<リーツ>
ひととおり、ミズキ・ゼルエルを倒した後の話も終え、霞の反応を待つ間に調整を手早く済ませる。
「バイタルOK、クランコードOK、サイコクラッチをテストモードに固定、セントラルドグマ安定値を確認」
指差し確認をしていると、霞が話を切り出してきて、電力供給をテストを始めたときだった。
「良くも悪くも、人間、なんですね」
「なんだね、藪から棒に」
「教授に銃を向けた人たちも、私を生んだ人たちも、同じように感じます」
「人間、倫理をシカトすればいくらでも進化する。科学、政治、哲学、何でもだ。まぁ、政治の場合は、進化しすぎて死んでしまうがな。主に汚職で」
「教授は、どう思いますか(シカト?)」
「人間の倫理かね?」
「いいえ、尊厳です」
「倫理にしろ、尊厳にしろ、行き過ぎは反感を買うだけだよ。一番いいのは、物事の中心が動かないことだ」
電力供給のテストが終わり、すべての部品が使用状態になったことを示すグリーンランプが点灯。モニタにも、『使用可能』と出た。
「特に、戦争中ってのは尊厳は真っ先に消えてしまうものだ。そんなものを気にしていては、敵を殺せない。倫理もだ。霞が感じた『同じ』は、そういうところだろうね」
それは、軍人としてはいいのだろうが、自衛官としては失格なのだろうな。
甘っちょろい理論だが、それだけのことを成すためには、敵の実力の何十倍と言う修練を積まなくてはならず、また、それに終わりはない。
「私は倫理を無視されて生まれました。そして尊厳を排除されて育てられました」
「こんな状況だ。手段なんて選んでいられない。私に銃を向けてGT-Xを奪おうとした人間もだ。いや、私も人のことは言えん」
「シュウジさんたち以外の人を見殺しにしたからですか」
「そうだ。倫理と尊厳をシカトした結果だよ」
キーボードから手を離し、ひざに置く。長い時間に渡って動かした手は赤くなっている。それを休ませるためだ。
「けれども、教授はそれをきちんと覚えていて、いつも心にとどめています。それで贖罪にはならないのでしょうか」
「それはなかなか魅力的だ。が、同時に甘えでもある。私は、私が私でなくなったその時に贖罪がなされると考えている。だから、そのときまでは十分に私を恨んでくれていい」
「同じことです。教授が教授でなくなるそのときまで、教授はそのことを忘れてはいけません」
「言い方が、まるでお母さんだな」
「・・・教授のですか?」
「義理の母上、じゃなかった、お母さんにそっくりだ。義理と言うと当時嫌いだったピーマンを特盛で、ねぇ」
「どんな人でしたか?」
「面白くてやさしい人だったよ。引き取られたころは、よく添い寝をしてもらっていた。いたずらをしてもあまり怒ったことがなかったな」
ちなみにどんないたずらだったかと言うと、戦争で壊れた車からターボチャージャー・タービンを引っこ抜いて、手製ジェットエンジンを作って大空に飛ばしたり、ロケット花火を水田で飛ばして魚雷ごっこをしたりなどだ。
頭の回るいたずら小僧。これ以上、たちの悪いものはあるまい。自分で言うのもなんだが。
「教授にも、お母さんがいたんですね」
「おいおい、人を木の股から生まれたように言うのはよしとくれ」
私とて、と言いかけたところに絹見艦長の声がスピーカを通して聞こえた。
≪教授、そろそろだが、準備はいいか≫
腕時計を見る。作業開始時刻まできっかり五分前だった。
「こちらリーツ。準備はできていますよ」
≪了解。また連絡する≫
「了解---さて、じゃあ一息つけますか」
