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[9501] 【処女作・習作】~月の暴君と少女達~(仮題):前書き:(H×H 二次創作 オリキャラ)【解凍中?】
Name: ハイライト◆d3ef7d09 ID:bd3a2168
Date: 2009/07/11 05:23
色々とネット小説を読み漁り、自分でも書いてみたいなとか思ったので、書いてみました。
特にH×Hで、憑依・転生系は多いものの、オリキャラ介入の方は少ないと常々思っていますた。
そして、ちょうど私はオリキャラ登場による二次創作を妄想していたので、それを文にしていきたいと思います。

転生系を求めていた方はごめんなさい、今作品は違います。

ネタ要素ないです、ごめんなさい。

とりあえずは念能力とかについては出さない予定でしたが、エピソードの方で少々出てきます。
最初はオリキャラ主要人物の生い立ちとかそういったものです。
色々特殊設定入ってますが、詳しい設定は物語の中で無理なく出せたらいいと思ってます。

6/17
そろそろ原作に交じって行きたいと思います。
とりあえずは気分的なものですが。
あと、タイトルを綺麗に整理しました。

6/19
ハンター試験編第三次まできました。
タイトル変更しました。
(仮題)なのは仕様です――すいません、いまだにタイトルが浮かばないだけです。

6/23
ハンター試験編終了しました。
各話のタイトル変更しました。

6/24
タイトル変更しました。
どのキャラの視点かわかりやすいようにしました。

6/30
身勝手ではございますが暫く今作品を凍結いたします。

7/10
再会の目処を立てました。
詳しくは【お詫び】にて

7/11
早漏気味に改訂版一つ目出しちゃいました

適当な感想でも頂けたら幸いです。

それでは、お見苦しい文章ではありますが、物語を綴っていきたいと思います。



[9501] 序章‐1 探しモノと拾いモノ
Name: ハイライト◆d3ef7d09 ID:0432ef10
Date: 2009/06/24 17:04

~20の身空で少女を拾う~



【リク】

 元は礼拝堂であっただろうその建物は、どのような理由があって建てられたのかもわからないほどに壊れ、荒れ果てていた。壁面が剥がれ落ちているのがそこかしこに見てとれるし、頑丈そうな石壁には風穴が明き、冷たい外気が吹き込んでいる。かつて長椅子として使われていたであろう物は、数十個はあろうそれら全てが無残な木片へと変わり果てていた。また、石壁に嵌め込められたように作られた窓は幾つか割れていたし、この礼拝堂の重厚な扉は、建物の内側へと吹き飛ばされていた。
 物的被害を上げればこんな感じであろう。
 しかし、被害はそれに止まるものでなかった。そこかしこに人であったろうものが転がっていた。腕だけ、脚だけが転がっていたり、身体がきれいに分断されていたりと、有様は様々であったが共通してそれらにもう命を感じることはない。また、それらすべては水分の一切を奪われたかの様に干からびていた。不思議なことに、これだけの惨状にも関わらず、一滴の赤い血の零れた跡すらなかったのだ。比較的体の大きな者の周りを見れば、銃やマシンガンなどが転がっており、彼らが何者かに襲撃され、迎え撃つこともならずにやられてしまったのだろうことがわかる。

 建物の中央には黒い大剣を背負った真白いコートの男だけがただ佇んでいた。

 とうの昔に事は済んでいたのだろう。建物に彼以外の気配はなく、壁に空いた大穴から吹き込む風の音と静寂だけがこの場を支配していた。



 ここに在るはずなのだが……。そう思って建物内を隈なく探す。調度品やら宝の類が山積みになった部屋を出て、自ら作り出した屍の山を見渡す。ここには探し物があって訪れた。それもこんなただ金になるようなものでなく、神の子と呼ばれる人間である。もしや、先ほど軽く遊んでやった程度で死ぬような奴だったのか? と疑問を持ちながらもこのまま帰るのも気がひけていた。ようやっと円で建物内を調べようとした時、微かな物音がした。音の発生元に辺りをつけそちらへ足を進める。この建物内の人間はすべて殺したはず。しかし、耳を澄ませばかすかな息遣いがはっきりと聞こえた。自らが散らかしたとはいえ、吹き飛んだ椅子やらが少し邪魔ではあったが、大した問題ではなかった。見当をつけた場所で歩を止めその周囲を丹念に調べ上げる。目の前には何の変哲もない石壁があるだけなのだが何やら臭う。丁寧にその石壁を調べていると、やはりその奥から物音がする。ぶん殴って壁を破壊してもいいのだが、たまには頭を使ってやらないと脳みその皺が無くなってしまうな、などと下らないことを考えながらも石壁を調べていると、その中の一つが妙な色をしていることに気づいた。この建物の石壁は一様に黒ずみかけた灰色を呈していたのだが、この石だけがほのかな灯りを放っている。おそらくこれに何か仕掛けがしてあるのだろう。その石にオーラを纏った手で触れてみると、みるみる周りの石が崩れだし、石壁であった向こう側に小さな部屋が現れ、そこに少女がいた。

 小部屋を出て、唯一原形を留めた椅子に二人で座り、少女を落ち着かせながら何があったのか聞いたが、わからない、の一点張りだった。目の前の男がこの惨状を創り上げたことに気づく素振りはない。わかったことと言えば、少女が物心つくころには既にあの小さな部屋に閉じ込められるようにして生活していたこと。つまり、本当に何もわからないのだ。
 ……昔の俺と同じか。
 しかし、彼女の容姿を見れば金髪に琥珀色の瞳に整った顔、何より少女から立ち昇るオーラが何より神々しかった。幸いにも探し物はこの少女であったようだ、とすぐに分かった。目的は果たせた。しかし、神の子がよもや幼女だったとは……。少女には行く当てなど存在しなかった。それはこの礼拝堂の隠し部屋に押し込められていたことからわかる。唯一何者かと触れ合うことが出来たとしても過去の話だ。俺が全員殺したから。しかし、名前もないという。この様子ではおそらく戸籍すらも怪しい。当分の間面倒を見てみるのも面白いか、そう思いながら俺は少女に告げた。

「キミ、俺と一緒に来るか?」

 幸いにも少女は俺に対して警戒心というものを持っていないらしく、小さくコクンと頷いた。

「それじゃあ行こうか」

 椅子から立ち上がり少女の手を取り、思い出した。この少女には名前がないのだ。まだ、家庭だとか考えもしたこともなかった。しかし、当分の蓄えはあるから、少女一人の面倒を見るなんて楽だろう。

「ルル、それが君の名前だ。これから君が独り立ち出来るまで面倒を見てあげる」

 少女…いやルルも立ち上がり俺と目を合わせ、また小さくコクンと頷いた。知らず、頬が緩むのがわかった。

 そんな二人を、もうその機能の殆んどを奪われた礼拝堂で、奇跡的に綺麗なまま残ったステンドグラスが鮮やかな色彩で照らしていた。



[9501] 序章-2 放浪と拾いモノ
Name: ハイライト◆d3ef7d09 ID:fcad74a4
Date: 2009/06/24 17:05
~20の身空でまた少女を拾う~



 ヨルビアン大陸にはグラン国とスカ国という国がある。この二国間では戦争が行われていた。戦争が始まったのは10年程前。戦争を仕掛けたのはスカ国であるし、休戦を頑として受け入れなかったのもスカ国であった。それはスカ国の王の辞書に"勝利"の二文字のみがでかでかと書かれているからであり、スカ国はありとあらゆる国民を徴兵し、軍事力を保持していた。


【名もなき少女】

 アタシはいわゆる孤児だった。しかも、生まれた場所が流星街の近くであったせいで戸籍も名前すらない。そんなアタシは3歳の時にスカ国に拾われ、拷問にも似た訓練を経て6歳の頃初めて戦場へと駆り出された。スカ国の軍事力からすれば、使えるものは使え、と少年兵も数多く存在した。アタシはその一員だった。
 初めて戦場へ出た時は訓練の内容も忘れ、いったいどうしていいのか全く分からなくなってしまった。それでもアタシはその時、数人の敵国の兵士を殺し、生き延びた。本当に泣きながらフラフラしていたところに敵兵が警戒心なしにやってきたところで、頸動脈をコンバットナイフで掻き切ったのは微かに覚えている。
 あれから約一年。アタシは泣きまねをしながら敵兵へ近づき、頸動脈を掻き切り、人を殺すことを続けてきた。しかし、圧倒的な兵力差から、近いうちにスカ国はグラン国に負けるだろうと、朧気に思っていた。兵糧も尽きかけているし、兵士の士気は下がる一方だったから。
 そんな折、国王から大規模な戦闘を行うことが兵士達に告げられた。それはまさに死刑宣告にも等しいものであった。おそらく、自分の命もそこまでだろうと確信し、計画実行の日が来た。アタシが7歳になる数日前のことだった。

 アタシはいつも通り、敵兵の一人を殺した。しかし、いつもと違ったのはそれを目撃した兵士がいたこと。失敗した、それは明らかな事実であったし、イコール自らの死を意味した。そいつの銃口がアタシへ向かってくるのがわかる。死に瀕した際、世界がスローモーションに見えるというどこかで読んだ知識が本物であることを知った。徐々に上がる銃口、そして、トリガーにかかる指。アタシは全て諦め瞼を瞑る。やけに時間が遅く感じる。まだ、まだ来ないのか?瞼の裏の暗闇を見つめ続けても銃声はしない。明らかにおかしい、と瞼を開くと信じられない光景を目にした。

 兵士の銃が壊れ、兵士も壊れていた。そして、戦場に不釣り合いな、白いコートに黒いスラックスの男がそこに現われていた。
 アタシが声を失っていると、男は澄んだ声で告げた。

 「戦争は終わったよ。スカ国の王は死んだ」

 微笑み交じりにそう告げた男は、まるで天使のようで…緊張の糸が切れたのか、アタシはそこで意識を失った。





 目を覚ますとそこは見知らぬ天井だった。手入れを欠かしていないのだろう。きれいな木目調の天井が目の前にあった。そして、寝転がっている部分もフカフカして気持ちがいい。兵舎では木の床に薄い布を引いた上に寝ていたから違和感があるといえばあるが、やはり気持ちがいい。しかし、訓練の賜物か、すぐに状況を確認する。
 真白いシーツ、着心地の良い服、誰が? 何の目的で? 錯乱する頭をどうにか落ちつけようとしたところで近くから声がした。

 「おはよう。だいぶ眠っていたから少し心配したよ」

 声のした方へ眼を向けると、薄紅色の髪と空色の瞳の男と目が合った。反射的に腰に装備してあるはずのコンバットナイフへと手を向けたが、それは空を切っただけだった。

 「いったいアタシをどうするつもり?」

 武器も何もない状態では、そう苦苦しげに言葉を吐くしかできなかった。何より、記憶を掘り返してみれば、この男がアタシを助けたのだろうことは明らかであり、何らかの目的でアタシを生かしたのだろう。しかし、男の返答はアタシの思慮の外だった。

 「特にどうする予定もないかな」

 アタシは盛大に出てくる溜息を止めることは出来なかった。代わりにいくつか質問することにした。

 「スカ国の王が死んだっていうのは本当?」

 男は何の戸惑いも見せずに頷いて肯定を示した。

 「じゃあアタシはグラン国の捕虜ってこと?」

 男は一瞬間の抜けた顔をしたが首を横に振って否定した。
 じゃあいったいアタシはどうなったの?そう問いかける前に男が話し始めた。

 「俺はスカ国に用事があってね、戦時中の街を通り過ぎようとしてたんだ。そうしたら、キミが殺されそうになっていたから助けた。それで、ここはスカ国とはかなり離れた俺の家。用事はあの後すぐに済ませたし、そんなことよりキミの容態が気になってね。なんともなくてよかったよ」

 そう言って男は微笑んだ。
 男の純粋な微笑みを見て「天使みたい」だと思ったのは間違いなかったことがわかった。が、

 「なんで見ず知らずのアタシを?」

 そう問わずには居られなかった。しかし、男は「なんとなくかなぁ」と斜め上を向いて頭をポリポリ掻いていて、アタシは思わず笑ってしまった。そんなアタシを見て、

 「笑うとやっぱり子供らしくて可愛いね。そういえば、名前は?」

 そう問われ、アタシの顔が沈んだのがわかる。少年兵としての番号は与えられていても、アタシに名前は、ない。そう男に告げると、彼はポカーンとして、何やらブツブツ言っている。このままでは埒があかないのでアタシの方から話しかけた。

 「あんたの名前は?」

 我ながら言葉使いが荒い気もするがこれが地なのだ、しょうがない。アタシが問いかけると思考から戻ったようで返事を返してくる、思いもよらない言葉とともに。

 「俺はリク。キミの名前、俺がつけてもいいかい?行く当てがないなら俺が面倒を見てもいい。もう一人世話してる子もいるからたいして変わらないしね」

 そう微笑まれた。アタシに…名前? それに世話までしてくれるなんて……、いいのかな……そんな……。
 考えを読まれたのか、強引なのか、目の前の男、リクは言った。

 「キミの名前はリリ、ね。リリ、これからよろしく」



~あとがき~
半分くらい書いたところでPCが勝手に再起動になって文章パー(ノω・`)
明らかに書きなおし前の方が良かったけどビール飲んだら忘れてしまったってゆー・・・
こんな駄文ですがお付き合いいただけたら嬉しいです。
感想とかきたらめっちゃ喜びます!

それでは、またの機会に。。。。



[9501] 序章-3 大黒柱のお仕事
Name: ハイライト◆d3ef7d09 ID:bd3a2168
Date: 2009/06/24 17:06
 ~不思議なお家の泥棒さん~



【リリ】

 リクという男に半ば強引にこの家へ連れらて来てから3日が経った。どうやら少年兵として暮らしていた間に食べていた食糧は、アタシ位の歳の子にとって遥かに質素なものであったらしく、「まずは美味しいものを食べて元気になれ」とリクが言い、この三日間は家の中でおとなしく食事を取って過ごしていた。
 分からないことは沢山あった、というよりもわからないことばかりだった。たった三日間他人様の家で過ごして何かをわかれというのも無理難題だが、それにしても不思議なことばかりであった。
 今のところ分かっているのは、この家にはアタシ以外に3人が住んでいること。アタシを拾った薄紅色の髪に空色の瞳のリク、私と同じように拾われてきたらしい金髪に琥珀色の瞳の少女ルル、そして、リクの友人であるという黒髪に赤みのさした茶色の瞳のルナという女性。
 このルナという女性が家事全般を行っているらしく、特に料理にかけては右に出るものも居ない程なのだろう。アタシは質素な舌の持ち主であり、あまりちゃんとした物を食べたことはなかったが、そんなアタシにそう思わせる程の料理の味であったのだ。そういえば、ルナの料理を食べてからもっぱら体の調子がいい。今までのアタシは岩場に打ち上げられた魚で、ルナの料理を食べてようやっと水を得た、とでもいうかのように元気になるのだ。これも不思議なことの一つだった。

 しかし、今一番不思議に思うのはこの家のある場所だ。一度少しだけ家から出た時があった。その時、玄関から外へ出て見えたのは深い森。一階建てなので余り高くない屋根へとひょひょいと上り、辺りを見渡すがそこから見えたのもまた深い森であった。街の欠片も見えない。しかし、それでも一度リクやルナがどこかの街からアタシ用の衣料品などを買って帰って来たこともあったのだ。それに、気絶したアタシを、リクはスカ国からここまで半日もかからずに運んできたのだ。スカ国周辺の地図を見たことがあったが、このような森があった記憶はない。どれだけの距離がある? どれだけの速度でここに来た? 頭がこんがらがってショートしそうだ。……暫く考え、アタシの今までの常識では測れないと結論付けてその時は家の中へと戻った。

 それから1ヶ月ほど経った頃には、この家の暮らしにも僅かずつ慣れてきた。ルナとリクが連れだって森の中へ入って行って色々な果物や牙の異様に大きな猪などを獲って帰って来たりしても驚くことはなくなったし、ルルが黙々と人形遊びに興じるのも見飽きてきた。ルナがルルとアタシに本を読んでくれたりもした。ルルが絵本の中で大きなクジラが船を丸のみするシーンで、「おおー」と大口を開けほわんとした感じで驚いている傍らで、アタシは淡々と絵本の朗読を聞いていた。今までの環境が環境だったから、そんなお伽噺に少し飽き飽きしていたのだ。

 そんなある日の夜、いつものように食事を終え、リビングでルルは人形遊びに興じ、アタシは大切なコンバットナイフの手入れをしていた時、リクが唐突にいった。

「明日、仕事に行って来る」

 その言葉を聞いたアタシとルルは大層間抜けな面をしていただろう。なぜなら、リクが仕事をするところなど見たことがなかったからだ。
 ルルが何のお仕事するのかな~? と言っていたが、アタシも同じ思いだった。二人の感情を読み取ったのか、リクは悪戯小僧のようににかっと笑って言った。

「ちょっと宝石盗みにね」

 ルルは無邪気に「リク兄ちゃって泥棒さんなの~?」と少しはしゃいだ様子で言っていたのを片隅で聞きながら、アタシは何の冗談だ、と思った。
 しかし、ルナは何も気にした風もなく「気をつけてね」なんて言っていた。



[9501] エピソード-1.1 悪巧み
Name: ハイライト◆d3ef7d09 ID:bd3a2168
Date: 2009/06/24 17:07
 ~月夜の幻影~



【リク】

 ルナに「いってきます」の一言を残し樹海の仮宿を出て、とりあえずは街へと急ぐ。派手好きな奴らの事だ、前夜祭でもやっているかもしれない。久々に騒げるし暴れられるな、そう思うと足も速まった。街への最速行軍の邪魔をする猛獣達には腰にさした二丁拳銃に軽く念を込めて撃ち出した弾をくれてやる。バズーカ程度の威力を持った弾は樹海に血の花を咲き散らかしていく。木の枝から枝へと飛び移り、ほぼ一直線に進んでいくと、一時間もしない内に木々が少なくなり、街が近いことがわかる。

「準備運動になりもしないな……」

 軽くぼやきながらも来るべく狂宴に心踊らされ頬が緩むのがわかる。風となって鬱蒼とした樹海を抜け切るとすぐに街に着いた。
 街の端にある少々治安の悪い地区のさらに裏路地に入る。頬のこけた顔、薄汚れ、所々にほつれの見える上等とは決して言えない服を着た少年が、体を軽く触れ合うようにして通り過ぎた。そのまま去ろうとする少年の襟首を掴み、財布を返してもらう代わりに餞別としてデコピンをくれてやった。スリや強盗、強姦など当たり前な場所であるが、わざわざそれに付き合ってやる程俺は寛容ではない。少年を放置してそのまま進み、粗方の荷物を預けてあるいつもの店に入る。禿げあがった頭に無精ひげの店主に代金を支払い、預けてあった黒い大剣と白いロングコートを受け取り、コートを羽織ったところで着信を告げるメロディが流れた。チップを渡して店を出た所で電話に出ると久方ぶりに聞く声。

「リク、メビル町のペンナホテルのロビーだ」

 簡潔にそれだけを述べ、電話は切れた。相手は着信履歴を見なくとも分かる。裏路地を出て、適当なタクシーを拾うと先ほど言われた場所へ向かうよう運転手に告げた。
 
 
 
 ペンナホテルに入ると黒髪黒眼の男がすぐに目に入った。男はソファーに座って本を読んでいたが、彼の方へ歩みながら軽く手を振ると向こうも気づいたようで、本を閉じ、微笑交じりに手を振り返してきた。

「久しぶりだな、リク」
「ああ、もう3か月位か? "仕事"の方はどうだい、クロロ?」

 問えば、ぼちぼちだな、と苦笑交じりに返してくる。他の皆は? と聞くとこっちへ来いとジェスチャーで示し、ホテルから出た。互いに走った方が速いが、ここでは人目につく。再びタクシーを拾うと、クロロが行き先を告げた。


 タクシーを降りた場所はやはり寂れたところで、地震でも起きようものならすぐさま平地になるだろう。乞食や春売りの姿も見かけられたが、俺もクロロも、それらに目をやることなくさらに裏路地に入り、走り始めた。

 10分もしない内に目的の場所に着いた。その建物は、屋根の一部は崩れ、コンクリート剥き出しの所謂廃墟であり、一般人なら尻込みして入れないような有様であったが、俺たちは迷うことなくその中へ歩みを進めた。電気も水道も通っていないだろう建物の中を照らすのは、窓であったろうところから射す夕暮れ時の朱の灯りのみで薄暗かったが、瓦礫や、辛うじてまだその用途を果たす椅子などに腰掛けた見知った顔がいくつか並んでいるのはわかった。

「ウヴォーにフィンクスにノブナガ、シャルもか。……マチかパクはいないのか?男臭くて堪らないよ」

 そう冗談交じりに零すと、建物の奥から黒いスーツを胸まではだけさせた女性が現れた。

「なんだ、パクもいるのか。よかった」

 そう言って微笑むと、皆が笑った。

「女好きは相変わらずかい、リク? 聞いた話じゃ女の子2人も拾ったらしいじゃん」
「アレは気が向いたから拾っただけだよ。そもそも女好きなんて人聞きの悪いこと言うなよ。」

 シャルのからかいをするりと避けて、皆に改めて再会の挨拶をした。が、パクノダの手がすっと伸びて俺の肩に触れ言う。

「本当に気が向いただけ?」

 まったく、なんで俺は信用されてないんだか……と心の中で呟き、苦笑いを浮かべた。まぁ戯言はこのくらいにして仕事の話をしよう。その提案を皆渋々受け入れた。



「今回のターゲットはルペア伯爵の宝物庫の品全てだ」

 凛とした声色でクロロが告げた。皆一様に頷くのを見てさらに続ける。

「邪魔する者を含め、館の者は皆殺しで構わん。ただし、お宝は傷つけるな」

 以上が今回の仕事。完全無欠に簡潔だった。ルペア伯爵といえばここいら一帯を長きに渡って支配してきた貴族の末裔。警護も厳重だろう。ただ、人数だけ揃えてもらっても困る。量より質、だ。

「シャルはセキュリティの解除と逃走経路の確保。ウヴォーとノブナガは正面から入って派手に暴れてやれ。フィンクスとリクは裏口から侵入して邪魔者を消せ。ただし、ルペア伯爵は殺すな。一部の宝を隠している可能性があるからな。パクは裏口側から援護だ。俺も裏口から行く。」

 クロロが慣れた様子で指示を出し、皆が了承した。

「今夜12時ジャストに決行する」

 そう今回の仕事を確認し終えると、俺たちは暫し雑談に興じた。この前盗んだ本はとても興味深かったとか、ある富豪の家に盗みに行った時にはセキュリティがザルすぎてつまらなかったとか、最近は血が滾るようなやり合いがないとか、そんなくだらない事を話していた。俺は一通り話を聞くと徐に廃墟から出る。高く高く飛びあがり、その天辺に立った。まだ日は傾きかけた頃、暴れるまでまだまだ時間がある。久々に大暴れできる、そう思うと歓喜に震えながら未だ青い空の下で哂った。


 翌日、ルペア伯爵の邸宅の宝という宝が全て奪われ、館に存在した人間はすべて殺されているている様が発見された。



[9501] エピソード-1.2 月と幻影
Name: ハイライト◆d3ef7d09 ID:bd3a2168
Date: 2009/06/24 17:07
 ~ルペア伯爵邸の惨劇~


 その日、ルペア伯爵邸はいつになく厳重な警備が敷かれていた。ルペア伯爵は持ち得るすべてのコネを使って、優秀な警備員を集め、来るべく賊を捕らえる腹であった。屋敷の警護を任されていた者にとっては全く面白くない話だった。どこかの賊からご丁寧に予告状一枚が来ただけだというのに、というのが彼らの一様の思いであった。しかし、彼らはその差出人を知らなかったのであるから、これは当然の反応ではあった。
 ルペア伯爵の下に届いた予告状は次のような内容だ。

 『9月20日を迎えた時、貴殿の持つ全ての財産は月と幻影に奪われる』

 途方もなく簡潔であり、性質の悪い悪戯だと、ルペア伯爵がこの文を見た時には一笑に付していた。しかし、捨てて置け、と伯爵の最も信頼する護衛の一人であるエンダーへと文が渡された時、彼の表情が変わった。彼にはこの「月と幻影」という名に覚えがあり、文から禍々しいオーラを感じ取ったのである。エンダーはすぐさま主へ進言した。

「この予告状は本物です。そして、差出人は本気で全てを奪うつもりです。彼らがどれだけの規模の集団であるかは知られていませんが、今の警備状態では大きな不安があります」

 厳しい顔つきで言うエンダーの言葉に伯爵はいつもの飄々とした笑みを止め、彼へ問う。

「お前がいても駄目なのか?儂はお主を買っておるんじゃが……」
「無理でしょう」

 即答だった。

「過去に数件、同じような事例がありました。月と幻影からの予告状が届き、警備を強化したにも関わらず、全ての事例で賊による強奪は成功されています。そして生き残った者はいません」

 ルペア伯爵は愕然とし、言葉を失い、エンダーを見つめる。彼の瞳に誇張や否定の色が見えないのがわかると、短く息を吐き、新たに警備を雇うことに決めた。




【リク】

 現在の時刻は23時50分、突入まであと10分程だ。気配を絶ち、裏口から比較的近いところにあった木に素早く上り、館を見遣れば、そこかしこに武装した者達が配置されているのがわかる。どうやら予告状が無駄になることはなかったようだ。まぁでも質が伴うかはわからないか、と胸中で呟きながら音もなく跳び下りるとフィンクスに話しかけた。

「能力者がいたら俺に譲ってくれよ?じゃないと遣り甲斐がないんだ」
「ああ?んなもん早い者勝ちに決まってんじゃねぇか。勝手に決めんじゃねぇよ」
「だって、フィンクスってば、相手の能力に構わず殺っちゃうじゃないか。それじゃあクロロが盗みたくても盗めないよ」
「リク、お前だって少し楽しんだらさっさと殺っちまうだろう?かわんねぇよ」

 まぁそれもそうだね、と言葉を返した所できっかり一分前。全身が歓喜に震えるのがわかる。恐らく俺は隣にいるフィンクスと同じように笑っているだろう。時計の針はやけにゆっくり進んでいる。1分って、60秒ってこんなに長いものだったかと今更ながらに思い出す。そして、
 
 
 ――時間だ。
 
 
 我先にと走り出すと同時に館の正面の方から銃撃音が聞こえる。どうやらウヴォー達もきっかり仕事を始めたようだ。こっちもしっかりやらなきゃな、と緩んでもいない緊張をさらに張りつめ、音もなく塀を飛び越え侵入する。軽く見た限り、敵はざっと20人。全員がマシンガンやらの銃器を持っているがオーラは垂れ流しの状態――能力者ではないか。そう判断するや否や一番近くにいる敵を黒い大剣≪ヴァンパイアエッジ≫で細切れにする。続けて獲物を構えさせる間もなく、ものの数秒で5人程をバラバラにした時、嫌な気配を感じ、横に跳ぶ。先刻まで俺がいた場所を弾丸が通過し、地面に当たる。と同時に氷の花が咲く。
 ――能力者か。ちらりと見た弾道から大凡の狙撃手の場所を見やりながらもさらに5人程切り捨てる。館の屋根の上にそいつはいた。小柄な男がその身の丈以上もある大きさのライフルを構えこちらを伺っている。微かに視線が合ったかと思った瞬間、また撃って来た。銃身から直線的に飛来して来る弾を難なくかわし、凝で観察。距離は80メートル程。恐らく弾丸に纏わせたオーラを氷へ変えている。放出、変化を同時に行ってはいるが、体に纏っているオーラは非常に薄い。大した使い手では無いな、と判断し、狙撃手の元へ跳ぶべく脚に力を入れようとしたところで、視界の端にナイフが映る。狙撃手の方は後回しだな、と身をかわすと飛び回るナイフ。どうやら新たな能力者が現れたらしい。
 目の前にいるおよそ近接戦闘向きでないひょろりとした体躯を黒のスーツで身を包んだ男は、銃器の類は持たず、突き出した手の指が忙しなく動いている。その動きに合わせるようにしてナイフが俺目掛けて襲ってくる。――操作系か。瞬時に判断し、宙を踊るナイフの隙を衝いて男へ飛びかかる。と、同時にナイフが消えた。ちっ、と軽く舌打ちして地を蹴り強引に進行方向を変えると、男の目の前から10本のナイフが現われ、同時に真直ぐ飛んで行った。どうやら具現化系らしい。凝が習慣着いた者でなければ串刺しにされていただろう。だが、敵ではない。先ほど飛んで行ったナイフは5メートル程進んだところでオーラが薄れ、ナイフとともに掻き消えていた。クロロが盗むまでもない、そう判断すると先ほどよりも速く跳び、男の真横へ。勢いをそのままに左足を軸にして回転するように大剣を横薙ぎにすれば、あっけなく男は真っ二つになった。狙撃手のほうへ目を遣れば、こちらの速さに来れなかったようで、慌てて照準をこちらへ向けようとする。が、照準が合うより早く、空いた手で腰にさした拳銃を素早く取り出し、オーラを込めて撃てばあっけなく頭が吹き飛んだ。
 能力者を二人殺したところで銃声がここ等一帯の銃声は止んでいた。周りを見れば、立っているのは俺とフィンクスだけだった。どうやら雑魚はフィンクスが片づけてくれたらしい。首やら体毎やらがありえない角度に曲がったヒトが10個ちょっと転がっている。結局ゴミ掃除にしかならなかったのが不服なのか、フィンクスのこめかみに青筋が浮かんでいる気がするがきっと気のせいだ。一応心の中で感謝。フィンクスに目配せすると、俺たちは館へと歩みを進めた。
 
 
 
 
「ああー、何だってんだ!うざってぇ!!」
「そうカリカリするなよ。カルシウム足りてないんじゃないの?」
 
 こっそり侵入の筈が、声を荒げて暴れるフィンクスに、俺の方は苛立ちを隠しながらも軽口を叩き、甲冑の軍団を片っ端からぶっと飛ばしていた。
 
 
 裏口から入ったところ、人の気配はまるでなく、俺達は足音をなるべく殺しながら宝物庫へと順調に進んでいた。ひとつ、ふたつと角を曲がって行きながらも何者にも出会うことはなく進んでいたところで、今まで過ぎてきた廊下より遥かに幅の広い、甲冑がずらりと並ぶ長い廊下へと着いた。シャルからの事前情報では宝物庫はこの先だ。やっとゴールか、と甲冑からのあるはずのない視線を受けながら、この廊下を抜けるべく赤いカーペットへ歩みを進めた途端に、事は起きた。左右にずらり並んだ甲冑達がひとりでに動き出し、襲ってきたのだ。その数ゆうに30体。それだけならまだしも、甲冑の兵士の持つオーラはそれなりである上に、斧や剣、槍などの物騒な獲物を軽がると振り回し、なおかつ華麗な連続攻撃を仕掛けてくるのだ。甲冑の元の素材もいいのか、敵の攻撃を避けながらで出来る最大限の攻撃をしても、吹き飛びはするものの、傷や凹みもなく体制を崩しただけの綺麗な甲冑が廊下の灯りを鈍く反射させながら、すぐさま連続攻撃に交じってくるのだ。円を広げ周囲を探るも、能力者は見当たらない。恐らく、重い制約と誓約をかけているであろうし、神字を用いているかもしれないが、強化、放出、操作の三系統を見事に扱う能力者らしい。すぐにでも見つけて≪ヴァンパイアエッジ≫で切り裂きたいのだが、どこにいるのか見当もつかなかった。俺のこの大剣は非生物は切れないため、二丁拳銃と己の肉体での戦いを強いられていた。さらに、本気を出そうにもこの奥に宝物庫があるため、少し加減を間違えれば甲冑が吹き飛んで行ってゴミ倉庫になりかねない。ここはどうやら時間稼ぎをしてクロロに術者を見つけてもらい解除を待つ他は無かった。
 
 
 苛立ち交じりの甲冑との円舞が始まって15分程だろうか、ストンと甲冑から力が抜け、崩れ落ちた。いい加減本気でぶっ飛ばしてしまおう、そうしよう、とフィンクスと決めた矢先だったので、本当にギリギリのタイミングだった。動きは完全に停まったものの、未だ灯りを反射し鈍く光る甲冑を足で蹴飛ばしながら扉へと向かう。館の大掃除も終わったのか、ちょうどウヴォーとノブナガも合流し、手はず通りにシャルがロックを解除してあったのだろう扉はすんなりと開き、ようやく山のようなお宝を手にすることが出来たのだった。
 
 
 
 宝の山を麻袋へ積め、力自慢のウヴォーに荷物を任せて仮宿に戻った後、結局大暴れ出来なかった事に苛立ちながらも、クロロと一緒にお宝鑑定団をしていた。しかし、どうやら、ルペア伯爵は散財家だったらしく、大物はあらかた売りに出した後だったようだ。俺はシャルにもっと情報収集はしっかりしろと、溜まった鬱憤を晴らす為に小一時間いびり倒し、こっそりパソコンに悪戯を仕掛けておいたのだった。
 
 
 
 
 
~あとがき~
今回は結構な難産でした。
ウヴォーとノブナガの暴れっぷりが書けなかったのは残念でしたが、リク視点だったのでしょうがないということにしておいて下さい。
感想頂けたら嬉しいです。

6/15 改訂

※念能力について
・狙撃手 ≪降りかかる氷華(アイスボルト)≫
 愛用のライフルから打ち出した念弾を着弾と同時に凍らせる。
 距離30メートル~可視範囲まででしか発動できない

・黒のスーツの男 ≪飛び交う不可視の刃(カッティングイリュージョン)≫
 具現化したナイフを自在に操る能力。見える様に具現化したものを囮に、隠のナイフを本命として使われる。
 ただし、自分の指の数までしか操作することは出来ない。
 凝に慣れていないものには少々厄介な相手。

・エンダー ≪騎士達の宴(ドールズパーティ)≫
 自ら神字を書きこんだ甲冑を操作する能力。
 リク達は気付かなかったが、赤いカーペットの下にも神字が書き込まれているため、パワーも上がり、さらに変幻自在な連続攻撃をさせることが出来た。
 制約として、ルペア伯爵邸内のみでしか使えない。3日間断食しなければパワーが落ちる。発動中本人は身動きが取れない上に絶の状態になる。などがある。



[9501] 序章-4 ルルの憧れ
Name: ハイライト◆d3ef7d09 ID:bd3a2168
Date: 2009/06/24 17:08
 ~マイペース天然少女の問題発言~



【リリ】

「リク兄ちゃー、ボクしゅぎょーしたーい」

 それは、リクが仕事を終えて帰宅した数日後に突拍子もなくルルが放った言葉だった。どうやら、ルナに読んでもらった本が関係しているようだが、あまりに唐突すぎてルル以外の皆が目を丸くした。ルルが読んでもらっていた本を見ると、ハンターが殺人鬼のような悪党を退治したり、絶滅に瀕した生物を悪党から守ったりという内容で、どうやらハンターに淡い憧れを抱いたようだ。
 しかし、ハンターという職業はおいそれとなれるものではない。現存するプロハンターは千人にも満たないのだ。ただの子供の憧れで、すぐに熱も冷めるだろうし、何よりリクやルナがハンターになれるような修行をアタシ達に仮せることはないだろうと思っていた。が、

「そっか、ルルはハンターになりたいんだね。じゃあ修行しようか」

 リクは楽しげにそう言った。アタシは耳を疑った。だって、これではまるで修行しさえすればルルがハンターになれると言っているようなものだ。このおっとりした人形遊びの好きな少女が、だ。アタシはリクに問いかけた。

「それ、本気で言ってんの……?」

 しかし、アタシが不審の眼差しを向けながら問いかけたにも関わらず、リクは微笑みを絶やさぬままに頷き、そしてさらに言葉を足した。

「そういえば、リリもルルも戸籍がないから、ライセンス取った方がいいね。ライセンスは身分証代わりになるし、持ってて損にはならないから」

 そう言って、リクはさらに笑みを深くした。突然の展開に頭が付いてこなかったが、今の言葉はどうにも気になる。まるで、そう、まるで……

「リク……あんたプロハンターなの?」

 疑問が口を衝いて出た。不意を突いた質問だったようで、リクの笑みが僅かに崩れる。そして、ボソボソと、「ああ……そういえば……」などと言っているのが聞こえた。そして我に返ると逆にアタシに聞いた。

「俺の仕事なんだと思ってた?」

 泥棒。間髪入れずにアタシとルルが答えると、リクは大きなため息をつき、項垂れながら言った。

「俺は、というかルナもプロハンターだよ」

 アタシはあまりに理不尽な事実に言葉を失い呆然としていた。しかし、ルルはといえば「すごーい」やら「かっこいいー」などと琥珀色の瞳を惜しげもなくキラキラと輝かせ二人を見ていた。

 その日のその後の事はほとんど記憶にない。ただ、食事の時に「いただきます」と「ご馳走様でした」を欠かすことはなかっただろう。そして、なし崩し的にルルの言う「しゅぎょー」が明日から始まることになったのだった。



~あとがき~
今回は異様に短いです(汗
頭の中に設定は色々出来ているのですが、このエピソード部分でわざわざ出す必要もないので書いてません。
どうしたら、うまく話を書いていけるのか、ちゃんと勉強したいと思いました。

駄文ですが感想を頂ければうれしいです。



[9501] 序章-5 巣立ち
Name: ハイライト◆d3ef7d09 ID:bd3a2168
Date: 2009/06/24 17:09
 ~人間やれば出来るものだと知った~



【リリ】

 ルルの「しゅぎょー」発言から5年程たった。

 「しゅぎょー」の始まりは、最も身近にありながら足を踏み入れたことのない森での追いかけっこから始まった。リクをひたすら追いかけるだけ、という単純なものであったが、その際にこの森がどれだけ危険であるかを知った。
 重い体を跳ねさせるように動き回るウサギガメは実害がなかったのでまだ良かった。しかし、2メートル程ある巨躯のベアウルフや、いつかリク達が捕えてきたオオキバウリなどに初めて出会った時には、もう本当に殺されると思った。と言っても、それらはアタシやルルの視界に入るや否やリクかルナかがすぐさま追っ払っていたので安全ではあった。
 それに、初期に追いかけっこをしていた場所はこの森の中で最も安全な場所でもあったらしい。追いかけっこの時はいつもリクはただ歩いているようにしか見えないのに、アタシ達が必死で走らなければ置いて行かれそうな速さだった。ただ、リクにはアタシとルルの限界がわかっているようで、決して見失うことはないし、後ろからはバスケット片手のルナが着いてきていた。
 いつも決まって、体力の限界になる頃にはちょうど昼で、ルナお手製のお弁当を皆で食べる。ルナ手製のお弁当を食べると不思議と体力が回復する。何か秘密があるのかと聞いた事もあったが、「今は内緒」としか答えてくれなかった。

 お弁当を食べ終わると追いかけっこの再開だ。ここへ着くまでと同じようにリクが前を進み、その後ろにアタシとルルが走っていき、後ろからルナが追いかけてくる。そうして追いかけっこをしていると、いつも決まって陽が落ちるちょっと前に家に辿り着く。アタシとルルは汗が止めどなく流れ出るし、息も上がっているというのに、化け物を追い払いながら走って(歩いて)いたリクとルナは何ともない様子で、風呂の用意と夕飯の支度をするのだ。
 そんな追いかけっこはペースや距離の差はあれど、リクに仕事がある日以外は毎日やっていた。
 それと合わせて、リクが一時期習っていたという「心源流」とやらの型の練習、手合わせなども行われた。ルルは最初人を殴ることに抵抗を感じていたようだが、ルナの必死の説得のかいが合って、なんとかあたしと手合わせ出来るようになった。ルルに体術の心得はなかったが、アタシも頸動脈を掻き切る位の技術しか持ち合わせていなかったので、ルルが最初に遠慮していた分を抜いたら、ルルとアタシはほぼ互角にやり合っていた。


 体術の向上に合わせてか、そこらにいるベアウルフやオオキバウリにも後れを取らなくなった頃からは、「かくれんぼ」もするようになった。風で木々が揺すられ葉の擦れる音とは別に、人や動物の気配のようなものを感じ取る目的だったらしい。悔しいことに、アタシは「かくれんぼ」では一度もルルに勝つことが出来なかった。足音も気配も殺していたはずなのに、気づかぬ内に背中からぽんと肩を叩かれる事が多かった。その度心臓が破裂しそうな程驚いてしまうので、手合わせの時に何度か本気でぶっ飛ばしたりもしてしまった。やってしまってからハッとしたが、ぶっ飛ばされたルルはというと「イテテ」と言うだけでいたって元気ではあった。
 
 そんなこんなで、難度を上げながらも修行をこなしていき、この森、というか所謂樹海であるこの森も踏破した現在、アタシとルルの目の前にはハンター試験の応募用紙が置かれていて、ようやく当初の目的を思い出したのだった。


