、そろそろ店を閉めようかとした時だった。


少し離れた場所にいる、一人の男がこちらの方を見ていたのだ。

男は懐を何度も探りながら、ため息を吐いていた。みれば、随分と薄汚れた格好をしている。

(何だ、あいつは・・・まあ、随分と汚い格好をしているな)

着物自体はそう悪くない。水色をした羽織に、赤い帯。俺は服に関してはからきしなのでそれがどうなのかは分からないが、それでもそれなりに映えるものだとは思う。

だが、あちこちに付いている汚れがそれを台無しにしている。まるで浮浪者のようだった。

(それなのに、パイポみたいなのをくわえているし・・・うむ、訳が分からん)

見るからに怪しい。とても怪しい。

俺としては正直関わり合いになりたくない手合いのだが、あんなにじっと見つめられると無視もできない。

『・・・どうやらあの男、お金を持って無いようだね。それでも食べたくて一生懸命ポケットを探している、と・・・・どうする?』

(いや、そりゃ、見れば分かるんけどなあ・・・というか、何度も探しては諦めを繰り返しているのは)

なんでだ、とマダオに聞く。

『あー、もしかしたらポケットのどこかにお金が入っているかもしれないっていう淡い希望にすがりたいけど世界って優しくないよね?』

(然り。切ないね。ううむ、どうしようかなあ・・・・材料もちょうど2人分余ってるし)

ちょうどいいか、と言いながら立ち上がる。

まあ、残った材料の事もあるし・・・捨てるよりはいいだろう。


そう思った俺は、周囲を見回し、近くに誰もいないのを確認した後、その男に向かって手を振りながら大声で聞く。

「おーい。ラーメン食べるか?」

すると、男は有り得ない速度でこちらに近づいてきた。

そして口のパイポのようなものを口から放し、「・・・いいのか?」と低い声で聞いてくる。

「ああ、いいよ」

あまりの男の俊敏さに、俺はびびった。だが、余程お腹が空いているのだろうと解釈し、再び言葉を返してやる。

「・・・しかし、俺には持ち合わせがない」

男は呟き俯くとパイポを加え、こちらに背を向けてその場を立ち去ろうとする。

「・・・いいよ。代金はツケで」

だが、俺の言葉を聞いて男は硬直した。

予想だにしない解答だったのだろう。一歩踏みだそうとしたままの体勢のまま、全身が硬直している。

「どうする?」

そのまま動かない男に対し問いながら、再び俺は苦笑する。

(ま、いきなりこんな事を言い出した俺に対して、不信感を抱いているのかもしれないけど・・・)

その言葉を聞いた男がどうするのかなんて、分かり切っていた。

なんせ、死角になっていてこちらからは見えないが、男が加えていたパイポから次々とシャボン玉が出てきているからだ。


『背に腹は変えられないってやつだね。一名さまご来店~』

(しかし、色が無いな)

『ほっといてよ』

『・・・・』



数分後。

「お待たせ」

塩ラーメンは嫌いだというので、豚骨ラーメンを出して遣った。

「・・・・!!!」

そのラーメンを出された男は驚き、目を見開いた。

それはそうだろう。何せ、火の国の宝麺・豪華バージョン。宝船のように具だくさんにチャーシューを多めにした、まさに至高の大盛りなのだから。

具が余っていたのと、先程の見事なリアクション芸を見せて貰ったお返しとして。また腹を空かせているだろうと思っての大盤振る舞いだ。

『おーおー、上手そうに食べてるねえ』

(だろ)

上に山盛りになった角煮にかぶりつき、その肉汁を口の中で堪能している。

この2年の間、孤児院での子供達や現場でのおっさん達から感想を聞き、修行に修行を重ねたこの腕。

砂隠れでの塩を気持ち程度にいれて出来上がったスープ。

深みがあり、しつこくなく、後味良く。この三つの点に気を配った至高のスープだ。

時間が無かったので麺は店で買ってきたものとなったが、それでも上手いこと間違いなしだ。

添え物のモヤシを食べる音。新鮮なものを選んでいるので、噛むたびに口の中にしゃきしゃきと音がしているだろう。

そして、自家製のメンマ。加え、今回は半熟玉子も加わっている。

『それでいてどの味も殺されていないんだよねえ・・・まさに職人。腕を上げたね』

それはそうだ。子供達の真っ正直な感想と、おっさん達の罵倒に耐えながら研鑽を積んだこの2年。

感想に胸を貫かれ、罵倒に全身を締め付けられながらも、俺は諦めなかった。

涙で枕を濡らしながらも、試行錯誤を加え、やがてはほぼ誰の口からも“上手い”という言葉を引き出せるようになった。

『それでも油あげラーメンは未完成なんだよね』

(そうだなあ・・・噛み合う具とスープ、そして麺。未だに未知の部分が多いから)

どうにもぴりっとくるものが無い。

だが、こちらはほぼ完成といっていいほどに極まった一品。

見れば、音を立てて麺をすする男の姿がある。一心不乱のその視線、まるでラーメン以外のなにものも見えていない様子だった。


そして、食べ終わった後。

「・・・本当にいいのか?」

「ああ、いいよ。まあ今度あった時にはきっちり取り立てるけどな」

笑いながら告げてやると、男は「・・・分かった」と頷きながら、居住まいを正した。

「・・・俺はウタカタ。店主の名前は?」

「小池メンマだ」

「・・・分かった。小池メンマ氏。この借りはいつか必ず返す」

「・・・おう。で、俺としてはこっちの方の感想を聞きたいんだけどな」

からかうように言ってやる。

すると、男は腕を組んで黙り込んだ。

「え、もしかして不味かった?」

『いや、そんな今にも死にそうな表情を浮かべなくても』

男も俺の顔を見たのだろう。慌てた様子で急に話し出す。

「いや・・・俺は、そう、人に何かを伝えるのには慣れてなくてな」

と前置いて。

ウタカタは率直な感想を言ってくれた。

「こんなに、暖かいものを食べたのは、美味しいものた食べたのは生まれて初めてだ」

本当に、美味しかった。どうも、ありがとうと頭を下げるウタカタに対し、俺は心からの笑顔を浮かべながら言った。


「ありがとう・・・まいど。また、縁があれば」

「ああ」

そう言って立ち去る男の背中を見ながら、俺は一息をつく。

「・・・行ったな」

『そうだね。しかし、随分と大盤振る舞いだったけど、良かったの?』

「ああ、景気づけだ。これから先、何があるか分からないからな」

もしかしたらラーメンを作れるのは、今日が最後になるのかもしれない。

「それに、あの笑顔と言葉は俺にとって一番の薬となるからな」

その笑みが深ければ深いほど。その言葉が喜びを帯びていれば。今度はもっと美味しいものを作ろうと、そういう想いが浮かんでくるのだ。

そして、俺の心も満たされる。そう、怖さも辛さも、つまらないもの全てが吹き飛んでしまうほどに。

『喜びは人を癒し、また人を強くする、か』

「決して一人では出来ない、人と接して分かること鍛えられる事ってな」

胸を満たすこの充足。それこそ金に換えられない、大切な感覚だ。

「・・・よし、そろそろ時間だ」

移動をする時間だ。俺は、店を閉める作業を始めだした。




そして、夜。

俺は一人で、木の枝の上にいた。

大樹の幹に背をもたれかけ、満月が輝く夜空を見ている。遙か昔に見たあの夜空より、星の数は多く、まるで賑やかな町を見ているようだ。

『星が綺麗だねー』

「そうだなあ」

マダオと2人、何も話さないまま夜空を見ている。

野郎2人で見る星空は、何処か濁って見えた。

『ちょ、それちょっと酷くない?』

「事実だろ。それより、キューちゃんの事だけど」

言葉を切って、俺はマダオにキューちゃんの事を聞く。

「なあマダオ。キューちゃんは本当に大丈夫なのか」

『うん。取りあえずはね』

考える間がない、用意していた答えを返すよう、即座の返答だった。

意識不明の状態から回復してこっち、キューちゃんの様子がどうもおかしかったのだ。

明らかに、以前より口数は少なくなった。その口調も、何処か暗いものを感じさせる。

その事についてマダオにも相談しているのだが、今みたいに「気のせいだよ」とか「疲れているんだよ」と簡潔に単語だけの言葉を返されるだけだった。

(何かがあるっていうのは間違いないんだろうけど)

落ち込み、ため息を吐く。

(そういえば、胸が痛まないな)

ふと思いついた俺は、自分の腹と胸の当たりを触る。

あれだけのチャクラを使ったというのに、その後に訪れる筈の痛みが、予想していたものよりもずっと小さかったのだ。

『まあ、この2年で随分とラーメンを作って、あちこち回ったからね』

例の魂の回復の度合いが大きいのだろう、とマダオが言う。

(だが、どうにもしっくりこないのは何故か)

この2人、何かを隠しているのだろうか。そんな事を思ってしまう俺がいた。

(しかし、直接聞いてもこの2人、答えてはくれないだろうな)

見た目に反して、根は頑固な2人だ。
おちゃらけていても、話さない事は話さない。俺が何度聞いても、それが必要でないならば、そして話したくないのであれば、決して説明をしてはくれないだろう。

(来るべき時が来たるまで、待つしかないのか・・・・ん?)

音は無い。だが、下方から人間の気配がする。

即座に構えるが、その気配の主が分かった途端、俺は警戒態勢を解いた。

「まいど、今夜も治療に来たわよ」

「いの、か」





「・・・これでよしっと」

今日の治療を終えたいのは、一息ついた後体調を説明してくれた。

「これでほぼ完治したわ。それにしてもあれだけの傷を負ったっていうのに、この数日でここまで回復するなんて」

と、いのが驚いている。

「それも体質です。それはそうと、治療ありがとう。これなら明日は戦えそうだ」

「・・・本当に大丈夫なの?」

「ん、何が?」

「いえ、あれだけの怪我・・・瀕死の重傷を負ったっていうのに、その、まだ一ヶ月も経ってないのに・・・」

随分と言いにくそうにしているいの。だが、続きの言葉を紡ぐ。

「また戦う事になるけど、怖くはないの?」

心配そうな表情でいのが聞いてくる。

『ほら、いのちゃんが心配しているのはあれだよ。戦闘恐怖症』

(ああ、あれか)

戦闘恐怖症。それは実戦に出始めの忍び、戦闘の際に大けがを負う事により発生する心の病。

程度にもよるが、場合によっては引退を余儀なくされるほどのものだ。

熟練の忍者をもってしても、怪我の痛みとかシチュエーションによっては発令する厄介な戦争病。

『そういえばいのちゃん、こうやって医療忍術を修得しているし、そのことについて心配するのは当たり前か』

「私も、あの時助けられた後は、その・・・恥ずかしいけど、修行も出来なくなるほど落ち込んだし」

一事はクナイも持てなくなるような状態だったらしい。だが、シカマル、チョウジ、キリハや親父達の助けもあって何とか克服したとのこと。

「え、ていうかあの時起きていたの?」

「少し前に目が覚めてた。パニックになったわよ」

それはそうだ。あのまま連れ去られていれば、まず間違いなく殺されていたのだから。

「だから、あの時は本当に嬉しかった。どうもありがとう」

と、いのが頭を下げる。

「どうしたしまして」

との言葉を返した俺だが、自分の頭をぽりぽりかきながらどうしようかと呟く。

(どうも、テマリに似た感触が・・・きっとそれは勘違い、あくまで吊り橋効果によるものだってのに)

テマリも、恐らくはそうなのだろう。

まあテマリの場合は、あのとき何よりも恐怖の対象であった守鶴を前に、敢然と立ち向かった俺~、とかそういった事を考えているのかもしれないけど。

でも、俺は見返りとか、そういう事を考えて助けた訳じゃない。あくまでその場にいたからだ。
だからそんな想いをぶつけられても正直困る。それにつけ込むっていうのもなんか卑怯だし。

『でも、面と向かって礼を言われて・・・悪い気はしないんでしょ? いのちゃんもテマリちゃんもヒナタちゃんも可愛いし』

(そうだなあ・・・・って言わすな。このマダオが)

それに吊り橋効果で結ばれた恋愛は長続きしないんだぞ。あのラーメン大好きなキア○・リーブスさんも言っていたんだし、間違いない。

そもそもそれは安堵の心と憧憬が混じり合った錯覚だって。

『錯覚大いに結構。恋愛自体大いなる錯覚だって倣家の長老が言ってた』

いや、確かに言ってたけど。

「・・・えっと、急に黙り込んでどうしたの?」

「え、いや考え事を・・・っていうか何を話してたっけ」

「え、あの戦うのが怖くないのか、っていうことだけど」

「・・・ああ、それ? そうだなあ。何て言うか、今更だし」

「今更ってどういう事? 見た限り大きな傷跡は無いようだし・・・負けるのはあれが初めてじゃ無かったの?」

その言葉を聞いて、俺は「ああそういう事か」と苦笑を返す。

「まさか。駆け出しの頃は、そりゃ何度か負けてるよ。死ななかっただけで。それに最近でも、無傷での勝利は少なかったしね。
それらの傷跡が無いのは体質だよ。自己治癒能力。人柱力ならばほとんどが体験していると思うけど、傷を負っても徐々に消えていくんだ」

それでも掌仙術の方がずっと治りは早いし、大きすぎる怪我は跡が少し残るんだけどね。

「だから、別に死にそうになったのはあれが初めてじゃないから心配は要らないよ」

戦うのが怖いっていうのは今でも変わらないけど、少女相手に口には出せない。格好悪いし。

「・・・そうなの。御免なさい」

いのが少し落ち込んだ表情になった。

俺は慌ててフォローをする。

「い、いや詳しい事を話して無かった俺も悪いんだし。気にしなくていいよ」

そも、正体を知ったのが一昨日ぐらい。それからあれやこれやで忙しかったため、俺が結構な戦闘を潜り抜けてきてると言うことを説明できなかったのだが。

『まあ、説明したとしても心配したと思うけどね。彼女、優しい娘だし』

今までの道程を遠目で伺っていたけれど、いのはどうやらみんなの姉貴分的な役割をこなしている。

キリハの話を聞くに、気配りも細かいし、決断力にも優れているらしい。

「心配してくれて、どうもありがとう」

「・・・どうしたしまして」

少し頬をかきながら、いのが言う。




「・・・何、2人で良い雰囲気を作ってるの?」

2人だけだった空間に、ある人物の声が入り込む。

「っ、キリハ!!」

いのが足場にしていて木の幹の裏側から、キリハが姿を現した。

「あんた、居たの!?」

「居たよ。具体的に言うとほぼ完治云々の下りからだね」

「聞く前に答えるな!」

「いたっ!」

いのがキリハに拳骨を落とす。

キリハは「いたたた」と頭を抑えながらも、俺に言葉を投げかけてくる。

「それはそうとお兄ちゃん、気づいてたでしょ?」

「・・・何の事やら」

と、頬をかきながら視線をそらす。当然、気配には気づいていたのだが空気的に声をかける事はできなかった。

「・・・お兄ちゃん冷たいなあ。いのちゃんはいのちゃんで、私に声をかけずにサクラちゃんに声をかけただけでさっさと行っちゃうし」

「・・・何の事?」

「ヒナタちゃんからの伝言。後で「お話」があるそうだよ」

「・・・・」

途端、肩を振るわせるいの。ヒナタはそんなに怖いのだろうか。

「お兄ちゃんもなあ。あのときの約束を守ってくれなかったし・・・」

「・・・あのときの約束?」

正直覚えのない俺は、キリハに聞き返す。すると、キリハの眼がきらりと光った。

「・・・覚えて、ないの?」

うん、ちっとも。

・・・と答えたかったのだが、あまりにもキリハの殺気がゴイスーでデンジャーだったので、俺は口を閉ざして貝のようにならざるを得なくなった。


「・・・一番先に会いに来てくれるって・・・言ってたのに・・・」


眼に涙を浮かばせながらキリハは詰め寄ってくる。

(そういえばそんな約束をしたような・・・!)

思い出すが、後の祭りであった。

「それなのに、帰ってくるなりヒナタちゃんの胸に顔を埋めてたそうだし」

ビックパイズ・ヒナたんですね。分かります。いや、俺は覚えてないんけど。

「いのちゃんと、今みたいに深夜満月の下でロマンチックに語り合うし」

いや、治療の後のただの雑談です。っていうか君も居たでしょ。

「カカシ先生とか自来也のおじちゃんとか、カンタロウさんと一緒に一晩を過ごしたらしいし」

人聞き悪い事を言うな! あとカンクロウね。

「・・・聞いたよ? 夜中まで、オパーイオパーイ言いながら騒いでたんだってね?」

いや、それは自来也先生のカップ講義があまりにも素晴らしかったので。おっぱいは決して怖くなーいから。
あと年頃の娘がおぱーいとか言うんじゃありません。


とかいう突っ込みも、キリハの迫力を前に口には出せなかった。


「・・・お兄ちゃん?」


ゴゴゴゴ、と背景に雷雲を携えてキリハが詰め寄ってくる。

「キ、キリハ?」

かつてないキリハの様子に、いのもたじたじだ。援軍は当てにならないだろう。

(マ、マダオ! ここはどうしたらいい?)

『・・・ピー。只今留守にしております。発信音の後に遺言を残してささっと覚悟をお決めになって下さい』

役立たず! くそ、かくなる上は・・・!


退いてはならぬ! 俺は虎、虎になるのだ!


そう、あくまで虎の如く生きるのだ。



「奥義、猛虎落地勢!」



そして虎が伏すような格好で土下座した。


踏まれた。

その上泣かれた。

痛かった。







「・・・なにはともあれ」

仕切り直して。

「・・・ええと、鼻血が出てるけど大丈夫?」

「問題ない」

と言いつつ、鼻をすする。

血が垂れた。

「・・・はい、これどうぞ」

いのは呆れた表情を浮かべながら、鼻紙を差し出してくる。

流石はいのの姉御。気配り上手に偽り無し。

「いのはきっと、いい嫁さんになるね」

鼻に紙を詰めながら、唐突に口に出す俺。

『・・・傍目で見てるとアホそのものなんだけど』

そうだね。

「・・・は? ええ!?」

でも、いのは俺の急な言葉を聞いた後、聞き返し、そして理解したと直後に驚きの声を上げる。

「・・・オニイチャン?」

「すんません。ほんとうにすんません」

眼光をギラリと光らせるキリハ。

理由は分からんが、取りあえず謝った。あのまま行けば頭からかじられそうだったので。

『・・・で。情報をまとめるんじゃないの?』

おお、そうだった。





「それで、滝隠れの動きとしてはどうなんだ?」

結界の中、地図を広げながらこれからの事、そして現在把握している状況について話をする。

「明日この場所に、人柱力のフウって娘を連れてくるらしいから、私たちはそこに向かう・・・んだけど」

「何かあるのか?」

「うん。火影様が言うに、滝隠れの里も一枚岩ではないそうだから。きっと、人柱力の保護についての案件、それに対する反対意見も出ていると思うんだ」

「まあ、一枚岩で団結している組織っていうのは少ないからな」

3人いれば派閥が出来る。木の葉でいえばダンゾウみたいなアレな立場の人が、滝隠れの中にも存在しているのかもしれない。
まあ、そこまで深くは探れてはいないのだが。

「保護についてのやりとりを交わしたのは、現滝隠れの里の長。そして、それとは別のグループがあるって事までは、把握してる。そのグループの構成員は、若い忍者達なんだけど・・・」

「ああ、才能溢れるエリート組ってやつね。それで、そいつらの派閥が今回の事について、何か反対意見を出しているとか、そういった情報はあるの?」

「・・・無い。時間が無かったから、確証は得られてはいないとのこと。あくまで推測の範疇だね。だけど、保有している人柱力を他国に大人しく引き渡すだけっていうのはちょっと、」

気性的にも、有り得ないと思うとキリハが言う。だが、それはおかしいのでは。

「・・・道中、あるいはその現場で某かの妨害があるってことか? でも、木の葉の使者相手に攻撃を行えば、今築き上げてる同盟関係もパー。
戦争を目前としているような状況で、そんな事をするかな」

報復もあるし、ただではすまないだろうと言うと、キリハは腕を組み、唸りながら話し出す。

「勿論、そうなんだけどね。だけど、どうしても何か違和感が・・・引っかかるものがあるんだ」

「・・・あんたの勘は頼りになるからね。万が一に備えていた方がいいか」

「そうだな」

「お兄ちゃんは臨機応変に対応して。何が起こるか分からないから」

「了解」

「ちょっとキリハ。そんな指示でいいの?」

「大丈夫だよ。お互いの連携を考えれば、私達だけの方が良い。それにお兄ちゃん、遊撃は得意中の得意でしょう?」

きっぱりと言い切るキリハ。成る程、判断に私情は挟まないか。

『上忍だからね』

いや、日向邸でのやりとりを見てると、とてもそう思えなかったもんで。

『どの口が言うのかな?』

この口で。いや、まあいいか。

「得意だ。あと、国境沿いの警戒だが、どの点が緩い?」

聞けば、現在は緊張状態にあるので、国境沿いの警戒が厳しくなっているとのこと。

火の国を出る者、火の国に入る者、全てを厳重に警戒しているらしい。

「ええと、ここと・・・ここらへんかな」

地図を指し、説明をするキリハ。

ふと、その耳に光るものが見えた。

「分かった。其処を抜けよう・・・で、キリハ」

「え、何?」

「その耳飾りの事だけど」

それは確かシカマルが特注した耳飾り。風遁術の制御、威力を助長する役割を担う職人渾身の作。

莫大な製作料を投入して仕上げてもらった、世界に二つと無い逸品だ。

『君も案外妹バカだね』

(いや、だって金余ってたし、シカマルの胃痛を少しでも抑えたくて)

そう思って作ったものだ。

「・・・やっと、気づいた?」

笑顔のキリハ。その頬は少し赤に染まっていた。

(・・・ああ、シカマル。お前、やったんだなーーー!)

こんな表情を浮かべると言うことは、シカマルの想いは通じたのだろう。

彼氏彼女の関係になっているのだろう。

(そう、2人は・・・ってあれ?)

ふと、違和感に気づき俺はいのの方を見た。

すると、何故か目頭を押さえながら首を振っている。

(え、何で?)

その疑問は直ぐに氷解した。


キリハが、耳にある碧色玉の飾りを触りながら、とある事を伝えてきたのだ。

「これ、お兄ちゃんのプレゼントだってね! シカマル君から受け取ったよ! 
今まで話振ってくれなくて、切っ掛けが無くて・・・どうしようかと思ってたんだけど・・・今、言うよ。どうもありがとう!」

すげえ可愛い、満面の笑顔でお礼を言ってくる妹さん。

だが、おかしいことがある。

『・・・あれ?』

あれはシカマルからのプレゼントの筈なのだが。

(・・・どういう事?)

そして、隣のいのはなにゆえ目頭を押さえたまま何かを嘆いているのだろう。

俺は分からないまま、キリハのべったり攻勢を受け続けた。



「じゃあ、また明日ね」

「ああ。おやすみ」

「おやすみー」

去っていくキリハ。そして、容態を見た後でいくからといういのと2人だけになる。

「・・・シカマル、ね」

「ああ」

「渡したんだけどね」

「うん」

「あのとき、中忍試験が終わった後だったしね。例の説得をし始めた頃でね。キリハは心身共に疲労していたから」

くっ、といのは首を振りながら話を続ける。

「それで、大好きなお兄ちゃんの事をね。薬になると思って、朗報になると思って、よかれと思ってね」

「・・・」

あとは言うまでもないだろう。

(シカマル・・・・あんた、アホや。アホすぎるで・・・・・でも、アホやけど)

思わず零れた涙を拭い、空を見上げながら心中で呟く。

((本物の漢やで))

いのと2人、瞬間心重ねて。


俺といのは夜空にシカマルの笑顔を思い浮かべながら、見続ける。



幾千の星が輝いていた。



「「シカマル・・・」」


無茶しやがってと言いながら。


2人は男泣きに泣いた。









ちなみにそんな2人の背後では、自分の名前を呼びながら空を見上げる2人に対し突っ込もうか突っ込むまいか考えている悩み多き青年。


最近は胃薬が主食となっている奈良シカマル上忍(16)の姿があった。







[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 四十五話
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2009/10/24 16:26

滝隠れの里の外れにある、森の中。

その最奥部にある、家。

そこら辺の木で取りあえず建てました感が一目で分かる質素というか滅茶苦茶な構造をしている家だ。

それを、少し離れた所から見ている、2人の忍びの姿があった。

2人は、東雲の模様をした服を着ている。

「・・・・あそこだな。気配がする。急ぐぞ、飛段。分かってると思うが、今度は油断するなよ」

「は、わあってるよ、角都よ。それよりもここを見つけるのに随分と時間がかかっちまったな・・・・例の、木の葉からの使者とかいう奴らがこの近くに来てるんじゃねえか?」

先の作戦の後、不測の事態により一度アジトに戻った2人は、リーダーから再び七尾回収の任を命じられた。

「だから急ぐと言ってるんだ。七尾の回収、邪魔されるわけにはいかん・・・まあ、足止めに関して、手は打ってあるのである程度余裕はあるだろうが」

「・・・ああ、あの滝隠れの若造かあ? 茶髪の・・・あれ、名前なんだっけ?」

顎に手をやって考える飛段を見た角都は、心の中だけで呟く。

(・・・相変わらず、興味の無い人間の名前を覚えられん奴だな)

「んあ、何か言ったか?」

「いや、何も言っていない」

「・・・いいけどよ。しかし、また俺らが使わされるとは」

飛段は面倒くせーな、と愚痴る。

「これは俺達のノルマだからな。仕方ないだろう。デイダラとサソリも、今は自分のノルマである一尾の回収に向かっている筈だ」

「・・・あれ、イタチと鬼鮫の野郎共はどうしてたっけ?」

「・・・イタチは相変わらずだ。お姫様の護衛で、鬼の国の外れに居る」

2年前からそこは変わらないだろう、と角都が飛段に告げる。

「あれ、それだと鬼鮫の野郎は?」

「・・・トビが失踪したからな。余った鬼鮫は、デイダラとサソリとスリーマンセルを組んで砂隠れだ。お前、聞いていなかったのか」

「ああ、忘れた・・・でも、随分と大仰な組み合わせなこって」

過剰戦力と言えるかもしれないが、念には念を入れて、とのリーダの指示に従っての新しい編成だった。

「あのペインが逃がした、九尾の抜け殻だったか。もしかしたら介入してくるかもしれん、ということでな」

用意は周到にだ、と貫禄の言葉を発する角都。

「・・・それにしてもペイン、か。いや・・・」

角都は虚空を見上げ、何かを口に出そうとしていた。

「・・・あ? 角都とよ、お前何かリーダーに含むものがあんのか?」

「いや、戯れ言だ。妄想に過ぎん、な。しかし飛段よ、お前は少し前からリーダーの事をじっと見ているようだが、お前こそ何か思う所があるのか?」

「ああ? いや、はっきりとは分からねーけどよ。あいつ、変わっただろ? それで、変わった後の姿というか雰囲気というか、何か、こう」

・・・俺に近い何かを感じるんだよ、とは口の中だけで発せられた。

「・・・お前にしては、はっきりとしない物言いだな。まあ、前と変わったというのは否定しないが」

「音隠れの糞蛇野郎共と組む、なんてなあ。以前のリーダーの性格というか、気性なら、有り得なかっただろ」

「・・・ふん、デイダラあたりは、未だに納得していないようだがな。利害の一致だ。合理的とも言える。
まあ互いの利害、利益が異なった時にはどうなるか分からんが。しかし、お前に似た雰囲気、か・・・・」

「あん? 何か言ったか角都よ」

聞かれた角都は首を振って、思い過ごしだということにした。

「いや、何も言っていない。それより急ぐぞ、相棒」

「はっ、りょーかいりょーかい。じゃあいっちょやってやりますかあ!」


飛段の鎌が、勢いよく抜かれる。



---そしてその勢いのまま、後方にある枝にぶつかった。

枝だが切り裂かれて、落ちる。


「・・・あ」

切り取られた枝は当然の事ながら自由落下。

勿論、大きな音を立てながらだ。

「え・・・・」

直後、家の中にある気配が揺れた。

「・・・あ、じゃないだろこの馬鹿。標的に気づかれただろうが!」

「のあっ!?」

こめかみに青筋を立てながら、角都は飛段のこめかみに蹴りをぶち当てる。踵だった。

ヤクザキックを喰らわされた飛段は、そのまま木の枝の上から落ちた。すわ頭から落ちようかという体勢だったが、すんでのところで回転、足から着地する事に成功する。

「危ねえなおい、死ぬところだったろうが!?」

「お前が死ぬか! いいから急げこの馬鹿!」

「うるせえ、このジジイ! 死ななくてもスーパー痛かったじゃねえか! 後で覚えてろよお!」


不死コンビは怒鳴りあいながら、フウが居る家へと向かっていった。






同時刻。

「もう大丈夫なの、キューちゃん」

『ああ・・・心配をかけたな』

「いや、まあ・・・心配したけど。それで、もう普通に話せるの?」

『ああ。大丈夫、大丈夫じゃ。それで、七尾の人柱力を迎えにいくのじゃろう?」

「今向かっている最中。それで、キューちゃんは七尾がどんななのか知ってる?」

『いや、知らん。互いに交流など無かったからの』

「そうなんだ・・・おっと」

『どうした?』

「いや、前の団体さんに気づかれそうだったんで」

『・・・しかし、まるで追い忍だね。このストーカーっぷりは』

「・・・それは言うなよ。でもまあ、遊撃だから。隠れている方が襲われたとしても不意打ちしやすいし」

不意打ちは俺の得意技です。

『・・・胸を張ってまでいう事か。しかしまあ、戦いは機先を制する者が勝つというしな』

「そうそう。それに、もう此処からは前情報なんぞ当てにならないし」

それで先日痛い目見ましたし。もう油断はしないです。

・・・いや、あれは不可抗力なんだけどね。というか想像できるか、あんなもん。偶然にも程があるだろ。

ちくしょう神様何て大嫌いだって、あれ神様じゃん。うん、納得した。

『まあ、近い能力は持っていたね。断言するけど、あれうちはマダラ並か、もしかしたらそれ以上に厄介な相手だよ』

そうだよなあ。あ、そういえば。

「砂隠れに現れるかもしれんなあ・・・残っているサスケ達は本当に大丈夫だろか」

『・・・流石に、いち組織のボスが各地をうろちょろするのは無いと思うけど。あれは木の葉襲撃の際の事態の行く末を見ていただけと思うよ。あとは、ほら・・・岩とか霧の忍びを操っていたとか』

「まあ、十中八九それだろうなあ。あの後すぐに退いたって事を考えても。まあ、砂隠れには現れないだろうって、俺も分かってはいるんだけどね」

『・・・いやいや、あやつらも2年半前より格段に強くなっているじゃろうが。そう神経質になる事はないだろうに』

「いや、まあ、そうなんだけどね」

あの長門の力を見たら、どうにも不安になってしまう。もしかしたら何でもありなんじゃないかって。

『策も練ってるみたいだしね。それにしても五大国のどの里にも悟らせないであの規模の作戦を敢行するとは・・・あの長門、暗躍も大分いける口と見たね』

「酒みたいに言うなよ・・・かくなる上は各自が対処していくしかないのかあ」

ややこしい。

『大まかな流れは里の長が決めるでしょ。僕たちは暁を削るのと、人柱力狩りを防ぐ事に専念すれば良いと思うよ』

「それだけか?」

『うん。事態が本格的に動き出すのは、雷影殿が回復してからだろうし』

聞くに、どうも雷影さん、一方的にやられてただ黙ってるような性格じゃあないらしい。

「まあ、現状俺達にできることは、この任務が無事終わるよう木の葉側の部隊をサポートすることだけだね」

『うむ。しかし、前方のあやつらも・・・以前とは見違える程に腕を上げたの』

「あ、キューちゃんもそう見た? そうなんだよ、結構きつい修行をこなしてきたみたい」

『そうじゃの。温泉でも・・・そう言っておったし』

何かを思いだしたのか、キューちゃんの顔が赤くなるのが分かった。

『うん、相当に鍛えられてるよ。キリちゃんもシカマル君も、上忍に相応しい能力を持っているね。他のみんなも、それに近い実力を持ってると見たよ僕は』

「そうだなあ・・・」

赤い狐、ばれるの怖いなあ

まあキリハとシカマル達が話さなければばれないだろうけど。

「あ、そういえば波風キリハの兄である“うずまきナルト”に関しては、全員がその情報を与えられてるんだっけ?」

『・・・中忍になったと同時に聞かされたって言ってたじゃない』

「あ、そうだったっけ。しかし、中忍か」

どうにも、中忍というと不安感があるなあ。

『いや、ただの中忍じゃあないよ。みんな独特の秘術を保持しているからね』

木の葉の旧家・名家の秘術と血継限界、か。

確かに、どれも凶悪な性能もってるな。

『まあね。それに、その秘術があるからこそ、木の葉は大陸一の忍び里で居られたんだよ』

数に質って事ね。特定の戦場では鬼のような効果を発揮するだろうしなあ。

「・・・成る程。流石は木の葉隠れの里。隙が無い」

里は古く、歴史もある。人材も豊富で、里全体の総任務回数も大陸一だろう。故に、術開発も進んでいるらしい。

ということは、人材も豊富。戦力が減ってもすぐに補充が可能って所か。

『それに木の葉は気候的にも恵まれていて、人間も動物も、等しく住みやすい環境だしね。好きこのんで離れていく人は少ない』

『・・・それでいて食材も豊富、だったか』

そうだね。前に木の葉に留まっていた要因でもあるしね。

「それ故に色々な思想を持つ人間も出てくる。派閥もできやすい、か」

『それは否定しないね。ま、木の葉の忍びには濃い性格持っている人も多いし』

「・・・それに関しては、店を開いた初日に理解したよ・・・・ん?」

歩を進めながら話をしていた途中、気配を感じた俺はその場に立ち止まり感覚を集中。

より深く、探る。

「・・・滝隠れの忍か。いや、それにしても」

『いやいや、随分と数が多い。こりゃあ一悶着あるかもね』

何かあるかもしれないから、用意だけはしておいた方がいいか。

そう判断した俺は、前を歩く木の葉一行と、それに近づく何者かの動向を注視し始めた。




一方。

キリハ達は、指定された約束の場所である虫鳴峠まで、あと少しの地点まで辿り着いた。

だが。

「もうすぐだね・・・って・・・・あれ?」

そこで、キリハは足を止めた。

「・・・気配、だね・・・誰か近づいてくる」

こちらに近づいてくる複数の気配を察知したのだ。

「警戒を。気を抜かないでね」

いつでも戦闘態勢に移れるように、と言う。

「「「了解」」」

気配を隠して接近してくる訳でもないので、敵襲という可能性は薄い。だが、場所が場所であるため、キリハは全員に注意を促す。


そして、その後。

気配の主が姿を現した。


「こんにちは」

「・・・こんにちは」

現れたのは、滝隠れの忍び。額当てを見るに間違いないだろう、とキリハは判断した。

「・・・あなた方が、木の葉の?」

「はい。木の葉隠れの上忍、波風キリハと申します。あなたが、迎えの人でしょうか? 指定の場所から、少し離れているようですが・・・」

「・・・そのことについては、お詫びします。お恥ずかしい事ですが、指定の場所に関する情報が外部に漏れてしまったようで」

「それで、この場所まで迎えにきた訳ですか・・・」

キリハは迎えに来た面々を見渡し、話を続ける。

「話では滝隠れの長様が直々にお出迎えになられるとの事ですが・・・・あなたが、シブキ様で?」

そう言うと、男は苦笑しながら首を振る。

「いえ、違います。失礼しました、私の名前はシグレと申しまして。長は、その・・・フウめやらを捕らえる際に、負傷してしまいましてね。代わりとして、私が使わされました」

「それは・・・・長様は無事で?」

「はい。命には別状ありませんが、今は安静の身でして・・・その、急な話で本当に申し訳ありません」

「はあ・・・」

そこで、キリハは考える。この滝忍の言葉を聞いて、考える。


・・・話としてはおかしくない。

“話は”おかしく、ない。

「・・・そうですか。それで、その人柱力の少女は?」

「只今、こちらに・・・・」

茶髪の、恐らくはリーダー格の男は、後ろの者に何かを命じている。



数秒の後、森の暗がりから、少女が姿を現した。


陽に当たる草原のように、黄碧の色をした髪。

そして、やや赤を帯びた橙色を灯す瞳。

赤い巻物を背に、随分と活発な服装をしている。

以前見た、少女と同じ容姿、同じ服装。

「・・・彼女が?」

一応、確認する。

「はい。彼女が七尾の人柱力で、名をフウと申します」

笑顔のまま、男は答える。

キリハも笑顔を返し、ただ心の中だけで“成る程ね”と呟いた。

「承りました。ですが、シグレ殿? お出迎えにしても・・・随分と数が多いのでは?」

「ええと・・・すみません、それには事情がありまして」

キリハの問いに、シグレは困ったような表情を浮かべる。

周りにいる者達は、シグレと同年代か、それより年下である若い忍ばかりだ。

「恥ずかしい話、滝隠れの中でも、人柱力を渡す事に反対する者が居ましてね。万が一の事を考えて、この人数でお出迎えを。木の葉の方々に何かあれば事ですから」

と、シグレが笑う。

「これ以上は、その。お耳汚しになってしまいますので。申しわけないのですが、出来れば説明は控えて頂きたく」

「いえ、当然の事です。了解しました」

キリハは滝の面々を視線だけで見渡した後、一つ息を吐き、シグレに向き直る。

「分かりました。ですが、後、一つだけ。聞きたいことがあるのですが」

「何でしょう?」

キリハは一本指を立てて訊ねる。



「“これ”は、あなた方の独断という事でよろしいのでしょうか?」



キリハが、笑顔で訊ねる。


その言葉を発するか、発しないかのタイミングで。


ザッ、と。

誰かが、土を蹴って走り出す音がした。



「・・・死ね!」

勢いよく飛び出したのは、今まで黙って俯いていた少女、フウ。

彼女はクナイを構え、シグレと会話中であるキリハの元へ迫っていく。


一歩踏みだし、走る。


そして4歩目を踏み込んだ時には、間合いの中に標的を捉えていた。

スピードで言えば中忍でも上の位階だろう。

加え、全くの不意打ち。


通常ならば“やれる”間合いだ。

警戒していなければ避けられないだろうタイミングで、刺客は手に持ったクナイで、キリハの首を突き刺そうとする。



だが。


「ぐあっ!?」


悲鳴を上げたのは、刺客の少女の方だった。


「・・・随分と、いきなりだね?」


キリハは首を目掛け突き出されたクナイを左手で横に捌き、同時に右の掌打で相手の胸部を打ち据えていた。


「それに、余りにも・・・下手すぎる!」

「ぐっ!?」

まさか不意の一撃を避けられるとは思っていなかったのだろう。刺客は、予想外の事態に身体を硬直させてしまう。

その隙を付いて、キリハは右の回し蹴りを放った。回転半径の小さい、鋭さと速さを重視した回し蹴りである。

「ぐあっ!?」

こめかみにその蹴りを受け、少女は吹き飛ばされた。


音が鳴り、煙が発生する。


---そう、“変化の術”が解けたのだ。



「やっぱりね」

呟きながらキリハは周囲にいた忍び達に向き直る。

「ひの、ふの・・・森に隠れているのを含めて、24人か。それで、あなた達? これはどういう事でしょうか」

「・・・」

言葉を受けた忍び達が目に見えて狼狽える。

だが眼前の男、シグレだけは笑顔を保持したまま、動かない。

そのまま、キリハに言葉を向ける。

「・・・一つ、聞いてもよろしいでしょうか?」

「何なりと。あと、これは勘なんですけど」

一泊置いて。

「あなたには、敬語は似合わないかな。そんな感じがする」

さっさと本性を現したらどう? とキリハが言う。

シグレは「随分と、勘の鋭いお方で」と前置いた後、能面のような表情と共に言葉を通常のものに戻した。

「それで、奇襲に気づいたのも、お前の勘か?」

男の様子が一変した。気配も鋭くなり、威圧感を発してくる。

同時、目に見えて、周囲の忍び達の気配がより一層鋭くなった。

それに呼応し、キリハの後ろにいるシカマル達の気配も濃くなっていく。

戦闘態勢である。

「まさか。勘は勘。そんなに便利なものでもないよ。それに、勘に頼る程でもなかったから・・・・えっと、気づいた理由だっけ?」

そんな中、キリハだけは様子を変えずに肩をすくめ、相手の要望に応えその理由を説明しようとする。

「・・・簡単だよ。あなた達、ヒナタちゃんの方を意識しすぎだった。あれだけあからさまな挙動を取られたら、ねえ?」

ヒナタを気にする。つまり、“白眼が発動されていないか、また発動されるのではないか”と警戒していたのだろう。

シグレ除く、若い忍び達は、明らかにヒナタの方を注視していた。

「隠し事があるって宣伝してるようなものだよ。あと、あの人。変化の術下手すぎ。加え、辛抱足りなさすぎ。
わざと隙を見せた途端、速攻で襲ってくるとか・・・少しは気づかれてるかどうか怪しもうよ」

そこで一息、ため息を吐く。

「・・・それで、シグレ殿。これは一体、どういうことなんだ?」

是非とも説明して頂きたい、と少し後方にいたシカマルが一歩前に出て、シグレに訊ねる。
周囲への注意も怠らない。正直、いつ飛びかかられるか分からない状況だ。

飛びかかってこないで、未だ余裕を保っているのはこちらを甘く見ている証拠だ。
数で劣る俺達など、いつでも殺せると思っているのだろうが。

「どうもこうも」

その余裕を信じている男は、肩をすくめたままシカマルの問いに答える。

「木の葉にアレは渡さないと。そういう意味だが?」

「・・・アレ?」

キバは赤丸に乗ったまま、シグレに訊ねる。

「・・・あの、虫娘の事だ」

ふん、と鼻で笑って男は忌々しげに答える。

「確かに、あのような化け物など滝隠れの里には必要のないものだ。里が決定した“誰かに渡す”という点に関しては同意もしよう。だが、それも相手による」

淡々と。

「我らは弱小の里。それは理解している。だが、そんな我らのような小里にだけしか分からない事もある」

事実だけど告げる。

「・・・勝ち目に乗る、ということだ。次に起こる戦争、何処か勝つかなんて事は分かり切っている。それを、里の爺共は分かっていない。
現状の維持だけに精一杯で、視野が狭くなっているのだ」

「あんたは視野が広い、ってこと?」

いのが嘲笑を浴びせかける。

「そうだ。俺は、力を見た。あの方の圧倒的な力を、な。あれが唯一、絶対なる力というものだ」

男は、少し興奮しているようだ。

「・・・あの方? もしかして雨隠れの長の事?」

「そうだ。あのような力、俺は今まで見たことがない。正しく、神の所行だった」

その言葉には、信仰に誓い響きを感じた。力に対する信仰だろうか。男の瞳は何処か危うい光りを灯していた。

「だが、里の爺共にそれを話しても理解しようとしない。聞くこともしない。だから、俺が引っ張っていくのだ。
お前らの死体を以て新たなる同盟を結ぶ決意とする」

これは滝隠れのためだ、とシグレは傲慢に語り出す。

「フウっていう少女も、その取引の道具と言う訳?」

「勿論だ。主の言うことを聞かない兵器など、危なくて仕方がない。それに、化け物には化け物に相応しい使い方があるだろう・
・・・何、最後に人様の役に立てるのだ。あの小娘も本望だろうて」

尾獣、もしくは人柱力の“正しい”使い方だと。

言いながら、シグレは下卑た嗤いを零す。

「・・・よく口が回るな。それに、俺達にそこまで話していいのか?」

シノが無表情を浮かべたまま、男に尋ねる。

「何、冥土の土産だよ・・・どうせ、誰にも話せない」

皆殺しを宣言する男を見て、シカマルは目を細くする。

(・・・加え、背後の忍び、恐らくは同士の意志を統一し、更に強めるため、か)

包囲が狭まっていくのを感じる。まだ、増援が居たようだ。




「・・・随分と、まあ語ってくれるもんだね」

キリハは俯いたまま、2週間ほど前に見た少女の姿を思い出す。

痛みに顔を顰め、森の方へと逃げていった少女。あの苦痛を浮かべた顔、そして流れていた血の赤。

兄と我愛羅以外の人柱力を見たのは、初めてだった。

「前に、フウって娘を見たけど」

そして一目見ただけで分かった。
あの少女も同じなのだと。

あの表情。あの血。あの姿。あの瞳。

「・・・血を流して苦しんでいたよ。ああ、そうよ、人間じゃない。なのに・・・・道具? 兵器?」

キリハは血が出るほどに拳を握りしめ、歯を軋らせながら、叫ぶ。

「人柱力って言ってもさ! ・・・尾獣が封印されているだけの、“人間”じゃない! 苦しみもすれば、痛みも感じる、人間じゃないか!」

叫びと共に、キリハのチャクラと殺気が膨れあがった。

「誰も彼も人間じゃない! 人間を、道具扱いするな! 都合のいいように理屈だけならべて、さも当たりまえのように言うんじゃないわよ!」

人柱力を“そういうものだ”と決めつけて、死ねと言う。
人間を見ないで、ただ誰かが並び立てた理屈を信じて、死ねと言う。

流す涙も血も見ないで、ただ死ねと言う。
キリハはそれが我慢ならなかった。

確かに、危険な存在だ。だがそれだけで死ねと言う、道具扱いする、兵器と信じて疑わない人達。

---ふざけるな。

「そんな理屈、認めない」

「・・・な・・・・風?」

同時、キリハを風が包み込む。

チャクラに反応した耳飾りが、風を生み出しているのだ。


「・・・誰にも話せない? こちらのセリフよ」


目に見えて膨らんだチャクラを前に、滝隠れ忍び達が一歩後ずさる。

キリハはシグレを指さし、告げる。


「あなただけは許さない。これ以上誰にも、そんな巫山戯た理屈を語らせはしない!」


「・・・戯れ言を! 全員かかれ!」

シグレが号令をかける。

だが、それと同時に何かが飛来する。


「なっ、起爆札!?」

それを視認したシグレが、叫ぶ。

木の葉一行の後方から、起爆札付きクナイが複数飛んできたのだ。


「散開!」

爆発から逃れるために、散開する。


一瞬後、爆発。

滝隠れの忍び達は被害を受けなかったが、包囲が崩されてしまう。


シカマルは、クナイと同時に飛んできた、チャクラが篭められた紙飛行機を受け取り、それに書いていた文を見る。

(・・・思っていた通り。足止めの可能性が高いか)

そして、こうも書かれていた。

“こちらは先にフウの方を保護しにいくが、それでいいかと”

「・・・」

シカマルは言葉を発さず、腕を上げる。

それは“OK”の合図。


そして号令を発する。

「全員、行くぞ! ここを死守だ!」

シカマルの号令と共に、木の葉側も小隊単位で散開し、切り込んでいく。



死闘が、始まった。




一方、起爆札を投げた本人は、シカマルの合図を受け取って、森の奥深くまで入っていった。

「・・・あの野郎の物言いはかなりむかついたが・・・」

言いたいことはキリハが言ってくれた。あとは信頼して、任せよう。

『そうだね。でも、その場所が分からないけど』

「このままじゃ埒があかんな・・・ひとまず、上に昇ってみるか」

付近で一番背の高い木を見つけ、それに飛び移る。足底をチャクラで吸着、てっぺんまで登っていく。

「・・・・」

そして、フウの家があると思われる方向を見る。


「・・・・あそこだ!」

一カ所、煙が立ち上っている所を発見。

『かなり、離れてるね。絶賛戦闘中みたいだけど、このままじゃ間に合いそうにない』

どうするの、とマダオが訊ねてくる。

「手はある・・・だけど、策が無いな。いや、迷っている暇はない・・・」

『・・・それならば、こういうのはどうじゃ?』


キューちゃんが角都・飛段コンビに対する戦術案を提案。

それを聞いた俺は、成る程と頷く。

「・・・確率は五分だけど、まあ上等か。もしかしたら行けるかも。流石キューちゃん、えげつない!」

『年の功だっちゃわいねー!』

『お主ら好き勝手言ってくれるのぉ!』

ってまあ、説教は後で!

「じゃあ、行きますか! セット!」

懐から札の付いたクナイを取り出し、右手に構える。


『・・・飛ぶの?』


「応!」

まず始めに、俺は木のてっぺんに足底を吸着。

目的の方向に向け、直立。

「・・・!」

呼吸が止まる程に。その場で、全身を捻る。

ぎりぎりと筋肉が音鳴る程に、全力で全身を捻転させたのだ。


そしてねじりの果て、引き絞った果てで一瞬、硬直させる。


「・・・っ!」


そして、一気に解放する。


「いけええええええええええ!」


回転の勢いそのままに。

俺は煙が立ち上っている場所目掛け、手に持ったクナイを全力で投擲する。


「・・・・角度よし! 飛距離よし!」



先端が重くなっているクナイが、空を駆けていく。



「・・・準備よし! 覚悟よし!」


フォロースルーも束の間に。

クナイの着地点を確認した後、俺は自らの掌に拳を打ち込み、自らを鼓舞する。


これから赴く場所は、死地だ。

この目で見てはいないが、相手は恐らく暁だろう。



それをしっかりと認識し、把握して決断する。

行くか。
逃げるか。



「・・・誰が逃げるか!」


俺は選ばない方を蹴り。


選びたい方を叫んだ。




「小池メンマ、行きます!」


そして、投げたクナイに刻まれた印の元へ。



「ジャンプ!」


俺は飛雷針の術を使い、飛んだ。




[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 四十六話
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2009/10/25 23:07



「・・・痛、い」

折られた肋骨が痛む。穴の開いた右足が痛む。

殴られた頬が痛む。焼かれた左手が痛む。

視界が霞む、腹に力が入らない。



---身体の各所に受けた傷が、呟いてくる。



その囁きを聞いたアタシは、意識を失いそうになった。

それも、何とか耐える。ここで意識を失ったら、何もかもが終わりだ。

だが、全身を襲う疲労は酷く、このままでは時間の問題とも言える。



---また、囁きが聞こえる。


「・・・誰が」


自然、口から出る言葉。

強がりだと自分では分かっていても、発せざるを得ない。

黙ったままだとそのまま負けてしまいそうだったから。

でも普通に立つこともできなくなったアタシは、木にもたれかかる。



そして、自分の元へと近づいてくる2人の男を睨んだ。


「・・・終わりだな七尾。諦めろ」



目の前の、眼孔鋭い男の忍びが告げてくる。

見れば、滝隠れの抜け忍らしい。


「そうそう。これ以上時間かけさせんなって」


湯隠れの抜け忍であろう、銀髪の男も、同じ事を言ってくる。

変な呪術を使う男。身体中に紋様を浮かべ、こちらをあざ笑っている。




「・・・何がおかしい?」



「・・・いや、みんながおんなじ事を言ってくるもんだから、さあ」


全身を襲う痛みが、言う。

---諦めろ。

全身を襲う倦怠感が、言う。

---諦めろ。

目の前の、男達が言う。

---諦めろ。

滝の忍び。あのいけ好かない野郎を思い出す。あの男の口癖だったな、そういえば。

---諦めろ、楽になれ、なんて。



「だ、れが・・・諦めるか」

チャクラも残り少ない。もう羽根を具現化させて飛ぶ事もできない。

勝ち目が無いなんて、分かり切っている事だ。


「最後まで・・・足掻いてやる」

だが、認めない。

今諦めてしまえば、今まで頑張ってきた意味が無くなってしまう。

それに何かを諦めて楽になれる筈なんか無い。諦めればそこで終わってしまう。次も無いし、先も無い。


「・・・仕方ないな。飛段」

「りょーかい」

地面に描かれた怪しげな紋様の上に立っている銀髪の男が、“また”自分の足に黒い刀のようなものを突き刺した。


「っあああああああっ!?」

同時、“また”自分の足に穴が開く。

今度は左足だった。

激痛に、立っていられなくなったアタシは、その場に崩れ落ちる。


「・・・これでちょこまかと逃げられなくなったな」

目の前の男が、近寄ってくる。

アタシを捕獲しようとしているのだろう。



「・・・糞。畜生。バカヤロウ」


薄れていく意識の中、あらん限りの罵倒を繰り返す。

そして、過去の思い出が頭の中を駆けめぐる。


これが、シブキ様が言っていた走馬燈というやつだろうか。



---何をした。

一生懸命、滝隠れの里のために働いた。それが悪かったのだろうか。

---アタシが何をした。

忌み嫌われようが、疎まれようが、居場所は此処にしか無かった。だから頑張ったのに。

---アタシが一体、何をした。

だが、力を付けていけば行くほどに。里の忍びから向けられる視線に含まれた色は、黒く歪んでいった。

『嫉妬』、『忌憚』、『畏怖』。

アタシの中の虫野郎、七尾は単語でしか物事を語ってくれない。

それを里長に聞くと、何故か申し訳ない顔をしていた。手を差し伸べてはくれなかったけれど。

---アタシは一体、何をしたんだ。

あの視線を思い出す。追い出された日を思い出す。

・・・暴走した日を思い出す。一体どこからきたのか分からない、たくさんの黒い感情。

衝動に身を任せたあの日。何もかもを諦めたあの日の事件。

『憎悪』だと。虫野郎は、そう言った。


当然滝隠れの里に残れる筈もなく、アタシは追放された。

そして、この家にたどり着いた。森の奥にあったこの家に。

誰が作ったのか分からない、この家。始め足を踏み入れると、虫野郎は言った

『不変』、『再帰』とだけ。

その意味は分からなかったけれど、虫野郎にしては珍しく何処か悲しげな声だった。


目の前の男が近づいてくるのが分かる。

そして、その意味も分かる。


これが所謂、アタシの結末という奴なのだろう。

全てを思い返し、考える。一体、何が駄目だったのか。何がいけなかったのか。

大人しく道具であれば良かったのか。あの野郎、シグレが言うままに兵器として在れば良かったのか。

しかし、言うとおりにしたとしても。其処には“アタシ”は居ない。それで良い筈が無いのだ。

(じゃあ、どうすれば良かったんだよ)

その問いに答えてくれる人もおらず、祈るものもなくここで終わるというわけだ。

そこで、アタシは理解した。



身体を襲う激痛と疲労感。そして目の前の男が言っている意味が。

諦めろ、と。楽になれ、と。

ああ、そうか、そういう事か。


---死んで、楽になれと言うのか。


理解したと同時、視界が黒に染まった。限界が訪れたのだ。

だが、その一瞬前、金色の何かが見えた気がしたが、あれは幻覚だったのだろうか。


確かめる事もできない。視界はとうに闇に染まっている

しかし、声は届いた。













「・・・・そこまでだ」












フウを背後に、メンマは暁の2人と対峙する。

「・・・・よくもまあ、大の大人が2人でさ。少女を相手によくやるもんだよ。拍手していいか? ぱちぱちぱちと」

「・・・時空間跳躍忍術。それに、その金髪・・・成る程、お前がうずまきナルトか」

「へっ、一尾の方には行かなかったって訳か。リーダーの予想は大外れ。まあ、どうせ結果は変わらないんだろうが」

「・・・少し黙れ、飛段。喋り過ぎだぞ」

「・・・一尾? お前ら、まさか我愛羅にも手を出しているのか」

「・・・さあな。それよりも、先のお前の問いに答えようかうずまきナルト」

角都は少女を指さして、言葉を発する。

「あいにくと、そこのそれは化け物。少女なんて可愛いものではないだろうが。ならば、どう扱おうが文句を言われる筋合いは無い」

角都の言葉。それに、メンマは嘲笑を浴びせかける。

「はっ、人間止めてんのはお前らも同じだろうが。あとそこのそれ、だと? 成る程、品性に関しても人間を止めてんのか、お前らは」

「・・・ふん、忍びに品性を求める方が間違っている。そういう意味ではお前も同じだろうが」

「俺は忍びじゃ無いってえの。ほら、額当てもしていないだろうが。正真正銘の一般人だ。
つけ加えると、一般の忍びでもお前らと一緒何てえカテゴライズはして欲しくないだろうよ」

「それは未熟だからだろう。それに、誰が一般人だ? 一般人は普通、時空間を越えて飛んでこないと思うが。
それに、ただの一般人が、あのペインに傷を負わせた上に、逃げられる筈も無かろう」

「・・・命からがら、だったけどな」

メンマは眉間に皺を寄せながら答える。そして、内心で焦っていた。

一尾と、リーダーの予想。二つの単語から、状況を導き出す。

(つまりは砂隠れに誰か向かっているのだろう)

メンマは心中でそのことを察し、状況の厳しさを悟って思わず舌打ちをしてしまう。
つまりは、この相手をどうにか凌いだ後、砂隠れの救援にも向かわなければならないと言うことだ。



「けっ、どうでもいい事をぐだぐだと、くだらねえ。リーダーから逃げおおせたとか聞いたが、何て事はない。ただの、バカガキか」

「・・・そうさ、ガキさ。お前らのようなオッサン達に比べればな。特にアンタは加齢臭が酷そうだ」

「・・・貴様」

角都の眼光がより一層鋭くなる。傍らの飛段は角都の様子を横目で見て内心で笑い転げながらも、視線は標的を捕らえたまま。

一歩踏みだし、地面に置いていた愛用の鎌を拾う。

「へっ、随分と大層な口を聞いてくれんじゃねーか。ウチのリーダー相手にして逃げ回る事しかできなかったお前が、俺達2人同時に相手にできんのかあ?」

「・・・やるさ」

背後の少女、フウを後ろ目でちらりとみて、メンマは答える。

「いや、やってやる。だから・・・かかってこいよクソヤロウ共」


最早、口上は意味を持たない。言いたいことは数あれど、それを言っても意味が無い。

2人の目を間近で見たメンマは、ある事を悟っていた。


角都の目は、まるで虚無の様。光りはあれど、何を映しているのかメンマには理解できなかった。
80年近い戦闘を経ての、この眼光。正直、メンマは角都の異様な眼光に戦慄さえ覚えていた。
何を考えているのか、さっぱり理解できない。

片や、飛段の目はまた違う意味で異様だった。どうにも別世界を見ているようにしか思えない。
旅の間にも、噂には聞いていたジャシン教の教えを狂信しているのだろうか。
曰く、『汝、隣人を殺戮せよ』。
なるほど、全てを殺すのであれば、人を人とも思えないのは道理だ。メンマには理解できない世界ではあるが、彼には彼としての視点があるのだろう。
何処か遠い世界で、独り何かを断言している。そんな風に思えた。


いつか見たうちはイタチとも、干柿鬼鮫とも違う。

俺が何を言おうが、この2人には決して届かない。
そう、悟ってしまう程の異様。

この2人、あるいは尾獣よりも化物な、正に怪物的存在ではないのか。


---人間は、時には怪物にも成れるのよ。

そう言って、悲しく笑った少女を思い出す・・・いや。

急に、頭が痛くなる。

(これは誰だ?)

---群れた人間の怖さを教えられたあの日、確かにそれは成る程、“あり”な理屈だと思った。

(・・・いや、あの日?)

思い出せない。だが、目に浮かぶこの光景は何だ。彼女はいったい、誰だ。

『集中して!』

(・・・了解)

ひとまず、後回しだ。まずはこの戦闘。

言葉が役に立たない怪物を前にして。
言葉も思想も倫理も感情も意味を成さないのであれば、後は殺し合うしかない。

戦場に、日常に。今まで数多くの人間に出逢った。
だが、殺し合うしかないと思った人間を見たのは2回目だった。

「・・・こいよ、殺してやるから」

そう、言わざるを得ない相手と出会ったのは2回目だった。
頭が痛いが、気を逸らしてはいけない。

一方。
メンマの言葉に、あまりにも見え透いたその挑発に、飛段が乗った。

「ああ、行ってやるよ!」

鎌を構え、突っ込んでいく。

「死ね!」

振りかぶられる鎌。メンマはその鎌が振り下ろされる前に、一気に懐へと飛び込んだ。

飛段とて暁の一員。暁内では最も体術の練度が低い彼だが、それでも上忍並のものは持っている。

その飛段をして、不意をつかれるような速度で踏み込んだのだ。


「なっ!?」

近づく事ができなかった先の戦闘とは違い、今度は近接戦が有効だ。

まずは、無言のまま飛段の肺に掌打を放つ。同時に、チャクラのマーキングを施す。


「ぐあっ!?」

掌打の、連撃。独特の打法により、肺へと衝撃を浸透させた上で、更に掌打を重ねる重剄だ。

心臓に打てば殺し技となる、いわば禁じ手に近い技。

だが、それでも飛段は死なないだろう。そう考えたメンマは、肺へと衝撃を集中させる。

そして目論見どおり、飛段の呼吸が止まる。


「口寄せ」

吹き飛ぶ飛段に構わず、忍具口寄せを使い、捕縛の布を呼び寄せる。

「・・・精霊麺」

マーキングをした場所、飛段の胸へと布が迫る。布は広がり、飛段を捕らえるだろう。対抗する術は、持っていない筈だ。

「これで封じた」

一体二という状況下において、飛段の能力は厄介につきる。
どれだけ攻撃しても死なず、その上、その鎌には決して傷つけられてはいけないからだ。
傷を受けたら終わり、というのは精神的にも厳しいものがある。

だから、初手で封じる。こちらの戦力が把握されない内に、一手で決める。
チャクラを相当に消費したが、これはこの2人と相対する以上、避けられない一手だ。

最善を選んだと割り切って、戦闘を続ける。
残るは、もう一人。
齢90にも及ぼうかという、不死身の戦鬼だ。

---手は抜けない。

油断すれば一瞬で持って行かれる。そう判断したメンマは、チャクラを開放。


対する角都は、見慣れない封印術に驚いていたが、それも束の間に精神を平静状態に戻す。

そしてすぐさま封印の弱点を見破り、火遁系の術で布を焼き払おうと印を組もうとする。

だが、その一瞬前にメンマが踏み込む。

地面を蹴る音に反応した角都は術を中断、迎撃の体勢に移る。

それを見たメンマは、行動の優先順位と判断の速さが尋常じゃない、と角都に対し再び戦慄を覚える。

---長引けば不利。

そう判断したメンマは、初手から全力で行くことを決める。

角都の迎撃の拳を掌で捌き、かいくぐる。

懐へと入り込んで、一撃。

「しっ!」

呼気と共に、右の掌打を放つ。

角都は常時使用している“土遁・土矛”があるので通じない、と判断していた。

だが、それはまともな打撃に対してのみである。メンマの掌打は鉄壁の外郭を浸透し、その内にある部分まで衝撃を通すのだ。

思いも寄らない衝撃に、角都の動きが止まる。

「・・・もう一つ!」

メンマは追撃を仕掛けようと、短めの印を組み、また一歩踏み出す。

---雷・螺旋螺旋。

いつかカカシに放った術。千鳥ほどの貫通力はないが、相手の動きを止めるには最適である雷遁術だ。

しかも相手は土遁で防御している。

性質変化の理により、雷は土に勝る。

その理の通り、メンマの雷の一撃が角都の土の鎧を剥がしていく。

「まだだ」

呟き、再び印を組み影分身を使う。

チャクラ消費を抑えるため、多重ではなく、一体のみの影分身。

その影分身と共に一歩踏みだし、同時に左右から回し蹴りを放つ

---偽・双竜脚。

左右から挟み込むような回し蹴り。


だが、角都はそれに対処した。全身に痺れを感じながらも後ろ向けに倒れ込み、左右の回し蹴りを回避したのだ。

そのまま転がり、後方へと跳躍。

そこで、角都はメンマの力量を悟る。ペインから話には聞いていたが、成る程あるいは暁に匹敵するかもしれないと。

長年の経験から、角都はメンマの力量についての位置付けを修正。

---この相手は、強い。

意識を切り替え、全力で戦う事を決意する。



まずは慌てず騒がず、再び土遁・土矛を行使する。雷遁でなければ、この術は破れないためだ。

実際、この術の防御力はかなりのもので物理攻撃ならば、そうそう貫かれない。
手裏剣影分身のような、数にものをいわせた投擲系の術。また、大カマイタチの術程度の威力であれば、傷無く全て防げるぐらいの堅固さがある。

それに、攻撃力も増加する術だ。雷遁によって破られる事もあるが、同じ手は二度食わない。

ようするに、近づかなければいい話だ。雷遁を放つのではなく、掌打に纏わせて放ってきたという事は、そういうことだ。

つまり、近接しなければ使えない。近距離が不利だという事も判断した角都は、中距離で戦う戦法を取る。


それは、相手も分かっているのだろう。

顔を顰めながらも、追い打ちを仕掛けてくる。


角都は突っ込んでくる敵に対し、迎撃するべく右腕の先を向けた。

そして、切り札を使う。

秘術・地怨虞による、遠隔攻撃だ。

さながらペイン六道が使うような、怪腕ノ火矢の如く。切り離された角都の腕は勢いよく飛び出し、メンマを襲う。

土矛によって硬化された拳の一撃だ。まともに当たれば骨をも砕く。

だが、メンマはそれにも驚かずに、至極当然のように避ける。

---おかしい。

角都が、呟く。今の一撃、敵は当然のように反応して、そして避けたのだ。
そこに、角都は引っかかるものを感じた。

初手で飛段を封じた事といい、今の対応といい、嫌な可能性が思い浮かんでしまう。

---こいつ、何を知っている?

ゆうに四桁を越える回数の戦闘を、それでも乗り越えてきた角都は、メンマの反応に疑念を抱く。驚いていないのだ。

今自分の身体の内から出ている触手群にも、嫌悪の念は抱いているが、そのものに驚いてはいない。

秘術・地怨虞は自分以外に使える者のいない、禁術だ。それは誰より自分が知っている。

なのに、こいつは“まるで知っているかの如く対処した”のだ。

違和感を感じた角都はひとまず距離を取った。

そして、訊ねる。

「・・・貴様、何を知っている? いや、何故知っている?」

情報は忍びの命。術の詳細を知られる、と言うことは死に等しい。

「・・・何のことか分からないな」

額に青筋を浮かべながら問うた角都に対し、メンマはとぼけた表情をしながら、視線をそらすだけ。

その様子を見た角都は、答えを返さないメンマに向け、肩口にある顔から忍術を放つ。


火遁・頭刻苦。

地面に落とした小さな火を、風遁によって活性させ、あたり一面焼け野原にする術だ。

あわよくば布に包まれて地面に転がっている飛段にぶち当て、その布を焼き払うつもりで放った一撃。

不死身を利用した、このコンビならではの戦術。

「危ねっ!」

それを、メンマは対処する。

転がっていた芋虫飛段を、思いっきり蹴り飛ばしたのだ。

「てめええええええぇぇぇぇ・・・」

蹴り飛ばされた飛段は罵声を上げながら、向こうの方へと飛んでいった。
メンマの、瞬時の判断による行動だった。
行動を見た角都は、内心で舌打ちする。

---火遁の範囲の外まで逃がしたのか。しかし、あまりにも的確すぎる。

術の範囲について、あらかじめ知っていたとしか思えない程に、メンマの行動は速かった。
そこで、角都は確信する。メンマが、自分たちの能力について知っていると言うことを。

「・・・もう一度、問おうか。俺達の能力について・・・・貴様、一体誰から聞いたんだ?」









『(ひとまずは成功、か)』

マダオはメンマに聞こえないよう、胸中で一人ごちる。

情報を逆手に取った戦術。これで、相手は迂闊に動けない。

加え、仕上げはもっと極悪だ。情報源が大蛇○である事を悟らせ、反応を見る。

相手が音と結んでいるかどうかは分からないが、その反応で何かが分かるだろう。

どちらであっても、こちらはこまらない。

『(しかし、無茶をする)』

先程の大距離跳躍を思い出し、マダオは呻き声を上げる。

彼の行動理念に沿った行動だとしても、毎回毎回、冷や汗が出るような事をする。

『(自分のルールだけは曲げない、か)』

大したものだと思う。

今まで彼は、この二つのルールを破った事がない。

一つ、手を出したら最後までやる。

二つ、女の子と子供は助ける。

一つめは、彼は生来の気性からくるものだ。最初に出逢った時からそうだった。
手を出すまでは悩むが、手を出したら決して最後まで手を引かない。何があろうともだ。

二つめは、この世界に来てから出来だルールだろう。恐らく、その事を自覚していない筈だ。
確かに子供を助けたいのいう気持ちに嘘は無いだろうが、それでも命を賭けてまでと言われると、この世界にやってきたばかりの彼ならば首を傾げただろう。

出来た原因は分かっている。鬼の国での、あの時の事件によるものだろう。
だが、彼はそれを覚えていない。
覚えているのは、僕とキューちゃんだけだ。

でも、完全には忘れてきれていない。
昔一度だけ聞かされたあの娘の誕生日に、紫苑の花を持って川口で佇んでいる彼の姿を見れば嫌でも分かるというものだ。

そして酔っている時、ふと口ずさむ事もあった。

『(・・・先程は、はっきりと思いだしかけていたがな)』

思い出してしまったら、またあのような状態になってしまうと思い、今まで話題でも匂わせなかった彼女の存在。
そんな、忘れていた筈の存在を、彼は先程思い出しそうになっていた。

『(・・・記憶の共有が進んでいるのか)』

または、同じような状況を見てしまって、フラッシュバックが起きたのか。

『(そうかもしれないね。時にキューちゃん、魂の調子はどうなの?)』

『(・・・何とか持ち直した。だがあとせいぜい五度が限度だぞ)』

『(・・・何から何まで、ごめんね)』

『(なに、自分で決めた事だ。お主があやまる必要はない。伝えないと決めたのは我だ。
・・・それに、言っても止まらんだろうな、あいつは。いや、我もあいつが止まるというのを見たくないのか)』

キューちゃんが苦笑する。

『(相変わらず、じゃな。4年前のあの時以来ずっと、誰かを助けたいとか思っている時は“自分の価値を忘れる”。全身を襲う痛み、忘れたわけでもあるまいに)』

先の長門戦とは、動きもまるで違う。
相手の殺気に呑まれていないのもあるが、それにしても動きが速すぎる。

動きが鋭くなる理由について、2人は考えてみる。

『(・・・忘れた後悔を、無意識の内に背負っているのか)』

在る意味で歪んでしまった彼を見て、キューちゃんは何を思っているのか、マダオには分からなかった。
嬉しそうにも、悲しそうにも見える。

『(・・・お主、止める気はないんじゃろう?)』

『(それは、ね。彼をこの世界に呼んだ、責任もある。何をしようとも彼の選んだ事に異は唱えない)』

それがマダオのルール。呼んだ者として、最低限守らなければいけないルールだ。
アドバイスはすれど、行動を導こうとも思わない。漏れた想いが彼の考えに影響を及ぼしているのを知った時は、己を恥じたものだ。

『(我も、人の事は言えんよ)』

キューちゃんが俯く。
彼が女性を好きにならない理由。好意を受け取らない理由は、自分の想いが漏れているのでは無いかと考えているのだ。

『(いや、それは・・・)』

『(無いとも言い切れんじゃろう?)』

その言葉に、マダオは何も言えなくなる。

『(魂の歪みも酷くなっておる。言いたくはない、決して言葉に出したくはないが・・・・・・そろそろ潮時、かの)』

手に持った、血がついている短刀を見てキューちゃんが呟く。

『(まだだよ。希望は捨てないで)』

『(・・・そうだな。醒めるまで、まだ時間はあるか)』


笑えるならば、最後まで。

2人は、それだけを願っている。






[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 四十七話
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2009/10/27 19:39

一方、キリハ達の方は乱戦となっていた。

各所に散らばり、敵味方入り乱れての戦闘。

そんな中、滝忍の一人が印を組む。

「土遁・土陵返し!」

突進してくるサクラに向け、滝忍の一人が土遁を使ったのだ。

手で叩きつけられた場所の地面が割れ、まるで畳のようにめくれ上がる。

だが、サクラはそれを見ても止まらない。


頑丈な土の壁に対し、真っ正面から拳を打ち付けたのだ。

激音と共に、土の壁が粉砕される。

「馬鹿なあ!?」

---桜花衝。

サクラの怪力の一撃により土の壁はあっさりと粉砕され、後ろに居た滝忍までも吹き飛ばした。

それは致命打には至らなかったものの、滝忍にそれなりのダメージを与えた。

そこに、更なる追撃を仕掛けようとする。

だが、横合いからもう別の忍びがサクラを襲う。


「土遁・土陵団子!」

上忍クラス、いわゆるランクBの土遁系の術。土で出来た巨大な、ゆうに直径10mはあろうかという団子がサクラを押しつぶさんと迫る。

だがサクラは、それも逃げずに真っ向から打ち砕く。


「痛天脚!」


師匠譲りの怪力を活かした蹴りで、巨大な団子を真っ向から“蹴り飛ばした”。

「ぐあああああ?!」

後方にいた滝忍は、跳ね返ってきた巨大な団子に真正面からぶつかってしまう。

そのまま、吹き飛んだ。

「どうしたの、こんなもん!?」

桃色の怪力娘は今日も絶好調であった。






その少し前、ヒナタと対峙している滝忍は、焦っていた。

数で囲んで優位に立っている筈だったが、なかなか仕留められないのだ。

遠間からクナイや手裏剣を投げるも、全てがその白眼で捉えられ、避けられてしまう。

瞬身の術で切り込んでも、反撃の柔拳を受けてしまう。

突破口を見つけられない。何とかしなければ、と思考に意識を割いているその時だった。

「なっ!?」

横合いから、巨大な岩塊が飛んできたのだ。その軌道上にいた滝忍は驚きながらも、瞬身の術を使う事で何とか避けきる。

だが、避けたその先には、ヒナタの姿があった。

「はっ!」

「ちぃ!」

ヒナタは瞬身の術で移動した滝忍に対して更に一歩踏み込み、牽制である抜き手を放つ。

それを防御し退いた相手を追い、間髪いれず更に踏み込む。

今度は回し蹴りを放った。

「喰らうか!」

滝忍は側頭部に来た一撃をしゃがみ込むことでかわし、そして手に持ったクナイで即座に反撃に映る。

だが。

「ぐあっ!?」

付きだした腕は、ヒナタの繰り出した一撃で止められる。

白眼で相手の攻撃の軌道を見切り、クナイが突き刺さる前にクナイを持った敵の腕部を両手の掌で挟み込み、止めたのだ。

もちろん、掌にはチャクラが篭められている。

腕に奔る激痛のせいで、身を硬直させる滝忍。

---ヒナタの間合い中にも、かからわず。

「させるか!」

そこに、もう一人の滝忍が、仲間の窮地を救おうと無造作に間合いを詰める。

白眼の視界内に捉えられている事も知らずに。

「なっ!?」

背後から仕掛けた攻撃だったが、こちらに視線を移さないまま片手だけで払われる。

そして、気づいた時には遅かった。

懐に潜り込まれていたのだ。誘いだったか、と滝忍は悟った。

体勢からいって、避けられない。ならば耐えるまでだと、来るべき衝撃に耐えて見せようと、腹筋を閉じ痛みを覚悟する。

だが、その覚悟は無意味だ。

「・・・・っぁ!?」

腹筋を意に介さず、胃へ抜けた衝撃。男は呼吸すら出来ず、その場にへたり込んだ。

ヒナタは返す刀で顎へと掌打を放ち、男の意識を刈り取る。

「・・・・!?」

そして殺気を感じ取り、振り返る。見れば、先程腕に柔拳を叩き込んだ男が、起爆札付きのクナイをこちらに投げようとしていた。

「死ね!」

それが、殺意と共に投げられる。だが、黙って爆殺されるヒナタではない。

「八卦空掌!」

軌道を見切り、クナイがこちらに届く前に八卦空掌の衝撃でそれを打ち落とす。

打ち落とされた起爆札が爆発。

滝忍はそれに巻き込まれないよう、再び瞬身の術で移動する。


だが、直後滝忍の腹部を、衝撃が襲う。



「・・・柔歩双獅拳」

白眼の少女の声を最後に。柔拳の一撃を喰らった滝忍は、意識を失った。


「・・・次は?」

拳に雌獅子の迫力を乗せたまま。

ヒナタは残る敵に向け、宣言した。

「なら、こちらから行くね?」





「・・・赤丸!」

「ワン!」

一方、キバと赤丸も頑張っていた。

シノの隣に待機し、相手がシノに近づこうとしれば、その速度を活かした体術により撃破していく。

「行け、虫達よ!」

シノは相変わらずの無表情のまま。

相手の間合い外から虫を使い、チャクラを搾り取っていた。

近接のキバと、遠距離のシノ。

その連携に隙は無く、相手は迂闊に近づく事もできない。

「そこだ!」

時間が経てば経つ程に、相手は劣勢になっていった。




一方、少し離れて。

いのの方は、複数の敵を幻術で足止めしていた。

そこに、シカマルの影縛りが決まる。

「チョウジ、肉弾戦車!」

「分かった!」

チョウジが自分の全身に鋼糸を絡ませ、倍化の術を使う。

そして鋼糸の先についた取手を、いのが掴む。

「・・・今だ、いの!」

シカマルの影縛りが解かれたと同時。

「おらあああああああ!」

いのが、取手を掴み振り回す。

秘術・回転超特球の術。木の葉の白い悪魔が使う武器を参考に開発した新術である。

影で捕らえられなかった滝の忍びが水遁とか使ってくるが、関係ない。

もの凄い勢いで振り回された肉弾が、その全てを弾き飛ばした。

「く、怪力女め! ならば上だ!」

滝忍が、死角である上からいのを襲う。

だが、それは読まれていた。

「ってえ、誰が肩幅広いのよ!」

回転の勢いを活かし、そのまま上へと放り投げたのだ。

滝忍は肉弾に直撃し、森の向こうへと吹き飛んでいった。

その隙にいのとシカマルに攻撃を加えようと、肉弾を受けて弱っていた滝忍が、何とか距離を詰めようと走り出す。

だが、2人は一目散に後退していた。

そこに。

「・・・ん、影?」

つられて見上げる滝忍。そこには。

「巨人!?」

超倍化の術を使って巨大化したチョウジがいた。


あたりに、地響きが広がっていった。








「はっ!」

「ふっ!」

鉄が交差する。チャクラが荒れ狂う。

そんな中、互いの群れ、その首領格である2人は殺意を交えていた。

邪魔する者はいない。全員が、周りで同じように戦闘を繰り広げている。

男が、訊ねる。

「く、やる・・・っ!」

クナイを手に持ち、一薙ぎ。上忍にしても速いその一撃を、キリハは目で捉えて、避けきる。

だが、避けた筈のクナイが通った後、キリハの皮膚に一筋の赤が描かれた。

「飛燕・・・!?」

見れば、男のクナイからは風の刃が生えていた。

だが、その刃の長さは木の葉の上忍、猿飛アスマにも匹敵する程だった。

切り裂かれた首筋を触る。やや余裕を持って避けたのが功を奏したようだ。動脈までは届いていない。

「・・・ならばこっちも!」

キリハも、風の性質変化を得意とする忍びだ。

相手の術に対抗すべく、クナイに風の刃を纏わせた。

「・・・面白い!」

「こっちは面白くないけどね!」

互いに打ち合う。風の刃が乱舞し、余波によって周囲の地面や木々に斬撃の跡が刻まれていく。

「はっ!」

「くっ!」

技量はほぼ互角。だが、気迫はキリハの方が上だ。

シグレは徐々に押され、後退していく。

「そこぉ!」

「甘い!」

決めの一撃、威力のある大振りの一撃をキリハが繰り出す。

だが、シグレはそれを読んでいた。大振りの隙を見極め、キリハのクナイの横腹に自らのクナイを当てる。

---武器破壊だ。滝忍の一撃は見事にクナイを捕らえた。

キリハのクナイが砕け散る。

だが。砕かれてなお、キリハの攻勢は止まらない。砕かれたクナイに構わず、腰に手を引きよせ、更に一歩踏み込んだのだ。

近接の間合い、必殺の間合いから、掌打が放たれる。

「破っ!」

踏み込み、螺旋を描く軌道の掌打。月光の下、兄との一戦で学習したキリハ。

体術の理合を自分風にアレンジし、その理の長する所を推測。自らに適するようにくみ上げたのだ。

前だけを見続けた、一撃。

対するシグレは、武器破壊の達成感に気を取られて防御が間に合わなかった。

胸に掌打を受け、吹き飛ぶ。

「・・・勝負あったね?」

キリハは掌の先から返ってきた手応えを認識し、告げる。

少なくとも数本は折った筈だ。もう満足に動けまい。

気迫に押されたシグレが、後ずさりながら喚く。

「・・・くっ、何を怒る事がある! 忍びなど所詮は国の道具だろう。あれも我も只の道具だ。怒る必要が何処にある!」

「任務のため感情を割り切って己を統制する事と、人を道具として使う事・・・違う! 絶対に違う、一緒にするな!」

都合良く理屈を並べ立てるな、と言う。

仲間の意志を無視し、仲間の意識を認識しない。
里を守る盾や矛。いわゆる“道具のような”、役割である事。

人としての尊厳を無視し、人を“道具”と決めつけ、扱う事。

同じではない。決して、同じではないとキリハは思う。

「・・・戯れ言を! あれは仲間などではない。そも、人間ですらない、生まれついての兵器だ! 兵器を兵器として扱って何が悪い!」

「・・・一体、何を見てそれを言う!」

チャクラが、ぶつかる。

互いに距離を取る。

そこで、キリハは気勢を抑える。

静かな声で、言う。

「・・・何を信じてそれを言うの? 私には、分からない」

里の者と、話していて分かった事があった。

失った者を惜しみ、その原因を憎む気持ちは分かる。

だが、年月と共に風化し、さらには歪められた情報を与えられた人達の言葉を聞いて、思ったのだ。

---何を憎んでいるのか分からない。

何かを憎むのではなく、憎む事に意義があるのだと信じているようだった。

彼らにとって、真実などどうでもよい。自分の信じた理屈に従って、それを信仰している。
そんな風に思ったのだ。

人としての何かを見ずに、情報だけで肩書きだけで人を判断する。
その目の中に、一体“誰を”映しているのか。

「分からない? 皆思っているだろうが。分からないとすれば、お前がおかしいのさ。爆薬と一緒に居たい人間など、存在はしない
・・・誰もがそう思っている筈だ」

だから、俺は間違っていないと。この解答は正しいのだと断言する。

「もう、いい」

キリハは意を決した表情になる。

対するシグレも、切り札を切る構えを見せる。

「・・・俺は、ここで負ける訳にはいかない。里の未来のため、お前達を逃がすわけにはいかない」

「・・・逃げないから、来なさいよ」

互いに構える。

距離は10間、18m余り。

そこから、互いに一歩踏み出す。互いに上忍、一歩といっても常人のそれとはかけ離れていた。

狭まり、対峙、その距離僅か。

一足一刀などと生ぬるい間合いではない、致死の間合い。

命を天秤の上にのせる距離。



「殺っ!」

掛け声と共に、抜き手を放つ。手には風の刃が在った。

素手の速度に必殺の切れ味を持つ、シグレの奥の手だ。

---風遁・飛燕斬。


「破っ!」

対するキリハは、掌打。

だがチャクラを発し、止め、威力を高めたそれ。

微量だが性質変化を織り込んだ、キリハの奥の手。

---風遁・螺旋丸。




息のかかる距離まで近づき、互いに交差した。


余波による突風が、2人の交差した地点から吹き荒れる。


「・・・くっ」

キリハが肩を押さえてうずくまる。

かなり深くまで斬られているのか、血が勢いよく噴き出していた。

飛ぶ燕の如き鋭利な一撃は、キリハを捕らえていたようだ。



---だが。

「・・・・・・かはっ」

竜巻の如き一撃を受けたシグレは、その螺旋に脇腹を抉られていた。

そのまま、前のめりに倒れる。



風の性質変化を含んだ螺旋は、その余波により竜巻を生み出した。

それは飛燕の一撃を弾き、逸れた刃が喉ではなくキリハの肩を裂いた。

竜巻は進路を変えず、標的をそのまま貫いた。



(・・・間一髪だったな)

肩の傷を見て、呟く。もしかしたら負けていたかもしれない。

(・・・まだ、遠いか)

いつかの兄の背中を思い出し、空を見上げる。

空は暗雲。キリハの今の心中を現しているかのように。


「・・・さて、と。止まっている場合じゃないや」


自分の頬をはり、周囲を見渡す。


(戦闘は終わったようだね)

満身創痍になりながらも、何とか立っている味方を見て安堵のため息を吐く。

どうやら、全員が無事なようだ。


「・・・・急がなきゃ」










先に戦っていた場所から、少しはなれたところで。

「しぶといな・・・・」

「お前がな・・・」

互いに息を切らせながら、2人はにらみ合っていた。

情報の利があるメンマだったが、相手の対応の早さと戦術の引き出しの多さに、攻めきれないでいた。
一度全速の踏み込みから、影分身の陽動を活かして螺旋丸を決めたのだが、心臓を一つ潰すことだけしかできなかった。
同じ手は2度通じない。戦術もいよいよ限定され、息も切れていた。

角都は角都の方で、全方位からの地怨虞による触手攻撃をも振り払う、メンマの卓越した動きを捉えきれないでいた。
先の踏み込みによる一撃にも、驚いていた。
スピードで劣る角都はどうしても後手に回ってしまい、守勢ぎみ。
遠間から得意の複合忍術を放つも、相手はそれを捌く。未だ、決定打を当てられないでいた。


にらみ合う双方。やがて、動かなくなってから数分が過ぎた頃。


「「っつ!?」」

2人は同時に、同じ方向を見る。
視線の先の木から、やがて男が生えてくる。


「・・・こんな所にイタノカ、角都。滝隠れの忍達、全員敗れたよ。それで、木の葉の忍び達がこっちに向かってイル」

「・・・思ったより速かったな」

角都は尖ったアロエを身に纏う男の姿に驚きもせず、その情報を噛みしめた後静かに舌打ちをする。

(・・・ってああ。暁のメンバーか)

メンマは、実物で見るにはあまりにも異様な男の姿に驚き、硬直していた。
確かにトゲトゲアロエヤローだ。メンマは原作のナルトの表現が至極正しいものだったと、今思い知った。

名前を確かゼツとかいう、情報収集専門のメンバー。あしゅら男爵みたいな顔をしているが、2人が合体しているのだろうか。
音隠れの、左近と右近みたいに。

「・・・ちっ、チャクラも残り少ない。強引に押し切ってもいいのだが・・・・」

角都はメンマを睨みつけたまま、再び舌を打つ。

メンマの手には、螺旋丸が握られていた。

「・・・数が増える。リスクが大きいか。仕方ない、撤退する」

「・・・分かったヨ。飛段は回収しておくネ」

「頼んだ・・・・おい」

角都がメンマの方を向き、言葉を投げかける。

「というわけで、決着はお預けだ。次、会った時には必ず終わらせる」

殺気も露わに、角都はメンマの心臓の方を指さし告げる。

「お前は俺が殺す。そして今奪われた心臓の代わりに、お前の心臓をえぐり取ってやる」

だからそれまで誰にも殺されるなよ、と嗤う。

「・・・あの蛇野郎と違って、心臓抜かれればふつーに死ぬ身体なんだよ、俺は。それに4つもあるならいーじゃないか、心臓の1つや2つぐらい」

「・・・蛇? 大蛇丸の事か?」

「・・・って、やべ」

それとなく、視線を逸らす。状況を見れば、わざとらしい。

芝居だと看破されるかもしれない。だが、今角都は疲労の極致に達しているはず。
獲物を目の前にして撤退するというのが良い証拠だ。

通常時程の判断力は無い筈。あとは角都の性格上、その疑念が何処まで膨らむかが、問題となってくるのだが。

『あらゆる意味で五分五分だね』

確かに、決定的ではない。これ以上やると逆に怪しまれる。

さり気なく、そっとだけ。
種火は小さくていい。派手な炎は直ぐに消える。

小さな種火でも、育つ要素はあるのだから焦る必要はない。

『・・・大蛇○だしね』

色々と各方面に信用のないオカマだしね。

「・・・まあ、今はいい。いくぞ」


渋面を浮かべたまま、角都達は去っていった。





「・・・・ふう」

緊張がゆるんだ。
俺はその場に座り、天を仰ぐ。

『しのげたね。大丈夫?』

「・・・何とか・・・・・ん、キューちゃん?」

『・・・・何じゃ?』

答えるまで随分と間があった。

「なんか、声に力無いけど・・・大丈夫?」

『・・・何とか』

「・・・そう。ああ、そういえば七尾の娘はどうしたんだろ」

気配に動きがないところを見ると、未だに気絶しているようだが。

「キリハに任せるか・・・それより、砂隠れだ。マダオ、確か飛段の方が何か言ってたよな?」

『一尾、リーダーの予想・・・僕達の事を知ってた。総合するに、砂隠れに最低でも2人、もしかしたら4人、暁が向かっているのだろうね』

「2人ならばまだしも、4人はちと最悪だな」

想像もしたくない。

「仕方ない、飛雷針の術で飛ぶ・・・・?」

立ち上がろうとした瞬間だった。


「あれ?」

視界が、急激に歪んでいく。

「あれれ?」

土の壁が、俺の顔面目掛けて迫ってくる。
避けることもできず、俺は顔面をしたたかに打ち付けた。

「・・・痛い・・・・」

咄嗟に手を前に出す事もできなかった。
というより、身体が全く動かない。

「・・・・あー、くそ。これもしかして地面か?」

顔面にぶつかってきた壁を見て、呟く。
全身が、まるで正座の後の足のように、痺れ感覚が鈍くなっている。

それに、平衡感覚も無茶苦茶だ。

『・・・まずいね。先の戦闘での傷、開いたようだ』

(・・・え、いや、それ本格的にまずくね?)

『ものすごくまずいね。救援を呼ばなければいけないんだけど・・・身体、動く?』

(腕だけなら、何とか。でも立つのは無理。声も、もう出ない)

朦朧とした意識の中、何とかマダオに答える。

『なら、僕を口寄せして。血もあるから』

俯せになりながら、地面を横目でみる。こけた拍子に額が切れたのだろうか、赤い液体が見えた。

「・・・・く」

何とか腕を動かして、指先で血を拭う。




そして、数十秒かけて、何とか発動した。

「・・・よし」

じゃあ、救援を呼ぶよ、とマダオは俺の懐から、起爆札を1つ取りだした。

(頼んだ)


居場所を知らせる爆音が鳴る。


(あー、色々とばれちゃうな)

マダオも、今は変化を使っていない。使うだけの余裕が無い。



(それでも、助けられたから良しとするか)

俺も死んでない。彼女も死んでない。

敵は去った。万々歳だ。


(少しは、修行した甲斐があったのかな)

口と信念だけで生きていける程この世界は甘くはないと悟ったあの日以来。

兼任ながらも鍛えてきたこの力、無駄ではなかったようだ。

未だ、死なせたくないと思った人は死んでいない。

理不尽に全てを奪われる少女を、一時とはいえ助ける事が出来た。

この後は木の葉がどうにかしてくれるだろう。俺が口を出さずとも。



---大丈夫じゃ。


そうだよなあ、○○。お前の口癖だったよな。根拠なんか、一切なかったけど。

これで、後は暁を倒すだけだ。これが終われば、やっと元に戻れる。


---お主には、夢があるのか?


あるとも。説明しただろう。借りものではない、頑張って初めて手に入るもの。

イカサマなんか通じない、一生懸命やった者だけが到達できる。誰も奪わず、誰かを笑わせる事ができる、偉大な力さ。


---叶うといいな。

叶えるさ。とあるハンデを背負って、見る者来る者殺しに来るだろう未来。

人外連中ぶっ倒して生き残れれば、後は何とでもなる。諦めなければ、道は開けるんだから。

だから○○。お前も、諦めるなよ。さよならなんて言うな。ガキはガキらしく、素直に甘えていればいいんだよ。

お前の事を、重荷だなんて思っちゃいない。きっと治るって。いつかきっと、俺が治してみせる。




白い霧がかかった世界。

女の子が、立ち上がる。



---だから。その術を止めろよ紫苑。

全身から、チャクラが流れる。
何か、紋様を描いてるようだ。

「大丈夫じゃ。妾は大丈夫。お主に貰った言葉がある。これ以上借りを作るなど、お主の夢を邪魔する事など。・・・だから行け、小池メンマ」



---お前を忘れて、か?

「務めは十分に果たした。これ以上、お主に一体何を望む。それに妾は、お主のバカっぷりが結構好きだったのじゃ」



---だから忘れろ、と?

「何、気にするな。これも妾の我が儘じゃ。あのような憎悪に囚われたお主など、正直二度と見とうない」



---勝手だな。

「お主の、お主がくれた言葉に従ったまでじゃ。誰も彼もが幸せになるそのために、戦うのじゃろう?」



---ああ。

「ならば留まるな。此処はお主の戦場では無い。在るべき場所へ向かえ。いつか来る。中身は歪になれど、お主はそういう宿命を背負っている」



---宿命とか・・・・そんなの、俺の知ったことか。

「ああ、それでいい。そのままでいいから、流れるままに生きよ。いつか時が訪れる、選ぶ時が来る。其処が、お主の戦場じゃ・・・・“うずまきナルト”お主の事は忘れぬ」





それまでは大人びた顔を保っていた少女は。

最後に、年に沿った笑顔を見せた後。



「・・・ありがとう。だから、さようならじゃ」



その術の結となる印を、結んだ。







[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 四十八話
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2009/10/30 23:47






「兄さん、起きないね・・・」

「何、治療は無事終わったんだ。じきに起きるさ」

親子2人の視線の先には、寝ているメンマの姿があった。

あの後気絶したメンマを、いのとサクラが治療しようとしたのだが、そこで急に雨が降ってきたのだ。
このまま治療すれば、身体が冷えてしまい危険だということで、何処か雨水をしのげる所を探す事となった。
メンマと同じく、大怪我をしていた人柱力の少女フウも連れて。

そして、このボロ家を見つけた。、あちらこちらに雨漏りがあり、薄汚い如何にも幽霊が出てきそうなボロ屋に、
一同は一瞬ここに留まるか迷ったのだが、時間が惜しいということで結局は留まる事にした。

もしメンマが起きていたら、「コレ、イエジャナーイ!」と叫んでいた事だろう。



その後、家の中でサクラ、いのによる治療が開始された。
いのはメンマ、サクラはフウの治療に当たったが、完全回復とはいかなかった。

いの、サクラともに戦闘後で、残っているチャクラ量が完全回復に必要な量まで至らなかったためだ。
兵糧丸を使用しても全然足りず、結局は応急処置程度の治療しかできなかたt。

だが、流石は人柱力である。
中の尾獣が容器を修復しようとしているのだろう。傷は塞がり、容態も徐々に安定していった。



そして、一通りの治療が終わった後は、メンマとマダオに向けての大詰問会となった。

未だ若い姿を保っている四代目火影、波風・・・・ミナト?
とにかくまあ、その姿に関しての説明である。

マダオはいの達の押しに耐えきれず、あれよあれよという間に色々な事を話してしまった。
サスケと行動を共にしている事。再不斬と白、そして多由也について。

サスケの事を話した時は、すわ桃色の邪神が覚醒かと思われたが、キリハの当て身により邪神復活の憂き目は無くなった。
少女は世界を救ったのである。


そんなごたごたの横で、マダオが「計画通り」と世紀末の神的な笑みを浮かべていたのは誰も気づかなかったが。



閑話休題。




「じゃあ、サスケ君達は今砂隠れにいるんですね?」

「暁襲撃に備えてね」

「・・・“暁”ですか・・・あの、サスケ君はやっぱりお兄さんを?」

「それは僕の口からは言えないね。もうすぐ会えると思うから、その時に聞いてみればいい。それより問題は、だ」

マダオが腕を組みながら、状況を説明する。

「さっき戦ってた暁のメンバー、飛段って奴から聞いたんだけどね。どうも今、砂隠れに暁のメンバーが向かっているらしいんだ」

「・・・狙いは一尾、風影様ですね」

ヒナタの言葉に、マダオが頷く。

「最低でも2人、もしかしたら4人が向かっているだろうね」

「・・・そんな! だったら、速く砂と木の葉にその事を知らせないと」

「それはキバ君とシノ君に任せたよ」

サクラといのがメンマとフウを治療している最中、その情報を聞いたキリハが二人に指示をしたのだ。
今頃は国境付近までたどり着いていることだろう。

「足が速いキバ君と、索敵が得意なシノ君だし、大丈夫だよ。さっきの戦闘での怪我も、軽いものだったからね」

ちなみにシカマルは戦闘後に青い顔を引き連れてやってきた滝隠れの長と会談中だ。
あと、チョウジと応援に駆け付けたリー、テンテン、ネジもそちらに向かっている。

「大丈夫かな・・・」

「・・・先の襲撃の件、里からすれば寝耳に水、って感じだったし。長も、悪い人ではなさそうだったから」

「そうね・・・でも、暁が2人、もしかしたら4人なんでしょ・・・あの、四代目様」

サクラが訪ねる。

「一度は死んだ身というか死人に近い存在だしね。マダオでいいよ。最近はそう呼ばれているから」

「はあ、マダオ・・・ってマダオ!? いえそれどんな意味が」

「・・・禁則事項です」

ひとさし指を上げるマダオ。それを、娘ががっしと掴む。

「話が進まないよ父さん」

折るよ? と笑う娘に、マダオは内心で「立派になって・・・クシナそっくりだなあ」と、心の中で感涙の水を全身から垂れ流していた。

「・・・いや、ごめんごめん」

一トリップを終え、なははと笑うマダオに、サクラが訊ねる。

「暁4人を相手にしたとして・・・サスケ君達、大丈夫なんでしょうか?」

「それはねえ・・・大丈夫と言えば大丈夫だけど、大丈夫じゃないと言えば大丈夫じゃないなあ・・・勝負に絶対は無いから。中忍にもなったんだから、それは分かるでしょ?」

「それは・・・そうですけど」

相性もあるし、不測の事態もある。戦場に絶対は無い。

「ただ言える事があるんだよね。サスケ君の力量、2年半前の比じゃない程に高くなっているんだ。彼、この二年半・・・ほぼ毎日、死にものぐるいで修行したから」

力量的には上忍の上クラス。カカシや再不斬に匹敵するレベルだ。
それが修行によるものでも、このような短期間にあれほど成長するとは、マダオも思っていなかった。
天才というのは居るものである。

「・・・え、もしかして父さんが鍛えたの?」

「うん、大まかな所とか基本方針は僕が決めたね。ナルト君と同じく。体術の訓練、組み手に関しては桃やんとか白ちゃんとか、ナルト君と一緒にやっていたけど」

人前ではナルト君と呼ぶマダオであった。

「・・・えっと、多由也さんは?」

キリハが訪ねる。

「料理に結界術に新術開発に。主にサポート系の能力を磨いていたね。特におかかおにぎりに関して、彼女の右に出る者はいないと思うよ」

おかかおにぎりというキーワードに反応したのか、背後でサクラの目がキュピーンと光った。
が、マダオは無視した。君子危うきに近寄らずである。

「・・・えっと、おかかおにぎりはともかく。新術って、音系の?」

「そう。3パターン開発した。それは見てのお楽しみかな・・・いや、聞いてのお楽しみ?」

腕を組みながら、マダオが首をかしげる。

「それでも、この短期間に3つも術を開発するなんて、すごいですね。毎日が修行三昧でした?」

いのが訪ねてくる。

「いや、そうでもないよ。ま、あの二人・・・サスケ君と多由也ちゃんはそうしたかったみたいだけど」

それまでは当たり前のようにあった“無理”。解消したらしたで、無くなったら無くなったで、逆に不安になる時があるらしい。
因果なものである。

「ま、限界近くまでいった時には、流石に休ませたけどね」

身体を極限状態にまで追い込むのは修行の常だが、壊れては意味がない。
そのあたりはマダオが調節していた。多由也の音韻術も併用していたので、回復は早かったのだが。

「そんな2人だから、きっと大丈夫。僕はそう信じてるよ」

笑顔で断言するマダオ。
それを見て、サクラ達はそれ以上何も言えなくなった。



それから、一時間。
眠る2人の様子をみながら、時間が過ぎていった。

「・・・雨、止まないね」

窓から外を見ていたキリハが、ぽつりとつぶやく。

「そうだね・・・」

と、話している最中、空が光った。

「雷だね・・・あ」

雷の音に反応したのか、フウがうめき声をあげている。

「えっと、起きては・・・・ないか」

雷の音で目が覚めたかと思ったが、どうやら寝返りをうっただけであった。

「・・・フウちゃんも傷の治りが速いね」

寝返りをうつ際に見えた傷。
先程まではうっすらと開いていた傷が、今ではもう塞がりかけていたのを見てキリハが呟いた。

「・・・そうね」

いのが答えるも、その声は何処か暗かった。

「ん、いのちゃん・・・どうしたの? 暗い顔して」

「いや、さっきこの娘を治療した時にね」

いのがぽつりぽつりと話しだす。
昨夜ナルトから聞いた、傷の話を交えて。

「こうやって、傷跡が消えるっていうこと・・・どうなのかなあ、って確かに、女の子としては、傷が残らないっていうのはいいことなのかもしれないけどね」

首を振るいの。鎮痛な面持ちで続ける。

「でも、跡も無くなる事実を、実際にこの目で見るとね・・・」

想像してみる。
かなりの深い傷でも、すぐに治る。そして、跡も無くなる。

でも、それを見た誰かは、傷つけた誰かは傷つけた事実を忘れるのではないかと。軽く、思ってしまうのではないかと。

傷が癒えたとして。跡が綺麗に消えたとして。
じゃあ、傷を受けた思い出は癒えるのか。傷を受けた際に、同じく傷んだ精神も、すぐに癒えてしまうのか。

「・・・“ちょっとやそっと乱暴に扱っても、容易く死なないのであれば・・・”ってことかな?」

マダオが言葉をはさむ。

「確かに、行為はエスカレートしていくだろうね。それが集団であれば尚更」

集団心理。いわゆる、責任の分割という思考である。

「それに、責める理由ってやつがわかりやすいからね。人柱力は」

「・・・それは、人で無いからですか? 尾獣を宿している。つまりは、化け物だから何をしてもいいって事ですか!?」

それを聞いたサクラが激昂する。

マダオは、その問いには答えない。

「良い悪い以前に、相手は“化け物”だ。つまりは人でなし。人でないものを人扱いする必要は無い、って考えてしまうのだろうね」

マダオは何処か遠いところを見ながら、言葉を続ける。

「・・・前に、ある男が言ったよ。“過ぎた力を持つ者、必要でない上に過剰な力を持つ者はいずれ災いを呼ぶ。
それは最早化け物だ。人でないものを、人の扱いをしなくても良いし、何より近くに居て欲しくない”ってね」

「・・・そういえば、滝の忍び、シグレも言ってたね。爆弾、とか」

そういった具体性を持つ言葉で表されるのは最悪の事態を生む。
恐れるあまり傷つけても良いと思ってしまう。そして、集団が生まれる。暴走する集団が。

「集団の中に生まれる集団心理というのは恐ろしいものでね。それまでは確実にあった筈の倫理が、綺麗さっぱり吹きとぶんだよ。
反対意見も出ない。あってもそれすら飲み込んで、ただ暴走する塊になってしまう」

そして何か切っ掛けが無いと止まれなくなる。
責任の転嫁というものもあるのだろうが、場の空気もある。

まるで雪だるま式に増えていくそれは留まる事を知らず、そぐわない対応をしたもの諸共に巻き込んでいく。
無事でいるためには、その玉の奥に引っ込んで上手く立ち回るしかなくなるのだ。

それを聞いたキリハは、そんな馬鹿なと言う。

「だって、傷つける者は多くてもさ。傷つけられるのはたった一人じゃないの!? それを道具とか・・・・要らなくなった道具は捨てるだけとか・・・」

キリハは拳を握りしめながら、地面に目を落とす。

「・・・って、父さん?」

怒りをあらわにしていたキリハが、自分の額に手をあてながら唸るマダオを見て、どうしたんですかと訪ねる。

「・・・まいったね」

いつかと同じ言葉じゃないか、というのはマダオの口の中だけで唱えられた。

「いや、あの場に残っていなくて本当に良かった。もしその言葉をナルト君が聞いていたら・・・」

「聞いていたら・・・?」

顔を掌に覆いながら首を振るマダオに、ヒナタが訪ねる。

「いや、何でもない。理由は言えないけど・・・ともかく、絶対に彼には言わないでね」

真剣な表情。皆はうなずいた。

「わ、わかりました」




「・・・でも、このまま木の葉に連れて行っていいのかな」

「キリハ?」

「だって、木の葉に保護されても一緒でしょ? このまま戦争になったりしたら、兵器として前線に送られちゃうじゃない」

「だから逃がすって訳? 暁に狙われているのに?」

「あ、そうか」

「・・・何にしろ、問題は暁ね。色々と、ケリをつけなければ何もできないわ」

「そうだね・・・いっそ、サスケ君達が返り討ちにしてくれれば楽になるのに」

「流石に全員は無理だね。あの2人だけなら、何とかなるかもしれないけど」

「あの2人?」

聞かれたマダオは、2人の能力について説明する。
そんな中、聞き慣れない単語を耳にしたサクラが、マダオに対してその事を訊ねる。

「あの、“うげー爆弾”と“閣下”って・・・何のことですか?」

「暁メンバーの暗号名。他には“オコジョ”とか、“ポチョムキン”とか“神”とか“バーロー”とか“おまる”とか色々あるけど」

「・・・一体どんな流れでそういう名前になったのさ」

「ええと、あれは確か一年前・・・」

答えながら、マダオはその時の事を回想する。








一年ほど前の事である。

夜、隠れ家で暁の事について話し合っている時だった。

おっかない暁のメンバーについて議論している最中、メンマが発案した“もっと親しみやすい感じにしてみよう”という企画に則って、皆が案を出し合った。


「じゃあうちはイタチはコードネーム“オコジョ”で」

「・・・ちょっと待て」

サスケが突っ込む。流石に兄の事だ。
うちはオコジョは勘弁して欲しいらしい。

「じゃあ“カモ”、とかにする? でも、それじゃあ綱手姫と被ってしまうよ」

「何でカモになる。それよりもっと良い名前があるだろうが」

そこから数分話し合ったが、結局はオコジョに決定された。
他に良い名前が思い浮かばなかったのである。



無論、その時点で全員が酔っている。



会議は更に加速し続けた。


「次、デイダラは・・・うげー爆弾で」

ジェニファーなのである。すごいへべれけなのである。
おえっと爆弾をはき出すのである。


「サソリ・・・人形・・・薔薇乙女・・・閣下だね」

「閣下だね。しかし本当に“それ”で攻めてきたらどうする?」

メンマは頭の中で想像してみた。襲ってくる薔薇乙女達の大群。
勝機が見いだせなかった。

「あまつさえ、青の国で造られた汎用人形が攻めてきたら・・・!」

「即刻お持ち帰りします。俺の癒しのために・・・・って成る程。おばあちゃんはチヨバアですね」
誰が分かるんだこのネタ。



「しかし、あの野郎が“ポチョムキン”っていうのは・・・あれ、何故だ畜生。違和感が全然ねえ」
“コードネームはポチョムキン”のあまりのフィット感に、再不斬が唸っている。

「顔が何て言うかポチョムキンって感じだもんね」

「切り裂いてくるしね」



そんな感じで、次々暗号名が付けられていった。
ちなみにペインが“神”、小南が“バーロー”、マダラが“タラちゃん”となった。
おまるは前と変わらずにお○であった。


酔いとうのは時に恐怖も忘れさせる恐ろしいものである。







「・・・お酒は二十歳になってから!」

現世に復帰したマダオが叫ぶ。

「わっ、急になに?」

「いや、忘れて」

流石に娘ズにそんな話聞かせられないと思ったマダオは、全力で記憶消去にかかる。

同時、柔らかくなった空気に安堵する。

こういう空気を続かせるのは心身共に良くないと思ったマダオの気配りだった。


それからも、会話は続く。

やがて話題が変わる。マダオは、隠れ家での生活を語り始めた。

笑顔で語られる様々な話を聞いたヒナタが、マダオに言う。

「平和で楽しい日々だったんですね」

「・・・いや、あれを平和というのは・・・ちょっと違うと思うな」

マダオが、この2年半の間に起きた様々な事件のことを思い出す。


---本当に、色々な事があった。

四季の変化に彩られながら、胸の中に次々と刻まれていく思い出。


“多由也女史の音楽事変~俺達とってもユートピア~”はまだ記憶に新しい。

他には、“うちはサスケ女装事件~トランスセクシャル・イン・パレード~”や、“うずまきナルトのプロジェクトX~僕がラーメンになった理由~。

“白による24時間耐久講義~ここが凄いよ再不斬さん!~や、“キューちゃん激論~揚げとTシャツと私~。

“マダオと馬鹿な男達による胸囲徹底討論~いい加減決めようぜ、最高のカップって奴をよ!~。


---本当に、色々あった。
あってしまったという方が正しいのかもしれないが。むしろ思い出ではなくトラウマなんじゃねーかというものもあった。

大抵が爆発オチで話が終わる、酷い事件ばかりだったからだ。


でも。それでも、これは断言できるだろう。

楽しい日々だった、と。



そしてふと、気づいた事をぽつり呟いた。


「そういえば、サスケ君はいつも巻き込まれてたっけねえ・・・」












同時刻、砂隠れの里の外れ。

見晴らしの良い場所に陣取っているサスケが、急にくしゃみをする。

「・・・風邪か?」

「いや、誰かが噂してるんだろ」

サスケは鼻をすりながら、多由也の言葉に答える。

「・・・そういえば、あの3人は今木の葉の連中と同行しているんだっけか」

「キリハ達だな。何もなければいいが・・・」

「やっぱり、昔の仲間だし心配なのか?」

「まあ、一応はな」

若干視線を逸らしながら、サスケが答える。

この2年半、色々な事件に遭遇し、充足を感じるに足る日々を送ったサスケ。
性格も以前とはかなり違っている。

「相っ変わらず、素直じゃねえな」

そういいながらも、多由也はクスリと笑顔を見せる。

多由也の方も、口の悪さに関しては治らなかったが、中身に関してはかなり変わっていた。

「ああそうか。もしかしたらあの3人が、お前の事件のことを、木の葉の連中に伝えてるのかもしれねえもんな」

「・・・」

サスケは無言のまま、静かに絶望した。

そんなサスケの顔を、傍らにいる多由也が面白そうに見つめていた。






「距離、近いじゃん・・・」

そしてそんな2人を、カンクロウが遠くからじっと見つめていた。

「カンクロウ? 何をそんなに落ち込んでいるんだ?」

「いや、だってあれ・・・」

指さし、更にへこむ。

「何か自然に近い距離で接しているじゃん」

カンクロウは、木の葉隠れの宿に泊まった時、でうずまきナルトに聞いたとある恋愛豆知識についてを思い出していた。

何でも、人間はパーソナルスペース、つまりは動物でいう縄張り意識というものがあるらしい。

たとえば、親密な関係の人であれば近づいて話していても不快感は感じないが、親密でない関係の人だと不快に感じる。
人と人が心を接する時の物理的距離と、実際の心理的距離は同じであるという話だ。

「・・・くそ羨ましいじゃん」

俺も彼女が欲しい、と嘆くカンクロウ。

そこで、視線を移すが、そこでまた別の2人組の姿が見えた。


再不斬と白である。

「ってあいつら近いってレベルじゃねーじゃん!」

コレが地域格差って奴か! と叫びながら暴れ回るカンクロウ。

「ちきしょう、地方はしょせん地方で、都会(イケメン)には叶わねーってやつなのか! いや、人間顔じゃないじゃん! 鬼人を見れば一目瞭然!
地方には地方の良さがあるじゃん! 帰ってこい田舎美人! 都会は危険じゃん!」

電波なセリフを叫びまくるカンクロウ。

その頭に、背後から鉄扇が振り下ろされた。

「往来で恥ずかしい事を叫んでるんじゃないよ愚弟」

「・・・」

返事がない。ただの屍のようだ。

「って死んでねーじゃん。死にかけたけど」

カンクロウは頭を抑えながら、涙目になっていた。
余程痛かったのだろう。

「うるさいよ。ちったあ真面目に見張りをしないか、馬鹿」

「いや、だってよ・・・」

理由を語り出したカンクロウに向け、テマリはため息を吐いた。

「今考える事じゃないだろうが。それに、私だってな・・・」

テマリも、愚痴りだす。
生来の気の強さが災いしてか、周りに男が近寄ってこないのだ。

「まあ、私はそれでいいんだけどな」

「・・・ああ」

そこで、カンクロウは事情を察して沈黙する。

黙る姉弟。

ふと、テマリがカンクロウに聞いてみる。

「なあ、やっぱり男っていうのはおしとやかな娘が好きなのか?」

「いや、そうに決まってるじゃん」

カンクロウの断言を聞いたテマリが、一際深いため息を吐く。

「そうか・・・やっぱり」

「どうしたじゃん?」

「いや、参考までに聞くがな駄弟。おしとやかな私っていうのはどう思う?」

「・・・ちょっと想像つかないじゃん」

カンクロウの言葉を聞いたテマリが、無言で鉄扇を振りかぶる。

「うそ! うそです姉上! いや、俺もちょっと見てみたいじゃん! ギャップ萌えってやつじゃん! きっとあいつもイチコロじゃん!」

「そ、そうか?」

弟の怒濤の褒め言葉を聞いたテマリが動揺する。

「そ、そうだ! 一回やってみればいいじゃん!」

「え、えっと・・・こうかな?」


片手を顎にそえ、ぶりっこ風のポーズ。

度重なるアタックチャンスを掴めずにいる彼女は、結構追いつめられた。
早めに良いポジションを確保しなければ、黄色のあの人に取られてしまうのである。

そんなテマリが、意を決して一言。


「わ、わたし暗闇が怖くて・・・だから、傍にいてもいい?」

ぷるぷると震えるテマリ。



何時にない姉の様子を見た弟の返答は1つだった。


「なんかキモイじゃん」



見せる相手が悪かった。普通の男ならば気が強い美人の気が弱い仕草だぜギャップ萌えー・・・とでもなったのかもしれないが、相手はよりにもよって弟だ。

弟にとっての姉に対する異性感、所謂幻想などはとうの昔にぶちこわされている。

合掌。


やっちまった感が胸を占めるカンクロウ。

じりじりと後退する弟に向けて発せられた姉からの言葉は、実にシンプルだった。

テマリは能面のような表情で、一言だけカンクロウに告げる。

「遺言はあるか?」

本気の眼光。殺人鬼のそれを見たカンクロウは腰が抜けた。

「ま、待つじゃん! ほら、謝るから!」


だが、現実は無慈悲である。


「・・・降伏は無駄だ、抵抗しろ」


鉄扇が振り上げられる。







---その時だった。

聴覚に、多由也からの合図の音が入ってきたのは。


2人共、はっとなり見張りがいる方に視線を移す。

見れば、サスケが立ち上がっている。そしてその手は、腰にある刀に添えられていた。

多由也は笛を吹いていた。特定のチャクラを持つ相手だけに聞こえる音を発しているのだ。距離はチャクラ量に比例する。


連絡用に開発した多由也の音韻術の1つ。

秘術・音遠透写。


音が、伝えるべき内容を運ぶ。それは、襲撃者が来たという音だ。

それを聞いたテマリが、後ろの方角を見る。

後方に待機している我愛羅も、この音を聞いてすぐに飛んでくるだろう。


「・・・・」


音譜の羅列による連絡は続く。

やがてその内容を全て理解した2人は、更に表情を引き締める。






「・・・どうやら、テロリスト共が来たようじゃん」

「そのようだな。しかも3人か」














[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 四十九話
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2009/11/07 14:45




鬼の国の外れにある一軒家の居間。

一人の少女が、お茶を飲んでいた。
湯気が立つそれに息を吹きかけ、冷ましながらゆっくりと湯飲みを口に運んでいく。

「…うむ、うまい」

口の中に広がる味に満足し、少女はこくこくと頷いた。

それもそうだ。とある組織の頭領が金にものを言わせて調達した茶葉なのだから。

「お主も、飲んでみるか?」

この味をどうか誰かに分かって欲しいと、少女が傍らに控えている護衛の忍びに声を掛ける。

「……結構です」

だが、男は表情を変えないまま、その申し出を断った。

「相変わらず無愛想な奴じゃのう」

男が断ると分かっていたのだろう。少女は動じず、また湯飲みを口に運んでいく。

その時、少し空気が揺れた。

「風が出てきたのう」

「そうですね、紫苑様」

あくまで事務的にしか答えない、愛想の欠片もない護衛の忍び。

少女紫苑は、その護衛の忍びの方を向き、ため息を吐いてやる。

「紫苑でいいと言っておるじゃろう、イタチよ。それに、つっ立っとらんで座ったらどうじゃ」

「任務ですので」

また無愛想に答える。

この対応も、2年間変わらないもの。

初めはイタチの無愛想な返答に腹を立てた紫苑であったが、それがどう対応していいのか分からない戸惑いによるものだと分かってからは腹を立てなくなった。

それに、無愛想なだけではない。退屈した紫苑が時たま隙をついて悪戯などを仕掛けると、イタチは困った風な笑顔を浮かべながらも、対応してくれる。

「うむ、しかしこの前のお主の様子は傑作じゃったぞ」

傍付きの者に作らせた蕎麦の中に、紫苑がこっそりあるものを入れたのだ。

それをイタチに食べさせたのだ。

「……しかし、火の実なんてどこから持ってきたのですか?」

「うむ、菊夜の奴が買い物をしたときにの。おまけとしてもらったそうじゃ」

菊夜は昔からの傍付きの女丈夫だ。紫苑の母の旧友かつ、弟子でもあったそうな。
齢28になる黒髪のおっとりとした美人で、昔から紫苑の世話をしている。

「お主の顔、傑作じゃったぞ」

悪戯な笑みを浮かべる紫苑に、イタチは憮然とした表情になる。

火の実を食べた瞬間思わず叫び声を上げそうになったイタチだが、何とか声も上げずに我慢していた。
だが、顔は真っ赤で心音も上がり、全身から汗がふきでていた。

その様子を察知した紫苑が、イタチに向けて何度も「どうじゃ?」と質問した。
言葉も返せないイタチであったが、何とか気を引き絞り、火の実入り蕎麦の感想を言ったのだ。

「……いいから、忘れて下さい。それに、あなたも菊夜殿に怒られたでしょう」

察知した菊夜は紫苑に拳骨をした後、「今度やったら同じ事を紫苑様にもしますよ」と説教をしたのだ。

「う、思い出させるでない。菊夜の拳骨は痛いのじゃ」

その時の衝撃を思い出した紫苑が、頭をさする。


そこに、また風が吹いた。

風は先程より強く吹き、紫苑の頬を撫でた。



何となく、沈黙が生まれる。



「……あの人が此処に現れてから、お主が此処に留まるようになってから、もう2年になるのか」

紫苑が、その時の事を思い出す。


傍付きの者と2人静かに暮らしていた所に、突如現れた男達。
暁と名乗った忍び、ペインとイタチの2人は、いきなり紫苑の素性を聞いてきたのだ。

鬼の国でも死んだ者とされていた紫苑の素性を聞き、やはりと返したペインに対して、紫苑と菊夜の警戒心は最大限にまで高まった。
だがペインは特別2人に対して危害を加えるわけでもなく、逆に「物騒だから」と護衛の忍びを置いて帰った。

その声に偽りが無いと判断した紫苑は、それを受け入れた。

そこから、珍妙な同居生活が始まったのだ。


「あのときは何事かと思ったぞ」

「………」

言葉をかけられたイタチは内心で「自分もです」と答えそうになったが、自重した。

ペインに止められているからだ。

それを紫苑が察したのだろう。ため息を吐いた後、イタチに責めるような口調で言葉を向ける。

「ふむ、やはり話してくれぬか」

感情も動揺も心の内だけで殺す事になれた忍び。

だが、その微細な針の如く揺れた心の抑揚を紫苑は感じ取っていた。

イタチは素直に、その事を称賛した。

「鋭いんですね」

「ふふん、大したものじゃろう」

「ええ、本当に」

同意するイタチ。

紫苑は、さらに言葉を重ねる。

「他には、そうじゃな。お主今日は何かあったのか?随分と落ち着かない様子じゃが」

「………ありました、というかありそうなんですが。よく分かりましたね」

「うむ、何処か焦っているように見えたからの。ひょっとしてついに待ち人が見つかったのか?」

紫苑の言葉に、イタチは内心で驚いていた。そしてイタチにしては珍しく、素直にそのことについてを問う。

「…待ち人、ですか。あなたにいった覚えはないのですが」

「お主の様子を見て、何となくだが分かった。何かを求めて成そうと動く訳でもなく、いずれ訪れるであろう運命を待っているように見えた」

        
「…本当に、鋭い」

「当たり前じゃ」


紫苑はイタチの方に顔を向けながら、言う。




「例えめしいていたとしてもな。光りが見えずとも、確かに見えるものはあるのじゃからな」

笑顔で、自信満々に紫苑は断言した。



「………強いのですね。眼が見えない事、苦痛ではないのですか?」

紫苑の言葉を聞いたイタチが、呟き眼をそむける。眩しいものから眼をそらすように。

「……“明日はきっと良い日だ”」

「は?」

紫苑の唐突な言葉を聞いたイタチは、思わず聞き返してしまう。

「とある男から聞いた言葉じゃ。明日はきっと良い日だと。昨日よりも今日よりも、明日はきっと良い日なんだと」

紫苑は、今はもう光りを映さない眼を目蓋で閉ざす。

そして、かつての思い出の中で聞いた言葉を、記憶の中から引き出す。

「そう、信じていると言った。諦めなければ、努力すればもっと良い明日に辿り着けるんだと。
報われない事もあるし、やりきれないこともあるけど、足を止めなければきっと良い明日を迎えられるんだとあやつは信じておった」

どこかの誰かの言葉で、自分はそれを借りている。自分を奮い立たせているために、その言葉を胸中で反芻しているといった。

「…明日、ですか」

「そうじゃ。だから、妾はあの事件のことを恨まんし、眼が見えなくなった今にも挫けん。そう心がけている。そして、何時か来る明日を信じている。あやつの言葉を借りて、な」

イタチは沈黙する。

「確かに、眼が見えないのは確かに不便じゃ。挫けそうになる事もある」

紫苑は、静かに首を振る。

そう、初めから強い人間などいないのだ。在るのは、強くあろうとしている人間だけ。

紫苑はそれを自覚している。だが、それでも昨日にも今日にも負けてなんかやらないと決めている。

イタチはそんな紫苑の笑顔が、眩しかった。
同胞を裏切り、両親を殺し、暁に所属している自分。弟に全てを託し、死を以て罪の決済を果たそうとしている自分。
昨日に囚われ続けている自分に対して、紫苑はあまりにも前向きであった。

そんなイタチの胸中を、紫苑が更に抉る。

「イタチ。お主が死を望んでいるのは知っている」

イタチはもう驚かない。

「そこまで、気づかれていましたか」

「うむ。何処か暗い影を背負っておったしの。恐らくは自らが犯した過ちを贖うために、命を投げ出す所存と見た」

「………」

イタチは視線を逸らし、無言のまま立ち上がった。

「別に止めよとは言っておらんよ。お主が決めた事じゃ。それをどうこう言うつもりもない。ただ、1つだけ聞かせて欲しい」

「………何でしょう」

部屋を出て行こうとするイタチの背に向け、紫苑は告げた。



「本当に、それでいいのか?」



紫苑の言葉を背に。イタチは問いに答えないまま、外へと出て行った。



「紫苑様……」

心配そうな声を掛ける菊夜に、紫苑は笑いかける。

「大丈夫じゃ。あやつも、迷っているのじゃろう」

「いえ、そのこともあるのですが……」

「……あの馬鹿の事か」

「はい」

「なに、アヤツは紳士を自負していた。自称していた。ならば来ないはずがあるまい。紳士の先駆けと名乗ったあやつの言葉を信じるのじゃ」

「ですが、その時の記憶が無いことには………」

「それも心配ない」

紫苑は嬉しそうに悲しそうに。

ただ、笑った。


「あやつは、約束を忘れない。業は、あやつを離さない。全ては流れのままに。だから、絶対に来る。思い出してしまう………ふふ、そう考えると運命とは真実、呪いのようじゃな」






そして、家の外へと出て行ったイタチは、虚空を見て一人呟いていた。

「”それでいいのか”、か……」

イタチは先程の問いをぽつり呟き、空を見上げる。

(あれだけの罪、命を以て贖う他に何があるというのか)

イタチは、考えてみた。考えてみたが、答えはでない。

今自分が思っている以外の選択肢など、選ぶことができない。

「……それに」

イタチは懐に入れてあった手紙を取りだし、一人呟く。

そこには、とある人物の遺言が書かれていた。誰に向けてという訳でもないが、然るべき相手に渡さなければいけない。

それが、少なくとも自分ではないとイタチは自覚していた。スサノオの影響により全身の細胞が痛んでいる自分に、これを受け取る資格はないと思っている。

これを元に、色々と動き出さなければいけないのは分かっている。

ペインは言った。

「既に準備は整った」と。

二~五尾までを飲み込んだ今、あいつが動き出すのは時間の問題だろう。

今も、鬼鮫たち3人が一尾強襲の任を遂行している傍ら、隠れながらそれを監視していると聞いた。




「………時間が無いんだ」

切実な言葉がイタチから絞り出される。

鬼鮫に伝言は頼む事はできたとはいえ、あいつがサスケと出逢う確率は低い。

それでも、何とか此処に来て貰わなければ困るのだ。

「………サスケ、何処にいるのか分からないが、速く来い」

手遅れになる前に、とイタチは心の中だけで言った。










「そっちにいったぞ、サスケ!」

「分かってる!」

多由也の言葉に答え返しながらも。
サスケは視線を敵から離さずに、じっと見据える。

風が吹いた。
砂煙が舞い上がり、僅かだがサスケと音忍の視界を塞ぐ。

同時、動く。

音忍が砂煙で薄れた視界の影にて瞬身の術を使う。言うまでもなく、近接するためだ。

サスケの腰にある刀を見て、至近距離の方が良いと判断したのだろう。
一瞬で懐へと飛び込む。

だが、サスケはそれを読んでいた。刀に添えていた手を迷い無く離し、至近距離での応戦を選択した。

激突。

数mはある岩場の上で2人の忍者は交差しながらも、一合二合の攻防を組み交わす。
一合目は互いに防御、しかし2合目はサスケが勝った。写輪眼で相手の動きを捉え、向けられた一撃を片手で捌きながら、音忍の顎に一撃を加えたのだ。

相手は苦悶の声を上げながら吹き飛び、岩場の上から下へと落下してゆく。
そのままでは頭から落下する体勢だったが、落下途中に体勢を立て直し、空中で回転。
あぶなげない動作で、足から地面へと着地する。


立ち位置が変わる。
岩場の上にサスケ、下に音の上忍という構図だ。

早めに決着を付けたいサスケが、攻めてこない音忍の元へと飛び降りる。
対し、跳躍する音忍。


今度は空中で交差する。

だがサスケは再び、音忍のクナイによる一撃を写輪眼避けながら、今度は懐の鋼糸を取り出した。
従来のものよりもやや太めのそれは、思いっきり握っても手が切れない代物だ。

それを相手の身体に巻き付けながら、素早く印を組む。

すぐさま発動するは、雷遁・雷華の術。

「があっ!?」

鋼糸を振りほどこうとした音忍が、その鋼糸から伝わる雷撃を受けて硬直する。

サスケは鋼糸を引っ張り、落ちてくる音忍に向けてとどめの回し蹴りを放った。

その人体急所である米神を的確に捉えたサスケの一撃を受け、音忍は気絶した。



同じように、再不斬、白、テマリ達も音忍を撃破していった。









そして、後方。

その様子を見ていた暁のメンバーが3人。

「あれは写輪眼………ということは、もしかして、うん!」

デイダラが興奮した面持ちで、頷く。

「あっちはなんと、再不斬の小僧のようですねえ。波の国で死んだものと思っていましたが」

鬼鮫が楽しそうに笑う。

「どうやらうずまきナルトはいないようだが、予想外な奴らが居たな………どうする?」

一人冷静なサソリが、2人に問う。

返答は、簡潔だった。









一方、音忍達数人を蹴散らしたサスケ達は、遠くから暁の姿を捉えていた。

「………暁はツーマンセルで動くはずじゃなかったのか?」

サスケが呆れた口調で言う。

「木の葉に来た時は2人組だったんだがな」

再不斬がため息を吐きながら答える。だが、その視線はぎらついていた。敵方に鬼鮫が居るせいだ。

「何か理由があるってことか。どうするじゃん、我愛羅?」

後方から合図の音を聞いて駆けつけた我愛羅に、カンクロウが問う。

「打ち合わせ通りにやるしかないだろう。サスケ、お前はデイダラをおびき寄せてくれ」

「ああ、了解した。そっちはサソリを頼むぞ。その名前の通り、毒による攻撃が得意な奴なんだろう? ………なら、一撃も喰らえない相手というわけだ。砂の防御を持っているお前の方が適している」

「………言われずとも、だ。そもそもあいつは砂隠れの抜け忍だ。現風影として、責務は果たす」

「私とカンクロウは我愛羅のサポートに回る」

「分かっている。白は俺に付いてこい………鬼鮫の野郎を、倒す」

「分かりました………しかし、サスケ君のお兄さんの姿が無いですね」

「………そうだな。正直、この状況下では兄さんの姿が無いのは助かるんだが、何かあったのか………」

「…今は考えていても仕方ない。まずは眼前の敵だ。白と多由也は残りの音忍を頼む。倒した後は、不測の事態に備えてくれ。多由也、お前の音韻術でな。俺達は暁の野郎共をたたむ」

一拍置いて、再不斬が皆に問う。

「………用意はいいか?」

全員がうなずいた。









かくて戦闘が始まる。



サスケは一人、近づいてきたデイダラと対峙する。

「……写輪眼、ってことはイタチの弟のうちはサスケか、うん?」

「そうだ。そういうお前は暁の………デイダラだな? 狙いは我愛羅の中に居る一尾か」

「………ああ、お前の姿を見るまではそうだったんだけどな、うん」

デイダラは目を細めながら、サスケを睨み付ける。

「………そっちはサソリのダンナに任せた。オイラの目的はお前だ」

デイダラが、サスケの“目”に指を向けて宣告する。

「オイラはその写輪眼が気に入らないんでね、うん」

その言葉と共に、サスケはデイダラの威圧感が増すのを感じた。

(………ナルトは“うげー爆弾”とか言ってたけど。そんな可愛いレベルじゃないぜ、これ)

サスケは、目の前の敵から感じられる威圧感から、相手の強さを想定する。

結論、強い。とてつもなく。

模擬戦ばかりで実戦経験の少ないサスケでも分かる程に、相手の存在感は際立っていた。
雪の国で戦ったドトウは勿論、先程気絶させた音忍でさえ比較対象にならない。

上忍の上。今の再不斬やナルトと同等の実力者だ。

サスケはそれを認識し、出し惜しみできる相手ではないと判断。
腰に下げられた愛刀、雷紋を抜く。

「………変わった刀だな、うん?」

デイダラは、その抜き放たれた刀を見た後、首を傾げる。

見た目特筆すべき所がない、簡素な造形。片刃の表面には、段平模様が浮かんでいる。

「………突き重視に、速さ優先。加え、隠し玉がありそうと見たけど、うん?」

造形師でもあるデイダラは一目で雷紋の特性を見抜き、頷く。
そして、起爆粘土で作り出した爆弾を手に持つ。

「………まずは小手調べだ!」














「おやおや、まさかここで会えるとは思ってませんでしたよ」

「それはこっちの台詞だ」

サスケ達から少し離れた場所。砂場のない平原で、再不斬と鬼鮫は対峙していた。

「いやはや、まさかあなたがイタチさんの弟君と一緒に行動していたとは。しかも砂隠れの風影の護衛にねえ?」

鬼鮫は横目でサスケがいた方向を見る。

「………何か、あいつにあるのか?」

「ええ、伝言がね。ですが、伝えるにしても見極めなければならないものがありまして。そういうあなたは、私とやりあうつもりですか?」

「ああ、依頼人の要望でな。加え、俺の目的を達成するためでもある」

「ほう、その目的とは?」

問われた再不斬が、背負っている首斬り包丁の柄を握る。
そして一息に前へと突き出す。

「手前の首だ、S級賞金首。大名殺った干柿鬼鮫の首を手土産に………俺は霧へと戻る」

「………私の首はともかく、霧に戻るというのは少し、予想外ですねえ。だが、アナタの罪は重い。何しろ水影の暗殺未遂だ。私の首だけでは足りないんじゃないですか?」

鬼鮫は笑みを絶やさないまま、再不斬に訊ねる。

だが、次の一言を聞いた瞬間、その笑みは消えることとなった。

「………何、先代の、うちはマダラの情報を持っていけば事足りる」

再不斬の言葉を聞いた鬼鮫の眼光が鋭くなる。

鬼鮫のぎらつきを帯びたものものしい気配に、再不斬は一瞬後退しそうになる。

だが、気で負けてはならぬと、再不斬はその場に踏みとどまった。

「………ほう、随分と腕を上げたようですねえ?」

それを見た鬼鮫が、面白そうだ、という表情を浮かべる。

「ああ………小僧などとはもう言わせねえ!」

その一言をもって。

対峙する空気は刃のように鋭くなった。

其処には、熟練の忍びが2人。かつては里を同じにした2人は、今殺気を眼前に押し付け合い、にらみ合っている。



「………こちらも、その情報をどこで掴んだのか………答えてもらいますよ!」


その言葉を合図に、事態が動く。

鬼鮫は目にも止まらぬ速さで印を組み、両の手を叩きつける。



「水遁・瀑水衝破!」



鬼鮫の膨大なチャクラが、その体内で性質を変化される。

そして、それは口からはき出された。

鬼鮫のチャクラと同じく、膨大な水量が一気に具現し、河も池も無い平原に荒れ狂う津波が顕現した。












「………一尾、我愛羅だな?」

「そういうお前はうちの抜け忍。赤砂のサソリで間違いないな?」

20m離れた場所で、我愛羅達とサソリが対峙している。

サソリは、カンクロウが操っている人形を見た後、表情を僅かに変える。

「………チヨばあはどうした?」

「体調が優れないんで、代役として俺が此処にいるじゃん。お前を止めてくれって頼まれた」

「どちらにせよお前が我愛羅を狙うというのなら、止めるがな」

テマリが扇子を一薙ぎする。

「まずは小手調べ、大カマイタチの術!」

そしていきなり術を発動。

風の刃がサソリに襲いかかった。

「………ふん」

だが、それをサソリは一蹴する。
我愛羅有利のこの地形と、1対3という状況から、切り札を切ることにしたのだ。

「出ろ」

地形が不利ならば、有利に変えればいい。数が足りないのであれば、増やせばいい。

サソリは、最初から全力で行くことに決めた。

「それが、三代目風影の人形………!」

カンクロウが驚きの声を上げる。

「………良く知っているな。まあ、誰から聞いたかは知らんが、それも関係ない。一尾の人柱力を除いた全員は、ここで朽ちてもらう」


そう言ったあと、サソリは三代目の人形を操る。

三代目風影の特殊能力は、チャクラを磁力に変え、砂鉄を自由自在に操る事。

加え、サソリは毒の使い手。


「……砂鉄時雨」


我愛羅達に向け、触れれば即座に動けなくなるほどの毒がしみこまされた、砂鉄の散弾が放たれた。



「砂手裏剣!」


それを、我愛羅が迎え撃つ。チャクラを篭められ、硬質化した砂は砂鉄の散弾を止め、相殺した。

三代目が操る砂鉄は堅いが、所詮は人形。生来の能力と違い、砂鉄はチャクラによって強化されてはいない。

対する我愛羅は、砂にチャクラを篭められる。

威力はほぼ互角。察したサソリが口の端を上げる。


「…面白い、砂鉄と砂、どちらが勝つか試してみようか!」


途端、大量の砂鉄がサソリの周りに浮かぶ。

対する我愛羅も、そこら中にある砂を集め始めた。


「「勝負!」」


サスケ対デイダラ。

首斬り包丁対鮫肌。霧隠れの鬼人対怪人。

砂鉄対砂。三代目風影人形とサソリ対五代目風影とその兄弟。



死闘が始まった。











[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 五十話
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2010/02/25 00:35




一方、滝隠れの里では。

「例の、シグレに付き従っていた滝隠れの忍びが………消えた?」

応援でかけつけた日向ネジ。

滝隠れの忍び達の情報を集めるため、シグレに従っていた忍び達を尋問しようとしていたのだが。

「ええ。尋問した途端、急に……」

尋問を担当していたテンテンが、青い顔で答える。

「彼らがはめていた指輪から、何か黒い塊が飛び出して………そして、それに飲み込まれて……その黒い塊は、その後地中へ逃げていったんだけど

「それは……」

見たことも聞いたこともない術。加え、人を飲み込むというあまりにも異様な術の詳細を聞いたネジが、言葉を失う。

だが何とか気を引き締めて、指示を出す。

「ここでこうしていても始まらない。報告する必要もあるから、ひとまず木の葉に戻るぞ」

























「はっ!」

鳥の形をした起爆粘土。

かなりの速度で飛来するそれを、サスケは雷紋で真っ二つにする。

雷遁による性質変化を纏わせた刀の一撃。

粘土は斬られた後、爆発せずにそのまま土塊へと還った。

「なるほど、うん。性質変化を助長する刀だな」

デイダラはサスケが持つ刀の性質を見極めた後、その場から移動しながら次々と起爆粘土を放つ。

一方で、地面に地雷を埋めてゆく。

(引っかかれば御の字だけどな、うん)

サスケは飛んでくる起爆粘土を全て写輪眼で捉え、一閃、二閃。

雷の斬撃を繰り出し、斬って落とす。


「はっ!」

そして互いの距離がある程度近づいた時だ。

全速で、デイダラへと切り込んでいく。


「………近づかれたらまずいな、うん!」


後ろへ跳躍。また起爆粘土鳥を放つ。


「っつ!」

サスケはそれも切り払おうとする。

だが、違和感を覚えたサスケは即座に行動を切り替え、横へ飛ぶ。


直後、起爆粘土が爆発。
サスケに届く少し手前の場所で爆発したのだ。

(危なかった…)

間合いの外で爆発した起爆粘土を見て、サスケが呟く。

デイダラが取った方法は簡単だ。
雷遁によって爆弾を潰されるなら、それを受ける前に爆発させる。
ようするに、爆圧だけを当てる方法だ。

サスケも、流石に爆圧までは斬れない。

「追加だ、うん!」

追加の粘土がまた飛来。また、手前で爆発するのだろう。

(ならば!)

そこで、サスケは戦法を変える。

「千鳥千本!」

刀が届かないのであれば、届く攻撃に切り替えればいい。

そう考えたサスケは、起爆粘土に向け雷遁の形質変化による千本を放ったのだ。

それは寸分違わず鳥の中心を射抜き、今までと同じように内部の爆発能力を打ち消し、普通の土塊へと還っていく。

生まれた間を、サスケは逃さない。

跳躍。

(地雷も消して!)

地面に埋められた地雷をすでに写輪眼捉えている。
サスケは、雷を纏わせた刀を下段に構えながら走り出した。


「ちいっ!?」

地雷を潰しながら猛スピードで迫るサスケを見たデイダラは、一瞬逡巡したが、後方に跳躍した。

間合いが再び開こうとする。

「千鳥流し!」

そこに、サスケは追撃。

「ぐあっ!?」

デイダラは跳躍中だったが、サスケの雷光の網にかかってしまう。

「そこだ!」

デイダラが雷撃により硬直。

サスケはそこに踏み込み、突きを放つ。

「っまだだ、うん!」

硬直が終わったデイダラだが、今度は後方に飛ばす土遁を使った。

地に潜行したのだ。

「ちいっ!」

突きを避けられたサスケは、デイダラの使った術を看破した後舌打ちをする。

---土遁・心中斬首の術。

かつて、カカシから受けた術。だが、同じではない。使っているのは、デイダラなのだ。

その危険性に気づいたサスケは、戦慄する。


(掴まれた状態で爆発を受けてしまえば!)

ひとたまりもない。

サスケはその場に留まることなく、跳躍。

空中で写輪眼による洞察眼でデイダラの位置を把握した後、着地する。


「………」


一方、デイダラは地面に出てきてサスケの位置を確認した後、すかさず起爆粘土を作り出した。

開いた距離に、生まれた一瞬の間。

そこに、デイダラはたたみ込む。

今まで使っていた、威力が比較的低いC1の起爆粘土ではなく、C2レベルのチャクラが篭められた起爆粘土を使う事を決心したのだ。

まず、C2ドラゴンを呼び出す。そして、その龍のような形状のそ起爆粘土が口を開ける。

そこから一斉に、起爆粘土が放たれた。


数が多く、四方八方から迫り来るそれを、サスケは避けた。

だが、その起爆粘土は追尾方だったのだ。

不意の軌道変更に虚をつかれた形になったサスケは、狼狽する。

「しまっ!」

咄嗟の対処が出来ない距離。間。

そこで、デイダラが、叫んだ。

「芸術は、爆発だ!」

サスケは周囲の起爆粘土の爆発から逃れられない。

爆圧に巻き込まれたサスケは、その全身をばらばらにされた。







一方。瀑水衝破によって生まれた、急造の池の上で対峙する2人、再不斬と鬼鮫。

くわっと目を見開き、印をくみ出す。


「水遁・水鮫弾!」

「水遁・水龍弾!」


2人の下にある水面が盛り上がる。やがてそれは高水圧の鮫と龍を化して、互いの敵を襲う。

つまり、軌道は同じだ。空中で龍と鮫は激突し、同時に弾け四方に散っていく。

弾けた水の先、2人は背の愛刀を手に、距離を詰める。


「オラァ!」

「ハッ!」


一閃。袈裟懸けに振り下ろされた大刀は互いにぶつかりあい、その勢いを止める。


激突の余波はすさまじく、周囲の水がその衝撃ではじけ飛んだ。


再不斬と鬼鮫は刀を振り下ろした体勢のまま、そこに留まった。

鍔迫り合いとなる。

「なるほど、単純な腕力も……!」

「てめえこそ、相変わらずの馬鹿力だな……!」

愛刀を眼前に、にらみ合う。

(ちっ、あまり近づくのも……!)

鮫肌の能力に舌打ちをする再不斬。鍔を一端押した直後に後方へと跳躍し、再び首斬り包丁を振るう。

鬼鮫はそれを鮫肌で迎え撃つ。

呼気と共に放たれる斬撃の連鎖。唐竹、袈裟、胴、逆袈裟、切り上げ、横一文字。

繰り出された大質量の鉄塊による応酬。

呼気があたりに響く回数と同じだけ、大刀と大刀がぶつかりあう。

2人の間に火花が生まれては消え、激音が鳴り響いては消える。


鬼人と怪人。

怪物の異名を取る2人はその名にふさわしく、人を越えた膂力をもって互いの敵の肉を斬り潰す、あるいは削り殺さんと手に持つ大刀を振るう。


「ここだ!」

「ぬっ!」


鬼鮫の唐竹の一撃を、再不斬が斜め方向の斬撃で打ち逸らす。

切り落としだ。

軌道を逸らされた鮫肌が、再不斬の横にある水面へと叩きつけられた。

空振りにより、鬼鮫の重心が若干だが崩れ、身体が泳ぐ。

「その首、もらった!」

再不斬は、その隙を逃さない。

切り落としのために打ち払った刀をくるりと手元で返し、鬼鮫の首へ向け横薙ぎの一撃を繰り出す。

身体の頑丈に関係なく、クナイでも受けきれない。直撃すれば即死の一撃だ。

だが鬼鮫はその一撃を、かがむことだけで回避する。上忍にしても化け物じみた反射神経である。

「次はこちらですよ!」

空振りに終わった再不斬の一撃。鬼鮫はそこで生まれた隙を、詰める。

「オラァ!」

一歩踏みだし、鮫肌を握っていない方の手で再不斬の腹を殴りつける。


「ぐあっ!」


怪力の一撃を腹に受けた再不斬の足が立っていた水面から浮き、離れる。

そこに、鬼鮫の追撃の一撃が振り下ろされた。

「くうっ!」

顔面に振り下ろされた一撃を、首斬り包丁の腹で受け止める再不斬。

だが、激突の衝撃に押され、池の底へと沈んでいった。



「水遁・五色鮫!」


鬼鮫は、更に追撃。
五匹の鮫が再不斬に向け放たれた。

だが、その鮫は再不斬には届かない。
突如現れた渦に飲まれて、消えてしまったのだ。


(これは!)



水の大渦。
その現象を把握した鬼鮫が、急いでその場から飛び退く。


直後、水の渦巻きはその勢いのまま、空へと昇っていった。まるで竜巻のように。

放ったのは再不斬。彼が得意とするA級の水遁術、水遁・大瀑布の術である。

鬼鮫はその術の範囲から逃れ、警戒態勢を取る。

「っ、そこ!」

そして背後から襲ってくる殺気を感知した鬼鮫が、振り返り様鮫肌を振り抜いた。

首斬り包丁にあたった感触もない。柔らかい手応え。


サイレントキリングの達人である再不斬だったが、相手が悪かった。

気配を気取られ、鮫肌の一撃を顔面に受けて、無惨にも削り殺されたのだ。


---そう、再不斬の水分身が。


「・・・・ああああぁあ!」

「っ上ですか!」

雄叫びと気配により、鬼鮫は再不斬の位置を察知する。

水分身はあくまでフェイクで、本物の再不斬は、水の竜巻とともに上空へと飛んでいたのだ。



そして、落下の勢いを活かし全力で唐竹の一撃を振り下ろす。


---激突。


「くうっ!」

それを鮫肌で受けた鬼鮫。だが、先程より明らかに強い斬撃の威力に押され、鮫肌の位置を維持できない。

押された鮫肌が下がり、鬼鮫の肩へと食い込む。削られた肩から鮮血が舞う。

(くっ、これは…!?)

鬼鮫の怪力を以てしても止めきれない、あまりにも重すぎる一撃。

見れば、再不斬の大刀の表面には水の塊の残滓があった。

大半は鮫肌により吸収されたのだが、未だ残っているそれを見て鬼鮫は疑問符を浮かべる。

一方、再不斬は効果があったことにほくそ笑んでいた。

再不斬が空中で使ったのは、水遁・水刃撃という術。

雪の国で見せた水刃翔の亜流術で、斬撃の切れ味を倍増させるという術だ。


だが、本来ならばこの術は鬼鮫には通じないものだった。

何しろ、鬼鮫の愛刀・鮫肌はチャクラを吸収してしまうのだ。斬撃の切れ味が上がったとして、それが鬼鮫の身に当たらなければ意味がない。

鮫肌で受けられるだろうし、その場合逆にチャクラを吸収されてしまうのがオチだ。

だが、この場面であえて再不斬が水刃撃を使ったのには、理由があった。

(刀の重量を増加させたんですか……!)

重量を増加させ、自由落下の勢いに乗せることで斬撃による衝撃力を文字通り“水増し”したのだ。

鮫肌では水による切れ味は吸収できても、その斬撃のエネルギーまでは吸収できない。

「まずは一撃…!」

してやったり、と再不斬が言う。

「かあっ!」

鬼鮫は肩に負った傷の痛みをこらえながら、力任せに鮫肌を振り上げ、首斬り包丁を押し返す。

再不斬はその押される勢いに逆らわず後方へと飛び、再び水面へと着水する。


離れた2人。元の距離である。


先程とは違い、再不斬は不適に笑っている。

対する鬼鮫は肩の傷を見たあと表情を更に真剣なものに変える。


「……成る程。数年前のアナタとは、まるで別。随聞と、強くなりましたねえ」

「…そういう手前はあまり変わっちゃいねえがな?」

「いえいえ……そうでもありませんよ!」


再び、斬撃の応酬が開始された。












「砂手裏剣!」

「大カマイタチの術!」

「喰らうじゃん!」


迫り来る風の刃と、仕込み人形による爆弾付きクナイ、砂手裏剣。

放たれたそれらは、しかしサソリには届かない。

「ソオラァ!」

---砂鉄結襲。

サソリは三代目人形を操り、砂鉄を結集させたのである。
土遁以上の硬度を持つ鉄の壁で、その攻撃を全て防ぎきる。

「くっ、あの鉄の壁は厄介だな……!」

傷もついていない壁を見たテマリが、忌々しげに舌打ちする。


「何か手が………って来るじゃん!」


結集させられた砂鉄が宙に浮かぶ。

それが、一瞬震えた直後である。



「っ、テマリ、カンクロウ!」

---砂鉄界法。

球体から棘が生まれ、放射状に広がっていった。


「くっ!」


それを、我愛羅は砂の壁で何とか防ぐ。

テマリは鉄扇で受け止め、カンクロウは腕に仕込んだ機光盾封で砂鉄を防いだ。


「砂縛牢!」

すかさず、反撃に移る我愛羅。

砂がサソリを押しつぶさんと迫る。

だが、それも派生して出来た砂鉄の槍に貫かれ、勢いを殺がれる。


「………埒があかんな」

近づいてこない我愛羅達に対し、サソリは舌打ちをする。

遠距離同士のやりあいだと、攻撃が届くまでの時間がどうしても長くなる。



(持久戦か……)

サソリは胸中だけで呟いた。そして、こちらが有利だと笑う。
あちらと違い、こちらは一撃を当てるだけでいいのだ。

(砂鉄に仕込まれた毒の麻痺、人柱力でも抗えまい)

一人一人、確実に仕留めてゆけばいい。

そう思ったサソリは、再び砂鉄時雨を放ち始めた、









一方、白と多由也は残った音忍達全てを倒した後、全員を縄で拘束していた。

残った音忍は4人いて、3人が中忍、一人は上忍クラスというかなりの戦力だったのだが、2人の連携攻撃により呆気なく撃破された。

「しかし、音忍か。大蛇○と暁が手を組んでいるという予想、当たっていたようだな」

「そうですね」

「でも腑に落ちない。大蛇○の性格上、今更暁と手を組むとかいう選択は選ばないと思うんだが」

「必要に迫られても、ですか?」

「ああ。どうも引っかかる。まあそれは後で考えるか。決着がつくまで、こいつらを見張っておこう」

「しかし、思ったより速く、かたを付けられました」
「………あの術、役に立ったか?」

「ええ、それはもう随分と」

白が、呟く。

「秘術・五音。かなり使えますね」

音韻術が2、五音(ごいん)。効果は、味覚も含めた五感が鋭くなる事である。

「そうそう、五感が鋭くなるってのもあるけどなあ。何か、こう、別の効果もあったな」

模擬戦では気づかなかったけど、と多由也が言う。

「はい。勘も、鋭くなったような気がします」

相手の戦術というか、持ち術に対する勘、いわゆる戦闘勘というものも鋭くなっていた。

「相手の攻撃を予測し、相手の次の行動を予測する能力も……高くなっていました」

今回の音忍の全員が、能力も分からない初見の敵である。にも関わらず、これだけの短時間で倒す事ができた事実に、多由也が満足そうに頷く。

「ナルト曰く、勘とか戦闘勘? いわゆる“第六感”ってのは五感と記憶・経験が組み合わさった故の、相互作用が在って初めて働くものらしいからな」

経験無くして勘は働かず、五感が鈍い奴は勘も鈍くなる。

特に、戦闘勘というものはそれまでに経験してきた五感の感触を素地に生まれるものだ。

洞察力による予想と勘は紙一重ともいうし、密接な繋がりがあるのかもしれない。

「そうですね、それも関係しているのかも……ん?」

言葉の途中、とある違和感を覚えた多由也は、違和感がした方向である、地面を見る。

「どうしました?」

「いや、何か………地面が揺れているような」

「再不斬さん達の戦闘による余波と思いますが………違うんですか?」

「……何か、違うような気がする。確かめてみるか」


幸い、術の効果によりあと数分は五感が高まったままだ。

ちょうどいいと思い、多由也はしゃがみ地面に耳を当ててみる。



「………やっぱり、地表面が揺れているんじゃない………これは、なんだ?」







吹き飛んだサスケを前に、だがデイダラは気を緩めない。

「………幻術だな、うん!」

爆発で吹き飛んだように見えたサスケだが、デイダラはそれは幻術によるものだと気づいていた。

イタチとの勝負で、写輪眼による幻術で敗れたデイダラ。
その後、写輪眼対策にと自らの眼を魚眼レンズを備えているスコープで覆うようになったのだ。

「後ろだ、うん!」

幻術を看破し、背後から忍び寄ったサスケへと爆弾を放った。

その後、眼に移るのは吹き飛ばされ、血を撒き散らすサスケの筈だった。

しかし、実際は違う。

「水、分身!?」

サスケは幻術を使った直後、爆発による煙に紛れ、忍具口寄せを使ったのだ。
口寄せされた水を使い、再不斬からコピーした水分身の術を使い、その分身体を特攻させた。
水分身は本体より能力が低下する。だから、気配を殺して近づいても気づかれる。
ならば気づかせた上で効果を出せばよいと考えた、サスケの策は見事にはまった。

撒き散らされた水が、デイダラへとかかる。

同時、水分身が持っていた鋼糸の束がデイダラの元へと落ちる。
その鋼糸の片方はサスケの元にあり、すでにまとめて雷紋の刀身へとくくられていた。

サスケは水分身がやられたのを確認した後、雷紋を地面に突き刺しながら印を組む。

「雷遁・大雷華!」

雷紋によって増幅された雷は鋼糸を伝導し、デイダラの元へと辿り着く。


「がああああああぁぁ!?」

水に濡れ、感電しやすくなっているデイダラはその電流を受け、その場に跪いた。

その余波を受け、C2ドラゴンも形を失っていった。


だが、まだ終わってはいなかった。

“ドラゴンと一緒に散ってゆくデイダラ”を見届けながら、サスケは気配がする方向へと振り返った。


「………粘土分身、か」

振り返るサスケ。そこには、デイダラの姿があった。

特別驚くわけでもない。さっき地中に潜った時に入れ替わっただろうことは、推察できた。

あの一撃で決められなかったのは残念だが、まだまだ策はある。
それより、あれほどに精巧な粘土分身を維持するにはチャクラを喰うはずだから、あれを早めにつぶせただけ有利になったと考えている。

「………」

サスケは無言のまま睨んでくるデイダラを睨み返し、再び戦闘の構えを取る。


「……来いよ自称芸術家。お前の爆弾など全部蹴散らしてやる」


サスケの、苛立ちを含んだ声。それを聞いたデイダラが、問い返す。

「何を怒っているんだ、うん?」

「お前が芸術家と名乗った事だ。芸術家ではないお前が、芸術家を名乗った事だ」

思わぬ答えに、デイダラは一瞬きょとんとなる。だが、その言葉の意味を理解した後、憤怒の表情を浮かべた。

「オイラの何処が芸術家じゃない、うん!?」

憤怒の表情と怒りが混じったチャクラがサスケに向けて放たれる。

だが、サスケは負けず劣らずの怒りの感情を盾に、答えを返す。

そう、サスケは怒っていた。
本人の前では決して口には出さないが、サスケは心の底から尊敬している芸術家が、ただ一人だけいた。
多由也だ。

「お前の芸術というのは、それか? その、爆弾か?」

「そうだ、うん!」

サスケに造形は解らない。美術というものは解らない。
だが、芸術とは須く誰かの心を満たすためにあるものだと理解している。多由也からもそう聞かされた。

ナルトも、料理人で芸術家とは言い難い。
だがその根は同じで、誰かの心を満たすためにその道で頑張っている。

その2点から、サスケは目の前の芸術もどきの忍術もどきを認めない。


『誰の心も満たさない芸術などあるものか』


その言葉をデイダラに叩きつけ、構えを取る。

目の前の相手を打ち倒すために。

サスケは構え、スピードを上げるため、通常時より更に足へとチャクラを篭めた。


---その時だった。












「あとは、お前一人だな」

サソリは、地に倒れ伏すテマリとカンクロウを一瞥した後、我愛羅へと告げる。

諦めろ、と。

「くっ……」

傷を受け倒れた2人と、その周囲に散らばっている破壊された傀儡人形を見て我愛羅が呻く。


三代目風影人形と一対一で戦っていた時は何とか無傷で済んでいたのだが、サソリが他の傀儡人形を繰り出してからは状況が一変した。

砂鉄を操る三代目風影人形を筆頭に、数の暴力をたのみに攻撃してくる人形達。その数は事前情報で得られていた100機とは至らずとも、その1/5はあった。
100機全部を繰り出してこないのは、三代目風影人形の操演を疎かにしないためであろう。

攻守両立できる砂鉄攻撃を主軸に、多角的な攻撃を仕掛けてくるサソリ。

我愛羅達は応戦し、凌ぎ、反撃し、その人形の全てを破壊する事に成功したが、その時にカンクロウとテマリ2人は一撃を喰らっていた。

毒が染みこんでいる砂鉄の飛礫を受けてしまったのだ。カンクロウは胸に、テマリは腕に一撃を受け、その場に倒れた。

「砂瀑牢!」

我愛羅は2人を砂で運び、自分の背後に庇いながら応戦を続けている。

「……砂鉄城壁」

だが、幾度攻撃しようとも文字通り鉄壁の防御力を誇る三代目風影の守りを抜く事ができない。


そこからも、2人の激戦は続く。

異能ともいえる忍術の応酬。砂対砂鉄が浸食しあうそれは、点と点ではなく、面と面の争い。

陣取り合戦じみた戦いの果て、2人を背に庇いながら戦う我愛羅の顔に、疲労の色が浮かび出す。

「はあ、はあ……」

「なかなか、しぶといな一尾。だがこれで終わりだ」


呟き、サソリが繰る糸を翻す。

同時、宙に浮かんでいる砂鉄がその形状を変えていった。


「……砂鉄の、剣?」

「くたばれ」


---砂鉄剣牢。


サソリの呟きとともに、砂鉄でできた巨大な剣が我愛羅を襲う。


対する我愛羅も、砂瀑の盾では防ぎきれないと判断し、自らがもつ術の中で最高の防御力を誇る術を繰り出す。

最硬絶対防御・守鶴の盾。


砂鉄の巨大剣は狸の形状をした砂の塊に突っ込み、だがそれを貫けず半ばで止まった。

我愛羅の防御力が砂鉄の攻撃力を上回ったのだ。

だが、我愛羅は安堵のためいきを吐かず。

目の前で変化する状況に向かい、ただ叫んだ。


「剣が!?」


見れば、砂に突き刺さっていた砂鉄の剣が崩れ出した。

そして、我愛羅を捕らえようと周囲に展開していったのだ。

このままでは捕らえられると判断した我愛羅の判断は速かった。背後の2人を抱え、瞬身の術で砂鉄がまだ覆われていない後方へと離脱したのだ。

途中、我愛羅達は砂鉄に触れそうになったのだが、身に纏う砂でかろうじて防御。紙一重だったが、無傷での離脱に成功した。



「くっ、かくなる上は……!」

退避に成功した我愛羅が、一際大きなチャクラを練り込む。

それを察知したサソリが、砂鉄群を自分の所へ戻す。

追撃するという選択肢もあったのだが、相手の術の事もある。無茶をする必要もないと考え、ひとまず防御することにしたのだ。

(それに、体力も限界だろう)

他の2人は既に倒れている。ここは賭けに出る場面ではないと判断し、砂鉄を再び結集させた。

サソリと3代目人形の前に、壁が出来ていく。黒い壁に遮られ、サソリの視界が塞がれていく。見えるのは、砂鉄だけ。



だから、見えなかった。視界が塞がる一瞬前に、我愛羅が笑みを浮かべたのを。

そして。


(いくじゃん!)

(応!)

毒を受け倒れていたはずのテマリ、カンクロウが立ち上がったのを。

2人は攻撃を受けた振りをしていたのだ。
例の、ナルトから渡された毒避けジャケット……“防刃繊維が組み込まれた服”に当たるように誘導し、わざと被弾。
傷を受け毒を受け、昏倒した振りをしていた。

チャクラの動きを察知したサソリが、少し動揺を見せる。


だが我愛羅はサソリの動揺に構わず、仕上げの最初となる大きな術を放った。

「いくぞ!」


砂瀑大葬。砂の大津波が、サソリと3代目人形に襲いかかる。


「砂鉄傘層!」

だが砂の大津波は砂鉄の傘により左右に分けられ、サソリの身をを飲み込むこと叶わず、後方へと逸らされていく。


だが、それは我愛羅達にとっては予測の内。



「……テマリ、カンクロウ、行くぞ!!」


我愛羅が最後の力を引き絞る。

足場の砂を集め、チャクラを以て締め固める。やがてそれは形状を変えていく。

先は尖っていて、後ろは平ら。まるで銃弾のような、槍のような、矛のような形状。



「お先に、行くじゃん!」

それが放たれる前に先んじて、カンクロウの絡繰り人形から攻撃が放たれる。

---とある仕込みを施すのも、忘れない。

一方、もう片手で繰られた人形から、攻撃が放たれる。毒が染みこんだ仕込み針による、全方位からの攻撃。

だが、それは砂鉄に防がれてしまう。

「甘い!」

攻撃を察知したサソリが、砂鉄の壁を広げ、カンクロウの攻撃を尽く弾き飛ばしたのだ。

だが、カンクロウはしてやったりと笑みを浮かべる。

カンクロウの役割は、壁を少しでも広く"薄く”すること。


「そこだ!」


薄くなった防御壁。そこに、我愛羅の乾坤一擲の一撃が放たれた。


---最硬、絶対攻撃。

「守鶴の矛!」

叫びと同時、矛が唸りを上げて空中を疾駆する。

「風遁・大カマイタチの術!」

その周囲に、追い風となる風刃の嵐を伴って。

風により更に速度を増した矛は風の乱流を巻き込み、急速に回転し始める。

そして、風刃と共に砂鉄の壁へと突っ込んでいく。


「っなに!?」

視線が防がれているサソリには、見えない。だが、その今までにない衝撃を伴った一撃に、驚きの声を発する。


衝突のエネルギーとは、質量×速度の二乗である。威力も増々だ。

通常よりも更に速く放たれた矛。加え、回転も加わったのだ。いわば、超高速で飛来するドリルのようなもの。

加え、我愛羅の残存チャクラのほぼ全てを篭めた矛だ。硬度も折り紙付きで、鉄の壁にぶつかったとしてもその形を崩すことなく。



「貫けぇ!」


回転しながら、砂鉄の壁を貫いていく。


そこに、更に、一撃。



「行けぇ!」


大カマイタチの術により鉄扇を振り抜いたテマリ。

その、巨大鉄扇の重量による遠心力を殺さず、更に回転。

最後の一歩を踏み込み、重心を固定する。そのまま、身体の中心軸を固定し、遠心力そのままに折りたたんだ鉄扇を、砂鉄壁に突き刺さっている矛の尻へと投げたのだ。


その壁の8割までを貫いていた矛。巨大扇子の一撃により、更に後押しされ、やがて砂鉄の壁を貫いた。


だが。


「惜しかったな…!」


壁を貫きはしたが、サソリには届かない。半ば、頭だけを出す形となった矛を見たサソリが、安堵のため息を吐こうとする。


---だが。







「いや、終わりだ」







我愛羅が呟き、砂の矛の結合を解く。



「…細工は、流々」


カンクロウが、勝利を確信し、告げる。


砂の中にある、最後の仕込みを作動させるのだ。

砂の矛の中にある仕掛け。傀儡糸は一本しか繋げられなかったが、仕込みはただ1つで単純なもの。

問題は無い。



「---仕上げをご覧じろ」


カンクロウが言葉と共に糸を繰る。砂の中に隠されていた玉が分解。その中身を砂鉄の壁の向こう側にぶちまける。


現れたのは、ナルト特性の起爆札。それも、10枚重ねだ。



「起爆ふ……!」




---その言葉の最後まで、口に出す事は叶わず。


サソリは3代目人形諸共、砂鉄の檻に囲まれたまま、爆発に吹き飛ばされた。





















あとがき

オリ術多くて申し訳ありません、と前置いて。

本編ですが、最後までの道筋、一応ですが見えました。

進路変更無しで、このまま突き進みます。





[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 五十一話
Name: 岳◆5bf56ac5 ID:6d0af7c1
Date: 2010/03/30 00:48
ここは、とある土木現場。

道なき道に道をつくる集団、網が保持する土木部隊でも最精鋭に名を飾る「国境なき土方軍団」がその辣腕を振るう、いわば土木建築の最前線である。


そんな中、とあるバイトが無双していた。


「いや、無口だけど力持ちだなお前」

「……いえ」

ヘルメットを被ったおっちゃんに話しかけられたのは、何を隠そう霧隠れの里が保持する人柱力。

ナメクジのような尾獣、六尾を内に宿す忍び、ウタカタである。

「次、これ頼むわ」


作業員のおっちゃんに頼まれたウタカタは手渡された土嚢を難なく持ち上げてみせた。
右手に一つ、左手に一つ、寄り添うように合わせ、真ん中に一つ。
大の大人でも両手で抱えるような土嚢を、ウタカタは三つまとめて持ち上げてみせる。

「おお!」

おっちゃんが、感嘆の声を上げる。無表情ながらも今までは得られなかった感触に充実感を覚えたウタカタは、柄にもなくはりきって見せる。


「ほら、もう一個! ほら、もう一個!」

周囲を見れば、何かが間違っているノリにノリながら誰もが歓声を上げていた。
ウタカタの謎な怪力を怪しむ者は一人もいない。普通ならば尋常でない怪力を疑うところだろう。
だが、ここに居る者達は疑わなかった。
ここに居る者達は皆、組織"網”の息がかかった、特殊な土木作業団。訳ありな者も多く、誰もが一つ二つ人には言えないような過去を持っている。
人には言えない過去がある者達は、他者への無遠慮な介入を嫌う。何よりもそうされたくないと、自分自信が知っているからだ。

だがそれを知らないウタカタは戸惑っていた。

(まさか、事情を話すだけで信用を得られるとは)

胸中だけで呟く。成り行き任せの思いつきで言ってみたウタカタだが、まさか受け入れられるとは思っていなかった。

ウタカタがバイトをしたいと思った理由。それは、例の店主にラーメン代を払うためである。
外道な方法として、そこらに居る忍びから奪うという手も考えたのだが、思いついただけですぐにやめた。
何というか、あれだけの事件……そう、事件。
あまり普通でない経緯で結ばれた縁のようなもの、それを続けたいと思っていたウタカタは、最初の出足になるであろう返金に使う金に、汚れたものを付けたくなかった。

(美味かったし……あったかかったな)

生まれてからこれまで記憶にない。あれだけ、暖かくそして美味いものを食べたことなんて、無かった。
自分が無一文だったにも関わらず、見るからに怪しい格好をしているにもかかわらず、あの店主はそんなの関係ないとばかりに豪華ラーメンを振るってくれた。

(ちゃんと稼いで、きちんと返す)

掛け値なし。偶然であろうとも、本当の親切、情を受けたウタカタは汚い方法でそれを返したくなかった。
たまたま近くにいた土方らしき集団に声を掛け、慣れない敬語を使い、頼み込んだのもそのためだった。


「いや、すげえなお前。その腕っ節、あのイワオの野郎にも負けねえわ」
「…イワオ、というと?」

ウタカタにとっては、初めて耳にする名前だ。
どういう人物なのかウタカタがたずねると、親方は頭をかきながら件の人物について話をはじめる。

「いや、大分前に現れた……まあ、今はいないけどな。そりゃあもう、すげえ新人が居たんだよ。お前のように怪力だった」

そこから、その土木作業員は語り出す。
土木作業中、あまり聞いたことのない発送を用い、作業開始から完了までの時間を短縮してみせたり。
安全管理など、今まで誰もが必要だとは思っていても、あまり本腰を入れていなかった案件について、イワオは徹底的に突き詰めてみせた。
飛躍的、とまではいかない。革新的、とはまた違うだろう。

「だが、人死にがでるような事故が起きる回数は、それ以前より明らかに減ったよ」

確認作業を怠ったことが原因で事故が起こり、結果死んでしまった者は少なからずいた。

「…まあ、もともとが結構な腕持った忍者でもあったからな」
「そう、ですか」

ま、最終的には忍者の道を選んだようだがなあ、と親方が遠い眼をしながら呟く。

「……忍者になるの反対、だったんですか?」

「まあなあ。忍者ってほら、あれだろ? 強くなけりゃあ生き残れねえもんなんだろ?」

「……まあ、そうですね」

確かに、強くなければ生き残れないものだ、とウタカタは頷く。

才能の上下はあるが、戦いを経た忍び、生き残れるものは限られている。弱ければ死に、強ければ生き残るという単純なものだが、だからこそ誤魔化しがきかない世界。
強いから、強くなったから生きているのであって、弱ければ死んでいる。それをよく知る者ほど、強さには並々足らぬ執着がある。強さの価値をしっているとでもいうのか。

勿論、ウタカタも知っている。人柱力として迫害を受けてきた今までの生の中、力の価値に関してははいやというほどに、心の裏側へと刻まれていた。

「…死にたくなければ、敵より強く在らなければならない」

数週間前に自分の身に降り掛かった事を思い出し、ウタカタは震える。
突如現れた黒の塊と、それを御していた一人の男。
問答無用で襲ってきたので応戦はしたが、まるで歯が立たなかった。特異のシャボン玉による忍術を直撃させたとしても、まるで効いた風な様子がなかったのだ。
繰り出してくる攻撃も苛烈極まるもので、近くを巡回していた霧隠れの中忍4個小隊も、黒の塊から発せられた尾のようなものの一薙ぎで沈黙させられた。

こいつには適わないと思いウタカタは近くにあった河に潜り逃げたのだが、敵は追ってはこなかった。
何故追ってこなかったのか、今考えてみてもいまいち答えがでない。
思えば、攻撃も本気のそれではなかったように思う。

考え事をしているウタカタの横で、親方は何かを察したのか言いそうになる。
だが、追求はしなかった。代わりに、先のウタカタの言葉に応える。

「ああ、あの野郎も言ってたなあ。生きたければ強くなるしかないとかなんとか」

その言葉に、ウタカタは素直に頷く。その言葉はある状況においては、真理となる。
ともすれば、そのイワオという人物は結構な強者であったのかもしれない。そして、誰からか、ねらわれる立場であったのかもしれない。

死なないために、随分と鍛えたのだろう。ウタカタは自分の境遇に当てはめて、そう理解した。
チャクラの大小は生まれついてのものだが、人は鍛えれば確実に強くなる。

逆に、鍛えなければ強くもなれないだろうが。

数多の種類存在する生物の中、唯一人間だけが日々の鍛錬を経て強くなるという。
生まれ以ての力ではなく、錬磨された力を持つのも人間だけだ。

強くなる覚悟と時間があれば、誰でも力は持てる。
生きる意思があれば、そして生きていく上で譲れない何かを見つければ人はそれを守るために強くなれるからだ。
力を手に大切なものを守りたいと思えるならば、例えそれが自分の欲望だとしても、自分の命だけだったとしても、人は力を持てる。

だが、大きすぎる力は災厄を呼び寄せる。力というものは存在するだけで、誰かの脅威に成り得るからだ。

まだ若造とも呼べる年齢のウタカタにだって、巨大な力に対して人々がどのような反応をして、どのような感情を抱くのか、ということは嫌と言うほどにわかっていた。

「強さが全てでは、ない」

何気なく出た言葉。それに、親方は神妙な顔で頷いた。

「…忍者ってやつらは物騒なやつらだよなあ。なんで、あいつがその道を選んだか知らないけどよ」

「忍者について、詳しい?」

「いや、よく解らんよ。チャクラを操れるわけでもない。でも、昔な……俺も、戦争ってものを経験したんだが」
少し遠い眼。思い出すように、親方は語る。

戦争の余波で死んでいった友達の事。それを訴えても、聞き届けられなかった事。
戦災により職を失い、山賊に成り下がったもの。暴力により、金や食料を奪われていった事。
暴力、権力。色々な力が、俺達を苦しめたという事。

「…忍者のやつらみたいに、実際に戦ったんじゃねえ。でも、あれは確かに戦争だったよ。誰かの何かを奪い取って生きるって点だけは、戦争と変りなかった」

奪い、奪われる日々。思い出したくもない、と親方は首を振る。

「あれを、とんでもない規模で繰り返してるんだろ? 滅茶苦茶物騒なやつらじゃねえか」

「……そうですね」

忍者は命のやり取りを職とする者達だ。それだけが任務ではないが、彼らの存在の意義は、戦いの中にある。

「なんのために戦ってるんだか……俺にはあいつらの戦う理由ってやつが、分からねえよ。あいつら自身、分かってるのかどうかもわからねえけどな。
 繰り返して起こった戦争、里を守る、国を守るって理由だけじゃなさそうだしよ」

少なからず、奪うためという欲望が含まれているだろうと、親方は推測をしていた。
でも、そこまで。それ以上は分からない。

「結局、あいつらは戦うのが好きなだけなんじゃねえのかって思っちまう時がある。忍術とやらを使うのが好きなんじゃねえか、って馬鹿なことを考えちまう」

「そうかも、しれません」

ウタカタの脳裏に、見てきた光景、過去の惨事がめぐりめぐるる。

忌むべき力、巨大すぎる力を淘汰しようと、躍起になっていた人たち。
血継限界を疎み、憎み、迫害し、排除してきた者達。
それについての、理由はあった。血継限界が戦争の引き金になるケースも、確かにあった。

戦いたい者達と、戦いたくない者達。
互いに反発しあい、やがて血に塗れていった。
それは、人柱力に対しても言えることだろう。

力の権化である尾獣を宿す兵器。そういう扱いをされてきた。納得はできなかったが、反発してもどうしようもなかった。
いやその気力さえなかった。

自分が持つ強大なチャクラ。その力を振るうには、意志の強さが必要になる。
その強さがウタカタにはなかった。



理由は簡単。

守りたいものが無かったからだ。



生まれてからずっと一人で、無くしても困るものがなかった。

奪われても構わないものだらけだから、無くしてもその理由を憎むこともない。

大部分がどうでもいいもので構成されていたウタカタは、ただ生きていればそれでよかった。
流されるままに存在していただけだった。



たったひとつの例外はあったが………それにも、裏切られた。


むしろあれこそが始まりだった。


それももう、忘れてしまったが。



気づけば、泡のように。軽く、風が吹けば飛ばされるだけの生。
いつしか泡沫<ウタカタ>と言われるようになっていた。

何かを守ろうとは思わないし思えない。
先の敵で殺された霧隠れの忍びなど、一晩寝れば忘れるだけのもの。

ウタカタが知る内で唯一、人柱力で影に立った三代目水影は……霧の中の影に至るほどの力を持つ彼は、強靭な意志に支えられていた三代目水影は、
いったい、どういう思いをいだいていたのだろうか。

「……理解できないな」

「ん、なんかいったか?」

「いえ」

「誰かを守るには力っていうのも必要なんだろうけど……度が過ぎた力っていうのは災害にしかならんだろうなあ」

「……まあ、程度にもよりますが」

ウタカタは、視線を逸らしながら答えを返す。

答えを知らないから、答えられない。例えるならば自分がそういう類なのであろうが、暴れた記憶が無いウタカタにとっては、それは断言できることでもなかった。




「……ん?」

話が途切れた刹那。
不意に訪れた気配を感知し、ウタカタは何もない空を見上げた。

先程とは変わらない、相変わらずの蒼天。


でも、何かが違う。

決定的に違う。致命的に違う。

漂ってくる空気が違った。戦場の空気という訳でもない、だが日常とは決定的に隔絶している、そんな空気だ。


「………!?」


ばっと、顔を上げ、とある方向を見る。

直前までは小さかった気配。だが今感じる気配はそんな生易しいものではない。
ウタカタの感じたそれは、万人共通、誰もが感知できるだろう圧倒的なものを告げるものであった。

即ちそれは、一つ。死の気配。死、そのものを告るような……。

「ん、どうした?」

だが、親方は気にした様子もない。

(……チャクラ……、いや、これは)

存在するだけで他を圧倒する、そんな気配。
常の範疇に収まらない、極めて異端であり、そしてなによりも巨大である気配。

たとえるならば、圧倒的な白。

それでいて、問答無用の黒のような。

本質的に矛盾しているような、致命的な齟齬をもっているような。
根底がおかしくて、どうしようもない存在。

今一度確認しても、感知出来る気配は変わらない。

ウタカタはそれを知っていた。数週間前に感じた気配と、全く同じ。
ということは、間違いなく同一の存在だろう。あのような気配が二つあるなどとは、考えたくも無い。

内の尾獣も再び震えているようだ。
以前と全く同じ反応だ。

“アレ”に、恐怖している。

「うん、どうした?」

隣で訪ねてくる声。

「………!?」

だが、ウタカタはその言葉に応えられない。

遠方で感じていた気配が、突如膨れ上がったのだ。
同時に、地面が揺れ始める。

遠くから、遠雷のような地響きが聞こえてくる。
その音を聞いたウタカタの脳裏に、警鐘のようなものがなる。

ふと、気づく。

「……風が止んだ―――いや」



世界が死んだ、と。



不吉を告げる凶風を感知したウタカタの呟きは、誰にも聞かれることなく虚空に消えた。

































一方、再不斬と鬼鮫は我愛羅達とは少し離れた場所にいた。
術と斬撃の応酬を繰り返し互いに優位な位置取りを奪い合った末、元々いた場所から離れてしまったのだ。

砂隠れ近くの平原の上、互いの鉄と鉄がぶつかる音が響く。
再不斬めがけ振り下ろされた鮫肌を、横薙ぎに弾いたのだ。

再不斬は斬撃を受け止めたことによる手のしびれを感じながらも、鬼鮫から距離を取る。
そこで、鬼鮫は奇妙な動きを見せた。

「……成程、ねえ」

「あん?」


鬼鮫は再不斬から数間離れた間合いで、ため息を吐きながら虚空を見上げた。
何かを感じ取っているようだ。

「ふむ、イタチさんが言っていた通りですか……参りましたねえ」

再不斬と鬼鮫は、互いにすでに満身創痍の状態。
身体のあちこちに、互いの愛刀によって裂かれた傷があり、チャクラの残量も多くはない。

ここから一手読み違えると、致命傷になる。

そんな警戒したままの状態の中だというのに、突然おかしな事を呟いた鬼鮫に対して、再不斬が訝しげに問いかける。

「…何を言ってやがる?」
「いやなに。退っ引きならない事態になっただけですよ」
「…ふん、このままただで引かせると思うか?」
「そういうことを言っているのではないんですが……おっと。どうやら、来てしまったようですねえ」

言葉と同時、鬼鮫は鮫肌を肩に担ぐ。


「……?」

再不斬は鬼鮫の意味のない動作を見て、訝しむ。
明らかな隙だ。

誘いかと思ったが、違うと再不斬の感が告げる。
だが、それならば尚、今ここで隙を見せる意図が分からない。

そして、その隙をつこうともしない自分に対しても。

頭の片隅で考える。何かがおかしい。

そこで再不斬はふと気づいた。立っている地面が揺れている事に。


気づいたのと同時だった。



―――多由也からの、通信術が届いたのは。





















「終りだな」

地面に転がっているサソリに、我愛羅達は近づいていく。
身を守る鎧は謹製の起爆札による爆圧で吹き飛び、砕かれていた。
鎧の中にいたサソリもまた、大きなダメージを受けているようだ。

鉄の檻の中で、あの規模の爆発を受けたのだ。
爆圧は拡散することなく、サソリへと叩き込まれた。無事であるはずがない。

その証拠に、サソリは仰向けに倒れて空を見上げるままで、我愛羅達から逃げようともしない。
義体のあちこちが損傷しているせいで、動くことができないのだ。

「……」

サソリが自分の義体をチェックする。だが、もうどうにもならないということに気づき、ため息をはいた。
そして傍まで来た三人を一瞥し、また視線を空に戻す。

「……こんな若造どもに、な。どうやら俺の負けか」

「ああ、そうみたいだな」

テマリが答える。

「……目の錯覚ではないようだ。お前達は俺の毒を受けたはずだが」

何故動ける、とサソリが問う。

「相手の武器が分かっていれば備えられる。私とカンクロウはあんたの毒を受けた……という、振りをしたのさ。
 演技するのは大変だったけど、それに見合った効果は得られたみたいだね」

「昔の武勇伝と、チヨばあからの情報を参考にしたじゃん。成程、あんたの毒は大したもんらしいけど、逆に言えばそれが死角になる。
 自信の裏に慢心あり、ってやつじゃん。効きが即効すぎる程、誤魔化しやすかった」

「……まあ、それだけではないが」


「…どういう事だ? 他に何かあるのか?」

成程、油断を誘い一転突破で致命打を与える作戦は見事なものだった。
仕込みのギミックも分かれば易く、単純なもの。

それを見抜けなかったのはサソリの怠慢だった。
だが、それだけで、他に仕込みはなかった筈だ。

我愛羅は考え込むサソリを見下ろしながら、その答えを告げた。


「簡単だ。こっちは3人で、お前は1人だった……それだけだ」

「何?」

訳が分からない顔をしているサソリ。
それはそうだろう。今まで、大軍を相手にしても勝利を収めた来たのだ。

数の暴力というものは確かにあるが、サソリはそれを覆せるだけの力を要している。
先程繰り出した極意レベルのSランク忍術、赤秘技・百機の操演がそれだ。

「確かに、あれは数が多くて厄介だったがな。それでも、弱点はあった」
数は多かろうと、こちらを知覚しているのは所詮お前1人。ならば、お前だけを騙せばいい。砂に詳しいお前が、こちらを襲撃するのはわかっていたからな。
あとは仲間と作戦を練り、隙を生ませて、そこをついた」

百機の操演に気を取られていたせいもある。
人形を操ることだけに気を向けて、肝心の敵の機敏に疎かになっていた。

我愛羅、テマリ、カンクロウと、全くタイプの違う忍者を相手に操演を行っていたのにも原因がある。
一律の動きしかしない小国の兵隊とは訳が違う。

前準備と、サソリが使う術の理解と研究。
その上、扱うサソリの性格と性能を考えた作戦だ。

「……俺が1人というのは、そういう意味か」

諌めるべき仲間がいれば、また違った結果になったのかもしれない。

違う視点で状況を分析できる誰かが、サソリが信頼できる相棒のような者が傍にいれば、今伏している者と立っている者、その立場が逆転していたのかもしれない。

だがサソリは未だに1人で、そして勝負にもしもは無い。
この場に下された勝敗の結果が全てだ。

「そして、付け加えるならもう一つ。アンタは、私たちを舐めていた。いつも通り、繰り出す人形の一挙手一投足で容易く刈り取れる命だと思っていたのか? 
 …お生憎さま、そうはいかないよ」

それほどまでに、私たちの生命は軽くないと。テマリは笑って言ってのけた。

「……命は軽くない、だと? 忍びの言う言葉か」

呆れるようなサソリの言葉、それを聞いたカンクロウが眉をしかめる。

チヨバアが言っていた、砂隠れの悪しき風習。
命に頓着をするな、任務達成こそが最善だと思えという教え。
それを忠実に守ってきたサソリならば、確かに今の言葉は理解できないだろう。

何かを言おうとするカンクロウと、今の言葉を聞いて顔をしかめる我愛羅。
テマリはそんな二人を手で制したまま、言葉を続けた。

「……忍びだからこそだ。アンタも今までにいろんな光景を見てきたんだろう? なら、ちょっとは分からないか。命は軽くないってことが」

「……」

テマリの問いに、サソリは答えられなかった。

確かに、忍びとしていきてきたのであれば、命が失われる場面に出くわす機会も多い。

だが、人としてのあり方を捨て、人形になった彼は、答えられない。
捨てたものが実は重くて大切なものだったのか、ということは。
教え通り忘れ、完全に捨て去るために肉を捨てた。
時の彼方に置いてきたサソリには、今更そのようなものを思い返すなどということは不可能だった。

言葉を発さず、ただ空を見上げるだけのサソリに3人はゆっくりと近づいていく。

「俺を、どうする気だ?」
「…まずは、チヨばあのところに連れて行くじゃん」

約束だからな、とカンクロウが零す。

体調の優れないチヨばあから、情報や人形を貰った事。
その引換として、もう一度孫であるサソリと話したいという要望に、我愛羅は承諾を示した。
だが、抜け忍であり三代目風影を殺したサソリがその後どうなるかは火を見るより明らかだ。

チヨばあも里の重鎮、我愛羅達が生まれる遥か昔から砂隠れの忍びとして戦ってきた忍びの中の忍びだ。
よもや逃亡に手を貸しはすまい。また別の事を話したいということを、我愛羅は理解していた。

(木の葉の白い牙と戦って死んだという、チヨばあの息子……サソリの両親のことで話があるのだろう)

そう判断していた我愛羅は、特に反対の意見を出さなかった。

カンクロウの答えを聞き沈黙するサソリに、捕縛の縄をかけようと一歩踏み出す。




その時、地面が揺れた。


はじめは、微細な振動。

だが時間が経つに連れて、徐々にその振動の大きさも膨れ上がっていった。


「何が起きてる!?」

テマリが鉄扇を構え、周囲を警戒する。

カンクロウ、我愛羅もそれぞれの武器を構えた。




その時だった。

耳が震える。多由也の音韻術だった。

3人にだけ分かるように震え、その耳膜を震わせる。









『っ下だ! 全員、地面から離れろ、飛べええええええええええええぇぇぇ!!!』









多由也の、必死の叫び声。





―――同時。

横になっているサソリの全身を、何かが掴んだ。

「……あ?」



起きている現象と、言葉。二つを理解すると同時、3人は飛んだ。

正誤を疑う暇も無い、あまりにも必死な声に、考えることもなかった。

本能的に、その得体のしれない黒い何かから逃れようと思っただけなのかもしれない。






チャクラを足に込めた上での、跳躍。


地面から離れ宙にある状態で、3人は見た。





跳躍した直後、地面から生えた黒い蔦がサソリの全身を覆ったのを。


―――そして。








「……来る!」








あたり一面の地面を吹き飛ばしながら、あまりにも巨大な黒い何かが飛び出してきたのを。
















「な……何だ、これは!?」

我愛羅達と全く同じ時間の瞬間。

同じく宙に在ったサスケも、同じ光景を見ていた。
寸前まで相対していたデイダラが、不意に黒い蔦に覆われたのを。

そしてその直後に、黒い化物が地面から噴き上がったのを。

柄に無く、うろたえてしまう。それほどまでに、目の前に突如現れた存在は圧倒的であった。
数年前、木の葉で見た守鶴に匹敵する程の巨体を持つ黒い塊。

見た目からもその異様さが感じ取れる程の異物。

こんなもの、サスケはメンマやマダオからも聞いた事がなかった。
あるとすれば、ただ一つ。最近の情報だ。

打ち合わせの段階で聞いた、雲隠れの人柱力が敗れたとされる相手。
黒い尾で山肌を突き破ったとされる、正真正銘の化物の話。

「……これが、そうなのか?」

写輪眼でその化物を見据えながら、サスケは唇を震わせながら呟いた。

写輪眼だからこそ分かる、目の前の怪物の異様さ。
あまりにも高密度な、チャクラの塊。

いつか見た尾獣よりも濃いかもしれない、醜悪なチャクラの権化。

(でも、何故だ? …何故、あいつを、デイダラを捕まえる必要がある?)

立場でいえば、間違いなく敵方である筈の化物が、サスケではなくデイダラを捕まえている。
サスケはその理由を幾通りも考えてみるが、思い当たる中で適していると思える回答は一つだけだった。

(もしかして、仲間割れか?)

というか、それ以外ないだろう。これが何処かのかくれ里の切り札、ということは考えもつかない。
これは間違いなく、人の手で御せるものではない存在だからだ。

だが、サスケには腑に落ちない。狙いがこれだけとは思えなかったからだ。

わざわざ敵方に姿を晒してまですることではない。この怪物がここに在る理由は、まだ別にあるはずだ。
そして、それは考えるまでもなかった。

暁が動く理由は一つだ。
気づくと同時、サスケは我愛羅達が居る方向に視線を移す。

「……っ我愛羅!」

サスケは着地した後、周囲の警戒を保ったまま、写輪眼による遠視で護衛対象である我愛羅達を見る。




そこに移されたのは、絶望的な光景。


黒い蔦に捕まって宙に釣り上げられたテマリと、その傍らに立つ見たことも無い忍び。

そして我愛羅とカンクロウは目の前で膝をついていた。

――どうみても、万事休すな状態。

サスケは目の前に捕まっているデイダラを無視して窮地に陥っている我愛羅達を助けようと、足に力をこめて走り出した。

だがその途中、着地した地面の下から再び黒い蔦が這い出した。

見るからに悍ましい黒が、サスケを潰さんと上下左右から襲いかかってくる。






「っ、クソッタレええええええええっ!」














[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 五十二話
Name: 岳◆5bf56ac5 ID:6d0af7c1
Date: 2010/02/14 13:24
「ぐっ……」

テマリが、うめき声をあげる。
不意に地面から生えた黒い蔦は、彼女の両手両足を瞬時に拘束し、宙に釣り上げた。

我愛羅とカンクロウはかろうじて黒い蔦の攻撃から逃れ、少し離れた場所に避難するのが見えた。
だが、今は無事なのだろうか、テマリにはわからなかった。

テマリがいる位置は、我愛羅達とは巨体を挟んだ対角となる位置。

巨体が視界を遮っているため、二人が今どうなっているのか、見えないのだ。

チャクラを感じるということは、まだ生きているのだろう。
その時、不意に声が聞こえた。

今までに聞いたことが無い、深く低い声。
テマリは、それが自分を拘束している忍びの声だとすぐに分かった。


「……一尾を渡せ」

忍びは、テマリの方を指差しながら、カンクロウと我愛羅に告げる。

「さもなくば、こいつを殺す。言うとおりにすれば、一尾の人柱力以外は助けてやろう」

「…なっ!」

忍びが発した言葉を理解すると同時、テマリは全身に力を込める。
こいつは、自分を人質として我愛羅の中の一尾を奪うつもりだ。
そんなことはさせないと、テマリは残り少ないチャクラを全身に行き渡らせ身体能力を強化し、蔦を振りほどいて脱出を図ろうとする。
両手は封じられているので、印は組めない。鉄扇はさっき縛り上げられた時に、落としてしまった。

頼りになるのは、この五体だけだ。顔が真っ赤になるほど力を込め、自分の手を縛り上げる蔦を引きちぎろうと試みた。
だが、蔦は見た目柔らかいくせに固く、びくともしなかった。

植物のように柔らかい上、極めて高い靱性を持っているようだ。
これでは、力を入れたとしても若干伸びるだけで、引きちぎれはしまい。

それを察したテマリは、向こう側にいる我愛羅達に向けて叫んだ。


「我愛羅、カンクロウ! こいつの言う通りにするな……アタシをおいて、お前たちは逃げろ!」

「な……そんなこと、出来るわけないじゃん!」

「バカヤロウ、状況を考えろ!」

一尾を渡したとして、目の前のこいつがテマリ達を見逃すとも思えない。


――それ、以前に。

我愛羅を引き渡すなどという選択肢は文字通り、死んでもできない。


「……先程、お前自身が言っていた言葉と矛盾するな。生命は、軽くないのではなかったのか」

テマリの言葉を耳にした忍びは、自分の目の前までテマリを釣り上げる。

皮肉を含まない、真摯な声で問いかける忍びの顔には仮面がつけられていた。
どんな顔なのかはわからなかったがテマリは、天地が逆さになり全身が動かない状況で、震えながらも言葉を綴った。

「……隠れて、聞いていたのか。覗き見が趣味とはずいぶんと女々しい趣味を持っている野郎だな」

忍びと化物が放つ威圧感を受けながらも、テマリは強気に言ってみせた。

「……この状況でそんな言葉を吐けるとは大した度胸だな。お前、自分の生命は惜しくないのか、重いのだろう?」

「ふん、軽くはないさ。誰かの生命を軽々しく扱う趣味はないし、アタシ自身死にたがりでもない。
 ……だけど、自分の生命よりも大切な事があってね」

「それが、目の前の人柱力を、里の長である風影を守ることなのか?」

「違う、間違えるな」

その言葉をはっきりと否定した後、テマリは目の前の忍びに臆さず、断言する。

「我愛羅は弟だ」

そこだけは譲れない、と睨みつけながら言う。

「……成程。手強いな」

テマリの答えを聞いた仮面の忍びは怒らず、何故か笑ってみせた。
それを見たテマリの視線が、鋭さを増す。嘲笑されたと思ったのだった。

「……何がおかしい」

「いやいや、何もおかしくはないさ。ああ、おかしくなんかない……そこのお前も、同じ答えなのか?」

「はっ、我愛羅を見捨てて逃げるぐらいなら死んだ方がマシじゃん」

「……テマリ、カンクロウ」

過去に逃げてしまった経験のあるカンクロウは、もう逃げないと決めていた。
揺れていた精神を気力で抑えて、しっかりと立つ。

身動きの取れない、死に体のテマリがあそこまで言ってみせたのだ。
ここで無様を見せる訳にはいかない。

気絶しそうな威圧感を放つ目の前の化物を見ながらも、周囲の気配を探る。
もしかしたら、この化物の姿を視認した里の忍びか誰かが助けにきたかもしれない。
助けがあれば、なんとか我愛羅だけでも逃がせるかもしれない。

だが、現実は無慈悲であった。

周囲に気配はなく、助けとなる手も無い。
ならば、とカンクロウは覚悟を決めた。

助けは無く、泣いても喚いてもどうにもならない情況ならば、自分の力でなんとかするしかない。
先の守鶴の矛でほとんどチャクラを使い果たしている我愛羅を守ろうと、まだ余力があるカンクロウが前に立って絡繰り人形を繰り出す。

「……我愛羅は機を見て逃げるじゃん。テマリ、悪いけどお前は助けられないじゃん」

「分かってるよ。優先順位を間違えるな」

気丈に笑いながら、応と示す。


「交渉、決裂だな」

仮面の忍びが片手を上げる。





――それと、同時。






「――くたばれ、うん!」


空から、デイダラが降って来た。

デイダラは奇襲と同時、手に持っていた起爆粘土を投げつける。

最速の爆弾、数は十。

鳥型の粘土は目標に近づくと同時、派手に爆発した。




















「どうやらここで潮時、ですか」

爆音が聞こえた少し後、遠くで立ち上った異様な気配と、それに伴ない現れた異形。
遠方で見えるそれにため息を吐き、鬼鮫はきびすを返した。

「…逃がさねえぞ。お前にはどうしても聞きたいことがあるからな」
と、首切り包丁を鬼鮫に向ける。

再不斬としては白達が気になるが、ここでこいつを逃がすわけにもいかない。

「ほう、何でしょうか。とはいっても、アナタ自身答えがわかっているようではありますが」

鬼鮫の言葉に、再不斬は渋面を作る。出てきたのは、呻くような低い声だった。

「やはり、手前はマダラの事を以前から知っていたのか……何時からだ?」
「答えませんよ。それに、その答えにはもう価値も意味もありませんから」
「…それはどういう意味だ?」

「どうとでも取ってください。それよりも、アナタが何故その情報を知っていたのか、誰から聞いたのかが気になります。水影様に関する情報は極秘も極秘、里を出たあなたには知り得ない情報だ。
 加え、波の国で消息を断ったこと。木の葉落としの際、音忍を相手取ったこと。どうにも不自然です」

ギロリ、と鬼鮫は自分の独特の眼で再不斬を睨みつける。

「さあな。それこそお前にとってはどうでもいいことじゃねえか」

「まあ、そうですね。ですが、私には友人から頼まれた事があります」
「友人? てめえが?」
「仕事抜きでなら、ね。まあ必要ならば殺しますが、仕事抜きではあまり戦いたくない相手でもあります……さて」

そこで、鬼鮫は問いかける。

「うずまきナルトについては知っていますか」

思いもよらなかった問いに対し、再不斬は一瞬だけ動揺する仕草を見せるが、すぐに何でもない風に答えを返した。

「……名前だけはな。九尾の人柱力、だろ?」
「やっぱり知っていますか。あそこにいる待ち伏せの人員といい、イタチさんの弟といい……彼も、裏で動いているようですね」

「だから知らねえって言ってんだろうが!」

「いえいえ、その答えだけで十分です。予想外の事ですが今この場では都合がいい」

先の再不斬の動揺を見抜いたのか、他に何らかの情報を持っているのか。
鬼鮫は再不斬とうずまきナルトがつながっていることに確信を持ったようだった。

「イタチさんから彼宛に伝言があります。伝えてもらえますか?」

「……」

再不斬は鬼鮫の言葉を断って戦闘を続け、この場で仕留めることを優先しようとも思ったが、寸前で思いとどまる。
うちはイタチの情報は欲しかったし、あの野郎が木の葉で対峙した手練の忍びの事もある。

あそこにいるあの異形のことを含め、不明な点が多すぎる。

今は、暁内部で起きていることを知るための情報が少しでも欲しいという情況だ。

それに、マダラに関する情報にはもう価値がないと言い切ったこいつの意図を知りたかった。

「……いいだろう、言ってみろ」

「“中秋の名月は、未だ枯れず”、だそうです」

「……何?」

「じゃあ伝えてくださいね。お願いしますよ」

「って、ちょっとてめえ、待ちやがれ!」

再不斬は立ち去った鬼鮫を追跡しようとする。

だが、遠方から聞こえた大きな爆発音を耳にして立ち止まる。


「……くそ!」


一瞬の葛藤のあと、再不斬は大刀を肩に担いで方向を転換、白達が居る場所へと移動を始めた。









デイダラは怒り狂っていた。

イタチの弟を仕留められず劣勢においやられた直後に、これだ。
ただでさえ苛立っていたデイダラに、先程の奇襲はそれこそ火薬に火を入れるに等しい行為だった。

味方の裏切りを何よりも許せない性質であるデイダラの胸中は今、奇襲を仕掛けた相手を殺すという意志でいっぱいになっていた。

不意に襲ってきた蔦は全て、小型粘土で吹き飛ばした。
次はあいつだとデイダラは作り出した飛行粘土に乗り、標的に向けて飛行。

そして、仕掛けた張本人を頭上から急襲したのだ。
ぶつけたのは、先程の奇襲による意趣返しの意味を含めての、最速の粘土。
反応しても避けきれないであろう一撃が炸裂した。

爆発によって辺り一面に立ち上った白煙が、風に吹かれて晴れていく。
だが、はっきりとした視界に映った光景は、デイダラが思い描いていたものではなかった。

「……とんだ邪魔が入ったものだ。いきなりとは酷いなデイダラよ」

仮面の忍びは呆れた声をデイダラに向ける。

「てめえには言われたくねえな、うん」

何事もなかったかのように、悠然と立っている仮面の忍びに、デイダラは問いかけた。
周囲に相棒となる者の姿が見当たらないのだ。

「……ペイン。サソリの旦那はどうした?」

「その眼は節穴か? 幻術が通じないのであれば、今此処に写っている光景が全てだろうに。赤砂のサソリは先程“居なくなった”よ」

「……!!」

デイダラは声にならない声で叫び、特大の起爆粘土を作り、即座に放つ。

あまりにも巨大なそれを瞬時に練り上げ、固め、放つ。一連の動作はまさに一瞬で、相当の手練でも防ぐことのできない速さを持っていた。

だが、相手も尋常ではない。

「な!?」

全身を発光させたかと思うと、瞬時に移動し、起爆粘土をその手で掴んだ。
粘土は雷を纏った手に貫かれて、その形を失っていく。

デイダラ自身、最速で放ったと自信を持てる程の、起爆粘土の一撃だ。

それを、仮面の忍びは馬鹿げた速さをもって越えてみせた。

―――そして。

「お前も、居なくなれ」

目の前で、組まれた印を見て、デイダラが叫んだ。

直後、土の天敵である雷の光が、仮面の忍びから放たれた。










一方、突然の爆発に吹き飛ばされたカンクロウと我愛羅は、衝撃に痛む身体をひきずりながらも、何とか立ちあがる。

互いの無事を確認すると、爆発が起きた方向を見た。

「……テマリ!」

あの爆発に巻き込まれたであろう姉の姿を、弟二人は必死で探した。
間違いなく、爆発の範囲に入っていたのだ。嫌な光景が、考えたくも無い姉の姿が、二人の脳裏に過ぎる。

「……呼んだ、か?」

「「うわ!?」」

背後からテマリの声。

二人が振り返れば、そこには全身から煙を発しながら横たわるテマリの姿があった。
すぐさま五体満足なままの姉の元へと駆け寄り、座り込む。

「…あの黒いのが壁になってくれたんで、直撃は避けられたんだがな……っつ」

最悪の事態にはならなかったが、至近距離で爆発による余波を受けたテマリは、我愛羅達よりも遠くに飛ばされたらしい。

「さあ、さっさと逃げるぞ。あの仮面の忍びはデイダラとやりあっているようだし、今の内に逃げるしかない」

「…そうだな」

3人ともチャクラの残量は少なく、あの化物とやりあえるような状態ではない。
万全の状態でも勝てないだろう相手に、この状況下で戦いを挑むのは自殺行為だ。

「分かったじゃん」

カンクロウはテマリの提案に頷いた。確かに、この機は千載一遇のチャンスだ。
逃せば、後はない。

「…俺も賛成だ、とっととズラかろうぜ」

「サスケ!? ってお前も焦げてるじゃん!?」

「……言うな。というかお前ら全員似たようなもんじゃないか」

カンクロウ、我愛羅もテマリ程近くはなかったが、爆発の余波を受けていたためほんのりと白い煙を纏っていた。

サスケは黒い蔦に覆われそうになった瞬間、デイダラが起爆粘土をあたり一帯に展開し爆発させたため、割と近い位置で爆風を受けていた。

そうして互いに引きつった笑みを交換している処に、残りの3人も戻って来た。
3人とも激戦の末の負傷だろう、多由也は横腹から、白は肩と太ももから血を流していた。
多由也と白は先程の黒い蔦の攻撃を受けたさい、少なからず肉をもっていかれていた。

致命傷とまではいかないが、掠り傷でもない。血は未だに止まっていないようだ。

再不斬の方は全身からうっすらと血がにじみだしているが掠り傷で、他の者よりも大きい怪我を負ってはいない。

「……何だ、あれは」

「仲間割れだ」

「この隙に撤退した方がいい」

再不斬は全員の状態を確認し、舌打ちを一つした後、撤退の判断を下した。

「そうするしかないか。うちはサスケは多由也、カンクロウはテマリだ。行くぞ」

再不斬はそれぞれに端的な指示をだした後、自分は白に近寄った。
しゃがみ込むと白の膝の裏に腕をやり、すくい上げる。

「再不斬さん、あの……」

横抱きにされた白は今の自分の体制を理解し、近距離にある仏頂面となっていた再不斬の顔を見る。
そして急激に頬を赤くしながら、再不斬の首に腕を回した。

「……急ぐぞ」

「って、ちょ!?」

「先にいきやがったじゃん……しかし、あれが噂に伝え聞く……」

「……噂、だと? あれが何か知っているのか、カンクロウ」

我愛羅がカンクロウに訪ねてみる。

「ああ。エロ仙人とその弟子曰く、所謂一つの男の夢……ブライダルお姫様だっこじゃん」

「ああ……成程な」

カンクロウの戯言に、サスケだけが反応した。
男ふたり顔を見合わせながら、うんうんと頷く。
一人残された我愛羅は意味がわからないと首を傾げている。

「ふつーに自然な流れであの大技を成功させるとは……噂通りじゃん、霧隠れの鬼人」
「どういう噂が流れているが非常に気になるが……確かに、凄い」

不意打ちのせいで頬がほんのり赤く、しかもいつもとは違う慌てた表情を浮かべていた黒髪の美少女、白のレア顔を直視してしまった二人はいい感じに混乱していた。

子曰く。
男はギャップ萌えに弱い、のである。

「……言ってる場合か。さっさと逃げるぞ」

多由也は何故かこみ上げてくる正体不明の怒りと、白の可愛さ光線を浴びせられたせいで、微妙に顔を赤くしていた。

「……」

サスケは無言で、多由也の眼を見つめる。

「……何、見てる。いっとくけどあれをウチにやったら殺すぞ」

多由也は羞恥によってさらに顔を真っ赤にさせながら、サスケを睨みつける。

「……了解した」

どうやら無理らしい、と悟ったサスケは微妙に残念な表情を浮かべながらも頷き、多由也を背負った。
戦闘中なのできつきつにサラシを巻いている多由也。ナルトが感じたという例のアレの感触は分からずじまいだった。

二重の無情を悟ったサスケは世の無常を嘆き、その場に硬直する。
そうしていると、不意に背後から頭をどつかれた。

「ほら、早くいこうぜ……この、ムッツリが」

(畜生。ナルト、後で殺す)
何故だが知らないが急にナルトにむかついたサスケは、帰ったらぶん殴ることを心に決めた。

「すまんがカンクロウ」

「分かっ……う、テマリって結構重いじゃん………って、は!?」

「……帰ったら覚えてろよお前」

瀕死の状態であるテマリだが、そこは生粋の乙女。
気力だけで女性に対する最大級の失言を零した弟に、割と本気風味な殺気を飛ばす。

「……うう、死ぬこと無く無事帰られる事を喜ぶべきか、悲しむべきか」

主に後のおしおきといった意味で。

「……喜ぶにきまっているだろう」

我愛羅が呆れたような声を出す。

「ほら、早く行けカンタロウ」
「カンクロウじゃん?!」

姉に抗議をしながら、二人は撤退を開始した。






「……サソリ」

我愛羅は振り返って、サソリが飲み込まれた場所、今はデイダラと仮面の忍びが戦っている方向を一度だけ見る。
そして無言のまま元の方向に向き直り、走り出した。



















所変わって、滝隠れの里の虫鳴峠にあるフウ・ハウス。

黒いアレが地面から飛び出したのと同じ時刻、二人の人柱力が同時に飛びるように起き上がっていた。

「ナルトくん!?」
どうしたの、とヒナタが心配そうな声をかける。

「ちょ、滅茶苦茶びっくりしたじゃない。なに、何かあったの?」

もしかして敵、といのとサクラが周囲を警戒する。だが、辺り一帯に忍びの気配は感じ取れなかった。

「いや、敵じゃない。敵じゃないけど……ん?」

メンマはふと視線を感じ、その方向を見る。顔を向けた先には、碧の髪をした少女、七尾の人柱力であるフウが驚いた表情を浮かべこちらを見ていた。
少女は自分のおかれている状況が分かっていないのであろう、顔を左右に動かし周囲を見渡す。

直後、状況は把握できないが、見知らぬ忍びであるメンマ達から距離を取ろうと後ろに飛び退く。

「くっ!?」

だが飛び上がった瞬間、フウは全身に走る激痛を感じた。
足から着地はできたが、膝が崩れ落ちた。踏ん張ることの出来なかったフウは後方に飛び退いた勢いのまま、お尻から地面に着地する。

「ちょっと、馬鹿! まだ動いたら駄目よ、完治はしていないんだから」

「完治……?」

いの達への警戒を解かないまま、フウは自分の身体に視線を向ける。
見れば、あの正体不明のコンビから受けた傷はあらかた塞がっていた。

「お前らが治療を……」

フウ自身、自分の自己治癒能力の速さは今までの経験から大体のところを把握していた。あれだけの傷を受けた場合、この状態に戻るまでどれだけ時間がかかるかわかっていた。
外から香る、雨に濡れ始めた木々の香りと、腹具合を確かめる。

「……」

気絶してから、そんなに時間は立っていないことは分かった。
――だが。

「……一体、何が狙いだ?」

「…は?」

「とぼけるな。さっきのあいつらも、どうせお前たちの差金なんだろう」

「いや、私たちは木の葉の…」

「……木の葉? 木の葉隠れの忍びが、アタシに何のようだ!」

腰にあったクナイを構えながら、フウはサクラ達に向けて叫び声を上げる。

(キューちゃん、どう思う?)
(恐らくだが、木の葉の忍びが迎えに来て保護する、という情報をじたいを、シグレといったか……あやつらが、伝えておらんのじゃろ)
(なるほど)
(納得している場合か。どうするんじゃ?)
(……警戒心が強い。今までの環境のせいか。取りうる手段は一つしかないね)

仕方ない、とメンマは全身に残る痛みを無視して立ち上がる。
そして、警戒心をむき出しにして、今にも跳びかかってきそうなフウに近づいていく。

「……お前は、あの時の」

気絶する寸前の光景を、フウは覚えていた。
突如現れ、不気味な敵の前に立ち塞がった金髪の忍びのことを。

「俺たちは敵じゃない。シグレとかいったか。あいつらから聞いてなかったのか? お前を襲った黒服が所属する組織が、人柱力を狙っている。
 滝隠れはあの組織からお前を守るために、木の葉隠れに依頼をしたんだ。木の葉の里で保護してくれ、と」

「……そんな話は聞いていない。全部、お前達の作り話じゃないのか!?」

信じられない、とフウは首を横に振る。

「違う。本当だ……俺を見ろ」

と、ナルトは天狐のチャクラを少しだけ引き出す。

「……お前。お前も、そうなのか?」

フウは驚いた表情を浮かべながら、自分と同じ存在なのかと聞いてくる。

「少し性質は違うけどな。だが、あいつら……“暁”という組織に狙われているという点では、変わらない」

「暁…」

「あいつらみたいな化物がいっぱいいる集団だ。全員が、五影に伍する力を持っている」
「……全員が、五影? ……嘘くさいな。確かにあいつらは強かったけど。証拠は、あるのか?」
「残念ながら何も無いな。俺の言を信じてもらうしかない」

「……もし。もしも、お前の言葉が本当だとして」

フウが、クナイを強く握り締める。

「暁とかいう組織が敵だとしても……お前たち木の葉が、アタシの敵にならない証拠はあるのか?」

震える声で、聞いてくる。まるで心の臓を搾り出しているかのような。

「アタシの力を利用しない証拠はあるのか? アタシを疎んじて、殺そうとしない証拠はあるのか!?」

脳裏に焼き付けられた光景を思い出しながら、フウは悲痛な声で叫ぶ。

「私がさせない!」

その叫びに、後ろにいたキリハが応えた。

「絶対に、私がさせない……そんなこと、絶対にさせないから」

言葉を紡ぎながら、キリハはフウに向かい歩いていく。
それに習い、サクラ、いの、ヒナタ達も近づいていく。

メンマは端に寄り、少女達に道を譲る。

一列に並んだ少女達は、フウの視線を正面から受け止める。

「……お前たちが? なにか、証拠でもあるのか?」

「……無い!」

虚をつかれたフウの眼が、一瞬泳ぐ。
背後では、メンマとマダオの眼が点になっていた。

「証拠はない。だけど、私の生命を賭ける」

キリハはフウに向かってゆっくりと、一歩を踏み出す。

そして突き出されたクナイに手を重ねる。

「ちょっと、キリハ!?」

重ねた手を動かし、その刃を自分の首筋に当てる。

「自分の言葉は真っ直ぐ、曲げない。あの日誓ったから。そんなことは、私がさせない。絶対にさせない。私たちが生きている限り、二度とそんなことはさせないから……」

そのまま、クナイを持つフウの手を両手で握り締める。

「私たちを、信じて」

「………!」




キリハの真摯な視線を受けたフウは、心の中だけでひどく狼狽えていた。
それは、彼女自身今までに知らなかった光景だったから。

(アタシに対して、ここまで真剣な声で語りかけてきたやつは、いなかった。
 アタシの眼を、まっすぐに見つめて来た奴なんて、いなかった。
 アタシ相手に生命を賭けるとか、そんな馬鹿な事をする奴なんて、いなかった。
 ……アタシの手を握ってくれる奴なんて、いなかった) 

尾獣を宿すモノとして恐れられ続けた。
触れる事さえ嫌がられた。誰かの肌を感じたことなんて、無かった。

人の温もりを感じるのは、返り血を浴びた時だけ。
肌と肌が触れ合う機会なんて、皆無だった。

(どいつもこいつも同じような眼で……)

目の前に並ぶ、ピンクの髪の女、金髪の女、黒い髪の女。
皆、目の前の小柄な少女と同じような視線を向けてくる。

(何だってんだ…)

フウは、もう誰も信じないと決めていた。
滝隠れを追われたあの日、一人だけで生きていくことを決断した。
信じられれば裏切られる。ならば、信じなければいい。
近づかれれば、忌避の眼を向けられる。ならば、近くなくていい。

一人ひっそりと、森の中で生きていこうと決めていた。

(………だけど)

今までとは、全く毛色の違う目の前の少女達。
その視線の中にある本気を察したフウは、もしかしたら今度こそ本当に信じていいのか、と思ってしまう。

私たちが生きている限り、ともいった。
成程、正直だ。だがそれだけ、嘘はついていないと思った。



――信じるべきか、信じないべきか。


フウは悩み、葛藤する。



そのまま、互いに言葉を発さず、沈黙のまま秒が分に変わったその瞬間。


フウはキリハの手を振りほどき、身体ごと反対側を向いた。



「……やっぱり、駄目だ。今はアンタ達を信じられない」

「そんな……」


悲しそうなキリハの声が古い家に響き渡る。

だが、そのすぐ後に。

「……アタシはそんな気持ち、忘れちまったから」

うつむいたまま、小さな小さな声でぼそぼそと呟く。

「……だけど」

いぜん、身体は振り向かないまま。

だけど、言葉の方向はキリハ達の言葉に対する、正面を向いていた。

「もしかしたら、アンタ達と居ると思い出せるかもしれない。その時まで待ってくれるなら「待つよ!」うお!?」

フウの言葉が終わるのを待たずに、キリハがその背中に飛びついた。

「って、この、重い! 重いから!」

「もう10年でも100年でも待つから、一緒に頑張ろう!」

「こら、離せ! っていうか、アタシの話を聞け!」

「聞く! 何回も聞くから!」

「そういうことを言ってるんじゃ………!」

「ちょっと、キリハ……!」

「私も混ぜなさ……!」

「ちょ、ちょっと、みんな、フウちゃんまだ怪我して……!」

なし崩し的に、少女達は喧騒に包まれた。








その、後ろでナルトとマダオは頷いていた。

「これにて一件落着だね。でも、メンマ君もやるね」
「……今までが今までだったんだろう。あの娘に対して嘘をついて誤魔化すっていうのは、致命的な選択でしかない。
 本当の事を言って、真摯に対応するしかないと思っただけだ。流れを作れば、キリハ達なら何とかしてくれると思った」

人の嘘を見抜く力には長けている筈だしな、と複雑な表情で呟く。

「しかし、無茶をする。シカマルの胃が痛くなる訳だ」
「それには僕も同意するよ。一体誰に似たのか…」

(……お主らにそっくりじゃろうに)

守鶴と真正面から戦うメンマ。
自分の生命を賭けてまで、九尾を封印したマダオ。

知らぬは己ばかりなり、である。

「ん、キューちゃんなんか言った?」

(……何も言っとらん。言っても無駄だしな)

「最初はどうなるかと思ったけど……」

「…どうにかなるもんだね」

「キリハ達がどうにかしたんだろうに。やり方は無茶だったけど、絶対に間違っていないと思うぞ……しかし、自分の言葉はまっすぐ曲げない、か」

これまた複雑そうに、メンマが呟く。








「義を見てせざるは勇なきなり、勇壮の元に弱卒無し。これが世に言う、木の葉魂ってやつか」



メンマは記憶の中にある言葉から、そんな一言を抽出していた。





[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 五十三話
Name: 岳◆5bf56ac5 ID:6d0af7c1
Date: 2010/02/25 00:46

砂隠れの里で起きた一戦、それを偵察するように命じられたカブトは、帰ってくるなり大蛇丸の下へと報告に来ていた。

「―――大蛇丸様」

「帰ったのねカブト。で、どうだった?」

「それが……」

カブトは大蛇丸に報告を始める。

迎撃に出てきた忍びについての事。サスケの強さ、多由也の存在、霧隠れの鬼人の事。

そして、音の忍びが全滅した事。

報告が進む度に、大蛇丸の眉間の皺は深くなっていく。

―――そして。

「……デイダラとサソリが?」

「はい。サソリは風影一味に敗れたところを。デイダラは、奇襲の方は逃れたようですが、その後の戦闘で黒い塊に飲まれました……実行したのは、ペインです」

「一体何を考えているの……?」

首領自ら、貴重な手駒である筈のあの二人を手にかけるとは。何を考えての行動なのか、大蛇丸には分からなかった。
それでも、同盟関係を破棄する訳にはいかない。

今、音隠れの里の戦力は全盛期である木の葉崩しの時に比べ、1/3までに減っていた。
木の葉崩しで失った戦力が大きすぎたからだ。原因としては色々挙げられる。

後方に潜んでいた撤退支援部隊を壊滅させた、霧隠れの鬼人の奇襲もその一因だった。

「どうか、お気をつけ下さい」

「…誰に言っているの? そんな事言われなくても分かってるわよ」

元々が元々な組織だったので、大蛇丸にしても暁の事は信頼していない。
今まで通り、警戒しながらも何とか連携を取っていくだけだ。これ以外取れる手が無いというのは忌々しいが、五大国が厳戒態勢に入っている今、この機を逃せば次は無いだろう。
強力な力を持つ暁を利用して、何とか力を取り戻し、他国の戦力を削らなければ大蛇丸に未来は無い。

ペインにしても、元々が変な奴だったのである。
まあ、ここまで変というか意図の読めない行動に出るとは、大蛇丸でも思っていなかったのだが。

「裏切り者の方は?」

「はい、追跡はしたのですが、途中で多由也本人に気づかれました。気配は消していたはずなのですが」

「……おそらくは音、ね。あの子、耳だけは良かったから」

「そういえば、新しい術を使っていたようです。これはボクの推測ですが、恐らくは遠くの相手に言葉を伝えられる術かと。それともう一つ、音忍相手に使っていたようですが、そちらは詳細は分かりません」

「……具体的な効果も?」

「……いえ、動きがなんというか、鋭くなったような感じはしました。それ以上はちょっと」

「なかなか使えそうな術ね……ん、何かしら?」


話の途中、音の中忍が大蛇丸とカブトがいる部屋に入ってくる。

「失礼します。探索中の香燐から、報告です。裏切り者の尻尾をようやく捕まえた、と」

居場所が分かるまであと少しとのことです、と忍びが報告する。

「……良いタイミングね。香燐に伝えなさい。サスケ君に加え、多由也の方も捕獲しろ、と。あと、そうね」

そこで大蛇丸は少し考えこむ。

(……霧隠れの鬼人がいるってのは予想外だったわね。と、なると香燐と左近、次郎坊と鬼童丸では戦力が足りないか)

「……カブト」

「はい」

「重吾と水月を連れて、あなたもそこに向かいなさい」

「……よろしいのですか? いえ、あれだけの連中相手に、その二人を連れていけるのは大変心強いのですが」

「忌々しいけど、確かにそいつらはそれなりに強いわ。水月も、相手が霧隠れの鬼人だということで、逆らしはしないでしょう」

「……重吾の方は?」

「あなたが何とかしなさい。出来るでしょ?」

出来ないとは言わせないわ、と大蛇丸がカブトを睨みつける。

「……分かりました。何とかしてみます。しかし、ここの守りが手薄になりますが」

「ただでさえ不利なのよ。怯えてじっとしてるだけでは、得られるモノは何も無いわ」

サスケの写輪眼と多由也の新術を得られれば、切り札も増える。

不穏な動きを見せる暁や、一触即発な様子を見せている他里は確かに脅威だが、今は少しでも札が必要なのだと大蛇丸は考えていた。

「欲しいものは手にいれないと気が済まないしねえ」

舌なめずりする大蛇丸に対し、カブトが頭を下げる。

「……承知しました。あと、もう一つですが」

「何?」

「……左近達のことですが、どうします?」

「……捨駒にでも何でも、使っていいわ。呪印のせいでしょうけど、最近特に身体の方にガタが来ているみたいだから」

左近、次郎坊、鬼童丸は実験初期の素体だ。

呪印の術式が整えられていない時期だったので、寿命に関しては度外視している。データもとれたし、もう必要ないと大蛇丸は思っていた。

元々が、木の葉に潜入しサスケ君を連れ帰るという、生還率が低い捨石が必要になる時の任務に使う筈だった。


「分かりました。では、行って参ります」

「吉報を期待しているわ。分かっていると思うけど、うずまきナルトが一緒にいる時は手を出さないこと。いいわね?」

「……ええ、それはもうわかっていますよ。本当に、ね」

一度手合わせしましたから、と眼鏡の端を光らせながらカブトは答え、部屋の外へと出て行く。


(ああ、思い出す)

木ノ葉崩しの時、足止めに来たカブトに対して、ナルトが取った手段は結構笑えないものだった。
体術に関してはそれなりに自信があるのに加え、自己治癒という足止めに最適な能力を持つカブト。

このままでは間に合わない、と判断したナルトは、非常手段を取った。
カブトの一撃を受けながらも、相打ちで見た目灼熱のような赤い実をカブトの口の中にねじ込んだのだ。

毒にも耐性を持つカブトは、ナルトが取った手段に対して「そんなものは効かない」と嘲笑しようとした。

その瞬間だった。猛烈な辛味がカブトを襲ったのだ。そして、その後はまさに外道の所業だった。

口を抑えて硬直するカブトに対し、全力での金的蹴りを敢行。哀れカブトは、口と股下を抑えてその場で悶絶するのであった。
倒さなくても、隙を作ればいいと考えたナルトの妙手だったが、実行されたカブトにしてはたまらない。

守鶴の下へとナルトが向かった後も動くことができず、カブトはその場で数分間だけだが、悶絶し続けた。

……軽く跳躍しているところを、周囲の忍び(木の葉含む)が憐れむような眼を自分に向けていたのは、錯覚だと思いたい。

(………それに、重吾とか水月とか連れて追跡戦、かあ。ああ、ボクにとってうずまきナルトという名前は鬼門みたいだね)


無茶をいいつける大蛇丸も大蛇丸である。かといって、命令を断れる筈もない。


(鬼がでるか、蛇がでるかってレベルじゃないなあ。蛇は目の前にいるし、鬼もあっちに居るし)

つまりはお先真っ暗だが、今は進むしか無いのである。



薬師カブトの大きなため息が、音隠れの隠れ家の廊下に響きわたった。



















一方、ため息を吐かれた相手は。

「ああ、何はともあれラーメンが食べたいっ……!」

「ちょ、落ち着いてよ。気持ちはわかるけど他にやらなきゃいけない事が山積みなんだし」

「うるさい! ラーメン分が足りないんだよ! 具体的に言えばニケ月半分ぐらい!」

「ちょ、メタな発言禁止、禁止だから」

「ちなみにメンマ、お主が言っていたきつねラーメンはまだできんのか?」

「……絶賛研究中です。少々お待ち下さい。ああああ、それもあるけど、あああああああああラメーン作りたいいいいいい」

「落ち着いて! もうちょっと、もうちょっとだから!」

「がああああああああ!」

「ええい、静かにせんか!」

「できるか! ええい、こうなったらお前を先に食ーべちゃーうぞーぉぉぉ!」

「え……」

キューちゃんの顔が真っ赤に染まる。メンマを殴れと轟き叫ぶ。

「バカモノぉぉぉぉ!」

「へぶっ!?」

「おおーっと、メンマ君キューちゃんの一撃を喰らって宙を舞ったああ!」

しかし、暴走体は倒れない。

「くっ、エロい奴が強いんじゃねえ、強い奴がエロいんだ!」

「……先生の事か、先生の事かあああああああああぁぁぁ!」

弟子、怒る。

「今度はこっちが暴走を!?」

「くっ、ラーメン分が足りない!」




―――サスケ達が帰ってくるまでの一幕であった。

















「それじゃあ、その黒いのは逃げたところを追ってこずに?」

あちこちに絆創膏をつけたメンマが、サスケの話を聞く。

ちなみに二人ともラーメンをすすっていた。先の戦闘でかなり体力を消耗したのでがっつり食べた方が良いと、ラーメンは特性の豚骨出汁+豚角煮+にんにくだ。

豚の旨みと甘味が凝縮された、十代にはたまらない香り。豚角煮とにんにくとのコラボレーションは至高のものといえよう。

戦いに出る前から熟成させていたスープに。厚く切った豚の三枚肉は、口の中に入った瞬間、旨みと共に蕩けた。スープの上に載せられている白ネギとの組み合わせも、また良し。

麺は麺で、スープの味に殺されない程度で、自己主張しすぎない。絶妙とも言えるバランスで、小麦の風味を醸し出している。

何故か怒っていたサスケも、一口食べただけで機嫌がなおった。
それほどの一品である。

「……ああ。どうやらあの後、すぐに退いたみたいだな。いっちゃ何だが、一尾を奪う絶好の機会だと思ったんだが」

ラーメンをすすりながら会話を続ける。ちなみに、サスケのどんぶりの横にはおにぎりがある。
しかし、その形状はいびつだ。

多由也が怪我をしていておにぎりを握れなかったため、サスケが自分で握ったのだが、初めての経験だったのでうまくいく筈がなく、秘孔をつかれたモヒカンのような形状になっていた。

「……サスケ。おまえ、割と不器用なんだな」

メンマはじっとおにぎりを見ながら呟く。

「……」

子供時代はイタチ、今は多由也と料理、おにぎりに関しては任せっきりだったので、サスケは何も答える事ができなかった。

「……ま、無事で何よりだよ」

あの後、メンマの方は、落ち着いたフウを保護し、帰っていくキリハ達を見送った。

そしてその後、一時隠れ家に戻っていたのだ。

砂隠れに行っていた再不斬達も、メンマが隠れ家に帰ってほどなくして戻ってきた。
サソリの一件と、里の前に現れた怪物が原因で、今砂隠れの方は混乱の極みにいるらしい。

チヨバアとの約束を果たせなかった件もあるため、その説明と現状の把握するため、我愛羅とカンクロウは癒えていない身体を引きずり、動き回っている。
テマリは受けた傷があまりにも酷いため、砂にある病院に入院しているらしい。

「……今俺たちが我愛羅達に対してやれる事はない。厳戒態勢に入った砂隠れの里に入り込むのも、近くに潜むのも駄目だ。薮蛇になる可能性が高い。所詮俺たちは他里の人間だしな」

我愛羅達は無事戻れたし、暁の二人を撃退できたのだ。
完全では無いが取り敢えずの目的は果たせられたし、誰も欠ける事は無かったので、メンマ達にしてもひとまずは良しとするしかない。

「……出来るコトは、暁への対策だ。しかし、ペインがデイダラとサソリをやった目的、か」

「仲間割れの理由、か。マダラとは関係ないのかな」

「裏と表のリーダーとで、仲違い、か? ……いや、可能性はあるけど、確信は持てないぞ」

「……俺も分からないな。色々考えては見たが、これだという予想もできん。鬼鮫は何かを知っているかもしれん、と再不斬が言っていたが」

「その、桃地くんは?」

「白の処だ。傷、結構深かったみたいだしな」

「そうか……」

見舞いにでも行くか、とメンマは立上り白の処へと向かった。
おの途中、立ち止まりサスケに話しかける。

「ああ、そういえば多由也の方は?」

「傷塞がったし、今は寝ている……ああ、そうそう。砂の一戦だが、カブトの野郎が覗き見をしていたらしいぞ」

「……マジで?」

「マジだ。気づいたのは撤退時らしいが、多由也が睨みつけると即座に逃げたらしい」

「……あちこち動いてるなあ。分かった、気を付けるよ」

多由也にもそう言っておいてくれ、と残して、メンマは白がいる部屋へと向かった。





「あ、メンマさん」

「よ。傷は大丈夫か?」

「ええ。何とか急所は外しましたから」

白はメンマの問いに対し、笑顔で返答する。

「……無理はするな。これは、ただの傷じゃねえ」

「と、いうと?」

「……いえ、貫かれた時にですね。チャクラをごっそりと持っていかれたんですよ」

「……あの、砂のじゃじゃ馬……名をテマリといったか。あいつも、拘束された時にチャクラを吸い取られていた、と言っていた。どうやらあの黒いやつ、予想以上に厄介な性質を持っているようだぜ」

「……そうか」

「ああ、あともう一つ」

「ん、何か別の情報が?」

「いや、鬼鮫の野郎がな。お前宛の伝言があるというから、聞いてみたんだが」

「……へ? 俺宛ってどういうこと?」

「詳しくは知らん。暗号みたいな言葉だったしな。何でも、うちはイタチからうずまきナルト宛、と奴は言っていたが」

メンマは首をかしげる。うちはイタチとは会ったこともない。いや、ラーメン屋で一度会ったが、あの時だけだ。
ばれた様子も無かったし、これといった接点も思いつかない。

「……考えても仕方ないな。聞こうか」

「ああ。“中秋の名月は、未だ枯れず”だとさ」

「中秋の、名月? 枯れず?」

本当に暗号文だ。さっぱり分からん、とメンマは首を振った。

どれくらい分からないのかというと、さっぱり妖精が頭上で龍虎乱舞している程だ。

(いや、お主の例えも分からんが)

「それだけ分からない、ってことさ。仕方ない、ここは知恵者の助言を頼るか」

それじゃあ白、お大事に、との言葉を残し、メンマは居間に居るマダオの元へと向かった。










「さもなくばお前の尻は四つに割れる」

「……グレートワイズマン乙。娘が大事なのは分かったから、いいから答えを出せ」

お前が青の青なら俺はクリサリス・ミルヒだよバカヤロウ、といいつつも満更でもない俺は満面の笑みを浮かべながらマダオをどつく。

「うーん、月と枯れる、か

「関連性が無いよな……」

「枯れる、枯れる、か。水……は違うだろうし」

「いや、枯れるといったら草とか花のことじゃろう」

「月……草か……中秋の名月といったら、月見だしなあ。もしかして、月見草?」

「え、月見草って何?」

「いや、何処かで聞いた気もするんだが」

はっきりとは思い出せない、と首を横に振る。

「う~ん、埒があかないね。恐らくは枯れる、は月と関連性のある何かに懸ってるんだと思うけど」

「……草とか花とかだろうな……うん、方向性は間違ってないみたいだし、ここはいっちょプロに頼るか」













「というわけで、やってきました木の葉隠れ」

覚えるべきは飛雷神の術である。

ちなみに、ワープ先はキリハの実家。ここならば、人に見られる心配もない。

完璧だ、と修行中に編み出した飛雷神の術後専用のポーズを取っていると、妹と新しい居候であるフウがこちらを指差しながら何事かを言ってくる。

「……キリハ。この目の前の生物はなんだ? 前に見た時と随分様子が違うけど」

「え、言ってなかったっけ? 実の兄です」

何故かその言葉に衝撃を受けるフウ嬢。
引っかかるものを感じつつも、紳士スマイルを向ける。

「……いやいやどうも。無事にたどり着けて何よりです。キリハの兄です」

「……え、本当に、これが?」

冗談じゃなくて? とフウは不思議な顔でこちらを見つめてくる。

(いったいどんな説明をしたんだよ、まいしすたー)

だって、話に聞いていたのと違う、とか言われても……その、なんだ、困る。

「いや、確かにアタシを助けてくれたし……」

「いえいえ、お嬢さん。あれは成り行きです」

にこやかな笑みを浮かべながら、微妙な言葉で説明をする。

今まで危地から助けた全ての少女と同じ、一貫した姿勢である。

後々の面倒を見られない立場であるので、不用意に助けた少女達との距離をつめたりはしない。
笑わせながらも誤魔化し、一歩退いた距離を取るだけ。
ましてや相手がフウ、人柱力では狙われる確率が増えるだけだ。

二人になれば狙われる確立は2倍、いやそれ以上にもなる。
だから、あの場でも自分主導で事を進めたりはしなかった。臆病者といわれても、無責任なことは出来ないからだ。

この先、フウとキリハ達は過酷な試練に挑むことになるだろう。
フウ自身、まだ完全に心を開いていないようだし、木の葉の他の忍びへの対応も難しくなる。

一朝一夕にして信頼は成らず、崩れる時は一瞬だ。
四代目の一人娘という肩書はある程度の緩衝材になるとしても、それだけで乗り切れる筈がない。
それに、事故はどんな時でも起こりうる。

だが、俺自身この選択は最善だとも思っている。
と、いうかこれ以外なかったのではないか。

兄がああなった、という事が、少なからず他の忍びにとっては負い目になっている筈。
ましてや、後見人が恐らくは次々代火影候補である波風キリハだ。

特別な恨みもないし、同じ愚は二度繰り返すまい……と、思いたい。

(問題は根と音だな)

ダンゾウと大蛇丸がどういった動きを見せるのか、今は分からないが碌なことにならないのは確かである。
いつかの旅で得た経験と、あの二人の黒さを鑑みるに、現火影である綱手との衝突は避けられまい。

だが、現在の綱手の立場は磐石のものだ。木の葉崩しで乱れた木の葉の里を、速やかに元の状態へと復興した功績はかなり大きいらしい。

暁のような規格外集団の横槍が入らない限り、ダンゾウも大蛇丸もそうそうこの盤面は覆せないだろう。

五大国成立から何十年経過した今でも、変わらず頂点に立ち続けている木の葉の底力は、相当なものだ。
まあ、単純な軍事力、数値の上では雲隠れの里の方が上回っているかもしれないが。

(……木の葉程の恐ろしさは、そんな処にないからな)

かつての三代目の言葉とおり。
木の葉の忍びは火影という灯りの下、各々がそれぞれの信念に支えられている。
並の暴風ではこの炎は消せないだろう。

戦いという場において、いやそれ以外の場においてもだ。
信念を持った人間ほど、恐ろしいものはない。
理屈が通じない相手ほど、厄介なものはない。
限界がある筈なのに、時にはそれを信念によって越えてくる敵。恐ろしいにも程がある。
限界を限界でなくす集団、木の葉の強さは人間と同じで、単純な数値では表せない。

昔は三代目のやり方は甘いと思っていたが、ずっと木の葉を見続けてきて、考え続けてきて、やっと理解した。
火の影は里を照らし、また木の葉を芽吹く。

あの言葉の本当の意味、何となくだが分かったような気がする。


「それじゃあ、また」

混乱する二人をよそに、俺は脱兎の如く、その場を逃げ出した。




―――新しい風が、吹いている。

滝の一件で分かった。かつての下忍は皆が皆、成長した。
直接見てはいないが、ネジ、リー、テンテンも同じようなものだろう。

かつての上忍も、そんな下忍達に触発された結果、より強くなったことだろうし。

もう守り人は必要ないし、元々が部外者である俺の介入も、必要ない。

終わった後は、立ち去るだけだ。ここに、俺の居場所は、きっとない。

夢を優先することを選んだ時、その資格は消えた。そして今、穴は埋まった。
その事実に少し寂しさを覚えたが、これは自分が選んだ答えだ。後悔はすまい。
決定論をどうこう言う訳でもないが、俺には俺の夢がある。


元々が無茶な夢だった。狙われる立場であった俺が分不相応にも望んだ、我侭とも言える道。それを往く。


あるいは木の葉に従い、妹と共に生きていく選択肢もあったのかもしれない。
それでも、忍びとして生きてかず、自分の夢を追い続ける事を選んだ。

キリハは大事だが、それよりも優先することがある。それだけだ。

(……やっぱり。みんなの目の前から消えるんだね)

(……それできっと、誰も彼もが幸せになれる。それで良いと思う)

どうなるか分からない以上、断定はできないが。

(キリちゃんは泣くよ、きっと)

(……泣いて、忘れてくれると嬉しいね。でも、これ以上は互いのためにならない)

何もかもうまくいくなんて、そんな風には思えない。出来る事には限りはある。

(薄々は感づいていたが、ほんに酷い男じゃの、お主は)

(……もうちょっと、何とかなるとは思っていたんだよ。でも、ここから先は賭けになるって気づいたから)

あの無茶を見続ける事になると気づいてしまった。いやいや、我ながら臆病なことだ。

(……キリちゃんが無茶するよりは良いと?)

(と、いうか俺が見たくない)

自分勝手なのは分かっているが、これできっと良い。

多由也、サスケには、隠れ家の場所は口止めしておこう。

再不斬、白は何となく気づいていたふしがあるし、黙っててもOKだろう。一番長い付き合いだ。
鬼鮫の一件、マダラのことが分かった今、あの二人がどうするか分からないが、妙に律儀なあの二人の事だ。
少なくとも、敵には回らないだろう。


木の葉には、シカマルもいる、自来也、綱手もいる。

十分だろう、ということにする。

終わるべき事が終わったら、だが。

(……終わらせるために、行こうか)

(そうだね)

脅威を取り除けば、もう刃は握らない。元々の夢であったラーメンの道を追い続ける。

そう誓い、俺は目的地へと歩き出した。









「お、ここか」

日が暮れ始めた、逢魔が時。

着いてきたがるキリハに、「いや一緒に歩いているともの凄い目立ってしまうから」というのを理由に却下を下した俺は、山中花屋店までの道を聞いて、家を出た。

「思ったよりずっと近いんだな」

木の葉にいた時は酒屋や肉屋、野菜やなど決められたルートしか通っていなかったし、ばれるのが怖くて周囲も見渡していなかった。

花屋・山中はたどり着いてみればいつもの商店街から近く、少し離れた場所にあるだけだった。

(えっと、いのいちが出て来た場合はどうするの?)

(……どうしよう)

(迂闊な行動は駄目だよ。キリちゃんから聞いたところによると、いのいち結構な親馬鹿になっているようだから)

(お前が言うな)

(お主が言うな)

(いやいや、親馬鹿っていうのは娘を持つ者としての宿命みたいなものだよ)

マダオの戯言を無視し、俺は花屋へと近づいていく。

「ありがとうございましたー……って、ええ!?」

「どうも、こんにちは……」

(って、何て名乗ればいいのか)

ナルトでもメンマでも駄目だ。春原ネギも前にちょっとやらかしたから駄目、ロジャーはサスケだから駄目だし。

ええい、仕方ない。

「こんにちは、麺道・終太郎です」

「は? って、ああこんにちは」

「ちょっと花をみつくろって欲しいんですけど」

あくまで一般の客を装って、いのへと話しかける。
厳戒態勢の中、町の中で迂闊な動きは見せられない。
フウのことや現在の木の葉の態勢に関することはキリハから聞かされたので、あとは暗号の手がかりを探るだけだ。

「花……誰かへの贈り物ですか?」

「いや、見舞いの花なんだけど」

「あ……ああ! 分かりました」

「よろしく」

予算はこれで、と伝えると、いのは難しい顔をしながら店の花を次々と手に取っていく。

「あー、そのままでちょっと聞いて欲しいことがあるんだけど」

「え、何ですか?」

一応こっちはお客様なので、いのは敬語で返事をした。

「月見草って聞いたことある?」

「……月見草、ですか?」

いのは瞳を瞬かせたあと、月見草と反芻し、自分の顎に手をあてて考えこむ。

「……ああ、これですね」

と、いのは店の奥にあった白い花を持ってくる。

「これが?」

「はい」

手渡された白い花を見ながら、うーんと悩む声を心の中だけで出す。

「今は夕方ですから咲き始めで白いですけど、明日の朝には薄い桃色になるんですよ」

「……そうなんだ」

(色の変化、ねえ。いまいちピンとこないね)

夕暮れの下、白い花を見つめながらこれが何かイタチと関係のあることなのだろうか、考えてみる。

だが、答えは出なかった。

そうこうしているうちに、いのが花を両手に持ちながらまた戻ってくる。

「はい、これでどうですか?」

「あ、いいね。じゃあ、お代金」

代金を手渡した後、花を受け取る。

(……ねえ、提案なんだけど)

(なんだ?)

(思い切って単語で直接聞いてみたらどうかな。このままじゃあ、埒があかないよ。もしかしたら答えを知ってるかもしれないし)

(……そうだな)

「ありがとう。それで、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

え、なんですか? と首を傾げるいのに、聞いてみる。

「中秋の名月と花、または草と聞いて何を連想する?」

「中秋の名月と、草? ああ、それなら簡単ですね。ちょっと待っててください」

いのは店の奥に入り、何かを探しているようだ。


(うむ、心当たりがあるよう………あれ、は……)

(もしかしてビンゴ………って……)




マダオとキューちゃんの声色が変わる。

そして俺は、いのが持ってきた花を見て、硬直する。







―――え?









「中秋の名月と言えば、十五夜ですね。そして、これは」



いのは、美しい紫の花を手に、説明を続ける。



「あまり知られていないんですが、この花の別名を『十五夜草』といいます。またの名を、『鬼の醜草』。正式名は――」




頭の内側が叩かれる。


ここを出せと、眠った何かが俺の頭を叩いてくる。



「―――紫苑です」


どこかで聞いた名前。今は昔の、懐かしい名前。



「ちなみに花言葉は、『君を忘れない』………って、どうしたんですか、顔が真っ青よ!?」



倒れるとでも思ったのだろう。

敬語ではなくなったいのの言葉に気を止める余裕もなく、俺は頭を抑えつけた。




寝ているモノが起きる。

忘れていた光景を思い出す。


夢の中で見た光景、心の隅に僅か残る凝り。




―――忘れてくれと言ったのは誰だったか。



頭の中で、半鐘が鳴り続ける。鐘の音が鳴り響く度に、何かが解けていく。

続いていると思い込んでいた、欠けたことにすら気付かなかった、とある少女との邂逅。

忘れたことも忘れてしまったことが、鐘の音と共に流れ込んでくる。





――鐘が鳴り終わった頃。


俺は、全てを思い出した。































           第三章  了




[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 五十四話
Name: 岳◆5bf56ac5 ID:6d0af7c1
Date: 2010/02/25 00:53





~章前~






―――雨が降る。

しんしんと、音も無く雨が降る。



「……もう少しじゃの」

雨に濡れた長い白髪を振り回し、水を切る。

かつては木の葉の切り札として恐れられた、三忍が一人自来也は雨の中を一人歩いていた。

目的地は、ここ十数年、立ち寄ったこともなかった場所。

活発で意志が強かった少年、弥彦。

紙を操る忍術を得意とした、将来は良い女になるであろう少女、小南。

――そして、輪廻眼を持つ少年。
自分の力に不安を覚えながらも、仲間を、弥彦と小南を守りたいと自来也に告げた少年、長門。

そんな弟子3人と、一時期だけ一緒に暮らしていた場所に、自来也は向かっていた。

雨隠れの里は厳戒態勢で、入り込めばまず生命は無いだろうことが見て取れた。
キリハと綱手に無茶を止められているので、雨隠れに潜入するという選択は選べなかた自来也は、それでも何かをしようと思い立ち、
何か手がかりはないかと、かつて弟子達と暮らしていた場所へと赴いていたのであった。

先の砂の戦闘で現れたという、仮面の忍び。
木の葉に現れたという、輪廻眼を持つ忍び。


砂隠れでの一戦のあと、暁の内部に関する謎はさらに深まった。

あの時現れた、化けもの。

一目見ただけで危険だと分かる、物騒極まりない黒いアレと、その化物を手足のように使う忍び。
いったいあれはなんなのだったのか、直接目にした者でさえ分からなかった。今は判断材料となる情報が少なく、あれの正体については全くといっていいほどに不明だ。

今は少しでも、あれに関する情報が必要だ。最低でも予想、あるいは推測に足るだけのカードが欲しいところだった。

暁と協力してで動いているだろう大蛇丸や、木の葉の内部で不気味に沈黙を保っているダンゾウの動向も綱手と自来也、木の葉の里としては気になったが、
それよりも今は暁をどうにかしなければならない。

今までに得た情報から、暁があの化物の力を使い尾獣の内の何匹かを確保しただろうことは、ほぼ確実といえる。
尾獣の力は強大だ。いかなる場合でも、人の手にあまる程に。
強大な兵器とも成り得る尾獣の力を暁に悪用される前に、誰かがその尾獣達を然るべきところに封印、または解放しなければならない。

もしも悪用された場合。いったいどれほどの惨事が起きるのか。
自来也はその様子を想像してみて、ふるりと身震いをした後、首を横に振った。

最悪の場合を想定する。
もしもあの力が人里、あるいは隠れ里の真っ只中で解放されれば一体どうなってしまうのか。

「……絶対に、させんぞ。もう、二度とな」

かつての九尾事件を思い出した自来也は、改めて暁の企み阻止することを胸に誓う。
木の葉の忍び達も同じ気持であろう。過ぎ去ったこととはいえ、九尾の事件の傷跡は全て消え去ったわけでもない。尾獣の恐ろしさもまた。
幾人もの忍びを犠牲に、挙句の果てには火影までを犠牲にして封印した存在、九尾。

今ナルトの中にある九那実は、確かに天狐としてそれなりの力を保持してはいるが、あの時里を襲った九尾には遠く及ばない。
火影をして、封じるしかできなかった。生命を代償にしてやっとだった。

木ノ葉崩しの日に見た一尾でも、遠く及ばないだろう。あの程度の力ならば、ガマ文太を口寄せし力を合わせれば自来也でも何とかなる。

だが、実際に目にしたうちはサスケと桃地再不斬、我愛羅曰く、あの黒い化物は果てしなくヤバイとの事だ。
少なくとも一尾以上なのは間違いないと。

我愛羅をして勝てる手段が思い浮かばなかったと言わせる程らしい。最悪九尾クラスの力を持っているのかもしれないのだ。
相手の意図が不明な以上、一刻も早く対処する必要がある。

だが、火影である綱手は根のダンゾウや緊張状態となっている他里の動向を見はるのに精一杯で、対暁戦に力を集中できない状態にあった。
たとえ暁をどうにかできたとしても、その後に攻めこんできた他里に滅ぼされては木の葉としては何の意味もない。
本来の敵国とも言える、雲や霧、岩から目を離すわけにもいかない。

中途半端に戦力を分けることも危険だった。
二兎を追う者は一兎をも得ずという言葉通り、一方で敵国を抑えられるだけの戦力を保持しつつも、また一方で暁の相手をするという手も、あるにはあった。
だが、戦力の分散は戦略上あまり好ましくない手でもある。

ましてや、相手は“あの”暁。

中途半端な戦力で事にあたったとして、逆にあっさりと迎撃されるのが落ちだろう。


そこで綱手は、メンマ達に対暁に関することを任せたのだった。

フウという人柱力の少女を守ることと、我愛羅を守ることもその一貫である。

加えて、メンマ達は暁の構成員に対して色々な因縁がある。幸いにも少数精鋭で、皆が相応に頭が切れる者ばかりでもある。
極めつけは、属する組織も無く、中立の集団でもあること。
今まで裏でばかり動いていたため、全くといっていいほどその存在を知られていないのも双方にとって有利なものとなっている。

その一方で、木の葉の忍びである自来也は長年旅した経験を活かし、秘密裏に暁の情報を探るという任に当たっていた。
いざとなれば、仙人モードという切り札もある。危険な単独任務に耐えうる人材である自来也は、暁の情報を求め、歩いていた。

「……何か、手がかりがあればいいが」

雨を振り払い、自来也は目的地の手前にある、森の中を歩いていく。

あれから三日が経過した。そうそう動くこともないだろうが、情報を得るのは早い方が良い。自来也は急ぎ、歩を進める。

そうして森の中に入り、歩き続けて数時間が経過した頃。
ようやく、森が晴れ始める。自来也の視界に平原の姿が見えはじめた。

―――そして、視界が晴れた後。

そこに見えた光景は、十年以上前に見たものと、ほとんど同じ。

森は変わらずにそのまま。
住まいとしていた家は、未だ崩れる事なく建っていた。だが、森の獣にやられたのだろうか、あちこちがボロボロになっている。
十年以上経過しているのだ、時が経つに連れて形が変わっていくのは当たり前だ。

人が作り出したものは、月日が経つに連れて虚ろいゆく。それは変わらない。
そして、その家の外れ。並べて立てられた石碑の前に一人、佇む男の姿があった。

「長門……いや、違う」

男の髪の毛の色は、黒だった。長門の髪の毛の色は赤なので、長門ではない。
弥彦は金髪だ。

黒い髪を持っているのは、小南だけ。だが、そこにいる人物の骨格は紛れも無く男だ。
女体の神秘を追い求めている自来也が人の性別をを間違える筈もない。
目の前にいるのは、正真正銘の男だ。

――つまり、小南でもない。

自来也はその男に聞こえないよう、口の中だけで一体誰だと呟く。

その直後、男が振り向いた。

聞こえるはずの無い自来也の呟きが聞こえたのか、はたまた偶然か。
石碑の前に立っていた男がゆっくりと、自来也の方へと振り向いた。

男は、自来也を見て眼を細める。
そして数秒たったあと、成程とだけつぶやいた。

眉をしかめる自来也。同時に、警戒の態勢に入る。
だが男は、自来也の様子を気にした風もなく、警戒態勢に入った手練の忍びを前にしても全く心動かすことなく、淡々と告げた。

「珍客来訪だな。ここに客が来るとは思っていなかった。つまりは……お前が、あの木の葉の三忍が一人、妙木山の蛙の弟子、蝦蟇仙人の自来也か」

「……な………お主、その眼は………!」


目の前の男は、仮面をしていなかった。

だから、自来也には見えた。

「長門……!?」

目の前の男の顔を見た自来也が、思わず呟く。それほどまでに、目の前の男の顔立ちは長門の面影を残していた。

だが、これは長門ではない。

長門の名前を呼びながらも、自来也は眼前に立つ男が長門ではなないことを確信していた。
髪を赤から黒に染めたなどとは、考えもつかない。

月日は人を変えるというが、これはそんなものではない。

理屈ではなく、気配でもなく、ただの勘ともいえるものだったが、自来也にはある確信があった。


―――これは“そんな”ものではない。

今までに見たどんな忍びよりも異様。


そして、強い。とてつもなく。
今までにも、自分より力量が上の相手と対峙することはあった。
だが、ここまで力の底が測れない相手と出会ったのは、数十年に及ぶ実戦をくぐり抜けてきた自来也をもってしても、初めての経験だった。

一度油断をすれば、一飲み足まで齧られる。
そんな連想をさせる相手を、自来也は静かに睨みつける。

だが、その眼光も長くは続かなかった。
男の背後にあるものを見て、それを理解したからであった。

石碑だと思っていたものの正体。それが、墓であったからだ。

自来也は超一流の忍びである。
墓がいきなり変形したとか、そういう事態が起きたとしても、幻術か忍術の類だろうと判断するだけで、ここまでの驚きを見せるまでには至らない。

だが、自来也は今、驚愕に全身を凍りつかされていた。

自来也を驚かしたもの。
それは墓という事実ではなく、その墓標の数にあった。


「……何故、だ?」


自来也自身、ここにくる迄に長門達の現況についてのことは、ある程度の範囲で予想を立てていた。


かつての弟子、理想に燃えていた力強い意志を持つ少年・弥彦と、他には無い力を持つ、心優しい少年、長門。
そして、その二人を支えていた少女、小南。
皆それぞれが悲惨な生い立ちを持ち、そしてその生い立ちに由来する意志の強さを持っていた。
戦争を許せないという想い。仲間を守りたいという想いを持っていた。

力もあった。弥彦が持つ戦闘のセンスには自来也をして目を見張るものがあったし、小南も将来は上忍になれるであろう素質を持っていた。長門に関してはいわずもがなだ。
だからこそ、間違いなく普通には生きられないだろう事も、師であった自来也には分かっていた。


―――あの時。自来也が長門達を木の葉に連れて帰らなかった理由も、そこにあった。

輪廻眼という三眼の中でも最も崇高とされる眼を持つ長門と、人を引っ張っていく魅力を持っていた弥彦。
おとなしく木の葉の一員になる筈もない。間違いなく、木の葉の各派と揉めて、あるいは一波乱起こしていたことだろう。

内部の反応とは別に、対外的な部分に関しても問題があった。
白眼、写輪眼を持つ木の葉に、輪廻眼が加わる。即ち、木の葉に三眼の全てが揃ってしまう、ということだ。
ただでさえ木の葉の里は、各隠れ里においての切り札的存在、尾獣を意のままに操れる規格外の眼を持つうちは一族を要しているというのに、この上輪廻眼をも保持しようという状況になると、他国はどういった行動にでるのか。

間違いなく、木の葉へと攻勢を仕掛けた筈だ。輪廻眼が木の葉内部に定着し、最強の血継限界を持つ血筋をして広まる前に、その血と才能を奪うか、あるいは潰そうかとすることだろう。
時期も悪かった。あの時は忍界大戦の真っ只中。
泥沼化してきた戦況の中、木の葉に輪廻眼を持つ少年を連れて帰るということがどういう事態を引き起こすのか、馬鹿であった自来也にも理解できる。

暗部、上層部、旧家、名家。戦時の特例か何か、屁理屈じみた建前を盾に、輪廻眼を持つ長門はいずれかの派閥に組み込まれ、いいように使われることになったのだろう。
事実を知った四大国も一国だけ力を増した木の葉に対し、あるいは同盟でも組んで木の葉力を削ごうとしたかもしれない。
最悪、木の葉対四大国という事態に発展する恐れもあった。

だから、無理に連れていかなかった。
それに、大戦に加わっていた木の葉の里の忍びとしての負い目もあった。巻き込んだ一因が、どうしてそんな恥知らずな事をできようものか。

故に自来也は生きる術を教え、力を授けた。自来也自身、弥彦のいう理想の行く末を見たかったのかもしれない。
道が険しくともあるいは、と思わせるだけの何かを、あの三人は持っていた。

だが、その道は険しく遠い。だから、道半ばで生命を散らすという可能性も考えていた。

輪廻眼を持つ男の話を聞いた時、自来也は半分驚いてはいたが、半分はやはりかという気持ちもあった。
あの半蔵を相手取り、里深くへと侵入した挙句、一族諸共完殺し得る程の手練。

つまりは、半蔵以上の力を持つ忍びということである。
五影以上、あるいはそれをも上回る使い手だということは間違いない。

名を知られていない忍びで、それほどの事を成しうるだけの力を持つ者。
加え、雨隠れの里。

―――半ば、予想はしていた。
仲間を失った長門が、どういった行動を取るのかなどと。

だが、これはどういった事か。


何度も、墓石の数を数える。自分に幻術が使われていないか、確かめる。
だが現実は本当で、今自来也に幻術は使われておらず、目の前に映る光景は真実のものだった。



置かれた墓石。



――その数、三つ。




墓碑は刻まれていない。だが、そう古いものでもない。
磨かれた墓石、表面に見て取れる劣化具合からいって、今より前、10年以上前に作られたものだろう。

つまりこの墓石は、自分が弟子たちの元を去ってから建てられたものだ。



「どういう事だ………!?」


困惑する、自来也。
それを見た男は、おもむろに口を開く。




「初めまして、というべきか。自分は、ペインを名乗るもの。そして俺は―――」


途端、雨脚が強くなった。

風が吹き、自来也の背後の森を揺らす。

だがその声は自来也の耳へ確かに届いていた。

驚愕に、自来也の目が開かれる。



「……馬鹿な」


自来也が大声を上げたとたん、森の中でもひときわ高い木のてっぺんに雷が落ちた。

木の幹はうたれた雷によって真っ二つに割られ、支えとなっていた柱を失った巨木が軋む音をたてながらゆっくりと横に倒れて行く。

木々の間に倒れた巨木はそのまま地面を打ち、あたりの大地をずしんと揺らす。
それに呼応するかの如く、今までは撫でるだけだった雨が風が激しさを増していく。

空は暗い雲に覆われていて、その向こうの青空は見えない。






―――ようやくの時を、以てして。


最後の嵐が、訪れようとしていた。























いのに十五夜草、紫苑のことを聞いて忘れていた何もかも思い出した、その日の夜。

俺は隠れ家の屋根の上に昇り、一人横になりながら夜空を見上げていた。
キューちゃんもマダオも、今は家の中にいるので、ここにいるのは真実俺一人だけ。

一人見上げた空に映る月は、霞のような薄い雲に隠れてしまい、おぼろげに光を放つだけ。
まるで今の自分の気持ちを表しているかのようだ。

どうせならば、冴え冴えしい月光を浴びたかった。今日は空気が澄んでいて、月も綺麗に見えるはずなのに、雲のやつに邪魔されているとは何事か。

何か、嫌な気分になった俺は寝転びながら目を閉じる。
すると目を閉じたせいか、今度は耳の方が冴えてしまい、周囲の森から虫の音がうるさいほどに聞こえてきた。


(………うるさいな)

虫の音も煩わしく鳴り、俺は耳を塞いだ。

目を閉じて、耳をふさぐ。
訪れたのは無音の暗黒。でも、今はそれが心地良かった。
いつもならば何でもないことなのだろうが、今は何もかもが煩わしかった。

何も感じず、ほんとうに一人になった状態で考えたい事があったからだ。

これで、考えられる。そう思った時、夜風が優しく頬を撫でた。

「ああ、くそ!」

俺は何故か湧き出た怒りを押し殺さずに、そのまま表面へと出した。

耳に当てていた手をどけ、そのまま空中をぶんぶんと振り払う。
さすがに触覚だけはどうにもならない。ひとしきり暴れた後、肩で息をはいていた俺はふと背後に気配を感じ、振り返る。
振り返った先には、無言のまま佇むキューちゃんの姿があった。

いつもとかわりない、着物姿。
手入れもしていないくせに触れればさらりと解ける、錦糸のように流麗で鮮やかな金髪。
ふてぶてしい、だが恐ろしい程に整った表情も、いつものままだった。

キューちゃんは俺の目を真っ直ぐに見ながら、一言だけ告げてきた。

「……もう明日にでも、行くのか?」

赤い瞳が俺を見据える。俺はキューちゃんの視線を逸らさないまま、答えを返した。

「できるだけ早くね。イタチがいるかもしれないんで、サスケだけは連れていくけど」
「小僧の、相方の方は連れてゆかんのか?」
「いかない。蛇も動いている今、サスケの方はともかく多由也を連れて行くのは危険すぎる」

その分、隠れ家ならば結界が張り巡らされているため、安全は保証できる。
五大国全てが緊張状態に入っている。互いに監視しあっているため、迂闊には動けないだろう。そんな今、音のような小規模の里にとっては逆に、好機ともいえる。
ましてやターゲットは抜け忍。里にちょっかいをかけない限りは、木の葉も静観を保つしかないだろう。

再不斬と白をおいていくのもそのためであった。確かに、戦いがおこるかもしれないので白の医療忍術は重宝するだろうが、本来ならばあの二人は暁相手の護衛という依頼で雇ったのだ。
鬼鮫がいない上、予想できる相手方がイタチだけとあっては、無理に連れて行く理由がない。

「目的地の途中で鬼鮫が伏兵として現れる可能性、無いとはいいきれんじゃろうに」

キューちゃんはじっと俺を見たまま、小さく、こう呟いた。

『別の理由があるのじゃろう?』と。

図星をつかれた俺は、無言を答えとして返すしかなかった。

わずかの間、場を沈黙が支配する。

「……キューちゃん。ひとつだけ。いや色々と聞きたいことがあるんだ」
「何じゃ、お主らしくない。珍しく歯切れの悪いものいいで、一体何を聞きたいのじゃ」
「……あの後の事だよ。分かってるんでしょ?」
「お主の言いたいことと聞きたいこと、大体の想像はつく」

キューちゃんは一言、だが、と付け足して続きを言う。

「すまんが、それには答えられん」
「……なんで!」

「約束だ、とだけ言っておく。これ以上は言えぬ。どうしても聞きたいのなら我を殺して飲み込むしかないな」

あやつならばできるかもしれぬ、と言いながらキューちゃんは笑う。

「あの時の我にとっては、取るに足らん口約束だった。約束をすると決めたのも、あるいは気の迷いだったのかもしれん。だが守ると決めた以上、心の臓を食われてでも約束は破らん」
「……マダオの方は」
「口に出しつつも分かっているのじゃろう。あやつは馬鹿だが、クズではない」

キューちゃんはこちらに背を向け、屋根の端へと歩いていく。

「確信はない。だが、お主は行くのじゃろう。失われた巫女の元へと。ならば、実際に会ってから聞くがよい」

それだけ告げると、キューちゃんは屋根から飛び降り、家の中へと入っていった。


入れ替わりに、今度はサスケが屋根へと上がってくる。

「話ってなんだ?」

「ああ……」

取り敢えず座ってくれ、と俺は言う。

ここ数年になって着始めた、漆黒の羽織りと白い袴。
彩色に乏しい白黒の格好をしたサスケが、屋根の上へと座る。
片腕には、防刃繊維が編まれたマフラーが巻かれていた。ここと懐に、鋼糸を隠しているのだとか。

木の葉の額当てはしていない。
あの日の真実を知ったサスケは、イタチと出会うまでは木の葉の里に戻らないと決心した。

真実を知ったことで、うちは暗殺を命令した木の葉に対する想いも昔とは違い複雑になった。
原因を作った木の葉を憎めばいいのか、クーデタ―を画策したうちはの自業自得で仕方なかったことと思えばいいのか。
感情と理性が複雑に絡まり合い、本人も未だにどうすればいいのか分からないらしい。

悩みを抱えたまま、厳しい修行を経て腕前も一人前になったサスケ。
隠れ家を出て本格的に暁に対する前に俺たちの前で誓った。

何もかも、イタチと会い直接話した後で決める。それまでは、俺たちと共に居ると。

「話としては他でもない、うちはイタチの居所のことだ」

だから、俺は話をする。
元々の約束がそうであったように、サスケに力を与えて、イタチへの抑止力とする。
協力は惜しまない。この目を見るに、裏切りもしないだろう。

(多由也の言った通りだな)

会ってからこっち、多由也はつかず離れずの距離を保ちながらも、常にサスケの傍にいた。
年の近い者どうし、また気軽に話せる者どうしといったところか。
白は再不斬の嫁だったし、サスケはどうもああいう女っぽい女というのが苦手らしく、半ばツレっぽい感覚を保てる多由也の方が一緒にいて気疲れもしないらしい。

それに、サスケは真実を知ったことで視野が広まった。
必死で修行をするという点では変わりないが、復讐だけに心を囚われるということがなくなったため、周りを見ることのできる心の余裕も出てきた。
素直になったといってもいい。こうなれば、素の顔も見えてくるというものだ。

そんなサスケについて、多由也は純粋かつ単純で思い込みの激しいやつと評した。
成程、今までのサスケを見ていると納得もできる。

復讐を誓ったのもそう。あの大蛇丸をも利用してまで復讐を果たそうなどという決断は、並の決意ではできないだろう。
それだけ、イタチが憎かった。
情が深かったからこそ、純粋だからこそ、両親とイタチを愛していたからこそ、裏切ったイタチへの憎しみも深くなった。

イタチはどう思っていたのだろうか、それは本人にしか分からないのだろうが、強い意志を持っていたことだけは分かる。
あの時のイタチを取り巻く状況は、言葉だけでは言い表せないものであったはずだ。

そんな中、誰にも頼らず己の意志を貫き通したイタチは本当に大したやつだと思う。
今もそうだ。自分が死ぬことでサスケに万華鏡写輪眼を開眼させようとしている。

深く考えると、業の深いことだ。万華鏡写輪眼の開眼条件は、最も親しき者の死。
イタチは自分が死ぬことでサスケが開眼すると確信していた。つまりイタチは、自分がサスケに兄として大事に思われているのを、自覚していたということ。

(成程、イタチにしか果たせないだろうなあ。裏切ったことで繋がった絆の色を憎しみで染める。そして最後に、サスケの手でそれを斬らせるということだ)
あるいは、自分が死ねば全て丸く収まるとでも思っているのか。もしそうだとしたら、イタチは本物の馬鹿野郎ということになるのだが。

だが、イタチの性格からいって、一族を裏切ったことに罪を感じているのは確かなことだ。そうであれば、最後はサスケの手によって裁かれるのというのは、イタチにとっての最高の罪滅ぼしとも言える。
一族を復興したいと思っているサスケにとって、最高の手向けとなるだろう。裏切り者抹殺の手柄もおまけについてくる。
ならばイタチは、サスケに殺されることを最後の任務として、心に刻んでいるのか。
壮絶なまでの覚悟が、自分が生きているということを忘れさせているのかもしれない。

ならば、今のイタチは最強の忍びとも言える。力づくでは、間違いなく勝てない。
サスケ以外の者には、絶対に殺されまい。
木ノ葉崩しで散った三代目のように、何があったとしても最後の任を果たそうとするだろう。

―――何もかもが、あの国に集約している。俺たちは行かなければならない。例えそこに、とびきりの罠があったとしても。

物思いから復帰した俺は、鬼鮫の残した暗号についての説明をサスケに行った。
そして明日、目的地に向かうことを告げる。

はじめは驚きの表情を浮かべたが、腰の刀を握り締めると一言、『分かった』とだけ返した。
多由也を残して行くことについて、何か俺に質問でもしてくるかと思ったが、何も聞いてこなかった。
不思議に感じた俺がそのことを聞いてみると、サスケは視線を逸らしながら『もしもの事を考えたくない。あんな想いは二度とゴメンだ』とだけ言う。

数秒の沈黙。
その後、サスケは屋上から飛び降りて行った。

成程。サスケの人物評にこう加えておこう。
『ツンデレ』と。

つまりさっきの呟きはある意味愛の告白じゃねーか。

なんで俺に言うんだ本人に伝えてやれよこのやろうまんざらでもないだろーに、と心の中で一息に捲し立てたが、すぐに無理だということに気づいた。

なぜならば、多由也もツンデレだからだ。

(孤児院でも演奏中でもあんな顔しているのになんで気づかないかな)

照れ隠しに悪態をつく多由也と、それを真に受ける純粋なサスケ少年。
逆のパターンもあった。俺から見れば、多由也も十分に純粋だ。修行の合間、疲れているサスケに対し、イタチのことを気遣いながらも大丈夫だと話をしている姿が、幾度か見えた。
音楽に対する情熱も、純粋の一言。
こちらも、あれから随分と変わったように思える。

修行の合間、各地の孤児院に赴いた時の話だ。
屋台の横でで奏でられる多由也の笛の音は、その場にいる全ての者の心を癒してくれた。ちなみに、その時の笛の音に、あの秘術は使われていない。
チャクラが出ているのを見せれば、多由也の正体がばれる可能性があったからだ。

そのことについて、俺とサスケが秘術を使えなくてもいいのか、と聞くと二人とも多由也に笑われた。

その後、親指を立て誇るように、歯を見せ快活に笑いながら告げられた多由也の言葉は、今でも忘れることがない。
言われた俺は、笑った。サスケも笑った。マダオは猛烈に感動していた。


思えば、多由也を助けたあの一件は半ば偶然の産物でしかなかった。
今の多由也を見ていると、助けられて本当に良かったと思う。

まあ、あまりに遅々として進まない二人の展開を見せられていると、こちらとしてはもどかしくなるのだが。
だが、二人ともが素直でないため、展開の遅さは半ば必然ともいえるのだが。

(でもツンデレ×ツンデレって、それなんて新しいジャンル……)

心齢三十路となる俺にとって、少年たちのすれ違い青春期を直視する作業は正直、心に堪える。
イタチの一件が終わったら、あの二人も少しは素直になるだろう。3年越しの青春グラフィティを経て。

そんなことを考えていると、不意に背後から言葉がかけられた。

「おや、少しはマシになったね」

「何がだ。というかどっから生えたマダオ」

「普通に歩いてきたよ。随分と悪い笑みを浮かべてたから、邪悪な妄想でも浮かべて、気付かなかったんじゃないの?」

「誰が邪悪か。それで、何のようだ」

「いや、さっきはかなりシケた顔を浮かべてたから」

「心配で見にきた、とか?」

「いや、それは別の人に任せたよ」

手をひらひらと振りながら、マダオは答えてくる。

「顔色戻ったけど、何を考えてたの」

「いや、まあ、あれだよ」

と、俺は多由也とサスケの話をする。

「そっちかよ! っていうか、紫苑のことはいいのかよ!」

「そっちはキューちゃんと話したから。どうせそっちも口を割らないんだろ」

だったら会って確かめるまでだと鼻で笑ってやる。意趣返しの意味もこめて。

「まあ、割らないね。答えられるものなら答えるけど」

だがマダオは、笑顔で断言をしてくる。
その笑顔が今日はやけに腹立たしく感じた。

「……あ、別にいつもだから別にいいか。それより、これだけは聞いておきたいんだが」

「僕のスリーサイズ? どうしてもっていうんならキューちゃんのスリーサイズと引換に答えるけど」

「死ぬほどどうでもいい。むしろ死んでもどうでもいい。そこらの草木にでも語ってろ。あとキューちゃんのスリーサイズは俺も知りたい」
思わず男の本音が漏れでてしまった。しかしキューちゃんのスリーサイズってどうなんだろう。
年齢可変型だし。我のすりーさいずは百八式まであるぞ、とか言われたらどうしよう。ちょうど煩悩の数と一緒だし。

(……じゃなくて)

首を振りながら、マダオにたずねる。
「俺が聞きたいのは、紫苑にあったときどういう反応をされるか何だが……おい、何故顔を逸らす」

こっちを見ろ、というとマダオがこっちを向いた。
だが、その顔には哀切が浮かんでいる。

「まあ、常識的に考えれば殴られるだろうね。確実に。左右で」

「殴られるの?! しかもワンツー!?」

「いや、むしろ左右同時に」

「菩薩掌!?」

天才片山右京もびっくりである。

「……まじかよ」
「真剣と書いてまじです。でも実は模造刀」
「お前、いっぺん泣かすぞ?」
「残念ながら、死人は涙を流せません」
「……」
「冗談だってば。どっちもね。まあ、それよりも君が落ち込んでなくて良かったよ。サスケ君と多由也ちゃんだっけか。ここに来て人の事を考えているとは、ある意味で君らしいけど」
「見ていて微笑ましいからな。サスケには、今でもたまにもげろ、とか思っちまうけど」
「たまがもげろ!?」
「『に』、だ、『に』。だが『が』でも可」
「こわー。でも、まあ微笑ましいってのは同意だね。見ているこっちが恥ずかしくなるけど」
「若いってのは振り向かないことだと誰かに聞いた気がしたんだが」
「いいんじゃない? 太陽のように激しい恋ばかりじゃなくても」

ウインクをしながらほざくマダオ。
くささ、最高潮である。

悶えている俺をよそに、マダオは「いいんじゃない? ああいう恋があっても」と空を指差す。

「……まーな」

確かに、どっちかというと俺もそっちの方が好きだ。
燃えるような恋をしてみたいとも思うが、静かに巡るように寄り添い発展する恋があったっていい。

「どうやら晴れた、か」

その月を覆っていた雲だが、どうやら話をしている間に風に吹かれ移動したらしい。
指された空に浮かぶ上弦の月は、遮られることなくほのかな光で夜を照らしていた。

「……雪のようにしんしんと、月のように静かにね」
「自来也の受け売りか?」

詩人である。

「いや、僕だよ」

そう言うと、マダオも屋根を飛び降りて行った。


「……会えば分かる。逆に言えば、会わなければ分からない」

あの日に忘れた事について。未だ知らぬあの事件の結末について、俺は知りたい。


「明日も早いし、もう寝るか」

言い、俺も屋根の上を後にした。






[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 劇場版・Ⅱ その壱
Name: 岳◆5bf56ac5 ID:6d0af7c1
Date: 2010/05/19 18:09
「暗くなってきたな……」

鬼の国へ向かう途中にある、森の中。

俺は焚き火をたきながら、晩飯用のラーメンを作っていた。

日が昇らない内に隠れ家を出発して、ここまで歩き通しだったのだ。
今の俺たちは商人に扮しているため、チャクラを使って飛び回るということはできない。
もし見つかれば厄介なことになる。鬼の国まで徒歩ではかなりの時間がかかってしまうが、今は地道に歩いていくしかなかった。

周りでは、フクロウか何かが鳴いている声と、虫の囀りが響いている。
俺は丸太に腰掛けながら、まだ一人だった頃を思い出す。

あの時はまだ未熟で、こんな風に余裕を持てる状況じゃなかった。何もかもを隠してしまう、夜の闇に対して、無意味に怯えていたものだ。

「しかし……」

ふと、俺はため息をついた。

「はあ……」

サスケも同じだった。

「ん、何ため息ついてんだ?」

原因が何事かのたまう。

俺とサスケは更に深いため息を吐き、じっと多由也を見る。

「な、何見てんだよ。だって、仕方ないだろうが!」

昨日の夜。暗闇の中、サスケと二人で隠れ家を抜け出した筈が、何故かその道の先で多由也に待ち伏せされていたのだ。

「いや、言いたいことは色々とあるんだが……なんで分かった?」

「いや、だって二人とも異様に早く寝るしな。あと、サスケが挙動不審だったからすぐ分かったよ」
「うぐっ」

多由也の返答を聞いたサスケが、うめき声を上げた。
俺は、サスケを睨みつける。隠し事の出来ないやつだな。

『不器用だしねえ』

心の中のマダオが言う。全くだ。

「あの二人には?」

知らないとしたら、今頃焦っているのかもしれない。

「ああ、手紙を置いてきた。『あいつらに着いて行く』ってな」

『それなら安心じゃの。というか、ある程度予想はしていたが』

「え、してたんだ。なら言ってよ」

『まあ、いいではないか。それに、多由也も言っていただろう』

俺は、待ち伏せされていた時の事を思い出す。








―――サスケと二人、荷物を持って変化の術を使ったまま、隠れ家を抜け出た後。

山の下まで降りてきた俺達は、ふと気配を感じて立ち止まった。

もしかしたら、音隠れの追っ手かもしれない。静かに戦闘態勢に入った時、音が聞こえた。

聞き間違うはずもない、なんども効いた音色。

多由也の、笛の音だった。

「……よう。こんな夜更けに、何処に行くんだ?」

「な、多由也!? なんでここに!」

サスケが驚きの声を発する。俺も正直、驚いていた。

「アタシがここにいるとかそういうどうでもいいことは置いといて、言いたいことは一つだ。この、バカヤロウ共が」

本気も本気、見たことのない程の殺気を発しながら、多由也は俺たちを睨みつけてくる。

「ケリを付けに行くんだろう。そういう顔をしてる。でも、何でアタシを置いていく?」

「それは、大蛇丸が―――」

「それは覚悟してる。抜けたあの日からずっとな。アタシは抜け忍だ。音隠れに殺されるかもしれないなんて、わかりきってることだ。それに、あいつらに怯えたくない。隠れたくないんだ。
 死ぬかもしれないってことは分かってるけど、したいことができず怯えて隠れているだけ何て、絶対に嫌だ………だから。大事なこの時に、今更置いていくなんて、そんなこと言うなよ」

多由也は俯きながら、言う。

「多由也……」

「それに、な」

言葉と共に、多由也は顔を上げた。
今度は困った表情を浮かべている。

「あの二人と一緒に留守番とか、辛すぎるぜ。アタシはお邪魔虫には成りたくないんでな。あのまま残っていたら、二人の周囲で無意識展開されてる桃色空間に侵食されちまう」

「……ああ、そうだな」

言っている意味を理解した俺は少し可笑しくなり、笑を浮かべた。

多由也を見ながら、互いに小さく笑みを交わし合う。

サスケは笑わず、ため息を吐きながら多由也に問うた。

「危険だぞ」

真剣味を帯びた声。
多由也は怯まず、手の中の笛をくるくると回した後、腰のホルダーにしまい、笑って答えた。

「承知の上だ」











「―――しかしまあ、よく俺たちの向かう方向が分かったね」

「音で分かった。アタシの耳は伊達じゃないよ」

「……怖いな。迂闊に悪口も言えない」

「なんか言ったか? ちなみに全部聞こえてるんだが」

多由也が笑顔で凄む。

「すみません」

サスケは素直に頭を下げた。こちらからは見えないが、余程怖い顔をしているらしい。

『……サスケ君、もう尻にしかれてるね』 

二人の夫婦漫才をよそに、俺はラーメンの出汁をとっていた釜を引き上げる。
釜の中で煮立つラーメンをすくい、用意していた器に盛っていく。

『雅な茶碗だね』

「それはつまり俺が曇なき眼を持っていると解釈していいのか?」

『……それはひょっとしてギャグで言っているのか?』

キューちゃんの容赦無いツッコミに心をえぐられつつ、俺は器に盛ったラーメンを二人に渡した。

「「「いただきます」」」

静かな森に、ラーメンをすする音が響き渡った。
普通ならば、こういういい香りをあたりにばらまいていると獣が現れるのだが、火に怯えて近づいてこない。
まあ、火をものともしない特殊な獣もいるのだが、ここいらにはいないようだ。
そういう特殊な獣、太古の昔に滅びたという妖魔じみた獣達は、生息している場所が限られている。

ザンゲツに聞いたが、遠い昔、その特殊な獣達は人間より広い支配地域を持っていたらしい。
何故か今現在では、その大半が絶滅しているらしいが。

『口寄せで現れる獣達が、跋扈していた時代か……』

口寄せで現れる生物は本来ならば我が強く、並の忍びでは協力関係を築くことができない。
口寄せの契約を交わすには、相手に忍びとしての自分の力を認めさせる必要がある。

力が強いものほどその気性は荒く、時には生命を落とす者もいた。
そんな生物がそこら中にいる時代あったらしい。

「ま、あの野郎が言ったことだし、眉唾ものだけどね」

ザンゲツは交渉を行う時の癖か、話を大きくする悪癖があった。
あることないことを混じえながら、才能の上に経験を積み重ねた巧みな話術で、人をその気にさせるのも上手かった。

「網の首領か。会ったことは無いが、どんな奴なんだ?」

「一言でいうと、怖い奴だよ。ある意味では、五影以上に、敵に回したくない奴だった。今までに出会った事のある誰より、世話になったしね」

マダオとキューちゃんを除いて、だけど。

「……奴、だった?」

「ああ、今の話は先代のザンゲツから聞いたから。今は次代に移ってるんだ。こっちは絵に描いたような女丈夫で、先代の強さを引き継いで頑張っているらしいんだけど」

「……その、先代は?」

誤魔化すような意図を察せられただろう。言いにくそうに、でもはっきりと多由也は俺に聞いてきた。

俺は視線を逸らし、焚き火に向ける。
そういえば、あの日も燃え盛る炎を見てたっけ。

「……言いたくないなら、その」

「いや、別に隠して無いから、言うよ。先代は……死んだ。鬼の国の事件の二年後に起きた、ごたごたが原因でね」

「鬼の、国」

今から向かう、国の名前でもある。

「………そうだな。一応、話しておいた方がいいか。肝心の最後は未だ思い出せないし、忘れている部分もあるんだけど」

「その、いいのか?」

「……いや、俺が誰かに話したいのかも。言い方が悪かった―――聞いて、くれるか」

焚き火の音。
ぱちぱちと、静かな夜の森を震わせる。

俺は炎をじっと見つめたまま、二人に向けて語り出した。


今から6,7年程前、鬼の国で起きた、未だ外部には知られていないだろう一連の事件のことを。

欠けた輪の中にある、紛失させられた力についての話を。






















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劇場版・小池メンマのラーメン日誌 そのⅡ

 ~輪廻の遺志を継ぐ者~


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「はっ、せっ!」

とある小国の森の中。

俺は一人、身体を動かしていた。もちろん、ただ目的もなく動かしている訳じゃない。

『踏み込み、右ストレート!』

「ふっ!」

マダオの声に反応し、俺は想定敵から放たれた右ストレートを避けるため、右方向へと身体を動かす。
―――クリア。今の反応ならば、問題はないはず。

今、俺が一人で行っているのは、影闘というやつだ。
拳闘でいう、シャドーボクシングにアレンジを加えたもの。

まずマダオが仮想的を作り上げる。今の想定敵のレベルは、体術が得意な中忍。それが、マダオの声と共に動いたと仮想する。
俺はそれに反応して、防御行動を取る。

それを、一定の時間内に百度繰り返す。
マダオの脳内で描かれた敵の一撃を、俺が百度全て避けるか、防げばクリア。

反応が遅れたり、対応を誤ったりして、攻撃が当たった場合はアウトとなり、ペナルティが課せられる。
残り回数×十の腕立て伏せか、腹筋をしなければならないのだ。

『火遁・豪火球の術!』

「くっ!」

放たれたのは、火遁術。範囲が広いため、その場にいては防げない。
瞬時に足をチャクラで強化し、樹上へと飛び上がる。

―――クリア。

実際の業火球を見たことは無いが、術の範囲ならば大体想像できる。
術無しの素手では防げない事も分かっているため、水遁を使えないので、その場から飛び退くこと以外に、攻撃を避ける方法はない。

そこら辺の知識も、マダオに与えられたもの。
相手が使う術の知識と、それに対しこちらができうる対応についてを、修行の合間も叩き込まれている。

影分身の術のおかげで、チャクラコントロールは相当な腕前になった。
チャクラによる身体強化も、結構なものになったと思う。
土木作業と共に鍛え上げた筋肉も、それなりのレベルに達しているだろう。

だが、肝心の戦闘に関する知識が俺には足りていないのだ。今までも幾度か、実戦を経験してきたが、相手は中忍でも下クラスの者ばかり。
自分より力量が上の相手とは戦った事が無く、これでは戦闘経験を積んでいるとはいえない。
それらの戦闘によって得られる経験に意味が無いとまでは言わないが、将来俺が対峙するであろう忍びは、規格外も規格外。
忍びの中でも頂点に位置する者達だ。


自分より力量が下の相手と戦い続けているだけ、つまりはぬるま湯につかっているばかりでは、暁という素敵に灼熱な忍び達と対峙した時、瞬時に焼殺されてしまうかもしれない。
だから、一人隠れて仮想訓練を行っているのだ。本当は実戦で経験を積むのが一番なのだが、その機会が少なく、また対峙する相手の力量が下ばかり無いのでは仕方がない。

一の実戦が百の練習を上回ることは、任務受けたての頃に実感していた。
任務途中に遭遇した、小里出身だろう中忍の事を思い出す。

一合攻防を交わしただけで、自分より力量が上だと分かった。
相手の攻撃は何とか全て避け切ったが、こちらの攻撃も全然当たらなかった。相手に動きの癖を見切られた俺は劣勢に陥ってしまい、このままでは攻撃を受ける。しょうたいがバレてしまうと判断して、逃げ出した。
幸い、任務を果たす前、移動途中での遭遇戦で、逃げられない状況ではなかった。相手も、懐をかばいながら戦っていたところを見るに、懐に巻物か密書を隠し持っていたのだろう。
俺を追っ手と勘違いして襲ってきたようだった。逃げると追ってこなかったし。

その一戦の後、動きが格段に良くなったとマダオに言われた。
自分でも、僅かだが実感できた。自分の生命を賭けて戦った見返りだろうか、感覚が鋭敏になったいた。
『人は、己の生命を危険にさらされると、感覚が鋭くなる』

マダオの持論だった。剣道の言葉、『人を一人斬れば初段』と、深い意味では同じなのかもしれない。
あんな綱渡りな戦闘は、二度とごめんだったが。

かといって、経験しないままでも困る。いや、経験したくても出来ないのが現状なのだが。
“網”が戦闘を主としている組織ではないので、それは仕方ないともいえる。網の任務では、五大国の忍びとやりあうことはほとんどと言っていい程に無い。
里の切り札的存在である上忍と事を構えるような機会も無い。皆無といっていい。あれば、俺は今ここにいないかもしれない。
マダオ曰く、上忍は、中忍以下の忍びとは別次元の強さを持っているらしいし。

でもその差を少しでも埋めなければならない。そこでマダオが思いついたのが、この影闘だった。
影をマダオが設定し、俺がそれと闘う。そのままの名前である。

任務が無い時以外は、ほぼ毎日行っている。
緊張感は実戦に及ぶまでも無いが、それでも視認から反射に移すまでの工程はスムーズにできるようになった。
身体の動かし方をこうして身に刻みつけておけば、いざという時に動けるものらしい。

刻みつけるまでの反復練習、実はというとすごく辛いのだが、そうはいってられない。
弱い=死という方程式がガチで成り立ってしまう、色々な者に狙われている俺は、弱いままではいられないのだ。


――それに。
それなりの腕になったとはいえど、俺には未だ克服できていない弱点がある。
それをどうにかしなければ、例えこのまま腕を上げていったとしても、上忍クラスを相手にした場合俺は馬脚を表し、負けてしまうことだろう。






幾度か、練習を繰り返す。

そして、午前の訓練が終わった後、俺は地面に座りながら、心の中のマダオに話しかける。

「しかし、なあ。もっとこう、ぱぱっと強くなれる方法が無いもんかな」

『……そんなものが実際にあるんなら、皆がそれをやってると思うよ。そして誰もが強くなる、と』

「……意味ないな、それ」

まるで自分のレベルと共に、敵モンスターのレベルも上がっていく某ゲームのようだ。

「なら、すぐに体得できる必殺技とかさあ」

『だからそんなものがあるんなら、皆がそれを体得してるって。そして誰もが必殺技を乱舞してくる、と』


―――想像してみた。


トンベリの包丁が脳内に浮かぶ。包丁を投げられれば9999のダメージ。即死だ。
それが、大量にいる。囲まれているので逃げ場はない。

「怖え……」

『……馬鹿なこと考えてないで、任務受付所に行くよ。呼ばれてるんでしょ』

「……ああ」

そんな都合よくもいかないか。
一つため息は吐きながら立ち上り、俺は任務を斡旋する場所、受付所へと向かった。











「……鬼の、国? 潜入任務ですか」

「そうだ」

受付所で待っていたのは、いつもの受付のお姉さんと、おっさんだった。

おっさんは得も知らぬ威圧感を全身から発しており、迫力もあるのでおそらく幹部だろう。
面構えも幹部っぽい。受付の女性も緊張しているように見えるし。

おっさんは俺に任務内容の経緯について説明した後、ため息をついた。

「まあ、老婆心ってやつでな。あそこで忍びが騒ぎを起こす筈が無いんだが、どうもきな臭い情報が入ってきやがる」

「あそこ? いや、そこでは忍びは大人しくなるんですか。変な処ですね」

「古来より、暗黙の了解でな。それはともかく、ちっと噂で聞いたんだが、お前ダメージを受けても解除されない、特殊な変化術を使えるらしいな」

「……ええ、まあ」

何のことか分からないが、取り敢えず返事をしてみた後、少し考える。

……はて、なんのことやら。さっぱりわからない。

確かに特殊な変化術は使えるが、クナイで刺されたり身体に強い衝撃を受ければすぐに変化は解除されるし、そもそもそういうのを目的として編み出したわけでもない。
誰にも見破られないようにするために編み出したのだ。それに、変化がどうとか、知られるようなことあったっけ。

『もしかしたら、この前の任務の時のあれじゃない? ほら、変化解いた時。かつら被って、子供の振りして町を偵察したでしょ』

(……あれか!)

思い出し、納得する。
一つ前の任務の際、俺は黒髪のカツラを被って敵方の忍びがいるであろう町中を偵察したのだ。
あまりに精度の高い変化術を見て驚いた味方側には『特殊な変化術だから』、とその場凌ぎで説明をしたんだっけ。

(ああ、その後、敵方に殴られてダメージを受けてたな、そういえば。普通、殴られれば変化は解除される。なのに、俺の変化は解けなかった。まあ変化してないので変化が解けないのは当たり前だけど)

それを見た誰かが、勘違いをしたのだろう。特殊の意味を履き違えたに違いない。

そしてその報告を受けた目の前のおっさんも、勘違いしているようだ。
くそ、あの時『此処だけの秘密だけど』って頭に付け足したのに。無視しやがったな。

「その能力、今回の任務にはうってつけだ。受けてくれるとありがたいのだが?」

命令形ではなく、頼むような口調。だが、おっさんほどの迫力があれば、遠廻しに恫喝しているようなものだった。

「……断れるはずがありません」

一瞬迷ったが、ここは応を返しておいた。任務の内容をここまで聞いた上で断れるはずもないし。何で聞いてくるかな。

『試された、とか』

(……どうだろう。まあどうでもいいけどね)

おっさんの意図は取り敢えずおいといて、俺はこの任務を受けることにした。
それに、最近生活費が苦しくなってきたのだ。聞けば任務のランクもBらしいし、この任務を達成すればしばらくの間はお金に困らずにすむ。

親方達と一緒に作業現場に出て働くのもいいのだが、もしかしたらこの任務で戦闘を経験できるかもしれない。
一刻も早くあの弱点を克服しなければならない俺に、選択の余地はなかった。

「受けます。望むところです」

「……良い返事だ。じゃ、頼んだぜ期待のルーキーさんよ」

おっさんは俺の肩をぽんぽんと叩くと、部屋を出て行った。

俺は受付の人に任務についての詳細を聞く。

(子供の姿に変化して潜入、か)

うん、都合がいい。

『子供の姿に変化をしていい……ま、元の姿のまま変装をするべきだろうね』

この世界で金髪碧眼の容姿を持っている者は目立つのだ。
年齢もあいまって、元の金髪碧眼の子供姿を見られた場合、そのまま正体がばれてしまう可能性があった。

そのため、非常用として黒髪のかつらをいつも荷袋の中に入れていた。

『でも今回に限っては、髪を染めなきゃだめだよ。眼はどうしようもないけど』

戦闘中、殴られた拍子にかつらが外れたらまずいもんな。
まあ、色々と問題はあるけど、受けたからにはやるだけだ。

俺は息巻きながら、契約書にサインをした。





受付所を出た俺は、思いっきり背伸びをする。
どうにも書類を書くのは苦手だ。面倒くさいし、肩がこってしまう。

『ん、どこに行くの?』

「長期間の任務になりそうだしな。その前に、おばちゃんに挨拶していくよ」





歩き続けて、15分あまり。俺は、とある宿のまえに立っていた。
網に入ってからしばらくして見つけた、ずっと寝床にしている安宿。
網の本拠地がある町にも近いため、遠出しない時や任務前で待機している時には、好んで利用している。

外見は、まあ、控えめに言って……………ボロ、ボロ、ボロ。

台風でも来ようものなら、たちまち風に吹かれ天に舞って竜になってしまうだろう。それって格好良いよね。
あまり懐が暖かく無い俺にとっては宿泊料金が安いというだけでありがたいし、泊まる価値がある。

だから別に外見と内装がボロボロボロでも、文句はないのだが。

それに、良い所もある。
気さくというか奇作な女将さんが宿泊客に対し、朝晩と美味しい料理をふるまってくれるのだ。


つまり、総合的に言えば……えっと、住めば、都?


『微妙に褒めてない……』

都じゃなくて旅館だし、とマダオにつっこまれる。

(……褒めるポイントが見つからないから、仕方ないだろ)

俺は言い訳を返しながら、旅館の中へと入る。

「こんにちはー」

一階は受付兼酒場になっていて、昼は定食屋になっている。
女将さん、通称『おばちゃん』は椅子に座りながらぼーっとしていた。
自称永遠の十五歳、実年齢六十歳のおばちゃんは俺の姿を見ると、よっこらしょっと椅子立ち上がる。

「ういっす、おばちゃん。相変わらず昼は空いてるねここ」

「……出合い頭になんだい、この子は。今日もこいつを喰らいたいのかい?」

と、おばちゃんが鍋を振り上げながら、凄んでくる。

「是非とも喰らいたいね。というわけで、今日もラーメン一つよろしく」

「……あいよ。ったく」

ぶつぶつ言いながら、おばちゃんは麺を沸騰した湯につける。

スープは既に温められているようだ。

「珍しい、さっき客来てたの?」

「ああ。新しい任務かなにか、受けたんだろ。若い男が一人、メシ食って帰ってったよ」

なら、任務を受けたのは昼だろう。その男も任務開始まで待機をしているといったところか。
もしかしたら、俺と同じ任務を受けているのかもしれない。あの任務には、複数であたるらしいからな。

「メシだけ、か。相変わらず宿泊客は皆無なんだね、ここ」

「そうだよ。ったく、どいつもこいつも、この宿の凄さを分かっちゃいない。どうだアンタ、いっちょ土木連のおっさんどもに、この宿の素晴らしさを伝えちゃくれないかい? 
 何十回も泊まっことがあるアンタなら、この宿の良いところは知り尽くしているだろう」

……素晴らしい、か。

Gが出ること、週に3回。百足が出ること、週に2回。
夜中、厠に行く途中の廊下で幽霊を見たこともある。

この宿が素晴らしいのなら、噂に聞いた火の国の中心部にあるという、最高級宿はいったいどういう言葉で表したらいいのだろうか。

「哲学だな……」

人には分不相応というものがある。庶民が超高級ホテルに泊まったとしても、居心地が悪くなるだけで安らげないだろう。
生活と環境に応じた場所があって初めて、人は安らぎを覚えるのだ。
俺も、裕福な暮らしに慣れているわけもないので、妙に格調高い宿よりは、ここの方がいいかもしれない。
でもGが出る宿を素晴らしいとは言いたくないのは確かで。だから他人には進められない訳で。

『……でも、ご飯は美味しいんでしょ』

そうなのだ。このおばちゃん、宿の経営手腕とかそういう点では壊滅的、むしろ破滅的だが、調理の腕は良い。
夜になると客が増えるのが良い証拠だ。昼はたいていが仕事に出ているので、少し外れた場所にあるここに客は来ないが、夜は知る人ぞ知る穴場として賑わっている。

これで宿も綺麗なら、もっと流行っただろうに。
だが、この宿のおんぼろさが良いと言う客も、居るのはいるのだ。たいていが山賊か盗賊あがりの現組織員とか、そういう類の人達。
そういう者たちは、開放的な場所よりもむしろ暗がりを好む。閉塞感がある場所で、飲みたがるのだ。
ただ、良いと感じるのは酒を飲んでいるときだけで、やっぱり泊まることはないのだが。
雰囲気を感じながら酒を飲んだ後、近場にあるここよりは綺麗な宿へと帰っていく。山賊あがりでもやっぱり、Gは嫌らしい。

「……改装すればいいのに」

何度も繰り返した言葉を、おばちゃんに言う。
だがいつもの通り、おばちゃんは首を縦には振らない。

「はっ、馬鹿もんが。これが良いってやつもいるんだよ」

そういえばちょっと前、酒を飲みにきた客、おそらく顔なじみらしいおっさんだろう。その相手に、おばちゃんは自慢げに話していた。
賭博でひと当てしたとか、なんかそんな風なことを言っていたような気がする。興味が無かったので、ちゃんと聞いていなかったのだが。

「なら、何で宿経営してるの?」

「うるさいねえ。はい、おまち」

おばちゃん特製のラーメンが出てくる。

「おっ、キタキタ」

待ちに待った、ラーメンだ。俺は歓喜に打ち震えた。
もし俺の腰に腰ミノがついていれば確実に踊っていただろう。もちろん腰の動きは、例の魔法陣の軌道を描くだろうね。
だが残念なことに、俺は腰ミノを持っていない。だから、踊れない。

自分の踊りを伝えるために半裸で全国を行脚する、ある意味真の勇者である腰ミノオヤジに一等の敬礼を捧げると、俺は椅子に置いていた荷袋の中からマイ箸を取り出す。
この辺りには割り箸なんて高価なものは置いていないので、大抵の人間が自分用の箸を常備している。
一部の者は毒を警戒して、らしいが。

「……いやしかし、相変わらず旨え」

年の功か、おばちゃんの作る料理はどれも旨い。中でも、このラーメンは格別だ。

醤油ベースのシンプルな味だが、どれだけ食べてもまるで退屈を感じない、むしろもっと食べたいと思えてくる不思議麺。
鶏、貝、野菜。それらの具材が持つ良さがふんだんに活かされ、また互いの持ち味を殺し合うことなく絶妙なバランスを保っている。

食べる度に深みを増していき、また日毎に微妙に使う具材を変えているため、例え毎日食べたとしても飽きることはないだろう。
おばちゃん曰く、別に特別なことをしているわけではないらしいが。これが、熟年の貫禄というやつだろうか。

「鶴は千年、亀は万年……」

継続は力なり、である。料理人は修行に重ねた年月が深ければ深い程、味も深まり広がっていくという。
おばちゃんも、長年の間料理を作り続けて腕を上げたのだ。この深みのある味わいと旨みの広がりは、木でいう年輪。
料理人として年を重ねてきたという、証のようなものだ。

「……ちょっと。誰が年増で年々皺が増えていくんだい」

「いや、言ってないし。というか年増よりむしろ老婆で…おわっ!?」

突如、包丁が飛んできた。
眉間を狙うそれを、俺は指で挟み止めることに成功した。
いつもならば「ふ、俺に飛び道具は通じない」と言うのだが、さっきの話が少しトラウマになっていたため、俺は動揺を隠せなかった。

(うう、本当の事をいっただけなのに)

『……女には、の。言われたら殺していい言葉があるそうな』

心の中のキューちゃんが、昔語りをするように、言う。
ううむ、機嫌が悪いのか心なしか声が低くなっているような。

『……いいから』

「黙って食いな」

聞こえていないはずなのに、絶妙なコンビネーションを見せる二人。これも年のこ……ゲフンゲフン。
ぐ、偶然だね?

「すんません」

怖い笑みを浮かべるおばちゃんに素直に謝った後、俺は丼の中の麺をずるずるとすする。

うむ、旨い。絶妙のコシ。のどごしも良いね。それに、今日のチャーシューは特別豪華だ。いつもの豚じゃない。
おばちゃんは俺の言いたいことを察したのか、説明をしてくれた。

「……今日は良い豚が入ったからね。タレつけて炙ってみたけど、いけるだろ」

「ああ、むしろ天国にだっていけるね。こんなものが食べられるなんて、今日はついてる」

いつもはもう少し安いグレードの豚を使っている。任務を明日に控えている今こんな良いものが食べられるなんて、幸先が良い。

『でも、随分唐突だったね。明日出発だなんて』

ああ、確かに。
普通なら、任務を受けた後、任務に入る間、数日は準備の期間がある。
急ぐ理由があるのか、はたまた別の理由があるのか。

今回の任務を決めたのはおそらく、受付で見たヒゲのおっさんだろう。
妙に迫力があるおっさんだったが、少し焦っているようにも見えた。
事情があるのだろう

「……そういえばおばちゃんって、網の内部についても詳しかったよね」

「まあ、長年ここで商売やってるからね。詳しいといえば詳しいけれど、何かあたしに聞きたいことでもあるのかい?」

「ああ、ちょっと……」

俺は受付所にいたおっさんの特徴を話し、どういう人か知らないか、とたずねる。

「……あんた、馬鹿だろ。そのおっさんは網の頭だよ」

「ってことは、あれが地摺ザンゲツか」

どうりで、と呟く。

親方や酒場のおっさん達から、ザンゲツの武勇伝については色々と聞いていた。

一つ前の忍界大戦、第三次忍界大戦で荒れた各地の村や町を、色々な意味で立て直した英雄。
畑を無くし山賊におちぶれた者達をその腕っ節でねじ伏せて配下にした後、大戦の影響でぼろぼろになった各地の道路や建物を修復していったらしい。
経済の動脈とも言える交通の便を整備したザンゲツは商人たちに恩を売り、その裏を支配した。
また、大戦後自国のことに精一杯で小国のフォローができなかった五大国にも借しを作ったらしい。
道路や建物がぼろぼろになった原因のほとんどが、忍術によるもの。場所を考えずに大きな術をぶっぱなす、馬鹿な忍びの手によるものがほとんどだった。

本当ならば、その忍びが所属する里がどうにかしなければならない問題。それを、ザンゲツが肩代わりしたのだ。
砂、霧、雲あたりはそのことについてどうにも思わなかったが、岩と木の葉に関しては別で、そのことについていくらかの恩は感じていたらしい。いくらか援助し、手を出さないことを誓約したとか。
木の葉と岩以外の隠れ里も、網に手を出せないという点については同じ。隠れ里をもつ国の面子や、忍者に対しての信用の問題もあるため、網の動向には手を出せないだろう。
そんなことをすれば、商人達がどういう手段にでるか分かったものではない。確実に報復がある。国にも影響が及ぶ。

国の軍部である隠れ里だ。そんな下手は打てない。
裏の任務中のごたごたならばともかく、表立って行動を妨げることは出来ないのだ。

しかし、商人とつながりがあるのが大きい。商人にとっての生命線ともいえる交通の便を取り計らったのが原因とはいえ、繋がりを築いたのはザンゲツの手腕によるものだろう。
表向き、商品運搬時の護衛の仕事も請け負っているし、その繋がりが解けることはないだろう。

五大国でも迂闊に手を出せない組織、か。この状況まで持ってこれたザンゲツの手腕は見事の一言だ。
ここまで全て計算づくだったら怖いな。

(しかし、本当に隠れ里は手を出せないのか?)

隠れ里に関する情報は全てマダオの受け売りなので、まず間違いない。

『まあ、無理だろうね。少なくとも、木の葉は網に対して手は出さないだろう。三代目は五影の中で唯一、忍界大戦で多くの一般人を巻き込んだことを『負い目』として感じていたし。
 木の葉の復旧に関する問題もあったから、結果的にはそれなりの援助しかできなかったけど』

(……お前は、ザンゲツに会ったことはないのか?)

『ん、ない。会ったことがあるのは三代目だけ。それも会うときは里の外だったらしいし、木の葉の里を訪れたこともない』

用心深いってことか。

「でもおばちゃん、おっさんとか言っていいの?」

「あたしとあいつは、古い馴染みでね。それに、そんな了見の狭いやつじゃないよ」

「ふーん」

食べ終えた俺はおばちゃんにごちそうさまを言い、勘定を済ました。

「まいど。今から訓練かい」

「明日の任務に向けてね。それじゃ、今晩一部屋予約しておくから」








昼からの訓練が終わり、おばちゃんの晩飯を食べた俺は、旅館の二階へと上がる。

予約したのは、一番奥の部屋。いつもの部屋だ。


「さて、と」

一息ついた俺は、マダオに話しかける。

(鬼の国って言ってたよな。マダオ、俺はその国について聞いたことがないんだけど、お前は何か知っているか?)

『……まあ、知っているといえば知っているけど』

知っている限りの事を教えて貰った。
概ねは、ザンゲツの言っていた通りであるらしい。

『初代火影が提案者でね。時の大戦の後に結ばれて、恐らくは今も五影の間で結ばれ続けている協定がある。“鬼の国”に手を出すなっていう協定がね』

なんでも、かの地には怪物が封じ込められている、らしい。
今は眠っているが、何時か目覚める時が来る、らしい。
そして、その怪物を封じ込められるのは鬼の国に居る巫女だけ、らしい。

(……“らしい”だらけだな。その怪物についての資料とか、巫女に関する情報は無いのか)

『明確なものは無かった。協定があるから、鬼の国に調査団を送ったこともない』

(それなのに、協定を守り続けているのか?)

おかしくないか、とたずねる。

『……怪物に関する伝承はあったんだよ。怪物が書かれている古書もあった。字はほとんど読めなかったけど、伝えられているものに近い記述も、確かにあったんだ』

(……怪物、か。ひょっとして、尾獣か?)

『いや、もっと悍ましいモノと書かれていた。何でも、世界を滅ぼせる程の力を持っているらしい』

(おいおい、穏やかじゃないな。でも、偽物かもしれなかったんだろ? どうして他の里は木の葉の言を信じたんだ?)

『協定を結ぶ条件が条件だったからね。協定を結ぶとことと引換にって、木の葉から他の里へと提示された“もの”が“もの”だった。一体、なんだったと思う?』

(……秘伝忍術、とか。いや血継限界かも)

『はずれ。正解はさっき、君が言っていたものだよ』

(……まさか)

『そのまさかだよ』

(尾獣!? 正気か!?)

『って思うよねえ、どうしても。僕も三代目から聞かされたとき同じ事を思った』

(そういえば、かつては千手一族の長である初代火影、千住柱間が尾獣の全てを保持していたんだっけ)

『初代火影は尾獣を操れたからね。封印もできたから、保持していたんだと思う。うちはマダラも尾獣を操れるし』

(それが、配られた。そうまでして、協定を結ばせる必要があった……?)

『主目的は、各国の力の均衡を保つためだけ、らしいけれどね。どっちが本当の目的だったのか、三代目も、その話をした二代目も、初代の意図は分からなかったらしい』

よっぽどの理由があるってことか。でもよく放置してたな。

『怪物のことも巫女の事も、調べる事さえ禁じられていた。そもそも特別上忍以下の忍びには、鬼の国の存在自体知らされていないんだよ』

(尾獣に並ぶ機密事項ってことか。それが今、破られようとしている?)

『いやいや、勘違いであって欲しいねえ。どうにも嫌な予感がするし』

(……キューちゃんは何か知ってる)

『ふん、知らん。知っていたとして、言う義理も無い』

あらら、つれない。

『まあ、行けば分かると思うよ』

(いやいやいやいやいやイア、地雷臭がぷんぷんするのですが。てか世界を滅ぼせる怪物ってなに)

はすたーか。くとぅるふか。それともあざとーすか。にゃるらとほてっぷか。

(どうでもいいけど邪神でもこう、平仮名で書かれると萌えられるよね。え、萌えないって? そりゃすまんかった)

少し混乱気味だった。明日、俺はそこに行かねければならないというのに。聞かなきゃよかったそんな話。
誰だ、今日はついてるとか言った馬鹿は。ああ俺か。

(“危ぶむなかれ、危ぶめば道はなし。踏み出せばその一歩が道となり その一足が道となる”というが………その一歩の先が地雷源と分かっている場合は、どうしたらいいんだ)

前情報は間違いなく、こう言っていた。

(『この橋わたるべからず』ってか……一体、この橋をわたってしまえばどうなるものか……)

一人、頭を抱える。そんなに危険な場所だとは知らなかった。
いや、原作ではそんなこと言ってなかったじゃんよ。そんな経緯があるとは知らなかったじゃんよ。劇場版は見たことないから知らんけど。
ひょっとして劇場版のなにかか。前情報無いからどうしたらいいか、皆目わからんぞ。

(もしかしたら、ちょっと違う世界なのか? 俺の現状が現状だしな。くそ、一体どうしたらいいと思う、マダオ)

『―――迷わず行けよ、逝けば分かるさ!』

(って不吉に纏めるんじゃねえ! 逝ったらそこで試合終了ですよ!?)

『……鳴斗、現れる所に乱あり?』

(疑問符浮かべながら嫌なフラグを立てんな! あと勝手に漢字を作るな!)

マダオとぎゃーぎゃー言いあいながら、任務前日の夜は更けて行った。

















一夜明けた、次の日の朝。俺は変化を解除し、髪を黒に染めた格好で宿を出て行った。
おばちゃんの朝飯は旨かった。必ず生きて帰ろうと思う程に。

朝、目的地につくと、この任務にあたるというもう一人の忍びがいた。
そしてしばらくして、馬車が来る。組織が用意した馬車だ。

俺たちは無言のまま馬車に乗り、そして馬車は走り出した。

この商人は網の息がかかっている商人で、表向き俺たちはこの男の弟の息子、ということになっている。
鬼の国へと侵入するための偽装だ。この商人は向こうに支店を持っているらしいので、長期間滞在しても疑われることはない。

走り始めて、数時間が経過した。そろそろ、鬼の国の国境にさしかかる頃だ。
揺られる馬車の中、俺は一人ドナドナを歌っていた。

いよいよだ。畜生、運命のくそったれという想いを篭めて、ドナドナを小さい声で歌う。
今の俺程、売られて行く仔牛の気持ちが分かるやつはいないだろう。

「……おい、うるさいんだよお前。今から任務ってときに、テンション下がる歌を歌うなよ」

「……すみません」

言われた俺は、素直に謝罪する。そういえばそうだね。
温厚な俺だとして、任務の直前にドナドナを歌われたら怒るだろう。不吉すぎるし、何よりテンションが下がってしまうし。

「ったく、上もよりにもよって何でこんな奴と組ますかねえ。もっと腕の良いやつとかいなかったのかよ」

目の前の忍びは、わざわざ俺に聞こえるような声で文句を言ってきた。
これはひょっとして、喧嘩を売られているのだろうか。

「……危険な潜入任務なんだし、もう少ししっかりしろよお前。何でも変化の術が得意らしいが、それだけじゃあ任務は果たせないぜ。
 いいか、潜入先で馬鹿な真似はするなよ。お前がばれたら俺だってやばいんだ」

「……了解」

いちいち言う事が最もなので、頷いておく。ものいいもはっきりしていて、そこらの忍びとは一線を画しているようだ。
見れば、腕もそれなりのモノを持っている。見た目15くらいで、まだあどけなさが顔立ちに残っている少年忍者だが、この年にしては強い力を持っているようだ。
顔立ちも整っている。サクラあたりが見ればきゃーきゃーと騒ぎそうな、イケメン顔だ。任務について真面目に考えている様子を見るに、中身もイケメンなのではなかろうか。

(いったいどういう経緯で、こんなヤクザ稼業に手を染めることになったのだろう)

『病気のお母さんのために薬代を……とかそういう理由じゃないかな。この仕事は危険だけど、その分身入りはいいし』

『ずいぶんと、安直じゃの』

ポツリとキューちゃんが零す。

(まあ、相手の過去がどうであれ関係ないよね)

むしろどうでもいいともいえる。知って得するわけでもなし。

それに、下手に過去を詮索するやつは嫌われるし。網の構成員の忍びは誰もが、脛に傷を持つ者だからだ。
無遠慮な介入は禁物で、人によっては宣戦布告と取られかねないのだ。

(裏切らなければ、構わない。腕さえよけりゃ、気にしないってね……ん)

そんな事を考えている時だった。


(……何だ、見られてる?)

ふと視線を感じた俺は、イケメン忍びの方を見る。
彼はじっと眼を閉じて馬車の壁にもたれかかっているだけだった。こっちではない。

(……気配がする。複数。しかも、この馬車を囲んでいる)

だが、襲ってくる様子も無い。
しばらくして、イケメンの忍びも気づいたらしい。はっと顔を上げ、周囲を警戒する様子を見せる。

「……気づいているか?」

イケメンの忍びが聞いてくる。俺は首を縦に振り、立ち上がる。
そして、イケメンの横に座った。

「囲まれてるね。数は……少なくとも二十以上。襲ってこないようだけど、何が目的なのか」

馬車を走らせている商人に気付かれないよう、俺とイケメンは近い距離、小声で話しあう。
商人さんに無理に知らせるのは不味い。

得体のしれない誰かに囲まれていると知れば、商人は動揺するだろう。商人には一般人だし、その動揺は隠せまい。それは不味い。

ここでこちらが動揺しているということを見せるのは、相手に気づいているということを知らせるようなものだ。
今は気付いていないと思わせた方がいい。相手の目的が分からないこの状況で下手に動くと、相手が勘違いをする可能性がある。
最悪、状況が進展してしまう可能性がある。

まだ国の中にも入っていないこんな所で誰かと一戦やらかすというのは、非常に上手くない。
この任務の目的は潜入。潜入任務は暗中飛躍が鉄則だ。ここで目立ってはいけない。こちらが鬼の国へと潜入しようとしているのを知られるのも不味い。
後発の忍びも潜入しずらくなる。

それをイケメン忍びも分かっているのか、黙っているだけだった。
っていうか、そうだ。

「そういえば名前、聞いてなかったな」

いつもの癖で忘れていた。普段の任務ならば『おい』とか『お前』とかで呼び合うのだが、一応イケメン忍びとは兄弟という設定になっている。
名前で呼ばないのは不自然だ。

そういうと、イケメンは顔をしかめながらも、自分の名前を言ってくる

「……俺の名前は“ハル”だ。そう呼べ」

いかにも偽名くさいが、人の事は言えない。

「俺はイワオだ。そう呼んでくれ」

自己紹介をかわしながら、周りの敵に関することを話しあう。

「……人、ではないと思う。こんな人数が動いているのもおかしいし、整然としすぎている」

「……そんなことが分かるのか?」

「俺は臆病だからね。誰かの気配には敏感なのさ。で、どうする?」

もうすぐ国境で、関所を通らなければならない。その時に、馬車から降りる必要がある。
その時に敵が襲ってくるかもしれない。

どう行動を取るべきか、俺はハルに意見を聞いてみた。

「下手に動くのはまずい。それに、関所には木の葉の忍びがいるらしいじゃないか。襲ってきたら木の葉の忍びがどうにかするさ。
 相手が馬鹿じゃなければ、天下の木の葉の忍び相手に襲ってくることはないだろうし、ここは静観するべきだ」

「……そうだね」

ハルの意見、反論するところは何もなかった。
俺は頷き、元の位置へと戻った。



その後もしばらく気配は残っていたが、関所にかかる頃には一斉に去っていった。



「木の葉の忍び、か」

実際に見るのは、あの夜以来だろうか。今も、俺を探しているに違いない。まあ、見つかってやるわけにはいかないのだけれど。
木の葉の額当てを見ながら、俺はそんなことを考えていた。

商人が、通行手形を木の葉の忍びに渡す。

「こっちの二人は? 見ない顔だが」

木の葉の忍びが、俺たちの顔を見て、怪訝な表情を浮かべる。疑っているのだろう。
商人はその顔を見ても動じた様子を浮かべず、実は~と前置いて、忍の問いに答えていく。

「私の弟の息子でしてね。将来のため、各地を見て回っとるんですよ。今日は手伝いも兼ねて――」

商人は商売道具でもある舌を華麗に回し、木の葉の忍びを説得していく。
さっきの荒事が起きそうな状況では、商人は俺たちに及ばないが、こういう場面では逆に俺たちの方が商人に及ばない。

話しだして数分が経過した。
説明を聞いていた忍びは、もういいといった顔を浮かべ、行け、と促す。

「はい。では、ごくろうさんです」

そして、馬車は走り出した。


いよいよ、国境を越えた。ここからが、鬼の国だ。




(………?)


