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[16660] 奴が幻想入り(東方×GS)
Name: 空之風◆6a02351e ID:7ff689c2
Date: 2012/04/19 20:06
これは前に書いて、すぐに挫折した二次創作小説です。

なぜかデータが残っていたので、一発ネタとして掲載してみます。

これはありそうで中々ない、東方と某作品のクロスオーバーです。

「ならばやってやんよ!」

ということで挑戦してみましたけど、東方を二次創作でしか知らず、東方側のキャラの性格などが把握できなかったので挫折しました。



あくまで一発ネタですので、色々と気にしないでください。

たぶん続きません。

すごく寛大な心を持って、お読みください。



と、初回に記載しましたが……






なぜか続いています。

以下が注意書きです。




作者は東方の原作を知りません。


ですので、性格や口調が違う場合があります。なければ私はきっとです。


今後も続くかどうか、マジでわかりません。


奴が飛びかかる東方キャラは、作者の独断と偏見で決めています。


つまり、明らかな幼女体型以外はやってやりますので、ご了承ください。


本作品は勢いとネタとギャグで作っています。


でもきっとあまり続きませんので、あしからず。





それでは、奴こと…………、





































「横島忠夫の幻想入り」



お楽しみください。



[16660] プロローグ
Name: 空之風◆6a02351e ID:7ff689c2
Date: 2012/02/15 23:31
「ふ、ふふ、ふふふ……」

顔を俯かせながら、横島忠夫は肩を震わせ――、







「ここはどこじゃーーーーッ!!!」




力の限り絶叫した。










~回想~

物語はいつもと変わらず、美神の事務所から始まった。

「はぁ? 空間転移装置?」

美神は心底から胡散臭そうに聞き返す。

「そうじゃ! この装置はの、離れた場所同士の空間を一時的に繋げて、瞬時に移動する事ができるという、このドクターカオス渾身の作品じゃ!!」

「ワタシも手伝ったあるよ!」

自信満々に言い放つのは、朝から美神事務所を訪れている二人。

千年を生きる伝説の錬金術師、今はただのボケ老人、ドクターカオス。

オカルトグッズを扱う厄珍堂の主、存在自体が胡散臭い、厄珍。

組み合わせからして怪しい二人が紹介しているのは、見るからに怪しい縦型のカプセルだ。

配線コードやメーターがあちこちに付いており、中には大人一人程度なら余裕で入れる程度のスペースがある。

ちなみに厄珍堂からここまでそれを持ってきたのは、カオスの後ろに控えているマリアだ。

「それはすごいでござるな!」

「ふーん、おもしろそうね」

「シロ、タマモ、騙されるな。あれを作ったのはそこの二人だ。絶対に欠陥品だ、むしろ欠陥品じゃない方がおかしい」

目を輝かせるシロと興味を示すタマモを、確信的な口調で横島が止める。

「失礼じゃな小僧。わしの渾身の作品じゃと言っておるじゃろう」

「お前らにはテレサという前科があるだろーが!! おかげで酷い目にあったんだぞー!!」

「よ、横島さん、落ち着いてください」

あの時の思い出が蘇ったのか、うがーと吼える横島。それをおキヌが宥める。

「で、それをわざわざここまで持ってきて、私にどうしろっていうの?」

騒がしくなった横島付近を完全無視して、ジト目で美神が話を戻す。

二人はここぞとばかりに駆け寄り、

「どうじゃ、画期的な発明じゃろう! わしとお主の中じゃ、誰よりも早くこれを売ってやらんでもないぞ!!」

「今なら特別価格で五億円あるね!!」


「いるかそんなもん!!」

「「ぐはッ!」」



ぶん投げられた分厚いオカルト本の直撃を顔面に食らった。

「ちょ、ちょっと待つある。ちゃんと人の話は最後まで聞くあるね」

鼻血を拭きながら厄珍が口を開く。

「ワタシらも“あの”美神令子がいきなりこれを買うとは全く、全然、これっぽっちも思っていないある!」

「そうじゃ、相手が他ならぬ“あの”美神令子じゃからな!」

「おお、それは間違いない! “あの”美神さんがこんなうさんくさい機械にお金を払うはずがあるだろうか!? いや、絶対にない!!」


「あんたらは人を何だと思っとんのかー!!」


神通棍で血まみれにされた横島、カオス、厄珍の三人を見ながら、

(だって美神さんですし……)

(他ならぬ美神どのでござるし……)

(美神だからね……)

と、おキヌ達は心の中で呟いた。

「そこで、じゃ! ここで実演をして見せようと思っての。わざわざここまで持ってきたんじゃ」

あっという間に復活する三人。もはや血の一滴たりとも流れていない。そしてもはや誰もそれに驚かない。なぜならそれが普通だからだ。

「実演? つまりもう起動実験は済ませてあるっていうの?」

予想外だったのか、少し驚いた様子で美神は尋ねる。

「いや、まだじゃよ。だからここで小僧を使って実験をするんじゃ」

「ボーズなら万に一つがあっても心配いらないある」



「なめとんのかおんどりゃーーー!!」



当たり前のように言い放つカオスと厄珍に叫ぶ横島。

「あれか!? 俺は実験体か!! お前らの中で俺の扱いはどうなっとんのじゃー!? モルモットかコンチクショー!!」

「どうせ反対するじゃろうと思ったからの、お主の為に移送先はわざわざ隣町にある女子高を選んで――」



「さっさと起動しやがれカオス!!」




「「「だあぁぁぁ!」」」


言い終わる前にもうカプセルの中に入り込んでいる横島に、全員がこけた。

「よ、横島さ~ん、止めておいた方が……」

「そ、そうでござるよ、先生~……」

「フフ、女子高……女子高……ムフフフ……」

おずおずとおキヌとシロが口を出すが、血走った目で妄想している横島の耳にはもう届かない。

「オホン。では――起動!」

カオスがスイッチを押すと、カプセルが淡く光り出す。

「転送ポイント、P-012X。マリア、状況を」

「稼働状態・良好。量子データ・転送開始。20%……30%……」

状況を逐一報告するマリア。

「いよいよじゃな」

「世界初の量子移動、世紀の瞬間あるよー!」

成功の期待に胸を膨らませるカオスと厄珍。

「怖くなんかないぞ、怖くなんかないぞ。この先には新鮮な女子高生たちが――桃源郷が待っとるんやー!」

カプセル内で騒ぐ横島。

「だ、大丈夫でしょうか、美神さん。何か凄く不安なんですけど……」

「なるようになるんじゃない」

不安そうなおキヌに無関心そうに美神は言った。が、

「90%――!? 警告・転送先・エラー表示。移送先・不明」


「「「へ?」」」


マリアの言葉に誰もがぎょっとした表情を浮かべ、

『部屋内に小規模な異空間ホールが発生しました!』


「「「え゛!?」」」


人工幽霊一号の緊急報告に誰もが顔を更に引きつらせた。

そして次の瞬間、カプセルが発光し、光が収まった後に横島の姿は無かった。

~回想終了~








そして今、横島は唯一人、見覚えのない草原の真ん中に佇んでいた。

「うう、やっぱりカオスと厄珍なんかを信用するんやなかった、女子高生どころか誰もいないやないかー!! チクショー、また目先の欲に目が眩んでしまったー!!」

今更ながらに後悔する横島。とはいえ、いつもの事なのだが。

「つーか、ここどこだよ? 見渡す限り一面草原とか、明らかに日本じゃないだろここ……」

哀愁を漂わせながら、横島は呆然と地平線まで続く草原を見つめた。

《それは、私が草原の境目を弄ったからよ》

「へ?」

呟きに対する思わない返答に、横島は間の抜けた声をあげた。

そして、いきなり目の前の空間に亀裂が入る。

「な、なな、ななななな……ッ!」

ズザザザッと高速で亀裂から後ずさる。

「ふふ、こんにちは。招かれざるお客様」

そして空間の裂け目から姿を現したのは、日差し傘を差した女性。

『境界を操る程度の能力』を持つ唯一のスキマ妖怪、八雲紫であった。









一方、美神事務所では。

「転送・終了。指定座標に・横島さんの・反応なし」

「カオスどのぉぉぉ!! 先生をどこにやったでござるかーー!?」

「お、落ち着きなさいシロ!」

「は、放すでござるタマモ!」

『異空間ホール消失。横島さんの反応、ロストしました』

「み、美神さん! よ、横島さんが、横島さんが~!?」

「ああもう、あのバカ……」

「どーゆーことあるか!? 設計上は何の問題もないはずある。何度も確認したから間違いないあるよ!」

「何故じゃ!? P-012Xで間違いないはず!? 現在地からの距離は3×3=12じゃから、座標指示に誤りは――」

「ノー・ドクター・カオス。3×3=9・です」

マリアの淡々とした一言で、狂騒にまで広がりつつあった騒ぎがピタリと止んだ。

……。

………。

…………。

「しまったーーーー!!」

「アホかーーーーー!!」



頭をかかえたカオスを、美神が思いっきりしばき倒した。








[16660] 第1話
Name: 空之風◆6a02351e ID:7ff689c2
Date: 2010/03/27 09:32
「ふふ、こんにちは。招かれざるお客様」

そしてスキマから紫は姿を現し、目の前の青年に視線を向けると、






「生まれる前から愛していました~~~!!!」

ついさっきまで後ずさって離れていた青年が、いつの間にかルパンダイブで目の前にまで迫って来ていた。




……いや、その反応は予想していなかっただけに、流石の紫も唖然としたが。

「それ」

「ぐはッ!」

とりあえず弾幕で迎撃、撃墜しておいた。頭から地面に落ちる横島。


「いきなり何するんすかー!?」

だが瞬時に起き上がり、頭から血を流しながら抗議する。

「それはこっちのセリフです。というより、あなた人間?」

答えつつ、紫はスキマから飛び降りて地面に立った。

さっきの素早い動きもそうだが、復活の早さもかなり人間離れしているのだが。

もう血も止まっているし。

「さて――」

紫は目を細めて、扇子を横島へと向けた。

「あなた、何者?」

その視線に若干の警戒の色を含めながら、紫は続ける。

「あなたは突然、博麗大結界に触れる事なく“ここ”へ現れた。あなたがただの外来人であるなら、そんな事は決してあり得ない」

博麗大結界は幻想郷と外の世界を隔てる境界線、外の世界と幻想郷を行き来するならば絶対に通らねばならぬ結界だ。

それにこの人間、ただの外来人にしては持っている霊力が異常なまでに高い。それこそ、そこらの妖怪じゃ太刀打ちできないぐらいに。

紫から放たれる威圧感は、普通の人間なら恐怖に慄き背筋を凍らせて足を震わせるだろう。



だが甘い。数多の修羅場を経験し死線を潜り抜けてきた横島は、彼らとは一味も二味も違うのだから。

(な、何故だか知らんが怒っていらっしゃる!! こ、ここは先手必勝――!!)

そして、横島は覚悟を決め――。

「ですが、先ほどのあなたの言動を聞く限り――」






「よくわかりませんけどすいませんっしたーー!!」

とりあえず全力の土下座で謝った。



言葉を遮られていきなり土下座され、紫の目が点になる。彼女を知る者からすれば珍しい光景だろう。

もっとも、横島はそんなことなど露知らず。

「悪いのはぜーんぶカオスと厄珍の二人なんすよ!! 俺はむしろ被害者なんです!!」

「いや――」

「俺はただ女子高に行けると淡い希望を見ていただけで、あの二人に夢と希望を裏切られた哀れな犠牲者なんやー!!」

「とりあえず話を――」

「チクショー! カオスと厄珍のヤロー!! 男の夢を裏切りやがってぇぇ! 女子高とは聖地! 女子高生はロマンの塊なんだぞぉぉおおお!!」

「だから――」

「儚い夢すら見ちゃダメだっていうのかー!?





 いや、待てよ? 確かに女子高生はいなかったが俺の目の前には美人のねーちゃんがいるやないか!!
 しかも周囲には誰もいない、故に何かあったとしてもそれは不慮の事故!!
 ありがとうカオス! ということですので俺に夢と希望をぉぉおおお!!」

「幻巣『飛光虫ネスト』」

瞬間、飛びかかって来た横島に無数の弾幕が降り注いだ。






「ですが先ほどのあなたの言動を聞く限り、あなたはここがどこか知らず、自らの意思で来たわけでもない、言わば迷い人。という事でいいですね?」

「その通りでごぜーます」

紫の言葉に、黒こげで正座しながら頷く横島。

「あのー、ここはどこなんでございましょうか?」

微妙な丁寧語で尋ねる横島。

「ここは幻想郷。外の世界で幻に追いやられたもの達が集う世界」

「はぁ……」

よくわかっていない様子で横島は相槌を打つ。

「わかりやすく言えば、ここは妖怪たちが住む秘境ということです」

「へー、そんなもんがあったんすか」

あっけらかんと答える横島。

信じていないという素振りもなく普通に受け入れていることに、外の世界を知っている紫は少々驚いた。

「あら、驚かないの? 妖怪が実在しているということに」

「へ? 驚くってなんでですか? そんなの常識じゃないっすか」

さも当然のように答える横島。

「常識? おかしなこと言うわね。外の世界でその常識から追いやられたから――」

そこまで言って、ハッと紫は思い出す。

彼のいかにも外来人らしい格好や、突拍子のない言動や奇行を目の当たりにしてつい忘れてしまっていたが、

彼は博麗大結界に一切触れずに、突然発生した空間の歪みから幻想郷に現れたのだ。

だからこそ、彼が現れた瞬間に咄嗟に草原の境界を弄って空間を閉じ込めたのだ。

「どうしたんすか?」

「いえ。それで、あなたは何者かしら?」

「あ、俺は横島忠夫っす。GS、ゴーストスイーパーの助手でいちおう高校生……って、あれ、何か本業と副業が逆転してないか、俺?」

なぜか自問自答し始めた横島を余所に、紫は首を傾げる。

「ゴーストスイーパー?」

「そうっす。美神さんのところでアルバイトしてるんすけど……知らないですか?」

「知らないわね」

少なくともゴーストスイーパーなどという職業を紫は知らない。

名前からして退魔師の類だろうか。だが今時、外の世界で退魔師が職業として成り立つはずが――。

「ヒャクメとジークの奴、話が違うじゃねぇか。神界でも魔界でも美神さんの悪名を知らない奴はいないって言ってたくせに……」



「……ちょっと待った」



いま、さらっととんでもない単語をいくつも含んだ発言をぼやかなかったか?