「っていうか、こんなんで本当に受かんのかよ!」

 アタシが最もだと思うことを言うと、ルルも熊の人形を抱いたまま微かに頷いている。しかし、リクは微笑んだままで、大丈夫だよ、と軽く言ってのけた。

「ルナも何とか言ってよ!」

 そうルナに振ると、ルナもニコニコしながら、大丈夫よ、と言うだけだった。
 思わず長い溜息が出る。

「逆に受からないなら試験管が悪いってことだと思うよ」

 微笑みながらリクは続ける。

「だって、この森は本来プロハンターしか入ってはいけない位の危険度なんだ。この森を自由に歩けるルルとリリなら絶対に大丈夫だよ」

 リクは嘘を吐くことがない。ということは……

「そんな危険な森で遊ばせるんじゃねぇ!」

 アタシは声を大にして怒ったが、リクは微笑んだまま、申込用紙をついっと押しだしてきた。そして、ちなみに……とリクは続ける。

「これから暫くはここを離れなきゃならなくなったんだ。ルナは美食ハンターだから、美味しい食材の宝庫の此処にまだ留まるけどね」

 だから……

「俺にまた会いたいと思うなら、ハンターになって探しに来てくれ」

 そう言ってリクは出て行った。ドアを閉める時に「またな」と聞こえたのは幻聴じゃないはずだ。
 アタシがルルへ眼を向けると、ルルもこちらに目を向けていた。琥珀色の瞳に決意の色が混じっているのがわかる。

「わかった、受けてやろうじゃないかハンター試験!」

 アタシとルルが指紋認証にタッチすると、後は出すだけの申込用紙。アタシとルルはそれを持って森を駆けて行った。とりあえず、ポストのある街へ向かって。



~あとがき~
エピソード終了です。
結構やっつけ仕事になっちゃってるなぁと自分でも思ってます。
とりあえず、受ける試験はゴン達と同期です。
ここからやっと自分の妄想を文章に出来る、と思うと結構嬉しいものがありますね^^
とりあえず、こんな感じのエピソード:1~5でした。
感想頂けると嬉しいです。
それでは失礼します。



[9501] 序章‐1 改訂版 ”女神の血涙”と少女
Name: ハイライト◆d3ef7d09 ID:bd3a2168
Date: 2009/07/17 04:42

 ~転換期・ある少女との出会い~



 物心ついた時には俺の世界は黒一色だった。
 世界と自分の存在を証明するものは、俺に触れる何かと音と匂い、それと質素な食べ物の味だけだった。

「決して目を開いてはいけない」

 言葉を理解出来るようになってすぐからそう言われ続けていた。
 目の周りには分厚い布が幾重にも巻かれ、決して目が現れないようにされていた。
 しかし、なぜこうまで目を隠さなければならないのかはわからなかった。
 父親や部族の皆は俺を厄介者扱いし、物を投げつけられたり、殴られ蹴られたりは当たり前だった中、母親だけは俺を守ろうとしてくれていた。

 人は目で物を見るらしい。
 でも、俺は風の流れや触れた感触で世界を感じ続けていた。
 そうしている内、気付けば実際に触れなくても物の存在とその形が朧気にわかるようになっていった。
 黒一色の世界にも、目で見ることが出来ないだけで様々なものが存在していて、世界はには様々なものがあると知った。
 そうして、自分一人である程度の事を出来る様になってきた時、悲劇が起きた。

 その日は儀式が行われる日だったらしい。
 慌ただしく動き回る集落の人々の中で、母親だけが俺に「ごめんね」と謝り続けていた。
 まだ幼い俺にはその儀式というものが一体何なのかまったくわからなかったが、嫌な感じがしていた。

 そして儀式が始まろうとする時、母親と長老の話し声が聞こえた。

「……私が生贄となった後、あの子は、どうなるのですか?」
「アレは忌み子じゃ。生かしておいたならクルタ族に大きな災いを生むであろう」

 生贄、忌み子、クルタ族、災い、意味がわからなかった。
 しかし、長老のその言葉を聞き、暫く押し黙った後、母は突然俺を捕まえると抱き上げて走りだした。

「生贄が逃げたぞ! 追え!」

 母が走り出してすぐに部族の人達が怒号を上げて追いかけてくる足音が聞こえた。
 母のが地を蹴ると共に揺れを感じ、風を切る音が聞こえる。
 木々や葉の匂いがするから、森の中へ逃げて行っているのだろう。
 そんな中、駆ける風切り音とは別の、もっと鋭い音が聞こえた。同時に温い音。それが何度か繰り返された。
 母の体から血の香りが微かに届いて来る。
 それでも母は走ることをやめなかった。
 あの音は恐らく矢の飛んできた音だろう。そしてその後の音は母の体に矢が刺さった音。
 それでも母は数時間にも渡って走り続けた。
 そうしていつしか人が草葉を踏み散らす音はほとんど聞こえなくなった。
 代わりに母の荒い息遣いが耳元に聞こえる。その音には、大丈夫だから、そう誰にともなく言い聞かせる声が混じっていた。



 どれだけ走ったのだろう。いつしか森を抜け、腐臭漂う場所へ来ていた。
 母はもう息も絶え絶えで、歩くことすらおぼつかないようだった。
 と、抱えていた俺を母が不意に降ろし、目を覆う布を剥がしていった。
 一枚、また一枚とはがされていく中で世界が黒一色から徐々に白を孕んで行く。
 全てがはがされたが、俺は目を瞑ったままだった。
 しかし、母が掠れた声で俺に話しかけてくる。

「……リク。もう……目を、開いて、いいの、よ? お母、さんに、あなたの、瞳を、見せ、て、頂戴……」

 言われてゆっくりと瞼を持ち上げる。目を開くなんて初めてのことだった。
 瞼を開き切ると、山から顔を出した灰色の光りが母の姿を黒に程近い灰色に染めていた。
 母の姿を見れば至る所に矢が刺さり、そこから黒い液体が流れ出していた。

「……やっぱり、リクの、瞳は、綺麗、ね。もう、瞳を……隠す、必要なんて……ない、から」

 母の言葉にコクリと頷く。すると、母は表情を変えた。目が細まり、唇の両端が持ち上がる。
 暖かい気持ちが流れ込んでくるようだった。

「こん、な、ところに……一人で、置いてって、ごめ、んね?」

 母の言葉に俺は首を振る。母の服に強くしがみつく。目から溢れ出る涙を堪える事は出来なかった。

「リクは、強い子だ、から……素敵な、人生を……」

 そこで言葉は途切れ、母の体から一切の力が抜け落ちて崩れ落ちた。
 俺は倒れ伏した母に縋りついて泣き続けた。






「夢、か……」

 俺はソファーから身を起こすと横へ流れ落ちた涙を拭い、固まった身体を伸ばした。
 此処は友人のアジトの一つで、元は使われていない空き家だ。外から見れば四角い箱の上にそれより少し小さめな同じく四角い箱が積まれただけのコンクリートで出来た簡素な建物だ。
 当初、電気や水道は止められていたのだが、仲間内の誰かがどこかから引っ張って来たらしく、生活するのに不便はない。
 どこかから盗んできただろう旧式の小さめの冷蔵庫から飲み物を取り出し、蓋をあけて飲む。と、髪をオールバックにし、額に十字架のタトゥーを入れた男が本を読んでいるのが目に入った。

「おはよう、クロロ」

 声をかけると無表情のまま本を閉じ、顔をこちらへ向け口を開いた。

「こんな夜中におはようはないだろう、リク」
「俺は夜行性だからいいんだよ」

 そう言って微笑んだ俺の顔を見ると、明らかに呆れた様子でクロロは短く息を吐いた。

「まったく、仕事を終えて帰って来た時にお前を見て少し驚いたぞ? よく、ここがわかったな」
「いやぁ、仕事すっぽかしちゃったから仕方なく今回の仕事場の近くのアジトに来てただけだよ。ただの偶然さ、きっと」

 偶然か、そうクロロが呟きながら懐から何やら小さな包みを取り出し、埃がかったガラスのテーブルの上に置いた。

「今回の獲物の中に変わったものがあってな」

 これもまた偶然、か? そんな声を聞きながらも包みを開くと、中に液体の入ったライター程の大きさのガラスの小瓶が入っていた。瓶自体には何の変哲もないが、その中の液体見て俺は眼を見開いた。

「……そこまで反応するとは思わなかったな。万病に効く、というのもどうやらデマではなかったようだな」

 どこか満足そうに頷くクロロが視界の端に映っていたが、俺の目の前の小瓶の中の液体を凝視していた。

 俺の世界、目で見た世界は、常に一(黒)と零(白)の狭間で揺らぐだけのものだった。
 自分に全色盲という遺伝子欠陥があると知ったのも10年程度前のことであり、つまり、生まれてからずっと、俺の視界は一と零の狭間に捕らわれていた。
 夜行性というのも、昼間に行動するには陽の光があまりに眩しすぎて世界が零に覆われ、ほとんど何も見えないからこそだった。

 しかし、今目の前にある液体は一と零の狭間とはまったく無関係な異彩を放っている。

「"女神の血涙"というそうだ。試しに飲んでみるか?」

 俺の世界での明らかな異物である液体を見つめる端で、クロロの唇が弧を描いた。
 ただ、クロロの言葉も、表情も、"女神の血涙"に捕らわれた俺には届かず、導かれるようにして小瓶の蓋を開け、俺は液体を飲みこんだ。

 途端、世界が変わった。

 一と零の狭間で揺らいでいた視界が、色というものを持ちだした。寝転がっていたソファーはそれまで一に近い灰色だったのが、まったく別の色に変わっていた。あえて言うなら、先程飲んだ"女神の血涙"に近い色だった。
 俺はそのまま部屋にある物を一つ一つ目を見開いて見ていった。全てが一と零の狭間から抜け出し、色というものを得ていた。
 おもちゃ屋を眺めまわす子供のような俺の姿を笑いながらクロロが声をかけてきた。

「くっくっく。どうだ? "女神の血涙"の効果の程は?」
「黒と白とその間の色以外の色を初めて見たよ! これは何色なんだい?」

 興奮を抑えられぬままにそう言って先程の飲み物を見せると、オレンジだな、とクロロは笑いを堪えながら返してきた。
 その後もあれこれと色を聞き、覚えていく。
 本当に夢中になってアレコレと聞いていたが、もとよりこのアジトには物が少ない為、すぐに聞き終えてしまった。
 外へ出て他の色を見てみるのもいいかもしれない、そう思った時、疑問が浮かんだ。

「なぁ、クロロ。"女神の血涙"は誰の血なんだ?」

 俺がそう問うと、クロロは暫く口元に手を当てて考え込み、口を開いた。

「わからない。ただ、アテは少しあるがな」
「アテがあるだけで十分だよ。さっさとシャルに調べさせてくれ」
「……血の持ち主を見つけてどうするつもりだ?」
「とりあえず会ってみたいだけ、かな?」

 俺が悪戯っぽく笑って言うと、クロロは「そうか」と呟き、シャルを呼び出した。





 シャルが"女神の血涙"の持ち主の居所を探すのには丸一週間が費やされた。
 その一週間の間、俺は一と零の狭間から抜けだした世界を堪能していた。
 珍しく昼間に起きて外へ出た瞬間、吹き抜ける様な青い空の色に感動した。
 夕焼けも今まで見たものとは全く違うもので、まるで自分が今まで死んでいてやっと命を得たかのように感じた。

 マチやパクと出かけてショピングも楽しんだ。
 今までは白か黒で統一されたスタイルだったが、俺が色を見ることが出来るようになったことを二人は喜んでくれて、様々な色の服を買った。
 その際、姿見で自分の姿を見て、俺は初めて髪の色が薄紅色で、瞳が空の色だと知った。嬉しさを隠しもせずにそれをマチに言うと、

「あんたの瞳は空の色で奇麗だって皆知ってたよ」

なんて頬を赤く染めて言い返された。
 妙に嬉しくなって、昔よくやっていたようにマチを軽く抱きしめる。途端にマチは顔を真っ赤にして俺の腕を振りほどいた。
 人の表情は形だけじゃなく色も変わるのか、なんて思い微笑むと、マチはそのまま暫く俯いていたが、すぐに手を取られ次の店へと連れて行かれた。

 一人で森の中を散歩したりもした。
 樹齢100年を超すだろう大樹には、これまで感じたことのない威圧感を感じたし、そこらに咲く花々の醸し出す微妙な色合いを楽しんだ。
 虫や獣、様々な生物を目にしていったが、それらの持つ色は今まで知らなかった生命の輝きというものだと気付いた。

 そうやって自然や人の作りだした色彩を堪能しているとあっという間に時間が経ち、シャルから連絡が入った。





 シャルの調査の結果、まず"女神の血涙"はユベールゼ・ファミリーというマフィアから流出されていることがわかった。ここ数年でのし上がったファミリーらしく、マフィアンコミュニティーにも属している。
 さらに、そのファミリーのボスのいる邸宅から"女神の血涙"が運び出されていることもわかった。
 つまり、ユベールゼ・ファミリーに喧嘩を売ることになる。だが、俺はもともと盗賊の手伝いをやっているし問題はない。
 クロロに誰か連れて行くか問われたが、必要ないと切って捨てた。

 そして、今、俺は口元まで隠す白いロングコートに黒い大剣を背負い、腰に二丁拳銃を差してユベールゼ・ファミリーの屋敷の門の目の前にいる。
 入口でギャンギャン吠えていた黒スーツの男達はさっさと殺っておいた。
 格子状の月明かりを鈍く反射させる黒い門からは両脇にレンガ作りの塀が50mは伸びている。
 流石、成金、いや成り上がりなだけあって、格子の隙間から見える屋敷は改装に改装を重ねたようだ。
 屋敷は3つの棟に分かれているようで、中央にある慎ましい屋敷から左右に渡り廊下が伸びている。恐らく、この中央の棟が最初の屋敷だったのだろう。
 渡り廊下を進んだ左側には派手な建造物がひっついている。右側は石造りの塔で、どちらも外側に入口は見えないため、どうしても中央の屋敷を通り抜ける必要があるようだ。
 そこまで確かめて、シャルに事前に渡された屋敷のマップと俺が見ている屋敷に相違がないと確信する。ただ、どこに"女神の血涙"の持ち主がいるかはわかっていないため、虱潰しに探す必要がある。
 すでに門の前の惨状は内部に伝わっていたようで屋敷から武装した黒スーツの男達が水攻めされた蟻のようにわんさか溢れ出て来るのが見えた。

 俺は彼らへの挨拶代わりに門を派手に蹴り飛ばし、侵入を開始した。




 中央の屋敷の掃除は至極あっさりと終わった。念能力者は2、3人いたがたいした使い手でなかったし、武装した人間がいたといっても40人程度だ。
 3階建ての屋敷の部屋を片っ端から調べるのには少々時間がかかった。
 しかし、中央の屋敷の探索を終えても特に何も得るものはなかった。護衛の人員が泊まる施設かなにかに利用されていたのだろう。
 雑魚寝をするような部屋や個室、それと武器庫程度しかなかった。

 そうなると次は左の派手な棟か、右の石造りの塔だ。考えるのも面倒だったので、友人達に作ってやたコインで決めることにする。
 表なら左、裏なら右だ。
 右手の親指でコインを弾く。

 血の一滴も流れていない、40人余りが屍になって転がった静かな屋敷で、弾き上げたコインが凛と音を響かせる。
 
 くるくると回転しながら落ちてくるコインをキャッチし、見る。

 ――表。

 よし、と左側のやけに派手な棟へと歩みを進めた。

 渡り廊下には何の仕掛けもなく、シャンデリアの類だけがここのボスの顕示欲を表していた。
 5m程の渡り廊下を抜け、扉を開く。

 目の前には3人の男がいた。
 
 部屋の窓や扉は完全に閉じられていて、明らかにここで俺を迎え撃つ気だったのがわかる。
 彼らの体から溢れるオーラが熟練の能力者であることを如実に示していた。

 左の男はやや細身の体躯に赤いシャツを着て、その上から黒いスーツを着込み、黒いネクタイをきっちりと締めていた。手には何も持っていない。
 真ん中の男は小柄で同じく黒スーツだが、灰色のシャツのボタンを開けて着ている。手には一丁の拳銃。
 右の男はがっしりとした恰幅の男で、同じく黒いスーツをきっちり着ていた。こいつも何も持っていない。

 俺が扉を閉じるとともに真ん中の男が口を開いた。

「イヒヒッ、残念だけどアンタはここでゲームオーバーさ! せいぜい楽しませてくれよっ」

 言葉が終ると同時に銃弾が放たれた。まっすぐ俺の心臓目がけてくるそれを横に一歩動いてかわした。しかし、同時に銃弾の軌道がカクンと曲がり、俺の頭部に向かって来た。それをしゃがんでぎりぎりのところで回避した直後、床を蹴り、正面の男へ向かう。
 再び小柄な男が銃弾を撃ち出す、が遅い。
 射線から外れて飛ぶように男の斜め後ろに着地し、そのまま大剣を上段から振るう。と、いつの間にか右の男が右手を俺の方へ突き出していた。それに気付いた直後、男の手のひらからニードル状のオーラが高速で迫ってきた。首を傾けることで直撃は避けたが頬を掠められた。
 デカイ男に気を取られたせいで小柄な男を仕留めることはできず、浅く傷を作っただけだった。しかし、一瞬で気を取り直し、こちらに向き直っていた小柄な男の後ろに跳ぶと同時に、右手を突き出したままのデカイ男に腰の拳銃を素早く抜きオーラを込め撃ち放つ。
 しかし、男は避けることはせず、左手を射線へ入れると再び先程の技を撃って相殺させた。
 なかなかやる、知らず口笛を吹いていた。

「アンタ随分余裕ぶっこいてんじゃねーのぉ!?」

 こちらの攻撃を警戒して距離を取った小柄な男が口笛に反応してそう言うや否や、再び銃撃。先程見せた銃弾の動きからするとこいつは操作系の能力を使っている。銃弾も強化されているだろうが大した威力はない。そう判断すると左手に持ったままの拳銃にオーラを込めて銃弾を打ち払う。その時、中空に舞い泳ぐ奇怪な魚が二匹、目に入った。――左の男の能力か。

 おそらく具現化された念獣だろうが、効果がわからないからにはただ注意を怠らない様にするしかない。と、再び小柄な男が撃ってきた。
 正直コイツの攻撃にはもう飽きた。いくら中空で軌道を変える銃弾だろうがこちらの反応速度の方が勝っている。真っ向から飛び込む形で突き進み、銃弾を再び打ち払い、そのまま小柄な男を大剣で斬り、身体を左右に分かれさせてやった。
 男が倒れる音とともに暫しの静寂が部屋に訪れ、大柄な男も俺を警戒して動かない。
 そんな静止した空間で、舞い泳いでいた魚が倒れた男の肉を貪り食い始めた。不思議な事に喰い口からは出血も何もない。少し興味を引かれる能力だったので、赤いシャツの男は置いておいてデカイ男に躍りかかる。

 先程の動きを見た限りでは俺のスピードには追いつけないと判断し、一瞬で背後へ回り、大剣を横薙ぎに振るう。と、男の背中から無数のニードル状のオーラが噴出し、剣撃を鈍らせられた。しかも、ここはニードルの射程範囲内。即座に大剣を放り出すと大きくバックステップし、かわした。

 大剣は見事にすっ飛んで行って小さな窓ガラスを割ったところで落ちた。それと同時に魚が消え、小柄な男の喰われた箇所から血が噴出する。何かしらの制約を破ったらしい。あの念魚に関しての考察をしながらも素早く大剣を拾いに行く。
 その間に拳銃にオーラを十分に込めておく。剣を拾うと同時に再び大柄な男へ向って飛び、オーラを十分に込めた念弾を放つ。最初にやったように右手を突き出し、ニードル状のオーラで防御するつもりだろうが、あの時とは威力が違う。男は右手からオーラを撃ち放つがこちらの念弾の威力で彼のオーラと共に右腕の肘から先が吹き飛んだ。驚愕して体が固まった男をそのまま大剣で切り裂き、二人目を殺した。

 あと一人の赤シャツは? と見れば、手を挙げて降参のポーズ。呆れながらも素早く背後へ移動し首筋へ手刀を打ち放ち、気絶させた。

 どうやら少し舐めすぎていたようだ。こうして怪我をするのも久しぶりだ。そう考えながらも、血が滲む頬に触れながら先の部屋へと歩みを進めた。




 奥へ進み、手当たりしだいに部屋を回るが、"女神の血涙"の持ち主が見つからぬまま最後の部屋に着いた。黄金で出来たノブに鍵はかかっておらず、そのままノブを回し部屋に入ると、大量の絵画や黄金の像など、如何にも成金の好みそうな物が集めて置かれていた。
 そんなてんでセンスのない部屋の奥には、でっぷりとした体躯に黄色のシャツをはだけさせ、紺色のスーツを着た男が革張りのソファーに沈み込んで座っていた。葉巻を持った手にはゴテゴテとしたデカイ宝石のついた指輪が3個もつけられていた。
 彼は呆然と俺を見ていた。口元がわなわなと震えている。

「"女神の血涙"の持ち主に会いに来ました」

 そう俺が告げると、彼はおもむろに拳銃を取り出し撃った。しかし、所詮素人の撃った弾で、俺にかすりもせず、黄金の像を破壊しただけだった。俺は笑顔を浮かべながら彼へと歩み寄る。

「素直に出してくれれば痛い目には逢わないよ」

 プルプルと震えた銃口をこちらへ向けたまま、彼は掠れた声を絞り出した。

「ル、ルッツとヴェーアとアビスはど、どうした……?」
「この棟の入口にいた三人のこと? 二人は殺して一人は気絶させてあるけど」
「な、な……」

 俺がここにいることでその位は予想できていたんだろうが、俺の口から事実が告げられると男は唇を紫色にしてわなわなとまた震える。

「で、素直に出す気にはなった?」

 そう問いながら、男の持つ銃の銃身をぐにゃりと曲げる。

「だ、出す! こ、この鍵だ! これで向こうの塔の扉が開く!」

 震える手で乱暴に机の引き出しを開けるとその奥に隠された鍵を取り出し、その鍵を使って別の引き出しを開け、やけに古めかしい鍵を取り出し、俺に差し出して来る。
 俺は鍵を受け取ると、笑顔を消して男の指の爪を一枚剥ぐ。男が呻いた。

「本当に?」
「ほ、本当だっ!」
「ん、わかった。じゃあ楽にしてあげるね」

 ほっと溜息をついた男の首を大剣で跳ねてやる。男から受け取った鍵を眺めながらスキップして部屋を出て、移動を始めた。





 
 石造りの塔へ着くと、そこには重厚な鉄の扉があった。ご丁寧にも念で強化されているらしく、鍵を使って開けるほかはなかったようだった。
 ここのボスから受け取った鍵を使うと、ちゃんと扉を開いた。中を覗けば、質素な石造りで中央に大きな柱があり、それに巻きつくようにして上へ昇る螺旋階段があった。
 迷わずに階段を軽い足取りで上って行く。ドアの類は一切見えなかった。
 そうしてちょうど塔の天辺辺り達した時、そこにはドアがあった。

 ここに"女神の血涙"を持つ人間がいる。

 そう思うと胸が高鳴った。なにせ、色のない世界を生きてきた俺に色を与えてくれた人だ。感謝してもしたりない。

 心を落ち着けてノックをしてみたが返答がない。無遠慮だが、失礼します、と声をかけてドアを開けて中へ入った。中は薄暗かったが辛うじて中の様子が伺えた。

 ――そこには拘束具を嵌められ、無数の管が体に取り付けられた少女が横たわっていた。

 なんてことを、そんな怒りが芽生え、ボスの男にはもっと痛い目をあわせてやった方が良かった、そう後悔をしながらも少女へ視線を戻す。

 "女神の血涙"を飲んだ時以上の感動がそこにあった。

 少女の髪は乱雑に短く切られていたが、シャルやパクとは比べ物にならない程の眩い金色だった。
 肌は陶器のような滑らかさをもった透けるように眩い白。

 導かれるようにして少女の傍へ足が進んでいく。と、少女が目を開いた。

 その瞳は太陽を秘めたような琥珀色で、美しかった。同時に、この少女が"女神の血涙"を生みだしていると確信を持って思えた。

 少女につけられた拘束具や邪魔な管をすべて取り払っていく。と、少女が俺の頬に手を伸ばしてきた。その手には管をはずす時に出てしまった血が付いていたが少女の行動を止めることは出来なかった。

 少女が自らの血のついた手を俺の頬に当てると、ジンジンとしていた熱さが消え、代わりに温かさが伝わってきた。

 ――傷が癒えた? "女神の血涙"はこの小さな少女の血だったか。

 知らず、身体が勝手に少女を抱きかかえていた。少女からの拒絶の意思は感じられない。

 俺はそのまま部屋を出て、気絶させておいた男をクロロへのお土産についでに抱えて屋敷を出ていった。





「これが"女神の血涙"の元か?」
「そうだよ。ちょっとへまして頬怪我したんだけどこの子の血を当てられたら治ったしね」

 クロロの元へ辿り着き、お土産も無事渡し終え、あとはこの少女をどうするかで、それをクロロに相談していたのだ。
 その少女はと言えばおぼつかない足取りで部屋をうろうろしていた。
 仕方のないことだ。あのファミリーがここ数年でのし上がったのは"女神の血涙"があったからこそで、この少女はあの場所にずっと拘束されていたのだから。

「名前はなんと言うんだ、こいつは?」
「……知らない」

 クロロの問いに視線を逸らしながら答える。と、マチが横から口を挟んできた。

「リク、あんたが名前つければいいじゃないか。それと、ルナのとこで一緒に面倒見てやったら? ちゃんと家持ってる奴が預かるのがいいでしょ。料理も美味しいし」

 マチの言葉に「ああ、そういえばルナがいたなぁ」と思いだす。しかし、名前か……。

「名前どうしよう……」
「名前なんてものは個人を特定する単なる呼称だ。適当につければいい」
「団長、それはちょっと酷いんじゃない? でも、案外パッって思いついた名前がいいとは思うけどね」

 パッと思いついた、ねぇ……。

「ルル」
「ふぁ?」
「ん、返事もしたからルルで決定!」

 俺がそう言うとマチが呆れて溜め息を吐いた。

「んじゃあ、さっさとルナに連絡とってルナのとこ行きな。こんな子供連れて仕事なんか出来ないだろう?」
「そうだね。じゃあルナに連絡するよ」

 俺がマチにそう笑いかけるとマチははいはいと手を振ってどこかへ行ってしまった。
 俺はルルに視線を合わせて言う。

「ルル、これから当分は面倒見てあげる。一緒においで」
「うぁ!」

 そうルルが叫んで笑った。つられて俺も笑みを零した。






~後書き~
改訂版、初投稿です。完全に変わってます。
本当は序章纏めて書きなおした後に投稿しようかと思ったんですが我慢できず投稿しちゃいました。
ただ、リクのキャラとルルのキャラの生成過程は描けたと思ってます。
全色盲についてはちょこっと文献漁った程度なのであくまで作者が考えた妄想状態です。
あと、本当は夢から覚めた後にその後の流星街の出来事ちょっと書こうかと思ったんですが、書けませんでした。

改訂版どうでしょうか?
あえて改訂前も残してあるのですが、感想頂けると嬉しいです。

7/17 さらにちょこっと改訂



[9501] 序章-2 改訂版 拾いモノとお仕事
Name: ハイライト◆d3ef7d09 ID:bd3a2168
Date: 2009/07/17 04:37


 ~拾い子と大黒柱のお仕事~



【名もなき少女】

 アタシは両親を知らない。
 さらに言えば自分の名前も知らない。

 気がつけば文字通り血反吐を吐く訓練を課せられていた。戦争の駒として利用されるために。
 アタシと同じようにしてどこからか拾われてきた仲間達も訓練の厳しさで死んだり、訓練が済むとすぐに戦場に送り出され、顔を合わせることはなかった。

 訓練という名の拷問は数年間続けられた。
 体を鍛えることから始まり、銃器の扱い方を教わり、おまけ程度に読み書きの練習。
 何度死ぬかと思ったろうか。
 それでもアタシは生き残った。
 どうやらアタシは毒に強い耐性を持っていて、さらに身体能力もあったらしい。
 学習能力も高かったのか、他の仲間と比べて年若いうちに戦場に送り出されようとしていた。


 そして、戦場へ送り出される日がやってきた。
 それはアタシが7歳になる少し前の事だった。


 4人の仲間と共にすでに人の気配の薄くなった街を静かに、速やかに移動する。
 そうして、1時間余り移動した時、敵兵が数人まとまって行動しているのが見えた。
 アタシ達の中のリーダー格の男が身振りで指示を出す。
 死角へ回り込み、攻撃開始。
 持たされた銃が火を吹いて鉛玉を敵兵へ飛ばしていく。
 しかし、敵兵の反応は鋭く、撃ち込んだ鉛玉は碌に当たりやしなかった。

 そして、反撃。

 アタシ達より遥かに訓練され、洗練された動きでアタシの仲間達を葬っていく。
 その間にもアタシ達は愚直に撃ち続け、敵兵の何人かは殺せた。
 それでも、気付けば残ったのはアタシと敵兵の一人だった。
 銃の弾はもう切れている。
 アタシに残されたのは教官に渡されたコンバットナイフ一つ。
 敵持つ銃の銃口がこちらを捕らえるより早く移動し、かわし続ける。
 ここで背中を向けて逃げ出せばあっけなく撃たれ、死ぬ。そんな確信めいた予感があった。
 だから必死で避ける。
 不意を衝いて敵と交錯するように滑走し、相手の首を切り裂いたが――が浅い。
 そして、アタシが再び避けることに徹しようとした時、ついに鉛玉がアタシの腕を、脚を打ち抜き、痛みと衝撃であっけなく体が吹き飛び地に臥した。

 アタシを撃った男の嫌に無機質な顔が見える。
 そして、アタシにまだ息があることがわかると、再び銃口をアタシに向けてくる。
 彼等にとって敵を殺すことはもはや何ら感情を抱くものではないのだろう。
 そんな無感情な黒い瞳を見た途端、背筋にヒヤリとした感覚、そして震えだす身体。
 ――アタシは恐怖している。
 生まれた意味もないのに、これから生き続ける意味もないのに、それでも"死"に恐怖している。
 歯がカチカチと合わさる音がやけに大きく聞こえる。
 早鐘を打つ心臓の鼓動も鼓膜を大きく細やかに振動させている。
 鈍く光る無機質な銃口とその先にある無感情な顔。
 これが名も無いアタシの見る最後の光景。
 いつか写真で見た北極よりも冷たい光景だった。
 耐えきれずアタシは瞳を閉じた。

 その時、風が吹いた気がした。

 トンと軽やかな音、ドスンと何かが落ちる音、ガチャリと金属が地面に落ちる音、それらがほぼ同時に聞こえた。
 ジャリと小石混じりの地面を歩く音がこちらへ向かって来る。

 こんな寂れた戦場に誰が?

 そんな疑問を持って、残った力で再び瞼を開く。
 目の前には悲しそうな顔をした白いコートに黒い大剣を背負った男。
 口がパクパク動いているみたいだけど何も聞こえない。
 緩くパーマがかった薄紅色の髪と空色の瞳を眼に焼き付けて、アタシの意識は途切れた。





 気付くと見知らぬ天井があった。
 綺麗な木目調の天井で、微かに木のいい香りがした。
 暫くそのままぼーっとしていると、違和感が其処ら中にある。
 腕や足に柔らかな布が丁寧に巻かれているし、今着ている服も少年兵として着せられていたものとはまったく質の違うもので、しっとりと柔らかで肌によく馴染んだ。
 寝ころんでいるコレもそうだ。
 訓練時代には木の床の上に薄い布をひいた上で寝ていたのだが、今寝転がっているのはふかふかとして気持ちがいい。
 再び眠りに入りそうになる頭を振って、アタシは綿で出来た歯車が回るような思考で今の状況を考え始めた。
 まず、アタシは戦場に出たはずだった。
 そしてそこで……あの時見た無感情な黒い瞳が脳裏に浮かび身を震わせた。
 そう、アタシはあそこで死ぬはずだった。
 腕や足を撃ち抜かれ、そして、薄紅色と空色があった。

 そこまで思い至った時、部屋のドアが開く音がした。
 アタシは慌てて武器になりそうな物を探す、が無い。
 警戒したままドアの方を見れば金色の髪を短く整えた少女がいる。
 少女を観察してみるがオレンジ色のワンピースに身を包んだとても可愛らしい少女で、肌は陶器のような滑らかさを持って透けるように白い。
 身動き一つしない少女の足もとから視線を上げていき、琥珀色の瞳と目が合った瞬間、少女は声を上げてドアの外へ飛び出していった。

「パパぁ! 起きたー!」

 ドタバタと駆け回る音がして暫くすると、同じドアから薄紅色の髪と空色の瞳を持つ男がぶつぶつと何か言いながら現れた。

「まったく、パパじゃないって言ったら何度言ったらわかってくれるんだか……」

 現れた男を見ると身の丈は180センチに少し届かない位だろうか。細身の体に月と蜘蛛の描かれた黒のTシャツを着て赤いジーンズを履いていた。
 顔は整っていて、どこか天使を思わせる容貌だった。

「っと、おはよう。身体は大丈夫?」

 そう言われて包帯の巻かれている箇所を動かしてみるが何ら問題がない。痛みもない。
 コクリとアタシが頷くと男は微笑んだ。

「よかった。だいぶ酷い怪我だったから、もしかしたら、とも思っていたんだ。何ともなくなって良かったよ」

 男の微笑みに捕らわれながらも、アタシの喉は音を発した。

「アンタがアタシを助けたの?」

 男は微笑みをそのままに頷く。
 どこか居心地が悪くなって男から視線を逸らすと、何かを考える間もなくアタシの喉は次々と言葉を吐き出していく。

「何でアタシを助けたの!? 助けて一体どうするつもり!?」

 アタシの問いから間を開けずに男は答えた。

「理由、か……髪と瞳の色が似ていたから、かな? 特に君をどうかするつもりはないよ」
「わっけわかんない!」

 知らずアタシは叫んでいた。
 アタシはあそこで"生"に何の価値も見出せぬまま死ぬはずだったんだ。
 それがこの男の単なる気まぐれで生かされている。
 今までの生活は一体何だったの? 死んでいった仲間達は……
 気付かぬ間に碧い瞳から涙が流れ落ちようとしていた。
 その時、頭に暖かい何かが乗って、アタシの赤みがかった白い髪を優しく撫で始めた。

「過去は過去で、未来は未来だ。これから何をするかは君自身が決めるといい。俺も最近それに気付かされたばかりなんだよ」

 知らず声に出してしまっていたらしく、男から慰めの言葉がかかった。
 ただ、嫌な感じはしなかった。
 顔をあげて男の顔を見ると、男はどこか悲しげに笑っていた。

「アンタ、名前は?」

 流れ落ちようとした涙を掌で振り払うと、アタシはそう聞いた。

「俺はリク。君の名前は?」
「……んなもんない」
「君も名前がないのか……じゃあ名前を決めないとね」

 勝手に名前を決められることになってしまったみたいだ。
 アタシの事はお構いなしに、どうしようか眉間にしわを寄せて悩んでる男、リクの様子を見ると涙の代わりに思わず笑みが零れてしまった。
 しかし、名前は中々思い浮かばないようだった。

「さっきの金髪の女の子、あの子は? 娘なの?」

 アタシがそう聞くとリクは頭を振った。

「娘じゃないって! 全然似てないだろう? あの子も拾って来たんだよ。あの子はルル。最近やっとまともに喋れるようになったと思ったら、俺の事パパなんて呼ぶんだよ、困った事にね」

 そう苦笑いすると、何か思いついた顔をした。

「簡単な名前でいい?」

 そう問われたので「別に構わない」と返しておいた。

「それじゃあ、君はリリ、ね?」

 ルルに対してリリ。この人は意外と安直な頭の持ち主らしい。
 ただ、名前を付けられることに抵抗はなかった。寧ろ……

「オッケー。名前付けてくれてありがと、パパ♪」

 内心の照れを誤魔化し茶化すようにそう言うと、思った通りにリクはまた苦々しい顔をしたので笑ってしまった。

「パパはやめてくれ。これでもまだ20なんだよ……。ああ、そういえばこれからのこと決めてなかったね。とりあえずはうちに住むかい?」

 これからのこと……考えてみるとこのまま厄介になるわけにもいかない気がした。

「アタシ、脱走兵扱いになってるから……治療と、名前くれただけで十分だよ」

 そう言って無理やり笑い、ベッドから降りようとした。
 その時、リクがアタシの肩を掴んで笑った。

「戦争は終わったよ。スカ国の戦争煽ってた人達が皆死んだからね。だからリリは自由にしていいんだよ」

 リクの言葉を聞きながらも目の前にある空色の瞳から目が離せなかった。
 その瞳はリクの言葉が真実だと告げていた。

「リリが嫌じゃなかったらうちで暮らすといい。他の同居人はまた後で紹介するから」

 その時のリクの微笑みは今までの辛かった事全部を吹き飛ばすような微笑みで、アタシはリクの胸に頭を預けて泣いてしまった。
 




 リクという男に引き取られてから1ヵ月余りが経った。
 誘ってきたものだからてっきりこの家はリクの持ち家だと思っていたのだけれど、実はルナという女性の持ち家だったらしい。
 ルナは赤みのさした茶色の瞳に黒髪で、カンザシというジャポンという国独特の髪留めで長い髪を結い上げ、飾っている。着ている服も大方はジャポンのキモノという服を着ている。
 そして、食事の用意はいつも彼女がする。
 彼女の料理は、少年兵時代に食べたものとは比べようもなく美味しいもので、さらに不思議な事にどんなに疲れていても完食すれば元気になる。ただ、その際に「いただきます」と「ごちそうさま」を欠かしてはならず、さらに完食することを徹底された。
 まぁ、徹底されるまでもなくあっという間に食事は食べ切ってしまうのだけれど。

 アタシを誘ったリクはといえば、知らない内にフラフラと外を出回っているらしく、その時に料理の食材も獲って来たりしていたが、それ以外に目立った行動はなく、20歳という若さで隠遁生活を送っているのだろうかと疑問に思ったりする。

 そして、3人目にして最後の同居人のルルはといえば、ルナの手の空いている時に絵本を読んでもらったりして読み書きを勉強していたり、部屋の中をバタバタと動き回ったりしていた。
 そして、お風呂の時以外にはルナが作ったという凶暴そうな熊のぬいぐるみをいつも大事そうに抱えている。
 歳はアタシの一つ下なのだがあまりにも子供っぽ過ぎるんじゃないかと思ったが、その容姿からすれば愛らしいの一言で片付けられてしまう程度の問題だった。
 ただ、これにも色々と事情があるらしい。
 その事情について何度かリクやルナに聞いてみたが、毎回はぐらかされて終わってしまう。
 あ、蛇足だけれども、ルルがリクをパパと呼んでいたのはルナがそうさせたからだったそうだ。
 今ではリクとルナの事をそれぞれ、リク兄ちゃ、ルナ姉ちゃと呼んでいる。

 そんな謎だらけなこの家の暮らしだが、最大の謎はこの家の場所だ。
 リクやルナにはまだ危ないから外を出歩いてはいけないと言われているが、言われるまでもなく歩き回ったりなどしない。
 この家の周りはだだっ広い森で、家の屋根に上って見てもひたすらに緑が広がっているのだ。
 それも、リクに森に生息する動物の写真を見せてもらったが、危険度が高すぎる動物ばかり。
 怪しげな、森に入って、動物の餌、なんて辞世の句なんて読みたくもない。
 それでも、リクやルナは服に汚れを一切見せずに近場(?)の街まで買い出しに行ったりしている。
 スカ国で少年兵をやっていた時に地図を見たことはあったが、その地図の中にこんな森は存在していなかった。
 一体ここはどこなのか。いっそ異世界に迷い込んだ気分にもなる。




 そんな不思議な家の中で変わらぬ日常を送っていたある日、唐突にリクが話を切り出した。

「明日、仕事に行って来る」

 その言葉を聞いたアタシとルルは大層間抜けな面をしていただろう。なぜなら、リクが仕事をするところなど見たことがなかったからだ。
 ルルが何のお仕事するのかなー? と言っていたが、アタシも同じ思いだった。
 てっきりここでルナと自給自足の生活を送っているものだとばかり思っていたからだ。
 そんなアタシとルルの感情を読み取ったのか、リクは悪戯小僧のようににかっと笑って言った。

「ちょっと宝石盗みにね」

 ルルは無邪気に「リク兄ちゃって泥棒さんなのー?」と少しはしゃいだ様子で言っていたのを片隅で聞きながら、アタシは何の冗談だ、と思った。
 しかし、ルナは何も気にした風もなく「気をつけてね」なんて言っていた。





~後書き~
改訂前、序章2と3に分かれていたのがくっつきました。
内容的には然程変わってないかなぁ、と。
文章力はどうなんでしょ?
少しはましになりましたか?

