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[296] 機動戦艦バルドナデシコARMS
Name: CVTB
Date: 2005/07/31 22:49
プロローグ



 世界は広い。果てしなく広い。
 地球でさえも広大だと言うのに、ましてや宇宙まで人類の行動範囲が広がった現在。たった一人の『人間』という生物に起こった重大な事件でさえも、世界にとってはほんの些細な、砂漠の砂粒以下、もしくは宇宙の隕石以下の比率でしかない。
 例え、それが時空を超えると言う、垂涎の的のような事象だとしても。




 そんな普段考えないような事を考えている男性、テンカワアキト。かつて火星の後継者相手に破壊活動を繰り返し、誰が呼んだかプリンスオブダークネスだのと言う大層な名前までつけられたテロリストの一種だった。しかし、今の状況を見るに、かつて―――では無く、今の時代では未来で、と言う方が正しくなってしまった。
 有り体に言えば、アキトは未来から過去に飛ばされていた。ちょっとした紆余曲折の末、そう納得した。気が狂ったわけでも黄色い救急車が必要な訳でも無く、事実そう言う訳だから仕方が無い、と誰も聞いていない言い訳を勝手にして。
 未来で既に火星の後継者が壊滅し、同時にアキトの復讐の炎もほぼ鎮火。リストラ間近の窓際族よろしくやる事を半ば無くし、かと言って今更何の面を出して帰れるだろうかとフラフラ彷徨っている間にあった突然の突発的な出来事で、アキトは過去に飛ばされた。
 時間は各所から確認した。ドッキリに騙されているか確かめる為にも。
 世界から数百箇所の電波時計の送信場所、各地のテレビやラジオ、軍の通信、電話の時報。それだけ集め、そこまで来てようやくアキトはその時確信したのだ。


 ―――今が、あのナデシコAの、出航間近の日だという事に。


「やれやれ……」


 身体能力、体調は問題無くなっていた。過去に戻ったからなのか、彼を悩ませていた感覚の低下は無く、五体満足、健康そのもの。唯一の問題を抜きにして、体は平穏なものだ。
 ……その唯一の問題が、一番問題であり、同時に世界中から時間情報を集められた原因でもあったのだ。


「はあ……」


 ため息をつく。気分はすぐには晴れないが。
 人は何かを得るために何かを犠牲にすると言う。そんなどこかの本で書いてあるような、もしくはどこかで聞くような言葉を呟き、飽きるほど行った自己の再確認をする。オレも、この健康体を手に入れ(望んだ方法とは違うが)、代わりに失ったものがある、と。
 ―――それは、身体。『器』としての、肉体。


「何で、コンピュータの中にいるんだよっ?!」


 ―――どうやらオレは、オモイカネと同化してしまったらしかった、と判断したのは、過去に戻されてしばらくしてからだった。





 第一次火星大戦。2195年に起こった、木星蜥蜴の火星侵略の出来事の事である。
 本来民草を守るべき軍人達の多くは我先に脱出し、多数の民間人が無残に命を散らした。大型コロニーの一つ、ユートピアコロニーも、チューリップの落下に伴う直撃によって住人ごと壊滅してしまっている。
 しかも、そんな火星に、更に侵略者が現れようとは、地球の―――木星蜥蜴ですら―――誰もが想像できなかった事だろう。


 それは突然だった。偵察目的のバッタの5機編隊の先頭が、飛行中に爆散した。上空からの敵襲と判断、迎撃に移るその一瞬で、残りも空に消えようとしていた。
 だが最後に残ったバッタが、襲撃者の姿を機械の瞳の奥にはっきりと捉えていた。それは只の宙間戦闘機だったり、双胴戦闘機だったり、冗談みたいな円盤型移動砲台だったりした。
 その中でも一際目を引いた―――人間ならそうするだろう―――のは、緑の機械だった。まるで人間のような四肢に、背中についた空間推進用スラスター、左肩の刺のついたショルダーパッドに、構えているのは戦車の砲塔並みのマシンガン。そして、頭部の特徴的なモノアイ。
 『そいつら』が自分の更に上空をふわりと漂いながら、銃を下の自分達に向けて砲撃していた。AIは判断する。こいつらは自分達に牙を向き、脅かす敵だと。
 即座に、残り一機となってしまっていたバッタは反転、火星襲撃の情報を『仲間』に通信しようとする。
 しかし、時既に遅かった。当時確たる防御手段を持ち合わせていないバッタは、『緑』の機体の射撃と戦闘機群の突撃によって、情報が伝えられる前に、火星の空へと花火になって消えてしまった。


 『襲撃者』の情報が木星蜥蜴の『仲間』に伝えられるのは、もう暫くの月日が経ってからだった。






あとがき
もう三度目となり、迷惑かけっぱなしです。
今度こそデータを吹っ飛ばされないようにしなければ。
それでは、あまり期待せずにまた次回。


……下手に喋るとリアル同様自爆しそう。



[296] 機動戦艦バルドナデシコARMSプロローグ2
Name: CVTB
Date: 2005/07/01 21:39
 オモイカネになってから数時間後、テンカワアキトはある筈の無い頭痛に頭を悩ませていた。
 肉体が消失し、オモイカネそのものに近いモノになった事は、既に割り切った。過去に飛ばされた時に、あのぽんこつな体にいればどうせ長くは無い。おまけにラピスのサポートも受けられないこの時代では、状況はさらに悪化する。そこから考えれば、場当たり的だがまだマシだ。そもそも頭痛はそんな精神的なものではなかった。


「っう……」


 脳の中心に細い電線を通され、軽い電気で痺れる痛みが延々と続く。初めは訳も解らず気持ち悪さにうずくまるだけだったが、後にこれは人間が感じる事の無い感覚を痛みとして捉えているんだとおぼろげながらに理解した。
 自分がオモイカネに成り代わっている、つまり人間であった時にはあり得ないほどの、津波のような情報の渦の制御を引き受けている負荷が、痛みとなって伝えられているのだ。
 だが、これは慣れの問題だろう。我慢できないレベルではない。だが、それよりもさらに重大な問題。


「これから、どうしようか……」


 こんな身体では、何をするにしても支障が出る。何せ今のアキトの世界のすべてはナデシコの中だけの狭い世界。艦長無しではナデシコを自在に動かせるわけでもなく、オペレーター無しでは世界の情報を受信は出来ても手足のように操れるわけではない。自分ひとりでは何も出来ない。それどころか、誰とも話もできない。
 世界に、独り。過去を改変するとか、復讐とか、それ以前の問題だ。


