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[43716] エストポリス転生記
Name: タカヤ◆27d00a19 ID:0763c9d8
Date: 2021/03/05 21:28
目覚めた場所は見知らぬ土地だった。
ここは、どこだろうか?
日常に嫌気が差し、幕を降ろそうかと思っていたのだが…いやはや何とまぁ…神とやらが最後の最後に数奇な非日常をプレゼントってか?
笑えねーぞこの野郎。
状況説明。
本来の俺の身体は平凡な成人男性のものだ。
それがどうして、赤ん坊にまでランクダウンしているのだろうか?
一つ、結論を出すとすれば……至極荒唐無稽なものになる。
俺の生きていた現実世界から切り離され、別世界へと飛ばされてしまったのではないか?
…という結論。
訂正しよう。
これが、わりと一番現実的かもしれない。

「可哀想に…捨て子かねぇ…」
「不憫だのう…」

おっと、人がいたようだ。
老夫婦らしき二人組だ。
心配そうな顔でこちらを覗き込んでいる。
同情するならいっそのこと殺してくれ。
そう願ったがその歪な願いは届かず、老夫婦らしき二人組に俺は住んでいる村へと連れて行かれた。

勘弁してくれ。
このシナリオを用意した神様とやらは今すぐに死んでくれ。
誰も望んでねーよこんなこと。
誰もが皆非日常を望んでいると思うな。

平和に生きたい。
平和に生きられないならば死にたい。
それが俺のモットーだ。

新しい生活が始まるのだろうか?
それはもう、拷問といっても差し支えないだろう。赤ん坊の身に何ができるというのだろう。
いるかも分からぬ神とやらを呪い、月日が経つのをただひたすらに待った。

━━五年が経った。

住んでいた村は滅びた。
俺以外の村人は死んだ。
死んでいた。
俺だけが生き残った。
この世界がどういう場所かを把握するために度々遠出をしていたおかげで。
涙は出なかった。
あぁ、そうか…とそんな感じだった。
薄情な人間と言われたらそうかもしれない。
ただ、何の感情も沸かないのだから仕方がないことだと割りきるほかはない。

俺が考えていたことは…明日からの寝床はどうしようか、ということだった。



[43716] エストポリス転生記 洗礼
Name: タカヤ◆27d00a19 ID:e6d12310
Date: 2021/03/10 10:42
故郷が滅んだ俺はあてもなくさまようことを余儀なくされた。何故滅んだのかなんて理由はどうでもいいが厄介なことをしてくれたものだ。
寝床を探さねばならない。村中の金品がごっそりなくなっていたので、恐らくは強盗、世界観的に言うと野盗か。そいつらの仕業に間違いないだろう。

…しかし、面白いものだ。
死ぬことを考えていたはずなのに…生きるために思考を張り巡らせている。
心のどこかに生への執着があるのだろうか?
確かに、今のこの状況は多少面白いといえる。
世界も知らず、親も知らず、自身のことすら知らず…神、或いは運命は何故俺をこのような状況に陥れたのか。それを知るのもまた一興か。

「はは…」

自然と乾いた笑い声があがる。
その意味を知るまでは、死ぬわけにはいかない。

いいだろう。生きてやろうじゃないか。
俺の最期は如何なるものか。
それはまだ誰にもわからないが。
抗おう。泥をすすっても、這いつくばってでも。生きて生きて、その先には何があるのか━━今、とてつもなくそれが知りたくなった。

そこからは必死だった。
生きるために。
襲った。奪った。騙した。時には手痛い目にあうこともあった。命からがら逃げたした。
人間だけではない。
この世界、どうやら怪物の類もいるようだ。
最初は驚いたが、もう慣れた。
殺して、肉を喰らい、血を啜った。
死にかけたこともあった。
実際死を覚悟した回数は少なくない。
だが、そのような洗礼を浴びても尚、悉く命を拾った。
運命は俺を生かしたいのだろうか?

