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[9630] キコ族の少女(現実→H×H TS)移転情報記載
Name: アキ◆1505fff1 ID:2bbbedfc
Date: 2014/07/16 10:37
以下、注意書き


1.独自解釈あり

2.キャラの性格に差異あり

3.オリジナルの設定あり

4.ご都合主義

5.旅団陣営(主人公に甘々)


以上のものが好みでない方は、注意してください。




2014/7/16
「小説家になろう」の規約変更に伴って「ハーメルン」へ移転しました。
以後は、そちらでのみの更新を行う予定でいます。



[9630] 第1話「ようこそ○○○へ」
Name: アキ◆1505fff1 ID:2bbbedfc
Date: 2011/01/30 13:43
 突然感じたムアッと咽る様な異臭で、俺は目を覚ました。
 昨日作った煮物の失敗作を、置きっぱなしにしたからか!?


「ぁ……っ!?」


 だが目を覚まして、ふと煮物はその日のうちに処分したことを思い出してホッと安堵しようするが、現在進行形であり予想以上の強烈な臭いに覚醒したばかりの意識がまたすぐに飛びそうになる。
 夢の世界に旅立ちそうになる意識を慌てて首を振ることで引き戻し、その強烈過ぎる臭いの原因を探そうと周囲に目を配り……唖然とした。

 目に映るゴミ、ゴミ、ゴミ……
 自分がいる場所(様々な書物の山)を含めて、たまにテレビで見るゴミ屋敷が可愛く見えるほどのゴミの山が、視界いっぱいに広がっていた。

 明らかに自分の知らない場所である現在地を確認しようと座っている状態での視界からでなく、立って確認しようと身を起こしたときチクッと髪の毛が引っ張られる痛みを感じた。
 たぶん、髪が何かに引っかかったのかと思い髪の毛に触れたとき、ある違和感を覚える。

――髪が、長い?
 自慢ではないが、俺は髪の毛が耳に掛かる前にいつも切っていた。
 長いと乾かすの面倒だし、目に入るのは勘弁して欲しかったし、何より金が掛からない!!
 市販で売っているバリカンには、長さを決めて切れる道具がついているので、少し伸びたなと思えば自分で切ることが出来る。
 そうすれば、かかるお金はバリカン使用による電気代のみで、美容院に行って切ってもらうより断然安上がりなのだ!!

――っと話がずれた…
 というわけで今現在、手の中の腰まであるような黒髪を俺は不思議な物を見るような目で見ている。と


「誰かいるのか?」
「!?」


 髪の毛に意識を集中したせいで、声をかけられるまで人の気配に気づくことが出来なかった。
 慌てて視線を向けると、俺の髪の毛と同じくらいまで伸ばした髭面の男。


 あれ?どこかで見たような顔だな?


 そんなことを思い、首を傾げる。
 すると、男は俺の姿を見つけるなり、衝撃の一言を発した。


「…捨て子か」
「……ぇ?」


 捨て子?
 誰が?――俺?

 ちょっと待て、俺は今年で20歳になる成人男性ですよ!?
 身長だって180はあるんだ。どう考えったて捨て子には見えないでしょう!?

 あまりにも可笑しな発言に思わず否定の言葉を出そうとして、ふと自分の体の違和感に気づいた。
 いつもの感覚とは幾分…いや、明からに体が縮んでいる。
 
 現に男へと伸ばした手の長さや、大きさがいつもの俺の体とは似ても似つかない小さく可愛らしいものとなっていた。

 混乱しそうになるのを必死に耐え、現状の確認とこれからを考えるように頭を働かせる。
 自分の記憶を辿って、こんな状況になった原因を探るが、ここ最近の記憶がボヤけて思い出せない。

 となると、今の状況を何とかするには……


「…あ、あの!」
「あん?」


 目の前の男に聞くしかない。
 今出した声が、少女の声のように聞こえたけど……今は、男から情報を引き出すのを優先する。


「ここは、どこなんですか?」
「流星街…つっても分からねぇか」
「……」


 分からない?
 とんでもない、自分の趣味のせいで理解したくないことまで理解してしまった。


 俺の趣味は読書である。
 といっても紙媒体ものだけでなく、ネット内にあるものも読んでいた。
 
 そして、最近とある漫画のきっかけで「二次創作」というものに興味を持ち始めていたところであった。

 そして今の現状が、俺が今まで読んできたあるジャンルの序章の部分と酷似していた。



「転生・憑依系」



 場所によって呼び方は様々だが、登場人物が様々な理由で現在の記憶や知識を持ったまま他人に乗り移ったり、第二の人生を歩むというジャンルと似ていたのだ。
 そして、目の前の男が言った「流星街」というここの名前……仮説だと思いながらも間違いないだろうと俺の頭は判断している。


 つまり、ここは「ハンター×ハンター」の世界で、俺は転生…もしくは憑依の類を体験している。
 ……それも多分少女となって……























 小鳥の囀り…ではなくカラスに似た鳥の不気味な鳴き声を目覚ましに、俺は目を覚ました。
 まだ寝ていたいと、駄々をこねる体を無理やり起こして自分の今の状況を確認する。

 目線を自分の体へ向けると、男物のTシャツだけを着ている幼女の体。


「……はぁ」


 期待はしていなかったとはいえ、思わず溜息が漏れた。
 夢であって欲しかったが、俺は「ハンター×ハンター」の世界に転生or憑依をしてしまったらしい……年端もいかぬ少女の体という最悪な条件で……
 さらに、俺は良かったと思うが、人によっては多分最悪にな事象が一つ…


「おう、起きてるか?」
「……おはようございます。ノブナガさん」


 俺がこの世界に来て一番最初に会った人物である髭面の男、ノブナガ=ハザマ…… そう幻影旅団No1のあのノブナガである。
最初は俺をそのまま放って置くつもりだったそうだが、心の変化があって俺を拾ってくれた。


 変化というのは、俺の体から出ているこの靄のようなもののせいである。
 念…だと思う……というか、それしかない。

 今の自分は年齢的に5?6歳くらい。
 この歳で念を習得しているとなれば、興味をもたれるのも納得できる。
 最初は、なんで念なんて覚えてるんだよ!とか思ってはいたが…よくよく考えると、まだ今の年代を聞いてないからなんともいえないが、外の様子からして将来だろう。
 必ずキメラアントの脅威がこの世界に降りかかる。

 完結していない漫画であるが故に、結末がどうなるか分からないが、最低でも師団長クラスの実力を持っていなければ“死”または、やつらのお仲間に…なんてことになりかねない。

 そう考えると、念を習得しているという今の状況は大変ありがたい。

 それに、ノブナガに拾ってもらえなかっただろうし……


「昨日も言っただろう、敬語は止めろ」
「あ、すみま……ごめん」
「ほれ、これ着て出かける準備しろ」
「?……わぷっ!?」


 無愛想な会話の後に、突然投げて寄越された衣服を受け取りきれず、顔面に直撃し埋もれた。
 この体の小ささに慣れてないので、つい男の頃の感覚で体を動かしてしまって昨日も似たような行動を何度かしてしまっている。

 今の体の不便さに何度目かの不満を感じながら、そこから脱出して衣服を確認すると、子供用の白いTシャツと黒いズボン、それと全身を覆い隠せる…フード付きのオーバーコート?


「お前の容姿は少し目立つからな、外に出るときは隠してろ」
「あ、はい…じゃなくて、うん」


 鏡を見ていないから、自分の全体像を見ていないが、そんなに目立つ容姿をしているのだろうか?
 まあ、昨日は自分の姿を確認するより、腹の虫との格闘に集中してたからな……今度、確認してみよう。

 と、そんなことを思いつつその場で借りていたシャツを脱いでTシャツなどに袖を通していく。
 
 ちなみに目が覚めたとき、俺はボロイ布切れ一枚を身体に巻いただけの状態だった。
 そんな服装なら、捨て子とか思われても仕方ないな……いや、それ以前にあんな所に子供が一人でいる時点で完全に捨て子か……

 そんな思考の海に沈みながら、身体だけは渡された服を着ていき、そんな俺をノブナガはその場で待っている。



 ……まあ、性別が反転したとはいえ男の感性のままなので別に気にしてないけど。
というか、幼女に反応するような性癖の持ち主とは思えないしね。
 いや、そもそも恋愛とかそういう類をする人には見え……これはさすがに失礼か?


 あっ、そうだ。
 目が覚めたときに着ていたのは布切れ一枚といったけど、下着は下だけだけどちゃんとつけていたから、別にノーパンじゃないよ……ん?誰に言い訳してるんだ俺?

 とにかく、長い髪の毛ごとオーバーコートを羽織り、フードを被ると準備完了。
 今になって気づいたが。着替えている途中何度も女になっている自分の体が目に入るが特に動揺などを起こすことがない自分に、逆に少し驚いた。

 まあ、これから長い付き合いになる体だし、これは別に悪いことじゃないだろう。



「よし、いくぞ」
「うん」


 そういって歩き出すノブナガの後を、小走りについていく。
 歩幅が違うので、そうでもしないと置いてかれてしまうからだ。

 懸命に後をついていきながら、ふと気付く。

 ……あれ?どこ行くか俺聞いてないんだけど…






















 自分の後を必死についてくる少女を横目で見ながら、ノブナガは昨日の出来事を思い出した。


 気まぐれで立ち寄った場所で見つけた、捨て子の少女。
 いつものノブナガであればそのまま置いていくところを、彼女から漂っている”あるモノ”を見てつい拾ってしまった。


”念”、”オーラ”


 自分の生活の中で、あるのが当たり前になったモノが彼女を包み込んでいた。

 少女の見た目は5?6歳といったところで、今はフードで隠れてしまっているが腰まである綺麗な黒髪。
 そして、光に当たるとダイヤのような淡い輝きを放つ右目という人体収集家にとっては手に入れてみたい特徴を除けば、どこにでもいそうな子供。
 しかし、彼の後をついてくる少女の纏うオーラは揺らぎもせず静寂を保っている。

 年齢と念の錬度があまりにも不釣合い。
 こんな面白そうなガキが、どこぞの収集家の奴等のものになるのは面白くない。


 ダメ元で言ってみるか…


 必死に自分の後をついてくる少女を横目に、ノブナガはあることを考えていた。



[9630] 第2話「入団?」
Name: アキ◆1505fff1 ID:2bbbedfc
Date: 2011/01/27 11:54
 とある廃墟ビルの中、俺は背中にダラダラと冷や汗が流れ出ているのを感じていた。


「へえ、その子が昨日拾ったとか言ってた女の子?」
「ああ」


 そういって、俺と同じ目線になるように腰を落とす――茶髪のなんというか出るとこが出すぎている女性――パクノダ。
 顔は……うん、最初の頃の顔じゃなくて、美人に描かれ始めた後半の顔だ。

 まあ、そんなことはどうでもよくて……今、注意すべきことは彼女の念能力である。

 もしも、彼女に記憶を見られたら?
 現在「私は記憶喪失で、気がついたらあそこにいました」という設定でノブナガと会話しており、ここに来るまでの道中に何か思い出すかもという前置きで、漫画では描かれなかった世界のことを聞いていた。
 そんな中で「今は何年ですか?」と聞いたところ「1995年だ」と答えが返ってきている。

 確か、2000年から物語がスタートするはずだから、今持っている知識は俺というイレギュラーがいるため変わるかもしれないという可能性を考慮しても、知られるわけにはいかない情報が満載だ。

 ゴンやキルアは物語の重要な位置にいるから、俺を記憶を使って変に改変されるとキメラアントの件で非常に困る。

 ということで、パクノダから距離をとるためノブナガの後ろへと避難。
 まあ、それだけが理由ではなく。
 
 ヤバイ連中……シャルナークやらマチ、フェンクスにフランクリン……初期メンバーの半分以上がここに終結しており、その視線すべてが俺へと注がれているため死角になるノブナガの後ろへ隠れるしかないのだ。

 皆、視線に何十キロもの重さがついてるなんて何者だよ!?……いや、A級の賞金首なんだけどさ。


「がはははっ、嫌われたなパク」
「……私ってそんなに怖いからしら?」


 いえ、貴女が怖いのではなくて貴女の念能力が怖いのです。
 ということで、変な誤解をされてはと首を左右に振って否定しておく。
 結構好きなキャラだし……おもに団員想いな所とか

 
 俺の否定にパクノダが幾分か顔を和らげる。
 そして俺に近寄ることを諦めて、小さく手を振ってきたので、恥ずかしいが一応振り返した。



が、気を許せるかなと思う間もなく



「珍しいな。お前が子供を拾ってくるなんて」


 後ろから聞こえたその声に、俺はビデオの一時停止のようにピシリと動けなくなった。

 まさに蛇に睨まれた蛙のような…


「おっ、団長」


 クロロ登場!!
 オールバックにした黒髪と、額に十字架の刺青があるイケメンさん。

 確か、前世(?)での女友達が大好きなキャラだったっけ……うん、ある程度理解してたけど実物見て完全に納得した。確か現実にいたらアイツが惚れそうだ。
 そんな彼が、俺に品定めするような視線を遠慮なく送ってくる。


 はっきり言って、死にそうです。


 キルアの言う通り、この人の視線を直には受けたくないです。
 イケメンなのでなおさら、ヤバいです。


「ん?こいつ……キコ族か?」
「キコ族?」


 団長の呟きを聞き取ったマチが疑問の声をあげる。
 俺にも聞こえたものの、心の中で首を傾げる。

 そんな部族あったっけ?クルタ族ならクラピカの部族だと思うけど…キコ?
 いや、存在はしてるけど紹介されてなかっただけかもしれない。


「ヨークシンを中心に遊牧民生活をしていた少数部族で、町の開発と共に部族は消滅したはずだが……」


 そういって、俺に近づいてくるとゆっくりと俺へ手を伸ばしてくる。
 ただ、手を伸ばしているだけなのにクロロからは異様なほどのプレッシャーというか圧力が俺へとのしかかってきて、無意識に目を瞑り、ノブナガのズボンにしがみ付くと、体を硬くさせた。
 
 というか、幻覚とわかっているものの俺を軽く握りつぶせるほど巨大に感じる彼に、意識すら飛びそうになる。


「怖がるな。別にとって食うわけじゃない」


 そういうと俺の顎持ち上げ、恐怖で固まりつつも恐る恐る目を開いた俺の顔を覗き込んだ。
 その際、フードが外れてしまい今まで隠れていた顔が全員の視線にさらされることなり、より一層体を硬くさせることなる。


「……間違いないな。”ダイヤの瞳”と呼ばれる右目に、闇に溶けるような黒髪。キコ族の特徴だ」


 顎から手を放つと、俺の頭を軽く撫でる。
 それが少し気持ちよくて、硬くなっていた体が少しほぐれると共にノブナガが出かける際に言っていた「目立つ」の意味が理解できて、少し顔が綻ぶ。
 まあ、それも次の会話を聞くまでの短い間だったが……


「で?ノブナガはこいつをここに連れてきて、どうするつもりだ?」
「団長、今すぐにじゃねぇがこいつを入団させねぇか?」


 ……はい?
 俺を入団させる?……待て待て待て!!何その死亡フラグ。
 というか、こんな念の制御が出来ないガキを入団させるなんて何考えてるの!?……あ、自分で言って少し傷ついた。


「……理由は?」
「こいつは育てれば絶対強くなるね」
「根拠は?」
「……勘」


 ちょっ、勘で俺の将来を決めないで!!
 助けてくれたのは嬉しいけど、それとこれとは別だから!!
 あ、でもそんな理由じゃあ認めるわけ……


「おい」
「……え?」
「強くなりたいか?」


 クロロからの突然の質問に、俺は最初何を言っているのか理解できなかった。
 さらに、やっと開放された視線の重圧が再び襲ってきて、思考を阻害される中で、聞かれた内容を考える。
 強くなりたいかと聞かれれば、キメラアンとの件もあるから当然”YES”と答えるけど、今その質問を俺にするのはなんで?

 
 俺の意思表示?まさかな……


「どうなんだ?」
「……つ、強くなりたい」
「……ノブナガ、言ったからには責任もて」
「!!、悪りぃな団長」


 あ、あれ?
 もしかして、俺の一言で入団が決定?
 
 ……あ、目の前が……

 このビルに着てからの重圧やストレス&入団という強烈な一撃で俺は意識が薄れ、その場に崩れ落ちた。










 時折、夢の中で「これは夢だ」と自覚できるときがある。
 結構なスピードで走る車の後部座席で、外の景色と窓に映る自分の……少女の顔を見ながら「今がそうだな」と思った。

 しばらく走り続けた後に車は街の光を背にして、ある場所で停車した。


地下鉄のプラットホームへと続く階段
 

 都心では見慣れたものだが、入り口に「立ち入り禁止」と書かれたプレートがあるだけで、それは別の何かに見えた。
 その風景に多少ながらも萎縮していると、俺のすぐ脇にあったドアが開き外の魚が腐ったような悪臭と、肌を刺すような寒さが俺を襲った。


「――、着いたわよ」


 ノイズのかかった声に無意識に相手の顔を確認しようとするが、ピンボケした写真を見ているような霞で相手がどんな顔か分からない。
 服装と声から大人の女性とは分かるが、それまでである。

 「誰?」と聞こうと口を開くよりも早く、体が勝手に動き車から降りた。


「こっちよ」


 そう言って歩き出す相手の後を追って、また勝手に歩き始める自分の体。

 突然の事態にパニックを起こしそうになるが、これは夢の中だということを再確認して安堵すると共に、事の成り行きに身を任せてみようと抵抗を諦めた。

 俺の妨害がなくなった体は勝手に動いていき階段の手前まで移動すると、先頭を歩いていた女性が振り返り、いつの間に手にしていたのか小さな鞄を俺へと差し出した。

 俺(の体)は、一言も声を出さずに鞄を受け取るとロープをくぐり階段を下って行く。

 不気味な風の音と、闇に溶けていく自身の体に自然を身震いをしてしまう。
 しかし、俺のそんな状況を無視して階段を下りていく体はどんどんと闇へと飲み込まれていき……
 古いブラウン管のテレビの電源を切ったときに聞こえる”ブツン”という音と共に意識が途切れた。



[9630] 第3話「スタート地点」
Name: アキ◆1505fff1 ID:2bbbedfc
Date: 2011/01/27 11:54
 次の日からノブナガ指導の下、俺の修行が始まった。
 入団については、ノブナガが入団可能なレベルまで俺を育てるまでは補欠ということでってな感じに決まった。
 まあ、念の系統すら分からない素人を入団はさせるわけないよな。



 あ、あとキコ族についてシャル――呼び捨てでいいというこどで呼び捨て――が電脳ページで調べてくれたんだけど、


・ヨークシンを中心に遊牧民生活をしていた部族。
・”ダイヤの瞳”という特殊な瞳と、闇のように黒い髪という身体的特徴。
・十年前に最後の集落が確認されて以来、存在の確認が出来ていない。
・姿を隠すのに優れていた。


 と、クロロの言った内容を除くとまったく分からないというレベル。
 ハンター専用のサイトで探せばまだそれなりに情報があるかもしれないけど、さすがにそこまでしてもらうと気が引ける。

 まあ、自分で稼いだ金で調べるようにって言われたしね。

 俺は十年前から姿が見えない部族の子供、ということが分かっただけでもよしとしよう。



 あ、もう一つ報告があった。
 記憶喪失で通しているために名前が無かった俺なのだが、このたび”ユイ”という名前になりました!はい拍手~。

 ちなみに命名者はノブナガです。


 ということは……フルネームはユイ=ハザマ?って聞いたら、団員全員に爆笑された。


 なんで笑うのだろう? 可笑しな事なんて言ってないと思うのだけど?


 疑問に思いつつも、俺を認識する名前が決まったので修行開始前に流星街のお偉いさんへ挨拶に行くことになった。
 漫画では、生活様式や文化などが詳しく語られなかったので「転生・憑依者の特権?」みたいに思ったりしながら、ノブナガの後をついて行く。


「―――ってことだから、こいつは俺達の保護下で生活してもらう」
「分かった。その子を我々の仲間として受入れよう」


 バイオパニック映画に出てくるような防護服に身を包んだ数人のお偉いさんが、ノブナガの説明を受けて俺を流星街の仲間として迎え入れてくれた。
 それに対して、オーバーコートに身を包みフードを目深に被った姿のままの俺はペコリと頭を下げる。

 礼儀としてフードを取ろうとしたが、ノブナガに「取らなくていい」と言われたのだが相手の顔を分からずに仲間として受け入れるのはどうなんだろう?

 いや、漫画でなんでも受け入れるとか言ってたけどさ……
 


 だが、これで俺は「流星街」の住民となると同時に「幻影旅団」の一員にもなった。
 普通なら、俺ぐらいの年齢の子供は孤児院へと預けられるのだが、旅団の一員になったことで彼らの保護下で生活することになる。


 分かっている人が多いかもしれないが、流星街の人間は外にいる人達と一部を除き全く同じ人ということである。
 違うのは、彼らの異常なまでの仲間意識。

 漫画で紹介されていた”あの事件”がいい例である。


 その意識の要因の一つとなっているのが、彼らの生活が密着していることにある。

 子供の生活を見ただけでも、小さい子の面倒を年長者が率先して行なうし、何をするにしても皆と行動を共にする。

 あとは、ここに来る道中でノブナガが説明しくれたが、大雑把過ぎて詳しくは伝えられない。
 まあ、簡単に言ってしまえば


「俺のモノは皆のモノ、皆のモノは皆のモノ」


 ……間違ってはいないけど、合ってるとは言いがたいな……
 う~ん、何かいい言葉がないかな…………








「おい、聞いてんのか?」


ゴンッ


「痛ッ」


 先日のことで、つい物思いに耽っていた俺の脳天を、ノブナガは刀の鞘で小突いた。
 ここって、意外と痛いんだよ。それも鞘の先端で小突かれたから余計に痛い。
 若干、涙目になりながら弁解する。


「き、聞いてるよ」
「じゃあ、さっきまで俺が何を説明してたか言ってみろ?」
「えと…」


ゴンッ


「~~っ!!」


 さっきより強力な小突き…いやそんなレベルじゃない打撃が俺の脳天に直撃した。
 そのせいで涙が零れそうになるのを意地でも耐える。


「次は本気で小突くぞ」
「…わ、わかった…」


 ズキズキと鈍い痛みを耐えながら、搾り出すように声を出す。
 これ以上の鉄拳(?)は命に関わる。


「お前は覚えが良いんだから、ちゃんと集中すればすぐ終わるんだよ」
「……うん」
「最初からやり直すぞ。念ていうのはな――――」


 まあ、漫画からの知識と前世からの知識があるから、この歳にしてみれば覚えはいいだろうね。
 ということで、二度目の講義は痛い目に会いたくはないから真面目に受けて、本当に小一時間程で終了させることが出来た。

 んで、次は基本中の基本である四大行へと……いくわけなんだけど。



 何故か”纏”は目が覚めている時から出来ているし、キコ族の姿を隠すという特徴なのか”絶”も出来る。
 さすがに”練”はできなかったけど、これも一週間で出来るように……


 主人公陣には劣るものの、自分でも驚くほどの習得率にノブナガは、


「たまにいるんだよな。念との相性がいい奴が」


 とのこと。
 強くなりたいので、その相性の良さは大歓迎。
 そして、”練”が使えるようになったということは……


「応用を始める前に、お前の系統を調べるか」


 キターーーー!!