「……いや」


 一人だけ、このナデシコで、『オモイカネ』と話が出来る相手がいた。
 ホシノルリ。ナデシコのオペレーター。話し相手がいるのなら「ヒト」としての寂しさは和らげられるだろう、と思う。彼女に未来の記憶は無いけれど、新たな関係を作っていければと。
 目を瞑って、空間に身を任せる。頭を突き刺す痛みが、ほんの少し和らいだように感じた。




 だがそれは誤りだったかもしれないとアキト、いやオモイカネは前言を翻そうとしていた。
 あれから数分、どこか用事に行っていたホシノルリと、コンソール越しに会話をしようとしていた。
 勿論今の自分はオモイカネ、ナデシコにさえいればどこに行ったか調べるのは容易いこと。しかしいきなりそれが出来るようになったからといえ、即実行に移すほどそっちの倫理観は欠けていなかった。思いつかなかった、と言った方が正しいのかもしれないが。
 ともかく、ホシノルリとのコンソール越しの初顔合わせが始まった。


「……おはよう、オモイカネ」
『おはよう、ルリ』


 確か『オモイカネ』はルリちゃんを呼び捨てていたよな、と思い出しながら挨拶を交わす。さあどんな会話が始まるのか、と内心ドキドキしながら次の言葉を待っていたが。


「……」
『……』
「…………」
『…………』
「……………………」
『……………………?』


 無言。ひたすら無言。どこまでも無言。
 現実でも物静かな少女ではあったが、ここまであからさまに「……」を並べるような所までは行かなかったはずだった。


(何か、あったかな?気に障ったとか、おかしな所とか―――
 もしかして、オレがオモイカネじゃないって気づいたとか? いや、まさかあれだけのやり取りで)
「……オモイカネ?」
『な……なんだい?』
「何か、用が?」
『な、何も無いけど』
「…………そうですか」


 それっきり、再び貝のように口を閉ざすルリ。それ以降、仕事以外の『お喋り』は一切無いまま、ファーストコンタクトはたった数言で終了した。


「悪い所か、不自然な所でもあったかな」


 見当がつかんと首を傾げるオモイカネ。彼女はこんなに冷たい少女だっただろうか?冷徹という意味ではなく、ただ相手に何の感情も持たなさそうな喋り方をする子だったか?消えかけている思い出を掘り起こし、オモイカネは自らに問いかける。実際はオモイカネが昔のルリ、いわゆるナデシコに乗ったばかりのルリを知らず、以前はそんなに喋る子供では無かっただけなのだが、そんな事情は知る由も無かった。





「プロス君、アレの進行状況は?」


 世界に名だたる大企業、その名もネルガルの会長アカツキナガレは、彼の信頼する数少ないやり手の部下、通称プロスペクターと俗に言う企業内の極秘事項について会話していた。不潔に見えない長髪に切れ者のモデル顔の若者アカツキに対し、ちょび髭に眼鏡以外特徴の無い中年プロスペクターのコンビは、しかし街中の雑踏に登場人物その一とその二で紛れ込んでいた。彼らの現在地はオフィスでも会長室でもなく、よりにもよって都心の有名なカフェ。外にテーブルが置かれたタイプのだ。アカツキ曰く、暗い所でばかり仕事したら気が滅入るからたまには広い外でのんびりと、との事だが、ただ単にうるさい秘書の監視もどきを回避したかったからというオチもついていた。


「現在、順調にメンバーは集まっています。キッチンに少し人手の余裕が欲しいですが、現地の近くにいい腕をお持ちの方が何人かおられるようで、そちらを当たってみようかと」


 大声ではないが、必要以上に小声ではない。あくまで不審者にならず、注目を引き付けない。そして重要な点はピントを外して会話を心がける。


「実物は?」
「ほぼ100%です。一週間ほどで完全に終了するでしょう。メンバーの招集もそれに合わせてかけています」
「……僕の参加は?」
「勿論構いません。……エリナ女史が怖くなければ」
「それは勘弁」


 仰々しくアメリカンジョーク並みに両肩を上げるジェスチャーのアカツキ。真面目過ぎたら肩が凝るからこんな態度もしてみる、と本人談だが、日頃の行いからどう見ても素だろうと言うのが周囲の公式見解だったが。


「僕も疲れたよ。あっちもこっちも偉い人達はわがままで、何とか押し潰す―――おっと、言いくるめるのにも一苦労。
 ……ま、アレの結果如何によってはまだ警戒が必要かな」
「手を返すと?」
「注意しすぎてし過ぎない事は無いさ。僕等の敵は木星蜥蜴だけじゃないからね」


 あちっ、とコーヒーに息を吹きかけながら、アカツキは暢気に場違いな話を続ける。


「後続は僕が何とかカタを付けとこう。今動いてるのは?」
「表立ったのは一部あります。極東方面軍の治安維持局情報管理係です」
「へえ? 電脳世界担当の部署が、ハッカーもどきの事まで?」
「正確には、あそこの権藤と言う長官の独断による暴走のようですが。軍の上層部と繋がりがあったようで、手柄を取って舞い戻ろうと言う魂胆だと」
「やれやれ、オッサンのヒステリと過剰な欲望は怖い怖い。ま、僕達の目的はあっちの」


 言葉を切り、こっそりと上に指を向ける。
 空。太陽と青空しか見えないが、それだけでプロスペクターには通じた。


「ブツだけど」
「そうですね」
「……で、こっちのブツはどうなってるの?」


 今度は指を下に指す。今度の意味は、地球の事。プロスペクターもそれを十分承知、脳内から書類を纏めて口で提出する。そもそもさっきから、二人は書類を一枚も出してはいない。書類を必要とする類の中身でもなし、何より証拠を残さなくてもすむ。


「地球の遺跡の事について、判明した事を報告します」




 世界各地に、謎の建造物が現れた。そうプロスペクターは切り出す。
 火星襲撃から遡る事半年前、偶然にも中央アジアの砂漠を横断中の冒険家が最初に発見した。紆余曲折を経てそれは軍に伝わり、冒険家の口を封じた上で早速建造物の調査に乗り出す。
 そして判明したのは、その建造物は地上部はダミーで、本体は地下にある事。それはオーパーツに限りなく近く、圧倒的性能を誇るコンピュータであり、今の技術では解読が非常に困難である事。ただそれが動いているのは判明しているものの、何を以て動いているのか不明な事。それは上海、ハバロフスク、フィラデルフィア、コスタリカ、サウジアラビアの五つが確認された事。そして、それらと、それらを繋ぐ『線』が、纏めて『まるで他の世界から突然現れた』様子だった事。更に、何故かそれが現れたのと同時期、世界各地に謎の無人ロボット兵器が現れ、時に木星蜥蜴に、時に人間に攻撃を仕掛ける事―――第三勢力と軍は呼称している。