「確認したいんだけど、あなたが住んでいる場所は?」

「東京ですけど。ちなみに、ここって日本っすか?」

それはいかにも外来人らしい普通の答えだ。

「ええ、ここは日本の中にあるわ。それで、そのゴーストスイーパーというのはどんな職業なの?」

「悪霊とかをしばき倒して大金をせしめるアコギな仕事っすね」

外来人らしからぬ答えを平然と答える。まるで自称楽園の素敵な巫女を連想させるような発言だ。

そう、彼は外来人であるにも関わらず、悪霊や妖怪の存在に何の違和感を抱いていない。

それは異常だ。外の世界ではもはや妖怪も幽霊も迷信となって久しいというのに。

「横島、だったかしら。あなたの知っている世界、特にゴーストスイーパーについて教えてくれないかしら」

「いいっすけど……あの~、俺、帰れますか? あんまり遅いと美神さんにどつかれるんで」

「それは、あなた次第ね」

扇子を口元に当てて、紫は横島の話に耳を傾けた。

博麗大結界に触れなかった事、空間の歪みから突然現れた事、双方の認識の誤差。

(もしかしたら、彼は……)

境界を操れる紫だからこそ思い至った可能性。

横島の話を聞けば、その疑問は解決する。

本当なら横島の記憶の境界を弄った方が手っ取り早いのだが、少なくともこちらに害意があるわけじゃなさそうなので止めておいてあげよう。

「えっと、ゴーストスイーパーってのは――」






そして、話を聞き終えた紫は――予想以上にぶっ飛んだ話の内容に頭を抱えそうになっていた。

「……つまり、妖怪や幽霊、神族や魔族が普通にいるのね」

そう簡単に締め括ったが、実際に聞いた話はそんなヤワなもんじゃない。

妖怪も幽霊も神も悪魔も普通に認識され存在している世界だとか。

悪霊や妖怪を倒す専門としてゴーストスイーパーという職業があり、しかも国家資格だとか。

横島の務めている事務所の主は最高のGSと呼ばれていて、金さえ貰えれば神や悪魔すらしばき倒す女性であるとか。おまけに時間移動能力者らしい。

同僚のネクロマンサーの少女は300年間幽霊をしていたがある事件がきっかけで蘇生、また他にも人狼と妖狐の少女の同僚がいるとか。

挙句にその事務所には人工の魂が宿っていて普通に喋るとか。

街中ではヴァンパイア・ハーフや付喪神が普通に学生として学校に通っていて、近所では浮遊霊たちがよく寄り合いを開いているとか。

横島の住んでいるボロアパートの隣には後輩と貧乏神が一緒に暮らしているとか。

妙神山という霊峰に行けば、神族と魔族がテレビゲームで対戦しているとか。

そしてここに来るきっかけを作ったのは、オカルトグッズを扱う店の主人と、1000年生きている天才ボケ錬金術師だとか。

幻想郷にも吸血鬼とか幽霊とか鬼とか天狗とか月の民とか神とか色々いるけど、はっきり言って幻想郷より凄まじい気がするのだが。

「そうっすけど、そんなにおかしい事っすか?」

しかも横島に嘘を言っている様子もなく、その状況に何の疑問も抱いていないらしい。

「とりあえず、はっきりした事があるわ」

紫は扇子でビシっと横島を指して、

「あなた、この世界の人間じゃないわ」

と断定した。ぶっちゃけ、外の世界がそんな世界だったら幻想郷なんかわざわざ作らなかっただろう。

「はい?」

「あなたは並行世界からの来客。だから博麗大結界に触れなかったのね」

納得した様子で頷く紫。外の世界から来たのではなくて並行世界から流れ着いたのなら、確かに博麗大結界は通らない。

「あの~、意味がよくわからないんですけどー?」

「つまり――」



~紫、説明中~



「あ、あ、あ……」

横島は拳を震わせて、

「あんのボケジジイーー!! 隣町どころか世界越えてるじゃねぇぇかぁぁーーーー!!」

青空の彼方に映ったカオスの幻に向かって絶叫した。

「確かに天才ね、その錬金術師は」

並行世界の移動なんて易々とできるわけがない。

それを隣町の女子高に行くのと間違えてやってしまうあたり、確かに天才であって同時にボケている。

「何とか帰れないっすかー!? 帰る術ありませんかー!?」

「普通なら無理ね」

即答する紫。少なくとも間違ったことは言っていない、普通では無理なのだから。

「そ、そんな……それじゃあ……」

がっくりと項垂れる横島。確かにここに来るに至った経緯を考えれば、かわいそうな気もしないでもないが……。



「あのナイスバディのしりちちふとももがもう見れんというのかーーー!?」

「何に悲しんでいるのよ!」



血の涙を流しながら天に訴える横島。

前言撤回、かわいそうでも何でもない。こいつの頭の中は煩悩しかない。

「……そうね、何なら私が探してあげてもいいわよ。あなたの元の世界を」

「へ?」

瞬間、血の涙がピタッと止まる。

「ふふ、そういえば自己紹介がまだだったわね。私は八雲紫。『境界を操る程度の能力』をもった妖怪。あなたをここへ送った錬金術師と同等、もしくはそれ以上に長生きしているわ」

「な、なんだってぇーー!!」

大袈裟に驚く横島。その様子を見て薄ら笑みを溢す紫。

彼女はこの幻想郷でも最古参の一人。そしてあらゆる境界を操れるという神に等しい能力を持っている。

たとえ彼のいた世界と比べても非常に強力な妖怪であるという自負は――。



「ということは! その美しさも! その胸も! 千年以上も維持し続けているというのかー!!」

「どこ見てるのよ!?」



だが残念。横島の驚きは紫の思っていた方向の斜め下を爆走していた。

(うーん、やっぱり私が妖怪だと知っても全然怖がらないのね)

妖怪としては面白くないが、紫個人としては口元が緩まる。

「益々興味が湧いたわ。あなたにも、あなたのいた世界にも――」

横島の言うような、幽霊も妖怪も神も悪魔も普通に共生している外の世界。まるで世界そのものが幻想郷ではないか。

しかも、文明が発達しつつもちゃんと人間と妖怪の関係が維持されているというのだから面白い。

そんな世界があるならば見てみたいという好奇心が、紫の中ですっかり忘れていた気持ちが蘇る。

「お、俺に興味が! そ、それはつまり……俺への愛の告白と受け取っても宜しいんですねー!!

「そんなわけないでしょ!」

「ぶべらッ!!」

懲りずに飛びかかって来た横島に弾幕でカウンターを食らわせる。

いったい、どこをどう捉えたらそういう結論になるのだろうか。

「何となく、あなたがどんな人間なのかわかってきたわ……」

血まみれで地面に倒れている横島を見ながら、紫は疲れた溜め息を吐いた。

「とにかく、私は世界の境界を操る事もできる。もしあなたの世界を見つけたら教えてあげる」

「ほ、本当っすか!?」

がばっと起き上がる横島。

「え、ええ」

流血の後もまるで見当たらない。本当に人間かどうか怪しく思えてきたのだが。

(ただし、私が見つけるまでにあなたが生きていれば、の話だけど。まあ、運が良ければ生きて帰れるでしょう)

人間の寿命など妖怪とは比べ物にならないほど短い。

紫は暇潰しも兼ねて気長に探すつもりだ。それまでに横島が生きているかどうかは定かではない。

「では、それまでの間、あなたを招待してあげましょう――」

そう言うと、紫は横島の足元にスキマを開く。

「へ――?」

突然足元の感触が無くなった事に気付いた横島が足元を見てみると……無数の目が逆に横島のことを見ていました。

「え゛」

「ようこそ、幻想郷へ。ここは異世界の来客を歓迎しましょう」

紫の言葉の直後、



「いぃぃやぁぁあああぁぁぁぁ――……」

ドップラー効果を残しながら横島はスキマに落ちていった。



「かくして幻想郷に新たな風が流れ込む。ふふ、暫くは暇を弄ばずに済みそうね」

扇子を口元に当てて笑うと、紫もまたスキマの中に消えていく。

紫が消えた後、残ったのは彼らがいた草原と、その周りを囲む森だけであった。





[16660] 第2話
Name: 空之風◆6a02351e ID:0b7b8ed0
Date: 2012/02/15 23:34
なぜか続いたし。

太く短く、いきます。






その日、その時までは博麗神社は平和だった。

「暇ね」

縁側でお茶を淹れながら、博麗霊夢はポツリと呟く。

「暇だな」

同じく呟いたのは、呼んでもいないのに毎日のように神社に来る霧雨魔理沙だ。

「最近は異変も無いし、妖怪たちも大人しいし、暇ね」

「そこは普通、平和って言わないか?」

魔理沙の言葉を平然と無視して、霊夢はお茶を啜る。





その平穏は、彼女たちの目の前に現れた空間の裂け目によって打ち砕かれる。




いろんな意味で。





「噂をすれば妖怪のご登場、だな」

「はぁ、面倒なのが来たわね」

霊夢は溜め息を吐いて、いきなり訪問してきた紫に対して文句でも言ってやろうと思い――。








「……――ぁぁぁぁあああああ!!」



ぐちゃっ







ドップラー効果と共にスキマから物凄い速度で落下してきて、そのまま石畳に顔面から落ちた男を見て思考が止まった。

なんか着地音が、何かが潰れたような音だった気がするのだが。

魔理沙も動きが完全に停止しているし。

男は頭から血を流してピクリとも動かない。

そこへ別のスキマが出現し、紫が姿を現した。

「ふふ、ごきげんよう」

地面に着地して、平然と挨拶する紫。

その足元には物体Xと化した男性。



「あ、あ、あんた、な「なにさらすんじゃーーー!!」――っ!!」



霊夢が詰め寄ろうとした瞬間、物体Xもとい横島ががばっと起き上がって紫に詰め寄っていた。

ちなみに頭は血まみれのままだ。

霊夢は驚きのあまり心臓が一瞬停止して、

「うおっ! 生きてる!? ということは妖怪か!!」

魔理沙が本気で新手の妖怪だと勘違いしている事など余所に、紫は平然と答える。

「あら、あなたならこの程度の傷ぐらい大丈夫でしょ。私の弾幕を真正面から受けても平気だったんだから」

「だからって殺す気かぁぁ!!」

「ちなみに、幻想郷には美女がいっぱいいるけど」


「案内ありがとうございました!!」


短時間で横島の扱い方を覚えてきたあたり、流石は妖怪の賢者である。

そこへ、ようやく再起動をはたした霊夢が二人に詰め寄る。

「ちょ、ちょっと、何がどうなってるのよ! いったい誰よ、この……人?」

質問の最後が疑問形なのは、仕方がないことなのかもしれない。

「いちおう彼は人間です」

数ある質問の中、真っ先にその疑問に答えてあげる紫。

そのまま続けて彼のことを紹介しようとした途端、



「やあはじめましてこんにちは巫女さん! ぼく横島忠夫!! どうです一緒にお茶しませんか!?」



目にも映らぬ速さで霊夢の両手をがっしりと掴んでナンパする横島。

「ふふ、やっぱり」

「おお、あの霊夢が異性に誘われてる!?」

予想通りだと言わんばかりの紫と、珍しいもの見たと言わんばかりに目を輝かせる魔理沙。

共通しているのは、どっちも面白いものを見る目で傍観していることだ。


「ああ、脇が丸見えだなんて、なんて素晴らしい巫女さんなんだ!

 サービスなのか、これが幻想郷流のサービスなのか!?

 素晴らしすぎるぞ幻想郷!!