感想頂けると嬉しいです。
では、また。



[9501] エピソード-2 ルルとリリの冒険
Name: ハイライト◆d3ef7d09 ID:bd3a2168
Date: 2009/06/24 17:09
~はじめてのおつかい~



【ルル】

 ボクがしゅぎょーをお願いしてからたくさん時間が過ぎた。どのくらいたくさんかっていうと、しゅぎょーが始まった時にはボクの髪は耳にかかるくらいだったのが、今では腰くらいまで伸びたくらい。っていっても、ルナ姉ちゃに切り揃えてもらってたりしたから本当ならもっと伸びてたかもしれない。追いかけっこもだんだん遠くまで行けるようになって、最近は朝ご飯を食べてから出発してお昼ご飯より前に街が見えるところまで来れるようになったんだー。あと、内緒なんだけど、夜中にこっそり家を出て、森の動物さん達と遊んだりもしてた。かくれんぼのしゅぎょーをしてた時に動物さん達と遊んでたらリリに怒られたから、今は内緒でしてるの。でも、なんでリリは怒るんだろう? みんな可愛くていい子達なのに。そりゃあ、引っ掻いてきたり、噛みついてきたりもするけど、ボクはそれで怪我したことなんてないもん。

 っと、しゅぎょーを始めてからそんなこんながありました。それで、いきなりだけどルナ姉ちゃにおつかいを頼まれました。

 リク兄ちゃはお仕事で(今度は泥棒じゃないみたい)ここ一週間くらい家から出てて、まだしばらく帰ってこれないみたい。だから、リリと一緒にルナ姉ちゃにしゅぎょーを見てもらってたんだけど、最近はもうリリと二人で森の中を自由に遊びまわってもいいって言われてたし、街までの道もばっちり。だから、ルナ姉ちゃは安心してボク達におつかいをお願いしてきたんだ。今までにも街で服とか森で手に入らない食材とかのお買い物をしたことはあったけど、リリと二人で行くのは今日が初めて。ちょっぴりわくわくする。ボクはお気に入りの黒のワンピースで、リリはいつも着てるひよこのワンポイントの入った黄色いジャージで、ルナ姉ちゃにメモとキャッシュカードの入ったポーチを持たされて、朝ご飯を食べて出発した。もちろん、ボクはお気に入りの熊のぬいぐるみを抱えて。
 
 
 
「それじゃあルナ姉ちゃ、いってきまーす」
「……いってきます」
 ボクは元気よく、リリはなんだか不満そうに、ルナ姉ちゃにそう言って家を飛び出した。もうすっかり慣れた森の中。木はとっても大きいのばっかりだし、葉っぱも大きくていっぱいいっぱい重なってるから薄暗いけどもう慣れてる。木の根っこに足を引っ掛けない様に少しだけ気をつけながら森の中を走る。ベアウルフちゃん達の姿がところどころに見えて遊んであげたくなるけど、今日はお気に入りのお洋服を汚しちゃダメだから手を振って挨拶するだけにしておく。クモザルの巣にも引っ掛からないように気をつけて、リリと並んで森を駆け下りてく。この森には本当に色んな動物さんがいるし、色んな植物がある。キノコや木の実、草や葉っぱ、たぶんこの森の物はほとんど食べたと思う。中には食べると体が痺れたり、気持ち悪くなったり、お腹が痛くなっちゃうのもあったけど、ボクもリリも別に食べても平気だった。あんまり食べたいとは思わなかったけどね。リク兄ちゃやルナ姉ちゃに聞くと「それには毒があるんだよ」って言われた。普通の人はひどい時には死んじゃったりもするみたい。だから、食べても大丈夫なボクとリリは少し特殊なんだよ、って言われた。あと、それをどう使えば相手に効果的なのかも教えて貰った。
 そうやって、森の色んな物を見て、教えてもらったことを思い出しながら走っていたら、知らないおじさん達が見えた。ワカメみたいな頭をしたずんぐりした体形で猟銃を持った人とその人に付き添うみたいにした人が3人。ボク達は気配を殺しながら移動してたから当然向こうは気づいてない。リク兄ちゃが言うには、リク兄ちゃかルナ姉ちゃが呼ばない限りは、この森に入ってくる人はだいたいがみつりょうしゃ? って人達だから、なるべく捕まえて街のおやくしょ? に突き出してって言われていたから、ボクはその人達を捕まえようと思った。リリにそう言ったら、リリも頷いた。

 さっきまで以上に気配を殺してみつりょうしゃさん達の真上の枝に移る。リリから合図が来たらここから相手の後ろに跳んで首筋に手刀。うん、よし。いつでもいいよー、とリリに目配せすると、リリが指を3本立てた。――2本。――1本。リリの人差し指が閉じられると同時に枝を蹴って後ろに付き従ってる3人の内一人に手刀を当てる。ドサッと人が二人倒れる音。リリもうまくやったみたい。もう一人をリリに任せて次にボクはずんぐりした人へ。仲間が倒れたことに気づいたのか猟銃がこっちを向いている。ボクは大事なぬいぐるみをその射線に割り込ませながら男の人に急接近、する途中でパンッっと乾いた音がしてぬいぐるみに衝撃がきた。それを気にしないまま男の人の鳩尾を殴ると、そのままドサリと倒れた。リリの方を見るとリリも上手くやったみたいで、ボクとリリのすぐ近くに4人の人が倒れていた。ボクはぬいぐるみが気になって、熊さんと目が合うように両手を突き出して見たけど、ちょっと汚れてしまっていた。このぬいぐるみはルナ姉ちゃ特製で、防弾防刃加工がしてあって、中には鉄の砂が入っているから滅多なことでは壊れない、けどちょっぴり重いし、汚れるときは汚れるのだ。汚れを手でパンパンと落とし、元のように抱えるとリリから声が掛けられた。

「アタシ達、力加減間違っちゃったみたい。4人とも死んでる」
「そっかぁ。じゃあおやくしょに出せないねー」
「そだね」

 うーん、失敗しちゃったかぁ、とぼやきながら、おつかいを頼まれてたことを思い出す。

「リリ、おつかい行かなきゃだめだよー」

 そうリリに言ってまた森を二人で下りて行った。



 そんなことがあってから20分もすると、もう森の出口に着いてた。ここからはあまり目立たない様にゆっくり歩くように言われてる。あと、森から出る時に人に見つからないようにとも言われたから、今日もしっかり言いつけを守って街へ入り、メモを頼りに二人でふらふらとおつかいして無事帰ったのでした、まる。






~あとがき~
すみません、まだ本編入ってません。。。
とりあえず、キャラ設定上乗せついでにルルのキャラ定着を目指した回です。
終始ルル視点のルル口調。
おつかい自体がかかれてない事態に自分で驚愕。
タイトル意味ないじゃん・・・と。

こんな駄文を書いてる自分ですが、感想いただければ嬉しいです。
辛口評価でも書く力になりますので、どうかよろしくお願いします。



[9501] 一章 ハンター試験編 第1話
Name: ハイライト◆d3ef7d09 ID:bd3a2168
Date: 2009/06/24 17:10
 ~傍迷惑な乗客者~



【リリ】

 今、アタシ達はハンター試験会場であるザバン市を目指して、まずはザバン地区最寄りの空港行きの飛行船に乗っていた。今日、12月31日は、リクに拾われてからは毎年ルナが豪勢な食事を用意して年明けを祝っていたのだけれど、今年はハンター試験のために飛行船の中にいる。世間一般がどうかは知らなかったが、どうやらこの時期には皆こぞってパーティをするらしく、飛行船内は空席が目立っていた、というよりも明らかに空席の方が8割増しで多い。わざわざパーティ当日に移動する輩は少ないってことだ。アタシ達は空きスペースを我が物顔で利用してたりするのだけれど、乗員は別にいやな顔色ひとつ浮かべてはしなかった。代わりに奇異な目で見られたりはしたのだけれど。
 アタシはいつも通りにジャージ姿で、ルルは仄かにピンクがかったフリフリのワンピースの上にデニムのジャケットを羽織っていて、どう贔屓目に見てもこれからハンター試験に臨む姿には見えようがない。陶器のような白い肌にまんまるの琥珀色の瞳を輝かせ、金色に輝く艶やかなストレートのロングヘアのルルはやはり可愛い。それに比べ、日に焼けた小麦色の肌に猫のように目尻の上がった碧い瞳を光らせ、赤みを帯びた白髪が癖っ毛のあるショートヘアのアタシは可愛げの欠片もないだろう。誰がどう見ても姉妹には見えない少女二人だけで旅をしている姿は他の人の目にどう映っているのだろうか。暇な飛行船内ではそんな下らないことまで考えてしまう。と、その時、隣から小鳥の鳴くような可愛い音がした。そういえば、昼を食べてからもう相当な時間がたっている。窓から眼下に見える景色も、灰色や緑の迷彩模様のようだったのが、いつの間にか街の灯りが夜空に光る星を思わせるような有様になっている。ルナに渡されたずいぶん豪勢なお弁当を食べよう、そうルルに言うとこくりと頷いてぬいぐるみを抱えてどこかへぽてぽてと歩き出していた。

「ルル、どこ行くの?」
「んとねー、折角だから一番景色の奇麗なところで食べたいなーって」

 そう言うと、こちらを見ることもなくそのまま歩いて行く。慌てて一抱えもあるお弁当を持って席を立つが、一番景色の綺麗な所ってどこだっけかと考えたが、飛行船に乗ってすぐにルルは一人で船内をうろついていたようだから、ルルには当てがあるのだろう。ほんの少し嫌な予感を感じながらもルルの後に付いて行った。
 
 
 
 そういえばアタシの勘は良く当たるのだ、行き着いた先でルルが物怖じすることなく座った場所に着いてそのことをようやっと思い出した。確かにここが一番眺めがいいだろう。当たり前だ。


 行き着いた先は一等船室の客専用のサロンだった。


 ルル一人ならばまだ迷子のお嬢様で済んだだろう。しかし、アタシはどうみてもそんな柄じゃない。ジャージだし。そんなアタシの葛藤を知らず、あのお嬢様は「早くー」なんて呼びかけている。幸いにして今の所は乗員、乗客の類は見えない。さっさと引っ張り出してやろうと席に近づくと、ひょいとお弁当をルルに取られた。そして、あろうことかそのままお弁当をテーブルに広げ、「いただきます」とのたまったのだ。ヤバいと思った時にはもう遅く、いつの間にか現れたウエイターさんから「誠にすみませんが……」と声がかかってきた。

「申し訳ございませんが、此方は私どものご用意したお料理をお出しする場所でございますので……」
「ルナ姉ちゃのお料理はいただきますしたらちゃんと食べ切ってごちそうさましなきゃダメなのー」
「ですから、此方は私どもの……」
「だからルナ姉ちゃのお料理は……」
「ですから……」
「だから……」

 ウエイターの言う事は至極尤な話であり、ルルのはただの我儘である。しかし、こうなった以上、ルルが止まることがないのは経験上確かで、アタシは収拾のつけられない言い合いを傍観するしかなかった。かくなる上は、と握り拳を作ったその時、サロンの入口の方から猛獣の唸り声を聞いたのでそっちも見れば、黒髪を線香花火のようにまとめ、アタシと同じくこの場に凡そ似つかわしくない普段着の小柄な、しかし出るとこは出た女性と目が合った。と、同時に互いに声を出した。

「あ」
「げっ」

 前者がアタシ、後者が彼女だ。あの樹海で過ごしていた時に何度も見た顔だ、名前は――。

「メンチー、入口に突っ立ってどうしたのさー。もーオレお腹ペコペコだよ」

 そう、メンチさんだ。彼女が初めてあの森に訪れた際に、アタシは気配を絶ってコンバットナイフを首筋に突きつけた。恐らくそのことを未だに根に持っていたからこその第一声だったのだろう。しかし、その後ろに立っている2mを超す巨漢でお腹に猛獣を飼っている男に覚えはなかった。名前を気さくに呼んでいるところを見るにメンチさんの知り合い以上の関係ではあるようだが。しかし、一等船室のサロンには似つかわしくない格好の輩がさらに増えたところで待つのは一体なんだ。――追い出されるだけか。そんな結論に行き着くと、なんだか悩むのが馬鹿らしくなってきたので流れに任せることにする。

「あー、ブハラ、ゴメンゴメン。知った顔が合ってさ」
「メンチの知り合い? あの子が?」
「まあねー。ちょっと事情が合っ……ってって、ちょっと!そのお弁当!まさかルナのお手製!?」

 どうにも忙しない。流れに身を任せたところでメンチさんが一気にこっち(弁当)へ詰め寄ってきた。

「あの、お客さ「うるさい!」ま……」

 ウエイターさんの言葉をたった一言で宇宙の果てまで追いやると、メンチさんはお弁当をじーっと見つめ、くんくん香りを嗅ぎ、仕舞いには弁当に手を付けようとしたところでしたところでルルの視線に気づき、止まった。そして、マシンガンの弾を残らず撃ち込まれた窓ガラスのような空気にさらに一石を投じた。

「ルル、リリ。あたしも一緒に食べていい!?」

 そうなのだ。メンチさんはこういう人なのだ。美味しいものには目がないらしく、ルナの料理を目的に、あと一日、あと一日と最終的に一ヶ月も居座るような人なのだ。アタシはもう既に流れに身を任せることに決めていたので、適当に返事をして置いた。ブハラとかいう人もどうしていいのやらわからず、猛獣の唸り声を腹から出して立ち尽くしたままである。どうせ何を言っても彼女は止まらない。ルルも止まらない。……っと、そういえばウエイターさんは? と見遣れば、ぷるぷると震えている。

「ですから、お客様方、此方は私どもの……」

 そう頑張って言いかけたせっかくの彼の言葉を、メンチさんはまたしてもぶった切る。

「あ・の・ね! アンタこのお弁当がどれだけのものかわかってるの!? 給仕始めて何年!? そりゃあここの出す料理はそこらの店より数段上だけどね、このお弁当に入ってる料理は次元が違うのよ! 素材からしてまず手に入れるのは不可能に近いものなの! それに加えて料理人の腕も次元が違うのよ! 料理の道に足を乗せた程度でもこの違い位わかりなさい!」

 そう一息で言い切った。「そうか、そんなにルナの料理って凄いんだ」なんて心の中で呟く。確かにルナの料理はめちゃくちゃ美味しい。けど、それほどまでとは知らなかった。と、メンチさんの口撃をもろに喰らったウエイターさんだが、健気にも声を返した。

「あ、あの……」
「なによ!?」

 メンチさんはもう完全にブチ切れてる。視線だけでウエイターさんは今にも殺されそうだ。それでも彼は続けた。凄い、密かに尊敬した。


「お、お客様は、どちら様で……したか?」


 ぶちん、と何かが切れる音がした気がした。


「ざけんなてめー! 一等客室の客の事くらい知っとけや、ボケェ! いいか! よく聞け! あたしはメ・ン・チ! シングルの美食ハンター、メンチだよ! ったく、これからやりたくもないハンター試験の試験官やらされるってのに、無駄にあたしを怒らせんじゃないわよ!」

 今度こそ完全にウエイターさんは死んだ。顔が青白いし、硬直したままだ。しかし、今、聞き捨てならない単語を聞いた気がする。ハンター試験。試験官。――ツイてるかもしれない。アタシは期待いっぱいに声をかけた。

「メンチさん、弁当アタシらと一緒に食べよ?」

 その一言で空気が和らいだ気がした。ウエイターの彼もどうやら息を吹き返したらしい。さっきまでの剣幕はどこへやら、メンチさんが目をキラキラさせて言う。

「リリ! アンタって本当は良い子だったのね! 誤解しててごめん」
「いえいえ、いいんですって。ほら、頭上げてよ。あん時はアタシが悪かったってわかってるし。それより……弁当の代わりと言っちゃあなんだけど、一つだけお願い聞いてくれる?」
「いいわよ! ってそういえばどうしてアンタ達二人だけなの?」

 即答だった。いくらか冷静さを取り戻したようだけど、これで言質は取れた。

「アタシとルル、今回のハンター試験受けるんだ」

 あ、メンチさんちょっと固まった。

「で、会場がザバン市ってことしかわからなくて、ホントなら飛行船降りた後にナビゲーター探そうと思ってたんだけど……ってここまで言ったらわかる?」

 ゆっくりと再起動するメンチさん。後ろのブハラとかいう人は「あーあ」なんて言っている。

「……試験会場まで案内しろ、ってこと?」

 アタシは満面の笑みで頷いた。と、同時にメンチさんの肩が落ち、諦めたように言う。

「ぁー……運も実力の内っていうしね。しかたない、か。んじゃ協会に頼んでナビゲーター用意しておくように言っとく。ついでにアシも。」

 そう言うとちらりウエイターの彼を見やる。

「アンタは食器持ってきてね。今のやり取り忘れてくれればもうあたしは何も言わないから」

 そう彼女に言われると、彼は頷いて忙しなく食器を持ってきた。

「んじゃ、弁当食べよう。「いただきます」」
「……いただきます」

 ブハラさんが遅れて食事前の我が家の儀礼をすまし、アタシ達は食事をしたのだった。



 飛行船に揺られること2日、ルナの料理を大層気に入ったブハラさんのおかげで、アタシとルルは一等船室フリーパスになっていたし、料理も自由に食べられた。メンチさんの言う通り、料理の味は次元が違ったがそれなりに楽しめたし、本来ならもっと質素な食事になっていただろうから、アタシ達は満足だった。それになにより、

「リリさん、ルルさんですね? 私がナビゲーターをさせて頂きます。あと一日もあれば試験会場まで着くと思います。それまでの付き合いですがよろしくお願いします」

飛行船を降りたアタシ達には、約束通りナビゲーターとアシが用意されていた。メンチさんが件の食事の後、ちゃんと連絡してくれてたみたいだ。



 そうして、たぶん他の受験生たちより簡単に、アタシ達は試験会場に辿り着いた。といっても、『めしどころ ごはん』なんていう怪しい料理屋に連れらた時は騙されたかとも思った。しかし、ナビゲーターの人が店主に「ステーキ定食二人前お願いします。焼き方は、弱火でじっくりと」と頼むと、奥の個室にアタシとルルは押し込まれて、
 
 「これで私の仕事は終了です、ありがとうございました」

 なんて言われるや否や、浮遊感。どうやら個室がエレベーターになっていたようでぐんぐん地下へ潜っていき、100階に到達するとドアが開き、強面の受験者の人たちとご対面となったところで、ようやくちゃんと案内してもらえたことがわかり安堵した。それにしても、地下100階まで下りる間、部屋が臭くて臭くて堪らなかった。



[9501] 一章 ハンター試験編 第2話
Name: ハイライト◆d3ef7d09 ID:bd3a2168
Date: 2009/06/24 17:12
 ~不毛な試練~



【リリ】

 開いたドアから出ると、そこは薄暗いトンネルだった。やはり、いかにもか弱そうな少女二人がたった二人で試験に挑むのは珍しいようで、既に会場にいた受験者達の奇異な物でも見るような視線が感じられた。と、その時、足もとから声がかかった。

「ハイ、番号札です」

 そう声をかけてきたのは恐らくハンター協会の者だろうが、容姿がおかしかった。豆なのだ。いや、人なんだけども、豆系統の魔獣と言われても違和感が全くない姿だった。そんなのがいるかは知らないが。ぽかん、としながらも番号札を受け取ると、これで仕事は終わりとばかりに豆の人は移動していった。貰った番号札を見れば、200番と201番。アタシはキリの良い数字が好きなので、201番をルルに渡すと、200番の方をさっさと服にとりつけた。そうして再び辺りを見渡した時、丸顔に四角い鼻と無精髭を生やしたオジサンが「よっ」と声をかけてきた。

「オレはトンパ、よろしく」

 そうどこか胡散臭げな笑顔で気安く話しかけてくるトンパさんとやらは、頭にぺたりとした耳を取り付ければまるっきし豚だった。豚パねぇ、などと胸中で呟いていると彼は笑顔を張り付けたまま続ける。

「君達、新顔だね」
「なんでわかんの?」

 アタシがぶっきらぼうに聞いたにも関わらず、彼はどこか誇らしげに言った。

「まーね! なにしろオレ、10歳からもう35回もテスト受けてるから」
「……はぁ? んじゃ45歳? 完全にオジサンじゃんか。なんで受けんのやめないの?」
「い、いやー、諦めきれなくてね」

 アタシの言葉が辛辣だったのか、たはは、と豚パは少し焦ったように答えた。ルルはといえば、未だに番号札と格闘していた。そんなルルを見かねてアタシはルルに番号札をつけてやる。その間、ほとんど無視されたような形になっているトンパは、どうにかして話をしようとこちらを伺っている。まさかルルが目当て? 能無しの豚顔に加えてロリコンなのか? などと恐ろしい考えに至ったアタシはルルを連れて彼の元を離れようとした。しかし、彼は行く手を遮るように動き、話しかけてきた。

「あ、ほら、これでもオレ試験のベテランってわけだから、わからないことがあったら教えてあげるよ」
「別にいい」

 アタシがきっぱりそう言うと、彼は一瞬張り付かせた笑顔を凍らせたが、めげずに続ける。

「ここにいる常連のことも教えてあげるよ? ヤバイやつとかもいるし……」
「別にそんなの見りゃわかる」

 彼のこめかみに薄く青筋が立っているのが見えた。しかし、必要ないものは必要ないのだ。パッと見危なそうな奴と言えば、奇術師の格好をした奴位だ。それ以外の奴らはアタシ達が森から追い払っていた連中と大差ない。

「そろそろ移動していい? 隅の方がアタシ落ち着くんだ」

 もちろんこのロリコンオヤジから逃げるための口実だが、本当のことでもあった。そう告げて去ろうとすると、脂汗をかきながらハハハッと笑って彼が言った。

「全然物怖じしないお譲ちゃんだね。わかった、その代わりお互いの健闘を祈ってカンパイでもどうだい?」

 言いながら鞄から缶ジュースを3本取り出して2本をアタシ達に渡し、自分の分をグビッとひと飲みする。話の流れが強引なのに気付いているのだろうか? しかし、仕方ない、これでこいつとも関わらなくて済むだろう。そう思ってアタシはジュースを口に含んだ。……不味い。まず温いし、元に使った果物の質も良いものではないだろうし、添加物が多いし、缶の金属臭さが仄かに混じっている。そしてなにより――、

「オジサン、これ不味い。毒でも結構いい味のもんだってあんだよ?」

 明らかに毒入りだった。ルルも一口飲んで「美味しくないー」と言って可愛い顔をしかめている。食べ物を残すのは我が家のルールに反するが、これ一本飲むのは苦痛だった。主に味的な意味で。どうやら最初から毒入りジュースを飲ませて脱落させるのが彼の根本の目的だったようだ、そう悟った。アタシがルルの分も取り上げて床に置くと、外道なオジサンから先刻までの笑顔が消え、目を見開き声を失っていた。

「たいていの毒はアタシには効かない。ルルに至っては効く毒の方が少ないんじゃないかな? 用事はすんだよね。それじゃ、アタシ達は行くから」

 そう言い残して彼から離れ、ルルと二人で壁際に座った。
 
 
 

 
 ……一体全体今年の新人はどうなってるんだ。それが彼――トンパの思いだった。”新人潰し”と呼ばれる彼であったが、今回の試験のために用意した下剤入りジュースは最後に滑り込んだルーキーに至っても全くその役目を果たす事が出来なかったのだ。しかし、逆にその事実は彼の”新人潰し”としてのプライドに火をつけた。つぶしがいがある、彼はそんな思いを抱き、嗤った。
 
 
 

【リリ】
 
 アタシは新たにやってくる受験者達を横目で見ながら、トランプのソリティアをやっていた。ルルはと言えば、いつも通りぬいぐるみと楽しそうにしている。ルルとトランプで遊んでも、いつもアタシが勝ち続けてしまうのでいつの頃からかルルとトランプで遊ぶことはなくなっていた。ルルの今日の格好は、白いロンTにデニムのショートパンツ、肩掛け鞄と普段着だったが、ここがハンター試験会場であることを考えるといささか浮いていた。アタシはといえば、やっぱりジャージ(オレンジ色)を着て、リュックを背負っていた。
 そんな試験会場とは浮いた空気を作っていたものだから、新たにやってくる受験者達とも好む好まざるを関係なしに目が合ってはどちらかが逸らし、を繰り返していた。どこかで必要になるかもしれない、そう思って受験者の顔と番号を適当に一致させていく。今のところ本当にヤバい奴は44番と301番の二人、その二人はそれはとても特徴的な姿をしていたので忘れることはないだろう。
 と、400番を超えた辺りで新たに3人組が現れ、また外道なオジサンが話しかけに行っていた。会話の内容は聞こえないが、だいたいはアタシの時と一緒だろう、などと思った時、叫び声がした。声の方を見れば44番が他の受験者の腕を切り落としたらしいところが見えた。しかし、腕はない。やっぱり奇術師の格好をしてる位だから手品か何かなのかもしれない。気を付けよう、そうルルと確認し合った。そういえば、と3人組の方を見れば、外道なオジサンがまたジュースを取り出していた。あ、ツンツン頭の子が飲ん……吐き出した。どうやら、毒に気づいたらしい。合わせて残りの二人も開けた缶ジュースを地面へ流している。勿体ない、どうせ撒くなら植物の近くにやらないと……なんて下らないことを考えていた。
 ソリティアが詰んでしまい、いい加減飽きたのでトランプをリュックへしまったところで、トンネル内へ響き渡る大音響。隣でルルがびくっと跳ねたのがわかった。思わず微笑みながら辺りを見渡すと、トンネルの壁面に伸びた管の上に、いかにも『セバスチャン』って感じの人が現れていた。くりんとした髭の辺りが特に。しかし、どうやらさっきの音は彼の持つ奇妙なマスコットから出ていたのだろう。と、彼がこの場にいる全員に聞こえる声音で言った。


「只今をもって受付時間を終了いたします。

 ……では、これよりハンター試験を開始いたします」


 会場の空気がピンと張りつめたのを感じる。やっと、やっと始まるのだ。どれだけソリティア詰んだかわかってんのか。待たせるにも程があるだろうが、なんて胸中で毒を吐く。

 ふわりと、音もなく地に降りたセバスチャン(仮)、こちらへどうぞ、とまさに執事そのままの動作で行き先を示すと、話しながら歩み始めた。

 「さて、一応確認しますが、ハンター試験は大変厳しいものもあり、運が悪かったり、実力が乏しかったりすると怪我をしたり、死んだりします。先程の様に受験生同士の争いで再起不能になる場合も多々ございます。
 それでも構わない。――という方のみついて来て下さい」

 そういって、アタシ達受験生の方をちらり見遣る。しかし、歩みを止める者はいない。当たり前だ。アタシ達だって覚悟はある。それに滅多な事で死ぬようなやわな鍛え方はされていなかった。

「承知しました。第一次試験、404名全員参加ですね」

 その言葉と共にセバスチャン(仮)の歩みが速まるのがわかる。それに続くように受験者達も歩みを速め、走り出した。

「申し遅れましたが、私、一次試験担当官のサトツと申します」

 ぁ、セバスチャンじゃなかったんだ、なんて間抜けなことを考えながらも、辺りを見回せるよう上っていた壁面の管から飛び降りる。

「これより、皆様を二次試験会場まで案内いたします」

 ん?二次試験? とアタシが疑問に思うように、受験生皆も疑問を持ったようだった。

「一次試験はもう始まっているのでございます。二次試験会場まで私について来ること、これが一次試験です。場所や到着時刻はお答えできません。ただ私について来ていただきます」

 ようするに追いかけっこってことか、そう理解し、アタシ達は最後尾から走って行った。
 
 
 
 
 
~あとがき(という名の言い訳)~
とりあえず試験突入です。
でも、原作主人公組との接点まだなし……
トンパとの絡みを書いていたら思った以上に分量がかかってしまったせいです。
あと、セバs……サトツさんの語りをまんま使ったせいですね。
決して、決して原作主人公組のキャラをInput出来てないから絡ませられない;とかそんな理由じゃ……

次回もなるべく早く更新したいと思います。
感想頂けたら嬉しいです。
では。。。



[9501] 一章 ハンター試験編 第3話
Name: ハイライト◆d3ef7d09 ID:bd3a2168
Date: 2009/06/24 17:12
 ~光明~



【リリ】

 アタシとルルが駆け出すと、斜め前を銀髪の同い年くらいの少年がスケボーですいすいと進んでいた。道具を使われたって勝ってやろうじゃんか、そう思って少年から距離を離されないよう走っていると、少年に向かって誰かが喚きだした。

「おい、ガキ! 汚ねーぞ! そりゃ反則じゃねーか、オイ!!」

 声の方をみると、黒いスーツをネクタイまでびっちり締め、サングラスをかけたオジサンがいた。確か、一番最後に入ってきた3人組の一人だ。銀髪の少年は自分に向かって喚いているのに気づいたのか、オジサンの方を見ると、あっけらかんと言った。

「何で?」
「何でって、おま……。こりゃ持久力のテストなんだぞ!」

 そうオジサンが返すと、3人組の髪のツンツンした少年が「違うよ」と否定した。

「試験官はついて来いって言っただけだもんね」
「ゴン!! てめ、どっちの味方だ!?」

 アタシはツンツンの少年、改めゴン君の言うことが正論だよなぁ、と考えながらも走る。すると、3人組の残りの一人、サラサラの金髪で中性的な容貌をした人が極めて冷静に言った。

「どなるな。体力を消耗するぞ。何より、まず、うるさい。テストは原則として持ち込み自由なのだよ」

 その人の言葉にうんうん、と頷いていると、どうやら金髪の人とオジサンに存在に気付かれたようだ。アタシを見て、そのままぬいぐるみを抱えたまま走るルルの方へ視線を移動し、その容貌を見て目を丸くした。とりあえず、適当に「こんにちは」と挨拶しておく。ルルも続いて「こんにちはー」と満面の笑みで挨拶した。と、銀髪の少年がゴン君をちらっと見遣り、「ねぇ、君。」と声をかけた。ゴン君が自分を指差すと、銀髪の少年は軽く頷き、聞いた。

「年、いくつ?」
「もうすぐ12歳!」
「……。ふーん」

 銀髪の少年がわずかに目を細め、何か思案するようにしていた。そして、決心がついたのか、「やっぱオレも走ろっと」っと、スケボーを頭上まで蹴り上げ、片手でキャッチした。「おーっ」とルルが目をキラキラさせながら声を上げる。声に反応したのか、銀髪の少年がこちらを見て同じように歳を聞いてきたので、答えておく。ルナ辺りに聞くと、「女性に歳を聞くなんて礼儀知らずよ」なんていうのだが。

「アタシは13歳」
「ボクは12歳ー」

 同じくらいか、とボソッと言ったあと、銀髪の少年は隣を走るゴン君に向かって言った。

「オレ、キルア」
「オレはゴン!」

 そして、ちらりと僅かに後ろを走るアタシ達を見遣ったので、

「アタシはリリ」
「ボクはルルなのー」

と、二人で声を返しておく。キルアは、へー、とかどうでも良さそうな声を出しながら、今度はオジサンの方へ声をかけた。

「オッサンの名前は?」
「オッサ……これでもお前らと同じ10代なんだぞ! 俺はよ!!」

「「「ウソォ!?」」」

 アタシとゴンとキルアは同様に声を上げた。嘘だ、その容貌で10代って……ってか同じにされたくない。そんなことを思っていると、

「あーーー!! ゴンまで……!! ひっでー、もぉ絶交な!!」

なんて、大人げない叫びを聞いた。っていうか、名前なんて言うんだろ、って思ってたら、ルルが代弁してくれた。

「えーっとぉ、オジサンのお名前はぁ?」
「オジサンじゃなくて、お兄さん!! だろぉが!! ……ってスマン! いきなり叫んじまって」

 ちょっと余計なことまで言ってしまったので、勢いをそのままにオジサン……もとい、オニイサンはルルに向かって叫んでしまい、結果、ルルは元からまん丸な瞳をさらに丸くしておどろいてしまった。その様子を見て少しはオニイサンの怒りは収まったようだが、今度は知らない少女にどなり散らしてしまった事に罪悪感を持ったのか、物凄く慌てていた。しかし、結局名前はわからなかった。そんな中、この馬鹿騒ぎを知らんぷりしようと金髪の人は少しペースを上げて走って行ってしまった。




 走り出してから3時間程がたった頃、アタシ達は相変わらず最後尾を走っていた。なぜなら、あの肉と汗の集団に埋もれて走る勇気がなかったから。アタシとルルはこの程度なら全然疲れはしない。追いかけっこというより、散歩に近い感覚。ゴンとキルアもそうみたいだった。でも、そんな中、オニイサンのペースが段々と落ちていく。ゴンに「大丈夫?」なんて聞かれてサムズアップしてたけど、全然平気そうじゃない。ルルも「お兄さん、だいじょぶー?」って聞いて、それに答えるようにサムズアップ、しようとした手が上がらない。最初の脱落者はオニイサンかな? そう思いながらもアタシは走り続けていたが、オニイサンの歩みが一歩一歩重くなって、仕舞いには止まってしまったのを見た。その様子を見たゴンが、「レオリオ!」と叫ぶが反応する様子はない。そこでアタシは初めてオニイサンの名前がレオリオだと知った。まぁ、走り疲れてギブアップなら怪我もないし安全だ。オニイサン……改め、「レオリオ、君の名前は忘れない」と心にもないことを思いながら走り直そうとしたのだが、レオリオが何か呟いたのが聞こえた。と、その数瞬後、

「絶対にハンターになったるんじゃーーー! くそったらー!!」

そう叫び、必死の形相で奇声を発しながらも気合で再び走り出し、アタシ達を追い越して行った。並走していたレオリオが急にスピードを上げたものだからルルはぽかーんとしながら走っていたが、「あ、お兄さんの荷物……」と後ろを振り返る。アタシがアタッシュケースが落ちているのに気付くのと同時に、ゴンが釣竿を振った。そして、見事に針を取っ手部分に引っ掛けるや否や、ぐんっと引っ張ってキャッチした。「おおー」とルルが目をキラキラさせているのがわかる。きっと、アタシの目も輝いてる。キルアが言った、「おー、かっこいい」という台詞まんまがアタシの心の中で叫ばれた。キルアが後でそれやらせてよ、とか言ってるが、アタシもやってみたい。ゴンがキルアに「スケボー貸してくれたらね」って言うのに言葉が被さって、「アタシにもそれやらせて」ってお願いしたのは間違いじゃないはずだ。ただ、「リリは何貸してくれるの?」って問われて、コンバットナイフしかないことを言ったら難しい顔をされた。




 その後は各自バラバラのペースで走っていた。アタシは未だに肉と汗の塊に突っ込む勇気が出ず、ルルと二人で最後尾の辺りを走っていた。ゴンやキルア、金髪の人とレオリオは多分結構先を走っているだろう。まだ暫くは最後尾で走っていようと思っていた時、よくわからない三人組が絡んできた。

「ヘーイ、お譲ちゃん達。偉くゆっくり走ってるみたいだけど大丈夫ー?」
「やっぱり嬢ちゃんには無理なんじゃねーの?」
「帰ってパパに安心させたげなよー」

 どうやら、アタシ達がへばって最後尾まで落ちたと思っているようだった。3人の顔を見てみると、どことなく共通点が見える。兄弟か何かなのだろう。ふと見ればナンバープレートも197~199と並んでいる。しかし、こいつらは大した実力もないくせにアタシ達を揶揄してくる。少しイラッとしたので逆にからかってやろうと思い、ルルに話しかけた。

「肉と汗の塊に突っ込むのは正直勘弁だけど、こいつらうざったいから振り切るよ?」

 ルルはぼけーっとしたままコクンと頷いた。どうやら、ペースが遅すぎて意識は夢の中だったらしい。そのことに苦笑しながら、3人組に言い放った。

「冗談は顔だけにしといで。まぁ、次に顔見るのはいつかわかんないけどね。とりあえず……」

 バイバイ、そう言葉を出したところで全力で地を蹴って走り出す。一歩で頭一つ分抜き去り、二歩でさらに倍の距離を飛ぶように行く、三歩目を踏み出すころには彼らの姿はもう1センチ位の大きさになっていただろう。おそらく、彼らにはアタシ達が消えたように見えただろうと思う。全力で20歩程行けば、もう周りは肉と汗だった。こうなれば逆に先頭を走った方がいい、そう思いそのままの速度で走っていくと階段が見えた。肉の壁を避けながら5、6段飛ばし位で駆け上がっていると、なぜかネクタイを残したまま上半身裸のレオリオと金髪の人が並んで走っているのが見えた。スルーするかどうするか迷いながら、まだ金髪の人の名前を聞いてない事に気づき、話しかけることに決めた時、金髪の人の声が鼓膜に響いた。

 「緋の眼。――クルタ族が狙われた理由だ」

 ちょうどそこで、金髪の人と並んでしまい、気付かれた。いつの間にここまで? とそう聞かれたが、ちょっと全力で走った間です、と答えると金髪の人が苦笑した。そして、どこまでもマイペースなルルは「お名前なんて言うのー?」とか、いきなり聞き出した。少し重い空気だったにも関わらず。それでも金髪の人は律儀にも答えてくれた。

「ルルとリリ、だったかな? 申し遅れてすまない。私はクラピカだ」
「そっかぁ、クラピーね。クラピーもレオリーもよろしくー。お名前わかったからボク達は先行くねー」

 どこまでも空気が読めないルルに愕然とした。しかし、壊してしまった雰囲気から抜け出すのに好都合だったので、アタシもルルに合わせて、「また後で」そう短く言って、逃げるように全力で階段を上って行った。



 
 おそらく、最後尾からもう300人以上は抜いただろう。奇術師やら針男やらの視線を途中で感じたが、完全に無視してひたすら階段を上った。肉と濃くなるばかりの汗の匂いも振り切り、ようやく試験官のサトツさんの後ろに着いた時、そこにはゴンとキルアがいた。二人ともアタシ達の姿を見た途端驚いていた。

「ルル!? リリ!? お前ら最後尾にいたんじゃねーのかよ!?」
「ん、まね。ただ時間制限あったりしたら危ないっしょ? だから急いでここまで来たんだよ」
「……にしては汗の一つもかいてねーじゃんか」
「これでも体力に自身あんの」
「つか、リリは納得するにしても、ルルも一緒にだろ!? 見た目とのギャップが……」
「キルキルー、人を見た目で判断しちゃめーなんだよー」
「二人とも凄いや!」
「そういうゴンもキルアも一番前にいるじゃんか」
「まぁな。だってペース遅いんだもん。こんなんじゃ逆に疲れちゃうよなー」

 確かにそうかもねーと相槌を打つアタシとは裏腹に、ゴンは少し汗をかいて無言だった。ってかキルキルってなんだよ、なんて呟きが聞こえた気がするけど気にしない。

「結構ハンター試験も楽勝かもな。つまんねーの」

 試験官の真後ろにいるにもかかわらず、キルアはそんなことを宣った。心証悪くなるぞ、とは心の中の弁である。そんな中唐突にゴンが切り出した。

「キルアは何でハンターになりたいの?」
「オレ?」

 別にハンターになんかなりなくないよ、そんな更に心証を悪くする言葉を言いながら続ける。

「ものすごい難関だって言われてるから面白そうだと思っただけさ。でも、拍子抜けだな」

 そのまま「ゴンは?」と問いかける。

「オレの親父がハンターをやってるんだ。親父みたいなハンターになるのが目標だよ」
「どんなハンター? 親父って」
「わからない!」

 キルアの目が点になった。――そういえばアタシもリクがどんなハンターなのかは知らない。泥棒もするハンターってなんだろう? 疑問に思った時、キルアが笑った。

「お前、それ変じゃん!」
「そお?……オレ生まれてすぐおばさんの家で育てられたから、親父は写真でしか知らないんだ。でも、何年か前カイトっていう人と出会って、親父のこと色々教えてもらえた。色んなことに貢献してて、トリプルハンターと比べても遜色がない位なんだって」
「それってすごいことなのか?」
「ううん、わからない。ただ、カイトは自分のことみたく自慢気に、とても嬉しそうに話してくれた。それを見て思ったんだ」

