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[2440] ああっ女神さんっ その1
Name: かいず◆19b471f3 ID:79663dda
Date: 2007/12/24 16:51
本作の時間は、アシュタロス戦のすぐ後ぐらいで考えております。
主人公は、我らが横島忠夫です。
俺は、彼のこと好きだなぁ。
(ホモい意味ではないっす、注意してくださいっす。ああっ信じてっす!)




ここは、東京都練馬にある俺のアパートの一室。
六畳一間で風呂なしの部屋である。
しかしながら、狭いながらも大切な俺の城なのだ。

今はまだ、外は薄暗い。
ふと目を覚ました俺は、布団にもぐりこんでまどろんでいた。
昨日の夜も寒くてたまらんかったが、
今朝もさみーなぁ。

うう、ここんところ美神さんが「仕事よ、仕事ーっ。金儲けよー!」
と張り切りまくっとるから、
こちとら身体のアチコチがボロボロやしなぁ。
アシュタロス戦の時は、ほんと仕事どころやなかったもんなぁ。
仕事の方はまた軌道にのってきたけれど、アルバイトの俺はしんどいわ。
あの人、俺をとことんコキつかうしな。
うう、眠い、だるい、しんどい。
まだ暗いし、もう少しは寝ていられるな。
うう、さむさむ。
俺が、ペラペラの掛け布団と毛布を自分に丸め込んで、
もう一眠りしようとした時、いきなり敷布団が引っこ抜かれた!

「起床ーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」

俺が寝ている敷布団が、光速で引っこ抜かれた反動で、ギュイーンと空中で4回転した後、
畳に落下。ドスッと後頭部を強打した。この後頭部着地は、かなりの高得点が予想される。予想されるんか!
今の俺は、新春かくし芸大会のマチャ○キのテーブルクロス引きの技のあと、倒れないワイングラスみたいにな感じになっているのか。
失敗したワイングラスのように割れなくて良かったよな、俺の頭。
俺の布団を引っこ抜いた相手は、まだ薄暗い部屋の蛍光灯を点け、畳の上でゴロゴロと悶絶する俺を下ろしながら言い放った。

「横島っ!貴様たるんどるぞ!戦士たるもの、いかなる場合でも、緊張感を持ってなければ
ならんのだ、肝に命じておけっ!」

俺が見上げると、そこには上下に黒のジャージを着たワルキューレがいた。
あいかわらず厳しい顔してんなー。
う、金色の瞳が俺をニラみ倒してるっ。
でも、めっちゃ美人さんなんだよなー、この人。
この切れ長の目に長いまつげ、小さめの唇もぞくぞくするっす。
しかもスタイルも抜群で、モデルとかやったら誰もかなわないんじゃないやろか。
美人のおねーさまは、大好きやわぁ。
ああ、俺はっ、俺はっ~。

俺の思考がハフンハフンしてふと我に返ると、そのワルキューレは、すぐさま俺が丸まっている毛布を引っ剥がそうとする。

「あ、こ、こらー!あんたなぁ、いきなり心臓に悪い起こし方すなーっ。まだ外は暗いし、寒いやろがっ!
あんたらは平気かもしれんが、俺は疲れとんのじゃー!寒いんじゃー!眠いんじゃー!」

必死に抵抗する俺だが、ワルキューレは平然としている。

「何をいう、これは貴様のためを思ってのことだ。規則正しい生活こそが、戦士たる勤めだぞ。
貴様も早く軍のやり方に慣れた方が良いぞ、分かったか?」

そういって、グーンと強引に俺の最後の砦、毛布をひっぱがす。
うぐぅぅわ、寒っ、寒いぞおいーっ。



[2440] ああっ女神さんっ その2
Name: かいず◆19b471f3 ID:79663dda
Date: 2007/12/24 16:54
「横島っ、返事は!」

「い、イエッサー!」


俺は毛布を手放すのを必死に抵抗したために、彼女の拳によって頭に3つほどデカイこぶを作ることになってしまい、
なんとか、畳にはいつくばりながらも敬礼ポーズをした。
そしたらワルキューレは満足したのか、うんうんと頷いた。

「朝メシを食う前に、ランニングとトレーニングだ。3分で準備しとけよ。急げ!」

ワルキューレは、今朝の命令を俺に言い渡す。
こりゃ、急がないかんっ。1秒でも遅れたら、また俺は殺されてしまう。

俺は慌ててパジャマから、ジャージに着替えながら、考える。
何でこいつは、勝手に押しかけてきて、いつもいつも布団を剥ぎ取るんだ。
それだけじゃない、早朝ランニングを強要したり、筋トレをやらされたり。
その際には、色々な叱咤激励をしてくれるのだが・・・。

「横島!貴様はいくじなしだ!虫けらだ!」

「うん?悔しいのか?うん? 悔しいなら、悔しいですって言えこのゲス野郎!」

「貴様のような軟弱な奴は、あと腕立て100回だ!とっととやれ、この軟弱フニャ○ン野郎!」

などと、かなりの鬼軍曹。いや、大尉だったか?
まぁ、そんなんはどうでもええんじゃ!とにかく、俺の生活が新兵教練みたいになっとるのは、
なんなんだ!?
ワルキューレのやつは、慌てて着替えている俺と腕時計を交互に見ながら、「30秒経過」とか言っている。
こら、急がなあかん。



そんな焦りまくる俺に、声がかけられた。

「あ、横島さん、起きました?」

不意に玄関に目をやると、上下が白のジャージを着た女性が朝刊を持って入ってきた。
彼女は、俺の心の拠り所、六畳一間の女神、プリティーさナンバーワンとの異名も高い、その名も小竜姫さまだ。
いやぁ、ジャージ姿もお美しい。すらりとした手足と程よい肉付き、まさに健康美。
同じクラスなら、美人でスポーツも勉強もできる、学級委員長タイプだろう。
なにより性格もめっちゃええ子やしなぁ~。
美神さんに受けた虐待も、小竜姫さまのそばに居るだけで、一発解消っす。

「あ、小竜姫さま、おはようございますっ、いやー、今日もほんと可愛いっす!俺はっ、俺はー!!!!」

いつもの条件反射で小竜姫さまに抱きつこうとしたら、彼女から重い右ストレートを食らい、
ワルキューレから、おもいっきり尻にタイキックを入れられた。
崩れ落ちる俺。
玄関で死にかけている俺に小竜姫さまは、やれやれと呆れ顔。

「まったく、横島さんったら、毎朝毎朝、こりないですねぇ。早く準備しちゃってくださいよ。
私は朝食の支度も済ませて、もう準備完了なんですから」

そういって小竜姫さまは、俺が寝るために部屋の隅に片付けてあったテーブルを
設置しなおしてから、手早くふきんでテーブルを拭き、パサリと朝刊を置く。
せまい台所に目をやると、もう4人分の朝飯の準備ができているみたいだ。
そうか、今日は小竜姫さまの炊事当番で、和食かー。
あの卵焼きとか、うまそうだなぁ。
味噌汁もできてるんや、ええにおいがする。外から帰ってきたら、アツアツの味噌汁。うまいんやろなー。
俺は、こんな可愛い子が作った朝食を食べれるなんて、なんて幸せもんなんやと思いながらも、
着替えを急ぐ。

あ、トイレにもいっとこう。
まだ時間はありそうだ、さっと済ませちまおう。
小竜姫さまは、玄関先で俺たちを待ってくれている。
俺たちと一緒に、トレーニングに参加するためだ。

よいしょよいしょと、屈伸運動をする小竜姫さま。
うんうんと、アキレス腱を伸ばす小竜姫さま。
「あ、やだっ、横島さん何を見ているんですかっ」と頬をぷぅと膨らませる小竜姫さま。
いやー、可愛いのー。

などと、ニヤニヤと小竜姫さまに思いをはせながらトイレのドアを開けたら、トイレの住人に怒られた。

「こ、こらっ、ヨコシマっ!あんたトイレに入るときはまずノックしろって、いつも言っているだろ!」



[2440] ああっ女神さんっ その3
Name: かいず◆19b471f3 ID:79663dda
Date: 2007/12/24 16:55
トイレの中で座り込んでいたのは、もう死語かもしれんがコギャルのねーちゃん。
メドーサだった。
顔は真っ赤。かなりびっくりしてる、すんごい怒ってるな。
今日のメドーサは、銀色の長髪を後ろで結わえて、ピンク色のジャージを着ている。
やつは、便座に腰掛けてはいるが、スボンは履いているみたいだ。
ホッとしたような、残念だったような・・・。

ここしばらく、こいつと一緒に行動していて分かったんだが、以外と可愛い系のモノを好むんだよなー。
外見が若くなって、嗜好が変わったんやろか?
まぁ、口や性格の悪さはあいかわらずやけど。
初めて会った時は、色気ムンムンでおっぱいボインボインのおねーさまだったけれど、
今の外見は、俺よりも年下になってしまっていた。
今では、ボインボインはなりを潜めてしまったが、若者には将来というものがある。
実際、元が美人だしな。今のメドーサは、とても可愛い女の子って感じだ。


「は、入っとったんか?悪い悪い。いまさ、あの二人に急かされてるんだよ、早く代わってくれよ」
俺は、さすがに悪かったなと思って、メドーサにお願いする。

「ったく、仕方ないね。まぁ、いいさ。こっちは精神集中していただけだからね。代わってやるよ」

そう言ってトイレから出ようとするメドーサ。
「おはよう」と小竜姫さまとワルキューレに声をかけてる。
なんでこいつは精神集中でトイレに篭るんだ?受験生がトイレで勉強するみたいに落ち着くんやろか。
あとあれだ、トイレの中で新聞を読むのもやめて欲しいわ。小竜姫さまも怒ってたぞー。

俺が用をたそうとして、ふと気づく。まだメドーサがトイレ内にいた。

「おいっ、こらっ、はよ出てけよ!小便ができないだろっ」

「んー、なんだヨコシマ、小便か。あたしゃてっきり」

メドーサは、ジッと俺の下半身のある一部を見つめる。

「あほかー!!朝っぱらから、何をしょうもないセクハラしとんのじゃー!
俺はセクハラをするのは好きでも、されるのはめっちゃいやなんじゃー!」

俺は必死で前を隠す。仕方ないやんか、健康な男子が朝起きたてで、あそこが起きたてなのは
仕方ないやんかー。ないやんかー。
おがーん!!!と泣いてしまう俺。
そもそも、今はそんな煩悩全開しとる場合やないやろ、刻々と悪魔の制限時間が迫ってきとるっちゅーのに。


「何をしてるんですか、あなたはっ!横島さんの用をたす邪魔をしているんじゃありませんっ」

案の定、小竜姫さま、怒っているなー。
すぐさまこっちに来たいみたいだけれど、もう履いてしまった運動靴を脱ぐのが面倒くさいのか来ない。
意外とこの人、性格が大ざっぱやなぁ。いや、おおらかと言っておこう。
なにやら俺に対する視線が痛いし。


「メドーサ、なにをもたもたしている!今日はお前も参加するんだぞ!
まだ用をたしていないなら、時間がもったいない、横島と同時にやれ!」

ワルキューレは、腕時計で残り時間を確認しながら言い放つ。
いや、それはあかんやろ。


「なぁ、はよ出てってくれよ。ほら、小竜姫さまもワルキューレのねーちゃんもニラんでっからさ」

「へいへい、仕方ないね。まぁ、いいさ。あたしと違ってあいつらは『おぼこい』からねぇ」

そういいながら、にんまり笑顔で考えるメドーサ。

「しかし、ヨコシマも大変だな。あたしらみたいなのと四六時中一緒にいると、ストレスと『アレ』が溜まり放題だからねぇ。
まぁなんだ、機会があれば、どちらもあたしが解消してやるよ」
とフフッと笑いながら言った。

え、ストレスと『ア・レ』・・・・?

「なぬっ!!そんな機会が俺にっ?俺にぃ?
はわぁぁぁぁぁ。春?冬なのに人生の春?まてまてこのお話は、全年齢対応やぞ?朝っぱらやぞ?
いやまてしかし、しかしだ俺。冷静に考えるんや。こんな機会が俺の人生で、今後あるやろうか?
いや、無いに違いないっ。ここで、ええカッコなんかしとる場合やないで、オイ。
俺はなぁ、この溢れかえる煩悩のためやったら、全ての規制や道徳なんて、
追憶の彼方に消し去ってしまうんじゃー!!」
と心の叫びをしていたつもりが、この思いがことのほか強かったのだろうな、うっかり口に出ていた。

メドーサのやつは、アホだねこいつは~とニタリ笑顔で俺を見つめてる。

「ヨコシマ、何をそういきり立ってるんだい?『アレ』ってのは、霊力のことだよ。
あたしらと一緒に活動していると霊力がアップするだろ。いきなり霊力があがると、
身体に良くも悪くも影響がでるからねぇ。そのことを解消してやろうって言ってんだよ」

そう言って輝く黄金の瞳を細めて微笑む。あ、ちょっと可愛いかもしれん。

あー、なんだ、そんなことか。てっきり俺は、そっち系の話かと。
あわてんぼさんだよなー、俺って。
ホッと一息いれる俺。
ん、なんだおい、この寒々しい空気。
今朝はやけに冷え込むな。

「横・島・さ・ん?」

「横・島?」

俺がゆっくりと振り向くと、そこに天国と地獄があった。



[2440] ああっ女神さんっ その4
Name: かいず◆19b471f3 ID:79663dda
Date: 2007/12/24 16:57
ズタボロになって天国と地獄から生還した俺が、ようやく用をたして戸締りとかして外に出た時、
ワルキューレの腕時計では10分経過していた。

「横島、貴様、制限時間を大幅に過ぎているな。やはり、たるんでおる」

腕組みをして俺をフンと睨みつける彼女。
あんたらが俺をボッコボコにするから、余計に時間がかかったんでしょーがと言いたかったけれど、
小竜姫さまとワルキューレの視線が、尋常じゃないと感じたので、黙ってた。

「横島、そんなたるんだ貴様には、悶絶トレーニング・天国地獄のコースだな」

「いえ、今日の横島さんには、絶叫トレーニング・地獄天国コースですよ」

ワイワイと二人は、今日の早朝トレーニングのメニューを決めている。
どちらにせよ、今日も俺は、二人に殺されてしまう・・・・。


今日のトレーニングは、いったいどうなってしまうんやろうとドキドキしている俺に、
ちょこちょことそばに寄って来たメドーサが話しかけてきた。

「いやぁ~、悪いなヨコシマ。ちっとばかり、大事になっちまったねぇ」

頭をかきながら謝るメドーサ。
でも、笑っていやがる、お前、反省しとらんだろ!反省を!

「まぁ、今日はあたしもお前達のトレーニングに付き合ってやるからさ、勘弁しなよ。
ほら、男がいつまでもグダグタ言ってんじゃないよ。さぁ、今日も覚悟決めて、死んできな!」
と俺の背中を小さな手でバーンとたたいて、ケラケラ笑い出した。

ったく、どいつもこいつも、勝手なことばかりいってやがる。
でも、なんだな・・・。
ルシオラと別れてから、腑抜けみたいになっちまってた俺が、こんなふうにまたみんなと
ワイワイやれるようになったのは、こいつらのおかげなのかな・・・。

俺がふと考えていると、メドーサがなんかボソっと言った。

「あたしは、あんたに助けてもらったからね・・・。感謝してるよ。
あんたに助けてもらわなかったら、今頃あたしは・・・・。
この借りはたっぷりと利子をつけて、必ず返すさ」

「え?なんか言ったか?」

俺は聞いていなかったので、聞き返した。

「ば、ばーか、何も言っちゃいねぇーよ。ほら、ジョギングに行くってよ、
トロトロしないで、さっさと行くよ!馬鹿ヨコシマ!」

だーっと駆け出すメドーサ、まったく、相変わらず挙動不審なやっちゃなー。
まぁ、あいつの身体の状態も考えると、色々と大変なのかもしれないな。
ついこの間までは、ひどかったからなー。今は元気になってくれてなによりだよ。

「横島さーん、いきますよー」
小竜姫さまが、俺に手を振っている。

「なにをしている、横島!さっさと、私の隣で走らんか!」
ワルキューレは、相変わらず声がでかいな。

わかった、わかったよ。行きます、行きますってば。
冬の空は天高く、澄み切っている。

うしっ! 気合を入れて、俺も走り出す。
トレーニング後に、みんなでワイワイと食べる朝飯がなによりのご褒美だ。
え?なに?なんでお前、横島のくせにうらやましいことになっとんじゃって?
んふふふ、アレだよ諸君。
俺のような一流のゴーストスイーパーともなるとだねぇ、女の方からわんさか寄って来て、
モテモテってなもんなんですよ。


ごめん、結構大変なのよ・・・。
こんなハーレム状態なら、さぞやムンムンな生活と思うかもしれへんけど、
現実は、全然甘くないなー、トホホ。

俺の妄想の中では、
ワルキューレのねーちゃんとは、あんなことやこんなことをやって。
小竜姫さまとは、あんなことやこんなことをしちゃって。
メドーサとは、あんなことやこんなことをしてもらってるのにーっ!!!!
もうっ、現実キライ!


え、えーとだな(気を取り直して)、
こんな4人の共同生活が始まったのには、色々とわけがあってだな。
まぁ、大したキッカケではないが、機会があれば話すよ。
ほら、あの3人の女神さん達が
「「「 遅いっ!!! 」」」
ってメチャクチャ俺のことをにらんでるからな。
んじゃ、またな。いってくるぜ。
今日もいい一日になりそうだ。




「横島くん、遅いっ!また遅刻っ!
おキヌちゃん、これはアレね。横島くんの私に対する反乱よね?謀反よね?テロよね?」

「ああーん、美神さーんっ、冷静に、冷静にっ・・・」



今日もすさまじい一日になりそうだ・・・。


続く








この二次創作小説を読んでくださった皆さん、ありがとうございます。
かいずといいます。
文章を書いて投稿するというのは、先に投稿させていただいた2作品が
初めてで、今回が3作目になります。
素人の自分の書く文章ですので、読みにくい点があると思いますが、ご容赦いただけたらと思います。
あと私の無知で、もし他の二次創作小説の作家さんのネタとかぶってしまっていたら、
本当にごめんなさい。
では、みなさん失礼します。

かいず



[2440] ああっ女神さんっ 「女神のブートキャンプ」その1
Name: かいず◆19b471f3 ID:79663dda
Date: 2007/12/26 01:58
俺の住むアパート前から、近所にある神社の境内までランニング。
みんな足が早いな。
こっちは、付いていくのはやっとだわ。

走る俺の左側では、ワルキューレが気合を入れてくれる。

「ほらほら、横島。これぐらいでへばってどうする?ファイトだ、ファイト!」

走る俺の右側では、小竜姫さまが励ましてくれる。

「そうですよー、横島さん。あと少しです。頑張ってください!」

走る俺のすぐ後ろでは、メドーサがおちょくってくれる・・・っておいっ!

「おい、ヨコシマ。お前、いきなり屁をすんじゃねーぞ。あたしが、モロに吸っちまうからな!」

そろそろ冬にさしかかった早朝。
俺たち4人は、まだ寝静まっている町を走る。
空はまだ暗いが、東の空がほんのり朝焼けって感じだ。
そろそろ目的地だな。
しかし、ここの神社って階段が長くて辛いんだよなー。
でも、ここまで来て、泣き言は言えんわな。
くーっ。
おっし、あと少しだけ頑張るか。




みんな白い息をはきながら階段を駆け上がり、
ようやく神社の境内に到着。
都心の神社なんだが、結構広い境内で、うっそうと木々がしげっている。
吸ってる空気も、なんかうまい気がするな。

俺たちは、ワルキューレを目の前にして、
左から俺、小竜姫さま、メドーサの順にずらっと並ぶ。


「よおーーーし!貴様ら、全員整列。番号!」

「ゼーゼー・・・・いち」

「に!」

「さぁーん」


栄えあるナンバー1を拝命した俺は、さっきのランニングで、息も絶え絶え。
もう一歩も動きたくないんやけれど、地面にへたり込んでいると俺の目の前にいる猛烈ねーちゃんに、
鬼のように怒られるからなあ。
ああ、違うわ、悪魔だったな・・・。
その悪魔ねーちゃんのワルキューレと小竜姫さま、そしてメドーサは、息も乱れていない。
うう、こいつらと俺とは、元が違うからなぁ~。
もうちょっと、手加減してくれよ。

「たいちょーさん、全員そろったよー」

メドーサは、ほいっと元気に敬礼して報告をした。
ワルキューレは、一言「ご苦労」と言い、ウムとうなずく。
小竜姫さまは、にこやかに笑みを浮かべている。

「ふふっ、隊長さん、はりきってますねぇ」

ここ数日、このメンツで早朝トレーニングをしとるんだが、
その時のワルキューレの呼び名は、本人たっての希望で「隊長」である。
それが何でかっちゅーと、一時期ブームになった「何たらブートキャンプ」という
ダイエットビデオの影響なんや。
それは、美神さんが通販で買ってすぐに飽きてしまい、
その後、おキヌちゃんがチャレンジしてすぐに挫折してまったというビデオだったりする。
あ、効果がある人にはあるみたいやから、もし愛用してる人がいたら、ごめんな。

そんで、そのビデオは、もう美神さんやおキヌちゃんも使わないっていうし、
「なんやもったいない、売ればいくらかなるんちゃうか?」とか考えて、
もらってきたのさ。
でも、すっかり忘れて部屋のどこかに置きっぱなしだったんだ。


そしたらワルキューレは、たまたま台所の隅に置いてあったビデオを見つけて、
それに興味を持ってしまった。
何、ブートキャンプ・・・軍隊教練・・・ダイエット?
ブツブツなんか言ってる。

「横島、このビデオはなんなんだ?」

メドーサは、ひょいとビデオのパッケージを見て、ぐふふと含み笑いをする。
おひょー、こりゃオモロイ。あのバカ、からかってやろう、キッシッシ・・・の笑み。

「おっ、ヨコシマ~。おいお~い、これって筋肉ムキムキ男のビデオじゃねーかよ。
へえー。お前、そっちの趣味もあるんや~、ふーん。」

小竜姫さまは、メドーサの言葉を聞いて、あわててビデオのパッケージを見る。
説明文を読まずに、視線はムキムキ男の写真に釘付けだ。

「そ、そんなっ。横島さん、そ、そうだったんですか!?不潔、不潔ですっ!私、私・・・」

小竜姫さまは、おろおろして半泣き状態。

3人はガーッと俺に詰め寄って、各々言いたいことを言い出した。

「おい横島、さっきから聞いているだろう!これはなんだ・・・」

「よーよーヨコシマー。あんたも好きモンやねぇー。このむっつりスケベ・・・」

「だめーっ横島さん、目をっ、目を覚ましてくださいっ!その為なら、私っ・・・」

「ちょ、ちょっとまて、みんな落ち着いてくれーっ!」



なんとか3人をなだめ、ようやくビデオの内容を説明して、実際に観てもらう。
あーなんだぁと小竜姫さま。ホッとした様子だ。
ちょっぴり出てた涙をぬぐいながら、

「ごめんなさい、横島さん。私ったら、また勘違いしちゃって」

そう言って、ペコリと頭を下げる。

「いいっす、いいっすってばー。誤解が解けて、なによりっす」

冷や汗たらして、あははーと笑う俺。
いやはや、とんでもない誤解を受けるとこだったな。

「なんだーぁ、つまんねーの。ヨコシマぁ、もっと面白いビデオ用意しとけよなー」

おいそこ、うるさいぞ。
メドーサの奴は、手持ち無沙汰になったのか、押入れの中をゴソゴソ探し始める。
「絶対、あるんだよなー。この辺りがあやしいぜ」と発掘中。
ちょ、ちょ、あかんて。
そこは俺の夢と希望と煩悩が、密かに眠る最後の秘境。
ヨコシマ金山なんや、ヨコシマ油田なんや、男のデリケートゾーンなんやー!
それだけは、勘弁してくれ~!
早速、奴と俺は押入れの攻防を繰り広げる。

奴との攻防中に、ふと気が付くと、ワルキューレは食い入るようにテレビ画面を観ていた。
画面の中ではベリー隊長の指示の下、隊員が黙々と身体を動かしている。
しばらくして、ワルキューレは、すっくと立ち上がり断言する。


「これだ!!」


え?何がですか?
残りの3人がキョトンとした顔で、彼女に注目する。
そして、彼女は高らかに宣言した。

「今から、ワルキューレ・ブートキャンプを実施する!!」


元々俺は、せっかくこんな凄い女神さん達が一緒にいてくれるんやから、
暇な時に色々と稽古をつけてもらおうかなーと思っていたんやけど、
(エロイことも稽古つけてほしいが、まだ死にたくないからなぁ。絶対、言わんとこ。)
その前に、彼女のハートが燃え上がったみたいだ。

まぁ、今の彼女は、魔軍を除隊したらしいから昔の血が騒いだのかもしれないな。
なんで除隊しちゃったんやろな。
あんま詳しく聞いてないが、まぁ、ええか。
そんで、本来なら、このビデオを観ながら、みんな仲良くお部屋でブートキャンブするんだが、
俺の部屋は狭いし、ボロアパートなので、近所迷惑になってまうしなー。
ちなみに、ビデオと付属の運動器具は、ワルキューレにあげた。

「訓練中は、私のことを隊長と呼ぶように!」

その後、ワルキューレからこんな命令が下された。
まぁ、みんな特に逆らう気もないし、本人がノリノリならまぁいいか、
ということで今に至るわけだったりする。



[2440] ああっ女神さんっ 「女神のブートキャンプ」その2
Name: かいず◆19b471f3 ID:79663dda
Date: 2007/12/26 02:00
おっと、また考え事をしちまった、ボーッとしてたら怒られるし、
集中しよ。


「えー、オホン。おはよう諸君!」

ワルキューレは、居並んだ我々を見ながら、話を進める。

「つもる話もあるが、時間がもったいないので、早速今朝の訓練内容を発表する。
横島は、柔軟体操の後に小竜姫と剣の稽古だ。小竜姫よろしく頼む」

「はい、了解しました。隊長」

小竜姫様は、ぴしっと敬礼して、答える。
ワルキューレも、うむっと敬礼する。
つもる話って、なんやろう?
四六時中、一緒におるんだが・・・。
まぁ、深く追求するのは、やめとこう。


「メドーサは、とりあえず私と共に小竜姫のサポートだ。よろしく頼む」

「たいちょーさん、了解ー」

メドーサもほいほいと敬礼をする。
こいつは「なんだよ、こんなことすんのバカみてーだな」とか
いいながらも付き合ってくれているから、いい奴だよな。


「では、横島さん、今日も一緒に頑張りましょうね♪」

小竜姫さまは、にっこりと俺に微笑んで、
小さくガッツポーズなんかしちゃったよ。
くぅー、なんつー可愛さじゃ。
ラブリーすぎるっ。
も~俺はっ、俺はっ、俺はー。

「しょ、小竜姫さまーーーーーーっ!!」

煩悩エネルギー充填120%!
おおーっ、きたきたきたきた!
忠夫っ、いってきまーす!
ただいまー小竜姫さまーっ!
小竜姫さまに愛をこめて、本能のおもむくままに高速ダイブをしちゃうよー。
「パクン」
瞬間、辺りが星空になった。

「もうっ横島さんっ、いー加減にしなさいっ!」

小竜姫さまの左フックが俺を迎撃していた。
撃墜された俺は、顔面から地面にキッス。ぐぐぅぅ。
「おーい、ヨコシマー。生きてるか~」とメドーサがしゃがみ込んで、
その辺で拾ってきた小枝で俺をつつく。
うう・・・、俺はくじけへん。くじけへんぞ。




「やれやれ、横島。貴様は体力があり余っとるようだな」
ワルキューレは、鋭い視線を向けながら、俺を見下ろす。
仁王立ちだ。

「いやいや、今のは勢いというか、反射神経というか・・・。
てゆーか、もう今日はクタクタなんやー。ワルキューレ、すまん勘弁してくれー」

「私は隊長だ、隊長と呼べ・・・って。こらっ、離さんかー!」

「は、はいっ、隊長!俺は、身も心も隊長にささげるっす!」

トホホーと泣いて足にすがりつく俺。
今の隊長は、ダイヤモンド並みの硬度のコブシで俺のこめかみをグリグリしてます。
ああっ、煙が出てるぅー。
小竜姫さまとメドーサは、ヤレヤレと言いながらため息をついていた。

俺の頭からモクモクと煙を出し、少し発火したくらいで許してくれたワルキューレは、
こりゃ参ったなという顔をして腕組みをする。
ホッ、助かった。許してもらえたか。
あれ?メドーサが俺に近づいてきたぞ。
心配してくれてんのかな?
いや・・・。
おい、こいつ、さっき倒れた俺をつついてた小枝を俺の頭に近づけて・・・。
火種をとりやがった!
いったい、何しやがる気だ・・・?
ん、小竜姫さま、なにしてんすか?落ち葉なんか集めて・・・。
もしや、たき火?


「火、もってこれました?」

「ああ、ヨコシマの命の火をね。少しばかり頂いてきたよ」

「あら、それは貴重な火ですね。大切に使わないと・・・。
そんじゃ、早速火を点けましょうか・・・ふーっ、ふーっ」

「お、いい感じに燃えてきたねー。で、小竜姫よ、例のブツは?」

「もってきましたよー。はい、見てください」

「おー、こりゃ、立派なサツマイモだねっ。あたしゃ、こいつに目がなくてねー」

「そうそう、私もなんですよー。これ、私が自家栽培したんですよ。もちろん、無農薬です」


えへんと胸をはる、小竜姫さま。
おー、そりゃ楽しみだと目を輝かせるメドーサ。


「では、アルミホイルにくるんで・・・と。稽古が終わる頃には、できますよ」

「そうかい、待ち遠しいねー」

「でも、朝ごはん前なのに、焼き芋なんか食べても良かったのかしら」

「そんなのいいさ。ほらよく言うだろ、焼き芋は朝飯前とか、朝飯は別腹とか」

そんな日本語はないぞ、おい。

「そうなんですか!メドーサは、物知りですねー。うん、1本くらいなら食べちゃっても平気ですもんね」

「そうそう、その意気だよ、小竜姫!」


ふーん。前は犬猿の仲だったのに、
なんだか仲良くなってるなー。
なんて、言ってる場合やないぞ。
こっちは頭から火が出るほどグリグリされて頭が痛いのに、余計に頭が痛くなってきた。
いつ持ってきたんだよ、芋とアルミホイール。
それに、ここ神社の境内だろ。勝手にたき火したら怒られるやろ。
え、何?
ここの神社は小竜姫さま達の管轄の神社で、昨日のうちに落ち葉掃除をして、
今日たき火をすることも伝えてある?
芋とアルミホイールも前日に持ってきて預かってもらってたって?

そういえば、昨日、小竜姫さんやワルキューレ宛てに、小包がわんさか届いていたな。
冷蔵庫に何やら詰め込んだり、玄関や台所に色々な小包が積んであったけれど・・・。
サツマイモもその中にあったわけね。
そっか、なら仕方ないんかな。
俺も後で1本もらおうかな。みんなでハフハフ食べるのも、
楽しみやね。

あれ、ワルキューレ・・・なんかブルブル震えて・・。
怒ってる!?
まずい、まずいぞ、おい。
こいつらがマジ喧嘩したら、日本が壊滅してしまう。
そして、俺が真っ先に死んでしまうっ。

俺を見ていたワルキューレが、バーンと振りかえり、小竜姫を見る!

「小竜姫!私の焼き芋は、ぜひ2本でお願いします!」

くっ、ベタなことしてくれよるっ。



焼き芋2本の予約を終えたワルキューレは、ふぅと落ち着いた様子。
少し考えて、俺に話しかけた。


「横島。私も少し軽率だった。貴様が疲れているのに、無理をさせても仕方がない。
怪我をされても困るからな。剣の稽古の後は、全員で霊的格闘の稽古をしようと思っていたのだが・・・。
今日の横島は、学校の授業もあるからな、止めておこう」


ん、なんやと?霊的格闘?
それはあれか、身体を密着して、相手とくんずほぐれつするアレか!
(かなり違う)
こんなキレーなねーちゃん達と、取っ組み合いの稽古って・・・。
それは、稽古中に「偶然に」チチや、尻や、ふとももを触ってしまっても許されるルールやないか!
おい俺。グズグズしとる場合やないで。
即決、即答やー!


「隊長!ぜひ、その霊的格闘の稽古を重点的にお願いしますっ!」



続く




[2440] ああっ女神さんっ 「女神のブートキャンプ」その3
Name: かいず◆19b471f3 ID:79663dda
Date: 2007/12/29 10:32
ほう、急にやる気を見せたな、横島め。
奴の全身からは、あふれんばかりのオーラが噴き出している。
私は、ジッと奴の目を見つめた。
奴は、私の視線をそらさない。
なんだか、照れるな・・・。いや、落ち着け私。
この何かを訴えかけるような、熱いまなざし。
これは、本気だ。本気の目だ!