そして、十数年が経つ。
前世の記憶などもはや朧気だ。
だが、それでいい。
どのみちそんなものに執着はない。
怪物を倒すのも段々と慣れてきた。
幸い、それほど強いやつに今まで会っていないというのもあるが…。
俺は村や街に繰り出し、怪物を退治して生計をたてるようになった。

剣と魔法。
そう聞くと、心踊る者もいるだろう。
それを駆使して怪物をなぎ倒す。
俺も一度は夢見たことがある。
今ではそれが現実となっている。
大陸から大陸を渡り歩き、怪物(モンスター)を狩る。いつしか、そんな生活にも退屈を感じ始めていた。

「兄ちゃん!助かったぜ!」
「いえいえ、なんのことはないですよ。」
「お礼は弾むぜ!ところで、名前を聞いてなかったな。」
「名前…ですか。」
「おうよ!是非とも教えてくれ!アンタは恩人だ!」

「…レンと申します。また何かあれば。」



[43716] エストポリス転生記 出逢い
Name: タカヤ◆27d00a19 ID:fcc45e42
Date: 2021/03/14 10:05
「キャー!」

悲鳴?声からして恐らくは年端のいかない女の子か。
急がなきゃな。
声のした方へ行ってみると案の定、女の子が
モンスターの『コボルト』に追いかけられていた。
それほど強いモンスターでもないむしろ弱い部類に入るモンスターだが、女の子が怪我をするのはいただけない。

「!?」

コボルトは切り裂かれたことにも暫くは気づかない様子だったが、やがて絶命した。

「ちっ、金の足しにもならんな。」

と、愚痴るのは後だ。

「大丈夫?怪我はない?」

「うん、ありがとう。」

「でもダメだぞ?こんなところを一人で出歩くなんて。両親が心配するだろ?」

「ごめんなさい。新しい遊び場を探してたらつい…。」

「うん!わかればよろしい…って足擦りむいてるじゃないか。」

「逃げてる時に転んじゃって。」

「…じっとしてて。」

女の子は一瞬キョトンとしたがすぐに従ってくれた。


「エスト」

それは魔法。
傷を癒す回復魔法である。
擦り傷程度ならばあっという間に治してしまう。

「…あったかい。」

「どう?まだ痛むかい?」

「う、うぅん…痛くない!す、凄いねお兄さん!魔法使い?」

「ハハ、まぁ、そんなとこかな。」





「ありがとう!」

「娘がお世話になりました。」

「また来てね!お兄さん!」

「それじゃあね。」

女の子を彼女の住んでいる村まで送り届けた俺は村で聞いた次の街を目指すことにした。

何でもモンスターを引き取ってくれる場所があるそうだ。
路銀も尽きかけてきたし、良い機会だ。


「ん?」

それは異様な光景だった。
空に赤く輝く光の玉が現れ、ゆっくりと…
しかし確かな軌道を描きやがて見えなくなった。

「あれは…?」

ともすれば流れ星のような。
しかし、俺はそれを美しいとは感じなかった。
むしろ、嫌悪感すら抱いていた。
占めるのは不気味という感情だけ。
凶兆の前触れ…なのか?


数日後。街へ着くが、何やら物々しい雰囲気だった。
街の人に話を聞くと、この街の北にある洞窟にモンスターが大量に発生したこと。次の街へ行く洞窟の扉に鍵をかけたことがわかった。

「北にある洞窟ですね?」

「まさか、行く気か?アンタ見たところ剣士みたいだけど、危険だよ!」

「お構い無く、そんなもんいくらでもくぐり抜けてきたんでね…ところで、倒したモンスターを引き取ってくれるってところはありますか?」

「あぁ、それならあそこの店でなら引き取ってくれるよ。」

「なるほど、ありがとうございます。」

ここらで稼いでおくか。
街の人には悪いが、好都合だ。

どうやら、もう一人モンスターの討伐に向かったこの街唯一の剣士がいるそうだ。

獲物は減るが…まぁいいだろう。

洞窟へ着くと見張りの男が一人いた。

「まさか、入る気かい?」

「あぁ、危険は承知の上だよ。悪いけど押しとおるぜ。」

「あっ…!」

問答無用でさっさと中へ入る。



「全然いないじゃん…」

これは予想外。
モンスターの死骸も見えないとはどういうわけだ?
どうやら、剣士さん相当の手練れのようだな。
俺、必要なかったんじゃないか?
かといって、ここで退くわけにもいかないし…万が一ってこともある。考えたが結局奥へ進むことにした。