 
 さてさて、俺の系統は何かな?
 希望としては強化系とか放出系がいいんだけどな…










「葉っぱが回転してる……」
「操作系だな。シャルと同じだってこった」


 ……マジッすか。
 操作系て愛用の道具がなくなると、戦力が大幅にダウンする系統だよな?


「今後はシャルの意見を交えて鍛えていくか」
「うん」


 そうだ、何も能力だけにこだわらなくても基礎がちゃんと出来ていれば、それだけで十分に強くなれるんだから……
 例えば、ビスケとか、ビスケとか、ビスケとか……




 ということで、技は保留にして基礎を固めることになった。
 四大行も一通り出来るようになっただけであって、熟練度なんてないに等しい。
 そんな状態で技を作ろうとしても粗悪品ができたりと、ヒソカの言う”メモリ”を無駄に消費してしまう。

 どんなモノでも基礎がダメなら全てがダメになってしまう。

 今の所、この世界で生きていくしかない以上は、力をつけなくてはならない。
 なぜなら、流星街にいるということは俺には戸籍がない……と思う。
 
 そうなると、ここを出て暮らすという選択肢は限りなく0になり、ここで暮らしていくしかなくなる。
 だけど、ここにいれば近いうちにキメラアントの恐怖がここを覆う。
 外部への助けを呼べない以上、自分の身は自分で守るしかない。


 生きている以上は、どんな世界であろうと精一杯生きてやる!!




 とか、強がってみたり……はぁ



[9630] 第4話「○○が飛び出してきた!」
Name: アキ◆1505fff1 ID:2bbbedfc
Date: 2011/01/30 13:44
 自分の系統が分かってから、3ヶ月程の月日が流れた。




 天に昇るほどの木々が鬱蒼としている中、その間を縫うように無駄の無いように動きながらも、無我夢中で俺は走っていた。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 既に数十分ほど全速力で走っているせいで胸が締め付けられるように痛み、熱帯林と似た気候のため纏わりつくような熱気と体温の上昇によって汗が滝のように流れ出てくる。
 そして、その流れ出た汗は今来ているジャージに全て吸収され、全体の重さは代わらないのにずっしりと錘となって俺の走力を落としていく。

 このまま走るを止められたら、どんなに楽なことか……
 でも、足を止めるわけにはいかない。


 なぜなら…


「ブモォォォォッ」
「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 無意識に外見相応の悲鳴を上げながら逃げる俺を、グレイトスタンプだっけ? ゴンたちが受けたハンター二次試験に出てきた豚の大群が、傍の木々をなぎ倒しながら俺へ突撃してきている。

 自分の数倍以上の太さの木々が軽々と倒されるのにブワッと背筋から別の冷たい汗が吹き出す。


 と言っても、それだけで俺がこうも必死に逃げるわけではない。

 もう一つで最大の理由。
 それは、俺の腰にある臭い袋にある。

 何の臭い袋かというと、こいつらのメスが繁殖期に放つフェロモンと似た匂いを放つ合成薬。


 チラリと後ろを確認する。
 迫ってくる奴等は全てオスで、目が血走っていたりして完全にイッてしまっている。
 さらに、鼻息は荒く一部の奴は下品な笑み(?)と涎を垂れ流しながら迫ってきている……



 死ぬ! こんなのに襲われたら、いろんな意味で死ぬ!!






「の……ノブナガの、バカーーーーーーーーーッ!」


 こんな修行を思いついた人間の悪口を言いながら、俺はさらに走るスピードを上げた。
 だが、今はまだこっちのほうが速いのだが撒けるほどの速さは無い。
 それに念を使って身体能力をあげて今の状態であるために、今だにオーラの総量が少ない俺では「ガス欠→豚の餌食」という結果は目に見えている。



 何とかしないと……R18の展開が!!
 獣と○○○なんて、どんだけマニアックな内容だよ!

 ……あっ、そういえばこいつ等の弱点って!












「ラスト一頭!!」


 そういって念で強化された小石を数個、最後の一頭であるグレイトスタンプへ投げつける。

 さすがに学習したのか、1個2個と自慢の鼻で弾かれるが、すべて捌ききれず弱点である額に小石が直撃。
 身体をビクリと痙攣して数歩ふらつきながら歩いた後、地鳴りを響かせて巨体が地面へ倒れこんだ。

 昔の維新志士が行った戦術で、逃げ続けて突出した敵を一人ずつ倒していくという戦術(?)があり、試した結果が“これ”である。

 すごいぜ幕末時代!!




 数秒、再び動き出さないか注意深く視線を送るが、ピクリとも動く気配がない。
 それを確認できた瞬間、やっと貞操の危機がある逃亡劇から開放された安堵と念の大量消費による疲労で、その場に立っていることができずヘタリと座り込む。


「ハァ…ハァ…ハァ…」


 荒くなっている息を落ち着かせようとしながら自分の体を見ると、いつもは意識せずに出来る”纏”がうまくいかず、微かに残っているオーラが垂れ流し状態になっている。
 オーラがこれ以上消費されれば、この場で倒れてしまう。

 必死に”纏”もしくは”絶”を行おうとするも、極度の疲労から上手く集中が出来ず逆に無駄なオーラを消費してしまう。
 そのことで、さらに慌ててしまい余計に集中できなくなっていく。

 そんな悪循環を続けていると、知っている気配が背後に現れた。




「落ち着け、まずは深呼吸だ」
「ノブ、ナガ」


 気配の正体――ノブナガが俺の背中へ手を置き、落ち着いた声で指示を出す。
 その声に若干冷静さを取り戻し、深呼吸を開始する。


「そうだ。落ち着いたら、ゆっくりと溢れ出るオーラを体の中へと納めるようなイメージで―――」


 ノブナガの普段聞くこと無いような優しい声の言われるがまま、自身のオーラを操作していく。
 そして、数分後。


「どうだ。落ち着いたか?」
「…うん。まだダルい感じがするけど、もう平気」


 まだ全身が重い感じがするが、動く分にはもう問題ないくらいに回復できた。
 気絶の心配がなくなった俺は、次に火照っている体に我慢できず、修行用に手に入れたジャージの上だけを脱ぎTシャツだけになった。
 そして、携帯していたスポーツ飲料水を少しずつ飲みながら体内の水分を補給する。

 まだ、ブr…上の下着をつけるほどの大きさではないにしろ、絞れば水が出るほどに濡れた服は小さな小山をはっきりと映し出していた。

 まあ、ノブナガはそんな趣味ないし、俺も気にしてないので関係ないけどね。
 いや、俺に羞恥心がないだけか?

 そんな思いを抱きながら水分補給していると、頭上から注意する声が聞こえる。


「まったく。こいつ等を倒す方法はまあまあ良かったが、自分のオーラの総量を考えてやれ」
「ごめん」
「だが、今回のことで分かったことがあるな。分かるか?」
「……”流”が上手く出来なかった」


 周、隠、凝、堅、円、硬、流を一通りを出来るようになったものの、なぜか”流”が上達しないのである。
 まったく上達しないという訳ではないのだけど、今回のことで”流”が上手く出来なかったために無駄なオーラを消費してしまい、さっきのような事態を引き起こした。
 
 こうなると、ちょっと上達が悪いからで完結できる問題ではなくなった。


「”流”が出来る出来ないで、強ぇ奴との戦いで勝てる可能性が雲泥の差以上にある。少しずつ改善していこうかとも思ったが、今回のことで予想以上にできないことが分かったからな。明日からは”流”を中心にした修行に変えるぞ」
「……うん」


 これまで順調に上達していったせいで、これくらいの躓きは普通なのに予想以上にショックを受けている自分がいた。
 念との相性がいいとはいえ、自分の能力に過信しずぎてたのかもしれない。

 俺が倒したグレイトスタンプの一頭を持ち帰るようにしているノブナガを見ながら、小さく溜息が漏れた。





カサッ


「!?」


 突然、俺の後ろで草が擦れる音が小さく聞こえた。
 まさか豚がまだ残っていたのかと警戒し、すぐに臨戦態勢を取ると音のしたほうへと神経を集中させる。

 相手は、そんな俺の行動に気づいたのかカサカサと草が動いているのは確認できるものの、一向に姿を現さない。

 さっきの疲労も抜け切っていない現状では我慢対決は分が悪いと判断し、足にオーラを集中させると一気に音のした草むら辺りを飛び越え、後ろの方へと跳躍した。


「……あ、あれ?」
「フーーーッ」


 しかし、その草むらにいたのは豚ではなくて……


「リス?いや、キツネ?」


 リスほどしかない大きさの、耳の尖った一見キツネにも見える動物が俺を見て威嚇していた。


「ユイ、お前何やってんだ?」
「あ、ノブナガ」


 俺の突然の行動に、木の棒に豚を吊るした物を肩に担いだ状態のノブナガが呆れた声で尋ねてくる。
 いや、俺に言わせればノブナガこそ何やってるんですかと言いたくなるんだけど……いや、持ち帰るのは分かってるけど……ねぇ?

 そんな俺の思いを知らずに、彼は俺の視線の先にいた生物へと目を向ける。


「なんだ。キツネリスの子供じゃねぇか」
「キツネリス?」
「俺も詳しいわけじゃねぇが、大人になっても体長30センチにもならねぇ小型の魔獣だ」
「魔獣!?こんなに小さいのに」
「まあ、そう分類されてるだけでそこまで危険な生物じゃねぇよ」


 俺たちが、話し合っている間もそのキツネリスは威嚇を続けている。
 ふと、ノブナガの説明で気になることを思い出す。


「ねえ、この子が子供だっていってたけど……親は?」
「……さぁな。逸れたか死んだんだろうよ」
「……」


 野生で、子だけで生きていけるなんてことは極稀である。
 そう思うと、俺は自然とキツネリスへと歩を進めていた。

 ノブナガは俺の行動から、何をするのか分かっているのか黙って見ている。

 キツネリスは俺の行動に当然警戒し、さらに威嚇の声を上げると、それに同調するかのように全身の毛を逆立たせる。
 俺はそれ以上刺激しないようにその場で腰をかがめると、ゆっくりと手を伸ばした。


「おいで、怖くないから」


 魔獣ということは、それなりに知能があるはずだが、人間の言葉を理解できるとは思わない。
 だから、声色で安心させようと優しく語りかける。
 しかし、依然として俺への威嚇を続けているので、危険な匂いをしないと分かってもらうために少し手を前へと差し出した。


「大丈夫。一緒に行こう」
「シャーッ」
「っ!」


 しかし、手を前に出しすぎてキツネリスの警戒線に触れたのか差し出した手へ、前足の爪が容赦なく食い込んだ。
 しかし子供だったためなのか、肉は裂けなかったものの指先に爪が食い込んで激痛が俺を襲った。

 でも、その痛みを表に出さないように少し強引だが、食い込んだまま手を引っ込めると共にキツネリスを引き寄せると優しく抱きしめた。
 強くも無く、でも弱すぎることもない程度の力で……
 
 だが、そんなことをすればキツネリスが暴れるのも当たり前であり、俺の胸の中で逃げようと力の限り暴れ続けた。
 何度も切り付けられた胸の部分の服は、無残に裂かれて少し露出した皮膚にも切り傷が数箇所出来る。

 それでも、俺は痛みに耐えてこの子が落ち着くのを待った。




 そして、その行動は数分で収束した。
 俺が危険な存在ではないと分かってくれたのか、突然おとなしくなったかと思うと、自身の爪で傷ついた俺の胸にある傷を舐めた後、喉を鳴らしながら俺の胸へと顔を押し付けてきた。


「あははっ、くすぐったいって」
「……まったく、何してんだか」


 キツネリスが大人しくなったのを見計らって、ノブナガは近づいてくると俺の頭に手を置き、グシャグシャと撫で上げる。
 でもそれが結構乱暴で、脳が揺さぶられ回復しきっていない体には若干酷なことだ。


「ちょっやめっ…」
「自分と似た境遇だからって助けてもいいが、ちゃんと面倒見ろよ」
「……うん」


 自分の考えていたことがズバリ言い当てられ、顔が赤くなる。
 親がいないと聞き、無性にこの子を助けたくて仕方なかった。
 安い同情と思う人もいるかもしれない。
 でも、俺は何の迷いも無く助けることを選んだ。

 それと、蛇足だけど。
 性別が変わったせいなのか、この子の表情に母性本能(?)が擽られたのも理由の一つだったり、なかったり……



 ……ん?
 

 そういえば、この状況って……某アニメ映画に似てるな……くそっ、メー○ェがあれば完璧だったのに



[9630] 第5話「変態、現る」
Name: アキ◆1505fff1 ID:2bbbedfc
Date: 2011/01/27 12:05
 突然ですが、この間のキツネリスは私のペット……いや、相棒になりました。
 望んだことだけど、予想以上にベッタリ懐いてくれて嬉しいやら困ったやら

 名前はもちろん『テト』です。


 くそぉ、本当にメー○ェがあれば……念で再現するか?


 いや、馬鹿の考えはやめよう。
 というか、主人公と俺の容姿からして似てないし、性格も段違いだ。


 あと、戻った後に事件が一つ起きました。


 『ノブナガ、強○疑惑事件』

 テトを落ち着かせるために抱きしめた際に敗れた服と怪我をした肌に、パクがノブナガが何かしたのだと(わざと)勘違いして大変なことに…
 必死に弁解するノブナガだけど、マチとパクは(分かっていながら)疑惑に満ちた瞳で見るわ、(状況を理解した)ウボォーたちからは笑い声と批難の声が殺到……ちなみに団長は傍観。

 この騒ぎは、俺がテトのことを話すまで続いたとさ……
 意外(?)とノリがいい団員だなと思ったよ。



 それにしても、慌てたノブナガ……意外と面白かったなぁ~
 










 っと、話が変な方向に行ってる。修正修正。

 前回、豚との戦闘で”流”の未熟さを痛感し、戻ってからは通常の修行を70%で残りを”流”の鍛錬に変更した。
 早く強くなりたいから、こんなところで止まりたくはないのだけど、


「アホか」


 というノブナガの言葉とゲンコツを一発もらい、考えを改めました。
 うん、焦りは禁物だよね………うぅ、本当に痛かった。


 でも今回からは、テトが慰めようと頬を舐めてたり擦り寄ってきたりして、癒されるので問題ない。

 ああ~、本当に癒される~。


「集中しろ」


ゴンッ


「~~~っ!!」
















 そんなこんなで、”流”を中心にした修行を始めて半年。
 その間に、旅団は”緋の目”を取ってきたり見たことのある団員が入団したり、だんだんと原作に近くなってきました。
 
 “緋の目”は出来れば止めたいなぁと思っていたけど、意見を言える立場ではないし、修行に集中していたために対策が何一つ取れなかった。
 俺、クラピカのブラックリストに登録されるのかな?

 もしそうなったとしても、あの能力相手に勝てる気がしない。
 というか、全系統の熟練度が100%になるとかチートすぎるのを念を覚えて改めて実感している。
 

 



 そんな心配を心の片隅に残しつつ修行に明け暮れていたある日、ノブナガが久しぶりに団員のところに行くというので俺もついていくことになった。

 だけど到着した早々すぐに何か話し合いを始めてしまったので、団員で無い俺はノブナガに一言断りを入れて仮宿である廃ビルの屋上で”流”の鍛錬を行ことにした。

 特に聞いててもいいとは言われてるけど、物騒すぎて少し怖い。平気でR15は当然でR18以上のグロテスクな話も出てくるから聞いて楽しいものじゃない。


 そうそう、”流”についてだけど、鍛錬に時間を結構割いたおかげで団員級のレベルとはいかないものの、そこらにいる能力者よりは使えるところまで到達した。
 すぐ近くに念の熟練者がいたり、そのうちの一人から指南を受けてたから当然といえばそれまでだけど……


 現在は、より細かな”流”が出来るように指先の一つに”疑”をして、それを他の指先へ”流”を行うという鍛錬中。
 
 テトは、そんな俺を眺めながら日当たりのいい所で日向ぼっこ。

 そんな、のんびりとした時間が過ぎていく中、ウトウトしていたテトが突然飛び起きると、下の階へと続く扉に向かって威嚇を始めた。


「テト、どうしたの?」
「フーーッ」


 ここは仮とはいえ、旅団のアジト。
 今いる団員の殆ど――フェイタン等は例外――にはこんな警戒したりしないはず…となると侵入者?
 
 不可能だ。団員がほぼ全員集合しているビルの中に許可無く侵入すれば、誰かが必ず気づくはずだ。それじゃあ誰だ?


「やあ、君がユイかい♠?」
「……っ!?」


 扉から出てくる奴へ注意を向けていると、突然背後から背筋にゾクッと悪寒が走るような色声が俺の耳もとで聞こえた。
 警戒していたのに後ろを取られたことに動揺しながらも、その場から飛び退いて距離をとると共に、相手の姿を確認して驚きで動きを止めてしまった。

 金髪のオールバックにピエロを思わせる服装、そして気味の悪い笑みを貼り付けたイケメン顔。


 ヒソカだーーーーー!!
 何しに来やがった!?


「そんなに怯えないでよ。そんな目を見てると虐めたくなるじゃないか♥」
「ひぃ…」
「何やってるんだ」
「の、ノブナガ!」


 舐めるような視線に悪寒が全身を駆け巡り、思わず両腕で身体を抱いて後ずさる。
 しかし、扉の方から聞きなれた声が聞こえ、心の中で感謝しながら脱兎のごとく声の主――ノブナガの後ろへと避難する。

 テトは俺の肩に乗りながらも威嚇を継続中。
 だが尻尾が後ろ足の間に挟まれて、虚勢を張っているだけであるのがバレバレである。


「残念。嫌われちゃった◆」
「おめぇが来ればこうなるの当たり前だ」


 隠れても感じる舐めるような視線に悪寒と新たに加わった気持ち悪さから、涙目になるものの、ノブナガに同意するため必死に首をコクコクと縦に揺らす。


「君が師匠してるって聞いたから、どんな子を育ててるのか気になっただけだよ♣」
「嘘付け、てめぇはユイのことずっと前からつけてただろうが」
「はい!?」


 何それ!?
 俺ずっと前から目をつけられてたの!?

 驚きで、ついヒソカへ視線を送ると、バチッと目が合い…


「美味しそうだ♥」
「………」
「気ぃつけろ。アイツはなんでもいけるからな」



 最悪だーー!!
 何こいつ! 何こいつ!! 何こいつ!!!!

 幼女に欲情するなんて、変態にもほどがある!
 いや、原作ですでに分かってることだけどね!!
 

「今はまだ早いから、挨拶だけ♥」
「ふん。ユイに手ぇだしたら殺すぞ」
「怖い怖い♣」


 ドッとノブナガのオーラ量が増すと、圧迫感ではなく安心する暖かさが俺を包み込んだ。
 
 ……惚れてもいいですかノブナガさん。
 アンタ格好良すぎです。

 ヒソカはそんなノブナガのオーラを真正面から恍惚した表情で受け止める。

 ……こっちは変態すぎる。


「じゃあまたね。ユイ♥」
「~~~っ」


 舐めるような視線と背筋が凍るような声+αを最後に、ヒソカは屋上から姿を消した。
 あの野郎、最後の最後で気持ち悪いオーラを放っていきやがって……

 ”纏”しか行っていなかった俺はそのオーラに当てられて、ノブナガの裾を掴んでいないと立っていることが不可能になるほど、足が震え上がってしまった。

 テトも、俺の服の中へ避難している…まあ、中でまだ唸っているけど野生の本能には勝てなかったということだね。


「平気か?」
「……へ、平気」


 半年前の豚の件以来久しぶりに聞く優しい声に答えたいがために、ヤセ我慢して無事なように見せる。
 声が震えていたのはご愛嬌ということで……ぐっ、笑われた。


 苦笑するノブナガを見なかったことにして、俺はふと疑問に思ったことを口にする。
 というか、早く話題を変えないと気分が沈む。


「そう、いえば……なんで、屋上に?」
「おっと、忘れるところだった」
「??」
「団長が次の仕事で、お前も同行するようにとさ」
「え? もう?」


 実は、前から仕事に参加して見ないかと誘われていたのでそんなに驚きはしないが、今頃なぜという疑問が沸く。
 一応というレベルだが能力を開発できて、それを団員の皆に見せているから、あれが後押しになったのだろうか?


「少し前なら、オメェの能力上達を優先させてたが”流”も上達してきたし、そろそろ空気にも慣れさせて方がいいと思ってな」
「空気……仕事の?」
「それもあるが、念を使った戦闘の空気だ」
「……日時は?」
「マチが連絡する」
「分かった」


 初の実戦…かな?
 皆に見せた能力からして、戦闘には参加しないかもしれないけど……近いうちに戦闘用の能力を考えないと……

 だけど、俺がついていって邪魔にならないのだろうか?
 ヒソカの念に当てられれただけでこの体たらくだし……


「気にすんな。アイツがおかしいだけだ」
「……そだね」


 うん、そういうことにしておこう。
 念は精神の状態で力が上下するから、万全の状態で望まないとね。


「まだ俺は団長と話があるからな、終わるまで下にいる他の奴と話でもしてな」
「え?でも修行……」
「その震えてる足でか?」
「っ!?」


 気を緩めてしまったために、再び小さく震え始めていた足を両手で抑えると、無理やり震えを収める。
 バレているのは分かっていたが、改めて指摘されると若干顔が熱くなっていき、赤くなっているという自覚がさらに顔を熱くさせる原因になる。


「気にすんなっていっただろうが」
「うぅ~っ」


 ポンポンと軽く頭を叩かれると、そのまま「他の奴の所で待ってろよ」と言い残して下へと降りていった。
 屋上に残されたのは顔の赤い俺とテトのみ、もう平気になったのか服の中から顔を出すと、首をかしげて俺を見つめる。
 そんな仕草に、恥ずかしさはどこへやら……


「……この可愛いやつめ!」


 ワシャワシャとテトと軽くいじった後、俺は下へ続く階段へと向かった。







「よおユイ、久しぶりだな」
「フランクリン!!」


 旅団内で、仲のよさベスト3に入る彼を見つけて、俺は思わず叫んびながら彼へとダイブ。
 テトは俺の行動を予測してか、服の中から脱出すると俺の頭へと移動している。

 自分の首に抱きついてきた俺を、フランクリンは笑いながら受け止め大きな手で俺の頭を撫でながら話しかけてくる。


「お前、少しデカくなったんじゃないか?」
「えへへ、最後に会ってから2センチも伸びた!!」
「おお~、スゲェじゃねぇか」


 傍から見れば、お爺ちゃんと孫の会話に聞こえなくも無い雰囲気に呆れた声でパクが乱入。


「貴女、本当にフランクリンの事好きね」
「あ、パクももちろん好きだよ」
「はいはい」
「う~、信じてない」
「信じてるわよ」


 ……俺の精神年齢が少し下がってように見えるけど、これは肉体に精神が引っ張られているだけだからね。
 決して原作キャラと仲が良くて、舞い上がってるわけじゃないからね!!

