……あら? どこかしら、ここ
神代利世は困惑した
先程自分は死んだと思ったのに、なぜこんなところにいるのだろう
死んだと自覚していながら、ここはどこなのかしら、と首を傾げ呑気なことを口走っていたことに気付いていなかった
あれは、獲物を狩ろうとしていたときだ。
純情そうな青年
筋肉も脂肪も適度に付いていてオイシソウだった
トドメを刺したと思ったその瞬間
見上げると突然工事現場の鉄骨が落下していてきたのだ
ビルの上に立つ人物を見たときなぜ、と思った
ピエロのマスクをした懐かしいあのこを
だが、今となっては考えるのも無駄なのだと悟った
そこらにある看板は見知らぬ文字。
リゼは読書が趣味で喰種でありながらも日本語と英語を習得していた
(どういうことなのかしら…)
限りなくアルファベットに似ているがリゼには意味不明な文字だった
アルファベットが横向きになって他のアルファベットと合体している文字
こんな文字みたことも無いわ、と呟いた
その辺を歩いていると若い男に声をかけられた
俗にいうナンパ、である
リゼにとっては珍しいことでもなく、普通の人間ならば多少動揺するのだが、リゼの脳内では欠片も考えておらず、別のことを考えていた。
リゼはその男を人気の無い場所に連れ込み、男に近づくと微笑みを浮かべた。そして身体を近付け密着させる。するとリゼの腰を何かが突き破った。“ソレ”は禍々しく赤く輝いており、鱗のようなものもみえた。くねくねと動くソレはまるで触手だった。
ソレはリゼ自身が“喰種の爪”と称しているもの。一般的には“赫子”と呼ばれる。ひとりひとり赫子の色や形などは違い、それは親から引き継がれる場合が多い。リゼは赫子を出現させ、一瞬のうちに男の腹を突き刺し、ぐちゃぐちゃと掻き回した。
男のから発せられるはずの野太い声は出ない。なぜならリゼが潰してしまったからだ。
くすくすと笑いながら腹から血を流している男に近寄る
男は必死に逃げようとするが、それはかなわなかった。痛みからか、恐怖からか、はたまた赫子で地面に縫い付けられているからなのかは分からなかった
男は涙と鼻水で顔は酷い状態になっており、既に声になっていないが、悲鳴をあげているのだろうと推測できた。
「くすくすくす…痛いですよね?当然ですよね、だって痛ぁくしてるんですから♪でも私は優しいからわざわざ優しく掻き回してあげてるんですよ?感謝してください♪」
リゼはさも愉快そうに言った
男にとっては地獄である。生きたまま腹の中は弄り回され、死なない程度に遊ばれているのだ。そして時々赫子でナカミを引きずり出して「はい、これが小腸ですよ。みたことあります?」などとわざわざ男に見せつけ、目の前で齧り付くのだ。
命乞いをしようにも喉を潰され、悲鳴すら出ない。カエルのような呻き声はリゼを笑わせるだけだった
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手が血に塗れることも気にせずに“ソレ”を食べながら男のズボンを漁った
出てきたのはいかにも高そうな皮のサイフである
リゼは慣れた手つきで服からハンカチを取り出すと手に付着した血を拭き取った
そしてサイフを自分のポケットにしまった
リゼは何事も無かったかのように“食事”を続けた