「ふぅ…ここもあらかた狩り尽くしたかな…」

「いやぁ、すごいな。」

「!?」

赤髪の剣士は振り向き臨戦態勢を取る。
うん、良い反応だ。

「おっと、俺はあなたの味方ですよ。モンスターが大量に出てるって言うから狩りに来たんです。」

「そうだったんですか…失礼しました。」

見るからに腕が立つな…この男。
今までも剣士や戦士の類には会ったことはあるが…ここまでのはいなかった。

自分よりも強いかもしれない。
そう思った。

…しかし、この男…どこかで…。
どこかで見たことがある気がする。
一体どこだったかは…思い出せない。

「マキシムといいます。」

マキシム…やはり、どこかで…

「? どうかしましたか?」

「あぁ、いや…何でもありません…レンです。よろしく。」

これがマキシムとの出逢い。
そして、大戦への序章。



[43716] エストポリス転生記 予言と旅立ち
Name: タカヤ◆27d00a19 ID:938b4239
Date: 2021/03/29 22:44
「なんだお前たちは!?扉のカギは…」

コイツか…扉にカギかけたモンスターって。
リザードマン。
いっちょ前にお粗末な剣と盾を身につけてはいるが、別段強いモンスターではない。

「渡さん…ぞっ!?」

リザードマンの首が落ちる。
いや、気づくのが遅すぎるだろ。
やれやれ、これじゃ張り合いがない。
俺、いらなかったんじゃないか?
 
「いやぁ、鮮やかだな。素晴らしい。」
 
称賛も彼の耳にはとどいていなかった。
あら、俺が人褒めるのなんて滅多にないのに…。
彼、マキシムは何か考え事をしているようだ。

「どうしたんです?」
 
「いや…何か妙だなと思って…」

妙か…まぁ、確かに。
モンスターが人間の生活を妨害したところで益などないはず。
そこら辺は少しばかり引っかかる。

「知りたいですか?マキシムさん。」

「だ、誰だ君は…どうして俺の名前を?」

不覚にも声が聞こえるまでその女性を認知することができなかった。
この女、いつの間に…。
美人…といえば美人だがまず間違いなくただ者ではないだろうな。

雰囲気というか、オーラというか。

「私のことよりも、何故モンスターが人間の生活を脅かすようになったのかを知りたくはありませんか?」

「その理由を知っているのか?」

「えぇ。」

うわぁ…なんだろう…俺置いてけぼり?
何この疎外感。

その女が言うには…遠くない未来に世界が滅ぶらしい。
数日前に現れた赤く光る玉。
それが原因だそうだ。
はっ…イカれてるな…。

そう思ったが、妙な説得力があった。
それが本当だとするとこんなに面白いことはない。
退屈だったんだよ。
待ってたんだ…こういうのをな。

マキシムにはその世界を滅亡させる力に対抗できる素質を秘めているらしい。
そして、その素質を持つ者はこの地上のどこかにまだいるそうだ。

へぇ、良いね。
まだまだこの世も捨てたもんじゃないってことか。
前世じゃ退屈すぎて自ら幕を降ろしたけど。
楽しめそうだな。

「ま、待ってくれ!」

「…私の名はアイリス。あなたが旅を続けるのならばまたどこかで会うことになるかもしれません…」

そう言い、アイリスという女は去って行った。

去り際にほんの一瞬、俺のほうを見た気がするのは気のせいだろうか。

 