イスから立って、霞が座っているバケットシートの横に置いてあるコーヒー入りの魔法瓶を手に取る。ふたを開けると、中には大小のカップがひとつづつ入っていて、それぞれ大きい方が私、小さい方が霞用だ。
コーヒーの淹れたてた香りがカップから上がるのを楽しみ、霞にも渡す。気持ちを落ち着けるには、ある種の紅茶がいいらしいが、GT-Xのお茶ストックが切れていたためにコーヒーにした。コーヒーだけは、これでもかという量がストックされているので百人単位でお茶会でもしない限りはなくならない。
「あったかくて、香ばしいです」
「霞もこれの味がわかるか」
「これは合成品ですか?」
「いいや、生誕世界から仕入れてきた栽培物だよ。砂糖も、サトウキビから絞った上白糖を使っている。ミルクはナマモノなので、艦の備品で代用した。それだけは合成品だ」
「これが・・・本物の味・・・」
「霞はコーヒー派かね?それとも紅茶派かね?」
「香月博士のお手伝いの片手間に合成コーヒーを飲んでいましたから、コーヒー派です。食事のときは合成玉露ですが」
「そうだったか。と、そろそろだ。準備は良いかい?」
「はい。大丈夫です」
≪教授、開始時刻三十秒前だ。連動確認を≫
「連動確認、了解」
≪動作合わせ、3・・2・・今≫
「連動確認、良ろし。砂鉄装填、始め」
≪砂鉄装填、確認良ろし≫
「磁気操作板、稼動確認」
≪磁気操作板、稼動確認良ろし≫
「GT-X搭載コンピュータ、稼動確認」
≪GT-X搭載コンピュータ、稼動確認良ろし。オペレイタ・社 霞の状態確認≫
「社 霞の覚悟完了、確認良ろし。ローレライシステム、起動」
≪ローレライシステム、起動≫
起動スイッチが入り、機械たちが動き出す。霞の意識は拡大され、探知範囲全体に及ぶ。と言っても、テストなので六十キロメートルほどに制限されていて、本来的能力を発揮したならば、百二十キロメートルにまで拡大することが可能となる。
その尺度を決めるのがサイコクラッチと言う部品で、もともとのローレライシステムには付いていなかったものだ。不便なので取り付けた。
「サイコクラッチは三速で固定します。よって探知範囲は六十キロメートルほどですので、よろしくお願いいたします」
≪・・・≫
返事がない。
「もしもし?」
≪あ、ああ絹見だ。少しびっくりしてな≫
「私も最初はびっくりしましたよ。驚くのも無理はないですよ」
≪そう言ってもらえると助かるよ≫
「いえいえ。さて、事前に打ち合わせていた通り、起動から三分でシステムをシャットダウンさせます。よろしいですね?」
≪了解した≫
三分というのは、テストだから。
シャットダウンさせるのは、暴走を含めた事故を防ぐために一旦、全ての電源を落とす必要があったからだ。
「モニタはちゃんと映してる。コンデンサも異常発熱していない。電圧も正常。霞のバイタルも安定。三速ならこれくらいかな」
砂鉄が海底の地形と近くを泳いでいる、今ではすっかり珍しくなった野生の海洋生物たちを描いている。そのほかにも海面や海中の海水の動きをうねりとして捉えていた。
「探知範囲に敵影なし。穏やかなものだ」
≪それは分からんぞ、教授。海をなめたら大きなしっぺ返しを食らう≫
「昔、フェリーから落っこちたことがある。よくわかります」
≪それはまた、なんというか極端だな≫
「子供の頃です。海がとても綺麗でしたので」
≪ふむん≫
「さて、もう二分を切りますよ。他にテストしておきたいことはありますか?」
