<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

Muv-LuvSS投稿掲示板


[広告]


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[30479] 【第十四話投稿】Muvluv AL -Duties of Another World Heroes-
Name: なっちょす◆19e4962c ID:3f492d62
Date: 2014/09/10 01:21
~近況の報告~
最後の投稿から2年余り放置し、申し訳ありませんでした。
言い訳をさせていただければ、PCのHDDデータが全て消えたことによる各種データやモチベーションの消失、進学による学業面の多忙等、様々な要因で十四話の執筆が進まず、このような結果となりました。

お知らせしていた修正については、未だ完成しておりません。
修正話の完成次第順次差し替えてゆきます。

この修正については、自身が後先考えずに物語を設定・執筆し投稿した事が原因です
これによって小さな修正を繰り返す結果、本来書きたかった物とはズレた物になりつつあったためです。
修正内容についてですが、ストーリーの展開・戦術機・BETA・登場人物等にあまり大きな変更を加えてはないものの、一部変更してる点が多々あります。


修正ばかり行い、また、投稿が大幅に遅れてしまい本当に申し訳ありません。
相変わらずの文章力ですが、よろしくお願いします。

~~~

―はじめに―

よう!俺の名前は白銀 武

初めに、このマブラブ二次創作SS
“Muvluv AL -Duties of Another World Heroes-”を見てくれてサンキューな
このSSの作者は“なっちょす”っていうんだ
覚えておいてくれよ?


こっからはこのSSを読むにあたっての約束だ
まぁ約束って言っても
「感想掲示板に、なっちょす以外の他人にとって不愉快となりそうなコメントや、なっちょす以外の人へのコメント返しや会話、陰口、悪口等を書き込まない」
って二つだけだ
簡単だろ?


そうそう“なッちょす”から読者へのお願いの手紙を預かってたんだ
忘れてたぜ☆

え~と、なになに?
―はじめまして、なっちょすです―
―当SS“Muvluv AL -DoAWH-"をお読みいただき有り難う御座います―
―このSSにつきまして、「ここがあまり気に入らない、このように改善してみては?」等の感想について、当方としましては「経験を重ねる」という意味で大変ありがたいものなので遠慮なくお願いします―
―…でもちょっと直球ではキツイかな?―
…だってさ
意味不明だなw

まぁ“なっちょす”にとって、これが人生初のSSらしいんだ
国語・表現ができないくせに、よくやろうと思ったよなぁ~
だから稀に変な表現・言葉使い等があるみたいだぜ?
其処は温かく見守ってくれってことなんだろうな
全く、厚かましい奴だぜ


最後は設定に関してだ

“なっちょす”は一応マブラブオルタ、クロニクルズ(0・1・2・3)をプレイ済みで、メカ本も持っているらしい
だが、オルタ本編をクリアしたのは随分と前で、時間の都合上、最プレイする時間が無いんだそうだ
不明な所は一応メカ本やwikiを参考にするらしいが、一部本編と設定が違うところもあるみてーだ
だから、其処は華麗にスルーしてくれよな

でも流石にスルーできないような箇所を発見した時は、修正するから感想掲示板に一報を入れてくれって話だ

ここからは大まかな設定だな
・一部他のアニメ等の設定をパk…ちょ、純夏やめ…ッグ、ガガーァァァ…リン(キラン☆
……
・世界観等の設定を一部都合よく変える
・一部オリキャラ設定に厨二設定
・俺は三週目の俺
・オリ主・キャラ、オリ戦術機・装備・兵器、オリBETAが登場
・主にオリ主と俺が中心
・俺とオリ主はチートマスター
・オリ主は現実と非常によく似た並行世界の高校生
・TEやユーロフロントのキャラも性別関係なく登場させる予定
 →ゴリ押し設定になる可能性大
だそうだ
なんか一部聞き逃せない事言ってた気がするが、華麗にスルーするぜ!

そんじゃ!楽しんでってくれよな!!


―――更新履歴―――

12/10/28 …“第十三話”を投稿

12/ 8/10 …番外編はチラシの裏に移行

12/ 8/ 9 …“MuvLuv×ACECOMBAT5(第一話)”を投稿

12/ 8/ 8 …“MuvLuv×ACECOMBAT5(プロローグ)”を投稿

12/ 7/16 …主題名を変更、“はじめに”を修正、各話を大幅修正、キャラ設定を修正、“第十二話”を投稿

12/ 4/ 4 …“第十一話”を投稿

12/ 3/ 8 …“第十話”を投稿 “第三話”を修正

12/ 2/20 …“第九話”“キャラ設定”を投稿

12/ 1/31 …“第八話―前・後篇―”を投稿 各話を修正

12/ 1/ 6 …“第七話”を投稿 “第六話”の次回予告、”初めに”の一部を修正

11/12/27 …“第六話”を投稿 気が付いた各話の誤字等を再度修正

11/12/18 …“第五話”を投稿

11/12/4  …“第四話”を投稿 各話の誤字等を修正

11/11/27 …“第三話”を投稿

11/11/23 …“第二話”を投稿 “はじめに”、“プロローグ”、“第一話”の指摘された誤字等を修正

11/11/13 …“第一話”を微妙に修正 

11/11/12 …“はじめに”、“プロローグ”、“第一話”投稿






[30479] プロローグ
Name: なっちょす◆19e4962c ID:3f492d62
Date: 2012/07/16 02:08

プロローグ
―2006年2月―
――シアトル・日本人居住区近郊100km・地下500m付近――

人類が長年戦ってきた地球外起源敵性生物、通称「BETA」…
“彼”は今、その醜い生物が作ったとは思えないほど華麗な巣の中にいた


「綺麗だなぁーホントにあの『たこ助』共が作ったのかねぇ?」


角膜に直接投影されるメインカメラからの華麗な映像に、思わず呟く


「はははっ、だったら誰が作るんだ?」


「そうですよ、全く。
  そんな事ばかり言ってますと、少佐にドヤさr
 「それだけは勘弁してください」
 …あらつまらない」


「けど『たこ助』って良いネーミングですね~」


「フフフッ、そうね」


“彼”の気の抜けたつぶやきに部隊全員が反応する

彼らは第一戦術機甲大隊第17小隊:通称ウォードック隊と呼ばれていた
此度ウォードック隊は“あの日”以来、新たに確認された第27ハイブ“ソルトハイブ”への帝国・米国共同による攻勢作戦に参加
同じ大隊のクレイン隊と共に割り当てられていたゲートから侵入したのだ


「それにしても全然たこ助さんたちは現れないですねぇ~」


ウォードック4:美桜乃 雫 中尉が苦笑しながら言う


「―確かに全く現れない…
 ウォードック2、何か反応有るか?」


ウォードック1:龍浪 響 大尉は先程とは変わって表情を引き締める


「ウォードック2よりウォードック1、こちらにも反応はありません」


ウォードック2:千堂 柚香 中尉もセンサーに反応がない事を伝えると同時に、同様に表情を引き締める


「おかしいわね…私が一回潜ったときはもっとワンサカ出てきたわよ?」


ウォードック3:エレン・エイス中尉も自らのハイブに潜った体験から疑問に感じる

そう、彼らはまだとても巧妙に隠されたゲートから侵入して以来、数回の小規模な戦車級との戦闘以外に全く戦闘らしきものを行っていなかった


「そうか…
 ―松風、そっちはどうだ?」


『そちらと同様だ。
 向こうはどうなんだ?』


クレイン隊の暫定隊長であり昔からの戦友でもある松風大尉に龍浪は聞いてみたが、結果は同様だった


「今少佐にも確認してみる。 ちょっと待ってろ」


龍浪は『少佐』こと神宮司まりも少佐にも確認をとる


『龍浪か、どうした?』


「少佐、こちらは全くBETAに遭遇しないのですがそちらはどうですか?」


『なんだ、龍浪“達”もか』


「“達”…ですか?」


『ああ、此方も全く遭遇してない。
 米軍も同様だ』


「クサいですね」


『ああ、かなりクサいな。
 …よし、何か少しでも反応があったら報告しろ』


「了解、切ります」


『―龍浪、どうだった?』


「米軍や向こうも同様らしい。
 …クサいな」


『あぁ…』


“彼”はそんな龍浪と松風の通信内容から、自らが知っているBETAの情報から相手の出方を考えていた
…そして一つの結論を出す


「…まさか、罠とか―?」


『おいおい、いきなりだな。BETAにそんな事出来んのか?』


「BETAが罠を張るなんて、そんな事…有り得ないわよ」


そんな予想を松風とエレンはあっさりと否定した
しかし彼にはそう“思わざるおえない”理由があった


「なら、なぜBETAはハイブを“地上”はなく“海底”に作ったんだ?
 塩原は奴等にとってもあまり良い環境ではないと思うが、少なくとも海底よりはマシなはず。
 他のハイブの二の舞にならない様にしたとも考えられない?」


「つまり“G弾による攻撃”を恐れて海底に作ったとでも言いたいの?
 バカげてるわ」


“彼”の疑問に対し、エレンは反論する


「それに、先の超大型種“母艦級”の連続出現タイミングもグットタイミングすぎないか?
 それに先月現れた新種…
 アイツの攻撃についてどう考えても、ね…」


「「「「『………』」」」」


さらに続けて説明する彼のとある言葉に、誰も反論が出来なかった

先月現れた新種…
別に新種の登場自体への驚きはさほどでもなかった
彼らが言葉を失った理由は、その新種の“攻撃の種類”に対してであった

BETAの大抵の攻撃タイプは個体が持つ触手・爪・装甲・歯による接近しての格闘による物理攻撃であるが、その新種の攻撃タイプは全く異なっていた


―彼らの格闘能力に、高機動飛行能力と射撃能力が加わったのだ―


それまで人類はBETAが長距離攻撃してくるのは主に光線級だけであり、個々の機動能力は戦術機に遠く及ばないと“決めつけて”いた
新種が登場した時も、誰もがそう思っていた

…しかし、その新種は違っていた
中距離からの小・大型エネルギー弾と生体誘導兵器(“生物として生きているミサイル”とでも言った方がわかりやすいかもしれない)による集中砲火で、一個中隊の戦術機が瞬く間に全滅
辛うじて砲撃を三次元機動によって避けた一個小隊もたった一匹の新種がその機動について行き、刺身にされてしまったのだ

当然ほかの部隊は混乱を極めた。
そんな中でまともに指揮系統が機能するわけもなく、次々に帝国・米軍構わずマーカーが消えてゆく

しかし、その様なカオスな状況内で何とか冷静を取り戻せたウォードック隊は彼が考えた奇策によって何とか士気を取り戻す事に成功
その後両軍はS-11の集中投入によって勝利を収める

だが、その代償も大きかった
両軍合わせて全体の20%の戦術機を失い40%が何かしら損傷を受けた
更に戦闘車両に限っては50%以上も一気に失っていたのだ


その後、帝国海軍と米国偵察衛星による懸命な残党追跡によってこの第27ハイブの存在が明らかとなり、又、何度かの襲撃によって塩原に存在していた巧みに偽装された三つのゲートを発見することができた
この際、海底に存在していたゲートは直ぐに見つけたのだが、例によって戦術機に本格的な潜水能力は無い故に魚雷と爆雷を用いた攻撃によって完全に潰していた

両軍首脳部は発見したバイブに対して急遽調査を兼ねた攻撃を計画し実行


―そして今に話が繋がる


「ウチにはどう見てもあれはBETAが戦術機を意識して作り出したとしか考えられない。
 そうでないにしても、着実に人類の戦術に対応してきている様に感じるんだ」


「確かに言われてみれば筋は通る。
 しかし、何せ確証がないからな…それだけじゃ何ともいえないな」


「なら、お前はBETAがどのように出てくると予想するんだ?」


松風が聞く


「そうだなぁ~ウチなら…」


“彼”が説明を始めると同時に、ウォードック隊とクレイン隊は広場のような横坑に出た


「ウチならここで何かしらのアクションを起こすな」


“彼”はその横坑を見渡す
それと同時に、後方からまりも率いる帝国第一戦術機甲大隊とウォーケン率いる第七混成戦術機甲大隊がそれぞれ別々の横坑から姿を現した


『そこにいるのはウォードック隊とクレイン隊か?』


まりもから無線が入る


「し、少佐っ!?それにウォーケン少佐も…
 何故ここに?」

龍浪が慌てて無線に反応


『龍浪大尉か…
 それは我々も聞きたい。
 我々はあのゲートから道なりに一直線に進んできただけだ。何故別ルートから侵攻した筈の貴官等がここにいるのだ?』


『ウォーケン少佐、我々も同様にただ横坑に沿って侵攻してきただけです』


まりもが答え、龍浪と松風も同様に答える


『そうか…』


ウォーケンはそれらの返答を聞き、しばらく考え込んだ


『―神宮司少佐、此処からは共同で進行する事を提案する。
 その方が個別に撃破されにくくなり、又、BETA出現時に対しての火力も集中できる。
 何せ未知のタイプのハイブだ。仲間も多い方が兵の気分も落ち着くだろう』


ウォーケン少佐からの提案に、まりもも賛同
そして、まりも少佐率いる第一戦術機甲大隊(41機)、ウォードック隊(5機)、ウォーケン少佐の第七混成戦術機甲大隊(63機)計109機 による侵攻が始まった


「コマはそろった…」


“彼”はボソッと呟いた


「なんか言ったか?」


「何でもない、ただの独り言だよ」


……

それから五分経っただろうか、HQからの緊急通信によって事態が変動する



『移動してくる震源だと!? 間違いではないのか!?』


まりもはHQからの通信に声を荒げる


『いいえ、艦隊側も様々な方法で確認しましたが、間違いないそうです』


『種類は!?』


『振動パターンより、母艦級で有る可能性が高いようです。
 …えっ?
 …さ、更に震源数増大!
 数3!接敵まで450切りました』


『何だと!?』


流石のまりももオペレーターからの報告に驚愕する


「くそ! 当たっちまったか!」


“彼”は拳を握りしめた


『おい!本当に起こっちまったなぁ!』


「ああ、全くだよ畜生っ!」


松風からのツッコミに、彼は不機嫌に答える


『少佐!米軍はどう動…
 『…すまない、神宮司少佐。さらに悪い状況になったようだ。
  我々のセンサーに旅団規模の反応があった。距離は2000』
 っくそ! こっちもか!』


まりもは頭をフル回転させ、対策案を考える


『ウォーケン少佐!
 ここはS-11を用いた撤退作戦を提案する!』


『――っ!!ええい、仕方が無い!
 神宮司少佐!内容は!?』


ウォーケンは非常時であると判断し、S-11についての規定を無視することを決めた


『まず、此処にS-11を一発設置し、先頭のBETAが到達するのを安全圏で待機。
 到達次第起爆させ、時間を稼ぐ。
 その間に先程の合流点の三つの横坑にS-11を二発ずつ設置。
 設置が完了し我々の離脱が済み次第遠隔起爆させ横坑を潰すというものなのだが、どうであろうか?』


『現地点や分岐点にS-11を設置するに事には賛成だが、どうやら時間がないようだ』


まりも達の不知火のセンサーにも反応が出る
接敵まで3分程しかなかった


「ウォードック5より神宮司少佐。
 代案があるのですが、発言しても良いでしょうか?」


突然、“彼”が二人の通信に入り込む


『今はそんなじ…
 『良いだろう。 言ってみろ』
 …ウォーケン少佐!?』


「少佐、ありがとうございます。
 代案というのは、自分が此処に残り敵を抑えます。
 「『『―――っ!?』』」
 その間に少佐達が分岐点にS-11を設置。
 設置が完了次第、自分に連絡を入れ、少佐達は撤退してください。
 その後、自分はロケットモーターに点火しここを離脱。分岐点を通過し、安全圏に達した後起爆させます」 


“彼”は唖然としているウォーケンとまりも、通信を聞いていた龍浪をおいてその案に至った経緯を続けて話し始める


「この案に至った経緯としまして、ウォーケン少佐の部隊のF-18EやF-22A、我々の不知火よりも私の機体の方が最高速度・加速性・機動性が勝っているためです。
 しかしそれでも多少の討ち漏らしが発生するかもしれませんが、大した数ではないでしょう」


“彼”の代案に、皆が唖然としている中、ウォーケンが口を開く


『―無謀すぎる!
 せめて我々も…
 「ウォーケン少佐、気持ちはありがたいのですが、我々人類には今、一機でも多くの戦術機が必要なのです。無駄に損害は増やせません!!」
 それもそうだが―』


『―ウォードック5、成功させられる可能性でもあるのか?
 『少佐っ!?』』


まりもは顔を伏せたまま“彼”に聞く


「――少なくても、ゼロではありません。
 先月の戦いっぷりは、見てくれたでしょ?」


“彼”はその問いに渾身の笑顔で答えた

“彼”は先月の戦いの際に単機で新種を5匹同時に渡り合い、倒していたのだ


『―そうか、そうだな。
 …すまない、頼んだ』


まりもは相変わらず顔を伏せたまま答える
しかし、それでも他人には歯を食いしばっているのがわかった


「了解です。少佐☆」


“彼”はいつものように能天気に答える
同時に、両軍の戦術機が離脱し始めた


「――頼んだぞ。
 そんで、絶対に…
 「何当たり前のこと言ってんだ龍浪? ウチは元々も帰るつもりだぞ?」
 …そうだな。よし、そしたら帰ったら合成ケバブ奢ってやる!」


「おっ!? 言ったなぁ? 忘れんなよ?」


「あたりめーだ。
 …そんじゃ、地上で会おう!」


「ああ!! 地上でな!」


最後まで残っていた龍浪達ウォードック隊も、離脱する

“彼”は全機が離脱したことをレーダーで確認する


「さぁて…
 どうしましょうかねぇ?」


『さぁ? お任せします、大尉』


“彼”の質問に“彼”の相棒は答える
そして奥の方にBETAが姿を現した


「げ! 新種もいるよ…」


『その様ですね』


“彼”と相棒がそんな他愛もない会話をしていると、まりもから極秘通信が入る


「ん? 少佐?どうし…
 『―ウォードック5、聞こえているな』
 えぇ、はい」


“彼”はいつもと違うまりもの雰囲気に少し押される


『―これは死守命令だ、命令違反は許さん。
 …必ず、…必ず帰ってくるんだぞ!! 如月っ!!』


「―っ!!」


そう言って顔を上げたまりもの目尻には、涙が溜まっていた


「―なぁ~に泣いているんですか、まりもちゃん?
 『―っ!!こっ、これはだな。…それより貴様! 今なんて…』
 当たり前ですよ、まりもちゃん。
 『っ!!』
 …ウチは必ず帰りますよ」


『―必ず、だぞ』


「――えぇ。必ず、です」


そう宣言すると“彼”こと如月 宏一大尉は通信を切った
同時に、両手と背部両外側装備ラックに搭載されている87式突撃砲に初弾が装填されていることを確認、跳躍ユニットに火を入れつ


「さぁ、行きますか!」


自分に言い聞かせるように言う


(そうだ。まだ、俺は死ねない。俺は死ぬ訳にはいかないんだ!)


「いつでも気分は…」


(あいつらの為にも …だから!!)


「ロックンロォォォルッ!!」


(必ず生きて帰るっ!!)


宏一は自身の思いを心に刻みつつ、同時に雄叫びをあげながらBETAに向けてフットペダルを踏み込んだ



[30479] 第一話
Name: なっちょす◆19e4962c ID:3f492d62
Date: 2012/07/16 02:10

―2000年2月―
――国連軍・横浜基地――

まだ建設材料の独特の臭いが取れない地下区画の通路を、三つの人影が歩いていた


「―ねー?タケルちゃん… 私の話、ちゃんと聞いてる?」


三人の中心にいる青年-白銀 武の顔を、その左側にいた少女-鑑 純夏が特徴的なアホ毛を?マークにしながら覗きこむ


「へーへー、ちゃんと聞いてますよ。
 要するに、たった一日で“難しぃぃい”CP育成教科課程Cをクリアしたって話だろ」


タケルが頭をボリボリと掻きながら返事をする


「そうそう!ピアティフさんがね―…」


隣で嬉しそうにはしゃぐ幼馴染をよそに、タケルは少女とは反対側にいる成人女性―ピアティフにボソボソと話しかけた


「ピアティフさん… 純夏の話、ホントなんすでか?」


「えぇ、鑑さんの話は本当の話です。
 まだ軍属ではありませんが、なるとしたら― 私が言うのも変ですが ―良いCPになると思いますよ?」


笑顔で答えが返ってきた


「純夏が…ねぇ…?」


「あ~!! 今、私の事バカにしたな~!?
 タケルちゃんのクセに、生意気だ~!!」


プンスカと怒り出す純夏
しかし、タケルはそれを至極当然の様に受け流し、別の話題を振った



エレベーターで更に地下に来た3人は、ある機密区画でエレベータを降り、ある部屋の前で止まった
ピアティフが戸をノックした後、「失礼します」との言葉と共にIDカードを使って入室する

開けられた扉の向こうに広がるのは、いかにも新築といった雰囲気の部屋
しかしその雰囲気とは真逆に、床には多数の書類や書籍が所狭しと置かれていた
そんな様子の部屋であったが、良く見ればまだ完成していないのか、所々の外装が外され中のケーブルがあらわになっている

床に置かれている物が一層と積み上がっているところに、一人成人女性がカタカタと音を立てながらPCを操作していた
その女性-香月 夕呼は彼らの入室に気が付き、口を開く


「白銀、鑑、ピアティフ…来たわね。
 早速だけど、ピアティフ。 鑑が基礎訓練課程を終えたんだって?」


再度PCに視線を戻す


「はい。副指令。
 鑑さんは本日の午前の検査試験を合格、それに伴ってCP基礎訓練課程を終えました」


隣で「えへへ…」と頭を掻く純夏


「そう。
 なら、来月あたりから白銀相手に実際のCP訓練でもやってもらおうかしら?」


「ほほほほ、ホントですかぁ!?」


アホ毛をピンと伸ばし、驚く純夏


「ま、あくまでも“予定”だけどねぇ~」


「ぃやったぁぁぁ☆」


夕呼は素っ気なく答えると同時に、タケルに質問の矛先を向けた


「で、白銀?
 アンタの方はどうなの?」


「え~と、XM3については概ね前回のバグ取りで完成です。
 まぁ後は先生のPCに送ったログの確認をしてもらうのと、機体の本格的な関節強化だけですねぇ」


「そう。 まぁ関節強化云々の方については任せるわ。
 霞を使ってもかまわないから」


「りょ~かいです」


入れたコーヒーを夕呼に渡していた幼い少女‐社 霞が、そのウサ耳の様な物を上下に動かし反応する
その顔は少し嬉しそうであった





「―では、失礼します」


その後10分程各々の報告と雑談を終え3人が退室しようとすると、夕呼がタケルに残るように言う
タケルを残し、二人が退室する

それを確認した夕呼はPCから目を離し、椅子に凭れかかりながら1枚の書類をタケルに渡した


「―白銀、例の会談だけど、来月に決まったわ。それがその詳細」


「来月ですか…」


夕呼から告げられた日程にタケルは少し苦笑いする


「何よ? 行きたくないの?」


「い、いやそう言う訳じゃないですよ!そもそも最初から行くつもりでしたし…
 唸ったのはその事についてではなくて、向こう側の食いつきが良いことにビックリしたんですよ。
 つい先週まであんなに文句言ってたのに、いきなり“OK”だなんて…」


タケルはふと気が付いたように夕呼に聞く


「…先生、何かしました?」


「別に~? ただちょっと“忠告”はしたわね」


「…一つお聞ききしてもよろしいでしょうか?」


「いいわよ?」


「ぶっちゃけ、どんな忠告ですか?」


「さぁね? まぁあんたの様な“お子さま”の頭には少し早い“忠告”かしら~」


夕呼の腹黒いにやけ顔を見て、タケルは思わず苦笑しながら二~三歩後ろに下がる


(先生、相変わらず鬼や)


そう心の中で呟いた


「そうそう、白銀。
 この前改装した『撃震・改』のテスト結果。どうだったの?」


『撃震・改(F-4EJ改)』…
横浜基地をはじめとする、日本全国に未だに多く配備されている一世代型戦術機『撃震』を、機体の老朽化に伴い横浜基地オリジナルとして主にOS・駆動・関節系の性能向上させたモデルである
後にこの改装を施した『撃震・改』とXM3のコンビは、衛士の腕次第では二世代型戦術機をも圧倒できると言われるようになり、日本にある『撃震』全機がこの改装を施す事になるが、勿論二人はそんな事をまだ知らない


「機動性は勿論の事、俊敏性や頑丈性も元の撃震より格段に向上してますね。
 あれならXM3との相性は良いはずです」


今までに撃震・吹雪・不知火・凄乃皇といった様々な機体に乗ってきたタケルは、素直な意見を伝える


「そ、よかったじゃない。
 まぁ、御礼は開発部の人に言うのね」


「勿論です」


タケルはコーヒーを啜りながら、苦労していた開発部姿を思い出す

撃震の改装について、二人はあくまでも改装案を作っただけだった(→その時はXM3の開発で忙しかった)
それ故、細かい点については開発部に任せていたため、彼らは一日中…それこそ徹夜で試行錯誤を繰り返し完成させたのだった

そもそも、撃震の改装はタケルからの熱望でもあった
それは―A-01を除いた―横浜基地の主力戦術機が撃震であった為である
武は『前の世界』にて体験した“トライアル襲撃事件”や“横浜基地襲撃事件”で被害が出たのは、XM3の性能に撃震が付いていけなかったからであると考えていたのだ(実際はただの訓練不足)
それ故の今回の改装であった

タケルが突然何かを思い出したように夕呼に質問を問いかけた


「あ! 孝之と慎二の様子は…」


「あぁ、あの二人ね?
 病院からの連絡じゃ、相当な問題児っぷりらしいわよ? まぁ来週辺りに復隊してもらうわ 」


「ハハハ…そうですか。いやぁ、良かった」


夕呼の返事に白銀は思わず安堵を漏らす


「フーン?…何が良かったの?
 もしかして、あの二人に聞かれたとか~?」


「…ナ、ナニヲイッテルンデスカー? ただ俺は二人の状態が気になってですねぇ…」


夕呼からの図星な指摘に思わずカタコト言葉になるタケル


「ふぅ~ん?
 けどまぁ、それにしてもあの二人のギャグセンには本当、ビックリしたわ~
 数千のBETAやG弾の投下に対しては生き残るのに、まさか二機共揃ってG弾の爆風で飛んできた瓦礫に同時にクリティカルヒットするとわねぇ」


夕呼は二人が病院送りになった理由を思い出し、思わずケラケラと笑いだす


(笑いどころじゃねぇ! かなり危険な状態だったんだし…)


タケルは夕呼に突っ込みを心の中で入れつつ、同時に二人に同情した
そして真顔で夕呼に話しかける


「それについてもなのですが…
 …先生には本当に世話になりっぱなしですね」


急に真顔でそんな事を言われた夕呼は、上半身をのけ反らす
無論その表情はやや引きつっていた


「な、何よ? 急に改まっちゃって。気持ち悪いわね」


最後の台詞に(精神的な)ダメージを受けつつ、タケルは話を続ける


「いや…
 ただあの四人の件にせよ、中将の件にせよ…そして純夏の件にせよ
 …本当に先生には頭が上がらないなぁって」


「え?なに?
 まだあんた、そんな事気にしてんの?
 前から言ってる通り、私はただ、頭に響いてくる『別世界』の私からの忠告に従っただけよ?」


「そうは言っても…ですね…」


「それとも何? まさかアンタの為にやったとでも?
 …んな訳あるわけないじゃな~いw 自惚れるのも恋愛原子核の体質だけにしときなさい」


「そ、それもどうかと思いますがねぇ(汗」


コーヒーを飲みほしたタケルは霞に礼を述べつつ、夕呼に用事を確認
用事が無いと知ると自身の身体訓練の為にそさくさと退室した


「はぁ… あいつ変なところで妙に勘が良いんだから。困ったもんよ、全く」


夕呼は霞と二人っきりになったと同時にそんな事を考えつつ椅子に深く座り込む


「それにしても『最初と二度目の世界』の私… 必死だったわねぇ…」


夕呼は独り言を言いつつ、10年前のことを思い返していた



――10年前――

米国のとある実験射爆場にて、米軍はある爆弾の人為的起爆に成功した
五次元効果爆弾、通称“G弾”…
この実験の成功は、米国は自国案の次期オルタネイティヴ計画の成功に一歩近づいた事を意味していた
その場に居合わせた者達の歓声が管制室に響く中、その射爆場から大体地球の裏側に位置する日本の大学にて、当時学生だった夕呼は突然のひどい頭痛に悩まされていた


「全く… な、何なのよこの頭痛は… 頭が…割れそう…」


朝起きてから断続的に襲ってくる激しい頭痛に、夕呼は再度襲われていた
只の激しい頭痛なら何度も体験していたため慣れっこだったが、今回のはソレの非ではなかった
深くえぐり取られ、尚且つ刺されるような痛み
そして同時に浮かぶ意味不明なキーワード…

夕呼はそれらを何とか規則化しようとするも、全く意味がなかった

やがて視界がぼやけ始める
これには流石の夕呼も死を悟った

滝のように襲いかかる痛みに耐えつつ保健室へと歩みを向ける
しかし、あと数歩のところで気を失い床に倒れ込んでしまった



―――夕呼side―


「…ん、んんん?」


気が付いた私は起き上がり、そしてあたりを見渡した
普通なら視界に広がるのは保健室の無機質な内装とベットのはずだけれども、今、実際に私の視界に広がるのは果てしない暗闇だけだった

ここは地獄なの?

私にしては珍しくそんな事を考える
まぁ、足も地に付いていない…いわゆる浮遊状態ってやつだから、しょうがないわね

そんな事を考えていると、突然スッと目の前に人が二人現れた
一瞬ギョッとしたけど、直ぐに冷静さを取り戻して現れた二人の観察を行う

…風貌は共に二十代後半
髪の色は二人とも私と同じ紫
服装はどちらも軍服に白衣を羽織っている
顔は…非常によく似てるわね
でも片方の顔は、なんだかやつれて見えるわ
…二人を見ていると、何だか年を取った私みたいな気がする


「初めまして…とでも言うべきかしら?『この世界』の私?」



片方の人物が突然口を開いた


「『この世界の私』? 何よ、それ?」


思わず思考を口にしてしまう


「まぁそうなるわよね。 今、何となく白銀の気持ちが分かったわ」


もう一方が喋る

…白銀?…誰よ、ソイツ


「まぁいいわ。 あまり時間がないから、要点を話すわね。
 私は『オルタネイティヴ5』が決行された世界の未来の私…
 そしてコッチが5が決行されず、結果的にだけどオリジナルハイブの攻略に成功した世界の未来の私よ」


最初に口を開いた方がそれぞれの自己紹介をし始めた
『~の世界』って言うあたり、この前思いついた私の説は正しいという事なのかしら?
でもまだ確証が無いし、第一これが現実であるかすら…

…今なんて言ったの?
『オリジナルハイブの攻略に成功した』?
そんな事が可能なの?
人類は今、劣勢なのよ?


「色々と聞きたい事はあるでしょうけど、今はそれどころじゃないの。
 だからよく聞いていなさい」


「まず、私たちが“来た”理由からの説明…」


突如、二人の“私”は一人ずつ自分達が来た理由を説明し始めた

始まりはやつれている方の“私”の世界だったらしい…

『BETA』が存在しない世界…
そんな夢のような並行世界から、その男“白銀 武”はやってきたという
特段に変わったところは無かったが、「只、興味が湧いた」為に自分の手元…207訓練部隊に白銀を編入させる
白銀は軍人としては全く駄目な男で、いつも他のメンバーの足を引っ張っていたらしい
だが、それは『只の歩兵』としてだけであり、『衛士』としては最高の部類の素質を発揮する
白銀という存在のおかげで、“私”は自身の理論を基にした計画『オルタネイティヴ4』の成功に希望が持てたという
しかし、結局理論の核心には至らず、計画は頓挫。『オルタネイティヴ5』へと移行が決定してしまう
時に2001年12月25日…
皮肉な“クリスマスプレゼント”となってしまった

数年後、作戦が決行を目前に“私”は「選ばれた10万人の内の1人」として地球を離れてしまったという
その為その後彼や世界がどうなったかは知らないらしいのだが、結局は人類が負けただろうと言いきった


次がもう一方の“私”の世界

左の私の世界で死んだと考えられる白銀は、“私”の世界にループしてきたという
白銀は自身の“未来の記憶”と能力を使って『オルタネイティヴ4』を成功させ、人類を勝利させようと決心していた
しかし神様って物はそんな生半可に優しいものではないらしい…
歴史を変えたことによる『歴史の修正』の力が働き、クーデターの発生やまりもが死ぬといった事態を招く
そんな現実から目をそらした白銀は『元の世界』に逃げ帰ってしまった
だけどもそこでも『因果導体』となった自身の影響により、恩師の死、親友の記憶喪失、幼馴染の負傷といった惨劇に見舞われたという
一旦は自殺をも考えたらしい…
しかし、その世界の“私”に説得され再度、「みんなを守り、世界を救う」と決意し戻ってきた
戻ってきた白銀は00ユニットの正体、仲間・上官の死といったことに見舞われた
それでも白銀は挫けず、戦いつづけた…
…皆を真の意味で守るために
そんな中、人類はBETAの概念に重大な間違いを起こしていたことを知る

BETAは人類の戦術に適応し、対応する…

人類に残されている時間が無い事を知った私達は、BETAが人類の戦術に適応する前に頭脳である『あ号目標』を破壊する作戦を立案
国連・各国軍を巻き込んでオリジナルハイブの攻略に向かい、結果的に膨大な犠牲を出しつつ作戦を成功させたらしい
しかし、作戦の成功と引き換えに作戦に参加した主要メンバー8名の内6名を失う
その6名とは白銀が最も守りたかった者だったという…
白銀は作戦後、仲間の遺志を継ぐ為にその世界で戦い続ける事を決めるが、因果導体から解放され、存在出来る要因が無くなってしまった彼は元の世界に戻ったという


「…けど、重要な話はここからよ。」


「―白銀を助けてあげて」


「え!?」


一体何を言っているのかわからなかった
だって白銀は元の世界に戻ったんじゃないの?


「いいえ、戻っていない。
 正確には戻っていない可能性が高いわ」


「…どういう事?」


「それは…」


―白銀は因果導体から解放され、元の世界に戻るはずであった
しかし、その際に恐らく白銀本人が強く望んだのだろう
『こんな終わり方はダメだ! もう一度皆を救いたい』
と…
その結果、再度白銀は因果導体となり、白銀の関係者であった自分達が因果情報として私の所に来れたらしい


「白銀は尚も世界を救い出すために戦おうとしているわ。
 でも、アイツ一人ではそんな事は到底不可能…」


「「だから、白銀を助けるのよ!!」」


…我ながら思うけど、それが人に頼む時の態度なのかしらねぇ


「まぁ…」


「「…?」」


「―いいじゃない、やってやるわよ!」


「「…!!」」


「そんな面白そうな事、こっちからお願いしたいくらいよ?」


「…ありがとう。
 餞別に私達の記憶を託すわ…それじゃあ頼んだわよ?」


「当り前よ! 任せなさい!!」


彼女達の影が薄くなってゆく


「あぁ、それと… まりもに宜しく」


そして完全に彼女達は消えた
と同時に、私の頭の中に彼女等の記憶が流れ込んできた

かなりの情報量故の頭痛だったけど、何とか耐える事が出来た
記憶を受け取った私はそれを確認する前に、意識を集中させ目を覚ますイメージをする

やがて全てが無になった



気が付けばそこは大学の衛生室だった
まりもが、半ベソをかいている


「夕呼!気が付いたのね! 大丈夫なの!?」


「大丈夫よ。
 …全く、まりもは心配性ねぇ。 そんな暇があるなら、人のことより自分の男運の事を心配しなさいよ」


「…っ!
 な、何よ!もう! 人が心配して…」


何か言ってるけど、今は気にしてられない
早速彼女達の記憶を思い出してみる

…何よこれ

キーワードしかわからないじゃない(イラッ
本当に助けてほしいのかしら
大体ねぇ(ry


………

――現在――


…あの頃は必死だったなぁ
けど、同時に楽しくもあった
思えば、私がこんなに集中したのは、あの時のせいからかもしれない
…そう、全てはあの時からだった…

………

―ヴゥゥゥゥン!ヴゥゥゥゥン!ヴゥゥゥゥン!―

私の鼓膜を警報音が揺るがす
一気に意識が現実に引き戻され、覚醒していく

寝てた!? まぁいいわ、それより何事よ?

悪態を付きつつも、鳴りだした内線を取る


「香月よ! 何事!?」


「演習場北部10km地点に正体不明の重力異常場が発生しました」


ピアティフからの報告

…重力異常場ですって!?


「規模は!?」


無意識に聞いた
その間も私は頭の中で幾つかの仮定を立てていたが、結果一つになった

重力異常場が発生するもの…“G弾”
G弾は今のところ米軍しか持ってない
…という事は米軍の仕業!?


「不明です! 波長からは何も…」


波長が不明…
少なくともG弾では無い可能性が高くなったわね
…冷静に考えればわかる事じゃない!

となると一体何が原因なの?
…ック、考えようにもここじゃ情報が足りないわ!


「今のところそれだけが唯一の救いね。すぐに行く!!」


「了解しました」


内線を切ると同時に、白銀が駆け込んできた


「先生っ! この騒ぎは一体…
 「わからないわ!ともかく、出撃準備しておきなさい!」
 了解!」


白銀が踵を返してハンガーに向かっていく
私も白衣を身に纏い、社を連れてその足を管制室に向けた…

―――夕呼side end―

第一話END

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



後書き

補足設定
・タケルちゃん三週目
・タケルちゃんがループしてきたのは明星作戦時(後日詳しく説明)

乱筆ですみません
様々なご指摘、感想をお待ちしています

次回予告
この世界に遂にアイツがやってくる!!
ヤツは白銀達の神話となれるのか!?
次回『俺、参上!!』 【Cv.香月 夕呼】




[30479] 第二話
Name: なっちょす◆19e4962c ID:3f492d62
Date: 2012/07/16 02:10

青年は夢を見ていた

小学校ではいろいろな仲間と遊び、中学では初めての挫折を味わって、高校では青春を邑楽している自身の姿…そんな内容の夢だった

青年はそれが自分の半生であることにすぐに気が付いた

今ではいくら望んでも送ることが出来ない生活に青年が一種の感傷に浸っていると、高校生活の途中で映像が切り替わる
そこにはかつての友人も家族も知り合いもいない
ただ果てしない塩原が広がっていた

青年は気が付けばいつの間にか一衛士としてBETAと戦うことになっていた
ある中隊に配備されるも部隊内で浮いていた
が、彼等は互いに協力して幾多の戦場を戦い抜き、いつの間にか裂こうにも裂けない固い絆が生まれた

自然と青年の目尻に涙が溜まっていた
再度映像が切り替わる

その風景は青年にとって忘れることができないものだった

青年達の中隊は、とある難民を保護していた
レーダーにノイズが走り、そしてラファールのエレメントが接近してきた


(―っ!!)


青年達は一斉にそのエレメントを警戒する


(…まさか)


接近してくる戦術機の銃口が、青年達に向けられた


(…やめろ)


青年達は左手に装備していた追加装甲を咄嗟に構え、防御姿勢を取る
難民が後ろにいる故に、回避・攻撃行動ができないのだ


(…やめてくれ!)


接近してくるエレメントは120mmをバラまき、その内数発が構えていた追加装甲に命中
120mmが弾け、アルミ片を含んだスモークが辺りを青年達諸とも包み込む
レーダーが使えなくなった彼らは、頭部センサーモジュールを動かし目視による索敵を開始…
互いの背中を守りつつ、難民を守る様に陣形を組み直し始めた

突如、ある戦術機側面のスモークが縦に割れる

その戦術機の衛士が割れたスモークにメインカメラを向けた
彼の角膜一杯には、振り上げられ、振り下ろそうとされるフォルケイトソードが映った
咄嗟に追加装甲でこれを防ごうとした
だが、それよりも振り下ろされるのが早い

フォルケイトソード独特の刃先が彼の戦術機の頭部に吸い込まれ、彼諸共両断してゆく


「(やめろぉぉぉっ!!)」


自身の叫び声と共に青年“如月 宏一”は目を覚ました


「…ゆ、夢?」


宏一は額に溜まっていた大粒の汗を拭う
一呼吸意識を落ち着かせると周囲の警戒に入った


(地上にいつの間にか出てたんだ… でも、塩原じゃない?)


自分の目で現状を確認する為、コックピットハッチを開き身を外に乗り出す


(一面荒野、潮の香りはしない… 内陸部…?)


宏一は自身が気を失うまでの過程を思い返す
まさか…と呟くと急いで管制ユニットに身を滑らせた


「急いで現在座標を確認してくれる?」


『既に確認しました、大尉殿』


彼の要望に“相棒”は答えた



「相変わらず仕事が早いね。で、座標は?」


『北緯35度48分,東経139度64分付近です』


(北緯35度,東経139度…!?)


「それに間違いは無いよね?」


『はい、精度に多少の誤差はありますが間違いありません』


宏一は言葉にならないうねり声を上げながら、眉間を押さえながら項垂れる


『ここは日本帝国です』


……

数分後、動かなくなっていた宏一が沈黙を破る


「…近くに基地はある? 帝国軍でも国連軍でも何でもいいから」


『東南方向、約10km地点に国連軍横浜基地があります』


(国連軍横浜基地…どこかで聞いたな…っ!!)


ハッと気が付き、操縦桿を握り直す宏一


「よし、そこに向かおう」


『大尉殿、何かアテでも有るのですか?』


「まぁ一応ね。
 それと回線は送受信共にオープンにしておいて」


『了解。
 …送信システムに異常が確認されました。送信は不可能です』


「なら文面形式での送信は?」


『可能』


「ならそれを」


『了解』


指示を出すと同時に、宏一は機を東南方向に進める


『上空にUAV。
 更に横浜基地より戦術機と思わしき反応が6つ。此方に来ます』


「了解。
 向こうから何か言ってきたら教えて」


「了解」の返事を聞くと、回線と広域レーダーに注意を向けた

……


「ボギー、ホーネット隊及び白銀・伊隅大尉両機との距離1000切りました。
 白銀機の望遠カメラ映像をモニターに出します」


「わかったわ」


夕呼はピアティフからの報告を聞くと、管制室の全面に設置されている大型モニターに目をやる
そこには白銀が搭乗している『撃震・改』の望遠センサーからの映像が映された


(色は黒系、機体の形状は不知火…けどいろいろと細部の形状が少し違うみたいね)


ぼんやりと映る機影から、夕呼は大まかな機種の判断を試みる
しかし彼女にはそれが無駄だと知っていた


「レーダー、反応は相変わらず?」


「はい。反応は相変わらず皆無です。
 UAVを飛ばしておいて正解でした」


「わかったわ」


何故ならばその機体はステルス機だったからである
夕呼達はたまたまレーダーに映った影を発見し、急遽UAVを使って確認
その後、レーダーの反応が無くなっていたのだ


(このご時世にステルス機を所持しているのはアメリカ程度… なら、何故内陸部から現れるの?)


幾つかのケースを自問自答し、ステルス機が内陸部から現れた理由を考え、一つの結果に辿り着いた


(やっぱり、あの重力異常場が原因としか考えられないわね)


「距離500を切りました。
 ホーネットマムがボギーへの交信の許可を求めています」


「許可しなさい」


(さて、吉とでるか凶とでるか… 見ものね)


吉が出ることを祈りつつ、夕呼はモニターに注目していた

……


「白銀、どう思う?」


「見たところ敵意はないようですね。
 ただ乗ってる機体がねぇ…」


タケルはみちるからの通信に苦笑しながら答える
みちるも同意見だった


「ホーネットマム、何か言ってきたか?」


『ネガティブです。大尉』


ホーネットマムからの報告に、みちるは最悪のケースを考慮して87式の安全装置を外した


『大尉、どうしますか?』


「…取り合えず様子を窺おう。話はそれか…んっ?」


ポーンと音を立て、みちるの視界の隅にブースト圧縮された文面形式の通信が受信された事が表示される
みちるはそれを展開、内容を読む


「―通信機器に異常が発生、受信は可能、送信は不可…?」


文面を読み終えたタケルが呟く


「その様だな…
 よし、ホーネット隊は現地点で待機、援護を。
 『了解』
 ボギーとのコンタクトには私と白銀で向かう」


「了解」の返事を聞くと同時にペダルを踏み、みちるとタケルはボギーに向かって匍匐飛行していく

……


『国連機、二手に別れました』


相棒からの報告を聞くと宏一は機を止めた


数秒後、50m程先に蒼い国連カラーの撃震が二機着地し、通信が入った


『此方、国連軍横浜基地所属 白銀 武大尉だ。
 貴官は当国連軍基地の敷地に侵入している。貴官の氏名、所属、階級及び目的を答えよ』


(白銀 武がいる…というと今は2001年。
 でも今“大尉”って言ってたよな?どういう事なんだ?)


宏一はそんな事を考えつつ返答した


「此方、J・D大尉。所属は機密につき答えられない。
 横浜基地副指令 香月博士に至急報告せねばならない事がある。お会いできないであろうか?」


(我ながら何という白々しい事を言うのだろうか)と苦笑しつつ、相手の返答を待つ


(ジョン・ドゥ大尉…“名無しの大尉”だと?
 …ふざけるな!)


一方のみちるは“名無しの大尉”と名乗った者に内心苛立ちを覚えるも、表情に出さずタケルの方に目をやっていた


『ジョン大尉。
 残念だが、我々にはその権限は無い』


タケルからのある程度予測していた質問を返され、宏一は―やれやれやっぱりね―とため息をついた

そんな時、彼の機のレーダーに見覚えのある反応が二つ出た
宏一はそれを確認するや否や、パワーをミリタリーに入れる
同時にみちる達に通信を送信
猶予は数秒と設定し、返答を待った



タケルは“ジョン・ドゥ”の意味を知らなかったが、馬鹿にされている事だけはわかった
だが、彼にとってはそんな事は日常的であったの為、規定通りの返答を返す

突如、目の前の戦術機の駆動音が跳ね上がる
ほぼ反射的にマニュアルで相手に照準を合わせる
ロックオンしないのは相手に悟られないようにするためだ
みちるも同様に照準をおこなう

ポーンと音が鳴る
文面通信…展開


『あなた方はAH戦は得意だろうか?』


あまりの唐突さと通信内容に、タケルは一瞬意味がわからなかった


「どういう意味だ?」


再び通信


『そのままの意味』


「抵抗すれば…
 『別に貴官等と戦うために聞いている訳じゃない』
 …? ならなんだ?」


『敵性反応。
 数2、距離6000。
 接触まで180sec』


再度タケルは相手が何を言っているのか訳が分からなくなった


(こんな内陸にBETA?単体で? 対BETA戦とAH戦が何で関係する?)


謎だらけだった


「貴様!ふざけるのもいい加減にしろ!!」


みちるが憤慨する


『ふざけてはいない。
 …適正な返答が無いため、自分だけで対応する』


タケルには最後の最後まで意味がわからなかった

……


―数分前―
――国連軍・横浜基地・作戦司令部――

司令部は混乱に見舞われていた

発端はボギーとタケル・みちるの両機の距離が100を切った辺りからだった
彼らからさらに西北に7km程先に再度大きな重力異常場を観測したのだが、それだけならここまで混乱はしない

問題はその異常場から新種、尚且つ飛行しているBETAの姿がUAVのカメラに写った事だった

管制室の全面にある巨大なモニター映し出されるその蟲の様な…いや、蟲ならまだ良いのかも知れない
蟲にBETAの醜さを混ぜた様な醜い姿が映されていた

その姿に、ある者は持っていたマグカップを落とし、またある者はただ口を開け、まさに彼らに“衝撃”を与えた
夕呼もその例外ではなく、目を丸く見開き、我を忘れさせられていた
気を取り直したオペレーターがホーネット隊とタケル・みちるの両機に、ほぼ悲痛な叫びとも聞こえる様な声で警告を発する


同時に夕呼も気を取り直したが、オペレーターの警告は間に合わないとだけしか考えられなかった

……


―現在―

オペレーターの悲痛な警告を聞いたタケルとみちるは、その声からただ事でないことを悟る
ハッと思い出したようにタケルはボギーの方を向くが、既にBETAに向かって行った後だった

離れてゆく戦術機から文面の通信が届いた


『死にたくなければここから離れろ』


――宏一side―

通信を送ると、兵装チェックを始めた

両手と両兵装担架に装備している87式は、36mmの残弾がそれぞれ500発ほど、120mmはフレシェット弾が各3発。36mm・120mmそれぞれの予備弾倉が左右に各1個ずつ

2振の74式長刀の耐久力は大体半分
腕部ナイフシースに収まっている計4振の試05式特殊長刀の耐久力は2/3程度…

まぁ、一個師団相手に単独で吶喊した割には驚異的な消費弾数の少なさじゃないかな
念の為明後日の方角に四門の87式を数発試射してみる


問題なし。良いことだ


次に各部の作動を確認してみる


…オールグリーン。



“アイツ”に頼めば一発だったけど、やっぱりこれらは自分でやらないと気が済まない

上空50m程に2匹の新種を視認、エンゲージ


…此方には気付いていないのかな?