 脳内で、誰にしているのか分からない言い訳を並べていると、フランクリンの後ろにいたマチが俺に声をかける。


「ユイ、次の仕事の件聞いた?」
「ノブナガから聞いたよ」
「私とシャルのチームに入ってもらうから、そのつもりでね」
「……ということは」
「そ、策敵係」


 俺の能力を考えるとやっぱりそうなるのか……
 シャルとかの補佐をすることになるのかな?


「まあ、今回はそんな難しいものじゃないから実力試しにはちょうどいいね」
「ヤバくなったら俺が援護するし、安心しなって」
「ぅぃーーーっ」


 今だにフランクリンの首にぶら下がっている俺のホッペをグニグニともて遊ぶシャル。
 別に不快じゃないので、遊ばせたままシャルの言葉に答える。


「うん。でも出来るだけ自分で何とかしてみる」
「ま、頑張れ」


 その後、他の団員とも軽く話をしたあと、俺はノブナガと一緒に現在の修行場所へと帰っていった。
 あ、ちゃんとマチにはどこで修行しているか話してね。



[9630] 第6話「初仕事」
Name: アキ◆1505fff1 ID:2bbbedfc
Date: 2011/01/27 12:06
 とある街の郊外に建つ大きな豪邸を、建物全体を見下ろせる丘の上に佇む5人の人影。
 もちろんその人影は旅団の皆と俺+αなわけで、シャル、マチ、ノブナガ、ウボォーギン、そして俺とテトという編成だ。

 邪魔にならないようにと、パクにポニーテールにしてもらった髪が気になって弄っていると豪邸を眺めていたシャルが、時間になったのか俺に声を掛けてくる。


「それじゃあユイ、奴《やっこ》さんの戦力分析をよろしく」
「分かった」


 シャルの言葉を受けて、俺は右手を前に突き出し能力を開放する。

 風船が膨れるように、右手の中指にある指輪の宝石部分からオーラの塊が生み出される。
 掌サイズまで大きくなった“それ”は地面に向って垂れ、途中で白蛇へと姿を変えた。
 そして、音もなく地面に着地すると俺の足元に擦り寄ってきて、赤い瞳を俺へと向けてくる。


 これが俺の念能力「体を持たぬ下僕達(インビジブルユニット)」である。

 ……そこ!!名前のセンスないとか言うな!!これでも頑張って、いい名前をつけたんだからな!!

 詳しい能力は秘密だが、“指輪”に記録した念獣のイメージをオーラを送ることで顕現させる。
 話せる内容はここまで、「今はこれが精一杯」なんてな……そこ! 可哀相な子を見るような目で見るな!!




 とにかく、上記のような能力であり現在顕現している念獣の名前は「ハクタク」


「ほう」


 前見せたときよりスムーズに顕現させたことでウボォーが感心した声を漏らした。
 その声が嬉しくて、緩みそうになった頬と集中力を慌てて気を引き締めると、念獣に指示を出す。


「行って」


 別に声に出さなくてもいいのだけど、まだ完全に使いこなせていないから、声に出すことで自分にも言い聞かせるように使う。

 ハクタクは俺の言葉を待っていたかのように、その場で軽く飛び上がると地面へダイブしてそのまま地面へと吸い込まれるように消えていった。

 ハクタクが移動するのを感じながら、右手のオーラを維持しつつ、右目だけ”凝”を行う。
 すると右目に映る景色が、今まで見えていた見ていた景色から豪邸の門が見えるところまで接近している景色へ……地中から顔を少し出したハクタクの見ている景色へと変化する。


 これは、偶然見つけた能力である。
 最初ハクタクは奇襲用で生み出し、操作しながら“円”や“凝”を出来るように修行していた。
 そして深く考えず、目に“凝”をしたら見えるようになっていたのだ。

 キコ族の能力かなと思ったけど、調べることが出来ないので考えるのは保留中。


「表門には10……ううん、12人いる。それなりの実力者も何人か要るけど一般人で、能力者はいないみたい」
「ふむふむ」
「次、裏門にいくね」


 表門の見張りの人数を確認できたあと、裏門へとハクタクを移動させる。


「裏門には7人で……あっ、能力者が二人いる」


 ”練”をしている体格のいいスーツ姿の男と、ジーンズにTシャツのラフな格好の女が、周囲に視線を配りながら見張りとして立っている。
 ……ん?男のほうは何処かで見たような気がするけど、誰だっけ?


「……雇われハンターかな?」
「かもね」
「次は中見てみるね」


 すぐに思い出せないのはモブキャラだろうと判断して放置。
 俺はハクタクを操作してシャルから事前に見せられた豪邸の見取り図を頭の中で思い描きながら中へと侵入し調べていく。
 こうして見張りの配置と人数、能力者の有無などを口頭でみんなに伝えていく。

 本来であれば、こんな面倒なことをしなくても団員の能力を考えれば正面突破でも十分仕事が出来るんだけど、今回はクライアントが依頼した仕事なのでそうはいかない。

 俺は、この世界に来るまでは幻影旅団は自由気ままに強奪や殺戮する組織かと思ってたんだけど、短くない時間を彼等と過ごしているとそうではないことが分かった。

 組織というのは、運営する上で確実に資金を消費するものである。
 まあ、旅団の場合は娯楽費が9割を占めているんだけどね。
 
 そんな資金を旅団は強奪で補っているが、稀に利害が一致すると他の組織から仕事請けることがあるのだ。


 今回はそのケースというわけ。
 で、依頼内容は「建物を破壊せずに、豪邸の金品すべてを破壊もしくは強奪して欲しい」とのこと。
 強奪した物は全て貰ってもいいし、もちろんいくら死人を出しても構わないという。

 旨すぎる話だが、シャル曰く「こういうのはよくある話」だそうだ。
 裏の世界はまだ分からないが、実力のある組織を襲わせて資金と重要人物の排除を狙っているのだろうか?

 まあ、裏の世界なんて知ったことではないのだが……




 話を元に戻して、依頼内容からして普通に正面突破での行動でもいいのだが、相手が金品をもって逃走する可能性がある。

 なので、俺の能力を知っているクロロは「練習にはちょうどいいだろう」と俺にこの仕事へ参加するように指示を出したわけである。







「保管庫…保管庫…保管庫……あ、あった。見取り図の通り、地下一階の一番奥の部屋で見張りが2人、どっちも能力者だ」
「了解。ユイはその念獣をそのまま見張らせて動きがあったら連絡して」
「うん」


 ハクタクを自動操縦へと変え、今見ている景色に変化があれば連絡をするように設定して右目の”凝”を解いた。
 オーラの総量がまだまだ少ないので、無駄使いは極力しない。


「ユイの見た感じだと、あっちは事前に襲撃があることを予想してるね」
「大方、仕事頼んだ奴から情報が漏れたんだろうよ」
「警備してる人間は72人で、内4人が能力者か……」
「ユイ、その4人の能力者はどの程度だか分かる」


 みんなの話を聞いていた俺に、マチが話を振る。
 ハクタクを通して見た4人の能力者を思い出しながら、おおよその力を判断する。


「見ただけだと、保管庫を警備してる二人が強いかも……外の二人は微妙」
「となると、ノブナガとウボォーが囮になる案は難しいか」
「だ-っ、面倒くせぇ! 物をぶっ壊すなとか無理だろうが」
「仕方ないさ……そうだな、ユイに能力者同士の戦闘を見せるいい機会だから、このままいってみようか」


 結局、ノブナガとウボォーが正面玄関から殴り込みをして敵をひきつけて……というか殲滅(?)している間にシャルとマチ、そして俺が保管庫へ行きお宝ゲットという作戦でいくことになった。
 もしも能力者が正面の陽動に乗らず、警備をし続けてもシャルとマチが対処する予定。


「くれぐれも、家を壊さないようにね」
「ああ、分かってるよ」


 俺たちは裏門に向かい大きく迂回しながら移動をはじめ、ノブナガたちは表門へゆっくりと歩を進めていった。

















ドゴーーーーンッ


 そんな爆発音が表門から響いた後、無数の銃声が響き渡った。


「……家、壊してないよな?」
「さあ?」
「あの二人は…」


 シャルが額を押さえる姿を見てると、将来ハゲないか心配になる。
 そんな心配をしていると、右目に小さな違和感を感じた後、今まで見えていた景色からハクタクからの視界へと変化した。

 見えた風景は、見張っていた二人のうち一人が持ち場から離れて何処か……たぶん表に向かっていくのが映った。


「シャル! マチ! 保管庫の二人のうち一人が持ち場を離れた!」
「現場慣れしていない素人か?」
「裏門の奴等も表に移動したし、チャンスだね」
「うん」


 念のため”絶”を行いながら、俺達は裏門からお宝のある地下一階へと移動していく。
 移動をしている間にも、表門からは敵の悲鳴と銃声が鳴り響いて、生死を賭けた分の悪すぎるギャンブルをしているの分かる。




 悲鳴が聞こえるたびに、人一人の命が消えていくと思うと自然と体が震えを起こす。

 こんな世界に身をおいて、もうすぐ1年が経とうとしている。
 けど、前の世界――前世で表面上は戦争なんて昔のこととなり始めている日本で生きてきた純粋な日本人である俺。

 それでもこうして表面上は冷静でいられるのは、ノブナガとの修行のお陰か、はたまた感覚が麻痺し始めたのか……

 そんな思いを抱きながら移動していたのがいけなかったのか、すぐ近くから感じたオーラに対処が数瞬遅れてしまった。


「しまっ――!?」
「ユイ!!」


 突然口を塞がれると身体を羽交い絞めにされて後ろへと引きずり……いや、何かに飲み込まれていく感覚。
 視界の端に映ったものを見た瞬間、何に飲まれていくのか理解した。


 壁に飲み込まれてる……!!



[9630] 第7話「仕事結果とその後」
Name: アキ◆1505fff1 ID:2bbbedfc
Date: 2011/01/27 12:07
 壁に飲みこまれていく体。
 俺の服の中にいたテトは、捕まった時の衝撃で俺から離れたので無事だが、俺が壁に飲み込まれるという現状にどうするべきか迷っているようだった。

 その場にそのままいてくれと願いながら、俺は右手の薬指にある指輪から念獣を呼び出す。
 指輪から顕現したのは一羽のカワセミで名前は「ヒスイ」
 名前の通り翠色(光の加減で水色になったりする)の鳥で川辺で「チーッ」と鳴く鳥である。
 都心でも生息している場所があるので見たことがある人がいるかもしれない。

って、何を説明してるんだ俺は?


 保管庫を監視していたハクタクを解除すると、ヒスイをあと二体顕現させる……というか操ることが出来る念獣の上限だったりする。
 それ以上は操作もうまくいかず、自動操縦にしても正常に働かないし、オーラの消費量が半端ない。

 すでに身体の半分が壁へと飲み込まれている俺は、自分へのダメージを無視した攻撃を敢行すべく三体のヒスイを壁へと突撃させる。


「っ!!」


 弾丸のよう速度で激突し、生き物ならただではすまないそれは、俺の念獣も同様で衝撃音と共に消滅してしまうが壁に穴を開けることは成功した。
 それが三回連続で行われる。

 当然、自分へのダメージを無視しために左腕に激痛が走り、思わず攻撃の手を緩めそうになるのを我慢する。

 でも、そのお陰で壁が粉砕され飲み込まれていた体がある程度露出させることが出来た。
 それに、俺を引き摺り込もうとしていた奴も手を離していて、あとは力任せに壁から体を引き剥がす。

 無理に抜け出したためコンクリートに服が引っ張られ上着とズボンが破れ、下のインナーとハーフパンツだけの姿になり、さらに髪の毛も若干巻き込まれていたので手刀で切った。
 そんな俺の姿は、どこぞの強姦魔に襲われた幼女といったところだろうか?

 なんて、馬鹿な考えが頭を掠めるもすぐに振り払い、さっと自分の体の状態を確認。

 左腕の怪我以外は目立った傷はない……まだ戦える!
 新たにヒスイを3体、自分の周囲に展開させると共に、”堅”を行い臨戦態勢を整える。

 相手は、こっちを警戒してか姿を現さない。
 いや、まだ攻撃のチャンスを伺っているのかもしれない。


そういえば、シャルとマチは?
と思考が戦闘から少し逸れた瞬間


「っ!?」


 腹に何かが巻きつく感覚と同時に、身体が後ろへと大きく引かた。
 驚きながら腹部へ視線を移すと、細い糸……マチの念糸が俺に腹に巻きついている。
 
 何故?と思ったのも束の間、後ろへ引っ張られた俺はシャルに抱きとめられ、脇へ俺を抱えると保管庫へ一直線に走り出した。

 テトも、すぐさま俺たちの後を追っている気配を感じる。

 突然の事態に呆然としていた俺だったが、すぐに正気へ戻ると俺を抱えているシャルに憤りを隠せていないだろう口調で声を上げる。


「なんで!?」


 様々な意味を含めた俺の言葉に、シャルは一言。


「ユイじゃ、あのハンターに勝てないよ」
「……っ」


 シャルの一言がズシンと俺に重く圧し掛かる。
 分かってる。姿は見てないが相手と対峙したことで感じた相手の力量は圧倒的で、力の差は歴然だと思った。
 でも、やりようによっては……


「それに、気付いてないのかもしれないけど。今のユイは”纏”すらマトモに出来てない」


 え?と、自分の手を見ると所々に穴が開いているみたいにグニャグニャと不安定なオーラ、顕現させていたはずのヒスイもいつの間にかいなくなっている。

 さっきの攻撃だけで、動揺して上手くオーラを操作できる精神状態ではなくなっている自分。
 ノブナガを師匠とした修行の成果すべてが無駄であると言われているようで、言いようのない悔しさが俺の心を支配した。








 結局、その後はシャルとマチが保管庫を見張っていたハンター二人を始末。
 ノブナガとウボォーも建物を壊すことなく、警備していた人間をすべて片付けて、たぶん呼ばれている増援が来る前にお宝を持って撤退した。

 その間、俺がしたことといえば周囲の警戒とお宝を運搬する手伝いのみ……

 初の実戦ということを考えに入れたとしても、到底満足できるはずも無い。
 それどころか、俺が壁から脱出するときに粉砕した壁が契約違反だと、依頼主からのクレームが来てシャルに余計な仕事をさせてしまった。


 油断はしたつもりは無かった、若干初めてということで緊張していたのは確かだけど。

 でも、約一年だ。
 約一年ノブナガの元で修行をしてきたのに、いざ実戦に投入してみれば……役に立つどころか契約違反をして皆の足を引っ張ってしまった。

 自分の不甲斐なさに、怒りを通り越して恐怖した。

 俺はこのまま、一生役立たずなのではないのか?
 修行しても、強くなれないのではないか?
 
 そんな自己否定的な考えが普段なら浮かばないのに、今回の結果で不安定になっている俺の心が自然を浮かび上がらせていく。



 そんな恐怖心から、仕事から戻った俺は怪我の治療もせずに、今の旅団が使っている仮宿の一室に立て篭もった。
 そんなことをしても意味はないと、まだ残っていた冷静な自分は理解していた。
 でも、今は自己否定の塊である俺には理解できない。理解しようとしなかった。


 こんな役立たずは、捨てられるのではないか?
 フランクリンやマチ、シャル達が呆れて、冷たくなるのかもしれない。


 体の芯が冷水に付けられているように、スーッと冷たくなっていく。





 ふと、誰かが部屋に近づいてくる気配がして、その人がドアの前まで来た時に、ノブナガだと分かった。
 数瞬だけ、間を置いてドアの向こうから声が響いた。


「入るぞ」
「……」


 返事がないのを最初からわかっていたのか、立て篭もっている部屋にノブナガが入ってくるのを、隅で膝を抱えて蹲っている俺は空気の動きで感じとれた。
 廃ビルであるため、鍵付きドアの意味を成さない扉は錆付いてても、何の抵抗もなく開いたことだろう。


「何泣いてんだ」
「……」


 彼に言われて、初めて自分の目から涙が絶え間なく零れているのに気づくが、それを拭き取る気力が沸かない。

 それ以降、何も言わなくなったノブナガ。

 声をかけてもピクリとも動かない俺を、どんな表情で彼は見ているのだろう。


 怒っているのだろうか?
 呆れているのだろうか?
 笑っているのだろうか?

 
 どちらにせよ、いい感情を持ってはいないだろう。
 そう思うと、自己否定の塊である俺は悪いほうへと考えが向かっていき、恐怖からさらに身を硬くする。


ドカッ


 乱暴な音を響かせて、俺の隣にノブナガ座り込んだ。
 隣に座られたことで、ビクリと体を震わせるが俺はそれ以上動かない。
 ノブナガも隣に座った以降、特に何をするわけでもなくただ無言で座り続けている。

 そんな静まり返った部屋。
 沈黙に耐え切れなくなった俺は、ポツリと掠れた声を漏らした。


「呆れてる、よね?」
「……」


 沈黙。
 それは俺の言葉を肯定しているようで、現在も流れ続けている涙の量が少し増えた気がした。
 泣いている声を聞かれて、さらに呆れられたくなくて必死に声を出さないようにする。


 前の俺だったら人前で泣くことはなかっただろうな。


 もう殆ど残っていない冷静な俺が前世の自分を思い出しながら、そんな見解を述べる。




「何勘違いしてんのか知らねぇが、俺が何時”呆れた”って言った?」
「だって……だって、皆の足引っ張ってばかりで……」
「そんなもん誰も気にしてねぇよ。それに、お前が上手く仕事が出来るとは思ってねぇ」
「――っ」



 それは……期待されてないってことなの……


 ノブナガの言葉に、心が鋭利な物で抉られたような感覚を覚えて、腕の出血は止まっているのに貧血のような眩暈がして倒れそうになる。


「初めてで上手く出来る奴なんざぁ、そう簡単にいてたまるか」
「……え?」


 思わず顔を上げると俺を見ていたのかノブナガと目が合った。
 が、それも一瞬だけで、フンッと一息ついた後、前を向いて彼は言葉を続ける。


「仕事をする前に言ったはずだぞ、空気に慣れろって」
「……うん」
「今回の失敗は数をこなして慣れるしかねぇんだ。だから、落ち込むんじゃねぇよ」
「わぷっ!?」


 顔に叩きつけられたタオルで視界を塞がれため確認できなかったが、ノブナガが優しい笑み向けていた気がした。


「それに、お前はまだ発展途上なんだ。これから強くなるのに、こんな所で立ち止まってるのか?」
「……ううん!!」


 突き放すような言葉の中から見え隠れする彼の優しさに、自己否定していた俺が消えていくのを感じる。
 そんな、漫画で知っている彼とは違う一面に、つい頬が緩んでしまう。


「何笑ってんだよ」
「いたたたたっ!」


 頭にゲンコツをねじ込まれて思わず悲鳴が上がるが、顔はニヤけたままだった。

 そして気づいたときには、さっきまで自分を支配していたあの感情が消えていて、変わりに”強くなって見せる”という意気込みが俺を支配していた。



[9630] 第8話「機密情報公開」
Name: アキ◆1505fff1 ID:2bbbedfc
Date: 2011/01/27 12:07
 初仕事に失敗して不貞腐れていた恥ずかしい過去を教訓に、俺は修行を続けた。

 ちなみに、あの後は皆に仕事とその他諸々を謝罪した。
 怒られることはなく笑って許してくれたので、ノブナガに言われてても安心しきれなかった不安がすっきりとなくなった瞬間だった。


 で、修行のほうは淡々として特に話をすることがないので、その代わりとして俺の念能力について少し話をしようと思う。

 気付いている人もいるかもしれないが、俺の念能力「体を持たぬ下僕達《インビジブルユニット》」は操作系・具現化系・放出系と、三つの系統の複合技である。

 別に珍しいわけでないし、三種類の系統を使用した念能力が無いわけでない――例えばゲンスルーの「命の音《カウントダウン》」やレイザーの「14の悪魔」とか――が、現段階では俺の力量的に無理がある。

 さらに、右目に少々特殊な能力がついている俺も例外なく、一つの系統……操作系しか極めることが出来ない。
 まあ、クラピカの”絶対時間《エンペラータイム》”は例外だけど

 じゃあ、なんでこの能力を使えるんだ?という疑問がでるだろう。
 
 理由はいくつかある
 まず、俺は放出系寄りの操作系であるので有効距離が短いものの――現在の実力では(ハクタク一匹限定で)1kmが限界――使えないことはない。

 そして具現化なのだが、放出系寄りであるため低い習得率が更に低くなっている。
 この状態でいくら念獣を作り出そうとしても陳腐な物が限界で、とても実戦に使える代物にはならない。

 この問題を解決したのが、俺の右手にある指輪で、原作を考えれば”絶対時間《エンペラータイム》”並のチートな代物である。

 外見上は、グリードアイランドで使用する指輪を思い浮かべてもらえればいい。
 そして指輪の効果についてだが……実のところ、全部判明していない。

 というのも、出所不明のアクセサリーであり、外側に書かれている神字の中に解読できない文体があり、それのせいで二つの効果があるということ以外分からないのだ。
 二つの効果のうち、ひとつは判明……というか、それを使うことで初めて俺の能力が使用可能になる。


 一応だが名前をつけてあって「主を助ける道具《サポーター》」……名前のセンスは何も言うなよ。

 指輪を通すことで、具現化系でない者でも具現化系の念能力を使用できるという素晴らしいチート効果である。

 ただ一度でも使った指輪はそれ以降はその時に使ったモノしか具現化できない。
 さらに容量があるらしく、それを超えたものを具現化しようとすると壊れて、効果が無くなったただのボロい指輪になる……というかなった。

 そして、もう一つの能力と言うか呪い的な効果は、一度指に装備すると壊れるか、人体から離れる(指を切断される等)といったことが無い限り外せない。
 それを知らずにはめた俺の人差し指、中指、薬指の三本に指輪がはまっているので確認済み。



 ちなみに、俺の指にたどり着くまでの経緯を簡単に説明するとこうなる。


 団員がある骨董コレクターの家に盗みにいった。

   ↓

 面白い指輪を発見、有難く頂戴。

   ↓

 シャルが調べ、指輪の能力がおおよそ判明。

   ↓

 俺が能力開発に悩んでいると耳に入る。

   ↓

 開発の役に立ててごらんと、渡される。

   ↓

 はめるなと言われたものの、興味本位で装着する。

   ↓

 取れなくなり、大慌て……



以上。



 ……し、仕方ないだろう!!
 駄目といわれると、逆にやりたくなる正確なんだからさ!!

