通常、テスト時に行う負荷限界や稼動限界は、全てコンピュータが管理、実行している。それは別のウインドウで確認でき、常時監視が可能だ。
今は、システムのサブオペレイタとしてモニタしているためにその暇がない。なので監視は、ベルカがやってくれている。別室で、だが。
≪そうだな、なら・・・いや、ちょっとまて---探知範囲の境界線に何かいる。海上だ≫
「方位は?」
≪方位は0-2-8だ---違う、何かじゃない。これは艦隊だ≫
「北北東ですか・・・ああ、いたいた。よく見つけましたね、こんな豆粒」
≪伊達に二十年間、ドンガメに乗っちゃいないさ。ソナー手、スクリュー音から艦種を割り出しを。無理ならコロッセオから直接割り出せ。副長、全艦隊、全艦、第一種戦闘配備。隔壁閉鎖。魚雷発射準備≫
≪了解。全艦隊、全艦、第一種戦闘配備。隔壁閉鎖、魚雷発射準備はじめ≫
「戦闘配備?この状況で戦う気ですか」
≪ローレライシステムはシャットダウンさせてくれていい。それに戦闘配備は万が一のためだ≫
「シャットダウンさせたいのも山々ですが、三分間は何があっても止められません。サイコクラッチの接続を解除するには、霞の精神とシステムの波長を丁寧に切り離す必要があります。その見極めのための時間が、三分なんです。車両のクラッチ操作と変わりませんよ」
≪乱雑に繋げれば、霞の精神が傷つく、か≫
「システムもです。ここまで準備しておいて、たった一回使っただけで壊れた、なんて涙目ですよ」
≪わかった。システムの解除まで戦闘は避ける。副長、いいな≫
≪了解であります。全艦通達、残り一分三十二秒まで戦闘を禁ず。繰り返す、残り一分三十二秒まで戦闘を禁ず。速力維持のまま、深度プラス・フタマル≫
≪速力そのまま、深度プラス・フタマルよーそろー≫
≪ツリムタンクちょい注水≫
≪ツリムタンクちょい注水よーそろー≫
≪副長、艦種判明しました。ニミッツ級空母が一隻、タイロコンデロガ級駆逐艦が三隻、ソフコーズ級電子戦艦が一隻です。アメリカ海軍とソ連海軍のバックアップ艦隊です≫
「ソナー手、補欠ってーと、各国各艦隊からの混成部隊かね?」
≪は、肯定であります。中尉どの≫
「艦長、こいつを見てどう思います?」
≪妙だ、と言うほかあるまい。しかもこの空母は・・・この前引退した航空機専用空母だ。戦術機空母じゃない。驚いたな、こんなものがまだ動くとは≫
「アルファ(オルタ5)だと思います?」
≪いや、それはない≫と、声が変わってアンダーセン艦長になる。
≪クーデターでホワイトハウスを制圧したとしても、それで国土全体を制圧したわけではない≫
「まぁ、たしかに」
≪とすれば、彼らはブラボー(オルタ4)とも考えられる。空母を奪ってこちらに逃げてきたんだ、と≫
「アメリカ軍軍人なら、そのまま解決しちゃいそうな気も---ああ、そうか」
≪気が付いたな、教授≫
「逃げてきたんじゃあない。こっちに来なければいけない理由があった、ですね?」
≪そうだ。そしてその理由は、わかるか?≫
「こちら方面・・・つまりハワイにクーデターの黒幕がいる。だからとっちめに来た」
≪私もそう考えている。絹見艦長はどう思うかね?≫
≪本官は、それに偽装したアルファ(オルタ5)かと。先ほどアンダーセン艦長は、あの空母が引退したと言った。引退したならば、装備品ははずされ、どこかの海に沈められるか、解体して新造艦の資料に当てるはずだ。奪うとなれば、警備が薄いほどいい。そしてそこにあると言うことは、奪えたことに他ならない。が、ここで疑問が浮かぶ。警備が薄いと言うことは、艦としての機密性、実用性があまり見込めないと言うことだ。意味のないガラクタに警備を割くなど、アルファと言えど、それこそ意味がない≫