しかし、横島の顔がにやけて見えるのは何故だ?
うむむ。話を聞いてみるか。

「横島、貴様のやる気は買うが、最初に決めたメニューにしたがってもらうことが優先だ。
第一、先ほどまではバテバテだったではないかって・・・ぁぁあああ!」

いつの間にか、横島は、私の足にすがりつきながら太ももに頬ずりをしている。
私は、魔軍名物「魔界駅伝・往路復路ビンタ」をかまそうという欲求を抑えながらも尋ねた。

「うーん、たいちょぉぉぉぉ~」
スリ、スリ、スリ、スリ、スリ、スリ、スリ、スリ・・・。

すまん、やっぱ無理。
私は欲求に負け、横島はビンタの嵐に飲まれた。

「たっ隊長!、たいちょー!トレーニングっちゅーのはバラエティーに富んでいたほうが、
飽きもこないし、バランスが取れていていいと思うっすよー。
それに、霊的格闘は立派なトレーニングっ、稽古じゃないっすかー。
隊長の霊的格闘は、軍でもピカ一だってジークから聞いてたし、ぜひこの機会にご教授をー。ああっ!」

横島は、追撃しようとする私に「ちょ、タイム!タイム!」といいながら、
息継ぎ一つせずに、わーっと私を説き伏せる。
ぬう、もっともらしいことを言っている。
しかし、ジークめ。
いらぬお喋りばかりしおって。
あいつは情報部のくせして、口が軽すぎるな。
今度実家に帰省した時は、再教育してやらんといかん。

「なるほど、貴様の気持ちはよく分かった。私としても、貴様のやる気をを買いたいと思う。
しかし、稽古内容の変更となると、剣術の稽古を担当している小竜姫の許可をもらわねば
なるまい。彼女は、お前の師匠でもあるしな」

私は、横島をシバキすぎてヒリヒリした手をもみながら「しばらく休憩していろ」と指示を与える。
横島は、「りょーかいでありますっ」と顔を倍に腫らして答えた。
うむ、相変わらず丈夫な奴だと関心しつつ、私はたき火にあたっている小竜姫とメドーサの
ところへ向かった。

二人は、たき火の前で、「あたたかーいー」「生き返るねー」と座り込んでいた。
ほのぼのとした空間をかもし出しているな。
たき火に近づくと、2人は私に気づいたのか、休憩は終わりだねと腰を上げた。

「あ、どうしました?隊長の分のお芋なら、ちゃんと2本とも入れてありますよ」

「そうそう。それに、まだ芋は焼けてないよ。やだねぇ、たいちょー。
食いしん坊さんなんだから。そう、あわてなさんな」

む、いきなり何をいいだすのだ、こやつらは。2人は寒さをやわらげるため両手をこすり、
たき火に手を当てながら、私に話しかける。
まったく、隊長ってば仕方ないなぁと言わんばかりだ。

「ち、違うわっ!それに、だれが食いしん坊か!?」

「あ、じゃあ、お芋は1本だけで充分ですね」

「半分だけでも、いーんじゃない?取り分が増えて、あたしゃ嬉しいよ」

「う、それは大変困る。ぜひ、現状維持で頼む」

私は、すぐさま前言撤回をした。仕方ないではないか、2本とも食べたいのだから。
戦士たるもの、冷静な分析と引き際が肝心だしな。
・・・いやいや、焼き芋の話をしている場合ではない、肝心なのは、稽古の話だ。

「すまん、小竜姫。稽古内容の変更だ。剣術をやめて、霊的格闘をしようと思うんだが・・・」

ようやく話は本題に入り、2人は私の話に耳を傾けた。やれやれ、こいつらと生活を共にし始めてから、
私の調子が狂いっぱなしだな。

「あら、別に私は構いませんけれど、どうしたんですか?」

「あー、あたしゃ、想像がついたよ。横島の策略だね」

「うむ、察しがいいな、メドーサ。奴め、霊的格闘にかこつけて、我々とスキンシップ
を測りたいらしい」

「え、ええっ。スキンシップですか?」

「へえっ、ヨコシマの奴、どんな時でも楽しみを見つけられる奴だね。まったく、大したもんだよ」

あきれて目と口が大きくなる小竜姫。
メドーサは、腕組みをして、うんうんと頷き、納得した様子。
こいつは何を納得しているのだろう、ずいぶん横島に寛容だな。

「まったくヤレヤレだ。まぁ、剣術にしても霊的格闘にしても、稽古には変わりあるまいさ。
それでどうだろう、小竜姫。横島の師匠として、稽古内容の変更をどうしようかと相談したくてね」

私がそう告げると、小竜姫は、じっと考え込む。

「は、はぁ。そうですねー。私は、格闘よりも剣術の方が得意なのですが・・・。格闘もできないわけではありません。
でもなぁ、横島さん、エッチだからなぁ・・・」

「だったら、キマリだね!やっちゃいなよYOU!師匠と弟子のスキンシップをはかるのも大切なことだよ?」

「どうだったらキマリなんだろう?」そうツッコミたい所だが、大体のニュアンスは分かるので、
流しておこう・・・。
メドーサは、ずばりそうだよーと、右手人差し指を立てて、決めポーズをしている。
でも、彼女の言うことも一理あるか。
それに、先ほど私をからかった仕返しもできそうだ。

「なるほど、メドーサの意見も一理あるな。稽古を通して、師弟の絆もより深まるというものだ。
小竜姫、私に代わって指導したらどうだ」

「え、スキンシップ・・・。師弟の絆かぁ・・・。なんか、そう言われるとやりにくいというか、恥ずかしいです・・・」

小竜姫は、モジモジとしだした。やはり、彼女はからかい甲斐がある。

「まぁねぇ、小竜姫は、ヨコシマスキーだからなぁ。」

「なんなんですか!そのヨコシマスキーって!」

「横島のことが、好き好き大好きっ!てことだよ。なぁ、たいちょーさま?」

「うむ、横島イズムとでもいっておこうか」

「もうっ、ワルキューレまでっ!みんなして、私をからかわないでくださいっ!」

小竜姫の感情スイッチが、入ってしまったようだ。
心の逆鱗に触れたのかもしれないな。
竜に変化してしまわないうちに、そろそろ話をまとめるとするか。
私は、メドーサに合図する。
彼女も私にウインクをして、小竜姫に話しかける。

「あはは、悪いねぇ~小竜姫。ちっとばかし、からかいすぎたか。まぁ、いいさ。小竜姫がやんないんだったら
あたしがヨコシマの相手をしてやんよ。こう見えても、私は、剣術・格闘なんでもこいだからね。あたしがやるよ」

「うむ、そうだな。いきなり小竜姫に押し付けてしまうのは、隊長の私としても心苦しい。すまなかったな。
ここはひとつ、私が軍隊仕込の体術を披露するとしよう。メドーサ、悪いが私にやらせてもらおうか」

先ほどまでモジモジしていた小竜姫が、ハッと我々に顔を向ける。

「え、ちょちょっと待ってください。私、やらないなんて言ってないです!私だって、師匠として
横島さんの成長を見守る権利と義務があるんですから!やるんなら、私がやります!」

「「どうぞ!どうぞ!」」

私とメドーサは、右手をそっと出して、小竜姫に譲るよ~のポーズをした。
小竜姫は、真っ赤になって、ポカンと口をあけた。







あー、痛てて。
ワルキューレのやつ、すっごいビンタかましてくれたな。
でも、あの太ももに触れることができて、えかった。ほんとーに、えかった。
俺はあの暖かく弾力のある感触を思い出しながら、夢見ごこちだ。

3人は、たき火の前で何やら話しこんでいるようだ。
えらい盛り上がっているようだな。
あ、なんか知らんが小竜姫さまのテンションがあがったぞ。

「もーっ!分かりましたっ!」

いきなり、えらいでっかい声で吼えた。
あとの2人がドッと笑う。
会話が終了したのか、プリプリ怒りながらこちらにやってくる小竜姫さま。
なんか、顔が真っ赤になってるなぁ。
何があったんやろか。

稽古の相手は、小竜姫さまに決まったらしい。
がぜん、ファイトが沸きますなー。

「では、横島さん。私が相手をしますね。真剣にやらないと、ケガをしますから、
気合をいれてください」

小竜姫さまは、フンと気合を入れて俺をにらむ。
なんか、すんごいいオーラを感じるんすけど・・・。

「あー、まったまった。稽古とはいえ、ここで取っ組み合いになったら
固い地面だしな。怪我をされても困る」

そう言って、ワルキューレは、左手をかざして何やら一言を唱えた。
そしたら、おおっ!
地面が少し柔らかくなったぞ!?
体育でよく使う、マットの上くらいぐらいの感触だろうか。
そういや、俺も前に地面を「柔」の文殊でフッカフカに柔らかくして、
西条に呆れられたっけか。

小竜姫様は、「ありがとう」とワルキューレに一言言って、
地面の感触を確かめる。
ううっ、自分で格闘したいと言っておいて、今更ながら緊張してきた俺。

「ようし」と腕まくりする小竜姫さま、そして「やります、やりますとも」と
ブツブツ言っているな。
ん?いきなりジャージの上着を脱ぎ始めたぞ。
おおっ、この寒空の下で上半身はTシャツ一枚に!

「組み合っていて、チャックの金具が目に入ったりしたら、危険ですからね」

そう言いながら、丁寧に上着をたたんで、ほいほいと近づいてきたメドーサにあずける。
おい、あいつ、上着を受け取る際に何やら笑って目線を送ってきたぞ。
「Tシャツ越しに、抱きついたれ」と言わんばかりの目だ。
くぅ、憎いあんちくしょう。
いいアドバイス、送ってくれるじゃねーか。

しっかし、小竜姫さまのTシャツ姿って、新鮮だなぁ~。
あの胸のふくらみは、大きすぎず、かといって小さすぎずの
ベストサイズっちゅーやつ?
シャツ越しだが形もくぅーって感じで、やぁわかそうだ。
ああっ、俺はっ。俺はっ。

俺も自発的に上着を脱ぎ始める。
寒さなんか、気にしてられんっ!
小竜姫さまは、「今回は、蹴りや突きは、やめておきましょう。では、横島さんも、上着を脱いで・・・
ああ、もう脱ぎ始めちゃってますね・・・」と呆れていた。
そんな顔をされてしまった俺だが、もう気にならない精神状態になっとります。

さて、はやる気持ちを抑えて、準備完了。
ワルキューレは、俺たち2人の間で審判のように立っている。
俺は距離をとり、小竜姫さまと向かい合う。
メドーサは、お芋当番として、少し離れたたき火のそばで
観戦を決め込んでいるな。
芋が気になるのか、時折、長い木の枝でたき火の中をかき回している。
芋じゃなくて、ちゃんと稽古を観てろよ、お前。

「では、横島さん、行きますよ。さあ、かかってらっしゃい!」

それが開始の合図。
小竜姫さまが、俺をっ、俺を呼んでいるー。
うぉぉぉー、突撃じゃー。
でも、その刹那。
きらめいたぜ、俺の本能。
落ち着くんだ、俺の煩悩。
このままマトモに飛び掛ったんじゃ、単なるセクハラやし、
これは仮にも(?)霊的格闘の稽古だ。
真面目にやらんと、この3人に軽蔑されてまうし、
せっかく稽古に付き合っているのに悪い気がするな・・・。
俺は、格闘技の経験なんて、体育の授業でやった柔道くらいやし、
とりあえず相手の襟元を取ればええんかな?
Tシャツが、ヨレヨレになりそうやなぁ。
まあええ、後で、謝ればええか。
よし、決めた。とりあえず、真面目にやろ。
ここは偶然の流れで、チチ、尻、太ももに触ってしまうくらいの
淡い期待を持つくらいでええな。
という考えをコンマ0何秒で終えた。


そして、押さえ込んでいた俺の煩悩が霊力に変換、いや、霊力が煩悩に変換されるのか?
とにかく、俺は小竜姫さまに飛びかかる。
小竜姫さまは、「えっ、早い!!」と驚愕している。
ワルキューレとメドーサも、信じられないといった顔だ。
そして、俺は小竜姫さまとの距離を瞬時にしてゼロとし、
彼女の襟元を取ろうとしたのだが。



「あの・・・、横島サン?」



なんだ、俺の両手の感触。
この暖かく、かつ経験したことのない柔らかさ。
まるで俺のものであったかのように、手のひらになじむ大きさ。
え、もしかして、コレは・・・。

俺はしっかりと両手で小竜姫さまのチチをガッチリとつかんでいた!
うぉぉおおおおお!!!
ヤバイが、嬉しい。
でも、これはいかん!
小竜姫さまの顔が真っ赤。うっすら笑顔を浮かべながら、ヒクヒク痙攣している。
これは偶然なんや!
何か、何か言わないと。

「え、えっと・・・。これは間接っ、間接技っす!」

そう言いながら、無意識のうちに、俺の両手はチチを揉みしだいている。
なんというライブな感触!
俺は、どーなってしまうんやろう。
俺の手は、このままチチに吸収されて、一体化してしまうんじゃないだろーか・・・。
ハッ!まて、これはスケベ心なんかやない!
みんな信じてくれ!
関節技がかかっている状態なんや!!


「よっ・こっ・しっ・まっ・さぁぁぁぁーんっ!!!」


「胸に間接なんかあるかー!!!」という叫びとともに、
俺は小竜姫さまの左アッパーで、神社の鳥居の上まで吹き飛ばされた!
飛ばされた俺は、鳥居をくるっと背面跳びみたいに飛び越して、そのまま落下。
後で見せてもらったが、この瞬間をメドーサが携帯のカメラで撮影してた。
おー、我ながら綺麗な背面跳びだったな・・・。
痛てて・・・、この話の中の出来事じゃなかったら、死んでたぞ。
みんなは、真似するなよな。

その後、あれは本当に偶然だったんだということが、
必死の弁解もあってか、小竜姫さまに伝わって事なきを得た。
(揉みしだいた件については、納得されなかったが・・・)
でも、ワルキューレが、「いいスピードで飛び込んだな」と褒めてくれた。
自分では分からんが、少しは才能があるんかな?
少しいい気分になったが、「過信するんじゃない、貴様は全てがチャランポランすぎる」
と付け加えられた。確かに過信や慢心は、いかんなぁ。

メドーサには、「どうやった?感触は、ええっ?この果報者っ!」と頭をグリグリされながら
言われた。もうどうにでもしてくれっ。

その後、小竜姫さまと稽古の続きをした。
俺は、また取っ組み合ったりしようとしたのだが、
相手の身体にかすりもしない。
小竜姫さまからは、背負い投げやジャーマンスープレックスをされた。
あと、本当に関節技をされた・・・。
こっちはシロートなんや、手加減してくれっ。
冷静に考えると、これって霊的格闘なんやろうかという疑問もあるが、必死にやった。
組み合っている最中は、チチ、尻、太ももに触る機会もたくさんあったが、煩悩全開にする前に
コテンパンにされたよ。俺は、良いとこないやったなぁー。トホホ。
その後、小竜姫とワルキューレが組み合ったのを見たが、あれはすごかった。
目にも止まらぬ攻防ってやつか?
霊的格闘の実力は、ワルキューレのほうに分があったみたいだ。
あーあ。小竜姫さま、悔しそう。

「おーい。芋、焼けたよー」

メドーサの声で、今日のトレーニングは、終了。
タオルで汗を拭きつつ、一息つく。
みんな火の消されたたき火の周りにあつまってくる。
ようしと、俺は拾ってきた木の棒で芋を取り出した。
銀紙に包まれた芋が顔を出すと、みんな「おーっ」と声が上がる。
さて、うまいこと焼けてるかな。
アツアツの銀紙を破り、中のサツマイモを取り出す。

「アツっ、アツ、ほれ隊長、1本目の芋をどうぞ」

「うむ、すまんな、横島」

「小竜姫さまもどうぞ、はい」

「あ、横島さん、ありがとうございます。
あ、あのっ、さっきはごめんなさい!少し、やりすぎちゃって・・・。私、取り乱してしまいました」

「いやいや、いいっすよ。こちらこそ、すんませんっす」

「おいおい、ヨコシマ。あんたらがアツアツになってどーすんだよ。早くあたしにも、芋をよこしな」

「わーってるよ。ったく。ほれ、アツアツだから気をつけろよ」

俺と小竜姫さまの顔が赤くなる。えい、メドーサめ、はよ芋食って黙ってろ!

「ほいほい、ヨコシマ。わおっ、こりゃうまいね。さすが小竜姫のサツマイモ、いい仕事してるわ。
あと、あたしの調理の腕のおかげでもあるな」

「お前、さぼって火の番してただけじゃねーか」

「チッチッチッ・・・、甘いね。ヨコシマ。火加減こそが、料理の極意よ。出直しきな」

「まったく、あなたって人は、あーいえばこーいうんだから」

「小竜姫も、つれないねぇ。師弟そろって、困ったもんだよ」

さて、俺も食うか。アルミホイルを破り、芋を両手でキャッチボールみたくして熱を冷ましつつ
一口かじる。
うん、こりゃ、うまいな。皮ごと食べたろ。
ワルキューレは、はやばやと1本目を平らげ、2本目に突入している。
お、小竜姫さまが、神社の関係者の方から、お茶を頂いてきたようだ。
少しぬる目に入れたお茶が、渇いた喉にありがたかったな。
ワルキューレの「今日はこれにて解散!」という号令により、
今朝のトレーニングは、これにて終了。
その後、火の始末をちゃんと確認して、帰宅する。

空もすっかり明るくなって、都会にしてはうっそうと茂った木々から
鳥の鳴き声が聞こえる。
もと来た道を戻る時は、軽くジョギング。
この時間帯になると、通行人も少なからずいる。
なんか俺、見られている気がするなー。
まぁ、こんな美人のねーちゃん
3人も連れてジョギングしてたら、誰でも見るわな。
モテる男は、つらいなー。
しかし、今日もしんどかったけれど、小竜姫さまのチチ・・・えがったな~。
今思い出しても、ニヤけてくるな。
あ、いかん、顔に出てると、また3人からどやされるぞ。
小竜姫さまに「どうしたんですか?横島さん」と尋ねられたので、
「小竜姫さまの作ってくれた、朝ごはんが楽しみっすよー」と答えたら、
「そんな大したものじゃないんですよー」と照れていた。
うーん、ちょっと反省。

俺たち4人は、ワイワイ言いながら家路を急ぐ。
ワルキューレは、すでに明日のトレーニングの構想を練っているし、
小竜姫さまは、今日の夕飯の献立を考えているようだ。
メドーサは、まだ俺にちょっかいをかけている。
この野郎・・・、おもいっきり屁をかましてやろうか。
さて、家に帰ってから、汗をかいた身体を拭いて、メシを食べてから
学校に行かねば。
うーん、うちに風呂が付いていればええんやけれど。
引越ししたいが、金ないしな~。
あ、食費とか色々の生活費として、3人からお金をもらっちゃいました。
別にいらないと言いたいところだったけれど、正直助かるなー。
人間、素直が一番やからな。
こんな日は、学校サボりたいけれど、そうはいかんわなぁ~。



ふと、「あれが、横島か」と言う声が聞こえた気がした。




続く



[2440] ああっ女神さんっ その8
Name: かいず◆19b471f3 ID:79663dda
Date: 2008/01/12 02:54
え?誰か、俺のことを呼んだ?
俺は、走っていた足を止めてあたりを見回すしたのだが・・・。
通りには、早朝通勤のサラリーマンやOLさん、部活に急ぐ学生ばかりだ。
うーん、特に知り合いはいないな。
まぁ、気のせいだろうとは思っていだが、なに、確認と言うやつだ。


急に足を止めた俺に、他のみんなも「おや?」と足を止めた。

「どうした横島?」

ワルキューレが怪訝そうに顔を俺に向ける。

「いや、大したことないよ。誰かが俺のことを呼んだかなーって思ってさ」

「ふむ、私は気がつかなかったが・・・小竜姫はどうだ?」

「いえ、私も特には。メドーサは?」

小竜姫さまも、ハテと小首を傾げて答える。
メドーサは、立ち尽くしている俺の後ろに、ソーッと忍び寄り、
豪快に「ひざカックン」をかましてくれてから、応答する。

「あたしも何も聞こえなかったよぉー」

うーん、俺の勘違いかもしれんな。
俺は逃げ出そうとするメドーサを捕まえて、こめかみをコブシでグリグリしてやった。
奴め「うぉーっ、あたしは負けん!負けんぞぉ!」と、目を閉じて必死で耐えている。
もうこんなアホなことしてないで、早く帰ろうぜ。
いい加減に腹も減ったし、汗もかいたから、シャツを着替えないと風邪を引いちまうしな。
俺のコブシ地獄から抜け出したメドーサは、自分のこめかみを大げさにさすりながら同意をする。

「あー、痛かった・・・。そうだねぇ。あたしも早く着替えたいよ。
そんでもって、こんな日は部屋にシャワーがあればありがたいんだけどねぇ」

俺達は、「あー、まぁねぇ」と一様にうなずく。
そうなんだよな。俺の住むボロアパートには風呂が存在しないのだ。
そのため、夜は銭湯に行くのだが、こういったトレーニング後に汗をスッキリ流したい場合は、
湯で湿らせたタオルとかで拭くぐらいしかできない。
うーん、女性には厳しい環境かも知れんな。

「そーなんだよな。ごめんな。それは、俺も同意見だ。風呂付に住みてーよなぁ」

親の仕送りがもっとあれば・・・、というか美神さんがバイト料を上げてくれたらええのに・・・とか
ブツブツ言っていたら、女性陣にフォローされた。

「あ、ごめんごめん、ヨコシマ。嫌味で言ったんじゃないんだよ。あたしゃ居候の身だからね。文句は全然ないさ」

「そうですよ、横島さん。私も住まわせているもらっている身ですから、
今のままでも全然かまいませんよ?でも、私がもっとお金を横島さんに払えたら良かったんですけれど」

小竜姫さまが、すまなそうに言ってくれる。そこまで恐縮されると申し訳ないな。

「いや、いいっすよ。受け取れないっすよ。第一、もし受け取ったら、
美神さんになんやかんや言われて、取られちゃうと思いますし」

実際、小竜姫さまはこちらに滞在するにあたって、当座の資金を持ってこっちにやってきたのだが、
美神さんへ色々と依頼をしているうちに、ほぼスッカラカンになってしまっていた。
うーん、神様でも容赦なくボッタくるのは、あの人らしい。

「まぁ、私も特に不満はないぞ。気にしすぎるな横島」

俺の横にいたワルキューレは、ウインクをして、ポンと肩をたたいてくれた。
俺は、良い同居人に恵まれてるな。

そんなこんなで、俺は先ほど誰かに見られて気になったいたことなど、
すっかり忘れてしまう。
まぁ、ただの気のせいだと思うしな。
俺は「帰ろうか」と歩き始めるが、あとの3人は目配せをして、
そうですねーなんて言いながら、俺の後に付いて来る。
ん、なんかさっきと雰囲気変わらない?
もしかして、俺の甲斐性がないことに、がっかりさせてしまったかな?
とほほ。

その後、お互いに今日はこんな予定だなんだと話しているうちに、アパートに到着。
カンカンカンと乾いた鉄の音を響かせながら階段を登り、2階にある俺の部屋へ向かう。
部屋のドアの横には、中古ながらもまだまだ現役の洗濯機がでんと居座り。主人の帰りを出迎えてくれた。
鍵を開けて中に入ると、小竜姫さまは台所へ移動。味噌汁を温めなおすのだろう。コンロに火をつける。
ワルキューレは、いそいそと洗面器を4つ持ってきて、その中に電気ポットのお湯を入れ、
その後、水を入れて温めのお湯を作っている。
タオルで身体を拭く時に使うためだ。
シャワーがあれば、こんな面倒なことをしまくてすむのだが。
うーん、やっぱみんなに申し訳ないな。

「ほい、どいた、どいた」と言いながら、メドーサは部屋の隅にまとめてあった洗濯カゴをもってきた。
後で今着ているジャージ共々、洗濯しなければならないしな。
1人暮らしのときは、洗濯物なんて1週間分くらいまとめて洗ってたもんだが、
今は同居人も増えたし、横着なことはしていられない。
でも、この俺の洗濯物が、他の3人のと一緒に、洗ってしまうのはええんだろうか?
少し恥ずかしいというか、申し訳ない気がするな。
世の中では、年頃の娘がいたら「お父さんのと一緒の洗濯なんて、嫌っ!」てなこともあるのに。
そんな話をしたら、小竜姫さまに「そんなこと言わないですよー」と笑われた。
ワルキューレも軍隊上がりだからか知らんが、気にも留めていなかった。
メドーサは、モジモジしながら「パパと一緒なんてイヤーン!」とか恥ずかしいセリフを言っていたが、
こいつも特に気にはしていないみたいだ。

俺としたことが、肝心なことを忘れていた。
気になるといったら、下着類だ。
これは俺が洗濯当番になっても、洗わせてはもらえない。
うーん、寂しい。
まあ、仕方ないっちゃ、仕方ない。
この方達の下着類は、重要文化財みたいなもんだよな~、実際。
傾向としては、小竜姫さまは、シンプルかつ清楚。
ワルキューレは、シックでセクシーなのが好みか。
メドーサは、上記の他に可愛い系も好んでいて、色々着ているみたいだ。
あまり室内に干してある下着をジロジロ見ると怒られるから、
詳しいことは教えられないのが残念だ。

ちなみに、俺の下着は否応もなく洗われてしまう・・・。
おキヌちゃんにも洗われた過去があるとはいえ、やはり恥ずかしい。
この感覚がクセになっては、あかんぞと心に誓う。

「おーい、小竜姫、メドーサ。準備ができたぞー」

ワルキューレは、部屋の右端に3つの洗面器とタオルを置いて、
作業をしている2人に声をかけた。洗面器にはお湯が入っていて、
湯気がふぁんと立っている。
「それ、横島。貴様の分だ」と洗面器とタオルを渡される。
風呂がないからな、これで身体を拭くというわけだ。

俺の部屋は、言うまでもなく六畳一間の狭い部屋。
身体を拭くのには、部屋の真ん中に、間切り用のつい立を立てる。
んー、寂しいが、こりゃ仕方がないな。
まぁ、この密室空間でつい立ごしにこんな女神さん達が身体を拭いていたら、
それはそれでクルものがあるなーと考える俺は、変なのか?

「はい、横島さん。つい立を持ってきましたから、どいてくださいね」

小竜姫さまは、つい立を抱えて持ってくる。
俺もつい立のセッテングを手伝う。まぁ、手伝うといっても、折り畳んでであるつい立を
広げて立てるだけだけどな。こいつは軽いし、畳んであると意外とかさばらないので助かっている。
ようし、準備完了。
簡易脱衣所と化した、我が部屋である。
「準備できましたよー」と小竜姫さま。
つい立を隔てた向こう側であとの2人に声をかける。

「すまない、小竜姫。よし、さっさと着替えよう」

「了解ー。ヨコシマ、覗くなよ?覗いちゃ駄目だかんな?」

ワルキューレは、肩にひょいとタオルをひっかけて男前な足取りで、つい立の向こう側に消えた。
メドーサのやつは、ニヤニヤしながらそれに続く。
おい!あいつは、なんでそんなことを思わせぶりなセリフを言うんだ。
俺に「必ず覗けよー」というフリをしてくれているんだろうか?

そのフリには、是非とものっかりたい所だったが、そんなことをしたら
袋叩きに合うのは、目に見えている。ここは、大人しく身体を拭いてしまおう。
うんっ?つい立ごしに、ジャージを脱ぐ音が・・・。
音だけっちゅーのも、想像力をかき立てて、なんかイヤラシイ感じだな・・・。
狭い室内だし、男女を隔てた距離も近いしなぁ。
今頃、どこを拭いているんだろう~。
おっと、手早く着替えないと、またどやされるしな。
俺は、妄想再生を一時停止して、ジャージの上着とスボンを脱ぐ。
うーっ寒い!
帰ってきてから、電気ストーブを点けたんだが、まだ室内は温まってはいない。
ぶるる。こりゃ、さっさと身体を拭いちまおう。
俺はシャツもパンツも、乱暴に脱ぎ捨て、ぬるま湯で絞ってあるタオルで身体を拭いた。





ここは、先ほどまで横島達がいた神社の一角。
うっそうと茂る木々の中で、ひときわ高い木の先端に男はいた。
その男はただ1人、目を血走らせて、望遠付きカメラを覗いている。
ただの変質者にしては、その行動と姿は異様である。
全身黒尽くめで、身体も2メートル近くあるだろうか。
本人はがっちりタイプと主張したいだろうが、太っている部類だろう。
牙らしきものが生える口から、長く赤い下がチロチロと揺れる。
熱心な覗きに使われいるその望遠カメラは、なんらかの魔道処理がなされているのだろう。
彼の覗きの相棒は、はるか遠くの被写体を捕らえることができる。
ここは、結界を張っているので、男は他から見られる心配などしていない。
実に、堂々とした清清しささえ感じる覗き見だ。

その覗いている先は、こともあろうに横島忠夫の部屋。
驚くことに望遠レンズの力であろうか、中の様子まで見えるらしく、
横島の着替えを覗き見て「つまんねーな」と悪態をついている。
こんな野郎の着替えを見ていても、仕方がない。
女の方を見ようぜと、望遠カメラで女達の姿を探そうとした瞬間、男は地面に叩き付けられた。



木のてっ辺から地面に叩きつけられた男は、大事そうにカメラを抱えていた。
最初に思ったのは、カメラは無事だったことの安堵の気持ち。
そして、今自分の身に起こったことは、よく分からない。

「おい、覗きかい?このスケベ野郎」
いきなり真後ろから声をかけられた男は、ドキリと心臓を握りつぶされたぐらいに身を硬直させ、
錆びたネジを回す早さで振り返る。
そこには、3人の女がいた。
声をかけてきた銀髪の女は、メドーサ。蛇が獲物を見つけた喜びで打ち震えるような目をして、
冷たく笑う。
黒髪の女はワルキューレ、刺し殺すような視線で男を見る。
実際、その女の目で男は何度も刺し殺された。しかし、女の目はまだ殺したりない色をしている。
赤い髪の女、小竜姫からは、とてつもない圧力を感じる。深く透明な目は男を確実に捕らえている。
この目からは、何処へも逃げられそうはない。
男は驚きと疑問がわきあがる。
こいつら、横島の部屋にいたはずなのに。
何故だ?さっきまで俺は、このカメラでやつらの全てを見ていたはず。
把握していたはずだ。
なのに、なぜ、こいつらがここにいる!