俺はふと、不思議な感じを覚えた。








―――まるでそう、何か大きな食中植物の中に入ってしまったような。



(気のせい、であればいいんだけど……)



背後に遠ざかっていく関所を見つめながら、そんな事を考えていた。





――――この予感が、実は正しかったのだと。

全てが終わった後に、分かった。





馬車に乗る誰もが、何も知らないままに。


全てが始まった、かの国へと続く道を、馬車は走っていった。







[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 劇場版・Ⅱ その弐
Name: 岳◆5bf56ac5 ID:6d0af7c1
Date: 2010/05/19 18:12
――――メンマ達が網の任務を受ける、一か月前。

鬼の国の森の中で、一人の忍びがうめき声を上げながら倒れ伏した。

「ば……け、も」

最後まで言葉を紡げないまま。
倒れた男の瞳の光が、消えた。

黒装束の男が一人、今動かなくなった忍びと、その仲間であり同じように倒れている白衣の忍びを見下す。
クナイを一振りして表面についた血を飛ばす。

「……ふん、他愛もない。所詮は小里の忍びか」

無様にすぎる、心底つまらなさそうに、言い捨てた。
その表情は仮面に覆われているため、伺い知ることができない。
ただ仮面の合間から、鋭い眼光が垣間見えるだけである。

「……見事なお手並みで」

闘いが終わったのを察知した、男の仲間である忍びがその場に駆けつけてきた。
全く同じ格好をしている。こちらは少し若い忍びだが。

「世辞はいらんぞ。それよりも、巫女の方はどうなっている」

「……はっ。変わりありません」

「そうか。変わらず、監視を続けろ。間もなく、網の諜報員が来ると聞く。油断はするなよ」

「承知しました」

「あと、あの二人を本部から連れてこい。場合によっては、必要になるやもしれぬ」

「承知。少し時間がかかると思いますが」

「出来うる限り、急げ。これを、あやつらの最終試験とするからな」

「……随分と早い」

「片方は、それなりの才能があるからな。問題はあるまい」

「はっ」

忍びは返事をしたあと、素早く去っていった。

「……全く。この忙しい時に、あの方は何を考えておられるのか」

男は遠く、ここにいない主に向け愚痴を垂れた。
首を振り、まあいいかと零す。

「貴重なサンプルであることには間違いないか。こいつらのような下衆共が何時現れるとも限らん。奪われぬようにせんとな」

両腕を振られた。その袖口から目に見えない程細い鋼の糸が飛び出でて、地面に転がっている4人の遺体へ巻き付いた。

男は手元の鋼糸を噛み締め、素早く印を組んだ。
結びの印は、虎だ。

―――火遁・龍火の術。

糸の上を炎が走った。
亡骸がまたたく間に燃えあがるり、やがて炭となっていった。

火葬された遺体。男はそれに一瞥をくれることもなく、ただ向こう側を見る。

視線の先は、鬼の国の国境地点。そして、男が見据えているのはその向こう側にあるもの。

「………来るならば来い。例え誰が来ようとも、渡しはせん」

骨まで灰になった遺体。それを風遁で散らして、男はその場を去った。















俺たちが鬼の国に到着して、数日が経過した。

俺とハルは商人の仕事を手伝いながらも、合間を見ては国内の様子を探った。
だが、何も見つけられなかった。

鬼の国の規模は小さく、村や町がある場所も少ない。
たった数日で、ほぼ全ての町を回れるほどだ。

明日行く、鬼の国最大の町である城下町が、最後となる。

「……今までの町の人間。特別、怪しいところは無かったな」

ハルが言う。

「見張りは消えていないけどね。ほんと、一体誰なんだか」

国境近くで感じたあの気配群、ここ数日の間にも数回現れた。
町を探索している時、移動中、場所を問わずにやってきた。

「目的は俺たちの監視だろう。何も仕掛けてこない、沈黙を続けているのは不気味だが……今は手を出さない方がいい。それよりも明日の事だ」

準備は出来ているか、とハルが訪ねてくる。

「一応は、ね。でも忍びは居なさそうだし、そう心配する必要もないと思うけど」

「そうだな……木の葉の忍びも、国境を越えることは無いようだし」

商売を手伝う合間、俺たちは手分けして調査にあたった。昼飯時、飯屋にいたおばちゃんやおっちゃん相手に、それとなく聞き込みをしたのだ。
町の人曰く、忍者を見かけたことは無いらしい。でも、油断はできない。
知らないだけというのはあり得るし、知って隠しているという可能性も無きにしもあらず。

もしかしたら、はいつでもありうるのだ。

「可能性だけいったってしょうがないだろ。確定情報が終わるまではおちおち帰られもしないんだから……ちっ、糞面倒くせえ」

ハルが愚痴る。俺もその意見には同意しよう。

一体どういう情報を得て、俺たちを派遣することを決めたのか。
余計な先入観は与えたくないと最低限の情報を与えられ、ここに送られた。先入観を捨て、怪しいと感じたらすぐに知らせるようにとのことだが、どうしたらいいものやら。

『巫女にもまだ会ってないし、ねえ』

そうだなあ。一応、鬼の国に巫女がいるってことは、町の人達の話で分かったけど。
今は国主に保護されていて、一人娘と一緒に城で暮らしているらしいが。

だが、その巫女の容姿までは分からなかった。それもそうだろう。国主だの巫女だのいうことは、町の人達にとっては雲上の話だ。城下町に行ったことのある者すら少ないらしいので、知らないのは当たり前だろう。
だが、一刻も早く巫女というのを見つけなければいけない。この国で不穏な動きが起きているというのなら、原因か元凶かは分からないが、渦中にいるのは間違いなく巫女だ。
その巫女がどんな容姿をしているのか、それが分からなければ探れない。聞き込みができれば話は早いのだが、商家の息子がそんな事を聞いて回るのはいかにも怪しい。
人知れず容姿をつきとめ、巫女がどんな性格の人物なのかを調べた後、周囲の状況と共に“網”へ報告するのが最善だろう。

(でも、巫女っていうからにはやっぱり巫女服を着ているんだろうか)

でも巫女服の定義がこっちとあっちの世界で違うし、やっぱり巫女服は着ていないのかもな。

『変わった格好をしていることは確かだろうね』

そこから突き止めるしかないか。城下町に普通に歩いているかもしれないし。
いざとなれば、城へ忍び込むのも手だ。









翌日の、正午を少し過ぎた頃、俺たちは城下町に到着した。

手形を見せ、町の入り口にある門を潜った俺とハルは、叔父という設定である商人、名前をゴロウというらしい、そのゴロウさんが構えているという店へと足を運んだ。
そこでまずは、商品の荷降ろしと整理を手伝う。その後は、ゴロウさんにこの町の見取り図を見せてもらい、城の配置、衛兵の駐在所などを確認した。
あと、話の通り、この国に忍びはいないらしい。関所にいた木の葉の忍びも、国境からこっち側にきたことはないらしい。

俺とハルは情報を整理した後、情報収集をするため、すぐに町へと探索に繰り出した。

二手に分かれて、それぞれに町を歩きつつ町の中の様子を探るのだ。
俺は東側で、ハルは西側。



調査して、二時間が経過した。
ここは城下町といっても小さなもので、一度だけ行ったことのある火の国の城下町の1/10程度の規模しかない。
二時間もあるけば、町の大体の配置と様子は把握できた。

パッと見の流し見調査だが、今のところは何も見つからない。
網の情報では、この国の内部で、なにやら不穏分子が動いているとのことだったが……。

「何もない、な」

反乱が起こるとか、そういった類の荒事が起きそうな兆候は無く、至って平和だった。
問題など何処にも無いように見える。だが、一つだけ気がかりとなることがあった。

(見られてるな……)

視線を感じる。一体誰に見られているというのか。
露骨に視線を向けているものはいないし、それとなく背後を探って見ても不穏な人影は見当たらない。
いつも通り、居るのは通行人、もしくは犬か猫だけだ。

―――いや。

(あそこの、路地裏……?)

こちらからは死角となっている、後方にある路地裏をのぞきこんだ通行人が、顔をしかめて去っていく。

(誰か居るのか……!)

俺を監視している奴かもしれない。すぐさまきびすを返し、早足でその路地裏へと向かう。

だが。そこで俺が見た光景は、全くだに予想しないものであった。

「………」

「「………」」

『『………』』

上から、俺、路地裏で愛を育むカップル達、マダオとキューちゃん。

全員が沈黙する。

(え、えらいもん見てもうたぁ……!)

そういえば路地裏を見て顔をしかめてるのは、年配のおっさんだった。
最近の若い者は、とか思っていたのだろう。とんだ勘違いだ。

「失礼しました……」

ごゆるりと、と言い残し、キスをするあべっく達を残して俺はその場を去った。





「路地裏には危険がいっぱいだぜ……」

額の汗を拭いながら、言う。

『町の東側で、城下町以外は探索し終えたようだけど、どうするの?』

「どうしようかな……」

西側はハルの受け持ちだし、今日はこれ以上することはない。商人の店で落ち合うようにしているが、集合時間まで一時間ぐらい残ってる。

茶屋に行くお金もないし、公園で一休みするか。






公園は町の中心部にあった。
端にあったベンチに座りながら、拾ったボールをぽんぽんとお手玉する。

公園の反対側には砂場やブランコなどがあり、それら遊具の周りでは子どもたちが無邪気に笑いながら遊んでいた。

(癒されるねえ)

本当に久しぶりに見る光景。俺はほうと息をはく。
この世界にきてからこっち、主に接しているのはヤクザ風味のおっさんか、いかにも影のありそうな人ばかりで、
あまりおおぴらに街中を歩ける身分でもない俺は、このような無邪気な子供の姿を見る機会がなかった。

(しかし、ブランコとかシーソーとかあるんだな)

忍者がいる世界で、ブランコとかシーソーかどうなんだろう。

日本だと忍者が活躍した時代といえば・・・そういえばいつから存在したんだっけか。
知らないな。でも戦国時代には有名な忍者が数多く存在したと聞くし、そのちょっと前か。

風魔小太郎、服部半蔵、加藤段蔵、猿飛佐助。一部創作のものがあるようだが、忍者が存在していたというのが間違いないだろう。

(まあ、この世界の忍者とは随分と様相が違うようだけど。一国を落とす忍者とか、聞いた事ないし。それ全然忍んでねーよ)

この世界の忍者ははっちゃけすぎであると思う。人の事言えないけど。

(しかし………)

ブランコを見ながら、考える。一体どういう過程を経てこれが開発されたのか。
不自然と思うのは、俺だけなのだろうか。
話に聞いただけで実際に見たことは無いのだが、ある地方では蒸気車なるものがあるらしいし。

映画もあるらしい。以前、一度だけいった火の国の中央部。その街並みを見た時は、本当に驚いた。
元の世界でいう、昭和後期に近い街並みとなっているのだ。

(大名、国主みたいなのが居る時代に、映画とか蒸気車とか、一体この世界はどうなっているのか)

文明や文化の進度が無茶苦茶だ。

『君の言いたいことはなんとなく分かるよ。でも、こうだからねえ。なんとも言い難い。あるいは、何か別の要因があるのかもしれないけれど』

まあそれもどうでもいいか、
なにしろ妖魔みたいなファンタジーが居る世界だ。何でもありといえば何でもありかもしれない。

俺にとっては、ラーメンという食文化があるだけで正直ありがたい。
特に不都合な点も無いから、別にいいか。

文化の進化に関することなんて、ラーメンの一万分の一程の興味もない。

魔界とか天界とか、そういうアレな世界でなければオールオッケーだ。

(……別に、人間の在り方が変わったわけでもないし)

子供達を見ながら、俺は呟く。

その集団に外れ、一人いる少女に視線をやりながら。


公園の中央で遊んでいる、子どもたちの集団。そこから離れて、たった一人でぽつんと立っている少女。
遠目からでも分かる、象牙色の美しい髪を持つ少女は、寂しそうな雰囲気を漂わせながら、遊んでいる子どもたちの方を見ている。

(何処の世界でもこういうのはあるんだな)

しかし、何で仲間はずれにされているのか。

そう思っている時、こちらにボールが転がってきた。

俺はちょうどいいと、ボールを取りにきた子に訪ねてみる。

「なんであの……そう、あの娘。仲間はずれにされてんの?」

砕けた口調で聞いてみる。

「え、だっておかあさんがあの子に近付いたら駄目って言ってたもん。だから、近付いたらだめなんだよ?」

「それはどうして?」

「……そんなの知らなーい。だめっていわれたらだめなんだもん。それよりボール返してよー」

「……あいよ」

腑に落ちないものを感じつつ、ボールを投げ返す。

「ありがとー」

俺にお礼をいうと、子供はきゃははと笑いながら集団の輪の中へと戻っていった。

「ううむ」

礼儀がゆきとどいている、普通の子供だ。親も別に、変な教育はしていないことが分かる。
ならなんで、あの子に近付いたら駄目なのだろうか。

(げ、泣きそうだ)

見れば、7、8歳の幼女は、うつむきながら肩を震わせている。

(……いかん、いかんですよ)

トラウマが蘇る。この身体、ナルトの奥底に刻まれた記憶と、俺の薄ぼんやりと残っている記憶が俺の胸をぎゅっと締め付けてくる。
俺も、昔は両親がいないということで、随分とイジメられたのだ。ナルトは言わずもがな。

忘れていた記憶が、うっすらと蘇る。

思い出したくない光景が、フラッシュバックする。
過去のトラウマの言葉が反響する。

―――近づかないで。あっちにいって。あんたなんか。九尾の。何でこんな子供が。来ないでよ。触らないで。殺せ。

ナルトと俺の記憶が混じり合い、嫌な部分だけが交互に乱雑に蘇ってくる。
子供は純粋だ。親のしつけを守る。あの年の子供ならば、害意はあるかもしれないが、明確な敵意はないだろう。
だが、敵意なく何かに害を及ぼすことができる子供は、違った意味での残酷さを持っている。

未発達な心は、相手の心を思いやることができない。自分が思うがままにふるまい、知らず相手を傷つける。
駄目だといえば、駄目だ。だが、絶対に悪いというわけじゃない。

(―――小難しいことを考えるより)

俺はベンチから立上り、その少女に近づいていいく。
そして、うつむいたままの少女へと話しかけていた。

「へい、そこのお嬢さん」

「………!?」

こちらに気がついていなかったのだろう。
驚いた少女の肩が、びくっと跳ねる。

「ええと、よかったら、だけど………いっしょに、遊ばないか?」

ボールを見せながら、言う。

「……」

少女は弾けるように顔を上げ、一瞬だけ顔を綻ばせた。

だがその直後、いかにも警戒していますという疑惑の視線を俺に向けてきた。
遠くからでは分からなかったが、この娘……。

(瞳が……これは、紫か?)

赤だの青だのは町中や任務中に見たことはある。だが、紫の瞳は初めてお目にかかる代物であった。
なすびのような、濃い紫ではなく、淡く綺麗な紫色。
どことなく高貴なものを感じる。そういえば、紫って高貴を表す色だったっけ。

見たことの無い、深い紫の瞳。
その目の端には涙がにじんでいる。水の切れ端が日光を浴びて、まるで宝石のように輝いていた。

「……お主、何者じゃ?」

「お主って………」

何処かで聞いた呼び方だな。

『……そこの抜作。ワシの事を忘れたか』

冗談だってキューちゃん。しかし抜作とはまた古風な。

「まあいいや。俺はイワオっていうんだ」

君の名前は、と聞いてみる。少女は警戒を解かないまま、名前だけを告げた。

「……紫苑」

「……しおん、シオン。ああ、紫苑か。確か花の名前だったよね」

名前のとおり紫の花だったような。

「それで紫苑ちゃん、なんであの子たちと遊ばないの」

紫苑は少し驚いた表情を見せた。何で驚いているのだろうか。

「……お主、妾のことを知らぬのか?」

「わらわっ!?」

時代劇ならともかく、自分の事を妾とな。

「……お主、この町の生まれではないのか」

「うん、違う」

だから紫苑ちゃんの事は聞いたことがない、と言うと、何故だが少し残念そうな顔をする。

「……そうか。だから話しかけてきたのか」

そして、思い違いであった、と呟きながらうつむく。

「遊びたいのであれば、あそこにいるあやつらがいるじゃろう……妾は、もう帰るから」

混ざりたいのであればあちらにしろと言いながら、紫苑はこちらに背中を向けた。

言葉のとおり、家へと帰るのだろう。振り向かず、肩を落としたまま、歩き出した。

(……えい)

去っていく紫苑の頭を目掛け、俺は持っていたボール投げつける。
ボールはゆるやかな弧を描いて、紫苑の頭に命中した。

「いたっ……お、お主何をするのじゃっ!」

紫苑がこちらに振り向き、怒鳴りつけてきた。

まあ、当たり前だろう。いきなりボールをぶつけられたのだから。
紫苑は、足元に転がっているボールを拾い上げ、思いっきりこちらの顔をめがけて、ボールを投げてつけてきた。

「遅いな」

俺はその飛んできたボールを、片手で受け止めた。
その後、紫苑を見ながら、にへらと笑ってやる。

「ああ、そうか。自信がないから混ざらなかったんだな。いやー、ごめんごめん」

気がきかなくてほんとすまん、と言いながらボールをバウンドさせる。

「何じゃと……!」

紫苑顔を赤くしながら、俺を睨み、怒鳴る。

「そんな訳が、なかろう!」

「……じゃあ行くぞ、ほらよ!」

俺の言葉に反応した紫苑に、素早くボールを投げつけた。

「くっ!」

胸元に飛んでいったボールを、紫苑は両手でしっかりと受け止めた。
運動神経は悪くないらしい。

「へえ、やるじゃん」

「ふん、当たり前じゃ!」

再び、力いっぱい投げ返してくる。

「おっと」

だが、ボールは上に逸れた。
俺は咄嗟に飛び上がり、そのボールをキャッチする。

「……違う、こうだ!」

しゅっとボールを投げる。ぱしりと紫苑がキャッチする。

「………」

紫苑はボールを受け取ったあと、そのボールを見つめながら沈黙する。

「……やめるか?」

笑いながら、俺は問う。

「いや」

紫苑が不敵な笑みを返す。

「なら勝負だ。当てられボールを落としたら1アウト」

ドッチボールのルールを説明する。

「どこでも狙っていいぞ。全部受け止めてやるから」

「言ったな!」

思いっきり振りかぶって、真っ直ぐ正面に投げてくる。

「……いけ!」

先程よりやや早く、ボールが飛んでくる。だがまだまだ、クナイに比べたら遅い。
余裕で俺は受け止めた。

「へえ、けっこう良い球投げるじゃん」

球に伸びがあった。
筋がいいなと褒めると、紫苑は胸をはりながら笑った。

「ふふん、そうじゃろうそうじゃろう」

投げ返された球を受け止めながら、紫苑が自慢げに言う。

その子供っぽい姿を見て、苦笑する。
沈んでいた先程とは違う、普通の“少女”の姿だ。

(なんだ、けっこうかわいい所あるじゃないか)

てっきり、ひねくれているせいで仲間外れにされていたと思っていた。
だが、どうやら違うようだ。

(……何故、仲間はずれに……子供達の様子も変だな。でもまあ、今はいいか)

「そこじゃ!」

今度は足を狙ってきた。だが、甘い。

「ほっ」

足元にきたボール。
その勢いを足で殺しながら、上へと蹴り上げる。

「っと。甘い甘い」

そして両手でキャッチする。

「そんなもんじゃ、やれないぜ」

ボールを手元で回転させながら言ってやる。
紫苑はますますムキになっていった。

「こら、早く投げぬか!」

乗せられ、その気になっている紫苑に向けて、俺は苦笑しながらボールを投げ返した。



―――それから、俺たち二人は公園の中で徹底的に遊んだ。

ちなみにドッチボール勝負は俺の完勝だった。

その後はブランコや、何故かあるジャングルジム。シーソーなどの公園にある遊具を使って遊んだ。砂場で城を作ったりもした。
少女は遊ぶということを経験したことが無かったのが、どれも最初はたどたどしく、不安気に遊んでいた。
だが時間が経つにつれ、子供らしい無邪気な笑顔を浮かべて、遊びに夢中になっていった。

ちなみに鬼ごっこはやめた。
鬼の国での鬼ごっこというのも中々おつなものだと思ったが、二人でやっても虚しいだけだからだ。
そういうものは大人になってから、砂浜で彼女とする行為だ。

『言ってて虚しくない?』

彼女いない歴=年齢の俺の臓腑を、妻子持ちであった勝ち組マダオが抉ってくる。
その痛みを無視しながら、紫苑の方を見る。

(でもこの娘、7、8歳にしてはかなりしっかりした感じだな)

この紫苑という娘、他の子供達より大人びている。親の教育の賜物だろうか。
初対面かつよそ者の俺を警戒していたのもあるし、家の者か誰かに、怪しい人には近づかないようになどということを言われていたのかもしれない。

(しっかし、良い顔で笑うなー)

可愛い顔立ちをしているのは間違いない。将来は間違いなく器量よしとなるだろう。この顔で二心ない笑顔を浮かべられれば、男はみなイチコロである。

(もし、俺に娘がいたらこんな気分になるのだろうかね)

考えたこともないが、それはきっと悪くないのではなかろうか。

『言ってて虚しくないか?』

その前に彼女を見つなければ話にならんの、と言いながらキューちゃんが笑いやがりました。

(ちくしょう、お前ら敵だ)

そんなことがありつつも遊び続けて、何時間が経ったのだろうか。

楽しい時間は、楽しければ楽しいほど疾く過ぎる。遊びはじめは青かった空、気づかぬ内に薄い橙色へと染まっていた。
カラスが飛びながら、あほー、あほー、と鳴き始める。

日が落ちた。公園が夕焼けに照らされている。さっきまでは見かけた少年達の姿も、今はどこにも見ることはできない。
それぞれの家に帰ったのだ。

『そろそろ、時間だよ』

(…あ、ああ)

マダオの声を聞いた俺は、驚いた。
今までに聞いた事の無いほどに、優しい声色だったのだ。戸惑いつつも俺は立上り、少女へと話しかける。

「……日が暮れたようだから、僕は帰るよ」

「もう、帰るのか」

紫苑が俺の顔を見ながら、残念そうに言った。

「いや、もう帰らなきゃいけない時間だから。君も、帰るの遅いとお母さんが心配するだろ」

「……そう、じゃの」

紫苑は複雑そうにしながらも、頷いた。
砂場からすっと立上り、手で服についた砂を払う。
その何気ない動作の中に、普通の子供とは思えない気品を感じた。
いいとこの娘なのだろう。

(目立つのは困るし、もう会わない方がいいのかもしれない)

そう判断した俺は、別れの言葉を告げる。

「それじゃあ、ばいばい紫苑」

「ばい、ばい?」

言葉の意味がわからなかったのか、紫苑は首を傾げながらこちらに訪ねてくる。

「ああ、さようならって意味だよ」

つまりは別離を意味する言葉。
その説明をしたとたん、紫苑の顔が少しだが、悲しみに歪んだ。

「……明日は、ここには来ないのか?」

言うつもりはなかったのだろう。思わずこぼれでたという感じの、小さい声で訪ねてくる。
顔は下に傾いた。視線の先に映るのは地面だけだろう。

(何処かで見たな………ああ、そうか)

    ・・
何時かのオレだ。

人の眼を見ない、自分の眼を相手の眼に合わせない。
諦めた仕草。何も見たくないと思う人間がする仕草だ。

(こんな、少女には。すごく、相応しくない)

俯いているせいで、顔が見えない。あんないい笑顔で笑うのに。

(駄目だな……ああ、くそ)

心の何処からか、苛立つ心が湧き出てくる。

「………」

空を見る。夕焼け空。鮮やかな茜空。

(逢魔が時ともいうし)

魔が差したのなら仕方ないな、と情けなく自分に言い訳をしながら。

俺は紫苑の方へ一歩、踏み出す。
そして心の奥底に隠していた言葉を、舌の上に滑らせた。

「……明日もまた。きっと、来る」

ふと出た言葉。曖昧なそれに、首を振り、かき消す。

見れば紫苑は顔をあげ、こちらを見ていた、

俺は紫の瞳を真っ直ぐに見つめながら、はっきりと言った。

「明日も。絶対に、来るから」

そういいながら、俺は小指を差し出した。

「………?」

紫苑はまた、首を傾げる。俺の言葉に混乱しているのか、おろおろとしていた。
挙動がすごく不信だ。俺は苦笑しながら、紫苑の手を握る。

(小さい………)

少女の手だ。柔らかく、白く、そして握れば覆い隠せてしまう程に、小さかった。

「……ほら、こうだ」

手を握りながら、俺は指きりげんまんを教えた。
これは約束を交わす時の作法なのだと、紫苑に説明をする。

「ええと、こうか?」

「そう」

小指が重なる。

「ゆーびきーりげーんまーん。嘘ついたら針千本のーます」

歌いながら、重ねた小指を上下に振る。今の俺と紫苑の背丈は一緒ぐらいなので、互いに引っ張られることもない。
俺は最後の言葉を結び、破らない約束を交わす。

「ゆーびきーったっと。これで信じたかな?」

「あ……ああ。うむ、信じたぞ」

初めてする行為なのだろう、紫苑は少し戸惑っていた。
だが、意味を理解したのか、また生意気そうな表情に戻る。

「明日は、負けぬぞ」

どうやら紫苑は、さきほどのドッチボール対決で完膚なきまでに負けたのを根に持っているらしい。

「このボールじゃが、持ってかえってもかまわぬか」

「……いいよ。練習してきたらいい」

それでも絶対に勝てないけどな、と言うと、紫苑がむきになって言い返してきた。

「その言葉、忘れるなよ!」

「おうよ」

紫苑の言葉に、親指を立てながら答える。

「ふん、それじゃあ………えっと、おい、イワオ」

「ん?」

「こういう時は、何と言えばよいのじゃ」

「ん、ああそうか。さっきとは違うし、まあ、ばいばい、じゃないか」

明日も会うのだから、別れだけではない。

「またね、だ」

「またね……」

「そう」

別離だけでなく、再会も約束する言葉。

「うむ、分かった。それじゃあイワオ、またね、じゃ」

「じゃ、はいらないよ。ほら手を振って」

紫苑は戸惑いながらも、見よう見まねで俺の動作をなぞった。なんとも幼く、可愛らしい。

「「またね」」

重なった二人の声が、夕焼けの公園の中を木霊した。


















小さい紫苑の背中を見送った後、俺は商人の店へと向かった。

「……また、か」

溜息をつく。
何故か、先程から道行く犬犬に睨まれて、吠えられるのだ。

「なんなんだ……?」

走りながら考えるが、分からない。そうこうしているうちに、家へ到着した。

「うげ……」

今日からしばらくやっかいになる商人の家を、その家の玄関にいる男の姿を見て、俺はうめきごえを上げる。。

「めっちゃ怒ってるな、あいつ」

俺が遅れて帰ったせいだろう。
ハルの顔には、怒りの表情が浮かんでいた。

「……随分と遅かったなあ。と、いうことはなにか収穫はあったと期待していいのか?」

「ないです。ありません」

ちょっと怖かったので下手に出て謝る。

「ちっ、役に立たねえなおい。その上遅れてくるたあ――」

ハルは忌々しげに舌打ちをしながら、説教をしてくる。
その後、親指でくいと家の中を指した。

「……まあいい。こっちは、いくらか分かったことがある。話しておくから、中に入れ」

「分かった」









そこから、今後の事について話しあった。

何でも、巫女は2、3年前に患ったという病を治すために、今は城の中で静養しているらしい。

行事にも顔を出さないというので、余程酷い状態なのだろう。

そのせいで、民が少し動揺していて、それが不穏な空気の原因かもしれないと、ハルが推測していた。

「城で求人をしている。年齢もちょうどいいし、俺が城の中に潜入し、巫女の情報や軍部、国主の情報を集めてくる」

ハルはそういった。7、8歳の外見でしかない俺には無理なことだ。さすがに、7、8歳の者を雇うほど城も酔狂ではないだろう。

「お前は外で情報収集を続けてくれ。万が一の場合は、網の本部へ連絡を頼む」

まあ、万が一なんてないがな、と笑う。



翌日、ハルは城へと行った。

「俺も、遊んでいるだけじゃあな」

約束の時間は午後だ。
午前は情報収集をしなければならない。

『今日はどうするの?』

「別の商店を探ってみる。何か、流通が変わっているかもしれない」

いってきますといい、俺は商人の家を出て行った。





一方その頃、城の中。

紫苑とその付き人、菊夜が、城の奥にある特別な一室で言い争っていた。そこは国主の血族に準ずるものしか使えない、特別な部屋。もちろん広く、奥行きも深い。
その広い部屋中に響き渡る程の大声で、二人は小一時間も言い争いを続けていた。

「ええい、離さんか菊夜! 何故よりにもよって……今日に限って……っ、遊びに行ってはいかぬというのじゃ!」

「駄目なものは駄目です」

羽交い絞めにしながら、菊夜は静かに言い聞かすように、駄目な理由を説いた。

「怪しすぎます。調べによると、その子は昨日の昼、およそ初めて鬼の国にやって来たらしいのですから。国に到着した数時間後に紫苑様に近づくとか、ありえません。絶対に何か裏心があるに決まっています」

「……なっ、取り消せ! イワオはそんな奴ではないぞ!」

いくらお主でも許さんぞ、と紫苑が怒る。

「あくまで可能性の話ですが……何故怒られるのですか」

「……」

「それと紫苑様、あの話はされたので?」

「……しておらん」

「そうですか……いえ、まあ」

菊夜もなんともいえなくなる。

「良いわ。それよりその手を離さぬか!」

「いいえ、離せません。危険ですから。外に出られるより、城の中で遊べばよいのでは……」

言いかけて、菊夜は再び言葉を止めた。
捕まえられていた紫苑が、上目越しに菊夜を睨む。

「すみません。失言でした」

「……良い」

二人ともが、互いに眼を逸らす。

「……それはそれとして。妾は往くぞ、絶対に往く。あそこまで言われたのじゃ。
 たとい遊戯だとして、あのような小童に舐められたままでは終われぬ。ご先祖さまに、申し訳がたたぬからの!」

少女はムキになっていた。昨日の完敗が、余程頭にすえたそうだ。

「……それでまた、昨日のように御服を汚すのですか?」

呆れたように、菊夜が言う。

「良いではないか、良いではないか! どうせ国主様がどうにかしてくれるのじゃろう!」

国主、と言った紫苑の声に、若干黒いものがまじる。

「それに、服を汚さずどうして遊べるというのじゃ。お主の言いたいことはそんなことではなかろうに」

「……分かっているのならどうかご自愛下さい。御身に何かあってからでは遅いのです。そうなればこの菊夜、弥勒様に申し訳がたちませんゆえ」

菊夜は膝達になり、深々と頭を下げる。

「うむ、その心配はないぞ。今回は大丈夫じゃ」

下げられた菊夜の頭を、紫苑が掌でぽんぽんと叩いた。

「……そうまでおっしゃるからには、何か根拠はあるのですね」

「うむ、妾の勘に狂いは無いからの!」

紫苑が胸を張った。自信満々である。

「………」

徐々に、菊夜の紫苑を見る眼が、何かかわいそうなものを見るものに変わっていく。

「………な、なんじゃ、その鼻をかんだあとのちり紙を見るかのような眼は」

「いえ、使用後の爪楊枝を見る眼ですが」

「なお悪いわ!」

二人はにらみ合いながら、沈黙する。

その静寂はしばらく続き、やがて菊夜は盛大に溜息をはきながらあきらめの言葉を発した。

「……はあ。仕方ありませんね」

「うむ、分かってくれれば良い。それではの!」

紫苑は従者の返事をまたずに、電光石火で回れ右をする。
部屋から出ようと、一歩駆け出した。

「お待ちください」

直後、走り出した紫苑の襟首を菊夜が後ろから引っ張る。

襟元で首をしめられた紫苑の口から、巫女らしからぬ「ぐえ」という声が出た。

「な、何をするのじゃ!」

「……くれぐれも。くれぐれもお気をつけになりますよう」

「そんなことは分かっておる! ふむ、菊夜は心配性じゃのう」

「そうです。心配なんです。本当ならば、お外にはお出にならない方が良いのですが……」

今はここにいても気が暗くなるだけですか、と首を振る。

「……お気をつけていってらっしゃいませ」

「うむ!」

紫苑は元気よく返事をすると、外へと走っていった。





部屋に残された私は一人、溜息をはきながら眉間にしわを寄せる。

「一体何が目的なのか……」

昨日の昼過ぎに紫苑様と接触した少年について、考えてみる。
少年について、昨日今日と色々調べてみた結果分かったことといえば、城下町に店を構えている商人の甥だ、という表向きの身分だけ。
裏の顔が見えてこない。

あるいは、一般人かもしれない。
今更、あいつらがそのような小細工をしてくるとも思えないし……。

(もしかしてあいつらの揺さぶりか。いや……?)

情報が少ない今、断言出来る要素は何もない。その少年が何者であるか、今ははっきりとは分からない。
もしかすれば、自分たちの助けとなる存在かもしれない。ならば、すぐにどうにかするという訳にもいかない。
八方ふさがりとなっている、現在の私たちの状況、それを打開できる鍵となるかもしれない。

今はワラにでもいいから縋りたい状況なのだ。万が一の可能性を手に握り締めるためには、慎重に、そして間違いなく見極めなければならない。
一つ一つ並べ、少年の正体がなんなのか。その結果どうなるのかを、大雑把に予測してみる。

(もし、小国の忍びであれば? ―――駄目だ、あいつらにはかなわない。あっさりと殺されて終わるだけだろう。
 もし、大国の忍びであれば? ―――力はあるはず。あるいはあいつらと対峙できるかもしれないが、泥沼は免れない。最悪、鬼の国に血が流れる。
 もし、ただの一般人であれば? ―――どうにもならない)

駄目だ。あまりの希望のなさに、頭を抱える。

(……しかし、紫苑様のあの喜びようは嘘ではなかった)

巫女の血筋である紫苑様は、持って生まれた勘も鋭い。見えすぎてしまう程に。
その者に邪気があれば、紫苑様は拒絶していただろう。事実、今までも何度かそういうことはあった。
だが今回に限っては、紫苑様は拒絶せずその者と遊ぶことにした。

一縷の望み。希望。あるかもしれない。

(絶望しかないこの状況で、光をもたらす者と成り得る可能性が……)

そこまで思いついてから、盛大に笑う。
ありえない事を思いついてしまった自分を、おもいっきり嘲笑う。窮地に現れ、何の見返りもなく助けてくれる。
そんなの、まるでヒーローだ。

(あるはずが無い。そんなもの、在りはしない)

英雄、ヒーロー。強きを挫き弱きを助く。
そんなものは、お伽話の中だけだ。

(都合のいい空想だ。妄想に浸っている余裕はない)

どうにかして、紫苑様を逃がさねばならないのだ。紫苑様を死なせはしない。己の生命を賭しても、例えこの手が血に染まろうとも。
その覚悟は既にできている。問題となるは、賭けるタイミング。

(まだ、打開策は無い。口惜しいが、今は待つしかないか……)










遊びつつの情報収集。
手応えのないまま、一週間が経過した。

一週間が経過したある日、俺は紫苑と二人砂場で城を作っていた。

昨夜小雨が振ったせいで、砂場は少しの水を含み、固まりやすい状態になっていた。
絶好の機会。そう考えたと、兼ねてから考えていたことを実行に移した。

俺と紫苑はスコップを片手に、次々と城を作り上げて行く。

その日は快晴で日差しが強く、照らされた俺たち二人は作業を進めていくうちに、いつの間にか汗だくになっていた。
しんどい。暑い。だるい。

―――だが、妥協はしない。
丁寧に基礎を固め、土台を作り、外壁をスコップで叩いて固める。

やがて数時間が経過した後。城は完成した。

「終りだ! できたぜ」

「やったのう!」

二人で喜びを分かち合う。

その、一瞬だけ眼を離した時。

黒い影が、俺の脇を通り抜けた。

破砕音。

「え………」

予期せぬ出来事が起こり、俺は呆然とする。

紫苑と一緒の完成させた城、その名も、砂の城“ラ○ュタ”。
それが、突如乱入してきた少年に蹴り倒されたのだ。

『築かれた、砂上の楼閣、蹴りに散る~』
マダオ煩い。

蹴り倒した少年はいつも公園で遊んでいる少年軍団のリーダーで、つまりはガキ大将だ。
完成した途端、砂の城に「どーん」と前蹴りを放ったガキ大将。そいつはそのまま砂を踏みにじって、俺と紫苑の前に立つ。

「おれよりめだつやつはゆるせねえ」

訳が分からない。何だこいつは。

俺は少年が行った非道に対し、「子供のやることだから」と思いにこやかに応じつつ、「まあ気持ちは分かるし、砂の城があると崩したくなるよな」という、大人な対応を―――

「許さん……」

―――するはずもなく。

「……絶対に許さんぞきさまらー!」

力の限り叫ぶ。僕は怒った。嘘ではない。
マジと書いて真剣というやつである。

『世界が灰燼に帰す日……!』

すべてが厳しく、裁かれる。
怒りの日、来れり。

だが少年は俺の怒りを見ても臆すこと無く、蛮勇を振るう。

「へっ、じょうとうだ! だいたいおまえきにいらなかったんだよ! しんいりのくせにえらそうにしやがって! それにっ……」

少年は紫苑の方をちらりと見た後、またこちらに視線を向ける。

「……けっ、じじょうなんてどうでもいいから、さっさとかかってこいよ! ええと」

ガキ大将は俺を指差しながら口ごもる。

「おれのなまえはたけしだ! おまえのなまえは!」

(くっ……)

おかしくなり、口の中で笑う。

(どうやら親の教育はゆきとどいているらしい。自分の名前を名乗ってからこちらの名前を訪ねてくるとは……!)

堂々と、目の前で名乗られたのだ。

(ならば、名乗らなければなるまい……!)

立上り、俺は宣言する。

「―――天空宙心拳正統伝承者。リュシータ・トエル・ウルムナフ・ボルテ・ヒュウガ!」

天空宙心拳。
それは太古の昔に天空を制したという、かのラピュ○王が編み出した、伝説の拳法であるっ………!

『シータ無双乙』

オープニングでパロを撲殺するヒロインって素敵だと思うんだ。

『あと混ざってるから。ウルムナフって誰』

(自分、一応ハーモニクサーですから)

そうだろ、甚八郎。

『だれっ!?』

そうだろ、天凱凰。

『ワシかっ!?』

(―――それはひとまずおいといて)

俺はたけしと対峙する。

「○ピュタは滅びぬ! 何度でも蘇るさ! 故に私に敗北は無い! 少年、君の蛮勇に敬意を表して、先手は譲ろう」

すっと構えを取る。

「3分間、待ってやる!」

全て避け切ってやる、と大人気ない本気を全開にする。

―――だが。

「すきあり!」

不意に、少年がしゃがみこむ。
そして。

「目が、目があああぁぁぁぁ!?」

地面の砂を投げつけてきたのだ。まさかの初撃目潰し。
油断をしていた俺の眼に、砂のシャワーが見事にヒットした。

俺は痛む目を抑えて転げ回る。

「みなのもの、かかれいっ!」

そこで、少年軍団が一気攻勢に出てきた。

「ふははは、かてばよかろうなのだぁぁぁ!」
「ひんじゃく、ひんじゃくぅ!」
「さいこうにはいってやつだあぁ!」

転がっている俺をぼこぼこと踏みつけてくる子供達。おい、一対一じゃなかったのか。
前言撤回、こいつら質が悪い。しかし兵法を心得ているといえよう。

『余裕があるね』

(だって全然痛くないもの)

「シータぁ!?」

紫苑が悲痛な叫び声を上げていた。しかも律儀なことに、偽名を言ってくれている。

(ああ、別に全然痛くないんだけど、やっぱり心配か)


なら仕方ないなー、と立ち上がろうとした時である。





「待てっ……!」




再び現れる、別の乱入者。

ジャングルジムの頂点で二人、兄弟らしき少年達が二人、ガキ大将を指さしていた。




「そこまでだっ! それ以上はこのオレが許さん!」


少年の金の髪は陽光に照らされ、眩しいほどに輝いていた。





[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 劇場版・Ⅱ その参
Name: 岳◆5bf56ac5 ID:6d0af7c1
Date: 2010/05/19 18:16


「くっ、おぼえてろよおまえらー!」

ぼろぼろになったたけしが、捨て台詞を残して逃げて行く。少年軍団もたけしの後をおいかけて、逃げていった。

「へっ、おとといきやがれ!」

金髪の少年が腕をあげながらたけし達に向かって叫んだ。さきほど乱入して助けれくれた少年。年は俺と紫苑の一つ二つ上だろうか。
活発で元気なやんちゃ小僧といった感じだ。

「勝ったね、兄さん」

その横では、黒髪の少年が隣にいる金髪の少年へと笑いかけていた。年の頃は俺たちと同じくらい。
兄と顔立ちも似ている。兄弟なのだろう。

「よっと」

立ち上がり、服についた砂を払う。急所は外していたので、身体は何処も痛まない。踏まれていただけなので、血もでていない。

(しかしとんだ災難だったな)

まさかあそこでああいう手を使ってくるとは。たけし、恐るべし。

「大丈夫か、イワオ」

紫苑が心配そうな顔でこちらを見る。俺は笑いながら大丈夫だと言った。

「へえ、丈夫なんだな、お前」

「それが取り柄でね……えっと」

金髪の少年に呼びかけようとするが、名前が分からない。
俺は自分の名前を名乗り、その少年の名前を聞いた。

すると少年は少し考える様子を見せたかと思うと、隣の弟に目配せをする。

「……兄さん。いくら兄さんが馬鹿でも、自分の名前は忘れたりはしないよね」

弟君が笑顔で話しかける。兄はその笑顔に何を見たのか、ぶるぶると震えだした。
つーか自分の名前を忘れるとは何事だ。記憶喪失か、記憶喪失なのか。

「はあ……まったく。えっと、僕の名前は才蔵っていうんだ。こっちの兄は真蔵」

才蔵に、真蔵ねえ。

弟は可児才蔵か、霧隠才蔵かコノヤロー。猿飛佐助は何処いったコノヤロー。
兄は服部真蔵か、天草四郎時貞かコノヤロー。

「うん、良い名前だね」

でもFoo!Foo!言わないでね、と弟君に言うと首を傾げられた。当たり前か。

「それはそうと、危ないところを助けてくれてありがとう」

「気にすんな! 弱いものいじめが大っきらいなんで、ただ見逃せなかっただけだぜ」

「正しくは見過ごす、だよ兄さん」

「うっ、そうなのか」

悪い悪いと弟に謝る真蔵。しっかりものだなこの才蔵少年。いったいどっちが兄なんだか。

横をみれば紫苑がくすくすと笑っていた。この兄弟のやり取りが面白いのだろう。
紫苑の笑顔を直視した才蔵少年の頬が、少し赤くなった。少しどもりながら話しかけてくる。

「え、えっと。よかったら一緒に遊ばない? 僕たち最近引越してきたばかりなんで、友達がいないんだ」

あ、成程。助けてくれたのはそういう訳か。

(つまり、きっかけが欲しかったのか?)

『ん、最近は二人の世界に入っていたからねえ』

マダオうるさい。あとそれは気のせいだ。

『ふ~ん』

マダオがニヤニヤと笑っている気配がする。
ちっ、このマダオ、いつかお前の額に禿と書いてやる。

『なにその微妙な嫌がらせ。三代目みたいにハゲたらどうするのさ』

いいじゃん。額で反射した光使って木の葉を照らせば。

(って三代目ハゲなのかよ)

『う~ん、でも五影って心労がもの凄いからねえ。大名と交渉したり部下の無茶をたしなめたり、時には戦争もあるし』

つまりあれか。心労のせいで前髪後退して、デコが出ている人が多いのか。

(五影ならぬ……五禿?)

今明かされる衝撃の事実………!

(そうか、だからあの人達は傘をかぶるのか)

知らなかったぜ。できれば知らぬ内に一生を終えたかったよ。寂しすぎる、そんな事実。
カゲだけにケガないなんて。

『つまらんぞ』

厳しく突っ込んでくるキューちゃん。

『……真理は常に人の心を刺すんだね』

難しいことを言いながら遠い目をするマダオ。

『うーむ。五禿か。勝てる気がせんのう』

キューちゃん、五列に並ぶ禿忍者戦隊を空想してしまったようだ。
俺だってそんなのと戦うの嫌だよ。奇面フラッシュとか使ってきそうじゃないか。

『怖っ!』

五影、不憫すぎやしないか。心身共に修行に修行を重ね、仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌を備えたものが影になれるらしいが、裏ではもれなく禿がついてくるとか。
そんなの、あんまりだろ。

『仁・義・礼・智・忠・信・禿・孝・悌………』

複雑そうにマダオが呟く。混ぜるな自然。一瞬探してしまったじゃないか。ていうかこんなこと言ってると五影の人達にブッ殺されそうなんだけど。

『ちなみに麺影は?』

麺・汁・豚・鶏・魚・菜・貝・卵・腕だ。

『……難創里見八麺伝?』

伝説の麺を求めて、俺たちは往く。なんつっ亭。

『……お主ら、いい加減返事をしてやらんか』

キューちゃんのツッコミが入る。あ、そういえばそうだったね。

俺は気を取り直して才蔵に返事をした。もちろん、答えはイエスだ。

「紫苑も、それでいいかな」

聞いてみる。

「うむ。こやつら、悪しき者ではなさそうだしのう」

「じゃあ、決まりだね。人数増えたし、違う遊びをしようか」





「……帰ったか」

商人の家へ戻ると、ハルがまた不機嫌な顔を浮かべていた。何かあったのか聞くと、ハルは不機嫌な声で不機嫌になっている理由について説明をする。

「前代の巫女について、いくつか分かったことがある。名前は、弥勒という」

ハルは一端間を置いて、その後はっきりと言った。


「だがその弥勒は、2年前に死んだ」


「死んだ……原因は? 静養しているのではなかったのか。それに、何故民がその事実を知らない」

「……知らせれば民が動揺すると考えたんだろうな。だから表向きは生きているということにした」

「……だけどそんなの、時間稼ぎにしかならないだろう」

このまま表に姿を見せなければ、ますます動揺は深まっていくだけ。いったい何の意味があるというのか。

「いや、そうでもない。言ったろ? 前代って」

ああ、そうか。

「今代の巫女はもういるってことか。でも何でその……今代の巫女か。そいつは表に姿を見せないでいる」

「いや、見せているさ。代替わりをしていること知らないだけだからな。今代の巫女の存在については、民は元から知っているんだ」

「存在を、知っている?」

どういうことだろうか。そう思う俺に対し、ハルは説明を続けた。

「今代の巫女は、前代の巫女の娘だよ。巫女は血筋で決まるらしいからな。それで、その娘の名前だが……」

嫌な予感がする。だが、聞かないわけにもいくまい。俺は覚悟を決め、ハルに続きを促した。


「今代の巫女、弥勒の娘の名前は……紫苑という」

「……紫苑、か」

まさか、という思いは少ない。やはり、という方が大きい。
薄々と感づいてはいた。気づく要因もあった。

(だが実際に口に出されるとな)

複雑な感情がわいてくる。
そんな俺に構わず、ハルは話を続けた。

「巫女の能力についても分かった。こちらは確定情報ではないんだがな。一つ目、大昔に大陸を滅ぼしかけたという化け物、それを封印できる程の封印術を扱えるらしい」

そういいながら、ハルは肩をすくめる。それもそうだろう。
封印術に類されるものは、どれも高等で強力。世界を滅ぼせるとかいう、規格外な化物を封じ込められる程の術となれば、それこそ表でも裏でも有名になっていてもおかしくないはず。

だが、巫女のことは一般にも、各里にも知れ渡ってはいない。
それは何故か。初代火影の功績もあるのだろうが、実際のところは違う。

「…そんな化け物なんて、誰も聞いたことがないからな」

「だから封印術についても眉唾もの、扱えるとは限らないということか」

「ああ。そして、二つ目は……こちらも怪しいんだがな。でも実際にあったことらしいので、一つ目よりは確実といえる」

「実際にあったこと……封印と何か関係があるのか」

「いや、また微妙に違う。二つ目の力は、人の死を予言するというものだ」

「……予言、か」

『ん、予言と聞くと蝦蟇仙人を思い出すね』

自来也に告げたという予言。それに類する力なのだろうか。

「そのためか、代々の巫女は民から距離をおかれているらしい。それもそうだ、誰も己の死をつげられたくはないからな」

「それには同意する」

死というのは、人間にとっては最大となる恐怖だ。それを告げる人間に対し、恐怖心を持たないはずがない。

(死神みたいなものか。だから親は自分の子供達に、紫苑や巫女には近づくなと言ったんだろうな)

予言が確実であればあるほど、告げる言葉は重みを増す。実際にあるかどうかともかく、可能性として考えるだけで怖いのだろう。

実際に予言が当たって死ねば………巫女に殺された、と勘違いして騒ぎだす者が出てくるかもしれない。
予言したから死んだ。つまり殺されたと連想してしまうかもしれない。

つじつまがあわない、正気では思いえないことだが、大切な人を亡くせば誰だって正気ではいられない。
そのごたごたを避けるために、紫苑から遠ざかるのかもしれない。

(……諦めた理由はそこか)

積極的にいけない。つまりは一人でいる事を自分で決めたのだ。
近くで見ているだけ、それだけいいと考えていたのかもしれない。

「不穏な動きについても分かった。巫女の死を知った国がある。まあ小国だが、一応は忍びを保持しているらしい」

「……代替わりの時を狙って……一体、何をしようってんだ」

その小国の忍びが何をしようとしているのか。
ある程度予想はできるが口に出したくない俺は、ハルに聞いてみた。

「小国は大国に負けたくない。だから大きな力が欲しい。今代の巫女はまだ幼く、未熟だ。前代ならば不可能だったが、今の巫女ならば容易く捕まえられる。言う事も聞かせられる」

つまりはそんなところだろう、と言いながらハルは肩をすくめた。

「……つくづぐ度し難いな。忍びってのは」

頭痛がするので、頭を抑えた。あんな小さな娘をさらって、いったい何をしようってんだ。

「あんま、俺たちが言えた義理じゃないけど。そしてまだ一つある。その巫女を護衛する者がいる」

「護衛……忍びか?」

「ああ。名前を菊夜。代々続いている、巫女を守護する忍びの家系で……何でも、忍犬を扱えるとか」

「……国境近くで俺たちを見張っていたのはそいつか!」

あれは忍犬の群れだったのだろう。見張っていたのだ。

「恐らくはそうだろうな。それで、力量について、俺が実際に見た感想をいうと……最低でも中忍クラスだ。だが恐らくは特別上忍クラスで………悪ければ上忍並の力を持っているかもしれない」

「なんか、はっきりしないな」

「俺は忍犬使いとは直接戦ったことが無いからな。力量についての勝手が分からないんだよ。身のこなしからいえば、中の上ぐらいだ」

有名どころで言えば木の葉の犬塚とかあるけど、忍犬使いが犬を使ってどこまで強くなるのか何て知らん、とハルが首を横に振った。

「襲ってくる小国の忍びも、その護衛が全部屠っているらしい。こっちは城の中の一人に金掴ませて聞き出した話だ」

「……で、俺たちはこれからどうするんだ」

「俺はもう少し、城の中を探ってみる。国主が何を考えているのか分からないからな。明確な対策も講じていないし、本心を確かめる必要がある。ボスに報告するのはそれからだ」

「ああ、こっちもそうしよう」

あと3週間。調査を混じえ、できるなら紫苑を守る。
ザンゲツは巫女をさらわれることを良しとしないだろう。あの時の声は、心配の色を帯びていた。

(まあ、それが無くても、紫苑をさらわせる気などさらさら無いけど)

つまりやることは変わらない。

良かったと思いながら、俺はハルと2、3方針を話し合い、部屋を後にした。








――次の日。
昨日約束したとおり、俺は、紫苑、真蔵、才蔵と遊んだ。

たけし率いる少年軍団と場所の取り合いになることもあった。そのたびにドッチボールや探偵で対決をした。いろはにほへと、ぬをわかよた。

特に探偵では紫苑の勘が冴え渡った。

「大丈夫じゃ」の一言、何の根拠もないのだが、ことごとく当たるのだ。
こちらは4人と少なかったが、人数の差はちょうどいいハンデとなった。

金黒兄弟もこの年齢にしてはいい動きをするので、例え相手が10人でも遅れをとることはなかった。むしろいい勝負になった。
子供の遊びなので基本俺はチャクラを使っていないし、力も十分の一に抑えている。

また勝ちすぎても角が立つので、時には負けるようにしていた。

その時は公園のベンチで色々と話をしたり、買い食いをしたりして遊んだのだが。

ちなみに3人にした話とは、俺の好きな物語のこと。
この世界に来てからは特に、ことあるごとに思い出すようになった英雄の話だ。

運命を呪いながらも、戦い抜いた女の話。ただの人間から生まれ、英雄まで上り詰めた女の話。
世界を越えていい男を追い続けた女の話。精霊回路を全身に刻み、それでも走り続けた女の話。
究極の運を持つようにと、改造された女の話。大切な人達に不幸を振りまきつつも、それでも前に進もうとする、いい女の話。

紫苑は特に3番目の話が好きだった。

「明日はきっといい日だ、か」

「“暗い夜に、どこまでもくらい時は、歩けばいい。東に行けば朝が近づく。一歩歩けば一歩分。二歩あるけば二歩分だけ”」

今の俺にとっては、本当に力になる話だ。先の見えない今の状況、そして化物のような忍者と対峙しなければならない未来。
修行の辛さもあって、たまに心がくじけそうになる。

でも、この言葉を思い出すだけで元気になれた。
世界が変わったからといって、好きな言葉の意味が変わるわけではない。
疲れ果てながらも戦った女の話や、それがどうしたと走り続ける女の話。明日は良い日だと言いながら歩き続ける女の話。
今は記憶の中にしか残らない話。でも、確かに残っている。

英雄譚はいい。負けてなるものかと、そういう風になりたいと、思い出す度に思わせてくれる。挫けそうな心を奮い立たせてくれる。
臆病な俺が玖珂光太郎のような存在に成れるはずもないが、憧れるだけなら良いと思う。

真蔵も光太郎の話が好きだと言っていた。それはそうだろう。男に生まれたのなら一度、ああいう風に生きて死にたいものだ。
あとゲンの話も好きらしい。頭の悪い所で共感できるのだろうか。そう言ったら殴られた。才蔵も頷いていたのだが、そっちはスルーしていた。
弟に頭があがらないのようだ、この兄。

才蔵は軍神タカツキの話が好きらしい。色々と共感できる所があるのだとか。
もしかしてあれか。君にとってのウラル・カナンは真蔵なのか。強く生きろよ真蔵。

「はー、でも、イワオは色々な話を知ってるんだなー」

真蔵がうんうんと頷きながら言う。

「いや、本屋の絵本とかも参考にしたけどね」

こっちの世界にも、俺の知っているものとは別だが、大昔の伝説をモチーフにした英雄譚はあった。
世界を覆う闇を払った英雄の話。山ほどある化物を一人で屠った英雄の話。

(こういうのは何処にでもあるもんだな)

『僕もね。小さい頃は初代火影様や二代目、三代目の話を聞いて、憧れたもの』

男なら、か。胸が熱くなるな。

『ん、でもこれは……六道仙人のことを書いているのかもしれない』

解釈を進めていくうちに、マダオがそんなことを呟いた。
なるほど、忍宗を広めた六道仙人ならば、化物のひとつやふたつ倒したことがあるのかもしれない。
初代火影の話や、初代火影の一族、千手一族のことかもしれないが。

「でも兄さん、聞いた物語のこと、ほとんど覚えていないでしょ」

「う」

図星をつかれたらしい。胸を抑えながら後ずさる。

「う、馬鹿にすんな! 大事なところは覚えてるぜ!」

「……本当に?」

7才児の弟に疑われる兄。見ていて少し不憫な気持ちになった。

「まあ、いいじゃん。それに今は駄目でも、何時かはきっと……頭が良くなるよ」

菩薩の笑みを浮かべながら親指を立てて、言ってやる。

「うう、励ましてくれてありがとう」

真蔵は滂沱の涙を流した。前半聞いてなかったのか。都合いいところしか聞いていなかったのか。
うん、馬鹿って素敵。だって無敵だもの。見ていて和むよね。

「でも、兄さんにも良い所はあるよ」
俺の思いに同調したのか、才蔵がそんなことを言う。言われた当人は「え、何処?」と不思議がっているが。

「お主……」

紫苑が憐れむような視線を送る。
俺も送る。才蔵は何かを慈しむような目をしていた。

「……ちくしょう、おまえら。そんな目で俺を見んな!」

真蔵が腕を振りかぶりながら、怒る。

「まあまあ。で、真蔵の良い所って?」

長く一緒にいた弟ならば、知っているのだろう。
才蔵に聞いてみると、笑いながら答えてくれた。

「うん、僕を笑わせてくれるところとか」

「「なるほど」」

紫苑と二人でうなずいた。確かに、真蔵の行動は見ていて楽しいもんな。

―――そうか。弟にとって兄は芸人という立ち位置なのか。

「うう……」

真蔵は膝をついてまた泣いた。そこに、才蔵がフォローを入れる。

「うそ、うそだよ。僕を引っ張っていってくれるところとか、見ていて楽しくなるところとか、夢いっぱいなところとか、他にも色々あるよ」

だから元気を出して、と笑いながら弟が言う。

「まあ、確かにのう」

それは俺も紫苑も認めるところだ。負けず嫌いなところや、目立ちたがりなところもあるが、真蔵の根は真っ直ぐだ。小気味よい行動は、見ているだけで心地よいもの。
ちらりと紫苑がこちらを見ているが、なんでだろうか。


――そんな、漫才を繰り広げているうちに今日も日は暮れ、帰る時間となった。

互いにまたねと言いあいながら、それぞれ帰路についた。










「夢、か」

帰る途中、俺はさっきの才蔵の言葉を思い出した。

「そうだな」

今は修行を優先していたが、たまにはいいかもしれない。

俺は帰ると、商人にあるものを取り寄せてほしいと頼み込んだ。

たまにはこんなことをしてもいいはずだ。

『ん、でも意外だったよ』

(何が? ラーメンを作りたいと思うことがか?)

『いや、あの3人。紫苑とあの兄弟とのこと。調査を優先すると思っていたし』

(ああ……まあ、一ヶ月ぐらいはな。調査もしているし、いいじゃないか)

『寂しいの?』

マダオが唐突に聞いてきた。予想していなかった言葉を聞き、身体が硬直する。

(どうしてそう思う)

『だって、君は元は一般人だからね。鍛えられた忍者ならともかく、正体を隠し続ける生活を2年も続けていたら普通、寂しいとか辛いとかいう気持ちが出てくるよ』

(……隠していたつもりだったけど)

ばれていたらしい。マダオは仕方ないよ、と言う。

『現在の状況が状況だからね。油断なく話せる相手もいない、それでも修行を続けなければならない。疲労も溜まっているだろうしね。
 そういう時は故郷か、恋人か、友達を思い出すものだし』

(それは、経験談か?)

『戦時に懐郷の念が膨らんでいくのは、普通のことだと思うけど』

だけど今の俺には帰る場所がない。
故郷は遥か遠く、異次元の彼方。それならばせめて、と思ってしまっても……いいのだろうか。考えが甘くないだろうか。

『……良い悪いで言えることじゃないかなあ。それに、みんなにご馳走するんでしょ?』

(ああ)

『だったら、僕には頑張れとしかいえないよ』

(おう、頑張るぜ。できるならばお前とキューちゃんにも食べさせてやりたいんだが)

『ん、ある程度なら、感覚は共有できるから』

『……まずいものを食べさせたら承知せんぞ』

キューちゃんがプレッシャーをかけてくる。

(うう、ブランクもあるしなあ……)

正直、今回に限っては、自信をもてない。調理具にも元の世界とは違う、なじみのない素材もあるし。

(保険は用意しておくか……)

狐と言えばあれだろう。
先程、キューちゃん用にとあるものを取り寄せてもらったのだが、きっとうまくいくはずだ。

(麺の方もなあ。ちゃんと修行できたらなあ)

積み重ねたものはあるが、十分ではない今、100%の自信が持てないのだ。屈辱である。今は忍者の技術を鍛えなければいけないので、仕方ないのだけれど。

(いっちょ、やってみますか)

頬を張り、気合を入れなおす。目標はいつも変わらない。
食べさせる全員に美味しいと言わせることだ。

その一言のため、俺は今出せる全力を尽くそうと、心に決めた。













それから、二週間あまりが経った後。
その日も俺は紫苑達と遊んだ。そして、その帰り際。

俺は紫苑達に「明日は家に遊びに来ないか」と誘った。

「う~む……菊夜が許してくれるかのう」

紫苑が呟く。

「え、なんか言った?」

聞き取れなかったため、聞き返したのだが、紫苑は何でもないと言って、首を縦に振った。
真蔵達もOKらしい。



そして、次の日。

「遊びに来たぞ!」

「遊びに気ました」

紫苑と………あと、なんかいる。

18くらいだろうか。黒髪の短髪、黒の吊目。
物腰はなるほど、忍びのそれだ。一目見て分かる。

体術もかなりの腕だろう。この人が菊夜か。

(まあ当たり前か)

家の中では何が起こるか分からないものな。別に今日何をするわけでもなし、不都合な点もないので俺は普通に紫苑に聞いてみる。

「この人は?」

「うむ、妾の護衛での。菊夜という」

「そうなんだ。こんにちは菊夜さん、初めまして」

「ええ、初めまして。それで………護衛と聞いて驚いた様子も無いけど、君は紫苑様のことを知っているのね?」

「ええ知ってますが、それが何か」

「そう……なら、いいわ。それで今日は何をするのかしら」

「いえ、俺の作ったラーメンを食べてもらおうと思いまして。あ、菊夜さんも食べます?」

言うと、護衛の人は目を点にしていた。なんか驚く要素があったのだろうか。

少し考えた後、菊夜さんは「頂くわ」と返事をする。

「お前らも食うだろう?」

「いいのか!?」

「あたりまえだろう。ていうか連れてきてそこで食べるの見てろとか言うわけ無いじゃんよ」

「それもそうですね」

4人を座らせる。仕込みは既に昨夜の内にすませていた。

ちなみに今日の朝、ハルにも食べさせたのだが、素直に旨いといってくれた。
その時のやり取りを思い出し、少し笑う。




「ゴロウ殿にに何か頼んでいたのは知っていたが……何を作ったんだ?」

「ラーメン。ハルも食べるか?」

「………いただこう」

少し考えた後、ハルはラーメンを食べだす。

「これ、もしかしてあのおばちゃんとこの?」

「ああ、真似してみた。全然あれには及ばないけどな」

「へえ、お前も常連だったんだ」

「あの人の作る料理、美味しいからね。でも、“も”っていうことはハルもか?」

「ああ。ちょうどこの任務に入る前に行ったところだ。でも、これも結構いけるな」

「………一応、俺なりのアレンジは加えたんだけどね」

でも深みが足りない、と愚痴る俺に、ハルは十分にいけると返してくれた。

「お前にこんな特技があったとはな。もしかして、将来の夢はラーメン屋か?」

ハルが笑いながら冗談交じりに言う。

「そうだ。そのために網に入ったんだよ」

「冗談きついぜ。そんな凄え変化の術を持っておきながら、ラーメン屋? いや、だからこそ有り得るのか」

苦笑を返された。一応本当のことなんだが、絶対に信じていないなこいつ。

『そりゃあねえ。信じないでしょ』

「ご馳走様。旨かったよ。出来ればまた食べたいね」

「そいつは少し難しいな。材料に限りがあるし、金に余裕も無いんでね」

「いつかでいいぜ。この任務が終わってからなら、いけるだろ」

「ああ、機会があればな」

そういうと、ハルは笑って「応」といいながら、出かけて行った。



湯の沸騰する音で、回想から覚める。

「……いつか、になるのか」

思わずつぶやいてしまった。
本格的な店を開けないのが口惜しい。金も腕も足りないからな。

そう思いながらも、スープを見る。今出来る自分の全力を出しきれたと言い切ってもいい。
あの無愛想で不機嫌になりやすいハルが旨いといってくれたのだ。
これならばいけるはず。


俺は湯をわかし、麺を湯に入れた。

一定時間経過した後、さっと湯から上げてすぐに湯切り。

(身体が小さいのでやりにくい)

四苦八苦しながらも、何とか麺と汁と具を盛り付ける。

「出来た!」

チャーシューと具と菜が入り乱れる。
ラーメンのお待ちどう。

紫苑、真蔵、才蔵、菊夜。4人の前に丼を置く。

「さあ、召し上がれ」

4人ともが食べ始める。

最初はおっかなびっくり。やがて箸が止まらなくなる。

「……旨いのう!」

紫苑がそう言ってくれた。

「旨いぜ!」

「これは………確かに」

真蔵、才蔵が言う。

「………」

菊夜は無言のままだが、箸とレンゲは止まらずに動き続けていた。

(………っしゃあ!)

心の中でガッツポーズ。この瞬間に代わるものなどない。そう思わせる、4人の感想だった。

「われながらよくできたよ……どれ」

と言いながら、俺も食べ始める。
キューちゃんとマダオのためだ。

―――だが。

『うむ、確かに形は整っておるが、あと一味足らぬのう』

『………たしかにね』

お子様評価、お友達評価ではなく、この二人は真実を言ってくれた。俺の望む最終地点を知っているからこその一言だろう。
俺は真摯に受け止める。

『確かに、味の良さは出ているが、深みが足りぬ。これではリピーターなど望めんぞ』

『同意しようか。それに、一部味が濃すぎるところがある。要検討だね』

(ふむふむ)

取り敢えず、メモする。

二人の評価を聞きながら、紫苑に聞いてみる。

「旨いか?」

「うむ………しかし」

一息ついて、紫苑は言った。

「お主にこんな技術があったとはのう………」

なんか複雑そうだ。どうしたのだろう。

『鈍感だね………』

何かまずいところでもあるのか。

『いや、そういう訳じゃあないんだけど』

はっきりしないな。そう思っていると、真蔵が横から乱入してきた。

「なあ、これなんていうんだ?」

「え、ラーメンだけど。もしかして食べたことないんか?」

「無いなあ。しっかし、旨いぜこれ」

「そうだね、兄さん」

兄弟は一心不乱にラーメンを食べていた。

「………確かに、美味しいですね。あなたはまだ子供のようですが、これだけの技術はどこで?」

怪しいのだろう。菊夜さんが訪ねてくる。

「いや、死んだ親父がね。それで」

微妙に言葉を濁しながら説明する。すると、それ以上は菊夜は追求をしてこなかった。気の毒だと思ったのだろう。こういうところは、生粋の忍者とは違う。
大国の忍びならば、怪しいと感じた点はとことん追求するだろう。ああいう連中は基本、人間を信用しない。自分なりに納得しないならば、全てを知るまで説明を要求してくる

どっちが良いといえば、菊夜さんの方がいいのだが。なにしろ美人だし。

『論点変わってない?』

気のせいだ。美人だし。

『なんか、むかむかするのだが』

キューちゃんも十分に美人だって。

『それならば良い………む!?』

いきなり驚いた声を上げる。ああ、これか。

『これは何じゃ?』

(油揚げだよ)

狐が好きだという。説明を混じえながら、俺は一口食べる。

『………☆』

星!? 一体何が!?

『旨い………うーまーいーぞーーー!?』

キューちゃんが味王に変化した。

『のうのうのうのう! これは油揚げというのか!?』

え、そうだけど。そんなに気に入ったのでしょうか。

『当たり前じゃ! うむ、これ以上無いのか、もっと無いのか!?』

ごめん、これで最後だけど。そんなに好きなんだ。

『ええい、うますぎるぞ!? もっとよく噛まぬか!』

キューちゃんのテンションが最高潮になった。こんなに効果があるとは。

(効果はばつぐんだ!)

『乗ってるね』

絶好調です。
しかし、全員美味しそうで何よりだ。





やがて、全員が食事を終える。スープも具も残っていない。
うむ、完勝じゃ。

「ふう、ご馳走様じゃ………イワオ」

「ん、何?」

真剣な目をしたまま、紫苑が話しかけてきた。なんだろうと返事をする。

「……少し、話がある。ついてきてくれぬか?」

「いいけど………菊夜さんは?」

「すまぬが………」

「はい。承知致しました。それでは、私はここで」

待機すると言う菊夜さんを残して、俺は紫苑とともに席を外した。






家の裏側まで来ると紫苑は立ち止まり、その場で俯いた。俺の眼を見ないまま、深呼吸を繰り返している。
何かを言おうとしているのだろう。

「で、どうしたの。菊夜さんをおいて」

言いたいことはある程度分かっていた。深呼吸をしている理由も。
知られたくない何かを話す時の仕草だ。俺は構えず、自然体に接した。

「言いたいことがあるんなら、言ってよ。俺たち友達だろ? 隠す必要なんか無いって」

「お主………そうか、いや」

首を振った後、紫苑はうんと頷いた。

「お主、鬼の国の巫女については知っているか?」

「……うん」

それから、俺が知っている一通りのことについて、紫苑が説明を始める。

封印術のこと。代々続く、巫女のこと。死を予言する力について。

「死をつげられるのが怖いのであろう。妾達に好き好んで近づくものなど、菊夜の他にありはせぬ。妾の力を利用しようとする者以外はのう」

「………そうだろうね」

改めてそう思う。危険すぎる力、日常からはかけ離れた力、好んで関わろうとする者などいはしないだろう。
封印術にしてもそうだ。使いようによっては、かなりの武器と成り得るだろう。状況によっては忍び以上の効果を見いだせる。

俺の返事に勘違いをしたのか、紫苑の肩が跳ねた。

(もしかしたら、このまま別れをつげられるとか思っているのだろうか)

だとしたら酷い勘違いだ。そう思った俺は、その勘違いを正す。

「でもね………それがどうしたって感じだよね」

「………え?」

「だってさ………俺たち友達だろ? それに、死を告げる予言? 一昨日きやがれだよ」

今更にすぎる。ていうか一昨日来た。むしろこの世界にきたその日に来た。
確実に訪れるであろう、そのまま何もしなければ十中八九死ぬであろう、いずれは訪れるであろう修羅場は知っている。

何も、変わりはしない。乗り越えるという点においては何も。

「―――俺は。夢を叶えるまでは、絶対に死なない。だから、紫苑もそんな顔をする必要は無いんだよ」

言うと、紫苑は泣きそうな顔をした。逃げ出したい顔をしている。なぜだろうか分からない。

そんな紫苑に、俺はできるだけ優しい声で、伝えた。

「ああ、予言については知っているさ。知っていたよ。でも、だからどうした。それがどうした。そんなもので今更友達をやめるなんて言わないでくれよ」

「でも………しかし……」

俯き、肩を震わせる。よっぽど怖いのだろう。あるいは、今までにも似たような経験をしたことがあるのか。
でも、俺は関係ない。
ただでさえこんな身だ。でもそれでも夢を目指すと決めている今、今更生命惜しさに大切なものを放り出すなど、有り得ない。

(と、口だけならなんとも言えるんだけど)

それでも死ぬのは怖いと、思いはする。

だけれども、紫苑から離れていくくらいならば、と思う。

「恐れて離れるなんて、しないよ。絶対に、傍にいるから。だから、泣かないでくれよ。紫苑に泣かれたら、俺はどうしていいのか分からなくなる」

女の涙は卑怯だと思う。それだけで、どうしていいのか分からなくなるから。
ましてやこんな女の子だ。罪悪感も伴って、どうしようもなく胸が痛んでしまう。

「本当か?」

「本当だ。嘘はない」

断言して頷くと、紫苑は再び俯き、激しく泣き出した。

そのまま、俺の胸元に飛び込んでくる。

「う………う……」

服を掴みながら泣きじゃくる。

俺はぽんぽんと紫苑の頭を叩き、しばらくそうしていた。





ひとしきり泣いた後、紫苑は顔を上げて元気よく言った。

「………うむ。そうじゃの! なに、妾は泣いておらんぞ!」

目元をごしごしと擦りながら、紫苑は強がりを見せる。

(いや、泣いていたけど)

とは言わない。なんか言ったら殴られそうだし。

「そ、そうじゃ! 顔を洗わなくてはの! じゃあ、妾はこれで!」

黙る俺に向けてしゅたっと片手をあげた後、紫苑はものすごい速い駆け足でその場を去っていった。


「………で、そこの人」

壁の向こうに立っているであろう、付き人に向けて。
俺は溜息混じりに言葉を送った。

「盗み見とは感心しませんね」

「……そんなつもりは無かったんだけどね」

これまた複雑そうな表情を浮かべながら、出てくる。

でも、さきほどとは違い互いに無言となる。そのまま、沈黙を保ったまま近づき、対峙する。

やがて、菊夜さんは俺を見下ろしながら話を切り出す。


「………あなた、何者なの」

「………は?」

とりあえずとぼけてみた。

でも菊夜さんの視線が剣呑さを帯びてきたのを感じ、俺は一言返答する。

「何者っていわれても」

はっきりと返答していいものか。でもこの人、なんか敵意薄れてるしなあ。
でもこの場で姿を現して、直接こういうことを聞いてくるということは……俺の正体を確かめるのが目的だろうか。
分からない。

その時、マダオがアドバイスをくれた。

『………』

(……え、そうなのか)

マダオの言葉を受けた俺は、菊夜さんにかまをかけてみた。

「問答無用ではない………ということは、今あなた達には助けが必要なんですか?」

「っつ!?」

息を飲んだ。マダオの受け売りだったのだが、正しかったようだ。

『いや、そうでしょ。相手を無力化しないまま正面から敵か味方かをたずねるなんて、賭け以外の何者でもないよ』

確かに。不意打ちのアドバンテージを無くすからな。奇襲で捕らえて尋問する方が手っ取り早い。
でも、何故だ。何故俺に言う。どうして賭ける必要がある。

「……あなたは優秀な護衛だと聞いた。俺でも分かる。そのあなたが、何故俺なんかを頼りにする」

何故、見た目子供の俺に頼ろうとするのか。
聞いてみると、菊夜は素直に白状をした。

「……他に、手がないのよ」

それほどに、あいつらは手強い、と下唇を噛みながら菊夜さんは言った。
唇からは血が出ている。余程、悔しいのだろう。

「中忍程度ならば……相手が一人ならば、なんとかなる。二人ならば私でも対応もできる。でも、相手が手練、しかも複数いて……」

「もしかして、上忍クラスがいるんですか。いや、そうか……」

一人同等の使い手が相手方にいれば、話は違ってくる。

「一人を足止めに、他の敵に紫苑を人質に取られる可能性がある。自分だけならばともかく、紫苑までは守り抜けないと」

全員を封じ込めなければならない。一人抜けられたらそこで終り。人質に取られればあとは降参するしかない。紫苑をまもるのが最優先事項であれば。
それじゃあ確かに、勝ち目はないだろう。いや、勝てる目はあるだろうが、紫苑が死ぬかもしれない以上は、危ない賭けになる。

「もう一度聞くけど………あなた、何者?」

「俺は網という組織の一員です。この国にきた目的は……」

手を貸さなければならない。相手方にそれほどの使い手がいるのならば、余計に。
そう思った俺は、菊夜さんに一連の説明を始めた。

網のこと。任務のこと。ザンゲツのこと。俺の目的のこと。
菊夜さんは鬼の国から外へ出たことがなく、裏事情とかには疎かった。

全てを説明し終えた後、菊夜さんは安堵の息をはいた。

「じゃあ、国つきの忍びではないのね、あいつらの仲間ではないのね……良かった」

「あいつら……?」

「さっきいった相手。巫女を狙っているどこかの国の忍者共よ。言われるとおり、かなりの手練ぞろいで正直困ってたのよ。
しかし、そっちの目的は、紫苑様の力を奪うのではなかったのね」

複雑そうに呟く。そして気を取り直したかのように、首を横に振った。

「それで……援軍や協力は要請できそうなの」

「はい。幸いにも、首領のザンゲツは鬼の国の動向について心を傾けておりましたから」

あるいは、三代目からそれとなく話をふられているかもしれない。そう判断した俺は、きっと大丈夫だという旨を菊夜に伝えた。

可能性だが、援助を得られる確率は高いと考えたのだろう。菊夜は頭を下げてお願いしますと言ってきた。

「いえいえ、俺は伝えるだけですから。礼は網の首領に言って下さい」

随分と気の早い。余程の窮地だったのか。そう思った俺はフォローを付け加える。

「良い返事をもって、すぐに帰ってきますから。その後の事は、その時に話します」

そう返すと、紫苑達が心配しているから戻ろうということを提案した。

菊夜さんは笑顔で頷き、ひとまずの安堵の溜息をはいた。






「……お,戻ってきたのう」

「遅いぜ全く。イワオ、ラーメンご馳走様」

真蔵が礼を言ってくるので、俺も返す。

「いえいえお粗末さまです。才蔵も、旨かったか」

「う、うん。ありがとう」

何故か言いよどみながら、才蔵はお礼をいった。

「どうしたんだ?」

「いや、何も……何もないよ」

俯きながら返事をする才蔵。様子がおかしい。

(何が……?)

あ、ひょっとして。

「美味しくなかったのか……すまん」

「いや、そういうんじゃないんだ。こっちこそ……本当にごめん」

「いや、謝られる意味が分からないんだけど……まあ、いいか」

聞かれたくないみたいだし。取り敢えず話を切り替えよう。

「それじゃあ、遊びにいくか」

「おう!」

真蔵が元気よく返事をする。

「今日は勝つぞ!」

紫苑も元気が良い。

「おっしゃ、行こうぜ! 今日はたけしをけちょんけちょんにするからな!」

「「承知!」」

「……うん」

そうして俺たち4人は、いつもの公園へと向かった。

















「ふう。で、話って?」

「お主、先程菊夜に呼ばれていたようじゃが……なんといわれた」

「……実はつきあってくださいと言われ……うそ。うそだからそんな顔しないでよ」

紫苑は歯を見せ「う~」と威嚇してきた。

「いや、明後日少し遠くに行くからさ。菊夜さん、国の外へ出たことないし、お土産を頼まれちゃって」

「……外へ!? それで、戻ってくるのか」

「ぐえ、ちょっと苦し」

「どうなのじゃ! どうなのじゃ!」

襟元を掴まれて前後に揺さぶられる。

「いや……戻ってくるから……死ぬ……」

「そ、そうか。うむ、すまんかった……しかしお主、しばらく来れぬのか」

咳き込む俺。その横で紫苑は、ボールを振りかぶる。

「ならば、最後に一勝負どうじゃ」

「いいねえ。もし紫苑が勝ったら、とびっきり美味しいお菓子を買ってきてあげるよ」

女の子ならお菓子好きだろう。そう思って言ったのだが、予想以上の効果があったようだ。
紫苑の目が輝いている。

「ふっふっふ。ならば負けられんの」

「上等上等。さあ、かかってきたまえ。特別ボーナスとして、一発でも当たったら俺の負けでいいよ」

「言ったな!」

そして勝負が始まる。だが紫苑は相変わらずの直球思考で、胸元を狙ってくるばかり。
たまに逸れて顔面に投げてきたこともあったが。

「はい、ラスト一球ね」

「……」

紫苑は無言でボールを受け止めた後、ボールを見つめながら深呼吸をする。

「行くぞ!」

いつもと同じオーバースロー。いつもと同じ直球。
そう思っていた。

いや、思わされていた。突如ボールはその軌道を変化させる。
いつも通りだと油断していた俺は受け取れずに。

「しまった!?」

足にボールが当たった。アウトだ。

「……やった~~~~~~!」

紫苑が飛び跳ねながら喜んでいる。よほど嬉しかったらしい。

「あ~、負けたかあ」

『ん、負けたね』

頭をがしがしとかきむしる。くそ、遊びとはいえ負けるのは悔しいな。

「うむ、頭脳ぷれーというやつじゃ!」

妾の勝利じゃな! と無い胸を張る。
ああ、いつも通りに見せかけたのか。つまり前半は囮。最後の一球に賭けたというわけだ。

「お見事。完敗だよ。それで、どんなお菓子がいいの」

「……そうじゃの。お菓子はいらぬ。代わりに、といっては何じゃが」

ちょいちょいと紫苑は手招きをする。

「ん、どうしたの」

近づく。すると、紫苑は小指を突き出してきた。

「妾と約束してくれぬか。必ず、ここに帰ってくると」

「……いや、そんなことしなくても帰ってくるけど……」

『いやいや、それは紫苑ちゃんも分かってると思うよ。でも、不安なんだよ』

『……ふむ、そういうものなのか?』

(そういうものなのか?)

『駄目だこいつら、早くなんとかしないと……』

マダオがぶちぶちという。

『確かに存在する、形が欲しいんだよ。約束っていう形がね』

ううん、分からないけど、そういうものなのか。

「約束は出きぬのか?」

悲しそうな顔で紫苑が聞いてくる。ああだから女の子の涙は反則だっていうんだよ。断れはしない。
……断るつもりもないんだが。

「はい」

こちらも小指を出す。紫苑の小さい小指と絡まる。白い、綺麗な手。

柔らかく、儚い。最初に持った印象と同じ。

(でも、よく笑うようになったなあ)

たけしとの勝負とか、真蔵とか才蔵とか。遊んでいる内に思い出したのだろう。
心の底から笑うということを。

紫苑の笑顔は、初めてみたその時よりずっと、様になっている。

無理もなく、純粋な笑顔。嘘の無い笑顔だ。ずっとずっと可愛くなっている。

(女の子はこうでなくちゃな)

そう思いながら、約束を交わす。

笑顔と笑顔。見つめ合う俺と紫苑。






―――そこに、空気を読まない金髪さんが乱入してきた。


「イワオ! 俺とも勝負だ!」

「空気嫁」

「空気を読まぬか!」

「空気を読もうよ兄さん。むしろ愚兄このやろー」

間髪いれずに返された3立て。しかも全員が年下。愚兄こと真蔵は、どこぞの投手のように膝立ちになって泣いた。

『――今年は優勝できるよね。きっと……』

マダオは異世界から電波を拾っていた。
よくあることだし、そっちは放っておいたが。









「なあ、イワオ」

「なんだ真蔵。勝負なら終わっただろ」

勝負の後、真蔵と二人になった。紫苑はすでに帰った。才蔵はトイレだ。

「くそ、あとちょっとだったのになあ……いやそうじゃなくて」

真蔵にしては珍しく、歯切れがわるいものいい。何も考えずに直球思考というのが真蔵の真蔵たる所以なのに」

「聞こえてる聞こえてる。いや、そうじゃなくてさ。お前って両親とか生きてるのか? あのゴロウさんだっけ。あの人はどうも、父親じゃないっぽかったんだけど」

「ああ、あの人は叔父。本当の父親は死んだよ。戦災でね」

「……あっさりと言うんだな。いや、そうか、お前もなのか」

「……もってことは、そっちも?」

「ああ、弟以外は全員死んだんだ。そこからがまた、さ。辛くて……」

真蔵は俯く。だがすぐに首を振り、頭を上げる。

「でも、さ……才蔵がいたからな! 寂しくなかったよ。いや、寂しかったけど……兄貴がそんな顔しちゃあ駄目だもんな」

「そういうもんか」

弟も妹いないから分からんけど。でも紫苑は妹みたいなものか。

「いや、そうだな。情けない顔見せたら格好悪いもんな」

「ああ。あいつ、強くて、俺より才能もあるんだけど……ちょっと危なっかしくてさ」

どちらかというと真蔵の方が危なっかしいんだけど、兄貴が言うのならそうなんだろう。
確かに、芯の強さでいえば真蔵の方が強いだろうし。

それに真蔵には、場を明るくする先天的な才能がある。ムードメーカーというやつだ。

『……お笑い芸人的な意味で?』

(それもある)

『あるのかよ!』

マダオが盛大にずっこけた。器用なやつだ。まあそれはおいといて。

「でも才蔵、お前らと遊ぶようになってから、少し笑うようになったんだ。今までは……顔だけで笑うとか、そんなのばっかりだったんだよ。
 でも、変わった」

お前のおかげかもな、と真蔵は笑う。

「いやいや。お前のおかげだろ。今までも、弟を見守ってきたんだろ?  
 ――まだ笑えるってことは、今まで辛いことばかりじゃなかったんだ」

心が一度壊れれば、元に戻ることは無い。深くは聞かないが、戦災孤児というならば、心が壊れるような辛い目にあったことが何度かあるはずだ。
戦災とはそれほどまでに酷い。だがこの兄弟、兄も弟も心は未だ壊れず。むしろ明るさを残しているし、人間味も残している。

いつかの戦場跡近くで見た、今は網で保護している別の戦災孤児とは違う。

「それは、俺のおかげじゃない。今まで一緒にいた、お前のおかげだよ」

「そうなのかなあ……」

「きっと、そうさ。ほら顔を上げろよ。正義の英雄になるんだろ? ヒーローは泣いちゃいけないんだぜ」

「ははっ、厳しいなそれ」

「お前ならできそうな気がするよ」

そこで明るく笑えるお前ならば、とは心の中だけで付け足す。いえるかこれ以上。ただでさえ臭いセリフ連発させられてんのに。

「ほら、弟君のおかえりだ」

と、公園の中、木がある方向を指差す。こちらからは死角になっている、木の裏側。そこに、才蔵は隠れていた。

「さ、さい……ぞう!?」

「……」

気まずそうに才蔵。
どうしたらいいのか分からないのだろう、もじもじしている。

「真蔵……ゴーだ」

ぶっぱなすぜ弾丸ライナーと言いながら、真蔵の背中を思いっきり蹴る。

「おわっ!?」

蹴られ吹き飛んだ真蔵は、才蔵の元へ飛んでいった。

「ちょっ!?」

そのまま抱きつく。

「言いたいことがあったら直接話すのが一番だ。じゃあ、また明日なー」

あとは兄弟でなんとかせい、と丸投げで帰っていく。












残された二人は、抱き合ったまま言葉を交わす。

「……兄さん」

「……なんだ?」

「僕たち、どうしたらいいのかな」

「……分からない」











夜。

俺は菊夜から聞いた話を思い出し、溜息をはいていた。

「助けて欲しい、か」

そう伝えて欲しいと言われた。人員が圧倒的に足りないのだと言われた。
一人では護りきれないと、血を吐くように悔しい顔で言われた。苦渋の決断だったのだろう。

「……ちょうどいいと言えば、ちょうど良かったんだろうけど」

報告に戻らなければならないのは、ちょうど明後日だ。

『でも、気を抜いたらだめだよ。菊夜さんも言っていたでしょ』

(相手は中々姿を見せない。見せる時は、殺す時だけ、か。物騒だけど)

『忍びにとってはそれが当たり前だからね。目立つ必要は無いんだし』

つまりは殺す必要があれば、姿を見せるか………まあ俺たちのことは、敵方にばれていないだろうし、そう心配する必要はないと思うが。

『甘いよ。隠蔽したい情報が貴重であるほど、それを知りたがる人も多い。油断大敵雨あられだ。絶対に、気を抜いたら駄目だからね』

(……そうかなあ。杞憂ってことはないか?)

『あるかもしれない。でも、無いかもしれない。死にたくなければ慎重に。はい、答えは?』

「気をつけます……」

口に出して返答しながら、頷く。

『何もなければいいんだけど』

菊夜さんも、敵の正体に関しては言葉を濁していたからなあ。余程の相手なんだろうか。

『……言えば網の方が尻込みして、助けることに躊躇すると考えたかもしれないね』

触らぬ神に祟りなしと考えたかもしれない、ということか。でもそんな相手、よっぽどだぞ。

『ああ、嫌な予感がするなあ。今は取り敢えず、一刻も早く報告に戻らなくちゃ』

そうだな……っと。どうやらハルが戻ってきたようだ。



「おかえり~。収穫はあった?」

「………ああ、一応な」

そう言いながら、ハルは書類を渡す。

「見取り図と、城の中の警邏に関する資料だ」

「……随分とまあ、貴重なものを」

やるねえと返しながら、一通り資料を見る。うん、中身を見たことはないが、本物っぽいな。
今更嘘をつくこともないだろうし、これも持って帰るか。

「あ、そういえば明日俺は一端戻るんだけど……ハルはどうする?」

「俺は残る。まだひとつだけ、確かめたいことがあるからな」

「え、そうなの?」

「そうだ。あるいは、一番大事になるかもしれないことが……だから報告はお前に頼んだ。できるか?」

「ああ、出来るさ。情報を持って帰るだけだろ。それじゃあ、俺は帰るけど……すぐに戻ってくるから」

「頼む。まあ、全部俺がすませてるかもしれんが」

「ああ、それならそれでいいかも」

「……どうだか。それじゃあ、今日は山の方で雨も降ったようし、道中くれぐれも気をつけろよ?」

土砂崩れとかあるかもしれんからな、とハルが言う。

「ああ、分かってるよ。そっちもな」

「ああ……それじゃあな」

返事をした後、ハルは部屋を去っていった。

『うむ、あやつ様子が変じゃったのう。一体どうしたのか』

(大きな仕事だからね。少し焦っているのかも)

報酬も大きいから、緊張しているのかもしれない。
それよりも、明日だ。何としてでも、伝えなければならない。

俺が助太刀すればあるいは菊夜さんが言う“あいつら”に勝てるかもしれない。小国の忍び程度、今なら全力を出せれば負けないだろう。
でも、助けを呼んだ方が可能性は高まる。網の組織員はそれなりに優秀だ。俺一人でやるよりは余程、確実となる。

紫苑の生命もかかっている。万が一にも、下手を踏む訳にはいかない。

そう考えた俺は、明日に備え早めに寝ようと考え、布団をかぶって寝た。













そして、明後日。公園前。

一端戻ることになった俺を、紫苑と真蔵達が見送りに来ていた。

戻ってから再びここに帰ってくるまで、最短で3日。それまでお別れだと紫苑達に告げる。

「戻ってくるさ。だから、なくなよ」

小指を見せる。

「なっ、泣いてなどおらんわ!」

目元をごしごし擦りながら言われても……まあ、可愛いもんだ。

「お前らも、元気でな。紫苑のこと頼んだぞ。たけしに負けるなよ」

「……へっ、当たり前だろ。そっちこそ、これっきりってのは勘弁だぜ」

「………絶対に、戻ってきてね」

真蔵と才蔵と別れの言葉を交わす。


「ああ。約束もあるからな」

俺は3人に向け、小指を見せた。

「……またな」

「またね」

「おう、またな!」

「……また」


再会の約束。破るつもりはない。

一端戻るだけだと自分に言い聞かし、俺はゴロウさんへ、進んでくれと頼んだ。

商人はハルのこともあるし、今しばらくは家に残るらしい。




俺は一人、鬼の国の城下町を後にした。
















道なりに馬車が進む。鬼の国と隣国とを結ぶ道は、それぞれ一本しかない。

来たときと代わり映えのしない風景を見ながら、俺は溜息をはいた。

(……退屈すぎる)

いつもならば、紫苑達と遊んでいる時間だろうか。そう思いながら、なぜだか俺は憂鬱な気分となった。

帰れば、また修行の日々だ。生き残るために身体を鍛える日々が始まる。

「仕方ないんだけどなあ」

呟き、それでも元気はでない。こんなこと、考えたことも無かった。少しは変わったということだろうか。
紫苑、真蔵、才蔵と遊んで何か変わったのだろうか。

才蔵もそうらしい。紫苑もそうだ。互いに変わったのだろうか。

師匠曰く、“人との出会いは有益である。自分にない何かを持っている誰かと出会うことは、心の幅を広くする”らしいが。

遊び、学んで少しは変わったのだろう。きっと良い方向に。

(何事もなければいいけど………)

寝転びながら、そんなことを考えていた。











――――その時。

(……ん?)

まだ、森の中の道の途中。休憩するところは無い筈だ。
なのに突然、馬車が止まった。

「……?」

土砂崩れか何か、アクシデントがあったのか。

俺はそう思い、馬車から出て御者のゴロウさんの元へと向かった。
一本道だし、昨日は大雨が降っていたと聞く。土砂崩れが起きていてもおかしくないと、出発前にハルも言っていたのだ。

(ついてないな)

早く帰らなければいけないのに。そんな事を考えつつ、俺は馬車の布幕をめくって、表に出た。

「ゴロウさん、どうし―――」

そう、言おうとした。

―――だが。

その言葉は途中で途切れた。途切れさせられたのだ。

(声がっ………!?)

出そうとしても、全く出なくなる。
まるで見えない何かに縛られているかのよう。

見れば、ゴロウさんも同じく止まっていた。馬の手綱を地面に落とし、震えている。
いや、動こうともがいているが、全く動けない様子だ。

(これは………!)

『……金縛りの術!』


暗部が好んで使うという術。それなりの術者が使えば、相当の効果を発揮できるという術だ。

俺たち“二人”に仕掛けてきたということは………!


(正体が知られている、そして……!)

残らず片付ける。生かして返さないという意思表示だ。


「……はあっ!」

取り敢えず、俺はチャクラを経絡に巡らせて、金縛りの術を力まかせに解いた。
幸い目が届く範囲に術者らしきものの姿もない。距離が近くないため、力づくで解くのにそう力は使わなかった。

だが、それなりの精度と強度はあった。
相手が誰だが知らないが、それなりの使い手だ。弱くはない。むしろ手強いといえるレベルだ。



―――この相手。




満ちる殺気。鋭く、慈悲無く、容赦なく。

人を人と思わない気配だ。曰く、殺す。

そんな意志を大気に含ませ、こちらに叩きつけてくる。




―――舐めれば、死ぬ。



経験から。また直感でも、俺はそう感じていた。


緊張し、辺りを警戒する。

出発前に身につけた、腰元のホルダーからクナイを取り出し、構えたまま気配を探査する。









ふと、そよ風が木々を揺らした。森がざあざあと揺れる。



相手からは、何のアクションもない。



場に満ちるのは沈黙。ほんの少し前まではあったはずの、動物の気配すら今はない。




存在するのは緊張。場に満ちるのは緊迫。


この感覚は、今までに幾度も経験したもの。



―――生と死が交差する場所。戦場の空気だ。





(何処にいやがる………)





沈黙を保ったまま、俺は五感を鋭敏にして、相手の居所を探る。





その時。


呼吸の合間をぬって、そよ風の中。

鉄が風を切りさく音、何かが飛んでくる音が聞こえた。





「おっちゃん!」


即座に反応する。相手の初撃だ。得物はクナイ。

でも狙いは俺ではない。殺気の向かう方向はゴロウさんだった。

俺はチャクラで強化した足で距離をつめ、ゴロウさんに飛来するクナイを弾いた。


直後、気配が至近に寄ってきた。


まるで降ってわいたかのような速度。


(速っ……!?)


俺がゴロウさんをかばったその一瞬の隙をついて、接近してきたのだ。

瞬身の術。タイミングはほぼ完璧だった。

咄嗟に迎撃もできない。俺はそのまま、繰り出してきた敵の一撃を腕で受けた。


(ぐっ………!?)


直感で出した腕だが、咄嗟にガードできたようだ。でも、ガードしたはずの腕に痺れを覚えた。

速度と重さに優れる一撃。そのまま俺は吹き飛ばされた。

吹き飛ばされる前の位置にいる、遠ざかっていく敵の動きを見るに、それは蹴りでの一撃だと理解する。

(あの一瞬で……!)

重い上に速い。ただの蹴りがあれほどの威力と持つとは。体術のレベルは最高に近い。今までに見たことがないほど、この相手は強い。

俺は相手を分析しながら、飛ばされながらも重心を整える。

そして体勢を立て直し、両足で着地した。


―――だが、その時。


(新手、後ろ……!?)

背後に気配。

見上げれば、長刀を振りかぶったもう忍びの姿があった。

このまま留まれば貫かれる。そう判断した俺は、着地した勢いそのままに、後方へと転がった。

転がる途中、一瞬前まで俺がいた場所を、振られた刀が通っていった。


(危ねえ………!)

間一髪。白刃は僅かに服をかすめた。
身体の芯まで震える。今の判断、間違えていれば間違いなく胴を貫かれていた。

その事実に恐怖しながらも、俺は立ち上がり、構えを取る

その正面には、駆けつけてきた最初の奇襲を仕掛けた忍びと、さきほど俺目掛けて刀を振りぬいた忍びの姿があった。




「誰だ……」




小さく、呟く。だが相手が答えてくれようはずもない。

沈黙を保つ相手………二人は互いに黒装束、そして仮面を被っていた。

(……仮面ということは暗部か。何処の里の暗部だ。いや、それよりも何で俺を………)

一通り思考を巡らせた後、悟る。

(そうか、こいつらが)

紫苑を狙っている相手か。俺は納得すると、警戒を強めた。


(……これは、道理で。あの菊夜さんが助けを求めるはずだ)


今までの一連の攻防、俺は選択する機会を得られなかった。防ぐことしかできなかった。

あのまま立ち止まっていれば、俺は仕留められていただろう。それを防ぎ、避けきれたのは重畳だ。だが窮地といった点では変りない。

馬でもあれば、馬車に乗っていれば、また違う方法がとれた。逃げられることが出来たかもしれない。

だが奇襲を受け蹴りで吹き飛ばされ、馬車から離れた今。その手は使えない。ここで、この二人に勝つ以外に、俺が生き残る道はないだろう。

でも、この二人。決して甘くない。一連の動きはしくまれていた。初撃で仕留め損なっても、次に繋がっている。戦術眼も厄介だ。

それに何より、相手の地力の高さだ。


(くそ、隙が無い………!)


新手の方は、刀を振ってきた方は、そうでもなかった。
だが初撃を繰り出してきた忍びの方は、まるで隙が無い。

一瞬、起爆札を爆発させた逃げようかと考えたが、すぐにやめた。

戦術として確立していない一手、それを読まれれば、こちらも対処のしようがなくなる。
それだけで王手となりかねない。背を向けた瞬間に脊椎を折られうる。臓腑をえぐられうる。

緊張のあまり、呼吸がつまる。息が早くなる。
意識の切り替えが出来ていない。戦闘に挑む精神状態ではない。

(くそ……!)

ここに来て弱点が浮き彫りになるとは思わなかった。

(震えるな、俺の腕……!)

恐怖を制御できない。チャクラを制御できない。

感情が揺れ動いていしまう。

『我慢して……!』

マダオが叫ぶ。だが、身体はぎこちなく、上手く動いてくれない。

恐怖。そして、一瞬の逡巡。それを見逃してくれる相手ではなかった。


「くっ………!」

再び一歩、瞬身で懐に飛び込んでくる。俺は迎撃の掌打を繰り出すが、狙い打ったわけでもない、苦し紛れの一撃だった。

相手にあたるはずもなく、横に弾かれてしまう。


「しまっ………!?」

掌打を外に弾かれ、流され体も開く。

逆手で攻撃しようとするが間に合う筈も無い。


咄嗟に攻撃ができない体勢。
つまりは死に体。そこを打たれた。


「ぐあっ………!?」

拳が深く、腹筋へと差し込まれるのを感じた。
違和感。


俺は殴られた勢いのまま後方へと吹き飛ぶ。少しでも勢いを殺そうと、後ろへ跳躍したのだが、衝撃を殺し切れはしなかっった。

(折られた……!)


激痛を感じ、今の自分の身体の状況を分析する。

だがそんな暇があるはずもなく。


「しっ………!」

もう一人に忍びが追撃を仕掛けてきた。

腕の劣る方だ。俺は何とかその一撃を避け、カウンターの一撃を繰り出す。

だが相手も初撃に続いて連撃を繰り出してきた。


「……!?」

「ゲフぁ!?」

相打ちとなり、互いに吹き飛んで行く。だが今の一撃は俺の方が早かったようだ。

こっちは、それほどダメージを受けていない。

「くっ……」

相手の方はふらついていた。顎に当たったし、それなりのダメージがあるようだ。

だがジリ貧には変りない。今の一撃も、折れた肋に直撃された。傷が広がっている。痛みも酷い。

激痛に思考を乱されながら、俺は考える。





(どうする、どうする、どうする………!?)

混乱のまま、何とか逃げ延びうる方法を、良い策を見いださなければ。

恐怖にかられながら、俺は思考にふける。

(影分身、いやだめだ。ばれたらそこで終りだし、この相手には通じない。痛みもあるし,制御しきれない。螺旋丸……それも駄目だ。正体が……)


思考がまとまりきらない。そこに、さらなる追撃がきた。

「しいっ………!」

相打ちになった忍びの方が、今度はクナイを投げてきた。

だが、今度は見えているので対処できた。一撃を受けた後の追撃でもないし、見えないところからの投擲でもない。
迫り来るクナイを掌で捉え、円の軌道で外側に捌ききる。でも、クナイは囮だ。左右から弧を描いて手裏剣が迫り来る。

「甘い!」

左右に手を突き出し、その両方をキャッチする。
そして投擲。

「ちっ!」

しかし投げた手裏剣はクナイで迎撃された。

それを見届けぬうちに、相手との距離を詰める。

「「!?」」

だが、相手も同じことを考えていたのだろう。
今さっきの互いがいた、そのちょうど中央の位置ではちあわせとなる。

互いに拳を放つ。だが、相手の方がリーチが長い。
俺の拳は届かずに、相手の拳が額を打った。

吹き飛ばされる。相手は一歩下がり、忍具袋から巨大な鉄塊を取り出す。

(……風魔手裏剣!)

巨大な手裏剣を武器にして戦うという、風魔一族が作り出した手裏剣。

「はあっ!」

それが俺の首元めがけ、放たれる。高速で回転する、巨大な刃のついた鉄塊。まともに受ければ首でも胴体でも切断されるだろう。
俺はそれをしゃがみこんで避ける。

だが、しゃがんだその先にはもう一枚の手裏剣があった。

(影手裏剣の術……!)

一枚目の手裏剣で死角となる位置に、もう一枚の手裏剣を潜ませる投擲術だ。

咄嗟にしゃがみこんだ後なので、避け切ることができない。
受けることもできず、俺は両腕を両断された。


―――かに見せた。

斬られた俺の残影が、丸太にその姿を変える。

「上だ!」

手練の方が叫ぶ。だが遅い。

「身代わり……!?」

「その通り!」

樹上から飛び降りながら、蹴りを繰り出す。だがバックステップで蹴りは避けられてしまう。

(それでいい)

着地後、さらに踏み込んで追撃する。超接近戦だ。

「しいいっ!」

「ぐううっ!」

掌打、掌打、掌打。左右の掌打を交互に打ち放つ。
防御されるが、かまわない。もとよりこれは崩しの前動作。

連撃の途中、俺は一端攻撃を止める。

「そこっ!」

すかさず反撃に移る敵。だがそれは誘いだ。

(ここだっ!)

苦し紛れの一撃など見切るのは容易。俺はその一撃を掌の外で捉え、吸着。外側へと弾いた。
相手の体が泳ぐ。先程とは全く逆の体勢だ。

そこに、俺は容赦なく掌打を繰り出した。

「はっ!」

息を吐いて震脚。倍加された体重が、突き出された掌の先へと収束する。

纒絲の動きを加えた一撃は、相手の防御を弾きながら、腹筋を貫いた。

(折った………!)

確かな手応えを感じた。間違いなく、4、5本は折れたはず。

吹き飛んでいく弱い方の忍びを見送り、俺は構えを元に戻す。

―――何故ならば。


「………!」

無言のまま、手練の方の忍びが間隙を縫うように攻撃を仕掛けてきたからだ。

一歩で接近。生死を分つ間合いへと入り込まれる。

即座に繰り出されたのは回し蹴り。軸足の左足が、地に根をはるかのように固定された。
体重の移動と共に鋭く回転。地面がえぐれる。遠心力をたっぷりと乗せられた右足が、俺の米神へと畝りを上げて襲い来る。

「………っ!?」

声にならない恐怖の叫び声を上げながら、俺は地面へとしゃがみこむ。

頭上を、足が通り過ぎた。だが、それですむはずもなく。

(連続の、回し蹴り!)

蹴りの回転を殺さぬまま、今度は下段の足払いを繰り出してくる。

しゃがんでいる俺はそれを避けきれず、足を払われた。そのまま無様に転がり、吹き飛ばされる。


(ぐっ………!?)

後頭部を樹に打ち付けてしまい、脳が揺さぶられる。そのまま、視界が掠れていった。


『気を失ったら死ぬよ!』

寸前、マダオの一言で正気を取り戻した俺は、立ち上がる。

だがダメージが消えたわけもない。肋を後頭部を抑えながら、敵を睨みつける。

「………」

「………」

互いに無言になる。この場に残っているのは二人。

ちらりと見れば、一撃を加えた刀の忍びの方は気を失っているようだった。

となると、後はこの忍びだけとなるのだが。

(最初の一撃。上段の回し蹴り……)

鋭すぎる一撃。思い出して身がすくむ。まともに米神に受けていれば、と考えてしまいその光景を想像してしまう。
心が恐怖で震えた。

(直撃すれば、それで決まっていた……くそっ)

脳を揺らされ、戦闘不能に陥っていただろう。忍びの戦闘においては、機先を制するものが勝つ。ダメージを受ければ受けるほど、動きが悪くなってしなうからだ。
先程の攻撃、避けられたのは偶然だった。意図して避けたものではない。

折られた肋が痛む。まるで溶岩を腹の中に放り込まれたかのようだ。
ずきずきと脳を揺らす。痛みにより、恐怖が助長された。

(……よりにもよってここで弱点が露呈するとは………)

意識の切り替えが出来ていない。身体がうまく動かない。
戦闘する精神状態ではない。それに何より、致命的なエラーがある。

(この相手は、殺す気でいかなければ勝てない)

今倒したのとは殺気も段違いだ。生半可な戦術では見破られ食い破られてしまう。
でも、出来るのかと思ってしまう。最後の決断が出きない。

―――何故ならば。今までに俺は、人を殺めた事がないのだ。

後回しに、後回しにしながら、機会も無く結局その決断を下せずにいたのだ。
危なくなれば逃げていた。殺すことはできなかった。殺すつもりで戦ったことなんて、一度もない。
逃げられれば逃げていた。一か八かの生命のやりとりを経験したことが無かった。



それが俺の弱点。
戦闘に挑む際の心の弱さと、臆病さと、殺人に対する忌避感。

普通の人ならば、長所とも言える。
だが生き抜くと決めた俺にとっては、戦闘においては、これ以上にない弱点といえる。

(初めて、人を殺す。それが今、俺に出来るのか……)

かつてない窮地。相手は間違いなく、強い。ひょっとすれば、今まで相対してきた中で最強かもしれない。
弱点を補うために選んだはずだった。この任務を選んだはずだった。
ならばこの状況は、壁を乗り越える好機ともいえる。

だけど、膝は震えてしまう。自分の意思の外側で。

(このヘタレが……!)

自分に対して罵倒する。まさかここまで弱いとは思っていなかった。何とかなると思っていた。だけどそれは夢物語で、絵に描いた餅だった。
行動に移す勇気、あるいは蛮勇かもしれないが、それを持てない。持つことができない。

踏ん切りがつかない。選択には代償が必要だ。でもそれを払う勇気を持てない。

「震えているな……」

そんな俺の心の内を見透かしたのだろうか。目の前の忍びが侮蔑の雰囲気を纏いながら、語りかけてくる。

「死が怖いか。殺すのが怖いか。ふん、中々にやるようだが、忍びとしては三流だな。己を汚す覚悟を持てていない」

言葉は低く、そして深く俺の心に染み入る。この状況はまずい。


「何かを成すためには、覚悟が必要だ。絶対的な覚悟が。綺麗でいたいなどと、中途半端な覚悟なぞ……無いと同じ。糞の役にも立ちはしない」

腕を振り、無造作に近づいてくる。だが俺は何の行動も起こせない。


「……子供だからとて、容赦はしない」

「っつ!?」

再び、瞬身の術。一瞬にして背後に回られた。

「後ろぉ!」

だが、今度は目で追えた。俺は振り向きざまに裏拳を放った。

しかし手応えはなく、すり抜けられるだけ。

「っ!?」

代わりに感じたのは、すれちがいざまに首に巻き付けられた、固い糸の感触だった。

「焼けて、散れ」

背後、向き直れば男は印を組んでいる。その糸の先は口元。

―――結の印は、虎。

「火遁」

(しまっ……)

理解した俺は腰元のクナイを抜き放つ。

「龍火の術」

糸に炎が走る。大蛇丸ならばともかく、今の俺がまともに受ければ一溜まりもない。
一瞬前まで迫り来る炎を見ながらも、俺はクナイで鋼糸を断ち切ることに成功した。

「飛燕!?」

クナイに僅かだが残っていた、風の刃を見て男が叫ぶ。
とっさに出したため、精度も維持も無茶苦茶だったが、何とかうまくいったようだ。繰り返しの訓練が功を奏した。
状況を見極めながらの対処ができなければ、俺は丸焼けになっていただろう。

危地を脱した俺は何とか逃げきろうと、樹上へと飛び上がる。

たがただで逃すはずもない。飛び上がった俺を、当然のように敵は追ってくる。


そして今度は樹上での攻防は始まった。チャクラを木に吸着させながらの攻防。

チャクラコントロールだけならば互角のようで、地面にいるときよりは状況がいい。

「ふっ!」

「ちいっ!」

互いに持ったクナイで切り結ぶ。純粋な筋力とチャクラコントロールによる移動は相手の方が一枚上だった。
つまりスピードは相手の方が上だ。

だが明確な差はない。
まともにやりあえば、根比べの勝負となるだろう。だがこちらは肋を折られていた。そのアドバンテージが痛い。痛みが集中を阻害する。

(機を見て逃げ出せれば……)

拮抗しながらも、今一歩を踏み出せない。踏み出せる気がしない俺は、この場から逃げることを算段していた。
準備もできていない状態、しかもこんな遭遇戦でどうして勝てようはずがあるものか。


そんなことを思っていた。



思って、しまっていた。勝つという意識を持たずに。

戦いにおいては、弱気になったものが敗北する。その理通りに。



「確かにやるようだが……」

男が印を組むのを見た俺は、術は使わせないと拳で一撃を加える。
男は腕でそれを防ぐ。そのまま、後方へと吹き飛んだ。


「………しかし!」

吹き飛んだはずの敵の姿が、消える、
見失う。

その、一瞬の隙の間に、決定的な一撃へと繋がる初撃を差し込まれた。

「んぐっ!?」

消えたと思った一瞬後、後頭部へ衝撃を感じた。

脳が揺さぶられた。意識が薄れる。


(……木の枝を持って、それを軸に回転して……!)

直感で悟った。木の枝に足をひっかけて一回転、そのまま後ろを取られたのだ。絶妙なタイミングでの地形を応用した一撃。
戦闘経験がケタ違いだ。

当然、攻撃はそれで終わらない。機を見て敏となるは戦闘の鉄則。
更なる追撃が俺を襲う。


「ふっ!」

顎と胴体を蹴り上げられた。先の一撃で視界は揺れ、意識も薄弱となっているため、防ぐことはできなかった。
そのまま、中空へと吹き飛ばされる。


「ぐっ……!」

仰向けに飛ばされた俺は、体勢を整えながら敵の位置を確認しようと、飛ばされた下、敵がいるはずの方向を見ようとする。

だが、姿が見えない。

感じたのは、すぐ背後に存在する、息遣いだけだ。


(っ影舞葉……!?)

背後にいる。感じる。背中に指が当てられる。


(もしかして……!)


混乱の中、全身に立つ鳥肌。俺は咄嗟に右腕を右上にやった。


「いくぞ……!」


声と共に銅へと左腕が鋼糸が巻き付けられる。身動きが取れない。

そのまま体勢を整えることもできずに、俺は頭から落下する。

視線の先、着地の先。そこにあるものを見て俺は戦慄した。




あの攻防の途中で俺は、誘い込まれたのだ。この地面がある上空に。



―――頭が叩きつけられるであろう地面。そこは、岩場となっていた。



(っ死……!?)

頭が真っ白になる。恐怖に支配される。身体が動かない。回転が激しくなる。

でも身体は動いてくれない。動くのは――




思考が加速する。回転が加速する。

迫り来る岩場。激突する寸前、背後にいる男の声が聞こえた。







「―――表・蓮華!」







無情に告げられた声と共に。


全てが、遠ざかっていった。








[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 劇場版・Ⅱ その四
Name: 岳◆5bf56ac5 ID:6d0af7c1
Date: 2010/05/23 14:07





「くっ!」

辺りにただよう気配と匂いを感知した菊夜が舌打ちをする。

「菊夜……」

その横では、菊夜の主である紫苑が不安そうな顔をしていた。
暗い夜、森の中だからまだ年端のいかない少女でもある紫苑が不安な顔をするのは当たり前なのだが、今はまた別の理由があった。

「何処へいくのじゃ。何故……」

「……大丈夫です。必ず」

言いながら、声は優れない。
あの囮の忍びを始末するため、最も手練である忍びは近くにはいないはずだった。
その隙をついて逃げたのだが、国境を越えないうちに回り込まれてしまった。両腕に紫苑を抱えているため、全速では逃げられない。
それでも何とかなると思っていたのだが、見通しが甘かったようだ。

包囲は徐々に完成していく。迎撃と哨戒に放った菊夜の忍犬達は、敵の忍びにいとも容易く葬られた。
これが木の葉の暗部の力か、と菊夜は歯噛みしながらなおも走る。ここで捕まる訳にはいけないのだ。

だが、その時、菊夜の前方に影が降り立った。
菊夜は目の前に接近されるまで、その影の気配を全く感知できなかった。

「……貴様か」

「……この先にも罠を張った。周囲の匂いも読み取れぬわけではないだろう」

もう逃げられん、諦めろとその影がいう。

「……何故貴様がここにいる。あちらの方はどうした」

「お前にはもう、どうでもいいことだろう。あからさまにこちらへ情報を流し、囮を使い逃げようとは随分と考えたものだが……肝心の囮があの様ではな」

「……死んだのか」

「生かしておく必要がどこにある」

「……何の話をしておる」

抱えられている紫苑が、二人の会話に口を挟む。

「……知らないのか。こいつは、あのイワオとかいう忍びを囮にしたのだ」

「……イワオを……囮」

理解できないのだろう。紫苑は訝しげに言われたことを反芻するだけだった。

「……黙れ!」

「黙らぬさ……おっと、動くなよ」

影の忍びが腕から鋼糸を繰り出す。だが腕に垂らすだけで、菊夜に向けては放たない。
動けばやる、という牽制をしているのだ。菊夜は言葉を差し込むことをやめ、悔しそうに黙り込んだ。

「イワオは網という組織の一員でな。鬼の国内部を調査するという役割を背負っていた」

「……それは知っておる。妾の聞いておるのは囮という言葉の意味じゃ」

「何、簡単だ……」

男はそこで口笛を吹いた。その後、藪に潜んでいる者に告げる。

「シン。サイ。出て来い」

男の呼びかけに、近くの藪が動く。そして、人影が現れた。
小さな人影、その影は二つ。金色と黒色の兄弟だ。

「真蔵、才蔵……!?」

どうやら気付かなかったようだな、と影の男は笑う。

「……やはり、自分のこと以外にはその勘もにぶるのか」

「どういうことじゃ? 真蔵、才蔵、お主達……」

「……こいつらはな。イワオを見張っていたのさ。俺達の、命でな」

「……そう、なのか? 二人とも……」

言葉を向けられた二人は、紫苑の訴えかけるような声に耐えきれず視線を逸らした。

「……囮、イワオ……お主ら、まさか!」

紫苑は先程の菊夜と男の会話の意味を理解したのだろう。
怒鳴り声を上げ、男に詰め寄ろうとする。だがその動きは背後の菊夜に止められる。だが、声は止まらず。高ぶった感情は叫びへと変わる。

「イワオをどうした!?」

「殺した」

哀れみも侮蔑も、何の感情も無く、男は淡々と紫苑に対して答えを返した。

「高いところから、岩場へたたき落としてやったよ。その後崖下に落ちていったが……まず、生きてはいまい。全身打撲に頭蓋骨骨折、ひょっとすれば頭が割れたやもしれんな。しかもあの河の流れだ」

今頃は河の底で朽ち果てているだろう、と男は言う。

「……嘘だ! イワオが死ぬはずがない!」

紫苑は悲痛な声を上げながら、両腕を下に振った。そのまま自分の両の拳を握り締める。

「帰ってくると言った! 死なないって言ったのじゃ! 妾と、妾達と……約束を、したのじゃ!」

だが男は紫苑の叫びを意に介さない。

「約束など関係がない。死なない人間などいない。あいつは俺がこの手で殺した。それだけが事実だ……まあ、しかしな」
男は菊夜を見ながら、言う。

「この事実、知らされておらぬとは、これまた滑稽ではないか。よりにもよって、死地に向かわせる相手を約束などとは……お主の護衛はほんとうに酷いことをするなあ」

「………っ」

そう言われた菊夜は、だがそれを否定しない。それが、事実だからだ。
網という組織の実態と力が分からない以上、下手に頼ることはできない。そう考えた菊夜は、報告に戻るというイワオを囮として、紫苑を連れ他国へ逃げようとしたのだ。
今、網に知られるというのは、この忍び達の正体が外に流れる可能性が出てくるということ。それを防ぐため、『情報を渡したフリ』をすれば、こいつらは必ずイワオを消しに来るだろうと見ていた。
そのために菊夜はイワオを裏へ呼び出し、話を持ちかけた。見張りである、真蔵と才蔵の前で。二人がこいつらの見張りだということは、忍犬の報告から知っていた。

知っていて、万が一の時に使えると考えて放置したのだった。

「菊夜………それは、真なのか?」

「……はい、ですがこれも紫苑様を守るため。あなたを守るため、仕方がなかったのです」

「っ、何故じゃ! 何故知らせなかった!」

「紫苑さ……!?」

紫苑に叫ばれ、詰め寄られた菊夜。
そこに、一瞬の隙が生また。影は隙間を逃さず、刹那の間隙に入り込む。

男は菊夜が紫苑の方に意識を集中させた、一瞬の間に印を組む。
秒に届か術は完成し、瞬身の術は発動する。影と菊夜の距離が零となった。


「しまっ!?」

後悔の言葉も出せぬまま、菊夜は男が放った掌打で胴を打たれ、そのまま後方へと吹き飛ばされた。

「……眠れ」
男の手刀が紫苑の首筋に当たる。紫苑は動くこともできないまま、気を失いその場に倒れ込んだ。

「くっ、紫苑様!?」

菊夜は叫びと共に印を組む、周辺に伏せているはずの忍犬を動かそうとする。
だが、忍犬は現れなかった。

「……時間稼ぎだったか!」

悔しそうに叫ぶ菊夜。やがて、忍犬の始末を終えた残りの忍び達が現れた。

「さて………どうする?」

男は紫苑の傍にしゃがみこみながら、菊夜に問いかけた。

「………」

菊夜はその問いに答えられない。

答えなど、決まっていた。

























―――夢を見た。

薄ぼんやりとした世界の中、少女が一人膝を抱えたまま泣いていた。
目の前には女性。事切れているのか、ぴくりともしない。

『母上……母上!』

少女は事切れた女性へと、必死に呼びかける。
だが動かない。呼びかけても呼びかけても、変わらない。目を閉じただ地面に横たわるだけ。
娘の必死の叫びは、届かないのだ。


『ひっ……!』

そこに、黒いもやが現れた。霧のようで形のない、でも悪しきものだとは分かる。
醜悪な気配を放つ黒い霧は、少女へと襲いかかった。少女は必死にそれを振り払おうとする。
だが黒い霧は堪えたようすがなく、やがて少女を覆い隠す。

その時、倒れている女性が光を発した。全身から強力な光を放ち、黒いもやを掻き消す。
それが最後の力だったのだろう。生命の灯火が消える気配を感じた。
引換に娘の生命を救った母親は、笑みを浮かべながら消えていった。


でも、終わらない。


『っつ!?』

立ち尽くす少女の足元から、今度は蔦が伸びてきた。灰色の蔦だ。
先程の黒いもやは見るだけで胸がしめつけられ、辛い気持ちになるほどに邪悪だった。
この蔦は臭うだけで嘔吐してしまうほど、醜悪な気配を放っていた。

それが少女の全身を絡めとる。しめつける。
少女がうめき声を上がるが、蔦は構わず少女を束縛し続ける。



―――待て。


叫んだつもりだったが、声にならない。
少女のうめき声が聞こえる。





―――離れろ。


やがて蔦は少女の全身を絡めとる。
見えなくなる。何もかもが灰色に覆われてしまう。聞こえるのは少女の悲鳴。




―――離せ。

手を伸ばす。手を伸ばす。だが届かない。
俺の手がない。もぎとられたのか。でも足がある。歩いていけば良い。


―――足が。

だがいつの間にか俺の足は灰色の蔦に絡め取られていた。動かそうとするが、蔦は固くびくともしない。
冷たい感触、まるで鉄のようだ。灰色で醜悪な冷たい蔦が、俺の足を絡めとる。


――――どけ。


必死に走ろうとする。だけど足は宙を泳ぐだけ。前に進んではくれなかった。
足を叩き、前に進もうと腕でもがき、這いずってでも前に進もうとする。
少女の声がだんだん小さくなっていく。

―――後ろ?

突如、後方から少年の悲鳴が聞こえた。振り返ると真蔵が倒れていた。明るい金髪は血で赤く染まり、地面には流れた血が溜まって、赤色の池ができていた。
その傍では、手を赤に染めた黒髪の少年の姿があった。才蔵だ。だが、はっきりとは分からない。
才蔵は身体には、至る所に罅割れが出来ている。そして何より、才蔵の服も髪も肌からも、色が消失していた。
その両目には色が無く、流れている涙だけに色がついていた。涙の色は赤。血の涙だった。


―――どうして。


喪失感が心を満たす。虚脱感に身体を支配される。もう、何もかもが終わってしまった。少し前まではあった、輝いていたあの日々はもう影すら残っていない。
何故こうなってしまうのか。誰が望んでこうなったというのか。この光景を心の底から望む誰かがいたのだろうか。
あるいは、悪戯好きで性悪の神様とやらが、この結末を定めたのだろうか。



―――認めない。


気がつけば、俺は叫んでいた。

その時、光が俺の目の前に溢れた。







「……」

気がつけば、天井を見上げていた。知らない天井だ。
ここ一ヶ月滞在していた商人の家でもない。あのおばちゃんのボロ家でもない。

『大丈夫?』

考えている最中、声が聞こえた。マダオだ。心配そうな声。ようやく頭が覚醒し始める。どうやら俺は眠っていたようだ。
だが、ここは何処だろう。そもそも俺はいつどこで寝たのだろうか、全く思い出せない。
状況が全く理解できない。このまま考えても答えが出ないだろうと、俺はベッドから起き上がりながら二人にたずねようとする。

「ここは……っ!?」

だが、起き上がろうとしたその瞬間、腕に激痛が走った。
意識の外で起きた激痛により、俺は悶絶してしまう。

『……落ち着いて。自分の身体がどういう状態になっている、分かる?』

「……ああ」

マダオの声を聞いて冷静になった俺は、改めてあたりを見回してみた。どうやらここは網が経営する病院のようだ。
この部屋は個室のようで、俺以外には誰もいない。恐らくは忍者が使うという、特別病棟の中にある、特別な個室だろう。
昔、親方に聞いたことがあった……ような気がする。

だけど、なんで俺はここで寝ているんだ。

『今は駄目だよ、急に動いちゃ。腕が折れてるんだから』

(……ああ、道理で痛いわけだ)

見れば腕には包帯が巻かれていた。腹にも、巻かれているようだ。
しかし、腕の痛みが酷い。

(肋を折られたのは覚えてるけど……腕はどうしてだ。あの時俺は確かに……って、おい!)

思い出した俺は、マダオに向けて叫んだ。

「あれからどうした!? 今日で何日経っている!?」

『落ち着いて。えっと、何でここにいるかだけど……蓮華を食らったあとのことは覚えてる?』

レンゲ……ああ、表・蓮華のことか。木の葉流体術の一つで、蹴り上げた相手を回転させながら地面に叩きつける技。
確かあの時、俺は岩場へと落とされたはずだった。だが、その後はいったいどうしたのか。
いくら俺でも頭から岩場へと落とされれば死んでしまう。だが俺は腕を骨折しているだけで、死んではいないようだ。頭も無事だし、俺はあの時何をしたのか。

『……右腕で頭をかばったんだよ。岩に叩きつけられる寸前にね。それで、即死は避けられたんだけど……』

後の言葉に続くのは、これだろう。俺はじっと右腕を見る。見事に折れている。いや、折れているだけでなく、言葉にできない違和感を感じた。
関節も傷んでいるし、余程酷い折れ方をしたようだ。痛みもひどいし、一週間やそこらでは治らないだろう。

(いや、しかし、あの後は……ここは何処だ。俺はあいつらから逃げられたのか)

『……やっぱり、地面に叩きつけられたあの後した行動を覚えてないんだ』

(そのようだ)

記憶はあそこで途絶えている。
はっきりとは思い出せない。ただ、逃げなければとは思っていたのだが。

『あの後……岩場に激突して地面に叩きつけられた後、君は斜面を転がって、崖下へと転落したんだよ』

(……そういえば河があったな。そういえば雨で増水していたな)

周囲に気を配る余裕も無かったので,気付かなかったが。確かに、あのあたりには河があった。
―――だが、崖下のはずだったが。

『……敵の方は、蓮華であたえたダメージもあったし、君はあのまま死んだと思ったんでしょ。ていうか普通、右腕で頭をかばったとしても、あの蓮華を食らった時点で即死するよ』

そうだろうなと思う。それほど凄い衝撃だったから。

『死体を確認せずに立ち去ったのは、死んだと思ったから……いや、あるいは……』

歯切れのわるいものいい。何か、予想していることがあるのに言いたくないみたいな感じ。

『――いや、今はいいか。それより、その後は河に流されて……網の人に助けられたんだよ』

それでか。その後にここに運び込まれたのか。
しかし、よく溺死しなかったな

『岸には自力で這い上がったんだよ。ああ、それも覚えてないのか』

無意識にでも生きようとしたのか。まあ二度目だというのもある。一回目は2年前のあの日、あの時、起爆札の爆発に吹き飛ばされて。

(……色々考えると、複雑なあれだな)

思い出したくもないことを思い出してしまう。

(それよりも、あの状況下でよく生きて帰られたもんだ)

正直、死んだと思った。

『……生きて“帰った”んだよ』

執念のたまものだとマダオが言う。珍しく深くためいきをつきながら。
心配してくれたのだろうか。

(いやそれよりも、確かめなければならないことがある。いったいあれから何日経ったんだ。傷の回復具合と腹具合から……三日ってところか?)

『大体あってる。肋は何とか治ったようだね……ただ、腕はまだまだ酷い状態のまま、治っていないようだね』

今までで一番酷いといえるほどの大怪我だしな。


ってちょっと待て、何日経ったと言った……三日!?



「三日って……まずいじゃねえか!?」

(まずいね。ゴロウさんもあの後どうなったか分からないし。報告書も消されただろう。だからあの人は、君が起きるのを待ってたんだけど……噂をすれば影。来たようだよ)

ちょうどその時、病室の入り口にある扉が開かれた。
一ヶ月ぶりに見る姿だ。網の首領、地摺ザンゲツ。
ザンゲツは起きている俺を見ると、俺が寝ているベッドの傍まで近づいてきた。

「……ようやく、起きたようだな。ケガで苦しんでるとこ悪いが、鬼の国で一体何があったのか。そして、誰に襲われたのか。色々と報告してもらう」

「了解です」

詳細が分からないけど、一刻を争う事態になっているかもしれない。
俺は一応、網の組織員だ。一員として、任務に関することを優先させなければならない。

「実は……」

マダオの言うとおり、報告書はあいつらの手によって奪われたのだろう。
俺は、知っている情報の全てを、ザンゲツに話した。

一仕切を話し終えると、ザンゲツはまさかと首を横に振った。
何を知っているのかは知らないが、彼にとっては信じがたい話なのだろう。

「……馬鹿ばっかりか、鬼の国近くの小国どもは」

裏で五大国から手を出すなと言い含められているだろうに、と呟く。
それに反応し、聞いてみた。ここまでいけば説明してもらえるだろうと思っての質問だ。
余計なことを聞くなと言われる可能性もあったが、ザンゲツは俺の問いに頷き、話をしてくれた。

「とある人物に聞いてみた。裏はとってある」

ただ、情報についてのソースは明かさなかった。半ば予想している俺は、もう少し引き出そうと、そして動いてもらおうと、カードを切る。

「……その事で、一つ問題が」

「なんだ。今の情報だけで腹いっぱいだぞ俺は」

ただでさえ別件のごたごたのせいで、胃が痛いのによ、とザンゲツは自分の腹をさすった。
何か、精神的にくる事件でも起こったのだろうか。

だがそれに構っている場合ではない。これは状況証拠にすぎないことだが、恐らくは間違っていない。
たった今、絶対に告げなければならない情報があるのだ。

「俺は、仮面をつけた何処かの国の暗部らしき者と戦いました。そこまでは先程話した通りです」

手練の忍びと、一段腕が落ちる忍び。あの二人は仮面をしていた。仮面をするのは、忍者という裏の世界で更に裏の仕事を担うという、裏の裏、影の影と言われる暗部特有の習慣だ。
だがあの忍びは額当てをしておらず、顔は仮面で隠されていた。見ただけならば、出自は分からなかった。だが、俺は見たのだ。

「色々と腑におちない点があったのですが……俺がやりあった相手、あれのおかげで正体が分かりました」

「正体、だと? 小国の忍び連中じゃないのか」

「いいえ、違います。それならば、菊夜さんでも何とかなったはずです」

思えば、菊夜さんに聞かされた話も、菊夜さんが切羽詰っていたことも。
どこか、違和感を感じていた。一人巫女を守り続けていたのであれば、一対多の状況でも戦えるはずだ。複数の忍犬を扱える忍びであれば、何とか逃げることだけはできる。

―――相手が、忍犬使いと戦ったことがない忍びであれば。あれほどまで急に、窮地へと追い詰められたその理由が分からなかった。焦っている理由が分からなかった。
答えは簡単だ。暗部は抜け忍を始末する役割も担っている。つまりは“里内部の忍びについて、熟知しておかなければならない”

「どういうことだ……って、お前、ちょっと待て。それはまさか」

さすがは網の首領といったところか。頭の回転が速い上に、考えたくない事実まで思考を届かせることができるとは。
小国ではない忍び、つまりは大国の忍び。そして忍犬使いを知っている国。
証拠は他にもあった。他でもない、俺が食らった体術のことだ。

「まず最初に、あの暗部の忍びが使った体術ですが……あれは確か木の葉流体術の一つ、『木の葉烈風』です」

上段の回し蹴りから、流れるように繰り出された下段の足払い。あれはたしか、木の葉烈風のはず。

「そして、俺が最後に受けた体術……あれも同じく木の葉流体術。体内門を開いて発動する奥義に位置する体術、『表・蓮華』です」

思い出しても震えがくる。しかし、影舞葉の時点で気づけたのは僥倖だった。咄嗟に右腕を上げていなければ、あの鋼糸で絡め取られそのまま俺は岩場へと叩きつけられていただろう。

「………木の葉の体術を使ったからといって、相手が木の葉とは限らないだろうが」

一縷の望み、といった感じで言葉を紡ぐように小出しにしてくるが、その途中でザンゲツは頭を抱えた。
話をしている内に気づいたのだろう。

「……ああ、くそ、そうか!」

立ち上がりながら今まで自分が座っていた椅子を蹴る。

「国境の忍びもか! ……あとは、忍犬使い!」

「気づかれましたか」

「……ああ。ちっ、気づけなかったぜ。一体どこまで手を、いつから……」

ザンゲツは頭を抱えた。俺も頭を抱えたい。
よりにもよっての、一番対峙したくない相手だ。まさか今回の任務で敵になるとは、正直思ってもみなかった。

「………木の葉の暗部か」

「はい、よりにもよってです」

どう対処するか訪ねてみる。だが、ザンゲツは答えず、沈黙を保ち続けていた。
何か手はないか、色々と考えいているのだろう。
網の首領ともなれば打てる手は少なくない。それなりの戦力も保持しているし、大商人と言われるもの達とも、深いパイプを持っている。
組織力としては、大陸屈指のものを持っているのだ。

だが、今回は相手が悪い。相手は間違いなく、大陸で一ニを争うほどの規模と精強さを持つ、あの木の葉の暗部だ。
いかな網とて、まともにぶつかれば跡形も残らない。

「……駄目だ、こちらから手は出せん。木の葉の暗部というなら……この件について、一度三代目火影に問いただしてみよう。この一連の想像、間違いなく爺さんの意志ではない。あの爺さんがそんなこと許すわけないからな」

「三代目火影の人柄について……よく、知っているのですか?」

とぼけながら聞いてみた俺の問いに、ザンゲツは苦笑しながら答えた。

「ああ、商売が下手な爺さんだ……だが、忍びの中なら、他の誰よりも信用できる。それに何より、鬼の国の盟約に関しては、初代火影の時代から連綿と受け継がれ、未だ破られていないものだ。
 提案者の木の葉が、そしてあの爺さんが………破るわけ、ないからな」

「三代目火影……直接、会って問いただせるんですか」

その問いに対して、ザンゲツは問題ないと言った。

「ちょうど会う約束もしていた。そこでお前が持って帰ってきた情報を、起きている事、全部告げる。動くまで多少時間はかかるだろうが、それで解決するはずだ」

それが一番いい、とザンゲツは頷く。
確かに、三代目火影ならば暗部を止められる。間違いなくとめてくれるだろう。一度火影の座を譲ったとはいえ、まだまだ里の者からの信望は厚いはずだ。

「……色々と予定はあるが……お前は、取り敢えず休め。ほら、水だ」

「そうですね……」

コップを受け取る。一口水を飲み、生返事をしながらも、俺の気は晴れなかった。
間に合うのか、そんなことを考えてしまう。暗部が動いていること、それがどういった事態に繋がるか、うっすらと見えてくるから余計に焦ってしまうのだ。

「しかしな……」

不安な心を助長させるか如く、ザンゲツは小さく暗い声で呟いた。

「……暗い声ですね。何か、心配事でも?」

「ああ、ちっとな」

ザンゲツはぼりぼりと頭をかきながら眉間をしかめる。

「三代目の爺さん……最近、といってもここ数年だが。ちょっと、ごたごたがあってな。めっきり老け込んじまった」

何か嫌なことでも思い出したのだろうか、ザンゲツの顔はみるみるうちに不機嫌なものに変わっていく。
しかし、老け込んだとはいったいなんなのだろうか。俺は直接聞いてみた。

「んや、風の噂によるとな……と、そうだな。お前、九尾の妖魔って知ってるか」

「げふぉッ!?」

不意打ちで出た○禁ワードに驚いた俺は、口に含んだ水を吐き出してしまった。

「大丈夫か!? 傷が……」

開いたんじゃないかと言うザンゲツに、俺は大丈夫だと手を上げる。
口元の水を折れていない方の腕で吹き、続きを促す。

「はい、名前だけならば。7、8年前に木の葉の里を襲った怪物ですよね」

「その関連でちいっとばかしへまをやらかしたらしくてな。いつもは弱気なところなんて欠片も見せない爺さんが、珍しく憔悴していた」

「………そうですか」

何で、俺に言うんだろうか。ザンゲツはそんな俺の疑問に構わず、話を続ける。

「責任を追求されて権威を失墜……ってところまではいかないが、力は幾分か削がれたらしい」

きな臭い話だがな、とザンゲツは肩をすくめる。だから何で俺に言うんだろうか。
今の俺は自由人。夢を目指して飛び出した放浪者で、木の葉とは繋がりもない。
立場的に第一級の危険地帯なので、今のままでは寄り付けもしない。

しかし、三代目火影か。
確かに、里の切り札である人柱力を失ったことは、里の者からの信用を損なわせる原因になるだろう。
厳密にいえば三代目のせいではないのだろうが、責任の所在は間違いなく三代目にあるだろう。
里の戦力である人柱力の管理は火影の役割だ。過失で失ったとなれば、その管理能力を疑う者が出てきてもおかしくはない。

だが、解任または次代へと変わったという事態に推移していないのは何故だろうか。
その理由について考えてみて、思いあたったことがあった。
責任を追求する者が少ないのだろう。考えてみれば分かることだった。

ああ、そうだった。そういえばそうなのだ。


里の者は九尾を心底憎んでいるのだ。襲来からまだ10年も経っていないため、里に残っている傷跡は未だ深いのだろう。
責任を追求しないのは、本心では良くやったと思っているか、別にいいと思っているかだ。

ああ、そうだな。あの時俺には、誰も助けに来な――

「――痛っ!!」

脳と腹の底、二箇所に刺すような痛みを感じ、俺は腹を頭を抱えた。

「……大丈夫か」

「ええ」

暗い方向に思考がいったせいか。俺は首を振り、考える方向を変えてみる。
今、そのことを考えてもしかたがない。問題は、三代目の力が小さくなった件についてだ。

いずれ来るだろう、大蛇丸のことは今はおいておくとして、まだ一つ問題点がある。
今回の敵のことだ。

(どうするか………)

俺が得た情報から推測できる敵と、悪化するであろう事態。それについていくらかは推測もできる。これからこの情報、カードどう使うか、よく考えなければならない。
ひとつ間違えば、もしかしたら木の葉内部で内乱、果ては戦争になりかねないのだ。

いくらなんでもそれは不味い。だとしてもどうするのが一番いいのか。
うんうんと俺が悩んでいるとき、突如誰かが部屋に入ってきた。

「も、申し上げます!」

「何だ、騒々しい!」

「は、失礼しました! ですが急ぎの要件で……」

「……何だ!」

「……は! 木の葉の、あのうちは一族が……何者かの手により、皆殺しにされたとのこと!」

一瞬だけ、時が止まる。俺とザンゲツの息も止まった。
直後、ザンゲツが勢い良く立ち上がり、叫ぶ。

「何だとォ!?」

「げふぉ!?」

息が戻ったかと思うと、口に含んだ水を吐き出してしまった。
鼻に水が入り、咳がでる。だがそんなことは今はどうでもいい。

(……ああくそ、よりにもよってこのタイミングでかよ!?)

いつか来るとは思っていた。だがここで来るのか。
予期せぬタイミングすぎて、俺はうなだれ頭を抱える。

『……駄目だ。事後処理があるし、混乱を収める役割がある……三代目は動けないし、しばらくは会うこともできない』

『……八方ふさがりじゃの』

知ってはいた。時期的なものはあやふやで、俺程度の力量では止められるはずもないあの事件が起こることを。
知ってはいた。うちは虐殺が起こることを。今の俺には関係のないことだと思っていた。関係すれば生命は無いと思ったからだ。
そのとおり、直接的に関係することは無くなったはずだった。しかし、間接的に、こんな形で絡んでくるとは。

(紫苑……!)

左腕を握り締める。三代目はあてにできない。ならばどうするか。
どうすればいいのか。

「……それで、一体誰にやられた」

未だ半信半疑なのか、ザンゲツは流れてきた情報について、報告員に改めて問いただす。

「それが、うちはイタチとかいう木の葉の忍び………滅ぼされた、うちは一族のもので……事件後、すぐ国外に逃亡したそうです」

「……一族の内紛か、あるいは…いや、今はいい。それで、他の里は、特に雲はどうしてる。動いたのか」

「いいえ、まだ情報は流れてはいないようです」

「まだ、か。だかいずれ知る。その情報を得た各国がどうでるかなど、火を見るより明らかだが……それも、今はいい」

ザンゲツは顎に手をやり、考える。今はどう動くべきか、状況を整理しながら考えているのだろう。
やがて結論が出たのか、報告員のひとにザンゲツは俺が予想だにしていなかったことを聞いた。

「……鬼の国の国境の忍びは。あそこの木の葉の忍びはどうしている」

「……は? は、はい、今確認致します」

「急げ」

聞かれた意味が分からなかったのだろう。報告員は戸惑いながらも、迅速に対応しおうと動き出した。

「……どこもかしこもてんやわんやだな」

「……そうですね」

頷きながら、俺は考える。あるいは、これはチャンスなのではなかろうかと。
混乱の中に好機だり。死中に活あり。光路は必ずあるはずだ。

『……ちょっと待って。一体何を考えてるんだ』

(考えることなんて一つだ。この状況で何ができるかなんて、決まりきってることだろ)

『その後に訪れる結末も、決まりきってることだね』

はっきりと言われた俺は、咄嗟に言葉を返せない。あの体たらくでは仕方がない。
自覚させられてしまうと、ぐうの音も出なくなった。

『ほぼ万全の状態でも勝てなかった相手に、今の状態で勝てると……本気で思ってるわけじゃないよね』

(……片腕でもなんとかなる。一度見たし、今度は負けない)

強がりの言葉、だがそれはすぐに看破された。

『……それが武者震いだというのなら、僕も止めないけど』

(………)

見れば、自覚もないうちに左腕は震えていた。
もう一度戦う、といことを想像して、負けた時の恐怖を思い出したのだ。

『……覚悟が定まっていない今、君はあの忍びに勝つことはできない』

(……覚悟? なんだ、人を殺す覚悟か)

『違う。人を守るという意味での、覚悟さ』

謎かけのような言葉に、俺は首をかしげた。

(一体、何を言っている)

『分からないのであれば、言っても無駄だよ』

(だが……)

と、俺は小指を見る。包帯に巻かれて今は動かすこともできないが。

『……ふん、約束を果たして、その後にあの小娘の前で死ぬのか。それはまた酷なことを思いつくな』

(……そういう、つもりじゃない)

『お主は最初に言っていたではないか。戦いは嫌いでは無かったのか。死にたくないのではなかったのか。だから戦いの中では夢を見たくないと、そう思い行動してきたのではないのか』

(……ああ。ああ、そうだよ。俺は死にたくないんだ)

最低限、自分が死なないための最善を尽くす。自分で精一杯で、誰かを救おうなんて思っちゃいない。
俺は夢のために強くなり、生き延びてそれを叶えるのだ。


『ならば、諦めることを知れ。仕方ないのであろう。こちらも今、お主に死なれるのは……御免被るしの』

(……そうだよな)

腕の震えが止まらない。そうだ、俺は死にかけたんだと思い出す。頭から岩に落ちそうになったことを、あの光景を思い出すと、全身が震えだした。
思い出したくないと目を閉じても、あの光景が脳裏に焼き付いてしまっているため、震えは止まらなかった。

「席をはずす。今はゆっくりと休め」

震えている俺を心配そうに見ると、ザンゲツは部屋を出て行った。



「くっ……」

涙が溢れてくる。どうしようもない、今の状況と、自分の弱さに。

仕方ない。仕方ないんだと自分に言い聞かした。








数時間後。

「あら、シケた面してどうしたんだい」

「……おばちゃん」

病室に、ボロ旅館のおばちゃんがやってきた。果物片手ということは、見舞いに来たようだ。

「……珍しい。どうしたの、いきなり」

「何となくさね」

そう答えたおばちゃんはベッドの横の椅子に座り、リンゴの皮を向き始める。
手馴れたもので、あっという間に剥かれたリンゴが皿に並ぶ。

「ほら、食いな」

「……ありがとう」

リンゴを手に取り、食べる。
甘い味。そういえば、何時いらいだろうか。こんな、ベッドの上で果物を食べるというのは。
それに、おばちゃんも。何故俺なんかの見舞いに来たのだろうか。聞くと、頭をぽかりと叩かれた。

「ケガしたって聞けば心配するのは当たり前じゃないか。アンタ、アタシを何だと思ってんだい」

「いや……その……ごめん」

謝る。すると、おばちゃんは驚く。

「いつもの憎まれ口が出ないたあ……こりゃ余程の重症だね」

ああそりゃあね、と俺はケガの状態について説明をした。
しかしおばちゃんは、俺の説明を聞いた後「そっちじゃない」と言う。
何が違うのか、聞いてみても答えてはくれない。

しばらく俺は寝転びながら、天井を見上続けていた。

そしてふと、おばちゃんにとある事をたずねた。昔から不思議に思っていたことだ。

「なあ、おばちゃん。おばちゃんは何であの旅館を続けてるんだ? 正直、おばちゃん程の腕ならそこらの有名店でも十分に通用するだろうに」

「……ああ、そんなことかい」

言うと、おばちゃんは答えてくれた。

「そりゃああんた、あの荒くれ共に食いものを与えるためさ」

「与えるって……」

突っ込むがおばちゃんはかかかと笑うだけ。

「他に誰が居るんだい、あんないかにも「堅気じゃありません」な顔をしている奴らに、酒と旨いもんを振舞うっていう物好きが」

「いないなあ」

お断りされる店も多いとか。そういえば打ち上げや何かの時、盛大に騒げる店といえばあそこしかない。

「それにあいつらも旨いもん食ってりゃ暴れないだろ。男は胃袋をおさえられると弱いからねえ」

「……まあ、確かに」

あの店で料理作ってるおばちゃんには、勝てる気がしない。
他のヤツラもそうだろう。おばちゃんの料理は実に多彩で、中には「おふくろの味」をしたものもある。
遠征工事の時には、「あの煮物が食いてえなあ」と呟くもの多数だ。

「それに、アタシも元は気質とはいえない身だからね。すくい上げられた恩もあるのさ。まあ、気が合うってことさね」

「あの空間が好きだと?」

「むしろあいつらとアタシは同類だからね。せっかく料理振舞うなら、好きなヤツら相手の方がいい。ま、腐れ縁ってのもあるけどね」

戦災のせいで田畑を焼かれ、食う者に困ったもの同士の縁だと言いながら、また豪快に笑う。

「最初期に使っていたのが、あのボロやなのさ。思い出すねえ、設立当初の時とか」

網設立時、最初は10人程度だったらしい。しかし誰にも料理が出きなかったとか。
いざといい、名乗りあげたのがおばちゃんだった。

「あの時は正式な組織員が少なかったからね。実働は5人程度。ま、それなりに戦い方はしっていたから、少なくとも何とかなったけど」

「無茶するなあ」

群れをなして襲ってくる山賊相手に、よくその数で戦えたものだ。生命は惜しくなかったのか、聞いてみるとまた笑われた。

「テメーのタマ張らないで、何を張るってんだい。それに、いつも後ろには人がいたからね」

「……農民?」

「……ガキさ。戦災孤児。特に昔はひどいもんでね。今もあるが、労働力にと子供を攫っていくやつらがいたのさ。今は火の国の北方あたりが怪しいらしいけど」

人が消える噂が流れている。十中八九大蛇丸なのだが。

「守りたいから?」

「ああ。時には……殺しもしたね」

おばちゃんは再びリンゴを手に取り、皮を剥き始める。

「許されはしないだろうね。ザンゲツのやつもそうさ。死んでいった者もいる。そんなアタシらだが、ただひとつ共通してる点がある」

それは、と聞くとおばちゃんは笑った。

「選んだ道を後悔しないことさ。死んでも殺しても、悔いはしまいと。全て背負って前に進もうと………そう、決めたのさ」

「助けるために?」

その問いに対して、おばちゃんは笑顔を返すだけ。

「きれいに生きられたら、ねえ。それでいい。だけどそれだけじゃあ、届かないものがある」

剥いたリンゴを手渡される。皮が無いので、手が汚れた。

「汚れる覚悟がいるんさ。人を助けようって行為にはね。その覚悟無しに、綺麗事だけ並べても……誰も、救えるワケがない」

じっと、おばちゃんはこちらを見る。

「あんたが、自分の正体を隠してる理由は聞かない」

「………!」

おばちゃんの唐突な言葉に、俺は驚く。

「あんたは文句を言いながらも、あの宿に泊まってくれている。料理も旨いと言う……馬鹿みたいだけど、息子のようなものだと思っている」

「……おばちゃん」

「だから、おせっかいだろうけど言っておこうか。生きるために何をしてはいけないのかっていうことを」

視線が真剣なそれに変わる。視線の強さが全く違う。
重圧すら感じた。

「―――自分の気持に嘘をつくな、生命を惜しんで大事なものを見失うな―――その、二つだけだ」

「……!」

「それさえ守れば、きっと最後には笑って死ねるさ」

そして終わりよければ全て良しさね、と笑う。

「――やれやれ、どうにも説教臭くなっちまったね」

「……いや、ありがとうおばちゃん」

「ふん、どういたしまして。こんな年寄りの説教だけど、役にたったかい?」

笑って問われた。俺も、笑って答える。



「ああ、とっても」














夜。

俺は全身が痛む中、取り寄せてもらった装備を確認していた。
体調は未だ戻らず、万全とはとても言えない。むしろ万全の半分にも満たないだろう。

―――だけど。

「よしっと………で、そこの人?」

装備を確認した後、俺は部屋の外で隠れている人物に声をかける。

「……ばれてたか」

廊下の方、部屋の入口の横に隠れていたのはザンゲツだったようだ。観念して部屋の中へと入ってくる。

まさかとは思ったがと前置いて、訊ねてくる。

「……本当に、行くのか」

「―――行きます」

「そうか……国境の忍び、今は一人だけだ。だが網としては手は貸せんぞ。増援も無いと思え」

今木の葉の暗部と正面切って事を構える気はない。そういうことか。
そんなのは分かっている。

「もとより承知の上ですよ。それよりも一つだけ、聞きたいことがあるんですが」

何だ、と言うザンゲツに、俺は聞いてみた。

「今回の木の葉の行動……あなたは正しいと思いますか」

「正しいだろうな」

迷う素振りも見せず、ザンゲツは即答する。

「話からすると、巫女の血はこの上なく貴重な血継限界となるだろうな。ならば求められることは必然。木の葉の暗部が自国を守るため、その力を求めることは何も間違いってわけじゃない」

「世界を滅ぼす化物は?」

「ここ数百年は現れたことがない。そんな事件も起きてない。忍びは現実主義だ。世界を滅ぼす化物とか、そんな非現実的な空想かもしれないことを信じるやつはいない」

「……しかし、自国を守るため、ですか」

「そうだ。自分の国の人間を守るため、忍者は最善を尽くす。自国で流れる血を防ぐため、他国に血を流すことを強いる。それは決して、おかしい考えなんかじゃないぜ。
 守るべきものを守るためには、力が必要だ……いったい何処の誰が自分の大切なものより見知らぬ相手を気遣うんだ?」

「……それが正しいと?」

「いや、正しくはないな。だが決して間違いってわけでも、ない。俺は色々な国に行ったことがあるが……どこも同じだ。誰も彼もが自分の正義のために戦っている。
 信じるべき自国の民の平穏……それこそ、お前が鬼の国で見た、子供達の日常、あの光景を保つために戦ってるんだ。
 他国に侵されないためにな――だから、何処の誰が悪いからって話じゃあ、ないんだ」

守るために己を汚す覚悟。戦いの渦に落ちて行くという覚悟。
殺し殺されに参加するという覚悟。

ザンゲツはただ、と付け加えて言葉を続ける。

「……それでも、その揉め事や戦に巻き込まれる、力のないモンはたまったものじゃないよなあ」

渦は当事者だけでなく、周囲のものを巻き込むものだ。ザンゲツは顔をしかめながらそう言った。

「それを防ぐため……それが、アンタが網を立ち上げた理由か?」

「あん? ああ、よくある、立ち上げた確固たる理由ってやつか? ……そんなもんはねえよ」

ただ俺は、復讐したかったんだと呟く。

「誰に?」

「――神様とかいうやつに復讐してえのさ。くそったれの神様に。あんたが助けなかったやつらを、俺が助けたぜって、『アンタはほんと無能だな』、って見下してやりたいんだ」

小さい男だろ、と自嘲する。それだけが理由というわけでもないだろうが、そういう思いも含まれているのだろう。
若干照れている様子を見るに、他にも何か、色々と理由があるはずだ。

仲間のためとか、正義のためとか。そういう、シラフでは話せない理由が。

「……それはまた」

「変か?」

「変だが……そういうの、嫌いじゃないです」

色々な意味で変人だと思う。とんだ意地っ張りだとも思う。
だが、その反骨心と歪みは、正直嫌いじゃない。

「俺には、何もかもを覆す力はねえ。だが、何も出きないって訳でもねえ」

事実、そうだ。手を出せない状況を作り上げ、助けられる者を助けているザンゲツ。

「一端振り上げられた力は、力でしか止められない。だから、その力を振り上げようっていう環境を――土壌を変える必要がある」

「だから生命を張って、道を作る?」

戦災孤児を、戦災で苦しむ人達をまとめ、居場所を作るのか。
そう聞くと、ザンゲツは笑って頷いた。

「道がつながれば、交流は増える。互いに互いを知れば、争いは避けられる」

古来より、戦争が起こる原因のひとつとして上げられるのは、相互の不理解だ。
それを無くすために、道をつなげて、誰かが誰かと接する機会を増やすのだ。

しかし敵も多い。賊の脅威も忍びの脅威も、未だ消え去ってはいない。

「……権力も何も持って無いんなら。張れるのはただひとつだけだぜ。そいつを惜しんじゃあ、場は動かせねえ」

――場に出せるカードはひとつ。自らの生命だけか。

「……そうなんでしょうね」

――俺は臆病だった。殺す覚悟もなく。死ぬ覚悟も無く。ただ漫然と、力を得るために戦場にでようとしていた。

(今、気づけて良かった)

知らないままであれば、いずれは殺されていたかもしれない。

(何かをしたいのであればそれを理由に言い訳をしちゃいけないんだ)

自分の身を守るだけならば、その覚悟も要らないのかも知れない。
だが、観客ではなく、自ら舞台に出ようとするならば。
一度許せないものがあって、それを許さないと叫び止めるには。守りたい何かができたのならば、身体を張って血に汚れる覚悟を持たなければならない。

俺は用意した封筒をザンゲツに渡す。

「何だ?」

「辞表です」

脱退申請の紙だ。網を巻き込む訳にはいかない。


「……却下だ。俺達には何もできねえが、知らんフリをするってのもねえ」

「しかし」

「揉め事になっても、何、どうにかしようじゃねえか」

「迷惑がかかると思いますが」

「……そうだな。ならひとつだけ、頼みごとがある」

「なんでしょう」

「生きて帰れたのなら、ひとつだけ。俺の頼みごとを聞いてくれや」

「……了解」

「あともうひとつ、お前がそこまでして巫女の娘を助けに行く理由は、いったい何だ?」

「―――そうですね」

自分の小指を見つめる。小さく、柔らかく、白い―――女の子の指。その感触が、心に刻まれている。
そしてもうひとつ。



「―――です」













そうして、少年は駆け出した。
腕を吊ったまま、痛みに顔をしかめたまま、それでも全速力で。

残されたザンゲツはひとり、夜空を見上げながら先程の少年の言葉を思い出し、笑った。


「生きて帰れよ。うずまきナルト」





















鬼の国の地下にある牢。
そこで、菊夜と紫苑は入れられていた。手足は“根”特製の捕縛用の鋼糸で縛られ、菊夜が抜けだそうといくらもがいても、びくともしない。

その横で、紫苑は自分の身体を抱きしめ、うつむいていた。
捕まったあの日から、もう4日が経過している。約束の3日は過ぎたのだ。

密かに、戻ってくるかもしれないと期待していた紫苑。だが約束の期日を過ぎても、未だ現れないイワオ。
あの忍びの告げたことは正しかったのだと、そう思い込んでしまっていた。

「紫苑様……」

「……もう、よい」

お主だけでも逃げよ、と紫苑はいう。

「そんなこと、出来ません。それに……」

「妾のことは心配するな」

あの薬もある、と紫苑は懐を叩いた。
これは、幾代か前の巫女が作り出した、自らの力を誰かに悪用されないためのもの。
薬により体内の経絡系をこじあげ、その力を以て何もかもを消し去る、いわば最後の手段だ。

「しかし、母上が死んで、2年か………」

長かったのか短かったのか、と紫苑はおよそ少女には似つかわしくない顔で嘲る。

あの日、あの夜に起きたことは当時5歳だった紫苑の脳裏に鮮烈に刻まれている。
正体不明の黒い……怪物、化物としか言いようの無い何かが封印の祠より飛び出したのだ。

母はそれの流出を防ぐため、生命を賭けて立ち向かった。
最後、決死の封印術は成功したが、母・弥勒の傷は深く、紫苑に「ごめんね」とだけ告げて、あの世へ旅立ってしまった。

「それにしても、あれはいったいなんだったのでしょうか……」

「……口伝でしか伝えられていない、忌むべき存在。妾も、その正体については知らされておらなんだ」

あまりに急な復活。
その化物について、母は知っていたようだったが、伝えられる前に死んでしまった。

「『終にして始まりを司るモノ』。母上はそういっておったが……今は考えておる場合ではないな」

「……はい。ですが、あいつらは……!」

母が死んだ後、その報を裏で知った周辺の小国の忍び達は、巫女を確保しようとした。
それを防ぐため、菊夜も護衛を強化した。だが数が多く、一年が経過した後には、事態は深刻なものとなっていた。

「初めは木の葉の忍びということで安心したのですが……」

三代目火影の人柄は、表向きでも広く知れ渡っている。
だから、力を貸してくれるという提案に、国主と菊夜は頷いた。
忍びの攻勢による人的被害はひどく、国主は特に一も二もなくその提案を受けた。

「……ですが、まさか代わりに巫女さまの能力を求めてくるとは」

「国主殿も、ようも頷いたもんじゃ」

取引は簡単なもの。

『これから先も、木の葉による鬼の国への戦力提供は続ける。だが代わりに、巫女の能力が欲しい』。

自国の戦力に乏しい鬼の国、他国への干渉も禁じられている鬼の国には、これ以上ない提案に思えたのだろう。
ただでさえ、外の国の情報が入りにくい。そんな中、随一と言われる木の葉の援助を受けられるのであれば、断る理由があろうはずがない。
現在の国主は臆病で、他国に伝え聞いた戦災のひどさに、いつ自分の国がそうなるかもしれないと怯えていた。
確かに、盟約はある。だが約束など、戦況次第で容易く破られるもの。

今までは戦略的優位性もないため、鬼の国は放置されていたが、もしもう一度忍界大戦が起きれば。
そして戦争が激化すれば、その限りではない。

「……問題は、あの者たちが木の葉暗部で……しかも“根”と呼ばれる集団だったわけですが」

“根”の悪評は、菊夜にしても伝え聞く程だ。他国の血継限界を集め、時にはつぶしもしているらしい。

「秘密裏に、この力を利用されるとも限らん。その時は……」

懐にある薬、これを何とかして飲まなければならない。だが、確実に死んでしまうだろう。
紫苑は死ぬという事実に、全身を震わせた。

「紫苑様……」

「……死ぬのは、確かに怖い。だが、今まで守り通してきた巫女の理念……妾がそれを破るわけにもいかない」






「それは困るな」






「っ、何者!?」

いつの間にか牢の入り口にいた影に対し、菊夜が叫ぶ。

「……聞かずともわかってるんじゃないか? まさかそんなモノがあるとはな」

聞けて良かったよ、と嘲るように影は言う。
その声を聞き、手練の方ではないと、菊夜は悟る。威圧感が全然違うからだ。

「それに、今更そんな事を言い出すなんて、ね」

「……何が、じゃ?」

「いや、巫女の理念とやら。君はもう、破っただろうに」

イワオを巻き込んだのは一体誰だったかねえ、と影は肩をすくめる。

「っつ、それは……!」

「薬を飲む機会なんて、いくらでもあった筈だ。だが、君は飲まなかった」

「……」

紫苑は黙り込む。

「随分と思いつめていたと聞くから、何か企んでいるとは思ったけど」

「くっ!」

悔しげに紫苑は歯噛みする。
実はといえば、紫苑はイワオと出会ったあの日、このもの達を道連れに死ぬ気だった。
囲まれる状況に誘導し、そこで薬を使い、自らの生命を以て忍び達を葬るつもりだった。

だが、出会った。出会ってしまった。


「死にたくないと思ったんだろう? ひょっとしたらと考えたのか。ま、結果はこんな風になったけど……いや、そうか」

そこで影は肩をすくめた。

「巫女の本当の能力は……ああ、そうだ! 巫女を守りたいと思うものに、巫女の死の運命を押し付けることだったね! 成程成程、そうかそうか」

「っ、違う!」

「いや、隠さなくていいよ。そうだね、巫女といっても人間だ。そう考えることも無理はないね……ま、イワオは災難だったろうけど、あの世で満足してるんじゃないか?」

何しろ守りたい者の代わりとして死ねたんだもの、とわらう。

「……違う、違う、違う!」

紫苑が叫ぶ。違うと叫ぶ。事実、紫苑にはまだそこまでの力は無い。まだ未熟で、巫女としての力は顕現していない。
だが、事実イワオは死んでしまった。自らの代わりに。発動したことの無い能力、母に聞いた力。

大昔、自らの力を利用しようと侵入してきた者たちを、尽く撃退したという巫女の力。
有り得ない被害に、人はこういった。

“あの国には鬼が棲んでいる”と。

「……ちが、う」

叫びながらも、紫苑の声は小さくなっていく。本当に“発動していないのか”と聞かれ、発動していないと返すに足る証拠がどこにもなかったのだ。

「逃げられたらそれでよかったのに。でも、捕まってしまった。はっ、これ以上ない犬死だ」

滑稽すぎて涙が出てくると、影は嗤い続ける。
巫女の心を折るために。反抗心を削ぐために。

「まあ、死んで当然だったんじゃない? 所詮あいつは……ぐっ!?」

最後の言葉を告げようとした影。その横から、何かが襲いかかった。
だが影も素人ではない。直撃する寸前に攻撃を防御し、そのまま横に飛ぶ


「――何の真似だ、お前ら」

先程までの軽さは微塵もない。忍びの殺意を以て、暴挙に出た者へと言葉を叩きつけた。



「答えろ、サイ、シン!」

「……外の者であるお前に、呼び捨てにされる筋合いはないぜ」

「はっ、一応俺は“根”の協力者だぜ? それに巫女の自殺を防いだんだ。こんなことをされる謂れわないと思うが」

「……お前と話す言葉は、ない!」

叫びながら、サイは術を発動させた。

超獣偽画。サイが持つ、特殊な忍術である。


―――だが。



「くっ!」

まだ身体も未熟で、術も未熟な二人の攻撃は、中忍レベルである影に対しては通じない。

尽く避けられ、やがて二人は追いつめられていった。

「―――くそっ」

サイは煙玉を投げ、牢屋前の狭い廊下を煙で充満させる。

「……くっ、味な真似を!」

視界が防がれた影は、攻撃を警戒し天井へ飛び上がる。

そしてチャクラで吸着し、逆さになる。


「何処だ……?」


影は超獣偽画を警戒していた。
あの術は攻撃の際の気配を読みにくく、万が一ということもあり得るからだ。


(仕掛けてこないな……、しまった!)


気づいた影が、牢屋の方を見る。



そこに、巫女と護衛の姿は無かった。

















「こっちだ!」

シンを戦闘に、サイ、紫苑、菊夜は城の中を駆ける。

「お主達……」

「……ほら早く、逃げるよ……!」

気づかれれば確実に殺されるだろう。その前に、逃げなければならない。

「お主達、どうして……」

「………」

紫苑の問い答えず、兄弟は無言のまま紫苑達を誘導する。菊夜は紫苑を抱えながら、その後に続く。
やがて、4人は城から抜け出すことに成功した。


全速で森の中に駆け込み、姿を隠す。

やがて岩陰で4人は休み、一息ついた。

「……真蔵、才蔵……」

「……何も言わないで欲しい。いや、こっちから言わなきゃね」

そうすると、二人は頭を下げた。

「ごめん、君たちを騙していて」

「……仕方がなかった、なんて言えないけど……」

イワオのことを言っているのだろうと紫苑は察した。
瞬間、怒りがこみ上げる。だが悪いのはこの二人ではない。

「あいつが死んだのは、妾のせいだ。お主らが言うような事では……」

「……でも! 俺達のせいで、あいつは死んだ! もっと前に、勇気を出して言っていれば……」

「兄さん」

「……くそ、“根”は、木の葉は……そんな組織じゃないって、信じていたのに」

人々を救うため。ダンゾウ様の手と足になる。そう聞かされていた。
だが、やっていることはなんなのか。こんな少女をさらって、本当に正しいのか。シンとサイは迷っていた。

そこで、聞いたのだ。部隊長と牢屋にいた影が交わしている話を。

「あいつら、紫苑のことをなんとも思っちゃいない……道具みたいに使って、術だけ引き出して……殺す気だ」

「……やはり、そうなのですか……」

特殊な力はそれが希少であるほど望ましい。多ければ研究され、対抗策を練られる。
だからこそ、自らの組織だけで術の秘伝を独占するつもりなのだ。

「……だが、見つかればお主達も殺されるぞ」

「……それでも、あのまま見過ごすなんてできないよ!」

シンが悲痛な叫び声を上げる。
サイも、頷いた。

「このまま逃げよう。国境を越えて、網とかいう組織の本部へ行けば……!」


きっと、なんとかなる。


―――そう、続けようとした時だった。




「―――行かせると思うのか?」


冷たい、声が鳴り響く。

そこから先は、刹那。

僅か数秒で、状況は一転した。

「ぐっ!?」

「うあっ!?」

背後から忍び寄って、一撃。それだけで、二人は戦力を削がれた。

骨の折れる音が夜の森に響きわたる。

「……っ、あっ」

「……ふ、は……」

「考えなしもここに極まれりだな。お前達程度の力でどうにかなると思ったのか?」

影は冷たく言い放つ。

「やれやれ、監視に加え、互いの絆を深めようと、一緒に連れてきたのは失敗だったか」

「……なに、が……?」

絆を深める。その意味がわからない、と兄弟は苦しみながらも疑問に思った。

「―――まさか、お前たちが我らを裏切るとはな………最終試験を早めなければならんか」

判断は間違えてなかった、と呟く。
最終試験。そう言われた二人は、言葉の意味が分からずに、しかし恐怖に震えた。

今まで、色々な敵と戦わされた二人。口寄せで呼び寄せられた化物、他国の下忍、色々な敵と戦わされた。
その最後、最終試験とはいったいなんのだろうか。

どうも反抗心を削ぐために、何かをするようだ。誰かを殺させるようだ。
しかし、いったい誰を、と考えた時、影の声が紫苑達に向けて飛ぶ。

「――そっちも、動くなよ。動けば殺す」

「くっ!」

「それとも、薬とやらを飲んで薙ぎ払ってみるか? こいつら諸共に」

兄弟を見下ろし、影は言う。そのまま殺気を全身に巡らせ、威嚇する。

「あの力のコントロールを可能とする術……それに対して、“ツテ”も出来たようだしな。反抗するとうのならば、殺す。お前と一緒に遊んでいた、あのガキ共も、一人残らず殺してやる」

影は何の感情も含めず、言う。

「なっ」

紫苑は意味を理解し、息を飲んだ。

――これは脅しだ。そんなことは、できやしない。だが、もし本当にそうならば? 
そう考えてしまい、紫苑と菊夜は硬直する。その殺意と、無機質な悪意に気圧される。

「――密約も、無しだ。ああ、そうそう、もしかしたら周辺の小国に、この国の情報が流れるかもしれんな」

脅しに脅しを重ねる影。

「お前のせいで、大勢の人間が死ぬことになる。あの小僧のようにな……どうする? ――選べ」

こちらとしては、どっちでもいい。そう、告げた。

「……代わりに、頼みがある」

「何だ?」

「この二人を、許してやってくれ」

「―――ああ、分かった」

嘘だ。菊夜は答える男、その言葉の裏に隠された悪意を感じた。
それに裏切り者を放置すれは示しがつかない。

こいつが、そんな約束を守るわけがないと、菊夜は考える。
だが、どうしようもできない。自分の忍犬の能力と特性は、共に護衛の任務にあたった時に話してしまった。今では迂闊に過ぎたと思わざるをえない。

自分がこんなに無力だとは、こんなに愚かだとは、と菊夜は己の無力と情けなさに涙を浮かべ、下唇を噛んだ。

「駄目だっ……!」

「紫苑……!」

痛みを顔をしかめながら、悔し涙を浮かべ兄弟は叫んだ。

手を伸ばすが、届かない。


面をつけた根の部隊長、影の手が紫苑へと伸びる。


(―――すまん)

紫苑はその手を見つめながら、詫びる。

自らを守るために、裏切らざるを得なかった……イワオを見捨てて逃げ出すという決断をさせてしまった、菊夜に。菊夜とて、非道の輩ではない。母上との約束のため、苦渋の決断をせざるをえなかったのだろう。あの後、随分とせめてしまったが、原因は妾にあるのだ。どうして責められようか。

骨を折られ、痛みに顔をしかめ、助けられないと悔やみ涙を見せる、真蔵と才蔵に。願わくば、彼らの未来に光あれと祈る。巻き込んでしまった。あの日、妾が死んでいれば、それで全てが丸く収まっていたのだ。すまないことをした、と心の中で詫びる。

―――そして。自らの弱さのせいで、死なせてしまった、大好きだった少年。
馬鹿で、それでも明るくて。ださくて、それでも格好良くて。
よく分からない、でも一緒にいて幸せに思えた、あの少年に。最後に、思い出をつくるきっかけをくれた、あの少年。

(イワオ……)

あの世にいったら、謝るから、許してくれ。
そう思いながら、紫苑は両の目から涙を流した。

(また、一緒に遊ぼうな)

そして、影の手が、紫苑に触れる――――――














































―――その、寸前に。














「―――そこまでだ」
















紫苑の耳に、何処かで聞いた、誰かの声が届いた。









































「イワ、オ?」


「待たせたな、紫苑」


約束を果たしに来た、と笑いながらイワオ――――メンマは言う。






















「――――馬鹿な」


あれだけのケガを受けて生きていたのもそうだし、死は免れたとしても、大怪我をしているはず。

その男が、何故この場に現れる。適わないことも分かっている筈だ。


















「恥を、そそぎに来た」


お前なんかに負けた恥を、と言う。



「たった三日程で、何かが変わったとでも?」

影は嘲り、問う。

だが、メンマはその言葉にもゆるがず答える。


「男子ならば。三日あれば、世界を揺がすには十分だ」










「それで………本当に我らに、勝てると思っているのか」

周囲には増援の影もある。全員で5人と、1人。

皆がそれなりの力を持っている、暗部の集団だ。一対一でも適わないのに、何故この場に出てくるのだろうか。隠れていればいいものを。

再び影が侮蔑の表情を見せる。










「勝てるかどうかは知らない。ただ、俺は約束したんだ。絶対に死なないと、帰ってくると約束した」


その約束を果たすだけだ。

小指の感触は鮮やかに残り、背後には涙を流す女の子。

果たすべきものは全てここにある。そして、俺の意地もある。

此処に来る前に決めた、譲らないもの………通すべき意地を。





その全てを嘲り、暗部は冷然と言い放つ。

「……理屈に合わない。そのような約束、守れるとでも思っているのか?」

理に則って行動する暗部には、理解ができないのだろう。

たった一人で、勝てるわけがない。死なないわけがないと思っているのだ。

そんなことは知っている。戦力差など百も承知だ。


だが、そんなことは問題じゃない。

理屈とか、勝算とか、見るべきところはそこじゃない。

大切なモノは理屈じゃない。


「戦場の理も忘れ、ただ己の望むままに挑むか。戦術も己の力量も、相手の恐ろしさえも見誤るとは………本当に愚かだな」


理屈ではそうだ。だけど、理屈だけでは人は動かない。

「言ったはずだ百も承知だと――――――だがな。男子が約束を守るということは…………理屈とは関係ないんだよ!」











言葉は借り物、それでも憧れることは変わらずに。

代わりに賭けるは、この生命。己の出しうる全力を以て。

己の無力を嘆かずに、無力である己を変える。


柄じゃないし、適任でもない。だが、他に代わりがいないのであれば。この場に現れないのであれば。


「果たすと言った! 俺が誓った! 正義の味方は現れず、法の守りも存在しない! ならば俺が、代役を演じよう。いつか現れる、英雄の代わりに!」

憧れを体現するため、約束をまもるため、力無き者を蹂躙しようとするこの敵を―――倒す。


「だからそこをどけ悪党共! その子達は困っている! 血に塗れた汚い手で、触るんじゃねえ!」


そうして、軛を外す。今まで使ったことのない力。

使いこなせるかどうか、分からない力を。



「ああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」









叫び、チャクラを練る。

『――――――!』

内なる叫びも、全身に走るチャクラと激痛にかき消された。

腕と肋に激痛が走る。だが、止めない。止まろうはずがない――――!

































[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 劇場版・Ⅱ その終
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2010/05/19 18:21


「あああああああああああああああああああああああっ!!!」



叫びながら、メンマはチャクラを全開にする。

疑似人柱力のチャクラ。九尾とはまた少し違う、だが人の身には強大なチャクラを。

力がみなぎる、それと同時に痛みも強くなる。常人ならば気絶しているほどの痛み。

そんな志を折るほどの痛みの中、しかしメンマは膝を折らない。


『――――』


心の中。肉体の持ち主が発する怒りを感じ、童女の狐は沈黙する。何という怒りか。

憎しみもなく、淀みも無く、卑しさも無い。

あるのはただ、許せないという、死なせないという、理不尽に対する怒りのみだけ。

『――――』

狐の心が揺れる。出発する寸前の事を思い出す。








「もって、10分?」

出発する寸前。メンマはマダオにあることを聞いていた。

「それ以上は戦えない。腕が特に酷いからね。自己治癒といっても本来のそれじゃないし、痛みの方が強くなる」

戦っている間は地獄の時間になるよ、とマダオ言うが、メンマはそんなことはどうでもいいと笑った。
聞きたいのはそこではないと。

「……やると決めたならば、方法を探すだけと言ったな。しかしお主の無茶は愚かに過ぎる。その生命、ひとつしか無いだろうに」

理由が分からない、とキューちゃんがメンマに問いかける。

「分かっているから行くんだよ。紫苑達の生命も、ひとつしかないからね」

失くした後で後悔するよりは、生きている内に何とかしにいく、とメンマは笑った。
具体的な解決策もなく、行き場任せの成り行き任せ。それでも何とかしたいという気持ちを前面に押し出して、一歩踏み出そうというのだ。

対するキューちゃんは尚更分からない、と混乱を深める。それは理屈ではないのではないのか。そう思ったのだ。

「―――分からん。お主だけは、心底分からん。怯えていないわけでもなかろうに。死ぬのが怖いのに、死地へと赴くのか。対価もなしに生命を賭けるのか」


九尾狐は理解できない。今までにも、多くの人間を見ていたが、こんな人間は見たことが無い。
知らぬものを理解できぬように、目の前にいる人間は正しく理解不能。

怖がりながらも強がりを見せる。臆病でありながら、それだけではいられないともがく。
矛盾しているように見えた。理屈ではないように見えた。

だがら再び問うのだ。

「―――いくら尊かろうと、所詮は想いだ。生命を賭ける価値はあるのか? ―――あるいは巫女の力を、利用しにいくのか」



人は、男は、メンマを名乗る誰かは、その問いかけに首を振った。

―――巫女を助けにいくんじゃない。死なせたくない、ダチを助けにいくんだと。だから、賭ける価値は十分にあると言った。

『――――』

知らず、狐は心動かされた。目の前の人間が、何を見ているのか分からない、何を思っているのか分からない。

ただそれは尊いものだと思えた。そして、自分はどう見られているのだろうか。
巫女ではなく、ダチ。ならばワシはなんなのだろうか。どう見られているのだろうか。

そう、思うようになった。





―――そして、時は冒頭に戻る。

狐は言う。女が言う。戦おうとしている、男に言う。

『―――行くのか』

「―――行くのさ」

メンマチャクラは既に全開だ。メンマの頭の奥を、激痛が鳴らす鐘の音が蹂躙する。
だが少年は拳を上げる。チャクラを足に集め、力を込める。

力の矛先である暗部達は、驚愕の表情を浮かべながら目の前の少年を、巫女を拉致するのを防ごうとする敵を、見つめていた。
部隊長である影であっても、それは例外ではない。有り得ないものを見る目で、少年の全身から立ち上る莫大なチャクラを見つめている。

『―――そうか』

ふ、と。少年の中、童女の狐が笑う。

男、いや女であっても心奪われるほどに、可憐な微笑。

己でも意識せずに、ただ心の奥から沸き上がってきた、訳の分からない喜びに身を任せての笑みだった。

『……往って来い。見ていてやる。ただ無様な姿を見せたら―――承知せんぞ?』

柔らかく、しかし凛としたものを含む声で、狐はいった。女はいった。

戦おうと言う、男の背中を押した。




押された男―――イワオは、メンマは、うずまきナルトは。

「応!」

叫び、チャクラを全力で練る。身体を活性化し、身体能力を上げる。

回れ回れと己の中のチャクラを全開にし、ぶん回す。




同時、地面が爆発した。

地面が爆発するほどに強く踏み込まれた地面が、押され弾けたのだ。そのまま跳躍した少年は、消えたかと錯覚するほどの速度で疾駆する。


「っ速――――」

肉薄する影。

予想外の速度で間合いに入り込まれた暗部は、身をかわすこともできずに、殴り飛ばされた。
ただの一撃。だが突進の速度が載せられた拳を顎に直撃された暗部の身体は、まるで蒸気車に跳ねられたかのような勢いで吹き飛ばされる。

途中大木に身体を打ちつけ、回転しながら、森の奥へと消えていった。

殴った本人、メンマは跳躍した勢いのまま地面へと着地する。

しかし突進の勢いを殺し切れなかった。地面を両足で削りながら、止まろうとする。

そこに一瞬の硬直が生まれた、逃すはずもなく、暗部がそこをつく。

周囲の4人が、硬直したメンマを包囲しながら、クナイや手裏剣、千本と鋼糸を投擲する。


だが、メンマが体勢を整え、飛び上がる方が速かったため、放たれたクナイその他はは標的に当たることなく、全て空を切った。

「―――上!」

つられ、暗部達も視線を上にあげる。
だがその直後、メンマが飛び上がった地点から爆発音が聞こえる。

爆圧もない、殺傷力もない爆発―――だが白い煙を発する。

メンマが、飛び上がる寸前に煙玉を複数放っていたのだった。

白い煙は広がりながらも、滞留し続け、たちまち森の中は白い煙に覆われていく。

地面にいた4人は視界が防がれ、敵の姿を見失ってしまう。

舌打ちをしながらも、周囲を警戒、白い煙にまぎれての奇襲を警戒する。

「何処だ………っ!」

上ならば視界が広がるかもしれない。そう判断した暗部が樹上へ跳躍。

そこで、町がある方角へと逃げていくメンマの姿を見つけた。見れば巫女とサイ、シンを抱えている。

「―――させるか!」

逃がしはしない。十分に追いつける距離でもあった。
人を抱えているせいで、走る速度が遅いためだ。背中もがら空きとなっている。

その姿を見た暗部は、所詮は子供、異様なチャクラをもってはいるが、戦術判断が甘いと考え、攻撃を決断。

二人一組となり、少年の無防備な背中へ近接、一斉に攻撃を加えようと、瞬身の術の印を組もうとする。



―――その寸前。

「俺は後ろだぜ?」

聞こえるはずの無い声。それが背後、すぐ後ろから聞こえる。

驚いた二人は術を中断し、身体ごと振り返ってしまう。

それと、同時に掛け声が森の中に鳴り響く。

「「せあっ!!」」

全身の捻転から繰り出される、遠心力がたっぷりと乗った“少年二人分”の胴回し回転蹴り。

それが、振り返った暗部の首の側部を打った。

人の腕程度の樹の枝ならば容易く折ってしまうほどの蹴りを、左右から挟まれるように受けた暗部二人はそのまま互いに頭部をぶつけ合い、気絶して地面へと落下していく。

「―――まさか、影分身か!?」

それを見た残りの暗部が叫ぶ。

木の葉流、影分身の術。しかも多重影分身。禁術を使う相手に、一層警戒を深める。
取り敢えずとして、未だ空中に在った二人の偽物らしき影分身に対しクナイを複数投擲。

空中にいた影分身は身体をクナイに貫かれ、すぐ後にぽんという音を立て消える。

「こちらも影分身……そこだ!」

だが暗部は消えた影分身に驚くこともなく、流れるような動作で次の攻撃を繰り出す。

視界の端、僅かに捉えた影に対して起爆札をくくりつけたクナイを投擲。

しゅん、とクナイが飛び、捉えた影のすぐ横に生えている樹へと突き刺さった。

―――爆発。

人一人ならば余裕で吹き飛ばせる程の爆圧と、森の動物を軒並み叩き起こす爆音が、夜の森を揺らした。

メンマはその爆発の余波を避け気れず、吹き飛ばされ地面へと転がる。

そこに、暗部が追撃を仕掛けた。

背負った刀に片手をそえ、目の前で印を組む。


―――木の葉流、三日月の舞。


そっちがそうするなら、こちらもこうするまでだと言わんばかり。

暗部の身体が3体に分かれる。

三日月の舞は、自らの影分身を使い、敵の死角、三方から同時に必殺の刃を繰り出す木の葉流忍術だ。

同時に繰り出される攻撃は避け用も無く、普通ならば逃れる術などない。

だがメンマ普通では無かった。

その必殺の刃を真っ向から吹き飛ばそうと。全身のチャクラを活性化させ、呼気と共に前方へと放つ。

「―――――カァッ!!」

チャクラが発せられる勢いだけで、人一人を吹き飛ばす程の突風を生み出す。
その突風に吹かれた2体の影分身は、音をたてて消え去った。

―――しかし。

「阿ッ!」

本体の方はその突風に耐え、再び一歩を踏み出し、刃を振る。

振り下ろされた唐竹の振り下ろしはメンマの身体を捉えた。

服が斬られ、肉が裂かれ、血が流れる。だが刃はメンマの肩を数cm切り裂いただけで、腕を断つまでには至らなかった。

それもそのはず、メンマは刃を受ける直前に相手の方向へと一歩踏み込み、刀を殺傷能力が低い鍔元で受けたのだ。

メンマは肩に食い込む刀を手で掴み、相手の動きを封じると同時、蹴りを放った。

「ちいっ!」

暗部は刀を振りほどけないと判断し、手放し後方へと跳躍。
そして空中で素早くクナイを取り出し、投擲の構えを見せる。

同じく、メンマの方もクナイを取り出した。


―――互いに視線が合う。


「シッ!」

「はっ!」


直後、対峙する二人は同時に相手へとクナイを投げ合った。

直線で結ばれた軌道はやがて重なり、ぶつかり合う。

鉄と鉄がぶつかる、甲高い音をたて―――


「―――!?」

―――ることもなく。

暗部が放ったクナイはメンマの放ったクナイにいとも容易く斬り裂かれ、勢いを無くし失速する。

―――飛燕。

風の刃を纏ったその一撃は、固い岩盤をも貫通する威力を秘めている。

メンマはこの術を覚えて間もないため、術の制御は未熟だった。
だが、チャクラは有り余るほどにこめられているため、術の威力は本来のそれに勝るとも劣らない。
衝突したクナイを切り裂いてなお、勢いは衰えぬほどに。

クナイを投擲した直後である暗部は飛来するクナイを避けきれず、右足を深く切り裂かれた。

そのまま地面へと着地。

しかし着地した時に右足が痛み、踏ん張りがきかず、重心が後方へと傾いてしまう。
そのまま背中から倒れそうになったが、咄嗟に後ろ足でで踏ん張る。


―――そこに、今度はメンマの方が追撃をしかけた。

初手のように思いっきり地面を蹴り、メンマは目の前の暗部へと疾駆する。

だが最初の時よりは距離が離れており、またこの暗部は副隊長のため、先に殴られリタイアした暗部よりは腕もたつため、仕掛けたメンマに有利ではなく、
逆に、カウンターとして対処される、不利な間合いとタイミングになる。

「はっ!」

暗部は腰元に隠していた暗器の小太刀を抜き放ち、向かってくるメンマが到達するだろう位置へと刀を振る。

「っ!?」

だが振られた小太刀から、肉を切り裂いた手応えは返ってこない。代わりに感じたのは、空を切る感触と、前足に走る激痛だけだ。


―――そう。メンマは暗部の間合いに入る最後の一歩で急加速。

肉薄し、そのまま暗部の膝の皿を踏み砕いた。そのまま砕いた膝を足場として、上方へ跳躍したのだ。

跳躍した後は重力に従い、落ちるだけ。

そしてその勢いを利用し―――

「勢っ!」

抜き放ったクナイを暗部の頭上へと振り下ろす。

暗部は振り下ろされるクナイを受け止めるため、横に振った刀をそのまま自分の頭上へと持っていく。

鉄と鉄がぶつかる、甲高い音。だが今度は飛燕は使われておらず、クナイの方が弾かれてしまった。

しかしその直後、暗部は嫌な予感に襲われる。

クナイを受けたときの衝撃だが、軽すぎたのだ。

それもそのはず。メンマはクナイを振り下ろしたが、小太刀と衝突する寸前でクナイを手放したのだ。

そのまま、暗部の目の前へと着地。暗部の刀は上を向いているため、着地したメンマに対し、攻撃できない。

つまりは頭上クナイは囮で、本命はこちらというわけだ。

メンマは一歩、前に向けて踏み込み、大地を鳴らす。呼気と共に掌打が放たれた。

「ゲグッ!?」

超至近距離からメンマが放った左手の掌打は、暗部の鳩尾を的確に捉える。

胴部最大の急所に強烈な一撃を受けた暗部が、血反吐を吐きながら前のめりに倒れた。

―――残り、二人だ。

こちらに倒れ込んでくる暗部の身体を横にかわしながら、メンマは周囲を警戒する。

直後、しゅる、という音がメンマの耳に届く。すぐ背後に誰かがいることを感知したメンマは、その場から飛び去ろうとするが――――その寸前に捕まった。

「ぐっ!?」

首に、鋼糸が巻きついたのだ。

感知しメンマは咄嗟に左腕を差し込んだものの、右側の首は閉まっている状態となった。

ぎりぎりと絞められる鋼糸、呼吸が出きないメンマの意識が徐々に遠くなっていく。

忍者が任務の際に使う鋼糸は強靭で千切れにくい。この状況において、糸を切る以外に脱出する手立てはない。

しかしメンマの右腕はうまく動かず、左腕は首と一緒に縛られたままになっている。

これで、勝敗は決したかに思われた。暗部の方は勝ったと思ったであろう。

―――しかし。

「ぐっ、があっ………ああああああああああっ!!」

強化され、渾身の力で暴れるメンマの左腕が、束縛する鋼の糸を断ち切った。

「―――馬鹿なっ!?」

有り得ないことに、暗部の判断が一瞬だけ停滞する。
危機のあとに好機あり。相手の機を予想だにしない方法でしのげば、動揺を与えられるのだ。

意図しないがそれを成したメンマは、無意識のまま振り返り、飛び後ろ回し蹴りを放つ。

「ぐっ!」

避けきれず腕で受けた暗部が、蹴りの勢いに押され、吹き飛ばされる。そのまま、すぐ後ろにある樹の幹へと叩きつけられた。

受身を取る暇もなく、強烈な勢いで背中を打ち据えた暗部。


「―――持ってけ」

咄嗟に動けない。呼吸が回復していないのだ。

動けないまま、目の前に移る振りかぶられた少年の腕を見る。

恐ろしいほどのチャクラをこめられた拳。それが、腹を撃ち据える。


「―――終いだ!」


背後の幹ごと、暗部は殴り飛ばされた。

木の枝その他もろもろを巻き込みながら吹き飛び、横回転しながら森の奥へ消えていった。


















(初撃で一人、次に二人、今ので一人と一人)

初撃に不意打ち、即座に煙玉を放ち、敵の連携を分断。同時に、白い煙にまぎれて影分身を使い、部隊長を紫苑達から引き離して、影分身に逃がさせる。

させるものかと影分身の背後から不意打ちを仕掛けようとする二人には、逆に背後から不意打ちをしかける。俺が影分身を使えるとは、初見ではまず見抜けない。

奇襲で三人を倒し、その後は近接戦で挑んだ。近接戦になれば、向こうも連携が取りにくくなると思ったのだ。こちらが小柄な点も利用できた。的が小さければ小さいほど、誤って味方を攻撃してしまう確率は高くなる。

結果、見事に戦術がはまり、5人を倒せた。肩口は出血してるし、酷使した左腕も痛い。

万全とは言い難いが、これで残るはあの部隊長………一番の手練だけとなった。

だが、その姿が見えない。煙の中、影分身を使って、部隊長の野郎を紫苑達から遠ざけられたのは確認した。

でもその後、影分身は容易く消されてしまった。今ここにいないとなると、何処にいるのだろうか。

俺は周囲を警戒し、そしてひとつの気配を感知した。






(―――これは)



「無事か?!」




背後から、声が聞こえた。この声は―――


「ハル! 生きていたのか!」

死んだと思っていたはずのハルが生きていたことに驚く。てっきり消されたかと思っていたのだ。

「ああ。しかし、こいつら………」

「木の葉の暗部だ。恐らくは“根”の一派だろう」

「……“根”か……それより、巫女はどうした?」

「ひとまず逃がしたが……ああ、どうやら部隊長が一人、追っているようだ」

影分身の後方から、あの男の気配を感じた俺は、ハルにそう返す。

「マズイな。巫女を奪われてはたまらない……急いで、行こうか」

「ああ」


俺は強く頷き、ハルに背中を見せて追撃に移ろうとする。







「時間がない。できるだけ早く―――」


ハルの声が途切れる。直後、殺気は走った。

収束するは背中。俺の、背中だ。





「―――死ね」



黒塗りのクナイが、俺の頚動脈へ振り下ろされた。




















―――だが。刃は、届かない。


「な、ぜ……」


俺は背中から迫る凶刃を左手で受け止め、そのまま払い飛ばす。


不意打ちとは、相手の心の死角から襲うこと。すでに知っていれば、それは不意打ちにならない。ただの雑な攻撃だ。
事前分かっていれば、裏切りに対し何の動揺をさらすこともない。


とはいっても、マダオが分析した予想。あくまで可能性の高い、推測だけであったのだが……今、俺はハルの顔を見ただけで分かってしまった。
いつからかは知らない。だが、こいつは裏切り者だと分かってしまった。

俺はここに来る道中、マダオに聞かされたことをハルに向け反芻する。

「……情報を制限する役割、か」

言葉と同時に掌打を放つ。

「ぎいっ!?」

手加減した一撃はそれでもハルの鍛えられた腹筋をつらぬき、横隔膜へとダメージを与える。

呼吸が困難になったハルは立っていることさえできなくなり、その場にうずくまる。

「………何故。なぜ、分かっ、た……!?」

痛みに顔を青くさせているハルが、憎々しげに俺を見あげ睨んでくる。

「―――何故といわれてもな」

憎悪の視線を気にもとめず、俺はただ溜息をついた。
答えは歴戦の知恵者の状況分析と推測ってやつだが……それを答えることはない。裏切り者に話す必要はない。

「城へ潜み、情報収集の役割を志願し、知られたくない情報を隠す。そして流してもいい情報だけを限定的にだが流し、嘘の中に真実を混ぜることで信用を得る」

時間稼ぎのための要員。目論見通り事が進んでいれば、次に網がこの国に訪れる時は全てが終わっていたことだろう。

「考えたものだが……聞こうか、ハル。お前は“いつから”裏切っていた?」

「………ぐ、っ」

「俺も久しぶりの、いや初めての―――娑婆で。思考が不抜けていたから、気づけなかったよ」

信用をしても信頼はするな。用いてもいいが、頼るな。頼り、寄りかかればそれが無くなった時、自分のバランスをが崩れてしまう。
家族のような、掛け値なしに信頼できる者のいない俺達にとっての基本、鉄則とも言える。

戦場では、所詮自分しか頼れるものがいないのだ。

自分で物事を見聞きし、判断する。情報の分析もそう。それを、怠っていた。
情報の真贋を己の目で見極めるまでは、物事を見定めてはいけない。

だが俺は信用してしまった。挙句があのざまだ。

「―――偽の情報を流し、俺を欺いて、網を裏切って……何が欲しかった?」

クナイをこれみよがしに見せながら聞くと、ハルは素直に答えた。

「……はっ、裏切ったも何も、俺は元から“根”の協力者だぜ?」

「―――そうか」

「俺は、俺の腕を買ってくれる組織を選んだ。網みたいな組織で、はした金で生命を賭ける生活なんて真平だった!」

苛立たしげに怒鳴る。だがそんなの、知ったこっちゃない。それにおそらく、利用されているのはお前の方だ。
この任務が終われば消されていただろう。

「俺はもっと上にいける! 根を利用して、そして―――」

「いや、それはどうでもいい。聞きたいことはひとつだけだ――――一昨日のあれも、嘘だったのか?」

静かに問う。ハルは顔だけで笑いながら、本当だと言った。

「―――そうか。じゃあ………」

作り物の笑顔。何かをごまかそうとしている時の笑顔だ。

問い詰める時間も、余裕余力も。全て、無い。

今の戦闘でかかった身体への負荷は予想以上に大きく、既に体力も限界にきていた。

「―――寝てろ!」

八つ当たり気味にぶん殴る。
殴られたハルはそのまま吹き飛び、気絶した。後は裏切り者として、網へ引き渡すだけだ。

「……まあ、後があれば、だけどな………っ!」

直後襲ってきた激痛。全身をクナイで刺されるかのような痛みを感じ、意識が揺らいだ。
足から力が抜けてしまい地面へ両膝を付き、そのまま前のめりに倒れそうになる。

覚悟はしていたが、今全身を巡っているのは、その覚悟を吹き飛ばす程に激しい。意識を保つことができず、視界が白くなっていく。
このままいけば倒れ、気絶してしまいそうだった。

気絶しなくても、痛いと泣き叫び、地面を転げ回りたい。そんな衝動に駆られる。

(弱気になっている………いけない)

気の緩みで、集中力が途切れてしまったようだ。このままじゃまずい。

そう思った時だった。声が聞こえたのは。

『―――もう、止めるのか?』

挑むような口調。だが楽しげに、心の中の童女が聞いてくる。
もう止めるのか、そこでおしまいか。そう聞いてくる。

「―――まさか」

残る敵はひとりだけ。相手はそこらに寝転がっているやつらとは一味違う、上忍クラスの使い手。

こっちは満身創痍で、今にも倒れそう。

(だから、どうした)

ここで逃げるわけにはいかない。行かなければならない。

『――――もう、止めるの?』

「―――まさか」

首を振り、否定する。今ここで止めるわけにはいかない。

残る力を振り絞って、俺は立ち上がる。

(大丈夫、大丈夫………ほら、もう、大丈夫)

そう、自分に言い聞かす。やせ我慢と自信のない根拠だが、それは男の子の特権。

ここで弱音ははかない。自信がないと逃げ出したりしないし、痛みに負けて、倒れはしない。

まだ、ここからが本番なのだから。

「――――!」


俺は全身の力を振り絞って叫び声を上げる。気合を入れなおしたのだ。

そのまま、紫苑達がいる場所へと走り出す。





























―――すぐに、追いつくことができた。
紫苑達に付けていた影分身は既に消されていたので、あの部隊長に追いつかれたのは分かっていた。

まだ戦いは完全に終わっていないようで、一番の手練である菊夜さんは血にまみれながらも、紫苑を背後に庇いクナイを構えている。

紫苑はその場に座り込みながら、菊夜さんの肩を揺さぶっている。真蔵と才蔵は地面に転がされていた。紫苑を守ろうとして、倒されたようだ。
怪我は軽くなかったはずなのに、敵の怖さを一番知っているはずなのに、それでもまだ立ち上がろうとしていた。

敵は冷静に3人を見据え、止めをさそうとしているところだった。しかし俺の気配を察したのだろう。

手を止め、ゆっくりとこちらに振り返る。

(―――簡単に追いつけたのは、この3人が反撃してくれたからか)

状況を理解し、3人に感謝する。

あっさりとやられていれば、俺は追いつけなかったかもしれない。
だから、3人に感謝を捧げる。そして全員が生きていることに安堵した。

―――そして。敵には、怒りを捧げよう。
だがボス野郎は、俺の怒りのチャクラを感じても動揺することなく、自然体で受け流した。

そしてその後、俺の全身を舐め回すように見て、口の端だけで笑みを浮かべた。

(―――何故、笑う?)

おかしいところなど何処にもないはずだ。だが、何故こいつは笑っているのだろうか。
感情から来るものではない。

この笑みはそう、新たな得物を見つけたかのような―――

(――ああ、そうか)

思考の途中で、浮かべられた笑みの意味を悟る。

先の攻防と影分身で、俺の正体を察したのだろう。ならばもう、俺に対して恐怖を感じることもないと見た方がいい。
恐怖は未知の存在に対して抱くもの。正体を察した敵にとって、俺は未知ではなく既知の相手となった。知っている相手であれば、どうにか対処はできると考えたのだろう。
警戒は解いていないようだが、それでも十分に倒せると考えたのだ。
それは間違いではない。事実、俺は一度こいつに負けているし、先の暗部達との戦闘で、体力は限界に達している。チャクラも残り少ない。

正直、勝てる見込みは一割もない。

だけど、上等だ。もとより負けるつもりもない。
何よりも、ここで負ければ紫苑達が死ぬ。だから絶対に、負けられない。

「―――来たか、小僧」

「―――来たぜ、おっさん」

「イワオ、殿」

紫苑を庇っている菊夜が、息を飲む。驚いているようだ。

「イワオ!?」

紫苑も同じで、驚く。もしかして俺がやられたと思っていたのだろうか。

「「イワオ……」」

真蔵と才蔵が呟く。こちらは複雑な笑みを浮かべている。まあ、状況が絶望的過ぎるので、無理もないことだろう。



「―――随分と早かったようだな、小僧」

「俺として遅かったよ。ま、さすがに5人は骨が折れた」

「ふん、ということは………お主が此処に来れた時点で、まさかとは思ったが……あいつらは全滅したか」

呟くように話す。事実に動じず、ただ確認するだけの声。そこに、感情は含まれてはいなかった。

「……だというのに、冷静だなおっさんは。あいつらは、アンタの部下じゃなかったのか?」

「我らは任務を果たすための道具。名前は無い、感情はない。任務を果たせればそれでいい」

その点でいえば、あいつらは十分に役割を果たしたようだ、と。目の前のおっさんはこちらの様子を観察しながら、そんなことを言った。

「既に、満身創痍のようだ。チャクラも残り少ないようだな?」

「………おい、あいつらは……一応は、生死を共にしてきた、一緒に戦場を駆けた仲間じゃなかったのか」

俺が言えた義理でもないが、死線を共にした仲間ならば、語れる程の思い出があった筈だ。
いつか叶えたい夢とか、互いに笑いながら話したこともあるはずだ。

だが、暗部は暗部だった。いや、この場合は根が特殊というのだろうか。
我らには過去も、未来もない。あるのはただ任務のみ。それを果たせないのであれば、意味が無い。存在している意味がない。故に思い出も夢も必要ない。
こいつは嘲りを浮かべることもなく、ただ事実だという風に告げる。

………ああ、くそ。お前達は理解できない。本当に、理解できないよ

志を以て非道を成す輩ならば、いくらか理解はできた。しかしこいつは本当に人間なのだろうか。
まるで人形。人の形をしたナニカでしかない。

「お前などに理解されようとは思っていない。また、その必要もない。今ここで、お前の生命は尽きるのだから―――いや」

首を振り、確認するかのように、呟く。

「殺しては、いかんな」

その呟きの端、言外に含まれた意志を察した俺は笑ってやる。こいつは俺を捕獲をするつもりだろう。

一度負けたとはいえ、随分と舐められたものだ。

「………さっきも言ったと思うが――――それはできない。俺にも意地がある。果たすべき約束がある。それを邪魔するというならば――――殺す」

「ふん、お主には無理だ。お主の力はもう分かった。それでは我に勝てんよ」

「―――御託はもういいか。夜ももう深いから―――いい加減、済まそうぜ?」



そして、互いの殺気が大気に充満する。

上忍クラスの殺気が、周囲の空間を軋ませる。

忍び同士が生死を賭けて争う、戦場の空気となる。




―――やがて、互いの言葉と共に。開戦の狼煙があがる。





「ゆくぞ、小僧………いや、うずまきナルト―――九尾のガキめ!」

暗部は構え、殺気を充満させて、俺を罵倒する。




「こっちも行くぜ、おっさん………いや、根の首領、ダンゾウが配下の――――腐れ暗部!」

俺は左手を横に薙ぎ、全身のチャクラを活性化させ、暗部にぶつける。




己の言葉を刃に変えながら、相手の心に撃ち放つ。

篭められた意志は否定。認めないという、拒絶の意志だ。




殺気が溢れ、空間が異界じみた鋭さで満ちる。

並の人間ならば、息もできないであろう。


満ち、張り詰め、そして―――――



「是ッ!」

「勢っ!」


互いの呼気と共に、弾けた。

正面からぶつかり合い、拳を打ち合う。

「ぐっ!」

「ぎっ!」

相打ち。だが、メンマの方は後方へと吹き飛ばされた。リーチに差があるため、暗部の攻撃の方が一瞬早く当たったのだ。

そして追撃。チャクラで強化されたメンマ、それに匹敵するほどの速度で距離を詰める。

そして間合いへと入り込み、拳を繰り出す。

メンマの方は間合いの外のため、攻撃を出せない。先のように思いっきり踏み込んで一気に間合いへ飛び込み、攻撃するならばともかく、この位置と体勢では出せる速さにも限りがあるため、迂闊に飛び込めないのだ。

先程の、弱い方の暗部ならばメンマも攻撃を払い、掻い潜り、懐に飛び込むこともできたのだが―――

「ぐっ!」

この部隊長の体術は洗練されており、反撃の機を伺えない。流れるように無駄なく、そして間断なく繰り出された体術が、メンマの体力を奪っていく。

このままではまずいと判断したメンマは、殴られた反動を利用して後方へと跳躍。そして―――


「影分身か!」

痛む右を何とか動かし、指を十字に組む。

そして影分身を使おうとするが、その寸前に印が暗部に腕で払われた。

チャクラは霧散し、影分身が出ることはなく、だが敵は目の前にある。

「せいあっ!!」

メンマは間合いに入ってきた暗部へと反撃。その場で飛び上がり、顎を蹴り上げる。

(―――浅い)

だが足から帰ってきた感触は軽い。当たる寸前に、後ろに飛んだようだ。

そして再び間合いの外へと逃げられる。


距離を離れて、再び二人は向かい合う。


「―――解せんな。影分身を使えるとは。加え、その洗練された体術。お前はそれを何処で修得した?」

「ああ、親父殿に習ったのさ。力の使い方とか、体術とか、それこそ戦闘の気構えまでな」

「戯言を!」


再び、正面からぶつかりあう。

掌打に蹴打、拳打に肘撃が互いの間で交錯し、弾け合う。流れるままに繰り出される洗練された二人の体術は、まるで演舞のよう。

互いに拳を打っては腕で払い払われ、あるいは防いで即座に反撃する。

我慢の時間。やがて二人はどちらからともなく離れ、少し距離をあけ対峙する。





「―――解せんな。お前の守りたい友達とやら……お前を囮にしたのだぞ? そんな相手に何故そこまで身を張れる」

「――――ああ、全て知っているさ。そうさせたのは、全部、お前らのせいだってこともな!」



殴り合いと、罵声の飛ばし合いが連鎖する。



「そのせいで、殺されそうになった。貴様はそれを無視するのか」

「だからどうした! それが見捨てていい理由になるのか!」

「―――何故サイやシンも庇う? あいつらはお前に黙っていたんだぞ」

「俺も人の事はいえない。サイも、シンも来てくれた! これ以上何を望む!」

「―――何故、巫女を守る? 網が、巫女の力を欲しているからか、そのために貴様は―――」

「―――おまえらのような下衆と」

憤りのまま、力いっぱい拳を振り抜く。暗部は両腕を十字に組み、後ろに飛びながら防御をするが、それでも腕が痺れるほど。
















「……一緒にすんな」

酷使したせいか、左手の指が折れたようだ。俺は痛む両腕をぶら下げ、それでも暗部を睨みつける。

「―――下衆、だと?」

「ああ。おまえら、は、下衆だ。これ以上、ないって、ほどのな」

息が上がっている、チャクラを使いすぎた。

体力ももう限界を超えている。視界が白く染まっている。これ以上はまずい。

だが、止まれない。

「力を持ってるからって、まだ子供を―――こんな、子供を! 利用しようって輩を、下衆じゃなくて何と呼ぶ!」

腕を振る。認められないという意志を、腕にこめて振り払う。

「サイも、シンもそうだ! お前たちの目論見は分かっている! 子供の内に、仲の良いものを………兄弟を殺させて! そうすることで徹底的心を砕き、いいなりになる人形を作るのだろう!」

あの血霧の里と言われた霧隠れのように。殺させることで子供の心を砕き、その残骸となった心の奥底に恐怖心を刷り込ませて、裏切らない人形を作るのだろう。

呪印で言葉を縛り、身内殺し―――まるで蠱毒のような方法で、人の心を束縛する。これで、忠実な部下の誕生だ。

背後から、シンとサイの息を飲む声が聞こえた。

「戦争などしったことか。おまえらの間で好きなだけするがいい。でも子供を――――力があるからと利用し。そして兄弟で殺し合わせ――――人格を破壊するだと? そんなこと、させるものか!」

これが意地。俺の意地。見つけた、通すべき意地だ。

戦争を止めようなどと、そんなつもりはない。
それは否定しない。たかが一人、俺が力を振るったとして、忍び全てをどうにかできるなどとは、思っていない。

だが、後者の2点だけは。許せないし、認めない。俺のできうる限りの力を使って、叩き潰す。戦うのは怖いが、それとは別の話だ。そうしなければ“俺が死ぬ”。見下げ果てたクズになってしまう。

だから殺す必要があるのならば殺す。中途半端な覚悟では何もできないと知った。通すべき意地を通すためには、汚れる覚悟も必要だ。その一点だけは、観客であることをやめよう。

「―――非効率的だな。理解できん」

「お前は非人道的だがな。いや、家畜にも劣るか――――下衆野郎。一応聞いておくが、紫苑をさらってどうするつもりだった」

「つもりではなくこれからするのだ。何、封印術以外に興味は無い。術の趣旨と構成、その能力の分析ができれば、それ以上広がらんように処分する。要らない道具は捨てるが必然………いや―――血を残すのも、また良しか」

使い道はいくらでもある。まるで物を扱うような物言いに、俺は憎しみすら混ざった怒りをもって否定する。

「それ以上囀るなっ、糞野郎!」

「聞いたのはお前では無かったか? ―――まあいい」


再び、戦場に殺気が充満する。空気が緊張する。そんな中、俺は言ってやった。

左腕を握り締め、目の前に突き出す。




「繰り言はおしまいだ。ここからさきはこっち。だから――――かかってこいよ」


俺の言葉と同時、暗部のチャクラが弾けた。感情がないとはいったが、舐められるのは我慢が成らんのだろう。

「―――分かった。生かしたまま送り届ける必要あるゆえ、手加減をしていたが―――」

途端、暗部の全身からチャクラが立ち上る。仮面の横から見える頬が、赤く染まっていく。


「――――それでは足りんか、ならば本気でいこう。だが――――」

死んでくれるなよ、と。そう告げた暗部の威圧感が、更に膨れ上がる。


第一門、開門。


「上等だ」


萎えたチャクラ。全力には程遠いそれを振り絞って、最後の攻防に挑む。

「第二門、休門、開。第三門、生門、開」


『そろそろ、来るよ』


体内門が開いていく。ただでさえ強い暗部は、その上限を、リミッターを外していく。


第四門、傷門、開。


そして―――――


第五門、杜門、が開けられる。


「ハアアアアアアアアアアアアアアッ!」


チャクラが目に見えるほど、高濃度になる。赤く染まった顔に、人のものとは思えないチャクラ。これこそ、まるで化物のよう。

人間の限界を越えての一撃。その初撃が繰り出された―――


「速――――」


動いたと思った次の瞬間、すでに間合いに入られていた。

――――消えた。

錯覚ではなく、そう認識される程の規格外の速さで、暗部は一歩踏み込んできた。

(こんなの、避けられるはずがない)

為す術も無く俺は顎を蹴り上げられ、宙を舞う。

蹴りを受ける寸前、迫る足と俺の顎の間に、左の腕は差し込めて衝撃は軽減できたはずなのだが、まるで意味がない。

腕ごと、吹き飛ばされる。



そして、神速の連撃が始まる。

まるで俺を包み込むかのように。

上下左右、四方八方から、暗部の打撃が俺へと叩き込まれる。

拳とも蹴りとも判別がつかない。打たれる度に骨が軋み、肉が歪む。




――――これぞ、“裏・蓮華”。

体術でありながら、Aランク―――禁術レベルに位置づけられるという、最高峰の体術。




「ぐっ、げっ、ぎっ!」




攻撃を受ける度に全身が軋む。激痛が走り、意識が霞む。

治りかけの肋は折れ、脛の骨も折られ、深刻な打撲のダメージが全身に刻まれていく。




「……ぁ! ……ィ! ……っ!」





もはや声も出せない。

襲い来る乱撃に対し、俺は耐えることしかできない。




そして、乱撃が止んだその一瞬後、身体に鋼糸が巻き付いた。

(――――最後の攻撃)


裏・蓮華の最後の一撃は、敵に巻きつけた鋼糸を引き寄せ、反動を利用して拳を蹴りを同時に叩き込むというもの。


暗部はその型に習い、鋼糸が張った瞬間に引っ張り、俺のバランスが崩れる――――――――――















―――――その、刹那。


「ここだっ!」

















戦う前のことである。どう対処するか、戦術についてマダオと話している時。

「切り札としては持ってるだろう、裏・蓮華。それを破る秘策はあるの?」

「いや………無いな」

きっぱりと無理だといえよう。
表・蓮華であの速度を出せるのなら、裏・蓮華はもっと速いだろう。
今の俺に避けられる代物じゃない。

あれは純粋な体術。防ぐには特殊な防御術か、それを上回る体術、速度を用意するしかないのだが―――現在の俺は、そのどっちも持っていない。


「しかし、手はある。逆に考えるんだ」



そう、“防ぐ”ことはできないが―――――















―――――防ぎきる必要もない。

「あああああああっ!」

俺は左手で、胴部から伸びる鋼糸をつかむ。

そして、残る全てのチャクラを振り絞り、肉体を強化してその鋼糸を引っ張った―――!




「なっ!?」



互いに宙に浮いている今、踏ん張れる足場もない。故にこの綱引は、腕力のみの勝負となる。

そして純粋な腕力のみで言えば、莫大なチャクラで強化している俺の方が上だ。

引っ張られ、最後の一撃を受ける前に、逆にこっちに手繰り寄せる。この瞬間を待っていた。

鋼糸が掌に食い込み、左手の掌が少し切れるが、そんなの知ったこっちゃない。


裏・蓮華にある、唯一の隙。それは、止めの一撃を繰り出す前の動作にある。

途中の連撃には対処できないが、この一瞬ならばどうとでもしようがある。

俺はそう思ったのだ。だからこそ攻撃を受け、黙って耐え、こちらにはなすすべもないと――――そう、思わせた。



戦術とは、戦闘の流れにおいて僅かでも勝機を生じさせ、それを手繰り寄せること。

待っているだけでは勝機はやってこない。力づくでも引き寄せるか、作り出すのだ。

そして、その過程はどうでいい。無傷にこだわる必要もないし、理屈に縛られる必要もない。

いくら傷を受けようとも、重症を負っても、最後に生き残り立っていればいいのだ。

そして今戦術は上手くはまり、最後の状況となった。


―――――全ての準備は出来たのだ。


俺の師についてのこと。俺は真をいったが、相手は嘘と思っただろう。これで、こちらが裏・蓮華を知っているということは察せなくなった。というか、普通察せないだろう。

右腕が折れているのは、相手も承知しているだろう。いかな俺の回復力とはいえ、こんな短期間に直るはずもない。事実、俺の腕は折れたままだ。

こちらが子供という点においても、相手は油断してくれている。いかな暗部だろうと、所詮は人。全てを知っているはずもないので、全てを推測できるはずもない。



状況に応じ、最後の一瞬を迎えるに必要なパーツを慎重に組み立てた。

そうして生まれた有り得ない一瞬。

人は有り得ない状況に陥ると、思考が止まる。故に敵は咄嗟の反応ができない。

心の死角をうつからこそ、不意打ちとなる。

先の先を取ることができるのだ。裏の裏をかいて、先を制す。忍びの基本だ。



(――――この機、頂戴する!)



こちらは既に準備万端。

目の前に立ちふさがっていた万難は今、排せた。


万全を期して最後に打つ一手は、折れた右腕による一撃だ。

当然うまく動かせないし、拳も打てない。打てば激痛に教われ、戦う心も奪われ、そのまま膝を屈してしまうだろう。



――――だが。

最後の一撃に限定すれば。今まで秘めに秘めていた、螺旋を生み出せる。

俺が持つ術の中で最も高威力、最も高ランク。

左手を使う必要もなく、印も必要としない忍術。





――――そう、全てはこの一撃のために。











「まさか――――!」



暗部の顔が驚愕に染まる。


乱回転させたチャクラ。手の中に圧縮させられたそれは、全てを貫く球となる。

威力あるチャクラを回転させ、尚一定の範囲に留める術。チャクラコントロールが肝となるAランク忍術。

これが最後。

これが、俺が持つ全てだ。



張るべき意地を心に秘めて、力の限り通し抜く。

そうして諦めず、求め、耐えて――――――手繰り寄せられた勝機を。




手繰り寄せた暗部の胸部へと、叩き込む――――――!








「螺旋丸!!!」






荒れ狂う螺旋の球。だがゆがまず、ひずまず、形を崩さず。

肉を抉り、骨を削り、貫き、吹き飛ばす。







そうして―――――暗部の部隊長は声を上げることなく、絶命した。





その感触を手に感じた後。誰かの生命を断つという感触を、知った後。



俺は全身から力が抜けるの感じ、そのまま地面へと落ちていった。



























































そして、7、8年が経過した今。

ぱちぱちと音とたてながら燃える木の前で、俺は覚えている全てを語りを終える。

一休みもせずに話していたので、喉が乾いた。手元の水を飲むと、ふ、一息つく。
その後のことは語れない。語らないのではなく、語れないのだ。答えは簡単、ここで、俺の記憶は途切れているからだ。

そこから先は単語だけがうっすらと残っているだけ。

紫苑、真蔵や才蔵、菊夜さんがどうなったのかは、全く覚えていない。

そう、両の手を見ながら、サスケと多由也に言う。今まで忘れていたこと、その中で、思い出せたのはここまでだった。

その後に続く記憶といえば―――全身傷だらけで、ベッドの上に寝転がっていたことだけか。

ザンゲツ、マダオ、キューちゃんには、初めて人を殺めたショックと、頭部に受けた傷により記憶を失ったと言われた。

確かに、手にはあの独特の感触が残っていたし―――。

「なんでか、すげえ悲しい、って思った」

だからその時は、納得した。真実は違ったわけだが。

「その一連の騒動を忘れたという、原因だが、心当たりはあるのか」

「いや、分からない」

そんな忍術があったのだろうか。俺の知っている限りでは、そんな忍術は存在しないのだが。

「写輪眼の瞳術か何かで、でそんな能力は………無いか」

聞くが、サスケは首を横に振った。

「―――でも、何か、取り返しの付かない状況に陥ってしまったのは覚えている。」

嫌な予感独特の、黒い淀みが胸の中に残っている。悲しみもそのせいだと思った。

思い出せないのは消えたからだと判断し、仕方ないと思った。思い出そうともしなかった。

だが、今は思い出した。そしてあれからいったい何があったのか、俺は知りたかった。

「それは、この先にあるはずだ」

中秋の名月は未だ枯れず。ならば、紫苑は生きているのだろう。何故イタチがそれを知っていて、俺に知らせたのかは分からないが。

そんな中、サスケは神妙な面持ちで、俺に聞いてきた。

「―――子供を利用するヤツは許さない。兄弟で殺し合うことなど認められない――――それが、お前の原点なのか?」

今までの俺の行動についてを言っているのだろう。記憶が確かではなかったため、はっきりとは言えないんだが―――

少女―――マツリといったか。それとテンテン、我愛羅。

ヒナタ、シカマル、いの。

キリハと、フウ。

サスケと、イタチ。

思い出せる範囲では、その通りらしい。裏に俺なりの意図が含まれているものもあるが―――

「―――どうやら、概ねはその通りらしいなあ。あの時起きた事については、すっかり忘れてしまったはずなんだが」

自分の事なのに、よく分からなかった。あるいは無意識だったのか、そうではないのか。
俺はそうしたいからそうしただけなのだが、一応の関連性はあったようだ。

「――――例え記憶が失われようとも、根ざす想いだけは消せはしない」

横合いからはさまれた声に、俺達は反応する。

「キューちゃん?」

「自らの想いを消せるのは、己のみ――――そう言ったのは誰だったか」

「………知っているのか?」

「ああ、知っているぞ。その他にも色々とな」

だが、言えない、とキューちゃんは目を閉ざした。

「―――真蔵と才蔵は。今も、生きているのか」

「それも、明日分かる―――これ以上は言えないと教えたであろう」

固くなに口を閉ざすキューちゃん。どうしても知りたいが、話してはくれなさそうだ。

「明日になればわかるはずだ。それよりも、もっと別の事を話しあう必要があるのではないか」

「―――ああ、化物か。ついぞ出てこなかったけど、どういった存在なんだろうな」

「伝承とは実際にあった事柄を元に作られているものが多いらしい。だが俺は木の葉にいた時も今も、そんな化物の話は聞いたことがないぜ」

サスケも分からないと首を振る。

「だが、ペインというやつと一緒にいた―――あの化物。あれならばそうだと納得できるかもしれん」

「ウチもだ。あの黒いアレ―――威圧感と異様なチャクラ、世界を滅ぼしてもおかしくないと思った」

「俺は見たことがないが―――そうなのかな。俺も、覚えているのは断片だけで―――詳しい話は覚えていない。だが、単語だけはうっすらと覚えている」

あの後に聞かされたのだろ言葉。


曰く、“終りにして始まりを司るもの”


「―――始まりと終り、ではないんだな」

多由也がぽつりと呟く。

そういえばそうだ。その順番には、何か意味があるのかもしれない。

「終わってから、始まる―――」

始まりから終りに向かうのではなくて、終局のあとに生まれる―――誕生する。

「人間に例えると………そうだなつまりは、死んでから、生まれる―――」

そこまで呟いた時、俺達ははっと顔を上げた。


つまりは生まれ変わり。その概念は―――



「輪廻、転生」




死の後に生まれ変わるという概念そのものだ。







「輪廻眼…………」







一連の騒動を整理してみる。

輪廻眼を持つ暁の首領、ペインのおかしな行動。味方も敵も関係ない、その破壊行動。

そして、7、8年前に現れたという化物。代々の巫女の存在。大陸を滅ぼしかけたという、怪物。

そもそも、何故輪廻眼と呼ばれたのだろうか。そこまでの力を持つに至った理由は、一体なんなのだろうか。



「―――おぼろげながら、色々と見えてきたな」



思いもよらぬところで、不可解な事柄が一本の線で繋がったかのようだ。

まだまだ分からないところはたくさんあるが、五里霧中という訳ではなくなった。






「全ては、明日か」











原点と終点。



全てが集まっているかの国に。






俺達は明日、たどり着こうとしていた。
































































あとがき


劇場版、兼、過去編、了。



続きは五十五話へ。





















[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 五十五話 「うちはイタチ」
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2010/03/18 00:52











―――――選んできた。



二択があった。


良かれと思い、片方を取った。


でもそれが正しかったかどうかなんて、今になっても分からない。

きっとずっと、分からない。








































「――――人が近づいている?」

「はい」

菊夜が伝えた事実に対し、イタチが確認を取る。

報告とは、この屋敷に人が近づいているということ。そして、その数は3であるということだ。

「随分と多いな。それで、迷い込んだ一般人という可能性はあるのか」

「無いですね。目的を持ってここに近づいているようです。それに、近づいているのは―――――」

菊夜は向こうの部屋で寝ている紫苑に聞こえないように、その人物の名前についてイタチへと告げた。

「そうか」

イタチは頷き、立ち上がる。そして玄関横にある服かけに掛けていた暁のコートを手に取った。
そのまま振り返りもせず、イタチはこの2年あまりを過ごした家を出ていこうとする。
そして靴を履き、玄関を開けたその時、まだ部屋の中にいた菊夜がイタチの背中へと話しかける。


「近づいている人物について、話があります」

「………手短に頼む」

菊夜は頷くと、近づいている人物について、分かっている一人以外、他の二人についての詳細を告げた。

一人は中忍か上忍クラスの忍び。そして女であること。言うべきことはこの二つで、イタチと菊夜にとってこちらは問題とはならない。

伝えたいのは、残る一人のことだった。

「どうしてなんでしょうかね。あなたに聞いた、その人物の境遇――――あれが正しければ、絶対に似るはずがないのに」

なのに似ている、と菊夜が呟くと、イタチは眼を見開いた。

両目に刻まれた紋様が、顕になるほどに。

「………手短に、頼む」

イタチは先程とはまた違うニュアンスで、菊夜にたずねた。

「足運び、気配、チャクラもそう――――イタチ。あなたに似ています」























「本当にこっちであってるのか」

少し後ろを歩くサスケが、先頭で歩く俺の背中に向けて心配そうな声でたずねてくる。

「ああ、大丈夫だ」

知らない山の中で、道なき道、獣道を歩いているため不安になっているのだろう。
時間に余裕のない今の状況において、俺が道を間違え時間を無駄に浪費しないか心配しているようだ。

しかし、その必要はない。

今は遠い、5年以上前の記憶で思い出すことも無かった風景だが――――この道は間違っていない。
目的地はこの先にあると、俺の勘が告げていた。

「しかし、いきなり道を逸れて森の中へ入っていった時は何事かと思ったよ」

小一時間前。鬼の国の国境を越えてから、7、8年前は馬車で通った、鬼の国中央部まで続いていく道を道なりに進んでいた時。
その道の途中、俺はふと感じるものがあり、立ち止まった。
何やら言いようの無い、違和感みたいなものを感じたのだ。

感じた先は道の森の中で、その方向を凝視すると、とあるものを見つけた。

一般人には分からない、忍びにしか分からないであろう。ごく小さな獣道がそこにはあった。

「………見たことは無いが、忍犬が使う道っぽいな。あの時の違和感も、忍犬の気配だったのかもしれない」

「………確かに、昨夜聞かされた最後の状況を考えると、巫女やおまえ達が鬼の国の中央部に戻ったとは考え難いが」

「そのまま素直に城下町へ戻ったとも思えねえ。というか………知っているんじゃないのか?」

多由也が俺の腹の方を指してくるが、俺は無言で首を横に振った。

「相変わらずだんまり、か」

今は俺の中にいるマダオとキューちゃん。二人は、国境を越えてからは、一切喋らなくなった。
それは今も変わらず、進めとも引き返せとも言ってこない。

「あれから先の事、今も思い出せないか。この光景に見覚えは?」

「無いな。覚える程に見たわけでもないだろうし」

あれから後、目覚めた時俺は全身に深い傷をおっていた。右腕の傷が特に酷かったのも覚えている。
あの怪我の状況で、外を歩けるはずもない。

(…………外?)

自然と出てきた言葉に対し、俺は首をかしげた。

外………ということは、俺はどこかの家の中に運ばれたのだろうか。
あの時は真蔵も才蔵も菊夜さんもみな、深手を負っていた。

手当てを受けるにしろ、身を休めるにしと、雨風を防げる屋根の下に入ろうと思うのは自然な考えだが――――――

その思考はサスケの言葉により中断された。

昨日話した“根”の存在について、色々と聞きたいらしい。

根は木の葉の暗部を養成する部門だ。

通常の暗部は、中忍以上の忍びから適性のあるものが選抜されるもの。
暗部となった忍びは一定期間任務に従事する。
任務をこなし、忍びとして名が売れたもの、あるいは功績をあげ表に顔を出した方が良いと判断されたものは再び表に戻るが。

「カカシなんかがその類だな」

「………カカシがぁ?」

「今はエロ遅刻ロリコン上忍だが、昔………暗部時代は相当派手にやったらしいな。三忍は別としてだが、周辺の国や他の里からは木の葉隠れの里一番の使い手と認知されている。
でもまあ、“千の術をコピーした木の葉一の業師”っていう雷名は大きい。認知度でいえば三忍に継ぐだろうな。だから表に戻ったのだと思う」

名乗るだけで、相手の心胆を寒からしめるような雷名を持っているものは、表でこそ重宝される。

直接的には、複数で戦闘を行う部隊戦や、戦争の時。
雷名の持つ威力は、その存在をさらすことだけで相手の士気に影響を与えることもできるのだ。

「あのコピー忍者のカカシ、写輪眼のカカシがいるぞ、ってなるわけだ。再不斬でいえば“霧隠れの鬼人”だな。」

周囲にある国への宣伝にもなる。うちはこれほどの忍者を揃えていますよ、と言える訳だ。そうなれば依頼も増えるし、里の収入も増える。
一般にその活動を秘匿とする暗部では、それができない。

「グループ単位で二つ名をつける場合もあるな。“霧の忍刀七人衆”なんかはその筆頭だ」

元々は特殊な忍び刀が7つあっただけらしい。それを、当時の水影がまとめてひとくくりの呼び名をつけた。

「七人衆とまとめるだけで、相手の印象は随分と違ってくるしな。こいつが死んでもあと他に6人も残っていると思わせられる。
 あとは自来也、綱手、大蛇○の三忍とかある。三忍は雨隠れの半蔵が名付けたらしいけどな。戦った相手がその技を称え、二つ名を送る場合もあるらしい」

二つ名は忍びとしての誉だから、

「よくそんなことを知っているな」

「どこで役に立つか分からなかったから、マダオから学べるものは一通り学んだ」

相手の事を知らずに相対できるはずもない。ずっと、いつか来る戦いに備えてきた。
相手を知り己を知れば百戦危うからずというのは基本だ。

逆に言えば―――――

「だからこそ、名を知られるのは恥だと考えている者もいる」

裏で動いてこそが忍者。知られず影で動き、影の中で相手を葬る者こそが忍び。
そうすれば、相手に力を知られることもない。そして相手が力を出し切る前に殺す。暗部が面をしている理由でもある。

「それが、ダンゾウか?」

「正解。まあ、ダンゾウは別格だし、また別の意味で有名だけどな」

曰く、忍の闇。
木の葉の暗部、正式名称暗殺戦術特殊部隊に足るものを“養成する”部門を束ねる長。
裏の裏。影の影とも言われる老忍。

「養成する………ということは、選抜ではなく?」

「そうだ。真蔵や才蔵みたいな戦災孤児、血継限界はあるが表からは疎まれている忍を徴収して集め、暗部になるための忍びを作り出していた………らしい」

実際は自らを裏切らず、いかなる任務も遂行するという、ダンゾウの目的に沿ったものを作り出す機関だった訳だが。

「猿飛ヒルゼンが三代目火影に就任した時、解体されたらしいけどな。そこで大人しくするタマじゃなかったってことだ」

「影の影、か…………」

サスケは顎を手にやりながら、複雑そうに呟いた。

「…………里の上役と共に、うちはの事件にも関わっていると聞いた。その過程にも…………ダンゾウが絡んでいると思うか?」

「俺は当時の木の葉は知らないのでなんともいえんが、十中八九絡んでいるだろうな。逆にいえば絡んでいない方が不自然だ」

「だとしたら………いや、まてよ」

「思い当たる節があるか………何か、予兆となる事件は無かったのか」

「ああ、ある。虐殺の数日前、うちはの中で起きた、うちはシスイが死んだ事件………兄さんが殺した、という疑惑があった。
だが兄さんは殺していないと言った。尊敬する人だと言っていたし、殺しているとも思えない」

何か関係があるのかもしれない、というサスケに、多由也がたずねた。

「………そもそも何故うちはイタチがうちはシスイを殺した、ということになったんだ? 普通ならば他所の里の仕業を疑うだろうに」

写輪眼は最高峰の血継限界。どの里からも狙われている、値千金の瞳だ。

「いや、その頃のはまだ小さかったし………でも言われてみればおかしいな」

「事件が起きる数日前だというのもな………あるいは、こうも考えられる」

多由也は情報を分析し、推測を並べた。

「例えば、ダンゾウが巫女の力のように、大蛇○と同じく写輪眼を狙っていたと仮定する。その場合、気をつけ無くてはならない点はなんだ?」

昨夜きいた話から、多由也は有り得る状況を想定する。

「写輪眼を手に入れるには、うちは一族の誰かを殺して奪うしかない。だがうちはは木の葉の一員だ。殺して奪うにしても、誰がやったのかは絶対に知られてはならない。
 ダンゾウは木の葉の忍びだからな。身内殺しが知られれば木の葉からの粛清は必死。里の者全てを敵に回す行為だからな」

「だから、事件のどさくさ紛れにシスイを殺した………そうか。ダンゾウは当時のうちは内部の状況を知る内の一人だったな」

いずれ虐殺が起きるということは知っていたに違いない。
他ならぬうちはイタチの手によって起こるということも、ダンゾウは知っていた。

前もって情報を流し、うちはシスイは裏切り者のうちはイタチに殺されたと思わせたのだ。シスイ殺害の報から虐殺まで数日。
そして、事件が起こった誰もがうちはイタチの凶行を信じたに違いない。

「木を隠すには森というわけか………つまり、ダンゾウは兄さんに罪を被せたのか」

サスケの手が怒りに震える。

「あるいは………うちは内部でも、気づいていたものがいるのかもな。うちはシスイはダンゾウ、つまりは木の葉の暗部によって殺されたのだと。
 それを知った故に、木の葉へクーデターを起こす、その意志が固まったのかもしれない」

「………兄さんはその事を知っていたと思うか?」

「どうだろうな。どっちにしろ選ばざるを得ない状況になった」

あるいはうちは一族への説得という手段も考えていたのかもしれない。だが、シスイ殺害の容疑をかけられたイタチはその言葉の説得力も失った。
下手に提案でもすれば、一族の裏切り者とされ、うちは一族の手で処断されていただろう。

その後は戦争だ。木の葉対うちは。

「………これは再不斬に聞いた話なんだけどな。その当時の水影……三代目水影だが、どうにも様子がおかしかったらしい。何でも、水面下で戦争を起こす準備を整えていた動きがあったと言っていた」

「戦争、だと?」

「ああ。前にも言ったと思うが、三代目水影の裏にはうちはマダラの影がある。そこで戦争というからには
 ………かつて自分を追い出した相手、木の葉とうちはに対する復讐のため、その両方が争っているを脇をついて、戦争を仕掛けるつもりだったのかもな」

「………最高のタイミングで横合いから殴りを入れるわけだ。霧隠れの利にもなる」

当時はまだ血霧の里と呼ばれるほど、武闘派が揃っていた時代だった。反対はすまい。

木の葉 対 うちは 対 霧。

そうなれば、木の葉もうちはも両方が壊滅していただろう。鬼鮫含む霧の忍刀七人衆。うちはマダラ。三尾の人柱力、三代目水影。うちはマダラ。暁も幾人かいたのかもしれない。
勝機は十分にある戦いだったはずだ。

「木の葉壊滅となると………霧隠れも、そのままでは済まなかっただろうけど」

最大の里、木の葉が潰れる――――それだけ大きく情勢が動けば、まず間違いなく砂、雲、岩も動く。戦う相手は木の葉との戦争で疲弊した霧。
そうして戦いが戦いを呼び、血が血を呼ぶ。

「………第四次忍界大戦に発展していた。そしてイタチは、それこそを恐れた。幾千、幾万もの人が死ぬことを認められなかった」

「だから…………父さんと母さんを、一族のみんなを殺さざるを得なかった? ………一族を殺すか。一族に味方し木の葉に戦いを挑み、泥沼の戦争を呼ぶかを………」

世界の行く末をも決める、究極の選択だ。

選んだ選択は前者。そうしてうちはイタチは一族殺しの大罪を犯すことを選んだ。
誰にも告げず、誰も頼らず、罪を全て己で背負い込み、己の手で木の葉を守ったのだ。

うちはイタチは木の葉のとうちは………いや忍び世界が持っている歪への犠牲となったのだ。

忍びには向かない、優しい性格をしているうちはイタチ。

だが彼は誰より忍びであったとも言える。究極の状況においても下すべき判断を下せる、随一の忍びだった。













「―――――そこまで大したものじゃない」


「「っつ!?」」










突然の声。

驚いた俺達は、声が聞こえた背後へと振り返る。

そこには、今話していた人物………うちはイタチの姿があった。



「………兄さん」


「…………サスケか」




8年前、あの血に染まった月夜以来の、兄弟の再会。

サスケは兄を真っ直ぐに見つめている。その視線に害意は含まれていなく、ただ真摯なもので満ちているようだった。

対するイタチは無表情を保っている。だが、イタチがサスケの名前を呼ぶ瞬間、表情を微かに和らけたのを俺は見逃さなかった。




「先程の話は聞いていた。サスケ………お前はあの事件について、全てを知っているのか」

「ああ。聞かされたからな」

「そうか……………」

イタチは眼を閉じ、顔を僅かに下へと傾ける。


「先程言った通り………犠牲になったなどと、俺はそんなに大したことをした覚えはない。ただ、俺の力不足が生んだこと。木の葉も、うちはも………俺には両方を守れるだけの力が無かった」

「だが………他の誰でも、どうにもできなかったはずだ! うちはマダラのことも、兄さんは知っていたんだろう!?」

「………知っていたが、それは関係ない。霧が攻めてこなくとも、水影の裏にうちはマダラがいなくとも、うちはと木の葉が争えば、その隙に乗じてどこかの里が必ず攻めて来る」

そしてイタチは眼を開け、写輪眼を見開いた。


「争いは忍びの常。そして勝利者だけが歴史を語れる。つまりは勝利者こそが正義。だが正しいと吠え、誰かの命を奪うことに躊躇わず、相手の痛みを思いやる気持ちすら忘れた忍びは………」

「兄、さん?」

サスケが聞くと、イタチはこちらの話だといい、首を横に振った。

「………砂隠れの一戦で、お前たちはペインと出会ったのであろう。そうすれば、あれを見た筈だ」

突然変化した話題に、俺が食らいつく。

「あの黒い化物の正体について、知っているのか」

「ああ。あれこそが鬼の国代々の巫女が封じ込めようと………復活を阻止せんと見張っていた、世界を滅に誘う化物だ」

「巫女………紫苑は! 真蔵は、才蔵は………生きているのか!?」

「巫女についてだけ答えよう。生きてはいる。本人は再会を望むまいが………会わせよう。ついて来い」


「ついて………何処にだ? それに化物正体については、知っているのか!?」

尋ねると、イタチはやはりか、と前置いて説明をしてくれた。

「完全には戻っておらず、忘れたままの部分もある、か………いいから、追いてくれば分かるはずだ。
 そう術式を組んだと言っていた。お前が全てを思い出した上で、話すべきこと全てを話す」


そして背中を向け、言葉を続けた。

「事はすでに木の葉だけの問題ではなくなった。ペインを止めなければ忍びの世界が滅びるだろう」


唐突な言葉に、俺達は黙らざるを得なくなった。忍びの世界が滅びるとはどういうことだろうか。

新たに出た疑問に構わず、イタチは俺達を背中ごしに見る。


「人の力には運命が宿る。うちは然り、巫女然り、人柱力然り。逃れられぬ定めというものは、何処にでもある。
 だがこの状況で………サスケ。お前と、うずまきナルト、そして巫女の血筋の者が揃うというのは…………一体、どういう運命なのだろうな」


「兄さん………」


「全てはあそこで話す」



そうして走り出すイタチ。

俺達は沈黙を保ったまま、その後について行った。





























「―――――サスケ………お前に託すモノについてもな」




そうして呟き、イタチは己の眼を覆った。


覆われた瞳にある紋様。万華鏡写輪眼。


そこには、ある決意が宿っていた。








あとがき


短め投稿。

ここから後は題名を載せていきます。



[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 五十六話 「小池メンマのラーメン日誌」
Name: 岳◆5bf56ac5 ID:6d0af7c1
Date: 2010/03/21 17:38




「ふう、今日もいい天気じゃ」

紫苑は布団から出た後、顔を洗うと、まだ眠気が残る頭を覚ますために、外に出ていた。

陽の光を浴びて眼を覚ますためだ。

「イタチがおらんようじゃが………何処に言ったのかの?」

気配が感じられない、と紫苑は首をかしげた。

奇妙な縁。一年以上前に同居するようになった、あの不器用な男、うちはイタチ。

イタチ自信は紫苑や菊夜に対し、その素性について詳しくは語らなかった。だがうちは一族は有名だ。

数少ない生き残りであるうちはイタチの名も有名で、二人はイタチのことについて、大体のところは知っていた。

初めて会った時に感じたのは、果たしてこの目の前の男は本当に生きているのだろうかということ。

それほどまでにイタチは死に囚われていた。まるで自分がこの世界に存在してはいけないのだと、そう思っているようだった。

その瞳からは将来の展望も何もない。夢もなく、希望もないように思えた。ただ最後の役目を待っている老犬のようだった。

だから紫苑は悪戯をした。赤い実を食べさせたり、寝ている間その顔に落書きをしようとしたり。

死しか望まないイタチに、自分はまだ生きているのだということを、思い出させたかった。

「少しはマシになったようじゃが………」

最初に一言、次にふた言。最近になってようやくまともに会話できるようになった。

時折、弟の話もしてくれるようになった。一緒に修行をしようとせがむ、弟の話。

おにぎりの話。おかかのおにぎりだけ妙に上手く作れたわけは、そこにあったのだと、初めて知った時は腹をよじらせて笑った。


時間は人を変える。人と触れ合えば、人は変わる。その両方を経て、イタチの心の中はほんの少しだが和らいだように見えた。

しかし、自分の終わり方は既に選んでいるようだ。自らの果たすべき最後の役目を終え、その全てを弟に託し死ぬという意志は―――変えていなかったように思えた。


そんな事を考えている時だった。

道の向こうから、足音がした。


「帰ったか、イタチ…………?」




しかし紫苑はそこで足を止める。足音は複数あり、イタチ以外のどれもが聞いたことのない足音。

ひとつは分からない、ひとつはイタチによく似ていた。



そして最後、残るひとつの足音。どこかで聞いたような音だ。

紫苑はその人物がいる方向に顔を向け、たずねる。

「お主は…………誰じゃ?」





























頭が痛い。頭が痛い。

イタチの後を走っているのだが、先程から頭痛が収まらない。

サスケと多由也の大丈夫かと心配してくれる声にも、言葉を返せないでいた。

(記憶が戻ろうとしているのか)

しきりに痛む頭を叩き、奮起して走る速度を上げる。



やがて、たどり着く。獣道を登った先、そこにあるのは家だった。

木造の家で、随分整えられた作りをしている。そこらにある山小屋ではなく、しっかりと作られた住家。

別荘、というのが正しいのか。


「…………!」


そこで、俺は人影を見つけた。玄関で伸びをする少女の姿を。

髪は象牙。背丈は俺より頭ひとつぶんは小さい。だがその顔には見覚えがあった。

沈黙を保ったまま、その少女へと近づく。あたりの状況は耳には入ってこない。

視界には、ただ少女だけが映っている。やがてその少女は俺の存在に気づいたのか、こちらを見る。

変わらない、紫の瞳。美しい、宝石のような眼。だが―――――違和感を感じた。



警鐘が鳴る。頭の奥で、鐘が鳴っている。



「―――――――」


紫苑。そう言おうとしたが、言葉にはならなかった。

代わりに、少女はこちらを見ながら、言った。



「お主は、誰じゃ?」



衝撃。巨大な金槌で頭をぶん殴られたような。

こちらを見つつ、分かっていない。いや、それだけではない。

その視線は、微妙の俺の方向から外れている。


つまりは―――――眼が見えていないのだ。

何故と。どうしてと叫びたかった。しかしそれは言葉にならず、口の中で消えた。

紫苑が光を失った原因を、俺は未だ知らなかったからだ。いや、知っているのかもしれない。

ただ忘れているだけなのかもしれない。

そう思った俺は、紫苑に近づいていく。触れることで何かを思い出せるかもしれないと考えたからだ

紫苑は近づく俺の気配を感じたのか、息を止めてその場に立ちすくんでいた。


一歩前まで近寄る。

幼かったあの日の面影そのままに、美しく成長した少女の前に立つ。

「久しぶりだな、紫苑」

考えた言葉ではなかった。咄嗟に出たことば、再会を示す言葉だ。あれからもう7年だ。当時紫苑は7歳。

あの日までに生きた時間を、倍する時間が経過したのだ。どれほど長かったのだろうか。

言葉を向けられた紫苑。俺が誰だか分かったのだろうか。

息を飲み、そして――――笑った。

「久しぶりじゃの、ナルト」

俺と同じ返事。ただ、こめられている感情が違った。

歓喜に打ち震えているかのような、喩えようの無い悲しみを知ったかのような声。

その笑顔も何処かもの哀しい。そしてその顔には見覚えがある。


(そうだ、あの時もこうして――――っ!?)

悲しみを含んだ笑顔で、俺を見ていた。

――そこまで考えた瞬間、俺の頭の中で何かが弾けた。


(…………っ!)

頭痛の度合いが一瞬だけ強くなり、徐々に収まってゆく。

あれほど痛かった頭の痛みは嘘のように消えた。残ったのは静寂。波打っていた頭痛の名残は全て消え、残ったのは凪の海だ。

だが、実際…………頭の中で起きた変化は、劇的といっていいものだった。


(これは…………)

記憶の中、思い出せなかった光景にかかっていた、もやのようなものが消えていく。

やがて溢れてくる記憶の本流。あの時、封じ込められた記憶が、次々に頭の中に戻っていく。


去来するのは過去。忘れ“させられた”過去の話。


そうして、俺は思い出した。


あの後………鬼の国の戦闘が終わった、その後に起きた出来事を。































「知らない天井だ…………つっ!」

目覚めた俺はお約束をかましつつ、全身に走る激痛で顔をしかめる。
見れば俺の身体のいたるところに包帯が巻かれていた。誰かが手当をしてくれたのだろう。

だが、筋肉と骨に刻みつけられた傷まではどうすることもできなかったようで、気絶する前と変わらない、痛覚による鐘の音が俺の頭の奥を叩いている。

気絶………そう、気絶していたのだろう。最後にあの部隊長を殺したのは覚えているから、敵はもういないはず。

(殺した………そうだな、殺したんだ)

呟きながら、考える。

後腐れのない、最適な方法で敵を排除できた今、誰かに襲われる心配もないだろうが………ここは一体どこなのか。
身体を動かそうとするが、あちこちが痛むので諦めた。どうやら首しか動かせないようだ。

俺は寝転びながら首だけを動かし、部屋の中を見回す。
誰もいないようだが………ここは何処だろうか。

「…………どこかの家の中、か?」

木造の家。この世界では標準的な、いや少し広いか。何の変哲もない、普通の家であった。
ちょっと前にみた病院のように、医療をする所でもないようだ。また豪華絢爛な装飾もなく、至って普通の民家と言える。

(と、いうことは城の中ではないか)

そして、町の中でもないらしい。
窓の外からは鳥の鳴き声が聞こえてくるし、かすかに嗅覚訴えるこの匂いは、深い森で香るそれだ。

「………目覚めたか!」

その時、紫苑が部屋の中に入ってきた。布団で寝ている俺のもとに急いで駆けつけ、心配そうな顔でのぞきこんでくる。
大丈夫か、傷は痛むかと聞かれた俺は取り敢えず大丈夫だと返した。

死に至る傷でもない。右腕が痛みに痛むが、痛覚があるということは感覚はまだあるということ。

再起不能な傷でなければ、俺の中のキューちゃんが傷を癒してくれる。時間はかかるだろうが、じきに傷も治るだろう。
説明すると、紫苑は安心したのだろう。ひとつ安堵の息をついて、その場にへたりこんだ。

「どうした?」

「………腰が抜けたのじゃ」

頬を赤くしながら答える紫苑。俺は可笑しくてつい笑ってしまった。
すると、今度は別の意味で頬を赤くしながら、怒られた。

「そういえば………誰が俺をここまで運んでくれたんだ?」

「………菊夜じゃ」

何でも、ここは何代か前の巫女が命じ建てさせた、隠れ家。
紫苑と菊夜はこの家が建造された理由については知らなかったが、その存在だけは知っていたらしい。

俺達の傷を癒すために一時的にここに避難することを選んだ、と言った。

「紫苑は、怪我はないのか?」

「ない。お主らのおかげで、このとおり………大丈夫じゃ」

答える紫苑。本当良かったと笑いかけると、何故か紫苑の顔が赤くなる。

「どうして………」

「ん?」

「いや、何でもない」

そういうと、紫苑は顔を横に向けた。
俺は不思議に思いつつも、聞きたいことを順番に聞いていく。

「真蔵と才蔵………いや、シンとサイ、か? あいつらは大丈夫なのか」

「お主ほどの傷は負っておらんし、致命的な傷も無い。取り敢えずは安静じゃが、命に別状はない」

「そうか………」

どうやら、間に合ったようだ。あと少し遅ければ、殺されていたかもしれない。この世界で出来た、初めての友達の命が無事と知った俺は、天井を見上げながらよかったと呟く。
その時、視線を感じた俺は、視線方向………紫苑の方を見る。

すると紫苑は、不思議そうな表情でこちらを見つめていた。

「シンとサイの素性………お主は知っていたのか?」

あの時既に気づいていたのか、と紫苑が聞いてくる。

「いや、気づいていなかったよ。不覚にも、ね」

気づけたのは、あの敵の正体を知った時だ。“根”にいる兄弟、金髪と黒髪の兄弟。
あとは戦災孤児というキーワードと………名前。

(………ダンゾウの“ゾウ”を取って組み合わせたのか)

“シン”ゾウと“サイ”ゾウ。真蔵と才蔵、というわけだ。
そういえばヤマトの暗部名はテンゾウだったような。

偽名を名乗るにしても随分と安易だな、と思ったが、そもそもシンもサイも外部に名が売れているわけでもない。
どちらかといえば少しの情報を元に、有り得ない知りうるはずがない知識を以てその素性にたどり着いた、俺の方が異端なのだろう。

しかしここであの二人に会うとは思わなかった。意図せぬ対面と言えよう。
だけど兄弟殺しを防げたことは、嬉しい誤算だとも言える。

『兄さんに見せたかった…………』

儚く笑うサイの顔は、もう見ることはないだろう。それだけで、戦った価値があるというものだ。
あの絵巻物の真実を知った今、余計にそう思う。

しかし、あれだけ仲の良い兄弟を殺しあわせる暗部は………マジ外道だ。血霧の里の風習もそうだけど。
発端はマダラだろうし、木の葉って意外と黒いなしかし。長い歴史を持つ里ゆえに、裏側の闇も深くなってしまったのだろうか。

一度は全ての忍びを従えたと聞く里だし、その知恵と知識の量も半端ないのだろう。

(………だけど、今は木の葉よりこっちのことだ)

そういえば菊夜さんはどうしたのだろう。
あの人も怪我をしてたと思うけど、大丈夫なのか。たずねると、紫苑はまた変な顔をした。

「無事じゃが………」

複雑そうな顔。

俺はなんでそんな顔をするのか、聞くと紫苑からは意外な答えが返ってきた。

「あの時、菊夜は………お主を囮に使った。妾がそうさせたに等しい。それを知っているとも言った」

「ああ………」

厳密にいえば、マダオの推測なのだが。あの時、俺の死体を確認せずに去った暗部と、ラーメンを食べている時の菊夜の仕草、サイの言動から推測したらしい。
俺も、十分に有り得る話だし、事実そうかもしれないと思っていた。

「妾達はお主を見捨てたに等しい………いや、殺しかけたも同然じゃ。なのに何故…………お主は、ここに来た」

紫苑は俯きながら、震える声でそんな事を言った。
何故助けに来たのか、分からないという。

「紫苑」

そんな紫苑に対し、俺は「こっちにきて」と言う。

紫苑は涙まじりの眼を潤ませながら、顔を上げ近づく。

俺はその顔に手を伸ばし―――――

「そいやっ!」

「痛っ!?」

デコピンをかます。

紫苑がデコピンの痛みに、額を抑えながらうずくまる。
俺もデコピンをした反動が全身に広がったせいで身体がずきずきと痛むのだが、今は痛みに悶絶している場合じゃない。

俺はうずくまる紫苑に対し、あの時暗部の部隊長に言ってやった言葉を、もう一度繰り返す。

「だからといって見捨てていい訳にはならないだろう。それに、悪いのは決断させたあいつらだ」

生きるために必死だったんだろう。

「正直、少し腹が立ったけど………それでも死んで欲しくなかった。それだけじゃ駄目か?」

紫苑の肩がびくりと震える。

「それにあの時、俺は紫苑との勝負に負けて………あの約束を、したじゃん。負けたからには、賭けの負債は払わないとなー」

ハリセンボンはごめんだし、と言いながら、なははと笑う。

しかし………あの時はテンションゲージがマックスになっていたせいで分からなかったが、素面で言うと恥ずかしいぞこれ。
顔が熱くなっていくのが分かる。

『………くささ、最高潮ぉ!』

黙れマダオ。起き抜けの一言がそれか。

『ふん、よう言うわ………』

キューちゃんはなんだか不機嫌なんだだけど………なにゆえ?

考えていると、紫苑が顔を上げる気配を感じた。

見れば、紫苑は微笑を浮かべていた。
嘘のない、本心からの笑顔だ。端正な顔立ちと相まって、非常に可愛らしいと言えよう。

「本当に、すまなかった…………いや、ここはこういうべきか」

首を横に振って、紫苑は言い直した。




「たすけてくれて、ほんとうにありがとう」



あどけない少女から繰られた、本心からの礼の言葉と、満面の笑顔。



それに対して、俺は顔を逸らすことしかできなかった。












その後、やってきた菊夜と真蔵、才蔵と共に色々なことを話した。

「あなたが九尾の人柱力だったとはね………しかし、木の葉隠れの里は、あなたにとって味方となるのでは……?」

菊夜が聞いてくるが、俺はそんなんじゃないと言った。
もとはといえば、暗部に殺されかけたのが全ての発端だし、味方とはとても言えないだろう。

「俺も噂で、だけど聞いたことがあるよ。四代目火影の嫡男が九尾の人柱力で………失踪したって言っていたような」

「実際は暗部に殺されかけたんだけどね。最後は起爆札でふっとばされて崖下の河に落ちたんだけど」

あの時あった出来事に関して説明すると、全員が顔をしかめた。紫苑とシンにいたっては、何故か泣きそうになっている。
一体なぜそんなことをするのか、分からないのだろう。

「いや、だって………九尾だよ? 木の葉の里の者を大勢殺した……仇だと思ってたんじゃないかな」

事実は違うのだけれど。それに、里を滅ぼすに足る力を持った子供がいることに対しての、恐れもあったのだろう。
今までこなしてきた網の任務の中でも聞いた。

他里の人柱力も、一部の者からは人外の力を使える化物ということで、恐怖の対象になっているらしいし。
事実、紫苑達も見たはずだ。あの時の俺の異様なチャクラを。

あんな力が使える俺が怖くないのか。面と向かってたずねると、紫苑達はこう答えた。

「怖くなかったぞ。いやむしろ…………何でもない、忘れてくれ」
紫苑は首を振りながら、また頬を染めていた。これが世に言う吊り橋効果というやつだろうか。

「助けられたのです。それに、邪悪なものは感じませんでした」
菊夜はそう答えた。心なしか敬語になっているので、本心ではどう思っているか分からないが、感謝の気持ちに嘘はないようだ。

「怖くねーよ。むしろあいつらの方がずっと怖い」
シンは複雑な表情を浮かべながらそう言った。確かに、俺も他の人柱力よりは裏で下衆なことを企んでいる暗部とか、世界征服を目指している暁の方が怖いが。

「兄さんに同じ。むしろ有り難いよ。正直、僕たちだけではどうしようもなかったから」
サイはそう言いながら笑う。でも、確たる勝算もなく助けたいという想いだけで決意に振りきれたおまえらの方が凄いと思うのだが。

そう言うと、二人は驚いていた。
何故驚くのか分からん。

「いや、おまえらの奮闘が無かったら正直どうなっていたのか分からんし」

森の中、あの場に集まっていたおかげで乱戦に持ち込めた。
城の中に陣取られていたら打てる手も限られてくる。シンとサイが何もしなければ、そうなっていたはず。
その状況では、勝ち目は薄い。恐らくは負けていただろう。

しかし、あの部隊長の強さを知りながら、よく決意できたものだ。
そう言うと、シンとサイは笑って答えた。

「ほら、前に話で聞かされただろ? ………力のあるものが、チャクラを使える者が忍びではなく………誰かのために戦う心が、忍びだって」

サムライとも言うが。そうか、覚えていたのか。

そうか………俺が死んだと想い、決断したのか。
自分たちの後にはもう何も無いと想い、命を賭けるに至ったのだろう。

俺達の、そしてこいつらにとっての良い思い出………束の間であったが、失くしたくないと思えた日常を少しでも取り戻すために。


刃の下に心在り、心を以て刃を振るう者………それがこの世界の忍びなのかもしれない。

シンとサイはこの世界の忍びの在り方を体現したのだ。この小さな身体で。


『………お主も、そうじゃろうに』


キューちゃんの声が聞こえたような気がした。






その日の夕方、隠れ家に突如客が来訪した。

「あんた、ザンゲツ!?」

「………生きていたか」

ザンゲツは俺の顔を見るなりそう言い、あの後の事………木の葉の“根”に対する処置について述べた。

そしてその手際に俺は戦慄させられる。

「あの暗部の死体は、三代目………爺さんに信頼されている他の暗部に回収させた」

「どうやって………」

「うちはイタチのことに関して、少し情報を流してやっただけだ。超特急でやって来た暗部に対し、目撃情報を提供して………そのついでに、こちらで起こっている事を説明した」

鬼の国で“根”が暗躍していること。そして………

「ゴロウさん、死んだのか」

顔見知りが死ぬのはこれが初めてではないが………慣れないな。

「ああ。それについての抗議もした」

今木の葉は、うちはの事件のせいで里の戦力が大きく減った状態にある。
そこに経済の流れの一端を握る“網”に対しての暴挙が、暴露されたのだ。

しかも、今回の事件は鬼の国内部で起きたもの。盟約を結んだ国自らの破棄が、他の里に知られればどうなるか。

「権威は失墜し、木の葉の発言力は激減………任務も減って、里の収入も少なくなる、か」

あるいは代償として、血継限界をいくらかよこせと要求されるかもしれない。
泣きっ面に蜂どころの騒ぎではなくなる。

ザンゲツはそれらを取引の材料にして、“根”の国外への退去を命じた。

「下手人………俺についてのことは?」

「言えない、とだけ言った。追求はされるだろうが、まあうまくやるさ」

それが俺の仕事らしい。

まあ、木の葉には警務部隊を務めていたうちはが壊滅したことで、他に優先しなければならないこともある。
まずは警務部隊を代行するに足る部隊を編成しなければならないらしい。つまりは、木の葉側にはこちらにつきっきりになっているような余裕が無いということか。

「“根”のダンゾウは?」

「三代目の爺さまに抑えてもらっている。初代火影の盟約は、あの爺さまにとって何よりも優先されるべきものだ………いつかの、雨隠れの里の外れで起きた事件もある。
 これ以上、何かをすれば、迷いなく処断するだろうな」

「雨隠れの外れ………事件? ………ああ、あれに関係あるんですか」

少し前、その事件の現場近くにある村民から依頼された、とある奇妙な工事のこと。
現場に着いた俺達は驚いた。言われて赴いたその平野には、○めはめ波でも落ちたんじゃねーのか、と言いたくなる程に巨大なクレーターがあったのだ。

「あれにも、“根”が絡んでいると?」

まじで勘弁してくれ、と俺は頭を抱えた。手持ちの起爆札を使っても、螺旋丸を使ってもあんなことはできない。
そんな術を使える者が“根”にいるとか、考えたくも無い。

「いや、爺さまもその件に関しては確証は無いらしいが………話が逸れたか」

その後は、俺の処遇について。こちらは特に何の問題もないらしい。

「しかし、一人であれだけの暗部部隊を壊滅させるとはな………」

何で今まではその力を使わなかったのか。ジト目で見てくるが、そんな眼で見られても、どうしようもない。

「おかげでご覧の有様ですよ。“八門遁甲の陣”程とは言いませんが、乱発できるような術でもないんで」

少し誤魔化し、説明をする。

「………まあ、いいか。詮索すると逃げそうだからな………約束もある」

そう言って、話を断ち切る。これ以上、余計な詮索はしないという意志表示だろう。

「ああ、後………シンとサイ、と言ったか。あの兄弟についてだが、うちで引き取ることにした」

「………え、いや、それ………可能なんですか? 根からは何も言ってこないと………いや、そうか」

そういえば戦災孤児の登用は、三代目も心を痛ませていたと聞く。それに、根は閉鎖されたはずの部門だ。
それがハルという協力者(買収したらしい)を使って、組織の中をかき回したのだ。
ゴロウさんのこともある。

発覚した今、網に対しての代償として二人を………というわけだろう。

「お前の考えている通りだ。ま、うちと“根”との………関係は、最悪となったがな」

大体が好かん組織だったし今更別に構わんが、とザンゲツは豪快に笑った。

「問題は別にある。鬼の国のことだ」

鬼の国と根で交わされた密約、そして紫苑達の立場について説明を受ける。

「糞っ垂れが………!」

取引の材料? いった何だそれは。
俺は胸糞悪い真実に、思いっきりつばを履きたい気分になる。

「まだ終わっとらんぞ。その国主だが、今度は別の里に働きかけようとしているらしい」

「………はあ!?」

「取引材料としての巫女の価値………そこに、眼をつけたのだろうな。再び拉致して、どうにかしようとしているらしい」

真意に関しては調査中だ、とザンゲツも顔をしかめながら言う。

「下衆が………それで、紫苑達はどうすると?」

「………後は、本人から聞け。明日、話してくれるだろう」















その夜。

暗い部屋の中、俺は天井を見上げながら考えていた。

『………眠れないの?』

「ああ………」

答えながら、立ち上がる。

全身が痛むが、今はここに居たくなかった。

俺は外に出て夜空の星を見上げながら、あの時のことを思い出す。

この手で殺した、あいつらのことを。


骨をへし折る感触。肉をえぐる感触。

どれもがこの手に残っている。

(殺した………殺したんだ)

他に方法が無かった。余裕もなかった。だから殺した。
力があれば、他に選択できたのだろうが、今の俺にそんな大層な力はない。

だけど手に残る感触は、理屈ではなかった。得体の知れない感情が、俺の胸を締め付ける。


「…………っ」

そのまま俺は地面に左腕をつき、胃の中のものを戻す。

昼と夜に食べたものが出尽くし、それでも止まらない。胃液をも地面にぶちまける。

「っ、イワオ!?」

そこに紫苑が現れた。俺の背中を優しくさすってくれる。

そのまま、数分が過ぎる。



俺は隠れ家の傍にある樹に、紫苑と二人でもたれかかりながら星空を見上げていた。

俺は、余程情けない顔をしていたのだろう。紫苑が俺の手をそっと握ってくれた。

途端、俺はより情けない気持ちに襲われる。
どうしようもない、弱音に類される言葉を少女に言ってしまう。

「殺すしかなかった。取り得る最善だった…………」

あの時。最後のやり取りで抱いた憎しみはまだ消えず、胸に残っている。
でも、殺したくなかったのも本当だ。

立場が違うとはいえ、相対する敵とは言え、どうしようもなかったとはいえ、殺しあうことが正しいとは口に出したくなかった。
しかし許せないこともあった。

同じようなことをしている人間がいれば、俺はどんな手を使ってもそれを阻止するだろう。
例え命を奪うことになっても。

「なんで、こうなったんだろうな………」

発端は、巫女の死。そこから始まる奪い合い。

小国が………“根”が、力を求めたから。外敵に対抗する力を手にいれたかったから。

奪われない力を手に入れたくなかったから。戦争は終り、平和な世になったとはいえ、いつ他国と戦争になるかも分からない。
だからこその力。しかし、逆にいえば他人を………他国を信用していないとも言える。

危地に備えるという、忍びの思考は正鵠を射ている。事実世界は不穏な情勢を携え、今日も大陸に血は流れている。

誰も彼もが誰も彼もを信じていないのか………あるいは、理解しようとしていないのかもしれない。

もっと他に、力以外で理解し合えるものはあるはずなのに。

それは日々の中にあるもの。食事、音楽、芸術。

美味しいものを食べる喜び。
いい音楽を聞ける喜び。
美しいものを見られる喜び。

そして、それらを作り出す喜び。創作する喜び。

色々とあるのだ。見知らぬ誰かと誰かが理解しあえる機会が、色々とある。
断じて殺しあう………究極の否定をしあうために、人は生きているわけではない。

「だからお主はあれを………ラーメンを作るのか」

「ああ」

美味しいものに対する歓喜。作る側と、食べる側。
美味しいと言ってもらえる俺も、美味しいと感じた客も、どっちも幸せになれるじゃないか。

力でなんて、どうにもならない。

つまるところ出来るのは奪うだけ。あるいは、守るために失わないよう、そうなる前に奪うだけ。
どちらかしか幸せにならない。そういうのは、俺は嫌いだ。

誰も彼もが幸せになるために生きている。俺はそう信じている。
間違ども、人が望むものは同じであると思いたいのだ。性善説などではなく、ただそう在って欲しいという願い。

“誰も殺しあわない世界を”

それが俺の夢だ。本当の殺し合いを経験した今、切に願う。
人の汚さを直視した今、心の底から願う。

夢に夢をまぜあわせるのだ。

ラーメンだけに。

「その巨大な力で夢を叶えようとは………思わんの、お主は」

「ああ、それに………これは、借り物の力だからね」

俺は俺のために生きている。

俺は俺のしたい事をする。だから、借り物力を使って舞台に立っても、そこに意味は無いのだ。

自衛のために力を振るうことはする。許せないことに対し、断固たる行動にでることもある。
だが肝心の夢は俺の持つ俺だけの力で叶える。

借り物の力で夢を………秘めた願いを形にしたとして、そこに“俺”がいないのでは、はたしてそれが何になろうか。

それにそれは一時凌ぎにしかならない。それでは足りないのだ。

唯一、借り物ではない俺だけの力。それがラーメンに対する情熱だ。
前の世界の残滓でいだした残滓。

くだらない、人によってはとるに足りないと言われるかもしれないが、それがどうした。
この想いだけは、誰にも文句はいわせない。

本当に美味しいものは、人の心を変える力を持っている。

俺は、そう信じている。

一度振り上げられた腕、力に対して、言葉は通じまい。自らの腕でしか防げないものだ。
そして互いに傷つけあう。

それを防ぐためには、そもそも腕を振り上げようとしない心………相手のことを思う、理解しあう力が必要なのだ。

振り上げる前に話しあう、そんな世が出来たらいいなと思っている。
どだい不可能なことかもしれないし、俺の代だけでは無理だろうが………一度死んだこの身、やってみる価値はある。

「変わっておるの、お主は」

俺の言葉を聞いた紫苑は、優しく笑いながらそんなことを言った。

「………変わっているのは、悪いことじゃない」

そうしたいと願ったのだから。嘘はないので恥じる必要もない。

「そうじゃの………悪くない。本当に、悪くない………のう?」

「ん?」

「いつか………いつの日か。妾にも、その究極のラーメンとやらを、食べさせてくれるか?」

「勿論さ。まあ、時間はかかるだろうけど」

人生は短く、芸術は長し。10年やそこらで完成するとは思えない。
それに、短い人生を余計に短くしようとする輩もいることだし、まずはそいつらから身を守らなければ、俺の願いは果たせないだろう。

この危険な世界で旅を出来る力………それに対する、代償みたいなものだ。それは、眼を逸らすことはできない事実。

「ままならないのう」

「ほんとにね………」

夢だけ考えて生きたいのだけれど、現実は酷に過ぎる。
死ねばそこで終わりだし。

今は障害物を乗り越える力を。そして全てが終われば、俺は夢に向かって走り続けるのみ。

「ふむ、確かにあのラーメンは旨かった。他にはない味じゃったし………隠し味か何かがあるのか?」

「うん、あるよ。いつも考えているし、思いついたことは試すようにしている」

修行の合間とか、あとは全国を食べあるきながらネタを集めている。

今はあの宿屋に隠している、俺の日誌。

あれには、俺の夢そのものが詰まっているのだ。

「………でも、今は別に優先することがあるから、夢を最優先するってわけにはいかないんだけど」

何しろタマ狙われてるから、と俺は苦笑を返す。

「ふむ、そうじゃったの。うずまきナルト、か………そういえばイワオは偽名だったのじゃな」

「“網”の任務用のね。ラーメン屋としては別にあるよ?」

「ふむ、何というのじゃ?」

訪ねられた俺は、口の端を浮かべながら説明をする。


「俺の故郷にある漫画に登場する、ラーメンが大好きな人の名字を取って………そして、名前は本名をもじったんだ」


――――故に、“小池メンマ”。それが俺のソウルネームだと言った。



「ふむ、ということは…………お主が持っているという、その夢への道程が書き記された日誌の名前は………」



夢が詰まった、伝えるべ願いを書き記した日誌。


究極のラーメンを目指す、俺だけの日誌。














「“小池メンマのラーメン日誌”ってところだね」



















[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 五十七話 「別れと再会」
Name: 岳◆5bf56ac5 ID:6d0af7c1
Date: 2010/03/21 22:12




あの時、俺達はかなりの傷を負っていたはず。

俺もシンもサイも、そして………菊夜さんも。

それが何故俺達を運べたのか。何故、数日で動けるようになったのか。

気づくに足る点は、色々とあった。だが俺は気づくことができなかった。



明確な形として現れる、その時まで。




違和感を感じたのは朝。


痛む身体を引きずって、それでも昨日のお礼を言おうと紫苑を起こしにきた時だった。


「紫苑ー、朝だ………ぞ?」


見れば、すでに紫苑は起きていた。布団の上で座っている。

しかし、一向に動こうとしない。

気分でも悪いのか。そう思った俺は紫苑に近づき、肩を叩いた。


「ん………メンマか?」

「そうだよ。って、見りゃ分かるだろ」

まだ寝てるのか、と言いながら俺は紫苑の正面に回った。


――――しかし。

(ん…………?)

正面に回った俺に対し、視線を動かす紫苑。だが、その視線のさす位置は、は俺がいる位置よりずれていた。

何か、幽霊でもいるのか。そう言い、笑おうとした瞬間だった。異変に気づいたのは。

(チャクラが………?)

どうも、おかしい。昨日は全然感じられなかったチャクラが、今日は感じられるのだ。

しかもとてつもなく大きい。まるで押えきれない、といった風に、全身から溢れている。

だがその流れは何だか滅茶苦茶で、まるで増水した河のようだった。


「おい………紫苑?」

「ん、なんじゃ?」

熱でもあるのか。そう思い、額に手をやると紫苑は肩を跳ねさせた。

「おいおい、そんなに驚かれるとこっちも………」

と視線を合わせる。しかし、その瞳は俺を捕らえていない。


(―――――まさか)


そんな、まさかだろう。

だが、一度起きた疑念は消えてはくれない。嫌な汗が背中に流れる。不安は胸の鼓動を早めさせる。

俺はすっと紫苑の前に手をやり、たずねる。


「今、俺は手を広げている。出されている指は、何本だ?」







――――その問いに。紫苑は答えられなかった。
















「何でだ!!」

「落ち着いて下さい」

「これが落ち着けるか! 何で………こんなことになった!?」

「………私達のせいです」

「俺達の……?」

「あの後、私たちは傷つき………その場から動くことができませんでした。あなたは瀕死、私も動ける状態ではありませんでした。
 ―――動けるのは、紫苑様だけ」

「まさか、あの薬を!?」

「はい。全てではないですが、飲まれ………それで、私達の傷を癒されたのです」

「薬………? いや、それは何だ」

聞けば、サイが説明をしてくれた。何代か前の巫女が開発した、その力が利用されそうな時に飲むべしとされた、危険な薬。

「あれには一時的ですが、巫女としての力を高める効果もあります。それで、紫苑様は私達を癒しました」

俺は特に傷が深く、命をつなぎとめるのに精一杯で、紫苑による治療が終わった後も気絶したままだったらしい。
シンもサイもその光景を見ていたが、巫女が本来持っている術なだけで、まさか薬を飲んでまで、とは思っていなかったと言う。


「幸いにも少量だったので、死には至りませんが………」

一時的なチャクラの増量は紫苑の未熟な経絡系を傷つけた。

そして、今光を失うことになったらしい。

「視神経がどうにかなった訳ではないのか」

「はい。傷ついた経絡系が、視神経から伝わる信号を遮断しているのか…………確たる原因は不明ですが」

「あれを使われた経験が無いから、分からない?」

「はい」


その場にいる全員が、暗い顔になる。



「どうにか、方法はあるはずだ。探すぞ。鬼の国の城に、手がかりがあるかもしれない」

一刻を争う事態かもしれない。そう思った俺は痛む身体を引きずって、城へ行こうとする。

だが、それは止められた。他ならぬ、紫苑によって。

「無理じゃろう。治す方法が書いておるわけがない。利用されればそれまでなのじゃから」

「何言ってんだ! お前、目が見えないんだぞ!? これから先、何も………」

「………ふむ。そう思うと、昨日お主と一緒にみた星空が、最後の光景になるというのか。悪くないの………」

「強がりを言うな! 絶対に、治す方法はある。諦めるなよ。そうだ、いっそ木の葉に潜って………」

あそこには禁術の巻物がたくさんあるはず。もしかしたら、手がかりがあるのかもしれない。

そう言おうとした瞬間。

「それには及ばぬ」

紫苑は優しく笑い、首を横に振り――――手をかざす。


「紫苑、どうし………」


途端、身体から力が抜ける。


(こ………れ、は……?)


声も出せなくなる。見れば、俺の身体の周りに、結界のようなものが展開されていた。

シンもサイも同じなようで、動けず地面に倒れ伏していた。

身動きの取れない状況で、俺は耳に入ってくる言葉だけで、状況を把握するしかなくなる。


「ザンゲツ殿、おられるか」

「ああ…………始めるのか?」

「うむ。これ以上は引き伸ばせぬ」

「本当にそれで?」

「………これ以上、こいつらに何を望めるものか。それはいくら妾でも傲慢が過ぎる………それでは始めるぞ」




衣擦れの音。再び手がかざされたのだろうか。


「薬と共に、流れ込んできた記憶がある…………この力は、仙術と呼ばれるもののひとつ」

(――――仙術?)

「チャクラの流れを読み、未来を読み取る力もその一端だった。血と魂に刻まれた御業………それこそが、巫女達の血継限界じゃ」

(予知………ガマ仙人が可能とする、奇跡の力だったか………だが、何故そんな仙術を使える。それに、一体何をしようと………)



その時、何かが俺の頭に触れた。

「今よりお主の記憶を封じる。妾の事を思い出せないようにする」

『何故だ!』

「これ以上、お主の足かせにはなりたくないのでな。覚えていれば、お主はどうにかするであろう。一度捨てさせた命だ。これ以上は負担をかけられぬ」

『何を馬鹿な。あれは俺が望んだことだ』

「妾は誰よりお主に、傷ついてもらいたくないのじゃ」

『―――ー良い女に対して、男が身体を張るのは当たり前だ。女の言葉は男に覚悟を強いる。それに答えてこそ………』

「ふ、嘘でも嬉しいぞ。だけど、それとこれとは話が別じゃ」

そうして、地面に刻まれた紋様が発動する。

『その術を止めろ、紫苑!』

全身から、チャクラが流れる。
何か、紋様を描いてるようだ。

「大丈夫じゃ。妾は大丈夫。お主に貰った言葉がある。これ以上借りを作るなど………お主の夢を邪魔する事など出来るはずがなかろう………だから行け、小池メンマ」

『お前を忘れて、か?』

「務めは十分に果たした。これ以上、お主に一体何を望む。それに妾は、お主のバカっぷりが結構好きだったのじゃ。忘れ、笑って暮らしてくれ。それが妾の望むことじゃ」

『……だから忘れろ、と? 忘れて、俺は俺の夢だけにに生きろというのか』

「何、気にするな。これも妾の我が儘じゃ。それにあのような憎悪に囚われたお主など、正直二度と見とうない。それに、この隠れ家は結界で隠避する。ザンゲツ殿の協力も得られた。“鬼の巫女”に関する問題は片付きそうじゃ」

『―――勝手だな。お前も、ザンゲツも』

「お主の、お主がくれた言葉に従ったまでじゃ。誰も彼もが幸せになるそのために、戦うのじゃろう? 妾もザンゲツ殿もそうじゃ。己の望むがままに選んだ。それを、お主は否定しまい。そういった筈じゃ」

『ああ』

「ならば留まるな。此処はお主の戦場では無い。在るべき場所へ向かえ。いつか来る。中身は歪になれど、お主はそういう宿命を背負っている』

『歪? それはどういう……』

「いずれ知る。メンマがメンマであれば、いずれ突き当たる問題じゃからな。宿る星、汝の名は宿命なり。お主がここにきた意味も、また在ったという訳じゃ」

『さだめられた流れ………? 知らんよ。宿命とか………そんなの、俺の知ったことか』

「ああ、それでいい。そのままでいいから、流れるままに生きよ。いつか時が訪れる、選ぶ時が来る。其処が、お主の戦場じゃ・・・・“うずまきナルト”お主の事は忘れぬ」


最後に知る。


それまでは大人びた顔を保っていた少女は、泣いていた。


そして、年に沿った笑顔を見せた後。



「お主に会えて本当に良かった。ありがとう……………だから―――――さようならじゃ」

その術の結びとなる印を組んだ。













その後は誰かの記憶。俺ではない、二人の記憶。


「………お主が九尾か」

『そうじゃの、人間。それで、ワシを呼び出した理由とやら、聞かせてもらおうか』

「その前にひとつ聞きたい。そこのそれは、一体誰じゃ」

『分類上、一応は父になるのか。こやつの名前は波風ミナト………四代目火影よ』

「――――それはまた、何と言うか奇妙な組み合わせじゃの」

『戯言に付き合うつもりはない。要件を離せ。今のワシはいらついておるでの』

幼女と幼女がにらみ合う。

「妾はお主達の記憶までは触れられん。だから、約束して欲しいのじゃ。こやつに何も話さぬと」

『たかだが人間、そのお主がワシと約束じゃと? ………聞くと思っているのか』

「いや、先程まではそう思っていなかったのじゃが………守ってくれるのだろ?」

幼女二人は視線だけで言葉をかわす。この二人にしか分からない、何かがあるのだろうか。

『………承知した。お主の意地も見事。ここで断る理由もないが………お主、寂しくはないのか?』

「とてもさびしい」

間髪いれず、紫苑は答えた。しかし、気丈にも笑顔で言葉を続けた。

「しかし、妾にも許せぬものがある。それにあれだけ言われてわの。邪魔はしたくないと………そう思った」

『ふん、お主の覚悟、しかと受け取った。しかしどいつもこいつも………』

面白そうに笑う。

『僕からもひとつ聞いていい? 先程の、仙術のことだけど』

「うむ、これは我が係累にのみ許された術じゃ。大昔の兄二人と、同じように…………父から、受継がれたもの。あの化物を封じ込めるためにな」

あくまで保険じゃが、と紫苑は複雑な笑みを浮かべる。

『仙術………?』

「兄は仙人の眼。弟は仙人の肉体。妾の先祖は仙人の術…………全ては終りを避けるために。そういうことじゃ」

『いや、さっぱり分からないんだけど』

「知るときが来ると思う。それまでは言わない方が良いから」

『薮蛇になりそうだから、了解しておくよ。それではまた、いずれ会うことになるだろうから、その時に聞くよ』

「あなたもそう思うのか?」

『うん。馬鹿だけど、譲れないものが多いみたいだから。きっと忘れても、無茶をするに違いないから。いずれ辿る、その道の先にここに再び訪れる』

巻き込むことになるかもしれないから、とマダオが笑った。

「ははっ、そうかもしれません………では」

そうして、紫苑は再び手をかざす。

『―――言霊縛り。誓うという言葉を媒介にしたのか。ふん、大したヤツじゃの』

「同意なくばできぬことですし、増幅している今しかできないことですが」

それもすぐに消えると、紫苑は首を横に振った。

『後遺症は? 眼だけとは思い難いけど』

「分かりません。詳しい者がいればまた別ですが………それは、望むべくもないこと」

『僕たちは何もできないけど……』

「その言葉で十分です。それでは、またいずれ………生きていれば。ザンゲツ、お願いします」


「分かった。とはいっても、俺は運ぶだけだがな…………それと、困ったらここに連絡をくれ。力になる」

「分かりました………あと、シンとサイはメンマと離して下さい。顔を合わせたら、封じた記憶が蘇る可能性あります」

「承知した」

ザンゲツは俺の身体とシン、サイの身体を担いで行く。


「――――こんなに、軽いのにな。それでは、いずれまた……俺は、会えんかもしれんが」

「はい。再会を望みます。しばしの別れを。それでは、これで」



そうして、紫苑は振り返った。ザンゲツはその場を去っていく。


だけど、小さな声で聞こえた。




「――――またね」


涙まじりの声。

その後、俺達が山を降りた後。

隠れ家と一帯を包み込む、隠避結界がその場に張られた。




(バカ、ヤロウ………)



そうして、俺の記憶はそこで途切れる――――――――








































「―――――――そう、だったのか」



目覚めた時、最初に見えたのは天井。7、8年前にも見た、いつかの天井だ。

「ようやく目覚めたのか」

寝かせられた布団の傍には、サスケがいた。不安気な表情でこちらを見ている。

(俺は…………そうか、あの後倒れたのか)

記憶が戻った反動で、気絶してしまったようだ。

その後は、あの隠れ家に運び込まれたらしい。俺は起き上がると、サスケにあれからどのくらい経過したのか、たずねる。

「いや、ほんの一時間程だ………ほら、来たぞ」

「ん…………」

入ってくる気配が二つ。これは、多由也と………紫苑だ。


「目覚めたようじゃの………」

何も移していない眼で、それでも紫苑は笑う。俺は喩えようも無い、胸が締め付けられるような感情を必死に押さえつける。

「全部、思い出したよ………紫苑」

「―――そのように術式を組んだ。拙い構成じゃったが、どうにか成功したようじゃの」

悪びれもせず、紫苑が笑う。

(そうまで笑われては、なあ…………畜生、何も言えねえよ)

暗くなる訳でもない。それに、最近まで忘れていた俺に果たして何がいえるというのか。

忘れて己の夢に邁進していた俺に、何が言えよう。しかし紫苑はそんな俺の思いを一蹴した。

「ふむ、あの時も言ったと思うが………あれは、いわば妾の我侭だった。お主が気にすることではないぞ」

「それで納得すると思うか?」

「知らぬよ。それに、今、来て欲しい時にお主は来てくれた。イタチの弟を連れてくるとは、夢にも思わなんだが」

「―――イタチ、か。知っているのか?」

「ここ2年程は、一緒に暮らしておった。とある人物の紹介でな」

とある人物。イタチを動かせるような人物と言うと………

「それは、うちはマダラか……?」

「いいや、違う………それも含めて、お主達には説明をせねばならんことがある。ナルト、あの二人は呼び出せるのか?」

「ああ。ようやく喋れるようになったみたいだしなっ、と!」

そうして、俺はキューちゃんとマダオを口寄せする。

その音に呼ばれ、イタチもこの部屋に入ってきた。菊夜さんもいる。


俺にキューちゃん、マダオにサスケ、多由也。

紫苑とイタチ、そして菊夜さん。


茶の間に、8人全員が集まった。


サスケがイタチの方を見ているが、見られているイタチは何処吹く風。じっと、眼を閉じ続けていた。
傍目には平静を装うとしているようにしか見えない。サスケは気づけていないようだが。

紫苑は俺の目の前に座っている。年の頃はあれから成長し、年の頃は16、7といったところか。随分と綺麗になっている。
特徴的な象牙色の綺麗な髪も、紫陽石のような淡く見事な瞳も、その輝きを失わないまま、美しく成長した。

身体のチャクラは未だボロボロ、経絡系も完治してはいないようだが………それでも、昔よりはかなりマシになっていると感じられた。

(どういうことだ………?)