 そんなこんな(?)で日付が流れるように過ぎていき……現在1997年7月15日。
 何の因果か、前世の俺の誕生日に大きな仕事のため現在の旅団全員がとある仮アジトに集結していた。

 今回も、俺は団員ではないもののノブナガの後についていって参加させてもらっている。
 前のように、参加せずに鍛錬をしててもいいのだけど……


「み、見てる…」
「目ぇ合わせるな」


 ある変態さんが俺を視姦中につき中止して、ノブナガの背中に避難中。
 こ、これ以上見るな!!妊娠するだろうが!!

 視線を合わせないために他の団員へと視線を彷徨わせていると、漫画やこれまでを合わせても初めて見る人間が二人いることに気づく。

 一人は、よく言えば体格のいい悪く言えば太っている男。
 もう一人は、ナイフで自分の爪を削っている軍服に似た服装の男。

 はて? 誰だ?


「あれは、4のガブと8のテイロだ」
「…ガブ?テイロ?」


 名前を聞いてもやっぱり、知らない。


 ん?4番と8番?
 8番は確か、シルバに殺されるはず。
 4番は……あれ?なんでヒソカがここにいるんだ?


「どこで見つけたんだか知らねぇが、ガブが推薦してるんだよ。以前から顔を何度か出してるんだが、今回の仕事を見て入団させるかどうか決めるだってよ」
「……そうなんだ」


 こっそりと、ヒソカを盗み見るもすぐに目が合い。
 ニタリとした笑顔を俺に向けてくるため、サッとノブナガの背中へと退散。


 あの変態、マジで俺のこと狙ってるっぽい。
 団長目当てで旅団にいるのに、他のやつに目移りしてるなよ。


「目ぇ合わせるなって言っただろうが…」
「ごめん」


 ヒソカの視線に犯され(卑猥な表現失礼)中に、ノブナガに怒られ意気消沈。
 でも、それはクロロが登場しヒソカの舐めるような視線無くなったことでいくらか軽減された。





 全員がそろっていることを確認したクロロは、今回の仕事の説明をさっそく始める。



 今回の仕事は、とある小国の独裁者が保有する個人保有の巨大金庫を狙うというもの。
 で、その独裁者は警戒心が異常に強いようで金庫を守るためだけの軍を設立し警備に当たらせている……国家予算で
 さらに、その中には契約ハンターがかなりの数いるという恐ろしい軍。

 というか、秘匿されている念能力を国のトップとはいえ、どうして知ってるのだろうか?


「――あと、お前等に紹介しておきたい奴が二人いる」


 一通り仕事の説明を終えた後そう言うと、クロロは俺とヒソカを一瞥する。


「え、っと…」
「行って来い」


 どうすればいいのか困っているとノブナガに背を押されて、そのままの勢いでクロロの元へ移動する。
 その間、皆の視線が俺とヒソカ…特に俺へ集まり緊張で胃がキリキリし出す。


「もう知ってる奴が殆どだろうが、ノブナガが入団の推薦をしているユイだ」
「……っ」


 クロロが俺を紹介した瞬間、視線の重圧が俺を襲った。
 昔の俺だったら、気絶しているか逃げ出してしまうほどだが、伊達にノブナガの弟子をやってるわけではない。
 平然と……はいかないが、その重圧に耐えて見せる。


「……度胸はそれなりにあるが、まだ発展途上でノブナガが育ててる最中だ」
「……」


 予想してたけど、強がっているのバレてますやん。
 俺って、そういうの隠すの下手なのかな……


「この男は、ガブの推薦でヒソカ…見たとおりの人間だ」
「ヨロシク♣」


 多分、俺と同じような重圧にさらされているはずなのに、そよ風に吹かれているかのように平然と受け止めているヒソカ。

 これが、俺と旅団レベルとの差……

 一瞬、沈みそうになった気持ちはすぐに初仕事の後にノブナガが言った言葉を思い出して持ち直す。

 気落ちするな。
 これから…そう、これから強くなればいいんだ。



[9630] 第9話「編成と素性」
Name: アキ◆1505fff1 ID:2bbbedfc
Date: 2011/01/27 12:08
 俺とヒソカの紹介が終わり、次に仕事する上での部隊編成の話になると、マチがスッと手を上げて意見を出した。


「団長、一つ聞いていい?」
「なんだ?」
「ユイと……この男は参加させるの?」


 あからさまにヒソカの名前を言わないマチを見て、ああ~この時からなんだ……とロクでもない事を思考の片隅で考える。
 ヒソカは、そんな対応にどうした風もなく「♥」とか言葉にならない何かを出している。
 若干、下半身の一部が盛り上がっているのは見なかったことにしよう。俺の精神衛生面を考慮して……


「ああ、そうだ。お前等に紹介させたのはそのためだ」
「けどよ団長。ユイはともかく、そこの男について俺達は何にも知らないぜ」
「そんな奴と組むの嫌ね」


 フィンクスとフェイタンが当人の前だというのも関わらず、嫌悪を露にする。
 そう言われることが初めからわかっていたのか、ガブが二人へヒソカの対応を話す。


「そんな邪険するな。俺とヒソカが組めばいいことだろう?」
「では、私もその班に加わろう」


 ガブの言葉に、ずっと爪を削っていたテイロが名乗りを上げる。
 さらに、突然加わる理由として


「今回の仕事は内容上、三人一組の行動が望ましい……だろう?団長」


 と付け足した。
 クロロもそのつもりだったのか、小さく笑みをこぼした後「そうだ」と答え、引き続き編成を行っていた。
 そして、




第1班
フランクリン・ノブナガ・ウボォーギン

 まあ、見たまんまの特攻組である。
 役割は陽動と敵戦力の殲滅。
 ウボォーは「久しぶりに暴れられるぜ」と喜んでいる。


第2班
フィンクス・フェイタン・ボノレノフ

 こちらも、1班と同じ陽動と殲滅を行う。
 ただ1班とは違って、敵兵からの情報収集も行う。
 フィンクスとフェイタンに情報を聞き出させるのか……敵兵憐れ。


第3班
ガブ・ヒソカ・テイロ

 話を聞くに運搬組とのこと。
 ヒソカの能力は、物を運ぶのに適して…ないよな?
 ということはガブかテイロがそういう能力なのだろう。


第4班
シャルナーク・マチ・俺+テト

 情報収集組。
 あとは、遊撃と脱出経路の確保等でいわば裏方。
 前回の初仕事がこの組み合わせだったので、俺にとってはリベンジだ!!


第5班
クロロ・コルトピ・パクノダ

 金庫捜索班。パクノダがいる時点で決定事項だけどね。
 あとは4班からの情報を得て、作戦を考える頭脳的な位置。
 4班にはシャルがいるが、多くの頭脳があって困るものでもないしね。






「決行は明日の18時だ」


 クロロのこの言葉を最後に、団員は思い思いに散っていき最後にはクロロとシャル、マチとノブナガ、そして俺だけが残った。
 まあ俺は特に用事があるわけではなく、ノブナガが帰らないからいるだけなのだけど……


「ユイ。ちょっと団長と話があるから、マチと先に帰ってろ」
「え?」
「行くよ」
「あっ、ちょっと待って!!」


 スタスタと歩いていってしまうマチを慌てて追いながら、突然のことに思わず首を傾げた。

 ん~、団長と話……俺のことかな?
 だけど、俺に聞かれちゃマズイ話じゃないよな……というかそんな気遣い、あの二人には絶対にない。
 それじゃあ、何だ?
















 歩き去っていくマチとユイをしばらく眺めた後、ノブナガは団長とシャルへ顔を向けた。
 数秒だけ沈黙が場を支配したが、クロロはそれをすぐに壊す。


「出来はどうだ?」
「初仕事がいいバネになったんだろうな。そこらにいる奴相手なら、サシで勝てるほどになったぜ」
「だが、また前回のような状態になるとも限らないだろう?」


 ノブナガのユイに対する評価を冷静に判断し、クロロは言葉を返す。
 シャルから聞いただけなので詳しく知らないが、クロロは将来ユイが旅団の一員としてやっていけるのか、今回の仕事で判断しようと考えてた。

 とはいってもまだ2度目であり、彼自身が言っていたように年齢上まだまだ成長の余地がある。
 今回は、前のときより成長しているかどうか、あとは戦闘のセンス等を判断するだけに留めておこうとも考えていた。

 ノブナガもそのことは十分承知しているため、ユイの評価を冷静に伝える。


「ねぇとは言い切れないが、それを考えて今回の班にしたんだろ?」
「確かに、俺とマチが一緒の班だと分かったときの張り切りようは、見てて微笑ましかったね」


 クロロはユイの性格を完全に把握してはいないが、彼女のこれまでの行動からすれば前回と同じ班にすれば似た様な反応をするのは予想していた。
 実際、そのときのユイが思い出されたのか、三者三様ながらも同じ意味の笑みを浮かべた。


「リベンジとでも考えてるんだろうよ。お前とマチに迷惑をかけたのを悪いと思ってるみてぇだしな」
「気にしてないんだけどね。まあ、その思いが空回りしないように見張っておくよ」
「わりぃな」


 その後もユイの話が少し続き、結果としてノブナガが望んだ「入団を前提とした様子見」となった。
 戦闘力の件は置いておくとして、彼女の念能力の出す念獣の一つである「白蛇《ハクタク》」は場合によっては重要な役割を持つ。

 いくら各団員が高レベルの戦闘力を保持していたとしても、それ以上の敵が現れるというのは稀にある。
 その稀のときは、運が良かったり複数で行動していたので撃退や撤退等で事無きを得たが、毎回そういう幸運に恵まれるとは限らない。

 事前に、敵の規模が分かっていれば対処が容易になるし、危険を事前に回避できる。
 一部の団員は強い奴と戦うことに喜びを感じている例外もいるが……




「この話はこれでいいだろう……ノブナガ、お前の用件は?」
「ああ、キコ族についてな」
「何かあったのか?」
「ユイのこと?」


 ノブナガの言葉に、クロロとシャルが疑問の声を上げる。


「ユイのこととは一概に言えねぇが…前回の仕事のときによ、右目が銀色の能力者を一人殺った」
「オッドアイということなら、そんなのは別段珍しいことじゃないよ」


 オッドアイとは「虹彩異色症」という症状を表す言葉の一つであり、犬や猫などに見られるが、人間でも症例は確認されている。
 また、可能性の一つではあるが念能力で変化する例もあるし、制約等でカラコンを入れているというのも否定できない。
 しかし、ノブナガはそれらの可能性はないと言い、その理由を話した。


「あいつの右目と同じだったからよ」
「同じ?」
「光に当たると、あいつの目が淡く光るだろ?」
「そだね。それが”ダイヤの瞳”って言われてる要因の一つだし」
「それとまったく同じだったんだよ。髪の方は茶髪だったが、染めてる可能性があるしよ」


 この言葉に、クロロとシャルは互いに考え込む仕草をしたまま動かなくなる。
 ノブナガはそんな二人の邪魔にならないように、口を開くことなく二人の答えを待ちつつも、自分も自分の意見を再度考える。
 そして、最初に口を開いたのはシャルで、二人に指を三本立てた手を見せる。


「考えられる可能性は三つ。一つはたぶんノブナガが考えている通り、キコ族であること」
「ああ」
「もう一つはキコ族と同じ容姿のただの別人……そして、念能力の関係で瞳の色が変わるということ」
「いや、もう一つ可能性もあるな」


 クロロは、考えた姿勢のままシャルの言葉を訂正する。


「裏の世界じゃあ、よくあることだろう?人体移植だ」
「ああ、それもあるね」
「人体移植?なんだそりゃ?」
「他人の臓器を自分の移植することだよ」


 シャルは、首を傾げるノブナガに簡易的な説明で納得させた。
 事実、彼の説明は間違ってはいないが、そこにドナー当人の意思の有無で大きく意味合いが違ってくる。

 提供者の意思で、相手に自身の臓器を渡すことは表の世界でも普通に行われている。
 しかし、裏の世界では当人の意思に関係なく行われている。
 普通は不良品となった臓器を良品の物へと変える“この手法”を自分の容姿の向上のために利用する人間は裏には数多くいる。
 
 そして、その被害を一番に受けるのは少数部族である。
 彼等のほとんどが、その地域で生きるうえで身体的に何かしらのアドバンテージを持っていることが多い。
 
 こうして、力の無い部族は侵略され……売買の道具にされる。


「可能性はあるけど、一介の能力者がそれをする理由が無いよ?」
「だが、可能性があることは確かだ」
「そうすると、どちらにせよユイと同族の奴がいるかも知れねぇことか」


 こうした意見が出たりしたものの、結局分かったところで自分たちには関係の無いことだということでこの話はこれで終了となった。
 ノブナガも、特に何か考えがあって報告したわけでなかったので特に何も思うことなく、ユイにもこのことを話すことは無かった。



[9630] 第10話「リベンジ」
Name: アキ◆1505fff1 ID:2bbbedfc
Date: 2011/01/27 12:08
 決行当日、目的のものがある建物……いや、宮殿の近くのある廃墟にすべての団員とヒソカと俺が集合した。

 そこで、前日に俺が偵察した敵の情報をシャルがまとめ、皆へ報告する。
 相手の念能力者が警戒している影響で、詳しく調べることは出来なかったものの、相手の戦力は大隊規模で、戦車やヘリはもちろん熟練の契約ハンターがいる贅沢な金庫守備隊であるというころは分かった。
 だが、金庫の中身がそれなりのものだからといって、過剰すぎるガードに皆から失笑が漏れる。

 敵の最低数が、予想していた以上という事態になったものの、訓練された軍人ぐらいは旅団の皆からすれば一般人とほぼ同然。
 油断でもない限りやられることはないだろう。

 だから、注意するべきは小隊規模の念能力者達。

 俺が見た限り、「常に二人一組で行動していて、それなりのオーラを纏っている者ばかり」と伝えたのに「特に問題ない」という一言で片付けられてしまった。


 思考すらも次元が違うのですね。分かります。


 結局、計画の変更無しで勧めることになった。
 そして…










 正面玄関と警備兵がウボォーの”超破壊拳《ビッグバンインパクト》”で吹き飛ぶのを合図に、皆が一斉に行動を開始した。

 俺も例外なく、シャルが先頭で宮殿に潜入し管制室を目指す。
 目的はハクタクで調べ切れなかった宮殿内部の把握と偽情報を伝えることによる撹乱。


「ユイ、何度も言うけど無理はしないこと。いいね?」
「うん」


 マチと、本日5度目の確認事項を済ませる。
 どうやら、皆の目には俺がやる気を空回りさせているように見えるらしい。

 気をつけなくては、空回りして前回の二の舞は心から勘弁願いたい。
 しかし、幸いというか制約のお陰で、頭に血が上って暴走することはないだろうから今の所は安心だけど……あ、制約で思い出した。

 俺の「姿なき下僕《インビジブルユニット》」なのだが、三体目の念獣が希望するレベルまでに現段階では到達できないことが分かった。
 現段階と言うように修行を続けていればで解消できるのだが、現在1997年でキメラアント事件が2001年。

 他の人がどう思うか分からないけど、俺的にはたった4年しかないし、実のところ他の念獣も希望した力を発揮できていない。
 だからこの際、制約をつけてしまおうという考えに至ったわけである。
 肝心の制約の内容なのだが、某復讐者のような一発で死んでしまうような重いモノは遠慮したい。

 だけど発動までに手順を踏ませる方法の制約だと、ヒスイを使った速攻が取れなくなる。
 なので、重過ぎない程度で手順を踏まない制約として


『念獣が術者の意思以外で消滅した場合、失われたオーラと比例した血液を失う』


 という制約を科した。
 命を懸けてはいるものの、ミスしなければ一発で死ぬようなモノではないし、消滅したときの制約のため戦闘開始の邪魔にならない。

 この制約のお陰で総オーラが目に見えて増加し、念獣とのリンクや操作等が格段に楽になった。

 今現在も20以上のハクタクを顕現させて、同時に半自動操作とはいえ動かしているが、少しツライという感覚があるものの今までの俺と比べれば格段に楽だ。

 シャルの後を追いつつ、随所随所で念獣に指示を出しているとゾッとするような悪寒を感じた。
 直後に、数体のハクタクが消滅すると共に制約からスッと血液が消えていく気持ち悪さとダルさが俺を襲った。


「……っ」
「ユイ?」
「んっ、平気」


 すぐに懐に忍ばせている白い錠剤タイプの造血剤を数個取り出し、口に放り込み飲み込む。
 非合法の薬ながら即効性があるので、ノブナガに借金(別に返さなくていいとは言われたが無視)して小瓶一つ分を購入し常備している。

 
 薬の副作用で、若干腹痛を覚えるが我慢できる程度なので耐えつつ、頭を回転させる。
 地面の中にいたハクタクが消滅ということは俺より上の能力者が”円”を使いそれに押しつぶされたか、相手の能力にやられたか……

 どちらにせよ相手の念能力者が動き出した証拠。
 すぐさま、生き残ったハクタクを自分を抜かした各班へと向かわせる。

 そして、能力の一つを開放し自分の腕に巻きついているハクタクに向かって声を出す。


「相手の能力者が動き出した。場所は東の―――」


 ここまでで、もう分かっていると思うがハクタクには2つの能力を付加してある。

 一つはもちろん
「土に潜れる事」
 それも念獣なので掘る等のことをする必要がない。まあ、潜水艦のようなものだ。

 そして、今回使用したのが二つ目の能力
「通信機能」
 受信と発信機能を持たせ、俺を中継して他のハクタクへと発信受信する。
 俺の近くというか“ハクタクが存在できる距離まで”という条件があるが、俺の認めた相手にしか聞こえないから傍受させれることもなく、電話のように1対1ではなく無線のような1対多数の会話が出来る。
 俺の報告にすぐ答えを返したのはクロロで、全員の居場所から一番近い第2班に向かうように指示を出した。


「――それと、ユイ」
「何?」
「念獣での探索は中止。この通信だけにしろ」
「分かった」


 クロロの指示に従って班の数だけ残し、あとは全て回収する。
 そして、回収前に見た最後の情報を先頭にいるシャルへ伝えた。

 
「数個小隊が、こっちにきてる」
「了解」


 シャルの呑気な返事をした数秒後、数百メートル先のT字路から迷彩服を着た屈強な男たちが現れた。
 俺たちを確認すると、一人の男が指示を素早く出して皆が一斉射を開始した。

 幸い隠れられる壁の出っ張りがあるので、俺たちは一斉にその影へと飛び込む。


 「うわっ!?」


 しかし、貧血の影響か一瞬だけ回避が遅れて一発の弾が至近距離を通過して、思わず声を上げてしまった。
 危ない危ないと、心の中で安堵の声をあげつつ俺と同じように陰に隠れた二人へと視線を送ると、後ろへと視線を向けたので背後へ意識を向ける。
 すると複数の足音が向ってきているのが聞こえた。

 シャルは、俺を指差した後に正面にいる弾幕を張っている奴等を指した。
 それに対して、俺は頷きを返してヒスイを数体顕現させる。

 そして、未だに射撃を続ける奴等に向けて放つと共に、地面を蹴って飛び出す。


「こ、子供!?」
「油断するな!!」


 シャルの後ろにいたために視認されなかったのか、俺が姿を現したことで数人の若い兵士が動揺の声を上げて、熟練の兵士の叱咤を受けたのが見える。
 だが、その一瞬の隙に開いた弾幕の隙間に自分とヒスイを捻じ込むと、陸上選手も真っ青の加速で彼等に肉薄する。


「なっ!?」
「がっ!?」
「ぎゃぁ!?」
「くそっ!!」


 俺とほぼ同時に到着したヒスイが、熟練の兵士の腕に突き刺さり射撃能力を殺ぎ、若い兵士には俺の蹴りが入り吹き飛ぶ。
 少女ではあり得ない身体能力に無事だった兵士が汚い言葉を吐き捨てると、俺から距離をとりつつ携帯火器の銃口を俺に向けてトリガーを引いた。
 
 が、一応“美”をつけていい容姿の少女を撃つのに抵抗があったのか、数瞬のタイムロスを作り出してしまい、俺はその隙にその場から離脱すると共に熟練兵を攻撃した後で待機状態になったヒスイと、新たに顕現させたヒスイを残りの兵士へと向けて放った。









「まあ、こんなもんか」


 特に手が汚れているわけではないが、手の平を擦るように叩きながら周囲を見渡す。
 そんな俺の足元には、意識を刈り取った兵士が散らばっていた。

 誰も死んでいないのは殺すという行為に抵抗があるためではなく、情報収集するために生かしたまま戦闘能力を奪っただけに過ぎない。
 訓練された兵士でも、軽くあしらえるようになった俺がいることに今更ながら気づき、思わず苦笑いが漏れる。




 が、チリッと首筋に感じた違和感に、反射的にその場から退避すると、先ほどまでいた場所にサバイバルナイフのようなものがコンクリートの地面にも関わらず、深々と突き刺さった。
  
 攻撃が飛んできたT字路に目線を向けると一つの人影。
 性別は男、黒縁の眼鏡を付けて、地面に寝ている兵士達と同じ迷彩服を着ているが、彼らと違って殺意が篭った大きなオーラをこちらへ向けている。

 ここにいる念能力者の顔を全部覚えているわけではないが、十中八九というか絶対に小隊規模の念能力者達の一人だ。


 一人で行動しているのか? と疑問に思う前に自分の後ろから新たに二つの殺意の篭ったオーラを感じ3人かと判断を改めた。

 目の前の相手を警戒しつつ後ろを確認すると、大勢の迷彩服姿の男達が地面に突っ伏している中で、シャルとマチがオーラを纏った二人と相対している。
 

「私は子供にしよう」
「んじゃ、俺は女をやるわ」
「俺は男のほうか」


 目の前にいた眼鏡の男が俺を狙う宣言すると、残りの二人もそれぞれ狙う相手を宣言しあう。
 視線を戻すと、何時の間にか両手には先ほど投げつけてきたナイフが逆手に握られ、場慣れしているのか不敵な笑みを浮かべている。


「一人でやってみな」
「…う、うん」


 視線を向けないまでも気遣いの篭ったマチの言葉に、緊張した声で返す。
 俺の言葉を聞いて、気のせいだろうけど二人が笑みを浮かべた気がした。
 まあ、確認する前に二人とも相手とともにどこかに消えちゃったから、本当に気のせいかも知れないけど……
 




「さあ、始めようか」

 
 二人だけになったかと思うと、男はおもむろに懐から酒瓶を取り出し、後ろへと投げ捨てた。
 酒瓶は物理法則に従い落下すると、地面にぶつかって中身を床一面に広げながら割れた。


「私はね。ロリコンというやつらしいんだよ」
「……は?」


 男の言葉に、思わず間抜けな声を出してしまう。
 が、俺に答えを求めたわけではないようで懐から酒瓶を取り出し、さっきと同じように投げ捨てる。


「未熟で成長を秘めた身体、澄んだ水のようなソプラノ、そして幼さゆえの甘い香り」
「……」


 器用に、持っているナイフで体を傷つけないようにしながら自身を抱きしめると、体を少し震わせる。
 そうして数秒の溜めを作った後、熱の篭った声を上げた。


「ああっ、想像しただけで堪らない!!」


 そして俺に視線を向けて、何を想像したのか光悦とした表情をする。






 ぎゃーっ! この人、変態かよ!!