くわっと目を見開いて絶賛する横島。

「ちょ!? 本当にいったい何なの! というか、何で怪我治ってるのよ!?」


「愛の力で治りました!!」

「うそつけーー!!」




ずどーーーん



「――ハッ! やば、つい全力で弾幕を放っちゃった!!」

「れ、霊夢、そりゃやばいだろ!」

何せ博麗霊夢と言えば(本人が否定しようとも)幻想郷では泣く子も黙る畏怖の対象だ。

弾幕勝負ならばたとえ相手が大妖怪だろうと神だろうとぶちのめせる人間である。

その全力を叩きつけたとなれば、二人が慌てるのも無理はない。

そして、それの直撃を受けた横島は……破魔札の爆発でぷすぷすと丸焦げになっていた。

ピクピク動いているあたり、死んではいないらしい。

まあ、割と見慣れた光景なのだが、それを霊夢と魔理沙が知るはずもない。

「お、おい、大丈夫か!?」

見かねた魔理沙が横島に近づく。

それを黒こげになった横島が、首をギギギッと動かして魔理沙を視界に収めた瞬間、



――美女、発見。

――ターゲット、ロックオン。




「おっじょうさぁぁーーーん!!」


一瞬にして完全復活し、ルパンダイブで魔理沙に飛びかかった。

焦げた跡などもはや微塵もない。

「「ええぇぇぇーーー!?」」

あまりのデタラメさに霊夢も魔理沙も驚愕し、更に身の危険を感じた魔理沙はほとんど反射的に八卦炉を取り出し、


「ま、マスタースパーク!!」


つい十八番のスペルで横島を迎撃した。


「ぎゃあぁぁあああ――……!!」


魔力の光に包まれる横島。光の帯が空中を貫き、それが収まった後、


どさっ


再び丸焦げとなった横島が地面に落ちた。

「……」

「……」

「……」

怒涛過ぎる展開に、霊夢と魔理沙だけでなく紫すら絶句する中、


「ふ、ふふふ、いきなり美女が二人も……幻想郷、ばん……ざい!」


横島と黒焦げのままふらふらと手をあげてガッツポーズを決めていた。

「なぁ紫。アレ、本当に人間なのか? 思わずマスタースパーク放っちゃったけど無事っぽいし。流石に凹むぞ」

「うーん……少なくとも妖怪ではないわ」

ここまで来ると、紫も横島人外説の方がすごく説得力あるような気がしていた。

「また宇宙人じゃないの。月の民って死なないんでしょ」


「それはないでしょう。だって彼、穢れだらけだし」


「「確かに」」

霊夢と魔理沙は大きく頷いて納得した。







「つまり、コレは普通の外来人じゃないってこと? まあ、いろんな意味で普通じゃないってのは充分にわかってるけど」

紫から説明を聞いた霊夢が、横島を指して確認する。

「そういう事になるわね。少なくとも幻想郷にはすぐに馴染めるでしょう」

「なんでコレ扱いなんだ、俺……」


「まだお前が人間だって決まったわけじゃないだろ?」


「俺は人間だーーっ!!」


魔理沙の物言いに涙を流して訴える横島を余所に、紫と霊夢は話を続ける。

「それで、どうしてここに連れて来たの?」

「彼に幻想郷のルールを教えてあげてくれないかしら」

「嫌よ、めんどくさい。あんたがやればいいじゃん」

「私は彼の世界を探すのに忙しいの」

「どういう風の吹き回し? あんたが人助けだなんて」

胡散臭そうに紫を睨む霊夢。紫は扇子をと口元に当てて「ふふ」と含み笑いを溢す。

「別に、ただ見てみたいだけ――彼の言っていた世界を」

紫は空間にスキマを作ると、誰が止める間もなくその中へと入り込み、

「ちょっと――」

「それじゃ、後はよろしくねー」

などと手を振りながらスキマを閉じた。

その場に残された霊夢、魔理沙、そして横島。

自然と霊夢と魔理沙の視線は、横島へと注がれる。

「あのー……俺はどうすればいいんでごぜーましょうか?」

「どうするって言われてもねぇ」

はぁ、と溜め息を吐く霊夢。

幻想郷にも様々なものたちが住んでいるが、まさか並行世界の人間(?)まで……いや、前にもいたな、イチゴ好きなそんな奴。

「とりあえず、幻想郷について教えればいいんじゃないのか? スペルカードルールとか」

「じゃあ魔理沙が説明しなさいよ」

「別にいいぜ。面白い話が聞けそうだしな」

おそらく、さっき紫が軽く触れた横島のいた世界というものに興味津々なのだろう。

何せ、外の世界が幻想郷そのものだとか言っていたし。

「えっと、横島だったっけ?」

魔理沙は横島の方へ振り向いて答えた。

「私は霧雨魔理沙、普通の魔法使いだ。これから幻想郷について教えてやるから、よろしくな」






「はい! じゃあまずは幻想郷一の美女がいる場所を教えて下さい!!」



「いきなりそれかー!!」


煩悩全開な横島の頭を箒でしばき倒す魔理沙。

それを見ていた霊夢は、何度目になるかわからない溜め息を吐いた。







[16660] 第3話
Name: 空之風◆6a02351e ID:0b7b8ed0
Date: 2012/02/24 19:02
今回は微妙です。
一部にキャラ崩壊があります。





幻想郷の人里に、箒に乗った魔法使いが舞い降りる。

「到着。よっと」

魔法使い――霧雨魔理沙は箒から飛び降りると、軽やかに地面に着地する。

「ここが人里だ。幻想郷の人間のほとんどがここに住んでる」

魔理沙は後ろに振り返って、




「横島もしばらくはここに住む事になると思うけど――ちゃんと聞いてるか?」


「だったら話す前にこの簀巻きを解かんかーー!!」


簀巻きにされて地面に転がっている横島に話しかけた。

ちなみに着地した際にまた頭から地面に激突したらしく、顔面が土塗れだ。

魔理沙は横島を縄で簀巻きにした状態で、箒に垂れ下げて人里まで飛んできたのだ。

「横島が飛べないのが悪いんだろ」

「普通は飛べんわーーー!! もっと他の方法は無かったんかい!? 後ろに乗っけてくれるとか!」

「お前を後ろに乗せるとか、それだと私の身が危険だろ?

これ以上ない正論だった。日頃の行いの報いかもしれない。いや、この場合は第一印象か。



「チクショー、前に巻き込まれた時は生身で音速の壁にぶつかるはめになったし、魔法の箒なんてキライだーー!!」


「なんで生きてるの、お前」


泣き叫ぶ横島を、魔理沙は引きつった表情で見つめつつ「やっぱり妖怪だろ」と呟いた。








「で、どこ向かってんだ、コレ?」

「ん? ああ、まずはけーねのところだ。人里で暮らすとなると、けーねなら色々と便宜だって図ってくれるだろうし。寺子屋の先生やってるから幻想郷にも詳しいぞ」

「ふーん」

よくわかっていない横島は、「要するにえらい人ってことかー」と納得する――直前、ふと思い至る。

「なあ、魔理沙……けーねって名前ってことは、女か?」

ごごごごごっと効果音が聴こえてきそうなぐらい魂を燃やし始める横島。

(ま、まずい、このままじゃけーねが!!)

魔理沙はすぐに横島の思惑を察知する。実にわかりやすい思考である。

「え、えっと、けーねはだな……」

何か言い訳を考えるも咄嗟には思いつかない。

そうしている間にも横島のボルテージは上昇していく。

(女……先生……つまり女教師!!)

公式が導かれた途端、横島の脳内に教鞭を持ったナイスバディの美人さんが再現される。





『さあ、横島くん。わからないところがあったら何でも先生に尋ねてね』

『先生。実は僕には悩みがあるんです』

『あら、何かしら? 私で良ければ何でも聞いてあげるわ』

『実は僕、先生のことがずっと気になって、授業に身が入らないんです……!』

『よ、横島くん……』


『先生ぇぇーーー!!』

『ああ! ここは教室よーー!!』






「ぐふ、ぐふふふ……」

(な、何を考えてるのかまるわかり過ぎる……!!)

妄想モードに突入した横島を、かなりひいた様子で見つめる魔理沙。

その時、慧音でもっとも印象深いものを思い出す。

「け、けーねは……そ、そうだ、ず、頭突きが痛い奴だ!!」

「なんだ、ただのハゲ教師か……」

瞬間、すぐさま闘志が萎える横島。肩までがっくりと落としている。

横島の中では『頭突きが痛い+教師=ハゲ教師』という構図らしい。

その様子を見た魔理沙は、

(ごめん、けーね。頑張れよ……!!)

心の中でそう呟いたという。

「と、ところでさ!」

このまま慧音の話をするのもまずいので、強引に話題を変える。

「横島のいた世界って妖怪とか幽霊が普通にいて、こっちの外の世界とは違うんだってな。やっぱり魔法使いもいるのか?」

他の世界の魔法使い。幻想郷の魔法使いとしては非常に気になるところだ。

魔理沙は後ろにいる横島へと振り返って――。






「やぁッ! ぼくは横島忠夫、さっき幻想郷に流れ着いた好青年なんだ!! 君よくかわいいって言われない!?」


「人の話を聞けぇーーー!!」


いつの間にか里の女性をナンパしていた横島の頭をど突き倒した。







「ここがけーねのいる寺子屋だ」

魔理沙の案内した先は、なかなか大きい屋敷だった。

門のところから見える中庭では、子供たちが元気よく駆け回っている。



「ほら横島、ここには子供たちがいるから、早く頭のケガ治した方がいいぞ。子供の教育に悪いから


「人を血まみれにした奴の言うセリフかぁーーー!!」

先ほどナンパした際の魔理沙の一撃で、頭から流血している横島。


確かにバイオレンスな光景であるし、子供に見せられるようなものではない。

横島にとってはいつもの光景なのだが。

「それじゃ、邪魔するぜー。……あとごめん、けーね

最後に魔理沙はポツリと呟いたが、横島の耳には届かなかった。

ほぼ無断で寺子屋の中へ入った二人は廊下を進み、ある部屋の前で立ち止まる。

「横島はここで待っててくれ。まずけーねに事情を説明してくるから、色々と

「うーっす」

そして、魔理沙は襖を開けて中へと入って行く。

「まあ、好んでハゲ教師なんかと会いたいとは思わないけどな」

一人残された横島はそう呟く。

その時、横島の裾がくいくいと引っ張られた。

「ん?」

横島は振り向くと、そこには三人の子供の姿があった。

「にいちゃん、だれ?」







上白沢慧音は子供たちへの宿題を作っていた。そこへ、

「けーね、いるかー」

と尋ねながら、こちらの返事も待たずに襖を開けて中へと入って来る知人。

慧音は咎めもしない。彼女の場合はいつものことだからだ。

「魔理沙か、ここに来るなんて珍しいな」

「ああ……ちょっと慧音に用事があってな」

「用事?」

慧音は怪訝そうに聞き返す。魔理沙にしては歯切れが悪い。

「実は、紫の奴が人間を連れて来てな。そいつの家とか用意してやって欲しいんだ」

「なんだ、外来人か。人里に住むのなら空き家が幾つかあるから大丈夫だが……外へ帰りたがらないのか?」

「いや、こいつがちょっと、いやかなり変わってるんだ」

「変わっている? 何か能力でも?」

「いや、主に出身と性格と回復力が」

「はぁ」

要領を得ない様子の慧音。

「まず、そいつは外の世界の出身じゃない。紫と本人が言うには並行世界から来たらしい。それで、紫がそいつの世界を探し出すまで、幻想郷に住ませるって話だ」

「……並行世界とは、また凄いところから迷い込んで来たな」

少しだけ顔が引きつる慧音。さすがは幻想郷だと思わざるを得ない。

「それで、いったいどんな世界から来たんだ?」

「基本はこっちの外の世界と変わらないらしいんだけど、妖怪とか幽霊とか神とか普通にいるらしい。まるで外の世界が幻想郷そのものだって話だ」

「なんだって?」

驚きを顕わにする慧音。そして魔理沙は続ける。



「そいつの学校にはたしか……
 クラスメートに机の妖怪とヴァンパイア・ハーフと変態虎人間がいて、
 美術の先生がドッペルゲンガーで、後輩に貧乏神と一緒に暮らしてる奴がいるとか何とか」

「どんな学校だ!?」




思わず突っ込みを入れてしまう慧音。それは人間が通っても良い学校なのだろうか。

外の世界でそんな学校はないだろう。いや、幻想郷でもないか。

「何だかとてつもない世界だな」

想像するだけでも凄まじい学校だ。

「まあ、そんなわけだから、幻想郷にはすぐに馴染むと思うぞ」

「……とりあえず、住居の方は用意しよう。それで、その人は?」

尋ねると、魔理沙は慧音の肩をポンと叩いて、申し訳なさそうに口を開く。

「とりあえず、ごめん。あと頑張れ」

「まるで意味がわからんのだが?」

「初見でわかる」

やたらと力強くそう言うと、魔理沙は振り返って、

「横島、入ってきていいぞー」

だが、しばらく待っても横島は入ってこない。

「あれ? どこ行った?」

怪訝に思った魔理沙が廊下を見回すも、横島の姿はない。

「……そういえば、さっきから中庭が騒がしいな」

慧音は中庭の方を見て呟く。







その頃、中庭では――。



「俺は毅然と奴に言ってやった……ゴーストスイーパーは、悪魔のいいなりにはならない、と!!