「で、現在は?」
「軍の特殊部隊と幾つかの民間会社が極秘チームを組んで作戦を取っている様ですが、作戦継続中だと言う事しか。異常なほど情報漏洩を恐れています」
「ふうん……ま、こっちはこっちでやる事をきっちりやろうか。
 おや、失礼」


 プロスペクターに断りを入れ、アカツキは携帯を取り出す。


「ふむ……ふん……ご苦労さん」
「どうしましたか、会長」
「悪いニュースだね、こんな時に。いや、いいニュースかな?」


 言葉とは逆に微塵も悪いとは思わせない笑みを浮かべ、アカツキは静かに言い放つ。


「軍より先に、第三勢力に関連する『人間』を確認し、しかも確保したらしい。偶然に、だけどね」
「それは……」
「しかも第三勢力の技術を使ったロボット付き。少しは軍にアドバンテージが取れそうだ」


 アカツキはいつもの柔らかな作り笑顔ではなく、欲望を前面に出そうとして抑え込んだ笑みを浮かべながら、ニヤリと口の端を尖らせる。
 まるで、悪人のように。






あとがき
前のプロローグで出て来てない分のキーワードが少し出てますね。
後バルドフォースEXEがアニメ化する事にびっくりですよ。
次回でプロローグは終わるつもりです。それでは次回。



[296] 機動戦艦バルドナデシコARMSプロローグ3
Name: CVTB
Date: 2005/08/29 14:56
 『自分の』データの中に打ち込まれたデータから、ナデシコの予定就航日は三日後だと確定した。あくまでネルガルの予定では、翌日に艦長と副長が乗艦してから幾つかの最終確認と打ち合わせを行い、しかる後に発進の件となっている。
 だがオモイカネは多分だがほぼ確信している。艦長のミスマルユリカが乗艦するその日が、そのままナデシコが飛び立つ日だ。この時代では敵の、木星蜥蜴の無人機械群が佐世保基地に襲撃をかけるから。


「そんなまだ来てもいない物を心配する事は無いんだ。そんなのよりよっぽど強敵が、目の前に居るし」


 電子回線を通してカメラ越しに、ブリッジの銀髪少女ルリを見る。いつものポーカーフェイスを全く崩さず、黙々と両手のナノマシンを走らせて仕事を淡々とこなす姿は、余りにも子供らしくない。むしろ自身が機械の一部と思っているような雰囲気さえあるそれに、オモイカネは彼女の将来に不安を覚えずには居られない。せめて、もう少し子供らしくあって欲しいと思うのは、過ぎる想いだろうか?


(いかん! 一応未来では親代わりだったこの身、彼女を少しでも変えなければ!)


とか何とか娘育成ゲームのノリで本来の目的探しを放り出し、オモイカネは機を見ては何度も会話にチャレンジしてはみるものの、無言バリアーや会話強制終了カウンターによって無残に撃退され、順調に黒星を重ねていた。気分はまさに正義のヒーローにやられ続ける放送前半時の中級幹部の心境だった。


(なんて強大な敵、もとい障害なんだ……!)


 いっその事エステ一機でバッタ三千匹潰して来いと言われた方が比較対象としてよほど楽だった。戦いなら力を振るえば大体は何とかなるが、他人と仲良くなろうとする際には仇になる場合が多い。加えてオモイカネは何となくと言うレベルだが他人の心を読むのに疎いのを自覚しており、女性が相手なら砂漠に迷い込んだ素人探検家のように全く何をすればいいのか解らない。
 こんな時、アカツキなら何と言うだろう?あのナンパ師ながら女性相手に何の気兼ねもなく話しかけるあの図太い性格が、今は恨めしい。


(……そろそろ『仕事』しなきゃな。あんまり『仕事』を貯め込み過ぎたら、処理の過程で頭がまた痛くなる)


 ルリの事は一時忘れ、もとい戦略的撤退を敢行し、オモイカネは瞳を閉じて電子の空間に身を投げ出す。自分という枷が取り払われ、塩をバケツの水の中に溶かしたように意識が方々に拡散していく。だが塩と違うのは、濃度が薄くはならずに広がっている事。オモイカネは、ナデシコの全てを一つの身として認識しながら、プログラムの動作確認やウイルス並びにバグの監視など、機械らしい処理を開始した。
 本来人間だったものがいきなり機械のするような事を行える筈も無く、初めは何度も艦内にトラブルを起こして迷惑をかけたが、あるときふと思いついた。


(―――そもそもやり方を考えているからうまく行かないのでは?)


 ヒトは考える生き物だが、歩く時にわざわざ何処どこの筋肉がどう動くからこうやって歩くとか、行動上の動作環境を考えない。それと同じかもしれない。ただ感覚に任せてみる。
 適当だが幸いにも功を奏し、艦内制御は予定された性能とまでは行かないものの、最低限以上の働きは出来ている。


(ルリの事は、またじきに考えよう)


 それにしても、この身体になって一つ楽になった事があったな、と苦笑しながら思い返す。ナデシコにいながらにして、あのミスマルユリカに無駄に引っ付かれなくて済むのだ。


(あっちの俺が苦労を代わってくれるしな)


 まだ見ぬ過去のテンカワアキトに向かい、とりあえずもう一度苦笑しておいた。





 そして、オモイカネに笑われた過去のテンカワアキトはと言えば。木星蜥蜴が攻めてきた当時、地獄さながらに戦いを繰り広げていた火星から、脱出出来ないでいた。
 アキトは未だ地下にいた。自身の境遇も解らず、ぼおっと突っ立っていた。シェルターを破ってきた黄色の機械達に周りの人達が撃たれていき、そして自分とアイちゃんが撃たれようとする所までははっきり覚えていた。そして、何も考えられないまま辺りが光に包まれて――――