 男の言動に、思わず後ずさってしまう。
 しかし、相手は念能力者であるということを思い出したのと、悶えていた男が急に動きを止めたことで、俺も動きを止めて相手の出方を伺う。
 
 俺のその行動に男はニヤリと笑みを浮かべ、右手のナイフを順手に持ち直して振り上げる。


「だから少女よ、私のコレクションの一つになってくれ」



 そして、それを地面に思い切り投げて突き刺さらせるとナイフ自体に仕掛けでもあったのか、後ろに捨てた酒が発火する。
 炎を背にした男の存在感がグッと増した気がして、一瞬だけ気圧されてしまった。
 
 そんな俺のその隙を狙っていたのか


ガクンッ


「!?」


 急に足元が不安定になり、思わずバランスを崩しそうになる。
 慌てて足元を見るが、普通にコンクリートの廊下の上に足はある。

 どうして? と思うまもなく、自分が今”凝”を行っていないことに気付き、自分の迂闊さに腹が立った。

 相手が念能力者の場合は、”凝”を行うのは当たり前なのに相手の変態発言に気をとられ、”凝”をいつのまにか解除していたようだった。
 改めて”凝”を行うと、男の影が背中からの炎で俺の足元まで延びていて、その影から黒い触手が俺の足に絡み付いていた。
 足を動かそうとしてもピクリともしない。

 制約でもつけて強化してあるのか、ただ単に俺よりレベルが高いか…
 後者のほうが可能性が高いが、両方という可能性もある。
 どちらにせよ、先手を打たれてしまったのは事実。

 これ以上、相手に先手を打たれないように今以上に警戒を強めた。



[9630] 第11話「満身創痍」
Name: アキ◆1505fff1 ID:2bbbedfc
Date: 2011/01/27 12:09
 風を斬る音と共に喉に迫るナイフを“周”で強化したヒスイを盾にして防ぐと、金属同士の衝突音と火花が目の前で起こった。
 本来であれば、この攻撃は避けれる攻撃なのだが、足が固定されているために上手く避けられないので防御をするしかない。


「っ……かはっ!?」


 いつもとは勝手が違う行動をしたために、目の前で散った火花が目に入るのを避ようと無意識に顔を逸らしてしまう。
 その為、相手が空いている手でボディーブローを“堅”でガードしているだけで何の構えもせずに受けて、思わず身体を屈折させてしまった。
 そして、無防備に晒した首筋に向ってナイフのグリップ部分が振り下ろされ、激痛が俺の意識を一瞬だけ刈り取った。

 
「~~っ……こんのっ!」
「おっと」


 吐き気を抑えながら反撃として、腕を振るった勢いを加えたヒスイを撃ちだすも、寸前のところで回避され有効射程外へと逃げられる。
 このようなやり取りが今ので3回目を迎え、俺の体は悲鳴を上げていた。

 幸いというか、ロリコン野郎は俺を生きたまま手に入れたいのだらう、殺すような攻撃をしてきてこない。
 しかし、それは逆に生殺しになっているということで、意識を刈り取るために放たれた急所への攻撃痕が青痣となって俺の体に刻まれている。


「君は思ったより頑丈なようだ」
「はぁ…はぁ…はぁ…」


 男は両手に持ったナイフをジャグラーのように弄びながら、余裕の篭った声で俺に話しかけてくるが、答える余裕の無い俺は無言―荒い呼吸―で返す。
 

「私としては、これ以上は作品を傷つけたくないんだ。そろそろ諦めてくれないか?」
「はぁ…はぁ……こと、わる!」
「ふぅ……強情なのは時に長所となるが、短所となる時が多いのだ、よ!」


 言葉の勢いに乗って接近し、攻撃を仕掛けてくる。


ガキンッ


 そんな4回目にして聞きなれた金属同士の衝突音のような音が響き、俺の首はヒスイによって守られたことを確認する。
 ほぼ確信できてたけど、”周”で強化されている鎌もそれなりの量を注ぎ込んだヒスイでならガードできる。

 さすがに4回目となると体勢の不利や、火花を散らさずに防ぐ方法が分かったために完全な防御で作り出した相手の隙に、俺はオーラ割合80ぐらいの右ストレートを腹部へ叩きこむ。
 しかし、男が咄嗟にバックステップで後退されたことによりダメージを与えられなかったが、俺はさらに伸ばした腕をカタパルトに服の中に仕込んだヒスイを弾丸のように撃ちだす。


「ごはっ!?」


 弾丸となったヒスイは男の腹部を貫通し、予想外のダメージに男の顔が驚愕で染められた。
 しかし、さすがというべきか男は伸ばしっぱなしになった俺の右腕を下から蹴り上げることで反撃をしてきた。


「あぐっ!?」


 右腕から嫌な音と激痛が走り、後ろへと転びそうになる勢いに“たたらを踏みながら”も耐えた。
 さっきの攻撃で解除されたのか、俺はたぶん折れてしまった右腕を押さえながら足元の影の触手が消えていることを確認する。

 次に、男のほうへ視線を向けると、腹部から溢れ出る血液を片手で押さえながら苦悶の表情で俺を見ていた。
 だが、それも数秒だけで、すぐに狂気に満ちた笑みを浮かべ


「ククッ……クハハハハッ!最高だ!最高だよ君は!!」


 傷口を押さえていた手を口に持っていくと、手についた血を舐めとる。
 それだけの動作なのに、俺は言い様のない悪寒に晒された。


「あぁ~っ、久しぶりの自分の血だ。ここからは手加減しないよ」


 その男の言葉を証明するように、いっきに男のオーラが増加すると、出血し続けていた腹部はオーラの増加に比例して出血量が減っていき最後には完全に止血された。
 

 オーラを集中して出血を止めた?
 いや、そんなことできるのか?


「いや、手加減はしよう。君は私の最高のコレクションになるのだから、壊れてしまっては困るからね」


 そういって、一歩こっちに向けて歩を進める。
 たったそれだけで、男からのプレッシャーというか圧力が増して押しつぶされそうになる。
 しかし、このまま男の言うとおりコレクションの一つになるつもりは毛頭ない。
 
 潰れそうになる心を奮い立たせ、恐怖で震える足に活を入れ俺は男と対峙する。
 そんな俺の姿に、男はさらに笑みを濃くする。


「そう、その顔だ。その心だ。君は今までのコレクションの中で最高のものだよ」
「お前のコレクションに、なる気は…ない!」
「その反抗的な目……服従させてみたいよッ!」


 そういうと一気に俺との距離をつめると同時に、ナイフを握ったままストレートパンチを俺の胸にめがけて放ってくる。
 その攻撃にヒスイを盾にして受け止めてから反撃しようと、胸と拳の間に一応先程よりもさらに“周”で強化したヒスイ出した。
 
 さっき攻撃で、刃を止められたのだから拳も大丈夫だろうと考えた。
 だが、何の抵抗も無くヒスイは粉砕され強烈な突きが俺の胸部へ直撃。
 受身を取る暇もなく、大きく吹き飛ばされ壁へと激突した。


「かはっ!?」


 肺の中の空気が自分の意思を無視して吐き出された。
 幸い、ヒスイが破壊されたと同時に胸の辺りのオーラを増やし防御力を上げたために肋骨にヒビが入るという結果で済んでいるものの、衝撃のショックと制約の失血で意識が薄れていく。

 物理法則に従い地面へとずり落ちる俺に男は再度接近し、首を鷲掴みすると自分の目線と合わせる為に持ち上げる。
 当然、身長差から俺は宙に浮くことになり、気管を絞められた息苦しさから首を掴んでいる手を動かせる左手で外そうとするも、朦朧とする意識下の行動ではビクともしない。


 クソッ、完全にこいつに主導権を持っていかれてる……!


「……ん?珍しい瞳を君は持っているねぇ」
「っ!!」


 勝利は確定したと判断したのか、無遠慮に俺の体を観察していた男は、俺の右目が通常とは違うと気付き、髪の毛で隠れている右目を良く見ようと手を近づけてくる。
 そんな行動が、男の時の俺が持つ“ある記憶”を呼び起こした。







 何度も蹴りられ悲鳴すら上げることの出来ない俺……
 
 そんな俺を見て見ぬ振りをする母……

 俺を蹴るのに飽きたのか、俺を蹴っていた人間は俺の胸倉をつかみ同じ目線まで持ち上げた……


「―――ッ!!」


 その人間の行動に母が何か悲鳴のような声を上げる……

 それでも、その人間は、厭らしい笑みを浮かべ……

 俺の胸倉をつかんだまま、空いている手で俺の…俺の…俺の……











プチンッと、何かが切れる音が俺の頭の中で響いた。


「うあああああああああああああああっ!!」


 何処から出しているのか、叫び声を上げながら俺は“硬”で強化した足で、首を絞めていた男の腕を蹴り上げた。
 “堅”を解いていたのか、俺の蹴りを食らった腕は有り得ない曲がり方をすると俺への拘束を解いた。


「何!?」


 その攻撃に、男の動きが反応が遅れたのを逃さず、俺は拘束から抜け出し左拳へ“硬”を移動させて左ストレートを男の腹部……傷がある場所へ自分へのダメージを無視して打ちこんだ。
 反動で肩から鈍い音がするとともに、左腕の感覚がなくなる。

 が、今はそんなことよりも目の前で体を”く”の字にして苦しんでいる男へと意識が向く。


―コロセ、コロセ、コロセ


 頭の中で、憎しみの感情と共にそんな言葉が響き渡る。
 そんな感情と言葉を俺は受け入れて、残り少ないオーラでヒスイを何体か生み出すと連続して男へと撃ちだす。


「甘く、見るなぁ!!」


 余裕がなくなっているのか、男は荒い言葉を吐きながら向かってくるヒスイを打ち落とすためにナイフを構えるが、地面から飛び出てきたハクタクが絡みついたことで体制を崩した。
 そんな男へ、ヒスイたちは胸……心臓へめがけて飛んでいき、レーザーのように貫く。

 ゴフッと大量の吐血後、男は身体を硬直させたまま前のめりに倒れこむと、ピクリとも動かなくなった。
 それと同時に、俺の中にあった憎しみの感情も消えてると片足をついて息を整える。
 初めての殺人を犯したが、極度の疲労が正負どちらの感情も打ち消してしまっていて、今は何も感じることは無い。

 ふと、男の首筋に見たことのあるトランプが刺さっているのが見え、はっと視線を巡らすとちょうど、男の真後ろに……


「やぁ♥」


 ヒソカが、トランプを両手で弄びながら近づいてくるのが見えた。

 いつもは、近づいて欲しくない人間No1の奴なのに、今は知っている人間が傍にいるという安堵感が俺を包み込む。
 そんな安堵感から、今まで感じていなかった両腕の痛みや、失血による吐き気や眩暈等が俺をその場に座り込ませる。
 しかし、意識だけは意地でも失ってなるものかと気力を振り絞り、ヒソカへと意識を向けた。


「随分と手酷くヤられたねぇ♠」


 いっぱいいっぱいの俺にヒソカは楽しさを我慢した声で話しかける。
 そのワザとらしい話に反論する気力は無く、息も絶え絶えに素直に応えた。


「ヒソカが……援護してくれなければ、負けてたかもしれない、ね」
「♠」


 たぶん、ハクタクの攻撃だけでは体制を崩すのは難しかっただろう。
 結局、まだ足手まといのままだということが酷く悔しかった。

 そんな思いと巡らせてから、シャルとマチはどうなった気になった。
 有り得ないことだが、二人がやられることは無いにせよ。何処にいるのか知っておきたかった。

 ヒソカが知っているかもと口を開きかけるが、俺の心を読んだのか先に答えを言ってくる。


「ああ、二人なら宮殿の外だよ◆」
「外…?」


 ヒソカの説明によると、二人は相手の能力者によって宮殿の外へ一緒に移動させられたそうだ。
 で、二人に張り付かせていたハクタクが消えたことによって俺に何かあったのかと思い、一番近くにいた班からヒソカが見に来たということらしい。


 また、皆に迷惑をかけてしまった。
 悔しさがこみ上げて、若干視界が歪んだ。

 だが、


ブルブルブルッ


「ひゃっ!?」


 そんな俺を叱咤するように、ズボンのポケットからもしもと言うときに使うよう渡されていた携帯が震え、喉から変な声が出てしまう。
 俺の上げた声に、ヒソカ一瞬驚いた表情をするがすぐに小さく笑い出した。
 そんな彼に一睨みしたあと携帯をとろうと手を……


「ど、どうしよう。両手、使えない」


 先の戦闘で両腕が使えなくなっているのに気付き、どうにかして携帯を取ろうと四苦八苦していると


「取ってあげるよ♥」


 そういって、ヒソカの手がポケットへ…


「ひっ!? ちょっ、何処触って……!」
「気にしない♥、気にしない♥」
「気にすr…って…あっ、馬鹿! そこは!?」
「ん? ここがいいのかい♣?」
「ちがっ……あっ……んっ……やめ、ろっ……」



――カット――




「……腕が完治したら、絶対に復讐してやる」
「待ってるよ♥」


 ヒソカにお姫様抱っこされるという屈辱に耐えながら俺は仕事を終えた皆の下に帰るのであった。
 ……え?カットした部分で何があったかだって?
 
 ハッハッハッ……ヒソカがロリコン野郎だったで察してください。




 うう……穢されてしまったよママン(?



[9630] 第12話「旅立ち」
Name: アキ◆1505fff1 ID:2bbbedfc
Date: 2011/01/30 13:44
 何の感じない真っ暗な世界……

 立っているのか、座っているのか……

 上下左右の感覚……

 暑さや寒さも……

 何も感じない真っ暗な世界……




 そんな中に俺は目を瞑り、耳を塞ぎ、体を丸め、ひたすら目が覚めるのを待った。

 これは、俺の夢。
 そう自覚できるが、自分の思い通りには出来ない夢。







―――ロシッ


「……っ」


 微かに聞こえた声のようなものに、俺の体が強張った。


 ”アレ”がきた…


 そう思い恐怖すると同時に、もう少しで目が覚めると小さく安堵する。
 が、すぐに気を引き締め”アレ”に備える。
 
 そして……


『痛い、痛い……身体が焼けるようだ』
『ああ、血が止まらない』


 聞き覚えのある二つの声が俺を取り囲むよう反響し包み込んだいく。

 一つは、先の戦闘で倒した男。
 一つは……


『ああ、憎い、憎たらしい……この親不孝者め!』


 前世での父親……いや、あんな奴は親ではない……あってなるものか……
 あいつは、あの下衆野郎は……!!















バチッ


 そんな音が出そうなほど、勢いよく目を開く。
 ここ数日で見慣れた天井が目に入り、目が覚めたんだと自覚する。

 目が覚めた後は、普段ならノブナガと俺の二人分の朝食を作らなくてはならないのだが……
 両腕にはギプス、首と胸と足には包帯…


「どこの重傷人だよ」


 テレビの中でしか見たことの無い現在の姿に、思わず苦笑してしまう……いや、実際に重傷なんだけどね。
 しかし、熱が篭っていてムズ痒いような感じがあるだけで痛みとかが一切ないから、いまいち実感が持てない。

 まあ、屁理屈を言っても怪我をしているという事実は変わる訳もない。
 そして、今日こそは”あの人”が来る前に汗で濡れた服を着替えようと、体を起こしてパジャマ代わりのTシャツに手を掛けたるが、


「また、無理して着替えようとする」
「うっ」


 呆れた声に、若干怒気が混じっている声が俺の背後から響く。
 俺は、油が切れた機械のようにギギギッと首を声のしたほうへ向けると


「だ、大丈夫だってば…パクは心配しすぎだよ」
「……」


 いつからいたのか、仁王立ちしたパクにいつもと同じ弁解するが…


「あら、そう? じゃあ、身体に“聞いて”みましょうか」
「ゴメンナサイ。着替エヲ手伝ッテクダサイ」


 即答ですが、何か?


 さて、パクに着替えさせられるという最近芽生えた羞恥心を誤魔化す為に、現在の状況の整理でもしようかな……
 そこ! 現実逃避じゃなくて状況整理だ!!



 現在の俺は、この間の戦闘で負った怪我を通称”BJ”と呼ばれる医師とそっくりな闇医者に外科処置を受けた後、近くのホテルで入院もどきのような生活を送っている。
 定期的に診て貰うには流星街より、街の近くにあるホテルのほうが便利なためだ。

 しかし、当然ながら大怪我をした人間を泊めるのにホテル側の人間は難色を示すも、ノブナガの拳と紙束で快く(←ここ重要)承諾したそうだ。
 ……あれ? 紙束だけでよかったんじゃね?


 ともあれ、ホテルでの療養生活が始まったのだが、ノブナガは用事があると言ってパクに俺を預けると二週間ほど前に出て行ったきりまだ戻ってきていない。
 俺を預ることになったパクなら何か知っているだろうと、聞いてみるものの


「ノブナガ、どこいったのか知らない?」
「さあ? 私には分からないわね」
「そっか」


 収穫ゼロ。
 仕事以外は特に集まらない旅団なのだから、これが普通といえば普通なのかもしれない。

 そして何も出来ない日々の中で、俺はある場所に行ってみたいという願望がフツフツと湧き上がっていった。


”天空闘技場”


 キルアはもういないだろし……ヒソカはいるかもしれないけど、既に(不本意だが)知人関係だから問題ないだろう。
 そこで多少なりとも金を稼いだ後、200階以上に行き俺に絶対的に足りない実戦経験をつんでいけば、前回や前々回のようなことにはならないんじゃないのか? と考えている。

 だが問題として、この案は俺の保護者であるノブナガに許可を取らないとならないし、行動云々の前に怪我を治さないといけない。
 だから、今はフツフツと湧いてくる思いをどうノブナガを説得するか、という思いに変えて日々頭を捻っている。








「――そうだな。実戦が仕事のときだけってのは確かにアレだな」
「だから、行ってみようと思って」
「……分かった。行ってこい」
「ありがとう、ノブナガ!!」
「ぬあっ!? いきなり抱きついてくるんじゃねぇ!!」
「痛っ!?」




 以上が、約三日前の会話である。
 6ヶ月の療養生活で、右腕以外をほぼ完治させた俺は、ノブナガの説得に乗り出した。
 最初は許してくれないだろうと思っていたが、さっきの会話どおりすんなりと承諾してくれてちょっと拍子抜けしてしまうも、認めてくれたことは変わりない。
 嬉々として旅の準備をして今日、出発の日となったのだ。



 年を越えた1998年1月。
 ノブナガに貰ったフード付きコートを羽織り、パクが選んでくれた数点の服と、少量のお金、あと携帯電話を少し大きめのショルダーバックに入れ、肩にかけた。

 そして、久しぶりの再開となるテトが俺めがけて突進してくる。


「テトッ!」


 前回の仕事の関係上、流星街の知り合いに預ってもらったのだが、俺が怪我をして近くのホテルでの療養生活に移ってしまったので約半年振りの再会である。

 その半年は、テトを成長させるのに充分な時間で俺の記憶の姿より一回り大きくなった体に、孫に久しぶりに会った祖父母のような感情が込み上げてきた。
 テトも俺に飛びつくと、喉を鳴らしながら全身を俺にこすり付けてくる。


 そうして、久しぶりの再開を喜び合った後、テトを定位置である肩に乗せて見送りに来てくれた人へと向き直る。
 見送ってくれるのはノブナガとマチとパクの三人。
 
 マチにいたっては、わざわざ見送りのためだけに流星街まで戻って来てくれて、嬉しさで少し涙ぐんでしまったのをバレないようにするのに苦労した。


「まあ、それなりに頑張ってこいや」
「うん」
「何かあったら無理せずに電話しな」
「分かった」
「気をつけてね」
「……ありがとう」


 漫画の中のキャラだけど、こうして長い間接していれば家族愛に似た感情を持ち始めた。
 そんな彼らと長い間、離れて暮らすことに今更ながら悲しさが俺の胸を一杯にし、掠れてしまった声を皆が気づかないフリをしてくれたことに、感謝し更に胸が一杯になる。

 こうして、俺は旅団の元を離れて一人で外の世界へと足を向けた。










 今回の旅について、幾つかやっておきたいことがある。
 
 まず、ハンターになることが一つ。
 この世界に来て、結構な月日を過ごしていると自分と同族の存在が少しずつだが確実に気になり始めていた。

 本当に絶滅した種族なのだろうかとか、右目に関することとか、その他にも知りたいことが沢山ある。
 だが、調べる上で必ず障害がでるからそれを回避するためにもハンターになったほうが得である。
 最終目的は違えど、クラピカと同じ行動原理というわけだ。

 次に、神字についてある程度学んでおきたい。
 自分の指にはまっているこの道具について詳しく知りたいし、できるのであれば、チートなこの指輪をもっとチートにしてみたいとも思っている。

 後は、原作のキャラに会ってみたい。
 最初のころは、主人公達周辺の死亡率の高さやストーリーに巻き込まれることを懸念して遠慮していた。
 だが、この漫画を好きな者として一目でもいいから彼等を見てみたい。


 ひとまず、これらが今現在の目標というかやってみたいことである。




「でも、まずは闘技場でお金を稼がないとだよね」


 偽造パスポートで、天空闘技場のある町へ飛行船で向いながら自分の懐の寂しさを思い出した。
 旅団の皆には内緒にしていたことだけど、俺のために使ったお金をいくらか返そうと考えている。
 今回の旅の準備やパスポートの偽造等に掛かったお金や、今だ完治していないが怪我の治療費とホテルの宿泊費etc……
 
 ざっと見積もっても数億は軽く超えている。
 そんなお金を、ポンと俺に使ってくれた皆には感謝していると共に申し訳ないと感じている。

 しかし、お金を返したからといって「はい、これでおしまい」という訳ではなく。
 まあ、今までお世話になったほんの少しの感謝みたいなものだ。






 あ、そうそう。
 偽造パスポートの名前の欄だけど…

「ユイ=ハザマ」

 である。
 ……だからなんだと言われると、それまでなんだけど一応報告ね。



[9630] 第13話「ユイ=ハザマ、9歳です」
Name: アキ◆1505fff1 ID:2bbbedfc
Date: 2011/01/27 12:10
 数時間の船旅を終えて街に着いた俺は、すぐに“ある物”を見て「おお~っ」と声を上げてしまった。
 ここから結構離れているはずの”天空闘技場”が見えたからである。

 前世で見たことのある一番高い建造物といえば某電波塔なのだが、あれとは比べようもない高さである。
 さらに、天空闘技場は名の通り闘技場であると共に、選手専用の部屋が何百もあり桁違いな建物なのだ。

 遠目からも大きい建物だと分かるのに、あれよりさらに高い建物が3つもあるのだから、この世界の規格外さを改めて実感する。
 ともあれ、いつまでも田舎丸出しの反応をするのは恥ずかしいので、バスに乗り天空闘技場へと向かう……前にお手洗いへ






 誰もいないことを確認した後、鏡の前に立つとバックの中を漁り、少し大きめな髪留めを取り出す。
 一旦それを口に咥え、ストレートの黒髪をポニーテールにした後、それを捻って団子にして髪留めで止める。
 次に、前髪をいじって右目をさりげなく隠す。
 最後にフードを被って……はい、完了。
 洗面台の隣で俺を見ていたテトは、この行動の理由が分からないのか首を少し傾げる。


 自意識過剰かもしれないが、皆(もちろん旅団の皆)に目立つ容姿といわれているから不特定多数の人間がいるところでは、あまり姿を見せないようにしないと、例のロリコン野郎みたいな人間が近づいてくるとも限らない。
 別に姿を隠している参加者は沢山いるだろうから、目立つことはないだろう……多分。


 「よし」と変装(?)した自分の姿を鏡で確認して、コートの中へテトを潜りこませると、改めてバスへと乗り込んだ。






 目的地までの移動時間を考えて、バスの後部座席に座り、修行の一環として人間観察をすることにした。
 旅団に関わっている以上は賞金首《ブラックリスト》ハンターに狙われる可能性があるから、相手を見極める技能はあって困る者じゃない。
 シャルやパクから、そういった技能の初歩を習っているので経験値を積むために乗客相手に試すことにする。


 そして、空港から目的地に近づくにつれて観光客の中に”いかにも”な人間が混ざりはじめてきた。
 身体に傷を大量に持っている人間や、堂々と刀剣を持っている人間、前世ではギネスに乗りそうな巨漢の人間。

 ただ、なんというか……前世の俺だったら周りにいる観光客のように怖がっていたかもしれないが、旅団の皆や仕事で会った敵とかに見慣れてしまっているためか、一般人と変わらない様に見えてしまう。
 確かに、それなりの力を持っているようだけど、俺としては違うのは服装と顔つきだけ……みたいな?