「おお……!」

「ゴクリ……」

「そして、俺は悪魔パイパーを相手に命がけの交渉を成功させて、遂に捕らわれていた美神さんを救いだしたのだ!!」

「おおおおーーーー!!」

「すげぇーー!!」

「兄ちゃんかっけーー!」


半分の誇張が混ざった横島の熱い語りに、集まった子供たちは俄然と盛り上がる。

事実としては間違っていない。ただその後、横島がアッチの世界に旅立ってしまっただけだ。

現実を知らない無垢な少年少女たちである。





「なんだ、随分といい人そうだな」

横島を囲う子供たちの笑顔を見て、慧音は思わず笑みを溢す。

「こ、子供には好かれるんだな、あいつ……」

対称的に魔理沙は引きつった笑みを浮かべているが。

「子供は純粋だ。だから子供に好かれる者に、悪い奴はいない」

慧音はそう言うと、子供たちの輪の中心にいる横島へと歩み寄っていく。

「まあ、悪い奴じゃないのは確かなんだけど……」

その後ろで、魔理沙はポツリと呟く。

「あ。けーね先生だー」

慧音に気付いた子供の一人が彼女を指差して言った。

それに他の子供たち、そして横島も振り向く。



「初めまして。私は上白沢慧音――
「こんにちわぼく横島忠夫って言いますずっと前から好きでした!!」
――は?」



慧音が視界に入った途端、がしっと両手を抑えて告白する横島。

「あれだからなぁ」

目が点となる慧音の後ろで、魔理沙は苦笑いを浮かべていた。

「あー、けーね先生がよこしまにーちゃんに告白されてるー!」

子供の一人に冷やかされて、ようやく慧音の思考は再起動を果たす。

「ち、違うぞ! これは告白ではなくて――!!」

「なるほど先生でしたかどうりでお美しい!!」

「先生関係あるのか!? というかいきなり何なんだお前は!?」



「たった今からあなたの生徒になりました!!
 ということで先生!! 僕と愛の個人レッスンをぉぉーーー!!」


「どういうことだぁぁー!!」

ゴツンッ

「あがッ!?」


瞬間、飛びかかった横島に慧音の頭突きが炸裂した。

「――は! し、しまった、初対面の相手に何てことを……!」

「大丈夫だ、慧音」

慌て気味の慧音に対して、魔理沙はなぜか疲れた表情を浮かべて答える。

「横島は紫の弾幕と霊夢の全力の弾幕と私のマスタースパークの直撃を食らっても平気だったから

「本当に人間かこいつは!?」

それは、誰もが思う当然の疑問だった。



「どーも、横島忠夫です」

頭から血を流しながら、横島は改めて挨拶を交わす。

ついさっきまで地面に倒れているところを更に子供たちに突かれていたのだが、相も変わらずすぐさま復活した。

「う、うむ。上白沢慧音だ。この寺子屋で先生をしている」

それを見ていた慧音の頬が更に引きつったのも、初対面ならば当然だろう。

ちなみに魔理沙はもはや顔色一つも変えてはいない。

「まず、君の家についてはこちらで手配しよう。今日中には寝泊まりできるようになるはずだ」

「あ、ありがとうございます! うう、俺に家が……」

なぜか感涙極まって涙を流す横島。

「そんなおおげさな」

慧音は軽く笑いながら、たいしたことじゃないと答えたが、

「四畳半のボロアパートに住み、ピートの弁当を奪って日々の飢えをしのぎ、輸入米に卵をかけて食べるのがご馳走だった俺に、とうとう一戸建ての家が……!!」

「どんな生活を送っていたんだ、君は?」

すぐに前言撤回した。どれだけ貧しい生活を送っていたのだろうか。

後で食材でも持って行ってやろうと密かに思う慧音と魔理沙だった。

「とにかく、人里や幻想郷についてわからない点があったら何でも相談してくれ。私でよければ力になろう」



「じゃあさっそく幻想郷について教えてくださいませんか? できれば夜! 二人っきりで!!」

「いいかげんにしろ!!」

再び迫って来た横島を、今度は容赦なく頭突きで迎え撃つ。

また地面に倒れてピクピクと痙攣している横島を尻目に、魔理沙は慧音の肩を軽く叩く。

「こういう奴なんだ」

「ああ、よくわかった」

振り返らずに慧音は答えた。

その顔はどこか納得したような、すっきりとした表情だった。




「まったく、とんでもない奴だな」

魔理沙と共に去って行く横島の後ろ姿を見つめながら、慧音は溜め息を吐く。

(だが――)

慧音は子供たちに視線を向ける。

「よこしまにーちゃん、じゃーねー!」

「また来てねー!」

「じゃないとけーね先生とっちゃうよー!」

「それだけはゆるさーん!!」

最後に聞こえてきた叫び声は置いといて。

ほとんどの子供たちが笑顔で彼に手を振っている。

「とんでもない奴だが、悪い奴ではないのは確かだな」

その光景を見て、慧音は自然と口元を緩めていた。







今回は個人的に納得がいかない出来栄え。
次回の新聞屋では挽回したい。


続いたら、ですけど(汗)



[16660] 第4話
Name: 空之風◆6a02351e ID:696f0682
Date: 2012/04/19 20:06
ここで一句。

『ちょくちょくと 気の向くままに 書き連ね なぜかできたよ 横島忠夫』

ネタ作品なので心が求めるがままに執筆しました。

後悔はしていない。







奇妙な噂を耳に挟んだ。

五日ほど前から人里にとある人物が新しく住み始めたらしく、格好からして外来人だとの話だ。

別段、外来人自体は珍しいことではない。外の世界の人間が幻想郷に迷い込んでくるなんてよくあることだ。

その中には幻想郷が気に入って、そのまま住みつく人間もいる。

だから、そんな新しい住人のことなど最初だけ噂にはなるが、すぐに忘れ去られてしまう。



だが、その人物は別の意味で噂を打ち立てていた。いや、ある意味伝説と言っても良い。



僅か三日で人里中の女性に声をかけて、その全てにフラれたとか。

女性の水浴び場スポットを覗き込んで、殺気立った女性の軍勢に一日中追いかけられたとか。

あの人里の守護者である上白沢慧音がその騒ぎを感知しても「ああ、奴か」の一言で済ましてしまい、そのまま授業を進めたとか。

逃走中に、事情を聞いた白黒の魔法使いのマスタースパークで思いっきり吹き飛ばされ、直後に女性陣に血祭りにあげられたとか。

血まみれになってもすぐ回復するとか。

その事から「実は妖怪ではないか?」と密かに噂されているとか。




大事なことなのでもう一度言う。その人物が幻想郷に来てからまだ五日しか経っていない。

だというのに、この話題性。

そして決定打となったのが、ネタを探して博麗神社に立ち寄った時の霊夢の言葉。

「だったら、あいつにでも取材すれば? 並行世界から来たって話だし」

霊夢としては手っ取り早く追い払う為に与えた情報だろうが、狙いはまさに的中。

事実、話を聞いた彼女はすぐさま神社を飛び出したのだから。

「ふふふ、そんな面白い人物を取材しないなどとは、幻想郷のブン屋の名が廃りますね!」

目指す先はネタの宝庫ともいうべき人物――。

「横島忠夫は、この射命丸文が取材します!」

そして、射命丸文は空を駆けて人里へと向かった。



横島は人里の近くにある川原で体育座りをしていた。

「うう、あんなに俺が媚を売ってやったというのに、やっぱり幻想郷でも男は顔が全てなのかチクショー……!」

泣きながら草をむしる横島。

思いだすのはナンパの記憶、というよりフラれる記憶。

「昨日だって、ちょーっと足が滑って覗いちゃっただけだってのに……事故だってのに……!!」



実際は、「おーっと、足が滑ったぁぁー!!」とわざとらしく口走りながら茂みに滑り込んだ確信犯である。



「おまけに誰が妖怪じゃコンチクショー!!」

怒りの涙を流しながら勢いよく立ち上がる。

横島人外説は、僅か一晩で人里中に広まっていた。

もっとも、だからといって横島に恐怖を覚えるような者はいなかったが。

むしろ「ああ、やっぱり」「だよなー」といった納得の部類である。

まあ、元の性格がコレなだけに、怖がる人間はいないだろう。たぶん。

「幻想郷なんて、幻想郷なんてーーーっ!!」

川のせせらぎを掻き消すように、川に向かって叫ぶ横島。



その時、横島の真後ろに強風が吹き込んだ。

「のわ!! な、なんだぁ!?」

すぐさま後ろへ振り返ると、

「どーも、射命丸文と申します。横島忠夫さんですね、ちょっとお話をお伺いしてもいいでしょうか?」

いつの間にいたのか、そこには一人の美女がいた。

そして文と名乗ったその美女は、あろうことか自分から礼儀正しく横島に話しかけてきたのだ!

「……」

まず、横島は周りを確認した。辺りには自分たち以外、誰もいない。

次に自分の名前を確認する。うん、間違いなく自分は横島忠夫である。

「え゛? マジで俺?」

そうして、ようやく彼女が話しかけている相手が自分であることを認識した。

「はい」

にこやかに答える文。

「……ふふ、ふふふ」

横島はキュピーンと目を光らせて、



「幻想郷サイコーーー!!」



天に向かって拳を振り上げて、高々に吼えた。

ついさっきまで「幻想郷なんてぇーー!!」と嘆いていた奴とは思えない変わりぶりである。

「フ、僕に何か用かな、お嬢さん?」

そして次の瞬間には、何事も無かったかのように横島は髪を掻きあげて文に尋ねていた。

その縦横無尽な変化ぶりにちょっと唖然としながらも、文は己が目的を達する為に口を開く。

「実はですね、あなたに興味が湧きまして、是非ともしゅざ――」



「そうですか!! それじゃあまずキスから始めましょうっ!!」

「――って、人の話は最後まで聞きなさい!!」



だが最後まで言い終わる前に、横島は文に襲い掛かった。

話の途中でダイブしてきた横島を、文は風を操って吹き飛ばし、

「ぐはっ!?」

横島はそのまま近くの木に直撃した。もちろん、顔面から。

ずるずると地面に落ちる横島。木に引き摺ったような血の後が残り、かなり不気味な光景である。

だがしかし。

「痛いじゃないすか!!」

すぐにがばっと顔をあげて復活するあたり、横島ぶりは健在である。

「な、なるほど、あれが噂の回復力ですか……」

そんな横島に対して目を輝かせている文もまた新聞記者の鑑である。




「私、幻想郷一の新聞、『文々。新聞』という新聞を発行していまして」

幻想郷一というところを強調する文。それが本当であるかどうかはこの際置いておこう。

「そうですか、女性記者の方でしたか」

「はい、まさにその通り。あと、とりあえず手を放してくれませんか?」

何故か横島に手を握られている文。取材用の笑顔が若干引き攣っている。

「じゃあ腕を組みましょう!」

「どういう思考回路してんですかあなたは!!」


抱きつこうとしてきた横島を叩き落す。

「まったく、本当に噂通りですね……」

出会って僅か十分間で、文は横島の性格を理解した。本当にわかりやすい性格なので誰でもすぐわかるだろうが。

「それでですね、人里であなたの噂をお聞きしまして、是非ともあなたに取材を申し込みたいのです!」

話の流れを元に戻す。たったこれだけの要件を言うのにすごく苦労したのは何故だろうか。

きっと横島だからだろう。

そして、その横島は、

「……え? 取材?」

なぜか信じられないものを見るような目で文を見つめていた。

「はい」

「ピートや西条じゃなく、俺に?」

「誰ですかそれ?」

首を傾げる文を余所に横島は肩を小さく震わせて、そして目をくわっと見開いた瞬間――横島の背景が一変した。


「しゅぅぅ――」

暴風雨が降り注ぎ、


「ざぁぁ――」

大海原が荒れ狂い、


「いぃぃーーー!!」

火山が噴火した。


「美神さんはともかく、
 顔が良いからって常にピートや西条の野郎にスポットが当てられ、
 その影に埋もれてしまっていた不運な俺にも、ついに取材が!



 フハハハハ、さらばだタイガー! 俺は先に行く!!


ありがとう幻想郷! 素晴らしすぎるぞ幻想郷!!」


やたらとハイテンションな横島。まあ、無理もないかもしれない。

ちなみに、横島には「裏切りものじゃのォーーー!!」と涙を流すタイガーの幻覚が見えたとか見えなかったとか。

「え、えーっと、とりあえず取材はオーケーってことでいいんですね?」

背後に凄まじい気炎があがっている横島に、おずおずと尋ねる幻想郷のブン屋さん。

「何でもどーぞ! どんと来いって感じです!!」

初めての取材に気分が最高潮の横島。もちろん快諾である。

文としても内心で「よっしゃー!!」ガッツポーズを決めていた。

「それじゃ、まずですね――」

早速メモとペンを取り出す文だったが、

「はい!! まず好きな女性のタイプは――」

「そんなこと聞いてません!!」


「ぐはッ!!」

メモを取る前にツッコミの肘打ちが横島の顎に入った。

「おほん。では気を取り直して」

それでもって、倒れたまま痙攣している横島を無視して質問を始める。

彼女もまた、正しい横島の扱い方を覚えたようだ。

「まずですね――」

そして、文はペン先を倒れている横島に向けて、



「ズバリ、あなたは妖怪ですね?」

「俺は人間だぁーーーー!!」



がばっと起き上がって横島は叫んだ。

「なんで第一の質問が人間否定なんすか!? しかも断定!?」

「ですが、人里では横島さんは妖怪だって専らの噂ですし、証言だってありますよ」

そういって、自信満々に文はメモを読み上げる。



Y.Yさんの証言。

「人間というより横島、言わば一人一種族みたいなものね」



R.Hさんの証言。

「致命傷でもすぐ回復してたし、あれで人間なわけがないじゃない。絶対に正体隠してんのよ。バレバレだけど」



M.Kさんの証言。

「私の全力のマスタースパーク食らっても死なないんだぜ、あいつ。おまけに美女見かければすぐ復活するし」



K.Kさんの証言。

「女性以外に関してはとりたて危険な奴でもないからな。人里にいても問題はない……と思う」




「――とまあ、こんな感じです」

「何故じゃーーー!!」

涙ながらに天に吼える横島。いつの間に証言を取ったのか非常に気になるところだが。

「それじゃ、次にですね――」

「待たんかい!」

さくっと次に進もうとした文にツッコミを入れるが、そこは射命丸クオリティ、無視する。

「あなたが並行世界から来たって話を聞いたんですけど、本当ですか?」

「ん? ああ、そうみたいだぞ」

「ではその話をぜひ!」

非常においしそうなネタの匂いに、文は身を乗り出すほどの興味を示す。

「といってもなぁ……」

最近、元の世界の話ばかり聞かれているような気がする横島だった。

そして、横島はわざとらしく咳払いをして、


「じゃあまず、俺の世界に西条っていう奴がいるんだが、こいつが本当に酷い奴でな。

女性に無理やり襲いかかっては散々弄んだ挙句に捨て去るという悪魔のような所業を繰り返す、まさに女の敵だ。

仮に見かけても特に女性は絶対に近寄らないように、むしろ石を投げつけてやるよう呼びかけてくれ」


はじめに情報戦という見地で宿敵を蹴落としにかかるあたり、横島である。

本人がいないことを良い事に、まさに言いたい放題。

「どことなく個人的な怨嗟を含んでいるような気もしないでもないですが……まあいいでしょう!」

そして、それを良しとしてしまうのが文である。

彼女からすれば『面白ければオーケー』なのであり、それ故に一部からは『学級新聞』と酷評されてしまうのだが。

哀れ西条、この二人の手によって知らぬ間にこの上ない悪評を立てられてしまう事となる。

「では次に、横島さんは何をしている方なんですか?」

「俺? 俺は美神さんトコでゴーストスイーパーの見習いやっててな――」

ふむふむ、と頷きながら軽快にペンを奔らせる文。

美女からの取材というものに気分を良くして、かなり喋りまくる横島。

波乱万丈な日々を過ごす横島は、文にとってはまさにネタの宝庫。



翌日、『文々。新聞』のトップを全て横島が飾った。

以降、『文々。新聞』には必ず横島の蘭が出来上がるようになったという。






なぜかチラ裏ではプレビューが使えない。

ちょくちょく修正かけます。



[16660] 第5話
Name: 空之風◆6a02351e ID:9bc1c04c
Date: 2012/02/24 19:09
まさかの更新。
太く短く、でも横島らしく。