「その質問には、答える必要などありません」

小竜姫は、右手に持つ神刀の切っ先を男に向け、その思考を両断する。

「こちらの質問には、答えてもらおうか?お前、何故我々を覗いていた?」
ワルキューレは、鬼関銃の銃口を男の鼻先に持ってきた。

「いや、俺は、ただ景色を眺めていただけですぜ?」

あんたら何の権限があって、俺にこんな・・・と言い掛けたら、
刺股が男の首に飛んできた。
「おい、あたしは気が短いんだ。イエスかノーで答えな!」

男は、自分の今の状況に混乱する。
なぜ俺は、女3人にこんな目に合わされているのだ?
いつもなら、遠くからカメラを覗くだけの安全な仕事、危険などまったくないはずなのに・・・。

「おい、貴様。誰かに頼まれたのか?言え!」
金色の瞳が、ギラギラと輝く。
「え、さっき、イエスかノーでって・・・」
「揚げ足取ってるんじゃないよ!このキモ男!キリキリ吐きな!」
「そ、その・・・横島を見張ってたんです」

「なんだと?」
3人の顔色が、サッと変わる。
青くなるもの、白くなるもの、赤くなるもの、カラフルだ。
そんなのんきな事を考えている男は、告白をつづける。

「ほら、横島って、俺らの業界では、有名でしょ?アシュタロスの件もあるけれど、
今は神界と魔界から、えらいベッピンさんを呼び出してはべらせているらしいって・・・。
そんで取材しに来たらあんた、小竜姫さんとワルキューレさんでしょ?
こんな羨ましい・・・。いや、驚くことはないですぜ!そんでもって、ふたを開けてみたら、もう1人可愛らしい娘さんも
一緒にいるじゃないですか!驚きましたよ!あんたが、メドーサさんだなんてねぇ。いったいどうなってるんです?
あんたは死んだはずじゃないか?こりゃまた、スクープだ!」
彼女達は、この男をスクープ狙いの蝿野郎と判断した。
今も、軽薄な口を動かしてペラペラとまくし立てている。
蝿に良い印象がないワルキューレは、しかめっ面だ。

刺股をブゥンと一振り。肩に担いだメドーサは、小竜姫に尋ねる。

「ふぅん。どうだい小竜姫。こいつの言うこと、信じるかい?」

「うーん、そうですね。この人の頭の中を覗いてみて、それで判断します。どうでしょう、ワルキューレ?」

「そうだな、覗かれたら覗き返す。これが我々の流儀だ」

男は、何を言っているこいつら、頭の中を覗くって・・・と彼女達に注意を払った瞬間。
小竜姫は、左手小指にはめている指輪を男の眼前にかざした。
その瞬間、男は意識を失った。

何秒間、気を失っていたのか。目の前の3人は、俺に興味を失ったかのようだ。
俺があいつらにとって、無価値なのを理解したらしい。
小竜姫は、残念そうにワルキューレに話しかける。

「私達の追っている連中とは、別みたいでしたね」

「そうみたいだな。横島に付きまとって、悪さをしようとする一部の跳ねっ返りでもないしな・・・。
まぁ、こいつは拘束だ。一応、上にも報告しておく」

「ちっ、面白くないなー。ギタギタにしてやろうと思っていたのに、運のいいヤローだ」

メドーサは、ワルキューレの話を残念そうに聞く。
男にとっては、頭の中をシャッフルされたような酔いが残ったが、
命だけは助かった。運が良かったといえる。

だが、男は油断をしてはいけなかった。
ここで目ざといメドーサに、「こいつ、結構いいカメラなんか持ってやがる」とカメラを取り上げられた。

「あ、それは商売道具だから!触っては・・・」

遅い。そんなのは手遅れだ。
デジタルカメラは、機械にめっぽう強いメドーサによってアチコチいじられる。
そして、保存されていた画像を見つけた。
横島の通学風景が、2、3枚。
あとは、女神さん達の写真がたっぷりと収められていた。
エロさのレベルでは、可愛い程度だったが、良い感じに撮れている。
しかし、盗撮された本人達には、たまったものではない。
瞬時にカッときたワルキューレは、男の胸ぐらをつかむ。

「おいっ!」

「はっ、はい!」

「貴様、これはなんだ?」

「き、綺麗に撮れているでしょ~?ほら、ワルキューレさんは、鍛え抜かれたなスレンダーボティなのに、
女性らしい部分がボインプリンとあふれ出ていて、とってもセクシーですよ?」

「そんなことを聞いているのではないっ!お前、横島を狙ってるっていってただろ!」

「あー、そうなんですけれど、興味がなくなってしまいましてぇ~。
ほらぁ、お嬢さん方の美しいお姿を前にしたら、そちらの方に興味が移ってしまいましてね」

ワルキューレは、呆れて男を解放する。男は、大げさにゲホゲホと咳をしてみせて、両手を揉みながらヘコヘコと語る。
小竜姫はワナワナと震えながら、メドーサは納得いかないといった様子で画像を見ている。

「わ、私の着替えを・・・」

「なぁ、おい。アタシの写真が少ない気がするけれど、なんでだ?」

「ああ、それはですね。私の中の採点では、ワルキューレさん>小竜姫さん>メドーサさんでして・・・」

「クソッ、こいつにどう思われようと構わないのに、なんか腹立つな!」

「私もですっ。なんなんでしょうねー、複雑です・・・」

「うーん、私もなんか変な気分だ。1位でも嬉しくないぞ・・・」

「というわけで、みなさん、お疲れ様でした。私は、この辺で失礼しますね。
あ、この写真は、個人的に楽しんだ後に、来月くらいに写真集にして売り出しますので・・・。
というわけで、あばよ馬鹿女ども、ガキのお守りでもしてな!」

「何っ!」
「何ですって!」
「何だと!」

その瞬間、男はメドーサから望遠カメラをひったくって、消えた!

「馬鹿な女どもだ!俺は、元は韋駄天の一族さ。超加速で逃げ切るさ!!」

確か、小竜姫も超加速が使えたか?まぁ、華麗なスタートを切った俺に追いつくはずがねぇや・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・あれ?
俺は確かに、超加速をしたはずなのに、なぜやつらが俺の目の前で仁王立ちをしているんだ?
男は、先ほど彼女達に平身低頭のペコペコしていた場所から、一歩も動いていなかった。
いや、動けないでいた。

「あら、残念でした。術にかかっていたのに、気づかなかったようですね」

小竜姫が、左手を男の目の前にかざすと、小指に白く光る指輪。
その指輪の中心には、小さな宝玉が輝き、そこに「止」の文字が書いてある。
なんだ?この指輪・・・。男はもっと近くで見ようとするが、身体が硬直して動かない。

「何か言い残すことは、あるか?」

ワルキューレは、男に微笑んだ。
もちろん、目は笑っていない。
雰囲気が変わったのが分かる。
男は、怯える。
怖い、とてつもなく怖い!
命乞いをしようとしても、声は出ない。

「何か言おうとしても、固まっているから、無理か。では・・・」

「あ、ちょっと、待って!」

メドーサが、硬直している男の手からひょいとカメラを取り上げられる。

「これは慰謝料として、もらっとくよーん」

やれやれと肩をすくめたワルキューレが「滅」と一言つぶやくと、左手小指にはめられた指輪が輝いて
光が男を包む。
男は、恐怖から開放されて、跡形もなく消えてしまった。




「しかし、便利というか、ハチャメチャな道具だねぇ。その文殊指輪ってのは」

「横島さんから預かった文殊で、2つだけ作られたんですけれど、こんなことに使ってしまいました・・・」

「そうだな、この指輪は、横島のためにだけ使うと2人で決めたからな・・・。
ついカッとなって、使ってしまった。反省だな・・・」

小竜姫とワルキューレの2人は、自分の指にはめられた指輪を寂しそうに見つめて
つぶやいた。とても、しょんぼりしている。

「まぁ、いいじゃないのさっ。あいつ、今回は盗撮小僧だったけれど、
次に来た時はどうなるか分かんないよ。ヨコシマにもちょっかい出す気満々だったしなぁ。
第一、あいつは女の敵だし。可愛そうでもなんでもねーや!」

メドーサは、カラカラ笑いながら両腕で2人の頭を、ぐっと抱える。

「メドーサに、そう言ってもらえると、少し気持ちが楽になります。ありがとう」

「まぁ、今後は気をつけよう。すまないな、メドーサ」

2人は、フッと強ばっていた顔を緩めて、メドーサに微笑む。
彼女は、私達のムードメーカーだ。
この3人だったら、この先、どんなことでも乗り切ることができると思う。

「でもさー。アタシらってさ、短い付き合いだってのに、いいチームワークしてんじゃね?してんじゃね?」

メドーサは、戦利品のカメラをもてあそびながら、ケラケラと笑う。
過去の彼女しか知らない者にとっては、信じられないくらいにチャーミングな笑顔。

「そうですねー。初めはどうなるとこかと思っていたんですけれど、
今ではみんな一緒でいられるのが、嬉しいです」

小竜姫は、ニコリとメドーサに微笑む。
かつては、敵対して剣を交えた間柄であったが、今では買い食いを共にして、
同じ皿のたこ焼きをつつき合う仲だ。

「やれやれ、2人とも暢気なものだな。でも、チームとしては、
いい線いってると私も思うぞ。仲間も頼りになる奴らだしな」

ワルキューレは、腕組みをして呆れ顔をしているが、口元には笑みが浮かんでいる。
彼女にとってもこの新しいチームは、自分の背中を預けて戦うのに申し分ないと
思っているのだろう。「このチームも悪くない」と彼女は、ポツリとつぶやいた。

小竜姫は、ワルキューレに顔を向けて、ふと思い出したように話しかける。

「この指輪を頂いた時は、自分がこんな風にしているなんて、思っていなかったですもんね」

彼女は、ククッと笑いながら、答える。
「ああ、そうだな。あの時は、驚いたな・・・。またお前とコンビが組めるとは聞いてなかったしな」

「あー、なんか、面白いことになっていたらしいねぇ。私も現場に居たかったなー。
残念」

カメラを構えて、レンズ越しに2人を見ながらブーたれていたメドーサは、
アパートの方へ、レンズを向けた。

「あ、ヨコシマのやつ、アタシらが居ないから、焦っているぞ?」

「あ、3人とも外に来ちゃったから!」

「うむ、誰も奴のそばに居ないのはまずい。すぐに戻ろう」

三人が手をつないで円陣を組み、文殊の力が発動された。
「移」「動」







あれー?
なんで、3人ともいないんだ?
俺が身体を拭いている時も、なーんか人がいる雰囲気がしないし、
声をかけても返事もない。
恐る恐る、この部屋で男と女を隔てるつい立ての端っこから
そーっと覗いたら、誰も居ない。

玄関から、出て行った気配もなかったんだけれどな。
あれかな?またなんかややこしいことがあって、
3人で飛び出していったのかな。
ふぅと、ため息をついて自分が脱いだジャージを洗濯籠に入れる。
「一言、声かけてくれてもいいのになぁー」
んー、なんか置いてけぼりをくらったみたいで、寂しいぞ。
普段がにぎやかだからなー。
たまに、健全な男子として独りっきりになりたいときもあるけれど、
そんな考え贅沢ってもんだよな。

よし、もうつい立は片付けておくかな。よいしょっと・・・あれ?
女性陣が着替えていた場所には、3人分の脱いだジャージとTシャツ。
そして、キチンと畳んである着替えの服も3人分あった。

フッと気配がして、後ろを振り返る。
そしたら3人が戻ってきていた。
でも、その姿って・・・。

「ただいまー、ヨコシマ。アタシらが居なくて、焦ったか?なぁ、焦ったか?」

「ちと野暮用でな。心配かけたか横島?すまなかったな」

「横島さん、ごめんなさい!急に居なくなっちゃったから、びっくりしたでしょう?
すぐにお味噌汁を温めなおしますからね」

3人は、横島に話しかけるが、彼は彼女達の姿をぽやーんと気が抜けたかのように見ている。

「なぁーに呆けてるんだよぅ、ヨコシマ?うおっ、鼻血が垂れてるっ!」

「何っ、横島!誰にやられたんだ!くそっ、さっきのゲス野郎に仲間が!?」

「横島さんっ、しっかりしてください!」

横島の血を見て、オロオロしているメドーサと、ギラついた目つきで室内を見回す
ワルキューレ。
慌てて横島を抱きかかえた小竜姫は、彼の状態が心配でたまらない。

「・・・たぎ・・」

「え?何ですか、横島さん。何があったんですか!?」

「下着・・・ブラジャーとパンティーが・・・」


「「「え!!!」」」
3人の声がハモる。
そして、自分の姿と他の女性2人の姿を見て、誰かのノドがゴクリと鳴った。
着替えていた途中で強い敵意を察知して飛び足して行ったから、3人とも
下着姿だった。

「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」

自分の恥ずかしい姿を隠そうと反射的に、胸を隠してペタリとしゃがみこんでしまう
小竜姫。
抱きかかえていた横島の頭は、自動的に落下して畳に強打。
彼の頭の中では、女神さん達が白や赤や黒の下着姿でウフフと笑いながら駆け回っていた。


「フン!横島め。相変わらず、スケベな奴だ。明日の訓練は、ビシバシしごいてやらねばな」
少し頬を赤らめながら、ワルキューレは気絶した横島を睨みつける。

「あー、ヨコシマもウブなやっちゃなぁ。それにしても、あのキモ男にアタシらの下着姿
見られたのかー。どうりで、身体がスースーすると思ったよ。くそっ、もっとイジメてやれば良かった」

「もうっ、そんなこと言っている場合じゃないです!2人とも早く服を着ましょう」

ふと、メドーサは、重大なことに気がついた。
「あっ、良く見たら小竜姫だけ、靴下はいてるじゃんか!白の下着姿に白のソックスって、何だかエロ~」

「えっ・・・。あ、やだっ!そんなこと言わないでくださいっ!」

「そうは言うけどさー。あのキモ男は、この小竜姫を見て、ワルキューレ>小竜姫だったけれど。
ヨコシマは、明らかに小竜姫の姿見て、鼻血ブーで気絶じゃん?
ヨコシマ視点では、小竜姫>ワルキューレだってことになるじゃんよ」

「うーん悔しい」とメドーサはプリプリしている。
私が二度も色気で後れを取るとは!
どうせヨコシマが着替えを覗くだろうと期待して、イイ感じの赤の下着を投入したんだけれどなぁ・・・。

「ふむ。下着姿に靴下か・・・。そういうアンバランスな状態を好む思考もあるというわけか、奥が深いな」

「かっ、感心してないでくださいっ!急いでいたから、知らないうちにこうなってたんですっ!」

ワルキューレは、平静を装いながらも悔しさをかみ殺す。
この悔しさは、彼女本来の負けず嫌いな気質から発生した感情なのか、
それとも他の感情なのかは分かりかねる。
まぁ、いい。自分の認めた相手、チーム内で競い合うことも悪くはないさ。
彼女は、そう思ってふと視線を下げると横島と目が合った。

「いやぁー、今日は上下黒で一段とセクシーでげすなー。ささ、記念撮影ということで!」

いつの間にか復活した横島は、メドーサが戦利品でもってきたデジカメをワルキューレに構えていた。
あれ?記念撮影なのに、なんだか怖い顔ですよ。

「・・・何か言い残すことは、あるか?」

ワルキューレは、横島に微笑んだ。
もちろん、目は笑っていない。
雰囲気が変わったのが分かる。
横島は、怯える。
怖い、とてつもなく怖い!
命乞いをしようとしても、声は出ない。
その代わり、彼女に抱きついて、顔全体でスリスリし始めた。

「あーあ、またですか・・・。もうしょーがないですねぇ、横島さんは」
「ほどほどにしときなよ、ワルキューレ。ったく、ヨコシマはしょーがないね」
2人は、クッチャクチャにされている横島を見ながら、ほぅとため息をついた。

今日も3人の女神さんと、しょーがない横島の一日は、
こうして始まったのでした。









こんばんは、かいずです。
相変わらず、頭の悪い文章になってしまいすいません。
次回からは、彼女達が横島忠夫と共に生活を始めるまでを書きたいです。



[2440] ああっ女神さんっ その9
Name: かいず◆19b471f3 ID:79663dda
Date: 2008/01/24 02:12
女神さん達の休息




冬のある日。
ヨコシマの部屋で、コタツに入って温まるあたし達。
コタツには簡易コンロが置かれて、鍋の中ではぜんざいがコトコトと煮えている。
甘い匂いがするねぇ~。
たまらないね~。
小竜姫は自分の側に火鉢を置いて、そこでお餅を焼いてるよ。
今の彼女は鍋奉行ならぬ、餅奉行。
あたしとワルキューレは、食べる人。
はぁー、あったかい。
コタツ最高だわ・・・。
ヨコシマは寒い中、学校か。
ご苦労なこったね。
早く帰ってくればいいのになぁ。
そうしたら、あたし達が暖めてやろう。
なーんてね。




「なぁなぁ、小竜姫さぁ。あたしらってさ、元は敵同士じゃん?不思議だよなー、今じゃ、コタツを囲んで一緒にぜんざいを食ってるもんな」

「そうですねぇ。これって何かの縁なんですかねぇ。横島さんのGS試験の頃を考えると、何だか感慨深いですねぇ」

「うむ、そうだな。私もそう思うぞ。私が最初に横島に出会った頃は、奴のことを侮っていたが・・・。やつは大した戦士だよ。我々は横島を縁として集まったかもしれんな」

「あー、そうだねえ。あたしなんて、ヨコシマのことは殺したいほど憎かったけれどなあ・・・。今じゃもう可愛いくてしょうがない感じだよ。な、小竜姫もそう思うだろ?」

「あはは、可愛いねえ・・・。まあ、メドーサの言わんとしていることは分からないでもないです。私にとっては可愛い弟子ですしね」

「私にとっても、横島は可愛い戦友だな。あ、おかわり貰っていいか?」

「可愛い戦友ってなんだよ、ワルキューレの姉やんは。ほいほい、あたしがよそってやるよ、お椀を貸しな。餅はまた2個入れるのかい?追加の餅はもう焼けたかな?」

「はーい。焼けていますよ。私もお代わりしちゃおうかしら」

「うん、このぜんざいというのは美味いな・・・。心と身体が温まる」

「小豆や餅も小竜姫が持ってきたやつだろ?あんたって本当に頼りになる女だねえ。味方になると、こんなに頼りになるやつはいないね!」

「あはは、大げさな。まあ妙神山ではお米や野菜とか色々と作っていましたから。老師が甘いものに目がないですからね。ぜんざいは、よく作っていたんですよ」

「なるほど、味わって食べねばいかんな。ではまた、お代わりを頼む」

「早っ!もう食べたのかい?ワルキューレは甘党で大食いだねえ。一度、テレビの大食い番組にチャレンジしてみたらどうだい?賞金がもらえるかもよ?」

「やめなさいよ。テレビなんか出ちゃ駄目ですって。まったくもう・・・。ほらワルキューレ、お代わりですよ」

「すまないな、小竜姫。しかし、これは本当に美味しい・・・。私はこのチームを組むことができて本当に良かったと心から思うぞ」

「しかし、あんた美味そうにぜんざいを食べるね・・・。まあ、いいさ。ぜんざいが美味しいのとチームの話は、あたしも同じ意見だね。小竜姫もそうだろ?」

ふいに小竜姫が、マジメな顔をした。
「おや?」と小竜姫に注目する2人。

「ええ、勿論ですメドーサ。私もそう思いますよ・・・。そうそう、皆さんご存知でしたか?ぜんざいは漢字で『善哉』って書くんですよ。この語源には色々な説があるのですが・・・。でも、私は長年に渡ってぜんざいを作り続けて気付いてしまったんです・・・。ぜんざいの真の意味に・・・」

ゴクリ・・・。
緊迫した雰囲気の中、ぜんざいをほお張るのを止めてワルキューレとメドーサは小竜姫に問いかけた。

「そ、それは何なんだ小竜姫!」

「き、気になるじゃないのさ!」

色めきたつ2人に対して、閉じていた目をカッと見開いて小竜姫は吼えた!

「ぜんざいとは小豆とその小豆と砂糖で煮られた汁、そしてお餅の3つの調和が取れた究極の甘味です!このお椀の中では天地人、宇宙の愛と平和と調和が満ち溢れているのですっ!」

「「な、なんだってー!!!!」」

「ゆえに私はここに提言したい!ぜんざいは、『善哉』と書くのではなく、この中に宇宙の『全てが在る』という意味である『全在』と書くべきだと!!」

一息で喋りきり、ハァハァと呼吸をする小竜姫。
「おおーっ」と感動する2人。
そんなアホなことを言い合いながらも、女神さん達の食は軽やかに進む。




「まぁ、ぜんざいの語源はともかくとして・・・。私も、みなさんに喜んでもらえて嬉しいです。作った甲斐がありました。ああ、そうそう。横島さんの分も残しておいてあげなきゃ・・・・。あら、もう無いや」

「む?食べ過ぎてしまったか?」

「あー、3人でパクパク食っちまったからねぇ・・・。まぁ、食べちまったモンは仕方ないね」

「うーん、横島さんにも食べてもらいたかったんですけれど仕方ないですね・・・。お餅はまだありますから、きなこ餅にして食べてもらおうかしら」

「きなこ餅・・・?それは、美味そうな言葉の響きがあるな。食べてみたいぞ」

「あ、あたしもまだ食べ足らないよ。今からあたしの分も焼いておくれよ、小竜姫」

「はいはい、仕方のない人達ですねぇ・・・。あ、そうそう横島さんが帰ってくる前に、私達のことを少しお話しておきたいんですけれど。」

「うむ、そうだな。過去の話をするのは苦手だが、まあ良いだろう」

「あんたらは、まだ良いよー。あたしの方は大変だったんだからさ」

「ああ、そうでしたね・・・。ほら、メドーサったらまだ焼けていないから勝手にお餅をひっくり返さないで。では、詳しいところはこの後ほどということで」

「うみゅ、よろひく、らのむろ」

「餅をほお張りながら話すなよなー、ワルキューレよう。んじゃ、まずあたしから話そうか・・・」







[2440] ああっ女神さんっ その10
Name: かいず◆19b471f3 ID:79663dda
Date: 2008/02/05 02:02
「おのれッ!!美神令子ならまだしも、なぜあいつにこうも・・・・」

月の魔力を地球に送る計画は、頓挫した。
せっかくあれだけの時間と技術、そして魔力を費やしたのに!
あたしは、今になってようやく奴が特別な存在だと認識した。
こいつこそ、私にとって最大の障害だったのだ!

「貴様だ・・・!!貴様を先に殺しておくべきだった!!」

あたしは後悔した。
全てが、全てが徒労に終わっちまう。
また、あたしはくだらない時を過ごしてしまったのか。
くそっ、嫌だ・・・。
嫌だ!

「せめて道連れに・・・・・!」

あたしは最後の力を振り絞って、横島に攻撃をした。
命中!
奴は重力に引かれて、仲間のロボットと共に落下していく。
殺ることは、できただろうか?
奴は何やら叫んでいるが、もう確認ができないくらい遠い。
多分横島のことだ、生き残るだろう。
悔しいが、そんな気がする。
あたしには、もうどうすることもできない。
そう考えたら、何もかもがどうでもよくなった。
あたしの身体も引力に引かれて、どんどん落ちていく・・・。

不思議と熱いという感覚は、なくなった。
先に神経が死んでしまったのだろうか?
今のあたしは髪や肌は焦げ付いて、さぞ汚いザマだろうよ。
ふと確認したくなって、高熱で開けていられなかった両目を何とか開けてみた。
瞬間、目をやられた。
少しだけ見えたが、私の腕は焼けた木炭のようになっていて、手もなかった。
そっか、もうそんな風になっているんだ。
また、目を開けて確認することはできなかった。

人間は死ぬ時に自分の一生を振り返り、走馬灯のように
記憶が巡るらしいが・・・。
あたしには、何も浮かばない。
結構、色々なことをやってきたと思うのだが。
それほど、つまらない日々だったのだろうか。
あたしはこの長い時間を、自分のやりたいようにやってきたつもりだったんだけどな。

本当にやりたかったことかといえば、そうじゃないかもしれない。
ぼんやりと考えているうちに、どんどん身体が小さくなっていく感じがする。
全身が砂のように崩れ、大気に溶けていくのだろう。
もはや、これまでか。
怖くはなかった。
ゆっくりと意識が遠のいていく。
それなのに頭の隅っこに浮かんでいたものだけが、どんどん主張をしはじめた。
げ、横島だ。
あいつ、あたしの死に際までちょっかいを出しにきたのか。
怒りをとおりこして、不思議と笑えてくる。

そうだね。
こんな寂しいところでひとりぼっちで逝ってしまうよりは、
敵とはいえ、知っている奴がいたほうが寂しくない。
ああ、そうか。
あたしはずっと寂しかった・・・。
そういえば、あいつらと、争っていた時は、変に、気持ちが高ぶって、いたね。
充実というやつが、あったの、かなあ。
こんなこと、考えているなんて。
最後の、最後まで。
あたしは。
馬鹿だ、ね。

あたしとあたしの意識は、
どんどん落ちていった。




えー、皆さんこんばんは。
妙神山の管理人をしております小竜姫です。
唐突なんですけれど、今から思えば私の長い生涯において大きな転機が2つあったと思うんです。
まず1つ目は美神さん達と出合ったこと。
そしてもう1つは、まさにこの瞬間でした。


「辞令、妙神山管理人・小竜姫。本日付をもって、管理人の職を解任します」

えーっ!!!!
私は、耳を疑った。
何で!何でなんですか!
私が解任!?
私、何か落ち度がありましたか?
そりゃ、私はアシュタロス戦では正直、活躍していなかったし・・・。
妙神山の建物も敵艦の攻撃にあって跡形もなく消えちゃったけれど・・・。
私だって精一杯戦ったんですっ!
信じてください!

ここは人事部の中にある部長室です。
人事部の雑然とした室内には、30人ほどの職員さんがいるでしょうか。
皆さん自分のデスクで忙しそうに書類のチェックをしたり、電話で連絡をしたりしています。
今朝方、「妙神山・総本山」の人事部から私に呼び出しがありました。
今の私は、人事部の奥にある部長室で部長さんと一対一で面談中。
目の前にはどっしりと大きい黒檀の机が置いてあり、机には部長の表札が掲げられています。
私はその前で直立不動でしたが、一気にパニックとなりました。
私は辞令を読み上げでいるその机の主、人事部の部長で上司でもある大竜姫様に詰め寄りました。
大竜姫様はヤレヤレといった顔で、私をジッと見ます。

「小竜姫、あなたね・・・。前も妙神山の建物を跡形もなく壊したでしょ?」

あ、それは・・・・。
私は言葉を失った。
確かに私は、美神さんの修行中の事故で竜に変化してしまったんです。
だって、あれは横島さんがセクハラをしたんですもの。
私の誰にも触らせたことのない、あんな敏感な部分をもてあそぶなんて・・・。
げ、逆鱗を触られるなんて・・・、死にたいくらい恥ずかしいです!
もう私、お嫁には行けません・・・。
横島さん、責任は取ってくれるのでしょうか・・・。


ええい、そうじゃなくてですね。
その時、竜に変化した私は大暴れして建物を跡形もなく壊してしまいました・・・。
真っ青になっている私を尻目に、大竜姫様は新たにメモを手にしました。
ため息を一つして言葉を続けます。

「それに、妙神山に蓄えてあった小判やその他の宝物も圧倒的に少なくなっているみたいだし・・・。あなたこれって業務上横領になりますよ?」

あっ、それは私が使ったんじゃありません!
人間界で暗躍したアシュタロス派に対抗すべく、美神さん達に協力要請をしたんです!
その時の必要経費なんですっ!
ほら、以前に妙神山から脱け出した王子の護衛とか色々とありましたし!

そう訴える私に、大竜姫様は身体を乗り出して顔をグイと近づける。
怖い!
メチャクチャ睨んでいる!

「ここに記録されている事件に対する必要経費にしては、額が大き過ぎます!!!」

大竜姫様は報告書と請求書、帳簿などをパラパラと見ながら大きなため息をつき、
私から離れて背を向けた。
私は力なくうなだれる。
だって美神さんが・・・。
美神さんが、がめついんですもの・・・。

「まぁ、いいでしょう。本来でしたらあなたは最低1千年間、妙神山名物・竜泣かしの井戸に閉じ込められて、暗くて狭くてかび臭~い青春を泣きながらエンジョイしてもらうはずでしたが・・・」

背を向けて話していた大竜姫様は、ついと振り返って「う○おととら」に出てくるような悪巧みの笑顔でニタリと笑いました。

ひっ、あの井戸に1千年も・・・。
やめてください!やめてください!
許して!許して!
あんな狭くて、生暖かくて、ヌメヌメしていて・・・。
ひゃぁあああ!
身体の震えがとまらない。
メソメソ泣き出す私を見て、大竜姫様はニッコリと微笑んだ。

「というのは可哀相なので、今回は大目に見てあげます。齊天大聖老師に感謝しなさい」

老師様がとりなして下さったんですね。
ありがとうございます!老師!
日頃「ゲームばっかりして!」と怒ってばかりの私でしたが、
これからは寛大な心でいましょう。
ゲームも1日2時間にしてあげましょう。
夕飯が食べれなくなるからと禁止していた、ゲームをしながらのポテトチップスも許しましょう。
私がホッとしたのも束の間、大竜姫様は言葉を続ける。

「あ、でも本日付をもって妙神山の管理人の職が解かれるのは決定事項だから。後任が決まるまでは、私が代理で管理人をしますのでヨロシクね」

「えー、そんなぁ!やっぱり私、クビですか!?」

全然大目に見てくれてないじゃないですか!
管理人じゃなくなったら、私、行くところがありません。
実家に帰るわけにも行かないし・・・。
これからどうしよう。
住む場所も収入もなくなってしまいます。
とうとう私もクリスマス・イブの雪降る夜に、凍えながらマッチを売ることになるのかしら・・・。


マッチ、マッチを買ってくださぁい・・・。
町を行く人達は、イブの夜をみんな楽しそうに過ごしています。
私も素敵な夜を過ごしたかったな・・・。
雪がしんしんと降ってきて、とても寒いです。
そうだ、このマッチで暖をとりましょう。
あ、マッチに火を灯すと暖かいコタツや、美味しそうなぜんざいが見えますよ。
いいなあ、いいなあ。
あ、横島さんや美神さん達が手を振ってくれている。
私もパーティに連れて行ってくれるんですか?
うれしいなあ、うれしいなあ。
ああ、だんだん暖かくなってきて、眠くなってきました・・・。




この時の私の意識ははるか彼方に飛んでしまい、「マッチ・・・、マッチ・・・」とぶつぶつと言っていたみたいです。
大竜姫様が「おーい、戻ってきてー」と呼び戻してくれました。

「話は最後まで聞きなさい、小竜姫。あなたには別のお仕事をしてもらいますから、安心しなさい」

「えっ!それじゃあ傘を作って町に売りに行けばいいんですか?傘なら売れなくても、お地蔵様にあげればいいですから安心ですよね?!恩返しもして頂けますし!」

「いや、昔話はもういいですから・・・。現実逃避はやめなさい、お願いだから。
えー、おほん。とりあえず今からここの地図に書いてある場所に行ってください。そこで、仕事の説明がありますのでよろしくね」

地図をもらってみると、これは・・・東京の地図です。繁華街の駅前が待ち合わせ場所でした。そこで上司になる方と合流して、面談の会場に移動するみたいです。

「今からですか?待ち合わせ場所も東京都内ですし、仕事の内容もそこで受ければいいんですか?何だか変な感じですねぇ」

今と引き続きで人間界が職場になるのはまあ分かるとして、事前に仕事内容の説明もないだなんて何だか変です。
私は首をかしげる。

「あら、変な仕事じゃないわよ。待ち合わせ場所も担当の方がそちらで重要な用事があって、その場所で面談する方が都合が良かっただけということよ」

大竜姫様は、ホホホと笑いながら説明をする。
何だか楽しそうですねえ。

「ちなみに新しい職場が嫌だったら即、井戸際社員になってもらいますからね。ああ、この場合は井戸中社員よね(笑)」

笑えませんから。
全然、笑えませんから。
泣けますから・・・。
私の退路は絶たれました。
泣きながら前進するしかないのだと思いました。
でも、管理人の仕事は長く続けてきた仕事だし、辞めてしまうのは残念だなあ。
新しい仕事の内容によっては、もう横島さん達にも会えなかったりするかもしれないなぁ。
せっかく、知り合いになれたのにね。

「分かりました。謹んで拝命いたします・・・」

私が管理人を辞めされられたことで落ち込んでいると、大竜姫様はすぐ側に来てくれて、優しく微笑んでくれました。

「管理人でなくなったことは残念だけれど、新たな仕事も重要な任務であると聞いています。誇りを持って望んでください。では頑張ってきなさいね、小竜姫・・・我が妹よ」

そして私をギュッと抱きしめてくれた。
私の全身がフワッ暖かくなる。
姉さんの良いにおいがする・・・。

「うん、姉さん・・・いえ、大竜姫様。私、新しい職場でも頑張ります!」





[2440] ああっ女神さんっ その11
Name: かいず◆19b471f3 ID:79663dda
Date: 2008/01/24 02:24
この官舎とも、今日でお別れか。

私は部屋の荷物を整理して拭き掃除を終えた。
元々、私は部屋に物を置かない性質なので整理は簡単だ。
持って行く荷物も着替えと身の回りの小物だけ。
少し大きめのボストンバッグで充分だった。
よし、そろそろ行くとするか。

今朝、私は上官に退官届を提出した。
受理されたのを確認してから出立しても良かったが、
軍を辞めると決めた私だ。
すぐに出立したかった。
官舎の玄関を出て、周りを見渡す。
今の時間は、皆活動中なので人影は少ない。

アシュタロス戦の後遺症は思った以上に我々を蝕んだ。
人間界の拠点が壊滅して、その復旧活動に人員と時間を割くのは勿論だが、
我々魔族の意識も少しばかり変えられた。
アシュタロスの真の狙いを知り感化された一部の連中は、我も続けといわんばかりに活動を始めたのだ。
活動は散発的で小規模なものであったが、軍部ではこれを危険と判断し殲滅に当たっている。
活動はゲリラ的なものから、劇的なものまで多種多様。
政治的な混乱もあり、このうんざりする様な馬鹿騒ぎは、まだまだ続きそうだ。