まったく勝手に話を進めやがってからに…
完全に空気だったぜちくしょう…

「………」

「にわかには信じられませんなー…世界が滅ぶだなんて。」

「けど、あの人が嘘を言ってるようには思えない…」

「ん、俺もおんなじ意見ですよ。」

何者かは知らないが。
何かは知っているはず。
もったいぶりおってアイリスさんとやらめ。

「行くんですか?真実を確かめに。」

「…えぇ。」

「じゃあ俺もお供しますよ。」

「え?でも…」

「話を聞いちまった以上は見て見ぬ振りはできないですし…まぁ、足は引っ張りませんから。」

「…止めても無駄なようですね。わかりました、よろしくお願いします。」

「あぁ、それとお互いにかしこまるのはやめにしましょう。フランクな感じで行きたいしね。」

「わかった。よろしく頼む…レン。」

「こちらこそ、マキシム。」

 

こうして、世界を救うための旅が幕を開けた。
俺とマキシム、そしてまだ見ぬどこかにいるであろう仲間達…生きてきて初めてだ。
 

こんなに心が踊るのは。



[43716] エストポリス転生記 地震と鯰
Name: タカヤ ID:b6be9d43
Date: 2021/04/06 11:05
街の人達への報告の為、マキシムは一度街の方へと戻るそうだ。俺もリザードマンの首を持っていけば報酬も貰えるだろうし丁度良かった。

倒したのはマキシムであるが彼はもう興味がないようだったので譲ってもらった。

街の人達は皆一様に安堵したようだ。
だが、脅威は去ったわけではない。
敵の正体もわからない以上手探りで各地を巡るしかないだろう。

「マキシム!良かった!私の思い過ごしだったのね。」

「なんのことだよ?」

「あなたがどこか遠くに行ってしまいそうな気がして…」

「………」

マキシムを迎えた女性は安堵した面持ちでそう呟いた。

おそらくはマキシムの知り合い…幼なじみといった間柄であろうか。

彼女は何も知るはずはないが、虫の知らせのようなものはあったのであろう。

マキシムは何も知らせるつもりはないようだ。
となれば、ここは彼の意志を尊重しよう。
目配せして頷いておく。

「あら?そちらの方は?」

「どうも。しがない旅の剣士をしております。こちらでモンスターを引き取っていただけると伺ったのですが。」

「えぇ、モンスターなら引き取りますよ。」

しかし、モンスターの亡骸を見ても顔色一つ変えないとは…彼女はなかなかの人物のようだ。

勘定を終え、G(ゴールド)を受け取るが…やはりというか相場は下がっていた。

彼女が言うにはモンスターが増えたのが原因らしいが。

「世知辛いですねぇ。」

間違っても食い扶持には困らないとは言えない。
全然思ってもいないことを言った。

「それじゃ、ティア。俺はそろそろ行くよ。」

「えぇ…またね、マキシム。」

「あぁ。」

「それでは俺も。」

マキシムを追うようにして俺も店を出る。





「良かったのか?彼女…ティアさんには何も言わずに出てきちまったけど。」

「あぁ、これでいいんだ。言えばついてきてしまうかもしれないからな。」

「そりゃ、また…行動的な子なんだな。」

大人しく待っていてはくれないわけか。

なら尚更伝えるわけにはいかないな。


「ま、何はともあれ改めてよろしくな。」

「あぁ、こちらこそ。」


相棒というのは新鮮だ。
今の今まで独りだったから。
思えばよく死ななかったものだと感心すらする。

だが、これからは背中を預けられる仲間がいる。
独りでなければきっと…世界を滅ぼすものも打倒できるはずだ。

少なくとも俺はそう信じている。

神を呪うばかりの第二の人生だったが、ここにきて面白くなってきた。運命とやらもやればできるじゃないか。



次の村のサンデルタンに着いた途端、大きな地震に見舞われた。

「いやぁ、デカい地震だったな。」

生きてきて初めてかもしれんな。あんなデカい地震は。
話を聞くとあの規模の地震は初めてではないらしい。
局地的な…それに何度も起こっているとなると…自然的とは考えにくいな。