第5話



紅魔館のテラスにて。

「――へぇ」

レミリア・スカーレットはどこぞの天狗が勝手に置いて行った新聞を読んで口元を歪めると、傍に控えていた十六夜咲夜に告げる。

「咲夜。この横島って男、面白そうね。連れて来なさい」

「わかりました、お嬢様」

咲夜は恭しく一礼すると、時を止めてその場から姿を消した。



……んでもって。



「ずっと前から好きでした」

横島は何もない空間から突然現れたメイドさんの手を両手で掴むと、条件反射で告白した。

それは告白された方、咲夜が横島のあまりの素早さに思わず唖然としてしまう程だった。

というか、いつの間に手を握られたのだろうか。

恐るべきは時間を超越する横島の反射神経か。主に美女限定だが。

「……あなたとは初対面のはずだけど?」

とりあえず、常識的な受け答えをしてみる。

勿論、横島の答えは常識を突き破っていた。



「愛は時空を超えるんです!! ぼかーもう!!」



興奮をそのままに飛びかかって来た横島に対し、咲夜は時間を止めて――。

「そう、奇遇ね。私のナイフも時空を超えるのよ」

次の瞬間には横島をナイフで地面に縫い付けていた。

顔の横に突き刺さったナイフに顔色をさぁっと蒼褪めさせる横島。

「じゅ、銃刀法違反ーーーー!!」

「ここは幻想郷よ」

かつて千年を生きる錬金術師を敗北に追いやった法律も、幻想の前では無力であった。

「初めまして、私は紅魔館でメイド長を務めております、十六夜咲夜と申します」

「あ、どうも。横島忠夫っす」

スカートの裾を摘んで完璧な作法で一礼する咲夜と、つられてそれに答える横島。

まあ、横島は未だ地面に縫い付けられているので、傍から見ればシュールな光景に映るだろうが。

一礼した後、咲夜は用件を口にする。

「お嬢様より、あなたを是非、紅魔館に招待したいとのことですので、紅魔館まで――」

「今すぐお伺いします。ちなみにお嬢様は美女ですか?」

「……あなた、どうやってナイフから抜け出したの?」

言い終わる前に咲夜の手をがっしりと掴んで答える横島に、咲夜は再び唖然とせざるを得なかった。







紅美鈴は門番でありながら昼寝をしていた。

つまり、いつも通りだった。


――その瞬間までは。


突然、背筋を奔る悪寒。

第六感が最大級で身の危険を告げる。

(敵!?)

夢うつつから急激に覚醒しながら、美鈴は反射的に身体に染み付いた迎撃態勢を整え――。







「おんねぇぇさあぁぁああガハッ!?」


飛びかかってきた横島の首筋に上段蹴りを入れ、

「はあ!!」

そのまま蹴りで地面に叩き付けた。






「……本当に人間なのかしら?」

美鈴が視界に映った瞬間、たぶん新聞記者の烏天狗に劣らぬであろう速さで駆け抜けた横島を見て、咲夜は本気でそんな疑問を覚えつつ美鈴の下へと歩く。

美鈴は歩み寄ってくる咲夜に気付いて、声をあげる。

「あ、咲夜さん! 敵です!!

「いいえ、客人です」

断言した美鈴を一刀両断する咲夜。

「え?」

その言葉を聞き、美鈴の表情が呆けたものに変わる。

「……客人、ですか?」

「ええ」

ちらりと足元を見る。痙攣している客人がそこにいた。

再び咲夜に視線を戻して、嫌な予感を抱きながら美鈴は問う。

「……レミリア様の、ですか?」

「ええ」

当然、と言わんばかりに頷く咲夜。

ああ、つまり自分はレミリア様の客人を蹴り倒したわけですねー。

そこまで意識が思い至ったところで、血の気がさぁっと引いていくのが自分でもわかった。

「だ、大丈夫ですかーー!?」

文字通り、血相を変えて横島を介抱する美鈴。

むにっ

横島を抱きかかえた際、横島の腕に弾力が押し付けられる。



「ダメそうなのでもっと煩悩チャージさせてください!!」

それだけで復活し、自ら美鈴に抱きつく煩悩魔人。



「え? ええ!? ちょっといきなり何を――!」

復活した横島がいきなりセクハラをしてきたことで混乱する美鈴だが。

「やめてください!!」

「オゴッ!!」

それでもセクハラは許せなかったので肘打ちで横島の顎を打突して引き離した。

ゴロゴロと地面を転がる横島を見て、美鈴は咲夜に視線を移す。

「咲夜さん……」

「……ちょっと変わった客人だと思いなさい」

そう断言する咲夜の額に冷や汗が浮かんでいたのを美鈴は見逃さなかった。






「ふふふ、門番の美鈴さんであの破壊力……! ならば当主たるレミリアさんの破壊力は……ぐふふふ!」

紅魔館内の廊下を歩きながら、妄想を膨らませる横島。

咲夜はもう慣れたらしく、気にしない方向で先を歩いている。

尤も、「お嬢様とは会わせない方がいいかもしれない」と心の中では思っていたりもするが。

「今一度、忠告させて頂きますが、レミリアお嬢様は500年を生きる吸血鬼。あなた程度など気紛れ一つで亡き者にできるお方です。

 くれぐれも、軽率な行動を取らないようお勧め致します」

「勿論です!」

力強く頷く横島だが、信用度がゼロなのは日頃の行いのせいだろう。

「500年、ということはピートと同世代。つまり……」

ぐふふ、と不気味な笑いを零している時点でもう危ないし。

まあ、なるようになるでしょう、と咲夜は納得というか傍観の心持で、その部屋の前で立ち止まった。

咲夜は荘厳さを醸し出す重厚な扉の前に立ち、扉をノックする。

「レミリアお嬢様、客人をお連れしました」

「入ってきなさい」

扉の向こうからの返答を待って、咲夜は扉に手を掛ける。




「フフ……」

レミリアは“僅かばかり”の妖力を部屋中に漲らせながら、己が従者と客人を迎え入れようとしていた。

彼女は吸血鬼、夜の支配者。この程度の威圧など、ほんの挨拶に過ぎない。

至高の種族としての矜持と威厳、まずはそれを初対面の相手に知らしめなければならない、のだが……。




結論から言えば、相手が悪すぎた。




「初めまして横島忠夫です一緒に棺桶に入って夜を共に過ごしませんかーー!!」


矜持とか威厳とかそんなもの、扉が開いた瞬間に咲夜より早く部屋に突貫してきた横島によって台無しにされた。

僅かばかりの妖力では、横島の煩悩を吹き飛ばす事など出来やしないのだ!

ちなみに咲夜は「ああ、やっぱり忠告なんて意味ありませんでしたか」と予想通りの展開に溜め息を吐いていた。

だが、横島の動きが飛び掛かる直前の体勢で止まった。

それはもう、ピタッという擬音が似合うぐらいのキレイな静止だった。

「えーっと、レミリア、さんでございますか?」

止まった体勢のまま、横島が問う。

呆然としてしまっていたレミリアはハッと我に返る。

「え、ええ。フフフ、私がこの紅魔館の主、レミリア・スカーレットよ。ようこそ、血よりも紅く夜よりも昏き我が館へ」

何とか吹っ飛んだ威厳を取り戻そうと、膝を組み、余裕と傲慢を含んだ態度で答える。

今更な気もしないでもないが。

そして、当の横島はと言うと……。





「ドチクショォォォーー!!」


涙を流して太陽に向かって吼えた。




「500歳っていうからてっきりピートと同世代かと思ってたのにーー!

 女子高生レベルだと思ってたのにぃぃいいいーーー!!


 200年か!? あと200年が足りないのか!!

 なぜ俺は200年遅く生まれなかったのかぁぁーーー!!」


ガンガンと壁に頭を何度も叩き付けて涙を流す。

ちなみに頭からは血も流れている。

ついでに言うとレミリアは額には青筋を浮かべており、何時の間にかレミリアの背後に佇んでいる咲夜は我関せずを貫いている。

「随分と失礼な態度ね」

妖力を更にあげてレミリアは横島を威圧し、

「横島忠夫、と言ったわね。あまりふざけていると――殺すわよ?」

「すいませんでしたー!!」

すぐ土下座して許しを請う横島。

それはもう、見ていて惚れ惚れするような早さと精度で、あまりの変わり身の早さにレミリアも固まってしまうほどだ。

傍から見れば外見上は幼い少女に土下座する男。

まあ、プライドなんて「生き残るためならアレも食べる」と公言する横島にあるはずもない。

それにパピリオという経験もあるので、本人は全くもって気にしていなかった。

「オホン……」

わざとらしく咳払いをして、レミリアは言葉を続ける。

「そういうこと。それに、私は『運命を操る程度の能力』を持っている。何なら、あなたの運命を、未来を操ってもいいのよ」

「う、運命を操る……」

ごくりと唾を飲み込む横島。

そんな横島の態度を見て、レミリアはニヤリと口元を歪める。

これで自分がどれほど恐ろしいことをしていたかわかっただろう。



――否! 全くもってわかっていなかった!!



「咲夜さんや美鈴さんが俺に惚れる運命があれば、

 否! 世界中の美女が俺に惚れる運命があれば!!

 そう、今日の出会いこそまさしく運命!

 そして、俺が世界中の美女たちと共にハーレムを築き上げるのも、また運命!!」




瞬間、横島は主君に使える従者の如く跪き、真剣な表情でレミリアを見据えて、

「犬とお呼びください」

「こ、この男は……」

煩悩に忠実過ぎる横島に、レミリアは頭に大きな汗を浮かべる。

同時にレミリアは悟る。

ああ、こいつは正真正銘のバカだ、と。

「そ、そうね、丁度あなたに頼みたいこともあったことだし……」

「是非! この横島めにお任せを!!」

気勢をあげる横島。

背後にいる咲夜が怪訝そうな視線を向けているのがレミリアにはわかった。

「地下に私の妹、フランドール・スカーレットがいるのだけど、その遊び相手をお願いしたいの。――やってくれるかしら?」

「早速遊んで参ります! 全てはハーレムの為に!!