背面飛行に移行し、それぞれの予想進路に向けて四門の87式を放つ
2匹のBETAは直前にバレルロール、致命弾を避けた


…やっぱり気付いてましたか
まぁフツーは気付くわな


一匹のBETAが反転し、降下してきた


お?やるか?


こっちも機をそのまま引き起こし、同時に四本の36mmを放つ

―交差―

…どうやら放った36mmは主に翅に命中したらしい
体を引き起こさずに地面に激突、噴煙が昇る


やったかな?
…いや


噴煙が登ったところから20本の紅い線がコッチに向かって伸びて来た
甲高い連続音の警告音が鳴り響く


―ミサイルかっ!


エンジンをフルスロットル
急激な加速に伴いかなりのGが襲ってきたが、そんな事は今はどうでもいい
三次元の複雑な機動を各部のRCSをフルに活用して行うがシーカーから逃れる事は出来ず、ミサイルは一向についてきた


落とすしかない…ね


視線ロックシステムを起動させ、向かってくるミサイルをオールロック
回避行動を取りつつトリガーを引く
四門の87式は回避行動に沿って各々の指定されたの目標に向かって36mmを的確に撃ち抜いていった

空中に散りばむ、20の閃光…


全弾撃墜成功
…奴等はっ!?


『左舷下方50m、後方60m上空』


相変わらず良い仕事してくれる
…まずはアイツから

上昇するため機を引き起こし、ロケットモーターに点火
更に強烈なG


「…っぐ!」


思わず声が漏れる
揺れるレクティルをマニュアルで合わせ、120mm二門を放つ


弾種は最近お気に入りの120mmフレシェット弾…
砲弾は着弾の直前で爆発、計12000本の劣化ウラン製の矢がBETAに降り注ぐ


矢が刺さり、もがくBETA…
そんな風景を想像すると自然と笑みがこぼれる


…我ながらえげつない


120mmフレシェット弾は、元々が小型種用の弾種故に中型種に分類されるこの種には致死的な効果は期待できない
でも、動きを止めることぐらいは出来る

ほら、その証拠にこんな近くまで反撃されずに近づけた


全身に刺さった矢にもがくBETAを追い越し、ソイツの10mほど上空で失速反転
翅の付け根に狙いを合わせ、36mmを発砲
根元から翅を千切り落とす

翅を失ったBETAはワタワタと足をバタつかせながら落下
地上に噴煙を上げてぶつかった
もう一方のBETAを探す


…いた


急降下して接近、発砲
再生中の翅を再度穴だらけに変える

接触の直前に逆噴射
ある程度速度を殺し、踵部のナイフを展開
奴の翅の付け根を踏みつけた後、反動のベクトルを変えバク宙しつつナイフをしまいながら地に足を付ける

着地と同時に先程地面に落下した奴からの砲撃
肩部RCSを吹かしこれを回避
反撃としてステップしながら両手の87式を撃つが、数発ごとに混ぜられている曳光弾が命中させても無駄である事を知らせる

報復のつもりか、奴は腕のマシンガンを乱射
小型のエネルギー弾がウチのいた場所をハチの巣に変えてゆく


しぶとい奴め


片手の87式を腰部兵装担架に収納
空いた手で長刀を握る

発砲してくる方に水平跳躍で接近
降り注ぐエネルギー弾を掻い潜り、長刀の間合いまで接近、一閃を入れる

BETAの腕が宙を舞い、もう片方の腕に深い切創を刻む


『警告、七時方向』


耳に響く声に意識を七時の方向に向ける
其処には踏みつけたBETAが腕を振り上げ、その強靭な爪でウチの事を切り刻もうとしていた


…ッチィ


舌打ちしつつ87式を放棄
振り下ろされる腕を掴み、横方向に引っ張った

BATAが体勢を崩したところで腕を離し、その勢いのまま長刀で側宙切り
縦に二枚に下ろす


一方の腕を切り落とした方を見る
ソイツは結構な距離を離れ、ヨタヨタと走りながら横浜基地の方に向かっていた


やれやれ…


長刀を収容した後両手に05式を装備
逃げる背中を追っかけるように跳躍ユニットに火を入れた




逃げたBETAはタケル等二機に接近していた

両機が発砲するが、そんなのは無意味
弾かれた36mmが明後日の方向に飛んでゆく

それを確認した両機が同時に120mmを放つ
しかし、これはBETAに回避された


ウチとBETAの距離はまだ200m程
新種は意外にも足速いようだ

向こう側の二機の後ろに更に四機の撃震が合流、今度は全機で一斉に36mmを放った


そうやっても無駄なのに…


案の定結果は先程と同じ
弾かれた36mmが機体の近くを掠める


…てか迷惑なんで撃つのやめてくれません?


そんな人の心を知ってか、全機が一斉に発砲を止めバックステップで距離を稼ごうとしていた
その隙に一気にフルスロットル

BETAとの距離―50


今!!


エンジンをカットし着地、跳躍
05式を逆手に持ち、振り上げ、機体を反らす

着地地点にはBETAの背中
一気に両手を振り下ろし、二振りの05式をソイツの頭と背中に思いっきり喰い込ませた
踏みつけられたBETAがバランスを崩してヘッドスライディング
両手を捻って傷口を広げた後跳躍、奴の前に立つ

倒れていた奴はヨロヨロと立ち上がる


…ホント、しぶとい奴


立ち上がりきる前に接近、トドメに三枚肉に下ろした
機体に奴の体液が飛散したが、どうでもいい

付着した体液を振り払うと、05式をナイフシースに戻した
そして腰部の87式を装備


「…さて、ここからどうしたものかねぇ」


目の前には今の出来事を目撃していた戦術機が、全機ウチに向けて銃口を向けていた


…ぼやきの一つや二つ別にいいでしょ?


―― 宏一side end―



みちるは今の数分間が信じられなかった

新種のBETA…
そしてボギーの機動性・俊敏性の異常な高さ…
乗っていたのが不知火であるのならばともかく、撃震である今の状況では確実に勝ち目は無いであろう…

みちるがそんな事を考えていると、ボギーに動きがあった

すかさず照準を合わせた
タケルやホーネット隊も同様にしている

彼らは怖いのだ


誰しも初めて見る生き物や物体には何かしらの恐怖か興味、又は警戒をする

みちる達は最初こそは只の警戒だったが、その後の経過を見ている内に恐怖へとシフト…
致命的だったのは、手負いであるはずのにもかかわらず120mmを避け、36mmの集中砲火をものともせずに接近してきたBETA…
そして、それをいとも簡単に撃破したボギー…

みちるは微かに震える手に喝を入れ、急遽組む事となった相方のタケルを見る
…そんなタケルはニヤけていた

その事に驚いているとボギーがみちる達の50m程先で停止する
片手に装備していた87式の砲口は上に向けられていた


『先程は失礼。再度申告させてもらう。
 至急連絡せねばならない事がある。国連軍横浜基地副指令、香月博士にお会いできないであろうか』


みちるは困惑した
自分達にそんな権限は無いため管制室に命令を仰いでいるものの、一向に返答が無いのだ


『繰り返す…』


(自分はこの撃震で抵抗する事が出来るのだろうか?
 勝つ事が出来るのだろうか?
 …いいや、勝たなくてはならない
 それが私達の使命だから)


みちるが自問自答していたその時、夕呼から直接通信が入った


『いいわ、連れてきなさい』


……


夕呼達のいる地下機密ハンガーは、異様な雰囲気に包まれていた
この雰囲気の原因は、六機の蒼い撃震に囲まれてやって来た一機の黒い戦術機にあった
その黒い戦術機は指定されたハンガーの前まで移動し、停止
ハンガーにロックされる


その機体はきっと不知火をベースに開発されたのだろう
どこか不知火の雰囲気を醸し出していたが、しかし最早不知火とは言えはなかった


不知火がベースと思われる頭部のアイカメラは武御雷のようなツインアイになっており、レドームの中心には大きなブレードがそびえ立っている
胴体形状は不知火の様に複雑ではなくステルス機のような洗礼された斜面で構成されており、背部に兵装担架を四基も装備していた
ジャンプユニットの外見は米国製戦術機に多く見られるような物であったが、カナードに前進翼、スライドノズルといった先進技術が、肩部装甲は胴体と同じように斜面で構成され幾つものスラスターノズルがステルス性を考慮しつつ埋設されている


これだけでも異様な雰囲気の原因となったが、左右の肩部装甲には帝国軍機を示す日の丸と不知火をモチーフにした犬の顔にウォードッグと描かれたマークがプリントされ、その異様さを増長させていた


夕呼が拡声器を使い、機から降りるように指示する
頭部前方の上部胴体装甲がスライド
一人の衛士が両手を上げつつ出て来た
その顔付きから10代半ばの日本人青年であると夕呼は判断する
青年が口を開く


「自分の名は如月 宏一。 階級は大尉!
 所属は言えないが、至急香月博士に報告しなければならないことがある!!」


大尉の階級章をつけた青年…如月 宏一は大声で叫んだ


第二話END

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


第二話です
やっと(?)オリ主が登場・合流しました
そして初の戦闘シーンです
どうでしょうか?
今回もいろいろと突っ込みどころがありますが、温かい目で見てやってください


さて今回の話の捕捉設定(と報告)です
・宏一の機体が他のウォードック隊の機体と違う理由は後日公開
・機体の開発経緯も後日
・“相棒”についても次回公開(多分ほとんどの人が気づいているかもしれませんが…(^^;))
・横浜基地に配属されている部隊の“ホーネット隊”リーダーは女性(外人さん)
・XM3はまだ夕呼・武・霞の三人と一部の技術・整備部門の人が知るのみ
・武の分の不知火はXM3での武の変態機動への対応強化中
・新種のBETAのイメージ元は『マクロスF』の“大型ヴァジュラ”です
・“試05式特殊長刀”はいわゆる“マチェット”タイプの長刀。短刀より長く、長刀より短いため“特殊長刀”の名が付いた。 TDA世界の05年試験採用開始。
・宏一の機体には背部に(半ば強引に)兵装担架が四基装備されており、そのうち外側の二基の基部は水平方向(x軸)の回転ができる。(ただし可動範囲は0~100°程度。内側もある程度はできる)


毎度乱筆ですみません
こんなもんですかね。
一部かなり強引ですが、そこは勘弁してくださいw


次回予告
ついに魔女の元にやってきた宏一
彼女からの無慈悲な攻勢に宏一は耐えられるのか?
次回『胸の鼓動は動悸』
次回もいろんな意味でサービス、サービスゥ!【Cv.伊隅 みちる】




[30479] 第三話
Name: なっちょす◆19e4962c ID:3f492d62
Date: 2012/07/16 02:20
―数時間後―
――国連軍・横浜基地・地下機密区画・B19フロア ――

身体検査という名の尋問を終えた宏一は夕呼のオフィスにいた
目の前には椅子に座っている夕呼が、後ろにはタケルが腰に拳銃を下げて警戒している


「さて… アンタはいったいどこの誰?」


無表情のまま聞く夕呼


「名前は先程申しましたように、如月 宏一と言います。階級は 大尉」


宏一は笑顔で答える


「所属は?」


「“元”日本帝国軍…と言った方が正しいですかね…」


夕呼からの質問に宏一は少し悩んだ後、苦笑しながら答える


「…脱走兵?」


「それは違います」


「どういう事?」


「その事でお話が有るのですが…」


宏一は顔を少し回し、横目でタケルを見た


「ソイツなら大丈夫よ。『need to know』はわきまえているわ」


「“第五”に関する事ででも、ですか?」


その言葉に夕呼は「そうよ」とだけ答える
一方のタケルの表情はやや強張った


「さて、話してもらうわよ」


「…わかりました。
 ―早速ですが、博士はタイムトラベル…または平行世界は信じますか?」


「タイムトラベルについては全くだけど、平行世界は信じてるわよ。 それが第五計画とどう関係が?」


「ならよかった…」


(おいおい、まさか…)


宏一の言い回しにタケルはとある事を考えた


「自分は“第五計画が実行された世界”から来ました」


「「―っ!!」」


要点はある程度予想していたタケルだが、内容に驚いた


「その根拠は?」


夕呼が問う


「まず“日本帝国が存在している”と言うことから、第五計画が実行される前だということがわかります。
 また、この横浜基地はまだ建設中の様なのでそこから2001年前半と考えられるためです。 
 “第五計画”…『バビロン作戦』が決行されたのは2004年2月23日でしたから」


「日本帝国が存在しているって…どういう意味だ?」


タケルが聞く


「…『バビロン作戦』によって確かに“一旦は”地球上のハイブは壊滅した。
 しかし、同時にG弾の集中投入は地球全体の重力バランスを破壊。結果、ユーラシア大陸は大海崩によって海に沈んだんだ…
 あっという間にね…
 衛星網や大気圏内通信網も原因不明の電離層異常等で壊滅。残ったのは大気圧が激変したアメリカ大陸と、かつて海底だった塩原…」


タケルは宏一の話す内容に驚愕した

そして―


「…それとBETA」


その単語に夕呼は「やっぱりね…」と小さく呟き、タケルは愕然としていた
タケルの全身からみるみる力が抜けてゆく


「…随分とすごい妄想ね。 証拠は有るのかしら?」


夕呼が冷めた声で聞く


「証拠、ですか… ありますよ。一応」


「へぇ~?」


「まずは先程のBETA。 この時代ではまだ発見されていないはずです。
 それと物的証拠がハンガーの機内に数点。
 後は先程の検査の精神鑑定結果ですかね」


夕呼は「ふ~ん」と鼻を鳴らすと、パソコンの画面を見る


「…良いわ、半分信じてあげる」


「半分、ですか」


「そうよ? その物的証拠ってのを見てないから、妥当だと思うけど?」


「ですよね」






「で、話は変わるけど、なんで帝国が存在しない未来から来たヤツが、この基地の存在を…しいてはワタシの存在を知ってるわけ?」


夕呼が宏一を睨んだ


「あぁ、それはですね上官の神宮司 まりも少佐から前にお聞きしたことがありまして、それを思い出したからなんですよ」


「ふ~ん、まりもに…」


「…えぇ、在米帝国軍 第一戦術機甲大隊 第一大隊長です」


「あのまりもが大隊長だなんてねぇ…」


夕呼はニヤリと笑みを浮かべた


「まぁ…良いわ」


「その物的証拠ってのを拝もうじゃない」


「それは構わないのですが、一つ確認したいことが」


「何よ?」


「一応、第一級軍機に属する物なので、出来れば機密性の高い場所でがいいのですが…」


「あぁそれなら大丈夫よ。 みんなちゃんと『need to know』はわきまえているから」


宏一が「了解」と言い、三人は、地下の機密ハンガーに向かった





機密ハンガーには宏一の乗ってきた機体の他に、7機の蒼い不知火と数機の蒼い撃震が整備されていた

宏一の機の周りにはチラホラと人溜まりが出来ている
宏一達に気がついたとある整備士の一言で、全員が宏一に注目した


「注目されてますねぇ~(汗」


「当たり前でしょ。
 あんな先進技術の塊の様な戦術機に乗ってくれば、誰でもその機体の衛士は気になるわよ」


「はぁ…」


宏一と夕呼は静まり返ったハンガー内のキャットウォークに登り、コックピットハッチの前に来た


「まぁ、先ずはこれかな」


そう言ってヘッドセットを被る


「如月大尉よりニーズヘグ。 メインシステムを起動…サスペンドモードにて待機せよ」


ハンガー内に戦術機の起動音が響き、やがて駆動音が静かになってゆく

「偽装OSモード及び偽装AIモードを解除… 
 アル、しゃべっても良いぞ」


『…何の用ですか? 大尉?』


「ん? 香月博士にお前を紹介しようと思ってな」


『それはいっこうに構わないのですが…
 いいのですか? こんな人前で偽装モードを解除しても…』


「別にどうせいつかバレるのだから、構わないと思うぞ?」


『それもそうですね』


宏一とアルは驚いている夕呼達をよそに、談笑を始めた


戦術機が喋り出す…

そんな前代未聞の現場に、タケルは遭遇していた
ふと隣にいる開発部の兵士の顔を横目で見るが、此方は興味深々と言ったご様子だった


「如月…それはいったい何?」

「あ、まだ博士に紹介していませんでしたね。
 コイツはこの“飛鳶”の高性能サポートAI、通称“アル”です」


夕呼からの質問に宏一は振り返り、答えた


『はじめまして。 私はこの“飛鳶”のサポートAIのアルと申します。
 以後お見知り置きを』


アルからの紹介に香月はただ「えぇ、宜しく…」とだけ答える


「アル、お前の基礎プログラム及び簡易設計図と、今までの戦闘ログを、それぞれHDDとUSBに書き出しておいてくれる?」


『了解』



アルに頼みつつ、ハッチを開け、上半身を突っ込む宏一
ガサゴソと何かを取り出し、それを夕呼に渡す


「何、これ?」


夕呼は初めて見る物を興味深そうに見る


「いま博士が持っているのはミュージックプレイヤー… つまり『携帯型音楽再生機』です。 それでこれが…」


そう言いつつバックからタブレット(A4サイズ)とスマートフォンを取り出した


「この大きいのが『接触操作型情報端末』…通称“タブレット”  それでこちらが『接触操作型通信機』です」


夕呼は手渡されたタブレットとスマートフォンをマジマジと観察する


「如月、これどうやって使うの?」


目を輝かせて夕呼が問う


「それは博士のオフィスで説明しましょう。 ここはあまりにも目立ちすぎですし…」


宏一はキャットウォーク下の周りを見渡す
先程より人溜まりが大きくなっていた


「わかったわ。 なら、早く戻るわよ!」


「ちょっとお待ちを」


宏一は再度コックピットに潜り込み、書き込みが終了したUSBとHDDを取り出した


「お前以外の機の電源はカット。
 一応念の為に、セミスタンバイにて待機」


宏一はコックピットから出るついでにアルに命令する
アルからは「了解」を意味する音が鳴り、駆動音が完全に消えた
それを確認すると、宏一は急いで夕呼達の方に向かっていった




夕呼のオフィスに複数の驚愕の声があがる
一つはタケル、もう一つは夕呼のだった


「へぇ~これは良いわね」


夕呼がタブレットを操作しながらニヤける


「けどこんな物が数年後に…
 しかも疲弊している中ででもこんなハイテクな物が作り出せるんだなぁ」


タケルが「人類すげー」と苦笑しながらも、夕呼が動かすタブレットを見ていた


「確かに人類スゴいよな~ でも、流石にこんな事できるわけ無いじゃん」


「だよな~…って、えぇ!?」


タケルは宏一のツッコミに驚いたようだ


「じゃ…じゃあ、何で持っているんだ?」


「これらは自分にとっての“元の世界”… つまり“BETAのいない世界”で一般に市販されているものだよ?」


この発言に流石の夕呼でさえ驚いた


「BETAがいない世界って…如月、それどういう事!?」


「簡単に説明しますと…
 BETAがいない世界で当時高校生だった自分は、何故か前の世界に飛ばされまして…
 さらにまたこの世界に飛ばされたわけです。 言いませんでしたっけ?」


宏一が簡単に事の経緯を説明する


「言ってないわよ。
 けどこれでわかったわ。 だから妙に落ち着いてたわけね」


宏一の言葉に、夕呼は一応納得したようだ


「それでこれには…」


宏一はそう言いつつUSBとHDDを手に持つ


「自分が“第五計画が実行された世界”に行ったという証拠と、アルと試05式戦術歩行戦闘機“飛鳶”の簡易的な設計図が入っています」


宏一はそれらをワザと夕呼に見せびらかすように持ち、更に言葉を足す


「一応言っておきますと、アルも自分とは違う世界で設計されたものです。つまり、この世界では誰も知らない物…」


夕呼は「それで?」と眉を片方上げながら聞く


「自分はコレを香月博士に渡そうと思っています。ただし…」


「『ただし自分の要望を飲めたら』って事かしら?」


夕呼の言葉に宏一は「えぇ」と笑顔になる


「それで、なに?アンタの要望は?」


無表情のまま聞く


「…自分を博士の下で働かさせていただけませんか?」


「…それだけ?」


「…簡単に言えば、これだけです」


「ワタシが裏切ったら?」


夕呼は少しだけ呆気にとられたが、直ぐに切り返した


「その時はあらゆる手を使ってでも渡したデータを破壊し、自分も機体ごと自爆します。
 …その方がこの世界にとっては良策の一つでしょうし」


「そう…」



宏一の表情を見て夕呼は浅く深呼吸する


「―一応聞くけど、アンタにとってワタシの下で働く事に、何か得することでもあるの?」


この質問に対し、宏一の表情が一気に険しくなる


「バビロン計画が実行された後の世界は、正に地獄でした…」


「まぁ…そうでしょうね」

「僅かな土地、慢性的な食糧不足、いまだ存在したBETA…


そんな問題を抱えているにもかかわらず人類はいまだに水面下で争いを続け、結果人類同士での戦争も始めたんです」


「…そう」


「只でさえ不足していた衛士の数も、相次ぐ戦闘や部品の不良から来る整備不良でその数を減らしました。
 その結果、孤児院の子供が人体改造で半ば強制的に衛士にさせられていったんです…」


タケルは告げられた事実に驚愕の色を隠せなかった


「子供に人体改造…だって?」


「あぁ、薬品でね。
 少なくとも帝国ではそうしてた」


「…(俺は…そんな世界でぐうたらと過ごしていたのか…!!)」


タケルが顔を伏せ、握ったこぶしに力がこめる


「其処からは負のスパイラルでした…
 子供が衛士になる。
 シミュレーター不足からまともな訓練が受けられない。
 そんな状態で実戦。
 良くて負傷、悪くて戦死。
 衛士が足りなくなる。
 子供が衛士になる…」


「「…」」


「ある日一度聞いたんです。『怖くないのか』って…
 そしたらなんて答えたと思います?
 『怖いけれど希望はあるよ』ですよ!?
 まだ13歳ですよ?
 ウチは…そんなのに耐えられなかった!!」


発せられる一言一言に感情がこもってきた


「まだ…まだアイツ等は戦いに行くような、そんな年じゃないってのに…」


散っていった自分より何歳も年下の後輩の顔を思い出し、宏一の目尻に涙が溜まっていく


「…アイツ等には仲間と笑っていてほしい、…笑いながら人生を歩んでほしい!
 だから、あんな希望のない未来なんて、クソ喰らえだ!」


宏一は握った拳を目の前の机に打ち付ける
その反動で置かれていた湯呑が少し浮かび、数滴机にこぼれた


「だからっ! ウチはそのためなら何だってやる!
 例えこの身を犠牲にしてでも!手を朱色に染めようとも!!
 アイツ等の未来の為だったら何だってしてやる!!」


感情を爆発させる宏一に対し、夕呼は冷めた声で答えた


「つまり、その“アイツ等”ために戦うと…」


デスクに手をかけ、宏一を睨む


「ハッ!笑わせんじゃないわよ!?
 世界はねぇ、そんな甘いワガママなんて聞き入れるほど甘くはないわよ!!」


夕呼が怒鳴った
タケルには宏一の姿がかつての自分がそうだった為に宏一の気持ちも理解できたが、コレばかりは夕呼と同意見だった

宏一は荒れた呼吸を整え、気持ちを落ち着かせるように大きく深呼吸する

「香月博士…
 確かにウチはまだ甘いのかもしれません…
 けれども、もうウチの手は真っ赤に染まっているんです…
 だから今更そんな甘える事など、許されるわけがない」


宏一は自分の両手を見、そしてその手を強く握った


「けどウチは約束したんです…いつか平和な世界を作ろうなって…
 そして今、“アイツ等の未来を守れる”…そんな甘い願いが叶えるチャンスがある。
 けれどもこのチャンスは二度とないのかもしれない…
 だからそれを掴めるのならウチは何でもやってやる。…いや、やりとげてみせる! 
 
 その為に例えどんな犠牲を払おうとも、己を犠牲にしようとも!

 それがウチの覚悟です!!」


そう言う宏一の表情は、とても悲しく、しかし同時にそれ相応の覚悟を持った眼をしていた


「…ただのガキじゃ無いわけね?」


「えぇ、覚悟はできています」


「…いいわ。契約成立よ」


宏一の前におかれたUSBとHDDを取る夕呼


「少し待ってなさい。今、IDとかを用意するから」


夕呼はパソコンに向うと、何かキーボードを打ち始めた
……


――数分後――

しばらく部屋に響いていたのはキーボードをたたく音だけだったが、その静寂さを夕呼が破る


「如月、一つ聞くけど…アナタの名前は本名よね?」


「えぇ、そうですよ?
 それがどうかしましたか…?」


夕呼がパソコンから目を離し、宏一の方を向いた


「普通、平行世界には自分と同じ存在がいるわ。
 だからこの世界にいるアンタも存在しているはずなのだけど…」


「…死んでいるのですか?」


「それならまだ良いわ。
 死んでいる・いないの以前に…如月、アンタと言う存在自体がこの世界にいないの」


「―っ!!」


宏一は無言の叫びを上げる



「…は、博士… そ、その理由は?」


「今考え付くのは “この世界に存在させられなかった”、“存在させたくなかった”、“違う存在として存在している”“まだ存在していない”…のどれか。

 如月、何か思い当たる?」


「ん~、特にこれと言っては…
 しいて挙げるのなら、親父が無精子症だったことくらいですかね?」


「なら何でアンタが生まれたのよ?」


「あぁ、それは民間の精子バンクに頼んだそうですよ?
 限り無く親父のDNAに近い物を探して、それを人工的に受精させたみたいで…
 「ならそれね」
 …へ?」


「当たり前じゃない。この世界にそんな民間用精子バンクなんて施設が有るわけ無いし…有るとしても軍事目的か横流しされた精子ぐらいね。
 まぁそんな環境で生まれた子が戸籍データを作れる訳がないわ」


「なる程」


「大体ねぇ、この世界で一般的に子供ができるのなんて男女が宜しくヤっちゃった時だけよ~?」


夕呼がケラケラと笑いながら言う

タケルと宏一は( ̄∇ ̄)←こんな顔をして聞き流していた


「そしたら新しく偽造しなきゃいけないわね。
 如月、どんなのがいい?」


「良いのですか?」


「良いわよ。どうせ偽造だし」


夕呼がニヤけた


「じゃあ…」


宏一は夕呼の近くに寄り「…こんなので」と言った


「…アンタも物好きねぇ~」


「まぁ前の世界でも似たような設定にしましたから」


苦笑しながら答える


「それに、これなら前の世界での体験を…アイツ等の事を語りやすいですし」


「…そうだったわね」


「あ、そうそう…階級はどうなるのでしょうか?」


思い出したように聞く宏一


「あぁ~考えてなかったわ~」


夕呼はニヤリとしながら答えた


(地雷踏んだな)


ご愁傷様と宏一に手を合わせるタケル

「じゃあ白銀と如月。
 二人とA-01の六人で対戦してもらおうかしら? その結果で決めるわ」


「A-01…? 何それ?」


宏一はタケルに聞く


「先生直属の特殊部隊…
 腕は多分国連軍最強の部類に入るな」


「へぇ~
 …で、何でタケルもなんだ?」


「あ…そうですよ先生! 何でオレもなのですか?」


「え?ついでよついで。
 どうせ後でこうなるのだから、今でも変わらないでしょ?」


「ソーイウモノデスカ」


「そんなものよ。 それとも如月とは別に一人でやる?」


タケルは思いっきり顔を横に振り、その案を拒否する


「なら決定ね」


宏一は夕呼の無茶ぶりに、かつて聞いた「極東の魔女」のあだ名の理由を理解した


「その代わりに如月。 アンタは飛鳶を使っていいわ」


「先生~俺はどうなるのですか?」


「さっき整備に聞いたら、アンタの不知火はあと一時間ほどで終わるそうよ? それを使いなさい」


「へーい」


「あと如月…
 「何でしょう?」
 飛鳶の機能について一部解説して欲しいところがあるのだけど、いいかしら?」


「いいですよ」


宏一は夕呼と(ついでに)タケルに飛鳶の解説を始めた
この説明が後に夕呼にとって革新的な発見をさせる事となるが、それはまだ先の事であった


第三話END

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

第三話です

では捕捉設定を
・ウォードッグ配備前に所属していた宏一の部隊は、所属不明のエレメントによって壊滅させられている(生存者は重傷を負った宏一のみ)
・ミュージックプレイヤーやタブレット、スマホ類は、宏一が元の世界から持ってきたもので、ずっと大切に隠してきた。充電器も同様
・タケルがA-01 の面々に紹介されていなかったのは、ただ単に時間が無かったため。(ただし、速瀬と涼宮(姉)とは孝之と慎二絡みで、みちるとは第二話で顔合わせしたのみ)
・宏一は龍浪と一緒にまりもと飲んだ際に夕呼の話を聞いた(元の世界にてwikiにてある程度は知っていたが、このときには忘れていた)→もちろん飲んでいたまりものオフィスは修羅場と化した
・アルは「フルメタルパニック」の世界のAI

こんなものですかね
毎度毎度乱筆ですみません
何かあったら感想掲示板までお願いします

次回予告
宏一の階級をかけて最凶戦術機中隊(現在定員割れ)“ヴァルキリーズ”と戦うことになった武と宏一
極東国連軍最凶(強)とも謳われる彼女たちに、武達は勝利を収められるのか?
次回
『エースストライカーズ』
空に双筋の影が走る 【Cv.白銀 武】





[30479] 第四話
Name: なっちょす◆19e4962c ID:3f492d62
Date: 2012/07/16 02:21

―国連軍・横浜基地・屋外廃墟演習場―

飛鳶と蒼い不知火は廃墟となった柊町の一角を利用した演習場の一角に立っていた


「―って作戦なんだが、どうよ?」


「大体は理解できたけど、そんなウチの機体を信頼しても良いのかい?」


「おう!
 スペックを見させて貰ったが、あれなら大丈夫そうだ。
 それにECS…だったか? あれスゲーな!!」

「あぁ、実際アレのおかげで何度か命を救われてる。
 …実はECSにはもう一つ機能があるんよ」


「マジか!? なんだそりゃ?」


「フフーフ。 秘密」


「勿体ぶるなよぉ~」


「ははは。まぁいつか教えるよ」


「頼むよぉ?」


「おう」


タケルは宏一に作戦を提案、宏一はそれを了承した


「あ~ 念のための確認だけど、そっちのOSはXM3だっけ?」


「そうだよ」


「なら大丈夫だな」


『ピアティフです。
 訓練開始二分前を切りました。戦闘状況の再チェックを行います』
 

CP役を務めるピアティフが角膜に映される

『想定は両陣営共にCPは壊滅。
 勝敗はどちらかの隊が全機大破、行動不能判定を受けたときのみとします』


続けて戦略マップが投影された


『今回のエリアはポイント35-04を中心とした東西南北に5km四方のみとします。
 尚、エリアオーバーは即大破、行動不能判定を下します』


戦略マップが閉じ、再びピアティフの顔



『タイムリミットは30分です。
 …では開始まで5』


五秒のカウンターが表示され、ピアティフがカウントを始める


宏一がフットバーを軽く踏む


『―4』


タケルは深呼吸をする


『―3』


飛鳶のエンジン音が高くなる


『―2』


両機が脚を屈折させる


『―1』


頭部が前を向く


『―0、スタ
 「いっくぜー!!」「ロックンロール!!」
 ート』


0のカウントと共にタケルと宏一の両名が吼え、両機が疾走する



――みちるside――

ピアティフ中尉の合図と共に戦略マップの横にタイマーが現れ、同時にピアティフ中尉の顔が消える
つい数時間前の戦闘を思い出す
見たこともない、今までの既成概念を根本からぶち壊すような機動…
流れるような攻撃…
そのすべてが見る者を魅了し、困惑させる

機体の性能もあるのだろうが、私にあの様な機動が出来るのだろうか?


ふと考え込んでしまう

しかし、今は模擬戦とはいえ作戦前…
気持ちを切り替えなくては


…よし、やるか


通信が開く
相手は速瀬。オープンチャンネルか


『大尉~
 大尉は今回の模擬戦相手について何か御存じですか~?』


「いいや、何も聞いていないな。
 しかし、相手が新人のワンエレメントだけとは聞いた」


『エレメントのみとは、随分とナメられたものですね』


今度は宗像か…
まぁそう思うのは無理もない事だな


「言うな宗像。
 我々は相手が“たった二機の新人”であろうと、常に死力を尽くすのみだ」


『うわっ!! 大尉もサドですね~』


「…何か言ったか、速瀬」


『いいえ!!なんでもありません』


他の隊員から笑い声が出る
戦闘前の緊張解しにはなったか?


告知音が響き、秘匿回線が開かれた
相手は碓氷


『それにしても隊長…
 六機相手にエレメントのみって異常じゃないですか?』


「あぁ。
 だがあの副指令の事だ。何かあるのだろう」


『そうですよねぇ…』


「そろそろ接敵予定時刻だ。切るぞ」


『了解』


回線を切ると陣形を組むように命じた


鳴海と平の二名とそのほかの隊員が居ない故に臨時に編成した陣形では強襲前衛・強襲掃討がいないが、其処は突撃前衛の碓氷と速瀬が埋める事となっている
あの二人なら新人相手に苦戦する事も無いだろう


『―警告!12時方向、反応2』


碓氷が振動センサーの反応を知らせてきた

皆の顔つきが変わる


センサーに気を払いつつ、廃墟を盾にして待ち伏せの用意を指示した
反応は500m程離れたところで止まり、内1つが近づいてくる  


…遅れてさらにもう1つ


振動パターンから主脚移動…舐められたものだ





先頭が残り100mに近付く

既に各機に目標を分別している
残り75m… あともう少し

金属製の主脚がアスファルトの道路を踏みしめる音がセンサーを通じて機内に響く
残り50m… 今だ!!


「全機、オールウェポンズフリー!
 ぶっ放せ!!」


『『『―了解っ!!』』』


私の命令とともに六機の不知火から計12本の36mmと120mmの火線がそれぞれの目標に向かって延びてゆく

立ち上るペイント弾の飛沫と廃墟の破片…
敵の斥候はペイント弾だらけになったとハズだ

…しかし、この嫌な予感は何だろう?


煙が収まる…
しかし、其処にあるのはペイント弾が付着している廃墟とその破片だけだった

やはり当たったか!

急いでレーダーを確認するが、反応は私の目の前をちょうど過ぎていくところだった

ダミーフリップだとっ!?


「全機に通達! レーダー反応はダm…」


―ダミーだ…そう言いかけたとき、視界の上端を黒い陰が通り過ぎていった
反射的にそちらを向く

其処にはあの黒い機体がが既に此方に銃口の一つを向けて…

―閃光―


経験が無意識に機を回避させていた
そのおかげで自機の損害は軽微
全く支障は無い


しかし、一瞬悲鳴が聞こえた気がした


誰が喰われた?
ともかく反撃を…


そう思ったときには、既にその機体はこれまた見たこともない機動で離脱していた


『涼宮機、宗像機…主機及び管制ユニット部被弾により衛士死亡、大破。
綾瀬機、左腕にクラスAの損傷。使用不能』


ピアティフ中尉の撃破報告…
喰われたのは涼宮と宗像か

涼宮は分かるが、宗像を失ったのはキツイな


『な、何なんですかぁ!? あの機動!?』


速瀬がやや興奮気味に叫ぶ


「分からん…
只、あれがエレメントの理由だろう」


『アレが新人…』


綾瀬がニヤケ顔で楽しそうに言う
こういう時の綾瀬はちょっと怖いな


『―もう一機はっ!?』


碓氷が叫ぶ

…油断した
レーダーが使えない今、頼りになるのは自分の目だけだということを失念していた
各自があたりを見渡す
碓氷の後方に一機の水平噴射跳躍で接近してくる不知火

武装は87式と追加装甲…突撃前衛か!


「ヴァルキリー2、六時方向!!」


叫ぶと共に87式を放つ
が、その不知火は廃墟を蹴り、三角跳びをするように回避していった


…本当に不知火なのか?


ビルの屋上に着地すると同時に87式を私に放ってくる
左手に装備している追加装甲で防ぎ、右手の87式で応射
碓氷達もそれに続く
しかしこれらも予想もできない三次元機動で回避され、機影はビルの裏に消えていった


『隊長…
あれ不知火ですよね?』


「ああ…
外見からすればそのはずだが…」


『不知火でさえあの機動…いったい何者よ』


碓氷がやや引き気味で言う


「わからない… 
ただ、只者ではないことは確かだ」


本心を告げる
香月博士から両者共に只者ではないと聞いていたが、まさかこれほどまでとは思わなかった

さて、どうする? 伊隅みちる…

広い場所に行くか? …いや、レーダーが使い物にならない今は危険だ
ここに留まる…それも危険
なら主脚移動しながらの索敵…先程の二の舞になるな
ならば―


「全機、ビルの上をホライゾナルブーストで飛行。奴らを混乱させるぞ!
ひょっこり出てきた所を各個撃破だ」


『『『―了解っ!!』』』


通常なら自ら姿を曝すのは愚者が行う行為だが、それも“通常ならば”の話

相手が通常じゃないなら、此方も通常でなければいい

空中戦ならあの不知火も廃墟を利用した機動も不可能だろう…
そうすれば撃破は容易い

問題はあの黒い方だ…
あの機動をどう押さえるかに全てがかかっている


各部をチェックし、一応レーダーも確認する
オールグリーン
フットペダルを踏み、ビルの上に上がると同時にスティックを倒してMOEに移行する
残りの三機も私に続いた





不知火の方は意外にも早く釣れた

…だが、早くも計画は崩れる事となる
戦力差にして4対1と周囲から見れば圧倒的だが、実際はややこちらが圧倒され気味だった

第一に近づけない

繰り出される弾幕は的確で接近を許さず、そしてあの機動…
廃墟を利用した故の高機動ではなく、元々の操縦センスが高機動なのだ


たぶん私にあの機動は無理だな


そんなことを考えながら120mmを予想進行位置に放つ
これは回避しづらいはずだ
しかし背面を向けていたにも関わらず、これを意図も容易く回避される


…ッチ


『ヴァルキリー2、Fox3!!』


碓氷が着地時の硬直を狙って87式を放つ
だが着地した不知火は硬直せずに36mmを巧みに回避していった


ホントに何なのだ?あの機動は…


私は36mmを放ちつつ、周囲を警戒する
無論あの黒い機体がいつ来るか分からないためだ

一瞬目を離したすきに事態は好転していた
4機からの掃射を浴びている不知火は、その弾幕から逃げるようにビルの裏へと隠れた
しかし、其処はビルにサンドイッチされている場所…
逃げるにはビルを飛び越すか、左右に出るしかないのだ

まさに袋の鼠といったところか


「ヴァルキリー3! 今だ!!」


私は透かさず綾瀬に指示を出す


『了解!
ヴァルキリー3、Fox1!』


綾瀬機の肩部に装備している92式多目的自律誘導弾システムから32発のミサイルが至近距離から放たれる
新人もミサイルに気が付いただろう
しかし、放たれたミサイルを撃墜する為には射角の関係上一旦姿を出さなければならない
だが、頭を抑えられている状況でその様な行動は自殺行為でもある

意外にも呆気ない最後だったな
私はそう感じた

だが、その考えは直ぐに打ち砕かれる

明後日の方向から36mmの火線が延び、全てのミサイルが瞬く間に撃ち落とされる


…気を取られすぎた!


すかさず火線の元に87式を放つが、すでに遅かった
両手にマチェットのような短刀を逆手に構えた黒い機体は、不知火を押さえつけていた碓氷機に舐めるように接近し、その横腹に膝蹴りをいれた


『きゃあぁぁぁ!』


碓氷の悲鳴がイヤホンに響く
膝蹴りをお見舞いした黒い機体は、その反動を利用して綾瀬機に切りかかった

一方、隠れていた不知火も「待ってました」と言わんばかりにビルの影から姿を現す
と、同時に87式を乱射しながら反対の腕に長刀を装備、接近してきた

罠か…
だが、面白い…!!
思わず口元がゆるむ


「ヴァンキリー2・3! そっちは任せた
『『りょ、了解!』』
ヴァンキリー5! 行くぞ!
『了解!!』」


追加装甲で銃撃を防ぎながら速瀬に指示を出しつつ、再装填
接近してくる新人機

速瀬が撃った

ひらりとかわす

こっちも援護射撃

それもひらりとかわされる

…しかし、速瀬はそれを狙っていたのだろう
跳躍ユニットを吹かし、ヘッドオン
追加装甲を投げつけた

だが新人機は飛んできた追加装甲を長刀で両断する
…あれ訓練刀よね?

しかし速瀬は構わず突っ込む

二機が交差
スーパーカーボンの刀身がぶつかり、火花が舞う
その衝撃でか、速瀬が一瞬バランスを崩しかけた
新人機も同じくバランスを崩すが、そのまま速瀬機に87式のバースト射撃を繰り出した


『速瀬機、右腕にクラスBの損傷。 動作を規制させます』


『っち、やるわねぇ!!』


着地と同時に速瀬と新人機は87式を破棄
距離は300程 …互いに見つめ合う

…さて


「速瀬。フラットシザーズで行くぞ」


新人機を挟んだ反対側にいる速瀬に言う


『了解、大尉』


返事を聞くや否や、グイッとペダルを踏み込む
跳躍ユニットが吠え機体が前進
急激なGが襲ってきたが、もう慣れた

サーフェイシングで接近しつつ機体を不規則に左右にブレさせる

残り…100―


「今っ!!」


新人機の斜め後方に来たところで一気に直進
機体をロールさせつつ長刀を構える

一方の新人機の斜め前方…
丁度私の進行方向上では、速瀬機が突きの姿勢で接近していた
この位置関係ならどちらかが回避されても、もう一方のが…
最悪、私の87式を使えば良い

これならいける!


「『―貰ったぁ!』」


―ッガ!―


「…グゥ!?」


…振りかぶった長刀が命中する寸前
強烈なGと共に私の天地が逆さまになった


一瞬何が何だか分からなくなった
しかし、ふと映った新人機の姿勢を見たことにより、私は何が起きたのかを理解できた

要するに“投げられた”のだ


『うわ!!』


向かってきた速瀬が私を避けようとして高度を取る

其処にすかさず新人機が跳躍、接近
長刀で一撃を入れる


『きゃぁ…』


速瀬からのデータリンクが消えた


―衝撃―


機体がビルに突っ込んだらしい
急いで抜け出す為に、もがいた


『速瀬機主機大破、行動不能』


アナウンスが入ると同時に抜け出すことに成功
損害は…銃身が曲がった87式だけ


…これでこの場には私と新人のみ
碓氷達と合流したいところだが、撃破したとの連絡が無い以上無理だろう

各部を再チェック
…異常なし
兵装をチェック
…長刀が一振りと短刀が二振りのみ
推進剤残量をチェック
…十分にある

両者、状況的にはほぼ互角
しかし操縦センス的には此方がやや劣勢

空いていた片手に短刀を装備
そして両手の剣を逆手に持ち直す


…けどね、ここからが本番


神宮司教官直伝の格闘戦術、とことん味あわせてやろうじゃないの


―みちるside end―

……

―同時刻―


「はぁ、はぁ、はぁ……ふぅ」


沙恵は機体をビルの陰に隠すと荒れた呼吸を正し周囲を観察・警戒する
背中を合わせて後方では静香が同様に警戒していた


『クリア』


静香が告げた


「…こっちもクリア」


周囲に機影が見えない事を確認してから言う
しかし、だからと言って安全であるとは限らない為依然警戒は続けていた


「損害はどう?」


『あまり良いものとは…
でも咄嗟にコンテナをパージついでにぶつけて正解だったわ』


「そうだね…
…ごめん、静香」


『何を言い出すかと思えば、何を謝ってるの。
アレを回避するのは誰だって無理よ』


口元を緩めながら答える静香
しかし、投影される表情とは逆に顔は冷や汗で覆われていた


「…長刀いる?」


『うぅん…ありがと』


横目で静香の機体のステータスを見る
表示されている水色の不知火のアウトラインは、いたる所が異色に染まっていた

まず、左腕は肘から先が暗く表示され損失した事を
次に右肩部装甲は橙色に中破規模の損害を受けた事を
その他の個所も満遍なく、黄色く小破規模の損害を受けている事を訴えていた
むしろ無傷なのは膝下のみくらいと言った方が早いかもしれない

自分のステータスを見る
沙恵自身の機体もお世辞にも良い状態とは言えなかった
腹部が殆ど赤に近い橙色―大破の一歩寸前―となっており、他には肩部装甲と右腕が黄色く表示されている


「…満身創痍ね」


ぼやきつつも沙恵は残弾が十数発となった36mmの弾倉を新品の物に入れ替えた

―ポーン!

両機の振動センサーが反応を示した

二人は咄嗟にその方角を確認
接近してくる事を確認すると即座に罠を構築する

残り、
―100m

――75m

―――50m…


『…このパターンって』


ふと静香が何かに気が付き、メインカメラを動かす


『沙恵、反応はダミー!!』


「―ッ!!」


沙恵が接近して来る戦術機を確認する為にビル陰から身を乗り出す
しかし、其処には何もなかった


「また!?」


静香の方向を見る
静香もこっちを見ていた…後ろに不穏な影
沙恵の意識はその後ろの黒い影に向かう


「静香、チェックシックス!!」


『―!!』


静香の不知火が振り返る
と同時に陰から一気に長刀が突き出された

―ッチ

装甲を長刀がかすめ、火花が散る


「静香ぁぁぁ!!」


沙恵が87式を放つ
しかし放たれた36mmが命中する事は無かった
陰から身を出した黒い戦術機は跳躍で後退してゆく


「静香、大丈夫!?
 『えぇ、おかげで』
 …追うわよ!
 『了解!』」


その黒い戦術機の後を二機の戦術機が追う


「…ック!
 ちょこまかと動いて!」


沙恵はバースト射撃を繰り出すが、まるで撃ってくる方向を知ってるかのごとくかわされる


『おまけに硬直もしないなんて…』


静香は着地の瞬間を単射で撃つが、これもかわされていた

相手の兵装担架が動き、87式を放ってくる
二機はこれを回避するためビルに隠れた


『逃がさないわよ!』


静香がビル陰から87式だけを出し、備え付けの照準カメラのみで撃ち返す


『1ブロック先の通りに隠れた!』


「でかしたわ!
 挟撃するわよ」


『了解』


二機がスロットルを開きそのビルを挟み込むように接近する


『貰った!!』 「其処!!」


静香が火線が互いを撃ち抜くのを避けるために跳躍しながら その通りを狙い、36mmを放った
沙恵も同時に機体を滑らせながら撃つ


「…いない?」


その通りは一本道であり、隠れる場所も何も無い
が、今二機のカメラに映るのは互いの機影のみだった


『…嘘。
 確かにここに逃げ込んだのに!!』


静香が叫ぶ
その叫び声に続いてロックオン警報が鳴り響いた


「『…え!?』」


二人が呆気ない声を上げると同時に、両機の頭部から胴体にかけてが黄色く染まった


『碓氷・綾瀬両機、頭部および胴体に直撃弾により衛士死亡、大破』


「うっそ~~!?」


『い…いつの間にあんなところに?』


二人が見上げるその先には、通りから少し離れたビルの屋上に佇む黒い戦術機がいた


……


―みちる side again―


「二人がやられたか…」


報告を聞きながら呟いた
ヴァルキリーズのNo.2、3の二機が同時に掛かっても倒せないほどの腕とは…

しかし、こちらもそんな事を言ってられないか

私の目の前には神宮司教官直伝の格闘戦術を軽く凌いだ新人の不知火が佇む
息を切らしている私とは違い、きっと向こうは平然としているだろう


…何というか、全てを見切られている感じね


実際どの様にどんな風に打ち込んでもまるで“そう打ち込んでくるのを知ってた”かの如くいなされ、打ち返された
…神宮司教官の教え子なのだろうか?