 たぶん、このバスに乗っている参加者で100階を越える人間はいないだろうなぁ
と勝手な予想を立てて、「ご愁傷様」と小さく合掌しておいた。
 そして、俺のコートの中にいるテトは可愛らしく前足を手招きするように動かして合掌の真似事をして、俺を萌え殺す。


 グハッ……
 なんという威力だ。
 一撃必殺ではないか……バタッ











 そんな馬鹿な出来事以外、特に問題なく天空競技場へ到着した俺を待っていたのは、参加希望者達が作る長蛇の列。
 思わず溜息が出てしまうほどの長さである。

 並ぶの面倒だなぁと思っていると、コートの下に隠れていたテトが突然俺の首元からヒョコと顔を出すと、クンクンと鼻を鳴らして”ある一点”に視線を向けると、それきり動かなくなった。


「ん? テt……あ~、そういうこと」


 テトの視線の先には、肉の焼ける匂いを辺りへと撒き散らすホットドックの出店。
 自分の願いに俺が気付いたと感じたテトは、俺の頬に顔を押し付けて甘える声を出しながら”おねだり”を開始。


 ぐっ、可愛すぎる。
 いやまあ、買ってあげてもいいのだが、そうするとただでさえ寂しい懐がさらに寂しくなる。

 しかし、俺の怪我等のせいで今まで構ってあげられなかったから、これくらいはして上げよう。
 それにどうせここで結構な額を稼ぐつもりだ。



 そんな意気込みと覚悟を持って出店に向ったが、それは見事に空振りに終わった。
 なぜなら……




「オジサン。一つください」
「あいよ! ケチャップとマスタードはどうする?」
「えと、この子に食べさせるので付けなくて大丈夫です」
「そんなら、その小せぇ奴用のを作ってやるぜ?」
「えと、お金そんなにないんで…」
「気にすんな、嬢ちゃんみてぇな可愛い子なら、このくらいサービスしてやるよ!」
「っ!? じょ、冗談はよしてください!」
「がはははっ、顔を赤くしちまってウブな嬢ちゃんだなぁ」
「だ、だから――!」
「ほれ、嬢ちゃんのと小せぇ奴用だ」
「ぅ~、ありがとう……いくらですか?」
「からかっちまった詫びだ、金はいらねぇよ」
「え、そんなの!」


 数回の押し問答の末、俺は後ろで待っているお客さんの視線に促されて、結局タダで俺用とテト用のホットドックを手に入れることになった。

 ラッキーな出来事だと分かっているのだが、今だ心のどこかで男としての感性が残っている今は微妙としか言いようない。可愛いと言われて満更ではないと思っている自分もいるのだが……
 とにかく、得したことは確かなので心の中でオジサンに感謝の言葉をかけると、


「いただきます」


 列に並びながら俺とテトはホットドックを頬張り、予想以上に美味しさに顔を綻ばせた。
 ……若干、生暖かい視線を感じたが、気のせいだ……気のせいに違いない。

















「天空闘技場へようこそ。こちらに必要事項を記入してください」


 待つこと1時間。
 ジッとしていることに飽きて寝てしまったテトを、服の中で抱きながら待っていた俺の順番がようやく回ってきた。
 営業スマイル3割、ムズ痒くなる笑顔7割な受付の人から渡された用紙を受け取った俺だが、ペンを持って固まってしまった。


 生年月日…どうしよう…?


 この記入欄を見るまで、自分の年齢についてなんて“ここ”に来てから考えたことが無かった。
 適当に書いてもいいのだけど、なんとなく嫌だ。

 じゃあ、いつにすればいいのか?
 そう聞かれると、何年がいいのか思い浮かばない。


 うん、どうしよう?


 名前の欄など他の部分を埋めながら、頭では生年月日について思考を巡らせる。
 そして、自分が偽造パスポートを所持していることに気づいた。

 さっそく、バックの中からパスポートを取り出すと生年月日の欄を覗き込む。




「生年月日:1989年3月8日」


 ふむ、俺は“今年で9歳”ということになってるのか……

 ん? 確かゴン達は2000年の時点で12歳になってたはずだから……年下!?
 う~ん。出来れば年上か同い年がよかったなぁ……あの二人に年下扱いされたら、地味にヘコみそうだ。


「それでは中へどうぞ」
「ぁ、はい」


 自分の年齢に若干不満があるが、特に相手に伝えなければいいじゃんと思い直し、闘技場へと足を向けた。





 一歩。会場へと足を踏み入れると、そこは熱気に包まれていた。
 
 いくつもあるリングの上で様々な人間が己の力を発揮するために雄叫びを上げたり、勝利に歓喜したり、敗北し地面へキスをしている。
 前世では格闘技に興味はなかったが、この空気は悪くないなと思う。


「テト、もうちょっと中にいてね」


 コートの中で丸まっているテトにそう声をかけると、モゾモゾと体を動かして了承としての意味の身じろぎで返す。
 それを確認した俺は適当に近くのベンチへ腰掛け、呼ばれるまでの時間をここでの戦闘について考えることにする。

 当然のことだが、念獣の使用は200階まで使用しない。
 あと、攻撃に関しても一般人には念を纏った攻撃を控えること……以上二つを厳守することにした。

 理由は分かっていると思うけど、外見年齢が小学生低学年ぐらいの俺でも、念を使って攻撃すれば人なんて簡単に殺せてしまう。
 さらに言ってしまえば、別に念を使わなくともここにいる殆どの人間なら、殺すことなど10分程あれば可能だ。やらないけどね。
 要は、伊達にノブナガの元で修行してきた経歴を持っているわけではない、と言うこと。

 それに、念での攻撃を一般人に与えてしまうと運がいい人間は覚醒してしまう恐れがある。
 適応されてしまい、それで悪事を行なおうものなら最悪だ。 


 あと、もう一つ決めなければならないことがある。
 俺の右腕はほぼ完治しているものの、軽くだがまだ包帯を巻いていないといけない状態。
 ここで、右腕を使った攻撃でもして怪我が悪化したらこれまでの療養生活は泡と消えてしまうので、基本的には足技で進んでいこうと思う。

 念を使用しなくてはならない相手と遭遇しても、俺の念能力は別に手を使うものではないので問題無いしね。






『1670番、1700番の方、Hリングへどうぞ!!』
「あ、俺だ」


 自分の番号が呼ばれ、指示されたHリングへと小走りで向かう。テトは器用に俺の体の中で、息を潜めている。
 そして、予想通りというか……場外がざわめき始めた。


「おい見ろよ。ガキだぜ」
「それも女じゃねぇか」
「おいおい、嬢ちゃん! ここは遊び場じゃねぇぞ!!」
「早くママのところに帰って、おっぱいでも吸ってな!!」


 下品な野次と、下品な笑い声が会場を包み込む。
 それは、俺の相手となる目の前の人物も例外ではなく。

 いかにもワルやってますと言っているような、チャラチャラ(死語)した格好の長身の男も相手が俺と見るや……


「おいおい、俺の相手はこんなガキンチョかよ」
「……」
「どうした? 今更怖くなってきたか? 逃げるんなら今のうちだぜ?」
「……」


 無言を貫く俺に、男は延々と安い挑発を繰り返す。
 それに同調するように、観客も声を上げて次々と言葉を投げつけてくる。


「兄ちゃん、運がいいな!」
「あんまりイジメるなよ、兄ちゃん!」
「そうそう、優しくしてあげろよ! お・に・い・ちゃん!!」
「きめぇ~!!」


 審判員の人間が、会場の雰囲気に思わず溜息を吐くのが見えた。
 俺もそれに釣られて小さく溜息を吐くが、どうやら相手の男の癇に障ったようで……


「……おい、嬢ちゃん。溜息とはいい度胸じゃねぇか」
「……」
「はんっ、その澄ました顔をすぐに崩してやるよ」


 といいながら殺気を放ってくるが、残念ながら俺にとっては蚊に刺された程度で相手の強さがぜんぜん伝わってこない。
 そればかりか、自分の弱さを曝け出しているようで残念な感じになる。

 審判員は、会場が若干落ち着いたのを見計らってルールを説明し、開始の合図となる右手を上げる。
 そして……


「――それでは……始め!!」
「覚悟しな!!」


 合図と同時に、こちらへ突進してくる男。
 彼的には全速を出しているつもりなのだろうけど、こちとら数十倍も早い敵と戦っているから遅いことこの上ない。

 軽くトンッと横へ飛ぶことで攻撃を回避しながら、足を引っ掛けて相手の転ばせる。


「どわぁ!?」


 男的に突然消えた俺と、急にバランスを崩した自分の体に情けない声を出して、受身を取れず盛大な音を出して倒れた。
 そんな男の脇に移動して、俺は某サッカー漫画の主人公のようにワザとらしく足を大きく後ろへ持っていくと


「バイバイ、おニイさん♥」
「まっ……っ!!」


 0円スマイルを浮かべつつ、男の腹部へ蹴りを叩き込んだ。
 俺の蹴りを何の構えもなく受け止めた男は、体を”く”の字に曲げてリングから場外へ、場外から観客のいるベンチへ吹っ飛んでいった。
 いきなり飛んできた選手に、観客が悲鳴を上げながら避難したり、スタッフが慌てて駆け寄っていく。
 少女が大の大人を何十メートルも吹き飛ばした場面を目撃した周囲の人間は、騒然とし異様な沈黙が場を支配した。

 ……まあ、若干野次を浴びせられたことで溜まったストレスを、発散するために予想以上の威力を放ってしまったが、腹に鉄板か何かを仕込んでいた手ごたえがあったから大丈夫だろう。
 けど、少し……


「……やり過ぎたかな?」
「……1700番」
「はい?」
「君、80階へ行きなさい」
「あっ、分かりました」


 まあ、死んでないから大丈夫か。





 あれ?キルアってゴンと一緒に来たとき100階以上の評価ここで出されたよな?
 ……いや、前回のも評価されてだっけ?



[9630] 第14話「互角×会場の熱気=ひゃっはーっ!」
Name: アキ◆1505fff1 ID:2bbbedfc
Date: 2011/01/27 12:37
 先の戦闘で貰った賞金をジュースに換え、チビチビとテトと一緒に中身を減らしながらエレベーターに乗り80階を目指す。
 だが派手な勝利の仕方をしたのを含めて、やっぱり子供がいるのが珍しいのだろうか、半分以上の同乗者が俺に視線を向けていた。

 別に人前に立つと云々的な性格ではないものの、エレベーターという狭い箱の中で注がれる視線はそれらとはまた違い、恥ずかしい。


 例えれば、作文で賞を貰ったからと、全校生徒の前で朗読させられる小学生と同じ気分だ。

 ……分からない? まあ、いいさ。


 兎にも角にも、恥ずかしいのでフードを深く被りコートで体を隠す。

 そんな俺を思ってか、服の中にいたテトは急に外へ飛び出すと、俺の肩に乗り視線を向けてくる者に対して威嚇を始めた。
 だが、テトの行動に今まで見ていなかった者までこちらへ視線を向けてしまい、テト的には追い散らす行動が逆に注目を集めてしまう。


「テ、テト!」


 増えた視線に、慌ててテトをコートの中へと引き戻すも、時既に遅し……
 結局、80階に着くまでの数分間を俺は体を小さくすることで、他者の視線から耐え忍ぶことになった。





「あぅ~」


 80階に行くだけで、なんでこんなに疲れるんだよ。


 大勢の選手が待機する待合室で、俺は項垂れて精神的疲労の回復に努める。
 周囲からは依然として視線を感じるが、疲労がピークな現状では何も感じるところは無い。幸か不幸かは……

 それよりも、無傷での勝利だから今日は後一戦あるのは確実だ。
 希望としては今日中に後二勝して100階に行き、宿を確保しておきたい。

 次で勝てば、一泊分の宿代ぐらいは貰えるだろうが、いい宿を見つけられるかは別問題だし、そもそも10歳未満の子供が宿泊できる宿があるかどうかすら不明だ。


 数分くらい待っていると、案の定俺の名前が呼ばれて指定された会場へ向かう。
 回復に努めていたせいで、相手の名前を聞き逃したが……
 まあ、この階にいるレベルの人間なら大丈夫だろうと、ちょっと生意気なことを思いながら、スタッフの指示に従って専用の入場口から会場へ入る。

 すると、1階で感じた熱気を軽く上回る歓声と熱気が俺を包み込んだ。
 だがそれは、相手を見た瞬間には俺の意識からシャットアウトされてしまった。


「ヒソカ!?」
「やあ♥」


 唖然としている俺に、笑いかける変態ピエロ。
 だが、笑っていても放ってくるオーラは初対面の時以上に容赦なく、思わず後ずさりしてしまう。
 テトは、野生の本能からか服の中から飛び出し、リングの外へと逃げ出してしまった。


「キミがここにいるって聞いたから、来ちゃった♠」
「~~っ」
「くっくっく。療養中だったそうだけど、鍛錬は欠かさなかったみたいだね♥」
「こっの……変態!」
「ん~っ、いいオーラを放つじゃないか♥」


 殺意を込めたオーラを放つも、全身で受け止めるようにポーズをとると恍惚した表情で俺に視線を送る。
 舐めるような、そして全部を見られているようなヒソカの視線と戦闘モードになった奴のマグナムが視界に入り、強烈な悪寒が全身を駆け巡り、自分の体を無意識に守るように抱きしめてしまう。


「でも、まだ食べごろじゃない」


 そういうと、突然構えを取る。
 ヒソカの行動に一瞬驚くが、審査官が開始の合図を取ろうとしていたのに気付き、慌ててこちらも構えを取る。
 ヒソカが現れただけで周りの声が聞こえなくなるほど動揺した自分を叱咤しながら


「始め!!」


 審査官の声を合図に、ヒソカに接近するため地面を蹴り飛ばす。
 対格差から来るリーチの差を少しでも埋めてしまわないと、一方的な展開になってしまうからだ。

 あと、これは自分勝手な覚悟だが念による身体強化のみで戦う。
 ヒソカは、まだハクタクとヒスイしか俺の能力を見たことないし知らない。

 この状態で、”三個目の念獣”を使えば結構いい勝負が出来る。
 だが、能力に頼りきった戦闘で勝つのは今後のことを考えてあまりしたくない。

 そんな風に、ヒソカ的には強化系の思考で行動することにした。
 幸いと言うか、テトが離れてくれたお陰で全力で戦える。

 そんな俺の考えを感じ取ったのか、ヒソカは口を裂けんばかりに大きく歪めると、俺と同じように地面を蹴った。


 観客的には一瞬、俺達的には数瞬で詰まる攻撃範囲へ入る直前、俺は少し強めに地面を蹴って体を少し浮かせると、その勢いのままヒソカの顔を狙った右足の回し蹴りを放つ。
 当然その程の攻撃では顔の横に左腕を立てたガードをされるが、ガードされた右足を支点に体を回転させると、今度は左足の踵落としで脳天を狙う。

 しかし、ヒソカはこれをガードした腕を外側に大きく振ることで俺を振り飛ばして回避する。


 無理やり体を捻ることで地面に足をつかせブレーキをかける隙に、接近したヒソカは右膝蹴りを俺の顎めがけ放ってくる。
 間一髪という感じで顎を持ち上げてバク転するように回避すると、そのままの勢いで蹴りを繰り出すも俺と同じように顎を持ち上げて回避される。

 距離を開けようと軽く後退するヒソカに追随すべく、バク転で宙に浮いていた足が地面につくと同時に、足に溜めたオーラを一気に吐き出し、ヒソカめがけて突撃。
 ただの突進であるため、体を傾けて回避しようとする彼の前で右足ブレーキをかけつつ体の向きを変え、殺しきれない速度を左足の後ろ回し蹴りへ上乗せした一撃を繰り出す。
 だがブレーキを掛けすぎたのか、その一撃は右手で軽々と止められて、グイッと引っ張ってくる。

 下手に足を地面へつけようと抵抗すればバランスを崩すと判断し、拘束を解こうと右足で地面を蹴り上げて宙に浮いたまま、左足を掴んでいるヒソカの手を蹴り上げようとする。
 が、蹴る前に手を放されて蹴りが空振りに終わってしまい、無防備な状態で宙に浮くことになってしまった。

 もちろん、そんな状態を見逃してくれるはずもなく、即座にやってきた右ストレートを”堅”で強化した両足裏でどうにか受け止めるとともに、吹き飛ばされることを利用して一先ず距離をとった。
 それに対してヒソカは追撃はせず、笑みを浮かべたまま見送ったので、危なげなく着地した俺も攻めようとはせずに小休止状態へと移行した。


「―――!!――!!」


 荒くなった息を整えようとする俺の耳に、司会者が興奮した声で何か言っているのが聞こえるが、言葉として届いてこない。
 それよりも、俺は自分の中から溢れ出る歓喜に体を震わせていた。

 ヒソカは本気を出していないものの、それなりの力を出しているあろう彼を相手に、戦い続ける事が出来たという事実は俺を歓喜で体を振るわせるのに充分すぎる理由であった。
 自覚はないが、口元が大きく緩みきっていることだろう。

 ヒソカの強さは漫画で充分すぎるほど知っているが、相対している今は身をもって実感している。
 そんな奴に(手加減されてはいるものの)互角に渡り合っている。


 それが何よりも嬉しい。
 自分が強くなったと感じることが出来た。 
 もっと戦ってみたいと思えてくる。


 だが、我を忘れそうなほどの喜びも数秒で自重させる。
 ノブナガに耳にタコが出来るまで聞かされた「冷静じゃない奴から死んでいく」という言葉を思い出したからだ。

 余計な感情は心の奥底へとしまいむと、深呼吸を数回して興奮している自分を落ち着ける。
 俺が冷静になるのを待っていたかのように、チョイチョイと軽く構えを取ったヒソカが挑発するように手招きをする。
 
 その挑発に乗って、俺はヒソカに向かって体を弾丸のように突撃させる
 そして、体をかがめて飛び上がる体制を……フェイントにサイドステップでヒソカの右側へ移動すると、石畳同士の境目に蹴りを入れる。


ボコンッ


 そんな空気の音と共に、石畳が一枚浮かび上がると、蹴られた勢いのままにヒソカへと向かっていく。
 すぐに後を追って石畳を砕こうとするが、それよりも先にヒソカに砕かれてしまい、飛んでいる方向とは逆からの衝撃に、砕けた破片は四方八方へと散らばった。


 くっ、ゴンの真似事はやっぱり無理があるか。


 心の中で舌打ちをしながら、左手で飛んでくる破片を弾きつつヒソカの姿を探すが、すぐに背筋が凍るような気配を感じ反射的に身をかがめる。
 と、さっきまで自分の頭があった場所にヒソカの足が風を斬りながら通り過ぎると、蹴りの余波が周りの破片を飛び散らした。


 どんな威力の蹴りだよ!