 純粋な瞳を輝かせてゴンは言い切った。

「オレも親父みたいなハンターになりたいって」

 ゴンの純粋な瞳に吸い込まれそうになった、いや、もうすでに引き込まれていた。強く太い志をこの歳でもうドンと自分の中央に置いているのだ。それに比べてアタシは目標なんかなかった。ただ、ハンター試験を受けて来いと言われて受けに来ただけ。ハンターになって何をするのか、何ができるのかまで考えていなかった自分がとてつもなく小さく思えた。
 でも、とアタシは思った。この試験中、それが無理だとしてもハンターになって世界を見つめたら、アタシにもきっと――。
 その時、光が見えた。ようやっと、この薄暗いトンネルから抜けられる。「ふう、ようやくうす暗い地下からおさらばだ」そんな呟きが聞こえたが、今はただ目の前の景色を見つめるだけだった。

「ヌメーレ湿原、通称”詐欺師の塒”。二次試験会場へはここを通って行かねばなりません。
 この湿原にしかいない珍奇な動物達、その多くが人間をもあざむいて食糧にしようとする狡猾で、貪欲な生き物です」

 一次試験官サトツさんは、受験生たちを見渡して言った。

「十分注意してついて来てください。だまされると――死にますよ」





~後書き――という名の反省~

今回を書いていて思い出しました。
”私は要約が苦手です”
ほとんど、原作コピペみたいなもんですねー
オリジナル要素が薄っぺらー
後々のためにアモリ3兄弟のプレート番号と顔一致させましたー

こんな駄文ですみません・・・orz

よろしければご感想頂けたら嬉しいです。



[9501] 一章 ハンター試験編 第4話
Name: ハイライト◆d3ef7d09 ID:bd3a2168
Date: 2009/06/24 17:13
 ~必然の再会~



【リリ】

 トンネルを出たところは小高い丘になっていて、視界いっぱいに広がる湿原を見ることが出来た。相当に広く、おそらくこの後もサトツさんの後ろを付いて行くことは確かだろうが、どれだけの距離を走らされるのか、見当もつかなかった。アタシがそんなことをつらつらと考えている間にもサトツさんの説明は続いていたが、アタシには距離や危険度よりも重要な問題があった。ルルのことである。ルルは無類の動物好きであるから、この湿原に生息する生き物達に興味を示さないはずがない。どうやって、ルルの動物への興味を外そうかと思案していた時、声が聞こえた。

「ウソだ! そいつはウソをついている!!」

 思考を一旦中断し、そちらを見れば、そこかしこに怪我を負った短髪の男の人がいた。ついでに見れば、いつの間にかトンネルの出口はシャッターによって閉じられていた。

「そいつはニセ者だ! 試験官じゃない! オレが本当の試験官だ!!」

 そう言って彼はサトツさんを指差したが、いかんせん彼はどうにも強そうには見えない。試験官は時に受験生による妨害行為なども受けるから、それに対応できる実力があってしかりなのだ。サトツさんのように。アタシは冷ややかな目で彼を見ていたが、周りでは疑心にとらわれている人たちもいた。と、彼が、左手にぶら下げていた何かを皆に見えるよう引っ張り出し「これを見ろ!!」と言った。

「ヌメーレ湿原に生息する人面猿!! 人面猿は新鮮な人肉を好む。しかし、手足が細長く非常に力が弱い。そこで自ら人に扮し、言葉巧みに人間を湿原に連れ込み、他の生き物と連携して獲物を生け捕りにするんだ!!」

 それは舌をダランと垂らし、犬歯が鋭くとがった、まさしく人面猿だった。へぇ、そんな動物がいたんだ、などと考えながらもルルの方を見る。しかし、ルルは人面猿には興味がないらしく、ぬいぐるみで遊んでいた。アタシは彼の言葉を右から左の状態だったが、彼がトドメとばかりに言葉を放った。

「そいつはハンター試験に集まった受験生を一網打尽にする気だぞ!!」

 その瞬間、どこからか飛来したトランプが彼に突き刺さった。あろうことか、ただのトランプであろうそれは、その半ばまで彼の頭に深々と突き刺さり、呻き声をあげながら彼は仰向けに倒れた。おそらく即死だろう。そして笑い声が聞こえた。そちらを見れば奇術師のあの人だった。トランプを弄りながら笑い、なるほどなどと言っている。やはり、アイツは相当にヤバい。と、今はもう亡き彼の引きずっていた人面猿が飛び去っていくが、奇術師が再びひょいとトランプを投じると後頭部へ突き刺さり、ピクピクと痙攣をしたのもつかの間、人面猿は動きを止めた。ニセ者呼ばわりされたサトツさんの方を見れば、飛来したトランプを事もなげに受け止めていた。やはり、ただ物ではないらしい。その後、奇術師が色々と説明していたが、要約すれば、試験官はプロハンターが無償で任務に就くものらしく、それなりの実力があって当たり前、といったところだろうか。特に興味のある話でもないためしっかりと聞くことはしなかった。
 そんな遣り取りが終わろうとした時、バサバサと羽音を発てて試験官と言い放った彼の亡骸へ鳥達が群がっていく。

「あれが敗者の姿です」

 サトツさんは事もなげに言う。そう、この世は所詮、弱肉強食だ。負けて命があるなどどいったことの方が珍しい。それは幼少期、少年兵として過ごしてきた時からわかっていた。今まではリクという強者に守られていたアタシだが、最低でもこの試験中は強くあらねばならない。ルルも同じだ。ルルは決して弱くない。少なくともアタシ以上には。いつでもぽやぽやしたマイペースを崩さないが、ルルはそのままでも十分に強いのだ。試験中に知り合った彼等はアタシがルルを守っているとでも思っているだろうが、実際のところは、ただ単にアタシが主導権を握って動いてきただけなのだ。彼らもいずれルルの強さに気づくだろう。
 そんなことを考えていたら、いつの間にかサトツさんは走り出していたので、慌ててルルを引っ張り走り出した。




 しばらく走ると、見知った銀髪と、ツンツン頭が見えたので「やほ」と声をかけると、ゴンから「あ、リリにルル!」と返ってきた。周囲は霧に覆われ始めていた。霧はまだ気にするほどのものでなかったが、後ろから感じる殺気に背筋がぞくりとするのがわかった。ルルのぬいぐるみを抱く手にも力が込められているのがわかる。と、キルアが声をかけてくる。

「ゴン、リリ、ルル、もっと前に行こう」
「うん、試験官を見失うといけないもんね」
「いや……そんなことよりヒソカから離れた方がいい」
「ヒソカってあの奇術師?」

 そうアタシが問うとキルアが頷く。ゴンは僅かに首を傾げる。どうやら、この殺気に気づいていないらしい。アタシが話そうとしたところで、キルアが口にする。

「あいつ殺しをしたくてウズウズしてるから。霧に乗じてかなり殺るぜ」

 言うと、ちらりとヒソカの方へキルアは視線をやった。ゴンは何がなんやらわからない様子だ。キルアは微笑みながら言う。

「なんでそんなことわかるのって顔してるね。リリはわかってるみたいだけど」

 アタシはニヤリと笑い。そして、キルアは目つきを僅かに厳しいものにしながら続けた。

「なぜならオレも同類だから。臭いでわかるのさ」

 ご丁寧にもくんとキルアの匂いを嗅ぎながらゴンは言った。

「同類……? あいつと? そんな風には見えないよ」
「それはオレが猫被ってるからだよ。そのうちわかるさ」

 そうキルアが答えると、半信半疑の様子でゴンはふーんと言い、くるりと首を後方へ向け叫んだ。

「レオリオ―! クラピカー! キルアが前に来た方がいいってさー!!」

 アタシは緊張感のないゴンの様子に殺気のことも忘れて噴き出してしまった。その後も大声でのやり取りが聞こえたが、聞こえないふりをして黙々と走る。霧は一段と濃くなっていった。



 そのまま走り続けて30分程だろうか。後方から悲鳴、怒声、様々な声が聞こえ始めた。ゴンはどうやら、クラピカとレオリオのことが気になるようで、チラチラと後方を注意を向けながら走る。先程から呼んでいるキルアの声にもなかなか気付かなかった。

「ゴン!!」
「え? 何?」

 一段と大きな声でキルアが呼びかけると、ようやっと気づいたようだ。

「ボヤっとすんなよ? 人の心配してる場合じゃないだろ」
「そだよ、ゴン。ほら、周り見てみな。霧が濃くなって前を走る人だって霞んで見えてんだよ? 逸れたらアウトだって」

 そうキルアとアタシが声をかけると、「うん……」と返事はしたものの、やはり後方の二人が気になるようで表情はすぐれない。
 キルアが、「せいぜい友達の悲鳴が聞こえないよう祈るんだな」と、そう言った時だった。

「ってーーー!!」

 数多の悲鳴に混じって、おそらくレオリオだろう声の悲鳴が届いた。その瞬間、「レオリオ!」と叫び、キルアの制止も聞かずに、ゴンは後方へと走って行ってしまった。
 その様をただ見送ることしか出来なかったアタシとキルアはため息を吐きながらも、ゴンを追いかけることもせず、顔を見合わせると、「行くか」とどちらからともなく言い、試験官の後を付いて走って行った。

「ところでキルア?」
「ん? なんだよリリ」
「同類ってどういうこと? アンタも殺人狂だったりするわけ?」
「んなわけねーだろ! ただ、家庭の関係でね」
「ふーん……暗殺家業とかか」

 そう事もなげに言うアタシの顔をキルアはまじまじと見て言う。

「……お前変わってんな」
「まぁ、7歳位まで少年兵やってたし、その後は怪しい家族と樹海に囲まれてたからね」
「怪しい家族って……まぁ、オレも人のこと言えたもんじゃないけどさー。ちなみに家族って何やってんの?」
「よくわかんない。一応プロハンターらしいけど片方は泥棒とかもしてるらしいんだよね」
「ハンターで泥棒って、変わってんなぁ」
「お互い様っしょ」

 「そだな」と笑いながら走って行く。どこかに行ってしまわないようにルルの手を握ったまま。
 そうしてキルアと談笑しながらしばらく走っていると、いつの間にか木々が増え始めた。どうやら湿原を抜けたらしい。「おい、あれ」と、キルアが指差す方を見れば、急造の非常に大きなプレハブ小屋が見えた。と、小屋の前に着くと一次試験官のサトツさんから、無事第二試験会場に着いたことが告げられた。

 ビスカ森林公園、それがどうやら二次試験会場らしい。森から浮いた大きなプレハブ小屋からはどこかで聞いたような猛獣の唸り声のようなものが聞こえてきていた。




 二次試験開始時間の正午を、キルアとルルと待っていると、レオリオを肩に抱えたヒソカが見えた。先刻までの殺気は消えていたので、とりあえずは放置しておいた。それから数分後だろうか、一体どうやってここにたどり着いたかはわからないが、ゴンとクラピカが到着し、レオリオの方へ寄って行った。それを見て、アタシ達はゴン達の方へ近づいていく。と、ゴンの疑問の声が聞こえた。

「ところで、どうしてみんな建物の外にいるのかな」
「中に入れないんだよ」
「入れないのー」

 そうキルアとルルが返すと、ゴンはこちらに気づき、声をかけてくれた。しかし、それにしても……

「どんなマジック使ったんだ? 絶対もう戻ってこれないと思ったぜ」

 キルアがアタシの気持ちを代弁してくれた。うん、そうそう。アタシもそれが気になったんだ。などと言っていると、信じられない答えが返ってきて、思わずキルアと二人、大声を上げてしまった。

「「香水の匂いをたどったーーー!?」」

 ありえない、一体どんな嗅覚してるんだろう、そう思ったが、ルルは「ゴンちゃは凄いねー」などと純粋な賛辞を送っていた。
 そうして人数の増えた集団でがいがいわやわやしていると、どうやら、正午になったらしい。ついに建物の扉が開いていった。そして、アタシは有り得ない――いや、十分にあり得ることだったが完全に思慮の外だった――人たちを見たのだった。



 扉の開ききった建物にいたのは、相変わらず線香花火のように黒髪をくくった女性――メンチと、3メートル近い巨躯のずんぐりした男性――ブハラだった。






~~後書き――という名の言い訳~~

どうも今晩は。ようやく一次試験が終わりました。
おそらく二次試験はちゃっちゃと進むと思います。
今のところヒソカと接触はまだ先、というところですね。

それにしても、原作を読んでいて思ったんですが、キルアがリオレオと呼ぶのもしょうがない位に名前の出てくる場面が少ない。
お陰様でなるべく不自然にならないよう、名前を知ってもらったり、知合いフラグ立てしてたりします。
今のところ、ゴンよりもリリの方がキルアとしゃべっていると思います。

オリキャラという実際はいない存在に原作主人公達の目を向けさせるのに難儀しながらも頑張ってます。
ルルが完全にリリの影になってますが、この話を完結させるための一番重要なピースだったりするので、いなかったことにはしないで下さい。
三次、四次、最終試験では順に株が上がると思うので。。。


感想頂ければ幸いです。
PVが15000位まで来てくれたのは嬉しいのですが、感想が少なくって作者はちょっぴり泣きそうです(笑)

それでは、失礼いたします。



[9501] 一章 ハンター試験編 第5話
Name: ハイライト◆d3ef7d09 ID:bd3a2168
Date: 2009/06/24 17:14
 ~ルルの美学~



【リリ】

 3メートル近い巨躯の男と露出の多い格好をした小柄な女性の組み合わせはどう見てもアンバランスだった。扉が開くまで猛獣の唸り声のようなものを聞いていたものだから、完全に武闘派な試験を想像していたようで、受験生の皆は唖然として、言葉を失っていた。そんな受験生達の思いを知ってか知らずか、小柄な女性――メンチさんは言った。

「二次試験は料理よ!! 美食ハンターのあたし達二人を満足させる食事を用意してちょうだい」

 受験生全員がさらに唖然とした。そんな受験生達の想いを余所に、二人は続ける。

「まずはオレの指定する料理を作ってもらい」
「そこで合格した者だけが、あたしの指定する料理を作れるってわけよ。
 つまり、あたし達二人が”おいしい”と言えば晴れて二次試験合格!!
 試験はあたし達が満腹になった時点で終了よ」

 ――まさかハンター試験に料理の課題が出されるなんて、それがアタシの思いであり、恐らく受験生達の共通の思いだっただろう。料理自体はアタシもルルもルナに少し習ったし、サバイバル生活を送ったこともあるから食糧を得る術は一応ある。しかし、相手はあのメンチさんだ。あの人がおいしいと認める料理なんて作れっこないじゃん! アタシは心の中で叫び、運の無さを呪った。それでもあくまでこれはハンター試験なのであって、コックの試験ではない。だからそこまで味について言及はされないかな、なんて甘い観測もあった。そんな事を考えていると、

「俺のメニューは、豚の丸焼き!! オレの大好物」

 ブハラさんは眼を輝かせ、涎をたらしながらそう言った。――よかった。簡単な料理だ。香辛料の類は持ってきてないから本当にただ焼くだけになってしまうが、ブハラさんもきっとそれは承知の上だろう。そして、

「森林公園に生息する豚なら種類は自由。それじゃ……」

二次試験スタート! そうブハラさんが告げると同時にアタシとルル含め受験生全員が森へと散って行った。




 端的に言えば、アタシとルルはブハラさんの課題をクリアすることが出来た。


 ブハラさんの大喰らいの程は飛行船内で嫌というほど見ていた。彼なら普通の豚なら100頭は余裕で食べられると思っていたので、それほど焦る事もなくルルと二人で森の中に入って行ったのだが、そこで見た豚は普通の豚の二周り以上の大きさをした大きな鼻を持つ豚だった。こればかり出されてはいくらブハラさんと言えどきっと100頭以上食べるのは不可能だ。しかもこの豚は森に入って直ぐに見付かったので、他の受験生達は迷わずこの豚を丸焼きにして提出するだろう。そうなれば時間が惜しい。
 豚を見付けて数瞬でそこまで思い至ると、「この豚捕まえて丸焼きにして出すよ?」とルルに言った。ルルは体の大きな動物が大好きなのでおそらくこの子(豚)達と遊んでしまうだろうから、アタシが二頭分作るしか手はなかった。豚がこちらへ気付く一瞬の間に、額を思いっきりぶん殴ってやった。この手の動物は自らの弱点を隠す為にそれを守る強い部分を作る、それがわかっていたからこその行動だった。思い通りパンチ一発で一頭気絶させる。続けて二頭。アタシは昏倒した豚を二頭抱えてその場を少し離れ、さっさと丸焼きを作り始めた。アタシが豚の血抜きをし、下ごしらえをして豚を焼いている間、やはりルルは5,6匹の豚と遊んでいた。しかし、こちらへ豚を近づけさせないためには好都合であった。焼き上がるとすぐさまルルを呼び、丸焼きの豚の片方を持たせて、ブハラさんの元へ急ぐ。着いた時はまだ数人が提出したところだったので、アタシ達は作った豚の丸焼きを渡すと、作り直しを命じられる可能性を感じながらも待った。が、それは杞憂に終わり、美味しいと言って、アタシとルルの二人分をすぐに食べ切った。
 一安心したところで、まだまだブハラさんは食べそうな感じだったので、空いた時間でメンチさんにお礼しに行く。

「メンチさん、ナビゲーターとアシの用意、あんがとね」
「……あー、誰かと思えばリリじゃない。いーのよ、別に。ルナの手料理久々に食べられたしね。
 あ、でも、試験で優遇したりなんかはしないからね?」

 悪戯っぽく笑って言ったメンチさんに、アタシは「もとから期待してないよ」と返した。それを聞いたメンチさんはさらに笑って、

「それじゃあアンタ達の料理楽しみにしてるから。あんま受験生と話してるのもなんだし、さっさと向こう行った行った」

と、あっち行けとジェスチャーで示したので、苦笑いしてアタシはその場を去った。




 最終的に、ブハラさんは豚の丸焼き70頭食べたところでお腹いっぱいになったらしく、メンチさんが銅鑼を鳴らすと共に二次試験前半の終了を告げた。それにしても、ブハラさんを少し舐めていたらしい。これほど食べられるなら普通の豚なら200頭は軽く食べられるだろう、そんなことを考えながら元から丸いお腹をさらに膨らませたブハラさんを見てアタシは思った。ゴンにキルア、クラピカにレオリオも無事に通過出来たようだ。ゴンのそばにいると、「やっぱりハンターってすごい人達ばかりなんだね」と、見当違いのことを言っていた。ハンターなら誰もがあの量を食べられるわけではないのだ、決して。
 ブハラさんに出された豚の丸焼きは、焦げていたり、明らかに生焼けだったりと様々で、味で審査する気は特にないらしかった。そのことについて隣に立つメンチさんが文句を言っていた。




 そして、何よりも難しいメンチさんの課題が発表された。

「二次試験後半、あたしのメニューは――スシよ!!」

 その発言と共に受験生達がざわつき始めた。アタシは目が点になった。隣のルルが「リリー、スシってなぁにー」なんて聞いてきたが、アタシもそんな料理は知らない。そして、その言葉が受験生の総意と言っても違いなかった。小さな島国の民族料理だと、説明しながら受験生達を建物内へ導いていく。そして言った。

「ヒントをあげるわ!! 中を見てごらんなさい!! ここで料理を作るのよ!!」

 そうして、案内された場所には、シンクにまな板に色々な形の包丁、そして、スシに不可欠らしいゴハンが用意されていた。そして最後のヒントが与えられ、試験が始まった。

「そして最大のヒント!! スシはスシでもニギリズシしか認めないわよ!!
 それじゃスタートよ! あたしが満腹になった時点で試験は終了!!その間に何コ作ってきてもいいわよ!!」



 料理に見当がつかないので、とりあえず、この試験で知り合いになった人達から情報を集めてみることにした。しかし、ゴンとキルアは全く知らず、手元にある道具を見て色々考えているようだ。ゴンとキルアは放っておいて、次にレオリオとクラピカの所へ行く。その途中、頭を剃ったつるつるの男が明らかに挙動不審な動きをしていたのを見た。おそらく、彼は知ってるんだろう、と思いながらも目的の人たちに声をかけた。

「やほ、クラピカ、レオリオ」
「おう! ルルにリリ! お前らスシって知ってるか?」
「知らないからこうして情報収集してんだよ」

 ああ、そうか、とレオリオは少し残念そうにした。それとは対照に、クラピカはゴハン粒を舐めながら小声で言う。

(具体的なカタチは見たことがないが……文献を読んだことがある)

 おお、クラピカって顔だけじゃなくて頭もいいんだ、なんて下らないことを考えている間に続けて言った。

(酢と調味料をまぜた飯に新鮮な魚肉を加えた料理、のはずだ)

 凄い、クラピカってホント頼りになる! そう思ったのもつかの間、

「魚ぁ!? お前、ここは森ん中だぜ!?」
「声がでかい!!」

 川とか池とかあるだろーが、そう言いながらクラピカはしゃもじをレオリオに投げつけた。同時に、アタシも軽くレオリオを殴っておいた。って、レオリオ、その腫れた顔はどうしたんだろうか?
 そんな事を考えている間に、調理器具を放り出して受験生皆が魚を求め外へ走り出ていった。クラピカとレオリオもそれに続いた。しかし、アタシは動かなかった。なぜなら、ゴハンがとても美味しそうだったから。ルナは本当に様々な料理を作れたが、このように白く輝くゴハンをアタシは見たことがなかった。しゃもじで少し掬って食べてみる。ルルも同じ思いだったのかどうかわからないが、同じようにゴハンを食べていた。……美味しい。流石は美食ハンターメンチさん、こんなところにも手を抜くことは許さなかったらしい。暫くゴハンの美味しさを噛みしめていると、ドタバタと走る音がする。どうやら、ゴハンの美味しさに時間を忘れてしまっていたらしく、魚を持った受験生が続々と帰ってくるのがわかった。名残惜しそうにゴハンを見つめるルルの手を引いてアタシ達も魚を取りに向かった。



 水場へ着くと同時に、そこらの木の枝を削って即席の銛を作る。服が濡れるのは面倒だったので、靴を脱ぎ、ジャージの裾をまくりあげ、水の中へ歩を進める。そして、ルルに魚を呼び寄せるようにお願いして準備は完了した。ルル自身無類の動物好きだが、ルルも動物に異常に好かれる。一度森で休憩していた時に、ルルが「鳥さんおいでー」と声をかけただけでなんの警戒もなし小鳥が彼女の指にに止まった事があるほどだ。今回はそれを利用して楽に魚を捕まえようという心づもりだった。狙いは見事に当たり、ルルが「お魚さん、こっちにおーいでっ」というや否や、アタシがいるのにも関わらずルルの近くへと10数匹の魚が吸い寄せられた。それを銛でつき、仕留める。何度か繰り返し、10匹程魚を手に入れたところで急いで調理場へ戻ると、なにやら叫ぶ声が聞こえた。

「メシを一口サイズの長方形に握って、その上にワサビと魚の切り身をのせるだけのお手軽料理だろーが!!
 こんなもん誰が作ったって味に大差ねーべ!?」

 どうやら、つるつるの男の人が叫んでいる。なるほど、スシってそういう料理だったんだ、なんて思ったのも束の間、メンチさんの纏う空気が変わった気がした。

「……お手軽? ……こんなもん? …味に大差ない!?
 ざけんなてめー!! 鮨をマトモに握れるようになるには十年の修行が必要だって言われてんだ!!
 キサマら素人がいくらカタチだけマネたって、天と地ほど味は違うんだよ! ボゲ!」

 メンチさんが完全にキレていた。その瞬間、獲ってきた魚達が不憫に思えてきた。キレたメンチさんを料理でなだめるにはルナ並の腕が必要だ。もし、アタシやルルが先程言っていたような「カタチだけマネたスシ」を持って行っても、合格なんかもらえない。受験生の中にそれ程の料理の腕前を持った人間が存在する確率なんて天文学数字だろう。もうハンター試験不合格は確実だ。気持ちを切り替えよう。そういえばお腹がすいている。先程獲った魚に塩を振って焼いて食べよう。そう決定づけて、アタシは建物から再び外へ出た。



 形がグロテスクな割に意外と美味しい焼き魚を外で食べていた時、突然建物の窓が割れ、人が飛んできた。一体何が起きたんだろうか? そう考えながら焼き魚を食べ切り、様子を伺おうとした時に、上空に飛行船が飛んでいるのが見えた。そこから声が降ってくる。

『それにしても、合格者0はちとキビシすぎやせんか?』

 そして、言葉の直後、飛行船の底が開いたかと思ったら人まで降ってきた。爆弾が爆発したような音とともにその人物は着地し、建物から出てきていたメンチさんの方へ歩み寄っていく。その人物の顔を見て、メンチさんが言った。

「審査委員会のネテロ会長。ハンター試験の最高責任者よ」

 改めてその人物を見ると、白い口髭と顎鬚を長くのばし、ちょんまげを生やしたジイサンだった。ジイサン……ネテロさんはゆっくりと口を開く。

「メンチくん。未知のものに挑戦する気概を彼らに問うた結果、全員その態度に問題あり、つまり不合格と思ったわけかね?」

 さっきまでブチ切れていたメンチさんはどこへやら、どこかしゅんとした様子で答えた。

「テスト生に料理を軽んじる発言をされてついカッとなり、その際、料理の作り方がテスト生全員に知られてしまうトラブルが重なりまして。頭に血が昇っているうちに腹がいっぱいにですね……」
「つまり、自分でも審査不十分だとわかっとるわけだな?」

 面目なさそうにメンチさんは頷く。

「スイマセン! 料理のこととなると我を忘れるんです。審査員失格ですね。
 私は審査員を降りますので試験は無効にして下さい」

 ネテロさんは「ふむ」と少々考えこみ、何か決めたのか口を開く。吹き飛ばされてきた人は顔を押えながら立ち上がろうとしていた。

「よし! ではこうしよう。審査員は続行してもらう。
 そのかわり新しいテストには審査員の君にも実演という形で参加してもらう」

 ――というのでいかがかな? その言葉にぴくっと反応するメンチさん。そうして肺にたまっていた空気をすべて吐き出し、大きく吸い込んでから言った。

「そうですね。それじゃ――ゆで卵」

 笑顔を取り戻し、ネテロさんに遠くにある山を指差しながらそこまで全員を連れて行ってもらうよう頼んだ。それに対し、ネテロさんはニヤリとした笑みを浮かべ了承した。




 飛行船に乗り一時間もしない内にアタシ達受験生は二つに割れた山に到着し、下ろされた。谷間を覗いてみても、その底は見えない。ただ吹き上がる風だけが音で存在を示していた。と、谷を覗いていると、おもむろにメンチさんがブーツを脱ぎ、谷へ身を躍らせた。どうやら、この山はマフタツ山というそうで、ここにはクモワシという鳥が生息しており、クモワシは陸の獣から卵を守るために谷の間に丈夫な糸を張り卵をつるしているらしい。谷から飛び降りて、糸につかまり、卵を取り、岩壁をよじ登ってようやく手にした卵をゆで卵にするのがこの再テストだということだ。
 ――楽しそう、それがアタシがこの試験に持った印象だ。よっし、早く行くか、と思い崖へ近づいたところでルルが袖を引っ張っているのがわかった。そして、はたと思い出した。この試験を受けるにはルルは大事なぬいぐるみを一時置いていかなければならない。受験生が次々飛び降りる中残ったアタシ達にメンチさんはギブアップ? と問いかけてくる。背に腹は代えられない、そう思いメンチさんに話しかける。

「メンチさん」
「ん、何? ってリリ、アンタここでギブアップなの?」
「違う違う。ルルのぬいぐるみ、戻ってくるまで預かってくんないかなって」
「……あー、そういうこと。あたしはいいわよ。はい。じゃ、さっさと行っといで」

 ルルからぬいぐるみを受け取るとメンチさんはアタシとルルの背を押す。そして、アタシはためらいもなく飛び降りた。飛び降りるのに躊躇してた人達の中から「あんな子が?」なんて声が聞こえたきもしたけど、今はただ風が気持ちいい。轟々と吹き上げて来る風を感じながらも眼は閉じない。そしてたどり着いた糸に捕まり、無事に卵をとることが出来た。


 崖を登り終えると、ルルは急いでメンチさんにぬいぐるみを受け取りに行った。その間に、ルルの分も窯に入れておく。出来上がったゆで卵はとても美味しかった。――ルナの料理程じゃないけど、などと胸中で呟きはしたが。


 そうして、アタシとルルは二次試験を無事に合格することが出来たのだった。



[9501] 一章 ハンター試験編 第6話
Name: ハイライト◆d3ef7d09 ID:bd3a2168
Date: 2009/06/24 17:14
 ~小休止~



【ルル】

 ボクは今、三次試験会場へ向かう飛行船の中を探検していた。豆みたいな人に到着予定時間を教えてもらって、後は自由だって言われてすぐに、ボクとリリはシャワーを浴びに行った。たいして汗をかいたりはしてなかったけど、「乙女」として身嗜みに気を使うのは当たり前だ。そうルナ姉ちゃが言っていた。身体を丹念に磨いて、下着と服を着替えた。リリは相変わらずジャージ(今度は黒)で、ボクは丈の長いピンクのキャミソールにスパッツを履いて、その上に赤いパーカーを羽織った。リリと違ってボクは髪が長いから、ボクが髪を乾かしている間にリリはさっさと何処かへ行ってしまった。薄情者。でも、別にいつもリリと一緒にいるわけでもないし、これからの試験では別行動を取るかもしれないので丁度いいかもしれない。そう思ったボクはお気に入りのぬいぐるみを抱いて飛行船の中をうろうろしていた。




 そうしてしばらく歩いていると、ゴンちゃとキルキルが二人でいるところを見つけたのでボクは声をかけた。

「ゴンちゃー。キルキルー。やっほー」

 あ、ルル! とゴンちゃは元気よく返事をしてくれたが、キルキルは少し嫌そうな顔をしながら手を挙げただけだった。ボクはそんなキルキルにぶうと顔を膨れさせて不満を漏らした。

「キルキルってばどーして嫌な顔するのー?」
「……呼び方。どうにかなんねーの、ソレ」
「えー、キルキルはキルキルじゃんかぁ」

 ボクが当然のことを言うと、キルキルは軽くため息をついた。そして諦めの色を顔に浮かべながら、しぶしぶ口を開く。

「あー、わかった。呼び方は別にもう気にしねーことにするよ。 
 ……そういえばゴンと話してたんだけど、ルルの両親って何してる奴なの?」
「パパもママも知らないよー」

 そう答えたら、二人とも目が点になっていた。なんかおかしなこと言ったかなぁ、とボクが考えているのを遮ったのはゴンちゃの声だった。

「知らないってどういうこと?」
「どういうことって言われても……」

 ボクがなんて答えたらいいかうんうん唸っていたらキルキルが言った。

「リリは家族いるって言ってたぜ?」
「うん、リク兄ちゃとルナ姉ちゃとリリの3人が家族だよー」
「んじゃ、両親は?」
「ボクが生まれた時にママは死んじゃったみたい。パパは知らなーい」

 あっけらかんと答えたボクを見つめながらキルキルが聞いてきた。

「んじゃ、そのリクって奴とルナって奴は?」
「んとねー、リク兄ちゃはボクを拾ってくれた人でー、ルナ姉ちゃはリク兄ちゃのいた家にいた人ー。
 リク兄ちゃはとーっても強くって、ルナ姉ちゃはとーっても料理が上手なんだよぉ!」

 ボクが満面の笑みを浮かべ胸を張ってそう答えると、なんだか少し呆れたようなキルキルの視線があった。うーん、と首を傾けているとゴンちゃが口を開いた。

「じゃあ、リリとは姉妹ってわけじゃないんだ」
「うん、そだよー。リリもリク兄ちゃに拾われてきたのー」
「あー、7歳位まで少年兵やってたって言ってたな、そう言えば。その時に拾われたってことか。でも、それじゃ、家族じゃねぇじゃんか」
「違うよー。ひとつ屋根の下で過ごしてたらそれは家族よって、ルナ姉ちゃが言ってたもん。だから、リク兄ちゃもルナ姉ちゃもリリも、ボクの大事な家族なのー」

 ほっぺたを膨らましてそう言うと、ゴンちゃとキルキルが少しの間ボクを見つめていたかと思うと、急に笑いだした。「なんで笑うんだよぉ」ってボクが聞いても、キルキルは「お前ってガキだなぁ」なんて言いながら笑い続けるだけだった。
 その後も三人でおしゃべりしていると、不意にキルキルがボクのぬいぐるみを凝視していることに気付いたので言ってやる。

「そんなに見つめたってぶんたはあげないよーだ」

 アッカンベーをしてキルキルからぶんたを遠ざける。

「別にいらねーし! ってかぬいぐるみに名前つけてんのかよ、お前!」
「だってぶんたはボクの大事な友達だもん! なのにお名前なかったらかわいそうだよー!」
「……あっそ。つか、そのぬいぐるみ……ぶんた、ちょっと見してくんない?」

 えーっ、と言いながらも仕方なくキルキルにぶんたを渡す。と、

「重っ! お前試験中ずっとこんな重いもん抱えてたわけ? つか、やっぱりそうだ。なんだよ、このぬいぐるみ。初め見た時から思ってたんだけど妙にリアル過ぎんじゃねーの!? 可愛らしさの欠片もねーじゃんか。爪まで作ってあるし、……げっ、牙まで」
「えー、可愛いよぉ。それに、ルナ姉ちゃのお手製のぬいぐるみなんだよー! そんな文句ばっかゆーんならさっさと返してよぉ」
「おい、ゴン。お前も持ってみ? ぬいぐるみにしてはありえねー重さだから」

 ボクの抗議にも聞く耳持たず、キルキルはゴンちゃにぶんたを手渡す。

「うわっ! ホントに重いや! ルルはコレ持ったまんま一次試験走ってたんだよね? ルルってすごいや!」
「もう、いいからかーえーしーてー」

 そう涙ながらに抗議したりして騒いでいた時に、よく知った声が耳に届いた。

「ルル! 一体どこ行ったかと思ったらこんなとこにいたんだね」
「あー、リリだぁ。ボクのこと探してたのぉ?」
「ん、まぁね。あ、ゴン、キルア。リリが迷惑かけなかった? ゴメンね」

 そういって、ボクの方に歩いて来るリリ。二人の視線がそっちに向いた隙にぶんたを取り返す。「むしろボクの方がぶんた取られて迷惑してたよぉ」とリリに抗議するが、はいはいと言うだけで済まされてしまった。
 リリが隣に立ち、そろそろ寝るよと声をかけてきた時だった。強い気配がリリの来た方からしたのでボクはすぐにそっちを見る。リリ、キルキル、ゴンちゃも同様だった。凄い速さで何かが通り過ぎた感じがして、気配とは逆の方を見た時。

「どうかしたかの?」

 そう発するネテロのおじいちゃんがそこにいた。ボクがうんうんと唸っていると、キルキルが言う。

「素早いね、年の割に」
「今のが?ちょこっと歩いただけじゃよ」

 ネテロのおじいちゃんとキルキルの間にピリピリとした空気が走っているのがわかる。キルキルが苛立ち交じりに「何か用?」と聞くと、退屈だから遊び相手を探していたというおじいちゃん。

「どうかな? ハンター試験初挑戦の感想は?」

 その問いに、ゴンちゃは楽しいと答えたが、キルキルとボクとリリは退屈だと答えた。だって、お散歩して、豚さんと遊んでただけだもん。キルキルが行こうぜ、と声をかけてきたので、おじいちゃんにバイバイしようとしたら、

「おぬしら、儂とゲームをせんかね?」

 なんて聞いてきた。ゲームに勝てばハンターの資格をくれるっていう提案と、ゲームってどんな楽しい事するんだろう、なんて興味やらなにやらが頭の中でぐるぐるしていると、おじいちゃんは続けた。

「この船が次の目的地につくまでの間に、この球を儂から奪えば勝ちじゃ」

 その言葉と共におじいちゃんが視線でどうかな? って感じに聞いてくる。どうやら、身体を使ったゲームらしい。キルキルとゴンちゃはやる気たっぷりだったけど、ボクとリリはシャワーを浴びたばかり。「汗だくになりたくないからいいー」と言って、笑顔でおじいちゃんにバイバイと手を振ると、ボクとリリはその場を離れた。



 一応、「乙女」に対する配慮がハンター協会にもあったみたいで、メンチさんとたまたま出会ったボクとリリは、二人部屋に案内して貰ってそこを借りることができた。部屋に入ってすぐにぶんたを抱えてベットに潜り込む。「休息は取れる内に取っておけ」というリク兄ちゃの教えがあったからだ。次の試験は楽しかったらいいなぁ、と、そんな事を考えているうちに眠くなってきたので、リリにおやすみを言って寝た。




 到着時刻より前に起きたボクは、身嗜みを整え、到着を待った。でも、8時頃に到着と言っていたのに9時を過ぎても何の連絡もない。少し不安になったボクは、リリを置いて部屋を出て船の中を周った。けれど辿り着いた広間では受験生達がまだ眠っているのが見えたので安心し、部屋に戻ってリリとお話していた。

「こっから先は別々になるかもね」

 そうリリが唐突に言ったが、ボクもそれは承知していた。

「リリ、落ちちゃめーだよぉ?」

 そういうと、リリは笑って「ルルもね」と額を小突いてきた。それから暫くすると到着を告げるアナウンスが流れた。




 ボク達受験生が降ろされたところはとっても高い円柱の建物の屋上だった。360度に渡って景色がよく見える。
 試験内容は、制限時間の72時間以内に生きて下まで降りること。「どうやって降りるんだろうねー」と周りを見渡しながらリリと二人で歩いていたら、ガコンと小さく音がして、リリがいなくなっていた。





~後書き(という名の反省会)~

今回の分量は少なめ。作者的にも小休止です。
ぬいぐるみの名前は煙草を吸いながら考えました。
決して、セブンスターがブンタと呼ばれているからではありません。
内容についてはゴン、キルアとルルを絡ませ、仲良くさせることをメインに。
原作主人公達視線で物語を書く予定がないので、キルアやゴンがルルの事をどう思っているのかは不明瞭。
とりあえず、ゾル家までは一緒に行かせる予定なので友達レベルにしとかないといけなかったのです。
第三次試験ではルル視点、リリ視点の二つ視点で描く予定。

駄文ですがお付き合いいただきありがとうございました。
感想頂けると嬉しいです。

それでは、また。



[9501] 一章 ハンター試験編 第7話
Name: ハイライト◆d3ef7d09 ID:bd3a2168
Date: 2009/06/24 17:15
 ~三次試験前編~



【リリ】

 ――まずい。そう思った時にはもう遅かった。つい先程までは、トリックタワーと呼ばれるこの塔の天辺をルルと二人で歩いていた。小高い丘に建てられたこの高い建物は非常に見晴らしがよかったため、アタシとルルは下に降りることよりも、まず、その景色を堪能すべく歩いていた。そうして、足もとに全く注意を払っていなかったのがいけなかったのだろう。天辺で踏んだ最後の一歩は見事に隠し扉と思われるところを踏み抜き、アタシはルルに何かを告げる間もなく塔の内部へと入ることとなってしまった。

「如何なる時にも周囲への注意と警戒を解いちゃあならない。例え眠りについている時でもね」

 それは、リクに教えられたことの一つで、決して忘れていいものではなかった。あの森の中でサバイバル生活を送った時にそのことは痛感していた。にも関わらず、アタシはこうしてドジってしまった。自己嫌悪に陥りながらも、辺りを見渡す。部屋は4畳半程度の広さで、扉が一つ、さらに壁に取り付けられた机があり、その上には腕輪のようなものが一つ乗っている。どうやらタイマーのようだ。制限時間と同期して数字が減っているのだろう。扉に触れてみるがこのまま開く様子はない。仕方ないか、とタイマーを手首へ取り付けると扉が開いた。扉の先に伸びる通路を10m程進んだところに再び扉があったが、すぐに開いた。扉の向こうは広間になっているようだった。壁に何やらメッセージボードのようなものがあったのでそのまま歩みを進めると、ひとりでに扉は閉まった。ボードには次のような事が書いてあった。

『 勝ち残りの道
 君達にはこれより数多の試練を受けてもらう
 ゴールに辿り着くには5人の仲間と共に扉を開き
 試練には一人ずつ挑まなければならない
 しかし、例え一人になっても勝ち残る事が出来ればよい』

 うーん……と少し考え、四角い広間を見渡す。アタシが通ってきた扉と並んで同サイズの扉が他に4つ。正面にはメッセージボードと天井近くにスピーカー。右側にひときわ大きな扉がある。メッセージから想像するに、アタシが最初に着いた部屋と同じような部屋が他に4つあり、そこから受験生がここへ集まり、5人揃ったところで何らかの連絡があるか、あの大きな扉が開くのだろう。ということは、受験生が5人集まるまではただ待つしかなさそうだ。ふと、タイマーを見る。残り時間を示すだろうディスプレイには【71:43:10】と表示されていて、その下には【1】と書いてある。……勝ち残りの道。ということはおそらくアタシが一番手になるのだろう。どんな試練が待ってるかなんてわかりはしないが、さっさと済ますにはアタシが一番手というのは都合がいい。しかし、人数が集まるにはまだ暫くかかるだろう。アタシがこうしてタワー内部に入ってしまったのは過失と偶然の重なりあった結果であり、実際扉を探すとなると時間がかかるだろう。そう思い、壁に寄りかかり、腰を落ち着けて待つことにした。そういえば、ルルはどうしているんだろうなぁ、とぼんやりと考えていた。