…いや、そんなはずは無い


教え子の情報なら少しばかりではあるものの情報が耳に入ってくるはずだ
第一今この時期に卒業した訓練生はいない
…なら何者なのだろうか?

廃墟の一部が崩落する
同時に新人が長刀の間合いまで接近し斬撃を繰り出してきた
これを咄嗟に長刀を持った腕を犠牲にすることで回避
生き残った片手の短刀を放棄し、長刀を装備する

気づけば場所は裏通りの一本道…
その細さ故に左右に逃れる事は負けを意味する
その為前後にしか動く事は出来ない
だが…動けない
動いた方の負け…

私は本能的にそう感じていた
時間だけが刻々と過ぎてゆく
操縦桿を握る手に汗が滲み、喉がカラカラに乾く
…心臓の拍動音でさえ鬱陶しい

こんな状態になるのは、随分と久しいものだな…
自然と口元が緩んだ


……


どのくらい経っただろうか?
数秒?数分?
…わからない
ただ、このプレッシャーにいつまでも耐えられそうにないのは確かだ

只のプレッシャーならば余裕で
戦場でのプレッシャーは日常茶飯事
だから強者と対峙した場合でも耐えきることだろう
…だが今回の相手は強者では無い

―化け物

そんな言葉が適しているかもしれない
こんな機動をやり遂げる衛士など、一度も見た事が無いからだ

ましてやそんな機動をするのが二人とも新人とは…
一体副指令はどんな人材を確保したのだろうか?
…いや、そもそも“人間”なのであろうか?

《はい、実は超高性能な自動制御装置でした》

―なんてタネ明かし言われても、今は驚かない
むしろ人間である方が驚く

それにしても、こんなプレッシャーを感じるのは神宮司教官に教わった時以来だな…
なんだか懐かしい気もする


…さて、どうしようか?
何か合図の様な物があればいいのだが…


丁度廃墟からカラスが数羽飛び出し、飛んで行った
それが引き金となり、私は無意識に一気に機を前進させていた
新人も同様にこっちに向かってくる

…いける!!

私は確信した
コンマ数秒だが、私の方が早かった
私の振った長刀がスゥっと胴体に向けて流れ込んでゆく
全ての時がスローモーションとなり、一秒が一時間の様に感じた

命中まであとわずか…
突如相手の頭部に閃光が走る
それと同時にカメラがブラックアウト

突然の事で訳が分からなかった
瞬時にサブカメラからの映像に切り替わるが、そんな機能は無駄だった

激しい振動が襲う
予想できたとはいえ、思わず悲鳴を上げてしまった


『伊隅機、腹部両断により大破。
A-01の全滅を確認しました。…これにて演習を終了します。お疲れさまでした』


演習終了のアナウンスが流れ、帰投命令が出されると共に角膜に各隊員の映像が映る


『あらら、隊長もやられちゃいましたか~』


碓氷が苦笑しながらいう


「やられたわよ」


ちょっと不機嫌気味に言う
実際、最後のカメラ不調は運も戦いの内とは言え腑に落ちなかった


「そういえば碓氷~。
貴様こそさっきは余裕だとか何とか言っていなかったか?」


『え!? えぇ~と~』


嫌味の様な質問に、碓氷は目をそらす
やっぱりか…


「まぁいい。
言い訳は後で聞こう」


やや疲れ気味に言う
その時碓氷は何故か青ざめていた
何かあったんだろうか?
…まぁいいか


『ヴァルキリー1、行動制限を解除。帰投してください』


「了解した」


行動制限が解除された機を操り基地へと向かう


「我々を全滅させる程の腕を持つ新人…一体どんな奴なんだろうな」


この後紹介されるであろう新人に、私は一種の興味を抱いていた


――みちるside end――


みちる等A-01の面々が横浜基地に帰投したことを確認した二人は、ようやく口を開いた

「…勝てたな」


「あぁ」


タケルが呟き、宏一が答える


「そっちはどうだった?」


「まぁまぁかな」


「まぁまぁって…お前」


「腕は凄く良いのだけど、AH戦に慣れてないって感じだった」


「あぁ、そう言う事か…」


「そう言うお前はどうだったんだ?」


宏一が聞き返す


「俺か?
 俺は……まぁまぁ…かな?」


「何故に疑問形」


「スマン。知り合いのクセだ」


「へ~」


「にしてもなぁ
…はぁ~」


タケルはガクッと項垂れた


「どうした?」


「いや、俺一部の人と顔見知りになってるからさ…
 絶対なんか言われるなぁ~って」


「アハハハ!
そんなの気にしたら負けだよ」


「…お前、ポジティブ思考なんだな」


「良く言われる。
まぁ実際成せばなるって」


「そういうものかね」


「そういうものです」


「…はぁ~」


ため息をつくタケル
そんな彼の角膜には刻々と近づいてくる横浜基地が映っていた


第四話 END
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

第四話です
では補足設定を
・碓氷大尉の下の名前は「沙恵」
・綾瀬中尉は碓氷大尉の同期で、戦闘になると好戦的な性格になる。配置はブラストガード(制圧支援)
・綾瀬は制圧支援射撃に関して天才的な才能を持つが、格闘センスも十分に高いため特別に97式長刀        
を一振り装備している
・武の不知火にはXM3用の関節強化と頭部機銃の搭載が施されている
・武専用の不知火の存在を知っていたのは、本人と香月、それに整備班の一部のみだけ
・頭部機銃に搭載されているはM61A1 20mmバルカン砲(装弾数各2,000発)
装備位置はブレードアンテナ横の、いかにもな場所

って感じですね
毎度乱筆ですみません
では何かありましたら感想掲示板まで気軽にどうぞ


次回予告
A-01のメンバーの前に晒されるタケルと宏一…
彼女達からの攻撃を何とか凌ぐが、そこに新たなる敵が現れる
既に武器も尽き体力も乏しい二人に勝つ術はあるのか!?
次回「ムーンアタック」
君は生き延びることができるのか? 【Cv.碓氷 沙恵】



[30479] 第五話
Name: なっちょす◆19e4962c ID:3f492d62
Date: 2012/07/16 02:20
―一時間後―
――国連軍・横浜基地・地下機密区画・B18フロア――


「―まぁアッという間に全滅させられちゃったのは良いとして…
 伊隅、アレが新人だというのは知ってたわよね?」


「はい」


「つまりあんた達は新人にやられたって事よね?」


「…はい」


夕呼の言葉にみちるは縮こまる


「副指令!!
 一体新人は何者なんですか!?」


そんなみちるの姿を見かねた沙恵が言いだした


「あら碓氷…そんなに気になる?」


「はい」


「…まぁ一方の新人は衛士としての腕に関してはSS級。下手したら人類最高レベルの腕前ね。
 もう一方はまだ私の下に来てから時間が経ってないから何とも言えないわ。
 ただ、戦闘ログを見る限りではもう一方の新人とあまり大差無いわね」


夕呼の言葉に一同は唖然とした


―あの副指令に此処まで言わせるほどの新人って…―


「まぁ実際に会ってみた方が早いわね。
 …白銀、如月。入りなさい」


(…白銀、如月!? まさかッ!?)


みちるが目を丸くする
一方の他のメンバーはほんの数秒間ではあったが新人についてそれぞれの意見を言い合っていた


「古参衛士なのかしら!?」


「でも、それで新人と言うのは変じゃないですか?」


「う~ん、でも私達と同世代ってのも考えにくいよね~」


「まさか孝之と慎二君とか?」


「「それはない ですね/ね~」」


水月・遥・美冴の三人は年配の古参衛士であると予想した


「静香はそう思う?」


「えぇ、まぁ多分きっとお若い方なんでしょうね~」


「何でそう思うの?」


「だって新人なのでしょう?
 そうでしたらお若い方と相場が決まってらっしゃるではありませんか…」


「静香…あなた年下好み?」


「フフフ、違いますよ?」


「ふ~ん」


沙恵と静香は若い衛士であると予想する

会議室横の扉が音を立てて開いた
夕呼を除いたその場の者の意識は一気にそちらへと向かい、出てきた二人の姿を確認する


「…で、コイツ達があんたらを相手していた戦術機の衛士よ。
さっき言った通りA-01の新任って事になるわね」


夕呼が親指で入室してきた二人を指差すと、部屋全体がザワついた
主な原因は二人のその若さである事は一目瞭然だった


「右側にいるのが白銀大尉、左側は如月大尉よ」


夕呼が簡単に紹介をし、タケルが一歩前に出る


「この度A-01に配属されることになった白銀 武大尉です。
 ポジションは、前の部隊では突撃前衛隊隊長を勤めていました。
以後よろしく頼みます」


タケルが敬礼すると、皆が立ち上がり返礼する
一歩下がるタケルとは逆に、今度は宏一が一歩前に出た


「(結局大尉のままなのね…)
ウチはこの度A-01に配属されることになった如月 宏一大尉です。
ポジションは…最近ソロで活動いていたので特に決まっていませんね。しかし、一応全てのポジションを担うことはできます。
以後よろしくお願いします」


宏一は笑みを浮かべ、敬礼する
その予想外の様子に一同はビックリするが、慌てて返礼する


「説明すると白銀は不知火に、如月は黒い戦術機―この後で説明するつもりよ―に乗ってたわ」


(白銀があの不知火に…!?)


みちるは夕呼からの説明に驚いた
が、それと共に“あの戦術機”の対処に出撃した際に浮かべた笑みについてを理解する


(強者は強そうなものに惹かれる…そういう事か)


「そうそう、白銀には新概念OSの教導を…
 如月にはAH戦の教導を行ってもらうわ」


この夕呼の説明には水月が食らいついた


「副司令。
 新概念OSとやらの教導を受けるのは理解できますが、AH戦の指導を受けることについては理解しかねます。
 AH戦に関しては我々の訓練で事は足りるはずです」


夕呼はため息をつきながら質問に答えた


「ハァ~…
ならなんでさっきたったのワンエレメントに…それも三倍の戦力だったのに敗退したの?速瀬?」


「…ッゲ」


「…でしょ?
 だからアンタ達のAH戦能力を底上げする為に、数少ないAH実戦経験者である如月に教官として指導してもらうんじゃない」


光栄な事よ―と夕呼は続けるが、すでにその言葉は彼女等の耳には聞こえていなかった

AH戦経験者
それも訓練では無く、実戦…

その肩書きに彼女達は言葉を失っていたのだ
そんな様子を見ていた宏一はそれだけこの世界は混乱していなかったのだとうれしく思う一方、胸が痛んだ


「白銀、如月、何かアンタ達からある?」


夕呼が二人の方を向く


「あー、なら一点ほど」


タケルが手を挙げ、夕呼が許可する


「え~とですね…
一応、俺達の階級は大尉ですが、堅っ苦しいの苦手なんです。
だからプライベートの時とか休憩時間の時等、他の部隊が居ないところでは敬礼とか敬語とか、そういったのは無しで御願いしたいのですが…」


この発言に夕呼と宏一を除いた全員が唖然とする


「それに俺達、年下ですし…」


「「「なっ!?」」」


この一言が更にA-01の面々を驚愕させた


「大変失礼なことをお聞きしますが…た、大尉は今お幾つなのですか?」


美冴が顔を引きつらせながら聞く


「昨年末に16になったばっかりです」


「ウチも去年の9月末で16に」


タケルが答え、それに宏一も便乗した


(((16…!!)))


(あの若さで大尉って…彼等はいったいどれほどの修羅場をくぐり抜けてきたというのだ?)


皆が驚愕を隠せない中、みちるは驚愕しつつも疑問を感じていた


「まぁ驚くのはわかるし、いろいろと聞きたいだろうけど、コイツ達の過去は第弐種軍機よ。
 だから少なくとも私から教えることは出来ないわ」


夕呼が真顔で補足する
第弐種軍機…
その機密性から、想像できないほど過酷な過去だということをその場にいる者全員が理解する


「それじゃ、私はオフィスに行ってるから~
後はヨロシク~☆」


「「…へ?」」


「白銀と如月は済んだら来てね~」


夕呼が笑顔で部屋から出て行く


((な…何だとぉぉぉ!?))


思わず二人は心の中でハモる
二人は新型OSの説明などを夕呼と一緒にする気でいたため、このサプライズは心外であった
特に宏一はタケル以上にそれに頼っていた為に、ショックが大きい

サーっと二人の顔から血の気が引いて行き、冷や汗が出始める
その様子を察知したのか、みちるが突如切り出した


「では白銀、如月。
 次は我々の紹介をさせてもらうぞ」


「え? あぁ、お願いします」


この切り出しに二人の顔に一気に血の気が戻り、パァァァっと表情が明るくなった


((助かった~ ))


「まずは私から。
 白銀とは一度会っているが、正式に名乗るのは初めてだな」


「えぇ、そうでしたね」


タケルは頷く


「私の名は伊隅 みちる。
 階級は同じ大尉だ。このヴァルキリーズの部隊長を勤めている。
 如月、先程はスマなかった…まぁよろしく頼む」


「いいえ、大尉。此方こそ無礼な言い方で済みませんでした。
こちらこそよろしくお願いします」


「そうか。
…では次だな」


みちるが水色のショートヘアーの活発そうな女性を指す


「彼女は碓氷 沙恵大尉。ヴァルキリーズの副隊長でポジションは強襲掃討だ。
 なかなか頼りになる奴だぞ」


「よろしく、白銀君、宏一君」


「よろしく、大尉」


「(…何故ウチだけ名前?)よろしく、碓氷大尉」


宏一は碓氷に自分だけ名前で呼ばれた事を不審に感じるも、そのまま流した


「そして彼女が綾瀬 静香中尉。ポジションは制圧支援だ」


みちるがワインレッドの髪を後ろ結びにした女性の紹介をする
そして二人に近づくと口に手を当てながら小声で補足した


「あと奴は普段は穏健な性格だが、コックピットに入ると人が変わる。
その点に注意するように」


あれは手がつけられんと言わんばかりの言い方に、二人は「はぁ…」としか言えなかった


「2人ともよろしくね」


「よ、よろしく…」「よろしく、綾瀬中尉」


「次は宗像だな。
 彼女は宗像 美冴少尉。ポジションは本来ならば私と一緒の迎撃後衛なのだが、見ての通り人員が少なくてな…
 火力不足を補うために強襲掃討を担当してもらっている」


茶髪を肩まで伸ばした、おっとりとした女性を眼で指しながらみちるは紹介する


「よろしく、白銀大尉、如月大尉」


「よ…よろしく(汗」「よろしく~」


口元を緩める美冴にタケルは苦笑いをし、宏一は全くその意味を分かっていなかった←この事を後に宏一は思い知る


「次は…」


「あ~~~!!
あの時病院に来てた奴じゃない!!」


「水月、相手は大尉だよ!?
指差すのは不味いよ~」


みちるの言葉を遮り、水月がタケルの事を指差し大声で叫んだ


「速瀬!! 
 貴様上官に指差すとは何様だ!!」


「…ッハ!
 申し訳ございませんでした!大尉殿!!」


「いや…別に良いですよ? そのぐらい…」


「白銀大尉…?」


「…ハイ、スミマセンデシタ。 オレガワルカッタデス」


みちるの笑顔(背後に黒いオーラ付き)にタケルは片言なってしまう


「ん、んん!! …すまない。
 白銀とは既に面識があるようだが、この問題児―
「ヒドッ!?」
―は速瀬 水月少尉。
性格はごらんの通りだ。しかし、この性格の相まってポジションは強襲前衛と優秀でもある」


「よろしく!如月!!」


「よろしく、速瀬少尉」


宏一に挨拶を済ませた水月はにこやかな顔つきでタケルの許へと向かい、OHANASHIを始めた


(タケル…ご愁傷様w)


「…(全く、あの娘は)
この娘は涼宮 遙少尉。
彼女はOPとして有能なため、主に迎撃後衛にて状況分析と簡易管制を担当している」


みちるが栗色の長髪の女性の肩に手を乗せつつ、その女性の紹介をする


「よ、よろしく御願いします!」


「此方こそよろしく。涼宮少尉」


やや緊張気味の涼宮に対し、宏一は柔らかく答えた


「あと男勢が二名居るのだが、今は入院中でな…
 多分来週あたりに帰ってくると思うから、紹介はその時に」


「了解です」


みちるが孝之と慎二の事を簡単に説明した

紹介が終わると、一時的にその場の空気は自由タイムの様なものとなった
何をすればいいのか迷っている宏一の下に静香が近づいてくる


「如月大尉。
 一個質問しても良いですか?」


「別に今は呼び捨てで構いませんよ
「あら…そうだったね」
…それで質問とは?」


「さっきの模擬戦でのあなたの機動についてなのだけど…」


「ウチの機動について、ですか?」


宏一が聞き直すと同時に部屋が静まり返った


「あの機動も…その…実戦で身に付けた物なの?」


綾瀬が何か聞きづらいことを聞くような口振りで聞く


「ん?
 何でそんな聞きづらそうな口振りなのかは知らないけど、まぁ基本形はそうですね。
 でも今回の作戦は即興で閃いたのをやってみただけですよ?」


「即興で!?」


やや驚いた口振りで沙恵が聞き、宏一はそれに対して笑顔で「そうだよ」と答える


「けど、普通の不知火じゃ無理だったね~。
 飛鳶かタケルの不知火じゃなきゃ」


「白銀大尉の不知火…?
 普通の不知火とどこか違うのですか?」


美冴が問う


「簡単に言えばソフトの違いですかね。
 まぁ詳しくはタケルが説明してくれるかと」


そう言いつつ放置されていたタケルの脈を確認し、脈が(辛うじて)あることを確認すると無理やりたたき起した


「ほら!シャキッとする!
 男の子だろぅ?」


「…い、いや…流石に男でもキツイッス」


「言い訳はいいから、さっさと説明を始める」


「こ、この鬼がぁ~」


タケルがよろけながらモニター横のPCに移動しモニターを起動させると部屋全体が暗くなる


「…そ、それでは新概念OSの説明を始めますね」


XM3の説明が始まると同時にヴァルキリーズの表情が引き締まる


「先ほど説明があった通り、自分の機には新概念OSが搭載されています」


モニターに新型OSの簡単な機能と名称が映し出された


「モニターに映っている通り名称は“XM3”
 簡単に機能の説明すると、従来のOSに…

・キャンセル機能
・コンボ機能
・先行入力機能
・動作予測機能

等の機能の搭載したものです」


モニターの画面が変わる


「まずはキャンセル機能についてから。
例えば倒れそうになった際に従来のOSでは自動で受け身、あるいはそれを防ごうとしますよね?
しかし、この間は動作を一切受け付けなくなるという欠点がある。
―それを無くす機能がキャンセル機能なんです」


「しかし、それでは受け身などがとれないではないか?」


「いえ、ただ単にキャンセルできるようにするだけなので何も入力しなければ受け身を取ります」


「なるほど…」


「これを応用すれば着地した際の硬直を無くせます。
あの硬直は隙がデカいですからねぇ~」


おぉ―とざわめきが走る


「次はコンボ機能について。
 これは一定の入力をした際に、通常とは違う動作を行う機能で、簡単にいえば―
 パンチを三回繰り返すように入力したとすると、ただ三回パンチを繰り出すのではなく
パンチ→アッパー→回し蹴り
と言う様に一種の連続技を繰り出せるようになるんです」


「その連続技はどんなものなの?」


沙恵が聞く


「一応オレの機動をベースに作ったので、今のところそれと似た様な機動コンボを登録してます」


「へぇ~
 わかったわ。ありがとう」


「他に質問は?」


タケルが見渡すが質問の手は上がらない


「…居ない様なので、これから先行入力の機能の説明をします」


「先行入力機能とは、その名の通り予め動作を入力する機能です。
 なので着地する際に予め攻撃の入力をしておけば、着地と同時に攻撃が出来るようにもなる…
 つまり入力のタイムラグを無くす事が出来ます」


おぉ―という声が再度響き渡る


「最後に動作予測機能。
 これは特定行動後に比較的行う動作を予測し、その入力を簡素なものにする機能です。
 例えばですが、
 長刀で前方の敵を切った後に後ろの敵を切ろうとします。
 普通なら、
 斬撃→旋回→目標選別→ロックオン→斬撃
 と入力しますが、この機能を使えば…
 斬撃→旋回
 と入力した際に後の入力を予測し、この後の目標識別・ロックオン・斬撃の入力を纏めて一つの動作で入力する事が出来ます。
 また他の入力も受け付けるので、状況に合わせて使用できます。
 …いわばコンボ機能の簡易版みたいなものでしょうかね」


「そして、これらを応用すれば…」


タケルがEnterを押すと、動画ファイルが展開した
読み込みが完了すると一機の撃震が演習場で立っている映像が流れる


カメラの端を鳥がかすめると、同時に撃震が動き出した

ホライゾナルブーストから地面を蹴り上げて跳躍、同時にビルの隙間からほんの一瞬見えた的に向かって87式をバースト射撃を繰り出す
着地すると同時にその運動ベクトルを水平方向に移行させ主脚で移動

ビルの陰から的が二つ飛び出てきた
両手の87式であっという間に撃破

今度は左右
腕を左右に広げ、発砲

前後至近距離に更に二体
機を捻りつつ腕をクロスさせて短くフルオート

背後に一体
捻った反動を生かしつつ回し蹴りで的を蹴り割った

―映像が終わる


「…あの撃震でこんな機動を出来るなんて…」


遥がボソッとつぶやく
これはヴァルキリーズ全員が感じていた事だった


「一応この撃震には幾つかの改修を施してますが、僅かに反応速度が向上し関節強度がUPしただけなので通常の撃震との性能差は大差ないです。
因みに、この時のテスパは俺です」


やや誇らしげに言うタケル


「…関節強度?
確か撃震を含むF-4シリーズの関節強度は、歴代の戦術機の中でも高いレベルのはずだが…」


みちるが聞いた


「そうなんですけどねぇ~
XM3の欠点として機動性が向上する代わりに関節系の疲労が尋常じゃ無いものになっちまうんですよ…
例えば俺が全力で機動戦闘を行った場合、改修無しの不知火だと二回でオーバーホールが必要になりますね~」


一同唖然


(((アンタがおかしいだけ!!)))


あははとタケルは苦笑する
一方のヴァルキリーズの顔は引き攣っていた


「まぁそんな訳で、今回このOSを搭載するに当たって皆さんの不知火を改修します。
 大体期間は速くて明後日、掛かって数日だと思います。
 
…それと最後に一つだけ。
 従来のOSとはかなり違うものとなってます。なので、はじめは戸惑うかもしれません。
 けどXM3は一人一人に合わせて成長していきます。
 絶対にあきらめないで、必ず乗りこなせるようにしてください!!」


タケルが力を込めて言う
みちるはその意外な姿にキョトンとしていたが、かるく息を吐くと口元を緩ませた


「…ッフ、何を言い出すかと思えば…
 あきらめる…?
 何を言っているんだ白銀は?」


みちるが腰に手を当てると同時に、その後ろにヴァルキリーズのメンバーが一列に整列した


「ヴァルキリーズ、隊規復唱!!」


「死力を尽くして任務にあたれ!!
 『死力を尽くして任務にあたれ!』
 生ある限り最善を尽くせ!!
 『生ある限り最善を尽くせ!』
 決して犬死するな!!
 『決して犬死するな!』」


その姿に、タケルには自身の目尻に熱いモノが溜まっていきそうなのを感じ根性でそれを抑えていた


(ははは…やっぱスゲーや)


(皆さん体育会系だナ~)


タケルがかつて共に闘い、教えを貰った事を思い出している隣で、宏一は呑気なことを考えていた

……


「操縦すればするほど自分専用になるOSに改修された不知火かぁ~ すごいね」


「OSだけであの様な機動が出来るとは…思いもしませんでした」


「けど実装まで数日かかるのがねぇ~」


「しょうがないよ~
 我慢、我慢」


「うぅ~~~」


休憩の為席をはずしていた水月、遙、静香が改修案の不知火とXM3についての感想を述べる


「白銀の機動はこれらのおかげでもあったわけか…」


「でも腕は確かみたいですよ?」


「それは認める。
 だが、私にもこのOSと改修された不知火を使ってあんな機動ができるとは到底思えない」


「それもそうですね…」


「…しかし、如月大尉の機体―えぇと確か飛鳶という名前でしたっけ?―にはXM3は搭載されていたのでしょうか…?
 私にはまったく別の物の様に思えたのですが…」


「そうそう!
 質問しても『後で説明します』の一点張りだったし」


(それもそうだな…
 あの白銀とは別の機動といい、ステルス機能と言い…確かに奴の機体については不明点が多すぎる)


一方のみちる、沙恵、宗像らも感想を述べるが、そんな中飛鳶への疑問が浮かんだ


「すみませ~ん。
そろそろ次に行きたいのですが、良いですか?」


宏一がタケルに代わってPCの前に座り、聞いた


「わかった」


みちるが答えるとほかのメンバーも雑談を止め席に着く、
再度部屋が暗くなった


「では次はウチの戦術機とについて説明しますね」


モニターに飛鳶の三面図と各部の説明が表示される


「ウチの戦術機はTSF-TYPE97-05K…通称“飛鳶”と言います」


「この機体はそもそもは不知火・壱型丙をベースにした次期主力戦術機の実験機でした。
 しかし、実験そのものが破棄された事により機密保持の為にスクラップにされる事となります。
そんな時、丁度いい“素材”を探していた“ある”技術屋と研究者の目に留まり、回収・改造されて今のスタイルに至りました。
 …まぁそのお陰で生産には向かないワンオフの機体になってしまたんですがね」


宏一は飛鳶の生まれを(一部変更して)説明する


「この“飛鳶”の特徴として

・ステルス機能
・機体各部にRCSの搭載 
・新型跳躍ユニットの搭載
・電子戦装備の搭載
・兵装担架の増加
・新型管制ユニットの搭載
・新型兵装の搭載

等が挙げられます。
 まぁステルス機能についての説明は要りませんね」


画面が切り替わり、機体各部に矢印が伸びていく


「ご覧になっている図のように肩部、胴体部、脚部にRCSが搭載されています。
 これらは跳躍ユニットとは別に噴射させることが可能であり、これによって旋回やジャンプ等の速度を向上させる事が出来ます。
また、跳躍ユニットに搭載されている二次元ノズル・可動式前進翼とを併用すれば、このような三次元機動が可能です」


モニターいっぱいに飛鳶がさまざまな-無論ヴァルキリーズの面々には想像できない-三次元機動を行う映像が流れた


「ここまでで何か質問は?」


静香から手が挙がる


「そのRCSとはなんですか?」


「すんません、説明不足でした。
 RCSは飛行姿勢制御用のスラスターだと考えてください」


「なるほど、ありがとう」


「いえいえ」と返礼しながら次の画面に移行させる


「次に電子戦装備についてです。
 まぁ~、主にAH戦を前提とした装備ですのでBETAにはあまり意味のない装備ですが…

飛鳶には攻撃用のECM、防御用のEPMとECSの三種類が搭載されております。
ECMは相手の電子装備を狂わせるもので、簡単に説明しますと先ほどの模擬戦でのダミーフリップのように、短時間で相手の機体を電子的に乗っ取ることができます。
 流石に操縦系統まで奪うのには多少時間がかかりますね」


この説明に面々は納得する一方、少し恐怖を覚えた


「防御用のEPMについては対ECM用の防御装置ととらえてください。
電子攻撃をされても、防ぐ事が出来ます。
そしてECSについてです。
 これはEMPとは別の防御装置なのですが、詳しくは軍機によって教えられません。
 しかし、簡単にいえばステルス機能に近い装置ですね」


部屋が「へぇ~」という声に包まれる
しかし、それはすぐに違う声になった


「なお、ヴァルキリーズの不知火にはこのECSの簡易版を搭載することになりました」


「「「…なんだって/ですってー!?」」」


一同が唖然とする  
タケルも唖然とする
―水月に至っては思わず席から立ち上がった


「どういうことだ、如月?」


みちるがその意味を聞く


「これは香月博士からの指示でもあり、自分からの要望でもあります」


宏一は一旦言葉をそこで切り、一呼吸してから説明を再開する


「我々は、いわば香月博士の直属の特務隊であり、逆にいえば香月博士の私兵ともいえます。
そして、香月博士の研究に対して良い印象を持たない輩は様々な組織に存在していることは周知の事だとウチは思います。
 それ故、香月博士の研究や生命を死守するのが我々の任務でもあるのです。

…ここまで説明すればその本意が分かると思いますが…」


一同の顔を軽く見る
その顔は既に本意を悟ったような顔つきだった


「つまり“本物”のAH戦を行う可能性が存在するわけです」


「「「……」」」


部屋の空気が一気に重くなる


「しかし…」


「「「…?」」」


「流石にこんな時期にそんなことしようとする輩はいないしょ~☆」


「「「…!?」」」


宏一の切り替えに、部屋の空気が一気に迷走する


「まぁ“一応念の為”に装備すると思ってください☆
 はい!質問のある人~!!」


さらに続く謎ノリによって数十秒前まで充満していた空気は一気に呆けていった


「無い様なんでこのまま続けま~す」


タァーンッと某三沢ごとくEnterを押す宏一


「さてさて、次は兵装担架についてですね☆
 この三面図を見ていただければわかると思いますが、飛鳶には兵装担架が四基装備されています。
 コンセプト元はYF-23。
 《長刀も欲しいけど突撃砲も捨てがたいな~》
 という我儘を見事に叶えたものです。
 
今までの担架部は長刀用・突撃砲用と別れていましたが、ノッキングボルトや伸縮アーム、副腕を一個に纏める事で突撃砲・長刀関係無く装備する事が可能となっています。
 なので戦場でも87式×2+長刀×4の接近重視型や87式×6という超弾幕重視型、極めつけは長刀×6などという、最早訳もわからない装備に換装出来るわけです。
 
 更に腰部装甲の端には簡易兵装担架が一対装備されており、これによって長刀を装備する際に破棄されていた突撃砲をマウントさせておく事が出来ます。
 …いわばホルスターみたいな感じですかね」


「…尚、この兵装担架や簡易兵装担架もヴァルキリーズの不知火に搭載します」


「はいはーい!!
これは四基付けていただけるのでしょうか~?」


水月が聞く
長刀を多く持てると聞き、その目は輝いていた


「う~ん、ウチとしては搭載させたいんですがねぇ…
 不知火(素体)だとスペース的にキツイかなぁ~
飛鳶でもかなり無理したし…」


「えぇ~~」


ブーブーと文句を言うが、みちるに後頭部を叩かれることで収まった


「次は新型の管制ユニットについて。 …まぁ新型と言いつつまだ試作品ですがね。
 
飛鳶には従来の戦術機とは異なる管制ユニットが試験的に搭載されています。
 管制ユニットの名前は“マスタースレイブシステム”…
 その名の差す通りマスター-衛士-の動きにスレイブするシステムであり、真の意味で機体を思いのままに動かせるようになります」


おぉー!!―とどよめきが走った


「…しかし、かといって簡単に動かせるようになるわけじゃないんですよねぇ~」


今度はえぇ~と言った空気になる


「だってあんな狭い空間で、自由に腕とか足とか振りまわせるわけ無いじゃん?
だから、自身の動きを倍増させて動かすんですけど…これがまた厄介なもので…」


「どう厄介なのだ?」


「…生活に支障が出ます」


「「「え゛!?」」」


「だって少し腕とか足を動かしたら普通に動けるんですよ?
 そしたら機体降りた後でもそう錯覚するじゃないですか!」


あ~―と納得する一同


「この切り替えできるようになるのに半月以上かかりました…はい」


項垂れて話す宏一
みれば目の幅ほどの涙を流していた


「それに強化外骨格が搭載されて無いので、脱出した際の装備は全身装甲化された“だけ”の87式フィードバックインターフェイスだけですよ?
 まぁ細部は87式と異なりますけど…」


「そ、それは嫌だな…」


「でしょ?
 だからあんまりお勧めできないんですよ…これ」


モニター映像が切り替わり、マチェットの様な短刀が映された


「最後は新型兵装についてです。
 この長刀の名は“試05式特殊長刀”
 短刀ではリーチが短く、長刀では逆に長すぎるといった状況が多々見受けられた為に試作された“長刀”です。
 長刀とは言いますが長さは74式長刀のおおよそ半分…65式短刀なら倍の長さと言ったところで、刀身も74式よりは僅かに厚くなっている為に耐久力もあります。
 ただ、欠点として従来のナイフシースが使えない事ですかね…
 なので使ってみたい人はシミュレーターで使ってみてからウチに相談してください」


最後に質問は?―と宏一が聞くが、特に手は上がらなかった為に此処で解散となった

……


「さてと…
 タケル、博士のところに行こうか」


「だな」


ヴァルキリーズが居なくなった部屋に残った武と宏一の二人は、片づけを終えると夕呼のオフィスへと向かっていった


第五話END
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

補足説明
・綾瀬は“部隊一のKY”と酷評された事もあるが、実際はそんなでもない
・簡易版ECSの全機搭載は、宏一と夕呼が武のいない場で決めたことであり、提案→即決であった。
もちろん言いだしっぺは宏一
・ECSの設定は俺設定

こんなものですかね
何かあったら感想掲示板まで


次回予告
夕呼の部屋へとたどり着いた武と宏一
宏一はそこであるものと出会い、その姿に困惑する
次回、『ドッペルゲンガ―』
同じ容姿の者がそこにいた時、君は何を感じるのか 【Cv.如月 宏一】



[30479] 第六話
Name: なっちょす◆19e4962c ID:3f492d62
Date: 2012/07/16 02:13

――同基地・B19フロア――


「―時に、宏一。
 なんで簡易ECS搭載の話を教えてくれなかったんだ?」


タケルがやや不満そうに聞く


「ん?
 あぁ、それは説明会の直前に博士と決めたからだよ。
 伝えてなかったのはうちのミスだね」


「…まぁいいか。
 しかし、なんでまたそんな急に?」


「一つはさっき説明したとおり。いつ博士を狙ったテロ活動が行われるかわからないからね。
 二つ目はECSに理由は不明だけれども起動中はBETAを引きつける効果があるんだ。
 それを応用すれば様々な戦術が組み立てられるだろ?」


宏一がやや得意げに説明する


「へぇ~
…けどよ、そのBETAを引きつける効果は説明してなかったよな?」


「それはまた後日伝えるつもり。
いきなり全部説明してもわからんでしょ」


「そんなもんかね?」


「そんなもんよ?」


タケルは「ふ~ん」と返事を返す
そんなこんなしているうちに、二人は夕呼のオフィスの前に着く


「ちわ~っす」


「おいおい、ノックもなしかよ(汗」


ノック無しに入るタケル
宏一はその行動にやや呆れた様だった


「あら、早かったわね?
 もうちょっとしごかれてると思ってたわ」


((やはり確信犯か))


「まぁいいわ。
 で、反応はどうだった?」


夕呼は二人に聞く


「XM3についてはかなりの質問が飛びましたね。
 “早く使ってみたい”…そんな感じでした」


「なるほど…
 如月のほうは?」

「興味深々に聞いていた割には全く質問がなかったですね。
 ただ、みなさん唖然としているというか、ついていけてないというか何というか… 
 しかし、簡易ECSの搭載についてはびっくりなされていましたよ?」


(そんな空気にしたのはお前のせいだろお前の…)


宏一は意外にも反応が薄かったことにビックリしていたが、タケルは心の中で突っ込みを入れていた


「へぇ~そう…」


夕呼は「あっそ」といった具合に返事をする


「そういえば、如月。
 あなたシミュレーターはどうする気?
 流石にシミュレーターを“マスタースレイブ”システム化するのは無理よ?」


「そのことなんですけど…
 一応普通の操縦システムでも操縦は可能ですが、そのXM3ってのは使ってみないとわからないのですよねぇ」


宏一も同じことを疑問に思っていた


そもそも飛鳶の操縦システムは前述(第五話)の通り、一般の物とは異なっていた

―マスタースレイブシステム―
その名の差す通り、操縦者(マスター)と同じ動作を行う(スレイブ)システムであり、その為制御ユニットそのものの形状や内容が違っていた(しかし、そのシステムのおかげで宏一は武とは別次元の変態機動を行うことができる)為、従来のシミュレーターでは代用ができないのだった

「わかったわ。
 後でOSデータを渡すから白銀と社を連れて一緒に慣らし運転してきなさい。
 そのデータログからアンタ用のプログラムに変えるわ」


「ありがとうございます。博士。
 しかしその“社”というのは誰ですか?」


(社、やしろ、Yashiro… どっかで聞いたな)


宏一はどこか聞いた名に疑問を抱いていた


「あら、白銀?
 アンタ説明してなかったの?」


「え!?
 してよかったんですか?」


「当り前でしょ?
 そのぐらい自分で判断しなさい」


「…スミマセン(何か府におちん)」


夕呼に理不尽に怒られたタケルだったが、宏一に説明する


「霞―あぁ、下の名前のことな―はXM3をプログラミングしてくれた子で、とっても頭がいいんだ。 しかも超可愛いんだよ!!
 何というかあの小動物っぽさというか何というか…」


タケルは霞についての可愛さをその後3分ほど語り続ける


「―ってわけよ。
 わかった?」

「…あぁ。
 お前が重度のロリコンだということと、その社って子が頭良いということがな…」


「な゛っ!!
 俺はロリコンではない! お前も会えば分かる!!」

ゲンナリした宏一が冷えた視線でタケルに返事する


「まぁロリコン重症者…
 「なんじゃそりゃ!?」
 は放っておいて…
 博士、その社本人は今どこにいますか?挨拶をしておきたいのですが…」


後ろで抗議するタケルを放っておいたまま、宏一は夕呼に聞いた


「待ってなさい、今呼ぶから…」


夕呼がデスク上のスイッチを押し、小声で何か喋る
しばらくすると隣の部屋とのドアが開き霞が入ってきた


「如月、この娘がその“社 霞”…
 …よ?」

 
夕呼が霞を紹介しようとするが、宏一の異変に気が付き言葉を止める


「…どうした、宏一?」


タケルも異変に気が付き、宏一の顔を覗き込む
宏一は眼を丸くし、まるで幽霊を見たかのような顔になっていた


「…サ、サーニャ?」


(((…?)))


宏一の口から、前の世界で短い間ではあったが自分に懐いてくれた一人の少女の名が漏れた


「…いや、そんな訳…ない…な」


そう自分に言い聞かせつつ腰を落とし、手を指し延ばしながら霞に話しかける


「ごめんね、初対面でいきなり変なところ見せて…
 はじめまして、社。
 ウチの名前は如月 宏一。
 ウチの事は、好きなように呼んで」


「…はじめまして如月大尉、私が社霞です」


霞が指し延ばされた手に自分の手も伸ばす
その時手に何かを感じ霞がその手を離すと、そこには一つの紙包があった


「…これは?」


霞は宏一の顔をのぞきながら聞く


「まぁ開けてみ」


そう聞くと霞は紙包の紙を丁寧にはがす
その中にはきつね色のブロックが入っていた


「…ウチ特製のパワーバー(メープル味)。
 前の部隊では結構人気だったんだぞ?食べてみ?」


霞は夕呼の顔を見る
夕呼が「いいわよ」と顔で合図すると、霞は少しずつ食べ始めた
その姿はさながら小動物の様であった


「お味はいかがかな?」


宏一が聞く


「…とてもおいしいです」


霞は少し笑顔で答えた


「そっか☆」


その返事を聞いた宏一は、霞の頭を撫でながら立ち上がる
そこにタケルが背後から近づき「だろ?」と耳元でつぶやくと、宏一は「だな」と答えた


「如月ぃ~
 随分といいもの持ってるじゃない?」


「ん? 博士も要ります?
 まだありますし…」


「なら一つもらおうかしら」


「何味がいいですか?」


「あ、じゃあ俺にも一つ…」


夕呼はフルーツ味、武はチョコ味を宏一から受け取り、それを口にする


「…美味しいわね」


「これはうまい」


「どうもどうも~」


意外に好評だったようだ


「これも“アンタの世界”の物なの?」


「えぇ、まぁ。
 “元の世界”で一時流行したものを“前の世界”で見よう見まねで再現してみたんです。
 栄養バランスもしっかりしてるので、非常食としては結構使えますよ?」


「ここでも生産できるのか?」


「勿論」


「よっしゃぁ!
 なら後で京塚のおばちゃんに頼もう!」


なぜかタケルのテンションは上がっていた


「…そういえば博士。
 ウチの部屋は?」


「あ、そうそう! すっかり忘れてたわ。
 …あんたの部屋は下士官用の個室よ。
 詳しい場所は白銀に聞きなさい」


「了解」


「じゃあ本題ね…」


夕呼が霞が入れたコーヒーを受け取りつつ、デスクに寄りかかる
タケルや宏一も霞からコーヒーを受け取った


「白銀には説明済みだけど、宏一にも来月帝都で行われる非公式の帝国軍との会談に出てもらうわ」


「そらまた急な話で…
 で、何をウチは話せばいいですか?」


「“飛鳶”の技術についてよ」


「…」


「この技術を帝国との交渉の取引に使うわ」


「…内容は?
 一応ウチにも知る権利はあると思いますが?」


宏一の表情が変わる


「簡単にいえば“帝国・斯衛との信頼関係を作る為”ってことかしら」


「つまり…?」


「あんたは知らないだろうけど、国連軍ってのはいわば“とある国”の操り人形みたいなものなの。
 そして、その“とある国”に対して良い印象を持たない帝国軍および斯衛軍は、当然我々にも良い印象を抱いていない。
 しかし、私の研究には帝国の協力無くして実現する為には、あまりにも時間が足りないの…
 だからよ」


「なるほど…」


宏一の表情が晴れてゆく


「じゃあ、どの辺まで喋りましょうか?」


「任せるわ。
 場合によっては喋らなくてもいいから」


「了解」


「じゃあ先生、会談内容は
 1、『撃震・改』の紹介と改修内容
 2、『XM3』の紹介と基礎データの配布
 3、宏一による『飛鳶』の機能紹介 …ただし、これについては状況に応じて内容を変化
 で、良いですね?」


タケルが会談内容の確認をとった


「ええ、そうね。 それで行きましょう」


「「了解」」


「話はこれでおしまいよ。 解散」


夕呼の言葉でその場は解散となり、タケル・宏一・霞の三人はオフィスを一緒に出た


「あぁ~腹減ったなぁ~」


「確かに減ったな…(そういえば、ウチこっちに来てから何も食ってないなぁ)」


「霞はどうだ?」


「…お腹すきました」


「よし!ならPXでも行くか?」


「おぉ!そうしますか」


「…はい」


タケルが先導となり、一行はPXに向かう


「あらタケル~それに霞ちゃん!
 今日は遅かったねぇ~、若いのにお勤めご苦労さん。
 特別に大盛りにしてあげ…ってそちらは?」


京塚のおばちゃんは宏一のほうを見る


「今日からこの基地に配属になった、如月 宏一です。
 以後よろしく」


「あぁ~そうだったのかい。
 私は京塚ってんだ。よろしくね」


二人は小窓を挟んで互いに握手する


「しっかしアンタも若いねぇ~
 年はいくつ?」


「今年の九月で17になります」


「あれま~
 ならタケルと一緒だねぇ。 
 よし、アンタも特別に大盛りだよ!!」


「ありがとうございます。
 しかし、いいのですか?」


「いいの、いいの!!
 若いもんは食わなきゃだめだよ!」


「ハハハ…(汗」


タケルと霞は合成鯖味噌定食を、宏一は合成鳥竜田定食を頼んだ


「…っこれうめぇ!!
 ホントに合成食材使ってんのかよ!?」


「だろ!? 京塚のおばちゃんの作る飯は世界一うめぇ」


「それ同感!」


……


食後、しばらくしてから三人は地下の機密シミュレータールームにて宏一のXM3慣熟およびデータ蓄積の操縦を手伝っていた
宏一は最初こそは不慣れな操縦であったが、すぐに適応し今や飛鳶操縦時とそれほど変わらないくらいのレベルになっていた


「…おいおい、幾らなんでも早くねぇか?」


「そうか?
 ウチこういったゲームみたいのはすぐ慣れるほうだぞ?」


「そういった問題じゃなくてな…」


「…あ、そうなんですか」


「…まぁいいや。
 霞、データとれた?」


「…はい。取れました」


「社。 ありがとね」


宏一は眠そうにしていた霞の頭を撫でる


「それじゃあ一段落したところだし、今日はお開きにしますか」


「だな」


時計の短針は、既に10時を過ぎていた
一行は帰る支度をすると、夕呼のオフィス前でタケル・霞と宏一は別れた

宏一が与えられた下士官用の個室に入ると、デスクの上に大尉の階級章が付いた軍服一式と身体検査の際に没収された緊急時用装備一式(L.A.M.付き大型拳銃・予備弾倉数本、それらを納めていたホルスター、大型ナイフ)、夕呼に渡した音楽プレーヤーにタブレット、スマホ、新品のノートPCが置かれていた
大型拳銃や予備弾倉をホルスターに納め直したのち、それを畳まれたC型軍装の上に置くとベットにバフンと横になる


(今度はタイムスリップか…)


今日一日だけで起きた出来事を思い返す

(ほんの半日くらい前は在米帝国軍人としてソルトハイブ内で一個師団相手に一騎当千していたかと思えば、その数時間後には“水没したはず”だった帝国で自分より三倍の戦力の特殊部隊とAH戦を繰り広げて、今では国連軍人…)

大きなため息をつく
やがて眠気が襲ってきた

(“人生いろいろある”とはいうものの、いろいろありすぎだろ… 流石に…)

(けど… 今度は守ってみせる…)

腕を虚空に向けて伸ばし、何かをつかむ

(絶対に…)

伸ばした腕が落ちると同時に、宏一は数日ぶりにベットで眠りに落ちていた

第六話END
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

こんにちは
なッちょすです
第六話です

では補足設定
・宏一が霞に手渡したパワーバーは、カロリーメ○ト(ブロック)をまねて作ったもの
→味は チョコ・フルーツ・メープル の三種。 後の二種は宏一の気に召さなかった
・L.A.M.付き大型拳銃とは、皆さんご存じ「SOCOM Mk-23」のこと
→シアトルの銃器店のおっちゃんとたまたま趣味が合い、餞別として貰った

こんなもんですかね
Mk-23については自分の趣味全開ですw
Mk-23とL.A.M.の組み合わせは、もはや変態レベルですw(厨二全開中
偉い人にはそれがわからんのです!


…では、何かあったら感想掲示板まで~

次回予告
訓練の一環として、タケル・宏一両者からの過酷な訓練にさらされるヴァルキリーズ
彼女達は何度も倒れるも、決して挫けない
彼女等は一体何を掴み得る事ができるのだろうか…?
次回『ハートマニズム』
彼のレクティルからは逃れられない… 【Cv.社 霞】




[30479] 第七話
Name: なっちょす◆19e4962c ID:3f492d62
Date: 2012/07/16 02:20
―2月21日―
――国連軍・横浜基地・屋外廃墟演習場――

―タケルside―

…何で俺がこんな目に遭わなきゃならないんだ

今の気持ちを代弁するとそんな感じだ


このクソ寒い中、歩兵の装備一式を持って伊隅大尉等ヴァルキリーズのメンバーと廃墟の中を進んでいる


いや、正確には索敵している…だな
一体如月はどこに隠れてんだ?
本当にこんな訓練がAH戦訓練になるのか?


「あ゛ぁ~さみ~」


思わず口に出る
けど、それほど寒いのだからしょうがないよな!?


「伊隅大尉。
 どうやら白銀は人肌で暖めてほしいそうです」


「む、宗像中尉!?」


やばい…墓穴掘った


「あら?
 伊隅大尉ではお気に召しませんでしたか… 
 では碓氷大尉はいかがですか?」


「そういう問題じゃなくて!!(汗」


「へぇ…白銀は私でも碓氷でも駄目なのか」


ちょ…伊隅大尉!?
いや、その笑み怖いです…マジ怖いですって!


「なら速瀬少尉は…って、それはないですね」


あ…そうやって速瀬少尉に振ったら…


「む~な~か~た~?