最後に本音をダダ漏れさせて、パビューンと横島は駆け足で部屋から飛び出していった。

地下室の場所とか聞かなくて良かっただろうか。

「全く、あの男は……」

「よろしかったのですか?」

呆れ顔を崩さないレミリアに、咲夜はどこからともなくティーセットを用意して紅茶を淹れる。

「あの男が心配?」

「いいえ、それはありません」

即答かつ断言する咲夜。

だが、どうしてあの男にフランドールの遊び相手をやらせるのか、それが咲夜には不可解だった。

その疑問を察して、レミリアはくつくつと含み笑いを零して、答えた。

「あの男には、死という運命がまるで見えなかった。――まるで運命が奴を生かそうとしているようにね」

だから試してみたくなったのだと、レミリアは告げる。

「フフ、実に面白い男だよ、横島忠夫」

そういってレミリアはティーカップを手に取り、






「そういえばお姉さんはいないのですか!? できればキレーなねーちゃんが!!」

「さっさと行けー!!」


しょうもないことを確認しに戻ってきた横島に手に取ったティーカップを投げつけるレミリアだった。


後半へ続く。




ネタが、ネタが溢れて止まらない(笑)
白玉楼とか、永遠亭とか、守屋神社とか、横島が訪れたときの反応が想像できてしまう。
暇があれば書いていこう。
年に一度は更新できるかも……さて、後半は何か月後かな?(汗)



[16660] がいでん1
Name: 空之風◆6a02351e ID:9bc1c04c
Date: 2012/02/24 19:11
ネタの神が舞い降りた。

時系列とか設定とか、気にしない方向で。




~がいでん1~


その日の幻想郷は陽気な温かさに包まれていた。

それは博麗神社も例外ではない。

「ふわぁ……」

神社の縁側に座っている霊夢は小さな欠伸を零す。

丁度良い日差しと陽気な温かさに充てられてか、うとうとと舟を漕いでおり、今にも眠りそうだ。

やがて、重そうだった瞼も閉じ切り、

「う……ん……」

小さな寝声と共に、霊夢の身体が横へ傾き――柔らかい何かに身体が寄りかかったところで、霊夢の意識は完全に途絶えた。






「ん……あれ?」

ボンヤリと目を覚ました霊夢に、真っ先に目に入ってきたものは、

「ふふ。ようやくお目覚めね、霊夢」

穏やかな笑みを浮かべてこちらを覗き込んでいる、八雲紫の顔だった。

その笑みにはいつもの胡散臭さが感じられず、微笑んでいるようにも見える。

その紫の顔の向こうには縁側の天井。

どうやら自分は横になっているらしい、と霊夢は定まらない思考の中で漠然と感じ取る。

そして、後頭部には固くて冷たい縁側の木張りの床とは違った、柔らかくて温かい感触。

そこでようやく、意識が急激に覚醒した。

「――ッ!?」

がばっと飛び起きる霊夢。

「な、なんでアンタがいるのよ!」

「あら、起きて早々ひどい物言いね」

扇子を口元に当てて笑みを零す紫。

その表情は何かを企んでいるような、いつもの胡散臭い笑みに変わっていた。

「おー、やっと起きたか霊夢」

別の声が聞こえて霊夢が振り向けば、魔理沙がスタスタと歩いてくるところだった。

なぜかニヤニヤと口元を緩めながら。

「なによ、その顔?」

「ん? 別に他意はないぜ。いや、それにしてもほんと、随分と寝入っていたな」

魔理沙はあからさまに他意のありそうな顔で平然とそう言い放つ。

そして、魔理沙はニヤリと笑って霊夢に言った。

「そんなに寝心地良かったのか――紫の膝枕は?」

「なッ!?」

反射的に紫へと振り返る。紫は「ふふ」と笑みを浮かべているだけで何も言わない。

同時に、霊夢は先ほど後頭部に感じた温かい感触を思い出した。

「な……な……」

何か言おうとするも言葉に詰まって何も言えず、顔色が目に見えて赤面していく霊夢。

そんな様子を面白そうに見つめる魔理沙と紫。

そこへ、魔理沙が更に爆弾を投下する。

「ついでに言うと、さっきまで天狗もいたぜ」

それを聞いた瞬間、霊夢の動きがピシッと固まった。

「ま、ま、まさか……」

「ああ、いっぱい写真撮りまくっていたぞ。霊夢が紫の膝枕で熟睡していたところ」

「霊夢が気付かなかったのも無理はないわ。あなたが起きないように取材も小声で行っていたのだから」

「大声出すと霊夢が起きるって言い出したのは紫だろう?」

「そういえばそうだったかしら」

にこやかに会話を交わす魔理沙と紫。

一方の霊夢は絶句していた。

写真を撮られて、取材もされたとか。

このままでは、明日には自分がこのスキマ妖怪に膝枕されて寝ていたという不覚が新聞に掲載されて幻想郷中に広まるに違いない。

それだけは何としても、たとえ弾幕ごっこに訴えてでも阻止しなくては!

「魔理沙! あの烏天狗はどこ行ったの!?」

「ん? ああ、あいつなら早速山に戻って原稿書くって言ってたぜ」

「くっ、今から飛んで行っても間に合わない……! 紫、スキマで私をあの烏天狗のところまで送りなさい!」

「あら、どうして私があなたを送っていかなくてはいけないのかしら?」

「もともとはあんたのせいでしょうが!」

「私が来た直後に寄りかかってきたのは霊夢の方なのだけど」

「ぐっ……」

紫は協力するつもりなどないらしい。ならば時間の無駄だろう。

「こうなったら――!」

霊夢は玉串を取り出し、祈祷を始めた――。







射命丸文はここ最近、とても機嫌が良い。

横島忠夫のコーナーを連載してからというもの、『文々。新聞』の発行部数は順調に伸び続けているからだ。

あの男は幻想郷での日常生活ですら波乱万丈に生きているため、本当にネタに困らない。

まあ、何度吹き飛ばそうと今でも取材の度に飛び掛かってくるあたり、懲りない男でもある。

そして今日は、それに増して更に上機嫌だった。

「博麗の巫女、スキマ妖怪に甘える! 明日の見出しはこれで決定ね!!」

横島以外のネタを探しに博麗神社に行ってみれば、あの博麗の巫女がスキマ妖怪の膝枕で気持ちよさそうに寝ていたのだ。

何とも非常に珍しい、というより普段の巫女の性格や行動を思えばありえない光景。

幸いスキマ妖怪と白黒の魔法使いに取材もできたことだし、これはトップニュースとして新聞に載せるべきだろう。

「そうと決まれば、早く帰って原稿を書き始めないと!」

文は妖怪の山へ向かって一直線に飛び始め――己のすぐ近くに強い神気を感じ取って動きを止めた。

「――!?」

(こんな近く――気付かなかった!?)

驚愕に顔を染めながら、文は反射的に振り返る。

そこにいたのは、

「博麗の、巫女……?」

ついさっきまで神社で寝ていたはずの、口元にマフラーを巻きつけた博麗霊夢だった。

「そ、それがしは博麗の巫女ではない!」

「はい?」

いきなり自分を否定する霊夢に、文の目が点になる。

そういえば、この神気は霊夢から発せられている。ということはどこぞの神が降りているのかもしれない。

「では、どちら様で?」

「そ、それがしは……えーっと……」

霊夢、に宿っている『何か』は焦ったように目を彷徨わせる。

その時、文の隣に空間の裂け目ができて、紫が姿を現す。

「あ、スキマ――」

「――そう、それがしは!」

文が何か言おうとした時、それは己が小体を口にした。










「それがしは博麗さんのそっくりさんが大勢住むハクレイ星からやって来た宇宙人、

 ハクレイガールだぁー!!」






「……」

「……」

……。

沈黙が、辺りを包み込んだ。

「……スキマの。博麗の巫女はどうしたの?」

あまりの衝撃に取材用の口調を取り繕うことも忘れて、文は紫に尋ねる。

「足の速い神を降ろしてあなたに追い付こうとしたのだけど……」

紫は片手で頭を押さえながら言った。


「何を間違えたのか、横島の世界の神を降ろしちゃったみたいで……」

「……ああ、なるほど」



横島の世界の神と聞いて、なぜか納得できてしまう文。

アレから溢れ出る神気は本物だ。紛れも無く神なのだろう。

……なんか、いろいろとアレだけど。

いつの間に追い付いてきたのか、遠くの方では白黒の魔法使いが腹を抱えて爆笑している。

たぶん、ハクレイガールの宣言があっちまで聞こえていたのだろう。


「少女の寝顔を無断で写真に収め、あまつさえ新聞にしてばら撒くとは、悪ふざけでも度が過ぎていよう!

 正義の韋駄天、八兵衛
……じゃなかった、謎の正義のヒロイン、ハクレイガールとして、その写真は破棄させてもらう!!」


アレ、もといハクレイガールはやたらと威勢よく言い放つ。


((ああ、アレ韋駄天なんだ……))


何とも言えない表情を浮かべたまま、呆然とそんなことを考える大妖怪二名。

韋駄天と言えば仏教ではそれなりの地位にいる有名な神であるハズなのだが……それでアレなのか。


「行くぞ、ハクレイフラーッシュ!!」


シュンッ

「――あっ!!」

「――へえ」

ハクレイガールの掛け声と同時に、気が付けばハクレイガールはその手に文のカメラを持っていた。

「いつの間に……」

「どうやら吸血鬼の従者と同じ能力、時を止めたようね」

驚く文の横で、冷静にアレが何をしたのかを分析する紫。

対照的にハクレイガールは熱かった。


「九兵衛との戦い以来、それがしは修業を重ね、遂には超加速を会得したのだ! 正義は常に進化するものなのだ!!」


そして、ハクレイガールはカメラを宙に投げ、


「韋駄天ウルトラスペシウム霊波光線!! あ、間違えた。ハクレイウルトラスペシウム霊波光線!!」


両手を添えた額からビームが放たれ、文のカメラを貫き破壊した。

ちなみに韋駄天ウルトラスペシウム霊波光線の段階でカメラを貫いていたので、言い直した意味はあまりなかった。

「ああ、私のカメラ……」


「取材は双方の合意の上で行うことを忘れてはならない! 充分に反省するように!!

では、さらばだ! とうッ!!」


そう言い残し、ハクレイガールはもの凄い勢いで空へと消えていった。

「……」

「……」

後に残ったのは、固まっている二人。

ちなみに魔理沙の姿は空にはない。どうやら笑い過ぎて墜落したらしい。

「それで、どうするの? 流石にアレを記事するのは不憫すぎると思うのだけど……」

再起動を果たした紫が尋ねる。

誰が不憫すぎるかは、言わなくても文にもわかっていた。

「そうね、私は天狗であって鬼じゃないし……カメラの件も含めて、二つ貸しにしといてあげましょう」

「そう……。それじゃ、私は神社に戻るわ。フォローしてあげないと失踪してしまいそうだから

紫はスキマを開いて、その中へ消えた。

「……さて、私はにとりの所へ行ってカメラを新調しますか」

妙に疲れた表情を浮かべながら、文は河童のところへ向かった。





幸か不幸か、霊夢が紫に膝枕されていたことは忘れ去られていた。

……煩悩魔人と違い、優秀な巫女は優れているが故に全てを覚えていた為、それ以上の何かを代償に失っていたが。


「れ、霊夢、元気だして」

「……」

「あの烏天狗も記事にしないって言ってたから」

「……」

「き、今日の夕飯は私が作ってあげるわ。外の世界から新鮮な海の幸を御馳走してあげる」

「……」

畳の上で死んだように俯せになっている霊夢は、ピクリとも反応しない。

「横島の世界って……」

紫は深々と溜め息を吐いて、とりあえずスキマから海の幸を取り出すと、台所へと向かった。





おまけ



「よーこーしーまぁぁあああーーー!!」

「俺が何したって言うんじゃーーー!!」

「あんたの世界がぁぁあああーーー!!」

「あれか、賽銭箱から小銭をちょろまかしようとしたことがバレたんかぁー!」

「なんでっすてぇぇええーーーー!!」

「ヒィーーッ! やってない、やってないっす! 小銭なかったんで未遂なんだーー!!」


「キサマァァァァアアアーーーー!!」

「ああ! なんか壮絶に墓穴を掘っている感じが――ギャアアァァァア!!



ピチューン





あとがきっぽいやつ

紫の膝枕で寝入ってしまい、周囲にからかわれて赤面する霊夢。


そんなほのぼのとした幻想をぶち壊すのがGS世界。

がいでん系のネタもいくつかあるので、こっちもちまちま書いていこう。



[16660] 第6話
Name: 空之風◆6a02351e ID:24d42ae2
Date: 2012/02/24 19:32
横島を書いていると変なテンションになる作者です。

とりあえず落ち着きましょう。

博麗の巫女御用達のお茶でも、口に含んでご覧ください

ササ、ドゾドゾ♪ (*`▽´)_旦~~




第6話




紅魔館の地下へと続く階段。

「ふははははははーー!!」

そこを、奇声をあげながら駆け下りる変質者が一人、横島忠夫である。

「運命!! ああ、何と甘美な響き! それは男と女を結びつける赤い呪縛! そう、そして運命が導く先にあるのは――」


『美鈴さん、咲夜さん、きっと僕と君達が結ばれるのは、赤い糸が定めた運命だったのさ』

『『横島さん……』』




「ハーレムじゃぁぁあああーーー!!」


更に加速し、砂埃を撒き散らしながら地下へ駆け下りる。

そして地下へと降り立った横島の視線の先、地下道の最奥に、大広間にあった扉より更に重厚な作りの扉がある。

周囲の暗さも相まって、不気味な雰囲気を醸し出している。

もっとも、今の横島にはそれがハーレムへの扉にしか見えなかったが。

「おっじゃまっしまーーす!!」

何の躊躇もなく、というより勢い良く横島は扉を開け放った。

元気よく扉を開け放った先、ベッドの上にちょこんと座る少女が一人。

「あなた、誰?」

フランドール・スカーレットはきょとんとした様子で闖入者を見つめた。

「はじめまして! ぼく横島っていいまーす! 君のお姉さんに一緒に遊ぶよう頼まれました!」

邪を宿した横島はハイテンションで、知らぬ間にドでかい死亡フラグを打ち立てた。

「私と遊んでくれるの?」

フランの目が怪しく光っていることに、横島は気付かない。

「もちろん。俺は遊びの達人だからな、どんな遊びでもいけるぞ。んじゃ、何して遊ぼうか?」

「えーっとね」

フランは嬉しそうに羽をパタパタと動かしながら。

「弾幕ごっこ!」

満面の笑みで言った。

「――はい?」

横島の思考が一瞬静止する。

「じゃあ、いくよー」

止まった横島などお構いなしに、フランは嬉々として妖力弾を作り出し、

「それ!」

横島へと放つ。

「のわッ!?」

反射的に飛来してきた妖力弾を避ける横島。


ドンッ


妖力弾はそのまま扉に直撃し、大穴を空けた。


「……え゛」

唖然と、引き攣った顔で横島はそれを見つめる。


「あはは、ちゃんと避けたね。じゃあ、もっといくよ?」

楽しそう、否、愉しそうにフランは笑いながら、幾つもの妖力弾を周囲に展開する。

その全てが、今しがた扉に大穴を空けた妖力弾。

あんなもんで弾幕張られたら命がいくつあっても足りやしない。

「ああああのー、もっと安全な遊びを致しませんでございましょうか!?」

「ヤダ」

動揺する横島の提案を一蹴するフランの目はギラギラと輝いている。

ヤバい。何がって、目がヤバい。

横島はフランのような危ない目をした奴を何人も見てきている。

たとえば、





『倒幕派だなっ!? 不穏分子だなっ!? 斬る斬る斬る斬るーーーッ!!』

某映画の登場人物とか。




『実を申しますと私、生きた人間を斬るの初めてなんですの。ああ、楽しみですわ……!!』

GS試験の時にいたねーちゃんとか。




『ふふふ、美しい! なんて美しいんだ俺は!! ママァーーーーッ!!』

雪乃丞とか。




ちなみに共通点は、みんなしてアブない連中。

フランが知れば「あんなイロモノ連中と一緒にするな!」とキレるだろう面々を思い浮かべながら。

「フ……」

横島は諦めの気持ちで、でもどこか納得したような表情で息を吐き出し。






「結局こういう運命(オチ)かぁーーー!!」


クイックダッシュで逃げ出した!