「十中八九モンスターの仕業だな。」

「村の北にある洞窟が怪しいと見るが…レンはどう思う?」

「俺も同意見だよ。」

「そうか、じゃあ武器や道具を揃えてそこへ行くとするか。」

「そうしよう。」








「やれやれ、やっと人が来たかと思えば弱そうな人間達だ…怪我をせんうちにさっさと帰るのだな。」

「なぁマキシム…鯰って喋る生き物だったっけ?」

「そんな場合じゃないだろ…今は。」

「なぁ、あの地震はアンタが起こしているのか?」

「そうだ。このところ暇でしょうがなくてな…地震を起こして誰かが来るのを待っていたのだ。」

「なんつー迷惑な…」

「みんなが迷惑してるんだ。やめてくれないか?」

「ワシに勝ったら考えてやろう…無理だと思うがな。」

やるしかないってか。
もとより話し合いで解決できるとは思ってはいなかったが。

「ん!?」

動こうとしたところ地面が揺れて、グラついてしまう。
そこを鯰の魔法が俺に向けて放たれた。

雷魔法のレ・ギか。

「レン!」

マキシムが叫ぶが…正直こんなもん大したことはない。

「む!受け止めただと?」

「軽い軽い。こんなんじゃ俺は倒せんぜ?鯰さんよ。」

「おのれ…ぬっ!」

俺に気を取られマキシムへの注意が疎かになってる。
その隙をつきマキシムが鯰に斬撃を喰らわせた。

まぁあいつ一人でも大丈夫だろうが…ちょっと偉そうな態度にイラっときたんでな。

喰らわせてやるか。

「なかなかやるではないか…人間の剣士よ。」

「鯰さん。鯰さん。」

「なんだ?」

「この剣さぁ…さっき買ったんだけど…何でも特別な力が秘められてるらしくてさ…」

「それがなんだ?」

「剣から雷が出るみたいなんだよね…ちょっと試してみてもいいかな?」

「な…待て…」

「やだ♪」

「ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

ははは、ざまぁみろ糞鯰。

「上手に焼けましたー♪ってか?」

ふと頭に浮かんだメロディーを口ずさむ。

何だったっけこれ?忘れちまったわ。

ちょっとやりすぎちゃったかな?



[43716] エストポリス転生記 幼馴染
Name: タカヤ ID:7691e42c
Date: 2021/04/17 05:27
「参った…ワシの負けだ…地震はもう起こさんから勘弁してくれ…」

「いやいや、わかればいいんだよ。」

鯰もわかってくれたみたいだ。
とりあえずは、一件落着ってところかな。

「さて、戻るか。」

「そうだな。」



「キャー!」

「ん?」

戻る道中、女性の悲鳴が聞こえてきた。
何があったかは知らんがこれはいかん。
とにかく急がねば!

「…この声は!」

マキシムは声の主に心あたりがあるようだった。
緊急なので聞くことはしないが。

「やっぱり…ティア!」

ティアって…今日街であった商店の子か。
マキシムを追いかけてきたのか?
とりあえず、襲っていたモンスターを斬り伏せる。

「ティア!どうしてこんなところまで来たんだ!?」

「あなたが遠くに行ってしまいそうで…心配になって…それで…」

なるほど、それでこんな場所まで。
それにしても…とんだ無茶をする子だな。

「でも、私の思い過ごしよね?マキシム。」

「………」

マキシムは黙っている。
それは肯定したも同然で…

「…違うのね。」

半ば諦めたように彼女は呟いた。

そんな中マキシムは一つ一つ説明していく。

数日前に現れた赤い光の玉。
近頃の異変。
それがやがて世界の滅亡に発展するということ。

彼女は納得がいっていない様子だ。
おそらくだが彼女は…幼馴染以上の感情をマキシムに抱いているのだろう。
故に、はいそうですかとあっさり呑み込むのは到底無理な話だろう。