 想像以上の威力だった蹴りに、背中に冷や汗がドッと湧き出る。
 しかし、蹴り一つで攻撃が終わるはずも無く、再び背筋が凍る感覚を感じる。

 反射的に体を屈めたときのバネを使って横へ飛び去る。
 直後、さっきまでいたところに踏みつけるように足が下りてきて石畳を轟音と共に踏み砕いた。

 無理な回避をしたため、バランスを崩した俺にその砕かれた石が襲い掛かり、悪手だと分かっていても腕でガードするしかない。
 自分から視界と腕を塞いでしまったものの、直ぐに“円”を発動させて周囲を探ると俺の背後に回ったヒソカが感じ取れた。


ガスッ


「っ…!!」


 だが、俺が反応するよりも早く動いたヒソカからの“張り手”が俺の背中に直撃した。
 受身の態勢を取れず、俺は場外……観客席の下にある壁へと激突した。
 とっさにオーラで全身を守ることが出来たのでそれほどの外傷をおくことは無かったが……


「くっ……」


 打ち所が悪かったのか眩暈がし、足腰に力が入らない。
 そんな俺を、リング上からヒソカが見下ろしてくる。


「半年前に比べれば、格段に強くなったね♥」


 まだ戦えるという意思表示の為に、何とか立ち上がる。


「次は、右腕が完治してからやろう♠」


 だが、そこまでが限界だった。
 立ち続けることが出来ず、ドサリと崩れ落ちて俺の意識も闇に落ちた。



[9630] 第15話「小休止」
Name: アキ◆1505fff1 ID:a6032e2f
Date: 2011/01/30 13:44
「ふぅ……」


 ベットに倒れこむように身を投げると、一息ついたという安堵から溜息が漏れた。
 現在の時刻は午前12時になる10分前で、すでに闘技場が静寂と暗闇に包まれている時間帯である。

 再度、溜息をつこうとしたときにピリッと背中が微かに痛んだ。
 その痛みが、今日のヒソカ戦を嫌でも思い出させる。





 最後に気絶をしてしまったが、それも十数秒だけのことで、俺はすぐに目を覚ますことが出来た。
 ダメージを念である程度防げたのもあると思うが、手加減してくれたお陰なんだろう。
 怪我も特になく、あえて言えば壁に激突した際に背中を強打した程度だ。

 この程度なら、もう一戦できるから、今日中に100階へは無理でもファイトマネーでどこかの宿を取れる。
 野宿は大丈夫だなと安堵したのも束の間だった。
 
 程度はどうであれ、気絶したということで主催者側が「今日はもう休みなさい」と言ってきた。
 大丈夫だと力説しても、彼らには“やせ我慢をしている少女”としか映っていないらしく、全く相手にしてもらえない。

 治安が良いとは思えない場所での野宿決定に意気消沈していると、悪魔……もといピエロの囁きが耳元で聞こえてくる。


「言ってくれれば、貸してあげたのに♠」
「……」


 何時の間にか覆いかぶさるように俺の背後に立っていた変態に、蹴りを食らわせようとして避けられるという流れを挟んだ後、ピエロの囁きに俺の中にいる天使と悪魔がそれぞれの意見を述べる。

天使「借りましょう。女の子が野宿なんてしてはいけません」
悪魔「貸してくれるってんなら、借りちまえよ」








 ……あれ?
 ここは普通、理性と本能が争う流れじゃないの?



 とか思うものの、結局はフカフカのベットの誘惑に負けて、宿泊代を借りることになった。
 一応は、と俺に金を貸した理由を聞いてみると


「女の子が困ってたら、助けるのは当然じゃないか♥」













「嘘だ!!!!!!!」

 と、レ○風に言ってみるテスト。
 

 とは言え、奴のお陰でこうしてフカフカのベットに眠ることが出来るわけだから、少しだけ感謝しておく……本当に少しだけだからね!


 ……うん、何言ってんだろうな俺。
 今日は色々あって疲れているんだ。そうに違いない。


 そう自己完結すると、今日の疲れを明日に残さないよう寝るための準備を始める。

 まとめていた髪を下ろし、腕の包帯を外すと、替えの着替えとテトを抱えて浴室へ向う。
 まずは、バスタブにお湯を溜めながら脱いだ服を、備え付けの洗濯乾燥機に放り込んでスイッチを入れる。
 

「あっ、下着まで一緒に入れちゃった……ま、いっか」


 運転を始めた洗濯機の中で回転する服を確認した後に浴室に入ると、体についた汚れをシャワーの水圧で押し流していく。
 そして、動物としては珍しく頭からお湯を被っても嫌がらないテトにもシャワーを当てて汚れを流していく。

 次に、桶のようなものにお湯を溜めてテトの前に置くと、前足でお湯の温度を確かめてから溜めたお湯に入り、縁に頭を乗せて気持ちよさそうな顔をする。


「気持ち良い?」


 俺が声をかけると、ゆっくりと尻尾を左右に揺らして肯定する。
 そんな姿を見て、思わず笑みが漏れた。

 最初は、冗談半分で試した桶風呂を意外にも気にいったらしく。
 俺と一緒に入るときは、逆にせがんでくる程だ。
 実際、猿とかが温泉などで寒さをしのいだり、トラが熱いときに湧き水を浴びるとかしてるのを見たことあるので健康上の問題はないだろう。


 自分も、髪と体を洗うと溜めてあるお湯にゆっくりと体を沈める。
 パクやマチに言われて、髪の毛は洗った後にアップにしてお湯に触れないようにしてしておく。

 最初は、邪魔なだけだし切ろうとしたが猛烈に反対され、今だ腰まである髪にしているが。


「ふう…」


 溜息が漏れてしまうのは、日本人だからなのだろうか?
 とか、どうでもいいことを考えながら手を目の前に持っていき眺める。

 修行や荒事をしているのにも係らず、肌理細かな白い肌がお湯を弾いている。


 この体になって数年、前世の記憶が薄くなり始めてきた。
 ここでの生活が濃いせいもあるが、嫌な思い出しかない記憶を忘れたがっているのかもしれないとも思う。
 それに、自分の中にある“男”が薄れていき、パクやマチからの指導による“女”が濃くなってきているのも原因かもしれない。

 まあ、一応だがノートに漫画で得たこの世界の情報や未来の出来事を書き出してある。
 日本語で書いているし、俺にしか判らない略し方で書いてあるから盗み見られても多分大丈夫だろう。
 とはいっても、書き出し始めた時点で結構忘れていることがあって虫食い的なものになってしまっているけどね。

 だけど、ハンター試験の時に主人公達と会うという事以外は、本編の流れに乗るつもりはない。
 最初から会うなよとか言う人がいるかもしれないが、せっかくこの世界に来たのなら一度でも会って見たいと思うわけよ。

 それにハンター試験を受けるのなら内容は分かっているほうが断然楽だしね。


「……ふぁ」


 お湯の温かさと疲れから、瞼が重くなってきた。


「……寝よ」


 あんまり長く浸かっているとのぼせてしうし、ここらで出るとしよう。
 俺と同じく、眠そうにしているテトを掬い上げると浴室から出た。

 温まったのだから冷やさないように濡れた髪と体をさっさと拭き取り、ドライヤーで拭き取りきれなかった湿り気を乾かしていく。
 その間にテトは体を震わせて、ある程度水気を飛ばすとタオルの上でゴロゴロと転がりながら体を拭いていく。

 その可愛い姿に萌え死にそうなりながらも俺は髪を乾かしきり、未だに体を転がし続けるテトにドライヤーを当てて手伝ってやる。
 ちょっと熱かったのか風を当てた瞬間、少し飛びずさるが適当な距離を置くと、まだ湿っている箇所に風当たるようにポーズを変えながら風を受け続けた。

 お風呂から上がった俺は冷蔵庫にあった水をテトと共に飲んだ後、携帯のアラームをセットして布団に潜り込む。
 修行中では味わうことの無かった柔らかく軽い毛布に疲れも合わさり、入って直ぐに瞼が重くなる。

 ふと、布団の上にテトが体を丸くして眠りについているのが見えて、俺は少し驚きの声を上げた。

 昔は、一緒に布団の中へ入り込んで眠っていたのだが……大人になったということだろうか?


「……まあ。テトは、オスだから……ね」


 ちょっと寂しい気を感じながら、これが子供の成長を見守る親の気持ちかな?
 と思い、軽く体を撫でてやってから俺も眠りについた。



[9630] 第16話「油断大敵、時既に遅し」
Name: アキ◆1505fff1 ID:a6032e2f
Date: 2011/01/27 12:38
Q.ユイ=ハザマ選手をご存知ですか?

観客A「えっと、蹴り一つで勝ちを取り続けている選手だろ?」
観客B「知ってるさ、最近はあの子のお陰で稼がせてもらっているからな」
観客C「あっ! フードで顔を隠している女の子でしょ!?」
観客D「“蹴りのユイ”のことだろ? いつもフードで身体隠してる不思議ちゃん」
観客E「ああ~、耳の長い小動物をいつも連れてる女の子か」
観客F?「ハァハァ。ユイたん可愛いよ、ユイたん……ゥッ」
観客?「♥」










ゾゾゾッ


「……っ!?」


 何の前触れもなく氷を押し付けられたかのような悪寒が全身を駆け巡り、反射的に身体を抱きしめて周囲へと視線を向けて原因を探った。
 しかし、部屋の中には日向ぼっこをしているテトが居るだけで誰の姿も気配もない。


「……最近、悪寒を感じることが多くなったのは気のせいかな?」


 天空闘技場についてから、一週間になろうとしている。
 俺はヒソカ戦を除いた全ての試合に蹴り一つで勝利し、現在190階クラスに到達していた。
 所持金も、ほぼ文無しから9桁台まで増えている。

 前世では一生見ることは無かったであろう金額を初めて見たときは、皆が俺の金を狙っているのではないかという被害妄想に襲われて、通帳を一日中持ち歩いていたりしたのは良い思い出だ。


『……ユイ? どうかした?』
「あ、ううん。なんでもないよマチ」


 物思いに耽りそうになった時に携帯から聞こえてくるマチの心配そうな声がして、慌てて現実へ意識を戻すと自然に笑みを零しながら答えた。
 流星街を出てから2,3日に一度という割合で、俺はマチへ定時報告……と言う名の電話をしている。

 旅団の連絡役でもある彼女へ現状を伝えるという建前を作って置きつつ、前世と比べて内容の濃い一日を毎日送っているので、誰かに話したくて仕方ないのが本音。
 だから俺が一方的に話して、時折マチが相槌を打つというスタイルになっているのだが、マチも楽しそうに聞いている(と思いたい)ので変えようとは思っていない。

 そして現状の報告を脱線しつつも終えた俺は、直ぐに電話を切るのもツマラナイとパッと思いついた質問をして話を続けることにした。


「そういえば、最近ノブナガはどうしてる?」
『ノブナガ? ……そうだね。ユイが居なくて毎日泣いてるよ』
「…………はい?」
『てめぇ、マチ! 嘘をユイに教えてんじゃねぇよ!!』


 予想外の答えに思わず固まってしまっている間に、電話の向こう側から突然ノブナガの怒声が聞こえたかと思うと、ドタバタと慌しい音が聞こえてくる。
 こちらから声を掛けても聞こえないだろうと、騒ぎが終わるのを苦笑いしながら待っていると予想外の声が聞こえてきた。


『久しぶりだな、ユイ』
「フランクリン!?」
 

 俺の好きなりょ(以下略)の声に、思わずベットに座っていた身体が弾んだ。
 約半年ぶりの声は、いつもと変わらなくて懐かしさで顔が綻ぶ。


『悪いな、お前の見送りにいけなくて』
「ううん、大丈夫だよ。それよりも珍しいね、皆が集まってるなんて」


 先ほどの騒ぎから“凝”を耳にして聞き耳をたてていたのだが、ノブナガの怒声の合間に微かに知っている声が聞こえてくる。


『ああ、ちょっかいかけてくる奴等に挨拶しに行くところだからな』
「そうなんだ。気をつけてね? 無駄な心配かもしれないけど……」


 挨拶=カチコミと知っている俺は無事を願う声を掛けるが、一人でマフィアを一つ潰せるほどの実力を持った皆が怪我やそれ以上の事になるなんて微塵も思っていない。
 俺の言葉から、内心を汲み取ったのだろうフランクリンは軽く笑い声を上げた。


『お前も、大丈夫だと思うが無理はするなよ。見た目“だけは”良いんだからな』
「見た目“だけは”じゃなくて“も”だよ」
『……フッ』
「あっ!今、笑ったでしょ!?」
『さぁな?』
「ううん、絶対に笑ったよ!」


 軽いジョークを含ませた話を笑いながら言葉を交わしていると『代わって』とマチの声が聞こえて、しばらくすると何事もなかったかのような彼女声が聞こえた。


『急に離れて悪かったね』
「えと、お疲れ様?」


 騒ぎの切欠が切欠なために、なんと声を掛けいいのか分からないから、当たり障りのない労いの言葉をかけることにした。

 そして次回の電話する時間を決めた後、別れの言葉を告げて俺は携帯の“切”ボタンを押す。
 すると、電話が終わるのを待っていたのか、テトは電話を切るのとほぼ同時に俺の肩に飛び乗ってきて顔を摺り寄せてくる。


「この愛い奴めっ…………さて、負けに行きますか」


 テトの頭を軽く撫でてから立ち上がり、近くにかけてあった着慣れたコートを身に纏う。
 今の時点でも莫大と言って良いほどの所持金だが、返金分やキコ族調査による出費を考えると後一桁ほど多いほうが良い。

 とはいえ、180~190の階を往復すれば直ぐに溜まる額だ。


「問題があるとすれば、どうやって負けることかな?」


 そんな事を思いながら、俺はテトを肩に乗せたまま部屋を出て行った。











 100階あたりを越えると参加者の数が一気に減る。
 理由は単純、ここまで上がれる人間が少ないからである。
 上がってこれたとしても、余程の実力ではないと100階で燻っている連中に蹴落とされてしまう。

 そのために、必然的に次の試合に出る選手と二人きりになることが何度かあるそうだ。
 今回は何度内の1度に含まれたらしく、控え室に入ると俺の対戦相手がベンチに座っていた。

 俺が来たのに気付いた相手は、俺を見て最初に驚いた顔をした後に柔らかい笑みに変えると、立ち上がり自己紹介とともに握手を求めてきた。


「対戦相手のカストロだ。よろしく」
「……えと、ユイです」


 入った瞬間に気付いていたが、原作キャラの登場だ。
 だが残念なことに、旅団関係で既に免疫(?)が付いたために驚いたり興奮できない。

 だがそれよりも、相手が少女だというのに俺に対して警戒しながらも闘志を燃え上がらせているカストロが新鮮で、少し呆気に取られてしまう。

 俺が闘技場で相手にしてきたヒソカ以外の相手は、俺が勝ち続けているというのに“子供”や“女”という理由だけで侮って“蹴り一発”を食らい退場するという哀れな末路を描いていただけに、一人の対戦相手として相対するカストロに興味が湧いた。


「……私を子ども扱いしないんですか?」
「当然だろう? 君のこれまでの戦いぶりを見れば子供だと侮った瞬間に、痛い目に会うからね」
「私が今まで相手にした人は、子供だと侮っていましたよ?」
「それは、彼らが弱いからさ」


 おお~っ、久しぶりに正常(?)な思考の持ち主に会えた。

 今までの相手のような奴等に負けるのは癪だなぁと思っていたので、良い意味で予想を裏切ってくれた対戦相手に笑みが自然と漏れた。





 カストロは目の前で、自分の言葉に歳相応の笑みを浮かべる彼女を見ていると、今までの戦歴が嘘だと思えて仕方なかった。
 顔を含めた全身をフードの中に隠しているものの、全体的に線が細くて華奢だというのがフードの動きから分かった。

 おそらく彼女の言う侮った者達の中には、警戒しつつも外見で油断を抱いてしまった者も居たことだろう……しかし、実力を測り損ねたのだから結局は同じであるが……。

 それに、対話をするために顔を上げた際に初めて見えた顔も、前髪が目――特に右目の大部分が隠れているために、肌の白さと相まって儚いイメージを相手に与えてしまう。

 そんな見た目の彼女を守るためか、肩に乗っているキツネのような小動物がこちらを険しい表情で睨んでいるも、それが彼女の儚さに拍車をかけてしまっていることに小さな騎士《ナイト》は気付いていないようだ。

 確かに、こうして見た目だけを見れば、このような場所には似つかない容姿だ。
 だが、彼女はヒソカと言う奇術師との対戦を除いて、全ての試合を蹴り一発だけで勝ち続けている。

 相手が弱かったとはいえ、それなりの実力者を瞬殺する少女の隠された実力を見てみたいと思う武人としての感情がある反面、見る前に勝たなくてはという恐怖に似た感情がカストロの心中で渦巻いていた。





「お互いベストを尽くして、悔いのない試合をしよう」
「……はい」


 爛々と闘志を燃やしと、さわやかな笑顔を置いて片方の出場ゲートへ移動するために背を向けて歩いていくカストロに「ベストを尽くして負けますよ」と意地悪な台詞を小声で伝える。

 そして、武道家などに見られる強者を求めるような視線から解放されたたために「はふぅ」と小さく肺に溜まった空気を吐き出した。

 ヒソカが多少なりとも期待していた人物だ。
 天狗になって言わせて貰えれば、修行次第で以前の仕事で会った変態ロリコン野郎と良い勝負が出来るぐらいになるだろう。

 自分で、その芽を摘んでしまうのが少し残念だけどね。

 さて、少し戦ってから負けるとしますか……



 だが、俺の思惑は大きく狂うことになってしまった。


 それは、一瞬の出来事であった。
 開始と同時に“何とか拳法(名前を忘れた)”の構えから接近してくるカストロに、それなりの構えで迎え撃つ俺。

 本気の攻撃であろう殺意に似た意思が宿ったカストロの拳が腹に向けて放たれ、それに対して俺は体を傾けることで紙一重で避けようとした。

 だが、ここでカストロに対して少なからず油断していた俺に思わぬ事態を飛び込んでくる。
 
 まっすぐに放たれていた拳が、急に腕全体の横払い攻撃に変わったのだ。
 一瞬だけ対応が遅れてしまい、回避が出来ず防御をしようかと腕を動かそうとした時、ある考えが閃いた。


 いや、このまま攻撃を受けてKOされたフリをすればいいじゃん!


 念での防御をしていない状態で攻撃を受けると痛いからと、威力を殺すためにバックステップをかけて衝撃に備える。
 そう、衝撃に“だけ”備えたのだ。







ふにゅっ


「ひゃんっ!?」
「!?」


 衝撃を抑えるために後ろへ下がったのが災いした。
 ……えと、その……カストロの手が俺の……その、なんだ……俺のむ、胸を鷲掴みしたのだ。


 身体が成長期に入っている現在、敏感になってしまっている“そこ”を刺激されて反射的に喉から声が漏れてしまい、カストロも予想外の結果だったのか鷲掴みしたままの状態で固まった。


「~~~~っ」
「あ、その、すまなー――ぶはっ!?」
『決まったーっ! またしてもユイ選手、蹴り一発で勝利を手にしました!!』



[9630] 第17話「いざ逝かん、200階へ(誤字にあらず)」
Name: アキ◆1505fff1 ID:a6032e2f
Date: 2011/01/30 13:43
 「はぁ…」と吐き出す息は熱を帯びていて、自分の体が予想以上に火照っていることを現していた。
 190階に上がった時に割り当てられた部屋で自分自身を分析しながら、俺はテトをお腹の上で抱いてベットに仰向けに寝ていた。

 今日中にこの部屋を出て200階で登録手続きをしなくてはいけないのだが、精神的にと別の意味での肉体的な疲労から直ぐに行動に移せそうにない。
 幸い、今はお昼を過ぎたばかりで時間は充分残されているから、少しぐらいノンビリしていても大丈夫だ。


「なぁ、テト。俺って女なんだなって、さっき改めて実感したよ」


 テトに語り掛けるているような独り言は、部屋の中に溶けてしまい何者の耳にも届かず、形式的に問われたテトは言われた意味が理解できず、お腹の上で首を傾げるだけで答えが返ってくることはない。
 
 前世の男であった時なんて相手にもよるが、胸を触られても何の感情も抱くことはなかった。
 この世界に来てからは、男の感性で行動していた――男子トイレに躊躇なく入ろうとしたり、団員の前で着替えをしたり――俺を見かねたマチやパクから女性のイロハを教えられたが、所詮は外見だけで中身まで変わることない……と思っていた。
 
 だが、実際は原作キャラとして知っていても所詮は赤の他人であるカストロに胸を触られただけで、脳が沸騰したかのような羞恥心に襲われ、無意識に相手を蹴り飛ばしていた。
 そして、厄介なことに敏感だった場所を力強く掴まれたせいでピリピリと痛みつつも少量の快感なんぞを感じてしまっている。
 お陰で、熱にうなされるように思考はボヤけるわ、身体は火照ってしまうわ、初恋を思い出させるような切なさが俺を苦しめていた。


「くっそう。賞金稼ぎができなくなったのも、こんな状態になったのも、全部皆カストロのせいだ」


 八つ当たりな暴言を吐くと、何故かテトが同意するかのように首を立てに振った。
 その反応に笑みが自然と零れたことで落ちていた気分が浮上し、シャワーでも浴びて気分を落ち着けようと思い無理に元気ぶりながら身体を起こす。
 
 だが、


「ぁっ……んっ」
 

 浮いた気分を蹴落とすかのように、身体と服の擦れに身体が敏感に反応して喉の置くから自然と声が漏れた。
 
 特に胸とか……ヤバイってレベルではない。
 胸の成長を無視してキャミソールで凌いでいたが、僅かに残る男のプライドを捨ててでも本格的にブラジャー装着を考えないと危険かもしれない。

 主に、自分自身を(いろんな意味の)脅威から守るためとして……












「あ~っ、やっと落ち着いた」


 頭から水を被り続けること十数分やっと正常になった心身に溜息をつき、タオル一枚を身体に巻いただけの格好でベットに腰を下ろす。
 ふと、胸に目を向けると掴まれたせいか赤い痕が幾筋が出ていて、幼女で自分の体ではなければ、ちょっと官能的な光景に少しだけ……


「……アホらし」


 まだ燻っていた劣情を頭を振って追い出すと、ササッと髪を乾かし服を着て身支度を整える。
 
 金稼ぎは出来なくなったが何もここでしか稼げないわけじゃないし、天空闘技場《ここ》での主目的は戦闘経験値を溜めることであると思うので、少し予定を早めただけだとポジティブに考えることにする。


「テト、行くよ」


 日向で転寝《うたたね》しているテトを呼び定位置の肩へ乗せると、俺は少しだけだが世話になった部屋を後にした。











「ようこそ200階クラスへ、―――」


 受付のお姉さんから説明を受けつつ、背後から感じる気配を探ってみる。

 感じる気配は三つ。
 ゴン達の会った新人キラーの三人組だろうか?

 感じ取れるオーラ量から、仮にここで三人同時に襲われても軽く返り討ちに出来るレベルだ。


「―――登録を行ないますか?」
「あっ、はい」


 後方に意識を移していたために危うく聞き逃しそうになった声を拾いつつ、差し出された用紙を受け取り、内容を確認すると参戦申し込み用紙であると分かった。


 ん~、療養生活の期間を含めると少し肩慣らしが必要かな?