「あはは、待てー」

その後を怖い笑顔を浮かべて飛んで追いかけるフランドール・スカーレット。

「待てと言われて待つ奴がいるかぁーーー!!」

……そんな返答できるあたり、意外とまだ余裕ありそうだった。








「ひぃーー! 死ぬぅーーー! 死んでしまうぅーーー!!」

泣きながら廊下を駆け抜ける横島。

「あははははは、逃げるの速いね! でも逃がさないよ!」

フランは弾幕を横島に放つ。

「のわーーーー!!」

弾幕が横島のすぐ傍の壁や階段に着弾して破壊するが、

「助けてーー美神さーーん!!」

泣き叫びながらも横島自身は大袈裟な動きでそれを避けていく。

……ギャグ補正の入っている横島に攻撃を当てることはなかなか困難なことなのかもしれない。

弾幕を避けながら廊下を曲がる横島。

「あはは! すごいすごい!!」

逃走しながらも弾幕を避けきった横島に、フランは更に上機嫌になってそれを追いかけ――。



「サイキック猫だまし!!」

「きゃっ!?」


曲がり角を曲がった瞬間、強烈な光がフランの視界を覆った。

「ううー、目がー」

「ふははは! 伊達に今まで生き残っておらんのじゃー!!」

一時的に視力を失ってよろけるフランを後目に、横島はドップラー効果を残しながらもの凄いスピードで逃げ去っていった。








「ふー、何とか撒いたか」

でっかい図書館みたいなところまで逃げて来て、ようやく横島は一息吐いた。

「あんな危険な奴と遊べるかってーの。今度雪乃丞でも紹介してやるか」

さらっと友人を生贄にしようと画策する横島。

まあバトルジャンキー伊達雪乃丞なら喜んで引き受けるかもしれないが。

「今のうちに、この館から脱出しなければ……」

新たに現れたニューバトルジャンキー(横島視点)から逃げる為、横島は今後の方針を考え始め、



「あれ、お客様ですか?」

「はじめましておれ横島忠夫っす!!」

「え? は、はあ、私は小悪魔と言います」

小悪魔を見た瞬間、脱出のことを忘却した。

美少女、美女との出会いは何よりも優先されるのである。

「あの、たぶん外来人の方ですよね? どうしてここに?」

格好から推測した小悪魔は横島に尋ねる。

横島の答えは、

「第5話を参照してください」

「メタな発言はやめてください」


いろんな意味で問題発言だった。

「小悪魔、誰か来ているの?」

そこへ、本棚の向こうから第三者の声がかかる。

「あ、パチュリー様」

小悪魔が本棚を一つ曲がると、テーブルに多数の本を載せて、椅子に座って本を読んでいるパチュリー・ノーレッジの姿がそこにあった。

「はい、外来人の方が――って、あれ?」

隣にいたはずの横島がいつの間にか消えており、小悪魔は首を傾げる。

その時、


「やあ、そこのお嬢さん」


上の方からやたらと爽やかな声が降り注ぐ。

反射的に二人が声のした上へと振り返ると、


「俺は横島忠夫って言うんだ」

本棚の上で目をキラキラとさせた横島忠夫がいた。


「……誰?」

「……何してるんですか、貴方?」

パチュリーは呆れた様子で、小悪魔はでっかい汗をかきながら問う。

というか、いつの間に登ったのだろうか。

そんな二人を余所に、横島スキャンはパチュリーを解析していた。


(読書の似合う図書委員タイプ、だが気弱さがなさそう。

あの冷たい感じ、性格はおそらくクール系と見た。今までに出会ったことのないタイプだな。

つまり未知との遭遇! 飛び掛かれば何が起こるかわからない。

……フ、何を恐れる横島忠夫。未知がどうした? そこに美女がいるのだ!

そっけなくフラれる? ゴミを見る目で見られる? それがどうした。悲しいがいつものことじゃないか!

未知とは突き進むもの、もしかしたらいい感じになる可能性だってあるのだ!

そして見よ、
何より胸がでかい!

服に隠れてわかりづらいが、俺にはわかる。あの胸はでかい!!


何度でも言おう、あの胸は間違いなくでかい!!

そう、あの胸に向かって飛び込めばそこには素晴らしい世界が広がっているに違いないのだ!!

さあ、勇気を振り絞れ俺! 未知を照らせ! 今こそ飛び立つ時なのだ!!


成功すればあの胸であーんなことやこーんなこともぉおお!!」



「火符『アグニシャイン』」


「ぎゃーー!!」

突如湧きあがった炎が、血走った目である一点を凝視していた横島を包み込んだ。

焦げた横島は本棚の上から地面へと落下する。

横島の未知への挑戦は、飛び立つ前に終わった。

「思ったことが口に出ているわよ」

本に目を落としながらパチュリーが口にする。ちなみにさり気なく青筋がたっていたりする。

「ズンマゼン……」

身体の所々が灰になりプスプスいった状態で謝る横島。

「あの、どうして生きてるんですか?」

引き攣った顔で尋ねる小悪魔の疑問は、答えるべき相手がピクピクと虫の息だったのでスルーされた。






「レミリアお嬢様に招待されたというのなら、お客様ですね」

「レミィも物好きね、こんなのを招くだなんて」

「なんかひどい言われようなんですけど?」

紅魔館に来た事情を説明したら、こんなの扱いされた横島。

「ところで、招待されたはずのお客様がどうしてここに?」

「いやー、なんか妹と遊んでと頼まれ――あ゛」

現状を思い出し、ピシッと固まり血の気が引いていく横島。

そして、タイミングを図ったかのように可愛らしくも恐ろしい声が大図書館へと届く。

「横島ー! どこに行ったのー!? 逃がさないよー!」

「ゲェ!? しまったぁーー! 追われてるの忘れてたー!?」

「それって忘れますか、普通?」

ついさっきまで命の危険に晒されていたことを素で忘れていた横島は思わず頭をかかえ、そんな横島に小悪魔は何度目かの汗を浮かべた。

「貴方、妹様に追われているの?」

「そーなんス! というわけで匿ってください!!」

聞こえてきた声の感じから、おそらくこの図書館の近くまで来ているのだろう。

かなり切羽詰った様子で懇願する横島に、パチュリーは軽く溜め息を吐いて奥にある扉を指差す。

「あそこの扉を開けるといいわ」

「ありがとうございます!! ああ、人の優しさが心に沁みる……!」

人ではなく魔法使いなのだが、横島が知る由も無い。

さっき冷たそうな感じって思ってごめんなさい。

クールな外見とは裏腹に心の中はおキヌちゃんとか小鳩ちゃんレベルの優しさに満ちているに違いない。

魔法使いの優しさに触れて綺麗な涙を流しながら、横島はガチャリと指差されたドアを開けて。



「あ、見つけたー!」

ドアの向こう側はフランがいる廊下でした。



「騙したなチクショォオオーーー!!」

裏切られた悲しい涙を流しながらパチュリーへ叫んだ。

フランは横島を見ながら嬉しそうに翼をパタパタと動かしている。

あと、さっきまでより目がギラついているように見えるのは気のせいだろうか。

「匿うなんて一言も言っていないわ。それに貴方がいると埃が舞うもの。私、喘息だから」

「俺の命は埃以下なのかぁああーーー!!」

「あはははは!」

笑いながら横島へと飛んで来るフラン。

「生き残ってやるー!! 埃だって生きたい気持ちがあるんやーー!!」

錯乱してよくわからないことを口走りながら逃げ出す横島。

再び始まった追いかけっこは扉の向こう側へと消えていき。

「……」

「……」

後には何事も無かったかのように読書を再開するパチュリーと、静かに横島の冥福を祈る小悪魔の姿だけがあった。









「待て待てーー!!」

「ひぃいいーー!!」

館の中に響き渡る無邪気な声と悲鳴。

「フフ、やっているようね」

「そのようです」

レミリアはテラスで紅茶を嗜み、咲夜はその給仕をしている。

「しかし、あの調子ではそう長くも持たないかと……」

「そうかしら?」

咲夜とは違った感想を持つレミリア。



「あー! あんなところにあんなものがー!!」

「え? なに?」

「戦術的てったーーい!!」

「あ、あー!? 騙したね!!」

「世の中騙し合いじゃー! 俺もさっき騙されたんやー!!」

「じゃあ私も。あー、あんなところに咲夜だー!」

「なにぃいいいーー!!」

「禁忌『クランベリートラップ』」

「ギャーー!!」

ドーン

ガシャーン

ドカーン


「ぬおぉおおーーー! 死んでたまるかぁーー!!」

「あははは! 私のスペルカード避けきった、すごいすごい! どんどんいくよー!」

「みっかみさぁーーーん!! おキヌちゃんでもいいから助けてぇーー!!」

ドカーン

パリーン




「……確かに、もう暫くは持ちそうですが」

そう答えた咲夜の声は、どことなくぎこちない。

「……」

レミリアは無言のまま、紅茶を口に運ぶ。

確かに、あの調子なら横島とフランの追いかけっこはもう暫く続くだろう。

館内を盛大に破壊しながら。

「……咲夜、後で廊下の修復をお願い」

「……畏まりました」

レミリアは顔を少し引き攣らせてティーカップをテーブルに置く。

咲夜は恭しく頭を下げていた為、その表情を見ることはできなかった。









「ふふ、とうとう追い詰めたよ?」

「ひぃいいーー!」

廊下の行き止まりにまで横島を追い込んだフラン。

「久々にとても面白かったから、最期はとっておきのスペルカードで遊んであげるね」

「イヤー! 最期って漢字がもうアウトやないかー!」

最期:命の終わるとき。死にぎわ。臨終。

「それじゃ――コワレナイヨウニガンバッテネ」

「あ、あぅ!」

もうアカン。何がって、目がアカン。

あの目は、あの目は――。



『古代のくされ悪魔が……!! よくもこの私の理想的体重をここまでにしてくれたわね……!!』

悪魔グラヴィトンの呪いにかかった時の美神さんとか。




『たまってる借りを、百兆倍にして返すッ!!』

アシュタロスの罠に嵌められた時の美神さんとか。




『よぉ~こぉ~しぃ~まぁ~~~……!!』

俺に折檻寸前の美神さんと同じ目だ。



「ままままま待った!! いいのあげるから、ね!? ねッ!?」

このままじゃ未来永劫地獄の業火を味わい続けそうな錯覚に突き動かされて、横島は声をあげる。

「へぇ、何をくれるの? ツマラナイモノだったらすぐコワシチャウヨ?」

それは貰い物を、ですか? それとも俺を、ですか?

クスクスと哂うフランに、横島はガタガタと身体を震わせながら手を差し出す。

「はい、手を出して」

「ん」

手を出したフランの掌に、横島はそれを握らせる。

『眠』

パタン

瞬間、フランは急激な眠気に襲われ、そのまま床に倒れこんで眠りについた。



「ぜー、ぜー、死ぬかと思ったぁ……」

フランが眠ったのを確認した横島は、へなへなとその場に座り込んだ。

横島の手には『眠』と書かれた文殊がある。

出し抜きあいならフランより横島の方が何枚も上手なのだ。

「今度こそ、今のうちに逃げてやる……! 生きて人里に帰って慧音先生に抱きついてやるんだ……!」

そんなことしたら帰っても頭部挫傷で死んでしまいそうだが。

悲壮な決意を胸に、横島はフランを避けてそーっと歩き出し――。

「ぅ……ん……」

「……」

その足を止めた。




「うぅ、俺ってつくづく甘いよなー」

眠っているフランを背負いながら、横島は紅魔館の廊下を歩く。

人気のない廊下で眠っているフランを見て、なんか放っておくのも気の毒に思ってしまったのだから仕方がない。

せめて誰かと会うまでは目を覚ましませんように、と割と切実に願いながら、横島は廊下を歩く。

幸いなことに、その願いはすぐに叶った。

「あら?」

「あ、咲夜さん」

咲夜は横島を見て、正確には横島に背負われているフランを見て、微かに目を丸くする。

「横島様。妹様はいかが致したのでしょうか?」

「えーっと、遊んでいる最中に疲れて眠っちゃった、みたいな……」

あははー、と笑って誤魔化す横島を咲夜は暫く見つめて、クスと小さく笑った。

「――そうですか。わざわざ地下の部屋まで運んで下さるのですね、ありがとうございます」

「いえいえって、地下まで?」

横島としてはここでフランを渡してサヨナラ地獄、こんにちは生存、生きてるって素晴らしい、といきたかったのだが。

「私が道案内を致しますので。それとも、ご不満でしょうか?」

「あ、いや、全然大丈夫ですハイ!」

美女の頼みは断らない横島。ついでに咲夜とお近付きになれるチャンスでもある。誰が断るか!