≪いや、わざと奪わせて一網打尽に、とも言える≫
「なるほど。空母として使える装備を残していたのなら、警備は厳重なはずだ。奪うのは難しい。しかし、奪われるほどに警備が薄かったなら、そんな装備はないはずだ。だから簡単に奪える。しかしアルファ(オルタ5)は正規軍の六割を占める勢力。中立を取り込んだのならば七割だ。残りの三割で空母なんて目立つものを奪えるか、と言う話ですか」
≪そういうことだ≫
≪ふむ・・・≫
「どうかしましたか、アンダーセン艦長」
≪いや、なんでもない。まさかな、と思ったが、やはり私の記憶違いだろう。なんでもない≫
「そうですか」
≪とりあえず、通信ブイを出して横浜基地にいったん連絡をしましょう。あの艦隊に関して何か情報が入っているかもしれません。衛星レーザー通信なら傍受されないでしょうから≫と、絹見。
「賛成です」
≪賛成だ。やってくれ≫
絹見が雷撃長に通信ブイを射出するように言う。言われた雷撃長は、すぐに発射準備を整えて海上へと通信ブイを放出した。
「さて、そろそろシステムのシャットダウン時刻なので用意、願います」
≪む、了解≫
「行きますよ。3・・・2・・・今」
≪システムシャットダウン≫
「シャットダウン、完了。霞、お疲れ様」
システムが止まり、霞の意識が戻る。ややあって、自我がはっきりしてくると目覚ましにコーヒーを頼んだ。
「で、どうします?このままいくと、三十分ほどで通常索敵範囲ですが」
≪おおっと、すまない。そうだったな。副長≫
≪は≫
≪警戒を厳に。以後はこの艦隊を『リーダー』と呼称する≫
≪了解。総員、警戒を厳に。正体不明艦隊を、これよりリーダーと呼称する≫
「海神隊はどうします?」
≪五分待機だ。中尉、システムの調整が済んだら出撃準備。敵性と判断の後、海神隊とともに海上戦力の掃討を行う。ブラボーと判断された場合は、そのままリーダーの護衛を行う。いいな?≫
「了解。聞いたな、海神隊諸君」
自分の声と同時に格納庫全体の照明が点灯して、海神隊の雄姿が浮かぶ。既に機体には衛士が搭乗していて、出撃の時を今か今かと待ち続けていた。
しかし海神とは言っても、A-10・イントルーダーではない。
あれは潜水母艦一隻につき一機だが、いま、目の前に並ぶ『これ』は違う。もっと別のものだ。
そういうわけで、操縦系統は少しばかり違う。何せ格闘戦もできるのだ。射撃戦がメインの海神乗りには、新しいことだった。ので、彼ら栄えある帝国海軍の皆様には、横須賀から今まで機体内部でシュミレータ訓練を繰り返し、繰り返し行ってもらった。
さすが、帝国海軍切っての不屈の精神力を持つ彼らだけあって、『これ』の操縦方法は完熟された。あとは、実戦を持って体を成すだけである。
≪では中尉どの、卒業祝いにアレをやっておきたいのですが≫
システムの影響で朦朧としている霞の介護をしていると、海神隊の隊長が言った。ちなみに大尉だが、訓練の都合上、みな一兵卒に臨時格下げされた。
そんなことをしたら士気に重大な影響が出るから止めてとは言ったのだが、他ならぬ隊長自らがそうしてくれと言ってきたので、こうなった。教えてもらう以上、上と下を分けなければ、と。というか、彼らを扱き上げたのは、私自身ではなく訓練用AIなので、そっちの方が良いのでは?