あれだけの酷い状態から、ここまで回復させたのは一体誰なのだろうか。

それが、イタチを紹介した人物なのだろうか。

それに、イタチがここにいる理由とはなんだろうか。


分からない事がたくさんある。だけど、今この場で全てが明らかになる。そういう予感があった。

そして、それはそのとおりで――――やがて、紫苑の唇が動く。




「―――いったい、何から話せば良いのか」



嘆息。諦観からくる息ではなく、難しいことを、あるいは荒唐無稽なことを説明するのにどうしようか、そんな悩みからくる息だった。




「全ての発端は、9か、10年前になるのか…………うずまきナルト、お主が暗部に殺されてからだ」


―――――何故だろう。今何か、不思議な言葉を聞いたような。


「――――ってちょっと待って。殺されたって、誰が?」


「あの時、お主は一度死んだはずだ。そして今も、魂はかつての………元の形には戻ってはいない――――そうじゃの。何から説明をすれば良いのか」


紫苑はちゃぶ台にあったお茶を飲み、溜息をひとつだけはいた。


「正確には、“九尾の妖魔が死んでから”…………そういった方がわかりやすいか」


「…………何をもって、そう断言する」

キューちゃんの目が鋭く光る。だが紫苑は、困った風に笑うだけ。


「九尾の妖魔について、正しい知識を持っておる者は?」

紫苑が聞くと、マダオが手を上げた。

「昔、自来也先生から聞いたことがあるよ。何でも、負の思念が集まった時にどこからともなく現れる、災厄だとか」

「うむ、それは正しい。じゃが、それは何のために現れるのかの?」

「―――負の思念が集まって出来るのだから…………」

矛先は、生物だろう。事実、九尾の妖魔が襲うのは生物だけだと聞く。それも、人を重点的に襲うらしいが。
キューちゃんはそのほとんどの記憶を妖魔核と共に吸い取られたから、詳しくは覚えていないと………ん、ちょっとまてよ。

「九尾の“妖魔”? 妖狐ではなく?」

「妖魔じゃ。人に仇なす大災。大禍の神そのものと言われた化物のことじゃ………そこにおられる………えっと…………」

「久那実でよい」

「うむ。久那実のように、天狐………年経た妖狐のことを指すのではない。九尾の妖魔とは、人を滅ぼすことを使命とされた、自然の代行者のことを言う」

「………代行者?」

何を代行するのだろうか。

「万物にチャクラあり。故に、全てのものはチャクラがあってこそ成り立っておる。個体差はあれど、チャクラが無い生き物など存在しない」

「それはどこかで聞いたことがあるな」

「いや、アカデミーの授業で………ってお前、そういえばアカデミー行ったこと無いのか」

「…………うん」

最終学歴無し。いいもん、くじけないもん。

「………話を続けるぞ。聞くが、負の思念とは一体なんだ?」

「誰かが憎いとか。消えてしまえとか………そういったものかな」

「そうじゃ。長じれば“滅びてしまえ”というものになってしまうもの。それが溜まっては、どの生物にも良い影響を及ぼすまい。むしろ悪影響でしかない」

「それは…………そうだね。だとすれば、九尾の妖魔はそれを駆除する役目………いや、大元を絶とうとするのか。だから、生き物を襲う?」

「そうじゃ。とりわけ人に由来する負の思念が大きく、滅ぼす対象も人となるがの」

「………戦場での、負の思念はすさまじいものがあるからね。納得できるといえば、納得できる」

「そうですね………」

マダオとイタチが同時に呟く。サスケの表情が少し歪むが、紫苑は話を続けた。

「人にとっては災厄そのものだろうが、自然にとってはそうでもない。いわば世界全体が負の思念に傾かないよう、世界のチャクラを調節するものだとも言える。
 元を絶ち、その場にある負の思念を喰らい生きるもの………それが、九尾の妖魔じゃ」

「と、いうことは………他の尾獣もそうだと?」

「違う。特別なのは、九尾だけじゃ。一尾から八尾はそもそもの本質が違うし、生まれ方も違う」

「―――――え?」



そんな話は聞いたことがない。いったい、どういうことなのだろうか。



「九尾の妖魔はいわば自然の防衛機構。どうしようもないと思った自然が生み出した、防衛機構じゃ。霊格の高い天狐に憑依し、妖魔と化して人を滅ぼそうとする、最終防衛機構………そして」




紫苑はマダオの方を見る。

見られたマダオは、紫苑の言葉を引き継いだ。今までの話の流れから、何かを察したようだ。

あるいは、何か気づけるだけのものを知っていたのだ。


「最終防衛機構が人の手に敗れた………つまり、死んだ時、何が起こりうる?」



「―――――」


その場にいた、全員が息を飲む。

九尾の妖魔が死んだ時。いわば、最終の防衛機構が崩れた時。いったい何が起こるのか、想像もつかない。


だがマダオは心当たりがあるのか、話を続けた。


「あの時、僕は“九尾の妖魔”の陽のチャクラと陰のチャクラを分けたつもりだった。しかし、事実は…………妖狐を妖魔に変える核を取り除いただけというわけか。
 それを、死神に食わせた………つまりは、妖魔核が消えた………死に等しい」



天狐………キューちゃんを妖魔に変えた核そのものを消し去ったと、マダオが言う。


その先にあるものは、いったいなんなのだろうか。何も起きないということは考え難い。九尾の妖魔ほどの化物を生み出すほどの防衛本能を持っている自然が、世界が………何もしないはずがない。


続きは、マダオでも紫苑でもなく、今まで目を閉じていた人物から語られた。




「―――ここからは俺が語ろう」





そう言うと、イタチは懐から紙切れを取り出した。





「それは?」




俺がたずねる。

古文書の写しかなにかだろうか。


だが返ってきた答えは、俺の予想の遥か上をいくものだった。











「俺とサスケ。あるいは現存する忍び全てに向け送られた――――――うちはマダラの遺言だ」






全ての真実はここに記されていると、イタチはそう言った。













[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 五十八話 「始まり」
Name: 岳◆5bf56ac5 ID:6d0af7c1
Date: 2010/03/22 21:09

作者注。

一部、最新刊のネタバレあり。

ネタバレいやという人は、戻った方が良いです。

あとオリ設定多々あり。劇場版とも混合しています。


















「遺言…………!?」

遺言。

死にぎわに言葉を残すこと。また、その言葉。いごん。ゆいごん。

じゃなくて。


「つまり…………どういうことだってばよ!?」

「落ち着いて落ち着けい。こんららん、こんんらんしししているいりかから」

お前こそ落ち着けマダオ。ムーンサイドみたいになってるぞ。

でもなぜだろう。大根を両手に持った妖精が騒いでいるように見えるのは。

「変わっとらんのお主は………」

紫苑が懐かしそうにあきれ果てたように言う。

「つまり、うちはマダラは死んだのか………!?」

サスケのは華麗なスルー。

「―――そうだ。話を続けるぞ。言葉の通りに………うちはマダラは死んだ。ペインに殺されたんだ」

錯乱する俺達を華麗にスルーする兄弟。

イタチは説明を続けた。

「ペインが………なるほど、それならば有り得るか」

うちはマダラは桁外れの強さを持っていたらしいが、ペインならばそれを上回っている可能性もあるだろう。
あれも規格外の強さだったからな。

「一度、戦ったことがあるのか?」

「前にね。遭遇戦だけど、サシでやりあった。感想をいうと………正直、状態が万全であっても勝てる気がしない。それのあの時、ペインはまだまだ本気を出していないようだったし」

恐らくは仙人モードの自来也でも勝てないんじゃないか。
まだまだ隠し玉を持っているようだし。

答えると、イタチはそれもそうだろうな、と頷いた。


「順序立てて説明をしなければならんな。俺も、ペインと呼ばれる忍び………新・雨隠れの里を束ねていた忍びは知っていた。暁の表のリーダーだったからな」

「新・雨隠れか………半蔵は、ペインに?」

「ああ。一度は何とか逃れたらしいが、その後に起きた戦争で一族郎党皆殺しにされたらしい。俺が暁に入る前の話だったから、その詳細は定かではないが、マダラからはそう聞かされていた」

「戦争………? そんな話は聞いたことがないな」

「一人対里。戦力差からいえば、戦争とは言えん。だが、ペインは大方の予想を覆し、一人で雨隠れの里………いや、半蔵の一族のみを徹底的に蹂躙したらしい」

「怨恨か………因縁か。余程の理由があったのかもな」

「そうだろうな。そして、マダラはその戦闘力と………輪廻眼に眼をつけた。理由は二つある」

イタチは一本、指をたてながらその理由を言う。

「ひとつ。直接的かつ純粋な戦力としてだ。五行の術を自在に操り、結界術をも駆使するペインの力はすさまじく、マダラはそれが欲しかった。そしてもうひとつ………」

そこでイタチはサスケの方を見た。

「サスケ。あの日にお前に告げた場所………写輪眼の秘密が書いている、あの石碑について覚えているか?」

「ああ、南賀の神社本堂………その右奥から7枚目の畳の下にある、一族の集会場だろ。写輪眼の本当の秘密が書かれていた、あの石碑のことか」

「そうだ。あの古の石碑には特殊な術が施されており、瞳力がなければ読むことさえできない。そして解読できる量は、写輪眼、万華鏡写輪眼、輪廻眼の順に多くなっていく」

「つまりはその石碑に書かれている内容を全て解読するために、輪廻眼を持つペインの力を欲したのか」

「そうだ。また別の思惑もあったようだが、それについては知らない。しかし石碑のことについては俺も知っていたし、事実マダラは俺に直接そう言っていた。
 しかし…………マダラの考えには、致命的な齟齬があったのだ。ペインについても、石碑についても」

「齟齬………食い違い? それはいったいどういう………」


「ここからは少し特殊な術を使う」

そういうと、イタチは遺言が書かれているという紙を広げ、印を組んだ。

一瞬だけ目が眩む。


そして次の瞬間には、俺達は石碑があるという場所に移動していた。

「………幻術か」

「そうだ。時は2年前。木の葉崩しの直後だ」

「あの日か………あれは?」

「うちはマダラと………」

続きの言葉は俺が引き継いだ。

「ペインだな。前に見た姿と同じだ」

「ああ。その二人だ。木の葉崩しにより、哨戒の忍びが少なくなった。そして結界の効き目が薄くなった隙をつき二人はここに侵入した」


説明を終えたイタチは、マダラとペインを指差し、始まるぞと言った。


直後―――時間が動き出す。

幻術の世界で、俺達の前にいる過去の二人は、会話を始めた。

石碑から読み取れたことを話しているのだ。

六道仙人が広めた忍宗のこと。しかし六道仙人は道半ばにして、死んでしまったこと。

その息子についても語った。

六道仙人の息子の、兄の方は仙人の眼と精神エネルギーを受け継いだ。写輪眼の祖といえる特別な瞳を持っていたこと。平和には力こそが大事だと思っていたこと。
弟の方は仙人の肉体………生命力と身体エネルギーを受け継いたこと。平和には愛が大事だと思っていたこと。

そして、兄弟は後継者争いが原因で殺しあったこと。

最後は、十尾について。六道仙人が倒した、世界を滅ぼす化物について。
最終手段としての――――無限月読について。

「―――以上だ。六道仙人について、ここに書かれている内容はこれが全てとなる」

「成程………しかし、十尾とはな。それに、千手と俺の先祖は兄弟だったのか………」

「ああ。六道仙人の後継者、それを巡る争いで互いに殺しあったらしいが」

「ふん、そして俺と千手も忍びの覇権を争い、殺しあった。血は争えんということか。しかし、果たすべき道は見えた。無限月読――――そのためには、完全体が必要だ」



「そうだな………」



その時、ペインの声色が変わった。



「どうした?」



「―――うちはマダラ。お前は、今の話を信じたのか?」

「ああ。事実は神話になぞらえて語られる。それらしき寓話や神話も、各地に散らばっている。俺も、ずっと昔に見た覚えがあるしな。それに、事実そこに書かれているんだろう?
 ―――いやまさか、嘘の内容を言ったのか」

マダラが険しい表情を浮かべる。

対するペインは苦笑しながら、首を横に振った。

「いや、ここに書かれている事は、今お前に語った通りだ」

「ならば、何が違う? そして………何がそんなに可笑しい」

ペインは石碑に書かれている文字を解読している間、終始笑顔を絶やさなかった。
嘲笑でもなく、単純に可笑しいからという笑み。


「いやいや。その通りだよ。事実は神話になぞらえて語られる。火のないところに煙は立たぬし、何もないところから物語が生まれるはずがない。
 ただ――――神話は神話だ。史実ではない。中には語られぬ事実、歴史があり、騙られた歴史もあるということだ」

「何………?」

「如何にこの石碑がよく出来ているとはいえ、作り残したのは人間だ。裏にある真実、汚点、都合の悪いことを全て晒し、書き残してあると………本当にそう思うのか。
 確かに、尾獣と十尾について語られた内容は、大筋では間違っていない。だが細部に違いがある。それにここには、肝心のことが書かれていないぞ」

「どういうことだ……?」

「簡単なことだ。十尾の本質と役割だよ。何故、十尾が生まれたのか。何故、十尾が世界を滅ぼそうとしたのか。それがこの石碑には書かれていない」


だから、俺がここで全てを語ってやる。


ペインはそう言いながら、微苦笑をマダラに向ける。



「そもそもの発端は、忍宗が広まったことだが………そうだな、人が力を欲するのはどんな時だと思う?」

「………突然、何を言い出す」

「答えなければ話は進まないぞ。真実を知りたいのであれば、答えた方がいい」

「………己の無力を嘆く時。あるいは、どうしようもない力が目の前にあった時だ」

マダラは、そのために弟の眼を奪ったこともある。
千手に対抗するために、万華鏡写輪眼を手にするために。

「その通りだ。そしてあの時、人間はその言葉とおりの立場にいた。人より遥かに強靭な力を持つ変化と、妖魔。いまでは口寄せでしか呼び寄せられないが、当時はああいう化物がそこら中を跋扈していた。
 誰しもが己の身を守るために、力が必要だったのだ――――生きるために」

「………」

「だから、忍宗………忍術は、爆発的な勢いで広まった。忍術が広まることについての危険性について、忍術を広めた仙人は気づいていたが、その当時は仕方ないと思っていた。
 事実、人間は妖魔共に追いやられ、絶滅の危機に瀕していたのだから」

「昔話、いや口伝やお伽話で聞いたことはある。だが、お前は………」

何故そこまで詳しく知っているのか。

マダラは聞くが、ペインは無視して話を続ける。

「強力な力を以て妖魔共を屠った。時には蝦蟇仙人のような、変化に位置する存在の味方もできた。仙人と戦士達はその戦いに勝利し、人は己の住む場所を手にいれた。
 世界には人の平和が訪れたのだ。そして、次には何が起きたと思う……?」

「戦争が終わった…………つまりは、戦士達に居場所はなかった?」

「そうだ。忍術を扱える者たち………あの当時はただ戦士といわれていたな。戦士達は、平和な世には必要なかった。
 閉じ目闇に現れて、開き目光に姿を消す。その言葉のとおり、闇………つまりは苦難の時切り開くには、力は人々に希望をもたらす光となった。人々の憧れとなった。
 しかし………平和な時、明るい時代では、その限りではない」

強力な光は、明るい場所では必要無いのだ。まぶしすぎるのも鬱陶しいらしい。
苦笑を混じえ、ペインはそう語った。

「当然、戦士達は反発する。そしてその矛先を民に向けた。妖魔ではなく、人間に向けたんだ。そして戦いは始まり、また夥しい数の人が死んだ」

裏切られた戦士たちは、戦いを挑んだのだ。自分たちの居場所を手に入れるために。

「人が死んだ。森が死んだ。多くの動物達が死んだ。色々な存在と殺し殺されあった。そうして、負の思念が世界に溜まっていくうちに、生まれた…………負の思念の集合体が。それが、九尾の妖魔だった」

「―――十尾ではないのか」

「ああ。九尾の妖魔の存在については、当時の古文書にも書かれていたので、俺達も知っていた。人を害す災厄として語り継がれていたのだ。そして、今度は九尾との戦いになった。
 最高位と言えるほどに霊格の高い天狐に、妖魔核が宿った時、九尾の妖狐は転じて九尾の妖魔となる。遠い昔、龍が存在していた時代では龍に宿り、“九頭竜”ともいわれていたらしいがな。
 九尾の妖魔は強く、倒すのに時間はかかったが………仙人はそれ以上に強かった。激戦の末、仙人は滅びの象徴ともいえる存在を倒した。そして人を越える者………忍び達の神として、崇め奉られた」

「………成程。六道仙人が今も語り継がれ、神と呼ばれている理由はそれか」


英雄には倒すべき敵が必要。人を害す怪物を滅ぼして、英雄は神になる。

そうして、初めて神話が成立するのだ。


「かつての戦士達の戦争。そして、九尾との戦いにより、当時いた人間の四割が死んだ。しかし、争いは終り、表面上は平和になった………そう、思われた時」



「黒い衣を纏い、そいつは現れたのだ…………世界を滅ぼす化物、十尾が」



ペインが虚空を見上げる。その顔には渋面が浮かんでいた。

「あれは………便宜上、“九”尾を越える者として“十”尾と呼ばれてはいる。だが、あれはそんな生易しいものじゃない。九という数字の通り、自然の最終防衛機構を………更に超えた存在だ。
 口伝にも存在しない、終末を告げる鐘のようなもの。妖魔でもなく、生物でもない、ただの現象。言葉にあてはめるとすれば、そうだな―――」

―――曰く、終りと始まりを司るもの。ペインはそういって、眼を閉じた。

「どうあがいても勝てない。初めてその化物と対峙した瞬間に、仙人はそう感じたらしい。それもそうだろう。滅びそのものを滅ぼすことなどできないのだから。
 如何な神といえど、死には抗えないのと同じだ」

どんな神話の中でも、神は死ぬこと。
死は万物に平等に降り注ぐ終りで、それを消すことはできない。

死を殺すことはできないのだ。

「初戦は惨敗。多大な犠牲を払いながら、撤退に成功した後、俺は必死にあの化物を倒す方法を探したよ。あの化物について、徹底的に調べた。そうして探せば色々と出てくるものでな。
 遠い昔にも現れた、十尾を倒すために作られた存在。空の国の空中要塞にある、十尾を模した存在、零尾や、遺跡群………気がとおくなるほど昔、十尾に滅ぼされた者達………その遺言と遺産が、世界各地に存在していた」

「――――確かに。この世界の技術体系には、突発的に発達したものもある。納得できないのも多い。非常に高度な文明を持っていたと思われる遺跡も、各地に残っている。それが、十尾に滅ぼされた人の残滓というのか」

「然り。そして古文書にはこう書かれていた。“祖は九を越えた人類に下される最後の審判。次の時代へ誘う滅びの波。満たされた十、その次の始まりである、零を司り、世界の輪廻を回す怪物。世界そのものを媒介として具現する化物”と」

「終りと始まり。死と再生………成程、世界の最終防衛機構とでもいうのか」

「その通りだ。負の思念に染まった世界が手遅れになる前に一度滅ぼし、その後再生する役割を担う………バカバカしいと思うだろう? 当時の俺達も、そう思っていた。
 強大な力を持つ戦士たちが、一太刀も浴びせられず、虫けらのように尽く殺されてしまうまではな」

「それほどまでに?」

「強い弱いの話ではないさ。戦闘が殺し合いである以上、死を司る存在に勝てるわけがないだろう。そも、立っている舞台そのものが違うのだから。
 正攻法では適わないし、消すことも出来ないと悟った仙人は――――封じ込めることを選択した」

「………」

「世界が作り出したものとはいえ、存在は存在だ。いくらでも対処しようがあると思った仙人は、己の持つ仙人の肉体と眼を駆使し――――十尾を己の内に封じ込めることに成功したのだ。
 その偉業を達成した時、それを成した仙人のことを、そして眼のことを人々はこういった」



ペインは自らの眼を指差し、言う


「世界の輪廻を司るものを、己に封じ込めし者。そして、それを可能とした、あらゆるチャクラの本質を見通す眼」


そして己の肉体を指差す。


「その封じた肉体を以て“六道”仙人。それを成した眼は“輪廻”眼と呼んだ」



「………六道輪廻、か。成程………話におかしいところはないが………」

「全て本当にあったことだ。そしてその過程で、俺は十尾の仕組みを理解するに至った。しかし、十尾はいつまでも封じ込められる存在では無かったのだ。
 六道仙人はまず、十尾のチャクラを少しでも減らそうと画策した。九尾の妖魔の戦闘の際に理解した、妖魔核の術式を模倣して、負の思念を段階的にだが、いくつかに分けた。
 それが一尾から八尾まで。今では九尾も一緒くたにされて、総じて尾獣と呼ばれているらしいがな」

「…………つまりは、九尾こそが唯一の尾獣。オリジナルで、他はただの模倣だというのか?」

「ああ。各地に散らばった擬似妖魔核は、それぞれ霊格が高い生き物に宿ったようだ」

「確かに。数十年だが、一尾は砂隠れの老僧と呼ばれた古狸の変化が、数百年前に突如凶暴化。変異し、生まれた存在だと聞いたことがある」

「妖魔核が宿ったのだろう。そして六道仙人は、それらを人の中に封印し、力を利用する術を開発した。いつか再び現れるかもしれない、十尾との戦いのために。
 同時に――――再び生まれるであろう、九尾の妖魔を封じ込める術も開発した。十尾を宿してから封印に至るまでの間にな」

「九尾を殺さず封印してしまえば、十尾は生まれないと考えたのか」

「ああ。六道仙人が十尾の本体を封じ込めたとはいえ、九尾の妖魔核は健在。負の思念が再び生まれれば、九尾の妖魔もまた生まれるだろうと、そう思った。
 その時、世界が再び十尾を生みださないとも限らなかった。だから九尾を封じ込めはしても、殺してはならない。六道仙人は息子達にそう伝えた」

そこまで語ると、ペインは歯をくいしばり、「そしてもう一人いる」と言った。

「もう一人だと………? 千手とうちは以外に、六道仙人の血を受け継いだものがいるのか。しかし、聞いたことがないぞ」

「当たり前だ。隠すように伝えたからな」

ペインが石碑を叩く。

「ここには書かれていない。仙人の眼を受け継いた兄、仙人の肉体を受け継いだ弟。その二人の――――妹。強力な仙術を授けた、末の娘には………もしもの時のため、十尾を封じ込める仙術を授けた。
 あれは覚醒後、世界の負の思念を集め、大きくなるからな。覚醒直後であれば、十年単位で封じ込めることができる。十年あれば、いくらか対策も取れるかもしれない。人柱力の力を駆使すれば、あるいは勝てるかもしれないからだ。
 しかし特殊な封印術や仙術は、使いようによっては危険極まりない術となる。そのため、その存在についての全てを秘匿するように伝えたのだ。事実、この石碑にも書かれていない。
 ――――秘中の秘である、娘の魂に刻まれた術を受け継ぐ女系の一族については」

「女………そして化物を封じ込める術を伝える、血継限界だと………まさか、鬼の国の!?」


「然り。今は鬼の国の巫女と呼ばれているらしいな。初代火影の盟約を聞くに、千手の一族の方には今も密かに語り継がれ、その存在と役割について知っていたようだが………」


そういうと、ペインは自分の拳を血管が浮き出るほどに強く握り締めた。


「それはまた別の話だ………話を戻すぞ。膨大な十尾のチャクラをいくらか切り離すことに成功した六道仙人は、そのまま自らの肉体ごと十尾を永遠に封じ込めることにした。
 一度発生した十尾は、世界を滅ぼすまで止まらないらしいからな。だから自らの肉体を巨大な岩で覆い、そのまま空へと飛んでいった………それが、月だ」


「話が大きすぎるが………本当にそんなことが可能なのか」

「六道仙人の力だけでは無理だ。それが可能となったのは、封印に十尾の力を使ったからだ。十尾の力を核として、強力な引力を生み出し、巨大な岩に包まれたまま、空へと飛んだ。
 そして太陽の光とと十尾の力をそのまま封印術を保持する力に利用し、生み出された力を循環させ半永久的に作用する
 ………地爆天星という重力を操る術と、仙術を基本とした特殊術式を併用した封印術で、十尾の本体とその大半を封じ込めることに成功した」

ペインは地下の広間の天井を指差す。

それを聞かされたマダラは未だ信じられない。

しかし話に不自然な点が無いのも事実。歴史の裏で消えていった事実など腐るほどある。それを知っているうちはマダラだからこそ、有り得ると思ってしまう。

マダラは首を横に振りながら、かろうじてといった風に、言葉を紡ぐ。

「…………ひとつだけ聞かせろ」


うちはマダラは警戒しつつ、ペインにたずねた。

「何故石碑に嘘を書いた。これは、六道仙人本人が書いたのではなかったのか」

「“忍宗を広めた結果争いが起こり、九尾が生まれた。そして九尾を滅ぼすことによって、世界を滅ぼす化物が出てきてしまった”
 ………そんな劇薬にしかならない真実そのものを、遺すと思うか? 忍びか普通の人々に知られれば、間違いなく大規模な戦争が起こる。当時の六道仙人は、それを恐れた。
 知られれば、また戦争になりかねなかったからな」

良いものなど一つもない。そういいながら、ペインは石碑を叩いた。

「そうかもしれないな………あともうひとつ。お前は話の中で、“俺”といった。“六道仙人”ともな。つまりお前は………六道仙人の生まれ変わりなのか?」

「いいや、厳密には違う。確かに、六道仙人の記憶の、その断片は持っているが、六道仙人そのものではない。肉体も普通のものだ。仙人の肉体ではない」

少し感情が入り込んだせいか、人称がばらばらになったけどな、と言いながらペインは自嘲する。

「そもそも魂の形はそれぞれが違う。外から干渉し、一度魂の形が変わりでもすれば、それは元の魂と違う存在となり、全くの別人となる。
 生命力そのものを扱う術はあるが、魂を扱える術はほぼ無いに等しい」

「………大蛇丸の不屍転生はどうだ。あれは違うのか」

「不老など………そんなものは有り得ない。さっきも言っただろう。万物はに須らく死が存在すると。無限の生など、夢のまた夢だ。あの術も同じで………本人も気づいてはいないようだがな。
 術を使い肉体を変えていく度に、魂は劣化していく。―――やがてあいつは破綻し、“元木の葉の三忍・大蛇丸”ではなくなる。すでにその兆しは出ているだろうな。そして人格が死ぬことを“死”と呼ばずになんと呼ぶ」


ペインは一歩。マダラの方へ歩を進め、告げる。


「お前が忍び世界に絶望しているのは分かっている。そのために無限月読を成そうというのだろう。人の性を悪と見極めたお前は、争いを無くすために永遠の夢の中に逃げることを選ぼうとしているが
 ………そんなことはさせない。あれは本来ならば下の下索だ。今のこの平和な世界に、無限月読は必要無い。消えるのは、忍びだけでよいのだから」

「何だと………ならば、お前は何をするつもりだ!?」

「かつて遺した、輪廻眼の定めそのままに動く。自らが封じ込めた、十尾の………世界の代行者としてな」

ペインは掌を広げながら、言う。

「あの時………十尾を永遠に封じ込めようとした時、六道仙人はとあることを危惧した。輪廻のシステムを壊すことを。だから、いつか………世界がどうしようもなくなった時。
 その時がくれば、己が十尾の代行として、世界を滅ぼし輪廻を回すと。世界が二度と生まれ変われないことを避けるために、もしもの時は自らが手を下すと誓った。言い伝えとして、残っているはずだ」

「輪廻眼を持つもの………“世が乱れた時に天から遣わされ、世を平定せし創造神となる。あるいは、遍くを無に帰する破壊神となる”だったか」

「そうだ。正しく伝わっているようだな。そして俺は死ぬ間際、こうも遺した。強力な忍術を扱うものこそを、忍者と呼ぼう。そして強力な忍術を扱えるこそ、耐え忍び………天災の時以外は、普通でいろ。権力と結びつくな。
 表に出ることは二度同じ過ちを繰り返すことになる。心を以て刃を振るう者こそを忍者。心無い、ただの刃と成り下がるな。相手の存在を知りその痛みを知り、人との繋がりこそを想えと」


ペインはしかし、首を振る。


「…………戦士の傍系、チャクラを扱う侍という監視システムをも作ったようだが、その願いは、言葉は………無駄だったようだな。今やお前たちは世界の荷物でしかない。
 大名からは恐れられ、その力も疎まれている。あの大戦と軍事力縮小が、全てを物語っている」

「…………忍界大戦か」

「三度もよく起こしたものだ。ああ、仏の顔も三度までという言葉を知っているか? そして今、四回目を起こし尾獣を集めようとする馬鹿もいるようだ。
 戦争で忍術は発展し、今では昔とは比べ物にならないほど多様を極め成長した………危険な忍術も生まれ始めた。このままでは世界そのものが滅びかねない」



それは許容できないと言い、ペインは親指の肉を噛みちぎる。



「そして今………木の葉崩しにより、また大勢が死んだ。十年を待たずに、十尾がここまで形になるほどに負の思念が集まっている………!」


「ぐっ………」


ペインの威圧感が倍増する。いつか見た、一尾の比ではないほどに。


「あの日、あの夜、あの月を見上げ――――目覚めてから十数年。各地を旅し、色々なものを見てきた上で、結論を下す。

 我、世界の意志を代行せり。
 
 あるべき循環を取り戻すため、未だ幼き十尾と共に動く。人の痛みを忘れた忍びに、世界を滅ぼす可能性を持っている忍びに――――裁定を下す!」


血にぬれた手を、地面に叩きつける。


そして煙の中、ペインはマダラの方へ手をかざす。


「――――人と世界の痛みをその身に刻め!」


ペインがマダラに向けて手をかざす。






「なにぃっ!?」





かざされた手に、マダラが吸い寄せられる。

それを見たマダオが驚く。

「触れた………!?」

「引力を操る術か………!」







「“万象天引”。その名の通り、万物をこの手に引き寄せる。位相空間だろうが擬似空間だろうが形骸化した存在だろうが、この術の前に例外はない」


そして、ペインはマダラの耳元でぼそりと呟く。すると、マダラの顔が驚愕にそまる。


「くっ―――――!!!」


マダラはペインの手から逃れようと、あらゆる術を試す。だが、それは無駄だった。

輪廻眼の能力は、チャクラの理と本質を見通すこと。

写輪眼のように忍術の術式を写し取る能力は無いが、その眼は全てのチャクラ………つまりは忍術を理解できる。



「お前の術は既にこの眼で見た。種も理解した。下準備はぬかりないぞ」


「それはっ、まさか………何故だ、九尾は死んでいない筈………!」


「いや、九尾の妖魔は死んだよ」


「なにを………」


「全てはお前の招いたことだ、うちはマダラ。時を超えた兄弟喧嘩に、よりにもよって九尾を使った報い………それが、今ここにある状況を作り出した。
 
 ――――全てはお前を発端として、始まったのだ! 因果応報とは、こういうことだ!」


煙の中から現れたのは、黒い化物。

まだ小さいが、その禍々しさは損なわれてはいない。



「これが十尾!?」

「然り!」



口寄せの術。完全体ではなく、幼生体の十尾をペインは呼び寄せたのだ。

手掌と共に、黒い塊がマダラを包み込んだ。断末魔を上げながら、うちはマダラは十尾に飲まれていく。


「くっ、ペインんんんん―――」




声は次第に小さくなっていく。数秒も経つと、広間には静寂だけが残された。






「さてと。始めようか―――」





残るペインは、十尾に触れながら虚空を見上げ、ゆっくりと口を開く。







「忍者、滅ぶべし」










ペインは虚空を見上げ、今この世に存在する忍び全てに向かい、宣戦を布告する。













「お前たちは全員、俺が―――――――殺す」


















あとかぎ

伏線回収。




[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 五十九話 「因果の果てに」
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2010/03/28 11:12


ペインの宣言の後。

幻術は途切れ、俺達は元の場所へと戻っていた。

「………」

一度は今の遺言を見たであろうイタチを含めた、その場にいる全員が沈黙する。

衝撃のあまり、誰も言葉を発せないようだ。かくいう俺も、あまりに巨大な敵の正体を知ったせいで、頭の中が混乱の極地に達してしまっている。

六道仙人と、十尾。考えうる限り、最悪の組み合わせではないだろうか。

実は嘘でした、と言って欲しいのだが………思いをこめて、イタチの方を見やる。

しかしイタチ兄さんは、黙って首を横に振った。

「嘘はない。全て本当だ」

「………まあ、そうだろうね」

今この場でイタチが俺達に対して嘘をつく理由がないし、またその必要もない。

「………マダラ死の間際、最後の力を振り絞って、俺へ向けこの遺言を飛ばした。そこで、俺は全てを知ったんだ」

特殊な術式が用いられているらしく、写輪眼を持つ者にしか理解できないようになっているらしい。送る先も写輪眼限定だろうか。

「………写輪眼による特殊術式。ということはマダラが作ったのは確定となるね。カカシ君も写輪眼を使えるけど、こんな芸当ができる程使いこなせる訳じゃない。
 まあ、そんなことをする必要もないからね」

だから本物だろう、とマダオが首を横に振る。その手を見れば珍しく、かたかたとわずかに震えていた。

「………ちなみに、俺がこの遺言を持っているということは、未だペインには悟られていません」

「知られれば口封じに殺されるかもしれない、か。紫苑はペインの正体については知っていたのか」

「………眼が見えぬのでな。先の幻術は妾には見えぬ。だが先の遺言の内容については、イタチから口頭で説明をうけておる」

「あ………ごめん」

失言だった、と頭を下げる。

「………謝らずともよい。それよりもペインのことじゃが………」

途中で、紫苑が言葉を濁す。

「……そういえば、ペインは紫苑の現状について知っているようだったけど」

「ああ、知っておるよ。お主らと別れてから、ちょうど4年程経った時………木の葉崩しとやらが起きた時より、一年前ほど前となるか。あやつが現れたのは」

周囲に張り巡らされている結界………普通の人間や、上忍クラスの忍びでも気付けないであろう、この結界を完全に無視して、この隠れ家にやってきたらしい。
さすがは六道仙人の記憶を持っているというべきか。

「あの時は本当に驚きましたよ。遠出の買い物から帰ってきて家を見たら、見知らぬ不審人物が紫苑様の目の前にいたんですから」

菊夜さんがためいきひとつ。そりゃ驚くよなあ。
その状況で、戦いにはならなかったのだろうか。

「2秒で気絶させられました」

首筋を手刀で一打ちだったらしい。そう聞くと余計に化物じみているな。

「ペインは紫苑に対して何か言っていたのか」

「盲た妾の眼に触れた後に、の。“すまない”と一言だけ言っておった」

触れた手は震えていたらしい。いったいどういう思いで紫苑を見ていたのだろうか。どういう気持で、その言葉を吐き出したのだろうか。
あの巫女を巡る戦い、六道仙人にも責任の一端はある。他ならぬ仙術を遺したのは六道仙人本人なのだから。

後悔、悔恨かあるいは………それすらも越えた何かか。
娘の変わり果てた姿を見て、六道仙人の記憶を持つ彼は一体何を思ったのだろうか。
あるいは、“忍び滅ぶべし”の決意をさせる程に、怒り狂ったのだろうか。

「………彼の気持ち、分からないでもないかな」

マダオが呟く。キリハのことを考えたのか、はたまたナルトの事を考えたのか。
どちらを思って発した言葉なのか、俺には分からなかったが。

「菊夜さんは、ペインと話をしたの?」

「はい。あの戦いから今にいたるまで、その経緯については説明しました。ですが貴方のことは話していません。彼がどういう行動にでるか分からなかったので。
 その、紫苑さまの眼に触れた後、ほんの一瞬でしたけど………尋常じゃない殺気とチャクラを感じましたから」

死を幻視しました、と菊夜さんが自分の肩を抱え、震える。
上忍クラスの忍びに殺気だけで死を幻視させるか。

(いや、するだろうな)

対峙した時の事を思い出す。あの威圧感と殺気は、人間の範疇には収まりきらないのではなかろうか。

(それはまた、後回しにするか)

今俺達が考えてどうこうなる問題じゃない。再不斬や白、あるいは自来也や綱手の力を借りなければならなくなる。
詰めるのはその時でいい。

まず聞かなければならないこととして、俺は紫苑の容態についてを聞いた。
紫苑のチャクラの流れは、7年前の最後に見たあの時より、ほんの少しだが和らいだように見える。

「ああ、これはペインが処置してくれたのじゃ。最も、傷ついた経絡系だけは輪廻眼でもどうしようもないので、完全には治せないと言われたがの」

「………俺も試したみたが、治癒は無理だった。経絡系そのものが酷く傷ついている。幼少期に受けた傷というのも大きいな。身体の成長に伴ない、裂けた傷口が広がり続けている」

経絡系に受けた傷は治癒が非常に困難で、熟練の忍びをもってしても、完治はもほぼ不可能だといわれている。

「それに加え、紫苑が本来持っている膨大なチャクラが治癒のチャクラの働きを邪魔しているんだ。薬の副作用もあって、外から入ってくるチャクラに対し過敏に反応しているのも厄介だ」

つまりは幻術も使えないということだ。
敵意が無いとは分かっていても、紫苑の内部で燻っているチャクラは自動的に反応するらしい。
抗体に似た役割………外部から干渉しようとするチャクラの力は全て排除しようと動くらしい。

「自分のチャクラを使って治すことは………無理か。ただでさえ痛むもんな」

「一度試してみたが、痛みのせいで集中力が途切れてしまう」

「………ということは、綱手様の医療忍術をもってしても、治癒は見込めないか」

もっと別の角度からのアプローチが必要になる。

「………ちょっと待てよ? いや、もしも………」

そう言いながら、マダオは頭を悩ませている。

「………まあ、痛みは幾分和らいだからの。ペインとイタチの処置が無ければ、妾は今頃は死んでいたかもしれんし………命があるだけでめっけ物じゃ」

そう言いながら、紫苑は笑顔を見せる。

「紫苑………」

笑顔にしても痛々しい。刺されるかのような胸の痛みを覚える。

「何か他に手はあるはずだ。探すから、待っていてくれ」

今ならば綱手の協力も得られる。木の葉に戻って資料を取ってくるということもできる。

「ありがとう………じゃが、妾のことは後回しで良い。それよりも今は、話すべきものがあるのではないか?」

「………いや、今日のところは一先ず終りにしよう。明日、また情報を整理してから、対策案を練らなきゃならないけど」

だから少し休んでくれ、と俺は紫苑に向けて言う。

「ふむ、分かるのか?」

「ああ。眼が見えない分、普通より疲れやすいってことは分かるよ」

それに他のことも色々と話したい。そう言うと、紫苑は分かったと笑って頷いた。



その横から、先の俺の言葉にひっかかるものを感じたのだろう。

イタチは俺の眼を見ながら、あること聞いてきた。


「………お前は、どこかに逃げないのか?」

「はあ? 逃げるって………何で?」

心底分からない。
そう答えると、イタチは不思議そうな表情を浮かべる。

「六道仙人に十尾。お前の思っている通り、相手は間違いなく最強の存在だろう。お前なら、紫苑を助けたことや、お前の持つ事情をペインに話せば、殺されずにすむかもしれない」

「…………ひとつだけ、選ぶとして」

一本、指をたてながら、俺はその問いに対しての回答を返す。

「――――うちはイタチ。あんたは弟を見捨て、自分だけ生き残る道を選べるのか」

「それは………」

イタチが言葉に詰まる。その問いの答えは否なはずだ。

例え夢があるとして、自分の命が大切だとしても。今までに出会った全てを捨てて、人との繋がりを無視してまで生き延びて。

だが果たして、それは本当に生きているのだと言えるのか。

「俺だって戦うのは嫌だ。今回は特に相手が相手だし、逃げ出したくなる気持ちも、無いといえば嘘になる」

風の砲弾に肋をへし折られ、吹き飛ばされた時には正直死を覚悟した。

「ああ、怖いさ。めっちゃ怖いよ。だけど………ここは退けないだろう」

「何故だ?」

「思い出した、忘れていた記憶と共に蘇った気持ち………戦う理由があるからだよ」

最悪最強の敵だとして、意地を放り出してまで生き延びても、後には何も残らない。
今までであってきた人達、ほぼ全てが死に絶えると聞き、どうして逃げられるはずがあろうか。

「既に気持ちは決まっている。突拍子もない事態だけど、方針は変わらない………問題となるのは、“どう勝つか”だ」


「勝つ、だと………本当に勝てると思っているのか? 相手は古代の英雄に、世界が生み出した最強の化物だぞ」

「ああ。そいつをぶっ倒せばいいんだろ?」

「………しかも世界の意志を背負っている。忍びの神とも呼ばれた存在も、傍にある。いわば世界の意志そのものを敵に回すんだぞ」

「だから、そいつをぶっ倒せば全ては終わるんだろ?」

「………簡単に言ってくれるな」

「いや、簡単じゃない。全力を尽くしても勝てるかどうか分からないから。だけど、まあ………ペインの言動には、色々と納得できない部分が多々あるし。だから俺は逃げないよ」

立ち向かい戦った上で死んでも、それは俺の道の上でのこと。

最後だとしても、道外れ堕ちた底での終焉ではない。

だから、笑って死ねるだろう。


「とはいえ夢の旅路はまだ途中。ここで死ぬのは嫌だから、全力を尽くそうぜみんな」

敵は分かった。世界ってやつだ。
だけれども死にたくないのであれば、抗うしかない。

爺さんとの約束もある。マダオの想いもある。
何より、木の葉には死なせたくないやつらがいる。

だから戦おう。これで正真正銘、最後の戦ってやつだ。
それに世界には色々と言いたいことがあるしな。

「――――返答は?」

俺は未だ沈黙したままの、その場にいるサスケ達に対して聞いた。

戦うか、それとも逃げるのか。


答えは、すぐに返ってきた。


「戦うよ。当たり前だろうが」
何をいまさら、とサスケが言う。例え誰が相手でも、退くつもりはないようだ。

「ま、いつもと変わらんしの」
今までも確たる勝算があったわけでもなし。同じくどうにかすればよいのじゃ、とキューちゃんは男前な笑顔を浮かべる。

「ウチも、まだ夢の途中だからな。意地でも死んでやらねえ。逃げるのもごめんだ」
笛を握り締め、多由也。ここで死んでたまるか、と気合を入れている。

「…………」

マダオは俺を凝視しているだけ。何か気になることがあるのだろうか、言葉を発さず俺の様子を伺っていた。

「どうした?」

「いや………何も無いよ」

眼を閉じた後、マダオは首を横に振る。何故か口元には微笑を携えていた。

「実に我侭な、理想だ………全てをその手からこぼさないですむと、本気でそう思っているのか?」

仲間、友達、知り合い。その誰をも死なせないで、道を通せると思っているのかと聞いてくる。

――――まさか。

「戦いってのは、そんなに甘くない――――だけれども。だから死んでも構わないし仕方ないって、割り切れるハズもない」

後悔しないように、来るべき時に向けて全力で備え、最後まで抗うだけだ。
どうにかなるのではなく、どうにかする。
死にたくないのであれば、そうするしかない。戦いというのは、危機に対して備えることなのだから。

「そうか………ならば、最早何もいうまい」

俺達の答えを聞いたイタチは、唇の端だけ、だが確かに笑みを浮かべていた。

「ん、何か可笑しいことを言ったか?」

「ああ、とてもな。だが、その信念は嫌いじゃない――――俺も、果たすべき責務を果たそうか。何か、他に聞いておきたいことはあるか?」

決意を秘めた眼差しと………その言動。
俺は少しひっかかるものを感じたが、取りあえず聞いておきたいことは聞いておいた。

「ペインの正体について、新・雨隠れの長になるまでの経緯については、何か心当たりがあるか」

「いや、ペインという名前しかしらないな。そちらは何か心当たりが?」

「エロ仙人………自来也に聞いたんだけど、あの人20年以上前に雨隠れの里の近くで、3人の弟子を取ったらしくて。そんで、そのうちの一人が輪廻眼を保持していたって言ってた」

「かなり昔の話だな………雨隠れの半蔵が表に姿を出さなくなったのが、それより少し後だったか。いや、待てよ………?」

イタチは顔を少し下に傾け、考え込む。

「………一度ペインとやりあったと聞くが、その時ヤツの顔は見たか?」

その問いに、俺はああと頷く。

「歳はいくつに見えた?」

「え、20代前半か、もしくは………ああ、そうか!」

ぽん、と手をたたく。

「その通りだ。年齢と容姿が合致しない………だが、五代目火影の例もあるしな。やつも容姿を自在に変えられるのかもしれないが………」

「ああ、それもそうだなあ。容姿・偽名については、俺も人のこと言えないし」

得意技・年齢不詳。影に隠れて10数年、うずまきナルトの小池メンマです。

「かといってそうそう輪廻眼を持つ人間が現れるわけもない。エロ仙人が今、かつての弟子と輪廻眼について情報を集めているらしいからな。少し時間が経てば何か分かるかもしれないけど」

あるいは、ペインが六道仙人の記憶を持つに至った理由が分かるかもしれない。

「そうか………暁のことに関しては、何か聞きたいことはあるか?」

「………そういえば、デイダラとサソリはペインの正体について知らなかったみたいだけど、他の面々はどうなんだ?」

「ゼツは知っているだろう。マダラ亡き後でも、未だ暁に残っているところを見ても間違いはないだろう。信念の薄い、好奇心の塊みたいなやつだからな………」

面白いものが見れるとして、ペインに付き従っている可能性は大いにあり得るらしい。

「角都と飛段については、俺も会う機会が少なくてな。話しても聞く奴らじゃないから、言ってもいない」



「小南は?」


「………誰だ、それは?」


「え、暁の紅一点、紙を使うくのいちの事だけど………」

「知らないな。聞いたこともない」

不思議そうに、イタチは首を傾げる。

「そうか………偽の情報だったか」

その場はそこで誤魔化し、話題を次に移す。

「水影時代から繋がりがあると思われる、干柿鬼鮫は………知っているだろうな」

「ああ。マダラの事も含め、俺が直接話した。その時に伝言を託したんだ。紫苑から、うずまきナルトについての話は聞かされていたからな」
 
まさかサスケまで連れてくるとは思わなかったが。
イタチは苦笑を混じえ、そう言った。

「他の里には………」

「いや、何も話してはいない。そもそも抜け忍………それも一族を虐殺した俺の口から出る言葉など、どの里にも信用されないだろうからな。暁の一員だということも知れ渡っている。
 偽情報による内部撹乱の計略とみなされ、その場で殺される可能性が高かった故、今まで沈黙を保つしかなかった」

信頼に足る誰かに託すまでは、と思ったらしい。
疑念すべきは罰せよの理屈を持つ忍びだ。迂闊な行動に出ないあたりは、さすがイタチと言える。
伊達に独りで修羅場をくぐり抜けてきていないというわけか。

「ペインから頼まれた任務………紫苑の護衛もあるしな。ここから動けずにいたが、おまえらが此処に来た。結果的に吉と出たと言える」

これも巡り合わせかもしれないが、とイタチが苦笑する。

「しかし、五影には知らせるべきか………でも、正直に話したとしてもなあ」

信じてもらえるかどうか分からないのだ。

「“死んだと思われていた、齢80を越えるうちはマダラ。実は生きていたけど、存在さえ疑われている六道仙人の記憶を持つペインという忍びが、彼を殺しました。その忍びは十尾と呼ばれる怪物を操り、世界を滅ぼそうとしています”、かあ………」

「………雷影殿あたりには一笑に付されて、それで終りだね。最も本人はペインと直に会っているので分からないけど」

そう言うと、マダオは肩を竦めた。

「俺も、雷影云々の情報については把握している。ペインが各里の忍びの死体を使って、襲撃を仕掛けたのもな。その際の死体や手引きその他、大蛇丸とダンゾウに色々と協力を要請しているようだが………知っていたか?」

「ある程度予想はしていた。きな臭い場所には必ずと言っていいほど現れる奴らだからな」

しかしやはり、その二人は繋がっているのか………悪縁の妙、ここに極まれり。こうまで絡んでくるとは。

ダンゾウに至っては、全ての発端………うずまきナルト暗殺計画の一部にも手を伸ばしているはずだ。シスイを殺したと思われるあいつなら、何をしても不思議じゃない。
あるいは、九尾の妖魔の力を写輪眼で操ろうとしていたか。

この期に及んでも切れないとは、実に奇妙な因縁だ。できれば全力でぶった切りたい類の縁ではあるが。

「………ま、ダンゾウには色々と借りがあるしねえ。いつか一発ぶん殴りたい」

「同感だ。俺の方は一発だけですませる気はないけどな」

「………僕もかな。いくらなんでも、裏で色々こそこそと、やりすぎだからね」

俺とサスケとマダオが鼻息荒く拳を握り締める。

「気持ちはわかるが、それよりもまずやるべきことがあるだろう」

「そうだろうけど………あ、そういえば兄さんは、シスイさんの死因や、殺した相手とか………何か、知っているのか?」

「………あの時も言った通り、俺はシスイさんは殺してはいない。彼はむしろ俺に協力してくれた。うちはと木の葉との和解、その案を勧めようとしていた三代目と一緒に動いていた。
 動いていたのだが………ダンゾウがな」

「あいつが、殺った?」

「――――ああ。あれが、最後の一手となった。うちはと木の葉の決別、それが確定となる決定打となった」

「兄さん………」

「………それももう、過ぎたことだ。今は対処すべきコトが、別にある。マダラには言いたいことは色々とあるが………それでも、この手紙を託されたものとして。俺には今、成すべきことがある」

そう告げるとイタチは立ち上がり、サスケの方へ視線を向ける。



「大切な話がある」
















「行ったか」

イタチの提案の後。サスケは頷き、あの兄弟は隠れ家の外へ出た。

家の裏庭にある広場へ移動し、二人きりで“話”をするらしい。

「何も言わずに………良かったのか?」

見送るだけで、その場に行こうとしない俺達に対し、紫苑が聞いてくる。

「いや、僕からは無いよ。語るべきこと、教えられることは全て、修行の中に詰め込んだから」

「そうなのか………ナルト、お主は何か一言だけ告げておったようじゃが、一体何を?」

「頑張れ。絶対に負けるな、と」

「随分と簡潔じゃの………」

「色々と込めたつもりさ。全て伝わっているかどうかは分からないけど」

「………しかし、本当に行かぬでよいのか?」

「行かないというよりは、行けないよ」

「そうだな………ウチらが口を出せることじゃない」

「そうなのか………?」

「――――今この時にいたるまで。サスケに対して、やれるだけのことは全てやったから」

最後はサスケ次第だ。今更俺達がしゃしゃり出るところじゃないと、そう思っている。

「サスケはお主にとって、仲間………友達ではないのか?」

「一緒に2年。過ごしたこともあって、今は少し家族に近い感覚かな。だけど、なかよしこよしのべったりというわけでもないから、何にでも口を出すのもまた違う。それに、これはあの兄弟、二人だけで決着すべき戦いだ」

「………誰だって、手を貸して欲しくない、自分の力だけで成し遂げたい戦いがあるんだ。ウチもできれば手を貸したいけど………そればっかりは、できない」

多由也が俯き、呟く。

「………だから力足らず、あの二人が死んだとしても、それはそれで仕方ないと。そう、言うのか」

「仕方ないとは思わない。だけど俺とサスケ、互いに交わした約束があるんだ。互いに守るべき意地があるしね。それを破るというのなら、逆に俺の方が殺されてしまう」

ここで横槍を入れる俺を、サスケは決して許すまい。


「心配はいらないよ。あの二人がこれから何をするのか、ある程度は分かっているけど………きっと、大丈夫だから」


隠れ家での毎日を回想する。


約3年間、ずっと修行に明け暮れていたサスケ。

天与の才と言われるにふさわしいだけの素質を持つあいつは、しかし才能にあぐらをかかなかった。

血反吐を吐きながら自分の身体を苛め続けたのだ。

もしもサスケが死んでしまったら、この3年で蓄えた切り札………いくつかは使えなくなり、六道仙人に対する術も損なわれる。
だけど、それはここで手を貸しても同じことだ。

状況が状況ならば、あの二人は戦わなくてもすんだかもしれないが………。

「――――うちはマダラの遺言、か………思っても見なかったな」

小南に対してもそうだけど、マダラがまさか死んでいたとは露とも思っていなかった。

「でも、マダラっておっさん………どの面下げてイタチにあの遺言を託したんだ?」

言いながら、多由也が顔をしかめる。

確かにそうだ。一族を滅ぼした元凶とも言える男が、一体どういうつもりなのだろうか。生きていたら聞いてみたいものだ。
託されたイタチも、初めてそれを見た時は、さぞ複雑な気持ちになったことだろう。


しかし、彼は動いている。
良き方向になるように、動き続けている。


“人の将に死なんとする、その言うや善し”

忍びを滅ぼす危険性を持つ相手、その正体を知らせる遺言。
こめられたメッセージは、“こいつを止めてくれ”。マダラも何か、この世界に対して手を打とうとしていた。
そのメッセージと彼の真意を、不本意ながらも受け取ったからには果たさなければならないと、イタチはそう思ったのかもしれない。


あるいは、“鳥の将に死なんとするその鳴くや哀し”

単純に悲痛な最後を見た故の同情か。


うちはマダラ、あの最後の叫びは哀れみを呼ぶだろう。例え因果応報の果ての自業自得だったとしても。

「しかし、因果か………」

考えてみれば、皮肉なものだと言えよう。


最初は、鬼の国での一件。あの時、巫女が命を落としたのその発端は、九尾の妖魔の死によるもの。
つまりは、俺が絡んでいたことなのだ。因果の元となる俺が、あそこに現れたのは偶然か、はたまた必然か。


千手柱間とうちはマダラについてもそうだ。
かつて後継者の座をめぐり争った兄弟が時を越えて殺し合い、その末に滅びの引き金を引くような事態になろうとは。


命を賭けて十尾を封印した、六道仙人。
その弟の志と血を受け継いだ里、その四代目が命を賭して九尾を封印し、結果滅びの引き金を引いてしまうことになった。

だけど、あの場では仕方なかったと言える。“うずまきナルト”の原型、今は居なくなった幼き少年の心は確かに砕けていたし、どうにかしなければ九尾の妖魔は復活していただろう。

それを止められるのは一人、うちはマダラだけ。
その果てには無限月読か、あるいは………いや、もしもの話は無駄だ。



兄弟で殺しあう悲劇も、奇妙なほどに繰り返されている。

六道仙人の息子である兄弟。

シンと、サイ。

サスケと、イタチ。

まるで見えない誰かが操っているかのようだ。

忍び世界において、弟の役割は兄を殺す運命にあるというのか。


「原初から連なる宿命、とでも言うのかな、力持つ瞳の一族の末裔、その最後の兄弟………」


因果は深く、業は血に刻まれている。


「だけど、それがどうした、だ――――負けるなよ、サスケ」





















隠れ家の裏。森が少し開け、広場となっている場所にイタチはいた。

眼を閉じながら懐に腕を入れ、じっとサスケを待っていた。その胸の奥に刻まれているのは決意。

抗おうと立ち向かう者たち………その一人、弟に最後の力を託すため、彼はそこで待っていた。

イタチがあの夜を越えてから、7年が経過した。

弟に生き延びて欲しいという願いをこめたイタチの演技。
意図的につなげた、憎しみで編まれた黒い絆は、だがサスケが真実を知ったことで、いまや払拭されていた。

サスケの胸には、かつてイタチとの間に結ばれていた“兄弟”という絆を取り戻したいという、想いがある。

イタチも、それのは気づいていた。できるならば応えたいという気持ちもある。

「だが、それは出来ない…………」


あるいは、状況が許せばその選択肢を選ぶことが出来たかもしれない。

だけど、今この時において、イタチはその選択肢を選ぶことができない。




イタチの頬を、風が撫でる。




林を揺らす大気の鳴動。




その音と共に、サスケが現れた。


「――――来たか、サスケ」


「――――来たぜ、兄さん」



広場に到着するなり、二人は互いに言葉を交わす。
そして一定の距離を取り、兄弟は対峙する。


片や、腰に刀を携えた弟。その瞳に籠められた意志は強く、かつての少年時代の輝きは損なわれていない。

片や、雲の衣を纏った兄。艱難辛苦の道を経て、今ここに最後の任を果たそうとしている。








「サスケ………俺の言いたいことは分かるな?」




イタチが眼を見開き、その瞳に刻まれた紋様を顕にする。





「ああ…………」





対するサスケも、眼を見開き、その瞳に刻まれた紋様を顕にする。



「あの夜の出来事………覚えているか?」


「ああ。幼かった俺には、現実味が無く………幻術の中に迷い込んでいるとしか、思えなかったけど………」


だが、それは紛れも無い現実だった。

朝、起こしにくる母もいない。居間で食事を取る厳格な父の姿も無く、通りには誰もいない。

一日が経ち、一週間が経ち………やがて、夢は覚めた。
あの優しかった兄がみんなを殺したのだと。裏切り、全てを奪っていったのだと、悟らざるをえなかった。

だが、あの日………真実を聞かされた少し後。

そして、今この時に、サスケは真実がどこにあるのか、理解した。

「………あれは、本当に仕組まれたものだったんだな」

「どうしてそう思う? 全ては嘘で、本当は俺が裏切ているのかもしれない。あの遺言も、全て仕組まれたものかもしれないと………そうは、思わないのか?」

無表情のままに出された問い。

それに対し、サスケは黙って首を横に振る。

「………何故だ?」

「この隠れ家に来る途中だ。あの、再会の時――――」

サスケは思い出す。7年会わなかった、兄………その姿を。

「あの時、眼を見た」


交わした視線は一瞬。


けれど、一瞬で十分だった。




「―――――優しい、兄さんの眼だった」


「―――――っ」

思わぬサスケの言葉を聞いてイタチ。

呼吸を忘れ、その動きを止める。


「今の俺の眼は、復讐に囚われていた昔とは違う。何も知らなかったあの日とも違う」

自分の眼に触れながら、サスケは思い返す。

色々なものを見たこと。

戦いの中、あるいは日常の中。木の葉で、雪の国で、隠れ家に訪れる四季と共に、修行の日々。

新しいことを知り、共に戦ってきた仲間と一緒に、生きてきたこと。




「俺の眼は真実を見抜けるようになった………兄さん、あんたの瞳には、憎しみはない」


―――ー悲しみしか宿っていないと

眼を閉じ、サスケは告げる。



「――――そうか」



イタチは頷き………そして、瞳から涙を流す。

血の涙ではなく、透明な涙。

だがそれも、一瞬。


緩まった表情は即座に引き締められ、零れ出た涙はぬぐい去られる。


あの日、あの夜と同じ光景。

月の下、涙を隠そうとする兄の姿を見たサスケが、「まさか………」と呟く。


「随分と成長したんだな………仕草からも分かる。余程良い師に巡り合えたようだ

 ――――ならば、安心して託せるな。最強の敵、それを倒す可能性を秘めた、この眼を………」



告げると、イタチは己の眼を指差す。




「通常の方法では、あの化物を倒せないだろう。天狐の力を借りられたとしても、倒しきれるとは言い難い………だからこそ、必要となる」


イタチの眼の紋様が変化する。



「…………!」



「これこそが、万華鏡写輪眼………開眼条件は、覚えているな? これで、真の万華鏡写輪眼を手に入れられる。木の葉の里も滅びずにすむかもしれない」




だからこそ、と。


笑いながら告げ、イタチは己の心臓を指差す。








「サスケ。お前の手で――――」





――――俺を、殺せ。



イタチは笑いながら、サスケにそう告げた。











[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 六十話  「譲れないもの、ひとつだけ」
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2010/10/25 02:16

イタチの言葉に対し、サスケはやはりかと思いながらも、眼を閉じる。

さっき呼び出された時から、こう言われるだろうということ、サスケは予測がついていた。

だから動揺することもない。用意しておいた答えを返すだけだ。


「――――断る」


イタチの言葉に対し、サスケは首を横にふる。


「サスケ………分かるだろう。今がどういう状況なのか」


「ああ、分かっている。だけど、絶対に嫌だ」


「――――嫌だ、というだけでですむ問題ではない。あの化物を倒さなければ、忍びの世界が滅びるんだ。それに………俺には居場所がない」


イタチは虚空を見上げながら、言葉を続ける。

その空では、鳥達が飛び続けていた。あの鳥のように、何の枷も無く飛べたら―――誰もが、望むことだ。

だけど、それはできない。


「一族を虐殺した裏切り者………木の葉の上層部も、今更うちはのことを………過去の失態について、公表はしないだろう。そうなれば、里が混乱するからな。
 ………木の葉崩しからようやく立ち直ることができた今、そして緊張状態となっている今、その事実を公表することはできない」


「っ、だからって…………!」


「俺を殺せばお前は万華鏡写輪眼を手に入れられる。そしてこの眼を移植すれば、あの十尾にも対抗できるだけの力を手に入れられるだろう………」


視線をサスケの方に戻し、イタチは万華鏡写輪眼についての説明を始める。


「この眼は特別………開眼した時から、特別な力を有する………使えば使うほど、封印されていくという不都合はあるがな」

「………大きな力にはリスクが伴なう」

「そういうことだ。使い続ければ、いずれこの眼は光を失う………だが、効果は絶大だ。あの九尾をも操ることが出来るのだからな。最初に万華鏡写輪眼を開眼した、あのうちはマダラのように」

「マダラ………」

「俺の相棒、師、理解者で………宿敵であり、怨敵でもある。言葉で表すのは難しいな」

「万華鏡写輪眼については、マダラから聞いたのか?」

「ああ………かつてマダラにも兄弟がいた」

イタチはマダラから聞かされた過去について、サスケに語る。

互いに競い合い、その瞳力を成長させていったこと。やがて二人は、万華鏡写輪眼を開眼させたこと。

それはうちは一族始まって以来、初となる快挙だった―――――筈だった。

「それが悲劇の始まりだったのだ。九尾をも手懐ける瞳力………それが、何を意味するか分かるか?」

「大きすぎる力は災いを呼ぶ………霧隠れでの血継限界に対する扱いや、人柱力と同じに………」

「そうだ。マダラは万華鏡写輪眼を使い、当時無数にいた忍び一族をその強大な力でねじ伏せ、束ねていった。弟の眼を奪い、永遠の万華鏡写輪眼を手に入れてからは、更に歯止めが効かなくなった
 相対する敵に対し、やりすぎることもあった」

「大きすぎる力は、自己を見失う………それほどまでに、万華鏡写輪眼は強大な力を持っているのか」

「ああ………そして、うちはは二大勢力と呼ばれるまでに膨れ上がることになる。だがその統制は、万華鏡写輪眼によるもの。力づくでのものだった。
 慈悲と寛容を以て一族を束ねる、もう一つの勢力………千手一族の長である、初代火影――――千手柱間とは違った」

やがて、その二大勢力は互いに殺し合い、ぶつかり合いながらも統合していくことになる。

「平和になったその後、うちはマダラに居場所は無かった。力を以て人々を統制しようというマダラの考えに、賛同するものはいなかった。争いの連鎖、憎しみの連鎖に、忍び達もつかれていたのだ。
 やがて、マダラは一族から追放された」

「そして、九尾を操り里に襲撃を仕掛けた………そのせいで、うちはは中央から遠ざけられたのか?」

「ああ。木の葉設立当初………黎明期では、うちはは里の中央に関われていた。しかし、マダラの木の葉襲撃の責を取らされ、その座から転がり落とされた。
 ………当たり前だ。忍び同士の争いを無くすために設立された木の葉隠れの里、そこを人々の恐怖の対象である九尾を使い攻めたのだからな」

「一体なんでそんな事を………」

「裏切りに対する報復もあっただろうが………人々から、あるいはうちはの一部からも信望を集めた信望初代火影に対する嫉妬………それが無かったとは言い難いだろう。
 どちらにせよ、あの二人は共存できない運命にあったのかもしれない」

なにせはるか昔から続く兄弟喧嘩だからな、と言いながらイタチは皮肉げに笑う。

「そして、16年前。あの事件もそうなのか………」

「あれも、マダラの妄執だ。四代目が命を賭して、里を守りきったがな。そして結果的には、自らの息子であるうずまきナルトの中に九尾を封じ込めざるをえなくなった。四代目自身は、うずまきナルトが当代最強の人柱力として生き、愛娘と共に里の誇りになって欲しかったようだが………」

イタチは言葉を切り、隠れ家の方を見る。

「当時は人の憎しみの深さを思い知ったつもりだった。業の深さについてもな。だが、どこでどう転がるのか、分からないものだ」

「ナルトは、暗部に殺されかけたと聞いたけど………」

「表向きはな。本当のところは少し違う」

「………何か、あいつらにも知らない何かが?」

「いや、気づきながらも口に出さないだけだろうが………当時、うずまきナルトに護衛がついていたのは知っているか?」

「暗部が護衛の任についていたと聞いた」

監視も兼ねた護衛だったろうけどな、とサスケが答える

「そうだろうな。そして、護衛は二手に分かれていた。うずまきナルトと、もう一人」

「波風キリハか。しかし、何のために護衛を………ってそうか」

「ああ。九尾襲来により受けた損害は、一朝一夕で直るものではなかった。
 混乱に乗じて、四代目の才能を受け継ぐ子どもたちをどうこうしようという輩が現れる可能性もあった。それを防ぐために、護衛は“二分”された」

「………ただでさえ人が少なくなったところに、更に数が………ダンゾウは、そこをついたのか?」

「ああ。5人全てを取り込むことは難しいが、一人二人ならばどうとでもなる。三代目直属の暗部を唆し、護衛の手を緩めさせ、根特有の拷問術で自己を維持する精神を削り取っていった。そうして、自我を壊して操り人形にしようとして………秘密裏に九尾の力を手に入れようとしたのだ」

「そんなことが可能なのか?」

「九尾を制御する方法は、千手一族の肉体、もしくはうちはの眼に刻まれている。暗部のテンゾウさん………今はヤマトと名乗っているようだが、彼の例もあるしな。
 大蛇丸との繋がりもある。九尾を制御する方法については、ダンゾウ自身何かを掴んでいるのだろう」

「六道仙人の系譜か………」

サスケの呟きを聞いたイタチが、頷く。

そして、

「――――だが、恐らくはそこから………全てが、狂い始めた。そして今、忍び世界は破滅の危機に瀕している」


イタチは万華鏡写輪眼を見開く。

「元来、うちは一族は万華鏡写輪眼のために大切な人………恋人や親友と殺し合い。永遠の瞳力を手に入れられるならばと、家族と殺し合ってきた。
 そうして、力を誇示し続けていた一族だ。その業は深く、驕りもまた抑えきれないほどに高まっていた」

「………だからこその、クーデターか」

「父さんは一族を守りたかった。そして、己の一族の未来を守りたかったのだ。
 例え無数の屍の上に築かれた立場でも、何もせずに滅びるよりは………そう思ったのだ」

しかし、イタチは幼い頃から戦争を経験したせいで、その心の奥にトラウマを刻まれている。

だから、一族の行動を、その先にある動乱を、戦争を、夥しい数の死を、許容できなかった。

里を愛し、戦争を憎んでいるイタチだからこそ。

一族の行動を止めなければ――――そう、思ったのだ。


「それに、うちはには驕りがあったが………力を求める理由の中に、警務部隊の任を果たすためと、そういう想いも確かにあった。
 屍の上に力を手にいれようとしたのも、里を守るためだった。それも、決して嘘ではないんだ」

「だから――――里を裏切って壊滅したという汚名を、着せたくなかった。先祖さえも侮辱されることを、防ぎたかったから………兄さんが全て背負いこんで」

「ああ。止めきれなかった責任もある。死んでいった先達に申し訳が立たない………それに何より――――」

空を見上げながら、頭上に見える青空を眺めながら、イタチは言った。



「俺は、どっちも好きだったんだ。どんな理由があっても、裏の背景があっても。
 
 うちは一族のみんなも、穏やかな木の葉隠れの里も――――好きだった。失いたくなかった」



「兄さん…………っ」


「裏切り者の汚名をかぶるのは、俺一人。故に、あとは俺が死ねば、全てが事足りる――――だから、もう一度だけ言う」


サスケを見つめながら、イタチは言う。


「俺を殺し、裏切り者を倒したという誉を手にいれろ。そして万華鏡写輪眼を手にいれて十尾を倒し――――木の葉隠れの里を守る、英雄になってくれ」


それで全てうまくいくはずだ。

そう言うイタチの言葉に、だがサスケは首を縦には振らない。


「―――っ、嫌だ! それに、兄さんは既に万華鏡写輪眼を開眼している! ならば、俺達と一緒に六道仙人も倒せるという道を選べるはずだろう!?」


「それも無理なんだ、サスケ。俺は病に犯されている。ペインのおかげで休息もできたので今すぐは死なないが………あの化物と戦うだけの力は持っていない。
 身体がもたないだろう。それに比べ、鍛え、見事に育ったお前ならば、いかなる敵でも倒せるはずだ」

「それでも、他に手が………」


「神代より続く化物だ。他に手は無いし、探している時間もない。断るというならば………仕方ないか」

すっと、イタチはサスケの眼に視線を合わせる。

「…………っ、身体が!?」

「動けないだろう。万華鏡を持たない今のお前に、抗う術はない」

「くっ………!」

瞳術による金縛り。

サスケはそれを解除をしようとするが、身体はびくとも動いてくれなかった。


「強引で悪いが――――うちはの血塗られた運命を利用してでも。忍びの世界を、守ってくれ。それでこそ、うちはの死に意味ができる」

告げながら、イタチはサスケの腰の刀………雷文を抜き放ち、サスケの手に持たせる。

そして刀を持つサスケの手の上に、己の手をそえて――――首元。

雷文の刃を、自らの頚動脈に当てる。



「これでいいんだ、サスケ。あいつらと一緒に十尾を倒し、英雄になればいい。そしてうちはを再興し、二度と同じ過ちを繰り返すな。古来より続く血塗られた運命を――――断ち切ってくれ」





イタチは笑いながら、告げた。



「死にはしない。俺は、お前の万華鏡の中に生き続けるさ。それこそが、兄弟の絆となる――――」



いつかの、サスケに向けたものと同じ笑顔。




そして、空いている方の手、その人差し指と中指を、サスケの額に当てた。
















「許せ、サスケ………これで、最後だ」













そして、首元に当てられた刃を引いた――――――


































「ん………」

「どうした、ナルト?」

「いや、鳥が………」

隠れ家の外で飛んでいる鳥達が、騒がしい。

「うん、チャクラが………大きくなった?」

「そうなのか………大丈夫かの」

「…………」

先程手は貸せないといってはみたが、実は心配でたまらないナルト。



それに対し、多由也は笑顔で告げる。



「大丈夫さ――――だってあいつは、うちはサスケだぜ? 世界に運命に抗おうとする、生粋の―――――大馬鹿野郎だ」








































「巫山戯んな…………」





刃が頚動脈を切り裂き、血しぶきを上げようかという――――その直前。


引かれそうになった刃は、しかし動かない。





「巫山戯るな!!」




サスケが俯きながら叫ぶ。身体の制御を取り戻したのだ。


そして、イタチの首元に添えられた刀を、その命を断とうとしている刀の柄を、力の限り握り締める。




「っ、金縛りを………!?」


解いたのか。有り得ない事態に、イタチは動揺を隠せない。

その隙をつき、サスケは刀をイタチの首元から離し、鞘へ収める。


そのまま後ろへと跳躍し、イタチを距離を取る。


そのサスケの両の目の写輪眼は、勢い良く回転していた。チャクラも全身から吹き出ている。

今の心の内の激情………その怒りを、表すかのように。

サスケはその感情を隠さず、あますことなく声に乗せた。


「俺がっ…………俺が! あの隠れ家で鍛えてきたのは、修行を続けてきたのは………兄さん、あんたを殺すためじゃない!」


右手を横に振り払い、サスケは怒りのままに叫び声を上げる。



サスケの眼には、涙が溢れていた。


イタチが告げた一言により、昔の記憶を、失ったあの日々を思い出したからだ。


『こら、サスケ………先に宿題をしなさい!』

優しかった母を。


『さすが、俺の子だ』

厳しかったが、自分の誇りだった父を。




『なかなかやるな、サスケ………でも、残念』

『コラ! 無茶をしたら………』

兄を。

足を怪我して、背負われながら帰った、家路までの道を。

『許せ、サスケ………また、今度だ』

一緒に修行をせがんだ時の事を。




『お前と俺は唯一無二の兄弟だ。お前の越えるべき壁として、俺はお前と共にあり続けるさ………例え憎まれようともな』


それが兄貴ってもんだと………そういった、兄を思い出した。






「今も忘れない、あの日、あの夜に失った大切なものを………そして、新しくできた大切なものを! 守るために、これ以上失わせないために………」




どうしてこうなったのだろう。あの運命の日までに出会った、大切な人達は全て、両の手から零れ出てしまった。

二度とあえなくなってしまった。


―――だけど。残っている人もいる。想い出もまた、この胸の中にある。


「兄さん………俺は、あんたを失わない。そのために生きてきたんだ!」


サスケの叫び。それに対し、イタチは心を動かす。

だが、イタチも退かない。


「………他に手は無いだろう! あいつらは、犠牲もなく勝てるような相手じゃない! 俺の最後の責務だ………既にお前は俺を超えている。

 最後は万華鏡を手にいれれば、きっと勝てる!」


「そんなもの、無くたって勝てるさ! そのためだけに、鍛えてきたんだ………絶対に勝てる! それを、証明する!」


そう告げると、サスケはイタチの目の前に立った。


「月読だ………幻術世界の勝負ならば、互いに死ぬことは無い。そこで戦い、俺が兄さんに勝ったら………約束をしてくれ」


「一体、何を約束するというんだ………?」


「死なないでくれ………ただ、それだけだ!」


「………俺が勝てばどうする?」


「兄さんの遺志を継ぎ、万華鏡写輪眼を受け継いで、十尾を討つ………そうはならないけどな」


「………これ以上言っても無駄か」


「ああ。納得できないまま、あの化物とは戦えない。ここで負けるようならば、俺は俺の無力を納得して、万華鏡写輪眼を受け継ぎ………あいつらと一緒に戦う」


「――――良いだろう」



頷くと、イタチはサスケの眼を見て…………幻術世界に誘う。




――――月読。


万華鏡写輪眼を持つものだけが使える、至上の幻術。

己の精神世界へと相手を引き込む、最強の術だ。




「ここは、うちはの…………」



幻術で構成された世界。

そこは、かつて里の外れにあった、うちはの一族の居住地だった。


「この場所に誓おう。先程の約束を守ることをな」


「分かった。俺も誓おう」


「ああ………忍術も、問題なく使えるはずだ。それでいいだろう?」

「了解した」


じり、と二人は距離を離し、対峙する。








「分かった。では―――――」





受諾。

宣言と共にイタチは一歩を踏み出し―――







「――――始めるぞ」





次の瞬間には、サスケの背後に廻っていた。

そのまま、振り向きざまにサスケへとクナイを振り下ろす。

だがサスケはそれを防ぐ。上忍でも上位に入るだろうイタチの動きを、サスケはその両眼で捉えていた。

振り下ろされるクナイ、それを持っているイタチの手を掴んで止める。


「くっ………」


純粋な筋力のみで止めてみせたサスケに対し、イタチは力比べでは適わないと悟った。

握られた手を振りほどき、その反動を生かして回し蹴りを放つ。

サスケは上段、右側頭部に向けて放たれた蹴りをしゃがみこむことで避ける。

「―――木の葉旋風」

追撃の二段蹴り。

イタチは上段の回し蹴りの回転力をそのまま殺さず、更に勢いをつけて下段の足払いを放つ。

だがサスケもそれは読んでいた。

真上に跳躍することで下段の足払いを避ける。そして落下の勢いそのままに――――


「―――しっ!」

腰から抜き放った雷文を振り下ろす。

唐竹、脳天に振り下ろされる刃に。対するイタチは下段蹴りの勢いに身を任せ、更に身体を回転させる。

そのまま、横方向へと逃れるのだが――――サスケの攻撃はそれで終りではなかった。

外れた刃は地面を切り裂き、そのまま――――雷光を発する。

「千鳥流し!」

地面を雷が疾駆し――――横に逃れたはずのイタチを襲う。

「くっ………!」

瞬間にねられたチャクラ故、威力は小さいが、その雷はイタチの右足を捉えることに成功する。

イタチは右足に走る激痛を感じながらも、距離を開けることを選択する。



「………驚いたな」

つかまれた右腕をさすり、イタチが呟く。どういう修行をしたか知らないが、筋力だけならばサスケは自分の上を行く。

それが分かったからだ。


「どういう修行をしたんだ?」


「基礎をな。徹底的に叩き込まれた」

印を組む速さ、筋力、チャクラによる肉体強化。

体術を放つに相応しい間合い、刀を抜き放つ機会、瞬時に最適の戦術を選択できる思考能力。

多由也の笛に助けられながら、数えるにもバカらしいほどの組み手を繰り返した。故にサスケの肉体は今、戦うに最適な筋肉がついている。

「写輪眼を持つ俺だからこそ―――――基礎を極めれば、無敵になれる。そう教えられた」


「成程、最もだ――――ならば」


こちらはどうだ、とイタチはホルスターからクナイを抜き、投擲。

「こっちもな!」

イタチの神速の抜き打ちに対し、サスケは狼狽えることなく、反応して見極める。


同じくクナイを投擲してぶつけ、たたき落とした。


「…………」

その一連の動き、そして先程の体術。それを見たイタチは、複雑な表情を浮かべた。


「今の動きは………」

「自分だけの体術を修得する時に………手本が必要だったんでな」

だから自分が知る限り最も強い、また最も身体になじむ、兄さんの体術を参考にした。

そう言いながら、サスケは笑う。

「復讐に囚われていたあの頃ならば、その選択は選ばなかったけどな………」

「成程…………では、どこまで高められたか………」


見てやる。そう言いながら、イタチは手裏剣を、クナイを、千本を連続で投擲する。


「上等!」

対するサスケも同じく、忍具口寄せを駆使しながら、襲い来る凶器を全て撃ち落として行く。



「「はああああああああっ!」」


両者の叫び声と共に、鉄がぶつかりあう音が響く。

投げられては落とされ、ぶつかっては地面に落ちるクナイ達。

「―――――そこだ」

その僅かな隙。投擲の間、イタチが印を組むことで生まれた隙を、サスケがつく。

「ふっ!」

雷文にチャクラをこめながら、抜き放つ。

飛来するクナイ、その全てが吹き飛ばされ、イタチも襲い来る風に対し、踏ん張ることで耐える。


生まれた、一瞬の間。


サスケは振り抜いた雷文を右斜め前に突き出すように構え――――告げる。




「瞬迅・千鳥」


千鳥による肉体活性。高められた身体能力、その速度を活かして――――




「速い、な」



ただ一筋に、刺し貫く。


次の瞬間、イタチは距離を詰め突き出された突きを躱しきれず、その胸部を貫かれていた。


「カラス分身か………」

そして、貫かれたイタチの分身が、元のカラスへと戻っていく。

サスケはイタチが印を組み術を発動する途中、風により妨害したつもりだったが、一足遅く術の方は発動していたようだ。


「それも潰されたがな………」

呟きながら、イタチは次の戦術はどうしようか、と悩んでいた。

体術は互角か、自分の方がやや下。純粋な速度ならば、サスケには及ばないからだ。



「ならば………!」



距離を保ったまま、イタチは印を組む。

一秒にも満たず印は完成する。

最後となる結の印、寅の印を眼前に突き出し、勢い良く空気を吸い込み――――放つ。

対するサスケも同じ。

寅の印の後、うちは一族が最も得意とする火遁忍術――――そして、思い出の術でもある、あの術を放つ。




「「火遁・豪火球の術!」」

まったく同時。

互いの口から、人身大の火球が放たれた。

炎は衝突し、中央でせめぎあう。だが拮抗したのは一瞬で、勢いの勝つサスケの火球がイタチの放つ火球を押しきった。


――――だが。


「カラス――――」

押し切ったはずの向こう側で、先程と同じカラスが羽ばたく。


「しまっ…………!?」


あれも分身だったのだという事実に、サスケは驚く。

「…………!」


その側面から、イタチが仕掛ける。完全に不意を打たれた形となったサスケは、咄嗟に動けず、そこで終りと思われたが――――


「―――甘い!」

サスケは思考を止めていなかった。

“想定外はあれど、硬直するな”。自らが望む戦況にはならないと、繰り返し教えられたサスケは、今更その程度の不意打ちでやられるような弱卒ではない。

組み手中も不意打ちばかり仕掛けてくるナルトとの組み手が、役に立った瞬間だった。


流れるような動作腰元の雷文を再び抜き放ち――――


「―――せっ!」


イタチの身体を袈裟懸けに斬り裂く。



――――しかし、イタチはその上をいった。

反撃を受け、切り裂かれたイタチが――――三度、カラスと成って散る。


「これは…………」


「惜しかったな」


「…………」


賞賛の言葉を送るイタチに対し、サスケは訝しげな視線を送る。


「気づいたか………そう。ここは俺の世界。故に、俺が死ぬことは有り得ない」


「成程、先程までの分身も、全て本物だったということか………」


「その通りだ。先程の約束だが………俺程度を倒してどうにかなるほど、あの十尾と六道仙人は甘くない」

「………つまりは、この幻術世界ごと、破れと?」

「ああ。だが、お前に出来るか? 写輪眼の力………この幻術世界を構成する力があるので、その能力の全ては拘束されていないようだが………」

 自由に動けるだけで、この幻術世界は破れない。すでに術中にあるお前に、勝ち目はない」



イタチはそう告げた。




だが―――――





「それはどうかな?」



サスケは不適に笑う。

万華鏡写輪眼の世界ではあるが、自分は自らもつ写輪眼の力により、その全ては拘束されていないということ。

そして、ここは幻術世界だということだが――――




「ならば逆に、出来ることもある!」


叫び――――サスケは、写輪眼の力を全開にして、手をかざす。


「これは………!?」

イタチはサスケの手の先――――空を見上げ、驚く。



いつのまにか、空に雷雲が浮かび上がているのだ。




「写輪眼による世界――――つまりは、俺も干渉が可能だということだ―――――」






言葉と共に。


指揮者のように上げられた、サスケの右腕が振り下ろされる。




「雷を従えた………この術は」


「―――“麒麟”。そして、今は未完成だが―――――この先を見せよう。ここが幻術世界ならば、躊躇う理由もない………!」


失敗すれば、死にかねない禁術。

だがここが幻術世界ならば、そのリスクも皆無だ。




「己の持つ最大のイメージでもって、この幻術世界を…………ブチ破る!」






限界までチャクラを練り上げ、サスケは高く、空へと跳躍。



そして、雷文を抜き放ち――――空に向ける。





「下れ、麒麟!」





その刀身に、猛る雷の化身が宿る。


千分の一秒の世界でチャクラをコントロールする。



―――――本来ならば不可能だ。

これは多由也の笛の効力を活かした上でも、制御しきれるかどうか分からない禁術。

この3年で編み上げた、一つの切り札。



――――だが、ここは幻術世界。


ものをいうのはチャクラコントロールではなく、この眼、写輪眼に籠められた思い。

そして――――



(ゆるがぬ意志と――――貫くべき意地を以て!)

絶対に負けるな。あの言葉を胸に、譲れないもの全てをその両手に詰め込んで。




「雷鳴と共に集え、鳴け、叫べ、吠えろ…………!」


サスケは己の手の内で暴れる膨大な力を制御する。



「これは―――――――!?」




馬鹿げた規模のチャクラがこめられている。

非常識に過ぎるその術に、イタチは驚きを隠せない。



見上げながら――――しかし、その雷光に眼を奪われた。



雷文の刀身の内。

極限まで圧縮された雷光は、さらに増幅を繰り返し――――やがて、振り下ろされる。






「雷遁・秘術」




古事記曰く、十束剣の剣の根元についた血が岩に飛び散って生まれた三神――――火・雷・刀を司る神の内の、その一柱。




「武甕槌!」



アメノトリフネと共に、荒ぶる神々を制圧した、剣の神。


タケミカヅチの名を持つ禁術。




それは正真正銘、サスケの持つ全力全開。


写輪眼による力、鍛えに鍛えた己が持つ、最強のイメージ。





それは幻術世界のイタチの身体を貫き。






幻術世界をも貫いて。









因果を破り―――――



































「俺の勝ちだ、兄さん」



「ああ…………負けたよ。本当に成長したな」


そして二人は現世に帰還する。

互いに無傷。だがどちらも精神力を使い果たしたようで、疲労困憊となっている。


「あれなら、勝てるだろう? それに、俺達は一人じゃない。共に戦う、仲間もいる」

「ああ、そうだな………」

あんな馬鹿げた術をもってすれば、勝てるかもしれない。


(忍びの世界を救うため、俺は死ななければならないと思っていたのだが………)


イタチの思いは先程の一撃にこめられた思いにより、吹き飛ばされていた。

いっそ見事なまでに純粋な一念。雷の煌きと共に見えた、感じたサスケの想いと願いを、イタチは理解してしまった。

誰よりも弟を想うイタチだからこそ、それを汚すことはもうできなくなっていた。

(すまない、父さん、母さん………もう少し、生きてみるよ。生き恥をさらしても、サスケが進むべき道を………一緒に歩いていく先を、見たくなった)


イタチは心の中で別れを告げて、眼を閉じる。
そしてそのまま、ふらりと地面へ倒れこんだ。

月読の負荷が足にきたのだ。

サスケも同じく、写輪眼の力を使いきってしまったのか、力尽きるように地面へと倒れこんだ。

土煙が舞った後。

兄弟ふたりは、横に並び寝転びながら、一緒に空を見上げていた。

「青いな……」

「………そうだな。明日も晴れるだろう」

疲労困憊な二人は、寝転びながら他愛もない会話を交わした。

それは兄弟がまだ、憎しみの絆で繋がっていなかった頃を思い出させる。


『明日は晴れだから、大丈夫だよね兄さん!』

『ああ………仕方ないな。任務もないし、手裏剣術がどれだけうまくなったか………見せてくれるんよな?』

『ああ、見ててよ!』





「………」

「………」

無言のまま。二人は、寝転がりながらも、横を向いた。

生きていることを思い出した兄。
あの日よりずっと、本当に願っていたことを叶えた弟。

二人の、視線が交差した。

「あの頃と同じに………一緒に生きようぜ、兄さん。その荷物、俺にも背負わせてくれ」

「……木の葉隠れはどうする? 戻らなければお前も追われる身となるが………」

「……どうにかする!」

サスケは笑いながら答える。その選択を誇るかのように。

そう――――サスケは、宿業の全てを背負いながらも、笑うべき道を選んだのだった。

そう願い、突き進まんとするサスケの言葉と意志を受けたイタチは、サスケに感化され、心のままに笑った。





「――――ああ。生きて、みるか」










それを、決着の言葉として。





――――ここに、血塗られた運命は断たれた。









[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 六十一話 「木の葉の忍び達」
Name: 岳◆5bf56ac5 ID:6d0af7c1
Date: 2010/04/02 21:58

「ふう、これで全部か………」

火影の執務室。綱手は机いっぱいに積み上げられた報告書を一通り見おわると、固まった身体を解そうと背伸びをした。
大きめな胸が更に強調される姿勢。自来也あたりが居たら、鼻の下を伸ばしていただろうが、あいにくと今は此処にはいなかった。

数日前に情報を集めてくると、木の葉隠れの里の外へ出て行ったきりだ。

「無事だといいが………」

少し暗い声。
綱手は自来也が木の葉を出立する直前に、二人きりで交わした会話を思い出していた。




「………自来也。どうしても行くのというのか」

「ワシだけ何もせんという訳にはいかぬからの。何、キリハやお前に止められているから、雨隠れに潜入するような迂闊な行動はせん。少し、思い出の場所に立ち寄ってみるだけだ」

「だが、あそこは木の葉隠れの里よりは、雨隠れの里に近い。ペインとやらに遭遇する可能性も高いはずだ。ナルトの言を信じるならば、たとえお前でもその者と戦えば危うい」

「………お主らしくないのう。忍びの任務に死の危険は付き物だろうに。何をそんなに心配している」

「嫌な予感がするだけだ………ふん、他意はない」

「相変わらず素直でないのう。任務に赴く戦友に向けて、“死ぬな”の一言ぐらい言えんのか」

「いくら叩いても殺しても死なん奴が何を言っている。私の本気の拳を受けて死ななかった奴はお前だけだぞ」

「いや、あれ本気で死にかけたのだが………」

「覗きには死を。乙女の鉄則だ」

「………乙女という歳か、ぬおっ!?」

間一髪。自来也は突き出された拳をしゃがんで避ける。

「………前にも言ったと思うが、覚えているか?」

いい笑顔の綱手に対し、自来也は震えながら答えを返す。

「乙女に対してに年齢を聞く奴には死を、だったか。やれやれ、乙女という生き物は物騒じゃのう」

「今まで知らなかったのか? どうりで振られに振られるはずだ」

「一番よく知っておるよ。なにせお主と一番長くいたのはワシなのだから」

綱手は言ってくれるな……と凄んだあと、溜息をはいて首を振った。

「行くのか?」

「………木の葉隠れの未曾有の危機とあって、一人里の中に閉じこもっているようじゃあの。あの世で待っているジジイに顔向けが出来ん」

何、上手くやるから心配はするな、という自来也に対し、綱手は胸元で腕を組みながら、また自来也に溜息を向ける。

「お前の“心配するな”、はキリハの“無茶をしないから大丈夫”と同じくらい当てにならんからな………って、何処を見ている」

「いやいや………弟子にしてやった講義を思い出していただけだ」

「ああ、あの大変態卑猥ソングか? 風影の兄とカカシ、ナルトも巻き込んで宿の中で盛大に歌っていたそうじゃないか………宿の主から苦情がきていたぞ」

鼻に詰め物をしながら苦情を言いにきた宿の主の姿を思い出し、綱手はためいきをつく。

「―――――夢は止まらぬ。浪漫もまた、止まらぬさ」

腕を組みながら虚空を見上げ、自来也は格好いいことを言い放つ。

“油”と書かれた額の被り物に日光が当たり、輝いていた。

「ちなみに横で聞いていたキリハは激怒していたぞ」

サクラは何故か私の胸を見た後、しょんぼりしていたが、と言う綱手。

「さっきの白い目はそれのせいか!?」

「知らん………」

「くっ、ここに来てワシの威厳が………!」

「そんなものは始めから無いから心配するな」

笑い、優しげな目を向ける綱手。苦悩する自来也。

やがて、ふたりはどちらともなく、笑いあう。

「………まったく。本当にお前は、あのエロガキだった昔と変わらんな」

「お前は随分と変わったがのう………あのまな板綱手が、猿飛先生の後を継いでのう。今や五代目の巨乳火影だぁ」

時の流れを痛感するの、と言う自来也に対し、綱手は苦笑を返す。

「そうだな………同期のお前を見ていると、余計に実感するな」

「――――死に別れた者達の想い上に生き続け………お互い、あの頃の猿飛先生よりも年は上となったか」

ダンや、縄樹。
猿飛先生や、他に居た同期の面々。戦場の外で出会い、戦場の中で別れを繰り返した。
もう残っているのはほんの僅かだ。彼らの名前は今、かの墓碑に刻まれている。

二人とも、死に別れた戦友達の顔は今でも覚えている。
彼らもまた、木の葉を守る英雄だったのだ。忘れるはずがあろうものか。

―――木の葉のために。
大切な守るべき玉………子供達の未来のために、死んでいった英雄達を。

「それでも過ちを重ね、それでも生きてきたのは何のためか………」

「………自来也?」

「―――綱手、話は変わるがナルトのことをどう思う?」

「………こちらを信頼してはいないな。キリハ他一部の者以外では、その在り方も接し方も、抜け忍か網の傭兵そのままだ」

「ワシも同じことを思った。大体が、多くのことを知りすぎている。それで尚悪用しないのは不思議だと思っていたが………なぜだろうな。悪いことになると思えん」

「………猿飛先生のことがあるからだろう。死ぬ間際の餞の言葉、あの時お前は聞いていたんだろう」

「まあの………」

「ふん、それになんだかんだいってお前が一番、ジジイのことを尊敬していた」

「そうだのう………まあ、あやつはワシら木の葉の忍びとは、根本から在り方が違うようじゃが」

「組織に帰属していないが故の奔放だ。属すれば人も組織人だが………あいつは違う。だから良くも悪くも、枠にとらわれない」

そのままの自分で、人と接する。肩書で人を見ないし、誰かの評判も気にしないのだと綱手は言う。

「そういえば天狐………九那実といったか。あやつもそう言っておった。自らにのみ帰属し、自らで決めた戦いであれば例え木の葉が相手でも戦うだろうと」

「ふむ、生い立ち故………私らのように隠れ里のためではなくて、自らのために死ぬというのか」

「キリハを助けたのもそうだろう。あの屋台で一番の常連客だったらしいからの」

「つまり、木の葉崩しの時は、木の葉を助けたわけではなく?」

「ついでに過ぎんだろう。あるいは我愛羅に何か思うところがあったのかもしれん。それを別とすれば、立ちふさがる者を除けば音や砂の忍びとも戦っておらんしのう」

「………それもまた生き方だろうが、羨ましいとか思うのか?」

「いくらか気持ちは分かるだろうが、羨ましいとは思わんよ。今のワシがあるのは、猿飛先生やお前………相談役のあのジジイ達もか。出会った先にここにおる。
 わずらわしく思う時もあるが、ナルトのことを聞いた時には一部の愚行に嘆きもしたが………木の葉の里の忍びであることを、心底捨てたいと思ったことはない」

霧のように血に染まらず。勇壮勇士が集い、かつ人としての在り方を忘れない、木の葉の里。
火の影の元、集う温かい灯り達。

心を残しているが故に、戦場で傷つき壊れる者達も数多くいるが、それでも自来也は木の葉隠れの里を愛していた。

英雄たちと同じように。

「………らしくないな。お前らしくない」

先のような問いを受けた場合、いつもならば言葉で誤魔化すだけなのだ。そんな自来也が、素直に言葉を返していることに綱手は驚きを隠せない。
こんな表情を浮かべているのにも、納得ができない。

「………分からないな。自来也、いったい、どういう心境の変化があったんだ?」

不安気に綱手が訪ねる。自来也は真剣な顔のまま、綱手の両肩に手をおいた。

「―――綱手。嫌な予感がするのは、実はワシも同じなのだ。何かが迫ってくるのを感じる」

「“殺す”という言葉のことか」

「そうだ。だからこそ今、ワシは木の葉隠れの里を守るために、情報を集めねばならん。行かねばならんのだ。じっとしているのも、性に合わんしの」

「それは分かっているが………恐らく敵はペインだ。ひとたび出会えば死ぬぞ。雨隠れに深く潜っていた半蔵をも屠る輪廻眼とやら……到底、一人で勝てる相手ではないだろう」

「なに、大丈夫だ。いざとなったら逃げるだけだ…………そうさな、そうだ。ならばお前はワシが死ぬ方に賭けろ!」

「………はあ?」

「いや、何、お前の賭けは外れるからのう。ワシは生きて戻る方に賭ける」

「………分かった。その通りにしようか」

そう言った後、自来也は口だけの笑みをみせる。

「うむ………そうだの。ワシが賭けに勝ち、生きて帰った時は………」

じっと綱手の顔を正面からみつめる自来也。

綱手は困惑の表情を浮かべていた。頬を少し、赤く染めながら。

「自来也…………?」

「…………ん、冗談だ冗談。何、心配せんでもワシは死にゃあせん!」

笑いながら、自来也は歩き出す。


去りゆく自来也の背中を見た綱手は、何か嫌な予兆のようなものを感じた。


「っ自来也!」


綱手の声。


だが自来也は手を振るだけで、振り返りらずに綱手の声に答えた。




「――――木の葉隠れを。キリハを、ナルトを…………頼むぞ!」








思い出したあと綱手はあの日から何日経過したのかを数える。

「………あれからもう一週間、か」

最後まで格好をつけたまま出て行った自来也。
出て行った後、期日を過ぎても何の連絡もなかった。

距離でいうのならば、もう戻ってきてもおかしく無い頃だ。場所が場所だけに慎重に行動しているので、遅れているのだろうか。
あるいは何か重要な手がかりを得たせいで、こちらにはまだ戻れないのか。

そこまで考えた綱手は自らの頬を張る。
どちらにせよ今私に出来ることは、既存の情報を分析することだけだと考えたのだ。
奮起し、山のような書類をあさる作業を再開する。

そうして一通り見た書類。

その中から、気になることが書かれているものを取り上げた。

「ふむ、こいつはあの時私を襲ってきた者の一人か。なになに、2年前の木の葉崩しの際、遭遇。戦闘した結果……………死亡?」

気になる部分の内容を読み上げると、またひとつ別の報告書を手にとった。

「―――襲撃の後詰め部隊、死の森の外れで遭遇した。だがこいつは2年前の任務の際にも遭遇した…………その時は任務のこともあり死体は確認できなかったが、確実に致命傷を与えたと思われる………」

その後もいくつか報告書を読み上げる綱手。全て確認した後には、綱手の顔色は青くなっていた。

「死亡したと思われる忍びが大半………死体の損傷具合を見るに、他の忍びもここ2、3年以内にどこかの忍びに殺害されたと思われる、だと?」

一体どういうことだと、綱手の眉間に皺が寄る。

「まさか死魂の術か………いや、それならば忍術を使えないはずだ。死魂の術とは違うはず………」

ならば一体、と綱手は腕を組みながら考える。

使われた術は極めて高度なもので、その概要は“死体を操り、かつ忍術を体術を使えるまでチャクラを補充した上で、自在に操る”という馬鹿げた効力を持つもの。
だが綱手でさえ、そんな術が存在するなど聞いたことがない。

実在するならば、確実に禁術以上に位置する忍術。
あるいは、極伝レベルに達するほどだろう。

「もしかしたら大蛇丸の新しい忍術か………いや、この術は常軌を逸している。人間の範疇ではない。かといって口寄せの妖魔が使うものでもないな。
 可能性があるとするならば………やはりペイン、あるいは輪廻眼か」

実に厄介な術だと、綱手は更に眉間の皺を深くする。

「だが明確な対処方法が無いのも事実。あるいは、術者のチャクラが尽きるのを期待するしかないが………」

これだけの術だ。膨大な量のチャクラが必要になるだろうから、用意にかかる時間も相当なはず。いくらなんでも、連続して使えるわけがない。



そう、思った時だった。

火影の執務室がノックされた。静かな部屋の中に、こん、こんという音が鳴った後、付き人のシズネが部屋の中に入ってきた。


「お客様です―――その、ナルト君が至急会いたいと」

「ナルトが………?」

うずまきナルトについての報告を思い出す。確か、山中の花屋に訪れたあと、ふらふらと隠れ家に戻っていったらしいが。

ここ数日程は音沙汰がなかったナルトが、至急会いたいということは、どういうことか。確かめるためにも会わなければならないと判断した綱手は、すぐに会うことを決めた。





「良いニュースととびっきりなニュースがある。どちらから聞きたい?」

「とびっきり………? 良いのか悪いのかどっちだ」

「どちらとも」

「………良いニュースの方から頼む」

「ならばひとつ。うちはサスケがうちはイタチと和解した」

「………本当か!?」

「サスケの力づくの説得でね」

そこから、ナルトはかくかくしかじか、一連の出来事について説明をする。

「そうか………暁はどうすると?」

「抜けると言っていた。ただ病に犯されているため、全力の戦闘は不可能らしい」

「そうか………では、とびっきりな方とは?」

「良い方は………うちはマダラが死んでいたということ――――」

そしてもう一つ、とナルトは指を立てる。



「――――ペインの正体について」











全てを聞いた後、綱手は沈痛な面持ちで火影の机をじっと見つめていた。

「………それは本当に本当なのか?」

「確かめる術は本人に会うことしかないが、間違いなく真実だと思う。あんな規格外が複数人存在すると思う方が不自然だ」

「―――六道仙人と十尾。そして“忍び滅ぶべし”、か………」

ぽつり呟き、綱手は少し黙り込む。
木の葉隠れの火影かつ、千手の直系である綱手だ。聞かされた綱手にとっては、かなり複雑な心境だろうと悟ったナルトは、しばらくの沈黙の間に付き合った。

そして分が経過した頃。ナルトは綱手に質問をした。

相談とは、紫苑の傷を治療する方法についてだ。

「難しいな。経絡系の治療だけは、流石の私でも如何ともし難い。詳細は追求しないが………聞くに、その娘の傷は、体内門解放の後に負う傷に近い。
 その分野においては、昔から幾度か研究が重ねられてきたが………方法については未だ確率されていない」

「でも、資料はあると?」

「一応は禁術書の倉庫の中に巻物があるが………まさか見せて欲しいとでも言う気か?」

「どうしても。いざというならば力づくでも取っていく」

「………分かった。持っていけ。この状況で騒ぎを大きくされてはたまらんし………どの道悪用もできんシロモノだ。それに、お前が年端もいかない女を傷つけるという光景も想像できない」

疲れたような綱手の声。ナルトはそうでもないんだけどな、とだけ返し、その後ありがとうと言った。

「言いさ。研究が役立つようならば何よりだしな。写しもあるし、極めて貴重な情報の対価としてそれは持っていっていい。今回の任務で得た情報の有用度、SSランクといえる」

「ありがとう。それで、ペインについてはどういう対応を?」

「まずは全ての影を集める。五影会談だ。この状況、時間がかかるかもしれんが、それしか道はない」

「今度仕掛けられたら戦争になると?」

「相手が六道仙人というならば、何でもありだと考えた方がいい。そいつと相対するには、まず忍び全ての力を結集する必要がある」

「………実際に何でもありだと思う。五行の術は全てSランクまで使えそうだし、仙人特有の術もあるだろうから」

「つまりは一刻を争う事態という訳だ……忍界始まって以来の、未曾有の危機だとするならば、まずは私たちが動かなければならない」

「破滅を受け入れる気は無いと………って今更の当たり前か」

「――――いくらか。耳が痛い部分もあるが………死ねと言われて素直に死ぬ程ではないな。それに何より、里には未来の宝………未だ幼き子どもたちがいる。あの子たちが大人にならず死ぬなど、認められん」

縄樹と同じにな、と綱手は顔を顰めながら言う。

「間に合うかどうかは分からないけど。あと、キリハなんだけど」

どうやら里には居ないようで、とナルトが聞く。


「ああ、キリハならば………」


























「ぶえっくしょん!」

とある道の途中。歩いていたキリハが、突然くしゃみをした。

「うわちょっ、キリハぁ!?」

キリハのくしゃみによる鼻汁噴射攻撃。それを後頭部に受けたサクラが、叫び声をあげる。

「あー、ザグラぢゃんごめん~」

「あーほら、これで拭けキリハ」

シカマルが懐からハンカチを取り出し、キリハに手渡した。

「うう、ありがとうシカマル君。花粉のせいかなあ」

ハンカチで鼻汁をふき取り、キリハはう~と唸る。

サクラの方は、いのがハンカチで拭き取ったようだ。

「もしかしたら噂されているのかもね。キリハちゃん、人気者だし」

「いや、ヒナタちゃんの方が人気者じゃない。この前もぐもがっ」

何かを言おうとしたキリハの口が、背後にいたキバの手によって塞がれる。

(この馬鹿! あいつらのことはヒナタに言うなってこの前!)

(あ、ごめん。忘れてた)

てへ、とキリハが笑うと、一同は溜息をついた。妙なところで抜けているのだ、この四代目火影の息女は。

才媛(笑)と言われる所以である。

(しかしキリハ、その事は迂闊に外に漏らさない方がいい。何故ならば、ヒナタの父がどういう行動に出るか分からないからだ)

あの事件、人気くのいち隠し撮り事件について、チョウジ、シノ、キバ、キリハはヒナタに聞こえないよう、ひそひそと話しだす。

(しかし“隠れて花を愛でる会”かあ………友達として許せないよね、キバ君)

(………ああ、まったくだ。っかしヒナタ相手に隠し撮りを敢行するたあ、無謀にもほどがあるぜ)

(隠行も見事だったから気づくまでに時間がかかってしまったがな。しかしあの言葉だけはよく分からない)

(“貴方のその胸がいけないのいだよ!”ってか。しかし面と向かって言うとは、いい度胸してたなあいつ)

無茶しやがって、とキバが虚空を見上げる。

(………180度反対だけどね。まさに“度胸”)

一人言いながらぷっ、と笑うキリハ。そこにキバのツッコミが。

(誰がうまいこといえと………ていうか、実は全然うまく言えてないぞキリハ)

驚愕に目を見開いた後しょぼんとするキリハ。

それを無視し、他一同はあの事件が発覚してからのことを思い出す。

(しかしキリハを隠し撮りしたのか運の尽きだったな。何でもその脚線美がすごくイイとのことらしいが………)

(気持ちは分か…‥げふんげふん。いやしかし、あの時のシカマルは怖かったぜ)

赤丸も恐怖で総毛立ってた、とその時の光景を思い出したキバは、ごくりとつばを生飲みする。

(うん。あの下手人、影縛りどころか、どす黒い影に呑まれそうだったもんね。シカクさんに後で聞いたけど、『あんな術、俺は知らねえぞ』って言われた)

(ヒナタの方はまさかって感じだったよなあ。ヒアシさんにばれてたら絶対に死んでたぜ、あいつら)

(うむ。俺達は悲劇をひとつふせげたという訳だ。何故ならば殺人事件を――――)

(ストップだ、シノ。それ以上言われると想像しちまうから)

ちなみにその事件、シカマルが気づいてから、事件の解決までは早かった。

犬塚のキバの鼻に、油女のシノの虫があるのだ。ヒナタの白眼がなかろうとも、察知・追跡を行うにあたり問題にはならない。

(ネジとリーに言わないのは正解だったな。あの二人、なんだかんだ言ったって似たもの同士の直情傾向だし)

(いや、ネジさんをリーさんと同列の情熱馬鹿として扱うのにはちょっとどうかと思うよ)

(うっせーよチョウジ。想像してみろ、ネジに事の詳細を話した場合を)

(………あれ、地面に太極の紋が見えるよ?)

(そういうことだ。しかしいのの奴、今日は妙に元気が無いな)

(………うん。何かあったみたいなんだけど、言ってくれないんだ)

そこまでひそひそと話していた時、先頭にいるシカマルから声がかかる。



「そろそろ到着するぞ。全員装備を再確認だ、めんどくせーけど!」



呼ばれ、前に行くキリハ。

そして残された面々で再開するひそひそ話。今度はヒナタも加わっていた。

(なあ、なんでシカマルの奴今日はあんなに張り切ってんだ? つーか、あんなポジティブな“めんどくせーけど”ってないだろ。すでに用法がちげーよ)

(確かにおかしい。何故ならばシカマルは昨日まで胃が痛いと唸っていたからだ。出立する直前に何かがあったと考えるのが正しいだろう)

(そうだね。キリハちゃんがフウちゃん連れて帰ってから、裏でこそこそ、あちこち奔走していたんだっけ)

(親父ズ総動員して上忍衆と上層部を恫喝してたぞ。フウを人柱力として扱うつもりはない、と宣言したらしい)

(表でキリハが宣言した後に、裏でシカマルがその意志の底を見せて詰めたのか。それなら、たぶんだけど大丈夫だよな。戦争になると流石にわからねーけど、平時ならば暗部にしても手は出せないはず)

(初代火影様のお達しもあるからね。“人柱力を戦争に使うべからず”と)

(九尾の方も設立当初は巻物に封じ込めるだけで、人柱力として運用していなかって聞いたね)

(だから木の葉には人柱力はいないのかったのか………っと話が逸れたな。つーか今までの話を聞く限り、シカマルの胃痛が収まる要因、どこにも無いんだけど)

(ああ、実はね。そのフウって娘、キリハが任務で留守になるからって、シカマルの家に預けてきたんだけど………)

(………そうなのか? ヒナタの家は?)

(大きすぎる家だととフウも尻込みするだろう、ってキリハが。それでね………)

(なになに? “私が一番信頼しているシカマル君の家だから、絶対に大丈夫だよ!”ってキリハがフウに言ったのか。しかもシカマルの前で)

(うん。シカクさんに対しては“顔は怖いけどすごく優しくて良い人だよ!私のもうひとりの父親みたいな人だから大丈夫”って説明したらしい。
 言われた本人、喜んでいいやら旅立っていいやらー、とか言いながら遠くを見ていたけど)

(………親父が奈良家に滞在するらしいが、理由はそれか)

(護衛はばっちりだな。ヨシノさんも居るけど………でも、キリハが出てきて大丈夫なのかな)

(こんな状況だからこそよ。これは正式な任務の上だぜ?“フウが居ますので残ります”何て言えば、やはり足かせになるとか、重箱の隅をつつく奴が現れないとも限らない。任務を果たして信を見せる必要がある)

(難しいね………でもフウちゃに手を出したら私、許さないよ?)

(ヒナタヒナタ目が怖い目が怖い)

(………でも正直なところあの二人ってどうなんだ? 幼馴染のチョウジ君よ)

(――――九尾の件でキリハが奔走してから、それをシカマルが手伝って………距離は縮まったように見えるよ。でもキリハだしね)

(キリハちゃんだしね……)

(キリハだからなあ)

(うむ、納得した)



その時、前方ではキリハがサクラの後頭部に向け、二度目となるくしゃみ弾をぶつけていた。






「それでシカマル君、今回の目的地だけど………」

しゃーんなろ! と内なるサクラ爆発の巻。
怒りの拳骨を受けたキリハは、どつかれた頭をさすりながらシカマルに今回の目的地についての説明を促す。
ちなみにキリハの頭の上には、漫画のようなたんこぶが出来ていた。

「ああ、目的地は、組織“網”の本部がある町の近郊だ!」

テンション最高潮となっているシカマルを、チョウジ、キバ、シノの男衆3人が生暖かい目で見やる。

――――こんなシカマル、正直うざいけど何故か涙が出てきちゃう。
だって男の子だもの。

「………なんでよりによって今、そんなところに行くんだ?」

「………これは暗部からの確定情報なんだけどね。」

キリハが表情を真剣な者に変え、皆に情報を話す。

網の作業員の中に、六尾の人柱力がいたらしいとのこと。
今は情勢が情勢なので霧の追い忍も動いてはいないが、いずれ国境を越えてくる可能性があること。
そうなれば戦争は必死。だから六尾と接触し、事情を話し霧に戻ってもらうよう頼み込むこと。

「………ていうか、何で土方?」

わけが分からないと、キバが情報を持っているキリハとシカマルに訪ねる。だが二人にも、その経緯については知らされておらず、ただ下された命令を復唱する。

「事情は分からないが、すべきことは分かっている。できれば戦闘は避けろと言われているんだろう?」

「ご明察。俺だって人柱力とは戦いたくないけどな………状況がそれを許さないのであれば、仕方ないと思っている」

「あんたの影縛りと私の心転身の術があれば傷つけずに捕獲できるでしょ。その後の事は霧しだいだけど………」

「五代目水影に代がかわってからは、いくらか前よりもきな臭い情報は入ってこなくなった」

「いずれにせよ、俺達にできることは限られている。まずはそれを果たそう」

「ああ。それで、網の方はどうするんだ?」

「一応は迎えを用意してくれるって。その後長のザンゲツって人に直接会って話ができればいいんだけど………それは難しいと思う」

「………それはまたどうして?」

「7、8年前か。木の葉の暗部と、網の裏の構成員がやりあった事件があったらしくてな。それでも三代目、先代火影とザンゲツとのいくらかの交渉の末、何とか友好に近い関係は保っていたんだが………」

「今は互いに代替わりしたからね。綱手様と二代目ザンゲツって人の間に、直接の面識は無いらしい」

「復興作業に使う物資の調達の際、接触する機会はあったが、互いに代理人を通じてのことだ……代替わりしてまだ間もないから、相手も“五代目火影”が信用できる人物なのか、見極めきれていなく不安なんだろう。
 リスクがある以上、直接会うような危険は犯せないという考えは分かる」

「網の裏としてもね。暗部とやりあった経験もあることから」

「確かに、一筋縄ではいかない相手だと思うけど………でも、裏といっても所詮は元抜け忍でしょ? その裏の忍びって人、木の葉の暗部を相手によく勝てたわね」

「しかも、だな。渡された死体は偽装されていたため、相手がどんな奴だったのかは分からないらしいが………綱手様曰く、死体の損傷を見るに、下手人は一人だとよ」

「………暗部を、たった一人で、5人も? ――――まじかよ。それ、7年前の話だろ? 今そいつ、どんだけ強くなってるんだって」

「だからこそのこの人数、フォーマンセルの二小隊だ。医療忍者もちょうど二人いるしな………どっちも今日はテンション低いけど」

お前がテンションたけーんだよ、とキバは思ったが口には出さないでいた。

確かにサクラといの、二人とも通常ならば有り得ないほどにテンションが低くなっていたからだ。

二人が落ち込んでいるというか、考え込んでいる理由はそれぞれ別のものに対してだった。

サクラは、サスケのことが心配だから。
あと、先日聞いたあのことが原因だった。

(Bカップって微妙なんだ………微妙なんだ………)

そりゃあヒナタほどとは言わないけど………と、サクラは自分の胸に手をあてて溜息をはく。


一方、いのの方はまた別。紫苑の花を見せた時にナルトが見せた顔が、目に焼き付いて離れないのだ。

一瞬だけ浮かべた、幽鬼の表情と――――その後の、素の表情。

その眼の奥からは、強い意志を感じられた。まるで忘れていた何かを思い出したかのような。

(………そういえば)

助けられたあの日もそうだった、といのは記憶の底を拾い、思い出す。

うずまきナルト―――いやあの人は、私たちを助けた時、何かに対して怒っていた。

人を手にかけたことに悲しみながらも、絶対に許さないと怒っていたのだ。

(怒りながらも泣いて、でも怒っていた。相反するのは何が―――「いのちゃん?」

その時。

考え事をするいのに対し、話しかけても返事がないからと、キリハは――――

「えい」

いのの大きめな胸を、両手で思いっきり掴んだ。

「ふひゃうっ!? ってちょ、キリハあんた何すんのよ!?」

変な声だしちゃったでしょーがと怒りながら、いのはキリハの頭に拳骨を落とす。

「すごく痛い!? っだってだって呼びかけても返事してくれなかったんだもん!」

「他にもっとやり方があるでしょうが………って」



集まっている一同から、離れた場所。

誰もいないはずの林の中から、一瞬だけ物音が聞こえた。


そこからは瞬間。

確認が配置につき、不審人物に対しての警戒の体勢へと移行する。


「―――ヒナタ」

「うん、白眼!」

シカマルの指示に頷き、ヒナタは白眼を使う。

「―――そこに二人、いるのは分かっているよ!」

隠れている人物を見つけ、その方向へと声をかける。これで出てこないのであれば、捉える。

出てくるならば、話しあう。



一瞬の静寂。


その後、林の闇から隠れていた人物が二人、姿を見せる。







「―――見つかってしまったからには仕方ない」

現れた一人目は、鮮やかな金髪。年はキリハ達り二つ程上だろうか。何故か鼻から血を流していたが、活発な印象を受ける好青年といったところか。

「………仕方なくないよ兄さん。このことはあとでザンゲツ様に報告するからね」

溜息をはきながら、もう一人。黒髪の青年が眉間を抑える。こちらはキリハ達と同じ年のようだ。







「―――何者だ?」

警戒を解かないまま、シカマルは二人に向けてたずねた。

「連絡は行っているんだろう? 僕たちは網の構成員だよ」

絶望に染まる兄を放っておきながら、弟である黒髪の青年の方が返事をする。


「木の葉隠れの上忍、奈良シカマルと―――波風キリハ。その他、木の葉の中忍のみなさんでよろしいですね?」

「ああ。そっちは?」

シカマルの言葉に対し、これは失礼と返しながら、黒髪の青年は自己紹介をした。



「僕の名前はサイ。こっちの兄はシン」


ザンゲツ様の命で、木の葉隠れの方々を迎えに来ましたと。

視線に真剣なものを乗せ、黒髪の青年・サイはそう言った。





[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 六十二話 「地摺ザンゲツ」
Name: 岳◆5bf56ac5 ID:6d0af7c1
Date: 2010/04/04 18:49

「首尾はどうだ?」

「上々だ。トビからひとつ、予想外のことが起こったとの報告があったが………」

「内容は?」

「いや、今はいい。それ以外は順調だからな………そちらは?」

「七尾は木の葉の中に逃げ込まれた。あそこから七尾だけを奪うのは難しいな。流石に、木の葉全体を相手に立ち回るのは厳しい」

「………あれを使ってもか?」

「………リスクが大きすぎる。いくら俺でも、あれだけの力を使いこなすにはいくらかの時間が必要となる」

「だとしてもあまり時間はないぞ。今は磐石だとしても、五影が集うと厄介なことになる。撹乱は続けているが、ふた月ともつまい」

「いくら小蝿でも、群れられると鬱陶しいからな。その分殺戮のしがいがあるんだが」

「少し黙っていろ飛段。ということは、早々に事を進める必要があるわけか………ならば先に、六尾の人柱力を捕獲しよう」

「そちらも発見したのか?」

「ああ。だが迂闊に手を出せない状況でな。いくらか兵を借りたいのだが、可能か」

「へっ、俺達二人だけで十分だっつーの。ったく年寄りはどうしてこうも慎重になるのかね」

「黙っていろと言ったはずだぞ、飛段」

「へっ、オレにはオレのやり方があるんだよ。人形使うのはかまわねーが、俺の取り分を減らすんじゃねえぞ角都よ」

「確約はできないな。それで、どうなんだ?」

「………いいだろう。何体か回す。俺が向かえれば一番いいんだが、この傷ではそれも厳しいからな」

「ふん、流石は音に聞こえた三忍だということか………それで、自来也は殺せたのか?」

「…………」

「………答える気はないか。まあいい、俺は俺の目的が果たせればそれでいいからな。邪魔者も減ったことだし、任務遂行は容易くなった」

「へっ、イタチと鬼鮫の野郎はまだ残ってるがな。それでどうするんだ、長門さんよ?」

「その名で俺を呼ぶな………イタチの方は、今は捨ておけ。あと一手、揃えればあいつらに抗う術はなくなるからな。あと、余計な被害は出すなよ」


「分かっている。いくぞ、飛段」


「ちっ、命令すんじゃねーって言ってるだろ………角都よ」














一方、キリハ達。

ザンゲツの命で迎えに来たという、シンとサイに連れられ、木の葉の忍び一同は網の本部のある町へと案内されていた。

「わー、結構大きいね……」

本部のあるそこは火の国の首都までとはいかないがそれなりに大きな町だった。

町の中は、人々の活気に溢れ、まるで普通の町とかわらないようだ。

「………でも住人、どことなく荒くれ者というか、ヤクザ風味の顔をしている人が多いようだけど」

ぽつりサクラが呟き、サイがそれに答えた。

「それも愛嬌ってやつで。でも彼らの愛想笑いは見ない方がいいですよ………無法者多いから、滅多にはしないですけど」

「それはそれで強烈そうだしね………それで、あんた達兄弟は雰囲気が? 少し、彼らとは違うようだけど」

「ああ、僕たちは少し違うので。それ以上は言えないですけど」

答えると、サイは顔だけで笑う。

「へー、でもサイ君は綺麗な顔をしてるね」

「………ありがとう、と言えばいいのかな」

キリハの天然発言を受けたサイは、少し頬を赤らめる。

そして視線の端にいる、自分を睨む男の方を指差しながら、言う。

「ところで何で僕を睨んでいるのかな、そこの彼は」

「………あれ、シカマル君どうしたの」

キリハが首を傾げて問うと、シカマルはいつもの仏頂面で答えた。

「何でもねえよ。ねえったらねえよ。聞くな馬鹿。あと思ったことすぐ口にする癖を直せ馬鹿」

「………なっ、馬鹿って言う方が馬鹿なんだよ!?」

またいつもの通りぎゃーぎゃーと言い合う幼馴染二人の姿。木の葉の同期一同は、何百回目かも分からないそれを、温かい顔で見守っていた。

その一連の流れを見ていたサイが、呆れたような声で言う。

「君たちは随分と仲が良いんだね…………って兄さん、何で僕を睨むの!?」

気づけば隣、兄がこちらを睨んでいるのだ。サイは驚きながら、その理由を尋ねた。

だが返ってくるのは『ニクシミデヒトガコロセタラ』という怨嗟の声ばかり。

「黒いよ!?」

「………シンです。彼女いない歴=年齢の兄です。シンです、相変わらずカワイイ子は全て弟に持っていかれるとです。シンです、今なら螺旋を滅ぼせそうです」

どこからか電波を受信した兄は、錯乱坊となっていた。いわゆる一つのチェリーである。

「………サクラっ!」



「あの、いきなり呼び捨てにしないで欲しいんだけど」



ピンクの邪神ターン。しゃーんなろーのスタンドを召喚。



「………す、すみません」








やがて一行は、兄弟に案内されて本部の中へとたどり着いた。
キリハ達8人は兄弟から説明を受け、本部の奥にある接客用の部屋で、網の長を務めているザンゲツと会うことになった。

とはいっても部屋は狭く、また大人数での面会は無理だとのことで、3人に絞ってほしいとのことだ。

そこでキリハは同じく上忍であるシカマルと、いのを連れていくことにした。

3人は案内された場所、接客室に入る。そこで予想外の光景を見て、少し驚くこととなった。
部屋の中はそこらの裏組織とは段違いに整っていたのだ。

調度品もそれなりのものを使っているようだったし、掃除も十分になされている。
網は無駄な贅沢を嫌うと効いたが、ここは少し違うようだった。

予想外と思いつつも、シカマルはこの部屋が整えられている理由を考えた。

ここは組織の長が来客と話し合い、交渉をする場所だ。
汚いままでは“網はこんなものか”、と相手に舐められるし、余計なストレスを生んでしまう。
落ち着き、安らぎのある空間でこそ、いい交渉ができると言うものだ。

だがそれだけではなく、護衛の忍びが潜めそうな場所も多くあった。もしもの時の事を考えているのだろう。

3人は部屋を見て想像できる網の内状を考察し、評価を再修正する。
分かってはいたが、そんじょそこらの裏組織とは規模と格が違うようだと。

あとはザンゲツの人柄のことだけが分からない。
少し聞いておきたいと思った山中いのは、隣にいるサイにザンゲツのことを訪ねる。

「地摺ザンゲツ様って、どういう人なのかしら………先代は男の人だって聞いたけど?」

「ええ、その通り。ですが二代目は女性です。というか、彼の娘なんですけどね」

「………ということは、網は世襲制なの?」

「いえ、養子ですから、先代と今代の間に、血は繋がっていません。先代が彼女の素質を見出して………っと、これ以上はまずいですね」

「こちらもぶしつけにすみません」

「いえいえ、そういえば情報は秘匿されていましたし。それに、そんな事を言ったらこっちの兄なんかどうなることか」

「………いや、ちょっとサイくん?」

「全く、いくらモテないからって女性の艶声を聞いただけで鼻血を出すとか………男以前に人としてどうかしていると思うよ?」

「わ、我が弟ながら辛辣すぎるっ」

いい笑顔で毒舌を吐く弟に恐れをなす兄。

「いやでも中々いい胸してたし、声も色っぽかっ………げふんげふん。あー嘘。いまの嘘だから。だから引かないでね皆さん?」

一歩退く面々に向け、シンがうろたえながら言う。

キリハといのはシンのあまりの狼狽えっぷりが可笑しくなったのか、少し噴出する。

「………いや、いいけど。それよりもあんたたちとか、町の中とか……想像していたのと違うわねえ」

「ああ、網の事? いや、何処もこんなもんだと思うよ。町の中で視線ぎらつかせている奴なんていないって…………まあ、あいつの影響が無いとも言い切れないけど」

「へ、あいつ?」

「とある本物の馬鹿がいてね………いやいや、何でもないよ。それよりもザンゲツ様、来たようだ」

直後、部屋の扉が開く。

そして入ってきた女性の姿を見た木の葉の3人は、少し驚いた。

――――まず目についたのが、燃えるようなような赤い髪。

そして左目に付けられた黒い眼帯である。同姓のキリハ、いのから見てもその顔立ちは整っているが、陽だまりのような愛嬌のあるそれではなく、刃のような鋭利な美貌。

身体の起伏もはっきりとしており、センスのいい藍の着物がまた魅力に拍車をかけていた。

だが、切れ長の吊目。黒の瞳の奥にある輝きは強く、それを見たシカマルは火遁による激しい炎を連想させられた。

年の頃は20代後半。だが、身に纏う威圧感は熟年の忍びに勝るとも劣らない。
ただ綺麗なだけの人ではなく、若いというわけでもない。見た目だけで、そう思い知らされる程だった。

「すまない、少し遅れた………私が組織“網”の二代目頭領、地摺ザンゲツだ」

「木の葉隠れの里から参りました、上忍、波風キリハです」

「同じく上忍、奈良シカマルです」

「中忍、山中いのです」

「………波風、ということは………そうか、お前がかの英雄、四代目火影の娘か」

ザンゲツは名乗った面々のうち、キリハの顔だけを見ながら、面白そうに言った。

「え、ええそうですけど………えっと、あの?」

何でそんなにじろじろ見るんですか、と首を傾げるキリハ。

それに対し、ザンゲツは何でもないと手を横に振った。

「それで、六尾の人柱力がウチの土方軍団の中にいるとのことだが………」

「はい。そしてその方々は、現在火の国の南部にある街道に居るとの情報を掴みましたので」

「状況が状況だからな。霧の追い忍が火の国の国境内に入ってくれば、不味い事態になる、か」

「その通りです。ですが彼は今、土方の方々と一緒にいるようです。こちらとしても現在の状況で網との関係を悪化させたくなく………」

「事情は分かった。だが今、ウチは忙しいんだがなあ。お前たち大国の忍びが、あちこち破壊してくれたおかげで。その傷跡が一朝一夕で修復できないものだと、おまえたちは理解しているだろう」

木の葉崩しを忘れたわけではあるまい、とザンゲツが言う。

「………耳に痛い限りです。が、それだけで退くわけにもいきません。戦争になればまた被害が増えます。それだけは避けたい」

「それは勿論分かっている。だが網の基本理念として、来るものは拒まないというものがある。それに木の葉から依頼されただけで、はいそうですかと承諾する訳にもいかん」

「ですが、それでは………!」

キリハが立ち上がり、何事かを言おうとするが、シカマルがそれを止めた。

「戦争を止めたいというのは私も同じだ。こちらとしてもお得意様である木の葉との関係を悪化させたくない」

「ならば、どうするおつもりですか」

「私が提案するのは、もう少し待ってくれないかということ。そのひとつだけだ」

「………それはまたどうして?」

「今施工している工事、終わるのが五日後だからだ。それが終われば、六尾の人柱力………ウタカタは目的を遂げ、網を去るだろう」

「目的、ですか?」

「ああ。何でも全うに働いて賃金を得た上で、とあるラーメン屋の代金を返しに行きたいとのことだ。部下からの報告で確認はしている」

ラーメン屋のところでザンゲツとシン、サイは鼻頭を指で抑えた。見ればシカマルも同じような心境らしく、眉間に皺を寄せている。

「………えっと、あの、今何かまずいところでも?」

「いや、トラブルメイカーというのは存在するのだなということを再確認しただけだ」

「はあ………」

「それにしても五日、ですか。ぎりぎりの時間ですね………今賃金を与える訳には?」

「作業を終えてこその仕事だ。他は知らんが、うちは少なくとも途中で抜けるような奴に、賃金を与えるようなことはしていない。人数もぎりぎりだし、他に迷惑がかかるからな。
 何、終わり次第私から説得をするさ。聞くところによると、そんなに凶暴な奴でも無いみたいだしな」

「………分かりました。ですが、あちらの方にはどう対処さえるおつもりですか」

「それが、お前たちを呼んだ理由だ。襲い来る可能性がある暁、そいつらの相手はお前たちにしてもらいたい」

「なっ」

「不可能か? ならば言ってくれていい。こちらにもそれなりの力を持つものがいる。無理ならば無理と言ってくれていいぞ」

「なっ、できます! やります! 引き受けました!」

「早いわ阿呆! ちったあ考えてから発言しろ!」

シカマルの拳骨がキリハに炸裂する。

「痛い!?」

「え~すみませんが、その返事には少しお時間を頂きたく……」

「何、無論タダでとは言わない。こちらの主張をある程度受けいれもらう形になるのだからな。謝礼は出すし………以前に木の葉に“貸した”ものひとつ。それを、今回の件でチャラにしてもいい」

「………貸し? というと、8年前の」

「その通りだ。先代と三代目火影殿の間で交わされたものだが………五代目火影殿にそう言えば分かるはずだ。それに、謝礼も用意するし………こちらからも戦力を貸与する」

そう言うと、ザンゲツはシンとサイに視線を向ける。

「シン、サイ。お前たちは木の葉の忍びと共に護衛の任務につけ………今回ならば、できるな?」

ザンゲツはキリハを横目で見ながら、シンとサイに問いかけた。

「了解しました」

「引き受けたぜ姉御ごはっ!?」

弟の肘打ちを受けて悶絶する兄。それを呆れた目で見ながら、ザンゲツはキリハ達に向き直った。

「それで、返答は?」
















「お、あいつら戻ってきたぞ」

「あれ、でもシカマルだけ戻ってきてないね」

厠かな、とチョウジが首を傾げる。

「みんなおまたせ~」

「おう、それでどうだった?」

「うん………」

頷くと、キリハは皆に先の話し合いの結果を説明する。

「“暁”か………それで、引き受けたんだろ?」

「うん。尾獣を奪わせるわけにはいかないし、今の状況じゃ木の葉からの援軍も期待できない。だから五日間限定だけど、護衛につくことになった」

「他に手はないのか?」

「その当たりは今、シカマルがザンゲツさんと話しているけど。何でも裏の事情ってやつがあるらしいから、私とキリハは少し席を外して欲しいって………」

「何だそりゃ。あっちがそう言ってきたのか」

「ううん、シカマル君が最初に言ったんだ。“キリハといの”は席を外してほしいって」

「何でまた………」

「あいつ、私たちに色々と隠し事をしているらしいからねえ。キリハの兄さんのことだって、そうだったし」

「九尾か………そのうずまきナルトって人は今どうしてるんだ?」

「うん、師匠に聞いたんだけど、ナルトは今暁の情報を集めてるって言ってた」

と、サクラが答える。

「呼び捨てかよ」

「ナルトさん、とかねえ。なぜだかしっくりとこないのよ。本人にも確認取ってるし、別にいいじゃない」

「同い年だし、別にいいんじゃない?」

「そんなものか………それで、そのキリハの兄貴ってどんな奴なんだ? 確か木の葉崩しの時に顕在化した一尾を倒したとか」

「私とシカマル君、いのちゃんもね。雲隠れの忍びに攫われそうになったところを助けてもらったんだ」

「そうだったな………でもそいつ、その時俺らと同い年だろ? そんなガキの頃に、雲の忍び相手してよく勝てたよな」

「………里の外へ出て行った、いや出ていかざるをえなかった経緯を考えれば不思議ではないだろう。何故ならば一人で生きるには何者にも屈しない力が必要だからだ」

「………それもそうかもなあ。俺達みたいに、仲間がいるってこともねえだろうから………っと、すまんキリハ」

「いいよ。兄さんもそれほどは気にしていないようだったし。“それよりも明日だ! 明日はきっといい日だ!”って叫んでた」

「………それはそれで変な奴に聞こえるんだが、ってキリハの兄じゃねえか納得」

「うん、キリハの兄だしねえ」

「キリハの兄だからな」

「キリハのお兄ちゃんだからね」

「何かみんな酷くない!?」

「え、いつも通りだよ?」

「ヒナタちゃんも酷い!?」

「それよりこれからどうすんだ。シカマルが戻ってくるまでここで待つのか」

「ううん、近くに美味しい店があるからそこで待っててくれって」





かくして一行はたどり着く。

伝説級のボロ屋に。

「………キリハ。本当にここなの?」

「うん、間違いないはずだけど。ほら、裏から湯気も出てるし」

答えるとキリハはすみませ~んと言いながら、入り口の扉を開く。

「いらっしゃい………って随分と大所帯だね」

額当てを見るに木の葉の忍びのようだけど、と聞くおばちゃん。

それに対し、キリハが説明をする。

「ああ、ザンゲツのお嬢ちゃんの紹介かい。なら、そこに座って待ってておくれ」

「分かりました」

言われた一同は大人しく席についた。


そして20分後。


「待たせたね」

「って、ザンゲツさん!?」

「ん、何を驚いてんだい」

「いや、それは……」

こんなボロ屋に来るとは思わなかったので、と言いそうになったキリハ。

だが傍らにいたシカマルの姿を見て、言葉を止めた。

「どうしたのシカマル君!?」

見れば、シカマルの顔は青白くなっていた。さっきまでは元気だったのに、この変わりようは一体何事か。

そう思ったキリハはシカマルに理由を聞いてみるが、「胃が………胃が………」と言い、首を横にふるで答えてはくれなかった。

「おばちゃん、ラーメン頼みます。お前たちもそれでいいか?」

ザンゲツの言葉に、皆が頷いた。というかメニューがないので何があるのか分からないのだ。
進めてくるものならば間違いはないと、頷いた。


「ここのラーメンすげえ旨いんだぜ」

ザンゲツの隣にいるシンが、誇るように言う。

「そうなの?」

「そうだ。何しろイワオ………げふんげふん。噂のラーメン屋も通ったって店だからな」

「噂の………というと、さっきの話に出てた?」

いのが訪ねると、サイは溜息をつきながら答えた。

「どうやらそうらしい。全く、相変わらずというべきなのか………」

「え、サイ君とシン君、その人と知り合いなの?」

「サイでいいよ。うん、長いことそいつとは会っていなかったけどね」

「そうなんだ………」



「辛気臭い顔しなさんな。ほら、出来たよ」








「すげえ旨かったな」

食べ終わった後、キバが満足げに頷く。

「………木の葉の一楽に匹敵するかもしれないね」

「うん………あれ、キリハは?」

「ああ、店の中です。あのおばちゃんとザンゲツ様が、キリハさんに話があるようで」

「そうなんだ………って、まだうなってるのシカマル」

「すまんがいの、胃薬もってないか」

「………しっかりしなさいよ。一体何があったの?」

聞くが、シカマルは答えない。

ただ一言、この世には知らない方が良いってことは山ほどあるんだよな、とだけ返すだけ。












一方、店の中。

キリハはザンゲツと店主のおばちゃん、シンを

「………そうですか、兄が」

「ああ。旅に出るまでは、ここに泊まってくれたんだよ」

「シン君とサイ君も、兄さんに会ったことあるの?」

「ううん、どう言えばいいのか………ってちょ、キリハさん!?」

キリハは返答に悩むシンの襟元を両手で掴んで、前後に激しく揺さぶる。

「何処!? 今何処にいるの!? いのちゃんが言うにはもう戻ってこないかもって!?」

「ちょ、待っ、ぐえっ」

答える間もなくシェイクされたシン。首をガックンガックンさせながら脳を前後に揺さぶれられる。

「ふむ、そういうところは兄に似ているな」

横からかけらた声に、キリハはそちらの方を向く。

見れば、ザンゲツは笑っていた。

先程とはまた印象が違う、ザンゲツの目はは組織の長としてのそれではなく、一人の友人を思い出すかのようなものに変わっている。

「え、ザンゲツさんも兄さんを知っているんですか?」

思わず尋ねると、ザンゲツは笑みを深くした。

「知っているもなにも、付き合った時間だけなら、他にいる誰よりも長い自信があるぞ………例外を除いて」

「そういえばそうだねえ。網に入ってから一ヶ月後だったっけ………今から言えば11年も前になるのか。紅音ちゃんとあの子が出会ったのは」

「………アカネちゃん?」

誰のことだろう、とキリハが首を傾げながら聞く。

「ああ、私の名前だ。ザンゲツは頭領としての名でな。本名は紅音という」

「そうだったんですか………それで、兄さんとはどういう関係で?」

「悪友であり戦友であり………一時期は護衛でもあったな。あいつがどう思ってるかは知らないが、私はそう思っている………ああ、心配しなくてもあいつと私の間に恋愛感情はないぞ」

だからその眼をやめてほしいんだが、とザンゲツは顔をひきつらせながら、ジト目を向けてくるキリハに言った。

「………そうなんですか。兄さんが網に所属していたとは知っていましたが、頭領と付き合いがあるとは思ってもみませんでした」

「まあ、あいつの立場ならば普通、目立たないように努めるからな。頭領に接触するなどもっての他なんだろうが………運命という馬鹿は、悪戯をすることが無類の好事らしくてな」

そう言いながら、ザンゲツ、いや紅音は苦笑する。

「今の網を構成する者達と同じく、私も戦災孤児でね。初めに会ったのはこの店で、夜の酒盛りをしている時だった」

思い出し笑いをしながら、ザンゲツはナルト………イワオとの思い出を語った。

酒盛りをしたあとの夜道。当時13歳だったザンゲツは、同じく網の一員であった酔っ払いに襲れかけたのだ。

だがそこを通りかかったナルトが“ロリコンは病気です!”と言いながらその酔っぱらいを撃退したらしい。

だがその後、ロリコンとはどういう意味かと問いかける紅音に、イワオが素直に答えたことで乱闘に発展。

「13歳なんだからロリじゃない!」という紅音の主張に対し、ナルト、当時のイワオは「ロリは皆そう言うのだよ!」と反論。

激戦の末、「少女期って響きはいいよね」という説得に対し、紅音は同意。

ここに和睦はなされたのだという。

「――――今思い返せば、私も酔っていたのだろうな………」

「それでも突っ込みどころ満載です。っていうか、その頃から酒を飲んでいたんですか………」

「当時は忘れたいことが多かったのでね――――今は、逆に忘れたくないことが多くなったんで、酒はそうそう飲めないのだが」

「………?」

「忘れてくれていい。まあ、そこからは私と今の旦那………同じ孤児院の仲間連中と、それとなく付き合ったりしていた。だけど、あいつはいつも一人でいようとしていたな」

「え、組織の一員なのでは………?」

「心は組織の中に無かった。あいつはいつも夢ばかりを追っていたからな。属せず、信頼せず………先代ザンゲツとはまた違った繋がりをもっていたようだが」

「でもそれは許されないのでは」

「普通ならばな。だが忠はなくても、信はあった。渡世の仁義ってやつも持っている。それに、先代と私個人としては返し切れない借りがある」

「それは………?」

「7、8年前の事件に関連することでな。それ以上は、木の葉に帰ってからあのシカマルという奴に聞くと良い………いずれ火影に成りたいと言うのであれば、隠れた裏の事情を知る必要があるだろうからな」

組織の長になりたいというからには、忘れたくても忘れられない、忘れてはいけないものも知ることが必要だ。

ザンゲツは真剣な眼をしながら、キリハにそう告げた。

「………それで、今回は私たちを?」

「話には聞いていたからな。いずれ木の葉を背負って立つ8人、あいつにしても信頼のおけるという者たちを一目見たかった。組織の長としても、個人としても」

「そうだったんですか………」

「そうだ。そしてひとつ、忠告しておこうか………あいつは、一人で何でもやろうとする悪癖がある。必要となる場合以外は、誰にも頼らない。無茶をする時もある。
だから、変に優しい言葉をかけられたら注意することだ………何も言わずに去っていくぞ」

「………肝に銘じておきます」

「それでいい。ところで…………そろそろシンを放してやって欲しいのだが」

「え?」

視線を正面に戻すキリハ。そこには、土気色の顔をしてうわ言を呟くシンの姿があった。



「ああ………星が見えるよ紫苑………え、夕焼けこやけでさようなら? うんそうだね、逝こうか―――――」


見れば、シンの口からは何かもやのような白いものが抜け出ていた。


「い、逝っちゃだめー!?」

キリハはそれを口に戻そうとしながら、叫び続けた。



























あとがき

暗躍するもの達とキリハでした。

あと、オリキャラ、ザンゲツというか紅音ちんが登場。

事件云々に関しては全部終わった後、閑話形式で書くかも。




[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 六十三話 「泡沫の光彩」
Name: 岳◆5bf56ac5 ID:6d0af7c1
Date: 2010/09/15 03:49
作者注

ここ数カ月の疾風伝のエピソードの設定がちらほらあります。

まだ見ていない方、見たくない方はご注意を。













































ここは火の国の南部。

今日もウタカタは作業員に混じり、村と村の間にある道の整備をしていた。
地山から土を運び、道が必要となる場所に敷き詰め、重しをつけた台車を使い締め固める。

地味な作業の繰り返しだが、時には横にある森の中から、猛獣が襲ってくる可能性があるので注意が必要だ。

護衛の忍びらしきものはついているので、滅多に人死はないようだが、ウタカタにしても油断はしない。

例外というのはいついかなる時でも訪れるからだ。

朝起きて飯を食べ、働いて休憩。昼と夕方にも休憩があり、その時は近くの村から弁当が支給された。
工事料金を格安で引き受ける網に対しての、村人のお礼の気持ちである。


「どんどん食べてくださいね!」

金のクセッ毛を揺らしながら、おにぎりを作業員全員に手渡していく少女。
年の頃は7、8ほどだろうか。小さい身体をめいっぱい動かしながら、皆に笑顔を振りまいていく。

「はい、どうぞ…………って、ウタカタさんじゃないですか!」

「………またお前か、ホタル」

笑顔を輝かせて近寄てくるホタルに対し、ウタカタは心底うっとうしそうに答える。

「はい! 今日こそは私に修行を!」

「またその話か………駄目だといっただろう」

何度もいったはずだ、とウタカタはホタルの要望を却下する。

発端はちょうど一週間前。

網の雑用として追従していたホタルが夜の森で狼に襲われた時、たまたまその場に居合わせたウタカタがホタルを狼から守ったのが原因だった。

その後、ウタカタの力を見たホタルは、私に忍術を教えてください、師匠になって下さいとウタカタに頼み込んだのだ。

だがウタカタの返答は否。それどころか、“師匠”という言葉を聞いたウタカタは、昔自分を裏切った師匠の事を思い出してしまい、思わずホタルに怒鳴ってしまったのだ。

師匠と呼ばれるほど馬鹿じゃない、と。

ホタルはまだ幼いため、ウタカタの突然の怒声に驚き、泣いてしまった。

10にも満たない子供に怒鳴り泣かせてしまったという事実に、ウタカタはどことなく後ろめたいものを感じていた。
ホタルの無垢な笑顔もそうだった。怒鳴られても次の日にはまたウタカタの元に訪れ、教えてくださいという少女。

ウタカタは、他人が自分に対する隔意を持たず、また距離感も考えないまま、ただ愚直に内側に入ってくるということは経験したことがなかった。

子供にしても人柱力の恐ろしさは知っている。いや子供だからこそ恐ろしいものには敏感で、ウタカタを一目みるなり逃げていったものだ。

(その点、こいつはセンスが無いな………)

恐怖に鈍い者は、忍者としての素質は無いと言われる。死の恐怖を肌で感じ、そこから逃れる術を得るというのは忍びとしての必須技術だからだ。

それにウタカタはあと数日もすれば網を去ってしまう。中途半端に教えてさようなら、というのも考えたのだが、泣かせたという負い目がそれを許さなかった。

(仕方ない………)

本当のことを言って、諦めてもらう他無い。そう考えたウタカタは、ホタルの方に向き直り、告げようとする。

だが、その時ウタカタの眼前におにぎりが突き出された。

「はい、ウタカタさん専用。塩のないおにぎりです!」

「………ああ、ありがとう」

「しかし、塩の無いおにぎりが好きだなんて、ウタカタさんは変わってますね」

「塩は苦手なんだ」

内にいるこいつのせいでな、とは心の中だけでいった。

実のところ、別に塩を食べたからどうという訳でもない。だが、どことなく塩~とかいう名前の食べ物と、塩味が主体となる食べ物は苦手なのだった。

(それよりも話すタイミングが………)

おにぎりが差し出されたせいで失ったと、ウタカタはおにぎりを食べながら思う。

(もう、いいか)

他人のことで思い煩うのもバカらしい。ウタカタは何も言わずに去ろうと心に決めた。

あとは網の連中がどうにかしてくれるだろう。

(……賃金をもらえれば、ここに用はない)

むしろ居続ければ、例の物騒な連中の襲撃に巻き込んでしまう恐れがあるし、霧隠れとしてもいつまでも自分を放っておいてくれるとは思えない。
人柱力は人柱力なのだ。人柱力として相応しい場所はあそこだけだと、ここに来てウタカタは痛感した。

それ以外の場所では、生きられない。むしろ生きてはいけないと、誰もが言っているし自分も思っている。

大きすぎる力は災いを呼ぶのだ。

いつか親方と話した内容をウタカタが心の中で反芻していると、ホタルが横から心配に声をかける。

「………ウタカタさん?」

「何だ」

「いえ………何でもないです」

胸中の葛藤のせいか、低く恫喝するかのような声で返事をしてしまったウタカタは、気まずげに沈黙する。

ホタルの方はびくつきながら、何とか話を続けようと、別の話題を振った。

「………えっと、ウタカタさんも戦災孤児なんですか?」

「………いや、違う。だけど、お前はそうなのか」

“も”という言葉に反応したウタカタは、ホタルに言葉を返した。

「………はい。五大国が誇る木の葉みたいな、大きな隠れ里ではないですけど。それでも、それなりに由緒のある家系で………」

ホタルは俯きながら、自分の物心ついてから網に入るまでの境遇について話しだした。

一族に伝わる禁術のこと。
そのせいで、里のものからは疎外されていたこと。
禁術を狙い、雲隠れの暗部と木の葉隠れの暗部が里を襲撃し、一族は皆滅ぼされてしまったこと。

それを聞いたウタカタは、そういうこともあるだろうな、と頷いた。
三度の大戦を経た現在、次の大戦に備えるために軍備を増強しようとすることは別に珍しい話ではないからだ。事実、例えば雲隠れのように、大戦が終わった今でも各国の暗部はその動きを自重してはいない。

きっといつか来るだろう戦に備え、互いに牽制しあいながらも、次の戦に負けて国を疲弊させないように。

勝つための戦力というものを貪欲に求めている。

特に雲隠れの暗部はその傾向が酷い。貪欲に力を求め、今では木の葉を越えるかもしれないほどに。
結果的にその軍事力は高めてられ、純粋な力でいえば木の葉に伍するようになっているのは周知の通りだった。
対する木の葉も負けじと動いているようだが、その伸びはイマイチであった。
霧も、岩も、そして砂も、それは理解している。

大国以外、以下である小国は小国で大きな力に負けないようにと、また同じく力を求めている………まるで負の連鎖だと、誰がが言うが。

ウタカタもかつては暗部で、色々な忍びと対峙した。
影のそのまた影に隠れて敵を殺し続ける毎日。だが、昔はそれで構わないとも思っていたのだ。

――――そう。師匠に裏切られるまでは。

チャクラの使い方から、忍術の使い方まで教えてくれた師匠。
六尾の力が可能とする、シャボン玉を使ったウタカタ特有の秘術も、師匠と一緒に編み出したものだった。

(だが、あの日、あの人は――――いや、止めだ。思い出したくもない)

そう言い、ウタカタはかぶりを振る。
事実裏切ったのか、あるいはそうでないのか。ウタカタは独り悩み考えたが、その末に考えないという選択肢を選んだ。

どうでもいいと。師匠は既に死んだのだと。
だからどうとでもなれと。そう結論を出して、彼は思考を停止した。

あれから何年たったのか。忘れていた恐怖を思い出さされた敵と、訪れた機会。いつも傍にいた監視の忍びは、あの黒い化物に全て飲み込まれた。
かろうじてあの化物から逃れたあと、気づけばウタカタは独りだった。

監視もいない。敵もいない。

(………どうしても抜けたかった………という訳でもないよな)

ただ、機会があったからそれに乗ってみただけ。
風に流される泡沫のように、自然と足は火の国へと向かっていた。

霧隠れの忍びは何故か追ってこなかった。あとで探ってみたところ、どうやら霧の中枢部に襲撃を仕掛けた馬鹿がいるようで、厳戒態勢に入っているとのことだ。

だがその途中で出会ったあのラーメン屋。
その店主は、今まで生きてきた20数年間を思い返しても記憶にないほどに、衝撃的な人物だった。

金は無いが、食べろという。
いずれ返してくれれば良いという。

普通の店ならば、そんなことは言わない。このご時世、食い逃げをしてでも美味しいものを食べたいという輩はそれこそ腐るほどいるからだ。
あんなに美味い店ならよほどのこと。

(それに、あの味。忘れようにも忘れられない)

ウタカタはあの味を思い出し、ごくりと唾を飲む。今までに食べたことが無いほどに美味しく、そして暖かかったあの味を思い出したせいだった。

(それにしても、変も極まる店主だったな)

ウタカタは着の身着のまま、気の向くままに旅をしていた。そのせいで、路銀も無く空腹の極地だったのだ。その上での飢餓の極致。
だが、空腹という調味料を考えずとも、美味かつ涙が出るような味だったと彼は頷きを見せた。そしてあの時浮かんだ一言を、感想を思い返す。

曰く――――何だこれは、と。

至上の味。濃縮された旨味成分が舌を蹂躙し、腹を満たした。その上で旨いかと不安げに聞いてくる男。食べ物を出し、その上で感想を聞いてくる男。お前の出自はいいから感想を聞かせろという顔をする男。

――全て理解の外。だが、彼は思う。
思えばいつ以来だったろうか。任務以外で人と話したのはと。

気づけばウタカタは考えないままいわば条件反射的に感想を言って、気づけば頭を下げていた。
美味しかった。本当にありがとうと。

それは、本当に嘘ひとつない真実で。

(―――だから、だろうか)

ふと、ウタカタはひとりごちる。柄でもない、忍びではなく土方仕事、まっとうな方法で稼ぎ、代金を返そうと思ったのは、あのせいかと。

(そしてここでも、新たな発見はあった)

網と呼ばれる組織、噂には聞いてきたがずっと全うな組織だったようだ。
人には言えない過去を持つ輩も多く、山賊上がりから抜け忍まで、色々といた。

だがその誰もが笑い、前を向いて暮らしている。
互いに過去を詮索せず、ただ未来を見据えて今を生きている。



(――――思えば、始めてだったな。仕事をして、人に礼を言われるのは)

ウタカタは、仕事を始めたその日、差し入れにきた村人の言葉を思い出す。
『ほんとうにありがとうございます、お疲れ様です』という言葉を思い出す。

任務を果たし、よくやったと言われることはあった。だが感謝を――――心からの礼を言われたことはなかった。

だから心地よいと、素直に嬉しいと、彼は思った。

(だが思えば思うほどに、な)

故に彼は自嘲した。ここに自分の居場所がないことに気づいたからだった。

「えっと、ウタカタさん? 急に黙り込んでどうしたんですか?」

ウタカタはこちらの顔をのぞきこんでくるホタルを見て、想った。
うらやましいと嫉妬の念を感じた。その上で、この瞳の輝きを失いたくはないと思った。消したくはないと思ったが故に、言葉を選ぶことをした。

「――――駄目だ。お前に忍術は教えない」

「どうしてですか? 私はおじいちゃんの!」

ウタカタの返答を聞いたホタルは、は悲痛な叫び声をあげる。
彼女は力をつけ、一族に代々受け継がれるという禁術を受け継いで、一族の復興を遂げようというのだ。
網の中で力をつけて、皆を守れるようになり、やがて昔のような尊敬を集める一族を再興したいと。


だがそれを聞いたウタカタは、極限まで顔をしかめた。
ホタルの祖父は、孫娘に対して随分な遺言………呪いを残してくれたものだな、と。

死ぬ間際に血迷ったのか、あるいは受け継いだものを誇ればこそか。
その祖父、どちらにせよ遺言を伝えた時は、まともな思考はしていなかっただろう。

血継限界というものが起こす事態についてよく知っているウタカタは、ホタルに向かって禁術というものについて、説明をした。

「―――禁術。禁じられた術。その効果は絶大で、時には戦況をも変えられるかもしれない………だがホタル。禁術を使い、できることはひとつだけだ」

「ひとつ、だけ? それはなんですか」

「―――人を不幸にすることだけだ。お前は、自分を含む周囲すべてに不幸をばらまくことを望むのか?」

それがお前の夢か、とウタカタは問う。

そして周囲に誰もいないことを確認すると、話を続けた。

「俺はかつて、霧隠れの里にいた。かつては血霧の里と呼ばれた里だ。そこでは血継限界を持つ一族は疎まれていた………何故だか分かるか?」

「………いいえ。だって、里のみんなを守ることができる、凄い力なんじゃないですか?」

「真っ当な忍術ならば、あるいはそうかもしれない。だが、血継限界というものは特殊だ。そして例外なく、相手に凄惨な傷を与えることができるもの」

「…………」

「人を傷つければ、人は病む。与える傷の凄惨さに比例して、だ。そして人の心はもろく儚い………いつしか、心は壊れてしまう。たったひとつの例外を除いて」

「例外………?」

「人を人以外に分類するか、あるいは命について考えることを止めれば、狂わなくてすむ。常識と正気を判断する機関である“心”を捨てれば、痛苦を感じることもなくなるだろう。人にして心を捨て去り、戦果だけを誇るようになればいい。そうして晴れて一流の、兵器になれるというわけだ………」

だけどそれを人は、“堕ちる”と言う。
あるいは“死”とも。ウタカタは酷薄な笑みをわざとしてみせた。
それは酷く下手くそで、薄かった。

しかしホタルの心に響いたようだ。


「そうなれば、人は正常な判断を下せなくなる。あるいは力に驕り、たしなめようとする飼い主の手を噛むこともある。かぐや一族という血継限界を持つ一族が、その典型的な例だった」

力を求め、力に呑まれ、力のために滅びた一族。骨を操る力は強大無比で、霧の中でも確固たる地位を築いていた一族だった。
クーデターに失敗し、全て滅びてしまったが。

「それに、禁術といったな………? ホタル。禁術はな。どこまでいっても禁術でしかないんだよ。確かに、効力は絶大だ。あるいは、里を守れるかもしれない。だが里の役にたとうとも、戦争が終われば疎まれてしまうだろう。
禁じられた術は例外なく、日常を生き様という人には受け入れられない。一時の栄華はあろうが、それも所詮泡沫の夢に過ぎないんだ」

風が拭けば壊れてしまう程度のものでしかないと、ウタカタは断言する。

「そんな、だって………!」

「………まあ、単純な血継限界ならば、居場所があるかもしれないがな。だが、お前が望むのは禁術だろう? 一族が長年守り続けてきたという」

「……はい」

「ならばここで断言しよう。お前には無理だ。俺も師匠になどならない………絶対に」

一介の少女には過ぎた夢。叶えるならば、尋常でない意志が必要だ。
例え血の池に沈もうとも、と思えるだけの狂気じみた意志力が必要になる。

集団の中で禁術の有用性を見せつけ、あるいは恐れられない程の意志の強さを見せつける。
時には誰かを利用して、時にはその手を血に染めなければならない。

泣くことなど許されない。負けることも許されない。
それを人は鬼の道という。

だが、目の前の少女からは、その道を貫き通せるだけの素質が感じられないとウタカタは思っていた。
修羅の道を歩き通せるような絶対なものが感じられない。

(いずれ、誰かに利用されるだけ利用されて、捨てられるだけだ………)

それよりは良いと、ウタカタはホタルの意見を真っ向から否定する。

ホタルは今まで自分が考えていたことの全てを、憧れていたウタカタに否定されたショックで、その場にへたりこむ。

そして俯き、大声で泣いた。子供のような声で。

「………やっぱりお前には無理だ………よく、考えるんだな」

ウタカタは独りで泣いているホタルの横をすり抜け、作業場へと戻る。

後方から、少女がすすり泣く声が聞こえようとも、振り返らなかった。













その夜。
作業が終わると、ウタカタは作業場近くの村でひとり、飲んでいた。

「………らしくないな」

ホタルに話した事を思い出し、ウタカタはひとり自嘲する。

そこに、横合いから声がかかった。

「よう、独りで月見酒か?」

「………ああ、そうだ」

声で誰かを悟り、ウタカタはぶっきらぼうに頷いた。

「お前もか、シン」

「いい酒が手に入ったんでね………横、いいか?」

「好きにしろ」

それじゃ、と言いながら、シンはウタカタの隣に座り込む。

「………出歯亀は。もう、しないのか?」

「ん~、それは言わないでくれって頼むから。これもあくまで任務上のことなんだからさ」

「ふん、お前も………護衛についている木の葉の忍びとやらも、実にご苦労なこった」

ウタカタはぶっきらぼうに返しながら、昨日の事を思い出す。

霧のことや暁のことについても全て。
その上で網は承諾し、護衛をつけたということも。

その時に尋ねたことを思い出し、ウタカタはシンに今一度聞いてみた。

「そういえば、頼んでいた………あのラーメン屋は、見つかったのか?」

「………う~ん、見つかったといえば見つかったよ。それは昨日言っただろ? 正確なことに関しては、期日になったら言うけど」

「はっ、どうだか」

「………それよりも、聞きたいことがあるんだけど」

「いいぞ。まあ内容によるけどな。一応、聞くだけ聞いておこうか?」

「今日にホタルちゃんに告げた、あの………“師匠になどならない”っていう意味が聞きたくてな」

シンが告げた瞬間、ウタカタの殺気が膨れ上がる。

「………何故お前にそんなことを言わなければならない? 理由はないから暴れはしないが………理由ができれば別だぞ」

無遠慮にこちらに入ってくるな。ウタカタは殺気にメッセージと忠告をこめて、シンへと向けた。

だがシンは何処吹く風。その殺気を受け流しながら、飄々とした様子を保っていた。

「おっと、怖いねえ」

「不躾にこちらに踏み込んでくるからだ。それを聞いたのは任務か? それとも、単純な好奇心か?」

「ああ、後者だよ―――――俺も子供の頃、師匠に殺されかけた身でね」

「何………?」

「俺は昔、木の葉の暗部………根に所属していた。そこで弟と二人、技を磨いていたんだ」

シンは何でもない様子で、自らの過去を語る。

戦災孤児だったこと。
血はつながっていないが、根で弟と呼べるほどに仲良くなった少年、サイについて。

そして、昔から続く“根”の風習について。

「子供を二人組にして育てる。そして才能があるのはどちらかを見極め、不必要な方を殺す………もう一人に殺させるんだ。そうして残った、才能のある者の心を壊し、意のままに操る」

「何処かできいた風習だな」

「本家本元がどちらかなんて、どうでもいいけどな」

本当にどうでもよさそうに、シンは手に持った酒を飲み干す。

「だけど知った当時はショックだったよ。俺達の師匠の、暗部の人………それなりに慕っていた人だったから、余計にな」

誠意など欠片も無かったわけだが、とシンは自嘲する。

「そんなお前が、よく木の葉の人間と一緒にいられるな」

「あいつから聞いていた忍びじゃなかったら、意地でも引き受けていないよ。真平御免だったさ。だけど、あいつらは違うようだ」

「………ふん。それで、それを聞かせてどうする?」

傷の舐め合いなどごめんだぞ、とウタカタは横目でじろりと睨む。

「いやいや、そうじゃなくてな。なんかアンタ、迷っているようだったから」

「俺が何を迷っていると?」

「――――師匠を憎むのを」

「…………!」

虚をつかれたウタカタの身体が、一瞬だけ硬直する。

「俺はさ。どうだっていいんだ。始めから師匠が俺を殺そうとしていたとか、今になってはほんとどうでもいい。むしろ忘れたい記憶なんだ。だけどアンタは違う。
 “忘れたくない”って気持ちが表に出てる」

「何を………!」

「憎んでいるけど、憎みたくないって気持ちが出てる。なあ、師匠は本当にアンタを裏切ったのか?」

「………師匠は、俺を殺そうとした。鍛えに鍛えた尾獣の力を奪おうとした! だが師匠は死んだ。その時に出てきたコイツの力によって」

俯きながら、ウタカタは怒声を続ける。

「俺を鍛えたのも、人柱力としての力を見極めるためだ。何が出来るのかを見極めるためだったんだ」

「………最後に、何か言っていなかったのか?」

「ああ。呪いの言葉を遺してくれた。“その力と共に生きろ”とな。つまりは俺に兵器として生きろと! 尾獣の器として生きろと、そう…………願ったんだよ」

最後には声色を低く、弱く。

力なく、ウタカタが項垂れる。

「………違う」

だがシンは、ウタカタの言葉を否定する。すべてを聞いた上で否定した。

「違うぜウタカタ。あんたの師匠はあんたを裏切っていない。あんたを殺そうとした訳じゃないんだ」

「………何故、そう言い切れる」

「だって………あんたはまともだから」

「俺が、まともだと?」

どこに眼をつけている、とウタカタは嘲笑を浴びせる。だが、シンは肯定を止めない。

「そうさ。ホタルちゃんとの話を聞いて確信したよ。アンタは狂っていない。真っ当な人間としての感性をもっているって分かった」

あいつらとは違う、とシンは首を振る。

「信じていたんだろう? 忍術の他に、色々なことを教えられたんだろう? ―――いずれ殺すっていう人間相手に、そんな接し方はできないさ」

「………油断させるために、とは考えられないのか」

おめでたいやつだな、とウタカタは顔をしかめる。

だがシンは再度首を振り、その考えを否定する。

「なら聞くけど、アンタが殺されかけた時は――――油断させられ、隙を突かれたのか?」

「………!」

「きっと正面から、大事な話があるとかで、呼び出されたんだろう? あんたの師匠は、尾獣の力をあんたの身体の中から取り除きたかったんだよ。
 人々から忌み嫌われる力を、あんたから摘出して………どこかに封じ込めたかったんじゃないかな。例え裏切り者の汚名を着ようとも」

「………違う」

それでも頑なに否定するウタカタ。シンはその言葉に否定もなにも返さず、酒をぐいっとあおった。

「間違えた時、怒られたことはあるか?」

「………」

「怒るって、かなりのエネルギーがいるんだぜ」

「……そうだな」

「これ以上は何もいえないけど………まあ」

最後の答えを決めるのはアンタさ、とシンは首を横に振る。



「………」

「………」


月を見ながら二人、沈黙が続く。

無言のまま酒を煽り続け、やがて酒瓶の中身が空になる。

「じゃあ、俺は元に戻るよ………アンタも、仕事明後日で終りなんだからな。きちっとやり遂げてくれよ」

そういいながら、立ち上がるシンに対し、ウタカタは閉ざしていた口を徐に開いた。

「何故、お前は俺にこんな話をした?」

「憎みあうってのは悲しいことさ。すれ違うことは悲しいことさ。俺はただ、するべきことをしただけだ――――まあ、アンタが人柱力だから、って理由もあるけど」

「………?」

「俺のダチもそうなのさ。そして、あいつがいたなら、こうするだろうし」

誰かと笑い合える未来は欲しい。切にそう願っていると、シンは言う。

「甘ちゃんな考えだな。それが可能だと?」

「可能かどうかは知らないけど………目指す価値があるじゃん」

「………よく、言う」

「それにほら、俺って網の人間だし?」

「それに何の関係がある」

「あんたがホタルちゃんに言った。あれと同じさ――――仲間を気遣っただけ。今は網の一員であるアンタだからな。ほら、別に特別なことでもないだろう?」

そう言いながら、シンは笑った。

「嘘を混ぜてわざときつい言い方をして………思っていたよりも優しいんだな、アンタは」

「………ほざけ」

「うん、ありがとうねー」

「ほめてねえよ!」

小走りになって遠ざかっていくシンの頭めがけ、ウタカタは地面に落ちている小石を拾い、投げた。


シンは笑いながらそれをかわし、夜の闇へと消えていった。



「………誰が優しいんだ、誰が」














そして次の日。

「………ウタカタさん」

「答えは出たのか?」

「はい………私、禁術を追い求めるのはやめます。そんなことをしなくても、一族を再興させることはできますから」

それを聞いたウタカタは顔をしかめる。随分と結論の早い、誰かに入れ知恵されたに違いないからだ。

余計なことを、とウタカタは内申で舌打ちしたが、それはそれで悪くない結論だとも思った。
まだ子供だからして、これからいくらでも道を選べるだろう。
外道を望まなければひとまずはそれでいいか、と結論づけ、笑みを浮かべる。

それを間近で見たホタルの顔が赤くなる。

ウタカタは気付いていないらしく、夜更かししたせいで風邪をひいたのだろうか、と思った。

「大丈夫か………ん、熱はないようだが」

「ひゃ、ひゃい! えっと、あの、それでですね………」

「ん?」

「あの、通りすがりの正義の味方とかいう金髪のお兄さんに聞いたんですが」

シンだな。ウタカタは自然と昨日の優男の顔を思い出していた。

「………えっと、その、一族を復興させたいのなら、ですね。その、好きな人か腕の立つ人と結婚して、子供をたくさん産めばいいじゃないって、そのお兄さんが―――」

「………は?」

顔を真っ赤にしながらしどろもどろに言葉を紡ぐホタル。

「えっと、それで?」



「あうう…………その、私子供の作り方とか分からなくて、それで………金髪のお兄さんが、ウタカタさんに教えて貰えって………」



今にも泣きそうな声。それを聞いたウタカタは顔を真っ赤にさせながら、余計なことを吹き込んだ元凶に向けて呪詛の言葉を吐いた。



「あの、野郎ッ………!」


























「それで、木の葉から援軍の目処は立ちそうなのか?」

「昨日な。綱手様から返事が来たよ………OKだとさ。流石に俺らだけじゃあ、暁の二人を相手どるには厳しいからな。綱手様もそう考えられたんだろう………二人だけだが、補充要員を回してくれるとよ」

「………その補充要員の名前は?」

「ああ、―――と―――さ」

小声で告げられた名前に、シンは驚く。

「………随分とおごるな、火影殿は。景気のいい話で」

「悪いっつーの。そっちが指定したんじゃねーか。まあ、これ以上ない援軍だけどよ………複雑だぜ」

「こっちも複雑だって。それで、暁の化物忍者に勝てる自信はあるのか、天才上忍さんよ」

「だれか天才だ、だれが………まあ、確かに駒は揃ったけど、それでも確実とは言い難い。嫌な報告も入ってきてることだしよ」

「何かあったのか?」

「国境付近に待機してた霧の追い忍部隊………2小隊が消息不明。恐らくは全滅、だとよ」

戦闘開始と思われる時間から、5分と持たずに全滅したらしい、とシカマルは沈痛な面持ちを見せる。

それはシンも同じだった。

「いやはや、霧の追い忍部隊を瞬殺とか………分かってはいたけど、暁ってーのは化物揃いだね」

「まあ相手は二人で、例の暁の首領ペインってやつではないらしいからな。それだけが救いだぜ………ん?」

そこでシカマルは林の向こうを見る。

「何か叫び声が聞こえたような………っておい、なんかシャボン玉が飛んでくるぞ」

これ、ウタカタの術じゃあ、とシカマルがそれを指差す。

気づいたシンが振り返ったと同時、シャボン玉はシンの全身を包みこんだ。

「なんじゃこれは!?」

自分をつつんでいる叩いてもびくともしないシャボン玉に、シンが驚きの声を上げる。

「あー、シン、お前………あの人に何か余計なこと言ったのか? 向こうからどぎつい殺気が飛んでくるんだけど」

「何ぃ!? 俺はよかれと思ってってってって……連れて行かれるぅ!? お、シカマルくんヘルプみーいぃぃぃ………!!!」


シンを包んだシャボン玉は、ウタカタのいる方………殺気の発生源へと飛んでいった。


「あー、めんどくせーからパス。達者でなー」


飛んでいくシャボン玉を、イイ笑顔で見送るシカマル。

そこに、護衛についていた面々がやってきた。

「どうしたの、シカマル君。何だか凄い声が聞こえたんだけど」

「いや、何もねーよ」

「え、え~と、向こうから殴打音と悲鳴が………」





















「―――アンタって人はあぁぁぁ!」

「―――お前という奴はあぁぁぁぁ!」

「わわわ、ちょっ、ふたりともやめてくださいぃ――」

少女を横にして喧嘩する、いい大人が二人。

その大人気ない喧嘩は、数十分に及んだと言う。



































あとがき

連日投稿、本日はどシリアス。ホタルはちょっとロリ補正。

次回、オチ泥棒、シンをよろしくね!(嘘)




また、ご指摘の箇所を修正しました。



[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 六十四話・前 「乱戦」
Name: 岳◆5bf56ac5 ID:6d0af7c1
Date: 2010/04/07 00:59

「これで完了、か」

工事が終り、整えられた道を見ながらウタカタは感慨深げにためいきをつく。

着工からかなりの時間を要して出来上がった道。ひとつの者を作り上げるのはこんなに難しく労力の要る作業なのだと、ウタカタは今回経験して初めて知った。

「ほらよ、ウタカタ」

「………確かに」

給料袋を受けとったウタカタは中身を確認した後、驚いた表情を浮かべる。

「少し多くないですか?」

「何、働きに見あってのことだ。随分と助かったよ」

いいから受けとんな、と親方は笑いながら言った。

ウタカタは分かりましたと頷き、給料懐を袋を入れる。




そしてもう一度、自分が作ったものを見届け、踵を返した。




そのまま、森の外へと抜けようと、ウタカタは歩を進める。

出口で、木の葉の護衛が待っているのだ。

あとは護衛につれられ、霧隠れに戻るだけ。

ウタカタは今回稼いだ金あのラーメン屋にでラーメンの代金を返したいと思っていたが、どうやら見つからないようで、代わりにとシンに預けることとなった。

霧隠れの部隊も壊滅したと聞くし、これ以上火の国にとどまることはできない。


「ようやく、か………ん?」

出口にさしかかったとき、その場にいる者たちの顔を見たウタカタは顔をしかめた。

木の葉の護衛と、網の護衛は分かる。何もおかしくはない。

だが混じって一人、どう見ても子供にしか見えない人物がいるではないか。

「………ついてくるなと言ったのに」

あれだけ言ったにも関わらず、とウタカタは思わず頭を抱えてしまった。



「ウタカタさん………」

「ホタル………今朝、言っただろうが」

「ですが………ウタカタさんはやっぱり、霧へ帰るんですか?」

「まあな」

「えっと、あと一日だけ………そうだ、この近くに、夜に蛍が飛び交う素敵な場所が………」

「………駄目だ。もう限界なんでね。これ以上ここには留まれない」

「そんな………」

「何、心配するな。いずれ、遊びにこれたら遊びにくるさ」

「………それは本当ですか?」

嘘だ。

だけど、こうでも言わなければ引き下がるまいと、ウタカタは嘘をつく。

「ああ。だから、待っていろ」

「………はい」


しょんぼりとうつむく少女。

一同は彼女を置いて、その場を後にした。





そうして歩き、遠ざかってからウタカタは一度だけ振り返った。


「ん………あの、馬鹿」


見れば、少女は小さな身体、その全身を使いこちらに向けて手を振っていた。



「健気だ、ね」

少し悲しそうに、キリハが呟く。

「………言うな。アンタ方も気づいているんだろうが」

「そうだね………急ごうか」

















そうして、一同は山の上へと登っていく。

木の葉の忍びが8名。

網の忍びが2名。

そして、ウタカタ。

合計11人は二手に分かれながら、それぞれの方向へと歩いていく。

「ったく………すげえ血臭だぜ」

キバが顔をしかめながら呟く。


そう、“この先にいるであろう人物に向けて”


「しかし待ってくれるとは思いませんでしたよ。聞いていた話とは、違い随分と人道的な忍びじゃないですか」

「事情があるんだろうよ。一般人を巻き込まない事情とやらが、な」

「それを知っていると?」

「知りたくはなかったけどな………そろそろだぜ」

「どうやら問答無用のようだ。何故ならば、こちらの方に殺気を向けている」

「くう~ん」

「びびるな、赤丸。一歩退けば相手の殺気に呑み込まれるぞ」


「………確認。暁のコートを着た忍び二人と、他4人が接近中。方向、このまま。距離…………っ、急速に接近、接敵までおよそ30秒!」


「ようやく来たね………!」


「俺とサイはウタカタの護衛に回る……………頼んだぜ、シカマル」



「お前こそしくじるなよ、シン。こっちもな………めんどくせーけど、やるしかない」


そうして、シカマルは全員に指示を飛ばす。


「シノ、サイは俺と一緒にあっちの銀髪の方をやる! キバはいの、シンと一緒に、横にいる二人を相手にしてくれ!」

「「「了解!」」」

「サクラちゃんとチョウジ君も周りの方を! ヒナタちゃんは私と一緒にもう一人の暁の方をやるよ!」

「「「分かったわ(よ)!」」

「俺は何もせずとも良いのか?」

「俺達を巻き込まない自信があるか?」

「無いな」

「なら一定の距離をとっていてくれ。できるなら逃げて欲しいが、伏兵が怖い」

「………分かった」

「みんな、無理はするな………っても無理か。手はず通りにやるぞ――――散!」



















「やっぱり気づかれてるぜ、角都よ」

「日向の白眼と犬塚の鼻、油女の蟲だからな。それは仕方ないが………ふん。奇襲のリスクを抱えて逃げるより、先ににこちらの動きを封じ込める気だ………身の程知らずが」

「なあ、殺していいんだよな?」

「人柱力以外はな………あと、死体を傷つけすぎるなよ。死体屋に高く売れるかもしれんからな。お前が死なん程度で、どうにかしろ」

「それをよりによって俺にいうかよ……ちっ、しかし面倒くせえな」

「我慢しろ。木の葉の忍びは金になるからな………あと、あれの使いどころを間違うなよ」

飛段は自分の指輪をこつこつと叩きながら、角都に忠告をする。

「はっ、わーってるって。霧のクソ共でコツは掴めたからな………っとお、見えた!」

そうして二人は、前方に木の葉の忍びを確認する。


「数は………11か」

多いな、と呟いた後、角都は隣の飛段にいつも通りの言葉をかける。



「死ぬなよ、飛段」


「へっ………だから、それを俺にいうかよ角都!」

叫びながら飛段は走る速度を更に上げ、突っ込む。


「ヒャぁ!」

そして、手に持つ鎌をぶん回す。

胴をなぐ一撃。

「くっ!」

「問答無用かよっ!」


間合いの中にいたシノ、キバが鎌をさけるべく跳躍する。



「行け」

角都は控えている人形へと命令。

敵方に向けて散開させる。


「はっ!」

その一瞬の隙を狙い、ヒナタが角都の懐へと入り込む。

(白眼、日向、柔拳か!)

角都は踏み込んでくる相手を見極めると同時、戦術を選択する。

迫る掌打を受け止めずに、掌で横へと逸らしながらヒナタの側面へと回りこもうとする。


「させない!」

放った掌打を懐へと戻しながら、重心を戻す。

そして向き直り、再び角都を正面に捉える。

敵の情報は知らされている。私の柔拳を以てすれば、心臓を貫かずに止められるかもしれない―――そう考えての、接近戦である。

だが、角都は80年を生きた古強者だ。体術にも死角はない。

側面に回ると同時に放った蹴りが、ヒナタの側頭部へと飛ぶ。

ヒナタは出しかけた掌を止め、防御へと腕を回し、蹴りとは逆の方向へ重心を移動する。

「くっ!?」

防御は間に合ったはず。だがガードした上から伝わる、予想外の衝撃にヒナタは驚きの声を上げる。

まるで石のように堅かったからだ。衝撃を殺していなければ、腕を痛めていたかもしれない程に。

(これが、例の……!)

土遁・土矛。身体を硬化して、攻撃力・防御力を高める術だ。

(……もらった!)

痛みに動きを硬直させるヒナタ。そこに、角都が追撃をしかけるが―――横から邪魔が入る。

「ヒナタちゃん、下がって!」

追撃をしかけようとする角都に向け、キリハがクナイを投擲。

普通のクナイならば、自分の防御は破れない。角都は迫り来るクナイを一瞥しながら、クナイを硬化した皮膚で受けつつ、追撃を続けようとする。
だがクナイの外郭を覆うチャクラを見ぬき、側面へと転がった。

(飛燕か……!)

石をも貫く風のクナイ。

まともに受ければ貫かれるだろうと判断した角都は、回避を選択。そのまま転がりつつけ、ヒナタとキリハから距離を取ろうとする。

「させないっ!」

上忍でも有り得ない、複数の系統かつ強力な忍術を使いこなす角都だ。

そんな相手に遠距離戦を挑んでも勝ち目はないということを、木の葉側は理解していた。

故の接近戦。キリハは飛燕をまとわせたクナイを手に、瞬身の術を使い、一気に距離を詰める。
近接し、角都の心臓目掛けクナイを突き出した。

「早いが……それだけではな!」

だが角都、その行動を予想していたとばかりに、クナイの一撃を受け流す。

同時に、キリハの腹へと拳を叩き込む。

「くっ?!」

キリハが苦悶の声を上げる。
すんでのところでガードはできたが、硬い拳による一撃なのでダメージは零ではない。

痛みもあるため、思わず声に出てしまう。

だが、キリハもそれだけでは終わらない。

拳の威力に押され、後方に吹き飛ばされながらも、左手でクナイを取り出し、持っていたクナイと一緒に投擲する。

そして――――印を組む。

「風遁・烈風掌!」

柏手の後、爆風が起きる。

追い風により加速したクナイが、角都の心臓目掛けて飛んでいった。

「くっ!」

角都はそれを躱しきれず、腕と頬に掠り傷を負う。

切り裂かれた傷から赤い血がにじみ出て、地面へと滴り落ちた。


だが角都はそれを無視して、今の攻防で得た情報から戦況を確認する。

(中々やるな………戦術もタイミングも見事。それに、あの日向の娘は………そうか、俺の心臓を直接狙いにきたか)

柔拳ならば、土遁・土矛の硬度も無意味。あちらの金髪の娘の方もそうだ。あのレベルの飛燕を相手にするのは分が悪い。

(ならば遠距離戦で………ん、日向の娘が前方に? ………そうか、回天を盾にして……!)

絶対防御とも呼ばれる回天を盾にしながら、機を見て近接、格闘戦へと引きずり込む。

(金髪の娘の方は速度………瞬身で一気か、クナイで防御を貫く気か)

受けながら近接するか、躱しきって近接するか。どちらにせよ遠距離戦に付き合う気はないらしい。

(七尾捕獲の際に邪魔をした男………ふん、情報がもれているか。だが、どうということはない)

角都は前方の警戒を怠らないまま、横目で人形と他の忍びとの戦闘を確認する。

(それなりに張ってはいるが、分が悪いか………ふん、いざとなればアレを使う必要がでてくるか)

戦況を把握。そして戦術を理解した角都は、相手の望む形になろうとも、それでも自らの得手を選ぶ。




秘伝忍術・地怨虞。

体内より出でた黒い触手を自在に操り、また忍びの心臓を取り込むことによって、基本5大性質の忍術を行使することができる禁術だ。

角都が里の上役を殺したあの日からずっと、彼自身を支えてきた術だ。


ヒナタは角都の表情とチャクラを白眼で観察する。

その後、後ろにいるキリハに小声で話す。

(………恐ろしいね。こっちの狙いは全て読み切られてる)

(それでも、曲げないか………余程あの術に信頼を置いているみたいだね)

(うん………あるいは、こう言っているのかも)

(………?)

(“小賢しい戦術ごと、吹き飛ばしてやる”って。チャクラもそう言ってるよ)

(たしかにね………)


一筋縄ではいかない相手だと。キリハとヒナタの二人は、戦う前にシカマルから角都のことを聞かされてはいた。
その時も“厄介な敵だな”と思っていたが、実際に対峙してみるとまた違う感想を持った。

80年を生きた、歴戦の古強者。

いわば忍び歴史とも言える角都の強さを垣間見た二人は、自らの身体に走る恐怖感を隠せないでいた。

(………厄介どころじゃない)

(厄災そのものだね………っ、来る!)


飛段の手元、高速で印が組まれ――――結の印が結ばれる。


同時、ヒナタは全身からチャクラを噴出した。


「雷遁・偽暗」

それを見届けないまま、角都は術を発動。

角都の肩に現れた仮面。そこから、雷の槍が吹き出す。



「――――八卦掌・回天!」


雷槍とチャクラの盾。

両者はぶつかり、勢い良く粉塵を巻き上げた。


















「ちっ、んだあこれはぁ!?」

飛段は自分の周りを飛び交っている奇妙なものを指差し、嫌そうに声をあげる。

蟲の群れと墨で出来た獣。愛用の鎌で切っても切っても、一切手応えがない。

「鬱陶しいんだよ!」

飛段は鎌を振り回して切払い、目の前にいたシノへと襲いかかる。

「………っ!?」

「まずは一匹ィ!」

袈裟懸け一閃。

鎌はシノの身体を切り裂き、二つに分断した………かに思われた。

だが。

「あん、蟲ぃ!?」

それはシノの蟲分身。
本体は樹の上に避難していたのだ。斬られた蟲達はばらばらに飛散し、飛段の周りに殺到する。

飛段のチャクラを奪おうというのだ。
蟲にたかられた飛段は即座にその場から飛び退き、襲い来る蟲達を再び鎌で再び振り払う。

「へっ、捕まらねえよ………っとお!?」

蟲に集中している飛段、その側面から今度は墨の化物が襲いかかる。

それは墨の狼。
サイの超獣偽画によって描かれた獣が、飛段の首筋を引き裂かんと跳躍する。

「くらうかっ!」

飛段はそれをも切り裂き、一端距離を開ける。

(くそっ、手応えの無いやつらばかりかよ………七尾の人柱力から俺の力について聞いてんのかあ?!)

遠距離限定で戦術を展開してくる相手に、飛段は苛立をつのらせる。

もっと引き裂きたいのだ。もっと切り裂きたいのだ。

もっと無残に殺さなければ、ジャシン様は認めてくれない。それに、これではだめだ。

(蟲とか墨じゃなくてよお! 人間をぶち殺さなけりゃあ意味がねえ)

清廉とした黒ではなく、鉄の臭いを漂わせるどす黒い赤をぶちまけなければ、信仰心は満たされない。

飛段はそう思っていた。

だが彼の信仰に反し、敵は距離を保ったまま近づいてこようともしない。

再び、蟲と墨、黒色の有象無象が飛段に襲いかかった。


「無駄だっつんてんだろうが!」

鎌を二閃、三閃。先程と同じように切払われ、蟲は散らされ、墨は形を失い地面に落ちて行く。



「こんなんじゃ俺は…………!?」



倒せない。そう続けようとした飛段だが、腹に感じた違和感に顔をしかめた。

「………ってーなこの野郎」

腹に感じた違和感。それを飛段は理解する。

墨が落ちた地面から黒の刺が突きでていて―――――それが、自分を貫いたのだ。




「―――秘術・影縫い」

飛段から遠く、離れた距離でシカマルは呟く。そして飛段の様子を観察し、顔を僅かにしかめた。

(肝臓、脾臓を貫いても効果無し、か…………俄には信じ難かったけど、不死ってーのは本当みてーだな)

一方、貫かれた飛段は痛みに顔をしかめるでもなく、ただそこにつったっているだけ。

腹に突き刺さった影を切払い、笑い声を上げるだけだった。

(………サイの超獣偽画と俺の影で牽制して、シノの蟲でしとめる。最初の作戦通りに進めるしかない)

あわよくば、と思っていたが、どうやらそんなに簡単じゃないみたいだ。

見せつけられた飛段の不死っぷりに、シカマルは思わず溜息をついてしまう。

「へっ、墨に紛れて、か。でもこんなんじゃ俺は殺せねー、よ!」

急所を貫かれたというのに、飛段はまったく頓着せずに手の鎌を振り回す。

常人ならば即死している程の傷なのだが、動きが衰えた様子もないようだ。

「………痛覚が無いのか、アンタは」

「見れば分かるだろうが。腹あ突き破りやがって、スーパー激痛だクソヤローが!」

「………なら大人しく死んでくれよ頼むから」

頭を抱えながら、シカマルがぼやく。

「問題はない。何故ならば、こいつはすぐに動けなくなるからだ」

シカマルの後方にいるシノが、再度蟲を展開する。

「いくら身体が不死であろうとも、チャクラが無ければ何もできないだろう………そのチャクラ、喰らい尽くす」

サイも、新たな墨の獣を展開し、周囲に配置する。

「牽制とはいえ、僕も忘れないで下さいね」

「………あんがとよ」

頼もしい味方の言葉を受けてシカマルは立ち上がり、飛段を睨む。

(………行くか。影真似で動きを止めて、シノの蟲で片をつける)

聞くところによると、飛段の体術の腕前は暁の中でも一番下らしいが、所詮は上忍クラス。

例えばリーのような体術特化型ならば、この3人では勝てないだろう。

瞬時に距離を詰められ、やられてしまう。

(その点、飛段の速度は――――対処できない程じゃねえ。3対1なら、勝てる)

耐久性と不死性、それと対象に自らの傷を移す呪術、“死司憑血”は確かに恐ろしいが、事前情報があれば打つ手はいくらでもある。

戦術を練る機会もあったし、勝つために必要な駒もある。これで負ける程、シカマルは頭が悪くはなかった。

角都のような能力を相手にするならばまた状況は難しくなっただろうが、飛段の能力には穴がある。

(いける―――やれる………が、あとひとつ)

問題となる部分をシカマルは確認する。

「………で、どうする? あっちも派手にやってるようだけど、助けを呼ばねえのか?」

爆音が聞こえてくる方向、キリハとヒナタが角都を相手にしている方向を指しながら、シカマルは飛段に聞いてみる。

合流されれば厄介なことになる。その意志があるかどうかを確認し、合流するならば妨害しようと思ったが―――

「はっ、呼ばねーよ。おまえらごとき、俺だけで十分だっつ-の」

「………そりゃまた、強気なことで」

どうやらそのつもりはないようだ。
シカマルは肩を竦めながら、内心でほくそ笑う。

飛段の能力、誰かと連携を取られるのが一番厄介なのだ。

乱戦になれば、傷を負う者は必ず出てくる。そうなれば、必ず誰かが死ぬ。

だが今のような、距離を開けての打合いならば、そうはならない。
確実に勝てるはずだ。


「………何か考えてやがんな。ま、大体のところは分かるけどよ」



飛段は地面を染めている墨を見ながら、先程の自分の腹を突き破った影の槍を思い出した。

(あれが影を使う秘術。ということは、影縛りって術もあるか………)

後衛の墨で牽制しながら、前方の影でこちらの動きを止める。その後、最後衛の蟲使いが蟲を展開させ、チャクラを食らいつくす。

(こっちの弱点見極めて、最善の策を取ってきやがる………クソ、面倒くせえ!)

苛立を心に含ませながら、飛段は標的へと距離を詰めるべく、走り出した。


















一方、いの、シン、キバの方は決着がつこうとしていた。

術を行使する人形、耐久力もあるし高い筋力も保持している。

だが、木の葉の面々は以前の襲撃の際、この人形と戦ったことがあった。一度戦った相手に負けるほど、木の葉の忍びは弱卒揃いではない。

シンも、得意の体術で相手の攻撃を撃ち落としながら、着実にダメージを与えていた。

忍術の才能でいえば弟に遠く及ばない彼だが、チャクラのコントロールと体術の練度にかけては弟のはるか上をいく。

かつては捨てられた才能。だがそれが故に、彼は強く成った。

“こなくそ”という、土台となる想いの上に積み上げた努力。そして夢のため、鍛えに鍛えた体術の冴えは、努力の天才、ロック・リーに勝るとも劣らない。


才能がない―――それがどうした。

特殊な術も使えない――――ならば拳がある。


彼も、紫苑に関する記憶は封じられていた。だがナルトと同じく、あの時の無念の気持ちは絶えず胸の隅に残り続けた。

血反吐を吐いても立ち上がり、笑って相手に立ち向かう―――いつかのどこかで聞いた、物語に習って、彼は拳を突き出した。

吹き飛び、態勢を崩す人形。シンはその隙に追撃をしかける。

「あらよっ!」

懐に入り込み、顎を力いっぱい蹴り上げた。

人形が宙を舞う――――






そのすぐ傍、いのはもう一人の人形の方を相手にしていた。

人形は間合いに入ったいのに対し、火遁術を放つ。

「甘い!」

いのは近くにある樹を盾にしながら、人形が放つ火遁術を凌ぎきる。

そして、感じた。

(………残留する思念は微かにあるようね………だけど、積極的な思考は感じられない。そんな奴にっ!)

間髪入れずに放たれた術。いのは危険を承知の上で跳躍し、その術の効果範囲ぎりぎりの場所に突っ込んで行く。

太ももと右の横腹をわずかにかすめ、痛覚が走る。

だがいのは構わず、駆け抜けた。

「そんな消極的男児にぃ!」

全速で前進。一歩ふみこむ度に、地面がわずかにえぐれる。

その勢いのまま、いのは一歩踏み込み―――――そして、拳を突き出す。

「負けるような――――」

タイミングも動作も完璧。術の範囲を見切りながら前進、間合いに入り、攻撃直後に硬直している人形の隙をつく。

「――――いの様じゃないのよっ!」

怪力のアッパーカットが、人形の顎へと叩き込まれた。

人形が、宙を舞う――――














宙を舞う人形。

それに向かい、走る影があった。

「行くぜ赤丸ぅ!」

「ワンワン!」

キバと赤丸だ。

「獣人分身!」

「ワン!」

一人と一匹は二人になり、左右に展開。宙で態勢を整えようとしている人形に向け、挟みこむような軌道で走る。

木の葉でも名高い、犬塚一族は速さならばトップクラスである。
キバと赤丸は神速に恥じぬ速さで駆け、駆け、抜けて――――跳躍。

繰り出すは獣人体術が奥義がひとつ。

「牙通牙!」

キバと赤丸。

態勢は整えても、空は飛べない人形――――挟み込む軌道で繰り出された一撃を、避ける術なし。

高速回転での体当たりを受けた。その勢いで身体が回転し、受身もとれないまま地面へと叩きつけられる。

だが、二人の攻撃はそれで終わらない。二人は鋼糸を使い、宙で互いを引き寄せる。

―――人獣一体となる、混合変化を使うために。

「準備OK!」

キバと赤丸は双狼頭、双頭の巨大な狼に変化し、回転。

すでに先程、牙通牙の時にマーキングはすんでいる。

「―――いくぜ、牙狼牙!」


地面に叩きつけられた人形に、追撃。巨大な狼が高速回転し、再度人形へと突っ込む。

止めと思われた一撃、だがその感触にキバは顔をしかめる。


(まだか! くそ、前より耐久度が上がってやがる――――ならば!)

キバは牙狼牙の進路を地面沿いから空へ向ける。

巻き込まれ、宙に舞う人形。だが途中でこぼれおち、空中から地面へと落下する。

キバと赤丸は双狼頭変化を続け、そのまま空中へと舞い上がり―――回転を止める。



(止めだ、行くぜ――――)



そして再び回転。

標的を見据え、落下する。



自由落下のエネルギーを利用した、高高度からのスパイラルアタック。





(――――天狼滅牙!)





獣人体術、秘義の壱。


天から降り注ぐ白狼の一撃が、倒れ伏す人形達を粉微塵に打ち砕いた。





































あとがき

オリ技ですみません orz。でも獣人体術は好きなんで後悔はしていない。
原作でも最近使ってないし。

ちなみに技名は声優ネタだけど、わかる人いるのかなあ。
赤丸ならぬ、行け! ○ピード! ………なんつって。

ちなみにウタカタの声は種死のあの人です。

あと飛段の性格がよう分からん。つーかどうトレースしろと………orz



[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 六十四話・中 「混戦」
Name: 岳◆5bf56ac5 ID:6d0af7c1
Date: 2010/04/07 23:00

「はあ、はあ、大丈夫、キリハちゃん」

「うん、ヒナタちゃんも………」

キリハとヒナタは肩で息をしながらも、目の前の相手――――角都を睨みつけた。

「強い………」

「弱気になっちゃ駄目よ………気持ちは分かるんだけど」

人形を倒し、かけつけたサクラとチョウジも一緒になって戦っていた。

こちらは4人で、相手は一人。だがキリハ達は、角都に対して一度も致命となるダメージを与えられないでいた。

遠距離を保ちながら忍術を防ぎ、躱し、機を伺い続けている4人。

迂闊に近接すれば、あの黒い触手にとらわれてしまうし、中距離では術をまともに受けてしまう。

忍術と触手による攻撃を何とか避けながら、術と術の間に訪れる間隙をついて一気に接近して、攻撃を仕掛けるという作戦。

――――だが、その尽くが捌かれ、流されてしまう。

間合いの取り方と体術の練度、その両方とも相手の方が一枚も二枚も上なためだ。

「どうした………来ないのであれば、こちらから行くぞ?」

「くっ………」

歴戦の忍び相手に、木の葉のルーキー達は苦戦をしいられていた。
















一方、飛段と対峙するシカマル達はまったくの逆。

こちらは、シカマル達の勝利で決着がつこうとしていた。

シカマルの影が、飛段を捉えたのだ。

「捉えたぜ………シノ!」

「了解した」

シノは頷き、油女一族が秘術である蟲玉を使う。

身動きの取れない飛段に、大量の寄壊蟲が殺到する。

「うげっ、キモイぜ!」

「………」

迫り来る蟲に対し悪態をつきながら、飛段はその場を逃れようとする。

だが、飛段の影はシカマルに捉えられている。影が縛られているせいで、飛段の身体はピクリとも動かない。

「動こうとしても無駄だぜ」

シカマルは飛段の動きを全力で止めながら、にやりと笑う。

「詰みだな………なぜならばその寄壊蟲、お前のチャクラを全て喰らうまで離れないからだ」

シノは無表情を保ったまま、勝利を確信する。

「………どうやら勝ったみたいだね、兄さん」

「ま、しんどかったけどな………なんとかなったみたいだ」

シンとサイも安堵の溜息をつく。

その時、シン達の耳に爆音が届く――――キリハ達の居る方向だった。

「………向こうは苦戦しているみたいね。私とキバはキリハ達の援護に行くわよ」

言いながら、いのは立ち上がり装備の確認をする。

「分かった。行くぜ、赤丸」

「ワン」

時間が無駄になる、といのが提案し、キバ、赤丸が頷く。

共にキリハ達の援護に行こうというのだ。



―――――だが。


「………ちょっと待ってくれ」

シカマルがキバ達を止めた。

(何故あがくのをやめた………? ここから打てる手はないし、見たところチャクラも残り少ない………絶体絶命の筈だ。なのに何故、おとなしくしている?)

影縛りに抵抗せず、大人しくチャクラを吸われているだけの飛段。

聞いていた人格、言動を鑑みるに、抵抗をしないというのはおかしい。

(――――何かある。そういうことか? いや、まさか………)

有り得ない。

そう考えつつも、シカマルは内心で訝しむことをやめない。

(援軍が遅れてるな………もしかして伏兵と出くわしたのか。いや、だがこれでこちらが勝てるはず)

もう逆転の芽は無いはずだ。

「あーあ。仕方ねえなあ………おい、影使ってるお前」

蟲玉に包まれている飛段が、シカマルに問いかける。

先程から嫌な予感が止まらないシカマルは、だからこそ飛段の声に「何だ」と答えざるを得なかった。

「さっきの質問だが、答えを追加してやる………何で俺は、わざわざ角都から離れたと思う?」

「さあな………仲が悪いから、とかじゃねーのか?」

軽口で返しながらも、シカマルはその眼光を緩めたりしない。

その理由とやら、次第によっては――――不味いことになる。


動きも封じた、チャクラも残り少ないはず。なのに、嫌な予感は消えてくれないのだ。

ようすがおかしい飛段の言動を察した、他の面子――――シノ、サイ、シン、いの、キバも不可解な面持ちとなった。

そしてもう一人、いや一匹。赤丸は唸り声を上げながら、飛段を睨み続けていた。


「赤丸………?」

「ヴワゥ………!」

気づけば、赤丸は総毛立っていた。そして一歩、また一歩―――飛段から遠ざかろうと、後ろへ退いていく。

赤丸は敵のチャクラを臭いで嗅ぎ分けることができる。それによって、大体だが相手の強さが分かるのだ。

だけど赤丸も忍犬だ。相手が強いからと言って、主人であり相棒であるキバを置いて逃げたりはしない。

だがこの時に限っては、必死で逃げ出したいという衝動を我慢しているように見えた。


尋常ではない。横目で赤丸の様子を見たシカマルは、ようやく確信する。

まだ何かある、と。


「へっ、確かに仲が良いとも言えねーがよ――――不正解だ。何、答えは簡単だぜ?」


嘲わらう飛段。直後、気配が膨れ上がる。



「―――巻き込まないためだよ」



そう答えた飛段の言葉と共に――――チャクラを喰らっていたはずの、シノの蟲が爆ぜた。

空気を入れすぎた風船のように、乾いた破砕音と共に周囲へ飛び散ったのだ。

「馬鹿な………!?」

喰らえるチャクラの量にはまだまだ余裕があった。

有り得ない事態に、シノが驚愕の声を上げる。

「ぐあっ!? っ何だこの、馬鹿力は………!」

影で縛っているシカマルも、苦悶の声を出す。身体が全然動かないのだ。

「影縛りが、効かない………?!」

鍛えに鍛えた影縛り、この距離であれば例え上忍であっても止めきれる自信はある。

だが飛段は、いとも容易くシカマルの捕縛を破った。

(馬鹿力とか、そういう問題じゃねえぞ………!?)

木の葉一の体術使い、純粋な筋力でも一番である上忍、マイト・ガイを相手にしたとしても、影で縛ればある程度は止められる。

だが、今の飛段はまた別格。人間の筋力の限界を超えている。

一体何が起きているのか、シカマルは理解できなかった。

(外見の変化といえば………なんだ、あれは!?)

「………黒い、塊が………指輪のところから溢れでて……!?」

「おいおい、マジかよ!」

サイとシンが飛段を見ながら、驚きの声を上げる。


「赤丸………おいっ、赤丸!」

力いっぱい、首を横に振っている赤丸。

今にも逃げ出したい、“アレ”と戦いたくないという意思表示を見せる相棒を、キバが何とか落ち着かせようとする。




「クククク………ヒャッハアアアアアアァァァァ!」




自分の頭を抱えながら、飛段は狂ったように笑い声を上げる。


「いい気分だ、最高だぜぇ! ああ、この感じ………ったまらねえ………!」


馴染む、馴染むぜえ、と歓喜の声に打ち震えながら、飛段は自らの身体を抱え込み、震える。


汝、隣人を殺戮せよ――――ジャシン教の教え、それに最も適しているであろう、存在。


「まさか………十尾の力か!?」

シカマルが叫ぶ。

「十尾………? おい、シカマル、十尾ってなん……!」

キバが訪ねようとするが、更に膨れ上がるチャクラを感じ、言葉を中断する。

「くっふふふう、ペインもよお………いいもんくれたあああぁぁっ!」

何故シカマルが十尾のことを知っているのか―――そんなことに頓着せず、飛段はただ己の身にあふれる万能感に身を任せていた。

霧隠れの忍びを尽く惨殺した力。自分の身体に馴染む黒の本流は、彼にとって心地よいものだったからだ。

「もう手加減はできねえぜぇ!? ………する気はねえけどよぉ!」

狂ったように叫びながら、飛段は地面に落ちていた鎌を拾い上げ――――先程とは違い、まるで小枝の如く。

軽々と振られるそれを見て、木の葉一同は戦慄する。突きつけられた鎌が、まるで死神のそれに見えたのだ。


「ま、あれだ」



その眼は黒く、狂気の極みともいえるほどに歪んでいた。

そして飛段は、快活に笑いながら――――宣告をした。


「てめーら全部ぐちゃぐちゃにするけど………文句はないよな?」



































「何、このチャクラ………!?」

角都と戦っているヒナタが立ち止まり、驚きの声を上げる。

「ちっ、馬鹿が………全部無茶苦茶にする気か、あいつは」

同じく、角都も立ち止まり、飛段がいる方向を睨みつけながら、忌々しげに言う。

角都は、あちらで何があったのかが分かっているようだ。

キリハは無駄だとしりつつも、角都に異様なチャクラの正体が何なのかを聞いてみた。

「いったい、何をしたの?」

「答える義理はない………その必要も、無い。それよりも、己の身を心配したらどうだ」

「言ってくれるわね………ならばこれでどう!」

言うと、キリハは腰元の忍具袋から煙玉を取り出し、投げる。


「目くらましか………だが、甘い」

角都が印を組む。

肩の仮面が口を開き、そこから風の塊が噴出される。

風遁・圧害。

高密度に圧縮された竜巻の塊を打ち出し、対象の前で解放。

周囲にあるもの全てをなぎ倒す、Bランクに該当する上忍クラスの忍術だ。

風が解放され、周囲の煙諸共、キリハ達は吹き飛ばされた。

だが一人だけ、暴風に耐え切り、その場に踏みとどまった者がいた。

(―――回天…………今だ!)

回天で風を凌ぎ切ったヒナタ。わずかに残る白い煙に紛れながら、角都へと接近する。

キリハとは逆の位置にいたヒナタ。つまり、角都からは背後となる位置だ。

一気に踏み込み、柔拳体術奥義
――――必殺となる一撃を繰り出す。


(柔歩双獅拳………えっ!?)



間合いまであと一歩のところで、角都がこちらを振り返った。


「………甘いといったぞ」


位置取りと、キリハの行動の意図するもの。

囮と本命までの流れを、角都は全て読んでいたのだ。

わざと隙を見せ誘い、懐に引き込んだ後―――一歩だけ下がる。

(間合いが、一歩届かない…‥!)

柔拳を叩き込むまでの距離が、一歩分離れる。

ヒナタからは届かない。あと一歩踏み込まなければ届かない――――だが、角都は届く。

距離を詰めるべく一歩、ヒナタが踏み込むと同時、角都は前方に腕を突き出す。

そして、そのまま腕が振られ――――“千切れた腕”が射出された。地怨虞を利用した拳の一撃が、ヒナタを襲う。

「ぐっ!?」

土遁・土矛の硬度に、地怨虞の力。

ヒナタはその一撃を腹部受け、肋が数本折れる音が聞こえたと同時、後方へと吹き飛ばされた。

間合いを詰める一歩、それを踏み込んだせいで、今の一撃がカウンターとなってしまったのだ。

そのまま後方の樹へとぶつかり、背中を強く打ち付けたヒナタは、衝撃のあまり呼吸困難に陥る。

咳き込むヒナタ。その口から、血が僅かに零れ出た。

「まずは一人――――死ね」

角都はそこに、追撃を仕掛けた。仮面から放たれるは、風遁。

先程の圧害と同じく、圧縮された風の塊を放つ術だ。
対象を吹き飛ばすことに重点を置いている圧害とは違い、こちらは対象を切り刻むことを目的としている。


「風遁・裂苦連露!」


頭部を傷つけては不味いと考えた角都は、その風刃の乱舞をヒナタの首から下へ向けて放った。



「ヒナタちゃ…!」

「ヒナタ!」


キリハとサクラ、角都の一撃からヒナタを助けようとするも、距離が離れすぎていた。


手を伸ばしても、届かない。


風の刃は止められず、ヒナタの身体を八つに裂かんと襲い来る。





――――鮮血が、舞った。



「チョウジ、君?」

「間一髪…………くっ!」


すんでのところで間に入ったチョウジ。

倍加の術とチャクラによる強化で、風遁の一撃を止めたのだ。だがその代償は高く、死には至らないまでも戦闘を続けられない程の傷を受けていた。




「弱った仲間など放っておけばいいものを………何にせよ、これで二人だな」


仲間を助けるために身を呈した、チョウジの行動。

だが角都はそれに何の感慨も抱かず、非効率なと蔑むだけであった。



「あんたっ………きゃあっ!?」


「サクラちゃん!」


憤慨しようとしたサクラだが、放たれた火遁術に言葉を遮られた。


火遁・頭刻苦。風の性質を与えられた火球が、平原に落ちると同時に拡散。

キリハとサクラの方向に向け、広がっていく。


「くっ、ならばこれでどう!?」

サクラは体内で練った最大級のチャクラを、拳に収束。

極めて精細なチャクラコントロールがあって初めて成せる医療忍術の応用―――師匠譲りの怪力の一撃をもって、自らの拳を地面へと叩きつける。

接触と同時に衝撃が地面へと伝播し――――地面が割れた。

桜花衝という名前のとおり、桜の花びらのように地面が爆ぜ散る。

「大した怪力だ………!」

角都は後方へ飛び退きながら、サクラの怪力について賞賛する。

その裏では、チョウジとヒナタがサクラの一撃にまぎれて、後方へと避難していた。

二人ともこれ以上続けられる状態ではなく、もし人質にでも取られれば不味い状況に陥るため、一端退いたのだ。


「これ以上は――――やらせないよ!」


角都が着地すると同時、キリハが瞬身で距離を詰める。

両の手から繰り出される飛燕の斬撃が、角都の全身を僅かに切り刻んだ。


「間合いが甘い――――それではこの心臓は取れんぞ!」

角都は再び一歩間合いを開けながら、キリハに向けて己の拳を突き出す。

(さっきと同じ――――ならば!)

ヒナタに繰り出した一撃と同じだろう。そう判断したキリハは、飛んできた手を切り落とそうとクナイを強く握る。

腕を落とせば術が使えなくなるかもしれない。そう考えたのだ。

だが、角都の方も甘くない。

「甘いと言っている!」

「下!?」

見せた拳は囮。

角都は突き上げた拳を放たずに、胸元から触手の一撃を繰り出した。

(わざと、見せた、拳は、フェイクかっ!)

キリハは心の中で毒づきながら、不意打ちの攻撃を右に左に身体を捌いて、身を躱す。

(短時間に二度、同じ戦術を使う愚は侵さないってことね………!)

それどころか先の一撃を印象付けた上で“見せ”に使い、本命を別に用意していたのだ。


(何もかも相手が一枚上…………っ、この声は!?)


悲鳴が聞こえ、キリハはその声がした方向を向いてしまう。

あっちは飛段と戦っているシカマル達―――異様なチャクラがある方向。


(いのちゃんの声………って、しまっ」


「―――隙ありだ、小娘!」


触手を避けきったキリハ―――必然的に、距離が開くこととなる。

そこは致命的な距離。こちらからは攻撃が届かず、相手からは届く間合い。

遠距離ではないため躱しきることもできない。術を防げるヒナタもいない。

キリハは風遁術で対抗することも考えたが、今ので気を逸らしてしまったため、間に合わないと判断した。


(ま……ずっ!)


気づけば、角都の手に印が組まれていた。

結びの印は雷遁。

同時、仮面が開き――――


「雷遁・飛狗惨武!」


―――術名を告げると同時、角都の肩の仮面から、雷の砲弾が放たれた。

キリハは雷に勝る性質である風の壁で防ごうとする。だが、間に合わない。


「風遁・風陣へ………きゃあっ!」


中途半端な風は僅かに雷へと干渉し、その軌道を少しだけ変えることに成功する。

そのため、直撃は避けられたが、完全に回避はできなかった。キリハ雷の砲弾、その余波を全身に受けながら、後方へと吹き飛ばされる。


吹き飛ぶ途中、忍具袋から煙玉が複数飛び出し、地面へと散らばり、爆散した。

(こ…………れは、まずった、かな)

吹き飛ばされた先で、キリハは受身を取ることもできず、そのまま転がる。勢いのまま転がり続け、やがて一定の距離で止まる。

キリハは地面にうつ伏せになりながら、今の一撃で受けたダメージを分析する。

(――――何とか動かせるのは、右手だけ、か………)

両足と左手は痺れていて、うまく動かせない――――本格的にまずい。

何とかしなければとキリハ必死に動かそうとするが、雷による身体の傷は深く、身体はぴくりとしか動かなかった。

「キリハっ!」


煙に紛れ、サクラはキリハの元に駆けつける。

「っ、一端退くわよ!」

「………」

声が出ないキリハは、全身から煙を発しながらも、何とか頷く。

二人は煙に紛れ、場所を移動しながら、安全な場所を確保しようとする。
身体の動かないキリハの、応急治療を始めようというのだ。

「………完治は無理だけど………!」

治療が始まり、キリハの顔が僅かだが、やすらいぎの色を見せる。

(………あ、右足、動く。左足、動く、けど………動きが鈍い)

時間をかけて治療を受ければ、あるいはすぐ動くようになるのだろう。

深刻なダメージではないが、死に至るほどでもない。

回復すれば、また戦えるはずだ――――だが、それは、できなかった。

「くうっ!?」

「サクラちゃん!?」

治療を続けるサクラに向けて、煙の向こうから拳が飛んできたのだ。

角都の拳。

サクラは治療に気をとられていたせいで、その拳に無防備なまま腹を打たれ、そのまま吹き飛ばされた。

「―――甘い、治療などはさせんぞ」

「くっ………」

「ふん、詰みだな。しかし………中々にしぶとかったな」

「それ、は、どうも」

「それに、ここまでチャクラを使わされたのは久しぶりだぞ………その心臓、使う価値がある」

落ちたキリハに向け、角都は意味ありげに、低い声で告げる。

「な、にを………?」

苦悶の表情を浮かべながら、キリハはその角都の方を見た。

見れば――――角都は、口の端だけで笑みを浮かべていた。

「なにをっ!?」

サクラに向けて放たれた拳が、キリハの喉元を掴む。

そしてそのまま引っ張ろうとする。引き寄せ、心臓を取り出そうというのだ。


「くっ………」

絞められる首。だがキリハは踏ん張り、打開策を探そうとする。




このまま引き寄せられれば、死ぬ。


それを防ぐためには、どうすればいいのか。いくらかは治ったが、まだしびれが残っている。


(どうすれば、どうすれば、どうしよう………!)


焦るキリハ。助けはこない。むしろ、こちらから助けにいかなければならない程だ。

見れば、向こうからはシャボン玉が見えた。ということは、ウタカタが戦っているということだ。



(何か、打開策は…………!?)


何とかしなければならないのに、何も浮かばない。

このまま耐え続けても、ジリ貧だ。角都がその気になれば、すぐに自分は殺されてしまう。

どうすればいいのか。だが、考え続けても答えはでない。











――――そんな時、声が聞こえた。


声は然りと、キリハに問うた。











『―――忍歌・忍機』











何処かで聞いたような声に、キリハは驚く。


(これは…………もしかして…………!)











それは、何時かの暗号。

3年も前、中忍試験の際に交わした言葉。

角都には聞こえていないようなので、キリハはそれを一瞬、幻聴だと思った。

だが、己の勘は告げている。これは幻聴ではないと。


(どちらにせよ、賭けるしかない………!)


キリハは耐えるのをやめ、身体から力を抜いて、角都のされるがままに引き寄せられた。


「ふん、諦めたのか………?」


嘲る角都を無視し、キリハは暗号の内容を思い出す。


(――――大勢の敵の騒ぎは忍びよし。 静かな方に隠れ家もなし………)


「錯乱したのか………意外ともろかったな」


そういうと、角都はキリハの心臓を取り出そうと、胸元の服を破く。






信じるしか無い。他に手はない。


それに、ある種の確信がある。



懐かしいチャクラ、懐かしい音を感じる。


目の前の敵には聞こえていないようだ――――不思議だが、あの人達ならば別段不思議でもないように思える。



「さらばだ、死ね―――波風キリハ。四代目火影の息女よ」


角都の黒い触手がキリハの胸を包み、心臓を取り出そうとする。



だが、その寸前。


(忍には、時を知る事こそ大事なれ)


確信を持った、キリハは右手に力を込める。


そして、いつかの時、再会の合図として交わした暗号。

いつかの歌の、終となるの叫びに。











かつての仲間――――失われた7班、最後の一人の声が重なった。








「「敵の疲れと―――――――油断する時!」」












同時、鮮血が舞った。

キリハではなく、そう――――角都の胸元で。


「なん………だと………!?」

角都が驚愕の声を出す。

硬い角都の皮膚、岩に匹敵する背中を貫かれ、胸元から腕が突き抜けていた。

―――――雷光の鳥が、己の身体を駆け抜けたのだ。


「千鳥…………!」


かつての7班の仲間――――うちはサスケの声が、角都の背後から響いた。


「っここだっ!」


全くもって不意。胸を貫かれ、驚愕に硬直する角都。

そしてもう一人――――キリハはただひとつ、確たりと動く右手を使い、己の最も得意とする術。

信じ、用意していた螺旋丸を、角都の肩口にある仮面に向けて叩き込んだ。



「ぐあっ!?」


諦めず、凝縮されていた螺旋丸――――それは角都の心臓を貫いた。

千鳥に継いで二つ目の心臓を潰された角都は、驚愕に身を染められながらも、二人を振り払う。


「っ舐めるなあっ!」


「くっ!」


「きゃっ!」


触手の爆発に吹き飛ばされ、サスケとキリハが吹き飛ばされる。


角都は新たなる乱入者であるサスケを睨みつけ、その眼を見た後に、再び驚愕する。



「貴様、その眼は………うちはサスケか!?」


「ご名答だ、角都さんよ」


「貴様………何をしにきた………!?」


「見れば分かるだろう………仲間を助けに来ただけだが?」


肩を竦め、皮肉げにサスケは答える。

その答えを聞き、角都は訝しげにサスケを睨みつける。

(………刀が………)

そこで角都はサスケの腰元の刀に気がついた。

(鞘しかない………中身はどこに………)

一方、角都の視線の方向を悟ったサスケは、笑みすら浮かべながら刀の在処を教える。



「二度あることは三度あるという………ほら………後ろだ」


「なっ、しまっ………!?」



写輪眼を警戒し、完全にサスケの方を注視していた角都。


またも背後からの強襲か、と後方へ振り返る。


だが後方にあるものは、倒れ伏している波風キリハだけだった。


他には、何もいない。


それを認識したと同時――――うちはサスケの声がかかる。






「あ、すまん――――後ろじゃない」





同時――――空から、声が聞こえた。




角都とサスケがいる場所、その上空。




こちらも恩ある身。窮地であれば加勢に行きたいと、確たる意志を以て示した――――とある七尾の人柱力。

尾獣の力を利用すれば、空をも飛べる彼女の力を借り、舞い上がる。

そして空の上で、少女の背中から飛び降りた――――馬鹿がいた。



高度度外視、ただその刀に意志を込めて―――ナルトは剣を振り下ろす。



「我に、断てぬものなし!」




雷文により増幅された飛燕の威力。それに落下の勢いを加えた、必断の一撃が、角都の肩口にある三つ目の心臓を切り裂いた。

刀が先に当たったため、落下のエネルギーはある程度低減される。だが、その勢いは完全には殺せず、着地したナルトの足が地面に埋まる。

チャクラで強化しているため折れはしないが、それでもしびれを感じたナルト。

いつまでも近づいているのはまずいと力づくで引っこ抜き、刀をサスケに返しながら、キリハの元へ跳躍する。


「………兄さんと、サスケ君!」

二人の姿を確認したキリハが、うつ伏せに倒れながらも顔を上げ、喜びの声を上げる。

「キリハ、大丈夫か………っておい!?」

ナルトは倒れていたキリハに駆けつけ、その身体を起こした後――――突如視界に飛び込んできた白い柔肌を見て、眼を丸くした。

「………むね?」

「へ? ………きゃあっ!」

つられ、キリハも自分の胸元に視線を移動させ――――そこで、気づいた。

先程、心臓を取り出そうとした角都に服を破られたせいで、胸元が顕になってしまっていたのだ。

「み、みないでっ!」

キリハは胸元を両手で隠しながら、羞恥により顔を真っ赤に染めた。余程ショックだったのか、目尻には涙さえ浮かんでいる。

『くぁwせdrftgyふじこlp;!?』

一方、状況を理解したナルトはマダオの狂乱をBGMにしながらも頷き―――キリハに訪ねる。

「…………それ、あいつにやられたのか?」

ナルトは静かに―――だが怒りを篭めて、キリハに訪ねる。

その問いに対し、キリハは真っ赤な顔で俯きながら、首を縦に振った。

肯定との返答をナルトは、キリハを横抱きにしたまま角都に向けて叫ぶ。

「………おいそこの変質者!」

「誰が変質者だ。そんなことより………よくも、やってくれたものだ……!」

霧隠れの暗部で心臓を補充しておかなければ、今の3連撃で死んでいた。だが、残りはひとつしかない。

怒りに震える角都は、目の前の金髪の兄妹を睨みつけた。

だが兄の方は別方向にショックを受けて―――怒っていた。

「乙女の胸元のぞきこんで、“そんなことより”だと………やっぱり手馴れてるのかお前は!? あっちいけ、変態! こっちくんな変態! 触手が卑猥なんだよ!」

『コロセコロセヤツザキニシロー。コゾウカライシヲトリモドセー』

『いいから落ち着かんかお主は』

怒りのあまり言葉が支離滅裂になっておるぞ、とキューちゃんがたしなめる。

だがマダオは止まらない。このまま何かに変身しそうな勢いで起こり続けていた。

一方、変態呼ばわりされた角都も、普通に怒っていた。


「だから、誰が変態だ!」

「お前」

『お主』

『○×△!!』

「女の子の服を無理やり剥ぐとか………しかも年の差何歳?」

『変態じゃな』

『◆▼●!!』

一部未知の言語を使っている者がいるが、ナルト、キューちゃん、マダオに似た何かの間で、満場一致となり、判決が下される。


「結論でいえば、大変態のロリコン犯罪者で………ファイナルアンサー?」


へっ、と笑うナルト。

その姿に角都は更に怒りのつのらせ、叫びと共に印を組み始める――――その途中。

「………っ!?」

角都は背後から襲ってくる気配を感じ、その場を飛び退いた。

「ちっ、惜しい………!」


向こうに意識が逸れた瞬間、サスケが機ありと、不意打ちを敢行したのだ。

だが刀はわずかに及ばず、避けられてしまった。

ナルトの方は「残念…!」と悲しそうに首を振っていた。

「貴様らぁ………巫山戯るな!」

不意打ちにつぐ不意打ち。その上で変態だと言う、意味の分からない敵に対して角都は激怒していた。

かの邪智暴虐な乱入者に対し、意味不明とばかりに怒りをぶつける。

角都には乙女心が分からぬ。故に何故変態と呼ばれているのかも分からない。

戦闘時には冷静である彼だが、今この時は別のようだ。

「変態とはな………怖いぜ」

呆れたように呟くサスケに対し、また叫びそうになる角都。だが挑発に乗るのもまずいと、心を平静に保とうとする。


(駄目だ、焦るな、怒るな、落ち着け………先に弱いところを狙えば………っしまった!?」


先に仕留めなければいけない者、即ち一番弱っている者は、波風キリハだ。

だが角都が再び振り返ってみれば、そこに金髪の兄妹はすでにない。

「………救出完了だ」

「ちっ、そういうことか………!」

そう、サスケとナルト、どちらも囮で、どちらも本命だったのだ。

状況に応じて臨機応変に対処し、挑発によりこちらの目的を曇らせた二人。

本命である目的――――危地に陥っていたキリハの救出を達せたサスケは、安堵の溜息をつく。

(あっちも、間に合ったようだし大丈夫だろうが…………ん?)

近づいてくる足音に、サスケが反応する。

もう一人の7班員………春野サクラが現れたのだ。

「キリハっ、大丈夫…………って、えええ!?」

目の前に映る光景、それを見たサクラは眼を丸くした。

「あれ………キリハが、サスケ君に?」

「どんなボケだ。俺だよ、サスケだよ」

「またまたご冗談を………ってえ、本物?」

夢にまで見たサスケの姿。故に、サクラは信じられなかった。

「本物だ………久しぶりだなサクラ」

「ってええっ、本物なのっ!?」

「だから本物だと言っているだろ」

「……夢にまで見たよ~、ねえ、なんで此処に? あ、そういえばキリハは無事なの?」

「無事だ。キリハはナルトが連れてった。それで、サクラには相談があるんだが………」

「えっ、なになに!?」

期待に胸をふくらませる乙女。

そこに無粋な乱入者が割って入る。

「………俺を無視するとはいい度胸だな」

落ち着こうとしていた角都が、低い声で二人に告げる。

(おいおい、随分と末期的な声だな)

声を聞き、またあふれる殺気を感じたサスケが、その額から冷や汗を流す。

角都は、先の逃げられたという事実と、不意打ちで心臓を奪われた屈辱。そして突然コントを始めたサスケ達に対して、キレそうになっていた。

だがサクラは空気を読まないことに関して定評があることで有名だ。

角都の声を完全に無視し、視線をサスケの方に集中するのみ。


「………いや、アンタはいいから」

「………」

「それで、サスケ君、お願いってなになに!?」

「いや、やっぱり後でいい。先にこいつを倒してからだ」

サスケは顔を片手で多いながら、サクラの問いに答えた。

「うん、絶対よ! って…………あれ、ぶちって………え?」


「…………」


見れば、角都は沈黙を保ったまま俯き、肩を震わせていた。

だが空気を(ry サクラは、止めとなる一言を放った。


「………もしかして、怒ってます?」


それが、合図。

何かが複数切れる音がした後、角都は無言で指輪に触れた。


「―――――まずい!」

「え!?」


同時、二人の前で黒が爆ぜた。








[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 六十四話・後 「決戦」
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2010/04/09 23:41



消えた―――と思った次の瞬間、俺は宙に浮いていた。

飛段のとった動作は単純。地面を蹴って前進して顔を掴む、それだけだ。虚動もフェイントもくそもない、ただ実しかない、普通の動作。

だが、前の二つの動作は認識できなかった。気がつけば俺は顔面を捕まれ、宙に浮いていた。つかまれた時の衝撃が頭を襲う。

首は折れなかったが、脳が揺さぶられているみたいだ。万力のような力で締め付けられるが、それもどこか遠い世界での出来事に思えた。

そして、風切り音が聞こえる。鎌を振るうつもりだろうか。手で視界を塞がれているため、見えない。

「ワンっ!」

横から、白い巨大な犬――――赤丸だ。赤丸が、飛段目掛けてとびかかる。

「ひゃっはあ!」

奇声が聞こえた。次の瞬間、赤丸は吹き飛んだ。大の大人二人分はあろうかという巨体が、まるでボールのように宙を舞う。

「しいっ!」

逆側から呼気。誰かは知らないが、俺を助けようとしているのだろう。

顔面を掴む腕に打撃が入った。衝撃で腕が外れる。

「いてーだろうがよお!」

声の後、また吹き飛んだ。奇襲をしかけた男は、飛段の一撃を腕で防御した。していた、はずだった。防御に加え、わずかに後ろ飛んで衝撃を逃そうとしていた。
あの状況では、およそ理想的な回避行動だったはずだ。

なのに金髪の男――――シンだ。シンは、吹き飛んだ。ぼきりという音も聞こえた。
衝撃を殺した上で、腕を折られたのだ。シンはそのまま、信号ようの煙玉みたく軽々と、林の向こうへ飛んで行った。

「兄さん!」

誰かの声が聞こえる。俺は腕から逃れたものの意識がはっきりせず、地面にうつ伏せに転がっているから分からないが、何かが飛段の方に飛んでいくのは感じた。

そして飛段が何かを投げる音も聞いた。それは唸りを上げて飛んで行ったはずだ。尋常でない勢いだったのも分かる。

そのすぐ後、誰かが倒れる音が聞こえた。

(って、寝てるばあいじゃねえ!)

そこで、意識を取り戻す。

「よくも赤丸を!」

四脚の術。俺は飛段に真正面から接近し――――間合いに入る直前、側面に進路をずらす。

直後、鎌が地面に突き刺さった。あのまま進んでいれば、頭にあの一撃を受けていたことだろう。

だが鎌の一振りは神速といっていいほどに早く、足をわずかに斬られてしまった。

(こんなもん!)

だが、支障はない。俺はそのまま飛段に突進した。

「通牙!」

赤丸がいないので、これしか使えない。だが、鍛えに鍛えた獣人体術、一人でも十分に倒すには足るはずだ。

必殺の一撃が飛段の腹をえぐる。

「駄目だキバ、離れろ!」

着地した時、遠くからシカマルの声が聞こえる。どうやら完全には回復していないようで、音がぼやけている。

「ってえだろうがあ!」

衝撃。最初とは違い、反応はできた。振り上げられた蹴りの一撃、それは僅かに身体の端を掠めただけだ。

だのに俺は宙を舞った。

「ちいっ!」

宙に浮いている――――俺の、下。

シカマルの影が飛段を捉えた。だがそれも一瞬だけ、影は力任せにひきちぎられた。

いや、一瞬だけ捉えて、すぐに離したのだ。

影を振り払うべく右手を勢い良く動かした飛段、あるはずの影の抵抗を感じられず、腕を振り抜いてしまい―――バランスを崩す。

「いの!」

「了解!」

同時、いのが突進。チャクラで地面を弾きながら一気に近接し、助走のスピードそのままに怪力を叩き込む。

師である綱手やサクラほどとはいえないが、怪力は怪力。常人ならば必殺の一撃が直撃する。

「え………!?」

だが、飛段は動かない。根を張ったかのようにその場にとどまり、いのを睨みつけるだけだった。

「く………きゃっ!?」

獲物を処断すべく振り下ろされる鎌。いのはそれを側転しながら避けるが、完全には躱しきれなかったようだ。

赤が見える――――鎌が、いのの皮膚をわずかだが引き裂いたのだ。

同時、俺は地面に着地する――――脳が揺れた。


「くっ、影縫い!」


その隙を狙い、シカマルが追撃を加える。だが影の槍は飛段が無造作に払った、ただの一振りで吹き飛ばされた。

返す刀で鎌を振る。

「ぐっ!?」

わずかに身を引いたのが良かったようだ。胸を斜めに切り裂かれながらも、シカマルは後転しながら距離を離す。



「………遊びは終りだぜ………さあ、俺と一緒に最高の苦痛を感じようぜえ!?」


(あ………れ、は………?)


暗くなっていく視界の中。見えたのは、自分の身体から流れる血を使い、地面に変な方陣を書いている飛段の姿だった。









(くっ、不味い………!)

鎌を投げつけられたサイ、直接傷をつけられたキバ、シカマル、私。

全ての血を取り込み、飛段は地面に方陣を書いて―――その上に乗り、大きい針のようなものを懐から取り出した。

見れば、飛段の皮膚には特殊な呪印のようなものが浮かんでいる。

(あれが振り下ろされれば………!)

シンと赤丸を除く私たち4人は、死ぬ。

それを何とか防がなければならない。だけど、どうするか。距離は空いているし、私の怪力で殴るのもまずい。

逡巡。硬直。

そして、それを逃してくれる飛段では無かった。

針が―――足へと振り下ろされる。

「ああぁぁっ!?」

「ぐうっ!?」

「………!?」

「ぐう………!」

同時、足に激痛が走る。呪いが発動したのだ。皆の足から、血があふれ出てくる。

(…………駄目だ、私………私がなんどかしないと!)

今一番近くにいるのは私だ。キバは気絶しているし、シカマルとサイは遠い。

(迷っている暇は無い、やるしかないんだ!)

もう止まることは許されない。そう判断した私が、決意と共に走り出す。


「い……の……!」


背後からシカマルの声が聞こえる。

殴るなと言っているのだろう。それは分かる。殴れば、私達にも傷が写されるのだから。

つまり、飛段は殴れない。ならば殴れるのは――――ひとつだけだ。


「うあああああああああっ!」


鎌の間合いに入る、一歩手前。そこで立ち止まり、私は全力で跳躍する。


(出来る、出来るはず――――!)


練習中何度もためしたが、結局は一度もできなかった技。

だけど必要だ、今この時にこの技が。

(しくじれば―――みんな死ぬ。だけど、そんなことはさせない)

今までも出来なかった。失敗するかもしれない。脚だって怪我をしている。成功する確率など一割にも満たない。

(だけど、それがどうした!)

並べ立てた不利を心の中で蹴っ飛ばす。

できるできない以前に、やらなければならないのだ。ならば確率など二の次だ。

(やる、やってみせる、やってやる―――!)

失いたくない。死なせたくない。死にたくない。だって、まだあの人に何も言っていない。

私は胸中に渦巻くその想いを全て脚に載せ、血がしたたる脚を振り上げて――――地面へと叩きつけた。

これは師匠が得意とする、脚を破壊槌に見立てた必殺の踵落とし、痛天脚。

(手応えあり!)

着弾点で衝撃が膨れ上がり、破壊の波が周囲へと伝わっていく。

やがて激音と共に周囲の大地は砕かれ、粉々なる。

――――飛段の足元に敷かれた血の方陣も巻き添えにして、だ。

「クソがあ!」

あと一歩のところで陣を崩された飛段が、忌々しげに叫ぶ。

そして突進し私の前で止まり、異様な形相を浮かべたまま鎌を振り上げた。

振り下ろし、私の脳天を裂くつもりだ。躱さなければならない。その場から退かなければならない。

だけど、脚が動いてくれない。先の痛天脚の代償だろう、脚の筋肉が損傷しているようだ。

(嫌だ―――死にたくない!)

思うのと行動するのは同時だった。私は身体を前に倒し、前転、振り下ろされる鎌の内側へと入り込む。

そのまま、飛段の股の下を抜けつつ、取り出したクナイで股を斬りつける。

「このアマぁ!」



だけどそれも時間稼ぎにしかならなかった。振り返った飛段は再び鎌を振り上げる。

もう身体が動かない。ここで終りなのだろうかと、そう思った時。




飛段の振り上げた腕が、吹き飛んだ。



「…………あ?」

何か起きたか分からない。ただ、鎌を持つ腕、その周囲の空間が歪んだように見えた。

そしてその歪が、空間ごと飛段の腕を削り取ったのだ。

(いったい何が………ってこれは、シャボン玉?)

気づけば、私の身体はシャボン玉に包まれた

(これは、ウタカタの………って、みんな運ばれてる)

シャボン玉の中から周囲を見回せば、倒れている4人全てがウタカタのシャボン玉に包まれていた。そのまま、背後の森の方へと運ばれて行く。



そしてまたもう一本、飛段の腕が飛んだ。


(………っ、あれは!?)



そこでようやく存在に気づいた。

本当にいつの間にだろうか。気づけば、熟練の忍び――――上忍中の上忍が放つ独特の気配が二つ、周囲に存在していた。






「間一髪。だけど、複雑な気分だねえ」

銀髪のマスク、先の空間を歪めた忍びが、半眼になりながらためいきをついた。

「同感だ………任務じゃなければ、てめえと共闘なんざ」

心底ごめんだ、ともう一人。大刀を振り抜き、腕を斬り飛ばした忍びが、忌々しげに呟く。



「なんだぁ、てめえらは!?」

「なにって………援軍に決まってるでしょ」

「少し遅刻しちまったけどなあ」


答えると同時に二人は移動し、飛段を挟みこむ陣形を取る。

互いに十分な距離を保ちつつ、刃のような殺気を篭めた。

「例の呪術に必要な陣はもう、崩されたからな。遠慮なく行かせてもらう………しかし紅もアスマも良い生徒を持ったもんだ」

「これだから木の葉の忍びはおっかねえんだ。脚を怪我してんのに、あそこまでの破壊力……しかもあの状況で懐に飛び込むか、普通」

「………のんきに雑談してんじゃねえ! ああ!? 随分と余裕かましてんなあ!」

「腕が無いのによくそこまで吠える………ま、見たところ随分と怪我しているようだからね」

「ふん、確かに速さと力は大したもんだが………いくらなんでも、そう長く続くようなもんじゃねえのはわかってる」

「いやいや、助かったよ。流石に初見でその動きを見せられたらオレでも対処できなかったろうけど、幸か不幸か、もう見れたからね」

「………だからといって気を抜くなよ猿真似野郎」

二人と一人、周囲に殺気が充満する。

視線の動き一つでも気取られ、殺されるような緊張。下忍、中忍とは住む世界が違う、上忍特有の空間が生まれた。

「―――言われなくとも。そっちこそ、霧隠れの尻拭いっていうのもあるし、よろしく頼むよ………再不斬!」

「―――抜け忍の俺に言う事か。お前から先に殺ってもいいんだぜ、カカシよ!」

飛段を囲んで二人。

かつて波の国で相見えた二人が、現在の共通の敵に対して、その矛を向けた。
































『正攻法で角都の心臓を四つ奪うのは、至難の技だ。故に油断をつくか、怒らせて乱す』

そして敵を欺くにはまず味方から、とサスケ達はキリハ達にその存在を隠しながら、裏で動き続けていた。

思わぬ伏兵、もの言わぬ人形に足を止められたせいで、少し遅れてしまったが。

『忍者は裏の裏をつけ。生み出された間隙に、作り上げた勝機に敏となれ』

その戦訓の通りであれば、今この状況はこちらの有利にあると言えるだろう。



「でも流石にこんな状況は想定してなかったぞ………っ!」


「きゃー! きゃー!」


荒れ狂う爆炎の傍で、二人は必死に逃げ回っていた。


「怪獣だなまるで………」

サスケは巨大化した角都の姿を見ながらぼやく。

指輪から黒い塊が飛び出したかと思うと、黒い触手に融合したのだ。

そしてみるみるうちに大きく成り、巨大化した触手で襲ってくる始末。もし心臓が複数あれば、どうなっていたのだろうか。

「きっと仮面から火とか吹いてきたんだろーなー」

現実逃避しながら、遠くを見るサスケ。でもその足は止めていない。

「いやー! 黒い触手がきもーい!」

サスケは隣にいるサクラの叫びを聞きながら、さてどうしたものかと思考にふける。

結論。

「いや、これ無理………と言いたいところだけどうわっ!?」

「死ね!」

言葉と同時に放たれた槍のような触手が、サスケの頬を掠めた。

「サスケ君!?」

「いや、掠り傷だから心配ない」

すれ違いざまに一太刀喰らわせてやったし、とサスケが呟く。

「動きが止まって………? あ、元に戻った」

「手応えはあったけど、流石に図体が大きすぎるか」

雷遁を纏わせた斬撃。それを受けた角都、わずかに動きを硬直させたが、すぐに活動を再開したようだ。

サスケは執拗に繰り返される触手の攻撃を躱しながら、この相手をどう倒すか考え続ける。

(千鳥………無理だ、近寄れない。麒麟………駄目だ。雲の無い今じゃ、雷雲まで持っていけない、っと!)

頭を貫きにきた一撃を写輪眼による洞察眼で捉え、間一髪で避ける。

(色々と試してみるか!)

すれ違い様に刀を抜き、居合い抜きの要領で触手を斬りつけた。

「豪火刃」

チン、という納刀の音と共に、切り口が発火する。

「…………火、だと?!」

燃える触手を見た角都が、驚きの表情を浮かべた。

「雷だけと思ったのか? ………お生憎さま」

うちは一族がもともと得意とする系統は雷遁ではなく、火遁だ、とサスケは得意げに言う。

サスケは火遁による属性変化を雷文によって増幅、それを剣の表面に纏わせて切ったのだ。

切り口から発火した火はやがて勢いを増して、炎となった。

だが、その炎は別の触手に巻きつかれて、すぐに消されてしまった。

「やっぱり大きすぎるな………」

切り口を発火させる豪火刃、人ひとりであればそれなりの傷を負わせることはできるが、目の前の巨体が相手では意味がないようだとサスケは分析する。

(ならば、あれを使うしかないか………仕方ないけど)

胸中でひとつだけ、案を見つけたサスケ。

リスク的な意味でできれば使いたくない術なのだが、と嫌そうな顔をするが、そうも言っていられないと首を横に振る。

決めたのならば迅速に、という教えに則り、サスケは決断する。

「………サクラ!」

いつかのハンドサインを出しながら、サスケは煙玉を取り出した。

「っ了解!」

サクラも笑みを浮かべ、同じく煙玉を取り出した。どうやら忘れていないようだ、とサスケも少し笑みを浮かべた。

「一端退くぞ……!」

言葉と同時、二人は煙玉を爆発させて角都の視界塞いだ。

そして後方にいるナルトと合流するため、撤退を始めた。



「――――逃がすか!」


それを追って、角都も大きくなった自らの身体をひきずりながら、走り出した。
















サスケとサクラに角都の相手を任せ、俺は一端最後方まで戻っていた。

気絶してしまったキリハを、安全なところに預けるためだ。

服が無いのではまずいと自分が着ていた上着を被せ、横抱きにしたのだが、何故かキリハは気絶してしまった。

服をかけて横だきにした直後、顔が真っ赤になり、何事か叫んだあとにぽってりと意識を失ってしまったのだ。

『………うらやましいのう』

「ん、なんか言ったキューちゃん」

『………っなんでもない』

「………? っと、ここらへんか」

たどり着いた最後方には、網で聞いた水色の着物の人柱力・ウタカタと、木の葉の忍び達。
そして治癒に当たっている白と、多由也と―――懐かしい顔がいた。

「サイ………」

仰向けに寝転んでいる、かつての親友。
ためしに呼びかけてみたが、返事は無い。胸が上下しているため、気絶しているだけのようだ。

「再会の喜びは後にするか………白、多由也。怪我の程は?

「みなさんかなりの深手を負っていますが、命に関わるほどではありません」

「そうね………くっ、ありがとう。私も手伝うわ。シカマル、ほら起きて、足を出しなさい」

足の傷は塞がったから、といのも治療に当たる。致命傷ではないが、浅くもない傷口だ。

止血しなければ命に関わる。

「すまん………っと、キリハ?!」

シカマルが俺の方を見て、驚き、叫んだ。

「いや寝てないよ、シカマル君!」

その声に反応したキリハが、手を上げながら勢い良く身体を起こした。


「………あ」


「………え!?」


「………!?!?!?!?」







鮮血が、舞った。
































その数分後。

「ただいま~」

色々あったけど戻ってきたよ、と皆に告げる。

「遅いぞナルト」

「いや、本当にね………色々あって」

「って、その血はどうした!?」

サスケが俺の胸元にこびりついている血を見て、驚きの声を出す。

「ああ、返り血だよ。俺の血じゃない」

「後方にも敵が居たのか!?」

「敵といえば、敵かな」

偶然っていつも俺に対しては敵に回るよね、と愚痴ってみる。そして貧血に陥っているであろう、シカマルの顔を青空に浮かべた。

(無茶しやがって………)

『嫌な事件だったね………』

奈良シカマルよ、永遠に。

でもこの服のクリーニング代は後で請求するからな、と心の中で呟く。

鼻血って取れにくいし。

「それとほっぺた………それ、ビンタの後だろ」

「ああ、これはお前の嫁にやられた」

勘違いなのに、そんな趣味ないのに、と愚痴る。いや確かに白かったけど………げふんげふん。

「………嫁?」

いったい誰のことだと、サスケが首を傾げる。

「いい加減にしろふざけんなこのニブチンが!」と言いたかったが、横にいた桃色の物体から先に突っ込みが入った。

「ちょーっと待ったあ! 今の言葉は聞き捨てならないわ!」

サクラのちょっと待ったコール! 

ミス! サスケは首を傾げている!

「………いい加減、目の前の現実を見据えてくれないか?」

そこに渋い顔のイタチ兄さんが現れ、呆れた声で突っ込みを入れる。

「あ、イタチさんだ。ちわっす」

紫苑と菊夜さんをザンゲツに預けにいってもらっていたが、どうやら戻ってきたようだ。

「サスケの嫁に関する話は後で聞くが………取り敢えずは、あれだ」

イタチさんはカカシと桃地君が相手をしている、黒くどでかい物体を指差す。

「正直見なかったことにしたいんだけど………あれ、もしかして角都と飛段?」

と、角都の相手をしていたサスケに訪ねてみる。

「………気づけば、あの有様だった」

いや、どうしようも無かった、とサスケが首を振る。

「サスケを追いかけてきた角都と、飛段がな………何故か、合体した」

「合体とな!?」

なにそれ怖い、と慄く俺。ていうか合体って。

どうりで大きいはずだ。尾獣とまではいかないけど、結構なサイズになっている。

「恐らくはあいつらの中にある十尾の………欠片だろうな。それが引き寄せ合ったんだろう。あれは傍にいるもの全て喰らおうとする性質を持っているからな」

そんな暴食な、と俺は頭を抱える。

だけど十尾の在り方としては、そうあって正しいのかもしれない。

「暁の二人、どっちも驚いていたぜ。あいつらにとっても予想外の出来事だったんだろう」

「………まじですか」

聞くに、十尾の力を使ってパワーアップした二人。

「シカマル風に言うと“角”都が成って龍馬、“飛”段が成って龍王ってところかな」

それが混ざるか………厄介な。理性が無くなっていることだけが救いだろう。

あの巨体が角都の意のままに動くとしたら、勝ち目は無かっただろう。

「掲げる親玉、“玉”が玉兎からの使者だというのも笑えないねえ」

「全くだ………」

「ん、玉兎か………ならこっちは金烏で答えてみる?」

ちなみに玉兎は月、金烏は太陽の別称である。

太陽と呼ばれてもおかしくない程の威力を持つ、あの術――――この3年で積み上げてきた切り札の、二つ目だ。

切り札だけあって、リスクも高いが、生半可な術じゃあれは倒せないだろう。

「それは俺も考えていた。だが、あれは近づかなければ使えないだろう。今のあの化物の隙をつけるのか? 今はカカシと再不斬が相手をしているけど、あの触手による攻撃は想像以上に厄介だぞ」

縦横無尽に放たれる触手、確かに厄介そうだ。

「そうだな………」

大樹を穿ち、大地を削り取る威力を持つ巨大な触手。あれを掻い潜る必要があるのか。

あるいは、動きを止める必要がある。シカマルの顔が浮かんだが、影真似で抑えられそうもないように見える。

「………でも、決定打となりうる術はあれしかないな。一応、あいつに攻撃はしてみたんでしょ?」

「ああ。一通りの術は試したが、どれも効果が薄くてな。すぐに再生してしまうし、表皮も硬い。黒い塊になって目が無くなってしまったから、月読もできんしな」

と、イタチ兄さん溜息をついた。

「分かってると思うけど、天照もNGだよ。こんな森林地帯で不滅の黒い炎が延焼したりしたら、ね」

それこそ洒落にならない事態になるだろう、と首を横に振る。
近くに村があるし、もし巻き込んだら、と思うとぞっとする。
一般人を巻き込むことだけはできない。

「それは分かっている………火がついたとしても、その箇所だけを切り離されて防がれる可能性があるしな」

リスクだけが大きすぎるのでは意味がない、とイタチ兄さん溜息をつく。

溜息の多い人だ。

「………」

一方、無言で安堵の息をつくサスケであった。

「おっと、多由也と白も戻ってきたようだし………前衛できばっている二人も作戦を伝えようか」

木の葉の忍びと、シンとサイ。あの10人のおかげで、体力とチャクラは温存できている。

「案はあるのか?」

「対角都用の戦術はあって………その延長上だね。一応、あるにはある」

そうして、俺は皆に作戦について説明する。

「ぶっつけ本番で、それだけの連携が?」

「肝心なところは………ほら、写輪眼があるから何とかなると思う」

後は勇気とか気合でカバーするしかない、と言う。

あれだけの気合を見せてくれた先発、木の葉の忍びの意気に応えて見たいという気持ちもある。

「そうだな………負けていられねえ」

「私も、サスケ君と一緒ならやれると思う」

「………」

「何故睨む多由也!?」

「知らん。勝手にしろ」

揉める三角関係。そこに、白が突っ込んだ。

「……痴話喧嘩は後にしてくれませんか? 再不斬さんが頑張ってますので早くして下さい」

と、白が明るく、だが妙に通る声で3人に告げた。

「「「すみません」」

謝る3人。
こちらから白の顔は見えないが、見える位置にいる3人は震えているようだ。

きっと眼だけは笑っていないのだろう。

「では始めましょうか………ナルトさん?」

「了解………多由也、まずはあの二人に作戦内容と役割についての伝心を」

「分かった」

頷くと多由也が笛を吹く。
音遠投写の術を使い、前衛のカカシ、再不斬の二人に作戦の内容を告げるのだ。

二人は触手による攻撃を捌きながら、「OK」の合図をこちらに返す。

「白は?」

「いつでも」

「サクラは?」

「色々と聞きたいことがあるけど、サスケ君とあんた、カカシ先生がいるんなら問題はないでしょう。追求は後でするけどね」

白と再不斬の方を見ながら、サクラが複雑そうな表情を浮かべるが、一応は頷いた。

「イタチ兄さん?」

「既に準備はできている」

「サスケ?」

「笛の音があれば、問題はない――――やってやるさ」


皆の確認を取り、俺は柏手をうつ。

パン、という乾いた音で場を引き締めた。


「OKだ。ちょっとした邪神退治だけど、いっちょやってみようか――――多由也!」




「了解!」

指示に頷き、多由也が笛を吹く。

ここにいる全員の間に、流れるように綺麗で、かつ清廉とした旋律が届いた。

秘術・五音。対象の五感を高める術。チャクラの流れも高められるし、術の効力も強まる。


同時に、前衛の二人がこちらに後退してくる。もちろん敵も追いすがってくるが、問題はない。

「初手は頼むぞ、うちは兄弟!」

「了解した」

「やってやるぜ………!」

二人は下がってくる前衛とスイッチし、前方に出ながら印を組む。

結の印は虎。


「「火遁・豪火球の術!」」


兄弟二人の豪火球が合わさる。大きな豪火球は、突進してくる化物を包み込んだ。


「ヲヲヲヲヲヲ!?」


巨大な火球に化物がたじろいだ。


「白、サクラ!」

「了解しました―――サクラさん!」


白の血継限界である氷遁により、サクラの眼前に巨大な氷塊が生み出される。

そしてサスケとイタチが後方に退いたと同時、サクラが眼前のそれを殴りつける。


「どっせえい!」

圧縮された氷が怪力によって砕かれながらも打ち出される。

勢い良く打ち出された氷の散弾が、化物の各所を打ち貫いた。

「まだまだ行くわよ!」

腰を落として、正拳を打つサクラ。見た目どうかと思うが、今は黙っておこう。

しかし威力はまずまずで、氷の散弾は化物の表皮を撃ち貫けているようだ。

即席の術だけど大したものだ。

名付けるならば、“氷遁・桜花鏡咲”といったところだろうか。


「言ってる場合か、続いて行くぞ―――!」

「写輪眼!」


再不斬が忍具口寄せ、巻物を使い、大量の水を口寄せる。

即席の池ができたその上、再不斬はカカシと一緒に水の上に立ち、因縁のあの術の印を組みながら、放つ。


「「水遁・大瀑布の術!」」


巨大な水の竜巻が化物を飲み込む。

ダメージは与えられていないようだが、動きは封じ込められたようだ。


―――それでいい。これは目くらましにすぎないのだから。


「白!」


「はい――――行きます!」


打ち出された氷、大瀑布によって周囲に満たされた水を使い、白が化物の周囲に氷の鏡を作り出す。


秘術・魔鏡氷晶。遠方に設置した氷の鏡へ移動する術だ。今や上忍クラスの白が使えば、神如き速さでの移動が可能となる。

相手が人間であればこのまま千本による攻撃で串刺しにするのだが、化物相手では通じないだろう。


だけど、他の事ができる。



「ギギギィ!?」


最早人ならぬ声となっている化物、その驚愕の声が当たり一面に鳴り響く。


白がやったことは簡単なことで、鏡による移動を利用し、幾重にも束ねた鋼糸を化物に巻きつけたのだ。

鋼糸の先端には錘がある。

「―――完了です!」

鋼糸を全て巻きつけた白が先端の錘を掴み、こちらに投げる。

同時、化物が触手を四方八方に展開した。


「うあっ!?」

まず近くにいた白が吹き飛ばされた。周囲の硬質な鏡諸共、宙に吹き飛ばされる。

「白―――くそっ!」

「うあっち!?」

「危ない!」

「やられるか!」

「うおい!?」

そして同時に、こちらにも触手を放ってくる。

錘も触手に巻き込まれ、宙に放り出された。


「くっ!」

予想外の事態。だけど、まだまだ修正は可能だ。

俺は錘に向かいマーキング付きのクナイを投げつけて、飛雷神の術を使う。

そして錘を拾い、地面に着地して一歩後方に退く。

イタチ兄さん、カカシ、サスケの写輪眼組みは写輪眼で錘の軌道を予測し、鋼糸付きのクナイを投げつけた後、手元に引き寄せた。

操風車三の太刀の応用だろうか。しかし何だこのチート共は。

『――――全員拾えたぞ、今だ!』

多由也による合図。

くしくも四方に散らばれた俺、サスケ、イタチ兄さん、カカシが印を組む。

カカシは俺、イタチ兄さんがサスケの術をコピー。


3人の写輪眼が回転し、結の印が同時に結ばれる。



「「「「雷遁・雷華の術!」」」」


四人同時に雷華の術を放つ。四方から雷の火花が散り、鋼糸を伝って化物へと届く。

大瀑布によって水に濡れている化物は全身を感電させられて、その場に硬直する。


「サスケ!」

「応!」


カカシ、イタチ兄さんが雷華の術を持続させて動きを止めている間、俺とサスケは一端後方に退いた。


止めとなる術を使うためだ。

まずはキューちゃんを口寄せする。

「ようやくじゃな………行くぞ、狐火!」

キューちゃんの周りに炎が荒れ狂う。

「螺旋丸………!」

俺はその炎を螺旋丸で取り込む。

「こっちも行くぞ!」

サスケが全力でチャクラを練り込み、写輪眼に集中。

姿写し、心写しの法を使い、螺旋丸を使っている俺の動き、チャクラに同調する。


「「あああああああっ!」」


炎は風に煽られてその勢いを強くする。

俺は風の性質変化で螺旋丸の密度と風のチャクラを高める。

サスケはその風の上に火の性質変化を重ね、更なる豪炎を発生させる。







「行ける…………っ!?」







だが、そこで俺は致命的な光景を目にすることになる。




「仮面が………!?」



見れば化物の表皮に角都の仮面が浮かび上がっている。



そして、その口には水の塊が見えた。


「水の砲弾………!?」


あれを受ければ吹き飛ばされてしまうだろう。


それはまずい。この螺旋丸が暴発してしまう。一度爆発すれば、俺もサスケも焼き尽くされて骨も残るまい。


だが、どうすればいいと考える暇もなく、水の砲弾が俺達に向けて放たれた。



「サスケ君、ナルト!?」



サクラの絶叫が響く。


水の砲弾が直撃する。













煉獄の炎は解き放たれ、当たり一面地獄絵図となるはずだった。























だけど、勝機はこちらにあるようだ。















俺達に飛んできた水の砲弾、それは氷の壁によって防がれていた。

「堅牢氷壁………!」

視界の端に、吹き飛ばされた白の姿が見えた。


先の触手による一撃でダメージを負ったのだろう、頭から血を流しているようだ。

だけど状況を判断し、やるべきことをやった白。ばたりと倒れ、地面に伏せた。気絶したようだ。




「ヲヲヲヲヲヲヲヲン!」


雷撃の範囲から逃れている触手が数本、こちらを襲ってくる。



今度こそ仕留めるつもりだったのだろう。

「させるかよ!」

「しゃーんなろ!」


だがそれは再不斬の首斬り包丁と、サクラの投げた巨大な岩によって防がれた。

イタチとカカシは変わらず、雷華の術を浴びせて化物の動きを止めて続けている。


思えば、奇妙な縁だと思う。

かつては殺しあった6人が、時を経てこの場所に集り、助け合っている。


背後では応援の旋律が流れていた。





そうして、場は整った。


よって今ここに、術が完成する。








「――――光り射す世界に」


高めに高められた炎の奔流が螺旋の中で荒れ狂う。

一人では有り得ない熱量が、その中に閉じ込められている。

風によって炎が高められ、生まれた熱風をも利用して更なる高温へと登りつめて行く。






「汝ら暗黒―――――住まう場所無し!」








叫び、突進する。

迎撃は無い。全員の尽力により、万難は排された。

故に、あとはこれをぶつけるだけだ。



「「乾かず、飢えず、無に還れ!」」





叫びとともに、俺とサスケは切り札のひとつ――――“火遁・劫火螺旋球”を放つ。



火の性質変化を加えられた螺旋丸だ。


高めに高められた膨大な熱量を持って対象を焼き尽く術。

螺旋の太陽を対象にぶつけて内部で解き放つ、いわば必殺技と言えるものだ。



だけど、ジャシン教を信じる者、不老の化物と混ざった上神話の怪物となった化物を屠る術だから――――今だけはこう呼ぼうか。












「「レムリア・インパクト!!」」






















同時、抉りこまれた火球が内部で破裂して―――――化物は太陽の如き炎に包まれた。























































あとがき

カオスの一言でした。

ちなみにレムールとはキツネザルのことだそうな。台詞はチョウジさんの中の人に借りました。
ロリババアかつ魔獣の咆哮、キューちゃんが「昇華!」と叫んだかは定かではありません。

ちなみに角都の術名がモビルスーツと一緒なのは原作と同じです。
偽暗(ギャン)、圧害(アッガイ)、頭刻苦(ズゴック)、地怨虞(ジオング)は原作で使われた術だそうな。
裂苦連露(ザクレロ)と飛狗惨武(ビグ・ザム)に関してはオリ術ですが。
やり過ぎた感はあるけど作者はザクレロとドズル閣下好きなので後悔はしていない。
でもジオン一色だな………それがいいんだけど。




[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 六十五話 「犠牲」
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2010/04/11 22:16






「木の葉への連絡は完了した」

「ありがとう。これでひとまずは落ち着ける」

「他の者は?」

「今は町の病院で治療中だ………しかし、長かった」

激戦が終わった後、俺達は負傷者の応急処置をしながら、網の本部へと向かった。

本部にある連絡用の鳩を使い、木の葉側に連絡をするためだ。

飛雷神の術を使ってもよかったのだが、ここから木の葉までの距離を往復するのはとても疲れる。
何より火遁・劫火螺旋球の後遺症か、右手が少し痛いし、チャクラも回復しきっていない。
くそ、手は料理人の命だっつーのに。

「それより、本当に倒せたのか? 報告によると、丘のような巨大な化物が急に現れたとのことだが」

「………まあ、もう襲ってこないとだけ言っておこうか」

そう考えれば、倒したと言えなくもない。

ザンゲツは俺の遠回しな物言いに対し何事か感じ取ったようだが、追求はしてこなかった。

「そういえばお前、シンとサイには会ったのか?」

「いや、さっき会おうとしたんだけど………結構酷い怪我でな」

今は治療中で、この後に会う、と返す。

シンは両腕を折られ、サイは胸から肩口にかけて斬り裂かれたらしい。
治療はいのとサクラ、白が当たっている。

俺も、この報告が終われば本格的な治療を受けるつもりだ。

「まあともかく………無事に会えて良かったよ」

「先代から話には聞いていたが………まさか、あの二人がお前の友達とはな」

「おかしいか?」

「おかしいね。お前例の事件以降、誰ともかかわり合いになろうとしなかったじゃないか。先代が死んだあの事件でも、私たちからは一定の距離を置いていた」

「………それに関しては否定しない」

「自覚しているのか分からないが、お前は私の、ひいては網の恩人なんだ。だから幹部待遇で誘ったのに――――」

ザンゲツ――――紅音はそこまで言うと、「いや、よそう」と呟き、首を横に振った。

「そうしてくれ。まあ、シンとサイはあの事件の中で出会ったんだけどな」

「そうらしいな………それで、これからどうするつもりだ?」

「ああ、それは――――」

色々と今後の方針について話す。

すると、ザンゲツは意外そうに呟いた。


「あの二人を霧隠れの方に戻すと?」

「火影殿の意志でね。ほら、霧隠れの追い忍が殺されたから、その代わりとしてウタカタを霧隠れに送るんだ」

「………正気か? あの二人は霧の抜け忍だろう。確か先代水影………四代目水影の暗殺を謀り、失敗した後に里を抜けたと聞くが」

「ちょっとね。そのあたりは複雑な事情があるんだ」

表向きはそうなっている。水影暗殺を企んだのも事実といえば事実だ。だが、内実は少し違う。

再不斬は“傀儡となっていた四代目水影”を暗殺しようとしたのだ。

うちはマダラの妨害により失敗したが、その事件が起きた時、水影ひいてはマダラの存在に感づいた者がいたのではないだろうか。

事件の後、ほどなくして水影の代替りが行われていることから、その可能性は高いと思われる。
切っ掛けとなった、再不斬の行動――――それが霧の上層部に取って、どう考えられているかによるが。

「深くは言えないけど、これは必要な処置なんだ――――今は水影、いや霧隠れの説得が最優先でね」

「………五影会談か。しかし、逆効果となる可能性もあるぞ」

「いや、それは無い。今回の角都と飛段を討ち取った功績をあの二人のものとするからね。それを手土産にすればいいんだ、あの二人は里に戻れるだろう」

SかSSランクの任務をこなし、かつ霧隠れの忍び達の仇を討ったという功績。

一時抜けた里だが、裏でも表向きでも戻れるに足る功績と事情がある。
戦力も欲しいだろうし、裏切りの可能性が無いと分かれば拒む理由もない。

あの二人も承諾した。鬼鮫の首は取れなかったが、暁二人を倒したのだ。大名暗殺犯の捕縛と同程度の価値があるだろう。

「しかし功績をあの二人に渡す、というのは木の葉側の忍び達が承知せんだろう。幸い死者は出なかったようが、中々に苦しい戦闘だったと聞くが」

「そこは火影の意志だから、木の葉の忍び―――カカシ、キリハ達は納得すると思うよ」

下手すれば、いや下手しなくても戦争が起こるこの状況、防ぐためには霧隠れとの相互理解が絶対に必要となる。何が必要かが分からないほど暗愚でもない。

「………成程。それに、最近の霧隠れの里は他里との交流を促進したいと考えているらしいからな」

「悪名高い風習そのほか、全て先代の暴走のよるものだったんだろう………血霧の里のイメージを引きずりたくないんだろうなあ」

今代の水影は2種の血継限界持ちらしいから、過去の因縁はほぼ断ち切られていると考えて良いだろう。

そして血霧の里のイメージを消し去るには、他里との交流を復活すれば良いことだ。

「そうか、橋渡しする人物に足る。成程、適任だな」

砂隠れの風影、つまりは我愛羅を守る任務にも従事していたあの二人だ。橋渡しするに十分な人材と言える。

あの二人がいなくなること、考えると少し寂しいが――――という言葉は飲み込んだ。
女の前で弱音を吐くのは趣味じゃない。

『ほう………つまり我は女ではないというのか?』

(いや、キューちゃんは特別だから)

特に問題は無いと言うと、キューちゃんが息を飲む音が聞こえた。

『………お主、自分の言葉を理解しているのか?』

(へ?)

『………もう、いい』

『いいの?』

『いい!』

何故か怒るキューちゃん。
気を取り直して俺はザンゲツとの会話を再開する。

「ふむ、全て承知の上か………いいだろう。私からも口添えはしておく」

「ありがたい。あと、借りたい場所があるんだが」

前おいて場所を告げると、ザンゲツは訝しげに訪ねてきた。

「一日だけなら構わんが………何故にその場所を?」

「紫苑の治療に必要なんだ。何なら紅音――――いや、今はザンゲツか。ザンゲツも来るといい。きっといいものが見れる」

「………悪戯を企む笑みだな。ふむ、ひとまずはその件、了解しておくが………期待は出来るんだろうな?」

難しい言葉を混ぜながらも、挑発的に笑う紅音。その笑顔は、無鉄砲だった昔のままだった。

「うちの自慢の居候が提供する一大イベントも兼ねているからな………見ないと絶対に後悔するぜ」

「成程、楽しみにしておこう」
















「ういっす。もう治療は済んだか?」

「あ、ナルトさん。はい、二人の治療は済みました。流石に骨折はすぐに直せないですが」

「いや、十分だよ」

「はい………あの、本当に良かったんですか?」

「ん、功績と霧隠れに戻る件のことか………いいと言うか、それが最善の選択だからね。俺だけの意志でもないし」

「でも、口添えはしてくれたんでしょう?」

「………それは、まあ」

「それなら、是非言わせて下さい………ありがとうございました」

俺は花咲くような笑みを浮かべながら礼を言う白に一瞬だけ見惚れた。
いや、いい笑顔で笑うようになったもんだ。

「最後まで一緒に戦えないのが心残りですが………」

「いや、戦うさ。そっちは霧隠れの内部で、こっちは対十尾に向けて………最終的に目指す所は一緒だから」

戦争をおこさせない、あの化物を止めるという目的に関しては同じだ。

「………目的を同じとする同志、というわけですね」

「そっちは霧隠れを優先する状況が増えるだろうけど………まあ、これで丸く収まるさ。
 それに帰るべき場所に帰れるんだ――――これ程嬉しいことは無いだろう」

「――――はい。ですがナルト………いや、メンマさんは何処に帰るんですか?」

その問い、返答するのに一瞬だけ言葉につまった。

が、俺は初志を貫徹するのみだ。

「こっちは根無し草の風来坊だからねえ………夢に向かってあちこちに流れるさ」

全部終わった後でね。


そう残し、俺はシンとサイが居る部屋へと向かった。






「おお!!」

「ナルト!」

「おひさ~」

実に8年ぶりの再会………いや、変わってないな特に兄の方。

お~心の友よ~、と言いあいながら抱き合いたかったが、両腕を骨折しているので自重した。

『ってそれたけしじゃん………』

そういえばあの兵法家じみた子供、どうしているだろうか。

「本当に久しぶりだな………まあ、噂には聞いていたけどよ」

「でも噂だけで、実際にはあえなかったけどね」

苦笑する兄弟。

調子を少し落とし、聞きたかったことを口に出した。

「それで………紫苑は今どうしているんだ?」

「隠れ家から連れてきた。今はここにいる………ああ、来たようだ」

同時、入り口の扉が開いた。

そこには、菊夜に連れられた紫苑の姿があった。二人が駆け寄る。

「紫苑!」

「おお、その声は!」

紫苑は耳に入ってきた声を聞き、喜びの顔を浮かべ―――


「………誰だったかの?」


―――首を傾げる。


シンが盛大にずっこけた。

「感動の再会なのにこんな仕打ち!? 俺だよ、シンだよ!」

「まあ、シンだし」

「まあ、兄さんだしね」

「まあ、シン君ですし」

致し方無しと頷く3人。

「つーか菊夜さんまで!?」

打ちひしがれるシンの声が部屋に響いた。

「ふふ、冗談じゃ………久しぶりだの」

このやり取りも懐かしい、と紫苑が笑みを浮かべた。

「そもそもお前のような人間を忘れられるはずが無いだろう」

「え、それはどういった方向で……いや、言わないで下さい」

「うむ、お主の想像に任せよう………しかし、怪我をしたと聞いたが大丈夫なのか?」

「ああ、治療は受けたからね。完治とまではいかないけど、一ヶ月もすれば治るよ」

「いやしかし、あのくのいち綺麗だった………白ちゃんだっけか。なあナルト、あの娘に告白したいんだけど、手伝ってくれないか?」

「どうしてもというのなら手伝ってもいいけど………ただし、真っ二つだぞ?」

夫の首切包丁が黙っちゃいねー、と言ってやるとシンは顔を青ざめさせた。

「あ、じゃあいいです」

「ふむ、久しぶりの再会だというのに、別の女の話をするとはの………相変わらずデリカシーのないやつじゃ」

「あ、そういえば噂で聞いたような。なんでも網のとある部署に、告白戦線50連敗した金髪の猛者がいるって」

「全て真実です」

「うん、駄目駄目ですねえ」

「………」

本格的に落ち込んだシンを放置し、俺達は話を続ける。
言うべきことは一つ、紫苑の治療についてだ。

「え、光ヶ池でするの?」

「ああ」

ザンゲツの許可は取っていること、治療の内訳について説明をすると、成程と二人は頷いた。

「他には誰が参加するの?」

「主催は多由也で―――他は俺、うちは兄弟、白、ももっち、フウ、ウタカタ、ホタルにザンゲツ、あとはこの面々と」

「木の葉の忍びは?」

「すぐに里に帰るらしい。里に所属する忍びがここ、網本部に長居するのは………危険だしな」

里に所属する忍びに対し、恨みをもつ者は少なくない。今回の木の葉側からの無理な要請もある。

事情についてを公表できない以上、全員の理解を得るのは不可能だ。

『………一部で暴走する者が出てもおかしくないしの』

『ん、耳が痛いね』

というものの、別に何処か………木の葉に限った話でもない。
皆の考えが同じではないのは人の常だからして、派閥も生まれようもの。

「可能性ある以上、予防は必要だからね」

サイとシンも頷いた。どこにでも“やらかす”人間がいるということ、網に所属している二人ならばよく知っているだろう。
ここが網の本部でなければ、また違った選択肢もとれるのだが。

「うん、複雑だけどそうするのが懸命だろうね………っと、そういえば他の木の葉の忍びは?」

「今は感動の再会ってところか。話があるから俺も今から行くけど………」

「妾はここにおるぞ」

「私も、木の葉の忍びと会うのは少し………」

あの事件と、イタチの境遇についてを知っている二人だ。

良い印象は持っていないのだろう。

(………そうだよな。少し無神経だったか)

俺は二人にごめん、と残して、俺はシンだけを連れてキリハ達がいる病室に向かった。









少し離れた病室。

そこでは、かつての7班が揃っていた。

「久しぶりだな、キリハ」

ベッドに横たわっているキリハに対し、サスケが言った。

「サスケ君………うん、久しぶり」

戦闘中はじっくり話はできなかったけど、とキリハは苦笑しながら返す。

「それにしてもサスケ君………何か、変わったわ」

隣にいるサクラがサスケの顔をまじまじと見ながら、言う。

「お前の兄の―――“おかげ”というべきか、“せい”というべきか」

どちらなのかは悩むところだがな、とサスケは苦笑する。

「腕も、上げたようだしね………師匠は誰が?」

「全体の方針を決めたのはマダオ師だ」

「マダオ師?」

「ああ、ほら、えっと…………なんだっけか…………………………………………そうだ、四代目火影だ!」

ようやく思い出せた、とサスケが額の汗をぬぐう。

「………え、なんでマダオ?」

本名は波風ミナトでしょ、とカカシが突っ込む。

「そういえば何でマダオと………言いやすいから使ってたけど」

マダオの意味とはなんだろうと、首を傾げて悩むサスケであった。

「まあいいか。しかし先生の修行を受けたとはね………かな~り、厳しかったでしょ」

と、カカシは目を細めて笑った。

「………ふつーの笑顔で、鬼のような修行内容を告げてきたな」

極めて合理的だったけど、と言いながらも、サスケは厳しい修行を思い出したせいか、遠い目をする。

「あの笑顔はなあ………」

昔を思い出したカカシも、遠い目になる。

「そうなるとカカシ先生とサスケ君………兄弟弟子になるんだね」

「………」


「こらこら無言で落ち込まない。何でそんな顔するかな」


「あの雨の日、ずぶ濡れになりながら待ち続けた4時間………」

写輪眼が回りだすサスケ。右手ではチチチチと鳥が鳴いていた。

「あ、私も思い出したら………何故かチャクラが吹き上がってくるよ………?」

と、腕を振り出すサクラ。

「そうだよね、あれは無いよねほんとに………」

と、掌をかざすキリハ。


「………」

今度はカカシが無言になる。額からは冷や汗が出ていた。


「ま、まあそれは置いて! その腰の刀ってかなりの業物だなあ!」

ははは、とカカシが話の方向を転換した。命の危険を感じたようだ。

「ああ、これか。これはキリハの………その耳飾りと一緒に用立てたらしい」

「そうなんだ………」

風が封じ込められたという耳飾りを触りながら、キリハは嬉しそうに頷いた。

「そういえばキリハ、あんたその耳飾りが無かったら、どうなっていたか分からないわよ」

あの時、キリハは反射的に弱いながらも風を生み出し、わずかに雷遁の軌道を変えたのだった。
あれが無ければ直撃し、神経諸共焼かれていたかもしれないと治療にあたったサクラが説明をする。

「シカマルも本望だろうよ………その耳飾りが役割を果たせて」

「………え?」

どういうこと、とキリハがサスケにたずねる。

「いや、どういうことも何も………その耳飾りはシカマルからの依頼でナルトが用意したものだぞ。知らなかったのか?」

「えええ!? だってシカマル君、“これはお前の兄貴から”だって言って………!」

キリハの言葉を聞いたサスケが、サクラとアイコンタクト。

(どういうことだ?)

(かくがくしかじかしゃーんなろ)

(シカマル………無茶しやがって)

あまりのシカマルの男っぷりに、サスケをもってしても泣かざるをえない。
さぞそれを聞かされた時のキリハは綺麗な笑みを浮かべていたんだろう。今更撤回はできないということか。

「キリハ………確かに用意したのはナルトだが、依頼したのはシカマルだ……いわば二人からの贈り物となる」

「そうなんだ………」

と、キリハは耳飾りを触りながら、なぜだか顔を赤くした。
何かを思い出したらしい。

「………そういえばあの時、後方でなにかあったと聞いたが」

割と空気の読めないサスケが、すかさず突っ込む。
すると、キリハの顔が真っ赤になった。

「う、ううん、何もないよ何もなかったから!」

「いや、しかしシカマルが出血多量だと………」

「何もない!」

叫んだあと、キリハは布団にくるまり顔を隠した。

(………いったい何が?)

(かくがくしかじか私の拳で記憶を失えー)

(………ふむ、あの鮮血の裏にはそんな事情が)

確かに嫌な事件だ、とサスケは目を伏せた。

(でも、俺も少しだけど見えたんだよなあの時………と、これは黙っておこう。何故かカカシから殺気が出てるし)

口は災いのもとだ。赤毛の同居人で積んだ経験値を活かし、サスケは沈黙を金とした。

「そういえばあの赤毛の………中忍試験で会ったよね、音の忍びだったっけ? 多由也って娘はなんでサスケ君と一緒にいたのかな」

サクラは何でもないように取り繕いながら、ライバルになりそうな人物の詳細を訪ねる。
目は光っていたが。

「ああ、木の葉崩しの少し後にな。大蛇丸に施されていた洗脳が解けて………その後、音を抜けようとしたところを、ナルトが助けたんだ」

「サスケ君とはどういう関係?」

「………どういう関係と言われてもな。まあ、その………なんだ」

サスケは視線を少し上げ、頬をぽりぽりと掻いた。

答えに詰まっているようだ。



そこに部屋の表で待っているはずの多由也が現れた。


「おいサスケ、今から話しをするらしいから皆集まれって………な、何だよ」

何でじろじろが見るんだよ、と多由也がたじろぎながら言った。


「じ~」

「何だピンク野郎。ウチに文句でもあるのか」

「………あるといえばあるわね」

サクラは視線を多由也の胸に集中させながら、言う。

「ど、何処見てやがる!?」

「………モイデモイイ?」

「何を言ってやがる!?」

「そういえば白ちゃんと多由也ちゃんと………キューちゃんは、前に温泉で一緒になったよねー」

とても大きかったよ、と復活したキリハが昔あった出来事を思い出し、言う。

キリハの言葉、その一部分に対し、サクラは激しく反応する。

「温泉………ということは婚前旅行!? サスケ君と婚前旅行なの!? ていうか何で鼻を抑えてるのサスケ君!?」

見ればサスケは顔を真っ赤にしながら、鼻を抑えていた。

「……ってめえ、もしかしてあの時の声を聞いてやがったのか!?」

同じく多由也も顔を真っ赤にし、胸を抑えながらサスケに詰め寄った。

「い、いや………っておい、さり気なく逃げんな! 助けろカカシ!」

「いやー、先生ちょっと自分を見つめ直す旅に出てくるよ」

人生に迷っちゃったから、と背中を煤けさせるカカシ上忍。彼女いない歴=年齢の三十路は「探さないで下さい」とだけ言い残し、部屋を出て行った。

「サスケ君!?」

「サスケ!」

「い、いやちょっとま………」

混沌とする病室。

そこに、新たなる乱入者が参上した。


「何を騒いでるんだー」

「サスケ、話しがあるんだが………」

ナルトとイタチ。

「おいっす! 元気ですか………ってあ、君は!」

そしてシン。彼は多由也を指差し、驚いた。

「な、なんだよ金髪ヤロー」

「君は巷で噂の赤髪美少女!」

「………巷、噂、美少女?」

誰のことだ、と多由也が訝しげにシンの方を見る。

「いや、ね。網の花火職人の間で一時期噂になってたんだよ。すげー可愛い着物美少女二人組が、辺境の村の祭りに現れたって」

そういえば写真も出まわってたなあ、とシンが言うと、サスケが顔色を蒼くした。

「赤髪と………黒髪だと?」

「うん。あとはヤクザとお嬢がいてね………ってこれはまた別だったか」

そこでサスケは悟る――――黒髪、しかし白ではない。

ということは、あの時の光景が―――女装させられていた時のあれが、写真に撮られていたのだと。

「そしてその写真はここにあります」

話しを聞かせてもらったからには仕方ないと、ナルトが写真を取り出す。

「ちょ、おま」

神速の挙動で写真を奪い取るサスケ。

「しまったうばわれたー………なんてね!」

備えあれば憂いなしぃ! とナルトは予備の写真を取り出して、皆に渡す。

「号外~、号外~」

一人一枚、写真が行き届き――――多由也とナルトを除く皆の視線がサスケに集中する。


「「サスケ君………」」
元班員の二人は何故か顔を赤らめていた。
これはこれで………と呟く木の葉の忍びの明日はどっちだ。

「まさかそんな趣味が………」
しかしこの赤髪のねーちゃんは良い乳してんなあ、とシンが呟きながら、多由也の方を見た。
間もなく「このクソねずみが!」とぶっ飛ばされたのだが。


「サスケ………」
イタチさんはサスケと写真を見比べながら、凄い悲しそうな表情を浮かべた。しかし母さんに似ているな、と呟るあたり、心中かなり複雑なようだ。




「サスケェ…………」


「って、お前が全部仕組んだんだろうが!」


鞘付き雷文でぶんぶんとナルトに殴りかかるサスケ。

「はっはっは」

それを笑いながら躱すナルトであった。


「おい………おまえら何をやっている?」



そこに、鬼人が現れた。


鬼人のコマンド

⇒どつく。

斬る。

説得する。

逃げる。


「招集かけたのに………遅刻するんじゃねえ!」


意外と時間に厳しい桃地さん、繰り出した拳骨は二つ。

ナルトとサスケの二人は避けることができなかった。









「で、だ。いい加減真面目にやるぞ………」

「「はい……」」

待たされた再不斬、額に青筋を浮かべながら低い声で元凶の二人に一喝する。

二人の頭にはたんこぶが浮かんでいた。

今この場には全ての事情を知らされた者たち………メンマチームとカカシ、イタチが揃っていた。

シカマルは怪我でこれないため、欠席だ。

「今までの状況は整理したな?」

「ああ………しかし、十尾か」

俄には信じがたいな、とカカシが呟く。

「その時代から何百年、あるいはそれ以上の時間が経っているしな………千手の方にも、正確な口伝は残っていないと聞いた」

初代火影、仙人の肉体を正しく受け継いた彼だけが一端を理解し、対処する手を打てたのだろう。

「証拠はあの化物と、動き回る死体人形達だけだ。あんな芸当をやれるのは一人しかいない」

「六道仙人、か………それに、あの化物の力は確かに桁外れだったね」

「うちはマダラも殺されました。誰より強い瞳力を持っているでしょう」

「………そうか」

カカシが――――イタチを見ながら、複雑な表情を浮かべる。

写輪眼………カカシにとっても深い関係のある眼。その一連の事件について、木の葉の忍びでもあるカカシはどう思っているのだろうか。
色々と二人で過去の話や木の葉上層部などを話しあったらしいが、その内容についてはナルトも知らなかった。


「しかし、うちはマダラ――――無限月読か。先生はどう思われますか?」

カカシにしては珍しい敬語を使い、かつての師に可能かどうかを訪ねる。

「確かに、十尾から生み出されるチャクラがあれば可能かもしれない。だけど救われる人は限られるし―――」

と、マダオは紫苑が居る部屋の方をちらりと見る。

「所詮は夢の事。人間ならば夢だけでなく現実を見据えなきゃね」

死人の僕が言うのもなんだけど、とマダオが苦笑する。



「争いのない世界。確かに理想郷――――ユートピアと言えるかもね。でも、そんなのに意味は―――」


その時、4人の額から青筋が浮かぶ。ぶちりと言う音と一緒に。


「………あの、ちょっと、先生? サスケも、何でそんなに怖い顔を。それに今の音は………?」



無表情で「NGワード、NGワード」を連呼するナルト、サスケ、マダオ、再不斬。

トラウマを持つ4人が身を踊らせてカカシに殴りかかった。


「ちょ、ちょっと待ってアッ―――!?」


カカシの断末魔が部屋の中に響き渡る。


「嫌な事件でしたね………」

白が鎮痛な面持ちで呟く。

ちなみに多由也は白の横で顔を真っ赤にしながらうつむいていた。


ちなみにイタチは突然の展開に驚き、固まっていた。
















「カカシは犠牲になったのじゃ………あの事件のな」



キューちゃんのしみじみとした声が、大気を虚しく震わせた。






























あとがき

どギャク回。でもイタチ兄さんは崩せねえな………!

キーワードは“びっくりするほどユートピア”。(閑話の2参照)



[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 六十六話・前 「宴の前」
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2010/04/17 23:07

いつもの工程。

いつもの味。

だけど機会は一度なれば、手を抜くなど有り得ない。

屋台という形式上、また全国各地を点々としている俺の店の客は、一見さんが多くなる。

だから常に客とのやり取りは一期一会。いやさ一期一麺。


注文を受け、麺を湯掻き、チャーシューを切って――――スープの中で踊らせる。

その全てが主役で、その全てが脇役だ。ラーメンという名の元に集った同志たちは、客の舌に鼓を打たせるという目的のもと一丸となるもの。


ラーメンを部隊とするならば、指揮官は俺だ。そして敵は客。

それは初見の忍びと対峙するに似た危うさを持っており、時に上忍との戦闘よりも困難な戦いとなる。

「不味い」というひとことがでようものなら、俺の心は粉々に砕けてしまうことだろう。


――――だけど。



「美味しい! これ美味しいですウタカタさん!」

「………いいから、黙って食えホタル」

「でも美味しいんです!」

「……分かったから汁を飛ばすなバカ」

「いたっ!?」

ウタカタのでこぴんがホタルの額に炸裂した。

「うう、酷い………」

「いいから、黙って食べろ。温かいうちに食べた方が美味しいだろう」

「それもそうですね!」

(………)

屋台から少し離れた所に置かれた、急造の椅子の上。
そこで交わされる金髪の幼女ホタルと青年の会話を聞いた俺は、喜びに心を震わせた。

そう、“美味しい”。

この一言があれば――――俺はどこまででも戦えよう。例え火の中水の中、木の葉の中砂の中。

でも音は尻的な意味で怖いから簡便な!

「うん、尻的な意味?」

声に出てたようだ。でも意味がわからないと、聞いた紫苑が首を傾げた。

「いや紫苑は知らなくていいんだよ?」

むしろ知っちゃいけねえ、と屋台の前の椅子に座りラーメンを食べる紫苑に向かって、俺は手を横に振る。

「そうか………しかし、隠れ家で食べた時も思ったが、お主本当に腕を上げたのう」

目は見えないが、食事くらいは何とかなるらしい。レンゲと箸を忙しく動かし目の前のラーメンを食べる紫苑。
やがて食べ終えると、こちらを見てご馳走様と笑いながら言った。

「うむ、美味であった。あっさりとしてなおそれだけではない………塩の深み、というやつかの。それとこの………鶏肉か?」

「は、この日のために探し求めた木の葉産地鶏でございます。塩は砂隠でとれた天然の岩塩と、波の国で取れる海塩を合わせ使いました」

配合と隠し味は秘密である。

「うむ、塩と鶏とのこらぼれーしょんというやつか………」

麺道とやら侮れぬ、と紫苑が小さい声で呟く。

「ふむ、これまた美味なり。流石と言っておこうか!」

「とかいいながら大盛り3杯食べた兄さん、言っとくけどお金は貸さないからね」

弟の突然の宣言。シンが劇画調の顔になった。

「いやでも確かに美味しいね………孤児院を巡るラーメン屋の話し、噂には聞いていたけど………」

「実際は食べていないと分からないだろ? ………ってほらシン、落ち込むな。代金はツケでいいから」

「おお! 心の友よ!」

「いや確かに喧嘩百戦負け知らずだけどさ」

意味が違う、と首を振る。そもそも女でもない。

「見たとこと、シンはこってり目の味が好きみたいだけど」

「ああ、そうだなあ。あっさり塩味も味わい深くて食べ応えがあるけど………やっぱり男は豚骨系だな」

「そうだなあ。“男はスタミナだガンガン行け”、と某カメラマンの人も言っていたことだし」

ちなみに中の人は土井先生もとい、うみのイルカ。実際会った事ないけどやっぱり関ボイスなんだろうか。聞きてえなあ。

「でもサイは見たまんまだな。こってりよりは、あっさりの方が好き?」

「体質的なものもあるし、あまり筋肉質になりすぎるとね。僕は身の軽さが命だから」

重くなると墨の鳥の上に乗れなくなるし、とサイは肩をすくめた。

墨を操った遠距離戦タイプが故に、敵の接近を許さない機動力が命となるということか。

確かに鈍けりゃ距離詰められてそこで終りになるもんな。

「でも、妹さんには食べさせないの?」

あっちで待機しているようだけど、とサイが言ってくる。

「いや、一応は正体を隠している身だし」

まだ小池メンマ=うずまきナルトの方程式は解けていないようで。
知られればしばかれること請け合いなので、俺は黙ったままでいた。

本当は昨日、キバ達木の葉一行と帰る予定だったのだが、フウが残ること、また怪我が完治していないということで、キリハだけは残ったのだ。
後者に関してはほとんど口実なのでどうとでもできそうだったが、前者に関しては納得せざるを得ない俺は取り敢えずとどまることを承諾した。

「妹、かあ………いいなあ。お兄ちゃんって言われるんだろ?」

どんな気分? とシンが真顔で訪ねてくる。

「いや、妹って実感がまだね………でもあの猪突猛進っぷりには、少し参ってる」

そのうち抱き壊されるんじゃないか、と戦々恐々な俺であった。つーか胸が当たってるんだよう。小さいながらも形がいい『シヌ?』げふんげふん。
つーか筋肉あるはずなのに何処触っても柔らかいんだよう。

あと抱きしめている時のシカマルといの嬢、ヒナタ嬢の目が怖いんだよう。

「いっそ“異性に思いっきり抱きつかれたら狐に変身してしまうんだ”、とか言うのもいいかも」

『それなんて果物籠』

ちなみに狐は犬科だが、習性としては猫に近い部分があるらしいね。

「ふむ、群れず単独で狩りをするからの。確かに、猫の方が近いとは思う」

「説得力あるねファイアーフォックスもといファイアーキャット」

サンダーバード(サスケ)とウォータードラゴン(再不斬)、アースタートル(多由也)はここには居ないようだけど、と肩をすくめる。

「ふむ、しかしあの時からここまで………随分と腕を上げたものだの」

紫苑はことり、と台の上にどんぶりを置き、感慨深げに呟く。

「そりゃあいつまでも同じ所にはいられないしね。あれからごたごたも、いざこざも、色々あって………あちこち旅もしたからね。まあ、旅の甲斐があったというところかな」

別れが会ったから、と思いつつ。やや複雑ながらも、その一点だけは頷かざるを得ない。

魚介系をふんだんに使い煮詰めたスープと、鶏がら。そしてよりすぐった塩と隠し味に少量の酒を入れて混合した、味とコク、深みのあるスープ。

具として入っている鶏肉にはそのスープの味が凝縮されて入っており、一度口の中に入ればスープの旨みと肉の旨みが弾けて混ざる。

そのどれもが、旅の途中で見つけ、そして厳選した素材であった。

「ならばわらわも送った甲斐があるというもの………ふむ、いい仕事をしたの、店主」

「………は、恐悦至極でございます、姫」

「うむ、くるしゅうないぞ」

互いにふざけあいながらはっはっは、と笑いあう。

その後、空気がまったりとしてきた。


「ああ、もう十尾とかどうでもいいわあ………」


いてーしつれーしめんどくせーし。かんがえたくないかんがえたくないー。

『いやそれは流石に不味いでしょ』

幼児退行を起こしていた俺の言葉に、マダオの突っ込みが入る。

あとキューちゃんからも突っ込みが入った。

「それよりもおかわりじゃ。いなり寿司も頼むぞ主よ」

「ってもうおかわりかよ!? 相変わらず食べるの早いなあキューちゃんは」

あと呼び方変わった? と聞くと何故か「うるさい」、と返された。

気のせいだろうか、何か記憶が戻ってからのキューちゃんの俺に対する言動が変なような。

「うむ、わらわも負けておれんのう……こっちもおかわりじゃ!」

横に座っているキューちゃんの方を睨みつつ、紫苑もおかわりを要求してきた。

「うんうん、料理人冥利に尽きるなあ―――だが断る」

「何故じゃっ!?」

「何故も何も………紫苑、それ以上食べたら太るよ?」

「はうっ!?」

太り、と言われた紫苑が胸を抑えながら一歩仰け反った。
うむ、以前聞いた通り、すごい効果だなこの言葉。

“太る”、という一言は乙女に対する最終兵器のうちの一つらしい。

俺は以前に白と多由也に向かって言ってしまった時、サスケ共々教えられた。

何でも体重年齢そして胸に関して言及することは、時に宣戦布告と同じぐらいの重みを持つことがあるとのこと。
殺されても文句が言えない言葉もあるらしい。

「でもキューちゃんは太らないからいいね~。年も取らないし」

「………うむ、いきなりなんじゃ?」

「いや、ちょっとね。昔を思い出して」

変化することはあるが、基本は今の幼女姿のままでいるキューちゃん。
あれからかなりの時間が経ったというのに、最初に会った時………

(―――いや、マダオが仕組んだあの時からか。この姿はちっとも変わっていないな)

禍々しい姿から転じたこの姿、可憐な金の髪の少女は今も変わっていなかった。

――――外見上は。

「黙り込んで、どうしたというのじゃ」

「いや、変わっていないなーと思って」

中身は少し変わったけど、と俺は心の中だけで呟く。

どうしたのかと聞いてくる言葉と、その表情。
思えば柔らかく成ったものだ。出会った最初、不機嫌を振りまいていただけだったあの頃と今とでは全然違う。

「………そうじゃのう。お主は図体だけは大きくなったが」

キューちゃんがジト目で見てくる。

「まあ、背は伸びたよね。会った当初は俺まだ五歳児だったし」

そこから隠遁生活を送りつつ身体を鍛え、あるいは影分身でごまかして。
戦場に出たこともあった。そこで怪我しながらも、何とか生き延びてここまでこれた。

気づけば10年。いや、我ながらよく死ななかったものだと思う。

死にかねない、危うい状況はいくつかあったというのに、俺はまだ生きている。

(やっぱり俺、なんだかんだいいながら運が良いのかも)

『いや、そもそも度々危険な状況に陥るというのが………』

自業自得な部分もあるけど、とマダオが俺の心中の呟きに突っ込む。

「でも、あとひとつだけ――――本当にあとひとつ、だからな。ようやくここまで来たって感じだけど」

「そう、じゃの」

キューちゃんは俺の言葉に返事をしながら、どんぶりのスープを飲む。
いや、どんぶりで顔を隠しているのか。俺に顔を見られたくないようだ。

様子が変なキューちゃんを見て、俺は少し考える。紫苑のこと意外に、まだ隠していることがある。
恐らくは身体の事――――いい加減ガタが来ているこの身体のことと、何か関係があるのだろう

(それでもあとひとつだ。あと一回だけ勝てばいいんだ)

それで全てが終わる、と自分に言い聞かせた。しかしそれにしても、キューちゃん“らしく”ない様子が気になる。
最終の決戦を前に、心残りだけは残したくない。機会があれば強引にでも聞き出そうと俺は決めた。

「おかわりは諦めよう。しかし、このラーメンがわらわの治療と何か関係があるのか?」

「勿論。まずは味覚から、ってね。まあ仕上げは多由也がするから、今回に限っては俺は脇役だね」

口惜しいけど、と俺は食器を片付けながら紫苑の問いに答えた。

「そういえばあの二人は何処にいったのじゃ?」

「うん、サスケと多由也? あっちで練習中だよ」











屋台から少し離れた木陰。最後の練習をする多由也と、それを聞いているサスケがいた。

多由也は横たわった丸太を椅子替わりに座っている。サスケはその隣、少し離れた位置に座っていた。

「………緊張しているのか?」

いつもの様子でなく、少し堅い表情を浮かべている多由也に対し、サスケがたずねた。

多由也はひとしきりの節まで練習した後笛を下げ、サスケの問いに答える。

「当たり前だろ。あの紫苑って娘の怪我が治るかどうかは………ウチの腕次第なんだから」

多由也は緊張していた。

「………そうか。しかし願っても無い機会なんだろう………お前の音で人を癒せる。しかも、普通の医療忍術では治せない怪我を」

「そうだな………って、だから緊張するんだよ! もし無理だったら……それこそこの2年、やり続けてきた事が否定されそうで………」

怒鳴った後、最後になるにつれどんどんと声が小さくなっていく。サスケは多由也らしくない物言いに苦笑する。

「いや、大丈夫だと思うぜ。きっと………絶対に大丈夫だ」

「見事に根拠がねえんだけど?」

それにイマイチはっきりしない、と多由也はジト目でサスケを睨みつける。

「だけど、まあお前が言うなら………自信を持ってみるか」

実は一番多く演奏を聞いているサスケだった。

多由也はこいつがそう言うのならばそうなのかもしれない、と少し自信を持った。
裏に感じた想いは少し無視して。

「その意気だ、っつ」

笑いながら返事をするサスケ。だが言葉の途中で左手を抑えながら、うめき声を上げた。

「その左手………例の螺旋丸の後遺症か」

「ああ。まあ、俺よりもナルトの方が怪我は酷いんだけどな」

どちらも後遺症はあるが、性質変化と螺旋丸のコントロールの関係で、ナルトの方が怪我は酷くなっている、とサスケは説明をした。

「サクラの治療である程度は治ったし………と、何故に睨む」

横目でじろりと睨む多由也に対し、サスケは首を傾げた。

「知るか、バカ。それより角都とやりあった傷はどうした」

足止めした時に少し切り裂かれたんだろ、と多由也が聞く。

「ああ、それも一応は治してもらったが………」

「なんだ、何かおかしいところがあるのか?」

「いや、角都と対峙していた時だがな………身体がうまく動かなかったんだよ。月読の中ではもっと良い動きができたんだが」

「………月読ってーと、あの幻術世界で云々という?」

「そうだ。視線が合った相手を幻術世界に閉じ込める万華鏡写輪眼特有の幻術。一度捉えられたら最後、写輪眼を持たない者なら動けなくなるという最強の幻術だ。
………まあ写輪眼を持つ者だとしても、精神力や瞳力が低ければ何もできないんだが」

「なら話しは簡単だ。それだけお前の想いが強かったということだろ。それに、お前の兄貴―――イタチさんも、あるいは………」

“そうなること”。今の結末を望んでいたのかもしれない、と多由也は心の中だけで呟いた。

そう思ったのは、紫苑からとある話を聞いた後だった。

数年一緒に過ごした紫苑と、菊夜とイタチ。

紫苑はイタチに対して悪戯をしたりした。イタチは最初は無視をして、やがて苦笑しながらもそれを諌めはじめた。
数年も経てば流石に関係も変わる、そして過去の話も、ほんの少しだか聞かされたらしい。

だけど過去の話題、もっぱら弟のことについてだったと紫苑は苦笑しながら多由也とナルトに言った。


――――過去の思い出は人に語ることによって深まる。思い出す度に願ってしまうことは避けられない。
それが輝かしいことであればこそ、尚更だ。
それはイタチだって例外ではない。あの日々があったからこそ、サスケの提案を聞くようになったのかもしれない。

そのようなことを、ナルトと多由也は考えていた。

「生きることを忘れていた」、と紫苑は悲しそうにいった。伝え聞く過去から、それは真実そのままだったのだろう。
父母を、そして仲間を―――そこまで思いついた所で、多由也は首を横に振った。

かつて死に別れた母のことを思い出したからだ。今は遠い、あの温もり―――それを血に染める光景など。
例えとしても考えたくない。

それを体験したうちはイタチの心中はどうだったのだろうか。
決死の覚悟を持っていたはずだ。

「途中で止まって……どうした?」

あるいはの続きは?、と聞くサスケ。多由也はそれを見ながら、心の中でひとりごちる。










修行に修行を重ねながら鍛えてきた男、うちはサスケ。思えば奇妙な縁だ。

ウチは始めから今に至るまでの経緯を思い出す。

最初は敵だった。偶然から得た、自己を取り戻す機会。
選んだ道は奇跡的に途切れず、あるいは助けを得て。ウチハ次なる場所へと向かう権利を得た。

そこから同居することになった仲間。そして、うちはサスケ。
最初は分からなかった。だが互いに譲れぬ者があったことを知った時、何となくだが“近い”と感じた。

そしてある日の一日の終り。鈴虫が鳴いている秋の夜長。
ウチは癒しの笛を聴かせている途中、サスケにたずねた。

何となく聞いた、「どうして戦う」という問いに対し、サスケは部分的に誤魔化しながらも、自らの過去を語った。

それを聞いた時、ウチは“近い”と感じたその理由を知った。

ウチは遠き日の約束のため。血縁ではない母の遺言を果たすため、血塗られた手だとしても前に進むことを選んだ。音で人を癒すという夢を取り戻すために。
サスケは遠き日の約束のため。兄の真実を知って、その意志を知った後。必然として流れる定めを受け入れないと。
血塗られた一族の因業を断ち切らんとする道を選んだ。かつてと今、両方で大切な人を取り戻すが故に。

どちらも取り返しの付かないことがあって、そしてずっと一人だった。ただいまをいう相手もいない。おかえりを言う相手もいない。
気を許せる仲間もいない。ウチは無意識にサスケは意識的に、という点で違いはあれど、一人ということは同じだった。

再不斬には白がいる。ナルトにはあの二人がいた。

だがウチとサスケだけは、あの日あの隠れ家にたどり着くまでは、誰も居なかったと思う。

そうして似たような過去があり――――だけど諦めないと思った所も同じ。
だから励みになった。そして負けられないとも思った。

「そうだな。お前は夢を叶えたんだよな」

「………まあ、一応はな。だけどどうしようもなくなったら兄さんは自分の命を捨てても使命を果たそうとするさ」

だからまだまだ安心はできない、とサスケは首を横に振る。

「そうだな………そのためにその手の傷を、さ」

ウチはその答えを聞いた後、包帯を巻かれたサスケの手を指差しながら、言ってやった。


「その手の傷の痛みも、紫苑の経絡系の傷も、そして全部………ウチの笛で、癒す」

もう腹は決めたから、と。

多由也は笑いながらサスケに宣言した。











火の国の南。とある街道沿いに、珍獣の宝庫と呼ばれる土地があった。

そこは地理的に戦火が及びにくく、また戦略価値もない土地で、昔から今まで、一度も戦場にない場所だ。

そして戦場になったことがないから、そこに生息する生物もまた死ぬことがない。
他の土地では絶滅してしまった珍獣が、この森にはまだ形を残していた。


その中心部にあり、網の慰安地であるその場所は、秋の夜になると蛍が乱舞し、池の周辺全てが光に包まれているかのような幻想的な光景となる。
――――故に光ヶ池。網内部では有名な場所だった。






「………俺達には似合わない場所だ。そう思わねえか、根暗」

「根暗って言うんじゃねえよ、鬼人」

その池のほとりで、大刀を担いだ大男と、水色の着物を羽織った男が言葉を交わしていた。

「はっ、噂が途絶えて数年………どこぞの忍びに殺されたかと思っていたが、よく生きてたな。それも相棒と一緒によ」

「誰が死ぬか。そっちこそあの黒い化物に襲われたと聞いて、そのままおっ死んだかと思ってたぜ」

不機嫌な顔で二人は言葉を交わしている。何故不機嫌かというと、それは互いの傍にいる人物が原因だった。

「もーウタカタさん、喧嘩は良くないですよ?」

水色の羽織りの男の横に座る、年は12の少女。ウェーブがかかった金髪が美しく、また顔立ちも整っている愛らしい少女、名前はホタルと言う。
少女は霧隠れに帰ったと思っていたウタカタが一日をおいてまた網の方に戻ってきたのを知った時、大層喜んだ。

そしてこの池に一緒に来れる、と知った時もまた歓喜の声をあげた。

「ほら、再不斬さんも………そんな怖い顔をしないで」

隣の黒髪の美少女………白も、大刀の男を諌める。
その顔は女優だと言われても誰もが納得してしまう程に整っていて、物腰も柔らか。
黒い髪はまるで絹糸のようで、わずかに吹く風にもたなびき、その流麗さを周囲に振りまいていた。

「………お前ら、なんか気があってねえか」

このホタルと白の少女二人は、横の男の二人の意志を無視し、すぐに意気投合してしまったのだ。

複雑な内心を持つ男二人にとって、その当たり機嫌が悪くなる原因となっているのだが、ホタルと白は全く気づかないでいた。

「そうですね………まあ、素直じゃない男の人の相棒、といった点では気が合いますし」

「だから違うっつてんだろうが………おい鬼人、いい加減誤解を解けよ」

「いや、俺から見ても“そう”見えるが………」

と、再不斬がホタルを横目でちらりと見る。

だが幼い少女にとっては、強面のヤクザにじろりと見られたと同じ怖さがあったらしい。
ホタルはウタカタの背後に隠れ、その視線から逃れようとする。

「あー、ホタルさん。再不斬さんは確かに怖い顔をしていますが、根はとても優しい人なんで別にかみつきはしませんよ?」

「………お前も言うようになったな、白」

「ええ、愛の成せる業です」

複雑な顔をする再不斬に対し、白がにっこりと笑って返した。

「………なあ、いちゃつくなら他所でやれよ。頼むから」

「うるせえよ」

「はあ………何でこんなことに」

「裏の事情、ってやつだ。それより………なんだあの金髪の小僧は」

と、再不斬が両腕を怪我している金髪の青年を指差す。


「俺の方を睨んでくるんだが………もしかしてお前の知り合いか?」

「断じて違う」













一方、両腕を怪我している金髪と、その弟。二人も池のほとりにて腰を下ろしていた。

「ほら兄さん、危険人物にガン飛ばしてないで。それに腕を怪我してるし……大人しくしておいてよ頼むから」

「だってよ~サイ。あそこ、ほら、何かラブラブ空間展開してね?」

「いや確かにしてるけど………別におかしくないだろ。あのヤクザとお嬢の二人は昔からの相棒だって聞いたし」

「でも美女と野獣って感じだよなあ」

「あっちの二人は青年とロリコンって感じだけど………おっと、これ以上はやめようか」

聞かれたら殴られるしね、とサイは呟き口を閉じ、横にいるシンもそれに習う。

「………しかし、可愛い子多いよな。昨日帰った木の葉のあの娘達も可愛かったし」

「でも胸を凝視するのはどうかと思うよ? 黒い髪の女の子からは白い眼で見られていたし」

「いや、あの娘は何故か随時白い眼だったんだが………って日向じゃん」

納得、と頷くシンにサイは更なる突っ込みを入れる。

「いや胸をガン見されたら日向でなくても白い眼でみられるよ………それなら、あっちの碧色の髪の女の子は?」

「ん? ん~、ちっと胸が残念な感じにってぐほっ!?」

突如飛来した石が、シンの腹部に命中。
もんどりうって倒れるシン。

「やっぱり口は災いの元だね………」



くわばらくわばら、と言う声が倒れ伏す兄の後頭部に向けられた。















「あ、フウちゃん駄目だよ!」

「………気にするなキリハ。アタシはただ乙女の尊厳を守っただけだから」

額に青筋を浮かべながら、碧色の髪は隣の金髪の少女に笑いかけた。

「それに、援軍に志願するとか………無茶しすぎだよフウちゃん」

「なに、里にはお前の兄貴の影分身がいるからな………アタシがここにいるってことは奈良家の人達と火影以外には知られていない」

「そういうことを言ってるんじゃなくて………」

危険でしょ、とキリハが困った顔を浮かべながら言うと、フウは眼を閉じて首を横に振った。

「アタシにとっては木の葉に対する印象より、お前の命の方が大事だ」

「フウちゃん………」

「人柱力として、兵器みたいに使われることも嫌だけど………キリハが死ぬ方がもっと嫌だった」

だから援軍に志願したんだ、と。

フウはそっぽ向きながらもキリハに告げた。

「………ありがとう。それで、シ………シカマル君の家での生活はどうだった?」

「何故そこでどもる?」

「こっちの話! で、どうだった?」

「ん………朝起きたら朝ごはんが出てきた。薬の調合を手伝って………無茶な失敗をしたら怒られた。昼ごはんも夜ごはんも出てきた」

「………」

「布団も暖かかった。お日様の臭いがした。シカクさんは酒の飲みすぎだとヨシノさんにしばかれていた」

「そ、そうなんだ」

「将棋で勝負して、完膚なきまでに敗北した。飛車角抜きでもぼこぼこにされた」

「シ、シカクさん大人気ない………」

将棋でいえばシカマル君より強いのに、とキリハは首を横に振りながら眉間を抑える。

「………いや、それでよかったよ。手加減抜きの本気だった。そして、怒られて…………ホメられて………うん、嘘がなかったよ。愛想笑いも、遠慮も無かった」

人柱力としてではなく。

戦力としてでもなく。

「あの人達は………アタシを見ていた。ヨシノさんも、シカクさんも」

フウは本当に、心底嬉しそうに。含むものの一切ない、綺麗な笑い顔を浮かべて、キリハに告げた。

「でも、そうだな………アタシにも家族がいたらあんな感じだったのかな………」

でも、と。別の可能性を思いついたフウの顔が暗くなり、地面を見つめながらぽつりと呟いた。

キリハはその言葉を聞いたフウに、無言で抱きついた。

「キ、キリハ?」

「……いいから。女の子が暗い顔しないの。今は私とか、ほら………か、家族が居るでしょ? そりゃあ任務で一緒に居られない時もあるけど………」

「………家族か」

家族という言葉を聞いたフウは、木の葉に来た日を思い出した。

ほんの少し前だ、あれから一ヶ月も経っていない。
だけど、思い出せる光景があることに気づいた。思い出したい光景があることを知った。

それは日常の風景。キリハと一緒の布団で寝たり、家に遊びに来た山中いの、日向ヒナタ、春野サクラと一緒に寝間着で夜更かししたり。

今までにずっと知らなかった色々な事を、この僅かな時間の間で知った。
考えもつかない世界を知った。そして、人と一緒にいられるということ、その感覚を思い出した。

フウは、わずか数日の体験だけで、人の肌の温もりを思い出した。
睨みあうことなく続けられる関係があるのだと知ったのだった。

「やっぱり一人は寂しいな。一人より二人の方がずっといい。」

「うん………一人は寂しいよね。私も、友達や知り合いの人はいても………一緒に住む人はいなかったから。
私は生まれてから兄さんと再会を果たしたあの日まで、家族というものの存在を知っていたけど、実際に体感したことは無かったから」

「キリハもそうなんだ?」

「うん。私の方は友達は居たけどね。でも、無条件に甘えられる相手は居なかったから」

フウちゃんに言うと笑われるかもしれないけど、とキリハは苦笑する。

「いや、別にわらわないよ。それよりも、あのシカマルっていうのは違うのか? ―――兄妹というか、距離が一番近いって思ったんだけど」

「え、シ………シカマル君? そうだなあ………えっと………ど、どうなんだろう」

キリハは頬を少し赤く染めながら、混乱した。

色々あったせいだった。

「うう、でも見られたことなんか無かったし………ああでも小さい頃はお風呂に………わ、忘れろ私、忘れろ私!」

がんがんとキリハは自分の頭を殴り始めた。

「キ、キリハ?」

「そ、それはひとまずおいといて!」

「お、おう!」

「取り敢えず兄さんには感謝しなきゃね………私たちだけじゃ、フウちゃん助けるの、間に合わなかったかもしれないから」

「そうだな………突然現れて乱入して………登場の仕方とか色々、変な奴だけど助けてくれた」

「……え、変な奴?」

「うん」

シークエンスタイムゼロセコンド。フウはきっぱりと断言した。

「キリハを助けたいから連れて行って、って私が言うとあいつ………“あい分かった。我に任せい”って間髪入れずに答えてさ。そのまま火影の家まで走って行ったし」

「兄さん………」

何をしてるの、とキリハが頭を抱える。だけど顔には笑みが浮かんでいた。

「作戦もなあ………荒唐無稽かつ大胆も極まる。普通の忍びならば思いつかないぞ、あんなの」

ていうか普通、あの高度から飛び降りない、とフウが呆れた声を出す。

「でも助けられたからよかったよ………キ、キリハ?」

キリハは抱きついていた身体を離し、その肩を持ちながらフウの顔を正面から見つめる。

「そういえばお礼、言ってなかったね。ごめん、たすけてくれてありがとう………命拾いしたよ」

「うん、どういたしましてだ………とはいっても、アタシはキリハの兄貴を空へ運んだだけだけど」

「ううん、十分に助かったよ。あんなに高い所から飛び降りて奇襲、なんてのは相手も想定していなかっただろうし」

角都の術によって木が倒されていたから尚更だ、とキリハは説明をした。

「煙も効果的に作用していたようだしな………何にしろ、間に合ってよかったよ」

キリハに先に死なれるのはごめんだから、とフウは悲しげに笑った。

「私も、死ぬつもりはないよ。まあ死にかけてたから強くは言えないんだけどね」

「危なかったよな………服破かれて、心臓を取り出されかけてたし………っと、そういえば」

そこで、何かを思い出したかのように、フウが自分の掌をぽんと叩く。

「キリハの兄貴と一緒に助けに入った、もうひとり――――うちはサスケって言ったっけ」

フウが正面、少し離れた位置で兄と話している少年を指差しながら、言う。

「………うんサスケ君がどうかした?」

キリハの問いに対し、フウは困ったように頬をかきながら、ある意味で爆弾的な答えを返した。


「あの時な………サスケとやらも、その…………キリハの胸を見ていたぞ?」


















「っっっっっ!?」

「どうしたサスケ」

「いや、どこからともなく強烈な殺気が………」

右見て左見て。当たりを見回すサスケだが、その殺気の源が誰なのかは分からなかった。

「何も感じないが………」

気のせいではないのか、とイタチがサスケに言う。

「そうかな………つっ!」

右手を抑え、サスケが苦悶の声を上げる。

「………例の、螺旋丸に火の性質変化を加えた術の代償か」

「ああ。まあ、もうすぐ気にする必要もなくなるけどね」

「そうか………だが無理はするなよ。手は忍びに取って大事なもの。印を組むにも、刀を振るうにも必要となる」

「分かってるよ」

「それならばいいが………無茶だけはするなよ―――ーん、なぜ笑っているんだ?」

「いや、なんていうかさ………その、懐かしくて」

サスケはそっぽ向いて頬をかき、心配性なのは変わっていないんだな、と照れくさそうに言った。

「何がだ?」

「安心したってことさ。自覚が無いならいいよ。きっとその方がいい………っと、全員来たようだ」

言いながら、サスケは光ヶ池に入る道、その入口を方を見る。






――――そうして。


「すまない、待たせたな」


満を持して赤髪の少女が池に姿を現した。

右手には幼い頃よりずっと、肌身離さず持ち歩いていた笛があった。

その瞳は苛烈で、いつかのような濁った色ではなく、神神とした赤を、燃えるような赤色となっていた。

その場にいた全員が、その迫力に息を飲む。


―――本気だ。

何がどうというわけでもなく、理屈でも無い。

ただ赤の少女が本気で“何か”をやるつもりだからと察したが故に、皆は圧倒された。

それは、人の身の本気。

周囲の空気をも変えることができるほどに、混じりっけの無い意志の強さがなし得る所業だった。



「―――――」


その姿を見たサスケが笑みを浮かべる。


そして多由也の背後には紫苑達の姿もある。


後方にいたナルトは、全員が揃ったのを確認すると声をかけた。








「では、始めるとしようか――――経絡系の傷を塞ぎ、紫苑の眼に光を取り戻そう」




































あとがき

後半に続く。





[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 六十六話・後 「多由也」
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2010/04/29 05:00

紫苑の怪我、いや病気と言った方が適しているかもしれない。それは綱手の腕を持ってしても、如何ともし難いものであった。

チャクラを扱えないものでも、経絡系は存在する。血液と同じ、呼吸の動きに連動し、経絡系を伝って身体中のチャクラを循環させているのだ。
そうして、体内の陰のチャクラと陽のチャクラのバランスを保っているのだと、秘伝書には書かれていた。

そのあたりはマダオ師も白も知っていた。少し経絡系に詳しいものならば、誰もが知っている知識だ。
だが、経絡系を治療する方法は確率されていない。

それは何故かというと、他者がその者の経絡系に干渉する、ということは非情に難しいからだ。
まずは経絡系を把握する必要がある。見えなければ治療もなにもできないが故に。

だが、経絡系は普通、人には見えない。それこそ白眼や写輪眼などの瞳術が使えなければ見ることは困難となる。

その経絡系を把握して更に、だ。常時チャクラが流れている所に自分のチャクラを上乗せしなければならない。

それが可能か、と医療忍者に聞いてみたが、誰もが不可能だと答えたらしい。
精緻極まるチャクラコントロールが必要となる医療忍術―――他者のチャクラの流れまで考えた上で、行使が可能となる程、容易い術ではなかった。
それに、紫苑のチャクラは膨大も膨大。

その大河の如きチャクラの流れを全て把握し、そのまた上に誰かのチャクラを載せて治療を行うなど、およそ現実的な案ではないのだ。

つまり、他者からの干渉では、治療は不可能ということ。
ならばどうすればいいのか。

簡単だ、自らのチャクラを使い、治すしかない。
受継がれた仙術、巫女の血に流れる知識の中に、医療忍術に関するものもあった。
通常ならば、治療は可能だっただろう―――だが現状では、不可能だった。

チャクラを練ろうとしても経絡系が傷ついているため上手く練れないのだ。
また練ると同時、傷口に塩を塗るが如き激痛が襲ってくるらしい。

激痛の中、自らの経絡系を治療する―――この方法も不可能だ。

幻術を使い、紫苑のチャクラを外からコントロールしながら治療を施すという案もあった。だが、この方法も却下された。
巫女の血が成せる業だろう、紫苑のチャクラは幻術によって起きる強引なチャクラ流の制動に対し、無意識で抗ってしまうのだった。

強引なチャクラ流の制動は不可能―――ならば、と。

一人、別の方法を考えついたものが居た。

「意識的な干渉は不可だけど、音ならばあるいは可能となるかもれないね。人の無意識にも干渉出来る音ならば、紫苑のチャクラの流れを整えることができるかもしれない。
 それに、紫苑の笛には苦痛を和らげる効果がある」

そして、治療時の必要項目、もう一つある条件として五感の刺激というものがある。

味覚、触覚、嗅覚―――そして視覚と聴覚。

舌、肌、鼻、眼、耳の全てを刺激し、かつて恒常的に働いていた五感の動きも思い出させなければならないと、秘伝書には書かれていた。



「味覚は俺が。触覚は菊夜さんが。嗅覚はザンゲツに香を借りる。そして最重要となる視覚は――――聴覚、多由也の笛の奏でと相乗させる」


一晩考え、出た結論はそのひとつだけだった。






だからこその今、この場所を選んだ。

光ヶ池。蛍が多く出る場所。

ウチは夜の帳が降りた森の中の池のほとりで、ゆっくりと笛を持ち―――口に添える。

辺りには香の香りが漂っていた。ナルトがザンゲツから借りた、最高級の香の香りだ。
隣には紫苑。着物を着崩し、その背中を菊夜さんに触れられている。

失敗すれば二度目はない。一度使えば、音による干渉の耐性がついてしまうかもしれない、と言っていた。
経絡系の傷も徐々に広がっていると聞く。

この機を逃せば、恐らくはもう、治せまい。

そして治せなければ、あと数年で命が尽きる―――陰のチャクラが全身を犯し、紫苑は死ぬだろう。



あまりにも残酷な現実。ウチは治療の前にそのことを聞かされたが、震えることはしない。


(失敗すれば、ウチも一緒に死んでやる)



それだけの覚悟をもって、今この場に立っているからだ。
望んだ場がここにある。眼が見えなくなる程の重症―――それを治すのはウチの笛しかない、ということ。


かつての夢を思い出してからこの時この場に立つまでの事を思い返す。

手を抜いた覚えはない。必死で練習を重ねてきた。
これ以上ないと言える程に頑張ったこと―――あの隠れ家での修行の日々に誓おう。

あとは、自分の腕が足りるかどうかだ。


その時、視線の端に仲間の姿が見えた。

ナルトとマダオ師、九那実さんは紫苑の隣、サスケは兄と一緒に。
白と再不斬さんは池の向こう側。

みな、親指を上げていた。

“大丈夫だ”、とその笑みが告げている。


そしてウチは眼を閉じて、深呼吸をした。







演奏を、はじめよう。










~~



眼を閉じた赤髪の、元音の忍び。中忍試験の時に会ったこともある。

抜け忍である、と兄に聞かされた。呪印の呪縛を自らの意志だけで振りほどいたと言っていた。

そんな事が可能なのか、と私が思っていたが、成程確かにあの眼を見ればうなずけるものだ。

だけど、笛の音で本当に治せるのだろうか。

紫苑という女の子について、一通りは聞かされた。兄のかつての知り合いそしてシン君とサイ君と一緒で7年来の友達だと聞かされた。
大事な部分は隠しているようだったが、追求はしなかった。

本心では細部まで聞きたかったのだが、それは勘弁してくれと言われたので止めた。

ただ、病状については教えれくれた。経絡系の損傷――――サクラちゃんにも確認したが、普通ならば治せない、不治の病と同じようなものらしい。


それが、笛の音だけで可能となるのか。
正直、無理だとは思った。

幻術は五感を媒介にして、その術中に陥れることができる。

代表的なものは視覚で、写輪眼の瞳術や指の動きで相手を幻の中に引きずり込むのだ。

そして聴覚を利用した幻術は、その効果範囲もあいまって最高位と言える程に難度が高くなる。

自来也のおじちゃんでも、仙人モードにならなければ使えないと言っていた。


十年以上の修行が必要だろう。だから、無理なんじゃないかと、そう思っていた。








―――その笛の音を聞くまでは。









ゆっくりと奏でられる旋律。

夜の森の中、静寂の中で鳴り響いた笛の音は、一瞬で私の心を鷲掴みにした。



音が鳴る。笛の音一つ、またひとつ。

指の動きと連動し、清廉な音が光ヶ池を包み込む。


別に、特別難しいことをしている訳じゃない。

難解なフレーズもない。


ただ単純な曲調で繰り出される音の羅列。

だけど、どういうことだろうか。

何故、こんなにも胸が締め付けられるのだろう。




「蛍が………」






周囲の草薮に潜んでいた蛍が、光を纏いながら飛翔した。







「――――――」



誰も、一言も発せない。


皆お伽話の中に紛れ込んだと錯覚しているのだろう。




美しい旋律を背景に、闇の中光の粒が飛び回っている。


僅かに見える池は、綺麗な青色に染まっていた。






―――笛の音がより一層、高くなった。


















~~





「―――――」


紫苑の眼が開かれる。


ということは、痛みも感じているはずだ。

だが、紫苑は眼を開け続ける。眼前の光景から、眼を離せないでいる。



「紫苑」


「………ナルト」


「あとは、お前次第だ」


「――――分かった」


痛みはある。だけど、それを忘れさせる程の光景が――――




~~







着物を肌けた娘が、光りを発し始める。


だけど俺は、それを気にしてはいられなかった。


音―――綺麗な音。

一体これは何の冗談だろうか。こんな光景があるなどと、想像したこともない。

何より、音が――――美しすぎた。


素朴な旋律が、最近は思い出しもしなかった故郷を思い出させる。

過去の日、目の前で死んだ師匠を思い出させる。



「ウタカタさん………泣いているんですか」


隣にいるホタルが何事かを呟いたが、聞こえなかった。


ただ胸中にあふれるのは、師匠との修行の日々。

忍者として、そして人として生き方を教えられたあの日々が浮かんでは消え、胸の中に温もりを残して行く。

笑っていた。怒っていた。真剣に、向きあってくれた。


どうしてだろうか―――あれが、偽りだと思ったのは。あの笑顔を偽りのものだと思ってしまったのは。


『その力と共に生きろ』


「そうだな………師匠。アンタ、笑って――――逝ったよな」


拳を握り締める。裏切ったと思い込んだ過去の自分を殴ってやりたい衝動に駆られた。


だけど今は、別に―――やれることがあると気づいた。


「ウタカタさん………?」


ホタルの声を背後に。



俺は池に近づき、懐から愛用のキセルを取り出した。

















想起したのは温もり。

今は昔の物語だった。


気づけばアタシは、池に向かい歩き始めていた。



「…………」


池のちょうど向こう側にいる、水色の着物を羽織った男と視線が合う。

六尾の人柱力、ウタカタという男だ。


「…………」


互いに無言のまま、頷いた。

一体、何がやりたいのか。


心に直接訴えかけてくる、この夢のような旋律のお陰だろうか。
打ち合わせることもなく、言葉を交わすこともなく、互いの視線を合わすだけで理解した。


不思議な感覚だった。
目の前の誰も彼もと、心が通じているかのような感覚を覚える。

例え錯覚だとしても、今は疑うことはしまい。アタシはきびすを返し、更に歩く。

「…フウちゃん?」

すれ違うキリハ、声に振り返ることなく、アタシはそのまま池の横にある草むらの前に立つ。


辺りはまだほの暗い。池の上にある森の傘によって月光が遮られているせいだろう。

乱舞する光の粒達―――蛍の灯りに照らされていても、まだ闇は深かった。

夜目がきくアタシ達忍びでもなければ、何も見えないほどの夜の闇の中。

だけど、それでも音は、鳴り響いている。


「――――」

誰かが息を飲む気配を感じた。ウタカタとやらが始めたようだ。

ならば、アタシも始めようか。



例え無窮の闇を以てしても、消すことなどできない謳うが如く。

鳴り響く音は暗闇の中にあってなお、その深みを増していく。


ならば、と思ったのはなぜだろうか。

この血塗られた七尾―――巨大な羽根をもつ、かつては“蟲の王”とも呼ばれていた尾獣。
その力を今この時だけ使おうと思ったのは、何故なのだろう。

夢幻の光景に、更に彩りを加えようと思ったのは何故なのだろうか。


明確な理由はなかった。きっと、こうした方が良いと思っただけだった。


そして今は、それだけで十分だと思えた。











~~








根暗野郎は何を思ったのか、池に向かいシャボン玉を吹きつけた。

六尾の人柱力特有の忍術――――霧で聞いた覚えがあるそのシャボン玉は、池に入っても割れることなく、そのまま沈んでいった。


そして、浮かび上がった時、そのシャボン玉は蒼すぎる程に青い池の水を内包していた。

蛍に照らされ、僅かに蒼く輝いた。



「――――」


闇の中、僅かに輝く青い光。

宙に浮かぶシャボン玉、そのの中に入っている池が蛍の光に照らされているのだ。

筆舌に尽くしがたい程に綺麗だった―――らしくないとは分かっているが、そう思ってしまう程に目の前の光景は鮮やかだった。

空の青よりも蒼く、水の青よりも蒼い。青の宝玉が、闇の中を駆け巡っている。


やがて数を増やし、群青色のシャボン玉が次々と宙に浮かんでいく。

目の前に映る光景との相乗効果だろうか――――多由也の演奏も、いつもより綺麗に思えた。


となりに居る白に聞いてみようと、顔を横に向ける。


「………蛍が?」


その時、白が呟いた。








~~






青の光に眼を奪われて、その少し後だった。


ばらばらに飛び回っていた蛍が、突如その動きを変えたのは。


まるで何かに操られるかのように動きを変え――――統制された動きで、シャボン玉の周りを飛び回っている。


そしてその少し後、僕はあることに気づいた。


「音に、合わせて………?」



この空間を満たす音韻、その一音一音に合わせ、蛍は飛びまわっているのだ。


リズムよく跳ね回る鮮やかな青の光と、流れ淀みなく連なる音の色彩が合わさる。




(母さんに、見せたかったな)



気づけば、僕は隣にいる再不斬さんの手を握っていた。






~~




幻視する。幸せな光景を幻視する。


兄弟は共通して、とある光景を思い出していた。

朝の食卓、そして修行。

昼のおにぎり、そして修行。

夜の食卓、そして宿題。

任務を挟んで、家族の団欒。

父、うちはフガクと母、うちはミコト。

何でもないような光景だけど、今は昔となってしまった風景――――もう二度と取り戻せないものが、二人の眼に浮かんでは消えていく。

それは幻であることには違いなかった。だけど胸の中、記憶の底に確かに残っているものだった。


それは確かに、二人の中に残っているもの。思い出して泣ける程に、大切だったもの


兄と弟は誰にも見られないように眼を伏せ、その両目の写輪眼から涙を流した。




――――流れる音色は更に重ねられ、和音となって大気を震わせる。



~~





「――――」

ザンゲツは背を岩に預け、シンとサイを両隣に置きながら―――静かに涙を流した。

ザンゲツが思い出した過去とは、孤児院の日々と――――幼馴染のこと。

網に入って数年、戦い抜いた日々中で失った、3人の親友についてだった。

初めてであったのがいつだったか思い出せない。気づけば一緒にいて、馬鹿をやって笑い合っていた。

友達というよりは家族だった。
志を同じくし、その半ばにして死なせてしまった者たちのことを幻視していた。







~~








「――――――」


池の外、森の中の暗闇で、気配を殺していた誰かが、息を飲んだ。



頭上では、月が輝いている。






~~









幻想の中、わらわは自らの傷を埋める作業を始めた。

傷だらけになった経絡系にチャクラを流しながら、その傷口を塞いでいくのだ。

(これは……)

そうして、気づく。信じがたい程にチャクラの流れが流麗になっている。

これならば、いけるかもしれない、と更にチャクラの流れを強くする。

「――――っ」

ささくれだった節を、柔らかく包み整えていく。

だがその途中、痛みを感じた。以前試した時程ではないが、その痛みによって集中力を僅かだが乱される。

その時、チャクラが霧散する、集中力が途切れたことによって、チャクラが消えてしまったのだ。

同時、わらわの視界は再び闇に閉ざされた。


再度戻った闇の中、私は顔を顰めながらも歯を食いしばり、治療を再開した。

再びチャクラを練り、自らの経絡系に流す。

当然、先程と変わらぬ痛みはあった。

辛い、痛いという想いが胸の中に充満する。だけどわらわには、それ以上に負けたくないという気持ちがあった。

(――――だから、どうした!)

いつかに聞いた、ナルトの言葉を反芻する。

痛みも何もかも関係ない、私は自らの傷を今ここで塞いで行くのだ。
痛覚が脳天に突き抜けるが、それでも耐えられない程ではない。痛みのせいか、眼からは涙が溢れてくるが、そんなことはどうでもいい

以前は痛みのあまり気絶してしまったが、今回はそこまででもない。
今この状況ならば、意識を保ったままで治療ができる――――それが分かれば、あとはどうでも良かった。

(これが、現時点での最善だということ。ならば後は、わらわが成し遂げなければならぬ)

本来ならば、あの薬を飲んだ時点で死んでいた筈だ。
だがわらわは奇跡的に生き延びた。光を失いはしたが、大きな力にはリスクが付き物となるのは当たり前――――死なせたくないという望みを成し得た代わりに、その報いを受けたのだと納得していた。

しかし今、数奇な縁と運命の果て――――あと一歩進めば治せるかもしれない、という所までたどり着いていた。

調べた者、この場を用意したものに感謝を捧ぐ。そして眼前の光景――――聴覚を媒介にした幻術のおかげで戻った、一時だけの視覚に映った光景。

美しい音楽に、美しい光景――――2度と、失ってなるものかという想いを生み出させる。

挫けぬ心が背中を押してくれる。ならば、出来ることをやらなければいけない。皆が望み、わらわも望む最善の結末を。

「――――っ!」

チャクラを練り、流し、傷を塞いでいくに連れ、それまでは薄ぼんやりとしていた視界が、徐々に視界が鮮明になっていく。


その眼に映る幻想的な光景。それをまたみたいと思ったと同時、わらわはチャクラの流れを強めた。


同時、多由也の音色も更に美しさを増した。

曲は変わらずに、音が三つ、重なったのだ。

和音だの奏でが痛みを和らげてくれる。見れば、赤髪の演奏者――――多由也も全身からチャクラを発していた。

目に見える程に高まったチャクラが、笛に集中していた。

多由也の両目は開かれ、目の前の幻想的な光景に呼応するかのように、更に音色を冴え渡らせる。



鋭いのに柔らかいという矛盾――――有り得ない音色が、大気に広がり、その場にいる者全ての心を打っていた。

見れば、誰もが一言を発せないようだ。


『―――紫苑』


(っ母上!?)

治療を続けながら、心中で叫ぶ。

ほんの僅かだが聞こえた声と、幻視した姿

呆然と、呟く。今一瞬、死んだ母の姿が視界に映ったようだった。


「………?」


そこで、気づいた。

(視界が―――――)

チャクラの流れを止めて、確認する。

チャクラの流れが、流麗に、滞りなく流れて行く。



気づけば、両の眼からは涙が溢れている。



鼻に香るは、花香の香り。嗅いでいるだけで、全身が休まるようだった。

先程食べた見事なラーメンの味は、未だ舌に鮮やかに残っている。

背中、むき出しになった肌には菊夜の手が添えられていた。護衛に家事に務めたその手は少し荒れていたが、それも全てわらわのため。だからこの手が何よりも好きであった。

始めから変わらず、耳に聞こえる―――いつまでも聞いていたいと思える程、美しい和音の奏でが心を揺さぶる。いったいどれだけの練習を重ねれば、こんな音が出せるというのだろうか。

そして7年ぶりに取り戻した視界に映る、この世のものとは思えない程綺麗なそれ。六尾、七尾の力を持つ二人が、打ち合わせもなく即興で生み出した奇跡ともいえる青の光の色彩の乱舞。
蛍が踊り、青が煌めき、粒と成って音と共に乱舞する。

それはまるでお伽話の中の光景だった。



――――そして、そのどれもが鮮明に感じられた。



全て、淀みなく――――チャクラを流さずとも、消えることはない。



今まで身体の中に感じていた違和感が、いつの間にか綺麗さっぱり消えている。





五感の全てが、正常に働いているのだ。

それを、理解した。




「やった………」


わらわは振り返り、菊夜の顔を見た。


「紫苑様、まさか………」

呟き、確かめるように掌をわらわの眼前に出してくる。

「――――ああ」

わらわ笑顔で、頷き、その手を掴み、握りしめた。

「――――っ」

すると菊夜は両手を顔に当てながら、静かに泣き始めた。

周りに迷惑をかけないよう、声を押し殺し、泣き続ける菊夜。

だけど私はその両手を掴み、下に降ろさせる。

泣くのは後でいい。ただ今は、この奇跡の光景を見ながら感謝をするべきだと思ったのだ。


菊夜は静かに頷き、傍らに立つ。



そして――――もう一人。


「やったな、紫苑」

声がかけられたと同時、頭に手をおかれる。

その声だけは聞こえていた。懐かしい気配を感じてはいた。

だけど、この眼で見るのは7年ぶりだった。


「ああ―――やったぞ、ナルト」


鮮やかな金の髪――――湖面に負けないほど、澄んだ青色の瞳。

姿形は多少変わったが、その眼に秘められた意志は7年前と変わらず、そこにあった。

気づけば、シンとサイも隣にいた。

7年も経ったのだ。いくらか大人になり、色々な所は変わっているとは思った。

だけど、二人とも背は伸びてもその根にあるものは変わっていないようだった。

ナルト、シン、サイ、そして菊夜。

7年の時を越えての再会――――本当の意味での再会が、今ここに果たされたのだと知った。











~~










(まさか…………)


私は演奏を続けたまま、横にいる5人を見る。

5人は笑い合っていた。巫女のチャクラも今は収まっている。だけど、光は取り戻せたようだ―――眼の動きで、それを確信した。




(成功か!)


演奏を続けながら、私も笑みを浮かべた。

この2年は無駄では無かったのだ。そしてあの時の選択は無駄ではなかったのだ。

心の底からそう思えた瞬間だった。


(あと、少し――――)


そして演奏の方も終りに差し掛かっていた。

最終楽章だ。


目の前い映る素晴らしい光景を見つめながら思う。


最高の舞台だったと確信する。



誰も彼もが泣いている。

誰も彼もが笑っている。

そのどれもが素の感情で、意図も含むものも無い、純粋な感情の動きだと分かる。


(つまりはウチの奏でた音が、人の感情を動かしたってことだ)



それも良い方向にだ。



―――人はそれを、“感動”と呼ぶ。

芸術を嗜む者達のとっての基本であり、最終目標とも言える。



(へっ、奏者冥利に尽きるってやべ、ウチも泣きそうだ)



まだ泣いてはいられないと、奮起する。


そしてウチは目の前の二人―――ウタカタとフウと言ったか。

その二人に視線をあわせ、最後に何をやりたいのかを視線だけで伝える。

間もなく、二人は頷きを返してくれた。


(どうやら伝わったかようだ………うん、こっちの術も成功したようだな)



今まで一度も成功しなかった術。

秘術・五音――――対象の五感を鋭敏にする術に加え、対象のチャクラ流を整える術。

そして奏でる音に術者自らの意志を乗せ、共感させる術。



(“秘術・七音”―――初成功、だな)



ちなみに曲の中に込めたのは、大切な人との思い出――――死んでしまった母との思い出だった。
かつての光景を思い浮かべながら音色に載せ、音色とした。


それを聞いた皆は、各々の心の内に投影したようだった。



見るに、それとは別とした思いもよらぬ効果を生み出しているようだ。

でもそれも悪いものではなさそうだ。




(それよりも最後――――終幕だ)



やがて、終曲を迎えた笛の音。







音が途切れると同時、ウチは視線で合図を送った。



そしてシャボン玉が弾け――――池の水は優しい霧雨となって周辺へ散った。


残る蛍は、空へと昇っていく。



シャボン玉は池へ落ちて、蛍は空へ――――天上天下に散らばる蒼の雨の光の軌跡。


どうやら思い通り、度肝を抜けたようで、皆が呆けた表情を浮かべている。



(さてさて、これにて終幕。一夜の夢も終り…………あれ?)




演奏が終わった途端、ウチの全身から力が抜ける。




(あー、チャクラ切れ寸前か。このままじゃあ―――)


倒れちまうな、と眼を閉じたすぐ後。


抱きとめる、誰かの姿が見えた。




「………危うく死んでいたところだぞ。本当に無茶をする」

サスケの声だった。チャクラが少なくなっているのを、察知したのだろう、倒れると思ってここまで駆けつけてくれたようだった。

そんなサスケに対し、ウチは小さい声で言葉を返す。

「うっせ。でも、楽しめただろ?」

「ああ、これ以上ない程にな………それに、色々と思い出せたよ」

ありがとう、とサスケは照れくさそうに言った。

「どういたしまして、だ」


ウチは礼に言葉を返し、そのまま抱きとめているサスケの肩に顎を置いた。

そしてこの2年でいくらか厚くなった背中に腕を回して――――思いっきり抱きしめた。


「多由也………?」

「しばらくは、このままでいてくれ………」


演奏の最中、思い出した母の笑顔――――演奏中は泣くまいと我慢していたが、どうやら限界のようだ。



「―――――」

初めて出会った日、別れざるを得なかった、あの日。

病床の母の最後の顔を思い出してしまったウチは、声を押し殺して泣いた。


「………っ」


あの日、ウチを置いて死んでしまったあの人を思い出す。
唐突な別れを信じられず、胸にぽっかりと空いた穴をどうにかしようと、無意味に笛を吹き続けたあの日。

ヘタクソだった笛の音。あかね色に染まった空を幻視する。
自分にも術の効果が及んでいるのだろう。妙にはっきりと思い出すことができた。

『音楽っていうのは色々な感情が含まれているんや。作曲をする者は無数にいて、その想いも様々。星の数程にある。
 せやけど演奏者は、その多くを由として受け入れて、音色の上に乗せんとあかん―――そう考えたら、あんたは音楽をするために生まれてきたのかもしれへんな』

笑い、言う。死んでごめん、と泣いた。

『すまんけど……さよならや、多由也――――できれば、その名前を誇れるような生き方を選びや』

そう言い残して、死んだ母。

血の繋がりは無かったが、一緒に過ごした数年は今でも忘れない。大蛇丸の呪縛から抜け出せたのも、あの日々の思い出があったからだと思う。
生きる方法を教えてくれた。笛を教えてくれた。

でも、あまりに呆気無く死んでしまった。もっと色々なことを教えて欲しかったのに。
どうして死んでしまったのかと、今でも思う時があるほどに、大切だった。

だけどもう、口に出しては言わないだろう。母は死んだ。そして今、ウチの中にその遺志は残っている。

それに、後ろばかりを見るのは駄目だろう。何より、今のウチを支えてくれているこの温もりに悪いだろうから。


ただ、この笛と音楽を残してくれたことに感謝をしながら、溢れてくる感情に身を任せて。


悲しいという感情を誤魔化さず、思うがままに泣いた。






ぽんぽん、と背中を叩く手が、憎らしくも心地良かった。

































あとがき

錯覚であり、錯覚でなし。

無様に泣いてわめいて強く成れ。

多くを由とする也。

そんなお話。



[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 六十七話 「桃地再不斬×白」
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2010/04/26 00:05


紫苑の治療が終わった後、俺は再び屋台を開いていた。

夜ももう遅く、客は二人だけしかいなかったのだが、今に限ってはその方が良かった。

「はいよ、お待ち」

どんぶりに豚骨のスープを注ぎ、湯掻いた麺を放り込む。

上に載せるのは青々としたネギと、しゃっきりしたもやし。そして、油の乗った豚の角煮。

豚骨スープに豚の角煮―――火の国の宝麺を、再不斬の前に置く。


「こっちもだ」

白には、これ。

木の葉の隠れ家にいたころ共同で開発した、木の葉風ラーメン。

横にはいなり寿司も付けている。網の職人さん達もよく頼む、定番の定食だ。

「………おう」

「ありがとうございます」

無愛想な再不斬と、愛想の良い白が同時に返事をする。
やがて二人は無言のまま、食べ始めた。

麺をすする音、スープを飲む音が聞こえる。
俺はその音をBGMとして、何かを言いかけようとして―――やめた。

明日、二人は霧隠れに戻る。3年に及ぶ協同関係も、それで終りということになる。

だけど、これが今生の別れと言う訳でもない。それに、何か別れの言葉を交わしてしまえば、それっきりになってしまうような気がした。

だから、俺は黙りながら二人の食べる様子を眺める。

「………」

「………」

二人も無言のまま、一心不乱に、ラーメンを食べ続けていた。

だけど、白の眼の端には、涙がにじんでいた。それが、どんぶりの中にこぼれ落ちる。

「あ……あははっ、今日は塩辛いですね、このラーメン」

「ああ、そうだな」

俺は白の言葉に対し、笑いながら答えた。目のはしに浮かぶ水と、赤くなっている鼻には触れないでいた。

「………そういえば、客としてこの屋台で食べるのは初めてだったか」

「そう言ってみれば、そうだな。隠れ家で食べることはあっても、屋台でこうして面と向かったことはないかも」

手伝ってもらうこともあったが、この二人が屋台の椅子に座り食べているという光景は見たことがなかった。





食べ終わった後。再不斬は箸を置き、一言だけいった。

「ご馳走様だ………何がおかしい」

「いや、初めて言ってくれたなと思ってな。どうした風の吹き回しなのか、聞いていいか」

「殊更めいたもの言いをするな――――分かっているんだろうが」

「もう、立つのか」

「ああ。夜のうちに距離を稼ぎたい。お前以外の面子との別れは済ましたからな」

「そうか………サスケはなんて?」

「“今までありがとう。次に会う時は、その大刀を向けられないような戦場の外になることを祈っている”、だとよ。俺も、あの天才小僧を戦場で相手するのは正直ごめんだからな」

まあ場合によってはそれも有り得るかもしれないが、と言いながら再不斬は肩をすくめた。

「多由也さんには二人でお礼を。お陰で傷も塞がりました、何より――――素晴らしいものを見せて、聞かせてもらえましたから」

笑いながら白が言う。

「形には残らない、一夜の夢の宝物、ってところかね」

「正に夢のようだったがな。柄でもないが、あれは一生忘れられん光景になりそうだ」

「ほんと柄じゃねーな。まあ、全面的に同意するけど」

まるでどこかの国のお伽話の中に紛れ込んだようだった。

青の光の乱舞―――幻の如く光る虫の演舞。
綺麗という言葉だけではとうてい足りない、言語を絶する美しさだった。

「演奏の方も、いつもより冴えに冴え渡っていました」

「正真正銘掛け値なしの全力だったろうからな………あ、ちなみに演奏のお代は?」

俺は冗談のつもりで白に訪ねてみる。すると、白は笑いながら渡しましたよ、と答えた。
予想の範囲外だ。

「僕の秘蔵の“もの”をひとつ、それもとっておきのものを一つプレゼントしました。状況次第によっては、これ以上ない武器となりますよ?」

「おいおい、穏やかじゃないな」

「いえいえ万が一に備えて、ですよ。また生きて会うことを願って―――一番長く一緒にいた同姓、親しき友への贈り物です。
 まあ友達への初めてのプレゼントが“あれ”というのも、微妙なところなんですけどね」

「……あれ、って何?」

「秘密です。多由也さんにも聞かないで下さいね」

台無しになりますから、と白が笑う。

「りょーかいしました。あと、キューちゃんとマダオには?」

「ああ、あの金髪オヤジには一応例は言っておいたぜ。天狐の嬢ちゃんにも、別れは告げた」

「僕の白無垢姿を見たかった、と二人とも泣く真似をしていましたが」

「両親か」

「“むしろ僕が縫う”、と金髪オヤジの方は眼を血走らせていたがな」

「職人か」

「でも眉なしのセーラー服だけは勘弁な! と腕でばってんを作っていましたが」

「天丼か」

突っ込みどころが多すぎる。そう思った時、どこからかお前がいうなという声が聞こえた。

「でも、白は明るくなったよな」

「そうですか?」

「ああ。初めて会った時は、こうなんていうか………触れたら壊れそうな脆さがあった」

「………そう、かもしれませんね。でもそれはきっと、ナルトさんとか、サスケ君―――多由也さんのお陰だと思います。
 みんな我武者羅で、前を見続けて―――“それがどうした”を地で行っていましたから」

僕も、負けられないと思ったんです。
白はそういいながら、笑った。

「みんな辛い過去があって、それでも前を向くことを諦めずに――――それぞれの道を歩いていました。だから僕も、と思ったんですよ」

「ちなみに白の道は………って聞くまでもないか」

そう言いながら、俺はちらりと隣の再不斬を見る。

「はい。再不斬さんの道に寄り添って、歩いていこうと思います」

笑顔で答える白。俺はその顔と答えを見て聞き、安堵した。

彼女は再不斬にただ追従して道を進むだけではなく、寄り添って一緒に歩いていこうというのだ。
つまりは自分の道を明確に見つけたということ。自分は道具ではなく、自ら道を進みゆく人だということを思い出したのだ。

「………この果報者が」

美人かつ気立て良く、一流の忍びとしての力量も備えている。

ちくしょう、パーフェクトじゃねえかウォルター!