 「平ってが言ってました」
 慎二~!?
 「俺!?」 」


…ね?ほら始まったよ

まぁ俺から照準がはずれたから良しとしますか
俺の後ろにいた三人組が何か言い合っているが、良く聞こえなかったので気にしない

そんなこんなで俺達は旧商店街通りに向けて進んだ




「ここで5分休憩だ」


通り裏の廃墟で伊隅大尉が俺達に指示を出した

伊隅大尉、待ってました!!

…以外に瓦礫の道を歩くのって疲れるもんなんだな~

俺は早速腰に付けていた水筒の水を飲もうとする

――ゾクッ――

なんだろうか?
背筋が冷える…というかプレッシャーのような感覚はが俺を襲った


いつも純夏とかから浴びせられるようなもんじゃない
もっとなんというかこう…コロス!!の一念だけしか無い、そんな感じのプレッシャー…


伊隅大尉とかは!?


俺は他のメンバーの様子を見た


どうやら伊隅大尉や碓氷大尉、綾瀬中尉の古参メンバーは何かを察知したみたいだったが、他のメンバーは気が付いてないみたいだ

一応立ち上がって辺りを見渡してみたが、宏一らしい影も見当たらない

う~む
見渡した感じは異常なしか…
それにさっきまでのプレッシャーも感じないし、それ以前に此処物陰だし… 勘違いかな?

俺はまた、ゆっくりと腰を下ろし始める

―ヒュッ…スパァァァァン!!―

慎二のヘルメットに白く大きなペイント痕が付き、反動で涼宮少尉を巻き込みながらづっこけたのは、俺がヘルメットを外したとほぼ同時だった


―タケルside end―


―2時間前―
――地下B18フロア・会議室――

タケル等との模擬戦から数日後に孝之と慎二が復隊し、ヴァルキリーズのメンバー全員が揃った


しかし、シミュレーターのXM3対応化の為の各部強化、及びCPU換装に予想以上に時間がかかり、未だにXM3の講義は座学しか受けられなかった


「なら、換装が終わるまでAH戦の基礎訓練でもします?」


そんな時に宏一が期間限定でという条件付きで提案し、それが即決された
即決されたことを受けて、宏一は訓練の内容を説明し始める


「まず、基礎として生身での“かくれんぼ”を行います」


宏一の内容に全員の顔が「ハァ?」といった顔になる


「宏一、どういう意味だ?」


孝之が聞く


「詳しいことは考えなくて良いよ。
 全員でウチのことを見つけ出す、ただそんだけ」


「全員ってことは俺もか?」


タケルが反応する


「勿論。
 タケルは操縦技術だけでAH戦を乗り切ってる感があるからね。基礎を学ばなきゃ」


「へぇ…」


「それで…
 訓練開始は本日の1000から1時間。
 場所は屋外廃墟演習場内の廃墟の駅を中心とした半径1km。
 全員、各自に割り当てられた歩兵装備一式を装備して、ウチからの合図が有るまで駅にて待機しておいてください」


宏一が装備一式を書いた紙を各々に渡し、全員に渡し終えると準備の為と言い残し退室した


「…なぁなぁ、タケル?」


「ん?なんだ?」


宏一の退室と同時に慎二がタケルに話しかける


「ただの“かくれんぼ”なのに、歩兵装備一式っておかしいだろ…
 アイツの本意、わかるか?」


「いや、全く。
 こっちが聞きたいくらいだ」


「そうか~
 「ただ…」
 …ん?」


「ただアイツの事だから、穏便に終わらない気がするんだよな」


「…」


最後の一言に慎二は黙ってしまう


(いったい何を始める気なのだろうか…)


それがこの部屋にいる全員の考えていることだった

―現在―


「す、スマン!
 大丈夫か?涼宮?」


慎二が自身の下敷きになった遙を起こす


「だ、大丈夫だよ。
 慎二君こそ、それはいったい…?」


起こされた遥は慎二のヘルメットのペイント痕を見る


『平少尉。
 頭部被弾により戦死判定…
 ポイントBまで移動・待機してて』


突然宏一からの無線が入る


「え!?それはいった
 『これは命令。異論は認めません』
 はぁ…」


慎二は両手を使って「なんじゃこりゃ?」とジェスチャーすると、その場を離れた


ほかのメンバーは既に物陰に隠れている


「…銃声がしない、サプレッサーか…
 誰か発砲炎を見たか!?」


状況をいち早く理解したみちるが全員に聞くが、返ってくる返事は一言だけだった


「クソッ」


タケルが悪態を付く


「穏便にスマなかったなぁ!
 タケル!?」


孝之が叫ぶ


「あぁ!
 さっきあいつがニヤケながら出て行ったワケがわかったよ!!」


「「「それを早く言え!!」」」


タケルに対し全員が叫んだ


(俺が悪いの!?)


「…伊隅大尉、私が囮になりましょうか?」


水月が言い出す


「…頼めるか?」


「もっちろんです!」


「わかった、頼む」


「了解!
 スリーカウントで出ます!」


水月が自分の銃に初弾を装填する


「オールヴァルキリーズ、全周囲警戒!!
 速瀬を援護しろ!」


「「「了解」」」


みちるの命令で全員が初弾を装填し、各々の方向を警戒した


「カウントスリー!!
3、2、1!
行くわよ!!」

水月が飛び出す
しかし、物陰から出たと同時にヘルメットにペイント弾が命中、転倒しそうになった

『速瀬少尉、頭部被弾により戦死判定…
 ポイントBに移動・待機よろ』


無線が入る


「え~!?
何でわかったのよ~」

文句を言いながら移動する水月


「…見えたか?」


返事は先程と一緒だった


「…駄目だったか」


みちるは再度自分の銃の4倍率スコープを覗いた
一つずつ宏一が隠れていそうな目ぼしいビルの廃墟を見渡す

そして、あるビルを確認していると…


(…な、なんだ?また… っ!!)


直感的に危険を感じ物陰に身を隠すも、ペイント弾がみちるのTARを吹き飛ばした


「…ック!?」


吹き飛ばされた銃が乾いた音を立てて地面に落ちた
その音に皆が振り向く


「いるぞ!
 11時の方向!!」


みちるが方角を示す
全員がその方向を向きながら、物陰に隠れた


「どこら辺!?」


「すまない。そこまでは…」


沙恵の質問にみちるはレッグホルスターのP99を初弾を装填しながら答える


「あちら方角で狙撃に使えるのは…
 あの二つのビルくらいしかないですね」


静香が鏡の破片を使って確認する


「距離は300か…
 コイツじゃギリギリだな」


「風もある。
 まず無理だな」


タケルと孝之は自分らの銃では手に負えないと判断する

くぎ付けになっている状況に、誰もが苦い表情を浮かべる
そんなとき遙が突然言い出した


「…全員で同時に多方向に飛び出すのはどうでしょう?」


彼女としては只の思いつきであり、まじめに考えたものではなかった
その為、みちるからの視線に気が付き慌てて訂正しようとする
しかし、それは満によって遮られてしまった


「それでいこう」


「…ふぇ?」


「どちらにせよ打開策はない。
 ならば少しでも生き残れそうな可能性の物を採用するのが常だ」


みちるの説明にメンバーは「なるほど」と頷くが、遙は只一人一人ポカンとしていた


……

各々の振り分けられた方向に、各自が向く


「カウント3。
 3,2―」


みちるがカウントを取り始めた


「―1,Go!」


全員が同時に走り出す
目標はある廃墟ビルの一階…
各自が廃墟となった通りの障害物を巧みに利用し、蛇行走行しながら近づいてゆく

しかし、飛び出してからわずか十数秒程で遙が、数秒おいて孝之がHSを喰らう


『涼宮・鳴海、両少尉。
 アウト』


「くっそ~!!」 「うぅ~」


二人がやられたのを知ると、残りのメンバーは直ちに障害物に身を隠し動きを止めてしまった


「またくぎ付けか…」


タケルがぼやく


「…伊隅大尉。
 ここで私が援護しますので、先に行ってください」


最後尾の静香が言いだした


「…ここからじゃまだ有効弾は望めない。
 …駄目だ」


「しかし、このままではまた先程と同じ状況になってしまいますが…」


美冴が口を挟んだ


「このぐらいの距離でしたら援護可能です。
大尉…どうしますか?」

「そうか…
綾瀬、頼む」


「了解」と告げ静香は銃から弾倉を抜くと、ポーチから缶詰を二つ横につなげたような弾倉を取り出した

150発入りダブルドラムマガジン ―通称:Cマグ―

それは普通の小銃に分隊支援火器並みの弾幕を持たせる事が出来る逸品だが、同時に横に大きくかさばる為にTAR21の様なブルパップ式小銃には向いていないものでもあった
それを装填すると、次にハンドガード下に付けていたバイポッドグリップを二股に変形させる


「準備完了」


「よし」


みちるが合図を出すとタケルと沙恵がスモークグレネードを投擲
周囲を白い煙が包み込み、同時に静香が発砲する


「行くぞ!」


みちるが飛び出す
続いて沙恵・タケル・美冴が飛び出していった


―タァァァン―


連続する発砲音とは別の銃声が響く
放たれたペイント弾は沙恵の顔を掠め道路を白く染めた


「あっぶな~!!」


走りながら叫ぶ沙恵


「急げ!グズグズするな!!」


点々と存在する障害物の間を不規則に蛇行していたみちるが叱咤する

宏一からの狙撃を潜り抜けながら四人は地下道入り口にたどり着く


タケルが振り返る


展開させた煙幕は既に薄くなり、更に静香の発砲炎が周囲の煙幕を押しのけて行く

つまり、静香の姿はほぼ丸見えだった


其処に一つの銃声…連続した発砲音は消え、代わりに宏一からの通信が入った


『綾瀬中尉、アウト。
 残り、伊隅・碓氷・白銀・宗像、計4名』


「ったく。演習とはいえ悪趣味ね…
 白銀!!如月はサドなの?」


みちると共に前方警戒をしていた沙恵が視線だけをタケルに向けながら聞く


「知りませんよ!
 しかし、あいつ狙撃上手いなぁ~」


「まったくだ…
 けど、ここからは地下街だ。
 これなら奴も狙撃できん」


みちるがニヤケながら言った



地下街は付近一帯に広がっており、目標のビルもその一帯に入っていた
しかし、肝心の入口が崩落していたために仕方無く四人は付近の出口から地上に出る

出口からビルの入口まではほんの50m程…
狙撃されるのは当然だと四人は考えていたが意に反して攻撃は一切なく、これが逆に四人を警戒させる事となる



ビルの扉側面の壁に張り付く


『アイコンタクト』


『『『了解』』』


『―3、―2、―1…
 ラッシュ(突入)、ラッシュ、ラッシュ!!』


指とアイサインで意思疎通を図った後、カウントし突入していった


先頭はみちる、サポートはタケルと宗像、後衛は沙恵のフォーメーションで各階を制圧する手筈だった


各階を制圧してゆく四人…
その様は特別な訓練を受けた特殊部隊ほどでは無かったものの、一般歩兵よりは明らかに上手であった

途中いくつかのトラップが巧妙に隠されており、発見者が各自で解除していく
しかし、宗像がその一つを解除中にブービートラップに引っかかり退場


これにより残りは三人となってしまった



3階に達するとみちるが何かに気が付き、身を伏せた
二人もそれに続く


『あそこを見ろ』


ハンドサインで一片の鏡の破片を指す
破片はドアが吹き飛ばされたドア枠にもたれかかっており、サプレッサーの付いたL96の銃身を映していた

二人が頷く


『―良し。
 白銀はそこの扉、碓氷と私はそこの穴から突入・制圧』


作戦を立てると三人は音を立てずに所定の位置に移動し、着いた
カウントを取ると、タケルが閃光弾を投げ入れる

―発光―

三人が突入する
制圧を始めようとしたが、しかし、そこにはL96しかなかった


「いない…?それに薬莢もない…
 まさか!!」


みちるが振り返ると、隣のビルにMP7を構えつつ崩壊したビルの瓦礫に身を隠していた宏一がいた

瞬時に銃を構える三人…
二月の寒空にサプレッサー独特の乾いた発射音が響き、三人の腹部に数発ずつペイント痕が付いていった


『伊隅・碓氷・白銀大尉、アウト。
 …状況終了、お疲れさん』


瓦礫を払った宏一が微笑みながら言った

……

―30分後―
――国連軍・横浜基地・地下B18フロア会議室――


「え~、それでは先ほどの演習の結果を発表します」


如月がモニターの前で発表を始めた


「“AH戦想定演習:基礎編”の合格者は、伊隅・碓氷・白銀の三名でした」


「「「“AH戦想定演習:基礎編”合格者?」」」


一同が口をそろえる


「そ!
 今回行ったのはAH戦の訓練を始める前の一種のテストの様な物です」


「なにそれ?」


速瀬が食いつく


「“本能的危機察知能力検査”…
 まぁ簡単にいえば直感の良し悪しを調べるテストを行わせていただきました」


「行うなら行うで、なんで説明してくれなかったんだ?」


今度は慎二がやや呆れ気味に聞いた


「言ったら意味がないでしょ」


「まぁ…そうだねぇ」


宏一が説明を始める


「本来AH戦ってもんは基本的に突発的に発生するもんがほとんどです。
 まぁ稀にAH戦を目的とした戦闘もあることはあるけど…
 例えば、いきなり味方だと思っていた奴から背中から撃たれた時、慎二、回避できる?」


「…」


宏一は返事がないことを確認すると説明を続けた


「そんなときに最後の頼りの綱となるのは、人間が持っている…いや、全ての生物が持っている“第六感”…“直感”ってやつ。
 これは、ある人に言わせれば{非科学的、根拠がない}等といわれるけれど、ウチ自身の経験上これに勝るものは存在しないね」


全員を一瞥して質問を問いかける


「慎二が撃たれる前に何か異変を感じた人、挙手」


みちる・沙恵・タケルの三人が手を挙げる


「それは一種のプレッシャーの様な物だったっしょ?」


「そう言われればそうねぇ」


沙恵がその感覚を思い返し、うなずく


「それが直感ってやつ。
 その時はウチが発した殺気に反応したってわけ」


(殺気って漫画の世界だけの話だと思ってた…(汗 )


心でつぶやくタケル


「人間は生物を殺める際、何かしらの殺意を持っている。
 故にその際に自然と殺気が放たれるってわけ。
 まぁ極まれに殺気を発せず人を殺められる奴もいるけどね」


「つまり、直感を感じ取れるようになればAH戦は有利になると…?」


静香が聞く


「まぁ、簡単にいえばそういうこと」


「けど俺たちにはXM3があるんだぜ?
 あれがあれば無敵じゃないのか?」


孝之が口を挟む


「そう。
 その“油断”こそが一番の“敵”なんだ」


その場にいる者の顔が「何故?」といった顔になるが、数名はすぐに気が付いた


「XM3での優位性を保てるのは、ごく僅かな期間だけだということか」


みちるの解釈に頷き、その理由の説明を始めた


「ウチらは今後、何度か各軍と合同で作戦に参加することもありうるよね?
 そこでXM3を搭載したウチらが活躍すれば当然その理由を探る奴が現れる。
 そしたらXM3の存在が知れてしまうのは時間の問題で、知られたら後は香月博士の交渉用の持ち札となるだけ。 いつかは全世界に広まってしまう…
 そうなったら我々に残されるカードはそれまでに培った操縦経験のみだけれども、でも、その経験もいつかは越されるだろうね」


「けれども、それは対BETA戦での話ですよね?
 流石に対AH戦のエキスパートを教育するのは、このご時世ではすぐには…」


宗像が反論する


「それも考えられるね。
 でも、実際海の向こう側の“ある国”では対AH戦用の特殊部隊が―非公式だけど―存在しているし、その方向の性能に特化している第3世代戦術機も開発中という噂まであるんだ。
 だから一概に“無い”とは言えないね」


「それにウチらだってそうじゃない?」と、ジェスチャーしながら更に言葉を続ける


「AH戦専門の部隊にXM3が渡れば、それのノウハウを会得するのはあっという間と考えるのが妥当…
 また、それが博士の敵性勢力である可能性も否定はできない…
 となると我々と対峙する可能性も否定はできないよね?」


「おいおい、そんな状況あるわけn
 「戦場に“あり得ない”事など存在しないよ」
 …!?」


慎二の食いつきに宏一の声のトーンが急に下がり、殺気が微かに放たれる


「戦況は常に変化してゆくもの…
 ついさっきまで攻勢だったのが、今では壊滅寸前等という状況は幾らでもあり得るんだ。
 そんな戦場で生き延びたいのなら、常に最悪のケースを想定し、対応策を想定して、そして、常に水のような柔軟性でもってその状況に対応する…
 それができなければ…仲間が自分の為に無駄死にすることになるんだ」


「「「…」」」


宏一が睨みをきかせながら言い放つ…
その発せられる殺気を前にしては誰も口出しができなかった
また、その言い分にも理があったのもその要因である


「…話が脱線したね。
 まぁ、ともかくAH戦で生き残るカギの一つは“直感”だということは覚えておいて。
 …それじゃ、次の訓練説明に入ろっか」


次の訓練―生身での回避訓練―についての説明は比較的スムーズに終わった。



―15分後―


「はぁ~
 …まだまだ甘いなぁ~自分」


宏一は通路の自動販売機の前で合成ほうじ茶を買いつつ、ため息を漏らしていた
販売機横のベンチに座り、ふたを開け、ボーっとそこまで高くない無機質な天井を眺める


宏一しかいない通路に一つの足音が響いた


「オッス!」


「…ん?タケルかぁ~」


「何だよ?その“タケルかぁ~”ってのは」


「いや、何でもない」


「…まぁいいや。
 隣、いいか?」


「お構いなく」


合成玉露を買ったタケルが宏一の隣に座った
ほんの数秒、二人の間には無言の時が過ぎた


「…さっきの話、前の世界でのか?」


タケルが切り出した


「…ん?
 あぁ、前の世界での実際の体験談」


「そうか…
 なぁ、もしよければお前の前の世界について教えてくれないか?」


「ここで?」


タケルはあたりを見渡す


「誰もいないが、流石に不味い…かな?」


「いや、不味いだろ」


「「…」」


「「…ップ」」


「「アハハハ!!」」


不意に笑い出す二人
そんな時にもう一つの足音が通路に響くが、この時二人は気が付かなかった


「いた―――!!」


「「!?」」


突然響く声に、二人は思わず身構える
声の元には一人の少女が立っていた


「純夏!?」


「タケルちゃん、こんなところにいたんだ~
 そりゃ見つかるわけないよ~」


純夏は顔を膨らませながら言う


「夕呼博士がおよびだよ~?
 あと、如月って人もらしいんだけど、どこにいるか知ってる?」


「宏一ならそこにいるぞ?」


「ふぇ!?」


「どうも~」


「あわわわわ…」


「「…?」」


純夏は宏一の存在に気が付くと急にあわて始め、敬礼しながら自己紹介を始める


「は、はじめまして!如月大尉!!
 わ、わた、私は鑑 純夏であります!
 白銀大尉とは、あの~その~…」


「はじめまして、鑑さん。
別にウチは堅っ苦しいのは好きじゃないから、そのままでいいよ」


「…ふぇ?
 そっかぁ、あせったよ~。
 あ、よろしくね! 如月大尉」


「此方こそよろしく」


軽い握手を交わす二人


「怖ーい人じゃなくてよかったなぁ~?純夏ぁ?」


「怖ーい人って…何だよそれ」


「そうだぞ~!
 如月君にあ~や~ま~れ~!!」


「いや、そこまでしなくても…(汗」


「純夏の事は放っておいて…そんじゃ行きますか」


「無視すんなー!!」





「白銀、如月。探したわよ」


入ってきた二人に対して夕呼が不満そうに言う
二人と言うのも、純夏は二人を送った後CP訓練に向かった為である


「スミマセン、先生。
 …それで呼び出した理由とは?」


「…先日、如月は新種のBETAと交戦したわよね?
 そのデータ解析が終わったわ」


「…!
 もう終わったのですか!?」


宏一がやや興奮して聞く


「えぇ。
 調査部は“久しぶりの調査だ~”って事でかなり気合が入っていたみたいよ?」


「へぇ~」


「それで、それの発表ってわけですか?」


「簡単にいえばそう。
 ただ、如月の戦闘ログ内にまだこっちでは見つかっていないタイプもいるみたいだから、それの説明をしてもらいたいのよね」


「わかりました」


夕呼が霞にモニターを起動させるよう指示する
それを受け霞がコンソールを操作すると、モニターに蟲の様な姿のBETAの写真が映った


「今回の調査でわかったのは、コイツには“飛行能力”“射撃能力”のほかに、“思考能力”を持っているということよ」


「…!
 それって…」


「まぁ、待ちなさい。思考能力って言っても、人間でいえば赤ちゃんレベルの物よ。
 “突撃”“攻撃”“退避”“回避”…そのくらいの物ね」


「…」


飛鳶の戦闘ログ内から取ったと思われるそのBETAの写真の背部が拡大され、昆虫の羽根の様なものがモニターいっぱいに映る


「次は飛行能力についてだけど、コイツらはこの背中の羽根をメインに各所のジェットエンジンの様な物だけで飛んでるわ。
 だから、この羽根をもぎ取れば飛べなくなるはずよ。
 そうよね?如月」


「えぇ。
しかし、飛行能力を完全に奪うには、付け根を破壊するか羽根自体を完全に破壊するしかありません。 
それ以外では一時的に能力を奪えても、あっという間に再生されます」


「…だそうよ?」


「へぇ…」


次に爪の拡大写真が映る


「格闘能力はあまり説明する必要はないわ。
 主にこの爪によって行われるっていうのと、爪の硬度はスーパーカーボンと同程度ってことぐらいかしら」


いくつかの写真に分かれ、それぞれ腕部・背部・胴体を拡大していた
腕部は主に爪の内側が中心となっており、其処には銃身の様なものが映っていた


「次に射撃能力について。
 この爪の内側についてるのは、戦術機で言う突撃砲になるわ。
 威力は、大体36mmと同程度…
 当たった場所にもよるだろうけど、数発程度では“直ちに行動不能”って事にはならないはずよ。

 …問題はこの背部の主砲と、胴体各所から発射されるミサイルね」


夕呼が爪を噛みながら言う


背部には右側に細長い円錐形と短い円錐形が互いの底辺を合わせたような細長い物体が、又、胴体を覆う甲羅の裏には円筒形のミサイル発射管の様なものが埋まっていた


「そんなにヤバいのですか?」


「如月、お願い」


「背部主砲の威力は戦艦の主砲レベル級。
 “向こう”でも一発で軽く駆逐艦が吹っ飛んだ。」


「なっ!?」


「ただ、当たらなければどうということはない…という言葉がある様に、弾速も腕部のソレ程ではないから、回避は簡単だよ」


「そ、そうか…」


モニターにBETAから発射される無数のミサイルと、その拡大写真が映る


「一番厄介なのは、このミサイル。
 まず、通常の回避法では100%命中するね。それにチャフやフレアといった囮も無意味なんよ」


「ならどうすればいいんだ?」


「一番手っ取り早いのは、文字通り“たたき落とす”方法。
 でもこの方法だと弾薬を食うし、下手な奴がやるとその分余計に弾薬を消費するし、最悪ただ弾をばらまいて味方に被害を出して、尚且つ自分も喰われるって事も…
 そんな奴は超低空飛行での三次元飛行による回避が一番いいのけど、これもミサイルの来る方向によって左右されるし、第一今のOSでは数発避けたところで処理落ちするだろうね」


「…だから厄介なのか」


「そうなんよ」


「「「…」」」


「あと、こいつの装甲はかなり堅い事かな…」


宏一は思い出したように言う


「如月、それどういうこと?
 調査部からは何も言ってこなかったわよ?」


「えぇ、そのはずです。
 「つまり?」
 こいつらは“生きている”時にしかその能力を発揮できないのです」


「…なるほどね。
 だから“ミンチ”からはわからないと…」


「宏一。
 堅いってどのくらいだ?
この前は36mmが全く効かなかったが…」


タケルが「早く早く」といった顔で宏一をせかす


「コイツ等は生きているとき、その活動エネルギーを装甲に流すことで強靭な防御力を得ているというのが、向こうでの説だった。
 たぶんそのとおりだとウチも思う。
 その防御力は、その装甲にほぼ直角に命中する36mm以外はすべて弾くほど…
 だから確実に仕留めるには、的確に急所を打ち抜くか、危険を顧みずに格闘戦で仕留めるかの二つしかないんだ」


宏一がレーザーポインタで、急所を示してゆく
しかし、それらの急所は関節や各肢の付け根といった撃ちにくい場所しか示さなかった


「うへぇ~
 撃ちにくいところにあるなぁ」


「そう、それなんだよね~
 タケルレベルの操縦テクを持ってれば単機で3~4匹を同時に相手できるけど、今のヴァルキリーズの能力じゃあ良くて2匹…かな」


しばらく沈黙が続く
夕呼も腕に自信のあった自分直属の特殊部隊ですら苦戦する相手と知って、流石に苦虫をかみつぶしたような顔をしていた


「け、けどエレメントで相手すればそれ程手のかかる奴じゃないよ!
 実際前の世界じゃそうやって対処してたし」


「それが唯一の救いね…」


「そういえば、宏一はあの時、俺と伊隅大尉に“AH戦は得意か”って聞いたよな?
 それはどういう意味だったんだ?」


「あれは、コイツの機動が戦術機のソレに非常に似てるからなんだ。
 だからAH戦についての技術を備えておけば、こいつはそれほど憂慮するある相手でも無くなるということ」


「そうだったのか… 
 って事はお前の次の訓練内容って!」


「そ、コイツの対策も兼ねているわけよ」


「しかし、なんでまた生身でなんだ?
 それならシミュレーターでもいいじゃないか」


「勿論シミュレーターでもやるけど、生身で行う理由もあるわけで…
 まず一つ目に、肝心なXM3対応シミュレーターが無いこと
 二つ目に、ウチは戦術機は自身の身体の延長線上にあるものと考えているんだ」


「自身の体の延長線上…?」


タケルが眉を寄せながら考えるが、全く分からないといった顔をして宏一にその理由を聞いた


「これは飛鳶の操縦システムの影響かもしれないけど、XM3を使ってみた結果、改めてこの結論に達したんよ。
 前のOSじゃあ人体にはあまり行わない動作が多かったから考えにくいだろうけど、XM3は操縦性がピーキーな分、人体に近い動きができるからね。」


宏一はジェスチャーを交えながら説明を始める


「自身の身体の延長線上…
 つまりは“自分の体を動かすように、戦術機の操縦を行う”という意味。
だから自身でその動作を理解していなかったら、当然操縦には反映できない。 
 そして自身でその動作を理解するには、自身がその動きをしなければならない。
 だから生身での訓練が必要ってわけ」


「なるほどなぁ~
 …お前、スゲェこと閃くんだな」


「それほどでもない(ドヤッ」


二人が訓練について話していると、夕呼が口を開く


「如月、アンタの操縦講習もいいけど、そろそろコイツの説明してくれない?」


そう言う夕呼の顔は少しばかりヒク付いていた


「(ヤバ~い)了解です」


宏一はモニターに映る、先ほどのBETAとは異なる戦術機よりふた回りほど大きいBETAについて解説を始めた


「コイツはさっきの奴の上位種…と勝手にウチは決め付けたけど、攻撃種類が酷似していて、大概さっきの奴を2~3匹引き連れてる事が多いね」


「上位種なら多少さっきの奴より強いってだけか?」


「いや、全くの別物だよ…コイツの強さは…」


宏一の表情がかすかに強張った


「さっきの奴は、機銃二丁・主砲一門・ミサイル発射管約20本。
 それに対してコイツは、機銃四丁・主砲二門…ミサイル発射管に関しては約50本以上なんよ」


「あのミサイルが一気に50発もかよ…」


冗談だろといった顔になるタケル


「それに格闘も爪ではなく、この大型の鎌状の物で仕掛けてくるからね…
 これが地味に侮れないんだよな~」


「俊敏性はどうなの?」


夕呼が聞く


「俊敏性も上がっています。
 さっきの奴を一般衛士級と例えれば、コイツはエースパイロット級ですね」


「そう…」


夕呼はそう言いつつデスクから一枚の高解析度衛星写真を取り出した
二人にその写真を渡すと、両者の表情が変わる


「博士…これって…」


「そう、これらのBETAがカシュガルハイブに向かっている写真よ…」


三人の間に深い沈黙が広がった



第七話END
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


どうも
なっちょすです
第七話です
今回は長文になりました
補足説明は…無い、かな?
何かありましたら感想板まで!!

それでは、また!!


次回予告
帝国・斯衛軍との極秘会談に挑むタケルと宏一の二名…
二人の発表内容に驚く各軍参謀。しかしその中に二人に対し目を光らせる一つの影があった
次回『プレゼンは計画的に』
彼らの知らないところでも歯車は動きだす――【Cv.香月 夕呼】





[30479] 第八話
Name: なっちょす◆19e4962c ID:3f492d62
Date: 2012/07/16 02:16
―3月3日―
――国連軍・横浜基地・訓練区屋外射撃場――

――タカカカカカカカカァァァン――
――ビシッ!!――


「痛ァァァァァ!!」


まだ寒さの残る空に乾いた小銃の連射音が響き、同時に盛大な水月の声も響いた


「ッ痛~
 もうちょっと手加減しなさいよ!如月!」


もろにおでこにゴム弾を食らった水月は、自身の20m程先にいる宏一に怒鳴る


「ははは。
 でも20mほど進めるようになったじゃないですか」


「そうはいってもねぇ…
 毎度毎度ゴム弾撃たれてちゃ、身が持たないわよ!」


「じゃあいっそ実弾に…
 「殺す気か!!」
 でしょ?」


おでこを抑えながら騒ぐ水月をよそに、宏一は宗像のほうを見る


「じゃあ次は宗像さんの番ですね~」


「なるほど…如月大尉は女性をいじめるのがお好きなようですね」


宗像が「やれやれ」といったジェスチャーをしながら立ち上がる 
しかし、言っていることとは裏腹に、口元はニヤケていた


「ん~
 そう言った性癖はありませんが、宗像さんがせっかくその様に仰るのならゴム硬度を上げたゴム弾にしますが?」


「遠慮させていただきます」


宏一も慣れたらしい


「あら、つまらない」


フェイスマスクを被りつつ、さりげなくつぶやく宗像


「では、スタート5秒前!」


スタートライン横の退避場所にいたタケルは、宗像がスタート位置に立ったことを確認すると手に持った旗を揚げ、カウントを始める


カウントがゼロになり旗を振りおろすと同時に、宗像はゴム製コンバットナイフを脇をしめて構え、低い姿勢で宏一に向かって走り出した
走り出した宗像の姿を確認すると、腰だめに構えたTAR21の引き金を引く

再度響き渡る乾いた連射音…

宗像は自分に向かって飛んでくるゴム弾をジグザグに不規則に動き、尚かつ障害物を利用することで器用にかわして宏一との距離を縮めてゆく


…不意に乾いた連射音が止まった


「そこッ!!」


待ってましたと言わんばかりに宗像はその走る進路を直接宏一に向けた


距離にして15m


宗像ほどの足の速さならホンの1~2秒…
誰もが宗像の勝利を確信し、宏一の表情も歪んだ
宗像が腕を伸ばし、ゴムナイフの先が宏一の首元に迫る

…だがそんな中、宏一の口元がかすかに緩んだ


「な~んてね」


「!?」


首をわずかに傾けゴムナイフを回避
脇から抜いたハリセンを「そぉぉぉい!!」のかけ声と共に、思いっきり宗像の頭を上段から叩いた

乾いた連射音とは別の、何とも気持のよいキレのいい音が響き渡る


「きゃん!!」


頭を叩かれた宗像は見事なヘッドスライディングを決めた
その一部始終を見ていた水月は、ここぞとばかりに大爆笑する


…その陰でさり気無くみちるや沙恵の両大尉も笑いをこらえていたのは内緒だ


「女性の渾身の飛び込みを避けるとは…
 まさか女性に興味がないのですか!?」


宗像が頭のこぶを涙目で抑えながら言った


「ナイフで衝くのであれば首の様な狭い個所ではなく、胴体の様な広い個所を狙うのが確実です。
 更にスピードに乗っているのであれば尚更な事ですよ」


そんな宗像の質問を無視し、宏一は淡々と説明をしていた


「―しかし、回避動作は中々だったと思います。
 ので、まぁ…良いとしましょうか」


「…ありがとうございます」


宗像は返礼をしたのち、再度座っていた位置に戻っていった


「(宗像中尉OKっと)…これで残ったのは速瀬・涼宮・鳴海・平少尉だけですね」


地面でうずくまっている孝之(喰らった内の1発が見事“クリティカルヒット”してしまった)と残りの三人の方に宏一が向く


「あの~
 できれば見本が見たいのですが~」


視線に気が付いた遥が手を挙げながら弱弱しく言う


「そういえば確かにいきなり本番だったからまだ宏一の手本見てなかったなぁ。
 って事でいっちょやって見せてくれよ?」


慎二もニヤケながら賛同し、そのほかのメンバーも同様に賛同した


「そうだねぇ~じゃあ、そうしよっか!
 タケル~、射手頼む~」


「おうよ~」


足元の予備として用意したMINIMIをタケルに渡すと、宏一はスタート位置に立つ


「いくわよ~
 用~意」


代わり沙恵がスターターを務めた


「スタート!!」


その言葉と共に旗が振り下ろされ、同時に引き金が引かれる

5.56mm訓練用ゴム弾が毎分725発という速さで宏一の前に弾幕を形成する
だが、その繰り広げられる弾幕の中を、宏一は障害物を巧みに使いつつ最小限の回避動作だけで一直線に駆けていった

その動作は川に流れる水そのもの…

先程の四名が呆気にとられている中、二人の距離はあっという間に狭まってゆく
開始からものの数秒程しかたっていないのにも関わらず、既に残り半分を切っていた

残り20m…宏一がナイフを前に低く構える

――10m…タケルは右手だけで銃を操作し、左手にナイフの柄を掴んだ
     ゴム弾が宏一の顔を掠める

―5m…“無意味”と判断しMINIMIを破棄、同時にナイフを構える

0m…そこからはまさに一瞬だった

両者は交差するとほぼ同時にナイフを振った
しかし、それは互いのナイフによっていなされてしまう

いなされたと同時に宏一がサイドステップにて後ろに回り込もうとするが、タケルは瞬時にそれに反応
振り向くと同時に宏一のナイフを持った腕の振りかざしを自身の(ナイフを持っていない)腕で妨げると、同時に回転の勢いを利用し宏一の横っ腹に蹴りを入れた
だが寸前でしゃがまれることで回避され、対する宏一も軸足に払いを入れたが寸前で回避した

払いの反動を強制的に打ち消し、宏一が立ち上がりと同時にタケルの左胸にナイフを滑らせる
これを自身の胸に滑り込む危険を腕を使うことで回避したタケルは、逆に宏一の喉筋にナイフを向かわせた
しかし宏一も同様に反対の腕でこれをいなす

互いの必殺のナイフは虚空を刺し、必殺の一撃をいなした互いの腕が代わりにぶつかった

一瞬の後両者がその腕を押して互いを押しのけた
2m程の距離を開くと、両者はそのままにらみ合う…

互いをにらむその顔には、一筋の汗と笑みが浮かんでいた


「…スゲェ」


一瞬遅れたのち、慎二の口から声が漏れた
続いて孝之からも声が上がる


「お、お前らスゲェよ!!
 俺、今全く追いつけなかったぞ!?」


「「いや~それほどでも~」」


警戒を解いた二人が同時に頭を掻きながら答えた


「お前、本当にあのタケルだよな!?
 「何その疑問!?」
 いや、見直したわ!! お前戦術機の操縦以外でもスゲー所有るんだな!
 「ヒドッ!?」」


孝之の評価を知って、ダメージを受けるタケル


「っと、まぁこんな感じですが…
 参考になりました?」


その傍らで、汗を拭いながら遙と水月に宏一は聞いていた
両者共に唖然としていたためすぐに答えられなかったものの、首を縦に振って答える
無論、既に宏一に一撃を入れる事の出来た他のメンバーも二人の本気の格闘に目を丸くしていた



この手本のおかげであったのか、その後の残り四人は何かを掴めたかの様に颯爽に一撃を加える事が出来た


「流石はヴァルキリーズ…」


その様子を見ていたタケルは、一人ボソッとつぶやく

15分の休憩の後、難易度を上げて再度同様の訓練が行われた


……

―数日前―

最初の宏一による基礎演習後、ヴァルキリーズは毎日の様に同様の演習を行っていた
演習ごとに難易度を上げた為に最終的にはハー○マン軍曹並みのスパルタ状態であった
が、それが功を成したのかヴァルキリーズメンバーの第六感は鍛えられ、一部のメンバーは“見えるはずの無い者”までもが見えるようになってしまった

そんな中、シミュレーターのXM3搭載改修完了し、同時にヴァルキリーズの訓練もXM3慣熟訓練に移行する
嬉々としてシミュレーターに乗り込むメンバーたち…
だがXM3は彼女らが座学内容から想像していた数段上の物だったのだ



シミュレーター訓練初日…
ヴァルキリーズメンバーはXM3が搭載されたシミュレーターに搭乗し、XM3の操作性に慣れるべく各々が自由に操作する事となった
だが、その様子を第三者が見ればこのように表現するであろう


「まさに地獄絵図であった」


…と

その惨劇はシミュレーターの起動とほぼ同時に始まった

最初の犠牲者は静香と水月
両者共、いきなり座学で教わった三次元機動(初級編)を実践しようとした事が原因だった


「な、何よ、これ!?
 全く遊びが無い!!」


暴走しかかっている自機を制御しようと、必死に操縦桿と格闘していた静香が悲痛な叫びを上げる
しかし、いくら座学で頭にXM3の基本概念が入っているとはいえ、無意識に行っている従来のOSでの入力による制御回復は、XM3の目の前では逆に火の油を注ぐようなものであった

XM3にとって過剰な入力により更にバランスを崩した静香の不知火は、回復が不可能な状態となり、結果頭からビルに突き刺さるように突っ込んでしまう

その隣では水月が同じ様に操縦不能になり、錐揉み状態になっていた
やがて速瀬機はビルの角に接触、その影響で進行方向が変わりさながら発射台からはじき出されたパチンコの玉のようにビルや道路へ衝突を繰り返してゆく
最終的に速瀬機が止まった時、表示されていた機体各部のダメージデータはシミュレーターの設定をダメージ無効にしていなければ管制ユニットすら原形をとどめられない程の数値を示していた


(あ、あやうく私も仲間入りするところだった…(汗 )


その様子を目の当たりにした沙恵が、そっと操縦桿から手を離しつつ冷や汗を流していた


『…綾瀬中尉・速瀬少尉。
 大丈夫ですか?』


モニター室で様子を窺っていたタケルが安否を心配する


「…大丈夫な訳ないでしょ白銀!!
 何なのよ、この遊びの無さは!!」


ビルに衝突した衝撃でぶつけたおでこを抑えながら、水月が吠える


『だから言ったじゃないですか。 遊びが全くないって…』


「こんなに無いなんて想像しないわよ!」


『…(なんじゃそりゃ)』


ビルに突き刺さっていた綾瀬機もなんとか抜け出す


「…白銀大尉。これ…
 『やはり、最初は操作が難しいかもしれませんね…』
 とっても面白いわね!!
 『えぇ、そうで…へ?』」


罵倒の声が上がると想像していたタケルにとって、静香から発せられた言葉はまさに意外であった


「こんなに楽しいの久しぶりよ!!」


目を子供のように輝かせながら静香は叫び、操縦桿を握る


「いっくわよ~~!」


再度綾瀬機が飛翔する
ふらふらと不安定なものであったが、先程よりはましであった


「「「「……」」」」(綾瀬のあんな表情を見るのは久しぶりだな)


静香の意外な面に、ヴァルキリーズの面々は驚きを隠せなかった




『どうしました~皆さん?
 もうギブアップですかぁ~?』


タケルと共にモニター室にいた宏一が意地悪そうに言う


「如月ぃ~
 そう言うあんたは訓練しなくて良いの~?」


『まぁ“少なくとも”碓氷大尉よりは若くて腕も立つので大丈夫で~す。
 それに飛鳶は操縦系が違うので~』


「ん~良く聞こえなかったけど、おねぇさん生意気な子は嫌いダナー
 如月は良い子だもんね~?」


『良い子ですよ~?
 だから真実を言ったまでで~す』


「…確かに腕は私よりちょっぴり良い…
 『ちょっぴりじゃなくて、かなり』
 …それにホンの“少し”若い…
 『三歳も年下ですけどね!!』
 …宏一君?」 


『何でしょう?(よし、釣れたー)』


「いっぺんぶっ潰したろか!? あ゛ぁ!?」


『わ~い、キレたー』


見事に策略にハマった沙恵が、フルスロットルで飛翔する


「私だってねぇ、伊達に衛士やってるわけじゃないのよ!!」


『あ、ウチは其処を背面飛行で行けましたよ』


「やってやろうじゃない!!」


背面飛行で廃墟を飛行する碓氷機がビルの陰に消える
同時に衝突音


『あ~あ、だから言ったのに…
 ビルがあるから注意してねって』


宏一は後頭部に大きな汗マークを垂らしながら言う


「…なぁ慎二。
 「何だ?」
 このままチマチマ操作してても意味無いと思うんだ。
 「俺もそう思った」
 …
 「…」」


「「やるか」」


頷き合った孝之と慎二も、フットペダルを踏み込む
両機は共に飛翔し、姿勢が崩れると直ぐにビルの屋上へと着地した


「か、肩の力を抜けば、それ程難しい物でもなさそうだな…」


「問題はその肩の力をどう抜くかだ」


「んなもん深呼吸すればいいんだ」


「なるほどな」と返事を聞いた孝之は、一つ深く深呼吸する
慎二も同様に深呼吸をしていた


「いくぞ!」


「おう!!」


二人が操縦桿を倒すと二機は飛翔
その飛行姿勢はふら付いていたものの先程とは別物の様だった


「上手く跳べるものなんだな…」


「みたいだね」


「……涼宮、私達も行こうか」


「…そうだね。
 ここで指をくわえてても、何も始まらないし」


宗像機と涼宮機が歩き出す
二人とも落ち着いて操作している為、ふら付きはみられなかった


(あれ? 私、いつの間に置いてきぼり?)


最後に残ったのはみちる
いつの間にか置いていかれていた事に、今更気が付いた

慌てて操縦桿を操作する
しかし、慌てているとはいえその操作は座学で教わった事に沿っていた


(確かに遊びが全くない…けど、想像していた程でも)


操縦桿を更に押し込む
歩行が急にダッシュになり、急激なGがみちるを襲った


「…クゥ!?」


慌てて操縦桿を戻す
しかし、今度は戻し過ぎた

機体がバク転する
みちるは慣性の法則で思いっきりつんのめり、頭をぶつけた


「クゥ~~~~」


何とも言えない痛みが襲う
データリンクを故意にOFFにすると、ぶつけた部分を両手で押さえジタバタと足をバタつかせる


「し、白銀の奴、後でお仕置きだな!」


涙目で愚痴るみちる…
一方モニター室のタケルは悪寒を覚えていた



みちるは気を取り直すと再度操縦桿を握る


「さてと…」


今度はゆっくりと操縦桿を倒し、ゆっくりとダッシュに入った


「こんな感じか…
 良し、次は…」


ペダルを踏み込んで、ジャンプユニットに火を入れる
ゴッと音を立て伊隅機は飛翔

今度は操縦桿を僅かに引いた
機体がグイッと身を引き上げ、上昇してゆく


「飛行時は更にピーキーになるのか」


その後基礎飛行軌道を一通りやった後、より複雑な三次元機動に入ろうとする


…悲劇は其処から始まった


ジャックナイフを行おうと左右の操縦桿を別々に操作する
…無論、先程の失敗から操作は細かく、繊細に行った
しかし、飛行時は機体反応がよりピーキーになる事を失念していた為に強烈な回転Gが発生
それによりみちるはつい力んで操作してしまう

人は余計に力が入ると何事もカクカクした動きや、一気にガクッと動作してしまう傾向にある
今回はみちるがそれに当てはまった

強烈なGにみちるは打ち消そうと操作した
だが、力んだせいで大きく操縦桿を倒してしまい、今度は打ち消しの動作が暴走してしまった
それを打ち消そうとして更に暴走
またまたそれを打ち消そうとして……
…と錐揉みの無限ループに陥ってしまう

当然錐揉み状態となった機体は平常の様な飛行は不可能である
…なら、そうなったらどうなるのか?

答えは簡単

墜落のみである


錐揉み状態の伊隅機は適切な推力を適切な方向に向ける事が出来ず、故に揚力を失った
揚力を失った機体は大きく放物線を描きながら落下してゆく

みちるの耳に響く「Pull UP!!」の警報音…
しかしみちるもそれどころではなかった


「ック……しまっ!?」


突如視界に広がる廃墟ビル
何をどうする事も出来ず、機体はビルに突っ込んだ

…其処を爆心地に地面が盛り上がり、さながら全世界の核がそこでグランドゼロを迎えた様な爆発が起こる
衝撃波は地面をえぐり、上空へと打ち上げる
打ち上げられた土砂は高度十数kmまで上がった後落下
それが質量兵器となって地上へと降り注ぐ
一方の爆炎は墜落地点を中心に円形状に広がり、衝撃波を更に押し広げる
やがてその爆炎は日本を飲み込み、ユーラシアを飲み込み、太平(西)洋をも飲み込み、やがて世界を飲み込む


「…そして世界は“浄化”されましたとさ」


「…何言ってんだ宏一?」


「いいや、何でもない」
 

-ッチャチャチャ、チャチャラララララチャッタラララチャチャチャン♪ ―*1-
-*1-
-テーテッテレッテテッテテッテ!!(プパプーパップッパ)♪ ―*2-
-*2-
-一番上から繰り返し…-


「…なに鼻歌歌ってんだ?」


「気にすんな」
 

「そ、そうか…」


「それよりもさ、流石に訓練指導マニュアル作った方がいいんじゃね?」


「…それ俺も思った」


その日のシミュレーター訓練は、そこでお開きとなった


……


――現在――

PXで昼食を終えたタケルと宏一の二人は正面玄関前に来ていた


「やっぱり大丈夫なのかな~
 あの8人だけで訓練させて…?」


「流石に大丈夫だろ。
 伊隅大尉と碓氷大尉の二人はまともに動かせるようになってるし、孝之や慎二も良い具合だし」


『心配しすぎだ』とタケルは言葉を続けた

そんな他愛のない会話をしていると、一台の高機動車が目の前に止まる
パワーウィンドウが下がりピアティフが顔を見せると、二人はそれに乗り込んだ


「スミマセン、中尉。わざわざ俺たちの為に…」


タケルが運転席に座るピアティフに詫びる
二人を会談場所に送るためだけに、彼女は有給を消化しているのだ


「いいえ、大尉。 溜まっていた有給を消費する必要があったので丁度よかったです。
 …着くまで時間がかかりますので、今のうちに書類の確認をされるのがいいかと」


バックミラー越しに彼女の笑顔が映る


「そう言ってもらえるとありがたいです」


ピアティフのアドバイスに従い、二人は会談場所に着くまで会談の打ち合わせを行った

……

―一時間後―

――帝都・市ヶ谷帝国軍軍令部・第二予備会議室――

二人が案内された場所は狭い会議室だった
案内人が到着したことを伝えると、二人に入るように促す
戸が開かれると既に帝国軍と斯衛軍の関係将校らが着席しており、入室してきた二人に一斉に注目を浴びせかけた


「あれが女狐直属の部下だと?」
「まだ子供じゃないか」
「只の嫌がらせなんじゃないのかね?」
「あの階級章… ッフン、国連軍はよほど待遇がいいらしいな」


将校らのそんな小言を無視し、二人は敬礼をした後直ちに会談の準備に取り掛かる

準備を整えると、二人はモニターの前に並びマイクを手にした


「大変長らくお待たせしました。
 自分は国連軍横浜基地より来ました、同基地所属の白銀 武大尉です」


「同じく、同基地所属の如月 宏一大尉です」


「これより、帝国軍にいまだ多く配備されている『F-4J“撃震”』の改修案、及び当基地にて新規に開発した新概念OSの発表をさせていただきます」


宏一がモニター横のPCの元に行くと、操作板によって会議室の照明を暗くする
モニターの光だけが唯一の光源となった


「先に『撃震』の改修案についてのご説明を…」


モニターの前に立っていたタケルがポインターを使いながらモニターに映る『撃震』と『撃震・改』の相違点から説明を始めた…



―十数分後―


「―質問が無いようですので、これにて『撃震・改』修案のプレゼンを終わらさせていただきます。
 なお、5分間の休憩の後に新OSの説明に入らせていただきます」


照明に明かりが戻ると数名の将校が小声で話し合いをしていた
タケルはそれを横目で見つつ、PCを操作している宏一の元に寄る

「おつかれ~」


「あ゛~~、やっぱ俺こういうの苦手だな~」


「誰だってそうだよ。
 レジュメ発表とかスピーチとかはウチも苦手だったし」


「それになんか反応も良くないみたいだしなぁ…
 俺、自信無くすわ」


「おいおい、そのくらいで自信を無くすなよ。
 それに結構良い印象みたいだったみたいだよ?」


「…そうなのか?」


「おぅ。
 あそこで話し合ってるのは技術士官、其処はどっかの隊長さんっぽいし…」


宏一の視線を追う
…なるほど、確かにそんな雰囲気の将校である
聞こえてくる会話もそれとなくそんな内容の物であったのも、タケルがうなずいた理由の一つであった


「それにメインはXM3でしょ?