私はボストンバッグを肩に掛けなおし、官舎を出た。
私は自由になった。
どこへ行こうか。
何をしたいのか。
まだ何も決めてはいない。

「姉さん、待ってください!」

振り向くとジークがいた。
ジークは、息を切らしている。
私の姿を追いかけて、走ってきたのだろうか。
まったく、戦士ともあろうものが息を切らしている姿を見せるなどとは言語道断だな。

「なんだ、ジーク。任務はどうした?こんな所で油を売っている場合ではあるまい」

私は肩に掛けていたボストンバッグを地面に下ろし、奴に話しかけた。
まったく、いつまで経っても私に心配をかける弟だ。

「姉さん、軍を抜けるとはどうしたのですか?!いったい何があったのですか!」

ジークは、必死の形相で私に詰め寄った。

「ああ、ジーク。私には、もう何もかもが無くなってしまったんだよ。もう軍にいたくはないし、いてはならないんだ」

私の言葉を聞いてジークは愕然とする。
当然だろうな、私もどううまく説明していいのか分からない。

「私は軍人であることに誇りを持っていたし、戦士であることが誇りだった。しかし、アシュタロス戦での私は何もできなかった・・・。横島達に全てを押し付けて、コソコソ逃げ回っていたよ。まったく無様だな」

「それは仕方がなかったんですよ、姉さん!あの時は、ああするしかなかった!」

「それに、アシュタロスの主張を理解している自分がいるのだ・・・。私も常々、自分達の役割というのには疑問を持っていたしな・・・。今、馬鹿騒ぎをしている連中もそんなところだろう。もっとも、私はそんな馬鹿共に付き合う気は、更々無いがな。しかし、こんな中途半端な気持ちでは任務を遂行できまい。自分が命を落とすだけなら良いが、仲間を危険にさらすわけにはいかないからな。それに私は軍人であること、戦士であることに疲れてしまったんだよ」

私がそう告げると、ジークはとても悲しそうな顔をした。
馬鹿だな。
男がそんな顔をしては駄目だぞ。

「姉さんが抜けるというのなら、僕も抜けます!一緒に連れて行ってください!」

ジークはとんでもないことを言い出した。
おいおい、いつまでも姉の後ろを歩いていては駄目だぞ、ジーク。
お前はもう一人前の戦士なのだから。

「ジーク、お前はお前の信じる道を行け。今の中途半端な私に付き合うな。
それにお前には、ベスパの面倒を見てやらないといけないだろう」

ジークは一瞬ウッと言葉につまり、複雑な顔をした。
アシュタロスが生み出した魔族、彼の娘でもあるベスパは、
今魔軍の一兵士として所属している。
後見として私はジークを推薦した。
一度、何やら2人が揉めている所を見たことがあったが、
なかなか良いコンビだと思う。
ベスパは腕も立つし、直情的だが戦士としてはなかなかの力量。
性格も私好みだ。
おっとりしたジークとは、馬が合うだろう。

彼女の妹であるパビリオは、妙神山に預けられている。
妙神山は、小竜姫の管理下だ。
その小竜姫の後見人は、天界の実力者の斉天大聖老師。
それなら、元アシュタロス派で魔族の彼女が迫害を受けることも無いだろう。
本来なら姉妹同士、一緒の所に居させてあげたいのが人情だが、政治的な判断で彼女達は引き離された。

ベスパの姉であるルシオラは、戦いの中で散った。
詳しいことは分からないが、今は横島の中にいるらしい。
この戦いでは、横島に多大な苦労をかけてまった・・・。
奴には感謝しても感謝しきれないし、
どう謝っていいのかも分からないくらいだ。
ジークが入手した情報によると、横島についても上層部で色々と動きがあるらしい。
まったく・・・。
どこまで行っても政治、政治だ。

「なら、そろそろ行くぞ。ジーク達者でな」

私は地面に置いていたボストンバッグを肩に掛けなおす。

「姉さん、やはり行ってしまうのですか・・・。でも、どちらへ・・・?」

「さあな・・・。まだ何も決めちゃいない。なに、別に今生の別れじゃないのだから、そう心配をするな。落ち着いたら連絡を入れるよ。そうだ、私の心配をするよりベスパの心配をしてやれ。彼女は意外と繊細だぞ。じゃあな」

「・・・姉さん、お元気で」

ベスパのことを出されてドキリとしたジークだったが、私達はお互いに敬礼をして別れた。
ジーク、お前も元気でな・・・。




さて、除隊したとはいえ私は魔族だ。
天界に行くわけにもいかないし、そうかといってこのまま魔界にいるのも間の抜けた話だ。
やはり人間界だろう。
しばらくは、あちこちを見て廻るとするか。
自分のルーツを訪ねるのもいいだろう。
路銀が尽きたら、そうだなやはり何処かで働こう。
ほんの一時ではあったが、人間界では美神令子の事務所で秘書として働いたこともある。
あんな感じで、どこかに就職でもするのも良い。
この私がデスクワークをするとは、何とも笑える話だが。
せっかく人間界に行くのだ、美神令子の事務所に顔を出してそれから横島の様子でも見ていこうか。
そう思った私はそのまま彼女達の住む地、東京へ足を向けた。




今、私は美神令子事務所の近所にある公園のベンチに腰掛けている。
都内にしてはなかなか広い公園だが、人影は少ない。
ここから数分歩いたところに美神令子の事務所がある。
先ほど事務所を訪ねたら、彼女は留守だった。
昼のこの時間帯なら、横島もまだ学校だろう。
じゃあ時間でもつぶすかと、この公園にやってきたのだ。
私はベンチに座り一休みをする。

コクリと先ほど買ったコーヒーを飲み終えた。
そして、2本目の缶のプルをはずす。
自動販売機でコーヒーを買ったらラッキーチャンスのファンファーレが鳴り、当たりが出た。
もう1本、タダでもらえたのだ。
ささやかな幸運だが、幸先の良い旅になりそうだ。
ちなみに、当たりのジュースは「お汁粉」を選んでみた。
甘くてねっとりとして、独特な味わいだ。
悪くない。
うむ、お汁粉もなかなかの実力者だが、やはり私はぜんざいの方が良いな。
以前、小竜姫のお手製ぜんざいをご馳走になったが、あれは美味かった・・・。
またご馳走になりたいものだ。
ベンチに背中を預けて、暖かいお汁粉の残りを飲み込んだ。
ほうと見上げる、秋の空はとても高くて広い。


横島の奴、あの戦いで生き残るとは本当に大した奴だな・・・。
最初に奴の素質を見出したのは、小竜姫と聞く。
私には人を見る目がなかったのかもしれんな・・・。
そうだ、この後は妙神山にも足を運んでみるか。
久しぶりに小竜姫と会ってみるのも良い。
ずうずうしいかもしれないが、ぜんざいもご馳走になれたらいいな。
そうだ、パビリオもそこにいるだろう。
姉の健在ぶりを伝えてやるのも、いい土産になるだろう。

ぼんやりと考え事をしていたら、何やら噴水の向こう側が騒々しい。
喧嘩か?
私がそちらに気配を向けると、若い男と老人がにらみ合っていた。
やれやれ、面倒ごとは嫌いだが放っておく訳にもいくまい。
私はベンチから腰を上げて、そちらの方向へ歩いて向かう。

「おい、じじい!てめぇぶつかっておいて、挨拶もなしかよ!」

威勢よく声を荒げている若い男は、まだ横島と同じくらいの年齢だ。
制服を着ているが、高校生だろうか?
こんな時間帯にブラブラしているとは、たるんだ奴だ。

「やっかましい!ぼけ!おどれがチンタラ歩いてけつかるから、わしが転んでもうたんやないけ!いてまうど、ワレっ!」

一方の老人は、なんとも・・・。
元気がいいというか口が悪いというか・・・。
なかなか壮健なご老体だ。気持ちが若いのかもしれないな。
着ている服は上下共に赤で、帽子も赤だ。
派手だな。
ところどころ白い縁取りがあって、なんとも洒落たセンスをしている。
大きな袋も抱えていて・・・あれは、そうだ。
サンタクロースの格好だ。
近くでおもちゃ屋の売り出しでもあるのだろうか。
寒くなってきたとはいえ、まだクリスマスには時期が早いのだが。
戦と同じく、商売も先手を打つものかもしれないな。
うん?何やら、2人とも熱くなっているようだな。

「なっ・・・、なんだと!じじい!やるってのか!」

「おーう、やったろやないかい、われっ!なんやオモロなってきたやんけ。」

若い男はともかく、老人もやる気満々だ。
これは両方がケガをしないうちに止めた方が良いだろう。

「あー、2人とも。こんな公園で喧嘩とは感心できんな。先手必勝の気持ちは分かるが、まずは話し合いが肝心だ。いきなりの会戦は、まったく品がない」

私が声をかけたら二人が振り向いた。

「な、なんだよ、あんた。放っておいてくれ!このじじいが、メチャクチャ腹立つこと言いやがるんだ」

「なんじゃとー、このクソガキ!わしはさっきから、お前のその態度が気に食わんっちゅーんじゃ!なんじゃ、真っ昼間に煙草ふかしてブラブラしおってからに。学校行け!学校に!」

そして二人はまたお互いを罵り合った。
私は「ふう」とため息を一つついてから、二人の間に割って入った。
そして、私は自分の右の手のひらを若い男の顔面に、
左の手のひらを老人の顔面に押し当てた。
「え?」とキョトンとする2人。

私はスーッと息を吸い込んで、ムンと両手のひらに力をこめる。
メリッ、メリメリメリメリ・・・。
私の指が食い込んでいく。
2人の顔面は、私の握力できしむ様な悲鳴をあげた。

「あだだだだだだーーーーーー!!」

「うぎゃゃゃゃぁぁぁぁぁああ!!」




「どうだ、2人とも。少しは、落ち着いて話ができるか?」

私がニッコリと微笑んで地面にへたり込んでいる2人に問いかけたら、
ものすごい勢いで頷いた。

「あたた・・・。あんた、メチャクチャだな・・・。超怖え」

若い男は、自分の顔がひん曲がっていないかを確かめるように、自分の顔を撫で回している。

「うう・・・、年寄りを大事にせんかい、ねーちゃん・・・。わしの顔は熟れたての桃のように繊細な造りなんじゃ」

老人は熟れた桃というよりも、リンゴのような赤ら顔をして不満を漏らした。
酒の飲みすぎだな、このご老体は。

「おい、わしはただのジジイじゃないぞ。サンタじゃ、本物のサンタクロースじゃ!」

「何訳分からんこと言ってやがる。サンタのバイトだろ!ジジイ!」

サンタクロース。
私は、まじまじと老人を見つめる。
確かに、人間ではない霊気を感じる。
老人は、フンと鼻を鳴らす。

「まったく・・・、近頃の若い者は年長者に対する礼儀っちゅーもんを分かっとらん。
大体お前、ガキのくせして煙草ふかすなんざ生意気やな」

サンタは若い男が捨てた、まだ長い吸殻を見てニヤリとつぶやく。

「お前さんに煙草が似合うようになるには、まだ10年はかかるな」

そう言ってサンタは青い煙草缶を取り出し、両切りのピースに火を点けて美味そうに吸った。
この煙草特有の甘い香りが、周りにぷかぷかと漂う。
若い男は、ぐぅと悔しそうな顔をした。

「ちっ、うっとーしいジジイだ。くそっ、覚えてろよ!」

若い男は学生服を翻して立ち去ろうとした。
それをサンタがぷかりと煙を1つはいてから呼び止める。

「ああ、兄ちゃん。言っておくがな、わしはお前さんをずっと覚えておるし、前から忘れとりゃせんぞ。初めて会った時は、そりゃ可愛い寝顔だったわい」

サンタが懐かしむように言葉を続ける。

「今まで何があったかは知らんが、自分の気持ちに素直になるこっちゃ。人間ガチャガチャ考えとっても、しゃーないで。考えがまとまらんかったら何でもええ、屁理屈を並べとらんと動いてみるこっちゃで」

サンタは、唖然としていた若い男にガハハと笑いながら歩み寄る。

「ほれ、この袋に手ぇ突っ込んでみい。クリスマスにはまだ早いが、兄ちゃんには特別や。
お前さんが忘れてきたもん、わしがもう一度プレゼントしたるわ」

そして、呆然としている若い男の手を強引に袋の中に突っ込ませた。
そして袋から彼が取り出したものは、ぼろぼろになったグローブ。
その若い男の目に輝きが宿った。

「あ、これ・・・。すげえ昔、父さんが買ってくれたやつだ・・・」

若い男は懐かしそうにグローブを眺めて、そして自分の手にはめようとしたがサイズが小さいのだろう。
はめることはできなかったが、大事そうにグローブをなでている。

「なぁ、じいさん・・・。これ、もらってもいいのか?」

「もちろんやとも。今回は特別にタダや。ラッキーやったな、坊主!」

おずおずと尋ねる若い男に、サンタは気さくに答えた。
若い男は深くお辞儀をして去っていった。
最初見たときより、彼の姿勢が少し伸びた気がする。




サンタはやれやれと言いながら、吸っていた煙草を携帯灰皿にしまいこみ(また後で吸うらしい)、私に話しかけた。

「どや、あんたもいっぺん袋の中に手え突っ込んでみいひんか?今日は特別サービスの大盤振る舞いやからな」

突然の申し出に私は一瞬躊躇したが、興味の方が勝った。
私は魔族なのでクリスマスという行事には全く関係がないどころか、表向きは毛嫌いすべきなんだろうが・・・。
今はデタントの時代だ。
少しくらい付き合ってみても構わないだろう。
私は、誘われるまま右手を袋に突っ込んだ。
何かをつかんだ。
取り出したものを見ると、それは一枚の封筒。

ふむ。封筒とは予想外なものが出てきたな。
それには何か入っているようだ。
開封してみると手紙と地図が入っていた。


「○月○日、午後6時、○駅前に集合・・・」


手紙に指定された日付は今日だった。
地図には、待ち合わせ場所なのだろう。
都内の駅前のところに印がしてある。

「ほう、やはりそれをひいたか。ワルキューレ」

私はハッと驚く。
サンタが、私のことを知っている?
警戒する私に、サンタはニタリと笑いかける。

「なんもそう警戒することはないぞ。あんたはべっぴんさんで勇猛ちゅーことで有名人やしな。わしが知っておってもおかしくないやろ?それにな、その手紙はあんたに出会えたら渡してくれって、ある人から言われてたんや」

「私にこの手紙を・・・、一体誰が?」

「まぁ、それはその場に行ってみたら分かるこっちゃ。そういう遊び心が人生には必要やで。わしが偶然このあたりを通ったら、あんたが公園にいるやろ?ラッキーやったわ」

私は改めて手紙と地図を見る。
遊び心か・・・。
私の生活には縁のなかった言葉だな。

「預かっていた封筒は、そのままあんたに渡しても良かったんやけどな・・・。わしも遊び心が働いたいうやっちゃ。あんたが自分の手で封筒を引き当てたの見て、わしも確信したわい。これはあんたにとって、いい縁じゃよ。間違いない」

サンタの言うことはあまりにも唐突な話であったが、私は興味がわいた。

「あなたに手紙を渡した人物は、私に何を期待しているのだ?」

「それも会ってからのお楽しみやな。まぁ、胡散臭い人物ではあらへんから、安心してくれ。それと、なんぞ仕事があるからあんたの力を借りたいみたいやな。ああ、変な仕事ではないみたいやぞ。これは保証しとくわ」

ほう、仕事か。
まぁ、何もあてがなかった身の上だ。
付き合ってみても良いかもしれないな。
もし身の危険があれば、力づくで突破するだけだ。

「そうや、仕事や。酒も煙草もやっちゃってさあ、競馬もパチンコもやっちゃってさぁ、そんで思いっきり働くんや!!それが男やないけ、われっ!!」



私に封筒を渡し終えたサンタは、豪快に笑って去っていく。
相棒のトナカイと待ち合わせをしていたらしい。
合流したら、そのまま帰っていった。
うむ、私は男ではないがこれも乗りかかった船だろうな。
思いっきり働くことには依存はない。
この公園に来るまで思いつめていた私だったが、後から思うとこの封筒を引き当てたことが私の人生を大きく変えた。
本当に、ラッキーだったと思う。

待ち合わせの時間までは、まだ余裕がある。
私は封筒を懐にしまい、秋の空を見上げて思いっきり深呼吸をした。






[2440] ああっ女神さんっ その12
Name: かいず◆19b471f3 ID:79663dda
Date: 2008/02/05 02:21
「よーし、私、頑張りますっ!」


私は久しぶりに姉の大竜姫と話ができたので、とても気分が良くなりました!
ふふっ、自然と笑みがこぼれてしまいます。
あの話の後に、一緒にお茶をして姉さん手作りの豆大福を食べました。
久しぶりに姉さんの豆大福を食べましたが、美味しかったなぁ~。
もっちりとしたお餅の中には程よい甘さのつぶあんと大粒の黒豆が入っていて、とても美味しいんですよ。
そうそう、お土産にも沢山の豆大福をいただきました。
背中に背負った風呂敷は、もうパンパンですよ。
後でゆっくりと味わって頂きましょう。


姉さんとは普段はめったに会えないし、会えたとしても時間が無くて事務的な話しかできないんです。
昔は一緒に遊んだり、布団を並べて夜更かしをして色々な話をしたのにな・・・。
今では2人とも神族の務めが忙しいし色々な立場がありますから、前のように仲良く2人で遊んだりというのはありません。
とても寂しいけれど、仕方ないのですね・・・。



早速、私は妙神山総本部を後にして一路東京へ向かいます。
うーん、待ち合わせ時間までにはまだ余裕がありますね。
そうだ、服装はどうしましょうか?
私の格好はいつもの胴着ですし。
これでは少し失礼でしょうか・・・。
私、動きやすい格好が好きなんだけれどなあ。
姉さんは「服装?気にする必要ないわよー、ホホホ♪」と言っていましたが。
でも私はスーツとか持っていないんですよねぇ・・・。
ここは一つ良い機会ですから、買っておきましょう。
これから必要になると思いますしね。




「ありがとうござましたー」

笑顔の店員さんが、気持ち良く私を送り出してくれました。
私の服の見立てに付き合ってくれたその女性の店員さんは、「就職活動がんばってね!」と元気付けてくれました。
厳密に言うと、私は就職活動をしている訳ではないのですが・・・。
まあ似たようなものですね。

先ほどまで、どこでスーツを買おうかなとさまよっていた私は、大きな店構えをしたこの洋服屋さんを見つけました。
入り口付近には、「リクルートスーツフェア」とか書かれた大きなのぼりが沢山立っていました。
なんだかお祭りみたいですね~。

私は店員さんのお勧めの、上下を黒色のシンプルなリクルートスーツというものを選びました。
私のお小遣いで買える範囲でしたし、店員さんが言うには面接した時に相手の方の印象が良くなるようにこれくらいシンプルな方が良いみたいです。
おおー、勉強になりますねー。
私はこういった就職活動したことがないからなぁ。

ちなみに私が買ったのはお得な5点セットで、ブラウス・ジャケット・スカートとパンツ2本が付いてくるのですが、今はスカートを履いています。
実は私、どちらかというとスカートが好きなんです。
私を知る人達に聞かれたら、笑われてしまうでしょうか?
あと、靴も買いました。お値打ちでした~。

あ、そうそう。
店員さんは私のことをずっと学生だと思っていたみたいです。
しかも、「セーラー服と比べると、スーツって着た感じが少し違うでしょ?あ、もしかして学校ではブレザーだった?」とか言っていましたし。
もしかして、私のことを高校生と勘違いしているのでしょうか・・・。
私の本当の年齢を聞いたら驚くでしょうね。


え?私の年齢ですか?
あのですね、女性に対してそんな事を聞いてはいけませんよ。
そんな失礼な殿方には、私が仏罰を下してしまいますからねっ!





私は洋服屋さんを後にして、美神さんの事務所へ向かいます。
リクルートスーツを買っても待ち合わせの時間まではまだ余裕があったので、
せっかくだから美神さんや横島さん達に会おうかなと思ったからです。
前は鬼門と一緒に来たのですが、あの時はカルチャーショックを受けましたね。
江戸の町も刻々と変わっていくのですね・・・。

江戸は東京と名前を変えて驚くほどの繁栄をしていますが、今現在は先のアシュタロスとの戦いの影響で、所々で壊れた建物があったり、工事中の道路や橋などかあります。
人間界を守護する身でありながら、皆さんを騒乱に巻き込んでしまった自分の非力さを痛感します・・・。


そんなことを考えながら公園の前を通りかかると、全身赤い服を着たお爺さんとすれ違いました。
はぁー、派手な格好ですねえ。
これはあれですね、知っていますよ。
サンタクロースさんの格好ですね。
まだクリスマスの時期は早いと思うのですが。
え、この霊気・・・本物?
私がビックリしていたら、サンタさんは私の顔をちらりと見るとニカッと笑いました。
私もつられてニコッと笑います。


「お姉ちゃん、あんたもあんじょうきばりやー。ほなな!」


そのままサンタさんは、やってきたトナカイと共に行ってしまいました・・・。
一体、何だったんでしょうか?
この公園から出てきたみたいですけれど、何をしていたんでしょうね。
サンタさんが出てきた公園入り口から園内を見ると、噴水の近くのベンチにベージュのスーツ姿の女性が1人います。
スラッと背が高くて、綺麗な人ですねー。
スーツ姿には似合わない大きなボストンバッグを持っていますが、お仕事中の休憩でしょうか?
立ち上がって、うーんと背筋を伸ばしていますね。
あれ?あの人会ったことがあるような・・・。
あの人は・・・、ワルキューレ?!




サンタめ・・・、なかなか味な真似をする。
私は立ち去るサンタを見送って、フンと伸びをした。
背筋を伸ばして秋の空気を胸いっぱいに吸い込むと、とても気持ちが良い。
さて、これから自分がやるべきことも見つけた。
私は待ち合わせ場所の地図を見て、紹介される仕事とやらに思いをはせる。
ふふ、こういう任務も悪くないな。
どんな状況でも耐えうる力量は、日ごろから培ってきた自負がある。
さて、そろそろ美神令子達も事務所に戻ってくるだろう。
そろそろ行こうか・・・。

・・・ふむ。
先ほどから何やら、私を見つめる視線があるな。
悪意は無いみたいだが、何者だ?
ほう、若い娘だな。
スーツを着ているが初々しさを感じる。
ふふ、就職活動中の学生かもしれんな。
しかし、スーツ姿で唐草模様の風呂敷で大きな荷物を背負っているというのは、何ともアンバランスな感じだな・・・。
一体、何を持ち歩いているのやら。
むむ・・・、何故か奴からは好ましい波動を感じる。
何だ、この胸のときめきは・・・?
確かに奴は可愛らしい顔をしているが、私には女性を愛でる嗜好は無かったはずだ。
た、多分・・・。

おほん、これはもしかしたら女の方ではないな。
あの風呂敷の中身の方に秘密があるのかもしれん・・・。
そう言えば、あの風呂敷の中身には何やら美味そうな雰囲気を感じるな。
しかしあの顔、どこかで見たことがあるな・・・。
あいつは・・・、小竜姫?!



背中の大きな風呂敷包みをわっさわっさと揺らしながら、小竜姫はワルキューレの側に駈け寄った。
今の彼女の格好は悪く言えば純朴な田舎娘丸出しなのだが、どこか可愛らしく凛としている。
時代遅れな唐草模様の風呂敷包みさえ、なにやら趣きがあるものの様な雰囲気をかもし出している。


「久しぶりです、ワルキューレ!こんな所で会うなんて奇遇ですね!」


小竜姫は、大きな目をくりくりさせてワルキューレの顔をのぞき込む。
彼女の顔にさすがのワルキューレも顔が緩む。
意外な所で旧知に出会った。
これもラッキーなのかもしれないな。
ワルキューレは、心の中でクククと笑う。

「うむ、小竜姫。本当に奇遇だな。いや、どこかで見た顔だと思ったのだがお前だったのか。私はてっきり、上京したての女子学生かと思ったぞ」

ワルキューレがからかうと、小竜姫はあからさまに納得できないなぁといった顔をした。
お互いにゆっくり話そうとベンチに座る。
小竜姫はベンチに腰掛けて「よっこらせ」と背中の荷物を下ろす。
そして、ふぅと一息をついて話を続ける。
ワルキューレも彼女のすぐ隣に腰掛けた。



「はぁー、またですか。何でなんですかねぇ。皆さん私のことを学生さん扱いするんですよ・・・。そうそう、私はワルキューレのことをOLさんだと思っちゃいました」

「まぁ、私が人間界で活動するときはスーツ姿が多いからな・・・。実際、就職活動をしなくてはならんと思っていたし」

「えっ、就職活動ですか?ええと、軍のお仕事はどうしたんですか?」

「ああ、この間辞めたよ。今は、無職さ」

「えー、そうなんですか?!一体、何があったんですか?」

「うむ、まあ、あれだ。あの後、私には色々とあってな・・・」

「ああ、すいません。立ち入ったことを聞いてしまって・・・」

小竜姫は、しょんぼりとした顔でうつむいた。
ワルキューレは苦笑して彼女を見る。
やれやれ、相変わらず真面目だなと思いながら彼女に話しかける。

「いや、別に気にしないでくれ。軍を抜けたのも大した理由ではないし。それに、今の私は気分も晴れやかだ。新しい職にもありつけそうだしな」

「えっ、新しいお仕事ですか?それはおめでとうございます。ところでその新しいお仕事はどんな事をするんですか?あ、聞いても大丈夫ですか?」

先ほどまでしょんぼりしていた小竜姫の顔が、もう興味津々の目でワルキューレを見つめている。
彼女は良い意味で得な性格をしている。
ワルキューレはそんなところも彼女に好感をもっている。
決して、決して美味しい善哉をご馳走してくれるからという理由だけではないのだ。
しかし、今のワルキューレは少し困り顔である。
それはそうだろう、説明するにもまだ情報不足であった。

「ええと、すまん。実は私もまだ良く分からない。実は急に決まった話なのでな」

「はあ、そうなのですか~。でも、ワルキューレならどんなお仕事もバッチリとこなしてしまうでしょうし。大丈夫ですよね!」

「ははは、ありがとう。ところで、小竜姫。お前はここで何をしているんだ?美神令子にでも会いに行くのか?」

小さくガッツポーズをしてワルキューレにエールを送っていた小竜姫だったが、自分に話題を振られると今度は彼女が困り顔であった。
説明に困るのは、よく分かる。
詳しくは「ああっ女神さんっ」のその10を読んでいただきたい。



「ええ、あのう・・・。美神さん達に会いに行くことは行くんですけれど・・・。実は私、この度人事異動がありまして、妙神山の管理人ではなくなってしまったのです・・・」

「何!そうなのか?それは大変な事になっているな・・・。一体、何があったんだ?」

「あはは・・・。私にも色々な事がありすぎちゃって、一言では説明できないですねぇ~。ええと、それでですね。次に担当する仕事の説明がこちらであるということで、人間界にやって来たんですよ」

「ほほう、そうなのか。それで、次の仕事とはどんなことをするのだ?」

「いえ、私もまだ良く分からないんですよ。これから待ち合わせ場所に行って上司になる方の説明を聞くんですよ」

そう言って、小竜姫が懐から取り出した辞令と地図をワルキューレに見せる。
それを見たワルキューレは、「うん?」と不思議そうな顔をした。
これはまさか。
偶然か、いや。

「その辞令と地図・・・。私の持っている手紙と地図と内容が同じだ!ほらっ!」

慌ててワルキューレが、先ほどサンタの袋から手に入れた手紙と地図を小竜姫に見せた。
それを手にした小竜姫は目と口を大きくして驚く。
今日は2人とも驚かされることばかりだ。

「あー、本当です!待ち合わせ場所も、時間も・・・全く同じです!」

「うーん、サンタの奴め。何やら愉快な企みに巻き込んでくれたらしいな」

「え、サンタ?」

「うむ。この手紙と地図は、私にとって少しばかり早めのクリスマスプレゼントらしい。
私が聞いた仕事の内容は、私に仕事を頼みたい人物がいるということだったが、どうやらお前の上司にあたる奴と同一人物のようだな」

「そ、そうなんですか。そういえば、先ほど公園の入り口でサンタさんとすれ違いましたが。なるほど・・・、そうなるかもしれませんね」

小竜姫は伸ばした両手を太ももに挟み込んで、神妙な顔をしてウンウンと頷いている。
ワルキューレはベンチの背もたれにドスンと背を預けて足を組み、腕組をしてにやりと笑う。
そして小竜姫の顔を見つめた。

「小竜姫よ。話の展開次第では、我々は職場の同僚になるようだな。これは・・・、面白くなってきたな」

それを聞いて小竜姫もニコリと笑う。
ゆっくりと、そして自信に満ちた笑みを浮かべてワルキューレに答える。

「ええ、そうみたいですね・・・。あなたとは一時的にコンビを組んだことが何度かありましたが、今度は長い付き合いになりそうですね。私も楽しみですよ」

「ああ。もしお前と組めるのならば異論はない。むしろ喜ばしいさ」

「はい!では、一緒に待ち合わせ場所までいきましょうか。あっ、その前に美神さんの所へ寄っていってもいいですか?」

「ああ、私も美神令子の事務所へ行くつもりだったんだ。先ほど訪ねて行ったら留守だったので、ここで時間を潰していたのさ」


せっかく訪ねていったのに留守だなんて相変わらず私はついていないな、と自嘲していたワルキューレだったが今日半日で様々なラッキーがあった。
ふと、「禍福は糾える縄の如し」という諺が脳裏に浮かんだ。
今現在の私には、福の割合の方が多いかもしれないなと思った。
さて、これから起こる禍は何であろうな。
まぁいいさ。
この胸躍る期待に比べたら、大した問題ではない。
ワルキューレは多分これから相棒になるであろう小竜姫を見つめて、そう思った。


「あら、そうだったんですか。でも、もうこの時間なら横島さんやおキヌちゃんが事務所に来ているかもしれませんし、美神さんも帰ってきているかも。さあ、一緒に行きましょうか」


小竜姫は、ベンチから腰を上げて、一つ伸びをする。
そして、再び「よっこらせ」と風呂敷包みを背負う。
その様子を見たワルキューレの視線は、自然と風呂敷包みの方へいく。
小竜姫の背中で大きく主張し続ける風呂敷包みの中身が何故か気になる。
ちなみに彼女のボストンバックの中身は、着替えや洗面道具等で大した物は入っていない。
ワルキューレは、意を決して小竜姫に聞いてみる。


「ああ。ところで小竜姫。その背中の風呂敷包みには何が入っているのだ?えらく重そうだが。それと、なんだ、そこから何やら心躍る波動が出ているのだが・・・?」

「ああ、これですか?中には豆大福が入っているんですよ。私の姉さんのお手製で、とても美味しいんですよ。そうだ、美神さんにもおすそ分けしなくっちゃ。喜んでもらえるかしら」


小竜姫は風呂敷包みを下ろし、嬉々としてベンチの上に広げて見せた。
風呂敷に包まれていたのは、沢山の美味しそうな豆大福。
潰れないように、何個ずつかの包みに分けて包装をしてある。
思わずワルキューレの喉がゴクリと鳴った。


「豆大福・・・か。そ、それは、なかなか良いものを持っているな」

「あ、もちろんワルキューレにもおすそ分けしますよ~。後で皆さんと食べましょう」

小竜姫は優しい笑みを浮かべながら、ワルキューレが一番聞きたかった言葉を発してくれた。

「では、そろそろ美神さんの事務所へ行きましょうか」

「ああ、そうだな」


そして2人は、美神令子事務所へ向けて歩き出した。
彼女達には、まだ自分達に課せられた使命が何であるかを知る余地は無い。
あと、先ほどから小竜姫が歩くたびに彼女の背中でわっさわっさと揺れる風呂敷包み。
それを見たワルキューレが、せっかくの豆大福が潰れてしまわないだろうかと心配そうな顔をしていたのはここだけの秘密である。






[2440] ああっ女神さんっ その13
Name: かいず◆19b471f3 ID:79663dda
Date: 2008/02/15 01:15
「次の期末テストではここの所出るからな、しっかり復習をしておくように」
先生が黒板を指差して締めの言葉を言った時に、ちょうど終業のチャイムが鳴った。



「ふぁーぁ・・・」


俺は眠い目をこすって大あくびをする。
授業が終わり教室内はかぜんにぎやかになる。
俺は今日も居眠りをしているうちに授業を終えてしまったことを反省する。
いつの間にか放課後だよ、おい。
クラスのみんなは、これから部活に行ったり進学塾へ行ったり、遊びに行く奴もいるだろうな。
俺はこれから美神さんとこに直行せにゃならん。
学生がバイトっちゅーのは今のご時勢では珍しくも無いかもしれんが、俺のバイト先はまた特殊やからなぁ。


何を隠そう霊的現象を解決して高額の報酬を得る仕事、ゴーストスイーパーなのよ(見習いだけどな)。
それは命がいくつあっても足りん、まさにハイリスク・ハイリターンな仕事!
それなのに俺はいつも命が危険で泣けるほどの薄給なのだ・・・。
でもでもっ、俺の上司の美神さんは、それはそれはステキなお姉さまなのだ!!