「私もついていくもの。」

しばらく会えなくなるというマキシムの言葉をよそに彼女はとんでもないことを言い出した。

「ダメだ!ティアを連れていけるわけないだろ!」

「誰も連れてってなんて言ってないわよ!」

話は平行線である。
俺はまた空気まっしぐらである。

「ティア!迂闊に歩き回ったら…」

「っ!」

マキシムの忠告も時既に遅し、モンスターの魔の手が彼女を…




「ったく、レディに対する礼儀がなってねーな。」

「グギャアッ!」

モンスターを斬り伏せる。

「あ、あなたは…」

あれ?もしかして…俺、認識されてなかった?

「俺は構わないぜ?マキシム。」

「しかし…」

マキシムは暫く考え込んでいたが、やがて折れたのか無茶は絶対するなよとそれだけ言った。

「そういえばまだ名乗ってませんでしたね…レンといいます。よろしく。」

「えぇ、よろしくね。レンさん。」

「あぁ、レンでいいよ。俺もティアって呼ぶからさ…堅苦しいのはナシで…な?」

「そうね…よろしく、レン!」

「ん、こちらこそ。」


世界を救うマキシム御一行の旅は始まったばかり。
けどぶっちゃけ世界がどうなろうが俺にとっちゃどうでもいい。楽しめるか楽しめないか。大事なのはそこだ。
退屈は死と同義なのだから。

「ティア。」

「? どうしたの?」

「頑張れよ。」

「えっ!?何の話?」

「マキシムだよ…邪魔はせんからさ。」

「な、何言ってるのよ!」

残念ながらバレバレだよ。
わかりやすすぎる。

「?」

当の本人は…気づいてないんだろな。
そっちのほうは鈍そうだし。
戦闘の勘は鋭いんだけどなぁ。

ティア…苦労するだろうけど頑張れよ。
今度は心の中でそう合掌した。



[43716] エストポリス転生記 二人組の王冠泥棒
Name: タカヤ ID:974847dc
Date: 2021/05/09 18:43
地震を起こしていた鯰をボコボコにして、無事に平和を取り戻した俺達はマキシムの幼馴染(?)ティアを新たに仲間に加え、次の目的地を目指していた。

ほこらを抜け、目的地のアルンゼ王国、その城下町へと到着した。夜も近づいていたので一泊してから城のほうへ行くかという話になり、床に就いた。

……俺を除いて。
いや、まぁ最初は寝ようと思ったのよ。
でも見つけちゃったら行くしかないよね。
そう、カジノである。

カジノといってもスロット台が一台置いてあるぐらいだが。しかし、カジノはカジノである。

「コイン100枚セットで。」
「かしこまりました。」

ギャンブルも久しぶりだな…血が騒ぐ。
俺は前世ではギャンブラーだったのかもしれない。
もう殆ど思い出せもしないが。

でも今日ぐらいは羽目をはずしてもいいよな?
特別な日なんだ。
仲間ができて…目的ができた。
ずっと独りだった俺にとってこんなに嬉しいことはない。

「さぁて…いきますか。」








「おはよう。」
「おはようティア。」
「レン…どうした?顔色が悪いが…眠れなかったのか?」

マキシムが心配そうに聞いてくる。

「あぁ…まぁ。」

くそう…あそこでやめていれば。
最初は順調だった…いや、出来すぎなぐらい調子が良かった。
途中、変な二人組の奴らがアンタすげーな!とか盛り上げたりするから…片方の奴なんか大アニキと呼ばせてください!とか言い出すもんだから退くに退けなくなってしまったんだ。結論…あの二人が悪い。

「ちくしょう…」

最悪のモーニングだ。
気を取り直し、城下町へ。
何でも近々戴冠式があるのだとか。
その戴冠式に使われる王冠が城で特別に公開されているのだそうだ。
せっかくだし見に行くかということで城へ向かう。