 こんな前菜みたいなやつでの反応なんて気にすんな」


「…それもそうだな」


タケルの顔にやや活力が戻る
しかし、何かを思い出したように宏一に顔を近づけ小声でしゃべりだした


「…なぁ。
 なんかさっきから妙な視線を感じるんだが、なんだか分かるか?」


「妙な視線ってどんなの?
 殺意みたいな感じ?」


「そうじゃないんだ。
 なんだか興味深い物を見ている時の様な」


「…そうか。 
 今のところウチは特に何も…次の発表時は警戒してみる」


「わかった。 頼むぜ?」


「まかせろ。
 そういったのはガキの頃から教え込まれてから!」


「そうか!!
 …お!そろそろ時間か…また頼むぜ、宏一!」


「おぅ! まかしとき!」


タケルがアナウンスを行うと会議室に再度静寂が戻り、照明が消える


「では、横浜基地で新規に開発しました新型OS“XM3”の紹介をさせていただきます。
 まずは此方の映像からご覧ください」


モニターの画面が切り替わると、シミュレーターの映像が流れ始めた
対戦しているのは撃震1機と不知火4機
対戦相手が機数でも上回っている不知火にも関わらず、撃震はその機体からは想像できないような機動によって一方的に押していた


「この撃震は、先ほど紹介させていただいた『撃震・改』にXM3を搭載したものとなっており…」


タケルの説明内容によって、映像を食い入るように見ていた将校たちの顔が驚愕している表情へと変わっていった


丁度、映像は撃震・改が不知火から繰り出される弾幕を様々な三次元機動で回避し、装備していた短刀で腹部に一撃を入れようとしていたところだった


「このようにXM3は従来のOSではできなかった機動入力が可能となっております」


やや得意げに説明するタケルと、その説明を食い入るように聞いている将校を(他人に気づかれないように)交互に見ていた宏一だが、そんな時、ふと自分に向けられている気配に気が付く


視線だけを動かしその気配の元を探すも、その発信源と思われる席付近には顔に大きな傷痕を持っているやけに厳つい顔立ちの将校がモニターの方を見ているだけだった


(…あいつか?)


試しに視線をずらす
先程感じていた程ではないものの、微かな視線を感じる


(あいつだな)


確信を得た宏一は、再度タケルの説明を聞いて驚愕の表情を隠せない将校の方に意識を戻した




「―以上でXM3のプレゼンを終了させていただきます。 
 ―あぁそれと、質問の方は電信でお願いいたします。 後日返信しますので…」


タケルが言葉を終えると一気に狭い会議室はざわめき始めた


「我々にもあの様な機動ができるようになるのか!?」
「あのOSが手に入れば我々は…いや、人類はあと十年は戦えるぞ!」
「しかし、開発者があの“女狐”の部下…ひいては国連軍であるというのは… 実にもったいない」
「だが何のために我々に見せたのだ?」


そんなざわめきをよそに、タケルは宏一の元に向かう


「…どうだった?」


「発表結果は最高点だったよ」


「そいつは良かった!
 …で、例の…
 「正面列、最も出口に近い将校」
 …あいつか」


反射を応用し、タケルは気が付かれないようにその人物を確認する


「顔…コェ~な…」


「人は見た目で決まるもんじゃないよ?」


「そうだけど、なぁ…?」


「それは良いにして、サンプル配らないの?」


「帰り際に渡す予定」


「そうなんだ…
 あぁ、それでどうする? 飛鳶の発表する?」


宏一が思い出したように聞く


「そういやぁそうだったなぁ… どうしよっか?」


「どうしようかウチも迷っとるんですよ」


二人はチラッと周りの将校らを見る
将校たちに与えた衝撃はかなりの物だったらしく、いまだに話し合っている姿が多々と見えた


「…やってもいいんじゃないかな? 確か帝国軍の方は不知火の発展性の無さに苦労してるみたいだし」


「ん?そういえば、たしか飛鳶は不知火の発展型だったけか?」


「ん~、正確にいえば不知火・弐型にYF-23の技術とコンセプトを盛り込んだ発展型だから違うけど…
 まぁそんなもんかねぇ」


「そうだったのかぁ~だから不知火っぽかったわけなんだな」


「そういうこと」


「じゃあ俺が今度はPCか…
 って宏一!! さっきのおっさんが来るぞ!?(ボソッ」


「ゲッ!
 …ウチが対応するから準備頼んだ(ボソッ」


「了解(ボソッ」


二人の後ろに先程の将校が止まる


「お忙しそうなところ悪いが、ちょっと良いかな?」

将校が声をかけると同時に宏一が振り向き、瞬時に階級を確認、敬礼をする


「ッハ! 何でしょうか、中佐殿!」


「ハハハ!其処まで畏まらなくても良い。
 …君はえ~と、確か如月大尉だったかな?」


「ッハ! そうであります」


「私は巌谷 榮二(いわや えいじ)。帝国陸軍技術部の者だ。
 先程のOSは実にすばらしい物だ。アレが実装されれば戦局はガラリと変わるだろう…
 それでなのだが、幾つか質問を良いかね?」


「機密関係上、其処まで多くお答えできませんが、それでよろしければ…
 「別に構わないさ」
 …ッハ! では御質問とは何でしょうか」


「あのOS―XM3といったな―…他の者はどういうかは知らんが、私は素晴らしい発想だと思う。
 …素晴らしいとはもう言ったか、ワッハッハッハッハ!


 しかし、あんなOSを思いつくほどだ…
 きっと開発者は人一倍発想力が豊か、或は柔軟な思考の持ち主なんであろうな」


「中佐殿の様なお方に同感してもらえるとは、あの者もきっと喜びます!」


「はっはっは!
 それは謙遜というものだよ、大尉。
 私より、その者の方が成し遂げた功績の方が後々の評価は高いであろう」


「いえ、そんな事…」という宏一の言葉を遮り、巌谷は急に表情を引き締める


「では本題だ…
 単刀直入に聞く…このOSの開発者は君たち二人のどちらかではないか?」


準備をしていたタケルの背に一筋の汗が流れる


「申し訳ございません中佐殿。
 その御質問の意味がよくわからないのですが…」



「む、そうであったか…
 すまないな、如月大尉」


「いいえ、お気になさらずに中佐殿…
 そのほかには御座いますか?」


「いや、これだけだ。 忙しい中すまなかったな」


「いえ!此方こそ良い回答ができず、誠に申し訳ございません」


「いやいや、気になさんな。 
 あぁ、それともう一点… 今回の会談はこれで終了かね?」


巌谷の質問に一瞬ポカンとする宏一


「…いえ、まだ一点ほど残っております。 しばしお待ちください。」


「おぉ、そうだったか!
 いやはや、すまないね。 では自分の席で待っているとしよう」


(なんかイメージと違うなぁ…あのオッサン…)


自分のイメージの巌谷と現実とのギャップに違和感を感じつつ、再びタケルの方を向く


「…終わったよ。 そっちは準備できた?」


「あぁ、もうチョイ待ってろ…OK、できたぞ」


「サンキュー」


タケルからコントローラーを受け取ると、宏一は先程まで彼が立っていたところに立つ
三度照明が暗くなった


「これより、我々横浜基地からの最後のプレゼンである、“次期主力戦術機案”の発表を行わせていただきます―」


“次期戦術機案”という言葉に会議室にざわめきが走った
宏一は誇らしげにニヒル顔を決め、一方の巌谷の表情も少し硬くなる


「―(ニヤ)尚、この発表を行わせていただくのは、本機のテストパイロットである自分が行わせていただきます。」


「あんな少年がテストパイロットだと!?」
「横浜の女狐め…一体どれほどの国民を犠牲にすれば…」
「…なるほど、それであの階級…」


更に強くなるざわめきをよそに、宏一が手元のスイッチを押すとモニターに飛鳶のロゴと写真がデカデカと映る


「試05式先進戦術歩行戦闘機“飛鳶”…
 開発コンセプトは“対BETA戦・AH戦双方に対応できる多様性”となっており…」


モニターに再度注目が集まる

……

―30分後―

――帝都・帝国軍軍令部 第二予備会議室――
――巌谷side――

既に最後のプレゼンから十数分が経過している
にもかかわらず、会議室に充満しているざわめきは一向に減る兆しを見せず、むしろ増加しているといったところか
うむ、その原因は白銀大尉が『先進戦術歩行戦闘機“飛鳶”』のプレゼン終了後に言った最後の一言にあるのだろう…
あれには流石の私も肝を抜かされた…


「尚、香月博士の意向により、これらは全て帝国軍と横浜基地の“合同開発”とさせていただく準備が整っております。
 これについては後日博士の方から連絡があるのでしばしお待ちください。
 これに伴い、希望者の方にはこれらのシミュレーター用データを配布させていただきますので、希望者の方は後ほどこちらまでお越しください」


最初、その場にいた者は何を言っているかがわからなかったのであろう
私も意味はわかっていたが、流石に固まったよ

…わかっていたぞ? ちゃんとな

しかしだからと言って、数秒の静寂の後に一気に両大尉の元に(主に技術士官であろうが)将校らが押し寄せ、36mmチェーンガンのごとく質問を浴びせたのはいただけんな…
まぁ、かの私もその内の1人だったわけだが

そんなこともあり、ついさっき基地に帰って行った二人の顔には疲労が見えた
若いうちから苦労が絶えんな…

しかし、今回のこの会談…
もしかすると計画に影響を及ぼし…


「―中佐殿はどう思われますか?」


「ん?あぁ―」


手に握っている外付け型記憶媒体を見ながらそんな事を考えていると、部下の技術士官が先程の『撃震・改』についての意見を求めてくる
まぁ『瑞鶴』のテストパイロットであった私に意見を求めるのは妥当な判断だな…

『撃震・改』について意見を述べる私の脳裏には、一つの不安とまだ二十歳前の1人娘の顔が浮かんでいた

――巌谷side end――


第八話END
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

どうもこんにちは!
なっちょすです

では!補足設定!!
・「XFJ計画」は既に始動済み(2000年1月始動)
・帝国・斯衛に渡したデータにはコピー及び内部データ閲覧防止プログラムが施されている
・発表した飛鳶のデータは夕呼に渡した物より簡単なもので、詳細は明かしていない

では、何かありましたら感想掲示板まで


―――――


―25:42―
――???――


『…あぁ、中尉かね? 私だ。
 藪遅くにすまんな。 そっちはまだ夜中だったかな?』


『―そうか…ならよかった。
 ――そうだ、終わったよ。
 ――ん?
 ――あぁ、やはり横浜の女狐は今回も我々の想像を上回る物を出してきたよ』


『――いや、今回は99型の様な兵器ではない。 新概念のOSと次期主力戦術機案だそうだ。 
 データと実写映像だけだったが、そのOSの前では従来のOSはまるで玩具の様に思えたよ…』


『――ワッハッハッハ!! そうだったな、君にとっては次期案の方が重要だったな。
 うむ、すまない。』


『――あぁ、こっちにも肝を抜かされたよ…
 最悪、計画そのものが無くなりかねん…
 ――いや、脅しなどではない。 此方の要望通りの機体なのだ…』


『――いいや、どうもそうでないらしい。
 ――あぁ、その様だ』


『…もしかしたら近いうちに進展があるかもしれん。
 その時は真っ先に知らせるよ』


『――あぁ、お休み、唯依…』


(To be continue)




[30479] 第九話
Name: なっちょす◆19e4962c ID:3f492d62
Date: 2012/07/16 02:15

―3月3日―
――国連軍・横浜基地・地下機密区画・B19フロア――


「…で、白銀。 会談はどうだったの?」


帝都から横浜基地に帰還したタケルと宏一の二人は、一旦ヴァルキリーズの訓練に顔を出した後に会談のレポートをまとめて夕呼のオフィスに来ていた


「会談は一応成功しましたよ。食い付きも良かったんで、後は向こうからの行動を待つだけだと思います。
 詳しくはそこに書いてありますが…」


「へぇ…そう。 ところで飛鳶の発表はしたの?」


「はい。 宏一が説明してました」


「如月、どの程度まで話したのかしら?」


タケルがまとめたレポートに目を通していた夕呼は、宏一の方を向く


「まぁ簡単な説明だけですね。機体の簡単な解説と簡単な性能説明ぐらいです。
 あ、あとECSやマスタースレイブシステムについては“試作装備”としておきました」


「それなら良いわ」


夕呼の口元が少し緩む


「…それと、博士は帝国陸軍の巌谷 榮二中佐は御存じでしょうか?」


「知ってるわよ… それが?」


「…いや、XM3や飛鳶にかなり興味を持っていたらしく、それ故ウチとタケルのどちらかがXM3の開発者ではないかと聞いてきまして…」


「そう…(相変わらずカンがいいわね。 でもアイツが興味を持ったのは逆にこっちに好都合…)」


夕呼はブツブツと小声で呟きながら自身の思考に意識を向けた


「…あの~博士?
 ウチ、何か不味い事しましたかねぇ…?」


「気にすんな、宏一。
 夕呼先生がこうなった時は大抵が良からぬ事を考えている時だから、こうなっちまったら後は待つしかないさ」


「はぁ…」


宏一の肩をたたいたタケルは、そのまま霞の方を向く


「霞~おはじきしないか?」


「…はい」


「宏一、お前もやるか?」


「暇そうだからねぇ…混ぜさせてもらうかな」


自分の椅子に座り思考に暮れる夕呼をよそに、三人は小さな机の周りを囲みおはじきを始めた
しかし、そのノホホンとした状況は夕呼の一言によってすぐに壊されてしまう


「…如月。飛鳶は不知火の発展機よね?」


「正確には“不知火・弐型”と“YF-23”を掛け合わせた発展機ですが、まぁそうなりますね…
 それが何か?」


「白銀の不知火も飛鳶に改修するわ」


夕呼の一言にタケルは一旦固まった


「…へ? 今何て?」


「だから、アンタの不知火を飛鳶にするって言ってんの」


「いや、それはわかりますが… 
 何故俺の不知火を…?」


タケルは夕呼の言っている意味がさっぱりだといった表情を浮かべる


「如月が渡してくれたデータが正確なら、飛鳶の関節強度は不知火の倍以上よ?
 アンタの変態操縦にとっては不知火を強化した物より断然いいわ」


夕呼はそう言い放ちつつ、二人にある整備記録を見せた
その書類はタケルの不知火の整備報告書類であり、タケルが全力機動を行った直後のものだった…
その報告書には、各装甲等の機体の外面には全くの異常が見受けられないが、各関節の…特に脚部関節のフレームや電磁伸縮炭素帯の歪みや劣化、摩耗が激しく、実戦で一戦持てばいい方だと記されていた

それを見たタケルは小さく「ッゲ」っと息を漏らし、一方の宏一は苦笑していた


「…理由はわかりましたが、博士。
 しかし、それは不可能だと思います」


宏一が苦笑したまま言う


「あら、なんで?
 一機分くらいのパーツ生産ならこの基地でもできるわよ?」


「いえ、そういう意味ではなく、飛鳶のベースが不知火・弐型であるってことなんです」


「つまり?」


「前の世界では、弐型の開発計画―XFJ計画って呼ばれていました―が始動したのは2001年5月頃、ロールアウトは同年8月末です。
 高性能機だったんですがねぇ…なにぶん採用されたのは2003年末、帝国には少数しか配備されなかったんで壱型よりも珍しい機体でした」


宏一はやれやれといったポーズをとる


「…つまり改修させる元が無いって事か?」


「御名答。
 弐型は頭部や脚部、肩部装甲…主機と一部のフレームが全くの別もんだからねぇ」


「…それなら心配はないわ」


「「え?」」


「既にXFJ計画は始動しているわ。
 さっき言ってた巌谷ってのは、その計画の中心人物の1人よ」


「「な、なんですとぉー!?」」


夕呼から告げられた事実に、タケルは不審に思った人物がそんな計画の中心人物であった事に、宏一は自信の知っていた“未来情報”と違う事に驚いた


「し、しかし各部のパーツは…」


「設計図があるし、製作機械もあるから問題ないはずよ」


「それにエンジンはFE119-FHI-220というYF-23やF-22にも使われている奴の強化改造型で…」


「元となったエンジンはオルタネイティヴ計画特権でなんとかなるわ」


「…」


「あら、もう終わり?」


「思いつく限りは…も、負けました」


「あらそう」


orzと落ち込む宏一の頭を霞が撫でていた


「…でもアルの代わりはどうすんだ?」


タケルが唐突に自分の頭にひらめいた疑問を問う


「アルは専らマスタースレイブシステム専用の補佐AIみたいなもんだから、普通の管制ユニットを使用するのであれば必要性は無いよ」


「へぇ~」


「…なら問題はないわね。早速手配するわ」


「「はぁ」」


「あ、それと…」


夕呼の浮かべる笑みに武と宏一、そして霞の3人の頭を不吉な予感が横切る


「白銀と如月には明日戦ってもらうわ。…無論実機でね」


「なんでまたそんな急に」


「何でって…横浜基地もXFJ計画に参加しようって事に決まってるじゃない」


「…え? えぇ~~!?」「それはなんとなく想像できましたが…でもなんで不知火と?」


タケルが驚き、宏一は顔をひきつらせていた


「XFJ計画は不知火の改造計画よ~?
ノーマルより強い不知火であれば良いに決まってるじゃない。 その確認よ」


「XFJ計画に参加ってことは…つまり、アラスカに行けと?」


「まぁ、そうなるわね。
勿論白銀の飛鳶が完成してからだけど」


「…さいですか」


「そうそう、一つ言い忘れてたわ。
 「「?」」
 如月、必ず勝たなきゃ駄目よ?
 アンタが負けたら意味をなさないんだから」


「ま、まぁそうでしょうねぇ」


「勿論白銀は本気を出しなさい」


「言われなくともわかってます」


「わかってるなら良いわ。
 それともう一つ伝え…」





十数分後…
二人が夕呼のオフィスを出た時、彼らは疲れ切った表情をしていた


「ウチ、博士の事舐めてたわ…」


「気にすんな。
 あんなのは日常的な事だから」


「…お前、スゲーな」


「ま、伊達に先生と腐れ縁やって無いってことさ」


苦笑しながらそう話すタケルの背中が、宏一にはやや広く感じられた


……






―3月4日―
――国連軍・横浜基地・地下機密区画・モニタールーム――


そのモニタールームは他の物と比べ豪華な造りとなっていた
部屋に置かれている移動可能な椅子には各個に小さなモニターが据え付けられており、各々がメインモニターで流されている映像を自由に再生・停止させる事が出来るようになっていた
又、他のデータを閲覧する事も可能であった


しかし、その部屋を独占していた総勢八名の男女…ヴァルキリーズのメンバーはそんな豪勢な備品には目もくれず、只その部屋の壁一面を占める一つの大型モニターにくぎ付けとなっていた


―モニターには廃墟に一機のUNブルーを身にまとった不知火が映っていた


『―開始まで三分を切りました』


ピアティフの声が流れる


「…まだ来ないね、宏一君」


「なにもたついてるのかしらねぇ?全く」


一向に現れない不知火の対戦相手―飛鳶―に対して愚痴が飛び始める


「速瀬少尉…幾ら早く性的快感を得たいからと言って駄々こねるのはよくありませんよ?」


「む~な~…
 「って平少尉が言っていました」
 し~ん~じ~?」


「って俺かよ!!」


「全く…貴様らは静かに待てんのか?」


「そうはいってもねぇ…
 って、噂をすればナントヤラ…みたいよ?」


沙恵の一言にモニターの一角に視線が集まった


「うそ…あんな重武装で挑むつもりなの?」


「それよりも、よくあんな装備で良く跳べるな…」


「確かに…」


彼女等の注目するモニターには
右手に87式支援突撃砲
左手に92式多目的追加装甲
左右の腰部兵装担架と背部両外側兵装担架に87式突撃砲…計四門
背部内側兵装担架に74式接近戦闘長刀を二振り
を装備した飛鳶が丁度水平跳躍から着地に移行するところが映されていた


機体を起こしつつ出力を絞る―
慣性だけで飛んでいた飛鳶は豪快にアスファルトを巻き上げなが滑るように着地した


『遅れてスマン。
 予想以上に装備に時間がかかってね…』


『掛かり過ぎだわっ!!』


遅れを詫びる宏一と、突っ込みを入れるタケルの通信がモニターから流れた


『それでは今回の模擬戦のルールを説明します。
 通常の模擬戦と異なり、今回搭載する予備弾倉は通常の搭載数ではなく、持久戦―すなわち長時間に渡る戦闘を想定して、両機共にフルリロードです。
 これとは別に、如月機に関しては更にレーダージャミングやダミーフリップ等のECMの使用は禁止とさせていただきます。
ここまでで何かありますか?』


『『無いです』』


『では説明を続けます。
模擬戦エリアは柊駅を中心とした半径5kmの円形。
 エリア外での戦闘は敵前逃亡とみなし、即時大破判定が下されます。エリア外の移動についても同様です。
 勝敗の決定は衛士死亡判定、又は大破判定時のみだけとなっており、行動不能判定だけでは撃墜とみなされません。
 注意をお願いします。


 これ以外については今回は特に定義されません。
 無論、制限時間についても無制限とさせていただきます』


ピアティフが淡々と説明を行う
その説明を聞く両者の顔は、今か今かといった具合だった


静かに説明を聞く二人とは正反対に、モニタールームの方は騒がしかった
通常のケースとは異なる状況設定…
それだけでも異質であったのにもかかわらず、制限時間無制限というこれまた更に異質な条件が追加された事が主な原因であった


「制限時間無制限って…
 弾薬とか推進剤が無くなったらどうすんだ?」


「流石に弾薬についてはあれだけど、推進剤が無くなるってことはねぇだろ」


「でも白銀君の機動なら有り得ない話でもなさそうだよね…」


「それに如月の飛鳶だって、RCSだったっけ?あれも推進剤消費してんでしょ?
 有り得なくはないでしょ~」


「でも二人程の操縦技術であれば即座に終わる気もしなくはないのですが…」


「逆に上手いから長引くんじゃない?」


様々な意見が飛び交う


あーだ、こーだと言っている内に模擬戦開始時刻となった


『では、開始まで
 ―5!』


『―4、
 ―3、
 ―2、
 ―状況、開始!!』


二つの機影が一気に動き出した





―タケルside―


開始と同時に俺は突撃砲を殆ど乱射に近い状態で宏一の飛鳶にまっ直ぐと突っ込んでいく

普段だったらこんな事は絶対にしないが、宏一が相手だと一々ロックオンして撃っても意味無いだろうし
第一、今回は特例で予備弾倉はたんまりとある…
だから多少の無駄撃ちは許されるはずだ

宏一は後退しながらスラスターを利用した左右への乱数回避を続けていた
途中、追加装甲を併用して支援突撃砲を撃ってくる
こっちも攻撃しながらの乱数回避…
宏一の放った弾が、正確にコンマ数秒前まで俺がいた場所を通って行く

あいつ、確か基本的にマニュアルで狙ってるって言ってたよな?
良い腕してんな~
…まぁ、たまには劣るが

そうこうしている内に飛鳶に動きがあった
交差点でサイドステップし、ビルに機影を隠した

普通だったら追い駆けてくんだけどなー
宏一の事だから罠でも張ってるでしょう…と、俺の“しっくすせんす”が告げている
カンに従って、俺も少し手前の交差点でビルに身を隠した

レーダーに注目
どうやら動きは無し…と

やっぱりカンってのは信じるべきだな
案の定少し奥の方で待機してるみたいです
あの訓練、役に立ったなぁ

…さてそれはいいとして、ここからは持久戦なのかなぁ~

―数十秒経過―

おかしい…
何も動きが無い
いくら持久戦とはいえ流石アクションが無さ過ぎる
様子見で状況把握を試してみるか
レーダーも単機じゃ信憑性低いもんな!


どれどれ、あっちの動きはな…


ビル角から頭部を出すと、突如頭部真上のビル角がオレンジ色に染まった
それに慌てた俺は再び隠す

損害確認…頭部のセンサーマストに一発喰らったみたいです
左側のセンサーマストが綺麗なオレンジ色にペイントされてますよ?


『白銀機、頭部被弾。小破。
 レーダーに支障なし』


ピアティフ中尉の報告が入った
レーダーに支障が無いのは不幸中の幸いといったところか…

てか今機影見えました、奥さん?
…見えてないですよねぇ
なら、どっから撃ったんだ?

う~む…わからん

…って、そんなことより、俺、もしかしたら手詰まりじゃないですか?
どこから撃っているか分からない以上、むやみに動くのは危険だし…
だからと言って動かないのもあれだし

ともかく、動かなきゃどっちにしろ駄目だ
賽は投げられた!!
行くぞ、俺!

…そういや“賽は投げられた”って誰の言葉だっけ?
まぁ…いいや

俺は隠れていたビルを飛び越え、直接宏一がいるであろう位置に跳躍する

たぶんアイツの事だからこれくらいは想定しているだろう…
が、空中の方が回避にはもってこいだ
だから飛ぶ

レーダーの反応があった場所に追加装甲を構えつつ突撃砲を向ける
トリガーにかかる指に力が入ったその瞬間…


「そこだっ!! …って、あれ?」


其処には追加装甲が地面に突き刺さり、それに支援突撃砲が立てかけられているだけだった

何とも拍子抜けする展開…イヤイヤ、そんなこと言っている状況ではないだろ


レーダーで機影を探すが、反応なし
いつの間に消えたんだ?
…まぁ、とりあえず着地しますか

俺は着地した後周囲を警戒、異常が無い事を確認するとその路地に機を隠す


さて、ECMの使用は禁止されているからこれはECSとかだな
『まだ教えていない機能がある』みたいな事を言ってたし…
これがその機能って奴なのか?


もう一度周囲を見渡す
…異常は無いな


しっかし、味方であれば頼りになる奴だけに敵に回すとおっかねぇな…飛鳶って機体は
そんな機体が俺の愛機になるのかぁ~
武御雷とどっちが強いのかな?
当然R型には敵わないだろうけど、スペックデータだけならF型といい勝負だし…


…脱線するなよ、俺

しかし、ステルスってのは厄介だな…いやホントにさ

さてさて、このだだっ広いエリアからどう探せばいいんだ?
無駄に動いても時間の無駄だし、更に余計な隙も作っちまう

…よし、とりあえず飛ぼう
動きがあればレーダーに反応するだろうしな

そう決めると操縦桿を操作して機を垂直跳躍、高度60m程で水平跳躍に移行させた


…反応が無い
レーダーにも何も反応は無い
隠れているのか?
いや、そんなんじゃ模擬戦として意味無いだろ
しかし…確か宏一は“AH戦では焦った方の負け”とも言ってたな


降りるか…
推進剤が勿体無いし


そう思いつくと、俺は機を付近の適当なビルの屋上に着地させた


あいつは俺と結構似たところがあるからなぁ~
俺がここを攻撃するならば…


俺が考える理想な場所をマーキング
それらを中心に周囲を索敵していく


やっぱり何も…


あきらめて新しい場所へ移動しようとした瞬間
初めて宏一の訓練を受けた時に感じた悪寒が俺を引き留めた




――ゾクッ――




たったの一瞬だった…
悪寒が背中を駆け抜ける
一瞬だったが、感じた重さはあの訓練で初めて感じた物の比ではない
一気に全身の毛穴が開き、アドレナリンが分泌…
冷や汗も流れてきた


これがAH戦の経験者ってか…!?
俺も一度体験したが、そんなんじゃねぇ
これが本当の…殺気!


慌てて予めマークしていた個所を確認するが、何もなし
焦りが広がるのが俺にもわかった


早く探し出さなきゃ殺される


模擬戦なのにもかかわらず、そんな考えが頭をよぎった
そのぐらいヤバい


そんな時、俺の全感覚が後ろに何かが居る事を告げる


…宏一か!!


機を急反転させつつ、頭部を動かして後ろを見る
目の前には長刀を振りかざす飛鳶の姿


「いつの間にッ!?」


愚痴を吐きつつ急速後退
牽制替わりに突撃砲も撃つ
エイミング無しの殆ど乱射に近い発砲…
当り前だが、当たってない

飛鳶が長刀を突撃砲に持ち替えた


クソッ…
この距離で二門撃ちされるとキツイってのに


追加装甲を構え、再度後方跳躍
距離を離そうと試みる

飛鳶が発砲
ガンッ!ガガガンッ!!―と思い音を響かせ、装甲の耐久値が削られていく


このままじゃ…やられる!


仕返しと言わんばかりに俺も撃つ
が、かわされた


…ったく、ちょこまか動きやがって


装填の為か、飛鳶が隠れた隙を計らって機体をビルに隠した
そして深く深呼吸…


…ふぅ~


呼吸が落ち着くと、俺は一つの疑問に気が付いた


飛鳶が全く近づいてこない…


もう充分な距離が開いてしまった
いくら撃たれているとはいえ、あの程度の弾幕であれば宏一なら容易く接近・格闘をしかける事が出来たであろうに


おかしいな…


そう思った俺は振動センサーの感度をMaxに上げる
例えレーダーに映らなくても、振動までも打ち消すのは容易いことではない…
そう考えたからだ


「……」


Maxにしたのは良いが、いささか雑音も多く拾っちまうなぁ…


「…まぁ、しょうがないか」


こうなることくらいは分かってたしな


《振動検知、北北西、距離100》


早速来たか!


予想以上に早くかかってくれたぜ
しかし、こんな近くまで接近されているとは…
正直複雑な心境だな
素直に喜べない
…喜ぶことでもないがな


ともあれ、俺は殺気を押し殺して宏一が即席の罠場に入るのを待った


後、数歩…
飛鳶の陰が目の前の道路に映る
…が、突如飛鳶が止まってしまった


すぐさま照準レクティルをビルの角へ合わせ、何事にも対処出来る体制を取る


気が付かれたか?
…いや


再度飛鳶が動き出す
数歩分の振動の後、ビルから銃口が覗いた
無論俺の方向は向いてない


トリガーにかける指に再度力が入る
…そしてその時は来た


レクティル一杯に広がる飛鳶の胴体
頭部がこちらを向き、発見された
だけどな…


「けど、気が付くのが遅かったなぁ!!」


指に最終的に力が加わり、トリガーを引く


-発砲-


飛鳶は機体を捩らせて回避を取るが、幾分ちょっと遅かったようだ


放たれた砲弾は突撃砲に大破判定を喰らわせ、左腕・肩部にそれぞれ小~中破判定を与えた
…胴体に当てられなかったのが歯痒いぜ


回転しながら突撃砲を破棄した飛鳶が、器用にもそのまま兵装担架の突撃砲ともう一方の腕の突撃砲を撃ってきた


当然そんな事は折り込み済み…
軽く回避して更に撃ち込む


撃ち込まれた弾をアクション映画の主人公さながらの謎な機体動作でかわす飛鳶…


…本当、ナニアレ




そんな機動をとりつつ宏一は機体を俺のキルゾーンから脱出させた
そして、その後を追う俺


照準は楽なんだけどなぁ~
なかなか当たらないぞ!?


突如又もや飛鳶が交差点で曲がり、カメラから機影が消える


「逃がすかっ!!」


俺はそのまま追いかける
角に着くと、飛鳶はビル陰で死角になっている建物の屋上に登ろうとしていた


…なる程、さっきはこうやってたのか


そんなことを思いつつ、トリガーを引く俺

飛鳶は回避がてらにビル壁を踏み台に、こっちに向かってバク宙してくる
その両手には特殊長刀と長刀…

俺はすかさず突撃砲を破棄し、長刀に持ち替えた

振り下ろされた長刀を追加装甲で、もう一方を長刀で受け止める


-衝撃-


追加長刀の一撃を受けた追加装甲の耐久値が一気に激減

しばらくそのまま互いに押し合っていたが、無駄だとみたのか飛鳶は直ぐに離れ、突撃砲に持ち替えようとしている


流石に長刀はキツいなぁ
もう十数パーセント程しかなくなっちまったぞ


追加装甲のパラメーターが真っ赤っかになっていた


多分もう盾としては殆ど使えねぇな
…なら


着地したばかりの飛鳶に向けて装甲を投擲し、フルスロットル
長刀を構えた


一方の飛鳶が発砲
装甲のリアクティブアーマーに命中したのか、装甲が爆発し辺りが爆煙に包まれた


「見えなくてもわかるんだよ!」


そのまま突っ込み、横薙ぎを入れる
…手応えが無い


ヤベッ!?


急遽エンジンを吹かして急上昇
近くのビルの屋上に着地する


「どこ行ったんだ?」


時間的に考えて、後ろに下がったか俺みたいにビルに上がったかの二つ…
だが飛鳶の機影はどっちにも見あたらない


…どこだ


戦術機が通れる近くの交差点までは、少なくとも100m位はある
其処に逃げたとしても何かしらの機影は見えるはずだ

もう一度見渡した
…いない

俺の全神経を尖らせる

ふと違和感を感じた
だが、方位がわからない
感じからして殺気…とは呼べなさそうだな

気が少しゆるんだ

だからかもしれない
俺は眼下に映る機影が二つになっていたことに気が付くのが遅れてしまった…


―同時刻―
――国連軍・横浜基地・地下機密区画・モニタールーム――
―慎二side―


…モニターに映る映像に俺は唖然とした
俺たちが入院してる間に行われた模擬戦の映像でも唖然としたが、ショック的にはこっちの方がやや上かもしれない
唖然しながら見た孝之の表情は俺のさらに上を行っていたが…
…まぁ無理もないはずだと思う
何せ“何もない空間から”宏一の乗る飛鳶が突然姿を現したのだから


始まりは白銀の不知火が急旋回し後ろを振り向いたあたりからだ

そのカメラアングルからでは何を見ているか分からなかったが、丁度カメラアングルが白銀と同じものに切り替わってれたおかげで理由を見る事が出来た

最初に映ったのはビルの屋上からの廃墟となった柊町の風景…
しかし、一瞬の後異常に気が付いた

その風景の所々に初めはうっすらと…しかし、だんだんにはっきりと白線が浮かび上がる
それらの線はいくつも現れ、繋がり、肩部装甲や脚部といった戦術機の特徴を描き、そしてそれらは見た事のある形になる

…飛鳶

線図ではあったものの、廃墟の柊町を背景にはっきりと飛鳶の特徴を描いていた

すぐに線で囲まれた部分が白く濁り、変色
最終的に飛鳶独特の色である黒っぽい紺色になってゆく

最終的に表れたのは腕のナイフシースから05式特殊長刀を抜かんとしている飛鳶だった


直後固まっていた不知火がバックステップ
飛鳶の抜刀しながらの斬撃を紙一重でかわす

白銀の着地と同時に飛鳶から突撃砲が撃ち込まれた
しかし、故意にかはわからないが放たれた弾は不知火から外れていた
バックステップしつつ距離を稼いでいた不知火がビルの縁にくると、120mmが狙ってましたと言わんばかりに数発も撃ち込まれる

120mmが炸裂すると、その周囲の足場が崩壊
崩落は不知火の足下まで及び、瓦礫と共に不知火が落ちた


再度飛鳶の方に視線を移す
飛鳶は120mmの弾倉を切り換えていた
切り換えが終わると空いた手に再度05式を装備…
ゆっくりと歩き出す

その光景を見ていた俺は、いつの間にか自分が冷や汗をかいている事に気が付いた
興奮からかと思ったが、どうやらそうでもないようだ

モニターの画面にはアングルが変わると此方に歩いてくる飛鳶が映し出された
逆光になっているためか機体は更に黒く映り、センサーの蒼い光が強調されて映る


―飢えた猛獣―



その姿が俺にはその様に見えた

―慎二side end―


「…一体なんだありゃぁ!?」


それが俺の第一声
実際あんな光景は目にした事もない

…訂正、目にした事はあったな
無論アニメとかゲームとかで似たようなものをだ

たしか光学迷彩…って言ってたっけな?
初めて聞いた時は「何それ、スゲーカッケッー!!」と思ったが、現実的でないと聞いて落ち込んだっけ…

理由は…まぁ男の子にはありがちな奴だ、追求しちゃだめだぜ☆


しかし、そんな代物をどうやって…
まさか宏一の世界では実現してたのか!?

あとで聞かなくちゃ!!




…|||orz


とりあえずこっから離れ…


操縦桿を握りなおそうとすると、軽い衝撃と共に目の前に飛鳶が降りてきた
反射的に突撃砲を構えるが直後に繰り出された回し蹴りで真っ二つにされる

更に強い衝撃
…横道から大通りに蹴り飛ばされる


回し蹴りで真っ二つって…
それに回し蹴りからの更に蹴りとか、彩峰じゃあるまいし…っと!


機を転倒させないようにバク転、両手に唯一のまともな武器となった長刀を装備し着地
と同時にジャンプユニットに火を入れ一気に距離を詰め、蹴りからの姿勢回復途中であった飛鳶に切り下ろしと横薙ぎの斬撃を入れる

しかし、片手の突撃砲を盾として、もう一方の腕の05式に受け止められる事によって回避された


あの腕の早さ…モーターか何かを強化してるな、絶対
普通だったら防げないぜ?

…やばい、ますます乗ってみたくなった


にやけるのを防ぎつつ、側面約20m程の位置にいる飛鳶を見る
いつの間にか長刀と05式を装備していた

周囲を横目で確認
…二刀流のままでも大丈夫そうだな

少ししゃがみ、同時にエンジン全開
…飛鳶が構えた

長刀の射程範囲ギリギリで軽く逆噴射、タイミングをずらしたことで長刀を受けようとした飛鳶の右脇が開く
それを見逃さず右脇に向かって長刀を振るが、左手の05式で受けられた
が、受けたことで左脇が完全にがら空きとなる


「そこだぁ!」


受け止められていた長刀をそのまま破棄

飛鳶が時計回りに回転し、背を見せる
其処にもう一方の長刀で機体全体を使った地面から切り上げる様な一閃を入れた

…しかし、その渾身の一撃は当たらなかった
目の前には前宙中の飛鳶


今飛鳶の踵に見えたの…何だ?


エンジンを軽く吹かす
バク宙し機を起こそうとするが、途中、回転しながら迫ってくる長刀が見えた


「うぉとぉ!?」


バランスを崩しつつも回避には成功、長刀を地面に突き刺すことでバランスもなんとか取り返す
着地した後突き刺した長刀を回しゅ…


…ぬ、抜けない!?
クソッ!


短刀を装備…
のつもりが、ナイフシースのアームの基部に飛んできた05式が見事に命中、短刀ごと吹き飛ばされてしまった

急ぎもう一方を使おうとしたが、今度は急接近してきた飛鳶に腕を掴まれ阻止された

掴んだ腕を振り払おうとするが、反動を利用され逆に機体全体を引き寄せられてしまう
更にもう片方の腕で頭部のレーダードームを押さえられた


何のつもりだ?


メインカメラから飛鳶が消え、突如襲いかかる強い衝撃と高-G
更に空が見えたと同時に再度の強い衝撃…

揺れる視界を振り払うと、自分を見下ろす飛鳶が視界に入る
それと同時に突撃砲の銃口も…


何が起きたのかはよく分からない
だが、倒された事と負けた事…これだけは分かった


『ハイ、王手』


宏一の声と共に視界がオレンジ色に染まった


―タケルside end―


第九話END
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





こんにちは!
なっちょすです


今回もなんだか会話が多い内容になってしまいました。
もしかしたら以後も会話がメインの無いようになってしまうのかな?
無論、戦闘シーンもありますよ~!!
…しかし、戦闘シーンの描写は難しいですね。
更に文の構成もおかしいし…
読書不足ですね…ハイ


さてさて自虐もこれまでにして、補足設定です
・AL世界でバビロン作戦以前に帝国に採用された弐型の数は4個中隊分48機
 宏一が配属されていた中隊は帝国で4番目に弐型が配属された
・XFJ計画は1999年5月に計画が承認される

・飛鳶やその他機体のエンジン出力は下記の設定のとおり
 
 不知火:127.7Nt [FE108-FHI-220]
 [参考データ:F-2(実機)…F110-IHI-129 … 28700lb … 127.7Nt]
 
 壱型丙:172.4Nt
 
 武御雷…
 C:153.2Nt
 A:172.4Nt
 F:197.9Nt
 R:217.1Nt

 YF-23 :156.0Nt(YFE119-PW-100)

 F-22 :156.0Nt(FE119-PW-100)

 飛鳶 :185.2Nt(FE119-FHI-220)

・飛鳶のエンジンはアメリカに避難した富嶽重工のエンジン部門関係者が“たまたま”入手したラプターのエンジンを改良・強化したもの
・モニタールームに流されるカメラアングルはオートで切り替わる
 勿論手動でも可

このくらいでしょうか
何か御質問等ありましたら、気軽に感想掲示板まで!!


次回予告

模擬戦を終え、各々の思いにふけるタケルと宏一…
二人は自分たちに向けられていた興味の視線に、まだ、気付かない
…次回『再会』
―出会いはそれぞれの心に追憶を呼ぶ― 【Cv. 社 霞】



[30479] 第十話
Name: なっちょす◆19e4962c ID:3f492d62
Date: 2012/07/16 02:20

―国連軍・横浜基地・地下格納庫・機密ブロック―

機をガントリーに納めると、宏一は一つ大きなため息をついた


(いくら制限されてなかったとはいえ…やりすぎたかなぁ~)


全身の力を抜き背凭れに寄りかかり、もう一度大きなため息
そんな時「ポーン」という機械音が響き、更に人工音声がそれに続いた


『どうかしましたか、大尉殿?』


「いんや、別にどうも…
 ただ、ちょっとセコかったかなぁ~ってね」


『回答の意味がわかりません』


「幾ら模擬戦とはいえ、教えてない機能を使って勝ったのはどうだかねって事さ」


『模擬戦において重要なのは勝つことであり、私には何も問題が無いように思えます』


腕を操縦システムから抜き、頭の後ろで組む


「そうだけどさぁ~
 …だけどなぁ~だまし討ちってさ、それ、人としてどうよ?」


『油断していた相手が悪いと思います』


「…正論だね」


呆れつつ答えると、投影されるメインカメラの映像に降りてくるキャットウォークが映った

キャットウォークが停止したのを確認すると外へと出た
そして腕を伸ばし筋肉をほぐす

其処へ整備マニュアルを持った数人の整備士が近づき、宏一にいくつか質問をした後機体の整備に取り掛かっていった


整備士に貰った飲料を付属のストローで飲みつつ部屋に戻ろうとした宏一の眼に、腕を組みながら眉毛をヒクつかせているタケルの姿が映った


「なんだ?あの機能は…?」


「この前言った“教えていない機能”の一つ」


チュ~という音を立てながら、宏一はストローをくわえたまま答える


「ですよねー…
 って、ちがぁーう」


「なにがだよ」


「何でいきなりあそこで使うんだって事だよ!」


「油断していたタケルが悪いだけ(棒読み)」


「…まぁそうなんだけどな」


「それに禁止もされていない。
 …よって別に卑怯ではない(棒読み)」


「いやいや、十分セコイですから」


「それに負けた直接の原因ではない(棒読み)」


「んがっ」


「よって…
 「ストップ!!」
 …なんだよ」


「その棒読み止めてくれ」


「へいへい」


ガクッと項垂れているタケルに対し、宏一は肩をたたきながらつぶやいた


「まぁ、人生こんなこともあるさ」


「うるせーっ!!」





―同時刻―
―同基地・地下機密区画・第二モニタールーム―


「…操作ログまで見ちゃって~
 あなた、そんなに気になるの?」


「副指令、そうは仰いますが、我々衛士から見れば彼らの操縦能力は異常です。
 如月大尉の機体は操縦系が特殊ですからその恩恵がある…ともいえますが、白銀大尉に関しては少なくとも異常であるといえます」


「あのね~二人っきりの時ぐらいその堅っ苦しい言い方どうにかなんないの~?」


「しかしそれでは…
 「何か言った?」
 …わかったわよ、もう」


「まぁ如月のは…そうね、確かに操縦システムや機体の恩恵もあるだろうけど、それ無しでも結構凄いわよ?」


カタカタとコンソールを夕呼が叩くと、モニターの端にシミュレーターの映像が映る


「夕呼…これは?」


「如月が不知火に搭乗した時の映像」


流れる映像を喰い込んで見るまりもの姿を見て、夕呼はかすかに口元を緩めた


「ね? 私の言った通りでしょ?」


「まったく…こんな人材、良く見つけられたわね」


「まぁね。
 それが天才の成せる技ってことよ」





「―それで、この二人が常人ではない事は分ったのだけれども、一体何の為にこれを私に見せたのかしら?」


腕を組みつつ夕呼の方を見ながら己の疑問を問うまりも


「そうね。
 一番の理由はまりもと一緒に新兵育成をやってもらうからかしら」


「やってもらうって…夕呼、あなたねぇ…
 そう簡単には言うけれど…」


「それに彼らは実戦経験者よ、これでも何か御不満?」


「そういった意味じゃなく…
 「あぁ、別に座学に関しては彼らはあまり関与しないわ。 あくまでも戦術機訓練だけよ」
 …もう、人の話を聞かないで」


「あぁ、それと…」


「なに?」


「この後二人をオフィスに呼んであるのだけど、まりもも来る?」


質問に対しまりもはしばらく考え込んだ後、二つ言葉で返事を返した


「フフッ…なら決まりね」


コンソールを操作しモニターをOFFにしつつ、データを消す


「…これでよし。さ、行くわよ」


データの消去が完了したのを確認すると、夕呼とまりもはモニタールームを後にした

……


―地下機密区画・B19フロア・夕呼のオフィス―

霞に淹れてもらった合成コーヒーをタケルと宏一は啜っていた

昼食を済ませ、二人が部屋に着いたのはつい数分前
本来なら既に何かしらの会話がなされていたのだが、ただ、部屋には二人を読んだ張本人がいなかった
いたのは霞、只一人
その為二人は貰ったコーヒーを啜っていたのだ


「社はコーヒーを入れるの上手いねぇ~」


「…ありがとうございます」


「合成コーヒーとは思えないほどのうまさだもんな!!」


「…////」


話す会話も無いためか、必然と霞のコーヒーの絶賛会が始まる


~後日談~

当の本人達は気が付かなかったみたいだけど、この時霞ちゃんは隠れたいほど照れてたんだって!
タケルちゃんも如月君も鈍感過ぎ!

語り:鑑 純夏
~後日談・終~


「おっまたせ~♪」


ノリノリで入室する夕呼


「「先生/博士、遅いで…!」」 


振り返りながら文句を言おうとする二人…
だが、その文句の言葉を言いきる事は無かった


「…あら? どうしたの?」


ニヤリと笑う夕呼


「そうそう、二人には“まだ”紹介していなかったわね~
 彼女は神宮司 まりも軍曹。この基地の教官よ。」


紹介を受けたまりもが一歩前に出る
ビシッと綺麗な敬礼


「お初にお目にかかります!白銀大尉!如月大尉!