とまぁ、そんな感じで以前までの俺は煩悩全開で美神さんの事務所の見習いとしてバイトに勤しんでいたのだが・・・。


最近の俺は気合が入らないというか、なんというか。
これはなんて言うんやろか?
心にポッカリと穴が開いたというか。
何もやる気が起きなくなった。


でも、「働かざるもの食うべからず」とはよく言ったものだ。
スズメの涙といわれる俺のバイト代とはいえ、収入が無くなるのは死活問題なのだ。
それに、今の俺にはバイト以外に特に予定が無いし、気力も無いし、金も無い。
全てにおいて、無い無いづくしの俺。
本当に世の中は辛いことばっかりだなぁ。


それにあれだ。
俺はさ、俺は・・・。
少し前に大切な人を失ってしまったんだよ。
ルシオラ。
魔族でアシュタロスの娘だったあいつ。
こんな馬鹿でスケベで、どうしようもない俺を愛してくれたあいつ。
こんな俺を救うために、自分を犠牲にしたあいつ。
俺は彼女に何もしてあげられなかった。
何も。
それが一番辛かった。




こんな気分で家に帰って一人で部屋に居たら、なんか色々と考えて落ち込んだりするからな。
仕方がない。
バイトに行くしかないな、こりゃ。
勝手にバイトを休むと美神さんにメチャクチャ怒られるし、おキヌちゃんも心配するやろうしなぁ・・・。
やれやれと俺は鞄に教科書を適当に詰め込む。
教科書なんか机の中に置きっぱなしにして帰りたいのだが、こういうズボラをすると愛子のやつがうるさいからな。
あいつ、机の妖怪のくせにこういうところは本当にマジメやなぁ。
あ、机の妖怪だから、教科書を机の中に入れっぱなしという行為自体が我慢ならないのかな?
愛子の奴は、いつの間にかうちのクラスの委員長もやっているし、生徒会では副会長の職にも就いている。
これって、ええんやろか?
まぁ、ええか。


そうそう、今晩は久しぶりに仕事が入ったんや。
美神さん気合入ってるんやろうな~。
ようやく鞄に教科書を詰め込み、ふと窓の外の景色を見た。
校庭の側に生える木々は、もうすっかり葉の色が変わっている。
季節はもう秋、今の俺は高校2年生。
なんだかずっと高校2年生をやっているような気もするが・・・。
まぁとにかくだ、俺もそろそろ進路を決めて受験勉強をしたり就職先を考えたりせにゃならんのだろうが・・・。
ええい、どうにも気合が入らんなー。
お袋からは「高校は卒業せえ!」ときつく命令されているからなー。
まぁ、卒業はなんとかしよう。
そんでしばらくは、美神さんの事務所でアルバイトのままでおるんかなぁ。
時給が今のまんまだと凄く辛いんやが・・・、どうにもならんやろなあ~。


そんなことをぼけーっと考え事をしていたら、ピートとタイガーに声をかけられた。


「どうしたんですか、横島さん?まだ調子が悪いのですか?」

「横島サン、まだ疲れが取れとらんのじゃノー」


二人を見ると、すっかり帰り支度を済ましていたらしい。
俺の席の近くにやってきた。
俺は帰宅部で、放課後も休日も大抵は美神さんの所でバイトなので、クラス内では人付き合いが悪い方だ。
だから話が合う奴がいないんだよな。
気づいてみると、俺って寂しい奴だよー。
つい最近までは、全人類の敵とか悪の手先とか言われて迫害されていたからな。
うう、隊長のおばはんがいらん作戦立てるもんやから、あかんのや。



そんなクラスでお豆にされている俺は、自然とピートやタイガーとつるむことが多くなった。
まぁ同業者同士、仲良くやろうやってなもんだ。


「何をぶつぶつ言っているんです?横島さん」

「あ、いや。ちょっと独り言をな」

「じゃっとん横島サン。あまり無理はいかんですけーノー。今日は久しぶりにカラオケなんてどうですかノー?」


実はタイガーは歌がうまい。
こいつ意外と歌ってみると美声なんだよなー。
高音も低音もいける。
普段はこんなドラ声のくせによ。
ちなみにピートは音痴だ。
でも奴は実に気持ち良さそうに歌うから、「下手くそのくせにー」とかツッコミができないんだよな。
こんな野郎ばっかりでカラオケも寂しい感じだが、気兼ねなく騒げるのは魅力的だ。
でも、残念。
今日は行けないな。


「いやぁ、今日はこれからバイトなんだ。悪いな」

「あ、そうなんですか。それなら仕方がないですね。でも、明日の夜にある『お疲れ様パーティ』には横島さん達も参加できるんでしょう?」


おー、そうだった。
明日の土曜日の夜は、魔鈴さんの店にみんなが集まるんだった。
「アシュタロスとの戦いはみんな頑張ったし、パーッとやりましょうよ」という美神さんの発案だ。
参加者の会費は美神さんが負担してくれるらしい。
うーん、何か変なことが起こらなければいいが・・・。
あの美神さんがなぁ~。
まあそれはともかく、タダで飲み食いできるとあってカオスなんかタッパーを持参で参加すること間違いないのだが、俺も普段の粗食から解放されるべく参加するのであった。
もちろん、俺もタッパーは持っていくぞ。


「明日はエミさんも行くって言うとりましたけぇ、楽しみジャー」

「そうですかー。神父も参加されると言っていましたし。久しぶりにみなさんが揃うから楽しみですよね」

「そうだなー」


俺はピートの言葉に相槌をうったが正直な話、最初はあまりノリ気ではなかった。
でもまぁ、せっかく美神さんが企画してくれたパーティだ。
気分転換にはいいだろうなと思って参加することを決めたのだ。


「えーっ、横島君達、集まって食事会するの?いいなぁー」


自分の本体である机を担いで、学級委員の愛子が俺達の集まりに加わってきた。
愛子はこれから生徒会の仕事があるのだろう。
なにやらたくさんの資料をかかえて・・・、あ、本体の机の中にしまい込んだ。
あの中は異空間やからなぁ。
四次元ポケットよろしく、なんでも入るみたい。


「ねぇねぇ、それって凄く楽しそう・・・。私も参加してみたいなぁ・・・。机妖怪の私がこんなこと考えるのって図々しいかなあ・・・」


愛子はしょんぼりとした表情をしながら上目遣いで俺を見る。
ちょっと可愛い。


「あー、別にいいんじゃないか?他のみんなと知らない仲でもないしさ。なぁピート、タイガー?」

「そうですよ。一緒に参加しましょうよ!」

「ですジャー!」


俺達の言葉を聞いて、愛子は心底嬉しそうな笑みを浮かべる。


「そう言ってもらえると、嬉しいなあ~。明日はピッカピカに机を磨いておめかししなくっちゃ!校外でみんなと食事をしながら語り合うひと時・・・。ああ、青春だわっ!」


身体をくねくねとしながら喜ぶ愛子。
こいつ学校に住んでいるから、特に土日の夜とかは寂しい思いをしているのかもしれないな。
これから愛子はすぐに生徒会の仕事があるらしい。
「じゃあ、明日はヨロシクね」と言い残して、テンション上がり気味で立ち去った。


「さて、俺もバイトに行くかな。んじゃ、ピート、タイガー。また明日の夜にな!」









ここは都内の新築高級マンションの一室。
広々とした億ションの室内にはセンスが良い家具が配置されていて、家主のこだわりがうかがえる。
壁一面の大きさの窓からは都内のビル群が一望でき、夜景を見るのには最高だろう。

この部屋の主人である美神美智恵は、つい数日前までは娘である美神令子との接触を避け続けてきた。
しかしアシュタロスの脅威が去った今、都内に腰を下ろして出産と育児に備えるためにマンションを購入したのだ。
今は新品で綺麗な佇まいの室内だが「赤ん坊が動き回るようになればもうグチャグチャになっちゃうでしょぅねー」とクスクス笑う彼女。
そんな幸せそうな母親を見て、様子を見に来た美神令子は「やれやれ、昔死んだと思っていたママに会えたと思ったら私の歳で弟か妹ができるなんて、なんだかなー」と考えて込んでいたのが馬鹿らしくなってきた。


「ママ、順調そうで何よりね。」

「ええ、予定日まであと少しあるけれど大丈夫よ。二人目だしね」

「そっか。まぁ何かあれば連絡してよ。私も今更弟か妹ができるなんて、なんだか少し照れくさいけれど・・・、嬉しいわ」

「ありがとう、令子。そう言ってくれるとママも嬉しいわ」


久しぶりの親子での会話を交わすことができて、令子は嬉しかった。
美智恵も今まで長い間、実の娘に黙って身を隠し続けていた罪悪感があったのだが、暇さえあれば自分に会いに来てくれる令子のことを嬉しく思っていた。


「そうだ、今日はこれから西条さんの所に助っ人に行ってくるんだけれど、一体何があったのかしらね。オカルトGメンの西条さんが私に頼るなんて珍しいわね・・・。ママ、何か聞いていない?」

「ええと、確か東都大学の研究室から依頼された件じゃなかったかしら?詳しい話は聞いていないけれどね。彼、出産前の私に気を使って話さないのかもね・・・。まぁ、話すほどのことでもないのかもしれないし」

「そうねぇ。まぁ、私としては仕事があるのはありがたいわ。それが久しぶりに稼げる仕事ならいいんだけれど、西条さんの依頼じゃ無理だろうなーと思っていたのよねー。でも、ふふっ、真の依頼主は東都大学か・・・。これはふっかけ甲斐がありそうだわ・・・」


先程までとは違う種類の笑みを浮かべて、ニタニタする令子。
美智恵はその娘の顔を見て考える。


「うーん。やっぱり多感な時期に、私が令子の前から居なくなってしまったのは間違いだったのかしら・・・」。





でも、こうやってまた令子と会うことができる日常に戻れたのは良かったのよね。
そう考えを切り替えた美智恵。
決して現実逃避した訳ではない。
そうだ、彼はどうなったのかしら?


「令子。横島君のことなんだけれど、あれから具合はどう?」


令子は電卓を叩いてこれから得るであろう収益の計算をするのを止めて、寂しそうな顔をした。


「ううん、まだ駄目ね。まぁ、少しずつ元気にはなっているみたいなんだけれど・・・。どうにも世話をかける男よね、横島君は。全く、しゃきっとしなさいってーの」

「そう。でもよかったわ。少し元気になってくれたみたいで。でも、文殊が作れなくなったというのは相当彼女の死が大きかったのかしら・・・」


実は、今の横島は文殊を作ることができなくなっていた。
美神達の隊長として戦っていた美智恵が、戦いが終わって過去に帰る時に横島に出してもらった文殊は、実は前に横島が作り置きしてあったものだった。


「うーん、そうかもしれないわ・・・。それに、煩悩パワーも落ちているような気もするわ。横島君、前みたいに私がシャワーを浴びていても覗きに来たりしないし・・・」


令子がここまで言って、ハッと気づく。
ニヤニヤして娘を見つめる母、美智恵。


「あーら残念ね、令子。横島君が覗きに来なくなっちゃって。相手にされないとされないで、寂しいものでしょ?」

「だ、だ、だ、誰があんな奴をっ!いいのよ、覗かれなくったって!こっちは凄く迷惑してたんだから!」


顔を真っ赤にして、ハフーハフーと息を切らし怒鳴る令子。
あらまぁ、仕方のない娘だこと。
美智恵は思う。
令子と横島君の縁は、とても強くて深いわ。
その縁が、まさか世界を揺るがすキッカケの一つにもなったなんてね。
まぁ、どんな男を選ぶのかは令子の自由だけれど、後悔だけはしないようにね。
彼、意外と競争率高いかもよ。

その点、私なんて即断即決で、即実行。
公彦さんと出会えて、本当に良かったと思うわ。
私の最高のパートナーよ。
彼、出産予定日には日本に帰って来れるかしら。
そうね、帰ってきたらおねだりして、しばらくは日本に滞在してもらおう。
令子も誘って、家族水入らずで出かけるのも良いわね。
あ、久しぶりに公彦さんと二人っきりでいるのも良いかも・・・。
でも、もし三人目が出来ちゃったりしたら大変だわ・・・。




「ママ?どうしたの?急に黙っちゃって・・・。具合でも悪いの?」

「へ、へえっ?!いや、なんでもないのよ令子。そうそう、明日の夜はみんなで慰労パーティをするのよね。こんな企画を考えるなんて、令子もやるじゃない」

「まーね。久しぶりに大人数でパーッとやりたかったし、丁度いいじゃない?それに、横島君も一人で落ち込んでいるよりも、みんなと馬鹿騒ぎでもしていたら少しは気分も晴れるでしょうし・・・」


ここまで言って、令子はワタワタと焦りだす。


「え、え、えーと・・・。別に横島君の為にやるって訳じゃあないんだからねっ!私がパーッと騒いで飲み食いしたいだけなの!ママ、分かった?!」


美智恵はいまだ興奮冷めやまぬ令子を見て「まったく、まだまだ子供ね~この娘は」と思った。
でも、凄く久しぶりに再開できたのに大人になってしまっているのも寂しいから、これはこれで良いのかもしれないわと思い返す。
そうね。
これからはお腹の中の子だけじゃなくて、令子にもちゃんと甘えさせてあげなきゃね。




「何よ、ママ!クスクス笑ったりして。んもぅ!からかったりしないでよね!」

「ごめんなさい。別に令子のことを笑ったわけではないのよ。まぁ、冗談はさておき。今、横島君が本調子でないのは心配だわ。彼、今回の事件で有名人になっちゃったものね・・・」

「え、有名人?ああ、人類の敵とか言われてテレビに出ていたアレね。魔族に操られていた頭の弱い可愛そうな高校生ということで落ち着いたんじゃないの?」

「また、えらい言われようね・・・。まぁ一般的にはそうなったけれど、横島君の能力に興味を持ち始めた連中が少なからずいるのよ」

「横島君の能力?」

「彼はGSとしての能力もなかなかのものだけれど、やっぱり特質すべきは文殊ね。あれは霊能力の範囲を超えてるわ。もう超能力の類ね」

「あー、確かに文殊って、何でもアリの便利アイテムだもんねぇ・・・。そんなものをポイポイ作り出す横島君に目をつけたって訳か・・・。まったく、やっかいな話ね」

「そうね・・・。確実な情報ではないけれどその話に関連して、今の政府の省庁統廃合でも色々と駆け引きがあるみたいなの。新たに省庁内でチームを立ち上げて、国内の超能力者を集めた特殊部隊を作るなんて計画を立てている連中もいるみたいだし・・・。今回のことでGSの能力者を霊的現象に対する排除や抑止に利用するだけでなく、広く国内外の治安や防衛にも役立てたいみたいなのよね。まぁ、どこまで本気なのかは分からないけれど・・・」


真剣に美智恵の話を聞いていた令子は一瞬だけ不思議そうな顔をして、そしてゲラゲラと笑い出した。
そして座っているソファーから転げ落ちそうになった。
ママったら、突然何を言い出すのかしら。
令子はなんとか笑いを堪えて、美智恵に話しかける。


「何を言っているのよ、ママ~。超能力者だなんてさぁー。あれでしょ?サイコキノとかテレポーターだとか、サイコメトラーだとか・・・ふふっ。そんな連中を集めてエスパー戦隊を作るだなんて、漫画みたいで笑っちゃうわ。そんな能力がある奴なんているわけが・・・」


そこまで言いかけて令子はハッと気づいた。
そして、真剣な顔つきになった。


「そう・・・、いないわけではないわ。まだ、私達が出会っていないだけかもしれない。私達GSの能力は自らの霊能力を使って、もしくは様々な力を借りて発動する。そしてその力で霊的現象に対抗するわ。それは現代の社会ではGSとして、霊能力として認知されている力で超能力とは言えないかもしれないけれど、異能の力であることは間違いないわ・・・。しかも、横島君の文殊はその中でも特に異能の能力よ。さっき令子も言ったでしょ?文殊は何でもアリの便利アイテムだって。どこの機関でも横島君を欲しがるのよ。横島君の文殊を使えば、誰だって念動力も瞬間移動も、そして相手の心を読むことだって可能だわ・・・」


話を聞いている令子の顔が段々と厳しくなる。
美智恵は話を続けた。


「今まではね、そういう能力者はGS協会とICPOがどんどん採用してその上部組織が管理と統制をしてきたわ。それは他の組織からすると『一部の不可思議な能力を持ったやっかい者達を子守りするだけの、実入りの少ない権益だ』としか思われていなかったのよ。でも、今回のアシュタロスの件で大きく情勢が変わったわ。どの機関でも能力者を欲しがるようになったの。自分の勢力で多くの有能な能力者を抱えることが、政治的にも軍事的にも経済的にも力に成り得る、それに気が付いたの。
今のGS試験は狭き門で、年間で数十人しかGS資格を得ることができないわ。でも脱落した大多数の受験者は、大なり小なり異能の能力者よ。世の中にはね、私達が思っているよりもそんな連中が沢山いるのよ。国内でエスパー部隊を作りたがっている連中は、全ての能力者をその力のレベルで分類する基準を作るらしいわ。そして能力者達を管理して、その力を利用していく方針なの。GS協会でも免許にS級やA級とかの区分はあるけれど、あれはただの名誉ですものね。

しかも能力者を管理運営していこうとする流れは、国内だけの話じゃないの、世界各国でもそうなりつつある。各国、各機関が能力者を積極的に集めて管理する流れになってきたの。もしかしたら、GSがGSとて独立した存在でいることが難しくなる時代が来るかもしれないわ・・・。
それにね、令子。あなたも注目の的なのよ。まぁ、あなたは昔からGSとして有名だったから仕方ないかもしれないわ。アシュタロスとの戦いでは功績を挙げたのはICPOで、美神令子はそれに協力したという形にはなっているけれど、ごく一部だけれど知っている人は知っている・・・。私やあなたの時間航行能力、そして横島君がどれだけ活躍したのかも・・・。だから令子、これからあなた達を取り巻く環境が変わるかもしれないの。私は、私の出来うる力の全てを使って、害を与える連中からあなたたちを守るわ」



美智恵の話を聞き入っていた令子は「ふぅ」と息を一つはいた。
そして、いつもの不敵な笑みを浮かべる。


「そう・・・、まぁ今より有名人になるのは悪い気分じゃないわ。でも私、管理されるのも世のため人のために働くというのも大嫌いなのよねー。私はガンガン稼いで、自分だけがリッチになるのが好きなんですもの!もし、ワケのわからない連中が私やママ、ついでに横島君にもちょっかいを出してくるようなら・・・、容赦はしないわ!」


令子の目元はグイと釣り上がり、その大きな瞳が爛々と輝く。
彼女の全身からは、触れてしまえば相手を焼き尽くすオーラが舞っている。
美神令子を本気で怒らせるつもりの奴がいたら、用心したほうがいい。
彼女はとても危険である。


「そうね。令子ならそう言うと思ったわ。だからね令子、横島君のこと気をつけてあげて頂戴。彼は心身ともに疲れきっているわ・・・。今度はあなたが彼を支えてあげてね」


その言葉を聞いた令子は、全身のオーラがへにゃりとしぼんでしまった。
もうママったら、そんなことを言うとせっかく盛り上がった雰囲気が台無しじゃないの。


「何よ、ママ・・・。私と横島君は、そんなんじゃ・・・。もう、分かったわ」


すねている娘を見ながら美智恵はクスリと笑う。
全く、素直じゃないわね。
誰に似たのかしら。


「明日の夜は楽しいパーティになると良いわね。私はこんな身体だから行けないけれど、みんなにヨロシクね」

「了解、ママ。それじゃあ明日のパーティを楽しむ前に、今夜の仕事をサクッと片付けちゃおうかしらね!」


令子はムンと気合を入れて美智恵にまたねと挨拶をして帰って行った。
娘を見送った美智恵は、こんな平穏な日々がずっと続いていけばいいのにと願った。













読んで頂いてありがとうございます。
話の進行が遅くてごめんなさい。
では、また次回で。



[2440] ああっ女神さんっ その13 修正・追加版
Name: かいず◆19b471f3 ID:79663dda
Date: 2008/03/17 02:37
お久しぶりです、かいずです。
第13話を大幅に修正と追加をしました。
書かれている内容が大幅に変更されました。
せっかく旧13話を読んでいただいたのに、ごめんなさい。
これから精進します。
あと、私も文珠の字が違っていました。
失礼しました。















「よーし、次の期末テストではここの所出るからな。しっかり復習をしておくように!」


先生が黒板を指差して締めの言葉を言った時に、ちょうど終業のチャイムが鳴った。


「ふぁーぁ・・・あー、しんどいわ~」


俺は眠い目をこすって大あくびをした。
今日最後の授業が終わり、教室内はがぜんにぎやかになる。
今日も俺は居眠りをしているうちに授業を終えてしまったようだ。
いつの間にか放課後だよ、おい。
クラスのみんなは、これから部活に行ったり進学塾へ行ったり遊びに行くやつもいるだろうな。
かくいう俺は、これから美神さんとこに直行しなくてはいかん。
まぁ、学生がバイトっちゅーのは珍しくも無いかもしれんが、俺のバイト先はまた特殊やからなぁ。
何を隠そう霊的現象を解決して高額の報酬を得る仕事、ゴーストスイーパーなのよ(見習いだけどな)。
それは命がいくつあっても足りん、まさにハイリスク・ハイリターンな仕事!
それなのに俺はいつも命が危険で、貰えるのは泣けるほどの薄給なのだ・・・。
でもでもっ、俺の上司の美神さんは、それはそれはステキなお姉さまなのだ!!

美神さんのナイスバディや様々な心躍るイベントが魅力的な職場だが、現実は厳しい!
今だに俺の時給は全然上がらんし、危険な目には馬鹿みたいに会うし。
本当にどうしょうもないバイトだが、なんか知らんが辞められないんやなぁ。
ううう、美神さんに丁稚根性を叩き込まれてしまった気がするぞ。
でもまぁ、今日も文句を言いながらもバイトに向かう俺は偉いな。
昔から「働かざるもの食うべからず」とはよく言ったもので、スズメの涙といわれる俺のバイト代とはいえ、収入が無くなるのは死活問題なのだ。

それにいつまでも俺がダラダラとした生活をしていては、ルシオラに怒られちまうからな。
せっかくあいつが俺を生かしてくれたのに申し訳ないよ・・・。
え、何?
さっき授業中、寝てただろうって?
あれはほら、最近は美神さんとこのバイトが忙しすぎてバテ気味なのさ。
アシュタロスの事でゴタゴタしていた時は仕事らしい仕事をしてなかったから、美神さんのストレスが尋常じゃなかったのよ。
あの人は、どんな時でも利益追求だからなぁ。
おっと、さっさと帰り支度をしないとバイトに遅刻しちまうぞ。


くたびれた鞄に教科書を詰め込みながら、ふと窓の外の景色を見る。
校庭の側に生える木々は、もうすっかり葉の色が変わっていた。
季節はもう秋だ、今の俺は高校2年生。
うむ、なんだかずっと高校2年生をやっているような気もするが・・・。
まぁ兎に角だ、俺もそろそろ進路を決めて受験勉強をしたり就職先を考えたりせにゃならんのだろうが・・・。
まだ何にも考えてないなー。
お袋からは「高校は卒業せえ!」ときつく命令されているし、卒業はなんとかしよう。
そんでしばらくは、美神さんの事務所でアルバイトのままでおるんかなぁ。
時給が今のまんまだと凄く辛いんやが・・・、どうにもならんやろなあ~。

ようし、忘れ物もないし、机の中もすっきりだ。
全く、教科書なんか机の中に置きっぱなしにして帰りたいのだが、こういうズボラをかますと愛子のやつがうるさいからな。
あいつは学校の机の妖怪だからか、こういうところは本当にマジメやしなぁ。
愛子のやつは、いつの間にかうちのクラスの委員長もやっているし、生徒会では副会長の職にも就いている。
そういえば、この前なんか俺のクラスで一緒に中間テストも受けていたぞ。
これって、ええんやろか?
まぁ、ええか。

そんなことをぼけーっと考え事をしていたら、ピートとタイガーに声をかけられた。



「どうしたんですか、横島さん?まだ調子が悪いのですか?」

「横島サン、まだ疲れが取れとらんのじゃノー」


声をかけてきた二人を見ると、すっかり帰り支度を済ましていたらしい。
俺の席の近くにやってきた。
俺は帰宅部で、放課後も休日も大抵は美神さんの所でバイトなので、クラス内では人付き合いが悪い方だ。だから話が合う奴がいないんだよな。
俺って寂しい奴だよなー。
つい最近までは、全人類の敵とか悪の手先とか言われて迫害されていたからな。
うう、隊長のおばはんがいらん作戦立てるもんやから、あかんのやっ。


そんなクラスでお豆にされている俺は、自然とピートやタイガーとつるむことが多くなった。まぁ同業者同士、仲良くやろうやってなもんだ。


「何をぶつぶつ言っているんです?横島さん」

「あ、いや。ちょっと独り言をだな」

「じゃっとん横島サン。あまり無理はいかんですけーノー。今日は久しぶりにカラオケなんてどうですかノー?」


実はタイガーは歌がうまい。こいつ意外と歌ってみると美声なんだよなー。
高音も低音もいける。
普段はこんなドラ声のくせによ。
ちなみにピートは音痴だ。
でも、こいつは実に気持ち良さそうに歌うから、それはそれでアリなのかもしれない。
実際、一緒にカラオケに行ったことのある女子は、そのギャップにうっとりするらしいぞ。
ああ、腹立たしいのう!
そんなこいつらからのカラオケのお誘いだ。
万年極貧の俺でも、こういうたまの付き合いには金を使ってパーッと気晴らしするのだ。
野郎ばかりが集まってカラオケなんつーのも寂しさ大爆発な感じだが、気兼ねなく騒げるのは魅力的だったりする。
でも残念、今日は行けないな。


「いやぁ、今日はこれからバイトなんだ。悪いな」

「あ、そうなんですか。残念ですね・・・。では、また誘いますから、その時は一緒に行きましょう!」

「ですジャー」


どうやら、二人だけでカラオケに行くみたいだ。
こいつら本当に仲が良いなー。
まさか、ガチホ・・・!
なわけねーよな。


「えーっ、横島君は行けないの?」


学級委員の愛子が自分の本体である机を担いで俺達の集まりに加わってきた。
愛子は自分の鞄や生徒会の資料をかかえて・・・、あ、本体の机の中にしまい込んだ。
あの中は異空間やからなぁ。
四次元ポケットよろしく、なんでも入るみたいだ。


「あー、今日は愛子もピート達と一緒なのか?いやー、俺も行きたいんだけどさ、バイトがあるしな」


俺がそう言うと、「それじゃあ、仕方ないわよね」と愛子はしょんぼりとした表情をしながら上目遣いで俺を見る。
うほ、ちょっと可愛い。


「あー、またの機会に誘ってくれよ。その時は俺の一八番の「ジョニー・ビー・グッド」を披露するからさ」


俺の言葉を聞いて、愛子はキョトンとした顔をしてから、実に嫌そうなニヤケ顔をした。


「それって、横島君の夢が実現した時のために練習しておかなくちゃって曲だよねぇ。もう何回聴いたのやら・・・。相変わらずスケベなんだから」


そう言って身体をよじりながら、俺から身を守ろうとするフリをしやがった。


「横島サンの夢って、何でしたかいノー?」

「ほら、あれですよ。確か、水着美女で満員になっているプールにタキシードを着て飛び込んで、ジョニー・ビー・グッドを歌いながら揉みくちゃにされるという夢でしたか・・・」

「ああ、そうさ!本当は他にも色々とオプションを付けたいところだが、我慢しなくちゃな。これは一般向け作品やしな!それに、やっぱり夢ってのはさ、でっかく持たないと駄目じゃん?」


「よ、横島サン・・・。とても・・・でっかい夢ですジャー」

「うーん、病んでますねぇ~」

「まぁ、横島君らしいといえば、らしいかも・・・」


やっぱり、あれだね。
夢は心の内に秘めるものかもしれんね。
俺に対するみんなの視線が痛いしさ。
さっきの夢は冗談やからな、本気にするなよな。
もう、そういうことにしといて・・・。

ちみなに他の連中の夢はというと・・・。ピートは、高校卒業したらオカルトGメンになりたいらしい。
タイガーは、次こそGS資格を取得したいらしいぞ。頑張れ。
愛子は、大学に進学したいらしい。
でも、大学となると今までみたいに学費もタダと言うわけにもいかないし、この学校にも居づらくなってしまうのが悩みの種らしい。
妖怪なんて、昔から学校もないにもないと相場が決まっていたのだが、このご時勢だ。
妖怪も金が必要なんだなあ。

おっと、そろそろ時間がヤバイ!
「んじゃ、サイナラー」と三人に軽く挨拶して、俺は教室を飛び出した。





「こ、こらいかん!遅刻じゃー!!」


俺は慌てて校門を飛び出して、美神さんの事務所に向かう。
もし遅刻をしてしまうと、美神さんはメチャクチャ怒られるしバイト料も削られてしまう。
どうしても間に合わない時は事務所に連絡をしておいた方が良いのだが、これがなかなか大変なのだ。
ほら、最近は公衆電話って見かけないだろ?
だから公衆電話を探しているうちに時間が経っちまって、余計に遅刻するんだよなー。
え?
携帯を使えって?
俺はな・・・、俺は携帯を持ってねーんだよぉ!!
うおーん!!
だって携帯ってさ、なんやかんやで結構金がかかるだろ?
俺にとっては携帯なんて高嶺の花なんじゃー!!
くそっ、誰が学割やねん!
でも、学校でも携帯持っていないやつなんて、少数派だよな。
うう、みんな金持ちだよなあ~。
俺はまだ高校生やってのに、ワーキングプアっていうやつになってるんやろか・・・。



ギリギリセーフか、はたまた遅刻か。
俺は慌てて事務所に駆け込んだ。


「どうも美神さーん、すんませーん遅くなりました。いやー、授業が終わって急いできたんすけれど、路上で俺のファンだって女の子達に揉みくちゃにされちゃって、なかなか放してくれなかったんすよ~。あら、横島君ったらテレビで見るより背が高くてもっと素敵なんですねとか言われちゃって!いやぁ、モテ過ぎるのも辛いっすねぇ~・・・」


俺は慌てて事務所に駆け込んで早々、遅刻の理由をペラーンと並び立ててみたのだが・・・。
室内を見渡せば美神さんと向かい合わせでソファーに座る客が二人。
スーツ姿の女性だが、二人とも見覚えがある顔だ。


「あら、お久しぶりです。横島さん」

「横島、相変わらずの挙動不審ぶりだな」


小竜姫さまとワルキューレだった。


「まったくもう、横島君。また遅刻?あんた、いつまでたるんでるのよ。もっと、シャキッとしなさいよね!」


美神さんは俺を睨みつけて、「まったくもう」とおかんむり状態だ。
いやぁ、時間厳守はどの世界でも大切やけれど、この事務所ではより重要なのだ。
なんたって、お仕置きがハンパやないからなあ。
今日は小竜姫さまやワルキューレの手前、酷い目には合わされずにすみそうだ。

ホッと胸をなでおろしていたら、俺の後ろのドアが開いておキヌちゃんがお盆にお茶と饅頭を乗せて入ってきた。


「あ、横島さん。小竜姫様からお土産に豆大福を頂いたんですよ。いま、お茶を入れたのでみなさんでいただきましょう」


おキヌちゃんは自転車で結構な距離を通学しているのに、全く遅刻をしないのが素晴らしい。美神さんの事務所に居候しているので、着替えもすっかり済まして今は仕事着である袴に着替えていた。


にこやかに笑いながら小竜姫さまが美神さんに話しかける。
「みなさん、相変わらず元気そうですねぇ。他の皆さんもお元気なんでしょうか?」

「そうね、まあみんな適当にやっているわ。でも、横島君がねぇ・・・」

おっと、いきなり俺のネタっすね。
うーん、でもこれあまり良い話じゃないから居心地が悪いなあ。
・・・・。






「ええっ!文珠が作れなくなっちゃったんですか?」

「なんだと?横島、いつから文珠が作れなくなったんだ?」

「いやー、あのですね。アシュタロスの件があってから、その後にあれっと気がついたら作れなくなっちゃってて・・・。あ、でも栄光の手やサイキック・ソーサーは作れるんすよ。どうなっちゃったんすかねぇ?」


ワルキューレと小竜姫さまは、俺のヘラヘラとした説明を聞いて考え込む。


「うーん、疲れや精神的なものに左右されるということも無いことはないと思うが・・・、一度詳しく調べてみるべきかもしれんな。どう思う、小竜姫?」

「そうですねぇ。私達でなんとかできたら良いのですけれど・・・。でもまぁ、横島さんが文珠を作れなくなってしまったのは大変なことですが、その他のことは問題がないようですね。あの戦いでよく・・・、よく生き残ってくれました・・・。色々とありがとう、横島さん」


そう言われると、俺も胸がグッとくる。
そうだよな、色々あったよな。


「いやぁ、俺は何も出来ちゃいなかったんすけれど・・・。小竜姫さまにそう改めて言われると、照れるっすねぇ」

「小竜姫だけではないぞ。私もお前の活躍を認めている。本当によくやってくれたな横島」

「ワルキューレ・・・。あんたにそう言われると、なんだかくすぐったいな。俺はまだまだだよ。いや、我ながら良く五体満足でいられたなぁって感じだしな。俺一人の力じゃ、今ここにいられないよ」

「横島さん・・・。あなたは立派に戦ってくれました。初めてあなたに会った時は、この人には何かがあるとは思っていましたが、まさかここまで成長するとは思っていませんでしたよ。ふふ、私の目も捨てたものではないですね」


いやぁ、美女二人に褒められるのは悪い気はしない。
むしろ有頂天だ。
俺の顔は緩みっぱなしになるよ、もうフニャフニャだ。


「ふん、横島君!二人に褒められたからって、デレデレしている場合じゃないわよ!まったく、この男はすぐに付け上がるんだから、小竜姫さまもワルキューレもあまりチヤホヤしちゃ駄目よ。でも、不思議よねぇ。横島君の霊力は前よりも落ちているって訳でも無さそうだし何が原因なのかしら・・・。ここのところ、あんたの煩悩もなんだか落ちているみたいだし・・・」


ええっ、そうすか!?
自分ではそんな感じはないけどなぁ。
でも、前みたいに衝動的にかっ飛んでいくような煩悩はないのかな?
やっぱり、少しの間だったけれど女性を本気で愛したというのが関係しているのかな?
何事も経験が人間を成長させるのかもしれないな。
でもまて、まてよ・・・。
これはもしかして、美神さんの嫉妬?
いつもガツガツしている俺が、急につれない感じになっちゃったから心配になっちゃった?
Oh!なんたることだ!
ええい、俺ってば寂しい美神さんをほったらかしにして、なんたる怠慢!
早速、美神さんにロックオン。
無意識にビューンと飛び掛かる。


「ああっ、もしかして美神さん!最近、俺がお風呂とか覗きに来なかったから寂しい思いをさせちゃったんすよね!んもぅ可愛いよー、俺の令子ーぉ!」


「前言撤回。アンタ、やっぱり煩悩の塊だわ」


右ストレートでみごとに迎撃されました。




「そ、そうっすかねぇ、やっぱり・・・。いや、でも前みたいにガツガツしてるって感じはないでしょ?オネーちゃんが好きなことには変わりが無いんすけれどねぇ」

「まぁ、いつまでも煩悩特盛りのクソガキでも困っちゃうから、少しは落ち着いてくれたほうがいいのかもね。でも、その煩悩が関係しているのかしれないけれど文珠が作れないのは痛手だわ。あれ、あると便利なのよねー。高いお札とか使わなくて済むし。経費が浮くのよね。文珠の元手もタダみたいなもんだし」

「ちょっ!ちょっとちょっと、美神さん!お札代が浮くんなら少しくらいバイト料アップしてくださいよ!文珠作るのってかなり精神力がいるんですよ。日頃の栄養が偏っていたら、出るもんも出なくなるわ!」

「何言ってんの?この前にバイト代を一気に50円も値上げしてあげたじゃない。もう贅沢言ってんじゃないわよ!それに丁稚奉公の癖に一儲けしようと画策するなんて、人の道に反しているわ!」

「くぅぅ、滅茶苦茶や・・・。この人に、この人に人の道を説かれるなんて・・・。鬼や、現人鬼や・・・」



「まぁまぁ、横島さん。落ち着いてください」とおキヌちゃんが俺をなだめに来た。
うう、おキヌちゃんありがとなあ。
そうだ、おキヌちゃんも言ってあげてよ。
こんな「ああ野麦峠」に出てくる工場みたいな所で働かされている俺達は、協力してこの悪徳工場長に立ち向かわなアカンのや!
あれ?おキヌちゃん、なんで俺の顔を見てくれないの?
もしかして、俺の時給よりも・・・高いの?