「――――アイちゃん!?」


 ハッと気づき、急いで周囲に首を回す。しかし、彼の周囲360度には、答えは存在しなかった。


「なんだよ、これ……」


 何処を見ても撃たれた犠牲者や撃った機械、それどころか血の一滴や金属の一欠けらすらも周囲には存在せず、何か得体の知れない波がまるでアキトのみを避けて全てを飲み込んだ後の様だった。
 まるで夢、悪夢。だが一方で天井からパラパラと零れ落ちる砂と爆音が、これは現実だと激しく訴え続ける。
 自分は夢の中にいるの?それとも非情なまでに現実?
 いっその事意識を手放し、もう一度気絶してしまいたいと思ったその時。


「――――~~~~っあっ!?」


 爆音、というにも生易しい圧壊音。雷よりも高く、津波よりも深く、大火事よりも熱い衝撃音が降り注ぎ、アキトのとっさに塞いだ耳朶を容赦なく貫く。二度、三度、天井より聞こえる――――聞こえると言う必要も無い音は、少し時間を置いた後、


「――――うわあっ!?」


 アキトの目の前約3mの位置で、最大級の四度目を炸裂させた。




 一分か五分か、アキトを叩く煙と粉塵と衝撃波が和らいだ時、漸くそれは姿を見せる。流線型のフォルムの、少しずんぐりむっくりした甲殻類のような姿。だがそれは機械。アキトは知らないが、それはれっきとした戦いの兵器。まごう事なき戦闘機。表面装甲の色は暗くて解らなかったが、コクピットらしき穴から電子の光が微かに漏れ出していた。
 まるで、アキトを誘うように、明滅を繰り返していた。





 ……火星に住んでいた、あの昔の日の事。
 ……幼馴染と外を走り回っていた、あの昔の日の事。


「アキトーッ!」
「ま、待てよっ、ユリカ!」


 世の中のしがらみも、世界に流れる血も、何も知らず、ただ遊びまわっていた。
 とても楽しくて、とても嬉しくて、こんな日がずっと続けばいいとまで思っていた。
 昔からかすかに感じていた、ミスマル家のしがらみみたいなもの。
 アキトと遊んでいるときだけは、その呪いみたいなものから逃れられた。


 今の考えからすれば、この夢みたいな日々がずっと続けばよかったのにと思ってて、
 また、あんな風に火星に行けるのかなって考えていて、


「……ん」


 それが、夢なんだって気づいたのは、ベッドの上で目を覚ましたから。
 朝。私、ミスマルユリカが、機動戦艦ナデシコの艦長になる、その日の朝。
 事前に艦長以上のクラスに教えられた、ナデシコの目的地。火星に残された、人々の救出。
 だから、なのかもしれない。
 あの懐かしい夢を見たのは、子供の頃から――――今でも大好きなあの隣の男の子の夢を見たのは、きっと――――


「あらら、もうこんな時間。早く準備しないと、迎えに来るジュン君に迷惑かけちゃうね」


 ベッドから降りて、ゆっくりと着替えを開始する。
 そんな懐かしい事を思い出した、この冬の日の事。
 そんな昔のことを改めて確認した、この冬の日の事。






--------------------------------------------------------------
あとがき
とりあえず大体のキーワードを出せたと思います。
一番の代表が「モノアイの肩にとげがついた人型の緑のロボット」(ry
ああ石を投げないで


では、また次回。次回から本編です。



[296] 第一話
Name: CVTB
Date: 2005/07/21 22:48
 ネルガル社が建造した新型戦艦、ナデシコのブリッジ。
 戦闘中においては策謀と命令が飛び交う戦艦における頭脳であるその場所は、しかし就航前の今は女性クルー達の小さな社交場となっていた。コンセプトの問題か選任者の趣味か、ナデシコのクルーには女性が多い。それがまた、殺伐な雰囲気となりがちな戦艦を華のある場所に変えることに成功していた。
 それはともかく、ファッションやらまだ来ぬ艦長やらの話に花を咲かせる女性達の姿を、ぽつねんとオモイカネは独り見つめていた。ホシノルリはオモイカネに対するのと同様、そっけない言葉で数言話すだけ。それを相手は―――操舵手のハルカミナトと通信手のメグミレイナードは人見知りと判断したらしく、それなりに世話を焼いてくれている。
 それをオモイカネは嬉しく思った。ルリは今はこんなんだけど、本当はいい子だから。そう思う一方で、やっぱり自分にも早く話をしてくれるようになって欲しいな、とかすかな嫉妬を覚えていたりもする。
 そんな折、ブリッジのドアが開く。現れたのは中年ちょび髭メガネにスーツの、プロスペクター。


「おはようございます。まだ全員いませんが、艦長が到着致しましたので紹介してしまいましょう。どうぞ」


 プロスペクターが一歩横に退き、扉の空間を空ける。ブリッジにいた三人が姿を見ようと興味津々で振り向く。オモイカネも別の理由で思わずカメラ越しに扉の先を凝視した。


(は……早い!? 何で……?)


 データバンクから艦長がミスマルユリカである事は確認している。ついでに副長がアオイジュンである事も、性格等のデータも表向きには変わりの無い事も。


(ユリカも別のユリカになったか、さもなくば別の世界というので片付けていいのか?)


 思考が纏まらないそのうちに、艦長が姿を見せた。
 容姿はまさに疑うまでも無い、ミスマルユリカだった。だが性格は外面だけでは解りようもない。だがそれを自ら現すように、おもむろに腕を前に上げると、


「私が、艦長のミスマルユリカです!ブイッ!」


――――周囲を唖然とさせたのだった。


「……バカ?」
『バカじゃないけど……それは言わないお約束だよ、ルリ』


 ルリとオモイカネの一言は誰の耳にも入らず、凍りついた空気の中に溶け、静かに消えていった。




 一方、ナデシコの格納庫では、この艦と同じく世界でも最新鋭の人型機動兵器、その名もエステバリスが、シャドーボクシングのように拳を撃ち続けていた。その動きに澱みは無く、足腰も安定。イメージフィードバックで動かすエステバリスの事を考えれば、パイロットの腕の高さを窺い知れた。更に何分か動き回っていた―――むしろそれは暴れまわっていたと表現するほうが正しい―――後、つなぎを着た整備員長らしき男が、拡声器片手にエステに向かって叫んだ。


「気に入ったのは解ったが、そろそろ降りろヤマダ!整備が出来やしねえ!」


 周囲の整備員がとっさに耳を押さえなければ耐えられないほどの大声に、エステは漸く動きを止めた。十秒ほど後、返事の代わりにパイロットスーツの男が降りてくる。ヤマダジロウ。ナデシコのエステバリスライダーで唯一の地球での乗組員は、ストレス無しのご機嫌な表情でさっき叫んだ整備員、ウリバタケセイヤの前に向かう。