 自分は香月博士のご紹介に合った通り、当基地で新兵教育の担当教官をやらせていただいている神宮司まりも軍曹であります。
 以後よろしくお願いします!」


「「……」」


そんな素晴らしい敬礼に搬送しないタケルと宏一…
二人の脳内はそれぞれの思いでいっぱいであった為だ

タケルは前のループ時に二つの世界のまりもを殺すきっかけを作ってしまった事への罪悪感と追慕を…

宏一は前の世界においてソルトハイブ内で交わしたまりもとの約束が果たせなかった事を


「あ、あの…大尉?」


「っへぁ!?」 「っえ!?」


だが、それらの思考は何の因果か当の本人によって打ち切られる事となる

一方の当の本人は、何か不味い事を発言してしまったのではないかと不安に駆られていたりした


「し、失礼。
 既にご存知の通り、オレは白銀 武といいます。
 階級は…言わなくていっか」


(お久しぶりです…まりもちゃん。 今度は絶対…あんな事は起こさせませんから!!)


「同じくご存知の通り、自分は如月 宏一と言います。
 以後お見知りおきを」


(約束守れずにスミマセンでした、少佐。 けど、自分はこの世界でまたあなたに会えましたよ…)


「よろしくお願いします! 白銀大尉!如月大尉!」


(まだ子供じゃない!? この子たちがさっきの機動を…?)


「あらあら、堅いわね~」


三人が敬礼する中、つまらなさそうに言う夕呼


「そう言えばまりも~、この二人まだ十代半ばよぉ~?
 良い男見つかったわね~」


良かったじゃな~いとヘラヘラと言う夕呼


「ちょっとゆう…副指令!なんて事を…
 え?十代…半ば?」


一方のまりもは夕呼のおちょくりに反撃しようとしたが、それよりもタケル達の年齢に驚いた


「白銀、如月」



「オレは去年の12月に16になったばかりです」  「ウチも昨年の9月に16になりました」


「嘘…
 副指令!?これはいったい―」


「そういうことよ?
 彼らは“研究”の要員と言えばわかるかしら?」


「…はい」


肩を落とすまりも
そんな様子を見ていたタケルは口を開いた


「まり…神宮司軍曹、オレたちは別に強制的に働かされてるとかそういった事ではありません。
 オレたちの意思でここに志願したんです」


「―え?」


「博士と自分たちの利害が一致して、尚且つ目指す目的が一緒だった。
 だから志願したんです」


「そうでしたか…」


「「「…」」」


まりもは全身に強張らせていた筋肉から力を抜いた


「あ~しんみりしてるところ悪いけど、これが来年度207に配属される新兵のリストよ」


三人の間に流れていた空気を見事に壊す夕呼
流石である

リストはまりものほかにタケルと宏一にも渡された


「…あの先生?」


「なぁ~に~?」


「軍曹に渡すのは理解できるのですが、何で俺たちにもなんですか?」


「え?決まってるじゃない。
 あんたたちにも新兵教育やってもらうから」


「「な、なんですと!?」」


「…あら、言わなかったかしら?」


「「一っ言も!」」


(子供とは言っても、やっぱり弄ばれているのね…)


二人揃って肩を落とす
その姿を見ていたまりもは、後頭部に大きな汗マークを作りつつ苦笑しながら二人に同情していた


「…まぁいいですけどね」


タケルは受け取ったリストを見る

A4サイズの用紙に纏められたそのリストは表紙と目次を含めて計7枚
一人分の顔写真と各種データがA4用紙1枚に所狭しと書かれていた

パラリパラリと捲ってゆくと、見知った顔と名前を見付けた


―風間 祷子―


(そう言えば風間少尉は俺たちの一期先輩だったっけ…)


ふと思い出すと、タケルは―今回もよろしくお願いします―と心の中で告げた

一方の宏一は神妙な表情だった
それにタケルが気が付き、小声でしゃべりかける


「(どうした?)」


「(ん? いや、特に何でもないよ…)」


「(…そうか)」


微笑んで答えるが、タケルには大丈夫そうには見えなかった




「では、失礼します!!」


「はいは~い」


まりもが再度見事な敬礼を決め、退室する


「さてと…
 如月、さっきの模擬せ…
 「博士、一点質問が」
 何?」


真剣な眼差しで聞く宏一に夕呼も真顔になる


「ウチがここに来た際、博士は並行世界には自分と同じ存在がいると仰っていましたよね?」


「えぇ、そうよ?」


「その存在は時間的にも並行して存在するのでしょうか?」


「…どういうこと?」


「これです」


宏一は先程受け取ったリストのあるページを開く
其処には一人の少女の顔写真が張られていた


「彼女は今川 葵。
 元の世界でのウチの同級生です」


「それが?」


「ウチが生まれたのは元の世界で西暦1994年…
 つまり、2000年当時はまだ6~7歳です」


「つまり、まだ小学生ぐらいのはずの友人が何故17歳なのか… そういうこと?」


「そうです」


夕呼は顎に手を当てたまましばらく唸り、顔を上げる


「即席の仮説だけど…それでも構わないかしら?」


「構いません」


「ならいいわ。
 …並行世界は自身の行動の選択によって分岐するってのは知ってる?」


「えぇ」


「それをさらに細かくすれば時間も関係してくるわ。
 例えば…」


夕呼は徐にホワイトボードに人間の様な図形を最初に描き、其処から別々の方向に線を引きその先端にそれぞれA,Bと書いた


「ある人物が“A”と“B”という行動の選択に迫られるとすると、この時点で少なくとも2つの並行世界が存在する事となるわ。
 更にそこに時間を混ぜると…」


A,Bそれぞれの水平方向に更に線を伸ばし、それぞれに“一秒前に~”と“一秒後に~”と書きこむ
それらを人間の様な図形と線で結んだ


「それぞれ“一秒前にAをする”“一秒後にAをする”“一秒前にBをする”“一秒後にBをする”といった分岐が発生する。
 だから計6つの並行世界ができるということ …厳密にいえばもっと細かく分けられるけど、そんなもんはキリが無いわ」


「でもそれがいったいどういう関係が…?」


タケルが首をかしげた


「白銀、アンタの数代前の先祖から全員生まれるのが一秒でも早くなれば、アンタが生まれるのも世代分の人数だけ早くなるって事よ」


「なるほど…そうか!」


「…つまり彼女はその条件が幾重にも重なった結果、自分の世界よりも一年早く生まれたという事ですか?」


「そういうことになるわ」


「わかりました。ありがとうございます」


宏一が軽く頭を下げる


「まぁそのくらいは別に良いんだけどね。 でも気に入らないのはこれよ…
 如月、この機能は何なの?」


夕呼がいつの間にか起動していたモニターを示す
モニターには飛鳶が突然何もない空間から浮かび上がってくる映像が流れていた


「あ~、これですか~
 これはECS“不可視モード”…いわば光学迷彩の一種ってとこですかね」


「「光学迷彩~!?」」


「えぇ、光学迷彩…ですけど」


夕呼とタケルの声の大きさに上半身をのけ反らせる宏一


「けどアレって確か実用性が全くないんじゃ…」


「そうなんだけど、これ、実は前の世界やウチの世界の技術じゃないんだ…」


「な、なんだと」


「…飛鳶のAI―確かアルっていったかしら―の世界の技術ね」


「そうなんですよ」


夕呼は冷静に分析する


「でも何でそんな技術が前の世界で実現できたの?」


「実は、アルは前の世界で搭載されていた機体ごと発見されまして…
 ウチの弐型の損傷が激しく予備パーツも殆ど無かったので、ならいっそのこと修理がてらニコイチしようってことになって、結果その機体に搭載されていたECSを戦術機用に改修して丸ごと移植したんです」


「ECSを丸ごとって…じゃあ、あのECSがそうなのか!?」


「うん」


「へぇ~~!
 てっきりお前の元の世界か前の世界の技術だと思ってた」


目をまん丸にして驚くタケル


「喋るAIといい光学迷彩といい… その世界の軍事技術は相当進んでいるようね」


「えぇ、しかし単純な技術力ではこっちの世界の方が上手ですよ?」


「じゃあ何でこっちの世界で確立できないのよ」


「え~と、確かブラックテクノロジーの産物だからだそうです」


「ブラックテクノロジー?」


「簡単にいえば、存在しないはずの技術…オーバーテクノロジーみたいなものかな?」


「そのテクノロジーによって出来たってわけね」


「そうです。
 他にパラジウムリアクターとか常温核融合炉等もあったそうですよ?」


「はぁ…其処まで行くと夢の様な技術ね…
 いったいどうやって習得したのかしら…?」


「さぁ?」


┐(´Д`┌ ←宏一はこんな感じで答えた

まぁいいわ―と言いつつ、夕呼は椅子に座る


「これ以外に何か隠してる事は無いのね? 
 言っておくけど次は容赦しないわよ」


口をやや尖がらし目を光らせて聞く夕呼に、宏一はその気迫に軽く震えていた


「まぁ、有るっちゃあるんですが…」


「何よ?早く言いなさい」


貧乏ゆすりを始める夕呼
宏一のまどろっこしさが相当頭にきているらしい…


「通称“ラムダ・ドライバ”…
 これもアルの元の機体に乗っていた奴をそのまま載せた奴なんですが…
 力場を発生・制御できる“らしい”です。」


「「“らしい”?」」


「えぇ、“らしい”なんです」


「何でよ?」


「…一度も起動に成功した事が無いんです」


「ハァ~? 何その欠陥機能?」


夕呼は口を大きく開きながら唖然とする


「そうなんですよねぇ…
 けど撤去するのも勿体無い気がして出来ないんですよ」


「け、けどよ、それが起動できるようになればスゲェ事なんじゃないか?
 だって力場を発生・制御だぜ?
 つまり無敵ってことじゃねぇか!?」


やや興奮気味のタケル
これがあればML機関なんていらねぇぜ~!!等と一人ではしゃぎ出す


「…アレは放っておいて、故障とかで起動出来ないじゃなくて?」


「一応アルに検査させましたが、問題はありませんでした」


「起動方法は?」


「不明だそうです」


「つっかえないわねぇ~」


「まぁあっちの世界でも相当の駄々っ子だったらしいんで、こればかりは気長に考えるしかなさそうです」


「…そうね。
 起動出来たら必ず連絡しなさい」


「勿論です」


「あぁそれと…」


「?」


「今度読んだ時に飛鳶の“ちゃんとした”設計図も持ってきてね」


「わ、忘れてました…;
 ECSやラムダ・ドライバのもですか?」


「当り前よ」


了解―と返事を返すと霞からもらったコーヒーを宏一は一気に飲み干し、ハイテンションなタケルと共に退室する




「なぁなぁ、宏一?
 そのラムダ・ドライバってのはこっちでも量産できんのか?」


「わからん。
 けど博士ならできると思う。
 …いや、あの人ならやりかねん」


「…それもそうだな。
 けどよ、これさえあればML機関も必要ねぇ訳だから“アイツ”を作る必要も無いってことだろ?
 それに力場発生機能でBETA相手に無双し放題!
 良い事尽くしだぜ!!」


「(アイツとは00ユニットの事かな…?)
 …お前、人の話聞いてた?
 ラムダ・ドライバはまだ起動に成功してないんだってば」


「…へ?」


タケルが浮かれたポーズのまま凍り付き、「ギギギ」と音を立てながら宏一の方を向く


「ソレ、ドウイウコトデスカ?」


「言葉どおりの意味でございます」


ヒュバッ―と風切り音を鳴らし執事の様に腹の前で腕を折りながらお辞儀する宏一

そんな宏一の言葉に、ガクッとorzのポーズの様に腰を落とすタケル
数秒その体制を維持した後立ち上がり、宏一の肩をガシっと掴む


「なんで!?」


「し、知らんがな…
 まぁがんばってみるけどさ」


「頼むよ? 絶対に頼むよ?」


「わかった、わかったって。
 わかったからそんな形相で顔を近づけるな…」


その後しばらくの間、宏一は飛鳶に乗る度にタケルから起動の有無を確認されることになるが、それはまた別のお話…



二人は夕呼の部屋を出ると、真っ直ぐにヴァルキリーズのメンバーが待機しているモニタールームへと向かった
無論午後のシミュレーター訓練の為である

モニタールームに着くと宏一は質問攻めにあう
理由は先程と同じ“ECS不可視モード”についてだった
これを“前の配属先での試験的装備”とやや苦しまぎれに説明すると、一応納得をみせる


(なんだか孝之と慎二の気迫が強かったような気がするなぁ…)


「―以上です。 何か質問はありますか?」


美冴が手を上げる


「その訓練には如月大尉も出るのですか?」


「…だってさ、宏一。 どうする?」


「…」


「…宏一?」


「え?あぁ、うん。 一応出るよ」


「…だそうです」


「了解」


「そうか…なら、その際のポジションをどうするかだな」


う~ん―と唸るみちる


「あ、お前ポジション決まって無いんだっけ?」


「まぁね。中隊に配属されたこともあったけど、定員オーバーだったから基本的に遊撃」


「なら、今回はタケルと一緒に強襲前衛でもいいか?」

「「OKです」」


「良し。
 なら…」


みちるがヴァルキリーズメンバー各々のポジションを決めてゆく
元々決まっていたが、今回はタケルや宏一といったメンバーが追加されたこともあったためである

そもそも午後の訓練と言うのはXM3装備後に普段行っていた基本・応用動作ではなく、ヴォールクデータを用いてでのハイブ侵攻訓練であった
提案者はみちる
現時点でどの程度上達したかを実感するためである

ポジションは暫定的に
突撃前衛:孝之・水月
強襲前衛:タケル・宏一
強襲掃討:沙恵・慎二
迎撃後衛:みちる・遥
制圧支援:静香・美冴
となった


「―では、1400にシミュレータールームに集合とする! 以上、解散!!」


みちるの掛け声でその場は解散となる


「強襲掃討だってよ~慎二ぃ?」


「う~ん、俺お前と一緒の突撃前衛だったからなぁ~
 …正直不安だわ」


「大丈夫よ!
 BETAがいたらぶっ放す。それだけなんだから♪」


不安がる慎二の背中を沙恵が叩きながら励ます


「そういや、遊撃ってどんな内容だったんだ?」


「ん? ホントに字の通りだよ。
 危なそうな所に行って援護、そんでまた危なそうなとこ行って…の繰り返し」


「た、大変だなぁ」


「大変なのは最初の内だけさ」


「へぇ~」


ヴァルキリーズ男四人組はそんな他愛無い会話をしつつ、シミュレータールームへと向かった



―ヴォールクデータハイブ・上層部―


「…ヴァルキリー5(孝之)よりオールヴァルキリーズ。
 振動検知、距離約5000、数約5000」


水月と共に先行していた孝之から連絡が入る


「ヴァルキリー1(みちる)、了解。ヴァルキリー5、良いぞ、戻ってこい。
 『了解』
 全員聞いたな!?お客さんだ!」


「早速かよ…
 旅団規模って、潜り始めてまだ5分と経ってないぞ?」


「文句言うな。
 5分も出てこなかっただけマシさ」


「ヴァルキリー4(美冴)よりヴァルキリー1。
 92(式)はどうします?」


「まだ使うな。初戦で使うのはキツイ」


「了解」 「ヴァルキリー5・7(水月)、合流します。」


「良し。
 全機、楔壱型(アローヘッドワン)!」


「了解」×9


10機の蒼い不知火が一つの陣形をくみ上げてゆく
その陣形は
      沙恵
   宏一
孝之・水月・みちる・涼宮・宗像・美冴
   タケル
      慎二

といった隊形だった


「行くぞ!! 切り込めぇぇぇ」


「「「「「「「「「応!!」」」」」」」」」


BETAの先陣である突撃級の波を飛び越えると、その後ろにいた要撃級や戦車級に向かって18の火線が延びてゆく

放たれた36mmHVAPは次々に突き刺さり、その内部に秘めていた劣化ウランの弾芯を要撃級や戦車級の体内に吐き出す
吐き出された弾芯は貫通し或は体内を自らの持つ衝撃波で体内をズタズタに引き裂いた


「警告! ヴァルキリー2。
 左舷、要塞級。距離100!!」


「ヴァルキリー10(宏一)、知ってるわ!
 …けど、ありがと」


碓氷機が片方の突撃砲を要塞級に向け、発砲
撃ち出された二発の120mmがその顔のような部分を捉え、爆発
体勢を崩した要塞級が周囲の中・小型種を巻き込みながら転倒、沈黙する


「ウラウラウラァ~ッ!!」


「ノリノリだなぁ、慎二ぃ!?」


「結構強襲掃討も楽しいぞ!?」


「弾切れに注意しなさいよ~」


「んなことわかって…
 「どうした?」
 右が弾切れした。
 「ほら、言わんこっちゃ無い」
 …」


UNブルーの不知火は一度も隊形を崩すことなく、僅か数分で自身たちの500倍もの数の敵を只の肉片に変えた


「こ、これがXM3の能力…」


「いいや、“俺たちの実力”さ」


通常のOSの場合、旅団規模の相手に一個中隊に満たない戦術機が立ち向かうのは自殺行為であった
中隊でさえ良くて半数、悪くて全機が敵の胃袋の内容物の一片になってしまうからだ

しかし彼女等は違った

たった10機で旅団規模を…それも無傷で“殲滅”してみせたのだ


「…何ぼさっとしている!気を抜くな! まだ上層だぞ!?」


一種の夢を見ているかのような状態に陥っていた(タケルや宏一を除く)メンバーの耳にみちるの叱咤がつんざく


「りょ、了解」


(全く…
 しかし、いくらシミュレーターとはいえこれ程とは思わなかった。これがもう少し早く開発され…)


一方の叱咤したみちるもある種の興奮を覚え、この場にいる衛士ならだれもが想像するであろうことを想像する


(―いや、よそう)


しかしその想像を故意に打ち消した
彼女等に過去を悔いることは許されないのだ


―中層部―

上層部ではほぼ無敵状態であった彼女等も、中層に達する頃には流石に消耗していた
当初10機あった機影は7機となり、弾薬も3割程消費していたのだ

ハイブ内に赤黒い血飛沫が舞い、肩に07と描いた不知火の目の前の要撃級は長刀の錆となった
しかし、振り切る直前に長刀の刃が欠け落ち、急激に増大した摩擦が頑丈なスーパーカーボン製の刀身に大きなひびを生やす


「ヴァルキリー7よりオールヴァルキリーズ。
 誰か、長刀か36mmをくれない? 120mmでも良いわ」


「ヴァルキリー10よりヴァルキリー7。
 36mmは一本だけなら融通可能。
 …いる?」


「ありがたく頂戴させてもらうわ♪」


ひびの入った長刀を兵装担架に戻した速瀬機は、如月機から差し出された36mmの弾倉を受け取るとそれを直接突撃砲に装填する

本来左手に有るはずの追加装甲は、リアクティヴアーマーによって撃破した要撃級の“最後のイタチっ屁”によって破棄を余儀なくされ、破棄
更に運の悪い事に、この最後の一撃の衝撃によって左のナイフシースが歪み、展開不能になってしまった


「ヴァルキリー9(タケル)よりオールヴァルキリーズ。
 振動検知、距離4500、数約2000」


「ヴァルキリー1、了解。
 全機、オールウェポンズフリー! たかが2000だ、蹴散らすぞ!!
 綾瀬、露払いだ、喰い散らかせ!!」


「Ok,leader!
 Target in range…All look on!
 Valkyrie3(静香)、Fox1、Fox1!!」


綾瀬機の両肩に装備されていた92式多目的自律誘導弾システム(MAMS)から計32本の白煙が立ち昇り、突進してくるBETAにその進路を向ける


――衝撃――


絶妙な角度でのミサイルの直撃と密室効果によって、突進してくる数は2000→1400と大幅に数を減らす


「ヴァルキリー2/6(慎二)、Fox2、Fox2!!」


そこに8門の120mmフレシェット弾による散布角いっぱいの砲撃が加わったことで、その個体数が一気に削られた


「「「ヴァルキリー7/9/10、吶喊!!」」」


三機の不知火が残ったBETAに向けて水平跳躍


「邪魔だぁぁぁ!!」


如月機が左手の長刀で要撃級を二体纏めて横薙ぎにしつつ、右手の突撃砲で戦車級に36mmをばら撒き


「遅ぇんだよ!」


白銀機が連続で三体の要撃級を刺身に


「トロいっ!」


速瀬機が要撃級の一撃をいとも簡単に回避
逆に回避ついでにその白っぽい胴体を横に両断する


三機が連携しBETAを駆逐してゆく中、ガキッという不愉快な音を立てて速瀬機の長刀が折れた


「…ッ!ここで!?」


その事に気を取られ、戦車級が飛びかかりに対応するのが遅れてしまう


「しまっ…
 「頭部機銃!」
 …!!」


頭部が飛び付こうとする戦車級をジッと捉え、二門の20mmが火を噴いた

20mmの弾幕をモロに食らった戦車級が肉片となって速瀬機に降り注ぎ、UNブルーの機体を赤黒く染め上げる


「宏一、ありがと
 「お構いなく」」


礼を述べつつ、もう一方の長刀を装備する水月


「お残し、いっただきぃ♪」


碓氷機が先行した三機に群がろうとする戦車級に36mmの雨を降らせる


「詰めが甘いわよ~、御三方」


「サーセン」


「…(謝られてるはずなのに何故かムカつく)」


碓氷機に続いて平機、みちる機、綾瀬機の順で合流し残党を掃討し始める


「…これで最後!」


慎二が最後の戦車級を肉片に変える


「全機、損害・残弾を知らせ!」


「ヴァルキリー2、損害軽微、されど120mm4発36mm2本」

「ヴァルキリー3、損害なし、残弾120mm5発36mm1本」

「ヴァルキリー6、左舷跳躍ユニットにクラスDの損傷、残弾36mm3本」

「ヴァルキリー7、クラスCの損傷、残弾36mm僅少」

「ヴァルキリー9、損傷軽微、残弾120mm1本36mm2本」

「ヴァルキリー10、損傷軽微、残弾120mm2本36mm2本」


「ヴァルキリー1、了解。
 此方は損傷軽微、36mmが5本だ。
 ヴァルキリー3・7、36mmが一本ずつだが融通は利くぞ?」




「ありがとうございます、大尉」 「助かります」


「「ヴァルキリー9/10、先行する」」


「ヴァルキリー1、了解」


白銀機と如月機が他の不知火を残し先行し、その間に伊隅機が綾瀬機と速瀬機に36mmを渡す

その後、先行した二人を追う様に残りの不知火が隊形を組み水平跳躍した




「ヴァルキリー10よりオールヴァルキリーズ。
 振動検知、距離2300、数10000」


「一万…だと?」


みちるが唸るような声で言う

中層部中盤と、現在位置している地点は反応炉との中間地点

―だが、其処は自分たちが…むしろ、ほとんどの衛士たちが到達した事の無い地点でもあり、そのような地点で発生する事象など予測不可能であった

みちるは今までの経験と知識をフル動員させて対応策を脳内シミュレートする
この間僅か数秒―しかし、戦場ではこの数秒でさえ貴重なものである


「ヴァルキリー9・10は直ちに戻れ。
 全機、円壱型(サークルワン)、S-11を使う。」


「了解」×6


綾瀬機と速瀬機が指定されたポイントにS-11を設置し始める
だが作業に入った途端、他の機のカメラに接近してくるBETAが映った


「…ッツ!!
 全機、綾瀬と速瀬に奴らを近づけさせるなぁ!」


「「「「了解!!」」」」


青く不気味に輝く横抗内に複数のマズルフラッシュが瞬いた



―下層部―

二機の不知火が水平跳躍していた
それぞれの不知火の肩部装甲には09、10と描かれている
しかし、その白く書かれたよく目立つ機番でさえ見分けるのに苦労するほどに、彼らの機体は赤黒く汚れていた


「そろそろ推進剤残量が心細くなるなぁ…
 ここからは戦闘以外は主脚メインで行く?」


「…そうだな。
 さっきの戦闘で大分喰っちまったし」


着地した両機がガシュンガシュンと音を立てながら走り出す


「どうせなら戦闘もなるべく最低限で行かないか?」


「なんでまた」


「弾薬も心細いし、かと言って長刀もそれほど長く持たないしな」


「なるほ…
 じゃあ敵さんは基本無視って方向で」


「OK」


突然の轟音が横抗内に鳴り響く
二人の前方100m程先の“側壁”が崩れ、中から数百の戦車級と十数の要撃級が飛び出す


「っと!ビックリしたぁ。
 偽装横抗とか…またかよ」


「まぁそんだけ反応炉が近いってことでしょ。
 ほんじゃお先!」


如月機が突如ジャンプ
要撃級を踏み台につつ先に進む


「お! それいいな!!」


続いて白銀機も同様に要撃級を踏み台にして進む


「…越えたのは良いが、追っかけてくるぞ?」


「たかが50~60kmだろ? 
 いくら主脚移動だからって追いつかれる事はないさ」


それでいいのかよ―と苦笑しながらタケルがぼやいた




「…流石にこれは…無理?」


「…だな」


彼らの目の前に広がるのは二万弱のBETAからなる広大な“絨毯”…
この光景に二人は唾を飲む


「S-11、使う?」


「反応炉が破壊できなくなるぞ…多分」


「「う~ん」」


気楽に会話しているが、内心は凄く焦っていた
何せその絨毯は時速60km程で自分たちに向かってきているのである

マンダムのポーズで悩んでいた宏一が頭上に豆電球を灯し、閃く


「なるべく中型種を踏み台にして、無理そうなら跳躍しよう!」


「…」


「なんだよ」


「フツーだな」


「言うなよ」


ジト目で反応するタケルに対し、肩を落として答える

不知火に搭載されているFE108-FHI-220に火が入り、18mの巨人を再び宙に舞わせる
再び翼を得た巨人はその巨体からは考えられないように軽々と舞い、中型種を踏み台にまた宙を舞う


「こ、これは意外と難しいな」


要撃級の“頭”を踏みつぶしながら宏一が言う


「出力を絞ればそうでもないぞ…っと!」


白銀機がのろのろと歩く突撃級の甲羅を踏みしめる


「アドバイス、サンキ……ッグゥ!?」


要撃級を踏み台にしようとしていた如月機がその方向ベクトルを下から真横に切り替えて吹っ飛んだ


「なッ…宏一!?」


突然の出来事にタケルは前方を向いた
彼の角膜に深海生物を巨大化させた様な、不気味な生物が三体映る


「こんなときに要塞級かよ!」


普段であれば二人にとって要塞級は強敵でも何でもなかった
しかし、推進剤・弾薬共に消耗し、尚且つこの様な狭い場所においては“最悪の状況”であった

先頭の要塞級の頭部が爆発する


「…行け!タケル!!
 ウチが援護する!」


「ック…了解!」


両足を明後日の方向に向かせ、側壁にもたれかかった状態の如月機から残弾少ない120mmが奮発される…
結果、あっという間に二体の要塞級が巨大な肉塊と化した


「これで看板。
 あとは…」


120mmを撃ち尽くした宏一は視線を前方に戻す
周囲には自身に群がろうとする戦車級や要撃級…


「残念だけど、簡単には喰えないんだな~っ!!」


呑気なことを言いつつ、両手の36mmと頭部の20mmを乱射し始めた
しかし、弾がいつまでも続くわけがなく、弾切れになった隙に一気にBETAに取り付かれてしまう


「…ほんじゃ、ポチとな」


完全に覆い被されたことを確認すると、宏一は自決スイッチを押した



二体の要塞級をやり過ごしたタケルは最後の一体に切迫していた


「コイツさえ抜ければ!」


跳躍ユニットをフルスロットル
前方から触手が迫る


「なんとぉぉぉ!!」


直前まで引きつけた後バレルロールで回避
触手の脇を抜ける


「これで…!」


《警告 推進剤残量0》


「…っへ?」


推進力を失った不知火は一気に高度を落し始めた
急激に接近する地面が視界いっぱいに広がるが、タケルはなんとか着地に成功させる
しかし、着地の際の衝撃によって脚部関節をイカレさせてしまった

《警告脚部関節損傷》

《警告バランサー故障》

《警告照準システムに深刻なダメージ》
《警告……》

次々に警告が表示され、視界が真っ赤になる


「動かない…か」


操縦桿をガチャガチャと動かすが反応は無し
タケルは手詰まりを悟った


「あともうちょっとだったんだけどなぁ~」


頭の後ろに手を組む
衝撃が体を揺さぶり、映っていたハイブ内の映像が消えた



真っ暗な視界にピアティフが映り、演習終了を知らせる
同時にタケルの側面の戸が開き、タケルはシミュレーターから出た


「残念だったなぁ~」



宏一が残念そうに飲み物を渡してくる


「あぁ、まさかあそこで要塞級が出てくるなんて考えてなかったもんなぁ」


タケルはそれを受け取ると、喉を鳴らしながら飲んだ


「ま、良い勉強にはなったな」


「全くです」


蓋を閉めると二人は他のメンバーが待つ待機室に向かった





「ちょっと!!
 アレ、どういうことよ!?」


「ど、どういう事と言われましても…」 「あ、あれって…どの場面?」


待機室に着いた二人にいち早く水月が喰らいつく
余りに唐突なことだったため、二人は一瞬たじろった


「残りがアンタ達だけになった直後の戦闘よ!!」


「「あぁ~、あれの事~」」


ポンと手を叩く二人


「あれの事~…じゃないわよ!
 何なのよあの機動!?」


「別になにも特別な事してませんよ?
 ごく普通の、壁けりを応用した機動ですよ」


「…普通そんなこと思いつく?
 バイブ内で壁けりなんて…」


「逆に思いつきません?
 壁に囲まれてるんだし…」


「「……」」


(柔軟な思考か…私もその思考が欲しいものだ。 …ん?)


タケルと水月が意見を述べ合っている所を眺めていたみちるは、ふと視線をずらす
ずらした先では何やら沙恵が宏一をいじくっていた

「…それ、古いですよ?」


宏一の頬を沙恵の人差し指が押している


「いいじゃない? ただやってみたかっただけよ。
 …うわ~肌柔らか~い」


プ二プ二と更に突つく沙恵


「で、何ですか?」


宏一は少し困った表情をしながら聞いた


「うぅん、別に何も。
 ただ、戸惑ってる顔可愛いなぁ~って思ってね」


「可愛い…ですか」


宏一が大きくため息をついた


「なによ~何か不満?
 可愛いモノを可愛いって言っちゃダメなの~?」


「いや、男なのに可愛いって言われるのはちょっと…ねぇ」


「や~ん、それ可愛すぎる~」


視線をずらし少々頬を赤くして答えた宏一に萌える沙恵
クネクネと体をよじる姿は、さながら黄色い話をしている女子学生であった

はぁ―と頭に手を当てながら、みちるはため息をついた
その原因として、隊全体が緩んだ空気に包まれていたからだ

普段ならば、訓練後すぐさま反省会を兼ねたミーティングを行う
だがいま彼女の眼下に広がるのはそれとは真逆の状況であった

しょうが無いと内心理解しつつも、声を上げた


「貴様ら! いつまでノホホンとしているつもりだ!!
 ミーティングを始めるぞ!!」


「り、了解!!」×9



タケルと宏一を残して隊が全滅した要因である「中層以下での大規模旅団との遭遇戦」への対処をメインに行われたミーティングには、普段の様などんよりとした空気は無かった

活発に意見が飛び交い、その都度検討がなされる

結果、新たなるハイブ内での独自戦闘規定として

・小規模の敵に対しては必要最低限の攻撃だけで対処

・中規模以上の相手でも、なるべく積極的な戦闘は避ける

・中~大型種は行動を止める事を優先し、無理して撃破しなくてもいい

・要撃級、突撃級は踏み台

が決まった
反応炉への早急な到達を目的に作られたものだったが、このヴァルキリーズ独自の規定が後に世界共通のものになるとは誰も想像しなかった


第十話END
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

どうも、なっちょすです
今回はトーク半分戦闘半分です

午前実機訓練、午後シミュレーターってキツイかなぁ~?
まぁ、タケルちゃんとオリキャラなら大丈夫でしょ
なんせチート級だしww」

では、何かありましたら感想掲示板まで~



[30479] 第十一話
Name: なっちょす◆19e4962c ID:3f492d62
Date: 2012/07/16 02:17

第十一話


―3月8日―
――国連軍・横浜基地・地下機密区画・宏一の部屋――


―宏一side―



……暇だ、恐ろしく暇だ


起床ラッパの音ともに起床、朝食を済ませた後に博士にデータを渡して来たウチは、ベットに横になりながら唸っていた


やる事が何も無いって…軍人がこんなに暇で良いのだろうか?
…良いわけ無いよなぁ

やっぱり、軍人たるもの訓練をしなければ!
ほら、SWのもっさんだって言ってたじゃないか


―壱に訓練、弐に訓練、参四五全て訓練!!―


ってね
…まぁ訓練が出来ればしたいんだけど、第一に定期検査でシミュレーターが使えない
だからと言って、実機訓練もここの基地の部隊が演習場を全面的に使ってるからできないし…


ゴロゴロとベットを転がりながら、タブレットに入れていたゲームをプレイする


乱入してみよっかな?
う~ん、洒落にならないか…却下


「うぬぅ~」


とりあえず唸る


「暇がつぶせそうな場所…暇がつぶせそうな場所…」


そして自問自答
端から見れば危ない人だけど、これが閃くにはもってこいの方法なのだからしょうがない



……
…あるじゃん!


早速、ベットに横たわっていた体を起こして部屋を出た

行先は武器庫
暇だったら“射撃”訓練あるのみってね♪




……


「―ではここにサインをお願いします」


武器管理室の女性下士官が一枚の書類を差し出してきた
書類には『火器使用及び射撃場使用許可願』と書かれている


「ほいほ~い♪」


〈…随分と若い大尉ね。何歳なのかしら? ちょっとカワイイ…かも////〉


「これでOK?」


「…え? あぁ、ハイ、OKです。
 ではどうぞ」


カードを受け取って、そこを後にした


…なんか今の受付の人、顔赤かった気がする
風邪かな?


廊下を歩き、とある厳重にロックされた部屋の前で止まった


―第一武器庫―


カードを電子キーにかざすとロックが外れる音がし、扉が開いた

一歩中に足を踏み入れると照明が付く
そして、目の前にはズラ~っと並ぶ銃…
各種類毎に棚が分かれており、PPK等の小型拳銃から九十七式自動砲といったゲテモノまでが揃っている

その中からHK417を探す

理由は簡単、カッコいいし使い易い
そして何より高威力


…お、みっけ!


417を見つけると、各部を一通り確認した後ガンケースに入れてその部屋を出た

今度九十七式撃ってみようかな~と考えながら次に入室したのは弾薬庫
安全管理上、武器庫と弾薬庫は一緒にはできない為に分かれているのだ
そこで各種弾薬を調達した後、ウチは射撃場に向かった


……


射撃場は幾つかの種類に分かれている
訓練生用の10~1000mのシューティングレンジ
訓練生用と同じ、一般兵士訓練用シューティングレンジ
CQBトレーニングセンター …等
基本それらは屋外にあって、地下にあるのは5~10mシューティングレンジ等といった小規模なものだけ

ウチは屋外の10mシューティングレンジにて指定された射座に着くと、早速準備を始めた

ホロサイトを417のレールマウントに、ハンドガード側面及び下部にはレールガードとショートグリップを装着
数発だけ弾を込めた弾倉を装填し、チャージングレハンドルを引いて初弾を薬室に送り込んだ

417を構え10m的に数発試射、サイトを調節する
照準を合わせ終えると安全確認をして射場を移動、CQBトレーニングセンターに向かった


CQBトレセンではオートターゲットのシューティングレンジや室内CQBを想定したビル、タイムラン等のトレーニング施設があり、随時数名の兵士が其処で訓練をしていた


…気のせいかな?
なんだか視線が痛いよ?


(…おい、アレ見ろよ。 ガキがここにいるぞ?)
(しかも417ってww 7,62が扱えるわけねぇだろっての)
(ウィングマーク… 衛士さんがこんなところに何の用なんだ?)
(お、おい、アイツ大尉だぞ!?)
(ホントかよ…ッゲ、ホントだ)


…歓迎されてないみたいです

まぁ確かにガキっぽいよね、体格はさ
けど、精神はもうれっきとした18歳ですよ?
「体は子供。頭脳は高校生」ってね


トレーニングメニューをタイムランにし、射座につく

タイムランはランダムに次々と出てくるターゲットを計100体倒すタイムを計るもので、当然リロードする時間もカウントされる


20連箱型弾倉の417だと最低4回リロードしなきゃならないということになるか
そうなると装備する弾倉は予備も含めて5~6個…


持ってきたMolleベストにオープントップの二本用マガジンポーチを三個装着し、それを着た
ポーチに予備マグを入れ、417に三点スリングをセット
初弾を装填し銃から手を離す


準備OK


…なんかギャラリー多いな~
まぁ別に良いけどさ


両手を上げ、カウントを始めてもらう


―プ・プ・プ…

…来る

―ビー!!


音と同時に両手を一気に下げ、右手でグリップを左手はハンドガードを横から握る様に構える

セレクターをセーフティからセミに


ターゲットが起き上がる


右手、約10m
…インサイト


トリガーを引く
―銃声
――命中音



左手約20度、5m
―銃声
――命中

……

順調にターゲットを倒す
だてにサバゲーやってたわけじゃない
…まぁ部活もだけど


っと、そろそろ20発目じゃないかな
あと―
―2
―1
―0…ハイ弾切れ


ボルトがストップするや否や、ストックを肩からはずしつつ、リリースボタンを押しながら時計周りに右手首を回す

慣性の法則でマガジンが左前方に飛んでいき、同時に左手で予備のマガジンを掴んで素早く装填
ボルトストップも押す

ボルトが前進する音を確認すると再び構えた


…バンッ!!

……


100体目のターゲットを今…

―銃声
――命中音

倒した

終わりの合図のブザーが鳴り響き、銃を肩からはずしたウチは安全確認を始める


…確認完了
タイムの確認っと


「…2分強かぁ」


スピードリロードはもう少し練習する必要があるみたいだった
速い人は平均2~3秒で構えなおせるからだ

ホロサイトの電源を切り、銃を首からぶら下げる
勿論弾倉や弾は入って無い

そして、違うトレーニングを受けようと荷物をまとめて射座から離れようとした
そんな時に一人の兵士に呼び止められた


「大尉殿!」


「ん?何?」


「ッハ!
 先程のタイムラン、自分は感激しました」


呼んだのは一人の女性歩兵だった

…ホント女性多いなぁ~この基地


「別にそんなすごい事でもないよ。練習すれば誰でもできるし」


「!? そ、そうなのでありますか?」


「そうだよ」


「でしたら、その、自分にもそのコツを教えていただけませんでしょうか?
 …あ、いえ、大変失礼しまし…
 「別に良いけど?」
 え?」


「やり方はいたって簡単で…」


そう言いつつ、唖然としている女性兵士の前で空になった予備マグを銃に差す
そして、その兵士にスピードリロードの方法とエイミングの方法(独学)のミニ講義を始めた



…いつの間にかギャラリーと受講生が増えてる気がするなぁ~
まぁ、いいか


――宏一side end―




―国連軍・横浜基地・地下機密区画―

―コンコン

―ガチャ


「宏一~いるかぁ~?」


タケルが宏一の部屋をのぞいた
しかし目の前に広がるのは暗い部屋だけであり、人の気配は全くしない


「いないか…アイツどこ行ったんだ? 純夏、わかるか?」


隣にいた純夏に聞く


「ううん、な~んにも。 知ってたらタケルちゃんにすぐ言うもん」


「だよな~」


うーんと唸る二人
二人はこの休日を帝都への買い物に使おうと考え「ついでに宏一も」と思い付き、今に至ったのだ

二人のいる廊下にハイヒールがコンクリ製の床を叩く独特の音が響く
二人が音のする方向を見ると、白衣姿の夕呼が近付いているところだった


「あ、白銀。
 如月は今大丈夫かしら?」


「先生、それが部屋にいないんですよ。
 一体どこへ行ったのやら」


「あら?
 如月も今日はオフのはずよ?」


「そのはずなんですけどねぇ」


「香月副指令はどうしたんですか?」


「私はアイツがくれたデータについて、ちょっと聞きたい事があったのよ」


「それじゃどうします?」


「ピアティフに確認するわ。
 ちょっと待ってなさい」


そう言い放つと、夕呼は近くに壁に設置されていた通信機の受話器を取った


「…ピアティフ? 私よ。
 えぇ、ちょっと確認してもらいたい事があるのだけど… 如月の現在位置はわかるかしら?
 ……わかったわ、ありがと」


ガチャンと受話器を掛け、二人の元に戻る


「屋外射撃場のCQBトレーニングセンターだそうよ?」


「なんだってまぁそんなところに…?」


「さぁね? じゃ、行くわよ」





三人がその後、CQBトレーニングセンターで宏一を見付けるのにはそう時間はかからなかった
理由は簡単

―人ゴミが宏一の周りに出来ていたから―

だ…


「何やってんだ宏一?」


兵士と兵士の間を掻き分けて近づいたタケルが呆れて聞く


「ん?
 片腕負傷時の銃のリロード方法」


左腕をダランと垂らし、両太腿に挟みこんだ銃にマガジンを差し込んでいた宏一が答えた


「そうじゃなくて…
 せっかくのオフに何やってんだってこと」


あきれるタケル


「―ボルトキャッチの付いてない銃は、この時の挟んだ状態でボルトを引く事。その方が圧倒的に楽だし、早いよ。
  いやぁ~ウチも暇でねぇ。 とりあえず射撃訓練でもしますかって思ってさ。
 ―そうそう、挟む時にフラッシュハイダーや銃身に注意する事。意外に熱くなってるから。
  そんで、そう言うお前も何でこんなところに?」


「動作説明と質疑応答を同時にすんなw!
 純夏と帝都行こうと思ったからさ。 お前もどうかなって」


苦笑しながら答えるタケル
その背後に夕呼が来た
夕呼の姿を見た兵士たちは一斉に背筋を伸ばし敬礼
そんな姿を見た夕呼は嫌そうな顔をしながら楽にするように命じる


「…まったく、アンタも物好きねぇ。
 衛士なんて殆ど白兵戦なんてやらないでしょうに…」


「いや、そうでもないですよ?
 事実、何度か小型種と白兵戦やった事ありますし」


「どこで?」


「基地でです」


「「…」」


「まぁいいわ。
 …所でアンタ、やけに大口径の銃使うのね」


夕呼が首からぶら下げている417を見て言う


「まぁ、このくらいじゃないと小型種言えど簡単に倒せませんからね。
 TARも良い銃なんですが、いかんせん5.56mmじゃあ…ねぇ」


「へぇ~詳しいのね」


「こういったのは好きでしたから。
 まぁ殆ど趣味のレベルでですが」


「じゃあ拳銃とかの扱いもできるわけ?」


「人並みには」


「やってみて」


「了解」


宏一は再び射座に就くと、レッグホルスターのMk23を抜きセーフティーを解除
初弾を装填する


「曹長、的は20体でお願いします。」


「了解」


先程と同様に銃をホルスターに差し直すと両手を挙げた


「始めっ!!」


ブザーが鳴り、的が立ち上がる


Mk23を引き抜き両手で構えた宏一は、それらをいとも簡単に倒してゆく

結果、リロードを一回挟んで瞬く間にに20体の的を倒した

最後の的が倒れた事を確認した宏一は、マガジンを軽く引き出した状態でスライドを引いて薬室内を空に
スライドを戻しマガジンを入れ直すと、再びホルスターに納めた


「まぁ、こんなもんですかね」


「上手いじゃない。
 是非とも教えていただきたいものね」


タケルを横目に見ながら夕呼が言う
一方のタケルは前の世界にて自分が言った言葉を思い出し、ちょっぴりその事を後悔していたりした


「わかりました。今度女性でも簡単に当てられる方法をお教えしますね。
 …それで博士もなんでこんなところに?」


「アンタに貰ったデータについての質問があったのだけど…
 まぁ、其処まで重要でも無いから、別に夜でもいいわ」


「はぁ…」


「で、どうする、宏一?
 来るか?」


「勿論!」


宏一は其処で待ち合わせの約束をすると、後始末と支度の為一旦三人と別れた





―10分後―
――基地正門前―


「スマンね~待たせて」


私服姿のタケルと純夏の元に宏一が駆け寄る


「いいや、其処まで待たなかったぞ…って、なんで学ラン?」


「ん?
 これしか持ってないからさ。丁度私服が欲しいと思っててね」


「ふ~ん」


タケルは興味なさそうに答える


「で、何で行くの?」


「バスだよ~」


「バス!?」


純夏からの予想外の返事に宏一は驚いた


「バス走ってるの!?
 こんなところに?」


「一応。
 まぁ軍の基地から帝都までの直通便だけどな」


「なるほど…」


へぇ~と宏一が珍しそうにしていると、一台のバスが近づき、三人の前で止まる
三人はそれに乗り込んだ


「帝都まではどれ位なの?」


「ん~と、大体1時間位かなぁ」


「あら近い」


「まぁね…ここら辺、何も無いから早いんだ…」


「…スマン」


「「「……」」」


その後、暗くなった空気はタケルの自虐ネタで和らげる事に成

話題はタケルと純夏の思い出話となり、一時間はあっという間に過ぎて行った


……


―帝都・帝都駅前―


「ここが帝都かぁ~」


視界いっぱいに広がる帝都を見て宏一が言う


(元の世界の東京、そのまんまだな)


「あんまり時間無いから早く行こーぜ」


「お?おう!」


三人は路面電車を乗り継いで、とある商店街へと来た


「ここならいろいろ揃ってるだろ」


「ウチのは最後で良いや。
 最初にタケル達の買い物を済ませよう」


「ん?
 俺らもどっちにしろ服屋がメインだから、一緒だぞ?」


「あ、そうなんだ」


考えてみりゃそうかもね―と宏一は頭の中で納得する


「そうだよ~
 じゃあ最初は私からでもいいよね?」


「何でそうなんだよ」


「えー!? だって宏一君だって良いって言ってたじゃん!!」


「お前の買い物はいちいち時間がかかり過ぎるんだ!
 …というわけでまずは飯からな」


「タケルちゃんだって時間かか…
 「其処の飯屋美味いんだってさ」「へ~」
 って無視するな~置いてくな~!!」


プンすかと頬を膨らませ、純夏は二人の後を追っていった


三人はある大通りからは一歩離れた裏通りの小さな定食屋に入る


「いらっしゃい!!
 三名だね、ちょっと待ってな」


三人がお店に入ると威勢のいい女将が対応する


「…すまないねぇ、生憎4人席が開いていないんだ」


「「え~」」「あら~」


「相席で良いならあるけど…どうするかい?」


「ウチは全然」


「俺もok」


「私も良いよ~」


「なら決まりだね!
 席は其処だよ」


女将の示す席には三人の女性が座っていた


「相席失礼しま…って、伊隅大尉に碓氷大尉、それに綾瀬中尉!?」


「ん?
 あぁ、相席とは貴様たちだったのか…」


「やっほー、純夏ちゃん!」「こんにちは、鑑さん」


「あ、沙恵さんに静香さん!
 おじゃましまーす☆」


四人席に二人席を合わせ、其処に三人が加わった


「それにしてもなぜ三人が此方に?」


宏一が不思議そうに聞く


「ん?
 私が連れてきた」


その疑問にみちるが答えた


「伊隅大尉が…ですか?」


「あぁ、ここは私のお気に入りの店でな、この二人をいつか連れて来ようと思ってたんだ」


「なるほど~」


「それより私はお前達が知っていた事の方が驚きだ」


「タケルがここは美味しいって言ってまして…」


「ほう… 白銀、お前はここに来た事があるのか?」


「い、いえ!一度も無いッス。
 ただ知り合いから聞いただけでして」


「そうか…」


(う、嘘は言って無いぞ!?)