「あ、でも俺が背負っているより、咲夜さんの方がいいんじゃないスかね?」

でもちゃっかり保険を求める横島。

それを咲夜はゆっくりと首を横に振った。

「できればそのままでお願い致します。そちらの方がよろしいかと思いますので」

「は、はあ……そうスか」

何がよろしいのか全然わかんないまま、絶対に目を覚ますなよ、と心の中で叫ぶ横島。



咲夜の言葉に、背中に背負っているフランの肩がピクリと動いたことには、終ぞ気付かなった。







紅魔館から奇跡の生還を果たした横島は、その翌日。

「妹様が、是非とも横島様とまた遊びたいとのことで――」

「死ぬわぁーーー!」

咲夜から再び地獄への誘いを受けていた。

「あんな遊びやってたら命がいくつあっても足りんわ!」

「では、来て下さらないと?」

「当たり前や!」

横島はうがーと吼えながら拒否する。

「そう、ですか。残念です……」

途端、咲夜は悲しそうに顔を伏せた。

「え? いや、あの……」

あたふたと目に見えての動揺を浮かべる横島。

「私個人としても、貴方には来て貰いたかったのですが……」

「え!?」

横島はドキーンと胸をときめかせる。

(まさか、俺にも春ですよー!?)

「それに――」

混乱する横島に、咲夜は顔を俯かせたまま言った。



「美鈴も、寂しげな表情で貴方の名前を呟いていました――」

「いざ紅魔かーーん!!」


脳内からいろんなことを吹き飛ばして、ニトロダッシュで紅魔館へ駆け出す横島。

既に遠くなった横島の後ろ姿を見つめながら、

「でも、それは私の聞き間違いのようでした」

ニヤリと口元を歪める咲夜。その笑みはまさに悪魔の従者である。





「フフ、そろそろ横島が来るころね」

「随分と買っているのね、あの男のこと」

テラスでティータイムを楽しみながら会話を交わすのは、レミリアとパチュリーの二人だ。

「買うに決まっている。あんな冴えなさそうな男が、フランを気絶させたのだぞ? 本当にどこまでもふざけた男だ」

フラン自身も何をされたのかわかっていないらしい。

追い詰めて、何かを握らされた瞬間に眠ってしまったとか。

「あいつの運命はあり得ないほどコロコロと変わるくせに、死ぬ運命だけは決して見せない。その運命も、行動も、見ていて実に面白くて仕方がない」

含んだ笑みを零すレミリア。



「美鈴さーーーーん!!」

「またあなたですかーー!?」




門のあたりが騒がしい。どうやら横島が来たようだ。

「さて、フランに横島が来ることを教えてあげないとね」

騒ぎを聞いた瞬間に席を立ち、軽い足取りで館内に消えていくレミリアを見て、パチュリーはポツリと呟いた。

「私には、妹に遊び相手ができて嬉しそうなだけにしか見えないわよ、レミィ」

遊び相手に任命された横島は不幸としか言いようが無かったが。




「横島ーーー!!」

「ぎゃーーーでたぁーーーー!!」

「あはは! 待てーーー!!」


まあ、死ぬことは無いと思う。たぶん。






あとがきっぽいやつ


運命と書いてオチと読ませる男、横島忠夫が幻想郷にきて最初に使う霊能力はサイキック猫だましと心に決めていました(笑)

次回は永遠亭。横島覚醒します。

永琳の年齢と同じぐらい待って頂ければ書けま――グサッ



このSSは、作者が矢で射ぬかれた為、完結しました。

ご愛読ありがとうございました。



行くぜ、ニコニコ超パーリィー!(予定)






[16660] がいでん2
Name: 空之風◆6a02351e ID:24d42ae2
Date: 2012/04/19 20:03
がいでん2

時系列は、ちょっと先のお話です。




その日、博麗神社は珍しい客を迎えていた。

「はい、お茶」

縁側に座っている彼にお茶を差し出す霊夢。

「うむ、かたじけない」

彼がお茶を受け取ると、霊夢も彼の隣に座る。

「いいの? 神様がこんなところで油売ってて?」

「本来ならば、良くはないのだが……」

お茶を一口啜り、

「たまには、神も一息吐きたい時もあるのだよ」

学問と雷の神、菅原道真は落ち着いた口調でそう口にした。







互いに無言のまま、ゆっくりとした時が流れていく。

無言といっても気まずいものではなく、そこには穏やかな空気がある。

元々が暢気な霊夢と、落ち着いた空間を求めてきた道真。

二人にとって会話が無くとも、別段気にするものではないのだ。

「……静かだの」

だから道真が唐突に口を開いたのは、無言の空気に耐えかねた、というわけではなく、ただ単に己の胸中を口にしただけであろう。

「そうね。いつもなら魔理沙とか妖怪とか妖精とかが蔓延っているんだけど」

今日は珍しくそういった面々は来ていない。

まあ、その代わりに珍しい神様がやって来ているのだが。

「ふふ、随分と慕われているのだな」

微かな笑みを浮かべる道真に、霊夢は嘆息して答える。

「単なる冷やかしよ。お賽銭を入れていくわけでもないし、おかげで参拝客は減るし」

「傍にいるときは、気付かないものだよ」

道真はお茶を一口飲み、言葉を続ける。

「私も生前は色々とあってね。失ってから気付くことがあり、気付いた時には遅すぎた、そんな経験もあるのだよ。確かに参拝客は減るかもしれないが――」

道真は優しい目で、諭すように霊夢に言った。

「君個人が手に入れたその絆は、大切にしなさい」

「……」

霊夢は何も言わずにお茶を口に運び、一口飲み終えてから、

「……余計なお世話よ」

憮然とした口調で道真に言った。

「はは、すまんな。つい教師だったころのクセでな」

朗らかに道真は笑い、続けて答えた。

「それに、君には無用な助言だったようだ」





再び沈黙が両者を包む。

霊夢と道真は、互いに空を見つめていた。

今日の幻想郷は晴れ。透き抜けるような蒼空に、所々の白い雲が空を描いている。

時折、微風が吹き通り、二人の頬をそっと撫でていく。

「ここは、いいところだな」

のんびりとした声で、道真が言う。

「あんたのところは、いいところじゃないの?」

「いや、あっちにはあっちの長所もある。常に活気があり、停滞を拒み、未来を目指して止まることなく歩き続けている。変わり続ける明日と可能性、それがあっちにはある。人とは強く逞しきものよとしみじみと感じるの」

だが、と道真は肩を竦めて、

「常に未来しか見ていない故、立ち止まって周囲を見回す余裕というものが無くての」

この時、道真の脳裏には現金至上主義の某GSの姿が浮かんだが、特に何も言わずに再びお茶を口へと運んだ。

ゆっくりとお茶を味わってから、道真は続ける。

「比べて幻想郷は、未来は見ておらんが代わりに今日を見ている。大地を、花を、山を、川を、空を、全てを感じている。こっちにあるのは変わらぬ景色と安らぎ。変わらぬものがあるということは、思っていた以上に感慨深いのだな……」

後半の台詞は、自分自身に言い聞かせているようだった。

道真は何かを感じ入るものがあるのか、静かに目を閉じる。

霊夢は何も言わず、ここから見える幻想郷の空を見つめる。

やがて、ゆっくりと目を開けた道真は、もう一度先ほどの言葉を口にした。

「やはりここは、幻想郷は良いところだな」



「気に入って頂けたようで何よりですわ」



唐突に聞こえてきた第三者の声。

同時に二人の目の前の空間が開き、日傘を差した女性が姿を現す。

スキマ妖怪、八雲紫である。

「紫殿か」

「何しに来たのよ?」

紫は妖怪だが、彼女を見る道真の目に否定的なものは感じられない。霊夢は「面倒なのが来た」と目で語っていたが。

紫は道真の方を見て答える。

「菅原道真様に会いたいという方がおりましたので、案内して差し上げました」

「それがしに?」

すると、紫の隣にスキマが生まれ、そこから一人の女性が降り立つ。

長い黒髪に普通の巫女服を着込み、メガネによって知的なイメージを感じさせる女性。

「秘書のミズキ君ではないか」

道真の言った通り、彼女は菅原道真の秘書をしている女性、ミズキだ。

「先生……」

彼女はひどく疲れた様子で、そして何故か恨めしい目で道真を見据えて。




「……そろそろ限界です。いい加減、天満宮に戻ってきてください」



ピシッ



瞬間、道真は固まった。

何が限界なのか、それを道真自身が誰よりも知っていたからだ。

数十秒ほど固まった後。

「も、もう少しのんびりしていっても罰はあたらないと思うがの? だってほら、それがし、神だし」

「あら? 天神様ともあろうお方が、誠実なる信仰心を持って御身を祀る方々をお見捨てになるのですか?」

フフ、と紫は薄ら笑う。

その笑顔がほんの僅かに引き攣っていることに、付き合いの長い霊夢だけが気付けた。

紫があんな顔をするとは珍しい、と霊夢が思っていると、紫が新たにスキマを開く。

開いたスキマの向こうには――。








「道真様ー! どこですかー!?」

「お賽銭入れさせてーーー!!」

「お守り売ってちょうだいーー!!」

「合格祈願させてくれぇー!!」

「オラに知識をわけてくれーー!!」

「道真ー! でてこーい!!」



神社に群がる参拝客の群れ。群れ! 群れッ!!



それは、道真が先ほど口にした、未来を目指す若者たち。

受験という避けられぬ未来を前にして、参拝客たちは一心不乱に道真を求めていた。狂騒じみた状態で。

まあ、確かに紫の言うとおり、信仰心に満ち溢れた参拝客たちには違いない。


なにせ願望丸出しだし。


道真を求める(怨嗟の)声に、道真は引き攣った顔で冷や汗をダラダラと流す。

ちなみに、横に座っている霊夢がスキマを凝視していることには気づいていない。

そして、秘書のミズキは紫に向かって一言。

「紫様、お願いします」

「ええ、わかりましたわ」

瞬間、道真の座っていた場所にスキマが開いた。

「なっ――!?」

驚きの声と共に道真はスキマへと落ち、



――ちょうど参拝客たちの上空へと落とされた。





「いたぞー!! 菅原道真だーー!!」


参拝客の一人が落ちてくる道真に気付き、


「合格させてくれーーー!!」

「絵馬受け取ってーーー!!」

「サインくれーーー!!」

「触らせてーーー!!」

「抱いてーーー!!」



怒涛の勢いで、道真の落ちてくる場所へと集まりだした。


「みんな、祀れーーー!!」

「「「おおぉおおおーーー!!」」」



目をギラギラと輝かせて、道真に向かって手を伸ばす信者たち。


「のわぁああぁぁーー!!」


その中央へと落ちていく道真は、救いを求めるようにスキマへと手を伸ばし――。




紫は、無言でスキマを閉じた。





道真がいなくなった博麗神社。

「それでは私も忙しくなりますので、ここで失礼します。紫様、ありがとうございました。霊夢さんも、先生がお世話になりました」

秘書のミズキは二人に頭を下げて、自分が出てきたスキマの中へと戻っていった。

後に残ったのは霊夢と紫の二人。

両者の間に暫しの沈黙が流れる。

やがて、

「紫」

唐突に、下を向いて何かを考え込んでいた霊夢が口を開いた。

「……なにかしら?」

と問いつつ、この時点で紫は霊夢が何を言いたのか既にわかっていた。

霊夢は顔をあげて、もの凄くいい笑顔で紫を見た。



「この神社に、あいつ祀っても問題ないわよね?」

「やめときなさい」




目を妖しく輝かせる霊夢に紫は即答する。

全くもって紫の予想を違わぬ霊夢の問いだった。

「何よ、別にいいじゃない」

「そもそも菅原道真は学問の神。幻想郷とはあまり縁が無いわ」

もっとも、もし祀ったらあっちの世界の人間なら世界すら飛び越えて参拝しに来るかもしれないと、紫は割と本気で心配していた。

だってあっちの参拝客、かなり目が血走っていたし。

何よりも非常識の塊みたいな奴が生まれた世界なのだ。

連中なら参拝する為に世界を超えるとか本気でやりかねん。

「ちぇ……」

不満そうに霊夢は顔をそらすと、不意に縁側から立ち上がり、神社の正面へとスタスタと歩いていく。

「あら? どこへ行くのかしら?」

「散歩よ」

紫の方は見ずに霊夢は答えると、そのまま空に浮きあがる。

散歩と言いつつ、霊夢は真っ直ぐに人里の方向へと飛んで行った。

「懲りないわね」

紫は呆れ混じりに呟くと、スキマを開いて博麗神社を後にする。



誰もいなくなった博麗神社には、道真と霊夢の飲み掛けの冷めたお茶だけが縁側に残された。








「慧音! 今すぐ寺子屋に受験を入れなさい!!」

「何をトチ狂っているんだお前は!!」







あとがき


ほのぼので終わらせるとでも思ったか!?

オチがついてこそのGSだ!!



先にがいでんを更新しました。

本編の方はちょくちょく書いています。

あまり執筆が捗らない分、妄想だけは突っ走っています。

私の妄想の中では、美神さんが紫を退治しました。もちろん、GS的なやり方で(笑)

美神さん、えげつねぇ……。

稚拙な本作ですが、ネタが続く限り書いていこうと思います。






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