「いやぁ、やっぱり二足歩行のロボットはいいなあ、博士!ロマンだよ、ロマン!
 そして俺の魂の名はダイゴウジガイだ!そう呼んでくれ!」
「誰が博士だ!それに聞いた話だと、軍にもロボットはあるらしいじゃねえか」
「いやなあ……やっぱ此処が世界で一番早く乗れるしな」


 確かに軍もロボットを使ってはいる。しかし出回っている大多数はデルフィニウムと言う脚の無い非地上用の機体。有用かはともかく、二足歩行の人型にロマンを求めるガイにとっては、余り食指が向かないのだ。更に、ネルガル以外の企業も人型兵器を製作してはいるものの、ネルガルより発表の早い会社はその当時には無い。ガイがナデシコに乗ったのは、ひとえに待遇以外にエステバリスがあったから、と言っても良かった。


「まあ、軍が今造ってるらしいのがもう少し早く出来ていれば解らなかったがな」
「解った解った、さっさとどきな。整備が出来やしねえ―――!」


 ウリバタケの台詞を遮る、甲高い騒音。敵襲を教える、警報音だ。
 にわかに騒がしくなる格納庫。ここにいる整備員達の殆どは誰も実戦を経験した事の無い者達だから、慌てるのは当然だった。しかしそれでもガイの乗っていた機体を整備するために一糸乱れぬ動きを見せているのは、流石一流だった。


「お前ら!出撃かかってもいい様に、さっさと整備済ませるぞ!」
「ういっス!」




 一方ブリッジでも、その詳細を捉えていた。


「何々!?何なのよ!」


 騒ぎ立てながらブリッジに走りこんで来るムネタケ。フクベ提督やゴートホーリーは警報が鳴って一分も経たずにブリッジに入り、ユリカやジュン達と戦況を確認していた。ジュンだけが律儀に振り向き、説明する。


「木星蜥蜴の襲撃です。今は、地上軍が戦闘を開始しています」
「敵の攻撃はナデシコの頭上に集中しています」
「つまり、この船が目標じゃな」


 ゴートの解説に確信を持ったフクベの言に、ムネタケがとっさに命令を出す。


「それなら、ナデシコの対空砲で下から焼き払うのよ!」
「副提督、ナデシコの対空装備はミサイルしかありません!それに今ミサイル撃ったら、海底ゲートごと埋まっちゃいますよ?」
「じゃあどうするのよ!このままむざむざとやられるのを待つって言うの!?」


 ムネタケの逆切れに近いヒステリを、さっきのブイの張本人とは思えないほど艦長らしい思考と、張本人らしい明るさのまま抑え、一つの案を引き出す。


「海底ゲートを抜けて一旦海中へ、その後浮上して背後より敵を殲滅します!」
「どうやってかね?」
「この戦艦にはグラビティブラストが搭載されています。エステバリスのパイロットに囮を務めて貰い、一箇所に集めた所を撃ちます」
「ふむ……成程」


 流石士官学校主席は伊達ではない、と改めて思い直すブリッジクルー。初めての戦闘だったが、艦長の堂々とした態度に皆は安心を覚えた。


「それじゃ、機動戦艦ナデシコ、発進しましょう!」





 結局何だかんだあってもナデシコは発進できるんだな、とオレはデータ内の記憶を再生していた。アキトが乗らない代わりにユリカ達が早めに来たし、ガイも怪我をしなかった。そしてガイは見事に役目を果たし、ユリカはまじめにやっていた。
 何だ、アキトがいない方が上手くいってるじゃないか。そう自嘲する。やれやれ。
 しかし……いないとなればいないで、逆に心配となってくる。一体奴は何をやっている?
 もしかして火星でジャンプ出来ず、のたれ死んだとか?有り得ない事でもないと思うけどな……今このナデシコの状況を見てたら、いなくてもいいような気もする。
 そしてそれはオレも同じ。オモイカネと同じ事をしているだけ、いや何とかできているだけで、未だオレだから出来る事をしていない。オレに、オレだけに出来ることがあるのだろうか……。
 まあ、無理やり今出来る事を一つ上げるとするならば、


『お疲れ様、ルリ』
「……ありがとうございます、オモイカネ」


 ルリとこうして真っ先に話をすることぐらい、かな。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あとがき
オモイカネを一人称にするか三人称のままにするか迷い、試験中。
そしてアキトが乗らなくても余り変わらない始発。反省。
次回はその頃火星のアキトはでお送りします。



[296] 第二話
Name: CVTB
Date: 2005/07/31 22:47
 シェルターの屋根をぶち抜いて降ってきた物に、アキトは恐る恐る近づいてみる。遅れて落ちてくる瓦礫の欠片に気をつけながら装甲板の上に登ると、微かにしたから光が指していた。その落下物から漏れ出る光。その中の穴を覗き込み、漸く落下物が機械の一種だと解った。


「…………」


 呆気に取られて言葉も出せなかったが、その時のアキトはシェルターを襲った奴とは形とかが違うし、動く様子が無いから大丈夫かな、と混乱したままの頭でそう自己完結した。
 もっと奥まで穴を覗き込む。暗さに思いっきり中を凝視し、慣れてくるにつれまず椅子が見えた。一人用の椅子で、乗客はいない。続いて、中の大まかな形。ゲームセンターの体感ゲームにあるような小さなモニターの前に、操縦桿。そして幾つかのボタン。そこまで見て、やっとこれが戦闘機か何かの戦う為の機械だと想像できた。


(戦う機械……戦える……?)


 ある思考がアキトの意識を埋め尽くそうとする。突き動かされるかのように、気がつけば穴の中に飛び込んでいた。
 戦える。力。その一念がアキトを動かした。


(俺は、アイちゃんを守れなかった!)