「………白。あの小娘………ホタルといったか。そいつが呼んでいるらしいから、少し行ってやってくれ。
 さっき聞いたんだが、あの根暗野郎が霧隠れに戻ることをまだ納得出来ていないらしい」

「………分かりました。少し、行ってきます」

僅かに一瞬。再不斬の言いつけに対し訝しむ様子を見せた白だが、すぐに元の表情に戻った後、席を立った。

「すまんな」

「謝ることはないですよ。それでは、また」

言いながら、白は去っていく。






そして屋台のカウンターを挟んで二人、俺と再不斬の二人だけとなる。

「察してくれたようだなあ。相変わらず空気を読むのが上手い」

「茶かすな――――白が戻ってくるまで時間もない。単刀直入に話すぞ」

前置き、再不斬は最短距離で話しを切り込んできた。


「何故、“今”だ」


嘘は許さない、といった眼で再不斬は問いかけてきた。
並の忍びであれば、その眼光だけで死ねるだろう。

俺はその問いに対する答えを、迷うこと無く口にする。

「何故じゃないよ。“今”しかないからさ」

深呼吸。一息吸って、俺は続きの答えを口にする。

「状況が重なった今だからこそ、二人は霧に戻ることができるんだ。今は戦の前の緊張状態………軍事力でいえば木の葉、岩、雲よりも一歩劣る霧が、二人の帰参を拒む筈がない」

平時ならばいざしらず、と俺は肩をすくめる。
だが、再不斬は険しい表情を崩さず、続きを問うてきた。

「そうじゃない、違う………誤魔化すんじゃねえ。俺が聞きたいのは、最大の敵を前に戦力を減らす――――遠ざける。その、理由だ」

「………簡単に言えば適材適所、かな」

「ああ?」

「昨日、話し合って分かっただろう………あの化物を前にして、数は意味を成さないということを」

あらゆる攻撃を遠ざける、という究極の防御術。同時衝撃を与えられるだろう、避けようもない究極の攻撃術。
加え5行、火水雷土風を自在に駆使し、手裏剣影分身などの忍術をも使いこなす。

そして今は十尾を従えているため、スタミナ、チャクラ共に底なしだろう。
極めつけは一度見た術を瞬時に理解する、輪廻眼。

紫苑から伝え聞く所によると、高度な結界術の行使も可能だとか。


それらをふまえた上で、昨日カカシが犠牲になったあと皆で十尾打倒の案を出しあったが、どれも確実性に欠けるものばかり。
小一時間話しあったが、結局のところ確たる結論はでなかった。

「確かに、相手は百戦錬磨の上、万能に近い能力を持っている。半端な小細工は通じそうにないがな」

逆にこっちが術中にはまる可能性が高い、と再不斬は忌々しげな表情を浮かべる。

「幻術の腕も超一流だからな。数で挑んだら同士討ちを誘発されそうだし、数の有利による死角も生まれる………それを逃す相手じゃないだろう」

無意識の油断が致命的になる。相手も、それを熟知しているはずだ。

「手数の多さと豊富な札の種類―――正真正銘の最強。確実に勝てる手段を講じなければ、諸共滅ぼされるぞ」

勝てるかもしれない、では駄目だ。半端に手を出せば腕ごと持っていかれかねない。
確実に心の臓を抉り込めるような、そんな戦術を使って挑まなければ相手にかすり傷ひとつもつけられないだろう。

「………これだけの面子が揃っていても不利だってのは信じられんがな。だが、それでも勝算はあるはずだ」

「だけど、な。相手は小回りがきくし………万が一挑んだとして、相手がこちらの賭けに乗ってくれるかどうかも分からない」

決死の特攻も、相手が乗ってくればこそだ。
透かし、逸らされ、逃げられればそれまでだ。最強の戦力を揃えた上でガチンコを挑んでも、肝心の相手がその勝負を受けてくれるという保証はどこにもない。

その隙に違う所を、弱った箇所を攻められれば………それこそ、最悪の状況に成りかねないからだ。

相手は一人。数では最弱。だが、強みもあるということ。
潜入も潜伏も不意の急襲も全て思いのままになり、それを成せるだけの能力も備えている。

最強かつ最凶、最悪のテロリストだ。
やっていることは世界のためかも知らんが。

「なら、どうするってんだ?」

再不斬が不機嫌に問う、その疑問に対して俺は笑みだけを返した。

予てからの草案はあった。昔から考えていた、最終手段。

絶対に避けられない――――然るべき場で、放ち得る最強の一撃を、叩き込むこと。
防御もくそもない、全ての力を押し切れるだけの、一撃を。

クリアしなければならない条件が多々あるんだが、この分だとなんとかなりそうだ。

「………お前、まさか………使うつもりか?」

俺の言いたいことに気づいた再不斬が、こちら見てくる。

視線が問うていた。

“正気か”と眼で聞いてくる。

「うん、まだどうなるかは分からないけどなあ………どちらに転ぶかは、今はまだ分からない、かな。それとは別に、しなければならないこともあるし」

俺には絶対にできないことだ、と付け加えると、再不斬は不承不承といった様子で首肯を見せる。

「今は、あの野郎に付け入る隙を与えないように、各里の内部の暴走を防ぐ」

「そのとおり」

一発で正解を言い当てる。再不斬も、頭はきれる。流石にこの状況で取るべき選択肢を誤るような間抜けではない。

「つまりは別の方向からの干渉を防ぎ、余計な手が入らないようにする。だから俺達で霧隠れの暴走を防げ、ということか」

「全部正解。それは誰かがやらなければならないことで、俺には到底実現できないことだ――――その当たりの背景は、分かってるだろ?」

対外的には未だ九尾の人柱力となっている俺だ。各方面の説得といった分野には、最も適さない人材ではなかろうか。

「人に説得を行っていう人間は、その前に必ず素性を明かさなければならない。そして俺が素性を明かして説明をすると、脅迫にも成りかねないし、余計な火種を生み出さないとも限らない」

相手の印象が不明な今、迂闊な賭けは何よりも慎むべきこと。だから俺では不可能なのだ。

「………お前は良くも悪くも、火薬のような存在だからな」

「言うに事欠いて火薬? ………でも否定できないな、くそ」

事実とも言える。

「理屈では分かっちゃいるんだがな………」



「分かってるだろう? 戦争が起こるのはこれ以上ない程に不味いんだよ。恐らくは開戦となった時点で、忍者の世界は終わるだろうから」

ペインと十尾………あの化物共を分析した後、俺達はそういう結論に出した。


“あの化物共は、戦場の中でこそ真価を発揮する”
 

戦場のような混沌とした場で、十尾の欠片と死体の人形を駆使したゲリラ戦を展開されたらどうなるか。

まず、戦線が混乱し、各勢力が入り乱れた泥沼の消耗戦になってしまう。

そのまま戦死者が増え、死体の数も増える。そして、ペインが操れる人形の数も増えるということだ。相手側の戦力がネズミ算式に増えた結果、次第に戦域は拡大していくだろう。

あちこちで戦闘が起きて、あちこちで死人が出る。ペインはどうだか知らないが、忍びという輩は非常時ならば一般人を巻き込んでも戦闘を行う。

そうすれば、必然的に負の思念は増大しようというもの。

時間と共に十尾の力は増し………最後に待っているのは、負の思念を吸収しつくした、十尾。本格的な覚醒に至る。

想像できる事態を並べた後、再不斬は忌々しげに舌打ちをした。

「そうなれば、打つ手は無くなるだろうな。太古の時は十尾を封印し得る可能性をもつ人間………仙人の肉体と眼を持つ者がいたから、滅びずにすんだんだろうけど………今はいないからな」

つまりは、十尾が完全に復活すればこちらに抗う術がなくなる、ということ。

「それに、例えペインの目論見を阻止できたとしても、第四次忍界大戦が起こってしまえば―――何もかもが台無しになっちまう」

他はどうだか知らないが、それは俺にとっての最悪の事態。なんとしても避けたい所だ。
取りうるべき策は一つ。敗北と成り得る可能性の種を潰していくこと。

「お前は―――そうして、最後に………事態を真っ当に終息させようってのか?」

無茶だ、と再不斬は言う。

強引な手を使ってでも、何とかするべきだと反論する。

「半端な方策は意味がないぞ―――あれもこれも、と望んだとして、全部すんなりと行くはずもない」

再不斬の呆れたような声。
それに対し、俺は苦笑を返さざるを得なかった。

「まあ、正直………今の事態は予想外も極まるものなんだよなあ」

事前知識も無駄になったし、前もって用意していた策も、あの規格外コンビ相手では役には立たないだろう。

「だから――――何もかも真っ当に終われるなんて、思っちゃいないさ。埒外の相手をするには、足りない部分がある………」

不足部分を埋める“もの”が必要になる。

「代わりに必要となるものがある。綺麗事だけじゃあ、人は殺せない………“分かって”、言ってるんだろうな?」

「ああ」

「なのに何故手前は、逃げるという選択肢を選ばない?」

「………今回はなあ。今までのどれより、何より、逃げられない理由があるんだよ」

だからこそのもう一方さ、と俺は視線を再不斬に合わせながら答える。

「いつだって目の前の扉二つ―――開けられるのはひとつだけだろう?」

壁についた扉―――右か左か。どちらかしか開けない。
力尽くで乗り越えるという手もあるが、今回の壁は天まで届く高さだ。
乗り越えることは不可能。ならば、あとはどちらか一方を選ぶしかないのだ。

間違えた先に待っているのは、底なしの奈落だとしても。選ばなければいけないときがある。

「………今の状況じゃあ足踏みもできねえ、か。だが、一つ腑に落ちない点がある」

再不斬は俺の眼を見据え、問うてくる。

「そこまでお前が拘る理由ってなあ、なんだ? どうも尋常じゃないことみたいだが」

「………顔見知りを死なせたくない、じゃあ駄目か?」

「だめだな。この3年、お前と一緒に居た上でそれなりに分かった事もある。それも本音だろうが、その底の下にもうひとつ理由があると見たぜ?」

「あー………なんといえばいいのか。そうだな………」

言葉を思索しながら、俺は周囲にだれもいないことを確認する。

マダオとキューちゃんがいないことを確認する。



その後、俺は再不斬に戦う理由について、その内容を告げた。




「………成程」

納得した、と再不斬が神妙な顔で頷いた。

「………糞みたいな因果だな、まるで」

理由を聞いた再不斬の顔が、わずかに歪んだ。

「―――六道仙人曰く。因果というものは、人の間で巡るものらしいぞ」

そして返ってくる。


(因果応報………上手く出来た言葉だよ全く)


何かの因子はいつかの果てに応えて、最後には以て報いとなって返ってくる。


発端の因子は人の間を駆け巡り、最終的に一因である皆の元に帰ってきたのだ。

ならばもう、逃げ場などはない。ここから逃げれば、俺は誰でも無くなってしまう。




(あるいは、もしもの話――――隠れて夢だけを追い続ける生活を続けていれば、また違った結末を迎えていたのかもしれないが)


あくまで、もしかしたらの話しなので、それを想像すること自体に意味はないのだろうが。




「あと、そうだな………」


一つ聞きたいことがあるんだが――――と、喉元まででかかった言葉を腹の中に引っ込めた。


(聞きたかったのは、悪名高き同期生殺し――――その真実)

その後、同期生同士で殺しあうという悪しき風習は廃止となった。
その後、水影を暗殺しようとした。

それに―――例え才能があるといえど、戦場の経験も無い忍者未満の下忍が、同じ境遇にある同期生を皆殺しにできるのか。
人柱力でもない、特別な血継限界も持たない子供に可能な芸当なのか。

そしてここではない何時か。

“俺は俺の道を往くだけだ”と言った鬼が居た。
雪の下で涙を流した鬼が居た。
白の横顔を見ながら散った鬼が居た。

色々と不可思議な点があり、あるいはそれらは一本の線で繋がっているのかもしれない。
その当たりの所を、いつかは聞こうと思っていたのだが―――それは止めた。


ここから先は、霧隠れに戻ってからの再不斬の働きを見ていれば分かることだろう。
無粋な言葉で問うよりも、その方がきっといいと―――そう、思ったゆえに俺は沈黙を選択した。

「いや、いいよ」

「? なら、いいが―――っと、白も戻ってきたな」



――――時間だ。



そう言いながら、立ち上がる再不斬。

俺は屋台から出て、戻ってきた白と再不斬の二人、ここで別れとなる仲間に対して向き直った。

「……もう行くぞ。お前も気をつけろよ。根とやらと大蛇丸率いる音が襲ってくるかもしれない」

「考えすぎじゃない?」

「違う。影は影だからして影故に―――死角から背中へ向けて襲い来る。油断が過ぎれば、心臓まで貫かれるぞ」

「………油断を生じさせた時。いや、油断があるからこそ、影は背中から襲い来る?」

影が影であることを忘れた時、背中は完全な死角となる。

「………忍者は裏の裏を読め。そうだったな………波の国でのことを思い出したよ」

あの時、波の国で再不斬が7班と戦った時だ。

あの最初の戦闘の時、再不斬は二段構えの戦法をとった。

水分身2体によるフェイク――――1体目は殺させるための的で、2体目は実体を思わせるための囮。

その二つがあったからこそ、再不斬はほぼ完全なタイミングでカカシの背後を取ることができたのだ。

上忍というものは一筋縄ではいかない。背後を取られたとて、警戒していれば対処のしようもある。
だけど油断があった場合、その対処も不可能となる。

本当の意味での死角と成り得るのだ。

「油断を“させて”から、襲いかかる………」

「俺らと一緒だ。それにまだ、影で動く事こそを得意とする輩が、二つ。潰されもせずに残っているだろうが」

「………ああ」

「お前が死ねば、木の葉に綻びが生まれる――――戦争になるかもしれない。確かに今のところは上手く行っている。戦力も増えた。
 だけど、肝心なところで間違ちまったら意味がない。マヌケな油断だけはしてくれるなよ」

「………ああ。肝に銘じておく」

「それでいい」

再不斬は俺の問いに答えた後、白を目配せをした。
時間だ、と行っているようだ。

つまりはこれで別れの時。

(………えっと、何といおうか)

だが俺はそんな二人に対して、かける言葉が見つからなかった。

別れの時だ。それは理解している。
一時的なもの、永遠のものを含め、別れという事象は今までに幾度も経験してきた。

紫苑然り、ザンゲツ然り、紅音然り、キリハ然り。

だがこの時に限っては、正直何を言えばいいのか分からなかった。

実を言えば、この二人が一番、一緒に居た時間が長かった。
木の葉にいた時から含め、3年。同じ屋根の下で過ごした、というのも、同じ釜の飯を食った、というのも。

四季折々の風景を共に見た、というのも全て。この二人が、初めてだったのだ。

あくまで一時的なものかもしれないし、五影会談の場で会うこともあろう。
これが今生の別れになるとは限らないし、また会える機会がある。


だけど、もしかしたら――――ということもある。


あるいは運が悪ければ、一生の別れとなるかもしれないのだ。
だから何かを言わなければ、と俺は内心で必死に焦った。


しかし気の利いた言葉も浮かばない。

どうしようもなくなった俺は、考えず、思うがままに言葉を紡ぐことにした。


「そうだ、隠れ家に置いてある…………二人の荷物な」


気掛かりだったことを、口に出す。

そしてその後は、自分の考えていること、想っていること―――望んでいることを多分に含め、正直に話した。



「ずっと、残しておくから」




過ごした痕跡。食器や服。日常の残り香。隠れ家の生活で、それなりに痛んだ鍛錬場の器具。
二人の部屋の布団その他、私生活に使っていた用具。

それら全て、取りに戻る必要がないものだ。次の土地、霧隠れの里で用意されているもの。


そして、もう一つ。
人には見せられないもの――――ここ2年で撮り貯めた、写真群。

――――隠れ家を背後に、全員で取った写真。撮影は影分身。
7人全員が、揃っている写真で、匠の里で貰ってきた後、始めて撮影した写真でもある。

――――いつかの祭りで撮った写真――――ヤクザ、お嬢、赤黒の美少女コンビ(仮)、アフログラサン、パツキン幼女、鉢巻を巻いた屋台のおっさんが映っている写真。
すげえ混沌とした写真だが、これも良い思い出として残してある。

―――笛を吹いている多由也と、近くに群がる動物達。それをじっと見つめているサスケ。
集中し、目を閉じながら笛を吹いていると、知らず動物たちが寄ってきたという。多由也は演奏の後、目を開けた驚いて、ひっくり返ったらしい。
その後、その光景を見ていたサスケをぼこったらしいが。

――――多由也の笛の音に合わせ、刀を使った即興の演舞を披露しているサスケ。
シャッターのタイミングが悪く、まるで魔界のプリンス(笑)が使う格好悪い魔法のポーズになっていたが。

―――刀を使った模擬戦をしている、再不斬とサスケ。
最初は寸止め形式で試合をしていたが、回数を重ねる毎にヒートアップ。最後にはデッドヒートとなった結果、双方ともに洒落にならない傷を負ってしまったのはいい思い出だ。
その後、心配していた白と多由也の二人の顔が般若と化したが。

―――麺を打っている俺と、隣で手伝っている白と多由也。
この二人のエプロン姿は正直いって反則だと思う。白い麺、飛び散る汗、舞い散る粉、首筋にひっついた髪―――絶妙なアングルで取られたそれは、マダオをして至高の逸品と言わしめるほどだった。
ばれた二人に、取り上げられてしまったが。ちなみに身代わりの術を発動。仲良く二人はボコられました。その後俺もキューちゃんに噛み付かれました。

―――横に並んで座り、月を見上げながら酒を飲んでいる再不斬と白。二人に秘密で撮った一枚。
白は浴衣姿で、再不斬の酌をしていた。何と言うか絵になる光景だったので、思わず撮ってしまった。

―――余計な事を言ったサスケが、多由也にアッパーカットされている写真。
誕生日関連の話をしている時に、余計な事を言ってしまったらしい。


―――真剣な顔で狐耳と狐の尻尾作っているマダオの姿。キューちゃん発見された後、諸共に火葬されたらしい。
実に惜しかった、悔恨を思い出させる一枚でもある。


何でもない光景。馬鹿をやっている光景。

隠れ家での日常を写したそれらは全て、あの秘密箱の中にしまってある。

それらが、まだ隠れ家に残っていることは二人とも知っていた。

だけど霧隠れの忍びの目があるため、それらは絶対に持っていけないということも、理解していた。
万が一のことが起きた場合、不利な材料と成りかねないからだ。“うちは”であるサスケや、九尾の人柱力である俺との繋がりは、大っぴらにしてはいけないだろう。

持っていけないもの全て。要らなくなったもの、全て。


俺はそれらの全てを、そのまま触らずに捨てないで残しておく、と二人に告げた。



―――忘れない、と。



口に出すのも恥ずかしい俺は、無言で告げた。



「………ああ」


「あ、りがとうございます」


仏頂面で頷く再不斬と、少し泣きそうになりながらも、笑顔で返事をする白。

二人の気配が僅かに揺らいだ。

俺の言いたいことを理解してくれたのだろうか、あるいは隠れ家での生活を思い出したのか。

どちらかは聞かなかった。何となく分かっていたからだ。


「思えば、木の葉崩しに始まって、次は雪の国での戦い。そして暁の鬼鮫、角都、飛段との戦い。全ての戦闘において、本当に世話になった………ありがとう、助かったよ」


そうして、俺達は無言で握手を交わす。


またなという言葉も忘れない。二人は頷き、同じ言葉を返した。


「こちらこそ世話になった。波の国のあの時、お前が介入しなければ―――俺も白も死んでいたかもしれない」

「だから互いに礼を。そして―――再会の約束を」


また会いましょう、と白が言う。


「それじゃ……またな、二人とも」

「ああ、またな」

「ええ、また」



俺達は、別れと再会の挨拶を交わした。
いつかきっと、また会おうという言葉を交換する。だから、今は別れの時だ。

言葉の後、二人は踵を返す。こちらに背中を向け、自らの道を歩いていくのだ。

それを、引き止めることはしない。再会の約束は交わしたのだ―――あとは見送りの言葉だけ。


そう思った俺は、遠ざかる二人の背中に向け、言葉を送る。




「――――登り詰めろよ!」


きっとあの二人なら色々とやらかしてくれるだろう。良い方向に導いてくれることだろう。
鬼鮫に匹敵する力を持つ再不斬と、それに近い力量を持つに至った二人ならば。

色々なことを知った二人ならば、できないことは無いはずだ。



再不斬はその呟きに対し、言葉では答えず、ただ一つの動作で応えた。


振り返らないまま、背負ったの首切包丁の柄を掴み―――それを高々と翳した。

当たり前だ、と言っている気がした。

そうして二人は一度だけ振り返った後、走っていった。

再不斬は不敵な笑みで。白は微笑で。互いに笑い顔を見せた後に、去っていった。


(―――大丈夫そうだな)


その笑顔を見た俺は、ひとつの確信を得た。

きっとあの二人はあのまま変わらず、霧隠れを変えて行くのだろうと。生まれ故郷である霧隠れの里を発展させていくのだろうと。

―――かつての血霧の里の遺恨や悪習。それら全て、古き悪しきものを全てぬぐい去っていくのだろうと。


直接には聞いていないし、確たる証拠もない。だけどそれがあの二人の望みなのだと、そう思った。


俺達と、サスケと、多由也と同じく――――きっとそれが、あの二人の忍道なのだから。





「またね、か…………そうだな。また会えるよな」




残された肌寒い森の中、夜空の下。


一人呟いた言葉は小さな風となり、木の葉を微かに震わせた。



















































――――そして。






誰もいないはずのその場で。



ただ一人、俺の問いに答える者がいた。





「………残念ながら、それは無理だろう」





背後の林、月光閉ざされた暗闇の中から、声は聞こえた。

うっすらと漂っていた気配―――半ば予想していたことでもあった。

紫苑を連れ出したその時から、覚悟していたことだからだ。





「―――だけど漸く。アンタの望むがままに踊らされて、踊らされ続けて………」






意を決して向き直る。そこに在ったのは、予想通りの姿。

俺はその人物と正面から対峙し、名前を告げた。





「何とか死なずにここまで来たぜ―――――ペインさんよ」


































――――そうして。



かつての時。古の時に約束され、忘れられた伝説。


16年前。あるいは必然的に、始まってしまった悲劇。


それらを経た12年前。半ば偶発的に発生した、喜劇。






付随する人の道と忍びの道、横並ぶそれら全てが複雑に絡まり合って、生まれた、螺旋のような物語。



その終幕が、青白い月光が輝く夜空の下、蛍のように光り瞬く星の下、この対峙の時を鈴として。







人知れずゆっくりと、上がっていった。



























































                  第四章   ―了―










あとがき

次は最終章。



[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) ~章前~ 「始まりの終わり、終りの始まり」
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2010/05/01 22:17






~ 章前 ~













目の前に映るのは、かつての師。

まだ、僕が、俺が純粋に長門であった頃の先生。


だけど、今や交わせる言葉もない。


長門は疾く消え、そして去り、今はもう何処にもいない。

だから、何者でも無くなった、俺となって、僕と成って、我と成って語るしかなくなる。



輪廻の眼の奥に刻まれた、魂の記憶を。



あの日長門が長門で無くなった、六道が廻り世界が混沌と化した、十尾が顕現した夜の事を。






視線が合わさる。

先生の白髪が雨に濡れていた。どうやら逃げる様子はないようだ。先程の言葉が気になっているらしい。




だから、僕は、俺は、私は、俺は。


しんしんと、雨が降りしきる霧の中。


輪廻の眼にかつての記憶を篭めて、かつての誰かに想いを送る。

かつて、輪廻眼をうまく使いこなせなかった頃ならば、不可能だった所業。


だけど、今は可能だ。皮肉にも、今ならば可能なのだ。



眼と眼が会う。


自来也先生の視界が歪む。自来也の意識が霞む。同時、俺の意識も薄くなった。


世界が、歪んでいく―――――




~~



















ざあざあという音が聞こえる。それは無数の雨粒が何もかもを叩きつける音だった。

何時もなら聞こえる筈の鳥の声も、雨粒の音に覆い隠されているのか、はたまたそんな元気も無くなってしまったのか、今日は聞こえなかった。

ただ、聞こえるのは雨の音だけ。





あの時と同じ、雨の音だけだった。





「………長門?」

「ん……なんだい、小南」

「いえ、夕ごはん出来たから、お皿を並べるの手伝って欲しいんだけど………」

「ああ、ごめん、すぐに手伝うから」

「それは、いいんだけれど………それより、どうしたの?」

「………ちょっと、ね。たいしたことないから。それより、弥彦を呼んでくるよ」

「ええ、ごめんなさい」





今も雨が振っている。

無数の雨音、無数の雑音に囲まれて、俺は今も生きている。






「さあ、食おうぜ!」

「うん、いただきます………でも弥彦、今日はこんなに豪盛な料理を………いいの?」

「景気付けだ。いいさ。明日からはいよいよ、本格的に夢に向かって動きだすんだ………腹が減っては戦はできないって言うしな!」

「うん、僕もそう思う。自来也先生も………そう言ってたしね」

「そうそう。それに、ゆっくり3人で食べられるのは………今日で、最後になるかもしれないからな」

「そ、んな、ことは………」

「そんな顔すんなよ、小南。大丈夫、危険はあるだろうけど、俺達3人が揃えばきっと何でも出来るって!」

「そうだよ。それに、小南の料理もあるしね」

「もう、弥彦も長門も………」

「ははは。いいじゃん、俺達らしくて………じゃあ、いっただっきまーす!」

「「いただきます」」







色褪せた光景。白黒の映像。

でも、二人の声だけは心に響いて――――











「力ではなく、話し合いで?」

「そうだ。忍者だって人間さ。きっと、きちんと話しあえば分かってくれる!」

「戦えば、きっと誰かが死ぬ。そして人は誰かを失えば、その原因を憎む………だから私たちは話し合いで――――人死を出さすに、問題と争いを解決していきたいの」

「………本当に、それが出来ると思っているのか?」

「出来るさ。いいや、やるんだ。確かに今は無理かもしれないが、俺はそれが出来るまで諦めない………それが、俺の忍道だからだ」

「………」

「………」

「………くっ、負けたよ。わかった、俺も仲間に入れてくれ」

「いいのか?」

「ああ。お前の眼をみているとな………俺も、お前と同じ夢を見たくなったよ。それに何だかお前、危なっかしくて見ていられねえし」

「………俺、そんなに危なっかしいか?」

「ああ。自覚なかったのか?」

「………小南、俺危なっかし――――なんで顔を背けるんだ? って長門もかよ!?」

「ふふ、ごめんごめん。でも弥彦はそれでいいんだよ。僕たちを引っ張っていけるのは弥彦だけだから」

「うん。それに、背中は私………達が、守るから。だから、心配は無用さ」

「ええと、イマイチ釈然としないんだが………っていうか、それじゃあ俺まるで馬鹿みたいなんじゃ!?」

「ううん、馬鹿じゃないよ、弥彦だよ」

「お、おう?」

「それよりも………用事も終わったことだし。騒ぎを聞いた誰かに見つかる前に、基地に戻りましょ?」

「それもそうだな。よし、それじゃあ急ぎ基地に戻るぞ!」

「ええ!」

「うん………ん、どうしたの?」

「………赤毛の………長門、と言ったか。お前たちはいつもこんな感じなのか?」

「いつも、といえばいつもなのかなあ………何か変なところが?」

「―――いや、面白えって思っただけだ」










馬鹿をやって。仲間も増えて。

俺達の考えについていけなくて、途中で抜ける奴もいた。起きてしまった戦いの中で、死なせてしまった奴も。

だけど俺達は諦めず、功績を上げ続けたことで次第に有名となった。

気づけば、雨隠れの半蔵――――忍びの世界で、その名の知らないものはいない程の大物――――でも無視できない程に、名のある組織になっていた。

第三次忍界大戦の真っ只中だったのも大きい。戦場で貧する人々、戦火に脅かされている人々の援助や、山賊、盗賊などといった食うにあぶれた農民達との、話し合いでの解決。

右に左に活躍する俺達に対する民の名声は高かった。里の防衛にばかり専念していて自国の農村などに防衛戦力を割り振らない半蔵よりも、名声だけでいえば高かったのだと思う。



気づけなかったのは、若さか。

――――あるいは、盲信か。





戦争は激化していった。俺達も次第に疲弊していく。そんなある日、半蔵は俺達の組織に提案してきた。

半蔵の手の者は言った。

「一緒に、木の葉、岩、砂との平和交渉―――雨隠れの周囲にある三大国との、停戦交渉の仲裁人となるつもりはないか」

一も二もなく頷いた。俺達も限界に近づいていたからだ。それに、木の葉の裏の、更に裏―――忍び闇と言われるかのダンゾウも協力してくれるという。

「戦により各里は疲弊している。このままでは共倒れになるから、その前に表と裏―――両方から、停戦の交渉をしよう」

そう、言ってきたのだ。

相手の言い分に、確かなる理があった。それに、戦争は本当に酷い状況だったのだ。



だから、思った。

“この悲惨な戦争―――それを止めようとしたいのは、誰も一緒なんだ“、と。


まさか、裏切るまいと――――そう、信じていた。


忍びも人だ。戦う事は忌むべきことで、戦い殺す事を好き好んで行う奴はいない、と思っていた。

相手も人間。同じ人間なんだから、きっと俺達と同じ事を思っていると、信じていた。




事実、その事を聞いた皆は、歓喜に打ち震えていた。嘘などとは思ってもみなかった。皆、つかれていたのだ。

地獄とくぐり抜けて、ついに、ようやくここまで来たんだと、泣いている奴もいた。

戦場の中、死んでいった仲間。寒い、と繰り返しながら冷たくなっていく仲間。

目の前で消えていった、幼い命達。母の名を呼びながら、次第に冷たくなっていく少年。

失った仲間と、助けられなかった人達の屍を越えて、それでも諦めなかった――――その甲斐が在ったと、そう想えたからだ。



疲労の極地にあった皆を休ませ、自来也先生の教えを受け、その中でも余裕が残っていた俺達――――中核の3人で出向くと、決まった。

そうして、交渉の前日。俺達は久しぶりに3人で食事をしていた。

皆は泥のように眠っている。起きている奴もいたが、そいつらは俺達3人に気を利かせてくれたのか、自分の部屋に引っ込んでいった。

「ほんとうに、長かったね………」

「ええ………だけど、これでひとまず戦争は終わる………」

「そうだな。逝っちまったあいつらに、顔向けが出来るってもんだ」

明日は交渉の場なので、酒は飲まなかった。

ただの水で乾杯をする。





俺の輪廻眼、小南の紙による偵察術と頭脳。

そして何より弥彦の持つカリスマ性。その3つの、どれが欠けても俺達はここまでこれなかっただろう、と笑い合った。



あの日より、俺達は3人で一つだった。

血の池の中で結ばれた絆は酷、血を分けた家族よりも確かにつながれていた。






ちいん、とグラスの重なる音がする。

戦いが終わる鐘の音かもしれないね、と小南は言った。

弥彦は笑った。僕も笑った。



懐から、手紙を取り出す。僕たちの悲願が達成された、その証を。

そこに書かれた文字を見る。

“明日の夜。×××の森で、平和の為に話しあおう”


「そういえば明日は中秋の名月―――お月見だね」

小南が呟いた。

「そうだったかなあ………戦いが続いたせいで、時間の感覚が分からねえよ」

「そういえば、もう秋だったんだよね………」

「うん。だから、明日の交渉が終わったら、組織のみんなで団子を食べようよ」

せめてもの贅沢だ、と小南が笑う。きっと一人一個、だとかそんな数しかないのだろうけど、それはそれで望む所だった。

串についた三つの団子を皆で分け合うのも、悪くないと思ったからだ。


(でも、僕はやめておこう)


むしろこの二人を冷やかそう、と思っていた。

弥彦が一つ、小南が一つ。あとの一つは二人で半分に、という悪戯を仕掛けようとしているのだ。

皆も満場一致で賛成してくれた。二人をからかうことも、凄惨な戦場を乗り切る元気を娯楽の一つだった。


弥彦が誰を好きか。

小南が誰を好きか。


そんなことは皆分かっていた。
弥彦と小南。僕と出会う前に、出会っていた二人。

僕と同じで雨の中、壊滅した村の中で二人は出会ったらしい。

両親の墓の前で動かない小南を、弥彦が無理やり引きずっていったらしい。

いつかの、本格的な戦争が始まる少し前。

酒の席で、酔って顔を赤くした小南が、その時にあったことをぽつり零すように話してくれた。




『なんで、ないているんだ?』

『だって、おとうさんとおかあさんが………』

『………しんだのか』

『うう………』

『でも、ここに居たらお前も死ぬぞ。だから、あっち………雨の当たらないところに行こうぜ』

『………いや! ここで私も死ぬ!』

『な、なんでそんなことをいうんだよ! お前はばかか!?』

『だって! おとうさんも、おかあさんが、ここに………!』

『もう、しんだんだよ! 二度と会えないんだ!』



「って言いながらね。ほっぺたを殴るのよ。あの拳はほんとうに痛かったわ………」

酔いが回ったのか、頬を赤に染ながら小南がやけくそ気味に呟く。

「って、ええ!? あの弥彦が、女の子を殴ったの!?」

「………その時は私の事を男の子だ、って思ってたらしいわよ」

その時も喧嘩になったけど、と小南が目を座らせる。

鈍感、とかニブチン、とかつぶやいている。

「そ、それで、続きは?」

「ええ………少し経った後、また私の所に戻ってきてね。どこで拾ってきたのか………傘を持って。墓の前で泣き続ける私の横に立つのよ」

「………弥彦らしいね」

「そうね………そして、こう言われたわ。“お前が死ぬと、お前と同じように………死んだお父さんとお母さんも泣いちまうぞ”って」




そう呟き、小南は遠い目をする。

それはいつも無茶をする弥彦――――その背中を見つめる目と同質で、同じ意味を含んでいた。



そしてそれは、食事の用意をしている小南の背中を見つめる弥彦の目と同じだ。


正に“一目”瞭然だと、組織の皆で笑いあった。



少しの蟠りはあった。

ずっと一緒にいた二人が、と少し寂しい気持ちもあるにはあったが、それよりも喜びが勝った。


きっと、明日が終われば、俺達の中の何かが変わって、また新しい何かが始まる。


そういう予感があった。












――――それは、別の意味で正しかったのだけれど。







~~






























「赤毛の小僧………この娘の命が惜しければ、お前たちの頭を――――弥彦を殺せ」


奇襲だった。不意打ちだった。

状況はよく覚えてはいない。気づけば小南は敵に捕まっていた。

翻る白刃。高台の上で、雨隠れの半蔵が哂う。





―――――そこから先は、良く覚えていない。

ただ、皆が僕を呼んでいた事を覚えている。

「駄目! ………長門、弥彦と一緒に逃げて!」

「っそんなこと出来るか! 長門、俺を殺せ!」

「っ弥彦!」

「早くしろ!」

「長門!」





―――――そこから先は、良く覚えていない。

ただ、クナイが人の肉に刺さる感触だけは覚えている。

「小南と一緒に………逃げろ」

「弥彦ぉ!」

「かかったな、やれ!」

起爆札が四方八方から殺到する。







―――――そこから先は、良く覚えていない。

ただ、僕に覆いかぶさる小南の身体の温もりだけは覚えている。

「こな、ん?」

「長門………逃げ、て。や、ひこと………」

「小南!?」












―――――そこから先は、良く覚えていない。

ただ何事か、絶望の言葉を聞かされたのは覚えている。

「お前たちの仲間も、今頃は………」


何事か、高台にいるゴミが高々と何事かを宣言している。


また一つ、殻が割れる。決定的な、罅が入る。















そこから先は、良く覚えていない。

―――――ただ、見上げる月が綺麗だったのは、それだけは、今でも忘れられない。


傍らに横たわっている弥彦の身体からは、血が流れ続けていた。

俺を庇った小南の背中は、焼け爛れ雨にうたれるままにいた。


二人とも虫の息だ。あと数分と持つまい。俺も、爆発の衝撃で脳が揺さぶられている。


覆いかぶさる小南の息が弱々しくなっていく。弥彦の息が細くなっていく。



弥彦が死ぬ。小南が死ぬ。
皆が死ぬ。全部死ぬ。



でも、目の前のこいつらは哂っていた。高台からゆうゆうと俺達を見下し、愚かだとか、若造だとか言っていた。

仕方の無いことだ、よくある若さ故の愚行だ、忍びの世界には力が、仕方ないこともある、綺麗事だけでは。

演説は妙に長かったが、要約すればそんなくだらないことでしかなかった。全部承知している。承知してなお、俺達はこの道を選んだのだから。

だが、そいつらはそれを愚かだという。間違っていると断定する。


――――そう。つまりは、こいつらは、人を殺し、奪う事を肯定している。

自らの力、チャクラ、忍術を使い、人々から大切なものを奪うことを、否としていない。


実際、忍びというものは動く度に、破壊の爪をが振るわれる。

自国では敵を倒す英雄だがどうだかしらないが、他国ではただの破壊者でしかない。

その影で非道を働く者もいる。戦場は人を狂わせる故、それは避けられないことなのかもしれない。

結果、抗う力がある大国ならば報復を。立ち向かう力も無い小国ならば、泣き寝入りを。


呪いあい、殺しあう。

そしてまた、新たな呪いが生まれて、人の間を巡り往く。


呪いあい、壊し合う人達。その巻き添えにあい、顔も知らぬ誰かを呪ったまま死んで行く人達を大勢見てきた。
小国が故に、大国に蹂躙された人達だ。何をした訳でもなく、何も悪くないのに、理不尽を受けた人達。
虫けらのように殺されていった人達。

血の赤さを覚えている。体温が奪われて行く絶望を、覚えている。
“おかあさん”とだけ残して死ぬ子供、そのつぶらな瞳に映った空虚を、覚えている。


それを止めるために、皆で戦った。

道中、志を共としようと、同じ目的地を目指そうと、腕を組んだ仲間達もいた。

一般人を守るため、志半ばで死んで行った戦友達もいる。



そして、誰よりも大切な二人。

守りたいと願った、二人との日々。





誰もが願っている筈だ。止めたいと、思っている筈。

そう、信じていた。









―――――だけどどうやら、それは間違いだったようだ。俺はこの時、確信した。


もう、どうしようもないんだと。

頭の中が空っぽになる。代わりに、黒い溶岩が内を満たす。

何かが壊れる音がして、俺はそっとその上に蓋をした。











「もう、いい」













月が綺麗だった。月が綺麗だった。月が綺麗だった。








月が―――――綺麗だった。

その中にある“黒”が見える程に。その中にいる、“誰か”と繋がる程に。

月が、綺麗だった。












「もう、どうでもいい」



















気づけば、印を組んでいた。倒れながら親指の肉を少し食い千切る。


でも、痛みは無い。

黒と繋がる。記憶が流れ込む。魂に罅が入る音。誰かの魂の欠片が隙間に入り込む。




目の前のこいつら――――痛みを感じる他者。

そんなものは存在しない。俺もそうだ。もう忘れてしまった。いや、 “忘れてしまえ”。













「お前たちなんか、どうでもいい…………どうなろうと、構うものか」













これは太古の記憶だろうか。


長門であった俺と、六道であった誰かと、“黒い何か”の破片が入り乱れる。

見たことの無い光景が思い浮かぶ。



でもそんなことはどうでもいい。今ここにある確信は一つだ。



3人全員が、同じ結論に達していた。










「――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!!!」









声にならない叫びが、大気を震わす。

無音の爆裂が周囲を包み込む。相手が怯えていたのか、逃げようとしていたのか、覚えていない。

覚える価値もない。その前に、“見て”もいない。ただ思うがままに、動く肉塊を動かない肉塊に変えて行くだけだ。


この胸に残っている、最早意味もわからなくなった痛みを、相手に叩き込むことだけ。

黒いものを媒介とし、脳裏に浮かんでは消える森の叫びを。そして大地の叫びを、大気の叫びを両手に込めて、叩き込み、肉塊をつぶし、大地に還していく。


もう、痛みを知って相手を思いやる気持ちを育めなどとは言わない。話しあって解決しようとも思わない。


――――ただ、痛みを知り、抱きそのまま死んで行け。

救いなどは与えない。ただ、死ね。絶望に塗れて、居なくなれ。

お前たちはこの世界に必要無い。戦うことでしか存在意義を見いだせないお前たちなど、妖魔が消えたこの世界では不要となる存在だ。








だから、俺が殺す。弥彦や、小南、仲間達と同じように。

この手で、殺してやる。力いっぱい壊してやる。

だから、全部死ね。







忍びに連なるもの全て―――――この世から消し去ってくれる。









そうして、始まりは終わり、終わりが始まった。













~~





記憶同調の後。



気づけば、先生は泣いていた。


戦う意志も無くなっているようだ。いや、戦う気力すら、奪われてしまったかのようだ。


雨の中、泣いている。静かに、泣いていた。





だけど俺にとっては、それすらもう―――――どうでもよかった。













ただ俺は、目的に向かって走り続ける。




例え神と罵られようとも。


例え人を辞めようとも。




終着に向かって、這いずりまわると決めた。
















誰でも無くなった、俺として。





あの日の温もりを篝火として、突き進む。













今、ここから――――最後の終わりを、始まるために。







[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 六十八話 「月は見ていた」
Name: 岳◆5bf56ac5 ID:6d0af7c1
Date: 2010/05/06 00:58

網本部、執務室。夜は更け、日付が変わる時間にもなってはいたが、ザンゲツは一人執務室で先の戦闘の事後処理を行っていた。

忍術の余波で薙ぎ倒された木々の処理や、すいとんによって緩くなった地盤の土留めなどだ。

それも終わりに近付いた頃、見張りをしていた者から報告が入る。

「失礼します! ………ウタカタ、霧隠れの鬼人他3名、先程霧隠れの里に向かったようです」

「分かった。下がっていいぞ」

「はっ!」

促され、報告員は部屋を退室する。

ザンゲツは誰もいないのを確認した後、深く息を吐いた。

「ひとまず、台風は去ったか………これで一息つけようか………ん?」

こんこん、とノックの音。

「シンです………戦場後の調査について、報告する事があって参りました」


「……分かった。入っていいぞ」

「失礼します」

と、部屋に入るシンは、後ろでにドアを閉めた途端、調子を崩した。

「いやー、やっぱり肩こりますね、こういうの」

「まあ、お前にとってはそうだろうな………それで、知らせるべきこととは何だ?」

「はい。その、例の暁の二人が火葬された所ですがね………その地面の下から、ちょっと厄介なものが見つかりまして」

「地面の、下だと?」

「はい。例のナルトとサスケの秘術、“火遁・劫火螺旋弾”ですか。そのの焼け跡からですね………穴が見つかったそうです」

「………情報であった、滝隠れのシグレとかいう裏切り者の時と、同じ類のものか?」

「はい。地表面から2m程は術の余波のせいか、土砂で埋まっていたのですが………その下に細く深い、更なる地下へと通じる穴があったとのことです」

「………つまりは、あいつの予想通りってことか」

「はい。あの二人も、砂隠れ近郊で果てたデイダラやサソリと同じく、またシグレとやら同じく………十尾に呑まれたってことでしょうね」

「ふむ………報告では、その二人………飛段と角都といったか。十尾が合体した時には、予想外という表情を浮かべていたようだが?」

「はい。うちはサスケやはたけカカシが写輪眼で捉えたようですから、見間違いといったことはないでしょうし」

「そうか………しかし、予想外か……」

呟きながら、ザンゲツは考え込む。

二人にとっては、全くの予想外だった。というならば、知らされていなかったのだろう。

しかし、ひっかかる。何故知らされていなかったのか、という点だ。

考えられるは二つ。
一つ、あの状況に陥るのが、黒幕で十尾を貸与した思われるペインにとっても、予想外であったこと。
そして、もう一つ………そのペインが、二人が呑まれるということを望んでいたということだ。

「こちらの方が可能性は高いが………しかし、奴らは仲間ではなかったのか?」

「はい。うちはイタチの言や、二人と戦った時に聞いた言葉………あの時の状況からしましても、角都・飛段の二人はペインの目的や真実を知らされていたようですが」

「………それは聞いている。ペインの目的や真実を知ったとしても、あの二人は背かず離反することも無いということはな」

角都は言われた任務を成し遂げることこそを誇りとしている。そして、その成功を認めたという証拠――――払われる金があれば、依頼人の主義主張はどうでもいいらしいということ。

飛段は殺戮が趣味の傍迷惑な変人で、忍者大虐殺というペインの目的に関しても反対せず、むしろおおいに賛成するだろうということ。

戦闘の後、イタチは皆にそう説明していたのだった。

「しかし、あの二人も死んだ………残るは、ペイン、そしてゼツとかいう偵察を主とする忍びのみか」

「はい。ペインに関しては力が強い上補足も困難、ということで………五影で会談をした後、各国が協力の元、全力で排除するという話だそうですが」

「うむ………しかし、数を揃えても意味がないというのは、どうなったのだ?」

「カカシ上忍の話を聞くに、各国の協力の元包囲網を組み、追いつめた後選りすぐった精鋭で挑むそうです。五影か、各国の筆頭クラス総出で戦えば倒せるだろうとの見解ですが」

「うむ………しかし、それはあちらも分かっているのではないか? 対処する方法も、考えているのだと思うが」

「それなんですよねえ………こういう状況も予想できたハズです。なのになんで、ペインは味方を殺したのか…………その点、ナルトから何か聞かされていないですか?」

「いいや、その点については何も言ってはおらん。違うことは聞かれたが」

「違うこと?」

「ああ、“地摺ザンゲツ”という名前の由来について聞かれた」

「由来………? ってそれ、先代の名前なんじゃあ」

「いや、頭領としての称号のようなもんだ。木の葉ならば火影、という風にな」

「え、初耳ですね………それで、その由来って何なんですか?」

「ああ………まず、地摺ってのは、地を摺るということ………転じて、網の主要目的である、道の整理のことを意味する」

「へえ………じゃあ、ザンゲツは?」



「――――斬月。月を斬る、ってことだ。チャクラを使わずに忍び達を圧倒する、ってことを意味しているらしい」


「そう言われると、何とも………深いですね。でも、なんでザンゲツではなく、斬月と表記するんですか?」

書類にサインする時、いつもザンゲツですよね、とシンが首をかしげる。


「斬月というのも剣呑な名前だしな………戦いを好まない網の首領として“斬月”と大々的に名乗るのは不味いと考えたのだろう」

「………それだけですか? 何か、先代の気性を聞くにそれだけとは思えないんですけど」

「お前、今日はやけに鋭いな………」

「いい笛を聞きましたから。それのお陰かもしれません」

「それについては同意しよう………まあ、いいか。なんでも先代が言うにはな。“ザンゲツ”という名前に関しては、もう一つ意味があるということだ。友人の名前だったらしいが、それが誰だったのかは教えられていない」

「友人………もう一つの、意味?」

「ああ。何でも、網の創設の裏に関わっていた者らしいが………確たる人物もないでな。そのもう一つの意味に関しても分からずじまいだった」


教えられる前に、逝ったからな、とザンゲツは眼を閉じた。


「そう、ですか………」



「ああ、そうだ。最も――――」



一拍置いて、ザンゲツは窓の外を見る。

浮かび上がるのは、綺麗な満月だった。




「――――ナルトは、その意味に気づいたようだったがな」







~~






「え……メンマさん!?」


「あ、久しぶりだねキリハちゃん」


懐かしい屋台、懐かしい黒髪。

私は木の葉に戻ると、そう兄さんに伝言をしようとしていた時だった。

探し、森の中を歩いた先、かつて何も言わずに消えてしまった人がいた。

ラーメン屋台「九頭竜」の店主、小池メンマ。木の葉一の業師、テウチさんに勝とも劣らない味は、里の中でも有名になっていた。

どうして、何も言わずにさったのか。どうして、今此処にいるのか。

訪ねると、少し困った顔をした後、ザンゲツとは腐れ縁だからとか、三代目にも五代目にも確認を取っている、自来也様に確認してくれてもいいとか、色々な説明をしてくれた。

「ああ、じゃああのおばちゃんが言っていた………」

「そう。それが、オレだよ」

「へええ………そうなんだ」

なんともなしに、言葉を交わす。

その少し後、私は屋台の前で静かにラーメンを食べる人に気づいた。

随分と大きな声で会話していたのだが、迷惑ではなかっただろうか。そう思った私は訪ねてみたが、返ってきたのは“気にしなくていい”との言葉。

どうやらその人は、ラーメンを食べることに夢中になっていたようだ。私は小さく頭を下げて謝罪をすると、メンマさんに兄の事を聞いた。

「いや、見てないねえ………何、見掛けたら声をかけておくよ」

「お願いします。それでは………っと。そういえば、まだ時間があるんだった」

「そうなんだ。少し、食べていくかい?」

「え、でも私お金が………」

「無いなら、後でいいよ」

そう笑って、メンマさんは食べて行くことを勧めてくれた。時間にはまだ少し余裕がある。

断る理由もない私は、屋台の椅子に座りラーメンができるのを待っていた。

隣の人は、静かにスープをすすっている。見れば、其の色は透明だった。しかし匂ってくる香りは風雅かつ彩美で、思わずヨダレがでてしまう程。

腕を上げたんだな、と私は深く頷き、ラーメンが来るのを待った。


そしてしばらくして、ラーメンが完成した。

「おまち」

夜の森の中、メンマさんの声が静かに響く。風は僅かに吹いているようだが、飛ばされるほどではない。

私は風に揺らされる森の音を楽しみながら、出されたどんぶりをこちら側に引き寄せる。

「美味しい………」

レンゲですくい、スープをすする。その直後に出た言葉は、感嘆のそれだった。
昔とは、違う。ケタ違いとまでは言わないが、段違いと言える程に、味の深みが深まっている。

一度呑めば至高。繰り返してもあきることのないそれは、今までに体験したことのない味であった。

野菜や鳥豚などの肉、加え塩や果ては香辛料まで。様々な味が組み合わされ、それぞれの特性が引き出されている。
かつて、メンマさんは言った。

ラーメンの命であるスープ、そこには多様な命が組み合わされているのだと。
時には嵐のように乱雑に、時には川の流れのように清らかに。味と味が組み合わさり、得も知れ美味を生み出す不思議。

言葉では上手く説明できない。

本当に美味しい、としか言えない。

麺も見事だ。そのままとしてもそれなりの美味を誇るだろうそれは、スープと組み合わされば無敵になる。
ずるずるといった音と共に、口の中へ。

のどごしが見事すぎたそれは、経験したことのない未知の感覚を呼び起こさせた。

具も見事で、どれも捨て材にはしていない。チャーシュー、ネギ、もやしは全てそれぞれの長所を最大限に発揮している。

チャーシューは肉として。噛んだ瞬間、口の中に広がるジューシーな風味と旨み。とろけるような味わいで、その存在を誇示している。
ネギ、もやしは野菜としての旨み。しゃきしゃきとして、また野菜としての旨み、大地の味わいを口の中でしっかと主張している。

そして、単品でも十分にやっていけるだろう彼らは、スープという大海と混ざり合うことで更なる高みに至っている。

私は何度も呟きながら、レンゲと箸を交互に、そして忙しなく動かす。
止まっている暇などないという風に。

一つ食べれば新たな発見をして、また一つ食べれば未知の光景が見える。

まるで旅をしているようだ、と私は普段なら考えることのないだろう、埒のない考えを抱いた。旅て。

だけど、なぜだろう。旅――――こういう表現が、一番相応しい気がした。
そこかしこに、色々な味がする。まるで各地方全ての特色が混ざり合っているかのようだ。

例えば、このチャーシュー。材料は火の国で取られる豚、赤華豚だろうが、調理方法は従来のものと違うようだ。
スープにしたってそう。原料がまったく分からない。それなりにラーメンの知識がある私でも知らない何か、美味しいに至るに必要な何かが厳選されて、混ざられているかのようだ。

それは小国か、あるいは辺境か。めったには表にでないであろう、その地方特有の材料や調理方法が組み合わさっているのか。

考えながらも、私は食べ続ける。

だけど、それも無限ではない。旅も、いつしか終わりを迎える。
気づけば、最後の一口となっていた。
私はどんぶりを両手で持ち、残り少ないスープを一飲みする。

最後の一滴が喉を通りすぎたあと、私はどんぶりをゆっくりと台に置いた。
ことん、という木の台とどんぶりがぶつかる音。

その音に続いて、私は両手を合わせる。


「ごちそうさまでした」


「お粗末さまです。しかし、食べるの早いね」


隣の客はまだ食べているようだ。


「だって、美味しかったから………って、懐かしいですね」


かつては“何時も”だったやり取りを交わしながら、私とメンマさんは苦笑を交わす。


その後、メンマさんは徐に屋台の外に出て頷き、私を顔をじっと見つめる。


「そうだな………昔のよしみだ」


ひとつ、深く息を吐くメンマさん。そのまま私の名前を呼んだ後、懐から紙の束を取り出した。

「これを、受け取って欲しい」

「え、これを………?」

私は急な話の転換についていけずに、首を傾げてしまう。

するとメンマさんは苦笑をしながら、説明をしてくれた。


「これは、僕が集めてきたラーメンの調理方法などが書いてあるんだ………いわば、秘伝の日誌というべきもの」

「ええ!? それって、大切なものなんじゃあ……」

何で私なんかに、と訪ねる。すると、メンマさんは困ったような表情を浮かべた。


「少し、長く――――旅に出るつもりなんだ」

もしかしたら、戻ってこれないかもしれない。

メンマさんはそう呟き、首を横に振った。

「今までに集めてきた知識………これを誰にも伝えずに、ってのは勿体無い気がしてね」

「………でも、なんで私に?」

「僕のラーメンを、ただの屋台の客として………一番多く食べてくれた君だから、かな。迷惑だった?」

「いえ、迷惑なんかじゃ!」

慌てて首を横に振る。

「なら、受け取って欲しい………っと、そろそろ時間、大丈夫?」

「え? …………あ、もうこんな時間!?」

夢中になって時間を忘れていたようだ。
これじゃあ、兄さんを探す時間が無い。

「ごめんなさい、すみませんけど用事があって!」

代金を受け渡し、頭を下げる。
できれば理由とかその他諸々聞きたいことがあったのだけれど、このままじゃ兄さんに会えないまま帰ることになってしまう。



「ああ、いいよ――――さよなら、キリハちゃん」



「―――え?」



「どうかした?」


「いえ………はい、さようなら、メンマさん!」



そうして、私は別れを交わす。


手を振るメンマさんを背に、走り出す。










――――何故、さようならだったのか。

何故、またねとは言わなかったのか。

何故、大切なもの、ラーメンの日誌を私に託したのか。



私は、これらの中に含まれた意味と気持ちを察せられず、後に悔やむことになる。









~~~





元気に走り去るキリハを見送りながら、俺は手を振り続ける。

やがて見えなくなり、結界が再び展開された後、未だラーメンを食べ続けている客に話しかけた。



「つーか食べるの遅いな、アンタ」


「元が少食でな………それにしても、あの娘が言った通りだ」


確かに旨い、と呟きながら、ペインはラーメンの一口一口噛み締めるように食べている。

キリハが去ったからだろう、その眼には輪廻眼が浮かんでいる。


「―――ところで、さっきの君と妹君とのやりとり……少々、話の展開が強引だってのでは?」

「いや、ああするしか無かったんだよ」

全部説明するわけにもいかないから、ぼかしながら説明をするとああなった。

上手くいえない以上、不思議に思われても畳み掛けて誤魔化すしかなかったのだ。



「ふむ、秘伝のラーメンか。しかし、俺用の特殊調味料として、毒が混ぜられていると思ったのだがね」


ペインは自分のどんぶりを見ながら、呟いた。


「………人には、禁句というものがある。今お前がほざいた言葉が俺にとってのそれだ――――二度、口にするなよ」

ラーメンに毒を入れてどうこうするくらいなら、自らの喉を掻っ切って死ぬ。

そう告げると、意外なことペインは謝罪を返した。

「すまない、二度というまい」

俺の眼をまっすぐに見ながら、そんな事を言ってくる。

眼の奥の光は黒くよどんではいるし、隠そうともしていない輪廻眼も見える。

だが欠片だけど真摯なものを感じ、俺はその謝罪を受け入れた。

「………ああ。しかし、意外だな」

「何がだ?」

「いや、アンタでも自分が悪いと思ったら謝罪をするんだなー、とか」

「当然だろう。過失とはいえ、犯した罪、即ち過ちは正されるべきだ」


記憶は見せた筈だが、とペインは俺に視線を向ける。

(………過ち、か)

俺は心の中で反芻しながら、見せられた光景と、それに付随する感情を思い出す。

忍び達の戦いに巻き込まれる人達。止めようとする者さえも消し去り、戦いを続けようとする者。

加えマダラの遺言で聞かされた事の考えれば、忍びは要らないという結論に達したのもうなずける。

「だから正すのか。お前の思うがままに、あるべき形へと」

「そうだ。お前も、見ただろう………俺はあの月の夜に、誓ったのだから」

自来也はそれだけで戦意を失くしたのだがな、とペインは呆れた声を出す。

「何だかんだ言って、あの人も木の葉の忍びだ………火の影に照らされる場所以外がどうなっているのか、見てはしても理解はしていなかったんだろうよ」

火影が守るのは木の葉隠れのみ。それ以外で、何が燃やされているか、蹂躙されているのか。見てはいても、本質的に理解はしていなかったのだろう。

「責任を感じているのもあるし、優しいってのもある。あるいは、木の葉が綺麗な組織なのだと思っていたのかもしれないが」

子供っぽいところがあるしな、と俺は首を横に振る。

「殺したのか?」

「いいや。戦意は失ったようだし、伝言の役割も果たしてもらうのでな………殺す価値も無いしな」

そう言ったペインの顔は、気のせいか嬉しそうに見えた。だが、問題はそこではない。

「伝言?」

「ああ。最も、イタチのお陰でその必要も無くなったようだが………マダラの遺言、か。いや気付かなかったよ」

「うん? …………自来也と会ったのは何日前だ?」

「お前らが紫苑にたどり着いた日の少し前だよ。十尾の事諸々を告げたのだ」

イタチが知っていたとは少々予想外だった、とペインは顔を無表情に戻す。

「忍びの愚かさと、迫り来る滅びについて………どうも、奴らは自力では気付けないようだからな。殺されてしか気づくことができないようだ………お前は違うようだがな、うずまきナルト」

「………何だかんだいって、俺もあの夜に弾き出されて、それから追われる立場になった――――だからこそ、見えるものがあるってのは皮肉だけどな」

「だから、殺すのか? 悔いを残しながらも。それが矛盾だと気づいているか?」

「俺も、旅の中それなりに見てきたものがある。決意したものもある。綺麗な手のまま生き延びられるとは思っちゃいねえ。だけど、それなりに矜持も持ち合わせている。不必要な殺しはしねえ」


「必要な時、だと? それは一体どんな時だ」


待ちかねていた問いに対し、俺は笑顔で告げてやる。



「無力で小さな子供の芽を摘むやつは許さないってことさ――――あの日紫苑を見殺した、アンタのような奴だよ、六道ペイン」






「………あれについては、完全に予想外だった―――と、いう言い訳は卑怯だな」


「どの辺が予想外だったんだ?」

「あの薬さ。まさか、アレほどまでに強力な効果があるとは思っていなかった。だから、治してくれたことには礼を言おう」

「抜け抜けと………あんたなら、あの状態になる前に止められた筈だろうが。あの時の鬼の国………あの場にいただろう、あんたなら防ぐことが出来た筈だ!」




拳を握り、叫ぶ。



「おかしいとは思ったんだ………入って2年そこそこの俺に、鬼の国の動向を探るなどという重大な任務が下されたのも。

 もう一人の忍びが裏切り者だったのも――――網が、鬼の国で起きていた事件に気づけたのも!」


あの時、俺が赴いた鬼の国のことを思い出す。

表向き、一見してそうと分かるものは無かった。それこそ、城内部の事情と、周辺で静かに繰り返されていた忍び同士の戦闘を知らなければ俺達を派遣できる訳もない。


「あの“根”が網程度の抜け忍に………極秘裏に進めている任務について、気づかれるような、そんな愚を犯す筈がない。最初の襲撃の後だってそうだ。あの状態の俺が、自力で河から這い上がれたはずもない。

 ――――あの時、夢の中で見せた光景――――あれも、お前の仕業なんだろう」


人の夢に干渉する―――そんなことは、普通の忍びにだって出来はしない。あれはおそらく、俺を奮起させようとこいつが行った精神干渉だ。

起きている時ならばともかく、昏睡状態であるならば幻術には抗えない。

そう、あの笛の音で、整えられた中、淀みが晴らされた時にしか思い出すことができなかった。


「………鬼の国での事件の後、事態を収拾するタイミング、俺達を訪ねた時期、紫苑を助けるタイミングもそうだ――――あまりに上手く、“出来すぎ”ている。監視でもしていなければ、出来る所業じゃあない」


僅かな疑問点どうしを結んでいくと、どうにも繋がる一つの線があった。

うまく行っているからこそ、気付けない、死角。影の影。裏の裏。仕組まれたもの。


「マダラを殺した後の宣戦布告だってそうだ。“殺す”という言葉………裏で動くのであれば、あれも必要のないものだった。むしろ害悪にしかならない。だとするならば、目的は別にあるはず――――あれは、俺に戦いの場から降ろさせないための言葉だったんだろう?」


降りるなよ――――裏の意味が籠められた言葉。

まんまと思惑にのってしまったのだが、今となってはどうでもいい。


「木の葉での遭遇だってそうだ………あんた、あの時手を抜いていたよな? 態とらしく初対面ということ、正体に気付いていないということを印象づけて、嬲った後に逃がした………」


切っ掛けを作り、調整をして、探り、導く。

全てを仕組んだ訳でもなかろうが、ある場所までもってこようとしていたのは分かる。

そう――――最初の、あの夜からだ。


「極めつけは、事の発端…………俺がこっちに来た12年前のあの夜のことだ。木の葉隠れの里には、結界が張られている。
 侵入者と脱走者を察知する結界がな」

考えれば、変なのだ。

あの結界を抜く方法は、暗部か火影クラスの忍びにしか知らされていない。

そしてその両方が手引きをしていない以上、答えは一つだ。

特殊な瞳術を持って解析をするか、暗号を聞き出す。こいつならば、問答無用で情報を引き出す能力を持っていたとしてもおかしくはない。


「………変だと思ったんだ。河に落ちたぐらいで、暗部の追跡を逃れられるはずがないのに、運が良かったから助かったと、そう思い込んでいた――――目が覚めた時、俺は既に木の葉の外だったのにな」


気が動転していたのもあるし、あの夜の事を思い出したくないのもある。

そrに確証が無かったので気づけなかった――――と言えばそれまでだが、なんとも間抜けな話だ。答えは横に転がっていたのに。


「網にしてもそうだ。忍びが無くなった後、それでも各地の混乱を収められるほどの組織力とポテンシャルを意地している。それに………」

「それに?」

「おかしい、とは思ったんだ。いくら先代ザンゲツが肝の座った英傑だとしても、それでも出来ることは限られている。

 非道を得意とする暗部の眼を掻い潜れる訳でもないし、強硬手段を防げる訳じゃない」


「………全てが仕組まれた話でも無いぞ。あいつは――-先代の斬月は頑張った。それこそ、死に物狂いでな。俺がしたことと言えば、黎明期の敵を屠った事と、忍びの習性その他について助言したことだけだ。それを踏まえ人として、あいつは意地を通した。其故に、今の網の在り方がある」

笑いもせず、怒りもせず。

ペインは俺に対し、淡々と答えを口にする。

「――――勿論、お前もな。逆境に耐え、そして耐えぬいて生き延びたからこそ、今のお前があるんだ。それを、お前は分かっているか?」


「………理解はしている。だけど、恣意的に俺達を導いたのも確かだろう。繰り糸片手に説かれても、納得はできないぞ」


「導いたこと、否定はしない………しかし、よく気づいたな。証拠は一切残していなかったはずだが」


「あの笛の音が気づかせてくれた。あとは状況証拠しかなかったがな………見たくなかったことを見た結果だ。“クソ”見事な御業だったよ、神畜生めが」

その2点を始点に、辿っていった。そうすれば、見えたのだ。



網の影に隠れ、今この状況を作り出した人物が居るのだと。


「お前の思うがまま、お膳立ては整ったぞ………一体俺に何をさせるつもりだ? 暁を殺すのを手伝わせたのはどういうつもりだ?」

俺達とぶつけ、その隙を見て殺した。

あるいは、こちらの戦力把握という目的がもあったのかもしれないが、捨駒とする程のことではない。


明らかに、殺しにかかっていた。俺達との戦闘を利用したのだ。


しかし、何故、殺したのかが読めない。その意図が全然読めない。

そして何故、俺に記憶を見せたのか、それも理解できない。あるいはこちらの同情を買おうとしたのか、と思っては見たが、どうもそれも違うようだ。

だから俺は、直接尋ねた。大声で、嘘は許さないというように。


「――――俺を、この場まで導いたのはどういうつもりだ? 何時も何時も、俺の前に厄介ごとを持ってきたのはどういうつもりなんだ?」



一つ一つ、今までのことについて、訪ねる。確たる証拠はないことを、口に出して聞いてみる。


反応は無い。だけど、手応えはあった。僅かに、ペインの様子が変化する。これは、驚きだろうか。

よく気づいたな、といった具合か。

だが俺はそれを鼻で哂う。
確かに普通では気づかない程に、諸々の事件の背景で功名に隠されていた点がある。

だけど、全ては同じ方向を向いているのに気づいていれば、そう難しいことでもない。

知り得ない知識が無ければ、気づけなかっただろうが。


それは原作を外れた組織、イレギュラーの最たる点、“網”について。


現時点で最も外れている者。そしてイタチに知らされた、月の由来と十尾について。



その2点が無ければ、気づけなかっだろう。

あるいは、角都と飛段を見なければ気付かなかったのかもしれない。

月について知っていなければ、全く気づけなかっただろう。


だけど、知った。知り得た。

それが切っ掛けだった。例えるならば、日の当る面が変わった、とでも言うのだろうか。

今までは見えていなかったものでも、日の当たる角度が違えば、それなりに見えてくるものふぁある。

功名極まる隠行でも、残った結果をたどればそれなりに分かることもある。

それらをつなげれば、見えてくるものがある。


“網”という組織の、存在意義と目的もそうだった。

平和裏に進めるという、かつての弥彦の志そのままだ。それを忘れておらず、また受け継ぐ者として動いたのだろう。

裏の裏。影の影として。

そして一切の遊びなく、正体を隠し続けた欲の無さ、目的を主とする怪物などこいつしか居ない。

見張り、あらゆる試練を課して俺を、あるいはサスケを鍛えた人物。


材料は揃っている。あとは、答え合わせだ。



だから、俺は大声で目の前の人物に問うた。




厄介ごとを持ってくる、神。

長門。

ペイン。

六道仙人。

十尾の導き手。


俺と同じ、複数の名を持つこいつの、もうひとつの名前を。









「答えろ――――――残月!」




















[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 六十九話 「錯綜する運命」
Name: 岳◆5bf56ac5 ID:6d0af7c1
Date: 2010/05/19 18:05
一方。屋台から少し離れたところで二人、少女達が座っていた。

片や、象牙色の見事な髪をもつ少女。

片や、陽のように光を放つ、金色の髪をもつ少女。

二人は、互いの眼を見ず、夜空に浮かぶ月を見ながら言葉を交わしていた。

「………九那実殿、といったか。貴方は、ナルトの元へ行かなくてよいのか? ペインの奴が来ていると思うのだが」

「ほう、お主も、気配に気づいていたのか。我とナルト、マダオの奴以外は気づいておらぬと思っていたが」

「何、これでも巫女じゃからな――――とはいっても、気づいたのは五感が完全に戻ってからなのじゃが」

「見事な隠行じゃったしな………だが、我は行かぬよ。あやつから、サシで話したいから来るなと言われているのでな。それよりも、我に聞きたいこととは何じゃ?」

話があるのじゃろう、と九那実が紫苑に訪ねる。



「話しがあるというのは、他でもない――――メンマのことについてじゃ」

「あやつの?」

「そうじゃ。ぶっちゃけて言うが………」



これ以上無く、真剣な声色と顔で紫苑は訪ねる。




「あやつとは、したのか?」



キューちゃんはずっこけた。



「いや、ほら、その………何と言うか、ずっと一緒に居たのじゃろう? 12年間の間、つかず離れず。ずっと一緒に………」


顔を赤くしながらもじもじする紫苑に対し、キューちゃんが怒鳴り声を上げた。


「………な、何もしとらんわ! というか、我が外に出れるようになったのは3年も前の事じゃ!」

「ということは、あやつとは何でもないと、そういう事じゃな?」

「な、な、何故そうなる!?」

「いや、先程シンの奴から聞いたのじゃがな………男と女がひとつ屋根の下、好き合っているならばすることはひとつだけ、とか」

「一応聞いておくが、何をするのじゃ?」

「いや、その、ナニをするらしい。妾も詳しくは知らんのじゃが………」

「あの金髪駄目兄貴小僧は説明をしてくれんかったのか?」

したらしたで殺すが、とキューちゃんは犬歯をむき出しにしている。

「先の発言後、菊夜とサイにしばかれて、その後便所の裏へと連れていかれた」

なぜなのだろう、と紫苑は首をかしげる。

先に殺られたか、とキューちゃんは頷いた。

「というかお主、全部分かった上で言っとらんか?」

「う~ん、恥ずかしながらそういう知識は持っていないのじゃ。菊夜はそういうのは教えてくれなかったし」

「………過保護というか何と言うか………それで、我とあやつの事を聞いてどうするのじゃ?」

「いや、確認しておきたかっただけじゃ。妾の最大のライバルである貴方の事を」

「………ライバル?」

「恋敵ともいう。どうもあやつは、妾の事を妹か娘的な眼でしか見ておらぬようじゃが………」

自分の頭を触りながら、紫苑は溜息をついた。

「分かるのか?」

「うむ。というか、皆をそういう眼で見ているのじゃろうな………ただ一人違う眼で見ている貴方と、比べてみて分かった」

マダオ殿も同意したし、と紫苑が言う。

「………ちなみにあの馬鹿は何と言っておったのじゃ?」



星を指差し、紫苑は言った。


「周囲に居る女性は数多く―――」


そして、煌々と輝いている月を指さした。



「だけど彼自身が“女”として見ているのは、ただの一人しかいないと」





言葉の意味を理解するに、数十秒。

後に、九那実は変な声で紫苑に尋ねた。僅かに、声が上ずっている。


「そ、その唯一が………我だと言うのか?」

「むしろ貴方以外に居ないと思う」

「………うむ、キリハの奴は?」

「照れているにしても、いきなり近親を持ってくるのはどうかと思うが………だが、キリハその他、木の葉の面々は違うと思う」

「どうしてそう思う?」

「何と言うか、メンマと木の葉の忍び達の間には――――薄いが、壁があると思うのじゃ」

「………慧眼じゃの。確かに、木の葉の忍と話すとき――――お茶らけてはいるが、あやつは何処か一線を引いている」










~~~~









一方、屋台前では別の修羅場が繰り広げられていた。

問いただした俺の言葉―――聞いたペインの圧力が、常より増して高まっていた。


「その目的を話してもいいが………その代わりとして」


「………代わりとして?」


慎重に言葉を選び、返す。

今や正に一触即発。対応を一手誤れば、問答無用の殺し合いに発展しかねない。


―――しかし、それも杞憂に済んだ。

突き出されたのは剣ではなく――――どんぶり。


「おかわりを、貰おうか」


「………どんだけ図々しいんだ、アンタ」








しばらくおいて、俺は二杯目のラーメンを出す。

「火の国の宝麺です」

「………それは、俺に対する嫌がらせか?」

「どちらとも取って下さい。味は保証しますよ」

「………まあ、確かに旨そうだが」

僅かに顔をしかめながらも、ペインはおかわりを食べ始める。

俺は店長の顔から元の顔に戻る。

「………で、いい加減先程の問いには答えてくれるんだろうな?」

「まあ、そう急くな――――夜はまだ長いんだからな」

ラーメンをすすりながら、ペインはそうのたもうた。
………火の実を鼻に突っ込んでやろうか、この野郎。

「ってやべえ。それは流石に残酷すぎる」

その恐怖を知っているからこそ、分かる事がある。
あんなもんねじ込まれたら普通に死ねる。

提・厭・浄! の叫び共に最期の時を迎えるだろう。
俺としてもこいつとしても嫌すぎる最期だ、それは。

だが目の前のペインには分からないらしい。その単語には反応しないまま、話しを続けた。

「そうだな………どこから、話すべきか」

困っている、といった風。それが演技かどうか、判断はつかないし、最早どうでもいい。
俺は答えを急かした。

「分からないなら、最初からでいい。お前が何を思って、忍びを滅ぼそうとするのか。何故俺を助けたのかを全部話してくれ」

「それは構わないが………何故、それを聞く? 聞かず問答無用で止める、という選択肢もあると思うのだが」

「いや、聞かなければ分からないだろうが。アンタが何を考えているのか、一体何を目的ににしているのかが」

不可解な部分が多すぎるので、推測もできない。

「それに、全部知った上でなら悔いも無く戦えるってもんだ。遠慮なくブチのめすことができる」

肩を竦め、問いに返す。

「………随分と、大きく出たな」

無謀とも取れる俺の言。その言葉と表情に何を感じたのか、ペインは僅かに眼を細めた。

「そうだな………あの月の夜の後から、話すか」

「ああ………いや、少し待ってくれ。そういえばアンタ、六道仙人の記憶が混じっているんだよな?」

「その通りだ」

頷き、ペインは説明をしてくれた。

あの夜、月に刻まれた術式を見上げた長門は、輪廻眼でその術式を解析したらしい。そして、わずかながらに繋がった。

そしてとある術を使って、六道仙人の記憶を得たという。

「とある術………?」

「ああ。誰もが知っている術だ。最も、今ではそのほとんどが、別の意味で使われているがな」

ペインの言葉に俺は疑問符で返す。一体、それは何だというのか。

「死者の魂そのもの―――あるいはその欠片を呼び、身に宿す術だ。危険なのも相まって、今ではもう久しく使われていない術だがな」

―――死者の魂を呼び寄せる。その単語を聞けば分かった。

「降霊………いや、“口寄せ”か」

「―――然り。今で言えば、口寄せ・穢土転生がそれに近い性質を持っているか」

ペインの、ラーメンをすする音が響き渡る。

「………最も、亀裂の入った長門の魂と融合したせいか、俺の魂としての形は、元のそれから随分と変形してしまったのだがな………」

余計なオマケもついてきてしまったのも、理由の一つとして数えられるが、とペインは言った。

「余計なもの?」

「今、現出したものではなく――――かつて六道仙人が封じた十尾だ。癒着した魂に混じり、いくらかは俺の魂の隙間に入り込んだ」

ペインは自らの胸を叩き、そう説明をする。

「古代の亡霊、古き破壊神ってところか」

「或いは月の神とも言えよう………話しが逸れたな」

続きを話すぞ、とのペインの言葉に俺は頷きを返した。

「あの後、俺はあの場に居た忍びを皆殺しにした。ただの一人を除いてな」

「ただの一人………かの雨隠れの半蔵殿か」

「ああ。奴は部下を囮にしてその場を去り、里へと逃げ帰った。そして徹底的に防備を固めた。俺が恐ろしかったのだろうな。
 ――――だけどそんなものは意味を成さない。俺は真っ向からその要塞とも言える防備を突き破り、半蔵は勿論の事、一族の者全てを皆殺しにした」

「同胞と親友の仇………つまるところは復讐か」

「そのとおりだ。ペインの中に残った長門の残滓、それが何よりも望んでいたことだからだ。あの時は、復讐の念が他のどれよりも強く、胸の内を占めていた。
 俺は女子供問わず徹底的に壊し、蹂躙し、里の忍びをも巻き込んで血に染めた――――そして、長門は壊れた」

「壊れた?」

「ああ。復讐の念が消えたと同時、長門の念は弱まり、やがてはその魂の色も薄れた―――長門としての自己意識が弱まったせいだった。
 ―――あるいは、女子供を殺す己の業をはっきりと自覚したからかもしれないが」

「他人事のように言うんだな」

「今となっては過ぎ去りしこと―――他人と成り果てた俺にとっては、真実他人事でしかないよ。今の俺は長門としては遠い」

いや、人でさえもないかもしれんとペインは真顔で言う。

「今の俺は六道仙人の意志と、十尾の持つ使命に動かされている、ただの装置に過ぎない。長門の意志の残滓と、六道仙人の義務感と、十尾の欠片の使命が合わさった、一つのシステムにしか過ぎないのだ」

「共通するのは目的だけ。いわば肉の器に集った、集合意識体というわけか………成程、人じゃあないな」

「その通りだ。そして俺は、とある目的を達するため、そしてあることを知るために、一人で旅に出た。各地を流れたのだ」

「それはまたどうして? そこは着々と忍び滅亡の計画を練るところだろ。お前の言うことが本当だとするならば、お前の人格はほぼ六道仙人を基板としている筈。
 無差別な破壊活動に出ていないのが証拠だ」

十尾はあくまで欠片だろう、と言うとペインは頷いた。

「知識も持っている。そんなお前が、今更何を? 目的とはなんだ?」


「そうだな……・まず一つ」


ペインは指を一つ立て、言葉を続けた。


「忍びは殺す。だが邪魔だからとて“ただ”壊す、という訳にもいかなかったのだ。忍びが抜けた穴を埋める存在が必要だった。
 忍びの役割そのものを果たす集団では無くても、全国各地である程度の規模を持ち、また組織力に富んでいる存在を作る必要があった。
 その後に起こるであろう混乱を収めるためにはな」


「その組織………それが、“網”か。設立に手を貸したのも?」

「裏の目的があったからに過ぎない。そこで俺は“残月”―――偽名を名乗り、組織を運営していくに相応しい人材をかき集めていった」

これでも昔は、一組織を率いていてのもあるのでな、とペインはその要望を大人びたものに変える。

「ということはつまり、先代の“斬月”―――あいつが名乗っていた名の通りだと“ザンゲツ”……あいつが、あんたの名前を借りたのか」

「ああ。借りを返すため、とあいつは言っていたが」

「借り?」

「俺は網の設立時のごく初期に起きた揉め事などの解決、忍びとの交渉、また妨害工作を秘密裏に防ぐなど、裏から手は貸した。だ
 が表の存在として、組織の裏首領として名乗りをあげるつもりはなかった」

後々の展開を考えれば、どちらにも不利益になるからな、とペインは無表情のままラーメンをすする。

「破壊するものに連なる糸は少ない方がいい。それこそ、無いことが相応しい」

「テロリストだもんな。俺も、言えた口じゃないけど」

色々とやばいことをしているのは、俺も同じだった。
多少の違いはあれど、大国側からは恨まれるようなこともある。

「だが、それではあいつの気が済まなかったらしい。俺に何かを返したかった。だから、それで何も返せないからせめて、と………あいつは俺の名前を首領としての称号にした。こちらは全然気にしていないというのにな」

「それは何故?」

「若干の問題解決には手を貸した。だが、組織の基礎と方針、運営の方法、そして大事な所での決断を下したのは全てあいつだったからだ。俺はあくまで初期限定に起こる厄介ごとを防ぐだけの、いわば補助器具に過ぎなかったんだよ」

「でも、知恵は貸したんだろ?」

「教えたにしても、忍者が何を出来るか、など小さな事に過ぎない………設立してしばらく、あそこまで大きくできたのは間違いなくあいつの手腕だ。
 チャクラも使っていないというのに、人間というのはここまでやれるのかと正直驚いたぞ」

「忍びにしろ誰にしろ、すげえやつはすげえからなあ………で、それが何年前?」

「うちは………便宜上“マダラ”と呼ぼうか。奴が九尾の妖魔を操り、木の葉隠れの里を襲せる数年前だ」


そこでペインは僅かに表情を暗くする。

もうひとつ、指を立てる。

「知りたいことがなんなのか、と言ったな。それは………忍びのことだ」

「忍者の事を?」

術や体系その他は、理解しているはずだろう。
そう問うと、ペインは首を横に振った。

「知識はあった。だが、直接触れ合ってはいない。今の俺となった現在の魂で、雨隠れの腐れ忍者とは直に話しあっても、大国の忍びとは接していなかった」

「だから、網の裏で忍者………各国の隠れ里を探ったのか。忍び達の“今”を知るために」

「そうだ」

「それで、何か分かったのか? 例えば、大戦の原因は忍びだけに在らず、といったこととか」

「………そのとおりだ」

第一次忍界大戦。その発端は、今でも不明とされている。

だが第二次忍界大戦の発端に関しては、壮年の忍びであれば誰もが知っていた。。
第一次大戦の戦後処理の果てに発生した、経済格差。貧富の差が著しくなったが故に起きた、戦争


“貧乏だが、力はある。そして力があるならば、富んでいる国があるのならば、奪えばいい”


それは果たして、大名など国の上層部の意志であったのか。
果ては、武力派と忍者達の提案で起きた事であったのか。


「そのどちらか、今となってははっきりしないが、忍びだけが原因で無いのは分かった………しかし、第三次忍界大戦は別だ」

第二次大戦で疲弊し、少なくなった人。
荒れ果てた田畑。壊れ使い物にならなくなった道。

そのどれもが、忍びの手によるもの。
戦場を選ばない忍びが原因であった。

「過去、まだ種類が少なかった忍術は戦争という養分を吸いながら発展し、強くなった。そして、その術の威力や凄惨さもまた………」

ペインが少し、遠くを見た。

俺は、綱手の弟の事を思い出していた。
見るに耐えない程になるまで、人を壊す術というものがあるらしい。

螺旋丸も使いようによっては、それが可能となるだろう。

「五つの隠れ里が設立され、そして互いに競い負けぬようにと必要の無い術を開発した。愚かさと残虐さを切磋琢磨し、挙句の果てには関係の無い人達まで巻き込む。
 結果が、長門であり弥彦であり、小南だ。そして無数の物言わぬ死体達だ――――怨念だよ、うずまきナルト」

無表情の透明であった顔を憎悪の黒に染め、ペインは話す。

「第三次大戦の初期、侵攻のため千名の忍者を投入した岩隠れ………その裏で起きた事を知っているか? 
 今でも衰えていない雲隠れの国………秘術を探索する忍びが、裏で何をやっているか知っているか?
 血霧の里と呼ばれた霧隠れの里も加え、泥沼の小競り合いが起きた事を知っているか?
 砂隠れお得意の人形細工。あれが開発されるまでに、何があったのかを知っているか?
 木の葉はいわずもがなだ。三代目火影は実に頑張ったが、大蛇丸を野に放ち、ダンゾウを暗躍させたままにした罪は重い。
 あいつらが裏でどんなことをしているか、お前は知っているか? ―――俺は知っている。各地に残った怨念達が教えてくれた。
 言葉にするにもバカバカしい、マダラが引き起こした十尾覚醒という出来事の果てに、知ることとなった」

「………成程? 十尾は全てを取り込むと聞いたな」

「そうだ。十尾はその巨大な身体の中に人を取り込み、負の思念さえ取り込み、その中に蓄える。取り込んだ者に幻術を見せ、そのの時間と止めたままにするのだ。
 
「輪廻を廻す、その力とするために?」

「その通りだ。全てを終わらした後、始まるために」

「………なんだか何処かで聞いた剣の能力と似ているな」

「ああ、イタチの持つ十拳剣のことか? ―――あれも、十尾の能力を解析して出来た結果だろうな。俺が居た時代にはもう存在していたが、まだあるのか」

十拳剣とは、別名「酒刈太刀(サケガリノタチ)」とも言われる、実体のない霊剣のことだ。

突き刺した者を酔夢の幻術世界に飛ばし、封じ込める能力を持っているという。

いわば剣そのものが封印術を帯びた、切り札とも成り得る武器で、草薙の剣の一振りでもあるらしい。

「………あるいは、他者のチャクラを飲み込み自らの力とする擬似尾獣、“零尾”とやらと同じ存在かもしれんな。巨大な力に対向するため、同質の力を解析し用いるのは別におかしい話ではない」

「“十拳”の剣だしなあ」

「言い得て妙だな」

そう言った後、ペインは手元の水を飲んだ。

「まあ、そのイタチの尽力により、大国は今何が起こっているのか、その果てにどうなってしまうのか………遅すぎるが、それを理解したようだな。今や世界の滅亡は秒読みだというのに」

「………それを隠したのは、他ならぬお前だろうが」

「それもあるが………根幹となる伝承を忘れ、今に矜じた忍びは、何をすべきなのか、そしてどうすべきだったのかを知ろうともしなかった。
 それも確かだ。あるいは、自分たちに裁きが下るなど思っても見なかったのだろうな………力による好き勝手がいつまでも通ると思ったのか」

馬鹿が、と。

ペインは嘲笑を浮かべ、吐き捨てた。
いや、これは六道仙人としての言葉だろう。俺は何となくそう思った。

そして並べ立てられた事実を認識する。

裏で何が起こっているのか、俺は理解していた。
人が10人いれば、その色も十様だ。

善なる人だけが生きていると考えるような甘ちゃんでもない。

人の道に外れ、外道に落ち、畜生に成り果てた人間に似たなにか。

そういうのも、この旅路の途中で、幾人か見たことがある。



――――しかし。そうだけれど、決してそれだけでは無い。


「だけど………戦争を防ごうとしている者もいる。平和を愛し、外道を憎む忍びも居る」

筆頭が三代目火影。木の葉の中にも数多く居る
他国にも居るだろう。

「そして今、軍事力は縮小されている。戦争によって――――死によって学び、それを繰り返さないために努力している」

それも事実だろう、と俺はペインに告げる。


間違えない人はいない。人は万能じゃない。

人は神足り得ないのだから。


「しかし、だからといって、その言葉だけで全ての間違いが許される訳じゃない。それは、理解しているか?」

「ああ、理解しているよ。だが、全てを滅ぼすという選択もまた、正しいことじゃない」


間違ったから、正す。それは正しい。だが贖罪という概念も無しに断罪を下し、存在を無くす。

いわば始めから全てを無かったことにするというのは、違う。それはまるで神の所業だ。

人の身でそれを成すというならば、これ以上の傲慢があるだろうか。

そして神様だとして、それがなんだというのだ。例え偉かろうと、無闇矢鱈に命を弄ぶことなど、それが許される訳だない


「それに………そもそも、忍術が広めたのは六道仙人だろうが。忍術を興したお前の中にいる英雄も、今の世界の現状となったその一因を担っているはずだが」


「そうだな………それも、また事実だ。しかし、反対の事実もある。それ以外の、避けえぬ事態もまた」


「それは………」


二つの相反する事実と言われ、俺は言葉に詰まる。

それもまた、確たるものだからだ。どうすれば良いのかなど、それは俺にも分からない。

だけど殺してはい終わり、などということも認められない。


(………ん?)


気づけば、迷い考え込んでいる俺の前にいるペインの、その様子が変化する。


憎しみの黒を、再び透明なそれに戻している。やがてペインはその顔をこちらに向けた。
そして、俺の眼を真っ直ぐに見る。


そこには、真摯な色が灯っていた。

ゆっくりと口を開く。




「そう―――だからこそ、お前をここまで導いたのだよ」



声が、森に響き渡った。





























―――――・


あとがき

難産過ぎました………。

後半に続く。続きは明日、明後日くらい?




[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 七十話  「疾走する宿命」
Name: 岳◆5bf56ac5 ID:6d0af7c1
Date: 2010/05/18 00:03



「ふむ、木の葉の忍びだから距離を置くとな………聞いてもいいか?」

言いにくい、といった風に、紫苑は訪ねる。

「理由か? ああ何、単純な事だ………お主も知っておろう。あやつの中にあるものについて」

「………うずまきナルト。そして、小池メンマか」

「そうだ」

二つの名前を並べた紫苑に対し、九那実は頷くと、今まで誰にも話さなかったことについて、説明をした。


「今のあやつの魂は、二つで一つ………即ち――――」

途中で、切れた言葉。


その続きを、紫苑が紡いだ。


「―――つぎはぎの魂、というわけか」


「……そう。彼方より呼ばれた魂と、元から在った魂。どこかの誰かと、うずまきナルト………今のあやつの魂はその二つが合わさってできたもの」

そう言った九那実は、横目でちらりと紫苑の方を見る。

「………それにしてもやはり、お主はあの時に気づいていたのか」

「本来の巫女の力が戻るまでは、気付かなかったがのう………しかし、うずまきナルトとしての形が残っている確証はあるのか?
 本来のナルトとしての在り方からはずれているじゃろうが、その魂の全てが抜けきったとは―――」

「それは無い。我がいる限りはな」

ぽつり、呟く。

「まあ、色としての存在が残っている、などという確証も無い。確かめようもないからな………だが、そう感じる理由としては、二つ」

頷き、九那実は指を一つ立てる。

「一つ―――メンマと、マダオ。あやつらは実に似ている。性格も、ちょっとした仕草もな。そしてもう一つは―――あやつの中にいる、もう一人の名前じゃ」

「名前? そういえば聞いたことが無いな」

「それもそうじゃろう。あやつは生前の名前を未だ思い出せないのだから」

そしてそれが理由だ、と九那実は断言した。

「――――名は体を表す。そして名は魂の在り方をも位置付ける。それが思い出せないなど、本来ならば有り得ぬもの」

「それは、うずまきナルトとしての魂があるから?」

「違う。あやつが一度、“死んだ”ということを認識しているからじゃ」

最初に出会った時、ちぐはぐな話しを聞いて、だが九那実としては一つ理解していたことがあった。

「………メンマ、と呼ぼうか。あやつは、一度死んだ身じゃ。そう、死んだ“はず”の身である。それが欠片でも現世に舞い戻るなど、それも本来ならば有り得ない話じゃ。
 死者は蘇らない。千引の岩は絶対で、だからこそ生に意味がある」

死者は死者で、生者は生者。だからこそ、死に意味が生まれ、命の意味も生まれる。
それはまともに生きている者ならば、誰もが知っている理屈だった。

「そして、一度死んだあやつは――――だからこそ死に対して、常に畏怖と尊敬の念を抱いている」

いわば死ぬことに対して臆病なのじゃが、と九那実は首を横に振った。

「そして、こう考えている。俺だけが、こんな機会を与えられて良いのか、とな。そしてもう一つ。死んだ、うずまきナルトの代わりに、生きていいのか。
 それがもう一人の魂………それが持つの本来の念を弱めている」

俺は、死んだのか。
でも、俺は生きているのか。

二つの意志が葛藤していた。そして引け目を生み出していた。

「………あやつが戦いに赴く時の理由は多々ある。それには義務感や、贖罪の念。そして運を天に返すという意志も含まれている」

「運を………天に返す」

「そうだ。一人で使うには、分不相応と考えているのじゃ。だからこそ、危地を前にしても誰かを見捨てて逃げることはしなかった。こぼれ落ちた誰かを見殺しにして、自分だけがのうのうと生き残ることはしなかった。
 あまりに分不相応過ぎる、受け取った運……だが、その運を天に返すことはできない。それは自殺を意味し、あやつが最も嫌悪すべきことじゃからな」

苦笑したまま、言葉を続ける。

「だから別の場所で返す。天から落、天をも見落とした誰かを掬い上げると」

「だから、妾達を?」

「勿論、利己的な者も含まれている。だが意地もあった。今話した、想いもあった」

綺麗なものだけでは無いと、九那実は言う。

「選択する時。いつもあやつの中では多数の念が渦巻き、そして煮立っていた。それはまるでラーメンのように」

「らーめんのように………」

「そう、ラーメンだけに………」

復唱されて少し恥ずかしく成った九那実の、その陶磁器のように白い頬が僅かに染まった。

「………は、話を戻そうか。我とマダオとメンマ、その中のメンマの魂を構成する成分は二つある。
 ならば、分かるじゃろう………あやつの中には、うずまきナルトの残滓が残っておるのじゃ。“木の葉の暗部に裏切られたうずまきナルト”が」

壊れた魂の半分が宿っていると、九那実は告げた。

「だから距離はある………だが、ある意味では、無いとも言える。だが確かに存在する。これは実に複雑なことでな」

そういい、九那実は説明を続ける。

「うずまきナルトとして、木の葉に対する恨みは確かに、確固たるものとして存在している。だが、メンマとなったあやつとしては、それを理由に女子供見捨てることができない。
 相反する意志が存在している。本人が自覚していないのも、原因の一つじゃ」

そこで少し、九那実は儚い笑顔を浮かべた。自分の事を思い出したのだ。

そのまま自分のことまでも言ってしまいそうになるが、寸前でとどまった。先の話を続ける。

「………内在する魂による行動。あやつは傍から見れば、はっきりしない変な奴と思われるじゃろう。恨みを表に出さず、利だけを求めず、どちらともつかない行動を取る。
 それもそうだ。あやつは中途半端な立ち位置のまま、つぎはぎな魂の元、どちらとはっきりした行動を取ることができないのだから。それこそ、任務や己のすべき事でない限りは」

九那実の思いつく限りでは、木の葉崩しの妨害や、綱手探索が主にそれに当たる。
だがそれだけではないと、九那実は首を横に振った。

「逃げ出さず、あやつがとどまった戦場―――そこには、いつも誰かが居た。
 それはお前であり、あるいはテマリや砂隠れの小娘であり、木の葉の小娘や小僧共である」


一息つき。

そして九那実は、誇らしげに語った。


「戦う力無き子供が、理不尽に殺される事ならず。夢半ばにして、理不尽に死ぬこと許さぬ。
 あやつは常にそう叫び、戦っていたのだ、死に怯えながら、それでも――――救われなかったうずまきナルトという少年と、道半ばにして倒れた誰かの夢と、その姿を重ねて」







~~~~





「導いた………」


「そうだ。とはいっても、最初――――お前がお前になった、あの夜に助けたのに大した理由はなかった。まあ、偶然ではなかったのだが」

「知っていたと?」

「見張っていたのだよ。半ば必然とも言えるが。それもそうだろう俺は常に、九尾の残滓………いわば十尾完全復活の鍵とも成り得るお前を見守っていたのだから」

だから助けにも間に合った。ペインはそう告げ、言葉を更に重ねる。

「ただ見捨てることが出来なかったから、助けた。最初はそれだけの理由だった」

抜け殻であるお前がどう動こうと、俺にはあまり重要なことでもなかった。とペインは言う

「だから河からお前を上げた後は監視を断った………そう、お前が網に入ってくるまではな」

あの時は心底驚いたぞ、とペインは苦笑する。

「修行の内容のも驚いた。実に理にかなった内容で、とても一人では考えつくことのできないもの。加え、お前は螺旋丸を使った。この二つと、四代目が使ったという屍鬼封尽」

あれはいわば魂を切り取る、加工する術とも言える。ペインは大したものだと呟いた。

「そして、お前の中から抜けきった九尾の妖魔の残滓。今も月に封じられている十尾ではなく、新しい今代の十尾の本格的覚醒。
 それらの情報から、お前の中に誰がいて、どういったことになっているのか、大体は理解した」

「マダオ………波風ミナトのこともか」

「言っただろう。魂を操る術は極めて高度で、使える者は少ない。その術者の名前など、嫌でも覚えるさ。そして、その腹に刻まれた封印術も、この眼で見れば理解はできる」

「ならば何故放置した? 忍びを滅ぼすというお前の目的を阻む壁となるとは考えなかったのか?」

「………お前も、まだ色々と知らないことがあるようだな。それは後で九尾か、四代目にでも聞け。俺がお前を殺さなかったのは、別の理由だ」

「………?」


「お前は覚えているか? 鬼の国で、お前が初対面であった紫苑に取った行動を」


「………確か………紫苑に話しかけたんだっけか………」

そして探索途中、道中で拾ったボールを放り投げて、キャッチボールをしたのだった。

だけどそれが何だというのか。そう尋ねると、ペインは真顔で言葉を返した。


その瞳は俺と―――此処にはいない、誰かを見ているようだった。

ペインの話しは続く。

「あの時も心底驚いた。お前が紫苑に話しかけるなど、有り得ないと思った。いや、話しをすることは特別、おかしいことでもないな」

ペインはその時の事を思い出したのか、あるいは別の光景を思い出しているのか。少し遠い眼をする。

「うずまきナルトであるお前が――――同情の念を抱くこともなく。ただ、互いに楽しもうと少女に接するのは、有り得ないと思ったのだ」

「同情………いや、同情ではなくて、俺はただ単純に遊びたかっただけだが」

「そうだ。そしてそれこそが、紫苑を底から掬い上げた」

そこまで聞いて、俺は思い出した。
あの時はただ、何も考えていなかった気がする。ただ、少女の泣き顔を見たくないと、そう思っていた気がする。

「そこからの一連の行動も、そうだ。最初は事の発端の一因を担っていて、力もあるお前を派遣した。しかし、まさか根の精鋭を相手にして、負けて………それでも立ち向かうとは思っていなかった」

「一度は止めかけたけどな」

「だが、お前は来た。ザンゲツや、女将の言葉もあったのだろうが、お前は選択した。戦うことを。そして見た―――純粋なまでの、怒りのチャクラを」

「お前は傍観していた?」

「いざとなったら、助けに入れる。そして薬の効果も侮っていた。そこは俺の失態だった。だが、正直入れなかった。血まみれで吠えるお前の姿を見るとな」

「…………俺だけの力じゃない。あれは、キューちゃんの力を借りてのことだ」

「それでも不利に過ぎる戦場へ駆け込み、命を張ったのは確かだろう。木の葉崩しの時………一尾と相対した時もそうだ。お前は殺さずに、命を賭けて殴り飛ばした。
 言葉と共に殴り飛ばし、我愛羅を闇からすくい上げた」

「立ち直る意志を持っていたからだ。俺はただ気に入らなかった。だから殴っただけだ。大層な事をした覚えはない」

「だが、言葉を交わした。化物と捉えず、ただの一人の人間として」

「………買いかぶりだ。音を調子づかせたくないという、俺の目的のためでもあった」


「だが、それが全てではないだろう」



だからこそ、賭けてみたくなった。


そう告げ、ちょうど食べ終わったペインは立ち上がり、屋台から少し離れる。


そして夜空に浮かぶ月を見上げながら、言った。


「実はといえば、迷っていた。弥彦が守ろうとしていた世界を、忍びとも和解しようとしていた意志を捨て去るのを」


装置が、謳う。

装置で無くなった月の夜の下、謳う。


「だが16年前の事件………十尾が覚醒する事態は免れ得ぬこととなった。その時に決断した。俺は忍びを滅ぼそうと」


「それは何故だ?」


「十尾。それは、全てを喰らうもの。それは月に浮かぶ古き十尾をも含む。そして存在的に、十尾は世界とつながっている」



「―――――まさ、か。それは、まさか、そんな………嘘、だよな?」


そんな俺の懇願。それを無視して、ペインは告げる。


謳うように、告げる。


「世界に新しい夜が満ちた時。闇が溢れ、世界は嘆き―――――月は満ち、そして落ちる」


それは正しく、世界の終わりを意味していた。

月が落ちたらどうなるかなど、あまりにわかりきったことだからだ。


「防ぐ為には、今暴れている新しい十尾―――これを封じ、新たに空へと打ち上げる必要がある。だが、それに必要なものは二つ。
 
 一つは、膨大なチャクラ。そしてもう一つは、十尾の最大の動力源である怨念の対象――――忍び達全ての魂だ」


「………怨念の対象をつぶし、力を弱め、またチャクラを取り込み利用することによって十尾を封じ込めようというのか」


「そうだ。俺はかの、六道仙人とは違う。仙人の肉体を持たない俺が、十尾を封じ込めるには代替するものが必要になる。あるいは紫苑の巫女のチャクラを併用する方法もあるのだが―――」


言葉を途中で止めたペイン。

その続きの言葉は、嘲笑と共に発せられた。


「これには人を助けたいという、強い意志が不可欠でな。そして俺は“そんなもの”を持ち合わせていない」


誰が忍びのためになど、動いてやるものか。
ペインはその両の眼だけで、意志を告げてくる。


「そして、実現は不可能に近いが………もう一つある」


「だから………それで、何故俺を? 賭けてみるとは、その方法を手伝わせるということか?」


「その通りだ。見せて欲しい――――異邦人。贔屓目の一切ないお前が見てきたこの世界が、お前が最も多く接してきた忍び達が、本当に生きるに値するものかどうなのかを」


「何………!?」




驚きの声を上げた俺の方を向き、ペインは宣戦布告の言葉を告げた。



それは、最期の決戦の約束だった。


「来るべき、五影会談。その日俺は、忍び達を滅ぼす。隠れ里を含めた、全てを滅ぼす」


「………お前の力は知っているつもりだ。確かにお前は強い。途轍もなくな。だが、全ての忍びを敵に回して尚圧倒できる程ではない」


「そうだろうな。戦いの中、対応策をとられてしまえば、また間断なく攻められれば俺とて危うい。一つの隠れ里程度ならば撃滅もできようが、全てを隠れ里を相手取るのは難しい」

だが、とペインは口の端を上げた。

「暁の構成員のような規格外の忍びが加われば、また話は違っただろうが」

「暁を排除したのはそのためか?」

「元はマダラが集めた者たちだ。それに、デイダラ当たりは予想外の行動に出そうだったしな―――だから、可能性として、潰した。残るはイタチだけだが………俺としては、イタチを殺すつもりはない」

「それはどうし………ああ、そうかもしれないな。イタチなら、悪戯に人を害したりはしない。だけど木の葉を潰そうっていうお前を止めようとする筈だが?」

「その時はその時だ。ゼツも、単独では無害な奴だしな」

「………鬼鮫は?」

その問いに対し、ペインは無言のまま屋台の上へとあるものを置いた。

「“南”の指輪………」

「鮫肌諸共飲み込んだ。実に良い養分になったぞ」

「………だが、まだまだ手練の忍びは数多く存在するぞ。そいつらを相手どり、お前は確実に勝てるとでもいうのか?」

「正面からぶつかれば、そうだろうな。だがそんな愚を、俺が犯すと思うのか?」

「………それは、どういうことだ」


「切り札は既に、隠れ里の深奥へと入り込めた、と言いたいのだよ。今やあの死体は黄泉比良坂と同義。そこより来る黒き波濤は、全てを飲み込むだろうよ」


「………は、黄泉比良坂? それは確か、黄泉へと繋がる道―――――――――――――あ」


思わず、マヌケな声が出てしまった。


「………忍びは裏の裏を読むべし。つまりは、そういう事か」


そこまで言われて、始めて気がついた。

つまりはこう言いたいのだ。


あの死体は、黄泉とつながっていると。


「月“黄泉”とでも言いたいつもりか」


眼を伏せ、心中で叫ぶ。


(この野郎、何て策を考えつきやがる………)


実に頭がキレる、というかキレすぎる。多様な術を持っているにしても、常人ならば思いつきもしないだろう。

差し迫った危地に気づくことができなかった俺は、あまりの絶望感に嘆息することしかできなかった。


「初手の、死体人形を使い各国間を緊張させたこと。その裏にもまた、意味があったということか」


恐らくは口寄せの術式を編み込んだ符を、死体の奥深くにでも埋め込んでいるのだろう。

そして、死体調査の忍びはそれに気づくことができない。


十尾を呼び込む、必殺の爆薬とも言えるそれが潜んでいることに気付けない。


「………死体は五影会談の際の、重要な証拠だからな。厳重に保管されて―――そう、間違っても壊すことはできない」

死体の保管場所は、各国の隠れ里のそれも深部であろう。


「そして対処の支持を出すべく五影達も、出払っている――――罠の巣の中にな」


「一網打尽………まさか鉄の国にも?」


「五影会談が開かれるのも、想定の内だ。そこに罠を潜ませること、何かおかしいところがあるか?」


問われ、首を振る。悔しいが、特別おかしい所も無い。

先回りして罠を張るというのは、戦術としての常套手段だ。

里に潜ませた切り札も同じ事。実に合理的で無駄がない作戦ともいえる。

しかし、俺としては一つだけ、気に掛かることがあった。


「………何故俺に話す? 今、俺がそれを各国に知らせたら――――」

問いかける。だが、その言葉は途中で遮られた。

「勿論考えたさ。その上で言っている。そうだな………お前が気づいた時の保険だよこれは。もし、今の情報を隠れ里の誰かに話したら―――いや、その予兆が感じられた時点で、十尾を開放する」


その言葉を聞いた俺は、凍りついた。

「気づきそうなのはお前ぐらいだ。俺と同じ、裏で画策することに長けているお前ならば………分かるだろう?」

「………予防線と、警告か。だけど、それを何故俺に?」

「もし一人で忍びを滅ぼそうとしたら―――そのような想定が出来るのは、俺かお前だけだと想っている。負ければ即死のこの世界で、助力も無く一人生きてきたお前ならば、あるいは気づく可能性もあるだろう」

その言葉を前にして、俺は黙ることしかできない。

確かに、負けたとしても助けは見込めない戦場で、俺は常に最悪を想定しなければならなかった。

白と再不斬が仲間になるまではずっと、俺も一人で戦ってきた。一人、ということの弱みは、取れる対応策が限られてしまうこと。

だから常に戦場を想定し、最悪を考えて戦うことにしてきた。

「そうだな………あるいは、気づいたのかもしれないが………」

呟いた後、俺は肩を落とした。

気づいても、話すことは許さないというのは結構深刻なことだ。知らなかった、などという言い訳も封殺されるのだから。

後は隠れ里側が独力で気づくことしかなくなる。だけど、気づいたらどうなるのだろう。

そこまで考えて、俺は思考を断ち切った。それは今検討すべきことではない。問題はこいつの用意した選択肢の上を歩かなければならないことだ。

「隠れ里と、主力。それを同時に叩いて、戦力を大幅に削り取ると言うわけだな?」

「その通りだ。寡兵における戦法は、どの世界でも同じことだと思うがな」

その言葉に俺は頷きを返す。

寡兵の肝は、一点突破。奇襲という状況が絶対に必要だ。
そして相手が体勢を立て直すまでに、どれだけ相手の戦力を削れるかによる。

そう考えるならば、確かに“あり”の戦略だといえる。

いや、十尾の性質を考えれば、これ以上にない策かもしれない。というかこれは奇襲の範疇を超えている。
下手をすれば、この一撃で忍び達は壊滅的な損害を被りかねない。

「………人柱力も飲み込むのか?」

「ああ………尾獣をもう2体も確保できれば、負ける可能性は零に出来たのだがな」

「………参考までに聞くけど、尾獣をあと2体吸収したら、十尾はどうなっちまうんだ?」

「完全覚醒の一歩手前になる。忍術の全てをも吸収できるようになる」

「そうなったら対処する手立てはなくなるなあ」

ははは、と俺はやけくそ気味に笑った。

「………それが出来ないから、人形を潜ませたのか?


「想定できる事態には全て、対処が可能となる手を打っておくべきだろう。一つの行動に多重の意味を持たすべし、俺は無駄が嫌いでな」


「………つくづく。本当に、嫌になるほど優秀な奴だな。だけど、分からないな。なぜに俺にそれを告げる?」


俺はペインを睨みつけながら問うた。

ペインは少し視線を空の方へ上げながら、答える。


「紫苑への治療の礼だ。そしてこのくだらない茶番劇に巻き込んだ詫びとして―――――そして今ごちそうになったラーメンへの、礼としてな」


「それだけか?」


「あと一つ―――あの曲を聞いて、昔に捨て去った事を思い出したから、かな」


そう笑ったペインの顔は、見たことのない表情を浮かべていた。

俺は知らないが、自来也が居ればあるいはこう呟いたのではなかろうか。

“長門”と。



「だから、戦おう。異邦人よ。場所は一ヶ月後、五影会談の、その日だ」



自らとこちらを交互に指差し、ペインは告げた。




「1対1だ。他の誰にも、邪魔はさせない。戦い、お前が負ければ、俺は忍び達を滅ぼす。
 世界と人の怨念の望むがままに、痛みを知ろうとしなかった忍び達を、食い散らかしてやる」



表情は元に戻っている。

表には、痛みというものを思い知らせてやると叫んだ長門と、忍び滅ぶべしと告げた六道仙人、そして十尾の残滓が映っている。


だが言葉を告げた後、ペインは眼を閉じて続きを話した。


「だがお前が勝てば、俺はお前の言い分を認めよう。忍びは滅ぶべき存在にあらずと、そう判断しよう。
 それを認め―――生まれた新しき十尾と、俺に宿る古き十尾を、共に月へと返す」





あくまで構えず、自然体で。

挑むような半身で、ペインは告げた。





「俺は、死せる者達の声として。“忍び滅ぶべし”と叫ぶ、亡き者達の代表として、最期までこの道を往く。

 忍び世界に根ざした呪いを、忍びの存在ごと――――裁断の手を以て。痛みを刻みつけ、諸共に消し飛ばしてやる」





背後、僅かに十尾を顕現させ、ペインは真っ直ぐに俺を見た。

輪廻の瞳が、俺だけを見据えている。

俺の返答を、望んでいるのだ。



あるいは、これ以上にない茶番劇かもしれないと思う。

状況全てが、俺を道化にしている気がする。生かされたあの時。知らず、導かれていた事実。



(だけど―――それがどうした)



俺が道化であればいいのなら、それでも構わない。

忍び云々は別として、俺には戦う理由があった。


だから別に、道化でも構わない。

滑稽な道化の踊る、喜劇の主役でも構うものか。

それに紫苑を見逃したこと、俺は許した訳ではない。それに対する言い訳も、納得できていない。

だから神を語る傲慢さとかの突っ込みとか、それら全てに対して、俺は拳で突っ込んでやる。


ぶっとばしてやるのだ。



命惜しさに、逃げ出して犬以下の畜生として長らえるくらいならば。

いっそ見事に咲いて―――――散ってやる。



それに、残すもの―――託すものは、既に託した。生半可な覚悟ではこいつには勝てないだろうと思ったが故に、キリハに万が一の事を考えて、あの日誌を渡したのだ。

後悔は勿論ある。だけど、どうしようもなかったのも確かだ。神ならぬこの身としては、考えつく、そして取りうる選択肢の中から、ひとつずつ選んで行くしかない。



故に、最後の決意をしよう。

いつも俺の中で見ている、あの二人のためにも。





「俺は―――俺は。生きる者達の代弁者として。忍びという人を信じる、ただの一人の人として。亡者達と世界の叫びを止めるため、その申し出を受けよう」






戦おう、月より来る隠り世の使者よ。





「今に生ける人、そして忍びの代理として。違う解決を望む者として」







俺の前に立ちはだかるというのなら。


理不尽な死をばらまくというのなら。


俺の夢を否定するというのなら。







「お前と十尾を止めてやる」







~~~~





時を同じくして、森の外れ。


そこには、とある集団が陣を組み、話しあっていた。

その数、12名。

中心の4人と、少し離れたところに突立ているものが3名。

他、5名の中忍と上忍が控えていた。


中心の4名の間で交わされる声は喜色に満ちており、士気は上々と言えよう。

それもそうだ。目的のものが見つかったのだから。


集団の頭――――――薬師カブトが、探索担当の赤髪のくノ一、香燐へ確認を取る。


「本当に、見つかったんだね?」


「ああ。うちはサスケと、裏切り者の多由也のチャクラを感知した。この先にある網の療養地に二人は居る」

「勘違いということは?」

「………ない。多由也のチャクラパターンは、その3人と同じようなものだろ? 呪印の影響が抜けたようだが、特徴のあるチャクラを持っているからな」

「サスケ君の方は?」

「………一度、会った事があるからな。忘れねーよ」

「初耳だね、それ。まあ今はいいか。間違いないというのなら、僥倖だし」

「ふん」

「それで、他には誰か居た? 手練の忍びが周囲に潜んでいるとか、近づいてきている忍びが居るとかは?」


「ああ、ひときわ大きいのと、大きいのが二つ、さっき北の方へ遠ざかっていったよ。ああ、その少し前に三つ、こちらもひときわ大きいのと、大きいのが二つが東の方へ遠ざかっていった」


「北は木の葉だね。東は霧か。それで、残っているのは?」


「………二つ、結界のようなものの中に入り込んでいて、こちらは今どうなっているか分からない」


「中の様子は?」


「分からない。あんな結界、見たこともないし分かるわけねーだろ」


「………そちらも、後で確認しようか。それと、勿論相手に気づかれてはいないよね?」


「そんなこと、無いに決まってるだろう。ウチの神楽心眼以上の索敵能力を持っている忍びなんか、いやしねえよ」


香燐の特殊能力、突発的に生まれた血継限界とも言える神楽心眼。

それは千里眼とも言えるもので、半径数十キロもの超広範囲で特定のチャクラを探る事が出来るのだ。


「ふ~ん、それで再不斬先輩は何処に行ったの?」

香燐の隣に居た、大刀を担いだ色白の少年―――ー元霧隠れの忍び、鬼灯水月が目的でもある霧隠れの鬼人の事を訪ねる。

「はっきりとは分からねーけど、さっき遠ざかっていった3人の中に居ると思うぜ。どうもチャクラがそれっぽかったし」

「はあ!? じゃあ、僕が来た意味ないじゃん!」

「あー、それはまあ、仕方ないとして………というか、そこは喜ぶべき所だよ。流石に全員を相手するのは疲れるからね。それに―――」

と、カブトは水月の背中にある大刀を指差す。

「大蛇丸様から代わりとなる刀は貰ってるだろ。再不斬に関しては後でもいいと思わないかい? ―――それともまさか、ここで逃げるとか言わないよね」

「………まあ、サスケってのは強いって聞いたからな。再不斬先輩もそうすぐ死ぬような人じゃねーし。それに、この刀の切れ味も試したいしな」

「ほんと、高かったんだよそれ………だから、せいぜい頑張ってね。まあこれだけ揃っていれば、負けることは無いと思うけど」

「いや、分からねーぞ。結界の二人以外にも、残っている連中…………ウチが探っただけでも、一人二人化物のようなチャクラを持っている奴が居たし」

「それは、どのくらいの奴だ?」

香凛の正面に居る重吾――――今は何とかして、正気を保っている――――が、敵の強さがどれくらいのものかと訪ねる。

「上忍クラスが3人。訳の分からないのが一人。そして、大蛇丸“様”クラスが一人。あとは………それ以上の、別格とも言える奴が二人居る」

ことさらに“様”を強調して、香燐は説明をする。

「………それは本当かい?」

カブトは嘘くさい、といった視線を香燐に向ける。

だがその言葉に対し、香燐は心外だという憤りを顕にした。

「嘘を言ってどうするんだよ。ウチだって死にたくねえし、そんな馬鹿な嘘をつくわけねーだろ。ウチだって信じたくねーけど、今のあの場所には化物みたいな奴らが複数居るんだよ」

「上忍3人と、意味不明が一人。化物2体と、超化物2対かあ………正面から、ってのは流石に無謀じゃないかな?」

水月が頬をひきつらせながら、言う。

「………無謀どころか、ただの自殺行為だと思うぞ。そんな化物連中が揃っているようじゃあ、俺が暴れたとしても勝てるわけ無いぞ」

「………とすると、やっぱり正面からはやめようか。僕たちの目的はあの二人だ。だから、何も全員を倒す必要は無い。ていうか戦いたくも無いね」

どんな化物の巣窟だ、とカブトはひときわ大きい溜息をつく。


「だけど、この機会を逃す訳にもいかない………写輪眼は、是非とも欲しいからね」


そういうと、カブトは眼鏡をくいっと上げて、意地の悪い笑みを浮かべた。



「機を伺い、隙をつく――――幸いとして、勝利に足る有益な情報は揃っているんだからね。それに………」


円の外に居る、言葉を発さない3体の“人形”を見ながら、カブトはその笑みを凄惨なものに変えた。



「十分に。使える“捨て駒”も、あることだしね」



だからやり方はいくらでもある。

そう告げたカブトは、クククという暗い笑い声を、夜の森に響きわたらせた。


































あとがき

一息。名前って難しいってことば。

戦う理由として、まだあと二つ、メンマは持っています。それは後ほどに。

つーかこのSS、マダオがいないとふつーにシリアスになるな………





[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 七十一話 「動き出した者たち」
Name: 岳◆5bf56ac5 ID:6d0af7c1
Date: 2010/05/19 18:05
「ナルトがいない?」

「ああ。そこら中探したが、何処にも見当たらない」

網の療養地にある建物の中。多由也は険しい表情を浮かべ、武器の手入れをしているサスケの正面に座りながら、ナルトがいなくなったことを伝えた。

「あちこち聞いて回ったんだが………いないんだ。昨日は確かに居たらしいが、今日の朝になって姿を見なくなったそうだ」

「………あの、二人もか」

サスケの言葉に、多由也は頷きを返す。

「白達が帰ってから、二日………何か外に出て行く予定とかあったか?」

「いや、無かった筈だ。この後は木の葉隠れの里に向かって、そこで共同での作戦を練る予定だった」

「そうだよな………それで、昨日会ったやつらは何と言っていたんだ?」

「あちこち歩きまわっていたらしくてな。色々と聞かされたが………」


そう言うと、多由也は探し回った先であったことを説明し始めた。






~ホタルの場合~


「あ、おねーさんだ」

ぱたぱたと金髪の童女は、多由也の元に駆け寄ってきた。

「お、ホタルか。なあ、昨日ナ………メンマの奴が何をしていたか、知らないか?」

「あのラーメン屋のお兄さん? うん………あ、そうだ。広場横にいる背の高い黒髪お兄さんと話をしていたよ」

「イタチさんか………分かった、ありがとう」

「どういたしまして。あ、そういえばおねーさんおねーさん」

「ん、何だ。というかおねーさんはやめてくれ。何かおねーさんとか言われると身体が痒くなるんだよ」

「えー………だって、おねーさん的なオーラを感じるし」

「どんなオーラだよ………」

肩を落とす多由也。どうもサスケ達と共に孤児院巡りをしている内に、おねーさん的オーラを身につけてしまったようだ。

「口悪いけど何だかんだいって優しいしー。それに、私が泣いている時に、あの笛………優しい曲を聴かせてくれたでしょ?」

昨日のことか、と多由也は思い出した。

「まあ、白からも頼まれていたからな………」

しかたねーだろ、と呟きながら、多由也は僅かに視線を逸らす。

「また照れちゃって、でも、おねーさんは白姐に頼まれてなくても、助けてくれたと思うんだけどな。おねーさん、何だかんだいって面倒見よさそうだし。きっと料理も上手いんだろうね」

「………それ、誰情報だ?」

「ん? ―――シンさん情報。でも、合ってるみたいたね。そうそうシンさんってばすごい物知りなんだよ。この前だって………」






~~



「その後、延々と話を聞かされた」

ざっと数えて20分、と多由也が遠くを見る。

「話題は、シンについてか?」

サスケは何処か面白くなさそうにしている。その言葉に対し、多由也はまさかと返した。

「いや、そっちは数秒で終わったよ」

「………そうなのか。じゃあ、他の話を?」

「………後の20分はウタカタの話でな」

小さくても女だなあいつは、と多由也は苦笑する。

「つまりは――――惚気か」

「ああ、惚気だ」

そのまま、互いに無言になる。

「………年の差カップル、と言っていいんだろうか」

「ウチに聞くなよ頼むから。そういうことは九那実さんあたりに聞いてみろ」

「………おい。そんなことしたら即フォックスファイアーだろ。あれ熱いから嫌なんだよ」

または狐火とも言う。

「そういえばお前、隠れ家で………ナルト除いたら、一番多く喰らってたよなあ」

50回くらいか、と多由也は呆れた視線を向ける。

「その中の9割は巻き添えだ!」

ちなみに再不斬は40回で、内10割が巻き添えであった。

「………まあ、それはそれとして」

「聞けよ。むしろ聞いてくれよ」

懇願するサスケ。少し目尻には塩っぽい水が浮かんでいた。

「次、イタチさんだが」

「そのまま続けるのか………」









~うちはイタチの場合~



「何、ナルト? ―――ああ、昨日確かに俺はあいつと話をしたが………」

どうかしたのか、とイタチは多由也に向き直った。

何処にもいないことを説明すると、なぜだかイタチは神妙そうな顔をした。

「えっと、何か?」

あったんですが、と言いながら多由也は緊張の表情を浮かべる。

それに対し、イタチはふと笑うと、遠い目をする。

一体何があったのだろうか、そう思った多由也を他所に、イタチはナルトのことについて話した。

「いや………そうだな。恐らくはもう、この療養地には居ないと思う」

「昨日、何かあったんですか?」

「………少しな。ああ、そういえば紫苑とも話をしていたようだ」

「え、紫苑と? ―――分かりました。話を聞いてきます」

ありがとうございました、とだけ残して、多由也はその場を去った。









~~





「何で兄さんに対しては敬語になるんだよ」

「なんか妙な迫力あるんだよあの人!」

「………え、そうか?」

そんなこと無いと思うけどなあ、と首をかしげるサスケを見ながら、多由也は「このブラコンが……」と呟いた。

「それよりも………兄さん、何か隠しているようだな」

「ウチもそう感じた。でも、話したくなさそうだったし………話したくないことを追求するのもなあ」

「口が堅いしな。話さないと決めているのなら、どうあっても話さないと思うぞ。他には誰か、行方を知っていそうな奴は?」

「ああ、イタチさんに言われた通り、紫苑の部屋に向かったんだけどな」


















~紫苑の場合~




「妾は知らんぞ。ああ、知ってたまるものか!」

「………何を怒ってるんだ?」

「怒ってない! ああ、怒っちゃいないとも!」

「いや、どう見ても………」

怒ってるんだけど、という言葉、多由也はその喉元で止めた。

無言のまま、怒りが収まるのを待つことにしたのだ。

その対応は正しく、数分後に紫苑は落ち着きを取り戻した。

「………本当に、行き先は知らんのだ。いや、あの馬鹿のことなど、知ったものか」

そこまで言うと紫苑はばつの悪い顔をする。

「悪いな、力になれんで。お前には返し切れない恩があるというのに」

「いや、恩とか………別にウチはただ、ウチの音を奏でただけだぞ」

「そうか…………それでも、ありがとう」

真正面から礼を言う紫苑。慣れていない多由也は、少し顔を赤くして横を向く。

「それより………本当に心当たりは無いのか?」

「――――ああ、そうだ。そういえば、あいつはこう言っていたな」


ぽん、と手を叩いて紫苑は多由也に告げた。




「“シンを倒してスピラにナギ節を取り戻す”、らしい」





~~~



「何だそれは。意味がわからないぞ。というか、またシンかよ」

「またシンだ。ウチだって分からなかったし、それでシンの所にいったんだが………」












~シンとサイの場合~


「って、ボロボロ!?」

「うう………俺が死んだら、海に骨をばらまいてくれないか」

「兄さん! しっかりして、兄さん!」

「といいつつ襟元を締めるな弟よ。トドメを刺してどーする」

そこには、コントを繰り広げている兄弟の姿があった。

「えっと………それ、一体誰にやられたんだ?」

シンとは、本当にこいつのことなのか。

そう思った多由也は、何かあったか聞いてみた。

まさかナルトは………と思った所に、意外な下手人の名前が挙げられた。

「いや、これは菊夜さんにやられたんだ」

「何で!?」

優しそうな人なのに、と多由也は驚きを隠せないでいた。

「いやいやこの愚兄が悪いんだよ。紫苑にあれこれ色々、何彼某事を吹き込んだらしくてさ。それを知った保護者が怒りの鉄拳、いや鉄爪?」

「両方だ」

「らしいよ」

「というか見ていたのに白々しいぞ弟よ」

助けろよ、とシンは半眼のままサイを見る。

「え、自業自得でしょ? それで、多由也さんはどうしてここに?」

「ああ、ナルトが今朝、居なくなったんだ。それで、何処に行ったのか手がかりを探していてな」

「居なくなった? 誰にも何も告げずにか?」

「そうらしい。それで、昨日何かおかしな所はなかったか?」

「おかしな事ねえ………ああ、そういえ昨日だったか。花火職人が居る場所について聞かれたな」

「………花火職人、ってあの夏祭りのあれか」

その時の光景と、手の温もりを思い出した多由也は、少し頬を赤く染めた。

それを見たサイが熱でもあるの、と聞くが、多由也は無言のままぶんぶんと首を横に振った。

「そうそう、聞かれたな。あいつ一応、花火関連の発案者でもあるし、そのことで色々と話があるって言ってた。だから居場所を教えたんだけど………」

「確かそこって、この森を越えて少し走った所にあったよね」

10分くらいか、と思い出したサイが、記憶にあった場所を思い浮かべる。

「ああ。でもあいつ、昨日俺がその場所を教えた後、すぐに向かってな。その後遅くに帰ってきたようだから………」

だからそこにはもう居ないと思うぞ、とシンが肩をすくめる。










~~~



「花火職人の集落か………それで、そこにはまだ行っていないのか?」

「まだ行っていない。その時サイに、言伝を頼まれてな」

お前にだ、と多由也が言った。

言われたサスケは、自分を指差し「俺?」と確認をした。

「ザンゲツさんが呼んでいる。何でも、お前と話したいことがあるらしいぞ」

だから呼びにきたんだ、と多由也はサスケに告げた。

「話があるのは、俺だけか?」

「いや、イタチさんもだ。そっちはさっき告げたから」

「そうか………それにしても、いったい何の用があるんだか」

分からない、とサスケは首を少し傾げた。

「聞いて見りゃあ分かるだろ。とにかく、伝えたからな。もうイタチさんもザンゲツさんが居る部屋に向かっているはずだ」

「ああ、分かった………多由也、お前はどうするんだ?」

サスケは手入れしていた刀を鞘に納めながら、多由也に訪ねる。

「こっちはこっちで、聞いた花火職人の所に行ってみるさ。そっちの話しは少し長引きそうだしな」


時間を無駄にはしたくない、と多由也は言う。


「そういえば、お前は昨日ナルトと話したのか?」

「ああ………負けるなよ、とだけ言われた。唐突に何事かと思ったが………」

「そっちもか。ウチもそう言われたよ。それで、これをくれたんだが………」

と、多由也は忍具入れの中を叩く。

「何を貰ったんだ?」

「………内緒だ」

「―――教えられないようなものか?」

「別の意味でな………お前には特に教えられない」


むしろ教えるようなことでもない、と苦笑しながら多由也は立ち上がる。


サスケは教えない多由也に対し、少し追求しようと少し遅れて椅子から立ち上がった。


「っと」


だが立ち上がる途中、多由也はバランスを崩した。身体が、前方へと傾く。

二日前にチャクラをほぼ使いきってしまった疲れが、まだ身体の中に残っているからだった。

だが、倒れる程ではなかった。足を前に出し、ふんばる。




だが、そこにあったのはサスケが刀の手入れ用に使っていた布。


「とおっ!?」


間の抜けた声を上げながら、多由也は思いっきり足を滑らせた。



「危な………!」


サスケは刀を素早く横に置き、転ぶ多由也の身体を受け止めた。

だが不安定な体勢のまま受け止めたのがまずかったのか、そのまま二人はもつれあい倒れ込んだ。




「っつ~」

後頭部をしたたかに打ち付けたサスケは、後頭部を抑え痛みの声を上げる。


「ってえなあ………おい、サスケ。出した布はすぐに元の所に戻せ、っていつも…………」


怒ろうとした多由也の、言葉が途中で止まる。




「う、あ…………?」



見れば、多由也の顔のすぐ近くには、サスケの顔があったのだ。


サスケの方はといえば、倒れ込んだ時の胸の感触と柔らかい身体の感触、そして触れた神から僅かに感じた香の臭いに刺激されたいたせいで、見事に顔がリンゴのようになっている。

二日前の感触も思い出したせいか、その顔はコードレッド。脳が非常事態を宣言していた。

混乱は言語中枢にまで達している。ちなみにサスケ少年の現在の脳内は下記の通りである。


(うわやべえ柔けえ良い香りってこれ森の中でザンゲツが使ってたやつじゃあくそ何でこんなことにつーかやっぱ胸でけえなこいつってか思い出すな思い出すなキリハに殴られた記憶まで思い出してうああああでもちくしょうどうすればいい)


興奮とトラウマと未知の感覚が混ざり合い、暴れ馬のように何処かへ突っ走っていった。

正気を華麗に完全放棄である。

キリハの一撃必殺とマダオの殺意の波動と多由也の瞬獄殺によって受けた心の傷はそれほどまでに酷く、流れ出た血と共にサスケの脳裏に鮮やかと言えるほど見事に刻まれていたのだ。

鮮血の狂乱はサスケの意志を一部破壊し、大切なものを灰にした。サスケはその時、生まれた意味を知ったらしい。



閑話休題。



一方、組み敷いている方の少女の脳内は以下の通りであった。


(ああくそやべえまつげ長えこいつというかやっぱり鍛えた甲斐あって引き締まった筋肉してんなってそうじゃねえだろ戦いがあるから意識しねえようにやってきてんのにこの馬鹿阿呆トンママヌケこんこんちきのウスラトンカチ)


経験のない高揚感が胸を満たされ戸惑を隠せない、というか絶賛混乱中であった。


そして、二人の心の声が重なる。


((動けねえ…………))

いつもならこういう時は第三者がのぞきに来る訳だが、今日に限っては居ない。

二人は混乱したまま、身体を硬直させたまま見つめ合うことしかできないでいた。

視線が重なる。気づけば、二人は互いの眼の奥の光に吸い込まれていた。


いつも一緒に居た二人だ。

3年という時間は大人にしては短いが、少年少女達にして見れば長いと言えるだろう。

互いの傷も見えていたのも手伝って、心の距離が狭まっていくのも早かった。

実はといえば、今回のような“そういう”風になる状況はいくらかあった。

だがいつもどちらかが照れ隠しに離れ、悪態をついて、ここまではその繰り返しにより結局は何もなかったが、今回は違った。

心の有り様が違うのだ。

サスケはイタチを取り戻し。

多由也は悔恨の念を受け止め、そして大事な夢の一つを叶えた。

その直後の抱擁も、原因の一端を担っていると言っていいだろう。二人の心は充足をしった事で急速に成長したのだ。

故に、素直になることができた。互いにもう、眼はそらせない。


逸らしたくないという気持ちを自覚したからだった。



周囲から音が消える。目の前の光景以外、何も気にならなくなっていく。

やがてどちらともなく、顔を上げる。




10であった距離は8になり、6、4、とだんだん狭まっていく。







やがて3、ついには2となる。

二人の心臓の鼓動は、相手に聞こえるのではないか、と言うほどに高まっていた。






そして、1になった時だった。








「サスケ、遅いぞ…………!?」













空気が、凍りついた。

















~~









数分後。

「よく来てくれた………と、何だその頬の見事な紅葉は」

面白そうだな、とザンゲツは好奇心をむき出しにして訪ねる。

だがサスケは、消え入るような小さな声で呟くことしかできなかった。

「聞くな………いや、聞かないで下さい」

悲愴。それにつきた。

隣のイタチは何時もの無表情を少し崩し、どこか嬉しそうに、そして悲しそうな顔を浮かべていた。

一体何があったのか、ザンゲツは知りたかったが知ろうとするのをやめた。

彼女の勘が告げていたのだ。

“めんどくせーことになる”と。


「で、話しとは?」

停滞した空間を、イタチがその低い声で切り裂いた。

ザンゲツはそれに対し、うむと頷き話しを切り出す。


「単刀直入に言おう………二人には、網に入って貰いたいんだ」


「………何?」


「どういうことだ。うちはの名前、知らぬ訳でもあるまい」


確実に他のかくれ里に対する遺恨になるぞ、とイタチは忠告をする。


「尾獣をも操れる写輪眼の力、間違いなく他の里との取り合いになるだろう。それでも良いのか?」


「いや、ならないさ。なにせウチは非戦闘組織だからな」


ザンゲツは肩を竦め、心外だと言う。


「どの国と戦争をしようって訳じゃないんだ。むしろそんなのがごめんだね」

「ならば何故だ? 何故俺達を誘う」

「こちらでも、掴んでいる情報があってね………まずお前たち――――特にイタチの方は、木の葉に戻れるアテがあるのか?」

「………五代目と約束はしている」

そう返すサスケだが、声は少し険しくなっていた。

自分はともかく、木の葉が兄さんの方を受け入れるのは難しいと考えていたからだ。


「正直に説明をすれば芽はあろうが………それでも、うちはの先人達の名が汚れてしまうのは避けられないだろう?」

「―――それは御免だな。だが、それと網に入ることと、一体何の関係がある」

「それを説明するには、こちらも腹を割って話をするしかないが――――時に、イタチよ。お前は鉄の国を知っているか?」

「侍達の国だろう。三狼と呼ばれる三つの山からなる国で、忍び達の戦争を調停する役割を担っている中立国だ」

「そのとおり。彼らは独自の文化と権限を持っていて、忍びは古来より鉄の国には手を出せない決まりになっている………だが」

ザンゲツは視線を険しくしながら、少し声を荒げた。

「その中立国………役割を果たせていると、本当に言えるのか?」

怒りの感情を少し表に出したまま、ザンゲツはイタチに問う。

「―――とても言えないな。いざ戦争が始まってしまえば、侍の言葉など忍び達には通じん」

戦災孤児が増えたのがその証拠だ、とイタチは淡々と答えを口にする。

「そうだ。その例として………木の葉の名家、日向の嫡子である日向ヒナタが雲隠れの忍びに拉致されそうになった事件があるが、お前たちは知っているか?」

「ああ、知っている。その雲隠れの忍びは、国境近くで何者かに殺されたようだがな」

「そのとおりだ。そして、その事件の裏にはな………」

と、ザンゲツはその背景を説明する。

日向の娘をさらおうとしたこと。

成功すればそれで良し。もし返り討ちになれば“戦争を起こすぞ”と脅し、見返りに日向家当主の首を求めようとしたこと。

そこまで話すと、ザンゲツは二人に問うた。おかしいとは思わないか、と。

「“忍びこみ拉致しようとして、それで返り討ちになったから責任を取れ”。居直り強盗ってレベルじゃあない。無茶にすぎる」

「だが――――三代目は。木の葉は、それを回避しようと動いただろうな。あるいは、呪印付きの身代わり………日向ヒザシさん当たりを雲隠れに差し出しただろう」

「そうだ。だが、これは明らかにおかしい。これも中立国の威厳が、役に立っていないせいだ」

「罪を犯したとして、罰する力を持つに足る組織が存在しなければ、意味がない………そういうことか?」

「そうだ。法の元、間に立って揉め事を調停する者が必要なのだ。それを可能とする力を持つ、第三者組織が。例えば、戦場の外れで非道を行う―――裏の忍び達に対する、罰則とかな」

「不可能だ。何より五大国が納得しないだろう」

「現状では、そうだな。だがやらなければならない。これ以上、戦災孤児を増やす訳にはいかないんだから」

ザンゲツはまっすぐに、二人を見つめる。その眼は、意志の炎に満ちていた。

「私も戦災孤児だった。戦場から逃げ出した抜け忍達に、村を焼かれた。ただ食べ物が欲しかったという理由だけで、情報が漏れてはならないという理由だけで、あいつらは私の村を焼き尽くしたんだ」

そんな理不尽が許されていいのか。

―――否だ。ザンゲツは常に、そう思っていた。

「絶対の正義など、求めない。だが人として、遵守すべき一線がある。それを越えた者たちが、畜生にも劣る者たちが罰せられないまま生き延びるなど、何の処置もされないままその後の生を送るなど、私としては絶対に許せない」

「だから、力を?」

「あくまで法を守らせるためだ。戦争は止められない。それは分かっている。だが、戦うにしてもルールがあると言っているんだ」

「戦争の中の、法?」

「ああ。その内容は現在も煮詰めているが、この事に関しては鉄の国にも打診してある――――協力する、との返答を得られたよ。彼らも、何もできないでいた自分達の立場をどうにかしたいと思っていたらしい」

「それは………だが、そのような力が何処に?」

「尾獣だ――――人柱力だよ」


「人柱力を、利用すると言うのか」


サスケの声が怒りに染まる。

だがそれに対し、ザンゲツは違うと否定する。

「逆だよ。今存在している尾獣の力を、人柱力を一つの箇所に集めて、管理しようというのだ」


「管理………?」


「そうだ。尾獣は本来、人の操れる存在ではない。それは分かるな?」

「ああ。抑えられなかった人柱力は暴走し、里の者たちを襲うと聞く。そして暴れた尾獣を封じる時に、多大な人的・物的損害を被ると聞いた」

「その通りだ。だが、それは抑えるのがただの忍びだからだ」

「何を――――そうか」

得心いった、とイタチが頷く。


「暴れた尾獣、人柱力を――――他の人柱力に抑えさせようというのか」


「そうだ。聞けば、人柱力を抑えられた事例はいくつかあるらしい。そのノウハウを人柱力同士で共有し、暴走を防ぐ。あるいは万が一、暴れた時、損害無く封印を成そうというのだ。

 これには無論、人柱力の兵器としての利用を防ぐ目的も含まれている」

「その力を、網が利用しないという根拠は?」

「信用とは言葉だけで得られるものではない。今までの私達の働きを見てくれ、と言うしかないな。何にしろ、今のままではジリ貧なのだ。雲隠れの軍事力増強は聞いておろう?」

「ああ。それにつられ、一度縮小された軍事費も見直されかけていると聞いた。一度間違いがあれば、戦争が起こるだろうということもな」

「そうだ。だから、今、何とかしなければならない。穴は勿論あるだろう。だが止まっているだけでは何も得られない。修正すべき点は修正し、それでも前に進むしかないのだ」

平和に向けてのな、と言ったザンゲツは、二人の眼を見る。


「難しい事をしようという訳ではない。無意味な戦争を出来るだけ起こさない。無関係な国の民を巻き込まない。戦災孤児を無くす。人柱力という悲劇を無くす」


「――――戦時国際法を設立し、その法を遵守させるに足る機関を設立する、か。だがその最初の一歩が、どれだけ難しいが承知しているか? それに、尾獣は残り3体。六、七、八尾だけだ」


「ああ、承知している。だがこれは、一種の賭けになるのだがな………」


「賭け?」


「ああ。面目無いが………全ては、あいつにかかっているのだ」




そしてそれは、当然に彼のことだった。




~~~




一方、療養地外れの森の中。

そこには一人、顔を赤くしながら走る赤髪の少女の姿があった。


「あ~くそ、恥ずかしい。サスケの野郎っ………!」


完全に八つ当たりかつ理不尽に過ぎる理屈を並べたてながら怒る乙女。

イタチに見られた恥ずかしさから、多由也はつい、といった風にサスケにビンタしてしまったのだ。

サスケは突然の事態に眼を白黒させながら、その場に倒れ込んだ。


「ってウチが悪いんじゃねえか………」


しょんぼり、といった風に多由也は視線を地面に落とす。


「………帰ったら、謝る。よし。以上。終わり」

そして侠気あふれる思考の切り替えの末、何とか平静を保とうとした。

そして目的地である花火職人の元に向け、歩を進めていく。


だが興奮状態にあった精神は容易く収まってくれず、多由也の顔はまだ真っ赤に染まっている。


先程の出来事、そして感触の余韻が残っており、顔の熱が取れていないのだ。



「帰ったら………色々と言わなきゃ、なあ」


去来した想いと共に。多由也の顔には、自然と笑みが浮かんでいた。

ちなみに、本人はそのことを自覚していなかったのだが。




「それにしても、“アレ”――――使う時が来るのかな………出来れば、使いたくないが」


二日前に白から貰ったモノ、そしてその関連で昨日、ナルトからもらったものを思い出しながら、多由也は呟いた。


だが歩は止めず、森の中を走り続ける。もしかしたら、何か手がかりが得られるかもしれないからだ。



「………それにしてもあの3人は、一体何処に行ったんだ? 誰にも行き先を告げずに、とかまるで――――」







そこまで、言った時だ。






ちょうど、森の半ばに差し掛かった頃。






道の横から、不意に。



目の前に黒い玉が数個、飛び出してきた。





直後それは、猛烈な光と共に爆裂し、四散する。






(光、玉――――――!?)





即座に正体を悟る多由也。速攻で眼を閉じるが、不意をつかれたため間に合わなかった。


強い光を受けたせいで、視覚が麻痺したのだ。




塞がれた視界。多由也の眼が、暗闇におおわれた。




その直後、後方と側面から影が躍り出た。








(―――――奇襲!? まず―――――)










鈍い音が、森の奥で鳴り響いた。

























[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 七十二話 「薬と呪印と男と漢女」
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2010/05/22 11:45


大蛇丸謹製の光玉を使い、多由也の視界を奪った二人。

音の中忍である二人は、そのまま奇襲を敢行する。

一方は、側面から。もう一方は樹から降り立ち、背後から。

無音のまま忍び寄り、眼が見えなくなっている多由也へ一撃を喰らわさんと攻撃の動作に入る。


だが、間合いに入る前に、それは迎撃された。


「ぐっ、貴様…………!?」


奇襲を仕掛けた、音の中忍の鳩尾へと、多由也の足が突き刺さっていた。

苦悶と、驚きの混じり合った声を零す音の中忍。多由也は構わず、そのままもう一方へと近接する。


「っ眼は見えていない筈だ!」


残る一人は予想外の展開に狼狽え、近寄ってくる多由也から遠ざかろうと一歩下がる。


「光はなくとも、音があるんだよ!」


叫びながら、更に肉薄する。

多由也は例え眼が見えずとも、足音や声などを分析すれば、相手の位置は分かるのだ。

この中忍は実戦経験も浅く、まだ殺し合いの場に立った事がない。故に未熟。

忍び足も完璧でなく、多由也からすれば忍んでいないのと同じだった。

鼓動の音も、多由也にすれば煩く感じる程に聞こえている。


それらの事から、多由也は相手の力量を大体だが把握する。

動揺していることも悟った。


ならばここで決める、とチャクラを足に集中。

一気に近接戦へと持っていく。


「オラァ!」

「ぐうっ!?」


多由也の繰り出した右の拳が、音の中忍の顔面に飛ぶ。

音の中忍はそれを両腕で防御するが、勢いを完全に殺すことができなく、そのまま後ろへとたたらを踏んでしまう。



「舐めるな!」

だが、腐っても中忍。多由也の拳を受け止め、その衝撃によって全身を揺さぶられた中忍はすぐに戦意を取り戻した。

全身に広がった動揺も消えている。


多由也はそれを察し、動揺の内に力で押し切る作戦から、新たな作戦へと切り替える。

前に踏み出そうと前傾姿勢になっていた所を戻し、踏み出した足に力をこめる。

そして、跳躍。一端後方へと大きく退き、中忍との距離を空けたのだった。

多由也は不敵な笑みを音忍に向けた後、切り札である術を使うべく、腰元の笛を取り出そうとする。


「させるか!」


中忍はそれをさせじと、多由也の腕と腰元の笛目掛けて、クナイを複数投げつけた。

うなりを上げて飛ぶクナイ。

多由也は腰元に伸ばしていた手を引っこめ、そのまま回避の動作に入る。


足底にはわしたチャクラで地面を弾き、そのまま横方向へと飛んだ。

それを見た音の中忍は、悔しげな表情を浮かべる。それはそうだろう。

咄嗟とはいえ全力で投げたクナイを、余裕で避けられたのだから。しかも相手は眼が見えない状態にある。


「こんなもんか? ――――落ちぶれ変態蛇の、家畜忍者さんよ」


そこに、多由也はわかりやすい挑発を仕掛ける。

音の内情を知っているが故の言葉であった。

その言は見事、音忍の心を揺らすことに成功する。



「まだまだぁ!」


怒った音の中忍は怒りのままに叫び、再びクナイを投げつけた。だが、そのクナイは先程と同じではない。

クナイの尻には尻尾のように糸が括りつけられ、その先には火の着いた起爆札があったのだ。


点火された起爆札から、じじじ、という音が鳴る。

多由也はその音に気づき、驚きの表情を浮かべながら防御体勢に入る。



爆発。


クナイは地面に突き刺さると同時、爆発。

土と共に、周囲に砂埃をまき散らした。


――――見えた。

中忍は煙の向こうに多由也の影を見つけ、追撃を仕掛けようと接近する。

今の爆音で、聴覚にも影響が出ているのだろうと判断した上での接近だった。

機を見て敏なるは、忍びの常。それを体現すべく、そして勝利をもぎ取るべく賭けに出たのであった。



足のチャクラで地面を弾き、真正面から突進する。




そう、多由也の思惑通りに。



舞い上がった砂埃に紛れ、多由也は印を組む。

結びの印は土遁。

そのまま地面にばん、と手をついて叫ぶ。



「土遁・土流棍の術!」


直後、多由也の足元から三つ、土で出来た太い棍が前方に向かい出現した。



「なにへぐっ!?」



それは馬鹿正直に真正面から突っ込んできた音忍の顔、鳩尾、急所へとぶち当たった。

マヌケな声を出しながら、その場に昏倒する。どうも三つ目が致命的だったようだ。

鼻血を出して悶絶しながら、腹と股を抑えている。


「いっちょうあがり、っと」


倒れ伏す二人を見届けると、多由也は近づいてく。

中忍は、「耳は………」と呟いていたが、多由也はそれを一蹴する。


「鍛え方が違うんだよ」


そして言葉と共に、手刀を落とした。

チャクラの、そして微細な音の振動が籠められた一撃が、悶絶している中忍の延髄を正確にとらえた。

多由也は二人の鼓動の音を聞き取り、完全に気絶したのを確認すると、うち一人の額当てを指でなぞった。


そこに、音の紋様が刻まれているのを確認する。


「眼え見えなかったんで、さっきのは勘だったけど………こいつらやっぱり、音隠れの忍びか」



そう呟くと、多由也はきびすを返す。


一刻も早く、サスケ達と合流しなくては。そう重い、駆け出そうとする。


だが、それは出来なかった。


草むらの向こうから、光のようなものが飛んできたからだ。


多由也はその光のようなものが飛ぶ時に鳴らす風切り音を察知すると、咄嗟に横へと飛び退いた。



「な――――くっ!?」


だがその光の砲撃は先程のクナイとは比べ物にならない程に早く、避けきることができなかった。

僅かにかすった光に、多由也は足を焼かれた。


「ッ…………!」


多由也は歯を食いしばって、激痛に耐える。

だが、痛みに硬直している暇も無い。




光から僅かに遅れ、新手が現れたからだ。


その数、3人。



(眼は…………まだ完全ではないか)


薄ぼんやりとしている視界に、多由也は舌打ちをする。


不味い状況だ。


(それに………この3人、様子が何処か変だ)


言葉を発さない新手の3人の鼓動音を聞き取った多由也が、眉をしかめる。

その鼓動があまりにも整っていなかったからだ。不整脈というレベルではない。

急激に早くなったかと思うとリズムを崩し、遅くなったかと思うと急激に早くなる。

常人ならば、死んでいてもおかしくはないだろう。鍛えられた忍者でもどうか、という程にそれは酷かった。


(まずいな)

多由也は眼をこすりながら、毒づく。

暗かった視界は徐々に晴れてきているが、完全回復まではあと少しかかる。

この一合は眼が見えないままだけど、なんとか避けなければと気合を入れる。



「グ、ゥギゥ………!」


呻き声。同時、何か弦を引くような音が聞こえた。



寒気を感じた多由也は、弦の音が途切れる直前、後方へと飛んだ。


直後、今まで多由也が居たあたりの地面が弾ける。薄ぼんやりとしか見えないが、長い矢のようなものが地面に突き刺さったようだ。


しかもその威力は尋常ではなく、強い。

矢によって砕かれた地面が飛び散り、宙にいる自分に届く程の威力があったのだ。



「ギ、グゲギィ!」

「グアッ!」


着地した多由也に、更なる追撃。

残りの二人が左右から挟み込むように接近戦を挑んできたのだ。

多由也は挟まれては不味いと考え、近接する二人の内の片方、動きが鈍い方に走り出す。


そして突き出された掌打を、間一髪で回避する。掌打の余波に起きて巻き起こった風が、多由也の髪を撫でた。

その威力にまた、多由也は戦慄する。まともに受けていれば一撃で昏倒していたことだろう、と。


一方、交差ぎみに身を躱した鈍重な方とすれ違いに、もう一人が近接してくる。


その動きは早く、それなりの速度を持つに至った多由也よりも一段上の動きだった。

(だけど動きに精細は無い!)

少し晴れてきた視界により、相手の動きを見据えた多由也は、攻撃の予備動作を筋肉の起こりの音と共に捉えた。

拳が振り上げ、振り下ろされる刹那に、敵の懐の内へと身を滑らせた。


そして踏み込みながら、掌打を放つ。

それはカウンター気味に相手の胴部を捉え、相手はその威力に押されて吹き飛んだ。

だが、多由也はそこで困惑の顔を浮かべる。

掌打の感触が、あまりにおかしかったのだ。岩のように堅い、という訳でもないが、それは明らかに人体に有り得ざる“厚み”を持っていた。


――――そして。

その感触を、多由也はよく知っていた。


「まさか………」


直後、視界が晴れた。はっきりと、相手の顔が見える。




鬼童丸、次郎坊――――そして左近と右近。




そこには、呪印に全身を犯され変わり果てた、かつての同期の姿があった。




予想だにしていなかった光景に、多由也は驚きを隠せなかった。


眼を見開いたまま、硬直する。







そして、その隙は大きかった。








「クアッハァぁーーーー!」






背後から、重戦車のようなものが多由也の背中に向けて突進する。








「っ、しまっ―――――!」





身を捻り、足にチャクラを集め、跳躍する――――その最後の行動に至る、一瞬前だった。

足の傷が一連の動作を阻害する。それが、僅かな停滞を生んだ。


そして戦場では、その一瞬が命取りになる。



背後から迫る、呪印の王。


殺人衝動に駆られた重吾の、体当たりの一撃が多由也の身体を捉えた。
















~~~





イタチとサスケは、ザンゲツとの会談が終わると、屋敷の外へ出ていた。

会談は提案の話が出た後すぐに終わった。返事は待って欲しい、とイタチが告げたためであった。


「兄さん………さっきの提案の事なんだが………」


どう返事するつもりか。サスケは兄にそう訊ねた。


「………悪くない話だとは思っている。何より、償いの場が与えられるというのは大きい」

「償い?」

「ああ。大昔だがな。俺達の祖先の事は覚えているか?」

「………支配はは“力”によるものが相応しい。そう謳った、六道仙人の息子の兄の方だな」

「そうだ。そしてその思想が、後の忍びの一端を担っているとも言える」

うちはマダラの事もそうだ、とイタチは言う。

「霧隠れを裏から支配したのも、九尾の事件を起こしたのも。暁だってそうだ。うちはとして、マダラは平和を乱しすぎた」

「そのマダラの尻拭いをするために?」

「それもある。だが、戦争は起こらないのが最上だ。平和による腐敗も、勿論勘案すべきことだが…………戦争は、腐敗以上に人を壊す。それに、木の葉が戦乱に巻き込まれないのであれば、やる価値はある」

最も俺は表には出られないがな、とイタチはサスケに苦笑を向ける。

「どちらにせよ、木の葉内部でうちは一族を再興するのは難しいだろう。俺達の心情、そして木の葉上層部の心情を考えれば、俺達が木の葉に戻るのは不味いとも言える」

「それは、何故だ。俺達はもう………」

「事件が在った事が重要なのだ。俺達が報復する、と思われたらそこで終りだ。また悲劇が繰り返されるだろう。それに、それだけの力をこの写輪眼は持ち合わせている」

「それは極論だと思うけど………」

「―――サスケ。忍びというのは基本、極論的な生き物なんだ。上層部や暗部は特に、その傾向が強い、問答無用とも言うな」

「問いも答えも必要無い。可能性あるならば、芽の内に叩き潰す、ってやつ?」

「それはダンゾウの思考だな。どの里にも、そういう存在が一人二人は居るものだ。だが、俺達も一皮剥けば同じ穴のムジナかもしれん」

だから滅びたのかもしれんな、とイタチは悲しく笑う。

「………難しいな」

「ああ、難しい。こと血継限界というものは特にな。だが、使い方次第でもある。そこで――――サスケ、お前はこの先に何を望む?」

「――――ダンゾウは殺したい程に嫌いだ。だけど木の葉そのものは嫌いじゃない」

むしろ色々知った今では、あの里の空気は好きだ、と言える。サスケはそう呟いた。

「………だけど今の話を聞くに、俺と兄さんが木の葉へ揃って帰るというのは、正直難しい?」

「お前だけならば、そう難しくはない。だが俺と一緒となれば、格段に難しくなる」

「そうだよな………」

「………それに。お前としてはもう一つ、懸念すべき事項があるだろう?」

「うん、もう一つ?」

出掛けに貰った水を飲みながら、サスケは首をかしげる。

「あの、さっきの………赤髪の彼女の事だ。多由也といったか」

ぶふっ、とサスケが水を吹き出す。

「あの音の忍術………あれは素晴らしいと言える。音もそうだが、効力もな」

イタチはサスケが修行途中に、多由也の笛の音で一日の疲れを癒していたのを聞いていた。

それが故の言葉だった。

間違いなく――――里の軍力増強に利用されるということ。


「防げないか?」

「木の葉ならば、あるいは。だが知られれば間違いなく、他の里から狙われるだろう。そしてお前が木の葉の一員となるならば、その事実を知らせる義務が生まれる」

組織とはそういうものだ、とイタチは苦味を含んだ表情を浮かべる。

「義務なんて糞くらえだ―――とは言っても、な。多由也は音の抜け忍だ。木の葉内部から、密告される恐れがあるな」

一枚岩の組織というものは存在しない。イタチも、そしてサスケもそのあたりは理解していた。

集団の中、一人を守るのがどれだけ難しい事なのかも。

「少し、考えてみる。それよりもナルトの事だけど――――」


そこまで話をした時。

あるものを感じ取った二人の眼が、鋭くなる。



「兄さん………」

「………これは、戦闘の気配だな」


戦場独特の気配を感じた二人は頷きあう。

そして即座に、その場所へと向かった。



二人並び、全速で走って数十秒。



到着したその場所では、シンとサイが戦っていた。

相手は、音隠れの忍び。額当てが、その正体を告げていた。



「苦戦しているようだな………っと、多由也がいない?」


姿が見当たらない、とサスケは顔を不安に染める。

そして、敵に手裏剣を投げ放ちながら、シンへと近づいた。


助かったぜ、と言うシンに対し、サスケは多由也の居場所を訊ねた。

「………近くに居た作業員に聞いたんだけどな」

シンが少し顔を曇らせる。

「少し前に森の奥に入っていったらしいよ」

続きの言葉は、サイが紡いだ。

それを聞いたサスケが、叫ぶ。


「――――何!? っ、そうか花火職人のところへ………!」


サスケは舌打ちしながら、表情をより一層険しくする。


「あの3人は………俺とサイに任せろ」


ちったあ出来るみたいだが問題は無い。

だから先にいけ、とシンはサスケに向けて笑みを浮かべた。


「俺達であいつらを抑えるからよ………サイ、頼む!」


「了解っ」


返事をするとサイは手早く、巻物を開いた。

そして告げる。


「忍法・超獣偽画」


同時、巻物から大きな鳥と、小さな虎が2体出てくる。


どちらも黒く、荒い。

それもそのはず、その身体は墨で構成されていたのだから。


「一番、シン―――――行きます!」


シンはサイの出した墨の鳥の上にのり、そのまま相手に突進する。


その後方、シンの背中には小型の墨虎達が張り付いていた。




「と、ぶ、ぜっ!」


鳥の飛ぶ速度そのままに、シンは大きく前に跳躍しながら牽制のクナイを放ち、そのまま一気に相手の懐へと飛び込む。


間髪いれず、ひるんだ相手の胴部に掌打の乱撃を食らわせる。それは決め手とはならず、いくつかは防がれていた。


だが、相手は防戦一方で、サスケ達の動きを妨害できないでいる。


一方、二体の小型虎は、右前方へ居たもう一人の忍びに向けて跳びかかった。

音の上忍は、舌打ちしながら体当たりを避ける。そしてクナイを投げるが、小型の虎は素早くそれを避ける。




そこに、包囲網の穴が出来る。


「今だ! 行け!」




シンの叫びに対し、サスケは頷くと全速力で走り出す。



そして一気に、音忍の包囲網を抜け出した。









全速で森を駆け抜けるサスケ。

道なりに真っ直ぐに、多由也の元へと走る。

背後には同じく、包囲網を抜け出たイタチが居た。






「――――写輪眼!」


サスケは走りながら写輪眼を展開し、多由也の居場所を探る。


「居た………やはり、この先か!」


走って数分の距離の所に、多由也が居た。


距離にして数キロは離れているため、その詳細は分からないが音の忍び相手に苦戦しているようだ。


それを察知したサスケが、速度を上げる。




だが不意に、頭上に影を感じた。


サスケが顔を上げた先――――そこには、再不斬の首斬り包丁にも匹敵する、巨大な刀があった。


持っているのは、色白の忍び。見れば、不自然なまでに片腕の筋肉が盛り上がっていた。



「まずは挨拶代わりだよっとォ!」


言葉と共に、大刀の一撃が振り下ろされる。


「くっ!」


サスケは咄嗟に横に飛び、その大刀の一撃を避ける。


そして一方、イタチの方には複数の襲撃者が現れていた。


「こちらもか………」


呟き、イタチは相手を観察する。

そして、顔を険しいものに変えた。


「………大蛇丸、そして薬師カブト共同制作の、戦闘人形といった所か」


相変わらず趣味の悪い、とイタチが毒づく。


「………その人形の正体を初見で見破るか。流石は音に聞こえた、うちはイタチ。なら、それがどれだけ厄介なものかは分かるよね?」


「薬により痛覚を消したか。そして、暗示により精神さえも壊されている。薬での肉体強化も、限界まで施しているようだな」


これでは月読も通じん、とイタチは呟いた。


そこに、新たに声が降り注ぐ。



「――――痛みを感じないから、炎に焼かれても止まらない。天照を使うのは、自殺行為だよ? 燃え尽きる前に抱きつかれたら、それで終わりだからね」


「この声………薬師カブト、アンタか」


「その通り。久しぶりだね、会いたかったよサスケ君」


「こちらとしては会いたくなかったがな………」


サスケは忌々しい、という表情を浮かべながらカブトに訊ねる。


「それで、何が目的だ?」


「忍びが目的を聞かれて、答えるとでも思っているのかい? ――――って、ばればれか。そうだよ、大蛇丸様の命でね………」


君の写輪眼が欲しいんだよ。

そう言いながら、カブトは酷薄な笑みを浮かべた。

ちなみにイタチの方に視線は合わせていない。月読が怖いのだろう。

それに、イタチの周囲は4体の強化人形が展開されていて、イタチからカブトに通じる視界を塞いでいた。


「ああそれと………裏切り者を、取り戻しにね」

「多由也をどうするつもりだ?」

「ああ、連れて帰るのさ。色々と便利な術を覚えたようだからね。そう、音隠れの発展に役立てたいと思って」

「………何をするつもりだ?」

サスケの額に、青筋が浮かぶ。

「とてもここでは言えないねえ。取り敢えず人格は消すかな」

何でもないことのように、カブトは言った。

「取り立てて必要の無いものだし――――裏切り者には、それなりの罰を与えなきゃ、うちとしても示しがつかないんだよ」

ははは、と笑うカブト。それに対して、サスケは怒りの色を濃くする。

「………させると、思うのか」



「いいや、“する”のさ。厄介な九尾の人柱力も、何処かに行ったようだからね」


その言葉に、サスケは眉をぴくりと動かせる。


「それにあの娘を人質に取れば………サスケ君も素直についてきてくれるだろうしね?」








~~




一方、森の奥では、多由也が本格的な危地に陥っていた。


「く………」


多由也は横腹を抑えながら、痛みに耐える。

触りながら、ダメージを確認しているのだ。


(折れた、か…………だが、危なかった)


直撃されていれば、そこで決着はついていただろう。


「………咄嗟に身体を捻って直撃だけはまぬがれたか。良い反応をするな、お前」


「しぶといのが売りでね………それで、お前は誰だ?」


「香燐。一応、音の忍びだよ」


嫌そうに答える香燐に対し、多由也は意外なものを見た、という視線を向ける。


「音の忍びにしては珍しいな………お前は、大蛇丸の信奉者じゃ無いのか?」


「あんな奴を奉ってたまるか。それでも、任務は任務だ、気は進まねーけど………と、戻ってきたな」



と、走り去っていった重吾が、再び戻ってくる。

多由也は香燐に背を向け、再び重吾に視線を向ける。


香燐の方は、戦闘力は大したことが無いと判断したからだった。

今一番警戒しなければならない相手を正面に置き、多由也は後方にいる香燐に言葉を向ける。


「………一応聞いてはおくが、こいつらに何をした?」

答えないだろうな、と思いながらも聞かずにはいられない多由也。

香燐に対して、周囲に展開している次郎坊達が何故“こう”なっているのかを聞く。


「………カブトの野郎が何かしたらしい。ウチとしては、それ以外知らされていない」


「そうか………ああ、あとひとつ。この猪ヤローはもしかして重吾って奴か? あの呪印のオリジナルの」


多由也は呪印のあった場所を抑えながら、聞く。、


「その通りだ。まあ、ウチでも止められな………ひっ!?」


途中、香燐の声が悲鳴に変わる。

それもそうだろう。前方にいる重吾が、多数の大砲のような大口を展開しているのだから。

多由也越しとはいえ、そんなものは気休めにもならない。香燐は作戦前、カブトからいくらかの情報を与えられていた。

その中に、重吾の事もあった。一度暴れたら、殺人衝動が収まるまで当たりの者を殺し尽くすという質の悪い性質を聞いていたのだ。



「って、やべえ…………!」


光はみるみるうちに大きくなっていく。


そして周囲にいる次郎坊達も、動き始めていた。


絶対絶命。だが多由也は、諦めてはいなかった。




謝るのだ。サスケに。


そして、話しあうのだ。これからの事を。



だから、こんな所で死んでいる場合ではない。コンマ数秒、多由也は決意を固めた上で、思考を全速で回転させる。

一縷の望みでも、無いとは思わない。生き延びることを最優先に、行動を開始する。




多由也はまず、相手の特徴を観察する。

そして思うがままに、推測を重ねていく。


(………次郎坊、左近、鬼道丸………こいつらは呪印を暴走させられているのか。カブトの野郎、一服盛りやがったな!)


まるで捨駒だ。多由也は次郎坊達の姿に、こんなものに変えた者に対する憤りを隠せないでいた。


(それに、この重吾って野郎………ケタ違いだ。正面から当たっても勝ち目は薄い)


そうして、多由也は、一つの結論を出す。




(共通する言葉は、呪印!)



そして自分が持ちうる最大の武器はなにか、多由也は腰元にある笛を叩き、決意をする。


(これは、賭けだ。だがやるしかない)


捕まれば、足手まといになる。音隠れに連れ戻されるかもしれない。


多由也としては、それは文字通り死んでも嫌なことだった。


(まずは、隙を作る)



瞬時に作戦を組み立てた多由也は、まずは印を組みはじめた。

ここで、相手を攻撃する術は使わない。


そんな事をしても焼け石に水となるのは理解していた。

それに手持ちの術はほぼ守りの術ばかり。相手を攻撃する術は少なく、またチャクラの残量も多いとは言えない。

放てるといえば、先程に使った土遁・土流棍だけだ。多由也はあの程度の術など、この相手には通じないだろうということを理解している。


思考を走らせながら、結びの印を組む。

香燐は既に、後方へと避難をしていた。それを確認した後、多由也は足で思いっきり地面を踏みつけた。



「土遁・土流陣壁!」


ダン、という音と共に、地面が鳴動する。


直後、多由也の周囲360°にある地面が全て盛り上がり、突き出した。

土の流れが陣となり、そして壁となった。Bランクに位置する、上忍級の、土遁の高等忍術だ。


盛り上がった壁。

だが、重吾達は動じない。

ただ狂乱の意志に身を任せ、それぞれの攻撃を繰り出す。


「クァハハァー、死ねェ!」

「グギィ!」

「ゲウッツ!」

「グゲガァ!」


「ちょっと待………!」


それを見た香燐が、静止の声を上げる。

連れて帰るのに、殺したら意味が無いのだ。

だが狂人と化した4人は、香燐の静止の言葉に従わず、各々の最大威力、必殺となる一撃を放った。



重吾は多段に展開した変形砲身から、高威力のチャクラ砲を繰り出す。

次郎坊は全身をチャクラで活性化し、肩から壁に突っ込んで行く。

左近・右近は合体したまま、呪印からあふれる莫大なチャクラを籠めた多連脚を。

鬼童丸は最初に放ったものに倍する大きさの矢を、壁に向けて放つ。



4つの破壊は中央、土の壁の所で収束する。

ひゅおっ、と空気が縮まる音。


直後、世界が爆音で満たされた。






「――――――!」






香燐は声無き悲鳴を上げながら、近くにあった大樹の影に隠れる。


爆音が爆風を生み、周囲にある小石や枝などを吹き飛ばしているのだ。




「………収まった、か」


術の余波が収まった後、香燐は大樹の影から顔を出し、爆心地を見る。



「やっちまった。跡形も………」


続きは声にならなかった。巨大な壁はものの見事に粉砕されており、それどころか爆心地は巨大なクレーターが出来ていたのだ。


この有様なら、中央に居た多由也は肉片も残さず吹き飛んでしまっただろう。

任務失敗か、と香燐は視線を落とした。

この任務が成功すれば、音隠れから開放してくれる。香燐は大蛇丸とそう約束していたのだ。彼女にしても、その約束はまともに守ってもらえると思っていなかったが、隙は出来るだろうと考えていた。

または拉致される多由也を、時を置いて助け出し、サスケや網の連中と交渉することによって自分の居場所を作ろうとしていたのだ。


だが、それも全部パア。話しを聞くに、裏切り者の多由也とサスケはただならぬ関係にあると聞いた。

だから塵となった多由也を見たサスケは、自分の事を許すまい。

呆然となった香燐は、その場にへたり込む。もう何も考えられないでいた。



「………ああ、どうしよう。大蛇丸の元に帰るのも嫌だしなあ」


ぽつり、呟く。



そして、その言葉に答える声があった。



「なら取り敢えず、眠っとけ」


「――――え?」



首筋に衝撃を感じた香燐は、振り返りながら倒れた。


薄れゆく視界の中に自分のものではない、燃えるような赤い髪を映しながら。


香燐を気絶させた者。赤い髪の少女、多由也は腰元から笛を取り出す。


服はあちこち土まみれで、髪にも土がついていた。


それは、先の爆発の余波によるものだ。


多由也は土流陣壁を目くらましに、土遁・土中映魚の術――――水中を泳ぐ魚の如く、土の中を移動できる術を使っていたのだ。


だが振動により術を見出され、土をもろに被ってしまった。だが何とか土中から這い出し、香燐の後方へと回ったのだ。



「そして、これで詰みだ」


先の一撃により折れた肋と、衝撃により痛んだ身体。

口の端に流れる血を無視しながら、多由也は笛を取り出した。


そして前方、少し離れた所に居る4人に向けて、告げた。





「――――ウチの笛を聞け」





天上もかくや、という旋律が森の中に響き渡った。





























~~



あとがき。

4・連・続・投・稿。少し疲れました。


ご指摘の誤字を修正致しました。

ちなみに作者、瞬獄殺のことふつーに間違えてました。恥ずかしい。




[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 七十三話 「慟哭、訪れた後に」
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2011/06/17 02:21

笛を手に、思い浮かべるのはかつての昔。

―――馬鹿みたいにムシ暑かった、あの夜。

持つもの何も無く。泥だらけだったガキの自分。


ウチらが初めて出逢った日から、呪印が刻まれる前までの生活。


夢を語り合った日々を思い出し、音色に載せる。




「――――――」



チャクラと共に、音色が疾走する。大気を満たす。


風が吹き、束ねる紐糸が切られた多由也の髪がたなびく。



艶に溢れた音色が、聴衆を、そして取り巻く世界を変質させた。













~~








「これは………笛の音?」


突如聞こえていた笛の音に、カブトは戸惑いを見せる。


その横、鬼灯水月と切り結んでいるサスケは、にやりという笑い顔を見せる。


「くっ…………何がおかしいんだよ!」


水月はサスケの笑みにこめられた意味を勘違いして捉えた。侮られたと思い、その笑みに怒りを見せる。

一歩下がり、切り札の一つである術を使った。

水遁・豪水腕の術。

肉体を自在に液化させることができる"水化の術"、水月だけが使える術の応用で、腕部の筋肉を一時的に膨張・強化することができる忍術。

Bランク、高等位にあるその忍術によって強化された腕が、大刀を握り締める。

そして掛け声と共に、振り下ろした。


再不斬もかくや、かという速度で、大刀がサスケの脳天に振り下ろされる。

完全に殺すつもりで放っている。そうでもなければ止められないと思ったのだろう。

水月とて、かつては神童と呼ばれた程の才能を持っている。その才能が、眼前の敵の能力の高さを気づかせたのだった。


そして、その予想を裏切ることなく。


サスケは、唐竹に振り下ろされた一撃を悠々と避ける。

ただの一歩、横に踏み出すだけで大刀の致死範囲から抜けたのだった。

写輪眼の洞察眼と、大刀の恐怖に怖じない精神力は勿論のこと、その上に鍛えられた反射神経と筋力が無ければこうはいかない。

並の中忍ならば真っ二つ、それなりの力を持つ上忍でも避けることで精一杯だったであろう。

水月の一撃はそれほどに速かった。



―――だが。


「鋭さが無えんだよ!」


サスケはもっと速く、そして容赦なく鋭い一撃を知っていた。

だから速度は同じでも、鋭さに劣る水月の斬撃を恐れることはない。


「しっ!」

呼気と共に、上段の回し蹴りを放つ。

サスケは悠々と回避しながら、攻撃の予備動作を取っていたのだ。

踏み出された足を軸に全身を回転させ、常人ならば必殺の回し蹴りを放った。

回避できないタイミング。だが、足の先に期待していた手応えはなかった。

ぱしゃり、という音と共に、水月の顔が弾けて水になる。


「!!」


サスケは目の前のあまりの光景に、驚きを隠せないでいた。

というか見た目がすごくグロいのだ。予想外すぎるそれは、サスケの集中力を一瞬だが奪った。

その間に、水月はサスケから距離を取る。


「ちっ!」

サスケも舌打ちしながら一歩後退し、体勢を立て直す。


「………やるね。うちはサスケ」

「お前もな………っと、そういえば名を聞いていなかったな」

「………鬼灯水月だよ」

「そうか。じゃあ、水月よ」


サスケは立ち塞がる敵の名を呼びながら、刀を握っている手に力をこめる。





サスケは、どうにも嫌な予感がしてたまらなかったのだ。



それはまるで、死神に心臓を握られているような感覚。

だから、一秒でも速く駆けつけなければならない。


サスケには今、自身の安全、いや命よりも大事な失いたくない相手が居るのだった。

だから死なせるものかと、吠える。



そしてその意志を言葉にして、相手に告げた。




「あいつが、待っている――――いいから、そこを退きやがれ!」










~~








水月とサスケが戦っている隣、待機していたカブトは、突如聞こえてきた笛の音、その音源を探る。

「やはり、多由也か…………!?」

同時、驚愕に眼を見開いた。



「重吾達のチャクラが………弱まっていく!?」

まさか、とかぶりを振る。

次郎坊達に盛った薬は特性のもので、それは呪印の効果を暴走させる。

体内のチャクラ流を暴走させ、呪印のチャクラ強化と共に、体内門を擬似的に開かせる効力を持っている。

外部からは干渉できず、死ぬまでその効力は消えない。

対象の体内に流れるチャクラ流を強引に制御する幻術は意味をなさず、過剰に負荷をかけらている身体が限界を迎えるまであの3人は倒れないはず。


「だけど、これは………」


戦闘の音が聞こえない。重吾や次郎坊達のチャクラは一瞬でなく、徐々に弱まっている。


「笛の音で、相手のチャクラを操っているのか!? まさか、不可能だ!」


暴走したチャクラは大雨の後の河のように激しく、他人がそれを制御するなど不可能なこと。

だが現実、今あそこで起こっている。

常識外の展開に、カブトは動揺を隠せないでいた。

そこに、イタチの声がかけられる。




「―――――操っているのではなく、正常に戻している。治療だよ。強引に制するのではなく、正常の状態に戻そうとしている」


そう言ったイタチの足元には既に一体、強化人形が転がっていた。


一体あの短時間で何をしたというのか。目にも留まらぬ早業とかけられた言葉に、カブトは冷や汗を流した。


「戻している、だって? 馬鹿な、それも不可能だよ。外からだけの干渉で、元に戻れる筈が」


「外だけではない。内からもだよ、薬師カブト」


イタチはカブトの言葉を途中で遮り、結論だけを叩きつけた。



「本人達も望んでいるということだ。自由を………いや、元に戻りたいと、そう願っている」











~~












やがて演奏はオーラスに入る。


多由也の額からは、汗が吹き出ていた。

それもそのはず、この秘術・七音に全てを賭けているのだ。

残りのチャクラを使い切るつもりで奏でた音色、それは見事に4人の暴走体を捉えたのだった。



演奏から数秒後、まず最初に次郎坊と重吾が。

やがて鬼童丸、左近・右近の順に動きが止まった。そしてみるみる内に、全身に走った呪印の黒が収まっていく。


(重吾に関しては完全に賭けだったが…………どうやら上手くいったようだな)


呪印というものは持ち主のチャクラを過剰の暴走させ、強めるもの。

強められたチャクラは全身を駆け巡り、持ち主の能力を高める。だがその反作用で身体が変形したり身体の色が黒くなってしまう。

それは本来ならば不自然なもので、身体からすれば害にしかならないもの。


多由也はその性質を知るが故に、笛の音を奏でたのだ。

こめた思いは三つ。


自由に成りたいという想い。

身体に走る痛みから開放されたいという想い。

そして、戦いたくないという想い。


音色で心を揺さぶりチャクラを元に戻しながら、その効力を強めるために精神、身体そのものに訴えかけたのだ。


やがて笛の音が途切れる。


同時、どさりと倒れる音が4つ。

呪印から開放された次郎坊達が倒れた音と、力つきた多由也がその場に座り込んだ音だった。


「何とか、上手くいったな」


次郎坊達は見事に共感してくれたらしく、3人は皆その場に倒れ伏していた。多由也の耳に、正常な状態へと戻った鼓動音が入ってくる。

一方、多由也からすれば三つ目の想いがどうか、という不安感を持っていた重吾だが、戦闘の意志なくその場に立ちすくんでいるだけだった。


「………というか、お前は何をそんなに驚いてるんだ?」


呆気に取られた顔のまま、硬直を続けている重吾に、多由也は言葉をかけた。


「い、いや………」

硬直がとかれた後、重吾は再起動を果たす。

その顔には信じられない、という表情がありありと浮かんでいた。


「つーか雰囲気変わりすぎだろ。元はそんなんか、お前」

先程までのひゃっはーぶりは何処に行った、と多由也は溜息をつく。

「………あ、ああ」


今だ信じられない重吾は、しどろもどろになるしかなかった。


「はっきりしない奴だな………まあ、いいか。それよりもお前、まだ戦るのか?」

「………やらない。というよりは、出来ないようだ」



重吾は自らの身体を見ながら、そう返事をする。



「呪印が抑えられている……お前の笛の音のおかげだ」

「そーかそーか。それは何よりだ。というか、お前自身は戦う気は無かったってーのかよ」

「………呪印を抑えてくれる大蛇丸様の、恩義に報いたくてな」

「あのカマやろーがそんなタマか。お前、利用されてるだけだっつーの」

「そうだろうな。それでも――――」

「ああ、いいや。戻ったんならどうでもいいさ。それよりも――――」

多由也は立ち上がり、重吾に問う。



「ウチの笛、良かったか?」



その問いに対し、重吾は間髪いれずに答える。



考えるまでも無い、即答だった。



「ああ、素晴らしかった」



真剣に答える重吾。


それに対し、多由也は満面の笑みを浮かべる。



「なら、良かった」



そして再び、風が吹いた。

3年前に比べればかなり伸びた、多由也の髪が風にたなびく。



「――――――」



可愛いではなく、綺麗といえる、整った容貌。そして何より、誇らしげな笑顔が重吾の眼に入る。

その含むもの一切ない純粋な砲弾は、重吾の胸を直撃して、四散して弾けた。





重吾の心の中に響き渡る衝撃。それと共に、雷が走った。

言いようのない感情が、重吾の胸を駆け巡る。




多由也はそんな重吾の内心の動きを知ることなく、まずは仲間と合流しようと、そのまま立ち去ろうとする。



――――そんな時だった。


多由也の耳に、複数の足音と話し声が入ってきた。

大半が、多由也の知らない者によるもの。だが一人だけ、多由也が知っている"音"があった。



それは、まだ幼い女の子の声。

少し前にきいた、先日まで落ち込んでいた少女の声だった。


多由也は声と人数と話しの内容から、近づいてくる集団の目的と、おおよその事態を察する。


そして逡巡すること、数秒。



その後に、集団は森の中から姿を表した。



「………多由也さん!」

「ホタル!?」


網に所属している金髪の少女、ホタルが音の忍び達に捕まっているのだ。

後ろでに縛られ、無理やり連れてこられたようだ。


――――人質か。

ホタルの嫌がる声と、音忍達の「大人しくしろ」という声は聞こえていた多由也。

まさか、とは思ったが故の逡巡の後、実際に目の前に突きつけられた事態に対し、怒りを顕にする。



「おっと、動くなよ」


音忍の忠告を聞いた多由也が、怒りのまま前に踏み出そうとしていたその足を止める。

見れば、ホタルの首筋にはクナイが添えられていた。

頚動脈の横だ。身体が未成熟なホタル、一度その太い血管を切り裂かれれば、ひとたまりもあるまい。


「ちっ………お前ら、一般人を巻き添えにするのかよ」


忌々しげに吐き捨てる多由也の言に、音の忍び達は嘲笑を返す。


「ふん、これも大蛇丸様の為だ。手段はどうでもいいのだよ」

「そう、目的こそが重要なのだ。それにこのガキはお前の関係者だ」

「無関係ではあるまい。それで、どうする? 大人しくするか、それともこの少女を見捨てて戦うか」

「ひっ………」

ホタルの首筋が、僅かに切り裂かれる。赤い雫が一滴、首筋を通り服の下へと滑り込んで行く。


「っ、やめろ!」


多由也は、音忍に対し叫ぶ。



そして背後、後方の音を探る。



(誰か近づいてやがる………これは――――――)


仲間かもしれない。一瞬だけ抱いた期待だが、しかしそれは泡へと消えた。


やってきた相手に、音の忍びが役割を果たしたとの報告をする。


「カブト様、人質の少女の捕獲を完了しました」


「ご苦労。それと、うまくいったようだね」


「あちらの方は?」


「水月と人形達が頑張っているよ。だが旗色が悪い」


だから足止めを置いて、こちらに移動してきた。カブトはそういいながら、多由也の方を見る。


「おい、そこの糞メガネ。これはいったいどういうつもりだ?」


「………久しぶりの再会だってのに、出てくるの言葉がそれなのかい? ―――口の悪さは昔と同じ、変わっていないね」


「はっ、余計なお世話だよ。根暗メガネとの再会を喜ぶような趣味なんか持ち合わせていねえし。それよりも………さっきの質問に答えやがれ」


「フン、見て分からない? 分からないのなら、それでいいよ。どのみち知ったところで、君にはどうする事もできない」


余裕の笑みを浮かべるカブト。それに対し、多由也は舌打ちを返すことしかできなかった。

事実、その通りだからだ。多由也はチャクラをほぼ使いきっており、完全でない状態で無茶をしたせいか、身体は重たく走ることもできそうになかった。



「ああ、ヒントを上げよう。わらしべ長者っていう話を知ってるかい?」

「………ホタルを盾にウチを捕まえ、ウチを盾にサスケとイタチさんを、って事か」

多由也は相手の言いたいことを即座に理解し、口に出した。

カブトは満足そうに頷きを返す。

「相変わらず、頭がキレる。それに、この3人の暴走を収めた笛の術といい………昔とは違うね。本当に成長したようだ。呪印の力も借りず、よくここまで………」

カブトが話している言葉、途中のところで多由也は割り込みの声を入れ込んだ。

「逆だよ。あのクソ呪印から開放されたから、ウチはここまでこれたんだ」

「いやいや、そんなことは無いよ。君のその笛の術と呪印の力を合わせれば、更なる高みへと達することができるだろう………そこでだ」

名案を思いついた、とばかりにカブトが言葉を走らせる。

「サスケ君と一緒に、音に戻ってくるつもりはないかい? こちらにはその用意がある」

今ならば僕としても口添えはできるよ、というカブトの提案。

それを、多由也は一蹴した。


「一昨日きやがれよ薬馬鹿のゲスメガネ。いやむしろ来んな、大蛇丸の所で一緒に丸まってろ、とぐろメガネ。あんなクソ貯めに戻るくらいならな。それこそ"死んだ"方がマシなんだよ」


「………ずいぶんと、言うね。それは君を助けたっていう、あの金髪の悪魔の影響かい?」


「ああ、ナルトか? ―――違うよ。お前がクソだっていう気持ちは、ウチ自身のもんだよ」


「ふん………でも、今はあいつもいない。それで………今がどういう状況か本当に、分かっているのかい!?」


言葉と同時に、カブトは多由也の腹に蹴りを叩き込んだ。

折れている肋を蹴られた多由也は、叫びを上げながら後方へと転がっていく。



「………ずいぶんと、温い、蹴りだな。所詮は大蛇丸程度の右腕にすぎない、ってーことか?」


挑発をする多由也。耳にした音の忍びが、それに反応する。


「貴様! 裏切り者の分際で!」

激昂する音忍。それをカブトは、手で制した。

「よせ。所詮は挑発だ、のるな。それよりも己の役割を全うしろ」


カブトは激昂しかけた音忍達を落ち着かせる。

同時にカブトは、多由也はもう策を持っていないことを確信していた。

チャクラも少なく、また軽くない怪我を負っているのを、今の一撃で見破ったのだった。


反撃もできず、受身もとれていない多由也を見てそう想うのは、無理もないところであった。


これで上手くいく。カブトは勝利を確信し、思わず笑みを浮かべてしまった。



「………ストップだ。」


笑うカブト。

その前に、一人の男が立ち塞がった。



「………無茶はよせ。この人はけが人だ。肋が折れているんだぞ。乱暴して折れた肋骨が内臓に突き刺されば、死んでしまう」


敵であるはずの重吾は転がっている多由也を背に庇い、カブトに対して静止の言葉を投げかける。



「………どういうつもりだい?」


カブトが予想外だ、という顔になる。


「どうもこうも無い。これ以上は不味いと言っているだけだ」


「……殺人衝動も収まっているようだし………いいや、今はいい。そこをどいてくれ」

「しかし――――」

「いいから――――」

「重吾、貴様――――」


止める重吾と、裏切り者を許せない音忍達と、諌めるカブトの間で口論となる。

まとまりのない、音の忍びの弱さが露呈した瞬間だった。


そしてその背後で、多由也は機有りと判断する。


多由也は地面に転がりながらも、笛を握り締め、術を使う。


『………ホタル、聞こえるか』


秘術・音遠投写の術。多由也はホタルだけに聞こえるように、言葉を伝える。

簡易版のため、言葉は小さく持続時間も極小だった。それにチャクラの消費も激しい。


『今しかない。奴らに隙をつくる。サスケも後少しで到着する………出来るな?』


端折った多由也の言葉に対し、ホタルは頷く。


『はい。私だって、ウタカタさんと一緒に修行した身です』

『なら、頼むぞ………全速だ。逃げる事だけに、全精力を傾けろ。出し惜しむなよ』

『はい! それよりも、こんな………すみません』

『お前が謝るな。謝るのは巻き込んでしまったウチの方だ………それより、あと5秒後だぞ』


そこで言葉を切り、多由也は笛を握った。

多由也のチャクラは残り少なく、忍具袋に入っている兵糧丸を使えば一曲だけ奏でられるだろうが、その隙を見逃す相手ではない。

だから、賭けるしか無い。


そう判断した多由也は、心の中でカウントダウンを始めた。



(これは、罰だ。ナルト達には気をつけろと言われていたのに………)


それなのに多由也は、警戒を怠った。

浮かれ気分のまま、迂闊な行動に出てしまったのだった。



(あの二人がくれば何とかなる………それにあと20秒程稼げれば、ここに到着する、か)


音からサスケ達との距離を割り出した多由也。



(でも、ホタルが捕まったままじゃあ、無理だ)



だがそれに甘えることは許さないと、眼に意志の炎をともす。

どのみちホタルが捕まったままならば、自分たちは動くことができないと判断したのだ。


一方、揉めていたカブトと重吾。

カブトが重吾を強引に横に押しよけ、道を譲らせていた。



当然、視界に入るのは多由也の姿。



「――――不味い! 全員、耳を………」


忠告の言葉。だがそれは一瞬遅かった。


多由也は即座に笛を口に持って行き、思いっきり吹いた。

直後、甲高い一音が周囲の大気を震わせる。

極まった高音の砲弾が、周囲に居る全員の鼓膜を震わせた。


――――裏秘術・一音。


五音や七音という、癒しの音韻術の研究中に生まれた術で、多由也にとっては邪道といえる術だ。

この術はチャクラで増幅された高音を特定の相手にぶつけることによって対象の鼓膜を震わせ、三半規管を僅かに揺らすことができる。

だが効力はほんの一瞬で、並の忍びでも数秒あれば元の状態に戻ってしまうほどに短い。使いどころも難しく、一対一では意味がなく、およそ使えないというカテゴリに分類される術だと言える。


しかしこの場においては、最善と言える術でもあった。


ホタルは視界と意識を揺らされて僅かに緩まった背後の忍びの腕を解き、斜め前方に疾走する。

チャクラを全開に、安全域へ一直線に走る。

音忍はホタルの事を一般人だと思い込んでいたため、初動が遅れる。


そして予想外の速さで疾駆するホタルへ、すぐに追いつけないでいた



「クっ…………!」


多由也の方は痛む身体を引きずりながら、忍具袋からクナイを取り出し、ホタルの走る方向に向って疾走を開始する。




「させるか!」


自己治癒に優れるカブトは誰よりも速く立ち直り、走るホタルの足目掛けて千本を投げつけた。

「きゃっ!?」

投げられた千本は寸分違わずホタルの足を貫き、ホタルは痛みのあまり足をもつれさせ、そのまま前方に転倒してしまった。


「くっ!」

一方、二度目の投擲は許さないと、多由也がホタルの元へ煙玉を投げつける。

白い煙が立ち込めた。

「逃がすか!」


それを見た多由也が、転んだホタルの元へ、走る。

ホタルを抑えていた音忍が、再び捕まえるべく、走る。



距離は多由也の方が近い。

一歩速く駆け込んだ多由也は、音忍の正面に立ち塞がり構えた。

音忍が叫ぶ。


「そこをどけ!」


「お前がな!」

譲らない二人は、正面からぶつかりあった。


多由也は歯を食いしばり、右手のクナイに力を入れる。


対する音忍はクナイを握り、更に足を早める。



そのまま、二人は激突した。



森に、鈍い音が響き渡る。







「くっ………」


やがて、数秒の後。煙が晴れた。


誰ともしれないクナイが地面に落ち、キンという甲高い音が鳴る。


間もなく、音忍の膝が折れた。ゆっくりと、前のめりに地面へと倒れて行き、そのまま地面に横たわる。

そして、動かなくなった。


もう一方、多由也の方は倒れてはいなかった。


「多由也さん!」


ホタルが喜びの声を上げる。

多由也の方が打ち勝ったと思ったが故の言葉だ。


事実、多由也の背中は崩れずそのままで、地面に倒れ伏してはいない。





「…………?」



だがホタルはそこで、疑問を抱いた。


何やらぽたり、ぽたりと、いう音が聞こえるのだ。


周囲ではカブトを含む全ての者が、驚愕の表情を顕にしている。


それを見たホタルは何が起こっているのか、より一層わからなくなる。



その答えを知る機会は、すぐに訪れた。



「―――――ごふっ」



多由也が咳をする。

と、その場に尻餅をついた。





「多由也、さん?」



ホタルの眼に、赤いものが映る。


かけられた声に反応し、多由也が振り返ろうとする。だが、それは叶わない。


多由也はそのまま、振り返ることもできず、ゆっくりと後ろ向きに倒れ込んだのだ。






「―――――え?」






倒れた多由也の胸の中心。そこから、水が噴出していた。





その赤い液体は身体を沿って流れ、やがて地面にたどり着き、池となっていた。





そして鼻に感じるのは、独特の―――――鉄の臭い。

















ホタルは、絶叫した。











~~~~











「悲鳴? ――――ホタルか!」



水月を雷遁で打ち倒したサスケは、人形を昏倒させたイタチと共に、多由也の元へと向かっていた。


そして現場にたどり着く直前、覚えのある声を耳にする。


サスケとイタチはその声の持ち主を断定したと同時、互いを顔を見ると頷きあい、更に速度を上げた。




現場手前で足に力をこめ、跳躍。



悲鳴の後、僅か数秒での到着。



たどり着いたさき、サスケが見たものは、色々あった。

一つ、その場に立ちすくむ音の忍び。

一つ、巨漢の男。

一つ、水月達を置いて逃げた薬師カブト。



そして、最後。サスケの視界の端に、鮮烈な赤色が映る。




「―――――え?」




充満する鉄の臭い。赤い池。


その上に、目的の彼女が横たわっていた。




「――――」



それを見たイタチの方も、声を無くしていた。


二人は、網の少女、ホタルを見た。


そしてその隣に横たわっている、赤髪の少女の姿をはっきりと見た。




――――そして。胸に深々と突き刺さっている、鉄の塊を見た。

サスケが駆け出す。音忍が、そこに割り込んだ。


「貴様、ま「退け」ぎっ!?」


咄嗟にサスケの進路を塞ごうと前に出た音忍は、無造作に振られたサスケの一撃によって、音もなく弾き飛ばされた。


一方、カブトはイタチの足元を凝視している。
視線をあわせると、月読に取り込まれるからだ。

カブトにしても、多由也の方は気にしないでいた。
医療忍者である彼の目から見ても、多由也がもう間に合わないことを察していたからだ。

チャクラが、徐々に小さくなっているし、鼓動の音も弱まっている。
これでもう、人質を取る策は使えなくなったと、人知れず舌打ちをしていた。

(人質が使えないのであれば、逃げるか、戦うかしかないか)

カブトは、残るホタルの方は、サスケに対する人質には成り得ないと判断していたのだった。

そしてカブト以外の音忍は全て、イタチが放つ殺気に呑まれ、動けなくなっていた。

裏切り者の死を喜ぶ暇も無い。全身に突き刺さる殺気に抗おうという思いだけで、精一杯になっていた。


そんな、不自然な静寂が場に満ちる中。

サスケは、横たわる多由也の元へとたどり着く。


そして横たわる多由也を片腕で抱き、持ち上げた。


「お、そかったな………」

声も絶え絶えに呟く、多由也。サスケはその胸に突き刺さっているクナイを見ると、声にならない悲鳴を上げた。


クナイは心臓の上にあった。根元まで突き刺さっている。


誰がどう見ても、手遅れ。紛う事無き、致命傷であった。


「み、てのとおり、だ………ドジっちまった、よ」

切れ切れに、多由也が話す。口からは、血が溢れていた。

「しゃ、しゃべるな。いま医療忍者を――――」

「ムリだよ。それより、あいつら、あのデブ達3人を頼む。あと、あそこにいるうすらでかいやつと、草むらにころがってる、赤い……げほっ、ぐ」

「っ喋るな! 大丈夫だ、気をしっかりと持て! 助かる、絶対に………」

「赤い、女も。蛇やろーの、犠牲者だから。だから、たすけ、てやってくれ」

「分かった、分かったから! 待て、頼む…………置いていかないでくれ!」

サスケは、悲痛な叫び声を上げていた。

脳裏に、かつての月夜が思い浮かぶ。


大事な者が全員、動かなくなってしまったあの夜のことを思い出す。


サスケの首筋に残っている、封印術が施されていた呪印が揺らぐ。

それを察知した多由也は、喉をふりしぼって、何とか声にする。


「それは、ダメだ。おしえて、もらっただろう」

「だが――――」


泣きそうな声を上げるサスケ。


信じられないと首を振る。

数時間前まではあんなに元気だったのに、と首を振り続ける。


多由也はそんなサスケを見つめながら、ゆっくりと手をあげる。

そしてその手でサスケ頬を撫でながら、優しく告げた。


「サ、スケ。忘れるな」

「何を!」

「あの隠れ家の、日々だ。一緒に鍛えた………知った………」

弱くとも、意志に満ちた声。


「相手を憎むな、誰かのために怒れ………そうすれば、お前はつよく………誰よりも………」


多由也の手から力が抜けた。

腕が、地面へ落ちる。


「多由也!? っ、多由也!」


サスケは、何度も多由也の名前を呼び続ける。


だが多由也の全身からは、力が抜けている。

どこからもチャクラを感じられない―――筋肉の強ばりも、全く感じ取れない。


でもサスケは叫ぶことをやめなかった。

自分の腕にかかっている、多由也の―――――力の入っていない身体特有の、妙な重みを、認められない。

自分の眼に映る、途切れたチャクラも、途絶えた鼓動も信じられない。


あれほど煩かったのに、声もなく。

今はもう、抱いても感じられない。


(違う!)


――――全てが、死を告げているとしても。


(嘘だ!)


サスケは、信じようとしなかった。

しかし、状況がそれを許してくれるはずもなく。


「サスケさん………」


ホタルが声をかけた。

だが、名前を呼ぶことしかできず、すぐに顔を背ける。


「…………え」

その背けた先から、人影が見える。





シンとサイが到着したのであった。

「無事か! ――――な」

「多由也さん…………?」


二人は予想外の光景を前に、絶句する。



そこに、声がかけられた。



「………シン、サイ。手伝ってくれ」


多由也の言葉を聞いていたイタチが、シンとサイにその内容を告げる。

そして、イタチは、重吾にも声をかけた。


「………しか、し」

重吾にも、多由也の言葉は聞こえていた。

だが重吾は、イタチ達に素直についていくことができなかった。



「話は後で聞く――――いいから、黙ってついてこい」

静かに、怒りの声を上げる。


歴戦の忍び、それも世界でも指折りの忍びが放つ本気の殺気だった。

垂れ流すだけでなく、まるで刀のように研ぎ澄まされた殺気は、重吾を問答無用で黙らせた。

それは背後にいるシン、サイも一緒だ。

そして音忍が動けないことは、言うまでもなかった。



「サスケ………多由也を」


「………」


無言になったサスケの肩に手を置き、イタチは多由也をこちらに渡してくれという。


「そのままでは戦えないだろう。俺が運ぶから………後は、頼んだぞ」


「………」


「サスケ」


「………分かった」


サスケは立ち上がると、カブト達に背を向けたまま、動かない多由也をイタチに引き渡す。


「サスケさん………」


「お前も行け。ここにいたら、どうなるか分からない」



「は、はい」




そうして、イタチ達は撤収を開始する。


サイが超獣偽画で大鳥を出し、次郎坊達を運ぶ。

重吾は近くで気絶していた香燐を運び、シン達と一緒に去っていく。















やがて、時は過ぎ。




その場に残ったのはサスケと、カブト達音の忍びだけになった。


カブトはイタチが居なくなったことに安堵の溜息をつき、やがて目の前の敵に集中を始める。


彼の心の中には、あわよくば誰か一人だけ連れて帰れないものか、という思いがあった。

このままでは任務は失敗、加え戦力を損失した上で手土産もないとなれば、自分が殺される。

そう思っていたからだった。



だからカブトは戦法の定石としてまず、挑発を始める。

うっすらと笑みを浮かべ、侮蔑の言葉をつづった。


「………もしかしてたった一人で、僕達をやろうってのかい? 敵討ってことだろうけど、たかが女一人がそれほどまでに「喋るな」」


だがそれは途中で遮られた。


問答無用の一言。カブトはそれで、挑発が無駄だということを察した。


挑発をするまでもなく、サスケの怒りが既に頂点に達していることを悟ったのだった。



だからカブトはうすら笑いをやめ、機を伺う。


彼は、何もまともに戦うことはないと思っていた。

部下たちを囮にしてサスケをすりぬけ、撤退している一団を、後方から急襲するつもりでいるのだ。

カブトの力量はイタチを除けば、一番と言える。それを理解している彼は、もしかしたら一人は奪えるだろうと思っているのだった。

だから後ろ向きに、音の忍び達に手で合図を送る。それは一斉に飛びかかれという合図だった。



だが、その直後。





「おい――――カブト。お前、何処を見てやがるんだ」



怒りに染まったサスケ。一時の復讐者となった彼の勘は、ある一点をおいて最大になっていた。


それは即ち、相手が何処をみているのか、ということ。


対象が自分を見ているか、意識が何処にあるのか、敏感に感じ取っていた。



だから、塞いだ。


意識を逸らす事は許さないと、刀を握る。殺気を叩きつける。

俺に貫かれ、俺に恐怖しながら死んで行け。そう、言うがために。



サスケは身体の中で暴れる憤怒をチャクラに込めて、やがて炎に変換する。



直後、雷文の鯉口が切れる音がする。


ひゅおっ、という風切り音。


斬線が地面を撫でて、納刀の音が響く。




―――――直後、大気が鳴動し、斬線の跡から、猛烈な炎が立ち上った。





「な…………!?」



突如巻き上がり、道を塞ぐ炎の壁を見たカブトが、戸惑の声を上げた。




サスケはそれに構わず、自らの生み出した炎を背後にしながら、開戦の口上を述べる。





「よくもやってくれたな―――――――やってくれやがったなァッ!!」




サスケは腰を落とし、構える。


練られ溢れたサスケのチャクラ、そこから漏れ出た一部が雷文へと流れこむ。

怒りに燃える脳髄。
全身から、その意志を具現したかのよう、青く純粋な雷が迸る。



そしてその輝きは閃光となって、場を照らした。





「逃さねえ――――残らずここで死にやがれェッ!!」








死闘が、始まった。




[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 七十四話 「うちはサスケ」
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2011/06/17 02:20


「人は備えなければならない。己の身に降りかかる災難、問題をどうにかできるだけの力が必要だ。あらかじめの備えがなければ、問題に対して何をどうすることもできない。
 怠け者は、生き残れないんだ。災厄と死はいつどこにあっても、俺達の隣に居るのだから」

今も狙われ続けている一人、九尾の人柱力だと思われている少年が、言う。
あらかじめ練っていた策、忍術を両手に一人立ち、不利な戦いでも諦めることなく戦い、そし生き抜いたナルトの言葉は重くサスケに突き刺さった。



「忍者の戦いにおいては、基本の幻・体・忍は必須だ。どれかが欠けていれば、それを補える程の何かを持っていなければ、呆気無く殺されちまう。

 揃っているだけでも同じこと。鍛え、磨きあげられた力でなければ、呆気無く殺されちまう。戦場は全くもって"お優しく"ない………自分より強い相手と戦い生き延びるのは、至難の業だ。時には無様をさらすことも、覚悟しなければならない」

「………戦場というのは、非情なものです。そしてそれが何時、どこで発生するのか。それは誰にも予想できない。何故ならば戦いを起こすのは常に、人なのですから。そして運命は唐突に、無慈悲になります。だけどボク達は、慈悲に縋る真似はしない。
 自分達の頭で、腕で、想いで。困難を乗り越えてきました」

少し前までは霧隠れの抜け忍であった二人が、言う。
カカシとの戦闘を思い出しているのだろうか、鬼人の方は苦虫を噛み潰したような顔だったけれど。
突然の悲劇に見舞われた少女の顔は、少し儚げに、悲しみに歪んでいたけれど。




「ふとした事で、日常が地獄に変わる。なぜなら誰もが、思い思いに生きているからだ。そこら中、好き勝手に走り回っている。だから互いの衝突は避けられないとも言えるな」

かつては戦災孤児であった、戦場で大切なものを失った、母を失った赤髪の少女が言う。
一寸先は闇。身をもってそれを体験した多由也の言葉は重く、少女と同じくその理不尽を体験したサスケも深く、その言葉に頷いた。



「だから備えが必要なんだ。基礎能力は勿論のこと、時には知識、いや戦術という武器が無ければ、戦いに勝ち続けることはできない。
 逃亡、交渉、といった駆け引きも必要になる。戦場において、あって困るものは無いよ。負ければ終わりというのは、生死を賭けた戦いの、戦場においての常だからね。
 想いという力が勝つ場合もあるけれど、そうでない戦場もまた、確かにある」

幾百もの戦場を駆け抜けた四代目火影が、珍しく神妙な顔つきになって、言う。
数え切れない程の同胞の死を見てきた、かつては忍びの頂点に立っていた男の言葉は重く、サスケの胸に突き刺さった。




「憎しみは、何もかも覆い隠す。黒の霧は人の眼を曇らせる、視界を狭める。強すぎる感情は人の心を鈍くするからだ。あるいは生きたいという思いでさえも。
 ………憎しみの黒は、どんなものよりも強い毒性を持つ、致死の毒薬だ」

かつては世界の憎しみを身に纏っていた天狐が、言う。妖魔であった頃の名残。かつては人が織りなす悲劇を急襲していた妖狐は、記憶の残滓の中で一つの真理を垣間見ていた。
かつて憎しみに呑まれていたサスケも、天狐の少女の言葉に同意を示した。







それはいつかどこかの、ワンシーン。

戦いの悲劇をなくそうと、あるいは大切なものを取り戻すべく己を磨いていた一団の、日常の中の一幕。








~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





戦場に雷光が、ほとばしる。


次の瞬間、右奥に居た音隠れの中忍のうちの一人が吹き飛んだ。

中忍は吹き飛ばされた先にあった大樹で背中を打ち、強い衝撃に血を吐き出した。



「は――――」



速い、という言葉を言い切ることもできず。

また一人、頬を殴られて、音の忍びが吹き飛んだ。

だがそれは致命傷でなく、戦闘不能に至るダメージでも無かった。

しかしサスケの動きは速く、カブトを含む音の忍び達はその動きを捉えられないでいた。


「くっ、ならばこれでどうだ!」


翻弄される中、音の忍びの一人が、鉄の網を投げかける。

それは広範囲に広がり、直下にいるサスケを絡めとるべく迫る。

しかしサスケは、その網に構わない。思うがまま、自らの内に溢れる力を行使する。



「――――天に三宝、日、月、星」


納刀の最中、サスケは呟き、印を組む。



「地に三宝、火、水、風!」


結びの印は、うちは一族が最も得意とする火遁。

サスケの全身から炎がほとばしり、すぐさま雷紋へと集中する。


炎は束となり、刃に宿り空を斬る。


「火遁・龍炎剣!」


雷紋が振り下ろされると同時、火の一閃が鉄網を撫でた。

一瞬の拮抗の後、鉄の網は高熱の炎刃に焼かれ溶かされ、無残に引き裂かれた。



「ば、馬鹿な!? ―――ぐあっ!」



動揺と苦悶の声を最後に、音の忍びが雷文に貫かれた。

「痺れろ」

千鳥流し。雷を切り口から体内に流された音忍の目から光が消える。

刀を引きぬくサスケ。その背後から、また別の音忍が襲いかかる。

「っ、遅えよォ!」

サスケが煩わしいとばかりに、回し蹴りを叩き込む。

しかしそれは防がれてしまい、今度は反対側からカブトがチャクラのメスを持って肉薄。

「っ、見えてんだよ!」

それも雷文の強引な一薙ぎで追い払う。
乱暴な一撃が、一歩下がったカブトの目の前で空を切った。

サスケの体勢が崩れ、頭上からまた音忍が襲いかかる。

頭頂を狙った振り下ろしの蹴打。

「チィッ!」

サスケは写輪眼でそれをとらえ、腕で防御しながらカウンター気味に音忍の顔面を右の拳で殴りつける。

しかしあまりに馬鹿正直な拳は、顔をひねった音忍の頬をかすめるだけ。



(………これなら、やれるね)


その様子を見て、カブトが一人心の中で確信していた。

今の攻防を見れば、分かる。うちはサスケは冷静を欠いていると。

確かに、限定でも解除されている呪印の影響で、身体能力は上がっている。
しかし運用の方が成っちゃいない。


これならば浸け込む隙はいくらでもある、とカブトは判断していた。



そして、数分後。


残るのは、サスケとカブトだけになっていた。

音の忍び達はみな、地へと倒れ伏していた。

サスケの攻撃を幾度となく受けた結果だ。


しかしサスケは、肩で息をしている。

全身には、隠しきれないダメージを負っていた。


「………後は、お前だけだ」

「そうみたいだね………いやはや、まさかここまでとは思わなかったよ。力任せに戦って"コレ"とはね」

サスケの言葉に、カブトは余裕を保ったまま言葉を返す。

「しかし荒い。それじゃあ僕には勝てないよ?」

「お前の知ったことかァ!」

叫びと同時、サスケはカブトとの距離を詰める。

そしてそのまま、間合いに入った瞬間、腰の刀で居合を放った。
常人ならば眼にも止まらない早業だろう。しかし熟達の忍びであるカブトは、それを躱しきる。


「はっ、見え見えだよ! そんな大ぶりな攻撃、僕には当たらない!」

「ちいっ!」


嘲るカブトに対し、サスケは更に距離を詰めて一歩踏み出し、必殺の意を込めた袈裟懸けの一撃を繰り出す。

しかしそれも、届かない。あと一歩、届かないでいた。


「甘い!」

そこでサスケは逆に、カブトの拳を受けてしまう。
横隔膜を捉えたカブトの一撃。薬で強化された身体能力による拳打の威力は高く、怒りに我を忘れているサスケはまともに受け手しまい、たまらず後方へと下がった。


そこから先は一方的だった。

考えなしに全身を振り回したせいで、サスケの身体はあちこち傷んでいたのだ。
憎悪に身を染めてそれを一時的に無視できても、動きが鈍くなることは避けられない。

やがて、サスケの腹部右に、カブトの拳が突き刺さった。
狙うは肝臓。急所狙いの一撃に、サスケはうめき声を上げながら吹き飛び、地面に転がされる。

「これで決ま…………まだ、立つのかい」

咳き込むサスケに、カブトは哀れむ声をかける。

「ふん、随分と息が切れているようだね。無様なもんだよ………鍛えた結果が"これ"とはね」

その言葉に、サスケの肩がぴくりと動く。

「あの時、大蛇丸様について来ればこんなもんじゃなかったハズだよ。全く、情に絆されたか知らないけど………くだらない」

嘲りのような。カブトは挑発の意味も兼ねて、言葉の刃を叩きつける。

対するサスケは言い返せないためか、悔しさに歯噛みすることしかできなかった。

サスケ自信、自覚していた。音の中忍達を倒した時に、無駄な動きをしすぎたことは。

らしからぬ怒りに任せた雑な攻防は、サスケ自身の想像以上に、彼の体力を奪っていた。


対するカブトは、まだ余裕を残している。

カブトもまた、切り札といえるものを隠していたのだ。


「ま、大蛇丸様の細胞がうまく身体になじんだからかな。それ抜きでも、君は酷いもんだけど」


そういうと、カブトは嬉しそうに笑った。

自身の身の内から溢れる力に、酔いしれるように。


「君にも呪印がある、よね。それは………いや、ごく一部しか解除されていないのか」

「………!」

指摘されたサスケの顔が、僅かに引きつる。

「完全に開放しなよ、僕が憎いんだろう? その気持のままに、全てのしがらみを断てばいい。何もかも吹っ飛ぶほどの快楽を得られるよ?」

「………開放、だと?」

「ああ。そこに居た"ソレ"が何を言ったのか知らないけど、気にすることはないよ」

と、カブトはサスケが立っている足の下を指差す。



―――――そこには、多由也が流した血の跡があった。

サスケの心臓が、跳ね上がる。


「吹っ切ればいい。望めば手が届くよ? ――――かつて君は欲しがった、誰にも負けない力が」

「………誰にも負けない、力」

「そうだ。ひょっとしたら今の僕をも殺せるだけの力が―――――」

そこまで言って、カブトは黙りこむ。

サスケの様子がおかしいのだ。


「ちから、力………何のために? ………誰のために」

憎悪に駆られたサスケが、息絶え絶えになりながら言葉を返す。



そして、かつて自分で口に出した言葉を思い出していた。

―――この瞳は、何のためにあるのかと。

地面の血の跡に視線を巡らし―――――思いを巡らせる。


それは、かつて多由也が言った言葉だ。

修行に励み、孤児達を癒し。音を頼りに、更に高みを望み多くの人を助けようとする多由也。


――――なんのために、との問いに。

本当に自分が望んでいるものを見つけて、そのために音を奏でると。

自分が本当にしたいことをやりたいと、彼女は答えた。


――――誰のために、との問いには。

それに対する答えは簡潔だった。曰く、自分のため。

理不尽に苦しめられている人が嫌いで、それを何とかする。

笑顔が見れる。うちも、助けられて嬉しいと。互いに損はなく、どちらも幸せになる。
これって凄いことじゃないかと、彼女は答えた。



(―――俺も、そうだ)

サスケは、そこで漸く思い出していた。

この眼の意味を。我愛羅に伝えた、この眼の意味を。多由也の答えで見つけた、自分の本当の望みを。



(この力は――――そうだったな)


サスケは、首を横に振った。

先程とは違い、確かめるようにゆっくりと。

否定の意志をこめて、横方向に三度、首を往復させる。


「遂に諦めたかい? それとも狂ったのか」


「どちらも、違う………いや、馬鹿だったよ………俺が、違ったんだな」


無様すぎる、と。怒りにうわずっていたサスケの声が、元の調子を取り戻したかのように太く、低い声となる。

それは本来のサスケの声だった。



「最後に………多由也に言われたばかりだってのによ。忘れて、繰り返しちまった」


サスケは倒れ伏す音の忍び達の姿を見ながら、呟く。


「我を忘れ、怒りのままに突き進んで――――鍛えた身体の動きさえも忘れて、か。はっ、マダオ師達に会わす顔がねえな」


サスケはそんな情けない自分の、頬を殴った。

鍛えた力を振りかざし――――結果、音忍達は倒れた。しかし気絶するまで最低三度、攻撃を繰り返した。

怒りに我を忘れ、本来の動きを発揮できず、悪戯に無駄な攻撃を繰り返した。


「これじゃ、なんのための修行だったんだか………情けねえな」


「何を…………?」


カブトが、言葉を挟む。明らかに、先ほどとは様子が違っている。


しかしサスケは、それを聞いてはいない。


「鍛えた己。備えた、戦術。磨き上げた体術………それも忘れて、この窮地だ。多由也が折角去り際に言ってくれたってのによ………」


その声にこめられたのは、悔恨。
己の無様を哂う、だけど諦めない。


一人の、男の言葉であった。



「―――思い出したよ、多由也。修行の日々を。隠れ家での、あの日々を………そうだったな。確かにそうだ。
 憎しみだけじゃあ、何もできやしない。出来ることは否定することだけ―――――そして、戦う意味を」



言葉と同時、サスケのチャクラが一瞬途切れた。



「憎むなよ、ただ怒れ。そして戦え、理不尽な境遇に立たされている誰かのために。
 力とは、誰かのために振るわれ始めて、意味を持つ。自分で自分を誇れるような望みを。
 自分では無い誰かのために振るう――――それが、本当の"力"」



ずっと、もやがかかっていた言葉。それを頭と心で理解したサスケ。

叫びをあげると同時、全身からチャクラを練り上げ、噴出させた。

それまでの比ではない程に濃密に、気高く、そして意志に満ちた力強いチャクラであった。



だが目の前のカブトは、それを哂うだけであった。



「………弱い。そんなもの、僕にも大蛇丸様にも通じはしない。呪印の力、呪われた力もなく、僕たちが積み重ねた十数年の月日を超えられるものか。
 害意無き力は、力にあらず! 力を得るためには、何かを差し出さなければならない! 欲しいものがあれば奪い取る! 力とは本来そういうものだよ!」


力を得るために、己の一部を“捨てた”カブトが嘲りを返す。

己が野望を果たすために、差し出したカブトが、叫ぶ。


「そんな、想いなど! 誰かのためになんて、曖昧な力で――――僕を、大蛇丸様を倒せはしない!」


それは、純粋な"暴力"という観点から言えば、正しい言葉。
だけど、サスケの眼に揺らぎはない。


「言葉で否定はしない。でも、最後まで見てから言えよ。それに、お前たちのそれは………力なんかじゃない」

「戯言を! 外法もなしに、呪印も無しに…………この距離を、力の差を埋められると思っているのかい!?」



侮蔑の念を乗せ、告げるカブト。


それをサスケは、一笑に付した。



「ざけんなよ………外法、呪印だと?」



彼の脳裏に浮かんだのは、多由也の姿。


力無く、想いに満ちて溢れた、鍛錬の末、努力の果てに築き上げた、不治の病と思われた傷でも癒して見せた、あの音色の調べ。


夢と想いが成した偉業、誇り高きあの音の轍。

拳では絶対に成せない、あの偉業。

一人の人を救いきった、美事としか言いようのない、人の努力の果て。

サスケはその時に聞いた旋律を、自らの心を癒してくたその曲を、その場に居た全員の心を震わせたであろう彼女の心を脳裏に描きながら、叫ぶ。




「そんなもんが無くたってなあ―――――人は、強くなれるんだよ!!!」




そしてサスケは心の中で、仲間の姿を思い描く。

(そうだろ、マダオ師。再不斬、白、ナルト…………)

誰もが、あがいていた。サスケは、ずっと見ていたのだ。

自らの身体を痛めつけ、それでも止まることなく、いつか来る明日を疑わない人達。

そして、もう一人。

一番傍で、誰よりも近くで見ていた姿を思い出したサスケは、叫ぶ。


大地よ砕けろとばかりに、地面を踏み鳴らした。

天よ割れろと、サスケは叫ぶ。





「なあ――――――――そうだろ、多由也ッ!」






雷光がほとばしる。


そこでサスケは聞こえた気がした。




(――――負けるな)





最も親しき者―――多由也の声を。


自らを応援する、多由也の笛の音が、聞こえた気がしたのだ。



「――――な、くっ!?」


「これ以上、誰も死なせたりはしねえ。あいつをあの世でまで悲しませたりはしねえ!
 見せてやる、思い出に残る全ての想い―――――その力を!」


思いもよらない、サスケのチャクラの力強さに、カブトがひるんだ。




「ああああっ!」




そのひるみを、サスケは見逃さなかった。




「ふっ!?」


眼にも止まらない動きで、サスケはカブトに突進する。

そして交差ぎみに、一撃。防御の動作も取れなかったカブトは、身体をくの字に曲げる。



「ぐっ…………くそ、舐めるんじゃない!!」


対するカブトも、本気を出した。


自らの身体に、全力のチャクラを這わせる。サスケの攻撃を見きれないと瞬時に判断したカブトは、防御に専念してサスケの攻撃を全て耐え切ることを選択したのであった。


大蛇丸の細胞を自らの身体の中に入れたカブトの耐久力は強く、並の攻撃では倒しきることはできない。サスケのチャクラ残量を見切ったカブトの、策であった。



「いいぜ――――そんな力怖くねえ、真正面からぶち破れる!」



カブトの意図を察したサスケが、叫ぶ。


腰に差していた刀、雷紋を背に背負う。



そして高速で印を組んだ後、左腕で右の手首を掴む。



同時、震脚。




大地が、鳴動する。






その直後、サスケの右腕には、雷の塊が顕現していた。


サスケはここにはいない大切な人を、誰よりも傍にいた人を、そして背中に背負う自らの相棒、雷紋に告げる。





「みんな―――――雷紋、多由也!」







雷光がほとばしる。両目の写輪眼が、回り――――――やがて、万華の模様を描く。



己の無力と無様さ、そして守りたい誰かを再認識したサスケの魂が、うちは一族の力を覚醒させたのであった。



大切な人を失ったという想いが、サスケの魂を奮わせた。



そしてサスケはそれが故に、前に進む。





「千分の一秒の世界…………今、極めてやる!」






地面が爆発する。サスケは猛烈な速度で、カブトに肉薄していた。

従来の千鳥をも上回る、圧倒的な速度。



だかカブトもさるもの、コンマ以下刹那の世界で、迎撃の方法を練っていた。

防御しきれないと判断したが故の、選択であった。


カブトは雷光の速さで迫り来るサスケの狙いを看破し、その上対処方を練ろうと、思考を回転させる。




(千鳥――――いや、普通の千鳥ではこない。見るべきは、背負った刀!)



カブトは、サスケが刀の位置を変えたことを見逃さなかった。あれには、何かしらの意味があるはずだ。


そう思ったカブトは、自分が取るべき迎撃の戦術を練る。




(千鳥にはなく、刀での一撃にある弱点――――懐、至近距離!)



避け切れないと判断したカブトは、間合いに眼をつけた。刀の殺傷範囲は、その刀身半ばから先。中距離だ。


至近距離ならば、刃が当たっても鍔元。傷は負ってしまうが、致命傷にはなりえない。いいとこ、怪我だけで済む。



(この期に及んで、普通の千鳥でくるはずがない………狙いは、刀による一撃!)


千鳥はあくまで、見せの動き。

千鳥を避けるべく横に動いた自分を仕留めるつもりだろうとカブトは判断し、取るべく策を決定する。



(刀を動かしたこと、意味がないはずがない。ならば狙いは刀の一撃だ。そこに付け入る隙がある!)



サスケの踏み込みの速度は速く、カブトにしてもいちかばちかの賭けにでるしかなかった。

だかカブトはそんな修羅場でさえもうろたえず、サスケの行動を把握し、自らの取るべき策を見出していた。













やがて、二人は交差する。





サスケの手が、背負った雷紋の柄に伸びた。




(っ、ここだ!)



踏み込み、チャクラのメスによる致命打を与えんとカブトが疾駆する。


チャクラのメスで筋を断ち、捕まえ、大蛇丸様の元へ連れ帰る。


その瞬間カブトの脳裏には、勝利の光景が浮かんでいた。



















――――――だが、それは叶わない。絵に描いた餅、カブトの夢想にすぎなかった。



カウンターをとるべく一歩踏み込んだカブト、その直後に感じたのは勝利の予感ではなく、痛み。腹部に、猛烈な衝撃を感じた。


(!?!?!?)


繰り出した一撃は、あと一歩というところまで。指一本分、届かなかった。


(っ、千鳥でもなく刀でもない――――ただの、前蹴り………っ!?)


そう、千鳥も、背中に移された雷紋も、そして柄に伸ばされた手も、全てフェイントに過ぎなかった。


――――裏の裏。


わざと武器を見せつけて、相手の行動を制限し、それを逆手に取る戦術。


サスケは虚動に虚動を重ね、最後の一歩で更にスピードを上げて突進したのだ。



かつての隠れ家での修行でナルトに教わった、戦法だった。



肉体活性、極まった速度、その勢いが全てこめられた一撃。

強烈無比なサスケの前蹴りが、無防備なカブトの腹部に突き刺さる。


衝撃は速度の二乗に比例し、ただの蹴りが必殺の蹴撃へと進化する。

その極まった蹴りの一撃は、常人ならば即死もの。



カブトの自動治癒さえも上回って、腹部の骨、臓器を蹂躙しつくす。







「おおおおおおああああああっ!」





サスケは突き出した前蹴りの体勢のまま、突進の勢いのままカブトと共に前方へと突っ込む。


カブトは呼吸をすることができず、また自己治癒もできなかった。


サスケの方も、無茶をした反動のせいか身体が軋みによる不協の和音を上げていたが、サスケは構わず突き進む。





「――――あァっ!!!」





呼気と共に、サスケは更に一段階、動きを早める。




体内門を一門開放し、カブトの顎を蹴り上げる。




「い、けええええええええええっ!」



自らも宙に浮きながら、叫ぶ。



そして空中で連撃を加え、カブトを更に空へ、空へと打ち上げて行く。


その打撃の全てが急所打ち。


サスケはカブトの眉間、人中、顎、米神、鳩尾。およそ打ちやすい急所の全てを拳で打ち据えながら、天へとかけ上がっていく。



やがて、二人は放物線の頂点に達した。



そこでサスケは宙に浮いたカブトを踏み台に、更に空へと飛び上がる。



同時にカブトの身体が引っ張られた。気づかない内に、身体に鋼糸が巻きつけられていたのだ。



サスケは体内門を更に開け、その力を持ってカブトを引き寄せながら、勢い良く落下していく。



「…………?!」




カブトが、驚愕に悲鳴を上げる。


サスケの背中、その背にある雷文がまるで怒っているかのように輝いていたのだ。



(雷の、翼!?)




やがて引き寄せられたカブトに、サスケの右足が突き刺さった。


そのまま回転を加えて、自らの脚をカブトの腹にめりこませていき、添えた足を軸に、駒のように回転する――――!





「砕け、散れえええッッ!」







サスケの怒号が、森の空に響き渡る。












雷の蹴撃。回転してカブトの全身を焼きながら、高高度から落下していく。


――――――雷遁秘術・神雷。


二人は雷のように、重力と共に落下し―――――やがて地面へと突き刺さった。










大地が、爆ぜた。










~~~







イタチがシンとサイ、香燐と重吾を送って戻ってきた時。


その時にはすでに勝敗がついてた。


そこには誰も動くものがなく、勝利を収めたサスケでさえも疲労のあまり動くことができなくなっていた。




「…………無事、勝ったようだな」


「兄さん………」

サスケの足元には、黒焦げのままぴくぴく動くカブトの姿があった。


大蛇丸の細胞、自動治癒の力をもってしてもサスケの切り札の一つ、"雷遁・神雷"、のダメージを回復しきれずに、戦闘不能となってしまったのであった。


「大したものだ………強くなったな、サスケ」


イタチが、サスケに声をかける。しかしサスケは、涙を浮かべたままであった。


「勝ったさ。ああ、強くなったかもしれない………だけど――――――だけど!」



サスケは立つこともできず、跪いたまま。その体勢のままサスケは、地面を叩きつける。




「失っちまったよ、兄さん………大切な。一緒に、ずっと一緒にいたいと思った人を」



サスケは悔恨の言葉を叫びながらなんども、なんども地面を叩きつけていた。



「サスケ…………」


それを見たイタチが、何とも言えない表情を浮かべる。



ちらちらと背後を見ながら、ぽりぽりと頬をかいていた。





「何がうちはだ。何が写輪眼だ! こんな、大事な人一人守れないようじゃあ意味が無えじゃ…………くそっ、くそぉ!」


「サスケ」


「守りたかったんだ! あの音を、温もりも、声も、心も、あの笑顔も、みんな――――!」



「………サスケ」


イタチは静かに、サスケに言葉をかける


だがサスケは拳を地面に打ち付けたまま、イタチの言葉も耳にはいらないでいた。





イタチの後ろ、大樹の裏で見え隠れする。


赤い髪に気づかないまま。






「くそっ、多由也「ぷぃ――――」……………?」



サスケは地面を叩きつけている途中。何やらどこかで聞いた音を耳にして、顔を上げる。













イタチの背後にある、大樹の幹。


その影から、なんかこう、どこかで見たような赤い髪が見え隠れしていた。












「…………は、え?」




サスケが間の抜けた声を上げる。


イタチは、明後日の方向を向いている。


赤い髪が、動揺したかのように動いた。








「…………お、おい?」



サスケが、眼を見開いた。


イタチは無言のまま、眼を閉じる。


赤い髪が、ぴこぴこと動く。







「―――――――――――――多由也?」


見間違うはずがない、その髪。


『ぷぃ~』


そして返答に、笛の音。申し訳ないという言葉を示した、その調子。

サスケはまさか幻術か、と思い、再び声をかけた。


「………え、本当に…………多由也なのか?」


『ぽひぃー』



だが返ってくるのは、間の抜けた笛の音。

大樹の影の赤い髪は申し訳なさそうに、見せる顔もないというふうに、もじもじとしている。



「――――」


埒があかないと判断したサスケが、痛む身体を引きずり走る。







大樹の裏へ、走り寄る。

















そこには―――――












「………」









無言のまま、申し訳なさそうに頭をかきむしる多由也の姿があった。






















~~~~


気づけば、二人。



イタチと―――――多由也は、サスケの御前で正座させられていた。


「…………で? 二人とも。どういうことか――――説明してくれるんだろうな」


サスケが淡々とした口調で、多由也とイタチに詰め寄る。その眼には、万華鏡写輪眼が顕現していた。


大切な人を失って、自らの無力を心の底から痛感させられること。そして強くありたいと願うこと。


サスケは奇しくも、かつての師であるはたけカカシと同じ条件で、万華鏡写輪眼の開眼を果たしていたのであった。


「………いや、その、あれだよ。ほら――――」


だがそれよりも顔が怖い。

そう思ったイタチは、額に冷や汗を流していた。見たこともない強烈な殺気を放つ弟に、怯えていたのであった。


その隣、また多由也も恐怖を感じ――――説明しなければならないと、自分の懐からとあるものを取り出す。


取り出されたのは、クナイ。だがその先には、何やら吸盤のようなものがついている。



「………これが、何だって?」


それを見たサスケは、大体の事情を察する。


見ればそのクナイは、赤色に染まっていた。


しかし追求の言葉は引っ込めない。サスケは本気の本気で怒っていた。真剣と書いてマジである。

腰の雷紋も、わずかに振動するほどに。


「………えっとさ。単刀直入に言うと………これが今朝、お前に言えなかったっていう………その、ナルトから貰ったものなんだよ」


「は?」


「えっとさ………その、簡単に説明するとだな。人質に取られた時用の、死んだふり用の道具だ」


多由也がクナイの先を押す。するとクナイはピコピコと、その切っ先が柄の所へと引っ込んで行く。

ぴゅっと、クナイの端から、赤い液体が飛び出る。


「………あの血は?」

「こう、ここに血糊を仕込んでさ。するとほら、刺したと同時に血が出てくるんだ。まあ、懐にも仕込んでいたんだけど」

ばれたらまずいから一応は本物だ、と多由也が言う。

サスケは臭いをかいて、確かに本物のようだと頷く。

「………口から血を吐いていたのは?」

「あれも同じで血糊。煙玉に乗じて血糊がつまった袋を口に含んで、ばれないように相手を昏倒させて、そんでこのクナイを仕込んだんだ。咄嗟の策だったけど、カブトにはばれなかったみたいだ、けど……」

流石に煙無しじゃあ見破られただろうけど、と多由也は顔を逸らしながら言った。

「………鼓動が、止まっていたのは?」

「あれは………白のプレゼント。人を仮死状態にする、特別製の薬だよ。でもすごい高価なものだから、本来ならば千本を利用するって――――でも、万が一のためにって、別れ際にくれたんだ」



そこまで聞いたときサスケは、波の国での一件を思い出した。



千本で首筋を貫かれ、仮死状態となる再不斬の姿を。



「………そうか。で、一応聞いておくが――――誰の発案だ?」


万華鏡写輪眼がぎらりと光る。

サスケの怒りは、有頂天に達しているのだった。


「それは、えっと、みんな。いや、そのさ。最初は白がその、音の忍びが狙ってくるのなら、人質を取られる可能性も考慮した方がいいって………それで、ナルトも神妙に頷いてさ」


なんかすげえ変な、真面目すぎる顔だった、と多由也が呟いた。


「いざという時のための備えはした方がいいって、この吸盤つきクナイと、血糊セットをな?」


抑え、撚るとクナイは刃がへっこんだまま止まっていた。


そこまで聞いたサスケの顔が、憤怒に染まる。

「っ、あの金髪の悪魔がァ………! それで、兄さんも知っていたのか!?」

「話しには聞かされていた。だが、演技ができないサスケには教えるなと忠告されてな………」

イタチもまた、申し訳なさそうな顔をする。


「死んだと思わせたのであれば、相手も襲いかかってはこないと思ってな。事実、あの状況で人質をとりながらの戦いというのも、厳しかった………」

「ホタルの事は完全に予想外だったし………。いざという時のために、ウチが"死んでも"、って、相手に聞かせて………その、前もってそう思わせる予防線も張ってたし………予想外のことが重なりすぎて、結果はアレだったけど」

声も絶え絶えに、二人は呟く。


「………もしも、お前が人質に取られた時用に?」

「そう。死んだ方がましだ、って自分の胸をこのクナイで抉るかのように見せて………それだけじゃあ怪しまれるから、奥歯に仕込んだ薬を、こう、な? これなら回復も速いし、万が一の時にもって、あの」

「………そう、か」


説明を受けたサスケは、顔を伏せたまま無言となる。


「もしかしたら、の備えだったんだ。人質に取られた時の危険性は、それほどに高かったから………」


弱気のまま、多由也が呟く。


それを聞いたサスケは、かつての下忍試験。カカシに言われた言葉を思い出していた。



『サクラ! サスケを殺せ! さもなくばキリハが死ぬことになるぞ!』


無茶をした自分のせいで、チームワークを拒んだ自分のせいで、失格の窮地に立たされたあの時のことを思い出していたのであった。

そして、"こういう手もあるんだな"と、サスケは一人うなずいていた。


備える事。いざという時、大事な人を失わないように、策を用意しておくこと。

それを無意識で軽んじていたことを認識し、サスケは深いためいきをついた。



無言が、場に満ちる。




――――そして、おもむろに。

サスケはがしっと、多由也の手を握りしめた。


「!?」

殴られる。そう思った多由也は眼をつぶる。


だがそのまま十秒が経過しても、じっと動かないサスケに対し、多由也は眼を開け、その顔を見る。



その顔には、歓喜――――まぶしいほどの喜びの感情が満ち、そして溢れていた。



「脈がある………消えない。冷たく、ない」


手首から感じる鼓動。それを認識したサスケは、ようやく―――――目の前の光景が、幻術ではないことを確信した。

そのまま思わず、握りしめた手を引き寄せて、多由也を抱きとめる。



「きゃっ!?」


サスケに嫌なことを思い出させてしまった、という申し訳なさを感じていた多由也の内心は、その見た目以上に弱っていた。

その後ろめたさから強くでることができずにいた多由也は、サスケの予想外の行動に対し、少女のような悲鳴を上げてしまうことしかできない。

それでなくても多由也は全身に傷を負っており、仮死状態になったということで身体に"こり"が残っていた。

しかし、そんな身体でも、確かに感じるものがある。


「――――え? あ、あの、おい、サスケ?」


一瞬置いて――――ようやく、自分が両腕で抱きしめられているということに気づいた多由也が、うわずった声を上げる。


「頼む。少しでいいから………このままで、いてくれ」


サスケの、懇願するかのような、弱りきった声。

そして、自分を抱きとめる腕が震えているのを感じた多由也は、されるがままに自らの身を預けていた。


小刻みに震えながらも、自分を話さない腕を。

そしてわずかに聞こえた、嗚咽の声を傍に。




多由也はリンゴのように顔を赤くしていたが、優しい顔でゆっくりと。


自らの肩に顔をうずめるサスケの頭を、撫でていた。









あとがき。

ひとまず最終章一節、完了。

「今日から俺は!」ってところでひとつ。

でも一歩間違えたら全滅していた可能性もあるんですよね。

いや、作戦はほんと大事です。

あと龍炎剣はネタ技です。元ネタはジャングルの王者ターちゃんっす。
勿論発案者はメンマです。ネタとわかりにくいので追記しました。ご指摘ありがとうございます。

ちなみにフェイントの蹴りは――――――



























       ∧_∧  千鳥足!
     _( ´サ`)
    /     )     ドゴォォォ _  /
   / ,イ 、  ノ/      ∧ ∧―= ̄ `ヽ, _
< | />/|   ( 〈 ∵. ・ (株  〈__ >  ゛ 、_
< | | >| ヽ  ー=- ̄ ̄=_、  (/ , ´ノ \
< | | >|  `iー__=―_ ;, / / /
< |ニ( >、)  =_二__ ̄_=;, / / ,'
<__ _> / /       /  /|  |
     / /       !、_/ /   〉
    / _/             |_/
    ヽ、_ヽ








でしたとさ。閑話の2のトンファーキックは前振りです。

いやー、長かった。




[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 七十五話 「事後処理と小騒動」
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2010/05/26 00:47





「では、襲撃者全員を捕獲したと?」

「はい。怪しげな薬を投薬されたものと、一部についてはほぼ再起不能とのことで………療養地勤務の医師に詳細を確認中ですが、恐らくは………」


療養地の中央にある建物。

その中でも一番広い部屋で、ザンゲツとシン、サイは先の騒動の事後処理について話し合っていた。


「……酷いことをするな。音隠れの里、噂には聞いていたが……想像以上だと言わざるを得ない」

「火の国他、辺境部での誘拐事件でも騒ぎになってましたもんね。それで、どうします?」

シンの瞳の中に、剣呑な輝きが含まれる。

「………報復の事を言っているのか? それは必要無い。むしろ、出来ないだろうよ」

「………それは、どういった意味でしょうか」

いつものザンゲツ様らしくないと、サイが訊ねる。

「報復とは、相手が存在して、始めて成立すること。しかしてその対象は――――」

と、ザンゲツは何かをいいかける。

しかし言葉を止め、静かにかぶりを振った。

「今はそれより優先すべき事があるだろう。怪我をしたという、多由也の容態はどうなっている?」

「はい。肋骨が数本折れているとのことですが、幸い臓器に損傷は無いとのことです。それに、医療忍術は受けられましたから」

大事無くて良かったです、とシンが言う。

「あの光景を見せられた時は本当、心臓が止まりかけましたからね………しばらく後、何の予兆もなく再びむくりと起き上がった時は、また心臓が止まりかけましたが」

「ホタルなんか気絶してたよな………」

「そうか………でも、怪我はしているのだろう? 療養地に駐在する医療忍者の診察は受けたと聞いたが」

実は網にも、木の葉隠れなど大国に比べれば腕は落ちるが、医療忍者というものが存在するのだった。

その診察の結果はどうだったのか、ザンゲツは二人に問う。

「他の業務より優先し、多由也に対して集中的な治療をするようにとの言伝はしています。それと彼女自身の笛の効力を合わせれば………およそ二週間前後で回復するでしょう」

「ふむ、あの笛か」

「はい。今回捕獲した音忍の一部………その治療も兼ねて、と。眠りにつく間近彼女に聞きましたが、彼女自ら彼ら音忍の治療に当たるそうです」

「そういえば多由也は元音隠れの忍びだったな。しかし痛む身体をおして、か。………と、いうことは昔の知り合いか何かか?」

「かつての同期だったようです。それも同じ戦災孤児出身で、大蛇○に呪印とやらを刻まれるまでは、仲が良かったと聞いていますが」

「因果だな………でも良い巡り合わせだと思いたい。よし、分かった。こちらでも、もう一人医療忍者を手配しよう」

「よろしいんですか?」

医療忍術はその使い手が少なく、網内部では数人しかいない。彼らは主に、地方の工事中、医者がいない土地に、万が一の保険として派遣されるのだった。

その内の二人をこの地に収集させて良いのか、シンはそう考え、ザンゲツに問うた。

「良い。あの娘には借りがある。それに、我々としても、あと一ヶ月程は大人しくしておかなければならんからな」

「一ヶ月?」

「こちらの話だ。それより、手配を頼む。あとは………薬師カブトという、大蛇丸の右腕と言われている忍びの処理だな………しかし、そいつ力量はかのはたけカカシに匹敵すると聞いていたが………」

よく倒せたものだな、とザンゲツは二人に訊ねた。

「いえ、サスケ君から聞いた話ですが………そのカブト、カカシには到底及ばないと言っていましたよ」

「しかし、それなりにできるのは確かだろう。拘束しているといっても、油断はできん」

「ああ、それなら心配ないです」

「何?」

「えっと、ですね。その、話を聞きつけた紫苑が、その、激怒してですね」

シンは説明しながら、ザンゲツから顔を逸らす。

「………どうした?」

「えらいことになっています。これ以上は………僕の口からはとても………」

サイが視線を逸らす。

沈黙が、場に満ちた。

「………まあ、どうでもいいか。逃げられなければそれでいい」

忙しいし外道に興味無し、とばかりに、ザンゲツはすっぱりカブトに関することを忘れた。

切り捨てた、ともいう。紫苑に任せれば間違いないという信頼もあるのだが。

「あと、霧隠れの鬼灯水月とかいう、忍びは紫苑の結界の中に閉じ込めています。こちらは霧隠れの方に。捕獲した旨を伝え、引き渡すつもりです」

「そうか。ちなみにその水月を打ち破り、カブトを倒した功労者………うちはサスケの方は大丈夫なのか?」

「はい、怪我自体は少ないとのことです。ただ、チャクラをぎりぎりまで使い、全身の筋肉を酷使したため、完全に回復するには数日かかるとのことで。今は疲れのせいか、ぐっすりと寝ていますよ」

肉体的にも、精神的にも。余程疲れたのでしょう、とシンが付け加える。

「あと、足を貫かれたホタルですが、こちらも安静にしていれば問題ないそうで。2週間程で完治するとのことです。

 その他、戦闘に参加した者については、僕たちを含め問題はありません」

「そうか………それで、音忍のうち、保護した者達………二人、だったか。それについては今どうしている。多由也の話を聞くに、大蛇○というゲスの犠牲者であるとのことだが」

「一名、巨漢のもの………重吾と言いましたか。彼は今、紫苑の結界の中で大人しくしています」

「………何、閉じ込めたのか?」

ザンゲツが眉を上げる。

「いえ、本人がそれを望みました。何でも彼、呪印とやらのオリジナル保持者とかいう話で………気を抜けば暴走、手当たり次第に破壊をまき散らしてしまうそうです。
 多由也の笛を聞ければ元に戻るので、彼女が眼を覚ましたら教えて欲しいと言われましたが」

「そしてもう一人、赤毛のメガネの方は………」

そこでシンは、言葉に詰まり、何やら嫌そうな顔を浮かべた。

そのシンの横腹を、サイが肘でつつく。

「その、熟睡中のサスケの部屋に忍び込もうとしたため、後ろから一発いれて気絶させました。今は重吾の部屋の隣で、拘束しています」

「拘束? ――――いや、部屋を間違えただけかもしれんだろ。監禁は気が早くないか?」

「………ザンゲツ様」

「………何だ?」



「ぐへへと笑いながら、そしてヨダレを垂らしながら―――――美少年の部屋に忍び込もうとする輩に対し、貴方はどのような対処をすべきだと思うのですか?」



シンは彼にしては珍しく、綺麗な敬語でザンゲツに問う。


そして、シンの問いに対するザンゲツ、サイの答えは実に簡潔だった。


「………ぐっじょぶ、シン」

「ぐっじょぶ、兄さん」


二人は簡潔に、シンの英断を讃えた。



――――ここに、未来ある少年の貞操は守られたのだと知った。


「………ありがとう。ていうか流石の俺でもあれは無いわ」

鼻頭を指で抑えながら、シンは沈痛な声をしぼりだした。

「そ、それはそれとして………ザンゲツ様。ナルトの件に関して、話しがあります」

「あいつか………いや、それは明日、多由也とサスケが目を覚ましてからにする」

「………承知しました」


その後、ザンゲツは二人に労いの言葉をかけて、休むように伝える。

「いえ、まだ事後処理が残っていますから」

「俺も、サイの手伝いがありますんで」

「そうか………無茶はするなよ」


ザンゲツは穏やかな笑みを浮かべながら、退室する二人を見送った。


その後、部屋に一人残ったザンゲツは、窓に近寄る。


そして窓の外、うっすらと浮かぶ月を見ながら、ぽつりと呟いた。



「――――対象は、音隠れは―――間もなく消えて無くなる、か。空に浮かぶ月の影に呑まれて」




その声は誰にも聞かれず、夜の闇に溶けて消えた。











~~~~







そして、次の日のこと。


早朝、鶏が鳴くか鳴かないかという時間、医務室でむくりと起き上がる誰かの姿があった。

サスケだ。

「眠れねえ………」

サスケは不機嫌そうに呟き、舌打ちをした。二度寝をしようとしていたが、出来なかったゆえの舌打ちだ。

昨日の戦闘により全身に倦怠感を覚えていた彼は、身体を休めることで回復を早めようと眼を閉じたのだが、一向に睡魔が訪れない。

むしろ眼を閉じていると、昨日の光景――――血の赤に包まれた多由也の姿が眼に浮かんでくるのであった。

これでは眠れるはずがないし、時間の無駄だ。そう思ったサスケは、まだ薄暗い部屋の扉を開け、薄暗い廊下に出る。


「誰もいないな………って、当たり前か」


サスケは一人呟き、歩を進める。

サンダルを踏む旅にきゅっ、きゅっと妙な音がする。妙に響くその音を消そうと、サスケは慎重に歩いた。

やがて、気づけばサスケは、とある一室の前に立っていた。


部屋の表札には、こう書いてある。


“多由也”と。



「………邪魔するぞっと」

何の疑問も抱かず、サスケは多由也の病室に入る。得体の知れない不安感が、彼をつき動かしていた。

扉が開いて、ゆっくりと閉まる。

部屋に入ったサスケは、部屋中央に設置されているベッドに視線を向ける。そこには、目的の存在―――多由也が、静かに眠っていた。


遠くからでも分かる、安らかな顔。

そして彼女の身体を覆う、白いシーツ。

だがサスケは、その姿に対し言いようの無い不安を感じた。

無言のまま、音を立てないようにゆっくりと歩を進め、ベッドの横に立つ。

そして、眠っている多由也の唇の上に手をかざし、呟いた。


―――息をしている。


当たり前の事だ。だがサスケはそれが確認できた、ということに安堵し、静かに溜息をついた。

見れば、シーツもゆっくりと上下しているのだ。


「って、そんなの当たり前だよな………」


馬鹿か、俺は。サスケは自嘲し、頭をがりがりとかきむしる。

その後、眠っている多由也の顔をのぞき込んだ。


「しっかし、こいつもなあ………寝てるとなあ………綺麗なんだよなあ」


サスケは小さい声、本人の前であれば絶対に言えないであろう呟きをこぼす。


背後、どこかでがたん、という音が聞こえたが、多由也の寝顔に知らず夢中になっているサスケはその物音に気づかないでいた。



それもムリのないことだと言えよう。


彼の目の前には、多由也の寝顔という禁術に似た破壊力を持つ光景が広がっているのだから。

右手を上げ、それを額に当てながらくーくー寝息を立てている姿は実に愛らしく、サスケをしても沈黙する以外の選択肢を選べないほどに魅力的であった。

加えいつになく緩まった頬、そして適度な紅色を誇る唇から溢れる吐息が、その魅力を助長していた。

頬に張られた白い包帯が多由也らしさの一端を残しており、またそれがサスケにとっては魅力的に思えた。


だから、触れたいと思うのも自然なことで―――


「………って、やべえよ」


サスケは知らず伸びていた手をひっこめ、自分の頭を叩く。


「まずい。いやこれは不味いって。ここは早く退散しねーと………!」


サスケはいつになく焦った様子できびすを返し、退室すべく部屋の入口へと戻る。

このまま此処にいれば、何をしてしまうかわからなくなったからだ。


だがサスケは、そこでヘマをしてしまった。


急ぎ足になったせいで、サンダルの音が鳴ってしまったのだ。


きゅっ、という甲高い音。


それは静かな病室に響き―――多由也の耳へ届いた。



「う、ん………」


多由也の声。それを聞いたサスケは、いち早く部屋を脱出しなければと部屋の扉のノブを握る。


しかし。



「開かない!? 何でだ!?」


ノブは回転する途中で、何かが引っかかったかのように動かなくなった。

驚きのあまりサスケは大声を出してしまい、それに気づいた後ゆっくりと後ろに振り返る。



「………サスケか? あれ、今日は早朝訓練だったか」


多由也は目元をこすりながら、朝飯用意してなかったか、と言う。

その声は緩く、いつものようなはっきりした声ではない。



サスケはその声質と様子から、多由也は連日の疲れのせいで、意識は半分夢の中――――つまりは寝ぼけているのだろうと判断する。

そして彼は状況を打破すべく頭の中から色々な言葉を抽出し、それを慎重に選んで行く作業に入った。



――――しくじるな、間違えるなサスケ。

でなければ、死ぬぞ。




こんな窮地、死の森で大蛇○と対峙した時以来だ。

唐突に訪れた激烈な死の予感を前にしたサスケは、だが諦めず、慎重に慎重を重ねた上で言葉を選び終え――――やがて、その唇を開いた。


「………いや、今日は早朝訓練じゃない。俺の勘違いだったようだ」

じゃ、と手を上げ、サスケはそのまま部屋から出ていこうとする。

彼の選んだ策は、会話の流れに乗り勘違いをさせたままこの場を去り、後に聞かれた時は“夢だったんだろ”と誤魔化すというもの。

一見穴が無いように見えるこの策、成功すれば8割がた生き残れるだろう良案であった。

だが、ここで問題が発生する。


(なんで、ドアが、開かない!?)

大きな音をたてれば多由也が覚醒してしまう恐れがあるため、サスケはゆっくりとノブを回そうとする。

しかし、そんな弱い力ではノブはびくともしない。

(鍵、じゃないよな。この感覚は………向こうに誰かがいるのか!)

そこでようやくサスケは、ドア向こうの気配に気づく。そしてその正体を見極めんと、写輪眼を使用してドアの向こうを透視した。

軽いめまいを覚えたサスケであったが、その甲斐あってか、向こうにいる人物の姿を認識、判別することに成功。

直後、声に出す。

「シン、か………!?」


殺気満開の声。突如、気配は霧散する。

その機を逃さず、サスケはドアノブを回し、一気に蹴り破る。


「待て、シン! ………って、サイと、ザンゲツさんもかよ!?」


廊下の向こうにすたこらと立ち去っていく三つの姿。

金髪の兄貴、黒髪の弟、赤髪の女性の後ろ姿を見ながら、サスケは叫ぶ。





ちなみに余談だが、彼らは徹夜明けの妙なハイテンション状態。

彼らは部屋に戻って寝る途中、廊下に出ていたサスケを発見した。

その後サスケの行き先を知った彼らは得体の知れない衝動に駆られたまま、覗き見を敢行したのであった。






閑話休題。




その覗かれていたサスケは、失態に気づく。

大声で叫んでしまったことに、気づいたのだ。


耳の良い、多由也の居る部屋の前で、大声で叫んだという事実と結果について、悟った。


サスケは、起爆札の爆発音を幻聴した。



「あ…………」


取り返しの付かない事態になったことを悟ったサスケは、その場で硬直しながら首だけを回した。

ぎぎぎぎという効果音と共に、部屋の中へと顔を向ける。




「……………サスケ?」




白い、ベッドの上。



そこには、紅の修羅神がいた。




ベッドの上の多由也――――しかし、とサスケは思う。先程とは目つきが違うと。

完全に覚醒している、とサスケは口の中で呟いた。


何故ならば、いつものツリ目になっているからだ。



「………あの、これには訳があってだな「黙れ」はい」



咄嗟の言い訳を口に出したサスケは、しかし一言。

たった一言で、黙らされた。



紅の修羅神――――多由也は、サスケの眼を真っ直ぐに見ながら、言う。



「――――お前、サスケ? ここで何をしてた? ウチの何を見た?」


答えろ、さもなければ殺す。

言葉だけで死を幻視させる、そんな声色で多由也はサスケに問うた。



「いや、何も、見ていないぞ?」


何故か疑問符になるサスケ。あまりにも直球な質問に、サスケの脈が跳ね上がった。


それを、多由也は見逃さない。


「――――嘘だな。これは、嘘をついている“音”だぜ?」


「くっ………」


一生の不覚。

見破られたかっ、とサスケは胸中で悲鳴を上げる。

だが焦ったサスケはこれで終わるまい、何とかごまかそうと、多由也の眼を真っ直ぐに見つめた。


「多由也、俺の眼を見ろ。これが、嘘を「ウチの寝顔を見たのか?」つ、いて、いる………」


途中、重ねられた、質問の声。まったくの不意打ちと、図星をつかれたサスケの鼓動が跳ね上がる。

ドクン、と一発、致命的な音を奏でてしまっていた。


「ダウトだ、サスケ。一応聞いておくが―――――遺言はあるか?」


多由也の全身から、殺気が溢れ出る。

乙女の寝顔を除いた罪許すまじと、死して償うべしと視線で語っていた。

サスケはその殺気と視線を見つめてたら殺されると感じ、眼をそらした。

だが視線の置き場もない。困ったサスケは、上下左右に視線を揺らす。



だが、とある一点で視線が止まる。いや、止まってしまったというべきだろうか。

あちこち動かしたサスケの視線、それが――――多由也の顔の、少し下で止まる。


「…………」


多由也は昨日、血糊がついた服を脱いで、病人服へと着替えていたのだ。

病人服は緩く、軽い。加え寝起きということもあり、多由也の服は僅かに乱れていた。

裾には、シーツに隠れているため問題はない。

しかしシーツが無い部分、つまりは胸元は違う。少しだけはだけている。そしてあろうことか、谷間の一部が見えていて、白い肌を顕にしていた。


「…………なっ!? く、くそやろーが、どこを見てる!?」


視線に気づいた多由也は焦り、ばっと胸元を両腕で隠した。その顔は、羞恥のあまりリンゴのように赤く染まっている。

しかしその直後、多由也の顔が歪む。


「つっ………!」


勢い良く動いたせいで、折れた肋に響いてしまったのだ。多由也は激痛に苦悶の声を上げた

それを察したサスケが、多由也の元に駆け寄る。

うずくまる多由也の肩を持ち、大丈夫かと言った。

だが先程の光景を脳裏に焼き付けてしまったサスケは、その顔を真っ赤に染めている。


痛みのせいで涙目になった多由也は顔を上げ、サスケを睨みつける。


「っくそ、離せ………いったい誰のせいだと……………?」


サスケに対して怒りの言葉を向ける多由也。その言葉の最後に、疑問符が浮かんだ。

原因は二人ではなく、別のものによる。

言葉の途中、入り口の方から物音がしたからだった。



「た、多由也さん、サスケさん………?」


開けられた病室の入り口。そこには、顔を真っ赤にしているホタルの姿があった。


―――何故真っ赤なのだろうか。

ホタルの様子に疑問に抱いた多由也が、今の状況を整理する。


(二人とも顔が真っ赤で、ウチは涙目になっているし、服は乱れているし………それで、サスケがウチの両肩を持っている、いや服に手をかけている………?)


そこまで並べた時、多由也の耳に声が聞こえた。





――――どう見ても“行為”一歩手前です。本当にありがとうございました。


ちなみにその天啓というべきか悩む声は、ナルトに似ていたという。






硬直すること10秒。静寂は、幼女の声によって破られた。


「あ、あの、お邪魔しましたっ!」


顔を真っ赤にしたホタルは勢い良く頭を下げた後、開いていたドアを思いっきり閉めた。


バタン、という音が鳴る。




「…………」


「…………」



再び、部屋の中に静寂が満ちる。



「…………」




サスケは沈黙のまま立ち上がり、両腕を後ろ手に組む。

そして足をわずかに広げ、休めの体勢になり、歯をくいしばった。




――――諦めたということなかれ。彼は逃げるのではなく、決断することを選んだのだ。

そう、代え難いものを、素晴らしいものを見れたという事実。その巡り合わせに感謝し、そしてその対価を払うべく、最後の覚悟を決めたのであった。



その潔さは敬服に値した。

同姓が見れば、敬礼をしていたことだろう。





「この、くそ馬鹿ッ! 時と場合を考えろ――――――!」







だがそんなの関係ねえとばかりに、多由也の平手が唸りを上げる。














「―――――」













断末魔が、病室に響き渡る。

















ちなみにその、病室の外――――ドアの前、部屋の前の天井。

そこには一人、昨夜から今朝にかけて、多由也の護衛の任に当たっている忍びが無言のまま佇んていた。


護衛の忍びの名は、うちはイタチといった。



「…………」



兄は部屋の中から聞こえた弟の断末魔を聞きながら、一滴の涙を流したという。





































~~~~~


あとがき

生きているのか、と無意識に息を確かめてしまうサスケさんであった。

つーかギャグ回でした。

ちなみにサスケがTPOをわきまえて行動してたら、多由也はどういう対応をしたのかなんて………作者は知らねえですよ? はい。




[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 七十六話 「人の輪、外れた者」
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2010/05/29 09:21


サスケの断末魔が響いた朝は過ぎて、その日の昼のことである。

音忍襲撃事件に関わっていた面々は昼食を済ませた後、療養地におけるザンゲツの執務室の中に集められていた。

「ふむ………うちはサスケ。また顔に紅葉を張り付けているが………ひょっとしてそういうのが趣味なのか?」

「………」

サスケの額から青筋が浮かび、ピキピキという音が鳴る。

「いや、冗談だ。しかし満身創痍だな………余程激しかったと見える」

「あの、ザンゲツ様」

からかいの言を続けようとするザンゲツに対し、サイはそのぐらいで、と止める。


ザンゲツはつまらなさそうに頷くと、やがて深くひとつ、息を吐いた。


「………聞きたいことは分かっている。居なくなったあいつの事だな?」

「そのとおりだ。あいつが何処に行ったのか、知っているのならば教えてもらいたい」

サスケは真剣な顔でザンゲツに問う。隣の多由也も、サスケと同じで真剣な表情を浮かべていた。

「………とはいってもなあ。私も、あいつの行き先に関しては知らされておらんのだよ」

「は?」

「少し前にな。二人でとあることについて話しはしたし、私も色々な情報を提供してもらった。しかし肝心の行き先については教えてもらえなかったよ。
 あいつは、何がしかの目的があって行方をくらましたようだが………その目的に関しても、隠したがっているようでな」

「隠したがっている………何をだ?」

「詳しくは知らんよ。ただいつになく落ち着かん様子だったし、何やら迷っているように見えた」

「会話の内容については………教えてもらえないだろうな」

「ああ、その情報は極秘もいいところでな。誰にも、話すことはできん」

「………絶対に?」

「ああ。死んでも話さん。何ならお前が昨日開眼したという、万華鏡写輪眼による催眠でも試してみるか?」

冗談混じりのザンゲツの言葉に対し、サスケは首を横に振る。

「いや、しないさ。そんなことをしても何もならないし、そもそもそんな使い方をしたくない」

「冗談だ。しかし開眼した万華鏡写輪眼か………特別な瞳術を使えると聞くが、使ってはみたのか? 聞くところによると、カブトと対峙した時でも、その瞳術は使わなかったらしいが」

「使わなかったというか、使いたくなかった。月読で昏倒させるよりも、雷遁・神雷であの眼鏡の土手っ腹を思いっきり蹴飛ばしたかった。
 それにこの眼は色々な意味で、また俺自身にとっても危険すぎる」

「ふむ………ならばこれから先も、その眼を進んで使うつもりはないと?」

「ああ。それに、色々と思うところがあってな。瞳術に頼りきって鍛えた技を忘れる方が嫌なんだよ。それに、何より………………眼に悪いだろ?」

サスケは口の端だけを上げて、笑みを浮かべた。

ザンゲツはその返答に対して苦笑を浮かべ、違いないと言う。

「それで、本当に行く先とか、居場所に心当たりはないのか? 花火職人の話しを聞いても、何処に行ったかは分からなかったんだが」

「あいつらは何と言っていた?」

「打ち上げ花火だったか。あれの簡易版、手持ちかつ高くまで飛ばせるような、そんな装置を作ってくれと言っていたが」

「ふむ………」

「軽い、筒のようなものを飛ばす装置らしいが………それだけではな」

「行先は分からんか………ああ、そうだ。あいつが寝泊りしていた部屋に何か残っているかもしれないぞ」










ザンゲツから鍵を渡されたサスケと多由也。

二人はシンとサイ、ホタルと紫苑を伴ないながら、ナルトが寝泊りしていた部屋の前に居た。

先頭は一応、この面子の中での最高責任者であるシンである。

「ふむ、ナルトの部屋とのう………一体何があるのやら」

「見てみないと分からないが………まあ、何かあるだろう」

「滞在時間は短かったが、何か残ってるかもしれない。手がかりが見つかればいいけど」

「大丈夫ですよ、きっと」

「そうだね…………兄さん」

「分かった。じゃあ、開けるぞ」

シンが部屋の入り口にある扉のドアノブに鍵を差し入れ、回す。


ガチン、という音と共に、鍵が開く。


「お邪魔しまーす、って誰もいな―――」



シンがノブを回し、一歩部屋の中へと入り込んだ――――その時であった。





「へぶっ」




シンの頭に、タライが落ちた。



ガイン、という音が鳴る。




「「「「…………」」」」


背後の5人。サスケ、多由也、サイ、ホタルに紫苑は、無言で顔を逸らした。

あまりにもナイスタイミングでタライが落ちてきたため、見事に全員のツボに入ったのだ。



「いっつ~~~~っ、なんだよこれ!」

「何って………タライだろ」

「タライじゃな」

「タライ以外の何ものでもないぞ」

「タライ、だね」

「タライです!」


「全員で言わなくても分かってるよ!」


タライコール×5をされたシンは頭をさすりつつ、大声を上げた。


「つーか何でいきなりこんなもんが落ちて………」

「いや、ナルトの部屋だし。罠のひとつやふたつあっても別におかしくはないだろ」

「いやいやいや、どういう認識だよ。むしろ普通なのかこれは」

「どうもこうも………アイツ、こういうトラップの類か。罠張って陥れるの滅茶苦茶上手いぞ。ちょっと前だけど、罠を避ける訓練を受けた時に嫌と言うほど思い知らされたからな………」

まあ控えめにいって地獄だった、とサスケは遠い眼をする。

「いや人の家の中に罠を仕掛けるなよ。罪なき掃除人さんがタライをくらったらどうすんだ。如何に温厚な掃除人さんだって、こんなの頭にぶつけられたら怒るだろ」

「いいや、その心配はないだろう。さっきちらっと感じたんだがな………鍵を使った時、何やらお前のチャクラに反応したようだったよ。つまりそれは………」

「忍者専用のトラップか………いや、俺達に対してのトラップなのか、これは。というか感じたんだったら先に言ってくれよ」

「すまん、伝える暇がなかった」

「はあ………まあいいか。さあ、何か残ってないか、手分けして探そうぜ」


サスケの言葉に一同は散らばり、探索を続ける。

多由也は怪我が酷いため、ベッドの上で座って待っているだけだ。

ちなみに多由也本人は手伝いたがっていたのだが、サスケに止められたのであった。



「あった! これ、あいつの荷物袋じゃないか?」

「ああ、確かにアイツのだな。早速開けてみるといい」

「よしきた………って、この荷物袋にも罠が仕掛けられてるんじゃないか?」

「ちょっとまて………写輪眼!」

サスケは写輪眼を使い、荷物袋の中を見る。

「いや、罠らしきものはないようだぞ」

頷き、サスケはシンに対して開けることを促す。


「そうか。じゃあ、早速―――――」


シンはそれを聞き、荷物袋に手をかける。



そして開かれた、その時である。






突如袋の中から矢が飛び出した。


矢は寸分違わず、シンの額へと突き刺さった。



「ぐわっ!?」


安心しきった所に一撃を受けたシンは、もんどり打ってこけた。



「兄さん!? ってああ………なんだ、おもちゃの矢か。吸盤付きだね」


シンの額に突き刺さっている矢を見たサイが、安堵の息をつく。


「っつ~~~………って、おいおいサスケ君? 罠は無いはずじゃあなかったのかな?」



「アア、スマン。オレノカンチガイダッタヨウダ」



棒読みで答えるサスケ。ちなみにその口はアルェーになっていた。

いわゆるひとつの“3~♪”である。


「くっ、朝の恨みか………報復とはね。以外と小さい男だなあ、うちはサスケ君?」


「はっ、何のことだか。それより矢の横、なんかついてんぞ」


「あ、矢の横に垂れ幕のようなものが………ん、何か書いてありますね」

ホタルは矢の横についていた布を引きちぎり、手にとる。


「なになに、“ラーメン一筋三百年” ………え、どういう意味でしょうかこれは」


「書いてある内容は実にあいつらしいが………一体どういった意味でつけたんだろう」


「いや、分からねえし知らねえよ。それより、っと!」


シンは額にくっついた矢を握り、思いっきり引っ張る。


きゅぽん、という音と共に矢が外れた。


「ん、吸盤が。跡になってないかな、兄さ――――」



サイが、シンの顔を覗き込む。


そして吸盤がついた後を見て――――爆笑する。


「へ? ………え、何だよサイ」


いつになく笑っている弟の姿を見たシンが、戸惑を見せる。


「一体何が…………ぷっ!」


のぞき込んだサスケは、その額を見た直後、腹を抱えながら膝づいた。

そしてサスケもまた、笑う。


一方、サスケと同じくして見た多由也も笑っていた。

肋が骨が肋骨がっ、と腹を抱えながら身悶えている。面白いけど折れた肋が痛いそうだ。

紫苑はベッドをばんばん叩きながら、爆笑していた。

ホタルは声もでないようで、無言のままベッドの顔をうずめていた。


「一体なんなんだよ! ってこれは!?」

と、シンが部屋にある鏡に近寄る。


そして、自らの額を見たシンが、叫び声を上げた。




「何じゃ、こりゃあ!?」




吸盤の跡。そこには大きく、“麺”という文字が書かれていたのだ。




「吸盤の裏か………くそ、手の凝った事を! ………って、お前らも笑うなよ!?」


シンが必死に叫び声を上げる。


しかし、しばらく一同の笑い声は収まらなかったという。


そして、数分後。


「いやー、笑った笑った。お前もやるな、シン」

「心底嬉しくないよ。それより、ほら」

と、シンが袋の中から、とあるものを取り出す。

「これは………手紙か」

袋の中には、数束分の手紙が入っていた。

サスケはそれを受け取り、裏の部分を見る。

「俺の名前………ということは、俺宛の手紙か」

「こっちはウチの名前だ」

二人は受け取ると、そのまま開こうとする。

だがそれをシンが止めた。

「ちょっと待って。君たちそれぞれ宛の手紙なら、もしかしたら僕たちが見たら不味いものなのかもしれない。だから、それは各自の部屋で読みなよ」

「そうか………いや、そうかもしれない」

「うん。で、僕たちが聞いてもいいような内容なら、後で説明してくれればいい」

無理強いはしないけど、とシンが提案する。

「いや、言うさ。お前たちも………特に紫苑かな。あいつの行先について、知りたいだろうし」

「うむ、できれば頼む」

「了解。あと、もう一つあるようだけど」

「“矢を受けた君へ”って書いてますね。これ、シンさんが読んだらどうですか?」

「………ああ。読ませてもらおうか」

シンは手紙の封を切り、その中から紙を取り出した。

「え~、どれどれ。“貴方の額に突き刺さった矢は某金髪が作成したものです。本当は我愛羅に使おうと思っていたのですが、犯人がばればれなのと後が怖いため、我愛羅に使うのはやめました。代わりにどうぞ。これで君も、今日からラーメンマンに!”
って、うるせえよ。マジかあいつ。ていうか某金髪ってどう考えてもあいつしかいねーし」

「ちなみに我愛羅とは誰ですか?」

ホタルがサスケに訊ねる。

「現砂隠れの里のトップ。一尾の人柱力でもある。五代目風影とも言うな」

「ひぇっ!?」

サスケの口から出た思いもよらないビッグネームに、ホタルが恐慌の声を上げる。

仮免忍びでしかないホタルが驚く。一般人かれすれば雲の上の存在だ、驚かない方がおかしいだろう。


隣で聞いていたシンも、ひきつった笑みを見せる。


「ってまじかよあいつ……ん、まだ続きがあるな。えーとなになに? “そのインクをすぐに消せる方法がある。だがそれはとても複雑なもので、ここに書けば長くなる。裏へと続くのだが、そこは勘弁して欲しい”」


「裏、ですか」


「おう、よかったよかった。これじゃあ、ナンパにも行けねーからな」

「えー、似合っておるのに」

紫苑がぶーぶーとブーイングをする。

「そうですよ。そのままナンパに行けばいいじゃないですか」

善意100%のホタルの言葉。しかしシンは、耳を貸さない。

彼は年上趣味なのだから仕方ないと言えよう。

「なんでだよ。断固消すよ。消しまくるよ。で、方法って何だろな――――」



と、そこで手紙を読んでいたシンが硬直する。

裏面に書かれていた内容が内容だったからだ。





































裏には、こうあった。




































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            /        ',
              .ノ {0}  /¨`ヽ{0}
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      .ノ {0}  /¨`ヽ{0} /        ',     \           /
      /     .ヽ._.ノ  ', {0}  /¨`ヽ{0}     < うそだよバーカ!! >
      /      `ー'′  '.   .ヽ._.ノ  ',    /           \
     i                `ー'′  '.     ̄|/\/\/\/ ̄\/ ̄\/
    /                       }.
    i'    /、                 ,i..
    い _/  `-、.,,     、_       i




























その日、その時、とある部屋。



そこに一柱の阿修羅が顕現したという。












同時期、網の療養地が半壊したというが、その原因について、関係者一同は固く口を閉ざしたのはいうまでもない。



















~~~


















カブト達が捕獲された頃、時を同くして大蛇丸のアジト。


火の国北の外れにある、洞穴の通路で一人、出口に向かって走る影があった。


「くっ………何だっていうのよ」

その影は洞穴の主でもある大蛇丸であった。

彼は足音を気にしながら、後方を警戒しつつ走っていた。

「カブト達が出払っている隙に………いや、いても同じね。アレは」

突如隠れ家を急襲してきた襲撃者、先程まで戦っていた相手の力量を思い出し、大蛇丸はかぶりを振った。

悪夢のような光景を思い出しているのだ。

「………どんな忍術も弾かれた。骨を使った体術も通じない。幻術はあの眼に看破される………くそ、あのガキが。随分とやってくれるじゃない」

同盟を組んでいたはずなのに、と忌々しげに言う大蛇丸。

何故今更自分を襲ってきたのか、と考えるが、すぐに考えるのを辞めた。それよりも考えなければならないことがあったからである。

今、大蛇丸が確かに理解していることは一つだ。それは今自分が襲われているということ。殺意を持って、自分の敵が自分の命を奪おうとしていることだ。

ならば返せる答えは一つだけで、他にはない。大蛇丸はそう考えていた。

いつも通りに、彼は声高々に叫ぶ。


殺意には、殺意による返答を。

殺される前に殺す。

とはいっても、大蛇丸は敵ではない相手、一般人でも自分の研究のためならば容赦なく殺すのだが。


「………でも、癪だけど………あのガキは私よりも強い」

大蛇丸は一人呟き、舌打ちをした。先の戦闘の内容についてを思い出しているのだ。

大蛇丸が部下から“侵入者あり”との報告を受けたのは、十分ほど前だった。つまりは、そこから部下が全滅するまで十分ほど。

その侵入者は大蛇丸の執務室にたどり着くと、問答無用で部屋の主―――大蛇丸に襲いかかった。

数回の攻防の後、相手の力量を察した大蛇丸は自分の不利を感じ、撤退を決意。

身代わりの術を囮に、逃げだしたのだ。

彼自身、このままでは勝ち目はないと思ったが故の逃走。

それもそのはず、大蛇丸の放った忍術は侵入者が発した不可視の衝撃によって弾かた。

血継限界である骨――――身体の持ち主、君麻呂の血継限界である―――――を使った体術も通じず、侵入者は雷光のよう体捌きで大蛇丸の攻撃を全て躱したのだ。

最後に放った幻術も、特殊な瞳の前に脆くも崩れ去った。


そのどれもが大蛇丸の得意とする類の術で、並の上忍であれな一撃で戦闘不能に陥れることができる程の威力を持っている。


それが全く通じないのであれば、大蛇丸にしても逃げるしかない。

場所も悪かった。大蛇丸にしても、まだ使える術はあったが、狭い洞穴の部屋というのが問題となったのだ。

大蛇丸は長年の研究により、多くの切り札とも言える術を開発してきたが、どれも狭い洞穴で使うようにはできておらず、下手をすれば洞穴が崩落してしまう程の威力を持っている。


「外ならば、あるいは………いや、その前に追いつけないかもしれないし、ね」


アジトである洞穴は色々あるが、この洞穴は迷路のように入り組んでいるのだ。

そしてこの迷宮の全容は、大蛇丸しかしらない。

長くうねった通路と、あちこちにある十字路。

どれもが目印となるような特徴を持っておらず、一度迷えば熟練の忍びをもってしても、離脱できなくなる可能性を持っている。


「迷子になったまま死んでくれてもいいんだけど………いや、そんなに上手くはいかないか。それよりも、何か手を………」

大蛇丸は走りながらも、思考を回転させていた。

相手が迷っている時間を使って策を巡らせ、罠を張るためである。


思考は回転し、大蛇丸の脳内に策がいくつか浮き上がる。




――――だが、とある地点にたどり着いた時。

その思考は突如、止まることとなった。



演習場にもなっている、出口傍の大広間。

その出口横に、置き去りにした筈の人物の姿があったからである。

大蛇丸は一瞬だけ驚愕を顕にしたがすぐに冷静さを取り戻す。そして確認するように、目の前の人物に声をかけた。


「………何故。どうしてアナタが、ここにいるのかしら?」


大蛇丸は平常心を保ちながら、言葉を紡いだ。熟練の忍びの成せる業、冷静さを失わず相手に動揺を悟らせないそれはいっそ、見事だと言えるほどだ。

だが、忌々しいという思いは隠さない。大蛇丸は敵意を顕に、待ち構えていた人物――――ペインに言葉をかけた。

対するペインは無表情を保ったまま壁から身を離した。

そして無言のまま、出口を塞ぐように立った。

「何故私を襲うのか、聞いてもいいかしら」

大蛇丸の苛立の言葉。それに対し、ペインは重い口を開いた。

「言わないと分からないのか?」

簡潔。だがその言葉の端に殺気を感じた大蛇丸は、目的を理解する。

「ふん。何故、と聞いても無駄でしょうね」

「いや、簡単だよ………要らなくなったからさ。まあ、お前の他にもう一人、消すべき奴がいるが………ここで死ぬお前には関係が無い話だな」

「くっ………」

ペインの言葉に舌打ちをし、大蛇丸は会話を続ける。

会話の途中に隙を見出そうとしているのだ。

「この出口に居たアナタ………どうやって先回りできたのかしらねえ。最短のルートを通らなければ、先回りなどできないはず。それともアナタ、この洞穴を全て把握しているとでも?」

「とある、人物に道を教えてもらった。お前を追っていると説明をすればな………その人物は俺に対して快く、道を教えてくれたさ」

「道を………? 馬鹿な、有り得ないわ。この洞穴の全容を知っているのは私だけ。洞穴の地図を書いた技師は私が殺したし、ここに居た部下も………洞穴の通路の、その一部しか知らないはずよ」

洞穴の工事は大蛇丸配下の忍びが行った。しかし洞穴といっても、ただ掘ればいいというものではない。

掘りすぎてしまえば、土の壁が崩れてしまう危険性がある。だから、簡易とはいえど強度設計などを行う人物が必要だ。

だから大蛇丸は技師に依頼をして、図面を作らせた。その後には勿論、秘密を保持するために永遠の口封じを敢行したのだが。

そしてペインは、それを知っている。

先程、知ったのである。

「………そうらしいな。草薙の剣で背後から一突きだったそうじゃないか。彼はただ一生懸命仕事をしただけだというのに…………酷いことをする」

「………そう。でも何故それを知っているのか、聞いてもいいかしら?」

大蛇丸が問う。ペインは少し黙った後、その問いに対する答えを返した。

「ああ、本人に聞いたからだよ。もうひとつ………恨みを晴らしてくれとも言われたがな」


「本人? 恨みですって? …………アナタは死んだ人間と話ができるということかしら?」

「場合によるがな。概ねその通りだと言っておこうか」

「馬鹿な事を………! おちょくっているの!? この、私を!」


大蛇丸の身体から殺気が発せられる。

だがペインはそれを鼻で嗤うだけだった。


「馬鹿はお前だよ…………ほら、見えるだろう? 俺の後ろにあるものが」


まさか見えないとは言わないよな、とペインは言う。

「………?」

そこで大蛇丸は気づく。

ペインの背後に、何やら黒いもやのようなものが浮かんでいることに。

「これはまさか、幻術………? いや、騙されないわよ。一体何の術かしら」


「幻術じゃないさ、大蛇丸。今ここにあるものは、紛れも無い現実が生み出したもの」


直後、無音の爆発が広間に響き渡った。


「なっ――――!?」


ペインの背後に薄く広がっていた、黒いもや。それが形を成し、一斉に溢れ出る。

それを見た大蛇丸は、驚愕に顔を染めた。


「近くに散らばっているアジトにも言った。そこで行っていた事を知ったよ。随分と恨まれているな。ここまで恨まれている者などお目にかかったことが無いぞ」


一歩、ペインは大蛇丸に歩み寄る。

大蛇丸は一歩、後退る。


「あそこに“居た”人間も、“居る”人間もな。その誰も彼もがお前の死を望んでいる、望んでいた。恨みを知れと叫んでいる――――声なき声で、叫んでいたよ」


ペインは遠くを見ながら、言葉を続ける。


「ふん、それでなくてもお前は消えるべきだがな。かつての英雄の成れの果ての、生ける屍よ」


更に一歩、歩み寄る。

一歩、遠ざかろうとする。


「………成れの果て。生ける、屍ですって? ふん、見れば分かるでしょうに。私はまだ死んではいない。そしてこれからも永遠に生き続ける。事実、転生の術は完成したのよ」

「………自覚が無いというのは哀れなものだな大蛇丸。お前は永遠の生を願ったその時に死んだんだよ。一時は木の葉隠れの里、その忍び達から尊敬を集めた一人。木の葉の三忍の一人であるお前は。大蛇丸という一人の男は、その時に死んだのさ」

「何を………」

「人の命は永遠を生きるようにはできていない。凝縮されたものが撹拌され、薄くなってしまった。限られた時間の中に生きるから、人の命は輝くのだというに。今のお前は薄い。あいつ風に言えば、味の無いラーメン、ただの腐れた水だ」

故に生ける屍だ、とペインは言う。

「己の欲のために、それまでに築き上げた全てを捨てた―――その目的も滑稽に過ぎるよ。永遠などこの世の何処にも存在しないというのに。そんなに長く生きてどうするつもりなんだ? 望む未来もあっただろうに。それを忘れて何を望む」

「――――忍術を、真理を探求するに決まっているじゃない。私は、全てを知るために………!」

「摩耗した魂を持つお前よ、大蛇丸よ。腐れ果てたお前に理解できるものなど一つも無い。それに、それは見も知らない誰かに理不尽を強いてまですることでもない。最早災厄を散蒔くことしかできない“何か”になったな。クズという言葉すら生温い」


故に成れの果てとしか言いようがない、とペインは吐き捨てる。


「人の範疇から逸脱した。最早忍びですらもない。ケダモノにも成り得ないだろう。長く生きるというが、そう遠くない将来にお前の魂は崩れるさ。目に映るもの全て、何もかも分からなくなる。

 永遠に憑かれた哀れな道化。お前はやがて生き続ける事だけが目的になるだろう。鼓動を永らえる、そのためだけに人を襲うただの化物になるだろう」




そうなる前に、と。

ペインは手を上にかざし、告げた。




「切り捨て外れた人の輪の果てで、たった一人。かつての理なく。そして志なく、心なく。人命を弄んだ愚物よ――――相応しい、似合いの惨めさで死んでいけ」




言葉と同時、広間の壁という壁から、黒い塊がにじみ出てくる。





「最後に彼らが感じた痛みを知れ。抱いたまま………黄泉の底へと落ちるがいい」














そこから先は語るまでもない。


洞穴に、聞くも無惨な断末魔が響き渡ったのは確かである。















「あと、一人」
























あとがき

今回の前半と後半は対比でした。

次回から、事態は本格的に動き始めます。

視点も移動。NARUTO世界って本当に人が多いですよね、あらゆる意味で。



[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 七十七話 「五大国、隠れ里の動向」
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2010/05/30 21:40


ここは木の葉隠れの里、火の国から東の方向にある、水の国、霧隠れの里の中央部。

その水影の執務室には今、手練の忍び達が集まっていた。

執務室の中央にある机。そこに座る水影、五代目水影・照美メイは、正面に居る霧の忍刀七人衆の一人である、長十郎に対し、確認の言葉を投げかける。

「それでは、四週間後に?」

「はい。そこで、ご、五影会談を行うとのことで……」

問われた長十郎は、少し言葉に詰まりながら答えた。気の弱い彼は、正面に座る水影は勿論のこと、その両端にいる里の相談役にも威圧感を感じているのであった。

「そう、分かったわ。それで………」

と、水影はそこで、斜め前に視線を向ける。そこには、七人衆の一人である霧隠れの鬼人、桃地再不斬の姿があった。

水影は再不斬の方に視線を投げかけ、また言葉も投げかけた。

「再不斬。木の葉隠れから持ちかけられたこの件についてだけど、アナタはどう思う?」

「どう、と言われてもな。自分で判断すればいいだろ」

「私は今の火影を知らないし、外の忍び達も知らない。戦場でしか顔を合わせたことが無いから。だから、他の面……別の顔を知っているだろうアナタに聞いているのよ」

「と、言われてもな。俺も全てを知っている訳じゃない。それでよければ言うが?」

「……頼むわ」

「行くべきだろうよ。他の影の動向は知らないが、木の葉隠れの忍びだけは言い出した事を曲げない。それは分かっていると思うが」

「ええ。先代火影……三代目火影の人柄は知れ渡っているし、現火影もその弟子だと聞いた。罠が無いということは分かっている」

「だったら、行けばいい。むしろいい機会になるだろう――――かつての血霧の里のイメージを払拭するには」

「それはそうね………ずっと鎖国のような状態を続けていた訳だし。しかし、襲撃者に木の葉隠れの忍びが潜んでいたことが気に掛かる」

「どこかの誰かが仕掛けた罠に決まっているだろう。襲ってきたのは木の葉隠れだけじゃない、雲、砂、岩………狙ったように、大国の隠れ里だけだ。誰かが各隠れ里の忍びの死体を回収し、何らかの術を使って操っていたんだろうよ」

「誰か……それは、暁ではないと?」

「報告しただろうに。まあ、暁といえば暁だな。だが奴は、それを装っていただけだ。暁の一員といえばそうだが、下手人はそんな温いタマじゃないぜ」

「六道仙人か………俄には信じがたいが」

「俺もそうだ。この眼であの黒い化物を、化物と一緒に居た“アイツ”を見なけりゃ信じなかっただろうよ」

「そんなに、か?」

「ああ。ま、戻ってきてからそう時間も経っていないし、全てを把握していないが………この里の現戦力を叩き込んだとしても、勝てないだろうよ。五大国全ての戦力を注ぎこんでやっと、という所だな」

「……今のお前が、そこまで言う程なのか」

戦慄に、水影と相談役の言葉が僅かに震えた。

戻ってきてから数度、再不斬の戦いぶりを見た彼女らは、彼の力量については把握していた。

かつての鬼鮫に匹敵し、水影にも勝ろうかという程の鋭さを持っている事は周知の通りとなっているのだ。

「ああ。それに、奴は全部ひっくり返すつもりだぜ。他の里が襲撃された件についても聞いているんだろう」

「ああ。その中に、我が霧隠れの忍び――――行方不明になっていた者が混じっていたこともな」

「何処も似たような状況だ。なら、結論は一つだと思うぜ」

「………」



水影は沈黙した。他の誰も、言葉を発さない。

事態の深刻さに頭を痛めているのだ。ただ一人、里の古株であり歴戦の勇でもある上忍、青は顔を上げていたが。

彼はそのまま会議がお流れになるまで、じっと再不斬の方を見つめていた。









「おい、再不斬」

「あ? なんだよおっさん」

「くっ、相変わらず口の聞き方を知らん………!」

横柄な再不斬のものいいに対し、青は渋面を作る。

「あー分かった分かった。すまんすまん。で、何の用があるんだ?」

それを見た再不斬は軽い謝罪を入れながら、青に話をすることを促す。

それを聞いた青は、意外そうな表情を再不斬に向ける。

「なんだ、その抜けた顔は。俺の顔になんかついてんのか?」

「………いや、随分と変わったと思ってな。昔のお前とのギャップに驚いているだけだ」

「ああ?」

「いや、いい。それよりも先程の話だ。下手人とやらの力量は、本当にそれほどのものなのか?」

「はっ、相変わらず疑り深けえおっさんだな」

「慎重と言え。相手の力量を把握しておかねば危険だからな。それで、どうなんだ?」

「………一目“見た”だけでな――――戦いたくないと。そう思ったのは始めてだったぜ」

鬼鮫ですらそうは思わなかった、と再不斬は言う。

「ありゃとびきりの災厄だ。しかも厄介なことに、相手が定まってやがる」

「相手だと?」

「俺達だよ。里の全部が襲われたんだ。察しがついてもおかしくなさそうなもんだがな――――はっ、霧も、悪い意味で平和ボケしたもんだぜ」

そう告げながら、再不斬は青に背を向けた。


「ウタカタの守りだけには気をつけろよ。アイツを奪われたら何もかもが終わっちまうぞ」


そういい、去る再不斬。

その背中に対し、青は何がしかの言葉をかけられい。ただ、黙って見送ることしかできなかった。












その時であった。

執務室の窓から、湯のみが飛んできたのは。

ガラスの割れる音に驚いた二人は、その場に硬直する。




その湯のみが飛んできた執務室、その中では二人の忍びが言い争っていた。











「ねえ、お嬢ちゃん? もう一度行ってくれないかしら?」

「え? いやだなあ、年を取ると耳まで遠くなるって本当だったんですね?」


執務室は一言で言えば地獄だった。中央には白と水影が対峙していた。そして互いに笑みでない笑みを浮かべながら、見つめ合っている。

背後に、尋常でない殺気を浮かべながら。


突然の修羅場に巻き込まれた長十郎は、ひとり部屋の隅でカタカタと震えていた。


ちなみに里の上役は既にその場を逃げ出していた。彼らは経験故、危険をいち早く察していたのだ。


君子危うきに近寄らず。彼らは危機を察した直後、即時の撤退を敢行。

執務室の外へと逃れていたのだ。

一人逃げ遅れた若造のことなど、気に掛かるべくもなかった。むしろいい経験だと思っていたのであった。

彼らは再不斬と青と同じで、部屋の中で展開していく事態を、外から見守っていた。


「も・う・い・ち・ど・い・え」

「はいはい。“活きの良い魚が手に入ったんですよ。それで、再不斬さんに伝えに来て……あと、夕食には遅れないようにとの言伝を”――――って、なんですかそんな怒りを顕にして」

怒ると皺が増えますよ? と行ってのける白。それに対し、水影は心の中で白から告げられた言葉を反芻していた。


(“イキ”のいい―――――夕食には、“遅れないように”!!?)


“嫁き遅れないように”。そう聞こえた水影は、白の顔に自分の顔を近づけ、言う。


「黙れ殺すぞ」

「はあ? ―――――ああ、“嫁き遅れ”とか聞こえたんですかまさか」


淡々と。白は、メイにとっての○禁ワードを口に出した。

「嫌だなあ、いってないですよ? ――――“嫁き遅れ”なんて」


(言ったァ~~~~~~~~?!)


窓の外の上役一同は心の中で叫んでいた。

同時、悟った。今宵今晩この執務室で、世にも恐ろしい惨劇が繰り広げられるだろうと。血の雨が、降るだろうと。

渦中の二人は更にヒートアップしていた。白熱ともいう。


「やだなあ、“嫁き遅れ”とか。そんな、だって“嫁き遅れ”ですよ? 水影様に対してそんな、“嫁き遅れ”だなんて言えるわけないじゃないですか」


「――――――」


禁句を連発する白。しかし、彼女の方も顔は笑っておらず、全身からほのかに殺気を発していた。












一方、部屋の外では再不斬と青を含めた霧隠れの手練達が、がくがくと恐怖に震えている。

女二人の間から発せられる尾獣もかくや、という殺気に飲まれているのだ。

青は、そうなった原因について、隣の再不斬に訊ねた。

「お、おい再不斬。白の奴はなんであんなに怒ってるんだ? 水影様が白に何か言ったのか?」

「い、いや……俺は知らないぞ。俺と白が戻ってきてからのはつい先日のことだぜ。あいつと会話を交わした覚えも……数える程しか無いしな。あと、白はずっと俺の傍にいたし、その時の会話も……いや、特別怒るようなことは………」

「いや、思い出せ。その時に何かあったのだ。俺は外に出ていてその場には居合わせてなかったが………いや、待てよ。お前が水影様に何か言われたのではないのか?」

「あん? アイツが俺に、か? いや、皮肉を言われただけだぜ。“里の隠れた英雄”だとか、“次代の水影”になれる可能性を持っている、とか」

譲る気もないくせに、と再不斬は鼻で笑った。

「……そうなのか。いや、他にあるはずだぞ。お前の事でなければ白はあんなに怒らんはずだ。何とかして思い出せ」

「………ああ、アイツと俺は同じような年、って話しになったな。そんで、近い年齢の奴はみな所帯を持っているとかなんとか。あと、俺の顔を間近で見ながら“顔、変わったわね”とも笑われたが――――」


つらつらと並べる再不斬。

しかしその言葉は最後まで言い切ることができなかった。




「「「「 そ れ だ !」」」




その場に居た霧隠れの忍び一同がハモり、大声を上げたからである。



「あん? ―――何がだよ」


だが再不斬はそこまで言われても気づかなった。

それもムリがないことだと言えよう。

霧隠れにいた頃も、再不斬はずっと一人だったのだ。彼の外見の怖さと忍刀七人衆という肩書は、女性を遠ざける原因となっていた。

近くにいる女と言えば白しかいないし、任務で一緒になっても近寄られもしない。再不斬も、特にくのいちが自分を怖がっていることは知っていた。

恐れされ、嫌われているだろうことも承知していた。

だから、彼は水影の視線の意味を察することが出来なかったのである。


乙女心が理解できない再不斬。そんな彼に青は青筋を浮かべながら、青が告げた。

「原因はお前だ! いいから行け! 二人を止めろ! あの地獄から長十郎を取り戻せ!」


見れば逃げ遅れた長十郎はひとり、神様に祈っていた。

そのまま何処かに消えそうな勢いである。いつもは若造だということできつく当たる青でさえ哀れに思う程、末期的な状態になっていたのだ。


「――――訳が分からねえが……まあ、いいか」


どうせもう帰るし、と再不斬は頷き、白と水影の元へ歩いていく。


「おい、二人とも」


「何でしょう(かしら)?」


超至近距離でガンを飛ばし合っていた二人は再不斬の声に反応し、視線を向ける。

互いに笑い顔。だがその眼は笑っていなかった。


ちなみに部屋の隅でガタガタ震えながら神に祈っていた長十郎は、“すみません、命は、命だけは”とぶつぶつ繰り返し呟いていた。

背中の大刀、忍刀七刀の一つヒラメカレイも恐怖に打ち震えていた。


「何って………今から家に帰るんだよ。昔の家はまだ残ってるんだろ? ほら、行くぞ白」


と言いながら、再不斬は白の頭をぽんぽんと叩いた。


「はい!」


元気よく返事をする白。だが、照美メイはそこに制止の言葉を挟み込もうとする。


だが、時既に遅し。


二人は瞬身の術を使い、部屋の外へと去っていったのであった。





「………あの、小娘が。いずれ、決着をつける必要がありそうね」



婚期を逃して、10年。

五代目水影は、割と本気で焦っているのであった。




「う………ここ、は」

背後、怯えて震えていた長次郎は殺気が消えた後回復し、何とか正気を取り戻していた。

そのまま、部屋に佇んでいた水影に話しかける。


「あ、あの………水影様?」

「あら、何かしら長十郎」

「いえ、何でも無いです」


いつもの笑顔で言葉を返された長十郎は、先程まで繰り広げられていた修羅場を忘れた。

きっと夢だ。長十郎は、そう思いたかったのである。

ちなみに部屋の外に居る上役と青達は、見た上で忘れた。長く生きれば忘れることも上手くなる。これも、年の功だと言えよう。


そんな周囲に見守られながら、水影は皆に命令を下した。





「さあ、長十郎。そこにいる青も……長老様方に報告をしてきて下さい。五影会談に向けて、色々と準備をしなければね」









~~~~



木の葉北東、雷の国。五大国の中でも随一の軍事力を誇る、雲隠れの里。

その執務室中に、雷影を含む雲隠れの里の主要戦力、手練の忍び達が収集されていた。

怪我をしている雷影の護衛含め、木の葉隠れから来た使者に対する返答を決めるためである。

しかし雷影はその使者からの提案を聞くと、即座に答えを返した。

「五影会談か……分かった。木の葉隠れの使者には、その件について承知すること、会談に出席する旨を伝えておけ」

雷影の執務室。そのソファに座る雷影は、木の葉隠れの使者から言伝を預かったサムイに対し、雷影としての言葉を伝えた。

「承知致しました。それでは」

サムイが退室する。

その後、雷影の側近であるシーが、雷影に確認を取る。

「先の襲撃。そして不審人物ですが……」

「うむ、裏はないだろう。ペインと名乗るあの忍び、まず真っ当な里の者ではない。使う術が異質に過ぎた」

答える雷影だが、倒された時の事を思い出し、忌々しげな顔になる。

「あの力量……どちらにせよ、尋常な輩でないのは確かだ。里を守り死んでいったユギトの為に、一刻も早く奴を殺さねばならん」

「はっ」

「ヨシ、そうと決まればこうしてはおれん! これから鍛錬をするぞ、付き合えお前たち!」

と、雷影は立ち上がった。

「あ、雷影様!?」

雷影はそのまま、執務室の窓を破る。ガラスの破片が当たりに散らばった。

その破片に構わず、雷影は下へと降りていってしまう。

焦り、止めようとしたシーは、止めようとした手が間に合わず、そのまま手を伸ばしたままの格好で硬直する。

一拍置いて、溜息と共にその手をおろした。

そこに、同じく雷影の側近である雲隠の上忍、ダルイが言葉を挟む。

「ボスなら大丈夫だぜ、シー。傷もここまで回復しているし。それに一度見た相手に二度負けるボスじゃあない。四週間後には全開になってるって」

「分かっているさ。だが、嫌な予感が止まらないんだよ」

「心配性だな」

「お前が考えなさすぎなんだ」

雷影とキラービーを除けば雲隠れでも随一の力量を誇るシー、ダルイの二人は、その場で口論を始めそうになる。

だが、その時。

横から、八尾の人柱力キラービーの弟子。そして雲隠れのくのいち中でも有数の力量を持っている少女、カルイが言葉を挟んだ。

「えっと、大丈夫ですって! ほら、今度はキラービー様もついてるし」

活発的なカルイは、身振り手振りを混じえながらシーに大丈夫だということをアピールする。

「それに雷影様とキラービー様のコンビは、無敵! あんなへなちょこ野郎なんざ、一息でシオシオのパーですって!」

カルイは慣れない敬語を使いながら、上司でもあるシーに対し大声で告げた。

それに対し、シーは呆れたような声で返す。

「見たこともないのに何故それが……というかカルイお前は前向きすぎだ。もっと考えてから………」

シーは溜息をつきながら、頭を抱える。雷影とキラービーの実力を知る彼も同じ事を考えてはいたが、今回の件は尋常ではない。慎重にあたるに越したことはないのだ。

楽観的になるカルイに対し、何かを言おうとするシー。だが彼の言葉は途中で遮られる。再び横から言葉を挟まれたのだ。

言葉を挟んだのはオモイ。カルイと同じく、キラービーを師に持つ、カルイとは違って後ろ向きが取り柄の少年である。

「シーさんの言うとおりだ、事態を軽く考えすぎるのはまずいぞ。相手は雷影様を倒しかけた程の手練……安易に考えては駄目だ。もしかしたら相手は伝説の怪獣かもしれない。
 
常識外れの術を使う怪物かもしれない。人智を超えた化物である可能性も捨てきれない。もしそんな奴だったら、それで俺達がみんなやられてしまったら、雲隠れの里が壊滅させられるかも………」

どんどんと沈んで行くオモイ。
そこに再び、シーの突っ込みが入った。

「おい、オモイ。お前は悲観的すぎるぞ」

今度は後ろ向きすぎるオモイの言葉に対し、苦言を定する。

そしてそのまま、頭を抱えて一人思案にふける。

(はあ……火の国との国境付近、音隠れの里がある辺りで、黒い影が発見されたという報告も入っていることだし。どう考えてもすんなりと行きそうにないな)

頭痛がする、とシーはかぶりを振った。

「まあまあ。ほら、あそこ、キラービー様も演習に参加するようですし」

「そうだな………まあ、ここで考えていても同じか」

「そーそー。それに早く行かねーとぶん殴られそうだぜ」

「了解した……仕方ない、ダルイ。俺達もここから行くか」


シーは隣のダルイに飛び降りようと言う。ちなみにカルイとオモイはシーの説教が始まる前に、既に窓から飛び降りていた。


「いや、オレは普通に扉から降りて行くわ。追いついていくから、先に降りといて」

「………サボるなよ」

「今回は、流石にサボらねーよ。まあ、里の一大事だしな」


ダルイはシーにサムズアップを返し、扉から外に出て行く。

彼は修行をサボリがちであった。だが、今回は違うこと、相手が手練であることを感じていたのだ。

その背中はいつになく、やる気に道溢れていた。


シーは、ダルイの言葉に意表をつかれ、硬直したまま彼の背中を見送った。


そして扉が閉まったあと。




シーはダルイの背中に一言、呟いた。








「………いや、普段から………サボってくれるなよ」















~~~~














一方、木の葉から北西にある土の国。

人口、軍事力共に五大国の中で二位を誇る岩隠れの国では、土影と土影の側近である上忍、黒ツチと赤ツチが先の件について話しあっていた。

議題は他国と同様、奪われた人柱力と里を襲った者について、そして五影会談についてのこと。

「五影会談か………ふむ、腰に爆弾抱えてるワシの気も知らんで」

無茶をさせよるわい、と岩隠れの土影、五影の中でも最高齢となる影が言った。

「ったってよおじじい。デイダラ兄をやったって奴、どう考えても尋常じゃあねえぜ。ウチの人柱力二人に雲の人柱力、あの雷影も死んじゃいねーが倒されたって話しだ」

土影の右にいるくのいち。雲隠れの中でも随一の実力を誇る、歴戦のくのいち黒ツチは肩をすくめながら軽口を叩く。

「暗部からの情報によると、あの砂隠れの風影でも適わなかったって話しだに。それに、里を襲ったやつらも結構強かったに」

左、岩山のような巨躯を誇る上忍、赤ツチは不安気な表情を浮かべながら相手の力量について分析をする。

「ふん、暁だけの仕業とも思えんしな………特にあの死体人形については、おかしいことが多すぎる。赤ツチ、里を襲ったやつらの死体は処置を施し、保管しているじゃろうな」

「勿論だに」

「そうか………人柱力が奪われたこと、他国に知られたら恥じゃ。秘密裏に回収するつもりじゃったが……どうもこの件、裏で繋がっていそうじゃな。それに」

「じじい、それじゃあ?」



「うむ。岩隠れも五影会談に出席する。裏で動いている者達の情報も必要じゃ。もしかしたら、他国の里が何かを掴んでいるやもしれん。互いの情報交換も必要じゃしな。

 他国が得た情報に頼るのは忍びとしての恥じゃが、このまま下手人が分からないままいがみ合い、戦争となるのも、まずい気がする」


「へっ、それで他国の里が仕掛けたことだって分かったらどうするつもりなんだよ」


「………然るべき処置を取らなきゃならんじゃろうな。場合によっては、五影会談で戦いになるやもしれん。このワシとしても、若造どもに舐められるのは我慢できん」


「おいおい、年寄りの冷や水はあぶねーぞ」


「バ、バカ者! このワシを誰じゃと思ッておる! 岩隠れ両天秤のオオノキと恐れられた土影じゃぜ!」


土影はそういうと立ち上がり、机を思いっきり叩いた。

途端、ぎっくりという音が執務室に響き渡る。


「おおおおぉォ………」

「じじい………そろそろ引退するか? いつまでも栄光引きずってんじゃねーぞ」

「う、うるさいわい! こら、触るな赤ツチ! いらぬ世話じゃぜ!」

手を貸そうとする赤ツチに向け、土影は大声で怒鳴りつけた。




「まったく………頑固じじいが。それじゃあ、使者にゃあそう返事しとくぜ?」














~~~~














土の国の南。

木の葉からは西の方向にある、風の国が保持する里、砂隠れ。

その中央、風影の執務室にはいつもの面子が揃っていた。

「テマリ、身体はもう大丈夫なのか?」

「心配ないよ我愛羅。それよりも五影会談の件だ。火影から話しが来てるそうだが、どうする?」

「出席しよう。ナルト達からも、連絡がない。それに暁の首領については、俺達もまだ多くは聞かされていないしな」

「暁か……残っているのは誰と誰だったじゃん?」

「首領のペインと、アロエっぽい何か。角都と飛段という奴は少し前に倒されたという話しだし……あとはうちはイタチがどうなったかが問題となるな」

「そうか……うちはサスケがどういう行動を取ったか、こちらも把握していないしな。あのサスケの力量を見るに、大丈夫そうだが」

「……風影様。テマリ、カンクロウ。それは例の九尾の人柱力からの?」

「ああ。信頼できる情報だ。最も、ナルトが全てを知っているとは限らないが」

「そこら辺はどうなんだろうね。あれから音沙汰無いし、会いにも来ないけど」

「……テマリ、ひょっとして寂しいじゃん?」

「そこのバカンクロウ、後でセッキョーな。いや、ウチが言っているのはそういう話ではな………まあ、なくて」

テマリは何かを吹っ切るように、頭を横に振った。

「連絡が無いということが重要なんだ。協力して対処するなら、情報の共有は必須だ。だがその様子もないということは、何かしらの原因があるということだろう」

「ふむ………先週半ば頃、火の国北部で起きたことも気に掛かるしな」

「黒い影、か。火の国北部って確か音隠れの里が在るって場所だったよな?」

「そうじゃん。正確な位置は掴んでいないそうだけど、あの辺りに大蛇丸が潜伏してる、ってことは分かっていたじゃん」

「そうか………音隠れ、ということは尾獣が目的の襲撃という訳でもなさそうだな」

「情報が少なすぎるな。だからこそ、いい機会だ。この緊張状態では、迂闊に火影と接触する訳にもいかん」

「けど、尾獣と人柱力はもう数体捕獲されているじゃん。このままじゃあ暁の首領とやらが襲ってきた時、こちらも手が打てなくなりそうじゃん?」

「襲撃者の正体についても突き止める必要があるな………だからこその会談か、あるいは火影は何かを掴んでいるのかもしれん」

「ナルトもな」

「ああ。会談前に、接触してくる可能性もある。または他国から詳しい情報が得られれば、また襲撃者についての正体を突き止めれば、この緊張状態も解けるかもしれない」

「危険な賭けだがな………それで、護衛はどうする? 会談の場に連れていけるのは二人だけだと聞いたが」

「一人目はバキで………ふたりめは、カンクロウだ。テマリは会談が行われる会場近くで待機だ」

「な、我愛羅!?」

テマリが我愛羅に向かって叫ぶ。それもそうだろう、カンクロウよりテマリの方が単純な力量その他、色々な意味で上なのだから。

しかし、我愛羅は首を横に振るだけだった。

「……先の戦闘の傷、まだ完治していなんだろう。それにカンクロウも上忍だ。先の戦闘で力量も上がったと聞くし、大丈夫だろう」


「テマリ………任しとけ、じゃん」

にかっと笑い親指を立てる歌舞伎役者。

しかしテマリは、その親指を折にかかる。

「いてててて、いてーじゃん?! 何するじゃん!?」

「いや、なにかこう、言いようの無い怒りがこみ上げてきてな。許せ、愚弟」

「くっ………ったくナルトに会えないからって八つ当たりはないじゃん」

「――――聞こえてるぞカンザブロウ」

「カンクロウじゃん!? てか何故か光栄に思ってしまうじゃん?!」




ぎゃーぎゃーと言い争いを始めるテマリとカンクロウ。

その二人をよそに、バキは我愛羅に問いかけた。


「九尾の人柱力………本当に大丈夫なのか? そいつと木の葉が結託している可能性は、あるいは敵に回る可能性も考えた方がいいのでは?」

「それは有り得ない。あいつは積極的に木の葉側に関わろうとしないし、何よりあいつは戦闘が嫌いなのでな。理由も野心も敵意も動機も無い相手を心配するより、暁の事を考えるべきだ。疑う必要があるならば、既に対処の策を練っている」

「………ふむ、即答可。それに、その眼。今のお前がそういうのならば、そうなのだろうな」

「……随分とあっさり、信じるのだな。少し意外だ」

「何、お前が変わったからだ。皮肉が言えるほどに、お前が人間らしく、なったということだ」

「人間らしく、か」

反芻し、我愛羅は苦笑する。

「その仕草もそうだ。昔から色々と変わったということは分かっている。それは、里の皆も周知の通り………良い方に変わった、ということも。そんなお前の言葉、砂隠れの里を思って行動するお前の行動を、今更疑うつもりはない」

「そうか………すまない。お前には負担をかけると思うが」

「これでも里一番と言われている忍び頭だ。里の為ならば命もかけよう」

「頼もしいな。その頼もしさに頼ることになるが」

「構わない。あと、木の葉隠れの使者が待っている。出席とのことで、使者にはそう返答しておくが?」


「ああ、頼む」


バキが執務室から出て行く。

その背中を見ながら、我愛羅は一つ溜息をつき風影の椅子から立ち上がり、窓へと向かう。


「何が起こっているか、か………鍵はおそらく、あいつらが握っているのだろう。だが、この不安はなんだ。何が起ころうとしている?」


我愛羅は窓の外から木の葉の方向を見て、呟く。



「お前は今何処にいるんだ、うずまきナルト――――小池メンマよ」










~~~









そして、木の葉隠れの里。空は曇り空で、夕方だというのにあたりは夜のように薄暗くなっていた。

そんな中、戦死者達が眠るという石碑の前にひとり、石碑を見つめながら立っている者がいた。

中肉中背、金の髪に青い瞳を持つ男。顔立ちはそれなりに整っていて、見た目活発そうな印象を受ける。

しかしその顔は暗く、何かに迷っているかのように見えた。


その男の名前は、うずまきナルトという。そして、小池メンマとも言った。


「英雄、か………」

ぽつり呟き、メンマはその場に座り込む。

彼は周囲から気配が途絶えた頃を見計らって、この石碑の前に来たのだ。

変化の術を使うという選択肢もあったが、彼自身今回だけは素の姿のままでいたかった。

元の姿のままで、この石碑の前に立ちたかったのであった。


「里を守り、死んでいったもの。木の葉隠れの里を守るため、誰かを殺し、そして死んでいったもの。自らの志の元に……」



一つ、言葉を並べ、その場面を想像する。

今まで彼自身が見てきたものに符号させ、思い浮かべているのであった。



そのまま、時間が過ぎる。


やがて、雨が降り出した。


石碑が雨に濡れる。周囲の木々も雨水に打たれている。

ぽつ、ぽつという音がメンマの耳に届く。

何処の木が濡れて、何処の水が地面に落ちているのだろう。それを意識することなく、彼はじっと石碑を見つめていた。




その時、メンマの背後で音が鳴った。


ぐちゃり、という。

泥になった地面を踏む音だ。


それを耳にした後、メンマはぽつり呟いた。




「やっと、来た」




小さい、だが確かな声でメンマは言う。


しかし、その声は雨音に掻き消されてしまった。


しかしメンマの背後に現れた人物は、それが聞こえていたようだった。



声が聞こえた直後にその場で立ち止まり、そして立ちすくんでいた。



その顔には、生気が浮かんでいなかった。




「………ほんと。待ちかねたよ、エロ仙人」



















[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 七十八話 「木の葉にて・上」
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2010/07/30 01:27
自来也は無言のまま、英雄達の名前が刻まれている石碑の前に立っていた。
降りしきる雨に全身が濡れていたが、構わずただ石碑だけを見つめ続けている。

刻まれている名前の数々を、順に読んでいるのだろうか。
同時、名前と共によみがえるであろう、かつての仲間と過ごした記憶を胸の中に貯めていっているのだろうか。

そのいずれか、あるいは全く違うのか。俺には分からなかったが、ただひとつだけ分かることがあった。

少し前までは丸まっていた自来也の背筋が。迷いを帯びていたチャクラが、真っ直ぐ確かなものに変わっていったということだ。

『………』

胸中のマダオは無言のままだ。しかし明るい様子でもない、師匠と同じくペインに思うところがあるのだろう。
ペインはマダオにとっての兄弟子だ。それに加え、マダオは第三次忍界大戦に参加していたのである。

彼らの胸中に渦巻くのは因縁か、同情か、悔恨か。

俺はその戦争を知らないし、実際に体験した訳ではない。
だからその時何が起こっていたかは知らないし、何が原因であんな悲惨な戦争になったのかは分からない。

しかし、ペインに見せられた光景から、その戦争がどれだけ悲惨だったのかは分かった。

でもあれはほんの一部で、まだ他にも同じような悲劇が起きていたのかもしれない。

いや、きっと起きていたのだ。そうした混沌の、悲劇の果てにあるのが、現在の忍界における危地につながっているのだから。

自来也の眼には、どう映っただろうか。

―――戦争を越えて、今再び。

大切な者を奪われた、かつての弟子の復讐があって。
大切なものを見失った、自らの末裔への制裁があり。
大切な者達が滅亡の危機に貧しているということに対し、どう感じているのだろうか。

俺は本質的には忍者ではないので、ペインの宣言に対して彼らがどういう感想を抱いたのかは理解できない。
だが、忍びの代表格とも言えるマダオ、あるいは自来也にとってはまた別の感想を持っているのだろう。

この雨のように叩きつけられた非難。それを身に受けた者としては、どのような感想を抱くのであろうか。
忘れていた雨に打たれた、原因である自業。どのように受け止め、どのように感じているのだろうか。

それでも譲れない者がある一人の木の葉の忍びとして、自来也がどういった手段をとるのだろうか。

最後の一行に関しては、マダオは何事かを察しているようだったが―――

「ナルト」

空を見上げながらそんな事を考えていた俺に、正面から声がかかる。
視線を前に戻すと、自来也がこちらを見ていた。

石碑に背を向け、俺の眼をまっすぐに見ていた。


「話がある………ペイン、いや長門の事についてだ」






それから、俺達は色々な情報を交換しあった。
情報の他に色々と話し合いたいこともあったが、まずは情報の整理だ。
素面で胸の内を曝け出せるような間柄でもない。酒でもはいらなければ無理だろう。

だからまずは今まで起きた事を話した。
大筋においては暁について、そしてうちはイタチとマダラ、うちはサスケについて。

その後、長門&ペインの目的、十尾のあれこれについても話した。
"月が落ちる"という話だけは俺がいっても信憑性に欠けると思ったので、話さなかった。

話せば色々とまずい状況になるからだ。
自来也からの話は聞いたが今更取り立てて騒ぐことのない、ほとんどが俺や綱手が把握している程度の情報だった。

ただ一点、気になる事があったのだが。

「墓があった。それも、三つ?」

かつて自来也達が修行の際に使っていたという、隠れ家。
その家の前は、誰のものか分からない三つの墓があったらしい。

それについて、俺は考えてみた。

二つの墓の意味はすぐに分かった。
失った、失ってしまった大切なもの達の墓碑だろう。即ち、弥彦と小南。

忘れないという意志を保つため、そして鎮魂のために長門自身が作ったのだと思われる。

だが、最後の一つはどうなのだろうか。
俺は考え、考えぬいた末にあるものを思い出していた。



――――かつての時、あの夜に俺が建てたうずまきナルトの墓碑を。



俺は、うずまきナルトが死んだ事を示すため。そして鎮魂のために、あの墓を作った。
過去を振り切るため、という意味もあった。しかし今となっては、また別の思惑が、自分でも把握しきれていなかった無意識の想いがあったのかもしれない。

長門はどうなのだろうか。
ペインは"俺の中の長門は壊れた"と言っていた。

だが俺はそれを信じていないのだ。

『信じて、いない? それはどういう………彼、長門は壊れてもう居ない、って断言してたじゃない』

(いや、まだ長門は生きているよ。でなければ、あの提案はないだろ)

俺はマダオの問いに対し、推測にしか過ぎない答えを。
だが、おそらくは間違っていないであろう答えを返した。

(―――憎いなら。果たすべき目的があるのであれば。何にも構わず、徹底的に暴れまわればいい。今までにそれをしてこなかったのは、何か別の理由があるからだ)

『理由………?』

(そうだよ、キューちゃん。そしてそれこそが証拠となる。あの時の言葉と相まって、ね)

『お主、あやつについて何か気づいておるのか?』

(ああ………ペインはまだ神には成りきれていない、ってことがね)

確かに、ペインは今神と呼ぶに相応しいだけの力を持っている。
しかし、中身はまだ、"神"に成りきれていない。

『成りきれていない?』

(ああ。忍びとはいえ、人は人。その人の有り様をどうこうしようというのならば、その上のステージに立つ必要がある。それが神だ。でもペインはまだ、人間臭さを残している。
 神は人の話を聞かない。誰にも語りかけない。一切の問答無く、ただ一方的に人を裁くものだと、俺は思っている)

動かずあっては高みにあり、はるか高みにあっては人の心に平穏をもたらしてくれる
しかしいざ動くとなれば、滅びを告げる神話の怪物と化す。そうならざるをえない。

『それは何故じゃ?』

(強すぎるからさ。その強い奴が動く、いや動かなきゃならないというのは、大抵が碌でも無い状況に陥った後だ)

そして動くと決めたのなら、止まることはしないだろう。
今更、人に、問うたりはしないのだ。

『つまりは………』

(―――そうだ。お前の意志を示せ、なんてさ。断罪者としての六道仙人なら、破壊こそが存在意義である十尾ならば、そんな問いかけはしないんだよ)



そうだろう、ペイン。

俺は胸中で呟きながら、件の人物が居るであろう方向に、視線を向けた。








~~~








―――同時刻、木の葉隠れの深部にある、"根"の本拠地。
その最奥部、根の首領であるダンゾウの執務室の中では、二人の忍びが対峙していた。

「大蛇丸の次はワシというわけか。色々と協力したワシを…………今になって裏切るというのか?」

「予想はしていたんだろう。この警戒態勢が良い証拠だ。今更驚くにも値しないと思うのだが」

ペインはそう言いながら、自らの服を見る。
そこには、待ち構えていた"根"の忍びによって裂かれた跡があった。
だが、ペインは傷は受けていなかった。

「………誘い込んだ上での、起爆札の一斉爆破。トルネの蟲、フーの呪印型のトラップ。出来うる限りの最高の罠を凝らしても、その程度か」

ダンゾウは自らの組織の全力を用いて、出来うる限りの罠を張ったのだ。
しかし、与えられた被害は服一つだけ。
ダンゾウはそんなペインの馬鹿げた力量に戦慄していた。力量差を痛感させられていたのだ。

故に、その顔に渋面を浮かべた。

「化物め………」

「お前に言われたくはないな。火の影で、木の葉の影で………忍びの闇と言われる程に色々な事をしてきたお前を、あの二人を殺す作戦を練ったお前に言われたくはない」

「………あの、二人だと?」

「―――流石に、覚えてはいないか。だが、俺は忘れない。お前と半蔵に受けた仕打ちは、あの所業は………例え死んでも忘れない」

告げると同時、ペインは手を前にかざす。

万象天引。

十間離れた場所にいたダンゾウは、瞬く間にペインの元へと引き寄せられ、その喉元を掴まれた。

「ぐっ……」

「最早お前に語る言葉など存在しない―――力に酔い、力に堕ちた下衆に言い聞かせる訓示など」

冷淡な声と共に、ペインはその腕の力を強める。

「貴様が言うか………! 忍びの世を、里を荒らす不届き者めが!」

「忍びの世はどうでもいい。世界のために大を取るために、小を捨てるだけだ。お前達大国の忍者達がさんざん繰り返してきたことだろう? 
 ―――今度はお前たちの番というわけだ。まさか、文句はなかろう」

「くっ、貴様……!」


「聞く耳もたん。問答など無用にして不要。忍びの闇よ………疾く、去れ!」


叫びと共にごきり、という音がダンゾウの執務室に鳴り響いた。

同時、ダンゾウの姿が煙と共に消える。

「影分身か!」

驚きの声を上げるペイン。それと同時、部屋の四隅にあった壁が、一部だけ剥がれ落ちる。

ごとん、という音に振り返ったペイン。
そこで見えたものに対し、再び驚きの声を上げる。

「裏四象封印術………!?」

札に書かれていた術式を理解したペインが、叫ぶ。
するとどこからともなく、ダンゾウの声が聞こえてきた。

『そうだ………最後の罠だ。見事に引っかかったようだな』

「………俺はここにおびきよせられた、ということか」


ダンゾウの言葉を聞いたペインは、忌々しげに舌打ちをする。
罠の先には宝がある。そう思って突き進んだペインだったが、実際は違う。
ダンゾウに、そう思い込まされていただけだったのだ。

たどり着いた先こそが本当の危地、切り札となる罠が仕掛けられた所。

そうしているウチに、術が起動した。
部屋の四隅にある札から黒い光が発せられ、中央へと収束していく。


『逃げ場は無いぞ、ペイン!』


黒い光が、部屋にあるものを全て飲み込んでいく。

部屋の中央に居たペインも例外ではない。

裏四象封印が成す破壊の奔流が、全てを飲み込んだ。





~~~



根の本拠地の外、木の葉のとある家屋の屋上に、ダンゾウは居た。


「ダンゾウさま………」

「フーにトルネか。ペインならたった今殺ったところだ」

彼はペインが罠により足止めをくっている間、部屋に隠していた抜け道を伝って外に逃げていたのだ。
部屋に影分身を残し、囮として自分は安全な場所まで非難する。

真っ向から当たっても負けると直感で悟ったダンゾウの、苦肉の策であった。

「上手くいったようだな。部屋に気配は残っていない。ペインは逃げ出せておらんようだ」

ダンゾウの口の端が上がる。
それもそうだろう、目下最大の脅威である外敵を屠ることができたのだから。

英雄とも言えるほどの功績。その影響は大きく、ダンゾウの発言力はより一層高まるだろう。

かつての鬼の国の襲撃事、うずまきナルト暗殺未遂事件により根―――というより暗部の発言力は、下降の一途をたどっていた。
しかし、これで挽回できる。ダンゾウはほくそ笑みながら、そんな事を思っていた。

「しかし、暁の………いえ、ペインの協力者として色々動いていたということを、火影側は掴んでいるのでは?」

「推測はしているだろうが、確たる証拠が無いのでは話にならん。いくらでもとぼけられる。それに、唯一の証拠はたった今消え失せたのだ。
 もう一人の協力者であった大蛇丸も、最早亡いだろうからな」

先日、音隠れの里付近で黒い化物が目撃されたことを、根は掴んでいた。
ダンゾウは、その情報からおよそ起きたであろうことを推測していたのである。

「これで、ワシの発言力も高まる。あとは九尾の力と、巫女の力を手にいれればどうとでもなる。綱手にも対抗できよう………」

ダンゾウの眼に、野心の焔が灯る。
側近であるフーとトルネは、その焔の向かう先を知っていた。

"いずれワシは表に出る。野望を達するに足る力を手にいれ、火影となって表に立つ。裏での経験を活かし、表と裏で忍び世界を支配し、そのあり方を変えるのだ"

ダンゾウの口癖だった。そらで言える程、何度も聞かされた二人は、遂にそれが実現する時が来たのだ、と考えた。



―――そのすべてが錯覚だと。

告げたのは雨の中の声。そして、黒い影であった。



「――――水遁」


何の前触れも無く。

雨は声に応じて、そのあり方を変える。

「――――ッ!?」

「「なッ!?」」

フーとトルネの周りにある水が変質する。

声とその現象によって新たな敵の襲来を察知した三人。すぐさま対応の動きを取ろうとするが、時は既に遅かった。

「――――水牢の術」

逃げる前に宣告。

言葉と共に、変質した雨は牢へとその形状を変えた。

「くっ!」

ダンゾウただ一人だけは、その牢から逃れることに成功した。長年の経験がそれを成したのだろう。ダンゾウは声が聞こえたと同時に地面を蹴り、その場を逃れていた。

だが、フーとトルネは一歩遅かった。
逃げようと足に力を籠めたところを水によって掬われ、そのまま雨に包まれてしまったのだ。

そして水牢が完成すると同時、二人の頭上に黒い塊が降って来た。

「な、じゅうグアッ!?」

「うあああッ!?」

二人は水牢諸共、十尾によって取り込まれた。
断末魔の叫びが周囲に響き渡る。

「くっ………何故、この場所が!?」

ダンゾウは二人を助ける、という選択肢を選ばなかった。
ただ、事実を確認することを優先したダンゾウは、叫ぶ。

「何故だ!? 出口もなく、脱出も不可能―――逃げ出せなかったのではないか!」

何処に居るのかも分からない、この攻撃を仕掛けた相手にダンゾウは声を向ける。
どこともなく発せられたそれだが、返事は即座に返された。

「目には目を、歯には歯を。罠には罠をだ、ダンゾウ。陰険な貴様の本拠地に乗り込もうというのだ。保険をかけていないはずがなかろう?」

「くっ、影分身か!?」

「然り! 十尾を使った特別製だがな!」

雨の中、二人の怒鳴り声が響きわたった。

しかしそれも少しの間だけ。言い合いはじめてまもなく、ダンゾウの足元、屋上の床が割れた。
そしてその下から黒い奔流が吹き上がった。

「っ下か!」

吹き上がる寸前、振動によりその攻撃を察知したダンゾウは、即座に飛び上がる。
同時に印を組み、攻撃へと移った。

結びの印は、風遁のそれ。ダンゾウが得意とする、風遁・真空玉が敵に向かって放たれる。
真空の玉は全てを貫く弾丸となって、十尾へと襲いかかった。

それは確かに、厚い十尾の表皮を貫き、その半ばにまで達するまでには至った。
しかし、そこまで。貫通することかなわず、その奥にいるペインは無傷だ。

ダンゾウは術の手応えと十尾の様子から、相手にダメージが与えられなかったことを悟る。
同時に、彼我の力量差を痛感することとなった。


―――例え伊佐那岐を使っても勝てない。死を誤魔化せる術を使おうとも、いずれは捕まり括り殺される。

そう判断した後のダンゾウの動きは早かった。
その場から逃げるべく足にチャクラを籠め、地面を蹴る。練達の動きは見事なもので、一足でダンゾウは数十間の距離を空けることに成功していた。

しかし、足らなかった。たかが数十間、ペインにしては無いも同じ。

ダンゾウに向け、ペインの掌が突き出された。

「万象、天引」

声が、響く。

同時、ダンゾウは宙に舞った。

まるで見えない手に引っ張られたかのように、とある方向に向けて飛んだのだ。
離れていても関係がなく、踏ん張ろうとも地面ごと持っていかれる。遠くにある手摺に鋼糸を巻きつけるが、それもペインの投げたクナイによって千切れてしまう。

何をしても引き寄せられるダンゾウ。
あのてこの手で耐えようとしたが、いずれも無駄に終わった。

努力は徒労となり、やがて終点に至るのだ。

気づけばダンゾウは、ペインの間合いの中に入っていた。

「ぐっ、ペイン――――!?」

叫ぶダンゾウ。
ペインは構わず、十尾をけしかけた。

呼応した十尾の黒の身体が、ダンゾウを包み込んでいく。
ペインはダンゾウが囚われたことを見届けると、そこから背中を向けた。

「くっ、かくなる上は………」

そこでダンゾウは腕の拘束を解いた。
伊佐那岐を使おうというのだ。


―――しかし、伊佐那岐は発動しない。
腕に在るうちはの眼は応えたが、禁忌とも言われる瞳術は、その効力を発揮しなかった。

「馬鹿な、何故伊佐那岐が使えない!?」

「伊佐那岐。己に都合のいいように世界を塗り替える、だったな。しかしそこは十尾の中。既に異界だ。だから無駄と知れ。世界の中に新たな世界は作れない」

焦るダンゾウ。対するペインは、最後まで冷静に、告げる。

「幕だ、ダンゾウ。ここより先、お前に役目無し。故に速やかに、舞台から降りるがいい」


「馬鹿な、ワシが、こんな、死に――――!?」

ダンゾウの断末魔が響き渡る。

数秒の後、聞こえるのは雨音だけとなった。

「……ようやく、終わったか」

ペインは自分が降らせた雨を見上げながら、つぶやいた。
そのまま、両手を広げる。雨を全身に受けながら、ペインはやがてその顔を伏せた。

「―――これで全ては整えられた。邪魔をする輩はもう、居ない」

ペインは確かめるように、自らの胸元をかきむしるように掴んだ。

「やったよ、二人とも。ようやくここまで辿りつけた」

ここではない何処かに、ここには居ない誰かに語りかけるようにペインは言葉を綴る。
しかしその時、ペインははっと顔をあげた。

「………ふむ、随分と集まってきたようだな。流石は木の葉隠れの里。対応が速い………」

ペインは己のチャクラを投影させた雨の中、こちらに集まってくる気配を感じていた。

感知系の忍者を遥かに上回る精度で、気配を読み切ってみせる。

それはこの雨のおかげであった。

―――雨虎自在の術。

ペインは木の葉に侵入する前にこの術を使い、雨を降らせていたのだ。

雨はペインの感覚とリンクし、雨粒に触れた者の情報をペインにもたらす。
本来ならば侵入者対策の術だが、自らが侵入する時、特に特定の対象を見つける時に役立つ術でもある。

雨が降れば見つかりにくくなるし、特定の相手を探すこともできる。
相手の居場所が分かれば逃がすこともなくなる。正に一石三鳥の術である。

敵地で見つかった場合でも、気配が読めるにこしたことはない。
逃走経路を割り出すことができるからだ。

「しかし多いな………はたけカカシに、マイト・ガイ。猿飛アスマに………ふむ、飛段と角都と戦った者達は居ないようだな。流石にあの怪我では来れんか……?」

そこでペインはとある気配を感知した。
その方向に視線を向ける。


「これは…………自来也先生と、あいつか。あの石碑の前で何を話しているか、興味があるところだが………今はそれよりも優先させねばならんことがあるか」

ふっと、ペインはため息をはいた。その後、後ろへ振り替えり、背後に潜んでいる気配に向けて言葉を発した。

「―――そうだろう、そこにいるお前たちよ」



その問いに対する返答は言葉ではなく、大量の起爆札付きクナイであった。


―――爆発。

雨の中、大量の起爆札が一斉に爆発した。爆風は周囲の雨水を容赦なくはじき飛ばし、周囲に勢いよく飛散する。

それは壁にたたきつけれられたと同時、びたびたびた、という音を発する。


「………やったか?」

「分からん。だが、油断はするな………!?」

奇襲を仕掛けた中忍二人。
しかし彼らは最後まで言葉を発することなく、周囲に漂っていた煙もろとも、不可視の衝撃はにより吹き飛ばされた。

中忍の二人は屋上からたたき出され、そのまま通りへと落下していく。

「お前たち程度にはやられんよ………だが、足止めにはなったようだな」

晴れた視界の中、ペインは自らを囲むようにしている木の葉上忍衆の姿を捉えていた。
対する木の葉の忍び達は、最大限の警戒体勢に入っている。

それもそうだろう。目の前の相手は誰にも気づかれることなく里の中に侵入した上、このような中枢部までたどり着いているのだから。

「…まいったね、どーも。侵入者対策の結界があった筈だけど?」

「抜け道はいくらでもあるということだ、はたけカカシ。それよりも………実に豪華な面子だな。日向、犬塚、油女、奈良に山中に秋道。三代目火影の息子に、木遁使い。なんだ、今から戦争でもするつもりか?」

「ああ、戦争といえば戦争だ………相手は一人だけどね」

「息子と居候が世話になったらしいな。今からその礼をしたいんだが、テメエはどう思う?」

「奈良シカクか」

居候が世話になった? とペインは胸中で疑問符を浮かべた。

しかし、すぐに思い出したようだ。顔をくいとあげ、その答えを口に乗せる。

「七尾の人柱力のフウか。そういえば波風キリハの後見人の一人でもあったな、お前は」

「その通りだが………テメエ、何故そこまで知ってやがる? 俺達全員の事も知っているようだが………それも、神の御業とかいうやつか?」

勘弁してくれ、と頭をかくシカクに、ペインは至極真面目に答えた。

「敵を知り、己を知れば百戦危うからず。目的を達成する下地はいつだって情報だろう? ―――それを徹底しただけだが、どこか可笑しいところでもあるのか」

「可笑しくはないな。全然、可笑しくねえよ」

ペインの言葉を聞いたシカク、そしてその場に居た全員が、背筋に流れる冷たい汗を感じていた。

(カカシ先輩)

(ああ。万の術を操る仙人、その上チャクラは無尽蔵。加え油断も無し、か………わかってはいた事だが、本格的にまずいな)

(それに、この威圧感は………カカシ先輩、これが例のペインという暁の首領ですか)

(ああ。気をつけろよ、ヤマト。こいつが相手じゃあ、正直この人数でも危うい)

そうして、木の葉の忍び達はより一層の警戒態勢に入る。
誰もが自らの武器を手に添えている。それは別名、臨戦態勢とも言った。

「………そう、構えなくてもいいぞ。とりあえずの目的は既に達したからな。今日の所は、だが………これ以上お前たちとやりあう気はない」

「目的を達成した、だと? まさか、七尾を!?」

「いや、七尾ではない。そんなに気にすることでもないと思うがな。ただ、ダンゾウを消しただけなのだから」

「「「っ何!?」」」

ペインの告げた言葉に、その場に居た全員が動揺する。


「奴の存在はお前たちにとっても害でしかなかった筈だが………何故そんなに睨む? 特にそこのお前だ―――ー五代目火影殿よ」

「っ!?」

カカシとガイはペインの言葉により後ろへ振り返る。
そこにはペインの言葉通り、五代目火影・綱手とシズネの姿があった。

「ちょ、火影様、危険です!」

「そうですよ、ここは………!」

カカシとシズネが綱手を止めようとする。
しかし綱手はペインに歩み寄るのを止めなかった。

「黙れ、二人とも! それよりも………ペイン。聞きたいことがある」

「答えられる範囲なら、吝かではないが」

「そうか。では………一つめからだ。先ほど言った、根のダンゾウをやったというのは本当か?」

「信じられないというならばそれでもいいぞ。俺に聞くより先に、根の構成員の舌を見ればどうだ?」

「そこまで知っているのか………分かった。あと、もう一つだが――――お前、自来也をどうした? あいつには会ったのだろう」

「会ったぞ。言葉も交わした」

「――――殺したのか?」

「殺してはいない」

「だが、あいつは戻ってきておらん。お前が何かをしたとしか考えられんのだ」

「帰りたくない理由があるんだろうよ。まあ、今は戻ってきているようだがな」

「………何?」

「あそこだよ。そっちの日向の白眼ならば見えるだろう」

と、ペインはとある方向を指さした。
それは木の葉の英雄達が眠る石碑がある方向。戦死者達の名前が刻まれている、墓碑のある場所だった。


「………ヒアシ、見えるか?」

「はっ………確かに、自来也様が居ます。あと、石碑の前に誰か………!?」

そこで日向ヒアシは白眼を更に強ばらせた。

「あれは………まさか、うずまきナルト!?」

「何!?」

ヒアシの言葉に、場が騒然となる。
そして、その機を逃すペインではなかった。

意識が逸れた瞬間に雷影の雷を纏う術―――彼と戦った際に理解した術―――を使い、神速とも言える速度で包囲網から抜けたのだ。

「ぐっ………待て!?」


「待たんよ。それではまた会おう、木の葉隠れの忍び達よ」
















~~~










「ん?」

『なんじゃ、どうした?』

「いや、今誰かに見られたような気が………気のせいか?」

周囲の気配を探ってみたが、近くには誰も居なかった。

「長門ではないのか?」

「そうかもしれない―――って、雨が急に………?」

土砂降りだった雨が、突如その勢いを弱めていく。

「通り雨………にしても様子が変だな。止むのが急すぎる。まるで雨を操ったみたいな………」

そんな超常現象を扱える誰かの顔が一瞬頭を過ぎったが、すぐに忘れることにした。
噂をすると出てきそうだし。地面から生えてきそうだし。

「まあ、いっか。それじゃあ、俺はこれで………っとああ、そうそう。ひとつだけ伝えておきたいことがあったんだ」

「伝えたいこと………ワシにか?」

「ああ。正確にはかつての弟子からの伝言です。それじゃあマダオさん、どうぞ」

と、俺は口寄せでマダオを呼び出す。

「呼ばれて飛び出ました。先生、お久しぶりです」

「ああ………直接会うのは2年ぶりになるかの。元気そうじゃ………というのもおかしいか」

「一応は死人ですからね。そんな死人から、先生にお願いごとがあります」

「お主がワシに願い事とは………珍しいな。ナルトの名を名付けた時以来か」

「そうなの!?」

今明かされる衝撃の事実。エロ仙人は俺のゴッドファーザーだったのである。

「でも"うずまき"ナルトって………離婚前提の名前じゃね?」

波風ナルトじゃあ、何か意味が違ってくるし。

「確かに………先生、これは一体どういう事でしょうか」

「うっ」

自来也がうめき声を漏らし、顔を逸らす。

「………つーかナルトってのも変な名前だよな。安直っつーか。まさか前日食べたラーメンの具から、とかいい加減な理由じゃあ………」

ってまさかな。それこそいい加減すぎるだろう。

ありえん(笑)。

しかしその時、自来也は盛大に咳き込みやがりました。

「え、先生………もしかして」

「ち、違うぞ、断じて違う! ミナト、そんな眼でワシを見るな!?」

「それじゃあ、そっちの意味で? ………そんな、先生がクシナを狙っていたなんて………」

「ち、違う! ワシは昔から綱手一筋じゃ―――」

「クシナは渡さない―――」

師弟の喧嘩は徐々に泥沼かつ混沌の様を呈してきているようだ。

一部告白などが混じっているような気もしたが、聞かないことにした。
こういうのは本人から伝えてこそ趣があるというもの。悪口なら即刻密告してやるのだが。

俺は二人から一歩引き、喧嘩の渦中から逃れたところで遠巻きに喧嘩の様子を見守っていた。

「おーはまっとる、はまっとる」

『バカばっかじゃの』

上手いキューちゃん。でもそれじゃあマダオがサレナなポジションになるんで。
それはちよつと勘弁な!

『う、気持ち悪い事をいうな。それよりもお主、気づいておるのか?』

「へ、何が………って、あ!」

そこでようやく俺は気づいた。

「誰か近づいて………って多っ!」

誰かってレベルじゃねーぞ、と一人突っ込みを入れる。
少なくとも10人以上、そのどれもが手練の忍者だ。





なんぞ、これ。



しかもよくよく気配を探ってみればこちらにやってくる皆さんは全員、有名人でいらっしゃる。
ガチ編成とかそういうレベルじゃない。一国を落とせるぐらいの戦力が揃っていやがる。

………なんや、運動会でもあるんかい。皆さん良い席取るために猛ダッシュかい。そんなにわが子の勇姿を近くで見たいんかい。
いやまさか全員で俺を捕まえに来たとか言わんよな。

『………動揺しすぎて口調が変になっておるぞ。まずは落ち着け。現実逃避をするな。あと木の葉に運動会とやらは無いと思うぞ』

それもそうだね。
俺はキューちゃんの連続突っ込みに驚きを感じつつも素直に従い、深呼吸をする。

ふー、落ち着いた。

「って落ち着いている場合でもないんだよね………流石にこの距離じゃあ、逃げ切れんか」

何より日向家当主が居るのがまずい。当主の白眼がどれだけの有効盗撮距離を保持しているのか分からんし。
あと犬塚さん家のお母さん&愛犬、油女さん家のグラサン親父が居るのも非常にまずい。

流石の俺でも、木の葉が誇る探知忍者、その中でもおそらく最精鋭であろう3人を相手に逃げ切る自信は無い。
今は飛雷神の術も使えんし。


「仕方ないなあ………かくなる上は、っと」




近づいてくる気配の群れをごまかすために。


俺は胸元で、十字の印を組んだ。
















あとがき

視点は

メンマ ⇒ 三人称 ⇒ メンマ。

忙しすぎててんやらわんやら。気づけば初投稿から一年が過ぎてました。一年以内には終わらせるつもりだったのに。ちくせう。

あと眠たい。暑い。しんどい。

なので更新、次も遅れそうです。感想返信もちょっと滞りそうです、すみません。



[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 七十九話 「木の葉にて・中」
Name: 岳◆3d336029 ID:6d0af7c1
Date: 2010/06/20 22:53





「あれは………そんな、まさか!?」

「馬鹿な………あいつは死んだ筈だぜ!?」



うずまきナルトが居ると聞いて駆けつけた、木の葉の上忍達。

しかしたどり着いた時、彼らの眼に映ったのはうずまきナルトではなく、別の者の姿だった。

彼らにしてもよく知った、英雄の姿。

かつて里を守るために命を投げ出した、金髪の忍者がそこに居たのだ。


「四代目……!?」


眩しい程に輝く、金の髪。
青空のような、蒼い瞳。

皆が失い悲しんだ、英雄の姿がそこにあった。


「久しぶり、といった方がいいのかな。シカクにチョウザにいのいち。ツメさんにシビさんに………ヒアシさん。綱手様に………カカシ君」

軽い笑みを浮かべ、ミナトは皆に告げる。

その声を聞いた木の葉の面々は、一部を除いて驚いていた。


「ほ………本当にミナトか?」

シカクの、信じられないという風な問いかけ。それに対し、ミナトは苦笑しながら自分の足を叩く。

「一応、足はついてるよ」





~~~~





(………確かに足がついてるな。数は3本だけど………あいてっ)

(シモネタ禁止。で、これからどうするの?)