「アレは出撃直前にやるよ。そのほうが士気も上がるだろう」
≪Sir,Yes,Sir!≫
「ではそのように。それまでは五分待機だ」
≪Sir,Yes,Sir!≫
「さて・・・ベルカ、聞こえるかね」
≪聞こえますよ~≫
「先ほどのシステムデータにデフラグを掛けて整頓しておいてくれ。GT-Xの第三コンピュータに転送してくれればいい」
≪アイアイサ~。あ、あと教授≫
「ん?」
≪出航する前にもらった『統合』プログラムなんですが、なんか変な感じがするんです≫
「それは、アクメツの記憶統合をモデルに作ったやつだからな。今の君たちはフラグメントだ。バラけた永遠神剣が一つになりたいのと同じさ」
≪ってことは、一つになることが前提なんですよね?統合したらどうなるんですか?≫
「それは成ってからのお楽しみだ」
≪ケチー!≫
「教えたら即行で統合しちゃうだろう。まだ早いんだ」
≪いつなら良いんですか≫
「BETAがコンピュータに直接攻勢をかけたら、かな」
≪それじゃ遅いですよ。今、やっちゃいましょうよ≫
「だから、それで万が一にも逃げられて対策をとられたらまずいだろう。隙を突いたカウンター攻撃の方がいいんだ」
≪僕たちは負けません!≫
「アレはただのハッキングじゃない。いまは、そのプログラムに体を慣らしておきなさい」
≪ぶーぶー≫
「はいはい、さっさとやる」
≪ちぇ・・・はーい≫
「終わったら、スノコかペンゾの最上級オイルを入れてやる。ゾイルの添加剤もだ。それでどうだ」
≪5w-30でお願いします。ゾイルは4サイクルで≫
「即答か。って言うかターボ車かお前は。なんで4サイクルなんだ」
≪じゃあゼロスポーツで。4サイクルの方がしっくりくるんですよ≫
「ならスノコにしておけ。そっちの方が馴染みがいい。硬いやつだ。でないとタペット音が出る」
≪・・・わかりますかね、ボクサーネタ≫
「私も正直に言うと・・・微妙だと思う」
<白銀>
シンファクシがハワイ沖を進んでいる。
自分は、今は純夏とともに偽装・不知火のコクピット内で戦闘シュミレータを繰り返し行っていた。
「これで通算203勝ゼロ引き分け、ゼロ負けだな」
自分が今やっているのは、教授と先生が共同で作った対クーデター軍の攻略シュミレーションで、援軍なし、損傷度三割、弾薬残量六割、敵性体レベル79(1~100)の設定だ。勝てば勝つほどに難易度が高くなる。
自分は戦闘を、純夏は通信などの戦闘補佐を、それぞれ担当している。
「しかしすげぇな、この機体は。不知火の表面装甲をくっ付けててもラプター並みの機動力がある」
それは、先の娑霧大尉のクーデター戦でわかっていることだったが、シュミレータを通して、何回も戦闘を続けていると、この機体の異常性というものが嫌と言うほど理解できる。
「ねぇ、タケルちゃん」
「ん?」
「この機体がすごいのはわかったんだけどさ、本当にこんな動きができるの?まるでバルジャーノンだよ?」
「ああ、純夏はあの時、霞と一緒にいたんだっけ」
「そうだよ。もー、目が回ったよ」
「この機体には、特殊な動力源が使われてるんだ。機体も、教授経由でもらったもので、その機動に一役買ってる。リザルド見てなかったのか?」
「・・・見る前にこっちに来たんだもん」
「そういや、そうか」
「それで、機体と動力源ってなに?」
「わからん」
「タケルちゃん、アウガン教授に聞いたんじゃないの?」
「途中まではわかったんだけど、後半からわからなかった」
「あのアウガン教授だから、仕方ないか」
「あんまり変なこと言うなよ。純夏を助けてくれた命の恩人だぞ?」
「そうなんだけどさぁ・・・なんていうか、変わってるって言うか、変って言うか」
「とうっ!」
スパァァァン!