タケルが内心汗だくでいると、若い女性店員が注文を取りに来る


「ご注文はお決まりになりましたか?」


「日替わり六つで」


「「「「「…っえ!?」」」」」


「畏まりました、日替わり六つですね。
 少々お待ちください」


店員が厨房に注文を届けに向かってゆく


「「大尉…?」」


「伊隅大尉…俺たちまだ…」


「ここのお勧めは日替わりだ。何、いっぺん騙されたと思って食べてみろ」


「「「「「は、はぁ…」」」」」


……

「「「美味かったぁー!!」」」「美味しかったー!」


「御馳走様でした」


「フッ、私の言ったとおりだっただろ?」


「「「はいっ!!」」」


「それだけならともかく、まさか奢っていただけるとは…」


「綾瀬、後輩の面倒をみるのは先輩の仕事だ。
 これ位なら別にかまわんさ」


「やっぱり隊長は気前が違うなぁ~」


「碓氷、お前もいつか部下に奢る羽目になるぞ?」


「っげ、それだけは勘弁で」


沙恵の言葉に一同に笑みがこぼれた


「…で、これから君達はどうすんの?」


「あ、話題変えた」


「うっさい!」


「あ~俺達はこのまま服でも買いに行こうかと。
特に宏一なんて、私服これだけですよ?」


タケルが学ラン姿の宏一の事を親指で差す
それを見た女性三人組は「それはヒドイ」と苦笑する


「まぁそれぐらいですかね」


「伊隅さんはどうするのですか?」


「ん~これといって決まっていないんだ。
 …もしよければ同行しても構わないか?」


「私は構わないですけど…タケルちゃん達は?」


「「ノープロブレム」」


「―だそうです」


「そうか、なら御一緒させてもらうとしよう」


「沙恵さん達はどうします?」


「私も特に予定は無いからね~」


「私も特段には…」


「なら一緒に行きません!?」


「「いいの?/ですか?」」


「うん!」


((え゛っ!?))


商店街へと出た四人は大型洋服店へと向かい、そのあとを男勢二人が追いかける


(こうも女性が多い状況で服屋は…)


(確実に…)」


((ヤバい気がする))


二人が“ある事”を危惧するが、事はすぐに現実のものとなった


「鑑、これは私に似合うだろうか?」


「伊隅さんカワイイ!!」


「そ…そうか…////」


「沙恵さん、これはどうでしょうか?」


「う~んちょっと地味かな~
 静香にはこっちが似合うと思うよ」


「え?こんな派手なのはちょっと…」


「い~から、い~から。 ちょっと着てみ」


「で、でも~」


「「……」」


目の前で繰り広げられるやや黄色い世界…
男勢二人はただそれを「やはりな」と仏顔で見ているしかなかった


「ねぇねぇ、これ見て!!」


「ん? …っな!?」


「おお~」


「沙恵さ~ん、恥ずかしいからやめてください~」


「いや、似合ってるぞ?綾瀬」


「うんうん!!」


「でも、恥ずかしい…です」


キャッキャッとはしゃぐ女性陣…
痺れを切らしたタケルが男性服の方へ向かった


「あ、おい、タケル!
 どうすんだ?」


「あの様子じゃ確実に時間がかかる…故に、そんなのを待ってたら俺らの服を買う時間が無くなっちまう。
 だから今の内に俺らの服だけでも買っとこうぜ」


振り返り、女性陣の方を窺う宏一


「…だね」


「だろ?
 じゃ、行こうぜ」





「ごめんねタケルちゃん。予想以上に時間掛かちゃった~
 …って、あれ?タケルちゃん?」


両手に大量の紙袋を抱えた純夏が二人が居た場所にやってくる
しかし二人が居ない事に気が付くとあたりをキョロキョロと見回した


「純夏ぁ~って宏一達は?」


遅れてみちる・沙恵・静香の三人がやってくる
彼女等の両手にも紙袋が握られていた


「それがいないんです。 怒って帰っちゃったのかな…」


「おおかた男性服の方に行ったのだろう。
 流石に遣り過ぎたようだな…」


「そう言えば、宏一君私服無いって言ってたねぇ」


「なら見に行ってみましょう」





「これどうかな」


「ん~いまいち。
 これは?」


「微妙だなぁ~」


「「う~ん」」


一方の男勢二人はたがいに良いと思った服を見せ合っていた
だが、二人ともファッションに疎かった為か、どれもいまいちな物ばかりで素直に「イイッ!!」と思えなかった


「なんか全般的に今一歩な物ばっか」


「あぁ…
 まぁファッションとかに力を注げないからな。しょうがないと言っちゃしょうがないよな」


そこで二人はファッションセンスの無さを服のせいにする
何ともセコイ二人である


「ん~ ここは昔流行ったファッションで行くか」


「どんな?」


「レイヤード」


「…まぁアリなんじゃない?」


「ならこの二つと…」


「いた~~~~!!」


宏一が服を選んでいると、そのフロアに純夏の声が響いた


「「ん?」」


タケル等が声のした方に顔を向けると、純夏が全力疾走で走ってきていた

そしてタケルの目の前で急停止すると、その勢いのままタケルの腹にレバーブローをお見舞いする
一方レバーブローを喰らったタケルは、格闘系アニメよろしく喰らったそのままのポーズで吹き飛び、たまたまあった椅子に衝突
宙を舞った


「タケルちゃ~ん。私待っててって言ったよね~?」


黒い笑顔でタケルに近寄ってく純夏
しかしタケルもやられてばかりでも無かった


「…ッテ~
 いきなり何すんじゃ!!」


懐からビニールスリッパが炸裂し、純夏が打ち倒される


「時間かかり過ぎなんだよ!」


「うるさ~い!
 タケルちゃんだって…」


そんなこんだで始まった“いつもの”光景をよそに、宏一に沙恵が話しかける


「宏一、もう半袖なんて買うの?」


「え? あぁこれはこの様に着ようかな~っと思いまして…」


両手に持っていた服を合わせ、レイヤードっぽく見せる


「変ですかね?」


「…」


「あの~?」


「革新だわ」


「っへ?」


真剣な眼差しで沙恵が言う


「それ良い組み合わせね!! 私も今度やってみるわ!」


「え?あぁ、ハイ…(レイヤードが無いのかよ!!)」


宏一は軽いカルチャーショックを受けつつも、三人に協力してもらって服選びを再開した





買い物を済ませて六人が店から出ると、陽は丁度夕日となり、空が青と橙の二色で染め上げられていた


「♪~」


鼻歌が五人の耳に入る


「なに歌ってんだ純夏?」


タケルが目の前をルンルン拍子で歩く純夏に聞いた


純夏が振り返る


「うぅん、なんでもないよ」


「そか」


「ただね、こうやってみんなと一緒に楽しく過ごせる…こんな日がずっと続けばいいなぁって思ったの!!」


夕日に体を重ならせながら答えた純夏の顔は、タケルが一番好きな満面の笑みを浮かべていた…


第十一話END
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


こんにちは!
なっちょすです


クロニクルズ3出ましたね
なんだかすごい展開になりましたね~
プロローグが不安になってきましたよ?
そして相変わらず腹筋破壊させるサイドストーリー(?)でしたね
あのキャラいいわ~w
出したいわ~

では、何かありましたら感想掲示板まで!!



[30479] 第十二話
Name: なっちょす◆19e4962c ID:da4f00ad
Date: 2012/07/16 02:18
―4月―
――国連軍・横浜基地・二階・207教室――


「起りーつ…敬礼!!
 着せーき」


「新兵諸君、ようこそ横浜基地へ!
 私はこれから貴様達の教官となる、神宮司 まりも軍曹だ!
 
最初に、女とは言え私の指導は並大抵ではないと自負している。
 故に生半可な気持ちでうける奴には地獄が待ち受けているだろう。
しかし、それらは必ず貴様たちの為を思っての事である!!
 
私の指導を受けるにあたっての規則はただ一つ。
 妥協は許さん!!
 そんな軟弱な考えとは、今ここで袂を別て!!
別てなかった奴は容赦なく切り捨てる!
 心して構えろ!!

 …私からの個人的な事は以上だ。
 これから今後についてを説明する…」


教室につい先ほど入隊式を終えた新兵の声が響き、それを打ち消すようにまりもの声が響いた


「うは~まりもちゃん張り切ってんなぁ~」


「まぁ何事も最初のインパクトが重要だというからね~
 こんなもんじゃない?」


外で待機していたタケルと宏一がちょっとビビっていた


「でも俺らってさ、実質いる意味無くね?」


タケルが今回決まった特別講師としての役について愚痴をこぼす


「良いじゃん、別に。
 ウチらの技術を新兵が吸収できれば、その分生存率が上がるってことだろ?
 だったらちょっとしか関与しなくても、ウチは全身全霊で指導するよ」


「うわぁ…お前、ぜってースパルタ教育する気だろ」


「さぁ?」


黒い笑みを浮かべながら「…じいちゃん直伝のスパルタ教育、きっついぞぉ~」とブツブツつぶやく宏一を見て、タケルは軽く引く


その時ガラリと音を立てて教室の戸が開いた


「白銀大尉、如月大尉、お願いします」


ひょっこりと顔を出すまりもが二人を呼ぶ


「了か~い」


二人がまりもに連れられて教室に入った

中にいた5名の訓練生が起立し敬礼、まりもの声で着席する


「このお二方は、今回特別に貴様等の特別講師を担当する事になった白銀大尉と如月大尉だ。
 普段は特殊任務に就いていらっしゃる為、常時貴様等の指導を行える訳ではない。
 故に、指導に当たってもらう以上、全身全霊で挑むように!!」


「了解!!」×5


「では、大尉…
 出来れば自己紹介を」


まりもが一歩下がり、タケルが教壇に登った


「今、神宮司軍曹から紹介があった通り、今回特別に君達の指導を行う事になった白銀 武大尉だ。
 俺はあまりかたっ苦しいのは嫌いだから、訓練時以外、例えば休日とかは敬礼は要らないからな。
 出来れば“タケル”と気安く読んでくれるとありがたい」


タケルの自己紹介に唖然とするまりも
一方の訓練生はポカンとしていたが、タケルに対しての印象は悪くはならなかった

タケルと入れ替わりに宏一が教壇に立つ


「あ~、紹介にあった通り、今回君達の指導を行う事になったもう一方の方の如月 宏一大尉です。
 ウチもタケルと同様、堅苦しいのは嫌いなので指導時以外の時は“宏一”とか“如月”とか呼び捨てでOKです。
 てかそうしてください。

 戦闘技術とかそっちの方がウチは専門なので、指導内容もそう言った事が多くなると思います。
 あ、そうそう、勿論ウチも軍曹に負けない位の“指導”を行うつもりだから、覚悟するよーに…
 ナメて掛かってきたら…わかるよね?
 まぁこんなとこかな、以上!!」


宏一の紹介でも先程と同様唖然とするまりも
訓練生は、笑顔でさり気無く警告する宏一に対し“この人怒らせちゃヤバい”と直感で悟った


…後日、彼らは宏一がガチ切れしたところを目撃した際に“キレなくて良かった”と安堵する事になるのだが、それはまた別のお話




二人の自己紹介が終わると、まりもは訓練生たちを解散させる
訓練生たちは互いに出身地などの話をしながら退室していった

誰もいなくなった事を確認すると、タケルと宏一は互いに談笑を始める
しかし、その後ろでプルプルと小刻みに震えていたまりもが介入してきた


「白銀大尉、如月大尉!!
 何なのですか!? 先程の自己紹介は!!」


プンスカと怒りながら言うまりも
頬にうっすらと赤みを帯びて怒る様に、二人は和んでいた


「別に良いじゃないすか~まりもちゃん。
 まりもちゃんだって年上の人に敬語で話されるのは嫌でしょ?」


「白銀大尉、しかし其れでは軍規が…」


「障子と規律は破くためにある!!」


「「!?」」


「「「…………」」」


「…あれ?
 もしかして、今ウチ滑った?」


「…盛大にな」


orzと落ち込む宏一
そんな姿を後目にタケルは言葉を続けた


「…ともかく、俺は年上に敬語使われるのは性に合わないから、これで良いんです。
 ちゃんと場所さえ弁えてくれれば…ですけど」


「大尉…」


「だから、まりもちゃんも俺のことは“白銀”とか“タケル”で呼んで下さいよ~
 何かまりもちゃんに“白銀大尉”とか敬語で話されると、どうも背中が痒くって…」


背中をかくフリをするタケル
そんな姿を見たまりもは、クスッと笑った


「ダメです、大尉。
 大尉にも性分があるように、これが私の性分ですから」


微笑みながら言ったまりもに、タケルは「この笑顔には敵わないなぁ」と苦笑した


「…で、いつまでタケルは恋愛原子核を爆発させているのかな?」


「「っ!?」」


二人が振り向くと、宏一がジト目にニヤケ顔という如何にも怪しい表情で二人を見ていた


「き、如月大尉…」「お、おま…」


「いやはや、しかしまぁ真っ昼間からお熱いことで…
 全く、タケル、お前には鑑という幼なじみがいるというのになぁ」


「だー!!
 何をおまえは勘違いしてんだ!」


タケルが反論するが、宏一のターンは終わらない


「まぁ、ウチは別に目の前でイチャイチャされようが何してようが構わないけど~
 これを博士が知ったら…どうなることやら」


このセリフに二人は一瞬顔面を蒼白にさせた後―まりもだけデフォメ時のアウアウ顔で―「それだけは止めて!!」と息を合わせて懇願する

…二人には宏一のニヤケ顔が悪魔の様に思えてきていた


「ま、別にウチは口が堅いんで言ったりはしませんがぁ~
 本人が直接見聞きしたら…どうしようもないよね☆?」


物凄く爽やかな笑顔を浮かべる宏一

一方の二人はプルプルと小刻みに震えながら恐る恐る後ろを振り返った
…しかし、最早この後の展開が予想出来ている為か、まりもは涙目である


「さっすが白銀、恋愛原子核の名は伊達じゃないわねぇ~
 そのまま まりもの事ベットに押し倒しても良いわよ?
 むしろ押し倒しなさい」


「ちょ、ちょっと夕呼!?」

目幅いっぱいの涙を流しながらうなだれるまりも
タケルも同様に涙を流ししつつ、明後日の方向を向きながら空笑いをしていた


「…で、何でまた博士がこんな所に?」


「ん? …そうそう!!
 如月、ハイコレ」


「何ですか、コレ?」


夕呼から手渡された書類を宏一はパラパラと捲る


「アンタの機体の整備記録と改修案。
 飛鳶の製造は相当の突貫工事だったみたいね…所々だけど、規定強度を大幅に下回ってるパーツがあるそうよ?
 だからその回収についての報告書ってことらしいわ。

 …これとは別口なのだけど、確か飛鳶って電磁収縮炭素帯の代わりに人工筋肉使ってたわよね?」


「ん~厳密には、電磁収縮炭素帯を人間に筋肉の様に組み合わせただけですけど…
 それがどうかしましたか?」


「あら、そういえばそうだったわね…まぁ良いわ。

 私の研究の延長線上で、従来の義体用人工筋肉よりも強度とか敏捷性とか収縮性とかが大幅に向上したものが完成したの。
 計算上では、大型化すれば戦術機にも使用可能よ。
 基が義体用だから、電磁収縮炭素帯よりも全ての性能面で勝ってるわ。 正に飛鳶向きじゃない?」


「ん~でも費用とか整備性がバカにならないんじゃないでしょうか?
 ウチの機体に施すという事は、タケルの機体にも施すって事になるのでしょうし…」


「その点は気にしなくて良いわ。
 で、どうするの?」


「う~ん…」


宏一は悩んだ
飛鳶という信頼性に置いて不安の残る機体を使っているものの、だからと言って実戦証明されていない装備を気軽く使える訳ではなかったからだ

悩みに悩んだ結果、一つの案を出す


「とりあえずウチの飛鳶だけに装備してください。
 後日稼働させてみて、外すか外さないかを決めます」


「わかったわ。
 それじゃあ白銀、まりもの件よろしくね~」


ヒラヒラと手を振り、オホホホホと笑い声を上げながら夕呼は去っていった


「なんという悪女…」


宏一がぼそりとつぶやく


「ま、先生だからな。
 …まりもちゃん、大丈夫?」


いち早く復帰したタケルが未だに壁に寄りかかっているまりもの心配をする


「また夕呼に弄られる要因を握られてしまったの…
 もう嫌なのよ~コスプレするのは~」


((コスプレ!?))


―果たしてこの世界でのコスプレとは何なのだろう…?―
タケルと宏一は同様の疑問を抱いたが、ズンズンとネガティブ思考に落ちて行くまりもを見て、流石に聞く気になれなかった





―同基地・訓練兵兵舎―


「今日から国連軍人かぁ」


届けられていた荷物をベットに置き、葵は呟いた


「まだ“訓練兵”だけどね」


二段ベットの上で手足を伸ばしている、ワインレッドの髪を肩まで伸ばした少女が言葉を付けたした


「うっさい!
 …え~と、なんだっけ?」


葵は相手の名前を叫ぼうとしたが、名前がわからなかった


「そう言えば自己紹介、まだだったわね。
 アタシの名前は豊川 春華。
 春華で良いわ」


先程言葉を付けたした少女―春華が名乗る


「私は今川 葵。
 好きに呼んでいいわ」


葵は春華と同様に肩まで伸ばした藍色の髪を揺らしつつ春華と握手を交わした


「…さてと。
 あたしらはしたし、みんなも自己紹介しようや!!」


春華が提案する
それに葵も賛同すると、濃緑の長髪少女が答えた


「わ、私の名前は風間 祷子といいます。
 皆さん、是非とも祷子と呼んでください」


祷子が弱弱しく恥ずかしそうに言う


「ふ~ん…祷子か、よろしくな!!
 それで祷子…
 早速質問で悪いんだけど、そのケース何?」


春華が祷子の足元に置いてあったケースを指差して聞いた


「あ、これは私物のバイオリンです。
 趣味で弾いておりまして、多少でありますが数曲弾けます」


一同「へ~」


「そんでアンタは?」


次に春華が指差して聞いたのは黒髪の長髪少女…
指名された瞬間にビクッと大きく反応する


「わわわ、私は春原 有希とい言います!
 「落ちつけ落ち着け」
 ははは、はい!
 本当は帝国軍に志願したのですけど、なな何故か国連軍から採用届けがきまして、今に至りますぅ」


「めっちゃ緊張しとるな~」


「もう少し落ち着きなさいよ」


「めめめ、面目ありません!!」


ガバッと上半身を全屈させて謝る有希…
その際、おでこを二段ベットの支柱にぶつけるのはお約束である


「で、そこでコソコソしている君は?」


葵が部屋の隅にいたショートヘヤーの人物を見た


「ぼ、僕の名前は羽沢 俊也といいます。
 特技とかは特に何も…」


「ぼく…?」


「えぇ…ハイ


「えーっ!!」×4


四人の驚愕の声が響いた


「っひ」


俊也は涙目になって驚く


「あ、アンタ男だったの?」


春華がポカンとしながら聞いた


「は、はい、男です」


「てっきり女の子だと思ってた…」


「私もです」


「はわわわ~」


「えぇ~!?」


周囲からの驚きの声に、俊也はorzと落ち込んでしまった


「まぁ羽沢は完全に予想外だったけど…あの特別講師も予想外だったね。
 私、もうちょっと厳つい人かと思ってた」


「そうそう!!
 二人とも若かったな!」


「如月大尉なんて私達よりも年下に見えました」


キャッキャッと会話が弾む
やがて会話の内容は女子高生よろしく恋バナとなり、ここでも女性関係に疎かった羽沢は弄られ落ち込むこととなる

そんな時、不意に戸をノック音が響くと宏一が入ってきた
5人は会話のネタにしていた為に、かなり驚く


「け、けいr…
 「敬礼は不要だよ~」
 は、はぁ…」

5人が敬礼しようとしたが、宏一はそれを止めさせる


「今は君たちの自由時間。
 それに割り込んできたのはウチの方だから、する必要はないよ」


「はいっ!!」×5


ビシッと敬礼する5人
宏一は「だからいらないって」と苦笑しながら言った


「それで大尉はなんのご用で…」


葵が聞く


「あ~、うん。
 羽沢の事についてなんだけど…
 此処では基本的に性別は関係無いので、みんなと一緒にこの部屋で寝泊まりしてね~
 「え…?」
 それと…
 神宮司軍曹からで、この後この基地の簡単な案内をするから先程の教室に1100に集合だってさ」


「了解」×5


「何か質問ある?
 わかる範囲でなら答えられるよ」


この宏一のセリフに俊也が手を挙げた


「ぼ、僕もここで寝泊まりするんですか?
 「Yes」
 その、僕と女性のみなさんが一緒の部屋は…」


「まぁさっきも説明したとおり、この基地では基本的に性別が違うからと言って訓練生を別々の部屋に分けることは無いんだ。
 勿論人数が多ければ話は別だけど、今回男は羽沢の只一人…
 それに事前調査から羽沢の性格なら“変な間違い”を自ら起こすことはないって判断からこのような部屋割りになった訳よ。

 それに前線なんて就寝場所はおろか、風呂・トイレも一緒の場所で、風呂に限っては狭い場所で同じ時間に一緒に入らなきゃならないなんて事もあるから贅沢は言えないんだぞ~?
ま、その時のための訓練だと思ってね」


「はい…了解しました」


ショボーンと落ち込む俊也
まさに(´・ω・`)の顔になる


「そんじゃね~
 明日から頑張ろう!!」


宏一が手を振って出て行く
はぁぁぁ~と俊也が力無く崩れ、うなだれた


「ま、まぁこういう日もあるって…
 べ、別に私は気にしないよ?」


葵が肩を叩きながら励ます


「アタシも気にしないな。
 むしろアタシでヌいても良いんだよ~」


自分の胸を引き寄せ、腰をくねらせる春華
しかし、御世辞にも大きいとはあまり言えない胸を引き寄せていたので、春華は周囲から逆に同情の肩たたきをもらってしまう


「何でアタシ?」


「…そのうち大きくなるわよ」


「え…?
 って、違ぁぁぁう!!」


葵の言葉でようやく周囲からの視線に気が付いた春華が顔を真っ赤にしながら反論する
が、逆にその行為は余計に生温かい同情の視線を増やすだけだった


「だから違うっての!!」


「まぁまぁ…」


女性陣が盛り上がっている中、取り残された人物は悩んでいた


「…僕、どこで寝ればいいんですか?」


5人部屋にもかかわらず4人分しか無いベットを見て、次第にいちいち悩む事がどーでも良くなる俊也だった





―数時間後―
――同基地・シミュレータールーム――
―――廃墟(都市)―――


『新しいBETAの増援、浮上まで―4!
 ―3!
 ―2!
 ―1!
 ―来るよ!!』


轟音と共に地面が噴き上がり、その付近の廃墟ビルを倒壊させる
ぽっかりと空いた穴からは噴き上がった土やコンクリの破片の落下を待たずに突撃級が最大速度でわき出す


「待ってました!」


タケルはそう言い放ちつつ、120mmを数発、突撃級の先頭少し前に向けて放った
着弾した120mmの砲弾が炸裂し、その爆風で先陣を務めていた数匹の突撃級が吹き上げられて行動不能となり、その巨体に次々と後続がぶつかってゆく


「燃え上が~れ♪
 燃え上が~れ♪
 燃え上が~れ、ベェタァ~♪」


宏一の不知火が脇のビルを飛び越え、動きの止まった突撃級に向けて120mmを乱射…
付近一帯が爆炎に包まれ、その場にいた突撃級は着火したナパーム剤によって焼かれ始めた


『突撃級のせん滅を確認。
 後は要撃級だけだよ!』


「わかったぜ!!」「ほいほ~い」


燃え盛る突撃級の残骸を飛び越え二機の不知火が突撃級の出現口に向かう

二機が到着すると既にそこは要撃級と戦車級で溢れ返っており、白と赤の斑模様が出来あがっていた


「はーっはっはっはっ!!
 いいか!?
 逃げる奴はBETAだ!
 逃げない奴は良く訓練されたBETAだ!
 さぁ、BETAのバーベーキューだぜぇい!!」


ハイテンションの宏一が両手に抱える87式の120mmを全弾放つ
連鎖的に着弾し炸裂した120mmは先程と同様に付近一帯を爆炎に包み込み、その範囲内のBETAが燃え上がらせる


「うわぁ…
 お前、大丈夫か?」


そんな宏一の姿を見てか、タケルは残党を掃討しつつやや引いた表情で宏一を見た


「…コンバットハイになった兵士を演じてみました。
 どうだった?」


「…おまえな」


「これも鑑の訓練だよ。
 コンバットハイになった兵士を、どう落ち着かせるか…
 まぁ今回は何もしなかったけどね」


『え?
 今までのって演技だったんですかぁ~!?』


キョトンとした表情だった純夏が驚愕しながら聞いた


「そだよ。
 中々迫真だったろ~?」


タケル同様に残存BETAに36mmを放ちつつ、宏一が笑いながら返した


『全然気が付きませんでした~』


「やり過ぎだ、ボケ」


「やり過ぎくらいがちょうどいい(キリッ」


「ドヤるな!!」





『―今の戦車級で最後です。
 当選域内の全てのBETAのせん滅を確認、お疲れさまでしたぁ☆』


純夏が満面の笑みで伝えると状況終了の文字と共に成績が出され、シミュレーターが元の位置へと戻ってゆく
戸が開き、二人が降りると、そこへ純夏が二本の合成玉露入りの水筒を持って走ってきた


「二人ともお疲れ~
 はい飲み物!!」


「お、サンキュー」「ありがとね~」


「ねぇねぇ、私のCPどうだった?」


純夏が待ちきれないといった具合に二人に聞いた


「まぁまぁ良かったぞ。
 でも、ピアティフさんと比べちゃぁ~まだまだだな」


ニヒル顔で決めるタケル
純夏は笑顔を維持したままタケルにレバーブローを決め、そのニヒル顔を遠くへ吹き飛ばした


「宏一君は?」


「う~ん、大まかには良いと思うよ。
 けどもう少し詳細にいってほしいところもあったかな?
 例えばBETAの出現位置とか、具体的な規模とか…」


「ほうほう…」


「出現予想位置とかは一応戦術機の方でも調べられるけど、乱戦状態だとそんな暇も無いから教えてくれるとかなり助かるね。

 …あと、ウチは別に気にしないから良いけど、タケルとウチ以外に人がいる場合は丁寧語を使った方がいいよ。一応ウチらは上官扱いになってるから」


「わっかりましたぁ☆
 いろいろとアドバイスありがとうございます!」


パタンとメモ帳を閉じ、宏一にお辞儀する純夏
宏一にタケルのこの後の予定の有無を確認すると、ズルズルとタケルを引っ張ってその場を去っていった


「さて、どうしようかな」


宏一は着替えを済ませると、一人自身の機体があるハンガーへと向かった





「クマさーん!」


ハンガーに着いた宏一は一人の老けた整備士のもとへと駆けよる


「お!? 如月大尉か」


宏一に気が付いた整備士…熊谷整備長は持っていた書類を近くの整備士に渡し、宏一の方に寄っていく


「なんだかウチの機体、相当凄い事になってたみたいで…」


「あぁ、相当ひどかった。
 脚部と腕部はそうでもなかったんだが、胴体の骨格が金属疲労寸前だったぞ?
 念の為超音波とX線検査しておいて正解だったわい」


ジョリジョリと髭の伸び始めた顎をさすりながら言う


「うわぁ~全く気が付かなかったわ…」


「まぁこれに関しちゃワシ等整備士の管轄だ。
 衛士がそんな気にすることでない」


「そう言って貰えると有り難いです。


 …それで大体どれ位掛かりますか?」


「今、工作部が新しく骨格を作り直してるからの…
 大体早くて3日、遅くで一週間だろな」


「…そうですか、わかりました。
 では宜しくお願いします!」


「あい、わかった。任しとき!!」


宏一はクマさんと別れると、タブレットにヘッドセットを付けて飛鳶にとの回路を開く


「アル、起きてるか?」


『大尉、如何なされましたか?』


「胴体の骨格系に致命的な疲労が見つかったらしい。
 だからそれの修理を行うよって事を伝えにね」


『その事でしたらすでに把握しています。
 現在、新しい骨格フレームは約30%が完成しています。 この調子であれば明日にはフレームは完成しているでしょう。
 また、ここの整備士のレベルから考えるに、フレームの入れ替えには約二日程かかると推測されます』


「随分と詳しいね」


『伊達に整備されていません』


なんじゃそりゃ―と宏一は苦笑する
その後宏一は夕呼から提案された改装案についての説明をした


『―了解。
 では、改装後にこちらの方で基本的な調整を設定しておきます』


「助かる。
 …そう言えばタケルの不知火改造の進展について、何か分かる?」


『一分お待ちを…
 …
 ……
 ………
 白銀大尉の不知火改造は、現在約55%完了しています。ただ、主機及び背・腰部兵装担架基部の調達・製造に予想外に時間がかかっているようです』


「なるほど…
 じゃあ完成はまだまだだね」


『少なくとも、後一週間はかかりそうです』


「わかった。サンキュー」


ヘッドセットを外した宏一は、自分の部屋に向かい、その場を後にした


第十二話END



こんにちは
なっちょすです!!

宣言していた更新日からだいぶ経ってしまい、スミマセン
各話を修正中、表現などに行き詰まってしまい、書くモチベーションが無くなっていました
しかし、今のところ完全休載の危険ゾーンからは脱していますので、これから月1~3話投稿を目指して頑張っていきますので、これからも様々な御意見、ご感想、応援等をよろしくお願いします!!


さてさて前置きはこのくらいにしておき、アニメ「トータル・イクリプス」はじまりましたね
早速見ましたが、撃震がカッコよすぎますw!!
何なんですか、あのカッコよさは!?

そして見事なヤラレッぷり…ww
…いや、何というか…
タケルちゃんが最強だって言われた理由がなんとなくわかります
それに関してなのですが、当小説でのTEのも設定はもしかしたら小説版とアニメ版がごちゃ混ぜになるかもしれません…

オペ子とかオペ子とかオペ子とか…

なのでアニメ版をご覧になって無い方などには一部分かりにくい所が生じるかもしれませんが、その際は気軽く感想掲示板に書き込んでください
アニメ本編のネタばれにならない程度にお教えします


最後に一つ
一応修正後に各話を数回ずつ読み直してはいるのですが、稀に誤字や変な表現等の見落としがあるかもしれません
もし発見した方は、お手数ですが感想掲示板までお願いします

では、何かありましたら感想掲示板まで!!



[30479] 第十三話
Name: なっちょす◆19e4962c ID:54513dcc
Date: 2012/10/28 23:15
―国連軍・横浜基地・屋外廃墟演習場―

その猫は日課である餌探しをしていた

本来飼い猫であった彼女は、先のBETA侵攻により飼い主と離ればなれになり、彼女が住んでいた町・柊町に戻ってきていたのだ

運良く明星作戦の戦火の中を生き延びた彼女は、しばらくの間は兵士やBETAの死骸を食べることで命を食いつないだ
そして、近頃は稀にくる兵士から餌をもらうことで生き延びている

しかし、生物でいる以上は毎日栄養を摂らなければならない…
その為、兵士が来ない日はこうして一日中歩き回ってネズミ等の小動物や虫を探していたのだ

演習場を縄張りとしている彼女は、故に戦術機を見慣れていた

撃震・不知火・吹雪…
それぞれのエンジン音や駆動音・機影を全て把握し、近くを低空でフライパスしようが真隣に着地してこようが何されようが、既に慣れていた

慣れていた、そのはずだった…



彼女がある大通りを横切っていると、地面の小石がカタカタと揺れ始めた

「あぁ、またか」と思い、ふと顔を上げると一機の戦術機が目に入った

その風貌はかつて見た事のある機体に似ていた
しかし、大きく形が変わっていたソレは、猫の彼女には全くの別物に見えた

戦術機が彼女のいる方向を向き、そのツインアイの不気味な視線が彼女を見定める

…背筋に冷たいものを感じた

BETAを間近で見、そのBETAをせん滅する戦術機を間近で見、そしてそのBETAが人間や仲間を喰べるのを間近で見…
そんな地獄を実際に見て来た彼女は、恐怖などとうに忘れたと思っていた

しかし、現実はそうではなかった
現に忘れかけていたその恐怖が、ヒシヒシとその存在感を感じさせている

戦術機が近づく

彼女は一歩引き、そしてもう一歩、また一歩と足が続いてゆく

しかし、時速数百kmで接近してくる戦術機から逃れるわけでもなく、あっという間に目の前にまで接近されていた

けたたましい爆音とともに強烈な気流が押し寄せる
その風をもろに受けた彼女は、数m程飛ばされてしまった

…本能から、直ぐに所々痛む体を起こした

やがて自身に恐怖を抱かせた戦術機をもう一度一目見ようと、彼女はフライパスしていった方向を見る

既に点の様に小さくなっていた戦術機は、緩やかに上昇していた
ヴェイパーを引きながら太陽光を反射させるその白い機体は、彼女がかつて幼い飼い主に見せてもらった天使の絵にソックリだった

……


『どうタケル?
 飛鳶の乗り心地は』


管制室にいる宏一の声がタケルに問いかける


「最っ高だぜ!!」


タケルは、まるで新しいおもちゃを買ってもらった子供の様な声でソレに答える


「不知火じゃこんなにマイルドに動いてくれねぇよ」


『RCSのおかげだね。
 無理せずに各方面に瞬間推力を与えられるから、俊敏性とかが従来の物よりも高いんだ』


「それにこの加速…
 流石、苦労して入手したエンジンだけはあるな」


『エンジンは特に厳しかったからねぇ~
 最後の最後まで向こうは出し渋ってたし…』


「“代わりに推力は劣るが、イーグルのエンジンならいくらでも…”の一点張りだったしなぁ」


『まぁラプターのエンジンだからさ。
 機密的に渡したくなかったんでしょ』


「それを無理やり予備を含めて6組ももぎ取ったんだから、相当嫌われただろうなぁ…先生」


『だろうねぇ』


二人はつい先日まで行われていた取引を思い出す
そこで繰り広げられた夕呼の“獲物を追いこみ、弱らせ、最後に喰らいつく”という交渉法を思い出すと、二人はブルッと背筋を震わせた


((あれは殆ど脅迫だったもんなぁ))

宏一の手元のタイマーが鳴った


『タケル、全力飛行はそこまで。
 次は高機動飛行に移ってくれる?』


「OK、分かった。
 …さてと、RCSの本領を見せてもらいますか」


操縦桿を捻り、タケルは割り当てられた空域へと旋回していった



―十数分後―
――同基地・地下機密ハンガー――

白い飛鳶がガントリーに収まる
胸部の装甲が開き、そこからタケルの乗った管制ユニットが出て来た


「試験飛行、お疲れさん」


キャットウォークへと降りて来たタケルに、宏一が飲み物を投げる


「サンキュー
 いやぁ、こりゃホント良い機体だな」


タケルは飲み物をキャッチすると汗を拭いながらそれを飲んだ


「生産性が武御雷R型並みに度外視されてなきゃ、撃震の更新機として帝国軍にもアピールできたんだけどね~」


「ま、そんなもんさ。
 “良いものには裏がある”…だろ?」


「人の台詞を奪うなw
 …そういえば、さっき博士がウチらのこと呼んでたよ」


この言葉にタケルの動きが止まる
ゆっくりと飲み物を口から離すと、蒼白した顔で聞いた

「…大体何時頃の事?」


「一時間ほど前かな。
 あ、遅れるって旨は伝えてあるから心配いらないよ」


「そうか、良かった~
 先生、遅れるとコエーからなぁ」


ふぅ―と安堵するタケル


「ほら、それなら早く支度する!
 “タケルがノロノロしてました~”ってチクるぞ」


「そ、それだけは勘弁!!」


そう言うが早いか、タケルは走って更衣室へと向かっていった

……


「博士~来ましたよ~」


夕呼の部屋にタケルと宏一の二人が入る


「あら、なかなかに早かったわね。
 まだ後一時間くらいは来ないかと思ってたわ」


パソコンに向かいながら夕呼が言った


「それで俺らに用事ってのは…?」


「そうそう、その事なのだけど…
 社、お願い」


霞が二人に数枚の書類を渡し、夕呼がプロジェクターを起動させた


「…先生、これって」


タケルの不安そうな質問に、夕呼も真顔で答える


「そう、新種のBETAのシミュレーションデータよ。
 あんた達を呼んだのは、如月は実物との比較の為、白銀には実際にシミュレートしてもらう為よ」


「どうせ後でやるのだから、シミュレートは今は必要ないんじゃ…」


「勿論今じゃない。
 如月の確認と修正が済み次第、伊隅達とやってもらうわ」


早速か―と、タケルは軽く奥歯をかみしめる


「じゃあシミュレーターまで行って来ます。
 …どうせならタケルも一緒にやるか?」


「あぁ、そうさせてもらうぜ」


「…社を連れて行きなさい。
 随時その場で修正させるわ」


「了解」と述べ、三人はシミュレータールームへと向かった…

……


『…では、始めます』


霞が夕呼に渡されたデータでシミュレーターを起動させる
シミュレーター内の二人の角膜に投影されていた映像が、装備選択画面から一面真っ白な塩原へと変わった


「…ここは…雪原?」


異様なその風景に、タケルは顔をしかめながら呟く


「かつて海底だった塩原だよ。
 …懐かしいな」


宏一が神妙な表情で言う
その言葉の意味をタケルは問い詰めたかったが、シミュレーターの途中であることを思い出しその言葉を飲み込んだ


『移動震源を確認。
 距離3000、深度上昇中… 接敵まで180!』


「タケル、そろそろ来るよ!」


霞の報告にいち早く反応したのは宏一だった


「おいおいまだ早いだr…」

―ドォォォォォンッッッ―

「―!?」


タケルが台詞を言いきる直前、目の前に巨大な噴煙が衝撃と共に巻き上がった


「な、なんだありゃあ!?」


噴煙が収まり、そこに現れた母艦級…


「母艦級…
 中に入ってるのは一個師団、ないしはそれ以上って言われてた」


宏一の解説に背筋を震わせるタケル


「コイツが母艦級…」


“前の世界”で桜花作戦の後で見た戦闘記録を思い出したタケルも神妙な表情になる


「タマ…美琴…
 本当に良く頑張ったな…」


『…タケルさん』


そんなタケルの心境を知ってか、霞が心配そうな表情で見る
宏一も何も言わずに、ただじっと目を閉じていた


「スマン、もう大丈夫だ。
  …んでもって、宏一。
 アイツはどうやって倒すんだ?
 支援砲撃か?」


「無意味だね。
 アイツは向こうの世界で大和級の46センチ砲による集中砲火でも死ななかったからさ」


タケルが驚愕する


「大和級の46センチって、ちょ…おま」


―世界第二位の破壊力の艦載砲じゃねぇか!!

っと言いたかったが、言葉が続かない


「んなこと言われてもねぇ…
 実際にキズを負わせる程度しか意味が無かったんだから、しょうがないじゃん?」


「キズを負わせただけって…」


ハァァ―と重い溜息が宏一の耳に入った


「…でも、破壊できない訳でもないy
 「それを早く言え!!」
 ―でもかなり危険」


「…どういう意味でだ?」


「行きも帰りも時間勝負」


宏一の説明に、タケルは頭に?を浮かべる


「“前の世界”では、少佐の提案でアイツに“お土産”をプレゼントする事になったんだ。
 しかし、そのプレゼントを届けるにはBETA一個連隊という壁を突破し尚且つヤツが口を閉じる前に到着しなきゃならない。
 で、届けた後もプレゼントが開かれる前に壁を突破して急速離脱しなきゃならないって話」


「そのプレゼントって言うのは…何だ?」


「S-11」


「大層物騒なプレゼントだな…おい」


「そんなもんだろ~
 まぁ内側から破壊してしまえばOKって言う話だわな」


再度重い溜息が宏一の耳に入った


「楽な作業だよ。
 さ、行ってみよっか。
 丁度BETAも展開を終えたようだし」


宏一は手に装備した突撃砲で手招きする


「ヤツが口を閉じるまでは大体どのくらいだ?」


「………あ」


「おい?」


「…ごめん、カウントしたこと無かったわ」


「……お約束過ぎるぞ、それ」


「本当、ごめん!!」


戦術機ごと手を合わせて謝罪する宏一を見て、タケルは「こんなんでよく生き残れたな」と心底思った


「そういえば…
 社、光線級って基礎プログラムに入れた?」


『…いえ、入れてません』


「そっか~
 じゃ、入れちゃおっか」


タケルが固まる


『…わかりました。規模は?』


「通常のBETA連隊にいる数と同じくらいで。
 あまり密集させずに、重光線・光線級を適度にバラけさせて」


『はい。…できました』


「ありがとね~」


目の前で交わされる会話に漂白されかかっていたタケルが意識を取り戻す


「…よけいな事してくれたなぁ~
 このサディスティックマゾヒスト野郎」


「サディスティックマゾヒスト野郎って…おま…
 矛盾してるよ」


クククッという笑い声と共に宏一が答える


「わかっとるわ!!
 …ったく、ただでさえ最悪な条件に更に最悪な状況まで付け加えやがって」


「まぁまぁ、備えあれば憂い無しっていうじゃん。
 それにウチらが乗っているのは飛鳶だよ? …全く無理という状況ではないさ」


うっすらと笑みを浮かべる宏一に、タケルも「そうだったな」と笑みを浮かべた


「Ready set up!!」


宏一が叫ぶ


「…Ready!」

タケルが答えた


「「Go!!」」


二人の咆哮と共に、白と濃紺の飛鳶が目の前に広がるBETAに…そしてその背後の母艦級に向け吶喊していった

……

――side 水月――

昼食を終えた私達は、再度シミュレータールームに来ていた
午前に引き続き、XM3での隊全体の練度を引き上げる為だ

そして、シミュレータールームに来てみれば二機のシミュレーターが激しく動いている

まぁ、私たち以外でこのシミュレータールームには入れるのは限られているから誰が入っているのかはすぐにわかったけれど、問題はその後…

何故かは知らないけど、二人のシミュレーションがモニター出来ない

全く失礼しちゃうわね
二人だけで秘密の特訓てな訳?

まぁそんな事があったから一時的に注目していたわけなのだけど、私たちもすぐにシミュレーターの準備を始めた


「…にしても激しく動くわねぇ
 一体どんな操作したらあんなに動くのよ?」


乗り込む前に白銀達の休みなく激しく動き回るシミュレーターを見る

今更ながら、強化した理由が何となくわかったわ


「…本当激しく動くわ。
 酔わないのかねぇ…」

 
隣で同じくシミュレーターに乗り込もうとしていた碓氷大尉も、顔を半分ひきつらせながら言う
周りを見回してみれば…全員顔をひきつらせていた

伊隅大尉も苦笑いしていたのは意外だったけど



開けた土地でのBETA掃討は普通ならなかなかに困難な任務
けど、XM3を搭載した私達には、少し物足りない任務となってしまった

現に5000に及ぶBETAを一時間もかからずして片付けちゃったところだし


「…なんか呆気ないものになっちゃったわねぇ」


私達の実力が上がったのもあるだろうけど、それにしても楽になったものよね


『おや…?
 速瀬少尉はこんなものでは絶頂を迎えられないということですか?』


「む~な~か~
 『…と鳴海が言っていました』
 孝之!!
 『俺かよ!!』」


全く孝之はこれだから…
って、アレ、なんか違う気がする
…ま、いっか


『五分の休憩だ。
 休憩が済み次第、ハイヴ突入シミュレーションを行う』


伊隅大尉からの通信が入り、私はシミュレーターから出る

出てみると白銀と如月がベンチでグッタリとしていた
…珍しいわね


「アンタ達がシミュレーター程度でグロッキーになるなんて、珍しいわね」


「…あれはやった人にしかわからない辛さですよ…速瀬少尉」


白銀が横になった状態で言う


「ウチの前任基地で最も過酷だった任務を少々修正したものをやってみたんですけどね…
 二人だけっていうのはキツいです。
 まぁクリアしましたけど」


白銀の隣で壁に背を預けていた如月が言った

…へぇ~、如月の前任地ねぇ

そんな中、隔壁が開いて中から二本の飲み物を持ったウサギっ娘が出てきた

…ホントにウサギっ娘なんだってば!
耳だってあるし!
それにしてもこの娘、どっかで見たことある顔ねぇ…


「霞ちゃ~ん、久しぶり~!!」


碓氷大尉がウサギっ娘に飛び付いた

あ、そうだそうだ!社霞とか言ったわね
副司令の隣にいっつもくっついてたのを思い出したわ


「で、霞ちゃんは何してたの~?」


飲み物を死んでいる二人に渡し、碓氷大尉がいつの間にか抱え込んでいた社に聞いた

…本当、大尉は可愛いもの好きよね ~


「…タケルさんと宏一さんの手伝いをしていました」


「手伝い…?」


「はい。
 今回のシミュレーターの内容調整などを…」


あらま
中々やるわね、このウサギっ娘


「それで出来たの~?」


「はい…出来ました」


あ、少し笑っ…たのかしら?
それはそうと、シミュレーターは完成したのね!
なら、やるっきゃないでしょ!!


「如月!
 私達もやっていい!?」


「別にいいですよ~
 そのk…
 「伊隅大尉! やりましょう!!」
 「…あぁ別にいいが」
 「よっしゃぁ!」
 …話聞いて~」


よし、大尉の許可も得た!
如月が何か言ってた気がするけど…まぁ気にしないわ!!

早速私はシミュレーターに滑り込む
装備選択メニューでいつもの装備を選択してシミュレーターの起動を待った

やがて伊隅大尉や碓氷大尉、ほかのメンバーが待機状態になってることを示すマーカーがつく


『宏一の前任地かぁ~
 いったい何処なんだろうな?』


「知らないわよ、そんな事。
 ま、シミュレーターに反映されていることを期待しなさい」


孝之のボヤキに突っ込んでみる


『孝之君の知識量じゃあわからなかったりして』


『アハハハッ
 孝之お前、一本とられたなぁ』


遥…アンタ中々毒舌よね


『…全く、貴様等には緊張というものがないのか?』


『良いんじゃないですか、隊長?
 逆にガチガチに緊張されてても困りますからねぇ』


流石碓氷大尉!
よくわかってらっしゃる


『はい、皆さん準備は良いですか~?』


「とっくに済んでるわよ~」


早く早く~!
って、餌をねだる犬じゃないんだから…自重しなさい、私!


『…皆さん準備はOKみたいですね。では、作戦の概要を伝えます。
 作戦の種類は拠点防衛です。
 部隊は既に戦術機二個大隊が展開し、後方には自走式ロケット砲、自走砲、戦車及び対空戦車で編成された機甲部隊が一個師団待機、増援も待機しています―』


…へぇ~、随分と贅沢じゃない?


『―防衛対象は機甲部隊の後方100Km、地雷原等の防衛陣はありません。』


ちょっち近いわね…
だからこそ、この部隊規模なのだろうけど


『なお、可能な限り友軍の損害を出さないようにお願いします。
 …そうですね~各種60パーセント以上は生還させてほしいところです』


『60パーセント以上ですか…
 後方の機甲部隊はともかく、戦術機部隊が問題ですね~』


静香さんの言うとおり、戦術機部隊の60パーセント以上生還は難しい所ね
…でも、やってみせるわよ!


『…あ、最後にアドバイスを一つ。
 必ず部隊の最小単位は守って下さい。
 アドバイスは以上です、では、Good Luck!!』


如月が中々良い笑顔でサムズアップ
…なんかあやしいわね

そんな事を思っていると、視界に一面の白い平野が映った
正面には海面が見える…って事は海岸線かしら?
でもこの白い平野って一体…?


『…雪原? …いや、違うな。
 じゃあなんだ…?』


早速平が分析を始めた
まぁ…確かに雪原じゃないわね
外気温が高過ぎだわ


『CPより各部隊…
 BETA浮上まで、後120』


CPの画面にあのウサギっ娘が出た
成程、今回のCPはウサギってことね
了解~

そんな無駄な事を考えていると、目の前の海面からあの醜い物体がワンサカ出て来た


『オールヴァルキリーズ! 行くぞ!』


伊隅大尉の合図で全機が一斉に飛びかかってゆく…

あの二人がへたばる任務…
面白そうじゃない!!