【ルル】

 ボクはリリが消えた辺りを調べていた。そうすると、他と比べると明らかに長細い長方形の石がはまっているのに気付いた。でも、押しても全く動く様子がない。仕方なくリリのことはリリに任せて自分のことに集中することにする。きょろきょろと辺りを見渡していると、周りに気付かれないようしゃがんでいる人が見えた。そのままその人をこっそり観察してたら、その人が床の部分を押した途端にくるりと長方形の石の床が反転して、その人はそのまま中に入って行った。どうやら、ああいう仕掛けになってるみたいだ。足もとに気をつけながら進んで行き、さっきの人が降りた部分を調べてみると、リリが消えたところと同じように、長細い長方形の石はぴくりとも動かなかった。どこか適当な所を探して降りようかな、そう思った時にゴンちゃに呼ばれた。

「ルルー、どうやって降りるか分かった? 外壁を伝って降りるのは無理みたいなんだけど……」
「うん、たぶんだけど分かったよー」

 マジで!? と、ゴンちゃと一緒にいたキルキルが叫んだ。そんなにお馬鹿さんに思われてるのかと、ボクは唇を尖らせた。そんなボクの様子もお構いなしにキルキルが口を開いた。

「で? いったいどうやって降りるんだ? あ、てかリリは?」
「んとね、長細い長方形の石が隠し扉になってるみたいー。リリは知らないうちに落ちちゃってたの」

 へー、と二人が感心する。「どうだ、ボクって凄いだろ!」って言ったらキルキルはそれを無視してさらに聞いてきた。

「じゃあ、それがわかってんのになんでルルは降りないんだ?」
「んー、一度通ったところはもう通れないみたいなのー。それで、今ちょうど降りるとこ探してたの」
「そーゆーことか。じゃあ三人で探すか」

 そだね、とボクとゴンちゃは同意して隠し扉の探索に向かったのだ。

 で、とってもあっさりと扉は見つかった。それも5個も。密集してあったものだから、どれかは罠かなぁ、なんて三人で考えてたんだけど、そんな時にゴンちゃがクラピーとレオリーを見つけて呼んだ。二人に扉は一度しか開かないことと、この内のどれかは罠かも知れないことを説明して、どうするか聞くと、この5人で一人一つを選ぶことが決まった。罠になっても恨みっこなしで、いっせーので、みんな同時に入ることにした。レオリーが「地上でまた会おうぜ」なんて言った。もちろん、ボクも一人でだって地上まで到達してやる。そう覚悟を決めて、

「1……2の……「「「「3!!」」」」」

トリックタワーの中へ入った。

 扉から抜けた途端床が見えたので空中で姿勢を変えてなんとか足から綺麗に着地。長く伸ばした髪がはらりと舞う。そして、辺りを見渡すと……頭から着地したレオリーと、ちゃんと着地したクラピー、キルキル、ゴンちゃがいた。結局同じ部屋に落ちる仕組みだったみたい。みんなで顔を見合すと、互いにてへへと笑った。クラピーとレオリーがなんか言い合ってるけど、それより気になることがあった。

「この部屋、出口ないねー」

 部屋は全部石壁で、扉も何も見当たらなかった。そのかわりに、テーブルと何か書かれたボード。書いてあったのは、

『  多数決の道
君達5人は、ここからゴールまでの道のりを
多数決で乗り越えなければならない 』

テーブルの上にはタイマーと、○と×のボタンが付いた腕輪があった。と、部屋の隅にあるスピーカーからノイズ交じりの音声が聞こえてきた。

「ようこそ、トリックタワーへ。このタワーには幾通りものルートが用意されており、それぞれクリア条件が異なるのだ。
 そこは多数決の道。たった一人のわがままは決して通らない!
 互いの協力が絶対必要条件となる難コースである。
 それでは諸君らの健闘を祈る!!」

 それだけ告げると、スピーカーは何も言わなくなった。スピーカーが喋っている間にボクはせっせとタイマーを手首につけていた。

「それじゃあ、キルキル、ゴンちゃ、クラピー、レオリー、れっつごー」

 ボクは腕輪をはめた手を挙げてそう言った。そうすると、みんな腕輪をつけ出し、全員がつけたと同時に石壁の一部がせりあがって扉が現れた。ボクが向かった方とは全く逆側だった。あはは、と笑いながら扉に近づくと、扉には、このドアを開けるかどうかマルバツで決めるように書いてあった。みんながボタンを押す。
 そうすると、【○4 ×1】とドアに表示された。おおー、ちゃんとバツも反応するー、と一人で納得していると、レオリーが「誰がバツを押した?」ってちょっと怒った顔で皆の顔を見回していた。レオリー怖い……けど、ちゃんと言わなきゃダメだよなぁと思って言った。

「ごめんなさい。ボクがバツ押しましたー」
「っ! ルル! てめぇなんでバツ押すんだよ!?」
「だってさぁ、もしマルしか反応しなかったら大変だよー」

 そうボクが言ったら、クラピーが「確かに、そういう可能性もあり得たな……」と呟いていた。レオリーも納得したようで、謝ってくれた。
 そのまま歩き始めると、今度は分かれ道。右ならマル、左ならバツらしい。ボクは特に何も考えず、マルを押した。結果、【○3×2】で、右側の柵が空いたんだけど、またレオリーが騒ぎ出す。それに対してクラピカが色々説明してたけど、どうでもよかった。でも、ボクが早く行こうよー、って言ったら、レオリーが「ルルはどっち押したんだ!?」って聞いてきたから、「さっきバツ押したから今度はマル押したよぉ」って言ったら呆れられた。別にどっちだっていいじゃん、そう内心思いながらも先に進むと、真中に四角い闘技場みたいなスペースが浮いている部屋に着いた。下を覗き込んで見たけど、どれだけ深いのか分からなかった。そんなことをしていたら、レオリーに「危ねぇからやめとけ」って言われた。
 ふと、視線を上げると、丁度反対側には5人のフードを被った人達がいる。じーっと見ていたら、おもむろにそのうちの一人がフードを取って言った。剃りあげた頭に傷跡が見えるオジサンだ。オジサンの言う事を要約すると、一対一で順番に戦って、三勝すればボク達は晴れて先へ進むことが出来るということだった。この勝負を受けるかどうかも多数決で決めるらしく、ボク達は皆マルを押した。一番手はあのオジサンらしい。ボクは皆に言った。

「ねーねー、ボクが最初でいい? っていうか最初じゃなきゃヤダー」

 それを聞いたレオリーは、ぎゃんぎゃん喚いてきたが知らない。他人のペースに合わせるのって疲れるんだもん、と胸中で呟いていると、闘技場への道が現れたので急いで駆けて行く。

「おい、ルル! お前は危ねーから下がっとけ!」
「だいじょぶなのー。てか、もう着いちゃった」

 橋がかかりきる前にジャンプして闘技場の上に立つと、心配して叫んでるんだろうレオリオの言葉に返事をして、てへっと笑った。

「リオレオ、大丈夫だって、ルルなら」
「あぁ!? キルア、どこにそんな保障あるんだよ!」
「オレもルルは大丈夫だと思うよ」

 あー、ゴンまで!? と叫んでいるのが聞こえてきたが、ボクは目の前の男の人をじーっと見る。どこか優しげな表情な木がするのは気のせいだろうか。と、彼は口を開いた。

「さて、勝負の方法を決めようか。お譲ちゃんだからって優しくはしない。オレはデスマッチを提案する!!」
「んー、どっちかが死ぬまでなのぉ?」
「いや、一方が負けを認めるか、死ぬまで、だ。」
「うん、わかったー。ばっちこーい」
「……その覚悟、見事。では――」

 勝負!! そう言って突っ込んできた彼に向ってボクも深く沈みこむように一歩踏み出す、と同時に片腕を取り片手でくるんと一本背負いのようにして投げ、うつぶせに地面へ叩きつける。そのまま掴んだ腕を極め、オジサンの体を足で踏みつけにして動けないようにする。あ、レオリーが唖然としてる。

「オジサン、どうするのぉ? 完全に死に体だよぉ?」

 そう声をかけても、彼はなんとか抜けだそうともがいている。

「オジサンがボクより凄い力持ちならぬけれるかもだけどぉ、そうじゃないから足掻くだけ無駄だよぉ?」

 それでも彼は足掻く。

「あのね、ルナ姉ちゃにね、無駄な殺生はいけません、って教わってるの。だから殺さないだけでいつでも殺せるんだけど……」

 まだ、彼は足掻いている。むぅ、さっさと勝負つけたいのに。と、思いついた。これは個人戦じゃないんだった。ボクはレオリー達に聞こえるように言った。

「ボクが負けてもなんとかしてくれるー? この人凄いしつこいのー」

 それを聞いた皆は何やら話し合っている。キルキルが「さっさと殺ればいいのに」って言っているのがちょっと聞こえた。そんなことより、さっさと結論を出してほしい。そして、硬直状態が10分程続いた時、やっと負けてもいいと言われた。ので、すぐさま負けを宣言したのです。

「あとはまかせたよ、みんなー」





【リリ】

 アタシがこの部屋に着いてからもうすぐ2時間が経とうとしている。4人目までは意外と速く集まったが、皆覚えのない顔だった。途中、スピーカーからの音声で説明があったが、分かれ道に入った時は1番、もしくは一番番号の若いものが道を選び、一個一個の試練で勝ち残りを行うが、死なない限り全ての試練で1番から試練に向かうようだ。どちらにしても、妙な課題が出てこない限り、アタシが一人で片付けるつもりではあったから丁度いい。と、ようやく最後の扉が開いた。そこから出てきた人物は覚えている。
 ――外道の豚パだ。







~後書き(という名の懺悔)~
リリ視点→ルル視点→リリ視点 な感じですね。
三次試験、完全に流れを決めていたにも関わらず難産。
ありとあらゆる台詞や説明を省いていったら、省きすぎたのか、いまいち文章がまとまってない。
勢いで書きすぎたのかもしれないです。

と思って、投稿から30分程で改訂いたしました。

駄文ですが、感想頂けると嬉しいです。

では、また次回。



[9501] 一章 ハンター試験編 第8話
Name: ハイライト◆d3ef7d09 ID:bd3a2168
Date: 2009/06/24 17:17
 
 ~試練という遊び~



【リリ】

 あまりにも遅い到着に、アタシが苛立ちと侮蔑を交えた視線をトンパに送ると、彼は脂汗を浮かべ、身を竦ませた。ようやく5人が集まったところで、再びスピーカーから説明がなされ、それが終わるとともに扉が開いた。扉の先には扉と同程度の幅を持った下り階段があった。アタシがさっさと進んで行くと、他の受験生達もそれに続く。通常の建物3階分程度の階段を下り終えると、そこは四角く天井の高い広間で、正面に5つのドアが並び、その横に階段が設けられ、さらに5つのドアがあった。今いる入口の左側には鉄柵の檻、右側の壁にはドア。檻のすぐ横に人影が見えた。と、5人全員が到着したのを見計らってか、人影が話し始めた。

「私は審査委員会に雇われた試練官である。ここで君達にはかくれんぼをしてもらう」

 試練官と自ら名乗った者をみれば、両腕に枷が嵌められていた。しかし、かくれんぼとはどういうことだろう。

「まず、君達には”鬼”になってもらう。そして、この広間には10の部屋が存在する。”鬼”がいずれかの部屋に隠れている5人を見つけ出し、全員をこの檻へと入れればここを通過することが出来る。一つの部屋に2人以上隠れていることはないが、各自の”鬼”は一つの部屋に二度入ることは許されない。10ある部屋全てを調べ終えた時に隠れた5人全員を見つけることが出来なければ、次の者へ順番が回る。もし、君達5人が全ての部屋を調べ終えても隠れた者達を全員檻に入れることが出来なければ、ここで君達は失格となる」

 なるほど、確かにかくれんぼだ。しかし、ひとつ気になることがある。

「ちょっといい?」
「何だ?」

 アタシが小さく問いを放つと試練官はすぐさま答えてくれた。

「10部屋ある、って言ったけど隠し部屋とか隠し扉みたいなのはないよね?」
「ない。ただし、隠れている者達は素手ではあるが”鬼”を襲う権利がある」

 なるほどね、とアタシが頷く。そして再び尋ねる。

「隠れてる人の生死は問わない?」

 鋭い視線に試練官は一瞬、身体を強張らせたが、「ああ」と呟き、最後に言葉を放った。

「それでは腕輪の番号が一番小さな者、ここは最初の試練だから、1番の者から始めてくれ」

 はいはーい、とアタシがさっさとかくれんぼを始めようとした時、声がかかった。

「お譲ちゃん、襲われる危険性もあるんだから辞退した方がいい。代わりにオレが行く」

 そう言ったのはトンパだった。彼の腕輪を目を細めて見ると、確かに【2】と書いてある。でも、

「アンタよりアタシの方が強いし、簡単に見つけられるから断る。かくれんぼは嫌んなる程やったしね」

 そう言って、脇の階段を上っていく。トンパは何か言おうと口を開きかけていたようだが、無視して一番近い扉を開いて中に入った。部屋は10畳ほどの広さで、左側に収納、斜め前に中途半端な位置にあり、かつ入口から視界を塞ぐような本棚が目に入った。そしてその後ろから人の気配がぷんぷんする。どうやらこの部屋の人は元からじっと隠れてやり過ごすつもりなどなく、”鬼”を痛めつけるか殺すかする予定のようだ。
 そこまでの考えに至ると、アタシは迷わず本棚を蹴り倒した。




 隠れている人達の大半は”鬼”を襲う心算だったらしく、そうでない人も気配の殺し方をろくに知らない連中だったようで、8つ目の部屋で床下に隠れていた人を部屋から引き摺りだして牢に入れたのを最後に、この試練をクリアすることが出来、閉じられていたドアが開いた。アタシを襲ってきた連中は関節という関節を外されて牢に入れられた。その惨状を目にした4人の同行者と試練官は皆目を見開いていたが、アタシにとってこの程度のことは朝飯前だ。ただ、動けないように関節を外していたおかげで予想以上に時間を喰っていたらしく、残り時間は66時間程まで減っていた。言葉が出ない、といった様子の同行者に、「さっさと次行くよ!」と声をかけると、やっと体の動かし方を思い出したのか、慌ててドアへ向かうアタシについて来た。

 ドアを抜けて曲がりくねった通路を歩き、階段を下り、さらに通路を進むこと数十分、ドアが二つある小部屋に着いた。左は短いが困難な道、右は長いが比較的容易な道、そう説明書きがあった。選択権はアタシにあるので、アタシが左で行くよ?と同行者に声をかけると、またしてもトンパが口を挟んで来た。

「お嬢ちゃん、さっきの試練で慢心してないか? 仮にもここはハンター試験だ。慎重になった方がいい」
「あのさ、逆に言うけど、仮にもハンターを目指す人間がこんなところで怖気づいてどうすんの?」

 アタシがそう返すと、何か反論しようと頭を捻っているようだったが、構わず他の三人に聞く。

「アタシの判断間違ってる? アタシは意見変えるつもりないから、間違ってると思うんならアタシを殺しなよ。そうすれば、簡単な方いけるよ」

 ――ただ、アンタ達じゃあアタシを殺せないだろうけど。そう付け加えてニヤリと一睨みすると、4人共が押し黙った。そんな様子を一瞥すると、アタシは迷わず左のドアを開けるように言い、先へ進んだ。4人は押し黙ってアタシの後に続いてきた。

 再び曲がりくねった道に下り階段、一応の警戒を怠らずに先へ進んでいくと、広い部屋に出た。中央には縄で作られた円、正面にドア、その横にフードを被った体格のしっかりとした人達が5人。その中の一人は横の4人と比べると体格が一周り程違っていた。5人ともが腕に枷をはめられている。今度は何をやらされるやら、そう思っていると、フードを被った連中の一人がおもむろにどこかへ話しかけ、同時に枷が外れた。

「よくきたな。ここでは我々試練官と”相撲”を行ってもらう。一対一の勝負で、相手を円の外に出すか、円の中で足以外を着かせれば勝ちとなる」

 そんな勝負があるんだ、と思いながらもアタシは円の中へと歩みを進める。

「一番手は俺だ。しかし、相手がお譲ちゃんとはね」

 そう言って含み笑いしながら円の中へ進んでくる男。

「見た目で判断すると痛い目に合うよ?」

 そう言った時、両者は円の中、引かれた線の上に立つ。アタシは直立したまま、相手は膝を曲げ腰を落としている。と、ひょろりとした体躯の、同じくフードを被った人が近づいてきた。

「”はっけよい、のこった”で勝負開始だからね。それじゃあ、はっけよい……」

 ――のこった! その声を合図に男が突進してくる。アタシはバックステップで円の端に立つ。そして、突進しながらアタシを掴もうとする腕をひらりと避けてそのまま相手の後ろへ。突進の勢いが止まぬ内に背中をぐんっと押してやると、あっさりと男はうつ伏せに円の外へと滑って行った。あー、顔面痛そう、などと思っていると、審判役であろう人がアタシの勝ちを告げた。

「んじゃ、次の人おいで」

 そう言うと、新たに枷が外れた人がフードを脱ぎながら円に向かってくる。

「アイツはバカだな。無暗に突っ込むからそうなるんだ」

 でも、怪我の具合はマシな方だよ、とは胸中で呟き、そう言った男を見ながら次の開始の合図を待つ。 男は円に入るとさっきの人と同じような体制で構える。アタシは変わらず直立したまま。
 そして開始の合図。今度の人はじりじりと間合いを詰めてくる、アタシはそれを見ると、素早く相手の後ろに移動し男の足を刈り取る。男はバランスを崩し、そのまま倒れてしまった。審判の方をちらと見ると、アタシの勝ちが宣言された。

 同じようにして4人目まで倒したところで、大柄な男の手枷が外され、フードを脱いだ。筋肉隆々としていて、目つきが鋭い。――これはちょっと本気を出してさっさと済ませた方がよさそうだ。

「不甲斐ない奴らだ。こんな小娘にしてやられるなど馬鹿の極みだ」

 そう言い放ち円の中で構えを取る男。足を払うなら骨を折る気で行かなきゃならないだろう。でもまぁ他にもやりようはある。アタシは軽く膝を曲げ前傾姿勢で開始の合図を待った。開始の合図が空気を震わす。同時に地を蹴り男の目前に、勢いをそのままに腹を思いっきり蹴ってやった。ボキボキッという音とともに男の体は吹っ飛んでいった。アタシはギリギリのところで円の中に着地し、審判を見る。唖然とした顔でこちらを見ていたが、震えた声でアタシの勝利を宣言した。




 ”相撲”の試練をクリアし、開いたドアの先は下へと伸びる階段だった。アタシが迷いなく降りていく後ろで同行者達がひそひそと話しているようだが内容には興味がない。もし、アタシを闇討ちすべく話していたとしても、アタシはタワー内部に落とされた時から警戒を怠らずにいる。長い長い下り階段を1時間近くも降り続けたところで、やっと階段は終わった。正面に長い通路があり、曲がり角も見える。しかし通路は鉄柵によって今は封じられていた。横を見ると、メッセージボードがあった。内容を読んだところ、ここの先の通路はトラップを張り巡らせたものであるらしく、一人ずつ順番に挑戦し、誰か一人がゴールへと到達出来ればすべてのトラップが解除され、全員で先に進むことが出来るようだ。失格イコール死の試練らしい。なんとかなるでしょ、そう思ってアタシが一歩進み出ると鉄柵が開き、もう一歩進んだところで再び鉄柵が下りた。

「んじゃ、ちょっといってきます」

 そう言い残し、アタシはトラップの張り巡らされた通路へ足を踏み出した。





【ルル】

「レオリーのバカバカバカバカバカバカバカー!」

 ボクは叫びながらレオリーの胸の辺りをぽかぽかと叩いた。
 結局、試練には勝った。ボクが負けた後、ゴンちゃは勝って、クラピーも勝って、レオリーが負け、キルキルが勝って、3勝2敗でボク達の勝ち。結果だけでいえば勝ったんだからいいはずなんだけど、問題はレオリーの負け方だった。時間をチップにした賭けでの勝負を受けたレオリーが完全完璧完膚なきまでにぼろ負けしたせいで、ボク達は50時間も足止めを喰うことになったのだ。今はその50時間を消費するための小部屋にいる。ぽかぽかと叩かれているレオリーは「スマン、ほんとーにスマン」なんて謝ってるけど、これから先どれだけの試練が待ってるのかもわからないのに50時間も使ったんだ、レオリーは。うー、また腹が立ってきた。よし、と気合を入れるとぶんたを振り上げた。ところで、ゴンちゃとキルキルに止められた。

「流石にそれでぶっ叩いたらやべーって!」
「そうだよ、ルル! 落ち着いてよ!」

 ぶんたを振り上げたままゴンちゃとキルキルを見る。

「……ダメ?」
「ぜってーにやめとけ!」
「お願い! それだけは許してあげて」

 ゴンちゃとキルキルがそういうのでボクは渋々ぶんたを抱えなおした。

「? ぬいぐるみで殴るだけなのをどうしてそう必死に止めるんだ?」

 クラピーがそう口を開いた。

「あ、そっか。クラピカもレオリオも知らなかったっけ。あのぬいぐるみ、すごく重いんだよ」

 ゴンちゃが説明したけれど、クラピーとレオリーは半信半疑な感じだった。「試しに借りてみなよ」とゴンちゃが言って、クラピーに「ちょっと貸してもらっていいかな?」って言われたから、クラピーにぶんたを渡す。クラピーがぶんたを持った瞬間、目がまんまるになった。それを見たレオリーもぶんたを持つ。レオリーの目もまんまるになる。キルキルが「な? ありえねーだろ?」なんて言っている間に、ボクはレオリーからぶんたを取り返した。

「お、お前! ルル! あんなもんで叩く気だったのかよ!? もし喰らってたらこの後の試練受けられたもんじゃねーだろうが!」
「だって、レオリーが悪いんだよぉ。もし、これでボクが落ちてリリだけ受かったら絶対ばかにされるもん!」
「だからってあんなもんで殴られたら受かるもんも受かんねーだろ!」
「むぅ……じゃあ、もう一回ちゃんと謝ったら許してあげるー」

 そうボクが言うと、レオリーは土下座して謝ってくれたので許してあげた。






【リリ】

「……手ごたえ無さ過ぎ」
 それがトラップ通路を抜けきったアタシの感想だった。ブービートラップをデコイとして仕掛けられた罠を避けるだけだったのだ。罠は2重じゃまだ甘く、3重、4重と仕掛けることでブービートラップが生きてくるものだというのに、(アタシにとってはとてつもなく)簡易な罠しかなかったのだ。しかし、幾重にも張り巡らされているだろうと慎重に進みすぎたせいで、時間の消費が大きかった。アタシがこうしてクリアしたのだから、今頃入口では鉄柵が退かされ、皆が追いかけてくるだろうが、ここまでの道のりは意外と長い。直線距離で2キロ近い距離だったように思う。仕方なくそのまま待っていると、ようやく同行者達が追い付いてきた。やっと先に進める、そう安堵し、先へ進んだ。

 短く困難な道、その名の通りひとたび試練を抜けると、ひたすら階段を下ることになった。階段を下り始めて2時間、ようやく階段の終わりが見えた。試練を全てアタシがクリアしているため、同行者達の体力もまだ余裕そうだった。階段を下りきると、大きな門とメッセージ。曰く、

『ここが最後の試練です
 受けるか受けないかはあなたの自由です
 受けなければ無事失格
 受ければ死かゴールが待つ』

 こんなものに怖気づくアタシじゃない。同行者達の顔を見ると、不安と期待の入り混じった瞳がこちらを伺っていた。

「じゃあ、ちゃっちゃとゴールするよ」

 そう言って、扉を開いてもらった。中へ入るとすぐ扉は閉じ、部屋の中は灯りがなく、薄暗かったが、ボッと音を起てて四方に設置された大きな燭台に火が灯り、部屋の全景が見えた。正方形の広間の向こう側に小さなドアがあり、その手前に5人の試練官達が立っていた。入口脇を見ると、古今東西ありとあらゆる武器が置いてあった。その時、スピーカーから相変わらずのノイズ交じりの音声が流れた。

「よくここまで来た。そして、見事な覚悟だ。初めに言っておくが、ここの試練官は大量殺人犯を始めとした懲役900年を超える者達だけだ。その者達相手に、一対一の完全なデスマッチを行ってもらう。健闘を祈る」

 音声が途切れると同時に同行者達がざわりとするのがわかる。完全なデスマッチ……つまり、相手を殺さなければいけないということだ。今のところアタシは試練官を一人も殺していないし、見た目はただの少女、不安を煽るには十分すぎる材料だ。しかし、アタシは別に殺せないわけでなく、殺さなかっただけ。その事を説明してもどうせ信じてやくれないだろう。ただ、信じさせる必要もない。事実を見せればいいだけだ。アタシは横にある武器に目もくれず、コンバットナイフを取り出すと、中央へと進んでいき、言った。

「初めの相手は誰? さっさと殺り合おう?」

 そう言うと、一人の枷が外れ、フードを外し歩み寄ってきた。その瞬間、アタシは相手の背後へ回り込み、頸動脈を掻き切る。男が噴出する血を止めようと手で押さえているが、それは意味のない行為。トドメとばかりに脳天にナイフを刺し、返り血を浴びない様飛び退く。男はそのままばたりと倒れ、しばらく痙攣していたが、すぐに動かなくなった。それを確認すると、アタシはナイフを回収し、言った。

「さぁ、次は誰?」

 知らず頬が緩んでしまっていることに気付いたが、そんなことはどうでもよかった。





 「200番! 160番! 311番! 73番! 16番! 三次試験通過! 所要時間9時間53分!」






~後書き(という名の言い訳)~

とりあえず、リリの通るルートについてはあらかじめ構想に入っていました。
また、一緒に合格した中の一人は3次試験通過とともに死んだアノ人って設定です。
オリジナル要素を結構入れたつもりなんですが、読者様からしたらどうでしょうか?
やはり、描写が少なすぎる、ってことになるんでしょうか。。。
ただ、ハンター試験編をサクサク進めないといつまでたってもオリキャラ達が念を覚えられないのでツマラナイんですよね…

ご感想頂けると嬉しいです。

それでは、また。。。



[9501] 一章 ハンター試験編 第9話
Name: ハイライト◆d3ef7d09 ID:bd3a2168
Date: 2009/06/24 17:18
 ~三次試験終了、そして四次試験~




【リリ】

 アタシは今、とてつもない疎外感を味わっていた。三次試験を10時間以内にクリアすることが出来た事自体はまるで問題がない。問題は、これから試験終了までの間を如何にして過ごすかであった。どうやらアタシ達は試験を早くクリアしすぎたようで、人は少ない。アタシと共に合格した4人は、最後の試練で見せたアタシの姿があまりにも印象的過ぎたのか、最後の扉を開けた瞬間に蜘蛛の子を散らすように離れていってしまってこちらを見ようともしない。とは言っても、此方から気さくに声をかけるつもりもなかったのでいいのだが。アタシはスタスタと歩みを進め、壁際に腰を落ち着けた。
 次の合格者はいつ頃来るだろうか、それはアタシの知り合いだろうか、そんな事を考えながら辺りを見回していた時、奇術師と目が合った。合ってしまった。受験生の中で一番ヤバい奴だ。確か名前は――

「やぁ、はじめまして。ボクはヒソカ◆ 君の名前を聞いてもいいかな?」

 そう、ヒソカだ。何故目の前にいる? 極力近寄らないようにしていたのに……。錯乱しそうになる頭をどうにかして冷静に保つ。

「構わないよ。アタシはリリ。ところで何か用?」

 笑顔を顔に張り付けて、そう問う。恐怖心が溢れ出そうになるのを必死で堪える。

「用があるというわけじゃないんだけど、どうにも早く着きすぎてしまったようでね、暇なんだ◆」

 そう言ってピエロは笑った。

「今まで他の子達を見ていたから気付かなかったけど、君も美味しそうだ◆」

「はぁ?」

 つい、口に出してしまった。でも、美味しそうって一体何だ。わからない。言っていることも、コイツのことも。アタシの声が聞こえなかったのようにヒソカは言う。

「そうだ、時間もあることだし遊ばないかい?」

 遊ぶ? 何をするつもりだ? ヒソカは笑っているが、それは張り付けたような笑みだ。警戒を最大まで引き上げる。と、おもむろに何かを取り出した。――トランプ?

「何にしようか? ババヌキか、ポーカーか……ご要望は何かないかい?」

 一瞬で身体の力が抜けた。どうやら、本当にただの時間つぶしのようだ。そう判断した。

「じゃあ、ババヌキで」

「オーケイ。それじゃあ始めようか」

 そうしてなし崩し的にヒソカとトランプで遊ぶことになってしまった。


 あれから5時間程度だろうか、いまだ合格者が現れる気配はない。ヒソカとの勝負は案外面白かった。戦績は五分五分と行ったところ。最初に顔を合わせた時からすれば、明らかにアタシの緊張はほぐれていた。そのため、きゅうと鳴く腹の虫を諌めることが出来なかった。それを聞いたヒソカはおもむろに上を見上げ言葉を放った。

「食事とかは用意してくれないのかい?」

 少しの間を置いて、ノイズ交じりの音声が聞こえた。

「君達のいる右側、7つ目の扉の中は個室になっている。自由に使ってくれて構わない」

 簡潔にそう告げると、ノイズが止んだ。

「それじゃあ、行こうか、リリ」

「あんたに襲われたらたまったもんじゃないから一人で行くよ」

 そう答え、立ち上がり個室へ入る時、「残念」と声が聞こえた気がした。





 個室で料理を作って食べたり、シャワーを浴びたり、仮眠を取ったり、ヒソカとトランプをしたりと時間を潰していると、少しずつ合格者は増えていった。アタシは今か今かとルルを待ちわびていたが、一向に現れる気配がないまま残り時間は5分を切った。また一人と合格者が出てきたが、ルルは来ない。ゴンやキルア、クラピカにレオリオもだ。刻々と残り時間は減って行く。そして残り時間が一分になった時、新たに扉が開いた。そこから出てきたのはゴンとキルアとクラピカだ。ルルは? と三人に聞きに行こうと駆け寄った時、開いたままの扉からレオリオとルルが出てきた。どうやら、無事に合格したようで、安心した。ただ、5人とも服は汚れに汚れていた。
 そして、制限時間が来ると同時に放送がかかった。

「タイムアップ! 第三次試験、通過人数30名!!」





【ルル】

 ボク達がなんとか三次試験を通過すると、リリは少し不機嫌だった。話を聞くと、ボク達がいない間にヒソカにちょっとからまれたらしい。それはそれはご愁傷さまでした、って言ったら呆れられた。ボク達の受けた試練の内容を話していると、塔の外へ出るように指示されたので開いた扉から出た。久しぶりに空を見たなぁ、なんて思っていると、パイナップルみたいな頭をした人が次の試験についての説明を始めたのでおとなしく聞くことにした。とりあえずは塔を出た順にクジを引いていくらしい。ボクは最後から二番目に引いて、クジには【301】と番号が書かれていた。それからパイナップル頭の男の人が説明することには、自分のプレートが3点で、書かれていた番号の人のプレートが3点、それ以外の番号のプレートは1点で、これから向かうゼビル島での滞在期間中に6点分集めると合格になるらしい。301番といえばあの針の人だ。うーん、と考えたがどう考えても無理だと思った。と、船に乗るように指示がされたので船に乗る。ゼビル島に向かう船上はとてつもなく空気が重かったけど、ルルと一緒に少し離れたところで話をすることにした。移動すると、ゴンちゃとキルキルが見えたので声をかけた。

「ゴンちゃー、キルキルー、ターゲット誰だったぁ?」

 そう呼びかけたら、キルキルに「アホ! 人にばらしてどうすんだよ」って言われた。確かにターゲットの人にばれたら面倒だなぁって思ったけど、ボクとリリのターゲットは二人じゃないから見せることにしたら、せーので見せっこすることになった。
 ゴンちゃが【44】、キルキルが【199】、リリが【198】、ボクが【301】だった。キルキルがゴンちゃに、「お前クジ運ないなー」って言ったけど、ボクもそう思った。というかボクもクジ運悪いみたいだ。キルキルが自分のターゲットがわからないみたいだから、リリが教えてあげてた。

「199番は3人兄弟っぽい人の誰かだよ。アタシもそう。んで、ルルは針指してる男なんだけど……正直あいつから奪うより1点3つの方が楽だから、スタート直後にアタシがルルの分かき集めるつもりなんだ」

 どうやらリリはボクの分を取ってきてくれるらしい。「ありがとう」って言ったら頭をガシガシなでられた。そうしているとゴンが震えてるのがわかった。キルキルもそれに気付いたみたいで口を開いた。

「うれしいのか、怖いのか、どっちなんだ?」

 そうキルキルが聞くと、ゴンちゃは両方って言った。怖いけどやりがいがあるらしい。「頑張ってね」って応援したら笑顔で返してくれた。



【リリ】

 キルアやゴン達と話してから少しして、目的のゼビル島に着いた。通過時間の早い順に二分置きにスタートし、滞在期間は一週間。上陸地点の目の前にはもう森がある。3点分一気に掻っ攫うには好都合ではあるが、二分置きというのは時間が短い。結構本気で動かないといけない。一人につき一分でカタをつける。そう決意し、アタシは島へ上陸した。
 森へ入ってすぐ、木に登り、気配を完全に殺して上陸地点を見る。アタシの髪は森の中では目立ってしまうので、上陸前に黒のニットキャップを被っておいた。それから数十秒後、アタシの次の奴が島への一歩を踏み出し、此方から見て左の森へ入って行こうとするのがわかる。それと同時にアタシは動いた。今まで立っていた枝を蹴り、気配を消したまま目標の方へ一気に動く。枝から枝へ移動を繰り返すとすぐに目標が射程圏内に入る。と、同時に囮の石をアタシと反対方向の茂みへ投げる。相手が反応すると同時に背後へ着地し、振り向く間を与えぬまま首に手刀を一撃。それで目標は気絶した。服を、荷物を漁り、プレートを手にする。同時に最初にいた場所に急いで戻る。次の受験生はすでに上陸し始めていた。気配を消すのは忘れずに、観察。今度は右の森の方へ向って行くのがわかったので、先程と同様に一気に動く。相手はきょろきょろと周りを警戒しながら進んでいるが、問題ないと見てとり、枝を蹴り目標の背後へ。同時に首に手刀を一撃。こいつもあっさりと気絶してくれたので、急いでプレートを探し、手に取る。そして再び最初の場所へ。次の受験者がすでに左の森へ入って行こうとしているのが見えた。急いで後を追う。最初に倒した人を見つけたようで、慌てて周囲へ警戒をし始める。相手の注意を逸らすため、石を相手の右側の草むらに投げ込み、さらに左側にも放る。それと同時に相手の真正面へ。注意が分散していたところで急に現れたものだから、相手は反応が遅れた。行動を起こされる前に素早く顎に衝撃を加え、相手がふらついた隙に背後へ回り手刀一閃。相手は気絶した。急いでプレートを探し、手にすると同時に離脱する。保険の為にもう一枚手にして置きたかったが、さすがに時間がたりなかった。しかし、かなりの強硬策だったがなんとか成功した。上陸してまだ10分も経っていないが、アタシの手元には【311】【160】【73】の三枚のプレートがある。あとは暫く隠れてからルルと合流し、アタシのターゲットを捕らえるだけだ。




【ルル】

 リリが出発してから1時間近く経って、ようやくボクは島に上陸した。最後の方の出発だから、誰かがボクを狙おうと隠れているかもしれない。ボクはかくれんぼの時のようにして周りに注意を払いながら、急いで移動する。ケータイを見ると、運のいいことにこの島は圏外じゃないみたいなので、リリに電話をかけた。

「リリー、今どこにいるのぉ?」
「今はとりあえず島に入った方から見て左側の森の中。ってか、GPS機能使って探した方が早いよ」
「あー、そっかぁ。じゃあ電話切るねー」

 はいはい、とリリからの声が届いたところで電話を切って、GPSに表示されたリリの居場所まで駆けていく。キルキルとかゴンちゃとかにも会えるかなぁなんて考えながらも、気配を殺して移動すること30分。ようやくリリが視界に入った。リリはボクに気づいていないようだったので、こっそりとリリの背後の方に周ってから声をかけた。

「リリ、みーっけ!」

 ボクが声をかけたらリリは素早く距離を取って構え、ボクの姿をちゃんと見た途端に溜め息をついた。

「まったく、本当にあんたは気配殺すのがうまいんだから……。焦っちゃったじゃないか」
「えへへー、リリをびっくりさせようと思ってー」

 そう言って笑うとぽかりと頭をはたかれた。むぅ、ちょっとした悪戯じゃないかぁって文句を言ったら、さらにはたかれた。

「お馬鹿さんになったらリリのせいだからねー」
「ルルは十分お馬鹿さんだから変わんないって」

 完全にばかにされてる。むぅ、とボクが頬を膨らせると、苦笑交じりにリリが何か手渡してきた。

「はい。これがルルの分ね」
「ボクの分? あー、リリもう三人分とったんだぁ」

 プレートを三枚受け取ると、ボクはリリに笑顔でありがとうを言った。そしたら、別にたいして手間取ってないからいいんだよ、って返してくれたけど、ボクのために頑張ってくれたのはやっぱり嬉しかったから、もう一回ありがとうって言ったら、リリも笑った。

「そういえば、あんた服も何もかんもドロドロじゃない。水場探して、綺麗にしよう?」

 そう言われて自分の身体を見ると、確かにドロドロだ。とりあえずはリリと水場を探すことにした。






~反省会(後書き)~

ヒソカの語尾のマークは再現するのが大変なので「◆」で代用。
今まではヒソカと関わり合いがなかったけれど、ヒソカに目をつけられてしまいました。ご愁傷様。
内容に関しては構想通りなんですが、文がいまいちかな、とか思ってたりします。
上陸直後の急襲は、プレートを持ち物以外の場所に隠す間もないから凄く有効な策だと思ってたんですよね。
リリの敏捷はハンゾー並な感じです。ルルも実はぬいぐるみを手放せばその位早く動けます。

改訂が入る可能性が高いですが、とりあえずは四次試験を進めていく方向で行きたいと思います。

感想頂けると嬉しいです。

それでは、また。



[9501] 一章 ハンター試験編 第10話
Name: ハイライト◆d3ef7d09 ID:bd3a2168
Date: 2009/06/24 17:19
 ~乱獲~



【リリ】

 ルルに水浴びをさせた後、アタシ達はひとまずそこを拠点にして開始より2日を過ごしていた。今のところ周囲に人の気配はないが、水場は拠点とするには絶好の場所であるため、人が来るのも時間の問題だ。しかし、猛獣溢れる樹海でかくれんぼをしていたアタシ達からすれば、要注意人物のヒソカと針男意外に奇襲を喰らうことはまずあるまい。逆に、返り討ちにしてやれる自信があった。しかし、今の状況をよくよく考えると、いささか面倒なことがわかった。

「ねぇ、ルル」
「んー、なぁに、リリ?」
「考えたんだけど、アタシ達って一点分のプレート3枚と自分のプレート1枚ずつ持ってるでしょ?」
「うん、そだねー」
「ってことはさ、もしかして最低でも5人からターゲットとして認識されてない?」
「えー、あー……うん、そうだねー。でも、それがどうかしたのぉ?」
「もし、ヒソカか針男のターゲットがこの内のどれかだとしたら、このままだとアタシ達合格ヤバいんじゃない?」
「どういうことぉ?」
「いや、もしヒソカか針男のターゲットがこの5枚の内のどれかだったら、そのプレートをあげて命は助けて貰っても、1点か3点足りなくなんじゃん」
「あー、そっかぁ! でもどうするー?」

 そう、どうするか、だ。 『最悪の事態を常に考慮するべし』とはリクに教わった事の一つだ。最も、この場合の最悪は、命ごとプレートを奪われることだ。どうするべきか、そう考えていたら、ルルが簡単じゃん、と言った。