 だから戦える力が欲しい。守りたい時に、守れる力が。
 電気はついている。ならば最低限の動力はある。やる事は一つ。
 動くかもしれない、むしろ動いてくれと、適当にボタンを押してまわり、レバーと言うレバーを入れる。
 果たして、奇跡は起きた。天はアキトに味方した。


「やった……!」


 モニターに起動を表す文章が流れる。だが次の画面に切り替わった時、一旦流れが止まった。


「エラーだって……くそっ」


 無茶苦茶にレバーを切り替えた際、設定が不都合を起こしていた。幸いモニターに修正箇所が詳細に書いてあったため、アキトのような初心者でも一つ一つ修正できた。
 そしてエンジンに火が入り、画面の文字がめまぐるしく入れ替わる。やっと動いてくれる、と一息ついたその時、上空から爆音が高鳴る。
 忘れていた。さっきまでは突然の落下物のインパクトと、動かす為に集中していた事もあって殆ど意識の外だったが、シェルターの上の地上部では未だ敵が跳梁跋扈しているのだ。おまけに『これ』が天井をぶち抜いた事もあって、シェルターの意味は現在無いに等しい。
 動け、動け、早く動け。あいつらを倒すために動け。
 火星を、みんなを、アイちゃんを襲ったあの奴らを倒すために、動け。


「動け……動け……動けぇぇぇぇぇっ!!」


 吼える。思いのたけの全てを一つの言葉に込め、叫びとともに操縦桿を握り締めた。
 刹那、身体が上に引きずられる。


「――――――――」


 本当に一瞬のうちに、彼の視界は暗黒空間から青の世界へと移り変わっていた。




 気がつけば空。雲が周囲を纏う高度にまで上がっていた。
 落ち着け、落ち着け。心の中で連呼する。だが行動とは裏腹に、心臓の鼓動は秒間16連射でうるさく刻み続け、冷や汗はナイアガラの如く生み出されては流れ出す。当然だろう、何処の誰が自動車も運転した事が無いのに一足飛びで初めてリアルの戦闘機を操縦し、空のど真ん中で落ち着いていられるだろうか。落ち着いている者は、まずまともな神経を持ち合わせてはいない。そしてアキトは、まごう事なきまともな神経の持ち主だった。
 しかし、次の展開が予断を許さぬ状況となる。
 警報、こっちを見つけたバッタの群れ、そしてミサイル。


「――――うわあっ!?」


 泣きそうになりながら無我夢中で操縦桿を揺らす。機体がつられて急旋回し、きりもみを二度三度かけながら急降下、そして一瞬前までいた場所でミサイルが爆発した時、やっと駆動が止まる。
 ジェットコースターさながらの上下回転運動に胃の中が酸っぱくなり、瞳もにじみながら、しかし逆に吹っ切れたのか、やっと決意を固めたかのように歯を食いしばる。


「――――ふざけるな」


 アキトは怒りを覚えていた。目の前の敵に対してではなく、何も出来ない自分に。
 いきなり俺達のコロニーを、生活を、火星を潰した奴等が目の前にいるのに、そして望んだ戦える力があるのに。アイちゃんにしたみたいに、見捨てるって言うのか!何もせず、何も出来ず、おめおめと逃げ出すってのか!


「そんなのは、もううんざりなんだ!」


 操縦桿が潰れるように見えるほど、力強く握り締める。そして思いっきり引いていた。
 だから、その後に起こった事は、奇跡だったのかもしれない、とアキトは思っていた。人生で数少ない、奇跡のバーゲンセールだと。
 機体が軋む。中にいるアキトには、モニターに映るただ一文しか解らなかったが。


 ――――本機はバトルモードに移行します――――


 それの種明かしは、エンジンに火が入った時には既に、周囲の不審機を確認して戦闘用のプログラムを走らせていた。しかし落下直後の衝撃の為にメインプログラムを先に修正していたから、今のタイミングになっただけの話。そのタイミングが、アキトには奇跡になっただけという事。
 それはともかく、確かに今、火星の空に、それは姿を見せたのだ。戦闘機から変形し、高さも15mを越えるだろう、人型のロボットが。


 それは、とある世界で最終兵器だった。どこかの青とか決戦存在とかは全く関係ないが、それでも人類の希望だった。侵略者によって蹂躙され、破壊され、絶望の中にあった地球を救ったロボット。
 ――――白い『モビルスーツ』が、時こそ違えど、確かに侵略者に向かって今牙を向こうとしていた。




 正体不明のモノを認識し、向かい来るバッタ達。数は五。たった一機でさえさっきまで恐ろしかったそれが、しかし今のアキトには怖いものとは感じなかった。モニターの説明どおりに、ダブルライフルを取り出す。雨のようにミサイルが降り注ぐのと、ライフルを構えるのは同時。的確なロックオンサポートにあわせ、指を握る。
 射撃。一つ二つ、以下数えるのも面倒なほど花火が咲き、数秒の後に五機のバッタも同じ運命を辿った。
 その時やっと、残りの木星蜥蜴達は正体不明の白いモビルスーツを排除すべき敵と認識した。周囲にいた部隊を集め、戦艦一隻に五十を越えるバッタが揃う。それでもアキトは怯まないし、怯えない。どちらもする必要が無かったから。今のアキトには、何だって自由に出来る気がしてきたから。


「お前らなんかぁぁぁぁぁぁっ!!」


 背中からビットを三機射出し、ライフルを前に構える。くるくると主人を守るようにビットが回りながら、ライフルの火線を濃くする手助けをする。四方向からの一斉射撃は、黄色い虫達を殺虫剤の如く纏めて叩き落し、敵小型兵器全滅と言う結果を、目の前に示した。
 しかし、その花火と煙の中を悠々と進む物もまだ存在していた。
 木星蜥蜴の戦艦。火星大戦開戦当時から地球軍の戦艦の攻撃を殆ど意にも介さなかったあのディストーションフィールドは、後にナデシコが現れ、更に後にフィールドキャンセラーが現れるまではまともな対処方法が存在しなかった。それは機動兵器の一機程度の射撃に楽に破られるほど、柔な造りではない。そんなものを、蜥蜴の戦艦は搭載していた。


 だが、アキトはそれでも倒せると思っていた。重ねて言おう。何だって出来ると、確信していた。
 モニターに表示された使用可能な最後の武装を、指示通りの方法で取り出す。自機の前に構えられた武器は、巨大な主砲と呼ぶのが相応しいものだった。その名を、メガバズーカランチャー。敵を完全に貫くための、一撃必殺の兵器。


「落ちろぉぉぉぉぉぉっ!!」


 白の閃光が火星の空に走る。一瞬何も無かったかのように静寂が訪れるが、光の矢は確かに敵に突き刺さっていた。敵艦の周囲の空間が僅かに歪んだ次の瞬間、中から火が次々と噴き出し、続いて完全に爆発四散した。