巻き上がる感情に思わず舌舐めずりをしてしまった



早速上陸してきたBETAに向かって、後方の機甲部隊が砲撃を始める
幾多のロケットが中型種を地面ごと宙に巻き上げ、数多の砲弾が突撃種の甲殻を砕いてゆく


『…シミュレーターとはいえ、スゲーな、おい』


『私たちの任務に、いつもこれだけの後方支援部隊がいれば楽なのですけどねぇ』


静香さんの言うとおりよね

まだ着任してあまり時間はたってないけど、これまでに遂行した任務では必ずと言っていいほど支援が不足していた
だから、こんなに後方支援が受けられる如月の部隊が凄く気になそれはもう…嫉妬心を覚えるくらい?


『…支援砲撃終了、次弾装填完了まで10分です』


あれだけいたBETAが一瞬にして肉片になっていた

…でもそれも一瞬
またすぐに海中からワンサカと出てきた


『かかれぇ!!』


エンジンを吹かし、先頭の突撃級に切迫する

レクティルを接近してくる奴の脚に合わせ、トリガー
向こうの速度とこっちの速度の相対速度が相まって、撃った弾は見事に脚部を破壊した

崩れ落ち、後続の味方を巻き込む突撃級
そこにすかさず戦車砲の雨が降り注ぐ


「まったく、良いとこ取りばかりするわね!」


シミュレーターだから愚痴れるけど、実戦だとこれほど頼もしい支援は…無い
トドメ刺そうとして逆にヤラれるなんて…私には耐えられないわね!


『慎二!』


『あいよっ!』


気がつけば、孝之と平のコンビが要撃級の団体と遊んでいた
私も混ざろうかと思ったけど、ここは自重
その代わりに碓氷大尉のところに向かう


『お? 速瀬かぁ~
 ちょうどいいや、手伝って!』


「そのつもりです!」


そう言い放ちつつ、大尉の背後に迫っていた要撃級をハチの巣にする


『サンキュー』


合流後、互いの死角をカバーしつつ群がる戦車級やら要撃級を撃破してゆく
私の動きに大尉が合わせ、逆に大尉の動きに私が合わせたり…

昔はこんなんじゃ無かったなぁ~
いっつも単独で先行、暴れまくって皆が来るころには次の場所へ…
宗像に弄られるのも納得よね


『は~やせ、考え事かい?』


「え、あ、いえ! …何でも無いです」


おっとっと、ヤバいヤバい


『そっか。
 でも戦闘中に…ましてやこんな接近戦中に考え事とは、先輩感心しないなぁ~』


「スミマセン、大尉」


『分かれば良~し』


…ホント、大尉はいい人よね
憧れるわ

考え事しながらでも、私の手は止まらない
近寄ってきた要撃級に120mmをお見舞いし、傍の戦車級を切り裂く

白銀みたいに飛びまわって戦うスタイルも一応はできるけど、まだまだ…ね
それよりも敵をいなしながら屠るスタイルの方が今のところは性にあってるわ


『…良し、片付いたな。
 CP、敵の増援は感知できるか?』


『CPより各機ヴァルキリーワン、今のところ感知できません。
 …後方5km地点に補給コンテナがあるので、補給後待機してください』


『ヴァルキリーワン、了解。
 各員、聞こえたな!? 補給に戻るぞ』


『了解!!』×6

「了~解!」


思ったより呆気ないものね
弾薬も二割程度しか消耗していないし、推進剤だってたんまりと残っている
…まぁXM3の恩恵もあるのかしらね

それにしても、本当に呆気なさすぎる
こんなので、あの人間兵器(笑)の二人がへたばるのかしら?

私はそんな疑問を抱えつつ、機体に推進剤を補給し始めた




『…どういう事だ!?』


伊隅大尉の怒声が響く


『…どうやら敷設されていたソナー網に穴があったようです。
 出現まで300、予測出現場所は…機甲部隊の目の前です!』


眉を鋭く尖らせ報告する社

…状況が一変したのは補給が終わった直後
突如敷設された地中ソナーに巨大な反応が出た…それもソナー網のど真ん中

…つまり私達の目と鼻の先でという事

更に運の悪い事に、敵は私達の目の前では無く私達の後方、機甲部隊の目の前に出てくるという事だった

ただ一つだけ運が良かったといえば、敵が出てくるまで僅かに時間があるという事かしら?

ともかく私達は急いで予測地点に急行した
既に機甲部隊も後退し始めてる


『次のジャンプで予定地点だ!』


予定地点まであと500m程…
一回で済むわね

フゥ―と一息ついた途端、機体が激しく揺れた


「なになになにっ!?」


表示される『異常振動感知』の文字


『全機、そのまま動くなぁ!
 今確認す…』


伊隅大尉の声が不意に止まり、同時に振動が収まった


『な、何よあれ!!』


碓氷大尉の見る方向に、私を含む全員が向いた



「……何よ…何なのよ…何なのよこいつは!?」



私の視界に映るのは画面いっぱいの巨大なBETA…
円筒形で、直径は…目測で200m程度

…何なのよ、何なのよ!!
新種?ここで!? こんなところで?

私の頭は混乱でいっぱいだった
冷静に考えればこれはシミュレーターだってことがすぐにわかるけど、その時の私にはそんな事を考える暇は無かった


『ック…!
 全機、予定地点よりさらに1km後退するぞ! ボサっとするな!!』


大尉の怒声が私を正気に戻した

そうだ、今は一刻も早くこの場を離れなくては!

スロットルを踏み込み、全速力でその場を離脱する
ふと振り返ると、そのBETAの口が開き中から大量のBETAが排出されていた

―第十三話END―


次回予告

突如現れた未確認のBETA…
私達は怒涛の勢いで排出されるBETAになす術も無く、只後退していく
予想外の支援…そして、もう一つの振動反応…

私達は此処で本当の地獄を体験する

次回
【新種】
人類には、最早希望は無いという事なのだろうか…? (Cv.碓氷 沙恵)


後書き
皆さんお久しぶりです、なっちょすです
え~今回は非常に悩みました!
当初では違う内容だったのですが、何せ続かない…
という事で急遽十四話で書く予定だった内容を持ってきました
その為戦闘パートが分断されるという結果に…orz

け、けどさ!こっちの方が面白みがあっていいですよね!?(自画自賛)
「え、この後どうなっちゃうの~?」的な

…ハイ、スミマセン
自分の文章力の無さを呪うばかりです

さて、次回ですが、下手すると12月になりそうです
この後
学園祭→試験
とイベントが盛り沢山でして…
というか試験の間隔短すぎです
ひど過ぎです!児童虐待です!!これだからにx…(意味不明&強制終了


…ゴホン
では、何か誤字脱字や意味が不明、ないしは設定と違うで~という所などがありましたら、遠慮なく感想掲示板までお願いします!
ではまた!!



[30479] 第十四話
Name: なっちょす◆78a9190c ID:14a27f1f
Date: 2014/09/10 01:21
―Report by Sae Usui―

突如私達の目の前に姿を現したのは、今まで見聞きしたことのない巨大なBETA
もちろん欧州でもこんなヤツは見たこと無い


『ック…!
 全機、予定地点よりさらに1km後退するぞ! ボサっとするな!!』


隊長の指示によって全機が一気に交代を始めた
同時に、巨大BETAが「口」を開ける
その開口部からは戦車級…続いて要撃級、要塞級の順にBETAが次々に姿を現した

隊長から更に1Km後退するという通信が入る

何も準備が整っていない状態でこの量を相手に接近戦をするのは、流石にXM3を装備していても分が悪い

再度エンジンを吹かし目的地へと跳躍
同時に一つのけたたましい警告音が私の耳を貫く


「レーザー照射!?」


反射的に操縦桿を押しこむ
高度計が一ケタ台にまで下がった所で水平に

この高度でも警告が出たってことは…

全方位にセンサーを走らせる


「隊長、レーザー照射を確認。
 予測位置、未確認種開口部!」

『こちらもレーザー級の照射を確認した。
 …社、支援砲撃を要請。 目標は未確認種開口部周辺1km!』


即座に後方の支援部隊に座標が送られる
一息もしない間に無数の砲弾が、空を切り裂いて飛んで来た


砲撃到達が早い!?


想像以上に後退していたことに焦りを感じたが、弾着のけたたましい轟音と爆煙がその焦りをも吹き飛ばす


『す、すげ…
 これなら楽勝だな』


…確かに凄い
けれども、その砲撃濃度の濃さにちょっと疑問を感じた

すぐに戦術マップを確認…

―成る程、増援部隊までもが支援砲撃を行っていたのか
それに光線級からの迎撃が少なかったことも影響しているのだろう

やがて、その虐殺の砲撃は止まり、爆煙

これだけの濃度の支援砲撃…
あの巨大種も無傷では済まないわよね


『なっ…無傷…だと!?』


そんな憶測は隊長によって崩された

爆煙が晴れたそこには、何事もなかったのかの様にあの超大型種がいた
見る限り、たいして傷も付いていない


『ハ、ハハハ…流石BETAじゃねぇか…
 流石のバケモン中のバケモンじゃねぇーかよぉぉぉ!!』

「平、少し黙ろう…
 そんな事、前からわかってた事でしょうに」


慎二を注意する一方で、私も同様の恐怖感を感じていた


―常識で捉えるな、BETAに常識は通用しない


まだ訓練生だった頃に教官に何度も言われたことが、今ここではっきりと理解できた


「…隊長、どうします!?」

『ちょっと待て、今考えている…』


考えなくてもわかる
あの砲撃を凌ぐ奴だ、戦術機の持つ火力では傷一つも無理…
完全な王手状態


「…」


でも、私達には奥の手がある
ただ、それは完全な自殺行為でもあった


『奴の内部でのS-11使用しかない…か』

「…やはり」


自決装置の要である、S-11の使用…
確実な起爆には一人の道連れが必要とする、我々戦術機乗りの最終兵器


『今ならば支援砲撃のおかげで奴までのBETAは少ない。
 故に光線級との間の障害物は、殆ど無いが…』


…つまりは無意味に等しい自殺行為


『―私が行く。
 碓氷、後は頼む』

「隊長、それは…」


言葉を発しかけた時、社ちゃんからの通信が入った


『…別の新たな支援砲撃、着弾まで後40』

「!?」×10

 
新たな支援…?
このタイミングで!?

瞬時に戦術マップを見渡すが、再装填や準備の整っている部隊はない


「じゃあどこから…」


砲弾が空気を切り裂く音が響いてくる
その音を発していた弾が、巨大種に吸い込まれてゆき、炸裂
ただの砲弾とは思えない爆炎が、その姿を覆った


『…初弾の命中を確認。
 続いて砲撃、来ます』


風切り音が重複し、未確認種を更なる爆炎で包み込む


『ほんと…何なんだよ…』

『この砲撃濃度…尋常じゃないわね』


凄まじい砲撃を目尻に、私はその主を探す


「いったい誰が…」


戦術マップの範囲を広域にしてみる

…戦域付近の海域に反応が2つ
瞬時に反応主の識別コードを見た

≪IJN BBー141≫と≪IJN BBー143≫…


…て、帝国海軍の大和と信濃!?


予想外の支援に、私は困惑する

帝国海軍が参加していた…虎の子の戦艦二隻だけで
それよりも、そんな作戦行動が近年にあったのか
そもそも何で帝国海軍が…

BETAの如く湧いてくる疑問に、私は思考が一瞬停止する
実際の戦場ならば死んでいたな…と、後になれば言えるが、この時はそれどころではなかった

…そしてそんな混乱の中、私は一つの結論に達した


―宏一の前任地はどこなのか?―


まだ知り尽くしたわけではないけど、アイツの性格的にミッション自体の難易度は下げていないどころか逆に上げていると思う…多分
とすれば、支援の量ないし質はこれよりも上だと考えるのが妥当ではないだろうか
そうなれば…

再度艦砲射撃の爆音が響く


―誰がどう見てもおかしい


どんな極秘部隊であっても、これだけの戦力を動員すれば何かしら情報や噂が飛び交うはず
ヴァルキリーズという極秘部隊に所属していれば、尚更…
でも、実際にはそういった事は一回も耳にしていない

つまり、虚無の任務という可能性が高くなる
―でも、わざわざ虚無の任務を実際の任務として偽る意義は?

自身の能力を誇る為?
…階級が下の者に“フランクに接してね”という奴が、そんな事にこだわるとは思えない

何かの作戦に向けての予行演習?
…未確認種のBETAを出す必要性は?そもそも、この量の支援が受けられる作戦に我々が参加できるのだろうか?

ほんの数秒だけ思考にふけるけど、やっぱり判らなかった


…やがて艦砲射撃の轟音が止み、爆煙が徐々に薄れ始めて行く

薄れた爆煙の向こうに見える、未確認種の影
その影に多少驚愕しつつも、体中が体液にまみれ、堅く閉ざされた開口部が開かれないのを見ると安堵の気持ちが込み上げた

再び振動
見れば未確認種がもと来た穴へと後退している

あの傷でまだ動けるとは…
流石はBETAと言うべきなのか


『新たな移動震源を感知。
 接敵予想まで凡そ450』


社ちゃんの報告に最早驚かない
いえ…驚けない


『社、震源主が先程の奴と同じであると仮定して、その予想出現位置はわかるか?
 大ざっぱでも構わない』

『…少し待って下さい。
 …
 ……
 ………出ました。
 マップに出します』


赤い円を中心に半径500m程の橙色の円がマップに表示される


『赤円部が移動震源がこのまま直進した際の出現位置、橙円部が予想出現位置です』


…今度は5Km前方
味方部隊が再編する余裕は十分


「各機、今のうちに補給を済ましとき」

『了解』×8



消費された量が少ないこともあってか、補給作業はあっという間に終わった

けど、部隊を再配置するには時間が足りない
どうやらここで迎撃することになりそうだ


『またあの支援を受けられると思うか?』

『さぁな?
 けどマーカーは健在だし、特にこれといった連絡は入っていないってことから大丈夫だとは思うな』


…たしかに気になる

出現までの時間を確認し、レーダーを見る

マーカーは平の言うとおり正常
社ちゃんからも連絡は無い

つまり、支援の方は心配ない
途中いろいろあったけど、意外に楽なシミュレーションだったなぁ
なんか拍子抜けsh…


…楽?


ふとシミュレーション直前の白銀と宏一の状態を思い出す

あの二人の腕は、間違いなくヴァルキリーズ内で一位二位を争うだろう
…いえ、そんなレベルじゃない
国連…もしかすれば全世界の衛士内の中でもトップレベル

そんな二人がヘタバるほどのシミュレーションが、こんな簡単なわけがない

焦るようにもう一度戦術マップを確認する

…接近する反応は一つ


「社ちゃん! 反応は一つだけ!?」

『震源三次元測定法で測定しても一つだけで…
 「規模は!? さっきのと比べて大きいとか小さいとか…!!」
 …音紋からの推測ですが、先程の物より小さいです』


―小さい!?


『ヴァルキリー2、どうかしたのか!?』

「いえ…ただ、あまりにも“楽”なのがちょっと気になって」

『…成る程、そういうことか。
 だが今は目の前の事だけを考えろ』

「そうですね…了解しました」


そうだ、今は目の前の事だけを気にしよう
気にかけてはおいても、何が起こるかは「開けてびっくり玉手箱」…だ
余計な心配は隙を生む―欧州で散々思い知ったじゃないの、私


『―…!
 震源の移動速度が上昇、浮上まで30秒!』


やっぱりきたか


『各機警戒怠るな!
 出てきたと同時に一斉射撃、支援砲撃の着弾を確認した後500m後退する』

『了解!』×8

『浮上まで…
 ――――5
 ―――4
 ――3
 ―2!』


…来るっ!!

霞ちゃんのゼロカウントと共に噴煙と振動が襲う

立ち上る噴煙の間から見える未確認主の姿…
そのまま減速することなく飛び跳ねる

もう何がなんだか…

そして空中にも関わらず開口部からは次々とBETAの陰が飛び出してきた

慌ててその内の一匹に狙いをあわせ、トリガーを絞る
しかし弾はBETAのすぐ脇に剃れてしまう
舌打ちしつつ照準を調整、トリガーにかける指に力をかけた


「ん?」


一瞬BETAの陰の周りが光った…様な気がした
まぁ誰かの撃った弾だろう―と気にせずにもう一度トリガーを引く

BETAの陰が突如揺れ、弾は何も無い空間だけを切り裂いた

空には無数の影
甲虫にしっぽが生えた様なシルエット
私達を見下すように、その影は空中に浮かんでいて…


……
………


――周囲の音が消える


………
……


全ての砲声が止み、戦術機の駆動音も止み、耳につくのは主機の音に仲間の声にならない驚愕音
角膜に直接投影される景色は妙に現実味を感じない
…確かにこれはシミュレーター
だけど、それとこの感覚は意味合いが違う


BETAが空を飛んでいた


かつて人類は空を使ってBETAに反撃した
光線級の出現以降も宇宙と僅かな空を使って抗戦している


コレが出来たのは何故か?

…答えは簡単だ
―BETAが空を飛ばないから


欧州で誰かが言っていた

“空は俺達の最後の楽園(エデン)さ。
狭くなろうが、低くなろうが関係ない。
 存在そのものが楽園なんだ”

…と


そんな空にまでBETAは立ち入ってきた
BETAへの対抗手段としての空は既に消え去った

…気がつけば手が震えていた


「なんで…」


怒りと恐怖が入り混じった手の震え
自然とトリガーにかける指に力がこもる


「なんで貴様らがそこにいるっ!!」


4門の銃口から一斉に劣化ウラン弾を弾き出す
狙いは殆どつけていない、ただの乱射
狙うも何も無かったから、そのほとんどは奴らには当たらない


「う゛らぁぁぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」


何で叫んでいるのか、叫ぶことに意味はあるのか
そんなことはどうでも良かった
ただ、闇雲に私は引き金を引き続ける

傍から見れば、初めての戦場で混乱した新兵そのもの…


「さっさと落ちろぉっ!!」


まぐれで当たった弾が、明後日の方向へと弾き返されてゆく

―角度が浅いのかもしれない
――たまたま端に当たっただけ

―でも明らかに直撃の弾も
――固い場所に当たっただけ

弾かれる弾を見て、混乱する脳内とは別に私の理性は必死に疑問点を上げてきた
しかし、逆上していた私は適当な答えで満足してしまう

<<ピピッピピッピピッ!>>

耳に響く残弾警告音
見れば四門ともに残り100数発…


「…全弾喰らわせてやる」


警報に構わず、引き金を引き続ける
曳光弾の描く線が消え、残弾ゼロの警告音が鳴った


「装填っ!」


全門が再装填する迄のタイムロスは約10秒…
この間は…


「平っ!敵に牽制射撃!
弾幕を張りなさい!!」

『…あ…』

「平っ!!」

『…ち、ちくしょぉぉぉぉぉぉ!!』


平が私と同様に闇雲に突撃砲を乱射する
やがて36mmの斉射が止み、次に120mmの斉射が始まった

けれど既に散開していた奴らには、あまり効果がない
それでも平は斉射を止めなかった

弾速の遅い120mmはいとも容易くかわされてしまう
しかし、そのうちの2発が一番大きいやつに当たった


「『やった!』」


平と私が同時に叫ぶ
続けて平が「ザマァ見やがれ」と言い掛けたその時、爆炎を割るようにそのBETAが飛び出し、平の機体を真っ二つに切り割いた


『…え?』


状況を理解し切れていない平の顔が映り、そして爆散する


「たい…ら…?」


信じられなかった
120mmを、それもAPSFDSという貫通力に秀でている弾を二発も喰らったのにもかかわらず、怯みもしない
とっさに支援射撃を呼ぼうとマップを見る


「え…嘘…」


そして驚愕した


砲撃部隊が飛び出した巨大未確認種によって

“踏み潰されて”

いたからだ

咄嗟に艦砲射撃を頼もうとする
しかし、たった二隻の艦隊はいつの間にか接近していた新種数匹に対しての対空戦闘で、砲撃できる状態ではなかった


「…上等じゃないかぁっ!」


スロットルを押し込み、機体を飛翔させる


『沙恵さん!?』


レーザー級がいるかもしれない戦域で高度を取るのは、確かに自殺行為
でも今はそんなことにはかまっていられない

未だにホバリングしている奴に狙いをあわせ、一気に真下からロケットモーターで急接近する
同時に両腕の突撃砲も撃った

真下からの攻撃に奴は一瞬怯む
まだまだこんなんじゃ終わらせない

そのまま上昇
…奴の背面、同高度

奴が腕を振りかぶりながら振り返る
気色の悪いその蟲のような顔が目の前に来る

その気持ち悪さに、一瞬だけ怯んだ
でもそんなことはどうでもいい


「これでも…喰らえぇぇこの蟲野郎ぉぉぉぉ!!」


ゼロ距離からの全射撃兵装による一斉射撃
120mmがただ榴弾ならこっちにも被害が出てたけど、弾種は徹甲弾
こっちには特に被害はない

そして120mmを6発ほど撃ち込んだ所で蹴り飛ばす
ピクリとも動かず、死体となった新種は落ちて行った


「次!! …後ろかっ!!」


後ろに回りこんできた奴に120mm四門による背面一斉射撃をお見舞いする
…全弾命中、このぐらいの距離なら朝飯前よ

レーザー照射警報が鳴り響く


!!


急いで今撃墜した新種の死体を追いかけ、隠れる
自由落下中にもかかわらずレーザーが死体を焼き、隠れ切れていなかった肩部装甲の端と左足の一部が一緒に溶け落ちた


「邪魔よ!」


残存レーザー級群に向けて弾倉最後の120mmを撃つ
着地と同時に再装填
黒こげの死体から離れると近くにいた静香の下へと寄った


『沙恵さん! あなた無茶しすぎですよ!』

「…説教なら後で聞くわ」


静香のいつもと変わらない声に、少し気持ちが落ち着く
ほかのメンバーの攻撃に支援攻撃を加える彼女の背中を守るように、私はその背後で接近する敵に向かって弾幕を張る


『くっ…硬いっ!!』

「静香、関節を狙ってみて」

『簡単そうに無茶をおっしゃって…
 やってみます!』


静香の射撃テンポが遅くなった
私もなるべく関節を狙うけど、支援突撃砲のようにロングバレルではない私の突撃砲では難しいにもほどがある


『きゃあっ!』
『うわっ』


大きな爆発音とともに、速瀬と鳴海が同時にKIA
みれば二人が固まっていた位置に、大きなクレーターと黒煙が立ち昇る


「…固まっていると危険ね」


背中の静香に伝えたとき、上空で滞空しつつ背中を光らせている奴を見つけた
咄嗟に狙いをつけ、突撃砲を数発撃ち込む

―発光部に命中

すさまじい爆発が起こり、その閃光に思わず目を閉じる
一瞬の後、目を開けた

爆煙は無く、爆発した奴とその隣にいた新種の姿が消えていた

爆発の規模から考えるに、あの発光部には相当なエネルギーが溜まっていたと考えられる
あんなものを撃たれちゃぁ、たとえ戦艦だとしても致命傷になるわね


「固まっていては危険ね…
 少し散るわよ!」

『了解です』


静香と散開し、即座に相互援護できるくらいの距離で交戦を再開
でも、不規則な機動と強固な装甲によって一匹も撃墜できない

やっぱり至近距離からの砲撃か接近格闘戦しかないんじゃないかしら

引き金を指切りで引きながら、私はそう感じた
そんな時宏一の言った言葉が頭の中に過ぎる


「部隊の最小単位は維持して下さい」


つまり「最低でも僚機とセットで行動しろ」ということなのでしょう
けど、速瀬や鳴海の例もある
確かにあの二人は固まり過ぎていたってのもあるだろうけど
でも、あのクレーターを見る限り、二機が離れていてもあまり大差がないようにも思える
それに私の時だって、単機で何とかなったじゃない

頭で納得し、スロットルを開こうとする…
しかし、私の勘と本能が無意識にそれを抑え込んでいた


『隊長! 後ろです!!』

『!?
 涼宮!逃げろォ!』


隊長の声と共に、再びあの爆発音
二人がいた場所は大きなクレーターと化していた


『…隊長! 涼宮!』


宗像が無線に呼び掛ける
でも、二人はそれに答えない


「宗像、隊長達はKIAと認定。
 残ったヴァルキリーズは私達だけみたい」


戦術マップをもう一度だけ確かめる
隊長と涼宮の二人がいた場所にマーカーは無く、味方のマーカーもかなりの数が消えていた
そしてまた一つ、味方のマーカーが行動不能を示す×印へと変わる


『…了解。 副隊長に合流します』

「わかった。
 援護するから早く…」


接近する宗像機を見た瞬間、その背後から数匹の新種が襲いかかろうとしていた


「宗像、後ろだぁぁぁ!!」


引き金を一気に絞る
この距離で、そして36mmじゃあ意味がないのは分かってる

でも牽制くらいにはなるはず…

そう願ってのことだけど、降る雨に濡れることを気にしないが如く新種は宗像機に迫って行く

宗像が機体を大きく左右へと揺らし、回避行動を取った
それでも一直線にBETAは宗像機へと迫る


「…もう少し、もう少し!」


あとちょっとで静香が援護を行える距離
私も我武者羅な射撃で牽制射撃を続けた


『追いつかれ…』


宗像機に一番接近していた新種が彼女を真っ二つに切り裂こうと腕を振り上げた
宗像が反撃しようと振り返る


『…そこです!』


奴の振り上げた腕が吹き飛んだ
そしてもう一方の腕も振り上げる前に吹き飛ぶ


「静香!」


静香の支援突撃砲による精密狙撃…
腕を吹き飛ばされた奴は、そのまま地面へと衝突、動かなくなった


『このっ!』


続いて宗像が追ってくるほかの新種に対し発砲
すると、たいしてダメージを与えたわけでも無いのに残りのBETAが散っていった


「よく当てたわね」

『敵の意識が宗像さんに向いていたので、見越し射撃しやすかっただけです。
 でも間に合ってよかった…』

『綾瀬中尉、支援感謝します』


宗像機が合流する
チラリと残弾を確認…

《Left》 《Right》
《Arm》
《RG-36_431/2000》 《RG-36_308/2000》
《GG-120_3/6》 《RG-120_2/0》
《Shoulder》
《RG-36_579》 《RG-36_446》 
《GG-120_4》  《GG-120_4》


…流石に撃ち過ぎた


「静香、宗像、そっちの残弾はどう?」

『突撃砲に200弱…予備弾倉が残り6です』

『こちらは36㎜が突撃砲に1200強、予備弾倉が残り2つ。120㎜は看板ですね…』

「あまり余裕はないって感じね。
 こっちも36㎜が500発程と予備2つ、120㎜が計20弱よ」

『…補給コンテナは?』


宗像の質問に私は戦術マップを確認する

…付近の補給コンテナからの反応なし
破壊されたか空のどちらか

一番近くのものは前線方向に約1㎞…
この状況じゃあ補給中に撃たれるわね


「近くにないし、一番近いとこで補給しても最中に撃たれるわ」

『弾切れが先か、奴らの撤退・殲滅が先か…ですね』

「…ともかく、敵を各個撃破しながら進むわよ。
 適切な距離を保ちつつ、孤立しないように。
 孤立したら…喰われるわ」


宏一の言った意味がようやくわかった

孤立すると、敵が一気に襲ってくる
宗像を襲った新種は、彼女からかなり離れていたのにもかかわらず一気に襲ってきた

―孤立は死―

何度も教わり、実感し、見てきた事…
違うことといえば、今回は一瞬でも孤立すれば非常に危険であるということ

操縦桿を握る指が震える
こんな緊張感は初めてだった


「それじゃ移動するわよ」


そう言いかけた時、再度警告音が響いた

警告内容は…
ロックオン警報!?


『ロックオン警報!?
 いったい誰が…』


警告音が点滅音から連続音に変わる

…ミサイル接近警報!


「ミサイルッ!!
 ブレイク!ブレイク!!」


AH教本通りのデコイを組み合わせた2次元緊急回避
同時にミサイルを視認するため、レーダーに目をやる


「っ!?…ったく多すぎよ!!」


反応は100以上…
最低でも一機に30発は向かってきている

ミサイルを視認
再度デコイを発射し、不規則にシザース機動をとる

ミサイルはデコイを無視
不規則な3次元を描きながら、こちらへと向かってくる


「デコイが効かないっ」


全火器を自動迎撃モードに
これで回避に集中できる


あぶっ!?


数発を寸前のところでかわす
でも回避したミサイルは再度私の方へと向かってきた


…こいつ、しつこい!


迎撃のモードを接近優先から任意優先に
かわしきれ無そうなミサイルを指示する


『あ!駄目…』


静香との無線が切れた


「静香? 静香っ!?」


レーダーを確認…
…反応なし、KIA

取り回しの悪い支援砲では全弾の撃墜なんて無理に決まっていた


『ッチ!ちょこまか動いて!
 当たんなさいよ!!』


宗像の叫びに内心賛同すると同時に、兵装担架の36mmが弾切れになった

撃墜した数は十数発…


「効率が悪い…
 手動でやるしかないか」


自動迎撃モードを頭部の20mmに限定
…残弾200も無いから1~2発撃ち落せればいい方ね


「…しつこいのよ!」


射撃管制の支援を受けつつ、バーストで1発ずつ落としてゆく
…こっちの方が効率が良いとは


「宗像、迎撃は手動で行え!
 こっちの方が効率が良い」

『っ…了解!』


残り数発となったところで、ミサイルが追加される

良い性格ねっ!畜生!!


「残り34!」


ミサイルとの距離がもうほとんど無い
回避行動をさらに鋭く、頻繁に…
左右からのGに骨が軋む


「ぐっ…この…」


右へ左へと移動しながら回避を取るけれど、機動力では圧倒的に不利
2次元だけじゃかわし切れない…!

…仕方が無いっ!!

ロケットモーターに点火
急速に高度を稼ぎ、三次元での回避運動を試みる


「こんなものぉぉぉぉぉぉぉ!!」


ミサイルが360×360度の全方位から襲ってくる
けれどこっちも動きに規制はなく、迎撃もかなり楽になった

高度を取ったのは正解ね


視界の端に大きな影がチラリと横切る


「来た…」


ミサイルの迎撃中に仕掛けてくるとは…本当、良い性格してるわ

残弾を確認…
微妙なライン

ミサイルの迎撃を右腕で、大型新種の迎撃を左腕で行う

さっき平が撃った120㎜は胴体部に直撃していた
つまりは、周りの小さい奴よりも装甲が固いという事…
しっかり関節を狙っていかないと、逆にこっちがやられるわね

正直、あまりやりたくないけれど…


「引きつけて…撃つ!」


トリガーを引く
奴との距離は150といったところ
狙いは正確

…そして外れた

奴は撃つ寸前にその図体から想像できない俊敏さで横に回避
狙いを修正するにも距離が無い


もういい、撃ってしまえ


関節部への精密照準を諦め、私はそのままトリガーを引いた
ただでさえ照準のブレる高機動状態での飛行…
ちゃんと狙っていないバラけ弾は、強固な装甲で全て弾かれる


ヤバイッ


その感覚と同時に、左腕の一部を突撃砲ごと持っていかれた

すかさず左腕の突撃砲で反撃を試みる
でも、ミサイルの存在がそれを許さない

しつこく鳴るミサイル警告音


「鬱陶しいのよ!」


接近していた残りのミサイルに向けて横なぎに発砲
運良く纏まっていたためか、一発に命中すると連鎖的に誘爆
全弾撃墜することができた

そして、その爆煙から飛び出す別の新種

反応が遅れる…しかし、トリガーを握る指は無意識の内に瞬時に120mmを発射していた
発射した2発の弾がバイタルゾーンに直撃したのか、命中と同時に力なく墜落していく

―残弾警告音


これで120mmはカンバン…


右側の腰部装甲には予備弾倉はあるけれど、右腕が無い以上装填はできない
36mmも残弾が今装填した分のみ
ほかの兵装は短刀が二振りとS-11…

…圧倒的に不利な状況
でも諦めるわけにはいかない


「このっ…」


違う方向から来ていた新種に向け突撃砲を撃つ
装甲で弾かれるけど、何割かは関節等の柔らかい部分に当たっていた


「いい加減しつこいのよっ!!」


接近してくる奴にそのままかまわず撃ち続ける
残り50を切ったところで奴の頭部が吹き飛び、慣性飛行ののちそのまま墜落して行く

残弾は1500ほど


次!


高度を落としつつ、索敵
左右から同時に1匹ずつ


「宗像! 援護頼める!?」


流石に片腕だけで2匹同時はキツイ
宗像に援護を頼むが返事が無かった


「宗か…」


もう一度呼ぼうとした時、彼女の機体が視界に入る

機体の胸部を新種の腕が貫き、それに抗うかのように水色の腕が短刀を新種の首と脇腹に突き刺していた


相打ち…
…これでヴァルキリーズは私一人だけ


味方戦術機は3割程度が撃墜され、残った殆どの機が行動不能
それでもなお残った味方機は、残存する支援部隊とともに新種以外のBETAと交戦している
沖の艦隊も深刻な被害を受けたらしく、支援砲撃は不可能

対する新種は、今来ている2匹を除いて探知できるだけでも12
その内8匹の進行方向は私のいる方角…


弾薬が乏しいのに
これじゃ理不尽もいいところよ


最接近中の2匹に意識を集中させる

もう、距離は殆どない
軽く牽制を加えてみる

片腕だけで飛行しながらの牽制射…
命中してるかどうかなんて、もとより期待していない

距離は400弱…


…賭けてみますか


機体を止め、90度旋回
一方の新種を正面にとらえ、牽制射撃を加える

射撃体制に入っていた新種が一瞬怯んだ
この隙にもう一方の新種にも牽制を加える

残り距離50―


「スモーク散布!!」


肩部装甲から発射された改良型の対レーザースモークが機体を覆う
同時にロケットモーターに点火

垂直方向への推力が一気に増大し、ホバリングしていた機体が一気に上空へと駆け上がった

入れ替わり様に新種がスモーク内に突入
鈍い衝突音がスモーク内から響いた

―残り8匹…!

光学望遠で新種の姿を確認
あのデカブツはいない…


それだけが幸いね

―…ん?デカブツ?
そういえば、さっきのデカブツはどこに行ったの?


もう一度レーダーを見る

…反応ナシ


それじゃあ一体…?


機体を振り返らせたその時、跳躍ユニットのパラメーターが一気に黒くなる

―跳躍ユニット消失…空中に浮かんでいた機体が推力を失い落下する


ヤバッ!?


着地姿勢を取るも、50mほどの高度からの落下に一部溶解した左足が耐えられなかった
吸収し切れなかった衝撃と、数々の警告表示が私を襲う


クゥ…ッ!


即座にパラメーターをチェック…

―結果は最悪
背面の一部が融解し、腰部装甲関節部に大きな支障
結果、脚部の稼働範囲に大きな制限が出来てしまった
さらに左足の損傷は深刻な状態であり、通常歩行ですら非常に困難…


流石に笑えないわね


機体を立ち上がらせようとする
同時に前方から動体反応

…正面衝突した奴の片割れが、無事な腕を使ってこっちへと這いずり寄ってくる


お前は死んでろ!


突撃砲のトリガーを引く
弾かれると思っていた弾は、さっきとは違い弾かれること無くBETAを貫いた

BETAが沈黙すると同時に、再び動体反応

咄嗟に銃口を向けるも、突撃砲を弾き飛ばされてしまう


デカブツっ!


横薙ぎに切りかかる鎌を、半分切り落とされた左腕で何とかいなす

崩された姿勢の制動で、大きく機体が沈み込む
左足の影響で大きな制動動作となったけど、それのおかげで偶然連撃をかわす事ができた

右手に短刀を装備
左腕で連撃を受け、短刀をその頭部へと突き刺す


浅いっ!


右腕が切り落とされた


まだまだぁ


右足をバネに、デカブツへ体当たりをかます
不安定な姿勢だったから、そのまま機体も一緒に倒れこむ

でも…


「これでおしまい、よっ!」


残った左右の腕を振り下ろし、浅く刺さっていた短刀を思いっきり刺し込ませる

私を振り落とそうともがいていたデカブツの動きが硬直し、そしてその四肢が力なく倒れこんだ



さて、どうしようかしらね…


深呼吸を一回し、とりあえず機体を起き上がらせた
パラメーターをチェック

機体の至る所が大破寸前
短刀が一振りまだあるけれど、それを持つ手が無い
けれど、幸いなことに“アレ”だけは未だに健在だった


流石にもうこれしかないわね


レーダーを確認
さっきの8つの反応は既に光学望遠ナシでも確認できる距離にいる


置いていく時間も無いわね


S-11起爆スイッチの蓋を開ける

ハイブ内以外ではこれのお世話にはなりたくないとは思っていたけれど、状況が状況なだけにワガママいえない


「なるほど…
 確かにあの二人がへたばる訳だわ」


8つの反応がすぐそこまで来たとき、私はそのスイッチを叩いた


―Sae's Report end―


---------------------------------
最後の投稿から2年余り放置し、申し訳ありませんでした。
言い訳をさせていただければ、PCのHDDデータが全て消えたことによる各種データやモチベーションの消失、進学による学業面の多忙等、様々な要因で十四話の執筆が進まず、このような結果となりました。

お知らせしていた修正については、未だ完成しておりません。
修正話の完成次第順次差し替えてゆきます。

この修正については、自身が後先考えずに物語を設定・執筆し投稿した事が原因です
これによって小さな修正を繰り返す結果、本来書きたかった物とはズレた物になりつつあったためです。
修正内容についてですが、ストーリーの展開・戦術機・BETA・登場人物等にあまり大きな変更を加えてはないものの、一部変更してる点が多々あります。


修正ばかり行い、また、投稿が大幅に遅れてしまい本当に申し訳ありません。
相変わらずの文章力ですが、よろしくお願いします。




[30479] キャラ設定
Name: なっちょす◆19e4962c ID:3f492d62
Date: 2012/10/28 23:18
キャラ設定(詳細は主にオリキャラと設定が原作と異なるキャラのみ)

白銀 武
18歳(身体年齢16歳)
12月16日生まれ
ポジション:ストームバンガード
愛機:撃震→吹雪→不知火

性格に関しては原作を参考。

元はBETAがいない世界の“白銀 武”であったが、並行世界に存在する幼馴染である“鑑 純夏”によってBETAが地球を蹂躙している並行世界に来てしまう。
その後の詳細はULとALを参照
オルタ世界での桜花作戦成功後、武は光に包まれながら元の世界に戻れる“はず”だったが、その際に「もっと良い結果で終わらせたい」という強い願望を抱いた為、再度この世界に戻ってきた。
しかし、戻ってきた先は明星作戦でG弾が投下された後であり、当初はこの変化に驚いていた
が、その後夕呼の元で“最高のハッピーエンド”を迎える事に全ての力を注いでいる。





如月 宏一
18歳(身体年齢16歳)
9月29日生まれ
ポジション:ストームバンガード→ソロ
愛機:吹雪→不知火→不知火・弐型→撃震→飛鳶

現世と非常によく似た並行世界の高校に通う三年生
人柄が良くその風貌(童顔)から接しやすいとのことで人間関係を築くのは得意
ミリタリー・ロボットオタクであり、その流れから戦術機にハマった。以降マブラヴファンとなる
工作・作画・料理といった事が大の得意であり、元の世界では家族の料理係でもあった
部活動は祖父の影響で中学時代まで剣道部、高校では長く剣を使っていた反動でか射撃部に所属していた


2012年12月某日に世界各国で同時発生した『異変』に巻き込まれ、ALの世界にやってくる(この際、身体年齢が13歳にまで退化してしまう)
流れされるままに帝国軍に入隊する事となり、タケルと同様の理由から衛士としての才能を開花させた。
任官後、ある中隊飛配属され数回実戦を経験。その後、所属中隊が欧州派遣の為の移動中にバビロン作戦が発動し『大海崩』に巻き込まれる。
2か月の漂流の後、命からがらアラスカ・ユーコン基地付近に漂着。同基地に特例で配属され、以降仲間と共に遭難者・難民救助の任に着いた。
そんな中、ある難民救助中に意識不明の重体となる。直後にユーコン基地の放棄が決まり、以降足取りが不鮮明となる。
05年未明にはまりもの部隊に配属されていた。





鑑 純夏
16歳
7月7日生まれ
性格については原作を参考

武とは生まれたときからの幼馴染であり、腐れ縁でもある。
UL・AL世界では1998年のBETA本土侵攻によって捕獲され脳髄だけの姿になってしまったが、UN・AL世界の記憶を引き継いだ夕呼の計らいで難を逃れる。
その後夕呼の部下として働く事となり、その過程で自ら衛士ないしはCPとして働く決意を固め夕呼に進言。結果CPとして働く事となり、現在CP訓練に励む。





伊隅 みちる
22歳
10月13日生まれ
ポジション:ガンインターセプター






碓氷 沙恵
19歳
5月12日生まれ
ポジション:ガンスイーパー
グラマラスでボーイッシュな女性
性格は所謂「気の合う姉御」というもので、誰にでも砕けた態度で接するため部下からは人気である
普段は強気であるが、過去の経験から戦友や親しい人の死に関しては敏感であるという一面も持つ
無類の可愛い物好きであり、霞を初めて見た際には抱き付いた過去を持つ
タケル・宏一の四期先輩

本来は静香と共に帝国軍に所属している“はず”の衛士であったが、訓練生時代に夕呼によってその運の良さを評価され、両者共に国連軍に所属する羽目になった。
A-01 所属当初は、欧州戦線において欧州軍令部と夕呼とのパイプをつなぐ任務の為にA-02として派遣・活動していたが、明星作戦において人員不足に拍車がかかったA-01隊員の補給として急遽横浜に戻ってくる
その際にみちるとヴァルキリーズ部隊長をかけた模擬戦を行うが、戦術機同士では決着がつかず、最終的に殴り合いで勝負した(結果は13R目KO負け)。それ以降はみちるを慕い、現在ヴァルキリーズの副隊長を務めている





綾瀬 静香
19歳
8月11日生まれ
ポジション:ブラストガード
性格はおっとりとしており、その雰囲気から育ちの良い女性を思わせる。ただし操縦桿を握ると人が変わる
また、普段のおっとりした性格の裏には只ならぬ向上心を秘めており、自らの前に立ちはだかる壁には正面からぶつかってゆく
その根性をみちるは評価し、一時彼女に「ヴァルキリーズの鏡」とまで言わせたものの、その天然さが仇となって撤回された
タケル・宏一の四期先輩

沙恵の同期であり、同じ理由から共に夕呼の手により国連軍に所属・欧州に派遣されるが、A-01の隊員補給として横浜基地に戻ってくることとなる
戻ってきた当初は副隊長になる事を命じられたが、沙恵がみちるを慕っている事を知りその命令を辞退。以降ヴァルキリーズのナンバー3として活動している





宗像 美冴
18歳
11月7日
ポジション:ガンスイーパー

性格については原作を参考

速瀬・涼宮・鳴海・平の同期
志願理由は故郷の風景を取り戻す為であり、夕呼の手により国連軍に入隊
訓練生時代四人とは異なる分隊であり、その頃から速瀬との衝突(?)が絶えなかった
A-01配属後も四人とは違う隊に配属されたが明星作戦において部隊は壊滅、唯一生き残った彼女はヴァルキリーズに編入される事となる
その際に四人と再会、生還の感動もそこそこに再度速瀬との衝突(?)が再発させる
常に冷静さを保ち、遥程でも無いが状況判断能力にも優れていた故にみちると同じ迎撃後衛に配属されるが、ヴァルキリーズの隊員不足からの火力不足を補うために綾瀬と同じ制圧支援に回ることも多い





速瀬 水月
18歳
8月27日生まれ
ポジション:ストームバンガード

性格については原作を参考

1996年のBETA進行によって故郷を占領された事により、故郷を解放するために軍に入る事を決意。1999年に友人の遙や孝之、慎二と共に帝国軍に志願するも、夕呼の手により国連軍に編入する事となる
しかし、本人にとってはそんな事はどうでもよかったらしい
格闘術に長けていたが反面射撃は苦手であった。それでも悲願達成の為に人一倍努力し、苦手を克服する
しかし、その克服できたことから他人にも努力を無理強いをするようになってしまい、それが原因となって戦技総合演習において事故を招く。事故自体はそれ程ではなかったものの、以降被害者であった遥にはあまり頭が上がらない
衛士訓練生となってからはその格闘センスからストームバンガードとしての才能を発揮。シミュレーションでいつも撃破数が一位である事を誇っており、ヴァルキリーズに配属され初めて経験した実戦でも
BETAに臆することなく最前線で戦っていた。それ故にみちるから認められており、彼女にとってヴァルキリーズの秘蔵っ子でもある
なお、孝之に惚れており、現在遥と恋人をかけて絶賛バトル中





涼宮 遙
18歳(第十二話時点)
3月22日生まれ
ポジション:ガンインターセプタ―

性格については原作を参考

水月と同じ理由から帝国軍に志願し、夕呼の手によって国連軍に入隊
射撃や格闘術といった戦闘行為に関する事は平均よりやや下で体力も乏しかったが、情報分析力や周辺観察力といったCP系の才能を発揮しチームの脳となって水月達をサポートする
戦技総合演習においては体力の無さを水月による無理強いによってカバーした事が原因となり、崖から転落するという事故を引き起こす。しかし、奇跡的にケガは軽傷で済み、なんとか演習を合格する
衛士訓練生となってからは後方で簡易CPとして支援を行い、ヴァルキリーズに配属されてからも同様のポジションとなった
水月と孝之の恋人の座をかけ絶賛バトル中



鳴海 孝之
18歳
5月15日生まれ
ポジション:ストームバンガード

面倒事を避けて通る「キング・オブ・ヘタレ」の異名を持つが、その裏には決して親友を見捨てることの無い熱い性格を持っている
武に次いで女心が理解できない、鈍感君。

水月と同じ理由から帝国軍に志願し、夕呼の手によって国連軍に入隊。
特にこれといった能力は無く平均くらいの成績。戦技総合演習でも事故を除けば順調に進めていた。
そんなではあったものの衛士としての才能を開花させ、特に慎二とエレメントを組んだ際は他の訓練生相手に百戦錬磨であった水月を軽く倒すほどの腕を発揮させた。
ヴァルキリーズに配属された直後に明星作戦に参加する羽目となる。
その際、横浜ハイブ内に取り残されたメンバー救助の為に、G弾投下による撤退命令を無視して脱出ルート上のBETAを慎二と二人で掃討する。
だが、死期を悟ったメンバーと水月・遥からの懇願により退却を決意。G弾の起爆による重力偏差場からなんとか逃げるも、直後に発生した内向きの爆風による飛翔物が管制ブロックに直撃、意識不明の重体となる。
その後、幾度かの心停止と蘇生を経た後水月と遥による介護のおかげで意識を回復、医者もビックリな回復力によってヴァルキリーズに復帰する。
何気に“G”並みのしぶとさを誇る男である。…だてに水月にボコされているわけでもないらしい。
尚、この時見せた回復力は水月と遥の恋愛バトルに巻きこまれ、幾度となく振われた水月からの“愛の鞭”によって得た能力である。





平 慎二
18歳
6月8日生まれ
ポジション:ガンスイーパー

性格は「頼りになる友人」といったところで、孝之と同じように戦友を見捨てる事は絶対にしないという熱い一面も持ち合わせている。
理数系の頭故ちょっと硬い一面も持ち、前例がない事には多少慎重になるといったマイナス面もある。

孝之とは幼稚園以来の親友で、いつもつるんでいた。
そんな中、孝之が帝国軍に志願する理由を知りそれに賛同、動揺に志願するも夕呼の手によって国連軍に入隊。
兵士としての才能は平均よりもやや上であり、戦技総合演習ではチームの参謀役となって合格を得た。
衛士訓練生となるとソロではまぁまぁの才能であったが、孝之と組むことで真の才能を開花させた。
なお、孝之と組んだ際は主に支援側を担当する。
ヴァルキリーズとして明星作戦に参加した際にも孝之とのエレメントを組んでおり、メンバー救出の為のBETA掃討の為に人生初の命令違反を犯す。その後の退却の際、孝之が飛翔物と衝突した事に気を取られ自身も飛翔物に衝突。
意識不明の重症であったものの孝之よりは軽傷であり、比較的早く意識を回復させた。
この時水月の孝之に対する思いを目にし、水月にひそかに寄せていた想いを綺麗さっぱりと消し去る。
現在恋人募集中。



感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.13159513473511