―――と。

マダオは腰のホルスターに入れられたクナイ―――に変化した俺をかるく小突いた後、どうするのかを聞いてくる。

(どうにかして誤魔化して下さい。制限時間は一日。文字は五文字以内で)

(参りました)

( ぎ ぶ あ っ ぷ ! )

無駄に渋い声で言ってみた。

(というか何で僕が直接のやり取りを?)

(いや、俺はこの人達とは面と向かって話したくないし。それにこれからの事を考えたら、ね。あと相手の数が多すぎるのもある。こうも手練の忍びに、しかも見知らぬ野郎共に囲まれるとね。条件反射で逃げ出したくなる)

哀しいかな、逃亡者としての性である。
もしかしたら、という疑念が消えてくれないのである。
一応信じてはいるが、頼ることは今更できないのもある。

(だったら、逃げればいいじゃない)

(いや、どうせこれで最後になる―――だからな、マダオ。一度だけなら波風ミナトとして、別れ際に言葉を残せなかった英雄として。
 面とむかって、かつての仲間と話をしたってバチは当たらんだろう。なに、一夜の夢と思えばいいさ)

互いに、積もる話もあるだろうから、と言うとマダオはしばらく考えた後、静かに首を縦に振った。

(………分かったよ。ここはありがとう、と言うべきかな?)

(どうとでも。それより、ぼかす所はきちんとぼかしてくれな)

(了解)



と、いうことで俺とキューちゃんは全力で隠れる事に決定した。

問題はあらかたの事情を知っている自来也、綱手、カカシにヒアシをどう誤魔化すかだ。

まあ、ここはマダオに任せるしかないのだけれど。


(………何故かとっても不安になるのじゃが?)


奇遇だなキューちゃん。俺もだよ。

と、そんなこんな言ってるうちに一人、マダオへと近づく人が居た。


「本当に、ミナトか? いや、しかしお前は九尾事件の時に………それに、今まで何処で何を?」


「それなんだけど………」


つらつらと、マダオは大事な部分をぼかして説明を始める。

九尾を封印した際、最終の安全装置となるように自らの精神の半分を封印した事。

例の暗殺未遂事件の際に波風ミナトの魂と、うずまきナルトの魂が融合してしまった事。

先程うずまきナルトの魂は眠ってしまって、しばらくは目覚めないということ。

説明の途中、エロ仙人が何事かを突っ込もうとしていたが、それはマダオの視線によって阻止された。

曰く、"バラしますよ?"

………色々な心当たりがあるエロ仙人は、それだけで黙り込んだ。

というかエロ仙人自身も、何故か壮絶な表情を浮かべている綱手自身に睨まれているのであった。
ナメクジに睨まれた蛙というところだろうか。微妙に視線を逸らしながら、かたかたと震えている。
こっちにかまっている余裕もないようで、一言視線だけで告げれば、すぐに指摘の指は引っ込めた。

(………一体何やったんだろうか。どうもただ事じゃないように思えるけど)

(あれは恥をかかされた女の顔じゃな)

(分かるの、キューちゃん)

(こう見えても、我は女じゃ。分からん道理があるか)

(いや、キューちゃん――――九那実は確かに女だけど………)

服の垣間に見える、雪のように白く染みもない、綺麗な肌とか。
いつかの温泉で聞いた声とか。その夜背中に感じた、双丘の感触とか。
あ、やべ、思い出しているうちに興奮してきた。

(な、お主何を笑っている? ―――今、変な事を考えたな? 変な事を考えたな!?)

(ちょ、落ち着いて、変化解けちゃうから!)

(ぐ………くそ。外に出たら覚えておれよ)

(う、後が怖い………とまれ、マダオ。何やら向こうさん、半信半疑だけど?)

(そりゃあ、言葉だけじゃね。僕が本物か、って疑うのは当たり前だろ? 実際、死人だし)

手練の忍びは変化でない変装とかも用いるしね、とマダオが言う。

(仕方ないこれは禁じ手だったんだけど………)

と、マダオは一歩木の葉の忍び達の方に近づく。

すると幾人か、警戒の動作を見せるものたちが居た。

「やっぱり、言葉だけじゃあ信じられないようだね………無理もないか。じゃあ、僕が本物という証拠を見せるけど………」

マダオは猪鹿蝶の三人の方を意味ありげに見ながら、口を開く。


告げた言葉は3種類。どれも、愛を告げる言葉。いわゆるひとつのプロポーズの言葉であった。

こんな時に何を言っているのか。その場に居たほぼ全ての人間がそのような事を思っただろう。

だが、3人だけ、劇的な反応を見せる者達が居た。


「な、それは………何故それを!?」

「お前、まさか………!」

「盗み聞きしていたのか!?」

ぶっちゃけ猪鹿蝶の3人でした。どうやら彼らが妻にプロポーズした時の言葉らしい。


「いやだな、盗み聞きはしてないよ。あの時はみんなで相談したじゃない。プロポーズしたいんだけど、どんな言葉が良いかって。よその人も参考にしてさ」

「………そういえばそうだったな。すっかり忘れてたぜ」

「ぐ、しかし………ということは、本当にミナトなのか?」

そのような事―――他人に聞かれたくない言葉でいえば三指に入るであろう、プロポーズの言葉を知っているとは、他人ではありえない。
まず、自分からは死んでも漏らさない。それに言われた妻の方も、色々な意味で漏らせないだろう。

「そうだ、って言ってるじゃない。ちなみに一番参考になったのは、あれだよね。童顔巨乳若妻をゲットした、日向ヒアシさんの――――」

「ば、てめえ、よせミナト! それは誰にも言わない約束じゃ―――」

慌てた様子を見せる3人。若気の至りかつ、知られてはならなかった秘密を知られた事によって3人は本気で焦っていた。

「ほう。その話、詳しく聞かせてもらおうではないか―――拳でな」

木の葉で最強の一角を担う、日向家当主日向ヒアシ。
彼の足の下には今、太極の紋様が描かれていた。

「は、八卦六十四掌!?」

「ちょ、日向の、落ち着かないかい!」

鬼気迫る表情で奥義の構えを見せるヒアシ、それを全力で止める油女シビ、犬塚ツメ。本気と書いてマジと読むチャクラを前に、二人は珍しく慌てた様子を見せていた。
ちなみに太極の網に囚われた3人は、蒼白である。

(そういえば胸でかかったよなあ………しかも童顔だし)



一方、プロポーズ云々の下りを聞いた綱手は怒りを加速させていた。
理由は問うまでもないだろう。矛先は勿論自来也である。

「あひぃー!?」

「つ、綱手様!?」

「ちょ、自来也様、完全に首絞まってますから―――!?」

「ええい、止めるな3人共」

シズネ、アスマ、ガイが必死に止めるも無駄に終わった。
自来也は綱手の怪力により襟元を締められぶんぶん振り回されたまま、意識を失った。
背後に天国への階段が見えたような気がした。

(これで二人か。マダオ、恐るべし)

(………会話のペースを一気に持っていきおったの)

解説するしかない俺達は、じっとその混沌の様子を見守っていた。
ちなみにキューちゃんは怒り気味。さっきのあれのせいだろうか。

そんな中、一人マダオに近づく影があった。一応はこちらの事情を把握しているだろう、はたけカカシだ。

「先生………いくらなんでもこれは無いんじゃないですか?」

「ん、ちょっとした意趣返しにね」

目だけ笑っていない笑顔で、黒い事を言うマダオ。
だがその直後に、ふっと表情を緩めた。

「……それに、色々と誤魔化せるにね。一石二鳥というやつさ。それもこれで終りにするけど」

自分にも責任はあるし、とマダオは肩をすくめた。

「ナルトの奴は?」

「ここ」

(いてっ)

コツン、とマダオがクナイに化けている俺を小突く。

「成程。変化する直前、こちらに視線を向けながら口に指をあてていたのは、このためですか」

「あの距離でこちらが見えるのは、ヒアシさんかカカシ君だけだったからね。事情をそれなりに知っている二人だし、分かってくれてよかったよ」

「言われた通り、オレもそれなりに事情は把握していますから。それよりも、ナルトの奴が隠れたのは?」

「ああ、彼なんだけど、どうも大人数、しかも大人の忍びと対峙するのは苦手らしくてね………と、しかし子供が居ないね」

「キリハ達なら大事を取って入院中です。暁と戦った時の傷がまだ完治していないので。大事を前に、傷が深まっても困りますからね。同期の面子と一緒に、今は入院中です」

「そうか………後で会いに行こうかな」

「後で、で良いんですか?」

「いや、暁と戦闘した後、話はしたからね。それよりもこの面子が一斉にこの場に現れるって、どう考えてもおかしいんだけど」

何かあったの、とマダオが聞くと、カカシは眼を細めながら答えを返した。

「ありましたよ。実は先程、ペインが現れましてね………」

と、カカシから説明を受ける。

ダンゾウ含む、根の構成員が幾人か殺された事。
その後ペインは逃げていったこと。

それを聞いた俺達は、別段驚くこともなく頷きを返した。もとより予想していたことだからだ。
音隠れを襲った黒い化物の情報、大蛇丸が殺されただろうという情報は、俺達の耳にも届いていた。

関連付けとペインの目的を考えれば、容易に予測できることだ。

「しかしサスケ君は悔しがるだろうなあ。徹底的にボコりたいと言っていたし」

「………そういえばサスケの奴は何処に? 先生達と一緒に行動していると聞いていましたが」

「………ちょっとね。でもイタチ君、多由也ちゃん居るし大丈夫だと思うよ。一応の札は渡してあるし」

使わないにこした事ない札だけど、とマダオは言う。まったく同感だが、クナイが一人でに動くのは奇怪そのものなので黙ってじっとしておく。

「この後は、どうするつもりですか?」

カカシが問うてくる。思えば落ち着いて話が出来る機会は皆無だったし、カカシとしても先生と話したいのだろう。
マダオは頷き、混沌が収まってきた場を見渡しながら、言った。



「今からちっとあの店に繰り出しませんか」と。











そうして、数十分後。

俺はキューちゃんと二人、とある居酒屋に居た。

「一夜限りの再会。といえば、酒盛りは基本だよね」

あの後、クナイを化した俺は、さりげなくその場に残ったまま。去っていったと同時に、変化を解き、距離を取って待機していたのだ。

そのまま去っていく木の葉の集団を尾行する。歩いて数分後、木の葉の中心へ向かっていたマダオ達一行は、とある酒場に入っていった。
そこは前に聞いた店で、生前通っていた同期達のたまり場でもあった居酒屋。

自来也も時々顔を見せる程で、酒も料理も旨い店らしい。

一夜限りの再会。笑って飲んで別れようじゃないか、という所だろう。
色々と複雑な背景、過去を背負っている木の葉の忍び達は、酒がはいらなければ出来ない話もあるだろうし。

そう離れる事もできない俺達は、一行についていって店の中に入ったのであった。

「………しかし、その複雑な要因の代表格である、お主が抜けておるようだが?」

よいのか、と。
キューちゃんは視線だけで問うてくる。

「それでいいんだよ。俺なんか、居ない方がいいって。それに、あの空気の中へ入っていく勇気も無いしね」

居心地が悪い空間に好き好んで入っていきたいとは思わない。
俺に出来ることといえば、同じ店で飲むことだけだ。ある程度近くにいないとマダオが消えてしまうから、こうせざるをえなかったのだが。

「そういえば自来也の方はなにやら逃げたがっていたが?」

「ああ、綱手姫となんかあったようだね。どうでもいいけど」

男女の間に割って入るつもりはない。無粋も極まる。痴話喧嘩に巻き込まれるのも嫌だし。

ちなみにふたりとも大人の姿に変化中だ。
俺は黒髪の成長バージョン、九那実は17歳バージョンである。

「しかし、お主相変わらず木の葉の忍びからはある程度の距離を取るの」

「いやいや条件反射というか、パブロフの犬というか。木の葉の、しかも大人の忍び集団を見るとね………つい、逃げたくなっちゃうんだよ」

消防団員が、旅行に行った時自然と避難経路を探してしまうのと同様。
木の葉の忍びを見たら逃げろ、という判断基準が無意識のレベルで刷り込まれているのだろう。

屋台の時のように店でひとりふたり相手するのは構わないが、あんな集団と対峙すれば何をしてしまうのやら、自分でも分からない。
流石に無意識は無意識だからして意識的に干渉できないのだ。

「ふん、言い訳にも聞こえるが」

「そうだね。確かに、言い訳だ………って、そんなことより料理を頼もうよ。せっかく来たんだから」

と、俺達はテーブルに置いてあったメニューを見る。

「ほう、これは………」

「うん。何でかしらないけど、油揚げ使った料理が多くあるねえ。数も豊富なようだし……って本当に豊富だな」

なんでだろう、と考えた時に、一つ思い当たることがあった。

「ああ、エロ仙人か」

そういえば何時だったか、エロ仙人に油揚げ料理について熱く語ったような気がする。
自来也もこの店によく顔を出すと聞いたし、料理についていくつか提案をしていたのかもしれない。

「でも、俺の料理よりは旨そうだなあ。和え方もまたにくいねー。流石は料理一筋の本職、ってところか」

他のメニューを見るに、どうにもここの料理長は只者ではないようだ。
一品一品にセンスが感じられる。

俺はメニューの中から、九那実が好きそうな料理を注文していく。
ラーメンが無いのは残念だが、今日の所は仕方がないだろう。

「取り敢えずは、それだけで」

「………かしこまりました」

注文を受けた、18歳ぐらいの男店員。
彼はわくわく感を隠しきれず笑みを浮かべているキューちゃんの方をちらりと見た後、下がっていった。

―――頬が僅かに赤く染まっていたが、なぜだろうか。

不思議に思った俺だが、正面にいる人物を見てすぐに理解した。

―――ここで唐突だが、キューちゃんはかなりの美人である。いや、とっても美人である。それは今更言う事でもない。

そこで、そんな美人が、大好物を前にした子供のように、無邪気な笑みを浮かべている姿を想像しよう。

(うん、反則だね)

男ならば体外は、正面から直視した時点で幻術を受けたかのように硬直してしまうだろう。
今は幼女モードではなく少女モードだから、余計にである。

(というか、変わったよな)

以前ならばもう少し堅い笑顔を見せていただろう。最初に出会った頃ならば笑みも浮かべなかったはずだ。
こっちに来て12年、俺もそれなりに変わったつもりだったが、キューちゃんもそれは同じらしい。

変化したというのか、成長したというのか。
それを本人に聞いてみると、意外な答えが返ってきた。
キューちゃんが成長したのは、俺のせいであるという。

「って………"せい"?」

「"せい"、じゃ。全くあっちでドカン、こっちでボカン、それも不利な相手に挑みまくるわ。デタラメな夢を信じて疑わず、馬鹿みたいにまっすぐに突き進むわ」

文句が多そうなキューちゃん。だが、彼女はそのすぐ後に笑顔を浮かべた。
いや、笑顔の質が変わったというのか。

それは見たことのない顔。俺の知らない、九那実としての顔だった。

「だけど、退屈だけはしなかった。心の中で感じたお前の怒りは心地良かったし、お前に関わるものほとんどが馬鹿な意地を持っていた。人間故に無様で、しかし誇り高い何かを胸に秘めていた。
嘘も無く、本気で笑って、泣いて、怒って。憎しみが少なかったのは何故だろうな。それもお主を見ていれば分かる気がするが」

ふふ、と笑う九那実。

俺はその声を聞いた時、背筋走るものを感じた。
それは、恐怖ではない。何か得体の知れない、感情の河のようなものが、俺の背筋を走っていく。

「………どうした、顔が真っ赤じゃぞ?」

「あ、え、と、これは………」

思わずどもってしまった。我ながら情けないが、顔の火照りを抑えられない。
それでも目の前の九那実から眼が話せない。

俺はどうしたものかと慌てながら、先程の言葉で引っかかった部分を聞いた。

俺の怒り、という点についてだ。

「自覚なし、か。まあ感情をある程度でも共有できるというのも本来ならばありえんことじゃろうしな」

「それは、そうだね」

話しあったり、同じような境遇であったり。
抱く感情を分け合うことはできるが、全く同じ感情を胸の内に抱く、というのは本来ならば不可能なのだ。

写輪眼による心写しの法でも、他人の感情を完全に理解することはできないだろう。
人は一人一人違うのだからして当たり前のことなのだが。

「だが、我らは可能であった。あの夜より今まで、我はお主の胸に抱かれていたといっても過言ではないのだからな」

「そう言われると何か、照れくさいね」

「我の方が照れくさいわ。まったく、恥ずかしげもなく臭い言葉を発しながら憤りよって」

「ご、ごめん」

「……冗談じゃ、謝らずともよい。本当に怒っているわけではないのだからな―――むしろ、感謝をしている」

「感、謝?」

俺の聞き返しに九那実は頷くと、あの夜を覚えているかと聞いてきた。

「鬼の国。巫女を攫うべく集まった手練達を相手に啖呵を切った、あの夜のことじゃ」

九那実は真っ直ぐに俺の眼を見ていた。その瞳は赤く夕焼けのように輝いていたが、少し潤いを帯びていた。
そんな時、料理が運ばれてくる。店員の彼は取り込み中だと察したのか、声をかけないまま、料理を置くとすぐに下がっていった。

九那実は店員が去っていくのを確認したあと、言葉を続ける。

「馬鹿なことを、と思った。自らの命を危険に晒すお前を馬鹿だと思った。しかし、あの時―――あの焔を知った時に、その考えは覆った」

九那実は自らの胸にそっと手を添えながら、言う。

「憎しみのない、含むものの無い、天を鳴らす雷光のような。許せない事を許せないままにしておけないという、想いの奔流を知った。憎しみしか知らない私は、あの時に本当の感情というものを理解した。いや切っ掛けとなった、か」

まるで何かを思い出すかのように、九那実は遠い眼をしながら笑う。

「馬鹿をやったな。戦いもした。色々な人と出会った。平穏な日々を知った。一つ所にとどまって、隠れて過ごしているだけでは分からなかったかもしれん。そういう点でも、感謝はしている」

「………俺の、好きにやっただけだから」

許せないことを許せないからして許せないと言っただけ。
だから感謝をされるのは筋違いだ、といいながら運ばれてきた料理をがつがつと食べる俺に対し、九那実は笑いながら首を横に振った。

「それでもじゃ。"人"を見せてくれたそなたに感謝を。そして―――感情というものを教えてくれたそなたに、最大級の感謝を」

視線をあわせそんな事を言ってくる九那実。それに対し、俺は言葉を返すことができなかった。
なんと行っていいのか分からなかったからだ。

やがて、互いの間に沈黙の帳が落ちる。
そんな中俺は、今の言葉について考えていた。

―――感情。何かを感じる人を、動かすもの。心の揺らぎとも言える。
九那実はそれを初めてしったのだという。それはどういうことだろうか、と考えた時、答えが閃いた。

憎しみしか知らなかった、と言ったのを思い出す。

(憎しみだけじゃあ、感情とは言えないわな。ましてやそれが、外部からの干渉によるものなら)

誰かが言ったが、人は愛情の裏に憎しみのリスクを背負うと言う。
それは全くその通りで、人は誰かを好きになるからこそ、失った時にその原因となったものを憎む。
しかしそれは大切なものがあって初めて成り立つこと。

自分の中に大切な何かがあってこそなのだ。
九那実はそれを初めて理解したという。つまり今までは、大切なものなど無かったということだ。

人の憎しみを貪るだけの怪物であった九尾の妖魔ならば、それもそうなのだろうが。

俺はその過去を思って悲しい気持ちになるとの同時、今は違うという言葉に喜びを感じていた。

つまりは、九那実にも大切なものができたということだ。
喜びを理解し、楽しみを理解する心が芽生えたということだ。

―――本当に、良かった。
意図した訳でもないが、俺の馬鹿な行動が原因となり、いつも傍に居た人、親友にして相棒が幸せになってくれて、本当に嬉しく思う。

しかし、これだけは言っておかなければならない。
俺も、助けられたのだということを。

その事を伝えありがとうを返すと、九那実は目を点にした後、はて、と首をかしげた。
ぱくぱくと食べていた動作を止め、俺の顔を見てくる。

俺はその様子に苦笑しながら、助けられた内容について説明する。

「何時も、さ。例えば戦闘中、苦痛に負けて挫けそうになった時………いつも、声をかけてくれたろ?」

膝を折る寸前、いつも言ってくれた。諦めるのか、と。

「………分からんな。それがなんで感謝になる?」

「思い出させてくれたからさ―――今、俺の背中は女の子に見られているんだってことを」

「―――な。な、なぬを、いや何を言っておる!?」

「いや―、女の子を後ろにしてさ。挙句、諦めるのかなんて、そんなこと問われたらさ―――やるっきゃないって。男なら、そう思うのは仕方ないだろ」

格好を付けたいのだ。女の子を前に、チキンにはなりたくない。誰かを見捨てるような下衆な所は見せたくない。
そこは、全国共通、全世界共通の、男としての意地である。馬鹿な男の意地ともいうが、そこは退けない。

そう伝えると、何故か九那実は顔を真っ赤にする。

「お、女の子? 我が、か?」

「どこからどうみても。こうして、油揚げを食べている所とか特にね」

時々無邪気すぎて抱きしめたくなる。
そう言うと、九那実は顔を真っ赤にしながら硬直する。

「お、お主………もう酔っておるのか!?」

「実のところ、少し。でも酔った勢いとか、そういうんじゃないから」

面と向かっては、あるいは誰かがいるなら照れくさすぎて死にそうなので言えないが、こうしてここに二人居るのであれば言える。
顔が真っ赤なのはご愛嬌だと思っていただければ。

そう言うと九那実は顔を真っ赤にしたまま「この、ヘタレが!」と叫んだ。

それは己も自覚している所なので、何ともいえないが。



しばらく俺と九那実は無言のまま、黙々と料理を食べ続けていた。





ひとしきり注文した料理を食べ終わった後。

俺は九那実に対し、味はどうだったか聞いてみた。

ふたりとも、直後は沈黙のまま顔を真っ赤にしていたが、流石に数分過ぎた今では顔は元に戻っている。
互いのやりとりも先程はどことなくぎこちなくなっていたが、酒が進むとそれも消えた。

酒の魔力というやつだろうか。結構恥ずかしい言葉を交わしたような気がする。
酒は人に勇気をくれるというが、そのとおりなのか。

いや、時には蛮勇というか、どうしようもない事を口走ってしまうので、酒の力に頼り切るのは駄目なのだが。

「………うむ、うまかったぞ。だが、白には及ばんな」



「そうだねえ。良妻賢母位階でいえば、五影クラスだもんね」

その五影は、良妻賢母レベルでいえば何級なんだろうか。

「うむ。しかし、あやつらももう、居ないのじゃな」

「……やっぱ、寂しい?」

別れの直後は実感できないが、今になって現実味というか、はっきりと認識したのだろう。
九那実は少し寂しそうな顔を見せていた。

「ん、実のところはな。そういえばさっきの話の続きになるが、人が居なくなって寂しいと思うのは、あやつらが初めてじゃな」

「そうなんだ………でもまあ、永遠の別れ、ってわけでもないし。あの二人ならきっと、やってくれるだろうしさ」

「ああ。再不斬のやつだけでは心もとないが、白が付いていれば大丈夫じゃろ。あいつは何だかんだ言ってやる女じゃ」

「そうだね。ま、生きているなら、また会えるさ。この戦いが終わった後にね」

俺も、死ぬ気で“アレ”を使うが、死ぬつもりはない。

そう言うと、九那実は―――しかし、その笑みを凍りつかせていた。

「………九那実?」

「―――いや。そう、じゃの。生きているなら、また会えるか」

「そうだけど………大丈夫? 顔色が悪いけど、食べ過ぎた?」

「いや、気にするな。あと我はまだまだいけるぞ」

「そうこなくっちゃね」

勇ましい九那実の言葉を聞いた俺は、追加の注文を頼む。

「ふむ、全部制覇してみるのも面白いか」

「そうだね………っと、九那実。ほっぺたに米粒がついてる」

「む、何処じゃ?」

「ああ、そこじゃないって………ここだって」

と、俺は九那実の頬にあるご飯粒を取ってやる。

「取れた取れた」

「………」

「ん、どうしたの? え、手をこっちに? いいけど………って、痛え!?」

ジャスチャーの通りに手を近づけると、九那実にがぶり、と手を噛み付かれた。

「―――こ、この馬鹿! 何の前振りもなく、肌に触れるでないわ!」

「いや、肌って。ほっぺたじゃ―――すみません、私が悪うございました」

目が非常に怖かったので、素直に頭を下げた。

「ふん、それでいい。次からは気をつけろよ」

と、曰う九那実。だが言い返すことはない。
いや普通に怖かったし。眉毛がある再不斬より怖かった。俺に優しいサスケより怖いかも。

「………前半も後半もイマイチ怖さが分からんが………というより、サスケの件に関しては自業自得じゃろ」

からかい過ぎたお主が悪い、と九那実は呆れた口調になる。

「いや、からかった時のリアクションが面白いのでつい………」

やりすぎて警戒されるようになったのはいい思い出だ。
任務中は流石にそんな様子は見せないが。俺もしないし。

「多由也に渡したあの切り札はどうなんじゃ」

「いや、俺も苦肉の策でね? まあ、サスケの心境を考えるに、使われないことに越したことないとは思うけど、備えあれば憂いなしというか」

「ふむ、それはそうかもしれんな。あやつも、そうは怒らんかもしれん。だが、部屋に仕掛けたあの罠があれば分からんぞ」

三位一体のジュウシマツを言っているのだろう。あれがもしサスケに命中すればどうなるのだろうか。

考えてみた。

「………雷遁秘術・武甕槌、かな」

「雷遁・神雷かもしれんのう」

多由也に授けた切り札に悪戯心はないのだけれど、荷袋に仕込んだ罠はある。むしろ満載である。
その仕返しに、と白熱されれば厄介な事になるやもしれぬ。

「あやつが万華鏡に目覚めておらねば良いがの」

「ああ、そういえばそういう可能性もあったんだっけ」

カカシも開眼しているという、万華鏡写輪眼。大切な人を失う、という点に関連があると思うが、イマイチはっきりしないのだった。
試してみる気にもなれんし。

「仮死状態の多由也………擬似的な体験と言える。もしかしたら開眼できるかもしれんしの」

「そうなれば………え、月読無双!?」

想像してみた。
きっと俺は夢の中で永劫、大蛇丸の全裸を見せつけられるのだろう。

「うう、悪夢ってレベルじゃねーじゃんコレェってばよ、うん!?」

「………色々と混ざっておるぞ。あれを仕掛けた時点でそうなる事、気づいてもよさそうなものじゃが」

「いや、に渡した仕込みクナイのね? 材料の残りでね? 吸盤と、墨の残りがあってね? それで、ふと思いついてね? ―――気づけば、罠は完成していたんだ」

「………しっぺ返しをくうとか、そういう事は?」

「うん、今考えれば確かに。でもあの時は、"これで誰かの驚く顔が見れる"の一心で。他の事はあんまり………」

「………お主は出たての芸人か」

「しかも天然系だね☆」

「だね☆、じゃないわ、このおろかものが」

「といいながら、密かに料理を全てたいらげるキューちゃんであった」

気づけば、皿の上は空っぽであった。
そういえば、会話している合間合間にもぎゅもぎゅしてたね。

「う、うるさいわ! ほら、次じゃ、次!」

「はいはい………」

俺は店員さんを予備、追加の注文をする。

あのテーブル異常に速い、とか、バキュームコンビ、とかいう声が聞こえたが、バキュームはコンビじゃなくてソロでございます。

「少し時間がかかるようだね………っと、そういえばマダオの方はどうなんだろう」

「覗いてみるのか?」

「影分身は配置しているしね……っと、つながった」

と、俺は影分身を中継に現場の言葉を聞いてみた。









人形に化けた影分身が現場を映す。

まだ十分程度しか経っていないというのに、場はすでに最高潮。

宴もたけなわというところであった。

そこで一人、金髪の馬鹿が立ち上がる。

「一人目、波風ミナト! 一発ギャグ、行きます!」

「「「おー!」」」

ぱちぱちという拍手の音が聞こえる。


その後、マダオの叫び声が聞こえた。


「はい!!!」



「………それは、火の実?」



罰ゲーム業界にその名を轟かせる、激辛の代名詞。
別名、悪魔の実か。


そんなシカクの問いに対し、マダオは答えた。




「いいえ、クシナです」




「「「………ッ!」」」



ミナトとクシナの同期らしき面々の馬鹿笑いが、個室に木霊した。













意識が戻った後、俺が取った行動は一つ、嘆息であった。

「………何か、見てはいけない光景を、聞いてはいけなかった言葉を聞いたような」

「あやつも随分と弾けておるのう。すでに出来上がっていると見える」

これも、酒の魔力か。そう思った時、心の中で誰かが突っ込みを入れた。



「―――? ん、何か俺の中にいる何かが一瞬、煮えたぎったような気が」

あと、"潰れたトマトみてーにしてくれんゾ?" とかいう声が聞こえたような。
しかも女性の声で。

「うう、一体誰の声なんだ………つーかすげえ怖かったんですけど」

具体的にいえば油揚げを横取りした時のキューちゃんぐらい。
思い出すだけで震えがくるぜ、あの時の九蓮の焔。巻き添えで黒焦げになったサスケと再不斬。

「………ふむ、我にも聞こえたぞ。何者かは分からんが、どうにも気合が入った声だったのう。
 後でマダオの奴に話してみるか……と、どうやら追加がきたようじゃぞ」


―――そうして。

酒宴は、また加速していった。



[9402] 小池メンマのラーメン日誌 八十話 「木の葉にて・下」
Name: 岳◆3d336029 ID:0347f440
Date: 2010/07/19 02:30


それは、いつかの時。

今はもう思い出せない光景だ。監視の忍びの目を抜けだしたオレは一人、ラーメン屋"一楽"の、のれんを潜っていた。


―――こんばんわ、てうちのおっちゃん。

「おう、ナルトか………まあ、座んな。すぐにラーメン出してやっからよ」

―――あ、りがとう。ありがとうってばよ。

「………ま、いいってことよ。いいから、水でも飲んで待ってな」

―――おいしい。

「おう」

―――おかわりってば。

「って早えな! よし………今日は俺のおごりだ! じゃんじゃん食え、ナルト!」

―――うん、ありがとうってばよ。

「いいってもんよ。しかし、おめえ………ラーメン食べてる時は笑えるんだな。え、笑うって何、って? ―――いや、まあ………くそ。ほら、お代わりだ」

―――おいしい。いつたべても、てうちのおっちゃんのラーメンはうまいってば。

「そう言ってもらえるとなあ。へへ、料理人冥利に尽きるってもんよ。しかし、感想もあの子と同じだな………っと。ああ、そういえばお前、あの子とは会ってるのか? 
ん、何、あの子って誰だって? ―――あ。ああ、すまん、忘れてくれ」

―――へんな、おっちゃん。まあいいや。たべていいってば?

「おうよ。ふん、相変わらずイイ食いっぷりだな」

うん、おいしいからな。





そうして俺は、目の前のご馳走に。

いつもの冷たいご飯ではない、温かい食事に夢中になっていく。

でも、楽しい時間はあっという間。気づけば残るは、一飲み分のスープだけ。


―――ん、っと。きょうも、ごちそうさまでしたっと。

「へへっ、まいど。どうだ、うまかったか? ―――ああ、そりゃよかった。じゃ、色々と辛いことあるだろうが………頑張んなよ」


うん、わかったってば。

「………分かった、か。その割にはお前………いや、いい。それより、今日も一人か?」

うん。さんだいめはふっこうとかでいそがしくて………ほかのひとたちも、いそがしいから、しかたないってば。

「そっか、一人か………寂しいか?」

うん。ひとりはさびしいけど、さびしいけれど………しかたないってばよう。

「……仕方ない、か――――そうか。」

うん。だから、それじゃあ………また。

らいしゅうもまた、くるってば!

「おう、また来いよ!」

そうしてオレは、手を振って約束をする。暗いくらい夜の道の中を帰る前に、明かりに満ちていた店に向かって。
店の前に立っていた店主に。テウチさんに向けて、手を振る。






(でも、次はなかった。来れなかったんだよなあ。なんせその夜の帰り道、オレは――――)





「―――メンマ?」


唐突に、横からの声。少しハスキーで、それでいて艶のある。
いつものキューちゃんの声が、俺の鼓膜を震わせた。

「………ああ、何だ?」

返事を一つ。隣に居る相棒に言葉を返しながら、オレは俺へと戻っていた。
かつての光景は夢幻に消えて、視界には今の光景が映る。

見慣れた店の中、見慣れたカウンター。
数年前は修行の場だった、テウチ師匠の店。

―――ここは、ラーメン屋“一楽”。

木の葉にきた目的のひとつでもあった、テウチ師匠への挨拶。
この後夜明けまで飲み明かそうというマダオに一時間だけを借り、その目的を達成するため、俺達3人は一楽へと赴いているのだった。

師匠の店、最後に顔を見せたのは中忍試験の直後だから、実に3年振りとなる。
師匠は俺の顔を見ると驚愕の表情を見せたが、すぐ後には笑顔を浮かべてよく来たなと言ってくれた。


そうしてラーメンを注文して、待っている時だった。
今の光景が浮かんだのは。

「お主、顔色が悪いようだが………どうした? もしかして、もう酔ったのか?」

考え込んでいる俺に対し、17歳ぐらいに変化しているキューちゃんが心配そうに訊ねてくる。
まつげ長え。

「ん、あまり酔ってはいないようだったから、心配ないと思っていたけど………水、飲む?」

同じく、17歳ぐらいの黒髪グラサンに化けたマダオが、これで酔いをさましたらいいよ、と水を差し出してくる。

俺はマダオに礼をいいながら、水を口に含んだ。
冷やされた水は俺の口を嚥下し、体の中に落ちていく。と、少し酔いが冷めたように感じられた。
それほどに飲んだつもりもないが、知らず酔ってしまっていたのだろうか。

「いや酔ってない、酔ってないもんね!」

「ふふ、でもメンマ君ったら顔が真っ赤だよ? 知らないうちに飲み過ぎたんじゃないかな」

テウチ師匠の娘、アヤメさんがからかうような口調で言ってくる。
俺は頷きながら、グラスを持って冷えた手を自分の頬に当てる。

「………そうかも。思ったより熱くなってるし」

酔っていないというのは酔っ払いの証拠だし。
でも美味しかったら後悔はしていない。そう言うと、アヤメさんは店の名前を聞いてきた。
店の名前を言うと、彼女は少し驚いた表情を浮かべる。

「え、メンマ君ってあの店知ってたの? まあ木の葉の中でも結構有名な店だけど、あそこ通しか知らないのにねえ」

「はは、木の葉通なら一人、ちょっとした知り合いが居ますから」

“通”っつーか元トップだけど。

「うんうん、あそこ料理もお酒もおいしいよね。あの店なら、知らないうちに飲み過ぎても無理ないかなあ。それに………」

と、そこでアヤメさんはキューちゃんの方に視線を向ける。

「こーんな綺麗な彼女さんが居たら、ねえ」

そりゃお酒もはずむってもんでしょ。
アヤメさんはそう笑った後、すみにおけないねえと俺のほっぺたをつついてきた。

「ちょ、やめて下さいよ。それにキューちゃんはまだ彼女じゃないですよ」

そういいながら俺は、ほっぺたつつくアヤメさんの指を払う。
するとアヤメさんは、なぜだかしらないがニタリと笑った。

「ふ~ん、へ~え、ほ~お」

「な、なんですか?」

「いやいや、本音が見え隠れしてるなあ、と思って」

キューちゃんさんもそう思わない、とアヤメさんが振ってくるが、キューちゃんは「知らん」とそっぽを向くだけだった。

そんなこんなしているうちに、ラーメンができたようだ。
師匠は流れるような動作で麺の湯を切り、秘伝のスープの中に入れる。

具材を盛りつけ、完成だ。

「へい、お待ち」

俺の前にとんこつラーメン、キューちゃんの前に塩ラーメン、マダオの前につけ麺が置かれる。

いただきますと唱和し、箸を割った。

「う、ちくしょうが………やっぱうめえなあ!」

師匠のラーメンはいつかに食べた味と同じで、すこぶる旨い。いや更に美味しくなっている。スープも麺も具も、ひとつの意志の元に見事に調和されている。
中にあるもの、誰もが脇役でなく、誰もが主役でない。どれも必要不可欠な存在で、ひとつ丼の中に混ざり合い、"美味"というひとつの言葉を得るために全力で助け合っているように思えた。

俺も長年の修行を経た今ではそれなりのモノが作れるようになった。が、この味を前には一歩譲らざるをえないだろう。
年月の差か、技術の差か、師匠の味の"深さ"は筆舌に尽くしがたいものがあり、俺のラーメンでは今一歩この域には及ばない。

「……やっぱ、師匠はすげえなあ」

「へっ、当たり前だ。ほらもう一杯いくか?」

「へっ、望むところだ!」

俺はマダオとつけ麺を交換しつつ、とんこつラーメンを完食。すかさずもう一つ、ラーメンを追加で注文する。
注文を受けた師匠は、調理に入る。

と、そこで調理をしながら背中越しに話しかけてきた。

「そういえばオメエ、久しぶりに木の葉へ帰ってきたんだってな?」

「ええ、まあ」

「そんなら、あの四丁目の酒屋には行ったのか?」

「……ええ、行きました。あの時は少し世話になってましたからね」

四丁目の酒屋とは、頻繁に酒を買いに行っていた店だ。
隠れ家での酒盛りをする時にはいつもあそこで買っていて、それなりの顔なじみになっていたので、ここにくる前に顔を見せていた。

「あそこの娘さん、今度結婚するんだってよ。聞いたか?」

「むしろ語られましたよ。愚痴混じりに。悪い人ではなさそうでしたが、酒屋のオヤジさんは随分と怒っていましたね」

「そりゃあおめえ、大切に育てきた一人娘なんだからよ。例えどこかの大名に嫁ぐとあっても、父親としちゃあはいそうですかと祝福できるもんじゃねえよ。娘ってなあそういうもんだ」

「そういうもんですか………なら、アヤメさんも?」

「おうよ、当たり前だろ………ってオメエ、まさかアヤメを持ってくつもりか!?」

「ぶっ、違いますよ!?」

「もう、お父さんたら」

顔を真っ赤にしながらぷんすかと怒るアヤメさん。俺は反射的に断ってしまったが、アヤメさんの様子を見ながら、それもいいかなあと思ってしまう。

(ラーメン屋に理解があって、愛想が良くて、なによりおとなしい。うん、もし結婚できても、案外上手くいきそうだなあ)

特に三つめの条件が素晴らしい。天然記念物並の貴重価値があるだろう。考えてみるとかなりの嫁度を持っている、魅力的な女性だといえよう。
非の打ち所が無い、嵐も起きないごく日常的なラーメン生活が送れそうだ。

(でも、なあ)

しかし、と俺は首を振った。想像はしてみるものの、どうにも実感が沸かないのだ。
アヤメさんが悪いというわけでもないのだが、どうにもしっくりこない。結婚する光景が想像できないというか。

(そもそも無理だしなあ。口説けたとしても、俺は木の葉に住めないし、なにより迷惑をかけることになる………ってか、あり得ないか。アヤメさんももっと大人な人が好みだ、って修行時代に聞いた覚えがあるし。
でもその未来の大人の彼氏も大変だな。師匠の壁を乗り越える、ってのは並大抵の覚悟じゃ無理だし。頑固一徹親父だし)

麺棒もって追いかけ回されそうだ、と俺は未来の花婿にご愁傷さまですと手を合わせた。
しかし、結婚か。

「………そういえば八百屋の娘さんも結婚するって言ってましたね」

ラーメンの食材である野菜を買っていた時によく行っていた店だ。
確か娘さんは15で、来月あたりにずっと一緒に居た幼なじみと結婚するらしい。

「おうよ。こっちは知れた仲で、相手も家族みたいなもんだったからな。八百屋の親父さんも納得してるみたいだ」

「そうみたいですね。相手はアカデミーの先生らしいですし」

ちなみにその人は、かつてのキリハ達の授業を担当していたという、うみのイルカ中忍ではない。別の人だ。
その相手のアカデミーの先生は中忍で、九尾事件が起こる更に前、17年も前に任務で二親共に亡くした過去を持っているらしいが。

ひとり残った彼はひとりで住むのは危ないと、親同士交流があったらしい八百屋の親父さんのところへ居候して引き取られたらしい。
そしてその年に、娘さんが生まれた。それが二人の馴れ初めらしい。出会った、というのは少し違うと思うけど。

その後、八百屋の親父さんは懐かしそうに過去を思い出しながら、いろいろと話してくれた。
感想としては、その彼氏全力でもげろと答えるしかなかったが。

赤ん坊のころからの知り合い。兄弟の様に育って、幼なじみというか家族で、双方ともに初恋で、娘さんは美人で、かつ看板娘を張れるほどの器量よしある。
今年26に成ろうかという中忍に―――最高の若妻をゲットした中忍に、もげろと言う以外に何を言えというのか。

「素直に祝福してやんな。ま、俺も男だし気持ちは分かるけどよ」

「………美人の嫁さんゲットした師匠に言われてもなあ」

いまいち納得がいかない、と師匠を半眼にで睨みつけてみる。
が、虚しいのですぐにやめた。

「はあ………でも、変わりましたよね。3年しか経ってないってのに」

「そりゃあおめえ、誰でも日々を生きてんだ。3年も経ちゃあ、変わる奴は別人みたいに変わるってもんよ」

「別人、すか」

「おうよ。まあ、大きく変わっても、根っこにゃあ"そいつらしさ"が残ってるモンだけどな」

師匠は俺を見ながら、言う。
その目は俺を捉えていて、それと同時ここには居ない誰かを捉えているようだった。

「変わっちまっても、変わらないんだ。俺には魂なんてもんが本当にあるのかもわからねえが、それでも似たようなものはあると思ってる。それは"そいつらしさ"ってやつで、それは死なない限り消えないんもんなんだよ」

それが無くなった時、そいつは死ぬんだろうよ、と師匠は言う。

「随分と、含蓄のある言葉ですね………それは、今までに出会った客から?」

「ああ、本当に色んな奴が集まる場所だからな、ここは。別人みたいに成長した奴、クズに成り下がった奴、そりゃあ数多く見てきたさ。それを見て、ちょっとな。理解したとまでは言わねえが、分かった気がするんだよ
………お前が此処に居ることとかな」

「へ?」

虚を突かれた言葉に、俺は間の抜けた返事をしてしまう。
師匠はそんな俺を見ながら、何でもねえよと笑いながら言う。

「いや、気になるんですが」

「これ以上答えねえから、聞くな。それよりも、そうだな………なあおい、メンマよ」

「なんでしょう」

「おめえ今、幸せか?」

「―――は?」

また、予想外の言葉に、俺は間抜けた返事。師匠はそれを見ると、どうなんだと聞いてくる。

その目に、からかいの色はなかった。
俺は至極真剣な師匠の問いかけに対し、真面目に答えなければならないと感じた。

(幸せか、と問われてもな………正直分からん)

ラーメンをずるずると食べながら、考えてみる。
死亡フラグ満載のこれまで。予想外の戦闘を繰り返しながら、なんとか打破できたのは、幸運だと言える。
と思えばとびっきりの厄種が残ってしまったのだが。

(幸運は幸せとは言わないよなあ………どうなんだろう、そこら辺)

生き延びることに精一杯で、考えたことがなかった。
今が幸せかどうとか、考えたことがない。「明日のためにその一だ!」とかそんなことしか考えない。
抉り込むようにうつべしうつべし。

(我ながら切羽詰った生活を続けてんなあ、ちくしょう。しかし幸せかあ………分からんね、どうにも)

料理を旨いと言ってもらった、その時に感じる幸福感とはまた違う。
師匠が聞いているのは、恒常的な今についてだだろう。

そしてそれは、考えたことのない事柄だ。
考えたことのないものを考えたとして、頭の悪い俺が短時間で答えを出せるわけがない。

そう思った俺は、別の答えを用意することにした。
すなわち、今がどうか、という点についての回答である。

かつてから今、12年を経て実感できるようになったこと。
俺はそれを言葉に表した。

「師匠。俺は今、幸せかどうか、わかりません」

正直に、分からないことは分からない―――けれども、師匠の顔が曇る前に言葉を挟む。

「ですが―――俺は。今、生きていることが楽しいです」

それは、俺の中の本音である。ようやく此処に来て、そう思えるようになった俺の真実である。
新しい悪友もできた。かつて別れた、友達とも再会できた。
苦しいことも多々あったり、好きなラーメンを作ることが出来なかったりする。

それでも、いいことがあった。そして明日はもっと良い日になるかもしれないという想いを、得ることができるようになった。

だから楽しいと。苦しいけど楽しいと、今となっては自信を持って言えることだ。
師匠はそんな俺の顔をじっと見て、その後ふっと顔を緩めた。


「―――そうか。そりゃあ、良かったな」

「ん? 師匠、泣いて―――」

「うるせえ、泣いてねえ!! ほら、もう一杯いくか!?」

「えっと………はい!」


















数十分後、俺たちは店を出てキリハが入院している病院に居た。
俺とキューちゃんは屋上で、マダオのみが会いに行ったが。

「お主は行かなくてよかったのか」

「殊更に別れを告げるマダオの、その隣に居ろって? 怪しまれて引き止められるに決まってるよ。キリハは勘がいいっていうし」

「………勝率が一割を切る戦いに、なんの保険もなしに赴くのだ。一応でもよいから別れを告げればよかろうに」

「そうすると勝つ気が薄れそうになるから、嫌だ。死亡フラグなんてわざわざ立てたくないし」

「勝気にわずかでも淀みを作りたくないと? ―――ふむ、それならば話は分かるな」

「ああ。俺は勝つ。勝つから、また会えるんだ。わざわざ、別れの挨拶をする理由なんてない」

マダオは別だけど、と首を横に振る。

―――と、その時である。

屋上より階下、キリハが居ると思われる病室から爆音が聞こえた。

「………えっと、なんか揺れてるね?」

「ちょんまげ小僧の悲鳴も聞こえるのう………どうする」

「別れ際、娘を奪っていく婿殿への親父殿からの贈り物だろうから、介入するのは無粋ってもんだよ」

俺は階下で起きていることをなんとなく把握しながら、この場にとどまることを選択する。

「俺はともかく、マダオはもう会えないんだ。それにいい機会だろうし、まあ好きにさせとこう。これは娘を持つ父親としての、最後に仕事だろうから」

そこまで進んでるか分からんけど。

「ふむ、本音は?」

「巻き込まれるのも面倒くさいから放置。ああなった親父殿には勝てる気がしないし」

あの親父、たまに本気になるとチャクラ差、なにそれとばかりに互いの差を覆してくるから、本気で厄介なのだ。
ふと、俺は今の俺の力量と四代目火影のころの波風ミナトとの力量を想像して比べてみた。

影分身で鍛えたチャクラコントロール、体術は俺の方が上だと言えよう。
しかし、それ以外はすべてマダオの方が上だ。やるときゃやる男なのである。

「そんな親父殿の、本気の襲撃か………南無南無」

俺はシカマルの無事を祈り手を合わせた。成仏しろよ、と。

「しかし、ただ待っているのも芸がないな」

言いながら俺は、屋上の端にある手すりへの上へ登った。

そこから見えるは、木の葉隠れの夜だ。

「うむ、絶景かな絶景かな………と思ったけど、ここからじゃあ木の葉の街並みは見えないなあ」

「物見櫓にでも行かんと無理じゃろ。今の我らではそれも無理じゃろうが」

「警戒中だしね。仕方ない、諦めようかな………って、あれは」

どこか高いところはないか。俺は手すりの上に登りながら周囲を見渡し、そしてとある場所が視界に入った。

その場所とは、木の葉隠れの里を象徴する場所だ。


「………うん、うってつけだな」











数分後。俺は五代目に連絡をとったあと、目的の場所へと到着した。
目立つ場所なので、暗部にはで払ってもらっている。ただ、五代目と自来也は横にいるが。


「おおおおおお、絶景絶景!」

「うむ、確かにのう」

「ん………15年ぶり、か。久しぶりだなあ」


屋上からみえた、木の葉の里を見渡せる場所。

その場所とは、歴代火影の顔が刻まれた顔岩だ。ここからならば、木の葉のすべてを見渡せた。

「あまり目立つことはしないでくれよ………しかし、本当に絶景だな」

「うむ」

背後から、綱手と自来也の声が聞こえる。
前面には、絶景が広がっていた。

夜の闇の中に浮かぶ街。木の葉隠れの里は、人が生み出した灯りに照らされていた。
現代日本のような明るさはないが、提灯や大型蝋燭などの火に照らされた街並みは街灯では得られない温かみのようなものが感じられた。

夜の中、ぼんやりと浮かぶ小さな灯火たち。その中では、人の影がゆらゆらと動き流れている。
灯火が重なる場所からは、明るく雑多な喧騒が聞こえている。

耳をすませば、祭ばやしのような音も聞こえてくる。

先程綱手に聞いたのだが、本日だけは厳戒態勢を解除するらしい。
五影会談が決定したこと、またペインが今日明日また攻めて来る可能性はないだろうこと、2点の理由から解除したのだ。
厳戒態勢を敷きつづけると里の人たちも疲れるだろうし、賢明な判断だと言えるかもしれない。

(もうひとつの思惑もあるだろうけど)

ふと、横を見る。そこには、いつにない懐かしさに染まった親父殿の姿があった。

(木の葉隠れの里、そこに住む人達の元気な姿。祭りのような、喧騒………葬送祭、鎮魂歌ってところか)


かつて命を賭して守ったもの。その姿が、ここにあるのだ。
それを見たマダオがどう想うのかなんて、顔を見れば分かった。

(そりゃ、守りたいよなあ……いや、守りたかったんだよな)

故郷を守る。そこに住む人達を守る。
そのために、命を賭けている。それは砂も、雲も、岩も。
内部事情は知らないが、あるいは霧も。再不斬がああだったのだ、皆が皆同じ想いを抱いているのだろう、きっと。

そのために、何かを犠牲にしたとて。守りたいものを守るために、それ以外を排除するのだ。
そして、そのために。守りたいものを奪われた誰かが、それを奪いに行く。

(全然、おかしいことじゃない。ほんと、ままならないもんだよな………同じ人間なのに)

想い合い、殺しあう。
矛盾しているそれは、しかし有史の頃より続いているのだと言う。
忍術のせいだと、ペインは言う。火種になるのだと。そして、負の思念を生み出すのだと。

でも、きっと違うと俺は考える。
火種を力づくで消したって、何も変わりはしないのだと思う。あくまで予想だが、そんな気がするのだ。

(でもなあ、ペイン。お前のやろうとしていることは、解決とかそんなのは抜きにして、許せないことなんだよ)

原因があった。だから、力づくでそれを排除する。
それは違うと、絶対的に間違っていると俺は思うのだ。

それは、今回俺が逃げないと誓った理由だ。
戦うことを決意した理由は本当に多々ある、その中のひとつである。

そしてもうひとつ、いや二つか。それを確認できた。

「ん、考え事?」

「ちょっとな。それよりも、要件は済んだのか?」

「いや、まだだよ。さっきの酒宴ではカカシ君と話すことがあってね」

「えっと、どんな話? イチャパラのこれからについて?」

「―――それもあるけど」

あるのかよ、と半眼になる俺を無視し、マダオは言う。

「少し前の、カカシ君についてね。それと、次の火影について」

苦笑しながら、言う。

「どうやらカカシ君、自分は火影にふさわしくないと思っているらしいから。それで、話をしたんだ。酒を交えながらね」

本音を隠したがる癖があるから苦労した、とマダオは言う。

「キリハちゃんサスケ君ほか、7班を受け持つまで下忍試験の合格者を出さなかった理由。遅刻して、上層部の印象を悪くした理由。全て、ひとつの想いが根底にあったからみたいなんだ」

「………それは?」

「―――"大切な人ひとりを守れない奴が、火影になんてなれやしない"」

いつかの誰かの言葉がフラッシュバックする。

「オビトを死なせてしまった。オビトと約束したのに、リンを守れなかった。そして、火影を―――最も死なせてはならない里の長を、大切な先生を、僕を守れなかったと言っていたんだ」

「それは………」

と言ってはみるが、何を言えばいいのかわからなかった俺は、次の言葉をつなげなかった。

「大切な者を守って守りぬいて死んだ、先生には適わない。オレは、火影には相応しくない、何も守れなかったオレが火影になるなんてことは、できない………そう、言っていたよ」

「………それで、どう答えたんだ?」

「僕もクシナを守れなかったんだから、と答えたよ」

遠く。淡雪のように光る粒、街を見下ろしながらマダオは言う。

「守れなかったんだ………確かに、相手は強かった。でも僕が強ければ問題はなかったんだ。クシナを、君を、キリハちゃんを………全員を守ることができたんだ。
でも、力足らずに………クシナを、君を死なせてしまった」

マダオはそう言いながら、ぐっと拳を握る。

「大切な人を守れなかった………蘇った時、僕は後悔したよ。火影には相応しくなかったって、思っ「それは違うだろ」……?」

言葉を途中で遮る。自来也も口を挟もうとしていたが、俺の方が早かった。
そのまま、遮った言葉の上に更に言葉を重ねる。

「それは、違う。だって―――諦めなかったじゃないか」

相応しくないなんて、そんなことは言わせない。

「人間は人間で、全知全能の神じゃないんだ。すべてを予測できる奴なんていないし、無敵の力を持っている奴もいない。だから失敗は起きる。どんな奴でも、絶対にだ」

天才でも凡人でも、悪人でも善人でも、間違えない人間なんていない。

そこは一緒だ。問題は―――その次だ。

「失敗したとして、そこからどうするかだ。諦めるのか? ―――いや、あの時"波風ミナト"は諦めなかったはずだ。不測の事態に対して、大切な人を失っても、強大な敵を前にしても、諦めることはしなかった。木の葉隠れの里を守るために全力を尽くし、文字通り命を賭して里の壊滅を防いだ」

その結果があれだ、と俺は街を指差す。

「木の葉で隠れて過ごした時間、僅かな期間。そこで………一緒にいたから勿論知っているだろうけど、たくさん聞いただろう? 四代目を称える声を」

守ってくれたその先に、今があると。不幸があって、でもその先の幸せの中に居られていると、彼らは自覚していた。

里を守った英雄を、忘れることなく。

それがすべてだ。昨日は失敗したのかもしれない。今、どうしようもないのかもしれない。
それは誰にでも訪れることだ。

そこからどうするかで、火影にふさわしいかどうかが決まる。次に抱く想い、意志によって決まるのだ。

「それでも、明日を―――明日を、きっと良い日にすると、そう信じて戦うことだろ? 
 ―――いついかなる時でも火の影として。明日の木の葉を照らすと想い続けられるのが、諦めずに戦い続けられる者が、火影になるのだと思う」

カカシも分かってるんだろ、と俺は言う。

「育ったキリハを見た、サスケを見た、サクラを見た―――そうして、思い出した。だから、変わった。随分と強くなったと、俺は思うよ。中忍試験の最中、ぶっ飛ばした時とはまるで別人だ」

あの時は不抜けていたようだけど、今は見違えるように強くなっている。

「だから、ふたりとも、素直に笑えばいいと思う。そんでお前は、守ったこの光景を誇って胸を張ればいい。二人共それだけのことを成しているんだから」

木ノ葉崩しでの奮戦は聞いている。多くの音忍を屠り、木の葉の忍びを守ったことも。

「………そう、だね。でも君は―――」

「守れなかった、ってか? それもどうにもな。俺も最近、自信がない。俺がいったい誰なのかってことが」

「………それは」

間違いなく、元のうずまきナルトではなくなった。でも、それでも残滓としては残っている。
そして、名前も思い出せない"誰か"という訳でもない。

「それでも、完全には死んでない。形を変えども、うずまきナルトは生きている。だから誇れよ、そんな顔をするな。俺が戦う意味がなくなるだろうが」

「―――え?」

「ああくそ、わからねえかなあ。あのな、俺が戦う理由って知ってるだろ?」

「うん。死にたくないし死なせたくないし、後悔したくないからだよな」

「ああ。って、この、言い難いな―――そうだ」

名案を思いついたと、俺はその場を跳躍―――四代目の顔岩に乗る。

「こいつが―――このバカがな!」

そしてげしげしと顔岩を足蹴にする。

「ちょ!? はげる、はげるから!」

「うん、はげてしまえ。じゃなくて―――このバカが、俺の相棒が。親父殿が。こいつが守りたいことがなんなのかなんて、いやと言うほど分かってるんだよ」

こつん、と蹴りながらいう。

「守りたいんだろう、木の葉を。でも、ひとりでは動けない―――そこで俺の出番だ。動けないってんならしょうがない、一緒に居る俺が手を貸すしかないだろう相棒なんだから。それに―――」

と、再度跳躍。今度は三代目の顔岩にのる。
そしてぺちぺちと、三代目の顔岩の頭にあたる部分を、手のひらで叩く。

「あの時の別れ際、爺さんに言っちまったからな―――"木の葉は大丈夫だ"って。そんで、そんなこと言っちまった手前、こんな状況になって、俺ができることがあって、それでも黙っているなんて―――そんなことしたら、ラーメンがまずくなるだろ」

料理は魂である。そして魂が腐れば、旨いラーメンは作れないのだ。
あの世で爺さんにふるまうラーメン、まずくなるのは一大事だといえよう。

「……あの約束か。しかし、ラーメンのう」

自来也が苦笑する。綱手も同じだった。

「やっぱり、あくまでラーメンのためなんだね」

「そりゃそうだろう。俺は木の葉の忍びみたいに、故郷を守るため戦うなんてことは出来ない。だから留まらないし、戻ることもない」

戻ることは冒涜だ。あらゆるものに対しての。
根底が違うオレが木の葉の忍びになるなんて無理だ。成ったとしても、それは偽物。
偽から生まれる歪は不和に昇華するだろうし、嘘は木の葉、俺、マダオに対する不義理になるだろう。

「でも、戦う理由は別にあるんだよ。俺だけの、俺にしかできないことがある。最後の最後になって、"俺だけ"の戦う理由ができたわけだ―――傑作だな」

あまりにも出来すぎなのだ。
お膳立ては完全に過ぎるから。でも、心地良いと思う自分が居た。

「結局、いつもどおりなだけだしな。俺は、俺のために戦う………ここまでペインだと乾いた笑いしか出てこないけど」

けど、だからこそ決着をつけるしかないんだろうとも思える。

「………あやつも。ペインも、自分の為に戦っていると?」

世界のためではないのかと自来也は言うが、俺は首を横に振る。

「ペインならばそうだろうけど、あいつはきっと―――長門だ。だから、あいつが何をしたいのかは、いくらか想像はつく。だから、思うところはあるだろうけど………邪魔はしないでくれ」

と、俺はマダオに視線を振る。

「そうだね………話が逸れたけど、今一度元に戻そうか」

マダオは自来也の目を真っ直ぐに見る。

「先生」

「………なんだ」

「もしかしたら、と思っていました。しかし、綱手様に帰還を告げなかった理由。そして、その疲れ具合―――とどめは墓場でのやりとりです。そこで僕は、確信してしまいました」

「何を、だ」

「先に逝ってしまった弟子の、最後の頼みです。聞いてくれますか?」

「………うむ」

そうして、マダオは息を吸って―――まっすぐに。自来也に告げた。



「屍鬼封尽は、使わないでください」


空間が凍りつく。


「僕はもう、僕の術で誰かが死ぬなんて光景、見たくありませんから」



反応は劇的だった。自来也と、そして綱手が驚愕の表情に染まる。


「弟子を止めるために、師匠が―――三代目と同じですね。あの時は、あれしかなかった。でも、今は違う」


こっちを見るマダオ、それに対し俺はひらひらと手を振ってやる。
否定する要素はもう、どこにもない。


「やり残したことがあるはずです、先生」


「………う、む。しかし―――」


「キリちゃんを悲しませないでください。優しいあの娘のことだから、きっと泣きます。キリちゃん泣かすと先生でもぶっ飛ばします。
 それに、イチャパラって、まだ連載中ですよね? 描き続けてください。あれは、平和に繋がる第一歩になります」

音楽や食べ物と同じ。芸術とは、忍術では成せないことができると、マダオが言う。

「そう、萌は世界繋ぐ………! って痛い痛いキューちゃん!」

余計なことを言うオレの頭に、キューちゃんがかぷりと噛み付いてきた。
そんな俺たちを無視し、マダオは言う。

「それになにより―――女を残して死ぬなんて、最低ですよ? 紳士を自負する先生ですから、勿論そんなことはしませんよね」

「う、ぐ………」


「と、いうわけで後は任せてください。さっき聞いたとおり、彼はいつになくヤル気になっていますから」

「しかし、相手は十尾の―――」

「いえ、先程勝算が上がりました。だからあとは心配しないでください――――綱手様、後はどうぞ」


マダオは二の句を継げさせないように畳み掛けたあと、綱手に振る。
うん、見事すぎるね。


「―――自来也。今の話は本当か?」

「………綱手」

「言い訳もなしか………本当なんだな。しかもお前、木の葉に帰らずにそのままペインの元に特攻するつもりだったのか………」

震えるような、綱手の声。彼女は下にうつむいたま肩を震わせている。

「そ、それはその、のう?」

疑問符で応じる自来也。そこに、鉄拳が飛んだ。


「この―――馬鹿が!」

「げふぅ!?」


綱手の鉄拳。怪力による一撃は自来也の頬を弾き飛ばし、空の彼方へ飛ばす――――と思われたが、結果は違った。


「綱手………?」

「この、馬鹿が………そんなに私の事が嫌いなのか! 約束を違えて、死にたいほどに!」


綱手の両目からは、涙が溢れている。怒りによるチャクラコントロールよりも、悲しみによる想いが勝ったようだ。

「いや、違うぞ、誤解だ!」

「誤解もあるか………! 事実お前は死のうとしていたんだろう! 私に何も告げず、置いていこうと………!」

彼女は泣いたまま、自来也の胸ぐらに掴みかかる。そのまま、自来也の胸に頭を押し付け、俯いた。
泣いているようだ。


「………じゃあ馬に蹴られるのは嫌だから、僕たちはこれで」

「ちょ、お前ら!?」


「自業自得です―――末永くお幸せに」


「ちょ、ミナト、待たんか!」


「ここで待たないのが、弟子である僕にできる最後の行動と存じます。さあさあ、シズネさんに報告だ! 現キリちゃん邸にジャンプだね! あと10分もすれば、みんな来るはずだからね!」


「じゃ、俺は別室で飲んでるわ―――っと、そうだ!」





と、俺は夜空に向かって、全力でクナイを投擲する。



「つかまれ、ふたりとも!」

「了解!」

「何をする気じゃ?」

俺は二人が捕まった直後、印を結ぶ。



「飛雷神の術!」



時空間跳躍。目標はもちろん、今投げたクナイだ。



―――そう、街の上空に投擲された、クナイへと移動する。



「おお………!」

「これは、すごいな!」

「そうだね!」





浮かんだ空。真下には、木の葉隠れの里が見える。

ちょっとした、スカイダイビングである。

「ふむ、こうしてみるか?』

言いながら、俺はキューちゃんと繋がる。

五感が、劇的に広がった。


『見えるか、聞こえるか?』

「うん。やっぱり、理屈は抜きにしても――――こんな光景を、消させたくないよなあ」


夜に浮かぶ星の下、地面に咲く人の灯火を見下ろしながら、俺は決意する。

そこには、命があった。

変わっていく、人の姿があった。

子供連れの夫婦、同僚同士で馬鹿をやっている男達、通りの男を物色している女性たち。

彼女に振られたのか、肩を落として歩いている青年。門では、鼻に包帯を巻いた忍びが、影の薄そうな同僚と一緒に外を見張っている。

窓から顔をだして街を見下ろす子供たち、町外れでは下忍らしき子供たちが隠れて修行をしている。ひとり、とげとげの頭をしている少年がいるが、かなり筋がよさそうだ。

大きな家の前から、サングラスをかけたムッツリスケベっぽい忍びが出てきた。修行をしている場所に向かっているが、少年たちは気づいていない。

街には団子食べているくのいちもみえるし、美人の妊婦と連れ添い歩いている熊も見えた。

ラーメン屋の方から、両手を握り締めやる気をだしている海苔眉毛一号と、それを呆れたように見るお団子のくのいち。ため息を吐くおかっぱの少年の姿。

火影邸に向かう道、眼の色が変わり今は輝いているマスクの姿がある。隣では青春が蘇った! と嬉しそうな海苔眉毛が居た。

物見櫓では顔に傷がついた忍びとサングラスらしきものをかけた忍び、街を見張っている。酒場から長いつまようじを加えた男が出てきた。

病院の方では、屋上に金髪の美少女とぼろぼろになったちょんまげ少年の姿がある。その後ろでは、先の一戦で大怪我をしているはずの、少年少女達の姿があった。
なにやら二人を見ながら賭けをしているようだが、何を賭けているのかは予想がついた。

そして、見えた。かつてと今、ラーメンを食べさせてくれた師匠の姿が。


「元気でな、師匠。いつか絶対に追いついてみせるから」

憧れの背中に、追いついてみせると、そう誓う。


「しかし、色んな人達がいるなあ」


昔に出会った者、知識として知っている者、全然知らない者。
それらは合わさり合い、笑い合っていて、その中でたくさんの人の輪ができている。

けれど、痛感することもあった。



―――ここに、俺の居場所はないと。


俺が居たかもしれない場所には、少女がいる。この里を心の底から守りたいと思う少女が。

相応しい役だ。俺には、似合わない。別の役もあることだ。でも―――




「ちょっと、寂しいな」


今でも忍びになりたいとは思わない。

けれど賑やかそうなあの場所は、ひどく暖かく見えた。



『………此処に帰りたい、か?』


「―――いいや。分かれ道はもう過ぎたし、選ぶにはもう遅い―――別の道を選んだんだ」


あの隠れ家こそが、俺の帰るべき場所なのかもしれない。


「だから、ここは俺の帰るべき場所じゃない。でも―――」






と、俺は顔岩の方を見る。


三代目の顔岩の上で、自来也と綱手が口づけを交わしていた。

自来也の顔がぼこぼこなのはご愛嬌である。

その下にある三代目の顔岩が、笑ったようにみえたのは、果たして錯覚だろうか。

いや、錯覚でも、これはいい錯覚だ。


俺は眼下に広がる光景を前に、改めて決意する。





「消させねえ。絶対に、勝ってみせる」





俺はあの光景が――――ハッピーエンドが好きなんだから。












あとがき。

ようやくパソコン復活。お久しぶりの作者です。
いよいよクライマックスです。次はなるべく早く上げますっす。






[9402] 小池メンマのラーメン日誌 八十一話 「決戦を前に」
Name: 岳◆3d336029 ID:0347f440
Date: 2010/08/02 00:13
「と、いうわけで釈放だ。鬼灯水月」

「何がというわけなのか分からないんだけど………」

網の本拠地、地下にある牢獄。
サスケは捕らわれていた水月に対し、素っ気無く事実だけを言う。

驚いた水月は説明を要求する、とばかりにサスケをジト目で見る。

「余計な火種にしかならんお前は、早々にお引き取り願いたいということだ。つまりは―――霧に帰れこの軟体動物が」

「いきなりすぎない?! あと説明してって言ったよね!」

いきなりかつ色々と理不尽なことを並べるサスケに対し、水月が噛み付く。
しかしサスケは不機嫌な眼で見返すのみ。そこに、横から声を挟む者がいた。

牢獄に張られていた結界を解いた、結界術のエキスパート、紫苑だ。

「止せ、二人共。サスケ、お主もだ」

「………」

「………怒る理由は分かっている。だからこれ以上は聞かぬが―――」

視線で問いかける紫苑に対し、サスケは不承不承に頷く。

「ああ、分かってる」

若干ふて腐れながらサスケは水月に説明をする。

今、五大国は緊張状態にあること。
音隠れに捕らえられていた水月は、立場が微妙で、うかつに木の葉に引き渡すわけにもいかないこと。

「いや、なんで? 木の葉と砂にとって、音隠れというか大蛇丸は一番の怨敵でし。一応は音に居たボクに、聞きたいことがあると思ったけど」

先代の影が殺されたのだから、と水月が質問をする。

「だが、アイツは木の葉の抜け忍だった。所属していた里、つまりは木の葉としても責任があるし、各国の忍びを拉致していたという事実も見逃せねえんだよ」

「………だから、ボクを木の葉に渡せば、新たな火種になるかもしれないと?」

「加え、現在は五大国全て………いや、小国も含め全ての国が緊張状態にあるんだ。余計な火種には火種にならず種のまま里に返したい、というのがザンゲツの意向だ。
 カブトだけは木の葉内部のことを知りすぎているため、木の葉に引渡したけどな」

「へえ………今は大蛇丸のことはどうでもいいって?」

「まあ、既に死んだ奴だからな。迫り来る危機もあり、取り敢えずはどうでもいいんだろうよ」

「へ? ちょ、ちょっと待って。大蛇丸がどうしたって?」

「ああ、そういえば伝えてなかったか? 音は滅びたぜ。大蛇丸はとうに亡いだろう、というのが、網と木の葉の見解だが」

「亡いだろう、ということは………死んだかは、分からない―――木の葉は動かなかったのか? いやでも、木の葉が動かずに音隠れがこんな短期間に落ちるって………あり得ないと思うんだけど」

「はっ、あり得ない存在が実行犯だろうからな。正しけりゃあ、五大国と正面きってやりあえるだけの規格外だ………まあ俺も、まさかここまでとは思っていなかったけどな」

いや、あの化物ならありうるか、とサスケは首を横に振った。

「話だけじゃね。ちょっと、想像つかないんだけど」

「当たり前だ。あれは想定外も想像外も、それこそ埒外の怪物だからな。お伽話に出てくるような怪物で………しかも俺たち忍びを憎んでいるらしいぜ」

だから、とサスケは水月を横目で見た。

「だから今は対抗戦力が必要なんだよ。誰でもいい、ってぐらいにな」

「………だからボクに、霧へ帰れって?」

「そういうことだ。ま、今のお前じゃあ戦力として数えられないだろうがな。霧時代での師匠に―――例えば霧隠れの鬼人あたりに鍛え直してもらえば、少しはマシになるだろうよ、鬼人の再来さんよ?」

「随分と、言ってくれるね………」

「事実だろうが。戦って分かったぜ。お前の刀は速いけど軽い。腕力に技量が伴ってねえ。それじゃあ俺は切れねえよ」

「………へえ。試してみるかい?」

水月の一言で、場が一気に緊張の色を帯びる。

―――が。

「……いや、止めておくよ。今は武器もないしね」

緊張の空気の中。水月は肩をすくめて、誤魔化し―――機を外す。

(―――ここだ。)

緊張から安堵の空気を"見せ"、水月は動く。

ただし、標的はサスケではなく紫苑だ。近接戦に関しては素人とふんだ水月は、正面からいっても勝ち目のないであろうサスケよりも、紫苑を相手として選んだ。

全てはこの場から逃げるためだ。水月はサスケの話を信用しておらず、それが故の決断だった。


(取った……!?)

―――しかし。

その目論見は、儚く散った。

動き出そうとする動作。足に力をこめて駆け出そうとする寸前。水月の喉元には、刀が突きつけられていたのだ。

サスケは水月の動作に一瞥もくれず、ただやることをしていた。見せられた虚動に惑わされず、ただ刀を抜き放ち水月の喉仏に刀を示していたのだ。

「動くなよ鬼灯水月。動いてくれるなよ――――"間違えるぞ"?」

殺気をはらんだ声、そして視線。水月は動けなくなった。
サスケの殺気は本物だ。偽りの色などどこにもなく、隣にいる紫苑も青ざめる程に鋭い。

雷紋を握るサスケの手に力がこもる。その白刃は、例え水月の喉を切り裂いても致命傷を負わせないだろう。
しかし、水月は動けないでいた。

刃は水月の肉を切り裂けない。白刃は水に喰い込むだけで、赤い液体は流れない。
しかし、それでも――ー"もしかしたら"と。
そう思わせるほどに、サスケの殺気は苛烈だったのだ。

水月は動けず、サスケもまた動かない。紫苑は動けないまま、しかし止める方法をさがす。


互いにそのまま硬直。そのまま無言のまま数秒が過ぎ―――


「チッ」

舌打ちと共にサスケが刀を納めた。
納刀の音が辺りに響き、紫苑が安堵のため息をついた。

水月の方も安堵のため息をついていたが、こちらは殺気にあてられ動けなくなっていた自分に気づき、不甲斐なさに舌打ちをする。

淀んだ大気。水月の不満感とサスケの抑えられた怒り。
紫苑はそんな二人を見ると、今度は呆れた意味での、盛大なため息をついた。

そんな時である。

「あれ、そいつまだ送っていなかったのか?」

後方から男の声。振り向いた紫苑はその声の主を見る。

「おお、シンか!」

地獄に仏だ、と紫苑は笑いながら答える。
これでいてシンという友は、空気をぶち壊すのが得意なのだ。
あと、危機においては割と上手く立ちまわることを、紫苑はサイやザンゲツから聞かされたので知っていた。

「これから出口まで送るところじゃ。説明は済んだからの」

「うん、そりゃ良かった。って空気悪いねーココ。何か、あったの?」

シンは何か、のところを強調しながらサスケの眼を見る。
ちなみに額にはバンダナが巻かれていた。言うまでもなくアレを隠すためである。

「………何も無い」

眼をそらして返答をするサスケ。シンは紫苑を横目でちらりと見る。
紫苑は苦笑しながら首を横に振っていた。

「――――そ。ああ、そういえばサスケ。さっき多由也が君を呼んでいたんだけど」

「多由也が?」

「うん。あそこ、医療棟に居るから、顔だしといて。病室は東側の、そうそっち側だよ。あの四階」

と、シンは後方、網の建築物がある方向を指差す。
その方向を見たサスケ、そこに写った不可解なものに対し、訝しげな声をあげる。

「屋上から―――何だあれは? 黒い帯、いや墨か。ということは、あれはサイで………えっと、吊るされてるのは………?」

サスケは写輪眼を使い遠視、指し示された方向を見る。
見れば、女らしき人物が一人、屋上から吊るされていた。

「あの赤い髪は―――音隠れと一緒に行動してた、香燐って奴か?」

「ああ、そうなるね」

「なんで吊るされてるんだ?」

「いやそれは彼女、というかあのナマモノが今朝君が脱いだ汗がついたシャツを嗅いでたから―――げふんげふん。いや、何でもないよ?」

「ちょっと待て。今ものすごくツッコミたい部分があったんだが」

「聞かない方がいいよ。言いたくもないし、何よりもサスケ君―――世の中には知らない方が良いってこと、たくさんあるんだよ?」

と、シンは虚しそうに笑う。そのあまりの虚ろさに危険を感じた、サスケはそれ以上突っ込むことが出来なかった。
賢明である。

「わ、分かった。それじゃあこいつを出口に送り届けてから―――」

「いや、いいよ。ボクも手が空いたし、後は任された」

「いいのか?」

「いいよ」



~~~~


そうして一行は出口までたどり着く。
水月は歩き―――そして振り返った。追いかけてこない二人、シンと紫苑の方に向かって口を開く。

「………本当にボクを逃がしていいのか?」

「ああ。首領、ザンゲツの意向だからな。誰も文句は言わないし、言わせない」

「……サスケの方には聞けなかったけどね。なぜ、と聞いて君は答えてくれるのか」

「ああ、そんなこと? 今はどこも緊張状態だからな。木の葉に渡すのも砂に渡すのも………どうにもね。ともすれば余計な火種に成りかねないし、網としても木の葉としても霧としても―――そんなゴタゴタ、今起こすのは心底御免だ。皆が望んだ。だからこその釈放、というわけだ」

「………舐められたもんだね」

ボク一匹がどうなろうとも、後でどうにも出来ると思われているのか。
水月は先程のみっともなさを思い出し、また機嫌を悪くした。

「いや、舐めていないぞ。だからこそだとも言える」

「………?」

「いやいや、この後に起こるだろう争いの戦力として、だよ。暁の首領と"アレ"を止める戦力として、戦ってもらいたいからだと思う」

「暁の首領って、音を潰したっていう? そんな化物が居るのか本当に居るのかね」

「まあ証拠は無いね。ここで言葉だけで伝えても埒があかないし、霧に帰ってから聞けばいいよ。修行がてら噂の鬼人とやらにでも聞けばいい」

「再不斬先輩に―――いや、ちょっと待って。あの再不斬先輩が、霧に戻ったっていうのか」

訝しげな表情で問いかける水月の言に、シンはそのとおりだと答えた。

「そうそう。幸い師匠になりそうな人も居るらしいし、早く帰るといいよ。面倒起こさないでね。それじゃあ、これで」

シンはそう言うと、あー肩こったー、とボヤきながら踵を返す。
紫苑はだらしないのう、とシンに言いながら、同じく踵を返して網の建物群がある道へともどっていく。

まるで隙だらけだ。それを見た水月は一瞬仕掛けようか、と思ったが―――やめた。
先程もそう。敵意を当てて、感じているはずなのに返してこない。

「………なんか、毒気を抜かれちゃったなあ」

去っていく金髪の男の方を見ながら、水月は変なやつ、とつぶやいた。
そして振り返る。目指すは故郷へと、だ。

だがその前に、彼は自分の拳を握り締める。

「………霧に帰る、か」

拳で成せなかったことの数々。水月は、大蛇丸に捕まってからの自分を思い出していた。
やれると思っていた彼は、今になってようやく自分の力のなさを実感することとなった。

「………そうだね。うちはサスケの言を信じるに、再不斬先輩は更に強くなっているようだし―――」

何より、自分に足りないものはなんなのかが、水月には分からなかった。
才能があり、鍛えてきて、力量は上がったつもりだった。しかし足りないと言われた。

力とは全く別の方向から見られ、断言された。お前の剣は軽いと。
大樹をも切り裂く自分の剣が軽いと言われたからには、水月にしても確かめなければ気が済まない。

「………でも、出戻りかあ。情けないなあ」

道中聞いた話では殺されずに済むらしいが、氷漬けは覚悟しておかなければならないらしい。
水月は一人の少女、幾度か手合わせをしたことがある先輩の傍らに何時も居た少女の姿を思い出した。
なぜか、震えが走った。

本当に情けないことばかりだ、と水月は肩を落とす。
しかし、彼は立ち止まらなかった。不甲斐ない自分の顔を下を向けながらも、歩くことだけは止めなかった。
突き動かすのは、野望。亡き兄と約束した出来事が、彼をその場に留めることを許さなかった。

「………まだ、ボクは生きてる。なら、まだまだ強くなれる」

そう呟き、やがては駆け出した。

水月にしては意味が分からない、怒気に染まった天才忍者。全く叶わなかった同い年の少年の顔を思い出しながら。
そしてあまりの戦意の無さに脱力させられた変人忍者、全く戦う気が起きなかった金髪の忍者の顔をなんとなく思い出しながら。






~~~~



「行ったようだね」

「そうじゃな………しかし、サスケの奴。あやつ、今日は何か変じゃなかったか?」

「変、って?」

「いや、もう少し自分を抑えられる奴じゃと思っていたのでな。あんなにあからさまな敵意と殺気を撒き散らす奴ではなかったように感じたのじゃが」

「ああ、それは仕方ないよ。それが主たる目的じゃなかったにせよ、多由也を殺そうとした一味の一人だからね。サスケが怒るのも無理はない―――けど、ボクもね。話した事は数える程しかないけど」

意外だったよ、と前置いて、シンは言う。

「あんなに切れるとは思っていなかったな。ほんと、感じたことないよ、あんな密度の高い殺気。多由也を殺されかけたこと、よほどに腹に据えかたんだろうけど―――いや、それとも怖かったのかな。
あの殺気には、もう俺―――多由也に手を出すなっていう、脅しの意味もあったのかもしれないねえ」

「ふむ、多由也は愛されておるのう………羨ましい」

「………へ? 紫苑ってば、サスケ狙いなの?」

「アホか!」

紫苑の金的。
シンは死んでしまった。

「何をいうかと思えば………妾はメンマ一筋じゃ! まったく、言うに事欠いて………」

とブツブツ文句を言う紫苑。
だがシンは悶絶していて、聞いていない。

「ああサイよ………先立つ兄さんを許しておくれ………ぐふっ」

やがて光の階段がシンの頭上に現れる。
天使がラッパを吹いていた。

「ふん、羨ましいというのは、女としてに決まっておるだろう。"いち"女として、アレほどまでに一途に想われてみたいものじゃ……っと、聞いておるのかシン」

「………」

返事がない。
ただのしかばねのようだ。

紫苑はそんなシンを尻目に、良い機会だと乙女心をいうやつを教授し始めた。





~~~



説教をする少女と、悶える少年。
その二人の姿を、少し離れた場所から見る者の姿があった。

「全く、何をやっているのですか………」

ため息。
黒髪の妙齢の美女、菊夜が守るべき主のいきなりな行動に、頭を抑えながらぼやく。

「………仲が良い、ということだろう。久しぶりの再会で、はしゃいでいるのだと思う。最も、紫苑の方は少しはしゃぎ過ぎだと思うがな」

背後にはもう一人、苦笑をする者がいた。うちはイタチである。
イタチは、いつかの暁のコートは既に脱ぎ捨てて、今は黒一色の服を纏っていた。

「五感が戻って、間もないですからね。色々な人と話す機会も増えましたし、活発になるのは良いのですが………」

「慎ましさを身につけて欲しいと?」

「はい。女だから、と言うわけではないですが……先代様の姿を思い出しますと」

「………紫苑は紫苑だろう。無理に"らしく"を求めるべきでは無いと思うが」

育ちが育ちだからな、とイタチは言う。
対する菊夜は苦笑を返す。

「それもそうなんですけどね……しかしイタチ、貴方もここ最近で変わりましたね」

「オレが?」

「ええ。前とは大違いです。いつも弟さんの事を想っていたからですかね………どこか上の空でしたが、今は違います」

「自覚は無いが………」

「ならば無意識にですが。重症ですね」

と、菊夜は笑う。それはもう嬉しそうに。
それを見たイタチは何をそんなに喜んでいるのか分からず、問うた。

「何か良いことでもあったのか?」

「はい、色々と………しかし奇妙な縁ですねえ」

虚空を見上げ、言う。

「本来ならば出会う筈がなかった。でも今、私達はこうしてここに居る。木の葉隠れ、鬼の国、根の構成員候補、網………どれも、つながりがあるようで無い、そんな出自ですのに」

「そうだな。サイやシン、サスケはともかくオレや紫苑、貴方にザンゲツは本来ならば出会う事はなかったのだろうな。あの、一人の少年が居なければ」

―――遠く。
最終決戦を前に修行に入っているであろう、金の少年の姿を思い出し、イタチは苦笑した。

「未来のためにも、紫苑様の為にも。彼には何としても勝って欲しいですが………イタチ。貴方の眼から見て、どう? 彼はペインに勝てそうかしら」

「………正直、難しいと言わざるを得ない。切れる札の一枚は託したが………問題は、あれを活かせるような場面を作れるかどうかだ」

それで勝敗が決る、と厳しい表情でイタチは言う。

「輪廻眼を前に、小細工は通用しない。ペインより自分が勝る部分を活かして、勝てる理を以て挑んでようやく土俵に立つことができる」

それが無ければ勝負にもならない、とイタチは険しい顔になる。

「そこからは小細工無用の力勝負になるだろう。幸いにも、材料が揃っているのでなんとかなるかもしれない、と四代目は言っていたが………」

「そうですか………貴方も託したのですか」

「ああ。そちらも?」

「ええ。最終手段として、最後に切れる札の一枚として欲しいと言われたので、渡しましたが………」

菊夜の顔が曇る。

「使わないでいてくれたら最上なのですが………どうも、そういう訳には行かなさそうですね。成熟した経絡系を持つ自分ならば大丈夫だと言っていましたけど……」

ぶつぶつと不安気に呟く菊夜。イタチは何を渡したのか訊ねようとした。

が、どうにも答えてくれなさそうなので諦めた。
自分もそうだ。聞かれても、答えないだろう。

万が一、身内より外の他人に知られれば、追われるひとつの原因となる。
イタチは、そんな恩を仇で返すような真似はしない。

「しかし、参加できないか。業腹だな………自分が。例えあいつがそれを望んだとしても―――」

もう万華鏡写輪眼は使わないでくれ。
四代目とメンマに、一対一で戦わなければ理由と共にそう言われたイタチは、最終決戦に参加しないことを誓わされた。

『死なせるために助けた訳じゃないし、"うちはイタチ"を助けたのは、弟だ。うちはサスケだ。そしてこれは俺の戦いで、参加するのは俺だけでいいんだ』

屁理屈だ。俺にも戦う理由はある。
そうイタチは返したが、メンマは苦笑しながら首を振るだけだった。

『ああ、屁理屈だ。もしかしたらペインは………約束を破り、木の葉を襲うかもしれない。だけど、俺はそうならないと思うんだ。確証はないけど、そう思う。だから、納得してくれれば嬉しい』

あくまで強制せず、頼むような口調。

そして、続きの言葉を聞いたイタチは、頷かざるを得なかった。




「"誰も彼もが幸せになる、その為に"―――か」







~~~




一方、網の病院の、とある一室。
そこでは、ベッドで寝こむ

「………何しに来た」

「久しぶりの再会だってのに、随分な挨拶だな……左近」

起きているのはお前だけか、と多由也は並んだベッドを見ながら言う。

「ふん、タフさなら俺が一番だからな………チッ、出て行けよ。あいにくとお前と話をする気分じゃない」

いいから出ていけよ、と左近が言う。左近としては大声で出て行け、と言いたい気分であったが、全身に走る激痛がそれを許してくれなかった。
こうして話をしているのも億劫で、常人ならば気絶している程の痛みだから無理もないことだ。

「………」

それを見た多由也は一歩、下がると腰元から笛を抜いた。

「………っ」

止めようとする左近。だが、なぜだか動けなかった。
反射的な意志ではなく、体がそれを止めたのだ。

そうして、奏でられる旋律。

「………体が?」

体を支配していた激痛が、旋律と共に徐々に安らいでいく。
左近は、激痛の原因となっているのは恐らく経絡系の破損だろうと考えていた。

呪印の暴走による、経絡系の酷使が原因だろうと。
だから、この旋律の効果がなんなのか、左近は直感的に理解した。

「………その笛は、経絡系の流れを?」

「ああ。そのものを操れる訳じゃなくて、あくまで正常に戻すぐらいだ。まだ、呪印が暴走した時の"残滓"が残っていたようだからな」

だから流れすぎているチャクラを抑制した、と多由也は言う。

「経絡系自体の修復は………やってみないと分からないが、できると思う。今は痛みを抑えることしかできないけど………少しはマシになったか?」

「………ちっ」

左近は答えず、顔を横に逸らした。
今更ありがとうなど、言える間柄ではない。

多由也もそれを理解しているが故に、二度は問いかけない。


沈黙が場を支配する。
やがて、左近は顔を逸らしたままで口を開いた。

「……なんで、助けた」

何故殺さない、と不機嫌な口調。
多由也はその問いに対し、首を横に振った。

「助けたわけじゃない。これはそんなに便利なものじゃない。あくまで、補助をすることしかできない」

「補助、だと?」

「ああ。"戻りたい"と。お前たちにそういう意志があったから。体は元に戻ったんだ。ウチはそれを増幅しただけ。
あのまま、戦いたいと―――死にたいと思っていれば、そのまま体は死を選択していただろうよ」

「………」

「戻ってるんだろ、記憶。呪印の拘束も、外れているんだろ」

「………」

多由也の問いに、左近は舌打ちをもって答えを返した。
逸らされた顔と、沈黙が肯定の意を示していた。

多由也はそんな左近の態度を特別どうこう言うことはなく―――ただ、背後にあった荷車を前に持ってきた。
その荷車の上には、握り飯があった。左近、右近、鬼童丸、次郎坊の4人分の昼食。

「音隠れのことも聞いて、混乱しているだろうけど―――取り敢えず、飯だ」

それぞれのベッドの横にある簡易テーブルに、それぞれの握り飯を置きながら、多由也は皆の容態を見ていく。

「経絡系と………筋肉もボロボロのようだな」

「………ああ」

「そうか………暴れるなよ。今はまだ応急処置しかできていない。こんな状態で無理に酷使すれば、二度と戻らなくなるぞ」

それだけを告げ、多由也は部屋を出ていこうとする。
その時、多由也の背中へと声がかけられた。

「待てよ。まだ答えを聞いてねえぞ―――なんで、俺たちを殺さないんだよ」

お前を殺そうとしたのに、と左近は不機嫌そうに問いかける。
理解できないが故の問いかけで、心底分からないこと。

多由也は、振り返らないまま答えた。

「………自己満足だよ。左近、右近、鬼童丸、次郎坊―――今のお前らの立場は、もしかしたらウチが立っていた場所かもしれない」

ただ運が良かっただけだ、と多由也は言う。

「あの言葉を聞いていなければ、ウチは呪印に囚えられたままで、夢を忘れていただろう。切欠はウチ自身のものじゃなくて―――運が良かっただけだ」

だから返さなければ、と多由也は笑う。

「ウチらは間違えた。孤児だった所を、大蛇丸様に拾ってもらって―――壊された。だけど、それを選んだのは結局の所自分自身だ」

孤児だった頃に、それぞれが望んだ夢。色々あったけど、全員が全員、逆の事をしてしまった。
そこで左近は思い出した。修行時代、多由也が語っていた夢のことを。

「音で、人を助けるか」

「ああ。そんで、戻ったウチはそれを続けていこうと思う。間違ったけど、間違ってしまったからには―――だからこそ、償いをしなければならない。母さんの薫陶も、胸に残っている」

施しには感謝を。そして恩には音を。
多由也は、それを実践するだけだと言う。

「………償い、か。死んだ相手に?」

「いや、自分自身にだよ。あの日孤児院から出てきて、音隠れの里に来て、修行をしていた宿舎で―――あの時に夢を誓った、自分自身にだ」

死んだ相手が許してくれることはない、と多由也は言う。
死んで許してくれる者などどこにもいないと多由也は言う。
罪を放り投げて死ぬことこそが、最低の選択だと。

「結局のところ、これも自己満足なんだけどな。けれど選択はいつだって二つ、生きるか死ぬかだ。そして生きるのなら、何ができるかを考えた。助けるか、壊すか。そうしてウチは選んだ」

死んで出来ることなど何も無いと―――そう自分を誤魔化してもいると、多由也は言った。

「放っておけない奴もいるし、死なせたくない奴も居る。だから身勝手ながら、ウチは生きる事を選んだ。生きて、多くの人を助けようと、そう決めた。だから―――お前たちを助けた」

選びなおす切欠も無いまま死なせるのは不公平だと、多由也は考えているからだ。

「………俺たちが壊す事を選んだら?」

「――その時はウチが止めるさ。暴走もしていない今のお前らに、万全のお前らに一人で適うとも想わないけど、死んでも止めてみせるさ。助けるために」

そうして、けれど、と多由也は振り返る。

「選んだこととか、その理由を教えてくれると嬉しい。互いに悔いのないように、な。正直、暴走しているお前らを見るのはちっと耐えたよ」

「………ああ」

「じゃあな。お大事に」

ばたん、とドアの閉じる音。
去っていく多由也の足音を聞きながら、左近は不機嫌そうに口を開く。

「………起きろよ。聞いてたんだろうが」

狸寝入りはやめろ、と左近が殺気を飛ばす。
それに反応して、他の2人が起きる。

「どこから聞いてた?」

「………笛の音を聞いた後ぜよ」

「同じくだ。体の痛みも、いくらか和らいだからな」

「………ちっ」

特にどうということもなく、左近は融合を解いた。
弟の右近が出てくる。

そして、沈黙。それぞれに考えることがあるのか、誰ひとりとして口を開かない。
帰る場所が無くなったこと、呪縛が解けたこと。解かれた暗示と蘇った記憶に、4人は何も言うことはできなかった。

「……取り敢えず、温かい内に飯を食おうぜ。握り飯は人数分用意されてるようだし」

「……そうだな」

腹が減ったままでは何もできないと、他の3人は賛同する。
握りたてのおにぎりはどうやら炊きたての米で作ったようで、少し湯気が出ていた。

左近はまず、盆の用意されていた冷茶を飲む。冷えた水分が食堂から全身に染み渡った。
次に握り飯に添えられた海苔を巻いた。ぱりぱりの海苔が白ご飯に巻かれ、次に握り飯にかぶりついた。
温かく旨みのある白い米粒が、塩の味と共に口の中で解けてゆく。

「……ちっ、相変わらず旨えな」

「そういえば、料理関係は全部アイツに任せていたんだっけか」

4人は、『クソ、なんでウチがこんな事しなきゃなんねーんだ』、と口悪くぼやきながらも料理を作っていた多由也を思い出す。

「………そういえば、サバイバル演習中は世話になりっぱなしだったな」

「………宿舎でも、ぜよ」

イナゴの佃煮じみたゲテモノ料理を作る鬼童丸。
大きめの肉を切り刻んで焼いて"飯だ"という次郎坊。
単純に下手くそで、油ぎったものしか作れない左近、右近。

それを前に、母親の教えから、それなりの知識と腕があった多由也が飯番を任されるのは、いわば必然という流れでもあった。

思い出した4人は、再び無言になる―――その、直後。

「……これ、は」

おにぎりの、中心。そこに含まれていた"具"に、全員が驚いた。

「………ちくしょうが」

左近には、鮭。右近には、昆布。
鬼童丸には、辛子明太子。
次郎坊には、梅干。

全てが、それぞれの好みであった具。

「覚えていやがったのか………」

口悪く悪態をつく。つかざるを得なかった。



4人の脳内で、その時にあったやりとりが、想起された。



『ああ!? なんでウチがそんなもん作んなきゃなんねーんだよ!』

『おい、口が悪いぞ多由也。女というものはだな……』

『口うるさく説教垂れてるんじゃねーよ、デブ! ってかお前ら自分で作れよ!』

『え、作っていいぜよか?』

『『『お前はやめろ』』』

『ちっ、なんだよ、好みの具くらい言ってもいいだろうが』

『そうだぜ、せっかくなんだから』

『うるせーよ! それなら具を統一しろよ! なんで全員バラバラなんだよ! 用意するのクソめんどくさくなるだろうが!』

『だから多由也―――』

『うるせえっつってんだろデブ!』

『おにぎりにイナゴはだめぜよか?』

『いいけど布団の下で一人で食べろよきもちわりーんだよ』

『と、いうことで俺昆布』

『俺は鮭ね』

『………梅干だ』

『辛子明太子ぜよ』

『てめえら………っ!』 

口悪く悪態をつきまくる多由也。
それでも全員分を作った彼女に、4人は意外そうに、それでも満足しておにぎりを食べたのだ。




「……」

思い出した4人は、黙々とおにぎりを、噛み締めるように食べていく。

「………?」

そこで、左近が手を止めた。
その後に、何かあったのを思い出したからだ。

「おい、そういえば――」

口を開こうとした左近が、硬直する。
見れば、次郎坊が顔を真っ赤にしていた。左近はそんな次郎坊の手にあるおにぎりの、中にある具を見た。

―――問答無用のカラシだった。

「ああ、そうだったな」

4人の中で、過去と現在が重なった。
あの時もそうで、なんだかんだいって全員の無茶を聞いておにぎりを作った多由也だったが、腹いせにひとつ爆弾をしこませていたのだ。

はじめに発覚したのは―――食べる速さが一番の、次郎坊のおにぎり。

「ぷっ………」

知らず、笑い声がこぼれていた。
それは鬼童丸、右近も同じで、次郎坊から顔を逸らしながら笑いをこらえていた。

だけどあの時と同じで、耐えきれなかった。顔を真っ赤にした次郎坊はまるで達磨のようで、顔を真っ赤にして藻掻く姿は爆笑必至なおかしさだ。
耐えることを放棄した3人の笑い声が、病室に広がっていく。

藻掻く次郎坊。左近は笑いながらも、盆にある茶を取って、投げ渡した。
次郎坊はそれを受け取り、勢い良く飲み干す。

「さーて、どうしようか」

残る一つのおにぎり。中を見れば、ひとつだけカラシが入っている。

「………」

―――無言のまま。3人も、中身を確認した上で、口の中にカラシおにぎりを放りこむ。
鼻を刺す激痛。あまりの辛さに、全員の眼から涙が滲み出た。

もがき、用意していた茶を飲む。
それでも辛さの残滓が、鼻を苛んでいた。

全員の顔が赤い。特に鼻のあたりは真っ赤になっていた。

「ぷっ………」

爆笑が、病室に広がる。

全員が、笑っていた。笑いながら、うつむいていた。




―――両の眼から溢れる涙を、カラシのせいにしながら。






~~~~




「………何だ、あの笑い声は」

多由也に作ってもらった大好物のおかかのおにぎりを食べながら、サスケは不気味だと呟いた。

「いやいや、なんでもねえよ。それより、水月の方は無事送り届けられたのか?」

「………ああ」

一瞬口ごもるサスケ。何かあったな、と感づきながらも、多由也は追求しないでいた。

(わりと子どもっぽい所があるからな………)

決まりが悪そうな顔をしているサスケ、こんな表情を見せている時は問い詰めてもごまかすばかりだ。
それよりも、と多由也はサスケに部屋に呼んだ理由を説明する。

「手紙の件だけど……」

言いにくそうな多由也の言葉に、サスケはああと頷いた。

「どうするのか、決めたのか」

問いかける言葉に多由也はうなずき、口を開く。

「ああ―――私は、網に残る」

「………そうか」

「………」

多由也は無言になる。

何も言えない自分の、その頭の中で手紙の内容を思い出していた。

辿々しい文字で書かれた、置き手紙。それには、こう書かれていた。


『これを見ている、ということは、俺はもう網には居ないだろう。まず、何も告げずに去っていく不義理を許して欲しい。唐突に、だけど状況が変わった。どうやら相手は俺との一対一をお望みのようだ。連れていけない理由は色々あるが、これも語れない。相手から止められているからだ。まあ、そんなことは置いておいて、多由也、今までありがとうな』

時間がなかったのだろう。文字は汚く、走り書きのようだった。だけどありがとうという文字だけは綺麗だった。

『毎日、いい音楽を聞かせてくれてありがとう。紫苑を助けてくれてありがとう。大切なことを思い出させてくれてありがとう』

ありがとうを言うのはこっちの方だと、多由也は苦笑をする。切欠を与えてくれたのはお前だろうが、と。

『特に、紫苑を治療したあの演奏は本当に良かったよ。言葉にはできないほどに。まあ、母親の記憶は無い俺だけど、それでも自分の中の何かが脈動を打って、なんか心地良くなった』

うずまきクシナがどういった人物なのか、何時死んだのか多由也は知らない。知らないが、メンマがそう感じてくれたのならば自分も嬉しいと、頷いた。

『往く道を選んだことは聞いたっけな。それでも振り回してしまったけど、それも今日で終わりだ。明日からは戦場に連れまわされる必要もない。辛かったと思うけど、今まで本当にゴメンな。いやありがとうというべきだな。ここから先は、多由也の自由だ』

助けられたあの日と同じ。唐突すぎるメンマに、多由也は苦笑せざるを得ない。

『ザンゲツには話を通している。多由也が今まで受け取らなかった、給金もそこに預けている。木の葉の方にも、指名手配の令状を外してもらった。木の葉崩しのアレと、先の角都と飛段との戦闘の時借りを作ったからだけど、しぶしぶながらも了承してもらった』

おそらくは、襲撃を予想していたのか、手紙にはそう書かれていた。なら言っとけよ、と多由也は思ったが、そうしたら相手が警戒して別の方法を取ったかもしれないので、一概には言えないかと難しい表情を浮かべざるを得なかった。

『別れじゃないんで、多くは語らない。行末も心配してない。多由也はしっかりしてるからな。ただ、ひとつ。横にいる暴走しやすいサスケ少年を抑えてくれれば助かるな、なんて』

後半の一文に、多由也は笑いながら、同意した。多由也も同じ感想を持っていたからだ。
サスケは頭は回るし、切れるが、感情に振り回されやすい傾向がある。それを抑えてくれれば助かる、と言っているのだろう。

『あの隠れ家は自由に使っていい。だけど暗号の印は変えないでね。自分の家の罠にひっかかるとか、間抜けにも程があるから。』

了承し―――少し呆れる。信頼してくれるのは嬉しいが、あんな広大な家を自由に使っていいとか、どれだけ懐が深いんだと。

次の一文。結びとして書かれた言葉で、その呆れは喩えようのない感情に変えられたが。



『――また会おうな。叶うならばいつか、俺達のあの家で。前のように、酒を酌み交わせれば――』


そこまで思い出した多由也は、現実に回帰する。
そしてサスケが怪訝そうな表情を浮かべているのに気づいた。

「なんだ、その百面相は」

「いや、何でもない。それより、お前はどうするんだ? ―――手紙、見せたくないっていうから見せてもらってないけど」

多由也の問いに、サスケはばつが悪い表情になった。

「……いや、見せられるかよ。特にお前には」

「あんだよ、悪口でも書かれてんのか?」

「いや、悪口じゃない。ない、けど………」

と、サスケは手紙に書かれていた内容を思い出す。



『拝啓うちはサスケどの。噂のペインさんはどうも一対一をお望みのようで、それを邪魔したり多人数で喧嘩挑めばマジでヤバイ事になりそうです。具体的にいえば、油揚げを目の前で食べられたキューちゃんぐらい。あと、再不斬の浮気現場を見た白ぐらい』

前半は見たことがあるが、後半は見たことが無い。しかしそれはもうものすごいことになりそうだ、とサスケは身震いする。
再不斬が居れば勝手に浮気すると決め付けんな、と首斬り包丁の一閃ぐらい飛んできただろうが。

『俺としてもあんなデタラメーズ相手に一対一は正直辛い。すげー辛いけど、やらなきゃいけないらしい。だったらやるしかないよね、男の子ですもの』

口調がキモイと正直な感想を携えつつ、やらなきゃいけないという部分には同意する。

『ちゅーわけで解散。あとは各自自由行動。マダラもなんだかんだで死んでたし、イタチとも戦わずに済んだし、いい事尽くしでハッピーエンド。世界はこんな筈じゃなかったことばっかりだよね。今回はいい意味で嬉しい方向に転んでくれたけど。というわけで、完』

勝手に終わらせるな、とサスケは悪態をつく。返すものも返せなくなるじゃねーか、と毒づく。

『このひと騒動の後、サスケが往く道は多々あると思う。ザンゲツは選んだ。シンとサイも選んだ。再不斬と白は言わずもがなだ。紫苑も、選んでいると思う。みんなそれぞれの夢があって、夢見る絵を餅ではなく現実にしようと頑張っている。オレも同じだ。だからおまえら兄弟が選ぶ道に、あれこれは言うつもりはないけど………多由也は滅多に居ない良い女とだけ付け加えておこう。まあ、俺よりもお前の方が知っているだろうけど』

当たり前だ、とサスケはふんぞり返る。それに関しては、世界の誰にも負けない自負があった。最も多く、傍にいて接していた自分には。

『けど、木の葉には連れていけないぞ。多由也もそれを望まないだろう。彼女には彼女の夢があって、網に残ることが夢にとって一番いい選択肢になりそうだからな。後は、お前自身だ………という言い方は卑怯だな』

誘導尋問のことを言っているのだろう。けどサスケは、選択を縮められているとは想わなかった。
メンマは嘘を付くが、肝心な所で卑怯な真似はしないし嫌な嘘もつけないと、サスケはよく知っているからだ。

『遠く離れた地にあっても、故郷を思うことは出来る。また、木の葉の外でしかできないこともある。尊敬すべき兄の言葉で、マダオも同じ意見らしい。だから、選ぶといい。その卑怯臭い性能を持つ眼を以てして』

続く言葉に、サスケは悩んだ。数秒悩んで―――選んだ。

『出来ることはひとつ。野望の元に、野望の障害となるものを壊すかあるいは、守りたいものを守ることだけ。だけど、お前に野望を達成できる程の素養はない。なぜならお前は優しすぎる。家族の敵を討つと心に決め、それ以外何も要らないと言えるほどに。自分の欲望を抑え、自身を省みない、そんな純粋一途な馬鹿に他人を陥れることはできない。単純で純粋なお前は、非道にはなりきれない。必然、悪党に成りきれない甘さを残しているお前は、いつか道の途中で間違えた道を示され、信じて、もっと悪どい輩に利用されるだけだと思う。だから本当に守りたいものを、失いたくない者を見つければいいと思う。いや、人だな。特に傍に居る人間を守れれば、一緒に居たいと思える人間の傍に居られれば。朝も昼も夜も共に生きられれば、毎日笑い合えれば、夢を追いかけられれば。これ以上の幸いは無いと俺は考える』

想像してみて、サスケは深く頷いた。死にかけた多由也の顔を思い出し、頷いた。
二度、あのようなことがあれば―――自分は狂うかもしれないと。

死にかけて、本当に思い知らされた。
ひとつ、隠れ家での生活の中、いつしか当たり前だと思うようになっていたことが、泡沫の夢に過ぎないということを。日常というのは容易く壊れるということを。
そしてもう一つ、失って壊れそうになるほどに、目の前の赤毛の少女を失いたくないと想っている自分に。

『その眼でどこを見るか、誰を見つめるか。それが誰にとってもの幸いになればいいと、俺は願う。お前にしか出来ないことがあって、お前もそれを望むのならば、それも良いと思う』

ザンゲツから聞かされた話を思い出す。わずかでも、世界に秩序を。
暴走する尾獣と、人柱力の居場所と存在意義を作るために。うちはの眼が、誰かに誇り続けるものであるように、と。

結びの文は、単純爽快。そして、分かりやすい一文。


『だから死ぬなよ、サスケ。俺も、絶対に死なないから。そしてまたいつか、あの家で――』


結びの文を思い出し、サスケは決めた。
迷っていた選択肢。選ぶ道を、決める。
来るなといった馬鹿の、最後の戦いを―――邪魔はしなくとも、見届けることは同じ。

その後にどうするかを、サスケは告げていなかった。
すなわち、木の葉に戻るか、網に残るか。
後半の一部は自覚していないものだったが、そうなのかもしれない。少なくとも自分には、他人を踏みにじって生きるという大蛇丸のような道を選べそうにない。

木の葉に残っても同じ。きっと、あらゆる制限をかけられて、あるいは何も出来ないまま一生が終わってしまうかもしれない。

色々な情報を元に。サスケは迷いに迷いを重ねた上で、多由也の回答を聞いた上で―――結論をだした。

「いや、思えば簡単なことだったのかもな………」

「え、何がだ?」

不思議そうに言う多由也に、サスケは苦笑する。

脳内で想像してみた結果だ。分からないのも無理はない。

なんかみょーに多由也の方を見つめている重吾。おそらくは多由也に気があると見た。
もしも自分が木の葉に戻って、多由也と別れて、そんでもって多由也が重吾と付き合うとかそういう事になったら、と。

「お、おい!? なんか眼が万華鏡に……!?」

「ああすまん」

落ち着け、落ち着けオレ、とサスケは深呼吸をする。
思っていた以上にきついというか想像しただけで幻想の重吾に天照発動寸前。

「何でも無い。けど、そうだな……さすがに会ってばかりだし、積極的になりそうにないあいつなら―――いやちょっと待て」

そしてまた想像してしまった。みょーに粉をかけてくる金髪の兄の方が、多由也と一緒に笑い合っている所を。

「くっ、許さねえっ………!」

「えっと、あの、サスケ……? なんか変なもんでも食ったか?」

「いや、多由也が作ってくれた旨いおにぎりだけだ。つまり無問題」

「ならいいけど………って、いつになく素直だな。あと何か壊れてないか?」

「大丈夫だ………ただ、想像しちまっただけでな」

なんというか、思った以上に辛い。否、辛すぎる。
理屈以前の問題で、絶対に認められない。



―――サスケ自身は自覚していないが、彼は親しい者を失うことを、極度に恐れていた。
多由也を目の前で失いかけてからは、より一層その程度が酷くなっている。
それもそうだろう。隠れ家で家族のように一緒に過ごして、数年。しかも料理を作ってくれて、悪態を付き合える親友のように、また頼ったとしても折れない強さを持った女性。

割と一途かつ家庭的な面に飢えていて、また男友達が少なかった彼にとっては両方の面において"ど"が付くほどのストライクだった。

たまに自分に見せてくれる母性あふれる面と、笑いながら馬鹿をやれる所と―――あの夜に見せた、夢に対する苛烈一途な信念と。
どれもが過去に憧れて、失ってしまったもので、一人孤独に暗い道を進もうとしていたサスケにとっては、眩しい太陽のようなもので。

そして、心配そうに添えられた手は温かく。
感じた温もりを、何よりも失いたくないと思った。

だからその選択肢を選ぶ前、七班の面々それぞれの顔がサスケの脳裏に浮かんだが―――すぐに消えた。
選べるのは二つで、サスケにとってはどちらが大事かは自明の理であったからだ。

網での役割もまた魅力的で、かなりの裁量が与えられるだろうことは彼としても理解していた。
そして、それが平和に―――世界の、木の葉の平和に繋がることも。


「決めたよ」


笑い、サスケは多由也の眼を見る。

緋色。炎のような、鮮やかな赤。この炎を、失いたくはない。二度と消させたくはないと、その想いがどれよりも一番だった。




「オレは―――」







かくして、またひとつ歴史が変わった。血塗られた道が用意されていた、少年の眼前に決められた道は既になく。

一人の少年としての道が開ける。決められたものではなく、誰とも同じ―――険しい道が。









ちなみに、決意を告げた時の多由也の表情―――多由也にしては珍しく、歓喜の想いを全面にだした笑顔は、見せられた彼だけしかしらない生涯においての彼の一等の宝物になったのだが、それは余談である。

















~~~~~








「あれ、君は何で泣いているのかな?」

吊るされながら涙を流す香燐―――読唇術で病室の会話を聞いていた赤髪の彼女が何故か涙を流していたので、サイは笑顔でたずねてみた。

返答は涙ながらの愚痴言葉。

「うう………ちくしょう、お前にこの気持ちが分かるかよ………くそぉ、サスケェ」

「………いや、分かると思うよ、きっとね。でもそれとこれとは別だよ」

サイは墨での拘束を緩めない。しばらくして、香燐はサイに聞いてみた。

「なあ………お前も男だろ? 一応聞いてみるけど、あの女にあってウチにないものって、何だ?」




唐突な問いに―――でもサイは真剣に考えた後、たっぷりと余韻を含めて、言った。






「………胸?」



「表ぇ出ろぉ!」















~~~~

















一方、その頃。


とある誰かの心の中で、同じく叫び声を上げている者が居た。





「君がっ、泣くまでっ、殴るのを、止めないってばよっ!」
急ぎ喋っているせいで語尾があれな感じになっている、女性。

「たわばっ、ひでぶ、あべしっ!」
空中で左右のフックを食らい続けている、金髪の男性。


「まっくのっうちっ! まっくのうっちっ!」
その背後で足踏みをしている、少年。



仲の良い―――親子? のふれあいの一幕である。




ちなみに、その背後で一人佇む天狐は呟いた。











「………え? これ、我が収集つけなかきゃならんのか?」



























あとがき。

次回、前夜いち。その後から最終決戦でございます。





[9402] 小池メンマのラーメン日誌 八十二話 「最後の最後の第一歩・前」 
Name: 岳◆5bf56ac5 ID:0347f440
Date: 2010/09/17 20:32
木の葉宴会大戦から明けて翌日。

俺たち3人は我が家でもある拠点、火と風の国の国境付近にある隠れ家にたどり着いていた。

「到着ーっと。しかし何か、久しぶりだな」

『半年ぶりぐらい留守にしていた気がするねー』

「『………ダウト』」

メタな発言をするマダオ、略してメタマダオに二人で駄目出しをしつつ、俺は食料庫に残っている食料や結界の状態などを調べ始めた。
そして数十分の後、それら全てに問題がないことが分かると、ここに来た本来の目的を果たすことにした。

やってきたのは隠れ家の演習場―――そこは主にサスケや再不斬、白が使っていた修行場で、地面は草もなく地肌を晒している。
ここが演習場として使われる前は、地面いくらか雑草が生えていたが、サスケや再不斬達の苛烈な修行の果てに踏みならされ、はげていったのだ。
もし誰かが見れば、ここでどれだけ激しい修行が行われていたかが分かるだろう。

「まあ、サスケの火遁のせいでもあるんだけどね……っと、これはクナイの練習に使っていた………」

そういえば片付けていなかったか、と俺はぽりぽり頬をかく。演習場の端には、穴の開いた的やくたびれた木人、木製の大きな樽などの修行用道具が前に使った状態のまま放置されていた。
穴のあいた的はクナイの的、木人は近接格闘時の無意識反応を鍛えるため、木製の大きな樽達は精神修養のために使ったものだ。

今からとある修行を始めるのだが、それを行う前にもう使わない道具を片付けた方がいいか。

「………いや、やっぱいいか。もう、使われることはないだろうけど―――」

残していてもいいんじゃないか。そう呟き、俺は背負っていた荷袋を地面に下ろした。
ここを使用していた者たち―――再不斬と白はあるべきところに帰った。サスケや多由也はきっと、新しい場所に向かっているのだろう。
あの二人や俺がこの隠れ家を別荘として使うことはあるだろうが、修行場として使うこともない。
既に熟達の域まで達した彼や彼女らが、単純修行を行うためにあるこの演習場を使うことはないからだ。

使われなくなった修行場はいずれ寂れ、踏むならされた雑草達も蘇り、1年も経過すれば元に戻るだろう。

だけど、ここで修行したという残滓みたいなものが、あったっていいじゃないかと。
俺はそう思っていた。
要らないからって、片付ける必要もないじゃないかと。

「メモも残しておこうか」

と、俺は取り出した紙にスラスラと文字を書いて、木製の樽の上に貼り付けた。

「"押してもいいんだぜ、懐かしいドラム缶――――違った。木の樽をよ"っと」

『ああ、あれのことか………ん、まあ確かに精神修養にはもってこいだったけど、半ば拷問に近い修行法だったからね』

まずくじを2枚引かせる。次に引いた本人に見せないように、その紙に書いてある数分だけ、土砂が入った木の樽を押させる。

一枚目は1~9の数字、2枚目は+1~9回、×1~9回といったものだ。

「でもくじ運悪かったよなあ。傍目で見ている俺が泣きそうになるぐらいに」

『基本、あの別荘に居た人達って幸運値低いよね。ランクで表すとD以下ぐらいかも』

『まあ、その分精神的にタフになったから良しとせんとな。あやつ才能はあるが脆そうだし』

「もう心配はないと思うけど。まあ、それよりやることをしようか」

感傷に浸るのはやめ、俺は懐からクナイを取り出した。
クナイの柄には結界の術式が描かれている札が巻かれている。
それを片手4本ずつ両手に8本を持ち、息を吐き出すと同時に四方八方へ投げつけた。

先端がやや膨らんだクナイ―――飛雷神の術を使う時に使用する特殊クナイが、樹の幹や太い枝に刺さった。

その中央部、投擲を終えた俺は目的の場所にクナイが刺さっているのを確認すると、じっくりと印を組みやがて両の手を平をあわせる。

パン、という柏手が鳴り響く。

同時、結界が作動。堅牢な防御力を誇る結界術が作動する。

「………これで準備は完了。お次は頼むぞ?」

言いながら俺は口寄せの術を使い、マダオを呼び寄せる。
煙と共に呼び出されたマダオは地面に置いてあった荷袋の中に手を入れ、目的のものを探しはじめた。

「了解、了解………っと、あったこれだ」

「………それが、ガマ寅っていう蛙に託した?」

「うん。生前僕がガマ寅さんに託した、八卦の封印式の鍵が書かれている巻物だよ」

マダオは質問に答えながらも印を組みはじめた。
やがて、封印の効力が薄まっていくのを感じる。印と共に封印の術式が解かれていくのを感じる。

なんでもこの巻物にある封印式は、腹に刻まれている封印式と対になっているそうな。

「………くっ」

俺はふとはめまいを感じて、その場に膝をつきそうになった。
が、なんとかもちこたえる。そのまま数秒を耐えていると、やがてマダオから声がかけられた。

「これにて完了………さあ、そこの四角の所に手を押して」

「っ、了解………」

なんとか答えながら、俺は指し示された場所に自分の右手を合わせる。

術式が流れるのを感じた。目の前で広がる見事な術式をじっと見据えていると、ふと背後から声がかかる。

それはいつになく真剣な声。

―――覚悟は、という確認の声だった。

俺はいつのまにか高鳴っていた鼓動――ー緊張による心拍数の増大を無視しながら、大声で答えた。
怖いが、退けない。それが分かっている今、躊躇するのは惨めさを示すことになるだけだ。

マダオはそんな俺に笑いかけると、やがて最後となる印を結んだ。

「―――解除!」


――――マダオの叫びと共に。

俺の視界が暗転した。











~~~


暗転する視界。何か網のようなものが破られるのを感じた俺は、その場に倒れてしまった。



「――――あ、ぐッ!?」


体を常に走っているチャクラ。それが電気に似た何かに変わったかのような、そんな感じを覚えた。
激痛の鐘が脳を直撃し、体が痙攣する。そのせいか、視界が黒に染まってしまった。
しかしそれは一瞬のことで、徐々に体は元の状態へと戻っていった。

「………く、は、っと…」

うめき声をあげながら、なんとか立ち上がる。
すると、横から声が聞こえた。

「ふむ、無事か。どうやら上手くいったようじゃの」

「うん………そう、みたいだね」

周囲を見回しながら答える。視界に映るのは、先程まで居た修行場ではなく―――だだっ広い平原だった。

「精神世界へようこそ―――まずは第一段階クリアーだね」

「そうみたいだな………でも、キューちゃんの方は大丈夫?」

「……ああ、こっちは気にするな」

なんでもないと、キューちゃんは答えた。しかしその顔に、一瞬だが痛苦が浮かんだ気がする。
気のせいかもしれないが、違うかもしれない。俺はどこか具合が悪いのか、と訊ねようとしたが、マダオの言葉に遮られた。

「クリアーなんだけど、今の気分はどうかな。体はちゃんと動く?」

「え、俺か? そう、だな………うん、大丈夫だ」

自分の体の状態を確認し、良しと判断した俺は足の反動だけで立ち上がる。

「ほっ、よっ………っと。動きに問題はないな。外に居た時と同じに動ける」

俺は一折体を動かしながら、確認をする。
そのまま、再度周囲を見渡して―――いつも見えてたもの、見える筈のものが無いことに気づいた。

「………あの檻の残骸が見えないな。遠くの方に残骸としてあったのに」

「まあ、あれもいわばイメージだからね。人柱力だった時と同じで、実際にあんな巨大な檻が人の体内に入るわけないし」

檻とは、九尾の妖魔を閉じ込めていた檻だ。あれもいわば精神世界のイメージにすぎないもので、封印と同時に九尾の精神の奥底に叩き込むものらしい。
実際のチャクラの束縛と、"ここから出られない"という暗示を刷り込み完全に封印するそうな。

風景を平原に変えられたのは、精神内に存在している俺、キューちゃん、マダオの3者の合意があったからだが。

「………ん、僕の方も大丈夫だね」

マダオは軽く体を動かしながら、全盛期と同じように体が動くことを確認する。
それを聞いた俺はさりげなく距離を詰め、拳を突き出す。

「ん」

勢いには若干の手加減があった。だがこれは、死角からの攻撃。
並の忍びならば感知しても受け止められないだろう。それだけの一撃は、放ったつもりだった。

―――でも、拳の先に返ってきた手応えは、硬い顎のソレではなく、柔らかい手のひらの感触だけだった。

「………しかも力を流しながらかよ」

「ん、ちょっと危なかったけどね」

「いやいや、余裕に見えたんだが」

今の一撃を停滞なく捌いてみせたのだ。力は完全に戻ったと見ていいだろう。

全盛時のマダオの力量は知らないが、反応速度は段違いだし、何よりチャクラの流れが綺麗に過ぎる。
口寄せで呼び出した時のような、チャクラ量の低下も見られない。

「………行けるのか?」

「ん、往けるようだね―――さあ、練習、練習!」

「トラウマスイッチは止せ!」

俺たちはぎゃーぎゃ言いながらも、互いに後方へと飛び退いた。
俺とマダオ、彼我の距離は数にして二十間程ひらく。

開始の言葉は無い。ただ、視線だけで会話を交わす。


「まあ、冗談はおいといて―――やろうか、最後の修行を」

「ああ」

答え、俺は修行の内容を反芻する。
今から行うのは、いつものような外郭―――肉体という器を鍛える修行ではなくて、魂、チャクラ、そしてマダオ達の意識を高める修行だ。

今までは危険すぎて行えなかったこと。しかし今回に限っては違った。
相手が相手だから必要になると判断したが故、禁じていた切り札を使わずに勝てないと判断した上での決断だった。

「それでは、不詳波風ミナト―――お相手つかまつらん」

「………いやいや、不詳って………どの口でそれを言うんだよ」

思わず突っ込んでしまった。
四代目火影、波風ミナト。昔も今も忍界最強の里と言われる木の葉隠れの―――かつての頂点だった忍び。

その全力は把握していない。全力のマダオを見たことはない。
しかし、火影なのだ。時代によっては最強と謳われてもおかしくない程の力量を持っているだろうことは間違いないだろう。

修行相手の質としては、最高峰と断言できる。願ってもない相手だとも言えよう。
今まで相手取った連中の中でもトップクラスに位置することは疑うまでもない事実として認識できる。

現五影以外では――――いや五影を含めて数えたとしても、間違いなく三指に入る。

(足かせがあった今までならば、全力で戦えば勝てたけど………でも、それが無くなった今であれば、正直勝てるかどうか分からないな)

そうして、俺は武者震いをする。久しくなかったことだからだ。格上相手に、明確な攻略法を持たずに戦うということは。
でも心の中には恐怖だけではなく、わずかだが喜びもある。

(いち相棒というか悪友というか息子(笑)として、四代目火影の全盛時の強さは一度見てみたかったし)

そう思っていた所に、声がかかる。

「………そうだね。これは修行、殴り合いの範疇で、殺し合いじゃないのだ。ちょっと過激な模擬戦といった所?」

どうやら表情から、俺が何を考えているかを察したらしい。的確な洞察に畏怖しながら、しかし笑いを保ち答えを返す。

「ああ、ちょっと過激な殴り合いだ。クナイも飛べば人も跳ぶ、螺旋も回れば時空間も跳ぶような。そんなちょっとした肉体言語での語り合いで、死人は出ない………そうだろ?」

「………いや、またんか。それは"ちょっとした"という範疇に入るのか?」

「「え、入んない?」」

「―――入らんわこのたわけ共が。どこの世界に………いや、馬鹿だから仕方ないか」

「「ちょ、ひど!?」」

「やかましいわ。しかし、派手な戦闘になりそうじゃのう」

互いの間に居たキューちゃんは我は避難しておくぞ、といいながら遠く離れた場所に移動した。
知らず、伝わったのだろうか。

なんにせよ、だ。


「………」


場が沈黙に包まれる。途端、空気が戦場のそれに変わる。
これで舞台は整った、といわんばかりに。

「さあ、いざ尋常に………っと、その前に確認しておこうか。ここは精神世界だからして、致命傷を与えても死にはしない?」

「ん、まあそうだね。でも体の感覚や痛覚は残っているから、死ねば文字通り死ぬほど痛い目にあうけど………怖い?」

「いや、上等だろ。リスクがあってこそ修行になると思うし、勝ち負け競うから修行になるんだろ? リスクない勝負なんか勝負じゃないし、痛みの伴わない修行は修行じゃないって言ってたのは誰だったっけ」

「ん、僕だね。あとは………そうだね、ここが君の心の中、いわゆる精神世界だからといっても、それほど融通がきく訳じゃないよ。
 現実と同じで、印を組むかチャクラを練るかしないと、忍術は発動しないと思ってね。飛雷神の術然り、螺旋丸然り」

「然るべき順序を踏まないと術は発動しない?」

「うん。デタラメな空想をしたとしても、それが現象として起こりえないことなら起こらない。むしろ霧となって散るだろうね。
 ましてや、ここは君だけの世界じゃなくて、"僕たち"の世界だ。夢であって、夢じゃないような世界だし」

「だからこそ修行になる、か………了解した」


そして、顔を引き締める。


「………開始の合図は?」


合図無しにしかけてもいいのだが、どうにも味気ない。そう思った俺は、マダオに聞いてみた。


「そうだね。これで、どうかな」


不敵な笑みの後。

気づけばマダオの手には、クナイが握られていた。柄には、マーキングの術式が組まれた符が巻かれている。


「いいね」

同意を返し、"同じもの"を手元に出す。


そうして、俺は腰を落とした。

クナイを持つ方の腕を振りかぶり、体重を後ろ足にかける。
同時にチャクラを練り、全身を活性化させた。

マダオの方も同じで、クナイを全力で投擲する動作に入っていた。


(………おいおい)


―――大業物と言われる銘刀。それはきっと、眼前に感じられるようなチャクラを纏っているのではなかろうか。

折れそうな程に細いけど、津波の直撃を受け手も折れないような、そんな強靭さを感じる。
それでいて、金剛石をも切断するほどに鋭利な、白刃を連想させられた。

そこら辺の忍び。いや例え上忍だとしても絶対に出せないだろう、研ぎ澄まされたチャクラ。
それが殺気と共に俺の全身を揺さぶった。

だが俺も、それなりに修羅場はくぐってきている。感じるチャクラに脅威は覚えど、実際の動作には一点の曇りも出さないで済んだ。

振りかぶりきったその瞬間、マダオの目が見えた。

視線が交錯したのは、一瞬だった。その瞬きのあと、俺はクナイをマダオに向けて投擲する。相手もまた同じ。

互いの手から放たれた小振りの鉄塊は、正面中央で衝突。
小さいが柔らかくない鉄は、同じ鉄とぶつかり、甲高い擦過音が周囲に響き渡る。

火花が散った。

―――そして、直後。


「―――!」

「―――っ!」


火花の残滓が見える位置に、"俺達"が居た。


―――飛雷神の術。


ぶつかり弾かれ飛び散ったクナイ。
俺とマダオは、その柄に描かれている互いの目的地へと跳んだのだ。

直後、時空間跳躍によって発生する視界と意識の歪みを気合で封じ込め、くるくると回転しながら飛んでいくクナイの柄を掴む。
先の欠けたクナイは、再び俺の手の中に納まる。

それと同時、左足を相手に向けて一歩、大きく踏み出す。

相手も同じ、欠けたクナイを片手に、こちらに向けて一歩攻撃のための動作に入っている。

既に互いに、間合いの中。
そんな至近距離で、再び視線が交錯した。

―――されど停滞は一瞬だけ。

俺は軸足を踏ん張り腰を回転させながらクナイを持つ腕を鞭のようにしならせながら、横一閃。
呼気と共に振り抜いた。

視界に、俺の攻撃の軌跡と―――マダオの攻撃の軌跡が映る。

相法必死の間合いの中で、二相の鉄刃の軌跡が弧を描いた。

それは疾風のような速度で終点へと向かう―――交錯した。

互いを狙った鉄と鉄が、中央で衝突したのだ。先程よりも大きく、より甲高い音が周囲に響き渡った。

―――まるで、開始のゴングのように。







~~~





「………派手じゃのう」

九那実の眼前では、時空間忍術が乱舞されていた。

現れては消え、消えてはまた現れる。

有利な態勢で攻めているはずが、気づけば不利な体勢に追い込まれている。
互いに攻めながら攻められ、だが一瞬でその状況を覆せる。まるでオセロのように、有利の白と不利の黒が入れ替わる。

奇妙かつ極めて高度な攻防を繰り広げている二人を見ながら、九那実はため息をついていた。

互いに有利な位置に跳びながら不利な位置に追い込まれ、でもまた仕切り直すことができる。
相手の喉元にクナイを突きつけたかと思えば、逆に喉元に刃をつきつけられている。
一瞬の油断が勝敗を分ける、閃光が飛び交い、複雑に入り乱れる戦場というところか。

イニシアチブという概念を蹂躙する時空間跳躍術。

「………それを使える忍び同士が戦えば、こんな珍妙な戦いとなるのか」

どこがちょっとした模擬戦だ、と九那実は呆れ顔でつぶやいていた。
二人の攻防、その全てを目で捉えきれている彼女も大概と言えるのだが。

まあ、ただでさえ動物は人間より五感が優れている。
その上、彼女は天狐だ。身体能力も反射神経も人間のそれとは断然違うのは当たり前なのだが。

「しかし一日の長か、はたまた経験の差か………マダオの方が優位に立っておるのう」

チャクラコントロールや体術において、両者に明確といえるほどの差はない。
上下はあれど、勝ち負けを明確にするほどの差はなく、状況によっては容易く覆すことができる程のものでしかない。

しかし、戦況は徐々に、だが確実に―――マダオの方に傾いていた。

「………跳んだり、、跳ぶ振りをしてその場に留まったり………ふむ、瞬身の術も併用しておるのか。虚実の使い分けが実に上手いのう」

マダオの方はできるだけ無駄な動きのないように、時には消耗の少ない瞬身の術を併用しながら攻撃をさばいていた。
間合いの外し方や、虚動も絶妙の一言。
わざとらしく印を組んで、跳んだと想わせ、印のある場所へと意識を逸らさせながら―――そのまま普通に攻撃する。

対するメンマは、それに振り回されていた。
消耗が大きい飛雷神の術を多用しているのも、劣勢に追い込まれている原因のひとつだ。
精神世界だからこそ聞く無茶だが、これが現実世界であればとっくにばてている。使用限界を超え、結果その場に倒れ伏していることだろう。


「腐っても鯛、というやつか」

知らず、メンマから教えられた言葉を口ずさむ九那実であった。





~~~


「―――ん、何か失礼なことを言われた気がする!」

「ちいィっ!」

だからといって攻撃の手を強めんなよ、とメンマは文句を言うが、マダオは取り合わない。
なぜなら尽く攻撃を外されているからだ。

「ん、でも凌げてるじゃないか!」

「ほんとギリギリだよ、くそ!」

叫びあいながら、二人は互いに拳を交し合った。

マダオはマーキングの術が刻まれた符をばらまきながら飛雷神の術を使い、メンマからは死角となる場所からの奇襲を繰り返していた。
メンマはまだ飛雷神の術の副作用を御しきれておらず、跳躍後の動作がどうしても一歩、遅れてしまっている。

(くそ、旗色が悪くなってきたな)

このままじゃあ、負ける。
メンマは舌打ちをしながら、反撃の手段を考えた。

(同じ土俵で戦っていたんじゃあ分が悪すぎる―――なら、勝てる場所で勝つしかないか!)

そう判断した彼は、一か八かの賭けに出た。
全身をチャクラで活性化し、正面から突っ込んでいったのだ。

猛スピードで突進するメンマ。対するマダオは、螺旋丸で迎撃をしようと、手にチャクラを集中させる。

「―――」

だが、メンマは相手の間合いに入るや否や、足の裏にチャクラを集中。おもいっきり、"横へ"と弾いた。

「っ」

直進する慣性力に突如加わった、横向きの力。
メンマの体は横に流され、彼はそれにされるがままとなった。そのまま足を踏ん張ること無く、横にくるくると駒のように回転しながら、マダオから見て左側へと移動する。

「―――ふっ」

そして今度は、足の裏をチャクラで吸着。しっかりと軸足を地面に固定し、跳んだ。
跳躍しながら、マダオから見て死角となる後頭部へと右の回し蹴りを放つ。

「――とっ!?」

右手に構えた螺旋丸では、迎撃する前に後頭部を蹴り飛ばされる。言うまでもなく、後頭部は人間の弱点だ。
マダオは即座に迎撃を止め、その場にしゃがみこんだ。その頭上を、メンマの足が通過する。

だが、もう一撃。メンマは蹴りによって生じる力を殺さず、そのまま左足で後ろ回し蹴りを放つ。
しゃがみこんだマダオは、それを避けることはできなかった。

咄嗟に防御には間に合ったものの、回転が加わった二段回し蹴りは強烈無比なもの。
両腕で防御したにもかかわらず、マダオの体は後方へと盛大に吹き飛ばされた。

だが、メンマの顔に浮かんだのは、やったという喜色ではなく、まずいという危険色だった。

(―――手応えが軽すぎる、跳んだか!?)

防御の腕、どちらか片方ならば折れる程度の力はこめたはずだ。しかし返ってきた手応えは、想像よりはるかに下のそれだ。
と、いうことはあの場面において、マダオは咄嗟に足を浮かせて、受け止めたのだ。

まだまだ、相手は戦闘可能―――メンマが思った瞬間だった。

吹き飛ばされていくマダオの姿が、掻き消えたのは。

「っ、後ろか!」

叫びながら、メンマは突如沸いた気配の方を見やる。
右斜め後方にあった、転移符。そこに、マダオは存在した。

そのまま、転移の余韻も感じさせず、クナイを片手にメンマへと切迫。

―――これは、間に合わないか。

二段回し蹴りの後なので、メンマの体勢は不十分だった。この体勢では、相手の攻撃を受け止めるのも、咄嗟に飛んで逃げるのも無理だ。
そう判断したメンマは、咄嗟に足の裏へとチャクラを集中させ、そのチャクラで地面を弾いた。
緊急回避用の体術だ。不安定な大勢がより酷いものになる。

だが、背後からの一撃を回避することには成功した。

(―――が、ここからだ!)

だが、体勢を崩したままだと追撃を受けるのは自明の理。
そう判断したメンマは体勢を崩しながらも、振り返りざま風遁を纏わせたクナイを投擲した。

投げられたクナイを防ぐ方法は二つ。同じく風遁を纏わせたクナイで弾くか、避けるかだ。
その一瞬で崩れた体勢を立て直し、反撃できるような所まで。

―――そのつもりであったメンマ、しかしその後眼前に繰り広げられた予想外の光景のせいで、一瞬だけ思考を停止させてしまう。

マダオは投げられたクナイを前にして、だがそのクナイを弾こうともせずに、ただ眼前でクナイを水平にしているだけだったのだ。

どういうつもりか、何のつもりか。
メンマは思考を回転させ、刹那の判断の後に結論をだそうとして―――だが、問いかける暇も無く。

奇妙な音と、組まれた印。

―――"背後"に、悪寒。

「―――っ」

瞬間的に取れた行動は、崩れるように倒れこむことだけ。
声も出せず、無様に横へ崩れ去る。

その時に見えたのは、 "飛燕を纏ったクナイ"

飛んできたクナイ掴み、構え、投げ返したわけではない。
一瞬の停滞もなく、飛んでいったクナイが何か転移したかと思うと―――後方にクナイが飛んでいた。

(―――できるとは聞いた。けど、こんなに厄介なものなのか!)

マダオが使ったのは、恐らく時空間結界
こちらが放ったクナイを、そのままこちらの後方へと転移させたのだ、とメンマは分析していた。

「って、グランゾ○かお前は―――!?」

メンマは叫びながら、再度飛来したマダオの放つ複数のクナイを両手で弾き飛ばす。
ひとつ弾き、ふたつ弾く。
みっつよっつと、視界にクナイを、掌で横へ弾き飛ばす―――が、あからさまに投げられたクナイの、その影にあった影のクナイには気づいていなかった。
弾き、両手が外へと広げられた状態でようやくそれらを認識したメンマは、焦りの声をあげる。

「くっ!?」

足や手では間に合わないと判断したメンマは、首をおもいっきり横に曲げる。ごきり、と首の骨から嫌な音がした。
だが影のクナイはメンマに当たること無く、頬を切り裂くにとどまった。

メンマは頬に走る痛み、出血を無視しながら、意識を眼前に集中させる。

―――再度、クナイを投げながら追撃を仕掛けんと迫る、マダオの方へと。

(あんな術があるんじゃあよ。逃げてもダメだろ!)

むしろ長引かせる方が不利になる。そう思ったメンマは、首を捻ったせいでよけいに崩れた態勢で、しかしよろけながらもふんばり、なんとか体勢を立て直した。
右手にチャクラを集中させ、左手で飛来するクナイを弾く。

さすがに片手で全部は防げないため一部を身に受けることとなったが、それでも痛みを感じながらも退かず、ここしか無いと更に間合いを詰めた。

繰り出すは迎撃、カウンターとなる掌底を前菜に、本命の螺旋丸を叩き込むのだ。
十分に寝られた螺旋の一撃は、マダオを吹き飛ばして余りある程の威力を有していた。決まれば勝敗を決定づける一撃となろう。

―――決まれば、だが。

「グガッ!?」

放つ前に、最後の一歩を詰める寸前に。
メンマは"後頭部"に一撃を受けて、そのまま前のめりに倒れていった。





それから、数分後。
きつめの一撃を後頭部に受けたせいで気絶していたメンマが、ようやく目を覚ました。
そしておもむろに、呟く。

「………知らない、天井だ」
「いや、それ地面だから」
「知ってるよ! 草が口に入ってるからね! てか、せめて仰向けにしてくれよ!」
「……ん、どうやら元気そうだね」
「聞けよ!」

メンマは叫んびながら、打たれた後頭部を痛そうにさする。
そして先程の攻防を思い出しながら、悔しそうに舌打ちをした。

「見事に負けたか。つーか最後の反則臭い術、あれはいったい何なんだ?」
「知っての通りの飛雷神、その"二の段"って術だよ。投げたクナイに刻んでいるマーキングに跳んだんだ」
「いや、理屈は分かるけど………」

投げてから跳ぶまでの時間が短すぎだろ、とメンマは呆れた表情を浮かべた。
投げて、空間把握して、認識して、跳ぶ。マダオはその作業を実質一秒足らずでやってのけたのだ。

「いやいやせめて3秒はいるだろ常識的に考えて………」
桃白白モドキの転移をした時に必要だった時間は5秒だし、とメンマは愚痴る。
事実あの時、投げてから印を組み術に必要な準備を整え、投げたクナイに刻まれた目的地の座標を若干補足しながら、そして突き刺さって固定された後に転移するまで、ゆうに5秒はかかったのだった。

「まあ、飛雷神の術はあの戦争の時に、馬鹿みたいな回数を使ったしね。実戦の中で煮詰たものだし、何より僕の"売り"である術だ。そう単純な、転移だけなんて応用の聞かないような状態で放置しておく筈がないでしょ?」
「―――"練度があれば何でもできる"か………それでも反則だろ。木の葉の閃光って名前を痛感したよ」

その身まるで光の如し。
そうそう捉えきれそうにないと、メンマは苦笑しながら首を振った。

「いやいや、そんな事いうけど、さっきのは結構危なかったんだよ?」
「………劣勢に追い込まれた上、作戦も上手くいかずに逆にはめられたんだぞ………完全に実力負けだろ。くそ、もう少しやれるつもりだったんだけどな」
「ん、十分に強かったよ? それこそ、現実の戦場では遭遇したくないぐらいにね。特にあの、横に移動した体捌きは見事だった」

視界から一瞬にして消えたから本気で焦ったよ、とマダオは頬をかきながら汗をたらした。

「一撃がまともに入れば勝ちだったんだけどな」

「だからこそ逃げたんだよ」

さすがの僕でも、肉体強化と体術、力と技が合わさった一撃をうければまずいからね、とマダオは頷いた。

「でもそういえば………顔岩の上でも思ったんだけど、やっぱりそこそこは使えるようになったんだね? 多由也ちゃんの笛を聞いた後、チャクラの流れが少し変になっている、とか言っていたけど」
「ああ、まあな」

「そう………やっぱり、というべきかな。でも、いったいどういう切欠で使えるようになったのかな」
「切欠? ………いや、分からないな。戻ったのは―――ああ、居酒屋で飲んでた時だったけど、何かあったかな」
「あ、時期もやっぱりそうなんだ。それは僕の方でも感じられたし、急にチャクラの流れが良くなって、その上チャクラの勢いも強くなったから、こっちも驚いていたんだけど………えっと、酒飲んだからじゃないよね。何かあったの?」
「何か………キューちゃんと話したこととかな」
「いや、違うと思うぞ」

二人の会話に、九那実が割り込む。

「原因は我ではない。もっと、別のところだ。我はあの時聞こえた声が怪しいと思うが」
「………え、声?」

九那実の言葉を聞いたメンマは、ああ、あれかと手を叩いた。

「あれは………そうだ、ちょうどマダオが一発芸やった時だったか。何か、内なる声が聞こえたんだよな」

しゃーんなろ、とかそういう類の。

「内なる声………えっと、聞くのが怖いけど………"彼女"はなんて言ってたの?」

心なしか震えながらマダオさん。顔色は蒼白だった。

「いや、"トマト"みてーに、"潰して"くれんゾ? とかなんとか………ん、どうしたマダオ。お、面白い顔で固まってるけど?」

あと蒼白過ぎ。
硬直するマダオに、その顔色を前にして、メンマは思わずどもってしまった。

―――そんな時だ。

ふと、3人の耳に、とある音楽が聞こえてきた。

「こ、この曲は………!」

耳に覚えがある旋律に、メンマは戦慄してしまう。
ぴろろぴろろという静かなイントロ―――から一転、激しい音階が並べられた。

「これはたしか………ヤルダバ○トの!?」

ノリスケおじさんが、ノリスケおじさんがやってくるぞ!
とメンマは狂乱した。

「ああ、しかも辺りがいつの間にか夕陽に!? って、あ、あの影は………!?」

「知っているのか、マダオ!」

気がつけば周囲は夕陽に変わっていた。そして、夕陽を背に歩いてくる人影が見える。

「馬鹿な、ここは俺の精神の中! 結界も張っているし、外部からは干渉できない筈だぞ!?」

混乱するメンマ。
動揺するマダオ。

そうしている二人の頭の中に、突如、声がかけられた。

『そうね………確かに、外部からの干渉は不可能だけど―――――でも、ね。"内部から"なら、どうってばね?』

女性の声。あの時聞いた声と同じだった。

メンマはそれを発した女性―――気配の方向を察知した。
そこには、赤髪の女性の姿があった。

「赤髪、内部………ということは、まさかっ!?」

「―――ご名答」

いつの間にか実体化していた女性。
年齢は、20代の半ばだろうか。瞳の中に強い意志を想わせる女性は、メンマ達の方を見ると、やがてニコリと笑みを向けた。

「あの日から今まで―――17年ぶりの再会を祝いたいところだけど………先に、済まさなきゃいけないことがあるってばね?」

だからちょっと待ってて、と。言う彼女の双眸が、キュピーンと光った。
彼女の体内で膨大なチャクラが練られ、その余波で赤い髪が放射状に広がる。
それはまるで夜叉のようで。

握られた拳からは、メキキという音がしている。

「―――ちょ!? ちょちょちょ、ちょっと待って。落ち着いてって―――クシナ!? あれはちょっとした冗談で、宴会芸でもあって!」

両手をわたわたとさせながら、焦るマダオ。その時聞こえた名前に、九那実はやはりかと頷いた。
そしてうっすらと残る妖魔時代の記憶から、クシナがこれからどういった事をするのか、彼女は理解していた。




「おいィ、今の話し聞いたってば?」
「聞こえてない」「何か言ったってば?」「俺のログには何もないな」

メンマがいい、そしてメンマが答えた。
影分身である。

「ちょ、一人小芝居してる場合じゃなくてね!?」

うろたえるマダオのツッコミ。
しかしメンマはそれを無視し、笑みを浮かべ、さようならと手を振った。

「………御免、マダオ。俺、本能的に長寿タイプだから」

怒れる赤鬼には勝てんのよと答え、メンマはマダオが居る場所から更に二歩下がった。

「良き旅を―――まるでダメな親父、略してマダオ」

「親指立てないで!? ああでも下げても駄目………はっ!?」

マダオが気づいた時はもう、遅かった。
修羅はすでに、間合いに入っていたのだ。

「それで、覚悟は完了かしら―――気をつけてね?」


そしてクシナは踏み込む。
チャクラ、膨大な威力がその拳の先に収束し、それはやがてマダオの顔面ではじけた。

「ひでぶっ?!」


しかし、それで終わるはずもない。

宙に舞う夫の元へ届けと赤い鬼嫁から繰り広げられるは、悪夢のような拳の弾幕。

虐殺が、始まった。





「―――私の拳はレボリューションよッッッッ!」





~~




そして場面は、前話の最終へと戻る。

肉体言語で色々と"語ら"れたマダオは、気づけば潰れたトマトのようなものになっていた。
クシナは、血まみれのミナトを地面にごろり転がすと、ひとつ息をついた。

「ふう………これで終わり、と」

クシナはやり遂げた顔を浮かべると、息子であるナルト―――メンマの方を見る。
しかしメンマの方は、頬に返り血をつけて笑いながら迫ってくる彼女を前に、"俺の寿命がマッハでやばい"と忍者らしからぬ思考に陥っていた。

―――だけど。

「え………?」

次の瞬間には、その腕に抱かれていた。
背中に回された腕と、顔に押し付けられた胸。その両方から、メンマは今まで感じたことのない温もりを感じた。

「ちょっ、ちょ!?」

「―――いいから。しばらく、こうさせて貰えない?」

静かに。だが、幾分かの悲しみがこめられた声を聞いたメンマは、その場から離れるべく力をこめていた足から、力をぬいた。
抜かざるを得なかった。

「何があったかは、全部知ってる。貴方が誰で、今どうなっているか、なんとなく分かる」

「……俺は」

「ナルトじゃないって? ―――そうかもしれないってばね。欠片を取り込んだ魂は変質して、記憶も混沌とした。あるいは、貴方が今名乗っているように、貴方は小池メンマという人物かもしれない。でもね」

「………?」

「それでも、私にとっては、息子なのよ。変わってしまったとしても、残っている。ミナトと一緒に戦って、誰かのために―――妹のために戦って。キリハのために命を賭けて、誰かのために戦ってきた貴方は、私にとって息子と同じ」

「………」

「細かいことは考えなくていいと思うわ。私も、そういうの苦手だし。それに、こうして抱きしめられたことないんでしょ?」

「………そういえば。そうかな」

「うん。貴方の元となる人物の欠片も少しだけ見たけど、母親は居なかったし。だからしばらくこうさせて。力を抜いて。今この一瞬だけ、あの笛を聞いても多由也ちゃんの笛を聞いても、母親の事を想えなかった貴方の、あなた達の―――母親になるから」

その言葉に。メンマは、黙らざるをえなくなる。言うべきことはあったし、理屈もあったが、だけど、そんな事はどうでもよくなったからだ。
この温もりを前に。"ほんとう"ではなくとも、掻き抱く腕と、その温かさを前に、細かい理屈は吹き飛んでいた。

「貴方にもナルトにも………ごめんなんて、言えないってばね。重い荷物を背負わせた張本人が言える言葉じゃないから。許してくれとも言えない。だけど、それでも、ありがとうって言わせてもらえるかな?」

「………えっと、ありがとうって、なんで?」

「それは、そうね。ありがとうは―――生きていてくれて、ありがとうってことね。うずまきナルトとして、そして小池メンマとして」

予想外の名前がでたせいで、メンマの目が丸くなる。

「ふふ、まるで馬鹿親子のように、そして親友のように。長い間、ミナトと一緒に馬鹿やって、夢を追いかけて、女の子を助けて」

見てたのか、とメンマは複雑な心境になる。
メンマも、今までに結構無茶な馬鹿をやったことは、自覚しているところだったからだ。

「そして………三代目を安らかな眠りにつかせてくれて、キリハを助けてくれて。人を助けるために生きて。夢に生きて、私と再会してくれて――――ありがとうってばね?」

「………いや、全部自分のためにやったことだからなあ。ありがとうって言われることは………」

「照れないの。貴方は立派よ。貴方の中にずっと居たんだもの。私が知ってる。私たちが知ってる、誰よりも」

ぽんぽん、と。背中を叩く優しい衝撃に、メンマは黙らざるをえなくなる。
本当はどう、とか、どうでもよくなったからだ。それに、この温もりは実に悪くなかった。

クナイ片手に、警戒心片手に過ごした12年間の中で、感じたことのない温もりだったからだ。

(なにやらキューちゃんの視線が怖いけど)

それでも、今この時だけはこのままで居たい。メンマはそう思いながら、静かに目を閉じた。


(………暖けえ、な。知らなかった、こんな温もり)






~~~~




「それで、具体的にはどうするんだ? いったいどういう修行を? ―――勝率が上がった、って言ってたよな。それは………」

メンマはちらりとクシナの方を見つつ、あぐらをかいて座っているマダオに聞いた。
マダオのほっぺたは3倍に腫れていて某菓子パン男(友達は愛と勇気オンリー)みたいになっていたが、当然の如く二人はスルーした。

だってマダオだし。

「………あれ、さっき僕勝ったよね? なのに何でこの扱い? まるでどこぞのキレンジャーみたいな………」

「いいから、ミナト。早く次を言ってくれないかしら?」

「イエス、マム!」

笑顔のクシナに敬礼をするマダオ。
さすがは夫婦喧嘩戦績、1勝1024敗だけのことはある、とメンマとキューちゃんが頷いた。

「勝率が上がったっていうのは………メンマ君の言うとおり、クシナのおかげなんだよ。まあ、九尾の力が開放できるから、っていうのもあるんだけどね」

「しかし、我のチャクラは妖魔時代よりも少なくなっておるぞ。それでも問題はないのか?」

「無いね。元々スタミナ勝負じゃあ勝ち目が無いわけだし。文字通り、相手は世界だから」

「なるほど。と、いうことは………」

把握した、とメンマは頷く。

「そういうこと。いつもの通り―――最後の一撃に繋げるまでの道筋を、明確に見つけられたってことだね」

「そうか。しかし……・本当にあるのか、そんな都合のいい術。"アレ"ぶち込んで終わらせる所まで持って行くには、十尾の力の大半を削るのが必須だって」

「うん。前に話した通り、今まではそれがなかったよね。だけど、今ならばそれが可能なんだ。"あの術"を使える。クシナが力を取り戻した今ならね」

「……私?」

「正確には、この4人だね。生きていた頃から、そしてこの12年間考えて、それでも実現は無理だろうからって諦めてたんだけど、この4人が揃っている今ならば、どうにかやれそうなんだ」

「……すごく、大層な術に聞こえるんじゃが。本当に可能なのか?」

「うん。概要を説明すると――――」



と、マダオは皆に切り札となる術について、説明を始めた。

チャクラはあるが理屈は知らん、というキューちゃんは説明されてもさっぱり、という顔をしていたが、メンマとクシナは理解をした後、深く頷いた。

「………毎度のことだけど。やるときゃやるんだな、マダオは」

「退かないときは退かないからね………でもその術、かなり経絡系と肉体に負担がかかりそうってばね?」

「うん。まあ、そうなんだけど……」

と、マダオはちらりとキューちゃんの方を見た。

二人の視線が一瞬だけ交錯した。

「……キューちゃん、マダオ?」

「いや、なんでもないぞ……術のことだが、なんとかやれるだろう。問題は、ない」

「そう、か。なら特訓だね。一週間しかないけど、チャクラコントロールは出来ているし、そもそも封印解いて修行できるのって、今の状況じゃあ一週間だけだしね」

「それ以上は体がもたないって?」

「実際に戦うことを考えればね。できそう?」

「やるしかないんなら、やるだけだろ」

「ん、いい返事だね。それじゃあクシナはキューちゃんの方とお願い。二人共、勘を取り戻す必要があるからね」

「………分かったわ」

「……了解じゃ」

複雑な表情になる二人。だがマダオはそれを意図的に無視しながら、修行の続きをしようとメンマに言う。
それを聞いた二人は、そのままメンマとマダオの方を離れ、修行をするために遠ざかっていく。

「………僕の方も、勘を完全に取り戻す必要があるからね。いこうか」

「ああ………分かったけど、あの二人を置いといて大丈夫なのか? 意味ありげな視線を交わしていたけど」

「きっと、大丈夫だよ」




~~~



「………さてと、二人きりじゃば。ここでなら邪魔は入らんぞ―――話があるんじゃろう?」

お主達を殺した我に、話がないはずがあろうこともないからの、と九那実は言う。
対するクシナは頷き、しかし違うと答えた。

「話はあるけど………言いたいことはあの事じゃなくてね」

「べつのはなし?」

虚を疲れたキューちゃんは、目を丸くした。

「まあ、あの時私とミナトは確かに、九尾の妖魔の爪に貫かれた。そうだけど、それは"貴方"じゃなかったでしょ?」

色々と知っていることは知っているから、とクシナが言う。
それに対し、キューちゃんは反論した。

「い、いや確かにそれはそうじゃが………じゃが、我に全く関係のないことでもなかろう!?」

「―――刃を研ぎ澄ますのは職人よ。チャクラを練るのは忍者。でも、人を殺すのは意志なのよ。木の葉に怨みを持っていたのはあの忌々しいグルグルお面の変態忍者で、貴方はただ利用されていただけでしょうに」

恨むならあのお面の方よ、と言うクシナ。
キューちゃんは焦った様子になる。

「いやいや、しかし、我は!」

「………まあ、ほんとの所はね。貴方にも言いたいことはあったんだけど………」

クシナは視線をそらしながら、言う。

「でも、何も。恨み言ひとつも、言えなくなっちゃったから」

「何故だ? 言えばよかろう。お主が普通の忍びとして生きられなかった原因は、我にあるだろうに」

「………そのことについてはね。もう、私に誰かを責める資格なんて無くなったわ。だって私も同じことをあの子したんだもの。それを忘れて、誰かに何を言える口は持っていない」

恥は知っているからね、とクシナは言う。

「それでも、それは理屈だろう。あるべき時間を奪った者と、関連する者たちを憎む気持ち全てが消えているとは思いがたいのだが」

大切なものだったんだろうと、九那実は聞いた。

「確かに、全部消えた訳じゃない。憎しみは確かに、残っているわ。だってキリハとナルト、ミナトと私―――きっと、明るい未来を過ごせていたはずだもの………でもね」

一旦言葉を切って、クシナは九那実の頭に手をのせる。

「貴方も同じだったんでしょ? 自分の意志の外で、憎しみの塊を胸の中に叩き込まれて。纏わされて、飲み込まされて。それって、私と同じじゃない。だから気持ちは分かるし、本意じゃなかったってことも理解している」

「……あれが我の本性かもしれんぞ。事実我は、人間ではなく化物なのだからな」

「化物、ね………力を持っているという意味ではそうなんでしょうけど、私には貴方が化物に見えない」

「それはなにゆえ?」

「だって、もっと汚いモノを知っているから。さっきも言ったと思うけど―――」

「………なるほど。人を傷つけるのは、人の意志ということか」

記憶の残滓にあった"色々"を思い出して、九那実は呟く。

「アナタは誇り高い。確かに図抜けた力はあるんでしょうけど、それをむやみに振るう事は好まないでしょう。だから化物じゃないわ。天狐だっていう肩書きも、私にとって見れば"そんなもの"よ」

「そ、そんなものとはまた………いや、お主―――"お主達"らしいといえばらしいのか」

「そうよ。だって私も忍者だもの。刃を向ける相手ぐらい心得ているわ―――そんなことより、聞きたいことがあるの」

「聞きたいこと? ………今更、何を聞くことがあるのじゃ。我とマダオの話は聞いていたのだろう」

「話は、ね。私が聞きたいことは会話の内容じゃなくて………無粋だとは思うのだけれど、知っておきたいのは貴方の考えよ」

そういうと、クシナは真剣な表情を浮かべながら、小さい九那実のその両肩に手を置いた。

「単刀直入に聞くわ。全ての傷を背負おうとしたのは、何故? ―――魂の負担を全て自分の所に来るようにと、人柱力の術式の改変をミナトに頼んだのは、どんな理由があっての事?」

声にでた直後。場は、沈黙に満ちた。

「器である肉体の痛みと、それに伴なう魂への損壊と負担を、ほとんど貴方の所にくるようにと―――あの時、貴方は懇願した。再確認するミナトに、その意味を知りながらもしっかりと頷いてみせた。それはいったい何故なのかしら」

クシナの赤い目が、低い位置にある赤い目を見据えた。

九那実は質問の内容を心の中で反芻する。

(背負ったのは、何故………その理由、か)

そして、九那実はクシナに向けて笑顔を見せた。
その笑顔は、心底おかしそうで、それでいて明るい何かに満ちていた。


「例えば、じゃ。聞いてもいいか?」

「………ええ」

「あやつ、マダオ―――ー波風ミナトが死地にあるとして。うずまきクシナは、それを黙って見ていられるのか?」

「それは………うん、絶対に出来ないってばね」

クシナは苦笑を返しながら、答える。
そして自分の額に手を当てながら、「参った」と言った。

「ごめんなさい、本当の意味での愚問だったようね」

「そうじゃの」

「でも、アナタは………その、いいの? あの作戦じゃあ、確実にアナタの魂は………」

「全て承知の上でのことで、それも覚悟の上じゃ………九尾として、天狐としての矜持もある。何よりも、譲れないものもあるしの」

「………それは?」

尋ねるクシナ。
対する九那実は目をつぶり、静かに宣言した。


「女の、意地というやつじゃ」


それは、クシナにとっては予想外の答え。
そして九那実にとっても、はるか昔であれば考えもしなかった答え。


分かるじゃろ、と九那実は問い。
クシナは、苦笑しながらも頷きを返した。

「………それなら私にも、理解できるってばね」

「そうじゃろう?」

「うん。でも…………薄々と感じていたことだけどアナタ、あの子に随分とお熱なのね?」

クシナは九那実の方を向きながら、からかうように笑った。
九那実はクシナの笑みにこめられた意味と、そして今自分が何を言ったのか―――否、"言わされたのか"を理解し、自分の頬を真っ赤に染めた。

「く………お主、謀ったな!?」

「いいええ、ひとつめの問いは、母親として聞いておきたかったことだからね? だから別にそういう気持ちで聞いた訳じゃないわよ。二つめは完全に自爆だと思うけど」

「う………」

言われた内容を自覚したキューちゃんの頬が真っ赤に染まる。

「………ああもう………我慢出来ないってばね!」

「ちょ、な!?」

キューちゃんの恥じらいを正面から見てしまったクシナは、そのあまりの可愛さに暴走。
走り、両腕で思いっきり九那実を抱きしめたのだ。

「ああもう、この、可愛いったら! 前々から思ってたけどアナタ本当に可愛すぎるってばね!? まさかあの九尾の妖魔がこんなになるなんて、人生は本当に分からないってばね!」

「ぐえっ!? く、このッ―――ええい、離さんか! 親子そろって貴様らぁ………!」

加えお主は死んでおるだろうか、と九那実は叫びながら力づくで腕を引き剥がそうとする。
が、天狐の腕力をもってしても、その腕は外せなかった。

「な、馬鹿なこの我の力がッ………ぬ、いつの間にか結界が!?」

「フフフ、気づいたわね。ここはもう私のテリトリー! いくらキューちゃんの身体能力が図抜けていても、この精神世界の中かつ結界の中ならば、それも無意味ってばね!」

「お主そんなくだらんことに術を!?」

「だって可愛いから仕方ないじゃないってば!? こんなに小さくて可愛くて柔らかくて、この、ええい金髪もサラサラね! ………あらでも胸はやっぱり未完成」

抱き抱えられながらくるりと反転させられ、背後から抱きしめられるキューちゃん。
そしてそっと胸を触られた彼女は、思わず悲鳴を上げてしまった。

「うきゅ!? くゥ、こ、この………い、いい加減にせんか!?」

キューちゃんは精一杯の力で自分を捕まえている腕を引き離し、ガブリと噛み付いた。

思わず離してしまったクシナ。キューちゃんはそのまま離れ、荒い息を吐きながら言った。

「ふ、ククク………はじめてじゃぞ。我をここまで虚仮にしてくれたお馬鹿さんは!」

「えー、そんな、減るものじゃなし。それに可愛さは罪なのよだから私は無罪ってばね」

「馬鹿な理屈を並べるな、この馬鹿トマトが! ―――それに我は、知っておるのじゃぞ?」

九那実の反撃。その思いもよらなかった言葉を聞いたクシナの、全身が硬直した。

「僅かじゃが………お主のアカデミー時代の事は、記憶として知っておるのじゃぞ! 一時期は記憶も同調していたからの! やーいやーい、このチャクラ馬鹿、ピザトマト、赤い血潮のハバネロ!」

羞恥のあまり若干壊れてしまったキューちゃん、その彼女から放たれた言葉の矢がクシナの胸に直撃する。
実のところ、うずまきクシナは『チャクラは大人、座学は子供!』の逆○ナン君状態で、それをキューちゃんはなんとなく覚えていたのだ。

「く………あ、あの時は、そう、仕方なかったのよ! 引越ししたばっかりだったし! みんな木の葉でずっと勉強していたし!」

「ふん、アカデミーを卒業した時も座学に関してはドベじゃったくせに。よくそんな事が言えるの?」

「そ、それは………そう! 下忍の、ミナトと一緒の班に成るために、わざと………」

自分をも誤魔化し切れない嘘の言葉が尻すぼみになるのは、周知の通りである―――ご多分にもれず、クシナの言葉もだんだんと小さくなっていった。

キューちゃんは、あさっての方を向きながら表向きだけの理解を示す。

「ふーん、へーえ、そうじゃったのかぁ………………………………プッ」

吹き出すキューちゃん。その時、クシナの額に井の文字が浮かんだ。

「―――ふ、ふふふ、九那実さん? ず、随分と、言ってくれるわね? 言ってくれちゃったってばね? ―――しかも思い出したくない仇名まで………言ってくれちゃったてばね!?」

「ふん! 我の体を許可も無しに触るからそうなる」

「………ああ、温泉での失態を思い出しちゃった訳ね? それはそれは、ごめんなさい………………まあ、随分と可愛いらしい胸だったけどねえ、ちっぱいちっぱい」

「………いい、度胸じゃ。戯言は終わりか?」

顔を真っ赤にしたキューちゃんが、四つん這いになる。
キバの四脚の術に似た格好―――完全に戦闘体勢だった。

「………アナタもね」

クシナも、構えを取る。

完全に精神年齢が幼児と化した二人から、膨大な量のチャクラが立ち上った。

「そういえば、我らは殴り合―――修行をする必要があったのじゃな………ふん、実に好都合じゃのう」

「その点に関しては同意しようかしら………さあ、言葉は最早無用! いざ、尋常に!」

世界でも有数。かつての世界最強の尾獣、九尾の器をもつとめた人柱力のチャクラが。

「望む所じゃ!」

天狐―――人を超えた存在、妖狐の頂点でもある人外のチャクラが。


砲弾となって、両者の正面で衝突する。
直後、二人のチャクラは合わさり弾けて混ざって、勢い良く四散した。


それは巨大な爆発となって、周囲の大気を揺るが尽くす。









そうして、それぞれの修行は始まったのだった。


―――最後の一撃を放つ、そのための修行が。





























~おまけ~



一方、その頃。

「………お、おいおい。なんかキューちゃんとかーさんが居る方向から洒落にならない規模の爆発がドカンドカンと!」

二人の修行<OHANASHIAI>は、離れたところにも居た二人にも、音として届いていたのだった。
あまりのチャクラに、素で引く二人。

「こ、このままじゃ俺達まで巻き添えになりかねんぞ……どうするんだ、マダオ!?」

うろたえるメンマが、マダオに尋ねる。
マダオは、落ち着いた笑みをただ、空へと向けた。

「―――いい、天気だね」

「オィィ!? ここは精神世界の中だろうが!? 夢の中で現実逃避するなってば!」

「あ、口癖がでた。やっぱりクシナ似なんだね、小池トンマ君は」

「中途半端に混ぜんなよわざとか! ってか現実に戻って来いよ! いや、夢の中だけどよ!」

「つまり………夢だけど、夢じゃなかった! 夢だけど、夢じゃなかったッ!」

「バンザ~イって違うわこの阿呆マダオが!? ってああ、爆発がこっちに、間に合わ―――ウボァ」

「白い光が見える――――ウボァ」


その後、戦争は数時間に渡って続けられたという。

終わった頃、二人の髪は金髪のアフロになっていたとかなんとか。
































あとがき


前回の更新から一ヶ月あまり………大変お待せしました。拙作を読んでくれている皆様、遅れてマジ申し訳ありません。
最近本誌の方であったクシナの話とか、先週のジャンプでの爆弾発言とか、色々考えることがあったもので、遅れてしまいました。
疾風伝の方のウタカタの話とか。ペインさんマジ外道。

まあ………この熱気も原因のひとつなんですけど。厚すぎてちょっとゲル状になってしまいましたよまじで。
夏の馬鹿夏の木瓜夏の阿呆。

あと本編の方、挿し込みたいエピソードというか思い浮かんだシーンがあって小話がひとつふたつ増えたので、決戦までの話が1、2話ぐらい増えそうな感じです。
予定よりちょっと長くなりますが、完結せずに放置プレーだけはしませんので。
宜しくお願い致します。

~追伸~
また今回の話ですが、あとでちょっと修正すると思います。





[9402] 小池メンマのラーメン日誌 八十三話 「最後の最後の第一歩・後」
Name: 岳◆5bf56ac5 ID:0347f440
Date: 2010/10/11 17:49

―――外は、雨が振り続けていた。



大きな広間の中心。そこに、彼らは居た。
肉が焼ける匂い。血の匂い、鉄の匂い、その中心に立っていた。

その、人間だったものが散乱する地獄のただ中に―――1人の、少女が居た。

『返せ!』 ―――少女は泣いていた。

『人殺し!』 ―――少女は叫んでいる。

まだ10にも達していない幼き少女は、この場にある地獄を成した張本人である男を、手練の忍び数十人を無傷で葬り去った彼の目をまっすぐに見据えながら、糾弾の視線と言葉を叩きつけた。
傍目から見て、男は常識の外にある手練である。雨隠れの里に単身真っ向から挑み、里長である半蔵一族を、音に聞こえた山椒魚の半蔵を無傷で完殺したのだ。
事実、男がその気になれば少女は何の抵抗もできずに死ぬことだろう。
少女はその事実を理解していた。が、少女は叫ぶことを止めないでいた。

―――男に殺された忍びが大切な人だった故に、叫ぶことを止めなかったのだ。

「――――」

それを見た男―――六道の名を冠した者は思いだす。魂の中に存在する青年―――かつては長門であり、今も長門である筈の彼も思い出した。

同時に、その時に誓ったことが、彼らの脳裏に浮かんで弾けた。
志を同じくする仲間と交わした誓約が、その時の気持ちと共に声となって甦る。

『―――絶対に』

『―――もう二度と』

今はもう聞くことができなくなってしまった親しき友の声が、彼等の耳に幻となって届く。
それは錯覚で、記憶の中に残っている幻聴だ。だけど、男達が最も大切だったものを―――その夢と想いを取り戻す切欠にはなった。

戦うと決めた、進むべき道を決めたの想いを。傍らにいた誰かの事。
記憶の底に沈めた決意と、失った大切な人達との約束を。

「………っ!」

それを思い出してしまった彼等は、うめき声を上げざるを得なかった。
彼等にとっては何者にも変えがたき宝石―――道半ばにして倒れていった親友が、その終わりに託してくれた夢を、死ぬまで覚えておかなければならなかった大切な気持ちを、忘れてしまっていたからだ。

『―――戦争を止める。平和の架け橋になる。殺し合い憎みあう夜を終わらして、朝を呼ぶ』

それは彼の親友の言葉で、忘れる前は彼の信念を支える支柱となっていた言葉。
しかし今は、彼自身を刺す刃へとその姿を変えていた。

彼はうめき声を上げた。胸を抑えていた。
怒りのままに捨て去ったものの尊さを思い出したが故に。忘れることを選んでしまった己の弱さを自覚したが故に。
悔恨の念は見えない刃となって彼等の胸に突き刺さった。だけど復讐を正当化する気持ちも確かに残っていて―――しかし目の前で泣き叫ぶ少女の声が、彼等の胸を刺す。

―――親しき友の仇を討った後、満足感を覚えてしまった彼等の心をめった刺しにする。

だから、叫ばざるをえなかった。

「――――」

長門が、そして彼の中にいる六道は、空を見上げる。
そしてひときわ大きな歯ぎしりをした後、感情のままに吠えた。

心の軋みと胸を刺す痛みに耐えきれず、大声をだして紛らわそうとした。
そうでもしなければ、彼は痛みから逃げるために己の頭蓋を自分の手で砕いていただろう。

だから変わりに、吠えた。声にならない声だが、それでも吠えて、吠え続けた。
そうして、声が枯れるまで吠えた彼は、未だ同じ部屋に居る少女の方を見つめる。

少女は、彼を睨み続けていた。その手には、彼女の肉親を殺めたクナイが握られていた。
それを見た彼は、口の中で呟いた。



そして彼は少女に手をかざした―――――









―――そうして、彼らの夢は覚める。

新たなる決意と、最善の結末までの道をさがすために。




「………朝、か」

とある隠れ家の一室。壁にもたれかかったままの体勢で眠っていた男は、自らの声と共に目覚めた。

男はかつて赤かかった自分の髪を、今は黒く染まっている髪をかきあげる。
そしてそのまま、視線を窓の方に向けた。






雨隠れの里に降る雨は、未だ止まない―――――

























~~



「………どう、だ? ―――ですか?」

網の病院の中。二人の人物が、とある一室に居た。一人は先の音忍との戦闘で傷を受けた多由也。もう一人は、その多由也の治療を担当することになった医療忍者である。

無言のまま、触診をする彼女―――名を灯香(とうか)という。彼女は暗号名"影千代"の名で知られる医療忍者で、現在の網の構成員の中でも屈指の腕前を持つくノ一だ。
幼少の頃より組織に関わっていて、ザンゲツとは旧知の中であった。

「…少し触るぞ」

彼女は特に酷かった怪我―――肋骨の骨折と臓器へのダメージ―――の治療具合を触診し、チャクラを走らせて多由也の状態を調べていた。
丁寧かつ慎重な作業は数分だけ続けられ、やがて一折調べ終えると、彼女はひとつ安堵のため息をついて、頷いた。

「………よし、これでもう大丈夫だ。取り敢えずだけど、治療はこれにて終了だな」
「そう、か………戦闘の方は?」

多由也は自分の状態について、なんとなく察しながらももしかしたらと恐る恐る灯香にたずねてみた。
返ってきた言葉は、予想の通りで―――彼女には、あまりよくないもの。

「………まだ駄目だ。通常生活の範囲ならば問題はないが、戦闘を行うにはまだ早い。切り傷のような外傷はともかく、打撲による臓器系へのダメージというのは早々治るものでもないからな。
 あとは、自分の体の治癒力を信じて待てばいい」
「そう、ですか………いえ、お疲れ様です。ありがとう御座いました」

多由也は今の自分の状態に不満を覚えつつも、治療を施して彼女にお礼の言葉を伝えた。
悪いのは大事な時に大怪我を負った自分で、灯香は全く責任はないことを多由也自身が理解していたからであった。

「どういたしまして―――とはいっても、大して疲れていないんだけどな」

いつもはムサイ男の治療だらけだから、と灯香は肩をすくめた。

「まあ、男ばかりの職場なんでそのあたりは仕方ないがな。だが、馬鹿な野郎だと、治療中にもコナかけてくる。こっちは集中してなきゃならないってのに」

愚痴る灯香。男ばかりの職場の辛さを知る多由也は、大いにうなずいていた。

「そうだろう、分かってくれるか? ………それに比べればとてもとても。逆に、楽しい仕事だったよ。それに、いいものを聞かせてもらったしね」

灯香はそういうと、笑いながら多由也の方を見る。

「いえ………」

多由也はその言葉に照れくささを感じつつも、笑顔の灯香を改めて正面からみすえた。
そして、心の中で呟く。

――――確か歳は20を越えていた筈だけど、と。

そんな視線を察したのか、灯香は疑問の言葉を多由也に投げかけた。

「私の顔に何かついてるのか?」
「………いや………童顔だなあ、と」

言い終えると、多由也はやべえと自分の口塞いだ。
そのまま視線を横に逸らす。
割とストレートな言葉で返された灯香は、ジト目になって目を逸らしたままの多由也の横顔をにらむ。

「そのとおりだが………それでも、面と向かって言われたことは無いぞ? ―――あの馬鹿を除いて、だが。お前、あんな繊細な術使う割には結構な直球派なんだな」
「いや、まあ、変化球が苦手だってことは自覚しているけど………口が悪いととあるデブに怒られたりもするし」
「ん、デブ? ―――ああ、みかんの変わりに栗が上にのっている、鏡餅か。確かに口うるさそうだな」
「………実に的確な表現だなおい」

納得してしまった多由也。顔をひきつらせながら、人の事はいえないようだけど、と呆れ顔になった。

「えっと、まあ、それは、なあ………こういう男だらけの職場に居たら、こうもなるだろうよ!」
「まあそれには同意するが………女ってことだけで見下してくるやつも居るしなあ」

男女比の偏りが著しい職場に"居る"灯香と、"居た"多由也は互いに頷きあった。
かたや荒くれ者に囲まれて。片や大蛇丸の趣味で集められた者たち。
ため息は深く、心労の度合いを示していた。

―――しかし。口の悪さは別として、両者の間でたったひとつだけ違う点があった。

灯香はそのことについて、多由也に聞いてみた。
彼女自身どうしようもないことだが、それでも口に出さざるを得なかったのだ。

灯香は多由也のとある一部分、圧倒的格差――――つまりは胸。
17、8の少女にして育ちきった、大きめの胸を見ながら、彼女は胡乱気な視線を向ける。

「それは本物か? 贋作ではないのか? 中に何かいれてないのか? ここでの偽証は死に値するぞ?」
テンパる灯香に、多由也は一歩退きつつ、答えた。

「いや、中には何も入れて無いぞ。というか治療中に見せたと思うんだが」

あっさりと最終回答。灯香はそういえばそうだったな、と呟き歯をぎりりと鳴らす。
そして、ちらりと自分の胸に視線を移した。

―――そこにあるのは、ただの丘。目の前の双子山には遠く及ばない、控えめな丘陵が存在しているだけ。
具体的にいえば72。dptnというやつである。

「くっ………!」
「いやいや、胸なんてあっても肩がこるだけだ、ぞ………!?」

その時、音が聞こえた。

二人は話を止め、入り口の方を見る。

どどどど、と誰かの走る足音。どんどん近づいてくる。
騒音と書いて走音と読む奏音は、病室の入り口にとまった。


扉が勢い良くスパーンと開かれる。





「――――胸と聞いて飛んできました!」
「帰れ、バカ!」






一行の空白も許さぬ神速のツッコミ。

怒れる乙女の一撃が、乱入者―――シンの顎に炸裂した。







 









~~~





「おいちちち………」
「自業自得だよ兄さん………はほっといて。灯香さん、サスケ君に話があるって聞きましたけど」

顎を抑えて痛がる兄を横目に、サイが灯香の方を向いた。

「こっちに戻ってきた時から、サスケ君に何かたずねようとしていたみたいだし………………えっと、もしかして?」
「―――ああ、サイ。お前の察する通りで間違いない」

と言いながら、灯香はサスケの方を見た。
視線を向けられたサスケは、灯香の眼光の激しさのあまり、その場から一歩退いてしまった。

「ふむ、うしろめたいことがありそうだな………もしかして?」
「―――黙ってた方がいいよ兄さん。色々な意味で。ほら、灯香さんも落ち着いて」

いつも兄がすいません、とサイが申し訳なさそうな顔をする。

「いや、まあ………そちらは分かっていた事だからいい。最早諦めているしな―――それよりも、その、なんだ。お前に聞きたいことがあるんだが」
「え、えっと………俺にか? ――――って、ちょっと待て多由也。俺は何もしてないぞ!」

サスケはジト目になる多由也に対して、俺は無実だと叫んだ。

「………本当か?」
「本当だ! アンタも、俺に聞きたいことって何なんだよ。確か―――灯香さん、だったよな。アンタとは一ヶ月前に会ったのが、初対面だったはずだけど」
「ああ、それで間違いない」
「………初対面の俺に聞きたいこと、か。ひょっとしてうちは一族関連のことなのか? ―――うちは一族の誰かに、怨みがあるとか」
「いや………違う」

灯香はそういうと、それきり口を閉ざした。
サスケはそんな灯香の様子を見て、困惑する。

そこに、シンが割り込んだ。

「あーあー、間怠っこいな。灯香、聞きたいことって、あれだろ?」
「っ、シン!」
「………いやいや、はっきりと聞きたくないって気持ちは分かるけどよ。こうして黙っていても話が進まないだろ。 ―――なあ、サスケ。聞きたいことってーのは、たったひとつなんだよ」

シンはがしがしと頭をかきながら、眼をそらしていた。
サスケはあまり見たことのないその様子に、少し戸惑っていた。

「ああ、そう大したことじゃないぞ。雨隠れの半蔵と、その一族を尽く殺して回ったっていう忍者―――暁の首領はどれだけ強いのか、ってことを聞きたいんだよ」

「………」

サスケは、シンの言葉を一瞬理解できなかったのか、ひとつふたつ瞬きをして沈黙する。
だが、すぐにその内容理解すると、簡潔な答えを返した。

「まともに対峙したことは一度もないが………聞かされた話でよければ?」
「それで構わない」
「なら、こう言おう。図抜けた存在だと。あれは既に忍者のレベルに無い―――文字通りの仙人だよ。神だ。天災級の理不尽さを兼ね備えた、掛け値なしの最強といえる存在だ」
「そんなにか? ………万華鏡写輪眼、だったっけ。お前がその瞳術を使ったとしても、勝てないのか」
「勝ち負けの域にさえ至れない。月読は十尾のせいで効果なし、天照は―――恐らくは封火法印か、あるいは神羅天征とやらで消されるだろう。触れず特定の対象を跳ばす術らしいからな。
 いや、その前に十尾の壁に防がれるだろうから、当てることさえ難しいだろう」

相手もこちらの瞳術については把握しているだろうからな、とサスケは首を横に振る。

「じゃあ、体術は?」
「近づけないから意味がない。近づくまえに神羅天征で吹き飛ばされてアウトだ」
「………遠距離戦では?」
「多種多様な五行の忍術を操ると聞いたな。つまり、弱点となる属性が無い。イコール、中距離もしくは遠距離で術を打ち合っても無駄。こっちの弱点となる術を使われて、打ち消されるだけ。
 それに、今は失伝となった強力な忍術まで使ってくるらしいからな。遠距離戦に持ち込んでも、まず勝てないだろう」
「………俺は知らないけど、封印系の術式とやらは? ほら、倒せなければ、閉じ込めればいいじゃないって」
「ああ、論外だ。六道の記憶があるってんだから、封印系の知識に関しては図抜けてるだろ。紫苑を見れば分かる。それ系統の術を使っても、効果は全く期待できない」
「………えっと。あ、そうだ―――スタミナ切れ、って線は?」
「それも、一応は考えたんだけどな。でもあいつ曰く、"十尾は人の負の思念の塊で、つまりは無尽蔵ってことさ"だとよ」
「うえ、死角なしかよ。歪みねえな」
「だから隠れ里同士が連携するんだろうな。というか、そもそも奴は世界中の隠れ里、その全てを敵に回しても構わないって輩だぜ? そんな奴に一人で挑んで、それで勝とうってんなら、少なくとも同程度の自負を持てるような奴じゃないと」

そも、勝負にもならない。サスケにそう言われたシンは、大きくため息をついた。

「そうか………分かった」

シンは頷き、横に居る灯香の方を向いた。
灯香は傍目から見ても分かる程に落ち込んでいる。

「うちは一族のお墨付きだ………その意味は、俺よりもお前の方が知ってるだろ―――灯香」
「……前々から、薄々と感じていた。いや、わかってはいた事けど、な………私では、無理だってことが」
「灯香さん………」
「………言うな。二人共、何も………言って、くれるな」

ぎり、と歯を食いしばる灯香。拳を強く握り締め、そのまま去っていった。

「………兄さん」
「………分かってるよ。サスケ、悪いけど、ちっと外すわ」
「ああ」

サスケは頷き、灯香が去っていた方向へと走っていくシンを見送った。
やがて姿が消えるのを確認すると、サイの方を横目でみながら、尋ねた。

「復讐、か」
「………分かるんだ」
「ああ―――いつだったか。かなり前に感じるな。前の―――木の葉に居た頃の、前の家の鏡の向こうで見た眼に似た感じを覚えたからな」
「そう………で、どう思う? 無駄だ、とか、非建設的だ、とか意味がない、とか………ばっさり言って止めた方がいいとか思う?」
「………一度は、同じ炎に生を投じた身だからな。口が裂けてもそんな事は言えねえよ。全部知ってるだろ。知ってる上で選んでるんだよ。諭されたぐらいで聞くようなら始めっから辞めてるよ」

自分で気づくしかないんだ、とサスケは言う。

「そう………」

そのまま、サスケとサイは黙り込んだ。
痛い沈黙が広がる場。そこに、多由也の激が跳んだ。

「っだー!もー! 灯香さんの事はなんとなくわかったけど――――サスケ!」
「な、なんだ多由也」
「いちいちぐちぐちと昔の事掘り返して、暗い想いに浸ってんじゃねえよ! 今は、ウチらにはやることがあるんだろうが!」
「そ、それはそうだけどよ。でも昔の俺も俺な訳で」
「知ってるよ。否定しねえよ。忘れろなんて言わねえよ。でも外でそんな弱々しい眼を外に見せるんじゃねえ………網の古株連中に、舐められるだろうが」

サスケ達は、この組織の中でやりたいことがあった。だがそれは少し強引で、ともすれば衝突の要因になりかねない。
それを前に、古株の構成員に舐められるようなことがあれば、色々な所で支障が出るのだ。
多由也はそれを理解しているが故に、外では弱気を見せるなと忠告していた。

「まあ、言うとおりだね。うちには荒くれ者が多いし、弱気見せたらすぐに舐められるから、仕事の方にも影響が出るかもしれない」
「そうだろ。ま、その当たりは後で念入りに話すとして………サイ。灯香さん、落ち込んで………いや、怒っていたのか? 分からないけど、大丈夫なのか」
「うん………まあ、事態が悪い方向に転がった訳じゃないし、踏ん切りがついたと思えば良いことだと思うんだけど」
「はっきりしないな。かなりややこしい事情がありそうだが………」
「それは……まあ、昔からの知り合いだし、本当に色々あったからね。それも一言じゃ言えないんだけど」
「なら良いよ。ウチは後で本人に聞くようにする。じゃあサスケ、ウチもあいつらの治療があるから」

そう告げると、多由也もまた外そうと歩をすすめる。
だが、一歩止まり―――

「………なんだ、迷ってるなら後でな。愚痴りたいこととかあるんなら、聞いてやるから」

―――それだけ告げると、走って去っていった。
サイは硬直したサスケを無視し、走り去る多由也を見送った後に言った。

「いい彼女さんだねー熱いなあ青春だなあ――――――――――――爆発したらいいのに」
「かっ………彼女か。まあ、そうだけどよ」

新鮮だな、とほざくサスケ。サイは後半の言葉を無視して照れるサスケの背中に消えない墨で"バカップル"と書きたくなったが、割と酷い報復(多由也から)をうけそうなので自重した。
嫌味ったらしく何か温度上がってきたなー、と顔を手でパタパタ仰ぎながらその顔を背けるだけにすませた。
彼は空気の読める男。サイさんマジ紳士。

「…って、おい。何か言いたいことあるのか、オイ」
「いや、何でもないよ? ………でも彼女、何か普段と様子が違ったね。怪我が完治してないから焦ってるのかな」
「………いや。さっきの話を聞いたからだろう。改めて現状を確認して、あいつらに対する心配の気持ちが再燃したって所か。
 その上いざという時に戦えそうにないってんなら焦りもする………でも、まあ、必要となったらあいつはまた無茶するんだろうけどな………」

遠い目をするサスケ。サイはなるほどと頷いた。

「僕もホタルにあの時の様子を聞いたんだけど、自分が結構な怪我をしている中、それでも体張ってホタルを守ろうとしたんだってね」
「……口悪いけど、まあ、そういう奴だからな。退かない時は退かないし、決めたら一直線だ」

見ててハラハラするし無茶されると胃が痛くなるんだけどな、とサスケは自分のことは棚に上げて呻き声をあげた。
サイはそれを横目で見ながら、しらっとした顔で言う。

「なら君が守ればいいじゃないか。先に突っ走られて不安になるなら、自分も走って追いつけばいい。横に並んで害する者を払えばいい。そのために網に残ったんだろ?」

「"怨みもつらみも怒りもなく、ただ大切な誰かの為に戦えれば"―――か」
「あ、知ってるんなら話は速い。実際現実にその言葉そのままを実践できるなんて、痛快なことじゃないかい? ―――まあ、多由也さんが居る君じゃあ、少し意味が違ってくるけどね」
「………それはまあ、な。でも、お前も?」
「うん、かなり昔のことだけどね………兄さんと、紫苑と一緒に教えてもらった。憧れている言葉だって言ってたよ。兄さんも、僕も、好きな言葉だ」

そう言うと、サイは笑った。

「それは言葉だ、って彼は言った。ただの言葉だって、夢物語にすぎなくて―――」

サイのがわずかに沈黙する。夢物語、という言葉の裏で色々と思い出しているのだろう。
しかし、サイの笑みは崩れなかった。

「―――でも。それでも言葉なんだ、って彼は言ってた。心の支えになるって、足掻く指標になるんだって。力に溺れない戒めにも、何が大切なのかっていう基準にもなるんだって」

修行の時は忘れていたけど、とサイは頭をかいた。

「僕も兄さんも、彼の教えてくれた言葉……術のせいで忘れてしまっていたけど、頭のどこかに残っていたんだ。
 血を吐きながら闘う誰かさんの姿もね。兄さんも同じみたいだった。だから兄さんも僕も、ここまで強くなれたんだと思う。灯香さんを止めることができたんだと思う」
「そうか………ん、止める?」
「………ああ。実は、あの人―――灯香さんは、僕達が網に入ってからの師匠なんだけど」

サイは灯香と自分たち兄弟の関係についてサスケに話し出す。

修行をつけてもらったこと。
時間が経ち、復讐のために出ていこうとする灯香を、兄が必死に止めたこと。
俺を倒せたら止めない、とシンが挑み、未だ勝ち続けていること。

「あいつも無茶な奴だな……」
「行かせたら絶対に戻ってこないって、そういう確信があったから、って笑ってたけど」
「まあなあ。雨隠れの一件を聞くだけで分かるよ。上忍"程度"じゃあどうあがいても勝てそうにないって」
「うん。だから止めた。その頃はまだ兄さんは中忍レベルの力量しかなかったし、灯香さんは今より少し下………それでも上忍クラスの力は持っていたけど。あの時の二人の戦闘、思い出す度胃が痛くなるよ」
「大変だったんだな………って、上忍と中忍かよ、どうやって勝ったんだ? 正面からの殴り合いじゃ勝ち目ないだろ。作戦勝ちか?」
「いや、正面から殴り合ったよ。"正面からこじ開けた"」
「………まさか」
「うん。体内門を開放して、一気に押し切ったんだよ。死ぬ一歩手前まで力を振り絞ってね」
「………まるでゲジマユの奴みたいだな」

大切な誰かのために、と闘うリーの姿を、サスケは思い出していた。

「ゲジマユが誰かは知らないけど、何か似ている気がするよ。ううん、体術系は単純一途なのかなあ………まあ当人は、後でザンゲツ様や灯香さんにこっぴどく怒られたけどね」
「そうか………って、原因である本人が怒ったのか」
「まあ、それは―――乙女心は複雑だってことじゃないかな。僕は分からなかったけど、顔を真っ赤にして泣きながら怒る灯香さんを見ながら、ザンゲツ様はそうおっしゃってたから」
「乙女心は複雑、か………」

そこでサスケは顔を上げた。遠く、何処かにいる少女を想う。

別れる間際、"告げられない"と。
そう儚く笑った少女――――九那実という名の定められた宿命を持つ九尾の妖狐のことを。

「何もかも上手くなんて、いくはずがない………それもそうだよな」
「どうしたの急に―――ーって、これは………」

サイは耳をすませて、音を探る。
サスケは瞬間ビクっとなって当たりを見回した。

「ば、爆発音!? 奴か、奴なのか?!」

酷くうろたえるサスケ。それもその筈、彼にとって爆発音は狐火のフラグという意味を持っている。
思い出していた人物が人物だっただけに、サスケは警戒心を最大にして音のあった方向を注視する。

「―――いや……これは、違うか。規模が小せえ………うん?」

写輪眼で遠視をするサスケ。そこに飛び込んできた風景に、硬直した。
サイはある程度予想がついているのか、頭に手をやってためいきをついた。

「サイと………灯香か。なにやらやりあってるが」
「嫌な予感ほどよく当たる………でもなんだろ。怒らせた方がいいと思ったのかなあ。まあ兄さんだし、つい言い過ぎちゃったりなんかしたかも」
ぶつぶついうサイに、サスケは止めなくていいのか、とたずねた。
「放置に限るね………こんな大切な時期に後先考えず無茶する二人じゃないし、じゃれあってるだけだから大丈夫だと………思いたい………だよねえ、きっと、うん、そう――――だったらいいなあ」

遠くから"口寄せのじゅちゅ!"という滑舌悪く術を叫ぶ女性の声や、"やーい噛んでやんの!"とかいう妙に少年クサイ声が飛んでくるのが聞こえた。
サスケはサイの諦めっぷりに彼の心労を垣間見た。きっと苦労しているのだろうと。

サイはうん、後で考えよう、とつぶやいてそれきり戦闘の音を無視した。

「で、話は変わるけど――――ペインについて、聞いていいかな? メンマ君は一人でペインと戦うって聞いたけど、いったいどんな方法で戦おうっていうのかな。
ペインの力を聞くに、まともに相対したとしても、勝ち目は無いと思うんだけど」

サイ自身、メンマの力量についてはそれなりに分かっていた。その強さも認識していた。頼もしく思っていた。
だけど、と。サイはそれらをふまえた上で、かつ冷静に考え抜いた結果、結論を下す。

例え人柱力の力を用いたとしても、その生命の限界までチャクラを振り絞ったとしても、ペインと十尾を打倒することはできないだろうと。
そんなサイの意見を聞いたサスケは、"確かに"という言葉に"でも"、という言葉を付け足した。

「方法……戦術によるな。まあ、心当たりがあるんだけどな。隠れ家に居た頃に切れる札については聞かされたから、どういった方法で戦うのかは大体の所想像はつく」
「あ、やっぱりまだ見せてない切り札があるんだ………でも想像がつかないな。それだけの力の差を埋める方法って本当にあるの?」
「まあ、簡単な話だ―――今のあいつの中には"3人"が存在しているって、つまりはそういう事だ。マダオ師が言う、戦闘における最も大切な要素―――チームワークの究極系。"それ"を使えれば戦闘力は飛躍的に上昇する」
「………えっと? "それ"って? しかも使うって―――ちょっと話が見えないんだけど」
「俺も聞かされたのは概要だけで、それも理屈の部分だけだからな。これ以上詳しく説明するのは想像の成分が含まれるからはっきりとは言えん。でも、明後日―――見ればすぐに分かると思うぞ。
 でも、それよりも、問題は別の所にあるんだよ」
「それは?」
「聞かされたその術は確かに有用で、俺と兄さん二人を相手にしたとしても負けない程に強くなるだろう。
 だけど、相手はあのペインだから………それだけで勝てるとはどうしても思えないんだよ」
「え、そうなの?」
「ああ。だから、もう一段階、奥の手があるとは思うんだが………それが何なのかは、分からないんだよ。まあ………」

サスケは肩をすくめながら、言う。

「それでも、あいつらは勝てる手を以て挑むんだろうよ。"戦うと決めたからには、必ず勝て"―――そう俺に教えたのは、他ならぬあいつら何だからな」
「………そう。長い間一緒に居た君がそう言うのなら、そうなのかもしれないね」
「信じないのか?」
「信じるよ。でも、万が一を考えてしまうのは僕の性分でね………あと、加勢はするつもり?」
「しない。俺の読みが正しければ、中途半端な戦力は逆効果だ。我愛羅の時とは比較にならないほど―――それこそ誰も見たことが無いくらいに、派手な戦闘になる。むしろ足手まといにしかならないよ」
「でも、見に行くんだよね。それはひょっとして?」
「………」

サイの問いに対し、サスケは沈黙をもって返す。
だがじっと見るサイの視線に耐えられなくなったのか、ため息をつくと答えを返した。

「どう見ても無理、って状態になれば―――助けに入る。アイツには借りがあるし、貸しもあるからな」
「………素直じゃないなあ。っと、僕も用意があるんだった」

サイは苦笑しながら、またねと言いながら歩いていく。
だが、あ、と呟くと振り返った。

「忘れてたけど………網に入ることはザンゲツ様に伝えたんでしょ? なら、暗号名とか考えといてね。さすがに本名じゃまずいだろうし、希望が無いと変な名前つけられるよ。うちの首領ネーミングセンスゼロだから」
「………分かった」
「ああ、あとメンマ君もネーミングセンスゼロだったね」
「ん、そうか?」
「そうだよ………」
昔を思い出し、サイは遠い眼をする。
「あの時は偽名を使ってたんだけどね………兄さんには"あすか"、僕には"あーがいる"とか言っていたけど、どういう意味なんだろうね」
「分からんが………だけど、なんか、こう、妙な説得力があるな」
「いやいや無いよ。ちなみにザンゲツ様はそれに輪をかけて酷い名前をつけてくるから気をつけてね」
「ん、例えば?」
「良い順から数えると、そうだね…………げろしゃぶ、とか、ふーみん、とか」
「―――よし分かった。兄さんの分も含めて、考えておく」
「そういえばもしイタチさんが組織に入るようならオコジョなんて名前が良いかも、とか言ってたなあ………」
「―――それは止せッ、下手しなくても万華鏡の華が咲く!」

割と冗談の通じない兄を思い出し、サスケは焦ってサイの無謀を止める。
よく兄の前で零さなかったものだと、今も戦慄しているというのに。

「それはまずいね。だけど、それレベルだから―――ね?」
「承知した。こちらで早々に考えておくから」

サスケが告げると、サイは分かったと言いながら去っていった。
そんな後ろ姿を見送りながら、サスケは視線を空へと向ける。


空は夕焼け茜色。
それは隠れ家で見た色とは、少し違って見えた。

「あの隠れ家で、改めてじっくりと見た時も思ったけど……」

隠れ家にたどり着き、夕焼けを見た時、サスケには新しく知った事があった。
過酷な修行に疲れ果て、仰向けに空を見上げていた時だ。

「木の葉で見たものより、ずっと綺麗だったよな」

『自分の心が変わったからだよ』
『眼が良くなったんだろ』
『………そういえば、そうかもな』
『隣に居る人が違うからですよ』
『え………ウチと同じ事思ってんだな』

それぞれの感想を思い出し、その時の様子と今の変わりようを自覚したサスケは、苦笑しながら眼を閉じた。
思えば遠くに来たものだと。

同時、今更ながらにも彼は実感していた。あの時一緒にいた面々。共に生きていくと決めた一人以外は、もう容易く会うこともできないのだと。
でも、それは皆が進むべき道に踏み出したことを意味している。

「色々あったな――でも、皆は選んだぞ。多由也も、再不斬も、白も」

遠く、空を見る。ひとつ屋根の下、奇縁の宿に集った仲間達の顔を、夕焼け空に浮かべる。

「兄さんも一緒だ。シンもサイも、歩き続けている。紫苑は残ることを決めたぞ。その力を使い、守るべきものを守ろうとしている」

サスケは取り戻した人、ここに至るまでに出会った人たちを思い出していた。
皆はもう、命尽きるまで進むべき道を見出している。

今後の戦いがどうであれ、進むべき道を歪めることはないだろう。
皆にはたどり着くべき場所と、何より帰るべき場所ができたのだから。


あとに残るは―――1人だけだ。

選択の時の中、歩く道の果て、その最後の一歩を踏み出していないのは。




「まあ――――どの道を行くのか、分かっているけどな」


なにせ12年、その一念だけは決して手放さなかったそうだし。

そう言って笑うと、サスケもまた自らの決意を整える作業に入っていった。





~~~




各里の忍者達が、そして組織"網"が来る五影会談に向けての、最終準備を進めていた頃。
メンマ達は隠れ家で修行を続けていた。

安全弁ともいえる四象封印の大部分を外し、精神世界で一日中修行していた。
朝起きて結界の中で精神世界に入り込み、疲労の極致に達するまで修行をする。そして夜になると起きて、飯を作り、食べて寝る。
その繰り返しだった。

修行はいつになく厳しく、それなりに苦境を渡ってきたメンマをして根を上げそうになるほど過酷だった。
まず、マダオとの模擬戦。火影としての力を全力全開に使ってくる熟練の忍者との戦闘を繰り返し、勘と経験を鍛えるための実戦訓練とも言える。
次は、クシナとの修行。クシナが使う封印の縛鎖、うずまき一族の、特別なチャクラを持つ女性のみに伝えられている封印術の攻撃を、ただひたすらに避ける訓練だ。
これは、例の最後の一撃を使う時に必要となる、特殊なチャクラコントロールの最終確認を行う意味でも役に立っていた。
印と、印に籠めるチャクラの構成、術の根幹を手っ取り早く理解するための、荒行だ。
印を組んでのチャクラコントロールはあまり得意でなく、特定の風遁術と雷遁の初級術しか使えなかった彼にとって、この修業が一番大変だったのはいうまでもない。

最後は、九尾の妖狐のチャクラを感じ取る修行。
人とは根本的に異なる人外、妖狐が持つ独特のチャクラに触れて、その根本の性質を理解するための修行だ。
キューちゃんを背負いながらチャクラを全開にして坐禅。その後チャクラを全身に走らせながら、ゆっくりと演舞を行う。
背中に伝わる力の流れを理解して、自らの動きの中に組み込んでいき、違和感をなくしていく作業が地道に続けられた。

残された時間は少なく、全てを万全な状態までもっていくのは不可能かと思われた。
しかし、集中すれば話は別であった。一点に集中し、一切の遊び無く前へと眼を向けた人間の成長能力は、妖狐にしても瞠目に値する程。

闘争心の火に自らの身をくべ、その純度を増していった。
これで最後だと自分に言い聞かせながら。




そうして、修行も最終日を迎えることとなった。
夕陽が落ち、暗くなった森の中、その更に精神の中で彼は真っ白な灰になっていた。

「いやダメでしょ!?」
「………おうふ」
「えっと、大丈夫?」
「だいじょぶ、よ、しゃちょさん」
「なんでカタコト!? というか起きて起きて!」
「痛っ、ちょ、起きてるよ!」
「本当にかい」 
「ああ。ちょっと何か木の葉の額当てをした爺さんが幻視されるわけでどこもおかしくはない」
「うん、いい感じに限界だね。目標のレベルには達したから、もう上がろうよ」
「俺がどうやって限界だって証拠だよ!」
「うん、本当にがんばったよ。頑張ったから。予想以上に早く、目標のレベルに達したわけだしね?」
「………それほどでもない」
「わあ、謙虚だ。って違うでしょ。そんな顔色して何言ってんの。疲れのあまりチャクラの色も眼の下も黒色に淀んでるよ? まるで前に見た十尾みたいだ」
「九尾でいい」
「おいやめろバカ。早くもこの修業は終了じゃな」

いよいよもって埒があかないと判断したキューちゃんは、そのままメンマを殴りつけた。
メンマはありがとうございますっ、と叫びながら、カカッと現実に帰還した。

「う、頭痛い……全身痛い………修行疲れにしても、ちょとsYレならんしょこれは……? 」
『………夕飯のラーメン作れそう?』
「誠に遺憾ながら今日はちょっと無理。すまん、母さん」
『いいわよ。今日までにたくさん食べたんだから。私が作りたい所だけど………こっちもちょっと、無理そうね』
『こっちも同じぐらい消耗してるからね。明後日はもう決戦だし、無理はしない方がいいよ、クシナ』
「くそ、明後日までにある程度回復しなきゃならんというのに。夕飯無しじゃ回復もできん」
『だよね………で、だけど―――怒らないで聞いてくれる?』
「………何かしたのか? まあいいよ。今は怒る気力も湧いてこない。普通に歩くのにも億劫だってのに」

『そう………えっと、落ち着いて、聞いてね?』

そうして、マダオはとある事を伝えた。それを聞いたメンマは、驚いた表情で隠れ家がある方向を見る。
―――通気口から、かすかに煙がこぼれていた。





~~~


「げ、まじで居る………というかどうやって呼んだんだよ………」

メンマは隠れ家の入り口の前まで来ると、ため息をついた。
隠れ家の中には修行前の早朝に消した筈の灯りがついていて、中からはメンマがよく知っている、ある人物の気配が漂っていたからだ。

『ちょっと、時限式の口寄せでね………今朝方に仕込んだんだよ』
「また無駄に器用な………って、待てよ。ということは、病院の時に?」
『ご明察。急に呼ばれるのも危ないからね。それに帰る時は"跳ばす"から、隠れ家の所在地がばれる心配はない』
「はあ………それならいいけど。でも、まあ―――それもまた、いいか」

と、メンマは自分の中に居る人―――最近目覚めた母親の姿を思い浮かべると、苦笑しながら頷いた。
親指の肉を少しかじり、印を組んで―――地面を掌で叩いた。

「口寄せの、術!」

白い煙が立ち上り、風に流された。
煙の中から現れたのは、二人の人物。金の髪の男と、赤の髪の女。




―――こうして、ここに揃う。
17年前に別れ、永遠に出会うことが無かった筈の、4人の家族が。








「おかえり、兄さん、父さ………ん…………?」

玄関を開けて返ってきた家主に挨拶をする金髪の少女―――キリハは、兄ナルトと父ミナトの間に居る人物を見て、驚愕の表情を浮かべる。
そこには彼女自身写真の中でしか見たことのなかった、そして彼女自身今まで知ることがなかった存在である、母クシナが居たからだ。

「ただいま………キリハ」
「え………あ………か、あさ、ん?」

キリハは目の前に立っている事実が信じられないのか、咄嗟にできたことは途切れ途切れに言葉を紡ぐことだけだった。
クシナは、そんな戸惑っているキリハに対し、笑みを向ける。

「あ………」

キリハはその笑みを見て、とある事を思い出していた。
子供の頃に何度か泊まりにいった奈良家、そのヒエラルキーの頂点にたつシカマルの母―――ヨシノのことについて。
そして、彼女が浮かべる笑みと、笑みを向けられていたシカマルの照れくさそうな表情を。

「う………」

あの時に嫉妬さえ覚えた、その表情。それが今、掛け値なく、一切の余分なく自分に向けられている。
―――偽物ではありえない。何より、両隣に二人が居て、笑みを浮かべているのだ。片方はうれしげに、片方は照れくさそうに。
それを見た瞬間、キリハは理解する。目の前に居る人物は、自分が会いたかった、でも会えなかった、永遠に失った存在で、変化のような偽物ではない、本物の存在なのだと。

それを理解した瞬間、キリハは前へと駆け出していた。

「か―――母さんッ!」

そして叫びと共に、飛び込んだ。
夢にまでみた、母親の胸へと。


そして、泣きながら色々な事を叫んだ。
感情的に、支離滅裂で、それでも言えなかった言葉の数々を。

それを聞いたクシナも泣きながら、娘が泣き止み続けるまでごめんねを繰り返していた。
頭を、さすりながら。

「これは……あもりにも………ひきょうすぎるでしょう………?」
「うう、破壊力ばつ牛ンだね………」

その背後では、つられて泣いているバカ二人が袖で目元をぬぐっていた。


~~~

「ぶーぶー」

ひとしきり泣いたキリハは、父に向けてぶーたれていた。

「いや、ごめんよキリハちゃん。だから親指下に向けないで」
「だめだよひどいよ父さん。ドッキリだなんて私に言った癖に………逆に驚かされたのは私の方じゃない」

良かったけど、と口を尖らせるキリハ。
それに対し、マダオは笑みを浮かべながら言った。

「いやいやむしろそれが僕クオリティー………あ、ごめんクシナ痛いからやめて下さい」
「謝るのはええな! というかドッキリって……前もって用意しておいたんかお前は」

油断ならねえ。
メンマが言うと、マダオは苦笑をしながら補足の説明を加えた。

「きつい修行になることは分かっていたからね。準備はしておいんたんだよ。で、昨日の夜に様子を見た限り、今日の修行明けには相当危ない状態になるだろうことは確定的に明らかだったから」

だから呼んだ、と本当か嘘か分からない言葉をいけしゃあしゃあというマダオ。
メンマはため息をつきながらじろりと睨む。だがキリハとクシナの様子と、それを見ている自分の感情を理解したメンマは、特に追求をすることもなかった。

「………まあ、回復ができなければ勝負もくそもなくなるしな。正直、昨日からかなり限界近かったし、その点では感謝してるが………ああ、もういいや」
折角キリハが作ってくれたんだし、飯にすっか。
そういうと、キリハはむんと腕を上げた。
「………楽しみにしといてね! 腕によりをかけて作ったんだから!」
「へえ………」

キリハは元気いっぱいといった様子で台所に入っていた。
少しすると、自分の作った料理を持って返ってきた。テーブルの上へ並べていく。

「あ、手伝うわよキリハ」
「ダメ、母さんは疲れてるんだから……いいから、座ってて!」
「うっ………ごめんね」
「いいよ………最初で、最後になるだろうし、ね」
「………そうだよ、クシナ。それに逆にそっちの方がクシナらしいし」
「えっと、ミナト? それってどういう意味だってば?」
「はははだってクシナは料理の腕…………いえ、何もいってませんから眼を光らせるのやめてくれないかなあはは」

笑ってごまかすマダオ。
その隣では、メンマがため息をついている。

(失言にも程があるだろ………というか今日はマダオの奴、不自然にその類の発言を繰り返すけど)
『ううむ………いつものあやつを見る限り"そんな日"もある、で納得してしまいそうじゃが………もしかしたら意図的なんじゃなかろうか。泣きながらの食事とか、わびしいにも程があるしの』
(それは………そうかもしれないけど。あと、知らなかった"家族"の事を話したいのかもしれないね………って、そういえばキューちゃんは出てこないの?)
『いや我が居たらダメだろ。この4人家族に我を加わるとか、どんな皮肉じゃ』

と、九那実は外に出る事を断った。
しかし、テーブルの料理と、並べられていく皿の数を見たメンマは、ひのふのみのと数え始めた。

(うん、ゴニンマーエ! いや違った、五人分だよキューちゃん)
どこぞの健啖な女性柔道家の真似をしたメンマは、ほらと言いながら皿の数々を指さした。
『………本気か、キリハの奴は。我の正体については前に話しただろうに』

ありえん、と言う九那実。そこに、キリハが「えっと兄さん、キューちゃん呼ばないの?」と効いてきた。
「出たくないんだって」
「え、そうなの? 折角、好物だって聞いた油揚げの料理を作ったのに」
「いや、何か遠慮して、って、ぬおっ!?」

言葉を続けようとしたメンマの、その右手が自動的に動き、その口を塞いだ。

(な、急になにすんだキューちゃん!?)
『うむ、折角だから我はこの赤の扉を選ぶぞ』
(血の口寄せだから赤の扉!? え、でも、ちょっと、さっきまでの遠慮的な心は今は何処?)
『食べた。食欲の前には皆平等。強いものは生き、弱いものは食べられる。好物ならば尚更。それこそが自然のおきて』
(色々と訳が分からないけど、油揚げを食べたいってのは分かったよ………)
『そうともいう』
(いや、そうとしか言わないんじゃ………)
『そんな日もある』
(え、油揚げを食べたくない日って、あるの?)
『………ありえん(嘲笑)』
(なんて、理不尽―――)

でもまあいいかと、メンマは口寄せの術を使った。

煙の中からはしゃぐ童女が現れた!

「あ、キューちゃん久しぶりやっほー」
「うむ、やっほー」

笑いあいサムスアップする美少女二人。
それを見た周りの反応は様々だった。

メンマはキューちゃんも成長したなあと笑い、マダオは温かく見守り、クシナは片方にメンチを飛ばしていた。
隣からきつめのチャクラを感じ取った金髪男二人は、すぐさま赤髪の修羅神を止めに入る。

「どーどー母さん落ち着いて。またケンカされると困る。主に俺が」
メンマは精神世界なら爆発でアフロになっても構わないが、現実世界でアフロになってしまうと困る、と言ってクシナを説得する。

「そうだね………みんなアフロ頭で最終決戦とかもう………カオスってレベルじゃないし」
みんなでジミヘン! の最終決戦を想像したのか、マダオもすぐに止めた。
メンマも同意する。そんなことになればギターを右持ちに持って闘うしかないではないか。

「………まあ、ケンカの理由もくだらないことだったし」
「………飯がまずくなるような真似はよすか」

クシナは目を元に戻し、ミナトに笑いかけた。
それを見た二人は、安堵のため息をつく。

「でも………やっぱり意外だなあ」

キリハは料理を並べながら、テーブルに座る4人を見た。

「死んだ父さん……四代目火影は高潔で真面目で、欠点もない凄い忍者だってシカクさん達に聞かされてたのに―――こんなに………ええと、面白い人だったなんて」
優しいキリハは言葉を選んだ。
メンマはふっと儚く笑う。
「キリハ………死んだ人ってのは、美化されるものだぞ?」
「あ、やっぱり? 私もカカシ先生と自来也のおじちゃん見て、なんかおかしいなーって思ってたんだよ」
「その違和感は実に正しい。古人曰く、去った者は美しいっていうしな。死人に鞭打つのはよくないことだし」
「つまり、良い光景だけが語られる、ってこと?」

その問いに、メンマは親指を立てて答えた。
同じく、キリハも親指を立てる。
キューちゃんも便乗した。

「「「あはは」」」

笑いあうメンマと美少女二人。
その横で落ち込むミナトの頭を、クシナがよしよしと撫でる。

「うう………僕って確か火影だったよね………いや、確かに就任期間はダントツで短いですけど」
「大丈夫よミナト。貴方の勇姿………あの時私たちを守ると言った貴方の背中はずっと、覚えているから」
「クシナ………」
「思えば、夫婦喧嘩で―――結婚する前からずっとしてきた喧嘩で、私が負けたのはあの時だけだったっけ」

困った風に、でも嬉しそうにクシナは言う。
"ミナト"は、その言葉を聞くと、からかうような顔でクシナに向き直った。

「男には死ぬと分かっていても引いちゃあならない時があるんだよ。それに僕があの時に背負っていたのは、未来だった。家族の、里の、大切な未来………」
ミナトは笑いあう兄妹を見ながら、クシナだけに聞こえるように言った。

「それを今、本当に痛感してるよ。色々と………本当に色々あったけど―――」

ミナトは言葉を途中で止めて、眼を閉じる。
あの時果てた"かつて"から"これまで"に起きた様々な事。そして明後日の決戦を思い、万の感情をこめて断言した。

「―――あの時、二人を守ることができて、本当に良かったって。礎になったとしても、今日この時を迎えることができて、本当に良かったって」

それは嘘偽りが一切ない、波風ミナトの言葉。
今日まで繋がる彼の中で、一等揺るがない真実の言葉だった。

「ミナト………」
「ん、まあそれも明後日の決戦にかかってるんだけどね」
やっぱり世界は甘くないけど、とミナトは頬をかきながら言った。
「勝てると想う?」
「―――何時だってそうだ。誰だってそうだ。僕たちだって、そうだったでしょ? ―――戦うと決めたなら、勝たなきゃ。ナルト君はもう、その域まで意識を高められてるし………」

ミナトは九那実の方を見ながら、続きの言葉を紡ぐ。

「何より、支えとなる人が居る。それなら、男の子なら勝たなきゃならな。例えどれだけの悲劇があったとしても」
「でも……」

なお不安な表情を消せないでいるクシナ。マダオはそんな彼女を笑ってはげました。

「やってくれるさ。この戦いに関して、あの子はもう覚悟を決めている。ならきっと勝てるさ。僕が保証するよ」
「そう………そう、ね」


「じゃあ………っと、ここは家長に頼もうか」
「え、いいの?」

確認するマダオに対し、メンマは首肯を持って是と返した。
マダオはそれを見て、手を合わせる。

「それじゃあ………いただきます」

「「「「いただきます」」」」

そこからは食事が始まった。特に違うこともせずに、ごく普通の食卓が展開されている。
あるはずだった当たり前の食卓、それを取り戻すかの如く。

「しかし、綺麗になったわね………それはやっぱり、好きな人が居るから?」
「えっ!?」
「シカマル君、だったっけ。ヨシノさん所の。幼馴染みだって聞いたけど、いったいどういう経緯で知り合ったのかな?」

親同士で交流があったとしても、毎日遊ぶような幼馴染みにはなるまい。
そう考えたクシナは、キリハに馴れ初めについて聞いてみた。

「そういえばそうだよな。俺もそのあたりは聞いたことなかったし」
「うん、そうだね」
「油揚げが美味い」

一人食事に集中しているキューちゃんをよそに、尋問が開始された。
標的であるキリハは、赤くなりながらも話をし始める。

「最初は………そうだね、今も覚えてる。5歳か6歳ぐらいの頃だったかな」

額に指をあて、キリハはその時の様子を思い出しながら話を続ける。

「何が切欠だったのかは分からない。でもある日急に、私の眼を見る人達の眼が………カカシ先生を含む、近くに居る人達の眼が変わったんだ」
「カカシ君も?」
「うん。なんて言ったらいいのかな………うまく説明できないけど、"私"が見られていない、って思ったの。みんな私の立場とか―――私を通した誰かを意識してた。"波風キリハ"じゃなくて、"四代目火影の息女"っていう眼で見られてたの」
「それは………」
「うん。今にして思えば―――兄さんが里を出て行った時期と同じだね」

そこから微妙に歯車がずれた、とキリハは言う。

「よくしてくれたよ。でも、何処か違った。後ろめたさとか、償いとか、そんな想いがどことなく感じられて………」

子供は時に大人顔負けの観察眼を見せることがある。意識に敏感になることがある。
生まれ持って勘が鋭いキリハには、周囲の大人達の視線をなんとなく察していたのだと、マダオ達は思った。

「生きていた。ご飯も美味しい。でも、私が居ない。"波風キリハ"が消えていく………錯覚だったのかな。でも、私はそれがどうしようもなく嫌で………」

キリハはその時の事を思い出したのか、首を横に振った。

「雨の日だったかな。傘もさしたくなくて、雨に当たることで自分の体を感じたくて………でも、分からなくて。それで、家にあったクナイを持って、近くの公園に行ったの。刃を握りしめて、ちょっとだったけど、血が出て………」

そこで箸を止め、言う。

「そこで初めて会ったの。"なにしてんだ"ってさ。シカクさんそっくりで、でも無愛想な顔で、さ」

ぽりぽり、と頬をかきながらキリハは言う。心なしか、その頬は赤い。

「それからは………すぐに、とは言わないけど、みんな変わったよ。今思えば、シカマル君が何か言ってくれたのかな………いのちゃんやチョウジ君っていう大切な友達もできたし」

「ううむ、やるなあシカマル。だけど………そっちはそっちで別の苦労があったんだな」

ぽつりと、メンマは呟いた。
それを聞いた九那実とマダオが一瞬だけ固まる。

「うん。まあ7歳で暗部とやりあったっていう兄さん程じゃないけどね」
「え、何で知ってる!?」
「全部じゃなくてちょっと、だけど………紫苑ちゃんに語られたよ。惚気と一緒にね」

そう言うと、キリハはジト目でメンマを見る。
しかしメンマは「おっ、この里芋の煮っころがし旨いな」と話を逸らした。

「そうねー。私の娘なのにこれだけ料理が上手くなるとは。それも煮物なんて高等料理を」
「あはは、そういえばクシナの料理って激辛鍋が基本だったよねー」

遠い目をしながら、マダオが言う。

「でも美味しかったし。辛い料理が多かったのも、渦の国でそういう料理が多かったからでしょ?」
「そうなのよねー。髪が赤いからって、唐辛子マシマシにしなくてもいいってのに」

むしろ甘党の人は辛さのあまり眼がぐるぐるになっていたわよ、とクシナが愚痴る。

「でも、美味しかったし。そこら辺は二人共に受け継がれたんじゃないかな」

マダオの言葉に、メンマは得心いった、と頷いた。彼もまた料理人。かつての新ラーメンへの的確なアドバイスと、この料理を見れば分かるものだ。


そうして、お互いに近況について話をする。
くだらないこと、たわいもないこと、ちょっと大切な事もまじえながら、それでも嘘やつくり話などではなく、本音で話しあう。
互いに、言葉を交わしあう度に生きている事を感じる。生前は一度も経験することがなかった、当たり前の事。
それを今、キリハは取り戻しているのだ。

食事が終わり、後片付け。
食後のお茶を飲みながらも、話は終わらない。

昔から今に繋がるまでの全てを、キリハは話す。楽しそうに、悲しそうに。一番聞いて欲しい相手、家族にたくさんの事を話した。
アカデミー時代の事、下忍になってからの事。中忍選抜試験、木の葉崩しや色々な事件についても。
ミナトとクシナはその話の中で出てきた懐かしい名前を聞く度に嬉しそうに笑う。
ナルトも、自分が関わったのが原因か、色々と変わってしまっている人間や人間関係を聞くたびに新鮮な気持ちになった。

カカシや、サクラ。シカマルやいのに、チョウジ。
キバがハナビといい感じ、とかイルカ先生とシズネさんが怪しい、などの一部爆弾発言が飛び交うこともあった。
たいていは片思い、相手が鈍感で両想いには至ってないようだ、とキリハが説明を付け加えると、「おまえが言うな」という言葉が4人から返ってきたのだが。

ナルト自身色々と突っ込みたい事があった。しかし、言いたいことはただひとつだけであった。

「なにわともあれ………良かったな、シズネさん………っ!」

綱手の付き人から、火影の補佐まで。
ミナトは、先の木の葉での宴会で聞かされていたのだった。感じていたのだった。
彼女の、涙なしには語れない激動の日々と、それに伴なう途方もないおいてけぼり感を。

「好きな人が居るんですっ、って言ってたけど………その人の事は諦めたのかなあ………」

思い出すように呟くミナト。

聞いた二人は目配せをした後、ため息をついた。
そんな二人の片割れすなわち男の方に、ため息を重ねる幼女がいた。

「今日のお前が言うな会場はここか? ―――ともあれキリハ、そろそろ時間だぞ」
「あっ!」

もうこんな時間、とキリハは慌てて椅子から立ち上がる。

「………じゃあ、送るよ」



そういうと、全員は玄関前の広場へと集まった。

「………これで、最後になるってばね」
「うん………え、母さん?」

クシナはキリハに近づくと、その脇の下に腕を差し込んで―――

「きゃっ!?」

勢い良く抱き上げ、そのまま両腕で抱きしめた。
キリハは驚きながらも、やがて自分も母親の背中へ手を回した。

「………こんなに………大きくなっちゃって………ごめんね、ずっと―――傍に、居てやれなかったってばね」
「………うん………寂しかった。でも………父さんと母さんが守った、木の葉のみんなが居てくれたから。だから、一人じゃなかったよ」

寂しかったけど、耐えられた。キリハは涙声で、ありがとうと言った。

「でも、母さんってば力持ちなんだね。私結構大きくなったと思うんだけど?」
「そりゃあ、元人柱力ですからね。でも心地良い重さだからってこともあるわ」

そのまま、じっと抱きしめあう二人。
でも時間が迫っていた。キリハは徐に離れ、今度はミナトの方にててっと駆け寄っていく。

「父さんも、元気で」
「キリちゃんもね。木ノ葉隠れの事、頼んだよ―――あと、例の衣装の方も………ね!」

キリハは軽く抱きつきながら、ミナトの頬にそっと唇で触れた。

「ありがとう。兄さんと―――メンマさんのこと、よろしく頼むね?」
「………っ!? ―――まいったな。ん、でもわかったよ。キリハちゃんも、元気でね」

驚くミナトを見届けると、キリハは九那実の元へと歩み寄っていく。

「………料理、美味かったぞ」
「うん、喜んでもらえた良かった。でも、今度はもっと腕を上げておくから―――ね?」

キリハはよしよしと九那実の頭を撫でる。
九那実はそれに対し―――笑みを返すことしかできなかった。
キリハが兄の方向を見た後、それが儚いものへと変わっていったが。

そして、最後。

修行の果てに身につけた、特定の対象を時空間跳躍させる術。
昔ミナトが使っていた、飛雷神の術の別式を使いキリハを木の葉へと送る用意をしている、兄の元へ、キリハはゆっくりと歩いていく。









「………さよならは、言わないよ?」
だから、と言いながらキリハは歩きながら小指を立て、兄に向ける。

「ああ、当たり前だ」
術を中断し、それに応じて、メンマもまた小指を立てる。

そして、距離は縮まる。
互いの中央で、小指が絡まった。

「………兄さんのことだから、勝算はあるんでしょ?」
「ある。名付けるならば、"比翼連理の法"、ってところかな」

―――両者とも。
戦うのね、とも。戦うから、とも言わない。言わずとも承知していた。
この時期に修行をするという意味を、見られる方も見た方もしっかりと認識しているのだ。

「なら……良かった。でも、約束してくれるかな………今度破ったら、承知しないんだから」
「ああ、約束だ」

ボン、と音を立て、九那実、ミナト、クシナがナルトの中へと戻る。
そのまま、絡まった小指が、誓いの言葉と共に縦へと数回振られた。

「指切った、よ」
キリハは、後ろに一歩下がる。

「指切った、な」
ナルトが、クナイを取り出して水平に構える。

同時、術式が走る。

「………またね」
「………またな」


―――光が満ちた後。

キリハは、木の葉隠れへと、自分の家へと帰っていった。






~~~~




そして、翌日。

たっぷりと睡眠を取ったメンマは、柔軟体操と演舞で身体をほぐしていた。


「……感触はばっちり、だな」
『チャクラもかなり回復しているね。明日になれば全快していると思うよ』
「そうだな………これなら、跳んで戻ってくることはできるか」
『うん?』





「――ー最後になるかもしれないだろ。だから、全部話しておきたいんだ」







昼食を食べて、その一時間後。

メンマは飛雷神の術を使い、とある場所に向かった。
そこは、木の葉隠れの近くにある場所。
大きな河の下流、人知れず建てられた石の墓があるところだ。

ここは、何もかもが始まった場所でもあった。

「じゃあ、僕たちはあっちの方で待ってるから」
「ああ………頼む」

二人きりで話したいから、というメンマの要望に答え、マダオをクシナは離れていった。
声が聞こえない範囲まで遠ざかっていったのだ。

離れた事を確認すると、メンマは墓へと向き直った。
残っている九那実に背を向けたまま、じっと佇んでいる。

「………いったいどうしたのじゃ。話とは、なんじゃ」
「………はっきり、させておきたいんだ。ずっと俺を見ていた、キューちゃんに聞きたいことがある」

メンマは無言のままその場に座る。

そして、ゆっくりと口を開いた。


「俺って、本当の所は………いったい、何処の誰なんだろうな」

「―――」

不意の質問。思いもよらない問いかけを聞かされた九那実の、呼吸がとまる。

「木の葉に戻って、さ。色々なことを話して、師匠―――テウチのおっちゃんと話して、思い出したことがあったんだよ」
「………それは、昔のことか?」
「ああ。オレがまだ"うずまきナルト"だった頃の」

ゆっくりと語りだす。
ラーメンを食べに、テウチの店に通っていたこと。隔離され、一人で暮らしていた事。

―――その後、根の暗部に受けた責め苦のこと。
つかまり、身体を痛めつけられ、幻術を使われ忘れさせられる。
子供だから、自己意識が明確でなかった。
証拠となる傷も、人柱力特有の回復力ゆえに、跡には残らなかった。
だからそれが、夢のことなのか区別がつかなかった。

「きっと、あの日々の中で―――俺が"オレ"だった部分は死んだんだ。耐えられず、自らを捨てた。壊れることを選んだんだ」
「………そうじゃな」
「幼いながらも、僅かにあった理性が壊れた―――あとは本能の赴くままだったのか。野生の獣と同じ行動を取った。自らを傷つける外敵を、障害を、本能と衝動のままに排除した」

憐憫の情を一切持たない獣。自らのチャクラを振り絞り、一切の手加減なく蹂躙した。
手が血にまみれていたのは、そのせいだろう。

そして目的を達成した後、自己は停止して―――

「ああ………封印が緩まったな。我は、それを好機だと考えた」

四象封印は、宿主のチャクラの流れがあること。それを前提として構成されていた。
それが崩れた時。宿主の意識が崩壊した時、九尾の妖魔はすかさず動いたのだ。

「しかし、そこから先。あやつが取った行動は、我にとっても予想外だった。」

おかしそうに笑いながら、九那実は言葉を続ける。

「時間は無かったはずだ。だがあやつは成した。お主も、我も、そして自分も、木の葉隠れの平穏も。どうあっても崩壊していたはずだった………それを全てを現状のまま、留めてみせたな。
 その後のフォローも含めて、見事の一言に尽きる。全く、信念を持った人間というものは本当に恐ろしい」

致命的とも言えるほどにほつれた、四象封印の再構成。土台となる魂、その欠落を埋める―――呼び寄せた魂。

「古い巻物を見たのか、はたまたあやつの自己流か。完全ではなかったにせよ、口寄せの術式の類でまさか"それ"が呼び出されるとはな。
 時空間忍術に長けたあやつならではの所業………我としては誤算だったがな」
「時空間忍術………つまりは口寄せの術、または飛雷神の術だったよね。で、欠落を埋める充填剤として呼び出されたのは………?」
「同じ方向性を持っていた魂。まあ、一つではなかったようだがな」
「………そうなんだ。どうりで不自然な記憶があると思った」
「木の葉崩しの後で、かなり混じり合ったようだながな。しかし、勘違いするなよ?」

お前の考えているようなことではないと、九那実は言う。

「核となっていた、しかしボロボロになっていたうずまきナルトの魂。その欠落部を埋める大半、補填の大半となっていたのは、中核を成したのは、"ラーメン屋を営んでいたお主"の魂だ。
 ―――そう、テウチとの約束と連環していつつ、ひとつの方向性を向いていた。うずまきナルトが何よりも望んていた夢と、同じ "方向性"を持っていた魂。だからこそうずまきナルトと求め合い、融け合った」

「………意志か、はたまた………夢の方向性、か」

「力を忌避していた点も同じだ。うずまきナルトは、初めて体感した―――肉を裂く感触に怯えていた。拷問をうけていたのもな。
 それらを望まず、唯一自らの救いとなっていたもの………。今のお前ならば、それがなんだったのかは分かるであろう」

「………ラーメン、だよね」

力で誰かを蹂躙するのではなく。そして、されるのでもなく。
色無き白黒の日々の生活において、唯一極彩色の感情を呼び覚ましてくれたこと。喜びを感じさせてくれたことといえば、他にはない。

「その一点において、そなたらはつながった。そして同じものとなったのだろう―――」
「じゃあ………うん? 結局のところ、俺は誰なんだ?」

うずまきナルトか、混ざったもの、その大半となった誰かなのか。
本当の意味で、自分が誰なのか。ずっと疑問に思っていて、はっきりとしなかったもの。
それを確認せずに、最後の舞台に立っても負けるだけだ。
迷いは意志を弱くする。今度の相手は、僅かな差が致命的になるだろう。

自分が誰という、土台。それを確定せずには飛べないと、自覚していたのだった。

―――しかし。
九那実は、それは違うと返した。
思い出してみればいい、と言った。

「………網に入ってから。修行は、熾烈を極めたな」
木の葉を抜けてから、網で任務をこなすまでの鍛錬の日々。それをさし、九那実はメンマにその時の苦味を想起させる。

「鬼の国では、少女と出会った。少年と出会った。人を殺した。そして、守り抜けたものと、守れなかったものがあったな」

―――紫苑のこと。

「色々なところにいった。食材を求めて、アイデアを求めて。道すがらこの世の理不尽を知ったな」

―――旅の途中。世界の広さと、この世界の命の単価、その低さに驚いた。

「先代の遺言に従い、紅音を信じた。力で網を動かそうとした、愚物を葬ったな」

――"網"の後継者争いのこと。

「かつての約束を胸に秘め、なんだかんだいってテウチの元へと戻った。ナルトとメンマが混ざり始めたのは、この頃だったか」

――ーラーメン屋の修行時代。

「屋台を開き、色々な客を話した。妹との邂逅の果て、他者を欲した。数回会ったきりのキリハによくかまっていたな………嫉妬を覚えたのは、ここだけの話じゃが」

―――店を開けたことと、キリハについて。自分の内ではない、他の誰か―――再不斬と白を見つけた事。

「望まぬ未来への介入。そこであらゆる事を知り、ただ一念に信じ生きる傑物―――最後まで誇りを貫いた、英雄の最後を看取った」

―――木の葉崩しと、最後まで意地を通した三代目火影、猿飛ヒルゼンの勇姿。

「紆余曲折あって、出会った―――同じ夢を持つ者。力ではなく、人の技で誰かと解り合おうとしているもの。癒すことを見出した、そして命を賭けて貫こうとしていた、友に出会った」

―――壊すのではなく。癒すことによって人の害意を消そうとする、痛快な、赤髪のバカな少女に出会った。

「迷い子を助け、間違った方向に進もうとする少年に、道を指し示した」

―――サスケと、雪の国での一件は、今もまだ記憶に新しかった。

「それが……………お前だ」

そこで、九那実は言葉を止めた。

メンマは無言のまま、その時々の風景と、その時に感じた想いを思い出していた。

「かつてから、ここまであったこと。まさか忘れたわけではあるまい?」
「………まあ、忘れるには、強烈な事が多すぎたからね」

即答するメンマ。
それに対し、九那実は笑って、そして言った。

「その想い出、進んできた意志。思い出の中にある風景―――即ちそれこそが、お前自身だ。助けられた者にとっても、恐らくはそうだろう」

一歩。九那実は近づき、メンマの後ろから、その頭をかき抱く。
後頭部に、小振りな胸の柔らかい感触と、暖かさが広がった。

「――ーじっとしてろよ、このバカが。臆病者。お前はいったではないか。過去は大事ではないと」

過去をみず、その人物のみを見るメンマ。その考えに驚き、そして喜んだ一人の少女は、小さいながらも自らの腕でもって、愛する男の葛藤を和らげる。

「お前が誰だったとか、真実がどうとか、自分が本当は誰なのかなどと―――細かいことはどうでもいい。お前はずっと、自らの意志で道を切り開いてきた。その意志のままに進んできたお前自身を信じればいい」

かつて、かけられた言葉。それを反芻し、九那実は言う。

「過去は………想い出にすぎない。今はいっときの腰掛だ。それよりも重要なのは、今より続いてく未来、すなわち夢のため。変えることの出来る明日に向けて生きるのが、最も大切なことなのだと。
 それを実践していたお前が………此処に至るまでの命、その軌跡が。死をも知って、恐怖も知って、それでも隠れることなく夢のために進んできたお前こそが、誰でもないお前自身なんだよ」

ぎゅっと抱きしめて、九那実は言った。

「その頭に刻まれた記憶と、想いこそが………な」

そう言うと、九那実は抱きついたまま、沈黙する。


鼓動の音が重なった。
メンマの緊張が、ゆっくりとほどけていく。

それを察した途端、九那実は素に帰り、恥ずかしくなったのか、メンマの頭をこつんと叩いた。

「ふん、どうせ馬鹿なんじゃがら小難しいことは考えるなよ。馬鹿が難しいこと考えたら終わりだ。いつも通りどたばたと喧しく望むがままにひた走れ」
「………つまりは、考えるなってこと?」
「考えても分からんことじゃ仕方ないだろう。だから、感じろ。今まで通り前を向いて走ればいい」
「………なんか、そう言われると………本当に、ただの馬鹿みたいなんだけど」

抱きつかれながら、メンマはぽりぽりと頬をかいた。

「なんじゃ、違ったのか?」
「うわ酷っ。って、俺もちょっとは考えるから―――」
「どうかの。なんせお前は―――」


そこからは、いつも通りのやりとりだった。

ずっと抱いていた彼の暗い気持ちは、いつの間にかどこかに吹き飛んでいた。






~~~~






その夜。決戦を明日に控えたメンマは、夕食を済ませると九那実と二人屋上へと上がった。

マダオはクシナと二人きり。野暮はよそうぜ、という話である。

「ふむ………秋の空気のせいか、鮮やかだの」
「そうだね。でも障害物のないまま、月だけをじっと見てると………とんでもなく遠いせいか、距離感が狂うな。宙に浮いたような感じがする」

二人はじっと、寝転び月を見上げながら、会話を続ける。

「そういえば、昨日のキリハの事じゃが………結局のところ、木の葉に戻る気はないと?」
「あそこはキリハの場所だしね………おかしいかな」

あそこは、木の葉隠れを戦う場所として、選んだ者。
火影を目指す、英雄の物語を引き継ぐ者が帰る場所だ。

「比べて俺は………いわゆる、厄介者だからね。違う場所で生きざるをえなくて、今はこうして違う道を選んでる………だから、時々でいいんだ。ちょっとあった時、少しだけ交差すれば、それでいいと思うんだよ」
「………家族なのにか?」
「家族だからって、ずっと傍に居るべきだとは思わないな―――家族を知らない俺がそれについて語るのもおかしなことなんだけど」
「ふむ………昔のことは関係ないと?」

「………ああ、キリハが居たから、俺が襲われたってこと?」

―――先代の忘れ形見。
片や九尾を宿す、兄。人柱力という呪われた力を持つ、疫病神。名をうずまきナルトと言う。
片や九尾を宿さない、妹。才能溢れる、後継者となりうる、英雄の姿形を思い出させてくれる、希望の星。名を波風キリハと言う。

大衆は正直だ。常に綺麗な方を選ぶ。そして、片方は無くてもいいと考える。
"うずまきナルト"を護衛する者は、確かに存在していた。

しかし心底守りたい対象として考えていた訳ではないだろう。
だから、異変にも気づかなかった。

「あるいは、四代目の忘れ形見が………俺一人だけなら、違う今があったかもしれないなあ。でもそれはもしかしたらの話だね」

しかし、現実は違った。そして、反発する勢力があって、都合のいい条件が揃っていた。
疲弊していた木の葉隠れの里。

―――必然的に、残るのは一人になる。

「………しかし、残されたキリハにも色々とあった。どちらが、ということも無い」

「うん。だからそれは別に。俺も……根無し草にはなったけどね。こんな自由の身じゃなければ味わえない、楽しいこともあったから」

「………何より、この道でなければ出会えない人も居たから」

その言葉に、九那実は寝転んだまま、顔だけをメンマの方へ向ける。

「………ん、どうしたのキューちゃん」
「いや、どうしたのって、お前………いや、こういう奴か」

ため息をつく。そしてそっと、転がっていた手を握る。

「ちょっ!?」
「うるさい、黙ってじっとしていろ馬鹿」

二人は互いの手を握り合ったまま、寝転がり続けた。
緊張しているのか、鼓動が高鳴っていく。

「………う~ん、命を感じる」
「バカ………」



静かになる二人。
すると、下の方からマダオとクシナの話し声が聞こえてくる。

その声を、九那実だけは拾うことができた。




◇◇◇



「あの二人は?」
「上に居るよ………何を話しているのかな」
「気になる?」
「そりゃあ、ずっと一緒にいたからね。あの子を想う九那実も、本当に辛いところだと思うけど………」
「でも、きっと話さないわよ………ねえミナト。本当に、どうにもならないの?」
「方法はあるけど、至難の業でね。人間じゃあ絶対に無理だ。それこそ神でもなければ、どうしようもない」
「でも………」
「もう遅いよ。"声が聞こえた"あの時から………彼女も自覚しているし、もう覚悟は済ませてる」
「運命ってば、残酷なものね………」
「『そういうものじゃ』って言われたよ。ずっと依代として生きていた彼女に言われると、説得力も半端じゃないね」
「それでも、融け合う事は選ばないのね………女としては、納得できるものだけど」
「………本当、一長一短だよ………同じ荷物は背負えた。結果、彼女は感情を知った。だけど………向き合い、ずっと共に過ごしていくことはできない」
「貴方も私も、限界だからね。そのことは、あの子は………?」
「僕たちのことは、知ってるよ。僕が限界に近いっていうことは、以前から伝えてたし。だけど、キューちゃんの事は知らないだろうね」
「黙って行くっていうの?」
「それが、彼女の望みだからね」
「………間違いなく傷になるわよ?」
「女々しいが、それが証になるから、って」
「………女、ね」
「うん。怖くて、切ないなあ………」



◇◇◇


「………気にするなと言っただろうに、バカどもが」
「え、あの二人なんか変なことを話してるの?」
「―――ごくごく個人的な話じゃ。家族といえど、話すことはできんだろうよ」
「………そうなんだ。でも、家族か」

ぽつりと呟いた言葉。それに、九那実は反応する。
話をごまかすといった意味もあったが、先程から出ていたその言葉に興味をしめしたのだった。

「そういえば前々から思っていたのだが、家族とは、いったいどういうものなのじゃ?」
「それは………えっと、俺も前世的な人は孤児だったし、うずまきナルトもこうだからね。体験談もないし。そういえばキューちゃんの方は?」
「我ら狐に家族という概念はないな。巣穴で生まれはするが、すぐに巣穴の外へ出るようになる。やがて乳離れを経て、しばらくしてから巣穴を追い出される。あとは独り立ちして、二度と巣穴にはもどらん」
「そうなんだ………え、でもキューちゃんって、天狐だよね」
「生まれた時から天狐はおらん。素養はあるかもしれんが、生まれる時は皆、普通の狐にすぎん。まあ、狐は他の動物よりも強いチャクラを持って生まれ………稀に、な。
 際立って強いチャクラを持つ者がおる。普通の狐ならば5年も持たずに死ぬところを、更に生きる狐がおる」
「それが………妖狐か。そうして、年を重ねた妖狐が?」
「うむ。自然のチャクラを取り入るようになった妖狐は自らの身体を作り替え、いずれ仙狐に成長する。そして最終的には天狐と呼ばれる存在にまで至る」

身体を作り替える。その言葉に、メンマは興味をしめした。

「それって、生命エネルギーだよね………最後の切り札の一要素。つまりは、陽遁ってやつ?」
「うむ。そして陰遁の象徴、精神エネルギーの塊である妖魔核を取り込むことで、更に上位の存在に変質するのじゃろうな」
「だからこそ、尾獣。理あっての、あの強さか………確かに、十尾対策に組まれたシステムだけはあるよね。並の忍びじゃ太刀打ちできない、反則級の強さだし」
「うむ。お主らで例えるなら………そう、“千住”と“うちは”が合体する形になるな。そういえばお主らうずまき一族も、千住の傍系だと聞いたが?」
「むしろ紫苑の方の系統なんじゃないかな。封印系の術が得意らしいし。まあ、実際の所はしらないけど―――ーって、そういえば」

系譜のものは皆、赤い髪をしているって言ってたよね。
メンマがそう言うと、九那実は頷きを返す。

「えっと………そういえばエロ仙人が言ってたけど、あのペイン………長門も、昔は赤い髪をしてたんだよね?」
「なにかしらの関係はありそうじゃの………ん? ――――というか、ちょっと、待て。多由也のやつも赤髪じゃが………」
「そういえば多由也ってば、封印系の術が得意だし………母さんと同じで土遁系の術も得意だったよね………?」




「「…………」」






「へっくし! っ~やっぱり完治まだか。少しアバラが痛むな………って、サスケ。床に寝っ転がって、どうした?」
「………お前がくしゃみと同時に頭突きをかましたんだろうが………背中痛え」
「う………わざとじゃないんだぜ?」
「……何か、謝罪の言葉とかは?」
「えっと………油断をするな?」
「違うだろ!?」

















二人は、互いに深呼吸をして気を落ち着かせていた。

「ううん、なんともはや。奇縁というものはあるんだなあ、本当に。というかサスケのやつ爆発したらいいのに」
「急になんじゃ? というか、縁に関しては今更ではないか。紫苑も、元を辿れば六道の系譜だというしの」
「長門もそうかもしれないのか………って、イタチの言葉………実はあの人、知っていたとか言わんよな。そういえば、思い当たるふしが―――あれ借りる時も、“使えるのか”とも、何も言わんかった」
「不思議と、あやつなら何を知っていてもおかしくないと思えるな」

イタチの底しれなさに恐怖しつつ、二人は話を続ける。

「で、盛大に話がずれたが………家族とはなんじゃ? そもそも、他人同士が家族になれるのか?」

「うん。前にもいったと思うけど、誓いの言葉で婚姻を結び、姓を同じくして夫婦となり、ひとつ屋根の下に住む。それが、ごく基本的な家族の形だね」

「ふむ―――婚姻か」

「うん?」


疑問符を浮かべながら、メンマはあることを思い出していた。



あの、温泉に行った夜。
酔いながら話した、婚姻の言葉について。

思い出して―――知らず、口に出していた。

「その、健やかなるときも。病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも―――」

そこで、考える。

「富めるときも、貧しいときも。これを愛し、これを敬い。これを慰め、これを助け―――」

いつも、一緒に居た。助けてもらって、昼のように慰めてもらうこともあった。
あれ、と思う。ひょっとして、この誓いの祝詞と、同じ事をしていたのではないかと。

そう考えた時、メンマの言葉が一瞬だけ止まった。
だが、代わりに言葉を紡ぐ者が居た。
いつの間にか隣にいる彼の手を離し、立ち上がっていた九那実である。

幼いが芯のある、凛とした声が月夜に響く。

「―――その命ある限り」

月光が彼女を照らしていた。
メンマの方からは、表情は見えない。だけどひょっとして泣いているのではないかと―――メンマは、そう思ったのだ。

だから立ち上がり、肩を掴み、こちらを向かせた。
同時に、結びの言葉が発せられる。


「真心を、尽くすことを誓いますか?」

九那実は言いながら、どうしたのかと問いかける表情を見せる。

そこに、涙は無かった。
でも、メンマは何故か―――その顔を直視することができなかった。

「………」
「………」


赤い瞳と蒼い瞳。二つの双眸から発せられる視線が、交差する。

やがて、二人の距離は近づいていく。

息がかかるほどに近づき、そして―――










「ダメ、じゃ」







―――赤い瞳が、逸らされた。




「………え、くな、み?」

「………ふ、ふふ。前夜の口づけとは、まるでお主のいう所の死亡ふらぐという奴ではないか―――だから、今はダメじゃ」

眼を伏せながら、九那実は言う。

「………でも、えっと、今のは―――流れじゃ、ないから。俺の、正直な気持ちだから」
「………ふ」

笑い声。しかし、嘲りの色は欠片もなく、その声は痛い程の悲しみに満たされていた。

「我ばかりと思っていたが………なるほど、あやつの眼は、確かだったという訳か」

ならば―――尚更駄目だと。
九那実は胸中でそう呟くと、自ら一歩離れ、距離を取る。

「………すべて。明日の戦いが終わってから………また、話そう。ひょっとすれば、良い方法があるかもしれぬ」
「え………それは、どういう意味?」
「………これ以上は。頼む…………これ以上は、お願いだから………」

聞かないでくれ、と。
霞みながらも、懇願と分かる九那実の声が、それ以上の追求を拒絶する。

「………分かった。絶対に、だよ?」

「………ああ」

そう言うと、九那実は先に行っててくれとメンマに行った。
我はまだ月を見ていたいから、と。

メンマはためらいながらもその声の前に了承せざるをえなかった。
戸惑ながらも、屋根の端へと歩いて行き―――飛び降りる前に、振り返った。


見えた九那実の姿。

それが、月と被った。


「………ん、どうしたのじゃ?」


―――焦がれているのに、果てしなく遠い。

そんな感想がメンマの胸に浮かんで、消えた。


「いや………おやすみ」

「ああ、おやすみ」




そうして、メンマは去った。

残された天狐は、一人ただの少女に戻り、眼を伏せる。



「まいったな………感情というのも、厄介な…………これじゃあ、未練が………」




言葉は、言葉にならなかった。

感情が、理性の言葉を塗りつぶした。




「………死にたくないと、醜く泣き叫べば………どうにかなるのかな………」



赤い瞳が池となり。綿のような白く柔らかな拳が、胸元で握り締められた。


そして水滴が落下し、屋根へと落ちた。


小雨のように、耐えることなく。





























そうして、運命の夜は明け――――宿命の日。


その朝日が登る。








































あとがき

クシナ、キリハのエピソード。
加え外伝に回そうとしていた彼女のエピソードを混ぜた結果、予想外に長くなりました。ふつーに3話くらいあるかも。
本誌がいいタイミングだったので、追加したんですけど、まとめきれてるかな。

ちなみに灯香は原作にも出ていて、境遇と名前はオリジナルです。
疾風伝を見ていない人は分かりにくいと思ふ。

次回からはようやく、最終決戦です。お待たせしました。
出来るだけ早くうpするようにします。



[9402] 小池メンマのラーメン日誌 八十四話 「集結、予兆」
Name: 岳◆5bf56ac5 ID:0347f440
Date: 2010/10/18 02:24
ここは、雨隠れの某所。
鳥もさえずる明朝、ペインはゼツに話しかけながら、立ち上がった。

「……そろそろ、いい頃合か。あとは手はず通りに頼むぞ」
「うん、まかしといて~」
「アア、イサイショウチシタ。シカシ………」

ペインの言葉に、頷きながらも問いかけを残す黒い方のゼツ。
なにかあるのか、とペインはどもるゼツに次の言葉を促した。

「アア………ナンダ。アンタ、オレラヲコロサナクテイイノカ?」

問いかける声。それに対し、ペインは振り返らずに答えた。

「勿論――――やるなら、殺す」

見るものを震え上がらせるようなチャクラで、ペインは断言した。

「忍術を誰かに教えようとするなら、殺す。忘れるな。それを実行するなら、俺は必ず殺しに来るぞ。地の果てに逃げても追い詰め殺し尽くす」

何の感情もこめられていない声。
ただ事務的に、当たり前のことだという風なペインの口調に、ゼツは恐怖を覚えた。

やがて沈黙の風が流れる。
しかし、数秒もするとペインのチャクラが弱まった。

「わざわざ言うな……この好奇心馬鹿が。お前のことだ、実際はそうならないと思うがな」

そしてペインは歩き始める。

時間が、来たのだ。
鐘を、鳴らす時が。

「……長かったな。あれから、もう何年経ったのか。あっという間だった気もするが」


そうして、ペインは暁のマントを羽織る。

それは、夜明けを夢見た親友にして家族。彼が望む空を示すもの。


「………ようやくだ、弥彦、小南。待っていてくれよな」

そしてペインは背後、3つの石碑がある隠れ家………3人で使っていたアジトに振り返る。






「行ってくる」


























一方、とある隠れ家では。

「………用意はいい?」
「ああ。でも………この、キリハに頼んでいた衣装とやらだが………このデザインは正直、悪趣味じゃないか?」

メンマは身につけた黒いマントを見ながら、マダオをジト目で見る。
しかしマダオは仕方ないよと苦笑する。

「後々の事を考えてね。かなり、効果的だと思うよ。少なくとも、これで追われることは無くなるはずだ」
「そーなのかー………あと、キューちゃん」

と、メンマはそこで九那実の方を見た。

「ん、なんじゃ?」
「戦いの後の話。生き残れたら、さ………何かしたい事とかある?」

じっと、見つめたまま聞くメンマ。
キューちゃんは笑いながら―――眼を伏せる。
視線を交わさないまま、したいことを答えた。



「そうだな………自由に、旅がしたい。隠れることもなく、追われることなく………もう一度。美味しいものを食べながら、ゆっくりと色々な所を歩きまわりたいな」


懇願に似たもの。メンマは頷き、九那実に笑みを向けた。

「そっか――――分かった。うん、必ず連れていくよ。約束する」
「ああ………約束だ」
「………うん」

目を合わさない九那実。
メンマはそれを見て、苦笑することしかできなかった。
そのまま、黒い革の手袋をはめて、玄関を出る。

そして前の広場で、気を落ち着かせるために深呼吸をした。
隠れ家の周囲に張られている結界を確認する。


「………装備オッケー。戸締りオッケー。準備万端―――覚悟、完了」


空を見上げる。
晴れるかと思った空は、あいにくの曇り色だった。

―――まるで、これからの波乱を予期しているかのように。

メンマは一度だけ、隠れ家を方を振り返り、そして前を向いた。









「いってきます」

























小池メンマのラーメン日誌

 八十五話   ~集結、予兆~
























「それじゃあ、気をつけてな我愛羅」

「ああ、テマリもな」

鉄の国の国境付近にある、宿場町のひとつ。
五影会談に向かう風影―――我愛羅一行は、いよいよ会談が行われる城へと向かおうとしていた。

「出来れば私もついていきたいが………」
「特例だからな………仕方ない。まだ完治した訳でもないし、無理はしないでくれ」

「我愛羅………ああ、分かった」

いつの間にか成長したんだな。テマリは心のなかで、人の体調を気遣えるようになった我愛羅の成長を喜ばしく思っていた。

「大丈夫じゃん、テマリ。我愛羅は俺とバキが守るから」
「……うむ。最善を尽くす」

真剣な顔で、でもちょっと軽い感じでカンクロウは言う。そしてバキはいつもの仏頂面だ。
特に緊張した様子もなく、いつもの実力を発揮できそうな二人に対し、テマリは頼むぞ、と言った。

「テマリは心配性だな………アレを見たなら、気持ちも分かるが」

我愛羅は以前対峙した時の事を思い出し、身震いする。

「………だが、全ての里が協力すればきっと………いや、今は先の会談に集中しなければな………もう、時間だ。行くぞ」

歩き始める我愛羅。
その背後では、二人の従者が戸惑っていた。

戸惑った理由は先の我愛羅の言葉。風影となった今の我愛羅にしては珍しく、希望的観測を思わせる言葉を発したからだ。
バキは、あの我愛羅をしても恐怖を感じさせる、ペインという敵の脅威を改めて認識し。
我愛羅と同じく実際に対峙したことのあるカンクロウは、苦笑いをしながら。

そして気を引き締めながら、件の城へと歩いていく我愛羅に追随していった。


















「カカシ、気づいたか?」
「………城の入り口に張ってあった、あれのことですか。ま、一応は気づきましたよ」
「………えっ」
「えっ」
「えっ」

話を振った綱手と応じたカカシが沈黙する。

「おいおいシズネ………年下の婿候補が確保できて有頂天になっているのは分かるが、ここは瀬戸際だから―――真面目にやれよ?」
「ほんと、正念場ですから……お願いです、気を引き締めて下さいね」
「うえええええ綱手様に言われた!? そしてあのカカシ上忍にも!?」
「………さて、シズネ。何故かここに赤い実があるんだ。つまり、ちょっと10個くらいかっくらってくれや」
「今はやめましょう火影様。戦闘が起こるかもしれないですし、それはちょっとキツすぎます――――やるなら後で。シズネさんのことです、手拍子やればきっと、ちょっといいとこ見せてくれますから」
「アヒィぃ!? って、止めないんですねカカシさんは!? あとそれ普通に死ねますから!?」

慌てるシズネ。笑う綱手。
カカシはそれに苦笑を返した。

そして、前にいる侍に聞かれないよう、小声で二人に裏の話をする。

(ま、ここは気にしてもどうにもできないでしょ。他の人たちも気づいているようですし………)
笑いながら、綱手とシズネは案内の侍に聞こえないように、小声で会話をする。
(情報が少なすぎる、ここで迂闊に動くのはまずいな。会談も、まだ始まってさえいない。何もせんまま他里と揉めて解散するのは困る)
(はい。しかし………鉄の国って、侍しかいませんでしたよね。チャクラは使えるそうですけど…………封印系の術式を扱える使い手なんて、居ましたっけ?)
(………いや、そこのところはな。中立国だし親交と言えるほどの関係でもないから、正直分からん)

3人はそこから少し推論を重ねるが、情報があまりに少ないため結論に至ることはできなかった。

(………それは後回しで。そろそろですから準備はしておいて下さい。オレも念のため周囲を警戒しておきます。何が起きても………いつでも、対処できるように)
(分かった。だが、写輪眼はまだ使うなよ。まだ互いに黒か白かを疑っている状態だ。瞳術の行使は相手を刺激しすぎる、むやみに使うなよ)

(ええ、分かってます。しかし………)

と、カカシは目の前の侍を見ながら、訝しげな表情を浮かべた。

(侍の大将であるミフネと、案内をしてくれる侍はまだしも………)

それ以外で、口を開いた者はいない。
そして、結界札に感じた、ある違和感。

(どう転んでも、真っ当な会談になりそうじゃないか………やれやれ、用意だけはしておいた方がいいね)


カカシは方針を固めると、部屋の入り口の侍に促され、その会談が行われる部屋の中へと入っていった。













~~~~~




一方、鉄の国周辺では、サスケは会談場の様子を離れた場所から監視していた。

同行しているのは勿論、隠れ家時代からの仲間であり、相棒でもある多由也。
兄―――そして今では唯一の親類となる、うちはイタチ。
そしてメンマの事が気になる紫苑、護衛の菊夜、護衛のシン、サイ。
見届けなければならないものを見ると言って、仕事を部下に任せて本部から出てきた、ザンゲツこと紅音。
ペインと因縁を持つ、灯香。
周囲の伏兵を探査する役として、香燐。

計10人の大所帯であった。

「香燐、周辺の警戒は頼むぞ。周辺にも他里の忍者がいるだろう。そいつらに気取られて、邪魔されるのは面白くない」

ザンゲツが良い、灯香が頷いた。

「なんでウチがこんなこと………」
「そうぶつくさ言いなさんなって。手当は出すし―――」

シンはそこで言葉を止めた。隣にいるサイは、木に登ろうとしているサスケに、視線で合図を送る。
サスケはそれを見た後、木を登るのを中断し、前もってサイに教えられていた言葉を並べた。

「………えっと………『頼む、香燐。今回の遠征はお前が鍵となる………お前の生まれ持っての才能を、頼りにしてるからな』」

ポンと肩を叩いて言うサスケ。
しかも笑顔。割と棒読みだったが、至近距離でサスケの笑顔を直視した香燐は気づかず、むしろ顔を真っ赤にして元気よく叫んだ。

「―――任せてくれ、アリ一匹見逃さないからッッッッ!」


(………計画通り)
爽やかな笑顔で、サイ


(なんで顔が赤くなるんだ………? まあやる気出してくれるって言ってるし………いいか、面倒くさい)
鈍感一途なサスケは、考えるのが面倒くさくなって結論を出す作業を中断する。
ある意味魔窟であった隠れ家の中で彼なりに身につけた、処世術のひとつである。


(サスケ………と、恐らくはサイか。後でセッキョーな)
多由也は燃えている香燐の背中をにらみつつ、闘志を燃やしていた。

(どういうことなの………)
その横で若干一名―――というか唯一。
まともな感性を保持している菊夜が、複雑な人間関係から起こった寸劇を前にして、口を引きつらせていた。

ちなみにイタチも訳が分からないという顔をしていた。

「よっ、と」

妙な空気となった場を置き去りにして、サスケは目の前にある大樹に登っていく。
高さは他の木々より少し低い程度。高い木に登る方が視界は確保できるので監視はしやすいのだが、逆を言えば相手からも見つけやすいということ。
サスケは発見されるリスクを出来るだけ最小限に、と低い位置から木々の間をじっと見つめる。

そして、縫うような隙間を見つけた。
そこからは、会談場となる城の、入り口が見えた。

(まずは………我愛羅か)

砂隠れ一行が城の中へと入っていくのを確認。

その後、しばらくして綱手達が城の中へ入っていくのを確認した。

(砂、木の葉、同盟国は揃い踏み………っと)

さすがに早い。サスケはそのまま、監視を続ける。

その十分程後、また新しい一行が現れた。

(あれは………再不斬か!)

あれだけの大剣を背負った忍者など、他には居ない。それに見れば見るほどに眉毛がない。
見知った顔を見つけたサスケは、それが霧隠れの一行であることを知る。

(今代の水影は女だって聞いたが………あれがそうか。付き添いは再不斬と………もう一人は、片目を隠してるな)

隻眼か―――あるいは瞳術使い。
水影の護衛となれば、後者の可能性が高いだろう。
サスケはおおよその検討をつけながら、霧隠れの忍者で瞳術使いが居たかどうか、記憶の中を掘り返し思い出そうとする。


その時、下から小石が投げられた。


「ん、交代の時間か」

合図を受けたサスケは木から降りて皆が居る場所へと戻った。
そして自分の見たものについて、皆に説明をする。

「砂、木の葉、霧の3里がそろったか………何かおかしな様子は?」

イタチの問いかけに対し、サスケは口元に指をそえながら先の一行の様子を思い出している。

「………そういえば、皆入り口で少し……あれは、戸惑っていたのか。一瞬だけど、城の―――上の方を見ていたような気がする」
「城、入り口、上か………分かった。交代して俺が監視しよう」

何が起きるか分からない以上、チャクラは温存しておいた方がいい。
当初の予定通り、イタチはサスケと交代して木を登っていった。

下に残ったサスケは、ザンゲツ達と話を続ける。

「定刻より一時間前か………かなり早いな」
「それはそうだろう。この緊張状態の中では、遅刻ひとつで何かしら不利な事態に陥れられかねん」

そもそもこんな状況で遅刻するような輩が、かの"影"に至れる訳がない。
組織の首領でもあるザンゲツがそう告げると、皆はそれもそうかと頷いた。


そうして、少し沈黙した瞬間。
香燐が、はっと顔を上げた。


「っ! 誰かこっちに近づいてくるぞ、4時の方向、一人………遅いな、歩いて近づいてくる」

不審者が接近中。その報は、場に緊張感をもたらす。

「一人、かつ徒歩………周辺住民か?」
「分からん、が住民にしろ忍者にしろ、この場を見られると厄介だな」

どちらにせよ寝ていてもらおう。
ザンゲツは即断すると、サイに命令をだそうとする。



―――その時だった。
皆のもとへ、ゆらゆらと―――生物ではない、白い蝶が飛来してくる。

「これは、氷の蝶―――白か!」

見覚えのあるサスケは、近づいてくる者の正体に気づいた。

「ん、白って………眉毛無いおっさんと一緒に霧に戻った、あの美少女?」
「ああ、間違いない。氷遁を操れる者は他にいない。お前がナンパしようとした白だ」

「へえ………って、ぐほ!?」

シンは多由也から告げられた正体に頷いていると、不意に後頭部を殴られた。
下手人に対し、振り返り怒る。

「ちょ、痛いんですけど!?」
「………知らん」
「あーあーもう修羅場ごちそうさまだけど今はよせお前ら。で、サスケと多由也、あの娘が近づいてくる理由は分かるか?」
「はっきりとは分からないが………手荒な対応はまずいと思う」

答えるサスケと多由也。
ザンゲツは、それを聞いて頷くと、少し間をおいて二人に質問した

「その回答は………かつての仲間だからか?」

ザンゲツの、空気が変わった。それは人の上に立つ者がもつ、独特の雰囲気。
しかしサスケと多由也は動じず、淡々と答えていく。

「いいや―――白は頭の切れる奴だ。だから、意味のないことはしない。と、いうことは――――」
「―――なるほど。こちらに赴いたのも理由がある、か………ちなみに彼女の力量は?」
「上忍クラスだ。それより戦闘時の考察力が怖いな。頭の使いかたと状況の動かし方を知っているから………能力を知り尽くされている俺と多由也じゃ、正直補足するのは難しい。まあ、全力でやれば何とかなるが………」
「………派手な戦闘になる、か。周辺に配置されているだろう他里の者に見つかる可能性が高い………あとは、性格だな」
「いたって温厚。迂闊なことをするやつじゃないし、何より戦いを嫌っている。最も再不斬や里のため、退けない状況になれば躊躇わないだろうが――――」

組織の首領として問いかけるザンゲツに対し、サスケは誤魔化さず、手持ちの情報を話す。

―――今はそんな状況でもないし、ここで疑うような人物じゃない。
ここで戦うのに意味はないし、逆効果になりかねない、とまっとうな根拠からくる結論を付け足して。

「そうだな………なら、呼んできてくれ。霧とは交流も浅いから、網が保持している情報も少ない」
「了解した」

頷いたサスケは、一応写輪眼で白の姿を確認する。
そして間違いないことが分かると、正面から近づいていった。

サスケが見かけた白は、出会った頃と同じで、霧隠れの額当てをしていた。

「ん………サスケ君ですか。あ、多由也さんこんにちは」

「懐かしいな………面は、ないのか」
「久しぶり、という程でもないけど………また会えてよかったよ」

軽い挨拶を交わすと、白はサスケと多由也の「ついてきて欲しい」という要望に頷き、二人の後をついていった。

そして、3人は皆がいる場所までたどり着く。
白はすっと、ザンゲツの前まで赴くと、こう尋ねた。

「失礼ですが………網の首領、ザンゲツ様」

「ふむ、何のようだ? ――――まさか、私を殺しにきたとか」
「いや、何でそうなるんですか。僕は確認したい事があって、ここに来ただけですよ」

白は困ったように言うと、要件を告げた。

「例の会場ですが、どうやら何かしらの結界術が張られていましてね………」

そう言うと、白は事情を説明した。
会場に入る前、傍付きとして鉄の国に入ることが許された護衛2人とは他に連れてきた、補助系の術を得意とする忍者。
その忍者が会場の様子を探ろうと、"遠眼鏡の術"を使ったが、会場の中は見渡せなかったこと。
そして、水影の護衛として追従した、再不斬ではない方―――白眼の瞳術使いである青が会場を確認したが、同じく中までは見通せなかったこと。

「鉄の国の侍が結界術の類を操れるなんて、聞いたことがありません。ですから――――」
「ふむ、同じ中立の立場を維持し、鉄の国の侍衆と親交がある我らが何か知っているかもしれない、と?」
「その通りです。あるいは、メンマさんが紫苑さんと一緒に会場に入り込んで、結界術を使ったのかとも思いましたが………」

「ふむ、妾はここに居るから違うと判断したと」
「自分でも無理がある結論だと思っていたんですけどね」
「ああ。いくらあいつでも、五影と五里を敵に回すような愚は犯さないだろう。というか、そんな無茶無謀をする奴は馬鹿すぎる」

誰だってそーする、俺だってそーする。
そう言って頷くサスケ。


――――だが、周囲の視線は何故だかどうしてか、冷たかった。


「なんだ、この、とてつもない"おまえが言うな"感は……」

「そうだよね兄さん、そんな無謀というか普通しないよね、自殺行為だもんね………でも説得力が感じられないのは、何故なんだろう」

「ごめんサスケ、何故かウチもそう感じた」

「えっと………すまない、ウチもだ」


裏切るシン、サイ、香燐、多由也。

サスケは地面に座り込み、のの時を書き出す。

そこに、監視を終えたイタチが飛び降りてきた。

「先程雲隠れの一行と、岩隠れの一行が城に入ったぞ…………って、サスケどうしたんだ」

イタチはサスケの様子を見るに、お前らが何か言ったのか、とそれとなく周囲を見渡した。
別に敵意も何も含まれていない視線だったが――――ザンゲツと灯香を覗く全員が、慌てて否定した。

「いや、何故そんなに焦る………別に俺は怒ってないぞ」

全くの他意なくたずねるイタチ。だが逆にそれが怖いと、先の戦闘で本気チャクラ見せられたシン、サイ、香燐、多由也は震えた。

「話が進まないですね………それで、こちらも得た情報を開示しますので」
「情報で取引か………構わんぞ、何から聞きたい?」
「それでは………」

ザンゲツの了承を得られた白は、色々と尋ね始めた。
ザンゲツの方も、周囲に展開しているだろう隠れ里の忍びについて聞いていく。

「………では、あの結界術は侍のものではないと?」
「ああ。侍が使ったものではない。イタチが言うには、建物全体が結界で覆われているという話だしな。そんな術者など、こちらも聞いたことがない」
「鉄の国が特殊な術を使う人材を確保したという可能性は?」
「無い。それほどの術者なら、まず間違いなく噂がもれる。何よりあれだけの封印術だ。それならば血継限界か――――」

と、ザンゲツはそこで紫苑を横目でみる。

「忍者のような熟練のチャクラ使いが、しかるべき知識をもった師匠から教えを受けるしかない。そのような人物が、今の今まで誰にも見つからなかったなど………ありえん。
 そもそも鉄の国はよそ者に冷たい。この大事な時によそ者を引き入れ、その上で結界を展開するということの方がありえん」
「つまり、鉄の国の所業ではない………」
「その通りだ。そして、そこから出る結論はひとつだけだろう?」

ザンゲツの言葉に、白はため息をついて頭を抱えた。

「そうですね………五影が集まる会場、しかも場所は密閉空間の中。一網打尽にするのに好都合。加えて、十尾という存在もある」
「城の中に潜んで、待ち伏せか………各里が集まる時に、むやみに鉄の国と揉めるわけにもいかんだろうしな」
「………いや、先程見たのだが、察知した雷影は爆発寸前だったぞ。護衛の金髪の上忍がなんとか諌めていたが」
「噂通りだな………と、いうことは」

「五影会談の会場ですが空気が最悪です、という訳ですね分かります」

ペインと十尾の情報を持っている木の葉を除く他の里は、自分以外の者――――鉄の国を含む他の里を疑っていることだろう。

「恐らくはそうでしょうね。こちらとしては、残る尾獣を狙ってくると判断していましたが………ウタカタさんを霧隠れに残してきたのは、失敗でしたか」

「いや………木の葉も七尾を狙ってくるものだと判断しているだろうな。自来也様の姿がないのが証拠だ。三忍の一人が里に残った、ということは………里が襲撃されると判断したのだろう」
「その通りだと思います………情報、ありがとうございました」
「ふむ、ではこちらから聞いていいか?」

ザンゲツは白に、他里の忍者の動向について尋ねる。

「慣例に習い、鉄の国に各国の影と護衛の二人しか入っていません。道中の護衛を務めていた忍者達は、国境付近の宿場町に滞在しています」
「国境を超えた者はいないと?」
「ええ。こちらは網のみなさんとは違って、慣例を破ったのがばれると………致命的になりかねませんので」
「立場が悪くなる、か。お前はいいのか?」
「見つかりそうになったら消えますよ。この身体は影分身なので」
「氷の蝶での探索に加え、影分身か………チャクラをかなり消費しているようだが、よくこんな冒険に出たな」
「それだけ非常事態だということです。隠行は得意ですしね………まあ、昔取ったきねづかってところですか」
「………そういえば昔、短い間だが追い忍をしていた、って言ってたな」

多由也は隠れ家に居た頃、聞いた話を思い出した。

「ええ。それに………色々な人から頼まれたもので」
「ふむ、誰にだ?」
「結界が張られていると判明した後に、知り合いに会いましてね………具体的に言えば、風影殿の姉君と先代火影様のご息女です」

長十郎さんも慌てていましたし、と白はため息をついた。

「テマリとキリハも来ているか………やはりそちらは混乱状態なのか?」
「一触即発です。でも他里の皆さんもそれぞれの影から言い含められているのか、爆発はしていません。まあ、互いが互いを牽制していて、動くに動けない状態です」
「だが、各国の忍者が集まっているんだろう? ―――跳ねっ返りがいても可笑しくはなさそうなんだが」
「まあ、血気盛んな雲隠れの少女………カルイ、って少女がなにやら鉄の国向けて突貫しようとしていましたが………同じ里の人でしょうか、胸の大きな人と波に乗りそうな頭皮ダメージ深刻な人に諌められていましたね」
「そ、そうか」

一部キーワードに発言に反応した者が居たが、速攻で黙らされた。
長年の相方はツッコミどころを心得ているのであった。

「まあ後ろの馬鹿はおいといて………それでも、よく争いが起きなかったもんだな」
「ええ、実は………ひとりだけ。雲隠れの忍者で、とある爆弾を抱えた人がいましてね。迂闊に動くとそれこそ大惨事になりかねないので、皆自重せざるをえなかったんですよ」

それに、誰だって第四忍界大戦の原因にはなりたくないですから、と白は遠い目をした。
それを見た皆は、状況がかなり悪くなっていることを悟る。

「ふむ、だから情報を求めたのか」
「そのとおりです。それで、僕は早く戻らないといけません………なので、申しわけありませんがここで」

「ああ。何とか抑えていてくれ」

戦争はこちらも困る、とザンゲツは言う。

「そうですね…………っと、そういえばあの3人はここに居ないんですか?」
「目下暗躍中だ」

サスケと多由也は、白にこれまでの事情を説明する。
それを聞いた白は、そうですかと頷き、きびすを返した。

「お、おい………あいつが心配じゃないのか?」
「勿論心配ですが………あの人はやる時は恐ろしく有能になる人ですからね。相手が相手ですが、あまり心配はしていません」

そうですよね、と白はサスケと多由也―――そして紫苑とシン、サイを見た。
皆、メンマが今までどれだけの窮地を切り開いきたのかを、よく知っている人物。

だが、白にとっては予想外なことに、返事をしたのはザンゲツだった。

「そうだな………必要であれば躊躇わない男だ。そしてここぞという時に、間違うような奴でもない」

ザンゲツは、自分がまだ紅音という名を名乗っていた頃――――後継者争いの時に起きた事件を思い出し、頷いた。

「やると決めたあいつを上回る自信は、正直ない。皆も、同じことを思っているだろう?」

その問いかけに、まずサスケが頷いた。

「ああ。俺も、正面きって影と戦えと言われても何とかできる自信はあるが―――あいつと真剣勝負をしろ、と言われるのだけは御免だ」
「ふむ、お前はかの万華鏡写輪眼を使えるようになったのだろう。それなのに、御免だと?」

このばで唯一、メンマがどういった人物なのかを知らない灯香が、サスケにたずねる。
サスケは心底嫌な顔をして、その問いに答えた。

「ああ。戦いになる、ということは勝負に応じるってことだ。そして応じるということは、勝てると踏んだときだけ」

そうでなければ逃げるだけだろう、とサスケは言った。

「初戦で相手を分析し、次の戦闘では確実にこちらを打破できる戦術を使い挑んでくる。そして、それは恐らく実行されればこちらには避けられない類のものだ」

これほど嫌な相手がいるか、と。その問いかけに対し、皆は首を振った。

「そう、いない。そした戦いに応じるということは………あいつなりの、戦う理由があるということだ。そして勝つと決めた時のあいつの、踏み込みの速度は――――異常だ」

無意味な戦いはしない。だが、戦うと決め手、勝つ方法を考え、逃げる道を塞いだ後。
信念を自らの胸に立て、踏み出される馬鹿の一撃。

「だから、あいつは勝つさ。心配しているだろう木の葉の面々にはそう伝えてくれ」
「そうですね………普段はちょっとアレですけど、一尾と対峙した時の彼の姿は………正直、僕も危なかったですし」
「アレ?」

疑問符を浮かべた灯香が、たずねる。

「ええ。ちょーっと、あの二人が出ていない時にね。じっと黙ったかと思うと、独り言を言う時がありまして」
「あれはちょっとな………脳内会話的なあれだし、仕方ないのかもしれんが。気い抜けて口に出しちまった時とか、誤魔化すために謎の言葉を発してるし」

口寄せしていない状態で、外出した時の事を思い出し、サスケと多由也、白は頷いた。

「そうですね………えっと“エル・プサイ・コンガリィ”でしたっけ?」
「いや、“エル・プサイ・コングルゥ”だ。特に意味はないらしいが」

白の間違いを訂正する多由也。
不意にシンが、“こんな可愛い子が男の子のはずないじゃないか!”と叫びたくなったが、どう考えても氷漬けにされそうなので自重した。

「失礼な、誰が漆○ルカですか」
「………だが女だ!」
「えっと、シンさん? ―――何やら邪悪な波動を感じたのですが」
「いつものことです」
「いつものことじゃの」
「ええ、本当に」

白が恫喝するが、サイ、紫苑、菊夜が何でもないと答えた。
白はそうですか、と渋々ながらも頷く。

そしてお元気で、と皆に告げ――――黄昏るシンを無視し――情報を持ち帰るべく、宿場町がある方向へと去っていった。
















――――そして。


城の中では会談が始まろうとしていた。
























あとがき

前ふり回。
付け加えるならシュタインズゲート最高、ってことだけですか。

まあ自分は箱○買って、箱○版発売直後にプレイしましたがね! 
あと、箱○(エリート)は実はヴェスペリア目的で勝ったんですがね! あと箱○購入一ヶ月後に定価下がったんですがね!

――まあ、誰にも裏切り者とはいうまい。
どちらも面白かったのですから(強がり)。
戦況を見極めるのことができなかったのは、こちらですから(涙目)。

ちなみに覚醒後外見が変化した多由也ですが、胸のある助手っぽイメージでよろしく。
あとまっちょしいが最強過ぎて生きているのが辛い。



[9402] 小池メンマのラーメン日誌 八十五話 「五影会談」
Name: 岳◆3d336029 ID:0347f440
Date: 2010/11/03 18:56
―――鉄の国。

古の戦士の末裔にて、忍者と同じようにチャクラを扱う兵士達。
彼らは頑丈な鎧に身を包み、チャクラで強化した刀を振るい戦うもので、堅固な防御力と状況に左右されない確実な攻撃力を合わせ持っている。

鉄の塊である鎧をまとっても十分に走ることが可能で、チャクラの籠められた一刀は岩をも砕く。
チャクラを扱えない一般の兵士では、戦いにもならないだろう。
正しく、精兵。強者の集まりなのである。


だが、それはあくまで忍者という存在を無視した場合の話だ。


忍術を使い、木々の間を飛び跳ねることができる忍者ならば、侍はさして脅威になるような存在でもない。
人一人の意志で周囲を灰燼に帰すことができる、いわゆる戦略級の忍術も使えない。
三忍や一部手練の忍者のように、大型の魔獣を扱えるわけでもない。

侍の歴史の中で、時には飛び抜けた才能を持つ者もいたが、その誰もが忍者の前では霞む。

一対一の"戦闘"では勝てるかもしれない。限定された舞台での模擬戦ならば、あるいは侍が忍者に勝る所もあろう。
だがあらゆる場所での殺し合いをこなす忍者、戦争のエキスパートとも言える忍び達には、決して及ばない。

ましてや、忍者達は大規模な戦争を三度も経験しているのだ。
医療忍術その他、戦争におけるノウハウを開発してきた忍者達の軍事力は、一般兵、侍といった他の"戦うもの"の存在から、頭三つ分は抜け出ている。

そんな侍達が、何故中立という立場を保てているのか。何故、侵略行為を行わないのか。
戦えば勝つという存在に対し、何故戦いを挑み、領土を奪わないのか。

それには、ふたつの理由があった。

まずひとつとして、古来よりの約束がある。明文化されてはいないが、侍と忍者達との間には、暗黙の了解として、互いを戦争の標的にはしないというものがある。
今ではもう文献にも存在していない、慣習やしきたりといった程度のものだが、それでも互いの頭の中で無意識下に残っているのだ。

そして、もうひとつ。
忍者達は、互いを取り持つ仲介役が必要不可欠だったからだ。

戦争の中、相手を徹底的にたたきのめした後、降伏勧告を行った時。または、互いに疲弊し戦争をやめたい時、和平に向けて話を進めさせる時など、様々な状況下において、各国の間を取り持つ存在が居なければ戦争は泥沼の様相を呈してくる。
殲滅戦など誰もまっとうな上層部ならば誰も望まないし、また自国を破綻させてまで戦いたい者など何処にもいない。

故に、忍者は仲介役を買ってでてくれる侍には手を出さない。
戦えば勝てるだろうが、決して手を出さない。また、敵には成り得ないが故に、壊す必然性を見出せない。

あっても困らないが、無くなっては困る。その程度の存在だ。
三度行われた大戦の中、それぞれの頭に冠する"忍界"という文字が何よりの証拠である。


事実、侍は先の大戦において、参戦をしていない。仲介役として最後、各国の関係を取り持っただけだ。
だから各国の里は、鉄の国の侍を尊重はする。だが、服従はしない。

個人の意志意向では終われない戦争の、止め役であるだけの存在だ。

(その程度の認識じゃったが………)

今まで幾度か鉄の国を訪れたことのある、老忍。土影でもあり岩隠れの生き字引でもある両天秤のオオノキは、侍に対しての印象を暗唱しながら会談となる城の廊下を歩いていた。
前には、自分たちを先導する侍、そして侍の大将であるミフネの姿がある。オオノキはミフネについていきながらも、周囲に意識を向ける。

(これは結界………しかもこの城を覆い尽くす程の規模じゃと? ミフネ、いったい何を考えておる)

城に入る前は、土影や傍つきの護衛である赤ツチ、黒ツチでも、結界の存在を明確には察知できなかった。
そのため、土影は城の入り口では出迎えに来たミフネに結界に対する疑問の言葉を向けず、大人しくついていった。

だが、こと此処に至っては違う。
会談を行うにしても、まずその会場の護衛を仕切る侍がどうなっているのか、把握できないとまずいのだ。

(……探らんといかんものがおおすぎるぜ。どうにも今回の騒動は予想外というものがついてまわる)

しかし、こうしていても何も得られないだろう。
そう判断した土影は、なんとはなしに、といった風に前を歩くミフネに話しかけた。

「のう、ミフネ殿。この城には結界が張られているようじゃが………鉄の国にしては珍しく、誰ぞ外の術者でも雇ったのか?」
「さすが、気づきましたか。実は………我が国の侍も、例の正体不明の敵とやらに襲われたのでござる」

ミフネは、結界を張った下りや、その理由となったことを説明していく。

「相手の姿は見えなかったとのことだが、巨大な黒い影が発見されたとの報告を受け………やむなく、といった所でござる」

ほら、護衛の侍も少ないでしょう、とミフネは周囲に視線を向けた。

「手練であるオキスケ、ウラカクといった者たちもやられて……療養所はけが人で溢れかえっております」

「ふん、侍にまで手を出すとはの。ペインという犯罪者、いよいよもって潰さねばならん相手ということか………面倒じゃぜ」

四尾の人柱力であった老紫と、五尾の人柱力であったハン。
此度の騒動の主は、岩隠れの人柱力として人外の力を持っていた二人を、一度の襲撃で殺したという化物じみた相手であることは間違いない。
いざ戦うことを考えた土影は、百戦錬磨の自信家である彼にしては珍しく、ため息をついてしまった。

それを聞いた護衛の二人は、驚きながらも声をかけた。

「………土影様元気だして。暁がいくら強くとも、ワイら全員で戦えば絶対に勝てるダニ」
「そうだぜじじい。なんだ、臆病風に吹かれたんなら帰るか」

「ええいうるさいワイ、赤ツチ、黒ツチ!」

土影は「いらん世話じゃ!」二人に怒鳴りながら、ちらりと眼を横に向けた。
その視線の先には、先程ミフネが言っていた侍達の姿がある。

土影は一通り様子を観察すると、解せんなと呟いた。
オオノキの眼がらも、警備の人数が少なくなったのは分かった、長い生の中で幾度か鉄の国に来たことがある土影だが、その記憶にある風景と比べれば、確かに数が少ない。

だが、土影にはひっかかっているものがあった。

(なんじゃ、この………侍達を見て覚える、違和感は)

少ない侍達に、土影は違和感を覚えていた。皆真面目に、一言も発さずに警備の任にあたっているのに、土影にはどこかおかしいように思えた。
そんな土影の考えを察したのか、ミフネが説明の口を挟む。

「申し訳ありません、皆仲間がやられたもので。なにぶん経験の無いことで、動揺を抑えきれていない者もいまして………まあ、結界を張った術者のこともありますがな」
「ふむ、そういうことか。しかし見事な結界忍術じゃが……」
「流れの者を登用しました。土影殿も、ここ数年の騒動はご存知かと思われるが」

そう言われた土影は、各国のかくれ里―――いわば禁術を扱う者が居る里が、のきなみ誰かに襲われて壊滅したという事件を思い出す。

(土蜘蛛の一族や、熊曾の一族、その他いくつかの一族が隠れ住む村が襲われた、あのことかの………禁術を手に入れようとしたどこかの国の暗部が、暗躍していたと思っとったが)

いずれも、禁術を保持していた一族だ。壊滅したと聞いていたが、その一族には生き残りがいたらしい。それだけ分かると、土影は口を閉ざした。
数々の事件の中、確かに自らの里の暗部が動いたものもあったからだ。
これ以上の詮索は、余計な誤解をうみかねなず、やぶ蛇になりかねない。


それに、土影達の目の前にはもう、"五影会談会場"と書かれた大きな紙が入り口に貼られている、大きな部屋があった。

(ふん、聞きたいことはまだまだあるが、時間もないか………仕方ない)

視界には、岩隠れを除く4つの隠れ里、その頂上が集っていた。

ここにきて、待たせることもできないし、無様もさらせないというもの。



(さて、鬼がでるか蛇がでるか………いずれにせよ警戒は怠らんようにせんとな)



土影は一つ息をいれ、静かに気合をいれると、護衛と共に会談が行われる部屋へと入っていった。























小池メンマのラーメン日誌

 八十五話   ~五影会談~























水、風、火、土、そして雷。
五影の冠となる文字が書かれた傘が、それぞれの代表の前にある机に置かれている。

霧隠れ、女性ながらも二つの血継限界を持ち、恐怖政治を敷いていた先代を倒して自ら影に上り詰めた五代目水影、照美メイ。
砂隠れ、一尾の人柱力であり先代風影の息子でもあり、そして最年少で影まで至った青年にして五代目風影、砂瀑の我愛羅。
木の葉隠れ、最も偉大な忍びと謳われた初代火影の孫であり、自らもその特殊なチャクラを使い妖艶な外見を保つ、先の大戦では二つ名をもって他国に恐怖をばらまいた"伝説の三忍"の中の一人でもある五代目火影、綱手姫。
岩隠れ、長期政権を維持し、小柄な体躯で数々の忍界大戦とその後の騒乱を生き抜けた最高齢の影、うちはマダラが生きていた時代の知識も持ちあわせている三代目土影、両天秤のオオノキ。
雲隠れ、戦力増強を徹底する武闘派隠れ里の頂点、八尾の人柱力であるキラービを弟に持ち自らも屈強な体躯を誇り最前線に出ることも厭わない雲のきかん坊、エー。

そしてその中央、進行役であり会議を司る鉄の国の大将、ミフネの姿があった。
五影達はまず、この会談を進めていく前に、最初にはっきりとしておかなければいけない事があった。

ある意味では最重要項目でもある、"各里の襲撃事件を起こしたのは誰か"ということについてである。
宣戦布告もないまま、複数の里に襲撃されるという事実を前に、どの里の忍びも動揺を隠せないでいた。

だが皆が本当に疑っている訳でもなかった。見識のある者たちは、それがその里の本意であるなどとは思っていない。
だが、もしかしたらという気持ちがあるのも確かだ。
戦争は機が命。逃せば、致命的な事態に陥れられかねない。
各国の上層部も、少数の過激派が怒鳴り散らしている"これは他里の侵攻だ、宣戦布告だ"という意見に、頷いてしまいたい気持ちが少なからずあった。

その気持を払拭し、ある程度下手人として想定している"何者か"についての話をすすめる前に、はっきりとしておかなければいけない事項なのだ。

「では、覚えはないと?」
「当たり前じゃろうが、何が悲しゅうてそんな馬鹿な真似をせんといかん。しかも他の隠れ里と共同して影を襲うなぞ、馬鹿な話じゃぜ」

ミフネの言葉を、土影がバカバカしいと切って捨てた。
風影、我愛羅がそれに続く。

「オレも土影の意見に同意する。だが襲撃犯は確かに、過去に各国の隠れ里で任務をこなしていた者だった」

証拠として、死体は腐らぬように処理している、と我愛羅は横目で他の五影達に視線を送った。
その言に各国の代表は、自分たちも同じだと返す。

「埒があかんな………複数の里が襲ってきたのは分かっている。襲撃犯の中で、現在こちらが把握しているのはこれだけだが………」

綱手は襲撃犯のうち、ある程度顔が売れている者の名前を読みあげていった。
皆が皆、自らの里の忍びの名前が読まれていく中で、顔をしかめていた。

「……その名前は………抜け忍だけではなく、任務途中で行方不明になった者も居ますね」
「そういえば火影殿と風影殿は、中忍選抜試験の最中に襲われたと聞きましたが?」

水影が尋ねると、火影と風影は共に頷いた。

「私は二次試験の会場に行く道中、襲撃を受けた。その襲撃犯の中には、試験をうけていた者の姿もあったが―――同盟国以外の忍びも居た」

「こちらも同様だ。加えて言えば、襲撃犯はどこか様子がおかしかった。珍しい術を使ってはいたがどれも単発。そして襲撃犯は皆仮面をつけていたが、その仮面越しでも分かる程に生気が無かった」

「………私の場合も同じでした。お陰ですぐに撃退できたのですが」

「ふん、ワシらも同じじゃ。だが、死体を操り忍術を行使させるとは、並大抵のことではないぜ」

外法に分類されるが、忍術の中では死体を操るものもある。かつてカブトがカカシの前で使った、死魂の術と呼ばれる術である。
だが、術を行使させることはできない。ならば襲撃犯の背後にいる人物が使ったのは、死魂の術の応用か、あるいは更に上位となるそれこそSランク、秘伝・禁術クラスの忍術ということになる。

「………ふん、そんな術を使える人間が二人とおる筈もないか。ここにいる誰かが差し向けたということはなさそうじゃのう」

分かっておったことだが、という土影の言葉に、他の五影は心のなかで頷いた。
各国の死体を収集し、操り、襲わせる。

ばれれば間違いなく、世界を敵に回す所業だ。

「そう、はっきりと断定していいのか?」
「………風影殿、考えてからモノを言え! 五大国の地位をもつ者が、テロリストのような方法を用いる必要はないぜ」

まっとうな戦略を展開できる国ならば、そのような方法を使う必要などない。むしろ不利益になる可能性が高い。
土影は我愛羅に嘲笑を浴びせながら、そう言った。

それを承知している水影、火影は頷き無言を通した。
風影、我愛羅は眼を閉じながら、やがて頷いた。

残る一人、雷影は会議が始まってからずっと黙ったままである。
土影はエーが雷影となる前、"雲のきかん坊"としての暴れていた頃の性格を知っていたので、その様子を不審に思っていた。

だが、土影が雷影に声をかける直前。
司会であるミフネの声が、土影の声を遮った。

「ふむ、互いに納得したようですな。時間がありません、次の議題へ」

ミフネの提案に、皆が同意を示す。なぜならば次の議題は間違いなく、先の襲撃事件に関わる問題だからだ。

それは、各国の人柱力が襲われ、誘拐されたという議題。
まず、真っ先に被害を受けた土影が自らの里の状況を説明した。

なんの予兆もなく、いきなり地震が起きたこと。
程なくして、人柱力二人の姿が見えなくなっていたという報告。

「現場には、ただ二つの大型のクレーターがあっただけじゃ。相手が何者で、どういった方法を使い二人を倒したのかは全く分からんかった」
「目撃者は?」
「………黒い波濤を見た、と。口を震わせながら、うわ言のように繰り返すだけじゃ」

それ以外は何も分からんかった、と土影は鼻を鳴らしながら言った。

「何の前触れもなく襲撃されたという点では、こちらも同じですね。幸い霧隠れでは、人柱力………ウタカタの周囲に、護衛の忍びを付けてましたので攫われはしませんでした」

護衛の者は帰ってきませんでしたが、と水影は顔をわずかに伏せながら言った。

「ふん、では人柱力はまだ生きていると。ならばそのウタカタという奴、襲撃犯の姿を見ているはずじゃが?」
「ええ、確認しました。ウタカタが言うには、"黒い波濤と、それを操る化物が居た"、と。そしてその襲撃者ですが…………眼が、その………」

と、言葉の途中で言いよどむ水影。
そこに、風影が口を挟んだ。

「御者の眼は螺旋状の紋様を描いていた、だな?」

我愛羅の言葉に、水影と土影がばっと顔を向ける。

「こちらも襲撃された。目的は勿論俺だろうな。そして、黒い波濤とは別の話になるが………」

襲撃者は、それだけでは無かったと我愛羅は腕を組み、土影と水影の方を見た。

「先に砂隠れを襲撃してきたのは黒い化物ではなく、3人の抜け忍だった。砂隠れの抜け忍、赤砂のサソリ。土隠れの抜け忍デイダラと、霧隠れの抜け忍、干柿鬼鮫だ。幸い、通りすがった者の援護を受けられたのでやられはしなかったが――――」

と、我愛羅は霧隠れの垂れ幕がかかっている方向を見る。

「何より、その後が問題でな」

我愛羅はその時の光景を思い出し、眼を閉じて顔をわずかに伏せた。
――――自覚している、怯えが瞳に出ている所を見せないために。

その仕草を、別の意味――――嘘を悟られないように――――として捉えた水影と土影が、我愛羅に疑わしき眼を向ける。

「しかし………随分と、豪華な顔ぶれですね風影様。全員がSランクの犯罪者ですが、それ以上の脅威があったと?」
「ふん、デイダラか。それに加え、霧隠れの怪人に赤砂のサソリ…………何処の誰か知らぬが、よほどの者が"偶然"その場にいて、助かったの?」

にわかには信じられない、という水影。
居合わせた者の正体をぼかそうとするのは不審だ、という態度を見せる土影。

底意はどちらも見せないし、何やら別の意図があるようだと感じた我愛羅は、しかし二人の疑問を無視する。

「水影殿、干柿鬼鮫とその襲撃事件に関しては、"よく知っている"はずだが? ―――そして土影殿、ビンゴブックにも顔が乗っているデイダラは"掌に口を持ち起爆粘土という爆殺忍術を当たりに撒き散らす"という迷惑者だったが、それはデイダラではないと?」

余計な時間を取らさないで欲しい、と我愛羅は額に青筋を浮かべて言った。

つつっ、と視線を逸らす水影。
ふん、と鼻を鳴らす土影。


背後の垂れ幕の影でも、護衛の忍び達が動くのが見えた。







~~~~





風隠れの垂れ幕の影では、カンクロウとバキが我愛羅の発言の内容に大して、驚愕していた。

「我愛羅、話を止められたせいか、珍しく怒ってるじゃん………でもなんか、人間らしい反応じゃん」
「兄であるお前にとっては、あれがいい傾向に思えるかもしらんがな………」

風の垂れ幕の影では、引きつりながらも安心した、という発言を見せたカンクロウ。
その隣に居るバキは時と場合を考えてくれ頼むから、と頭を抱えていた。







水の垂れ幕の影、再不斬は我愛羅と同じように額に青筋を走らせながら、誰にも聞こえないようにぼそりと呟いた。

「あのアマ………この俺が逐一詳しく報告したってのに」

全部が全部、信じてなかったのかよ、と再不斬はぎりりと拳を握り締めていた。

「仕方ないだろう。報告といっても、お前の主観が入るからな。それに、鬼鮫のこともある」
「……そりゃあ確かに、昔の俺じゃ鬼鮫の野郎に殺されていただろうがよ」
「確かに実力は上がったようだがな。それより再不斬、お前水影様に向かってアマとはなんだ!」
「へっ、うるせえよおっさん、禿げるぞジジイ」






雷の垂れ幕の影。シーとダルイは、未だ一言も発していない雷影の背中をじっと見ていた。

「シー、ボスが黙っているのは理由が?」
「ああ。雷影様は、例の奴と交戦した時に何かを言われたようでな。俺達には話さなかったが、他国に関連することを言われたのだと思う」
「それが原因だってーのか。でも、何だかボスらしくないぜ」

平時の雷影ならば、今頃目の前にある机は剣拳撃で砕けているだろう。

上司の人柄をよく知る護衛二人は、そのらしからぬ様子にわずかながらも戸惑を覚えていた。





土の垂れ幕の影。くノ一の黒土は頭をおさえ、巨体の赤土はじっと土影の背中を見ていた。

「ジジイ………風影が若いからってのも分かるが、いくらなんでも突っかかりすぎだろ」
「違うダニ、土影様きっと怒ってるんダニ。岩隠れだけ人柱力が全滅してるし………」
「あ、納得した。ようするに何時もの負けず嫌いが発動したんだな」
「え、そうダニか?」

土影を誇る赤土と、土影にさえ軽口を叩く赤土が微妙に噛み合わない会話を続けていた。







火の垂れ幕の影では、いつもの通り。
あひぃーと言うシズネに、落ち着いた様子を保ったままのカカシだ。

「ど、どうしましょうちょっと場が険悪な空気になってしまいましたよ!?」
「ま、心配ないですよ。言った方も言われた方も、分かってるでしょうから」

このような場で探りを入れない方がおかしいし、皮肉も他国間同士の重鎮が話しあう時は、ままあることだ。
対する我愛羅の反応が若さの現れと言えばそうなのだが、それも許容範囲内に収まっている。

特に悪意も含められていないし、会談をすすめる方向に向かっての発言だから、あまり問題はないだろうとカカシは判断していた。

「それに、今何を優先すべきなのか――――それが分からない五影じゃないですよ」
「ですがカカシ上忍、あちらの霧隠れの方々は何やら険悪な雰囲気に」
「あ、砂隠れのバキの方は頭と腹を抑えていますねえ。頭痛か、胃痛か……っと、それよりも」