「もっとプレートを稼げばいいんだよぉ」

 あ、その手があったか。アタシはルルの発言に納得した。確かに、さらにプレートを狙われる可能性が高まりはするが、合格への道が閉ざされることはなくなる。

「んじゃ、もし自分のプレート取られても大丈夫なように追加で3人狩ろう」
「おっけー、じゃあれっつごー」
「でも、最優先はアタシのターゲットだかんね」

 元気に森の中へ入って行くルルにそう言うと、苦笑交じりにアタシも追った。そうだ、次からはプレートを取った相手に麻痺毒かけとこう。そうすれば、取り返しに来ることもなくなる。まぁ、姿を見せずに狩れればそれに越したことはないんだけど、相手がどこかにプレートを隠してる可能性もあるのでプレートの在処を聞き出す必要がある。そうすると結局姿を見せることになってしまうから、麻痺毒の用意は必要だ。アタシはリュックから毒の入った瓶を取り出し、愛用のコンバットナイフとは別に持っていたナイフへ毒を塗りながら移動した。




 枝から枝へ飛び移り、森の中を進むこと5時間、坊主頭の小柄な男を見つけた。移動中、アタシもルルも気配を殺すことは当然行っていたので、相手がこちらに気付く素振りはない。アタシの感覚では彼以外の気配は周囲に見当たらなかったが、一応ルルに確認することにした。

「ルル、アイツ以外の人が近くにいたりする?」
「だいじょぶー、いないよー」
「そっか。それじゃあアタシ一人で行くから、ルルはそのまま周囲の様子伺っててね」

 こと気配を探る、消す技術に関してはアタシはルルに遠く及ばない。その為の確認だった。そのルルがいないというのだから大丈夫だという確信がアタシにはあった。そして、音を立てずに木から降り、草むらから男の様子を伺う。男は警戒をほとんど解いているようだった。武器らしい武器も持っていない。トラップの類もないことを確認すると、アタシは無造作に背後から男の元へ駆けた。音で気づいたのか、此方を振り返り構えを取る男。お構いなしに突っ込み、男の拳が飛んでくるのをかわし、顎に拳一発、ふらついた隙に足を払ってうつ伏せに男を引き倒し、男の上に屈むと、ナイフを男の首元に当てる。

「プレートは手元にある?」

 その問いに男は沈黙で答えたので、右腕を踏み折る。ぐぅと呻き声がしたが無視。

「プレートが手元にあんのか聞いてんのよ。さっさと答えないと体が使いもんになんなくなるよ」

 そう言葉を吐き出すと、男が悔しそうに歯噛みしながら「鞄の中にある」と答えた。「ありがと」そう言ってナイフで切り傷をつけ、男の鞄を漁り【362】のプレートを得た。男はなんとか体を動かそうとしているが、立ち上がることも出来ないようだった。

「さっきのナイフ、麻痺毒が塗ってあるから最低数日は動けないと思うよ」

 そう言い残しルルのいる木の上まで移動し、ルルにピースサインを送るとルルも楽しそうに笑った。「じゃあ次行こうか」、そう声をかけてアタシ達は再び移動し始めた。




【ルル】

 試験が始まってからもうすぐ4日が終って、今日は5日目。【362】のプレートを手に入れた日には別の受験生を見つけられなかったけど、3日目の一昨日、全身黒ずくめの格好をした背の高い男の人を見つけられて、リリがさっさと【322】のプレートを獲って来た。その人も手元にプレートを持っていたみたいで、すごく楽してプレートをゲット出来たのです! ボクはいつも見張り役だったけどね。
 そして今日!ついにリリのターゲットの3人兄弟の内の二人を見つけることが出来たんだ。今はリリと一緒に尾行中。あの3兄弟の誰が何番かなんてリリもボクも覚えてなかったから、3人が集まるまでこっそり尾行することにしたんだ。それなりに実力はあるみたいで、ボク達が尾行を始めて4時間後には長髪のオジサンからプレートを奪ってた。二人がかりで、だったけど。そしたら、携帯を取り出して、なにやらゴソゴソしてた。やっと3人集まるのかなぁなんて思っていたら、その二人組が移動を始めたので、気付かれないようにこっそり後を追ってった。移動が始まってから1時間位経った頃、二人組の片方が「待たせたなイモリ」って声をかけてた。そっちの方を見たら、3人兄弟の最後の一人がいた。「兄ちゃん!」なんて叫んでるし決まりだ。さらにその向こうにはキルキルがいた。でも、今はこっそり尾行作戦中だから様子を見るだけ。キルキルに限ってピンチになんてなるはずはないけど、ボクはぬいぐるみをぎゅっと抱いて成り行きを見守っていた。
 イモリって呼ばれてた3人兄弟の一人がキルキルに向かって何やら話してる、と思ったらキルキルの鳩尾にキックした。キルキルがその隙にプレートを奪ってるのが遠目にだけどわかった。吹き飛んだキルキルが寝転がった状態からひょいって立つと、さっき奪ったプレートを見て残念そうにしている。その様子を見た3人兄弟はどうやら3人がかりでキルキルに挑むみたいで、陣形みたいなのを組んでた。キルキルはそのまま近づいてくる3兄弟に構わず木を駆け昇ると、そのまま3兄弟の中位の人の背後に立って膝を蹴って、首筋に爪を当ててる。その人から獲ったプレートも番号が違ったみたいで残念そうにするキルキル。3兄弟の大って感じの人からプレートを投げてもらってた。受け取った後、キルキルは大きく振りかぶってプレートを……ってダメじゃん。

「キルキル!ストーップ!」

 そう声をかけてボクが姿を見せた時にはもう投げていた。

「あ、やべ。どっちかリリのターゲットだったっけ」

 わりぃわりぃと言うキルアに向かいながら、呆然と立ったままの3兄弟の大の首元に手刀を当てる。リリも同じように3兄弟の小の首元に手刀を当てて焦ってキルアの元に駆け寄ってく。リリがキルアの手元に残ったプレートを覗きこんでいる横でボクも覗き込む。番号は【198】。よかったぁ、って息を吐くリリとボク。

「キルキルー、それくれるよねー?」
「ああ、いいぜ。その代わり貸し一つな?」

 キルキルのケチンボー!ってボクが言ってる横で、リリは「まぁいいじゃん」って言いながら3兄弟に毒を塗ったナイフで傷をつけていっていた。ついでに、さっき二人が獲ってたプレートも獲ったみたいだ。その様子を見てキルキルが聞いてきた。

「ん? ルルの方はまだプレート貯まってねーのか?」
「とっくに貯まってるよー。ただ、襲われた時の保険でプレート集めてるのー」
「へぇ。今何点分あるんだ?」
「えーっとぉ、ボクが自分のと適当に獲った分で6点とー、リリが自分のとターゲットので6点とー、適当に集めたのが3点分だよぉ。」
「……お前らやりすぎじゃねーか、ソレ」

 キルキルが呆れたように言って来る。

「でもぉ、たくさんあれば安心だよぉ」
「多い分、色んな奴らに狙われるんだぜ?」
「ボクとリリならだいじょぶー」

 そう言って満面の笑みとともにピースした。キルキルが息を吐き出した。

「そうだぁ、キルキルも一緒に行動しよー」
「ルル、たまにはいいこと言うじゃない。キルア、一緒に行動しない?」
「まぁいいけどさ。……足引っ張るなよ?」

 だいじょぶ、ばっちこーい、ってキルキルに言ったらやっぱり笑われた。それから、最終日の夜まで、ボクの警戒網に誰かが引っ掛かるようだったら進路を変え、場所を変えをしていた。そうしたら、キルアに「よく、お前そこまでわかるな」って多分褒められたけど、「リク兄ちゃとルナ姉ちゃのしゅぎょーの賜物だよ」って言ったら、なんだかまた呆れられた。むぅ。





 最終日の夜半過ぎ、スタート地点に結構近い所を移動してたら、洞窟みたいなのがあって、入りたかったけど中に何かがうようよいる気配がしたのでやめといた。そのまま洞窟の近くを通り過ぎようとしたら、無防備に寝ているお姉さんがいた。キルキルはほっとけって言うんだけど、「乙女」は守られるべき存在だってルナ姉ちゃが言ってたから、起こしに行った。リリもついて来てくれたけど、キルキルは「どーなっても知らねーぞ」って言ってどっかに行ってしまった。少し寂しかったけど、ボクはお姉さんを揺さぶって起こした。だいぶ深く寝入っているみたいで、全然起きなかったから、仕方なくリリがお姉さんを担いで安全な所まで移動した。
 夜が明けた頃、ようやくお姉さんが目を覚ました。ボクとリリの顔を見てなぜか混乱してたみたいだけど、今度は急に荷物を漁り出したと思ったら、最後に溜め息をついた。

「お姉さん、どーしたのぉ?」
「私のプレートがないのよ! バーボンのはあるんだけど……確か、ゴンとクラピカと、リオレオ?だったかしら、確かに私を運び出してくれたけどこれじゃ合格できないじゃない! あいつら……騙したわね!?」
「じゃあお姉さんはあと3点分で合格出来るってことぉ?」
「そうだけど……もう最終日の朝じゃない! 数時間後……下手したら一時間もしない内に試験終了なのに、今から3点分なんて無理よ!」

 そう叫んで空を仰ぎ見るお姉さん。そういえばお名前なんて言うんだろう。気づいたらそのまま口に出していた。

「ねーねー、お姉さん、お名前なんてゆーのー? ボクはルル、こっちがリリ」
「……私はポンズよ。それがどうかしたの?」
「これあげるー」
「何よ? ……ってプレート3枚!? どうやって集めたの!? っていうかなんで自分が不合格になってまで!?」
「ん? 別にポンズさんにあげてもアタシらは合格だよ」
「……意味分かんないわ……あなた達がそれだけプレートを集められたことも、なんでくれるのかも……」
「んとねぇ、貸し一つってことで!」

 ボクは満面の笑顔でそうキルアの真似をして言った。そしたらポンズさんはぽかーんとした顔でこっちを見ていた。ボクが首を傾げるとポンズさんは笑いだした。

「あはは、あなた達みたいな小さい子に助けられるなんてね。人生何があるかわかったもんじゃないわ。わかった、借りは必ず返すわね。ところで、もう一回名前聞いてもいいかしら?」
「うんっ! ボクはルル!」
「アタシはリリ」
「ルルにリリね。ありがとう。私のことは呼び捨てでいいわよ?」
「じゃあ、ポンポン、よろしくねー」

 ボクがそう言ったら、ポンポンの笑顔がちょっと引きつった気がした。



「四次試験合格者12名!」





~後書き~

ルル視点が非常に楽に書けるため、今回はほとんどルル視点でした。
そして、まさかのポンズ合格。

そして、実際のところご都合主義なところがあります。
本来80番スパーの獲物が301番イルミで、スパーがイルミを狙ったためにスパーは返り討ちに遭い、イルミが80番の余剰プレートを手にし、それをヒソカに渡してるんですよ。
つまり、ルルの獲物がイルミの時点でスパーがイルミを狙う必要がなく、イルミはヒソカに渡す余剰プレートがない状態になってしまい、色々とごちゃごちゃしちゃうんですよね。

今作品では、イルミを見かけたスパーが隙だらけと思って攻撃した結果、返り討ちに遭い、イルミが80番を手にした、ということにしておいて下さい。

あと、それぞれの獲物ですが、原作とほぼ変わりなしと思って下さい。原作で合格しなかったもの同士が狩る者狩られる者になったということでお願いいたします。

今後ですが、最終試験のトーナメント表も出来上がってますし、どうなるのかも決まってます。
ポンズの扱いはおまけ程度です。
でも、逆に原作でキャラが描かれていない分、オリキャラとして扱っていけるのでまぁいいかなぁと。
ポイ捨てするかもしれませんが。
ポンポンはNGLで伝書蜂を出してますが、代わりに伝書鳩を使う人がいればいいだけの話なので、問題ないと思ってます。
キメラアント編の構想は出来ていませんが。

それでは、こんな駄文ですがお付き合いいただきありがとうございます。
感想頂けると非常に喜びます。

それでは、また。



[9501] 一章 ハンター試験編 第11話
Name: ハイライト◆d3ef7d09 ID:bd3a2168
Date: 2009/06/24 17:21
~赤い手~


【リリ】

 四次試験を通過したアタシ達受験生は、直ぐ様最終試験会場へと向かう飛行船に乗せられた。その際、飛行船に乗り込むポンズの姿を見てゴン達が驚いた表情をし、その姿を見たポンズが文句を喚き散らしに行ってしまった。暫くの間、ぎゃんぎゃんと騒いでいたが、ルルの発した「ポンポンは綺麗な目をした優しい人だからいいのー」と言う声に皆毒気を抜かれたようで、改めて挨拶などをしていた。ただ、どうやってあそこから受かったのかをポンズが聞かれ、説明したために、アタシとルルの行った乱獲がばれた。そして、レオリオに「もしお前らがオレの獲物奪ってたらオレ落ちてたんじゃねーのか?」というどこか非難めいた言葉を受けたので、とりあえず謝って置いた。ルルは「じゃあレオリーに借り一つだねぇ」なんて言っていたが、結局被らなかったんだからいいじゃないか、そう思った。
 そうやってしばし話した後はそれぞれ自由に行動し、アタシとポンズはルルに付き合わされて飛行船内のシャワーや洗濯機を借りて身嗜みを整えていた。そんな中、アナウンスで各自面談を行う旨が伝えられた。数人が呼ばれた後、アタシが呼ばれ、応接室に行くと、畳敷きの部屋にネテロのジイサンが座っていた。アタシに対面に座るように促すと、ネテロのジイサンは本題に入った。

「それじゃあ、まず聞くが、何故ハンターになりたいのかな?」
「アタシとルルは戸籍がないからね。世話してくれてる人に身分証代わりに取ってこいって言われたから受けに来ただけだよ」
「ほうほう。確か、ルナ君だったかな?」
「あとリクもだね。っていうかアタシを拾ったのはリクだし」
「……リク、か」

 リクの名を聞くとネテロさんは一瞬どこか複雑な表情をしたが、続けて聞いてきた。

「では、お主以外の11人の中で一番注目しているのは?」

 アタシはその問いに答えるのに幾らかの時間が必要だった。注目……うーん、と考えると一次試験の時に見たゴンの瞳を思い出した。

「405番かな? ルル……201番は目が離せないって感じだけど、注目って事ではゴンだね。 逆に44番と301番からは出来る限り目を背けたいね」
「ふむ。では、最後の質問じゃ。11人の中で今一番戦いたくない者は?」
「44番に301番。視界に入ることすら怖いからね」
「なるほど……御苦労じゃった。では、下がってよいぞよ」

 そう言われたので、アタシは部屋から出た。




 四次試験合格者全員の面談が終わり、目的地に着いたのは日の沈む頃だった。最終試験を行うのは三日後らしく、着いたその日はそのままホテルで休んだが、最終試験開始までは自由行動らしく、アタシはポンズとともにルルに街へ連れ出され洋服などの買い物をして二日を過ごした。
 そして、最終試験試験当日、最終試験の内容が発表された。ネテロのジイサン曰く、一対一のトーナメント方式で一勝すれば合格、負けたものがトーナメントを負け昇るというものだった。不合格者は一名、そして対戦で相手を殺した場合にも失格となるらしい。勝ちの条件は相手に「まいった」と言わせる事。一人が戦える回数はてんでバラバラで、トーナメント表はとてもいびつなものだったが、とりあえず、アタシの一回戦の相手はキルアだった。組み合わせが公平でない理由についてジイサンが色々説明していたが、相手があのキルアであったので、内容は右から左だった。対戦相手であるキルアの方を見ると、どこか不機嫌そうだったが、とりあえず話をすることにした。

「キルア、ちょっといい?」
「……なんだよ、リリ?」
「対戦のことなんだけどさ、アタシらん中でルール決めてやんない?」
「はっ、普通にやっても勝てなそうだからそういうこと言い出してんの?」
「違う違う。アタシとキルアがガチでやったら絶対負けた方はボロボロになってるだろうからさ」
「はぁ? お前俺に勝てる気でいんの?」
「ったく、なんでそう喧嘩腰なのよ。アタシが勝てるかどうかなんてキルアの本気はまだ見てないからわかんない。キルアもアタシが本気で戦ってるとこ見てないでしょ?」
「……そりゃそうだけど」
「だから、提案。三本勝負で、先に二本相手に攻撃を当てた方が勝ち。それでいい?」
「……一撃で気絶した場合は?」
「起きたと同時にギブアップ。いいかい?」
「オーケイ。それでいいぜ。さっさと勝たせてもらうからな」

 話はそれで終わり? そう聞いてきたキルアに頷くとキルアはさっさと離れてしまったので、アタシはルルの横に立って、一試合目の観戦に入った。




 ゴンはハンゾーにボロボロにやられていた。拷問に似たハンゾーの攻撃が始まって早3時間。ゴンは血反吐も出ない有様だった。その様子を見てハンゾーにキレるレオリオ。それを諌める立会人。アタシは黙って見続けるだけ。と、ゴンの右腕が折られた。レオリオとクラピカが何か話している。二人とも怒りを抑えきれない状況のようだ。それでもアタシは黙って試合を見つめ続ける。ルルも隣でぶんたを抱えたまま見続けている。
 倒れたゴンの横でハンゾーが倒立しながら負けるよう言い聞かせる。身体を支える指が一本、また一本と減り、人差し指一本になった時、ゴンがハンゾーを蹴り飛ばした。レオリオが何か喚いているが知らない振り。思いっきり顔を蹴られたようで鼻血を出しながら立つハンゾー。鼻血を吹くと腕から刀を取り出し、ゴンの脚を切り落とす、そう宣言した。しかし、ゴンはあっけらかんと「脚を切られるのは嫌、負けるのも嫌。別のやり方で戦おう」とか言い出した。頭から湯気をだして憤慨するハンゾー。なんだか笑いがこみあげてきた。会場の空気も緩んだのがわかる。と、ハンゾーが刀をピタリとゴンの額に当てた。再び空気が張り詰める。ハンゾーが何やら話しているがゴンは突きつけられた刃も気にせずハンゾーを見つめ続けていた。ハンゾーが叫んだ。

「命よりも意地が大切だってのか!! そんなことでくたばって本当に満足か!?」

 ゴンの瞳は揺らぎもしない。アタシはそんな瞳をさっきからずっと見つめていたのだ。「親父に会いに行くんだ」そんな言葉が耳に届いた。

「もしオレがここであきらめたら、一生会えない気がする。……だから退かない」

 そう宣言した。ハンゾーが最後の忠告をした。しかし、それでもゴンの瞳は揺るがなかった。と、ハンゾーが刀を納め、「まいった」と宣言した。この試合でゴンの意志の固さを再認識させられた。……と思ったら、ゴンがちゃんとした勝負で決着をつけようとか言い出しやがった。ハンゾーはアンタの意志に負けたのに、なんだかやるせない気分になった。なおも言いつのるゴンにハンゾーが拳をくれて吹き飛ばすことで口を封じ、一試合目は終了した。




 第二試合はクラピカ対ヒソカだった。明らかに戦闘能力の劣るクラピカに勝ちはないだろう。そう思って試合を見ていたが、ヒソカが明らかに手を抜きながらクラピカと暫くやり合ったあと、不意にクラピカに何かを囁いたかと思えば、ヒソカが負けを宣言した。クラピカがこちらに背を向けた状態だったため、ヒソカがほんの少しの言葉を呟いたところが見えたが、同時にクラピカの体に力が入ったのがわかった。……一体何が起こったのだろう。不思議に思った。
 第三試合はハンゾー対ポックル。ゴンの時と同じような体勢になると、「悪いがあんたにゃ遠慮しねーぜ」とハンゾーが告げると、ポックルは負けを認めた。
 そして第四試合。ようやく、アタシの出番が来た。




 この試合にナイフは使わない。そう決めていた。向かいにキルアが立つ。立会人が試合開始の合図を告げるその前に、アタシはハンゾーに声をかけた。

「ハンゾーさん、アタシとキルア、三本勝負で先に二本相手に攻撃を当てた方が勝ち、ってあらかじめ決めて置いたんだ」
「で? オレに何をしろって?」
「攻撃が入ったかどうかを見て欲しいの。頼んでいい?」
「……わかった」

 よし、とキルアに視線を向けると、明らかにさっきよりも機嫌が悪い。冷静さを無くさせれば結構楽かもしれない、そう思った。

「あ、立会人さん、ゴメン。アタシはいつでもいいよ」
「オレもいつでもいいぜ」

 アタシが立会人さんに声をかけるとキルアも声をかけた。

 そして、試合開始。

 ふっと消えるように動くキルアを目で追う。アタシの右側を通り抜けて――狙いは首か。そう判断すると同時に、アタシは右足を左斜め前に置き、重心を掛け、そこを支点にするようにして反転、右手でキルアの手刀を受けてその勢いを吸収して回転し、左の後ろ回し蹴りを叩き込む。不意を突くつもりが完全に後の先を取られたキルアは防御も間に合わずにアタシの踵を脇腹に受け吹き飛ぶ。――これで一本。

「これで、まず一本。で、いいよね?」

 視線はキルアに向けたまま、こくりと頷くハンゾーを確認する。キルアは目つきを鋭くこちらを見据えてくる。他の受験生達の大半が目を丸くしているのがわかる。

「キルア、ちょっとアタシのこと舐めすぎじゃない? まさか今のが本気じゃないよね?」

 ニヤリと笑って怒りを助長する。攻撃を受けた直後にキルアが自分で後ろへ跳んで衝撃を逃したのはわかっている。それに、さっきの攻撃が当たったのはキルアがアタシを舐めていたからだ。ここからはキルアも本気で来るだろう。でも、アタシもここからが全力だ。と、ゆらりと歩んでくるキルアが何人にも見える。歩法の一種だろう。しかし、何人に見えようとも攻撃に転じる時の殺気を感知すればいいだけだ。と、殺気とともに左方向からの蹴り――速い。ギリギリで左腕でガードする。と、続けざまアタシの左足へのローキック――は囮、本命は左足での蹴り。瞬間的に悟ったアタシはバックステップ。読みは当たったが掠った。キルアの舌打ちが聞こえた。同時にアタシの右正拳突きがキルアの鳩尾に決まっていた。少し吹き飛び目を見開いたキルアに言い放つ。

「これで二本。アタシの勝ちってことでいいんだよね?」

 キルアは見開いた目を伏せ、「まいった」と宣言した。……まさか”無拍子”を打てるとは思ってなかったんだろうなぁ、とアタシは思う。ってか、ハンゾーいらなかった。ハンゾーに目を遣ればハンゾーも目を見開いていた。

「な、んで、お前みたいな、ガキが、”無拍子”なんて……」
「師匠に相当しごかれたからねぇ……」

 アタシは遠い目をして言った。でも、アタシの出来る”無拍子”は正拳突きだけで、蹴りや投げはまだ無理。なんにせよ、これでアタシは晴れてハンター試験合格だ。後は誰が落ちるか、だ。次は確か……ポドロっていうジイサンとヒソカか。ヒソカが勝つんだろうな、そう思いながらアタシはルルの元へ近寄って行った。




【ルル】

 リリがキルキルに勝った。たぶん普通にやり合ってたらリリが負けてたと思う。だって、リリの方が力がないから。リリは結構ずるいことをする。正々堂々なんて言葉とは無縁なんだもん。と、第5試合目のポドロのおじいちゃんとヒソカの試合がいつのまにか終わってた。ポドロのおじいちゃんはボロボロだった。次の第6試合はボクの番だ。相手はレオリー。どうしようかなぁ、って考えてたら、そういえばレオリーに借り一つだった事を思い出した。試合場に向かいながら、レオリーに言う。

「レオリー、ちゃんと戦うつもりあるぅ?」
「……」
「ないのぉ? それじゃあ四次試験の時にボクが借り一つだね、って言ったの覚えてるー?」
「そういえばんなこと言ってた気がするが……」
「じゃあ、立会人さん始めてくださーい」

 ちょ、ちょ、待てよ、なんて聞こえてきたけど気にしない。立会人さんが試合開始を合図した。同時に

「まいったー」

 ボクは宣言した。

「レオリー、これで借りは返したよぉ」

 満面の笑みでそう言うと、レオリーは呆れてた。そのままボクはリリのところへ戻る。リリは少し不機嫌な顔をしてたけど、「借りはなるべく早く返すものなんだってー」ってボクが言ったら溜息を吐いた。
 次の第7試合はポックル対キルキル。なんだけど、試合開始と同時にキルキルが負けを宣言した。「悪いけどあんたとは戦う気がしないんでね」って言ってた。勝てるなら勝っとけばいいのにって思う。
 その次の第8試合はポンポン対ギタラクルさん。「ポンポン無理しちゃだめだよー」って言ったけど、なんかやる気満々だった。あの針の人は危ないのに……そう呟いたけど、誰の耳にも届かなかったみたいだった。立会人さんが開始の合図を告げた。そしたら、針の人が立会人さんの所へ行って、なにか囁いたと思ったらポンポンの勝ちが宣言された。あの針の人、なんでちゃんと試合しなかったんだろう? そう疑問に思ったけれど、今度はポドロのおじいちゃんとボクの試合。でも、ポドロのおじいちゃんの怪我が酷かったので、ネテロのおじいちゃんに試合を後に回してもらうように言ったら、そうしてくれた。
 そして、キルキル対ギタラクルさん。試合開始の合図と一緒にキルキルが一歩を踏み出したら、針の人が初めて喋った。

「久しぶりだね、キル」

 そう言って、頭に刺さった針を抜く針の人。同時に頭が完全に別人になった。そこにいたのは黒い髪を長く伸ばした黒い猫目の男の人。その人の顔を見た瞬間、キルキルの口から言葉が飛び出した。

「兄…貴!!」

 あの人はキルキルのお兄ちゃんだったんだ。そういえば、どことなく目元とかが似てる気がする。ほかに似てるとこあるかなぁって考えている内に、キルキルのお兄ちゃんの色々とキルキルに話しかけていた。「言ってごらん。何が望みか」そうキルキルのお兄ちゃんが言ったら、キルキルは汗を浮かべながら言った。

「ゴンと……ルルやリリと……友達になりたい」

 何言ってるんだろう、キルキルとボクはもう友達じゃないか。でも、キルキルからしたら違うのかな? どうなんだろう、そんなことをしばらく考えていたら、話が進んでたみたいでキルキルのお兄ちゃんが言った。

「よし、ゴン達を殺そう」

 何を言っているのかわからなかった。なんで、弟の友達を殺すことになるの? そう思っていたら、キルキルのお兄ちゃんが立会人さんの一人に針を刺してゴンちゃの居場所を聞き出した。そのままゴンちゃの居場所へ行こうとするキルキルのお兄ちゃんの行く手を遮るようにハンゾーさんとクラピーとレオリー、それからリリが立っていた。ボクも当然そこに立つ。そしたら、キルキルのお兄ちゃんは何やらボソボソと独り言を呟いて、「まず、合格してからゴン達を殺そう」なんて言い出した。そのままキルキルの方へ振り返って色々言いながらキルキルに手を近づける。レオリーがキルキルに何か叫んでるけどキルキルには聞こえてないみたいだった。そのままどんどんキルキルのお兄ちゃんの手がキルキルに近づくと、キルキルが負けを宣言した。その後笑ってキルキルに何か話しかけたと思ったら、キルキルもキルキルのお兄ちゃんも試合場から離れていった。あ、そういえば次はボクの試合の番か。キルキルの様子が凄く気になったけど、ぶんたをリリに渡して試合場へ立つ。向かいにはポドロのおじいちゃん。立会人さんが試合開始の合図をした途端、後ろに物凄い殺気を感じて身を捩った。でも、よけられなかった。



 見えたのはボクのお腹を貫いた、たぶん、キルキルの赤い、手……どう、し……て……






~後書き~
最終試験終了です。
キルア対リリの戦闘描写が微妙かなぁとか思ったり。
無拍子については、某「まかりとおる」を参考にしてますので実際とは違ったりするとは思います。
あと、キルアの敗因はルールを受け入れた事と油断です。

トーナメント表、手書きで見てみると凄く歪な形だったりしますが、
四次試験の行動を見れば実際のネテロ会長でもこんな感じにしたと思います。
作者の都合とか入り混じってますが。

ここから先の話でやっと核心に迫ってきます。


こんな駄文ですが、PVから沢山の方に読んで頂けていることには大変感謝しております。
ただ、ただ、感想が少なくて作者泣きそうです……。
……いっそのことここで打ち切りにしてやろうかと思うほどに悲しいです。
出来ましたら感想下さいませ…強要するような形で大変申し訳ないんですが、もう一度だけ言わせて下さい。
安〇先生……感想が……欲しい…で…す……

では、また。



[9501] 一章 ハンター試験編 第12話
Name: ハイライト◆d3ef7d09 ID:bd3a2168
Date: 2009/06/24 17:22
 ~空色の使者~



【リリ】

 アタシの目の前には信じられない光景があった。煌めく金色の長い髪の少女のお腹から突き出た赤い手。そこから流れる赤。その後ろに立つ銀髪の少年。見間違いようもなくルルとキルアだ。でも、なぜキルアがルルを? わけがわからない。たちの悪いジョークだ。手品か何かか? ああ、きっと夢だ。それにしてもとんでもない悪夢だ。でも、頭がガンガンする。血の匂いもする。夢じゃないの? そんな混乱する頭を余所に、部屋から出ていくキルア。崩れ落ちるルル。そう、ルルが刺されたんだ。あの傷はまずい。死ぬかもしれない。ルルが? 死ぬ? ふらりと足がルルの元へ進もうとした時、いやに静まった部屋に声が響いた。

「みんなちょっと動かないでくれるかな?」

 声と同時に空気が色を、質を変えた。身体が全く動かない。わけのわからない圧迫感。冷汗がどっと噴き出す。この部屋のほぼ全員がそんな状態のようだ。視線だけを動かすと、キルアの兄と言った男ギタラクル、ヒソカ、ネテロのジイサンは何も変わらないままの様だ。いや、どことなく顔が険しい。しかし、さっきの声、どこかで……。思い出そうとしていると、黒髪にサングラス、黒服の男がルルの元にしゃがんでいた。

「出血はもうすでに止まっている、か。修復も始まってる。予想以上だね。20分位で完治しそうだ」

 この重い空気の中で、男は場違いな程に平淡な声で呟いている。そうだ、この声は。辛うじて震わせられた喉が、微かな音となって部屋に溶けた。

「……リ……ク……?」

 アタシがなんとかそう声を出すと、ルルの様子を見ていた男がおもむろに立ち上がり、サングラスを外し、カツラを取ってアタシに微笑み口を開いた。ゆるくパーマのかかった薄紅色の髪、空色の瞳、あの顔立ち、間違いなくリクだった。

「リリ、ルルは大丈夫。すぐに治るよ」

 根拠などない言葉だったが、アタシはそれだけで酷く安心した。しかし、やけに重たく、圧迫してくるような空気はそのままだったので、声を返すことは出来なかった。リクを目で追うだけしか今のアタシには出来なかった。と、リクが視線をアタシから外した。

「イルミ、俺の大事な妹になんてことするんだい? 今回はルルの治癒の許容範囲内だったからよかったけど……次はないよ?」
「……何の事? 刺したのはキルだよ」

 リクが話しかけた男は、確かギタラクルだったはず。イルミ? どういうこと? あの人が何かをしたせいでルルが……? アタシの頭の中で疑問ばかりが飛び交う中、リクが短く息を吐くのがわかった。

「とりあえず今は知らない人ばかりだからやめとこう。ただ、本当に次にルルやリリに手を出したら、ゾルディック家がなくなると思ってね」

 そう言ってリクが笑った。リクの発言はわけがわからない。と、リクはまた視線を移した。

「ネテロさん、久しぶり。ちょっといいかな?」
「話をするのは構わんが、まずはこの空気をどうにかしてくれんかのう。皆が硬直しとるではないか。それに年寄りには少々堪えるわい」

 あ、そうだね、とリクが言った途端、圧迫されるような空気が消えた。

「ルルはこうして生きてるんだけど、この場合不合格者はどうなるのかな? キルア君がどっか行っちゃったから、キルア君の棄権失格ってことで残りの人が合格?」

 ふむ、とネテロのジイサンは少し考える素振りをしてから言った。

「そうじゃな。99番キルアは試合妨害及び試合放棄により失格。残りの11名を合格とする」
「良かった。じゃあ俺はルルを個室に寝かしてくるよ。回復はすぐだろうけど、意識が戻るのには時間がかかりそうだからね」

 そう言って、リクはルルを抱きかかえ部屋を後にした。そんなリクに誰も声をかけることは出来なかった。そして、ネテロのジイサンが合格者への説明会を明朝から始めるので、それまで個室で身体を休めるよう部屋に残ったアタシ達受験生、いや、合格者達に言った。





 個室でぼーっと過ごしていると、ノックの音が聞こえた。こんな夜中に誰だろう? そう思ったが、鍵を開け、扉を開く。そこにいたのはリクとルルだった。ルルが元気に立っている姿を見て、思わず涙腺が緩んだ。が、直後、

「リリー、ぶんた返してー」

との声を聞いた途端、アタシは笑ってしまった。ルルだ。間違いようもなくルルだ。思わず声を上げて笑っていると、頬を暖かい何かが流れるのを感じた。涙。そうだ、アタシはこうしてルルが無事でいることがとてつもなく嬉しくて、笑いながら泣いているんだ。そう気付くと、ぶんたを催促してくる声に構わずアタシはルルを抱きしめた。そんなアタシの腕の中で、ルルは相変わらず「ぶんたを返せー」なんて言っていた。

 ようやく落ち着いて、ルルとリクを部屋に招き入れると、まずはルルにぶんたを返した。途端に「ぶんたー」と嬉しそうにぶんたを抱きしめるルル。アタシよりぶんたかよ、と思い少し腹が立ったが、横で苦笑しているリクを見つけると、アタシはリクに疑問をぶつけた。

「ねぇ、なんでルルはこんなに元気なの? 普通、腹ぶっ刺されたその日にこんな回復してるはずない、ってゆーか、下手したら死んでんじゃん? しかも、リクはルルが回復するのが当然みたいなこと言ってたし。それにキルアがルルを殺そうとしたことも。なんだかリクはギタラクルに詰め寄ってたみたいだけど。一体どういうこと?」

 アタシがそう問いかけると、リクは表情を改め、ルルにも話を聞くように告げ、言った。

「そういう体質なんだよ、ルルは」

 は? 体質? そんなんで説明したつもりかよ、と非難を込めた眼差しでリクを睨むとリクは苦笑混じりに言った。

「んー、じゃあ、そういう家系ってことで」
「じゃあ、とか、ことで、ってなんだよ! 真面目に答えろ!」

 リリは相変わらず口が悪いなぁ、なんてリクが言っているが気にしない。気にしたら負けだ。ちゃんと説明しろ、とアタシが言うと、渋々口を開いた。

「体質っていうのも、家系っていうのも、あながち嘘じゃあないんだよ。とりあえず、ルルは"神の子"なんだ。ちゃんとした説明は今はまだ出来ない。しないんじゃあなくて、出来ない。今、言えることは、ルルは普通の子とは違うってことだけだね。キルアの行動については家庭環境のせい。だから俺はイルミにキレた、それだけ。」

 そう言ったリクは真剣な目をしていたので、とりあえずはこれで納得するしかないのだろう。"神の子"が何を意味するのかはわからないが。それでも食い下がるように言った。

「今はってことはいつかは教えてくれるんだろうね?」
「うん、教えるよ。あ、そうだ。ライセンスを貰ったらルナに絶対に連絡入れるんだよ? 何か用事があるならそっちを済ましてからでもいいけど、なるべく早くルナの所へ行くこと」

 わかったかい? そう言われて、アタシもルルも頷いた。

「それじゃあ、今日は俺もう行くから。明日の説明会に顔を出すように言われちゃってるし、今からネテロさんのとこ行かないといけないからね」

 そう言って、リクは部屋を出て行った。アタシはぶんたを抱えたリリを抱きしめて眠りについた。





 朝になって、ルルを起こして身嗜みを整えさせた後、アタシはルルを連れて説明会の行われる部屋に移動した。その際、廊下でポンズにばったりと出会ったので一緒に行くことにした。ポンズはルルの元気な姿を見て不思議そうにしていたが、アタシがリクの説明の通りに話すと、訝しげにしていた。わかんないことはわかんないんだからしょうがないじゃんか、そう言うと渋々引き下がってくれた。そうして、説明会の行われる部屋に着くと、もう既にほかの面々は集まっていた。リクの姿も試験官にまぎれているのがわかった。アタシ達が席に着くと説明会を豆の人が始めたが、クラピカとレオリオがキルアの不合格に異議を唱え出し、説明会そっちのけで論争に入ってしまった。リクが昨日、何か知っている様子を見せていたので、クラピカもレオリオもリクへ色々と話を振っていたが、リクはのらりくらりと口撃をかわしていた。
 そんな時、部屋のドアが大きな音を立てて開き、ゴンが現れた。皆がそちらを見ているのにも関係なしに、そのままギタラクルの所へ歩み寄ると、少しの言い合いの後、腕を掴んでギタラクルを席から無理矢理に引っこ抜いた。その様子にアタシを含める合格者の面々が驚いたが、ゴンは構わずギタラクルへ言葉をぶつける。キルアがギタラクル達に操られているのだから、今回キルアが去って行ったことは誘拐も同然と言うゴン。その言葉にネテロのジイサンが「ちょうどそのことで議論していたところじゃ、ゴン」と反応した。それに続き再び異議を唱え始めるクラピカにレオリオ。しかし、ネテロのジイサンにあっさりと説き伏せられたのだが、なぜか話が脱線し、それぞれの合格についての言い合いが始まった。アタシはそれをただ眺めていたが、不意にゴンが核心的な言葉を発する。

「人の合格にとやかく言うことなんてない。自分の合格が不満なら満足できるまで精進すればいい」

 それより、とゴンは続けた。

「今まで望んでいないキルアに、無理やり人殺しをさせていたのなら、お前を許さない」

 そうギタラクルに言った。お前達からキルアを連れ戻してもう会わせない様にするだけだ、とも。そんな時、ネテロのジイサンから合否は覆ることがないと声がかかり、説明会が再開された。嫌に長ったらしい説明会が終わるとともに、ここにいるアタシを含めた11名が新たにハンターとして認定された。
 その後、すぐさまゴンはギタラクルに声をかけた。キルアの居場所を教えるように。アタシは、ルルを傷つけられた事実は変わらないので、キルアに文句の一つでも言ってやりたいと思っていた。それに何より、ルルが無事であることをキルアに伝えたかった。だから、アタシ達はククルーマウンテンへと向かう事に決めた。ルルはと言えば、「キルキルにめーするのぉ」なんて暢気な事を言っていた。




 しかし、アタシ達にはククルーマウンテンなんて場所に心当たりはなかった。リクなら知っているかと部屋を見渡したがすでに姿がなかったので諦めた。何の挨拶もなしに消えるなよバカ、なんて胸中で呟いたが、恐らく仕事にでも行ったのだろうと思った。そういえば、何故最終試験会場にいたのかも聞いていなかったことを思い出したが、ゴンに呼ばれたのでそんな疑問はとりあえず放って置いた。いずれ会う事もあるだろうし、いざとなったらケータイで連絡も取れる。気持ちを切り替え、部屋を出て、ハンゾーやポックルなどと挨拶代わりに名刺交換をしているクラピカやレオリオ、ポンズを尻目に、アタシとルルとゴンは訳がわからなくて互いに顔を見合わせた。ホームコードやらなにやらハンターの電波系三種の神器だとかレオリオが言っていたが、アタシとルルはとりあえずはケータイで事足りると、番号を交換し合った。ポンズにこの後どうするのかを問うと、特に何も決めていないとのことだったので、ルルが強引にククルーマウンテン行きに誘い、ポンズは折れた。
 場所を変え、ククルーマウンテンに関して電脳ページとやらで調べて(俗にめくるというらしい)みると、飛行船で3日程のパドキア共和国のデントラ地区とやらにあるらしい。クラピカにすぐさまチケットを6人分予約してもらった。ついで、と言ってゴンが父親について調べて貰ってみると、極秘指定人物となっていた。とんでもない人物らしい。アタシもついでにルナとリクについて調べて貰ったが、極秘指定人物ではないにしろ、ルナは一ツ星ハンター、リクが二ツ星ハンターであることがわかり、さらに、アタシ達の面倒を見ながらも意外と色々と大きな仕事をしていることがわかった。
 とりあえず、調べるべきことは終わった。そう思ったが、ふと頭に残った言葉があったのでついでに調べてもらった。"神の子"についてだ。しかし、お伽噺か、聖書のようなものについてばかりで情報がろくに集められないことがわかったので、詳しいことはルナかリクに聞くことにして、アタシ達は飛行船に乗るべく、移動した。