俺は崩れ落ちるように床にうずくまりシクシクと泣き出してしまう。
申し訳無さそうな困った顔をしてその背中をさすっているおキヌちゃん。
その光景を生暖かい視線で見ている美神さん。
いつもの美神事務所の日常だ。




「みなさん、相変わらずにぎやかですねぇ」

「まったくだ、騒々しいったらないな」

いつの間にかテーブルの上にあった豆大福は、ワルキューレによって完食されていた。
口の周りに白い粉を付けて、今も口をモニュモニュしてる。
まだ俺、食べてなかったんだけど・・・。


「ゴクリ。ふぅ、美味かったな・・・。ちなみに横島。今、手元にある文珠は幾つあるのだ?」

「えーと、今の手持ちは5個かな。でも、もしかしたら部屋に戻って探せばあと2、3個くらいは出てくるかもな」

「うん?どういう意味だ?」

「自分が知らない内に文珠が出てくることがあるんだよ。寝てる間とかさ。それが部屋の中に転がってるかもしれないなーって。部屋が汚いから発掘する必要があるけどな」

「ふむ、そうか。自分が知らないうちに出てくるなんて、まるで夢精みたいなもんだな。まぁ、若い男だし当然か。元気があるのは結構だ」


今、サラッと凄いこと言いましたね。
言いましたわよね、奥様。


「げっ!ム、セーって・・・。も、文珠って、そんなカテゴリーに含まれる代物なのっ!?」

「ワルキューレ!たとえが悪いですよ!たとえが!」


美神さんは「えーっ、私、今まで素手で文珠を触りまくってたわよー」と引きまくり。
おキヌちゃんは、赤い顔をして知らん振りをしていますよ。
小竜姫さまはガーッとワルキューレに詰め寄るが、当の本人は「私はそんなに変なこと言ったか?」と不思議顔だ。



「別に生理現象にたとえたまでのことだ、恥ずかしがる話題でもないと思うが・・・。まぁ、私は軍隊にいたから男共が下世話な話題で盛り上がっているのに慣れているし、感覚が違うのかもしれないな。あと、私には弟のジークもいるしな。姉の私としては、思春期の時の弟には色々と気を使ったものさ。ここだけの話だが、ジークはその手の本をベッドの下によく隠していたが、本命のモノはベッドのマットレスの中に巧みに工作してねじ込んでいるのが常だったな。一度、ジークの部屋を物色していて姉と弟の関係をテーマにしたモノが出てきた時はさすがの私もドキドキしたものだが・・・、これも良い思い出だ」


その場にいるワルキューレ以外の全員の目が泳ぎまくる。
これは、笑うの?ツッコムの?流すの?
各々がどうして良いものやらと途方に暮れる。
ジーク、お前も大変だな・・・。
でも、お前のお姉ちゃんのおかげで、俺とお前の心の距離がぐんと近くなった気がするよ。
ふと見上げた青空に、にこやかな笑顔を浮かべたジークが敬礼しているのが見えた。
あいつ、無茶しやがって(特に姉が)・・・。


「室内なのに青空が見えちゃいますね、美神さん」

「そうね、ジークの笑顔がとても素敵よね。おキヌちゃん」




途方に暮れる我々をよそ目に、ワルキューレは話を続ける。


「話が長過ぎたかな。さて、横島も手持ちの文珠が5個では心もとないだろう。これは貴様に返しておこう」


ワルキューレが、ポケットから出したのは1個の文珠だった。


「あれ?これもしかして、前にあげたやつ?」

「そうだ。ベルゼブルにやられて重傷を負っていた私に、貴様がくれた文珠さ」


そうだ、思い出した。
妙神山で美神さん達とデミアンを倒した後に、また自然に文珠が2個出てきたんだ。
それでワルキューレとジークとの別れ際に、治療の足しになるかもしれないとワルキューレにその文珠を1個あげたんだったっけ。


「あんた、その文珠を使わなかったのか?」

「ああ、私の不注意で負った怪我などで貴様から貰った文珠を使ってしまうのがなんだか申し訳なくてな・・・。私の勝手な考えだが、この文珠は自分の戦士としての甘さに対する戒めとして持たせてもらっていたんだ。あと、私が認めた戦士が生み出した記念の文珠だ。おいそれと使うことはできなかったよ・・・。この文珠は元々貴様のものだ。1つでも手元にあった方が助かるだろうし、これは貴様に返そう」

「そうだったのか・・・。でも、返さなくてもいいよ。それはあんたにあげたんだしさ。そんな物で記念にならさ、持っててくれよ」

「そうか・・・、ありがとう横島」


ワルキューレは差し出した手のひらに乗せた文珠を軽く握り締めてから、大事そうに両手で包み込んだ。


「あ、あの横島さん、私もあなたにお返ししようかと思っていたのですが・・・」


小竜姫さまも差し出した手の中に、文珠を1個持っていた。
そうそう、ワルキューレに渡した後に小竜姫さまにも文珠を渡したんだった。


『俺、修行のおかげで、こんなことが出来る様になりました!小竜姫さま、色々とありがとうございます!そうだ、これもし良かったら貰ってください。本当なら初めて作った文珠を渡した方が良いけれど、さっき全部使っちゃったから2回目に作ったヤツで勘弁してください!』


確かこんなことを言って、記念に貰って下さいってことで小竜姫さまに文珠を渡したんだった。
文珠を作れるようになったのが嬉しかったのと、戦いの後もあってテンションが上がっていたのかな。
うーん、これは恥ずかしいぞ。
もちろん、小竜姫さまに感謝している気持ちはとても大きい。
あと、文珠を渡す時に握り締めた手はとても柔らかくて、暖かくて、スベスベだったなぁ・・・。


「私の弟子の一人である横島さんが修行を重ねた結果、作り上げた大事な文珠ですからね。私も大切に持っていたんですよ。私もワルキューレと同じように、横島さんに返した方が良いかもと思っていたのですが・・・」

「いえいえ、小竜姫さまも返さなくてもいいっすよ。いやぁ、二人とも大切に持っていてくれて嬉しいなぁ」


俺が照れ笑いを浮かべていると、話を聞いていた美神さんがポツリとつぶやいた。


「そっかぁ。横島君が貰わないんなら、私が貰っちゃおうかしら♪」


でた、美神さんのK・Y。
勝手に・やりたい放題である。
その場が急激に冷え込んでいく雰囲気を察した美神さん。
「じょ、冗談よ、じょーだん!」とホホホ笑いをしていたが、あんた本気だったやろ。
全く美神さんときたら、今までも出来た文珠は容赦なく年貢として持って行くし、この二人とはエライ違いだなぁ。


「そう言えば、美神さんには定期的に作った文珠を渡してましたけれど、手元には幾つ残っているんですか?」


テヘっと笑って美神さんは、「えーっと・・・、少しだけっ!」


うおっ!可愛い顔をして誤魔化したよ・・・。
多分、美神さんの手元にはまだ余裕があると思うなぁ。
まぁ、返してもらいたい訳でもないし別にいいけどさ。




そんなこんなで、その後も俺達はお互いの近況を話したりして、楽しく時間を過ごした。
話によると、小竜姫さまとワルキューレは急にこちらに来ることが決まったので、今日は泊まる当てがないらしい。
そこで美神さんの発案で「だったらこの事務所に泊まれば良いわよ」ということに決まった。
部屋はまだあるし、おキヌちゃんも二人が泊まりに来てくれるので嬉しそうだ。
さすが美神さんは気が利くなぁと思ったが、二人に恩を売っておきたいという気持ちもあるかもしれない。
まぁ、美神さんのことだから両方かもな。







「そろそろ集合時間のようだ。出かけるとしようか、小竜姫」

「そうですね。では皆さん、また後ほど。美神さん達もお仕事気をつけてくださいね」


そう言って二人は事務所から出て行った。
そろそろ俺達も依頼主の所へ行かなきゃならないな。
俺はいつも愛用しているリュックサックを持ってきて、中身を確認する。
何を持っているか把握しておかないと、とっさの判断ができなくなるからな。


プルルルルルルルルル・・・・。


おキヌちゃんが電話に出る「はい、美神除霊事務所です・・・。はい、はい・・・、少しお待ちください・・・」


「あのう、美神さん。今、東都大学から依頼がありまして、構内で霊が出たので除霊して欲しいとの依頼なのですがどうしましょう?今すぐにでも来て欲しいみたいですけれど・・・」

「えーっ!今から!?そんなこと急に言われても、こっちはこれから除霊の仕事が3つも掛け持ちであるんだけれど、どうしようかな・・・。それでおキヌちゃん、依頼額は?」

「●千万円でお願いしたいそうですけれど」

「へぇ、断るには少し勿体ない金額ね・・・。じゃあ、いいわ、じゃあ今日の仕事は二手に分かれましょう。横島君、頼んだわよ!」

「え!今日は俺一人ですか?」

「そうよ。前にも一人で除霊したことあるじゃない?東都大の方が早めに片付いたら、私の方に合流してちょうだい。あ、そうそう。お札を使いすぎちゃ駄目よ、勿体ないから」


どうやら今日の一発目の仕事は、俺一人でやらなきゃいけないらしい。
うちの事務所は所長の美神さん以外に俺がGS資格を持っているので、所長代理として俺が仕事をしてもオーケーなのだ。
ここしばらくは、荷物持ち生活に戻っていたから少し緊張するなー。


「あのう、美神さん。私、横島さんについて行っても良いですか?」


突然、おキヌちゃんがモジモジしながら言った。


「横島さん、まだ本調子じゃないみたいですし、東都大の除霊の内容なら私が行けば色々とお手伝いができると思ったんですけれど・・・」


美神さんは、しばらくウーンと考える。


「そうね、そうしましょう。私の方はどうにでもなるし、横島君一人に任せておいたらどんなヘマするか分からないものね。じゃあ、おキヌちゃん、頼んだわよ!」


「ハイ!」と元気に答えたおキヌちゃんは、とてもすまなそうな顔をして俺に「ごめんなさい、横島さん。私が出すぎた事をしてしまって・・・。もしかして、迷惑でしたか?」と聞いてきた。


いやぁ、こちらとしては渡りに船だ。
除霊ならおキヌちゃんのネクロマンサーの能力が如何なく発揮されるだろう。
今回は俺がサポートに徹した方が、スムーズに仕事が終わりそうだ。


「全然!大助かりだよ!二人でさっさと除霊しちまおうぜ!」


俺は美神さんの愛車・コブラのトランクに除霊アイテムを積みなおして、自分達用にもいくつかの除霊アイテムを持っていくことにする。
東都大学はここからそんなに距離も無いし、電車ですぐだな。
俺とおキヌちゃんは美神さんのコブラを見送ってから事務所の戸締りをして、東都大学へ向かう。




駅を降りてから歩いて数分で東都大学の正門に到着した。
東都大は日本中の賢い連中が集まる一流の大学だ。
うーん、俺には仕事じゃなきゃ一生来ることのない、縁が無い所だよなあ。
そう言えば、一度、知り合いの合格発表を見に来たことがあったな。
確か厄珍のロクでもない受験合格アイテムで、振り回されたんだよ。
あの浪人生は元気にやってるのかな?
俺の隣の部屋に住んでいたけれど、引っ越してしまってからはどうしているかは知らないな。
さてと、俺たちを構内に案内してくれる大学の関係者が、正門前で待っていてくれているはずなんだが・・・。
おっ?正門前に一人でボサーッと突っ立っている男がいるぞ。
髪はボサボサで牛乳瓶のフタのようなメガネをかけたやせ細った男だ、学生かな?
着ている服はヨレヨレで、オシャレには程遠い野郎だ。
まぁ、俺も人のことは言えないがな。
その男と目が合うと、俺達に気が付いた男は急いでこちらに走ってきた。
あれ?どこかで会ったことがあるような気がするぞ。


「あ、ども、どもぉ!急な話で本当に申し訳なかったなぁ~。美神除霊事務所の横島君とおキヌちゃんらろ?いや、久しぶりらー、おらのこと覚えているらろか?」


「え・・・?お前、浪人か!?」


「あ、浪人さん!?」


俺達は久しぶりに浪人と再会した。













[2440] ああっ女神さんっ その14
Name: かいず◆19b471f3 ID:79663dda
Date: 2008/03/25 02:00

「いやぁ、久しぶりらろー」


なんと、俺達に声をかけてきたのはあの浪人だった。
浪人は俺達の側まで息を切らして駆けて来る。
おキヌちゃんも久しぶりの再会で驚いた顔をしていたが、すぐに笑顔になって興奮気味に話しかける。


「浪人さんじゃないですか!お久しぶりです!元気にされてましたか?」


「んだぁ、おら元気にしてたろー。ほんと、おキヌちゃんにはおらが受験生の時は世話になったなぁ。おキヌちゃんに人間は頑張れば何でもできるって励ましてもらったおかけで、おら三浪はしたけれど四度目の正直で合格でけたし、今は学業に専念してるんらろ。うんうん、おキヌちゃんも元気そうでなによりら。あ、おキヌちゃんは幽霊さんだからそんなことを言うのは失礼だったかなぁ・・・。あれ・・・?おキヌちゃんは宙に浮いていないし、何だか実体感があるというか何というか・・・。も、もしかして?」

「はい!色々あったんですけれど、私、横島さん達のおかけで生き返ることができたんです!今は生身の身体なんですよ!」


浪人はポカンした顔をしていたが、すぐに満面の笑顔になった。
そしておキヌちゃんの両手をギュッと握り締めて、ブンブンと振り回す。
コラコラ、興奮しすぎだぞ。

「そっかぁ!そっかぁー。良かったなぁ。おキヌちゃんも頑張ったんだなぁ」


再会した二人は、俺を差し置いてワイワイと歓談し始める。
浪人のやつは、何となくだがおキヌちゃんにホレてる感じだったしなぁ。
デレデレしちゃって、全然面白くないのー。
おキヌちゃんも懐かしさもあって、楽しそうに話をしているなあ。
うーん、俺一人が蚊帳の外になっているのは面白くないのう。


「おや、横島君。君も来てくれたんらね」

「お前!さっき俺と確実に目があったやないか!無視すなっ!」

「いやいや、ゴメンゴメン。おらとしたことがつい興奮してしまったなあ。今日、うちの大学に除霊しに来てくれるのが美神除霊事務所の人達と聞いた時は驚いたろ。前におキヌちゃんと話をした時にこの事務所で働いているって聞いてたから、もしかして会えるかもしれねって思ったんら。いやぁ、おキヌちゃんも元気そうで良かったろ」

「あー、そうだったんですか。おかげ様で私はピンピンしてますよ!」

「ちなみに横島君は人類の敵ってテレビや新聞で報道されていたから、元気そうなのは把握してたろ」

「うぐっ。知らないうちに近況報告していたんだな、俺・・・」


クスクスと笑って話を聞いていたおキヌちゃんが、ふとあることに気付いた。


「そう言えば・・・。私、浪人さんのお名前知らないのですが・・・、ごめんなさい。私、前に聞いたのに忘れてしまったのかしら」

「いや、おキヌちゃん。そういえば俺も知らないぞ。確かずっと浪人って呼んでいたと思うぞ」


よくよく考えたら失礼な話だよな。
おキヌちゃんも今の今まで、浪人さん呼ばわりしていたことが申し訳なくなってションボリとしている。
さすがの俺もバツが悪いなぁ。


「あー、そうらな。初めて合った時から二人には浪人って呼ばれていたからなぁ。おらもまあそれで良いかなって思ってて、そのままだったんら。いや、おらこそ自己紹介が遅れて失礼しました。改めましておキヌちゃん、横島君。今日はおら、浪人三郎(なみひと・さぶろう)が構内を案内させていただきますら」

「なみひと・・・、さぶろうさん・・・ですか」

「なみひと・・・、さぶろう・・・ねぇ」


俺とおキヌちゃんは、コソコソと肩を寄せて小声でプチ会議を開催する。
浪人の名前は「浪人三郎(なみひと・さぶろう)」だそうである。
何となくだが・・・、受験したら浪人して三浪しちゃいますみたいな感じの漢字じゃん?
ご両親は何を考えているのかねえ。
なんてな、それはさすがに失礼な考えだよ。
いや、まてよ。
確か浪人は、三浪していたような・・・・。
俺とおキヌちゃんは、ドキドキしながら発言をする。


「なぁ、浪人・・・。あのさ、今のまま(ろうにん)って呼んでも良いか?」

「そうですよね、横島さん(ニコッ)。私も(ろーにんさん)って呼び方には親しみがありますし・・・。このままの呼び方でオーケーということにしませんか?浪人さん?」

「えっ?何故ら?おら、ちゃんと自己紹介したはずなのに一度も本名で呼んでもらえずに、結局あだ名のままらろ?このまま、浪人のまま話が展開するのらろか?」


浪人は「アレっ、おかしいな?」と首をひねっている。
まぁ、俺の名前も煩悩丸出しでアレな感じだが、浪人もいい味を出しているよな。
浪人は自分の名前のファンクさには気が付いていないのだろう。
いらんこと言って、「もしかして、おらが受験に苦労したのは自分の名前の為だ」とか思い込んで悩まれても困るから黙っておこう。


結局、浪人三郎の呼び名はこの日からずっと「ろうにん」と呼ばれることになった。
将来あいつがどんなに偉くなっても俺たちからは浪人さん呼ばわりなので少し気の毒なのだが、本人は浪人と呼ばれること自体は気にしていないみたいなので、まぁ良いとしておこう。





さて、ここで浪人から依頼内容を聞いて再確認しよう。
ここ一週間ほどの間に学生や教職員の間で幽霊を見たとか、誰もいない廊下ですすり泣く声が聞こえる等の怪奇現象が頻繁に起こるようになったらしい。
そこで受験シーズンも近いことだし、名門大学に変な噂が立ってもかなわないということで、俺達が呼ばれたわけだ。
ところで、何で浪人が俺たちの案内係をやっているの?


「いやぁ、学事課のアルバイト募集にあったんろ。ここは学生に何でも丸投げする自由な校風なんらよ。講義なんて代返・休講、成績はレポートのみなんて当たり前の大学なのら!」


「あー、そうなんや」と冷静さを保つ俺。
そんなアバウトな校風でいいのかよ。
あ、今気付いたんだが、もしかしたら今回の仕事で貰うアルバイト代は浪人の方が多いかもしれないなぁ。
俺もこんな大学に入って楽してぇなぁ。
進学をまじめに考えようか?




俺とおキヌちゃんは、浪人に案内されて構内に入る。
なんだ、全然人が居ない。
賢くて可愛い大学生のお姉さま達に会えるかもと、ちょっぴり期待してたのにぃ。
めがね美人の年上お姉さまなんて、最高じゃないっすか!
それなのによー、忠夫ショック。
どうやら今日は夕方から構内の除霊が行われるということで、大学側が学生を早々に帰してしまったようだ。
全くいらんことをしやがって!
この俺の大活躍を見てもらって、チヤホヤしてもらおうと思っていたのにな。
そんな不埒なことを考えていたら、俺の心の声を読んだおキヌちゃんに「もう、横島さんったら」と小声で怒られた。
まじめにやる時はやるから許してよ~。


秋の夕暮れ時、東都大学の広大なキャンパスに人影はなく、俺達だけがこの世界に取り残されてしまったかのような錯覚を覚えた。
構内は寂しげな雰囲気なのだ。
えっと、そのはずなんだけれどな。
先ほどから気になっていたのだが、学生は居ないが結構な数の霊達が構内を闊歩している。


「なあ、浪人・・・。これ全部、除霊するの?」

「はあ・・・、大変なことになってるんらよ。これじゃ、講義やサークル活動なんてしていられないんらろ」

うーん、軽く片付けて美神さんと合流しようと思ったが、これは一大事だぞ。

「どうよ、おキヌちゃん。何か聞いていた内容よりもハードな感じになりそうなんだけれど」

「そうですね・・・。これだけの数の霊達を成仏させてあげるとなると、かなり大変かもしれません。それに、今でも霊達が集まって来るんですけれど。何かあの霊達を引き付ける物が構内にあるのでしょうか?」


そうだなぁ、確かに今でも俺達が入ってきた校門からも霊達がぽつりぼつりとやって来る。
そのうち、学生が居なくなっても代わりに霊達が学生でもいいじゃんかと言うくらいの数になってしまったら大変だ。
ベタだが、幽霊学生、幽霊サークルが実現するわけやね。
俺の側を通りかかった霊が何やらブツブツ言っている。

『あいつが受かったのに、なぜエリートの俺が落ちるんだ・・・』
『俺は合格してここの学生になりたかったよ・・・』
『あれだけ勉強したのに、あれだけ勉強したのに・・・』
『もっと、力だ・・・。力があれば・・・』
うお、何よ?こいつらここ受験したことあるのかよ。


「どうやら、生霊も混じっているみたいです。この大学へ入学したかった強い思いが、
霊になってここに集まっているのでしょう。それと、よく霊達の動きを観察してみるとあの建物の方に霊が引き寄せられていくようですが・・・」

「お、おらも、また不合格になっていたら生霊を生み出してたかもしれないろ・・・」
受験時代を思い出したのか、「いやぁ~」と絶叫する浪人。

「こりゃ、さっさと片付けた方が良いかもしれんなぁ。ところで浪人、あの建物は何なの?」

「あ、ああ。あそこは工学部の旧研究棟らね。あそこには色々と資材や資料やガラクタが沢山あるろ。もしかしたら、その中に何か霊達を引き付ける物があるかもしれんね」


じゃあ、そこへ行ってみようぜ。
霊達の興味を引き付ける物を見つけるのが先決だ。
俺達は、霊がウロウロする構内をこっそりと迂回して旧研究棟を目指す。





小竜姫とワルキューレは美神除霊事務所を出てから電車を乗り継ぎ、待ち合わせ場所となる駅に到着した。
彼女達が駅の改札を抜けて駅前広場にある時計台を見上げると、ちょうど時間は午後5時50分前の針をさしている。
時計台は大掛かりなカラクリ時計であった。
この時計台は駅前の待ち合わせ場所には最適なのだろう、待ち合わせをする人々で賑わっている。
その大半が、今から夜の街に繰り出そうとするカップルや仕事帰りの男女の集まりである。
彼女達の待ち合わせに指定された場所も、その時計台の側だった。
そこでしばらく上司にあたる人物を待つ。

夕日が落ちかけて空に暗い青みが増すこの時間帯、繁華街にあるこの駅前では人々の活気がうねっている。
小竜姫は「さすがに繁栄している都の繁華街ですね」と感心していた。
彼女はこのような人混みにはなれていないが、ワルキューレは任務で人間社会に接する機会が多かったということもあって落ち着いたものだった。
小竜姫の目の前で、久しぶりに再会したのだろうか仲むつまじいカップルが幸せそうに立ち去ったのを彼女が横目で追っていると、ふいにワルキューレが話を振ってきた。


「なぁ、小竜姫。先ほどの横島の話をどう思う?」

「文珠の件ですか?あれは多分、あなたが思っているとおりだと思います。美神さんも気付いているんじゃないでしょうか・・・」

「そうだな、やはりルシオラか・・・」


彼女達はまた黙って、行き交う人達の波を見送る。
待ち人である上司はまだ来ない。
二人は会話を続けた。


「そうですね・・・。わたしも横島さんの壊れた霊基構造をルシオラの霊基構造・・・魂で補ったと聞いた時はまさかと思ったのですが・・・」

「そうだな、大が小をかねることが出来ても、小は大をかねることはできない。いくら加減をしていたかもしれないとはいえ魔族ルシオラの強力な霊力を注がれて、横島の霊基構造がマトモなままであるはずがあるまいよ。本来なら、ルシオラにその気が無くても力のあるルシオラの霊力が横島の霊基構造を浸食することになるだろうに。全く、今の横島が人間のままで正気と身体を保っているのは奇跡だな・・・」

「ええ、そう思います。今の横島さんは横島さんであるけれど、横島さんではない・・・。霊基構造のほとんどがルシオラのものに書き換わったのですからね。一時的に特殊な文珠を作ることができたみたいですが、それも長くは続かなかったのでしょうね。今でも霊波刀や霊気の盾くらいなら問題なく作れるでしょうが、特殊な霊力アイテムの文珠となると横島さんの霊基構造が万全でないと作り出すのは難しいでしょう・・・」

「しかし、このような事例は初めてだから予想の話ばかりになるな。まぁ、私はあの時のルシオラの行動をどうこう言うつもりはないさ。そうしなければ、横島は確実に死んでいたしな・・・。そして今でもルシオラは横島の体内で休眠中というわけか・・・。いや、この分だと横島を人間として維持するのに、24時間・年中無休で働き詰めかもしれんな」

「そうですね。彼女は多分、横島さんを人間のままでいさせたかったのでしょうね。一か八かの賭けだったと思いますよ。今のところは彼女の霊基構造が横島さんの霊基構造を主として補うことによって、日常生活には支障がないみたいですし。このまま様子を見ても良いのかもしれません」

「うむ。横島がルシオラに影響されて魔族化ということもないだろう。まぁ、そうなったらなったで、私が魔族の先輩としてビシバシと鍛えてやっても良いがな」

「ふふ、そうですね。でも、それでは師匠としての私の立場がありませんね」


小竜姫とワルキューレは自分達の周りに結界を張って横島のことについて話をしていたので自分達の会話を聞かれることは無いし、認識をされることも無い。
しかし、夢中になって会話をしていた二人は突然に声をかけられて驚いた。


「そこまで分かってるなら、話が早くて助かるわ」
「そうですね。では、簡潔に説明をするとしますか。もう時間もありませんし」


彼女達が驚いて振り返ると、いつの間にか二人の男が佇んでいた。





最初に彼女達に話しかけた男は、かなりの長身だ。
男の胸板は厚く、腕周りは太く、太ももは逞しく盛り上がっている。
柔軟な筋肉と太い骨格がうかがえる力に満ちた体躯。
その服装は、黒の皮ジャンに黒の皮パンツと全身黒ずくめであった。
シャツをラフに開けた胸元や、ゴツゴツした手に不似合いな形の良い指には、数々のアクセサリーが光を放っている。
そして印象的なのは、燃えるような赤銅色の髪と瞳。
全身から立ち上る男の危険な臭い。
威圧感と同時に不思議な魅力を感じさせた。


もう一人の男は最初の男ほどではないが、充分に長身で恵まれた体格をしている。
もし、タイプで分けるならダンサーやモデルに属する部類の体躯であろう。
黒く艶のある長髪を無造作に束ね、ほっそりと形の整った顔に柔らかな光を浮かべる瞳。
着ている物は淡いグレーのジャケットに黒いパンツとシンプルな格好であるが、女性なら誰もがため息を付くだろう立ち姿。
銀色の眼鏡が、彼の知的な魅力をさらに増しているようにも思えた。

「あ、あなた方は・・・」と小竜姫は絶句し、「閣下・・・」とワルキューレは息を飲み込んだ。

革ジャンの男はポケットに突っ込んでいた手を抜き、のそりと腕組みをしてからニヤリと彼女達に話しかける。


「よう、久しぶりやな小竜姫にワルキューレ。今は人間の格好はしているが、わしらが誰かは分かるな?」

「は、はい・・・。もしやとは思いましたが。そうですか、特殊な任務という意味がようやく分かりました」


小竜姫が声を搾り出すように答えると、ワルキューレも緊張した面持ちでうなずいた。
彼女達が緊張するのは無理も無い。
彼女達の目の前にいる二人は、両陣営の最高指導者なのだから。


「そうですね。では、要点を言いましょう。今回は我々から特別な任務をお二人に命じます。横島忠夫の監視です」


ジャケットの男は透き通る様な、しかし無感情な声で二人に横島の監視を命じた
「「か、監視ですか?」」と彼女達は言葉の意味がうまく理解できずに、オウム返しをしてしまう。


「はい。横島忠夫・・・、彼はあなた達が話していた様に我々から見たら人間でもない、魔族でもない中途半端な存在です。彼の存在が今後、世界にどんな悪影響を及ぼすか分かりません。我々としてはですね、そんな不安定要素になりそうな危険人物を人間界に置いとくわけにはいかないのです。そう言う訳でしばらくはお二人に監視していただいて、時がきたら彼を拘束します」