会談が動くようですよ、とカカシは垂れ幕の向こうを指さした。










~~~~






「ぐだぐだと、いい加減にしろ!」

沈黙を破ったのは、雷影の発言だった。
その場にいる全員が、腕を組み鎮座する雷影の方を見た。



「影を襲った下手人は暁だ。そして、人柱力を攫っていったのはその首領であるペイン、"あの"輪廻眼を持つ男だ!」

目の前の机を叩き、雷影は怒鳴り声を上げた。

「ワシは一度あやつと対峙したから分かる! ………知っての通り、返り討ちにあったがな」
「いや、少し待たんかい。輪廻眼、じゃと? マユツバものの話じゃが………」

そこで周囲の面々のを見回す土影。
しかし、誰ひとりとして笑ってはいなかった。

「先の話、途中で遮られたがな。オレもサソリ達を退けた後、この眼で見た。地面から一気に吹き出た黒い波濤と、それを操る輪廻眼を持つ男をな」
「こちらもだ。木の葉唯一の人柱力である九尾の人柱力は以前行方不明だが―――」

綱手は言葉の中にさりげなく嘘を挟み、知られたくない部分をぼかして別の話題に移した。
そも、黒い化物が覚醒する発端となったのは、木の葉内部のごたごたのせいだ。知られればまずいと考えている綱手は、より衝撃的な内容を話すことで事実関係を誤魔化した。

「根の構成員と、ダンゾウがやられた時に私も奴と対峙した。最も、戦うことなくその時は逃げられてしまったがな。加えていうと、奴が怪我をおった様子はなかった」
「ダンゾウ――――忍の闇と言われる、あの………それを、暗殺したと」

綱手が告げた言葉に、場が整然となる。
結界をくぐり、里の影とも言われる暗部の頭領を暗殺する。それはSランクというにも生ぬるい難度であろう。あるいは五影でも不可能と言えるほどの。

「私たちが奴の侵入に気づいたのは、ダンゾウが殺された後だ。それまでは全く、予兆すら感じ取れなかった。例の影襲撃事件の時と同じくな」
「ふん………そいつが輪廻眼を持っているのならば、おかしくはないのかもしれんな」

「その通りだ! そして暁に対して、お前たちに聞きたいことがある」

雷影は他の四影を睨みつけた。

「木の葉、砂、岩、霧! 大蛇丸、うちはイタチ、赤砂のサソリ、デイダラ、干柿鬼鮫! 分かっているだろうにとぼけるな、暁の構成員についてお前たちは熟知しているはずだ! その関連で、何かしら情報を掴めていないのか!」

苛立を隠そうともせずに、雷影は怒鳴りつけた。

「知らんな、抜け忍が何を考えるなど、そんなことは知らん。だが、私には情報がある」
「何ィ!?」
「落ち着いてくれ雷影殿。輪廻眼を持つ男、ペイン………いや、六道仙人といった所か。あいつの目的………その荒ぶりようを察するに、雷影殿も聞かされたのではないのか」

綱手は雷影の怒声に対して一滴のひるみも見せず、聞きたいことを言った。
雷影、エーは不機嫌そうになりながらも、綱手の言葉に頷きを返す。

「戯けた――――ふざけたことを抜かされたわ」
「ならば、こちらも同じだ。認めることの出来ないことを言われた」

そうして、綱手は語る。
かつては長門、今はペインという者。六道仙人の代役と遺志を受け継ぐぎ、自ら大役者を名乗るものとしての言葉を。

――――忍者を裁く。その言葉を聞かされた面々は、思い当たるふしがありながらも、その言葉を受けきれないでいた。

「そもそも、忍術を開発したのは六道仙人なのだろうが。今の時代になって現れて、忍術を根絶しようなどとは笑わせるわい」
「そうですね………昔はどうであれ、今の我々は忍術なしでは生きられない。いや、そもそも忍術無しではそもそも存在しなかったでしょうに」

忍術ありきとして存在している忍者。それを取り上げようなどとは、いかな理由があれど納得いかない。
皆、そう憤っていた。

「ふん、ワシもたたきのめされた後に言われたわ。絶対に頷かなかったがな」

雷影は鼻で笑った。その時の事を思い出しているのか、額には青筋が走っている。

「血を血で洗う戦争を経て数十年。今に至って漸く、軍事のバランスを保てるようにになってきたのだ。先人達の苦労もあるし、死ねと言われても納得はできないな」
「オレも同意しよう。だが、ペインとやらはそう思ってはいないようだな」
「ええ。ですが相手の思想がどうであれ、負けられません。しかし強力も極まる規格外の手練を前にどう戦うのか、方針を固めないといけませんね。一人ではまず無理でしょうし」
「………ふん、確かにな。一対一、真正面から挑んでもあやつには指一本触れられなんだ」

雷影はペインと対峙した時の事を思い出し、忌々しげに言った。

「ワシが知っている範囲では、二つ。あやつは引力と斥力を操っておった。そして輪廻眼というからには、通常の五行の忍術―――果ては、時空間忍術も、また別の特異な術も使いこなすだろう」
「と、なれば私達五大国の総力を結集して対処するしかありません。忍界が消滅する、というのはここにいる誰もが望んでいないことです―――異論は、ありませんよね?」
「ふん、仕方ないかの。だが、あいつの目的は人柱力、いや尾獣じゃ。我らと真正面から対峙しておらず、尾獣を集めるということは何かしらの索があるということじゃぜ。火影殿はあやつの戦闘技能に関して、何か情報を掴めていないか?」

土影の言葉に、火影は頷いた。

「奴は尾獣を集め、黒い波濤――――1~8までの尾獣を集めて、古代の怪物である十尾を完全に復活させようと企んでいるらしい。それと、先程の話に出ていたことだが、やつは確かに五行の忍術、しかもSクラス、秘伝忍術レベルの火遁、土遁、風遁、雷遁までを使いこなす。ペインとおもしき者が戦った場所に、そのような痕跡があった」

綱手はそう言いながら、初代火影と各国が交わした盟約、そしてペイン経由でメンマから聞かされた情報を開示していく。
九尾が死んで十尾が発生する、という部分はぼかし、十尾の目的と性質をその場にいる皆に語った。

「十尾、だと………? 尾獣は九尾だけではないのか!?」

我愛羅は、自らの持つ尾獣、一尾守鶴のことを考えながら、綱手に質問を投げかけた。

「九尾はオリジナルで、他の尾獣はそれを模倣した存在だ。かの六道仙人が作り出したということで、九尾とは遜色ない力を持っているだろうがな」

綱手の爆弾とも言える発言に、皆は一様に押し黙った。

「ふん………あの化物が狙っているのはそこか」
「そうみたいじゃの。残るは風影殿の一尾と、霧隠れが保持している六尾、木の葉が保護している七尾、雷影殿の弟の八尾と、未だ行方不明の九尾の計五体と言うわけか」

「ふん、そういえば木の葉の尾獣、九尾の人柱力はどうしたんじゃ? 行方不明だとは聞いたが―――木の葉崩しの際に姿を見せたとも風の噂で聞いておる」
「そのとおりだ。俺はあいつと対峙したことがある。もっとも、その後の所在地は知らんがな」

我愛羅は事実だけを告げ、土影を真正面から見返した。
我愛羅もメンマが今どこにいるのかは分かっていないので、ある意味嘘ではなかった。

土影は我愛羅の眼光と口調から、嘘を言っていないと判断し、他の面々を見回す。

「霧の六尾、ウタカタは霧隠れで護衛中です。手練の上忍も残してきましたし、やられることは有り得ません」
「七尾、滝隠れの人柱力であったフウは、木の葉で保護している。滝隠れの意思もあるのでな」
「………八尾、ワシの弟は国境付近の宿場町におる。いくら言ってもいうことを聞かんので、仕方ないから連れてきた」

五影達は現状を確認し、互いに視線を交し合う。
過ぎると言えるほどに強力な敵、それは忍界を滅ぼすべく動いている。
里の保持する貴重な戦力である尾獣を奪い、忍を皆殺しにしようとしている。



どうすればよいのか、皆分かっていた。


そこに、今まで沈黙していた侍のミフネが、言葉を挟む。




「ふむ、どうやら結論は出たようでござるな。それでは――――」




是非もない、と五影は全員頷く。





しかし。










「――――すべての忍者が自らの腹を切られる、ということでよろしいか?」





















~~~~~~~









「………は?」

ミフネの唐突な結論に、呆けた声を返したのは綱手だった。

「ミフネ!? お主、何を言って………!」

土影でさえも驚きを隠せていない。
それに対し、ミフネは落ち着きすぎるほどに落ち着いていた。

まるで、用意されていた台本を淡々と読むかのごとく。


「そうするしかないのでは? ―――五影殿は連合軍を作り、六道仙人と十尾を倒そうとしている。なるほど、あるいは五大国の力が結集すればそれは可能となるのかもしれないですな」

ミフネは頷き、だがと言った。

「未だ忍界大戦での因縁、各国の溝は修復しきれていないでござろう。五影同士は連合の必然性を認識していてござろうな。だが、末端が全てを理解できるとは、まさか思っていないでござろうな」

わずかに、口調が変わる。
尊重するものから、侮蔑するものに。

「それに、語られていない事実もある―――五代目水影。先代の水影、やぐらを裏から操っていたのが誰か、貴方は知っていると?」
「な………!」

何故それを知っている、と水影が返す前に。
ミフネは水影を指差し、答えた。

「暁だと貴方は認識しているでしょうな。それは事実で、だがそれだけではない。水影を操り、霧を血霧の里と呼ばれるまでに変貌させた張本人は、うちはマダラだ」
「な、あ奴は初代火影との戦いで死んだはずじゃぜ………!?」
「そう見せかけただけのこと。考えてみれば分かることでござろう、尾獣を宿した人柱力を完全に操ることができる人間など、うちはマダラをおいて他にはない」

断言するミフネ。水影の顔と、幕の裏にいる青の顔が険しくなる。

「許せないでしょうな。まさか、霧を操っていたのが、木の葉に由来する悪党とは考えもしませんでしたでしょうから。そう、霧隠れは木の葉の手落ちからその性質を変えられた。そして、岩隠れもまた別の意味で木の葉とは因縁がある」

ミフネは水影と同じように当事者を指差し、言った。

「かの第二次忍界大戦で岩隠れが木の葉へ侵攻しようとした際―――」

はっきりと。憤りを載せた言葉を、土影と火影に叩きつける。

「人数分の物資が無いからと、岩隠れは抵抗する力を持たない村々を略奪した。対する木の葉は、岩隠れの侵攻を止めるべく、"村々に潜伏し奇襲することで足止めに成功した"―――――その結果がどうなったのか、あなた方がご存知のはずだ。しかも、岩の国と火の国の境である雨隠れと草隠れの里で!」

ミフネが激昂する。そして言われた二人は、黙らざるをえなかった。
民間人に偽装する。それがどういった事を招くのか、当時の両国は認識していなかったのだから。

「挙句の果てには、関係ない民間人まで被害が及んだ! 家々を焼かれ! 自軍の安全性を優先し、疑わしき者は皆同罪ということで! 互いの国の都合だけで、全く無関係の者まで無残に殺されていった!」

そして戦場におけるモラルは低下した。今までにわずかでもあった不文律が、崩壊していた。
民間人の家への不法侵入に、強盗殺人。自国でなければ人にあらずとでも言わんばかりのその悪習は、第三次忍界大戦となっても消えなかった。

「砂隠れも同じこと。木の葉と砂もまだ禍根は消え去っていないはず。かの木の葉崩しで、いったい何人の忍びが死んでいったのか、それはあなた方のほうが私よりご存知のはずだ。
親しい者を殺された者が、まさか頭の言葉だけで全て納得するとは、思っていないでしょう。そして―――」

と、ミフネは雷影と火影を指差す。

「日向家でのことも。雲隠れとの同盟、日向家ははたして納得しますかな? 誘拐は未遂に終わり死んだのは雲の忍び頭のみといえど、互いに禍根を残したのは疑いようのない事実でござる。
岩隠れの里と雲隠れの里もまた同じ。両国は各地に残っている秘伝忍術、血継限界に宿る禁術を求め暗部を奔走させているでござるな。雲隠れは自国の戦力拡大のため、岩隠れは軍事費縮小による軍事力の低下を抑えるため」
その結果、隠れた一族の所在地は暴かれ、暗部同士が衝突しあう。果てには暗部は暴走し、あおりを受けて滅んだ一族は十に及ぶ。任務こそが至上とほざく愚者の暴走ほど醜いものはないでござるな。誇りも矜持もない。
あまつさえ、殺された者が殺した者を憎むでござるか………」

それは、憎しみの連鎖。戦いの中で育まれる、憎しみの呪縛鎖。

「分かったござろう。現在の平和などまやかし、薄氷の上でなんとか保っているにすぎないこと」

「違う! 犠牲はあったが、今世界は平和を保っている! それが薄氷などとは言わせんぞ!」

「いや、全ては泡沫の夢、戯言だと言わしてもらうでござる。まあ、前の大戦が消耗戦となったのにも一因がござろうな。殺された者はその事実を忘れず、今となっても各国の国境付近での小競り合いは絶えない。
 それなのに、連合を作ろうなどとは片腹といわず腹の底から痛いでござるよ。無理な融和は衝突を生む。遺恨が発生すれば、忘れがたき仇も生まれよう――――そして一度亀裂が入れば、薄氷が砕け散るのは必然の理」


そして共通する敵が消えた後、憎しみの標的は各国に移る。




「そうなれば十尾が復活する――――ならば」




ミフネは起こしていた身体を椅子に預け、五影の面々を見回し、宣告した。




「忍びは抗うよりも滅ぶことこそが最善。否、それより他はないだろう?」



すっと、ミフネの口調が変わった。
そしてわずかに、チャクラが漏れ出す。


ミフネの矢継ぎ早に並べられた弁論に圧倒された五影達は、皆だれも言い返せない。

無関係な民や侍といった立場からの言葉は確かに正論で、今までそれを見ながらも自国の軍事力と平穏のために眼を背けていた事実でもあるのだから。


加えて皆、今までに知らなかった事実を知らされて動揺していたというのもあった。
水影でいえば、うちはマダラ。
火影でいえば、第二次忍界大戦での前線部隊が行ったこと。
土影と雷影でいえば、暗部の暴走。一族を滅ぼしてでも、という任務を与えてはいなかった。
風影でいえば、それら全て。


しかし、そこで違和感を覚える者がいた。



「―――――ちょっと、待て」



それは事実なのだろう。だが、ひとつだけ聴きのがせないことがあった。




綱手が、ミフネに、訝しげに問いかける。

侍のことだ。暗部や大戦の件は、知っているのかもしれない。



だが。







「何故――――貴方が、うちはマダラの正体を知っている」








~~~~~





幕の裏にいる護衛も、皆硬直していた。
だが綱手の発言を聞いて、咄嗟に動く者がいた。


(白眼!)

青は自らの白眼でミフネを観察した。

(変化の術は使っておらん、では侍大将本人か? だが………なんだこのチャクラは!?)



同じく、写輪眼でミフネを観察したカカシは、その異様さに気づく。

(変化じゃない、変装でもない。いや、違う! これは――――)

そこで、カカシは思い出した。




写輪眼でも見破れない変化の術と、一度見た術ならば解析可能、理解をすれば同じ術を行使できるという、使い手を。

かの雷影の術をも模倣した、あの眼を持つ者のことを。


カカシが間違いないと、ミフネの正体に気づいて叫ぼうとする。


だがその寸前。




ミフネは、カカシの視線を受け止めて、返していた。



――――輪廻を表す、螺旋が描かれた双眸で。









~~~~~





「貴様………!?」


その目が全てを語っていた。

察した五影と、護衛の忍びが動き出そうとする。


その場にいる忍、全員の身体の中で、チャクラが急速に練られていく。


「予想通りだな。侍ならば、操られていてもどうにかなると思っていたのか。力持たない者を視しないが故に、ミフネの本当の人格と性格を知ろうともしなかった………お前たち忍びらしいよ。知ったならば、まずあり得ないと疑っただろうに」


言葉に挑発された忍び達は、部屋のそこかしこに配置されていて、そして未だ微動だにしない侍を観察しながら、臨戦態勢になる。


だがそこで、"ミフネの姿をしている誰か"から声がかけられた。



「――――待て」

まだ話は終わっていないと、皆をその両眼で睨みつける。


「話だと………!? いや、それよりも変化を解け!」
「ああ、そうだったな」

綱手の怒声に、応じた。

ボン、と変化が解ける音がする。


―――薄煙の先から、黒髪の青年の姿が現れた。

服は暁の衣、両眼には輪廻眼があった。


「やはり、ペインか………! おのれ、ミフネをどうした!?」

「安全な場所で寝ているよ。ああ、お前達と一緒にするな。殺してはいない。俺が殺したいのはお前達忍びだけだからな」

「何だと!?」

あちこちから怒声がかかる。しかしペインは怯えることなく、憤怒を持って自分の想いを言葉にして叩きつけた。


「殺したいのはお前たちだけだと言ったんだよ。どれだけ愚行を繰り返しても、奪われた者を鑑みないお前たち忍者を!」


怒鳴り、拳を地面に叩きつける。

チャクラもなにもこめられていないその拳の先から、血が滲み出る。


「よくも語ってくれたものだ………犠牲、だと!? ―――殺した者を下に敷いて、無関係な人達の屍を山に何をほざいている。誰も納得してはいない、できるものか! 強大な力を前に、黙っているしかなかっただけだ!
 誰も納得してはいない、小国ならば尚更だ! 勝手に殺しておいて、自国の都合で他を蹂躙しておいて―――それを仕方ないだと!?」

また、拳を叩きつける。
出血が酷くなったが、関係ないというように。

「だが、争いは集結した! まだ摩擦はあれど、各国が協力すればきっといつか、分かり合えるはずだ!」

我愛羅が叫ぶ。しかし、ペインは嘲笑をかぶせる。

「だからお前たちは馬鹿だと言うんだよ! 犯した過ちの根幹を理解せず、奪われた小国の想いなど見てはいない! 若いお前は知らないだろうが、かつて雨隠れと草隠れ、その他小国がどんな仕打ちを受けたか………!」

その言葉に、今度は雷影が反論した。

「だが、争いは避けられんものだ! 人類の歴史は争いの歴史、敵対する勢力もあれば守らなければならないものがある! 平和などと、譲歩すればそこをつけこまれる! 忍びが行動と力を尊重して、何がおかしい!」

雷影の叫び。だがペインは、それすらも嘲笑って言い返した。

「よりにもよって、お前たちが言うことか!? そもそも戦争を正当化しようとするな! そしてそんなに殺し合いたいのであらば、自国でやれ! 何故無関係な者を巻き込む!? なんの関係もない、日々を生きている者から………何故、奪う! 何故、殺す!?」



ペインは叫び、自らの血にまみれた拳を忍者全員に向けた。

その背後から、黒いチャクラが溢れ出す。



「俺は犠牲になった小国の者たち、そして今は語れぬ屍となった者達の代弁者だ! そしてかの山椒魚の半蔵のように、自らと忍里だけを守ろうと保身に走り、守るべき民を放り投げた愚者を裁く者! 
 傷つけられるという痛みを忘れ、驕る大国に痛みを知らしめる者、世界を蝕む負の思念をばらまく何よりの原因である、お前たち忍びを殺し尽くす者!」



ペインは腕を横に振り抜き、告げる。





「忍びによって隠された空を、太陽を開放するもの――――“暁”の首領―――ペインだ!」





チャクラが、吹き荒れる。

怒りと意志に満ちてあふれた、命の輝きが眼に見えて現れる。


「だがその事実を知っても、お前たちは到底納得はできないだろうな――――譲れないものがあるなら」

だから来いよ、忍者共と。ペインは見回し、告げる。



すでに臨戦態勢に入っている、五影を含む十五人。


忍び世界でも、屈指の実力を持つだろう全員に向けて、宣戦を布告する。






今ここからが、戦争だと。





「お前たちの大国のお好きな"力"でもって………お前たちの全てを、否定してやる」


そうして、ペインの暴力的なチャクラが室内に充満した。


皆はその異様に圧倒され、身体が硬直する。




だが一人、動ける者がいた。ペインから向かって左にある幕が切り落とされ。






「そのとおり、"だから滅びろ、死ね"と言われて――――」






背負う大刀が、それが誰なのかを告げていた。


ペインに飛びかかる再不斬。それを見た水影が何事かを叫ぶが、再不斬はそれを無視して斬りかかった。






「――――はいそうですかと、頷けるかよ!!」






待機する場から、ひと跳躍。
再不斬は体内門を開かない範囲で身体能力を限界にまで高め、ペインへと首斬り包丁を振り下ろした。

しかし大刀はペインには届かず、間に入った侍の脳天へ突き刺さった。
そのまま、大刀は胸のあたりまで食い込んだ。

「なっ―――何!?」

予想外の事態に、一度驚く再不斬。だが次の瞬間、彼は別の意味でまた驚いた。
切り裂いた頭部から血ではなく、黒い塊が漏れ出したからだ。

全身を鎧、頭を兜と面で覆い隠された彼等。
その中身は見えず、人としての証拠である"肌"の部分が見えない。そして血が出ずに、黒い何かがはみでるということは、答えは一つ。


「まさか、こいつら………!?」


その中身を察した再不斬は、また驚愕の声をあげた。
切り裂かれた侍がそのまま膝を屈せず、身体の中央にまで食い込んだ大刀を腕で抱え込んだからだ。

固定された大刀は人外ともいえる力で固定される。
大刀を引き抜こうとする再不斬、その両側面から別の侍が刀を抜き放ち、仕掛けた。

しかしその直後、側面から仕掛けた侍はクナイと巨大針に貫かれ、穴だらけになった。


「突っ込み過ぎだ!」

「一端下がるじゃん!」

再不斬はクナイを放ったのが誰かを、声で察した

渋面をつくり、大刀から手を離して――――退かずに、突き刺さった大刀の柄を、両足で思いっきり踏みつけた。


「………!」


侍らしき者に突き刺さった大刀が、テコの原理によって上に引き抜かれた。
再不斬は踏んだ柄を再び両手で握り締めると、背後にいるだろうペインごと切り裂くべく、全力で横薙ぎの一閃を放った。


胴から上下に、真っ二つになる侍。

割かれて見えた向こう側に、ペインの姿は見えなかった。


再不斬は逃げられたか、と舌打ちすると、侍の正体を皆に告げた。


「こいつら、侍じゃない! 中には十尾が入っている、鎧人形にすぎない!」


その言葉に、皆動いた。

侍を殺すかどうかで迷っていた護衛の忍びが、次々と人形を引き裂いていった。


そうして、室内に居た偽侍が全て倒れた。

だがその直後、天井から声がかけられる。

皆はその方向を向き、叫ぶ。




「鉄の国の侍をどうした、ペイン!」

「ああ、ミフネと同じだ。偽装を悟らせないため、一部話せる者は瞳術で操って案内させたが………誰も、殺してはいない。操っていた者たちも、会談の最中にすでに外へと逃がしている。それよりも――――」



ぱちん、と指が鳴らされた。




「自分の心配をしたらどうだ。お前たちはもう、袋の鼠だぞ? 」




ペインの合図で、城を覆っていた結界が消失する。


だが皆の胸に訪れた感情は、安堵ではなく恐怖だった。



「こ、れは…………まさか、貴様!?」



阻害する結界が消失したその後。

部屋の周囲に展開されたのは、結界が消失したという開放感ではなく―――途方も無い程、質量をも伴なうほどの威圧感だったのだ。

存在感だけで、人間の身体を縛る。そのような存在を、一部の者たちはすでに見ていた。





「け、結界で覆ったのは、外からの観察を妨害するのではなく………!」


綱手は威圧感に身体を圧倒されながも、言った。


ペインは然り、と口を歪めた。





「この城に展開させていた十尾を隠すためだよ――――1人残さず、潰れるがいい!」






ペインの纏う、暁のマントが翻る。


気づけば天井一面と梁の要所、隅の部分に鉄の筒がばらまかれていた。



そして天井の向こう、隠されていた者を直視したカカシと、青が叫ぶ。





「な、この上に………!?」



「全員、部屋の外へ――――!」










その二人の言葉を終えぬうちに。













天井は爆発し、岩塊が散乱して―――その隙間から、十尾が現れた。
















































あとがき。

それぞれに戦う理由がある戦闘、開始です。
ちなみに戦闘部分に関しては、まだ余興程度です。



[9402] 小池メンマのラーメン日誌 八十六話 「退けない一線」
Name: 岳◆3d336029 ID:0347f440
Date: 2010/11/06 18:23




「な、この気配は………!?」

「………しかも、城がある方角だぞ!」

「何かが爆発する音も!」


唐突に湧きでたというには、あまりにも大きすぎる気配。

宿場町に集まっていた手練の忍び達は、動揺を隠せないでいた。


しかしそんな中、動く者たちも居た。





「あ、キラービー様どちらへ!?」

「雷影様の………くそっ、オモイ!」

「分かった………嫌な予感がするけど、仕方ないか」

即座に動いた者に、追従するもの。





「白さん、いったい何処に!?」

「再不斬さんが居る場所に。長十郎さんはどうしますか」

「ぼ、僕は………!」

「………待っている暇もないので、すみませんが、お先に失礼します」

譲れない場所へと向かう者、迷う者。







「キリハ、これが例の!?」

「十尾………らしいね、シカマル君。これほどとは思わなかった、けど」

「あいつは……いや、考えている暇はないか―――――編成を組め! 罠があるかもしれないから分散して城に向かえ! 火影様達の援護に行くぞ!」

ケガを押して出てきた者、やるべきことを見据え実行に移す者。


そして――――























「………なんか、城の天井から黒いものが吹き出てるんですけど?」

『閉鎖空間で待ち伏せか~、戦術としては鉄板だねえ。でも中に入ったらその時点で詰むよ………どうする? 当初の目論見はものの見事に外れたけど』

「うん、豪快に外れたよな。まあよくあることだし、仕方ないか………プランBに変更だぜ、マダオ」

『………ああ? ねえよんなもん』

『『「おい」』』

『は、冗談として―――了解、機を見逃さないでね。下手すると五影にたこ殴りにされるかもだけど』

「そうなったら骨も残らねえな………分かった」








―――機をうかがうもの。

世界の行末を決めるに足る者たちが今、動き始めた。






















小池メンマのラーメン日誌


 八十六話 【 退けない一線 】





















落ちてくる天井と十尾を前に。

しかし五影達は動じず、脱出をはかった。


「シズネ、カカシ!」

綱手は自らの怪力で、壁をぶちやぶり。



「カンクロウ、バキ!」

我愛羅は硬質の砂礫弾で壁を壊し。




「再不斬、青!」

照美メイは、再不斬に大刀で壁を切り裂かせ。




「黒ツチ、赤ツチ!」

オオノキは塵遁で壁を微塵に砕き。





「シー、ダルイ!」

エーは自らの拳で壁を粉砕した。




脱出した皆は各々、そのまま外へと逃れようとした。だが出口へと続く道の尽くが、黒い影に阻まれていて脱出することはかなわなかった。
幾人かは術を使ってその障害を吹き飛ばそうとしたが、いくら吹き飛ばそうともいずこからか現れ道を塞ぐ黒い泥を見て、強引に突破することを諦めた。

先回りされていない方向へと走る。走る。走る。

人影のいない廊下を走るうちに、道端に転がる空の鎧を見た。
きっと、護衛を語っていた偽侍、黒い人形のものだろう。

してやれれたと痛感していた一行は、それでも足を止めず出口を求め走っていく。

「風影殿!」

「………そっちもか、火影殿」

そうして、道すがらばらばらになっていた者たちはいつしか合流していった。

外郭を求め走っているつもりが、黒い化物が居ない方向へと走っていくうちに内へ内へと走っていたようだ。


――――誘導されている。


皆気づいていたが、どうしようもない。大きな術を使うには足を止める必要があり、だが足を止めれば即座にやられる。
壁のあちこちから染み出る黒い泥は最早出来の悪い悪夢のようで、誰も触れたくはなかったのだ。








そうして、数分後。


いつしか15人、合流した一行は、城の中にある一際大きな広場にて集まることとなった。


そして、必然的に。

終着点には、会談にいたもう一人が。


16人目の、敵が居た。







「遅いぞ、またずいぶんとはしゃぎ回っていたな」

「ペイン………!」

軽口にも付き合わず、綱手は舌打ちした。
他も同様で、皆鋭い視線をペインに叩きつけている。


だが、動けない。



蠢いている十尾もあろう。だが、忍び達は目の前の人物こそを警戒していた。
なぜならば、違うのだ。怒りと意志に満ちていたチャクラが、今は別人のように変質していた。

それはまるで大海のように。ペインの身体からは、問答無用で引きずり込まれそうな何かが放たれていた。

迂闊に飛び込めば、即座に底へと引きずり込まれるだろう。
忍者達は間合いを計りつつ、飛びかかる機を伺っていた。

「………やる気はあるようだな」

「当たり、前だろうが」

仕掛けてきたお前が何をぬかす、と再不斬は背負った大刀の柄を握った。
だがそれを見てもペインは動じず、じっと黙っていた。

集結する錚々たる面々を見定めるように見回し、そして言った。


「壮観だな………だが、時間もない」


手早く済ませるか、と。

言って手を上げた途端。ペイン以外の全員が、その場でたたらを踏んだ。
馬鹿みたいに分厚い毛布をかけられたかのように。五影と護衛達は、思わずその場で膝をつきそうになった。

「これは………何をした!?」

「何もしていないさ。強いて言えば、お前達が十尾に嫌われているということが分かっただけだ。まあ、当たりまえだが」

「どういう、ことだ?」

ゆっくりと、諭すような口調。一も二もなく頷いてしまいそうな迫力だった。
しかし我愛羅は、手を震わせながらも問い詰める。

「説明しろ………どういうことだ!」

「簡単だ。十尾は―――十尾に組み込まれている思念達は、何よりお前たちが憎いということさ」

天井を見上げ、言う。亀裂からは、黒い泥が見え隠れしていた。

「これは核より零れ出た思念の粕。十尾の核は、私の身体の内に封じているが―――」

自らの胸を指差し、言う。

「溢れ出る想念だけは、たとえ私でもどうしようもなくてな。人間の憎悪はかくも凄まじいものだと思い知らされるよ」

「………口調、が? お前……本当にペインか」

「ああ、全体でいえばペインさ。細かい部分は、少し違うがな」

肩をすくめ、言う。

「夢にまで憎しと貫いた長門がな。お前たちの顔を見ると、たまらなくなったらしい。感情的になって悪かったな………だが、決して見当はずれでもないだろう?」

問いかける。その声は、先程までの怒りのそれではなく。問い詰める、審問するかのような色に変わっていた。

「お前は………」



「初めましてというべきか、我が係累の最果ての者達よ。我が名は、六道仙人という」



「な………!?」


全員が、驚きの色を見せる。あるものは目を見開き、あるものは口元に手をあて。
疎み、唾を吐くような仕草を見せている者も居たが。

「けれども返ってくるのは、敵意のみか。ある意味諸悪の根源だ、無理はないだろうが………記憶から成る仮初の人格とはいえど、悲しいことだな」

「お前が………お前が言うのか!」

六道仙人から連なるもの、忍術尾獣に血継限界。
それに人生を狂わされたものは、特に敵意をむき出しにしていた。

その中でも、恐らくは最たる者だろう。
風影、一尾の人柱力である我愛羅は一歩前に出て、六道仙人を名乗るペインに問うた。

お前に、聞きたいことがあると。

「………いいだろう、言ってみろ」

「尾獣の仕組みについては聞いた。十尾の脅威も、理解した。お前の取った手は、あるいは最善のそれなのかもしれない………だが」

――――宿す者に訪れる悲劇について、考えたことはあるのか。

まっすぐに睨みつけてくる我愛羅。
六道仙人は頷きを返し、やがて徐に口を開く。

「十尾は何より強大だった。どこから来たのか、誰が生んだのかは知らないが……化物というにも生ぬるい、規格外の存在だった。今ここに居るような未熟ではなく、完成されたあいつはまるで奈落のようだったよ」

触れれば落ちるという意味でいえば正しいのだと。
言いながら、ペインは語り続けた。

「………戦争で、人が死にすぎていたということもある、憎しみが世界を覆い尽くしていたのにも原因があろう。だけどそれでも、奴は強かった。強すぎた」

六道仙人は語る。

「この三狼よりも大きく、その触手から放たれる一撃で百人が飛んだ。術を使っても通じない、遠ざかれば高圧縮されたチャクラの大砲が地平線の向こうまで放たれた。気の弱い奴は見ただけて逝った」

「だが、お前は封じこめることに成功したのだろう」

綱手が、疑問を差し挟む。
六道仙人は、自らの右手を左手で握り締めながら、言った。

「らしいが、その部分だけどうしても思い出せないのだ。怖すぎてな。どうやって封じ込めたのか、思い出そうとすると………手が震えてどうしようもなくなる」

六道仙人の手が、はかすかに震えている。
声もわずかに震えていた。

「そんな怪物に、特別な肉体を持ち得ないただの人間が、何の武器ももたずにいったいどうやって対抗するというのだ。一度は封じれど、それで滅んだわけではない。次に復活されれば今度こそ人間は滅ぶ。
 ――――犠牲となった戦士達が守った世界が、彼等が命がけで守った人達が、死んでしまうのだ。それだけは避けなければならなかった」

古代の妖魔との戦争。人としての尊厳をかけて戦った者たちが居た。守りたい人達のために、鉄火場に飛び込んでいった戦士達が居た。
死んだものは生き延びた人に想いを託した。

「………あの世にある地獄、私は見たことがないがああいうのが、そうなのだろうな。糞のような戦況の中、戦って、戦って、戦った。絶望的な相手でも、退かなかった。だから人の死を見ない日は無かったよ。きまって、良いやつから順番に死んでいく。
 いつでも誰かが泣いていた。戦士も力を持たない民も関係なく、夥しい数の人が死んだ………でもそんな戦争でも、綺麗なものは確かに存在したんだ」

そして、それを守るのは、残った者の義務だった。
託された想いと遺志を守りたいと、ただそれだけを考えていた。

「十尾を封印する術、その目処はついた。六道を内包する十尾の存在から知識を吸いだし、封印術"天岩戸"の術は完成した。だが封印に成功はすれど、それだけで収まるような存在だとは思わなかった。世界を回すものが、そう簡単に死ぬはずがないのだ」

存在を限定し自由に移動させる、“モノの位置を決める”役割を持つ、天道。
最も複雑である、人間の魂に干渉する、あるいは人の記憶を操る役割を持つ、人間道。
真偽と陰陽を選り分ける役割を持つ、地獄道。
不要な存在を喰らい尽くす、餓鬼道。
負のチャクラにより変質した妖魔や、古の技術により生み出された化物を内包する、畜生道。
十尾に滅ぼされた人間が使っていた、はるか昔に存在していた道具と知識、技術をを内包する役割を持つ、修羅道。

満ちた十より新しい零へ、世界を転生させるのシステムを持つ十尾だ。
封印したとて、その発生を防ぐことは無理だということを、六道仙人は理解していた。

「あの時より続く今へ、滅びを防ぐために。そしていつか来る時のために、備えを残した。規格外には規格外を。同質のものを人間が操ること以外、やつに対向する手段は無かった」

「それが、人柱力のシステムか………他に、何かまっとうな方法は無かったのか!」

「まっとうな方法は正しいが、弱い。平和な時や、あるいは同じ人間を相手にするならばまっとうな解決方法を選択するのは、正しい。だが、相手が相手だった………死を呼ぶ存在を倒すなど、狂わなければ達成できないもの」

小を犠牲に、大を救う。為政者にとっての最善、軍事の頭領にとっての最良。
それを成してきたお前たちならば、分かるはずらと六道仙人は断言した。

「悲劇の可能性を………承知しつつ、その方法を選んだというのか」

「他に選択肢はなかった。私は神ではない。仙人と謳われようと、元々は人間だ。明日の朝日をなるべく多くの人に見せるために、誰かに夜を強いなければならなかった………だが、さすがの俺も人柱力があのような仕打ちを受けるとは思わなかったが。
 対人間用の兵器として運用され、挙句その存在じたいを疎まれるとは――――夜というのにも生ぬるかった」

「ふん、その原因を作った者がよくも言えるものじゃぜ。忍術を広めたのはお主ではないのか」

「………それを言われると、耳が痛いな。だが言っているお前も、口が痛いのではないか?」

「だが、お前が大元だというのは真実だろう! よりにもよって…………お前が! 全ての原因は、オレ達にあるというのか!?」

「全てではない。根幹となるものを作ったのは私だろう。だがそれに乗っかって悪意をばらまいた挙句、こんなものを作った奴が悪いと………人のせいにするのはどうだろうな?」

「………!」

「事実、自らの罪を認識して、その罪を償う方法を考えているものもいた。憎しみの絆、それより起こる悲劇と犠牲を、少しでも減らそうと努力している優しく真摯な忍者も居た」

「………それは」

綱手が、声を震わせる。
六道仙人が、頷いた。

「お前がよく知っている人物もその中の一人だ。そして初代火影より連なる系譜。自来也の弟子である、四代目もそうだったのだろうな。憎しみの絆、逃れられない縛鎖を解こうと、考えていた」

それは、長門の中にある記憶だった。
平和への命題、誰も泣かない方法を探す者の言葉。

「初代火影は小勢力同士を争いを根絶するべく、血縁のみで構成されていた忍びをまとめ、戦争を終わらせることに成功した。が………それも、長くは続かなかったな。いや、逆効果だったのかもしれない。大
 国と密接な関係を築くことにより、忍者の数が増えた。研究が進み、忍術はより高度なものに変わり、やがて危険な術も増えてきた………」

「それは結果論だろう! 人は神じゃない、最善を選び続け失敗せず何も犠牲にしない、などとは夢物語に過ぎない! 先の見えない闇の中、試行錯誤を経て築かれたのが今の平和だ! 誰も泣かない世界など、あるわけがなかろう!」

「そして誰かに涙を強いたその結果が、十尾の復活か。どうにも滑稽に過ぎる………いったいどこから、間違えたのか、お前達も、私も」

どうしたらよかったのか。呟き、悔いる。

今や六道仙人が生み出した希望は、敵対する者にとっては絶望になった。そして身内にとっては汚物と成り果てたのだ。取り扱いに困る劇物。

何もかもが悔しくてしかなたい、と六道仙人は言い捨てた。

世界は逼迫する原因となった、忍術。
自分も、忍者も、全てが道化に成り果てのだから。

「結果から言えば、私達は間違っていたのかもしれんな。あの日に、既に十尾の復活は成った。鬼の国でな。そして十尾の主な栄養源である負の思念が、世界中に溢れている」

「復活………鬼の国だと?」

「ああ。かの大源は、あの国の某所にある。そこで復活した。もっとも、本格的に動き出す前に、事態を察知した巫女に封じ込められたがな。そうして、手遅れになる前に十尾を休眠状態にすることはできた、が………肝心の戦力が存在していないのでは意味がない」

六道仙人は綱手と、城の外へ視線を向ける。

「失われた伝承も、限界がきていたということだな。何もかもがうまくいくとは思っていなかったが………その要因は別にある。バカ息子共が、何も殺しあうことはなかったろうに」

「息子………?」

「陰遁の塊、精神エネルギーを操る、その真に迫った眼を受け継いた兄。陽遁の具現である、生命チャクラに満ちあふれた肉体を持つ弟。
 つまりは千住とうちはだよ、綱手姫。柱間とマダラよろしく、同じように殺しあったらしいがな」

石碑にそう書かれていたという言葉に、土影は反論する。
お主が刻んだのではないのか、と。

「前半は私だが、後半は娘に託した。あいつは仙術にも熟知していたから造作もないこと。ただ、仲介に、使命に………随分と苦労をかけたようだが」

生前より、六道仙人は息子達に、"特別な力があろうと、人間は人間でしかない"六道仙人は解いていた。
修行の果てに人から人外へ成った仙人だからこそ、人としての限界を知っていたのだ。

求めて手にした力、しかしそれは万能の術ではないと知った後で。

だから、兄弟に解いた。よく喧嘩する二人にこんこんと言い聞かせたのだ。
それでも、争うことを止めなかった兄弟は、最後には道を誤った。

「………妹が止めていたから、そうひどいことにはならなかったのだが………止めきれなかったようだな。争いの果てに、忍宗は二つに別れた。ついていけないと、脱退した者も居たらしい」

「その結果が、過去の忍びの姿だと?」

「ああ。散らばり、子孫を増やした。かくれ里に住んでいればいいものを………世界中に広げるとはな」

人が増えれば種類も増える、野心を持つ者も生まれる。
そうして、忍者は勢力を拡大した。

明確に、表の存在となっていったのであった。

「だけど、絶望に対向する力も生まれました! 術も、そのために使えばいい! 十尾も、五大国が結集すればどうにか………!」

「怨みを余計に増やすだけだ。むしろ逆効果と言っていい………見ろ」

六道仙人は待機させている十尾を指差し、言う。

「五影が相手だからか、酷く活発になっている。憎しみの対象であるお前達では、逆に十尾の存在を強めるだけだ」

「馬鹿な………そんな事が」

「あるいは、運命のあの日までは、可能だったのかもな。私もこの肉体の持ち主に協力して、少しでも世界を変えようと努力していたのだが………あの事件のせいで猶予がなくなった」

だから、巫女に封じ込められ休眠状態にあった未成熟の十尾の核を取り込み、決断を下すしかなかったと六道仙人は言う。

「決断、だと?」

「ああ。この12年は、本当に長かったよ。各地の負の思念は限界まで溜り、飽和寸前。復活させて倒そうとしても、無理だ。世界に負の思念がある限り、十尾を完全に殺すことはできない。それに、世界にも限界が来ている」

「何が、あるというんだ」

「今は人間の目には見えないだろうな。だが、世界には、少しづつ綻びが出てきている。じきに、気候がおかしくなるだろう。そうなれば、あとは滅びまで一直線。気候が変わるというのはそれまでにあった生態系が破壊されるということ」

「………何故、負の思念とやらで気候が変わる? 関係ないことのように思えるのだが」

「忍術然り、世界は陰陽五行から成る。すなわち、全ては繋がっているのだよ。両義、すなわち陰陽より生まれたさまざまなもの。火・水・風・雷・土、五行や四象より成る八卦八門、人間の身体も同様の構成をしている。世界も、生きているんだよ」

だからこそ、悪い細菌に侵されれば、病に伏せる。
輪廻眼を持つ彼は、当たり前だと言った。

「内包する生命の活動によって、世界は変えられる。悪玉の細菌を滅ぼすために、厳しい環境へと移行していく。急激な環境の変化は、人間以外を滅ぼしていくだろう」

人は抗体のように環境の変化にも適応し、生き延びることができる。だが、他の動物や植物などはそうはいかない。やがてはその数を減らし、連鎖反応で様々な生き物が死滅する。

「最終的には、人を残した全てが滅びてしまうだろう。そして最後の時、天岩戸に封印されている古の滅びが降臨する。負の思念だらけになった世界で生まれた、新しい滅びに引っ張られ―――――やがて滅びは混ざり合い、世界は消滅する」

「月が………落ちるというのか!?」

「既にその兆候はある。お前達が認めようとしないだけでな」

そして前例が無いといえど、時が来れば起こるだろう。自然現象は基本的に問答無用だ。
そこに容赦という概念が存在しないことを、六道仙人誰よりも知っていた。

「このまま新・十尾が育てば確実にそうなるだろう。だからその前に、新・十尾を月にある核へと送る必要がある。
 しかし今の私には、昔ほどの力はない。この肉体は生命のチャクラ、陽遁を秘めている肉体なのだが………」

六道仙人は黒く染まった自分の髪を触る。

「月に封印されている私の仮死対とリンクした時、どうやら古・十尾の欠片を取り込んでしまったようでな。肉体は変質し、妖魔と同じような性質を帯びるようになった………普通の術はともかく、時空間忍術のような精緻極まるチャクラコントロールを実行することは不可能でな。
 だから膨大なチャクラに加え、さらに余剰分のチャクラを上乗せする必要がある」

多くのチャクラが必要なのだ、と六道仙人は言う。

「………だから、暁―――鬼鮫の野郎やサソリ、デイダラ達を取り込んだってのか?」

「邪魔者にもなりそうだったのでな。さすがにあの面々を相手にしながら五影を相手取るのは難しい」

暁の人間は、下手をすれば五影にも勝ると六道仙人は言った。

「そしてお前達五影も、それぞれの隠れ里も取り込んでやる。五大国を滅ぼせば、あとの小国はどうとでもなるからな」

指を突きつけ、告げる。
忍者には昨日までの贖い、そして明日の救済ための糧になってもらうと。

しかし、納得する者は皆無だった。

「違う、他に………他になにか、方法があるはずだ。それを見つければ………!」

「不可能だ。現実を見ろ。連綿たる時の中、積み上げてきた過去の負債が形を無して今、言っているのさ」


――――死ね、と。


忍者達の胸を指し、六道仙人は告げた。


「世界が自らを守るために、悪玉の細菌は滅ぼされる。そして因果に私怨はない。ただ、事実だけがそこに残される。自らの業は、自らに還るだけだ」

「………悪玉、自業自得か。否定しきれない所はあるが………それでもまた、私たちには出来ることがあるはずだ。それをせずに、滅ぼされる訳にはいかない」

確かに、忍術は発展した。破壊という範疇に収まりきらない術も増えてきている。
だが、その多様性はあらゆる所に活かされるはずだ。

あるいは、世界中の忍びが協力すれば、世界を救えるかもしれない。

「そうだな………でも、それは賭けだ。そして、世界の人間はお前達を信じられまい。信仰と同じく、信用とは儚く脆いもの。一度失えば取り戻すのに数十倍の労力を要する」

「だが………私たちも、守るものがある! 座して滅びるような真似だけはできん!」


あくまで膝を折らない忍び達。


六道仙人は目の前で生きる意志を見せる彼等に頷きながらも、言った。


「生きる意志は立派、諦めない意志も見事。確かに、私達と十尾をまとめて退けるだけの力と意志があればその可能性もあるかもしれん………だが、時は既に遅いかもしれん」




それでも、足掻くのかと。

忍者たちは六道仙人の問いかけに対し、即答する。




「ああ………先代の遺志と里の意志は曲げん。木の葉のため、ここは押し通らせてもらう!」

「………勝てるかどうかは、わかりませんが」

「大切な仲間の為だ、退けないね………命をかけてあの二人が守ったこの里だ、滅ぼすと言われて黙っている訳にはいかない」

木の葉が。



「仙人、貴方の言いたいことも分かる………だが、俺にはまだ守りたい人が居る、帰りたい場所がある」

「弟を守るのは、兄貴の役目じゃん。姉を守るのは、弟の役目じゃん」

「里のためだ、ここで引くわけにはいかん!」

砂が。



「霧隠れは血の時代を乗り越え、新たな道を歩もうとしています………」

「ここで負けては、なんのために戦ってきたのか分からないのでな」

「俺は、俺の守りたいものの為に戦うだけだ。それに、あいつとの約束があるからな」

霧が。



「ふん、耳が痛い話じゃったが………それでも、な」

「ジジイだけを戦わせる訳にはいかない、アタシも戦うぜ」

「守りたいものは渡せないダニ」

土が。



「力無くば、滅ぼされるのは分かっている………ならば、我々の意志の力を見せてくれよう!」

「ボスがやるなら俺だってね」

「忍びの世界にはまだ、先がある! 可能性がある限り、滅びを受け入れるわけにはいかない!」

雲が。




「そうか――――分かった」

身にまとっていた、暁のマントが放り投げられた。

両に宿る螺旋の眼が、黒く染まっていく。


黒い髪が、ざわめていた。




「………お前達の相手をするのは俺だ。かの仙人はまだ迷っているが………俺は、違う。お前達を絶対に許さないし、滅びた方がいいと思っている」


それは、長門の声だった。憎しみに染まる、長門のチャクラだった。
十尾のチャクラと呼応して、その勢いはまるで天まで届くよう。





長門にも、退けない一線があった。
果たすべき目的があった。



長門は今の忍びの世界を許さない。


弥彦が望んだのは、こんな世界じゃないと思っている。

小南と一緒に築こうとしたのは、欺瞞と偽善に道あふれた、偽りの平和じゃないと考えていた。


弥彦と小南が死んだのは、こんなもののためじゃないと。






五大国もそうだった。多くの仲間の犠牲の上に築いてきた自らの故郷を、滅ぼされるわけにはいかない。

生者の日々と死者の安眠を永遠とするために、足掻くことをやめない。







それは、互いに退けない一線だ。
自らの誇りの粉にして退かれた、最終線。




「………行くぞ!」







長門は叫び、構えた。


影たちも、完全な戦闘態勢に入る。





全員の身体から、チャクラが立ち上る。




退けない線を背中に背負った戦士達の、闘気と殺気が激突した。












~~~~~




先手は長門。
懐から巻物を取り出し、膨大な量の水を口寄せした直後、神速で印を組み出す。

数にして二十あまりの印、それをわずか3秒で組み上げた。

「水遁・大龍牙の術!」

それは、まるで波濤のようだった。大河を思わせる馬鹿げた大きさを持つ水の牙が、長門の頭上に並んでいく。

「赤ツチ!」
「分かったダニ!」

一方、土影は口寄せの時点で赤ツチに命令していた。
一言でその意図を察した赤ツチは、即座に自慢の岩人形を作り出す。

「まだまだ、大きくなるダニ!」

みるみるうちに、岩の人形が大きくなっていく。
そして水の大河が発射される直前、岩でできた5対の巨人が、五影達の壁になった。

牙と、巨人が衝突し、衝撃が走って水しぶきが当たりにばらまかれる。
細かくなった水の粒子が、周囲にうっすらと霧を掛けた。



数秒後。

視界が晴れた時、五影達は唖然とした。
岩でできた巨人が、その下半身を残すだけで、粉々に砕かれていたのだ。

「………馬鹿な!?」

性質でいえば、土は水に勝る。その補正があれば、ランク差があってもまず打ち負けはしない。
しかし今、岩の人形は貫かれはしないが、砕かれた。

つまり、補正をも埋めるだけの差があったということだ。


――――遠距離では、勝ち目がない。
結論が出るまでは早かった。

だがその事実を認識してからの行動も、早かった。


カカシが、再不斬が、ダルイが、雷影が、走りだす。

皆接近戦を得意戦術とするもの。必死の形相で、長門に肉薄する。


「術を使う暇を与えない、というところか」


長門は接近してくる一団の先頭、足元に散らばった水を大刀に纏わせながら走ってくる再不斬を見ながら、笑った。

「あの野郎………!」

再不斬の怒りの声に、後ろから声がかかる。

「あせるな、あいつは引力と斥力を操るはずだ」

「うむ、そして連続しては使えない。一度使ってから再使用まで5秒程度はあるはず」

「なら、まとめてかかるよりバラバラに仕掛けた方がいいですね」

「その通りだ、攻撃する機を見誤るなよ若造共!」

走りながら作戦を立て、即座に実行する。
皆一流の忍びで、勝つための方法を知っていた。

まず先方となる再不斬は、地面をチャクラで弾き、一気に速度を上げて跳躍。
間合いに入った瞬間、水の大刀を振り下ろした。

「遠距離えで無理なら、接近戦………だが!」

長門は輪廻眼の洞察眼を全開にする。

そして硬化した自分の腕に大刀が衝突する瞬間を見極め、受け止めながら腕を引いた。
そのまま衝撃による力を殺しながら、勢いを横に流した。


大刀の峰を掴む。


「接近戦でも、同じことだぞ?」


―――神羅天征。

長門は掴んだ大刀に直接斥力を働かせた。
大刀はそのまま、尋常ではない速度で横に弾かれ、その先に居たダルイに襲いかかる。

「危っ!?」

間一髪、ダルイは弾かれた首切り包丁を自らの大刀で受け止める。

しかし大刀の衝撃は強く、予想外のこともあって踏ん張ることができなかったダルイは、そのまま後ろへと弾き飛ばされる。
再不斬は首斬り包丁を手放しはしなかったが、腕を大きく後ろへ流され、バランス崩していた。

「はっ!」

そこに長門の拳が飛んだ。
殴り飛ばされ、飛んでいく再不斬。


―――その直後、再不斬が居た場所の後ろ、死角となっていた所から、雷光がほとばしった。


「雷切!」


距離にして3歩、準接近戦からの雷切。その一振りは雷をも切るほどで、まともに受ければ身体に風穴が空き、顔に受ければ脳髄ごと吹き飛ぶだろう。

だがそれは、放たれればの話である。


「何処に居ようと!」


輪廻眼に死角なし、と叫ぶ。
長門はチャクラの動きを事前に察知していたため、十分に準備が出来ていた。

カカシが一歩踏み出した瞬間、うろたえずに右手を掲げる。

「―――見えている!」

「な――――ぐあっ!?」

カカシは腕を突き出そうとした瞬間、長門に顔面をつかまれていた。
長門は万象天引で走りだし前かがみとなっていたカカシの顔を引き寄せ、そのまま掴んだのだ。

「終わりだ!」

叫び、カカシの後頭部を勢い良く地面へとたたきつける。
しかしたたきつけられた瞬間、カカシの身体が煙となって消えた。。



「影分身………上か!」


囮の影分身を見破っていた長門は、天井を見上げた。
そこに、カカシの本体が居た。


その隙を、今度は雷影がついた。

「雷虐水平!」
「くっ!」

雷をまとった雷影から放たれる神速の水平チョップ。
長門は身を屈めてそれを躱した。

そこに、追撃の肘が振り下ろされる。

「重流暴」
「―――遅い!」

しかし長門は屈んだ直後、雷影と同じ雷遁の鎧を身に纏っていた。
長門の反射速度が爆発的に上昇する。

「何っ!?」
「見えているぞ!」

速度は互角、力も今や互角。だが長門には輪廻眼があった。
雷影は驚きながらも、やることは変わらないと体術による攻撃を仕掛ける。

長門も、負けじと応戦した。

神速の攻防が繰り広げられ、両者が交差するたびに火花が散った。

やがて、二人は広場の中央で足を止めた。

「フンッ!」
「シッ!」

長門、雷影は二人同時に、一つの呼気と共に3連打を放った。
それは互いの中央で激突する。


ドドドという爆音と共に、衝突の余波が三度、部屋の大気を揺るがした。

「フン!」

雷影は拳打が防がれた後、足が止まっていた長門に向けて、一歩踏み出す。
長門も負けじと、一歩踏み出す。

肉同士がぶつかり、鈍い音がする。
両者中央で互いに両手を掲げ、腕力による押し合いの状態となっていた。

「………っ、腕力もワシ並だというのか!」
「言っただろう、妖魔に近い状態になっているとな!」

両者一歩も引かず、そのまま微動だにしない。
踏ん張っている足元の岩が、びきびきとひび割れていく。

「埒が―――」

長門は叫ぶと、足元をチャクラで吸着。
踏ん張り、押し合って掴んでいる両手を、叫びながら力いっぱい頭上に上げた。
雷影の身体が、宙に浮く。

「―――開かん!」

そのまま振り下ろし、地面へと叩きつけようとする。
だが雷影は投げられる瞬間手を離し、そのまま宙へと跳んでいった。



「今です!」


そこに、後方の忍びと前に展開する忍びの連携を担っていた、シーの合図がかけられた。

近距離に再不斬、ダルイ、カカシによる一斉攻撃が放たれた。

「そんな術など!」

だがそれは、長門の周囲に突如現れた薄い膜のようなものに全て吸い取られた。


「術を……喰っただと!?」
「くそ、まだまだ引き出しがあるってのか!」

カカシとダルイが驚きの声を上げた。

やがて後方に控え、術の終わりを見極めた青が、叫ぶ。


「それならば、物理攻撃を混ぜて攻撃すればいいだけだ!」


そこから先の動きは早かった。

青の合図を受けた皆が印を組み、順番に術を発動していく。


それは、全てを固める物質だった。
それは、岩の巨人による体当たりだった。
それは、全てを塵に返す砲弾だった。
それは、不可視の風の刃だった。
それは、毒が塗られた巨大な仕込みクナイだった。
それは、鉄をも貫く砂の矛であった。
それは、雷を纏う大刀だった。
それは、幻の世界に誘う雷光だった。
それは、秘伝の毒が塗られた千本だった。
それは、空間を歪めて抉り取る瞳術だった。
それは、馬鹿げている程に巨大な岩の砲弾だった。
それは、水の龍であった。
それは、金剛石をも貫く水の徹甲弾だった。
それは、全てを溶かし尽くす粘液だった。


その全てが、一人の人間の元に殺到する。

四方八方から放たれた攻撃の数は多く、避けることも不可能なほどに充満していた。


やった、と。

攻撃を仕掛けた全員が、確信する。


タイミングは完全で、これ以上ないというほどのものだった。

達する時間までばらばらで、斥力を使っていくらかは弾かれるだろうが、全てを防ぐことは不可能だろう。
物理攻撃があるので、先の忍術を吸収する術を使っても完全な防御は無理だ。

何発かは、確実に当たる。



そして手傷を負わせれば形勢はこちらに傾くと考え、幾人かは次の攻撃動作に入っていた。



事実、雷影はそうしていた。
着弾の直後に間合いを詰めて追撃を叩き込もうと、足に膨大な量のチャクラを練り上げている。




勝てる、と。

誰しもが思った。






―――だけど、それは錯覚であることを示すかのように。



広場に、冷淡な声が鳴り響いた。






「この程度なのか。ならば………」







長門の掌から、全てを引き寄せる漆黒の球体が放たれた。









「これで、終わりだ」

















~~~~~~~~



時同じくして、城の外れ。



「十尾が………!」

「城が黒く染まって………おい、どうする!?」

騒ぐサスケ達。一方、イタチは別の方向を見ていた。


「………先の爆発音が、決め手になったか。忍者達が宿場町から国境を超えて、城へと向かっている」

「………本当だ。いや、でもあれは―――罠か?」

サスケは写輪眼でイタチが見ている視線の先を遠視した。

そこには、菌糸のようなものに覆われ、苦しむ忍者たちの姿があった。

「ゼツの術だな。一度だけ見たことがある」
「何人かは、回避できたようだけど………」

かなりの数が巻き込まれているな、とサスケは渋面を作った。

「それだけ必死だったのだろう。それにあれを見せられれば、冷静な判断力も失うさ」

これほどまでとは、と言うイタチの額に汗が一滴だけ流れた。

「飛段が身にまとっていたのは欠片でしかなかったんですね」



「冗談きついよな。さてどうしたものか………」


悩む網の面々。

―――そんな時だった、城からビシリという音が鳴り響くのは。
それは、十里にまで響き渡るだろう甲高く巨大な音だった。

聞こえすぎた多由也が、苦痛に顔を歪めて、膝を付くほどに。

「うあっ………!?」
「っ、大丈夫か……!?」

心配するサスケに、大丈夫だと多由也は答えた。

「耳鳴はするが、何とか………でもなんだ、この……?」




じっと、皆は音の発生源である城を見た。


サスケとイタチは、写輪眼で城の細部を見る。


だが、その直後。遠視をせずとも分かるほどに、明確で大きな罅が城の表面を走っていく。


そして、あるものを感知した香燐が、大声で叫んだ。






「全員、伏せろ!!!!」






必死の形相、必死の声。



各々がそれぞれの対応を取った、次の瞬間。















――――三浪の頂上にそびえ立つ巨大な城は、爆散した。































あとがき

西の融合体がナルトなら、東の融合体は長門でござったの巻。
こちらも、記憶と魂の欠片と助長する何かがブレンドされてござる。

あと本作のペインが持つ六道の能力の強度ですが、原作のそれよりも高いです。
六道仙人の影響と能力についての理解も深いので。



[9402] 小池メンマのラーメン日誌 八十七話 「曇天、雪降る荒野にて」
Name: 岳◆3d336029 ID:0347f440
Date: 2010/11/21 21:15
――――冷たい。

顔に、氷の粒が落ちた。気づけば、曇り空が見える。背中も冷たいし、全身が冷えている。どうやら気絶しちまってたようだ。
さっきもらったとんでもない一撃のせいだろう。三半規管がイカれてるのか、頭がくらくらして立ち上がれやしねえ。

「ぐ、は………」

全身を打ち付けたせいか、呼吸も一苦労だ。吸って吐くだけでお花畑が見えやがる。
怪我の状況を確認すると、肋骨が数本イってるらしい。着地………ああ、着地できたのか。でも結局は転けちまったようで、その時に背中を打ち付けたらしくじんじんとした痛みが走っている。
着地した時に足も痛めたらしいし、あの時刀を持ってた方の腕も痛え。文字通り半死半生といったところか。

だけど、生きている。

「………」

しかしそれがなんだというのか。もう一度対峙して、何になるのか。あの化物、思い出しただけで震えが止まらなくなるってのに。
予想はしていた。覚悟もしていた。だが、正直予想外に過ぎた。

いかに化物といえど、あれだけの攻撃―――絶対に防げないタイミングだったはずだ。
これ以上ない攻撃だった。破壊の弾幕は波となって、四方八方を埋め尽くしていた。威力も十分過ぎる、並の忍びなら百回は殺せる程に。

だが、あの野郎。

この程度か、という声が聞こえたと同時、奴の掌から飛び出した黒い球体が、何もかも吸い尽くしやがった。
忍術も、飛び道具も、カカシの野郎が繰り出した瞳術も、全部ひとつ所に集められた。

そして驚きの声をあげるまもなく、次の瞬間俺は宙に舞っていた。
思い出せば他の奴らも同じだったようで、全員が訳の分からないうちに黒い球体へと引き寄せられていって、訳の解らない内に吹き飛ばされた。

そして――――朦朧とした意識の中。
それでも吹き飛ばされたここで、何とか着地できたようだ。

「………冷えるな」

空を見る。横を見る。そこには、懐かしい白が見えた。体温を奪ってくれたようだが、頭も冷えた。今ならばもう少しマシな戦いが出来るはずだ。

「悪手だったな………」

あの時の状況を思い出し、舌打ちをする。いかな挑発を受けようとも、俺達は冷静に対処するべきだった。
外に出るべきだったのだ。距離を取りつつ戦うべきだった。あんな閉鎖空間で、あんな能力をもつ相手に適うはずがない。

―――と、過ぎちまったことを嘆いてもうどうにもならねえ。気づけるだけ冷静になれて僥倖だと思うべきだろう。
ここには居ない他の奴らも、そうであればいい。


しかし、どうなったんだ。何処に跳んでいった?

まさか、死んではいな………………いや、まて。そもそも、だ。



何故俺は外に居る?



「……」

嫌な予感がする。まだ酔っていたようだ。
雪が見えること、それ自体が異常なものだと気づくべきだった。
しかし、そんなことがあるのかとも思う。

そんな中、痛む身体を無理やりに起こして、周囲を見回した。見れば、白い雪原の上に、大小無数の岩が転がっていた。
それだけではない。木の破片も散らばっているようだ。
だが、木の表面は綺麗………調度品の成れの果てか? ………となると、確定か。


そうして、見上げた先に。


石垣の土台の上にそびえ立っているはずの城は、"綺麗に吹き飛んでいた"。



「………」


言葉もないとは、こういうことを言うのだろう。いつだったか、馬鹿が馬鹿でかい風の塊を砂の化物に打ち出していた時以来だ、こんな馬鹿げた気分になるのは。
よくよく見れば、城を覆っていたはずの十尾とやらの姿もない。

つまりは……俺達も城も十尾も、化物も。
あいつが斥力とやらで全部吹き飛ばした、と。

(………これが輪廻眼。究極の血継限界か)

気づけばため息がこぼれ出していた。懐かしい諦めの気持ちが胸を占める。

―――今まで、実力で俺より上回る敵は、数多く居た。
だけどどうにかして、勝ってきた。だけど今回のあいつは、もうそんなレベルに居ないようだ。

下忍試験の、あの日より今まで。途中、挫折しそうになりながらも、諦めずに死に物狂いになって、ここまで来た。
不本意ながらも背に腹は代えられないと、四代目火影とあの野郎と共に、鍛えに鍛えた。実力は格段に上がって、鬼鮫の野郎と互角にやりあえるまでになった。

なのに、これだ。訳の分からない、仙人とやらが出てきて、数合もたずにこうして吹き飛ばされ、ぶっ飛ばされて寝っ転がらされている。
だが無理もねえか、と納得する気持ちもあった。なんせあの五影も全員、吹っ飛ばされているのだ。これが俺だけなら悪態もついただろうが、ここまでくるといっそ清々しい。

俺では、あいつには勝てないだろう。
いや、忍者ではあいつに勝てない。既存の忍術全てを駆使しても、あいつを打倒することは適わない。

勝てるとならば、あの化物をも上回る、馬鹿者。
イカれた術を思いついて、それを札にして控えている、あの金髪トリオだけだろう。


――――だが。だけど、よ。

「く、っ………ッ!」

痛みに声がこぼれる。だけど、立ち上がることは止めない。
ここで、寝ていては駄目だと。その想いを膝に込めて、俺は立ち上がった。

見上げれば、曇天。その下にひらひらと舞う、雪の礫達が居た。

(……そういえばあの時も、こんな風に降っていたか)

ふと思い出す。今の俺が始まった瞬間を。
明確な道が見えた、あの時のこと、出会った一人のガキのこと。

あれは、鬼鮫の野郎にたたきのめされ、忍びの世界の頂点を知り、自信を無くしかけていた時だった。
今代の水影を打倒し、あの糞みたいな時代をぶっ壊して、里を真っ当な形にすると。そんな野望も、捨てかけていた時だ。

俺は、出会った。
橋の上で。

ガキは言った。くたびれ、今にも死にそうなガキは、それでも言った。

『お兄ちゃんも、ボクとおんなじ目をしてる』と。

一目みただけ。それだけで、正鵠を射ぬかれた。あるいは率直な感想だったのか。
だけどそれは、ごまかしようのない、何よりも認めたくなく、眼を背けようとしていた事実だった。

そうだ。
負けることに言い訳をつけ、負けることを許容していたのだ、あの時の俺は。

俺は気付きたくなくて。でも怒ることも出来なかった。何より俺がそのことを認めていたからかもしれない。

―――重荷を、捨てたかったのかもしれん。
あの時、改めてそのガキを見た時に考えた言葉。それは、恐らく事実だったのだろう。

ああいうガキを無くすために、登りつめて。
そして、水影を殺すんじゃなかったのか

そのための、決意の証として。才能も無く、力も無く、いずれ任務に使い潰されてすぐに死ぬような、同期の奴らを殺したんんじゃないのかと?

いつしか重荷には重荷でしかなく、自らを支える信念足り得なくなっていた。その重さに嫌気がさして、抱いた想いも忘れようとしていたからか。
糞のような故郷、笑わないガキ共、才能に縋る忍び共、戦でしか自らの誇りを見いだせない年寄り。

何もかもがうんざりで、だから全部ぶっ壊して、もっと、もっと。
何か、別の、もっと良い何かに。
だがあの頃の俺は、その気持ちを忘れて、力だけを求めていた。

それを想い出させた、いや想い出させてくれた少女と。
共に過ごし、修行して、そしてまた強くなった。本当に強くなれた気がした。

忘れていた気持ちを想い出させてくれた。

(まあ……カカシには、負けたけどよ)

四代目に聞けば、どうやらあいつも大切な誰かのために戦っているらしい。同じチームで任務をこなし、その果てに失った戦友。好きだったくノ一を失い、そいつらの遺志を守って、カカシも強くなったらしい。
死者の念を背負うあいつも、譲れないものがあるということ。

「………負けて、られるかよ」

動くたびに信念が軋む。痛覚の金槌が、脊髄を叩いた。激痛の針が諦めろと告げてくる。
だが、止まらない。止まれない。止まることは許さねえ。

守るべき存在を守ろうと、負けられない想いを背に背負いながらも、それを力にして。

今頃、また挑むべく立ち上がっているはずだ。


なら尚更、負けられねえ。

何より、六道仙人と名乗るあいつには、負けられねえ。

言っていることは至極真っ当だ。世界の為にという理屈も、一見すれば正しいとも思える。
だけど、俺が俺であるからして、認められないことが一つだけある。他の五影連中も、あるいは忍者ならば誰でも同じことを考えるはずだ。

そして、もう一つ。許せないことがあった。


――――母を殺されたと。父親を殺したと、泣いていたあいつを。
儚く笑って諦めることしか知らなかった、かつての少女を。

俺のもの、俺の血だから誇れと言わなければ、自信でさえも見出すことができなかったあいつ。

今も悪夢にうなされ、夜中に飛び起きて。
心配しないてと、何でもないと、無理に笑って誤魔化す白を。



あの涙を生み出した原因を作り、そして今間違いだから消そうとしている、あの野郎を。






(一発でもいい………殴らなきゃ気がすまねえんだ)


























小池メンマのラーメン日誌

 八十七話 【 曇天、雪降る荒野にて 】




















崩壊した城の、正面にある雪原。
長門はそこで、一人立っていた。暁のマントを再び身につけながら、先ほど自分が吹き飛ばした者たちが生きているかどうか、輪廻眼で探り始める。

「………一応は、生きているか」

だが手応えはあったと、長門はひとりごちる。

城を見れば分かるように、先に放った引力に対する反作用、そして神羅天征を重ねた一撃は人を殺すには十分すぎる程の威力があった。

「防いだ者もいたようだったが………」

斥力を開放した時の光景を思い出し、呟きながらペインを周囲のチャクラを探った。だが感じられるチャクラはいずれも少なく、皆かなりの深手を負っているようだと判断する。
事実、五影と護衛、死んではいないがもうまともに戦えはしまい状態に陥っていた。

「全ては、予定通り」

戦況を把握したペインは、状況を次の工程へと進めることに決めた。

印を組み、輪廻眼の遠視で国境にある宿場町や、途中にある罠を仕掛けた場所を観察する。
見えた光景は思い通りで、宿場町に忍者の姿は無く、皆こちらに向かっている途中。その大半も、ゼツと協力して仕掛けた大小種類様々な罠にかかり、戦闘不能に陥っている。

「しかし、残っている者は残っているか」

護衛に付いてきた者はいずれも手練。だが、その手練をも封殺する罠の数々をこらしていたペインは、そうして残った者を観察し、こんなものかと呟いた。

大小数々の罠、畜生道が保有する特別な妖魔も混じえた常では見られぬ罠の逸品。
あるいは、小国ならば落とせる程のものをこらしていたのだ。

だけどその罠の嵐のを抜けて、目の前に堂々を姿を現した者も居た。

「ようこそ」

大仰に手を拡げ、ペインは苦境を突破してきた者に、賞賛の声をかける。

「ようこそ、こなくそ………お前は誰だよ、何ようだ♪」

「お前の敵だ。八尾の人柱力」

九尾に継ぐ力を持つ、八尾の尾獣を保持する人柱力で、その力を完全にコントロールできる雲隠れの英雄。
それは歴代の忍びの中でも、最高に近い力を持つことを意味する。

だが、ペインは余裕を崩さない。

「随分気分、調子が良いようだ♪」

「いや、お前ほどではないが………っと。もう一人、あの中を抜けてきたか」

キラービーの、後ろ。肩で息をしながらも、罠の網を抜けてきた人物――――女性が、口を開いた。



「再不斬さんは、どこですか?」






~~~~~~~







一方。
遠くからそれを見ていた一行。サスケ達網の一行は、目の前で起こった出来事が信じられず、放心状態にあった。

「あれぐらいはしてのけると、予想はしていたが………」

実際に目の前でやられると強烈だな、とサスケは城のあった場所を睨みつける。

「いや、よぉ………って、いやいやいや嘘だろ!? 誰かつっこめよ、なんなんだあのバケモンは?!」

唯一長門のスペックを知らなかった香燐が、悲鳴じみた声をあげる。

「これが、あいつの本当の………本気って訳か」

一方、仇の本当の実力を知った灯香は、拳をわななかせながらじっと長門の方を睨みつけていた。その眼光は凄まじく、今にも飛び出していきそう。
いや実際に飛び出していく寸前で、その直前にシンに止められていたが。

「ちょ、待てって、落ち着けよ灯香!」

「放せ、シン! あいつは、今までアタシをおちょくってたんだ! 本気も出さずに………」

「だからってここでかかっていっても死んじまうだけだって! お前も、震えてるだろうが!?」

シンの怒声。その指摘は正しく、灯香の身体は他の皆と同じように、恐怖に震えていた。
それは圧倒的な破壊に対する、畏怖であった。

「だが、生きてはいるな。相当の深手を負ったようだが、まだ死んではいない。流石は五影と言いたい所だが………」

イタチは散らばった五影達を遠視した後、彼等の状況を認識する。
イタチも、影達の姿は知らされていた。皆実力高く、頂点に立つに相応しい力を持っている忍びだった。

だが、今は見る影もない。

まず土影は老体がたたったのか、その場から動けないでいるようだ。仰向けに寝転がりながら、隣に居る巨体の男とくノ一に対し、必死に呼びかけている。

雷影は仰向けに寝転がっていた。完全に気絶している。先の一戦で受けた傷は完治していなかったと聞く、今の一撃で完全にノックダウン状態だ。傷口が開いたのではなかろうか。もう一人、金髪の護衛の忍びは雷影の近くでうつ伏せに転がっていた。
唯一、褐色の肌の護衛は動けるようで、何とか起き上がろうとしている。

水影は大樹を背もたれにして、その場で顔を伏せている。その前には、眼帯を付けている男がうつ伏せに転がっているようだ。とっさにあの眼帯をつけた男が盾になったのだろうか。
しかし、それにも関わらず水影は気絶したままだ。しかしそれは無理もないことだとイタチは頷く。女性の身体は基本的に柔らかいもので、あのような衝撃波に耐えられるように出来ていない。
屈強な男の体躯でぎりぎり持ちこたえられるような一撃、女性ならばひとたまりもないだろう。

事実、シズネは完全に気絶していた。火影、綱手姫は自分で治癒したのかまだ動けるようだが。
必死にシズネに呼びかけ、掌仙術を使い始めた。

そして、残る二人はどうなったのか、イタチはチャクラを探ろうとする。

しかしそれは、サスケの声によって遮られた。

「兄さん、あれ………!」

切羽詰った声で、サスケが指し示した方向。

そこは先にペインが立っていた広場の、中央。

そこには、白ともう一人の姿があった。それは見るからに、異様なチャクラで、サスケはそれがただ者ではないことを察知していた。


「あれは………八尾の人柱力!」

「あれが……」


兄、イタチの言葉に驚くサスケ。



そんな傍観者をよそに、視線の先の戦場で、決戦は今にも始まろうとしていた。
















~~~~~




「あの罠の網を抜けてきたか………大したものだ」

褒めているような言葉。しかしそこに感心の意は含まれておらず、忍者達にとっては皮肉に聞こていた。

「よく言いますね、アレほど広範囲にばらまいておいて………それよりも」

「ああ、鬼人か? ―――知らんよ。ボロ雑巾になった影達は今迎えに行っているが」

「迎えに………十尾ですか」

視界の端。蠢く黒を見た白が、顔を歪める。

「今は、だが………取り敢えず殺すつもりはない。約束があるのでな」

「約束………?」

「お前には関係ないことだ………いや、あるといえばあるのか」

「戯言を………そちらの都合に付き合うつもありはありません。もう一度聞きます、再不斬さんはどこですか?」

結構な量の殺気をこめながら、白が問う。しかし、ペインはそれもそよ風程度にしか感じ無かったのか、軽く肩をすくめながら答えを返した。

「知らんよ。そこらに居るだろうから、探せば見つかる………出来れば、だが」

長門の挑発。白は激昂しそうになったが、その寸前でキラービーが口を挟んだ。

「………ブラザーもかよ、影達もかよ♪」

「ああ、一人残らずな……そして二人、更に増えることになる」

長門は懐から黒い、針のような刀を取り出した。

そうして、空気が一片する。
戦場の空気へと加速していく。

「落ち着けよ、シスター♪」

「何を………いえ、すみません。あのまま突っ込んでいったら、まずいことになっていましたね」

「………」

「え、どうしました?」

黙るキラービーに、白が問う。キラービーは少し黙った後、少し笑いながら。

白の疑問に答えた。

「いや、素直だなと………俺が人柱力と知っているのか♪」

「え、今知りましたけどそれが何か………?」

「………ノープロブレム、ん、礼はいらない、一人はツライし、こいつ強い、おまけに無頼♪」

「それでは共闘をお願いします」

場違いなラップ調の言葉に白は頬を引きつらせながらも、その申し出を受け入れた。

『っておい、ビー! うぜーラップしている場合じゃねえぞ、こいつ並じゃねえ!』

「分かってるよ、いざとなったら頼むぜ相棒!」

「………来ます!」



白&キラービー対、ペイン。



ここにまた、絶望的な戦いが始まっていた。












~~~~~~~









「シズネ、くそ………大丈夫か!」

「つ、なで、様………?」

「く、意識はあるようだな………今は喋るな、すぐに手当を………」

と、綱手は掌仙術でシズネの傷を癒していく。

(肋骨骨折、全身打撲………くそ、腎臓も破裂してやがる!)

だが吹き飛んでいないのであの時よりはマシか、と綱手は治療を続けた。
流石の医療忍術の第一人者である綱手の掌仙術は見事なもので、シズネの傷はみるみる内に塞がっていく。

「すみません、こんな時に………」

「言うな。お前は死なせんぞ、絶対に!」

綱手はシズネの言いたいことを理解しながら、それでも言うなと口を塞ぐ。
里の指導者、火影の立場にある綱手としては。このような事態に陥った場合、本当は一刻も早く自分だけでも安全な場所へ逃げるべきなのだ。

「シズネ、お前の言いたいことは分かるつもりだ………しかし、私はもう二度と…………」

ダンのように。目の前で、助けられる誰かを死なせたりはしないと、綱手は言う。
そこで、シズネははっとした。

先ほどの綱手の言葉を、思い出していたのだ。

(そうか、おじさまも腎臓を………)

シズネは、自分の叔父であるダンが死んだ時の状態を思い出していた。
人づてに聞いたのだが、叔父は敵の攻撃により腎臓自体を吹き飛ばされていたため、綱手様の腕をもっても、治療することが出来ない状態に陥っていたのだと。

「死なせんぞ………絶対に死なせん。二度と、私の目の前で死なせるものか!」

「綱手様………! しかし、貴方は火影の――――」

役割があるのですから、と叫ぶその前に。

背後から、男の声がかかった。


「その役割は、オレに任せてもらいましょうか」

「な、カカシ!? お前も大丈夫なのか?」

振り返った綱手は、治療を続けながら背後に居たカカシに声をかける。
カカシは、笑ってその問いに答えた。

「ええ、何とか。咄嗟に衝撃波を瞳術でかき消しましたから」

「………嘘を言うな。お前も酷い怪我をしているじゃないか!」

綱手はカカシの身体を見て、その怪我の度合いを一目で看破していた。
カカシはその言語に、苦笑を返しながら首を横に振った。

「流石に綱手様ですね………それならば余計に、死なせる訳にはいけませんよ」

「何を………カカシ、お前まさか………!?」

「カカシ、上忍………まさか、やめてください!」

驚いた声で、綱手が。息も絶え絶えに、シズネが。
カカシを止めようと、声をかける。

しかしカカシは、先ほどと同じ。笑顔のままで、首を横に振った。

「シズネさんは綱手様の補佐です。綱手様のことを一番よく分かっている。今の里にとって、誰よりも必要な人材です。ここで死なせる訳にはいきません」

「それはお前も同じだろう! 四代目との約束を、忘れた訳ではあるまい!」

「だからこそ、ですよ火影様。俺には今、出来ることがあります。そしてこの身体は生きて、動いている――――それならば、迷う余地はありません。火影は木の葉の象徴です、木の葉隠れそのもの。それを失う訳にはいきません。そう、オレよりも、です」

そう告げるカカシの全身からは、いつになく力強いチャクラが迸っていた。

「里の規律も、そしてオレの意地も――――今は、全て同じ方向を向いています」

「カカシ!」

「時間がありません………」

カカシはそう言うと、眼前を指し示した。その先には、十尾の塊があった。
それはどんどん大きくなりながら、カカシ達のもとへと近付いている。

「オレが時間稼ぎをします……だから、綱手様はシズネさんを連れて逃げください」


そう告げると、返答を聞く前に走りだした。

カカシは、見捨てろとは言わない。火影らしからぬ対処を諌めることもしない。

ただ笑い―――守るべき存在だと、改めて思うだけであった。






「仲間を大切にしない奴は、最低のクズだ……………そうだよな」





オビト、と。

リン、と。





ボロボロのカカシは、笑みを浮かべながら走る速度を上げた。















~~~~~~~


鉄のぶつかり合う音。長門、キラービーの二人の前で、鉄がぶつかっては弾かれ、またその繰り返し。

「はっ!」

「ふんっ!」

両者とも同じ、刀に雷遁のチャクラを流した剣で斬り合っていた。
並の鉄ならば切り裂く斬撃の応酬。

雷光の軌跡が両者の間で踊り、ぶつかり合う度に火花を散らし、一呼吸もまたず紡がれる。
互いに全力、その斬撃には一切の遊びもなかった。

片や尾獣のチャクラ、人外のチャクラによる肉体活性。
片や半ば変質した妖魔の肉体、人外のチャクラを交えた規格外の膂力、もっとも崇高な眼。

一秒に2つの斬撃が交換され、絶え間ない音の演舞を奏でていた。
まるで太鼓の連打のように、鉄の打たれる音が鳴り響く。

「―――」

「――――」

そこから、二人の動きが変わった。様子見から、本来の動きへと移行したのだ。

その太刀筋には、両者の特性が現れていた。キラービーは大胆な動きで複数の刀を身体の各所で操り、相手には読みにくい奇抜な太刀筋を繰り出している。
長門は不規則な動きをその都度見切り、雷光の反射速度でもって二刀を繰り出す。ある時は刀を盾にして、キラービーの猛攻を防いでいた。

両者どちらが優勢というわけでもない、その攻防は全くの互角であった。
白はそんな二人の攻防をじっと見ながら割って入る隙を狙っているが、下手に手を出せばキラービーに当たってしまう可能性があるため、迂闊には手を出せない。


――――そして、刀を交わし合うこと十分とすこし。
形勢は徐々にだが、長門の方へと傾いていた。

「どうした、息が上がっているぞ!」

「くっ、はっ、とっ!?」

頬を掠めた斬撃に、キラービーが焦りの声をあげる。
しかし声にならない。息が切れているのだ。
その要因は、体力。片や二刀片や全身を使った八刀にあった。

全身を稼動させるキラービーの剣術は確かに優れているが、体力の消耗が激しいという欠点もある。しかも目の前の人物が人物なので、いつもより余計に体力を消耗せざるを得ない。
城を吹き飛ばした術を警戒しているのもあり、体力の消耗もまた激しい。

片や長門の身体は正真正銘人外の肉体で、その体力は無尽蔵に近い。

時間が経つにつれ、形勢が傾いていくのは自明の理であった。

『ビー、このままじゃジリ貧だぞ!』

(分かってるよ、バーロー!)

キラービーは心の中で叫びながら、八尾を一部だけ具現化しようとする。

「させるか!」

だがそのチャクラの流れを読まれ、具現化する寸前にこれでもかという程の斬撃を叩き込まれた。
キラービーはたまらず守勢に回る。だが完全には防ぎきれず、身体に幾筋かの赤い帯を刻まれた。

「嫌な眼してるなこのやろー!」

不利を悟ったキラービーは大きく飛び退いた。

『ビー、様子見なんて探ってる場合じゃねーぞ』

「OK、了解、全開だ!」

そして着地の直後、内にある尾獣のチャクラを引き出した。

「ヨッ、と!」

引き出された尾獣のチャクラが、キラービーの身体の周りに集まる。
人形のサイズに収まるまで圧縮されたチャクラはやがてその色を黒に変えた。


「尾獣化――――じゃないな」


しかし大したものだ、と長門は両手を前にだした。



「行くぜェ!」

地面が爆発する程の踏み込みにより、走りだしたキラービー。
そのまま、腕を長門の首を狩る勢いで、思いっきり振り抜いた。

しかし長門は先読みをして、その場から跳躍。
キラービーによる必殺の一撃、"雷犂熱刀"が虚しく空を切る。

「っ、チャクラが!?」

交差した瞬間、消えていったチャクラの行先を目視したキラービーが、驚きの声をあげる。

「返すぞ!」


餓鬼道の能力でチャクラを吸い取ったペインは、そのチャクラを還元することなく、そのまま斥力によって手元で圧縮。
莫大なチャクラを砲弾に見立て、そのままキラービーの元へと放った。

(やばいぜ、けばい♪)

キラービーはその不意の一撃を見て避けきることは出来ないと判断し、そのまま受け止めようと手にチャクラを集中した。

「いえ、させません!」

そこに、乙女の氷壁が立ちふさがる。

――――氷遁・千年氷壁。

白はキラービーの前に踊り出ると、一気に練り上げたチャクラで足元の雪に触れ、自らの性質変化と物質変換を混ざり合わせて結合。
千年は続くであろう堅牢極まる氷の壁を創りだした。

そして、砲弾を弾いた。しかしチャクラ砲弾の威力も大したもので、氷壁の前に止められはすれど、辺りに破壊をまき散らした。

舞い上がった雪が散らばり、チャクラ砲弾の余熱と混ざり合い、その場に白い煙が発生した。


「助かったぜ……ありがとうよ」

「いえ、あまり役に立てていないようですし、これぐらいは」

「そんなこと無い、仕方ない♪ アンタもやるね、お茶でもどう♪」

「あはは、遠慮しておきます」

「oh、残念♪」

「それよりも、どうしましょうか。正直打つ手なしなんですが」

そもそも五影が無理な相手を自分がどうにか出来るのか、と白は不安になる。

「それでも逃げないアンタは偉い」

「自分に正直なだけですよ。何とかすり抜けるかして、助力を請いたいのですが………」

「ああ確かに、このままじゃチトまずいな」

口調をわずかに変えたキラービーは、口に手をあて考え出す。
そこに、八尾の尾獣の声が入った。

『ビー………分かったぞ。あいつはあいつだ、ほら、あの声の持ち主だ』

「………というと殺すと言った、あの野郎?」

『ああ。ユギトをやったのも恐らくこいつだ』

「そうか………」

キラービーは八尾の言葉を聞いて少し硬直したが、煙が晴れるといつもの調子に戻っていた。

「高速の守り手か………なるほど、厄介だな」

知ってはいたが、と長門は無表情のまま、舌打ちをする。

「それほどでもありませんが………知っていた?」

「あるつてでな。いや何、大したものだ、誇っていいと思うぞ。だが………お前は人柱力を恐れないのだな」

「………はい?」

何を言っているのか、と訝しげな顔をする白。
構わず、長門は続けた。

「知っての通り、今お前が背後に守っている男は八尾の人柱力なのだが………怖くはないのか?」

「それがどうした、ですよ」

笑い、自信を持って答える白。

「それに………自分がされた事を、他人にしようとは思いません。辛さも理不尽さも、知っていますから」

それを聞いた長門は笑い、キラービーは静かに驚きを示していた。

「それに何となくだけど、この人は信じられるような、そんな気がするんです。なら、一度信じてみるというのもアリではないでしょうか」

「忍者らしからぬ思考だと思うが…………痛みを知っているから、か。忍者がお前のような者ばかりであればな」

しかし今は言うべき時ではないと、長門は黙って、一歩下がった。

裾から刀を出し、両手に持って構えた。
動じ、それまでも桁外れだったチャクラが、更に増加していく。天井など知らないというように、高く、強く。

白はその圧力に圧され、後ろに一歩下がる。

「任せろ、行かせろ、後ろに下がってろ♪」

キラービーはそんな白の肩を軽く掴み、後ろに下がらせる。

「しかし………」

「心配すんな、気にすんな♪ 何よりこいつは、あいつの怨敵♪」

いつものラップ調の言葉。しかし、次の言葉は違った。


「ありがとよ、期待に答えてみるぜ」



先ほどとは違う、真剣な声。

キラービーのチャクラも、大きくなっていった。




「oh、行くぜ相棒、このまま進もう、様子見終わりの超猛進!」



吠える声と共に。





「ウィィィィィィィーーー!」



キラービーは尾獣化し、八尾の尾獣へとその姿を変えた。

余波で衝撃波が発生し、近くにいた二人を巻き込む。落着された地面があまりの重量によって砕け、そこらじゅうに散らばる。

地響きが、あたり一体に鳴り響いた。


「くっ、これが………!」

白は離れながら、それを見た。

「今代の八尾の尾獣か…………!」

長門も少し離れた場所から、しかし正面でそれを見た。


雄叫びを以て現れたるは――――蛸の牛鬼。桁外れのチャクラを持つ、八本の尾のようなものを持つ怪物。

そして、八尾の人柱力の姿があった。

「尾というよりは足だが………言ってる場合でもないか」

長門は刀を捨てながら、じっと八尾を見据えた。
あるいはこいつを出す必要があるかもしれんと、足で地面を数回叩いた。そのまま腰を落とす。

『「いくぜ!」』

手加減一切不要と、キラービーは初撃から仕留めにかかる。大きく後方へ跳躍し、チャクラを全力で練り、チャクラ球を飲み込んだ。

口から、煙が流れる。そして、次の瞬間だ。


『「オラァ!」』

気合の怒号と共に、超超高密度に高められた黒色の砲弾が長門へと放たれた。

長門は餓鬼道の力を使い、それを吸収しようとしたが――――

(流石にこれは吸収しきれないか!)

その全てを吸いきれず。
吸収しきれなかった砲弾が衣を貫き、近場の地面に着弾する。

砲弾は地面を豪快にめくり、土と岩が爆発にさらされ、宙に舞った。
長門もその爆風にあおられ、同じく宙に舞った。

そこに、更なる追撃が重ねられる。キラービーは八尾の足を駆使しながら、そこら中にある岩塊を投げつけた。
人一人を潰すには十分過ぎるほどに巨大な岩が、長門のもとへ殺到する。

「風遁・風神烈破!」

長門はそれを真空の竜巻で迎撃する。それはいつかの戦いで見せた巨大な風の奔流。
岩をも砕く真空の刃が、襲い来る岩塊を礫へと変えていった。

そして、竜巻が収まった後。

そこには、腰を落とし何かを抱えている長門の姿があった。

「風遁―――」

『ビー!』

(了解!)

八尾は目の前に移るチャクラと、敵の抱え込む風の塊から何の攻撃が来るのかを察し、相棒に告げた。
それに応じ、キラービーは3本の足を防御に回した。

「風神砲弾!」

直後、風の砲弾が放たれた。形態変化で極限まで圧縮された風の塊が、八尾の足に直撃する。
着弾と同時に圧縮は解かれ、真空の大鎌となって八尾の足をきれいにすっぱりと切り裂いた。

『「痛えな馬鹿やろ―この野郎!」』

だが八尾の足は何度でも生え変わる。
キラービーは生え変わった足も含めた、八本全てを持って長門へと襲いかかった。

だが長門には届かない。長門は寸前まで迫った足を巧みに躱しながら、"地面を手で叩いていく"。

仕上げに、キラービーに向かって叫んだ。

「どうした、動きが鈍いぞ! こんなものか!」

「うるせー、喰らえ馬鹿やろーこのヤロー!」

挑発を受けたキラービーはそれでも動じず、だが全力の攻撃に出た。
自分が操れる八本の足を同時に動かし、八方向全てから攻撃を仕掛けたのだ。

「くっ!」

これは逃げ場が無いと長門は判断し、その場から大きく後方へと跳躍した。
しかし全ては避けきれず、腕の一本が長門の全身を打ち据え、遠くへ吹き飛ばした。

「チャンスだ、行くぜ相棒!」

キラービーはそれを好機と判断し、防げなかった最初の一撃、チャクラの砲弾で以て爆砕すべく、八尾のチャクラを口元に集中した。

全身からかき集められたチャクラが、八尾の顔の前に集結され、圧縮されていく。高圧縮されたチャクラは、そのあまりの密度に黒くなり、漆黒の球体へとその姿を変えていく。

それは、最初の一撃と比べれば3倍にもなる程の量だった。遠目から見れば、まるで虚空じみた黒い穴のよう。


だが―――集められた、瞬間に。

『―――っ! ビー、待て!』

集められた砲弾が、砲身――――口内へと含まれる、直前に。

起き上がった長門は、キラービーの方を見ながらほくそ笑み、走りだした。

(前に………!?)

その行動を、キラービーは怪しむ。

しかし、この砲弾は防げないはずだ。全身全力をこめたこの一撃であれば、敵がいかな防御をとろうと突き破れる。それだけの自信が籠められた一撃。

だけど。
口の中へと、チャクラの砲弾が飲み込まれる、その寸前に。

"上を向いた"その瞬間、長門の柏手の音が鳴り響き――――



遠くで見ていた白が、まずいと呟き、助けに入ろうとする。


"地面の中から出てきた"、巨大な筒を破壊しようとする。


しかし、あまりにも距離が離れすぎていて。



直後、それは弾け――――大爆発。爆圧と炎と衝撃波と、その他もろもろを周囲にまき散らした。

八尾は直下、死角から襲ってきた爆発に身をひるませて――――


「が、しまっ………!?」



チャクラの塊を圧縮する、そのコントロールを失い――――チャクラは、破壊の意志をもって宙で四散した。


再び、否。先ほどとは規模の違う爆発が、八尾の前で炸裂した。





『「があああああああああああああああっ!!??」』


足も顔も身体も、口内も。爆発に全身が焼かれ嬲られ、キラービーと八尾は激痛に身悶えた。

そして苦しみに、唸り、天を仰ぎ―――――――そこに、敵の姿をみつけた。


キラービーが見た長門は空に浮かび、両手を天につきだしていた。

そして、右手にチャクラを込めていた。


里一つは吹き飛ばせるだろう、それだけのチャクラを、その手に装填していたのだ。


激痛に薄れる意識の中、キラービーは見た。

長門が勝利を確信した笑みを浮かべているのを。


「神羅、天征!」


振り下ろされた、掌打と共に。


八尾の全身を覆える程に巨大な不可視の槌が、八尾へと振り下ろされた。








~~~~




「うわっ、何!?」

森の中、国境を少し越えた場所。突如襲ってきた口寄せの獣を相手にしていたキリハ達は、周囲に突然広がった強風にあおられた。

風に煽られ、砂が飛び散る。口寄せの獣はその風圧をまともに受け、転けた。

忍び達は顔をかばいながら、その風が来た方向を見る。


そこには、人が居た。人間が、空に舞っていた。


「あれは………暁の衣!」

火影の護衛部隊の一員である、日向一族の者が叫んだ。

「キラービー様の姿は見えていたけど………やはり暁と戦われていたのか!」

雲隠れの上忍、サムイが叫ぶ。弟子である雲隠れの忍者、カルイとオモイは、再び立ち上がりその方向をじっと見る。

「おい、キラービー様………立ち上がってこないぞ?」

「まさか………暁の奴は生きているってのに!」

やられたのか、という言葉。その言葉は、忍び達に動揺を引き起こしていた。

吹き飛ばされた城の、その時の光景も、忍び達の中に焦りの種として植えこまれていた。

ひょっとすれば、五影も人柱力も倒されたのではないか。

ダメージを与えても与えても倒れない、目の前の獣の異様さと強さ。
そして張り巡らされた罠の規模、その精度と。

影達をも圧倒したかもしれない、敵。
その未知の敵は、未知故にその大きさが肥大化されていった。やがてそれは恐怖となって忍び達の心を襲う。


弱気が、心を犯していく。自分の戦意を保つだけで、精いっぱいになって。


だから、気づけなかった。



罠に仕掛けられていた、チャクラを吸い取る術。


抜けた筈の罠、時限式の術が、ゼツの胞子の術が。


知らぬうちに追いつかれて、その菌が今まさに周囲にばらまかれていることを、察知できなかった。


そして、気づいた時にはもう遅かったのである。








あとがき

原作で、白が死んだ後に再不斬が弱くなった理由って、カカシに追いつけなくなった理由って、きっとこういうことだと思うんですよ。
白の言葉の通り、再不斬は心底守りたいものが無くなったから、弱くなったと。



[9402] 小池メンマのラーメン日誌 八十八話 「意志、燦燦と」
Name: 岳◆3d336029 ID:0347f440
Date: 2010/11/26 22:13


「最後の最後に、やってくれる」

俺は自らの肩と足に突き刺さった、触手。細く固く尖らされた足のようなものを引き抜きながら、舌打ちをする。

それは、神羅天征を受ける寸前にキラービーが放った最後の悪あがき。術の寸前に放たれたせいで、まともに喰らってしまった攻撃。

(………イタチの、いや八尾の最後っ屁というやつか)

と、そこで俺は自重した。何故か関係各所から、ものすごい勢いで苦情が来そうだったからだ。

(しかし、数分もすれば元に戻る程度の傷―――いや、戻ってしまう程度の傷か)

ならばキラービーの状態を確認することを優先しようと、俺はクレーターに向けて歩き出す。

目の前に映る、いつもの通りの大陥没。図体がでかい尾獣に対する切り札ともなる一撃、神羅天征による範囲衝撃波が直撃した痕跡が、いつものように広がっている。いつもよりは威力を高めにしたせいか、クレーターの大きさは以前よりも大きいが。

それでもこの光景を見るのは、何度目だろうか。

(そして………同じか)

俺はクレーターの中心で横たわっているキラービーの姿を確認した。八尾の尾獣化は気絶すると同時に解けたようだ。

「死んではいないようだが………ッ!」

ふと聞こえてきた声。

『喰らえ』という声に、俺はいつもの通り――――否。

いつもとは違い、首を横に振る。
八尾を飲み込むのは、約束に反することだ。今は、喰らえない。

俺は深呼吸をしながら、暴れようとする十尾を何とか抑えつけた。

そして、誰か残っていないか、誰かが駆けつけてこないかを探ることにした。

すると、巨大なクレーターから少し離れた所で、誰かが倒れているのが見えた。
チャクラパターンから誰かを判断する。それは先ほど対峙した霧隠れの白であった。

衝撃波の余波に巻き込まれたのか、うつ伏せになって倒れている。

すわ死んだのかとも思ったが、チャクラが消えていないのでまだ生きているだろう。

そしてまだ動けるようで、彼女は苦悶の声を上げながらも立ち上がろうとしていた。


そして、顔を上げたその少女は。否、少女から女性に成ろうとしている者の顔は、少し小南に似ているように思えた。

(いや………どうだったかな)

もしかしたら、黒い髪に白い肌、という点でしか似ていないのかもしれない、と。
そこで俺は小南の顔をはっきりとは思い出せないことに気がついた。胸の軋みが強くなる。
十年は一昔だというが、それでも親友の顔と声を、はっきりと思い出せなくなるのは辛いことだ。

あるいは、オレが俺へと変質したせいなのか。
しかし………それでも、忘れないことがあった。

ぐちゃぐちゃになった記憶の片隅にあり、それでいてもっとも輝いている大切な大切な記憶。
十代で死んだ、親友の最後の言葉を思い出す。

それは雨隠れの半蔵を倒し――――でも完膚なきまでに敗北して。よりにもよって自分に負けて、そして逃げ帰ったあのアジトで聞いた言葉。

正気を取り戻し、十尾による封印状態から、瀕死だった二人を解放した後に、遺言として伝えられた言葉。

(………ここは、私たちが出会った世界だから、か)

俺は思い出し、弥彦と小南と交わした約束を再び胸に刻む。

しかし重苦しい十尾の気配がそれを邪魔する。俺はたまらず、空を見上げた。

しかし空は曇天、黒い色が見えるだけで、爽快な青は覆い隠されているだけ。
今の俺にはお似合いかもしれないが。

黒い空。隠された青を想い、俺はふと考えた。
―――全てが終わった時。あの二人は、笑っていてくれるだろうかと。

俺の中にある憎しみの塊は未だ収まらず、恐らくこれから先も消えることはないだろう。
六道仙人の言うとおり、楔として打ち込まれた根は絶やすことが出来ないのだ。

影を前にしてそれがはっきりと分かった。怨敵を前に、俺は俺を保てない。

………俺自信が抑えたくないというのもあるが。

忌むべき相手を思い出す。歌にできるほどに禍根が存在する、怨敵のことを。
理屈の上でも、理屈ではない感情の部分でも、はっきりとした言葉が浮かぶ。

大嫌いだ、と。

子供じみた癇癪と言われようが構わない、あのような場を生み出した原因に対して、"素直"に対応できる方が異常だ。
綺麗事を並べて和解するぐらいなら、俺は喜んで自殺する方を選ぶだろう。

『………理解はできるが、難儀も極まる。時間も、もう無いぞ』

(それは分かっている)

『迷っているのか?』

(貴方と同じぐらいにはね)

六道の人格との、埒も開かない問いかけ。意味がないと俺は首を振って、頭を正常な状態に戻す。
今何よりも考えるべきことは、十尾の侵食の、その度合いについてだ。

五影との対峙、キラービーとの一戦で理解した。
もう自分は――――雷影と力比べをして、圧倒"できてしまう"程に侵食が進んでいる。
有利な状況ではあれど、手練の忍び十六人を相手にして勝てるほどの。

『地爆天星はもう使えんぞ』

(言われずとも理解している)

周囲の岩を引き寄せ、その外殻の中にあらゆるものを封印する術。
忍術その他もろもろ例外なく封印する切り札中の切り札とも言える術だったが、一日一回という制限があるせいでもう使えまい。

無理をすれば身体は更に侵食され、その形を異形のものに変えられるだろう。
尾獣のチャクラをコントロールできず、その霊格の差から身体全てを侵食されてしまった、人柱力のように。

見れば、今でもその片鱗が見え隠れしている。身体にのこっている違和感がその証拠だった。
肉体の形、たとえば爪などの末端部分はまだ人間の形を残しているようだが、それも時間の問題かもしれない。

(ん………完了したか)

そんなことを考えていると、離れた場所に居る十尾から情報が入った。
どうやら五影とその護衛達は………火影と護衛のくノ一。そしてあの二人を除いた全員を捕えることができたようだ。

一人は、はたけカカシ――――流石に戦争、忍界大戦をを経験しているだけはある。実戦経験も他の護衛の忍びより頭三つ分くらい抜けているだろうが、それでも先の一撃に対する咄嗟の防御行動は見事のひとことに尽きる。
地爆天星で引き寄せられる寸前、鎖分銅を壊れていた岩人形に巻きつけ、その距離を稼ぐとは。今こうして、火影を守りきれるだけ動けているの余力を残しているのは、感服に値する。

もう一人は、桃地再不斬。先に受けた拳でアバラに骨が入っているのは確認している。しかしあの瞬間、奴は愛刀を盾にして、同時に身体を後方へ流した。衝撃波の威力の半分は受け流されただろう。
だがそれでも、あちこちダメージを受けているはず。なのに、捕らえに放った十尾の欠片を返り討ちに出来るほどの力を残しているとは。水影暗殺に踏み切ったというその決断力と胆力、タフさ加減は流石といった所。


そして、二人とも同じに。
まだ諦めていないのが、分かった。

(ならば答えよう。何より俺は、見極めなければならないのだから)

『苦労を、かけるな』

(………勘違いしないでほしい。"俺が"選んだ方法だ。重し苦しも、誰にも背負わせる気はない)

俺は捕らえた者達をそのまま十尾で覆い、チャクラも練られない状態で拘束。
そしてゆっくりと、目的の場所へと運んでいくように指示する。

その時、ゼツから連絡が入った。

(コッチモ、モンダイナシ。ケイセイハキマッタ、モウジカンノモンダイダヨ)

(そうか………分かった、ありがとう。後は頼んだぞ)

礼を言いながら、罠の中に居る護衛部隊のことを頼む。
動ける忍者はもう少ない。白、そしてまだ捕らえきれていない二人が最後。


そして俺は火影の元に影分身を送った。


"何にも変えられない人質"が居るので、抵抗はすまい。



そして、この3人を沈黙させることが出来れば―――――最後の、仕上げだ。



待ってくれ、と俺は言った。

待っている、とうずまきナルトは、小池メンマが答えた。


勝手な約束だったが、あいつはそれを守っているようだ。
監視しているうちは兄弟が動かないことから、それが分かる。

(一応………こちらから影分身を送っておくか)

手は出さないだろうが、万が一ということもある。
今ここで姿を見られるのは不味いということ、彼等も承知しているだろうから、その心配はないだろうが。

それに、何事か言い含められているのは確かだ。
きっちりと約束を守っている事が分かった。


あるいはメンマ―――彼は、俺の行動から何かを察したか。

もしくは符号に気づいたのか。


いや、それは対峙すれば分かるだろう。

告げた言葉の中に含まれている嘘、それに気づいてはいても、彼は来ざるを得ない。
生きていく中で触れ合った人々と、それだけの関わりは出来ていて。それらを無視できる程に薄情じゃないことは、今までの行動理念からも分かる。


ふと俺は、鬼の国の夜――――彼が木の葉の暗部と対峙した時の事を思い出していた。

客観的に見て、勝率は五割も無かった。いや、もっと悪かっただろう。

つまりは生きるか死ぬかの勝負、本当の意味での殺し合い。

それを決心した理由は先代のザンゲツや女将にそれとなく聞いた。

それは酷く真っ当で―――しかし誰もが自分の命惜しさに捨てるか見なかったことにする理由。


それでも許せないと言って、命を賭けたあの瞬間に始まったのだ。


彼の望むであろう物語。紫苑に話した自分の夢、"小池メンマのラーメン日誌"という荒唐無稽かつ壮大、ちょっと間抜けな夢。

それと平行して俺が描いた、それとなく指し示した、物語が。それもようやく、終幕に入っている。



「………ともすれば、茶番となるが」


最後の演目。彼が演じきれなければ、未曾有の大惨事、これ以上ない悲劇となるだろう。

忍者は否定され、世は再び荒れることになる。

それらが決まる、最後の、一幕――――その開幕の時間は、刻一刻と迫っている。




(願わくば、俺は俺のままで、最後まで)







二度と自分を放り出さず。


心が、世界に――――憎しみに。押しつぶされるその前に、最後を迎えたいと、そう思った。





























小池メンマのラーメン日誌

 八十八話 【 意志、燦燦と 】

























神羅天征の余波に巻き込まれ、倒れていた白。意識を取り戻すと痛む身体を抑えながらも何とか立ち上がり、周囲を見回した。

「これは………」

えぐれた地面。なぎ倒された木々。チャクラ砲弾が爆発したせいか、降り積もっていた雪も見事に吹き飛んでいた。
その惨状に驚いた後、戦っていた人が消えいているのに気づいた白は、クレーターの中を覗き込んだ。

八尾の巨体の2倍はあろうかという、巨大クレーターの中心。
白はその中心で、人間の姿に戻り横向きに寝転がっているキラービーの姿を見つけた。

白は死んでいるのかと思い、すぐさまキラービーの元へと駆け寄った。
身体を触り、脈を取る。

(―――弱けど、脈はある)

白はキラービーがまだ生きていることが分かり、ひとまず安心と、小さく息をついた。

しかし怪我は酷く、すぐさま動けるような状態ではないと分かった白は、自分がどうするべきなのか、また怪我がどの程度なのか、キラービーの身体を触診する。

(酷い怪我だ、全身の骨が………いや、無理もないか、この惨状じゃあ………)

白は周囲を見回し、その惨状を見ながら冷や汗を流す。これだけの威力だ、常人ならば轢死体となって転がっているだろう。

そして、この惨事を引き起こした人物はすぐ近くに居るのだ。
白はどうしようかと、対策を考え始めたが――――そこに、声がかけられる。


「……生きているか」

「ええ、生憎と」

聞いた声、先にも感じた威圧感。白はそれらに圧され、そこから逃げ出したい衝動に駆られたが、意地と気力で踏みとどまった。
声が震えてしまったが、何とか皮肉で返し――――ここからどうするべきか、思考を加速させる。

(取り敢えず、考える時間と………身体が回復する時間を稼ぐ)

今飛びかかられてはたまらないと、白は愛用の千本を取り出し腰を落として戦闘の構えと取った。キラービーを背後に守りつつ、臨戦態勢に入ったのだ。
これはまだ自分に余力があるとペインに思わせるための苦肉の索。

動揺を隠し、毅然と立ち向かうことで、こちらに何か手があると思わせて、その上で時間を稼ぐ方策だ。

(少なくとも………三半規管の動揺が収まるまでは、この状態を保ちたいですね)

出来ることならば逃げながら、あるいは距離を取って時間を稼ぎたかったが、白にはそれができなかった。
背後で気絶している彼、キラービーを奪われるのは何よりも避けなければいけないことと判断していたからだ。

(援軍は………期待できないようですね、残念ながら)

背後の、罠がかけられていた森の方を横目で見ながら、白は舌打ちをする。
特殊な口寄せの獣と、幻術がそこかしこに仕掛けられていた森。ここからそう距離は離れていないはずだが、それでも抜け出てきた者はいないこと、その理由を考える。

(罠の突破に、あの獣達を倒すのに時間がかかっているだけ………いや、期待しすぎるのも危険ですか)

白はここにくる途中で、呼び出された口寄せの獣達を見ていた。見たことのない外見をしていた口寄せ獣達は異様な外見をしており、また相当の力を保持している。
手練の忍びといえどあの獣達に群れで襲われれば、苦戦するだろうと白は判断していた。

それは残った者たちも同じだろう。取った方策が違うだけ。

白は再不斬その他、五影の様子を確認することを優先し。
白以外の忍び達は、自らの影達の退避ルートを確保することを優先したのだ。

残った者たちは、自らの里の頂点がそう簡単にやられる訳はないと思っていたのだろう。

――――加えていえば、恐怖を感じているのもあった。
見たことのない化物、十尾へと近づくのを恐れていた者も、確かに存在していて、それが彼等の足を止めたのであった。


(時間がかかっているのか――――ーそれとも、負けたのか)


護衛部隊の面子を思い出す。護衛の部隊、それなりの面子はいたが、自来也のような図抜けた"格"を持つ忍びがいないことが、白には分かっていた。

木の葉の主力であろう、波風キリハと奈良シカマルは怪我が完治していないし、砂隠れの主力と思われるテマリもまた同じ。

(霧と同じで………里の防備に力を集中させましたか)

それも失策でしたか、と白はため息をついた。

そしてとりうる方策のほとんどが潰されていることを理解した。

(八尾がやられたのはあの位置からも見えるだろうから、士気が低下しているのは確か………他に罠がないとも限らない。そうなれば全滅は必至)

白は最悪の事態を想定し――――そして、それを打破する方法を考えた。それは逃亡生活の中でついた癖である。
今、自分が最悪の状況に陥っているとして――――その上で何を優先すべきか、そして自分に何が出来るかを考えるのだ。

まず、勝てるかどうかということだが、それは否であると白は結論づけた。彼我の実力差は絶望的で、そんな夢物語を見ていては足元を掬われるだけだと。
ペインの移動速度と自分の移動速度を比較から、逃げることも不可能。

ならば、降参することを除いて―――答えは一つしかない。
白は千本を握る手にぎゅっと力を込めた。

(勝てない、逃げることも駄目………降参は論外。ならば――――勝てる相手がここに来るまでの、時間稼ぎ)

それは、信頼の証。

(再不斬さんは死んでいない。メンマさんは来ていない。あの二人ならば、僕よりも可能性がある)

自分が勝てなくとも、勝てるかもしれない相手を知っている。

(他の影達も、生きているかもしれない。ならば、ここに来る筈………!)

対峙することで敵に隙をつくことが出来る。その隙を作れるのならば本望だ。
あるいは体力か気力か、何かを、消耗させることは出来る。


感じられる力は圧倒的で、破壊後に漂う敵の強さは凄まじい。

(勝てる見込みは無いけど――――だからどうした)

立っている。戦える。出来ることがある。忌み嫌われた力であろうと、それでも里の―――何より、あの人の力になることができると。
白は教わった言葉、勇気が出てくる魔法の言葉を心の中で繰り返し、自分の感情を奮い立たす

自分を強くした言葉を繰り返し、ゆっくりと、無駄なく、チャクラを練る。

ペインの背後、地面に広がっている水が、大気中の雪と結合され、かつてない速度で氷の鏡が構成されていく。

気づかれているのか。気づかれていないのか。
どちらか分からないが、それでもやるしかないことを、白は理解していた。


(敵はあまりに強大。状況は過ぎる程に絶望的。チャクラ残存も、心もとない)


羅列する。認める。その上で、否定する。



「――――だからどうした!」


その叫びと共に、白は飛んだ。

それは忍界でも最高峰の速度を誇る、秘術・魔鏡氷晶の一撃。


前進する意志と共に繰り出された千本の一閃は、驚愕の顔に染まるペインの、その頬を掠めた。









~~~~~~~





(なっ………!?)

躱しきれなかったペインの顔が、驚愕に染まる。

ペインは輪廻眼による洞察眼、雷光の反射速度を駆使したはずだった。そして狙われた場所、喉への直撃はさけられた。
しかしともすれば雷影よりも速いその一撃に、長門は傷をつけられていた。

(先ほど見た時よりも速い……!)

割って入った時とは格段に違うと、更なる驚きを見せる長門。

そこに、白の追撃が重ねられる。

長門は高速で迫り来る白を、神羅天征で吹き飛ばそうと手を上げたが―――。

「ちいッ!」

発動しない術に、長門が舌打ちを鳴らした。
白は構わずそこに一閃、長門の腕をわずかに裂くことに成功する。

(もっと間隔を空けねばならんか!)

先の一撃が大きすぎたか、と長門は再度舌打ちをし、時間を稼ぐべくその場から走りだした。

「術は使わないのですか!」

「それをお前は待っているだろう!」

長門は挑発に乗らず、神羅天征が再び使えるようになるまで時間を稼ぐべく、白との距離を開けようとする。

しかしその進行方向に突如、氷の鏡が現れた。

「近距離ならば!」

遠くにある鏡を砕くには術が必要で、そのためには印が必要で、しかし隙が出来る。
だが近くにあれば殴ればいいだけだと、長門はその鏡を自らの怪力で殴りつけた。

そして、鏡は砕けた。あまりにも、呆気無く。
その手応えの無さに長門が眉を潜めた瞬間。

「かかりましたね!」

白の氷遁術が発動する。
砕かれた氷は魔鏡氷晶のように硬い氷ではなく、偽物の鏡だ。

いとも容易く砕けた鏡は拳に砕かれ、宙にばらまかれるとそこで静止。
直後、標的に向かって一斉に襲いかかった。

「秘術・千殺水晶」

複雑に尖った氷の矢が、長門の元に殺到する。
だが魔鏡氷晶ならばともかく、今更そんな一撃に当たる長門ではない。

(餓鬼道も使えんが――――)

避けるだけならば訳はないと、長門は氷の刃群の軌跡を輪廻眼で容易く見切り、当たらない場所へ跳躍した。


―――しかし。


「なるほど………誘いか」

着地して見えた光景―――数間離れた場所に並ぶ、自分を取り囲むようにして配置された氷の鏡を見た長門は、今までの一連の動作が全て罠であったことを悟る。

「見事」

「――――賭けの部分も大きかったですけど。でも、囚えましたよ」

「ああ、囚えられたようだな。力任せではい、大した戦術だ」

秘術・魔鏡氷晶による囲いの中で、長門が感心したように頷いた。

(速度に優れたで攻撃を仕掛け、起点を設置。その軌跡と鏡の配置から退避ルートを限定して………)

そしてその先で氷の鏡を配置、それを打ち砕くように仕向け、仕上げに"避けやすいように"千殺水晶で攻撃を加えたのだ。

全ては、攻撃しながら仕組んでいた、この包囲網に飛び込ませるための布石。

「先ほどの術、今は使えないようですね。いえ………そうとも限りませんが、それでも構いません」

有利な状況で時間を稼がせてもらいます、と白は宣言する。

「頭も切れるか。この短時間で、大したものだが――――」

これならば使える、と。
長門は掌をかかげ、万象天引を使い、白を引き寄せるべく引力を発動した。

「くっ!?」

白は鏡の中から引き摺り出され、一瞬だけ焦った。しかし直後に気を取り直し、すぐさま対処のする。

しかし、白は心を止めない。相手はもとより覚悟の未知の敵。

「その程度で動じますかッ!」

引き寄せられながら捕まえられるまでの間。白は空中で魔鏡氷晶の術を使い、後ろの鏡へ戻ろうとした。
カカシが鎖分銅による踏ん張りと同じ、白は後方へ移動する推力で、引き寄せられるのを防いだのだ。

だが長門の引力も強く、白はそのまま空中で静止した。移動しようとする方向と、吸い寄せられる方向、両方のベクトルに働く力に身体を絞めつけられ、苦悶の表情を見せる。

「ぐっ………ならばッ!」

白は逃げるのは不可能だと判断し、後方への退避を断念。


全力で――――"前方へ"に退避する。


そこからは一瞬だった。引力と魔鏡氷晶のベクトルが重なり、白が尋常でない速度で加速。
同時に上下左右に展開している魔鏡氷晶への移動推力を制限し、引き寄せられる軌道を修正。

白はそのまま長門の脇を通り過ぎつつ、千本で再度腕を切り裂き、長門の背後にあった鏡へ退避することに成功した。


「く、似たような真似を―――」

「させませんよッ!」

長門が再び万象天引を使おうとした瞬間、白はさせまいと一気に攻勢に出た。

チャクラを練り、移動速度を極限まで高めての一斉攻撃。
長門は雷を纏い、輪廻眼で見切り、その攻撃を捌いていくが、完全には避けきれない。

掠り傷程度しかなかったが、徐々にその身体に、微々たるものだが痛手を与えていく。

「これは避けきれんか………ならば」

と、呟いた瞬間。

長門の表皮が、千本による攻撃を弾いた。
白は手応えが無くなったこと、折れて曲がった千本を見ながら、長門を観察する。

「皮膚が、固く………その術は、角都という人の?」

「土遁・土矛という」

長門は硬化した肌を見せながら、もう通じないと宣言した。

「この術………成程、速度は忍界でもトップクラスだろう。大したものだ。しかし、俺を倒すには足らんな」

千本による攻撃程度ならば、この硬化した身体ならば貫けまい。
そう言うと、長門は鏡に居る白の方を見た。

白はその視線を微妙にずらし、幻術を受けないように注意しながら、答えた。


「………重量のある武器を使えば、肝心の移動速度が落ちるので」

「そうだろうな。持たないのか?」

「やめておきますよ。貴方相手だと、最速で挑まなければ………簡単に捕まえられそうですからね。そんなリスクを犯す必要はない」

「生死を分ける勝負だ。賭けなければ勝てんぞ」

「ボクは貴方を倒せない。それは分かっています。キラービーさんとは違う。貴方を倒すだけの術を、ボクは持っていない。だが、勝てなくても負けないことはできる」

「………それは?」

「時間稼ぎですよ。この状況はボクにとっては上等。この囲いを破るには、貴方をもってしてもある程度の賭けが必要となる」

「かも、しれんな」

そのまま、二人は黙りこむ。

白は自らのチャクラの残量が徐々に減っていくのを感じつつ、それでも足止めすることを選んだ。
じっと長門を観察しながら、いつでも飛び出せるよう鏡の中に待機していた。

先ほどに見た風遁、あれを完全な形で放たれれば、一溜まりもないと考えたからだ。
印が完成するまでに牽制し、出来うる限り時間を稼ごうとしていた。


一方、長門の方も迂闊に動かないでいた。忍術を使えば氷は砕けるだろうか、この敵がそう易々とそれを許してくれるとは思っていなかった。
修羅道による爆撃も、途中で撃ち落される可能性がある。手加減の効かない火力は手当たりしだいにものを傷つけるだろう。そうなれば自分もダメージを受ける。

ならば、と長門は待つことにした。
神羅天征が使えるようになる数分後。万全の体勢を持って、この囲いを打破しようと。

(これは我慢比べ………)

(迂闊に動いた方が負ける、か。成程)

長門はひとりごちる。確かに、この敵には火力がない。キラービーのような、ともすれ自分に致命傷を与えることも可能な、規格外の術は持っていない。
しかし、別の意味で驚異的なものがある。

(戦術………大雑把な体術や忍術しか使えない人柱力ならば、出来ない芸当だな)

迂闊に手を出せば、不覚を取るかもしれない。
そう結論づけた長門は、やはり待つことにした。


誰かを待つ白と回復を待つ長門、二人は互いに待ちに入り、硬直状態に入った。


しかし―――その、数分の後。

長門は、ふと顔を上げると、口の端をわずかに上げてみせた。

「……どうしたんです?」

白は誘いかもしれないと思いながらも、尋ねることにした。
今の動作が、演技には見えなかったからだ。でもこちらの質問などには答えてくれないだろうな、と白は思っていたが――――その考えとは裏腹に。

長門はあっさりと何があったのか、どういう報告があったのかを話した。



「護衛部隊の全滅を確認―――援護は期待できない、ということだな」



「――――っ、そうですか」


これで、自分が最後。白はそんな状況に陥ってしまったことに動揺したが、すぐさまその心の揺らぎを押し殺した。
そのまま、膠着状態を保とうとする。

もとより、過度な期待はしていなかった白は、そのままじっと観察を続ける。

「今の言葉、嘘だとは思わないのか?」

「どちらでも変わりませんよ。ボクの役割も変わりません。ボクはここで、貴方を止める」

「一人だと言うのにか? ―――立派な覚悟だな。霧の忍び、血継限界を持つお前が………それは里のためか?」

「そうです」

自信をもって、白は答える。

「自信を虐げた里に、か? 霧隠れ体勢が変わったとはいえど、禍根は一朝一夕では埋まらないだろうに。お前は、自分を虐げた者が憎いのではないのか?」

問いかけるように、確かめるように。長門は、白に疑問の言葉を投げかけた。
その姿は隙だらけで、攻撃すれば急所を貫けそうだった。しかし白は罠だと考え、留まる事を選択した。

何より、相手の口調が気になっていた。侮蔑もせず、純粋に分からないといった風な感じだったからだ。
だから白は、その問いに答えることにした。

「そうですね…………憎くないといえば嘘になります。でも、ボクはもう誰かを傷つけたくありません」

白は波の国での事を思い出しながら、搾り出すようい言葉を紡いでいく。

「怖がる理由も分かりますよ。血継限界は恐ろしい。術者の意志一つで、人の命を容易く奪えてしまう。人は、本当に簡単に………死にます。力の無い人が恐れるのは当たり前のことでしょう。報復もしません。
 それこそが"忌むべき存在"の証明となってしまいます」

「………いっそ忍術など無かった方が――――関わらない方が良かったと思うことはあったか」

「何度も、ね。でも、それはできませんよ。何より………」


ふっと。白は笑い、言う。

その笑みに今までの思い出、辛かった過去を思い出しながら、それでも言った。


「あるものを、無かった事にはできませんから。既に起きた事は誰にも否定できない。例え神様が居るとして、あるものを無かったことにするなどできるハズがありません」

信じてはいませんが、と白は言う。

「父が母の力を忌み嫌い、そして母が殺され。そしてボクが、父を殺めたことは………無かったことは出来ません。父を殺したのは確かにボクです。でも、あの過去があって今がある」
 遠くセピア色になった風景は物哀しくて。でもあの隠れ家で、極彩色に彩られた生活は胸に刻まれています」

まだ幸せだった頃の食卓は、思い出す度に泣きそうになり。
それでも隠れ家での生活は、思い出すだけで笑えるように楽しく。

「あの時から今に繋がる道の途中で………ボクにも、友達ができました。一緒に笑いあえる、心の許せる人が」

多由也を思い出し、白は言う。
立派な夢を胸に、走り続ける友人を。初めてできた、同姓の友人を。

ご飯の前、皆に出す料理をつくりながら、どうしたらいいかなと相談して。
昼、修行の後。用意されたボクの好物を、照れくさそうに出してくれて。
夜、虫の音が響く中、それらを巻き込みながらも、より一層美しく―――心癒される音を聞きながら。

そんな、笑いあえる友達もできた。


「それに、あの人と………再不斬さんと出会えました。里を変えようというあの人の意志も知っています。求めるその先を――――夢を、知っています」

白は、知っていた。
再不斬が、どういった意志をもって、進んできたのかを。
世界中の誰よりも、神様よりも知っていた。

「だから、ボクは過去が辛くても………否定はしない。もしかしたらも、言いません。禍福は糾える縄の如し。しかし全ては道の中にあります」

「それでは、過去の想いはどうなる?」

「死んだ人と、過ぎ去った事だけは変えられない。だからボクはあの人と同じ、彼女と同じで――――過去を嘆くよりは、今から続く未来を変えることを選びます。死んで償えるものなど、何処にもないですから」

「………ならば、死んだ人の想いはどこにいく」

長門は白の言葉を聞いて、誰かを思い出していた。

変えられる明日に。希望を胸に戦っていた親友、弥彦のことを思い出していた。



ドクン、と鼓動が高鳴る。

胸の中で、何かが蠢いている。

長門の中に存在する誰かが、止まれと叫んだ。

しかし、十尾もまた叫んだ。本能のままに動けと。

数秒の沈黙の後。長門は白の方を見ると、最後の問いかけをした。

「………進むという。変えるという。それは、何のために?」

「同胞と、笑い合うために。昔の出来事も、笑い話にできるような、そんな場所を作りたい」

その答えを聞いた長門は、眼を伏せた。
地面を見つめながら、忘れていた言葉。そして過去に、親友二人と交わした約束。
それを思い出した長門は、自らの身体をみおろしながら、ぶつぶつと意味の分からない言葉を呟きはじめる。

そして身体の中で何かが跳ねたように、身体を震わせる。

「ぐ………っ」

苦悶の声。長門は胸をかきむしるように握りしめた。

――――ドクンと。
対峙する白の元まで届くような、鼓動の音が大きく鳴り響く。

「ぐ………ああっつ!?」

「なっ………身体が!?」

あまりにも異様な叫び声、それに呼応するように、長門の身体が突如変質していく。

爪は鉄が歪められるかのような音を発し、その形状を獣のような者に変えられていく。
右目に宿る輪廻眼の、黒と白の色合いが逆転し、片目からは地の底のような禍々しさが吹き出ている。

(獣………いや、もっと異様なッ!?)

直後、荒れ狂うチャクラの奔流。それは余波で、何がしかの術が使われたわけでもない。
しかしそれは、魔鏡氷晶の鏡に罅を入れた。

「そんな………っ、吹き出すチャクラだけで!?」

敵から発せられるチャクラ、その余波によって罅を入れられた氷の鏡を見ながら、白は悲鳴じみた声を上げる。
しかしその声も、続いて起こった強風によってかき消された。

殺気が、その質を変える。



意志に満ち溢れたものではなく――――何の感情も無い、殺意そのものに変わる。


現れる。

かつて雨隠れを蹂躙した忍者が。

十尾の意志と同調し、その責務を果たすことしか考えないようになった怪物が、現出する。

人間の姿をしていて、それでいてこれ以上ないというように、“人間でない”ような。

異質を具現した正真正銘の“人でなし”が現れる。



「かァ………変えて、いく。その志は立派。それでも、忍者には罪があっテ、許されん事がある!」



叫びと同時、長門のチャクラが膨れ上がった。


「くっ!」


しかし隙ができた。白はそこを付き、最後の力を振り絞って自分の最大の切り札を切った。

上下左右に展開されていた鏡が割れ――――六つ。

長門を囲うように、配置された瞬間、全部の鏡が光を放った。


「六華散魂―――」


正しく神速、神の如き速度で、白は疾駆を開始する。

その言語と共に。

「―――無法針ッ!」

それはいつかの雪の国で見せた秘術。

隠れ家での修行で編みだした、対象の急所、その六ヶ所全てをほぼ同時に貫くという、白の切り札である。



意志の力も籠められた全力の六撃は、正しく忍界最高峰。

常人ならば見えもしない速度で白は攻撃を繰り出し―――



「――――え?」


しかし、届かず。

その千本を握りしめた手は、長門の眼前ぎりぎりで止められた。


そして――――


「来る場所が――――」



長門はそのまま掴んだ手を上へ振り上げた。

ごきり、と。白の肩の関節が外れる音がする。

そのまま地面に叩きつけ、更に横に回転して振り回し――――


「分かってるなら、止められン筈が――――」


氷の鏡へとぶん投げた。


「ぎ――――グッ!?」


氷の鏡へ叩きつけられた白は苦悶の声を上げたまま、前へと跳ね返され―――――


「無いだろうがッ!」


震脚。同時に繰り出された長門の拳が、白の腹部に直撃した。

白はその一撃を咄嗟に腕でガードする。しかし長門の一撃はそれがどうしたと言わんばかりに、盛大に白の身体を吹き飛ばした。

白はそのまま吹き飛ばされ、勢い良く地面にたたきつけられる。


「あぐっ!?」


白は朦朧とする意識の中、自分の中の何かがぼきりと折れる音が聞こえた。



しかし痛みにあえぐ暇もなく。受身も取れず、身体に力も入らず、勢いに引きずられ、無様に転り続けることしかできない。




一回転、二回転、三回転――――


白の身体が地面に叩きつけられる度、わずかに残る雪片が舞い、地面が削られ砂煙となった。

そして、都合十回転。白の身体は、地をこする音と共にようやく止まった。

煙が、晴れる。そこにはボロ雑巾のようになった白の姿があった。

「…………う…………ぁ………」

全身雪まみれの、土まみれ。そして身体を襲う痛みに、白は途絶え途絶えに苦悶の声を出す。

腕には、吹き飛ばされた時に突き刺さった氷の破片があり、そこから流れ出る血が地面を赤く染めていく。


長門は苦しそうにその場にうずくまっていた。自らの頭を抱え、何かに耐えるようにうめき声を上げる。

―――しかし。不穏のチャクラは消えることがなく。
長門はやがて立ち上がり。


標的を見つけようと顔を上げた時―――それを見た。


膝立ちになって。立ち上がろうとしているくノ一を。


「――――」



白はその腕を赤く染め、唇の端から血を流しながら。
それでも、立ちあがろうとする。


地面にある僅かな雪、降り舞い散る雪を赤く染めながら。

それでもここで終わることなどできないというように。


「…………そうか」


白はただ立つ事に集中している。

膝を小鹿のように揺らしながら、それでも立ち上がろうとして――――膝を付く。

しかし、そのまま倒れはしなかった。


もう一度、と―――足に力を入れる。



そして、立った。

長門はそれを――――喜悦の笑みを持って、迎え入れる。

よく立った、と。


「しかし、立ち向かうというのなら」



長門は表情を消し、素早く印を組んだ。



「この我、容赦はせん。先の千本の礼だ、受け取れ――――」



(それ、は…………!)



白は歪む視界の中、朦朧とする意識の中で見えた長門の印。

それを見ながら、思う。


(どこかで…………ああ、そうか)


その後聞こえてきた音。鳥が鳴くような音で、白はその術が何だったのかを思い出した。


(――――千鳥、ですか)


普通の状態であれば対処できるだろう、見慣れた忍術。

だが白は、その術が自分を殺す術だということを理解した。

動かない身体。迫り来る敵のスピード。チャクラの残量も少なく、避ける手段も見つからず。
どうしようもないことを悟る。数秒の後、貫かれ絶命するであろう数秒後の未来の自分の姿を白は想像した。

だけど、倒れようとは思わなかった。
最後まで、倒れそうになる身体を自らの足で支え、しっかりと立っていようと思ったのだ。
最後まで思考を止めず、最後まで冷静さを失わず、自分の役割を果たすと決めた。

(全力は、尽くせましたか。ボクの出来る範囲ですが………時間稼ぎも出来た)

そして背後、クレーターに居"た"キラービーの事を思い出す。
魔鏡氷晶に隠れて運んだ、奪われてはならない人物の事を思い出す。

(会話の最中、ドサクサに紛れて水分身……成功はしましたが、途中までしか運べませんでしたか)

この距離では、すぐに見つかってしまうだろう。でもやれることは全部やったと、白は笑う。
自分の思いつく限り、そして自らの意志の通りに。自分の能力を駆使し、無駄なく全力で戦えたと思っていた。

運命は呪わないと。これもまた道の途中の出来事なのだと、泣き言は零さずに。

(ここが終点………と思うと、少し寂しいですね。でも千鳥のチャクラ消費量は多い)

最後に一仕事できた、と。
白はあと数歩の所まで迫った敵を前にして、覚悟を決めた。


今までにあった事が、脳裏に駆け巡る。それは、死の間際に見る走馬灯。消える生を悼む自らの、命の軌跡を見つめ返す瞬間。

白の頭の中で、今までたどってきた道、その時々の光景が駆け巡る。

その中で白は、あることを思い出していた。
雪の国の帰りに泊まった、温泉宿での夜。メンマや、マダオに、誓いの言葉と一緒に聞いた話を。


それは、遠い地にあるという、花嫁が着る服。白く輝く綺麗な着物で、女の子が一番着たいという服のこと。

隠れ家の近くにある村で行われた結婚の儀式、多由也と一緒に見ながらああでもない、こうでもないと言いながら想像していた衣装。


それを着ながら、再不斬の隣に立つ自分の姿を想像してみて。


(ふふ、ボクには似合いませんか)



父を殺したボクには、その白は綺麗過ぎると。

赤く汚れた自分を見下ろしながら、白は自嘲して。





――――それでも、と呟いた。




(ボクの、夢は――――)




近くで、土の踏まれる音がした。




肌を刺す殺気。千鳥の鳴く音。




そして雷光の、鳴き声が白の目前に迫り。





「―――――串刺しだ」







鮮血が、舞った。


















[9402] 小池メンマのラーメン日誌 八十九話 「その一歩、踏み出すのならば」
Name: 岳◆3d336029 ID:0347f440
Date: 2012/05/08 00:40
「あ、れ………?」

痛みは無かった。来るはずの激痛は訪れず。

でも、血の匂いがした。人体から流れる血潮の持つ、鉄の錆びた匂いがする。

それに、胸元が濡れている。かかった液体は赤。


「え………?」

まさかと思って、正面を向く。



――――そこには。ボクの大好きな、あの背中があった。



脇元に、誰かの手を抱え込む再不斬。

白は折れそうになる膝を自らの意志で支え、目の前の人物を。
赤く染まる脇腹の、えぐられたであろうその身の痛みを皆目みせず、体内を駆け巡るチャクラの色にその全身を染めながら、駆けつけてくれた最愛の人の姿を見る。


煤けるほどに満身創痍。だけど白の眼には、この上なく頼もしく見えている。

そんな赤鬼は振り返らずに、言った。










「悪い、待たせたな」








ああ、と。安心した白は、そこで意識を途切れさせた。




















小池メンマのラーメン日誌

 八十九話 【 その一歩、踏み出すのならば 】






















崩れ落ちる白をよそに。
二人は息がかかる程に近く顔を寄せていた。互いの眼に宿るのは、殺意。

片や、千鳥を突き出した方の手を掴まれた者。
片や、受け流しきれなかった一撃に脇腹をえぐられ、それでも背後に居る者を守るために――――その身を赤く染めながら、駆けつけた者。

「その肌の色………!」

長門は、先ほどの光景を思い出し、訝しげな顔をした。
そして思い出す。最後の一突きを放つ寸前に割って入った影の、雷光のような速度と受け流された時の腕力を。

そして、何よりも赤く染まったその肌を。
ほのかな血の色に染まった全身を見て、悟る。

「貴様、体内門を………!」

問いに対する答えは、不敵な笑み。

「第五――――杜門、開!」


再不斬は骨がきしむ程に強く、滅殺すべき敵の腕を掴む。
長門はその握力に舌打ちをし、でも振り払うことはできない。

ならばと、開いている手で殴りつけようとする。

だがそれは身体能力が爆発的に高まった再不斬に途中で捕まれてしまい―――

「オラァッ!」

「ガッ!?」

隙をつかれ、その額に頭突きを受けた。至近距離からの頭突き、開門されたこともあり、その威力は普段とは比べ物にならない。
たまらず、長門はよろけてしまう。

しかし頭突きを放った再不斬も、脇腹から盛大に血を吹き出しながら後ろへよろめいてしまった。

衝撃と血流の増加によって、傷口が開いたのだ。
だが再不斬は膝を屈せず、その場から後には退かんと踏ん張る。

「邪魔立てスるか、鬼人!」

「手前こそ、殴るだけじゃすまさねえッ!」

再不斬は叫び、背の大刀を手に取る。

そして一歩、雷影にも匹敵しようかという速度で迫り、一閃。
一陣の風のような速さで、鉄塊を縦一文字に振り下ろす。

だが長門もさるもの、間合いへ踏み込んだ時の動作も、斬線も完全に見切っていた。
余裕をもって、足を踏み出し、身体を横に流してその斬撃を置き去りにした。
首切り包丁が空を切り、地面を砕く。

「そこだァッ!」

振り下ろされた斬撃。それが兎のように跳ねて、横に飛んだ。
空振りし、地面に叩きつける力と、作用。それによりかかる反作用をくまなく活かし、そのまま横へと強引に振り払ったのだ。
強化された身体能力と、自らの獲物の癖を知り尽くした者にしか出来ない離れ業。

長門は側面に回りこもうとしていた所に跳んで来た大刀に反応しきれず、峰で脇腹を直撃された。
そのまま、盛大に横へとすっ飛んでいく。

「まだ、まだあァァァッッ!」

下がった敵。進む足。好機と見た再不斬は、更にたたみかけた。

首切り包丁を両手で持ち、間合いを詰めるやいなや一閃。
渾身の力を込めて振り下ろし、間髪入れずに薙ぎ払い、避けられたのならば切り返す。

それは斬撃の網。蜘蛛の巣にも似た執拗さを持つ縦横無尽の斬撃が、長門を包囲する。

長門は理性の大半をなくしているせいか、逃げずにその場に留めることを選択した。
襲い来る殺意を見返し、両手を土遁で硬化させながら足を拡げ、斬撃を全て拳で撃ち落さんと、拳を打ち鳴らした。

瞬間、轟音が大気を鳴動させた。

悪夢のような赤鬼の斬撃と、その身の半ばを正真正銘の人外に食われた、神如き者。

二人の化物は互いに吠え、叫び、殺意を放ち続ける。

「おおオオオオオォォォォッッ!」

「あああああアアアァァァッッ!」

身の毛もよだつ獣の咆哮が、荒野に響き渡った。それは真に魔獣の咆哮。

長門は、身の内よりほとばしる害意と悪意と本能に突き動かされて。
再不斬は、身の内に宿るこれまでの想いに、突き動かされて。
この想いがある限り、例え届かず、見切られ、鉄のような腕に弾かれても。瞬きの間に同質量の意志をチャクラと殺意を用意して相手に叩きこんでやると、壊れゆく身を動かし続ける。


その、殺すという意志。
そして許さないという意志と決意がこめられた再不斬の連撃は、徐々に長門を追い込んでいく。

しかし、再不斬はそこで舌打ちをした。

(亀裂がッ!?)

愛刀より返ってくる手応え。そこに、崩壊の予兆を感じ取ったのだ。
加え、自らの身も限界寸前にあることを、改めて認識した。
もとより体内門開放による恩恵などは一瞬。巡り巡る膨大なチャクラの流れが、ただでさえ傷んでいた再不斬の身体を更にむしばんでいるのだ。

武器も、そして持ち主の身体も軋み、崩壊の音を奏でていた。


だけど、再不斬は止まらない。

ここで引けば、次は無いと知っているからだ。
だから脇腹に地獄のような激痛を覚えながらも、そして限界を悟りながらも、再不斬はここでは退けないと決める。

何より、鬼の後ろに居るのは長年の相棒。無垢たる雪、白である。
ならばなおのこと、これより後には下がれないと、前へと進むのみだ。

しかし、目の前の壁は堅牢だ。まだ奥の手を隠しもっているかもしれない。
再不斬は具体的にどうやってこの相手を、牙城を崩すか考える。


―――その時だった。視界の端に、銀の髪が見えたのは。

(ち、相変わらず嫌な野郎だ)

相変わらず良い位置にいやがる、と。再不斬は舌打ちする気持ちを覚えつつも、それを頼ることにした。
しかしこの状態でも、この敵には当たるまい。そう思った再不斬は、まず相手の体勢を崩すことに努めた。

ならば、一当てしなければならない。再不斬はそれまでとは違い、斬り殺すのではなく、当てることのみを考え、その作業に努めた。

そして、変わる。知らず入れ込み過ぎていた力が抜け、程よい加減になった。自分の意識が、はまっていく。


それは真なる斬。正しい剣理。力任せに振るのではなく、鍛と錬によって練り上げた技術を使う、正当な剣の術。
鬼の力に任せるのではない、自らの意志と研鑽を以て振るわれる、人の剣。

握りから振り下ろしまでの筋力の動作をより滑らかに、細く更に鋭く研ぎ澄ませて。心を根本に置き、気力と腕力を運用しながら剣を使うに最適な理を体現する。
ならば剣が、刀が答えないはずはない。

再不斬に振るわれるだけだった大刀が、まるで生きているかのように活発に飛び回る。
暴風ではない、疾風の斬撃が呼気と共に長門へと襲いかかった。

そして、ついに。
ひとつの斬撃が、長門の防御をすり抜けた。

「―――ッ!」

長門は、防御に出した手がすり抜けた瞬間、背筋が凍った。そして、直後に襲い来るは衝撃。
自らの腹から、めきりという音が鳴るのを長門は聞いた。


そして太いガラスが割れたような音が、響き渡るのも。

再不斬が歯を食いしばる。砕け散った愛刀、その最後を目に焼き付けながら、悔しげに顔を歪める。
役目を終えたかのように刀身半ばから砕け散った相棒を見送り――――だが、止まらない。

刀が遺した最後の偉業は、敵の腹部に痛手として残っている。

「犬死にはさせねえ!」

叫び、再不斬は追撃に移る。
軋む身体を気力で動かし、大刀を振った勢いを殺さずそのまま身体へと残しその場で横に一回転する。途中、視界の中に白を捉え、拳に力が入った。そして再び前をむくと同時に一歩、深く、深く相手の間合いへと踏み出した。
その強く踏み出したその足を軸に、地面から伝わる反作用を足から腰へ。削ぐことなく、腰から拳へと伝達させる。

そして生まれた三つの力を一つに合わせた。
砕けた大刀の残滓鉄塊の超重量により生じた遠心力を、踏み込みによる慣性力を、そして地面の反作用から伝わる力を、ただ一点突き出した拳に集中させる。

「ぶっ飛べェ!!!」

叫びと共に放たれた拳は矢のような速度で飛び、長門の顔面に突き刺さる。
再不斬は、相手の頬骨を砕いた感触が拳に返ってきたのを感じ、笑う。

ぶっ飛ばしてやったぜ、と。

成し遂げたという達成感に、再不斬は口の端を上げた。
そして吹き飛んでいく長門を見送り―――



(行け、カカシィッ!!)


その背後から銀髪が躍り出たのを見て、心のなかで叫んだ。






~~~~~



忍者は普通、多くの術をもたない。そのほとんどが、自らの得意とする術を軸に戦い、それを活かす戦術を用意して戦っている。
そんな忍者の中にあって、千の術をコピーしたと呼ばれるはたけカカシは異例とも言える忍びだろう。

だが、術が多くとも、特別有利と言われるわけではない。いかに便利な術といえど、自分の性質に合わない術は日に何度も使えないし、なにより活かす術が無ければ意味がない。
それなのになぜ、カカシが"木の葉一の業師"と呼ばれているのか。

それは、彼の戦術眼と術を使う機会を見切るのが人より優れていたからである。

そして、師の教えを受けたカカシは、常に意識していることがあった。手持ちの術は万能にはあらず、だから過信をしないと。あくまで慎重に、相手の戦力を見極めた上で判断をすることを優先していた。
その果てが、最適な術を選択し、最高のタイミングで使う彼の姿。

技を業たらしめた。それこそが、彼が業師と呼ばれる由縁である。

だから、カカシは迂闊には動かない。自分の状態を知っていて、敵の強さを知っているがゆえに。そして、カカシは無駄死にを許さない。
友の命の上に立っている自らの生命、これはそんなに軽いものではないと思っているからだ。
後進や人、里のためならば自らの死は厭わないが、無策無謀のまま突っ込んで死ぬといった安易な命の捨て方は絶対に許されない。

だから待った。そして、機は訪れる。
怒れる七本刀は開門を以て鬼と化し、地獄のような斬撃の檻でもって相手をおいつめていく。

カカシは好機と見て、長門の背後から隠行で近づき、防御に追われている長門の死角から再不斬だけに自分の髪を見せる。

後は、決定的な機会を待つだけだ。再不斬が、相手の体勢を崩すまで、カカシはその場から動かなかった。

――――しかし、これは一種の賭けである。再不斬が打ち負ければその時点で自分のチャクラは気取られ、即座にやられるだろう。

だがそうはならないと、カカシは判断していた。
再不斬は一瞬だけ共闘しただけが、それに答えてくれることを、カカシは知っているのだ。

何せ再不斬は、本気で殺しあったこともある相手で。
一流の忍びは、一度拳を交えれば相手がどういった力量を持つのか分かるのだから。


そして、機会は訪れた。

再不斬は見事としか言いようのない一撃でもって長門をぶちのめし、

「ここしかない…………!」

飛んでくる相手はまだカカシには気づいていないのだから。

カカシは、斥力によって打ち据えられた傷と、十尾の欠片との戦闘で負った怪我の数々。
身体のあちこちで踊って自己主張してくる深手達を無視し、意識が遠くなっても眼を閉じず、敵を凝視した。


オビトが遺してくれた、今は自らの眼に宿る写輪眼。

それに、自らのチャクラを。リンが命がけで助けてくれた自分の、全生命力を注ぎこんだ。


二度と見えなくなってもいいと。親友達が守った里を守るためならここで斃れてもいいと、全チャクラを以て万華鏡写輪眼をぶん回した。
命の輝きが、チャクラが、写輪眼から溢れでる。


「――――っ!?」


流れる視界の中、長門はその力強いチャクラに気づいた。

そこではじめて、自らの背後に銀髪の死神が立っていることを知る。

襲い来るは、圧倒的な恐怖。理性を無くした獣が怯むほどの死の危険を感じた長門は、



「―――くそッ!」


自らに対する罵倒と共に、我を取り戻した。
長門の瞳に、理性が戻る。

そして着地し、逃れようと足に力を入れた。

だがそれよりも一瞬早く、カカシの万華鏡写輪眼による瞳術が発動した。


「神威!!」


長門の身体の中央を中心として、空間が歪んだ。
それは渦になりながら周囲の空間を、長門の肉を巻き取り、やがて虚空へと消えた。




後に残るのは――――







「仕留め切れなかった、か…………」








大口の獣にかじられたかのように。
肩口から左腕までをごっそりと失った、長門の姿だった。

頭を狙ったはずの一撃だった。長門は寸前で身を捩り体を逸らし、致命傷だけは避けたのである。

カカシは大怪我を負わせることはできたが、その生命を断つことはできなかったことに悔しさを覚えながらも力尽き、その場に崩れ落ちた。

長門はそんなカカシを見下ろし、痛みながらも賞賛の声をかける。

「大したものだ……後一歩だったのにな」

常人ならば即死ものだが―――何故だか死んでいない長門はそう言うと、肩を抑えてその場にうずくまった。
その近くで倒れこんでいる再不斬とカカシは、互いに悪態をつく。

「外すな、よ………この、マヌケが…………」

「避け、られたんだ、よ…………」

息も絶え絶えに、二人はうつ伏せに倒れながら言葉を発していた。
だが、結構な深手を負わせることには成功したのだ。


しかしその代償は大きく、二人はその目を永遠に閉じようとしていた。


チャクラの残量は雀の涙ほどもなく、身体の至る所に内出血が起きている。
骨折している箇所も、片手の指では足りないほど。再不斬に至っては全身の筋肉が断裂を起こし、指一本動かせない状態だ。

事実限界を越えた彼等に最早できることはない。
出来るのは死を待つことだけであった。

夢半ばに散るという無様さ、その悔恨の念に染まりながら、朽ちてゆくことだけだった。

カカシは父が、親友が、先生が、忘れ形見が守ろうとした里をこれ以上守れないということが何よりも悔しかった。
再不斬にとっては里が―――クソみたいな里だがクソなりに好きな所もある里が―――自分の手で変えられないことが。そして白との約束を果たせないことが、淡雪のような少女の成長をこれ以上見守れないことが何よりも悔しかった。


そんな二人の頬を。



柔らかな風が、撫でた。




「…………?」



風に含まれる"それ"を感知した長門が、空を見上げた。



「この、感じは…………!」



"それ"の気配をよく知っている再不斬が、顔だけを上げて呟く。



瞬間、三人が集まるその場に、一つの苦無がひゅんと風を切って跳んできた。


どこから飛来したそれは地面にトッ、と突き刺さり。その苦無に刻まれた印を見て、カカシが呟く。



「…………遅刻ですよ、先生」



その言葉に、お前が言うなという再不斬のツッコミが入った直後。















「悪い、遅れた」















音も無く静かに、金髪の忍びが現れた。









~~~~~~~~






飛雷神の術の転移で、姿を現したメンマ。

それを見た再不斬は、半眼になりながら言う。

「遅い、ぞ、バカヤロウ」

死にかけなのに全然弱っておらず悪態をつく再不斬。メンマは苦笑しながら、その再不斬の身体を掴んだ。

そして視線で長門を牽制しながら飛雷神の術を使い、サスケ達一行が居る場所へと跳んだ。


「な、お前!?」

「すまんが、再不斬達を頼む」

見張っていた一行は、突然のメンマの転移に驚く。

メンマの方は、そこに居た治療が出来る面々――――多由也と、医療忍者として以前から知っていた灯香。
あと何故か居た赤髪の眼鏡の元音忍に預け、さきほどの場所へと再び時空間跳躍する。

そこで死にそうになっている白とカカシ、そして離れた所で気絶しているキラービーを運ぶ。
そして、瀕死の状態になっている者達を頼んだ。

「………分かった」

多由也は頷き、任せてくれと答える。
しかし気になっている点――――先ほどから傍に居て無言のまま佇んでいる、ペインの影分身の“ような”ものを指差し、こいつは襲ってこないのか、と聞いた。

「大丈夫だと思う。こいつは見張り以上の役割を負っていないし、その力もない」

「しかし………」

サスケ達と応急処置を受けている再不斬とカカシは、襲ってこないというその分身に対し、訝しげな顔を向ける。
先ほどは身震いするほどの殺意をむき出しにしていたのに、何故ここでとどめを刺しにこないのかと。

「あー………それは、まあ、理由があるんだろ。大丈夫、こいつは案内以上の役割を任せられていないよ」

メンマとどめをさしに来ない理由を何となく分かっていたが、確信を得られないが故に明言を避けて、ぼかしたままサスケ達に背を向けた。


「余裕がない、っていうのもある。後は俺が本体と対峙すれば、その余裕もゼロになるだろうから、こいつに関しては安心していい」

「ちょっと、待て。お前、やっぱり一人で………?」

「ああ」

「ああ、って………オレ達には手を出すなっていうのか」

納得できないと、シンが言う。彼も、此処に来てペインの戦闘力を実際に見るまでは手を出さないことに決めていたのだが、それにも限度があった。
幾ら何でも強すぎると、そう考えたのだ。あんな化物、一人では絶対に勝てないと思ってしまった。

そして何も言わないようにしているが、サスケとサイも同じ意見であった。
二人の表情から察したメンマは、それでも首を横に振った。

「お前………意地があるのは分かるけどよ! でも、幾ら何でもあれはあんまりだろ! あんな奴相手に一人で勝てると思ってんのか!?」

五影と護衛達をボコにした化物だぞ、とシンが叫ぶ。

メンマは頭をかきながら、仕方ないと答える。

「見てたけど………それでも、な」

約束だし、とは心の中だけで呟いた。しかし、シンは納得しない。

「分かるだろうが! 随伴していた部隊も既にあの様だ! 一人じゃあ絶対に――――」

勝てない、とシンは言おうとする。
だが、それはメンマの言葉によって止められた。

それ以上は言うなと、開いた掌でシンの次の言葉を静止する。


「違う―――俺はいつだって、一人じゃなかった。それに……」


と、メンマは自らの胸を親指でさして、言う。


今此処には、四人が居ると。



「………は? それは、どういう」

「見れば、分かると思う………大丈夫だ」

詳しく話している時間はないけど、とメンマが言う。
その言語の裏に含まれた意味に気づいた紫苑は、心配そうな顔をする。

「おぬしの魂は既に限界に近いところまで来ている………それでも、と――――覚悟してのなのか?」

「そうだな………そういう覚悟もある。それが怖くないと言えば嘘になるけど………」

「なら、何もお前でなくても! ここであの者を一人で相手にする必要は………!」

紫苑は眼に涙をためながら、その顔を下に向ける。
メンマはそんな彼女の様子を見て――――だけど、頷かない。

それでも、と。今までとは違うから、逃げることは出来ないと言う。

「これは逃げるためじゃなくて………あいつと戦うのは、俺の意志で。そしてあそこは俺が選んだ、俺だけの戦場だから。だから手助けは要らない。それがきっと、みんなにとっての最善だ」

だからごめんな、と。メンマはうつむく紫苑の頭をぽふぽふと叩いた。
そして涙目になっている少女に小指を向けた。

「今度は、絶対に守るからさ」

「………!」

小指と、約束。
紫苑はその符号から、いつかの約束を思い出した。

そして葛藤しながらも、彼女は涙にあふれた自分の目をぬぐう。

「………分かった。今度破ったら、何でも言うことを聞いてもらうからの?」

白く綺麗な手の指と、今はもう傷だらけになってしまった手の指。
二人の小指が絡まり、三度振られた。


そしてメンマは、皆に視線を向け、改まって言う。


「帰ってくるさ、絶対に。白達も、死なせたくないし。だから、待っていてくれると嬉しい」


満面の笑みでの言葉。

それに皆は知らず知らずのうちにつられ―――親指を立てて返した。
あまり面識の無い灯香も、イタチでさえも。

「それじゃあ、行ってくるよ。相手が想像以上の化物なんで、ちょっと………遅くなるかもしれんけど」

周囲に居る面々。網のメンバーと紫苑達を見回し、メンマは言う。

言いたいことを察したサスケは、不機嫌そうに返した。

「分かった………でも、いつまでもは待てない。だから――――日が暮れる前に戻って来いよ」

そっぽを向きながらの言葉。メンマは素直じゃないサスケの様子を見ながら、苦笑を返すことしかできない。

そして最後に、

「もちろんだ」

笑いながら手を上げた。

「ふん」

サスケも不機嫌になりながら、手を上げる。





ぱしん、と。

ハイタッチが交わされた後、メンマはサスケの掌を掴み、身体を引き寄せた。

メンマは驚くサスケに、一言だけ告げた。





後は頼んだぞ、と。




「っ、お前!?」



「はは、風向き次第だけどな――――万が一だ」





メンマは笑い、じゃあと手を上げて去っていった。

最後の舞台、最後の相手が待つ場所へと。











~~~~~~










「………待たせたな、ご同輩」

「随分と待ったさ、小池メンマ」


十尾の欠片によって自らの肉体をつないだ、ペインの姿があった。
その肌の色は若干黒くて完全に元通りとは言えないが、えぐられた部分はほとんど修復されている。

「あのままかかって来られれば、俺を殺せたのかもしれんのにな」

「そうすりゃ、白達は死んでいたからな。それにその程度で死ぬのなら苦労はしないし、何よりそんな殺し方しても………意味が無いだろうし」

「………そうか」

ペインはメンマの言葉に引っかかるものを感じた。
今の言葉は、こちらの状態と思惑を知っていなければ、出ない言葉だ。

全ては知られていないが、ある程度は気づかれているか。
ペインはそれをふまえた上で、慎重に言葉を選んでいく。

「そちらこそ、随分と待たせてしまったようだが」

「いや、今来たところだけど?」

「………嘘をつけ」

「うん、言われた通りについたけど」


突如、場違いなやりとりに気まずい雰囲気と沈黙が降臨した。

しかし、その後の客員の反応は実に早かった。

『う~ん、テンプレ乙としか』
『捻りが足りないってばね』
『いや待たぬかそこのバカ夫婦。かじり倒すぞこのうつけものどもが』

途端、始まる漫才。キューちゃんのツッコミもかなり板についてきたな、とメンマは自慢げに笑みを浮かべた。
かつてこれだけツッコミに特化した天狐が居ただろうか否いるわけないよね、と一人心の中で呟きながらどうしたこうなったと今までのやりとりを思い出す。

飽きるほどとは言わないが、数えきれないほどに繰り返したやり取り。
唐突に、寂しい気持ちになった。

なぜなら、このやりとりもこれで最後になりかねないのだから。メンマを含む全員は、ここが分岐点なのだと理解していた。
この戦いは決定的な転機で、この戦いが終われば勝敗の行方に関係なく日常を象っていた"いつも"が消えることを全員が知っていた。

「でも、これ以上は待たせるわけにもいかないか」

しかしてこの戦いは決して避けられないもの。
それを分かっているメンマは、戦う前の最後の問答をすませることにした。

「見てたよ。さっきのやられっぷりは特に見えてた。ほんと、手酷くやられたみたいだけど」

「油断していたのもあるが――――あの劣勢から"これ"とはな。全く、人の持つ意志の力とは恐ろしい」

「それはアンタも同じようだけど。仙人を語って神を気取る――――人間様よ」

「………役割的には神に似る」

「そうだろうけどな」

「お前………どこまでを理解している?」

「神様は嘘つきだってこと。後はそれを理解しても、俺のやることは変わらないってことも。なんだ、聞いたら教えてくれるとか言う?」

「いや、言葉では語れんな」

「ああ、実に神様らしい。全部無くして済ませようって考えも」

「他に方法が無かっただけだ。これが俺にとっての最善で、それを選んだに過ぎない」

「………神とはいえど、その身は人間。万能にはほど遠いって所か。それについては俺も何も言えないから、黙るよ。ただ…………戦う前に、三つだけ聞かせてほしい」


メンマは三本、指を立ててペインに問いかける。

ペインは質問によっては答えようと首肯し、続きを促した。

「まず、一つ。俺は木の葉隠れの里の中に数ヶ所、飛雷神の術の転移先の目的地となるマーキングを残していたんだが…………先ほど、その全てが消された。
 "里の中央から外側へ順繰りに"だ」

メンマは険しい顔をしながら、これはいったいどういうことだと問い詰める。
その問いにかけに対し、ペインは無言のまま手を前にした。

「これは………」

ペインの右手からチャクラが発せられ、瞬く内にその形を変えていく。
色は透明で、形は楕円。

メンマの目の前に現れた大きな鏡のようなものを見て、呟いた。


「これは、遠眼鏡の………?」

「その起源となる術だ」

ペインは説明だけを終えると、その鏡に見たいものを映しだした。

ブン、と音が鳴り、次の瞬間には風景が映っていた。

映しだされたその場所は、一面ただ黒色が広がっていた。

「これは………」

その黒色の中あちこちに見える、落ち着いた色の突起物や、緑色の変な草。
メンマはしばらく見て、それが何なのかに気づいた。

「屋根と、樹の頭か………‥っ、これは」

そして、その建物があったと思わしき場所。その上に、見慣れたものが見えた。
メンマもつい先日、その上にのって眼下の風景を見下ろしたのだ。忘れようはずもない。

そこに映っているのは、火影の顔岩だった。

「木の葉隠れの里………死体に仕込んでいた十尾を開放したのか!」

「…………ああ」

「ああ、って………俺は約束を守ったつもりだったんだが?」

「だから、最後の一線は超えてはいない」

「どういうことだ」

「十尾を開放し、それなりの抵抗はあったが………全ての里は掌握した。人柱力を除き、忍者たち全てを十尾に取り込んだが…………今はまだ、命までは奪っていない」

「………今はまだ、か」

「ああ、今はまだ、だ」

睨むメンマと、無表情に見返すペイン。

双方の間に、一触即発の空気が流れる。

しかしここで切れてもなにもならないと思ったメンマは、深呼吸して自らの気を落ち着かせた。
息を吸って吐いて、頭に登った血を下に降ろしていく。

そしてある程度落ち着いたところで、知らず握っていた拳を解いた。
ペインのしたことは、到底納得できるものではないが、この場は抑えて。

メンマは、次の質問をすることにした。

「………二つ目だ。アンタ、本当は誰なんだ」

「誰、というと?」

「はっきりとは、言えるわけじゃないけどよ。意識の話だ。あんたが本当に名乗るべき名前はなんなんだ?」

その体の持ち主か、六道仙人か――――十尾か。問いかけると、ペインは困ったように答えた。

「言うなれば、そのどれでもあってどれでもないということだけだ。役名でいえば"ペイン"というのが正しい。だが、自分が誰なのかと聞かれると…………答えに困るな」

ため息をつき、ペインは言う。

「今であれば―――十尾という土台の上に俺と六道仙人の人格が立っている、というところか。侵食が進む前は長門と十尾の立場が逆だったが」

「侵食、か………あの身体能力を見れば納得だな。さほど慌てていないところを見ると………力を使い過ぎれば十尾に侵食されることを、前々から予想していた?」

「少し考えれば分かることだからな。純粋な魂の規模でいえば、人のそれは妖魔に遠く及ばない。封印術はその魂の仕切りを明確にするもの。だが、完璧な封印などありはしない。
 それも、尾獣のような規格外の魂ならば尚更だ。魂を活性化するたびに封印は綻びるのも、自らの魂が侵食されるのも、自然の純粋な理と本能で動く魂の理からすれば当たり前のことだ」

「自然………弱肉強食の理?」

「ああ。理性も感情もないのであれば、物事は理に沿って進められていくものだ。しかし…………お前は少し違うようだな。何故人柱力のシステムを使っていないお前が、戦いの度にあれだけ力を使っているのに………未だその形と意識を明確に維持できているのか」

「それは、まあ………」

メンマは頬をかきながら、眼を逸らす。
ペインは若干の動揺を見せたメンマを少し怪しく思ったが、まあいいと切って捨てた。

「答えの続きだ。日常生活における意識としては、六道仙人に近い。戦う時の意識は、この身体の本来の持ち主である彼………長門の人格が主たるものとなる」

「そうか………とすると、屋台で俺と話したのは?」

「演技が下手な長門ではなく、私の方だな。時折、長門の人格もこぼれていたようだが」

苦笑し、六道の人は言う。

「癖だ、気にするな。どちらにせよ、望むべきことは変わらん。あの日よりこれまで、何も変わらぬ」

ペインはそう言うと、三つ目はと問いかけた。

「ああ、一番聞きたいことだったんだけどな――――アンタ、ペイン。いや“長門”がこの現在、この事態を望んだ理由と想いは………その根底にある心はなんなんだ?」

恐らくは、最大の。身の内でもっとも大きな意識を持つであろう主に、メンマは問いかける。

その問いに対し、六道仙人は長門に変わる。

超然とした振る舞いではなくなった、若干の未熟さを残すかつての忍びは、真剣な顔で答えた。



復讐心だ、と。



答えた長門は、そのまま空を見上げた。



「世界はこの空と………雨隠れの空と同じだ。黒い雲は未だ消えず、青空なんて見えやしない。確かに大戦は終わった、そして休戦協定は結ばれた。だが中途半端な不可侵の約定は、人と人の距離を遠いものにしてしまった。
 殺しあいませんと言い合いながら、裏ではいつかの時に備えて殺す力を蓄えている………今の平穏は未来に通じていない、偽りの平和にしか過ぎない」

そして、偽りは時によっては毒となると長門は言う。

「偽りの平和の下ならば、空は黒くとも雨は降らない。だが………十尾の記憶を見て痛感させられたことがある。時は流れても人の心は変わらず、要因があれば必ず悲劇は繰り返されると。
 雨雲あればいつか雨が降るように。見上げる空に暗雲があれば、いつか必ず死の雨が降る。前よりもずっと強い、雨となって。黒い空の下、目指すべき場所が見えていないのであれば、いつか必ず戦争は起きるのだ」


そして、次はないということを、長門は知っていた。メンマも、知らされていたことである。
そう、忍者たちも。

十尾という化け物が居ることを、知らされたのだから。


「戦争が起きて………死が満ちれば、滅びが甦る。そして忍者は、それを更に加速させる存在だ」


お前も見てきただろうとの、長門の問いかけに、メンマは無言のまま頷いた。



「忍界に属さない人間として。お前はその視点から、今の世界を見ることができた」

「ああ」

メンマは頷き、一歩。長門へと近づいていく。

「見せられはしないと忍者が隠してきた暗部も、その汚さも見てきた」

「ああ」

更に頷き、一歩。迷うこと無く、その距離を縮めていく。

「そして十尾も見た。それでも………お前は、忍者が滅ぶべき存在ではないと、そう思えるのか」


その言語に。

メンマは躊躇わず一歩。頷きながら、歩を進めた。



「ああ、その通りだ」


「…………そうか。ならばもう、何も言うまい」




長門はその答えに満足して―――――空から正面へ、その視線を戻す。


目の前には、メンマの姿が。

手を出せば届くような距離で、二人は視線を交わしあう。


そこにあったのは、決意の眼。長門も同じで、双方ともに偽りのない決意に満ちた瞳をしている。

その奥に居る者たち――――メンマの方は、九那実、ミナト、クシナ。

長門の方で言えば、六道仙人。彼等は視線の中で互いの意識を感じあっていた。


そこに宿る決意も、また。



「………それでこそ、だ。気張ってくれよ、人間!」



長門は眼を閉じると同時に叫び、身に宿る十尾の欠片を活性化させてチャクラを練り上げた。

そしてチャクラを変換し――――雷を見にまとう。

それは、今までに比べ倍する規模のもの。
長門の身体の周囲に、大蛇のような太さを持つ雷が展開された。




「そっちこそ…………あっさりとやられてくれるなよ、神様!」



メンマは叫び、自らの腹にかけられている封印を緩めた。

かつての四象封印の上に展開された封印術。身体の中、マダオが新たに構成した封印の術式。

メンマは自己の意識を守るそれを。自らの安全を保証するそれを、束縛するそれを緩めて、

「さあ、最後の時間だ………起きろ、行くぞ!」

『応!』

『承知!』

『了解!』


号令と共に眼を閉じ、自らの意識を薄めて、3人の意識を励起させる。

“ミナト”の精神エネルギーが漏れ、それは肉親が故に近しい性質を持つ“ナルト”のチャクラと同調する。


同時、メンマの身体から暴風のようなチャクラが漏れでる。

メンマとマダオ、そして補助に入ったクシナによってチャクラは変換され―――――身体の周りに、風が漂う。


それは、小規模の竜巻とも言える密度を持つ、風の塊。





両者の間で、雷と風が交差する。



「―――お前は九尾と、四代目火影」

苛烈なる風の奔流は空間を荒れ狂い、


「―――お前は十尾と、六道仙人」

激烈なる雷の疾走が空間を蹂躙し、



「「相手にとって不足なし」」


高まるチャクラ。鼓動の音さえ早くなり、やがて閉じられていた二人の瞼が開かれる。


互いに人外。範疇を逸脱したチャクラが、世界を踏みにじった。



そして、双方笑みを交わし――――――互いに、左側へと踏み出した。



「いざ!」

「尋常に!」









爆発するような踏み出し。

二人は互いに風を、雷を纏いながら。





戦いの始まりを告げる一歩を踏み出した。










[9402] 小池メンマのラーメン日誌 九十話   「風に舞い」
Name: 岳◆3d336029 ID:0347f440
Date: 2010/12/11 20:25
広場よりすこし離れた森の中。十尾にとらえられた五影達は、身動きのできない状態でそこに並べられていた。
首から下を十尾の泥で覆われている状態。身を包む十尾に体内のチャクラを封じられているのだ。
肉体活性や忍術を封じられた彼等にその束縛を破る術はなく、ただ出来ることは目の前に居るペインの部下を名乗るゼツの、後頭部に殺意を叩きつけることだけであった。

「合図だ………始まるようだね」

白のゼツはそう言うと、目の前にある大きな鏡に、チャクラを送り込む。
それは遠眼鏡の術の源流たる、"遠外鏡の術"が刻まれた鏡。任意の場所を写しこみ、中継を可能とする術が刻まれたもので、いわば劇場のスクリーンのようなもの。
術の式はペインによって既に描かれているので、あとはチャクラを送り込むだけで発動する。

黒のゼツも今より始まる激闘を見逃してはならないと、その鏡に映る光景に集中しようとする。
それにこの鏡は今日使用した別の鏡とは違う特別製で、高性能かつ高起動に見たい場所を写すものなのだ。
それだけ術式も複雑で、かつ起動に必要なチャクラも多く、集中しなければ完全には起動しない。

白と黒のゼツの二人は鏡を注視し、チャクラを慎重に送り込む。
そして時間にしてちょうど一分後、ようやく起動に成功した。

二人は安堵のため息を吐き―――また、違う意味でのため息をついた後、振り返った。
殺気を籠めてこちらを睨んでくる五影と、その護衛達の方へと。

「後頭部ノアタリガ痒いンダケド」

「知るか」

「正直メチャクチャうっとうしいンダガ?」

「誰のせいだと思っている!」

それは怒りっぽい彼女でも滅多に出さないぐらい強く怒りが籠められたもので、殺意がふんだんに含まれていた。
地獄の鬼もかくやというほど恐ろしい声。彼女の怖さをよく知る自来也が聞けば、股の奥から縮み上がっただろう。

しかし、それだけの怒りを見せているのは綱手だけではなかった。皆、綱手と同程度か、それ以上の怒気をまき散らしている。
温厚な性格を持つ赤ツチや、滅多に怒ることのないダルイでさえも、心の底から溢れる抑えきれない怒りを表に出し、殺意をこめた視線を原因となる者へと叩きつけていた。


それも、無理はない。
なぜならば彼等は、目の前でまざまざと見せつけられたのだ――闇に覆われた故郷を。

鏡の向こう。黒い泥に覆われた、自らの里を。

「ダカラナ………"マダ"ホロンデイナイトイッテイルダロウガ!」

「"まだ"だと? それはどういう意味だ! そもそも犯罪者の、敵の言う事など信じられるか!」

雷影は怒りのままに、叫ぶ。
しかし怒鳴り声をあげた直後、ゴホゴホと勢い良く咳き込んでしまう。

「雷影様、傷が………!」

「クソ………怪我が無ければ、こんな束縛!」

「あーあーモウ、うるさいなあ特にそこの大仏マッチョ。まあ、気持ちは分からないでもないけどねー」

ゼツは両手を頭のうしろに組みながら、言う。

「対峙している相手が居るんだよ。そいつがどれだけの力を隠し持ってるのかは知らないけど、一人であのナガ………ペインに勝てる奴なんているはずないし。負ければハイそれで終了、吸収、さようなら~、だし。まだ、といってもほんとに時間の問題ってやつ?」

白ゼツは雷影の物言いに苛立ち、挑発じみた言葉を五影に叩きつけた。
受け流せる余裕のない者が、更なる激昂を見せた。

だがその他幾人か、考える余裕がある者は、ゼツの言葉に訝しげな表情を見せていた。

「戦っている相手………一人、だと?」

キラービー、八尾の人柱力がやられたことは皆理解していた。
尾獣化したのは彼等にも見えていた。その後幾度か大地が揺らぎ、そして未だペインが健在で、八尾の姿がない。
それらの事項から、考えられる事実は、一つ―――ー八尾は既に敗北し、捕らえられたのだと、皆が理解していた。

ならば、残る候補は二人。
時間稼ぎをするとペインの元へ向かったはたけカカシか、ここに居ない桃地再不斬だけ。

希望はあの二人だ。そのどちらかが戦っているのだと、その場に居た全員が思った。
しかし、そこに無慈悲な言葉がかけられる。

「あ、ちなみに銀髪と眉ナシの二人はさっきペインにやられたって。ま、あと一歩という所までいったらしいけど」

「な………」

惜しかったね、というゼツの言葉を聞き、最後の希望が断たれたのかと、忍者達は肩を落とした。

しかしその後、全員が訝しげな表情を見せる。

「待て。あの二人はやられた………だが、今もまだ戦おうとしている者が居るというのか」

「アア、ソウダ」

「一体誰が………」

呟き、考え込む。
護衛部隊ではない。五影達は自らが連れてきた護衛の部隊は全員、既に捕獲されているとゼツに知らされていた。
別の遠外鏡の術により、その映像も見せられた。皆自分たちと同じように束縛されているか、気を失ったまま地面に転がされている。
ということは、五大国の者ではない。

ならば、答えは一つだった。自らの里に属さない、五大国にも属さないであろう一人の者があの化物に挑もうとしているのだ。

そこまで考えが至った後。心当たりのない者は首を傾げ、心当たりのあるものは、眼を見開いた。


「もうすぐ映るから誰かはすぐに―――――って、映った映った」

やっと目的の映像を映すことができた白と黒のゼツは、やったと小さく拳を握りしめる。

その向こうに、映っている光景。それを見た一同は、それぞれの反応を見せる。

まず最初に反応したのは、土影。両天秤のオオノキと呼ばれる彼は、それなりに名の知れた忍びならば皆、見たことがある。
そのオオノキは、鏡に映っている人物。戦おうとしている人物を見て、こう言った。

「これは………四代目、火影!?」

人の眼を引く金の髪に、青い瞳。顔立ちも、顔岩に刻まれているそれに近く、格好も四代目火影に似ていた。
額当てこそしていないが、額には鉢巻が巻かれている。その背には螺旋が刻まれた黒のマント羽織られ、長袖のインナーの色は橙色。

細部の色こそ違うが、言ってみればそれだけであった。

それ以外の、全てが似ている。そう告げるオオノキの言葉に、雷影が反応した。



「似ている………ならばこいつは――――」


例の人物なのかと。


告げる雷影と、驚くその他と、やはりかと口の端を上げる誰か。



そんな忍者達をよそに、最後の戦いの幕は、今まさに上がっていたのであった。


















小池メンマのラーメン日誌

 九十話 【 風に舞い 】





















すれ違いに視線が重なる。
そのまま風に雷に、人ではない速度で駆け抜けた両者は、にやりと笑う。

(速度と機動力優先、殴られる前に殴り倒す)

メンマはチャクラを全身に行き渡らせ、

(まずは、様子見といくか)

長門は待ちの体勢に入る。

ダン、とメンマの地面が弾ける。チャクラにより地面を弾いた音だ。
自前の脚力も加えられたその踏み出しは速く、メンマは一瞬後にはすでに長門の間合いへと入っていた。

迎え撃つ長門は、動かず。不敵な笑みを浮かべたまま両手を上げて、迎撃の構えを取る。

相対する二人。

一瞬速く長門の拳が放たれ、僅かに遅れてメンマが拳を放つ。

リーチは互角。拳と拳が交差し――――

「ぐあっ」

"長門"が、うめき声を上げた。
そのまま、吹き飛ばされていく。

走る痛みから顔を殴られたのだと察知した長門は、不可思議な考えにとらわれる。

少し離れて映っている、拳を振り切った相手の姿。
見たところ放たれたのは拳のようだが、

(いや、ただの拳打ではない)

体術はあちらの方が上だが、拳の速度でいえば互角。
こうも一方的に殴り飛ばされるはずがないと、長門は警戒を強めた。

(探ってみるか)

得体のしれない攻撃を見極めるべく、長門はまず遠距離にて攻撃をしかける。
手元で印を組み、結びを虎の印にして、大きく息を吸い込んだ。

そして吐き出すと同時、術の名前を声に出さず叫ぶ。

術の名を、火遁・火産霊(ほむすび)。

その名の通り、わずか握りこぶし大の火の玉がメンマに向けて飛んでいく。

明らかに小さく遅いそれにメンマは困惑の顔を見せ、突如はっとした顔になる。

その直後、長門は手と手を合わせ柏手の音を鳴らし、

「解!」

叫びと共に、炎の球を解答する。

同時、超圧縮された火の球が解放される。周囲の酸素を瞬時に喰らい、大爆発を巻き起こした。
巻き込み、風を喰らい、やがてそれは炎の渦にまで成長する。

その地獄の業火にも似た炎の竜は、周囲20間内にあるもの全てを焼き尽くす。
岩が焼かれ大地が焼かれ水が蒸発した。

気化した水蒸気が、周囲に立ち上る。
やがて数秒後、その炎はむせ返るような熱気を残して消えた。

だが、そこにメンマの姿はなかった。

(飛雷神の術で逃げたのか、いや………)
長門は自問し、だがすぐに否定した。

時空間忍術が使われた場所は、空間がわずかに歪む。だが、見回しても空間に歪はない。

そして、視線の先。40間ほど離れた場所に、メンマは居た。

(飛雷神の術で跳ばず、一瞬であんなところに!?)

炎が解放される寸前までは、確かにそこに居た。目視し、炎に巻き込まれるまでの時間は、一秒も満たなかったはずだ。
それなのに何故。

そんな長門の疑問は、次の瞬間に晴れた。

メンマの周囲に舞い散る雪が乱れ、びゅう、と風の鳴く音が聞こえた直後。

長門は目前で地面が踏まれる音を聞いた。

(な、に!?)

目前には、踏み込んできた敵の姿。それでも輪廻眼の恩恵によりその踏み込みが見えていた長門は、カウンターの拳を繰りださんとする。

先ほどより速いタイミングで、力を入れ、引き絞り、拳を前に出す。
それは腕を引き絞り最小限の動作で打つ、カウンター狙いの一撃。


しかし、突然の豪風が吹いた直後、長門は殴り飛ばされていた。

まったく同じ光景。だがひとつだけ、違うことがあった。

「………そういう事か!」

長門は殴られる直前、その目で何が起きているのかをしっかりと見ることができていたのだ。

先ほどと同じ手順で体勢を立て直した長門は、メンマに向けてゆっくりと口を開く。

「理解したぞ、お前の術を。言うなれば………超局地的な追い風、といった所か?」

「ご名答」

手鞠で遊んでいた時に思いついた遊び技だったんだけどね、とメンマが答える。
聞かされた長門は、複雑な気分になっていた。

「遊びというには高機能すぎると思うが。その術は………お前が守鶴と戦った時に使った、起爆札による加速と似たようなものか」

木の葉崩しのことを言っているのだ、と。メンマは理解すると同時、また別の事を理解した。
そこまで見られていたのだ、と。

ストーカーを見る眼になったメンマに対し、長門はそ知らぬ顔で言葉を続ける。

「風の球を肘、または足の裏に置いて発射台にして、解放。その追い風と風圧を利用し、拳や踏み込みの勢いを加速させる術か――――その術の、名前は?」

「我輩の秘術であるが、名前はまだない。一人じゃコントロールできない術だし、未完成だったから。でも一応秘術クラスだから………風遁秘術・風蹴鞠とかどうだろう」

手鞠にあやかったんだけど、とメンマが言う。
俺に言うなよ、と長門が答えた。

「しかし、一人では使えないのか………無理もないが」

恐らくは五影クラスの使い手で、風を専門に扱うような忍者でも無理だろう。
長門のその言葉にメンマは頷き、ため息をつく。

「例えるなら、"スープひたひたチャーシューましましのラーメンを片手で持ちながら全力疾走して、なおかつスープを零さない"ってぐらい無茶だからなあ」

「ラーメンで例える意味がわからんが、そうだろうな」

あと何故チャーシューなんだナルトとかメンマとかあるだろう、と長門が言う。
悲しいけどそれ添え物扱いなのよね、とメンマが答えた。

「添え物だろう。しかし、体術の運用に合わせ、形態変化と性質変化を同時にこなす、か。そんな芸当は並の人間では無理だろうな。それこそ――――複数の思考が必要となる」

「前者は異議あり、後者はご名答」

専念できるのは、一人につき一項目。ならば、二人で"丼を持つ手を調整しこぼさないようにする"と、"全力疾走する"、それぞれに専念すればいい。

「成程、そのために封印の鍵を緩めたのか。だが、一歩間違えれば死ぬより酷いことになるぞ」

「リスクあってこその必殺技だ。生半可な攻撃は通じないとなれば、仕方ないことだね」

「仕方ない、か。普通は思いついても実行しない行為だと思うのだが………十尾の負念にあてられて狂ったか?」

「いや、至極真っ当な真人間のつもりだけど?」
『分の悪い賭けは嫌いじゃない!』

真人間(笑)が、いつもの調子で反応する。
長門は、変な顔をした。

「いや………そもそも、だ。真人間ならばこういう場所には来ないだろう」

「それもそうだな! ――――なら、俺達は狂っているってことか、皮肉だな」

互いに死人だし、とメンマが笑う。
長門は、笑えなかった。

「ああ、理解しているさ。やらなければならないことを。そのためならば――――」

「全てを打ち払う、か。同意するよ、その意見。続きを始めようか」


継戦の言葉と動じ、メンマは自分の掌を拳で打ち鳴らした。

パシン、と甲高い音がなり、風が吹き荒れる。

「無理は承知。でも、多少の無茶ならば――――」

吠えると同時に足をあげ、性質変化によりチャクラを風にして

『承知の上だ!』

ミナトが合いの手と共に、風の形態を変化させる。そして、足の裏で風の鞠が生まれ、瞬時に爆発。

(三度は通じんぞ!)
肉薄する敵。だが読んでいた長門は反応し、メンマから放たれる左の掌打を右手で打ち払った。

「オラァ!」
しかし、メンマにとって今の一撃は"見せ"の虚動。
あくまで動じず、実の一撃たる右の掌打を放った。

「ぐっ!」
長門は本命の一撃に、雷速で反応。残っている左腕で、掌打を受け止めた。

肉と骨のぶつかる鈍い音が鳴る。

掌打の威力に圧された長門は一歩だけ後ろへさがり、押し出したメンマは更に踏み込んでいく。

前方へと左足を軽く踏み出してそのまま跳躍、空中で全身を捻りながら静止。
そいて吐き出す息と共に右の回し蹴りを放った。

「っ」

長門は後方へ身体を逸らし、側頭部に襲い来る蹴りをかろうじて回避する。

「まだ!」
だが、メンマは止まらない。右足の振りの勢いそのままに、左の後ろ回し蹴りを放つ。

「甘い!」
しかしそれを読んでいた長門は、その左足を腕で受け止めた。
メンマの身体の回転が止まる。

長門は宙に浮かんだまま、バランスを崩している無防備なメンマに踏み込んでいき――――その顎をかちあげられた。

一瞬遅れて、風が吹く。メンマの左足を押し上げた風鞠の残滓が。

「まだだ!」

そして再度、振り上げた足の先に風の鞠を展開し、解放。

吹き降ろしの豪風と共にメンマの足が鎌のように振り下ろされ、長門の脳天へめりこんだ。

瞬時の間に、上から下からの蹴撃を受けた長門の頭蓋が揺れ、脳が揺れる。

メンマは足元がおぼつかなくなる長門を見て、軽度の脳震盪を起こしていることに気づいた。

(好機だ)

これを逃す手はないと、メンマはチャクラを一気に練り上げた。
今までとは倍する規模での風を生み出し、準備を整え、

「行くぜェ!」

叫びながら大きく一歩踏み込みんだ。全力の震脚が地面を砕き、

『一ぃ!』

ミナトにより集められた暴風が鞠となって、爆発。

「二のぉ!」

"メンマ"が、腰をひねり腕を腰に溜めて引き絞り、抉り込むような掌打を放ち、

『『三ッ!』』

体内の九那実が天狐のチャクラを体内に駆け巡らせ、クシナがそれをコントロール。
練り上げられたチャクラが合図と同時に、掌の先に収束していく。

それは、四心一致の妙技。

捻りが加えられた掌打の腕、追い風がそれを更に加速させ、


『『『「破ぁッ!」』』』


都合4人の怒涛の呼気の即後。

追い風プラス奥義の掌打プラス天狐のチャクラが一つに集められた渾身の掌打が、ずどんと長門の胴部へと突き刺さった。

「グハァッ!?」

外部より内部の破壊を、という目的のために練られた掌打の一撃。
長門は今までに感じたことのない衝撃を感じ、胃液をまき散らしながら吹き飛んでいった。

ゆうに10間の距離を転がった長門。

体勢を立て直し、メンマを睨む。


「今度は、こちらの番だ!」

長門は叫ぶと動じ、修羅道の能力を発現させる。

数秒後には、かつて失われた兵器がこの今に蘇っていた。

「ってぇ、ミサイルかよッ!?」

「行け!」

長門は指揮者のような手つきでメンマを指し、見た目ミサイルのようなものを放った。

「当たらなければどうということはない!」

場違いな兵器群に混乱したメンマはトチ狂った反応を見せる。
だが正気は失わいまま、飛んでくるミサイルにクナイを投げつけた。

しかしクナイはミサイルを貫くことなく、かん、というマヌケな音をたてて弾き飛ばされた。

「嘘硬ッ!?」

嘘、飛燕を使えば良かったと叫ぶメンマ。
ひとまずその場を逃れるため、先ほどと同じように、風に乗ってその場を退避した。

直後、メンマの居た場所にミサイルが突き刺さり、着弾と同時に爆圧と爆風を撒き散らしながら、四散する。

爆風で、砂埃が舞った。

「ちょ、自重しろ神様!」
爆風止まぬ煙の中。予想の数倍の威力があったミサイルに、メンマは手をわたわたとさせながら慌てた。

「これでも自重している!」
手加減はせんがな、と長門は爆風が晴れた後、即座に再度爆撃を刊行した。

そしてミサイルを放った直後、印を組んで風遁を発動させる。

「風遁・烈風掌!」

飛び道具の速度を上げるか、敵を吹き飛ばす風遁のCランク忍術。
メンマにならって、追い風でミサイルを加速させたのだ。

「ちィ!」

メンマは舌打ちをしながら対策を考える。
だが爆圧を回避することは不可能だし、中途半端な距離で撃ち落せばこちらにも爆圧がくる。

ならば、とメンマは突っ込むより、一時的に退避する方を選択。右へ大きく、跳躍する。
しかしミサイルはそのまま地面へと着弾せず、空中でその向きを変えた。

「なっ!?」

メンマが驚きの声を上げた。

ミサイルはまるで生きているかのように、自分の居る方向へと軌道を変え、更に加速し向かってくるのだ。


「ちょ、まず………!」

ミサイルが、慌てるメンマのもとへ近づいていく。空中に居るその場所へ、徐々にその距離を詰めていく。



そして、その距離が零になる直前。長門は印を組み、爆発させようとする寸前。



すっ、と。


長門の眼前に、どこからともなくクナイが降ってきた。


地面に突き刺さったクナイ、そこにはマーキングの紋が描かれていて、


「なんてね」


メンマがその場所へと"跳んで"くる。

そして隙あり、と一歩踏み出しながら、大玉螺旋丸を放った。

「今更そんなものを!」

迫り来る大玉転がし。長門は餓鬼道の力を使い、それを吸収する。

端から中央へ、どんどんと吸収されていく螺旋丸。それは身を隠すのには十分で、

(なっ!?)

目眩ましになるもの。螺旋を吸収した後。

長門は、目前で大きくクナイを振りかぶっているメンマの姿を見た。
その後ろに、風の鞠が漂っているのも。

(至近距離から!?)

風が爆発し、クナイが跳ぶ。
捻りも加えられたクナイ、弾丸のようなそれは、長門の眉間へと唸りを上げて大気を切り裂いた。

長門は慌て、迎撃の体勢に入る。クナイには風遁の刃がまとわされているのだ。
岩をも貫く飛燕の一撃、土遁による防御も効果が薄いと判断した長門は、腕のチャクラを性質変化させて火の性質をまとわせた。
相手は風遁だ。雷遁に属する千鳥流し刀には、意味がない。

「ぐっ!」

火が風を喰らい、飛燕がその効力を減衰させられる。
しかしクナイ自体の速度が尋常ではなく、防御した長門の腕には、深々とクナイが突き刺さっていた。

そして――――“長門の視界は、自らの腕でふさがっている”。


(後ろ!?)


腕を下ろし、視界を確保したのと、同時。
長門は相手の姿が目の前に無いことと、背後に迫り来る気配を感知した。



(肩にマーキングが、後ろに跳んだのか! だが―――)


惜しかったな、と。長門は呟くと同時に、両手を広げた。




「神羅天征!」



キラービーに使用してから数分が経った今の長門は、神羅天征が使えるまで回復していた。


斥力の嵐が、全方向に吹きすさぶ。

指定なしの手加減抜きで放たれたそれは、周囲にある全てを吹き飛ばした。

岩も土も雪も城壁の破片も調度品の残骸もクナイも。

手応えを感じた長門は、振り返る。だが、そこに吹き飛ばされたはずのメンマの姿は無い。



あるのは、空間の歪だけ。




「レディ―――」


メンマは先ほど居た位置で、クラウチングスタートの体勢に入っていた。

足元には、マーキングが刻まれたクナイと、風の鞠。


「ゴッ!」


踏み出すと同時に、爆風が生まれた。

滑空するが如く駆け抜けたメンマは、一歩目で30間の距離をつめ、二歩眼にはその倍の距離を踏破する。


(速いが、その距離ならば―――)

十分に迎撃できると、長門は黒い刀を取り出すと同時、刀に風をまとわせた。

それはメンマと同じ技、飛燕。
黒い刀と風の刃により、長門の間合いが徒手のそれより3倍の距離となる。

(動きを見切り、こちらに達するより先に貫く!)

拳を見切ることは難しいが、ならば出させなければよい。
間合いに入る前に対処すればいいと、長門は輪廻眼でメンマの動きを先読みする。

するとメンマはクナイを放ってきた。走りながら放たれたそれは追い風により加速されておらず、並の速度。

弾くまでもないと、長門は首をわずかに傾けるだけで、その一撃を回避する。

本命はこの後。長門は構え、洞察眼を最大にする。


(今、だ!?)

長門が刀を構え、動作を把握し、刀を突き出す―――――それと、同時に。

「飛雷神、二ノ段!」

メンマが“先ほど放ったクナイ”に跳ぶ。

(しまっ――――)

誰も居なくなった前を見て、長門は失策を悟った。
回避するにも間に合わず、突き出す動作に入ってるから防御もできない。

神羅天征も先ほど使ったばかりなので使えない。

出来ることといえば、空間の歪の残滓を虚しく貫くことだけ。


完全な、死に体となった長門に――――


「螺旋丸!」



満を持して放たれたメンマの螺旋丸が、長門の背中に炸裂した。


















~~~~~




五影より離れた場所では、五影と同じように捕らえられた護衛の忍び達が居た。
そこで、長門の中継による現場の一部始終を見せられているのだ。

彼等は目の前に映る光景を見た後、驚愕の表情に染まっていた。


「………すごい」

呟いたのは、キリハ。五影達と同じく、十尾の泥により全身を束縛されていた。

(飛雷神の術を完全に使いこなして………いや、父さん達が手を貸しているのかな?)

キリハは画面越しにでも、兄に重なる父と母と九那実の姿とチャクラを感じ、そんな考えを抱いていた。

他の者も、何かを感じていたのだろう。
戦争を経験したことのあるベテランの忍者達の中には、「木の葉の閃光?」呟く者達も居た。

「……これがあいつの本気か。煙に紛れて死角に紛れ、細工を凝らして条件を整える。大味な戦いを好んでいると思っていたが」

「木ノ葉崩しの守鶴………我愛羅との戦いのことを言っているなら、違うぞ。あれはあれで理に適ったやり方だ。殺すではなく、ぶっ倒すだけなら」

殺すだけなら病院で出会った時にやるのが最善だったろうし、とシカマルが言う。

「それは………そうだな。しかし敵の様子も変だ。いくら何でも一方的過ぎる。この程度の動きならば、我愛羅も対処できるだろう。五影全員がやられるまでとは思えない」

「あれは………場所が悪かったんだろうな。閉鎖空間で城を吹き飛ばすほどの威力を持つ衝撃波を使われたら、誰でもああなる。
 自由に動ける広い場所か、外で戦えばまた違った結果になったと思うけど………その場所を整えるのも忍者の能力だ」

しかし、そうせざるを得なかった理由があるのを知っているシカマルは、その顔を歪めた。
里を覆う影だってそうだと呟きながら。

「あれも………!?」

「ああ。いくらなんでも制圧までの時間が早過ぎる。里は完全な防衛体制。外からの攻撃に対する備えは万全だと言ってもいい。それをこの短時間で落とした、ってことは………」

「中からの攻撃しかない、というわけか」

「恐らくは、最初の襲撃に使われた死体。あれに何かを仕込んだんだろう。ったく、最初の一手からここまで全部つながってやがる。野郎、ずっと前からこの状況を狙っていたに違いない」

でも無傷とはいかなかったようだな、とシカマルが言う。

「………そうだね。足の動きに違和感を感じる。チャクラの切れも悪いんじゃないかな。本来の精度を保てていないような気がする」

特に左半身の反応が鈍いと、キリハは見ていた。観察眼と勘による判断だが、恐らくは正しいと彼女は思っていた。
事実、その考えは正しかった。

度重なる激戦に、長門の身体もガタが来ているのである。

「足にもキてるな。外傷は無かったから、よほどいい一撃………拳か岩か、なにか重量のある一撃を受けたのか。よほど気合の入った一撃だったんだろう。じっくり芯まで衝撃が残ってる状態だ、あれは」

「そこに体術の連撃と螺旋丸が。普通の相手なら終わったと見ていいが………」

「何、やったのではないのか?」

完全に入っただろ、というテマリ。
それに対し、シカマルは見ろ、と首だけで前を示す。

指した先、映像の向こうでは緊張した面持ちで深呼吸をするメンマの姿が映っていた。

「身体がこわばってる。これは、むしろ…………」

ここからが本番なのか、と。

シカマルが口を開こうとする寸前。




忍者達と、五影を含む周辺。



城を中心とした、付近の空気が一片した。







~~~~~~



「上手くいったけど………これからか」

メンマは、前もって戦術を決定していた。
相手の手札は数えきれなく、その術も強力だ。受けに回っていては、いずれやられるだけ。

ならば、それを出させなければいいと考えたのだ。

その答えが、唯一相手に勝るであろう、速度。それを活かした機動力と連続攻撃により、主導権を掌握し続けることを選んだのだ。
息もつかせぬ連続攻撃と、風を駆使した機動戦術を混合させた奇襲で、多彩な戦術を封じる。

一人では無理だっただろう。しかし、今は4人居る。
最後に仕上げも、飛雷神の術あってこそだ。

一番の壁である神羅天征を“出させた”――――否、出さざるをえない状況まで持っていった上で、回避する。

だが肝心の回避の術は、少ない。無傷でそれをできるのは、時空間忍術による長距離移動だけなのだ。

(それでも、前情報が無ければ無理だったな)

戦ったことがあるのも大きいと、メンマは拳を握った。

やられた時のことを思い出しているのだ。
かつて味わった、完膚無きまでの敗北。

(今回は勝つか、負けるか………いや)

だが、それもまた終わってはいない。

何より、本番は――――“世界そのもの”を相手にするのは、これからなのだから。


その時。メンマの思考に呼応したが如くタイミングで、地面が鳴動し始めた。


『……来たねー』
ミナトがぼそり、と呟く。そこに、余裕の色は一切無かった。

『来ちゃったってばね』
ようやくスタートラインだけど、とクシナがぼやく。

『これにて前菜は終わりだな』
随分骨のある濃い前菜だったが、と九那実が実に嫌そうに言う。

「………五影と護衛とカカシと再不斬と俺でようやく、か」
これで前菜ならどんなコースだ、とメンマがぼやく。

「六道巡り地獄行きだ、閻魔の裁定は厳しいぞ? ――――善行の貯蔵は十分か、人間」
その問いに答えたのは、眼前に立っている者。

それは全身を黒く染められた、長門であった。
その声には、誰とも分からない者が声が重ねられている。気の弱い者が聞けば、悪い夢に現れるような恐ろしい声による回答。

対するメンマは、更なる苦笑を返す。

「生憎と正道を外れた身なんでね。その自信はないよ、神様」

もとより俗人だしと言い切るメンマ。
長門は腕を組みながら構わないと続ける。

「どちらにせよお前しか居ない。見ている者も多いから、せいぜい死なないように頑張ることだな」

「言われずとも――――って、もしかして里の人間も見てるのか、この戦闘を」

「絶賛中継中だ。“他の映像”も見せているが――――それが徒労に終わるのかは、これからの戦い次第だ」

だからがんばれよ、と。

長門が告げると同時、地面から黒い泥が大量に飛び出した。



「行くぞ!」




合図が送られて、間もなく。


黄泉が如き黒い泥が鳴動し。波濤となって、メンマに襲いかかった。








[9402] 小池メンマのラーメン日誌 九十一話 「共に」
Name: 岳◆3d336029 ID:0347f440
Date: 2010/12/23 17:18



それは、城が吹き飛ばされた後。
五影が、キラービーが倒された後の一場面。

隠れ里に異変が起きていることに気づいたメンマ達は、心の中で会議を開いていた。
皆が横に並び、想像以上の力量を持っている長門の方を向きながら、各々に感想を言い合う。

「ちょっと…………不味いかもしれんね」

「ん、予想外だったね。最悪の一段上を………いや、悪いという意味では下なのかな」

「………その割には、二人とも慌てていないってばね」

「うむ、こう何度も繰り返されれば慣れもする。それよりも………分かっているな?」

何とも言わず、九那実はメンマに問いかけた。

「………分かってる。四の五の言ってられる場合じゃないってことも」

元気なく、メンマが言う。

彼我の戦力差は大きく、メンマ達が作戦前に想定していたものよりも、かなり大きかった。
本来使いたくないものまで、使わなければならないという程に。

「一つのミスで致命傷を受けかねん………上手くやろうなどとは考えるなよ」

「それは、分かってる」

城を吹き飛ばした術、そしてキラービーに見せたあの術。
まともの受ければそこで終わりで、以前見せられた他の術もそう。

緩みなど見せればそこで終わり、次の瞬間には天に召されているだろう。

メンマはため息をつき、九那実に謝罪の言葉を向けた。

「悪いね、キューちゃん、俺の力不足のせいで」

すまなさそうに謝るメンマ。

対する九那実は、首を横に振った。

「いや、悪くないぞ。全くもって、悪くない。これは我の戦いでもあるし、それに………」

九那実は暗い雰囲気が流れる場にあってなお、輝くような笑みを浮かべた。

「チャクラだけを貸した戦場は数あれど――――初めてだからな。真の意味で"一緒に戦える"というのは」

前を向き、遠い目をしながら問いかける九那実。
メンマは腕を組み、今までの戦闘を思い出した後、そういえばそうだったね、と返した。

「一緒に戦う、か。複雑だけど、そう考えれば―――」

確かに悪くないのかも、と。
メンマは頬をかきながら、横目で九那実の方を見た。

九那実の方も、メンマの方を横目で見ている。

二人の視線が、重なった。


血のような赤の瞳と、空のような青の視線が重なる。

二人の手がすっと上がり、ゆっくりと閉じられ、拳が作られる。


そして、互いに無言のまま。



こつん、と拳同士がぶつけられる。



「行こうか」

「ああ」





何かを握りしめた、拳と拳。


掌に何かを隠した、拳と拳。





鼓動が交わる、音がした。






















小池メンマのラーメン日誌

 九十一話 【 共に 】

















ひたすらに黒い、底なしの闇。メンマは目の前の物体を見た瞬間、全身に鳥肌を立てていた。

悪意が煮詰められ抽出され、更に混ぜられ長時間煮られればこうなるのだろう。
逃げ場などない、視界の全てを覆い尽くさんという程に大きい、濁りに濁った黒い波濤。

それを前に、いつかの守鶴の砂の津波を思い出したメンマは、立ち向かうことを選択した。
ここで後方に逃げても波は追ってくるので意味がない。

そしてここで後ろへ退くのは、絶対にやってはいけない選択だと思っていた。

この恐怖を前にして、一度でも背を向ければ戻れなくなる。
そう考えたメンマは、ならば、と対応策を考える。しかし打つ手は数少なく、時間はない。

だが状況を打破しなければならないメンマは舌打ちをしながら、札の一つを切ることに決めた。

いつにない速さで腕元の紋にチャクラを流しこみ、前もって用意しておいた起爆札付きクナイを口寄せし、叫ぶ。


「飛燕裂空!」


片手に3つ、両手で6つ。
通常と比べ倍する大きさの空刃が纏わされたクナイが放たれた。

同時に解放された風鞠が破裂し、出でた追い風がクナイを追いかけ、更に加速させる。

ただの刀から大業物へ。風遁の刃によって鋭さが増されたクナイが、泥の表面を貫いた。

そのまま波の中腹へと突き進んでいくクナイは、動きが止まって間もなく、

「爆発しろ!」

両手をあわせるメンマの合図と共に、爆散した。

クナイに貼られている起爆札はいつもの謹製物で、爆発の威力もケタ違い。

更に6箇所同時に起きた爆発の圧力と爆風が連鎖し、黒の波を内部から喰らい尽くていく。


散った黒い泥が、雪のように舞散り――――その雪の中を、ペインは駆け抜ける。

「喰らえ!」

人外の脚力で風のように駆け抜けたペインは、メンマの眼前で踏み込み、拳を振るう。

メンマはその一撃を受け流そうとして――――背筋に怖気が走った。

(―――身代わりの術!)

心の中で叫び、堅牢な岩塊を口寄せる。
それを身代わり残し、跳躍した。

ペインはそれを見ながらも拳を引かずに振り切った。


――――そしてメンマは、眼下に広がる光景を見て、今の自分の行動が正しいと悟る。

身代わりに使った岩塊は固い岩盤を切り取ったもので、ともすれば飛燕をも止めうる硬さを持つ。

通常であれば殴った方の肉が避け、拳が砕けるほどのもの。

それが、ただ散った。
激音と共に、問答無用で破砕されたのだ。

ぱらぱらと、小石が散らばる音だけを残して、木っ端微塵に舞い散った。

その、尋常でない破壊力を見せつけられたメンマの顔が青ざめる。

あれだけの威力だ。独立している部位、例えば顔、腕、足に当たりもすればその部分だけちぎれ、燕のようにすっ飛んでいくだろう。

胴に受ければ内蔵の数個は破裂させられるに違いない。
メンマは滝のような血反吐を吐きながら、のた打ち回る自分の姿を幻視する。

(いや、幻だ)

去来する恐怖を胸の底に沈殿させ、メンマは自分に言い聞かせた。

当たらなければ、力など無いも同じと。
しかしそれは理屈で、目の前に現れた死の恐怖は消えず。


メンマはわずかに後ろへと下がった。

ペインはそれを見て、わずかに笑い、


「その判断力。実に大したものだ、が――――」

まだ序の口に過ぎないぞ、と。
ペインはそう告げると同時に、足元の地面を掌で叩いた。

バン、という音が鳴る。

それを合図として、地面が隆起し、その中からやがて黒い泥が溢れでてくる。
そして泥はまるで粘土のようにゆっくりと。

ペインの意志によってこねられ、一つの場所に圧縮されて――――

「行け!」

叫びと共に、勢い良く射出された。
先ほどのミサイルとはまるで違う、正しく突風のような速度で放たれた黒く巨大な槍が、メンマの心臓へ向け飛んでいく。

瞬きもすればこそ。一瞬後には、もう目前にまで迫っていた黒い槍を、メンマはかろうじて避けた。
身体を傾けると同時に、風の鞠を身体の横で爆発させ、身体ごと吹き飛ばしたのだ。

先ほどまでいた場所を、黒い槍が通りすぎていく。

そして、過ぎ去った背後。城壁の土台部に突き刺さり、そのまま貫通した黒い槍の威力を見たメンマは、戦慄する。

もしあのまままともに受けていたら、腹を貫かれそのまま内蔵をぶちまけられていただろう。
それどころか、余波で血液が逆流し、心臓に深刻なダメージを負っていた。

殺意に溢れた攻撃を見たメンマは、自らの無残な死体を想像してしまう。

額から、一筋の汗が流れ出す。

ペインはそんなメンマの心境など知ったことかと、次なる攻撃を仕掛けた。

ゆっくりと右手が上げられ、

「万象天引」

ペインの叫び声と共に。かざされた手に、あらゆる物を引き寄せる引力が生じた。

メンマは踏ん張ってみせるが、引き寄せる力の方が上で、地面の砂ごともっていかれてしまう。

「く―――!」

宙に舞いながら、メンマは正面を見据えた。

見れば、相手は掌をかざし、もう片方の手で刀を持ち、待ち構えていた。
刀身からは、黒い泥。先ほどと同じ、手持ちの槍の形状だ。

メンマは咄嗟にクナイを取り出すが、リーチの差は歴然だ。

このままでは串刺しにされかねない。

そう考えたメンマは飛燕を使い、自らのクナイにまとわせ、伸ばし、刀の形状で固定する。

だがそれと同時、ペインは勢いよく自分の足を地面へと叩きつけた。

ダン、という音。

それと同時、黒い泥が再度地面から吹き出した。即座に固められると細い槍となったそれは、宙に浮かびながら引き寄せられるメンマの胸元を貫かんと襲いかかった。

足場なく、捕まる所もない。そう判断したミナトは、足元に風の鞠を作り上げ、メンマがそれを踏みつけた。

「風踏!」

爆風。同時、風に乗ったメンマの身体が、天高く舞い上がる。

黒い槍が過ぎ去るのを見たメンマは安堵し――――ため息をつこうとする寸前、ミナトの叫びがこだました。

『上だよ!』

焦りの声、必死の叫び。
それに即座に反応したメンマは、上を見上げる。

そこには頭上には黒い泥が配置され、今にもメンマの全身を覆い隠さんと広がっていた。

「くっ!」

起爆札で吹き飛ばそうにも、距離が近い。そう判断したミナトとメンマは、再度風の鞠を作り出し、蹴った。

空に向けて作られた蹴鞠による爆風に煽られ、メンマの身体は急降下した。

まだ引力は働いている。メンマはそんなペインに向き合いながら、反撃に移った。

腰元からクナイを取り出し、ペインの額に向けて投擲する。

だがそのクナイの速度に加速はなく、常識の範疇の速度であった。
当然、正真正銘の化物と化したペインには通用しない。

片手で造作もなく、一振り。それだけで全てが払われてしまう。

(―――くるか)

クナイを叩き落したペインが、心の中で呟く。

足元に散らばったクナイ、見れば柄の部分に紋が刻まれている。

それは先ほどまで自らの肩に刻まれていたものと同じで、飛雷神の術の目的地を示すもの。


(マーキングか、よかろう来るがいい。その時が――――)

お前の最後だ、と。

ペインがほくそ笑むと同時、メンマは印を組んだ。

それは時空間跳躍忍術を示すもの。メンマの体内のチャクラが変わり、ペインはそれを輪廻眼で捉える。

メンマの眼が、大きく見開かれ、チャクラが高まった。

悟ったペインが構えを取る。
そして跳躍の目的地である、クナイの方を注視した。

メンマから、転移の印が組まれ、それと同時にペインが腕を振りかぶる。


それを合図として、メンマの姿は――――――掻き消えず。


(―――なっ!?)

攻撃の動作に移ろうとしたペインは、メンマのチャクラが霧散したのを見て、焦りの声を上げた。

(裏の、裏か!)

しまったと思ってももう遅い。メンマは一挙動、つまったペインの元へすでに距離を詰めていた。
そして降下する勢いそのままに、前蹴りを放った。

防御の腕と、蹴り足が衝突する。

人外のチャクラを持つ同士が正面からぶつかり合うことで、周囲に爆風が生まれた。

しかしペインは倒れもしなく、ただにやりと笑うだけ。

メンマが渾身の力をこめた蹴りを受けながら、小揺るぎもしなかった。

(っ、なんつー力だよ!?)

ケタ違いに上昇した身体能力を前に、メンマは焦った。そのせいで身体が硬直し――――ペインはその隙を逃さず、反撃に移る。

「来い!」

声と同時、最初に放った地面から突き出された黒い槍が戻ってくる。

背後、メンマの死角からそれが襲いかかる。

ペイン自身も拳を引き、前後からのはさみうちを仕掛け―――

「っ、マダオ!」

『承知!』

意図を察したメンマは言葉もなく呼びかけた。
何とも返さず、ミナトがそれに答える。

直後、蹴り出した足に、もう片方の足が重ねられ、特大の風の鞠が生まれ、

『解放!』

号令と共に、烈風が生まれた。

メンマは両の蹴り足から生まれた風に乗った。宙に舞い上がり、十尾の攻撃を回避し、そのまま再び距離を取る。
風に乗る回避と、爆風による攻撃を同時にする戦術だ。

阿吽の呼吸は見事にはまり、顔のすぐ前で風の塊を解放されたペインは吹き飛ばされ、そのまま後ろへ転がっていく。


だがペインは、それでも笑みを絶やさない。


「お前も、この程度なのか!」


即座に体勢を立て直し、また十尾を呼び出し、圧縮しはじめる。

それを見たメンマは、呆然としながら呟く。


「…………あれが、全然効かないのかよ」

軽い脳震盪ぐらいは起こせると思っていたのにと言うメンマ。

九那実は、首を振りながら、低い声であれはもう違うと言った。

『まともな人間ならばそうじゃろうが………気をつけろ。あやつの肉体、既に人間の範疇にないぞ』

既に、理を外れていると。

そう称されたペインは、ゆったりと動き、



『――――来るよ!』


ミナトの声と共に、再び黒い槍が乱舞した。







~~~~~



激音が響く戦場。それを鏡越しに見ながら、サスケ達は言葉も発せないでいた。

出鱈目の連続を惜しげもなく繰り出してくるペインに、恐怖していたのだ。

メンマをして即死級の攻撃を、分の間に幾度も放ってくる怪物。

ただ、その圧倒的な力を前に、死を恐れる人としては黙らざるをえなかった。

それほどまでに目の前のペインは圧倒的で、いっそ神々しいと言える程に異様であったのだ。


「………っ!」

「――――」

「二人供………」

シンの足が震えていた。一歩も、前に進まないようだ。
灯香は、歯をくいしばっている。目の前の理不尽と、かつての光景を思い出し。

サイは、そんな二人に心配そうな声をかけている。




「………まずいな。防戦一方だ」

「ああ。あいつの攻撃も………そこそこ当たってるようだけど、全然効いていない」

「それに………腰が引けているな。あの拳を見た後だから、無理はないが」

多由也が、サスケが、イタチが、顔を険しくしている。
見える戦況と、相手の実力を把握した上で。

追い詰められていく、メンマの身を案じながら。

足元では、香燐が気絶していた。誰よりもペインの強さを知ることができる彼女は、十尾が本格的に動き出した直後に気絶してしまったのだ。

そんな香燐を見下ろしながら、菊夜が言う。

「………正直、これほどまでとは思わなかったです」

「そうだな…………忍界を滅ぼす、とは大言でもなんでもなかったか。確かに、これだけの力ならばそれも可能」

無表情に言うザンゲツ。
それに対し、紫苑はしかしと言い返す。

「負けないさ。ペインの強さは確かに異様――――だが」



こんな所で終わるあいつではない、と。

紫苑が告げたと同時、鏡の向こうのメンマは、完全に包囲されていた。








~~~~~





「どうした? ――――終わりか」

ペインは傍らに十尾を侍らせ、冷然と問いかける。

「終わ、ら、ねえよ」

肩で息をしながら言い返すメンマ。
全力で逃げまわり、体力を消耗した彼からの全身からは、湯気が出ていた。

あちこちに刻まれたのは小さな傷。直撃を受けずとも余波で肉を切り裂かれたのだ。
少なくない量の赤い命の水が、流れ出ている。

ペインは呆れ声で返した。

「そんな………満身創痍の身で。口だけでも言えるのは大したものだ、が…………これで終わりだ」

ペインは、言うと同時に泥を薄め、空中へと散布しはじめた。

間もなく、黒い霧がメンマを囲んでいく。


「………っ、風よ!」

危険を察知したメンマは印を組みチャクラを練り込み、性質変化による風を放射状に放った。
生み出されたその爆風は停滞なく黒い霧に直撃し、全てを吹き飛ばそうと駆け抜けていく。

しかし、風が吹き去った後、霧は残っていた。
粘度が高い霧はわずかに揺らぎはするも、散りはしなかったのだ。

居直る霧は変わらぬ禍々しさを保ちながら、収束する。

「四方八方からの攻撃だ。一方向を吹き飛ばそうとも、残りの波がお前をさらう」

死刑宣告の叫びが、広場に響き渡る。

障害物も全て砕かれた平原、三狼の山の頂きにペインの声がこだまする。


そんな中、メンマは声を聞いていた。自らの内から聞こえる声を。

親指の肉が食いちぎられた。



――――血を流す指が、“戌”の印をかたどる。



「マーキングの類は既に退けた。放とうとも、飲み込んでくれる」

逃げ場は無いと、ペインは言う。

そしてその声を合図として、霧は泥に、泥が波となった。


自らを包囲する黒い波。

それは間断なく隙間なく、そして容赦なくメンマを飲み込もうと迫ってきた。



――――メンマ印が、“亥”へ申へ変わる。




「―――負の念に。飲まれて、果てろ」


泥が迫る。

波が迫る。

全てを飲み込む世界が迫る。



それに構わず、メンマは、“申”と。

そして“酉”の印を作り、最後。




『主よ――――』




―――――印の形が、“未”へと変わる。


目の前の絶望を前に。それを無視し、メンマはただ自らを呼ぶ声に応じる。



『――――呼べ!』



自らに問いかける、最愛の人の言葉に。


「応よ!」


叫びに、是を返して。

メンマは血に濡れた掌を、自らの心の臓へと叩きつけた。




自らの魂に喝を入れ――――そして、術の名を叫んだ。









「口寄せの術!!」






――――声と共に、白煙が舞った。









~~~~~~~








じっと見据えていた戦場。抗う最後の希望が絶望に飲まれようとしていた。



その中で、五影達は見ていた。



闇を払う、金の帯を。





それは九つにわたり金毛に包まれた尾。



最強の尾獣と恐れられた、最強のチャクラを擁した、恐怖の代名詞とも謳われる妖魔。




咆哮が、響く。









~~~~~~




「九那実さん………!」

「野郎、とうとう………!」


眼を覚ました白が、再不斬が映る光景を前に息を飲んでいた。


あまりに凄い、その威容。金毛に包まれた九尾が持つ美しさに、声も出なかったのだ。



そしてサスケ達の元へも、咆哮が届く。



その頭の上には、金髪の忍びが腕を組みながら乗っていて。



「先生…………!」




カカシは、その背中に自らの師の姿を幻視していた。







~~~~~~~




「キューちゃん!」

メンマが叫ぶ。それに呼応して九つの尾が動く。

金と見紛う程に濃密に籠められたチャクラ、美しき尾の束が空を薙ぎ払った。
泥が蹂躙される。それを纏わされた尾の一撃でもって泥が打ち払われたのだ。


その威力と、メンマを使った術とその狂気を見たペインの顔が、驚愕に染まる。


「正気か、貴様………その魂、保ちはせんぞ!?」

メンマの足元。

口寄せの術でもって呼び出された巨体。


九尾の妖狐を見たペインは、メンマの正気を疑った。巻物による仮のつながりではなく、魂が結びついた状態で口寄せすれば――――規格外である天狐の魂を活性化などしてしまえば、人間の身体などひとたまりもない。
最悪、宿主の身体が喰われかねないのだ。


「ああ、百も承知だ…………けどよ! 臆病風に吹かれて、ここで逃げ出すくらないなら――――」


震えている腕。それを振り払い、メンマは叫んだ。



「いっそ見事に、咲いて散ってやらあ!」


渾身のチャクラが、吹き荒れる。

肉がふさがり、傷が癒え――――魂に罅が入る。

途端に走る激痛。しかしメンマは、それを無視してみせた。

「行くぜ!」

メンマの呼びかけに、3人は声を大にして応と返した。
体内からは波風ミナト、そして九尾の身体から、九那実とうずまきクシナが。

それは互いに離れた肉の姿を繋ぐ、互いをよく知る者たちの意志であった。

メンマと九那実、ミナトとクシナ。そしてメンマとミナト、クシナと九那実。
比翼であり連理、それぞれが共に過ごしてきた時の中で交わり交わした心の具現。

想いと思いで願いを型どり、それこそが、九尾の肉体を保ち、メンマの肉体を保っていた。

『とはいえ、長くはもたないよ!』

「分かってるさ、手早く片付ける――――九那実!」

「呼んだな、メンマ!」

九那実はメンマの呼びかけに対し、狐の姿でわずかに身をよじらながら、自らの周囲にチャクラを展開した。

尾獣に比べれば少しは落ちるが、それでも意志の篭った天狐のチャクラは凄まじい。尾獣のチャクラを操る術に長けたクシナの補助もあって、規格外の密度となっていく。

それをミナト、メンマが共同して風に変えていく。

「出来るものなら、やってみるがいいさ!」

ペインが、合掌した。柏手が鳴り、巨大な泥の波が唸りを上げる。


九尾を押し包むように、負念の波濤がおしよせ、


「しゃらくせえ!」


メンマが一喝する。

同時に振るわれた九那実の巨大な爪が、黒い絶望の波を半ばから真っ二つに切り裂いた。

うなりを上げて空を裂いたその一撃、余波でペインの近くにある地面まで深く、文字通り爪痕を刻まれる。

ペインはその威力に顔をひきつらせた。そして爪の先にあるものを見て、叫ぶ。

「飛燕を、爪にしたのか!」

「ああ―――風遁秘術・風牙風爪! 盛大に葬ってやるよ!」

「やってみるがいいさ!」

言いながらペインは膨大な量のチャクラを練り、修羅道の能力を使った。

面で駄目ならば威力の高い点で埋め尽くせばいいと、周囲に滅びた兵器群を具現化したのだ。

(図体がでくなった分、破壊力が増しはしても、機動力は落ちた筈!)

ならば八尾と同じに、避けられない攻撃を当てればいい。
そう思ったペインは兵器群を一斉発射した。


尾に火を灯し、飛来するミサイルのようなもの。

対するメンマはそれを見て、にやりと笑い、腰元から取り出したクナイを四方へ放り投げた。

ペインはその位置を確認し、意識の底でその場所を攻撃範囲に入れ、

(布石―――本番は、これから)

メンマは兵器群を迎撃すべく、印を組み忍具口寄せを使い、風魔手裏剣を呼び出した。

身の丈程もある巨大な手裏剣、その一面には起爆札がびっしりと張られていた。

これは、この日のために作った切り札のひとつだ。

メンマはそれに、渾身の―――かつてないほどの大きさを持つ、特大の飛燕を纏わしながら、その場で大回転しぶん投げた。

『加速!』

間髪入れずに風の蹴鞠が炸裂、手裏剣の速度を更に加速させる。

特大の風が纏わされた手裏剣が兵器群の中心へと一直線に飛んでいき――――九尾の尾が紅蓮に染まる。


「行け、狐火!」


―――咆哮。獣の雄叫びが、大気を震撼させた。

その直後、九那実の尾から特大の狐火が放たれる。

その狐火の炎は、生まれた瞬間に近くにある、濃密な風を喰らいだしていく。

それは手裏剣からこぼれる風の轍。火は風を喰らい炎となり、劫火となる。
そしてまるで導火線上を走る火の如く、風の轍を踏み越え、手裏剣の跡を追いかけていく。

走る手裏剣に、追う炎。


その両者は兵器群の真中で衝突し、爆発した。


特性の起爆札と手裏剣本体にある風の塊、それに狐火が合わさり、起爆札と一緒に爆発。

極まった爆発が周囲の酸素を蹂躙し、食い尽くした。

そして破壊の渦となり、特大の火炎の華を咲かせた。

圧縮された風で咲かされた、橙の巨大華。それは兵器群をあまさず全て吹き飛ばした。


余波の爆風が、メンマとペイン両者のもとへと吹きすさぶ。



「ぐっ!」

「ぬっ!」


巻き起こった風と砂に、両者は眼をかばった。


爆風は構わず全てを蹂躙し、互いの背後にある森林群を力いっぱい揺らしつくした。

細い木々が折れ、枝が折れ、水が舞い散り、まとめて彼方へと吹き飛ばされていく。


それは数秒間続き――――やがて、爆煙が晴れた後。


そこには、既に構えに入っている両者の姿があった。



互いの、視線が合わさる。


(行くぜ)


視線に殺気が生まれる。物言わぬ沈黙の言葉が、視線の上で交わされ、


(こちらもだ)


撃砲鳴らす合図となる。


決戦の意を込めた、決め技。


切り札を切ると決めた二人の周囲に、膨大かつ濃密なチャクラが吹き荒れる。





~~~~~




「目覚めろ、十尾―――」

黒く、負の念が集う。十尾の核に集められた、様々な負の思念がこぼれ出していく。
それは嫉妬、あるいは恐怖、極まった憎悪に、どうしようもない侮蔑、万物の怨嗟に、共通する絶望。

陰に属する想いは連なり重なって高まり、ひとつの形を成していく。

あるいは、巨獣。
あるいは、巨人。

否、形だけが定まらず、ただ禍々しさだけを追求された形態へと変化していく。

「忍法口寄せ・十尾合身―――――」

印が組まれる。それは形だけ、ひとつの指向性を持たせるために組まれた、一見すれば出鱈目な印。

だがチャクラの理を知り尽くす彼にとっては、至極当然なことだった。

そして、生まれた。世界を喰らう、負念の龍が。


屑で集められた九頭の負念龍が連なり、メンマへと撃ち出された。



「陰遁・秘術――――」




~~~~~




「風遁・風龍波―――――」


メンマの声が朗々と響き、風の龍が生まれ、

「忍法口寄せ・風遁・九蓮宝橙――――」

九那実が背負う九つの尾が紅蓮に燃え出した。
それは連なり合わさって、やがてひとつの形となる。

それはまるで、大砲の砲塔。

そしてその九尾の頭にある、橙の人間が、動く。印を組み、砲塔の中心へと風の波があつめていく。

収束させられた性質変化の風が、火に喰われ――――焔が生まれる。

火は風を喰らうの理に則った上での、術。いつかサスケと放った螺旋丸と、同じ原理。

その上九尾のチャクラが合わさった火球は出鱈目な熱力を持つに至り、灼熱の言葉に相応しいほどに勢いを増していく。

それでも尚止まらず、風の龍が次々に火にくべられていき、火は更なる焔となる。

喰らい高まり、飲み込み高まり、合わさり高まり、極めまで高まっていった直後。


メンマの拳が、振り上げられた。

地獄の閻魔を天に供えんとする砲撃が。

天駆ける焔魔の一撃が。



「火遁・秘術――――」



振り下ろされたメンマの拳と共に、放たれた。





~~~~~~~~



山の頂きにて対峙する、九尾と十尾。


その上に乗る者の意志により、術が放たれた。




叫びが、山に木霊する。





『『「「焔魔天駆!」」』』

空喰らう太陽と。





『「陰遁・屑龍弾の術!」』

世界喰らう負念の蛇が放たれた。




それは恐ろしい速度で飛来し、直後中央で激突。

しかし活動は止まることなく、火球の熱量が蛇を焼き、蛇の牙が火球を啄んでいく。

両者一歩も退かない、完全な拮抗状態となる。



「ぐ、ああああああぁッ!」

メンマの声と共に風が吹いた。太陽を風が押し、


「ち、ィィィィィィいッ!」

ペインの声と共に負の思念が高まった。負龍を、黒い意志が押す。



衝突するたび爆発が起こり、爆発が起こる度に余波が漏れ出す。

蛇は太陽を食らおうと、太陽は蛇を焼きつくさんと、幾度も衝突し、削れ、余波を撒き散らす。


その漏れでたチャクラエネルギーは自然と破壊の力となった。

拡散する余波はあらゆる場所に散らばり、大地を、木々を、城の残骸を、無差別に削っていく。


大地が鳴動し、局地的な台風が発生する。


高密度のチャクラが雨のように舞い、嵐のように吹きすさぶ、そこは正に地獄のような光景をていしていた。

しかしその嵐は、以外な形で終焉を迎えることになる。


火球が啄まれ食いつくされ――――そして黒の蛇もまた、火球に焼き尽くされて消失したのだ。




一切の有利ない、完全な相殺。


だが最後の余波が、大気を揺るがした。


蛇の断末魔が響き―――――再度、爆風が吹き荒れた。



「くっ!」


ペインは膨大なチャクラを至近距離で見てしまい、眼を覆った。

その輪廻眼の性能故に、チャクラが"見え過ぎてしまった"のだ。
あまりのチャクラの量に、眼が傷んでしまうことを恐れたペインは一歩下がり、その風をやり過ごそうとする。

そして、風が段々弱まってきた時、洞察眼の精度が落ちたペインは、警戒を高めることにした。

ペインが一番怖いのは、転移による奇襲だが―――

(マーキングのクナイは、遠い)

再度確認し、ペインは安堵した。転移からの奇襲が一番厄介で、対処が難しい。
最初に刻まれたものは消し、再度ばらまかれたモノの位置は確認している。その位置は遠く、あったとしても、転移してから十分に対処できるとペインは判断する。

そして煙越しにうっすらと見える九尾の巨体は、その場を動かないでいた。


(チャクラ量も高まっていない、ならば――――?)


遠距離攻撃もない。


そう、判断した時だった。



「………?」



無言のまま。戸惑いの思考が、ペインの頭の中を走る。




―――なぜならば、無いのだ。



九尾の巨体、その上に『乗っている筈』の、メンマの姿が―――――確認できない。



(あの暴風の中だ、飛雷神の術で転移を――――)



あるいは気配を消したのか。

ペインは周囲を見回し、チャクラを見ようと眼をこらす――――










―――――だが。









『太』







ペインの前から、声がした。




それは、直前までチャクラを弱め、隠行で気配を隠していた者の声。






(な――――――)






悟ったペインの顔が驚愕に染まる。

散々に見せつけた、威力ある攻撃の数々。人を引き裂ける怪力に、圧倒的な殺意。


それを見てなお――――この相手は、正面から来たのだ。



一人の肉の器に、二人分のチャクラ。

互いのチャクラを共鳴させて、極みまで高め合った結果だろうか、魂に過ぎないモノも表に現れて。



(姿が、重なり――――)



刹那の瞬間。


ペインは、二人の姿を見た。

一人は、小池メンマにしてうずまきナルト。
もう一人は、四代目火影――――波風ミナト。






「極」






二人は、全く同じ体勢。

魂の形―――勾玉の形状をした、白く輝く螺旋の球を誇らしげに掲げながら。


真正面から、突っ込んできた。







『「螺旋丸!」』







十尾の防御も、斥力の防御も全部吹き飛ばす程の。


親子二人の螺旋丸が、ペインに直撃した。








~~~~~~~~~~




『「だあああああああああああああっ!」』


二人の声が重なる。チャクラが重なり、共鳴しあう。

親子だからこそ成る、近しい性質を持つ者同時による、共鳴現象。

それはチャクラを従来の百倍程に高めて、その形を変えた。

その外見は、動物の牙か、人の耳か。あるいは空に浮かぶ月か、人の原初たる精子か胎児か、それ以前となる魂か根源か。

古代より伝わる霊器の形、勾玉の形をした現時点で行使しうる最高の螺旋丸、"太極螺旋丸"が、ペインの防御を粉砕し、破砕していく。

次々と、噴き出る負の念。しかし太極螺旋丸の貫通力はそれを潰し、解き、昇華していく。

そしてついに、貫いた。防御を完膚なきまでに散らした螺旋丸が、ペインの肉にまで届く。



「ぶっ飛べええええええええええぇぇッ!」


渾身の咆哮。同時に起きた鈍い爆音と威力に圧されたペインの身体は、まるで小石のように吹き飛ばされていった。

ひとつ地面に叩きつけられ、100間。
ふたつ叩きつけられ、更に200間。

勢い良く跳んだペインは水面を跳ねる石のように跳ね、ぶつかる度に地面を削っていく。
その勢いは森に入っても止まらず、木々にぶつかりながら転がり続けていく。


やがて、遠く。
メンマの耳に、遠雷のような音が届いた。

どぉん、という鈍い音。

聞いたメンマは、転がっていったペインが何かにぶつかり、止まったのだろうと判断した。

ならば、最後の一撃を使わなければならない。そう考えたメンマは足に力をこめようとするが―――力が入らない。

無理の反動が、一気に襲ってきたのだ。そう意識してからは、速かった。意志により若干弱められていた激痛が、倍となって全身に襲いかかってきた。

――――同時に、九尾の九那実が煙となって消えた。メンマの身体の中へと戻る。

『グ…………くっ、あ』

『ギ、く…………!』

九那実とクシナから、苦悶の声が零れた。
肉体を離して攻撃を仕掛けた、リスク――――その、報いが九那実の方にもおとずれたのだ。

反動が負荷となって魂を傷つけていて、そのせいで激痛に身を苛まれているのだろう。

二人の声を聞いたメンマは心配し、大丈夫かと声をかける。

しかし返ってきた言葉は叱咤のもの。

気丈な二人はすぐに笑ってみせ、そして言った。

『今は良い………先にアイツの生死の確認を』

『今、ならば………アレが有効に使えるってばね』

「二人とも………」


その痛み、尋常ならざるに違いない。魂はデリケートで、自らの根本にも関わること。
それ故その痛みは火傷その他、あらゆる外傷や内傷による痛みを上回ることを、メンマは経験上よく知っていた


なのにひきつりながらも笑顔を見せ、行けという二人の言葉。

メンマはその意志を受け取り、黙って頷き、足に力を込めた。

激痛が走るが、それを気合で無視する。

「時間も、ない………!」

しかしそれでも、傷の深さを思い知った。


メンマは痛む身体を引きずりながら走り、削れる地面の跡を追っていく。

一歩踏みしめるたびに、頭と胸に激痛の鐘がなり、メンマの気力を奪っていった。



だが、全速力で走って一分ほど後である。



「見つけた!」

『あれは……!』

二人はペインの姿を確認する。

ふうと、安堵のため息をついた。

発見したペインは大きな樹にもたれかかり、顔を伏せていたのだ。
あれほどまでに猛威を振るっていたチャクラが、今は大人しくなっている。

どうやら気絶しているようだと、4人は判断した。

「チャクラは……消えていない」

『息もあるし、生きているね。気絶したんだろう――――それよりも、早く!』



「あ、ああ!」


メンマは促され掌をかざし、腕にチャクラを走らせた。

身体の中に刻み、隠している切り札が発動しようというのだ。




(キューちゃんの傷も………この程度なら、治るはず。俺もまだ、いけるはず)


予想外の手練だった。死を決心したものだった。


でも今、こうして死ぬことなく立つことが出来ている。


怪我も最悪の想定を超えず、挽回が可能な域にある。


(良かった。ようやく、これで………)


約束が果たせると、メンマは息をつく。

そして、終わらせるための用意を整える。

今からつかうのは、十尾のチャクラが弱まって初めて効果を発揮する、最大の隠し札。

最後の一撃を可能とする、切り札だ。








使うならば今しかない。メンマは眼を瞑り、最後の一撃のために集中する。




(起動――――)





もう空に近いなけなしのチャクラを振り絞る。


そして数秒の後、高まり、形の無かったものが形になる。








―――――そして、それが本当の形となって、外に出る寸前。








ずぶり、と。







(…………ん?)






メンマは違和感を覚え、とじていた眼を開く。



そしてゆっくりと、違和感の元――――異物を感じる、自分の腹を見下ろした。





するとどうだろう。


黒い、一筋の線が『自らの腹を貫いている』ではないか。


メンマは腹部に走る激痛に、どうしようもない場違い感を覚え――――





「あ?」





思考が停滞し、一瞬の間隙が生まれ、



『正直、感服したよ。だが――――そこまでだ』



"何か"が、声を発し、ペインの中にある十尾からもれた"何か"が、閃光となり―――――裂かれたメンマの左腕が、おもちゃのようにちぎれ飛んだ。


激痛が、声にならない叫び声となる。




力が奪われ、意識が朦朧となったメンマは膝から崩れ落ち、



『死は一瞬だ。恐れることなはない』




一切の猶予なく埋められた声と共に、ペインの身体を中心とした四方百間の世界が弾け。





『安らかに、眠りたまえ』





メンマの身体は、紙のように。


爆風に吹き飛ばされ、空に舞った。














































あとがき

ちょっと遅れました。年内に終わりそうにないです。

ちなみに口寄せによる合体忍術は、原作でカカシが使った、『忍法口寄せ・土遁・追牙の術』、口寄せと組み合わせた忍術の亜種みたいな感じです。

術の名前は屑龍と九頭龍、九蓮と紅蓮、砲塔と宝燈と宝"橙"(オレンジ)、焔魔天と閻魔天、天駆と天供をかけています。

ちなみに密教の修行の中に、閻魔天供法というものがあります。



[9402] 小池メンマのラーメン日誌 九十二話 「十の尾、全の龍を前に」
Name: 岳◆3d336029 ID:0347f440
Date: 2013/08/15 02:48



木の葉を覆う、泥の海――――それが鳴動した。

「なんだってんだ…………ッ!」

内部からの奇襲から、僅かの間。

敵の襲来に備え築いていた連絡の網の要点を先回りされ、尽く潰された木の葉の忍び達は、為す術も無く黒の海へと飲み込まれる他なかったのだ。

何も、できなかった。不甲斐ない思いと、あまりの理不尽に忍び達の心は諦めと絶望に侵されていく。




それは他の里も同じで。

里の要点にある死体安置所から漏れた泥は、またたく間に里を飲み込んでいったのだ。

死体の負念を吸い込み、里にあった負の念をも取り込んで、加速度的にその大きさを増していった。

どの里にも、長年の間に溜められた負の念の量は凄まじかった。故の壊滅。

もし何もかもを把握している者がいれば、どんな皮肉だと嘲笑っただろう。







そして、泥は動き出す。

遠く、鉄の国。かの地で目覚める、"十尾の本体"の覚醒に呼応して。








―――――終わりを告げる鐘の音を鳴らすために。




















小池メンマのラーメン日誌

 九十二話 ~ 十の尾、全の龍を前に ~



























奇襲からの連続攻撃。
とどめの衝撃波に吹き飛ばされたメンマは、そのまま鞠のように宙へ打ち上げられていた。

かなりの威力の衝撃波を受けた彼は、しかし意識は保っていた。
全身、特に失った左腕に走る激痛に歯を食いしばりながら空中でくるりと回転し、足から着地。


そして、盛大に転んだ。

腕を無くしたことによって、身体の平衡を保てなくなったからだ。
それに加え、最初に受けた腹の一撃の影響もあって、体勢を立て直せるだけの余裕もない。
間もなく、吐血した。

腹の中心を穿った一撃は、内蔵の一つを捉えていたのだ。
逆流した血液が口から盛大にあふれはじめる。


(油断した…………!)

内心で、後悔する。
油断せず、相手の動きに意識していれば、十分に避けられた一撃だったのだ。

その後の混乱も、また無様。
コンマ数秒の判断が命取りになる戦場で、しかも何をしてくるか分からない敵を相手を前に思考を止めるなど、愚の骨頂だ。

メンマは自分の不甲斐なさに舌打ちをした。

そして、改めて敵を見据え―――――絶句する。


メンマの見た先――――見上げた先、"見上げた空"に、黒い天体が浮かんでいたのだ。


(違う、あれは………十尾の本体か!)

黒く美しく輝く、太陽の威容。その中から隠しきれない負の念の塊、怨念が潜んでいる。

あれが、十尾でなくてなんだというのか。


(黒い太陽の表面に――――あれは?)

黒く巨大な球、その前に何かを見つけたメンマは凝視して、間もなく眉をしかめた。

球の表には、人間の頭がひとつあったのだ。そしてそれが何なのか、分からないほどメンマは混乱している訳でもない。
そしてまた、別の事も分かった。

遠目に見える表面、一見穏やかに見えるが、よく見ると所々煮立っているようだった。

(怨念の塊、負の念、黒い太陽―――――じゅ、十尾の核か!?)

そんな事を分析するメンマ。直後、自分の考えが正しいと悟った。
揺れ動く表面から、抑えきれないといった感じで"黒い蛇"が出てきたのだ。

見覚えのある巨大な蛇は、しかしまた球の中へともどって行く。

吹き出ては、舞い戻る。それはまるで、いつかの本で見た太陽のプロミネンスのようだった。
つまりは、完全に制御できていないということ。

そして戻るということは――――それが意志を持っているか、最低限の強さを保とうとしている。

その怪物を前に、メンマは神話を見ているような感じを覚えた。

(神話に例えるなら、"尾を飲み込む蛇<ウロボロス>" ―――― というよりは、"全の龍<レヴァイアサン>"といったところか?)

それは無限の蛇ではなく、世界を廻す龍であった。

旧世界を滅ぼし、新世界を作る龍―――――終末を呼ぶ蛇にして、原初の蛇。

力、十全なる竜。世界を滅ぼす、世界の流れを司る龍だ。

(そんなのを相手するってのに………3人の応答がない。くそ、腹に一撃くらったせいか)

呼びかけても応えない九那実、マダオ、クシナ。

封印の術式があった箇所に一撃を受けたせいかと、メンマは舌打ちをする。

直後、十尾の方が動きを見せた。

浮かんでいる黒い天体の表面が盛大揺らぎ――――言葉を発したのだ。

『………ようやくここまで、という所か。これより先に戻る道などは皆無だが――――人間よ』

「………なんだ?」

かすれた声で返事をする。そしてまた盛大に、吐血した。

そんな咳き込むメンマに、十尾は更に問いかけた。

――――もう終わりなのか、と。

まるで相手にしていない、そんな感情がこもった声。

それを聞いたメンマは、とりあえず鼻で笑った。

「へっ、誰がよ…………」

血が溢れる口。メンマはそれを横一文字に拭いながら、立ち上がった。

口元には、拭いきれていない赤の残滓が残っている。
切り裂かれた左腕はあまりに綺麗に裂かれたせいか、まだ出血も少なかった。

しかし貫かれた腹からは、血が滝のようにこぼれ始めている。

正しく、死の一歩手前。


それでもメンマは、無言で人差し指を立て、手の甲を裏返し――――指をちょいちょいと、前後に往復させた。


それは口を動かすのにも億劫になったメンマの、意志。


曰く――――かかってこいよ、というサイン。

それを見た十尾は、嘲笑を浴びせかけた。

『は、はは………すでに戦況は決定的だ。その上でその態度…………状況が理解できていないのか、それとも錯乱したか? ――――印が組めなくなったお前に、策があるとも思えんが』

その言葉に対し。

(――――ご名答。ちょっと今は無理だけど………)

それでも背は向けないと、メンマは強気に出ることにした。

敵の放つ威圧感に飲まれまいと強気を保とうと。

どうしようもない現状に、それでも戦う人としての尊厳を守ろうとするために。


「確かにやばい。けど―――――それがどうした。だから、どうした?」

折れそうな心に喝を入れ、言葉を続けた。

相手に。そして自分に言い聞かせようと。


「御託はいいよ………いいから、かかってきやがれ!」

叫び、喝を入れる。

そんなメンマに、十尾は嬉しそうに吠えた。


『塵芥が、よくぞ囀ったァ!』


表面から、無数の球を生み出した。


ひとつがふたつ、ふたつがよっつ。

規格外のチャクラがこめられた球体は分裂し、分裂し。




分裂し分裂し分裂し分裂し分裂し分裂し分裂し分裂し
分裂し分裂し分裂し分裂し分裂し分裂し分裂し分裂し。



『ハハハハハハハハハァァァッッッッ!!!!』


分裂し分裂し分裂し分裂し分裂し分裂し分裂し分裂し
分裂し分裂し分裂し分裂し分裂し分裂し分裂し分裂した。




『ハハ、アアァァ――――完成、だ』




そうして生まれたチャクラ弾――――星のような数の、破壊の弾が鳴動する。








『――――陰遁・屑星』















~~~~~~~~





現れた本体。神話にも似た異質な世界の中、サスケ達は見ていた。




森の中へ消えた直後、何かに跳ね飛ばされたかのように強く、吹き飛ばされてきた彼と。

衝撃波が発生地点した地点から、ゆるりと現れた黒い球を。



そして立ち上がるメンマと、無数のチャクラの塊を射出した怪物。

数えるのも馬鹿らしい、チャクラの弾丸の群れはまるで群狼の如く、一斉にメンマへと殺到していく。

見れば、片腕もない。そして片手に持っているのは、ただのクナイだけ。
見るからにあまりにも絶望的な戦力差だ、しかし彼は引かなかった。

手にもったちっぽけなクナイを片手に前へ、下がらずに向きあい、そのチャクラ弾を切り裂いていく。

腕が無く、印も組めず。
深手を負い、血を周囲に撒き散らしながら、それでも背を向けて逃げ出すことはしなかった。

足を使い、時には避け。
当たる弾を確実に切り裂きながら、尽くを回避してみせた。

あるいは、チャクラ弾が百個程度ならば、凌いでみせたかもしれない。

しかし、千を越えようかというチャクラ弾が、尽きるはずもなく。

その数の全てを避けれるはずもなく、弾は徐々にメンマの身体を捉え始めた。


当たる度に血しぶきが、苦悶の表情が映る。


「くそ――――見てられねえ!」

歯ぎしりをしながら、サスケが雷紋を手にしながら、チャクラを練り足へと集中し始めた。

「サスケ!」

イタチがそれを見て―――


「それは、困るな」


―――――そして、控えていたペインの分身が、十尾となった分体が動き始めた。




~~~~~~~



混じりけのない圧倒的な絶望を前に、人は諦めるか、僅かに残る希望に縋る以外の選択肢を選ぶことができない。

メンマは当然の如く、後者を選ぶ。
一歩でも退く意志は見せない。そうすれば、何もかもが飲み込まれ、何もかもに敗北してしまうからだ。

メンマの見たところ、十尾が放った弾の威力は低い。まともに受けても致命傷には至らないぐらいだ。

そしてクナイで切り裂けば消える程度なので、どうしようもない程ではないのだ。

そう、活路はあったのだ――――数が多すぎるだけで。

悟りつつもメンマは無言のまま、クナイを振るい、振るって、振るった。
ただ叩き落し避ける事だけに意識を集中し、逃げながら弾を潰し続ける。

この場での泣き言など、何もならないのは明白だからだ。

ただ成すべきことを成すために、腕を賢明に動かす。
ふっ、という呼気を吐き出すと共に切り上げ、振り下ろし、そして刺突を三つぐ繰り出した。

迫る弾を潰して、切り裂いて、貫く。

間に合わない弾は身をよじって躱し、またある時は飛び上がって回避した。
観るものがみれば、その洗練された動きに見惚れもしよう。

しかし、限界を上回る敵は存在する。
最善、最高の動きを持ってしても、数の暴力の前には、無意味になることがある。

雨を全て避けきれる者など、存在しないように――――破壊の雨に、メンマは捕捉された。

避けきれない弾。打ち落としきれない弾が、徐々にメンマの身体に直撃していく。

そこから先は、すぐにだった。ぶれた体幹が隙を生み、それを立て直す時間などもなく。

二発が当たり、四発が当たって、そこからはもうなされるがままに。
雨は容赦なく満遍なく、メンマを打った。

当たる度に激痛が走る、チャクラ弾――――しかしそれだけではない。
十尾の本質、陰の性質が籠められた弾が、ダメージを与えると共に、メンマの気力を奪っていく。

痛みと共に、負の念は語りかける。

死ね、と。
諦めろ、と。
安らかに眠れ、と。

まるで悪魔のような囁きが。

それは十尾が内包する、死した者が最後に抱いた念であり、生者を引きずり込む嘆き。

加速度的に増殖していく、絶望。
しかしメンマは、膝を屈しようとは思わない。

激痛には歯を食いしばって耐え、嘆きには叫びをもってかき消した。


そして一分ほどの後、ようやく弾が尽きた。

千を数える弾の雨を、メンマは耐え切ったのだ。


(耐え、き、った……………?)


歪む視界の中、メンマは反撃の策を練り――――三度、絶句した。



『今の一撃、よくぞ耐え切った』


十尾が哂う。

メンマは目の前に映る光景に、声もでない。


『見事な業だった、ああご苦労だった………言いたいところだがな?』


十尾は哂い、言う。


『――――最後の仕上げは成った。最早援護も期待できんぞ』



と、十尾はその方向を見て―――――




~~~~






「く…………!」

「紫苑様!」


ゆるやかに、襲いかかってきた分体。


黒の泥の包囲だが、紫苑はそれを結界で防いでいた。


「貴様………!」

『動きを、封じさせてもらう――――殺すつもりはない』

「何を………サスケ、イタチ!」

紫苑の声に、二人が応じた。

万華鏡が回転し―――――すぐに止まった。


『殺すつもりはない。だが、ここは十尾の世界の内――――包囲の中、全ての術は効果を発揮しない』


夢だけを見ておけ、と。



十尾の中にある存在は、語りかけた。






~~~~~





―――――意識を、再びメンマに向けた。



『この場に忍びは既に亡く、里の忍びもあらかた片付けた―――溜まった負の思念も、十二分に頂戴した』


淡々と語る十尾。その身体が、どんどん巨大になっていく。

しかしその全てを統制できるはずもなく、負の念が零れ出す。

大気に触れたそれはまたたく間に霧となって、空を覆い尽くす。


『最早、お前達に手助けをするものは無く――――』


状況を語り、告げる。

言葉が一つ出るごとに、その容量を増す十尾。











~~~~~~~~~


「貴様、まさか……………!?」

結界を保ちながら、紫苑が叫ぶ。

『その通り。我らは全てで一つ。精神同様に、距離の概念は関係なく――――』

悟ったイタチが、叫ぶ。

「貴様、隠れ里を!」

『ご名答――――』

十尾が、哂った。



~~~~~




『呼び寄せたのさ。滅びた里の負の思念を』

誇るように言う十尾。

何も言えないメンマを前に、それでも言葉を続けた。

『どうやってだと? ―――全ては我らで、全てが我らだ。この程度の距離など、無いに等しい……………待たせたな?』


それがようやく、最大になった所で―――宣告が、下された。


『全ての用意は今、十全となった。お前にできることといえば、死ぬことだけか。それでも、どこまでもがき苦しむか――――最後まで見せてもらおう』


それは真実、最後の宣戦布告。


中にあった誰かの意識もうっすらと、"集合体"は語る。

そうしてペインですら無くなった、裁断を下す存在は、本能の赴くままに、定められた行動を成すために動き出す。


途方もない量のチャクラが生まれ、爆ぜて、散らばる。
生まれたるは、正真正銘の、弾の幕。


――――それを見た誰もが。

対峙しているもの、遠くから見ている者。

飲み込まれ、映像だけを見せられている誰しもが、言葉を失った。





空が3に、弾が7という絶望の黒のチャクラ弾の帳を前にして。




そして、万を越える数の、死のチャクラ弾が動き出す。






『死ぬがよい』






~~~~~~




端的な、宣告と声と共に、一斉に発射された星が、標的へと襲いかかった。

メンマはそれに対処すべく、片手にもったクナイと、先ほど同様の風の鞠で、弾の星々を撃ち落としていく。


しかし結果は見えていた。

斉射間もなくして限界を迎えたメンマは、チャクラの弾という弾に全身を打たれ、打たれ、打たれまくった。

それでも諦めず、メンマ片腕で顔をかばいながら、丸って被弾の面積を少なくすることで、何とか耐えようとする。

しかし十尾はそれを見て哂った。何を無駄な、と。

思惑を悟った十尾はすぐさまにチャクラ弾の軌道を変えた。
正面からではなく、下から突き上げるように襲いかからせたのだ。

そして狙い通り、チャクラ弾は吹き上がるように、メンマの下から飛び上がり、着弾。

メンマの身体を、宙に浮かせた。


『さあ、舞い踊れ!』


そして間髪いれず、追撃のチャクラ弾を下から襲い掛かった。

ただの的となったメンマの身体がゆっくりと、弾が当たる度に空へ空へと押し上げられていく。

やがてそのまま、完全に宙に打ち上げられ――――四方八方から、チャクラ弾を襲わせた。


弾幕が乱舞し、滝が水面を打つような音が鳴り響く。

足が、膝が、太ももが。

手が、肘が、腕が、肩が。

額も顔も、背中も尻も容赦なく打ち据える。ぶつかるたびに衝撃が浸透し、外にある肉も中にある骨までもが、軋みを上げて悲鳴を上げていく。

そして負の思念が、その意志を喰らい尽くしていく。
戦う意志を、希望を黒に染めていった。


蹂躙が、始まった。

しかし十尾は首をかしげる。

(当たっている………それは間違いない)

十尾は確認する。標的は負の思念に打たれ、その度に思念は弱まっているはずだ。
それは確実で、本当のこと。
効いていないという訳ではない。

当たる度に確かに意志は減衰されていて、効果は発揮されていることを十尾は感じとっていた。

着弾の度、激痛と共に思念が語りかけ、その抵抗するという意志も弱まった。

あれだけ受ければ、どんな人間でも耐えることなどできない。
戦意も無いに等しい程に、減衰しているはずだ。


だけど、しかし。

何かが内で鳴り響いた後に、標的は意志を取り戻している。



打たれる度に弱くなる意志、だけどその後には取り戻して。



直撃した絶望はゆうに百を越していた。あるいは、千に達するかもしれないぐらいに多く、直撃している。

心を一本の樹と例えれば、それを百度は折っているはずだ。


だが現実、"そう"はなっておらず。

まだ意志が、保たれていた。


(―――何故だ)


人の心には限界が存在し、それを越える苦痛を受ければ容易に壊れる。
無限大などこの世には存在しなく、必然的に終末は訪れる。

そして心は、折れば折れたまま。容易く修復できるほどに、単純な構造をしている訳でもない。


なのに、これはどうしたことか。やがて星の弾幕は、その全てが途切れ―――――直後。



苛立った十尾から、陰の竜弾が発射された。


それは先ほどと同じ術、負念でできた巨大な竜の一撃だ。



標的はそのチャクラを察したのか、俯かせていた顔を上げた。

そして竜を睨み、どこに残っていたのか、膨大な量のチャクラを練り上げていく。


メンマの声ならぬ声が響き、チャクラが共鳴した。

そして手を前に出し、太極螺旋丸と声が聞こえる。

勾玉の螺旋が生まれて、それが竜を受け止めた。



『だが――――』



規格外の螺旋丸を前に、竜の頭が次々と吹き飛ばされていく。

一つ消され、二つ消され、三つ消され。

しかしその度に補充することができる。間髪入れずに竜を生んで発射し、その総数を減じさせない。


『無駄だ!』


もとより、人の負の思念に果てなどなく、陰のチャクラも尽きるはずがない。

十尾は正しく無限のチャクラでもって、竜を生み続け―――――そして、限界が訪れた。


重なる竜の一撃に耐え切れず、白く輝く勾玉、太極の螺旋丸が打ち砕かれたのだ。


間もなく、九頭の竜が吠えて突撃を敢行。
避ける手などない標的の胴を捕らえる。

竜はそのまま、標的の身体を捕らえたまま、雄叫びを上げて放物線を描いて空へ登っていき――――頂点に至った所で、下を向き、急降下を始めた。

その速度はまるで流星のようで、間もなく標的の身体が勢い良く地面へと叩きつけられ、轟音が鳴り響いた。

着弾の衝撃波で近くにあった木々がなぎ倒された。直撃を受けた地面も砕かれ、岩が砂になっていく。

少し離れた位置にある木々も、地面を通じてその衝撃を受け、上に積もっていた雪がまるで雪崩のように一斉に地面へと落ちていった。


全てが、衝撃に揺らされ壊され―――そして全てが収まった後、その威力ゆえに着弾点には大きなクレーターができていた。

八尾の大きさにも匹敵するかという、巨大なクレーター。

その中心からは白煙が上がっていて―――――中心はまだ見えない。


そこに、とどめの一撃が展開された。

残りの竜、宙で浮いていた八頭の竜が、野犬のようにクレーターへと殺到していった。



それは大地をも揺るがすもので――――容赦など、あろうはずがない死の台風。



砕かれた砂が塵となり、舞い散った雪も細かく砕かれ、熱に溶かされた水が霧となった。

全てが白く染まっていく。



もうもうと立ち込める白煙。
やがて収まり――――視界が晴れた先には、無残なものが転がっていた。



金の髪も。

橙の服も、黒のマントも。

全てが無残に裂かれ、血の赤に染められて―――――言葉もなく。


馬車に轢かれた蛙のようにうつ伏せに、無様かつ無残に転がっているメンマの姿だった。


地面にも血が流れ、クレーターの中心はまるで小さい池のようになっていた。



『しかし………原型は、残っているか』

あれだけの威力、まともに受ければ跡形も残らないはず。しかしまだ残っているどころか生きている標的の姿を見た十尾は、驚いた。

『……小癪な風か、螺旋丸か、はたまた見に宿している天狐の力か? ――――最早どうでもいいが』


いずれか何か使って防いだのだろうと、十尾は推測し――――それがどうした、と哂う。

先の太極を見る限り、誰かの魂が眼を覚ましたのだろうが、それも関係がない。

まだ生きている標的―――だが右の足はすでに無いし、地面には致死に近い量の血が体外へと出ている。

最早できることもなく、反撃の手段などあろうはずがない。


『…………放っておくだけで死ぬだろうがな』



せめて我の中で眠れ、と。

十尾は、ゆっくりと標的に近づいていく。








~~~~~~~





『…………終わりだな』

サスケ達を足止めしていた十尾が、決着を悟ったのかそんな事を呟いた。

事実、鏡の向こうに移る敵は無残な姿を晒し、戦う気力などどこにも無いはず。

イタチが眼を覆い、菊夜はうつむき、灯香は眼を逸らしていた。

カカシは無言で地面を叩く。

全員が、絶望に意志を染められていた。



――――だが、そんな中でも。


「「「…………」」」

シンに、サイに、結界を張り続けている紫苑。

そして白に再不斬に、サスケに多由也。

彼等はじっと無言のまま、それでも鏡を見続けていた。


十尾はそれを見て不可思議に思い―――――


『何を見て……………!?』


間もなく、絶句した。










~~~~~~~~~~~~~~~~~



自ら迫り来る津波を前に、絶望を覚えない人間は居ない。

ありあまる絶望を前に、希望を保ち続ける人間は居ない。

どうしようもない現状の中、諦めない人間など存在しない。


故に、こんなことはあり得ないはずだった。


『馬鹿な』

十尾が、こぼすように呟く。

骨も肉も魂も。その意志にも、痛烈な連打を浴びせた。

普通の人間ならば、百回は死んでいる程の攻撃をくわえた。


立ち上がれるはずがない。動けるはずがない。何よりその意識、保てるはずがない。

並の絶望ならば、戦う者もあろう。しかし今の自分、そして攻撃は、人にはどうしようもないものなのだ。

自然の災害に似た絶対なるもので、抗いの心を持てる者の方が希少な。
かつ死に怯える人間であれば、本能的に理解できるはずだ。

人の身で、どうこうできる相手ではない。





だが、しかし。





その目に、意志を持ち。






まだ戦意を心に持てるのは、一体どういう理屈なのか。






「まだ、だ」






そして、小鹿のように震えながらも。


立ち上がれるのは、一体どういう理屈なのだろうか。




十尾は何も話せない。

ふるふると、情けなく震わせながら、残る足を支えに立ち上がろうとしている、目の前のメンマを前に、話すべき言葉が見つからない。

事実、今現在のメンマの怪我は深く、既に重症というべきレベルになく。

神経も傷つき、経絡の傷も浅くない。痛みを紛らわせるだけの気力も、もはやないと言っていい程だった。
彼の身に走る痛みは、死よりも辛い激痛で、あるいは死を望むかのような酷さである。


そんな肉も骨も魂も、傷だらけの罅だらけで。

死に安らぎを見いだすものも生まれそうな。

その生命を断って欲しいと懇願する程に深刻な絶望に染まっているだろう人の身で。


だけどそれでも、と願うメンマを前に、十尾は一時的に攻撃を中断した。


そして、ただ単純に問いかけた。




『………解せん』










~~~~~~~





降り注ぐ竜の顎。

間一髪の所で躱し、余波を風の盾で防御した。
それでも全身を打ち据えられ、足の片方を持って行かれた。


健康状態から、痛みの無い状態――――そこから更に一回転して、痛みしか感じない状態に陥っていた。

意識はうっすらとわずかに残っているだけで、視界はそのほぼ全てが白く染まっている。

全身が鈍く、まるで長時間正座をした後の足のように感覚なく。
立ち上がれはしたが、もう自分が何処にいるのかも分からない。



『解せんぞ』


声もよく聞こえない。

だけど十尾の声はこまくを震わせ―――メンマは顔を俯かせたまま、その声を続きを聞いた。


『その痛み、軽くはないだろう。絶句する程と言っていいな。すでに勝ち目もなく―――だが、お前は逃げない』


困惑の声が聞こえる。耳鳴りを通り抜ける、意識に語りかけて来る声だった。

そしてチャクラが霧散しているのを、感じた。どうやらすぐに殺すつもりはなく―――それほどまでに、知りたいのだろう。

『死ぬことが怖くはないのか、人間。痛みすら忘れたか、人間』

「………怖いさ。心臓だってばくばくだよ。死ぬことは…………何より、怖い」

俺は知っているからな、と。
途絶え途絶えに、掠れた声で言うメンマの手は、怪我だけじゃなく、恐怖から小刻みに震えていた。

足も、肩も、いつかの死の恐怖を思い出したメンマの全身が、小刻みに震えていた。

「痛いさ。死にたいぐらいにな。それは確かだよ」

『ならば、なおのこと―――何故だ?』

「何、が」

『逃げない理由だ』

言い切り、言葉が続く。

『死にたくないのなら、少しでも行きぬ可能性に縋るべきだ。死を恐れるのなら、そう努めるべきだ。なのに逃げないお前は、何がしかの理由があると思うのだが………それはなんなのだ? 
―――――"逃げられない理由がある"とお前は言うが、それは命より重いものなのか?』

「…………」

『お前は今まで、生き延びるために動いてきた。身体を鍛え、知恵を絞り、お前の言う夢とやらのために心血を注いできた。それは理解している』

「………見ていたのか」

『ずっとな。それが故に、不可解にすぎる。お前にとって最も大事なのは夢で、その障害を確実に壊すために戦い。
 ――――最終的に確実に、"生き延びて夢を叶える"と。そのために今までの苦労を重ねてきたはずだ』

メンマは応えない。否定せず、沈黙にして肯定を示し、更に十尾は語りかけた』

『では何故だ。何故お前は、この死を前にして逃げないのだ』

嘲笑もなく、ただ純粋に知りたいという声。

それに対し、メンマは口を開いた。


「――――否定された、からな」


口を開いたと同時。メンマの胸に、形容しがたい程の、感情が荒れ狂う。

「お前は、誰かを否定する存在で………そしてこれからも否定するんだろう。必死に生きている人達を」

それは、メンマにとっては誰よりも認められない――――許せない行為であった。

「忍者は俺にとっては、因縁でしかない存在だけど…………"そう"感じたくはないけど……………それでも同じ理不尽を感じてしまった。なら、逃げられない」

うつむきながら、どんな皮肉だと。

メンマは、自嘲した。


「ああ、言い訳だろうな。忍者が起こす戦争の理由と、その傍らに常に在った非道の、その正当化なんて―――どれも、仕方ないと言い切れるもんじゃなくて。でも、それだけじゃないんだ」


メンマは世界を見て回った。網の任務と、旅と、今までの出会いと戦闘と。

3人で、あるいは7人で、見て回った。

その中で、忍者と出会った。


「ああ、忍者はきっと馬鹿なんだろう。愚かなのかもしれない。だけど、それだけじゃないんだよ」


メンマが、俯きながら叫ぶ。

それは、心からの叫びだった。


「確かに言うとおり、罪を犯したものは罰せられるべきだ。でも、まだ何も知らない子供が居る。何とかしようと、頑張っている人達も居る。訳の分からない力を持たされて、頑張ってきた人も居るんだよ」

『それは………一部は、認めよう。しかして忍者の罪は重く、その責も大きい。何より、罰せられるべき存在を放っておく理由があるか、生かしておく理由があるのか』

「生きる理由、理由か………そんなもの、くそくらえだ」

『貴様は、なにを言っている?』


十尾の嘲笑。


しかしそれは、直後のメンマの叫びによって途切れさせられた。


「あるさ。生きているんだから。それが理由だよ。存在している。それが間違っているなんて、誰が決めた」

『世界がそれを望んでいる』

「まだ何もしらない子供もか」

『禍根は残さず断つべきだ。子供も、例外ではない』

「なら、さ…………命ってやつは、生まれだけで全てが決められるのか」

メンマは、歯を食いしばる。

「他人の手前勝手な理屈だけで、誰かを…………生きている人間を、忍者という存在を"ひとまとめ"にして、その人自身を見ないで、どうするかを決めるなんて…………」

脳裏に浮かんだのは、巫女の血を引く彼女の顔。
戦争で親を失い、根に―――あるいは誰かに利用されることでしか、生き延びられなかった者の顔。
特殊な眼を持つ者。特殊な術を受け継ぐ者の顔。
持って生まれた因縁と、その可能性を利用されるもの。可能性を、否定される人達の姿だった。


それは皆子供で、あるいは踊らされた人達だ。多くを学ばず、最善を選択することさえも出来ない子供が――――ただ殺されることは認められない。

彼等を助けた理由。気に入らないから、という理由があって。

そして自分の根幹にあるものも、あるのだ。


メンマは、いつかのザンゲツに答えた言葉を反芻する。


"何故死地に往くのか"、という問に返した、理由を。




――――泣いているから、という言葉を。

"オレ"が泣いているから、という、言葉を



「全部、俺のひとりよがりさ。ああ、笑えばいい。それでも………一方的な裁きなんて、認められるか。何も知らない子供も居る。
 忍者だってそうだ。悪い奴ばかりじゃない、事情を知れば変わるさ。例外も存在するだろうに、"生まれ"を理由に殺されるなんて、利用されるなんて、往く道を決められるなんて――――絶対に認められない」


過ちが何なのか、その言葉さえも理解できない子供を、殺すなんて。

まだみぬ未来があるのに、一方的に害悪な存在だと決めつけ、その生命を奪うなんて。



九尾を宿しているからって――――その可能性を、言いがかりな罪の服を被せられて。


"忌み子"だからって、"力ある子ども"だからって、大人の手前勝手な理由で、その生命を左右されるということが、正しいことなのか、許していいことなのか。


そして何より、世界の意志とやらに。

妖魔核を刻まれて、その全てを奪われた者が。


何も選択できずに、悪いことした訳でもないのに、ただ世界の意志とやらにされるのが。

憎しみの獣に作り替えられることが、果たして正しいことなのか?


正しいことだとして、認められるのか。

メンマは自問自答し、その答えを口に出した。




「認められない。"オレ"にかけて、"あの子"にかけて。それは、それだけは…………………………………認められないん"だってばよ"」




それは―――――九尾の、忌み子と呼ばれ、壊された残滓であり、かつて『うずまきナルト』 であり、看取った誰かの言葉。

察した十尾は、しかしそれを認めない。

『そんなことが、理由か。重なるから見捨てられない、逃げないとでも?』

「ああ。痛いし、死ぬのも怖い――――逃げたいさ。だけど、だからこそ逃げられないんだよ、その理不尽を知ってるから! ………それに、言いたいこともある」

『それは何だ?』

「誰が死ぬべき存在だ、ってことだよ。自分じゃない誰かを、勝手な理屈で判断して、手前の都合で勝手に決めつけんなよこの阿呆蛇が」

『………阿呆、だと?』

「阿呆が駄目なら馬鹿でもいいさ! 忍者もあいつらも、死んで良い存在なのか!? ………ああ、人は失敗からしか学べない馬鹿なもんかもしれないけどな。だけど、変わることが出来る存在なんだよ。実際、変わってきたんだよ。
 知識と知恵と想いを受け継がせて、次の世代はもっと良い世界になるようにと………もう過ちを犯したくないからって思ったから、戦いを無くそうとして!」

遠く、思い返す。
いつかの誰かの言葉と、意志を。

死を敷かれた自分と誰かと誰かを。

「ああ、完全じゃないんだよ分かってるよ。だけど人は神じゃないんだ。弱くて間違って、でも強くあろうとして、必死に考えて、正そうとして! そうして一歩づつ進む以外の、何が出来るんだよ!」

だから、未来を奪うなと。

誰かの言葉を代弁する。かつて死んだ誰かに代わり、今まで進んできた自分を支えにして、訴えかける。

「まだある可能性だ。それを見もせずに否定するな――――ひとまとめにして決めつけて、一方的に裁かないでくれ」

懇願するように言う。
メンマ自身、その言葉も通じないと分かってはいた。
何しろ、相手が相手だ。かつて同じ人間に懇願しても聞き届けてもらえなかった言葉――――それでも言葉をつむぐことだけは、やめなかった。

「十尾も………悪いからって片っ端から滅ぼして、また再生して――――人が学んだ知識、その痕跡まで消してしまえば、それで何もかもが無くなってしまえば………また繰り返すだけだろう?」

『ああ………事実、幾度か世界は廻ったな。それは必然で、自然なことだ。死と生は切っては切り離せないものなのだから』

「だからって死を享受することが、正しいことなのか? ――――本当にそれで正しいのか」

『正誤を語っているのではない。答えもない問題に、正解を求めるのは間違っている。故に最善の策を取ると言っているのだ。
事実、今の世界は岐路に立っているのだ。故に忍者を滅ぼすことを、世界を滅ぼす可能性を摘みとることが、最善の選択だと認識している』

「何にとっての最善で、誰にとっての最良だよ。その先に、本当に希望はあるのか? ――――同じ所をぐるぐる廻っているだけじゃ意味がない、リスクを犯しても先に進むべきなんだよ。
 怠惰と停滞は何も生み出さない、ずっとそのまま繰り返しているだけじゃ、世界だっていずれ腐るだろう。永遠なんてないから」

『違う、停滞ではなく再生だ、世界は強靭だからして、滅びることなどあろうはずもない。月が落ちても、真実滅びはしないだろう。時が全てを解決してくれるだろうが………万が一もある。
 故に、最善を。あらゆる生物の――――その理由を作った忍者は滅びなければならない。その理屈は、人間の傲慢より生まれたものだと理解している。忍者を滅ぼせば、大半の問題が解決するはずだ。
 何より、禍根は断つべきものだ。可能性を語る段階はとうに過ぎた。負の思念を生む存在は断たれるべきで、生きていていいことなんか一つもないのだよ』

「決めた、か。忍者だけでなく、いずれは人間も?」

『禍根となるのならば。事実、これまではそうして来た。世界を滅ぼすのは、いつだって人間だったからな。禍根を断つのは、合理的な行動だと認識している。』

「生命と感情と可能性を理で語るなよ………尚更納得できない。お前を生み出したのが誰かは知らない。いや、世界か? ―――だったら生まれたものを、しっかと見もせずに――――何より、人間を、忍者を生んだ世界とやらが、生んだものを否定するなよ」

『否定しかできない存在なものでな。"悪玉"を許すことなどできないのだよ。命は輪廻するべきで、最悪の事態は回避するべきだ。それが正しい命の運びであると認識している。全ての命が無くなる最悪は避けるべきだ。
 何より、この危地を作り出した忍者を許すわけにはいかない』

「忍者が起こしたことだから、忍者にその後始末を任せることはできないと」

『可能性を語ることは危険だと認識している。六道仙人とも、一応は意志を疎通させて決めたことだ。忍者の力を使い、最悪を回避することは』

「可能性は信じない、と」

『我は、信じない』

「俺は、信じたい………つまりは平行線か」

『絶対に交わらないようだな。ならば仕方ないが―――――もうひとつ、聞きたいことがある』

「何だ?」

臨戦体勢に入る十尾。ひとつだけ間を置いて、メンマに問いかける。


『先ほどの弾幕のことだ。あの量の絶望を受けて、なぜ心が折れないのだ? ――――あの弾は確かに、お前の気力を吸い上げたはずだ。決意も何もかも、薄れて消えているはずだが』


「………長門なら分かるはずだけどな。それが分からないということは、お前はもう…………」


そうして、メンマは口寄せの印を叩いた。


「………正直、長門が相手なら…………最愛の親友を奪われたあの長門なら、あるいはその理屈の一部に頷いていたかもしれないけど」



だけど、と。

煙を立てて、出てきたのは――――薬の入った瓶と、八卦の封印式の鍵となっている封印の巻物。


「既に、ペイン――――いやその口ぶりを聞くに、お前はもう十尾になったのか。あるいはこれも、思惑通りか…………」


瞳が、力に溢れる。意志に満ちた瞳を逸らさず十尾に向け、メンマは言う。


「それでも成すべきことは一つ。運命を語る蛇さんよ、お前だけには負けられないんだ。世界と運命を名乗るお前ならば、俺にとっては誰よりも負けられない相手」


そうして、睨む。



「だからこれは俺の戦いで…………」


そしてメンマは、とん、と自分の胸を軽く叩き


『――――我の戦いでもある』



気絶していた九那実が、その声に応えた。





~~~~~~







『間に合ったようじゃが、お主………』

(ん――――正直、いっぱいいっぱいだけどね。でもまだ死んでないから大丈夫だ。死ぬほど痛いけど)

『その理屈はどうかと思うが………いや、すまんな。無様に気絶したことをまず謝罪するべきだったか』

(いいってことよ)

心の中に、親指を上げる。
眠る美女を守るのはも男の役割だから、と笑う。

『この馬鹿者が………しかし、結局というかやはりというか……"こう"なってしまうのか』

(うん…………いや、どうしようか?)


『何を……‥もう、決まっているのじゃろ。決めたのだろう』

(ああ)

『ならば、往くがよい』


そうして、笑う。



『ついていくから』



それを聞いたメンマは、満面の笑みを浮かべ、巻物を手に取って掲げた。



(うん、ついてきてくれ)




閉じられた、封印式が刻まれた巻物。

それは開かれず――――――真っ二つに、切り裂かれた。


『な!?』


驚く十尾。それをよそに、天狐の魂が動き出していた。

切り裂かれた鍵、要であるそれを失った封印式が当然の帰結を迎える。

腹に刻まれた封印式、魂を結び、抑制の効力もあった八卦の封印式が消失し――――侵食が、始まった。


「ぐ――――グッ」

枷が無くなった天狐の魂が肥大し、メンマの魂と肉体を侵食していく。

元々が、規格外の量と質を持つ人外の魂だ。人の身で抗えるはずもなく、侵食が止まるはずもなく。

切り裂かれた欠けた腕も足も天狐のそれに生え変わっていく。


同時、全身から金色の毛が生えてくる。メンマの眼の色が、血のような赤に変わった。

絶叫が響き渡り、直後に声が漏れでた。

『気を失うな』

口から、似つかわしくない女性の声があがる。九那実の声だ。

メンマはそれにより、自分の意識を取り戻し、足元の薬が入った瓶を拾い上げた。


『まさか――――』


近くに聞こえる十尾の声も遠く感じる。

掠れていく意識の中、メンマは白濁した視界の中で、覚悟を決めた。
瓶の蓋を一息に回して――――菊夜に譲り受けた、秘薬を開封する。

そう――――かつて巫女の家系に受け継がれて来た、劇薬ともいえる禁断の薬で、図抜けた経絡系とチャクラ量を持つ紫苑がひとなめしただけで昏睡状態に追いやられた。

経絡系をずたずたにされた薬だ。


それをメンマは躊躇わず、一息にして全部飲み干す。

ごくんと、嚥下する音が鳴った。
瓶が地面に落ちて、きんと甲高い音がなる。


そして――――侵食は止まった。
再び、メンマの絶叫が周囲に響き渡る。

体内の急激な変動、そのせいで全身に痛みが走っているのだ。

薬は効果を発揮した。人の奥底に存在する、陽のチャクラと、陰のチャクラ、生命エネルギーと精神エネルギーが薬によって爆発的に高められていく。

薄いが、確かに残っていた千住の傍系にして、巫女の一族の傍系。
仙人の肉体を持ちながら、封印の術式の知識も豊富といううずまき一族の――――"六道仙人の血"に反応し、チャクラと魂のレベルを一気に引き上げたのだ。

それは、天狐のそれと、匹敵する程だった。

つまりは、同格だ。それが故に、成せることがあった。
かつて、波風ミナトが急場しのぎに使用した術。


それは―――"口寄せによる憑依術"だ。

同じ思いを持つ魂が重なり、共鳴する。
天狐の魂と、メンマの魂、ナルトの魂が全て同じ方向を向き、同調し、高められていく。

かつてとは違う、12年の構想を経て練りに練り上げられた完全な術式に、隙はなく。
そして12年、共に過ごした二人の意志と思いが、揺らぐことなどなく。


完全な共鳴が始まり―――――チャクラが恒星のように輝き、その密度を増していく。


金の極光が生まれ、周囲を照らした。

その陰の中、メンマの全身が黒に染まり、経絡系がまるで血管のように浮き上がった。


そしてチャクラは強く、強く、増して。

水だったチャクラの流れが川になり、やがて大河のように悠然と、そして一つの意志となって流れだした。



『させ――――』


意図を察した十尾が、させまいと叫ぶ。

チャクラ弾と、陰の竜。

即座に放てる全火力を全面に集中させ、一斉に放った。


星と竜は、瞬時にメンマが居た場所へと迫り――――



『ガアァぁァッ!!?』



――――自らが放った攻撃諸共に、ただの一撃で吹き飛ばされた。



圧され、吹き飛んでいく十尾。

それに向けて、声が響いた。



「――――最後の問いに答えてやる。諦めないのは、聞こえたからだ」



朗々と。

狐と混じり、わずかに金の毛が生えた手を胸に。


そして歌うように、告げた。




「この鼓動だけは、消させねえ!」




守るべき人と失いたくない人が、身の内にあって諦める道理があるかと。


―――――惚れた女を消させるものか、という決意。

それこそがメンマの、通すべき意地で、夢と同じく譲れないものであった。




そうして、重なった。

人の心臓と、天狐が混じった心臓が。


聴覚を失った静寂の中でさえ感じられる、命の活動を知らせるもので、生はなんなのかと沈黙した時に、うるさく聞こえる音が鳴り始める。


生命を動かす臓器、血液という生命の流れを動かす、真なる臓が動く音。

感情によって変動する心を示す、心の臓器が成る音。


どくん、という鼓動の音が重なり、リズムを刻んでいく。

メンマが鳴らす人の音、九那実が鳴らす天狐の音。


共にむき出しにされた状態で、肉体が融合した状態で、その音が重なって。

そして体内に存在する、生命のチャクラと、精神のチャクラさえも混じりあい。


一つになると同時、完全に共鳴したチャクラが溢れ―――――欠けた肉体も、補填され。






『「行くぜ―――――来いよ、十尾!!」』






最後の戦いを示す雄叫びが、山の頂上から世界へ響き渡った。








































あとがき

遅ればせながら、あけましておめでとうございます。

ぐちゃぐちゃながらも、思いのまま叫んだ気持ち。ずっと心の底にあった、メンマ+ナルトの叫びでした。

展開は相手が相手なのでシリアスオンリー。
感情のない人には、ギャグも皮肉も通じませんから。

生きさせてくれ、という言葉に多分な解釈と感情を覚える今日この頃。
決意って時間と共に薄れるものですよね。だからまた貼り直す必要があるもので、そんな感じで。

残すはあと2話でございます。

最後までお付き合いいただければ幸いにございます。





[9402] 小池メンマのラーメン日誌 九十三話 「青い鳥となって」
Name: 岳◆3d336029 ID:0347f440
Date: 2013/08/15 02:51

始まりはなんだったのだろう。迎える結末に至るのを、一体何処の誰が決めたのか。

運命という者が人ならば、きっとそいつは変態に違いない。
こちらの都合などおかまいなく、右往左往させられて、行く末さえも指定される。


――――最初は憎んだ。そして、気づけば笑っていた。
因果も皮肉も合わさって、我らはなんとも言えない関係になって。


それでも、未来は無かったと知らされたのは何時の頃だったが。


我とあ奴。
元々が奇跡だったのだ。一つの器に複数の魂、均衡を保てる方が異常。

時間が経つにつれて必然的に歪み、そしてそこから始まって。

「このまま行けば、器である肉体が壊れるし、魂も肥大化し、メンマ君の魂も侵食される。最後にはみんな混ざり合い――――僕も彼も君も。みんな、誰でもなくなる」

人格が融合してしまうとマダオが言う。
それはすなわち、誰も居なくなるということ。

そして、全ての原因は我の魂にあるのだという。

―――"我があやつを望んだから。
だから魂の均衡が崩れたのだという。望んだが故に共鳴し、侵食してしまうのだと言われた。

心当たりは、あった。しかし納得はできない。
求めたがゆえに喰ろうてしまうなどと、いったい何の冗談なのか。

その事実を知った我は、笑うしかなかった。

我が居る限り、望む未来は得られないと分かったのだから。

つまりはあやつといっしょに居たいという我の夢は、未来永劫適わない。
何も永遠を望んだわけでもないのに、一時の安らぎを望んだに過ぎないというのに。

あまりの皮肉に、涙が出る。
滑稽ではないか。

あれだけ望んで――――なのに、最初から何処にも用意されていなかったのだ。
我の望む夢へ続く道は。


もしあやつを殺せば、我の魂は残る。しかしそこに、あやつは居ない。
もし我が死ねば、あやつの魂は残る。しかしそこに、我は居ない。

どうあがいても、共に生きる事はできない。
そしてあ奴の求めに応じることもできない。融合すれば、我らはそこで終わる。

これも因果か、という諦めの心が生まれて。
どうしてこんな、という怒りの心も生まれた。

それでも結末は刻一刻と迫り、予想外の事が起きすぎて、悩むことも許されなかった。

結局、選べる道は一つであったのだ。そして我は望みを伝えた。

ミナトに頼み、封印の術式を変えてもらった。
負担も何もかも、我が全て引き受けると告げた。本当の最後まで、夢を見続けるために。つかの間の夢でも、それが幻にならないように。

自分の望んだ夢。そして見つけた意地を、通すために。

覚えていてくれる誰かを残すために、覚えていて欲しい誰かに生きてもらいたいために。

それを告げた時のマダオの顔が、また意外なものだったけれど。

「家族を引き離した怨敵だろうに………笑えばいいものを」

眼を伏せて謝った馬鹿を想い、苦笑が溢れる。
お人好しにも程がある――――あるいは身内に甘いのは家系なのか。

だが、悪くない。

だからこそ選ぶ価値がある。




――――そうして、ここまで来た。



距離を置いて、心を一定距離に保ちつつ。

過度の共鳴を抑えるために、あやつの心に応えることもできず。


その結果、最大最後の切り札である口寄せ憑依、空狐変化の術は成された。

その術にあるリスク、無謀の無茶の果ての融合の先にあろうリスクも、全て我が引き受ける。
この術式は、"そう"なっている。例外はない。

負ければもとより死以外はあり得ないが、勝っても我は死ぬだろう。


魂が軋む。
魂までも砕け、輪廻の輪には入れない。




でも、この役目は誰にも譲らない。他の誰に譲れるというのか。




あやつと過ごして来た時間の中で見つけた、自らの望みを叶えるために。

往くか留まるか迷った末に見つけた、我の中にある真実に従って。

幻に終わるだろう夢を夢見て、誰かに決められた宿命に抗うために。

例えあやつには気付かれなくても、それをあやつが望まないとしても。

寂しくとも。愚かと言われようとも。



我は我の理由を以て、我の恋を貫くために。





























小池メンマのラーメン日誌

 九十三話 ~ 青い鳥となって ~
























「キューちゃ………九那実?」

『いや………なんでもない。それより、いけるか?』

「ああ………尋常じゃない力が溢れてくる」

全身から、間欠泉のように吹き出すチャクラ。
メンマは十尾に対抗出来るだけの力があると確信しつつ、九那実に尋ねた。

この、馬鹿げた無茶がいつまで続くのかを。

(………全力でやったとして、どれくらいもつ?)

(もって10分。それ以上はもたん、魂諸共に爆砕する)

(左腕と腹の傷は?)

(外見は取り繕えた。が、完治はさすがに無理だ。血も足りん)

危機に代わりなし、と九那実は言う。
それに対し、いつもの事だと返したメンマは、拳を打ち鳴らした。

「10分か…………いや、上等だ!」

そして吠えると同時。メンマは体内に巡るチャクラを、右腕に集中させる。
腕の周りに、性質変化された風の塊が収束して、まるで巨人の腕のようになる。

そして吠えながら、跳躍。

思いっきり踏み出した足元の地面が爆発する。
彼我の距離はゆうに100間。しかしまたたく間があればこそ、メンマは肉体の力だけによる踏み出しで、疾風となって駆けた。

目標は、吹き飛ばした十尾。

メンマは相手の迎撃の用意が整わない内に接近し、


「っラアァッ!」


気合と共に腕を振った。

馬鹿げた量と質を伴った巨大な風の槌が十尾に炸裂する。

そして間もなく、尻の当たりから"尾のような白いチャクラの塊"が現れ、火に代わり、風の塊を食い上げて爆発した。


『ッ風に火か!』

「応さ、狐火だ! ――――ただし火遁は尻から出る」

『おい!?』

中から聞こえる割と酷い罵倒の声を無視し、メンマは追撃に入った。

先ほど同様に両腕にチャクラを集中させ、再び風に変化させながら息を思いっきり吸い込み、吐き出すと同時に拳を突き出す。

速射砲に似た拳が、次々に十尾へど叩き込まれていく。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラァアッツ!!」

お約束の叫び。弾幕のように間断なく満遍なく、風の拳が打ち込まれた。

十尾に拳が当たると同時に表面の黒がたわむ。
そして直後に起こった爆発で、更に削られた。

メンマが風の拳を連続打つと同時、狐が得意とする性質変化である火を走らせ、一気に風を喰らわせたのだ。
風と火による爆烈の拳が、当たるたびに十尾の表面を傷つけた。

爆圧による衝撃も、芯まで通る。

しかし十尾も、黙っている訳ではなかった。
拳打開始よりまもなく、メンマの拳の速度がわずかに衰えた隙に、反撃に移る。

『舐めるなあぁッ!!』

怒りと共にチャクラを練り上げ、開放。
十尾の表面がうねり、巨大な龍の頭が九つ出現した。

そのまま、メンマの身体を捕えた。

「グッ!」

弱くない衝撃に打ち据えられたメンマが、苦悶の声を上げた。
吹き飛ばされ、地面に打ち付けられ、しかしすぐに立ち上がる。

しかし間合いはひらいてしまった。

遠距離の攻撃しか届かないこの間合は、十尾が得意とする間合いだ。
だがのこのこと真正面から近づいても、あの龍に吹き飛ばされるだけだ。

どうしようかとメンマが悩んだところに、軍師役が口を挟んだ。

『おっと、僕を忘れてもらっちゃ困るねえ!』

「策はあるのかマダオ!」

お前黙ってたんじゃなかったのか、と問いかけるメンマに、空気を読んだんだよ、とマダオが返答する。

『それは後で―――ここはいったん、後ろに下がって!』

何が出来て、何が最善か。
会話をしながらも頭を巡らせ、対応策を考えたマダオは完結に二言三言、メンマに告げた。

「っ了解ぃ!」

そして告げられたメンマは疑わず、笑いながら後ろへと跳ぶ。

『風蹴鞠――――そんなもので逃げ切れると思うてか!』

風を踏み台にしてまた距離を開けるメンマに、十尾が嘲笑を浴びせた。

しかしメンマは、不敵な笑みを崩さない。


「逃げたんじゃねえよ―――――」


風遁の印が組まれ、


『――助走の距離を取ったんだ!』


メンマの前に、巨大な風の塊が生まれた。

それは小規模の竜巻といっていいほどに強く、消えない風。

メンマはそれを眼前にしながら、クラウチングスタートの体勢に入り――――――踏み出すと同時、躊躇いもなくそれに突っ込んみ――――"烈風を纏う"。
触れると同時、自らの性質変化で生み出した烈風に問答無用で干渉し、かつ完璧に制御。

更に風蹴鞠を連続で爆発させ、メンマの走る速度が加速度的に高まっていく。

そして烈風を纏った、"破壊の弾丸"と化したメンマは、正面から側面から迫り来る龍を"関係ねえ"とばかりに切り裂いた。

一直線に十尾の元へと突進する。

「ダラッシャアアアアアアアアぁぁッ!」

吠えて、気合の一撃。
速さに対応できなかった十尾に、メンマは正面から体当たりをぶちかます。
轟音と共に、城以上の大きさを持つ球体が空へとぶっ飛ばされる。

『このぐらいでェ!』

衝撃に圧された十尾は、すかさず反撃に打って出る。

先に圧倒した術、陰遁・屑星による飽和攻撃を仕掛けたのだ。
間もなく、空が弾幕で包まれた。

『これは防ぎきれまい!』

怒号による号令。間もなく、弾幕は一斉にメンマへと襲いかかった。

しかし、メンマも先ほどまでのメンマではない。
今ならば全員揃っていて、その肉体、チャクラ共にケタ違いに上がっている。

身体を大きくする役割がある天狐のチャクラを、人の身体のサイズまで圧縮したのだ。
そして共鳴による増幅で、メンマの状態はとんでもない事になっていた。
写輪眼や白眼、輪廻眼で直視すれば目がくらむ程に。

しかし、時間も限られていることに違いはなく、逃げるのはまずいと判断したメンマは、跳躍。
望むところとばかりに飛び上がり、被弾しながらも弾幕の中央まで突進する。

そして空中で止まると同時に結びの印を組み、風遁・大突破を放った。
口から突風が溢れる。

術者の力量が顕著に出る術、人外の力で放たれた大突破による烈風はまるで台風の如く吹き荒れ、

「廻れ竜巻ィ!!」

メンマは吹き出す勢いを活かし、そのまま身体を横に回転させる。

そして吹き荒れる風の中、周囲の大気を鷲掴みにしながら、周囲にある大気そのものを、洗濯機の如くブン回した。


そして、巨大な竜巻となった。
里ひとつを包み込める程の竜巻が吹き荒れ、弾幕も何もかもその風の激流の中に飲み込む。
数が多いだけのチャクラ弾に抵抗する力はなく、取り込まれたすぐに竜巻による遠心力で弾きだされるか、メンマが回転しながら全方向に放っている、風の爪によって裂かれるかして消えた。

風の渦の中で砕けるか、外に弾きだされるか。

吹き飛ばされた弾は地面や森に叩きつけられて砕かれた。

そして間もなく、全ての弾が打ち消された。

しかし、それは本命ではない。
屑星を囮にした十尾が、とどめの一撃を放つべく、攻撃体勢に入る。

十尾の中心で高まるチャクラ。
はっと気づいたメンマが、十尾の方を見やる。

すると十尾の核から、巨大な黒い弾が出で、どんどんと大きくなっていた。
それは急場に作られたチャクラ弾ではなく、九つに分たれた龍でもない。

ただ純粋に、一点を破壊するために作られた砲弾で、すなわち対個人用に特化された砲弾である。

(飛雷神の術で避け―――)

クナイを取り出して迷うメンマ。
しかし今自分の居る場所と、背後に居る者たちを思い出し、舌打ちをした。

(背後には紫苑達が…………くそ、駄目だ!)

これをどうにかするしかない。
そう判断してからのメンマの決意は、速かった。

「アレ、使うぞ!」

言うと同時に風を飛ばし、地面に落ちているクナイを拾い上げ、まだ残っているクナイを手に取る。

『完全じゃないけど、それしかないね!』

意図を察したマダオが答える。別案を考えている暇もなく、それ以外の方法も皆無。
ならば仕方ないとばかりに、全力でフォローに入ろうと決めたのだ。


『クシナは結界術! "アレ"を用意して!』

「マダオ!?」

『一度劣勢になれば終わりだ! ならばここで決めるしかない!』

「っ、分かった! 九那実は切り札を、これを凌いだ後に使う!」

二人の指示に二人が答える。

『分かった、でも!』

『絶対に防げよ!』

『「もちろん」』

女性二人の応援を受けた男二人が、気合をいれる。

手に持つクナイを四つ投げ、十尾の死角となる直下の地面に突き刺した。
とすとす、とクナイが刺さる。十尾を空に、その下に正方形を描くように。

そして自らの傍らにもクナイを突き刺し、印を組み始めた。

干支の印を順繰りに組みながら、体内のチャクラの変化を導いていく。


『ふん、結界か? ――――無駄だ』


それを見た十尾はチャクラの増幅を止めないまま、ただ嘲笑する。
事実、十尾のチャクラ今までで最高に高まっている。

このチャクラ弾――――尾獣球が放たれれば、防ぐすべなどないだろう。
並の術者は勿論のこと、専門家である紫苑が持つ最高の結界でも防ぎきれない程だ。それを知っている十尾は、紙の盾をかざそうとするメンマ達に哀れみを向けた。

メンマも知っていた。だから、退けないのだ。

メンマは沈黙を保ちつつ、ひとつずづ慎重に組み立てていく。
体内に荒れ狂うチャクラ流を制御しつつ、目的の術式へ至るための肯定を登っていく。
まるでひとつづず、老朽化した階段を壊さないように上がるように。


そして、術式が組み終わり。

クナイが光を上げると同時、



『くたばれ!』


十尾の尾獣球が発射された。
城を蒸発させかねない威力を持つ"小型の太陽"が、周囲にある全てを薙ぎ払いながら突き進んでいく。

その球の進む先にあるメンマは、眼を開き、



『防げないのは分かっている。それならば――――』



「ああ――――"跳ばす"だけのこと!!」


メンマの前にある空間が歪み。

その小型の太陽は飲み込まれ、


『な――――』


時空間空間転移で"跳ばされた"。

それが飛雷神の術の結界であると気づいた十尾は、しかし既に遅く。

十尾の真下に跳んだ球が、そのまま十尾の球の底を抉った。

『グ、キサマァァァァッ!?』

衝撃に、十尾が鳴く。

「ここだ!」

そして機を見るに敏。
結界で防ぎきれなく痛めた腕の傷も出血も無視し、メンマは足元の地面を両手で叩いた。

『封印――――結界縛鎖!!』

同時に、クシナが術を発動。

メンマの背中から、先が尖った巨大な鎖が幾重にも飛び出した。

鎖の槍は出るやいなやの素早さで十尾へと殺到、十尾の表面を抉った。
そして先が食い込むんだ直後、鎖は十尾の表面を巻き付いていく。

『封印の鎖に、このチャクラ―――――っ、うずまきクシナか!?』

『「ご名答ゥ!」』

驚く十尾に応えながら。
メンマは鎖を背中から取り外し、手に持ち全力で引っ張った。

「一本釣りぃぃぃぃッ!」

『なあアアアッ!?』

一本釣りにされた十尾は、あえなく地面へと墜落。
メンマはそれと同時に、土遁の術を使い、鎖の元となる部分をずぶずぶと、地中深くに埋め込んでいく。

土遁を使ったのは勿論クシナの方だ。
鎖に引っ張られた十尾が、地面に縛り付けられる。

メンマはそれを見届け――――忍具口寄せで巻物を取り出し、一息に開いた。

そして出血している手を口寄せの巻物に押し当て、そのまま一文字に横へ血を引き、バン、と地面へと叩きつけた。

そこに現れたるは、ただの忍具口寄せでは呼び出せない巨大な物体。
白い煙と共に現れたのは――――巨大な筒だ。

空を向く、鉄で出来た大筒。
錆止めの塗装もないが、ただ只管に頑丈。

見栄えも何もない、この一回のために作られた特性のものだ。

(見事過ぎる、職人さんには頭が下がるッ!!)

メンマは目の前の品を見て網の花火職人を思い出し、彼等に感謝と尊敬を捧げる。

そして同時に、道具が果たす目的のために、動いた。

「狐火」

メンマのつぶやきと同時に導火線に火が灯り、しゅわわと火が走る。
そして一瞬の後、火が線の根本まで到着すると同時、ドン、と筒の内部で爆発が発生し、筒の中央から一直線に"何か"が空へと放たれた。

煙を尾に引き飛んでいく何か。
その勢いは眼にみえない程に早く、放たれた物体はすでに目視できないほどの高度に上がっていた


メンマはそれを見届け―――目眩を覚え、巨大筒にもたれかかった。

口からは、血が流れている。

しかしメンマはそんなものを無視し、地に縛られた十尾をまっすぐに見た。


「………ご覧の有様だ。でも、正真正銘の、最後の一撃が残ってる」


ゆっくりと、急ぐわけでもなく。

バ、バ、バ、と印が組まれる。

その印の順は飛雷神の術。

そして目的のマーキングは――――――"たった今打ち上げられたクナイ"で、



「命を賭けて申込む――――本当の最後だ。逃げて、くれるなよ?」



返事を待たず、メンマは空へ跳んだ。














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「転移成功―――って、寒ッ!?」


飛雷神の術でクナイに転移したメンマは、直後に叫んだ。

そこは雲のはるか上で、周囲には絶景が広がっていた。


鉄の国を覆う黒雲も、はるか先まで広がる地平線も見える程に高い空に転移したのだ。

通常ならば気圧の差で身体がどうにかなる所だが、半人半狐となったメンマの身体には変調を来さなかった。

『しかし、限界は近いぞ』

「ああ、分かってる――――その前に」

術を組んだ時に感じた違和感――――経絡系でもなく、筋肉でもなく。
それよりも大切な"何か"が酷く傷んでいることを感じたメンマは苦笑し、頷いた。

「でも、これで最後だから………っと」

答えるとメンマは、血が出ている手に簡易の包帯を巻きながら、当たりを見回した。
そこには遠く、広がる世界が在った。

「…………言葉に出来ない、といいうのはこういうことかな」

『綺麗、とはまた違うがの』

「うん、それ以上だ――――この世界を、何の不安もなく巡ることが出来たのなら、最高だよな」

『………ああ』

「さて……約束もあることだし、っと」

そこまで呟いたメンマは、頭を下に下げた。

空気抵抗がなくなり、降下速度が上昇する。

『ふむ、いつもの調子を取り戻したようだな?』

「ああ………ちっと腹立ったもんでな。"役割もあるし"」

『ほとんどが本音だったろうに』

「九割がたは」

『そういうことにしておいてやろう………うむ、だがそれでいい。最後まで、“そう”でなくてはな』

九那実にしては、らしくない言葉だ。
メンマは何か引っかかるものを感じたが、追求する時間もない。

動くべく、マダオに呼びかけた

「地面に着くまであと3分か…………いけるか?」


『ああ、やるしかない。完成させよう―――――最後の、螺旋丸を』










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「消えた…………いや、飛雷神の術で跳んだのか?」

「ああ。目的地は恐らく、空の上。先ほど打ち上げた何かに、マーキングを刻んでいたのだろう」

結界の中。十尾の檻につつまれながら、一同は映像が映る鏡を凝視していた。

そこにはすでにメンマの姿はなく、鎖に縛り付けられもがく十尾の姿があるだけだった。

「あれは………結界術の亜種じゃな」

「随分と強力なチャクラで………って、まずい!」

鏡の向こう。十尾を縛り付けている鎖を見て、サスケが叫んだ。


「鎖を、飲み込んだ!?」

砕くのでもなく、引っこ抜くのでもなく。

鎖を泥で覆い尽くし、喰らい尽くした十尾を見て、まずいと呟いた。



「あいつは雲の上だ…………見えていない!」






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『グゥ――――』


忌々しい鎖を飲み込んだ十尾は、考える。

内に宿る何者かの理性が消えたのだが、それもどうでもいいとして、考える。

(まさか鎖が砕けないとは、思っていまい)

ならば何故、鎖で縫いとめたのか。
そして何故、空高くに舞い上がったのか。

(鎖は――――飛び上がるまでの時間稼ぎ。ならば空へ転移したのは――――攻撃の準備か)

加速度を利用するのか、何をするのか。
十尾はそれを並び立て、考えるのをやめた。


(他にも術式が………どこかにクナイが、否、小細工があるやもしれん)


ならば、どうすれば良いか。
十尾は考えずに、チャクラの充填を始めた。

(全力の我に適うものなどなし――――ふむ、転移の結界は厄介だ。しかし、ならば、"させなければ良い"だけ。それに――――真っ向からと言うのだ)

ならば逃げはしまい。
十尾は呟き、真っ向から叩き潰すべく、自らの体内でチャクラを練り始めた。

圧倒的な質量。
チャクラが零れ、余波で地が鳴動し、大気が泣き喚いた。

空間が歪むほどのチャクラだ。

しかし足りないと、十尾は更なる力を求め、遠く五大国に展開している分体を転移させる。
五影も飲み込み、護衛の忍び達も飲み込み、護衛部隊も飲み込み。

そして離れた場所に居る紫苑達を囲んでいる分体はそのまま、呼び寄せる。

分散させていた分体を呼び寄せ、全ての力の集結をさせたのだ。

掛け値なしの全力である。本気となった十尾の身体が、三狼山の頂きのほとんどを覆い尽くせるほどに大きくなっていく。

そして自らの中にある全て――――六道の力を収束し始めた。

天の理、人の理、地獄の理、畜生の理、地獄の理、修羅の理。

それらが内する莫大なチャクラを、全て一点に集中させていった。







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同時刻、絶賛落下中のメンマ達は、それを感じ取っていた。

ひゅうひゅうと、身体が風を切る音。頭を下に、風圧にゆらゆらと揺らされながら、メンマは鎖が破られたことを感知していた。

――――もとより想定内だけど。

メンマはいいながら、しかし一つの誤算に眉をしかめた。

「それより…………物凄い量のチャクラを感じるんだけどなあ………」

『………あほか、と言いたくなる量じゃのう。なんじゃ、これは何かの冗談か? それともあ奴は月でも穿つつもりか?』

『九尾の全力でも足りないってばね………でも』

『そう一人なら無理だね』

そうして笑うミナトに、全身が応じ。



――――そして、始動する。



ますは下準備として、メンマは頭を下に向けたまま目をつぶった。

自らの魂に意識を集中させたのだ。

(ん……)

暗闇の中、メンマは融合している魂の持ち主である九那実と、背中合わせになっているように感じた。
それは九那実の方も同じだった。

一つの器に、肉を持つものが二つ。
人間としてのメンマと、天狐としての九那実。魂だけとなったミナトとクシナとは違う、正真正銘の生きている生命。

その二人の魂が、共鳴していく。

同時に魂の皺である"記憶"がかき乱され、ゴチャ混ぜになる。

メンマと九那実の脳裏に、無数の人物の顔が、浮かんでは消えていく。

「ぐ――――っ」

『ク――――ッ』

閃光のように現れては消える、様々なもの。それは記憶で、または感情で、思い出だった。

二人は頭の中がまるでスープのように融け合う感じを覚えつつも、自分を保つことに努めた。

光景が河のように次々と流れていく。

テウチ師匠。アヤメさん。かつて手に駆けた忍び。木の葉の暗部。
かつてナルトであった頃の。

そしてザンゲツ、食堂のおばちゃん。
紫苑。シン。サイ。菊夜。ハル。ゴロウさん。根の忍び達。紅音。乱蔵。那来。円弥。灯香。根の頭領候補。
網で関わった人達の顔が。

我愛羅。テマリ。マツリ。ヒナタ。いの。シカマル。キリハ。カカシ。眉毛師弟。おぱーい。ハヤテ。
イビキ。三代目。


旅で、屋台で知り合った人達の顔が。
中忍試験に木の葉崩し、出会った多くの忍び達の顔が。


この未知の世界に来てよりこっち、出会った人。


――――そして、再不斬に白に、多由也にサスケ。

あの家で過ごした仲間たちの顔が、浮かび上がっては消え、また浮かび上がる。


そうして、眼を開けた時。メンマの片目は青く、そして片方は赤くなっていて――――


『「一つ――――五行相生」』


足を下に。腕を引き絞り――――印を印を組み始める。

最初は雷遁、メンマが使用できる性質。
次には火遁、九那実が得意とする性質。
続いて土遁、クシナが得意とする性質。
更には風遁、メンマが得意とする性質。
最後に水遁、ミナトが使用できる性質。

一人が組み終わると同時、次の者が印を組み始める。

それによってチャクラは霧散せず、逆に高まっていった。
五行に曰く、木は火を生じ、火は土を生じ、土は金を生じ、金は水を生じ、水は木を生ず。
雷遁が火遁を、火遁が土遁を、土遁が風遁を、風遁が水遁を。そして水遁が雷遁を高めていく。

幾度も繰り返される印の中、"互いを活かす理"により、高まりきったチャクラが更に増幅されていく。

体内で性質を変化させ、瞬時に変更を繋げているのだ。
理に理を重ね、チャクラを更なる高みへと導いていくという、気が遠くなる程の精密さが必要とされる術。
足にも手にも気を使わない空中だからこそできるのだ。

チャクラの制御へ全ての感覚を投じたからこそできるそれは、真に神業と言えた。

やがて加速度的に高まった激流が、体内の全ての門の閂を破壊し始めた。

五行相生は順繰りに相手を産み出していく、生の理。

――――それ即ち、肯定の理。

そして、必然的に。
肯定され続けたチャクラは有頂天な子供のようににはしゃぎまわり、安全弁である筈の、体内門が崩壊させた。

更なるチャクラが溢れ――――その莫大過ぎるチャクラが、強化されたメンマの肉体を軋ませる。

血管のいくつかが破裂し、メンマの身体が鮮血に染まっていく。

それでもチャクラを止めることはしない。
メンマ雲海に突っ込み、黒い雲に包まれながらも、更にチャクラを練り上げ、加速させ、増大させる。


やがて、チャクラが外に漏れ始め―――――青い汗が零れ、それが体内の熱で蒸発。


メンマの身体が、青に染まって、手の先から白い光が溢れる。


そして、雲海を抜けた直後にメンマは軋む腕を振り、固めた決意を燃やした。

そして敵を見据えて―――恒星のように膨らみきったチャクラを、その掌の中にかき集め、回転させる。

しかし完全に抑えきれるはずもなく、暴れ回るチャクラがメンマの手を切り裂いた。

苦悶の声をこぼしながらもメンマは諦めず、それを抑えながら徐々に安定させ、膨らみきったチャクラをやがて混ぜ合わしていく。


やがて――――螺旋が、五行の更に上である性質を帯び始めた。



終には右回転、"時計回り"に。


チャクラが陽の遁に変化し、メンマはそれを掌の中に具現させ。




途方も無い量のチャクラを回転させ、圧して、留め――――






~~~~~~~~~~~





―――同時に。


十尾が、最大限まで高まりきったチャクラを砲弾にして、空へ――――標的へと、打ち放った。



蛇が巻きつき、メンマと同じで、そして全く性質の異なる。

黒い恒星のようなチャクラが、輝きを放つ。



月をも穿ちかねない、規格外の天災が。






~~~~~~~~~~~~~





そして一方で、その光景を見つめている者たちが居た。

それは十尾に囲まれていたサスケ達。だがその闘いに介入する余地もないと、空を見上げた。


ちょうどそこに、メンマが姿を現した。

全身から青いオーラを放ち、その掌に光を携えるものを。


空から落ちる人。

まるで鳥のように、一直線に降下してくるメンマを。








「青い、鳥?」








~~~~~~~~~~



雲海を抜けた。

目も開けていられないような風圧の中、メンマは吠えに吠えきった。


最大最高の質を持つチャクラを。それを極限まで圧縮させた、これ以上ない一撃を。

最後の切り札となる一撃を、放つ。


「陽遁・太極螺旋丸!」


天の光のように輝く、純白かつ勾玉の形をした螺旋丸が。


陽遁の性質変化を加えられた螺旋の宝玉が、具現する。





そして十尾も。


内に秘めたチャクラを開放し、叫んだ。



『陰遁・六道輪廻丸!』




黒の極光が、放たれる。




両者最後の一撃が激突し、それはまた完全に拮抗した。








~~~~~~~~~~~~~~~~



「ぐ、ううううううううううううううううううゥ!!」

極大の勾玉の向こう。信じられない圧力をもって襲いかかるチャクラの砲弾を、メンマは何とか押しとどめていた。

いや、"押しとどめることしかできなかった"。

増幅と共鳴によって、ついぞ人には出せないだろう馬鹿げた規模と密度を誇る螺旋丸は、正真正銘の切り札だ。

しかしこれは完全に予想外であった。

(ここまでとはな………でも!)


いかなる結界術をもっても、六道仙人、あるいはペイン、または十尾を抑えきれるはずがない。
このような真っ向からの反撃が来ることは、メンマ達も予想していた。それは望むところで、逃げられるのと比べればむしろ上等の部類である。

しかし押されてしまうまでとは、思ってもいなかったのだ。
生命エネルギーのほとんどを捧げた螺旋丸をもってしても負けるなどとは。

しかもこの砲弾は、徐々にその威力を増している。

送り込んできているのか。
メンマはそう呟いた直後により一層、眉をしかめた。


(圧されて………!)

威力でさえも劣ったのか。
圧されたメンマの身体が、緩やかに上へ、上へと押し上げられていく。


やがてメンマの身体は、雲海の中にまで身体が押し戻された。


十尾が展開した、黒い雲海のただ中へと飲まれたのだ。


(きついが――――往くか)


メンマは、右手に籠める力は緩めず集中し。




『頃合いだな――――五行相剋!』




九那実が、歌い始める。















~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


一方、包囲の解かれたサスケ達は、三狼山の端まで逃げながら、空を見上げていた。

サスケは、気絶している香燐を背に。
イタチは疲弊している紫苑を背に。

その他全員も、背に迫る十尾に呑まれまいと、自らの足で逃げていた。

しかし、途中。
ようやっと放たれた両者が放つ攻撃を見て、サスケが叫ぶ。

「拮抗………互角か!? いや――――」

徐々に、圧されている。
白い勾玉がわずかに退くのを見たサスケが、歯ぎしりをした。

サスケは、あるいはイタチも。あるいはその場に居る誰もが、理解していた。

目の前に映る白の極光、あの螺旋丸がどれだけの威力を持っているのかを。

―――そして最後の一手である、禁術に位置するだろう口寄せの術の仕組みも。

あれを使った後、彼等がどうなるのかを理解しているから、サスケは悔しくて仕方がなかった。


「命を賭けやがったんだ…………あれだけやっても駄目なのかよッ!?」


理不尽の塊である十尾、その力を見せつけられたサスケが、悔しげに叫ぶ。


やがて白い勾玉を持つ蒼い鳥は、十尾の負の念が包む空へ消えていった。


だが十尾は油断せず、またチャクラを集中させている。


「二撃目………、まずい!?」


叫ぶ。しかし届かない。

一瞬で移動する術ももたないし、仮に届いてもどうしようもない。



―――終わりなのか。サスケがそう呟いた時、背負っていた香燐が悲鳴と共に起きた。

そして空を見上げた。

一体何を。サスケは香燐と同じ方向―――メンマが消えた空へと眼を上げた。






――――それと同時に。






黒い雲海が、轟音と爆風と共に、"全て吹き飛ばされた”。







「ハ――――なッ!?!?」



雷鳴をも上回る激音。



そして自らがいる場所をも巻き込む、嵐のような爆風の中、サスケは見た。




爆風が生まれた中心に居る―――――白と黒が混じった球を掲げている者の姿を。






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~






「右手に、陽の遁」


白く輝き回転する、太極の螺旋丸。
十尾の砲弾を防ぐそれは、先ほどと同じ輝きを放ち、


「左手に―――――陰の遁」

もう片方の手に黒く輝く、太極の螺旋丸。
それは五行相剋――――"互いを喰らいあう"という理にとって生まれたもの。

弱を強が喰らい、更なる強が喰らう。いわば否定の性質をもったもので、陽遁とは太極に位置するもの。
それは左に回転する、負の性質をもった黒い勾玉の形をしていた。


そして、メンマは打ち込み。


掌の先に白い勾玉と、黒い勾玉の二つが合わさった。

そして融合し―――――"太極の図"を描いた。

陽はメンマで、陽中の陰にミナトのもの。
陰は九那実で、陰中の陽にクシナのもの。


4人の魂を現したそれはすぐに混ざり合い、共鳴し、震え、やがて見事に合致し。

全てのチャクラ、全ての想い。

生きろと言ってくれた人も、死ねと言ってきた人も。
肯定、否定、喜に怒に哀の楽。

向けられる憎悪も、自分の中にある愛情も。

陰も陽も、全てを見て――――受け止め、認め。


―――そして、陰陽交わる玉が完成する。

「チャクラ・エクステンション!」
メンマが、

『廻れ八門、巡れ四象!』
クシナが、

『回転したるは森羅万象たる理! 法に相生、相剋をもって告げる!』
ミナトが、

『我ら全て、陰陽五行の印以て、今此処に天地相応の理を成さん!』
そして九那実が吠え。



その手に、万物の根源を示す太極の図が描かれ。




「陰陽・太極――――――!」



四人が、叫んだ。





『『『「真・螺旋丸!」』』』





声が空に。


同時に融合の余波による爆風が、周囲の黒雲全てを吹き飛ばした。


そして、六道輪廻の砲弾も一息に爆散させられる。




『ナ――――あアぁ!?』



「退け、神様ァ!」



放たれた2撃目も同じ。


太極の丸の螺旋に触れるや否や、まるで紙のように吹き飛ばされてしまう。





そして、迎撃の攻撃を出す間もない十尾の身体に、太極の螺旋丸が直撃した。


十尾の砲撃の中央である"力の基点"へと叩き込まれ、





『――――――ァ?』





発生した、一瞬の硬直と静寂。



メンマは、空へ逃げ――――同時に。





抑えがなくなった太極の図を描く螺旋が開放され。


まるで世界が引き裂かれたかのような爆発音が起きて。



爆心地である十尾の身体が、“巨大な三狼山もろともに吹き飛んだ”。



「ァァアアガアアっ、アアアアア、ああああああぁぁァあッッ!?」



経験したことのない、世界が分たれるが如き圧倒的なチャクラの蹂躙。


砕ける山が散らばって、太極の爆発に吹き飛ばされた泥も散らばって。そして重力に引かれ、何もかもが落下していく。
城の残骸も、残っていた城の土台部分も、飛び散ったクナイも、起爆札も、積もっていた雪も、森も。


十尾の依代――――本体の核があるペインの身体も、まとっていた巨大な負の思念が全て吹き飛ばされたことで、むき出しになってしまっていた。


しかし、その輝きは絶えていなかった。
太極の螺旋丸もまた、ほとんどが爆散させられたが、その全てを吹き飛ばすまでには至らなかったのだ。


そして十尾は安堵し――――爆風に呑まれたのか、落ちてくるメンマの姿を見て、呟いた。

勝機、と。

(なんという馬鹿げた――――しかし、惜しかった、な?!)


落ちていく十尾はメンマを見ながら賛美し、安堵し、そして蹂躙を返そうと攻撃の準備を始め。


間もなく、驚愕した。



(目が、開いて―――――っ!?)



ドス、と。


音が鳴った。


ペインは自らを身体と、メンマの“左手”。そこから伸びている物体を見て、悲鳴を上げた。



目に映るのは、剣。実態のない、チャクラのような塊で出来た、巨大な刀のようなもの。



『まさか、キサ――――!?』


「さっきは、出せなかった、けど、な」


息も絶え絶えに、メンマが言う。

イタチから譲り受けた切り札に、残りわずかなチャクラを注ぎこみ、言う。


古代の人が、十尾対策に作ったという武器だ、と。




これは――――十束剣だ、と。




「グ、あ、ぁぁあァアアアアアアッッ!?」






剣はペインの中にある核の部分を確かに捕らえた。

十尾が、始めての苦痛に悲鳴を上げた。
そして傷を負の念で癒そうとするが、それも足りない。



――――全ては、メンマの策であった。

戦い、傷を負わせ、十尾のチャクラの源である負の念、黒い泥をふきとばした上で。

補填する材料を全て消し去った上で、十尾の核を捉えうる十束剣で、その中心を貫くという。

ここに、策は成った。

今までにはない、何か捉え貫いたたという手応えを感じたメンマが、勝利を確信し。



――――しかし、口の端をあげようとした時。



「――――っ、な!?」



ひび割れているだろう、核。貫いた剣の切っ先からおぞましい泥が溢れ、剣を遡って来る。

避けようとするが、剣は微動だにせず。


(まず、身体が、逃げ切れ―――――!?)



瀕死の状態だであるペインの身体も、満身創痍であるメンマの身体も。

そして十束の剣も、全て。



十尾の核から爆発するかのように溢れた、漆黒の泥に飲み込まれた。


























あとがき

副題は「とある狐の恋の歌」、または「ブルーバード」。
シーンは疾風伝のオープニングを意識しました。

次回、最終話です。



[9402] 小池メンマのラーメン日誌 最終話 「夢の空へ」
Name: 岳◆3d336029 ID:0347f440
Date: 2013/08/15 03:01



一緒に居た人が居た。







―――――夢にまで見た、空があった。






















小池メンマのラーメン日誌

 最終話 ~ 夢の空へ ~













光も遮る闇。誰も何も見えない、墨のような漆黒の闇が広がる空間で、メンマは眼を覚ました。

「っ……………ここは」

起きて見回して、首を傾げる。

そし自分が気絶する前の状況を思い出し、眉を潜めた。

「そうだ。俺は十尾に、呑まれて…………」

メンマは痛む全身に構わず、周囲を見回しす。
動く度に身を切るような激痛が走るが、動かないでもいられない。

その時、脳裏に色々な光景がよぎる。
実際に見えている訳でもない。だけど眠るときに見る夢のように、知覚できる映像としての何かが、頭の中を駆けていく。

「っ、これは…………!?」

映ったのは、過去の光景。

――――人間の愚かさが限度にまで達した時の、その光景の数々。

物言わぬ絡繰兵の軍団。想像もできないような技術が使われているのだろう、全自動で動くそれが、感情も無く人を引き裂いていく。
憐憫の情ももたず、しかし人の形をしながら人を素手で引き裂いていくそれは、言葉にできない気持ち悪さを感じる。

そして、爆音。先の十尾の一撃か、あるいはもっと大きいか。問答無用に容赦なく気化される大気の帯。
直後、鮮やかに橙に輝く炎の華が周囲全てにあるものをなぎ払った。兵も、男も、女も、老人も、子供も。
区別なく差別なく、万便に全てを酸化させ炭化させる。人だったもの赤い何かが炒られた豆のように跳ね上がる。

「これは………じゅうびが、ほろぼ、した………」

メンマは、子供のように呟くことしかできなかった。
なぜなら、あまりにもあまりに過ぎる。見ているだけで涙が出てくる、情け無さと心の底から恐怖が湧きでてくる。

痛い。痛い。痛い。
傷ではなく、心が痛む。目の前の光景を許容できないと、胸が悲鳴を上げる。

そして次の瞬間、また景色が変わった。

「………忍者、か」

深緑の中、青い空の下。
散歩にでもでれば気持ちいいだろう、そんな空気の中鮮血が踊っていた。
クナイ、手裏剣の鉄塊。火に水に風に土が交差し、果てには人の肉を抉る。

里の中、里の外、様々な場所で忍者達は殺し合っていた。
やがては、その対象は他にも映る。明らかに無関係な農村の人々や、多くの食料を運んでいた商人。

その中には、見知った顔もあった。

「ザンゲツ………」

まだ若い頃のザンゲツは、長い黒髪を持つ女性を、血を流し横たわっていた誰かを抱き抱えながら、必死に叫んでいた。
眼からは涙が、鼻からは鼻水が出ている。しかしそんなことに露にも気を払わず、ただ獣のように叫んでいる。

そのような光景が、幾度と無く繰り返される。
墓を前に復讐を誓う誰か。後を負い、谷底へ飛び降りる誰か。


やがてすぐに、見覚えのあるものが視界に映った。

「九那実!」

暗闇にあってなお輝く、美しい金の髪。メンマはその持ち主の名前を呼び、立ち上がり駆けつけた。
だがメンマは、九那実の姿を間近で見ると言葉を無くす。

九那実の身体には、身体のそこかしこに罅が入っていたのだ。
まるで温度変化に耐え切れなくなった陶器のように。その隙間からは血が溢れていて、血まみれになっている。

やがて、その目がゆっくりと開いた。

「メンマ、ぁ…………」

口を開く九那実。その唇の端からは、つつと赤い雫が零れ出ている。

「なん、で………」

「何を………そうか、ここは十尾の中なのか」

ならば"魂がむき出しになってもおかしくはない"。九那実はそう言って苦笑すると、苦しそうに咳き込んだ。
赤い血が、更に舞う。

「だったら………なん、で」

九那実はそんなにぼろぼろなのか。
そして、何故自分は"こんなに傷が浅いのか"。

そこまで思いつくと、メンマは何かに気づいたように、はっとした顔を見せる。

「チャクラを使った後の………痛みが、少なくなったと思ったんだ。治ったかと思ったけど………違ったんだな」

"全部引き受けた"のか。メンマの言葉に、九那実は苦笑を返す。

「やれやれ………お主はほんと、気づいてほしくない事には鋭いの」

「なんで! ひとこと、言ってくれれば!」

「なら、やめたか? 止まったのか? ………その程度の覚悟で、この化物に挑んだわけではあるまい」

「それは…………」

「それに、の。我の終着点は、ここなのじゃ」

どちらにせよの、と。九那実はわずかに首を傾げて笑った。
血に塗れたその顔はとても儚く、途方もなく美しく見えた。

「お主も覚えているのだろう、あの声を。殺すという、ペインの声を」

「聞こえた………けど、それとこれとは!」

「関係あるのじゃよ。考えても見るといい。あやつは尾獣だけに聞こえるように、あの声を送った。だが―――――何故、妖魔核を失った我に声が聞こえる」

「それ、は………まさか!?」

「そうじゃ。九尾から昇華した妖魔核は十尾となった。しかし核本体は未だ残っていて、忌々しい繋がりは消えておらん…………そして、十尾を倒したとして」

――――その妖魔核はどこに向かう。
眼を伏せ、九那実は言葉を続ける。

「"声は聞こえた"のじゃよ。それが証拠じゃ」

「でも………何か方法が!」

「あるかもしれんの………しかし、我は御免なのじゃ。もう二度と、九尾の妖魔には戻りたくない」

お主の事を忘れたくないのじゃ。そう言うと、九那実は泣きそうな顔でメンマを見た。

「憎しみに呑まれるのは嫌じゃ。お主らと過ごした全てを忘れて、暴れ回る畜生に成り下がるのは嫌じゃ……‥そして――――この想いを忘れるのは嫌じゃ」

それぐらいなら、と。
九那実は言う。

「一度"成れ"ば、もう戻れまい。それだけは許せん。それが我の、退けない最後の一線じゃ」

――――出来るならば、想いを抱いた女のままで逝きたい。

そう告げた九那実の顔は、決意に満ち溢れていて、メンマは何も言うことができない

その、想いっていうのは、誰に対するなんという気持ちなのか。
それを問いただそうとした時、突如声が湧いてでた。

天から響くような声。
それはペインの声色だった。


『来たか』

「………生憎とな」

言いたいことがあった。九那実にしろ、ペインにしろ、長門にしろ。
ここには居ない、九那実のことを隠していたミナトやクシナにも。
だがメンマはぐちゃぐちゃになっている内心を押し殺し、引き絞るように声を出した。

「さっきの映像は、そうなのか」

『――――ああ。見せている。飲み込まれた者の五感は、十尾に支配されるからな』

それはまるで幻術のように。
その気に成れば、二度と覚めない夢を見せられるのだろう。

「サスケ達は?」

『最後の膨張に飲まれた。今は別の場所に居るが』

「そうか………俺達は支配されていないが?」

『それこそが十束剣の効力だな』

「………何? 十尾を滅ぼせるものじゃ無かったのか」

だから使ったのに。
訝しげな表情を見せるメンマに対し、ペインは違うと答えた。

『十尾は切り裂いただけで死ぬような、そんな生やさしいものじゃないさ。その程度で死ぬなら苦労はしない」

「じゃあ、剣の役割は別にあると?」

『ああ。対十尾用のそれが、何故剣の形をしているのか知っているか?』

「考えたこともない。そもそも、この剣が十尾に効果があるってのも、アンタから聞いた話だ」

『ああ、思惑通りにな。それは別として剣の役割は…………"道を切り開くもの"、だ』

「……"草薙"か」

『お前は………そうだったな。その通りだ。火の難を払うもの。道を塞ぐものを排除するもの、それが剣が持たれている幻想だ。それは過去より今まで、変わったことがない』

人間の武器こそが剣である。長門はそう言った。

『十尾の中は一つの世界となっている。そして世界そのものを滅ぼす術はない。それほどの威力を持つ武器はないし、あったとしてもそんな威力を持つ武器を使えば、外の世界まで滅ぼしてしまう。

「だから、この世界の中で。動き、急所となる部分をつくしかない。そこまでの予想はつけていた。俺も、マダオも」 

『ああ。だが一度呑まれたものは、十尾支配されてしまう。だからこその剣だよ』

「"斬り込むためのもの"。蛇の剣を名乗るのもそれか」

『ああ。幻術世界に誘うのは副次効果で、本領はそこに無い。同質の性質はふくんでいるがな。そもそもが同じものだ』

「………原料は十尾か」

『破片だがな。十種の神宝とでも言おうか』

「そこまで詳しくはねえよ………だが、その情報をくれたのはお前だ。つまりは、全部仕組んでやがったな?」

切り札を持つイタチを殺さなかったのも、あの時それとなく十拳剣、否、十束剣の話をしたのも。
頭をかくメンマに、長門はそれだけではないがと答える。

『あの兄弟の出す答えを"見たかった"のもある。そして見られて………満足しているよ。そして、お前がやるべきことは分かっているな?』

「ああ」

メンマは、九那実を見る。
二人は視線を交わし、頷きあった。

「言いたいことがいっぱいある。だから‥………」

「待っているさ。看取られるならばお前がいい」

くっ、とメンマが顔を伏せる。しかし、何も言えない。


『時間もない、こちらに呼ぶぞ―――――』



告げる長門の声。


それが途切れる瞬間、メンマは空間の歪に呑まれた。




~~~~~~




暗闇しかなかった景色が歪む。それは飛雷神の術を覚えたての頃に感じたそれと似通っていた。
ということは、転移させられたのか。それを感じながらもメンマは、じっと時を待った。
時空間転移中に暴れれば、二度ともどってこれない場所に出てしまうかもしれない。
そうなれば、聞くことすらできなくなる。

メンマは膝を付きながら、じっと待った。
やがてそれらは間もなく収まる。歪んでいた空間は正され、はっきりとした視界が晴れる。

まず見えたのは、青と緑の色。
やがてそれらは形を成し、あるものを型どり始める。

(ここは………一軒家?)