「やった……!」


 勝利。間違い無く完全勝利。何の問題も無く、敵を蹴散らした。それにアキトが喜びの声を上げるのは、無理も無い事と言えた。
 だが、ここで奇跡は終わった。いや、ここまで奇跡が続いた、と言った方がいいだろう。アキトが気を抜いたその時、


「――――っあ!」


 前方から機内を叩く振動に、全身を何度もコクピットの壁にぶつけた。原因は単純明快、メガバズーカランチャーが爆発したからだ。
 元々『落ちてきた』兵器を整備も何か問題があるのかも確かめずにすぐに乗り、戦うこと自体にかなり無理があった。ロボットは意外と繊細な部分があり、飛んだり跳ねたりするだけでも金属疲労などを起こす。ましてや地面を崩すほどの衝撃で落ちたのであれば、どこかが壊れていてもおかしくは無い。メガバズーカランチャーもその関係で、いきなり高出力を引き出した為に動力に異常な力がかかり、爆発した。更に泣きっ面に蜂か、次の瞬間モビルスーツの動力が停止した、とモニターから告げられた。武器の爆発は余り危険に思えなかった(それでもびっくりはしたが)アキトでも、それを告げられる意味はすぐに解った。
 よほど無理が祟ったのか、警告のモニターの光があっという間に消え去る。アキトが顔を病人さながらに蒼ざめたと同時、鉄の棺桶に入ったまま哀れにも上空何百mからのパラシュート無しのスカイダイブを体験する羽目になった。






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あとがき
やっと前のレス数まで追いついたぜ。相変わらず遅筆だが。
次はまたナデシコサイドですが(つうか交互?)、いい加減そろそろバルドの面々出さないとバルドとのクロスと言うことすら忘れかねない(主に私が
取り敢えずカークランドかなぁ。



[296] 第三話
Name: CVTB
Date: 2005/08/29 15:40
 機動戦艦ナデシコ。当初、軍の大部分の人間は殆ど相手にもしていなかった。たかだか、いち民間企業の戦艦で何が出来ると侮っていたし、その証拠にナデシコに派遣した軍人はいなくなっても問題無いレベルの者を少数。しかし、それに搭載された強力兵器『グラビティブラスト』の威力を見るや否や、手のひらを返した。あの強力な戦艦の技術を軍のものに組み込みたい。だが初めに相手にせず、馬鹿にしていた立場からすれば、いち企業に頭を下げに行くような事はしたくなかった。
 それを出来るような人間も軍に確かに存在はしたが、方針を決める『お偉方』の大多数はプライドに拘り、別の方法を選択した。即ち、強引な接取。無理矢理に奪い取る。そんな単純で、強盗さながらの命令を、わざわざ連合軍のトップが下部全組織に命じた。




 極東方面軍治安維持局長官、権藤厳はその命令を成した時、自らに転がり込む利益を考慮し、実行に移そうとしていた。でっぷりと太り、脂ぎった身体の持ち主の彼は、昔からのし上がる為に謀略策略から蹴落としまで何でも行い、一時は治安統括本部所属参謀まで登り詰めたが、今では何らかの理由でこのポストに落とされていた。
 だがこの機会を手中に収めれば、上層部に恩が売れる。場合によっては、再び上に舞い戻る事も考えられた。そんな今はまだ狸の皮算用な事を頭に思い浮かべ、権藤は子供が見たら泣きそうな歪んだ笑みを思わず顔に現していた。





 そして上司の方針をもろに受け、活動しようとしている部隊の一つがあった。治安維持局情報管理係第一小隊。戦績は優秀だが、問題行動も多いこの部隊は、半ば邪魔者扱いで今回の作戦の先陣を務める事になった。
 情報管理係とは、現実世界ではなくネットワーク世界において、『シュミクラム』と言う戦闘機型のツールを使用、操縦して軍事活動を行う部署である。主な仕事はシュミクラムを用いて、ウイルスやハッカーの使用するシュミクラムと交戦する事である。彼等はニューロジャックと言うプラグを首元に挿入する事によって意識をネットワーク下に電子体という仮の身体で形成する事で、長所として仮想世界内で肉体を持ち、IFSより円滑なネットワーク下での行動を可能にしている。だが欠点もあり、IFSでは意識だけを泳がせるような状態で、仮想世界下での戦闘方法が確立されていない代わりに、意識だけではシュミクラムとは戦闘しないで済み、ウイルスに攻撃されても最悪一日程度の気絶で現実に復帰できるが、こちらはシュミクラム操作時に撃墜される、もしくは電子体状態で死に値する程の重症を負うと、現実に影響して怪我、あるいは死もある。どちらも、現在では一長一短であるのだ。
 その小隊の一人、シュミクラムパイロット相馬透は、ネットへの没入用の椅子に仲間とともに横たわっていた。意識は既に此処には無い、しかし首のケーブルを通して仮想世界への移動を終了させていた。西洋風の鎧をベースとした青いシュミクラムを待機させている透や他の仲間達の耳元に、オペレーター、瀬川みのりからの情報が届く。


「私達の任務は、ネルガル社の戦艦ナデシコにネットワーク上から侵入、コンピュータを掌握する、だそうです。皆さんは、用意されたルートを幾つか仲介して、現実世界でコンタクト中の連合軍の戦艦の回線から侵入します。ナデシコには没入装置が無いそうなので、妨害は主にウイルスと予想されます」
「だとよ。透、緊張してないか?」
「まさか。そっちこそヘマするなよ?」


 軍に入りたての頃は内部にいる筈の、友人の仇を見つける事で頭がいっぱいで余裕など殆ど無かったが、それもある程度収まった今では仇を忘れたわけではないものの、現相棒の柏木洋介と任務前に軽口を叩き合えるぐらいにまで落ち着きを取り戻していた。


「先行して敵を掃討しているキルステンと紫藤に追いつき、可能ならばナデシコのデータを収集、最低でもコンピュータの機能を破壊してくれ」
「了解」


 だらけたようなのんびりした口調の小隊長の声を背に受け、透と洋介のシュミクラムは仮想現実の回線の中を走り出した。




 同時刻、ナデシコは連合軍戦艦と遭遇していた。艦長を通して艦内にナデシコの真の目的、即ち火星の人民救助を発表したと同時、ムネタケ率いる軍の搭乗員が反乱、だが事前にその情報を入手していたプロスペクター達によって、それは事前に防がれた。
 その後すぐに、タイミングを計っていたか偶然か、ミスマルコウイチロウ提督の搭乗艦を筆頭とした連合宇宙軍の艦艇三隻が、宇宙へと向かおうとしたナデシコに立ちはだかったのだった。