「拘束」という言葉を聞いた小竜姫は青ざめていた顔にさらに驚きの表情を浮かべる。
普段の彼女ではありえない、食い入るようにジャケットの男に質問をぶつけてしまう。


「拘束・・・、横島さんはどうなってしまうんでしょうか?!」

「はい?拘束してからですか?そうですね・・・。本当は今すぐにでも彼を拘束した後、霊気構造の解析をして、その後の彼は永久保存の身となりますねぇ。残念ながら、彼が今の彼のままであるということは無いでしょう・・・。いや、少々喋りすぎました、私の悪い癖です」

普段は簡単に口を利くことが許されない上司に対して、小竜姫とワルキューレは食い下がる。

「そ、そんな!それはあんまりです!」

「そうです!お言葉ですが、横島は今回の戦いの功労者ではありませんか!それを拘束・解析などとは・・・」


「なんや、お前ら。これはわしらと両陣営の最高議会で決定された事や。それに文句があるんか?」

革ジャンの男は、ギロリと大きな目で二人を見据える。

「そ、それは、それは・・・」




「これはもう決定事項なんや。君らはな、わしらの言うことを素直に聞いてチャッチャと任務に励めばええことやさかい。頼んだで」

「そういうことでよろしいですね、お二人とも」


革ジャンの男とジャケットの男。
彼女達にとって、上司の命令は絶対である。
しかし、この時だけはその絶対は絶対ではありえなかった。


「いえ・・・、私はできません・・・」

「閣下、私もその任務は承諾しかねます・・・」

「小竜姫さん、それは何故でしょうか?」とジャケットの男が問う。


「確かに今の横島さんは、不安定なところがあるかもしれません。しかし、そう悪い方ばかりに決め付けることは無いと思います!もし、私達が横島さんの側にいることができるのなら、そんな不幸なことにはさせません!どうか、ご再考を!」

「ワルキューレさんはどうでしょうか?」と再びジャケットの男は問う。

「私も小竜姫と同じ意見です・・・。今まで私が見てきた横島は、私の想像の上を行く成長や結果を見せてくれました。今回も横島の霊気構造の安定などの諸問題は、周りの者達がサポートすれば将来の危険を回避できる可能性は高いと思われます。監視などではなく、横島に対するサポートが必要かと・・・。あの戦いであれだけのことを成し遂げた男です!」


ジャケットの男は目を閉じて話を聞く。
革ジャンの男は、フンと鼻を鳴らして口元をニヤリとゆがめる。


「そうですか・・・。二人とも我々上層部の決断には従えない、そういう事でよろしいですね。答え如何では、あなた方二人も重い処分の対象となりますが。小竜姫さん、ワルキューレさん、それでよろしいのですか?」


二人は横島からもらった文珠を取り出し、手のひらの上に。
そして、その文珠をキュッと握り締めて答える。


「はい、覚悟しております」
「覚悟できております」



「そうか。我々の中ではお前達二人が、横島に一番近いということで選出したんやけれどな」


黙っていた革ジャンの男はのそりと動いた。
どうする。
彼女達が任務に就かなければ、代わりのものが横島忠夫の監視の任に付くことになるだろう。
彼を逃がさなければならない。
それが無駄なあがきであったとしてもだ。
小竜姫はワルキューレとアイコンタクトをとる。

(私がここを引き受けます・・・、ワルキューレ、あなたは横島さんを連れて逃げてください・・・できるだけ遠くへ・・・)

小竜姫一人の力で、この二人を足止めすることなどは数秒もできないだろう。
小竜姫はそんなことは承知の上だ。
それに、ワルキューレとて横島を連れて逃げ切れるものではないだろう。
逃げ切る事以前に、この場を動いた瞬間に全てが終る可能性が極めて高い。
ワルキューレもそれを承知しているだろう、絶対に逃げ切れない。
でも、彼女達は柔らかな笑みを浮かべて、相棒の目を見つめ合う。

(了解だ小竜姫・・・。しくじるなよ・・・)



新たな任務に就くことを拒否した二人は、チームを組んで働くことはできなかった。
しかし、ほんの短い間になるかもしれないが、お互いに背中を合わせて戦う相棒として認め合うことができたのが、お互いに嬉しかった。

ワルキューレは退避する機会をうかがい、小竜姫は二人の男の視線から目を離さずに機を読む。
そして絶望が生まれる瞬間に、ふと革ジャンの男の気配が変わった。



「いやいや、さすがは小竜姫とワルキューレやな。わしらが見込んだことだけあるわ。肝が据わってるやないか!」


ジャケットの男も彼本来の柔らかな口調で話を続ける。


「そうですねえ。これなら彼のことはこの二人に任せても問題ないでしょう。いやいや、お二人ともすみませんでしたねえ」



え、な、何?何がどうなっているの?
彼女達は急激な空気の変化についていけない。
小竜姫はカバティの選手のように、上司の二人に立ちふさがる様な面白ポーズをしている。
ワルキューレは、まるで一目散に逃げ出す非常口のマークの様であった。
その目の前の上司といえば、和気あいあいと「もうそろそろ時間ではないでしょうか?」「よっしゃ、今日のわしはガンガン飲むで」等と会話をしておられまする。
あ。
駅前に鐘の音が響く。
リンゴーン。
リンゴーン、リンゴーン、リンゴーン・・・。
頭上のカラクリ時計が午後6時の鐘を鳴らした。
時計の中から、オモチャの騎兵隊や楽団がコミカルな動きをしながら時を知らせる。
硬直がとけた小竜姫とワルキューレがそのカラクリをポカンと見上げていると、革ジャンの男がパンと手を叩いて、笑顔で音頭をとる。


「おし、ちょうど6時やし。二人ともそろそろ行こか」


気後れしながらも、小竜姫はなんとか声を出して質問をした。
この展開はなんなんでしょう?
今までのやりとりはどうなったのでしょうか?


「えっとですね。ど、どこへ行くのでしょうか?」


その質問にジャケットの男はにこやかに笑う。


「ささやかではありますが、あなた方二人の新任お祝いの会場ですよ。お店は6時少し過ぎに予約しておいたので、そろそろ頃合でしょう。あ、それと今日のところは私の呼び名はキーやんということでお願いします」


革ジャンの男も「そうやったな!」と相槌をうつ。


「そやそや。んじゃ、わしはサッちゃんでええからな。ほんで今日はわしらのおごりやで。んもぅ、得したなー二人とも!このっ、このっ!」







姉さん、大竜姫姉さん。
小竜姫です。
姉さん、今回のことを全部知っていたでしょ?
知っていて言わなかったんでしょ?
イタズラ好きな姉さん。
私が驚いているのを想像して、今頃は一人お腹を抱えて笑ってらっしゃるんでしょう?
姉さんはいつもそうです。
そう、思い出しました。
子供の頃に二人で遊んでいた時に、実験とか言って私の身体をバラバラにするフリをしたでしょう?
あれ本当に怖かったんですよ。
何が「七つに分かれたあなたの身体が、世界中に散らばったら面白いわね」ですか。
もし私の身体を七つ全て集めても、願いなんか叶えたりしませんから。
私のパンティーなんてあげたりしませんから。



私はぼんやりと考え事をしながら三人の後に付いていく。
あ、そうでした。言い忘れていました。
さすがに私達の上司になる方を「キーやん」「サッちゃん」呼ばわりすることは抵抗があったので、「キーやんさん」「サッちゃんさん」とお呼びすることにしました。
革ジャンの男、サッちゃんさんは四人の先頭でドンドンと歩いていきます。
鼻歌も飛び出し、足取りも軽やかです。
ジャケットの男、キーやんさんはその後をひょうひょうと付いて行きます。
ワルキューレは・・・、先ほどまでは急激な話の展開に動揺していていましたが、空腹がそれを打ち消したようです。
さっき、あれほど豆大福を食べたのに・・・。

いや、そうではありません。
彼女は心身ともに鍛え抜かれた戦士です。
状況判断能力や、環境適応能力が私よりも優れているのでしょう。
そうです、そうに違いありません。
そうであって欲しい・・・。

はぁ、横島さん達は今頃お仕事でしょうね。
私はこれからが初仕事(?)になるみたいです。
こんなことでいいのかしら。






[2440] ああっ女神さんっ その15
Name: かいず◆19b471f3 ID:79663dda
Date: 2008/03/27 01:52

工学部の旧研究棟は、古めかしい鉄筋コンクリート2階建の建物だった。
浪人によると何やら歴史ある建物らしいが、ボロいものはボロい。
とりあえずこの付近に漂っている霊をおキヌちゃんにサクッと除霊してもらい、俺は建物全体に簡単な結界をはるために、建物の数箇所にお札を貼った。
これでしばらくの間は建物内に進入されることはないだろう。
一連の作業を終えて、俺たちは建物中に入る。

中に入ってみるとカベも廊下も古くささはあったものの、掃除はいきとどいているようだった。
あと気付いたのが、工学部といってもその内容は色々なんだなぁということだ。
玄関の壁に掲げてある工学部と書いてあるプレートには、様々な学科名が書いてある。
ボケーッと俺がプレートを見ていると、浪人が説明してくれた。


「工学部といっても内容は色々あるのらよ。ちなみに、おらは工学部の心霊工学科に在籍しているんらろ。そんで、心霊工学科はこの旧研究棟を丸まる使用してるんらよ。他の工学部の学科は、新設された工学部の研究タワーの方に入ってるのら。その結果、うちの学科だけでこの旧研究棟を独り占めしてるわけらね」


なんと、浪人はオカルト・テクノロジーを研究する心霊工学科に在籍しているらしい。
そんなマイナーな学科を持つ大学が少しだけあるって、学校の進路相談のときに聞いたことがあるぞ。
しかし、そんな学科を卒業して飯が食えるんやろか。


「いやー、どうらろうねぇ。元々おらは機械いじりとかが好きで工学部を志望していたんらけれど、おキヌちゃんや横島君に出会ってからオカルト・テクノロジーの分野に興味が湧いてなあ。新しい研究の分野だけんども、やりがいがあって面白いろ!」


浪人は子供のように目をキラキラとさせて俺に対して熱弁をふるう。


「へぇ、そうなのか。でも、心霊工学科があるなら自分達で開発したアイテムで除霊したりとか何とかしたら良いのに」

「それが情けない話なんらけれど、うちの学科は心霊アイテムの研究と開発をすることまでが主な研究活動なのら。実際にうちの人間が除霊をするとかいうのは、からっきし駄目らぁ。教授や学生に霊能力者がいるわけじゃないからなぁ。おらも昔から金縛りにあったり、幽霊を見たりすることはあったけんども、霊能力者というレベルではないのらなぁ」


浪人は面目ないと、トホホ顔。
しかし意外だな。
浪人は結構霊脳的にカンが鋭い方らしい。
でもまぁ、こればっかりは仕方ないのかもしれん。
除霊することができる霊能力者なんて、世間ではなかなか居ないのだ。
それにしても、浪人の心霊工学科への愛情とは裏腹に他の建物は新しいのに旧研究棟だけがボロイ施設だ。
この建物に押し込まれている心霊工学科を見ていると、大学内でどんな扱いを受けているのかが良く分かるなぁ。



俺達は旧研究棟の廊下をヒタヒタと歩く。
古臭い建物というのは、総じて薄暗くて寒々しい空気に包まれるものだ。
ゾクゾクしてくるなぁ・・・。
決して、この先に何が待ち構えているんやろうとか考えて、ビビッているわけではないからな。


ふいに廊下の奥の方からモワンとした何か力の流れを感じた。
何だろうこの感覚。
おキヌちゃんも何かしら感じたのだろう、お互いに目が合った。


「どうやら、この奥の方から霊気の流れを感じます・・・。行ってみましょう!」

「そうだな・・・。よし、行くか。あ、そうだ。浪人は危ないからこの辺で待機していてくれよ。なんだったら、もう帰ってもいいしさ」


俺が親切心で言ってあげたのに、浪人は顔を真っ赤にして言い切った。


「いや、おらも男だ。せっかくだから同行させてもらえないらろか?それに心霊学科の学生が心霊現象の前から逃げ出したら、大学内の笑いものら。絶対に迷惑はかけねから連れてってくろ!」

「嘘だぁ、大丈夫なわけないよー。そういうこと言うやつに限ってみんなに迷惑をかけたり、大変な目にあったりするんだよ!そんなの少年漫画やライトノベルでは有名なジンクスだよ!あんたは絶対、そんな目にあうキャラだよ!」

「そ、そんなことないろ!おらの情熱はそんなお約束なんか軽くこねてから焼いて、ハンバーグにしてケチャップかけて食っちまうくらいの勢いらぞ!」

「ハンバーグですかぁ・・・。明日のお弁当のオカズはハンバークがいいかもしれませんね。帰りにスーパーが開いていたら寄っていこうかしら・・・。じゃなくてですね!ハンバーグと勢いなんか全く関係ありませんよ!危険ですよ、浪人さん!」


このように、俺とおキヌちゃんは何とか浪人に対してついてくるなと説得を試みたが、浪人は一緒に行きたいとの一点張りだった。
結局、根負けしたので浪人の言うとおり一緒に行くことにした。
全く、どうなっても知らないからな。




浪人の話によると、今俺たちがいる一階の廊下の奥には資料室があるらしい。
そこに何かしらの手がかりがあるだろう。
資料室の古びた鉄製のドアを「ギィー」と開け、電源のスイッチを入れ明かりが室内を照らすと凄まじいカオスな光景が目の前に広がる。
俺が通う学校の教室の倍ほどある室内には雑然と物が溢れかえっていた。


「何ここ?!ぐちゃぐちゃじゃないか。整理整頓ができてねーなぁ」

「はあー、古い机や椅子が沢山ありますねぇ。これは本棚ですね・・・難しそうな本が一杯ですねぇ。床に散乱しているのは工具でしょうか?あっちには古いパソコンが沢山積まれていますねぇ~」

「いやぁ、お恥ずかしい。要らない物は、みんなが適当に置いていっちまうんもんらから整理が追いつかないんらよ。あ、これは文学部のパソコンらな、壊れたプリンターまで持ってきてるし・・・。全く、ここは粗大ゴミ置き場じゃないろ!」


こんなゴチャゴチャした室内から、目的の物を探すのは困難かもしれないな。
そんな事を思いつつふと視線を奥に向けると、壁際にある大きめのテーブルの上にドンとでかい石が置いてあった。

それは大きさはビーチボールぐらいあって表面は色黒く、ゴツゴツしながらも球体を成した石だった。
俺は粗大ゴミの山をすり抜けて古ぼけたテーブルに近寄り、背負っていた重たいリュックを下ろしてから、テーブルの上の石をまじまじと見つめた。
すぐ後から、おキヌちゃんも石に顔を近づけてジーッと見つめる。


「うーん、この石から何か霊気というか、ホワーッと力みたいなものが少しもれてない?
見た感じは、タダの石だけれどさ・・・。どうだろうおキヌちゃん?」

「そうですねぇ。何でしょうねぇ。精霊石というわけでも無さそうですし・・・」

「ああ、この岩石は記憶にあるろ。確かうちの大学の研究チームが一週間くらい前に拾ってきた隕石らね。なんでも数ヶ月前に某県の山奥に落ちてきたらしい隕石らしくてね。つい少し前に見つかって、なんやかんやでうちの研究チームが持って帰って来て成分を採取して調べてみたらしいんらけれど・・・。結果、普通の石と同じだったらしいんら。それでこれは隕石じゃないんじゃないのか、間違いじゃないのかということになったんら。結局、ここの資料室にしまい込んで置いたんらなあ・・・。でも、霊気がもれているってことは、これはおら達が調べるべき石だったんらなぁ。」


浪人は、しまった事をしたと頭を抱えている。
確かに見た感じはタダの石っぽいし、一般の人間では分かりづらいかもしれない。
俺は美神さんのように大した霊能力者と言うわけではないけれど、今までの経験から「あれっ?」と気付くことがあるのだ。

まじまじと机の上に乗った石を見つめる。
どう説明をしていいか分からないが、この石からは何や変わった感じの霊気が出ているなーという感じだ。
それにしても、この程度の霊気に霊達がおびき出されるなんていうのも不思議だよなと思い、そっと手を石に触れてみた。
その瞬間、石がカメラのフラッシュをたいた様に光った。
その場にいた全員が光の波に飲み込まれて立ち尽くす。

そして光の氾濫が治まると、石はぼんやりと鈍く輝き始めた。


「こ、これはいったい、どうしたことら?」

「よ、横島さん、私これに似たことを知っています!これってもしかして・・・、飛行石じゃないでしょうか?!」

「そ、それは多分違うと思うよおキヌちゃん。この石、全然飛んでないしさ。俺、あの王家の者でもないし・・・」


しかし、飛べてはいないがこの石から発せられる霊気は少しずつ増していった。
おいおいおい、これって軽くヤバクない?いや、重いよね?重くヤバイよね?
こりゃ、ややこしいことになる前に石を叩き割った方が良いなと考え、俺は右手に霊気を集め、霊波刀の「栄光の手」を発動しようとしたのだが・・・。


「ふぁーあ、よく寝たぁ・・・ムニャ。あれ・・・、ここどこだ?あたし、一体何をやってたんだろ?なんか死にそうな目にあった様な気がしたんだけれど・・・。えーと、よく考えろよ。そうだ、確かヨ、コシ、マ・・・をしとめ損なって、大気圏から地上に落ちていったんだっけ・・・?」



うぉい、石がしゃべった!!

「うわー、なんじゃこりゃゃゃゃぁぁぁあ!!!」

「ひ、飛行石がしゃべりました横島さん!これはあれです!バルス、バルスです!め、目が、目がぁー!」

「おら、驚いて・・・こ、腰がぬけてしまったらぁ~」


俺達が驚きうろたえていると、石がけだるそうに喋った。


「なんだい、騒々しいね・・・。いや待てよ、今、ヨコシマと言ったか・・・。あー!そのマヌケ顔!ふん、久しぶりだねヨコシマ!あたしだよ、メドーサさ!」


なんだって!メドーサ!
そうか、ヨコシマって俺のことだな!
カタカナで言われたから、油断したぜ!
うっかり家さんな俺!

俺とおキヌちゃんの背筋が凍る。
確かメドーサは大気圏で消滅したはずだし、その後アシュタロスの手で復活した時にもきっちり倒したはずだ!
俺は動揺しながらも右手に「栄光の手」を作り出して、石を睨みつける。


「ふふん!目覚めていきなりお前と会うとは都合が良いね!月世界では不覚を取ったが、今度はそうはいかないよ!行くよヨコシマ!!あたしがあっという間にお前を・・・・、あら?」





身構える俺とおキヌちゃん、腰を抜かしたまま立てない浪人・・・。
しかし、メドーサ石はピカピカと光っているだけで何にも起こらなかった。


「・・・なあ、ヨコシマ。悪いけどさ、一つ聞いてもいいかい?今の私ってどうなってんだい?」

「石になってピカピカ光っているけど・・・。お前、目立ちたくて光ってるんじゃないのか?」

「馬鹿言うんじゃないよ!私はパチンコ屋の看板じゃないんだから・・・。エーッ!あたしが石に?そんな馬鹿な!あたしは相手を石にすることはあっても、わざわざ自分が石になることなんて無いんだよ!一体、どうなってんだい?!」





慌てふためくメドーサ石は、よりピカピカと早く点滅を繰り返す。
不思議なことに石の姿のメドーサは、見たり・聞いたり・話をしたりと、俺たちと意思の疎通ができる。
でもそれ以外はもう全く駄目、何もできないみたいだ。
もう目チカチカして痛いから、あまりピカピカ光るなよな。


「そんなこと言われてもさ、俺も知らないよ。なあ、おキヌちゃんはどう思う?」

「そうですねぇ。この石に封じられているのか、この石自体がメドーサなのかは分かりませんが、多分本人さんなんでしょうねぇ」

「そうだろうなー。しかし、俺が触ったら急に光るんだもんな、驚いたよ」

「あっ!ヨコシマ。お前、あたしが寝ている間にボティにタッチしたのか、したんだな!このエロガキっ!」

「何がエロガキじゃ!まさかお前が石になっとるなんて思わんだろーが!」

「いーや、お前は知っていて触ったね!ほんと、石にも見境がない男だよお前は。ある意味、尊敬するね!」

「アホッ!石に欲情するわけあるかっ!」


メドーサ石と言い合いする俺。
そして、それをなだめるおキヌちゃんをぼんやりと見ていた浪人が、ハッとする。


「な、なんか、建物の周りに霊が集まってきたようら・・・」

「やばいなぁ、お前がピカピカする度に石から霊気が漏れてるし、それを嗅ぎ付けているのかな?なぁ、光るのやめられないか?多分、お前を狙って霊がどんどん集まってるんだよ」

「おいおい、ヨコシマのくせに何あたしに指図してんだ!自慢じゃないがね、自分の霊力がうまく制御できないんだよ!それにザコ霊なんてどんなに集まったって、あたしに敵う訳ないさ!」

「いや、本当に自慢じゃないのな・・・。あのなー、今のお前にはザコ霊の相手も無理だろ?動くことも出来ないし、何より霊気も駄々漏れで身も守れないだろーが」


グッとメドーサ石の言葉がつまる。
痛いところをつかれたようだ。
そして、肩の力が抜けたみたいにあっけからかんと愚痴る。


「ふん、またいつものパターンかい!全く悪運の強い奴だね、ヨコシマは。また、お前の悪運の強さで私に勝利だな。さぁ、さっさとあたしをコナゴナに砕いて逃げたらどうだい?あいつらはあたしに興味があるみたいだからね。お前らは助かるかもしれないよ」

「いやー、あ、そう?それじゃあ、そのお言葉に甘えて、すぐ逃げさせてもらいます・・・・と言いたいところやけどさ。何かお前らしくないなぁ。いきなりそんなこと言われてもさ」


「・・・まぁ、今の私はお前の言う通りの手も足も出ない石っころだからね。意地張ってジタバタしても仕方ないのさ。
しかし、私もつくづく不幸な女だね。まぁ散々悪事を働いたんだ、こんな結末もあるだろうさ・・・。それにお前があたしの事を気にすることないよ。お前に言っても分からないかもしれないけれど、どうせ私はこの世界を形成するピースの一つに過ぎないし、またいつの日かメドーサとしてどこかの舞台に登場するだろうしさ、何も変わりゃしないんだよ・・・。
さてと、今回のあたしの死に方は、石ころにされた挙句に悪霊どもにあたしの霊基構造を犯されてお仕舞いというところかね・・・。あいつらに喰われて栄養になるってのはシャクだが仕方ないね。あたしは未来永劫、このミジメな化け物役を演じる繰り返しの舞台からは降りることはできないんだからさ・・・」


「メドーサ、お前・・・」


アシュタロスと同じこと言うんだな。
ルシオラはどんな気持ちで俺と一緒にいてくれたのだろう。
成し遂げなくてはならなかった目的。
一年間の命と数々の制約。
父であるアシュタロスへの尊敬の念。
姉妹であるベスパやパビリオへの愛情。
ほんの短い間だったけれど、あいつと一緒に居て、あいつの凄く楽しそうな笑顔を見ることができたのはとても大切なことだったんだよな。
俺は馬鹿だから、まだ気付いていない事もたくさんあるだろうな。
だから、生き抜かなきゃならないんだ。
あいつの分まで。




建物を取り囲む霊は増え続け、簡易結界はもうもたないだろう。
メドーサの話を寂しそうな顔をして聞いていたおキヌちゃんは、すぐさまネクロマンサーの笛を構えて警戒態勢をとっている。
腰を抜かしたまま真剣に話を聞いていた浪人は、不安そうにキョロキョロと室内を見回していた。



「さぁ、もう時間がないよ。やれやれ、あたしを壊しているヒマはなさそうだね、さっさと逃げなよ。
あ、今から言うことはあたしの戯言だから聞き流してくれても構わないけれどさ・・・。ヨコシマ、お前はさ、馬鹿でスケベで憎たらしいクソガキだけれど、どこか憎めないところがあるよ。随分と昔の話だけれど、あたしが一番ホレた男にどこか似ているのかねぇ・・・。そいつと関わってからがあたしの人生、ケチの付き始めだったんだけれど・・・、何故か憎みきれないね。まぁ女は男に惚れたら負けさ、フフッ、悔しいね。
まぁそういうわけでさ、もしかしたらお前が生きてるうちに、万全の体勢のあたしが目の前に現れる事もあるかもしれないしさ、その時まで勝負を預けておくよ、それで良いだろ。ほら、行きな」


ピカピカと光る石が、一瞬だけ柔らかく笑った気がした。
その瞬間、室内に轟音が響き渡る。
結界が破られて霊はドアを破り押し寄せ、窓ガラスを割り溢れかえり、俺たちの目の前でウワンウワンと塊になって飛び回り、狂い踊っている。


『力だ!力だ!』『俺のだ!俺のだ!』『美味そうだ!美味そうだ!』


叫ぶ霊達はお互いに喰い合って霊団となり、一匹の黒くうごめく化け物へと姿を変える。



『ふぃー。ようやく落ち着いた・・・。おい。そこの馬鹿面の男と女。お前ら霊能力者か・・・。大人しくその石を俺に渡せ。そうすれば、この場から逃がしてやらなくもないぞ?俺は天才だからな、その力は賢い俺に相応しい』


チロチロと黒い舌のようなものを出しながら、化け物はニヤケた声で俺たちに話しかける。
この化け物の核となる霊は、構内にいた受験に失敗した霊だろうか。
自分で天才とか賢いという奴に、ロクな奴はいないというのが俺の見解だ。


「もしかしてお前、天才とか言っている割にはここの受験失敗したんとちがうか?まぁ、人間だれでも失敗することはあるしさ、そう未練がましく化けて出んでもええやんか。な?俺なんてほら、成績が悪すぎてここの大学受けることすら考えつかねーしさ、な?」

『黙れ!俺を不合格にするこの大学が、試験験制度が悪いのだ。しかも受かった学生は馬鹿面した奴ばかりだ。あー、クソッ。こんなクソ大学受けるために俺はずっと何もかも犠牲にしたのか・・・、本当に腹立たしい・・・』


化け物は、床にへたり込んでいる浪人をにらむ。


『この国はあまりにも馬鹿な人間が多すぎる。さし当たっては、この大学を根城にしてもっと悪霊を呼び込み、大学の機能をマヒさせてやろう。それには一にも二にも自力をつけねばなるまい。その石を喰らえば、基礎学力じゃなくて・・・基礎霊力が付きそうだ。天才である自分を過信せずに基礎をおろそかにしないのが、俺が天才たる所以だな』




こいつが生霊か悪霊かはしらないが、話が通じる相手ではないな・・・。
化け物は、「美味そうな霊気」を発するメドーサ石が欲しくてたまらないらしい。
身動きが取れないメドーサ石は怒っているのだろう、「くそう」と声を絞り出しピカピカと点滅している。
この石の状態というのは、それ自体でメドーサの霊力の塊となっているのだろうか?
そうなると、今のメドーサは霊基構造をむき出しの素っ裸で、身動きが取れないという状態かよ。
そりゃ、いけ好かない悪い霊が束になって飛んで来るというものだ。
歯軋りしていたメドーサ石は、搾り出すような声で俺にささやく。


「やれやれ遅かったか・・・、まぁ仕方ないね。おいヨコシマ。あたしが目いっぱい霊気を開放して、目くらましをしてやるからそのうちに逃げな。今のあたしはこんなんだからな。さっきも言ったがお前との勝負は次回にお預けさ、その時は逃げるんじゃないよ。じゃあな」


メドーサが大きくホワンと光った。
その光を見て俺の腹が決まる。
俺は化け物から視線をはずして、すぐ側にあるメドーサ石を「よっこらしょ」と持ち上げた。
「なっ?!ヨコシマ!何をする?!」と驚くメドーサ石。




『フフン、素直でよろしい。俺に石を手渡す気になったかね?今の俺に刃向かうのは馬鹿のすることだからな』


俺は化け物の言葉を無視して、丁度口が開いていた俺のリュックサックにメドーサ石を詰め込む。


「リュックの中、少しゴチャゴチャして埃っぽいけれど我慢してくれよな」
「モガモガ・・・ちょ、ヨコシマ?お前・・・」


思いのほかメドーサ石は大きかったので、リュックに詰め込んでも少しだけ顔(?)を出している。
リュックを「よいしょ」と背負ってみると、こりゃ結構重たいな。
なぁーに日頃、美神さんが鬼のように詰め込んだ荷物を背負うことに比べたら楽勝、楽勝っすよ、ハハハ・・・。


「なあメドーサ。お前、しばらくはダイエットしないと駄目だぞ。重いものは、やっぱり重いもん」
「ば、馬鹿ヨコシマ!何言っているんだよ!サッサとあたしを下ろせ!」


背中のメドーサ石が抗議の声を上げると、あっけに取られていた化け物もようやく口を開き、馬鹿した口調で喋りやがる。


『おい、お前!天才の俺の話を聞いていなかったのか?ケアレスミスか?選択肢を誤ると身を滅ぼすぞ・・・。まぁ、馬鹿に言っても分かるわけもないのか』


俺は少々重くなったリュックを背負いなおして、化け物をグイとにらみつける。



「おい、化け物。確かにお前の言うとおり、俺は馬鹿だよ・・・。今まで俺は煩悩やその場の勢いで行動をして、後で失敗したり、泣いたり、酷い目にあったりで反省することばっかりだったけどな・・・」



俺は右手にありったけの霊力を集めて「栄光の手」を作り上げ、ダッと一直線に奴へ向かって行く!




「俺は一度だって、自分が決めたことに後悔をしたことはねーんだ!
ナメたこと言ってんじゃねーぞ!この化け物野郎!!」











[2440] ああっ女神さんっ その16
Name: かいず◆19b471f3 ID:79663dda
Date: 2008/03/31 02:49


「俺は一度だって、自分が決めたことに後悔をしたことはねーんだ!!なめたこと言ってんじゃねーぞ、この化け物野郎!!」




「ヨ、ヨコシマ、あんた・・・(ちょ、ちょっとカッコいいじゃん)」とメドーサが何やらつぶやいたみたいだが、聞き取れなかった。
とりあえずこいつは渡さねーぞ!!


この手合いは、油断しているうちに速攻で倒すに限ると判断した俺は、おキヌちゃんに目配せをして化け物に突撃する。


「おっしゃぁぁぁあああ!栄光の手じゃゃゃあ!くらえぇぇぇぇぇっ!」


それと同時におキヌちゃんがネクロマンサーの笛を吹く。
ぶった切った後に分散した霊どもも、ザックリ成仏してもらうぜ!

俺が気合を入れて突っ込もうとした瞬間、ゴウンと室内に嵐が舞った。
室内に乱雑に置かれている机やパソコン、工具などのガラクタが室内をグルグルと飛び回り、化け物の周りに渦を作る。
お、おいっ!あぶっ、危なっ!
ちょ、ちょっと。
こりゃ、うかつには近づけん!
そしてうなっていたガラクタの渦が、俺たちに襲い掛かってくる。


「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」




おキヌちゃんの悲鳴が室内に響く!
ネクロマンサーの笛を吹いていたおキヌちゃんに向かって、ロッカーや机の弾丸が襲い掛かる!
そして、俺の目の前には高速で文化包丁が束になって飛んできたぞ、うぉぉぉぃい!!

おいっ!こらっ!待て!これ、シャレにならん!
こんなところに刃物なんて置いておくなよな!
ドドン!ドン!ガシャ!ガシャン!
ガラ、ガシャァァァァァァァァァァァン!!!
狭い室内で空中を渦巻くガラクタがぶつかり合う。


「ヨコシマァ、しゃがめぇぇぇええ!!」


俺は背中のメドーサの言葉に反応して包丁を交わしサッとおキヌちゃんの方を見ると、そこにはガラクタの山が築かれていた!


「お、おキヌちゃん!!!」
血の気が一気に引いた。
この下におキヌちゃんが下敷きになっている!
すぐに助けないと!
俺は化け物に背を向けて、ガラクタの山に慌てて駆け寄ろうとしたその時―。


「き、来ちゃなんね!!横島くん!おキヌちゃんは無事ら!!」





浪人の絶叫が俺の耳に届いた。
目を凝らすと、ガラクタの山の下の僅かな隙間から、おキヌちゃんの頭を抱きかかえて覆いかぶさっている浪人の姿が見えた。
なんとおキヌちゃんの近くにいた浪人は、ガラクタの凶弾からとっさにおキヌちゃんをかばったのだ。


「今、化け物に背を向けたらやられてしまうろ!こっちは大丈夫らから横島君、心配しないでくろ!」


「ヨッ、ヨコシマァー!危ない!」


背中に背負ったメドーサ石の絶叫に反応して、俺がサッと化け物の方に振り返った瞬間にカナヅチやスパナが顔面に飛んできた!
これ、かわせない!
瞬間、俺の身体がバシッと光り、その凶弾を跳ね返す!
メドーサ!あんたか!