「あいたー!」
後ろに振り返って、教授からもらったハリセンで純夏の頭を引っぱたく。とてもいい音がコクピット内に響いて、純夏は頭を押さえて恨めしそうな目で言った。
「なにすんのさー!」
「失礼だって言ってんじゃないか!」
「だからって叩くことないじゃん!っていうか、そのハリセンは何なのよ!?」
「これ?これは教授からもらったんだ。永遠神剣だって」
「・・・タケルちゃん、ごまかそうとしてない?理不尽すぎるよ、その応え」
「本当だって!教授が言ったんだ」
「じゃあ、その『えいえんしんけん』ってなんなの?」
「それは---」
「それは?」
「知らん」
「ドリル---」
「わぁーー!!コクピットでやるなぁぁ!!!」
急いでコクピットのハッチを外そうとするも、純夏の拳からは逃げられるはずもなく、そう、まるで教授が自慢していた国産変態ミサイルのように、綺麗に、正確に、無慈悲に、JACK PODった。
「メメタァ!」
コクピットの壁に軽くめり込んだ。いてぇ。
「タケルちゃんが悪いんだからね、ごまかそうとするから」
「うそなんか言ってねぇー!」
ズボっ
「それに、霞が持ってるナガトだって、永遠神剣の一種だって言ってたぞ」
「だから、それなんなのさ」
「おれに聞かれても・・・」
≪永遠神剣とは≫
「おわぁ!」
「ひゃあ!」
≪意思ある神の剣だ。名のとおり、永遠に存在し続ける≫
「k、教授!?」
「ま、まさか今の聞いてたんですか!?」
≪聞いていたも何も、あれだけ騒げば嫌でも駄々漏れじゃ馬鹿っつら≫
~///×2
≪それよりも、少し厄介なことになった。そのまま聞いてくれ≫
何も言えずに、そのまま教授の話を聞く。
≪先ほど香月博士と連絡を取ってな、情報交換をした。その際、正体不明の群発地震が、カシュガルから一直線に横浜基地に向かっているそうだ。≫
「BETAが横浜基地に!?」
≪進路上にいた中華統一戦線のいくつかの部隊が、そっくり音信不通になっていること、いやと言うほど横浜基地にまっすぐなことから、横浜基地のセントラルコンピュータはBETAの新形式進軍だと判断した。ラダビノット司令官、香月副司令官共にセントラルコンピュータの判断を支持。これの防衛戦略の構築を開始した≫
「クーデター部隊はどうするのでありますか?」
≪アメリカ本土のクーデターは・・・まったく信じられんが、収束する方向に向かっている≫
「どういうことですか?」と、純夏。
≪アメリカ軍の予備役と教導隊、一部の特殊部隊のみで解決してしまったらしい≫
「・・・」
≪よって、われわれラーズグリーズ艦隊は本日中にハワイに潜むオルタ5のクーデター軍を掃討する必要が出た。教導隊の人たちも空母を引っ張り出してこっちに向かっている。合流したのち、衛士各員、および全艦は、デフコン1を発令。以後五分待機とし、全速を以って真珠湾に向かう≫
「なぜ、いまになってBETAが」
≪私という原因を突き止めて、排除に向かっているか、アークバードの製造工場だと判断したか。なんにせよ、これだけの長距離を移動するとなると、BETAには移動式の反応炉を持って進軍していると考えられる。最悪、光線級は反応炉に接続されて使用されるかもわからん≫
「最悪だ・・・」
頭の中で想像されるレーザーの嵐。それは決して止む事は無い。近付くだけで、一体どれだけの被害が出るのか・・・
≪しかし、だ。こんなこともあろうかと思って、君の機体を特別製に仕立てたんだよ。白銀君≫
「しかし、いくら機動性がよくても光よりも早く動くことはできません。インターバルの無い光線級は---強敵です」
≪光発振機構を冷却するために、ある程度の隙は生まれるはずだ。でなければ、自信のレーザーが使えなくなってしまう。宇宙空間のような、冷却に適した環境でないのならば、なおのことだ≫
「厳しい戦いになりそうですね」
≪アークバードの攻撃では、地中深くにいると土が邪魔で攻撃が届かない。かといってバンカーバスターを使おうにも、必要な高度を稼げない。地表に出てくるのを待つしかないだろう≫
「逆を言えば、出てくる前にクーデター軍を壊滅させなければいけない、ですか」
≪そうだな≫
「出撃時刻は、いつになりますか」
≪五分待機だから、すぐだ。今が1623だから、1628くらいだろう≫
「了解です」
≪鑑君もいいかね?≫
「は、はい!」
教授が純夏のことを鑑『嬢』と言わなくなったのは、他ならぬ純夏が、そうしてくれと言ったからだ。
『なんだか風俗嬢みたいで嫌』
という理由で。
≪では、出撃準備。あ、あと≫
「は」
≪EXAMシステムの解放キーを前もって君に渡しておく。好きな時に使いなさい≫
「了解であります」
≪無茶はするなよ?≫
「は!」
戦いが、始まる。