完全に空間が形成された後。メンマの目に、一軒家と3つの岩が映った。
一軒家はそう大きくなく、何処にでもあるようなもの。
岩は規則正しく並べられていて、空に向かって立つそれは墓碑のようにも見える。

そしてメンマは、墓碑の先の家の中に、見知った一つの気配があるのを感じた。

「来い、ってか………」

いよいよの最後だ。
メンマは立ち上がり、自分の身体の状態を確認しながら、一軒家に向かって歩き始める。

(チャクラが練れない………身体は十分に動くが)

痛みはあるものの、支障はない。憑依融合して、八門までこじ開けたのにそれだけで済んでいる。
メンマはその奇跡を知り、その奇跡を叶えるための犠牲となった九那実を想像し、何故気づけなかったのかと情けない自分を罵倒する。

「…………いや、まだだ」

―――どうにかする。メンマはそれだけを考え、一軒家の扉を開けた。



「ようやく、来たな」




そこには予想の通り。

赤い髪、そして痩けた頬を見せ、力なく壁にもたれかかり座っている、老人のような眼をした者。

かつて長門と呼ばれた者の姿があった。






~~~~~~~~~~~~~



「悪かったな。だが、あの九尾の妖狐はまだ死なない」

最も、あと一時間もたないだろうがな。
告げられたメンマは、激痛が走ったかのように、眼を強ばらせた。

「何のためにああなったのか。それが分からないお前じゃないだろう」

「お前が言うなよ……‥いや俺も言えないか」

顔を片手で覆い隠し、メンマは言う。

「こちらも、色々と聞きたいことがあるんだが…………時間がないか。取り敢えずは、一つだけ」

「なんだ?」

「建前はどうでもいい。だがあんたは、"人柱"力となる事を選んだ。それは間違いないな?」

問いかけるメンマの言葉。
長門は、苦笑だけを返した。

「……エロ仙人に聞いたことを、思い出したよ。ここはあんたらの隠れ家だな」

「ああ」

「………そうか――――このためか」

ならば、もう何も言わないと、メンマは眼を閉じた。

「例え、ここに来るまで――――その全てが、アンタの筋書き通りでも、やることは、ひとつだ」

そして望む結末も。
メンマはそう告げ、構え、腰を落とす。

それと同時に、長門も立ち上がった。

「……結末は、二つあった。こちらにたどり着くには、必要な部品があった。それを見いだせた事に、感謝しよう」

「神様に?」

メンマの問いかけに、長門はまさかと返す。

「――――復讐する相手と、その親玉に感謝する馬鹿がどこにいる」

あるいは因果の流れに。そう告げると、長門は盛大に咳き込んだ。
メンマは特に声をかけず、その時が来るのをじっと待つ。

やがて咳が止まった後。長門は顔を伏せながら、メンマに聞く。

「言うまでもないと思うが………やることは、分かっているな?」

「勿論だ。いや…………もう一つだけ。九那実と妖魔核との繋がりを断つことは、可能なのか」

「………一応は可能だ。そのためには最低限、今からお前が勝つ必要があるが」

「……分かった」

ならば問題ないと、メンマは笑った。

心底嬉しそうな、満面の笑顔。
心よりの喜びをその顔に集中させたような、見ているものをそれだけで幸せにしそうな。

それを見て長門は、弥彦の事を思い出し。


「なら、大丈夫だな…‥」

――――抵抗を止め。

「全部背負う。だから、俺を殺せ」

十尾の核を、自らの身の内に引き寄せた。
途端、部屋が崩れる。長門をかたどるもの、その大切なものが黒の波濤に蹂躙されていく。
長門の身体も、間もなく黒に覆われていく。しかし長門は笑い、黙ってそれを受け入れる。

崩壊する景色。大気が脈動し、その度に長門の眼の光が失われていった。


直後、背後から一人の人物が現れる。

「六道仙人、か」

「ああ………世話をかけるな」

「負の思念は?」

「十尾による束縛が無くなった時点で、私が月の中まで持っていく」

滅びた後ならば可能だと、何でもないように言う。

「全部、計画通りか………見事の一言だよ。尊敬すら覚える」


決意を見出した後、たった一人で。
恐らくは仲間も居なかっただろうに。


「各地を周り。禁術を闇に葬り」

侵食されていく。ずっと耐えていただろう闇に、長門が呑まれていく。


「下調べの果て。奇襲に見せかけ、十尾の分体をそれぞれの里に送り」


だが、眼の光は消えていない。その眼の光だけは、ずっと長門のままだ。


「―――里に溜まっていた負の思念を飲み込み。妖魔核を生み出す温床となるものを全て此処に集め」


暴走はしなかった。飲まれつつも、抑えているのだろう。
この世界にある憎しみを、全て。


「忍者達には、滅びの光景を見せ。その行き着く果ての虚しさと、愚かさを見せて………過去の光景をもって、"痛み"を覚えさせて」


世界を敵に回した男は、諦めなかったのだ。


「負の思念を全て纏い、俺と戦う。偽悪的な立ち振る舞いを続ける。役割を担い、俺に担わせた。忍者を否定するもの、肯定するもの、その全てを語らせて。戦うことによって、負の思念の量を少なくさせて」

茶番といえば茶番なのかもしれない。だけど、負けていればもう一つの結末が待っていたのだろう。
ちっとも笑えない、誰もいなくなる結末が。

「どちらにせよ……‥最後は、自分諸共死ぬことによって"妖魔核を九尾に戻す"のか」

それで九尾の妖魔が生まれるだろうが――――月は堕ちなくなる。

あるいは妖魔核を滅ぼすのかとも思ったが、それは不可能だろう。できるならば、六道仙人がやっているはずだ。
だが九尾の妖魔を戻すことによって、また猶予ができるはず。一時的に時間稼ぎが出来るのだ。
負の思念も大部分が散った。各地を周り、負の思念を十尾に吸わせたのだから、もうほとんど残ってはいまい。

「そして全ての忍者は元に戻る。ここ数年内に飲まれた者ならば、生きて戻ることができるからな」

長門の語った言葉の、どこまでが嘘でどこまでが本当だったのか。それも最早どうでもいいと思えた。
制御しきれなかったのだろうことは分かる。あるいは前言の通り、忍者を全て飲めこみ、そのチャクラを利用すればなんとかなったのかもしれない。

だけど、機会を与えた。十尾を相手に、その強大すぎる規格外の力を削げる者を。
ここに乗り込み、自ら諸共に屠ってくれる者を、探していたのだ。

それが自分だと、長門は言う。お前を見つけたと、長門は言う。

だから、任されたのならば、応えなければいけない。
何よりも、心の底で。


――――平和を、と願った彼の心を。無駄にするには、あまりにも忍びないではないか。


鬼の国での一件を見たから、と言った。その言葉。
少し意味が違ったが、別の意味では本心だったのかもしれない。


「そろそろだ……」

六道仙人が注意しろと言う。それと同時、隠れ家の風景が砕けた。

最後の砦が陥落したのだ。そしてメンマは前を見る。


「始めようか、マダオ……死なないためにと鍛え上げたこの拳、あと一人の英雄の望みくらい叶えられるはずだ」

ペインの役割を演じることに決めた、長門という英雄の。

「長門、お前を許す。お前の望む未来を肯定する。そしてお前に宿る十尾を滅ぼす」

それが望みならば。やらない理由はどこにもなく。

「お前は信じたんだな。暗い絶望と嫉妬のゆめではなく、小さいが確かに輝くよき夢を。憎しみと憎しみが積み重なる負の連鎖を断ち切ろうと」

彼は全てを捧げた。並み居る忍者、それを敵に回しても退かないと決めたのだ。
そして六道仙人は語る。

「弥彦と小南が見守っていると信じて。影で、人知れずとも戦った。自らの屍を以て、平和の架け橋になろうとしたのだ」

それは暁という組織の志だ。戦争を無くそうと、平和の架け橋になって憎しみの鎖をぶっ潰すと。

「なら、後は俺の役割か……‥感じるよ」

飲まれた忍者。その全てが、負の思念に支配されてはいない。
太古の昔に滅ぼされた人間も、全てが悪かった訳ではない。

光あれば、影があるように。影があれば、光もあるはずなのだ。

そして光が、メンマの拳に集まる。
それは誰もがもつ、良き夢だ。生きている者が持つ希望。死にゆく者達も願う、希望。

影が、長門の身の内に侵食する。
それは誰もが持つ、あしきゆめ。生きているものが持つ絶望。死にゆく者達が願う。絶望。

どちらも真実だ。どちらも人の、そして忍者も持つもの。
死にゆく者が願う。殺した者へ呪いあれと、そして里が平和でありますようにと。

それを抱え、人は前に進んできた。
忍者も同じ人間だ。出来ない道理は、ない。


悔いてきた。過ちを犯し。繰り返すまいとして、繰り返して。

想いを受け継がせて。繰り返して。ちょっとづつ、前に進んでいく。

その意志は希望といい。人の心を照らす、光と言う。

その眩しさに、六道仙人は眼を閉じる。
だがその眩しさに、安堵を覚えて笑う者がいる。

「………ああ」

長門は思い出していた。

闇の中でも消えない光を。

――――弥彦と小南。仲間たちと駆け抜けた、戦いの日々を。


「やっと、みんなの所へ逝けるよ」


微笑む長門。

その胸板を、メンマの拳が捕らえ。



「ご―――――ふッ」




輝く拳が、十尾の核ごと吹き飛ばした。


核を穿たれた十尾の、断末魔が響く。

そして束縛が解かれていく。負の思念は漂うだけのものとなり、飲み込まれていた忍者達がその夢から覚める。


「転送、開始」

それを確認し、六道仙人は手をかざした。
陰陽を操る眼と身体を以て、飲まれた忍者の肉体と魂を開放する。


五影も、護衛の忍びも、里に居た忍びも。

そして暁の内の、数人を。

全てを開放し、全てを元居た場所へと戻していく。


光が乱舞する。それはメンマがいつかの池で見た、蛍が踊る様子に似ていた。

それを見上げながら、メンマは長門にたずねる。

「お前の復讐の相手は………忍者では、なかったんだな」

復讐のために戦っているといった。

――――だがそれは大国の忍びではなく。

「滅びる定めにあった、忍者の運命をぶっ潰したかったのか。クソッタレな運命を寄越す神様を、ぶん殴りたかっただけ」

「ああ。一番の所は………弥彦と小南と、みんなの想いと。全員で戦ったあの日々が無駄になることを認められなかっただけだ」

それに、と長門は言う。

「忍者は愚かな存在かもしれないが、それだけじゃないって………知ってたよ。先生が居た。戦争を嫌う人達も居た。道具になりきれないって、泣いている人達も見てきた。
 各々の想いがあって。それは全て正しくて間違っている。灯香だったか。正気を失ったまま、半蔵も雨隠れの護衛達も皆殺しにした時、思い知らされたよ。
 全部、同じなんだって。そして自分が、弥彦の志と……みんながやってきた事に、泥を塗ったことも」

「正気に戻れたのか」

「ああ………復讐を果たした後に、な。十尾の泥から弥彦を開放して…………すぐに逝ってしまったけど、遺言を聞かされた」

「それで、この計画を建てたのか。誰もかれもが幸せになる世界を、創り上げるために」

「俺が与えたのは予備知識と、それぞれの想い。そして傷つけられる痛みだけ。世界が押しつぶされるその前に………」

どうか、変わって欲しい。そう、長門は願っていたのだ。

「知った忍者がどうするかは分からない。彼等次第だけど…………それでも繰り返すなら、そう遠くないうちに滅びるだろう」

それも必然だ、と長門が言う。


その言葉に、別方向からの言葉が重なる。


「しかし、そうならない可能性も出来た。痛みを知った今なら………変わるかもしれないね」

「いや、きっと変わるってばね。知ったのなら、絶対に」

「っ、生きていたのか!?」

金と赤の夫婦、波風ミナトとうずまきクシナ。
二人の身体は、透明になってすでに消えかかっている状態だった。

そしてその背に、九那実を背負っている。

「もう………逝くのか」

「本当に限界だからね。それに、君の肉体はボロボロで、ほとんど無くなった状態だし」

九那実を地面に下ろしながら、マダオが言う。

「覚悟はしてたけど………流石に八門開放の代償は大きかったか」

「うん。でも、肉体そのものが人外になってたから、どうにか治せるよ」

「そうか………それよりも」

メンマは横たわり、荒い息を出している九那実を見て。
長門と六道仙人を見た。

「………九尾のことか。先ほどに言った通り、繋がりを断つことは可能だ。いや、誤魔化すと言った方がいいのか」

「誤魔化す?」

「ああ。九尾の肉体と魂ならば、放たれた核は………・この開放が終わった後、九尾の元へ帰還する。だが、九尾の魂と――――人間の肉体であれば、その限りではない。
 その場合、妖魔核は帰る場所を見失い、また世界の裏に変えるだろう。復活の時が来るまでな」

「………肉体に魂を、か」

「形も、彼女本来のものに変えられる…………そして、器としての適正があるのは一つだけだ」


――――お前の肉体だ。

六道仙人は、端的に告げた。


「肉体を一から作るには、時間が足りない。別の肉体では拒絶反応が出る」

「………口寄せの融合が成った今だから出来るってか。侵食があって、地金がある今だからこそ」

「ああ…………そして外の世界ならば不可能だが、今ならば可能だ。膨大なチャクラが満ち溢れているから、不足はない」

「代償は…………俺が帰れなくなるってことか」

「ああ」

「………なら」





どうするか、とメンマは眼を閉じる。



選択肢は二つ。



俺が帰れなくなるか、キューちゃんが帰れなくなるか。



そして眼を開けた。考えるまでもあるまい。



決まりだ、と言うメンマ。



「キューちゃんを………九那実を、頼む」


「本当にそれでいいのか?」


「それで、きっと、いいのさ」


「分かった」



六道仙人は頷いた。長門はお前が選ぶなら、と言う。


ミナトとクシナは、苦笑するだけ。
二人とも分かっていたのだ。こういう選択肢が出た時に、メンマがどういう答えを選ぶのか。
だから無粋な言葉は出さない。何より二人は、メンマ自身が選んだ答えを否定しない。

かつての責任として、彼の選んだ方針には口を挟まない。
それだけが、二人のずっと守ってきたルールだからだ。

「でも………ほんとに、良いんだね?」

「………俺は、一度死んだ身だ。死んでいたはずなんだ。だから、譲る時が来たならゆずる。怖いけど………二択しかないのなら、それを選ぶ」

震える自分の手を見ながら、言う。

「託すものはキリハに託した。ラーメン日誌も、キリハならば相応しい人物に託してくれるだろう」

それに、と。

メンマが言う寸前、その足を横たわっている九那実の手がつかんだ。

「待…………て! 何を、勝手に!」

「キューちゃん………」

「お前は、生きたいのだろうが! なのに………ッ!?」

九那実は叫びながら立ち上がり、メンマの胸を掴んで叫ぶ。

その姿はかつての少女のものではない。

既に、肉体の譲渡が始まっているのだ。
それを察した九那実が、更に激昂する。

「夢のために! そのために、抗ってきたのだろう!」

「うん」

迫る死の運命を退けてきた、とメンマは答える。

「全ての障害は排除された! ここからが、お前自身の物語の始まりだ!」

「うん」

究極のラーメンを求める道。それこそが夢で、それに繋がる道こそが物語かもしれないと、メンマは答える。

「あれだけ望んだのに…………何より、お主は死にたくないと言っていたではないか! そのためにここまで戦ってきたのだろう!」

「うん」

メンマは、死を知っていた。あるいは、ここにいる誰よりも。
無言で頷き、肯定する。

しかし、メンマは揺るがない。
既に決めたという顔で、眼で、九那実を見る。

見られる九那実は、我慢ならないと叫ぶ。



「ならば………何故だ!!」



「好きだから」



九那実が死ぬことを、納得していない。

だから、見過ごせないとメンマは答える。

「本気だから、許せない」

「な――――んっ」

何かを言おうとする九那実。

その唇を、メンマの唇が塞いだ。



「約束、守れなくて御免」



直後、九那実の姿が消え。

魂が、肉体へと帰っていった。






~~~~~~~~~~~~~~




そして、残されたものは。

「………行っちゃったなあ。勝手かなあ」

「そうかもね。だけど、後悔してないってばね?」

「それは、もう」

「なら言うことはないよ………幸せになれるといいね」

ミナトとクシナが、九那実の魂を見送りながら、言う。

「ん、次は僕達の番のようだね」

「おうよ。でも野郎にまでキスしてやる気はねーぞ」

「19乙。てーか僕も御免。後悔なく逝くよ。なにせ、輪廻の輪に戻れるからね」

「お前は………そういえば、魂は死神とやらに飲まれたらしいけど、可能なのか?」

「それは私が引っ張ってきたよ。死神に飲まれた、妖魔核の一部と一緒にな」

ちょっと苦労した、と六道仙人は何でもないような表情をしながら言う。

「う~ん、流石の陰陽遁。何でもありだね………」

「運が良かったという所だろう。妖魔核が無ければ不可能だった。あれとの付き合いは長いからな…………しかし、思えば、不思議なものだ」

「何が?」

「"情けは人のためならず"………白と再不斬が、ペインのチャクラを削り傷を負わせ。カカシもそれに加わり。
 多由也は、うずまきクシナの魂を呼び起こした。そしてサスケがイタチを説得し、それを導いたお前は信用を得て、打開策となる剣を得ることが出来た。
 そして最後の融合を果たすために必須だった、秘伝の薬も同じだ。紫苑が死んでいれば、受け取れるはずもなかった」

「因果は巡るんだよ。例えそれが良いものであっても」

「それは………痛感したってばね」

頷き、満足に笑う二人。
その身体が、粒になって消えていく。

「……正しい輪廻に戻るのか」

「ああ。死んで、生まれ変わる。一つの生が終わり、また始まっていく」

「そうか………」


頷き、メンマはミナトと視線を交わす。

「何か、言い残すことは?」

「………別れに多くの言葉はいらないさ」

「カエル乙。てーか最後まで真面目にやれねーのな、このマダオが」

「マダオ、か…………何もかも懐かしいね。意味は、まるで駄目な親父だったっけ?」


その問いにメンマは笑う。


「ああ。別の意味もあるけど」

「それは?」

「―――マブでダチな親父、さ」

「俺を親父と呼んでくれるか…………最高の気分だぜ」

ジーザス、とメンマが頭を抱える。

「地獄に落ちても忘れねえよ………ていうかちょっとは真面目にしようとか、そう思わないのか? ―――そりゃ、俺が落ち込んで、絶望しないようにそう努めていたのは分かるけど」

「ありゃ、気づかれてたんだ」

「まあ、何となくだけどな」

「そうか………でも、いつしか素になってたよ」

道化でも良くて。

君と過ごした日々は、本当に楽しかった。マダオこと波風ミナトは、そう言って笑った。

「だから、最後まで笑顔で。三代目と一緒だよ」

「別れの時には、涙のかわりに笑顔をってばね」


「"いつもこんなもんさ、俺達は!"ってか………そうだな」




なら最後に笑わせてやるよ、と。


メンマは、亡くなった少年のかわりに。

二人に、告げた。




「生んでくれてありがとう。守ってくれてありがとう」


感謝と。



「世界は回る。いつかどこかで会おうな―――――父さん、母さん」



親指を立てて、笑顔で。



飾らない言葉に、万の意味を感じて。

二人は嬉し涙を流しながら。






「いや………さよならだよ」


「そうね………でも」





二人は顔を見合わせ、笑い。






「「ありがとう、さようなら………でも、いつかまた何処かで!」」







明日を思わせる声と共に、輪廻の輪に戻っていった。










「さて、と…………長門? ―――――お前も逝ったのか」



長門も、もう動かなくなっていた。

崩壊し始めている彼の顔みながら、それでもこれ以上ないぐらいに嬉しそうな顔しやがって、とメンマは言う。


しかし、メンマの顔も笑みを保っている。

掛け値ない、尊敬を思わせる笑みだ。




そうしてメンマは、最後に空を見上げた。




崩れていく自分の足を見ないまま、ただ天上にある何かを見上げる。










――――やがて全てが、流れていった。







~~~~~~~~~~~~~~






「………これにて、俺達の復讐は成った。後はお前達に託す」


六道仙人が告げる。

聞かされた五影は、それぞれの表情を浮かべながら頷いた。


「………うずまきナルトは?」

「死んだ」

六道仙人は、そっけなく答えを返す。
疑問の余地を挟ませない即答。

それを聞いた綱手と我愛羅が、下を向いた。

「彼が望んだことと、長門が望んだこと。今更、多くは語らない。お前たちに見せたことが全てだ」

「………分かった」

「良き夢を望んでいる。今日のことを忘れそうになったら…………そうだな。夜ならば、月を見るたびに思い出せ」



私は見ているぞ、と背を見せる。




「そして、昼ならば」




六道仙人は、すっと空を指さした。












~~~~~~~~~~~~






そして輪廻の輪の中の、赤い髪の少年は。

「やり遂げたよ………弥彦、小南」

『見てたよ………本当によくやったな、凄いよお前は』

『うん…………長門!』

3人で、ハイタッチを交わす。

そして3人を見守っている。かつての仲間も笑っていた。




そしてやがては、輪廻の輪の中に戻っていった。





~~~~~~~~~~









「………終わったのか」

目覚めた紫苑が、呆然と呟く。

「そのようだな………」

白を背負いながら、再不斬が言う。

「彼は…………」

背負われた白が、悲しそうに呟く。

「………」

大人たちは言葉もない。
ただ、見せられた光景と―――それぞれに見出したことがあって。

無言のまま、下を向く。


「ウチらにも、託された。ウチらにしか出来ないことがある。立ち止まっている場合じゃない。でも………」


多由也が、空を見上げる。


「ああ。上を向いて、な」


下向いてたら、あいつに笑わちまうと。



サスケが頷き、空を指差す。



皆が空を見上げた。









~~~~~~~~~






「兄さん………」

キリハは無言で、空を見る。シカマルも、テマリも、同じ。

護衛の忍者達も、空を見る。




奇跡のような、その光景を。






~~~~~~~~





そして、森の中で九那実は目覚めた。

起きてすぐに周囲を見回した。


その眼は、遠くを見いだせた。森の匂いも感じる。
風が肌に触る感触も。鳥が無く声も、良く聞こえた。

五感の鋭さが、先までの比ではない。


――――それが、完全な別れを痛感させてくれた。

もう、あいつは居ないと否が応にでも知らせてくるのだ。

九那実はたまらなくなり、地面を拳で叩きつけた。

衝撃波で砂塵が舞きあがり、地面にあるものが軽く宙を舞う。

そして、下を向いたまま。九那実は、地面に落ちるものを見た。


「これ、は………青い包帯?」


見覚えがある。血を止めるために、空で手に巻きつけたものだ。


思い出し、九那実は空を見上げ。





――――言葉を、失った。





空には、穴が空いていた。


黒い雲は真・太極螺旋丸に全て吹き飛ばされたのだ。





変わりに現れたのは、雲一つない、澄み切った蒼穹。



――――涙色の空だ。







「…………往くか」








そして九那実は立ち上がる。自らの双眸から流れる涙はぬぐわないまま。





頬に伝わる涙を感じながら、足に力をいれた。







「――――あいつが、見ている」







そしてメンマの残した青空の下、進むための一歩を踏み出す。












黄色く見える太陽が、九那実を見守っていた。



























あとがき

涙と言えば青を連想してしまう作者です。

次は、エピローグ。
















[9402] 小池メンマのラーメン日誌 エピローグ 「そして………」
Name: 岳◆3d336029 ID:0347f440
Date: 2013/10/25 21:43
五大国の里が襲われてから、二年と少しの時が過ぎた。

どの里も先の事件で壊れた建築物の復旧に忙しく、慌ただしい日々を送っている。

組織"網"も例外ではなく、構成員のほぼ全てが激務に負われていた。
建物の復旧に使う建築部材を作り各里に送ったり、同盟を結んだ鉄の国の侍達の新しい拠点を建てたり。

そして、この機会を逃さぬと各地の交流を更に勧めたりしていた。




そんな本拠地で、のんびりと屋台を構えている者の姿があった。

「う~む、どうしもこの時間は暇になるの」

午後の少し過ぎた頃。

雪が降り始めた中、金髪の女性が屋台の中で一人ラーメンを作っていた。

店の提灯には、こう書いてある。


“九尾狐”と。












小池メンマのラーメン日誌

 エピローグ ~ そして…… ~








流れるような金色の長い髪は三角頭巾の中にまとめられている。
片目には眼帯を付け、服は簡易の着物の上に白一色の割烹着。わずかに見せる雪のような白い肌は、美しいの一言に尽きる。

その女店主の名前を、九那実という。

「ここは「種類を増やすべきか………いや、我の腕ではまだ無理じゃな」

九那実が作るラーメンは、例の日誌に書かれていたもの。九那実はキリハから譲り受けたそれを見ながら、自分の腕でも再現可能なラーメンだけを作っていた。

半端なものを出しては、あいつに怒られると、そう考えているが故である。

屋台は、かつてメンマが使っていたラーメン屋台"九頭竜"を使っていた。

そう、彼女はレシピを手に、屋台を使い、かつて一部では伝説とも言われていた屋台を復活させていたのだ。
店の名前は、"九尾狐"。

そのままなネーミングに、サスケ一同からはびしりとツッコミが入ったが、九那実の意図を察するとすぐに口を閉ざした。

「出す時間帯を限るべきか……っと」

近づいてくる足音に九那実は反応する。

「いらっしゃ………っと、なんだお前か」

「いや、客に向かってなんだはないかと………まあいいや」

珍しい時間に来た脚――――うちはサスケは、屋台の椅子に座るといつものを一つと注文をする。

「うむ。しかし、変な時間じゃの………サボりか?」

「午前の仕事が長引いたんだって。多由也はもうちょっと後で来るってよ」

「それは夕食と言わんか?」

「兼用じゃないかな。夜は夜で演奏会あるから忙しいし………あと、例のメニューは?」

「食べさせるべき第一の客は決まっているからの」

「………そう、か。いやでも忙しい過ぎるぜ~」

働かせすぎだザンゲツの奴、とサスケは話を変えながら愚痴った。

その声は疲れの色が濃く、九那実はそれを聞きながらも呆れ声で返す。

「どこも猫の手も借りたい程と聞く。それに、我にしては羨ましい話じゃが」

「………ああ、屋台を開店したての頃の? そりゃ、宣伝も無しにこんな隅っこの方に建ててたら、客もこないよ」

すぐにクチコミで広まったけど、とサスケは言う。

「味はまだあいつに及ばんがの………どうして流行ったのか」

不思議そうに首をかしげる九那実。
それを見たサスケが「鏡見ろ」とツッコミをいれた。

「鏡? ………これが何か」

眼帯を指し、九那実は悩む。
満月に近づけば近づくと、何故か金色に輝いてしまう眼を隠すために付けた眼帯。

が、それが逆に一部の層に受けていた。

絶世の美女とも言える容姿もあいまって、一部の人気は非常に高いのだ。

さもあらん。男とはそういう生き物なのである。

「いや、忘れてくれ。でも味の方もいけるけどな。あの女将さんとこで修行したんだろ?」

あの人の料理真剣に旨いし、とサスケは頷いた。

「………一部、全体的にどう作っているか分からん料理があるがのう。メンマのラーメンと一緒じゃ」

同じ材料でどうしてあそこまで違う、と九那実はため息をついた。

「経験、ってやつか? 多由也も言ってたけど」

「そうらしいの………ほれ、出来たぞ」

そう言うと、九那実はサスケに注文されたいつものラーメンを出す。
魚貝と醤油のダシが使われた、スタンダードな味のラーメンだ。

外気温が低いせいか、湯気がほかほかと漂っている。それがまた食欲をそそっている。

「いただきます、と」

まずはスープ。赤いレンゲで透き通るスープをすくい、そのまま口へと運ぶ。

冷えていた下が温まり、ほう、と一言。
次にはぱちりと割り箸を割り、サスケはずるずると麺をすすり始める。


「そういえば………キリハの奴はどうしている?」

先月会ったのじゃろ、と九那実がたずねる。

「復旧作業はほとんど終わったらしいから、今は組織の再編の真っ最中だろうな。色々と大変だよ、火影様は」

「そうじゃの…………」


呟き、九那実は前に聞かされたキリハと木の葉隠れのその後の話を思い出した。




~~~~~~~


十尾との戦いの影響で半壊した里の、中央。

瓦礫の上にキリハは立っていた。周囲には、木の葉の忍び達が無言のまま立っていた。

それぞれに、複雑な心境を抱えている。
戦った姿は、皆が見ていた。そしてうずまきナルトが語った言葉は、全ての忍者の心に焼き付いている。

他の里では、こう言われている。
命を賭して忍界を守り散った稀代の傑物。


――――忍界最大の英雄、と。


しかし、木の葉内部での想いは複雑に過ぎた。
木の葉の忍び達は、十尾の中で見せられていたからだ。見せつけられたといってもいい。

かつての、四代目火影とうずまきクシナの、九尾との戦いの光景の全てを。
九尾の襲撃の真相と、クシナとミナトがナルトとキリハに想いを託して逝った光景も全て。

「波風上忍………」

木の葉の忍びがつぶやくが、続く言葉は無い。相応しい言葉など存在しないのだから当たり前だろう。

かつて彼女の兄を化物と蔑んだ手前、果たして何を言うことができるというのか。

特にミナトと同期だった面々は、他の忍びより一層落ち込んでいた。


「兄さんは………信じたいと言った。それは私も同じ」

だから、責めることはしない。

キリハはそう言い、皆を見回した。

「過去は変えられない。だから、今から変わろうよ。いや、変わらなければいけないんだ。そして、叶えよう。それだけが………私たちに出来ることだと思う」




~~~~~~~~~~


「………その後の『ついてきてくれるかな』という言葉に、木の葉のほぼ全ての忍びが、首を縦に振ったらしいな」

大したやつじゃ。九那実は笑いながら言った。

「ああ。で、先代火影………綱手は責任をとって引退。木の葉は変わり始めてるだろうな…………ま、すぐには無理だろうけど」

でも、国境付近のくだらないいざこざは劇的に減ったとサスケは言う。

「でも、それだけじゃないのだろう?」

「ああ、綱手は医療忍術学校を開校しようとしているらしいな。国の上層部と掛けあった結果、予算も降りるようになったからって」

「そうか………そういえば自来也との結婚という話が出ていたそうだが」

「あとちょっとだと思う。情勢も、落ち着き始めているからな。再来月くらいじゃないか」

「それぐらいか」

「ああ。他の里も同じ様子だ。あの光景を見せられた今、次世代の志が生まれはじめた。だから今は、過渡期の………最も忙しい時期の、その真っ最中だからな」

「と、いうことは…………あの二人も同じ時期になるか」

「再不斬と白か。まあ、里の中の婚儀はあるのかないのか知らないけど…………内輪だけでやる、って話もあるからな」

「そういえば………その式に、雪の国の小雪姫―――いや、富士風雪絵も呼ぶと聞いたが?」

「………約束したから、な」

「そうじゃのう………・お主、他人の結婚式で独自の修羅場を繰り広げるなよ?」

「それはねえよ。というか、"先代水影と白との間で形成される修羅場が怖いんですけどどうしたらいいですか"って、長十郎から相談のお便りが網の相談窓口に」

「シンが作ったあれか………何と返した?」

本人は闇討ちにあって入院しているらしいが、と九那実は言う。

「"男ならやってやれ"って返したらしい。その後、霧隠れの中で謎の爆発があったらしくて…………今度は海月から"余計な事を吹きこむな"と苦情のお便りが」

「いや水月じゃろう。たしかにクラゲっぽいが………というか、何故に爆発が?」

「詳細は不明だとよ。でも、長十郎はいい方向にレベルアップしたらしいって、ちょっと前に来たウタカタが言ってた」

「ああ、あの真性ロリか」

「容赦無いな!? って、その言葉だれから………」

「シンじゃ。ちなみに一昨日来店してな。それを告げるとキセル片手にシャボン玉に乗って飛んでいったが………」

「シンが入院した理由と犯人が分かったよ畜生!」

でも同情できねえ、とサスケは頭を抱えた。

「………ごちそうさま。でも、俺が忙しいのはあんたのせいか………」

「他にも理由があるだろう?」

例えば本部近辺に居を構えている花火職人、と九那実は言外に何かを含ませる。

「………知ってたのか」

「人づてにな。語尾に"うん"をつける、将来有望な――――幼い花火職人が居ると聞いた」

「思い出させないでくれ………あれに関してはほんと、俺もわけわからんことだし」

「ちなみに卓越した人形劇を繰り広げる幼児もその傍に居たそうな」

「俺は何も聞いてない! 聞いてないったら聞いてない!」

「それと、鉄の国の城跡に巨大なクレーターが発見されてと聞いたが?」

「ああ、あれはなあ………」

サスケは苦笑し、頭を抱える。

「あと、ひじきの化物が大陸外へ向かう航路途中で発見されたそうだが」

「知らないな。隣に鎌を持った変人が居たなんて、俺は聞いてないぜ?」

「人柱力の受け入れ態勢も、まだ整っていないそうじゃが」

「現時点ではなあ。コントロール出来るなら保留だし、あと数年後の………次世代の人柱力になってからだからな」

俺が管理するの、とサスケは呟く。

「封印はしないとか」

「万が一を考えて、らしい。どうせ負の思念のほとんどが、あの時十尾に喰われて持ってかれたらしいし」

「……しかし、本当に奇跡じゃったんだな」

「その後に託された俺達に、やる事は多いけどな………しかしもし最後に十尾に負けていたら、今どうなっていたんだか」

「言葉通りに実行したじゃろうな………それがもう一つの結末だろう」

「そうか………なら信じられた俺らも負けてられない。どのみち諦めないけど」

でも胃痛がひどくなるのは避けられん、とサスケは水を飲んだ。
片手には胃薬が入った袋がある。

「それは………鹿丸印の胃薬か。そういえば先月木の葉に視察に行ったと聞いたが?」

「貰ったんだ。効果が抜群で、それから愛用してるよ………あいつ、胃痛のスペシャリストだし」

妥協がねえとサスケは感心する。

「心底嫌なスペシャリストじゃなあ」

分からんでもないが、と九那実はキリハを思い出し、苦笑する。

「ちなみに木の葉隠れのテンテンと、雲隠れのシーも愛用してるらしい。砂隠れのバキもな」

「………大丈夫なのか忍界」

「いや、でも交流は前よりずっと、な…………いつもの通りの光景さ。きな臭い空気も大分薄まった。前に比べればずっと穏やかな、日常と言ってもいいぐらいのものさ。それも―――」


――――あいつのお陰なんだが。


そう言うと、サスケはお金を手渡す。


「居なくなってもう二年か………月日が経つのは早いもんだな」

「まあ、の」

「ラーメン屋を継いだのは、やっぱり………」

「それもある。だが、あ奴の夢を引き継ぐのも悪くないと思ってな………所詮は戻ってくるまでの代役だが、楽しくてやりがいがあるのも確かだ」

「筋金入りだな………一周忌も二周忌も、来なかったって聞いたけど」

真剣な顔で、サスケは聞く。

「お主も、同じじゃろうに………それに、信じられるか」

もう居ないなどと。そう言って、九那実は悲しげに笑った。

「唐突で、勝手に…………自分を犠牲にして。あれが最後などと、信じられるか」

「それは………好きだったから?」


「ああ」



即答する。


「多由也から聞いた話では…………"分からない"と答えたそうだが?」

「あの直後か………我とあ奴は、互いの境遇が特殊過ぎたからな。あれは本当に我の想いだったのか………あやつの魂に影響されてのことなのか」

本当に純粋なものだったのかと。

悩んだと、九那実は言って――――笑う。

「でも、離れてみてな。考えるまでもなかった。ああ、痛いほどに分かったよ」

「具体的には、どの部分に惚れた?」

「どこにも、じゃ。あ奴は勝手で、人の話はあんまり聞かないし、こうと決めたら一直線で馬鹿みたいに突っ走るし、人の気持ちも知らずに旗とやらを立てまくるし………」

唐突に愚痴が始まった。
サスケは戸惑いながら、じっと耳を傾ける。

「ラーメン馬鹿だし。鈍いし。阿呆じゃし。馬鹿じゃし。変なところで嘘つくし」

すでに単なる悪口になっている。
サスケは汗をかきながら、そういえばと多由也に聞いた話を思い出す。


『メンマとの初対面って? あれは、中忍選抜試験の二次予選だったな。その死の森で――――マダオ師と一緒に競歩してた。
 二回目は………高い所から飛び降りた後、バナナで足滑らせて骨折してた』


―――うん、阿呆だ。サスケは疑問の余地なく、頷きを返す。


「ボケ専門じゃし。人にツッコミさせるし。行動が唐突過ぎるし…………どこが良いのか分からんが、それでもな…………辛い」


思い出すたびに。そして会えないことに泣きたくなると、九那実は言う。


「だから、もう居なくなったなどということは信じられない………信じたくないのじゃ」

「それは、好きだから?」


「ああ。我はあやつを愛している」


断言した。それこそが、この世界で唯一の真理だというように。

サスケは更にたずねた。


「それは、どうして?」

「名前を呼んだ――――名前を呼ばれた。なんでもない女のように、男のように」


ついてまわる事象、自分が九尾など忘れたというように。


ただ少女として名前を呼ばれ、なんでもないように過ごした。


容姿も、損得も。

運命も、因業も。

遺恨も、悔恨も。

宿命も、因縁も。


あるはずなのに、何もなかった。



「おじゃま虫はついていたがな」


美しく、笑った。思い出せるのは輝かしい日々の数々。


富める時も、貧しき時も。


健やかなる時も、病める時も。


命を共としたまま。慰め、助け、馬鹿をやって。


ただ共に生きて、共に笑いあった。


余計なものなど、何もなかった。



――――失った後に、泣いた。


あれこそが真実、ただの九那実として自分が追い求めいたことだったと思い知らされたから。



「そうか」


「そうだ」


「ああ、そうなのか―――――」





サスケは笑い、椅子から立ち上がり。







―――――いつの間にか、そこに立っていた人物の肩を叩いた。








「だってよ。良かったな、親友」






「………うっせーよ、戦友」





世に知られた忍び、うちはサスケが気易く言葉を交わす。

その人物が誰なのか、九那実はすぐに分かった。


赤い髪に、ヒゲのような模様も無くなっている。

顔立ちも変わっている。共通点など、何処にもない。



だが、理屈を越えて理解した。





「おかえり、と言った方がいいかの――――小池メンマよ」


「うん、ただいま…………といった方がいいのかな。取り敢えず、キューちゃん」



注文を一つ、と。



言われた九那実は、硬直したが、すぐに動き出した。









~~~~~~~~~~



「………」

「………」

無言のまま、二人。

作る九那実と、待つメンマ。

二人は一秒が一分に感じられる空間の中、じっとその場に居た。

ちなみにサスケは仕事に戻っている。


「色々と言いたいことがあるが………一番聞きたいことは一つだ」

どうやって生き返った。そして何故、すぐに会いにこなかった。
九那実は視線を逸らしたまま、メンマにたずねる。


「時間がかかったんだよ………この肉体を構成する時間が」


「………何?」


「いちから、最初から肉体を作っていたから」



眼を閉じ、メンマはその時の事を説明する。











~~~~~~~~~~~~~~~~~





崩壊していくメンマ。

それに近づき、六道仙人が言う。


「忍者の選定は終わった。あの様子ならば、きっと良き方向に変わるだろう」

「俺の役割も、終わりって事か。見届けられないのが残念だけど…………疲れたよ」

「ご苦労だった………今や忍者と忍界は痛みを知った。私の役割も終了だ」

「………一つ聞かせて欲しい。俺はこの世界に呼ばれ………融合し。死にたくないと戦った。それは全て、お前の意志だったのか?」

紫苑の言葉を聞いて引っかかっていたんだ、とメンマがたずねる。

「違う」

六道仙人は、首を横に振って断言する。

「あの時お前は、同じ境遇の誰かを救いたいと思った。叶えたい夢があり、それと同じくらいの譲れない想いを知った………そこから始まったのだ。誰かのために死を覚悟し、殺して命を背負い…………そして」

ふ、と微笑む。

「――――世界を前に、自らの意志を貫いた。その強い意志無くば、もっと違った結末を迎えていただろう」


「そうか………それを聞いて安心したよ」

「ああ………お前は、自らの意志の元に選んだ選択肢の上に立っている。それは、運命とは呼ばない」

「………ありがとう。じゃあ――――さようなら、六道仙人」


さようなら、九那実。


そう呟いた、直後にメンマの魂は崩れ、見えない流れの中に流れようとした。



だが、その時



「いい忘れていたが―――――な。あの夫婦からの、忍者たちの。そして私からの最後の贈り物があるらしい」


何でも結納の品らしいと伝え、六道仙人は手を上げた。



「成功するかどうかは知らないが…………皆が望んでいる。きっと、成功するだろう」


開放される魂達。その中に共通する願いがあるから可能だと言い、光を集める。



「英雄の勝利に報奨を、か―――――私からも礼を言おう」



忍者を肯定してくれて、ありがとう。


そう言い、六道仙人は月の中へと帰っていった。






~~~~~~~~~~~~~~~

「結納の品?」

「うん、俺の肉体らしいね……最後までやってくれました」

「説明が無かったのは?」

「あの二人も、仙人自身確信が得られなかったから。妙な希望は毒になると」

「じゃあ、ずっと?」

「ああ。崩壊した三狼山の地下深くに残っていた、十尾の欠片の中でな………俺の意識はまあ、月の中にあったんだけど」

宇宙すげーとメンマは言う。

「身体は地面の下にか…………まるで蝉のようじゃな。しかし、十尾は?」

「俺の肉体を構築し終わった後に自爆した。残滓に過ぎなかったし、爆発が爆発だったからな。塵となって消えたよ」

「………クレーターか。ということはあ奴、知っておったな!?」

「万華鏡に開眼した時の………黙っていたことに対する意趣返し、らしい。それに関しては俺も何も言えないんだけど」

「………そうか。あの二人は最後に、どんな顔をしていた?」

「心から笑って、逝った」

「………そうか」

我は事前には済ませていたんだがの、と九那実は呟く。


「見送れて良かったな…………さあ、出来たぞ」


そっけなく、九那実がどんぶりをおく。


「我が完成させた………"きつねラーメン"じゃ」

「これが………」

すっと、レンゲを片手に。

割り箸を備え、メンマはラーメンを手に取る。







そして、数分のウチに全てを平らげた。






「……どうじゃ?」

「………スープと麺と油揚げのバランスが絶妙過ぎる。一緒に食べると得も言われぬ旨みが………」

思い出し、くそ、とメンマが呟く。

「油揚げの味も損なわれていないし………こりゃ完敗かな」


――――ごちそうさま。

そう言って、メンマは困った顔をする。


「そういえばお金持ってないんだった…………」

「ふむ。だがこのラーメンの代金は高いぞ? ――――お主のために考えて、作ったのだからな」


そう言いながら、九那実は屋台の外に出る。


空には雪が降っていた。



「そりゃ怖いな………お題はいくら?」

出てきた九那実の瞳をじっと見ながら、メンマがたずねる。

こともなげに、答えが返ってきた。


「お主自身だ…………払えるか?」


世界を幸せにしそうな笑顔で、言う。


「うん、喜んで」


同じく笑い、メンマは頷いた。


「成立だ――――もう何処にもいくなよ。というか、約束を果たせ。旅に行くからついてこんか」

追手もいないしの、と九那実が笑う。

「了解です………一緒に行こう。というか、立場が逆になったような」

死んだことになってるからね、とメンマが頬をかく。

「我とお前は他人で………こうして目の前に立っている。そういうこともある」

「そうだね」

「ああ―――しかし、旅立つに相応しい、いい天気じゃな」


―――二人の掌が重なる。

激しい鼓動も、重なる。すっと九那実が背を伸ばし、顔が近づく。



「雪が降ってるけど?」


「お主が居るからの」



そう言うと、九那実はそっとメンマの頬に口付ける。



「………ほっぺただけ?」

「当たり前じゃ――――男なんじゃから」


お主からせんか、と九那実は笑う。

適わないな、とメンマも笑う。



そして、二人は見つめ合った。

背後には何もない。ただ久しぶりに再会した男女のように。

当たり前のように手を重ねて、続きを始めた。



決戦の前夜に誓った、途中で止まっていた式を。



「十尾の中で一回やったけど?」


「………不意打ちしおって。あれはノーカンじゃ、ノーカン………さて、どうする?」


「ノーカン………なら決まってるよ、九那実」







屋台の前で、二人はゆっくりと笑った。








「一緒に行こうか」




「うん、夢を追う旅にね………だから」







――――誓ってくれますか。



メンマがそう問い。



――――誓おう。



九那実が答えた。



















――――唇が重なる。











――――二人を、サスケと仲間たちが見守っていた。









その全てを包むように、花弁のような白雪に包み込まれていく。








































その後しばらくして、各地で美味しい屋台を開く夫婦の姿が見られた。



珍しい赤い髪の店主と、それを手伝う、途方もなく美しい嫁。



そして彼等は見たことのない絶妙なラーメンを出し、時には稀代の楽師を呼んで、客を心底笑わせ、楽しませたそうな。




そして、その二人の周りではずっと、笑顔が絶えなかったという。












































小池メンマのラーメン日誌












  ~了~






























[9402] あとがきの1
Name: 岳◆3d336029 ID:0347f440
Date: 2011/01/31 23:03

あとがきの1。




終わりました…………最初の投稿は2009年6月07日。
そこかれ実に1年と半年あまり。

思いつきで投稿、そして妹と飲みに行った後にまた投稿。
思えば最初の方は一日二話投稿とかしてましたね。多分にノリの要素が強かったので、あの時は何とかなりましたが。

プロットなしで材料を散りばめながら突き進んで、随所に要所となるキーワードと後に活かすものを仕込んで………“いきあたりばったりじゃん”と言われた後に悔しくて更に練って。


―――いや、でも、長かったです。

読者様方の感想が無ければ、きっと途中で未完で終わっていたと思います。



















さて、ここからは裏話。

聞かずともよく見ずともよいあくまで楽屋裏の戯言ですが、見たければどうぞご自由に。






















書き始めはぶっちゃけていえばノープラン。思いついたから書こうぜ。それがこのSSの始まりでした。
考えるままに書き、思うがままに書いて、読者様方の意見を取り入れて、その度に混ぜては混ぜ。

最初期にも書いていましたが、見られた方は多くいられるでしょうけど………ほんと前半は、ノリと読者様の感想と作者の趣味だけで書いていまして。

まじでごった煮になってたんですよ。

特に顕著なのが、感想の要望を受け入れて、急遽仲間に加えた多由也嬢。
作者も好きでしたが、書き始めも中忍選抜試験時も、メンマ側の仲間に加えるというのは考えもしなかった。

あるいは、彼女が居なければ、もっと違う方向に進んでいたかもしれませんが。

でも、彼女が居たから、このSSの一つのテーマを貫けたかもしれないという奇跡。


お気づきの方が居るかもしれませんが、このSSのテーマの主たるものとして、『共感』と言う言葉があります。
でも表立っては出していません。意識して書いた単語、という程度の扱いですね。

“感”は感情―――喜怒哀楽であり、感覚――――主に味覚と聴覚と視覚でもあります。

味覚と嗅覚(料理的な意味で)はメンマ、視覚はサスケ、聴覚は多由也。触覚はそれぞれ、誰かの肌に触れた時。ちなみにその相手はもちろんのことに異性です。

多由也が入ることによって、色々な部分が描きやすくなったんですよね。
肌が触れるという表現は、意中の相手とのやり取りに使うのに一番相応しくて。でもサスケがハブじゃん。
いやでもサクラじゃ不足だろうと思って――――そこで多由也。ぶっちゃけて言えば、ナルトと多由也の恋愛は想像もつかなかった。

そこで、同じ境遇ということで二人をかけ合わせてみました。
すると一話で良い感じに。不思議。眉なし氏ね。

あと一つ、感情の方はキューちゃんこと九那実ですね。あとは、隠した感情もありますが。
代表格はマダオ、次点にペイン。彼等の複雑な感情は、言葉には出来ませんよダンナ

というか、それも運良く重なった部分もあります。
多由也の例のように、キャラに関してはほんとノープロットすぎるにもほどがあるだろうという感じですし。

というかキューちゃんはほんと、唐突に現れました。一話を書く前は考えもしなかった存在です。

一話を投稿した時に『そういや昼のキュウリのキューちゃん美味しかったなあ』と想い、浮かんで、何も考えずに出したのがキューちゃんで。
マダオのキャラもそうです。一話~木の葉崩しだけはノンプロットの完全ノリだけでしたからね。

でも一度書けばまあ、動いてくれる動いてくれる。
マダオとキューちゃん、この二人が居なければここまで続けることはできなかったでしょう。

キリハもそう。元々は別のSSの構想であった、“天鳴霧羽”というキャラのアレンジですが、二話までは出すことを考えてもみませんでした。
でも必要だから出して、生い立ちを考えて、三話書くくらいまでには出来上がって。ナルトの穴埋めも必要でしたので、いい具合になりました。

ちなみに兄妹カプの要望が多かったのですが…………絶対に無理です。自分リアル妹居ますので、それは無理。書けない。
というかこのSSを書いているのが俺だって知っているの、唯一妹だけですから。話したの妹子だけですから。書けるものかよ(涙

ちなみにキリハと妹、性格は似てもにつかない。メンマもそう。全くの別キャラで書いています。
でも無理。リアル妹が居る人には分かってもらえると思ふ。


閑話休題。


テーマの共感ですが、読者様方の視点と思考も意識しました。ネタやパロがそうですね。同じものを見て、他人がどう思うか。
同じ想いを持ってくれるのか。だからネタを取り入れたのもあります。知っているからこそ面白い。

同じものを読んだからこそ、にやつける。そういうのもあります。後半は特にマイナーネタが多いですけど。

ネタパロも、分かるように、でもあからさまには配置していません。
関連するキーワードが複数あって、そこで初めて使っています。分かる人には分かるように、あるいは分かっているのは自分だけかも、というのが一番“にやつける”要素だと思いますので。

最終話あたりですと、感想にもありましたように“ブレスオブファイア5”とかありますね。


憑依と融合と青空、これらのキーワードがあるから、アレンジし、最後にまとまるように書きました。
あとは“八雲立つ”とか。草薙と負の思念、そして八雲立つ一巻末の青空とか。宿主が死ねば中の化物も死ぬというのは、恐らく人柱力と同じかと思われます。
フウで言えば、緑の髪にボロボロハウスとか。アカネハウス。これ家じゃなーい。服、皺になるよ。パワポケは至高。


閑話またまた休題。


原作ですが……随所に、意識して原作のパーツを使っています。

サスケが角都を貫いた時とか、その最たる例ですね。
登場する予兆は“忍歌忍機”という、かつての合言葉。千鳥で背後から貫くという結果は、原作でのカカシの立ち位置。

あとはサスケとイタチ。

「これで最後だ………許せ、サスケ」からの逆流です。使った場面とパーツは似たり寄ったり。
沿いながら随所で変えています。

そう、原作者様が生み出したオリジナルな魅力的なパーツをいかに配置して、良く見せるか。
そして二次創作としての醍醐味である、ifの世界にどこまで引き込めるか。

それがSSの本領だと思います。そして原作を越えることはできない。なぜなら副産物なのですから。
使わせてもらっているのに、越えたとか間違っても言えない。そして愛が無ければ成り立たない。

それが作者にとっての二次創作で、SSです。

でも、少年誌ではできないだろうキャラごとの掘り下げもやってみました。
再不斬の過去と今までの行動と、その理由。
カカシの過去と今までの行動と、その理由。

原作の情報をまとめた上で、それなりの解釈を加えました。
戦争とかもね。


必要以上に重くせずに、それなりに描けたとは思っています。


最後の六道仙人の言葉とか。


月は見ているぞ――――これ、真なる“月の眼計画”なり。


なんちて。



あと、忍術。これはネタ一色と、原作にあるならあるだろうというのが数点。
ネタではないのもありますが。

余談ですが、太極螺旋丸についてはほんと焦りました。
最後の術は螺旋丸でと決めて、螺旋丸、つまり球体の絵面で、その究極は―――材料は忍術、五行、八卦。陰陽五行。うん太極図か、と決めて。
『易に太極あり、これ両儀を生じ、両儀は四象を生じ、四象は八卦を生ず』の言葉通り、八門開放から太極まで、という絵図を描いた後に、夏のあれでしたから。
何故か背中に冷や汗が。
まあ、いい具合にまとめられたので逆に良かったのですが。
五行の印を順繰りに、やがて太極にという劇場版が出る前に構想はあったのですが、勾玉の形になるという発想はなかった。
でも合わせれば太極図になりますですねっ!! ―――採用、とか。

ちなみに疾風伝のオープニングの一つ、ブルーバードの場面を使うというのは、二章終わりの時点で決めていたんですよ。
その後いざ書くか、と思った時に原作でガイが青い汗書いて………「じゃあ使おうぜ!」と決めたのはいい思い出です。

なんというタイミング。

逆をいえば、原作で最後の最後というか、“底”の部分が出ていないキャラは早々に退場願いました。ぶっちゃければうちはマダラとか。どう書けばいいのか分からなかったので、じゃあ居なくなればいいじゃん、と。
長門ことペインの存在感を前面に押し出すのも必要でしたしね。ペインの強さとその本質の異様さを描くために、マダラさんには退場してもらいました。

紅やアスマ、バキなどのいわゆる“ちょっと大人な三十代キャラ”もそうですね。物語の流れを留めそうなキャラは、極力書かないようにしました。テンポが崩れそうだったし、何よりそんなもん書けば二百話越えるだろうと。
その点で言えば、作者はまだ未熟なのでしょうね。つかナルト世界キャラ多すぎ。特に五影会談から戦闘シーンはほんと考えましたよ。一場面にのべ十人強ですからね。


そこら辺が漫画に出来てSSに出来ないことでしょうか。
一目見て分かる絵と、文を読んで理解する小説の違いですね。その分、小説は描写を具体的に生々しく、共感を得られるように出来ますが。


そして戦闘や展開ですが、いくつか決めていた方針があります。

まず戦闘シーンですが、必要以上に真剣にならず、そしてギャグでキャラの必死さを壊さず。これは一話から意識していたことです。
もうひとつは、原作で死んでいない登場キャラを殺さないこと。殺して泣かす、というのは極力控えました。それをやると、ギャグが萎えるんですよね。

どうしようもなかった三代目などはもうどうしようも無かったからああなりましたが。
でも理由もあったので別の扱いですし、老人は宝ですから!

ちなみに書いていませんが、初代から三代目までの火影の魂も輪廻の輪に戻っています。
大蛇○の腕も。そこはご愛嬌。

最強であったペインの発する言葉も意識しました。“死ね”、ではなく、“居なくなれ”という言葉を使うようにしてました。
あいつを殺した、とか、あいつは死んだ、とかはなるべく使っていません。



これらの要素を詰めて煮て、読者と作者と原作の意識が混ざり合って出来たのが小池メンマのラーメン日誌だと思っています。

作者一人だけでは、絶対に書ききれなかったと思います。



でもいい具合にまとめられたようなきがしないでもない。共感があってからこそ。



様々な材料から出汁が出て、混ざり合ってこそですね。

うん、ラーメンだけに。







さて。

あとがきの1は取り敢えずここで終わり。

各キャラのテーマソングとか、各話の裏話なども色々ありますが、それはまた後日。

“その後”の外伝を投稿するあいだあいだに追記していきます。

ちなみに外伝はギャグが8割、砂糖が2割。
展開の都合上、全開のギャグが書けなかった作者のテンションは有頂天になっています。

書くぜ、ギャグを! 人は笑わせてなんぼ!
だって関西人だもの!





それではまた、次の外伝で。







そして、ありがとうございます――――――最後まで読んでいただいて。






まいどあり。











[9402] 後日談の1 ~シカマル忍法帳~
Name: 岳◆3d336029 ID:0347f440
Date: 2011/02/06 16:35

作者注 : コーヒー(ブラック)を片手にお読みください。




後日談の1

 ~シカマル忍法帳~







ここは木の葉隠れの居酒屋。ようやっと復旧した店のカウンター席で胃薬を受け渡す二人が居た。

「よう、久しぶり」

「ああ。これが、例の?」

「ああ胃薬だ。効果はてきめんだぜ?」

袋に入った胃薬。
渡す方の男の名を、奈良シカマル。受ける方の男の名を、うちはサスケと言う。

時刻は昼だが、今日から長期休暇に入る二人は昼間から酒を飲んでいた。
男にはたとえ昼からでも、飲みたい時があるのだ。

「でも………お前がこれを使うような奴になるなんてな」

昔のお前なら、使わせる方の立場になっていただろうに。
シカマルの歯に衣を着せないものいいに、サスケはそうかもな、と呟き酒をあおった。

「………ムキにならねえか。ほんと、お前里の外に出てから変わったよ」
「木の葉の連中にはよく言われるな………でも、兄貴と和解出来てなかったら、どうなってたかな」

もしかしてを考える意味もないが。考えたくもないと、サスケは手をひらひらさせる。

「でもそっちはどうよ。キリハ、火影になったんだろ?」
「まあな…………お陰でコイツの消費量が倍に膨れ上がったぜ」

と、今度はシカマルが酒をあおる。

「相変わらず無茶をしてるみたいだな………そういや、お前は予想通りだったな」
「胃薬か? ――――っつーか、胃薬を初めて使ったのはお前が出てってからなんだけどな」

正確に言えばお前のせいじゃねーけど、グラスを持った手をゆらゆらさせる。

「いや、どっちにせよお前は胃薬マイスターになっていただろう。いのもチョウジもそう言っていたぞ」
「あいつら…………」
「それも仕方ないだろ」

あいつの傍に居ると決めたのなら。
サスケはそういって、にやにやと笑う。シカマルはそれを見て、まさかと呟いた。

「チョウジか?」
「いの、の方さ。とある情報と引換にな」

いや兵糧丸が無かったら即死だった、とサスケは苦味が多分に含まれている丸薬の事を口に出しながら、料理を口に運んだ。
シカマルは顔を掌で隠し、誤魔化すように酒を口に含む。その顔は、赤い。


「まず、馴れ初めは………」

「ってここで言うなよテメエ!?」

叫びつつ、シカマルは思い出していた。

波風キリハと、初めて出会った日の事を。



―――――◆――――――



黒い雲の下。雨が地面を打つ音が、耳に入ってくる。
それなりに激しい雨。でも、傘をさせば濡れない程度のものだ。

オレはそんな中、一人里の中を歩いていた。将棋の相手をしてくれると約束したオヤジが、大慌てで外に出て行ったからだ。
外で遊ぶこともできないから、散歩することを選んだ。おふくろも親父と連絡を取りあっているようで、忙しいらしい。

話の内容から、どうも誰かを探しているようだ。
いったい、誰だろうか。オヤジとかーちゃんの慌てようを見るに、二人と親しい人であるというのは分かった。
あるいは、オレの知っている奴かもしれない。とはいっても、オレが会ったことのある人間なんて、いのか、チョウジか、二人のオヤジさん達か。
ちょっと親しいというと、いつも行くラーメン屋のテウチさんか。

そんな事を考えている時だった。

「ん……?」

誰も居ない公園の中。雨に打たれているブランコの、その座る所に誰かが座っていた。
髪の色はいのと同じ金色。身体は小さく、オレと同い年くらいか。うつむいているせいで顔は見えないが、細い身体をしているので女だろう。

(誰だ………?)

こんな所に居れば風をひく。地面で跳ね返って足を濡らす雨の冷たさはホンモノだ。
傘をさしているオレでさえこうなのだから、それを全身に受けていれば、体調を崩してしまうだろう。

(………めんどくせーけど)

心の中で呟きながら、オレはブランコに座っている女に近づいていく。
女の子に優しくしなさいとは、かーちゃんの言葉だ。だからめんどくさいけど、行くしかない。
こいつがいのみたいに、元気に溢れて溢れすぎて爆発するような強いやつとは限らないから。

それに、明らかに元気のない様子だ。一歩、踏み出す。
ぬかるんだ地面が、ぬちゃりと音を立てる。しかし女は気がついた様子もなく、うなだれたまま。

クナイを取り出した。そして止める間もなく。

(っ!?)

もう片方の手で、クナイの刃の部分を握りしめた。
そして掌が裂けたのだろう。赤い血が出て、雨に流されて地面へと落ちていく。

「やめろ!」

オレは咄嗟に叫んでいた。すると、女はびくりと肩を震わせ、顔を上げた。

まるでお化けのような表情。唇は青く、顔色も青い。
よく見れば、身体も震えている。しかし、それなのに。


(――――)


オレは、声を奪われていた。

そいつの――――綺麗な青球二つ。それを見た瞬間、動けなくなっていた。


「誰………?」

シカクさん、と女の子が呟く。

「オレ、は…………」

でも、情けない事に声が出ない。その双眸に見据えられ、何も言えなくなっていた。

「………私、波風キリハ…………あなたは誰?」

私を見てくれるの。

懇願するかのような言葉。その顔は、今でも忘れられず、ずっと忘れられなかった顔。


――――思えば、あれが始まりだったのだ。





―――――◆――――――



「それで?」

「オヤジ達に連絡して、事情を聞いて。そんで、いのとチョウジを紹介してな………」

炸薬のように元気ないのを見れば、変わると思った。
シカマルはそう言いながら、店主に目配せをする。

――――いのには内緒でお願いします、と。
みなまで言うなと、店主は視線を返す。

「で、実際にその通りになったわけだ。女の子は明るさを取り戻しました、と」

「いのには感謝してるよ。元気が出すぎたのか、やんちゃが過ぎたこともあったんだけどな………」

今も変わらないと、遠い目をするシカマル。

「そういえばお前……アカデミーの頃からすでに苦労人のオーラが滲み出てたな」

「言うなよ………」

「でも、その甲斐はあった訳だ。アカデミーで初対面だったオレには想像もつかねえけどな………同じ班になった後も、あいつは前ばっかり見てた」

呟き、サスケは思い出していた。

「心当たりが?」

「ああ。まだオレが七班だった頃に受けた任務――――波の国での、任務のことだ」




―――――◆――――――



ヒーローは居ないと言った子供。泣きそうな顔で叫んでいるガキ。

うるさい、と思った。口にも出すと、ガキ―――イナリは、部屋から出て行った。
その後で、母親のツナミと、祖父のタズナから事情を聞かされる。

国を守ろうとして、ガトーに処刑された父親替わりの人、イナリがかつて英雄と呼んでいた男の話を。

それを聞いて、サクラは沈痛な面持ちをしていた。
カカシは無表情だったが、何を考えていたのか。

そんな中、キリハだけがすぐに行動を起こした。

「キリハ?」
「すぐに戻るよ………放っておけないから」

珍しくも、暗い声。その眼には、常時にはない何かが宿っていた。


やがてキリハは出て行った。オレは、気になって後をつけた。
カカシは、止めなかった。


追っていった先。
桟橋の上に、二人は居た。

キリハが、イナリに向けて言っている。
爺さんから、カイザの話を聞いたと伝えているのだろう。

そこでオレは、声がわずかに聞こえる距離まで近づけた。
二人とも気づいておらず、会話を続けている。

「イナリくん」
「…………何だよ」

嫌そうに答えるガキ。それに対してキリハは、諭す言葉を――――投げかけず。
問いかけるような口調で、言った。

「カイザさんは………此処を守ろうとして、戦ったんだよね」

「そうだよ! でも、力が足りなくて死んだんだ!」

ヒーローなんて居ない。そう、叫ぶ少年。
それに対して、更なる言葉をキリハは投げかける。

「そうだね………でも、カイザさんも知っていたんだと思うよ?」

「え………?」

「子供の君でも知ってるんだ。大人のカイザさんは、ガトーの恐ろしさを………君よりももっと、具体的に知っていたんだよ」

でも、カイザさんは戦う事を選んだと。
呟きながら、キリハはイナリを見つめる。

「知っていて、戦うことを選んだ――――君とツナミさんを。そしてこの国を守るために」
「僕達を………?」
「きっと、そうだよ。力が足りなくて、殺されてしまったけど………殺されてしまったけど。だから、カイザさんは君の英雄じゃないの?」

負けてしまったら英雄じゃないの、と。
問いかけるキリハの言葉に、イナリは首を振った。

「っ、違う! 父さんは………!」
「そうだよね………」

ぽん、と。キリハはイナリの頭に優しく手を置いた。

「すごいと思うよ。知っていながら戦ったカイザさんは。彼は本当に、英雄だと思う」

そこでキリハは屈み、視線をイナリに合わせる。

「私たちに任せて。カイザさんが皆に訴えかけたから、橋の建築が進んだ。そして彼の遺志を受け取ったタズナさんが………木の葉隠れに来た」

橋を架けるために。

「カイザさんの意志は"今"に続いてる………それが、私たちがここに呼んだ」

「お姉ちゃん達を………」

「そう。で、イナリくん」

やることがあるよね、とキリハが言い。

イナリは、泣きながら頷き――――ごめんなさい、と。

父に向けて、自分たちの英雄に向けて。
謝る言葉を何度も繰り返していた。











――――キリハは、そんなイナリをだきよせ、その頭をずっと撫でていた。


まるで、昔の自分を見るかのように。



―――――◆――――――


「ぐぬぬ………」
「いや、何でぐぬぬだ。子供に嫉妬してんのか」
「………過去にな。似たような光景をな。木の葉丸とな」
「落ち着けよ………」

呆れたようなサスケの顔。シカマルはそれにムカつき、反撃に出た。

「………もし。もし、お前の所の赤髪が同じことをしていたら?」

想像してみるがいい、とシカマルが言って。

「………ぐぬぬ」

間もなく、サスケの口がへの字になった。
そこに、乱入者が現れる。

「あんたら………何、馬鹿やってんの?」

呆れるような声。
発した人物は、黒い髪にダンゴの頭をゆったくノ一だ。

「あ、テンテン中忍」
「あ、白い悪魔」
「誰が悪魔よ。っていうか男二人で変な顔してないの。あんたら注目浴びすぎよ………」

テンテンは呆れた顔をしながら、店主に「いつもの」と頼んだ。

「………今日は、自分の足で帰ってくださいよ」
「大丈夫よ。愚痴も吐ききったし、それにこの前の"アレ"で心底懲りたわ。私も、火影様に睨まれるのは御免だもの」

手をひらひらさせるテンテン。その時の騒動と、キリハの顔を思い出して頭を抑えるシカマル。
言葉と様子から事情を察したサスケが、ぽつりと呟いた。

「朝帰りか………やるな」
「「違うわ!」」
「………おい」

立ち上がって叫んだ二人に酒場の視線が集まった。
すぐにはっと我にかえり、テンテンとシカマルはすごすごと椅子に座る。

「………ちっ。アンタ、本当にいい性格になったわね」
「あの中にいりゃあ、嫌でも鍛えられるさ………いや、冗談だよ」

愚痴と事件の詳細は大体だけど聞いたから、とサスケが言う。

「アンタも大変だな。ゲジマユと海苔眉毛のお守とは」
「思い出させないで、泣きたくなるから」

と、テンテンは出てきた酒をぐいっとあおった。

「青春、青春とか暴走して………遺跡の調査だってのに、もっと慎重になりなさいよ!」
「いや、オレらに言われても………っと、そういえばガイ先生とリーが昨日、ウチに診療に来てましたけど」

「ちょっと、頭冷やしてもらっただけよ?」

言いながら、テンテンはにこりと笑った。
言い知れぬ迫力を感じた二人は、黙って眼を逸らした。

ため息がこぼれる。

「大体、ネジもネジよ~。自分だけさっさと抜けちゃってさあ」
「上忍になったんだから仕方ないでしょうが」
「それは、そうだけど………先生もリーも、悪いやつじゃないんだけどね…………」

そしてまたぐい、と酒をあおるテンテン。
男二人は口に手をあてて、聞こえないように話し合う。

「上司を"奴"呼ばわりかよ………」
「言うなサスケ。察してやってくれ………っと、忘れてた。これ、約束の」

と、シカマルは胃薬をテンテンに渡した。

「ありがと………っと、思い出した。アンタ、キバの奴が何処に居るか知らない?」

「キバ達なら………国境付近の森で任務中っすよ。なんでも、例の妖魔っぽい大型の獣が現れたとかで。なんすか、用事でも?」

「いや、ハナビちゃんがね、再戦をって………いいわ、忘れて」

「ああ、前の模擬戦のリベンジっすか」

「忘れて。それよりも、また妖魔が現れたって本当?」

「ああ。そのことでオレが遣わされた、って訳でな。昨日に情報交換は終わって………」

裏での話もあるしな、とサスケは心の中だけで呟いた。

「伝書鳩で、本部への連絡も終わったしな………しかし、そっちにも現れてたか」
「ああ。まあ尾獣に比べれば全然小さくて、弱い奴だけどな。原因については調査中だからなんとも言えないが」
「まずは対処が優先よね。弱くても妖魔だし、油断すれば危ないって聞くし…………あ~あ、私にもあの耳飾りのような御守を贈ってくれる人が現れないかなあ」

ちらり、とテンテンがからかうようにシカマルを見る。

「ほう、"あの"耳飾りといえば………キリハの?」

そういえばそのあたりは聞いていなかった、とサスケがシカマルを見る。
シカマルはテンテンを半眼で睨みつける。しかし、その顔はわずかに赤い。

「………勘弁してくださいよ」
「いやよ」
「悪魔ですかアンタは!?」
「だから誰が悪魔よ! ………いいわ、そこまで言うなら悪魔らしいやり方で語ってあげる」

「くっ…………な!?」

止めようとするシカマルが、その場で硬直する。
その隣では、サスケが写輪眼を元に戻している最中であった。

視線の影になっているので、店の中の誰にも見えない。
金縛りが解けないことを確認すると、サスケはテンテンに向けてぐっと親指を立てた。


「オッケー。私も、日向ヒナタから聞いた話なんだけどね………」

と、テンテンが話はじめる。


盛り上がる二人。それをよそに、シカマルはその時のことを思い出していた。


―――――◆――――――


サスケが連れ去られてから、一年後。
男、シカマルはキリハの身を案じていた。傍目には明らかに無謀だと思える修行を、彼女はずっと維持してきたのだから。
温泉での休息を終え、その幾分かの疲労は軽減されただろうが、このまま続ければ同じこと。

「キリハ」

「ん、シカマル君………?」

温泉で少し調子が戻った、キリハの顔の肌。
それに安堵しながら、シカマルは言う。

「………無茶はやめろ」

「無茶なんて、してないよ」

キリハは怒らず、笑わず。淡々とシカマルの言葉を否定する。

「無茶なんて、してない」

「キリハ………」

呟き、シカマルは無言のままその場に立ちすくす。
どう見てもキリハは無茶をしていた、そして無茶をする理由を察していたからだ。

理屈もなく、ただ心を許しあえる存在。
シカマルにだって分かっていた。この金の少女は、遠慮無く甘えられる存在を――――家族というものに憧れていたことを。

そして、それが唐突に現れた。しかも、自分の命を幾度か救って。
本当は留まって欲しかったに違いない。だけど、その理由を知っているからわがままも言えない。

シカマルも理解していた。どうあっても、"うずまきナルト"は木の葉隠れの忍びにはなれないと。
実際に会って、幾度か話を交わしたこともあるシカマルには、彼が木の葉隠れに戻らないということが分かっていた。

(恨んでくれていないだけで、僥倖なんだから)

戻るという選択肢はない。少なくとも、自分であれば御免だ。
恨んでいないという様子。それを理解することは出来なかったが、シカマルには有難かった。

何しろうずまきナルトの師匠に、かつての四代目火影―――波風ミナトが居るのだから。
オヤジ達曰く、裏切ることなどあり得ないという話だが、シカマルはそのオヤジ達程に信用しきれていない。
何しろ某殺されたも同然だ。どのような者が、その心の内を知ることができるのか。

そして敵に回った時のことを考えたことのあるシカマルは、今の状況が最善だと思っていた。

木の葉の、そのほぼ全てを知り尽くした火影――――敵に回したくない相手として、これ以上の者はいないが故に。

(キリハもその理屈の、一部分は………分かっているはずだ)

そして一緒に暮らしたいという想いを、未だ捨てきれないでいるのも。
そのために力をつけ、説得を続けていることを。

でも、うずまきナルトは木の葉には戻るまい。加えていえば、彼はこのために早々に去ったかもしれないのだということを、シカマルは考え始めていた。
いずれ訪れる別れ。それは必然で避けられないもの。あるいは残ったとして、更なる惨劇が起こる可能性は非常に高くて。

それならば、と。もしくは別れによる傷が浅いうちに、と考えたのかもしれない。
そしてそれは、賢明な判断だとシカマルにも分かった。人の心はうつろいやすく、でも九尾の傷は癒えていないのだから。

(耐え難い哀しみ………そんなものを、こいつに味合わせたくない)

こいつの、この少女の青い双眸から。純粋な哀しみから流れる涙なんて、見たくない。それが、偽らざるシカマルの本音だった。
この、無茶で、でも純粋で、優しく、問答無用に自分を引っ張っていく女の子の事が。

「これ」

だから、渡す。御守にしてくれと。誰よりも会いたい、兄からの贈り物だと。

「本当!?」

そして、笑う。

シカマルはそれで、満足した。



―――――◆――――――


「……ん?」

そして、居酒屋のシカマルは金縛りが解けた後、首をかしげた。
戸惑いを覚える。それは、目の前でにやついている馬鹿二人にではなく。

「兄貴と呼ばせてくれ」
「師匠! あんた、漢すぎる!」
「励ましのお便りを………」
「これでも飲んで元気をだして下さい」

鼻に絆創膏。いつかの中忍試験の試験管に、特別上忍の姿まである。彼の差し出した薬は受け取らないが吉だ。

見覚えのある里の忍び。その全員が、自分に尊敬の眼差しを、敬礼を向けている。

シカマルは戸惑い―――そして悟った。テンテンが話した内容を、嘘をついて"兄からだ"と耳飾りを送った自分の話を聞いたのだと。
そして、シカマルは見た。カウンターの向こうに居る店主が、顔を逸らしていることを。その頬に一滴、流れる涙が光っていることを。


「あんたら…………」

そしてシカマルは叫んだ。
キリハに幾度と無く告げた宣告を。


「テンテン中忍! サスケも、全員ッそこに正座ぁ!!」




―――――◆――――――



「あ~疲れた」

1時間にも渡る溶岩のような説教を終えたシカマルは、アカデミーに顔を出していた。
ちなみに、怒りによりアルコールは全て吹き飛んでいた。

「ちぃ~っす」
「お、シカマルか」
「アスマ………紅先生はどうしたんすか?」

教室の奥から出てきたかつての担当上忍に、シカマルはその奥さんの様子を聞いた。

「昨日にあの子が夜泣きをしてな。出かける元気もないらしいから、オレだけ出てきた」
「また……子育てって、大変そうっすね」

頭をかきながら、シカマルが言う。

「そうでもないさ。この程度、苦労のうちにも入らない」

オレの子だから、と猿飛アスマは言う。

「こんな職業だ。生きて会えたと考えれば、この程度の疲労なんて無いも同然」
「そんなもんっすか………子供が居ないオレにゃ、分かんねーっすけど」

ぼりぼりと頭をかくシカマル。
そんな彼に向けて、アスマは爆弾を投じた。

「お前も、作りゃいいだろうに」
「はあ!?」

何言ってんの、といった具合にシカマルが顔を赤くする。
それを見た猿飛アスマは、ほほをぽりぽりとかいた。

「いや、流石に今の時期は無理だろうから、あくまで冗談だったんだが………というか、そこまで進んでたのか」

苦笑するアスマ。それを見たシカマルは、眉をしかめたまま懐からタバコを取り出した。

「………紅先生にあることないことチクりますよ?」
「…………ずいぶんと過剰な反応だな?」
「それだけ微妙な状態なんっすよ………だから迂闊なことは」
「なんだ、男なら自分の惚れた女と"そう"成りたいって思うのは自然なことだろうが」
「………まあ、そうですけど」

気心を知りすぎた仲ってのも、色々とあるんすよ。
シカマルは半眼になりながらアスマに言う。

「それでタバコか?」
「それだけじゃねーっすけど。そもそもこれは、あんたに教えてもらったんっすよ?」
「そういえばそうだったな………でも、タバコは女に嫌われるぞ。例えば………」

と、アスマは口に出す寸前。何かを思い出したのか、苦い顔をしているシカマルの様子を見て、察した。
その頬は、赤い。

「なんだ経験済みか? ―――いや、一時はどうなることかと思ったけどな」

にやつき、言葉を続けるアスマ。シカマルの耳は、ゆでダコのように赤くなっていた。

「こりゃめでたい。そうだ、紅にも………!?」

驚くアスマ。彼が最後に見たのは、こっちに向かって影を放つシカマルの姿であった。





―――――◆――――――


「ったくどいつもこいつも………」

帰路の道すがら、こちらに向けて何故か敬礼をしてくる下忍や中忍達を見ながら、シカマルはため息をついていた。
もしかして全部に知られたのか。

「あの二人、いつかやり返す………」

そんな暗い心境に陥っている時だった。
背後、自分の背中をとんとんとつつく人物が現れた。

「ああ!?」

きっと、からかいの何かだろう。機嫌の悪いシカマルは、確認もせずにまず恫喝をした。

しかし、その相手は。


「シカマル、くん………?」

驚き、涙目になっている自分の恋人の姿だった。


「え、キリハ!? まだ一五時過ぎだぞ!?」

仕事じゃなかったのか、とシカマルは叫ぶ。
キリハは涙目になりながら、わずかに視線を下に下げる。

「今日は早く終わったから…………それで、見かけて、一緒に帰りたかったんだけどね………」

いいよ、一人で帰るから。
ぐす、とうつむききびすを返すキリハを、シカマルは慌てて呼び止めた。

「ちょ、誤解だ!?」

「ううん、良いんだよ………シカマル君に迷惑みたいだし」

本気で拗ね始めたキリハ。

その後、シカマルが「お前と一緒に帰りたい!」と往来で本音を叫ばされるまで、その不毛なやり取りは続いた。

「どうしてこうなった………」

「えっへっへ~」

二人は並びならが、歩いていた。その右手と左手を、重ねあいながら。
シカマルは変な顔で笑う我が火影様に「ちょっとは人の目を気にしろ」ツッコミを入れたくなったが、我慢した。

その言葉は、今更に今更すぎたからだ。
シカマルは今までの苦労と羞恥を思い出し、心の中だけでため息をついた。

「はあ……で、キリハ。今日はばかに終わるのが早かったな」
「うん。なんか2時間前から、妙に書類が少なくなってね」
「そうか………」

心当たりのあるシカマルは、黙ってため息をはいた。

「………どうしたの?」
「ちょっと、あってな」
「妖魔のこと? ―――あれなら適任を送ったし、余剰戦力も待機させてるから大丈夫だよ。刺激しない程度には、ね」
「それなら心配してねーよ。あの3人なら妖魔の獣が得意とする奇襲なんて万が一にも受けねーし」
「そうだよね…………だったら、私と一緒に帰るのが嫌とか」
「そんなことあり得ないだろ」

息も継がせぬ即答。
キリハは率直なその返答に、笑みを返した。

「良かった。もしかしたら、嫌われたんじゃないかと思って」
「だからあり得ないだろ。そんなに信用ないかオレは」
「ううん。だけどシカマル君、滅多に言葉に出してくれないんだもん。女の子としては不安になるよね」

テンテンさんの事もあるし、とキリハは少し笑って言った。

「だから、あれは違うんだって」
「それは、分かってるよ。でもおぶって帰ってきたのは事実だし…………背中に胸、当たってたよね?」
「う………でも、前に、横にして担ぐわけにはいかねえだろ」
「それは………そうだけど。でも、なんかムッと来たんだもん」

そう言うと、キリハは口をへの字に曲げて、ぷいっと顔を逸らした。

シカマルはそんなキリハの様子を見ながら、苦笑していた。

(まいったな………いや)

めんどくせーけど、嬉しくもある。

シカマルは口の中でそう呟きながら、いつかの耳飾りの贈り主がばれた時の光景を。

あの時に交わした約束のことを、思い出していた。



―――――◆――――――


木の葉の病室の中。
地獄のような沈黙が、部屋の中に漂っていた。

二人とも先の角都と飛段との一戦で深手を負って入院していた。
キリハの方は幾分か傷が浅いが、それでも完治にはまだ少しかかる程度。
シカマルは負った傷と出血多量により、割とやばい状態になっていたため、今もベッドに横たわっていた。

椅子に座るキリハ。ベッドに横たわったまま、シカマル。

二人とも、ひとことたりとも言葉を発せない。
それには、理由があった。

キリハは、自分の耳にある―――御守にもなったこの耳飾りが、目の前の幼なじみから送られたものだと知ったから。
そして、意識してしまったから。見られたことと―――贈り物、という行為の裏。かつて自来也から聞かされていた知識から、ある程度のことは理解していた。
もしかしたら違う。でも、もしかしたら。そう思ってしまって、そしてシカマルが、幼馴染でもあって、かつ自分とずっと一緒に居た人間の事を、男として意識してしまったいたから。

シカマルは、贈り主がばれたことと――――不意にだったが、キリハの柔肌を直視してしまったから。
自己を保つために記憶の彼方に葬り去ったが、かつては一緒に風呂に入ったこともある。だからなんだ、と混乱しながら、自分の感情を整理しきれないでいる。

両方とも顔色は真っ赤で、まるで好き合っているもの同士が偶然お見合いででくわしてしまったかの様子だ。

「「あの………」」

全く同時に口を開き、黙る。お約束をかました二人は沈黙を続ける。
そして遂には耐えきれなくなったキリハが口を再び開いた。

「耳飾りのこと、聞いた。あれはシカマルくんからの贈り物だって…………何で、嘘ついたの?」
「それは………その方がお前が喜ぶと思って」
「え……?」

驚いたように、キリハが呆然と呟く。

「お前、兄貴と一緒に居たかったんだろ? ………無条件に甘えられる、家族ってやつが欲しかったんだ。そのために帰る場所を作ろうとした………違うか?」
「それは………」
「だからさ。これも、兄貴からの贈り物ってことにした方がお前が喜ぶ」
「ううん、それは違うよ」

はっきりと、キリハはシカマルの言葉を遮り、首を横に振った。

「家族は………欲しかった。うん。甘えられるっていうのは違うけど………憧れてたから」

知らなかったから。そう呟き、キリハはシカマルの方を見つめる。

「家族っていうのが何だか、知りたかった。兄さんと、父さんと会えて、それは少し知られて………良かった。
 でも、贈り物に関しては違う。シカマルくんに、その、こんな、女の子に贈るようなもの貰えて………その…………すごく嬉しい」

顔を俯かせながら、キリハはぼそぼそと呟く。
いつもの快活な様子ではなく、恥じらいが含まれたその様子に、シカマルの顔まで赤くなる。

「うん。デザインも綺麗だし………シカマルくんが頼んだんなら納得できるかも」
「そ、れは、なんでだ?」
「だって………ぴったりなんだもん、なんか。この色ってば私の髪には良く映えるし」

兄さんと私の髪の色って、ちょっと違うし。
キリハは耳飾りを触りながら、言う。

「改めて言わせてください………この御守には命を助けられました。シカマルくん、本当にありがとう」

大事にするよ、とキリハは笑う。
その笑みはシカマルが今までに見たことが無いほどに嬉しそうで、思わずシカマルは顔を逸らしてしまう。

「………いいから安静にしてろよ、馬鹿が。お前最近無茶ばっかりだったんだからよ」
「ちょ、ひどい! ………っていうか寝込んでるのシカマル君の方じゃない。シカマルくんこそ安静にしててよね。あの時は心臓が止まるかと思ったんだから」

飛段に負わされた傷。そして何故か鼻から血を出して血まみれになったシカマルを見たキリハは、その時顔色が真っ青になっていたのだ。

「大体出血多量っておかしいよ」
「いや、そりゃあお前………あんなもん見たら…………」

と、そこでシカマルは自分の失策を悟る。

「う………」

顕になった胸を見られたことを、思い出したのだろう。
キリハの顔は、爆発するかというぐらいに真っ赤になっていた。
片手は隠すように胸の前に添えられていた。

「あ~~~~その」
「シカマルくんのエッチ」

えっちなのはいけないと思います、とキリハは顔を赤くしたままそっぽを向く。

「お前こそ、無茶はやめろよ……って言っても聞かないなお前は」
「本当に危ない状態になったら、きっとシカマルくんが止めてくれると思ってさ」

信頼してるんだから、とキリハが言い返す。

「いや、オレも四六時中お前を見てられるってわけねーから」
「そうだけど………でも、何とかしてくれそうなんだもん。昔からそうだったよね」
「はあ?」
「あの雨の日からずっと、私のことかまってくれて。いのちゃん達と引きあわせてくれて。無茶をしてもフォローしてくれて………ずっと、見守ってくれてたよね」
「それは………かーちゃんの教えもあるからよ」
「それでも、嬉しかったよ。あの時はほんとう、怖かったんだから」

震える手。その裏にある複雑な想いを考え、シカマルは眉をしかめた。

「お前はここに居るだろ。それを今更言わせんのか」
「ううん、ちょっと思い出しただけだから。あのことは吹っ切ったし、今はもう思い出せないぐらいだから」
「吹っ切りすぎだと思うけどな………いのの影響もあるんだけどよ。無茶をするところとか」
「ははは、いのちゃんが怒るよ? ―――でも私、もともと不器用だからさ。一つのこと見るとほんとそれに集中しちゃって、周りも見えなくなるし」
「そうだな」
「………あれ、そこはちょっと否定して欲しかったんだけど」
「そりゃあお前、無理ってもんだろ。ったく、何度めんどくせー事態に巻き込まれたと思ってんだ」

数えるのもめんどくせー、とシカマルは眉をしかめる。

「だってシカマルくん、文句いいながらもフォローしてくれるからさ………って」

ぽん、とキリハは自分の手を叩く。

「私もしかして………シカマル君に甘えてた?」
「今気づいたのか!?」

悲鳴じみた声に、キリハは「う」とこぼす。

「だってだって、なんか気づいたら当たり前のようにシカマルくんが傍に居たし………うん、そうか。甘えてたんだ」
「無自覚だったのかよ………けっ、お前も女だったって訳だ」
「そうだね………だったら、私たちってすでに家族だったってことかな。兄妹?」
「血い繋がってねーだろ」
「う~ん、姉弟ってことはないよねえ」
「どの口でそれを言ってんだよ………あほくせー。つーか今更気にしねえよそんなこと」

シカマルは呆れながら、ベッドの横にある水のはいったグラスを手に取った。

「いくらでも甘えろ。オレは男なんだからよ」
「甘えて、いいの? 嫌いにならない?」
「ああ、約束する。どんどん甘えやがれ」
「うん………ありがとう。でも、そうだね………そういうのって、兄妹じゃないよね。どっちかっていうと………」
「またアホなこと考えてやがるな」


と、シカマルは付き合いきれんとグラスの中の水を口に含む、

その、瞬間。


「じゃあ夫婦?」


キリハの天然爆弾を間近で受けたシカマルは、盛大に水を吹き出した。
霧になって水が散り、吹き出したシカマルは激しく咳き込む。

「え、ちょ!?」

無自覚天然が驚き。

「げほ、ぐゴッ!?」

苦労人が咳き込み。

――――そこに新たな乱入者が現れた。

じっと聞き耳を立てていたマダオだ。
機は熟したりと、すぱーんと病室の扉を開き、開口一番に叫んだ。

「話は聞かせてもらった! 人類は滅亡するぐふぉ!?」

しかし跳ね返ってきた扉に顔の側面を殴打された。

「お父さん!?」

「ん、甘いよキリハ。そこは「な、なんだってー!?」と返すべきだね。しかし………」

唇の血をぬぐいながら、正真正銘のマダオとなったマダオは言う。

「決戦を前にしてちちくりあうとは………流石の僕も予想だにしていなかった事態だよ」

ふふふ、と暗い笑い。

「でも君の苦労人魂は正直涙を禁じえない………シカクさんに似ちゃってまた! ―――シカマル君!」

マダオはかつての火影の速度で走りだす。
キリハの目をもってして捉えきれない速度でシカマルに近づき、

「娘をよろしくお願いします」

すっと頭を下げた。

「何言ってんすか!?」

頭の回転が早いシカマルは即座に言っている内容を理解。
やがて混乱の極みに至る。

「けじめだよ。こんな機会はもう二度と無いと思うし――――ぶっちゃけて言えば生前一度言ってみたかった台詞だから」
「台無し!?」
「ということで覚悟はいいね?」

と、拳を振り上げる。マダオ。

「娘を奪う婿に対する鉄拳――――こっちも、お約束ってもんだから」

笑顔の鬼神が現れた。拳に集められたチャクラが、光って輝く。

―――ガイ先生並じゃね?そう思ったシカマルは、じっと眼を閉じた。
しかし、そこでキリハが爆発した。

自分の発した言葉の意味と、父が言う言葉の意味を理解したのだ。

顔をゆでダコのように真っ赤にして頭頂から湯気を立たせながら、チャクラを暴走させた。
そして、耳飾りがそれに反応し。


「もういい加減にして―――!!」


室内を、局地的な台風が蹂躙した。




―――――◆――――――



「イイハナシダッタノニナー」
「シカマルくんどうしたの黄昏て」
「いつものことだ気にすんな」

シカマルは空を見上げた。辛い時は上を向いて歩くに限る。
だって涙がこぼれないから。

あの後、少しづつ少しづつ意識しあって、苦労の果てに今の関係に至れた事を、シカマルは感謝した。

「お天道さんに笑われちまあ」
「また壊れた………うん、じゃあ修理」


と、キリハはすっと前に回りとんとん、とシカマルの胸を指で叩き。


「ん?」


顔を下ろしたシカマルに。

キリハは服の胸をそっと掴みながら背伸びをして、シカマルの口に自分の唇を重ねた。

触れるような口付け。

驚くシカマルに、キリハは笑って言う。


「あー、また煙草吸ったね。………やめて欲しいな、って言ったのに」

「あー…………つーか往来で何てことしやがる」

見られてるだろ、とシカマルは周囲を見回すが、その場に居る木の葉隠れの人達はぐっと親指を立てていた。
その中には先ほど説教した面子もあった。

一部、昔キリハに告白したことのある中忍や下忍の男達は涙を流しながら走っていったが。

「いや?」

「いやじゃねーけど」

「じゃあいいじゃない。ほら、行こうよ」

キリハは全然気にせず、シカマルの手を引っ張っていく。


「今日はヨシノさんとフウちゃんが腕をふるってくれるって。何かあったのかな、かなりの御馳走らしいよ」

「あー………もういいや」


諦観に身をまかせたシカマルはぐいぐいと引っ張るキリハに逆らわず、すたすたと歩いて行った。


(……あの公園、か)


横に見えたのは、初めてあった公園。


そこにはかつて、自分は誰なのかと泣いていた少女の姿があって。



そして、シカマルは空を見上げた。




(まあ、あれならかなわねーのも仕方ねえよなあ)




むしろ負けてもいいか、と笑い。


シカマルはキリハに引かれるまま、一歩また前に踏み出した。











頭上には、不器用ながら強く。



木の葉隠れを今までも、そしてこれからも照らし続けるだろう、金色の太陽の姿があった。


















あとがき

コーヒー(ブラック)を片手にお読みください。
ちなみに本作のシカマルのイメージソングは「フラリ/ゆず」⇒「幸せの扉/ゆず」だったり。







[9402] 後日談の2 ~とある組織の花火職人~
Name: 岳◆3d336029 ID:0347f440
Date: 2011/02/18 22:05

後日談の2

 ~とある組織の花火職人~





○月×日。

唐突だが日記を書こうと思う。切欠は単純だ。
上の妹であるナズナが曰く、「おにいは自己完結しすぎ。人の話をぜんっぜん聞かないし、思ったことすぐ口に出すし。嘘がつけないのはいいことだけど。うん、でも、自分をもっと客観的に見てみたら?」とのこと。
心外だ。柄じゃないが、そこまで言われたら黙っていられん。自己を研究するために日記をつけざるを得ない。これも職人の極みの道へと繋がっていると信じて我慢しよう。
きっとお天道様も許してくれるはず。かつての幼少時、俺に字を教えてくれた網の先生に感謝しよう。

ナズナが「槍が降るから!」とか言っているが気にしない。君が悪いのだよ。

ちなみに下の妹、トリカはおれらの会話は訳わからんという顔で首を傾げていた。
あまりに邪気のない顔。かわええ。でも背景を思い出し、心が痛んだ。



○月△日。

日記をつけて二日目だが、何故か空がありえないほど黒い黒雲に覆われた。そんな、お天道様は俺の行為を許しちゃくれなかったのか。
ナズナは「おにいがそんなもん書くから」と、まあ、うざいうざいドヤ顔をして胸を張っていた。
と思ったら、数時間で晴れてしまった。なんかすごい風に吹き飛ばされたかのよう。不思議なこともあるもんだ。

ちなみにナズナだが、雲が晴れた直後なんとも言えない顔になっていた。
無い胸張るから悪いのだ。ちょっとは下妹の同級生のホタルちゃんを見習いなさい。って言ったらどつかれた。
言い過ぎたごめんなさい。でも胸は無いことは譲れない。ザンゲツ様早く帰ってこないかなあ。

下妹は晴れた突き抜けるように青い空を見てから、かなりはしゃいでいた。黒から青へ、急激に変わったせいかいつもより空が綺麗に思えた。
気持ちもわかる。でも、下妹も感情を取り戻してきているのだ。とてもすげえ嬉しいことだと思う。
頭悪い表現だが、これは俺の率直な感想だ。

今日の仕事は久しぶりの花火作り。打ち上げ花火でも、一番小さい種類に入るものを作った。なかなかにいいものが出来たと思う。師事したての頃とは雲泥の差。
本当に色々なことを教えてもらった。いまだに拳骨が飛んでくることもあるが、その回数はずいぶんと減った。修行は厳しかったが、やりがいのあるものだった。
いかんなんか作文みたいになってる。
というか師匠の授業というか実践を交えての修行風景を振り返ってみたが、実に無駄がなかった。
土木工事専門の発破職人だったのに、アイデアを聞いただけで。しかも独学でここまでのものに発展させるとは、本当に信じられない。
まじですげえもんだ。きっと師匠自身もめちゃくちゃ勉強したんだろう。親方衆の中でも1、2を争う腕なだけはある。
怖いが怒られる時は納得できるものが多いし、改めてこの人のように成りたいと俺は思った。

暴発に巻き込まれてのアフロヘアーとやらはさすがに勘弁だが。
大親方はあの強面でお茶目にも程があると思う。



○月□日。

雲が晴れて一ヶ月。毎日つけると誓った日記もご覧の有様だよ。

今日ようやくだが、疲れた顔をしていたザンゲツ様の表情が晴れた。いつもの威厳に溢れた美人顔だ。赤い髪が美しい。そしてその威容もちょっと病みつきになるぐらいで。
極めつけは素晴らしいぱいおつ。見るだけで日々の激務による疲労が癒されるってものさ。

ナズナの眼は冷たいが。なんだその毛虫を見下ろすような眼差しは。毛虫だって生きているんだぞ。
あと日記が日記っぽくないと言われたが、それがどうした。ノリを否定するなよ貧乳。
思い出は面白ければいいんだよ。小理屈に縛られてなんになる。細かい慣習に縛られているようじゃあ、面白おかしい大人にはなれないぜ。

それはともかくザンゲツ様と一緒に帰ってきたシンの兄貴も、最近になっては明るい顔を見せるようになっていた。サイも、シンの顔を見てため息をつく機会が少なくなった。
それとなくのフォローを繰り返しただけはある。この二人も実は血がつながっていない兄弟らしいが、それも関係ないのだろう。
同じ村で育ったと聞いた。つまりは弟であって、戦友であり親友であるのか。男兄弟の居ない俺にとっては、少し羨ましい話だ。
一緒に馬鹿をできるのはユウぐらいだが、あいつはちょっと違うし。

しかし、やっといつもの兄貴のように戻ったようで安心。
明日は久しぶりに"女の胸の神秘"について語るつもりだ。




○月◇日。

灯香の姐さんにシンの兄貴ともども踏みつけられてから数日。ていうかチャクラ使いマジ卑怯。
蹴り足が見えないとか、一体どういう速さなんですか。きっちり手加減されてたから怪我はしなかったが、蹴られた箇所が妙に痛かった。兄貴は兄貴で念入りに蹴られていたけど。

仕事の方は順調である。見習いももうすぐ終了かもしれない。
だが、そんな時に事件は起きるものである。火薬の原料採取からの帰り道、森の入り口で行き倒れた子供を見つけた。服はぼろぼろで、どうにも疲労困憊の様子。
見るに年の頃は7歳かそこらで、食料も水も持っていない。戦争から逃げてきたのだろうか。でも、ここらで争いが起きたとか聞いてない。

近所の学舎に通っているナズナに聞いたが、「知らないし、そんな噂聞いたこない」とのこと。
怪しい、危ないかも。妹が言う。俺もそう思う。

だが、それはどうでもいい。ここで見捨てるのは、同じような境遇で網に助けられた俺達兄妹にはできないこと。
それだけは、お天道様に顔向けできない行為だ。そのことを伝えると、いつもは生意気なナズナも。そしてまた話も分かっていないだろう下妹も頷いた。

取り敢えずこの行き倒れ小僧(仮称:太郎)をかくまうことにした。今は後ろの布団で横になっている。
いざとなれば俺が身体を張ろう。それが兄貴たる俺の役目だ。幸いにも明日は休日。じっと見張っていることに決めた。




○月◆日。

一日開けて、また日が暮れてから太郎が起きた。思っていたより回復が早い。でも寝ぼけているようだ。

「なんで子供の身体に、うん!?」とか「チャクラが練れない、うん!?」とかうるさいぐらいに叫んでいる。
つーかオレらのような平民が、チャクラとか訳わからん摩訶不思議な力を使えるのはありえんだろう。あと、うんうんウルサイよチミ。
食事中だぞこっちは。きばるならあっちでやりなさい。って言うとまた殴られた。うんは口癖らしい。変な口癖だが、そういう子も居るのだろうと思った。
しかし元気な子供だ。心配していた一つの可能性は消えたか。

その後太郎に関して考えてみた。最初は呟く内容にすわ忍者の子供かとも思ったが、忍者の血を引くのならばチャクラを練れないわけないので………ちょっと妄想が激しい子なのだろう、という結論に落ち着いた。
"その"心と思考に覚えがある俺に隙はない。少年よ、それは修羅の道だぞ。

でも見捨てる訳にはいくまい。首領の意向に習うのは組織人ならば当然の務め。
そう、網は全てを受け入れる。故にお前を見捨てたりはしない。

太郎にそのことを伝えると、よく分からない顔で頷いていた。生意気にも納得はしていないらしい。びみょー、という顔だ。ナズナが俺限定でだが、よく浮かべる表情だ。
しかし太郎のあれな心が心配だ。でもきっと大丈夫。俺と同じく、月日と。そして容赦ない現実という名の日常が、じきに解決してくれることだろう。

太郎に幸あれ。





△月○日。

行くあてもない子供の太郎を、我が家で引き受けるようになった。このご時世だ、戦争の頃よりはましになったと聞くが、それでも身寄りのない力の無い子供が外の世界で、しかもたった一人で生きていける訳がない。
施設に入るか、ここに残るか、朝食の時に選択を迫った。

そして夕食時には、家族は4人になっていた。渋々といった感じだったが。

同じような経緯で家族になった両妹も文句は言わない。家系が苦しくなるが、どうということもない。
幸い、最近仕事が急激に増えたこともある。死ぬほどしんどいが、実入りもいい。ナズナの件もあるし、長兄として根は上げられない。

あと太郎の名前だが、ダイダラというらしい。偽名くさいな、うん。でもきっと事情があるのだろうと思い、深くは聞かなかった。性根の腐った人間には見えない。
俺の勘は当たるのだ。が、ナズナに言うと「ないない思い込み思い込み」と手をひらひらされた。おのれ貧乳。

しかしチビなのにダイダラとかどういう偽名だろうか。いや、きっと自分を大きく見せたいのだろうな。納得、と頷いていたらまた殴られた。
なにゆえ。




△月△日。

下妹がホタルちゃんの事を気にしていた。なんでも、最近また元気が無くなったらしい。
ので、試作品である手持ち用の花火を見せてやった。親方達が本格的に作るような大玉のような爽快感はないが、夜の暗闇の中でやれば十分満足できる程には映える。

今日の夜に家に呼んで、近場の広場でやるか。後始末用のバケツも持っていかなくては。





△月◇日。

予想外の事が起きた。昨日の花火のことだ。当初の目論見どおり、ホタルちゃんを花火で励ませられた。それはいい。そこまでは、いい。
しかしダイダラが花火に興味津々すぎた。特にぱちぱちと放射状に火花を出す提灯花火(仮称)が気に入ったらしい。

仕組みに関しては親方達が研究したもので機密だから教えられんと答えたのだが、妙に食い下がってきた。

梃子でも動かない感じなので、どうにも困った。どうしようか。
明日は実習なので、いっそ親方衆の工房に行ってみようかと思う。




□月○日。

その時親方衆に電流走る――――ッ!!

今日の一幕でした。ダイダラの火薬類の知識に全員が脱帽。火薬の扱いについて討論していた所にダイダラが殴りこみをかけて、なんやかんやのウチに講義みたいになっていた。
ダイダラ、なんでそんなに知っているのかという程に火薬、特に爆発物について詳しかった。
あるいは大親方に匹敵するかもしれない。

そしててんやわんやの後で、何だか分からないが花火をいっちょ作らせてみよう、とかいうことになった。

俺だってまだ一人では作らせてもらえないのに。ダイダラに嫉妬した。
でも俺考案の提灯花火を見せると、褒めてもらえた。よっしゃ。

あと、デイダラが本当にすごい。ホメると顔を真っ赤にしてわめいていた。照れているのだろう。
でも、反応が過敏に過ぎる。褒められるのに慣れていない様子。こんなに良い腕をしているのに、褒められたことが無いのだろうか。



□月×日。

ツレのユウが遠征から帰ってきた。こいつは絵を生業とするイケメンの同期で、何かと俺に絡んでくるホモな奴だ。
いや「あいたかったよ」じゃねえよイケメンが。女みてーなツラしやがってよ。なんでその面で男が好きなんだよ。まともにやりゃあ、女なんてダース単位で作れそうなのによ。
という文句はひとまずおいといて、その後色々と話した。今更だし。
会話の内容は、遠征先でのことや、新しく入った仲間の事について。
なんでも、新しく入ったうちはサスケとかいうやつが、実働部隊の長に抜擢されたそうだ。木の葉隠れとの交渉役も兼ねているらしい。
新しい体制のための布石とか何とか。サムライってやつらも網と同盟を組むらしい。力が大きくなるのか。でも無闇矢鱈には行使しないだろうと思う。
組織の中には、力という理不尽に住処を追われた者が多い。それをすれば組織は瓦解するだろう。そのあたりの理屈が分からない首領じゃないし。

ちなみにサスケという人物について、ユウに「どんな奴?」と聞いたところ、俺も会ったことのある人だと返された。
話を聞いて納得。あのラーメン屋台の一行の一人らしい。そう、赤髪の美少女楽師・多由也と一緒にいた黒髪のイケメン剣士だ。思い出し、俺は納得した。あいつなら心配することもないと思える。
そういえばトリカの件で、改めてお礼を言いにいくんだった。もうすぐ戻ってくるらしいので、行ってみよう。
目の保養にもなる。

あと、鉄の国でちょっとした事件があったらしい。なんでも山が消し飛んだとか。
っておい、ちょっと所じゃなくないか。いや、あははじゃねえよ。そうツッコんだが、ユウは笑っているだけだった。

なんだかんだで、一時間ぐらいは話した。言葉は相変わらずだが、喋り方は面白いので聞いてしまう。
なんという拷問か。

と思ったら、小さい子どもが部屋に入ってきた。こいつも子供だがイケメンだ。今日はイケメン祭りかよ。
それよりもこいつは男だ。もしかしてショタか。いかん、その先に進ませるわけにはいかない。一応こいつは幼馴染だ。ごく幼い時の一時期だけで、再会したのは網の中だったけど。変わってしまった友を、しかし見捨てることなど出来はしない。
俺は友をこれ以上進ませないため、この場に止めるべく決死の説得にあたった。

後に誤解だと判明。遠征の帰路の途中、険しい峠の道のど真ん中で行き倒れていた子供らしい。ただ名前も何も話さないので、真之介と名付けたという。どこかで聞いた話だ。

と思ったら、ダイダラが乱入してきた。

真之介に「ダンナ!?」とか言う。

その時俺はたしかに硬直した。すぐに正気に戻れたのは喜ばしいことだろう。

「旦那だと。太郎、お前もか!?」と、少年にしてオカマの業を背負おうとするダイダラを止めるべく、必死の説得に当たる。
ちなみに一緒に居たナズナはきゃーきゃ言っていた。悪寒が走った。まて、そっちの道は修羅の道。俺は修羅になったお前なんて見たくないぞ。
お前も一緒に止めてくれ、ユウにも言ったが、奴は面白そうに笑っているだけだった。
役立たずめ。というか、何故に笑う。

それから、なんやかんやあった。結論から言うと、俺はダイダラと真之介の二人から殴られてしまったのだが。

「"アレ"と一緒にするな!!」らしい。二人の必死の、魂の叫びだった。
しかし意味がさっぱり分からん。アレとは誰のことだろうか。ユウじゃないみたいだし。

ちなみにユウにやっぱり君は君だねと言われた。ナズナとこいつにはよく言われる言葉だ。
どういう意味なんだろうか。




□月□日。

真之介の本名はサソリというらしい。結構な名前だな。
あと、ダイダラの本名はデイダラというらしい。あんま変わらんかった。それ偽名になってないぞ。

二人は知り合いらしい。そして元は大人らしい。
何故か身体が縮んでしまったとのこと。

…………あり得ん(笑)

きっと二人とも、強盗か山賊に襲われて怖い思いをしたのだろう。恐怖のあまり、心を病んでしまったのか。
でも目の前を見つめなきゃいかん。現実からは逃避できないのだ、と必死に説得。
そう、網は誰でも受け入れる。お前達を見捨てることはしない。

なのでサソリも此処に残るようにと伝えた。遠征を繰り返すユウについていけるわけもない。
ユウはユウで援助金を置いていった。他に使うアテもないから、と言っていたが俺は首を横に振った。
しかしあいつも頑固だった。他ならぬ君のためだから、とか何とか言っていたがお友達で勘弁して下さい。やめてよして触らないで尻を見ないで。

サソリの方はちょっと時間がかかった。
小一時間の説得。最終的には渋々と、明らかに納得がいってない様子だが、何とか首を縦に振らせることに成功した。
「身体能力も落ちてるしな」とかなんとか。いかん、この子もダイダラと同じ病気を。

ユウはさっきまた遠征に行った。またねと振った手の手首に傷跡があったが、見ないフリをした。変な気を使うのは俺らしくないのだが、それでも本人は隠しているらしいので追求はしない。
できないと言った方がいいか。探られたくない過去を持っている奴など、網にはごまんと居る。だから過去を無理に穿り返さないというのは、組織の中では暗黙の了解で、いわゆる不文律となっている。
だからあいつが言い出すまで、俺は聞かない。ちょっとは頼りにしてくれてもいいと思うんだが。





□月◆日。

昨日、職人の小屋の一つが半壊した。職人見習いの後輩がやらかしたらしい。
本人の処分についてだが、原因が故意ではなく過失であるため処分は重くない。とはいっても不注意な部分もあったので、親方衆にこっぴどく怒られしばかれた。
しかし処分としては軽い方だと思う。小屋の修繕を手伝うだけで済まされたのだから。しかし、二度やれば追放かも。最低限の規律しかないが、その分それを破った者には厳しいからな、網は。
半端者も好かれない。真面目にやっていればこれ程に居心地のいい場所はないというのにな。

小屋の修繕をだが、作業の監督は土木方の人達がするので、オレ達職人軍団は半休になった。
珍しいことだった。というか半休になるのは初めてなのだ。せっかくなので、いつもはいけない例の店にいった。
その店は見た目ボロいが味はやばいという評判の、有名な店だ。網の古参方がよく利用するので、俺達ぺーぺーは夜には入れないが。
しかし昼は昼で空いているらしい(というか昼休憩に外に出れるようなヒマな奴はいない)ので、行ってみたという訳だ。

見た目は相変わらずのボロ屋だった。俺は苦笑しながら戸を開けた。

そこには、女神が居た。

まず見えたのは、頭巾の後ろからわずかに零れ外に出ていた鮮やかな黄金の髪。次に白い割烹着からわずかに除く、雪のような白い肌だ。
整いすぎるという程に整った顔もまた、あれだ。ていうか言葉で表現できないよちきしょう。言葉は万能でないことを思い知らされた。見てください、としか言いようがないよ。
比較で表してみよう。激動の過去から今まで、それなりの数の人間に会ってきたが、アレほどに美人という言葉でしか表せない女性は見たことがない、といったぐらいか。
亡国の王女とか、そんなものか。しかしやんごとなきといった雰囲気を醸し出している訳でもない。素性が気になる。あれだけの美貌なら、組織の中で絶対に噂になったはずなのだが。

こういう時は困った時のユウ頼み。素性に関してさっき遠征から帰ってきたユウの奴にきいた。が、素性は今のところ不明。年の頃は14、5ぐらいらしい。
年下だ。しかし雰囲気がある女性と言える程のものをもっていた。
均整の取れた体型も見事だった。胸が腰がの、特別どこかという訳でもない。割烹着では見える体型も限られる。しかしそれでなお、色気を感じさせるのはどういったことか。
出てくる感想は綺麗のひとこと。俺はしばらく、というか帰るまでずっと眼を釘つけにされてしまったからなあ。
ザンゲツ様と同じく眼帯を付けていたのも印象に残っている。もう片方の目の瞳は赤かった。いつかの日の焼けるような夕陽を思い出させる。
どこか物哀しさを連想させられるのは少し気になったけど。

しかし眼福だった。眼福すぎる。昼の事を思い出して書いているのだが、あの姿が目に焼き付いて離れない。
昼飯を食べながらも、じっと見続けていたからだろうか。こうしてすらすら文が出てくるのは。穴が開くぐらいには、見たからな。
胸の動悸が止まらない。胸が動悸でドキドキなんてつまらないギャグまで浮かんでくる。ああ、俺はもうだめかもしれない。

そんな事をつぶやいてくると、こちらを刺す槍のような視線。ふと振り返ると、ユウの眼が怖かった。上妹の眼も怖かった。
その超弩級美人の売り娘さんの話をしてから、二人の眼から発する空気に物騒なものが混じっていた。

明日から、あの店にはヒマがあれば行こうと思う。





×月○日。

美人さんの名前を聞いた。姓なしで、名は九那実。店では昼に修行、かつ夜に出す料理用の仕込みをしているらしい。
ちなみに夜には家に帰るとのこと。何故かと聞いたら、「以前に酔っ払った客と一悶着があったからじゃ」と言う。
詳細は聞かなかったが、なんとなく理解した。つーか普通、こんな美少女見かけたら口説くよね。
つーか俺も口説こうとしているのだが、きっかけがつかめなかった。

料理も何気に旨いし、しばらく通いつめて機を伺おうと思う。





×月△日。

昨日、サソリとデイダラと馬鹿騒ぎをした。頭が痛い。きっかけはユウが土産にと持ってきた酒。すごい銘酒らしくて、一升瓶まるごともらった。
当然に飲む俺。ちょろまかす子供二人。しかし流石に子供の身体にはきつかったのか、一杯で酔っていた。
その後酔った勢いで「なんで子供になったんだ」ということについて3人で議論した。
超チャクラによるうんたらかんたら、きっと神様が、とか。溢れる馬鹿理論。青春期男子特有の思い出いっぱい妄想いっぱいおっぱい大好きのやんちゃ理論ともいうらしい。
一緒にするな?正直すまん。

推論に推論を重ねた会議の結果、原因については三つにしぼられた。「自分の爆弾で身体の大半が吹き飛んでいたから」とか「肉の部分がほぼ無かったから」とか「ただの嫌がらせ」とか。
いや前二つ、おい。どういう状況だったんだよオマエラ。子供だからかしらんが妄想しすぎ、と笑ったら向こうも笑った。あははとね。うん、きっと三つ目だろうとも。
あと発破の試験爆破を見る時のデイダラの暗い顔や、トリカが人形で遊んでいるのサソリの暗い顔について聞いてみたら、二人とも驚いた顔をしていた。
その後、顔がふてくされたものに変わり、「見たくもない嫌なもん見せられたからな」とぽつり。ふむ、なんか思い出したくも無いほどに、凄い嫌なものを見せられたらしい。よく分からんが元気だせ。
あとサソリにも「やりたい事があったら言ってくれていいぞ」と伝えた。こいつはきっと、言わなきゃ分からない性格をしているだろうから。

幸いにも今の"網"はそっち方面の技術開発にも意欲を見せてるからな、と説明すると「そうか」とだけ返事した。




×月□日。

九那実さんと少し仲良くなった。なんでも、俺が料理の感想を素直に返してのが嬉しいらしい。
昼にも客が来るようになったのだが、世辞が多くて嫌になるとのこと。そんなものは必要ないとも。俺は嘘をつけない性質なのだが、それが幸いしたらしい。

あと、サソリがぱねえ。昨日に試作用の絡繰人形を貰ったのだが、今日にはもう完全に自分のものにしていた。
一度、知人の人形師に見せてもらった時には不恰好でぎこちない動きをしていた人形が、まるで本物の人間のように動いていた。
トリカがそれをじっと見ながら、無言で興奮していた。動く人形を眼でおっかけている様はまるで猫のようだ。
サソリもトリカの様子が面白いのか、無表情のまま右へ左へ上へ下へ人形を動かしていた。
必死に追うトリカ。そして最終的には眼が渦巻になって倒れてた。無表情ながら倒れたトリカを見下ろし、ニヒルに笑うサソリが面白い。




×月◆日。

雲ひとつない、快晴な一日。

最近忙しいせいでろくに日記をかけていない。しんどい。
でも昼食を取った後に、店の前でいいものが見られた。食べた後、見送ってくれた九那実さんだが、空を見上げていたのだ。
何となく振り返った先には、絹のような金色の髪が横に流しながら、空を見上げる金髪の美女。
顔を前髪がかくして、瞳が少し隠れて。

何も言わずに青い空を見上げるその横顔が、壮絶に美しかった。
儚げな表情が、元の美貌を更に際立たせている。土木方のおっさん連中なら押し倒してるんじゃないか、これ。

でも本当に悲しそうだった。瞳には何処か悲しい色が含まれていて、何処か話しかけられない雰囲気も漂っていて。じっと観察して気づいたのだが、眼も赤かった。
里帰りしたと言っていたが、何かあったのだろうか。悲しいことを思い出したのか。

しかしその顔は美しく、ずっと見ていたいという気持ちと。あまりに悲しそうなので、見ていたくないという気持ちが湧いた。
だが踏み込めない何かを感じた俺は、そのまま何もできなかった。その場から立ち去ることしかできなかった。




◆月○日。

九那実さんが屋台を出した。店の名前は「九尾狐」。最近、一部で持ち上げられている神獣だかなんだからしい。
それにあやかったのかと聞いてみたら、違うと返された。「あいつが見つけやすいように」、らしい。

俺には意味がわからなかったが、隣に居たシンの兄貴は分かっていたらしい。なにやら暗いような、嬉しいような、よくわからない顔をしていた。
ていうか待ち人が居るのかよ。どんな奴かは知らないが、よくもまあ九那実さんみたいな人を置いていけるもんだ。
そいつはきっと超弩級の馬鹿か、浮気癖のある阿呆だろう。

と、そこで九那実さんが笑った。どうやら今の考えを、口に出してしまっていたらしくて、シンが引きつった顔をしていた。
どうやら“そいつ”とは、二人の知り合いらしい。ちなみに九那実さんは人物評について、「否定はせん」と笑っていた。

そうだ、笑っていた。でも、泣いていたようにも見えた。眼帯を抑え、何かの感情をこらえているかのようだった。

信じて、待っているのだろう。その間に、俺は入り込めないと悟る。
ずっと、そいつを見ている。こちらには、振り返らない。その結論を、俺は理屈ではない何かで理解した。


その日、俺は失恋した。




◆月△日。

頭が痛い。失恋のやけ酒に、ユウとナズナを付き合わせたのだが、調子にのって飲み過ぎたか。二人も酒の空き瓶が散らかるテーブルの横で昏倒している。
今日が休みでよかった。でも二人を付きあわせたのはまずかったか。

反省の意味をこめて、ここに書こう。でも、ん?


ユウが寝ている。薄着になって。何か違和感を





○月×日。

随分と間が空いてしまった。前の日記は妙な所で途切れている。それだけ、それどころじゃない事が起きていたのだが。
色々とあったからな。本当に、色々とあった。そうとしか言えないぐらいに。

ユウは、遠征に出たまま帰ってこない。とりあえずは仲直りしたいが、どうすればいいのか。
どう接すりゃいいんだ俺は。どの面下げてあいつと会えばいい。




△月○日。

遠征に帰ってきたユウと仲直りした。過去も全て聞いた。
泣いているあいつを、俺は抱きしめることしかできなかった。気の利いた言葉の一つもやれない自分が恨めしい。
でもそれが良かったのか、徐々に泣く声は小さくなり、最後には笑顔を見せてくれた。

「とりあえずは、改めて、友達から」

過去の全てを俺に告げ、それでも笑ったあいつの顔は成程、女性のものだと思った。魅力的な笑顔だと思う。
隠していた事情と、その原因がわかるというもの。犯人は死んだらしいが、聞かされた内容のことを思い出す度、腸が煮えくり返る。

もし生きていたら、俺はどうしていたか分からないな。そんな事を考えていると、デイダラとサソリに「似合わない顔をするな」と怒られた。
見たことのないほど、真剣な表情だった。

あと、何故「男が好き」なんて吹聴していたのか、たずねたらユウは顔を真っ赤にしながら遠い目をしていた。
俺の鈍感と愚鈍と、ナズナの複雑な心と、それらが混ざり合って更に誤解が振りかけられた末の結果、らしい。

って上目遣いはやめてくれませんかユウさん。
女ですがな。綺麗ですがな。何かモヤモヤしますがな。





□月○日。

まとまった金が入ったので、家族とユウを連れて九那実さんのラーメン屋にいった。

そこには先客が居た。サスケと、サスケの兄だという人。

その二人は先にラーメンを食べていたのだが、デイダラとサソリを見るなり盛大に吹いた。
鼻からラーメンの汁が。麺が屋台のテーブルにぶちまけられ、九那実さんは汚いと激怒。

反応が、ちょっとアレだった。もしかしてデイダラとサソリを知っているのか。二人を見ると、あり得ないものを見る眼をしていた。サスケと兄の鼻から出るラーメンも含めて。
その後、二人は本部へと連れて行かれた。九那実さんは二人をよく知らないらしく、終始首を傾げていた。

連れて行かれた二人は、数分後すぐに戻ってこれた。俺もいろいろと口添えをしたのが効いたのだろうか。
二人についてのこと、一部分だけは昔、親方衆が先にザンゲツ様に話していたらしい。が、その詳細は奥の部屋で話していたので、俺は聞いていない。
概要だけは聞いたが、理解ができない。「チャクラの質が違っている」とか、「肉体年齢的に同一人物と証明できない」とか。
ビンゴブックとか言っていたが、ビンゴゲームをする時の用紙が束ねられた本の事だろうか。忍者に関係があるらしいが、さっぱり分からん。
もしかしてビンゴゲームが好きなのか忍者。サイにそうたずねると、「お前は何を言っているんだ」という顔をされた。相変わらずこの弟は変な所できつい。

あと、知り合いっぽいサスケが、デイダラとサソリが此処に居ることを知らないのは何故か。
ザンゲツ様に問うと、とある証明と関係各所への根回し、そして特定人物への確認に時間が必要だから、取り敢えず黙っていたらしい。

だが問題は解決したとも言っていた。二人は驚いたまま、黙って頷いていた。
俺も頷いた。ナズナがラーメン食べにいこうと言った。トリカが笑った。

それでいいと思う。語られない過去は聞かない。

生意気で、口の悪い。でも花火という芸術に関しては誰よりも真摯に、一生懸命で。頼めばある程度のことは聞く。芸術の事を褒めれば、太陽のように快活に笑うデイダラ。
無表情で、面倒くさがり。でも悪態をつきながらやる時はやり、時折はしゃいでいるトリカを見て、口の端だけで笑顔を見せる。職人も真っ青な集中力で、ただ何かを確認するように、人形を繰るサソリ。

そんな、二人は二人で。危険もなくなったというし。
俺とナズナ、トリカにとってはそれでいいと思う。




□月□日。

ユウとデイダラ、サソリと芸術について討論した。
俺とデイダラは花火、つまりは一瞬で咲く、つまりは昇華の後に霧散する美を。
ユウとサソリは、いつまでも形として残る美を。

互いの意見を押して圧してへしあって、気づけば怒鳴り合っていたらしい。

ウルサイとナズナに怒鳴られた。トリカが泣いていた。
トリカが泣くのは久しぶりだ。どうしていいのか分からない。あのサソリでさえも混乱している。

その後、“出来るだけしません”という誓約を結ばされ、俺達4人は反省した。
“二度と”というのは誓約できなかった。また争うことになりそうだから。

あと、復旧作業の方はかなり進んでいるらしい。土木方の仕事についている同期が、やっとここまで来れたとぼやいていた。




□月×日。

家の中、多由也さんを混じえて再度、芸術について討論した。

最終的には、「記憶と思い出とそれに付随する感情と感慨」という視点で見れば、絵も花火も絡繰人形も音楽も変わらないじゃないか、ということになった。
大切なのは、見る人の感情をどうやって動かせるか。即ち、感動させられるかだと。

しかし表現方法が違う。その段階で、また揉めそうになった。
トリカの泣きそうな顔を見て全員が正気に戻ったが。

ちなみにトリカは多由也の事が大好きらしい。
抱きつかれて真っ赤な顔をしている美少女は見物だった。
口は悪いがもっぱら優しいと評判の彼女は、その通りじっと困った顔をしながらトリカの頭を撫でていた。
きっと良い母親になることだろう。あのサスケが彼氏らしいのだが、羨ましいこって。

もげればいいのに。




□月◆日。

ユウと一緒に、久しぶりに外に出かけた。本部より少し離れた街だ。

そんな中、サスケと多由也さんの二人がデートしている所を発見。なんか、こう、熟年の夫婦のような、二人で居るのが当たり前な空気が。
その背後では、眼鏡をかけた赤い髪の女がハンカチを噛んで泣いていた。カリントウとかいう人だったか。あと、桃色の髪をした見慣れない女性も一緒だった。
彼女は背後に鬼神を携えていた。なにこれ怖い。

でも見つめる先は、多由也とサスケの二人。手はつないでいないが、つないでいる以上の“何か”を感じる。
あれか、手は繋がなくても心がつながってるとか、そういうのか。

くそ、モテモテ野郎め。ちょっとイケメンだからってよう。いや、性格も悪くないと聞いたからそりゃあモテるか。

でも何か悔しいので、近場に居たサイ、シンの兄貴と合流し、「末永く爆発しろ」という言葉を投げかけて逃げた。





×月○日。

色々あった。本当に、色々と。
辛かったことのほうが多いが、良いこともわずかにあった。

そんな中で、とびきりの朗報が。今度の秋祭に使う花火だが、俺も数個だけ作っていいと言われた。
卒業試験みたいなものらしい。デイダラも作ると言っていた。

何やら土の国だかの大名やら、護衛の偉いさんも見に来ると聞いた後、「絶対に作らしてくれ。むしろ作る、うん」と親方衆に宣言したらしい。
頼むのではなく、作ると言い切るのがデイダラらしい、うん。
怒られるかと思ったら、「てっぺん目指すならそれぐらいの意気が必要だ」と、大親方は笑っていた。つくづく懐の大きい人だ、うん。
最低限の礼儀がなっていないと殴られたが。うん、でも大分マシになったからいいよね。
ってえ、口調が移ってるよ畜生。

もう片方、サソリはサソリで、人形を繰る技術だが、とんでもない域に至っていた。糸で動かせる試作の絡繰人形をまた貰って、それをトリカに見せていたのだが、どう考えても人間業じゃない。
傍から見ても以上。一人しか居ないのになんで3体も同時に、しかも別々の動作を見せているのか。つーか足で人形操ってしかも違和感ないってどんだけー。
トリカは興味津々⇒おおはしゃぎ⇒昏倒した。両眼にはくるくる、頭からは湯気が。前の経験が活きていないようだ。動きが複雑な分、昏倒具合もすごい。

しかし嬉しそうなので止めようとは思わない。出会った頃は無表情で無感情だったあの娘が、ずいぶんといい方向へと変わってくれたものだ。
これもあの多由也という奏者のお陰だろう。あれから、少しづつ感情を取り戻してきたのだから。改めてお礼に行くとするか。

サソリの奴も、トリカの無邪気な仕草に引っ張られているようだな。最初は人形のような奴だと思ったが、随分と人間臭くなった。
人は一人では変われないが、誰かと居れば変われるのだろうか。





×月◆日。

明日はいよいよ秋祭。万が一の時の消火班も統制が取れているので問題ないとのこと。
結界のスペシャリストも居るらしい。もしかして土木方の同僚が騒いでいた、噂の紫苑姫とその従者か。

花火だが、良い物に仕上げられたと思う。デイダラが考案した型の一つであるこれは、宙で爆発すると全方位に等しく散らばるらしい。
こうすれば、どの角度から見ても同じ“華”を見せられるのだとか。つまりは、より多くの人達に自分の芸術を見せられるということ。
「あのじじい共に目にもの見せてくれるぜ、うん」とはしゃいでる。誰か知り合いが来るのだろうか。
誰か知らないが、きっとその人物は驚くだろう。それだけにデイダラの技術は凄い。しかし、俺も負ける気は無いが。

サソリは一人、祭場の隅にあるスペースで一人、人形劇をやるらしい。
助手はトリカ。サソリに教えてもらったらしい。どんなものになるのか、俺はとデイダラは花火の用意があって、また別の事で時間が重なってしまって観にいけないが、成功するといいな。

仕事の後の祭も楽しみだ。ユウとナズナと、久しぶりの3人で祭を回る約束をしている。
サソリとデイダラは遠慮した。デイダラはニヤニヤと笑っていたが、なんで笑っていたのだろうか。

ユウとナズナが「祭の後で大切な話があるから」と言いながら頬を薄く桃に染めていたが、それと関係あるのだろうか。

分からんが、まあいい。俺は俺の気の向くままに生きていこうと思う。
難しいことを考えても分からんし。


明日の祭の準備がある。朝が早いのでもう寝よう。


ユウも、ナズナも、トリカも。
デイダラも、サソリも。



きっと全て、うまくいくと。
そんな予感がしている。



















あとがき

結末はご想像にお任せで。

端的に表すと「めでたしめでたし」。




[9402] 後日談の3 ~重なる黒と赤~
Name: 岳◆3d336029 ID:0347f440
Date: 2011/03/20 19:21
「じゃあ、頼めるのか」

「……断る理由は無いわね、木の葉としては。そちらの組織には借りもあるし。それに、医療忍者も数が揃ってきているし………」

火の国の中央、大名のお膝元の大きな茶屋の中。
そこでとある二人が、お茶を飲みながらとある打ち合わせを行っていた。

片方は、桃色の髪。顔立ちは可愛いと言えるだろう、木の葉の額当てをしたくノ一。先代火影の直弟子でもあり、里からは将来の医療忍者を束ねるだろうと、一目置かれている女子、春野サクラ。
もう片方は、赤色の髪。顔立ちは綺麗と言えるだろう、腰に一本の笛を差した奏者。何ともなく噂になり、その成してきた事で網の中では一目置かれる存在となった女子、多由也。

二人は当初の目的である、遺跡調査とその際に発生するであろう魔獣の戦闘。
そして怪我人に関する処置をどうするかを、前もって打ち合わせていた。

「魔獣、か。やつら、それなりにやるって聞いたけど」
「しかも群れで動くからな。単体の強さは下忍より上、中忍より少し下って所だ。網としても護衛に大勢の人手を割くわけにはいかねえから、死なねえまでも大なり小なりの怪我人は出る」
「探索隊は10人程度だったわね? ………それなら私ともう一人………そうね。いのも随伴した方がいいと思うけど」
「いや、今度の探査はあくまで仮だ。予算も限られてるからな。医療忍者への依頼料は高えし、どちらか片方でいいさ」
「でも、私だけじゃ………もし、チャクラが足りなくなったらどうするつもり?」
「問題ないだろ。薬も持ってく。それに10や20の魔獣が来たって、サスケが手早く片付けてくれるさ」
「………分かったわ」

複雑な表情を浮かべながら、サクラは頷いた。

「それは重畳だ………で、他に話あるって聞いたが」

なんの話だ、と多由也はお茶を飲みながらサクラにたずねる。
サクラはそんな多由也をじろりと睨み、一言告げる。

「決まってるでしょ、サスケ君のことよ」
「サスケの事と言われてもな………具体的に言え」
「何で………何でサスケ君は木の葉に帰ってこないの?」

全部終わったはずなのに、と。
多由也は呟き俯くサクラを見ながら、めんどくさそうに頭をかく。

「ずいぶんと今更な………戻らなかった理由なんてウチにわかるか。直接聞けよ、あいつが決めたことなんだからよ。
 それに、木の葉に戻らなかった理由………大体の事情を知ってるお前なら、察することはできるだろうが」

木の葉の上層部と他国、人柱力の新しいシステムとの折り合いもあるしよ。多由也はそう言いながら、じっとサクラの眼を見返す。
サクラは、その目を逸らした。彼女自身、かつてのうちは虐殺の真相を聞かされた内の一人なので、サスケが里に戻らない理由については何となく察していたのだ。

「それは………分かってるわよ。でも…………」
「でももクソもねーよ。お前、他人の口からそんな大事な理由聞かされて、それですっぱりと納得できんのかよ」
「………分かったわよ。もう言わない。今度、本人に聞くから。でも………」

サクラは何事か言おうとして、口を開く。
しかしその言葉は喉に留めたまま。口を閉ざし、首を横に振った。

「ま、いいわ。私も諦めた訳じゃないし」
「お前もしつけーなー。そもそもお前とアイツって接点持ったのは下忍になってからだろ? それに任務中でも、そんなに接点なんて無かったそうじゃねーか」
「それでも好きなのよ!」

むんと気合を入れるサクラ。
多由也は心底うぜえと思いながらも、律儀に言葉を返す。

「ま、お前の医療忍者としての腕は、木の葉でもトップクラス。医療の観点から見れば、今度の任務に随行するだろうお前を歓迎するが――――そっちの面じゃあ、逆だぜ?」

むしろ、一昨日きやがれ。
多由也はにこりと笑い、そう告げた。

「えらく挑発的ね」
「知るか。あいつは渡さねーぞ」
「………なによその男前な返事。アンタって、もっと、こう、何ていうか………女らしさってやつを持ってないの?」

何でサスケ君はこんなやつ、とサクラはぶちぶち零す。

「それこそ本人に聞け………いや、やっぱりやめてくれ」

凹みそうだ、と多由也は何事かの言葉を想像し、手を立てて横にふった。

「言われなくても聞かないわよそんなこと。それより………そういえばアンタって、サスケ君の何処を好きになったの?」

「はあ? 何処がって…………」

そこで多由也は言葉につまる。

「いや、何でそこで悩むのよ………」

何かあるでしょ、とサクラが怒る。
多由也はサクラの怒った理由がわからず、取り敢えず思いつくものとして、もう一つの理由を挙げてみる。

「う~ん…………眼、かなあ」

明確でない多由也の一言。しかしその言葉に、サクラの眼が険しくなる。

「………写輪眼が好き、ってこと?」

血継が目当てなの。そう言いたげに、サクラは露骨に嫌悪感を顕にする。

「はあ? ………って、あったなそういえば、"そんなモン"も」

忘れてた、と多由也はお茶を飲みながら呟く。
サクラはそんな多由也を見ながら、不可解な面持ちを向けた。

「あったなってアンタ………ま、いいわ。それよりも、一緒に過ごしてたんならさあ」

何かあったんでしょ?と、サクラが多由也に視線を送る。

「私生活で良いところ、なあ…………ねえよそんなもん。あいつ、メチャクチャだらしねえし」
「はあ!?」

「いや、だってよ。脱いだ服をすぐに共有の洗濯かごに入れねえし。部屋に溜めるし。酷い時はタオルが床に落ちたまんまだし」

隠れ家での生活を思い出返しながら、多由也はしみじみとサクラに語る。
一緒に生活していた中でみえた、サスケの一面。多由也は、それを淡々と列記していくように語った。
それを聞いているサクラの眼が、どんどん険しい顔になっていることに気づかず。

「愛刀手入れした後の道具も出しっ放しにしてるし…………って、何で睨む」

「白々しいわね!」

分かってるでしょ、との怒鳴り声が茶屋に響いた。

「そんなもんだぞ」

「馬鹿にして。サスケ君はもっと格好いいにきまってるじゃない」

夢見る乙女の顔をしたサクラが言う。多由也はそれを鼻で笑った。

「―――は。あいつは格好いいっていうよりは、むしろ―――――」



続く言葉を聞いたサクラは、水をかけられた猫のような変な顔をした。











小池メンマのラーメン日誌

 後日談の3 ~重なる黒と赤











網の本拠地より、遠く。
火の国と砂の国の国境より少し南にある隠れ家に、サスケと多由也は訪れていた。

二人は先の遺跡探査が終わった後に、長期休暇を取ってこの別荘にやってきたのだ。

「あー………何だ、これ。埃だらけじゃねえか」
「流石になあ。4ヶ月放っておくと埃も貯まるさ」
「そうだな………じゃあ、後は頼んだぞ多由也」
「………心配しなくてもよ。はなから期待してねーよ、お前の家事能力なんかに」

いいからその食料を中に入れて、さっさといってこい。
多由也はそう言いながら、とじていた玄関の扉を開けて、家の中に入っていった。

「ただいま帰りましたっと………感慨に浸っているヒマはねえか」

先に片付けなきゃな、と多由也はつぶやき、気合を入れる。

「ウチは取り敢えず、そこら辺を片付けておくよ」

「ああ。俺は基礎修行の方を先に済ませておく………すまんな、せっかくの休暇なのに」

申し訳なさそうに、サスケ。
多由也はそれに対し、気にするなと答えた。

「ウチとしちゃあ、お前の腕が落ちる方が問題だ。気にするところを間違ってるぜ」

多由也は手にぶら下げている食料の袋を持ち上げ、笑う。

「旨い飯でも用意して待ってるさ、隊長殿」
「そりゃあ、頑張らない訳にはいかないな」

サスケはそれを見て、楽しみだと快活な笑みを返す。
荷物をおろすと、修行をすべく家の外へと出て行った。

そして森に囲まれた、細い道を行く。
サスケは修行時代には毎日のように通った道を見ながら、心の中で呟く。

(変わって、いない)

まだ弱かった頃、通った道。
サスケはその時の状況を思い返し、今の現状を比べた後にひとりつぶやいた。

「去り逝く人、巡り会えた人、か」

別離に永別、再会に逢瀬。居なくなった人が、新たに知り合えた人が、そして戻ってきた人が居る。
思えば色々とあったな、とサスケは思い返して道を歩いていく。
そして数分の後に、修行場へと到着した。

「懐かしいな………って言っても、まだ2年と少しか」

修行場に放置された修行に使う道具。それを見ながら、サスケは郷愁のようなものにかられた。
手裏剣術や打剣術を鍛えるために的とした木の板。いったいその的に何度クナイやらを投げ込んだんだっけか、と思い返す。

そして、顔色を変えず。一瞬の内に懐からクナイを取り出し、的に向かって投げつける。
予備動作を極限まで殺した投擲。カン、と甲高い音が鳴り、クナイが的の中心より少し外れた位置に突き刺さった。

「外れた、か」

中心より指一つ分。外れた所に突き刺さるクナイを見ながら、サスケは眉をしかめた。
鈍っている、と。

「鍛え直すか…………ん?」

修行を始めようとするサスケ。その時に、見慣れた物体を見つけた。それはいつかの日に押した、木の樽だ。

その上に紙が置いてあるのを見つけたサスケは、また眉をしかめる。
紙は何処からか飛んできたものでなく、きちんと折りたたまれて石の重しを載せられている。

「なんでこんな所に…………書き置きか?」

訝しげな表情を浮かべ、紙を手に取る。そして書かれていた文字の筆跡を見たサスケは、眉間に皺を寄せた。
見慣れた文字―――メンマの筆跡だ。

「まさか………」

あの最後の戦いの前に、メンマがここで修行を行ったであろうことは、サスケにも分かっていた。
ここで修行を行ったであろうことも。ならばこれは、その時に書いたものなのだろう。

つまりは死を決する戦いの前に書いた手紙である。
もしかして、有り得ないだろうが――――遺書の類ではなかろうかと、サスケは書かれている文字に目を走らせ。

だが間もなく、肩をカクンと落とした。

「 "押してもいいんだぜ、懐かしいドラム缶――――違った。木の樽をよ"………って、何書いてんだあいつはよ」

ウスラトンカチが、とサスケはぼやき、ため息をついた。
木の樽を延々と押す修行と、その時に味わった辛さを思い出してしまったのだ。

これは基本である足腰と忍耐を鍛えるために行われた修行で、確かに役にはたった。しかし単純すぎるこの修業はサスケには辛く感じられた。
終わりだと告げられた時は二度とやるかとも考えた苦行ともいえるもの。

押して押して押して押して押し切った日々。
大量の食料を抱えて運んだ修行は、まだ意味があるのでやり甲斐があった。
しかし実質的に無意味なこの修業は、本当に辛いもので。

「ったく、俺が今更そんな修行をやる馬鹿に見えんのかよ」


舌打ちし、コツンと樽を叩く。


「ん」


その中には、砂が入って。

木の樽の前に障害物はなく。引きずった跡は当時のままで。





――――そして、2時間の後。




「おま、サスケ!? なんでそんなにバテテんだよ!」

「く………恐るべし、ドラムか―――いや違った、木の樽」


何故か押したくなっちまった。

そう告げると、サスケは玄関に倒れこんだ。





―――――◆――――――






「あーえらい目にあった」

多由也に振舞われた、豪勢な食事の後。
サスケは後片付けを多由也に任せて、筋肉痛が走る身体を温泉に沈めていた。

「料理、美味かったな………」

また腕を上げたんじゃないか。先ほど食べた食事と、初めて作ってもらった時の味とを比較して、そんなことを思う。
料理ができると聞いて、ひと驚き。そして腕も確かだと聞いて、ふた驚き。実際に食べた後に、み驚き。
意外だと呟いて、それを聞かれてしまって。刺すような視線で睨まれたのもまた、サスケにとっては懐かしい思い出であった。

そう、思い出。しかも懐かしいと思えるほどに、色々と過ごしてきた日々。
それをひとつひとつ思い返しながら、サスケは浸かる湯の浮力に身を任せる。

浮き上がるように出てくる、思い出の光景。思い出し、笑いながらゆったりとした時間を堪能する。

「しかし、あいつには驚かされてばかりだな」

ぽつりと、サスケの口から言葉がこぼれた。
そして、それに答える声があった。

「何がだ?」

サスケの背後。木の板で仕切られた向こう側に居る多由也が、言葉を返す。

「………聞いてたのか?」
「今の言葉だけな。で、誰に驚かされて…………って、メンマのことか。動くびっくり箱だもんな」

納得納得、と多由也は一人で頷く。

「………ああ、そうだな」

特に異論の無いサスケは頷き、ごまかした。
今の言葉が多由也をさしているものだと悟られるのは、なんとなく気恥ずかしかったのだ。

そのまま沈黙する。多由也も特には言葉を発さず、黙って日頃に酷使している身体をほぐしていた。
時折湯の揺れる音が、二人の間で流れた。あたりからは、森のざわめきと何かが鳴いている音が聞こえる。

(………きまずい)

しかしここに、困っている男が一人。背後から聞こえる、身体を動かした時に聞こえる湯の音。
それがなんか、妙に生々しく感じられたのだ。

(この木の板の向こうには、生まれたままの姿の…………って何を考えてんだ俺は!)

しかし音は途絶えず。妄想も消えず。サスケは目を閉じて首を振り、それを振り払おうとする。
しかし、目を閉じた暗闇に映るのは、いつかの光景。ノックをせずに開けたドア、その向こうに見えた鮮やかな赤と柔らかい肌色のコントラスト――――

「―――サスケ?」

「はい?!」

唐突に投げかけられた、多由也の声。
それに対し、サスケは大声で返事をし、そのあまりの音量に多由也は驚く。

「何でそんなに大声で…………な、なんか鼓動の音も凄いぞお前」

自慢の聴力でサスケの高まりきった鼓動を察した多由也は、のぼせたんなら上がれよと心配そうな声をかける。

サスケは取り敢えず大丈夫だと返すが、

(いかん、話の流れを変えねば………!)

嘘が下手な自分のこと、この流れでいくとまずいことになる。
そう考えたサスケは、話題を変えた。

「九那実さ………九那実のことだけどよ!」
「な、なんだよ」

大声に驚きながらも、多由也は返事を返す。

「家………宿か。なんであのボロ料理屋の2階にある部屋にずっと泊まってるのか、知ってるか?」

住みにくいことは間違いないのに。サスケはそう言うと、また言葉を続ける。

「確かに料理屋としては一級だと思うけど、上の宿は………あれは酷いなんてもんじゃなかったよな」
「まあ、確かにな」

ボロの10乗。宿としては致命的なまでに老朽化していた部屋を思い返し、多由也は肯定の返事を返す。

「少し離れた場所に住む場所もあるのに、なんで――――」
「寂しいからだろ」

遮り、断言する。

「気が遠くなるぐらいに、長い間………ずっと、一人だったんだ。九尾として生きて、でも自分が何処にもいなかった。そして"自分"を見てくれる人が現れて――――」

少し前の、酒の席。白と一緒に飲んでいる最中、こぼすように語られた九那実の本音の欠片を思い返して、多由也は言葉を続ける。

「12年、ずっと一緒に過ごして、今は居なくなった…………お前は、一人の寂しさは知っているだろ?」

あるいは、ウチよりも。
その言葉に、サスケは沈黙で答えを返した。

「なら、分かるだろ?」

「………ああ」

そうだな、とサスケは頷く。

「起きている内はいい。やることもある。けど、寝るときに―――――灯りを消した部屋の中で。自分は一人なんだと、思い知らされる」
「しかもあの身体だろ? 並外れた体力がある分、身体の疲労度が少ないから………余計にな」

泥のように眠られたら楽なのにな。サスケはそう言って、頷いた。

「だから、残り香が。一緒に居た時の思い出が残っている光景を見ながら、眠りにつきたいと考えてるんだよ」
「………そういや、あいつも修行時代はあそこに宿泊していたんだっけか」

だから、寝床をあそこに選んだのだと。
知ったサスケは、それに至らなかった自分を不甲斐なく思った。
だがその胸中を察した多由也は、はははと笑う。

「心配しなくても、お前に対して乙女心の理解なんざ求めてねーよ」
「いきなり酷くないか!?」

サスケが反論する。
しかし多由也はそれを鼻で笑った。

「いやお前、先の任務でサクラに何言ったか覚えてねーのか?」
「ん?」
「何で帰らないのかって聞かれただろ。その時に、何て答えたんだ?」
「正直に答えただけだけど………"任務で向かうことはあっても、木の葉には戻ることはない。ここには兄貴と、何より守りたい人が居るから"ってな」

昔は仲間だったんだし、嘘はつきなくなかったからよ。
サスケがそう答えると、多由也はため息をついた。

「いくらなんでも直球過ぎんだろ………いや誤魔化せって言ってる訳じゃねーけどよ」
「何がだ?」
「………ウチが"それ"すると、嫌味にしかなんねーから、しねーけど」

それでも流石に同情しちまったと、多由也は呆れ声で言う。

「意味が分からないぞ」
「分かられても、ウチが困る」

ただでさえ女共に人気絶好調なのに、と多由也は再びため息をついた。

(香燐を筆頭に、侍部隊からの出向の――――蓮、だったか)

侍の中でも、上から五指に数えられるというポニーテールの剣士を思い出し、多由也はため息をつく。

(手合わせの際に一方的にぼこられたのに、何でああなっちまうんかなー)

仕方ねえけど、と多由也は半ば諦め顔で空を見上げた。

「訳が分かんねえ…………」
「気にすんな。それが多分、世界のためだ」

主にウチの、とは声に出さず。
この面と性格で女の扱い心得られちゃあ、ダース単位で女が出来ちまうと多由也は心の中だけで呟いた。

(まあ、メンマに比べたらマシだけどよ)

あの、運命を決める一戦と言っても過言ではない決戦の後。
それを中継されて見ていた忍者共の反応は劇的だった。

曰く、最大の英雄。強大も極まる敵に対し、伝説の尾獣を従えて身一つで挑んだ、"最も新しい伝説"。
女どもの憧れになるには十分だ。ましてや、本人は死んだと思われているのだ。

ミーハーなくのいち、特に下忍やアカデミー生の間では、"うずまきナルト"という英雄の名は、やかましい程に騒がれているのを多由也は聞いたことがあった。

(でも、選んだんだよな)

身を呈して、と聞いた後に多由也はそう思った。
命を賭けてまで、守りたい人。図抜けた善人とも言いがたい、ある種自己中心的な倫理観と行動理論を持つメンマのことを、多由也はある程度分かっていた。

彼が命を賭けてまで、と実行したのだ。その想いの強さは、九那実を除けばある意味誰よりも知っているぐらい。
メンマは選んだのだ。好きな人を死なせない。一人を選んで、悲しませたくないと。あるいは失いたくないと、そう思って命を差し出した。
それは女にとっては、何よりも嬉しく。そして悲しいことだろう。まだ死んでいないとは多由也自身も信じていたが。

(失いたくないから、か――――焦がれるぐらいに)

まるでお伽話のような恋。
そこで――――多由也は、ふと考える。

(そういえば、何でこいつは………ウチのことを意識したんだろ)

外に、戦いに出る前。隠れ家に居た頃からお互いにどこか意識しあっていたことは、多由也も感じていた。
しかし、そのきっかけはなんだったのだろうかと今更になって考える。

(白みたいに女らしくねーし、眼つきも悪いし、口も悪いし、きっかけが………いかん、凹んできた)

世間一般と照らし合わせた場合の、自分の女性としての欠点を挙げていくうちに、多由也のテンションはだだ下がりになっていった。
しかし俯いているのも性に合わないと、空を見上げる。

その時、顔にわずかに落ちる水滴に気づいた。

「小雨か………」
「そうみたいだな」

多由也が呟き、仕切りの向こうにいるサスケも同意する。

ぽつりぽつり、と水の粒が顔をうつ。

(雨、か)

上半身をうつ雨。湯につかっているため寒くはない。
むしろ心地良い、優しい霧雨にうたれながら。


(そういえば、こいつを意識したあの日も…………)



多由也は目を閉じて。

断片しか覚えていない、その時のことを思い出していた。




―――――◆――――――



外は雨。目の前には、布団の中で唸るサスケと、額に手を当てるマダオ師の声。

「う~ん、風邪みたいだね………無理をするから」

達したい目的を考えれば根を詰めるのも無理ないけど、と苦笑しながら。

「じゃあ、申し訳ないけど頼むよ」
「ウチがこいつを?」
「うん、看病の方よろしく。僕達は食料を確保しなきゃならないし、もしかしたら村の方で風邪に効く薬を売ってるかもしれないし」

備蓄も少なくなってきたしね、とマダオ師が言う。
白と再不斬さんは雨の中で試してみたい術があるとかで、朝から出かけている。

無理に断る理由もない。それに、読みたい本―――――マダオ師が簡単にまとめた、論文のようなもの。
チャクラと音韻術の可能性について書かれた秘文書もある。

それを読みながら、看病をすればいい。そう考えたウチは、分かりましたと返事をする。

「ありがとう。じゃ、頼むよ」

去っていくマダオ師。

そうしてウチは布団の横に座布団を敷いて座り、論文を読み始めた。替えの布は用意している。
時間がくれば熱の原因になるというか熱を冷ませるとかいうその脇下に、白が冷やした布を入れるだけだ。
時間を計りながらウチは、ぱら、ぱら、と手にある論文を一枚一枚。読みながら、書かれた内容を自分なりに理解していく。

ひょっとしたら間違っているかもしれない。買い物から戻ってきたらマダオ師に聞けばいい。

(………雨足が、強くなってきたな、屋根を打つ雨の音が大きくなった…………ん?)

そんな、外の様子と出かけた5人を気にしている時。
布団の中で唸っていたサスケの声が止み。気づけば、こちらに視線を向けていた。

「………かあ、さん?」

「………は」

鼻声で、か細く。告げられた言葉に対し、ウチは「誰が母さんだ!」と反射的に叫びそうになる。
だけど横になりながらこちらに視線を向ける、サスケの。

瞳の中に映る光の、そのあまりの弱々しさに何も言えなくなった。

(………こいつ)

修行の時に見るそれとは違う。弱々しい、別人のような瞳を見たウチは、思わず黙りこんでしまった。
修行を傍らに見学する中、サスケの眼差しを見る機会はあった。死の森で見た時とは違う純化されたその意志の輝きを見て、大したものだと思ったものだ。
でも、今のこいつは違う。

(なんて、弱い――――)

今にも消えそうな。そんな表現が似合うほどに儚い瞳の色。
それを見たウチは、黙って目を逸らすことしかできなかった。

黙ること数秒。するとサスケは気がついたのか、熱で赤くなった顔を更に朱に染めて、慌てた様子を見せた。
身体をわずかに起こしながら、言う。

「ち、ちが、今のは――――」
「いいから………安静にしてろ」

鼻声で、声も枯れ枯れ。
それを聞いたウチは、そのばかをじっと見かえしながら、言う。

「風邪ひいたときゃ、弱気にもなる………分かってるさ、そう言いたくなる気持ちもよ」

ウチもそうだったし、と小さく呟く。

「別に誰にも言わねーし、笑いもしねーよ………だから、大人しく寝てろ」

茶化さず、答える。するとサスケは安心したのか、ウチの言う事をきいて、身体を横にする。
そして再び目を閉じる。

ウチも論文に目を戻す。

再び、ぱら、ぱら、と論文を見ながら。
でもさっきとは違って、没頭できずになんとなくの時間を過ごす。

そして、10分は経っただろうか。ふと、サスケが声をかけてくる。

「なあ…………お前も、自分の母親の事を覚えてんのか」
「当たり前だろ………忘れたくたって、忘れられねーよ」

大蛇○には忘れさせられたんだけどな。自嘲しながら答えると、サスケはちょっと黙って、その後に問いかけてきた。

「お前のおふくろって…………」
「ずっと前に死んだよ。ウチの目の前でな」

そこでウチは、端的に説明をした。できるだけその時の光景を思い出さないよう、無表情に無感動を努めながら。
旅の途中、忍者の忍術で崩れたであろう道。それを迂回して獣道に入った直後に、山賊に襲われたこと。

後で聞けばそれは近隣の村の元村民で、道が塞がれ、田畑を焼かれ、家を壊され。
仕方なく山賊に身を落とした奴らだったという。

「山賊は………何とか、凌いだんだけどよ」

その後に野犬の群れに襲われたのが致命的で。深手を負って逃げた後に、病を患って死んでしまった。
墓はその村近くにある共同墓地に作った。強がってはいた母が、実はさみしがりやだと知っていた多由也は、皆とともに眠りにつけるようにと、村人に頼んだのだ。

(そういや、母さんが死んだ日も土の下に送った日も………こんな雨が降っていたな)

窓から見える外。今や豪雨と言っていいぐらいに強くなった雨を見ながら、思い出す。
枯れるぐらいに泣いた、大好きだった母が死んだ日のことを。

そこから先はあまり覚えていない。村が貧しくて、そのままそこに住める雰囲気でもなくて。僅かな路銀を頼りに移動して――――そこで、大蛇丸に拾われたのだ。
今になって想い出せば、大蛇丸は自分の赤い髪を凝視していた。そして何かを察したかのように笑い、言ったのだ。

――――力は欲しくないか、と。
そして母を守ることもできなかったウチは、知らぬうちに力を求めていて。
その言葉をきっかけに、そんな自分に気づいて。生き延びたかったという気持ちもあるが、何よりこれ以上弱いままで居たくなかったのもあった。
でも、結果があれだ。母の遺言を破るどころか、この笛とあの夢に泥を塗ってしまった。

「だから、音を抜けた……?」
「ああ。これ以上、裏切りたくなかったからな」

夢を、母を。そう告げると、サスケは口を閉ざした。そして視線を逸らす。

(………顔に、でちまったか)

気を使ったのだろう、サスケは黙ったまま、咳を出しながら。ばつの悪い表情を浮かべていた。
やはり、想い出せば泣きたくなる。表情も、変わってしまっていたのだろう。

それを見たサスケが、気を使ったのか。

(………悪いって思ってるけど、口には出し難い、ってところか)

天邪鬼なのか、謝罪の言葉を使うことに慣れていないのか。
ウチは情けない顔に複雑な表情を浮かべているのを見て、後者だなと直感的に判断した。

「母さんのことなら、謝る必要はねえよ………死んだことも。昔の、ことだから」
嘘だ。吹っ切ってなどいない。自覚しながら言うと、それを察したのかサスケが言う。

「…………そうか。でも…………」
「いいさ。ウチも、お前の過去は聞かされたからな」

同情されたくないのも分かるだろうと。告げるとサスケは、黙ったまま頷いた。

「そう、だな」
「そうさ」

答えながら、思う。その弱い声を、押せば吹き飛ぶような声を聞いて。
ウチは知らず、胸の奥から湧く何かを感じていた。

(似合わない顔してるぜ………でも、これが今のこいつなのかよ)

かつて死の森で見た、ひねた光は見られない。
白も言っていた。"サスケ君はもっと、純粋な人なんでしょう"と。聞いた時には白の正気を疑ったものだが――――成程、納得できる。

こいつは弱い。そして純粋だ。だから、強い。一見すれば矛盾している心を持っている。
純粋で、誰かに認めて欲しくて頑張って。その挙句が裏切られて、怒りに飲まれて。裏切りが偽りのものだとしって、悔やんで。
そして今は、取り戻すためにこうして無茶をする。呆れるぐらいに単純で、心が弱くて、それでも強くあろうとする。
プライドが高いから、人前で泣くこともできないのだろうことも分かる。

ずっと引きずっているけど、素直にそれを外に出せないということも。
でも足を進めようとするぐらいには強い。それは、修行の時に垣間見たあの瞳の輝きを見れば分かる。

(なんか………危ういな、こいつ)

納得できる材料を揃えて、矛盾の無いように説けば面白いぐらいに勘違いしてくれる事だろう。
傀儡にするにはもってこいの性格。復讐だけを考えてずっと生きてきたせいか、物事の裏というか、自分がやろうとすることを深く考えないのだ。
自分の行動によって、どのような影響が発生するか分かっていない。ようするに視野が狭いのだ、が――――

(変わりつつあんのか? 少なくとも、嫌な感じはしなくなったし)

マダオ師達の判断は正しかったのだろう。こいつをここに連れてきたのは、間違いではないと思う。

(それにこいつ、意外と面白そうだ)

具体的に言えば、からかい甲斐のある性格をしている。つつけばきっと、激しく反応してくれるんだろう。
そういえばマダオ師達もこいつのことを時々からかって遊んでいたことを思いだす。

(風邪が治りゃ、からかってみるか………ん?)

布団が動く音。見れば、サスケは身体を起こしてこっちを見ている。

「寝てろっつっただろ」
「ああ。でも、今はそれより――――」

ちゃんと謝っておく、と。

そう言おうとするサスケの―――――鼻の穴から一筋の鼻水が垂れた。

「うおっ!?」

瞬きもすればこそ。サスケは布団の横にある鼻かみをしゅばっと手に取り、素早く鼻水を拭きとった。
しかし、それももう遅い。ウチは、見てしまったのだ。

「………」
「………っ」

見つめ合う瞳。サスケの顔が真っ赤に染まる。
それを見たウチは、耐え切れず吹き出してしまった。

「く、はははははっ!!」

床を叩きながら、腹を抱えて笑う。見た目イケメンの鼻から垂れる鼻水。シュールにも程があるってもんだ。
真っ赤に染まる顔が、余計に笑いの衝動を助長させる。

「わ、笑うなっ!!」
「わ、悪い! でも―――――」

腹を抱えながら、横目で見る。するとまた、思い出してしまった。
駄目だ、耐え切れん。


その後私は腹筋が痛くなるぐらい笑った。
もちろん笑われたサスケはふてて寝てしまったのだが。




―――――◆――――――


「あれは傑作だったなあ………」

多由也は遠くを見つめながら、その時のことを思い出した。
その後も酷いものだった。笑い転げている多由也を見たメンマが事情を聞いた後に言った言葉。
「きたぜぬるりと」を思い出し、その場は再び爆笑の渦が生まれた。

その時の光景。真っ赤な顔のサスケと、久しぶりに笑ったこと。
それらを思い出した多由也は、満足気に頷いた。やっぱりこいつ格好いいとは違うぜ、と。

「おい、なんか嫌な事思い出してないか?」

「いや、全然?」

からかうように言うと、それきりサスケは黙った。ひっかかるものはあるけど、強く言い出せないのだろう。
そんな様子を見て、多由也は心の中だけで呟く。

(格好いい? どこかだよ)

後ろで若干拗ねているだろうサスケを感じながら、多由也は小さく笑った。
格好いいというよりは――――可愛い。
照れた時の真っ赤な顔などが、最たる物だ。

格好いい顔など、戦う時にしかしない。

(ウチとしちゃ、こっちの顔の方が好きなんだけどな)

ころころと変わる感情と、それを処理しようとしてできない。感情豊かだけど不器用な所が、こいつの魅力かもしれない。
からかいの果てに気づけば好きになっていたサスケの事を、多由也は想う。



―――――◆――――――



一方で、サスケの方も思い出していた。

奇しくも多由也が思い出した光景と、同じ。あの時、風邪をひいた日の、雨の夜の事を。



―――――◆――――――


頭痛と吐き気が襲う中。俺は布団の中で、先ほどのあいつの笑い顔を思い出していた。

屈託の無い、含むもののない笑顔。
こいつも笑うんだな、と思ったと同時に――――

(晴れ晴れとした笑顔だったな)

悪いといいつつも、盛大に笑いやがった。でも、そこに嫌味は含まれていない。
そして連鎖的に思い出す。語られた過去と、これから先に挑むための決意を。

ただ、強い。正直な感想を抱いた。
辛い過去から目を背けず、取り戻せた今に感謝して前に進む。断固たる決意というやつだろうか。
言葉の端から、絶対に退かないと、そういう意志を感じられる。


正直、見惚れた。元の顔が整っているのもあるが―――――それが無くても、純粋に綺麗だと。
女らしさとか、そんなことは関係なく。ふと見えたその笑顔に、意識を奪われたように思う。

俺を見る瞳も、心地良いものだった。ただまっすぐに、俺だけを見ていたのか。
見る目に含まれる光に、余計なものが消えていたように感じたのだ。使命や血継限界などという、煩わしいものがなくなっていたように思う。
サクラとはまた違う。飾り立てた俺ではなく、何かを投影した目でもなく。なんの虚飾もない、俺自身を見ているように感じられたのだ。

そう感じたのは、そう。
あの時は、ただ一人の俺と。俺の顔を見て笑う、あいつだけだったから。

(………何を考えてるんだ)

熱のせいか、余計なことを考えてしまった。
でも動悸が激しい。妙だ。

そんな時、あいつがタオルを片手に戻ってきた。
思わず寝たフリをしてしまう。そんな俺を見ながら、多由也は横に座ったようだ。

「おい? ―――寝た、か」

確認の言葉。俺は黙って、布団をかぶり目を閉じ続ける。
すると、ふと笛の音が聞こえる。


(これは………開発中とかいう、術?)

毎夜聞こえた旋律に似ている。身体の芯に訴えかけ、力づくで癒してしまうその術。
実際に傷が癒えるわけでもない。でもただ、内を洗い流される感覚を覚えるその術は、厳しい修行と風邪とでボロボロになった自分の身体によく染みる。

綺麗な音の粒と、清流のように流れる旋律。
艶がある、というのか。夢の中のような、でも生きている。生々しく、それは真に生命の旋律。

暖かい何かが、心に訴えかけてくる。
それは言葉ではなかったけれど。

気づけば、俺は涙を流していて。
意識が遠くなっていった。



――――目覚めたのは、一時間後。寝たフリが熟睡に変わり。いつの間にか、風邪なんか吹っ飛んでいた。

目を開けた後、視界に飛び込んできたあいつの笑顔が。

歯をみせてしてやったりと笑うあの顔が、太陽を直視した後の名残のように。
いつまでも目に焼き付いて離れなかったのは覚えている。



―――――◆――――――






そして、しばらく。

からかう女と、からかわれる男。同じ夢を抱きながら、戦い抜いた二人。
過ごした日々の中で感じた互いの男と女。

同じ切っ掛けを持って、ひとつ屋根の下で夢を目指し。
戦友とも言える間柄となって日々を戦い、やがては何かを求めるようになった二人は、沈黙が支配する夜の空の下。

ただ黙ったまま相手を感じていた。気づけば傍に居て、それが当たり前になった二人。
ふと離れたくないと思い辿りついたこの場所で、二人はそれぞれの奥にある熱を燃やし続けていた。


その炎は消えず――――そして、互いにそれを理解していた。


「くっ」

「はは」


ふと、笑い声が重なった。


心地良い湯の中で昔を思いだした二人は、どちらともなく言葉を紡いだ。



「なあ…………」


「ん?」


「あの荷物、見ただろ? ―――――旨い酒が手に入ったんだ」

だから、風呂でた後にそっちの部屋に行ってもいいかと。

片方が言い――――片方が、うんと答えた。

互いの顔は真っ赤である。それは湯にのぼせたせいか、あるいは。






―――――やがて黒の少年と、赤の少女は部屋に消えた。








そんな隠れ家を、空に浮かぶお月様が見守っていた。






祝福するように、ほのかな月の光を降らせて。






































あとがき

あれ、なんか役割的にヒーローとヒロインが入れ替わってね?

ちなみに二人のこの後は、それぞれのご想像にお任せします。





[9402] 後日談の4 ~帰ってきて~
Name: 岳◆3d336029 ID:0347f440
Date: 2011/04/01 22:21
ありがとう、さようならを経て、俺は今此処に居ます。

英語で言えばメンマ、カムバック。
いや、精神世界での2年は本当に長かったですよ。基本的に話し相手が六道のとっつあんしか居ないし。
時折遠眼鏡の術使って、みんなの様子は覗いてましたけどね。

でも動けるのは月に一度くらいだったし、見る場所も選べなかったから、誰が何をやっているのかはほとんど把握していなかった。

まずサスケは、網の実働部隊の長となったらしい。補佐はシン。
前々から名前と人柄についてはある程度知られていたし、実力も申し分ないとしてすぐに認められた。

だが、それには多由也の存在も大きかった。
多由也の音韻術による治療は素晴らしいの一言で、特に孤児院や病院に居る心的外傷によって心を病んでしまった人達の治療に、著しい効果を上げた。
その苦しみを知っている人達や、家族に心を病んだ者を持つ構成員達は、多由也が女神のように見えたのだろう。
必然的に、多由也の信頼を―――恋人で、多由也が少なからず頼りにしているサスケにも、少なからぬ信頼が生まれる。
ので、反発はほとんど無い。
侍達との同盟も上手く進んでいるようで、数部隊、精鋭と呼ばれる者たちが協力してくれていると聞いた。
特にミフネの孫とかいう若い女性剣士。いずれは上忍とも渡り合えるだろう、歴代の侍の中でも特に目を見張る才能を持つ逸材らしい。
今はまだチャクラの扱いが未熟で、サスケにこてんぱんにやられているらしいが、いずれは追いつくかもしれないとのこと。

まあ、サスケには写輪眼という奥の手があるのだけれど。
でも本人曰く、「なるべく使いたくない」らしい。殴り合う前に瞳術の幻術で相手を昏倒させると、何だか負けた気分になるから嫌だとか。
どうしようもない魔獣や、任務優先の時、また物理攻撃が通じない海月―――海月? のような相手と戦う時以外は、基本的に使わないんだとか。


で、まあ、今の所は上手くいっているらしい。
だがしかし、人生万事塞翁が馬。また新たな事件や問題が発生するだろう。
が、何とかやっていくことだろう。イタチも傍に居る。

一時の感情に流されて馬鹿をやることも、ないだろうから。


次に、シンとサイ。
シンはサスケの補佐、サイはザンゲツの護衛だ。

特に敵対勢力が居る訳でもないが、危険は常に潜むもの。
用心しておくにこしたことはない。

あとシンだが、何やら灯香――――確か、半蔵の姪だったか。
医療忍者の彼女と、何やら一歩前進したんだとか、なんだとか。

復讐の対象が居なくなった後、そちらの方向に進むと決めたらしい。
心や感情の方も、前に比べてずっと穏やかになったとは、常に彼女を見てきたサイの談。

女性らしさが見え隠れし、シンも戸惑っているのだとかなんだとか。
でも割とおっぱい星人のあいつのハードルを越えるのはきついかもしれない。

あと、"シンの何でも相談室"というのを開設したと聞いた。
深く聞くのは危険な気がしたので、追求は避けたが。

サイはサイでいつものとおりだと言っていた。時折兄をおちょくったり、紫苑とお茶を飲んだり、同じザンゲツの補佐役―――というか人間鳴子と評される赤い髪の変態、香燐と話をしているとか。
しかし香燐、チャクラ感知に長けている上に、いざとなれば治療もできるとは、専属護衛として一組織に一人は欲しい貴重な人材とも言える。
私生活ではサスケをプチストーキングしているらしいが、これも深く聞くのは避けた。シンのやさぐれ具合が半端なかったし。君子危うきに近寄らず。危険察知はお手のものだ。
大抵がその察知を無視して突進してくるのがたまにきずだが。

閑話休題。

重吾と音の4人衆は土木方兼、護衛部隊に移されたらしい。
というか人材がカオス過ぎると思うのは俺だけか。まあ、4人衆呪印の影響も消えたらしいし、重吾も多由也の助けを得られたお陰か、呪印のチャクラを自分でコントロールできるようになったらしいし、問題はないと思うが。
でも混沌としているのは間違いないだろう。


隠れ里に至っては、その様相を変えたらしい。
武闘派の発言力が著しく低下し、平和派の発言力が高まったお陰か。

影に関してだが、砂隠れと雲隠れはそのままで、岩隠れも変わらず。
木の葉は綱手姫が引退して、次代は波風キリハに。
霧は先の一戦の功が認められ、桃地再不斬が水影に。

責任を取る、というのもあったが、次代に託せるだけの人材が居たから、ということもあるだろう。
それもそうだろう、木の葉や霧はともかく、砂と雲と岩――――我愛羅やオオノキ、エーに変わり、変化の時代を乗り越えられるだけの人材は、まだ育っていないだろう。
再不斬に関しては、問題ないだろう。もともと、それだけの実績とカリスマは持っている。あと、照美メイがそう望んだから、というのもあるらしいが。
その理由は定かではないが、もしかしたら婚活とかしているのかもしれない。綱手は引退と同時に結婚したらしいし。

他の面々も、うまくやっているよう。
これならば命を賭けた甲斐があるというもの



――――――と。

そこまで考えた時、横から声が聞こえた。



「何を遠い目をしている?」



紫の瞳をしている、美しい巫女である紫苑の声が。











=================


小池メンマのラーメン日誌


 後日談の4 ~帰ってきて~


=================







「何を遠い目をしておる、ほら早く飲まぬか!」

「あ~、紫苑。俺の記憶が確かなら、お前確か未成年のはずじゃあ?」

「お神酒を嗜むのも巫女の務めじゃ」

ドヤ顔で一言。アルコールでほのかに赤くなった顔が可愛いというのは内緒だ。

「って、巫女ってそうなんですか菊夜さん! って既にいねえよおい!?」

君子危うきにと見たか。気配は綺麗に拭き取られていた。
バージョンアップした俺に気配を悟らせないとは、やるようになった―――じゃ、なくて。

「それでいいのか護衛忍者………」

「いいのじゃ。なんじゃ、面白くないのう。硬いことを申すな、ほれ酌じゃ」

「いや、すでに結構な量を飲んだんだけど」

そう言うと、紫苑は悲しそうな顔をする。

「なんと………妾の酒は飲めんとな? そうじゃの、約束さえ忘れられるような関係じゃしの………」

明るかった顔に影が落ち、頭がどんどんと落ち込んでいく。

「ああもう、分かったから!」

たまらず酌を受け取る。ていうか一人称久しぶりだなおい。

「…………」

「ふむ、どうしたのじゃ?」

「いや、あいつが居た頃はここでツッコミが入っていたなあ、って」

相方が居ないのよ相方が。

「ふむ、シンでも難しいか」

「ああ。あのキレにはまだ到底及ばない」

うざさ加減も。

「ううむ、それは人として喜ぶべきか悲しむべきか………」

「笑えばいいと思うよ」









「おい、何か笑い合ってるぞあの二人」

「いい雰囲気っぽいが………放っておいて大丈夫なのか?」

こちらも酒の真っ只中。
メンマと紫苑を除いたメンバー、その一人であるサスケが九那実に声をかける。

「大丈夫ではない、が――――」

色々と話したいこともあるじゃろう、と。
表面上は落ち着きを見せる九那実は、ぐいと酒を飲んだ。

その様子にシンが戦慄する。

「く、これが正妻の余裕というやつかァ」

「ま、まだ正妻じゃないわ!」

白い手の拳が閃いた。








「おおっとシン君吹っ飛ばされたーっ、って相変わらず騒がしいなあ。紫苑も何かうきうき気分だけど、みんなが集まるといつもこんなん?」

「普段はもうちょっと、な。そもそもこうして集まったこともない。機会も………一周忌と二周忌の時にその機会はあったのじゃが」

そこで俺は言葉を遮る。

「え、一周忌って誰の?」

「誰のって、お主の」

「………俺?」

「おいおい、今更じゃろう。お主、死んだことになっていたのだぞ。ちなみに木の葉では国をあげての盛大な追悼式が行われたって菊夜が言ってた」

「ちょ、まじで?」

「こんなことで嘘をついてどうする。というかお主、自分がやった事を分かってないのか? 何を成し遂げたのか」

「えっと…………なんかすっげえでかくて黒いのと喧嘩?」

「うおい、小さくまとめるな。というかそれじゃあ十尾がゴキブリの扱いに―――」

そこまで言って紫苑は想像してしまったらしい。俺も同じく、思い描いてしまった。
そう――――山のように巨大な、ゴキブリの姿を。

「………ごめんなさい」

「いや、妾も悪い」

頭を下げあう俺と紫苑。
それだけ、心というか健全な精神に与えられたダメージは大きかった。

「ともあれ! お主は五影をも制する、山のように巨大な最強の尾獣を単独で撃破したのだぞ。その光景のほとんどを見ていた忍者たちの間では、お伽話に出てくる英雄のような扱いにされておる」

「え、ひでお?」

「え・い・ゆ・うじゃ」

「それはまた面倒くさいことに………」

「………面倒くさいって、お主そういうものが好きだったんじゃあ?」

シンから聞いたぞ、という紫苑の言葉に俺は首を振った。

「そこまで大仰なのは流石に。助けたい人だけを助けられればそれでいいよ」

元より、究極的には九那実を筆頭とするわずか数人のためだったし――――という言葉は口の中にしまいこんだ。
わざわざ言うのも照れくさいし、言う理由もない。

「英雄ねえ………まあ、死んだと思われているから、これ以上忍者達と関わることは無いし、いいか」

追っ手のない人生って素晴らしいよね! と俺はガッツポーズする。
人目を過剰に気にする必要もないし。

「妹は泣いていたがな」

「うっ………でも、俺が居てもさあ。あっちはあっちで火影に恋人に、充実した生活を送っているだろうし」

血縁だからと言って、一緒に居ることが最善とは限らないのだ。
と、そこまで言った所で紫苑は首を傾げた。さらりと、特徴的で、しかし綺麗な髪が横に流れる。

「お主、知っているのか?」

「まあ、部分部分は見れたから。六道のとっつあんと一緒に」

「六道………そういえば聞いていなかったな。お主、どういった生活をしていたのじゃ?」

「いや、生活というか、死活というか」

肉体が再構成されるまで、取り敢えずは月の中に退避。

そこで色々なものを見た。この世界の他、外側にも広がっている様々な世界を。

例えば、桃色の少女が騒動の中心でバカ犬と叫ぶ世界とか。
桃色の髪を見て、誰かを思い出そうとして思い出せなかったのは内緒だ。

例えば、ぽーひーという効果音と共にちたまを吹き飛ばす世界とか。
流石の六道仙人も「あれはねーよ」とつぶやいていた。

見るだけで干渉もできないらしいが。というかしたくないよね。特に後者。

「ふむ、つまりは引きこもりか?」

「そう、封印術"天岩戸"の中でね」

「はあ?」

ボケてみるが紫苑には微妙な顔をされた。
あ、そういえばあっちの神話だったっけ。

「しかし、その割には腕は鈍っておらんようじゃが?」

「まあ、男二人………しかもある程度戦いを知っている男二人で、やることなんか限られてくるからね」

そう、割と体術もイケル口だった六道のとっつあんと組み手を繰り返していたのだ。
術なしの、でもチャクラによる肉体強化はありありの格闘技戦。

平行世界の格好いい武術をテーマに、それに習った体術運用による限定戦が特に燃えた。

後でとっつあんは、「肉体、身体を動かす感覚を無くさないように仕方なく」とかなんとか言っていたが、あれは絶対に楽しんでいたに違いない。

「ま、殺し合いじゃない殴り合いってのは嫌いじゃないから。これだけ身体が動かせるようになると、特にね」

修行の果てに得た、鍛えられた身体。それを駆使し、思った通りに身体を動かすというのは、存外に楽しいものなのだ。
ラーメンとは比べるべくはないが。

「そういえば、そっちの方も腕を上げたらしいが…………新メニューには期待してよいのか?」

「いや、これからだよ。構想を練る時間だけは十二分にあったけど、実践するとなればまた違うから」

料理は水物。思い………思考だけでどうにか出来るほど、容易いものではない。
それだけ、味の奥は深い。海溝の底にある深淵に至るのは、ごく一握り。

「でも、夢のラーメンを完成させるのには、その底にまで辿りつかなきゃならんし」

「ふむ、難しいものなのだな………困難な未知に挑むとは、大したバカっぷりじゃ」

「でも、自分が描いた夢だからな。何より今までように、人を傷つけなくても済む夢だし、やり甲斐がある。まあ、一代でそれを成せるとは思っちゃいないけど」

「………ふむ?」

ぴくりと、紫苑が不可思議な硬直を見せる。
何か耳がダンボになってるような。

「いや、まあ、ね。誰かに何かを受け継がせるというか………受け継いでくれる人を探すのも課題かな。一代で消させたくはない夢だし」

「ふむ、奇遇じゃな。我もこの血を絶やすわけにはいかん。巫女の血を受け継がせる必要がある………」

と、紫苑がこちらに身体を寄せてこようとした時だった。

俺と紫苑の間を抜けた何かが、スコン、と甲高い音を立ててカウンターに突き刺さった。

「………は、箸?」

見れば、見慣れた割り箸だった。線香のように、あちこちから煙を上げていたが。
ひょっとしなくても摩擦熱なのか。

呆然としている俺と紫苑の背後から、声がかかる。

「すまんな、手が滑った」

朗らかな声で、九那実が謝ってくる。
激しくツッコミたい俺だったが――――声の裏にこめられた何かに、沈黙は金だと悟らさせられた。

「ふむ、手が滑ると危険じゃからのう………ま、気をつけた方がいいの」

九那実と同じくらい朗らかに、紫苑が返す。

やおら二人の間に戦いのゴングが鳴らされた。

俺は助けを求めサスケ達が居る方のテーブルを見たが、一斉に視線を逸らされた。
多由也もイタチもいつの間にか戻っていたシンも、何故かシンの横に座っている灯香も。
菊夜さんだけはこちらを向いていたが、視線の先には紫苑の姿。

え、がんばってとかやめて下さいよ姉さん。

ちなみにサイと、見覚えるある花火師―――小鉄と言ったか。
その二人は顔を逸らしながらも、「末永くと言わずに今すぐ爆発しろ」と書かれた板をこちらに見せていた。

そんな他人に扮した皆をよそに、いつまでも続くと思われていた緊張の空気はすぐに萎む。

「ちっ、ちょっとぐらいいいじゃろうに。お主らこれから旅をするんじゃろう?」

「な、何処でそれを!?」

「聞いてはおらん。しかし、察せんでか。お主が旅をするために貯金をしておったことなど周知の事実!」

「か、隠しておったのに!?」

あっちのテーブルから「あれで隠してたのか」と驚愕の声。

「お主も、付いていくのだろ?」

「ああ。ちょっと、とっつあんからの頼まれごともあるしな。旅をしながら修行も出来るし、学ぶこともできるから」

それに何より、約束なんでな。そう言うと、紫苑は口をへの字に曲げた。

「………妾も行く」

「へ?」

「妾も付いていく!」

「いや、だって…………無理と思うけど」

俺と九那実ははっきりいって体力おばけだ。お嬢様然としている紫苑が付いてこれる訳がない。

「心配ご無用じゃ、菊夜と一緒に修行をして、体力だけは付けたからの!」

自信満々に紫苑が言う。見れば、ウエスト辺りが引き締まっているように見える。
しかし、それだけで付いてこれるとは思わない。それに、トラブル体質である俺たちの旅は危険を伴うものになるだろう。

「元より承知の上じゃ。なに、総合的な防御力で言えば誰にも負けん自身があるぞ」

「身の回りのことは?」

「自分でする。一緒に旅を………生活をするとなれば、それが最低限必要なこのなのじゃと教えられたからの」

ちらりと多由也とサスケを見る。二人は横目でこちらの様子を伺っていたが、俺が見るとさっと目を逸らした。

(………まあ、いいか)

というか、断る術を持たない。紫苑の目はそれだけ輝きに満ちていた。
駄目と言えば、その瞳は哀しみの色に染まるだろう。それに耐えられるとも思わない。

(………色々なものを見たい、という所か)

数年前まで、ずっと目が見えなかったのだ。それも無理もないことだと納得していると、九那実と紫苑の二人から冷たい視線が浴びせられた。

「………気づくのに、12年。それでもお主はこやつと共に行くのか?」

「ふん、上等と言わせてもらおうかの。それに今ならば付かず離れずおったコブもない!」

「よくほざいた! ならば多少の無茶はァ!」

「承知の上じゃ!」

紫苑がぱちんと指をならす。
すると、さっと向こうのテーブルから菊夜がかけつける。

「どちらの方法で」

「爽快コース!」

告げ、紫苑は九那実の目を真っ直ぐに見る。
ふっと、九那実が笑った。

「………承知致しました。それでは、準備を」

あっという間の展開。はっちゃけ過ぎる紫苑と、周囲から立ち上る歓声を何処か人事に、真っ只中に居るはずの俺は意味がわからないまま、ただ呆然とするしかなかった。

そんな俺をおいて、事態は進む。そこからはあっという間だった。

店の真ん中にでんと円のテーブルが置かれ、その上に酒が並べられる。
傍には灯香。その円の外には観客というか野次馬ども。

「それでは、お二人ともよろしいですか」

「うむ」

「いつでも」

そこまでで何となく勝負の方法とかを察した俺は、取り敢えず傍にいる医療班であろう灯香さんにたずねる。
大丈夫なんですか、と。

すると灯香さんは遠い目をして、言った。

「この手のバカが網には多くてな。もう慣れたさ――――何、死なせはしない。後遺症もなくさらっと直してみせる」

疲れたリーマンの目をしていたので、それ以上つっこむのも詳細を聞くのもやめた。"なおす"の字がおかしくないですか、とか。
そういえば酒の席では、浴びるように飲む奴が多かった記憶がするなあ。


「それでは、始め!」





そこから先は語りたくない。


ただ、紫苑が意地を貫き通したとだけ言っておこう。













――――■――――




「はははは!」

「あーもう、見事に酔っ払っちゃって」

部屋の戸を開けながら、ぼやく。勝負に負けた九那実は倒れはしなかったものの、見事に泥酔の状態になっていた。
いつもならば見せない快活な笑顔に顔を赤くしている者が多数居たが、それも無理はない。

長年一緒に居た俺でも見たことがないほどに、今の九那実は綺麗なのだから。

「と、でも芝居はそこまでにした方がいいと思うけど?」

「何じゃ、気づいておったのか」

さらりと、九那実が元に戻る。
しかしよろけて、布団の上に座り込む。

「あれ、純粋な芝居じゃなかったんだ」

「流石の我でも、あれだけ飲めば酔うさ」

言い、笑うその頬はわずかに赤い。
その様子があまりに魅力的というかエロスを感じてしまい、俺は顔を逸らした。

中学生か、とどこからかツッコミが聞こえたが気にしない。

「えっと、なんで?」

何を聞くべきなのか限定するのも面倒くさいおれは、大まかにたずねたすると、九那実は意を察したのか全部語ってくれた。

「流石にのー。我と同じくらい落ち込んでいたのは、あやつだけじゃったからのう」

「え?」

「死んだとは思っていなかった。お主ならばきっと、とな。でも、もしかしたらと考えてしまって――――なら、無理じゃ。あれも女、表層だけは何とか取り繕っておったが………」

と、ここまで聞かされて何となく察した。ウエストがひきしまった理由も。

「経緯を考えれば、流石の我も同情する。別れて暗闇の世界―――焦がれ再開し、また別れ。落ち込むなと言う方が無茶じゃ」

「それは………」

「全部、いいさ。こうして戻ってきた。それだけでいい。紫苑の奴もな」

「………ごめんなさい、というべきかな」

「バカもの、違う」

半眼になる九那実。そこで俺は、笑って言った。

「なるほど………待っていてくれてありがとう?」

「うむ、帰ってきてくれてありがとう、じゃ」

その言葉は我にはらしくないがの、と九那実は笑う。

「えっと、それで………」

「ああ、負けた理由か? なに、"旅は道連れ世は情け"とお主は言っておったじゃないか。それに多いほうが、寂しくない」

「………へ?」

不思議そうな顔をすると、九那実は怒った顔をする。


「………狐は、の。生きていくのに他人は必要ない。幼い頃より独りで、それが自然なんじゃ。仙狐に至る狐ならばなおさら~」

目を伏せる。

「触れたこともない。誰かの体温を、感じたこともない。独りで十分と、それを疑ったこともなかった」

ずっと独り。それが意味することを、俺は知らない。
その辛さも。俺は、何だかんだいって誰かと一緒に居るってことを知っていたから。

そんな事を考えていると、九那実が顔をあげて笑う。

「だけど、知った。誰かと共に生きることを………一緒にバカをすることを。同じことに笑い、同じことに怒り、同じ方向を見ながら生きることを。
だから、それが無くなるのは嫌だ。こういうのを、寂しいというらしいの?」

そこまで言うと、九那実は部屋に視線を走らせ、何かを思い出したのか悲しく笑う。

「独りは寂しい。大勢は楽しい………つまりは、そういうことじゃ」

「でも素直に付いてきてくれというのは、恥ずかしかった、とぉ!」

言葉の途中で飛んできた枕をさっと受け止める。
視界が枕で染まる。

白の枕、降ろした後に見えたのは顔を更に赤くする九那実のご尊顔。
つーか、まともに見えてかなり酔ってるなキューちゃん。素直さがいつもの9乗くらいあるような。

「ふん………ペースを握られたくなかったからの」

「え?」

よく聞こえなかったので聞き返すが、うるさいと返された。

「ふん、うるさいのお。しかし今の言葉はいたく傷ついたぞ。ああ、傷ついた」


ぱすぱすと敷いている布団を叩くキューちゃん。まるで駄々っ子だ。

そして間もなく、駄々っ子は何かを思いついたかのように顔を上げ――――目を閉じて、言う。


「ちゅーしれ」


「は?」


「ちゅーしれ!」


聞いたことねえ声色でそんなこといぅ九那実さん。

いかん、思考が沸騰している。脳みそがスライムに。視界が混濁する。


(は? え、唇が突き出され、え?)


混乱する頭。しかし身体は、自らの欲するままに行動したようだ。

そう、考えるまでもないこと。


俺はゆっくりと膝まづき、その美しい桃色の唇に自分の唇を重ね―――――た瞬間。



「かかったの!」


巴投げ一閃。またたく間にマウントポジションを取られた。

「めしとったりぃ!」

「く、罠か!」

顔を真っ赤にしてキューちゃん。どうにも話している内に更に酔いが回ったのか、顔がリンゴのように真っ赤だ。

しかし、恐るべき罠。分かっていてもかかっただろう所が心底恐ろしい。例えそれが罠であっても、クマーと叫びながら全力で釣られただろう。


だが、この恐るべき罠の後には、一体どんなことが待ち受けているのか。

目を閉じて待っていた。しかし、追撃はこない。

――――ただ、乗られた箇所に九那実の体温を感じる。

「あたたかい」

「え?」

「あったかい」

にへらと笑うキューちゃん。次の瞬間、目を伏せる。
前髪が、彼女の顔を隠した。

「独りだった。ずっと、ずっと」

泣いていた。見たことのない、涙。

「この部屋で、ずっと。でも寂しかった」

流れる涙は粒になった。
聞こえる声は、かすれている。

「寂しかった。辛かった。一人は寂しい。誰もいないのは、嫌じゃ。もう、嫌なんじゃ」

ぽす、ぽす、と腹を優しく叩いてくる。
その様子は、どこか子供のように思えて。

「二度と、離れることは許さん。お前は我のものじゃ」

命令するような、懇願するような。

ぽす、ぽす、という音は続いた。それは声だった。悲鳴であったのかもしれない。
独りである苦悩を教えられた少女の、感情を知った少女の。

その聞いているだけで泣きそうになる切ない声を前に、俺は我慢をすることをやめた。


「きゃ!?」


そこから先は、皆まで言わせない。
俺は腰を跳ね上げ、マウントポジションにある九那実のバランスを崩した。

そのまま、倒れこんでくる九那実を胸で受け止める。

仰向けに倒れる俺と、それに乗る九那実。
体温を感じた。

「ほら、大丈夫だって。もう戦いもない。だから、大丈夫だ。どこにも行かない」

ぽんぽん、と背中をたたきながら告げる。
その手のひらから、そして触れあう肌から、九那実がの音が聞こえる。
鼓動が、感じられた。

そしてそれは、九那実も俺の声を感じているということだ。

だんだんと落ち着きを取り戻す九那実の鼓動に、俺は安堵の息をついた。
しかしまだ、完全に納得はしていなかった。

「本当か? 嘘はないか? 絶対じゃな?」

確認のようで、誓わせる言葉。
だから俺は、本心嘘偽りなく、感じたまま思ったことを言葉に載せ、告げた。

「傍に居る。嘘はない、絶対に………誓っただろ?」

さっきも。告げると、九那実は口を閉じて――――しばらくして、開いた。

ならば許してやる、と。

「ぷっ」

「なにがおかしいっ」

どこまでも上からの目線。しかしそれすらも可愛いと思える俺は、ひょっとしたらどこか狂ってしまったのかもしれない。
でも、ちっとも悪くない。むしろ良いだろうが文句あるのかこんちくしょう。

と、考えた所で、気づけば倒れこんだ九那実が身体をよじ登ってきた

「ふん、ところで………お主、あれは治ったのか?」

「え、あれって?」

「過剰に本能を抑制する性質じゃよ」

「………気づかれてたのか」

無自覚だったおのれの性質。トラウマによるもの、ととっつあんは言っていた。
あの、暗部を血に染めた光景を忘れていないと。生まれた直後だったし、仕方ないのだとも言っていたが。

「治った。色々と考える時間も出来たし――――というか、そろそろ限界なんだけど」

「へ、何がじゃ?」

首を傾げる九那実。分かっているのか、いないのか。酔っているのか、いないのか。
しかしどっちでもいいと、俺は本能に従い、行動することを決めた。

そう、風の吹くまま、赴くままに!



「へ、何を…………!?」



がっしと抱きしめる。どこまでも柔らかい身体に、最後の理性が音を立てて崩壊した。




「ちょ、服が皺に!?」

「好きだから構わない」

「そういう問題じゃ―――――」

皆までは言わせない。恨むならば自分の可愛さと綺麗さと色香とかを恨めばいいと思う。

あと、言葉にもね。俺も二度と離れたくはないのだから。






――――と、そこから先は、語りたくない。




ただ、予想以上であった事事を、ここに置いておこう。

それ以上は内緒である。

「馬鹿者、壊されるかと思ったわ!」と朝、涙目になったキューちゃんに頬をつねられたのも。


































あとがき


お久しぶりの再開でございます。

まずは3/11の震災で亡くなられた方に、ご冥福をお祈りいたします。

ブログにも書きましたが、作者は関西在住でしたのでこれといった被害はありませんでした。
しかし震災や原発のあれこれが気にかかって寝不足で、テンションも上がらず書くことができなく、こんなに時間がかかってしまった。
それだけに現地の光景は酷かった。見ている自分でさえそう感じるのだから、実際に被害に合われた方はもっとでしょう。
原発に関してはいわずもがな。


一刻も早く日常が戻って来ますようにの願いをこめまして後日談の4を投下いたしました。

残る後日談の数ですが、当初の予定を上回って3、4話ぐらいにになりそうです。

鉄板は再不斬と白のあれですが、それに加えて旅に出た後のメンマの日常と、あとは遺跡を巡る一幕をば。

それではまた、次の話で会えることを。









[9402] キャラクターシート(6/12追記)
Name: 岳◆3d336029 ID:0347f440
Date: 2011/06/12 23:54

キャラクターシート


※作者注、ネタバレ多し!

本編読了後に見ることをおすすめいたします。

後日、再度更新する予定です。








◆メインキャラ◆


・小池メンマ/うずまきナルト
 主人公。ラーメン主義者の大馬鹿野郎。長年の修行の末、ネタ技を多く扱えるように。男の浪漫を体現した男。
 仲間内ではお調子者のムードメーカー。実のところ、本質的には臆病者。英雄の言葉を叫び、自分に言い聞かし、自己暗示を繰り返して戦場に挑んでいた。
 戦わなければいけない時を知っていて、その時が来れば決して退いたりしない。なぜなら逃げる方が怖いから。
 臆病者ゆえ、"勝つ方法"を常に容易して挑むし、相手を決して侮らない。それが彼を最後まで生き残らせた。

  イメージソングは『ブルーバード/いきものがかり』
  高く、突き抜けるキャラですので。



・九那実
 ヒロイン。九尾の妖狐。天狐と呼ばれる年経た妖狐で、強大なチャクラと強靭な肉体を保持する。
 昔は妖魔核の影響で憎しみにのまれ、自己を見失って感情を壊されていた。
 馬鹿だが、感情一直線なメンマの姿を見て、感情を取り戻すに至った。最終話後におとずれたデレ期は筆舌に尽くし難く、傍目に見ているものを悶絶させるほど。
 シン曰く「超美人に萌え可愛いが加わって無敵に見える」らしい。ちなみにメンマが戻る前の空白期は、時折憂いを零す超美女として多数の男に言い寄られていた。
 性格は頑固者で意地っ張り。感情を誤魔化すということを知らず、ただ率直に感想を言う。
 他人に涙を見せることを恥とする誇り高い女性。
 余談ですが、ラスボスが彼女になるという設定がありました。

 イメージソングは『とある竜の恋の歌/いとうかなこ』
 そのまんまですな。



・マダオ/波風ミナト
 お笑い担当。でも裏では色々と複雑な思いを抱いていたとか。
 割とお調子者なのは本作のオリジナル設定。だが頭脳は優秀かつ策士で、勝利の戦術やそこに導くための方法を模索するメンマに、答えを提供してきた。
 現役時代はその能力と戦術で無敵と恐れられた傑物。閃光のように現れ消える金色の忍びの姿は、今もなお敵国だった忍びの心に刻み込まれている。
 そして里を愛し、人を愛した木の葉隠れの英雄。戦争の中にあって優しさを失わなかった師匠、自来也を心の底から尊敬している。

 イメージソングは『DAYS/FLOW』
 おくびにも出しませんでしたが、実は三代目の最後を見るときまで、木の葉隠れと息子娘のことについて、裏で色々と葛藤してました。
 その後は『ニンジャヒーローシノビアン』。うん、ツッコまないで。



・ペイン/長門/六道仙人
 蘇った"人間"。
 十尾の意識に影響され、人格を歪められながらも本当の目的を悟らせなかった。世界を騙し、忍びを騙し、最後には自分の目的を達成した漢。
 心を下に心の求める最後を描ききった、真なる忍者とも言える。
 スペックは本編でもさんざん描いたが、反則の一言。でも古代の十尾はもっとえげつなかったとか。
 長門に関していえば、死後は無事に弥彦と小南と合流、一緒に輪廻の輪へ消えていった。
 彼等の来世に幸の多からんことを。

 イメージソングは『Sign/FLOW』
 彼の目的のまんまですね。




・うちはサスケ
 恐らくは一番、原作と乖離したであろうもう一人の主人公。彼の本当の戦いは本編の後にある。彼の真なる伝説はあそこから始まった。
 子供から大人に、様々な逆境があろうとも成長した少年。マダオことミナトの教えとイタチの本心を知った影響で、自分の力に驕ることはなくなった。
 愛刀は雷紋。体術に投擲術、忍具の基礎を教わったせいか、隙がない。慢心もない。素の才能も凄いので、並の上忍を相手にしても写輪眼なしで倒してのける程の力量を持つ。
 万華鏡写輪眼を使い、多由也を背にして全力で戦う彼を倒せる忍者は現世代には存在しない。
 メンマとの生活の末、生来にあった変な堅さも抜けて、良い感じに仕上がった様子。余談だが、笑うイケメンである彼は"網"の裏でだが、すごくもてている。
 たいていが隣に居る赤髪のど美人を前にくじげるのだが。

 イメージソングはうちはイタチとセットで、『Born Legend/KASUMI』
 一番はサスケで、二番はイタチですな。三番で道が交わる、と言った感じです。




・多由也
 裏のMVP。彼女が居なければきっと本作品は途中で未完了となっていただろう。
 性格は男前の一言。女々しさを捨て、夢に向かって純粋に生きる正真正銘の"いい女"である。
 容姿とスタイルのバランスは本作品でもトップクラス。原作でも一二を争う可愛さを持っていると作者は信じている。
 ちなみに本作品で呪印の影響が抜けた彼女の、その邪気が抜けた笑顔はサスケすら一撃で倒すほど。
 ちなみに帽子はかぶっていない。綺麗な赤い髪のストレートヘアー。料理時はポニーテールに。
 笛とチャクラを使った特殊忍術、音韻術の名手。しかし素の笛でも人を癒せる。音楽ってすごい。
 歌もすげえ上手いが、彼女の歌声を聞いたことがあるのはサスケだけ。

 イメージソングは『ジュゴンの見える丘/Cocco』
 なんか、こう、フィーリングで。




・再不斬
 一途な男。面倒見がいい男。そして何より、不器用な男。
 彼の意志と夢に基づいた生き様は徹底している。しかい潔いと感じさせる何かがある。
 正しく、首切り包丁のような男である。詳しくは彼の背中と大刀を見て下さい。

 イメージソングは『Berserk ~Forces~/平沢進』
 


・白
 唯一のTSったー。だって可愛いんだもの。原作上、少年にしなければいけなかった理由があると思われ。千鳥に貫かれて死ぬ、という結構むごい死に方しますものね。
 本作では少女にして見ました。まじで恋する一途な少女。辛い過去があってなお相手を思いやれる、心優しい少女。原作唯一の癒しキャラ、と言ったら怒られるだろうか。
 自分の優先順位が低く、その様子は裏で再不斬をはらはらさせていた。
 勝手に死ぬなと言っても無理をしそうで死にそうなので、"お前は道具だ勝手に壊れるな"と言った再不斬さんまじ不器用。
 過去のせいでおのれを軽んじている彼女は弱く、不安定で、原作のあれもあるせいか、見ているだけで"別れ"という単語を感じさせる。
 成長してもそれは変わらず、しかし乗り越えようとする強さを持っている。でもきっと一人では生きていけないタイプ。

 イメージソングは『トモシビ/Suara』 
 ゆらゆら綺麗に消えそうに輝く炎。





準メインキャラ



・波風キリハ
 妹。オリキャラ。顔立ちはミナト似で、可愛いかつ綺麗。
 金色の髪に青い瞳を持つ。赤い髪ではない金髪だけの双子を見て、クシナはちょっと悔しがったとか。
 性格は天然。相手のことを思いやれる優しい性格を持っていて、それがゆえにあちこちでフラグを立てまくった人。
 特に年の離れた男に好かれやすい。少年の代表格はイナリ、木の葉丸。明るく優しい年上って憧れるよね。年上はカカシ、自来也。いやこっちは変な意味ではなくてね。
 朗らかだが、根は親譲りの頑固者でもある。ちなみに怒った時の彼女は凄まじいまでの底力を発揮し、カカシをもってして敵に回したくないと言わせるほど、手に負えない存在になる。
 頭が良く、忍術と体術の才能は同期の中でもピカイチ。純粋な才能でいえば、サスケをも凌ぐものを持っている。
 でも後半の相手はチートいっぱい胸いっぱいの化物級ばっかりで、そのせいで本編の後編ではイマイチ活躍できなかった。
 ちなみに凄い音痴で、多由也からは『一芸に値する音波兵器』と呼ばれているとか。

 イメージソングは『Imaginary affair/KOTOKO』
 前向きな感じです。


・シカマル
 守る人が出来た男は強い。彼女の笑顔を絶やさないために頑張る、漢と書いておとこ。キリハのフォローをする日々を経て、また本編後に責任ある立場に立たされ、性格も色々と変わった様子。
 仕事と責任で男は成長して変わるんだぜ。でも胃薬だけは絶やさない苦労人。きっとこれからも苦労していくのだろう。隣に太陽を携えて。

 イメージソングは『フラリ/ゆず』⇒『幸せの扉/ゆず』
 シカマルさんマジ不憫。



・うずまきクシナ
 うずまき一族の元人柱力。肝っ玉母さん。直感を信じる乙女。割とライバルが多かったであろう波風ミナトを直球勝負でゲットした赤い超特急。
 アカデミーの成績、特に勉強面では低かった様子。原作で登場したので出せました。暴君ハバネロ。

 イメージソングは『It's just a farewell/Rita』
 光の渦巻。



・うちはイタチ
 兄貴。ブラコン。原作中では白と並ぶ程、とてつもなく優しい性格をしていると思っている。
 一族皆殺し、同胞と親殺しというとてつもない罪の意識に苛まれ、自分の命を以て償おうとした。
 その最後も、弟のためにと考え、最後まで自分の意志を貫き通した人。

 イメージソングはうちはサスケとセットで、『Born Legend/KASUMI』



◆その他(半オリキャラ)◆


・灯香
 半オリキャラ。元雨隠れの忍者で、今は網の医療忍者。実は原作で言うところの"二代目畜生道"にあたる女性。
 ペインの木の葉襲撃の際にイビキのとっつあんに捕まった、口寄せが得意な小柄ナイムネの彼女です。
 滑舌が悪く、口寄せの術を『口寄せのじゅちゅ!』と言ってしまう。童顔もあいまって、一部のみなさんにそれはもう多くの支持を得ているとか。
 実は山椒魚の半蔵の姪で、原作ではペインに復讐しようとして返り討ちにあった。と、妄想。
 お気づきかもしれませんが、作者はつり目が大好きです。


・ウタカタ
 半オリキャラ。霧隠れの人柱力で、六尾の尾獣をその身に宿している。
 前髪で片目を隠しており、服は水色の羽織り、開いた胸元、赤い帯といった、他の人柱力とはまた違う格好をしている。
 原作の方には出てきていないが、アニメの方には出ている。シャボン玉を操る忍術で、対象を玉の中に取り込み溶かしてしまうなど、地味にグロイ忍術を使う。
 性格は至極まとも。いっちゃなんだけど、原作・アニメで描写されている人柱力の中では、最も理性的な人。二期の我愛羅並ではなかろうか。
 ちなみに六尾の外見は白い、その、ナメクジっぽいなにか。非常に形容しがたい見た目をしており、夜に出会おうものなら忍者でも涙目になりそうなほどキモイ。
 

・フウ
 半オリキャラ。滝隠れの人柱力で、七尾の尾獣をその身に宿している。 
 碧色の髪の毛と褐色の肌を持つ、活発的そうな女の子。見た目の年齢は、ナルト達と同じくらい。
 原作・アニメ共に出てきておらず、性格と境遇は完全オリジナル設定。扱える忍術も不明で、こちらも勝手に想像した。
 七尾の外見は、複数の羽を持つ虫。空を飛べそうなので、フウの能力というか忍術もそれにしました。
 話す言葉は片言、というか漢字の単語のみ。そこ、風神とか言っちゃいけない。依代が虫なので単純な思考しかできない、と勝手に設定。
 ちなみにフウが隠れていたあの家は、歴代の七尾の人柱力が"追い込まれた"場所。同じことを繰り返していたのである。
 最終的には人柱力の魂が七尾のそれに喰われ、尾獣が開放されてしまう。その度に多大な犠牲が出てしまって、結果滝隠れは弱小国へと成り果ててしまった。
 ちなみに七尾は開放される時に人柱力の魂を取り込み―――それを想って、鳴く。故にあの地名は虫鳴峠と言われている。





[9402] 幕間 「小池メンマ 対 桃地再不斬」
Name: 岳◆3d336029 ID:f05e15fe
Date: 2012/03/15 22:04

幕間にござい。

時系列的にいえば七話と八話の間です。







小池のメンマのセーフハウス。いわゆるひとつの隠れ家の中の一室だ。

気配を外にもらさないよう、四方を結界で囲まれた堅固な訓練室。
その中央で、家主と居候が対峙していた。

片や黒の半袖のTシャツに脛までの黒いズボンをはいている少年。

片や半裸で、物々しい大刀を背にかついでいる中年。

「まだ30越えてねえよ!」

「何も言ってないだろ………」

いきなり激昂する再不斬に、やや引き気味でメンマ。
ちょっと表情から考えを読まれたことにびびりつつも、腕をぶんぶんと振り回しはじめる。

「さーてーとー、準備運動終わり。じゃ、お望みどおりにいっちょやりますか」

「お前………聞いた境遇は凄まじいってのに。なんか、軽い奴だな」

ちらりと横を見る再不斬。少し離れた位置に立っている少女を見た。
抜け忍時代になけなしの貯金をはたいて買ったという、白のワンピースに着替えた美少女の方を。

(誰のために買ったとか考えたくないっす)

正に美女と野獣。それは置いといて、っと。

「境遇? そんなもん真面目に考えるとどこまでも落ち込みそうなんで、考えません。これ一つの解決方法」

逃避ともいうが、それは言わない約束である。

「そんなことよりラーメンだ!」

「後にしろ」

『おじいちゃん、さっき食べたばっかりでしょ!』

何という二重ツッコミ。キューちゃんのツッコミも欲しいところだけど。

『そんなことより稲荷寿司だ!』

聞いた俺が馬鹿だった。あ、ごめん謝るから睨まないで。え、波の国での約束は?
やべ、完全に忘れてた。本当にごめんって、何も檻の中で三角座りになって頭をうずめなくても。

「おい………ぼっとしてんじゃねえよ、真面目にやる気あんのか? それとも一度勝ったからって舐めてやがるのか」

「いや、取り込み中で………でも、これでかなり緊張してるよ? なんせ霧隠れの鬼人が相手なんだから」

本当の実力を知りたいとのご要望だ。信用を得るためには、応えなければならない。
あっちも本気の、いわば手加減抜きの模擬戦だ。だが、緩い気持ちなんかで挑めばあっさりと死ぬだろう。

実際、上忍同士の力量の差なんてそんな扱いだ。
再不斬もそう思っているだろう。

(下忍や中忍程度には負けないけどね)

上忍とは里の主戦力で、いわばエリート。下忍や中忍とは、ある意味で違う世界に生きている。

なんせ、身体能力が違う、動体視力が違う、反応速度が違う。経験値もぜんぜん違う。徹底的に異なってしまっている。
つまるところ、“生きている時間の速さと、見えている世界”が決定的に違うのだ。

実戦の経験無しに上忍には至れない。だから生死を分ける時間のシビアさを知っている。
時間は大事だ。上忍ともなれば、相手が一秒でも油断をすれば戦況を覆すことが出来るのを知っている。実行できる。

だが、下忍や中忍はそれができない。ある意味で、化物とも言える存在かもしれないけど。

「でも、あんまりガチの戦闘はしたくないんだけどねえ。いっそ逃げていい?」

「逃さねえよ。人の得意分野で昏倒させたんだ。勝てねえかもしれねえが、落とし前もつけさせてもらう」

暗殺技能を持ち、しかもサイレントキリングなんて大層な技術を持っている再不斬だ。
負けたのもそうだが、後ろを取られて気絶したのも結構な屈辱だったのだろう。

「でも、いいのか? ここには水がないから、お得意の水遁は使えないけど」

「派手すぎるとこの里の暗部にかぎつけられるだろ。それに、殺し合いをしたいってわけでもねえ………ただ、納得させてみろ」

俺が強い、ってことをか。
ま、仮とは言え依頼人となった――――しかも危険度Sランク以上の任務に挑むことを依頼した俺の、本当の所を知りたいってことなのだろう。

『妥当だと思うよ。彼は搦手にも限界があるってことを実地で知ってる』

そうだな。戦闘経験は、あるいは俺よりも上らしいし。
なら何も言えないな。俺だって逆の立場で言われたらこーする。乗っていい船なのか、それともグダグダになって沈む船なのか。

『いずれ自分の夢に立ち上がるっていうS級犯罪者の組織を潰す。その目的がそもそもだいそれたことだ。
 一人で一国を落とせるだけの危険人物の集団に、勝つ。そんな目的を――――天まで届こうっていう高い木に登るのなら、必然的に危険度も上がってしまう。
 危地は絶対にやってくる』

どんなタイミングなのか分からないけどね、とマダオは間を置いて、

『再不斬君が知りたいのは、危地を乗りきることが出来るのか。いずれくる戦闘において、“まともな方法”で勝ち抜けるかを見極めたいんだろうね』

(………影でこそこそする鼠ならば、まともな方法を避ける。でも、それでは生き残る率が低い。相手も手練で策士も居る。つまりはタイミングが分からないから、相手に絡め取られる可能性もある?)

『そう。その場合、真正面からの戦闘は避けられない』

(で、いざという時に正面きって挑もうって気概があるか――――あれば乗る価値のある宝船、無いのならいずれ限界が来る泥船ってことか)

『その通り』

「上等だ」

マダオと再不斬に啖呵を切って返す。
そうと分かれば、ここは逃げてはならん所ですな。

拳を握り、腰を落とし、チャクラを練る。
見る目にも俺の雰囲気が変わったのだろう。白が緊張し、再不斬が目を細める。

「それで、開始の合図は?」

一応、確かめる。

「要らねえよ。今からでいい」

不敵な笑みで返してくる。

「了――――解!」

頷きつつ、しかし返答の言葉が終わるころには、既に再不斬の間合いの中に入っていた。

驚愕の表情を浮かべる再不斬。構わず、俺は踏み出して右の拳を再不斬の顔面へと“丁寧”に突き出した。
だが、拳の先から返ってきた反応は顔ではない、何か硬いものを殴った感触。

(ん、とっさに腕で防御と)

流石にあの刀を任せられるだけはある。とっさに反応して防ぎきるとは、なるほど体術の腕は確からしい。
だが威力は殺しきれていないようだ。拳の衝撃に圧され、再不斬の巨体が後退する。

そのまま、間合いが離れた。追撃に移るのには絶好の機会だ。
しかし、追撃はまだ仕掛けない。今のはあくまで挨拶を兼ねた、名刺のようなもの。

「………およそおぼっちゃんらしくねえ不意打ちだな。拳も馬鹿みたいに重てえ」

腕を振りながら、再不斬がぼやく。

「やだなあ、あんなもん不意打ちの範疇にも入らないよ。あくまで気付けの一発ってこと。で、気に入ってくれた?」

親指を上に立てて聞く。それを見て再不斬の表情が、真剣味をおびたものに変わる。

「………舐めてたのはこっちの方か。そういや、世界中を回ったとか言ってやがったな」

「そうそう、一人でね」

リアルヒャッハーな世紀末世界ほどではないが、この世界も十分に危険だ。
特に俺の場合はラーメンの材料も求めて人里離れた場所にも行ったし。

ガマ仙人ほどでもないけど、口寄せで呼ばれるような不思議生物。
隠れていた抜け忍。忍界大戦での傷癒えず、生きるために山賊に成り下がった人達。

特に一人旅というのは、想像しているよりきつかった。フォローしてくれる相手がいないので、戦闘から偵察から調査から休息まで、全部を自分でしなければならないからだ。
重症負ったり、重くなくとも足を怪我したらほぼアウト。特に俺は追われている身でしかも特殊な立場なので、捕まってしまえばほぼアウト。

でも、その苦境を生き抜いてきたのだ。体術は特に鍛えた。血筋のおかげか、チャクラによる身体強化の効率が並の忍者よりも格段に高いそうで。
そして生き抜いたことも。力を誇るつもりもないが、それなりの自負は持っている。

「それに、試されたのなら全力で応えるのが男ってもんだろ?」

「およそ、忍びらしくない考え方だがな」

「忍者じゃないもの、ラーメン屋だもの」

「クク、そうだったな――――悪かった。出し惜しみは無しだ、殺す気で行くぜ」


再不斬が大刀を握り、正面に構える。


「いつでも、どこからでも」


そして俺は、腰を落として構えることで応えた。





拳と大刀が交差する―――――







○ ● ○ ● ○ ● ○ ●






――――そして、三分に渡る戦闘の後。
俺はといえば、仰向けに倒れて気絶している再不斬の顔に筆で眉毛を書いてあげようか、真剣に迷っていた。



「メンマさん! 後生、後生ですから!」

「いや、でもちょっとだけ! ちょっとだけだから!」

「やめて下さい! ああ、ラーメンの開発でもなんでも手伝いますから!」

「――――その言葉が聞きたかった」



かくして一人の少女の献身により、桃地再不斬の個性は守られたのだった。







[9402] 感想返信 (3/1追記)
Name: 岳◆3d336029 ID:0347f440
Date: 2011/03/01 22:18
以下、感想に対する返信でございます。
読者様の感想無くば最終話まで書ききれませんでした。

ので、感想板ではなく一話として投稿しますです。



>>JINさん
いいえ、こちらこそありがとうございました。

>>とらいさん
おおう、感動させられましたか。作者としては本望です。


>>蒼hisui
疲れました……キャラ考察から構成の部分はオリジナルの部分もあったので。
最後まで見ていただき、本当にありがとうございました。

>>ボン次郎さん
ありがとうございます。

>>時守 暦さん
ホームランできましたか。ポテンヒットじゃなくてよかった………。
めでたしめでたしはまあ、ガンパレが多分にネタが含まれていますので。
これからも色々あるでしょうけど、ひとまずはめでたしめでたしと。

>>fullfullさん
最初期の頃から見ていただきまして、本当にありがとうございました。
ネタとシリアスのバランスですが、まじで気を使いました。過ぎるとどちらもくどくなってgdgdになりますので。

>>ぐーたらさん
やっとの完結です。ありがとうございました。

>>ふ~せんさん
ありがとうございます。早速ですが、後日談投下しました。
綺麗に纏まっていると言っていただき一安心。道のりは一部ですが出す予定です。

>>ブラックさん
本家は前半は特にクオリティが高かったのですが………後半、特に演出の部分がちょっと。
材料のバリエーションと画力は凄いので、面白いのは面白いのですが。

>>麹さん
こちらこそありがとうございます。

>>じせきさん
ありがとうございます。外伝というか後日談は5話ぐらいを予定しています。

>>L・Nさん
ありがとうございます、ストライクできましたか。嬉しいです。
外伝はニヤニヤも多分に含まれております。ハッピーエンドの後日談は作者も好きなので、というわけで書きます。
お楽しみに。


>>双樹さん
ありがとうございます。お早めのご指摘、本当にありがとうございます。

>>まさかさん
ありがとうございます。前半は出来るだけテンポよく読めるように、を第一に意識して書きました。
後半は書き手としての技量を上げるべく、描写を増やしたのですが、それでも余計な部分は出来るだけ省いたつもりです。
外伝はテンポと描写、半々で進めるつもりです。

>>大さん
いつもの感想、本当にありがとうございました。大さんには、一番多く感想を書いていただき、励みになりました。
最後はハッピーエンドで終わることができて良かったと思います。
番外編というか外伝は書きます。
次回作はホームページの方で書いているマブラブオルタネイティブの長編SSの続きということになると思いますが。

>>EXELさん
こちらこそありがとうございます。
感想なくばここまで走りきれませんでした。

>>馬幻さん
ありがとうございます。バランス調整は苦労しましたが、甲斐あってかそれなりにまとめられたと思います。
伏線やどんでん返しも、どう書けば読者を楽しませられるか、また置き去りにしないように頑張りました。
ありがとうございました。

>>tomatoさん
ガンパレは好きです。愛してます。
公式SSのリタガンこそが、作者が文章を書こうと思わされた原典とも言えるものですので。
瀬戸口師匠の言うとおり、愛は最強です。エリア88のミッキーも「愛だけで全てが解決する訳じゃない。だけど愛抜きで解決する問題は無いんじゃないか」と言っていましたので。
その後ですが、各地でのドタバタは、まあ、あります。そういう巡りあわせですので。
作者も完結記念に全部載せでいっちゃうぜ!

>>うば?さん
終わって寂しいと言ってもらえ、作者としては本望です。
次回作はマブラブオルタネイティブの長編SSを予定しています。

>>uppersさん
原作は………超えられたでしょうか。
材料を使わせてもらっていますので、作者としては“越えた”とは絶対に言えないものですが、面白いとそう言って頂いて本当に嬉しいです。

>>dannnaさん
ありがとうございます、おっしゃるとおり因縁と運命には注意しました。
「諦めない」「戦争による憎しみの連鎖」「痛み」のキーワードも意識しましたしね。

>>燎原さん
ありがとうございました。
ほんと、よく完結させられたものです。それも読者様の感想あってこそ。

>>q-trueさん
ありがとうございます。原作との調整は、出来る範囲でしました。

余談ですが、九尾の設定は最初から決まっていました。
十尾は途中からですが、
「ナルト(九尾?)を殺せば後悔する」
「十尾は何故現れたのか」
「九尾は特別な尾獣」
「最強の妖魔」
「世界に憎しみが集まった時に九尾が現れる」
「人柱力の存在意義」
以上のキーワードを集め、想像して設定しました。
1から9へ、そして10に至り、また1が始まるといった感じですね。

>>ふきくろさん
ありがとうございます。最近忙しくてラーメン食いに行けないんですよ……来週あたりは行こうと思ってますが。

>>alibertysさん
ありがとうございます。ドラクォですが、好きなので。まじで名作ですよね、あれ。ちょっと難しいですけど。

>>ゆきさん
ありがとうございます。外伝はいろいろとはっちゃけますが、お楽しみに。

>>OTIさん
ありがとうございます。
バランスよく書くというのはちょっと根気が居る作業で、それでも最後まで突っ走れたのは、モチベーションを維持してくれた読者様の感想のお陰だと思っています。

>>鉄さん
ありがとうございます。作者もここまでシリアス度が上がるとは思っていなかった………ここまで長編になることも。
まあ、感想に引っ張り上げられた部分が多いのですが。

>>はやとさん
ありがとうございます。
感想ですが、読者様の面白いという言葉こそが作者の書く意志となります。
ある意味感想を聞くために書いていたと言っても過言ではありません。


>>ぬーのさん
PVが途中で減ったので「ちょっとクオリティが下がったかな」、と思うときもありましたが、最後まで精一杯頑張ったつもりです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

>>Hi-βさん
ありがとうございます。一部後味の悪い終わり方も考えていたのですが、それでは読者様が疲れると思いましたので。
不景気な世の中で疲れさせちゃあ駄目だろ、と思い大団円としました。


>>超銀河大吟嬢さん
ありがとうございます。本当に終わらせました。
ちなみに千鳥足の他に、両手の螺旋丸を囮にした「双竜螺旋脚」があるとか無いとか。

>>hisaさん
ありがとうございます。
コミケは………どうやるんですかね。ってか製本とか、そんなだいそれた事はできませんよ(汗

>>aosaさん
ありがとうございます。
それこそが良い物語の条件だと最近思いました。

>>hiduki
ありがとうございます。
笑わせて、また違うところで心を動かすように頑張りました。元気が出るようにと。

>>豆さん
つハンカチ
ありがとうございました。

>>いばさん
素晴らしいと言っていただき、ありがとうございます。
外伝と次回作をお楽しみに。

>>一の字さん
ありがとうございます。完結だけはさせたかったので、それだけは胸を張りたいと思います。
読み切らせるというのが、一つの目的だったので。


>>とおりすがりさん
ありがとうございます。
ナルト世界らしからぬ部分が多かったかと思われますが、何とか破綻させずに似せながら書ききりました。
まあ………細かい部分での矛盾はご許容下さい。(汗
紫苑のその後も書くつもりですので、お楽しみに。

>>フランポさん
ありがとうございます。全体的にレベルが高い作品が多い理想郷の中で一番と言っていただき、本当に嬉しいです。
外伝は笑わせることを主体に頑張りますので、お楽しみに。

>>しえさん
それは最上の褒め言葉ですね。ありがとうございます。

>>156845615さん
途中で終わることが多いナルトSSの中、なんとか完結させられました。
ありがとうございます。


>>悠真さん
ありがとうございます。一部展開の変更はありましたが、最後は笑顔で締められました。
良かったです。

>>カグラさん
こちらこそ返信遅れましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。

>>セラさん
ありがとうございます。
面白くかっこ良くは意識しました。最後はハッピーエンドで終わらせることができました。安堵しています。


>>尚識さん
ありがとうございます。途中、2、3ヶ月の更新停止はありましたが、1年と半年を経て完結させられました。
ちょっと、疲れましたが(笑)

>>カイトさん
ありがとうございます。あとがきと後日談はいくつか投下していくつもりです。
誰もが苦難の果てのリア充道を歩みますです、お楽しみに。

>>七一さん
ありがとうございます。
最後まで緊張感を抜かないというのも課題の一つでしたので、そう言っていただけて幸いでございます。

>>たっぽいさん
ありがとうございます。×××のそれは………書こうか書くまいか、悩んでます。
でもこのままの方が何かを壊さないで済む?

>>(0w0)さん
ウェーイ、ありがとうございます。

>>kumaxさん
ありがとうございました。話数に関してはいつの間にか増えていました。終わり方を決めた時に覚悟してましたけど、予想より10話は長くなった………。別の作品もまた書くつもりですので、その時はまたよろしくお願い致します。

>>杜若さん
ほんと、気がつけば一年半ですよ。文字数にして115万、ライトノベルにして9冊分くらい?よく書いたものです。それも読者様があってこそ。本当にありがとうございました。ガチのノープラン、秘技“書きながら考える”でよく終わらせられたものです(汗。
次回、後日談の4はついにキューちゃんの話。その後はメンマの話。お楽しみに。

>>(´・ω・`)さん
ストレートな言葉が胸を撃つ。いえいえありがとうございましたよ。
返信遅くなりましたが、物理学のレポートがんばってくだせえ。



[9402] 忍術一覧
Name: 岳◆3d336029 ID:0347f440
Date: 2011/06/12 23:53


※作者注、ネタバレ多し!

本編読了後に見ることをおすすめいたします。

後日、再度更新する予定です。





使用者別に書いていきます。

術のランクは、オフィシャルデータブックと同じで、以下の通りです。

Sランク:奥義・極意レベル
Aランク:禁術・超高等忍術レベル
Bランク:上忍レベル
Cランク:中忍レベル
Dランク:下忍レベル
Eランク:忍者学校《アカデミー》レベル
―ランク:血継限界、秘伝忍術など


種類は大体以下の通り。
・五行の術(火遁など)
・応用忍術(三日月の舞や、口寄せを併用した術など)
・特殊忍術(螺旋丸など)
・封印術(五行封印など)
・体術


オリジナル忍術や、説明が必要と思われる術だけを書いていくつもりです。
原作で出ている術は、原作を参照してください。


………っていうかそれでも予想以上に多いよ!! 

なんじゃこの数は!


えーと、全部まとめて書こうとするとけっこうな時間がかかるので、随時追加する形で。


抜けてるやつがあるかもしれません。
見つけましたら、教えてくれると非常に助かります。





◆小池メンマ◆

パロ術多数。螺旋丸のバリエーションが多い。
風遁を得意とするけど、他の系統の忍術の才能は無し。
チャクラコントロールは凄いので、それ頼りの術が多い。


・術 名 : 風遁・大突破
・ランク : C
・出 典 : 原作
詳 細
詳しくはオフィシャルデータブックを。
使用者の力量でその威力が大きく上下する風遁術。
複数の相手を撹乱できるので、一対多といった状況ではけっこう有用になる忍術である。




・術 名 : 風遁・封刃縛風
・ランク : C
・出 典 : オリジナル
詳 細
パロ技。元ネタはテイルズオブエターニアのリッド・ハーシェルが使う『風刃縛封』。
大突破によって生み出した風の流れを対象に絡ませ、動きを封じる術。
風に接する面が多いほど風の摩擦力があがるので、君麻呂のようなハリネズミ状態な相手に有用。




・術 名 : 風塵封爆札
・ランク : B
・出 典 : オリジナル
詳 細
パロ技。元ネタはテイルズオブエターニアのリッド・ハーシェルが使う『風塵封縛殺』。
風刃縛封⇒風塵封縛殺の、石田彰さんのあの声には滅茶苦茶痺れますよ。
分類は封刃縛風の応用技で、風を操り、対象を宙に打ち上げた上で放った起爆札を殺到させ、爆殺する術。
また風流を操ることによって、爆風をある程度だが対象へと集中させることが可能。



・術 名 : 風遁・風龍波
・ランク : B
・出 典 : オリジナル
詳 細
原作でいう火遁・火竜炎弾や水遁・水龍弾と同系統の原理の忍術で、その風遁版。
風の波を撃ち出す術で、大突破よりは風圧が高く、また風速もすごい。



・術 名 : 風遁秘術・風蹴鞠《かぜけまり》
・ランク : S
・出 典 : オリジナル
詳 細
ちょっとパロ技。原理でいえば、忍空の藍眺が使う「空圧飛拳」に近い。
性質変化と形態変化によって風の球を作り、拳打や蹴撃、跳躍の“追い風”とする忍術。
相手の目の前で球を作って解放するという手もあり、応用力が非常に高い。
ただ制御が難しく、制御者が一人では実戦中に使用するのは難しいだろう。




・術 名 : 雷遁・雷華の術
・ランク : D
・出 典 : オリジナル
詳 細
火遁・龍火の術の雷遁版。鋼糸に雷を走らせ、対象を痺れさせる術。
原作と同じくメンマの得意属性は風遁なので、本作中ではサスケの方が使っていると思われ。
ライカのカメラ欲しい。



・術 名 : 忍法口寄せ・風遁秘術・風牙風爪《ふうがふうそう》
・ランク : ―(Aランク相当)
・出 典 : オリジナル
詳 細
九那実の爪と牙に特大の飛燕(風の刃)を纏わせる忍術。



・術 名 : 忍法口寄せ・風遁・九蓮宝橙《くれんほうとう》
・ランク : ―(Aランク相当)
・出 典 : オリジナル
詳 細
原作でいうはたけカカシが波の国で使用した『忍法口寄せ・土遁・追牙の術』と同系統の、口寄せを応用した忍術。
風遁・風龍波を使い、その風を狐火に喰わせ、火の性質を高める術。
ここから“火遁秘術・焔魔天駆”へと繋がる。
ちなみに橙《だいだい》は、うずまきナルトのカラーである。
ちなみに本作では未使用だが、自爆技として“火遁秘術・天照降臨”という術もあった。
天狐とメンマの全チャクラを開放して、小型の太陽を生み出す超ハタ迷惑な禁術に位置する自爆忍術。
里の一個は消し飛ぶほど。え、それ“風使い”の神宮寺重吾が使ったあれじゃないかって? うん、そうです。



・術 名 : 火遁秘術・焔魔天駆《えんまてんく》
・ランク : ―(Aランク相当) 
・出 典 : オリジナル
詳 細
忍法口寄せ・風遁・九蓮宝橙で生み出した巨大な火球を対象へと撃ち出す忍術。
ようするに凄え大きな火球の砲弾。
密教の修行の中に、閻魔天供法というものがあり、その漢字をもじった術。



・術 名 : 影化粧の術
・ランク : A
・出 典 : オリジナル
詳 細
影分身の原理を応用した変化の術。自分の身体の周りに、影分身の"外形"を作る術。
離れた所に分身体を作る影分身と違い、チャクラ供給が容易なのでちょっとやそっとの衝撃を受けても変化は解けない。
また、影分身と同様に、瞳術をもってしてもみやぶることが困難な変化術。



・術 名 : 螺旋砲弾
・ランク : A
・出 典 : オリジナル
詳 細
多重影分身体に複数の未完成な螺旋丸の渦を作らせた上で、本体がその渦の中に渾身の螺旋丸を叩き込みその推力をもってしてチャクラ塊を撃ち出す術。
威力はすさまずく、守鶴の砂でも打ち砕くことができるほど。ただ、予備動作が大きく、対人戦では使いどころがない。



・術 名 : 火遁・劫火螺旋球
・ランク : S
・出 典 : オリジナル
詳 細
火遁の性質変化が加えられた螺旋丸。メンマが螺旋丸を制御し、九那実がそれに狐火を加え、
サスケが心写しの方によりメンマに同調して火遁を制御している。
対邪神というかジャシン(飛段的な意味で)の際には、その技名は『レムリア・インパクト』に変わる。
ちなみにレムリアとはレムール、キツネザルのこと。狐=メンマと九那実、猿=サスケ(猿真似ヤロー)である。



・術 名 : 太極螺旋丸
・ランク : S
・出 典 : NARUTO劇場版「ロストタワー」より
詳 細
チャクラは、その性質が近いものとで、共鳴現象が発生することがある。
その原理を応用した術で、二者の螺旋丸を共鳴・融合させた上で放たれる、劇場版で曰く「最強の螺旋丸」。
本作ではメンマの体内にあるミナトのチャクラと、メンマ本体のチャクラを共鳴させることで使用可能となった。
その威力の詳細は不明だが、風遁・螺旋手裏剣よりは強そう。
共鳴した結果なぜか丸ではなく勾玉の形に変化するが、その原因は不明。



・術 名 : 陽遁・太極螺旋丸
・ランク : ―(Sランク相当)
・出 典 : オリジナル
詳 細
陽遁の性質変化を加えられた太極螺旋丸。
体内の全門を開放した上で、体内にいる魂が五行相生の順にチャクラを性質変化させ、
「次なる性質を高めていく」という相生の正の理を変質させた上で、太極螺旋丸のチャクラに変換させる。
制御が尋常でなく難しいので、メンマのような複数の制御者が居なければ体内で爆発してしまうことうけあい。


・術 名 : 陰遁・太極螺旋丸
・ランク : ―(Sランク相当)
・出 典 : オリジナル
詳 細
陰遁の性質変化を加えられた太極螺旋丸。
体内の全門を開放した上で、体内にいる魂が五行相克の順にチャクラを性質変化させ、
「次なる性質を減じていく」という相克の負の理を変質させた上で、太極螺旋丸のチャクラに変換させる。
本作中では相克の性質に加え、十尾の放った陰遁の塊を強引に取り込んで発動している。
こちらも普通の者ならば使用不可能。


・術 名 : 真・太極螺旋丸
・ランク : ―(Sランク相当)
・出 典 : オリジナル
詳 細
陽遁・太極螺旋丸と陰遁・太極螺旋丸を融合させ、掌中に"太極図"という宇宙の理を球状内に現出させる、最奥にして究極の螺旋丸。
陰陽ふたつの本質を理解し、一つ所に共生させる必要がある上、陽中之陰、陰中の陽の原理も必要になってくるので真っ当な人間では扱えない。
波風ミナトとうずまきクシナ、そして九那実と小池メンマが揃ってはじめて使用可能となる。
その威力は文字通りの桁違いで、十尾の身体という“防壁”があった上でも三浪山を崩壊させてしまうぐらい。
別名、「陰陽・太極図・螺旋丸」。
身体にかかる反動が半端ないので、人外との融合体でないと太極が現出した段階で術者の肉体が消し飛んでしまう。



・術 名 : 捕縛封印・精霊麺
・ランク : A
・出 典 : オリジナル
詳 細
チャクラでマーキングした対象へ、特殊封印術式が書かれた布を放つ術。
捕らわれた対象はチャクラ流を阻害され、一定時間忍術を使えなくなる。
ちなみに詠唱は不要。封印術の肝はチャクラコントロールと術式の知識であり、コントロールはメンマ、知識はマダオが持っていたので、
こんな高度な封印術でも使いこなすことができた。もちろん、うずまきの血の補助もある。



・術 名 : 螺旋螺子《らせんねじ》
・ランク : B
・出 典 : オリジナル(パロ)
詳 細
中国拳法でいう纏絲勁の応用。回転を加えた掌打を対象に叩き込み、衝撃を内部まで浸透させる体術。
簡易の雷の性質変化が加えられた、雷螺旋螺子もある。サンダーボルトスクリュー。



・術 名 : 神手・掌打崩
・ランク : B
・出 典 : オリジナル(パロ)
詳 細
パロ技。雷をまとわせた掌打を対象へと叩き込む。
曰く、ゴッドハンドスマッシュ。



・術 名 : 崩撃雲身双虎掌
・ランク : B
・出 典 : オリジナル
詳 細
元ネタはバーチャファイター2のアキラが使うあれ。ていうか、まんま。
崩拳(右の中段突き)、鉄山靠(背中からの体当たり)、双掌打を連続で放つ。
八極拳の拳理を応用しているので、震脚は必須。別名、千本ノック。
ゲーセンで『バン!バン!バン!』と叩きつけるようにコマンド入力⇒ゲーセンの店員さんに怒られる、までの流れはデフォ。







◆うちはサスケ◆

主に雷遁。雷凰って格好良いよね。
その幻想をぶち壊す! ってそれ違うトーマ。

・術 名 : 雷遁・大雷華の術
・ランク : C
・出 典 : オリジナル
詳 細
雷華の術の強化版。雷文によりその威力を高めた雷遁術。



・術 名 : 雷遁・雷凰
・ランク : B
・出 典 : オリジナル
詳 細
パロ技。元ネタは皆さんご存知の無職さんが使用するアレ。
そっちが鳥なら、こっちは鳳(大鳥)だ!という意味もある、いわゆる千鳥の蹴り版。
純粋な威力なら千鳥より上だが、カカシの雷切には及ばない。



・術 名 : 瞬迅・千鳥
・ランク : B
・出 典 : オリジナル
詳 細
テイルズの瞬迅剣な千鳥。超スピードで雷文の突きを放ち、対象を貫く。



・術 名 : 雷遁・神雷
・ランク : A
・出 典 : オリジナル
詳 細
パロ技の応用。元ネタは無職さんの大雷凰が使う『神雷』。
雷遁を併用した連続体術。体内門を一部開放、肉体を活性させながら対象へと特攻。
前蹴りで対象を吹き飛ばした後に連撃を加え、宙へと浮かせ、最後には高高度から対象を踏み躙り落とす。
蹴り足を軸に回転させながら落とすので、カブトのようなタフさがなければまず死ぬ。
対人用の切り札。


・術 名 : 雷遁秘術・武甕槌《たけみかずち》
・ランク : S
・出 典 : オリジナル
詳 細
自然現象の落雷を操る術の雷遁・麒麟を雷文に落とし、集中・増幅させ対象へと一気に開放する忍術。
多由也の音韻術と併用した上でやっと使用可能になるほど、コントロールが難しい。
月読世界ではサスケの意志補正もあって使えた。対尾獣用の切り札となる、大威力忍術。



・術 名 : 昇竜連牙流星脚
・ランク : B
・出 典 : オリジナル
詳 細
パロ技。元ネタは第三次αの無職さんの雷凰が使う『ライジングメテオ』。
つまりは、昇竜《ライジング》・連牙流星脚《メテオ》。
対象を蹴り上げながら宙に浮かせ、最後には蹴り落とす術。



◆多由也◆

チャクラを混ぜた音で効果を及ぼす特殊忍術、『音韻術』を主とする。
効果は主に補助や治癒。あとは五行の術で言えば、土遁か。


・術 名 : 秘術・三音《みおん》
・ランク : ―(Cランク相当)
・出 典 : オリジナル
詳 細
音韻術が壱。音によって対象のチャクラ流を操り、自然治癒能力を高める治癒忍術。
隠れ家にて日常的に多由也がサスケへと使用していた忍術。
ちなみに三音とは、茶の湯での音を指し、湯がまのふたをずらす音、茶せんの穂を茶わんの湯に通す音、
茶碗に茶を入れたあと茶碗のふちで茶杓を軽くはたく音の三つ。
または、湯がまの湯の煮え立つ音、湯を茶わんにくみ入れる音、ひしゃくの中に残った湯をかまに返す音の三つとも言われる。



・術 名 : 秘術・五音《ごいん》
・ランク : ―(Bランク相当)
・出 典 : オリジナル
詳 細
音韻術が弐。対象の肉体・精神のチャクラ流を操り、五感を鋭くする補助忍術。
人によっては第六感、つまり“勘”が鋭くなったりもする。
チャクラコントロールも上がるので、あらゆる状況において有用になる術。
ちなみに五音とは中国音韻学における言語音の分類法の一つで、
元来中国語の声母(頭子音)の発音を調音の位置・調音方法によって分類したもの。
唇音・舌音・歯音・牙音・喉音を指す。



・術 名 : 裏秘術・一音《いちおん》
・ランク : ―(Cランク相当)
・出 典 : オリジナル
詳 細
音韻術が番外。チャクラで増幅した高音で対象の鼓膜を震わせ、
三半規管を僅かに揺らすことができる。
使いどころはあまりない。奇襲用か。イオンって言ったら駄目。



・術 名 : 秘術・七音《しおん》
・ランク : ―(Aランク相当)
・出 典 : オリジナル
詳 細
音韻術が奥義。五音の効果の強化版であることに加え、奏でる音に術者自らの意志を乗せ、共感させる補助治癒忍術。
七音は七音音階のこと。つまりは“曲”であり、“音楽”。




・術 名 : 土遁・土流棍の術
・ランク : C
・出 典 : オリジナル
詳 細
アニメでヤマトが使った土遁・土流槍の先が尖ってないバージョン。
だって尖ってたら………金玉撃ち貫くとか、非道すぎるでしょう?



・術 名 : 土遁・土流陣壁
・ランク : B
・出 典 : オリジナル
詳 細
水遁・水陣壁の土遁版。土の壁を自分の周囲360度に展開する忍術。






[9402] 余談・裏話(6/19に追加)
Name: 岳◆3d336029 ID:0347f440
Date: 2011/06/19 01:32

各話の裏話というか、元ネタを書いてみました。

激しくというか超ネタバレなので見られるならどうか本編を読んでから。




※後半部の裏話は後日に追記する予定。



●序章

投稿しようとした切っ掛けは、あって無いようなもの。
本当になんとなく。ホームページの方でオルタ二次の「Muv-Luv another dimension」を書いていたのですが、どうにも難しい。
設定と世界観が難しすぎて先に進めない。経験も足りなく、どうしても詰まる。初長編でこの作品を選ぶのは、あまりにも無謀すぎる試みではないか。

それで、軽く書いて連作して、感想というかアドバイス的なものを頂いて経験を積みたい。
こんな所を考えていました。


で、1話
完全にノリ。設定で考えていたのは、"ラーメン屋""憑依""四代目の魂"だけ。キューちゃんは唐突に浮かんだ。
当時原作の方がちょうど四代目とナルトとの関係が書かれていた頃ですね。
で、波風ミナトを見て思ったのは、「完全すぎる」ということ。完璧な忍者だね、良い人です。でも機械みたいで、人間臭くなく、ちょっと面白みが足りない。
何か退屈させない、そう、強調感が必要。そういえば師匠と弟子があれだったなうんマダオに決定、の流れでした。


2話
何故か妹が登場。書いていた勢いのままです。
で、この後の彼女はカカシ班との"継ぎ目"かつ、ナルトが抜けた穴を埋める存在に、と割り振っていきました。


3、4話
何も考えていない。気の向くまま赴くままに書いて、ポン、と投稿。
確か1~4話までは、初日に一気投稿していた。


5、6話
白ってあれでしょ、女でしょ?女ですよね?
今までに原作に登場したキャラでも圧倒的な女っぷりと一途っぷりですよね?アニメも漫画の方も。
なのでTSったー。女の白。むしろこっちが自然に思えるほどだね。後悔はしていない。


7~17話
勢いのままに書いて投稿。
話の流れなんて全く考えてない。書きながら展開を考えてそのまま。
超唐突なシカマル疾風伝も、こっちの方がいいかな、って思ったから。
でも、感想の意見もできるだけ取り入れたいなー。
え、多由也を仲間にって? おっけー何とかしてみる。で、仕込みを色々とあちこちに入れました。


それで、この時点では九尾の妖魔に関する概要というか、形は大体のところを決めていました。
①生物上、"殺しても死なない"というのはおかしすぎる。
②生物である以上、自然というか世界の中で何らかの役割を担っていないとおかしい。
③原作で自来也が言っていた「世が荒れた時に九尾がやってくる」というニュアンスの言葉。
④同じく原作で自来也が言っていた、「一から八尾までとは違う。あれ(九尾)は特別な妖魔」

以上を総括して、矛盾の無いように絡ませれば、と考えていました。


――飛ばして。


幕間「赤髪の少女」
あっちの感想で「多由也を仲間に~」という声があったので。
仕込みは木ノ葉崩し開始時には完了していましたし、仲間になるまでの流れは割とスムーズに。
原作で多由也がサスケに「何かを捨てなければ~得られない」と言っていたので、それをふまえて書きました。
で、4人が4人とも特殊な術というか体質を持っているので、大蛇丸はそういう才能がある孤児達を集めたのかな、と。
それらを考え、こういう感じになりました。野良犬と家畜うんぬんはかの名作漫画「ジーザス」から。




●二章開始

原作を読み返して改めて思ったこと。

①イタチさんマジ不憫。
②サスケの思考回路はどうなっているのか。復讐で盲目になっているのは分かるが、その後の“木の葉を潰す”発言がどう考えても分からない。ちっとも理解できない。

で、ここではじめてこの二人をどうするのかについて考えました。サスケもキャラ的には良いモノをもっている。
どっちもこのまま原作通りじゃあんまり過ぎる。
でもギャグの流れでイタチさんを仲間に、とかしたくない。というか、ここまで不幸な人はそうそう見たことがねーよ? 
で、そのシリアスというか、イタチの“痛み”の部分をギャグ方向に壊さないでどうにかしたかった。
その流れでサスケ参入決定。解決には弟が不可欠だろう、と。
それで続きを書きながら気づいたんですが、サスケって色々と"映える"んですよね。華があるというか。
それで、ここからはダブルヒーローでいこうかな、てなことを考えていました。
一つの視点だけじゃ飽きが来るし。

それで、この話以降は、各キャラの掘り下げも意識していました。
原作で書かれていることの、原因というか、因果関係とそれぞれの考えは詳しいとこどうなっているんだろうと。

断言しても言いですが、ギャグ展開をあのまま続けていれば、作者も読者様方もこの作品を飽きて、中途半端なものになっていたことでしょう。
起伏に乏しいストーリーでは、続きを読むのが億劫になっていきますから。



●劇場版之壱

主にサスケの修行のために。感想でサスケが主役とか~という意見があり、面白い発想なので取り入れました。
ストーリーの大筋は原作の劇場版から変えていません。立ち位置はサスケがナルトのポジションに。
で、この二人をどう絡ませるか。共通点はあるか。そういえば、二人は同じような境遇にあった。過去に全てを奪われたのは、サスケも小雪姫も同じ。
ストーリーを司るソングは、カウボーイ・ビバップの『SEE YOU SPACE COWBOYS NOT FINAL MIX MOUNTAIN ROOT』、最終話で流れるあれ。
歌の心情的には、小雪姫。故郷よ愛よ、夢よ女優よ、ってな具合。過去に苦しむ彼女の心情を歌と照らし合わせて、虹という言葉で統括しました。
最後はレインボー・イン・マイ・ハンズ。
ボス敵の鼻オヤジことドトウ叔父の声優(天国への階段の同じくラスボスのヴィンセントと同じ)、再不斬の声優(ジェット・ブラック)、原作劇場版にある牢屋でのシーンと天国への階段にある牢屋のシーン。
それと、原作でもあった虹と、歌の中の歌詞。それを混ぜて炒めて調理しました。
あとは虹といえば交響詩篇エウレカセブン⇒原作劇場版でも敵さんスノボを持ってるじゃん⇒合わせちゃえ、てな具合。



●三章

構成につまったせいか、いきあたりばったりが目立つ。感想で指摘され、図星をつかれてドキリとして。
それから、改めて練りました。
で、この時点で終わり方を決めました。最後の太極螺旋丸が浮かんだのは2ヶ月か、更新が空いた頃。
疾風伝のブルーバードが流れてるオープニングが好きで、あのシーンを取り入れたかった。
ただ、あのシーンまで持っていくのにクリアすべき条件と段階が多すぎる。
どうしたことやら、と考えながらまたちょっとずずずと書き連ねていく。
ラスボスはペインというか六道仙人で確定。こっちが強いんだし、ならあっちも強くしないとね、的な。
それで六道仙人+十尾の極悪コンビ爆誕。

あとは感想で六尾の人柱力や七尾の人柱力も出して欲しいとありまして。
え、でも原作にもアニメにも出てきてねーですよ?
そこから設定イラストにある絵を見て色々とそれぞれの性格を妄想。
ちなみに三章を投稿していた時期では、ウタカタはアニメの方に出てきていなかった。
後でアニメの方を見て、急いで改訂したのもいい思い出。




[9402] 後日談の5・前 ~桃地再不斬と白~
Name: 岳◆3d336029 ID:0347f440
Date: 2011/06/16 01:05



鳥のさえずる声が聞こえる。どうやらもう、朝のようだ。
目を覚ました俺はいつもの通りに横にいる、腕を圧迫している人物を見る。

規則正しい寝息の鼓動。腕の血管が圧迫され、感覚が怪しくなった腕から鼓動の音を感じる。
安心しきった、穏やかな顔。帰ってきた日からずっと、九那実は俺から離れようとしない。
特に寝るときはこうしてどこかを触れ合わせた状態でいる。こうしないと安心して寝れないそうな。


俺も、"あの遺跡"で幻術にかかってからは、同じになった。
こうして隣に居ないと、不安になるのだ。


そうしたまま、俺はいつものとおりに10分程度その光景を堪能する。

外からは小鳥の鳴く声。

やがて堪能しつくし、起きる時間になると、俺はすっと腕を揺さぶった。
ゆっくりと、だ。あまり激しくやるとかぶりと噛み付かれかねない。

振動に気づいた九那実の呼吸がわずかに、乱れ「んっ」という声が漏れた。

緩やかに、目が開かれる。


「おはよ、九那実」

「………おはよう」



今日も、一日が始まった。




○ ● ○ ● ○ ● ○ ●




「まだ、寒いなー」

俺は明けきっていない空を見ながら呟いた。後ろには居酒屋兼ボロ旅館である、あの女将の家が見える。
網に戻ってからは、この旅館の一部を改装というか補強、補修をして、ここに泊まっている。
中では紫苑がまた寝ていることだろう。改装してからは、なかなかに居心地がいい寝場所になっていることだし。

(まあ、あのままじゃあ、紫音と菊夜さんには酷だったもんなー)

俺と九那実ならともかく、特に紫音にはあのボロ部屋はきついだろうということで改装したのだ。
サスケ達と木の葉から派遣されたヤマト上忍の手を借りて、それでも一週間かかった。
それでも、満足のいく部屋に仕上げられた。ちなみに居酒屋の外装は変えていない。
柱や壁など、建物を支える部分の芯の部分は補強してもらったが、趣のある内装はそのままだ。
これで、気温の急激な変化や台風にも耐えられるだろう。

(冬になる度に床とか壁とか、ぎしぎしいっていたもんなー。直したからその音も消えてー………って、寒いなおい)

吐く息が白くなっている。冬真っ只中だった先月ほどではないが、それでもまだ気温は低い。
ここ、網の本拠地は雪の国程ではないが、冬には寒くなる。
内陸よりも海に近いせいだろうか。それが原因ならば、この寒さはきっと寒流のせいなのだろう。

「もう、一月も、経てば―――春の花も咲こう。それまでの辛抱じゃ」

隣で俺と同じに準備体操をしながら、キューちゃん。服は運動用で、気温に合わせ少し厚めに着込んでいる。

俺の方は、少し肌寒いくらいの服だ。こっちはちょっと激しいので、着こむと逆に苦しくなる。

念入りな準備体操を終えると、俺は足の調子を整えるようにその場で軽く跳躍。
キューちゃんは足をとんとん、と地面を踏みしめる。

「そういえば、今日は軽めにするのか?」

「うん、明日の準備もあるしねー」

明日は、待ちに待った日である。旅を一度中断して戻ってきたのも、明日のため。

再不斬と白の身内だけでの結婚式だ。
出席者は俺、キューちゃん、サスケ、多由也、そして小雪姫こと富士風雪絵。
霧隠れからは護衛として先代水影が来るらしい。何でそんな重要人物が来るのか、と聞いたら『婚期が』らしい。
うん、よく分からん。

ちなみに料理はおばちゃんに頼んである。材料代は俺とサスケが出した。
かなり奮発している。俺が食べたいのもあるけど。

決まったのはつい先週。
本当は先月にする予定だったのだが、再不斬側と小雪姫が予想外に忙しいせいで、この3ヶ月延期に延期となったのだけれど。

「こちらはOKじゃ」

「俺も………OK」

と、俺は跳躍を繰り返しながら、足にチャクラをまとわせた。

そして問題ないとした後、俺はキューちゃんに横目で合図を送ると、いつもの朝のランニングを開始した。






一歩踏みしめて自分の全速の半分、そして二歩目には8割の速度域に至る。
一般人には突風か何かにしか感じられないだろう。直視しても輪郭すらとらえられないだろう。
まったく、この新しい体はチートに過ぎる。その分、こういった調整が必要になるのだが。

「よっと」

跳躍し、足場を樹の枝の上に移す。そして枝が軋む前に再び跳んだ。
繰り返し、木々の間をすり抜けていく。

コースはいつものとおり。本拠地に駐留している侍達や、網の護衛部隊―――例えば多由也を除いた4人衆とか重吾とか――――とは違うルート。俺と一部の者しか使用していないランニングコースだ。
表向きはただのラーメン屋の店主なのだ、俺は。だからばれると面倒くさいことになるだろう。なんせ、並の忍者ではおいつけない速度で走っているのだ。
変化すれば正体まではばれないかもしれないが、毎朝変化を繰り返すのもまた面倒くさい。それにキューちゃんと一緒に居ると何かと面倒くさい輩が湧いて出る可能性がある。
それも仕方ないだろう。綺麗と可愛いを極めてしまった(主観)彼女なのだから。

「……何やらまた恥ずかしいことを考えておらんか?」

「いや、考えてないよ」

俺にとっては、とは口に出さず。

そんなやり取りをしながら走って、5分程経ったぐらいだろうか。

前方に、見知った人物が現れた。
まだ背中しか見えないが、その人物の後頭部からは最近彼女にプレゼントされたというバンダナが見える。腰元には、いつもの変わらぬ愛刀。
やがてあちらも、こっちに気づいたのだろう。少し速度を落とし、速度を変えない俺たちと並行する。

「よう」

むかつくぐらいのイケメンフェイス。
最近幸せ絶頂だという噂の網の護衛部隊のトップ、うちはサスケが片手を上げながら朝の挨拶をしてくる。

「うっす」
「今日は早いの」

挨拶を返しながら並走を続けた。速度はほぼ同じで、このチートな身体性能にひけを取らない。
一月前はまだ俺の方が速かったのだが。仕事に一段落がつき、修練に時間を割けるようになったせいか。
ただでさえ卑怯臭い総合力を持っているのに慢心しないとか、本当にあの頃からは想像できない。
ザンゲツの元で駆け引きを、イタチの元で思考の幅の広さを鍛えているせいか、戦闘ではない方の実務でもめきめきと頭角を見せているのだとか。
それは各隠れでも噂になっている程。

境遇は人を変えるが、環境も人を変えるのだ。もともと復讐に対して真面目すぎる思考を持っていたサスケ。
そのベクトルとやる気がでる根本の理由が変われば、こうにも変わるものなのだな。

ちなみに余談だが、あの十尾事件が終わった後。サスケが木の葉の面々と再会した時に、ひと騒動があったらしい。

主にサスケの人格面での成長を知らなかった面々、特に日向ネジとかロック・リーあたりが呟いた『だれてめぇ』という言葉に発した、うちはサスケ別人疑惑とかなんとか。
そりゃ無理ないっす。中忍試験でしか会ってない面子からすれば正に別人。


というか今のサスケが中忍試験前のサスケを見たらどうなるんだろう。

―――うん、きっと顔をトマトのように赤くして地面に転がるんだろうなきっと。
そんな事を考えながら、生温かい目でサスケを見る。

「なんかむかつく事考えてないか」

「いいえ、ちっとも」

危ない。勘も鋭くなってやがんの。
でもいつかゲンドウポーズで「俺の夢は―――ある男を殺すことだ(キリッ」ってやってやろうか。


「なあ責任者さん、鯉口切っていいか?」

「内容によっては雷までOK」


考えてること言ったら、雷華の術くらいました。

まる。








「ういーす、準備OK? ってなんで朝から焦げてんだメンマ。あと、なんでサスケが不機嫌なんだ」

「雷遁食らった。原因は、うん、いわゆる…………あの日のポエムを暴露された的、みたいな?」

「次は火遁いくぞテメエ!?」

「ハイハイ、いいからスタート地点に並んでよ」

参加しないキューちゃん、多由也、イタチはそれぞれのペースで走ると、俺たちとは別のコースへ消えていく。

こちらは横一列に並び、それぞれにスタートの体勢に入る。これは一週間に一度だけ行われる、決められたコースを一周回る競争。
修行するにも張りがないと、との声に応えた景品アリレースだ。
景品は"小池亭のラーメン一週間タダ券"。俺を抜いて見事一位を取ったらやると約束している。

ちなみに屋台の名前を小池亭に変えました。流石に九尾狐はまんま過ぎてヤヴァイです。

レースの参加者はごらんの3名。
サスケとシンは生身で、サイは高度を上げすぎないことを条件に超獣戯画を使用してもいいルールになっている。

そしてよーいドンの掛け声と共にレースが始まった。








○ ● ○ ● ○ ● ○ ●







「で、今日もお前が一位と」

「ふっ、流石にあのルールでは負けんよ」

居酒屋の中。昼から開店なので客が居ない広いテーブルの上で、俺たちは朝食を取っていた。
メンバーは俺、九那実、紫音、菊夜――――そしてザンゲツ。

「あ~、紫音。ほら目え覚まして」

ちなみに朝食を作ったのは紫音だ。朝の鍛錬に出かけている俺と九那実、菊夜は作れないので、作ってもらっている。
料理の腕はスパルタで教えた甲斐もあってか、今ではもう相当なものになっている。
こんな半分覚醒状態でも熟練の主婦に匹敵するほど、旨いものに仕上がっている。
上達が早いのは、おそらくは味覚が人一倍敏感なのが原因。
味覚が鋭いのは、かつて視覚が閉ざされたせいでもあろう。あの辛かったであろう日々にも、意味があったのだ。
まあ割と食い意地が張っていたのも理由の一つに数えられるんだけど。

「あ~、ほら。可愛いからもっと見てたいけど、起きて起きて」

ぺちぺちとほっぺたを叩く。すると、甘えたようにこちらに倒れかかってきた。
って、肩に、胸が、当たって、柔らかい感触が!
髪からいい匂いもするし。こうして見ると育ったよなあ。特に胸の辺りとか。
綺麗になったなあ。鬼も十八、番茶も出花って言うし、紫苑は元が綺麗だし。

「いい加減におきんか」

「ひだだだだ!」

と、そんな紫苑に九那実のアイアンクローが炸裂した。
そんな主の様子をみて菊夜さんは――――だが完全にスルー。

「あ、すみません醤油取ってください」と言っている。
人間とは慣れる生き物なんだなー。あ、いま取りますから。

「うむ、うまい。紫苑も腕を上げたな」

「………お前はどこでもマイペースな」

ずずと味噌汁をすすっている網の頭領、ザンゲツこと紅音にツッコミを入れる。
彼女はいつもならば旦那に朝食を作ってもらっているのだが、先週に遠征に出かけたので、こちらに朝飯をたかりに来ているのだった。

自分で作ったらどうだ、とは言わない。本拠地の"本社"にある食堂で食べたらどうだ、とも言わない。
網の首領はまじりっけなしのガチンコ激務だ。この程度で癒しが得られるというのならば、いつでも来いってなもんだ。

「で、お前はいい加減に落ち着く所を探さないのか? 宿住まいでは色々と不便があるだろう」

「あー、そうだなあ」

たしかに不便なところはある。一応持ち家としては山の奥にある例の隠れ家があるが、いかんせん遠い。
今は旅をしているが、戻ってきてからはこの本拠地近辺を中心に展開する予定なのだ。
近場に一軒家があればいいのだが。

「あるぞ、ちょうどいいのが近場に」

「マジで!?」

「ああ。超がつく曰くつきだがな」

「鼻フックかますぞこの女郎」

聞けば自殺者が累計二十人超だそうな。うん、それもう曰くつきってレベルじゃねーよ惨劇の館だよ。
うん、鼻フックだな。このメンマ、そんなホラー系ゲームの舞台になりそうな家を薦める輩には、例え女とて容赦せん。

「最後まで聞け。その家をサスケに調査してもらったのだが、そこはどうにも龍脈の坪になっているそうなのだ。負念が溜まっている、とも言っていた」

「………龍脈?」

紫音が反応する。
そういえば大陸最大の龍脈穴の管理者でもあったな。

「ああ、噂に聞いたかつての桜蘭ほどではないがな。それなりの土地の上に立っているそうだ」

「ん、桜蘭……どこかで聞いた名前だな」

「昔にマダオのやつが言っていただろう。ほら、あの」

「ああ! 『赤髪の凛とした王女様にちょっとときめいてしまったよ赤髪だけに』とかほざいてた、あの桜蘭か!」

「……いや、そんな話聞きたくないんだけどな。というか、商売柄顔を合わせる機会が多いんで、それ以上は言わんでくれ」

相変わらずどこに地雷があるか分からん奴らだ、と赤い髪のザンゲツが疲れた顔をする。
失敬な、意識してやってないぞ。

「逆に恐ろしいわ。まあ、いい。それで、"あれ"はお前たちの得意分野だと聞いたのだが、どうにかなりそうなのか?」

「話を聞く限りは大丈夫っぽい。とはいっても、何とかするのは俺じゃないけど」

と、俺はキューちゃんと紫苑の方を見る。

「大丈夫じゃろう。私の方には問題がないし、九那実の"アレ"制御も完全になってきておる」

自信満々に紫苑が言う。ちなみに周囲を意識してか、最近は一人称が私になっている。
年の頃だもんね。

「神楽舞か………いつも思うのだが、いいのか?」

「紫苑様は結界術の方で手一杯ですし、それに九那実さんの方が上手く舞えます」

「うう………元は天狐である我が、あれを舞うのは、かなりおかしなことなんだが」

九那実の方は苦笑している。
それもそうだろう、俺も数ヶ月前には思ってもみなかった事だし。

「役割分担、じゃな。流石に盲目生活のハンデは如何ともしがたい」

「その分、結界の制御力が尋常じゃないけどね」

あの音韻術の影響か、長く4感だけで生活していたせいか、紫苑のチャクラコントロール技術は俺をもしのぐ。
本気の結界を破るには、上忍が1ダースは必要になるだろう。

「詳細は分からんが、解呪の方は大丈夫そうだな。で、その話は後日持っていくとして………今は、明日の事を優先しようか」

「って、そういえば集合時間は………15時だったっけ?」

「ああ。分かっているとは思うが、要人だ。無いとは思うが、絶対に遅れるなよ?」

「らーじゃ」

手をひらひらさせながら、答える。

「"例の物"はすでにこちらに届いている。昼前にここの二階に運ぶが………」

「ああ、受け取りは私の方で」

「じゃあ頼んだ。くれぐれも取り扱いは慎重にな。明日を逃せば、そうそう時間は取れんだろうし」

ザンゲツに、菊夜が答える。
紫音はまだ眠いようで、眼が横線になっている。

九那実は豆が掴めず、必死に箸で格闘しているようだ。


そんな、いつもの光景の中、今日が始まる。


「さ、てっと」



伸びをしながら、呟く。

そろそろ店の仕込みを始めますかね。





○ ● ○ ● ○ ● ○ ●



昨日の内に用意しておいたスープを。俺はそれをかき混ぜ、紫音はさっき手打ちで仕上げた麺の数を数えている。
九那実は丼その他のチェックだ。開店時間の午前10時には十分に間に合いそう。


「おい~っす、精が出るね」

「おはようマスター」

「おう、ご両人いつもの時間通りだな。で、いつものでいいか?」

「ああ」

「頼みます」

開店時間の十時。
俺はいつものとおりに一番客として店に来たシンと灯香に、いつものラーメン――――というか、つけ麺を出す。

麺は特性の手打ち麺。チャクラによる身体強化をして丹精と真心を込めたこの麺は、一部の濃い客に大人気だ。
スープは鶏とカツオっぽい味がする魚の合わせ技。つけ麺用のスープなので、特別に濃くしている。
豚よりは癖がない鶏ガラと、魚介系出汁の巨塔の一つであるカツオが合わさって、得もしれぬ深みのある旨味が出ている。

麺もスープも、準備が大変なので旅の途中の屋台では出せない。
あの二年間と旅の途中で草案をまとめてこの本拠地で初披露したのだが、これが大絶賛の嵐だった。

ちょっと前まで、俺は「あのラーメン屋台の美人の姐さんをかっさらった男」として一部の男共に恨まれていた。
キューちゃんがキューちゃんなので、裏ではファンクラブも出来ていたらしい。
最初は、俺が帰ってくる前のキューちゃんが悲しんでいたことから、"あの彼女をほっぽりだしてどっかに行ったとんでもない男"と認識されていた。
まあ、前にも網に居たけど、今じゃ容姿は別人そのものだもんね。
だけどそんな奴らの心も、このつけ麺を食べてはらされたらしい。今ではそいつら含め、多くに客が普通に通ってくれている。

仕事柄遠征が多く、本拠地に長期間留まっている人員も少ないため、何度もこれる奴はそう居ないが。

「へい、お待ち」

「ありあっす」

「ありがとう」

ラーメンを出しながら周囲を見る。

「それにしても……今日はやけに侍部隊のやつらが多いように見えるんだが」

「………まあ、な。どうやら今日ここに来る要人の情報がどこからか漏れちまったようで」

「まじですか!? って、そういえば彼女、網もそうだけど侍部隊には特に人気が高かったよな」

「そうらしいな。噂ではミフネ氏も彼女のファンだとか」

「今や大名・主君にしたい人物ナンバーワンだもんなあ。そりゃ侍の連中は憧れるか」

直接確認したことはないが、彼女はあれから"かなり"上手くやっているらしい。
聞くところによると、五大国の大名より確実に手腕は上であるとか。
まあ、火の国の大名とかまじで何のために居るのか分からんし。

「って、あの堅物で有名なミフネさんもかよ」

「そうらしい。それより、俺には今だに納得できんけどなあ。"あの"蓮がミフネさんの孫だってこと」

「蓮………というと、最近サスケが面倒をみているあの娘か」

キューちゃんが二人におかわりの水を出しながら、言う。

「うん、そう。サスケも言ってたけど、もうちょっと、こう、贅沢いわんと一段階でもいいから状況と物事を考えたその上で行動することはできねーのか、って」

俺も同意、とシンが疲れた顔をしている。
そういえばあの子、猪突猛進突貫娘って二つ名がついていたっけ。

「無理だろ、ありゃ。アタシも見たが正に処置なしだぞ」

「医療忍者の、しかも網の荒くれ者を華麗に捌いてきた灯香がそういうのか………こはサスケの手腕に期待するっきゃない」

つまりは全部投げよう。
別にこちらに被害が来るわけでもなし。

「その性格が実力に繋がっているのもなあ。無理に言って聞かすのもまた違うし」

「放っておいたら?」

「見てるこっちがハラハラするんで色々と無理。まあ、近いうちに"何とか"しなけりゃなんねーんだろうけど」

シンはそう言って考え事をしながら帰っていった。
隣には灯香の姿。あの二人、ここ最近ようやく付き合い始めたらしい。

苦節十年以上、とはサイの言葉だ。その後のサイのヤサグレっぷりというか、暴走っぷりは慌てたけど。
なんだっけ、「もげぬなら もいでみしょう ホトトギス」だったっけ。

そんなことを考えながら、俺はやおら増えてきた客に対処するべく、準備を始めた。

(紫苑ももうすぐ来る頃だし、頑張りますかね)



○ ● ○ ● ○ ● ○ ●



そうしてやってくる客を捌いて捌いて、ちぎっては投げ、ちぎっては投げ。
14時ぐらいになって、一段落がついた時だ。
店をしめ、遅めの昼飯を取ろうとしているが、妙に入り口の方が騒がしい。

見てみると人だかりが出来ている。
老若男女問わず――――侍が特に多い。どうやら到着したようだ。

「ん、約束の時間まであと一時間はあるが」

「そうだねー」

ザンゲツと話でもするのか。

――――と、思っていた頃が俺にもありました。

やってくるなり、何故か店の前に立ち止まる大女優。

「まだ、やってる?」

「――――へい、やってます」

終わりました、とは言えない。
というか、背後の侍さん達が怖いんだけど。

こう、やってないと言えばどうなるか分かってるか的な空気が。
ファンって怖い。

「うっとうしい、散れ!!」

と思ったけど、キューちゃんの一喝で散っていった。貫禄のある怒鳴り声に圧され、網のあらくれどもは去っていった。
まあ、それぞれ手にはサイン済みの色紙を持っていたので、満足はしたんだろうけどね。

「で、なんでこんな時間に食べに来てんですかミフネさん」

「なに、いつもの時刻だろう。それに変な輩がいては姫様に申し訳がたたんのでな」

はっはっは、って何その爽やかな笑顔。ってアンタそんなキャラじゃねーだろ。
大体姫様呼ばわりは――――いかん、違和感がないさすがは侍、というか後ろを見ろ。
持ち場をサボってこっちに来ていた侍達が「ずるい」と言いたそうに………流石に口には出さないようだけど。

まあいいか、客は客だし。

「いらっしゃい、ご注文は?」

「んー、スタミナがつくやつでお願い」

「私も、それでお願いします」

ああ、マネージャー兼筆頭家老の三太夫さん、居たんですね気付かなかった。
というか筆頭家老というより必倒過労ですよ。
小雪姫も心なしかやつれて見えるけど、やっぱり女優との兼任は大変なのね。

「ワシも同じものを」

「へい」

と、俺は"宝麺"の作成に入る。これは昔に出していた"火の国の宝麺"から色々と改良を加え、スープの味の無駄な味を省き、麺を一工夫した新しい定番メニューだ。
構成は変えていない。豚骨の角煮が入ったとんこつラーメン。ゴマの風味をアクセントにしているので、味が更に深まっている。
一口飲めば喉の奥まで、二口飲めば胸の奥まで届く旨味と、しつこすぎない豚骨風味。コラーゲンたっぷりなので、美肌効果もある。

チャーシューの方も、噛めば口の中でとろけるほどの堅さの調整してある。
味はスープの特異性を殺さないよう、濃すぎず、それでいて豚特有の甘さが緩まないように。
食べた後はすっと口の奥に抜けていくことだろう。

ネギとモヤシはここいらで取れる新鮮なものを使用。
シャキシャキ感あふれる食感は、ちょっとしたアクセントになっている。

さて、これがどれだけ旨いのかと言うと――――


「「「ごちそうさま」」」

こうして、説明している間に全部食べきってしまう程だ。
顔には満面の笑みが。うん、ご満足いただけたようでなにより。

で、そこのミフネさんちょっとこの人と話があるんであっちに行ってくれないかな。

「む、知り合いか?」

「ええ、まあ」

「ならば仕方ない」

と、ミフネ氏は去っていった。
あの人もなー、有事には頼りになるし、人格は尊敬できるところあるんだけど、妙にはっちゃける時があるからなー。

「時に気のせいかしらんが、あの背中に書いてあるのは」

「え、さっき頼まれたからサインしたんだけど。というか、この距離でよく見えるわね」

俺も見えるヨー。ああ、なんかもう色々とカオス。

「それで、アナタはあの時に居た金髪の?」

「―――よくお分かりで」

外見は全然違うのに。

「伊達に女優と大名やってる訳じゃないわ。変装をしても息遣いを変えないのなら、分かるわよ。まあ、ヒントが無かったら気付かなかったかもしれなかったけどね」

「ヒント?」

「ラーメン、よ。あなたあの後に、うちの国の一番のラーメン屋に行ったんでしょう? 店長から聞いたわよ」

ああ、秘伝のレシピをもらったこと聞いたんだ。それで見当をつけた、と。

流石は雪の国の偉大な姫だな。
ザンゲツから聞いたが、内政や外交の手腕も大したものらしい。
発熱機器技術を結構な高値で他国に貸し付け、その金で奥地を開発。
最近では難病の特効薬になる薬草や宝石の鉱脈が奥地で発見され、それもまた自国の経済を支える柱となったとか。

まあ、外交という面で言えばこの姫に叶う大名や大臣、家老はいないだろう。
芸能界の荒波を見てきた、本物の猛者でっせ。修羅場を知ってそうにない"ボンボン"どもでは、相手にならない。

「ここのザンゲツ殿には負けるけどね。特に"あの"侍部隊。表向きを討伐に、裏で駐屯地を展開させた時の手際は………五大国の隠れ里にとっては本当、ぐうの音もでないぐらい、脱帽ものだったと思うわよ」

駐屯地、というと、あれか。
魔獣討伐のために侍部隊を派遣して、最後には駐屯地兼戦時法監視所を作ったあの。

まあ、俺も気付かん内にあちらこちらに侍達が居たからなあ。

聞けば、商人の護衛と称して人員を徐々に、密かに移動させていたらしい。
そして状況が整った後、各国の主要都市に戦時法監視部隊の駐屯地として申請、しかも一斉にしたのだ。

あの一連の流れは、見事の一言だった。

忍者達が里の復興であちこちに手が回らなかったのも大きい。表向きの理由である、"最近出没しはじめた魔獣の討伐"を盾にしたのだから、駐屯地建設に対して疑う声も反対する声も無かった。
黒い雲と謎の巨獣が国民の不安をあおっていたこともある。見た目鎧がっちりで礼もきちんとできる侍部隊が駐屯してくれるのだ、反対する理由がない。

認可がでれば、あとは裏に"すべりこます"だけ。
そういったやり方は、忍者より網の組織人の方が格段に"じょうず"だ。

もちろん、侍とサスケ達網の戦闘部隊は、魔獣の討伐の方もきちんとこなした。依頼料を無料とした、"善意の救援"としたのも大きいかもしれない。
された方としては、ただより高い物はないという教訓を学んだことだろう。

まあ網って資金力だけとれば隠れ里を凌ぐからなー。

それで何がすごいって、魔獣という不測な事態を前に、その困難な状況をただの厄介事として捕らえず、流れを殺さないまま"誰もが望む方向"に事態を変転させ、展開させきったザンゲツの発想と手際がすごいって話だ。
有事は有事としとらえ、その中で何が出来るのかを冷静に考える。平時であれば、駐屯地を置くことに対し、隠れ里側からの反対の意見がいくらか出たことだろう。その結果、侍部隊の駐屯地展開が十年遅れただろうことは想像に難くない。

「って、ああ、やめやめ。今日はそういうの抜きで来てるんだから」

「ですね。あと、あの二人は、約束の時間ぎりぎりになるそうですよ」

「今や水影様、だもんね………えっと、そういえば彼は?」

「彼というと………ああ、サスケ? あいつは本拠地の中央にある、あの建物の中。今日は多由也と………兄貴のイタチと一緒だったかな」

「へえ………兄、ね」

なんかちょっと複雑そうに小雪姫。
あれ、二人の関係知ってたっけ。

「ありがと、これお題ね」

「まいどー」

きっと受付付近でサイン攻勢の壁に阻まれるだろうけど、頑張ってくださいね~。


建物に向かう小雪姫と三太夫さんの武勇を祈り、ハンカチを振って見送った。

入れ違いに、様子を見に戻ってきた紫苑がやってくる。



――――その時、背後から声がかかった。


「お久しぶりです、メンマさん」


振り返れば、最後に見た時より幾分か成長している、二人の姿があった。



○ ● ○ ● ○ ● ○ ●




「へいお待ち」

と、俺はつけ麺と宝麺を二人に出す。

「ありがとうございます………ほんと、久しぶりですね」

「2年、いや3年ぐらいか。そっちもおひさね眉なしー………それで、ここに海苔があるんだけど」

「貼らねえよクソが」

そのやり取りで、再不斬は俺がメンマであることを確信したようだ。見た目、変わったからそりゃ怪しむよね。
まあここまでの威圧感が出せるようになった再不斬に対して、初対面からこんなかっ飛ばした会話が出来るのは他にいない。
いてもマダオくらいか。

ついでにいえば旨そうなラーメンを作っているのと、隣に居る九那実の笑顔。

然るに、答えは一つしかない。

「変わらんな………戻ってきたのは何時だ」

「鉄の国で爆発騒ぎがあったでしょ? あの直後」

「結構前じゃねえか………なぜすぐに連絡しなかった?」

「え、何でって………というか、気にしてくれたんだ」

「………ちっ」

舌打ちする再不斬に、白と九那実が苦笑していた。


(まあ、一応の貸しはあるしなー)

それを無視できる程、再不斬の面の皮は厚くないようだ。
意外と人情派だしね。同じ釜の飯を喰ったし、共闘もした仲である。

素直に言えないのは、やはりツンデレなのか。
さすがはサスケと張るツンデレ男。でもあんたらはそれぞれの相方にツンデレ発揮してなさい。

ともあれ、それはおいといて。

「連絡しなかったのは、水影の代替わりのゴタゴタで忙しそうだったから。
 それに、俺が生きているってことは多くの人には知られたくないし」

先約もあったし、と言うと再不斬は成程と頷く。

「英雄扱いはごめん、ってことか」

「以前と変わらない逃亡生活になりそうだし」

"追われる"という点で言えば以前と変わらなくなる。それは嫌だと眉しかめると、何故か再不斬は、戸惑っている様子。
まあ、普通の人間ならば、ラーメン屋よりも英雄扱いを望むものだしね。

男ならばなおのこと。

「………色々と言いたいことがあるが、まあいい。お前が変な奴だってのは知ってたし、ラーメン狂いのいかれ野郎ってことも分かってたしな」

「―――――照れるな」

「褒めてねえぞ」

顔を赤くする俺に、再不斬はまたため息をつく。
「ほんとに変わってねえコイツ」って死んだ程度で俺は変わらんよ。

隣の白は「ぶれませんね」と苦笑している。

「……で、つまりは――――この先は、どこにも出張る予定もないってことか?」

「勿論。オツトメは既に果たしました。あとは悠々自適のラーメンライフを送る予定だから、わざわざ誰かと事を構えようなんて気はさらさら無い」

「それを聞いて安心したぜ」

ほっ、と再不斬は安堵の息をついている。
今はもう、隠れ家に居た時のような共闘関係にはないからな。

それぞれの立場から、場合によって敵対する可能性もあるのだ。
だから気になっていたのだろう。実力でも心情でも、俺たちは最も敵に回したくない相手だろうし。

「ほら、だから言ったでしょう? 大丈夫だって」

「まあな」

笑う笑顔に、応じる再不斬。
俺はそれを見ながら、しかしと言葉を付け足す。

「でも白を泣かせるような真似をしたら……行っちゃうよ? 霧に」

「うむ。いち乙女として、文句を叩きつけにいくこともやぶさかではない」

「なんか分からんが私もな」

「お前はじっとしていろ」

「ひだだだッ!?」

アイアンクロー炸裂。
白は苦笑している。再不斬といえば――――何故か、青ざめている。

「………止めろ。お前ら二人に来られたら霧が洒落にならん」

バレた時のことなんて考えたくもない、と再不斬は冷や汗を流す。
それだけ、この二人は忍界にとっては大きい存在なのだ。

「なに、変化していくから大丈夫だぜ! …………多分。きっと。めいびー」

「何故段々と声が小さくなっていく」

「言いがかりは止めろ!」

「いや、雪の国」

キューちゃんのツッコミ。

「くっ、それがあったか!」

「極めつけは十尾」

紫苑のツッコミ。

「それもあったか………」

ラーメン道を求めながらそれを邪魔するトラブルを排し――――最終的にはなんかすげー英雄になってしまった。
いかん、と立てた親指をへにゃへにゃと降ろす。これが完全論破というやつか。

「ま、泣かせはしねえよ――――旨かったぜ。味も、深みが増してるしな」

「ええ、魚介と鶏の合わせ技ですから!」

揃えなきゃならん器具と材料が多いから本拠地でしか出せないけど。

「え、二重のスープなんですか!? 一体どうやって………」

ぶつぶつ、と呟きながら白。
流石は元助手だ、興味しんしんか。

「そもそも煮込み時間も、調理法も違うスープを………一緒にすればぐちゃぐちゃになりますし…………って、ああもしかして?」

「うん、ご察しのとおりだよ。流石元助手。旨みを出すのに必要な煮込み時間はそれぞれ違うからね」

それぞれの素材に最適な時間で煮込む。つまりは、別の鍋で煮込むのだ。
腕が無いとバラバラになって、まとまりのないまずいスープになるけどね。

「まあ、言うだけ美味しいですが……場所と器具が複数要りますね。ああ、だから本拠地でしか出せないんですか」

「うん、それぞれで煮込む時間が別だからね。でも双方の旨みを合わせることが出来る。色々なものを模索中だけど、これは完成形の一つだね」

「ほう、なら複数あるってのか?」

「うん、常に新しいものを、ね。挑戦はいいものだ。試す度にたたき落とされるし、色々と学ばされる」

謙虚にならんとね。

「………失敗した後は見ているのが気の毒なぐらい凹んでるがの」

「はは、やっぱりそうですか」

「うん。やっぱり地方によって好みの味は違うからねー。『お客様のニーズに合わせる』『極上の美味で満足させる』。"両方"やらなくっちゃあならないってのが"料理人"の辛いところだな。覚悟はいいか?俺は出来てる」

「え、究極のラーメンは一つあればそれで良いと言っていたはずでは?」

「そんなに甘くないって気付かされたよ。人間は皆千差万別。人の数だけ至高があるってね。全く、大変に過ぎるよ」

「あはは……でも目は死んでませんね。むしろやり甲斐があるって感じです」

「しかし"両方"か………俺の場合は『部下』と『任務』ってことになるのかね」

「ディ・モールトよしッ! それでこそ俺たちの再不斬だ!」

グッジョブと親指を立てる。

「いえ、僕のです。渡しませんよ。というかメンマさんには九那実さんが居るじゃないですか」

"小池亭"というのもそういう意味ですよね、と白が問いかける。

「うむ。流石に九尾狐ではな。木の葉の関係上、九頭竜でも問題があるし――――三人の店なんでな」

「そうですか………え、三人?」

「うむ。小池メンマに、小池九那実に」

「そして"小池"紫苑―――つまりはそういう」

最後まで言わせんと、三度キューちゃんのアイアンクローが紫苑に炸裂した。

「それでは、そろそろ時間ですのですみませんが」

「うむ、引き止めて悪かったの。じゃあ、ヘタレイケメンによろしくな」

「はい」







● ● ● ● 『桃地白』 ● ● ● ● ●



「お、来たか」

「ええ、サスケ君もお変りなく――――でもないようですね」

以前みたときと比べ、何とも覇気がない。

(ああ、ヘタレイケメンってそういう意味で………でもどことなくメンマさんも様子が変だったような気がしますね。前に会った時より活気がなかったというか)

ちらりと再不斬さんを見ると、『え、あれでか?』と変な顔をしています。

(ここ2年で何か会ったのかとも思いましたが………後で多由也さんに聞いてみますか)

「ん、どうした?」

「いえ………というか、サスケ君やつれましたね」

「………やる事が多かったからな。しかもチャクラを振りかざせばいいって問題じゃないことが」

その通り、実力行使は最終手段ですしね。
特に人付き合いで一番大事となるのは、忍び耐えることですから。

「胃ばかり痛む。まあ、その分やり甲斐はあるがな。そっちに比べてしがらみも少ない」

「それは………事実ですね」

網は隠れ里とは違い、自由な風潮を愛する組織と聞きました。
此処に来るまで色々な所を見ましがた、そうなのでしょう。

以前サスケ君が「やりたい事があって、同調してくれる人も多い」と言っていましたし。

「その分、こちらは大変でしたよ。負の遺産も多かったですし………まあ、問題の内の何割かは整えられましたので、これからは幾分か楽になるでしょうけど」

膿も出し切れましたし、と思わずため息をついてしまう。
穏健派かつ和平派を自負する僕にとっての膿とは――――三度の飯より血が好きな、血継限界保持者。

「まったく、十尾の"あの"光景がなかったらどうなっていたことか考えたくもありませんよ」

「そうだな………面白くないと思う人間も居ると聞いた。木の葉ではあまり聞かないがな」

「奴らにとっちゃ、切り捨てた遺児と負債が英雄になって、だからな。その分印象もでかかったんだろう」

お茶を飲みながら、再不斬さん。
よく似た立場であった再不斬さんは、印象というものが集団にどういった影響を及ぼすのかを実地で理解していますしね。

「それに、木の葉内部では元より非戦派、穏健派が多い」

「ああ………初代から続く火影の意志の裏にある想いは、今もその熱を失ってはいないからな。腕も経験も確かだった大蛇丸やダンゾウが火影に選ばれなかった理由が、はっきりと分かったよ」

「"千住"の意志、ですか。逆にこちらは"うちは"の―――いえ、人のせいにするのはいけないですね。そもそも、三代目自身がそれを望んでいたふしがあるように思えますし」

「人柱力、三尾か」

「ええ。そこで聞きたいのですが、人柱力でもある一人の人間を完全に掌握してずっと意志のままに操る、というのは可能ですか?」

「理論上は不可能でもないが………一人では綻びは隠しきれないだろうな」

そこは同意します。実際に組織の中で部隊を運営する、という立場について、知ったのでしょう。
一人では、見える面は限られてくるのだと、僕も思い知らされましたし。

「それで、どうなんだ?」

「―――同意見、です。が、そのことに僕達は気づけなかった。いえ、気づける部分が皆無に等しかった」

「クーデターのための情報を集めていたあの頃の俺たちでさえ、うちはが裏に存在するなど考えもしなかった………なら、答えは一つだ」

つまり――――三代目水影は、うちはマダラと協力関係にあった可能性がある。
それだけが、完全な隠蔽を成し得たのだと。

「まあ、どこからどこまで協力していたのか、というのは今となっては永久に空の果てですが」

「……俺が、三尾に聞けば分かるかもしれないが」

「そうかもしれません。ですが………やめておきます。今は復興と進化の時ですから」

「余計な過去は、軋轢に繋がりかねないってことか?」

「ああ。単純に知れば良いってことでもないからな」

その真実は、過去を慰めてくれないでしょう。そして、全てを知ることが必ずしも最善になるとは限らない。
余計な知識と真実が組織の歯車を歪める力になりうる。

水影の真実が、その最たるものだということも。

「それよりも前ですよ。それに、人柱力に関しては"網"が――――サスケ君がなんとかしてくれるんでしょう?」

「ああ。代役の居ない、唯一俺だけが成しうることだからな」

例えば、あの大女優のように。
そこでふと、サスケは壁にかかっている時計を見た。

「そういえば小雪姫が来ていないな………もうすぐ約束の時間になるぞ」

「あ、敷地内には居ますよ。ですがファンにサインの集中砲火を浴びていましたから………邪魔すればそれこそ押しつぶされそうな雰囲気で」

苦笑しながら説明すると、サスケ君はああと頷いています。

「そういえばウチの部隊にも、富士風雪絵のファンだっていう奴が多かったな……」

特に、組織に一部編入された"侍"部隊でのファン率は多く、ゆうに全体の9割を超えている。
サスケ君はそう言って――――大将のミフネもファンだったな、と難しい顔。

何か嫌な思い出でもあるんでしょうか。

「いや、実はな――――」

「隊長、一大事です!」

と、そこで唐突に扉が勢い良く開けられた。
バン、という大きな音と場の乱入者。それに対し、僕と再不斬さん、サスケ君が反応して各々に戦闘体勢を取りました。

同盟関係にもある、知らない仲でもない相手との過剰な反応かもしれない。

だが、分かっていても身体が反応してしまう――――かつて逃亡者であった者たちの癖で、悲しい性ですね。
そんな事は露知らず、闖入者は興奮を顕にしてサスケ君に言葉を投げかけています。

「なんとここに富士風雪絵が――――って隊長、何で雷紋を構えてるんですか!?」

黒髪のポニーテールに、"侍"が着る独特の衣装。そして、鼻筋がくっきりしている、凛とした美貌。
立ち方と重心を見るに、なかなかの手練。意識することなく、最低限必要な脚作りが出来ている。

体躯は小さく、ともすれば木の葉に居た頃のサスケ君を少し上回るぐらいか。
だが、刀の間合いもある。この力量なら、近・中距離は不利になるかもしれない。

僕はそこまでを判断し、しかし敵意が無いことにも気づいて構えを解きました。

「おい………蓮よ」

「は、はい!」

「朝、お前に。今日は来客があるからいつもより注意しておけ、って伝えたよな?」

「はい! ―――って、ああすみません! こちらが例の! これはとんだご無礼を!」

深々と腰を折り、90°の礼をしながら快活な声を出す闖入者。なんだか、毒気を抜かれました。
こうまですっぱりと謝罪されれば、特に言うこともありません。

ですがサスケ君は無言でちょいちょいと指図し、呼び寄せ、間合いに入った所で鞘の一撃。
ゴン、といい音がして、闖入者は痛っと頭を抑えています。

「うう、隊長いきなり何を!?」

「やかましい、ちょっとは学習しろ! 一応俺より年上なんだろうが!」

と、怒鳴り声を上げるサスケ君。
それを見た僕達は、この蓮という人物がどういった性格をしているのかを何となくだが理解しました。

そして「大体お前は~」を最初の言葉にして、始められる説教。
僕は再不斬さんと一緒に茶をすすりながら、その物珍しい光景を観察することにしました。

「ちょっとは考えてから」「慎重に」「もしこの二人じゃなかったらどうなって」とか。
至極真っ当な意見を叩きつけるサスケ君と、言葉が積み重なる度に小さくなっていく蓮という女性。

開かれた扉の向こうには、その二人の光景を見ながら、何とも無い風にスルーして通路の向こうに消えていく者も。
って、あれは多由也さんを追っていた音隠れの………今は、仲間なんですか。

3人の様子を見るに、どうやらこれは日常の風景のようです。
そして僕達は、サスケ君の胃痛の理由を頭ではなく心で理解しました。

(でも、面白いですね)

割と突っ込み癖があったサスケ君。それをたしなめる多由也さん。

かつての隠れ家での風景を思い出し、そして今は逆に怒る立場になっている。


思い出した僕達は、内心で笑いたい衝動をかみ殺しながら、その説教が終わるまで耐えていました。














[9402] 後日談の5の幕間 ~密談~ (6/22・後半部を改訂、追記)
Name: 岳◆3d336029 ID:0347f440
Date: 2011/06/22 19:52
富士風雪絵一行が到着した、その翌日。
とあるおばちゃんの居酒屋の中は、それはもうすごいことになっていた。

「く~、何よこのお酒! 滅茶苦茶美味しいわね!」

「ええ、他国に誇れる品揃えです」

「あ、おかわりお願いします」

快活に声が響く。

よく通る声に大女優富士風雪絵こと小雪、少し小さい声で紫苑の付き人菊夜。
そして護衛に来ている先代水影こと、照美メイの3人だ。

料理を作っているのはメンマ一人。
おばちゃんと九那実、紫苑は明日の準備で大忙しだ。菊夜は「この二人の監視を頼む」と冗談ぎみに紫苑に言われ、こうして飲んでいる。
どうみても暴走しそうだったので、とはメンマの言だ。

「あー、それにしても納得いかないわ~」

渡された酒をくいと飲みながら愚痴る小雪。

「ヤケになってるわね。一体何があったの?」

もう酒の勢いでタメ口である。アルコールと心の共感は全ての壁を取り払うのである。
共感している部分は、言わずもがな"彼氏なし"の"行かず後家"。

「サスケよ! あの時からあの赤髪の娘は怪しいと思ってたけど………あれ、入る隙間なんて無いじゃないのよ!?」

「ああ、そういえば赤髪の"十代"の娘が居たわね………」

十代という言葉に怨念が篭っているのは、気のせいではないだろう。
おばちゃんの手伝いとしてカウンターの中に居るメンマは、表情を変えずスルーした。

今突入するとマジで命が危険に危ない。

「もうゴールイン寸前、って感じだし。あーあ、結構楽しみにしてたのになあ」

「雪の国での一件、ですか。そういえば現水影様も絡んでいたとか」

「助けてもらったわー。まあ、それはいいのよ。感謝してるけど………問題はサスケよ!」

「仕方ないと思われます。聞くところによると、ずっと二人で頑張っていたとか」

戦友の絆は厚いですからねと、ちびちび酒を飲みながら、菊夜がこぼす。

「は~、やっり激務だからさあ。頼れる人というか、よりかかれる人が欲しいのよね」

「それはよく分かるわ」

女で忍びの頭を張ってたメイは、深く同意する。

「飛び込んでも受けとめてくれる、さあ………頼りになる人。どっかに居ないかなあ」

「頼りになる人、ですか」

菊夜がぽつり、と呟いた。
そこに何かを感じ取った小雪姫が突撃する。

「誰か思い浮かべたでしょ………近しい人と見た」

ずばり来た直球に、菊夜が酒を吹きそうになる。
動揺を見抜いたメイが更に追い打ちをかけた。
料理を作っているメンマの耳がダンボになる。

「え、っと、それは………」

ごにょごにょ、と菊夜が下を向きながらぼそぼそと。
普通にショートカット美人の菊夜だが、こういう仕草をするのはあまりないというか全く無いので、メンマの眼が眼福に溢れた。
網の中でも、人気はあるのである。しかしその全ての誘いを断っていたとも。

(その理由があるのか………!)