 後ろの奴等が新人キラーだとすれば、丁度いい運動にもなるし……


「いつでも、で」
「はい、承りました。それでは、こちらがユイ様の部屋の鍵となっております」
「ありがとうございます」


 差し出された鍵を受け取ろうと手を差し出すが、受付のお姉さんは顔を少し赤くして何か言いづらそうに「えっと……」「そのですね……」と途切れ途切れの言葉を漏らして鍵を渡そうとしない。
 だが数秒で意を決したかのように小さく深呼吸すると、俺の目を見つめてから


「……?」
「あ、あの! 握手してもらってもいいかな!?」
「……へ?」
「本当は特定の選手を贔屓にしちゃいけないんだけど、80階で初めて見た時からファンになっちゃって……」
「え~と……」
「駄目、かな?」


 可愛く首を傾げてお願いしているように見えるが、俺からすれば部屋の鍵を人質……もとい物質にしての要求に見えてしまうのだが、意識してなのか無意識なのか気になるところだ。
 とはいえ、お願いされれば握手程度いくらでもする。ただし、変態とロリコン! お前らは駄目だ!!


「いえ、構いませんよ」
「きゃあーっ、ありがとう!」


 受け取るために差し出した手を握手用に変えると、少し興奮した顔で俺の手を握って上下に振りまくる。
 ちょっと怖いぐらい興奮している状態のお姉さんに少し腰が引けてしまうも、少しだけ我慢すれば済むのだと耐え忍ぶ。

 しかし、俺のそんな思いを踏み砕くかのようにお姉さんの後ろから複数の声が聞こえた。


「あーっ、ズルイ!何、貴方だけ握手してもらってるのよ!」
「そうよ、そうよ!私達だって我慢してたのに!!」


 そして握手している手に向けられる羨望の眼差しは、なぜか旅団の皆から受ける重量のある視線と同レベルで冷や汗が背中から滝の様に流れる。
 こういう状態では、俺は一つの行動しか取れないと理解している。それは……


「え、えと……私でよければ、構いませんから……」
「本当ですか!?」
「やったーッ!」


 ハッハッハッ。人間、諦めが肝心だよね!
 受付のお姉さん'sの圧力にテトは俺の服の中へ避難済みで、俺は流されるがままに握手に答え続けていったのだった。












 ユイが女性に揉みくちゃにされる数時間前、闘技場の観客席にいた一人の男はリング上にいる少女に釘付けになっていた。
 自分より倍以上ある体を持った男を、一蹴りでリング外へ吹き飛ばすという異様な光景を作り出したからだ。

 しかし、男は真に心惹かれたのが少女の素顔だった。
 観客の殆どが吹き飛ばされる選手に目が行ったために気づいたものがいないだろうが、勢いよく蹴り飛ばしたためか目深に被っていたフードがはずれ、引き込まれてしまいそうな真っ黒な長髪に淡い輝きを放つ瞳が露になった。


「綺麗だ……」


 素早くフードを被りなおしたために一瞬だけしか目に出来なかったが、男の脳裏には絶対に消えない映像として残り続けた。
 そして、そそくさとリングから逃げるように去っていく少女を目で追いながら、男は携帯を操作して“彼”を呼び出した。
 1コール後に繋がった音がすると、男は相手の対応する声を聞くことなく口を開いた。


「私だ。仕事を頼みたいのだが……」



[9630] 第18話「同族さん」
Name: アキ◆1505fff1 ID:a6032e2f
Date: 2011/01/27 12:39
 この世界の情報収集のためにカフェで紅茶を飲みつつ情報誌を読むという、見た目的に浮いてしまうことをしつつ、俺は待ち人が来るのを待っていた。
 そして、約束の時間の10分前になった時、誰かが対面の席に腰を下ろしたのを感じ取る。


「初めまして。明日、貴女と対戦するアンリエッタ=ビアンキよ」


 某“銃使いの少女”を連想させるような名前を名乗りながら、目の前のショートカットの赤毛を揺らしながら、グレーの瞳をこちらに向けた少女はニコッと笑みを作った。










 受付のお姉さん’sとの握手会後に与えられた部屋に到着した俺は、すぐに対戦日決定通知がテレビに映し出されているの気づいた。
 対戦日が明日となっていたのは予想していたのだが、対戦相手がギドやサダソ、ニールベルトではなくアンリエッタという選手の名前になっていて、思わず首を傾げてしまう。

 受付で感じた気配は三つだったから新人キラーの三人かと予想してたために、「誰? こいつ?」と独り言を呟いてしまう。
 すると、俺の問いに答えるかのようにタイミング良く、そのアンリエッタから「会いませんか?」という内容の電話を受けた。
 当然、罠の可能性を考えていたが、相手を探れるいい機会であるため了承し、現在に至っている。


 アンリエッタからの挨拶を受けつつも、本を見続けているフリをしたままサッと周囲へ目を配る。
 彼女の仲間と思えるような態度をとっている人間や気配は感じることはなく、目の前の少女からも俺に対しての邪な感情を感じ取れない。
 見抜けないほどの熟練者だという可能性を踏まえつつ、相手の反応を見るためと、名乗りを受けたから返すのが礼儀、という理由で情報誌へ向けていた視線をアンリエッタへと向けた。

 そして、黒い感情を内に秘めた俺の視線がアンリエッタと重なった瞬間、向けられていた予想以上の可愛らしい笑みを直視してしまった。
 その笑顔は太陽のように明るく、数年とはいえ闇の中で生活を続けていた俺には眩し過ぎて、視線を直ぐに本へ戻しながら無意識にフードを目深に被り直してしまった。
 そして、ハッと今の行動に言いようのない敗北感を感じ、ついムスッとした声で自分の名を名乗った。


「……ユイ=ハザマ」
「それじゃあ、ユイちゃんて呼んでもいい?」
「……どうぞ」
「ありがとうユイちゃん。私のことはエッタって呼んでね、仲のいい人は皆がそう呼ぶから」


 見た目的には13~4歳ぐらいの、少女と女の狭間にある“可愛い”の中に段々と自己主張を始めてきている“綺麗”を上手く魅せるアンリエッタは、時折やってくるナンパ男達を適当にあしらいながら、明日の対戦相手である全身をコートで顔をフードで隠した怪しさ満点の俺に話しかけてくる。


「ユイちゃん。その肩にいる子って何て名前なの?」
「……テト」
「テト君か~、よろしくね」


 アンリエッタは、俺や一部の旅団員以外が触れようとすると牙を剥くテトへ、無用心にも手を伸ばしてくる。
 さすがに怪我をさせて、変なトラブルに発展されても困るので制止の声をかけようと口を開いたものの、そのまま固まってしまう。


「おお~、触り心地がいいね。ユイちゃんに良くしてもらってるなぁ、コイツ~」
「……」


 テトは抵抗なく頭を撫でられているだけでなく、尻尾を振って気持ちよさそうに表情を緩めていた。
 そんな、よほど気を許した人間にしか見せない表情を、アンリエッタという会って数分の人間に対して見せている事実に呆然としてしまう。

 何か薬を使われているわけでも、念を使っているわけでもなく、素の状態でテトの信頼を勝ち取っている彼女に直球で思わず尋ねてしまった。


「……何者ですか?」
「……フッフッフッ、聞いて驚け!」


 反射的な俺の質問に彼女は悪戯っ子のような表情を浮かべると、テトから手を離し、大業そうな声を出してから一呼吸おき……そして、


「ユイちゃんと同じだよ」
「!?」


 さっきとは180度変わり。明日の天気を話すような気軽な声を出しながらアンリエッタが自分の右目に手を当てて離す。
 すると、そこには鏡で見慣れた淡く光を反射する瞳が俺を見つめていた。

 驚きで固まっている俺に悪戯が成功したかのような笑みを浮かべながら、再び右目に手を当てて離すとグレーの瞳に変わったことで、カラーコンタクトを使っているのかと今更ながら理解する。


「驚いちゃったよ。私が一族最後の人間かと思ってたのに、金銭目的でここにきたら自分より年下の同族と会うんだもん」
「でも、ずっと顔を隠して……」
「カストロって人と戦ったときに、フードが取れちゃったじゃない」
「――っ」
 

 突然の同族の登場に、まさかの容姿バレのダブルパンチを受けて動揺した俺の口からは上手く言葉が出ない。
 そして、俺の声にならない言葉から何かを読み取ったのか、自身の髪を手に取りクルクルと指で遊びながら、


「これは、染めてるの。髪でも一部の人を惹きつけちゃうみたいでさ、泣く泣くね」
「……」


 髪の毛もそうだけど、たぶん貴女の容姿が一番の原因だと思う。
 さっき言った通り顔は問題ないし、体も適度な大きさの“アレ”に女性特有の白く線の細い肢体が、前の世界で女子高生が着るブレザーのような服から覗き、俺が男のままだったら「ご馳走様です!」と口走っていたかもしれない。


 ロリコンじゃないよ? 俺はロリコンじゃない。 でも、もうロリコンでいいいや!!


 ……いやいや、自重しろ俺。
 今の体でそんな性癖をあらわにしたら“同性愛者”の称号も手に入れてしまうだろう。
 てか、すでに色々とヤバイ名や称号を手に入れている気がする。



「でさ、聞きたいんだけど。ユイちゃんの本名は?」
「え?」


 動揺から不埒な考えが巡る頭に響いたアンリエッタの質問に、思わず疑問の声を上げてしまう。


「……え? まさかユイ=ハザマって本名なの? 族名は?」
「……すみません。数年前までの記憶しか持ってません」


 驚いた表情をするアンリエッタにキコ族の知らない情報の一つだと判断し、俺の設定の一つである“記憶喪失”を出して情報のゲットを図る。
 実際ノブナガと会うまでの、この体の記憶を俺は持っていないから嘘は言っていないから、仮に嘘を見抜く力を持っていたとしても問題ない。


「そっか、それじゃあ仕方ないね」
「……」
「まあ追々、私が説明してあげるよ。それよりも~」


 ズイ~ッとテーブルを挟んでアンリエッタが顔を寄せてきて、反射的に体を仰け反らせる。
 こうすると俺の目を見られてしまうが、すでにバレてしまっているから周囲に気づかれなければ構わない。
 それよりも今は、仰け反って稼いだ距離以上に彼女は俺に顔を寄せるとクンクンと鼻を動かし始めた後に、ニヤリと笑みを作るという行動に危機感を覚えた。
 そして、その感覚が正確であると証明するかのように、


「ユイちゃん。裏の人のお世話になってるでしょう?」
「……何のことですか?」
「ダメダメ~、今の間は“はい”って答えてるのと一緒だよ~」
「……っ」


 精神的には娘と言っていいくらいの年齢の子供に、嘘を見抜かれたことに悔しさから思わず顔が歪んでしまう。


「まあ、そのほうが私も助かるんだけどね」
「え?」
「私もね、ユイちゃんのいる“そこ”にお世話になりたいんだ」
「……はい?」



[9630] 第19話「同族さんⅡ」
Name: アキ◆1505fff1 ID:a6032e2f
Date: 2011/01/30 15:10
 予想外の言葉について直ぐに理解できなかった。
 さらに、ようやく理解できた直後で追い討ちをかけるように、更なる状況の変化が俺に襲い掛かった。


「やっと見つけたぞ、馬鹿孫」
「!?」


 俺達が座っていたテーブルが大人一人分の影が覆われると、頭上から野太く腹に響くような低い声が降りかかったのだ。
 声をするまで、こんな近くに人がいることに気づけなかった事に、恐怖と驚愕からビクリと体が震えた。
 慌てて影と声の主へ視線を向けると、右目に黒い眼帯をしている江戸時代の武士が着ていた裃の肩衣がない状態の服を着た老人が、仁王立ちでこちらを見下ろしていた。
 
 いや、正確には俺の対面の席にいる冷や汗をダラダラ、口をパクパク、体をブルブル、なアンリエッタへ9割の視線が向いている。
 そして、そんな彼女が震える口調で老人に向けて一言。


「お、お久しぶりです……お、お祖父様……」
「……ぁ~」


 彼女の一言は、俺に漫画やアニメでよくある設定の一つが思い浮かばせる。

 “孫娘(アンリエッタ)が何らかの理由で家を飛び出したが、追っ手(祖父)に見つかった”という状況なのだろう。
 これは仮説でしかないが対面で小さくなっている孫娘に、追っ手である祖父が「我侭にも――」「家出など――」と聞き耳を立てていないために断片的だが、俺の仮説を裏付けるかのような小言を浴びせている。
 アンリエッタは悪いと思っているのか、ただ祖父が怖いだけなのか、涙目になりながら黙って小言を聞き続ける。

 そんな彼女に対して「可愛いなぁ」とか阿呆な考えを抱きつつ、小言が終わるのを持っている情報誌を読みながら待つ。
 俺に構って貰えず暇を持て余してたテトは、俺の膝の上で不貞寝という名の昼寝中。





 数分後。
 歳をとると説教が長くなるという通説に反して小言は終わったものの、その変わりとして濃い内容だったのか疲労困憊といった感じの状態になったアンリエッタ。
 「ご苦労さん」と慰める視線を送った後、こちらを見ている老人と目を合わせる。
 その際、右目を隠した髪の毛が外れて素顔が露になるが、直感的に老人には俺の正体はバレているだろう根拠のない確信があった。
 案の定、俺の右目を見ても驚くことはなく、軽く目礼をすると、


「……ワシの孫が迷惑をかけたな」
「いえ」


 謝罪を言葉を口にした。
 だがすぐに、俺が立ち去らずに残った真意を図るためか、見た目が小学生な俺を侮ることなく貫かんばかりに鋭い目を向けてくる。


 そんな目を受けて、今の状況がクロロと最初に会った時を彷彿とさせた。
 あの時は相手がどうしようもなく怖くて、身を縮めて恐怖が過ぎ去るのを待つことしか出来なかった。
 だが、ノブナガとの修行と命のやり取りを経験したのが効いているのか、今は圧倒されそうになるものの、萎縮することなく受け止められた。

 そんな俺の反応に、老人は顎を手で撫でながら感心した声を上げる。


「……ほう、その歳で経験済みか」
「えぇ!? ユイちゃん、もうエッチし――」
「違うわ、馬鹿孫が!」
「きゃうっ!?」
「……」


 ついさっきまで緊張した雰囲気だった空間が、拳骨を食らったアンリエッタの悲鳴を境に音を立てて崩れていく。
 最初に会った時とは彼女の印象が少し変わっているが、これが素の表情なのかと一人納得しつつベタなボケとツッコミに思わず顔が綻ぶ。

 すぐに俺の変化に気づいた老人は、空気を換えるべくワザとらしい咳払いを一つした後に手を差し出す。


「ワシの名は、イクタだ」
「ユイです」


 互いに自己紹介をして、握手を交わす。
 イクタの手はゴツゴツとしていて、前世の畑仕事で硬くなった、無骨ながらも暖かい祖父の手を思い出した。
 そして、ふと“ある映画”の台詞を思い出し、無意識に口から漏れた。


「働き者の手、ですね」
「……そんなことを言われたのは、初めてだな」


 俺の言葉にイクタは一瞬だけ驚きに目を見開いた後、優しい笑みを見せて俺の頭を撫でた。
 ただ、フードを被っている理由がわかっているのだろう。
 撫でるというよりもポンッポンッと軽く手をバウンドさせるようなもので、外れないようにと考慮した気遣いに彼に対する好感度が一段階上がる。


「しかし……我等が最後かと思っていたが、他にも残っていたのだな」
「どういうことですか?」


 イクタの嬉しさを滲ませた呟きに同族の事が聞けると思い、疑問の声を上げながら彼を見つめる。
 彼は、俺の疑問を理解できていないようで不思議そうな表情で俺を見つけ返す。
 あれ? 説明なし?
 と一瞬思うものの、俺が記憶喪失であるということを伝えてないことを思い出した。
 伝えようと口を動かすより先に、拳骨の痛みが引いたのか涙目ながらも復活したアンリエッタが、俺の言いたいことを代弁してくれる。


「あ、ユイちゃんね。数年前までの記憶しかないんだって」
「むっ、そうだったか。すまんな」
「いえ。大丈夫です」


 彼女の説明に、イクタの脳内で俺がどんな人物像に構築されたのか、一瞬だけ悲しい視線を向けた後に謝罪してきた。
 悲劇の少女的なフィルターをかけられたような感じがするが、訂正するほどの言葉を持っていないので放置する。


「もし行く所がないのなら、我等も元にくるか?」
「ありがとうございます。でも、大丈夫です」


 心配しての提案を申し訳なく思いつつ断るとともに、脳裏に仲のいい団員の顔が思い浮かぶ。

 厳しいながらも、さり気ない優しさを持ったノブナガ。
 母親のように俺を受け入れてくれるマチ。
 我が子(孫?)のように可愛がってくれるフランクリン。
 無知な俺に色々と(女性としての)知識を教えてくれるパクノダ。
 友達のような気さくさで付き合ってくれるシャル。

 他の団員も、それぞれのやり方で俺を助けてくれる。たまに騒動に発展することがあるけど……


「家族が……待ってますから」


 前世では家族間の仲は良くなったから、幻影旅団が犯罪者集団であろうとも、俺にとっては小さいころから欲しかった“家族”だ。
 彼らとの想い出が唐突に思い出され、無意識に緩んだ顔になってしまう。

 が、直ぐに自分が子供っぽい反応をしてしまった事に気づいて、慌てて誤魔化そうとするも後の祭りで……


「この、可愛い奴めッ!」
「ふにゃ!?」


 反応できないほどの速度でアンリエッタが抱きついてきて、二次元にしか存在しないと思っていた悲鳴が俺の喉から飛び出した。
 さらに顔全体を発育途中なれど柔らかな“アレ”が包み込み、合わせて女の子特有の甘い匂いのダブルパンチう受け、顔がトマトのように真っ赤に染まる。
 それがアンリエッタのツボに入り、より一層キツく抱きしめられて顔だけに留まらず耳や首も赤く染まっていく。
 それが更なる……といった悪循環に陥った。











「重ね重ね孫が迷惑をかけて、すまん」
「い、いえ。気にしないでください」
「きゅ~……」



[9630] 第20話「内に秘めた思い」
Name: アキ◆1505fff1 ID:a6032e2f
Date: 2011/02/16 13:31
「では、お前の上達振りを見るとするか」
「……っ」


 意地悪な笑みを浮かべるイクタに、アンリエッタは顔を引きつらせた。

 話の内容は、明日の俺との対戦。
 発端はすぐにつれて帰ろうとするイクタを、アンリエッタが明日の予定を理由にして帰れないことをアピールしたののだが……


「家を出てから半年、ワシが驚くほどの成長を遂げていることだろうな」
「うっ」
「それに外の世界に出たのだから、社会に揉まれて精神的にも強くなったことだろう」
「はうっ」
「……」


 どう見てもアンリエッタが、イクタの希望通りの成長を成し遂げていないことは分かっているだろうに、どんどんとハードルを上げていき孫娘を窮地へと追いやっていく祖父。
 見た感じからの判断であるが、彼女もそれなりの実力を備え、成長の伸びしろも十分にあるように見えるから現時点では合格点かと俺は思うから、それ以上を望むのは酷な話であろう。

 しかし、同族といえど俺と彼らは他人同士。
 他の家の事情に、あれこれと口を出すのは相手の印象的にも自分の感情的にも不快なものを残すことになる。

 ということで、アンリエッタへ応援の言葉を心の中で送りながら、最初の説教時と同様に雑誌を開いて時間をつぶすことにする。
 読みたい記事があったから、ちょうどいいしね。
 テトは最初から寝ているために、まったく関係ないとばかりに小さな寝息を立てている。
 何処でも寝れて、少し羨ましいとか思ったり思わなかったり……










「むっ? すまんな、少し熱が入ってしまったようだ」
「いえ、大丈夫です」


 そして数分ほど経った時、イクタがアンリエッタと話し込んで(からかい込んで)いたことに気づいて、放置してしまった俺に謝罪してきたことで終わりを迎えた。
 自ら探しに来るほどに大事に思っている(はずの)孫娘と半年振りに会えたのだから、少しぐらい話し込んでしまうのは理解している。
 なので、別に気分を損ねたりしてないから大丈夫だ。

 ただ、前世では世間的に言えば“お爺ちゃん子”“お婆ちゃん子”であったため、少しアンリエッタを羨ましいと思ってしまう。

 最初こそ戦々恐々としていたアンリエッタは、家出したとはいえ祖父に会えたことがやっぱり嬉しいのだろう。
 俺と話しているときには見せない可愛らしい笑顔を見せている。
 イクタも孫娘との会話に、気づかれないようにしつつも目尻がこれでもかと垂れ下がっている。










 ……ああ、そういうことか。
 ノブナガやフランクリンにクロロといった(様々な意味で)大きい人に頭を撫でられると「ふにゃ」と気が緩むのは、俺が無意識にその人へ甘えていたからなんだ。


 ……

 ………

 …………

 ……………うがあああああっ!
 

 なんだよ、この幼児的な感情は!!
 俺はそんなに家族愛に飢えているって言うのか!?

 いや、うん。
 飢えていた事は認めよう。

 だけど、前世と合わせて精神年齢がもうすぐ20代後半を迎えている人間が抱く感情か!?
 いやああああっ、自覚したくなかった!

 恥ずかしい、恥ずかしすぎる!
 黒歴史に相当する恥ずかしさだぞ!


 自覚してしまった己の感情に、抑えられない羞恥心が顔を真っ赤に染め上げた。
 当然、何の前触れもなく赤面した俺に驚くイクタとアンリエッタ……いや、アンリエッタは嬉しそうな表情してる?

 そんな彼らから、隠れるようにフードを目深に被り直す事で顔を隠し、手遅れ感があるが誤魔化すための言い訳を吐き出す。


「ちょ、ちょっと暑くなっただけですから、気にしないでください」
「いや、そんな急に――」
「暑くなっただけですから」
「……だが、どう見て――」
「暑くなっただけです」
「…………そうだな」
「うんうん。私も少し暑いって思ってたところだよ」


 くそ、やっぱり誤魔化せなかった。
 生暖かい視線を注がれているのが感じ取れる。
 
 自分から見ても今の言い訳は苦しいのは分かっていたが、いきなりでは良い案が思い浮かばなかった。

 結局、この出来事のせいでキコ族についての質問をするタイミングを逃してしまった。
 そして、あれよあれよと言う間に別れる時間になり


「じゃあ明日ね、ユイちゃん」
「はい」


 アンリエッタが笑顔で差し出してくる手に、軽く笑みを浮かべながら答える。
 彼女の目は、闘志に燃えていたカストロの目を彷彿させた。

 彼も“あの出来事”がなければ、負けるつもりだったにせよ良い勝負が出来た筈だ。
 だから、少々とはいえ不完全燃焼気味だった俺の闘志も触発されてメラメラと燃え上がっていく。


「負けないよ」
「望むところです」


 互いに不敵な笑みを浮かべあう。
 純粋に、明日が楽しみで仕方なかった。





 そう、イクタの表情が視界に入らないほどに


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