「まぁね、コレくらいのことなら石のあたしでもできたみたい。ホラ、ぼさっとしてんじゃないよ!」


後ろからガラクタの山が崩れる音がした、浪人が気絶しているおキヌちゃんを抱えて隙間からはい出てきたようだ。
その浪人の様子を見て、慌てて声をかけた。


「おい、浪人!お前、頭からめっちゃ血が出ているみたいだけれど。大丈夫なのか、大丈夫なのか、おい!?」

「イテテ・・・、大丈夫だあ。いやぁ、さっき横島君の言ったとおり、やっぱりおらはこう言う目にあうキャラかもしれないなぁ。ほら、ケチャップをかけたハンバーグみたいに頭から血も出てまっ赤っからなぁ。でも、おキヌちゃんが無事だったから良かったろー」


浪人は、この場に及んで笑いながらのん気なことを言っている。
外傷はあるみたいだけれど、とりあえず元気そうな浪人にホッとした。


「何、気ィ抜いてるんだい、あんたら!あたしの言うことを聞かずに、さっさと逃げないからそんな目にあうんだよ!バカヨコシマッ!」
「まぁ、そう言うなよー。今の所、みんななんとか無事じゃんか、なんとか」


俺の背中でメドーサ石がプンスカと声を上げた。
俺は化け物からみんなをかばうように立ち、奴とにらみ合う。
そして俺は振り向かずに、怪我を負っている浪人にポケットの中の文珠をポイと手渡した。
浪人が受け取った文珠には「治」の文字が浮かび、浪人の出血が止まり怪我がみるみると回復する。
「こ、これはいったい?」と驚く浪人。


「ん?ジャジャーン!!これは俺のとっておきの秘密アイテム・文珠さ。文殊ってのは、ええと・・・説明が面倒くさいから省略ということで。あ、さっきはおキヌちゃんを助けてくれて、ありがとうな」


これで浪人の怪我も心配なさそうだし、おキヌちゃんもそろそろ気が付きそうだ。
これで文殊はあと四個か、でもケチっている場合じゃねしーなこれ。
こんなところでくたばりたくねーしなぁ。


『へえ、珍しいことが出来るんだなお前。ついでにお前も食べちまおうか?!あ、でもなぁ・・・、どー見ても不味そうだなぁ・・・。馬鹿が感染しそうだし、下痢にもなりそう・・・』


ぐぬぅ、目の前の化け物が嫌な事を言いやがる。
室内にあるガラクタはフワフワと浮かんでおり、いつ俺達に向かって飛んできてもおかしくない。
目線をあげると天井付近では凄い勢いでペンチやスパナ、トンカチ等がグルグルと舞っている。
この室内はとんでもない曇り空だ、今にも降りだしそうな凶器。
降器確率100パーセントだな。
こりゃ参ったぞ。

こいつレベルの化け物を除霊するのは何とかできそうだが、相手が「飛び道具」を使うと話は変わる。
相手の攻撃が霊気ならガチンコで気合と煩悩勝負!
俺も霊気で対抗できるんやけど・・・。
重たいロッカーや鈍器がぶっ飛んでくると生身の人間では当たれば致命傷、その上、室内は狭い上に弾丸となるガラクタが散乱して、非常に戦いにくい。
手負いのおキヌちゃんや浪人もいるし、どうするよ。


『んー、仕留めそこなったかなぁ?まぁ良いや・・・。それよりねぇ、どう?どうなん、これ?いくらお前達が優秀なGSだろうとさぁ、人体に対する直接的な攻撃にはお前らハンパなく弱くない?この基本さえ抑えておけば、その場の応用でどうとでもお前達を攻略することができるって訳さ。俺ってやっぱりあれね、天才だわ、天才』


別に天才ってほどではないだろうよ。
ちっとばかし系統は違うが、某スタンド戦や某サーヴァント戦も人間本体の方を襲えってのが基本だしなぁ。
こいつの場合は、飛び回っているガラクタがスタンドになるのか・・・、それで化け物の方が本体になるの?
ぷぷっ、格好悪っ!
まぁいいや、今のこいつは天才様らしく、天才的に気分良くなっているようなので攻撃の手も止んでいる。
今のうちに、体勢を立て直すとするか。

そうしているうちに、おキヌちゃんが気がついた。
浪人のおかげで怪我はしていないようだった、サンキューな浪人。
おキヌちゃんは浪人に感謝しまくりで、浪人もおキヌちゃんの無事を喜んでいた。
よし、全員が復活したところで、もういっぺんやってみるか。


(なあ、おキヌちゃん、浪人、メドーサ、こんなこと思いついたんやけど・・・)
(えっ!横島さん・・・、分かりました)
(そ、そんなことできるのら?横島君?)
(どうでもいいけれど、埃っぽいリュックだね。お風呂に入りたいよ・・・)




『おい、何をこそこそお喋りしているんだ?私語厳禁だぞ!まぁ、マグレとはいえよく無事だったな。褒めてやるよ、この当てずっぽうのマークシート野郎め。それでそろそろ石を渡したらどうなんだ?今なら見逃してやらないこともないぞ。さっさとこっちへ持って来るんだな』


俺はくるりと振り返って、ガラクタに守られてお喋りを続ける化け物相手に文殊を二個投げつける。
その文字は。
「廃」「棄」


ズモモモモモモモモモモモモモモモモ・・・。
みるみるうちに室内の粗大ゴミやガラクタが消えていく・・・。
あいつがガラクタを弾丸とするのなら、その元になるガラクタはまとめて廃棄処分じゃゃぁぁぁあ!!


一瞬にして自分を守るガラクタを消されてしまい、裸一問にされてキョトン顔の化け物。
ようやく事の重大さに気付いて、すんごい慌てている。
俺はニッコリした笑顔で、奴にヒタヒタと近づいていく。
俺の右手の「栄光の手」がぬらりと鈍い光を放つ。


『あ、あれっ?あれっ?ちょ、ま、待てっ!落ち着こう、一旦落ち着こう、な・・・?こう見えても僕達は心の底から暴力反対やし、霊を見かけで判断したらアカンよ、アカン。今日もこうやって集まったのは・・・・その、そう!体験入学したかっただけだし!これマジで!』

「あのなぁ・・・、そんなに体験入学したかったら、あの世に体験入学せいっ!そっちは合格間違いなしだ!!ゴーストスイーパー横島忠夫が、極楽へ入学させたるわいっ!!」


ズバッと化け物を真っ二つ!


「なぁ、最後に聞くけれどさ・・・、お前、自称天才なのになんで受験失敗したんだ?やっぱり試験が難しかったのか?それとも、たまたま体調が悪かったとか・・・」

『いや、試験は簡単だったのだが・・・、あまりに完璧な回答が書けた天才の自分自身に酔いしれていたら、受験番号と名前の書き忘れを確認するの忘れてた・・・、三科目くらい・・・グハァ!!』

「ケアレス?ねぇ、ケアレスミスなん?しかも多っ!!三科目、多っ!!」



『て、天才の俺がなぜぇぇぇぇぇええ!!』と断末魔を残してシュワシュワと消え行く化け物。
もう、ええかげんにして欲しい。
おキヌちゃんはネクロマンサーの笛を吹いて、その辺りをウロウロしている霊を成仏させている。
浪人は汗びっしょりの顔でポカンと突っ立っていた。




ふぅ、一時はどうなることかと思ったが、なんとか片付いて良かったよ。
しかし、少し片付けすぎたかもしれん。
文珠を使ってガラクタを全部処分してしまったから、今の室内はガラガラだ。


「なあ、浪人。よく考えたらさ、ここにあったもの全部廃棄しちゃったけど、大丈夫だったかな?ちょっとドキドキしてきたよ、俺。ヤバくない?かなりヤバくない?」

「いやぁ、見事にすっからかんらなぁ。まぁ、高価な物はないと思うから大丈夫らとは思うんらけれど。しかし、おら貴重な体験をしてしまったなあ」


浪人は除霊の体験をして興奮気味だ。
おキヌちゃんも除霊を終えて、ひと段落。
しかし、肩が凝ったな・・・、そうか石のメドーサを背負っていたんだった。
メドーサは、ぼんやりと光りながら呆れたような口調で俺に話す。


「なぁ、ヨコシマ。やっぱりお前の戦い方はいつ見ても行き当たりバッタリだねぇ~。だって、戦い方がムダばっかりだもの。まぁ、あの化け物の言っていたとおり馬鹿だからしょうがないか!ハハハ・・・」

「ところでおキヌちゃん、このリュックに入っているクソ重たい石どうしようか?すぐそこの汚い川原とかに置きっぱなしにしても別に良いよね?長い年月をかけてコケだらけになる石ってのも、風流で良いよね?」

「ねぇ、ヨコシマ~。やっぱりお前の戦い方はいつ見ても惚れ惚れするねぇ~。だって、戦い方に隙がないもの!もう、天才だね!て・ん・さ・い!あたしが見込んだだけのことはある男だね!」


甘える様な口調でコメントが変わる、分かりやすいメドーサ。
しかし、本当にこいつどうしようかな?
さっきは、つい背負ってきちゃったけれど。
やっぱり、美神さんの指示を仰いだ方が良いよな。
小竜姫さまもこっちに来ているんだし。
おキヌちゃんにも意見を聞いてみた。


「やっぱり、小竜姫さまの預かりになるよなあ・・・」

「そうですねぇ。私達じゃあ、判断ができないですものね」

「エェェェーッ!今、小竜姫がこっちに来てんのぉ?んだよぉぉ、最悪だよぉー。ヨコシマァ、あたしを連れて逃げてっ!逃げておくれよ!」

「やだよ!お前、重たいしさぁ・・・。第一、あの人達から俺が逃げ切れるわけないって。お前もさ、指名手配犯かなんかになってるし小竜姫さまに会いたくないと思うけれどさ、今はタダの石だからしょうがないじゃん。俺も少しくらい刑が軽くなるように口を利いてやるからさ、このまま事務所に行こうぜ。あ、あとワルキューレも来てるぞ。さっき、アホみたいに豆大福食ってた」


「んだよぉ、んもう!使えないなぁ、ヨコシマ。そんでもって、ワルキューレも居るってか?あー、テンション下がるわー。マジ下がるわ!こんなことなら、ここでずっと寝てりゃあ良かったよぉ。これというのもヨコシマの馬鹿があたしを起こすからいけないんだぞ!この馬鹿!スケベ!」


え?俺なの?俺のせいなの?
あと、スケベ関係ないじゃん・・・。
まあ、こいつは事務所に持って帰るとして・・・。
あ、大学の物やし、勝手に持って帰ったらアカンのかな?


「あー、浪人。この石持っていっていいかな?あと、今のやり取りは他の奴にはナイショな。こういうのを公にしたら、後でややこしくなるって、美神さんのオカンにも言われたことあるし。これやるからさ、黙っててくれよ」


そう言って俺は浪人に文殊を一つあげた。
浪人はおキヌちゃんに俺の文珠の事情を聞いたらしく、別にいらないと断っていたのだが、おキヌちゃんを身体を張って守ってくれたことに感謝してたし、俺には文珠くらいしかあげるものないし。
それに浪人、浪人って呼んで失礼なことばっかり言っちゃったしな。
まぁ、これからも言うけどな。
あと、なんだか気前が良い気分になっていたので強引に渡してやった。
これで残りは一つか―。




なんとか事件も片付いたので美神さんと合流することになるのだが、結構遅い時間帯になってしまった。
美神さんに連絡を取って事情を話したら、今は2件目の仕事場へ移動中とのこと。
メドーサのことを話したら、めっちゃ驚いていた。
とりあえず、そんな石を持ってウロウロしていても駄目だろということで、俺だけ事務所に帰って待機ということになった。
事務所で待機していて、美神さんや小竜姫さま達が帰って来たら改めて相談しようぜということだ。

俺とおキヌちゃんは、浪人が運転する白いワンボックスの軽トラに乗り込んだ。
浪人の軽トラで、最初に俺を事務所まで送って行ってくれて、その後でおキヌちゃんを美神さんが居る現場まで運んでくれるらしい。
いやー、浪人は車を持っていたんやね。
危うく、こんな重い石を背負って事務所に帰るとこだったわ、助かったー。
そんな独り言を言っていたら、「重たい重たいと、レディーに言うな!」と
メドーサがすねていた。

バタバタした東都大学の除霊もなんとか終わり、俺達を乗せた白の軽トラは、ディーゼルエンジンを響かせて、大学内の駐車場を後にした。






[2440] ああっ女神さんっ その17
Name: かいず◆19b471f3 ID:79663dda
Date: 2008/04/06 02:58



「単刀直入に言うとやなぁ―――、横島をスカウトしたいんや!」




今、私達がいる場所は駅前にある居酒屋です。
ここは少しオシャレな感じの居酒屋で、お酒の種類も多くて料理も美味しい人気のお店みたいです。
店内はもう満員で、店員さんも忙しそうに動き回っていて、とても活気があります。
飲みに来ているみなさんは楽しげに杯を傾けて料理に舌鼓を打っています。

私達は予約がしてあった奥のほうにある個室に通されます。
掘りごたつになっているテーブルには、私とワルキューレが隣同士で、対面にはキーやんさんとサッちゃんさんが座りました。
とりあえず乾杯をして、少し落ち着いてから今回の任務の話が切り出されました。
「はぁ、スカウトですか」と最初、私達はサッちゃんさんが何を言っているのか理解していませんでしたが・・・・。
これはビックリ仰天な内容ですよ!!
いち早く我に帰ったワルキューレは、泡食ったようにサッちゃんさんに質問をしました。


「その、横島が・・・、その、我々の側の者になるということですか?」

「そうやー。今回のゴタゴタの件で、横島は我々の中ではまた随分と株を上げてよってなぁ。あいつをぜひウチにスカウトしたいんや!」


横島さんが、スカウトされる。
この人間界で生前に功績を残した者や悪名を残した者は、神族と魔族との間で執り行われる評議会の決定で、こちら側の者になることがあります。
なんと、その候補者に横島さんの名前があがっているというのです!
でも、そうなると我々の任務はどういった内容になるのでしょぅか?
そして、もしスカウトされるなら、所属する陣営はやはり魔族となるのでしょうか?
今の横島さんの身体には、魔族であるルシオラの魂が宿っていますし・・・。
ワルキューレも私と同じことを考えていたようです。


「そうなると、横島は我々魔族側の者になるのでしょうか?」


それを聞いたサッちゃんは、ゴクリと生ビールを一気に飲み干してから「さぁ、それやがな」と腕組みをした。


「そういう訳にもいかんのやわなぁ」





先ほどから黙って話を聞いていたキーやんさんは、先ほどまでモフモフと一心不乱に大根と豆腐のサラダをほおばっていましたが、コトリと箸を置いて顔を上げました。
キーやんさん、口の周りにドレッシングがべったりですから。
拭いてくださいね。


「いや、どうもどうも・・・。ええとですね、小竜姫さんは覚えていますかねぇ?以前、横島さんは天龍童子の家臣になったらしいではないですか。それで、我々は彼の所属はどう考えても神族ではないかということを主張しているのです」


ああ、そうか。
あれは竜神王さまが、地上の竜族の会議で人間界にお見えになった時のことですね。
確か成り行きだったとはいえ、そのような約束が交わされたのは殿下からお聞きしています。
結局、美神さんが横島さんが貰うはずだった禄を独り占めしちゃったんですよねぇ・・・。
今では殿下もご成長されて、背も大分伸びられました。
また、人間界へ行って横島さん達の所へ遊びに行きたいとおっしゃっていましたが、
ご公務が忙しすぎて、以前のように抜け出してくるというのは無理そうですねぇ。



「さぁ、問題はそれやがな。わしらの方ではな、アシュタロスも居なくなったっちゅーことで代わりに新たな幹部候補生が必要なんや。その点、横島は見込みがあるとわしはにらんでいるんや。ほら、それに考えてもみいな。あいつの中にはルシオラが一緒に居るやろ?そうなるとルシオラはアシュタロスの娘やし、横島はアシュタロスの婿養子で義理の息子みたいなもんやんか。親の地位を子が引き継ぐのは、うちらの業界では普通のことやしな」


なるほど、サッちゃんさんが話していることは、強引ですが理屈が通っている気がします。
ワルキューレも「なるほどなぁ」と神妙な顔をしています。
それにしても、横島さんがアシュタロスの婿養子とは――――。
本人達が聞いたら、どう思うでしょうねぇ。
意外と馬が合うかもしれません。



「サッちゃんの言い分も分かるのですが・・・。我々の側としても、彼のような将来見込みのある人材は喉から手が出るほど欲しいんですよ。天龍童子のこともありますが、竜神王も彼を直属の部下にぜひ欲しいと鼻息が荒くてですねぇ。あと、大竜姫さんにも聞きましたが、横島さんと小竜姫さんは結構いい仲らしいではないですか?」


あのう、キーやんさん?
これはなんの話でしょうか?
また、アホの姉さんが、アホなことを進言したのでしょうか・・・?
もしかして―――、この前、姉さんと電話で話したアノのことですか!!






ねぇ、小竜姫・・・。
話は変わるけれどさぁ、あなた彼氏っていたりするの・・・?
や、やーねぇ、ちょっと気になっただけよぉ。
―――え?姉さんはどうかって?
そ、そりゃあ・・・。
い、いるわよっ、彼氏!もぉぉぉんのぉ凄いのが!
ホント、彼ったら、最高なのよ~。
―――え?一度、会ってみたい?
ざ、残念ねぇ~、もう別れちゃったのよ、うっかり忘れていたわ、ホホホ・・・。
でも、心配しないで!
姉さんは全然寂しくなんかないわよ!
私なんて、ほら、いつも殿方に言い寄られ過ぎて困っているくらいだから!
24時間、年中無休でナンパされちゃって困っているくらいだから!
去年のクリスマスだって、部屋に帰ってから一人でコタツに入ってジングルベルを歌ったり、自分で作ったホールケーキを一人でガツガツ食べたり、シャンパンを一人でガブ飲みしてから少しだけ泣いたり、一人で明石家サンタなんて観たりしてないんだから!
姉さん、一人で全然寂しくないんだから!!!!!


ハァ、ハァ、ハァ・・・。
ごめんなさい、少し興奮しちゃったわ・・・。
そ、それよりも、あなたよ、あなたの話を聞かせてよ・・・・。
―――え?特にいないって?
そ、そうよねぇ~、仕事に生きる女は、なかなか出会いが無いもんねー。
そう!そうなのよ!
出会いさえあれば、私だって彼氏いない暦イコール年齢なんてことないですもの・・・。
いや、独り言よ!
ひ・と・り・ご・と!
そうねぇ~、あなたは昔から奥手でシャイだけれど、きっといい人が見つかるわよ!
姉さんは、そう思うな!
―――え?でも、少し気になる人がいるって?
ふ、ふぅん・・・。
片思いなのね、切ないわねぇ。


―――え?逆鱗を、その殿方に触られた?
あ、あなた、それって・・・。
ロッ、ロロロロ、ロスト逆鱗じゃないのよ?!!
そして流れ的には、その後はロストバージンじゃないのよ?!!!
・・・・
・・・・・・
・・・・・・・・
んだよぉォォォォ、もぉォォォオオ!!
この―――、この姉を差し置いて妹のあんたは大人の階段を昇ったってか?!
2段飛ばしで、グイングイン昇ったってか?!
何段よ?!
何段昇ったのよ?!
10段か?!
20段か?!!
もしかして―――、ろ、69段か?!!!
んもぉォォォ!!チックショョョョョォオオー!!!!
姉より優れた妹なんて、いねぇェェェェェエエ!!!!!






その後、電話口でオイオイと泣き崩れる姉さんに何とか説明をして、誤解を解いたつもりだったんですが・・・。
そうでしたか、そうきましたか。
妹の私が言うのもなんですが、姉さんは私なんかと違って美人で背が高くてスタイルも抜群で、意外と料理も家事もできちゃうし、なんでモテないのかが不思議なくらいなのですが。
やっぱり、あのハチャメチャな性格かなぁ・・・。

しかし、姉さんが驚くのも無理ありません。
我々竜神族の女性にとって自分の逆鱗を男性に触れられるというのは、とても凄いことなのです、口にするのも恥ずかしいことなのです。
これを実家の父上と母上に知られて、ますます帰りにくくなりました。
ううっ、私の場合は事故みたいなものですけれどねぇ・・・。
ハァー、これが私の逆鱗の初体験になってしまうのでしょうか。
しかも、触れたのは横島さん自身じゃなくて、あのふざけたシャドウの方ですし。
本当、横島さんには責任を取ってもらいたいくらいです。
そしたら私も―――。



「・・・そういう訳でして、うちとしても竜神族と縁の深い横島さんをですね、我が陣営に迎えたいと。そう思っているわけなのです」


どういう訳かは分かりませんが、とにかく横島さんは引く手あまたの青田買い状態です。
まぁ、あまたと言っても二社ですが。
でも、かなり大手ですよ?
普通では、なかなか入社(?)できる所ではないですから。
確かに横島さんには、以前から何かこう・・・力みたいなモノがあるとは思っていたのですが、このお二人からこれほど評価されているとは思いませんでした。
私がウンウンと考えにふけっていたら、ワルキューレが質問を投げかけました。


「その任務で、我々は具体的に何をすればよろしいのでしょうか?」

「ああ、さっきの『監視しろ』っちゅー命令は大げさやけど、それに似たことかもしれんなぁ。とりあえずは『横島を見守ること』、それが任務やなぁ。また逃げられたらかなわんし」

「また、逃げられたら・・・ですか?」


ワルキューレと私が不思議そうな顔をしていたら、サッちゃんさんとキーやんさんが、ズイと身を乗り出して真剣な顔をした。
そして、キーやんさんが私達に話した内容はとても衝撃的でした。




「ああ、あいつなー、ああ見えて元々こちら側に来れるくらいの力があんねん―――。ほら、前に美神令子の前世を見に行って、横島の前世のええと・・・高島に会ったやろ?最近になってな、横島の前世について調べてみたら色々とオモロイことが分かったんや。なぁ、キーやん」

「ええ、我々が確認できた情報だけでも、横島さんは平安時代の高島以前にも何度か転生をしていますね。実は私が人間界にいたときに、その何代か前の前世の彼に出会っていました」

「えっ!!」
「横島とですか?!」


「まぁ、前世の前世、それまた前世・・・という訳ですから、現在の彼とは別人にはなるのでしょうが、間違いなく彼の魂でしょうね。私も報告された資料を見て思い出しましたよ。ああ、あの時の彼だったのかと―――。
彼とは私達の仲間と一緒に酒を酌み交わしたこともありましたが、にぎやかで聡明な人物だったと記憶しています。彼は私達と行動を共にすることもありましたが、結局のところ彼は歴史に名を残すことも無く、こちら側に来ることもありませんでしたねぇ・・・」


キーやんさんの話を聞いて、サッちゃんさんはお代わりをした生ビールを一気にグイッと飲み干す。


「そうなんや!横島はちょくちょく転生を繰り返して、様々な歴史上の出来事に関わったり、歴史に名を残すような人物のそばにおったりするんや。そして何やかんやで活躍はするんやけれど、結局あいつは、村人A・兵士B・召し使いC・・・とかで人生を終えてるんや。
そして、また転生を繰り返しよる。
まるであいつは、異なる時代の華やかな大舞台に参加することそれ自体を楽しんでいて、自分自身はワキ役に徹しているみたいやで・・・、主役になれる力量があったとしてもな。
ほれ、考えてもみいな、今の横島の前世である平安時代の高島を。
陰陽師としては、なかなかの能力でそこそこの地位もあったやろうに。
そのままマジメにやっとれば、その後も相当ええところまで行けたと思うんやが―――。
元々のあいつの魂の気質かどうかしらんが、女のケツを追っかけたり騒ぎを起こしたりとアホなことばっかりしくさって、自分の評判を自ら下げよる!
毎度この調子では、いくら生前に功績を残したり見所があっても、こちら側の者に引き上げるための選抜データーにはピックアップされんわけやで!」


「そして今の話にあった陰陽師・高島の後の転生は、現代の横島さんですね。
しかし、今まで短い周期で転生を繰り返し舞台に登場し続けた彼が、なぜこれだけ長い期間、転生しなかったは謎です。
もしかしたら、美神令子の前世であるメフィストとの契約が何かしらの関係があるのかもしれませんねぇ。
これは、引き続き調べる必要がありますから、各情報部の報告を待ちましょう。
話を元に戻しますが、ぜひ今回こそは彼にはこちら側に来てもらいたいというわけです。先ほど話したように、彼とルシオラさんのですね、霊基構造の融合によって今後何かしらの不具合が生じてしまったら問題ですし、事故があってからでは遅いですからね。やはり、彼の側には我々の誰かが付いていたほうが賢明だと思いますよ。それで、あなた達二人の出番というわけなのです」





私とワルキューレはお互いに顔を見合わせた。
聞かされた話の内容があまりに唐突すぎて、あっけにとられてしまった。
私が初めて会ったときの横島さんは、普通の青年でした。
彼の印象といえば。
少しスケベで、調子が良くて、ドジで、暖かくて、強くて、優しい人―――。
横島さん、あなたは何者なのですか?
何者になろうとしているのですか?
いえ、何者にもならないようにしているのですか?
私が彼の為に何かできる事があるのでしょうか?
今の横島さんの体調は、必ずしも良いというものではない。
いつ噴火が始まるかも分からない、休火山といったところでしょうか。


「わ、私で良かったのでしょうか?もっと適任の方がいるのでは・・・」


重く閉ざされていた口をようやく開けて、私はサッちゃんさんに問いかけると、彼はゆっくりと背もたれに身体を預けた。



「まず最初に言っておくけどな、本当は今すぐにでも横島に来てもらいたいんやけれど、あいつの気持ちもあるしな、ゆっくり考えてもらおうかということになったんや。
あいつなりに天寿を全うして、その後に天界か魔界のどちらか選んで来てもろたらええわ。
それには今のうちから鍛えておいた方が、後々が楽やろ?
ほんで、とりあえずは神族と魔族の各代表一人ずつ人間界に派遣して、横島の教育や訓練とか色々と面倒みたろということになってな。あいつもムッサイ男のお守り役よりは、可愛い女の子の方がええやろと思うし、お前ら二人は顔なじみやし、丁度ええわっちゅーことになったんや」


わおう!
私達二人が選出された理由は、結構アバウトな感じですよ。
まぁ、確かに顔見知りの方が横島さんにとっても良いとは思うのですが・・・。
私は先ほどの話を聞いてから気になっていたことを、キーやんさんに質問した。


「もし、横島さんがどちらにも属したくないと選択したら、どうしましょう?」


「そうですねぇ。確かにこちら側の世界の住人となれば、彼に色々な役目を押し付けることになってしまいますねぇ・・・。今までのように自由気ままに人生を謳歌するというわけにはいきませんが、そんなに堅苦しいことばかりでもないと思いますよ~。ほら、出世して幹部待遇になると、報酬も福利厚生もドーンと充実してきますしねぇ。二人とも彼の直接の先輩となるのですから、なんとかフワ~ッとした感じで、うまいことスカウトしてくれないでしょうか?」


空になったグラスの氷をカラカラとさせて、溶けた氷水をチョロっと飲むキーやんさん。
おもむろに座席横にあるメニューから、次に何を飲もうかと検討をし始める。
サッちゃんさんは、自分もビールを再びお代わりしようと、テーブルにある呼び出しボタンを押す。
そして、情けなさそうな顔をキーやんさんに向けた。


「もおっ!キーやん、何を弱気なこと言うてんねんな!でも、そうやなぁ・・・、もし横島が断ったら次回の機会を待つしかあれへんけど、今回ほどのスペックで転生してくるとは限らんしなぁ。下手をして、みみずとか、オケラとか、アメンボとかに転生されるとかなわんしなぁ・・・。今の横島はかなりオモロイから、スカウトできんかったら勿体無いなぁ~。本当、出来ることならすぐにでも横島を引っ張ってきたいわ。ほんま頼むで、ご両人!」


パンと両手を合わせて、顔の前で私達にお願いポーズをするサッちゃんさん。
この方はもの凄く偉い方なんですけれど、今もお願いポーズをしながらニカッと笑っています。
今はがっちりとした人間の格好の彼が、冗談めいた感じでそんなことをするなんて、とても微笑ましく感じました。
キーやんさんはというと、注文を聞きに来た店員さんに追加の飲み物や料理を注文しながら、私にウインクをしてみせた。
うーん、私の上司はお茶目さんですねぇ。


そうですね。
あまり難しく物事を考えても、仕方が無いのかもしれません。
どんな時でもどんな状態でも、横島さんは横島さんなのです。
それにこれだけ色々な話を聞いて「はい、そうですか」、なんて素っ気の無いことを言うつもりなんて毛頭ありません。
むしろ、俄然やる気が沸いてくるというものですよ!
「神のみぞ知る」という言葉がありますが、先のことがどうなるかなんて誰に分からないと思います。
一応、神様の私が言うのだから、これ本当ですよ。
だったら、今の私にできることをやるしかないし、横島さんには私の出来る限りのことをしてあげたいのだ。
私はピンと背筋を伸ばして、トンと拳で自分の胸を打つ。


「はい!頼まれちゃいます!私は横島さんの師匠でもありますし、彼にはまだまだ能力の伸びしろがあると思います。この機会にみっちりと鍛えてあげたいですね!」


キーやんさんは、にこやかな笑みを浮かべて、ウンウンと頷いています。
その横でサッちゃんさんは、イタズラ小僧のような笑顔を浮かべて、ワルキューレの顔を見ます。


「どうやー、少佐?お前もやってくれるか?」

「少佐?私のことですか?」

「そうや、今からお前はワルキューレ少佐や。言っておくけれど、お前の軍籍はそのままやからな。今後の仕事がしやすい様に、わしの権限でとりあえず階級を一つ上げとくわ。しかし、お前いきなり軍を抜けるなんて無茶しよるなー。少佐が偶然人間界に来とって良かったわ。サンタのおっさんにも感謝やなぁ。『わし、人探しは得意やさかい』とか言っていたけど、ホンマやったわ。そんでどうや?やってくれるか?まぁ、嫌とは言わさへんけどな」

「ハッ!ご命令とあらば!それに私自身も横島のことは気になっていましたし、このまま放っておくことはできません!しかし、当の横島が嫌がるかもしれませんね・・・。小竜姫は良いとして、私のような者が近くにいたら・・・。それに横島とは行き違いもありましたが、いがみ合ったこともありますし―――」

「いやぁ、大丈夫やろ~。あいつは俺の見た感じでは年上好みやと思うしなぁ。あ、よく考えたら小竜姫も年上か・・・。でも、見かけは少佐の方がお姉さんっぽいやろ?少佐が本気を出せば、横島なんぞイチコロやと思うけれどナァ」

「イ、イチコロとかそういう問題ではないと思いますが!確かに、格闘戦ではまだ横島をイチコロにする自信はありますが!」

「そんな色気の無い話をしとるんやないて。少佐、お前横島にチョッとばかし惚れてなかったか?今度はベッドの上でもイチコロにしたりーな。『どや、横島。ええのんか?ここがええのんかー?』ってな。まぁ、少佐の方がイチコロになってもオモロイけどな!」


「い、いえ、あのっ!自分と横島はそういう間柄ではなくてですね!それに、奴のことは惚れていないということもないのですが・・・、いえ!そういうことではないのです!好きとか嫌いとか、そういうことは置いておいてですね・・・。
横島はですね、戦士として見所がありますが、いかんせん心が弱すぎます。いや、優しすぎるといった方が良いのでしょうか?まぁ、それが奴の良さではありますが、もう少しタフになった方が良いかもしれません。あとあの好色な所はいただけませんが、どこか憎めない所があって、一種のカリスマ性なのでしょうか?一癖も二癖もある連中が、自然と横島の周りには集まりますし―――。
えっとですね、あのう、そのう・・・。これは重要な任務です!私が横島を鍛え抜いてみせます!」





ワルキューレは、グダグダになってしまった話を何とかまとめて、ピッと敬礼をする。
彼女は少佐に昇格したみたいです。
早速、お祝いをしなくてはいけませんよね。
また後で何か考えましょう。
それにしても、彼女がこれほどまで横島さんのことを認めていたのは以外でした。
彼女もこの任務を引き受けたことで彼女は私とパートナー、相棒ということになりました。
味方になるとこれほど頼もしい女性はいませんが、ある意味では脅威かもしれませんね。




―――え?何が脅威なのかですって?
それはご想像にお任せしますね。








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