緊張感にあふれる室内。しかし、それは意外なところから途切れることとなった。
入り口の戸ががらりと開いたのだ。

「お、シン。何かあったのか?」

「いや、メイって人に伝言だけど――――」

と、呼ばれ立ち上がる先代水影。再不斬が呼んでいるらしい。
いいところだったのに、と愚痴りながら去っていた。

「で、どうなの実際の所」

(ああ、忘れてくれてない………)

誤魔化ると思ったのに、と顔をそむける菊夜。
もう二人きりだ、逃げ場はない。

「えっと………言わなきゃ駄目ですかね」

「うん」

問答なぞ無用、聞きたいから聞かせいとばかりの満面の笑み。
大女優だけが持つその威圧感はすさまじく、菊夜は完全に圧されていた。

「………」



● ● ● ● 『菊夜』 ● ● ● ● ●



無言のまま、考える。思い出す。
8も年下である、かつて一緒に暮らしていた男の事を。

その彼は、優秀だった。天才過ぎたと言っても過言ではない。
実際に試合ったのは最初の数回だけだ。ひとつ屋根の下で暮らすようになった次の日、護衛としての腕を確認したいとの申し出に答えてくれた時。
それでも桁の違いを思い知らされた。

最初は5秒だった。次は1分。
最後は、5分だった。最後は慎重に慎重を重ねたつもりだった。
それでも、一度も触れることすらできなかった。

鍛えた体術も、とっておきの幻術も、切り札だった口寄せの術も全く通じなかった。
忍術、幻術、体術その全てにおいてほぼ完璧。年は20に満たないというのに、一体どれだけの修羅場をくぐり抜けてきたのか。

戦術面でさえ敵わない。実戦経験の数もケタ違いなのは、戦ってみてはっきりと分かった。
こちらに後遺症を一切残さないという手加減の上手さは、経験によるものだろう。
逆をいえば、殺す気になればいつでも殺せるのだということも分かった。

斬るべき時に斬れるし、斬りたくない時は斬れない。
正しく、一振りの名刀のよう。

だけど、それ以上に気になったことがあった。
それは彼の眼だ。写輪眼が、ということではない。その瞳の奥に秘められているほの暗さに心を奪われたのだ。

最初は分からなかった。
紫苑様がいたずらをするようになって、彼と私の間にあった緊張感も薄れて、そこでようやく気づいた。
端的に表せば、彼は優しい。不器用だが、その気遣いや言動には根底の優しさがあることを感じさせられる。

それでも、その瞳の中に希望はなかった。優しさが見え隠れするその瞳に、必ずしも混ざっているものがあった。
それは、深い悔恨。自戒というような、生やさしい言葉ではない。己よ焼けよと言わんばかりの、自分に対する憎悪の炎だ。

―――この人は自分を許せないんだな、と。気づいてからは、悲しくなった。

彼の眼の中には希望がない。光を感じさせる感情など、どこにも見受けられない。
何か過去にとんでもない事があって、彼はそれを文字通り"死ぬほどに"後悔している。

彼の持つ強さは、それに起因するものだろう。壮絶な煉獄を見てきたからこそ、その業火に鍛えられたからこそ、彼はここまで見事な"刀"になったのだ。
最後に、己の役割を果たそうとしている。それまでは自分からは決して折れず、いつか折ってくれる人が現れれば、折れるのだろう。
そして果てる時には、きっと笑うのだ。

それでいい気にするなと、折った人が自分の死を嘆かないように。
言い残しながら、笑って地獄へ落ちていく。

気づいてからは、見ていられなくなった。
折りに来る人が彼の弟なのだと知ってからは、更に苦しくなった。

だって、弟の話をする時だけ、彼の表情は変わったから。
日頃見せる暗さも疲れた様子もなく、"年相応"の表情が見られたから。

紫苑様も気づいていた。その話をするのは、彼が弟に―――紫苑様を重ねていたから。
年上の私では不可能な役割だ。子供に甘い、優しい、彼だから。紫苑様もそれに気づいて、何とかしようとしていた。

徐々に剥がれていく、絶望の塊。その黒い全てが消えずとも、薄れたことによって彼は笑顔を見せるようになった。
そのギャップは卑怯だった。だって、そんな顔を見せられたら―――――どうしようも出来ないじゃないの。

(イタチ)

優しい自分が世界に許されなかった人。否応なしに狂乱に巻き込まれ、優しさを隠さざるを得なくなった人。
それでも信念のもとに頼れる刀であって、自らは折れない人。

今この時に彼が生きているなど、あの頃は想像もできなかった。
それを成したのは彼の弟と、紫苑様の想い人と、紫苑様の恩人。
救われたのはあれで二度め。今では三度か。感謝してもしきれない。

そこからはめまぐるしく過ぎていく日々。今でも、彼の中に絶望は残っている。
でも、それ以上の希望がある。暗い感情を打ち消してくれる仲間も。

「………タチ」

言葉が溢れる。あの時から、想う気持ちは変わっていない。
でも、言い出せない。彼を救ったのは私じゃないから。何も、できなかったから。

今もそうだ。私の責務は紫苑様を守ること。その笑顔を消さないこと。
もう二度と、あの絶望の日々には戻らせない。そのために、私は彼女の傍にある。

だから、言えない。

「イタチ」

言えないってのに、あふれてこぼれる。

どうしようも――――




「……呼んだか」




ガラリと扉が開いたのは突然のことだった。



● ● ● ● 『小池メンマ』 ● ● ● ● ●


菊夜さんが黙り込んだ末にこぼした名前に、俺は驚かなかった。
うすうすとは感づいていたことだったから。

でもそのタイミングでイタチが現れた時には驚かざるを得なかった。
その腕には明日ようの酒が多数。ってなにそのタイミング、完璧すぎるじゃん。

予期せぬ登場に顔が真っ赤になる菊夜さん。見たことがないほどにあたふたしている。
顔も真っ赤だ。そりゃそうだろう、考えていた相手が唐突に目の前に現れたのだから。

対するイタチは困惑顔。
今北産業な眼でこちらを見てくるが、そんな恥ずかしいこと説明できるか。

残る一人の小雪姫はにやにやしている。
やはり大女優と言えど女、こういうシーンが好きなのは全世界共通らしい。

で、そうこうしている内に――――菊夜さんが一歩前に出る。

「イ、イタチ!」

「は、はい」

圧され、一歩退くイタチ。
そのまま菊夜さんはイタチの眼を見て――――うつむいた。

その眼からは、こぼれ落ちる涙。
恐らくはイタチの顔というか、眼を見て色々と複雑なことを思い出したのだろう。
でも、言えないからか、ひっく、ひっくと鳴き始める菊夜さん。

正面に居るイタチはマジで慌てている。右見て左見て、どうしたらいいのかと回答を探している。
なにその慌てっぷり、今まで見たことねーんですけど。サスケでもこんなイタチを見たこと無いんじゃないか、ってくらいあたふたしている。

それも無理ないか。自覚のないイタチにとっては、「あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!」な状況だ。

やがて俺が手で「連れて行ってやって」とジェスチャーする。
イタチはそれに納得しないまでもそうした方がいいと思ったのか、菊夜さんを連れて外に出て行った。
うん、グッジョブ。

「えーっと………彼が、サスケの?」

「うちはイタチ。兄貴だね」

「ふーん、話には聞いていたけど………」

考え込む小雪姫。
そしてぱっと顔を上げ、口を開いた。

そこに、先ほどまでの遊びの口調は含まれていない。



「それで、彼ともう一人。ザンゲツの言うとおり――――派遣してくれるのね?」


真剣な眼。一国を救った英雄、いや女神の眼か。

「他に適任も居ないからな」

仕方がない、とため息をつく。

「例の宝石の鉱脈に関する報告、見たけど規模が大きすぎる。"変な考えを持つやつがいてもおかしくないほどに"」

ザンゲツが言うには、だが。

「すでに国外からはいくらかの人間が入り込んでいるだろう。大国は、復興に追われているから無いだろうけど――――」

「小国や小さな隠れ里までは、そうはいかない。全く、鉱脈が見つかったのは本当に助かったけど………規模が大きすぎるのが問題になるとはね」

「悪い虫の習性ってやつさ――――強い光に惹かれる、ってのは」

「虫だけじゃないんだろうけど、悪いこと考える輩は確かに悪い虫ね。それで、大丈夫なの?」

「うちはイタチは英雄さ。詳しくは言えないけど、今の五影をも越えるぐらいの」

「五影、ね。いまいち私達一般人にとっては、よく分からないんだけど」

「あの時の雪の国の忍びを、一人で相手にできる。そういえば分かってくれるかな」

「うん、よく分かったわ」

正しく英傑だ。
戦争の経験もある。実戦経験もともすれば俺より上。戦術も戦略ができて、忍者としての基礎の実力もケタ違い。
大戦を回避したという功績もある。並の忍びじゃあ、あれだけの決断を踏み切って、その目的を果たすことも出来なかった。

「裏の世界にも詳しいからな。洞察力は網でも随一だろうし、頭も切れる。もう一人の菊夜さんは忍犬のスペシャリストだし、相性も抜群だ」

鼻で方向を探り、眼で詳細を探る。
二人で行けば、問題など出ないだろう。

だから――――と。
でもその言葉は途中で切られた。

「それだけじゃあ、無いんでしょう?」

「………何が?」

「だってあなたって、損得だけで動きそうに無いんだもの」

私の時もそうだったでしょうに、と小雪姫はおかしそうに笑う。

「仲間か、大切な人に? ――――頼まれたんでしょ」

ああ、そこまで察してくれるならば、言ってもいいか。

「ああ、"二人"にな」

一人は、紫苑。彼女は菊夜に感謝していた。母の遺言を守ってくれた事に、自分を守ってくれたことに。
だからこそ、幸せになってもらいたいと。一人の女として後悔のないように生きてもらいたいと。

もう一人は、サスケ。あいつはイタチを自由にしてやりたかった。自分とずっと一緒に居れば、辛いことを頻繁に思い出してしまうんじゃないかって。
勿論離れるわけじゃない。でも、今は距離を少し置いた方がいいんじゃないかと。あとは、活躍できる場を用意してやりたいとも。富士風雪絵の援助となれば大役だ。
組織の内でも、一目置かれる存在になるに違いない。少数で目的を達成することが可能な力量を持つのも、イタチ一人だけだし。
あと、菊夜の兄に対する想いにも気づいていたらしい。

「しがらみを切って、ってやつ?」

「詳しくはアレなんで言えないけど、そんな粘度を感じさせるものじゃないな。それぞれの幸せを求めて、その先で繋がっていたいってやつ?」

幸せに繋がるだろう道があって、それを誰よりも自分達が邪魔したくない、と二人は言っていた。
イタチと菊夜にとってはどうか知らんけど、その考えは多分だが間違いではないと思うし。

「でも、損得抜きに組織の人員は動かせないって?」

「ああ、能力的に一番適任だ、ってのもあるからな。少数精鋭の方が相手側に気づかれにくい。
 特に、取れる鉱石に物騒なものが混じっているから失敗も許されないし」

あの鼻オヤジの鎧が量産されたら、とか考えたくもない。
その技術は失われたが、それだけで安心するほど網もザンゲツも間抜けじゃない。

「騒乱の可能性は潰しておきたいんだ。今の時期に、"小事"から"大事"に展開されるのは、絶対に避けたいしな」

今の平和は仮のもの。強引な手によって築かれた、砂上の楼閣に過ぎない。土台を固めるまでいましばらく時間が必要だ。
すぐに戦争という短絡的な行動を繰り返す愚は犯さないだろうが、それでも何がどう作用して取り返しの付かない事態になるのか、分からない。

「仕上げは網の方でするさ。あくまで監視だけど、あの二人が居れば問題はない」

特に俺の術は距離を無視するし。
手遅れにならないうちに人員を派遣することも可能だ。

「あーあ、白の晴れ姿を見に来たんだけどなあ」

やだやだ、と酒を飲む小雪姫、ストレスが溜まっているのだろう。

「まあ、これはこれだし。明日は明日で、徹底的に愉しめばいいさ。今日とはまた1ランク違うとっておきの酒に、これ以上のごちそうだ。
 "仕掛け"も十分に用意してるから、退屈はさせない」

「………そうね。そうした方がいいか。それでも………ひとつだけ聞いていい?」

「なんなりと」

「彼は雪の国に行くことを、望むと思う?」

「ああ、思うさ」

うちはイタチは、忍びにあるまじき優しさを持っている。
それは確かだ。サスケが言った通りに。だけど――――だからこそ。


「誰かにやらせるぐらいなら、ってな」


優しさに甘えない。それは、絶対に許しはしないだろうから。


と、その時。



「この、気配は?」



二人が行った方向に、気配を感じた。



● ● ● ● 『うちはイタチ』 ● ● ● ● ●


「落ち着いたか?」

「ええ………らしくないですね、ゴメンなさい。それじゃあ………」

「………気をつけてな」

「ええ………一人で溜め込まないで」

そう言って恥ずかしそうに、やや駆け足で去っていく菊夜さんを見送る。
彼女の顔は真っ赤になっている。俺も、やや赤くなっているだろうが。

それも仕方ない、あんな話を聞かされたのなら。

―――泣いた理由。それを、彼女は自分の口から話してくれた。

「………そんなに、上等な男じゃないがな」

彼女が語った俺と、あの時の俺の心境について。
その概ねは、あっていたように思う。

ただ、優しいとは違う。俺は甘かったのだ。
結果だけが全てである忍者の世界で、目的の達成を遮る感情は"甘さ"にすぎない。

あの時、早期に父を斬っておけば、うちは一族の全てを斬ることはなかった。
首謀者たる父がいなくなれば、わだかまりは残るが決起には至らなかっただろう。

だが、殺したくなかった。父も母も。
当たり前だ、自分を生み育ててくれた存在を殺すことを誰が望む。
それでどうにか説得しようとして、シスイさんの手も借りようとして―――"アレ"だ。

一族か、世界規模の戦争か。決断をしたというが、結局のところあれは俺の尻拭いに過ぎなかった。
最善ではないが、もっと良い方法があったはずなのに、選ばなかった。
そのツケを払っただけだ。想像していた以上より、辛かったが。

あの光景と、手にかけた時の感触は今でも思い出す。
生涯忘れることはないだろう。この重荷は、サスケに背負わせることはない。
ずっと俺が背負っていくものだ。

それでも――――幾分か、気持ちは軽くなった。
許されないことなのかもしれないが、昨日までとは、また違う自分が此処に居る。

ぶるぶると震えている、自分の手を見ながら思う。
彼女は言ってくれたのだ。誰にも言えない、自分の心境と、感情を。
それを同情ではなく、悲しいと想って泣いてくれる人は―――サスケ以外では、はじめてか。

どうやら一人であるという事は、自分が考えていた以上に辛いもののようだな。
あの夜から、自分の感情のその大半を殺してきた。サスケに許された今でもそれは変わらない。
辛いという感情も殺してきた。だから、一人が辛いものだとも、気付かなかった。

だけど、今は違う。気づいて、知って、軽くなった。
彼女が、誰にも言えない俺おnこの気持を理解して、泣いてくれたからか。
救われたということはない。それは未来永劫ないだろう。

それでも、心にずっと沈殿していた黒い泥が幾分か取り払われたように思う。
今までずっと、胸の中にあった暗い感情が。全てではないが、消えてくれた。

―――でも、それでいいのか。
ずっと、一人で背負っていくべきではないのか。

軽くなったと、喜んでいいのか。

「………許されはしない、か」

サスケ達は上手くやっていくだろう。
時々考えてしまうことがある。自分は、もう必要ないのかもしれないと。
死んで、父達に断罪されに行くべきではないのかと。

そこまで思考が陥った時―――俺の声に、答える者が居た。


「……何でそちら側の結論が出るんですかね」

「っ、誰だ――――!?」

答えた、声の先。
そこから、ゆるりと人影が現れた。

大柄な身体に、上忍クラス以上の忍び足。

手には、白い布に包まれた。
そいつを現すシンボルのようなものが握られている。

「鬼鮫!?」

「ええ、お久しぶりですねイタチさん」

「何故ここに。いや、それよりも―――」

「見ていましたよ、一部始終ね………聞きましたよ。それで、何故そういう風にマイナスの方向へ思考が向かうんですか」

本当に、心底呆れた顔で鬼鮫が言ってくる。
それは、見たことのない顔。

「お前は………いや、お前も俺の罪は知っているだろう」

「知っていますよ。けれど、まったく………イタチさん、アナタは生真面目すぎる。こんなにいい加減な世の中で、アナタは生者にも死者にも相応に接する。
 本当に、人に対して真摯に応えすぎです」

ため息をはく鬼鮫。やれやれと首を振っている。

「死んだ奴らは何も語らない。そんな無言を貫く相手の思考を勝手に考えて、その上で勝手に対応するというのは、ある意味間抜けのすることですよ」

「な、にを。死者に報いるのは―――」

「言ったでしょう。報いる相手など、とうに輪廻の向こうに消えていますよ。その上で報いようとするのは、究極の自己満足。
 ………それに生きるのも、ある意味は“正しい”んでしょう。だけど、それだけに囚われてどうします? 答えを返さない相手をずっと思って、考えて、このまま生きるつもりですか?」
 ―――もっと自分勝手に生きたらいいんですよ。アナタが本来望んだように」

「……俺の望みだと?」

「水影様―――いや、マダラさんから聞きましたよ。アナタ自身が大切に想う人を助け、幸せにしてやればいい。幸い、アナタの周りには“本物”が居るんですから」

「………鬼鮫」

「それで、ついでに周囲を幸せにしてやればいい。死後のことは、死んだ後に考えればいい。それをせずに放って逃げるのは、死者に対する最大の冒涜です」

「随分と、自分勝手な話だと思うが」

「自分勝手でない人間は居ません。アナタだってそうだ。戦争を回避するために、一族を殺した。自分の望みのために、誰かを“喰った”」

「………そうだな」

「食って生きる道を選んだはずだ。それなのに自分の望みを言わず死に逃げるというのは、喰った相手に―――死者に対する礼儀に反しますよ」

「礼儀、か………お前はどうなんだ? 偽りの無い世界を望み、マダラの計画に乗っていたようだが」

「ワタシはアナタとは違いますね。特別喰った相手に何も思ってはいません。大切な人をこの手で殺したこともない。と、いうよりも――――」

本物が居なかったんですよ、と鬼鮫は自嘲する。

「皆、どうでもいい存在でした。そうなる可能性はあったのでしょうが、そうなる前にこの手にかけた。それが任務でしたから…………いや、“本物”ならば――――」

あるいは、と。
そこまで言って、鬼鮫はかぶりを振った。

「どうせ殺していましたね。命令を下していた相手にさえ裏切られていたというのも、本当に滑稽な話ですが」

「だから、マダラに?」

「ええ。計画を聞いて、こう思ったのですよ。真実と本物があるから、嘘と偽物がある。ならば、全てを偽りにしてしまえば良い。
幻想の上に築かれた偽りの平和でも、平和には違いありません。なにせ真偽を判断する誰しもが、計画の最終には居なくなるのですから」

「自分の本物を、見つけるつもりは無かったと?」

「ええ。再不斬の小僧のように………ああいった小娘と出会えたのならば、また違ったのでしょうけど。いえ、その気概が無かったせいですか」

里のためにと水影暗殺を実行した桃地再不斬。
与えられた偽りの楽園のため、水影に手を貸した干柿鬼鮫。

分けたものは、きっと一つなのだろう。

「………これからどうするつもりだ?」

「特になにも。不死コンビと同様に、取り敢えずは大陸の外に行きますよ。今の情勢なら私たちの居場所は無いに等しいですからね。気ままに旅でもするつもりです――――そこの人が許してくれるなら」

と、指差す俺の背後から、見覚えのある赤毛の青年が出てきた。
さっきまで店で料理をふるまっていた小池メンマだ。だけど臨戦態勢というわけでもない。

「いや、このまま立ち去ってくれるならなにもしないよ。というか、何のために此処に来たか聞いていいかな。もしかして、今代と先代の水影の首を取りに来たとか?」

「今更しませんよ。此処にきた用事の一つは果たしました。もう一つは―――」

と、鬼鮫は手に持っている鮫肌をこちらに投げてよこした。

「再不斬の小僧に、これを渡して欲しくてね」

「………いいのか?」

「ええ。それはもう、ワタシには必要ありません。あると頼ってしまいそうですし。何よりも――――」

実は嫌いなんですよ、その刀。
そう告げる鬼鮫の顔は、満面の笑みが浮かんでいた。

「……“荷物になるから”、か?」

「偽物だったワタシの象徴ですから、それは」

だから今は要りません、と鬼鮫は言う。

「それより、本当にワタシを殺さなくても?」

「私怨があった山椒魚の半蔵と、志村ダンゾウ。そして生ける屍という名の災厄になりそうだった大蛇丸以外は、誰も裁かない。
 それがあの時六道仙人とペインが下した決断だ。だから、俺は何もしない。仲間を傷つけるってんなら別だけど」

「そのつもりはありません。でも、いいんですか?」

「なんだかんだいって常識人だ。大蛇丸みたいに、一般人には手を出さないだろうから。過去のあれこれは隠れ里とマダラの失態だし、俺にとっては命を賭けるに値しない。
目的を失った今は、そんな危険人物にも見えんし」

「まあ、暴れるつもりはありませんね」

「ならさようなら、だ………いや、“またな”かな」

横目で見ながら、メンマが言う。
そっちはいいのか、と。

(………明日の事があるしな)

それに、今この場で捕まえるのもまた違う気がする。
暴れるつもりもないのなら、無理をすることもないだろう。

それに、この俺がどんな顔でこいつ裁くというのだ。

―――そうだな。

「助言は助かった………少し、考えることが出来たよ」

あのまま負の思考の渦に陥ってしまっていたら、と考えると感謝に値するだろう。

「だからまたな、と言っておこうか。いつか、あの木の葉隠れにあった屋台でも食いに行こうか………今は別の場所にあるし俺の奢りだから心配ない」

ぶっ、と隣に居るメンマが吹いたが、気にせず見送る。


「ええ、それでは………」



そう言って、鬼鮫は去っていった。



気のせいか、その背中は昔に見たそれよりも広く、そして大きく見えた。















[9402] 後日談の5・後 ~手をとりあって~
Name: 岳◆3d336029 ID:0347f440
Date: 2011/07/10 22:30


● ● ● ● 『桃地白』 ● ● ● ● ●


――――その時、僕はどこにもいなかった。

寄るべき所をこの手で消して、居るべき場所も失ってしまったから。

身寄りもなく、ひとり。冷たい橋の上でただ川の流れるままを見つめるだけだった。

行き交う雑踏などには目もくれない。誰も僕を見ない。僕を知らないからだ。それはそうだろう。

何より、僕が僕を知らないのだから。名前を与えくれた人を殺して、その名前を知る人も居なくなった。
ならば僕はどこにも存在しない。伝える気力もなく、このまま雪のように溶けていくのだろう


でも、そんなとき、一人だけ。

声をかけてくれた人が存在して。


「負け犬の眼、だな」


そう言う人も、僕と同じ眼をしていて。でも、その人は僕とは決定的に違うものがあった。
今はもう、何処にも居ない僕とは違う。その人の目の奥には輝く何かが残っていた。

ただ、消えそうになるのを必死に誤魔化そうとしているだけだ。諦らめに支配されそうになっているのは、同じだけど。
気づけば、何も考えずに思ったままを告げていた。

そこから、いくつかの問答があった。
でも、何より覚えているのは二つ。

僕に向けて差し出された大きな掌と、"たこ"のせいで表皮が固くなって―――でも、そこに確かにある温もり。

そうして、僕は自分の意味と場所を得た。与えられた役割は武器で、居場所は再不斬さんの掌の中だ。
武器となるための修行は辛かったけど、父を殺した後に比べればなんてことはなかった。
苦痛はあれど、今僕は存在している。それは、何処にも居なくなる苦痛よりはるかにましだ。

心を殺し、血継という武器となり、再不斬さんの意志のままに振るわれる。
貧しいながらも平和だった、母が生きていた頃には考えもしなかった生活。

でも、幸せだった。僕は確かに、必要とされてそこに在ったのだから。

その後は本当に波乱万丈で。また僕は、自分を見てくれる人に出逢った。
同性の友達も出来た。音で人を癒すという、このご時世に珍しく。なにより素敵な夢を持つ、僕の友達にして戦友。

新しく出逢った、メンマさん達と。そして彼女とサスケ君と、何より再不斬さんと伴った隠れ家の日々は僕の宝物だ。
この先、何があろうとも僕はあの日々は忘れはしないだろう。

そしてまた、予期せぬ出来事が幾度と無く繰り返された。
いくつかが、予想の範囲内に。予期せぬ事態に出くわそうとも、乗り越えて、僕は今ここに居る。

今は名を、"桃地白"に変えて。あの橋の上での、第二の産声の後、また出逢った第二の居場所を作ってくれた人達に。
仲間に、祝ってもらうために。

儀式としての婚儀は霧隠れで済ませたが、あれはあくまで形だけのもの。
本当の意味でのそれは、決して終っていない。

祝って欲しい人達に、祝ってもらう。"認めて"もらう。そして、埒もあかさぬ馬鹿騒ぎと。
それは僕のわがままで、でも祝って欲しい人達の望みでもあった。

だから僕と再不斬さんはこの"網"の本拠地に来たのだ。
最後の、欠けていた人――――地獄のような戦いを生き延びて、ようやく帰ってきた仲間に、一緒に祝ってもらうために。

皆は食事の用意をしてくれている。何でも、"イベント"の時間は濃く短くして、その後に皆で飲んで騒ごうというらしい。
そして、その濃くて短いイベントのためにと、僕は今多由也さんに連れられ、とある部屋の前に来ていた。

立ち止まってこっちを見ている多由也さんは、なにやら悪戯を企んでいる顔をしていた。
メンマさんやマダオさんがこういう顔をするのは珍しくないが、彼女がこの表情を見せるのは珍しい。

そうして僕は進められるがままに一歩前に出た。
不安と期待を半々に扉を開き。



「――――これ、は」



見せられた光景に、その全てが歓喜へと変転した。

そこにあったのは、純白のドレス。レースがそこかしこに添えられた、メンマさんの話に聞いたウエディングドレスそのものだった。


「まあ、入れよ」

促されるままに入る。
見れば、隣には紫苑さんの護衛という菊夜さんが。

椅子に座り、髪を整えられて。呆然として、されるがままになる僕。

そこで、多由也さんが一言を挟んだ。

「マダオ師が、な」

頼んでくれたらしい。苦笑しながら、でも彼女は楽しそうに言う。

「"僕には娘が四人居る。そして親ならば、愛しき娘のために門出となる花束を贈らざるをえない"………だってよ」

「はな、たば?」

「ああ。そのまま花はメンマが、そしてマダオ師が用意したのは――――花嫁衣装さ」

ああいう、言葉遊びが好きなとこあるよなーと、多由也さんは笑う。

「衣服の職人さんと話し込んでメンマも巻き込んでデザイン決めて、それでちょっと前にようやく完成したらしい」

「そんな、お金は………?」

絹に、これだけ複雑なデザインだ。どう考えても値が張るものに、どうしたのかと聞くと、多由也さんは思い出し笑いをしながら答えてくれた。

「マダオ師曰く、"繋がる笑顔が僕の力さ!"らしい。メンマ曰く、"ネタに走った上に漢道をひた走るとは、流石は我が宿敵よ!"らしい」

「あの、回答になってないような気が………」

「メンマとサスケの二人から"こまけぇことはいいんだよ"、ってハモられた。甲斐性はオトコだけの剣、だとよ。ちなみに再不斬さんは知らんらしいから、後で驚かせてやれ」

「僕が最初に驚かされましたが………」

でも、細かいことはいいですか。僕はそう思いながら。ただ喜びをかみしめた。
話に聞くだけでドキドキした衣装を、この身にまとって。誰より愛しい人に見せることができるのだ。


それは、夢にまで見た光景。
憧れながらも、叶わぬものと思っていたから、望外の喜びを隠しきれない。

今まで生きてきた中で、色々なことがあった。

だけど、これ以上の喜びは見当たらない。

そう伝えると、多由也さんは素直に喜んどけ、と笑って返してくれた。

「苦境の果てに、折角に辿りついた今だ。遠慮なく楽しむのが正しい対応だと思うぞ。なあ、考えたことはないか? ――――もし、"小池メンマ出会わなければ"、ってこと」

「そう、ですね………もしかしたら、僕も再不斬さんも、多由也さんもサスケ君も………」

僕達の場合は、仲間に誘われなければ。多由也さんの場合は、あの言葉を聞かなければ。
今、ここには存在していないかもしれない。ひょっとしなくても、道半ばに果てていた可能性は十分にあった。

「でも、生き残った。だから、楽しめばいい。過去を忘れろ、なんて誰も言わない。ただ、楽しむべき時には楽しむべきだぜ。嬉しいならば、素直に嬉しいと感じればいい。それを誤魔化すほうがおかしいんだから」

「で、も………」

父の事を思い出す。
肉の感触は、薄れた。それでも最後に見たあの死面だけは忘れられない。

そんな僕の葛藤に気づいたのか、多由也さんは僕の頭をぽんと叩いた。

「これ以上は、ウチの口からはな。それに………」

言いながら、多由也さんが一歩下がる。

そう、話しているうちに、着付けというか、服の調整は終わっていたのだ。



「これだけ綺麗な花なんだ。笑わないのは嘘ってもんだぜ?」




そうして――――多由也さんに連れられ、下りた先。

扉をひらいて、真っ先に見えたのは再不斬さんの顔だった。

その視線は僕の方で止まって、全身が硬直しているようだ。
ぴくりとも動かず、ただ僕の全身を見ている。


「あ、の………?」

さっき鏡で見せられたんだけど、おかしい所は無かったように思う。
憧れに描いた絵のまんまで、その、こういうのはなんだけどそれなりに可愛いとは思う。

でも何も言ってくれないということは、どこかおかしいのか。

左右を見回し、上半身だけをひねって背中を見る。
どこにも、変なところはない。

「えっと、おかしいところは――――っ!?」

正面に視線を戻すと、再不斬さんが顔を逸らしていた。
顔がかすかに赤い。どうやら怒っているみたいだ。

(そん、な………)

似合っていると思ったのに、怒るほど気に入らないのか。
そう考えてしまうと、眼から涙がにじみ出ていた。

とんだ勘違いだ。なんて、道化なんだ。
顔を上げることも出来ず、地面を見ながら、途絶え途絶えに言葉を紡ぐ。

「あ、の………似あって、ないのなら、気に入らない、のなら、脱ぎますから」

「え、いや、ちが――――」

慌てたような声。でも気づかず、うつむき下唇を噛み締める。
なにやら横に居るサスケ君とメンマさんから不穏な空気が漂ってくるが、そんなことは気にしていられない。

きびすを返し、一刻も早く着替えようとして―――――背中を向けた瞬間、後ろから抱きしめられた。

きつくではなく、壊れないように優しく。

「―――似合ってる。だから、着替えるな」

「………え?」

「まだ見てえから脱ぐなと言ったんだ。二度同じことを言わせるな」

えっと、それは。
僕は最初、その言葉の意味が分からなかった。でも脳内で百回は反芻して、ようやく理解した。

途端、身体の芯から灼熱が立ち上る。
直前とは違う意味での、涙があふれてきた。

振り向き、再不斬さんに向き直る。

「おま、なぜ泣いて………!?」

「う、れしいからですよっ!」

思ったままに告げた。顔は笑っているだろう。
この喜びを、隠せるはずがあるものか。

笑って、泣いて、そして僕は再不斬さんの胸に飛び込んだ。






● ● ● ● 『桃地再不斬』 ● ● ● ● ●



飛び込んできた白は、ばかに美しかった。

白と黒のバランスが――――といった小賢しい理屈抜きに、ただ圧倒された。
言葉ではなく理解させられた。

問答無用というのは、このことを言うのだろう。
根本的に服の作りが違うのだろうが、そんなことはどうでもいい。

一言で告げるのなら―――似合っている。きれいで、似合い過ぎている。
ほのかに赤い顔もその美事さを助長していた。整っているのは分かっていた。
だけど、どうにも見くびっていたようだ。なんせさっきから、動悸がやばすぎる。

それでいて、こんな笑みを浮かべやがるからたまったもんじゃない。
去年から色々考えてた言葉が消し飛んじまった。

だから俺は、飛び込んでくる白を抱きしめた。
周りの眼があるが、今は構いやしねえ。

―――あの日あの時、橋の上で拾ってから十年以上か。

そうだな、一途にぶつけられる想いは………最初は重く感じられた。
でもすぐに変わった。優しく、一生懸命で、何より純粋な俺の白。
隠そうともしない思慕の念を背中に、戦うことは決して悪くなかった。

いや、逆に強くなったように思う。今ならば、メンマの野郎が酒の席でこぼした言葉も分かる。
そう、守るべき女を背負うのならば、大刀を握る手にも力が入るってもんだ。

深い傷を持つ、少女。自分からは絶対に消そうとはしない黒の思い出と、純粋な未来を想う白の心。
アンバランスで、見ていられなくて、武器であれと言って、俺の手の中から放そうとはしなくて。

今、俺の胸の中でもそのことを考えているのだろう。
だから俺は抱きしめる。言葉では伝えない。今はもう、臆病だった白はいないからだ。

武器だった白は、掌の中で収まっていた少女はもう居ない。

震えながらも、自らの意志で歩き出せるだけの力を持っている。


だから、俺は抱きしめるんだ。

消えない黒の刺が少しでも和らぐように。守りたいこの白の体温を自分の身に刻み付けるために。







● ● ● ● 『桃地白』 ● ● ● ● ●




背中に、額に、ぬくもりが広がる。告げられる言葉は何もなく、ただじっと熱を感じる。

耳をすませば、鼓動の音も。

(お父さんも、こんなだったのかな)

母の血継限界がばれる前までは、穏やかだった父。

抱きしめられた記憶は遠く、優しい記憶はもうはるか彼方に消え去っている。

きっと、優しかったのだろう。でも――――ごめん、父さん、母さん。

忘れはしません。アナタをこの手にかけたことを、絶対に忘れることはしないけど。


(それでも僕は、先に行く)


過去に囚われるのは、もう止める。
思って言葉をかけてくれる人のために。こうして想って、黙って抱きしめてくれる人のために。

優しかったアナタが、豹変するほどに――――心に傷があったであろうアナタが嫌った戦争の悲劇を、出来る限り無くすために。

それを無くそうとしている人、再不斬さんと一緒に、僕は行くよ。

そうして、僕は顔を上げ、今度は再不斬さんの顔に飛び込んだ。

頭に手を回し、ぎゅっと抱きしめながら唇を重ねる。


応える彼と、溢れる情熱を冷ますことなく。

決意と共に、僕は心の中だけで笑った。




(往くよ。今度は彼の、掌の中じゃなくて)


武器ではなく、道具ではなく。


(横に立ち、手を繋ぎ共に歩く伴侶として――――その胸の中を居場所とする、一人の女として)


思い出より、これから僕達の手で良くする世界を。今よりもっと良くなる、新しい日々をと。

誓い、離れて、笑って手を振る。




そうした後に、声が上がった。

メンマさんから、九那実さんから、サスケ君から、多由也さんから、紫苑さんから。

小雪姫から、照美メイから、食堂のおばちゃんから。


拍手が鳴り響いて、喝采の声が上がった。








その日のことを、僕は生涯忘れないだろう。




素敵な仲間と本当に見事な料理と美味しいお酒と一緒に、これ以上無いってぐらいに騒いで、楽しんだことと。




ずっと見ていた起きてみる夢が、叶えられた日のことは。


























おまけ


「えっと、あんたら何で膝をついて苦い茶を飲んでいるんだい? 確かに人目を気にせぬあのいちゃつきっぷりは紅音ちゃんと旦那の魔光景を彷彿とさせるけど」

「いや、あんな可愛さ見せられたら足にくるってもんだよおばちゃん。ぶっちゃけると萌え萌えきゅん。でも甘えよ足りねえな青汁もってこい」

「よし分かった同意はするが取り敢えず後で爽快コースだメンマ」

「了承。くく、独自にあみ出した“攻性結界”の脅威を見せてくれるぞ」

「えっと、いや、顔赤い白ってさ。なんだ………遠まわしに言うと、そそるよな?」

「よし分かった後で本拠地裏だサスケ」

「いやー、あれは仕方ないでしょ。ぶっちゃけ女の私だってクラっと来たよ畜生」

「大女優なのにその口は………というか私に彼氏というか、婿はこないのか!」

「「「はいはいワロスワロス」」」

「ど、同志メイ! なんだか分からんがそれを吹出すのはやめてすごい嫌な予感が!」

「………どうでもいいけど、全員涙をふいたらどうだい」





[9402] 後日談の6 ~あちこち色々ドタバタ模様~
Name: 岳◆3d336029 ID:0347f440
Date: 2011/07/13 23:38


① 新術結界 

「で、話ってなんだ紫苑。こんな人気のないところに連れだして………そろそろ開店準備にはいらなきゃならんのだが」

「すぐに済む。なに、前に話していた新術がようやく完成したのでな………覚えているか?」

「神楽舞、だったっけ。印の変わりに足運びと手の動きでチャクラをコントロールするっていう」

「うむ。複雑な分、効果も大きくなる。代々伝わる仙術にアレンジを加えて、どうにか形にななったのじゃが、私には難しくてな。動きながら使うこの術は、ちと使い辛い」

「本末転倒な………涙拭けよ」

「な、泣いてない! 泣いておらんもんね!」

よしよし、とメンマが紫苑のアタマを撫でる。

「ふん、一つだけなら使えるのじゃがな………あとは九那実に使ってもらおうかの」

「え、キューちゃん使えんの? 普通の印を組んだ術は使えないって聞いたけど………」

「それは保有チャクラが莫大すぎるせいじゃ。そもそも印というのは人間があみ出した、人間専用のチャクラ制御技術じゃぞ。その上、コントロールも拙いとあっては忍術が発動するはずもなかろう」

「まあ、純粋なチャクラコントロール技術は人間の方が上だからね………でも、その新しい方法なら?」

「使える。まあ、見ておれ………っと」

タン、と踏み出す足をスタートに。
くるりとその場で周りながら、腕を水のように流れさせ、最後には中央で柏手を打った。

「これは………また見事な結界術だな。うわ、固え」

自分たちを包みこむ結界の壁をコンコンとたたきながら、メンマは驚いていた。
結界の強度は馬鹿みたいに強固で、上忍の忍術をも寄せ付けないだろう強度があったからだ。

閉鎖型の結界はただでさえ難しいというのに、メンマの顔が感心の色に染まる。

「遮断結界の応用でな。維持可能時間も強度も、以前の3倍はある」

「へえ、それはすご………え、3倍?」

「うむ!」

紫苑が胸を張る。

「時間も?」

「褒めてくれるな、惚れてもいいぞ?」

「いや、えっと………つまり、この結界の効果が切れるのは?」

「うむ、十五分後ということに―――――あ」

二人が硬直する。

「すぐに済む、って言ってなかったっけ………?」

メンマは手をわきわきさせながら紫苑に近づく。

「う、うむ。ほら、人間は失敗する生き物じゃからの!」

じりじりと後ろに下がる紫苑。だが結界の壁に阻まれ、逃げることはできない。

間もなく、紫苑の断末魔―――ではなく、笑い声が響き渡った。

「ちょ、そこ、やめ――――あはははは!」

「ここか、ここがええのんか!?」

容赦なくくすぐり回すメンマ。紫苑はこかされ、寝かされ、片手で完全に拘束されていて反撃もできない。
それをいいことにくすぐりの勢いを強めるメンマ。

紫苑の笑い声がさらに大きくなり、目には涙まで浮かんでいる。
やがて紫苑が笑死寸前になったところでようやく、拘束を解いた。

「………っ、……っ」

紫苑は笑わされすぎて腹筋が痛く、息を荒くしながらもうつ伏せになったまま動けない。
メンマはそれをドヤ顔でみおろし、手をぱんぱんとはたいた。

「ったく、結界はすごかったけどお客さんを待たせるのはご法度………?」

と、悪寒を感じたメンマが顔を上げる。


―――そこに、金色の夜叉が居た。


結界のドームの頂上、頭上4mほどの高さで。
メンマをしてめちゃくちゃ見覚えのある美女が結界に両手を張り付かせ、じっと中央の二人を見つめている。


「怖ッッッ!? ってキューちゃん!?」


声に反応し、夜叉―――九那実が、口を開く。だが結界に阻まれているせいで、音が通らない。

「げ、これ音も遮断すんのか。空気は通っているようだけど………」

なんちゅう不思議術を使うのか。めんまは寝転んでいる紫苑をジト目でみながら、どう説明したものかと、アタマをかく。

ちなみに紫苑は横向きに寝転んでいた。笑いすぎて、顔が赤く、息も荒くなっていて。

―――途端、九那実から殺気が発せられた。

「ちょ、何で―――って」

(まて。この状況、傍目で見るとやばくね?)

人気のない場所。遮音結界。どう見ても事後です本当にありがとうございました、な様相を呈している紫苑。


で、今そっちに眼をやった。つまり、視線を逸らしたことになって。





ふ、と逸らしていた視線を元に、頭上に移す。





―――そこには、恒星のようなチャクラを右拳に籠め、今正に振り下ろそうとしている鬼夜叉の姿が!









( \^o^/オッチャワーン )








言葉を出す余地も無かった。直後、神の如き一撃が、光になれとの鉄槌が結界を完膚なきまでに破砕。

同時に巻きおこった衝撃余波と轟音の濁流に呑まれた二人は吹っ飛ばされ、二人仲良く隣の川まで一直線に飛んでいった。



―――そして、それで終わるはずもなく。




この後二人は仲良く正座させられて、酷く怒られたそうな。

「気配も匂いも消えて、本当に心配したのじゃからな!?」と涙目で怒るキューちゃんと菊夜、見事なたんこぶ二つをこさえられましたとさ。

「割とよくある」

「」










② とある木の葉の日常風景

「う~ん、一体どうすれば勝てるのか………」

木の葉の演習場の中、一人の少女が腕を組みながら悩んでいた。
少女の名前は日向ハナビ。次期日向当主になろうかという、才媛だ。
しかしそんな彼女でも考えなければならないことがある。それはどうしても勝てない相手のこと。

すなわち、三度やって三度とも負かされた、犬塚キバにどうやって勝つか。

「早過ぎるんですよね………」

今や上忍にまでなったキバの四脚の術による移動速度は本当に早く、移動速度で言えばあの体術特化上忍で有名なマイトガイやロック・リー以上と言ってもいい。

そんな速度で――――正面からではなく、側面や背面をつかれる戦闘をされたら、今の自分では対応しきれない。

柔拳は正面で捉えて、はじめて威力を発揮する体術。
背中をつかれ、後方から襲われたとして。日向の白眼ならば見えてはいるので、攻撃はそう当たらない。
だが、完全な対応もしきれないのだ。振り返った後に攻撃と、どうしても2アクションになってしまう。

「ネジ兄さんや姉さんなら回天で対応できるんでしょうけど………」

攻撃と防御を同時にこなす、日向の奥義"八卦掌回天"。ハナビはいまだ、それを完全な形で使いこなせないでいた。

使えれば、どうにかできるだろう。だけど、今は無いものねだりをしている場合ではない。
四度目の再戦は明日に控えているのだ。


―――その時、演習場にある樹の上からハナビに向け、声がかけられた。


「はっはっは、困っているようだねハナビちゃん!」


その人物は一言でいうと珍妙だった。
白い面をつけながら、マントを風にたなびかせて腕を組んで仁王立ち。美しい金髪が風に揺れているがそんなことはどうでもいい。

あと、なんか背後に居る碧の女性が不憫だ。見るからに恥ずかしそうにこそこそと隠れようとしているところから、無理やりに連れてこられたことが分かる。

対するハナビの対処は、冷徹だ。

「え、なにしてるんですか火影様………いいから、仕事してきてくださいよ」

「相変わらず短刀直入なすっぱりさんだねハナビちゃん! でも仕事はできないのさ、シカマル君が入院中だから!」

胸を張りながら駄目なことを断言する、面を外した女性はあらびっくり六代目火影こと波風キリハ。
だがそんなことは関係ねえとばかりに、ハナビは追撃の手を緩めない。

「ああそうでした、姉さんから聞きましたよ。シカマルさん、一昨日間違えて火の実食べてしまって、ただでさえ弱っていた胃腸が完膚なきまでに破壊されたんで入院してるんでしたっけ。あと、間違えて入れてしまったのがキリハさんとも」

「ちょ、黙っててって言ったのにヒナタちゃん!?」

まさかの親友の裏切りにキリハがおののく。

「むごいですよねー。ただでさえ胃腸薬常服してるのに、その原因がトドメさすとか。流石の私でもシカマルさんには励ましのお便りを出さざるを得ませんでした」

「う………」

ワンブレスで事実を淡々と言い切るハナビに、キリハがたじろいだ。

「で、お見舞いには行かないんですか?」

「行きたいけど、シカマル君ってば滅茶苦茶怒ってて出入り禁止にされているのさ! ミニトマトと間違えただけなのに!」

「何のテロかと思ったでしょうねえ。いや、食事テロですよ、食事テロ」

「顔見てくれないし、心配で仕事も手につかないし、もうどうしたらいいのか!」

「ぶっちゃければ?」

「じっとしてると色々考えちゃうので、フウちゃんと一緒に迷える子羊を救っている途中です!」

「"火の影は木の葉を照らす。空から"って連れだされた。眠いのに………」

「不憫な………」

後ろでため息をついているフウ。ハナビは頭痛がして、手で額を抑えた。
そういえば最近、空中遊覧をしている二人が発見されたとかされなかったとか、そんな噂を聞いたことがあるようなハナビは何もかもスルーすることにした。

洒落ではないよ断じて。

「ふう、本当に大丈夫ですか木の葉隠れ………まあ、いいです。アドバイス、あるんですよね?」

「よくぞ聞いてくれました!」


さっ、と瞬身の術でハナビに近寄るキリハ。
無駄に早いそれにハナビは呆れながら、耳打ちされる言葉を待つ。


「………え、ちょ、それは!?」

「おうおう顔赤いねーハナビちゃん。でも、これってばかなり有用なんだよ」

「と、いうことは………まさか実際に使ったことあるんですかッ!?」

「うん、子供の頃に一度だけ。二度と使うなって拳骨食らったのもいい思い出だけど」

「………よそでやってくださいよこのバカップルが。あなたシカマルさんと付き合いはじめてからキャラ違いますよ? アタマのネジがちょっと緩んだりしてませんか?」

「やだもう、ハナビちゃんのエッチ」

ばしんと叩かれる肩。ハナビは割と威力強めなそれと訳の分からない照れ言葉にイラッとしながらも、最後の確認を取る。

「本当に、これで油断を………いや、油断するのは分かりますが………」

「ハナビちゃん――――"女なら、やってやれ"だよ!」

「はげしく使いどころ間違ってますからっ!」

「日に日にキリハだ駄目になって………うう、早く帰ってきてくれシカマル………」





――――そして、次の日。




「さってと、始めっか」

「………よろしくお願いします」

「珍しく元気ねえな、大丈夫か?」

「は、はい」

「ならいいけどよ………でも、模擬戦もこれで最後だぜ? ったく、何度も挑んできやがってよ」

「負けっぱなしじゃ、引き下がれませんから。それに柔拳相手の戦闘は緊張感も高まっていい模擬戦になると聞きましたが?」

「お前の場合、ガチで内蔵取りに来るから怖いんだよ………ヒナタやネジはもうちょっと冷静だから助かるけど」

「一度も当たっていない人が言うセリフじゃありません。今日こそは、勝ちますよ」

気負うハナビに何かを見たのか、キバはゆっくりと距離を取り、構え、二人は対峙する。
互いに武器ありで、キバの方は赤丸も伴っていない正真正銘の一対一。

始まりの合図はない。間もなく、ハナビの視界からキバの姿が消えた。

「くっ!」

消えた姿を白眼でとらえていたハナビが、その場から飛び退く。
背後から一撃を加えようとしていたキバは、死角からの奇襲の一撃を避けられたことになんの反応もせず。

ただ勢いのままに駆け抜け、再び距離を取った。
反撃に移ろうとしていたハナビの、手の届かぬ位置まで。

(く、以前と比べて一段と………やはり捕まえきれませんか)

回天ならばいなせ、吹き飛ばせる。体勢を崩した所に、追撃することができよう。
だが、回天のないハナビは背後からの一撃がみえていても、それに対処するには"振り返って"、その上に攻撃を繰り出す必要がある。

迂闊な肘打ちや裏拳はさして効果もなく、不安定な体勢のままの一撃を避けられればまた反撃の糸口になってしまう。

ハナビも、正面から突っ込んで来れば対処する自信があった。
だが、キバはもう昔の無鉄砲だったガキではない。

(鍛えた、んですよね―――三度目はないと)

ハナビも、キバが過去に二度、手痛い敗北を喫しているのは話に聞いていた。
その後、必死に鍛えたことも知っている。

下忍ならば視認することさえもできないこの速度は、その血反吐の結晶であることも。

(でも―――だからって、負けられない! もう背中を見ているのは嫌なんだ!)

負けたままでは引き下がれない。なにより、追いつかなければ対等に見てもらえない。
だからと、ハナビは今日まで鍛えてきた。

誇り高き狼のような姿で戦う、目の前の人物に見てもらうために。

(勝つ。そのための策は………えっと、策は?)

教わったことは一つ。



それは――――



(『お前が好きだぁ!』と言いながら突っ込む。ならば隙は出来る――――)


色々テンパッたハナビの脳血管がぐるぐるまわる。


(正に外道。ううでも言えるかなあ。強いし馬鹿だけど最低限優しいし時々お姉ちゃんの胸に目がいってるときは点穴突きたくなるけどいやでも戦ってる時の表情は格好良いし馬鹿やってる時の顔もなんだかんだ言って好きだし)


まわるまわる。

(十尾にあの光景を見せられても、修行の量は変わらなかった。本当に強いこの人に、追いつきたい。でもこの機会を逃せばしばらくは会えなくなるだろうしここで切っ掛けをいやでもこれは卑怯っていうかううん忍者は裏の裏を読めってでもこれは違う裏じゃ?)


思考がまわる。まわる。あっちの方向へまわる。



(好きだって、好きだって、好き、だって………!)

やがて、結論が出た。



「言えるかぁぁぁぁ――――!」



いろんな意味で言えない。アタマを真っ白にしたハナビの、乙女の咆哮が響く。


――――同時に、ハナビの全身のチャクラ穴から密度の高いチャクラ流が溢れ出しだ。


「な、回天――――!?」


くしくも、同時。拳を突き出していたキバが、回天のチャクラ膜にとらわれる。

今の今まで使っていなかったそれに不意を打たれたキバは、ものの見事に吹っ飛ばされた。

転がり、樹に激突してようやく止まる。


「………え?」


なんかしらんウチに一手返せたハナビが、混乱しながら左右を見回す。


「っ、やってくれるじゃねーか。まさかそれ使えるようになってたなんてよ………!」

「え、あの、いや」

昨日までは使えなかったのに、とハナビは混乱する。

「迷っているように見せたのも、策の内だったってことか………俺もまだまだだなぁ!」

キバが、よろめきながらも歯をくいしばって立ち上がる。
地面と樹にたたきつけられた衝撃は、速度のせいもあって、彼の身体にしっかりとダメージを刻み込んでいた。


「でも、まだ負けちゃいねえ………! こいよ、ハナビ!」

「っ………言われなくても!」


キバの正面からの視線を受け止め、ハナビが駆け出す。



「こうなりゃヤケクソです――――!」


「いい気迫だ、行くぜ日向ハナビ――――!」




やがて、戦う者二人は、再度戦いへと没入していった。





―――そして、その光景を樹上で見ている者があった。


キリハと、ヒナタである。


「ふふ、キリハちゃんもうまいね」

「…………まあ、ね」

「回天を―――全身からチャクラを発するためには、意識をよどみなく迷いなく一事に集中させることが肝となる。
八卦掌回天の基本にして極意なんだけど、よく知ってたね…………って、なんでこっちを見ないの?」

つつ、とヒナタから視線をそらすキリハ。その頬には、汗が浮かんでいた。

「まさか考えなしに言ってたまたまうまくいった、ってことじゃないよね? ないよね?」

目を伏せながら、ヒナタ。二人の間に地獄のような沈黙が流れる。

キリハの額からは、汗がだくだく出ているが。


やがてキリハは、顔を逸らしたままでゆっくりと口を開いた。


「………そ、そうに決まっておりますどすがな。いややわあ、ヒナタちゃん」


「………ちょっと、あっちでお話ししよっか」


「いやー! っていうかそのセリフはヒナタちゃんって言うよりテンテンさんがアッ――――――!」











そんなこんなで、下の二人も決着がついていた。


息を切らせ、脇腹を抑えながら立っているキバ。

膝をついて、立ち上がることが出来ないハナビ。

どちらも満身創痍。そんな中、ゆっくりと敗者の口が開かれる。

「今日も………負けました」

「ああ………でも、今回はマジでやばかった。立てるか?」

「いえ、首筋にいいのもらったんで」

膝に力が入りませんと、ハナビは悲しそうに笑う。

キバはそんなハナビを見ながら、赤丸を呼んだ。

「あっちにいのとサクラが居るから、そこまで我慢してくれ、っと」

告げるやいなや、キバはハナビを横抱きにしながら、赤丸の上に飛び乗る。

「ちょ、キバさん?!」

「悪い、揺れるけどちょっとの間だから我慢しててくれ」

「そういう事を言ってるわけじゃあ――――!?」

「じゃ、頼むぞ赤丸!」

「ワン!」


風となって去っていく二人。

その後里じゅうの人に見つかり、色々とひやかされたハナビが顔を真っ赤にしながら爆発したとか、しないとか。



















③ とある網の新人メンバー



俺の名前はウナギ丸。ご存知イケメンの超絶紳士だ。

今日からは俺も、噂の組織"網"の一員。里のおふくろにゃあ、オトコを上げてくると言って飛び出てきた。
本当は可愛い女の子がたくさん居るからなんだけど、まあ息子の嘘だおふくろも許してくれるだろう。

もう俺も18だ、嫁の一人も欲しいってなもんだ。でも村の女はいけねえ。俺のことをエロガキだなんだと、分かっちゃいねえ。
パイタッチなんざ青春期にはままある行為だ。それを田舎娘は、分かっちゃいねーよ。

でもそれを言った時のおふくろの顔は怖かった………いや、俺はあんな所で終わらないオトコ!

俺はもっとビッグになる。なれるはずだ。
幸い俺は、生前は木の葉の抜け忍だったオヤジのおかげか、チャクラを使うことができる。

力も強く、自分で言っちゃなんだが容姿もいけてる。おふくろ譲りのイケメンフェイスで、可愛い嫁をゲットするぜ!



で、組織の受付で手続き済ませて、待っている時だ。

どこからともなく、綺麗な笛の音が聞こえてきやがる。
綺麗な笛の音=もしかしたら出会いが、という数式を解いた俺は、すぐさまその音が鳴る場所へと急いだ。

広場の外れ。その女性は、ガキ共が集まっているその中心に居た。
笛の音で、ガキどもを完全に黙らせてやがる。普通、あれぐらいの年のガキは一つ所にじっとしてるもんじゃねーってのに。

それだけじゃねー、顔も綺麗だ。腰まで届く長い髪は、後ろで一つに束ねられている。
そして常人にゃあ分からねーだろうが、結構着痩せするタイプと見た。

そうこうしている内に演奏は終了。ガキがその女性《ひと》の元に集まる。
赤い髪の嫁(予定)は、ガキのアタマを撫でながら照れくさそうに微笑んでいる。

どうやら、自分のことを"ウチ"と呼ぶようだ。口調は普通の女とはちょっと違うが、それもまたいいアクセントを醸し出している。



「決めたっ!!」


ガキが散らばった後、俺は全力で赤髪のお姉さんへと駆け寄った。

そして、一言。


「へい、彼女!」

「ああ? って、誰だお前」

「ああ、自己紹介からだね。俺、今日からこの組織に入るウナギ丸ってんだ!」

「あ、ああ。って、うなぎまる?」

「ああ。で、話があるんだけど………俺と、付き合ってみない?」

「――――は?」

ぽかんとなる彼女。

「俺こう見えてやる奴だぜ? 絶対後悔させないから、付き合ってみない?」

「あー…………夏だからなあ」

脳までとろけたのか、と彼女は足元にある楽譜を拾い始めた。

あれ、予想していた反応と違う?

「ちょ、待ってって。俺って真剣だから!」

「あー、はいはい。しんけんならもうちょっと段階ふもうなー」

まったく聞いちゃいねえ。ちょっとムカっときた俺は、一歩踏み出して肩をつかもうとして――――足元の小石につまづいた。

「あぶっ!?」

とっさにもう一方の足を出してふんばる俺。

その時、付きだした手の先からなにやら柔らかい感触が。

「………へ?」

「お?」

見れば、俺のナイスハンドが赤髪の彼女の胸の丘の上に!

あ、柔けー。

「っ、何す――――」

途端に感じる怒気。俺は殴られると思って手を離し、平手にそなえて顔をかばった。



――――しかし、衝撃は斜め後ろから来た。



「ぶもぎゃっ!?」


訳のわからないうちに転がされる。

後頭部に激しい痛みを感じた俺は、胸は悪かったけどちょっとやり過ぎじゃねえのと立ち上がり、一撃かました奴に文句を言おうとする。




――――が、それは出来なかった。




「サ、サスケ!?」



と、呼ばれた黒髪の野郎。その面は見えない。



なんでかっていうと――――その男は目を伏せ、今まさに抜いて斬らんという、抜刀の構えを取っているからだ。





「さあ、お前の罪を数えろ………!」






――――そこから先はおぼていない。



ただ、必死で止めてくれた赤髪の女性は命の恩人であることをここに書き留めておこう。








「あー、えらい目にあった」

彼氏もちだったとは、残念だ。ていうかあの野郎殺気が半端なかったってレベルじゃねえ。
まさか視線を合わせただけで死を幻視させられるとは。

「ああいうのを視線で殺すっていうのかなあ」

きっと網でも上位の実力者だろう。だが、5年後には分かんねーよ俺やっちゃうよ?

―――いや、今は嫁探しだ。素敵な網ライフを送るには明確な目的が必要です、って受付のねーちゃんも言ってたし。

そんな事を考えていると、女の声が聞こえた。
声がした方向に視線をうつすと、俺より4、5歳下っぽい少女の集団が。

軽く挨拶がてら話してみると、ここら辺に住んでる構成員の家族らしい。

「で、あんたは?」

「今日から組織に入ることになったウナギ丸ってもんだけど………へい彼女、何怒ってんの?」

「別に、怒ってないわよ」

「もう、ナズナさんってばまた小鉄さんのことでユウさんと喧嘩したの?」

「あ、あれはユウが悪いのよ!」

で、色々と話を聞いてみました。
義妹と彼女が一人の男ってーか義兄を取りあっているようです。

けっ、爆発しろ。

「あー、はは。すみません、ウナギ丸さん」

「あれだけど、おねーちゃん良い人だから」

「アレ、って随分ときついわねトリカ!?」

「ま、まあいーけどよ。って、君は?」

「あ、ホタルって言います。よろしくお願いしますね、ウナギ丸さん」

おお、ええ娘や……! 年は12ぐらいだけどよく見ればかなり可愛い顔立ちしてるし、何より胸部の辺りに大器の片鱗を感じさせる………!
その時、横から声がかかった。ナズナと呼ばれた少女だ。

「………あんた、ホタルのどこ凝視してんのよ」

「へ?」

「ちょっと大きいからって………! それよりあんた18でしょ!? それなのにホタルの胸を………この、変態!」

「展開と結論が早え!? ちょ、誤解だっつーの!」

「嘘言いなさい! あんたのような奴をロリコンっていうのよ!」

「聞けよてめえ!?」

それから、唐突に怒りだしたナズナと、ぎゃーぎゃー言い合いを始める。



――――だから、接近に気付かなかった。


「………ホタル、なにやってんだ?」

「あ、ウタカタさん。えーっと、」

「あの男の人は、ロリコンで」

「………は?」

「ホタルちゃんの胸をじーっとみてた」

「………分かった、後は任せろ」


そんな会話が聞こえたやいなや、俺は肩を掴まれた。


「よう、そこの。ちょっと話があるんだが?」


事務所に来てもらおーか、というのは幻聴だった。
でも、そんな感じの気迫が伝わってくる。

(というか、何故か男の背後に巨大なナメクジみたいな白い物体が見えて!?)

ここは魔窟かっ、と心の中で叫んだか叫んでいないか、ってうちにその水色の羽織りを着た兄さんに連れてかれました。









「うう、えらい目にあったパート2」

話せば分かってくれる兄さんでよかった。
そうでなければ俺は今頃オヤジに会いに行っていたことだろう。

ほんと、阿保みたいなチャクラを持ってる化物だった。
今ならなんとなく里を抜けたオヤジの気持ちが分かるってもんよ。


「それでも、俺は諦めない! だって、彼女持ちは俺の夢だから!」

「よくぞ言った!」


途端に乱入してくる黒髪の男。さっきのウタカタの旦那もサスケってやつもそーだけど、ここはイケメンの巣窟かっ!


「で、何のようなの変な鳥に乗って現れたイケメンのお兄さん。ていうかいつの間にか空の上」

「君に任務を与えよう」

「聞いてくださいお願いですから。あと下ろして今日はもうお家帰るから」

あまりのイベントの連続に、次第に謙虚になっていく俺の気持ち。
テンションはもうダダ下がりだ。

「この箱を、あの二人へ」

「あれは………」

視線の先。そこには、背も低くて童顔ででもごっつツリ目で可愛い女性の姿と、横に歩く金髪のけっこーイケメンな野郎の姿が!


「えっと、これを?」

「ああ、プレゼントだと言って渡して欲しい。送り主は告げずに」

「参考までに聞くけど………開けたら?」

「『ボン!』、だ」

爆発するかのように勢い良く、仕掛けの人形が出てくるらしい。

―――もちろん、断りました。

素直に帰してくれた兄さんは、どうやらあの後決行したようだが、その結果は誰もしらない。
というか、知りたくもねえよ。






「うう、甘く見てたぜ………」

いろんなことが短時間に起こりすぎてアタマ痛い。
そりゃちょっとはきついことや辛いことを覚悟してきたけど、方向性が180度違う。

「いや、でも明日からはきっと………」

今日はあてがわれた宿舎に帰って休もうかと、顔を上げた時。




―――――その先に、女神が居た。

美に神が居れば、こんな感じだろう。黄金という名に相応しいバランスを誇っている容姿は、一種の幻想のように思えた。

なんとも言えない雰囲気に圧倒された俺は、動くことさえできない。

そしてその女神はただでさえ美しいというのに、それを更に際立たせるように。
流れるような動作で、美しい扇子を手に、舞を舞っていた。

俺は学もなく、小難しいことは分からないが、あの踊りが一級だってことは理解できる。
だって鳥肌が止まらない。

完全に、人間ができるような動きじゃない。
余計な力も感じられない、全身の力を意のままに操っているかのよう。

それは川が流れのように自然に、風のようによどみなく。

全身で一つの形を表現していた。

それは風、あるいは川。
それは火、あるいは嵐。

いろんな要素が混ざっていて、一つの形を示しているかのよう。



やがて、舞が終わり。



俺は、一直線に女神のもとへと走りだした。





さっきまでの色ぼけじみた感情はない。ただ、美しいものを間近で見たいと思った。

チャクラで足を強化して、全速力で迫る。

振り返った彼女は驚き、焦ったようすで何かを言っている。

両手を前に突き出し、押すようなジェスチャー。



――――そこで、俺は何かの壁に真正面から全力で激突。

意識が、黒に包まれた。






それから、何分気を失っていたのだろうか。

気づけば、後頭部に柔らかい感触が。

「え、っと………?」

「ようやく気づいたか………全く、馬鹿みたいに壁に向かって走りおって」

見上がれば女神が。

(ほんもの、か………?)

間近で見ても信じられない。ならば触って、と手を伸ばす。



―――その美しい胸と、桃のようなお尻に。


「っ!?」


あ、本当に存在した。ていうか天上の手触りなんだけどこれ。

見れば美女は何が起こっているのか、思考がおいついていないようで、硬直している。

なんかアタマの上に耳がぴこりと生えたり、片方の目が金色になっているが気のせいだろうきっとそうだ。

で、堪能した俺は紳士的にすっと立ち上がり、拳を空に突き出した。



「我が生涯に一片の悔いなしッッ!!」


心の底から叫ぶ。



で、告げる。


「そこの赤髪の男! この女神の伴侶かっ!」


無言で、男は首肯する。


「ならば俺の名前を覚えておけ! 我が名はウナギ丸! 今日より組織“網”に入る新人! おして、お前の手から女神を奪い去っていく男だ!!」


拳を、男に向ける。



膝立ちだった男は、成人男子の頭部の2倍はあろうかという岩を掴み。




まるで綿を扱うかのように、軽く持ち上げる。



「新人さん、新人さん♪」




その顔は、笑顔だった。




男は笑顔で―――――岩を、殺した。




「ここに、砕けた岩があるでしょ~?」





何やったのかも分からない、片手で岩を“こなみじん”に粉砕した鬼が。




笑う鬼が、告げる。








「――――数秒後の貴様の姿だ」












――――後日、一人の新人が組織の予備戦闘部隊に配属された。


その男は、泣いたり笑ったりできないぐらいきつい訓練を受けても、「女神のために!」と愚痴一つ言わずこなしたとか。


有用で、ついには他の里にまで名が知られるようになった。

しかし、何故か男はラーメン屋の店主と部隊長のサスケには、一生頭が上がらなかったという。
















[9402] 後日談の7・前 ~サムライ達の訓練~
Name: 岳◆3d336029 ID:0347f440
Date: 2011/07/24 17:22

「私が男塾塾長、江田島平八であるッ!!」


「………は?」


「私が男塾塾長、江田島平八であるッッッッ!!」

俺はマコト、侍だ。
今は、網の本拠地―――俺たちの寝床でもある場所から、少し離れた森の中に居る。

横には、仲間が3人。
つまりは一個小隊で動いている。

そして――――目の前には、腕を組みながら叫ぶ、お面をつけた赤髪の男。
いったいどうしてこうなった、どうしてこうなった。

他の3人も俺と同じ表情をしている。いや、ツバキは虚をつかれたような顔だな。
具体的に言えば、先月の演習で蓮さんがした顔。そう、いざ戦闘と抜いた刀が子供時代に使ってた銀紙刀だった時のような。

「なんか軽いな、ってこれ違う!」とあまりにも自然な流れでひとりツッコミをやり遂げた蓮さんの勇姿を僕達は忘れない。
対戦相手のツバキは笑うまいと、必死に無表情装いながらも―――腹抱えて悶絶してたけど。

(じゃ、ねえよ)

確か俺たちはミフネ大将から言われて、北方への遠征、獣の妖魔達の征伐を行う―――その前の、最終訓練を受けているはずだ。
内容は模擬戦。この森にその相手が居て、4対1の集団戦で勝てれば完了なのだとか。

俺たちは同期の侍とかよりも、それなりに腕が立つ自負がある。
ミフネ大将の実孫であるツバキを筆頭に、4人で組めば上忍相手だってどうにかなるぐらいの腕はあるつもりだ。

修行してわずか7年で上忍と一対一でやりあえるようになった、ミフネ大将の養子―――天才剣士の蓮さんには及ばないけど。
でも、舐められるような腕は持ってない。

一番前に居るトクマの袈裟懸けの渾身の一刀は、ミフネ大将にも認められるほどに早い。
左隣に居るリンジの突き技は一級品で、硬い岩をも貫く程。

総合力では右隣に居るツバキが一番だ。ミフネ大将の実孫だけあって、修練の量が半端ない。
蓮さんのような際立った天分はないが、それでもこの年の侍では、歴代の侍の中でも十指に入るぐらいだろう。

そんな俺達が、なんで、こんな相手と?
いや、誰が相手でもいつもどおりにすぐに終わらせてやるつもりだったけど。
他の3人も同じだ。俺たちは無力な子供時代とは違う。今じゃあ、条件次第では幹部達ともやりあえるつもりだ。

(それなのに………ミフネ大将って冗談を言うような性格だったっけ)

そこで、埒があかないと考えたのだろう、ツバキが男に話しかける。

「あの………つかぬ事を聞きますが、貴方が?」

「はい、私が変なおじさんです。それでいて君たちの模擬戦相手を務めることにあいなり申した。ちょっと侍の人達にはでっかい借りがあるので、今回だけ引き受けた次第です」

山ごと消し飛ばしちゃったし、と赤髪の仮面。
この人は何を言っているのだろう、いよいよもって分からなくなった。

吹き飛ばしたと言われ、思い浮かぶのは黒髪の化物。
六道仙人の化身と呼ばれた、最強の忍者―――あの時、道を指し示し、でも三狼山ごと俺たちの城をぶち飛ばした、ペインその人である。

そんな中、ツバキが再度男に尋ねる。

「それならば、貴方は……私達4人を相手に出来るほど強いとおっしゃる?」

「ああ、強いよー。めっちゃ強い。どれくらいっていうとマジで強い。つまり、おれtueeeee! あたい、さいきょー!」

「「「「嘘だっ!!」」」」

「L5!?」

ツバキが叫ぶ。俺たちも叫ぶ。
4人の心がひとつになっただろう、それくらいのうさんくささが男の台詞からただよってくる。

「いいです………平八さん。始めましょう。模擬戦の設定はどうしますか」

「あ、ぱっつあんて呼んでくれてもいいよ。模擬戦の設定は俺対君達、1対4の集団戦。君達が気絶するか、俺に一太刀でもいいから、クリーンヒットさせるか。期限は来月に行われる征伐まで」

「………は?」

思わず、声がこぼれてしまう。
今なんと言ったのだ、この男は。一太刀でも、だと?

「………本気、ですか。いえ、正気なんですか?」

「至極真面目だよ。開始の合もそちらで決めていい」

「了解、しました」


ツバキの声が震えている。それもそうだ、俺でも今口を開けば、声は震えるだろう。

――――舐められている、という怒りで。

一太刀、だと?
いいじゃないか、すぐに終わらせてやる。

ツバキが振り返り、俺たちの方を見る。
その視線に頷き、意図を理解する。


(舐められっぱなしで、済ますわけにはいかない)




「では………たった、今からですっ!!」


ツバキの声。それに合わせ、トクマが鞘から刀を抜きつつ、一歩踏み込んだ。

俺たちの中でも最速の、袈裟懸けの一刀が振り下ろされる。

(勝ったな)

確信していた。トクマの間合いに入り、攻撃が終わるまでの速度は異様だ。
見る限り無手である相手に、防ぐすべはない。



―――そのはずだった。

「………は?」

なのに、赤髪のお面の男は先ほどより二歩ほど前の位置に立っていて。
仕掛けたトクマは、うつ伏せに倒れ伏している。

「っ、うおおぉぉっ!」

その事態に、一番早く反応したのはリンジだ。
遠間から、一番避けづらい胴突きを放った。

ともすれば、先端が霞む程の速度。
そんな雷光のような突きは、しかし途中で横に打ち払われた。

(掌の、横で!?)

その瞬間は、見えなかった。
しかし今止まっている互いの状態から見れば、それしかない。

赤髪の男は突きの軌道を捕らえ、完璧なタイミングであの突きを横に捌いたのだ。

「っ!」

一瞬だけ硬直したリンジだが、そのままで終わるはずもない。
再度突きを敢行しようと、突き出した刀を手前に引き寄せる。

しかし―――次の瞬間には、男はリンジの、"肩の上に片足で乗っていた"。

そしてその場でぐるりと回転し、リンジの頚椎をつま先で柔らかく蹴る。
同時、リンジがその場に倒れ伏した。

気絶したようだ。

(今のは、一体――――)

何が起きたのか。理解できない俺の横で、ツバキが口を開く。

「………突きを横に捌き、刀身に触れている部分をチャクラで吸着。その上でリンジの引っ張る力に任せ、利用し、軽く跳躍し、肩に乗る――化物みたいなチャクラコントロールですね。それに、突きを見切る動体視力も………」

「チャクラコントロールだけは誰にも負けません。突きは、まあ………サスケに比べたら屁みたいな速度だったし」

サスケ―――うちはサスケ。
網でも最強の忍者であり、ミフネ大将とも互角以上にやり合える、世界でも有数の忍者。
なんでそんな名前が出るんだ。

「今日は小手調べみたいなもんで、な――――というわけで、仲良く気絶して下さい」


直後、首筋に衝撃を覚え、俺はその場に倒れ伏した。









その日から、地獄の修行が始まった。

「あれこれどうだ、なんて言わない。侍に対して何を教えたらいいのかなんて分からないからな。ルールはひとつだ。どんな手を使ってもいい、俺に一撃を加えたら終わり」

実戦形式で、縛りはない。
この赤髪のお面の人に一撃を与えられたら、それで修行は晴れて完了というわけだ。

ただ、この人はどれだけ強いのか。
謀られたと歯ぎしりをしながら、納得いかないまでも俺たちはたずねる。

「ん、俺がふざけているから弱そうに見えたって? ――――強い忍者が、みな真面目だと思っていたら痛い目にあうんだぜ? 具体的に言えば木の葉のエロ仙人とか」

遠く、どこかを見ながらお面の人が言う。
エロ仙人が誰かは知らないが、木の葉が魔窟だというのは理解した。

「あとは、強い奴ほど相手を油断をさせるのが上手い。自分の実力をを隠すのも。お前らが立ち振る舞いから俺の実力を見抜けなかったってことは、まあそういうわけだ」

つまりは、それだけの力量差があるということ。
その事実に俺たちはなんとも憤懣やるかたない状態に陥るが―――やられたのは事実で、情けなく負けたのも事実。

納得いかないまでも、頷かないわけにはいかなかった。

「尊敬は居らない。認められるのも面倒くさい。俺はお前たちを叩きのめす。だからお前たちは俺をただ憎めばいい。怒ればいい。全力で邪魔をしてやる」

意地悪そうに、お面野郎は言う。
きっとその面の下の口は、嫌な形に歪んでいるのだろう。

――――そしてこの日から、俺たち4人は挑み続けた。

男は、強かった。

チャクラ刀で斬りかかっても当たらない。
囲い、逃げ場をつぶしながら斬りかかっても風をまとったクナイで止められる。

少しでもチャクラの出力を下げると刀ごと切り飛ばされるぐらいだ。
それでも、俺たちが大きな怪我を負うことはなかった。

手加減しているのだろう。それを理解し、改めて苛立ちを感じる。
男の声や立ち居振る舞いからして、現在16歳である俺たちと比べ、そう離れていることはないだろう。

だけど、まるで大人と子供だ。
クリーンヒットどころか、最初の一週間は掠りもしなかった。

見れば、相手は実戦に馴れている感じだ。俺たちは数える程しか経験していない実戦を、この男は幾度もこなしてきたのだろう。
見切りと間合いの使い方に、懐の差がありすぎた。俺たちが焦り刀を構える場面でも、男は鼻歌交じりにやり過ごす。

「え、赤髪のお面の人を知ってるかって? ――――詳細は言えないけど、知ってる。マジでヤバい。どれくらいヤバイかっていうと、マジでヤバイ。
キツイ。グロイ。でも姐さんのために! って熱いです九那実の姐さん!」

知り合ったウナギ丸も、こう返す程に。ラーメン屋の超絶美人元店主に心酔しているこいつで、女好きなアホだが、根は悪くない馬鹿だ。
そして、忍者としての才能も。本拠地の侍で、こいつがこの数ヶ月の間にめきめきと実力を上げていることを、知らないやつはいない。

動機が不純だと一部の侍は嫌悪感を抱いてるらしいが、俺はこの馬鹿が何となく好きだった。

「気をつけろ。そのお方は時に片手で巨大な岩石を打ち放ってくる。風を爆発させているらしいが、理屈はようわからん。でも砲弾は岩で重くて超速いので、当たればトマトだ。
 ってそれはポテトですよ紫苑さん。なに、ウッドマスターヤマト? 自来也御大の新連載じゃないですか打ち切りスメルがすごいですけど。え、なんで御大かって? ―――心の師匠だからです」

話が逸れるのが玉に傷だが。
いや、貴重なことを聞けた。つまりは、分かっている以上に、盛大な手加減をされているってことだ。

「一説には体術オンリーだと、“あの”うちはサスケをも上回るとか。いや、あの人も大概が規格外なんだけどねー、って今朝のトラウマがっ。
 っああああッッ、サスケさん、その千鳥は大きすぎです余波で木々なぎ倒しながらこっち来ないでぇ!?」

森林伐採反対、自然を大切に! と頭を抱えて悶える馬鹿。
よほど怖い体験をしたのだろう、その顔は絶望に染まっている。


「っ、はあ、はあ………最後にまとめるとこうだ。俺式実力評価表によると――――知ってる人だけになるけど、下の方からこうなる」




小鉄『パンピー。でもモテモテ。もげればいいのに』

☆チャクラ使える人の壁☆

俺ことウナギ丸『網一のナイスガイ。これからの成長に期待。◯大器晩成』

赤い残念美人『赤い髪の変態。メガネ。でも感知スキルと回復の特殊忍術はゴイシャス。殴り合いでは、それほどでもないとか』

君達4人組『正面からの殴り合いでは強いんじゃね? でも策にはめれば、すぐにかたせそうなふいんき。ツバキちゃんは義理の姉、蓮さんにコンプレックスを持っているとか。美少女嫉妬侍って萌え。野郎はどうでもいいよね』

☆上忍の壁☆

赤い素敵美人『赤い髪の女神。噂でしか聞いたことないけど、なんやかんやで上忍レベルの強さらしい。見た感じで、この位置。でも彼女のすばらしさはそういった所にない。ある意味で最強なお方らしい。隠れ巨乳』

蓮たん『ドジっこ侍猪突猛進型。ツバキちゃんの義理の姉。何度か模擬戦やったけど、いつの間にか叩き伏せられていること多数。感覚派だからか、太刀筋が読みにくい。大きくはないが美乳だと、俺は思っている』

黒髪のテロリスト『弟の方。本当に好きな人に好かれなきゃ意味ないよね、って寂しそうに言われた。イケ面で他の構成員からはもてるらしいのに………でも、そうですよね二股とかもげればいいのに。臨機応変で策士タイプ、あと特殊術の応用範囲が異常なので、ガチの殺り合いになると相当強いと思われ』

金髪のエロのパイオニア『兄の方。ナイムネの童顔姉さん女房って、なにその新ジャンル。体術は網でも1、2を争うぐらい。なんで、正面からは戦いたくない。あと、世界巨乳美人ランキングなるものを自来也御大と作成している途中とか。いくらだ、給料3ヶ月分までなら出せるぞ』

☆底が見えん人の壁☆

ミフネ大将『ソードマスターミフネ。必殺技は“まそっぷ!”って仮面の人が言ってた。嘘らしいが。実力は未知数。威圧感ぱねえ大戦を経験したが故にこの位置。この人相手のガチの殺し合いとか、本気で考えたくない。忍者殺しという異名を持っているとか』

☆反逆と死が同義な人の壁☆

うちはサスケ大明神『変なこと言うと後で怖いので。雷の突きは見えねえし、範囲広い火遁は避けられねえし。眼を直視したら、次の瞬間には夢の世界に旅立ってるし、一体どうしろと。体力も人外級で、この人を相手にするぐらいなら小国にでも喧嘩売った方がマシレベル』

赤い仮面のお方『大明神と同じぐらい。つまりはマジパネェってこと。修行時はお面つけてて不気味。恐怖心が増す。こっちも底が見えん実力。体術は人外。手が見えんどころか、体捌きが見えん。見えんものをどうしろと。風遁が得意らしい。こっちも見えん。あと何枚の切り札持ってますかって聞いたら、見せる時はお前が死ぬときだって言われた。っアアアアッ、もう揉んだりしませんから永久ループ空中遊泳はご勘弁をッ!?』





「と、以上だ。多由也さんの知り合いの4人組みとか実力知らんので、こういった感じになる」

「………うちはサスケと同レベル?」

「見た感じにはね。どっちも俺が計れるようなレベルに無いし」

そこで、俺は初日の出来事を説明してみた。

「あー、実戦でなくて良かったね、としか言えんねえ。そもそも変な血継限界持ってる忍者も居るし、妖魔も見た目に反して凶悪なの居るし。態度や外見から強さが分かる奴の方が少ないぞ?」

「それは………そう、かもな」

「見た目おちゃらけて、実は強いなんてよくある話だ。で、そういう奴らの方こそ怖い」

「それは、何故だ?」

「そういう奴らが強さを見せるのは、相手を殺す時だからだ。抜かば斬る―――侍の理念と一緒だな? 他はなんだったっけ………ああ、密林に誘い込まれて、刀を振り回せなくなったって?」

「ああ、振ると巨木にひっかかってな。トクマがその隙に叩きのめされ、そっからはまた悶絶コースだ」

「ふーん………つかぬことを聞くけど、トドメには悶絶コースと気絶コースがあるんだっけ?」

「ああ。気絶させられるだけな時と、痛みを感じさせるように………例えば腹へ強烈な一撃を受けて、数分間悶絶する時がある」

「なるほど。で、その使い分けについて、マコトはある程度の予想はついてるんだよな?」

「ああ、恐らくは………同じミスを繰り返した時にだけ、後者のトドメが来るな」

「そのことを、他の3人は?」

「ツバキは気づいてると思う。トクマとリンジは、どうだろうな………気づいているとは思うが」

「………ん? えっと、4人で戦術練ったりとかはしないの? 他の侍の人達に意見聞いたりは?」

「あ、ああ。元々同じ班でも無かったしな。それぞれの役割は分かってるつもりだし、今更上の人とも話し合うことは………あの調子なら、あと2週間あるし、頑張れば何とかなるだろう」

と、そこでウナギ丸の表情は変わった。

「………馬鹿じゃねえの? お前ら、訓練の意味をまるで理解してねえだろ」

「………ああ?」

嘲るような調子の言葉に、俺はカチンとなる。

「凄んでんじゃねえよ。その相手は初日に言ったんだろ? ―――実戦形式だって。どんな手を使ってもいいって。つまりは、これは作戦なんだよ。事前情報、任務達成に必要なのは何かを教えられてる」

「それが、どうした?」

「聞けよ。4人でまとまって戦術を練れよ。こっちが分かってるつもりでも、相手は分かってねえなんてことは多くあるぜ。他人なんだ、自分とは違う。理解してくれている、って思うのは甘えだぜ」

「それは………」

そこで、思い出す。
たしかに、他の3人が予想外の行動を取って、それに驚き、隙をつかれてやられた事もあると。

「さんざん叩きのめされたんだ。もう、まともにやって勝てねえのは理解してるんだろう? 言っとくが、今のその人が本気ってことはねーぞ。底計れねーんだ、思い込みは捨てろ。
 ………認めたくないだろうが、相手は強いんだよ。だから、恥でもいい、実戦を多く経験してる先輩方に聞け。実戦経験豊富な人の助言は金に勝る。ああ、忍者でもいいさ」

らしくない真剣な声に、いつしか俺は圧されていた。
続く言葉に、何も言い返せない。

「実戦形式なんだぜ………その上、この後はマジもんの実戦だ。つまりは、殺し合い。それなのにお前らにゃあ、必死さが足りねえよ。目的に対する執念が足りてねえ。
そんな中途半端なきもちで北の征伐に向かおうなんて――――お前、守る人達を見殺す気か」

「っ、そんな事は!」

「そうなるんだよ。敵に対する事前情報は揃ってるんだろ? それでこれが最後の修行でお前たちに受けさせるってことは、つまりはこれが最低ラインなんだよ」

上も馬鹿な奴ばかりじゃない。
ウナギ丸はそう言って、意味を考えろと言う。

「聞けば、奴ら獣の妖魔はずるがしこい。機動力も普通のそれとは段違いで、穴があればそこを的確に突いてくるって聞かされたよな?」

「………ああ」

「俺は呼ばれてねえ。俺じゃあ、足りねえからだ。そんな奴らがゴマンと居る。そんな中からお前ら4人が選ばれたのを理解しろよ………その意味と、責任を」

それだけ告げて、ウナギ丸は立ち上がり、勘定を済ませる。

「俺は行くぜ。午後から修行だ。マコト、お前はどうする?」

考え込む俺に、こつ、と米神をこづきながら聞いてくる。

俺は即座に答えた。



―――そうだ、時間はあと二週間“しか”ない。

何とかなるんじゃなくて、何とかしなければならないんだ。

そこで、見たウナギ丸が砕けた口調になる。

「ふん、最低限の顔になったな………まあ俺の超絶ミラクルナイスフェイスには負けるが!」

「語呂悪いぞバナナ丸」

「ちょ、馬鹿とウナギ丸を足したなちくしょう!?」

いつもの調子に戻る。

ああ、こいつはいい奴だな。馬鹿で女好きだけど、俺などよりはよっぽど大人だ。

周りが見えてるし、自分の弱さを隠したりしない。


「いや、こいつのは恥知らず、っていうのじゃ。ほれ、おみやげ」

「あれ、姐さん? これは………オニギリ、ですか」

「メンマからお前に、じゃ。珍しく良いことを言ったから、らしい」

「そうっすかー。それよりも姐さんとのデート件を貰ったほうが良いなあ」

「我が断る。こいつとの時間を減らされるのは………わ、我の方が嫌なのでな」

「ちょ、あねさーん! あの人の何処が良いっていうんですか!?」

「………お揚げくれるし、美味しいし………ほ、本当に美味しいんじゃぞ、返ってきてからも凄い腕を上げてるし!」

ほっぺた赤く、幸福の表情を見せる。え、揚げだけですか――――ってツッコミが出来ないほどにかわええ。
年上のハズなのに、年下に見える。えっと、なにこの人まじやべえんですけど。

「………えっと、それ以外もあるが、ここじゃあちょっと言えん。あと、こういうのは、その、理屈じゃないじゃろう?」

「ギギギギギ………!」

嫉妬に狂う馬鹿ウナギ。
でも赤い顔の姐さんを見れたのが嬉しいのか、鼻から血が出ている。

いや、でも気持ちは分かる。確かに可愛くて美人って反則だよな。網でも血迷った輩が多数湧き出るのも分かるってもんだ。
九那実さんを無理やり奪おうとする輩は、原因不明の事故にあって数日間の記憶を失うらしいが。

それでも血迷う輩が減らない理由が今分かった。
それも、この魅力あってのことだったのか。噂では可愛い系美人の、この紫苑さんと二股かけてるとか。

ああ、店主はもげればいいのに。

「ああ、そうだろうそうだろう!?」

「心を読むな馬鹿ウナギ。それにどっちかってーと俺はツバキのような背が小さい無愛想な黒髪の方が―――――」

と、そこまで言ってやめる。というか、俺は何を言っているんだ。

「へーえ、ふーん、ほーう。いや、堅物のマコトがまさか、ねえ………」

「うむ。これは広めねばならんな。むしろそうする方が自然というものっ!」

「ちょ、紫苑さん!? それは本気でやめて下さいよ、やめて下さい。噂ではツバキを口説こうとしたものは蓮さんミフネ大将の鉄剣が下るらしいですから絶対に広めないで!?」

「ふむ。メンマに習ったのじゃが――――それは、フリというものらしいな?」

「ちょ、世間知らずのお嬢様っぽい人に何を教えてるんですか店主!?」

「“だってボケが足りねえんだもん”らしい。ツッコミ役に回る我にも、気を使って欲しいものじゃが」

「ああ、姐さんそれなら俺に突っ込んでッッ!?」

途中、何故か飛来する。球形の何か。いや、鞠か。
それがウナギ丸の股間に直撃した。もんどりうって倒れる。

九那実さんが、その倒れた馬鹿に近づく。

「………こりん奴じゃなー」

「へ、へへ………………………悔いは、ない」

「は?」

「今日は白なんですね」

「ッッッ!?」

九那実さんが顔を赤くして、後ずさる。


――――途端、九那実さんの全身から殺気が膨れ上がる。

なぜか、店の奥からも。


(え、何これ怖い。どう考えても大将以上の威圧感を感じ――――いや、見なかったことにしよう)


つまりは、女性は怖いということだろう。それ以上を追求するのはまずい感じがする。

紫苑さんはすでに退避している。お茶を片手に観戦モードだ。

俺はといえば――――君子危うきに近寄らずと。


そっと一歩下がり、紫苑さんに勘定を払い、店を去った。



直後に、見えなくなった背後で馬鹿の断末魔が聞こえたが、気にしない。


それよりも、明日からの修行のために取れる方策を考えるのだ。

俺は気合を入れ直し、仲間が居る宿舎へと歩を進めた。









[9402] 超番外編 「MENNMA THE・MOVIE」
Name: 岳◆3d336029 ID:0347f440
Date: 2011/07/26 00:40
オルタの設定整理でしんどい。
なんでこんなに時間かかるん?

で、気分転換にメンマの小話書いてみたのでどうぞ。



※※※ キャラが過去最高峰にぶっ壊れているので注意 ※※※





―――生きていた薬師カブト。

彼がそれを見つけた時に、全ては始まった。


「これは………古代人が残した、十尾対策の秘具か! 世界の7つの大罪、人の欲望をを封じ込めた7つの面………そうさ、この面があれば僕は!!」


しかし制御できるはずもなく。

7つの面は起動し、宿主を求め各地に降り立つ。




―――傲慢

「そうさ、僕こそが一番なんだ! 禁術・穢土転生を使いこなせる、死をも覆す僕こそが神!!」

「いや、その理屈はおかしい………そこをどけカブト、オレこそがその座に相応しい」

「マァダァラァ! 誰を撃ってるぅぅぅ!?」





―――嫉妬

「サスケくんサスケくんサスケくんサスケくんサスケくんサスケくんサスケくんサスケくんサスケくんサスケくんサスケくんサスケくんサスケくんサスケくんサスケくんサスケくん」

「さすけさすけさすけさすけさすけさすけさすけさすけさすけさすけさすけさすけさすけさすけさすけさすけさすけさすけさすけさすけさすけさすけさすけさすけすけすけ」

「め、面が割れて半分になって二人の顔に張り付いて―――ってこっちくんな来ないで下さいお前らぁッ!?」

「さ、サスケェッ!?」

「馬鹿来るな、逃げろ多由也―――!」





―――憤怒

「だからちょっとは自重しろよ予算の事考えろ中忍試験で何で会場壊れる大型の口寄せ使い過ぎなんだよお前らァァァァッッッ!!」

予算案と修理費が書かれた紙をやぶき、彼は覚醒した。

「シカマルくーん!?」

「ああっ、奈良シカマル上忍ご乱心、ご乱心ーーー!?」




―――怠惰

「あーだるいっすね雷影さまー」

「ああ何のやる気もおきんなー」

「ねー、もしこのまま何のやる気もおきずに里の仕事が止まってって最後まで言うのもめんどくせーよ」

「どうでもいいから寝ようぜもう。寝れば明日の風が吹くーあっはっはー」

「な、ダルイなんだその面は!? それに、雷影様、オモイ、カルイ!? くそ、誰かまともな人は………く、サムイお前は無事か!?」

「こうも胸がでかいと肩こり酷いんですよね、ああだるい。ねえちょっと揉んでくれませんかシー上忍」

「っ、俺に味方はいないのか………!」




―――強欲

「ああ、そうさ! これじゃあ足りない、もっともっともっとおいしいラーメンを! もっともっともっともっともぉーっとおいしい、人をも殺す一心不乱のラーメンをぉッ!」

「馬鹿もの、戻ってこいメンマ! そちらはお前の往く道ではない!!」

「結界術! く、早すぎる、間に合わない―――!?」




―――暴食

「そうさ、この世の全てを食い尽くす。全ての美味しい者を食い尽くしてこそ、僕は!!」

「や、やめなさい、チョウジ! いい加減に眼を覚まして!」

「そうさ、トーストにジャムを塗っただけが最高の贅沢だなんて、認めない!」

「意味が分からないよ秋道君!?」

「うるさい、誰が極貧魔道探偵だ!? でも猫だけは勘弁な!」




―――そして、色欲。

「うそ、ですよね………」

「そこをどけ、ハナビ。俺は巨峰を求め、往かねばならん」

「嘘だ………貴方が巨乳主義者だったなんて――――絶対に嘘だ!!」





面が引き出す、人の欲望。

各地で起きる陰惨な事件。

引き離される、恋人たち。




「っ、紫苑!」

「今更なによ!?」

「………悪かった」

「もう………寂しかった!」

そしてやってくる先代巫女、弥勒。
彼女は操られていたのだ。

「――――この、泥棒猫」

「お義母様!?」

「ちょ、確かあなたとは初対面のはずってキューちゃんその拳を降ろしグボァ!?」



指揮者の手により、張り巡らされる罠。

そして復活する、古強者。



「金角に、銀角!?」

「ああ、そうだぜ九尾ィ。今度こそお前を喰らい尽くしてやる!」

「中から何て言わねえ、真正面から食って食って食い散らかしてやるぜぇ―――泣いてもわめいても止めてやらねえ。へへ、弱体化したもんだな、別の意味でも食ってやろうかぁ!?」

「おい――――――手前らよ。そんなに、宇宙の理を知りたいか?」




―――戦い。



「まさか、貴方は伝説のサムライ―――」

「知る必要は、無い。お前らはここで果てるのだから」

「………剣の道は一期一会―――勝者は前に、敗者は地の底に」

「お、お姉ちゃんだめだってば、この人には絶対に勝てないよ!」

「いいの、私を置いて逃げてツバキ。さあ、ここより前は通さない!」

「その覚悟、見事! さあ、尋常に―――」

「いざ、切り捨て御免―――!」



―――戦闘。


「く、眼を覚ませ重吾、鬼道丸! 何を手をわきわきさせて近づいて………!」

「てめえら、そこまでだ!」

「サスケ、無事なのか!?」

「当たり前だろう。お前ら、操られているとはいえ、手え出すなよ? ―――――これは、俺んだ!」

「サスケくんサスケくんサスケく―――」

「さすけさすけさすけ多由也ころす―――」

「さあ、その巨乳を主に捧げよ―――」

「ああくそ、超怖えなァ畜生!?」

「ホラーってレベルじゃねーぞ!?」




―――そして、最終決戦。

マダラをも倒し、世界の欲望を一つに集めてしまったキバ。

世界の中心で、最後の歌を歌い始める。

それは最大限高められた色欲を鍵に、全世界の欲望を引き起こす世界忍術。

これこそが、長年の間封じ込められていた罪達の復讐の結晶―――だが。


『胸は幅広く、無限に広がって流れだすもの―――胸先の輝きこそが永久不変!』


世界を終わらせる歌が鳴り。

だがその眼前に、ヒロインが立ちあがる。
かつて友情を誓った友が立ち上がる。

「私、諦めません。絶対に、諦めません………」

「同志キバよ………俺だよ、シンだ」


互いの想いを胸に。

感じたままに、語りかける。




『………永劫たる星の速さと共に、今こそ疾走して駆け抜けよう! どうか、聞き届けて欲しい。男は穏やかに、安らげる胸を願っている』



「ずっと、見てました。貴方を、見てました!」

「お前は覚えているか? ―――はるか昔、母の懐に抱かれていたことを」


歌が鳴り。
想いが鳴いて。

やがて、世界は響き渡る。



『自由な民と、自由な世界で。どうかこの瞬間に言わせて欲しい―――』



「だから、キバさん!」

「思いだせ、キバ!」


最後の、声が響く。









『胸よ、揺れろ。君は誰よりも美しいから―――!』








凄絶なるチャクラが立ち上り。





『永遠の君に願う! オレを、高みへと導いてくれ―――!』




龍となって、天を昇る。



「キバさん―――!」


そこで彼女は、飛び込んだ。

触れれば吹き飛ぶ激流の渦を、身に宿した恋心を回天で全身から発し、一直線に―――


「乙女の双丘は選ぶものじゃない、登るものじゃない! そこは―――帰る場所だ!」


チャクラが世界になり、世界が変わろうとする。

全ての欲望が許容される、人も獣もなくなる世界へと。


しかし、だけど、光なき輝きがそれを包み込み―――



「させない―――そう、欲望がどうした! そこをどけ世界の欲望!」




心に声を届かせる。




「乙女の恋路を、邪魔するんじゃない!」






叫びが光になって、想いが力になる。







「      」







―――――そして、最後には誰が笑うのか。











MENNMA

 ~THE・MOVIE~









今秋・開始予定。












………超嘘です。







[9402] 後日談の7・後 ~サムライから侍へ~
Name: 岳◆3d336029 ID:0347f440
Date: 2011/08/09 23:25

それから、俺はツバキ達を話をした。
連携のこと。相手の強さ。そして、この修業の意味について。

トドメのきつさについては、ツバキは思ったとおり意図に気づいていたようだが、他の二人は気づいていなかったようだ。
そこからは改善点を洗い出した。障害物がある時の刀の振り方や、陣形。

以前は考えなかったことだ。敵が居れば全力で立向えばそれでいいと思っていた。
しかし、それで済まない相手が居ること。そして地形や状況次第で、俺たちの力が上下することも分かった。
刀という長物。狭い室内で意識したことはあるが、こういった森の中での戦闘についてはあまり考えたことがなかった。

あとは、一対一ではとうてい敵わない相手に対し、4人という利点をどうやれば活かせるのか。

つまりは、数の力について。最初は数で押し包む方法を考えることについて、3人共嫌がっていたようだが――――

「ハロー……そして、グッドバイ!」

「こんにちは死ね!」

「秘伝体術・千年殺しィィっ!!」

ばらばらに動いたせいで仮面マンを見失い、潜伏された後にそれぞれが死角から奇襲されてボコにされる方法を取られること3日。
流石にツバキ達も4人が互いの意思疎通を取った上で連携し、力を合わせなければ無理だと気づいた後は、早かった。

特にリンジは「あの仮面野郎絶対に突き殺す千枚通しで穴だらけに~」と尻をさすりながら意気込んでいる。
どうやらあの千年殺しは相当に痛かったそうだ。それと痔の薬をもらった医療忍者があの人だったのが関係しているのだろうか。
あこがれの人だって前に聞いたような。

件の赤仮面はリンジが倒れた後、ツバキに変態よばわりされてちょっと凹んでいたようだが。
まあ、流石に女相手にはやらんだろう―――ていうかやったら殺すつもりだ。
むしろ手はすでに打ってある。まあ、ウナギの馬鹿に勘違いさせたまま口止めしているので、発動はこれから先の結果しだいとなるが。

あと、その日の翌日に何故かラーメン屋の店主のほっぺたに紅葉が張り付いていたがなぜだろうか。
普段は超がつくほど仲がいいのに、何かあったのだろうか。

「おいマコト、聞いてるか?」

「ああすまん。それで、作戦についてだが………」

立案されたのは合計で4つ。

まずトクマは全員が蜻蛉の構えで突撃すればいいという。却下した。相手は怖がるだろうが、それで済むタマとも思えない。
次はリンジ。追い詰めて突き殺せとマジ顔で言われたが却下。そもそも追い詰めるまでいけないんだから。
ツバキはまともだった。でもまともすぎて、今までとそう変わらない方法だ。惜しい所までは行くだろうが、決め手がないのでは最後の線を越えられないだろう。

「じゃあ、マコトはどう考えてるの?」

「ああ、俺は………」

で、俺はこの三日間で煮詰めた作戦を説明する。

「これは………いや、確かにいけるかもな」

「ああ。相手は強くて速い………で、こちらも剣速を上げる必要があるんだ。なら、これが一番だろ?」

「確かにな………慣れ親しんだものだし、剣速も上がる」

「また、別の作戦も思いついたんだけどな。そっちは卑怯すぎて、勝っても嬉しくないって思ったんだ」

「勝てば、いい。とは思わなかったんだ」

「最低限の誇りがないとさ。叩きのめすことができれば方法は問わないとか、それオレの剣じゃないから。それと………もう一つ」

と、俺は説明をする。

これは実戦で。それが故に、視点を変えなければいけないのだと。

作戦の方法、そして肝となる部分を伝える。

やがて皆の意識がひとつになったことを感じると、立ち上がった。
そして仲間と――戦友と、拳を軽くこづきあわせた。

「これでムリなら、また別の作戦を考えるだけだ。まずはやってみるだけ………“諦めず揺らぎなく、ひとつ所に剣を傾けるなら、自然と刃は敵を討つ”………だろ?」

「………マコト、おじいちゃんの話、覚えてたんだ」

「忍者殺し、印殺しの英雄の言葉さ。忘れられないことばかりだろ。で、トクマもリンジも?」

「ああ、やってやるさ。とどめが俺っていうのも良いね」

「斬り込み役も俺のポジションにあってるしな。最後に勝てるのなら、問題はないよ」





そうして、決戦の時は来た。

対する仮面はいつもどおりにそこに立っている。

両手を降ろした、全くの自然体。最初はこちらを舐めているものだと思っていたが、実力を知って、そして考えぬいた末に分かった。

これは、この男の戦闘スタイルの一つなのだと。武器をもつ複数の敵と相対し、それでも回避に徹する場合の構えの一つ。
なるべくは受け止めず、足さばきと体捌きで攻撃をしのぎ、当たる場合はクナイで受け止める。

つまりは、これは相手の練習でもあるということ。
俺たちにつける修行と同時に、自分の糧ともしているのだ。

それは余裕があるということの裏返しだが、今はそれも考えるまい。
それぞれに構え、気合をもって敵を睨む。

仮面の人は俺達の心構えの変化を察したのか、いつもより腰を落としていた。

(わずかな変化もお見通しか………なるほど、この人は俺たちのことを舐めていない)

見ているのだ。油断なく、俺たちのことを見据えている。
対する俺たちは、自分のことばかりだったことを思い知らされる。

相手がどうとか考えず、ただ自分の役割を果たすことを考えた。
でもそれは必死じゃなくて、いつもの日常のラインを保ったまま。いつもは話さないから、話さない。
そんな調子で多くの時間を無駄にした。今から、その遅れを取り戻せるかは分からないけど―――

(一歩踏み出さなきゃ、変わるものも変わらない)

ましてやこの後に実戦が控えているなら尚更だ。
俺は腰を落とし、まずは合図を送った。

(長引けば不利。力量の差が歴然なら、一瞬に全てを注ぎ込むまで!)

「―――散開!」

合図と共に、全員が四方に散らばる。
距離を置いて、相手を囲むこむ。

以前も、この方法を取ったことがある。四方から囲み、斬りかかった。
でもあっさりと避けられ、危うく同士討ちになるところで、焦った俺達は全員がすぐに叩き伏せられた。

(でも、今回は違う!)

考えが足りなかった。実戦形式と言われても、俺たちは考えなかった。
そうだ、相手はこの強敵で。何が何でも、勝たなければならない敵なのだ。

ともすれば―――――手段を問う是非は無し!

すっと、右手で合図を送る。



同時、4人は鞘から剣を抜き。そのまま、刃の方を全力で仮面へと投擲した。

「―――なっ!?」

回転し、飛来する白刃。仮面の人は予想外だったのか、
焦った様子を見せながら、唯一の回避路である直上へと跳躍する。

投げた刀は、ちょうど中央でぶつかりあい、散らばった。
2、3度練習しただけだが、うまくいったようだ。

そして俺たちは、宙に――――追い込んだ先に、次の手を打つ。
投擲したと同時、俺たちは距離を詰めるべく走り始めていた。

そのまま、鞘にある打剣―――いわゆる隠しの小刀を、空中にいる仮面の胴体へ向け投擲する。

「くっ!」

空中で方向転換もかなわないだろう。
予定どおり、仮面の人は胴体にせまる小刀を両手で打ち払う。

―――だがもう、次の準備は整っている。

まずはトクマが、走る距離を助走に跳躍し。
鞘にチャクラを纏わせ、渾身の一撃を振り下ろした。

「っ、チィッ!」

刀よりはるかに軽い。だが脳天に食らえば致命傷であろう、袈裟懸けの一刀―――しかしそれも、すり抜けられた。避けられたのだ。
そのまま交差すると同時にトクマは手刀を入れられたようで、身体がぐらついたと思うと、そのまま地面へと落下していく。

(―――まだ予定通り!)

空中で取れる動作。常人ならばひとつ、この人は今までの戦闘を考えるに、3つ程度。
これで、最後だ。

「チェェェィ!」

「そこ!」

俺は袈裟懸け、ツバキは逆袈裟。

交差する両刀は―――しかし、その両手のクナイに阻まれた。
斬撃の軌道を瞬時に見切られ、瞬時に対応されたのは驚いたが―――それも想定の範囲内。

かくして同じ、打ち込んだ鞘は弾かれ、仮面の人はクナイを捨てると俺たちに手刀を放った。

首筋に走る衝撃に、意識が遠くなる。

(―――さい、ご、まで!)

意識を失う前に、と。

俺とツバキが、打ち合わせ通りに。
手刀を打ち込まれる寸前、相手に組みかかっていたのだ。

首筋に衝撃が走り、意識が遠ざかる。だけど――――つかんだ。

「っ、捨て身か!」

気絶しながらも、二人で掴みかかり、両手足の自由を奪う。
そのまま落下していき―――――着地と同時に、最後の一手が仮面に襲いかかる。

「お、おおぉぉぉぉおぉッッ!」

抱きついた俺とツバキ。身動きのとれない相手。
そこにリンジが突進して――――俺とツバキの間に開いている空間に、突きを入れた。

かわそうにも身動きはとれまい。
そして突きが、仮面の人の胴体へと決まったのを、俺たちは遠ざかる意識の中で感じた。














「合格! ………ですです。ごほ、ごほ」

「あの、咳に血が混じってますが大丈夫ですか? 医療忍者を呼んだほうが」

「鎖かたびら着込んでたから大丈夫。打撲だけだし、あと4、5分すれば治るから心配ない」

「なにそれ怖い」

そんな重いもの身につけてあの速度とか、ていうかそれでも衝撃徹ってるのに、数分で治るとか。

「いや、これ着てなくてクリーンヒットされたらいくらなんでも大怪我するから。皮膚で刀は弾けんから。で、まあ速さを抑えるいい重しになるし、調度いいと思ったんだ」

「はあ………それで、僕達は合格ですか?」

「うん、全員合格。文句なしだね」

「………実際にクリーンヒットを入れたのはリンジ一人ですが、それでも?」

「うん。全員が一丸となって、だからOK。それでこの試験の意味は――――もう分かってるようだから説明は要らないか」

「ええ。色々と分かることが出来ました。例えば………クリーンヒット、という言葉の意味をどう捉えるか、とか」

その言葉を聞いて、全員が思った。“刃を当てなければ意味が無い”と。
でも実はそんなことはなくて、ただの鞘にチャクラをこめるだけで、人を倒す十分な武器になる。
そこから―――事前情報から、色々と試行錯誤すること、先入観を捨てれば、手はいくらでもあるんだと気づいた。

4人にしてもそうだ。全員が生き残った上で勝つ方法を考えていた。
実戦は違う。前提条件として、力量が完全に上の相手と対峙するというなら、4人全員なんて甘いことを考えていたら全員が無駄死にしてしまう可能性もあると。

「求めるは、相手に見合った――――自分たちの放ちうる最適の一撃を。つまりはこういうことですよね?」

「その通り。あとは――――ミフネ大将曰く、“自分達が手に入れた力を、それがどれほどのものかっていうのを再確認して欲しかった”とさ」

「え?」

「普通の人間は、鞘にチャクラをこめられない。普通の鞘で殴っても、人は殺せない。でもお前ら4人はそれが出来る。自らが鍛えた腕により、それが可能となった」

つまりはそこに転がっているような棒切れが、一本あれば。
そして害意があれば、人を殺せてしまうということだ。

「“自分の持つ力と、そして自分たちが今できることを自覚して欲しい”。それがミフネ大将からの伝言だ」

「………承りました。あとは………マコト?」

「ええ。もう一つ聞きたいんですが………もし、俺たちがルールには言われていない、実戦では有りうると―――助っ人を用意していたらどうでしたか?」

「それでもいい。どんな手を使っても、と言ったしな。それで俺に一撃当てれば合格だと言っていたよ。ウナギ丸がこの修業を受けたなら、まあそうしたかもな………人の手を借りて、壁を超える。それもありっちゃありだし」

あの野郎もヒントみたいな言い方でこぼしてたし、との言葉。
しかし納得はできないようだ。

「………それは、間違いではないと?」

「うん。でも、この程度の壁を超えるのに人の手を借りてちゃあね。この先の壁できっとつまずいて、死んでいたかもしれない。あとひとつは――――俺の正体を探り当てて、日中に奇襲に出るとか」

「あ………それもありですか」

「そういう手もある、ってこと。こんなルールにしたのも、事前に“壁”と言っていた意味も分かるだろ?ミフネ大将は“壁の越え方”ってやつも見たかったと思う」

「どんな手を使って壁を超えるか、ですか」

「そうかも。人間、切羽詰まったら性根が出るから。それで、どんな方法で越えてくれるか―――俺の思う限り、最善かつ最良の回答だったと思うよ」

偉大な人物―――この世界では、偉大な信念のそばに在り、侍《はべ》る人をこそ侍とよぶ。
告げて、メンマは笑う。

「ウナギの言った通りにしてもねえ。結局全部は信じなかったんでしょ?」

「はい。正しいこともありましがた、少し納得いかない部分もありましたから」

「そうだねえ。間違えてるのも多くあったし」

「え、あいつとの会話の内容を知ってるんですか?」

「ま、あいつから聞いたよ。あいつ自身は正しいと思ってるようだけど、根本的に違う部分もあった。例えば、蓮さんの強さの理由についてとか」

「え、姉さんの強さ………才能じゃないんですか?」

「だけじゃない。あの人が天才で、だから短い期間に強くなった、ってことは違う。確かに修行期間の割には強いけどね。だけど、才能が根本にあるものじゃない。ウナギにしても、それを見極められないから悔しくて才能のせいにしてるんだろう」

「はあ………」

「ま、人の言うことでも間違えていることが多々あるってこと。鵜呑みにすればそれでいい、何て考えてたら後々まずいことになるかも。そういう搦手使ってくる奴は多くいるからね」

「自分で考えて突き詰めながら剣を振るえ、ってことですか」

「そう。例えば、自分達の力量と現時点での相手の力量を計って、3人を囮にしたこととか」

「それでも………真っ当な方法で。4人全員が生き残る作戦を考えられなかったのは悔しいです」

「……情報とか、前準備とか大事なんだな。いざ戦場でアンタみたいな化物に出逢っちまったら、って考えたよ。その日が来るとして―――どれだけ、事前に相手の知識を持っているのか。修行して自分を鍛えたのか、が生き死にを分ける」

「今度は、4人全員で生き延びられるようにがんばろう。まだ、遅くはないから」

「ええ………ところで、仮面の人」

「なに?」

「見たところ、貴方は私達とさほど年が離れていないように思えます。それなのに、その力量………一体どれだけの壁を越えてきたのですか?」

「………俺? 俺が乗り越えてきた壁っていうと、まあ――――」

指折り数えていく。

「代表的なものを言えば―――百戦錬磨なのに尻穴狙ってくるキモイ変態壁とか。殴ったはしから自己修復するメガネかけてる壁とか。壁というよりは山だったぽんぽこたぬきさんとか。『いつから俺を壁だと錯覚していた……?』を素でやってきそうなチート忍者(兄の方)とか」

まあこれはもう一人のチート忍者(弟の方)に任せたんだけど、と置いて。

「なんか森の中をうろついてた野良神とか。邪神合体“角段子《かくだんご》”とか。俺は戦うのを避けたけど、『刺されたけど今の嘘ね。なしなし』で全部無かったことにする陰険じじいとか。あまつさえは“KAMI”とか」

むしろ魔王。わなびーいえい、と言いながらぷるぷる震えだす仮面の人。
どうやらトラウマを直撃してしまったようだ。

「ほんとさあ……どいつもこいつも油断・即・死だし、馬鹿みたいな攻撃力持ってるし、殺意はハイオク満タンだし…………紙装甲っつーかろくな防御術持ってないこっちの身になれってんだよ畜生。胃が痛えよ忍びねえよクソが」

「そ、そんなに、ですか?」

「うん。ちょーっと瞬きの間をミスっただけでも、『シッショー!』ってなってたね。確実に」

「はあ………」

『シッショー!』なる叫びの意味は分からないが、断末魔っぽいような、情け無い声だからきっとそういう意味なのだろう。

「ともあれ、あんな壁はもう現れないだろうからね。というよ現れたらむしろ全俺が泣く。だから君達は君達の道を生きなさい―――間違ってもこっちに来るんじゃないよ?」

「はあ………でも、これ以上強くなるために必要なことでは?」

「普通にやってたら強くなれるよ。それにそんな天災級のトラブルに会うような奴なんて、多くない」


あっても困る、と一言置いて。


「義理は果たした。あとは4人が後輩達に指導してくれれば、俺もお役御免に―――――っ!?」




そこで仮面の人が固まった。


ばっと、後ろを振り向いて止まる。




まもなく、何やらこちらに向けて走ってくる人物を発見した。

「ね、姉さん!?」

「蓮さん! とサスケ隊長――――って蓮さんなんで腰の刀に手を!?」

と、驚いている暇もない。
直後、迫り来る黒髪の美女は鞘を収めたままの剣を振りかぶりながら跳躍し、

「いきなり脳天っ!?」

仮面の人向けてふりおろした。メンマは瞬時にクナイを取り出し、受け止める。
チャクラ強化された鞘と、鉄とがぶつかり合う音がする。

いきなりの凶行に、他の全員が硬直した。

「サ、サスケ! 説明!」

「昨日。お前。千年殺し。ウナギの説明が悪かった。勘違いしたイノシシ娘は聴覚を遮断。以上」

「あの野郎っ………土用の丑の日にしてやるッッ!!」

「その前にあなたの身体に剣の裁きを!!」

「割とおっかねえなこの人!?」

言いつつメンマは刀を横に流す。

しかし直後に、流された剣が跳ね上がる。

「ちょいッ!?」

閃光のような一太刀を、バックステップで避けるメンマ。
しかし追撃の振り下ろしが脳天に振り下ろされる―――その直前、刀は燕のように軌道を変えメンマの右首筋へと迫る。

「まっ!?」

しゃがみこみ、その一撃を回避。
だがそれで終わるはずもない、蓮はその場でくるりと回転。
周り、正面に向き直るとほぼ同時に袈裟切りを放つ。

メンマはそれを読んでいた。剣の軌道を見切り、クナイでしっかと受け止める。

ガィン、と音がなり、しかし次の瞬間、

「っ!?」

衝突した剣が、ぽんとまるで鞠のように跳ね上がる。

わずかに振り上がった剣。それを加速距離として、剣がまた軌道を変え、今度はメンマの左脇腹へ鋭く落ちていく。

「すおっ!?」

腰を引き、胴切りを回避するメンマ。

「だから―――」

刀は空を切ったが、それも胴の寸前で止まる。
切っ先にはメンマのみぞおち。剣がそのまま突き出さ――――

「いい加減にしろっての!」

れる前に、メンマが剣を掴む。
上下に剣を振り、蓮の重心を崩すと同時、足を払い飛ばす。

蓮は宙に浮かされたと同時に剣から手を放し、受け身をとると同時に転がり、メンマから距離を取り、脇差へと手をかけた。

「流石は鬼畜の忍者王………ここまで避けられたのはサスケ隊長とミフネおじさんぐらいです」

「それは光栄………で、話は聞いてくれる? あとウナギ丸は蒲焼にしてやる」

「でも、一太刀。後ろの貞操とやらを汚されたツバキちゃんのため、私は一太刀でも貴方に!」

「ってあなた言葉の意味分かってないっぽいんですが!?」

「まあ天然記念物だからなあ。分かってないだろうなあ」

「お、お姉ちゃん………!!」

必死な蓮。叫ぶメンマ。
遠い目をして諦めるサスケ。顔を真っ赤にして怒るツバキ。

(ちょ、おま、ウナギ、てめ、勘違いしたまま!?)

焦るマコト。

再度斬り込む蓮と、それを捌きながらメンマは叫んだ。

「サスケ、幻術を頼む!」

「とっくに試してる。でもまあ、なんつーかここまで自己に没頭されるとなあ。暴走止めようと間近で幻術かけても効きゃしねえ。多由也にはキス迫ってんのかいやなくても顔が近え、って怒られるし」

と、サスケはしょんぼり。
眼がちょっと虚ろだ。

「ということで、何かショックを与えない限りは無理。なに、美人との斬り合いだ、めったにない経験だろ―――いっそ戦いを楽しむのもありかと」

「ちょ、帰ってきてサスケ君! ここはお前がどうにかするプロセスを希望!?」

「でもお前黒髪ポニテもけっこうタイプだ、ってこの前言ってたじゃん」

「それはそうなんだけど!」

「っ、隙ありぃぃい!」

「いやいや、ここは落ち着いて話を聞くセオリーだから!?」

変な言葉になりながらメンマは疾駆する。
しかし蓮もさるもの、あっという間にメンマへと追いすがる。

「あれ、あいつ動き鈍いな。何かつけてんのか?」

「はい鎖帷子を。それで、あの………サスケ隊長? あの、蓮さんの太刀筋についてですが………」

「ああ、あれね。俺も最初見た時は何かと思ったけど………言っとくが、あれ才能あるからじゃねえぞ?」

「え、ええ!? サスケ隊長も!?」

「まあ確かに剣の才能はあるだろうよ。でも、あいつのあの太刀筋は――――異様な集中力が成せる技だ。その分周りが見えてねえからプラマイ0だけど」

「集中力って……」

「見れば分かるだろう」

と、サスケは切り結ぶ二人を指差す。
振られたかと思えばひるがえる。変幻自在の剣の軌道。しかしそれは、後の先を取る動きだ。

一瞬の速さで切り捨てるのではなく、状況に応じて即座に剣筋を変える。

「面が無理なら一文字に。受け止められても、次の剣を。あれは常軌を逸した集中力だけがなせる技だよ」

「隊長でも無理だと?」

「無理だ。わずかな隙を見つけては打ち込み、“だけどそれでは絶対に終わらない”なんてことを前提に剣を振り続ける。馬鹿げた集中力で、どんな臨機に対しても応変する。神経が先にやられちまうよ。最も相手から見りゃ、変幻自在の意味不明な太刀筋に見えるから、有用は有用なんだけど」

「そんな………ことが、可能なんですか?」

「まっとうな人間じゃ無理だな。まあ、あれがあいつの過去の負債から来るものか――――」

と、サスケは皮肉げに笑う。

「これから先の未来を切り開く、資産となるか。そう考えるのも助けるのも、周りの人間次第だ。普通じゃないが、才能なんかじゃない。その理由を知っている者ならなおさら、本当は妬まれる筋合いも本当は無いはずなんだけどな」

「それは………」

「これ以上はどうも言わねえさ。でも、養子になった―――いや、なる前と、その経緯をしっているお前にはわかって欲しいもんだ。あと、頼むから暴走を止めるの手伝ってくれ。俺一人じゃ胃薬がもたんから」

「………はい。あの、隊長?」

「今の隊であいつを嫌ってるやつなんていないよ。何にしても一生懸命で一所懸命だ。侍らしいってあいつは笑ってたけど―――っと」

サスケがちらりと後ろを見る。

「今日は俺が止める。あっちから、怖いのが二人近づいているみたいだしな」




そう告げると、サスケは静かに蓮の背後に回りこむ。



―――しかし、ちょっとタイミングが悪かった。




(埒があかんし―――紙一重で回避、交差で踏み込んで、腹に当身を入れて気絶させる!)



鎖帷子を外す間もない、とメンマは決断する。

ちょうど振り下ろされる唐竹、正面からの面打ちをメンマはわずかに首を引くことで交わし―――



(ここ!)


踏み込む。



面は地面を穿つだけ。


しかし、切っ先は面へと確かに当たっていた。



ぴしりと線が入り、メンマの面が縦に割れる。



「なっ!?」


予想だにしなかった、面の下から現れた素顔に、蓮が驚き止まる。


そこに、援護をしようとしたサスケが飛び込み―――


「ちょ、いきなり止ま?!」


急に立ち止まった蓮の背中を押してしまう。



ドン、と押されて前のめりになる蓮。



メンマは面が割れてしまい、驚き硬直して。





――――そして、二人の唇が合わさった。





「!?!?!?」

「?!?!?!」


声ならぬ悲鳴。


かたや、やっちまったと。

かたや、初めての口づけに驚愕を。


すぐさま、ばっと離れる二人。たがいに唇を抑えたまま、顔を真っ赤にさせている。

周囲の4人はといえば、面の下から現れた素顔に驚き、動けない。

サスケは、やっちまったと頭をかいている。しかし紫苑に言霊で誓言の術を使ってもらえればいいかと、そこまで思いつき――――





「あ」





たった今。近くに、修羅が生まれたことを知る。





「な、なにこの殺気は………!?」

「ば、ばけものが………!?」

「し、死にたくない、死にたくない、こんな、斬れないって………!」

「こ、これはラーメン屋で感じた気と同じ………!」


4人はその“2つの殺気”にのまれ、動けない。


「バカヤロウ、早くここから逃げるぞお前ら!」


サスケが怒声を上げる。

蓮とツバキ達4人が頷いた。



残されたメンマは、といえば―――――空を見上げていた。



「あの、その、小池の店主さん!?」


蓮が叫ぶ。

だが、メンマは背中を向けたまま、サムズアップを返すだけ。


「―――ナイスキス。それに関しちゃ正直ソーリー申し上げる。でもここは任せろ‥……後から、必ず追いつくから」


むしろ歴代火影から説教うけそうになるけど、と心の中で呟く。


「で、でもこんな巨大なチャクラを、一人では………!」

「なに、足止めだけなら十分さ。あとは………別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」

「それ、死亡フラグって言うんじゃねえのか? つーかお前にあの二人は殴れんだろ絶対」

「へへっ、ちくしょう、眼が霞んできやがった………」

「おまえ戦う前から既に………あ、足が小鹿のように震えてる」

「世界はいつだってこんなはずじゃないことばっかりだよ………」

「って、背中に手を回して歯を食いしばるなよ。覚悟が早えよ」


「いいから、先に行けぇ!」




叫ぶメンマ。

あまりに必死な声に、従うみんな。


















最後に聞こえたのは、メンマの男らしき、そして誇らしき声であった。





















「正直、役得でした――――!」














数秒して、サスケが呟く。

















「メンマのチャクラが消えた………?」

「あ、『シッショー!』って声が」
















許されなかったらしい。



























―――後日、北の戦場にて。

「ええ、大丈夫ですよ。あの殺気に比べたらね。今目の前に展開してる妖魔なんて屁みたいなもんです、っと!」

「ちゃんと立ち向かえば、斬れる敵がいる。それって素晴らしいことなんだなあ………ふはは、分かたれよ怪生!」

「ああ、突いて突いて突きまくる! それが俺さ! え、噂の仮面の正体はって? 言えませんよまだひき肉にはなりたくありませんから」

「なにやら最近姉が家に帰ってこない。まる。早く終えて会いに行きたいので、申し訳ないですが死んでください」

見事に心をひとつに、そして油断もなにも一切無くなった若干16歳の侍部隊があったという。

彼らの活躍は素晴らしく、北の征伐ではちょっとした話題になったとか。








そして本拠地では、ミノムシのように縛られ吊るされたラーメン屋の店主と、調子もいいが口も軽い見習い忍者の姿があったとか。















あとがき

原作一巻のあのシーンをちょっとアレンジしてみたり。



[9402] 後日談の8 ~青空満月~
Name: 岳◆3d336029 ID:0347f440
Date: 2011/10/07 00:04
人には触れられれば反応せずにいられないものが存在する。

例えば、逆鱗。太古の昔にいた龍と同じく、触れると宣戦布告が同義になる、そんな部分があるのだ。
その龍は今も山脈の奥深くに存在しているらしいが、それはどうでもいい。

何にしろ、一度接触すれば、もう怒るしか無い。
身を焦がす程の激情を前にして、理性などに意味はない。
抑えようとする気すらおきないのがその証拠だ。

例えば、メンマがあの黒髪と接吻を交わした後。

まず、九那実が怒った。彼女はメンマと12年らい、いやそれ以上の付き合いだ。
年は十世紀にも渡るほどらしいが、人間としての感情を持ったのは少し前らしい。
そんな彼女をして、怒る部分はひとつ。いわずもがな、メンマの事である。
目の前で別れを告げられ、また彼女自身が別れの原因となったことから、一時期は本当に塞ぎ込んでいた。

故郷に帰ってからはその落込みっぷりがいっそう激しくなり、知り合い全員で元気づけたのは、今となっては懐かしい記憶とも言える。
そんな彼女をして許せないことは、メンマがどこかに行ってしまうことだ。

信頼はしているだろう。羨ましいことだが、誓いを交わしたとも聞いた。
でも、不安は拭えないのだ。もしかしたら、と考えてしまうのも、寂しい想いをさせられた彼女であれば致し方ないこととも思える。
だから、怒った。割と本気で怒っていたようにも思える。

妾とはまた違う。こっちは特別誓いを交わしたわけでもない。
怒りを前に出来る理由など、どこにもない。


―――でも怒ってしまうのは仕方ないであろう?


まだ残っている。鬼の国で夜。季節を幾度も跨ぐ、暗闇の旅に出る前に紡いだ言葉。

私のために怒るアイツ。短い付き合いだったのに、それでも命を張って立ち上がったアイツ。

怒気と共に高められたチャクラは、まるで星のようで。その光景は、光を奪われたあの世界で何よりの慰めになった。



だから。




―――だから。







「妾とドッジボールで勝負じゃ!」

「何故に!?」





かくしてメンマと紫苑、二人の真剣勝負が始まったのである。



「さて、ルールを確認しようか」

「あー、紫苑さん聞いてます?」

「確認しようか!!」

聞く耳持たずの二度押し。
メンマは諦め、聞かされたルールを復唱する。

「俺は忍術なし、チャクラによる身体強化もなし。紫苑は両方あり。まあ確かに、それぐらいのハンデならいい勝負になるとは思うけど………」

なにがどうやってこんな流れに。メンマが問うけど、紫苑はガン無視である。
審判役のキューちゃんはさもあらんと腕を組みながら頷いていた。

「忍術を使うと前みたいにグダグダになってしまうからな………」

「あれはひどかった。途中からくにおくんルールになってたもんね」

すなわち当てられたらアウトじゃなくて、死んだらもしくは気絶したらアウト。
球のぶつけあいじゃなくて、命(タマ)のぶつかりあいになってしまったのである。

「………1球目に手裏剣影分身の術つかって、ボールを増やすからじゃ」

ちなみに途中から影分身も使っていた。増える人数に増えるボール。
何がなんやらわからない、カオスの極みになっていったのである。

「いやあ、ぶっちゃけ死ぬかと思いました。サイは墨の鳥に乗りながら空中爆撃かましてくるし、シンは体内門開放するし」

宙に浮いてりゃOKってなもんじゃねえ。ルール守りながら常識を無視するな。
サスケに至ってはまさかの万華鏡写輪眼、月読である。多由也の笛でフォローしたから影響は無かったらしいが。
というか、笛の音をBGMにボールを投げるサスケは無駄にラスボス風味でした。

ちなみに真のラスボスはキューちゃん。可愛い顔して投げるボールはブラックホールクラスター。
乗ってる機体はフェアリオン、いわゆるラトゥーニになのに放つのは縮退砲っていう。
BGMがダークプリズンで『ぶらっくほーる、くらすたー』ってうるさいよ馬鹿。
ぶれーどとんふぁーみたいに言うんじゃないよ。あと、歌が上手そうですね。

「ん、普通に投げただけなのじゃが?」

「自分のスペック考えようね。直撃くらったシン君ってば場外までふっとばされたからね」

三の門開放なんか関係なかった。
ガッツが足りないとかそういう問題じゃない。

「いや………妾もあそこまでするつもりはないぞ」

紫苑が気の毒な表情をメンマに向ける。さすがにあれは無いと思ったのだろう。

「ああもう、気をとりなおして! 商品は、敗者への命令権――――何でも、いうことを聞いてもらうぞ!」

「ちょ、べったべたやがな………」

これじゃあサド隊員も許してくれないよクラフト隊長。
メンマは言いながら訴えるが、紫苑はそんなの聞いちゃいねえ。

何言っても無駄かなー、と判断したメンマは黙って用意することにした。

「うるさい! 3球勝負、待った無用、問答無用、手加減したりルール破ったら一週間ラーメン抜き! では、開始じゃ!」

「ちょ、ラーメンは勘弁!」

「問答無用じゃ!」

いいながら、紫苑は後ろへ跳躍。
メンマもラインの際まで下がった。

「まずは小手調べじゃあ!」

と、紫苑は全力で走り、ボールを投げつける。
けっこう馬鹿みたいなチャクラ量を誇る紫苑が、全力で肉体を活性させた上での一投。

「ちょ!?」

その予想より3段上の速度に、メンマは面食らいながら必死に受け止める。

「ぐぅぅぅ………小手調べってこれ、割と痛いんですけど………」

チャクラでの身体強化もないので、素で痛い。
ちょっとぶつかった所が赤くなってるかなー、とぼやきつつも、メンマはボールを確保し、紫苑が後ろに下がるのを見ながら

「だが―――ラーメン抜きとあっちゃあ、手は抜けねえな!」

割と大人気ない男、小池メンマ。しかし小手調べというならば、こちらも同様に返すべきだろうと、5割の力を籠めると決心する。
振りかぶり、地面がわずかにへこむぐらいの踏み込みと共に、右手に持つボールを放り投げた。
ラーメンに忍者に修行に、鍛えた腕力は伊達ではなく、ボールはさっきと同じぐらいの速度で紫苑に迫る。

「ふ、この程度ぉ………!」

あくまで予想の範疇での速度。しかし、それでも紫苑には辛い速さだ。
だが、紫苑にはチャクラがある。

手にチャクラを張り巡らせ、受け止めて衝撃を減衰させると同時、ボールをチャクラで吸着する紫苑。

「バン◯ーガムかよ………」

俺はゴンじゃねーんだけど、といいつつ呆れ顔のメンマ。
しかし、中の人は(禁則事項です

「ふう………しかし、流石に完全には威力を殺せなんだか………」

若干しびれている両手を見ながら、紫苑は不敵に笑う。
メンマはそれを見ながら紫苑と出逢った頃を思い出していた。

あの頃は純真な子供だったのになー、とか、前は戯れるようなボールの投げ合いだったのになーとか、何でこうしてガチンコバトルしてるんだろうなー、とか。

――――育てば変わるのも、女性である。

「ふ、やはり純粋な技術や反射神経ではこちらが不利………」

クナイの投擲術に通じるせいか、チャクラの身体強化無しでもメンマのボールは強力だ。
このままでは勝ち目がない。だが、それでも紫苑は笑みを崩さない。

「ゆえに、こちらに有利な点を突かせてもらうぞ!」

といいながら、紫苑はボールを片手で持ち上げ、放り投げた。

そして次の瞬間、いよいよメンマは驚いた。

「足とボールに、結界の束を……!」

紫苑が唯一使える、舞神楽の結界――――局所高度結界が、足に集まっている。

「行け!」

そして紫苑がボールを"蹴った"。


「え」


―――次の瞬間、メンマは目を見開いた。

ボールはもう避けられない位置にまで来ている。


(速……!?)


刹那の瞬間、メンマは思考する。


(このまま、無傷、受け止め、出来る………?)


刹那の自問に、即座の自答。


(否、負け………っ!)


身代わりの術《ホワイトゴレイヌ》とか浮かんだが、それはどうあっても使えない。

術を使えば反則負け、すなわりラーメン一週間抜き。それはこれ以上ない、拷問である。




(それなら、俺、前のめり、玉砕する!)



色々と何かが決定的に間違った決断をする男。


ラーメン、と心の中で渦を描いて弁髪の異人に祈りを捧げ、顔面に手をやり何とか受け止めようとする。


そして―――果たして、祈りが届いたのだろうか。


ボールは当たらず、メンマの顔の横を過ぎ、背後の樹へと突き刺さった。



「………」



しゅるると樹の幹にめり込みながら回転するボール。

ぷすぷすと煙が上がってきた所でメンマは正気に帰る。


「うおい、殺す気か!?」

「あー………やっぱり蹴るのはのう。コントロールに難があるの?」

「裂蹴紅球波並の剛球をぶっぱなしておいていうことはそれだけ!?」

「ああ、無事でよかった」

「色々な意味でツッコミ所が多すぎるわ!」

いつもはボケのメンマがツッコミを入れざるをえない程の理不尽。
しかし紫苑は聞く耳持たぬ。

とっくに乙女の怒りの度合いは、引き返せないぐらいの位置にたどり着いてしまっているのである。







「負負負………我が嫉妬パワーは無敵!」


「……あー」


と、背景をようやく察したメンマは息を吐いた。


手に持ったボールを見るが、すぐに紫苑へと軽く投げ返す。



「―――なんのつもりじゃ?」


「…………」



答えず、ひらひらと手を振り返すメンマ。




紫苑は訝しげな表情をしながらも、チャンスだと腰を落とし、構える。



「手に結界を…………」


その規模、先ほどの実に10倍。感じるチャクラにメンマは冷や汗を流す。


ボールは局部結界で宙に固定されている。あれが砲台というわけだ。


だが、メンマはそれを見て笑う。



「受け止めてやる!」



俺の落ち度だ、とは言葉に乗せず。メンマは前にへと走りだした。





「っ、行くぞ!」




――――轟音。

火薬が爆発するかのような音と共に、多重結界拳によって打ち出された球体の砲弾がメンマに向けて打ち出される。




「っ、我が流派に捕らえられぬものなし!」



九尾流。全身の神経を研ぎ澄ましたメンマは、前進しながらボールを掴み――――威力を受け止めながら、後ろ向きに回転し始める。

宙に浮きながら、ぐるんぐるんと回転しながら、荒ぶるボールの威力を殺していく。だがボールは収まらず、メンマが着地すると同時に、踏ん張った足元の地面がえぐれ始める。



「オオオオオオオオァッッ!!」


踏ん張る。耐える。歯を食いしばる。

だが、さすがのボールの勢いを完全には殺せなかった。



「あッ!」




ボールを空に打ち上げるも吹き飛ばされ、後ろに転がっていくメンマ。


ごろごろごろと回転し、止まった頃には眼をぐるぐると回転させていた。完全に気絶していた。




「………っ、勝った、のか?」





見事勝利を収めたはずの紫苑。だけどちょっとその顔には後悔を残していた。

やりすぎたかもしれない、と。







――――ひゅるる





「九那実………」



キューちゃんの方を見る紫苑。だが九那実は答えない。






――――ひゅるるるる。







「えっと、ちょっと…………その、ごめんなさい」




頭をかいて反省する紫苑。

九那実は頷き、じっと目を逸らさない。






――――ヒュルルルルルル。






「時に、紫苑」


「――――ん?」









聞き返すと同時、ボールが脳天を直撃。

ぼすん、という鈍い音がなる。







「あふん」










高々度からのボールの一撃が紫苑の脳天に直撃。





「危ないぞ」





遅すぎる親友の忠告を聞きながら、巫女は気を失った。













○ ● ○ ● ○ ● ○ ●



「うう、あの時最後まで気を抜かなければ」

「まーま、いいじゃないか。結果的にはどっちも負けだし」

勝負の結果は引き分けで、両方に命令権ひとつ。
どちらも勝者で敗者、ということだ。

そして紫苑の方の命令に従って、メンマは火の国の首都にまで来ていた。
移動はもちろん飛雷神の術。旅に超便利な、いわゆる一つの“ルーラ”である。

「それで、前に行った店だよな?」

「ああ………うむ、こっちじゃ」

紫苑はメンマの手を引っ張る。二人きりなので、攻勢に出ているのだ。
ちなみに九那実は近くにある故郷に一日だけ里帰りしているという。

彼女にとっては、もはや待たせる者もいない古巣だ。
が、それなりの想い出はあるらしい。

「あるいは、気をきかせてくれたのかもな………っと、メンマあそこにアイスクリーム屋が!」

「美味しそうだな、食べる………って危ないから紫苑」

正面から歩いてくる馬車。メンマはすかさず手を引っ張ると、紫苑の身を引き寄せる。

「あーもー、周り見て歩けって。興味あるのは分かるけど、危ないから」

「う、すまん」

「まあいいけどな………理由もわかるし」

あの日から、ここ数年まで紫苑の世界は闇に染まっていた。
少女から女性になるまでの、長い期間だ。その時間に見ることのできなかった光景を、見たいと思うのは当たり前のことだろう。

「………そういえば、キューちゃんもそうだったな。生身のままで旅をしたのは3年前からか。視点も全然異なるだろうしなあ」

3年より前は、ずっと中にいた。見るものは一緒で、視点は同じで。

「今は違う。九那実も、な。前とは視点が違う。視線の位置が変われば、見えるものが違えば感じるものも異なってくるし………」

――――こうして、手の温もりを感じながら。立つ場所が変わると、感想もまた違ってくる。
そう紫苑は笑いながら答えて、メンマもそれに同意した。
確かに、一人で周囲を警戒しながら旅をしていた頃とはまるで違う感覚を覚えることがあるからだ。

「具体的に言えば周囲のヤロー共の眼だけど。つーか、嫉妬光線が痛い」

「役得と考えればよかろ」

「そうなんだけどね………ほら、アイス」

二人はアイスを舐めなながら歩く。
それを見る周囲の視線は2つだ。

女性は、紫苑に嫉妬の眼を向けている。珍しい色だが美しい、見るものを魅了する見事な髪。それは十五夜の淡い月光を感じさせ、儚さを連想させる。
幻想的な光を放つ瞳とあいまって、まるでどこかのお姫様のように見える。

それゆえに、男共がメンマに向ける視線は嫉妬のそれである。

余談だが、これが九那実なら一つランクがアップする。
女性の嫉妬は諦観に、男性の嫉妬は殺意に。

(網の中ならこうはならないんだけどなあ)

黙っていればお姫様、一度喋ればメンマの漫才の相方。すなわち芸人。
それが網における紫苑の印象である。

複雑な感想を抱いているメンマ。それをよそにして、目的地に到着した。

「あ、やっぱりここか」

「うむ」

紫苑が望んだものはプレゼント。そして彼女が数日前、ここの装飾を食い入るように見ていたのをメンマは覚えていた。
メンマも、一目見て見事と分かるこの店のことは興味を持っていた。

まがい物には出せない、本物の職人が作るそれはオーラが違う。
大まかな装飾の構成も見事だが、細部に渡る工夫はもう狂人の域だ。
欲しくなる気持ちもわかる。

「ん………」

と、紫苑の視線が止まった。目的のものを見つけたようだ。

(青色のペンダント………)

細部の複雑な銀細工も見事だが、目を見張るのは中心の石。
基本は濃厚な紺色だが、見る角度を変えれば空のように鮮やかな青になる。

紫苑はそれをじっと見て―――でもやっぱりと視線を外した。
また別のアクセサリーに視線を移す。

(もしかして………高いからか?)

見事だが、見るからに高そうだ。自分に遠慮したのか、はたまたこのあとの自分にかされる罰ゲームのハードルが上がると判断したのか。
メンマは何となく紫苑の胸中を察して、紫苑を肩を叩いた。

「うん?」

「いいから」

さっと先ほどの青のペンダントを手に取り、店主に渡す。


「―――いくらだ?」


驚く紫苑の横で、メンマは提示された金額に汗をかきつつも、きっちりと支払った。




○ ● ○ ● ○ ● ○ ●


街の中心にある公園。いつかの鬼の国にあった公園によく似た作りをしている場所で、二人はベンチに座っていた。

「あの………本当に良かったのか? かな~~~り高かったが」

「だいじょーぶだいじょーぶ」

でも向こう三ヶ月は晩酌抜きかなー、と心の中で考えつつも、メンマは紫苑に笑みで返す。

「本当に欲しいのは、それだったんだろ? ――――ならいいよ」

「うむ…………その、ありがとう」

「いいって。それよりそのペンダント、つけて見せてくれないかな」

紫苑は頷き、包装されたペンダントを取り出して首にかける。

「………どうじゃ?」

「ん………俺はこういうのは詳しくないからよく分からないけど、似合ってると思う」

率直に思ったままに感想を言うメンマ。
紫苑は嬉しそうに頬を朱に染める。

「ん、でもそのペンダントを選んだ理由は? 今まではそういったの、欲しがったことないのに」

「まあ、派手に装飾品をつけるのは好みじゃないからの」

「でも欲しかったんだろ? その笑顔を見るかぎり、本当に喜んで見えるけど」

「その通り。でもその前に………聞いていいか?」

「って、何を?」


「昨日の勝負。ボールを投げ返したのもそうじゃし…………さっき、これを買ってくれたのも」


紫苑は、じっとメンマの眼を見ながら問うた。

なぜ、と。


「そうだな…………えっと、色々と無神経だったから、かな」

メンマは視線を横に逸らし、ぽりぽりと頬をかきながら答える。



「ほら、先週の………侍達を育てた時の。ちょっと、昨日まで紫苑が何について怒ってるのか、全然気づいてなかったし」

「………うん」

「だから、罪滅ぼし。それだけじゃないけど」

「うん?」

「こっから先は、九那実以外には言ってないことなんだけど」


そう前おいて、立ち上がるメンマ。
ぽつりぽつりと、語り始める。

「なんていうか、さ………俺ってば、まだ人が怖いんだよな。特に大人で、集団を相手にするのはどうしても怖い。こうしていても、無意識に周囲に意識をばらまいて俺を害する敵がいないかどうか探してる」

もう、うずまきナルトは死んだとされている。
知っている者の中に、情報を漏らすような馬鹿も存在しない。今ここで襲撃などと、万が一にも有り得ないだろう。

だけど、気を抜けないでいる。長年の癖もあるが、未だに魂の奥に残る恐怖を覚えているのだ。

「仲間とか友達はちょっと違う。別だと思う。前のドッジボールもそうだけど、一緒に馬鹿やるのは本当に楽しいし。でも、それでも、どこかで………あいつらでさえ、無意識にでも警戒してしまう自分が居る」

メンマは胸と頭を指さす。

「………人を好きになるのも、怖かった。欲しがりながら、どこかで無条件の信頼を寄せるのが怖かったんだ」

例外は二人。九那実と、マダオだけだ。

「信頼して。頼みにして、寄りかかって――――もし裏切られたら? ………可能性なんて有る筈もないのに、戦いも終わったのに、そんなことをどこかで考えてしまう自分がいる」

紫苑は――――ベンチに座ったまま、視線を地面に落とした。
メンマが何を言おうとしているのか、察したからだ。

「………私も、そうだと?」

「ああ。旅に出はじめてから、しばらくは………でも、今は違う」

一歩前に出て、メンマはしゃがみこむ。
俯く紫苑の頭を撫でる。

「ごめん。今まで中途半端に接してて。踏ん切りがつかなくて、どっちつかずの対応して」

はっと紫苑が顔を上げる。言葉の裏の意味に気づいたのだ。

―――――言わないけど、気づかれていた。鈍いからと思い込んでいたけど、違う。その実、気づいていた上で、何も言われないでいた

既に九那実という恋人が居るのに、黙られたまま。それは、すなわち――――

「っ」

紫苑の顔が歪む。次に出るであろう言葉など、聞きたくはなかった。

「えっと………ごめん、紫苑、こんな俺だけど」

「やめて」

聞きたくないと紫苑が耳を抑えて首を振る。
それ以上言われると、自分は死んでしまいかねない。

帰る場所などどこにも無い。帰りたい場所など、目の前の男の腕の中以外に無いのに、拒絶されたら。
ずっと一人で居るしかなくなる。紫苑は、そんな光景を考えてしまって。







でも、次の言葉でそれは永遠の幻想となった。





「ずっと、一緒に生きてくれるか?」





「…………え?」





「踏ん切りつかなかった。でも――――好きだから」



九那実と紫苑になら殺されてもいいかなー、と。

それ以外は絶対嫌だけど、とメンマが言う。



「………ちょっと、待って。え、九那実は? もちろん別れんよな? いやそれはいい。むしろそっちの方がいい」




親友で、その想いの深さはある意味で誰よりも知っている。

だけど自分は、え、と手を口にあてて考えこむ紫苑。

しかし思考は混乱の極みにあった。


「え? ちょっとまって、え?」


「いやいやどうどう、落ち着いて」


「うん………ごめん、もう一回言ってくれ」


「好きだ。愛してる」


「えへへ………って違う」


反射的にニヘラと笑ってしまった紫苑は、落ち着けと自分の頭を叩く。


「えっと、それは………つまり、別れてくれとか、離れろとか、そういった意味じゃあ?」


「正反対だ。むしろずっと一緒に居てほしい」


「そうか………っ、てえ!!」



紫苑は思いっきり腕を振りかぶって。




「ややこしい言い方をするんじゃなーい!!!!」





珍しくも似合わない、迂遠なものの言い回しをした男の頬にビンタを炸裂させた。










○ ● ○ ● ○ ● ○ ●


「ばか。ばか。ぐす………ばか。あほ。ラーメン狂。ヘタレ」

別れ話を連想させられ、マジ泣きモードに入ってしまった紫苑がひとしきり暴れた後。
ほっぺたに紅葉を貼りつけたメンマはごめんを繰り返すことしかできないでいた。

「いや、あの、まじすんません。で、返事を頂けると嬉しいのですが………」

「ふう………ぐす、答えなど決まっておるだろう」

口下手なメンマの内心を、紫苑は察した。
と、いうよりも嬉しがっている自分が居る。この臆病な男が、命を捨ててもいいと言うぐらいに。
それは、これ以上ない告白だろう。是と答えない自分など、存在しない。なによりずっと焦がれていたのだ。

「えっと、でも………」

「九那実はお前の半身じゃろう。妾にとっても親友で―――菊夜以外では唯一の、家族じゃ」

むしろ別れられる方が嫌、と。
いつもの調子に戻った紫苑は、ペンダントをメンマの前にかざす。
そして、メンマの眼の横に先端の青い石を置く。

「えっと、紫苑?」

「―――これを、このペンダントを選んだ理由はな。銀細工もそうじゃが、この石の青が―――お前の眼の色に似ていたからじゃ」

その先はみなまで言うな、と紫苑は顔を赤らめながら視線を逸らす。
メンマは意味を察したのか、珍しく顔を赤く染める。

「えっと………ありがとう。でも、何で俺を………」

わりとヘタレだったのに、何で好きになってくれたのか。
メンマが問うと、紫苑は笑って答えた。

「言葉では多くて語りきれんな。少なくとも長編小説が一本は必要じゃ」

「えーと…………」

「まあ、要点だけをまとめればな」


小賢しい理屈ではなく。

――――誰よりずっと、その瞳に捕らえられていたいと願うこの想いを、恋と呼ぼうか。

「えっと………いつから?」

「あの夜から」

怒った時の眼も、優しい時の眼も、ラーメンに一生懸命になっている時の眼も。
全部好きじゃ、と紫苑は笑いながら言う。

「そうだったのか………いや、嬉しい」

「本当にもう、そういった所は鈍いのう」

「すんません。マジですんません」

謝るメンマ。しかし顔を上げると、一歩紫苑に迫る。

「ん?」

「いや、そういえば俺の方の罰ゲームが残っていたなあって」

「それは………そうじゃが」

何を言うつもりじゃ、と――――紫苑がたずねる前に、すでにメンマは行動に移っていた。


一歩、前に。

紫苑の懐へ踏み込むと、その綺麗な顎に手を添えて。


「てい」


思いっきり唇を重ねた。

紫苑の顔が驚愕に―――そしてそれ以上の“感触”に染まる。


「うい、やっぱり我慢はいかんよな…………って、紫苑さん?」


「こ――――」




紫苑のチャクラが膨れ上がった。その顔は林檎よりも真っ赤に染まっている。






「ここここ、こんな、往来で、この馬鹿――――!」






経験したことのない羞恥と、この上ない歓喜と、色々なことが一気に起こって混乱してしまった頭の中。

そんな感情が膨大なチャクラに変換され。尾獣もかくやという程にチャクラがつまった一撃が、メンマを打ち据えた。










「我が生涯に一片の悔い無しぃぃ――――!!」














空に打ち上げられたメンマ。


その身体は、街の外で待機していた九那実に見えるほど高く上がったという。









ちなみに網へと帰った後、メンマは一部の男共から。

「二股男爆発しろ」という呪いの言葉とチャクラがふんだんにつまった起爆札を、節分の鬼もかくやというほどに投げつけられたという。





[9402] 後日談の9-1 ~永遠の意味・前編~ (1/29:タイトルだけ変更)
Name: 岳◆3d336029 ID:f05e15fe
Date: 2012/01/29 17:55
この世から悲劇が消えることはない。理不尽に泣かされる人がいるのは、どの時代でも変わらない。

この世に悲劇に満ち溢れているが故に。運命に情の入る隙間はなく、龍のごとき運命の"うねり"は、大切だからとて構ってくれるような運命ではない。

泣き叫ぼうとも、希おうとも。




故に、力なき人は祈るのだ。

両手を組んで無防備に、頭を垂れて赦しを求める。

たとえそれが叶わなくても、両の手は今日も重ね合わされる。




故に、力ある人は刃を担うのだ。

両手を武器に染めて殺意を纏い、対するものを斬り伏せる。

たとえ屍にまみれようとも、両の手は鉄の刃を血に染める。






そして都合の良い奇跡は起こらず。

因果のめぐりはまるで河の流れのように、定められた道を疾走していく。

戦い続ける者たちを、まるで試しているかのように。






故に、人は頭を垂れる。

そこから立ち上がるのは、果たして。










====================


小池メンマのラーメン日誌


 後日談の9-1 ~永遠の意味・前編~


====================

















五大国に属さない小国。忍び里も持たないような小さな国の、その端にある宿場町の中で、俺とキューちゃんと紫苑の3人はいつもどおりに屋台を開いていた。

夜はもう暗い。客も、半分酔っ払いのおっさんが一人だけだ。

俺はそのおっさんに、念を押して確認する。聞きたいのは、この街の西にある山奥の村について。

その、噂を。

「それで………その村の話だよ。近くに、見上げるぐらい巨大な狼が出るって、ほんとの話か?」

「まーな。何でも、とんでもない化物が出るって話だぜ。まあ、所詮は噂だがなぁ」

―――それでも、見て帰っきた奴はいない。

すらりと告げた無精髭のおっさんが、面白おかしいと笑う。

なぜ笑っているのか、答えは二通り考えられるだろう。

末路を順繰りに上げていけば分かる。

①としようか。本当に見にいった奴が死んで、帰らなかった場合。

②は、実際に見ることができた奴がいない場合。

前者に笑う理由は一つだ。おっさんにとっては、他人の不幸もなんとやらなのだということ。

後者だと、また意味が変わってくる。噂に踊らされたやつが馬鹿らしくて笑っているのだ。
道化に指をさして笑っているだけ。

「お~い、おねーちゃん。おかわり」

言いながら、酒を飲むひげのおっさんの顔は赤い。
酔っているのだろう。

いかん、③としての可能性も。ただこのおっさんが、単純に笑い上戸であるだけなのかもしれん。

ともあれ、何かあるのは確定だ。俺はそのまま酒を進めながら、おっさんから色々と情報を拾っていく。

聞けば聞くほどに、不自然な点が多い。

目的の"アレ"がどういった能力を持っているのか、その詳細は不明だが、性質は知っている。


それを考えると、"アレ"の影響はこの街まで及んでいるのかもしれない。


「で、それはおいといてこのラーメンはどうよおっさん」

「おう、若いってのにやるなにーちゃん。特にこの魚のやつがうめーよ。でもこんな山の中………海からは遠い場所だってのに、どうやって調達してんだ?」

「禁則事項です」

間違っても空間転移とか言えない。言ってもいいが、確実に特殊な病気持ち扱いされるだろうし。
あの網の花火師の小鉄から、"え、あなたもですか"と言われたのは記憶に新しい。

ともあれ、この魚介の旨味をこれでもかと詰め込んだラーメン、俗称"海に幸あれ"はかなり好評である。

魚の臭みを消し、味は塩をベースとして。味は肉を普通のチャーシューではなく、鳥のタタキを使ったのが功を奏したらしい。
砂隠れの里の岩塩と、網の近くにある塩田の塩を混ぜあわせたのも、苦労はしたがいい方向付けが出来た。

普通に混ぜるとカオスな味になるが、ある一定の分量で混ぜ合わせると塩のハーモニーが口の中で踊る。

刻んだ白ネギと味付けの半熟卵をアクセントにしたのも効果的かも。
麺はちぢれ麺である。スープと一緒に掬うように食べるのがベストである。具材と一緒に食べてもいい。

次郎坊いわく、「食べた後は海に帰りたくなるな」らしいが。
ていうかあいつの故郷って港町だったっけ。

そんないつものラーメ日誌を書きながらも、合間合間に近くの情報も収集していく。

全部が本当というわけじゃないが、判断材料には成り得るかもしれない。


いずれにせよ、確定に足る情報はないので断言することはできないが、それでも杞憂ということはないだろう。


なぜなら、臭ってくるのだ。

そしてこの距離から"見える"、山の一部からわずかに溢れでているチャクラの流れ。

漂ってくる香ばしい空気からして、間違いない。


「見つけた、か」


夜の帳の向こう。闇に隠れているその山をじっと見ながら、俺は一人呟いていた。














翌日、早朝。まだ人もまばらな時間に宿場町を出発した俺たち3人は、山のふもとへとたどり着いていた。
紫苑は俺が背負い、キューちゃんは普通に走って。屋台は口寄せの術で網本部の家に送還している。

道が広ければ押して行っても構わなかったんだけど。

「やめんか。前に誤解されたじゃろうが」

「ああ、あの下忍のこと?」

キューちゃんが言っているのは、屋台を引っ張りながら山道を爆走していた時のことだろう。
ちょうど任務途中の木の葉の下忍3人と上忍がいて、次の瞬間には襲いかかられた。

まあ、上忍もなりたてで下忍は言うに及ばず。奇襲を受けた5秒後にはちょぼちょぼと倒したんだけど、なぜに襲われたのか意味が分からなかった。
すわ、前にからかいの手紙を送ったシカマル(翌日にはなんか木の葉の中心部で竜巻が発生したらしいが)からの刺客かと思ったが、どうも違ったらしい。

聞けば、新手の幻術と思ったのだと。こんな場所に屋台が、しかもそんなスピードで走れるわけがない。
そう判断した下忍達が暴走して、取り敢えず幻術っぽい俺らを捕まえてみようとしたんだとか。


「まあ、なあ…………でも、山道を屋台で爆走するって、誰もが一度は見る夢だよね?」

「あり得ん(笑)」


オロチ化した紫苑には取り敢えずウメボシを2つプレゼントした。

で、米神から煙を吹いて倒れている紫苑を横目に、真面目な話を再開する。


この先にあるものについてだ。

「………六道仙人の?」

「正確には、もっと古代の。対十尾に作られた生物兵器のようなもんで、とっつあんが死ぬ前に封印しておいたらしい」

身体を促成栽培していた頃に、月の中で聞いた話だ。
六道のとっつあんが過去、といってもはるか昔だが、忍宗を広めている時に見つけたらしい。

なんでも、生命の倫理に外れた化物が、各地に封印されていたと。見ただけで開けてはならないものだと分かったとっつあんは、即座に封印を強化したらしい。
それでも、すでに封印が破れて外に出ていた奴らは捕まえたのだとか。

ペインが使役していた口寄せ獣がそれだ。例えば、衝撃を受ける度に分裂する犬のような獣。あれらも、対十尾の生物兵器として開発されていたらしい。

とっつあんはその封印されていた場所を、総じて"封陣遺跡"と呼んでいた。

最近、世界各地で暴れている"魔獣"も、この遺跡から出てきているのだろう。封印もいい加減弱まっていると言っていたし。

「で、その中のひとつがこの先にあると思う」

とっつあんの記憶も曖昧で、はるか昔と現在とでは地名とか地形も変わっているせいで、はっきりとは分からなかったけど。

…………それでも、このチャクラの流れを見るに、間違いないだろう。

ずっと探していた遺跡だ。一般の遺跡で、任務の危険度ランクA相当。

その遺跡の中でも、危険度は五指に入るらしい。

「最低でもSランク。それも、仙人が危険と言うほどのものか………それで、どれくらいまずいモノだと言っていた?」

「なんでも、とっつあんが昔に受けた説教ぐらいとか」

ちなみに、説教したのは娘らしい。恐怖に震えながら教えれくれた。

"黄昏に消えた苺まんじゅう事件~犯人は引力を操れる~"として、今も心に深い傷を残しているんだとか。

告げた途端、紫苑が立ち上がった。

「うむ! ―――なにやらその時の記憶がおぼろげだが浮かび上がってきたような」

「覚えがあんの!?」

いや、そりゃ血統は直系だし巫子の血筋だし。覚えているのかもしれんけど!

驚いているが、紫苑は深く頷いた後、真剣な声で告げた。

「そうか………それは、非常にまずいものだぞ」

「いや、我にはその危険度の程度がさっぱり分からんのじゃが」

ですよね。
え~っと、話の内容を思い出すに、そうだな。


「お揚げ一年分が目の前で燃やされるぐらい?」

「ぶち殺すぞヒューマン!」


って、すごい殺気。

チャクラも具現化してるし、近くにいた野生の獣が欽ちゃん走りで逃げていくし。

って、前が見えないから樹にぶつかって倒れたじゃないか。

「………とまあ、それだけまずいものなんだって。遺跡に刻まれていた名前には――――『地狼』って書かれていたとか」

「元は狼の化物か………それで、力量は?」

「まだ何とも。封印越しに見た感じじゃ、九尾の妖魔ほどじゃないけど、かなり"やる"っていってた。出来ればサスケあたりに丸投げしたいことなんだけどね、っと」

それでも、その選択肢は選べない。これは俺として、俺がやるべき仕事なのだ。

迂闊な戦力じゃ人死にが出ると思うし。

キューちゃんや紫苑だって、ともすれば怪我をする可能性がある。なんで、できるなら一人で行きたいぐらいなのだ。

許してくれないけど。

「当たり前じゃ」

「同意する。妾達にとっては、そっちの方が堪えると言ったばかりじゃろ」

呆れた声で返された。まあ、確かに俺一人の力押しだけじゃ倒しきれない、特殊な相手なんだけどね。



言いながら、山道を歩いて行く。

道なりに進むのが一番だ。この広大な山の中を虱潰しに探すのはぞっとしない。

まずは村へと行き、情報を収集するのが一番だ。


それでも、道中に何があるか分からないので、警戒だけは怠らない。

いつものように、山賊の類がいないとも限らないのだ。

「遭遇率でいえば、大陸でも1、2を争うだろうな俺ら………」

美少女二人連れだからか、旅の途中の山賊遭遇率が激高なのである。

「ば、誰が!」

「素でいうな、恥ずかしいじゃろ!」

照れる二人に叩かれた。ああ、愛が痛い。

―――特にキューちゃんに殴られた箇所がマジで痛い。

さすがは見た目に反する超怪力持ち、山賊キラーで恐れられている御人である。

(まあ、殺してはないけど)

遭遇して薙いでも、基本は放置である。殴って気絶させて、網の構成員にだけ分かる狼煙の合図を上げて、その場を去るだけ。
徒党を組んで襲ってきたときもあるが、苦戦もしたことがない。

というか、戦いにならない。特にキューちゃんと紫苑を見て油断をする奴が多いのだ。
辺境ではまずみないぐらいの美貌を持っている二人だから仕方ないのだろう。
二人を見た山賊さんは誘蛾灯を見た蛾のようにゆらゆらと、げへへと言いながら近寄ってくる。

その後の顛末は説明するまでもない。

二人とも、見た目通りの強さではないのだ。


(人質に取れるって思ってたんだろうけどなあ)


現実は非常である。③である。生き残れポルナレフ。

そうだ、現実は戦うべき敵で、決して侮ってはいけない相手なのだ。

旨い話には裏があって当然だろう。何事も慎重に、が生き残るコツなのだ。

「だから二人には残ってもらいたかったんだけど………」

あれ、でもこの二人って防御力に関しては俺以上じゃね?
特に結界術がやばい。

「まあ、ここまで来たし、今更なあ」

「うむ、その提案は却下じゃ。まさか、この3人で負けはせんじゃろうし」

「多分ねー。まあ、"誰にも触れられたくない"なんて渇望を持ってる悪名高き狼だったら、その場で飛雷神の術使うけど」

空間跳躍以外に、逃亡できる手段がない。
そんであとはキバ連れてこい、キバ。

あ、でもキバだと相性が悪いか。いっそどこぞの白髪褐色なら。

もしくはオークレー兄さんでも可。

「うむ、言いたいことは分かるが………名前を省略して兄とつけるだけであれじゃな」

「言うなよ紫苑………」

眼鏡の人を幻視した。その薬を飲んだら駄目だよキャシャリン。

ちなみにこの紫苑だが、見ての通りだ。

近頃、マダオ化が進行している。とはいっても、ダメになったとかそういう訳じゃない。

ネタというか、かつての相方的なポジの意味でのマダオ化だ。

旅がてらにネタとか色々と教えたからか、最近はよく反応してくれて楽しい。

キューちゃんは恥ずかしがって無理なのだ。紫苑は好奇心旺盛で、色々とはっちゃけた思考を持っているので適応した。
最も、菊夜さんからは、『うちの姫さまをギャグキャラ化させないで下さい』と苦情のお便りが送られてきているが。

それでも、紫苑はこの道を行くらしい。
理由を聞いたら、紫苑はなぜか顎を尖らせながらぶつぶつと言い始めた。

「起死回生の策っ………道を指したっ…………! その通り、いま妾にとって大切なことはっ…………競うことじゃないっ………!」

立ち位置が大事なのだと、紫苑は泣いた。ボロ………ボロ………って。

ぶっちゃけ純粋な可愛さじゃあかなわねー、と。

(まあ、キューちゃんもなんだかんだいって天然爆弾だしなあ)

ツッコミの切れ味はいつまでも変わらないのだが、あの後。好きあってから、劇的に変わった部分がある。

割りと恥ずかしいことを素で言う時があるのだ。

その度に顔を真っ赤にさせられるのでメンマ困っちゃう。

「………なにやらキモイチャクラを感じたのじゃが。ふむ、噛んでいいか?」

「い、いつまでも変わらないでツッコミの鋭さ! あと、噛むのは甘噛みならOK!」

「犯人はこの中にいる………!」

「目を覗き込みながら言うのは止めて!?」

顔が近い。このまま熱いベーゼで殺してあげようか、紫苑よ。
やり過ぎるとアルテマっぽい攻勢結界術をかまされそうだけど。

(ってか、この二人は告白してからセメント度も増加しているから困っちゃう)

ほんと、マダオよりも容赦ないのだこの二人は。

特に、赤くなって角を生やした時は3倍の速さになる。なにって、拳速が。
具体的にはレンに事故接吻をかました後とかやヴぁかった。


(って、そろそろ折り返し地点だと思うんだが)


山道も半ばぐらいになるだろう。ここからが本番だと思うべきだ。

ここは警戒のレベルを上げるべきか。


そう思った時、キューちゃんの様子が変わった。


「………この、臭いは」

「何か感知した?」

臨戦態勢に入りながら、聞く。でもまだ、俺には分からないんだけど。少なくとも、周囲にそれっぽい気配はない。

3人の中で最も五感に優れているキューちゃんだけが分かるなにかがあるのか。

「いや、しばらくすれば分かるだろう」

言うなり、顔をしかめるキューちゃん。

紫苑と顔を見合わせるが、どうにも分からないらしい。


それで冗談も言いにくい空気になったので、そのまま歩いていく。


「………村に続く道だってのに、妙に荒れてるな」

普通の山道に比べると、変に雑草が多い。特に村へと続く道なら、もっと少ない方が自然なのだ。
人が通れば道ができる。

何度も踏みならされている場所ならば、もう少し草が少なくなっているはずだ。


「森はこんなに綺麗なのに」

「首都に比べれば、それはのう」


言いながら、紫苑と二人で深呼吸をする。


――――直後、顔をしかめざるを得なくなったが。



「キューちゃん」

「ああ………あそこじゃ」


指差す先。そこには、行く先を案内する立て札があった。


何の変哲もない、木を組み合わせて作られたものだろう。


唯一違うのは正面に塗りたくられている色。



「………①かよ、おっさん」




独特の"鉄の臭い"。

色も、乾いて黒くなっただけで、元は赤色だろう。

なにせ、形は手形になっていて、"そこからひきづるようにして下に続いている"。

「………逃げた先に。ここで、力尽きたのか」

「………恐らくは。死体がないけど、分かるよ」

まるで断末魔のように。消えない血糊を見ると、何となくだけど分かってしまう。

だけど、その後はどこに?

「このあたりにはないぞ。死体の腐乱臭ならば分かるが、周囲1里いないには感じ取れない。持っていかれたか、あるいは――――」

「骨も残さず、か。何にせよここいらには残っていなさそうだね」

この血が刻まれた時間については、わからない。でも血の乾き具合と色、残っている臭いを鑑みるに、そう古いものでもないことは確かだ。


「何にせよ………村へ急ごうか」


頷く二人を連れて、俺は村への道を駆けていった。











早めに走って5分。その距離に、目的地である村はあった。

家の数はそう多くなく、住んでいる人にしてもよくて100に届くか届かないか、といったところ。

そうして色々と眺めていると、村の人がこちらに気付いたらしく、ゆっくりと近寄ってきた。

年は60程度といったところか、元気そうなおじいさんは手をあげて挨拶をしてきた。

「やあ、こんにちは。あんたたちは………旅の人かい?」

「ええ、そんな所です」

「珍しいのお、こんな村に旅人が………それも、かなりのべっぴんさんで」

「はは、よく言われます」

「「お主じゃないわ」」

キューちゃんと紫苑の鋭いダブルツッコミが脳天に炸裂した。

が、何とか踏みとどまって会話を続ける。

「ははは、おかしな人じゃのう」

「それもよく言われます。それで………この村に旅人が来るのは珍しいので?」

「ああ。前に来たのは、そうさのう………3年前といったところか。ふもとの宿場町までに降りることはある。
だが、逆に町の者がこの村にやってくるのは少ないのう」

思い出しながら、といった様子で語ってくれるおじいさん。明るくて、人柄も良いのだろう。言葉の端々から感じ取れる。

「ふむ、宿場町とやらには野菜を卸しにか?」

「そんな所じゃ金髪のべっぴんさんよ。ここの野菜はよく売れると、東の大きな町でも評判らしくてのお」

「旨くて安い、が売りなんですよね」

紫苑がお嬢様口調で言うと、お爺さんは笑って肯定した。

その評判を聞いて、たどり着いたのだ。生産地は宿場町の近くにある村だと思っていたが、まさかここだとは。

こんなに、山奥なのに。

「で、お前さんはこの村に何をしにきたのじゃ? もしかして野菜の作り方でも見に来たのか」

「いえ、この付近で珍しい薬草が取れると聞きましてね。明日から本格的に探すつもりなんですよ」

こちらも、笑顔で。

――――前もって用意していたものとは違う言葉で答える。

紫苑とキューちゃんが視線を送って来たが、後で説明をすると視線だけで答えた。

「ほう、そうか。だがワシも60年ここに住んでいるが、そんな薬草は見たことがないのう」

「人目につかない所にあるかもしれません。それで、今日はこの村の近くに泊まろうと思っているのですが………村の中に宿はありませんよね?」

「まあ、流石にの。じゃが、奥に空き家がある。雨風を凌げるぐらいのものじゃが、よかったら案内しようかの」

「ああ、お願いします」


案内を申し出てくれた老人の後をついていく。すれ違う村人達も、友好的な笑顔で迎えてくれている。

ついでに、と村の中を色々と観察したが、取り立てておかしい所はない。

豊かな村だというのが分かったぐらいだ。

完全に自給自足ができているようで、痩せすぎている人はいない。

そうしているうちに、目的地についたようだ。

「あそこです」

老人の指し示す先を見ると、結構頑丈そうな家が見えた。

思っていたよりはボロくなくて、安心した。

その反応が少し予想外だったのだろうか、老人は不安そうにたずねてきた。

「やっぱりボロいかのう」

「まさか! むしろ良い宿の部類に入ります」

そう、改装前の網の宿や某滝の国にあるフウハウスに比べれば三ツ星って言えるレベルです。

なんせ、拳がそのまま通りそうな隙間がないのだから。

ただ――――

「少し、臭いますねー」

じっと、老人の目を見て言う。

「ほ、そうですかの? ワシにはとんと分かりませんが」

だが、老人は不思議な表情で首を傾げた。

そこに、紫苑がすかさず言葉を挟んでくれる。

「私にもわからないです。メンマの勘違い、じゃなくて?」

期待通りの言葉に、俺も頷きを返した。

「………そうかもな。長旅で疲れたのかもしれない。それでは、ありがとうお爺さん」

「いえいえ、ごゆっくりと」


老人は最後まで笑顔を保ったまま、また村の入り口へと去っていった。


それを見送り、姿が見えなくなった後、、振り返る。

と、キューちゃんと紫苑が腕を組んで待ち構えていた。


「どういうつもりじゃ?」

予定とは違う。視線で問いかけるキューちゃんに、俺はちょっと、と前置いて答えた。

「この村のこと、どう思う? はい、まずは紫苑」

「………特におかしな所はないが。臭いに関しても、言った通りでさっぱり分からん」

「キューちゃんは?」

「私も臭わん。じゃが………見事な畑じゃった。本当にできが良い」

「あ、やっぱりそう?」

臭いからして分かる。土の状態もよく、美味しい野菜が取れそうな畑だ。

キューちゃんはそういうのが、一目見て判断できるらしい。

「昔とった杵柄、だったっけ?」

「ああ………とはいっても、遥か昔。我がただの狐であった頃の話だがな。いうことを聞かない狐をまとめて、畑を襲ったものだ………大変だった」

遠い目をするキューちゃん。でも内容がとても物騒すぎないかい。

「狐か………やはり、統率が?」

というのに、話に乗る紫苑。やめて、ほらなんか村人さんがこっち見てるし。

「うむ。まあ狐ども、基本的に連帯感ゼロじゃし。特に酷い奴など、義理などあってないが如しというものじゃった。そういう奴がまた有能なんで困るのじゃが」

「例えば?」

「他の動物共に密告してな。待ち伏せ用の情報を流して、我が隊とぶつけ合わせて、その隙に自分だけが利を得るという」

「その狐パネェ」

聞けば、そいつだけ頭が良くて――――のちに妖狐へと位階が上がったのも、そいつだけだったらしい。

「とはいっても、なってすぐに死んだがな」

「えっと、茶器諸共に自爆しました、とか言わんよね」

某ギリワンの弾正さんみたいに。

「言わんさ、毒殺だ。美味しい野菜につられて………な。当時は売り出し中だった忍宗の戦士がしかけたもので、毒に弱った所を襲われ、あっけなく討ち取られた」

「おっかないねえ」

「欲をかきすぎたせいじゃ。自分だけが、と突っ走った挙句に周囲の動物や妖魔、人間を敵に回していた。自業自得じゃろう」

因果はめぐる、ってやつか。

ともあれ――――予想外なことに、話が噛みあってくれたようだ。


「ほう、つまり?」

「ここから先は空き家の中で。長くなるだろうし、座って説明したほうが―――」


と、そこで気配を感じて振り返る。
すると、道の向こうから、歩いてくる人の姿を見つけた。

若い男のようだ。年は俺より少し上で、外見で20台の前半か後半か。

顔立ちは普通だ。だが、顔立ちは――――ノーコメントで。


「よう、あんたらが旅の人かい?」


その男は近づくなり、片手を上げながら俺たちに挨拶をしてきた。

形式上で言えば、普通の挨拶に見えよう。普通の村の普通の挨拶。

――――ただひとつ。俺を完全に無視し、背後にいるキューちゃんと紫苑の二人だけを見ているという点を除いて、だが。

アウトオブ眼中じゃない、存在すら無視しているってレベルだ。俺を空気扱いして、目の前の二人だけを見ている様子。

(うん、ノーコメントにしていた顔つきだけど………ぶっちゃけましょう。軽薄に見えます)

ここで、武士沢レシーブの名言をひとつ。

(人間中身が大事だっていうけど、内面の美しさは外ににじみ出るものだから、結局重要なんだよね外見………!)

いや、俺もそんな美形って訳じゃないけど。美形で凛々しいサスケ様ほどじゃないけど。

そういえば侍部隊にあいつのファンクラブできてたなー。

と、そういった余談は置いといて、こいつの見た目はなんていうか、どう見ても"女大好き"って感じです。

「あん? なにか言ったか、ってお前はどうでもいーんだよ。彼女達綺麗だねー、どう、俺と遊ばない?」

「はあ………」

馬鹿、お前馬鹿。なんで綺麗だねから、速攻で遊ばないに繋がる。
会話の流れもくそもない発言に、紫苑でさえ混乱しているじゃないか。

「こっちも………うわー、まじで綺麗だ。ねえねえ、俺ん家いこうよ。おいしいトウキビ一杯あるから」

「…………」

キューちゃんは沈黙を選択した。無理も無いだろう。

というか、なんでそこでトウキビなのか。
いや、馬鹿にしてるわけじゃないけどトウキビ、なんでトウキビ。どうしてトウキビ。

(ありがとうきびウンコォ、って違うよばか)

これ以上繰り返すとゲシュタルト崩壊しそうなのでやめる。
そして、俺を無視して二人を口説いている男の前に立ちふさがった。

「んだぁ、テメエ?」

「見て分かれよ。空気読めよ。あと、ラーメンにコーンは邪道だと想いますか?」



「ったりめーだろ。つーかオレ、ラーメンとか嫌いだしー」












「――――――あ?」










ぶつん、と何かがキレる音がした。



「き、さマ。いってハナランコトヲイいオッたナ?」


「ひっ!?」


愚かモノがおびえテいる。ハハハ得物がオびエていル、トウゼンのことダ。


そうダ、その恐怖ヲ抱イたまマで―――――


「っ、いかんネギを取り出しおった!」


「止めろ、メンマ! そこのうすら馬鹿逃げろ、風邪を治されるぞ!」


「な、なんだよお前ら! おれは大神様の使いだぞ、偉いんだぞ!」



キューちゃんと紫苑が何かを言っている。


冒涜者も何か言っているが、このオレが止まるはずもない。




いつもの宣言の元に、いつもどおりにかくあれかしと。


我が神の麺罰を下すべくネギを十字に構え、振りかぶって――――そこに、声が飛び込んできた。






「ちょ、何の騒ぎですか――――――って!?」




声は驚きに変わった。


それは聞いた声で、思わず俺は乱入してきた人物の方に視線をやってしまって、その姿を捕らえると同時に絶句した。


向こうも同じようで、まるで彫像のように固まっている。



そして硬直が解けたあと、俺と"彼女"が叫んだのはほぼ同時だった。



「こ、小池のラーメン屋さん!?」


「ぶ、部隊長補佐の猪娘!?」





目の前には、網の実働部隊。

サスケが部隊長を務めるその部隊の、隊長補佐をやっている女侍、レンの姿があった。





[9402] 後日談の9-2 ~永遠の意味・中編~
Name: 岳◆3d336029 ID:f05e15fe
Date: 2012/01/29 20:44
切っ先から刃をつたって流れでる雫。鉄臭い液体は、彼女の手をあますことなく赤に染めていく。

臭いが混じる。血と刀の臭いだ。

それはとても大事なもので。無くては生きていけないもので、その大半を彼女が斬って奪って。


「ギン………」


彼女は自分が命を奪った相手。大切なものの名前を呼んだ。

声は、今にも泣きそうなぐらい震えていて。

でも、彼女は膝を屈することなく、その場に立ち続けている。泣いてはいない。きっと、耐えきることができたのだろう。

――――強いということ。いい女とは目の前の彼女のような人物を指して言うのだ。


それを知った日のこと。

俺が彼女に憧れた日のワンシーン。



だから、その心も身体も手に入れて、自分のものにしたいと願ったのだ。



大切なものを斬ってもまた、人の王のように悠然と歩きだす彼女の背中を、じっと見続けていた。













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小池メンマのラーメン日誌


 後日談の9-2 ~永遠の意味・中編~


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「じゃあ、この村が蓮の故郷なのか」

どっちにとっても全くの予想外の再会。
なぜか脱兎のごとく逃げ出していった男を見送った後、俺たちは空き家の中で卓を囲みながら互いのことを話し合っていた。

「はい。まだ幼い頃に引っ越してきましたので、生まれ故郷とは言えませんが」

蓮は言いながら麺をすすった。
猫舌のせいか少し辿々しく、ついばむような食べ方になっている。

まるで子猫みたいで可愛い。いや、年上なんだけどそうは見えないなあ。

容姿は綺麗よりも可愛い系か。丸く大きな目が魅力的だ。
そういえば、侍の誰かに告白されていた事を思い出す。

断っていたが…………もしかして

「さっきの男は彼氏?」

「ぶっ!?」

ちょうど丼をもっていスープを飲んでいたところだった。つまりはスープがはねた。
喉の奥にまで入ったようで、無言のまま悶絶している。

紫苑と一緒に。

「隣にいたのがまずかったか………」

「なあ、メンマ。妾にいうことはないか?」

「すみませんでした」

さくっと飛雷神の術を使って服を取ってきた。手渡された紫苑は、自ら展開した遮断結界の向こうに消えた。着替えているのだろう。

「と、話が逸れたけど」

「いきなり訳の分からないこと言わないで下さいよ。カックはただの幼なじみです。だったと言う方が正しいのかもしれませんが」

「へえ、どうして?」

「一緒に居たと言っても、はるか昔ですよ。村を出てからは、こうして帰ってきた時にしか顔をあわせませんし」

過去形にする方が正しい。蓮はそう言いながら、最後のスープを飲み干した。
満足そうな顔にこちらの表情もほころぶ。

「ごちそうさま、美味しかったです! えっとラーメンのお代は………」

「いらないさ。それよりも、一つ聞きたいことがあるんだけど」

言うと、蓮は不思議そうな顔をした。何を聞くのだろう、といったところか。

「こういう状況でもなけりゃあ、聞きたくはなかったことさ」

「………それは、一体どのような?」

少し表情硬くした蓮。だけど、俺は単刀直入に聞いた。



「お前の剣の理由。それは、この村にあるのか」


きっかりコンマ一秒後。蓮の気配が"刀のそれ"になる。
美しく、冷たく、容赦なく。鉄の冷たさを感じさせるそれは、今までついぞみなかった表情である。

どちらかといえば天真爛漫な、陰など微塵も感じさせない性格のように思っていたが、実際は異なるようだ。
原因は過去か、あるいはこの村か。

「………サスケ隊長からは聞いていないのですか」

「あいつが、自分の部下の秘密をそこかしこにばら撒くような奴に見えるのか?」

「いいえ。しかし、あるいは貴方ならば話すこともあるかと。お二人は親友に見えますし」

「それはちょっと違う。まあダチだっていうのは否定しないけど、また別の関係もあるのさ」

「ライバルか………もしかして敵対関係とか?」

「ライバルに近い。敵意はないけど、それでも」

いざとなったら殺す。それは小池メンマの領分でもある。
いつかは尾獣が集結するだろう。
サスケは、その気になれば世界を滅ぼせる力を持つことになる。

「つまりはギロチンだよ。暴君になったら首を刎ねる、処刑器具」

罪人は断頭台で処刑される。罪人となればギロチンの出番になる。

どっちかが力に溺れてしまった時にはと、つまりはそういう事だ。
万に一つもないだろうが、心の楔がわりにはなる。

「暴走すれば殺す、ですか?」

「簡単に言えば。だから慣れ合わないし、そもそもあいつ俺に仕事の話はふってこないし。だから本当に知らないから教えて欲しいんだ。
こっちも、知った上で本人の口から説明させようってほど、鬼畜な思考は持っていないわけでして」

「………本当ですか?」

問いかける蓮。そこでちょうど、紫苑が戻ってきた。

すると蓮は俺に問わず、隣にいるキューちゃんと紫苑にたずねる。

「この人は鬼畜じゃないと言っていますが、それは本当なんですか?」


蓮は真剣だ。
二人もその真剣な表情に感じいったのか頷き、答える。


「嘘じゃ」

「うん、嘘じゃな」

二人して断言だった。

「そうじゃ、布団の上のこいつは鬼畜そのものじゃ」

「ちょ、キューちゃん!?」

「けだもの。優しくしてって言ったのに」

「紫苑さん?!」

「やっぱり………」

「ちょま、柄を握るな鯉口を切るな息を吸うなっ!」


まるで居合を放たんばかりの気合に、俺はたじろいだ。

あわや刃傷沙汰の大惨事である。ほっぺたを染めた麗しき佳人が3人、目の保養になるが胃には優しくないようだ。

いや、ちょっと俺も最近はやりすぎた感があったのは否めないけど、いいじゃないか若いんだもの可愛いんだもの。

最近妊娠したザンゲツを見て思ったが、子供ってものに憧れるんだもの。

男がオパーイを愛して何が悪い。貧だの巨だのくだらぬ。愛ある胸こそ至高。


―――ともあれ、気を取り直してリテイクを。


「で、俺も遊びでここに来てるわけじゃない。できれば、詳しい情報が欲しいんで話してくれると助かるんだけど………」

いうが、蓮の反応は芳しくなかった。

「それも、目的にもよります。どうしてあなた達ほどの手練がこんな小さな村に………もしかして、ザンゲツ様の命令ですか?」

「いや、あの馬鹿夫婦の片割れは関係ない。というより、蓮も仕事でここに来てるわけじゃないだろう?」

「里帰りですよ。一昨日から一週間は休暇を頂いています。今の家族と隊長は事情を知っていますよ。それより、何が目的ですか」

「そんなに怖い目で睨まなくても。ま、目的は危険な遺跡の調査ってだけなんだけど?」

何も村をどうこうしようって訳じゃない。そう言った途端に、蓮の表情が変わった。

ただ、驚きではなく純粋な困惑という色だったが。

「遺跡、ですか………この村の近くにあると?」

「うん。依頼者はちょっと今は話せないけど」

夜とからな言えるけどね。月を指して依頼者はあれです、って言うつもりです。

「それに繋がりがあるかもしれない。かなり物騒な遺跡らしいから」

「………それならば。ただ私も自分の口からは………詳しくは話したくないので、簡潔になりますが」

「それでオーケー」


俺の返事に蓮は頷くと、短く一つのことを語った。



「私は明日、この地で刀となるでしょう。それが、私に与えられた罰であるが故に」

「それは、斬るために?」


敵を斬って守るためにか。

そう問おうとしたのだが、返ってきたのは否定の眼差しだ。


「"殺す"に"守る"はありません。斬れば捨てるのみ」

他に、何ができましょうか

迷いなく、はっきりと告げる彼女の目の奥には隠し切れないほどに濃密な、闇の臭いがした。











「どう思う?」

「嘘、ではないな。ぼかして隠しているだろうが、何かを斬るためにここに」

俺の問いに対し、キューちゃんがため息をつきながら答える。
紫苑も同様らしく、頷いている。そして二人とも、その表情は曇っていた。

「いつもの猪娘らしくないな。先ほどのチャクラもそうじゃが、まるで別人じゃ」

「同感だよ。まあ、それだけの事情があるからなんだろうけど」

それでも、あれ以上は詮索できない。いや、したくないという方が正しいか。

宿場町で集めた情報。立て札の血。爺さんのこと。

そして何より、作物の出来具合。

「嫌な情報が揃ってるな………もう一押しがあれば、決定なんだけど」

「何かわかったのか?」

「今までの情報を総合するとね。推測だけど、多分間違いないと思うよ。それに、なあ紫苑。例の遺跡の化物の特徴は覚えてるか?」

言うと、紫苑は嫌そうな顔をして答えた。

「"龍脈の制御"。六道仙人の時代よりはるか昔、神代の化物とはいえ味な真似をしてくれる」

巫女としては黙っていられないのだろう。何せ紫苑の家系は、龍脈を元とするかの絶対龍、十尾の監視を主としていたのだ。
それを模する生物兵器があるなどと、どう考えても気持ちのいいものじゃない。

「でもまあ、流石に紫苑の一族ほどは複雑に扱えないと思うよ。一部の干渉にとどまると思う。正直、龍脈を操る術はどんな生物でも手に余る」

一端でも見れば分かる。俺は月に居た頃に漏れでた光だけ見たけど、それだけで思い知らされた。
地の底であり、現世の裏に存在する魂の連綿。

あれが十尾を生んだのだと、言葉ではなく心で納得させられた。

「まあ、それを一端でも操れるのもね。驚異的な血継限界だって言えるけど」

むしろ唯一にして絶対の血継と言えるかもしれない。

「このまま遺跡に向かうという手は?」

「その方がいいかもね。情報を収集するってのもありだけど、あの猪娘が絡んでいるからねえ………どうしても二の足を踏んでしまう、かな」

「そういえば、お主はああいう馬鹿が好きなタイプじゃったな」

ご明察。ああいう不器用な馬鹿は好きだ。必死なところもいい。

だけど、気配が不穏すぎるのは頂けない。迂闊に動いて地雷でも踏めば、問答無用で割断されそうだった。

「まともに戦っても、負けはしないんだけど………その、怒った女の人って怖いじゃん?」

「私の怒りの炎を灯してしまった」

「おいばかやめろ」

魔王が脳裏に。来ないで下さい、いやお前も姫さまなんだだけど。
いくら何でも、あれは撃ち落とせないって。

「障害になりそうな人間は?」

「今はまだ何とも。さっきの男は怪しさ満点だったけどね」

「大神の使い、か………口を滑らせたことに気づいていなかったようじゃが。のう、今からでも蓮に問いただしてみんか?」

「いや、あの調子じゃあ何も答えてはくれないよ。とりあえずは現地に行ってみようか」

もしかすると、何か分かるかもしれない。

そうして、俺たちは明日の行動の方針を決めたのであった。







朝早く。鳥も泣き出す早朝に俺たちは遺跡に向かっていた。

詳しい場所は知らないが、何となく分かる。能力上、龍脈を逸れた場所には作れないのは分かっている。

道中は緑が深く、膝より高い位置までに伸びた草の群れが邪魔をしてくる。そのせいで見渡せる範囲も狭い。

犬ほどの大きさの獣が襲ってきたら反応が遅れるだろう。

そうして河のほとりを歩いて1時間ほど後に、ついに目的のものは見つかった。

滝壺の向こう。隠れた洞穴の向こうからチャクラの流れを感じるのだ。


「あそこか」

「そのようじゃな………だが、その前に」


キューちゃんの指差す先。そこには、昨日逃げていった男の姿があった。

武器のようなものは持っていない。だが、視線を矢のように突き刺してくる。

そのまま、男は低い声で言った。

「お前ら………どうしてここにいる?」

問いかける男の口調はとても不穏当。目をぎらぎらさせているし、どう見てもマトモな精神状態にない。

昨日は見た目軽薄なあんチャンに過ぎなかったが、今はまるで山賊だ。
斧を持ったとしよう。きっとそれを振りおろす行為に躊躇いはない。

かといって、退くことはしないが。

「薬草を探してたらここまで来た。そっちこそ、こんな山の中で何してんの。柴刈り?」

「質問に答えろ」

取り付く島もない。男は一歩前に出た。拳を握る音がする。
肉が軋むそれは、獣でいう咆哮に近いもの。

随分と好戦的な奴だな。あるいは、何か知られたくないものがあるのか。

考えているうちにも、男は間合いに入ってきた。

そして拳を振り上げようとしたところで、止まった。

「そこまでです、カック」

「れ、レン?! な、なんでお前がこんなところに!」

「貴方が無駄な殺気を放っているからでしょうが。一体何をするつもりですか?」

「よ、よそものを懲らしめてやるだけだ!」

男は犬のように吠えている。だけど、臆病な犬のように腰が引けていた。

「とりあえず今日はこの森に居ないで」

「………だけどよ!」

「あの時に言ったはずです。二度とこの日、この時にこの森に入るなと」

蓮の剣幕というか圧力におされてか、カックと呼ばれている男が一歩だけ退いた。

それでも、まだ吠えようとしているみたいだ。

が、それも無駄だと悟ったのだろう。

「分かった。行くよ。お前なら………大丈夫だと思うけど、頑張れよ」

「………言われるまでも」

去っていく男。蓮は最後まで見送ることはなく、こちらの方を向く。

「さて。メンマさんが言った遺跡は、この先ですか」

多分ね。頷くと、蓮は当然という具合に俺たちの後ろについてくる。
遺跡のことを知りたいのだろう。特に止める理由もないので、そのまま水面の上を歩き、滝の裏へと向かう。
そこには、奥まで続く洞窟があった。

「暗いな………紫苑、頼む」

「了解じゃ」

紫苑がチャクラをコントロールし、手の先を光らせる。

「め、珍しい術ですね。紫苑さんのオリジナルですか?」

「うむ、これぞシャイニングフィンガー。出力を上げると光って唸って輝き叫ぶ」

「"結界拳"とも言うね。紫苑の体術レベルが残念なせいで、使い所は限られてくるけど」

ともあれ、今は遺跡だ。
残念っていうなと主張する紫苑をなだめながら、そのまま岩の道を進んでいく。

道には傾斜があった。どうやら下り坂になっているようで、気を付けなければ足を滑らせて後頭部をうちかねない。

足元をチャクラで吸着しつつしばらく進む。

そのまましばらく進んだ後、前にとっつあんから聞いていたトラップがあるのが見えた。
俺はキューちゃん達をその場に留まらせると、地面と壁に隠されていたトラップを解除していく。

「……と、これで終わりだ」

「結界系のトラップですか………珍しい。どういった効力のものだったんですか?」

「時空間跳躍と幻術を組み合わせたトラップ。どっかに飛ばされた挙句、この道を忘れ、果てはこの洞窟を二度と見つけられないっていう」

今の忍者では再現できない、超一級品だっていう。流石は仙人っていう。

「でっていう」

「解除したっていう。早く行こうっていう」

「あの、その喋り方はちょっとどころじゃなくウザイのですが」

「言っても無駄じゃ、進むぞ」

ちょっと寂しいキューちゃんのツッコミに圧され、そのまま奥へ。
行き止まりは、そこから少し進んだところにあった。

行き止まりには扉のようなものがあった。その周囲に、封印の結界術が描かれているのが分かる。
特に注視しているわけでもないのに、圧力さえ感じさせる規格外の封印だ。

慎重にいこうと、俺は無言のまま手で静止を促して封印の前まで行く。

(これは………四象封印の原型か? 八尾を封じてる鉄甲封印の術式にも似ているけど)

これがとっつあんの施した封印術だろう。とにかくある限りの封印式をぶちこんだ感がすごい。
よほど、この奥にあるものが怖かったのだろう。術式からその時の心象が思い浮かぶ。あれ、術式の中に苺まんじゅうって文字が浮かんでる。

で、その奥にはここにもともと施されていた封印式が描かれている。
こちらからは無機質なものを感じる。ただの機能の一つというべきか。
単純だが条件次第ではぽろっと外れそうだ。
古代のものなので術式がどうなっているのか分からないが、綻びが生じているのは分かる。

(だけど、今のところは問題ない)

それだけとっつあんの封印は強固だ。中のものは外に出ていない。

「でも、この向こうではどうなっているのか分からない、か」

「どうした?」

「いや、封印は壊れてないってことは確認できた。だからこそ分からないことがあるけど………ここでする話じゃないな」

「そうじゃな………っと、どうした蓮?」

紫苑がたずねるが、蓮はほうけているだけで答えない。
何かをじっと見つめている。視線の先には、封印したものが残したものであろう、一つの文があった。

「えっと………『地の狼は龍を喰らって天へと至る』………どうにも物騒だな」

「地狼とはこういうことか。今はまだ問題ないようじゃが………確かにこの気配は、放っておいては不味いもの」

「狼………ですか」

「ふむ。かといって、ここでは何もできんじゃろう」

封印を解除することも考えたが、詳細が分からないまま解除をすれば何が起きるのか分からない。

「行こうか。とりあえず外に出よう」

促すと、出口の方へ歩き出す。

そして滝が目の前に現れた時、蓮が提案をしてきた。


私の家に来ませんか、と。





誘われるまま、俺たちは蓮が過去に住んでいた家にやってきた。
10年も人が住んでいないせいでかなりボロくなっているが、それでも蓮は思い入れがあるようだ。
村の人々に頼み込んで、時々は手入れをしてもらっているらしい。

そのお陰か、何とかまだ住める程度には保てている。

ともあれ、ツッコミどころはそこじゃない。

「それで、だ………家の前の広場にあった、血痕はなんでせうか」

思わず敬語になってしまうぐらいの惨状だった。
見える限りの位置に飛び散っていた大量の血痕。まるで大型の動物が引き裂かれた後のような、血の池地獄を思わせる。
屠殺場に似た殺風景感が尋常じゃなかった。

まず間違いなく、"一回の犯行"ではない。

連は重々しく頷いた。

「それを説明するには………まず、私の過去を語らなければなりません」

俯く蓮。その肩がカタカタと震えていた。

それが恐怖からくるものだということは分かった。何に怖がっているのかは分からなかったが。

「とても長く、なります。それでもいいですか?」

「構わない」

頷くと、蓮は語り始めた。















「私がこの村にやってきたのは、私が8歳の頃。13年も前になります」

以前に住んでいた場所は、嵐の後のがけ崩れに飲み込まれてしまって。
畑も住む家も無くしてしまった私達家族は、村の外へと出ていかざるをえなくなったのだ。

留まるという選択肢もあったが、父さんも母さんも外に出ることを決意した。
理由については、その頃は分かっていなかった。

近隣に山賊の類が集まっているという事は聞いていたけど、それだけじゃないと知ったのは今になってからだ。
去年の夏だった。隠れ里と国についての地理を学んでいる時に、サスケ隊長から聞いたのだ。

崩壊したあの村は、ちょうど岩隠れと雲隠れの勢力の境にあって。
幾度と無く、激しい戦闘が行われていた場所だということ。そういえば時折山の中で何か大きい音が連続して鳴っていた。
あれは戦闘の音だったようだ。大規模すぎる土砂崩れも、それが原因かもしれないと聞かされた。

父さんと母さんは知っていたのだろう。
だからこそ、まだ4歳だった妹と私を連れて、流浪の旅に出ることを決心したのだと思う。

それでも、村の外の世界は甘くなかった。あの頃はひもじいという感情に頭を支配されていたと思う。
よく歩いた。お腹を鳴らしながらも、日には数里は歩かされたと思う。

それでも、くじけることはなかったのだ。
町や村を渡り、何とか受け入れてくれないかと懇願する両親の背中は今でもずっと覚えている。
よそ者だからか反応は芳しくなく、また受け入れる余裕がない村も多かった。

疲労がたまり、時には筋肉痛で眠れない夜もあったけど、それ以上のぬくもりがあった。
優しい言葉と頭の感触。父の大きな手。母の柔らかい手。私が握る妹の小さく柔らかな掌。

「家族、だな。今はもういない」

「はい」

メンマさんの言葉に頷く。その通りで、家族だ。
目に見えないもの。想いと絆で結ばれた家族。

父は父であるからして、強く。
母は母であるからして、優しく。
妹は可愛かった。笑う顔は無邪気で、何をしてでも壊したくないと思った。

そうして、受け入れてくれるという村を、この村に流れ着いたのは一年後だった。
父と母の頬がこけていき、私から見た目にも限界だという時に起きた奇跡。

そう、あれは奇跡だと今でも思っている。
当時はどこも戦乱の傷痕が癒えていなかった。田畑を復旧させてようやくと言った時期だったからだ。
村の大人は岩隠れと木の葉隠れの忍びのせいか、村の外から来る人に過敏になっていた。

直接的には被害を受けていない村がほとんどだが、それでも悪い噂はめぐるもの。
悲劇の一端でも聞いた村の大人は、下手によそ者を受け入れればとんでもない事態になると、そう信じ込んでいたのだった。

それでも、この村は違った。当時は今と違い、こうした出来のいい野菜も育たなく、痩せた土地であった。
だけど、私達一家を受け入れてくれた。

私たち一家は泣いた。妹は、きっと意味が分かっていなかったのだろうけど、私達が泣くのを見て、一緒に泣いた。

狼の遠吠えが聞こえたのを、今でも覚えている。

村に来てからの日々は忘れられない。畑の作業はとても辛いものだったけど、それでもどこにも行かなくていいのだ。
村の夜警のためにと、昔に駐留していたお侍さんとやらが残していった刀を手に、暗い夜道を練り歩いた。

それでも、旅をしていた頃よりはずっと楽だった。

足に血豆ができて、歩く度に激痛を訴えることもない。雨に打たれて震えることもない。

帰ることができる場所と、雨風を凌げる家。温かい食事。















笑顔になっていく蓮。

「………あそこには、全てがありました」

しかし、その顔は唐突に歪む。













「ここに来てから、一年後でしょうか………ギンと出会ったのは」

ある日、夜警からの帰り道だった。道から少し離れた場所に、血まみれの狼が倒れていたのだ。

まだ生きているようだった。狼はこのあたりではみないが、父さんは知っていたようだった。
一度牙を向けば普通の人間では敵わない、恐ろしい生き物であることを。
だからトドメをさそうとしていたが、私が止めた。

ギンは見た目にはまだ子供で、小さかった。震えている姿が、旅をしていた頃の妹の姿に似ていたからかもしれない。

家に連れて帰って、怪我を治してあげたいと父さんに泣きついた。
父さんは少し悩んでいたが、頭を撫でながら「いいよ」と言ってくれた。

いざとなれば、自分がどうにかするつもりだったのだろう。
そうして、ギンとの日々が始まった。

野生の動物らしく、傷の治りも早くて、看病をしはじめてから歩けるようになったのは一週間の後。
最初の方は唸り声を上げて、こっちを警戒していたようだったけど、餌を上げながら頭を撫で続けて一ヶ月間。
その後にようやく、私の指を舐めてくれた。妹にも警戒しなくなった。
一緒に走りまわりながら遊んでいる姿を見つけた時は嬉しかった。

「………ギン、か。蓮にとってのギンとは」

「親友です。あの頃にはたった一人の」

一回りの季節の巡りだったけど、共に苦難を乗り越えた。
春には花を見て。
夏には暑さにうんざりして。
秋には木の実を探して森を練り歩き。
冬には寒さに耐えていた。最も、ギンは狼らしくはしゃぎまわっていたけど。

何をするにも一緒だった。頭もよく、鍬を持つことはできないけど、手伝いになることはやってくれた。

父と母もようやく認めてくれたようで、ギンの頭を撫でながら色々と話しかけていた。
父さんは、若干の敵意を持っていたようだけど。

「それは、なんで?」

「娘を取られたとか愚痴っていたようで。母には呆れられていたようですが」

それでも、冗談を言えるようになるぐらいには、父も母も元気を取り戻していた。
前の村に居た時のように、元の顔に戻っていたと思う。

日々は続いた。
朝は起きて畑に出て、昼の後には簡単な文字を習い、夜は灯りのついた家の中で家族一緒に食事を取る。
時々あった夜警は怖かったが、自分以上に怖がっている村長の息子――――カックの姿を見て落ち着いた。

小さな苦難は途切れることなく、連続してあったけど、それでも一緒に乗り越えられる家族がいた。


だけど、ある日大きな問題が浮かび上がった。

それは、村の畑についてだ。

「この村の水源、その水質が野菜には合わないらしくて」

どうにも微妙な味がしてしまうと、野菜を卸していた商人から言われたのだ。
それに関係してか、取れる量も年々少なくなっていた。

村の大人達の顔から笑顔が消えていった。
このままじゃあいずれ、とその先に続く言葉が現実として浮かび上がっていく。

話しあう村人。でも水をどうにかすることなんでできないし、お金の蓄えもない。
今更この村を出ていくこともできない。

そこで何とかしようと立ち上がったのは、私の父だった。
水源であるあの滝壺を見つけ出して、村人達と一緒に調査をした。

私もギンと一緒に連れていかれたと思う。ギンは人に牙を向かないとはいえ狼で、少し怖がられていたけど。

特にカックはよほど怖かったようだ。
ギンを見るなり逃げ出して、その後は木の影に姿を隠しながら、枝を振ってあっちに行けと繰り返していた。

そんな風に遊ぶ私達をよそに、大人たちはさぞかし悩んでいたことだろう。
水なんて自然様のもので、人間の手でどうにか出来るようなものじゃはない。

焦燥していく父。そんな父を何とか元気つける母。
妹も事情を察するような年になったようで、一緒に悩んでいた。


また、暗い日々が続くのかと、そう思ってしまい落ち込んでいた私。


「だけど………そんな日々"すら"続きませんでした」





















「………すら?」

「ええ。そしてどうやら、時間です」

蓮は言うなり、立てかけておいた刀を腰に差した。
そして立ち上がり、外へと出ていく。

俺達も急いで外に出ると――――そこは、異様な光景が繰り広げられていた。

話を聞いているうちに、時はすでに夕方になっていたようだ。

夕陽が森を赤く染めている。

そして、周囲に飛び散っていた血も照らされている。

あれだけ広がっていた、血の池。
それがまるで、生きているかのように動いていた。

まるで意志をもっているが如く、ある一点へと集まっていく。


「な………」

「あの日も、今のように真っ赤でした。夕陽も。森も。家も父も母も妹も………ギンも」

言うなり、鞘が強く握られる。

「まるで出会った日のように。爪牙も毛も真っ赤にしていました………一点だけ異なるのは、それがギンの血ではなかったということです」

それは、返り血と呼ばれるもの。そしてその血が誰のものであるのか、俺には分かってしまった。

「………懐いていたんじゃあ、なかったのか?」

「はい。あれが錯覚であったのか。それは今でも分かりません」

蓮は首を振るだけ。前方を見据えたまま、後ろにいる俺たちのことを振り返ることもない。

こっちから見えるのは彼女の背中だけ。

そして、蓮の前に"血が集まって出来上がった"狼だけだ。
それは瞬時に変転して。いつの間にか、骨が組み上げられ、肉がついていた。

「大きい………!」

「あの日斬ったギンは、もっと小さかったんですけどね」

鯉口が切られる、独特の音がなる。
蓮はすでに青眼。刀を両手に、前に斬るべき敵を捉えていた。

ギンも、意識らしきものを取り戻したようだ。その口から、獣の吐息がこぼれている。
眼はまるでトマトのように赤く、染まっていた。

まるで眼球のようなものではない、一面が真っ赤だ。それでもその目は目の前の獲物を捕捉したようで、唸り声が一段と高くなる。


「手を出さないで下さい。出せばいくら貴方とて、斬って捨てます」

掲げた刀は決意の証のようだった。

「あれは、私の罪ですから」


両者の姿が消えたのは、ほぼ同時だった。

開幕の音もなく、殺し合いの幕が上がる。











すれ違いざまに一閃。だけどそれは爪に防がれたようで、肉を斬った手応えは得られない。
今年もまた、一段と早い。10年前の姿と比べれば、まるで月とすっぽんだ。

それでも、自分も強くなっている。
ずっと鍛えてきたのだ。

あの日村長に聞いた言葉に従い、より強くならなければならないと。
このギンを斬り続けることだけを目的に、生きてきた。

早い。以前に一度だけ戦った、中忍よりもずっと早い。

だけど、捉え切れないほどじゃない!

「はっ!」

隙をついた袈裟懸けが、ギンの足をひっかけた。
肉が裂かれ、血が飛び散る。

だけどこの程度、致命打には程遠い。

「自己修復!?」

後ろの声、あれはメンマさんだろうか。
彼の言うとおりで、"こうなってしまった"ギンはちょっとやそっとの傷を与えた程度じゃ倒せない。

もっと鋭い斬撃で、深くまで断ち切る必要があるのだ。
だから私は刀を振り続ける。

「★■◯▲◇☆!」

例えようもない、ギンの咆哮があたりに響くと同時に爪が放たれた。
鋭い一撃が、私の肩の上を掠る。

服が裂かれ、肉まで切られる。だけど、痛みはない。

(あの日………!)

始まったあの日。あの日に胸に抱いた痛み。

(どうして………!)

死んだと思った。否、死んだのだろう。

あの痛みに比べれば、こんな痛みなど―――ー

「無いも同じっ!!」

「◎◇!?」

気合一閃。どう放ったかも分からない一撃が、ギンの腹を切り裂いた。

肉を裂く感触。血に染まる私。それでも致命打には至らない。



だから、今日も私は刀になる。責務を果たさなければ、生きている意味がない。

だから、今日も私は想いを捨てる。


ただ、目の前のギンを斬って捨てるためだけに。











傍目には異様な光景だった。戦いというだけであれば、俺も何度も経験しているし、見てきてはいる。

だけど、彼女は違った。

戦い初めてから一時間が経過している。

疲労がたまり、太刀筋など鈍って当然。


だけど彼女の太刀筋は、戦いはじめた頃とはまるで雲泥の差と言えるほどに、"極まっている"。

常人には見えない速度で飛び回り、両者の間で刀と爪牙の交差音がまるで音楽のように規則正しく鳴り響いている。

それでも、この戦場を支配しているのは彼女だった。
一刀を振るう度に鋭くなっていく。そうして、ギンの身体に幾度と無く致命となる斬撃をえぐり込んでいく。

無駄と言える動きも消えていた。
今となっては、俺とて勝敗を楽観視できないレベルになっている。

動きから感情による揺らぎが消えて行っているせいだ。

斬ることだけを目的に、その機能が極限まで高められていく。
他の全ては些事である。

斬ることだけが存在意義と、斬撃の鋭さが物言わず語っている。


―――ああ。

彼女の言った言葉はこういう意味か。




「斬るだけの存在に………刀そのものになる」




そしてそれは、元いた世界で、武の神域として語られるもの。



(雑事を捨てて一刀となる――――人それを、無念無想と呼ぶ)


思うと同時、彼女の無言の一閃が煌めいた。

切っ先どころか刀身も霞む神速の絶刀が、ギンの身体を頭から真っ二つにした。

見事、という賞賛を彼女は受け入れないだろう。だけどそれをして、見事としか表せない一刀だった。

そんな斬撃に断ち切られた、ギンの一見は不死身に見える身体にも、限界がおとずれたのだろう。

まるで不自然だった存在が元の姿へと戻っていくように、集められたギンの肉体が血へと戻って。

最後に、血の塊が爆発した。

あたり一面、四方に八方に血の雨が飛び散っていく。


それは、目の前にいた蓮にもかかっていた。彼女の全身が、一気に真っ赤に染め上げられていった。


彼女は、そこでようやく口を開く。


「………ああ」


声が漏れる。蓮の声だと気づいたのは、数秒たってからだ。

それほどまでに、声は無機質だった。


「今年も、終わったのですね」


一言だけだ。態度は悠然としていた。まるで、今の出来事が取るに足らないものであるかのように。

何も感じていないように見える。刀の血を払い、鞘に納めて、目の前の光景に視線を写す。

それだけだ。そこに、悲哀の色は見て取れない。


(否、感情の色がない)


まるで刀だ。

さきほどまでの攻防を見るに、そう思って当たり前。


(――――だけど、何かがひっかかる)



ギンの話も最後まで聞いていない。

それに加え、こうして俺たちを呼び、この光景を見せたのはなぜなのか。


(畑も、今は豊作だ…………そして因果は巡る)


原因があって、結果がある。

この村と遺跡、周囲の事情は複雑に絡まっているようだが、因果が存在するという点においては変わらない。

そして、先程のチャクラの流れだ。


無言で紫苑を見ると、なにかを確信したかのように頷いた。


(胸糞悪い事情が絡んでいそうだけど………これは、是が非でも解決しなきゃならんよな)


ますます深まっていく事情について、そして規格外の封印術を施された化物について。

それでも、俺は全身で立ち向かうことを決意した。

苦難を共にした、大切だった親友。

その成れの果てとはいえ、斬った挙句にその血に塗れても膝を屈さない、蓮の姿を見て。






[9402] 後日談の9-3 ~永遠の意味・後編~
Name: 岳◆3d336029 ID:f05e15fe
Date: 2012/02/26 22:17








かくして、胎動は終焉を迎える。


天に向かって疾駆するために。





『………aAaaa!?』





そして、ようやく気づいたのだ。



咆哮が、満月を震わせるように揺らいだ。














===


 小池メンマのラーメン日誌


  後日談の9-3 ~永遠の意味・後編~


                     ====













蓮とギンが織りなした血の舞踏の後。

俺達は気を引き締め、もう一度話を聞くことにした。

「それじゃあ、その主様とかいうのが?」

「水質を改善してくれたと、村長からはそう聞いています。ただ………その、水質を悪くしてる部分をどうにかする必要があって」

「それがあの日に死んだギンを依代にしたと」

だからギンは毎年復活する。悪いものに取り憑かれたまま、人に災厄を撒き散らすのだという。

「蓮はその、主様だっけ? そいつとは会ったことはないんだよな」

「はい。本尊はあの洞窟の奥にあるそうです。ただ、今まで誰もあの結界を乗り越えられる人がいなくて」

それもそうだろう。六道仙人、渾身の逸品だ。五影クラスでも連れてこないとあの封印術は破れないだろう。

しかし、なんだ。

「その、メンマさん。あれは本当に?」

「主様なんて呼ばれるような存在じゃないよ。さっきも言った通り、龍脈を操る怪物さ」

ともすれば尾獣に匹敵する化物だろう。
って、ちょっと待て。

「ふむ、メンマ。あの奥にある存在じゃが、もしかしたら………尾獣と同じようなモノかもしれん」

「俺もそう思った所だ」

狼の尾獣といったところか。そうなるとまた、危険度が跳ね上がりやがるな。

「ってあの、尾獣なんですか主様が!? でも、だって、尾獣じゃあ………でも水は綺麗になったし、作物も育ってるじゃないですか!」

「それも能力のひとつだろう。チャクラを変換させて流しこめば、どうとでもなるさ」

性根はどうであれ、実力的には大した奴だと言わざるをえない。
村で見たあれだけの量にチャクラを流し込むとなると、隠れ里の忍者、その総数の半分程度は必要になるだろう。

勿論、それをなし得る技量も。あまりにも図抜けすぎている。

「そんな………それじゃあ、ギンは?」

「依代にされてるってのも嘘だろうな。主様とやらに使役されているんだろう。生き返る理由は………もしかして口寄せ・穢土転生の応用版か」

生き返る現象といい、すぐに修復する傷といい。二代目火影が開発した禁術に近い効果があらわれている。

「それを長期間となると………もしかして、この地域の輪廻を閉じているのか!?」

紫苑が悲鳴じみた声を上げる。俺も叫びたい。

「龍脈の制御の応用かもな。半端ねえな古代の技術。まさか"自分の懐で輪廻を回して力を得ている"なんて」

龍を喰うとはよく言ったもんだ。

輪廻転生の理、そのすべては分からないが判明している部分もある。
だが、人が死ねば土に、海に還る。魂もまた同じだろう。

その場合、果たして何を介して生まれ変わるのか。六道のとっつあんは龍脈にこそその答えがあると言った。

全世界に張り巡らされた不可視のチャクラの源流こそを龍脈と呼ぶ。
六道のとっつあんが提唱している論理だが、あながち間違いでもないだろう。

話に聞く主様は。カックが口を滑らした"やつ"――――大神様は、その龍脈の一部を制御し、自前で輪廻転生を行なっていると見た。

正直、常軌を逸している。気が遠くなるほどの時間が経過した今日、奴に蓄えられている力はいったいどれほどのものだろうか。


(やることが、できたな)

そしてもう一つ。目の前の剣士のことに関しても。

先程の話と、ギンの変わり果てた姿。その中でどうしてもひとつだけ、腑に落ちない点があるのだ。

「もう一度だけ確認するけど、あの日のギンの眼は――――斬る前から赤かったんだな?」

「………ええ。まるで血のようでした」

思い出したくないことなのだろう。蓮は声も小さく呟くだけだった。

その声は、聞いていられないほどに痛々しい。
そして、彼女をこうした存在は一体何なのか。

「確かめなきゃ、な」

「あの、メンマさん?」

目の前の女性はまるで少女のようだった。不安に揺れる女の子。

そんな蓮に、俺は告げた。


「ちょっと、待っててくれ。どうしても最後に………確認しなきゃならないことがあるからさ」









翌日、俺達はまた洞窟の調査をした。

今度は、見極めるためにだ。


そして、はっきりと分かったことがあった。

「………紫苑?」

聞くが、紫苑は黙って首を横に振った。


つまりは、そういう事だ。



「やらなきゃならん、か…………全く厄介な代物だよ」

「網の二人に連絡は?」

「備えって大事だろ? 万が一のために、しておくさ」


だけどその前に、やらなきゃならんこともあるがね。

言うなり、俺達は洞窟を後にした。


――――結界が綻び始めている扉に、背を向けながら。












そして更に翌日、俺達は村に戻ってきた。村の空気はいつものとおりだ。のどかで牧歌的な雰囲気。

だけど誰が知ろう。この光景が、血なまぐさい業によって保たれていることを。

「カックとやらから、村長に。報告はされているだろうが、どうする?」

「もちろん、正面から行くさ」

議論するまでもない。キューちゃんと紫苑が頷き、俺もうなずきを返す。


―――最早、冷静に事を進められるような状態にない。

それ以上にムカツイタ状況を殴りたいという想いがあるのだ。

とはいっても、正面からクナイ片手に特攻する訳もない。

やるのは真意を確かめてからだ。
それをすべく、俺たちは村に戻って間もなく、カックに会うことにした。

本陣深く探る前に、それをする目的は主に二つ。

一つは、カックの父親だという、この村の長に会うために。なるべく穏当に事情を聞くためにだ。
もう一つは、確かめるため。

それを言い出す前に、カックは俺たちに向けて疑惑の視線を投げかけてきた。

「で、だ。親父の家っつーか、俺の家に案内する前に聞いとこうか………俺に聞きたいことって何だよ、よそ者」

警戒も顕にこっちを見るカック。きっと蓮のことがあるせいだろう。
その目には隠せない憎しみがあった。軽薄な印象は消え、今はまるで違うものに変質している。

(これが、こいつの本性か)

以前とはまるで別人である。銀張りの模造刀から、魂がこめられた真打の刀に変化したような。

俺は遠まわしに言ってもはぐらかされるだけだと思い、単刀直入に聞くことにした。

「山の半ばにある道案内の看板。あれについた血が、誰のものかは知っているか? ………それとも、知らされているのか」

どっちかで"対応"が異なってくる、そのために聞いたのだが、カックは肩をすくめるだけだった。

「………知らねーな。見たことも聞いたこともないぜ」

「へえ。犯人が誰だ、とか気にならないのか。村の近くの"コト"だってのに」

「想像はつくさ」

ニヤリ、と笑いながらカックは告げた。

「きっと狼にでも食い殺されたんだろう?」

その歯は、不自然に尖っていた。






そうして、村長の家までは歩いてすぐだった。周囲とは明らかに違う、大きな家。

村長らしい、威厳に溢れる豪邸だ。カックがお手伝いさんに一言二言。

それだけで頷き、俺たちは家の中へと案内された。

通されたのは大きな広間。まるで旅館の大広間のようで、50人ぐらいの宴会ならば可能なんじゃないかと思えるぐらい。

その中心に座布団が敷かれていた。こちらで待てということなのだろう。

「どうぞ」

座るとお茶が出された。素直に飲み込み、村長を待つ。

そして間もなく、待ち人はやってきた。

カックに似た容貌をもつ壮年の男性。その隣には村の入り口で会った老人の姿もあった。

「えっと、どっちが村長?」

「俺だ。それで、一体何のようだ」

「他でもない、蓮の家族について。あの日に起きてしまったことについて聞きたい」


口に出した瞬間、場の空気が少し硬くなった。

これはひょっとしなくてもアタリか。


「――――それは」

沈黙の後、村長の口から出た言葉はそれきりだった。沈黙が広間を満たしていく。

お手伝いさんの姿は、すでに無い。広々とした空間の中、俺達と村長ら3人が正面で向かい合う。

次に口を開いたのは、老人だ。

「あれは………残念なことでした。あの娘のご両親は、それはもう働き者で。村の宝物でしたよ」

慈しむような表情。どことなく顔立ちが村長に似ているからして、きっとカックの祖父かなにかだろう。
その老人は、おくす事無く言い切った。しかしまあ、それには同意しよう。

「同意します。健気な女性だと言ってもいい」

本当に。蓮を見ていれば、彼女の未だ折れていない柔らかい気質を鑑みれば分かる。

良いご両親だったのだろう。


だからこそ、聞いておかねばならない。


「嘘は、言わないで下さい」


「ええ。誓いますよ」


しっかりを頷く村長。老人も。

変な顔をしているカックはおいて――――では、とたずねる。


「あの日あなた達が殺したのは、ギンか。それとも蓮の家族でしょうか」


たずねた後の反応は、劇的だった。


「どういう、ことでしょうか? 言葉の、意味が分からないのですが」


何でもないように聞き返してくる村長。が、動揺しているのを俺は見逃さなかった。

視線がわずかにこちらから外れている。

手に握られている力も強い。平静を装っているだけにしかみえない。


「確認ですよ。これからの行動について、その情報がないことにはどうにもね」

「………なにを」

それ以上は言わせず、俺は核心へと斬り込む。

「――――差し出したんだろう、蓮の家族の命を。あの滝の裏の洞窟の化物と。命で、命を買った」

それは、どこにでもある当たり前の話かもしれない。生きるために殺した。動物にそうするように。
生きながらえるために命を差し出した。

「また荒唐無稽な………証拠はあっての言葉ですか」

「物的な証拠はありません。だけど蓮から聞いたあの日の状況………それにあんたらもこの村も。どうにもおかしい所だらけだよ」

だから聞きたい。そう告げると、村長の親らしき爺さんの顔が笑った。

「ほっほっほ………旅のお方。できればこれからのために、どこが不自然だったのかご教授できないでしょうかの」

笑顔は本来攻撃的なものである。
否、これは"的"ではない、明確な害意だ。

しかし怯まず、言い切ることにした。

「まず一つ。爺さん、あんたの肉体は元気にすぎるよ」

初めてあった時に気づいた。この爺さんに肉体は歪だ。

これぐらい年齡になれば筋肉の衰えもある、そうなのだろうに重心が"ブレなさすぎた"。
まるで歴戦の侍のように、重心が一定の位置に座っていた。筋肉が全く衰えていない証拠だ。

それは小さいことだが、異質さで言えば並のものではない。

「次は、眼だな。あんたの眼は人殺しの眼だ。しかも………」

殺すことを受け入れて、慣れてしまった者がもつ眼。
何より、瞳の座りに特有の"渇き"が見られる。長らく規格外の奴らを相手にしていたから、そういった人種は酷く分かりやすいのだ。

「最後に。よそ者に親切な村なんてな。何かありますって宣伝しているようなもんだぜ?」

閉鎖社会において、先日の対応はありえない。

そして、案内された空き家も。

「なあ、爺さん。あの家の中で――――いったい、何人の人間が死んだんだ?」

「ほっほっほ。いやいやお客人はおかしなことを聞きなさる」


ニタリと、笑いが変わった。


「――――そんなもの、数えているはずがありませんでしょうや」

同時に、空気も変わった。

「さて、それでもギンの答えには至らない。一体どういう事情を理解したので?」

「簡単だ。生物を乗っ取るより、死体を乗っ取る方が早い。だから"ギンが蓮に会うまでに一度殺された"ことはすぐに分かった」

眼の色の変質。すでに見えた時、ギンは主とやらの術中にあったのだ。

「考えられる状況は二つ。ギンはまずあんたらに殺され、その後に使役された。そして操られるがままに家族を殺したかと思った」

しかし、もう一つ。想像できる状況がある。

「あんたらがギン諸共に蓮の家族を殺した。そう考えれば、つじつまが合う部分が多い」

全員の死体が家の前に集まっていた理由。これならば、説明がつく。

一歩も逃げ出せずに全員がその場で殺されたとも思えない。

「恐怖で足が竦んだとも考えられるけどな。だけどそれにしちゃあ、死体が綺麗すぎる」

狂った狼の凶暴さは、野犬を上回る。なのに死体は原型を留めていた。それがまずおかしいのだ。

「で、どっちだ。一応は律儀に全部説明してやったぜ?」

「なんともはや………探偵のようですな。特に先の理由。3つ目の理由は盲点でしたよ。というよりも、貴方の用心が深すぎたということですね。
 しかし人様の親切を素直に受け取らないとは、可哀想な人達だ」

「元逃亡者なめんな」

ぐっと親指を立てて答える。


―――その、時だった。

手が小刻みに震えていることに気づいたのは。

「動かない………これは」

「予定通りですな。王手ですよ。出されたものを素直に受け取るとは、迂闊でしたね」

「毒、か………!」

気づけばすぐだった。もう手に力が入らない。
そのまま、膝から崩れ落ちる。踏ん張ろうにも足が、膝が動いてくれないのだ。
倒れ伏した俺を見下ろし、爺さんは言った。

「冥土の土産です、答えてあげましょう。先程の問いですが――――殺しましたよ。私達が、彼らを殺した」

爺さんは続ける。すでにその顔に笑みはない。

「私達が生きていくために殺しました。健気にも立ち向かってきた狼ともどもに、ね。それが大神様との約束でしたから」

「生きていくために、一緒にがんばってきた仲間を、殺したのか。切り捨てたのか」

「それより他に方法はなかった。ええ、手が無かったんですよ。それ以外の手は………」

爺さんの眼が上を向く。その目は何をも捉えていない。

「必死に祈りましたよ。それでも、誰も答えてくれなかった。だけどそう、大神様だけが私達に手を差し伸べてくれた」

そして、村人たちはその手を取った。最小限の犠牲。それで皆が助かるものならば安いと。

「そもそもが理不尽だったのだ。どうして何も、悪いこともしていないのに、私達が苦しまなければならない!」

叫ぶ。

「ああ、生まれた土地の、その水が問題だと? ………どうしようもないではないか! それでも蓄えた食料を、野党と化した山賊と抜け忍が奪っていく!」

「だから、許されると?」

「………仕方なかった。私は選択せざるをえなかったんだよ。旅をしているアンタには分からんことじゃろうが、ここは我らのすべてなんじゃ。
 ここで生まれ、ここで死ぬ。それ以外に方法はない」

爺さんの言葉に、村長が続く。

「武力もない。知恵だってない………だから、選択した。ほめられた方法ではないのは分かっていた。蓮には悪いと思っておるが、それしかなかったのだ」

「その上で、彼女に全てを背負わせた。毎年のギンの暴走も、全部任せたってわけだ」

「儂らには力がない………ならば、ある者に頼るのが道理だろう」

「恥知らずの道理なんて聞きたくはないね」

「恥を偲んで生きていく。それこそが唯一、私達にできる最善だ」

自嘲する。その顔は、爺さんと似たような色をもっていた。
はっきりとした後悔の色。

だけど、その息子は違うようだった。酷く面倒くさそうに、俺達を見下ろしながらカックは言った。

「なんだ、ほら、賢い考えだろうが。100人が生きるんだからさあ。なんだ、元はよそ者の3人と、危ない動物一匹で済むなら安いもんだろ」

「カック!」

「いいじゃねーか親父に爺さん。こいつもどうせ殺すんだ、格好つけて言葉取り繕っても仕方ないだろ?」

肩をすくめるカック。爺さんと村長の二人は、しかしそのカックを更に叱ることはなかった。

「よう、腐れ旅人。よくも蓮の前で恥ぃかかせてくれたよな。ま、その借りは隣にいる美人ちゃんに返してもらおうかぁ?」

下衆な眼でキューちゃんと紫苑を見るカック。その目は心底、濁りに満ちていた。
そして、その眼は赤かった。先日に見た、ギンのそれと全く同じものだ。

それがどういう意味なのか。直感で理解した。

「お前は………お前も、大神とやらと取り引きしたのか」

「おうよ。ほら、見事なもんだろぉ?」

言うなり、カックは湯のみを握りつぶした。だがその手には、一つの傷もついていない。

「力だ。これが、欲しいもんを手に入れる力。大神様が俺にくれた、俺だけの力だ」

心の底から誇らしげに、まるで自分が神様であるかのように。
カックは語ると、動けない俺の首を掴んで持ち上げた。

「せめてもの慈悲だ。お前にとっちゃあひでー光景を見る前に、文字通り"縊り"殺してやる」

「ぐ………」

「心配すんな。そっちの二人なら、俺がたっぷりと"楽しんだ"後に送り届けてやるからよ」

その目は、軽薄につきた。まるで虫けらを見るかのような眼をしている。


――――それを見て、俺は笑いを我慢できなくなった。


「く、くくく………はっ、ははははははは」

「てめえ………何がおかしい!」

「笑うしかないだろ。テメエにも、爺さんにもよ」

この三世代。表の皮は似ていないようだが、それでも根本は一緒だ。
同意した村人たちもそうだ。

徹底した、他力本願。自分の手を汚す覚悟は持っているが、それに至る決意が軽い。
自分の安全を最優先として、他人は二の次となっている。

苦渋の決断だったのだろう。生き延びるためにってのも嘘じゃないんだろう。

それでも、我が身可愛さに仲間を殺したってことも事実ではある。

かといって、それがおかしい訳じゃない。咎め立てたりはしない。
所詮は通りすがりの俺だ。賢しく諭せる立場にもない。

だから笑ったのは、もっと別の所に向かって。

踊らされ、見当違いの選択をしてしまったことに対してだ。

「………どういう事だ?」

「大神様とやらを俺が潰すからだよ。あんな危険な代物、放置しておくとか有り得ないからな」

その術理の一片でも漏らすことはできない。それに、どのみちこの土地は限界にある。

「お前たちの大神様も、いよいよもって辛抱できなくなったらしい。"溜まった"みたいだからな………それを止めなきゃならん」

「な、にを言っている?」

饒舌に語る俺に不信を感じたのか、カックがうろたえ始める。
俺が自信満々なのが、それに拍車をかけているのだろう。

「いや、それでも! お前たちはここで死ぬんだ、何もできやしない!」

「ああ、"此処の俺達"にゃあな――――ひとつだけ、ヒントをあげようか」


此処に来てから、一人だけ。

「俺だけしか言葉を発していないけど、それはどうしてでしょうか?」

「………まさか!」

「井の中の蛙大海を知らずってね。ましてや井戸にこもって満足している馬鹿に、な―――してやられてやる道理はないのよ、これが」

「お前ぇぇぇ!」

常軌を逸したカックの膂力。それは俺の喉を引き裂いて。

そして、煙となって消えた。

同時に、キューちゃんと紫苑に変化していた影分身の方も消える。


「な、なんだ!?」

「これは………まさか!」

二人の声に、答える者はすでにいなかった。













「………メンマさん」

「これが真相さ。ギンは、蓮の家族を殺してなんかいない」

遠眼鏡の術。それを利用した伝言術を見た蓮は、最早言葉もなかった。
理由が理由だ。それも、仕方の無いことだろう。

だけど、伝えておかなければならなかったのだ。
何よりもギンのため。そして蓮のため。

すれ違いは、時と場合によれば国をも滅ぼしかねないものなのだ。
そして俺は、心を通わせていた二者が勘違いをすることは許せない。

だから真実を話したのだ。

こういう理由があって、だから全てがお前のせいじゃないと。そして告げたのだが、蓮の顔は見えなかった。
ただじっと地面をみつめたまま、見えるのは前に流れている美しい黒髪だけ。

「あのギンも、今年が最後だ。来年からは斬らなくてすむようになる」

「それは………どういう、事でしょうか?」

「大神様を倒すってことさ」

そうすればもう、ギンが不完全に蘇ることはない。

「それは………メンマさんに可能なのですか?」

「俺達3人なら、なんとかね」

簡単にはいかないだろうけど、やってやれない事はないだろう。
そもそもの目的が、その生物兵器の調査と、可能であれば撃滅すること。

放置しておけない理由もある、もうやるしかないのだ。


「そう、ですか」

「ああ。蓮はどうす―――――」


振り返った後に見たものは、全くの想定の範囲外。

俺は肯定の言葉を求めたわけじゃない。反発されるかもしれないと思っていた。

だけど彼女がこうした行動に出るのは、はっきりいって予想外だ。


「蓮。なぜ、刀を抜く?」

「貴方を斬るからです」


淀みもなく、言い切る。

構えは青眼だ。柄を自分の腹に。切っ先をこちらに向け、その刃先に揺らぎは―――――あった。


「迷ってんのか」

「ええ。これはきっと、正しくない行為ですから」

いつもの猪っぷりはどうしたことか。ここに来て蓮は、自分のしていることをこれ以上ないってくらいに自覚している。

「私は、愚かなんでしょう。馬鹿と言われても甘んじて受けます。だけど―――――父さん、母さん、菜々香の死を意味のないものにするなど、認めたくはない」

言わんとしていること。時間はあったが、理解した。
例え死でも。認められてない死でも。

それを、全くの無意味にはしたくない。刀を構えた侍娘は、そう言っているのだ。

「だか、ら」


斬ります。告げてからの、蓮の行動は迅速だった。


瞬く間に間合いを詰めると、一刀。横一文字に振り抜かれた刀は、しかし俺を仕留めるには足らない。

「ふっ!」

だけど、諦めるつもりもないらしい。呼気が続いたのは、その刹那の後だ。

蓮は回避した俺の姿を見止めると、すぐに次の行動に移った。

「蓮!」

「メンマさん!」

白刃が閃光となった。俺の首の頸動脈を狙った一刀は、しかして捉えるもののなく、ただ空を切るのみ。

「どうして俺を殺す!」

「父さんの、母さんの、菜々香の死を、、その意味を!」

無かったことにはしたくない。斬撃とともに放たれた声に、俺はだけど頷くことはできない。

風遁・飛燕を纏わせたクナイで、ただ受け止めるのみだった。

「その程度か、蓮!」

「………何を!」

蓮は叫びと共に、再度切りかかってきた。だけどそれも、俺の五体には遠く及ばず。

ただ、空を切るのみだった。そして俺は、その理由を知っていた。

「悩みのある剣など!」

「くっ、なんで私に悩みが!」

「操られていた、ギンと対峙している時とは違う!」

あの時、彼女は使命に身を焦がしていた。果たせないままでは、朽ちることなどできない。
そうした意志に満ちていた。何よりも、そうだ。

「………なぜ、泣き言を言わなかった!」

「許されるはずがないでしょう!」

問いに返ってきた答えは、率直なものだ。

「私のせいだ! 私の責任だった! 私が菜々香を、みんなを! だから、私には悲しむ資格なんか無いって………!」

殺したから。死の原因が自分にあって、だから悲しむことなど許されなかった。

だからをしての、無念無想。悲しみに身を落とすなど、自分を慰める行為にしかならない。
故に心を殺し。蓮はずっと、ギンを斬り続けてきたのだ。

自分が殺したのに、悲しむことはできるのか。いけしゃあしゃあと囀ることはできるのか。
反語で答え、それに蓋をしたままで。

蓮は言うがままに刀を奮う。その声は聞いている者にさえ、痛みを運ぶ質を持っていた。
そして蓮は剣士の本性を全うする。言葉の途中にでも、斬撃の猛攻を途絶えさせることはなかったのだ。

「く、ぬっ、お前が悪いってことじゃないんだ! 違うことが今、証明された! なのになんで、お前は刀を振る!」

「だって、メンマさんは大神様を滅ぼすんでしょう! 村のみんなもそれで裁く! それは――――父さん達の犠牲が意味のないものだって、認めることになるから!」

死んだ意味さえもなくなる。それならば果たして、一家はなぜあんなことになってしまったのか。
蓮はいうなり、また白刃を翻した。

「はっ!」

「くっ!」

無念無想とは程遠い。我の意がたっぷりとこめられた一刀だったが、それが故に別次元の速さがあった。
疑う余地もない、本気の一刀だ。俺はそれをクナイで受け止めると、いったん後ろへと飛んだ。

距離を保ちつつ、蓮へと言葉を向ける。

「蓮………お前は、勘違いをしている。俺はなにも、力づくでどうこうしようってことじゃない」

「え………?」

「どうにかする。そのために此処に来た。お前に、真相を伝えた」

これからすることは、あまりにも突拍子のないことで。下手をすれば心臓発作を起こしかねず、また不可思議な事なので伝えたのだ。

「化物? 大神? ――――だからどうした、それがどうしたって告げるために俺はここにいる」

「…………メンマさん?」

「信じろなんて言わない。だけどここは、俺に任せて欲しいんだ」

無体に嬲る趣味はない。頑張っている少女を。
残酷過ぎる運命を飲み干し、それでも前を向いて走り続けてきた人を。

へこたれず、ここまで来た女性を見捨てることはしたくないのだ。

「………その言葉を、私はどうやって信じればいいのですか?」

「俺にも分からん。だから――――来いよ、侍娘」

言葉はすでに無粋。飾り立てた言語の羅列など、最早この娘には通用しないだろう。
だからシンプルに。ただ俺は、告げた。



「本気で来い。きっとそれで、答えは出る」



「―――承知」



構えが変わる。中段のそれから、上段のそれへ。


中途半端な蜻蛉の構えなどではない。蓮の構えは、まるで全てを両断するような。

天を突き立てる切っ先。防御の理念を一切捨てた構え。最上段へと変わっていく。



「……………」

「―――――」


互いに、言葉はない。存在しない。今にして、必要はない。

すでに互いに間合いの内。一足にして一刀が届く間合い。


(そして、彼女は上段のまま)

切っ先を空に。柄を握った両手は、額の上に。
それはまるで祈りの儀式だ。天へと訴える力無きものだけが許される、行為。

だけど、蓮のそれは。ただ自分の腕力と、意志と、気概を持って構えを崩すことのない彼女の眼は。

気が遠くなるほど、酷く、綺麗に見えた。



――――しびれを切らしたのは、彼女が先だった。


剣が揺らいだと思った。直後に白刃は、俺の前にいて、


「―――――」





鉄をも裂きかねない両断の一閃。






それは、ぴったりと。







俺の両手の間に、挟まれていた。








「―――受け取ったよ」





最上段。天に祈りを。そして振り下ろされる一撃を。

俺はしっかと、こうして受け止めた。

刀に祈るしかなかった少女。

悲しんで斬って悲しんで斬って悲しんで斬って泣き叫んで切り刻んで。


だけど屈しなかった、彼女。いっそ美しい斬撃を保ち、妥協もせずに、ただ自分の一刀を振り続けた女性。


それを俺は。両手で。見間違えること無く、見失うことなく、握りしめて離さない。



「―――綺麗だ。お前を祈りは届いた。もう離さないぜ」


震える手がある。それが、こちらにまで伝わってくる。


蓮の顔は、ただ驚愕に満ちていて、直後にその色が変わる。




「望むものは受け取った。だからもう――――後は、俺達に任せろ」




「あ………」


彼女の腕から力が抜ける。主を失った刀が、空を泳ぐ。






「ああああああああああああああああああっっっっ!」





彼女は、まるで幼子のように泣いた。













あとがき

最終編へ続く。



[9402] 後日談の9-4 ~永遠の意味・完結編~
Name: 岳◆3d336029 ID:f05e15fe
Date: 2012/03/20 20:52
祈りは届くことはない。


超常の神は、いつだって見守るだけ。



――――それでも、奇跡という言葉は存在する。















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小池メンマのラーメン日誌


 後日談の9-4 ~永遠の意味・完結編~


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「あー………あの野郎、こう来るか」

あの後色々あった。具体的にはほっぺたがヒリヒリしたり引っかき傷が多数なのだが、それはいい。

取り敢えずは解決のためにと、移動することにした。具体的な話をするのは神気取りの下衆がいる洞窟に行ってからにしようと。

そのために森の中を4人で進んでいたのだが、ある所まで来ると森の雰囲気が一変した。

見覚えはあった。過去に二度。それは木の葉崩しであり、最後の三狼山である。

つまりは、あれだ。

「戦場になったか」

「そうだね………でもこれは、もっと別のものだ」

キューちゃんの言葉に頷きながら、俺は舌打ちをする。

これは、そんなに上等なものじゃない。

泥臭い感情もなく。理由はないだろう。そして、矜持もないに違いない。何より、戦意というものが感じられないのだから。

「もっともっと汚くてどうしようもなくて碌でも無いもの………ほら、来た」

言葉の終わりと同時に現れたのは、死体だった。それは一般人が出せる速度ではない。

見れば、チャクラはあるようだ。身体の強化も成されているに違いない。


だけど、アレには意識がない。全部終わってしまったものが引き摺り出されているだけのもの。


「め、メンマさん。あれは一体………!」

「死体だよ。で、操り人形だ」

努めて冷静に答える。あれは、穢土転生と似たようなものか。操られた死体は、声にならないうめき声をあげていた。

まるでゾンビだ。敵意の無い所がまた、別方向の恐怖を感じさせる。

しかし同時に、思うところがあった。

「まともに相手はしたくないな………号令を出している奴がいるはずだけど、紫苑?」

「場所を突き止めるから40秒待て。先程から、あれだけ隙間がなかった龍脈の統制も乱れている。これならば何とか干渉はできよう」

「頼んだ。まあ、洞窟の真ん前にいると思うけど、万が一があるし………キューちゃん!」

「ああ、紫苑の守りならば任せろ。ただ、手加減はできんぞ?」

「それでいい。俺は前に行く」

さくっと方針を決めると、俺は前に出た。

つられたのか、蓮も前に出てこようとする。だけど俺はそれを、手で制した。

「ここは任せてくれてオッケー。見たところ、かなり疲れてるだろ?」

見たところ、渾身の一刀はあと一度か二度が限界だろう。

「ですが、一人ではいくらなんでも!」

「いや、一人の方がやりやすいから。その一刀は、最後のためにとっといてくれ」

つーか見知らぬ人と共闘する経験がマジ少ないんです。戦術に関しての互いの理解が少なすぎる。

ヘタすれば巻き込みかねん。


「じゃ、ちょっくら行ってきます」

「夕飯までには帰れよー」

「軽ッ!? って、ええ!?」


―――背後。蓮の声は、最早遠くなっている。

なぜならばここは懐。敵の集団の、真ん前だからだ。

そして取り敢えずの挨拶を交わす。

「風遁・大突破!」

チャクラは念入りに多めに。木々をも倒す突風が、全てを吹き飛ばした。

踏ん張ろうとしている奴もいたけど、無駄だ。左近と右近に、未だ消えぬトラウマを植えつけている俺の大突破に耐えられるやつはいない。

ともあれ、今重要なのはそれじゃない。

術を放つ前に見えた、死体の傷だ。

死体とはいえど、生前の傷は治せていないらしい。死んだから当たり前か。

その傷は、致命傷にならない程度の傷が多かった。マダオの教えが活きたのは、良かったのか悪かったのか。

―――本当に一時期だが、死体から情報をと色々な知識を仕組まれた。役に立ったのはこれが始めてだ。

マダオはまず顔を見ろと言った。死人はモノを語らないが、デスマスクには死の寸前の記憶が刻まれていると。

そして、この死体の顔は全て、どことなく顔が強張っているようにも見える。

傷を見れば、その関係性が垣間見える。どう見ても、獣がつける類の傷ではない。


あの悪意は、人間にしか出せない味だ。

そして、どの死体にも見える大きな傷痕。

「一撃で殺せる力持ってるのに、勿体ぶって痛ぶりやがったか」


言っている暇はない。現時点で20秒。

吹き飛んだ敵が後詰めの増員とあわせて戻ってきた。

数にして100。遠くからは、もっと多くの数の音がする。


まともにやればしんどいだろう。数は暴力だ。守るべきものが居るときは、特に厄介となる。

死なないように立ちまわることは可能だが、誰かを守るという前提があると途端に難易度が跳ね上がるのだ。


だから、ズルをする。


「風遁・大突破!」


相手にすれば厄介だ。ならば相手にしなければいい。

勝利条件にこの死体の殲滅は入っていない。ならば、まともに相手をする道理など何処にもないのだ。


「とはいえ―――そう甘くもないか!」

前方の敵は封殺している。だけど死体はどこからでも現れるらしい。

少数だが、右後方からやってくる気配を感じる。


「キューちゃん!」

「分かっておる!」


言うと同時、金色が流れた。

蓮の目にはそう見えただろう。それだけのスピードをもってキューちゃんは敵の懐に飛び込んだ。

そこから先は一秒に満たなかった。振りかぶった腕を真横に一閃。

まず背後にあった大樹ごと両断され、次に死体の上半身と下半身がお別れになった。

そして俺は三度目の風遁・大突破。愚直に突っ込むことしかしらない死体の群れは、まるで人形のように転がされていった。



「………発見した! 洞窟の前! 距離にして約1200!」

「了解!」

その返事を聞き、俺はクナイを抜き放つ。

投擲距離のみを優先した、特殊クナイ。それに札を巻きつけると同時、口に咥えた。


「方角よし――――簡易版・風蹴鞠!」

そして風の球を踏み、跳躍。木々の葉の幕をかきわけ、一気に森の上空まで上がる。

見えたのは森の全容。そこで目的地となる場所を見つけると同時、クナイを思いっきり投げつけた。


感触は十分。俺は落ちながら数を数える。

「5、4」

下には、想定通りの光景があった。

キューちゃんと、探索が終わった紫苑が協力して、結界術を使っているのだ。

強固な壁に阻まれ、敵はそこより内に入れないでいる。

「3!」

数えながら、四発目の大突破。問答無用の突風が、結界にまとわりついていた死体を吹き飛ばす。

結界が解かれたのはその直後だ。すかさず3人がいる場所に行き、印を組んだ。


「2、紫苑!」

「分かった!」

紫苑が地面を踏みつける。それは舞の一番最初の動作だ。

だけど発動するのは、結界術ではない。

「1、手を出せ!」

合図と同時に、手を出す。蓮は理解していないようだったが、反射的な行動だろう、言われるがままに手を出した。


そして、カウントはゼロ。

クナイが刺さった頃合いに、俺は術を発動した。



―――空間が歪む。

次の瞬間に見えたのは、間抜け面だった。


「――――はあ!? ちょ、お前、あの距離からどうやって!」

狼狽える男。カックの狼狽えた声に、俺は腕を組み仁王立ちで答えた。

「ワープです!」

「割れてないけど!」

紫苑の余計なツッコミに、俺はチョップで答えた。

そのやり取りに、カックは顔を歪ませる。


「なめやがって………だけど、無傷とはいかなかったようだな!」

視線がほっぺたに。主に引っ掻き傷とか、服がボロボロになっている所を観察されているようだ。

ちなみにキューちゃんと紫苑は視線の意味に気付いたのか、視線を逸らしている。


「ああ。で、この死体はお前が?」

問うと、カックは自慢気に笑った。

「ああ、凄いだろう? 大昔の死体、ここを探りに来た奴の死体………俺は、ここで死んだ全ての死者を操れるんだ」

もちろんお前も。言いながら、野郎は下卑た視線を俺ではない3人に向けた。

「そっちの二人は一度味わってから殺してやるよ。お前何かには勿体無い上玉だからなぁ。で、蓮は………俺のモノになれ」

「………お断りします。力で他人をどうこうしようなんて男に、付いていくつもりはありません」

「お前の意志は関係ない。大神様の許しもでた。俺の決定事項だ、お前の意見は聞いていない」

腕を広げて。まるで包み込むかのように、慈悲があるかのように言い放った。

「救ってやるよ。そしてこの村で永遠を生きよう。お前が横に立ってくれれば俺は無敵になる。
 さあ、一緒に行こうぜ。障害となるもの全部、俺がなぎ倒してやる。もう誰も泣かなくてすむさ」

「カック、あなた………」

蓮が息を呑んだ。その理由は、こいつの目にあった。

―――何をも疑っていない。遠い所で何らかの確信を得ている、そんな目だ。

これは盲信ではない、確信だろう。俺には到底理解できない、確信だ。

しかし、聞き逃せない単語がある。

「………永遠と言ったな。つまりお前は、人間の寿命をもコントロールできると?」

問う。会話に入ってきたのことを不快に感じたのだろう、その顔は憎悪に傾いた。

しかし、自慢はしたいのだろう。

「ああ。爺さん達を見れば分かるだろう? 寵愛を受けた人間は、特にだ。肉体の劣化速度が緩まっていく」

うれしそうに、意気揚々と答えを歌ってくれた。俺は特に別だと言いたいのか。

永遠を生きられる、つまりは神様だと主張をしているわけだ。

自らに神を名乗る。強者だと主張する。

ああ、こいつはおかしすぎる。

「………テメエ!」

「ん?」

急に激昂するカック。俺はわけがわからずに首を傾げる。

「とぼけてんじゃねえよ! 今から片されるゴミの分際で! なんで俺を鼻で笑いやがった、ああ!?」

顔は真っ赤だ。怒っているのだろう。それを見て俺は、肩をすくめた。

「うん、花粉が厳しい季節でね?」

思わず本音が鼻からこぼれ出ちまったんだ、とは答えずに。

オブラードに包んで答えてやるが、カックは益々顔の赤みを促進させた。

どうやら、更に怒ったらしい。

「………ろす、コロす、殺おおおおおおおおっす! さんざんいたぶった挙句にぶち殺してやる!」

カックが手を上げると同時、地面が揺らいだ。

「ここに来れた理由はわからねーけど、袋の鼠だってことには変わらねえ! 精鋭で一気に片付けてやる!」

言うと同時に、地面から新手が現れた。

それは先程までの、普通の一般人ではない。何よりその死体は、額当てをしていた。

「抜け忍と………小国の忍びか」

五大国のどこかの里を示す紋様は、みな傷がつけられていた。見慣れない紋様は、俺の知らない小国の忍びのものだろうか。

明らかに動きが違うのが分かった。チャクラに慣れているからか、肉体強化の度合いが格段に上がっているように見える。

馬鹿でかい量のチャクラがこめられているせいか、はたまた肉体的な痛苦がないからか。

その死体は、予想より一段上のスピードで襲いかかってきた。

クナイに拳。術こそは使っていないが、その速度は上忍に匹敵している。

体内門を開放しているようなものなのだろう。

筋肉が痛んでいるのは変わらない。だが、痛覚が無いのであれば問題にはならないということだ。

そして、それだけではなかった。

「俺も、いるぜぇ!」

カックがこちらに突っ込んでくる。速度は上忍と同等。

間合いに入ると同時に、腕を振りかぶった。

まるで見え見えの一撃。だけど俺は嫌な予感がして、そこから飛び退った。

カックの拳はそのまま、背後にあった大樹に当たった。

―――そして、樹は半ばから折れた。なんの抵抗もなく、大樹はその幹を折られてしまったのだ。

「………なんともまあ。それも、大神様から授けられた力か?」

「そうだ! その上、この力を使いこなせるのは、俺以外にいない!」

村の誰かの事を言っているのだろう。そして視線は蓮に。その力を自慢したいのだろう、見せつけるようにドヤ顔をしている。

まるで玩具をみせびらかす子供だ。

「その力は、どうやって得たんだ」

「大神様にさ! 祈りに応えてくれた! 俺の欲しいものは全て! そして今日、お前たちを捧げればさらなる力を得られる!」

「贄か供物か。お前はずっとそうやってきたのか?」

「ああ、意気地のねえオヤジ達に代わってな! バカだぜ、もらった力を怖がるなんてよぉ! 力なんてふるってなんぼだろうが!」

楽しいと、カックは笑う。その物言いはどこまでも自己中心的だ。

自分こそが世界。こいつは、許されると思っている。その力を考えず、ただ振るって、そして誰かを殺してきたのだろう。

村の外にも死の臭いはあった。隠しきれない血の臭いはある。物理的にではない、もっと別の何かだ。人が死んだ場所は酷く臭うから。

あれはきっと、こいつがやったものだ。あの看板の血も。嬲って追い詰めて、その挙句に殺したのだ。


「どうした! ビビりやがったか、羽虫!」


勝ち誇った叫びが聞こえるが、言葉はない。


――――もう、言葉がなくなったのだ。かける言葉が見つからない。

蓮に聞いたが、こいつも昔はまともな子供だったらしい。やんちゃで嫌味な所はあったが、人の道からは外れていない、どこか憎めない所もある男だと。

だから、我慢していた。


しかし、だからといって全てを我慢できるはずがない。


「………祈りに応えて、か。お前の神様はアレなんだな?」

「そうさ――――主様に応え、俺は力を振るう!」


言うと同時に、カックは号令を。

スペックの高い死体共が四方八方から一斉に襲いかかってくる。


腕を、足を狙っている。こいつらは牽制だろう。

その証拠に、目の前にはカックが迫っている。


「一撃で、逝きやがれ!」








● ● ● ● ● ● ● ● ●







目の前の標的は動かない。更に上がったスピードに対応しきれていないのだろう。

でも、油断はしない。死体の何匹かは壊されるだろうが、その隙を逃さなければいいだけだ。


振りかぶる。相手は動かない。

振りおろす。相手は動かず、そして拳が標的に――――



(え、は?)


次の瞬間、見えたのは青色だった。そして急展開。

木々が視界をものすごい速度で飛んで行く。

ぐるぐると回る視界。わけがわからないまま、気づけば背中を打ち付けられた。


「は、ぐ」


息ができない。次に分かったのは――――痛み。


「ぐ、ぎぃぃぃぃっぃぃ?!」


痛い。痛い。イタイ。いたい。鼻がイタイ。

まるで焼けた石を鼻につっこまれたかのように、熱い。


あまりの痛みに、何も感じられない。ぶつけた拍子に何かあったのか、耳鳴りがする。

苦しくて、苦しくて、地面をのたうち回るしかできない。


「お、おおおおおぉぉぉ」


何が起きたのか。鼻を抑えながら転がっているうちに見えたのは、地面に倒れている人形。

理解が追いつかない。俺は痛みの中、何とか前を見た。



そこには、拳を突き出した羽虫の姿が。


「………もういい。喋るな。語るな。囀るな。頼むから」


耳鳴りの中、その質が著しく変化した声だけは聞こえた。


「死んだ奴らも、それなりの理由があったんだろうさ。褒められない理由もあったんだろう。それをお前は殺した。

 ただ自分の快楽のために。満たすためだけに。彼らはもう、祈ることすらできなくなったな」


声は、違う。さっきまでとは全然。

それはまるで――――威厳に満ち溢れていた頃の親父のようだった。


「ああ、聞きたいことは全部聞けたよ。知りたいことも。必要な情報は出揃ったよ。だから………」


足音が、目の前に。男は俺を見つめていた。



「祈れ。生きている間にお前ができるのは、それだけだ」







● ● ● ● ● ● ● ● ●





「どうした、助けを呼べ。応えてくれるんだろ? ―――――早くしろよ」

本音の言葉と。

そして、挑発のための言葉を投げつける。変化は、劇的だった。

「て、てめえ………!」

「お前じゃ無理さ。何回やっても無駄だ」

強力な攻撃ほどカウンターを打たれやすいということ。その被害も大きくなるということ。

こいつは、それを知らなかったんだろう。なぜならばこいつがやって来たのは戦闘ではなく蹂躙。

数で圧し包み、消耗した所を痛ぶり、最後に殺すということだけ。

自分の命を天秤にかけていないものを、どうして戦いと呼べようか。それを経験していないこいつに負ける道理はない。

「ぐ、ぎぃ、なぁメんじゃねえ! さあ死体人形共、こいつらを殺せ!」

言うか遅いか、死体共がまた襲いかかってくる。今度は見境なしだ。

そして同時に、キューちゃんの舞結界が完成する。

「よし、紫苑は例のアレを!」

「了解! この規模なら………30分だ!」

「その程度なら余裕、っとぉ!」

会話をしている俺を、隙ありと見たのだろう。カックは起き上がるなり殴りかかってきた。

それでもそんな、予備動作が多きすぎる攻撃を受けてやる理由はない。余裕をもって躱しながら、また間合いを遠ざけた。

死体共も追撃してくるが、結果は同じだ。

ただ単純に、目的の箇所だけに視線を定めて襲いかかってくるので、非常に読みやすい。


それに囲まれたとしても、とっておきの術もあるから心配ない。


―――俺は常々思っていた。手裏剣影分身は応用できるんじゃないかって。

そして拳はもっと可能性があるんじゃないかって。


「一気にいけ!」


号令が聞こえ、同時に敵が襲いかかってくる。

そう、こういう時に役に立つ格闘術。


印を組む。そして突き出すは固めた拳だ。

そしてこの格闘術を、人はこう呼ぶ!


「カラデ流、全方位殲滅拳!」

「またマイナーなネタを!」


紫苑のツッコミが入るが、無視だ。ともあれ全方位に打ち出された影分身の拳はあまさず敵を撃墜し、吹き飛ばした。

そう、この拳に撃ち落せない敵は存在しない。

多重影分身よりも消耗が少なくてすむし、何気に使いがってのいい術なのだ。


ともあれ多用できる術でもないので、俺は一端退いた。

そこに、さらなる増援が集まってくる。

置いてけぼりにした先発の死体達だ。その亡者の群れは、一斉に俺に襲いかかってきた。


「行け! 殺せ! 羽虫を落とせぇぇ!」

カックが鼻を抑えながら叫んでいる。みれば、血はすでに乾いていた。

自己治癒の能力もあるようだ。だけど、それはこっちにとって好都合。

挑発を繰り返し、戦意を保たせたまま、死体に痛打を与えていく。

この亡者もある程度は自己治癒――――いや、自己修復か。

死んだ時の肉体程度には戻る力があるようで、なかなかその数は減ってくれない。


(だけど、乱れているはずだ――――これだけの規模の死体を動かすんなら)


カックは更なる数の死体を使役しようとしていた。

今や死体の数は、1000に匹敵しようかというほどだ。


「行け! ああ、数で押し潰せ! そうさ、こっちは死なないんだ、体力を消耗させればこっちのもんだ!」


死なぬのならば、死ぬまで。こちらが死なないのだから、勝てる。

結局の所、闘争の勝敗は生死によって分けられる。カックはそう判断して、更に数を増やそうとしているのだろう。

だけど、それは叶わない。戦い始めてちょうど30分、待っていた時間が来たのだ。


「………何!?」


カックもようやく気付いたのだろう。襲いかかってくる死体達、その動きが鈍っていることに。


「これは………てめえ、何をした!」

「俺は何もしていないさ。だけど、やっぱりか」


動きが鈍いということは、この死体達に流されているチャクラが弱まったということ。

―――ムダに消費されるのが、我慢できなくなったということだ。



「仕上げだ!」

まずは"舞台"を整えるべく、キューちゃん達がいる場所へと降りたつ。

周囲には死体の群れ。俺は影分身を三体、周囲に展開させて―――ー


「「「風遁・大突破!」」」

敵を吹き飛ばす。鈍っている死体達は、為す術無く吹き飛ばされていった。

そして影分身を時間稼ぎに、親指の肉を引きちぎり。

忍具口寄せで、巻物を呼び出す。


「それはまさか、口寄せとか言う術か!?」

「ああ、お察しの通り!」

驚いている蓮に答えつつ、巻物に血の一文字をつける。

「貴様、この期に及んで仲間を呼ぶ気か、卑怯な!」

ヒスを起こすカック。というか、それをお前が言うのかよ。


「俺は"そっちがそうするならこっちもそうしよう"の精神を守る男―――というわけで!」


予想通りの時間通り。


「いでよ、多由也にサスケ!」


ボン、という煙の音。

それが晴れた先には、呼び出した二人の姿が。


「呼ばれて飛び出て。ま、部下のためとあっちゃ仕方ねーよな」

「うん。で、腐れた狼はどこだ?」

すでにその体勢は戦闘のそれになっている。

多由也などは、母親を野犬にやられたせいか、やる気も十分だ。


「サスケは俺と前に! あとは………紫苑、多由也、頼むぞ!」

「了解だ」

「分かった! 紫苑、準備はいいか」

「ああ、やってくれ!」


まずは、多由也の笛が鳴った。

この術は、音韻術の極み、秘術・七音。

そしてその術を背後に、紫苑が舞う。


『―――ここに礼を一献。陰は印として韻に、陽は様として踊に』


柏手が打たれ、祝詞が歌われる。足が、手が、緩やかに軌跡を描く。


『舞い奉じて虚ろわざる龍に希う。どうか、その在り方が歪まされることのないように』


多由也の笛の音に合わせ、紫苑は舞う。全身から膨大な量のチャクラが溢れでている。

統制されたチャクラの動きは美しいの一言だった。


『天は転として移ろいゆくも、地は盤として移ろうことなかれ。全ては地より生まれゆくものなれば―――』


願いを叫び。そして、最後の一言が紡がれた。


『故に還られよ戻られよ。流れ行く命の、其の輪廻の音を絶やさぬために!』


ダン、と。

終わりを告げる韻、その足打ちが行われると同時、地面に不可視の波が走った。

まるで風。それはでも、清浄を呼ぶ風に違いなかった。

そして予想に違わず、効果はすぐに現れた。


「な………死体人形が!?」


カックの声が指す通りだ。死体人形は、次々に崩れ去っていった。

そう、輪廻を縛る理をなくしたのだ。やった事は簡単。

龍脈の制御を正常に戻したということだけ。それもまあ、紫苑だからこそできる離れ業なんだけど。


「やめろ………やめろ! 俺の力だ、俺の兵隊なんだ! なあ、行くなよ、戻ってこいよ!」


叫んでいるが、答えが返って来ることはない。なぜなら相手は死体だからだ。

死人に口はなし。世を去っていったものが、言葉を紡ぐことはない。

そして死人だからして、次の生に還っていくのだろう。

「ぐ、ぎ、ぃ…………ああ、俺の力も!」

カックの中にあるチャクラが減っていく。どうやら、こっちも戻っていくようだ。

「ああ、大神様! 大神様、助けてくれよ!」

叫んでいるカック。やってきたサスケはその姿を見て、あいつがと問うてきた。

「そうだよ。説明の通りだ」

「腐った野郎だ。どの口で俺の力なんて抜かしやがる。それに、祈りに答える神様なんているはずが…………!?」

サスケの言葉が中断された。

理由は、一つだけ。叫んでいたカックが、急に苦しみ始めたからだ。

その理由はすぐに分かった。

「チャクラが…………まさか!?」

「いや、来るぞ!」

身構えると同時、それは起きた。
まず、カックの目が代わった。変質し、赤くなっていく。

それはどこか、尾獣のものを思い出させた。
カックの意識はあるようだ。呻きながら、苦しみのたうち回っている。

「カック!」

「あんたらは………村長さん達か」

村人たちもいるようだ。
それでも、収まったようだ。カックはすっくと立ち上がり、こちらの姿を見つけるなり、告げた。

『………我の苦労を無駄にしてくれたな』

「お前が、大神様とやらか」

『あの人間はそう言っていた。それは正式な名称ではないが』

「あんたの名前に興味はないね。だから俺も名乗らない。それよりも今更、何をしにのこのこと出てきた?」

龍脈の制御は奪った。それはこいつが溜め込んでいた力の霧散を意味する。

全てが戻るにはある程度の時間が必要だろうが、それでも時間だけの問題なのだ。

『我には使命がある。我の元号は地狼。そして天へと至り、龍を滅ぼすものなり。ここで朽ちるのは許されない』

「その、使命って?」

『問われたのならば答えよう。あの、化物を。主達を苦しめていた怪物を――――今はあの天体に留められている絶対なる龍、十尾を討ち滅ぼすことなり』

「へえ、この程度の力でそれが可能だってほざくのか」

そもそも、まともに対峙して勝てる相手ではないのだ。対峙した事がある者ならば分かるはず。

「殴り合っても勝ち目なんかない。それをあんたの主は理解しなかったっていうのか」

『理解した。故に我が生み出された。そして我の役割は、敵対者にあらず』

ならば、どういうことか。一泊おいてから、こいつは告げた。

『我は絶対なる砲弾なり。チャクラを燃料に打ち出される渾身の一撃である』

「………は?」

『地に潜みて龍を制御しチャクラを喰らい、やがては天狼に至る。そして唯一無二の砲弾として十尾の芯に打ち込まれるのだ』

正しく一撃のみの必殺"兵器"だ。だけど、こいつは更に物騒なことをいいやがった。

『そして最後に、チャクラを火へと変換する』

「はあ!?」

『具現化した死を滅ぼすには、太陽をぶつけよう。そのようなコンセプトで作られたものだ。天の絶対を用いて、地底の龍を滅ぼす。故に我の名は天狼星。"焼き焦がすもの"、シリウスとも呼ばれる。
そしてそれは、成されなければならないことなのだ―――絶対に』

瞬間、地面が揺れた。

「………このタイミング、テメエの仕業か! 封印もまだ生きているってのに、今更何をしようってんだ!」

『それならば先日に完全に解除された。今までは個体名"ギン"に封印の要を移して壊してきたが、それももう無くなった』

「なっ………ということは、貴方がギンを!!」

『肯定する。操っていた。我の元も狼なのは好都合だった』

「………形代か。身代わりで、封印の対象をずらしやがった!」

ギンを末端にして、それを外部の要因に討ち滅ぼさせた。
その度に封印は誤作動して、徐々に緩まっていったわけだ。ある意味で身代わりの術だと言える。

『しかし、お前たちのせいで力が足りない。よって我は返却を要請する』

言うと同時に、村人達が苦しみだした。

膝をつき、その場にうずくまっている。

「お、大神様なにを………!」

『力が足りない。故に、与えた力を返してもらう』

「そんな! それでは約束が違う!」

『約束をした覚えはない。ただ願われたことは叶えた。だが、それが無期限だと言った覚えはない』

あくまで、淡々と。
告げられる内容は一方的なものだった。そこに、一切の人間じみた感情は含まれていない。

それに我慢がならなかったのか、意外な人物が声を上げた。

カックだ。

「大神様! 俺の力も奪っていくのですか! あなたは俺の祈りを受け入れて………!」

身体の制御の一部を奪い返したのか、訴えるような声が出る。

『何を言ったつもりもない。ただ必要であったから力を貸しただけだ。用が済んだ今、貸し与える理由も無くなった』

叫びが、徒労に終わった。

「でも力が、あの野菜を………あなたは私達に死ねと言うのか!」

『十尾の排除は最優先である。より大きな脅威を排除するのが賢人の勤め。我は主の遺志に従うのみである。コレ以外の手は、ないのだ』

その声はどこまでも無機質で。だからか、最後の言葉は酷く響いた。



『"仕方がない"――――お前たちの言葉を借りるならば、それである』


その言葉を聞いて。

村人たちの、口が閉じた。


『そしてカックなるものよ。お前の言うとおりである。十尾の被害と、この村の人数。どちらを優先するのが賢い答えであるのか』

「お、オレ様の命が一番重いに決まってんだろうが!」

『命に優劣はない。故に我は犠牲者が最小となる方法を最優先とする』


天狼は、止まらない。

誰も止められないのだろう。

すがっても、天狼から返ってくる言葉のことごとくが村人たちの芯を貫いている。

因果応報とはこのような事をいうのか。自分がしたことをされるだけだと、思ってしまったからには声も出なくなったのか。

一部の村人は違うようだが、それも無駄だ。

カックだけは今も泣き叫んでいるが、意味がない。


そもそもの“意志”。

恐らくは人間の感情を持っていないだろうこいつに対し、情で訴えても効果はない。


こいつはきっと神様なのだろう。少なくとも、人を理解するつもりがないという部分は同じだ。

故に慈悲を乞うだけでは道は開けない。

祈りに応えてくれる超常の存在など、この世のどこにも存在しないから。



「ああ。待っていても、奇跡は起きないよな」


「え?」


蓮が顔を上げる。


だが、そうなのだ。祈りを聞き届けてくれる神様なんていない。


縋って泣いてわめいているだけで、得られる道なんてない。


(そんな都合のいい存在など、夢の中にしか存在しない……)


だから、まあ―――いつもの通りである。俺はただ、問いかける。


「聞こうか。お前が発射されるまで何分だ?」

『すでに封印は解けかけている。もって9分であろう。そなた達は、急いで避難するが良い。発射の余波でこのあたりは灰燼と化す』

「そうか………湯をそそいでカップラーメンができる時間の、3倍か」


なら十分だな、と。

言うなり、俺は歩き出した。


村人たちをおいて、その場を去るために。


ここから先に行く所は、ひとつだけだ。



そして背後には、ため息をつきながらも、ついてきてくれる奴らが居た。











● ● ● ● ● ● ● ● ●








「さてと用意はいいか?」

「結界の配置は済んだ。止められはせんだろうが、勢いを減衰させることはできよう」

「もしもの時は俺の万華鏡でどうにかするさ。ああくそ、お前が絡むと事態が斜め上に発展しちまうよな」

「平穏を知りたい」

どこぞの死刑囚みたいに言ってやろうか。

「うん、それ無理だから。それじゃあ俺達も配置につくぞ。生き残れたら酒でもおごれ」

「ウチはラーメン券一週間分かな」

「ういー」

手をひらひらさせながら、配置につく二人を見送る。

振り返ると、蓮が驚きの表情を浮かべていた。

「か、軽いですね。その様子なら、勝算はあるんですね」

「いや、皆目分からん。やってみなければわからんレベル」

相手の力は未知数も未知数だ。情報が少なすぎて、勝算も生き残れるかも測れないぐらい。

でもここで退くという選択肢だけは、無い。

「どうしても止めにゃならんのよ。もしあれが人里に落ちたとすると――――考えたくない事態になる」

威力は分からんが、もし街の中で爆発すれば、一体どうなってしまうのか。想像を絶する数の犠牲者が出るだろう。

その後の事も問題だ。もしかしたら、どこぞの里の新忍術だとか疑われるかもしれない。それが原因で戦争が始まってしまう可能性もある。

月に届いたとしても同じだ。結果月が砕けるかもしれんし、何が降ってくるやらわからん。


「それに、あの天狼が"ここ"で落ちたのならな。約束の大半は果たせるだろうし」

「止める事が前提の話になるがな。輪廻に干渉している術式は、一部だが掌握できた。囚えられている魂も………と、それもコトが終わってからの話か」


時間がない。


下り坂になっているこれは、ある意味でカタパルトか、大砲の中だったのか。

この中を伝い、天狼は撃ち出されるのだろう。

紫苑の罠結界の設置はすでに済んだ。後は俺次第だろう。

「って、蓮。危ないから、外で待ってたほうがいいぞ」

「え………っと」

何やら煮えきらない返事。蓮は迷った挙句こちらに聞いてきた。

「あの、どうして。絶対の勝算はないんでしょう?」

「ああ」

相手の力は未知数。紫苑のおかげでその大半のチャクラは削ることはできたが、まだまだ残っているに違いない。

全力がわからない。それは、ヘタをすれば止められないということだ。

「なのに、なぜ? メンマさんはここに来たんですか」

止められなければ、死ぬ。死ななくても、再起不能の重症を負うだろう。

そうして、人が命を賭けるのには理由がいる。

「助けてくれるって言う。でも、メンマさんはここで命を張るような理由も………義理なんか無いはず」

それなのにどうして、と。

蓮の問いに、俺は端的に答えた。


「好きなのさ。死にものぐるいで自分を通している奴が。その他にも理由はあるけど…………それは帰ってきてから言うよ」


それだけを告げ、俺はその場を去る。


行くのは決戦の舞台。洞窟の中だ。暗い洞窟の中、下へと降りていく道を進む。

この下り坂は、まるで砲身の内部のよう。

そして半ばまで進むと、声が聞こえてきた。


『………問うが。そなたら、正気か?』

「はあ………また、似たようなことを聞く奴らだな」

ペインっつーか十尾にも言われたな、そういえば。

『我をとめるだと? 一体何が目的だ………ああ、輪廻の術式が狙いか。過去にも永遠の命を、と古い文献に導かれたか、この地やって来た男者たちが居たが――――』

「一緒にすんな」

そんなアホ達と。

「女子との約束は守らなけりゃならんだろう。好みのタイプなら、なおさらだ」


それが、一つ。これはキューちゃんも紫苑も同意見だ。

あの一刀を見た者として。受け止めた者とすれば、それに応えなければならない。


そして。もう一つ、理由がある。


「俺には、心の底から尊敬できる人がいてね」


そいつらは端的に評せば、バカだった。

イタチ然り。マダオ然り。長門然り。自分の命よりも優先することがあると、捨てることさえも厭わないであろう、正真正銘のバカだった。

自分よりも、誰かのために生きた。小狡く、賢しくは生きれない。


―――そんな、尊敬すべきバカであった。


そのバカ達が命を賭して何とか残した、平和へと続くかもしれないこの世界。


「壊させねえよ?」


赤髪の男が居たのだ。彼は最後まで自分の想いと信念を貫き通した。

金髪の男が居たのだ。おちゃらけながら、内心できっと苦しみながらも、俺を最後まで導いてくれた。

黒髪の男が居るのだ。途方もなく重いものを背負う覚悟をして、生き延びた今も悩んでいる。それでも、その真摯さは眩しくて。


「無駄になんか、させねえ。犬死だったって、言わせねえ」

『永遠の命が目的ではないと?』

「………永遠なら、もう持ってる」


何もかもを忘れて遊んだあの場所。鬼の国の公園。4人で座ったベンチの冷たさ。

マダオ、キューちゃんと3人で馬鹿をやりながら、色々な場所へ旅をした。

サスケ、多由也、白、再不斬。7人で過ごした隠れ家での生活は、それまでには無い事が多くて。

お袋、マダオ、キリハ。家族全員で過ごした、最後の夜はずっと胸の奥に。


「あれが俺の永遠だ。そんで、今も新しい永遠を生きてる。きっとこの先もずっと」


新しい3人で旅をして。網に戻って、馬鹿をやれる仲間も増えて。


「我も同じだ。与えられた永遠など要らぬ。全てはこの手でつかみとってゆく」


キューちゃんが俺の手を握る。俺も握り返す。


死んだって忘れないだろう。だからこれは、永遠なのだ。


ああ、そんな意味の無い永遠など要らない。

もしもらえるという権利書があったとしても、鼻をかんで捨ててやろう。



『しかし、十尾はその永遠を壊すものだ』


「それも気づいてんだろうが。今のこの世界に、まだ十尾は生まれて無いってよ。それでも発射を選んだ理由は何だ」


そもそもがおかしいのだ。十尾が生まれるには、まだまだ時間がかかる。

それなのになぜ。その問いに、天狼は声の質を変えて答えた。


『気が遠くなるほど、長く生きてきたのだ。主の願いは、真摯なものであった』


「それが無駄になるのが怖いか」


『十尾の可能性ならば、あの月の中にある。十尾を壊すのが、我の存在意義なのだ』


「させねえよ、って。そう答えればどうする」


『ならば、仕方あるまい』



返答と同時に、洞窟が揺れた。



『我は飛ぶ――――障害よ、共に星になるがいい!』



最後に残っていた封印が解けていく。力づくで引きちぎっているようだ。

まるで埒外の出力。


「キューちゃん」

「うむ」


キューちゃんが背後から抱きついてくる。


この期に及んでイチャついている訳じゃない。胸の感触が実にグッジョブだが、目的はそれじゃない。



「共に往こうか」

「ああ」


――――"人獣混合変化"と呼ばれる術がある。

木の葉隠れの犬塚の秘術だ。心を通わせた犬と術者が融合する、強力な秘術。


――――十尾をも退けた怪物がいる。

それは酷く、見覚えがあって。その果てに俺は肉体をキューちゃんに渡して、そして蘇った。


「術の肝は同調率」


そして、キューちゃんの肉体の元は俺のもので。

あの時よりずっと。交わしてきた言葉と心は、犬塚のそれをも上回る自信がある!



「忍法・口寄せ―――空弧変化の術!」



瞬間、世界が変質した。


そして、間もなく地響きが決定的なものになる。




『往くぞ!』



砲弾が放たれたのだ。道なりに張った紫苑の結界、強固も極まるそれが次々に破られていく。


そして最後の結界が壊れた。洞窟を埋め尽くすほどの巨大な砲弾が目の前にせまり、



『あああああああっっっ!!』



受け止めた。


その瞬間、腕が軋みを上げる。かつての十尾との決戦の時ほどの出力はないが、それでも元の数十倍はあるチャクラ。

強化した腕は尾獣でも殴りとばせるものだが、それでもこの天狼の勢いは凄まじかった。



『ぐ――――』


踏ん張っている地面は岩だが、それごと削られる。


圧され、押され、足の岩を砕きながら、気づけば洞窟の入り口まで押し込まれていた。



『あああああああっっっ!!』



それでも、何とか踏みとどまる。

ここを越えられれば、もう止められなくなるだろう。空中では踏ん張れない。

やがては押し切られ、体ごとバラバラにされるだろう。


そうなれば命はない。正真正銘、生と死の土俵際に俺は何とか押しとどまった。

出口まで、距離にしてわずか。その場所で天狼は止まっている。


しかし、勢いはまだ衰えていない。


『メンマ………!』

『まだだ! ああ、やれる!』


キューちゃんの声に応え、一歩。前に踏み出そうとするが、天狼は動いてはくれない。

予想以上の力だ。甘く見積もっていた自分に、舌打ちをせざるを得ない。


(くそ、でも他に方法は…………万事休すか………!)


死ぬかも知れない。


その思考が頭をよぎり――――そして、声は聞こえた。



「メンマ!」

「メンマさん!」


女性の声。それは、背後から。


後ろ目にでも見える、洞窟の外。すぐそこの場所に紫苑、そして蓮がいた。


二人は天狼の軌道上に陣取っている。


(馬鹿を――――)


するな、と怒りたくなる。死ぬ気か、と。


しかし、その続きは飲み込んだ。


ここは、無謀を怒る場面ではないのだ。


(ふたりとも、俺達が失敗すれば死ぬ気で)


命を賭けるという覚悟の証を見せられている。その目には疑いがなかった。

迷いがない。ただ、俺達を見つめるその目に揺らぎはない。


(――――何ともはや"いい女"だ)


そしてそれは、俺に付き合ってくれているキューちゃんも同じで。



だから、ここですべきことは、それではない。




「螺ぁ――――」




声と同時に、一歩。



「旋ん――――」




そして、もう一歩。




『な――――に!?』




更に、一歩。驚きの声を無視して、押し込んで。




為すべきことを。




男が、死にそうないい女3人を前にして、やるべきことは、二つだけである。

一つは、格好をつけること。

そして、もう一つは――――意地を貫くこと。



『馬鹿、なぁ!?』




片手で。押しとどめた天狼を前に。


搾り出したチャクラを出して固め、出して固め、固め固めて回しに回す。


その密度は途方もなく高く、色は黒くなって――――




「――――丸!!」





――――叫ぶと同時。




何者をも飲みこんで砕く、黒く巨大な螺旋丸を叩き込んだ。












● ● ● ● ● ● ● ● ●





「えっと………お姉ちゃん、その後のお話は?」

「それは、菜々香も知っての通りだよ」


メンマさんが"黒点螺旋丸"と呼んでいたあの忍術の威力は強すぎたのだろう。

紫苑さんの結界のおかげで村にまでは被害はいかなかったが、洞窟から吹き出た破壊の奔流は、周辺木々全てを吹き飛ばしてしまった。

でも、大神様は止められたのだ。そして、囚われていた魂は開放された。

その後にすぐさまに行われたのは、輪廻の正常化だった。



そして、予想外の。私にとっては奇跡と呼べるほど、嬉しいことが起きた。


『………返す、とさ。我もかつては雄だった、とか言い捨てながら』


約束とやらを持っていくと、大神様は最後に告げたらしい。

らしいというのは、私が泣きに泣いて聴覚も馬鹿になっていたせいだ。

輪廻天生の術というらしい。その理屈も何もかも分からなかったけど。


『感情がないってのはこっちの見当違いだった。あいつも、悪いことをしているという自覚はあったらしい』

長い時間を生きた影響だと九那実さんは言っていた。

そして、いつしか感情を覚えて、だからギンに嫉妬したらしい。

大神様は元は普通の狼で。主と過ごした記憶もあって、だからギンが羨ましくなって。

それでも、殺してしまったのはやり過ぎだったと。完全に取り込むのは避けていたらしい。


それが、他の死体達は生き返らず――――私の家族だけが生き返った理由だ。


そう、生き返ったのだ。

あの後、私の前に。あの日に死んだはずの私の家族が戻ってきた。

父さんと母さん、そして目の前にいる菜々香。みんな、あの時の姿のままで戻ってきた。


「お話はこれでおしまい。完全なめでたし………とも、言い難いけどね」

「うーん、そっかー。でもなんかさ。このお話って、なんかの物語みたいだねー」

「それはそうかもね。メンマさんは"平穏が知りたいです"って今もボヤいているけど」

あとは、"特異点とかマジ勘弁"と言いながら笑っていた。壊れていたともいう。

まあ、全治一ヶ月の重症を負ったせいでもあるだろう。一週間後には屋台を開いていたが。

「ねー、お姉ちゃん。お姉ちゃんがいつもお話してくれるお伽話とかは………きょーくん、とかがあるけど、このお話にもあるの?」

「………ああ、教訓のことね。あるにはあるかなあ」

菜々香に問われて、思い出した。最後にメンマさんと九那実さんと紫苑さんが言っていたこと。

「因果は必ず巡るって。良いことも、悪いこともね」

「いんが? めぐる?」

「祈っているだけじゃなくて。自分自身に諦めず、ずっと頑張っていれば………助けようっていう人が必ず現れるってこと。
 祈るだけで諦めて、悪いことをしてしまえば、いつか悪いことが自分に返ってくるってこと」

あの、激突の後――――村長さん他、村のみんなは一命を取り留めた。

身体も正常に戻ったらしい。

それでも村は元通りとはいかなかった。何より、殺人の罪が大きすぎたのだ。

そうして話し合いの結果、村のみんなは網に入ることになった。

その罪からか、きつい職場に回されている。公にはできないが、裁きは受けないと収まるものも収まらんと斬月様は言っていた。

リスクを背負う代価だ、とも。それでも、生きていけるだけの環境は整えられている。辛いだろうけど、死ぬことはないらしい。

ただ、カックだけは違った。
大神様の恩恵が強すぎたのが原因だろう。力が無くなった後、身体のバランスを崩して、その一週間後に呆気無く死んでしまった。

「……うん。仕方ないからって悪いことをしたら、それがいつか自分に返ってくること。
 だから菜々香も、お勉強をサボってギンと遊んでばかりじゃ駄目だよ?」

言いながら、頭を撫でる。それは懐かしい感触で、私は思わず泣きそうになった。

それを隙と見たのか、菜々香はさっと立ち上がって、

「やー!」

床に寝そべっていたギンの元へ走っていく。そのまま、ギンに乗って、外へ出ていった。

また、花火師の所にいる娘たちのところへ遊びに行くのだろう。


私はそれを見送りながら、また今度言って聞かせようと考えて、


「………教訓、か」


なんとはなしに呟く。あの時に感じたこと。

メンマさんが零した言葉。そして、ぶつかる前の話を思い出す。


奇跡は起きないと言った。それでも、奇跡は在った。

抗い続けた果てに、奇跡は起きたのだ。私が手を伸ばし、メンマさんが受け取ってくれたその果てに。

奇跡は、人が起こすものだと知った。



そして、あの話。記憶の中に刻まれた、消えない永遠。

そして与えられた永遠に意味はないと言った。永遠はすでに持っているし、これからも見つけられると。


掌を握り締める。



「奇跡も、永遠も。全ては、この掌の中にある」


簡単なことだった。全てはこれからの自分の中にある。未来の可能性は無限大で、頑張り続ければ奇跡も起こせるんだという。


それは教訓とも呼べない、当たり前のことで。


「なら、私も頑張って――――欲しい永遠を、掴みに行かなきゃね」


今も、私にとっての永遠は存在する。

義理の妹に、義理の家族。育ててくれた人達。そして、血の繋がった家族と。

すっかり意気投合し、今では家族も同然のつきあいをしている。




そして、もうひとつ。


「もうお昼か………うん、今日もラーメンって気分だね」


毎日とも言う。理由は、簡単である。

九那実さんと紫苑さんはまたジト目になるだろうが、負けない。



私は今日も、あの陽気な店主に会いに行くのだ。

いつかあの手を握るために。この手をぎゅっと、握ってもらうために。

辛いこともあるだろう。それでも、感じられるのだ。



その先には、きっと。


私が欲しい、素敵な永遠を手に入れられるだろうから。





























あとがき

完結編、遅れました。しかしこれは後日談というよりかは、外伝に近いような。劇場版?

ちなみに副題は「奇跡も永遠もあるんだよ」だったりします。

あとは、にじファンに投稿している分ですが、例の騒動の影響により、あっちの方は全て削除しました。

新しい編集も含め、全てこっちに移してます。新しく追加されたのは、幕間の「小池メンマ 対 桃地再不斬」かな。




[9402] 後日談の終 ~終わらない空に~
Name: 岳◆3d336029 ID:bba89979
Date: 2013/05/04 01:58
昼の休憩が終わり、店が暇になってきた時間のこと。

カウンターには何故か、網の部隊長殿が酒を傍らに突っ伏していた。


「………何があったの、こいつ」


非常に関わりあいになりたくないのだが、聞いておかなければならない。
ちょうど店に着ていた左近に聞くが、こいつも知らないらしい。

だが、イタチさんは知っていたようだ。


「昨日、多由也がな。火の国の城下町にいる音楽家からスカウトされたんだ。私達と一緒に、是非ともその素晴らしい演奏の腕を大きな舞台でと」

「あー、まあ多由也の腕ならなぁ。で、なんでサスケが凹むことに?」

「引きとめようとしたんだが、逆に完全に論破されたらしくてな」

言っちゃなんだが、サスケは多由也に惚れてる。水をかけても炎の勢いが増すだけなんじゃないかってほどにベタぼれである。
当然、火の国に、遠くにいかれるのは嫌だろう。

しかし、その音楽家とやらに問われたらしい。君は彼女の技術を知った上でそう言っているのかね、と。
チャクラは関係ない、技術としての事。サスケは戦闘や戦術の知識に関しては相当のものを持っているが、音楽に対しての造詣は深くない。

糞真面目な性格もあってか、下手な嘘をついて場を流すこともせず、ただただサンドバックのように滅多打ちにされたと。

「あー………まあ、専門家にはなあ。かけた時間が違えば、そりゃあな」

芸術は一朝一夕で身につくものではない。情熱を燃料に何年も没頭した上で、初めて大衆に見せるに足るものになるのだ。
何せ、人の心を動かすのだから。ある意味では狂気とも言えるほどの熱情がなければ、人の心は動かせない。

見せかけだけではない、根っこを揺さぶる程の。で、その音楽家とやらは世界でも有名な人で、サスケもそれは認めたらしい。

「だけど納得いかねえと。サスケが突っ張ってな。忙しい時期だし、取り敢えずは後日また話をすることになったんだが………」

「あー、分かるかも。ちょっといらん事言っちゃって、売り言葉に買い言葉?」

「その通りだ」

今でさえ恋人になっている二人だが、喧嘩はよくする。以前、秘密基地にいた時もそうだった。
大抵が、サスケの空気を読めない発言が原因になっていたのだが。

「で、凹んでると。真昼間から酒を飲んで」

「この状態のサスケを放っておくこともできなくてな………」

「久々の帰還だってのに、お疲れ様ですイタチさん」


イタチさんと菊夜さんは網に一時的に帰還していた。小雪姫の護衛が、一段落ついたらしい。

なのにこの部隊長の有様と来たらどうだろう。遠路はるばるってのにこの野朗は。

と思ってると、ざざっと登場する人物が現れた。


「話は聞かせてもらったわ!」

「………何してんですか、国主兼大女優さん」


見れば、小雪姫が腕を組んで仁王立ちになっていた。イタチさんをちらりと見るが、目を閉じてふるふると首を横に振られた。
いつもの事らしい。

で、サスケを指さして言う。

「そこの、器が小さくて情けない男!」

「いきなりズドンと来たな」

「あれ、富士風雪絵だよな………だよな………」

小雪姫を知らない左近が、若干引いていた。実はファンだったらしい次郎坊が凹んでいる。
俺もちょっと引かざるをえない。

だけどキューちゃんと紫苑は何故か、よくぞと言わんばかりにうんうんと頷いていた。

サスケは肩をびくんと跳ねさせている。どうやら狸寝入りしていたらしい、っていつぞやの我愛羅かこの野朗。

「ふん、ちょっと喧嘩したぐらいでなによ。酒に逃げるなんて最低よ、分かってるの?」

その後も、小雪姫の口撃は続いた。いちいち最もだが臓腑を鋭角からえぐり込むような内容に、サスケの身体がびくんびくんと跳ねた。
俺達は傍観していた。なんて言うか、魚みたいに跳ねるサスケが見ていて飽きなかった。

「で、サスケ。貴方はこのまま何もしないで引き下がるつもりなの?」

「っ、そのつもりはない!」

それだけは認められなかったのか、サスケが身体を起こし反論する。

真正面から小雪姫を睨む。しかし流石は大女優、真っ向から受け止めた上で、指を一本立てた。


「ならば、40秒で支度しなさい――――抗うために」









そして、その夜。灯りが映える夜の屋台に、多由也が訪れた。

盛大に落ち込んでいるという顔を隠す余裕もないまま、注文したラーメンを食べる。

「あー、お姉ちゃんせんせーさよーならー!」

「こ、こら! 夜、暗くなったら出歩くなって言っただろ!」

「えー、この人がいるもーん」

多由也の怒った声。子供は保護者らしい大人の構成員に連れられ、宿舎の方へと戻っていった。

「慕われておるの、お姉ちゃん先生」

「九那実まで………あーもう、柄じゃないってのに」


言いつつも、まんざらではなさそうだ。まあそうでなくては、子供の9割9分から好かれはしまい。

多由也は組織の子供達からは、口は悪いが面倒見が良い、優しい美人なお姉さんで通っているらしい。
からかいがいがあるとも。

よく店に来る、同じ保護者役の人から聞いた話だ。
メンマは、彼女にしかできない笛による精神治療という効果もあるだろうが、純粋な人柄によるものも大きいと見ていた。

時折りに見せる笑顔に、男児諸君がドキリとしているとか何とか。
昼にサスケが愚痴っていたことだ。


「あー………すみません、酒を」

「あいよ」


ラーメンを食べた後の注文に、何も言わずに最高級の酒を提供した。
九那実と紫苑が、サスケとはえらい違いだな、とか言っているが俺はおおいに肯定した。

野郎と美女。これは区別だろう。

だけどその主張に返された答えは、3つの噛みつき跡だった。


「いたた………で、多由也。サスケと喧嘩したってのはもう"網"中のうわさ話になってるぞ」

「ええぇ」


困ったように多由也。で、喧嘩の原因を色々と聞いてみた。

発端となったのは、音楽家。そいつは、はかなりの技術を持っていたらしい。
俺も、幾度かは聞いたことがある、著名な人物だ。

世界的に認められているとおもわれる。
そして提案されたらしい。忍術ではない、多由也の純粋な奏者としての腕を認めている。

ここではもったいないと。どうかもっと大勢の人間に聞かせられる場所に出てはどうかと、そう言われて。

「少し、心が動いたのは事実だけどな………」

「お主にとってはあり得んことだろうな」

多由也の言葉に返したのは、紫苑だった。だが正鵠を射ていたらしく、多由也も即座に頷きを返していた。

「なのに、あいつは………」

そこからは盛大なる愚痴大会になった。互いの不満点が出るやら出るやら。
女心はわかってないだの、鈍感だの、アホだの。

ていうか紫苑さんに九那実さん、すみません謝りますからそれ以上は勘弁してください。
割りとSAN値に影響が。最近、来る客来る客からの壁ドン床ドンが増えて大変だってのに。
特に蓮がたまに店を手伝いに来るようになってからは、その事態は加速した。

美人すぎる店主さんとして有名だったキューちゃんをかっさらっていった――――ように見えるだけだこのダアホ―――――事情もあって、壁ドンてーか嫉妬パワーが酷いのに。

そんなこんな話をしていると、噂の音楽家さんが店にやってきた。

年は40頃だろうが、独特の雰囲気を纏っていた。
今日は宿に泊まるそうで、明日には返事が欲しいと多由也に告げている。

「音楽家さん………明日って、今さ!」

「あ、すみません。この人、ちょっと心にダメージを受けているようで前後不覚になってまして」

多由也のフォローが入るが、違う。原因は―――――まあさっきの事も多少ではなくあるが――――そうじゃない。

俺は、内心でひどく焦っていた。まさか、こんな所でこんな顔に会うとは思ってもみなかったからだ。

だが、なんとか正気を取り戻す。


「お、なんとか持ち直したな」

「まあね。人のラーメンタイムを邪魔するとか、ラーメン伝道師にあらず」

「その心は?」

「うん、ラーメンを食べる時にはね。誰にも邪魔されず自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ。独りで静かで豊かで………」

「それ以上いけない」


なんやかんやで、場は賑わっていった。
音楽家さんも最初は面食らっていたが、どうしてか顔を少しほころばせて、アルコールに顔を赤くしていった。

そこで俺は聞いてみたのだ。音楽家さんが、この道に入ることになった切っ掛けを。

「………切っ掛け、か。そうだな、あれは今から何十年も前のことだったか」

当時、音楽家さんはあるチームに入っていたらしい。だけどもっと大きな別のチームに潰されてしまって、なんとか生き残ることができたと。
そうして、その業界に戻ることができなくなった音楽家さんだけど、当時のリーダーの言葉が忘れられず、別の道を模索することになって。
そして、元から才能があったという音楽の道でそれを成すことになったんだと。

「へー、波瀾万丈ですね。人生、山あり谷あり天国あり地獄ありといいますが………」

「いや、普通は天国と地獄には行かんだろ――――メンマ以外は」

「やめてよして触らないで汗が出るから」

目から汗が。
てーか多由也の言葉が今、俺の胸に必殺のサン・アタック。確かに地獄は経験したし、仮初の天国にも行ってきたけど。

この子、親友の白の影響もあってか、稀にだけど臓腑をえぐる言葉を吐いてくるんです。
そして頷くなよキューちゃんに紫苑に蓮よ。

「その、リーダーの言葉とは?」

「人は、誰かを想うことが出来ると」


言葉は濁されていた。しかし、言葉の欠片を組み立ててみると、何となくだが分かった。
人と人は分かり合える。共通する思いがある。だから、胸の内を隠すことなく晒せば、争いはなくなる。
あるいは、感動を。共感すれば、同じ人同士で、殺し合いをすることもなくなると。


そこまでわかると、俺の疑念は確信に変わった。まさか、という所だが間違いないだろう。

しかし、そんな背景があったとは知らなかった。
多由也やキューちゃんでも知らないだろうが、色々と知っている俺はこれ以上の深追いはやるべきではないと判断して。


だけど、どうしても聞いておきたいことがあった。


「ここ、"網"はどうですか」

「――――良い、場所ですね」


最近は、火の国でも噂になっているらしい。

左近を筆頭とした、重吾達の廃村復興や街道整理。

シンを筆頭とした、飢饉や戦傷が原因で、村や山賊に落ちぶれることしかできなかった村人の保護、救済。

サスケを筆頭とした、魔獣討伐や忍里との交渉。

構成員は尋常ではあらず、荒事にも精通し、だけど人に起きる理不尽を未然に防ぐ人の組織として。

構成員同士のやり取りも、幾度か目にしたらしい。とても忍術を扱い、武器にする組織には見えないと。


「昔を思い出しましたよ。ちょうど仲間たちが語った夢が、こんな風な…………」


そこまで言うと、音楽家さんは首を横に振った。飲み過ぎたと、苦笑をして水を飲み、心機一転と。
多由也に、是非ともにとプッシュを続けた。

多由也は慌てているが、完全な否定はできないようだ。実際、悩みどころだろうからな。

俺もいちラーメン家として分かることがある。誰かから言葉で、態度で、腕が認められていると示されるのは、本当に嬉しいのだ。
そのためにやっている訳ではない、自己満足な部分もあるが、認められるというのは何ともいえない高揚感を得られる。

だからこそ、もっと大きな場に出るというのも。
多由也も、より多くの人の心を音で癒したいという願望は、少なからず持っていると思うから。

加えて言うなら、音楽家さんが所属する楽団は全体的にレベルが高いらしいとのこと。

切磋琢磨は成長の助けとなる。ライバルがいれば余計にだ。
負けたくないという気持ちは、成長したいという気持ちの燃料と成りうる。

好待遇で、普通の音楽に携わっている人間であれば、一も二も無く頷くほどの。


――――しかし翌日、多由也は音楽家の申し出を断った。


だが音楽家も諦めておらず、一週間後にまた来るといって去っていった。

俺もその場にいたが、彼の言葉と眼光からは、半端ではない執着心が見て取れた。
それだけに多由也のことを買っているのだろう。

決めるのは本人だから、俺が何を助言するもない。夢に迷っていた子供はもう居ない。
どころか、俺でさえたじろくほどに立派過ぎる人間になった。
なにをも言えることはない。その権利も。あるとすれば唯一、あのアホのサスケだけだ。

だから、俺は日常に戻った。
左近と、廃村に出てくる高機動の魔獣の対策を考えていた。

「やっぱり、広範囲に渡る術とか有効だよな。でも火遁は森の延焼という問題が………」

「それなら、風遁・大突破とかどない?」

「ヤメロ」


そうして新しい術、『忍法・魔貫光殺法』を考えてた時に、やってくる人の姿が。



前触れもなく現れたサスケは、真顔のまま開口一番に告げた。



「バンドを、しよう」


「おい、唐突に何を」


「バンド名は、リトルバスターズ」


「聞けよ」


方方から苦情のお便りが寄せられそうな提案だった。小雪姫の"小"を取ってリトルってやかましいわ。
真顔でそう言われても、何がなんだか分からんだろうが。

取り敢えず小雪姫と相談した結果と、今に至った経緯を聞いて、要約した結果はこうだった。

――――男ならやってみろ。

――――男なら行動力。取り敢えずは動いてなんぼ。

――――さあ、音楽について勉強しよう。

で、実践派であるサスケは取り敢えずバンドを組むことにしたらしい。
俺は左近と鬼童丸、次郎坊と目を合わせながら、アイコンタクトをしながら頷いた。

ああくそなにこいつ、めちゃくちゃ面白え。


「でも、あのな」


だが、さっきから気になっている事だけは聞いておかなければならない。


「その、後ろで虚ろな目をしてるサイ君と蒲焼丸君は………?」

「サイもウナギ丸も、実に快く協力してくれてな」


らしいが、サイの隣にいる正気を保っているっぽいシンは、凄い勢いで首を横に振っていた。
恐らくは写輪眼による幻術だろう。唯一、シンだけは被害を免れたか。


「ていうか、一体なんのバンドをやるつもりだ」

「それは今から考える。問題は立つか立たないかだ。先生はそう言った」


あ、駄目だこのサスケ。わかりやすいぐらいに暴走してる。さすが、口車に一番乗せられやすい男ナンバーワン。

先生らしい小雪姫の熱弁を、全て素直に受け止めたようだ。根が真面目ってのもあって、極端から極端へと爆走してはるで。


「心配するな、モノなら用意してある。お前が言っていた和太鼓っぽいものと、笛とか」

「………そんな楽器で大丈夫か?」

「大丈夫だ、問題ない」

自信満々だが、問題ありすぎだろ。それじゃお囃子バンドじゃねーか、祭りでしか出番ねーぞ。

「いけるさ。お前が言っているギターらしきものも発見した」

「それ、ウクレレだから」

ずい、と目の前に出されてもなんというか、その、困る他ないというわけで。

本格的に逃げ道がなくなってきた。なので、俺はシンにアイコンタクトで告げる。


(行け、やれ、弟の仇をトルノデス)

(いや、死んでないから。此処で仕掛けたら、俺が死ぬから)


ちっ、役に立たない奴め。ていうか本格的に逃げ場がなくなってきたな。

というか、主に誰に聞かせるつもりなんだ。聞くと、当たり前という風にどや顔で多由也に、とか言ってきた。


「あー………まあ、そうだよな。で、ライブの日は?」

「一週間後だ」

「できるか!」


てめ、音楽家を舐めんじゃねーぞ。どう考えも一週間で人に聞かせるレベルになるわけねーだろうが。

怒りながら言うが、サスケは舐めているつもりはないと言った。


しかしそれでも諦めないと、綺麗な目で言う。ちょー面倒くさい。


「確かに、駄目かもしれない。だけどやってみなければ分からない! そうさ、探さなきゃ見つからないんだ!」

「自分の眼鏡が?」

「違う!」


ビ◯ョン・眼鏡じゃないらしい。多由也に残ってもらう方法を、とのこと。

別の方法でもあるんじゃねーかと言うが、サスケは聞いてくれなかった。

ていうか、こっちの言葉を受け入れるつもりがないようだ。ああ、グッドバイ・コミニケーション。
―――あれほんとはグッドアイ・コミニケーションらしいけど、こいつの写輪眼がフシアナさんになってる今だと、グッドバイで正しいだろう。


「サイとドジョウ丸はバッドアイ・コミニケーションをされたようだけど」

「何か言ったか。いや、今は返答を!」


滅茶苦茶に本気だった。嘘偽りなど欠片も見当たらないサスケの意志は、まるで鋼鉄のようだ。

それこれでもかと叩きこまれた俺は、力一杯に胸いっぱい、肺を振り絞った挙句にため息をぶちかました後、たっぷり40秒は顰め面をした後に答えた。


「――――分かった、協力しよう」








そこから先は、思い出したくない。というか、教える者もいない音楽初心者がどうなるのかは、言うまでもないことだ。
だが、執念があった。俺も出来る限りの事をやって、サイも協力してくれた。
ウナギ丸が一番才能があったのが業腹だが、それはここでは言うまい。

あるいは、サスケと多由也の正念場になるかもしれないと思った俺は、キューちゃんに半ば店を任せた。
本当に、今までは絶対にやらなかった事だが――――この二人のことだから仕方ないと思った。

ある意味で、キューちゃんと紫苑の修行的な意味もある。そうして、練習に練習を重ね、サイとウナギ丸と相談して。



そして、運命の日はやって来た。



「――――よう、多由也。来てくれたな」

「………久しぶりだな。それで、見せたいものって何だ」


集会や多由也の演奏会用に建てられた講堂の中で、多由也と再度来訪した音楽家を呼び出したのだ。

その多由也は、少し気まずそうにしていた。
灯香さんと紅音―――残月から聞いた話だが、どうにもこの二人は一週間ほど会話らしい会話もしていなかったようだ。
あまり外面には疲れをみせない多由也だが、今ははっきりと元気が無いのが分かる。

子供達もお姉ちゃん先生に元気がないと心配していたから、よほどだろう。

やがて、その眼が俺達をとらえると驚きに変わった。


「――――行くぞ!」

「「「「「応!」」」」」



ここまで来たからには、やってやると。俺達5人の心が一つになった瞬間だった。
















何て、馬鹿なんだろう。ウチは知っていた。

サスケが頭が切れるのに実はバカなことは知っていたが、ここまでとは思っていなかった。
じっと、二人で演奏を見つめる。音楽家も、演奏を見ながら質問をしてきた。


「どうして、笑っているのですか」


横目で見ていたのか、音楽家さんの声が。ウチはすぐに、肯定の意志を示す。

ああ、酷い演奏である。リズムもバラバラ、音階が外れている楽器もあるし、ミスも多い。
一週間だから当然だろう、相応の。


だけど、可笑しくて笑っているのではない。
人は、嬉しい時には笑うものだ。

「断った理由。あの時は言わなかったけど、2つあるんだ」


事を荒立てたくなくて、だから。しかし、ここはもう言わないままではいられない。


「アンタの理想は立派だ。間違ってない。だけど、それはウチのやりたい音楽じゃないんだ」


胸の内を晒し合い――――腸を見せ合い、分かり合う。だけど、ウチはそうじゃないと思う。

確かに、隠し事をしなければ、人は知り合えるかもしれないけど。


「でも、人は違うものだ。同じ事に対して何を思うか、それは人によって違う」


知り合っただけでは、分かり合えないことがある。

例えば、自分を産んだ母について。誰しもが同じ価値観を持っていることはない。

ウチのように、本当に大切な失いたくない人だったと思う人がいる。

だけど、色々な人間がいるのだ。過去に死に、話さえできなかった人間もいるだろう。
あるいは、酷い仕打ちを受けた人間も居るだろう。

同じことを見せ合ったとして、全てが分かり合えるとは思えない。

人の心を読んでも、それは本を読んでいるのと同じだ。
大切なものは、人それぞれに違う。それが何なのか、分からないし全てを分かり合えるとも思わない。

他人は所詮、他人でしかないのだ。

寄り添えるかもしれないけど、人は自分の足で立つしかない。

争いも苦境も、後悔もあるこの世界で。


「だからこそ、ウチは笛を吹く。分からないから、音に乗せて曲を謳う」


希う。

だって、ウチは思うのだ。人と人は異なっているのが前提で、だからこそ曲を。

日常を、自然を歌ってもいい。恥ずかしいけど、恋愛を奏でてもいい。だけど、根底にあるのは祈りだ。

解釈も様々で、同じ曲に異なった感想を抱くものも居るだろう。だけど、どうかウチの曲を聞いて。


「少しでも、悲しみが消えますように。明日を、幸せな気持ちで向かい合えますように。添え物だっていい、少しでも笑ってくれれば。
 ………戦争の根絶なんて、大それたことは前提にしない。ウチは、人のために音を奏でる。少しでも、幸せな気持ちに――――人を殺そうなんて思わなくなってくれれば」

例えばそう、目の前のサスケのように。本気であるサスケを助けようと、協力してくれた4人のように。

助けになればいいのだ。その同道で、共感しあうのもいい。同じ曲を好きだと行って、語り合えば少しの共感に繋がっていくから。

メンマさんも、同じ思いを抱いているのだろう。言葉にはせずとも、分かることがある。

腸を見せ合わずとも、共に歩くことはできるのだ。


それこそが、形にならない。日々の音楽と、鼓動の音が2つ。


曲ですらない、人が足掻くという音韻術。


その名も、秘奥・八音。

メンマに曰く、『エイト・メロディーズ』らしいが。

それを途絶えさせるつもりはない、ずっとこれからも奏でていくべきものだと思うから。


「ならば………貴方は私の音楽が、方向性が。間違っていると、そういうのですか」

「まさか。アンタの音楽は否定しないし、できよう筈がない。本当に立派だと思うぜ――――でも、ウチにはウチの音楽があるって、それだけだ」

「否定はしないが、正しさを曲げるつもりはないと?」

「ウチはウチの正しいと思うように演奏する。だからってアンタの正しさを否定できるわけないだろ」

「それでも、自分の正しいを譲らないと?」

「いや………自分の正しさなんて誰かに迎合して曲げるもんじゃないし、預けるもんでもないだろ」


正しさは仮託するものじゃない。自分で考えて、自分の両手で抱くものだ。
そうして行動した結果を受け入れることも。
それを誰かに全て渡して、責任さえも擦り付けるのは間違っている。

ウチは、かつて間違えた。生きるために捨てて、血に汚れて、その責任さえも誰かに。
気づけば、音にして受け継いだ母の"正しい"も血に汚れていた。

仕方ないと思って――――だけど諦めるのは、無責任だと知ったから。


「しっかりと抱いていくよ。だから、あんたと一緒に行くことはできない。これが音楽性の違いってやつかな?」

「…………………そうですね。そうかも、しれません」


音楽家は、帽子を深くかぶり。眼を隠すと、すみませんとだけ言った。

謝ることはないのに。そう言うけど、返ってきたのは苦笑と、そして質問だ。


「そういえば、もう一つの理由は?」

「あの、サスケがな。ウチがいなくなると、絶対に泣くから」


自惚れではないけど、きっとそうだろう。この行動を見ても分かる。朝も昼もなくなるんじゃないのか。

――――ウチと同じで、なんてのは絶対にあいつの目の前では、口に出してやらないけれど。


「似たもの同士だからこそ分かる、ですか。いや、ごちそうさまでした」

「………ウチの言葉、ちゃんと聞いてたかおっさん」

「これぐらいの仕返しはさせて下さいよ」


言うと、音楽家はくるりと入り口の方を向いた。


「なんだ、行くのか」

「ええ。お邪魔虫は、さっさと退散するとしましょう。馬に蹴られて死んでしまわない内に」

「おい、おっさん!」

「それでは、これで―――――――どうか健やかで、美しい音楽家さん」


歩いて去っていくのと、曲が終わるのは同時だった。サスケがドヤ顔でこちらに歩いてくるのも。

そうしてサスケは、音楽家さんの背中を見ながら言った。


「ふむ。どうやら、俺の演奏に恐れをなして逃げたようだな」

「いや、まあ………下手だったけど、そうだな」


違う、とも言いがたい空気だ。しかし、このアホはとんでもないバカだけど、人のために何かを出来るやつだ。


「なあ、サスケ。ウチが居なくなるのは、嫌か?」

「当たり前だろ」

「行きたいんなら好きにしろ、なんて言ってたくせにか?」


売り言葉に買い言葉だってのはわかってた。

だけどと、サスケが言う。


「俺には、音楽の知識はない。演奏する人の気持ちも、夢も分かるとは…………だから、お前にとっちゃそっちの方が良かったんじゃないかって」

「だから、自分も音楽をしようって?」

「そうすれば、多由也の気持ちが分かるんじゃないかって小雪姫に言われてな」

「………バカ」


大馬鹿野郎である。ここで他の女の名前を出すのもそうだし、何より腹が立つことがあった。
ウチは、言って欲しかったのだ。こいつがここから出て行くわけないって、あり得ないことだって否定して欲しかった。

お前の隣を離れることなんてないのに。


ほら、そうだよ音楽家さん。


これだけ長く、近くても全部を分かり合えない。だからこそ、人ってのは難しい。


「何だよその顔………で、多由也。俺達の演奏はどうだった?」

「20点って所か。つーかお前が一番下手なのな」


正直に告げると、サスケは壮絶なショックを受けていた。顔が土気色になって、シュンとなって落ち込んだ。

ウチはたたみかけるように、これから練習を、厳しくいくぞと。


だけど、その前に罰ゲームだと言う。


「顔、上げろ」


そうして見えた顔は、子犬のようで。いつぞやの雨の時と、変わっていなく。

そしてウチは自分の両手で皿を作り、ついと持ち上げる。


「これ、覗き込め」


サスケは言うとおりに、素直にウチの両手へと顔を落とした。

本当に、昔から素直過ぎて怖いのだコイツは。小雪姫の口車に乗ったのもそうだ、こいつは純粋過ぎるのだ。

だからこそ、お仕置きだと。顔を落としたサスケの頬に手を添えて。

荒れている唇に、ウチの唇を重ねた。













「エンダァァァァーってか? て、何で泣いてるんだよウナギ」

「うう、心の底から羨ましい。俺にもあんな彼女がいれば………っ」

「ならせめて落ち着きなよ、ウナギ………ってあれ、メンマはどこに?」







外野の声は無視して、ウチはたっぷりと1分、サスケにお仕置きをかましてやった。



































「よっと、追いついた」

「君は………さっき、和太鼓を叩いていた、ラーメン屋の?」

「もう一回遊べるドン! じゃ、なくてな」


音楽家の前に降り立ち、言葉をかける。すると音楽家は意外そうな顔でこっちを見てきた。

隣にいる、赤い髪の女ボスの姿を見て驚いているようだ。


「もう諦めるのか? あれだけ執着していたのに、随分とあっさりだな。それに、何で下を向いて歩いている?」

「………彼女は正しいと、そう思ったからさ。聞きたいのは、それだけかな」



それならこれで、と。

すっと、俺の横を通って後ろに。去っていこうとするその背中に、告げる。




「この組織を創設したのは、長門だ」




ぴたり、と。音楽家の歩みが止まった。




「先代の斬月と、長門が網を作った。理念もな」


「………何故、僕にそれを聞かせる」


「生き残りがいるとは、思っていなかった。長門も、俺も」


いつぞやに十尾の中で見せられた記憶があった。弥彦と小南、そして長門が創設した、ダンゾウと半蔵に潰された組織の中の人間。

その中に、この音楽家の顔があったのだ。



「弥彦の想いに共感した、長門が。果ては忍里の争いを、根深い恨みの大半を晴らした」


つらつらと、語っていく。


全ては、弥彦という少年から始まったこと。長門が受け継ぎ、そうして成した一大計画の結果を。

世界は急速ではない確実に、徐々にだが良くなってきているのだ。

音楽家は何もいわず、黙ったままその場に立ち止まったまま俺の話を聞いていた。



そして、最後に言う。


弥彦の想いは。そしてアンタ達の戦いは、無駄にならなかったと。


音楽家は、ただ―――――そうかと、だけ呟いて。


少しだけ、上を。前方の空を見上げるようにして、去っていった。


「………これで良かったんだな」

「わざわざすまんかった。説得力にさせちまって」


嘘ではないと、信じさせるための今代の斬月だった。役割はきっと、果たせたのだろうけど。



「あの音楽家、これからどうするつもりかな」


「分からん。でもまあ、悪いことにはならないだろうさ」


多由也に拘っていた理由はきくまい。だけど、その道は諦めたようだ。だけどきっと歩いて行くのだろう。変わらずか、あるいは少しでもいい方向へ。

死にかけても忘れなかったという、あの言葉が本当であれば。


「好きに生きるだろうさ。自分が正しいと思う方向に」

「そうだな。各々が好きなように、歩くか。私と、お前と同じように」

「人の生とは、一冊の本を書くが如く。だけど縁があれば、また会うことになるさ」


これからも俺は、俺の望むがままに生きるだろう。

至高のラーメンを、食べた人が幸せな気持ちで帰途につけるようなラーメン屋を。ラーメン開発の日誌を、キューちゃん達との生活の日々を。

サスケも、平和を守るために戦うだろう。生き残った兄と一緒に、手に残った赤の陽だまりと手を握り合って。

再不斬は、里を正しき形にするのだろう。白が抱いている悪夢を消し去るのと同じで、これからの良き夢を霧の忍者に見せるために。

シンとサイも。左近達も、いつかは故郷を復興させたいと奔走している。

キリハやシカマルといった木の葉隠れの忍者達。我愛羅にテマリにカンクロウといった砂の忍者達。

聞けば、他の里も同じらしい。弥彦から長門に受け渡された願いは、これから形になっていくのだろう。


「誰も彼もが、戦っていくか。昔から今になっても変わらず、明日のために」

「一人じゃ、何もできないぐらいに弱いだろうけどな」


敵は自らの中にいる悪意だ。憎悪、嫉妬、疑念、欲望、ありとあらゆる負の思念だ。

だけど、忍者はそれに抗うための目に見えない武器を持つようになった。

痛みを知ったのだ。眼には見えないが、確かにそこに剣は残っている。

モノじゃない。形にはならない。だけど、そこにはあるのだ。

長門が残していった、誰かを思う“痛み”という名の剣が。

中にある、人の良き心も――――誰かを信じるのには、十分なほどに。


だから忍者は、そして普通の人々もこれからは選択し続けるのだろう。

自分の生活という本の中で、願い生きるのだと思う。

苦境はあろう。魔獣の脅威は消え去ってはいない。様々な難題も抱えている。

未来永劫、平穏無事にというのは不可能だろう。


――――それでも、だ。



「人の目に見えなくても。世界は、想いという名前の言葉で繋がっている」


感情を、感覚も、想いという名の言葉を元にして。

だからこそ、本は孤独にならない。繋がり、連なりあって次代へと続いていく。

紡がれていくのだ。誰も彼もが幸せになる物語を目指して。


「俺も、そう長くは生きられないだろうけどな」

「メンマ………」


いずれその時はくるのだ。身体を構成したとしても、ボロは出る。人は永遠を生きない、いつかは死ぬのが当たり前だ。

キューちゃんも同じだろう。紫苑も、蓮だってそうだ。人間と同じになったからには、いつかは時間に死ぬ日が来る。

だからこそ、必死になって生きていこうと思うのだけど。


「と、噂の人物が来たぞ。何やら怒っているようだが………そういえば、長らく店を離れていたようだな」


それが原因かと、紅音はささっと俺から離れた。そのまま、自分の職場へと帰っていった。


「ちょ、ま、紅音ちゃん! どうか説得をお願いします!」

「やらんよ。それに、説得は無理だ。いったい何年の間あの二人から離れていたか、分かっていないお前でもないだろう」


手を上げて、去っていく。直後に、腹に体当たりを受けた。

なんとか受け止めて、転ばないようにする。見下ろすと、噂の二人がこちらを涙目で見上げていた。


「あー………元気?」

「元気、じゃないわ馬鹿者が!」


怒られた。演奏の後、もしかしたら少し遅くなるかも、との置き手紙が悪かったらしい。

その上で出口付近に居るのだから、とほっぺたを抓られた。


「ま、またっ、何処かに行かれたらどうしようかと………っ!」

「………キューちゃん」


キューちゃんの肩は震えていた。そういえば、戻ってきてからはずっと一緒だった。

朝も昼も夜も。最近は離れている時間も多かったが、その前まではいつも隣に居た。


「そうじゃ! ずっと一緒だと、そう言ってくれたではないか!」

「紫苑………」


紫苑も、旅についてくると言われた後はずっと一緒だ。

どこにいくのも、何をするのも隣で。


「受け止めるって、言ってくれました」

「いや…………うん、言ったな」


言い訳はすまい。確かに、俺が言ったことなのだ。

というか、こうも泣かれたままには心が辛すぎる。泣かせたのが自分だと思うと、余計に辛い。

だから俺は、ごめん悪かったと素直に謝るが、許してくれなかった。

取り敢えず、今夜は会議らしい。議題は、言うまでもないだろう。


「よし、そうと決まれば…………っと、その前に多由也から伝言じゃ。今後はウチがビシバシと仕込むから覚悟しろって」


そして、この3人も参加することにしたらしい。いずれは網で音楽団をつくるとか何とか。

いや、これ以上はちょっと勘弁して欲しいんだけど。どうにも、こう、才能の無さを痛感させられるというか。


「でもまあ、取り敢えずは打ち上げだな。おばちゃんとこ貸しきって、宴会でもするか」

「ふむ、メインディッシュは?」

「ラーメンです」


何を当然のことを。

それにあいつら、普段は厳しいにも程がある訓練してるから、結構な量を喰うのだ。何も問題はない。


「小鉄達と、ウタカタ達も呼ぶか。左近も戻ってきてるだろ」


最近は、下の妹がハンさんと仲良いらしいし、そっちも。

あと、白のウエディングドレスを作ってくれた人も。色々と、頼まなきゃならんことがあるし。


「仕込みは手伝うぞ」

「助かるよ」


歩きながら、笑いあう。そしてふと、思い出したように質問をした。

隣にいる、3人の女性に。

出会うことになった切っ掛けはわかっているが、今も一緒にいるようになったことは、何だったのだろうと。


キューちゃんは、言った。

「ずっと、私の名前を呼んでくれた。九尾ではなく、九那実とな」


紫苑は、言った。

「命を賭けて怒ってくれた。死にかけても、会いに来てくれた」


蓮は、言った。

「お二人ほど、大きくはありませんが。全て受け止めてやると、そう言われましたから」


なんというか、照れるよりほかにない。

とはいっても、彼女達が特別なわけではない。普通の人なのだ。

出会いは、特別だったかもしれないけれど、思うことは普通の人間と変わらないからで。


だからこそ、暴走してはいけない手前、全力で自分を律しているのだけど。

好きだからこそ、問答は無用で。例え3人であろうと、全員を好きになるのなんて仕方ないだろうとの問いかけに――――風に乗った声が。



『いやいや、もげもげもげろの三連呼だね。うん、万歳三唱しながら?』



「――――え」



立ち止まり、振り返る。しかし、そこには誰もいなかった。


「どうした、メンマ」

「いや、今ちょっと」


マダオの声が、と言おうとする。だけど首を横に振って、また歩きはじめた。

まるでダメなオッサンで、まじでダチだった親父。いつかは転生し、この世に降り立つのだろうけど、それは今じゃない。

託された願いも、力もあるのだ。



「俺達ならやれるよな――――――マダオ」



呟く。そう、俺にも出来ることはあるのだ。そうして動き、次代に繋げていくことが。

ラーメン屋としての自分。

小池メンマのラーメン日誌を書きながらも、誰かと手を取り合い、人が自分に負けない世界を作るその手助けを。


せめて戦争が少なく、憎しみの連鎖が酷くならない世界に近づけることができる。


想いと共に、戦い続けることはできるのだ。ラーメン屋と、世界の平和、2つではあるが方向性は同じだ。

全然辛いことでもなんでもない、だからこそだ。


マダオとの日々、約束したことを忘れたことはない。楽しい記憶に楽しい夢、それを途絶えさせるつもりはない。

そして三代目火影が、うずまきクシナが最後まで願ったように。



弥彦が想い、小南が頷き、長門が世界に発信したこと。



―――――誰も彼もが幸せになる、そのために。




いつかは、きっと昔の夢さえも飲み込んで。


誰もが、明日はきっと良い日だと、そう思える世界のために。





「行くかぁ」






見上げた空は、いつの日と同じ、変わらずにただ青かった。






















































「長斗ー、見つかったか?」

「いや、まだだけど………矢彦、これじゃない?」

「もう、そっち探し終わったんなら、こっちも手伝ってよ矢彦」

「あ、わりい胡南。でも、長斗が見つけたそうだぜ」


古い古い、建物の中で。

取り壊すまえに、探してほしいものがあると頼まれた僕達は、瓦礫を撤去しながら目的のものを探していた。

木箱に入っているらしいが、きっとこれがそうなのだろう。

中身は教えてくれなかったが、宝物なんだとか。



「開けるよ、いい?」

「おっし、どんと来い!」

「もう、また無駄に自信満々なんだから………」


幼馴染の声を聞きながら、箱を開けた。

見えたのは、巻物らしきものと――――写真。



「これ………もしかして、結婚式?」


見れば、綺麗なウエディングドレスを来た人が居た。

金色の女性は、どこかラーメン屋さんの久那妓さんに似ている。
亜麻色の髪をした人は、巫女のカスミさんに。
黒い髪の人は、侍部隊の芙蓉さんに。

真ん中に居るのは、赤い髪の、なんていうか普通の人だった。
だけど、三人のお嫁さんらしき人たちは、綺麗な笑顔でその男の人の腕に、自分の腕を絡ませていた。


「おー………美人」

「もう、矢彦ったら!」

「あだだだ、耳引っ張んなって胡南!」

「いやでも、確かに美人だよ。こっちの人も」


腰に笛を持っている、赤い髪の女性が。
隣にいる男の人は、どことなく鳶丸大将に似て女性にモテそうな顔をしていた。

赤い髪の人は、照れくさそうにしながらも大将に似ている人と腕を組んでいた。

大将に似ている人はといえば、凄く緊張しているのか、身体を硬くして背筋をピンと張りながら立っていた。


周囲には、大勢の人がいた。強面の人から、綺麗な黒髪の女性、そして様々な人たちが。

中心に居る人達を囲むように、一枚の写真の中に収まっていた。


―――いいな、と。見ているだけで、この場の空気が感じ取れるような、それは幸せな写真だった。

いつかは僕もと、そう思わせてくれるような。


「っと、やべぇもうこんな時間が。見つけたんなら、戻らないと」

「あ、そうだね。午後からは訓練があるし」


矢彦の言葉に頷き、立ち上がる。

世界は、平和になったと言われている。でも、いつまでもそうとは限らないのだ。


「だけど、何時また戦争が起こるか分からない」

「そうだね、胡南」


だからこそ、僕達が頑張って、いずれ起こるかもしれないけれど、防ぐために頑張るのだ。

多くの"網"の先達がそうしたように。


「――――もう二度と、あんな事が起きないように」


子供の頃からずっと一緒にいた、矢彦と胡南を見ていると、何故か言葉が出てきていた。

「………長斗?」

「って、何を言ってるのかな僕は」

「この家の埃のせいかもな。って二人とも、いい加減やべーって!」


木箱を持って、立ち上がる。

だけど、最後にもう一度写真を見ておきたい。


じっと、凝視して。

すると、何故か赤色の男の人が幽霊のような姿で、浮き上がったように。


『アンタに託されたものは、繋げた。次はアンタの番だぜ――――英雄』


気づかないままに上げた手に、手が重なったかのように見えた。

次の瞬間には虚空に消えてしまったけど、今のは一体なんだったのだろうか。



チャクラを練って、急いで家に戻ろうと走る。

すると、巻物が光ったように見えた。


「これ………!」


多由也って人が開発した、記録された音が再生できる巻物だった。

そういえば、表に日付と一緒にこう書かれていた。


"◯月✕日、合同結婚式で愛すべきバカ達と一緒に"、と。


そうして流れでた曲は、網では有名な歌だ。

誰もが知っている、聞くだけで走りたくなるような。


「はは、家まで競争だ、胡南、長斗!」

「もう、待ってよ矢彦!」


先に行く二人の背中を見ながら、僕は額を抑えていた。

時々、何故だか分からないが、二人のこうしたやり取りを見ていると涙が出てくるのだ。


だけどこれは悪いものじゃないと、不思議と今日はそう思えた。


「よし、負けないよふたりとも!」



声を上げて、走る速度を上げた。二人に追いつき、追い越すために。




――――昔はちょっとした事でも、人は人と争っていた。



時には戦争が起きて、大勢の忍者たちが昼夜問わずに殺しあっていたらしい。


今でも忍者たちは居るし、人間同士で争うことはある。


だけど、昔に起きたとされている魔獣戦争以降は、同じ人間同士での戦争は起こっていない。



これからも、起こさせない。前方に広がる空を見上げ、思う。




僕達が頑張って、途絶えさせない。絶対に、紡いでいくのだ。





きっとこれからも終わらない、希望という名前の未来に続く物語を。




[9402] あとがき・その2
Name: 岳◆3d336029 ID:bba89979
Date: 2013/05/03 23:07
あとがき、その2でございます。


1年以上の停滞を隔てましたが、これにて小池メンマのラーメン日誌の後日談は終わりとなります。

エンディング・テーマは「リトルバスターズ!」か、「Alicemagic」で。

         エイト・メロディーズ
そして秘術は   八 音   。なんちて。


更新が昔過ぎて、何人の方がこれを見られているかは分かりませんが、区切りとして。

後日談その他、書こうと思えば色々と書けますが、きりがないためここで閉めます。

ホームページでのマブラヴ・オルタネイティヴと、テイルズオブエクシリアのSSの更新もありますしね。

最近は壁ドン(拍手)がマジ怖いですし。

投稿用に書いている構想段階のオリジナルもありますしね。ちょっとこれからは気合を入れて書かなければ、と。

時間は有限だという無情。ああ、一日が30時間あれば。


エピローグより、人によっては蛇足に感じられたかもしれませんが、メンマ達の物語はここで終わりです。


あとは色々とありましたが、ご想像にお任せします。


↓以下、想像の材料です(ゲス顔





小池家長女

金髪の美少女。九那実との娘。

怪力無双で、再不斬からもらった例の大刀のレプリカをぶんぶんと素で振り回すようになる。

おてんばっていうかハイテンション。残念な超絶美人と噂されている。天狐の力が一番に多く出ていて、自分の力を持て余し気味。

たまに自分の力が怖くなり、凹んでいる。だけど態度にして見せるのは家族か、幼馴染であるうちは家長男だけ。

涙を見せるのは、うちは家長男だけ。

幼馴染の中では年長者だからと、お姉さんぶっている事多し。でも脇が弱く、よくうっかりを発動させる。

うちは家長男と、シンの息子とよくつるんでいる。



小池家長男

紫苑との子供。亜麻色の髪のラーメン屋。結界術を併用した高機動屋台・九頭龍裂破を開発した、真面目にアホな変人。

小池家の子供たちは斜め上しかいないのか、と言われる原因となった。でも、ラーメン研究にも真面目。

研究科となったのは、自分の力を持て余す姉のため。その後は、自分だけ写輪眼を使えないと悩むうちは家次女のため。

昔はうちは家長女と一緒になって、斜め上の悪戯を仕掛けていた。




小池家次女

蓮との間の子供。大人く内気で、兄と姉と幼馴染、果ては妹や弟のフォローに追われる毎日だった。

でも切れた時の怖さと、一刀必殺の剣術を網で知らないものは居ない。じじばかなミフネ大将とは、よく将棋で対決していた。

故に波風家の長男を、不倶戴天の敵とする。舐めプは駄目だったらしい。

忍術も使える侍で、戦闘能力はうちは家長男と小池家長女の次ぐらい。

屋台に侍部隊に護衛役、そしてうちは家次女と一緒に兄弟や幼馴染達の抑え役として生涯を生きた。



小池家次男

九那実との間の子供。中二病疾患者。子供の頃は「右手が………」とか「俺は、復讐者だ」とかやって、父やサスケの思い出という名の臓腑をえぐっていた。

同時に、うちは家次女からよくツッコまれていた。忍術の才能はトップクラス。それを見たメンマは、「マダオ金返せ」とまた叫んだという。

だけど成人してからは、ラーメン家の仕事に没頭。組織の外に店を出し、二号店の店長として頑張った。

真面目に隠された生まれ・素性を語ると中二病なアレになるが、本人は気づいていない。



小池家三女

紫苑との間の子供。巫女を継いだ者。神楽舞に命を賭けており、幼馴染達の中で一番の激情家。

結界の腕は兄をも凌ぐ。だけど思い込んだら一直線で、蓮の子供なんじゃねーのと言われること多数。

そりゃあ、思い込んだ挙句に土遁併用・口寄せ・結界ゴーレムとかやったらそう言われる。





うちは家長男

滅茶苦茶に気弱。かつ、歴史に名を残すほどのビビリ。自分の力にさえ怯えている。だけど頑固で、こうと決めた時は誰を相手にしても自分の意志を曲げない。

土壇場では逃げることがない主人公体質。よく小池家長女に振り回されている(物理的に)が、懲りずに付き合う。

万華鏡写輪眼に目覚めた、次代の部隊長。

だが瞳術に関係なく、人の本質を見抜く眼をもっている。齢8歳にして、父って実はバカかつヘタレなんじゃないかと気づくほどに。

次代に集まった人柱力からは、しっかりせいといつも背中を叩かれつつも信頼されるようになった。

戦闘能力は、本気になった時の限定だが、当時の世界で最強だった。



うちは家長女

多由也とうり二つで、音楽の方を継いだ。おっとりとしていて、見た目は美少女だが、多由也より口が悪い。

次郎坊などは「どうしてこうなった」と嘆く日々。サスケが甘やかしたのが原因である。糞兄貴が、と怒鳴る長女と、ビビる長男の喧嘩は網の一つの風物詩となっている。

勝つのはいつも兄だが。

音楽家としての才能は多由也以上で、だからこそ練習不足。一度、それが原因でかなりの挫折を経験することになるが………。

妹を誰より溺愛している。



うちは家次女

特徴は、普通であること。兄と違って忍術の才能もないし、姉と違って音楽家の才能もない。

黒髪で、父の血が濃いと思われるが、写輪眼も使えない。そして、顔の造作も兄や姉ほど整っていない。

だけど誰よりも負けず嫌いな、努力家。待望されていたツッコミ役。

真面目で良識をもっていて、すぐに涙目になるけど泣かない。家族や兄弟、幼馴染や網の構成員からは絶大な人気を誇る。

「なんていうか、かわええ」が共通の感想だったという。

どろり豚骨スープ並に濃い面子の中で唯一、まともな女の子だったからだろう。

斬月こと紅音は、「なんちゅう癒しっ娘じゃあ」と方言で錯乱することもあった。

一度、桃地家の長男が彼女を悪戯で連れ去った時には、保護者その他が全面戦争だじゃあと、マジギレになった。

その顛末が原因で、桃地家長男から求婚されているのが悩みといえば悩み。






桃地家長女

黒髪長髪の美女。再不斬とセットで並ぶ姿を見たものは、その真偽を疑わざるをえなかったという。

本人は性格がおっとりとした美女。うちは家長女とは違い、見た目詐欺ではなく、普通に良いお姉さん。

弟のやんちゃにも、「あらあら駄目よ」と叱るだけ。それでも、マジギレしたら怖いのは父や母譲り。

政治センスに優れ、次代の水影となった弟の補佐役を務めた。




桃地家長男

やんちゃだけど、気のいいあんちゃん。白の教育が良かった証拠と言われている。

それでも、悪戯好きな所があり、たまに訪れる別荘でははっちゃけていた。

忍者としての才能は姉以上。再不斬の力に、白の頭脳を持つ。

だがお調子者で、お気楽ものとも言える。

一度、悪戯と称してうちは家次女を攫ってみたが、思った以上というか天元突破な保護者達の怒りっぷりを前にマジで泣きそうに。

それを見たうちは家次女の、ため息を混じえたとりなしと説得に惚れて、場が収まった直後に求婚を。

唯一冷静だった、うちは家長男をマジ切れさせた。生涯で唯一、うちは家長男をマジ切れさせた男としても有名である。









その他、色々とありますがこれで。

書こうと思っていた話は、色々とありますが、取り敢えずはタイトルだけ残しておきますので、勘弁して下さい(ゲス顔


・シンと灯香の昔話

・網の後継者抗争(紅音の話。過去のこと)

・キューちゃん、実家に帰る(過去の話。メンマが帰ってくる前のこと)

・五影会談・ラーメン屋前



あと、長斗と矢彦と胡南は転生体です。

同時期に、マダオ達もいます。記憶は欠片も残っていませんが。

それでは、また。縁があれば、いずれどこかで。



ホームページのマブラヴ・オルタネイティヴは本当に力いっぱいに作っています、と宣伝してみたりなんかして。

まあ、続く物語の道中で、ふらりと会えれば幸いにございます。



さて、それでは閉めの言葉を。





――――まいどありがとう、ございました。



次の物語で、お待ちしております。




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