”神の子

 ある所に女神がいた
 女神はどんな病や怪我でも瞬く間に治した
 しかし、女神は男が大嫌いだった
 傷を治すことはしてもそれだけであった

 女神は子供が大好きだった
 自らも子を持ちたいと願った
 しかし、女神は男が大嫌いだった
 それでも子を願った

 神は女神へ子を宿した
 女神はそれを喜んだ
 しかし、子が成長するにつれ力が弱まった
 
 力を失った女神は蔑まれる
 暗く狭い部屋へ追いやられた
 それでも女神は子を願った

 そして、女神の死とともに神の子が生まれた”







~後書き~

前回は感想懇願して申し訳なかったです。
とりあえずのハンター試験編最終話です。
謎は謎のままでした……orz

ルルの設定については、サイト名『Chocolateman's studio』様の作品に大きな影響を受けている所があります。
パクリだろ、それ!とか言う指摘が来たら、この小説は下げます。
とりあえず、『Chocolateman's studio』様の作品は大変素晴らしいものです。
自分の駄文とは比べ物になりません。
H×Hの二次創作が好きな方は読むことを強くお勧めします。

こんな駄文ですが、感想、また頂けると嬉しいです。
ハンター試験終わったので暫く構想練って、いろんな本読んで、それから続き書きたいと思います。
今後ともよろしくお願いします。

では、また。



[9501] 二章 ポンズの受難@ゾルディック家
Name: ハイライト◆d3ef7d09 ID:bd3a2168
Date: 2009/06/25 02:42
 ~ゾルディック家敷地内にて~


【ポンズ】

 今現在、私はなし崩し的にかの有名な暗殺一家ゾルディック家の使用人の家にいる。それもこれもルルの可愛さのせい。女の私から見ても、明らかにルルは可愛過ぎる。陽の光に煌めき彼女の身体を清流のように腰まで流れ落ちる金色の髪、傷一つないガラス玉のようにまん丸な琥珀色の瞳、陶器のように滑らかでシミ一つない白い肌、その全てが少女としての愛らしさを惜しげもなく体現している。彼女はいつもぬいぐるみを抱え、花の咲くような笑顔を皆に向け、踊るように歩く。ハンター試験に合格したのはきっと彼女の姉のリリを始めとした皆が彼女を助けたからだと思っていた。彼女の武器はその愛らしさで敵を作らないことだと、私はここに来るまでそう思っていた。最終試験で腹を貫かれたように見えたのはただの見間違いで、実際はかすり傷程度でその後の回復の様子は普通だったのだ、と。しかし、それがまったくの勘違いであることに気付いたのは彼女の仕草までもが愛らしい懇願を拒否できずにこの場所に来た時だった。



 飛行船に乗ること三日でパドキア共和国に着き、そこから観光バスに乗ってゾルディック家の正門、黄泉への扉に辿り着いた。屈強な男達が守衛であろう男を脅し、鍵を奪い、扉を開いてすぐ、彼等は物言わぬ白骨死体へなり下がっていた。今すぐにでも帰りたかったんだけど、あの可愛いルルを置いて逃げることなんて私が出来るはずがないので、私は黄泉への扉の脇の守衛室で話を聞くことになった。ゴン達が何やらもめて、最終的に塀をよじ登って侵入しようとしたのを守衛の男、改め掃除夫さんが止めてくれた。その後、掃除夫さんに片方2トンあるという扉を開けて貰って中に入って見たのは象以上の巨体の番犬だった。その瞳に感情の色は全く見られず、動物が大好きだというゴンまで冷汗をかいて見上げるソレを、私にとっては恐怖の象徴に等しいソレを、あろうことかルルは可愛いと言った。それどころかいつもの調子でその番犬(ミケというらしい)に近づくと、軽々身体に飛び乗り、頭を撫でる始末だった。ルルの可愛らしさは全く損なわれてはいなかったが、その時初めて私はルルがただの愛らしい少女でないことに気付き始めていた。
 リリはそんなルルを慣れた様子で呼び戻すと、使用人の家へとルルの手を引いて歩いて行った。私も慌てて後を追った。招かれた家の扉はなんと片方200キロ。レオリオが筋肉を震わせながらも開けたそのドアを、リリはいたって普通に開け、ルルはぬいぐるみ片手に普通に開けた。もしかしてドッキリなの? そう思ってドアを開けようとしたけれど、私の今の力では片側すら開けられなかった。ルルが「ポンポンどーしたのぉ?」とドアを開けてくれなかったら、私はこの家にすら入れずに、恐ろしいゾルディック家の敷地内で野宿するはめになったかもしれない。中へ招き入れてもらいスリッパに履き替えると歩みが遅くなった。このスリッパですら片方20キロあるらしい。それでもスリッパを履いたルルはどこか楽しげにスキップなどしている。客間に招かれお茶を出されたが、椅子の重さが60キロ、湯呑の重さも20キロ。私がなんとか片手でもつ湯呑を、ルルはお茶を飲み終えたのか椅子をグラグラさせながら湯呑をポンポン放り投げて遊んでいて、それをリリが諫めていた。
 掃除夫改めゼブロさんは暫くこの家で特訓してみてはどうかと私たちに聞いてきた。キルアに会うためならそうするしかないと腹を決めたらしいゴン達三人組に乗せられるようにしてルルもリリも私も特訓することになった。しかし、まずは上下50キロから始めようとういうゼブロさんに、ルルとリリは上下200キロでいいと言い出した。一体何の冗談? と思ったが、心配されながらも渡されたソレをルルとリリは軽がると着て私達と同じメニューの特訓を始めた。腕立て腹筋背筋にスクワットにジョギング、体力トレーニングと呼ばれるそれら一切を上下50キロの負荷をかけられながらもなんとかこなす私達と、200キロの負荷をかけられながらも軽々こなすルルとリリ。この時ようやく私はルルがただの愛らしい少女でないことを知った。聞けば、彼女の愛用するぬいぐるみのぶんたの重量は50キロ。彼女はそれを抱えたままハンター試験を全てこなし、合格まで至ったのだ。ちょっと試しにと、リリとルルが特訓初日に試しの門に挑んでみたところ、リリとルルの二人ともが2の扉まで開ける事が出来た時にはゼブロさんを含めた私達全員が顎が外れるほど開口して驚いた。



 それから二週間ほど経って、私が上下150キロの負荷にもようやく耐えられるようになった頃に、やっとレオリオが一の扉を開ける事が出来るようになった。そして、右腕を骨折していたはずのゴンは10日程で完治していた。ルルとリリはというと、今は上下300キロのベストを着て組み手と称した格闘訓練を行っていた。それだけの負荷がかかった身体で動いているにも関わらず、私が眼で追うのがやっとの速さで二人ともが動いていた。そして、どちらかというとルルの方が速い。私の中でのルルの立ち位置は、この時点でもう完全に愛らしい少女なんて言えるものではなくなってしまった。それでも、寝顔はやっぱり可愛かったんだけど。
 それから約一週間後、私はなんとか1の扉を開けられるようになった。ゴンやクラピカは私よりは簡単そうに1の扉を開けることが出来たが、2の扉は無理だった。レオリオは2の扉まで開ける事が出来るようになったのだが、なんとルルとリリは3の扉まで開けることが出来るようになってしまっていた。そうして、全員が試しの門をクリアすることが出来たため、私達は屋敷へと続く山道へ一歩を踏み出した。でも、私はルルに付いて来たことを少し後悔した。ルルの可愛らしさは変わることはないが、その中身ともいうべき化け物っぷりを見て、私は一般人に毛が生えた程度なんだなぁと痛感させられたから。




【リリ】

 アタシ達はようやくキルアに会う事が出来ることになった。途中、執事見習いのカナリアという少女にゴンが無抵抗に殴られていたが、止めることはしなかった。止める意味が見つからなかったからだ。アタシ達はキルアに会いに来ただけ。それなのにどうして試されなければならないのか、それがわからなかったから。気持ちは皆同じだったようで、無抵抗に殴られるゴンを止めることはしなかった。そして、超えてはならないらしい一歩をゴンが踏み出した時、カナリアが何かに攻撃を受け、倒れた。ふと横を見ると、そこにはキルアの母を名乗る所謂ゴシックロリータのような格好をした顔面を包帯でぐるぐる巻きにし、目の部分には何やらスコープっぽいものをつけた人と、和服を着た少女がいた。何やら言っていたが、突如喚き出して何処かへ消えていった。その後、目を覚ましたカナリアに執事用の住まいに案内され、今までが嘘のように丁重にもてなされた。
 キルアがここに着くまでゲームをすることになった。ゲームと聞いてルルが瞳を輝かせていたが何も言うまい。ゲームはごく簡単なもので、弾き上げたコインをどの手で持っているか当てるというゲームだった。最初はゆっくりと、徐々に速くなる手の動きと共に正面の執事の苛立ちに似た感情が高まるのを感じた。そして、ルールが追加された。間違えたらその人はアウト、キルアが来るまでに全員アウトになったらゲームオーバーらしい。コインが弾き上げられ手が素早く何度も交差される。取った手は左。レオリオとポンズがまずアウトになった。もう一度コインが弾き上げられ、さらに素早く手を動かしキャッチする。クラピカとゴンは追い切れていないようだがこれも左手。クラピカがアウトになった。そして、またコインが弾き上げられる、と同時にゴンが待ったをかけた。レオリオにナイフを借りて左瞼の腫れを取る。そういえばゴンは今まで片目で追ってたのか。ゴンの準備が出来たと同時に弾き上げられるコイン、そして目まぐるしく交差される手。これも左。アウトは出なかった。と、おもむろに席を立ちあがり、今度は三人で。コインが弾き上げられ三人の手が目まぐるしく交差される。って、ちょっとルル……。執事さんが目を剥くのがわかった。そりゃそうだ。ルルが途中で取っちゃったんだから。ルルを見ると奪い取ったコインをじーっと観察している。おそるおそる正面の執事さんの方を見ると、「すばらしい」と拍手された。それが嬉しかったのか笑顔を咲かせるルル。もし、今ので反則取られてたらどうすんだ、と気持ちをこめてチョップした。涙目になるルルが可愛かった。と、キルアの声が聞こえた。執事さんがなにか言ってるけどもう知らない。とりあえず、キルアに言わないといけない事がある。

「ゴン!! リリ!! ……ルル。あ、あとえーっと、クラピカ!! リオレオ!! ……と誰?」
「ポンズ。最終試験にいた人位覚えときなさいよ」
「……リリ」
「キルア!」
「……なんだよ」
「これで貸し借り無しだからね!!」
「……ああ、でも……」
「ルルはこうして元気でいるんだからいーの! ね、ルル?」
「キルキルー、今度あんなことしたらめーだからねー」

 そうルルが言うとキルアがはにかんで笑う。

「って、ゴン! どーした、お前ひでー顔だぜ」
「キルアこそ」

 そう言って二人は笑い合う。

「さっそくだけど出発しよーぜ。とにかくどこでもいいから。ここにいるとおふくろがうるせーからさ」

 そう言ってさっさと執事邸を皆で後にしているところ、ゴンが執事さんと何か話していた。でも、まぁキルアが元気だしルルも元気だし言うことなしだ。晴れやかな気分でゾルディック家の敷地を後にした。
 街中をうろうろしていると、ゴンが頑なにプレートを使わない理由を説明しだした。そして、一番重要なことがヒソカの顔面にパンチを喰らわせてプレートを突き返すことらしい。ゴンらしくって笑いがこみあげてきた。ただ、ヒソカの居場所がわからないらしい。どこまでもゴンだ。私はなんとか音を出さないよう笑う。と、クラピカがヒソカの居場所を知っているらしい。"クモ"をシンボルとした幻影旅団という盗賊のことをヒソカに問いただしたところ、「9月1日、ヨークシンシティで待ってる」と言われたそうだ。半年以上先だが、その日から世界最大のオークションが行われるらしい。まぁ、オークションの事はは置いておくとして、その日にヨークシンのどこかにヒソカがいるとういうことになる。と、そこまで話し終えたところでクラピカが別れを切り出した。本格的にハンターとして雇い主を探すらしい。レオリオもまた、医大受験のために故郷に戻るという。9月1日にヨークシンで会う約束をし、クラピカとレオリオを見送った。
 空港に残ったのはゴンとキルアとアタシとルルとポンズ。と、その時、ルルのケータイが鳴った。

「もしもーし。ルルでーっす! ……あー、ごーめーんー。忘れてたぁ。……うん、わかってるー。……今空港にいるからぁリリとポンポンと一緒に帰るねー。……ポンポンはポンポンだよぉ。……そー、試験で知り合ったのー。……うん、合格者だよ? ……うん、じゃあ三人で帰るねー。またねー!」

 ピッっと通話を終えたルルにキルアが聞いて来た。

「ん?帰るって家に帰んの?」
「そーなのぉ。ルナ姉ちゃがちょっと怒ってたー」
「じゃあルル達ともここでお別れなんだ」
「……ルナが怒ってた!?」

 津波のような不安が押し寄せてきた。ルナが怒るとまずい。ヤバい。アタシはルルとポンズの腕を掴んでチケット売り場へ走り出す。

「ゴン! キルア! ヤバイから急いで帰る! 9月1日にね!」
「ゴンちゃー、キルキルー、またねー」

 ポンズは唖然としている。でも、ルナを怒らせてはいけないのだ。特にリクの不在時に。アタシは急いでチケットを購入すると、ちょうど出発直前だった飛行船へ乗った。

 どうかルナの怒りが治まっていますように。アタシは飛行船の中でひたすらそう願っていた。







~後書き~
当分筆を休める予定がつい書いちゃいました……。
始まりました新章、その名もポンズの受難シリーズw

えー、リリ、ルルは天空闘技場に行きません。
ルナの下でこれから本当の修行が始まります。
そして、それに巻き込まれるポンズ。
化け物ばかりなのでたまったもんじゃないのでポンズの受難シリーズとなりました。

ただ、ポンズ視点がいまいちパッとしないんですよね。
もしかしたら前半部分の文章変えるかもしれませんが、
ポンズがルルに対して持っていた印象は変わりません。変えません。

あと、執事のコインゲームでコイン奪っちゃうのって他の作品でも見た気がするんですよね……
でも、ルルの性格だと絶対獲っちゃうと思ったから獲らせました。
後悔はしてません。

なんかノリで書いちゃうような作者ですが、これからもよろしくお願いします。
感想頂けると嬉しいです。



[9501] 二章 ポンズの受難 樹海の中の一軒家
Name: ハイライト◆d3ef7d09 ID:bd3a2168
Date: 2009/06/26 22:19
 ~世界は広いと知った~



【ポンズ】

 今現在、私はリリに強引に腕を取られ、引きずられた結果、飛行船の中にいる。出会ってからまだ1か月程度だが、ここまでリリが取り乱すところは見たことがなかったので正直唖然とした。何故こうまで焦って移動をしているのかリリに尋ねようとしたが、目を虚空に向けて両手を組んで何やらぶつぶつ言っていて怖かったので断念した。代わりにルルに聞いたが、「ルナ姉ちゃが怒ってたら怖いからだと思うー」と、それだけでリリがあそこまでの状態になるとは到底思えなかった。飛行船の目的地を聞くと、アリアン空港という、大陸を渡った私の知らない場所であったが、飛行船で3日程かかるらしい。私は様子のおかしいリリは置いておいて、リリと色々なゲームをして時間を潰すことにした。


 寝る前、私の可愛い蜂の巣となっている帽子を枕元に置いた時、ふいに昔の事を思い出した。私はザンフの村に生まれ、そこで育った。ザンフの村はザンフの森の一角にあり、自然と共に暮らす村だった。私は村の中でもっとも身体能力のある子供で、森を一人で散歩することが日課だった。樹齢100年を超える大木もそこかしこにある森だったが、あまり奥へ入ってはならないと言われていた。しかしある日、自分の身体能力に慢心した私は森の奥へと散歩気分で踏みこんでいってしまった。そして、そこに待ち受けていたのは3メートルもの巨躯の猛獣だった。その姿を見た瞬間、殺されると思った。私は必死で逃げた。幸い、その獣は足が遅いようで追いつかれることはなかったが、振り切ることも出来なかった。帽子は置いて来てしまっていたから、自分の身一つでどうにかするしかない。必死に逃げる中、木の根に足を取られて転んだ。そして、そんな私に振り下ろされる獣の爪。身を捩って避けたが肩口に大きな爪痕が残る。傷口から流れ落ちる血。そして再び振り下ろされようとする爪。私は死を覚悟し、溢れ出る涙をそのままに目を瞑った。……しかし、爪が私を襲うことはなかった。恐る恐る目を開くと、体を震わせるようにして動きを止め、倒れる獣。辺りを見渡すと、20メートル程先に猟銃を持った男がいた。男はこちらへ歩み寄ってくる。おもむろに大ぶりのナイフを取り出すと、獣の喉を掻き切って殺し、男は口を開いた。

「ここはお譲ちゃんみたいな子が入っていい場所じゃない。お譲ちゃんがここに入ったからデバールはお譲ちゃんを傷つけ、オレに殺されることになった。そしてオレがいなかったらお譲ちゃんは死んでた。わかるか?」

 私は恐怖で固まった身体を無理やりに動かし、なんとか頷く。

「お譲ちゃんはザンフの村の子かい? とりあえず家まで送ろう。オレはアマチュアハンターのクライネだ」

 応急手当を済ますとクライネはそう言ってアタシを負さり、村へ連れて行ってくれた。それは私が10歳の時だった。

 クライネはザンフの森に用事があり、しばらくの間ここに留まるらしかった。私はクライネに弟子にしてもらうよう頼んだ。最初は断られていたが、何度も頼みこむとついにクライネは折れた。そして、私はプロハンターになるべく、修行をした。体力や筋力をつけることはもちろん、クライネが得意とする薬剤についての知識も学び、4年もすると私はクライネを追い越した。
 そして、14歳の時、私は初めてハンター試験に挑んだ。しかし、初めてのハンター試験では試験会場に辿り着くことすら出来なかった。そして次の年、再び挑んだハンター試験では、一次試験は通ったものの、二次試験で落ちてしまった。二次試験の内容は「3日以内にこの森に生息する、虹色蚯蚓、黄金蝶、プルプルトカゲのいずれかを捕獲すること」だったのだが、姿は見つけられても捕まえる事が出来なかったのだ。去年再び挑んだ試験では、ヒソカという狂人に脅え試験をリタイヤしてしまった。
 そして試験挑戦4回目の今年、やっとプロハンターになることが出来た。ただ、合格出来たのはひとえにルルとリリのおかげだった。リリとルルに恩を返したい、その願いを持って今こうして行動を共にしている。幻獣ハンター志望の私だけど、恩を返すまではルルとリリと一緒にいよう。……ルルの傍にいられるだけで私が幸せな気分になれたりするのが一緒に行動している理由の大半なんだけど。




 アリアン空港に到着したのは陽が沈み始めた頃だった。飛行船を降りると、またしてもリリは私とルルの腕を掴んで引き摺ってタクシーへ放り込み、運転手に行き先を告げた。どこまでも忙しなく、今までのリリからは想像できない姿だった。車通りのほとんどない道を直走るタクシーの窓を流れる景色の多くは灰色の建物で、まれに小さな公園があったけれど、いたって普通の街だった。ルルやリリのような化け物染みたヒトが育つ環境にはとても見えない。あとどれくらいで着くのかリリに聞くと、1時間半程度と答えが返ってきた。街のはずれにひっそりと住んでいるのだろうか? そんな疑問を持ちながらも、リリは相変わらず焦っていて多くを話しかけられる状態でなく、ルルに至ってはぶんたを抱えて寝ている。仕方なく、窓の外を流れる景色を見て時間を潰すことにした。
 いつの間にか私も眠ってしまっていたようで、焦るリリに叩き起こされタクシーを降りた。寝起きで泥水のようにはっきりとしない頭を無理やり覚醒させて周りを見ると、そこは街の端で目の前には木々が鬱蒼と茂っていた。あれ? 何しにここに来たんだっけ? と、未だ覚めない頭で考えると、リリから声がかかった。

「こっからは気配消して全力で移動するからね」
「……気配を消す?」
「ポンズ出来ないの? こういうこと」

 そう言った途端、リリの存在感が虚ろになった。目の前にいるのにいないような感覚。

「……出来ないわ。ごめん」
「そっか。出来ないんならそれはそれで仕方ないから気にしなくていいよ。んじゃ、獣の類はアタシとルルが追っ払うからとにかく走ってついて来て。とにかく急ぐから……っと、とりあえずルナに連絡入れなきゃ」

 リリはそう言うと携帯を取り出し何処かへかける。暫くのコール音の後、相手が出たみたいだ。

「ルナ、ごめん。あれから出来る限り急いで来たんだけどまだ森の入口なんだ。……あ、リクから連絡あったんだ、良かったじゃん。……わかってる。でも気配消せない人がいるから多分1時間位はかかると思う。……ほんっとーにごめん! じゃ、また後で」
「ルナ姉ちゃ怒ってたー?」
「リクから電話があったみたいで大丈夫そう。ホント助かったよ。って、無駄話して時間喰ってるとまた怒りだすね。行こう。アタシが前、ルルは後ろから。ルル、遊んでる暇はないからね?」

 じゃあ、ついて来て。そう言って森の中へ走り出したリリを私は追う。森の中の移動なら故郷で慣れっこだ。そんな風に最初は思っていたけど、明らかにこの森がおかしい事に気付いたのは走り出して20分が経った頃だった。

「ベアウルフごときが邪魔すんな!あっち行け!!」
「リリー、ベルちゃん達いじめちゃめーなのぉ」
「あいつらがあんなぐらいで死ぬかよ! っつーかオオキバウリまで……どりゃ!」
「ウリちゃん可哀そうー」
「投げ込んだ場所が場所だからその内元気に走り出すに決まってんだろ! ってかクモザルもこんなとこに糸張ってんじゃねーよ!」

 身の丈3メートル程の狼、大きな牙を持った猪、そこらじゅうに移動用の糸を張るクモザル、私は図鑑で見たことがあったけれど、実際目にするのは初めてだった。これらの猛獣は世界に数か所しか住んでいないということ、もし大群に出会えばまず命はないということが図鑑には載っていた、はず。でも、目の前を走るリリは走り続けるついでにその大群を追い払っていた。そして、走る速さは私の限界ギリギリ。一応1時間程度で着くと言っていたから、なんとか体力はもつ、と思う。というか、リリを見失わないよう走りながらもたまに横目でちらと見れば、図鑑でしか見られないような希少種の生物ばかりいる。それに、この森に生えている木々を私は知らない。ここは一体どんな場所なの? そんな疑問があったが、今は聞いている暇がない。リリを追いかけるのに必死だからだ。とりあえず、目的地に着いたら説明して貰おう。幻獣ハンターを目指す者として、この森は素通り出来そうにないから。私は周りの景色や動物を頭の隅に追いやり、リリを追いかけることに集中した。




 息も絶え絶えになり、脚が棒のようになり、もう無理だ、そう思った時、開けた場所に出た。目の前には一階建ての木造住宅。不自然にこの場所だけが平地になっている。

「や、やっと……到、着?」
「到着だよー。ここがボクとリリの育った家なのー」
「ポンズお疲れさん。疲れてるとこ悪いけど、さっさと家に入るよ。ルナの料理食べれば元気になると思うし」

 森に入った時と変わらず元気なままのリリとルルが到着を告げてくれたので、安心して腰が落ちたところをまたリリに引き摺られる形で家へと向かう。玄関の前に立つと、ノックも何もなしにリリは扉を開けた。

「ルナ! ただいま! 遅れてごめん! ハンター証貰って帰って来たよ!」
「ルナ姉ちゃただいまなのー」

 開かれた扉の向こうには、艶やかな黒髪を結い上げカンザシで留め、水色の着流しのキモノを着た、モデルのようなプロポーションを持つ女性が椅子に軽く腰かけていた。目は細く、狐を思わせるような眼で、肌は透けるように白いが、唇だけは血のように紅い曲線を描いていた。と、赤い唇が動いた。

「良く帰ってきたねぇ、リリ、ルル。しかし、あんたらはあたいをどれだけ待たせるつもりだったんだい? あたいを待たせていいのはリクだけなんだけれどねぇ」

 そう言って妖艶に笑うヒト。この人がルナなのか……そう思って全身を眺めると、浮かんだ疑問が勝手に言葉になって出ていってしまっていた。

「ルナさんですよね? 私はポンズといいます。あの……ルナさんはおいくつなんですか?」

 ピシと、ガラスに罅が入る音がした。

「ポンズ……あんたがポンポンとやらか。色々と教えることが多そうだが、最初に教える事がこんなことだとは……」

 ルナさんの目が冷淡に光った。

「乙女に歳を聞くものではない!」

 言葉と同時に額に強い衝撃が来て私は悲鳴を上げて吹き飛んでしまった。同時に帽子から出てくる蜂達。ルナさんの手にはいつの間にか扇子が握られていた。きっとあれで突かれたのだろう。私が呆然としている間にルナさんは蜂達を眺めて言った。

「ほう……シビレヤリバチか。中々の珍味を持って来てくれたようだね」

 え、まずい。このままじゃこの子達が殺される。そう思った私は慌てて蜂へ帽子へ戻るよう指示を出しながら言った。

「ごめんなさい! この子達は私の大事なパートナー達なんです。勘弁してください、ルナさん」

 私の言葉が届いたのか、剣呑な目つきはなくなった。

「あたいを呼ぶ時はルナでよいよ、ポンズとやら。そして、ルルが気に入ったからこそここへ連れて来て貰えたのだろう? まずは飯にしよう。準備はすでに出来ている」

 そう言って部屋の奥へ行くルナ。リリとルルはすでに食卓についていて、「ぽんぽんも座るのー」なんて言われたので、なんとか立ち上がって席へつく。すでに満身創痍でご飯を食べることがつらそうだったが、既に否と言わせぬルナの態度に負けてしまっている。

「ぽんぽんー、ご飯食べる時は、食べる前にいただきます、で、残さず食べた後にごちそうさまだからねー」

 そうルルに言われたが正直辛かった。と、奥からルナが料理を持って出てきた。そして、再び奥へ、そして料理を手に戻ってくる。これを4回ほど繰り返すと、虎が寝ころべそうな程大きなテーブルが埋まるほど料理があった。正直食べ切れる気がしなかった。

「それじゃあいいかぃ? 「「「「いただきます」」」」

 同時に、リリとルルはがっつき始める。仕方なしに私は一番近くにあった何かの肉のタタキを口へ運ぶ。時が止まった気がした。あまりにも美味しすぎるのだ。今まで食べてきた高級な物全てがジャンクフードのように感じられた。私は勢いを増して料理を食べだし、気がつくとテーブルの上の料理は全てなくなっていた。

「ルナさん、御馳走様でした!」

 食べ切った後、私は促されることもなくそう口にしていた。

「ポンズ、あたいのことはルナでいいと言ったろう? それよりあたいの作った料理は満足できたかい? まぁ顔を見ればわかるがねぇ」

 そう言ってルナが微笑んだ。

「出した料理の殆どはこの樹海、ウィクリの樹海の動植物のものなんだよ。あたいは美食ハンターとしてここで色々と食材を探して気楽に生きている。所謂、あんたらの先輩だね。あしたから裏ハンター試験を行うから今日はゆっくり休んでおくといいさ」
「裏ハンター試験?」

 私は思わず口に出して聞いてしまった。

「そう焦るな、ポンズよ。リリ、ルル、二人にも一緒に受けてもらうからね。あぁ、筆記試験の類ではないから安心していい。それじゃあ、また、明日な。明日は6時に起きるのだよ?」

 そう言うとルナは片づけに入ってしまった。私はルルに誘われるままにお風呂に入り、眠りについた。……しかし、裏ハンター試験ってなんだろうか? 眠りに就く瞬間までその疑問は消えることはなかった。食後に力が満ち満ちていたことには気づけなった。






~後書き~
ポンズの設定ねつ造の回をお送りいたしました。
今作品ではポンズ17歳ですね。
ルナはジャポン出身の設定。主武器は扇子じゃ被っちゃうので別のものにしてあります。
ルナの話口調が結構難しい……

あと、ヨークシン編の構想なんですが、ヒソカの気分です。
あっちを起てればこちらが起たず。
もしかしたら、ヨークシン編物凄く短くなるかもです。

で、次回からやっと念修行です。
修行風景書くのが面倒なんですよねぇ…しかも読者様に楽しんで読んでもらうためには色々工夫が必要なわけでして。
でも頑張ります。

感想頂けると嬉しいです。

それでは、また。



[9501] 二章 ポンズの受難 ネン?燃?念?
Name: ハイライト◆d3ef7d09 ID:bd3a2168
Date: 2009/06/26 22:23

 ~後先を考えて欲しい~


【ポンズ】

 ルル達の育った家に着いた翌日、私は湧き水のような清々しさが体を巡るのを感じながら目を覚ました。昨日あれだけ辛いマラソンを強いられたにも拘らず、身体に疲労の色は全く見られなかった。丸一日寝たとしてもこれだけの活力を持って目覚めることは出来ないと思う。と、ルナに6時に起きるよう言われていたのを思い出したので、慌てて枕もとの時計を見る。しかし、アナログ表示のその時計の針が一直線に並ぶまではまだ幾らかの時間が残されていた。安心して寝まきから普段着に着替える。今着ているのは最終試験の準備期間にルル達に連れられて買いに行ったものだ。今日はルナが言うことには裏ハンター試験を行うようだから、動きやすいようリリ達と色違いで買った赤色のジャージを着て部屋を出る。するとルナはすでに起きていたようで、今日は藍色地に蝶や花の刺繍があしらわれた着物に黒色の帯を締めてキセルをふかしていた。ルルもリリも既に起きていたようで、ルルは珍しくピンク色のジャージを着ながらも相変わらずぶんたを抱えて、リリは黒色のジャージを着て、二人とも客間の椅子に座っていた。

「ルナさん、遅くなってしまいましたか?」

 私がそう問いかけると、ルナは頬笑みながら首を振った。

「朝起きて顔を合わせたらまずは挨拶をするべきだねぇ、ポンズ。それと、あたいのことは呼び捨てで構わないと昨日言ったろう? 敬語を使う必要もないさ。さて、それじゃあ裏ハンター試験について説明するから、皆着いておいで」

 そう言うと、ルナは玄関から外へ出て行った。ルルはぴょんと椅子から降りるとぶんたを椅子に座らせ、てけてけと言った擬音が似合う足取りで後を追う。リリは静かに席を立ち、軽い足取りで後を追う。私はルナのまとう妖しい、一種妖艶な雰囲気に押されながらも何とか後を追って玄関から出た。玄関を出て家を迂回するように進むと、とても登れそうにない高い崖と、その前に何やら大きなボードが置いてあった。ルナはその脇に立ち、私達全員がその前に並んだのを確認すると口を開いた。

「まずは、おはよう。あんたらにこれから説明するのはプロハンターの必須技能とされているネンについてさ」

 ネン? 私が聞いた事もない単語に首を傾げていると、リリは疑問の隠せない色を持った声を出した。ただ、私が持っている疑問とはまた違ったみたいだ。

「ルナ、ネンについてなら3年位前にはもうアタシとルルは教えられたじゃないか。心を一つに集中して自己を見つめて目標を定めるテン、その想いを言葉にするゼツ、その意思を高めるレン、それを行動に移すハツ、その四大行からなる意志を強くする過程の修行だろ? そりゃポンズは知らないかもしれないけどさ、アタシ達はもう十分にネンを修めたと思ってるよ」
「そうだねぇ、燃える方の燃は確かに教えたさ。あれはあれで十分に心の修行になることだけれど」

 ボードに燃、点、舌、錬、発、と書きながらルナは続ける。

「これから教えるネンは燃とはまったく別物さ。とりあえずは実際に見てもらうとしようか」

 そう言って、ルナは袖から紙を数枚取り出した。

「あたいがこのただの紙を、あの岩壁に向かって投げたらどうなると思う?」
「びゅーんっていってー、くしゃってなるー」

 私もそう思った。ルナはルルの答えに微笑みながら、その内の一枚を右手に取ると、おもむろに紙を岩壁に向かって投げた。鋭い風切り音と共に岩壁に向かった紙は、しかし私の予想と大きく異なり、そのまま突き刺さった。続けて二枚、三枚と放るルナ。その全てが壁に突き刺さった。壁へ刺さった紙は、突き刺さった部分はそのままにへたりと垂れ、それがただの紙であることを主張した。――有り得ない。一体何の手品なの? 私がそう考えていると、ルナがボードに新たに文字を書くと言葉を続けた。

「これが念。念ってのは体から溢れ出すオーラと呼ばれる生命エネルギーを自在に操る能力のことを指す。生命エネルギーは誰もが微量だが放出しているんだが、そのほとんどが垂れ流しの状態なのさ。これを肉体にとどめる技術を纏と言う。これによって肉体は頑強になるし、常人より遥かに若さを保てるんだよ」

 ボードに新たに纏、絶、練、発と言葉を書き足しながらルナは続ける。

「絶は字のようにオーラを絶つ技術さ。ルルとリリはかくれんぼでこれはもう出来るようになってるね。気配を消したり、極度の疲労を癒す時とかに効果があるよ」

 そう言ったルナの存在感が虚ろになる。確かに森に入る前にルルとリリがやっていた。

「練は通常以上のオーラを生み出す技術さ」

 言葉と同時にルナの妖艶な雰囲気が強まった感じがした。知らず、身体が強張る。

「三人とも感じたみたいだね。ポンズも中々に筋がいいじゃないか」

 そう言って笑ったルナの雰囲気は元に戻っていた。

「発についてはまた今度説明するとして、これからあんたらにはこの念の技術を覚えてもらう。裏ハンター試験とは言ったけれど、念を無意識的にも意識的にも使える人間は意外と多いのさ。そういう人間は"超能力者"だとか"天才"だとか、果ては"支配者"とか"仙人"とか"超人"なんて呼ばれてたりするね。まぁ、それを人の為に使うならいいとしても、悪党共の中にも使える人間はいるんだ。念の使い手から身を守る方法は自分も念の使い手になって纏で防御する他なし。だから、プロハンターとして念を覚えるのは必須なのさ」

 言葉を続けながらも私達を横目で見やるルナ。

「そういうわけであんたらには念を覚えてもらう。プロハンターとして恥ずかしくないようにね」

 赤い唇の端を持ち上げながら、私達の方へ歩み寄ってくるルナ。

「念を覚える方法は二つ。瞑想や禅などで自分のオーラを感じ取って体中をオーラが包んでいることを実感したうえで開く、ゆっくり起こす方法。もう一つは他人にオーラを送り込んでもらって体中にある精孔をこじ開ける、ムリヤリ起こす方法。ルルとリリはわかってるだろうが、あたいはまだるっこしいのが嫌いでねぇ」

 ルナはそのまま私達を通り過ぎて後ろに立つ。

「だから、あんたらの好む好まざるは関係なしに、あたいがムリヤリ精孔をこじ開けてあげよう。とりあえず、上着を脱いでくれるかい?」

 言われるがままに私達はジャージの上を脱いでシャツ一枚になった。

「それじゃあまずはルルとリリからやるよ」

 そう言ってルナは二人の背に手をかざす。 

「……触られてないのに熱い感じがする。圧迫感もあるね」
「うー、なんだかぶよぶよがまとわりついてるー」
「うだうだ言うんじゃないよ。いくよ」

 私は横目でルルとリリの様子を伺った。今のところ何かが変わった様子はない……って言ってもルナの妖しい雰囲気は感じるんだけど。と、ルナの細い眼がさらに鋭さを増した。同時に二人の体がビクンっと跳ねる。

「っ! 何これ!? なんか体中から噴き出してるんだけど!?」
「うあー、ぶしゅーって感じに出まくりなのー」
「あー、それ全部出しつくしたら全身疲労でぶっ倒れるから気をつけるんだね。その噴き出してるのがオーラさ。オーラを体にとどめようと念じながら構えて。自然体が一番良いって言われてるよ。オーラが血液のように全身を巡るよう想像して、目を閉じて、頭のてっぺんから右の肩、手、足を通ってそして左側へ。その流れが次第にゆっくりになって体の周りで揺らいでいるイメージを思い浮かべな。……うん、燃を教えておいたのは良かったみたいだね、目を開けてごらん?」

 私には何が起きているのかまだ何もわからない。ルナの言葉から察するところ、オーラをとどめることが出来たのだろうか?

「なんか、温い粘液の中にいるみたいだね」
「うー、何とも言えない感じなのー」
「そのイメージを持ち続けることだね。慣れれば寝てても纏が使えるようになるさ。というかなってもらわなきゃ困るよ。二人はそのまま纏を維持しててくれるかい? ポンズの分もこじ開けなきゃならないからね。ポンズ、二人にしたアドバイスは覚えているかい? 面倒だからもう説明はないからね」

 そう言ってルナが手を私の背中にかざしてきた。二人が言ったように背中が熱い。圧迫感もある。でも、説明は覚えてる。何とかなるはずよ。そう思った時、ドンと何かが体へ送り込まれてきた。同時に目に見えて全身から噴き出すオーラに唖然とした。頭が真っ白になる。

「ポンズ、あたいは面倒なことはしたくないんだ。さっさと自然体になって目を閉じる。噴き出してるオーラを体中に巡らすだけだよ?」

 ルナに声をかけられ、はっとさっき二人が説明されていた内容を思い出す。血液の様に体を巡るイメージだ。焦るな、私。しっかりとイメージ出来れば大丈夫なはずだ。イメージしろ! ……と、噴き出すオーラがおさまったのが感じられた。

「うん、上出来さね。ぶっ倒れてもおかしくなかったんだけどねぇ。あぁ、目を開けてごらん?」

 言われて目を開くと、私の周りにオーラがとどまっているのがわかった。ってか、今不穏な言葉が聞こえた気がした。

「ルナ、私が失敗すると思ってたの?」
「このやり方は外法だからねぇ。ぶっ倒れた時用に一応お菓子を用意してはいたんだけど、成功してなによりだよ」

 そう言ってルナが笑った。……私、とんでもないことをさせられたんだ。気持ちが重くなる。

「ポンズ、ちゃんとイメージを持ち続けなきゃあだめだ。 あんた、今オーラが薄れてる」

 言われて気付き、再びしっかりとしたイメージを持つ。ルナが笑う。

「ポンズはしばらく纏にかかりっきりだね。その辺で禅でも組んで纏を維持してな。燃える方の燃の説明も後でちゃんとしてあげようじゃないか。じゃあ、ルル、リリ、あんたらは絶は出来るからこのまま練の修行に入るよ」

 そう言ってルナは二人へ向き直った。私は言われたとおり禅を組んで纏を維持することに集中することにした。リリが言っていた燃の内容を思い出し点を行う。私の今の目標は強くなることだ。ルルとリリを見ると、私のそれより遥かに力強いオーラを纏っているのがみえた。二人に遠く及ばないことは自覚している。それでも、あの可愛らしいルルを守れるようになりたい。私はその意志を呟き、高めた。心なしか、身体を纏うオーラが力強さを増した気がした。




【リリ】
 
 アタシとルルは続いて練の修行に入った。

「まずは体内にエネルギーをためるイメージだよ。細胞の一つ一つから少しずつパワーを集めて、パワーは体内で徐々に徐々に増えていく。蓄えたその力を一気に外へ出す。それを纏でとどめるんだよ。タイミングは体で覚えるしかないから、とりあえずは今説明したことをイメージしてやってごらん」

 練についての説明もまた簡素だった。もともとルナは多くを話さないからしょうがないことだけど。とりあえず、試しにやってみる。しかし、一度目では外へ出した力をとどめられず、霧散してしまった。もう一度、オーラを練りなおし、その力を外へ。……今度はとどめるのが早すぎたらしく、上手くオーラが増してくれなかった。もう一度。蓄えた力を外へ、そしてそれをとどめる。自身の周りを力強いオーラが包んでいることがわかった。成功だ。ルルの方を見ると、すでに成功していたようだ。アタシよりもオーラが力強い。

「あんたら二人とも一応はできたようだね。でも、もっとオーラを練れらなきゃねぇ。もっとやってごらん?」

 ルナがそう言うので、再びオーラを練る。さっきよりももっと、もっと力をためる。まだためられる、そう思いさらにオーラを練る。体中の細胞からパワーが集まった、今だ! 力を外へ出すと同時に纏でとどめる。……成功だ。明らかにさっきよりも力強いオーラがアタシを覆っている。ルルの方も成功したようだ。そして、ルナの方を見ると微笑んでいた。

「あんたらは飲み込みが本当に早い。あたいが練を習得するのには三日はかかってたっていうのにねぇ。あんたらときたら2時間もかかってないじゃないの。少しその才能に嫉妬するよ」

 ルナに太鼓判を押され頬が緩むのがわかる。ルルもくるくる回り出しているくらいだ。と、ふとあることを思い出した。

「ねぇ、ルナ。"神の子"って何?」

 アタシがその言葉を口にした途端、ルナの表情が凍った。しかし、すぐにいつもの顔に戻り、言った。

「リクに聞いたんだね? その説明はあたいにも出来る。だけれど、まだその時じゃあないと思うから今は我慢してやくれないかい?」
「リクも今はまだって言ってた……。一体いつんなったら説明してくれんだよ?」
「そうだねぇ……四大行をマスターしてから、ってことでいいかい?」

 そうアタシとルルに問いかける。

「……それってどれくらいかかる?」
「あんたら次第だけど、早くて1ヵ月後かしらね? その頃には説明せざるを得ないと思うしねぇ。」
「……わかった。じゃあ、念について次の課題を出してよ」
「そうね。じゃあ次は凝。今あたいの指先にオーラで文字が描かれてるの。隠っていう応用技で隠してあるから今のあんたらには見えないだけで、実際には見えない様に巧妙に隠された念の字があるのさ。練で練ったオーラを眼に集中する、これが凝。凝を覚えてあたいの指先の文字が見えれば凝も合格かしらねぇ。そうしたら次の段階に入ってもいいわよ」

 言われて、再び練を行う。そして練ったオーラを眼に集中。ルルも同じように頑張っている様子だ。眼にオーラが集中しているのがわかる。そしてルナの指先を見ると、文字が書いてあった。

「「昼飯の時間」」

 アタシとルルが同時に答えると、ルナは驚いた様子だった。

「よくもまぁこんな短時間で……あんたらが成長したらあたいは簡単にやられちゃいそうだねぇ。さて、じゃあ飯の準備してくるよ。あんたらは凝をもっと短時間で出来るように練習しときな。凝は四大行に入っていないとはいえ念能力者同士の戦闘の必須技能だからね」

 そう言って、ルナは家へ戻って行った。アタシとルルは昼飯の準備が出来る間、凝の修行をしていた。








~後書き~
あらかじめ燃の方を知っていたからといっても、纏習得から凝習得まで半日。
なんというリリルルのチートっぷりw
ポンズの方が普通です。
ただ、あんまりポンズは受難を受けてない気がしました。
ぶっ倒れること前提で念をムリヤリ起こされたことぐらいでしょうか?