「国王陛下ー!」

王室へ入るやいなや王冠がニセモノだとかなんだとか、ちょっとした騒ぎになった。
それが本当なら一大事だな。

「外に宝石の鑑定士を待たせてあります。すぐに王冠を調べてまいります!」

「う、うむ。」

「ちょっと待て…お前達、見ない顔だがどこの部隊の者だ?」

「…………」

「どうした?何故答えん!」

そういうことか。
まんまと王冠をせしめようって魂胆だったか。

「うわはははっ!天下の大ドロボウジミー様たぁ俺の事だぁ!」

「あっ…」

あいつは…

「そして、ジミー兄貴の一番弟子、トミー様でぃ!」

間違いない…昨日の二人組だ。

「よう。ご無沙汰だなお前達。」

「げっ!」
「大兄貴…!」

「王冠を奪おうとはな…知らない仲じゃあないが、ドロボウは見過ごすわけにはいかんな。」

「こっちもだ。アンタとは一時とはいえ酒を酌み交わした中だが…ジャマするとあっちゃあ容赦はできねぇなぁ…トミー!」

「がってんでさぁ!」

そう言い取り出したのは爆弾であった。

「!」

中々過激なことを…

「賑やかにしてやんな!トミー!」

「任せてくだせぇ!」

………一向に爆発する気配がないが。

「どうなってんだ?トミー。」

「ちょっと待ってくださいね兄…」

あ、爆発した。
盛大に吹っ飛んだなあの二人。
無事か?

「おーい…大丈夫か?」

「や、やるじゃねぇか。」

あの爆発から即復活するのか…
今まで見たことないけどそんなヤツ。

「敵ながら天晴れだぜ…だが、捕まるわけにはいかねぇ!あばよ!」

あ、逃げた。
ちゃっかり王冠まで奪って。

いかん、呆気にとられた。

「な、何をしておる!?早く追うのじゃ!」

「は、はっ!」



「何だったんだ…ありゃ。」

「あの二人組と知り合いだったのか?」

「あぁ、昨日カジノでな。」

「…なるほど。それで寝不足なのか。」

「ところでどうするの?あの人達逃げちゃったけど…」

「国の一大事だし、追うしかないでしょ。」



話を聞いて回った結果、外に逃げた形跡はなく怪しいのは城の地下ということだった。
実際地下に逃げる二人組を見たという証言もあり、
見張りの兵が二人組に爆弾を投げられたということからもそれが確定した。


「うわ、酷い荒れようだな。」

長年手入れされていないのか、酷い有り様だった。
驚くべきことにどこから入り込んだのかモンスターの姿まであった。
国の城としてどうなんだこれは。
こんなところに長くはいられないとさっさとあの二人組を探すことにした。


「いたぞ。」

「ほう…ここまで追ってくるとは大した奴らだな。だが、そこに降りたのがお前達の運の尽きだ。」

俺達が居る場所は丁度城の水路の真上。
なるほど、水責めにして俺達を流そうってか。
相方のトミーってのがスイッチを作動させ俺達とあいつらとの間に壁をつくり水路を分断させた。

「これで逃げられんぞ…さぁ次は水が流れるぞ!泳ぐ準備ばぁっ!?」

流された。
あいつらが。

「…………」
「…………」
「…………」

うん、アホだな。
それよりどうしたものか。
王冠ごと流されてしまった。

「見て!王冠よ!」

「お、ラッキーだな。」

「流されている内に落としたんだな。」

「あの人達…大丈夫かしら?」

「自業自得ってヤツだよ。さすがに死んではいないだろうし、大丈夫だろ。」

「それもそうね。」

幸いにも王冠は無事だった。
王冠を取り戻せて王様も ホッとしたようだ。
俺達は一躍英雄扱い。
たまには良いこともするものだな。

それにしても、ジミーとトミーか。
面白い二人組もいたもんだ。
実際気の良い奴らだったし…また、会いたいものだな。


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