ルナの台詞がやっぱり難しい。
違和感とかありませんかね?

感想下さると嬉しいです。

では、また。



[9501] 二章 ポンズの受難 命がけのかくれんぼ
Name: ハイライト◆d3ef7d09 ID:bd3a2168
Date: 2009/06/27 05:35
 ~私の系統、ルルの系統~




 拝啓、お父さん、お母さん、元気にしていますか? ルルとリリの家にお世話になってから一週間になります。私が纏に合格点を貰ったのは一昨日のこと。そして今日私は猛獣の蔓延る樹海に放り出されました。絶を覚えるのが遅い私を見かねて、ルナが命の危機を感じれば絶をすぐに覚えるかもしれない、という突拍子もないことを言い出し、ルルとリリもそれに賛同した結果今の状況に至ります。息を殺して身を潜める草むらの向こう側には熊のパワーに狼のスピードを持ったベアウルフの群れが獲物(私)を探しているのです。もしかしたら今日が私の命日になるかもしれません。親不孝な私を許して下さい。あなたの愛しい愛娘ポンズより。
P.S. もーいやだ、帰りたい。

【ポンズ】

 精神に異常をきたし、故郷の両親に脳内で手紙を書いた日、どうにかこうにか私は絶をマスターした。しざるを得なかったから。だって、絶が出来なかったら私は今頃この樹海の糧になってしまっていたから。私が纏と絶を覚える間に、ルルとリリは練と応用技の凝を限りなく早く行う訓練と、練の持続時間を延ばす修行がされていて、結構な差をつけられてしまった。私が練をどうにか覚えることが出来たのは、この家に来て一ヶ月が経った頃。凝を覚えるのにはさらに一週間かかった。私が凝を覚える間には、本当はルルとリリは発の修行に入ってもいい段階だったのだけれど、系統を判断する水見式をルルがみんなで一緒にやりたいと言ったために、これまで二人は練と凝をひたすらに修行して待っていてくれた。おかげで、練をした時のオーラの量が倍近くも違う。あの二人は本当に才能に恵まれていて、私にそれがないことを実感した。それをルナに言うと、

「あの二人が異常なだけさ。あたいはあんたにも才能があると思うけどねぇ」

と、言われた。ルナは嘘はつかないので、自信をもう少し持ってもいいのかもしれない。寝る前に練を倒れるまでやる習慣もつけた。ルナがそうした方がオーラの絶対量が増えると言ったからだ。リリとルルもそれを行っていたようで、二人の練の力強さは私とは比べようもない。しかし、差はあっても私は練と凝を習得することが出来たので、今日から発の修行に入る。
 いつもの着物姿のルナが、ボードに六性図を書き、それぞれの特徴について説明をしている。そもそも、発はオーラを操る技術で念能力の集大成、詰まるところの必殺技だという。自身の生まれ持ったオーラの性質は今ルナが書いた六性図のどれかに分かれ、発(必殺技)は自身の系統に見合った能力にすると会得も早く、威力も上がるということだそうだ。系統には相性があり、六性図で隣り合ったものは相性がよく、離れたもの程相性が悪く、能力の会得と威力に影響が出るそうだ。と、気になったことがあったのでルナに聞いてみた。

「ルナの系統は何になるの? あとルナの必殺技って何なの?」

 聞いた途端、扇子が飛んできた。オーラは込められていなかったけれど、速く、ギリギリかわしたと思ったらかすっていた。私の蜂蜜色の髪が数本宙を舞う。

「自分の系統を無暗に晒す事は馬鹿のやることだよ。発についても同じさ。相手の系統や能力を知ることが出来れば弱点もつけるからねぇ。ま、でも今の攻撃をかわした事に敬意を払って教えてあげようかね。あたいは強化系。発は≪至高の料理(マザークック)≫。周っていう物質にオーラをとどめる応用技があってねぇ、その周をした愛用の調理道具で料理を作って相手に食べさせると体力・オーラ・怪我の回復が起こるのさ。あたいの料理の腕と材料、出来上がった料理の美味しさに比例して威力は上がる。制約と誓約は食べる前に「いただきます」をして、完食して「ごちそうさま」を言うことと、同じメニューを続けて作らないこと。制約と誓約についてはまた別の機会に説明するよ。戦闘用の念じゃあないからこうして簡単に教えられるんだけどねぇ。戦闘は愛用の十手を使うくらいさ。強化系には特に必殺技はいらないからねぇ」

 なるほど、それでルナの料理を食べた後は元気になるのか、私は納得した。

「まぁ必殺技についてはこれから行う水見式の結果とこれからのあんたらの行動次第さ。あんたらは他の能力者に遭ったことがないからあまりイメージはわかないだろうしねぇ。それじゃあ水見式を始めるよ。まずはポンズ、あんたがやりな。このコップ手を近づけて練をすればなんかしらの変化が起きるはずだよ」

 言われて、葉の浮かんだコップに手を近づけ練を行った。――変化がないみたいなんだけど。私は首を傾げてルナを見た。

「ちょっと貸してみな。……うん、水の色がほんの少し黄色くなってるねぇ。ポンズ、あんたは放出系のようだよ」

 言われてよくみると、確かにほんの少し水が黄色っぽくなっている気がする。私がそれを眺めている間にルナは次のコップを用意した。

「じゃあ、今度はリリだ。やってごらん?」

 リリがコップに手を近づけ練を行う。しかし、何も変化がない。色も変わっていないようだ。でも、ルナは別に焦った様子もなく言った。

「リリ、水を舐めてごらん?」

 リリは言われて指を水に漬け舐めた。と、

「うぇ、辛っ」
「やっぱり味が変わってたみたいだねぇ。味が変わるのは変化系の証さ。にしても辛いのか、これから修行が面倒そうだねぇ」

 ルナは楽しそうに笑いながら新しくコップを用意する。

「じゃあ、最後にルル、やってごらん?」

 言われてコップに手を近づけて練をするルル。と、葉がゆらゆらと揺れている。

「葉が揺れるのは操作系の証さ。これで全員の系統がわかったね。それじゃあこの変化が顕著に現れるように各自修練することだね。寝る前に練をぶっ倒れるまで維持するのは続けて行うようにね」

 そういって去ろうとするルナに私は疑問をぶつけた。

「ルナ、他の系統はどんな変化が起きるの?」
「特に知る必要もないとは思うけどねぇ。まぁ、説明しようか。水に不純物が現れるのが具現化系、こんな風に水の量が変わるのが強化系さ」

 そう言って、グラスに手を近づけて練を行うルナ。同時にコップから水がものすごい勢いで溢れ出した。私がそれを呆然と見ていると、

「まぁ、あたいはこれでも念を覚えて10年以上だからねぇ。この位の変化は当り前さ。特質系だとそれ以外の変化が起きるんだけど、これといって傾向はないね。じゃあ各自部屋にこもって精進するように。あたいは今晩の食材でも捕ってくるから」

 そう言って森の中へルナは消えてしまった。そして、私達の発の修行が始まった。




 それから一ヶ月、ひたすら発の修行と練の持続時間を延ばすことに時間をさいて、再び水見式を行うことになった。

「じゃあ、あんたらの一ヶ月の修行の成果を見せてもらうとするかねぇ。まずはポンズ、やってごらん?」

 そう言われ、私はコップに手を近づけ練を行う。水の色は黄色っぽいがまだまだだと自分では思っている。

「ポンズはまだまだ発の修行をする必要がありそうだねぇ。もっと頑張りな」

 ルナの言葉に頷き、私は二人の結果を見ることに集中する。今度はリリ。

「出来たよ。ルナ、舐めてよ?」
「わかってるよ……うん、十分に辛い。ハバネロなんかよりよっぽど辛いねぇ、これは。あんたは合格だ。じゃあ、ルル、やってごらん?」

 言われたルルは少し戸惑い気味に手をコップに近づけた。なんで戸惑う事があるんだろう? 私はそう思ったが、結果を見て納得した。葉から根が生え、小さな草となり、花を咲かせていたのだ。

「ルルはやっぱり特質系かい。ただ変化は十分だね。リリ、ルル、あんたらは裏ハンター試験合格だ。あたいから協会に連絡を入れておくよ」

 ルルが特質系であることをルナは「やっぱり」と言った。……ルルは何か特別なのだろうか? そんな疑問が口を衝いて出るところをリリの声が遮った。




【リリ】

 やっと四大行が終わった。これでようやく"神の子"についてルナが話してくれる。そう思ったアタシはすぐにルナへ言った。

「ルナ、四大行はマスターしただろ? ならルルと"神の子"について話してくれよ」

 ルナはアタシの声を聞くと目を閉じてしばらく考え込むようにしていたが、それも数秒に満たない間で、再び目を開くとアタシとルルを見て、そしてポンズを見てゆっくりと口を開いた。

「これから話すことはなるべく知らない人間が多い方がいい。今から話すことは真実さ、それは保障する。でも、今から説明することはなるべく誰にも話しちゃあいけないよ? それが約束できるかい?」

 アタシはすぐ様頷いた。ルルもポンズも迷いなく頷いたのを確認してルナは再び口を開いた。

「とある何でもない街の何でもない夫婦から生まれた子供がいたんだ。本当に何の変哲もないはずの生まれだったはずの少女は、成長するにつれ、親の遺伝子を無視したかのように愛らしくなっていった。ただ、最初は本当にそれだけだったらしい。詳しい資料なんかは残っちゃいないからね、伝承に近いものなんだけど、その少女はどんな怪我を負っても瞬く間にそれが癒えたという話だ。それから暫く月日が流れて、少女が女性へと変わろうとした時、……その街は疫病に侵された。疫病への対抗策もないまま街の人々が一人、また一人と命を散らしていった。ただ一人の少女だけの命を残してね。その少女は街が滅んだ後、別の街へ連行されたらしい。魔女として。しかし、少女は街が滅んだ時に気付いたんだ。自分に特別な力がある、と。最初は怪我をした兎か何かを相手に、自分の血を気まぐれに与えた。すると、どうだ。兎の怪我がみるみる内に癒えたんだ。そして、少女は自分の力を理解した。碌な扱いをされなかった街で、不意に病院へ立ち寄ると、病人一人一人に自分の血を与えていった。すると瞬く間に病人は健康になり、病院の患者皆が退院したそうだ。そして、患者の家族たちから、少女は女神と呼ばれ、魔女から女神へと少女の呼び名が変わった。女神となった少女は教会に預かられることになり、訪れる病人たちを嫌な顔一つせずに治療していったという話だ。」

 アタシはルナの言葉を聞きながら、少女の力について思い当たるものがあった。つい最近アタシ達が習った、念だ。ルナはそこで一息間を置くと、続きを語り出した。

「女神の力はおそらく念だったのだろう。女神はすでに死んでしまっているから確かめる術もない。ただ、そうして治療を続けていた女神だったが、男が嫌いだったらしい。何故嫌いだったのか、それを確かめる術はすでにない。理由を明確にする必要もない。重要なのは女神が男が嫌いで、治療はするもののそれ以上の何かをすることがなかった、それだけさ。そして、逆に女神は子供がとても好きだった。男は嫌いだが、子供が欲しい。女神がそう願い続け、願いが強まった時、奇跡が起きた。男と交わることなく、女神の腹に子が宿ったんだ。神が与えてくれたのだと、女神は大層喜んだそうだよ。しかし、同時に悲劇への始まりが起きた。腹の子が育っていくにつれ、女神の治癒の力が薄れていったんだ。そして、女神は罵られた。純血が汚され治癒の力がなくなった、などと言い出す者もいたらしい。それでも、女神は子を生みたかった。幸い、教会に彼女を理解してくれる女性がいたらしく、女神は街を離れ、寂れた教会で子を産むことに専念しだした。彼女を理解する女性は女神と呼ばれた女性が無事子を産めるよう、巧妙に場所を隠した。だが、女神は自らの子を抱くことが出来なかった。子を産むと同時に生命エネルギーのようなものが全て子に渡ったらしく、子が産まれると同時に女神は命を落とした。その後、女神を理解していた女性が子の面倒を見ていたが、隠れるのにも限界があったようでね、居場所を突き止められ、その女性も殺された。残されたのは子一人。しかし、それを見つけた者はその子供にも女神の力があると思い、最低限殺さぬように隠された一室で力が目覚めるのを待った。そして少女が6歳になる頃、女神の話を詳しく調べた若者がその場所を見つけ出し、子を保護した。それが6年前。ここまで言えばわかるだろう?」

 アタシはからからに渇いたのどを鳴らし頷き、なんとか声を発した。

「その若者がリクで、子供がルル」
「そういうことさ。"神の子"という呼び名は女神が純潔のまま子を産んだことに起因してる。ルル、あんたにはおそらく、癒しの力がある」

 そう言われたルルの方を見ると、目が虚ろになっていた。それを見たルナは言った。

「リクは最初、ただその癒しの力をもつ"神の子"が欲しかっただけだった。でも、今は違うさ。一人の妹としてしっかりあんたの事を見てる。それはあたいが保障する。」

 しっかりと目を合わせたまま発せられた言葉にルルはやっと反応した。

「リク兄ちゃはリク兄ちゃってことー?」
「そういうことさね。血は繋がってないが、ルルとリクは兄弟だ。リリとリクもね」

 そう言ってルナは笑った。ルルはいつもの花の咲いたような笑顔で頷いた。




~おまけ~

「ねーねー、ルナ姉ちゃはどーして戦闘用の念をつくらなかったのぉ?」

 ボクがルナ姉ちゃに疑問に思った事を聞いてみた。そしたらルナ姉ちゃは少しほほを赤くして言った。

「あたいは狙った獲物は逃さないのさ。男は胃袋で捕まえるものだからね」

 よくわからない返事が返ってきた。







~後書き~
オリキャラ達の念を覚えるペースが異常な気もしますが、まぁいいかなぁと。
ポンズは意外と速いペースで念を覚えてますねぇ。
リリルルポンの問題は実践不足かな?
まぁ、次回更新ではまた2か月位時間が飛ぶと思います。

今回はポンズの受難はあったけれど、どちらかというとルルの生まれについてでしたね。
残る謎はあと一つ。
ヨークシン編をぐだぐだにやって終わりでいいかなぁと思い始めた今日この頃。


というかオリキャラばかりだとやっぱりPV落ちるのかな?とか思って誰かよこそうと思ったけれど、メンチ位しか該当キャラがおらず、オリキャラが増えるだけなので意味無いなぁと気づいた。
ヨークシン編までがんばるぞー
感想頂けると執筆意欲が増します。感想待ってます。辛口でも甘口でもOK

では、また。



[9501] 二章 ポンズの受難 縮まらない差
Name: ハイライト◆d3ef7d09 ID:bd3a2168
Date: 2009/06/28 19:50

 ~決別~



 ルルとリリが裏ハンター試験に合格してから一ヶ月後に、ようやく私も水見式の変化に太鼓判を押された。発の結果によって、コップの水はトパーズのような黄色になった。これで私も裏ハンター試験に合格した。そして、晴れて一人前のハンターとなれた私だけど、それから一ヶ月経った今でもルナのところで修行を続けている。念は基本の四大行だけ覚えたからといって即戦力になるわけでないことをルナに言われたからだ。発、必殺技を決めるにはフィーリングが一番大事なことだけれど、それは自分の趣味・趣向や体験から得られるもので、特に今すぐ発を考える必要はないらしい。それよりも、自分の発を考えついた時、それを強力な武器として使えるよう今はオーラの総力を上げることとオーラを操る術を学ぶべき、というルナの考えがあってのことだ。そうして、発の修行が完成した後も私はルナの下で修業している。四大行はあくまで基本でしかないらしく、応用技をしっかりと身につけるだけでも下手な能力者相手に不覚は取らないということで、ルナ相手に組み手をしたりしながらも今はその応用技を教えてもらっている。
 私達が寝る前に練を維持し続けていたのも、あれは練と纏の応用技の堅というもので、堅の状態をどれだけ保つことが出来るかで戦闘は大きく変わると教えられた。ルナには最低でも一時間は堅を維持しろ、と言われたが、私は未だに10分が限界。ルル、リリは30分程度。私が自分を不甲斐ないと思いルナに話したら、

「堅を10分間延ばすだけでも一ヶ月はかかると言われてるんだよ。地道に伸ばすしかないさ。でも、ポンズには中々の才能があるとあたいは思ってるよ」

と言われた。ルナは嘘はつかない。でも私に才能があるとは思えない。そう考えていたのが顔に出ていたのだろう、いつものごとく扇子で額を小突かれた。
 また、同時に凝を習慣づけるために、ルナが人差し指を立てたらすぐ凝で見て、指先から出ているオーラの数字を答えることも行われていた。隠という応用技でオーラの気配を絶つことが出来るらしく、対能力者においては凝が習慣付いていないといきなり隠の武器でブスリ、ドカンといったことがあり得るそうだ。指先の数字を一番に答えられた者以外が腕立てや腹筋、背筋などの体力トレーニングを課せられる。今のところ私は一番に答えられたことはなく、多くはルルが一番だった。ルナ曰く、

「念の修行も大事だけれど、それと同じくらい身体能力の向上も大事なのさ。念はある意味で武器と似通っていてねぇ。どんなにいい武器があっても扱い方はもちろんのこと、身体能力がなければ宝の持ち腐れだろう? だから念の修行だけをやったってどうしようもないんだ。特にポンズは二人に比べて身体能力が低いからねぇ。頑張って鍛えな」

とのことだった。確かに6歳位からこの樹海で遊びまわっていたという二人より身体能力が劣ることはわかっている。ゾルディック家での特訓でも、私は1の扉がぎりぎりだったにも関わらずあの二人は平然と3の扉を開けていたし、300キロの重りを着込んだままの体術も、何も着ていない私のそれより上だった。だから、私は努力を惜しむことはしない。ルルを守ってあげられるようになるのが目標だから。毎夜寝る前に樹海に繰り出して、ランニングがてら森の猛獣たちの相手をするのも出来るようになってきていた。修業中、ジャージの下に150キロの重りを着込んでいるのはルルもリリも知らない。それに、この森の中の家に住み出してから五感が鋭くなった気もする。それでも、比べる相手はルルとリリで、あの二人は化け物染みた強さを持っているから自分が強くなっているのかなんてわからなかった。



 今日の夜中も森の中を走る。当所は全く方角もわからなかった森だけど、今は自分の居場所に見当もつくし、家の方角もわかっている。いつものように絶を使いながら走っていたら、森の端の近くで見慣れない人間達をみかけた。観察してみると、4人組の団体でそれぞれ猟銃などを持っていたが、オーラは垂れ流しで、能力者でないだろう事が一目でわかった。ルナはこうも言っていた。

「このウィクリの樹海には珍しい動植物が多いからね、それ狙いの密猟者が結構来るのさ。だから、あたいが来客をあんたらに言っていないのに誰かがこの森に入ってくるってことは、そいつらは密猟者ってことになる。だから、見かけたら丁重にお帰り願うようにね。ただ、念の使い手だったらすぐにあたいを呼ぶようにしてくれるかい?」

 猟銃を手にした四人組は明らかに密猟者で能力者じゃない。そう判断した私は丁重にお帰り願うべく、動き出した。絶をしたまま素早く四人組の背後を取る形になると、まずは一番後ろにいる男の首元に手刀を一撃。あっけないほどに男の体は力を失って沈んだ。続けて二人、三人、ここでようやく私の存在に気付いたのか、慌てて猟銃を構える残った一人。構えられた猟銃を平手打ちにすると、男の手元から離れないようつけられたベルトを引きちぎって猟銃は吹き飛んでいった。私はその光景に唖然とした。男の方も急に仲間を倒され、あげく猟銃が吹き飛んだ様を見て唖然としている。念は使ってない。昔の私なら薬を嗅がせるなどで男達を眠らせるかして対処していたはずが、体術だけで四人を一瞬で武装解除させることが出来たのだ。半ば呆然としたまま最後の一人の後ろへ素早く周り首元へ手刀を落とす。あっけなく密猟者達を眠らせることが出来てしまった。同時に私が強くなってきていることが実感できた。私は、自分が成長出来ていることが嬉しくて、その四人組を担いで森の外へ放り出すと軽やかな足取りで家まで戻った。寝る前の堅の維持もいつも通り行ってその日は寝た。




 私が成長を実感できてから数日後、私達にシャベルを渡したルナが、新しい修行メニューを言い放った。

「家の後ろに岩壁があるだろう? 一応森を回って行けば向こう側へ行くことも出来るんだがね、あんたらにトンネルを掘ってもらって近道を作ろうと思ったのさ。決してあたいが面倒がってるわけじゃないよ? あんたらの修行になるからこれを言い出したんだ。わかるだろう?」

 ルナは嘘はつかない。それはわかっているので私達三人はトンネル掘りを始めた。各自一本トンネルを掘ることになったのだけど、掘る岩がとてつもなく固い。私の最初のシャベルの一撃は鈍い音とともに壁に防がれた。どうすればこれを掘れるのだろうか、そう思案に暮れていた私は今まで学んだことを思い出す。その時、脳裏に閃くものがあった。ルナの能力。確か、周というオーラを物質にとどめる技があるような事を言っていたはずだ。それに思い当った私は苦心しながらもシャベルをオーラで纏った。そして、岩壁に一撃。今度は砂に刃物を刺すような音とともにシャベルが見事に岩壁の一部を削った。――周の修行ってわけなんだね。そう思った私がルナの方を振り向くとこちらに笑顔を向けてくれていた。そういうことなら、と順調に掘り始める私。ルルとリリも気付いていたようでさくさくと岩壁を掘り進んでいく。しかし、60メートル程進んだところで力が上手く入らず、オーラも上手く出なくなってしまってきた。そして、掘った土を外へ運び出すと同時に私は仰向けに倒れてしまった。眼前にだだっぴろく広がる真っ青な空。と、ルナの姿がそこへ割り込んできた。

「周に気付いたようでなによりだ。ただ、応用技はけた違いに体力と気力と集中力を奪うからね、少しずつ慣れていくんだねぇ」

 ルナはそう言って笑って包装紙に包まれたお菓子を横に置いた。私は座りなおすと、いただきますを忘れずにそのお菓子を食べ切り、ごちそうさまをした。同時に体力とオーラが回復したのがわかる。私は再びシャベルを持ってトンネルを掘り進めていった。



 予想以上に長かったトンネルを開通させられたのはトンネルを掘り始めてから2ヵ月が経ってからだった。ルルとリリは一ヶ月でそれを済ませてしまったのだから、やはり自己嫌悪に陥らざるを得ない。トンネル掘りが順調に進むとともに新たな修行メニューが加えられた。それは、流という堅の状態で攻撃部位、防御部位に凝を行うもの。ルルとリリがトンネル掘りを終えた頃から始まったその修業は、予想以上につらいものだった。私はその頃ようやく堅が30分ちょっとは持たせられる位にはなったのだけれど、ルルとリリは既に2時間は維持できるようだった。私が凝による攻防力移動をなんとかこなし、へばっている間に、ルルとリリは流を用いた組み手を始めた。最初はとてもゆっくりとしたものだったけれど、私がトンネルを開通させた時にはもうすでに二人は全力の速さで流を用いた組み手を行えるようになっていた。私はルナに動きを合わせて貰って同じ修行をしていたけれど、全力で流を行いながら組み手を出来るようになるにはまだまだ時間がかかるだろう。それでも、ようやく堅を1時間維持出来るようになって、ルナに褒められた。

「あんたの成長速度はそりゃああの二人と比べたら遅くて、自分が不甲斐ないと思うこったろう? でもね、ポンズ、あんたの成長も十分に早いのさ。200万人に一人の才能と言っても過言じゃないよ」

 ――あの二人が1000万人に一人の才能以上のものを持ってるだけでね。そう最後に呟いたが、ルナなりの最高の賛辞に違いなかった。だから、私はあの二人を追いかけていく、そうしていつかはルルを守れるようになるんだ。そう誓った。




 私のトンネル掘りが終わり、ルルとリリが全力で流を行いながら組み手を出来るようになった時、一緒の修行をしたいと言うルルの言葉を切り捨てて、二人へ先の修行へ進むよう言った。私に合わせていたら二人の成長を邪魔してしまうから。ルルの言葉はとても嬉しかった。でも、それじゃあ私はただの足手まといだ。そんなのは嫌だった。だから、私はルナに二人へ次の段階へ移ってもらうように言った。私の想いをわかってか、苦笑しながらルナは二人への修行をつけ始めた。それは系統別の修行らしい。私はそれに魅力を感じながらも、自身の底力を上げるべく、ひたすら堅と流の修行をしていた。



 二人が系統別の修行を始めて一ヶ月、私が堅を1時間半維持できるようになり、流もそれなりに格好がついてきた時、ふと見るとぶんたが歩いていた。




~後書き~
今回はテンポ悪いですね;
修行内容はゴン達がビスケに受けたのと同じ。
最後の文の時でだいたい8月辺りです。
ポンズは別に受難受けてないなぁ、ってか成長早いなぁと思いながらもこんな感じに進んでます。
次回辺りで二章も終わりかな?

駄文ですが、読んで頂きありがとうございます。
感想頂けると飛び跳ねて喜びます。

では、また。



[9501] 二章 ポンズの受難 ふたりぼっち
Name: ハイライト◆d3ef7d09 ID:bd3a2168
Date: 2009/06/28 22:26

 ~三人の進む道~



【リリ】

 自分の能力をどういったものにするか、それは案外簡単に決まった。変化系だから最初はオーラを毒に変えてナイフで切りつけようかと思ったけれど、それならば毒を塗ったナイフの毒を強化した方がいいし、毒の効かない相手もいるだろうからすぐに却下した。そして、考えた能力は、オーラを斬撃に変化させるもの。ナイフなどで切りつけた空間に斬撃に変化させたオーラを待機させておく。アタシはスピードと動体視力には自信がある。だから、この能力を覚えることが出来れば相手の動きを制限しながら上手く戦うことが出来るだろう。それに変化系は強化系との相性がいいから、ナイフの斬る力を強めることもできるだろう。アタシは修行の合間に密かにこの念を完成させるべく、練習してきた。そして、形になったところで少し問題が出た。自分より離れたところの斬撃のオーラが威力が低いのだ。これをどうすべきか考え始めた時に、制約と誓約という言葉を思い出したのでルナに相談しに行った。

「ルナ、夜遅くにごめん。ちょっと相談があるんだけど?」
「リリかい。相談て一体何だい? ……女の子同士で、とかそういう類ならあたいは知らないよ?」

 ニヤリと笑って冗談を言うルナにアタシは至って冷静に聞き始めた。

「アタシは別に男にも女にも今は興味ないね。相談ってのは念のことなんだけどさ。制約と誓約ってなんなの?」
「年頃の女なのに男にも興味がないなんて悲しいねぇ。でも、もう念能力を考えてたのかい。制約と誓約ってのはね、ルールを決めてそれを「遵守する」と心に誓うことさ。そのルールが厳しいほど使う技の威力が大きく上がるんだよ。ただ、そのルールを破った場合には念能力を失う危険があるよ?」
「ルールを決める、か。アタシが考えてる能力はオーラを斬撃に変える能力。ナイフとかで切りつけた空間に斬撃を待機させて触れたものを斬るってもんなんだけど、あんまり数を増やしたり、距離が2メートルも離れちゃうと威力がガタ落ちなんだ。それをどうにかしたいんだけどどうすればいいと思う?」

 ルナは瞼を閉じて少し思案に暮れている。森の獣の鳴き声が聞こえる。木々が風に揺られて葉の擦れ合う音が聞こえる。と、閉じた瞼はそのままにルナが口を開いた。

「まずは系統別修行で放出系の威力を上げることだね。それと、リリ、あんた確か愛用のコンバットナイフがあったろう?」
「うん、あるよ」
「愛着のある物を使うことで念の威力も上がるんだ。無理に制約をつけなくても、今は愛用のコンバットナイフで斬りつけた場所に斬撃を待機させる、で十分じゃないかい?」
「それでも、空間を有利に使うには威力が足りない気がする。他にない?」

 アタシの答えを聞いて再び思考にはいるルナ。短く息を吐き出すとゆっくりと口を開いた。

「じゃあこういうのはどうだい? 硬を行った愛用のコンバットナイフで斬りつける。硬はもう教えたから危険性はわかってるだろう? 戦闘態勢に入った状態で硬を行うのはリスクが高いから、威力は断然増すだろう。ただ、あまり勧められたものじゃないね。戦闘では1秒すら命取りになるからね」
「硬か……確かにそれなら威力が上がりそうだ。危険性についてはちゃんと考えておくよ。それじゃあ後は系統別の修行をするだけだね」
「そうさね。ただ、出来ることならオーラの絶対量と系統別の修行でなんとかしておくれよ?」
「わかった。ありがとう、ルナ」
「こんなでも一応あんたらの姉で師匠になるわけだからなんでもないことさ。それじゃあ今日も堅を限界までやってから休むようにね」

 わかった。そう言ってアタシはルナの部屋を出て、自分の部屋へ戻った。




【ルル】

 ボクは自分の系統が操作系ってことを知って喜んだ。だって、これならぶんたが動けるってことだから。そう思ったボクは、ぶんたにオーラを纏わせる。「右手上げてー」とぶんたに言うとぶんたの右手が上がった。おぉ。続けて左手。こっちも上がった。……でも、これじゃあ自分の手で動かしてるのと変わらないじゃんかぁ。ボクはぶんたに自由に動いて欲しいんだ。そーだ、ルナ姉ちゃならわかるかもしれない。そう思ってすぐにボクはルナ姉ちゃの部屋に行った。

「ルナ姉ちゃー、こんばんわなのー」
「あぁ、ルル。こんばんは。どうかしたのかい?」

 ルナ姉ちゃは生物図鑑を読んでいる最中だったけど、いやな顔一つしないでボクを迎え入れてくれた。

「あのねー、ボク、ぶんたに自由に動いてもらいたいのー。どーすれば出来るのぉ?」

 ボクがそう聞くとルナ姉ちゃは少し難しい顔をした。

「あたいは操作系に関してはさっぱりだからねぇ。……自由にって例えばどんなふうに動いて欲しいんだい?」
「えとねー、ボクが何かお願いしなくても自由に動いて欲しいのー」
「自由に、ねぇ。いいかい、ルル。操作系っていうのは『操作』する力なんだ。だから完全に自由に動くようにとはいかないと思うよ? 例えば、ルルが誰かに襲われた時に自動的にソイツを攻撃する、とかそんな感じになるんじゃないかねぇ」
「うーん、ってことはぶんたが心を持つのは無理ってことなのぉ?」

 ボクは涙を浮かべて聞いた。

「心を持たせるのは無理、さ。最初に言ったけど、あたいは操作系に関してはさっぱりなんだよ。力になれなくてすまないねぇ」

 ぶんたはどうやら心は持てないみたいだ。がっかりした。すまなそうにしているルナ姉ちゃの姿を見て、ボクもちょっと悪いこと聞いたかもしれないと思って謝った。

「ルナ姉ちゃ、無理言ってごめんなさいなのー。自分でなんとか考えてみるねー」

 そう言ってボクは部屋を出ようとした、その時にルナ姉ちゃから声をかけられた。

「ルル。これは可能性の一つで、成功するとは言い切れない……むしろ失敗する可能性の方が高いだろうけど試してみるかい?」

 可能性があるってことは無理じゃないってことだ。迷わずボクはルナ姉ちゃに向かって頷いた。

「ルル、あんたには特別な癒しの力があると言ったことは覚えているかい?」
「うん、覚えてるよー」
「その癒しの力を使えばどうにかなるかもしれない。ぶんたを作った時に使った布はね、ジルベルヴォルフっていう最も強靭な表皮を持った狼の毛皮なんだよ。そして、ぶんたを作った時に使ったのは丸々一頭分さ。だから、あんたの血の癒しの力に操作の念を加えればぶんたは命に近いものを持てるかもしれない」

 ルナ姉ちゃの言った言葉を頑張って理解する。ぶんたはもとは狼の毛皮で、ボクの癒しの力を使って毛皮に命を吹き込ませる。それで、あまりにも勝手な行動をしないように念で操作する……なんかできそうな気がする。ってゆーか出来るって確信めいた気持ちがある。

「ルナ姉ちゃ、ナイフ貸してー」

 そう言ってナイフを借りると、手首を切り、血を流し、それをぶんたにかける。ぶんたにオーラを送ってないのに、ぶんたにオーラが溢れているのがわかった。切ったところはもう塞がっている。と、ぶんたがぷるぷると動き出した。すかさず、ボクの後をついて来るよう操作の念を送って、歩いてみると、ぶんたが着いて来た。ルナ姉ちゃは呆然と見ている。

「ルナ姉ちゃ、出来たー!」
「……まさか本当に出来るとはねぇ。あんたの血の力、なるべく人にばれない様にするんだよ?」
「うん! ルナ姉ちゃとリク兄ちゃとリリとポンポンの中の内緒にするー。あ、でもゴンちゃとかには言うかもしれないやぁ」
「ゴンちゃっていうのは、確か同期のハンター合格者で友達だったかな?」
「そうなのー。9月1日にヨークシン?で集まる約束してるんだー」
「……そう。気をつけるようにね」
「? うん、わかったー。じゃあぶんたついておいでー」

 ボクがそう言って歩くと、ぶんたも四足で歩いてついて来る。ぶんたが動くなんてとっても嬉しい! あ、でもボクどうやって戦おう……ぶんたがやってくれるかなぁ? まぁいいや、今日はとりあえず堅をして寝よーっと。




【ポンズ】

 流に格好がつき、最近やっと系統別の修行も始めた。私の考えている能力は蜂を弾丸のように撃ち出すのと、蜂の毒の毒性を高めて蜂を相手を追尾するようにして刺す能力。どことなくはできているけれど、まだ威力が足りない。まだまだ系統別の修行を積む必要がある、そう思った。
 そして今、私はリリとルルの戦闘を目を丸くして見ていた。いつもの組み手ではなく、互いに念能力を使った戦い。ルルはぶんたとコンビネーションを組むようにして戦っている。ぶんたの動きはとても速く、さらに速さだけでなく、爪を伸ばして攻撃したり、口を広げ牙で相手にかみつくようにしたりと多彩な攻撃方を持っている。ルルの動きも速く、ぶんたの攻撃をかわすか防御した隙をついて流を使って強力な攻撃を当てようとしている。しかし、リリが押されているわけでもなかった。それらの攻撃の一切をかわし、ぶんたやルル以上の速さで動き、ナイフを振るったり、殴ったり、蹴ったりを見事に流を使って行っていた。時折何もないところでナイフを振るっているのが最初は訳がわからなかったが、ナイフを振るった位置にぶんたやルルが着いた瞬間、斬撃が起きていた。恐らくそういう能力なのだろう。ぶんたは防御力が高いのか吹き飛ぶ程度だったが、ルルがそれに当たると血飛沫が舞う。完全に組み手や試合と違う、戦いだった。私がどちらかの相手をしてもすぐにやられているだろう。と、リリが爪で斬りかかろうとするぶんたに鋭い蹴りを浴びせ吹き飛ばし、私の眼で追い切れない速さでルルの元に現れ首元にナイフを当てていた。――リリの勝ちだ。私がそう思ったのと同時にルナが手合わせの終了を告げた。

「リリ、ルル、あんたら二人とも想像以上に強くなってるねぇ。あたいがやっても勝負はわからなそうだよ。免許皆伝ってところだね。あんたらは後は他の念能力者達と戦ったりして実戦経験を積むだけさね」
「ルナ、修行あんがと。アタシだいぶ強くなれた気がするよ」
「ルナ姉ちゃ修行ありがとなのー」

 そう今までの修行の礼を言う二人の頭を撫でるルナ。

「9月1日にヨークシンなんだろう? ならさっさと支度して行っておいで。あんまり危ないことはするんじゃないよ。あぁ、そういえばポンズはどうするんだい?」

 そう私にルナが聞いて来た。ルルとリリは強い。滅多な事が起きない限り死ぬことはないだろうし、滅多な事があったとしても私がいた方が邪魔だ。そう思った私は口を開いた。

「私はもう少しルナに修行をつけてもらっていい? 能力も完成してないし、これでも一応幻獣ハンター志望なのに、この樹海をちゃんと見て回らないのも気分が悪いしからね」

「そうかい。ならこれまで以上に厳しい修行を覚悟しとくんだねぇ」

 そう言ってルナが妖艶に笑った。ルルが少しごねたけど、なんとか強引に説得した。

 



 そして8月の終わり、ルルとリリはヨークシンへ旅立っていった。それを見送った私にルナが言った。

「それじゃあ食材集めにもちゃんと協力してもらうからねぇ? 楽が出来ると思わないことさね」

その一言でなぜか全身に鳥肌が立った。







~後書き~
すこし強引かもしれませんが修行編終了です。
ルル、リリの能力名はまだちゃんと考えてないんですよね……
ぶんたはオートの操作系になります。
強引ですが血の力でぬいぐるみに命(?)が宿りました。
これでヨークシン編ちょっと楽になるんです。
ってか、リリの能力ホントにこれで良かったのかなぁと悩んでる作者です。
ポンズの受難編は終了ですが、実際のポンズの受難はリリルルがいなくなってからです。
メンチさんも言っていたように食材探しはやわな仕事じゃないので。

ジルベルヴォルフは適当に考えた狼の一種です。
ドイツ語とかを適当に弄ってつけた名前。
白銀の毛皮を持った、世界で最も美しく強いオオカミと言われている、設定です。
リクの白コートもこの毛皮で作ってあります。

感想頂けると嬉しいです。

それでは、今度はヨークシンで会いましょう。



[9501] 【お詫び】【追記】
Name: ハイライト◆d3ef7d09 ID:bd3a2168
Date: 2009/07/10 04:40
今作品を楽しんで読んで頂けている方には申し訳ないのですが、しばらくの間執筆停止致します。

理由として、

・ご都合主義が多すぎる

・描写が足りない部分が多い

・キャラに厚みがない

・物語に山や谷を作れていない

など、色々あります。

続きを楽しみにしている読者様もほんの少しはいらっしゃるとは思いますが、作品の質向上のため、
しばらく作品を放置してから読み直し、文章改訂作業に入ると思います。
話の大筋もキャラも変えませんが、もっと多くの方に楽しんで読んで頂ける為の準備期間としてとらえて頂ければ幸いです。

再開した折にはまたよろしくお願いします。


7/10 追記

アクセル・ワールド1,2を読みました。
あまりの表現力の違いに絶望しました。
やっぱプロとは次元が違うに決まってますよね。

改訂作業については来週には始めたいと思います。
大きな改訂は序章と二章で、一章は読みやすいような文章への改善とキャラ視点に合った描写への変更のみ行う予定です。

新規で読んでくれた方も「ここ、こうしたらいいんじゃん?」みたいなのあったら感想にお願いします。

それでは、また。


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