「機動戦艦ナデシコに告ぐ!! 地球連合宇宙軍提督として命じる!! 直ちに停船せよ!」
「ミスマル提督……軍の方とは、既に話がついている筈ですが?」
「確かに。だが、宇宙からは木星蜥蜴、地球でも謎の戦闘兵器が跋扈している今、一致団結して人々に襲い来る脅威を払うべきではないかね!?」
「お父様……」


 プロスペクターとコウイチロウの舌戦が開始されようとしたその時、ユリカが割り込む。静かな、だが確かな口調にしっかりと意思を持った視線を携え、モニターの向こうの父に反論する。


「確かに、地球の脅威を払わねばならない事も事実です。しかし、火星に移り住んだ人々もまた地球の人々と同じはずです!私も火星に住んでいた事があるから、そう思うんです。
 人任せにするつもりはありませんが、これは役割だと思うんです。私達は火星の人達を助けに向かい、お父様達は地球を救う。多分そういう機会だと。
 だから、お父様、行かせて下さい!」
「むぅ……しかし……正直、私は娘を反逆者にしたくは無いのだ!」
「ですが……」
「それは……」




 オモイカネは現実の皆と同様、固唾を呑んで見守っていた。
 この件は自分がいる、いないは関係ない筈だ。だが現実にはマスターキーを抜くどころか、この場で交渉を終わらせようとしている。これもまた、何処かで聞くようなちょっとの変化がどうたらこうたらの現象の一端なんだろうか。


『……謎だ。だが、まあいい』


 過去のマイワイフの驚くべき真面目さにちょっと目を白黒とさせながらも問題を四文字で一蹴すると、思い出したように警戒に移る。確かこの時も、近場の海に眠っていたチューリップがこの集合に呼応するように現れた筈だからだ。自動警戒のまま行く末を見ていてもいいのだが、この調子では何となく何とかなりそうな気がしていた。
 そこにひいきがあったかと聞かれれば、否定できないのもまた事実ではあったが。


『……ん?』


 程無く警戒網に引っかかる。と言っても現実ではなく、ネットワーク上にだった。大型の電子体反応が、数機。以前には無かったシュミクラムだの電子体没入だのという情報は、収集時に入手したので今は驚かない。
 反応は軍属。前方の連合宇宙軍の艦の回線を仲介していて、既に第一層に侵入、自動簡易迎撃ウイルスでは壁にも時間稼ぎにもなっていない様子だった。
 目標は行動の様子から、自分のいる中枢部だろう。外部と内部の二段構えで、ナデシコを落とす。
 そうはさせない、と言いたい所だが、更に都合悪く外でも引っかかる。ある意味予定通り、チューリップが起動、こちらへ機械を放出しながら向かっていた。
 オモイカネなき今、自分が『オモイカネ』だ。戦闘時の処理は自分でなければナデシコの力を発揮できない。ネット上には幾つかの『分身』をばら撒き、艦内へ警報を鳴らした。




 警報とオモイカネの報告によって、ナデシコはチューリップの存在を確認、即座に戦闘態勢に入ろうとする。連合軍側もそれに気づき、一度交渉を中止して敵の方へ艦を向ける。


「艦内全域、第一種戦闘体制!お父様、これは後ほど!」
「あっ、こら――――」
「各員、所定の位置について下さい!」
「オモイカネ、良好です。外部からハッキングを行使されていますが、どうしますか?」
「お願い、ルリちゃん、そっちは任せます。ヤマダさんのエステバリスは?」
「準備オッケイだぜ、艦長!」
「艦長、チューリップがパンジーに接近!内部から無人兵器を放出し始めました!
 バッタ、ジョロに……ええっ?」
「どうした、メグミ君」
「ええっと……いえ、その……」


 口ごもり、自身信じられないような顔をしながらも、メグミはモニターの一角に映像を移す。そこに映されたジョロと、バッタと、そしてもう一つの兵器を見た時、ほぼ全員が驚き、あるいは引きつった。


「…………?」
「……ふむ」
「ロボットですか?」
「木星蜥蜴も、新型を投入してきましたか」
「エステより随分と大きいですな、ミスター」


 それがただの新兵器としか認識していないルリ、フクベ、ユリカ、プロスペクター、ゴートを除き。
 ルリは昔からテレビなどの娯楽に触れる機会が皆無だったし、ユリカもあまりそういうのは見ない。そしてフクベ、プロスペクター、ゴートは年配に入っているのでちょっと厳しいかもしれない。逆に言えば、それ以外の人間は多少の差あれどそれを知っていた。ガイやウリバタケは興奮すら隠そうとはしていなかった。
 つまりは、そういう事である。


『――――ザクかよ!?』


 オモイカネ、ガイ、ウリバタケの一斉射ツッコミの通り、あの某機動戦士で、モノアイで有名な緑の巨人、ザクが背中にバッタをくっつけながら、空を駆けて戦艦に向かっていた。






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あとがき
やべえ、マハラジャ列車面白すぎ。
後KAGEKIYOメドレーに燃え。ドルアーガのゲーセンに期待。
ああ、文書くの遅いなあ。



[296] 第四話
Name: CVTB
Date: 2005/09/09 21:14
 海上のチューリップが無人機械を続々と吐き出す。ほぼ全てはバッタ等の小型兵器ばかりで、ザクのような―――全てザクだったが―――大型兵器は三機のみ。そのほぼ全てがより脅威を感じたか、ナデシコへと向かい、チューリップと残りの少数は連合軍の艦へと進路を向けた。
 ブリッジは迎撃準備を進めながらも、緑の巨人についての話はすぐには止まらなかった。

「あれって、有名なものなの、ジュン君?」
「うん、まあね。確か、旧世紀にやってた機動戦士ガン……何たらっていうアニメの、主人公機と同じぐらい有名で人気のあるザコロボットだよ」
「ザコとは失礼な!副長、お前はザクを侮っている!ザクほどバリエーションのあり、人気のあるロボットはそうはいないんだぞ!ただのやられ役みたいに言っちゃあ困るな!」
「ヤマダの言う通りだ。人気のあるからこそ、後の同じ系列の作品でもリメイクされているしな!名パイロットも多くあれを使っていた!いわば男の機体って奴だ」
「ヤマダって言うな、博士! 俺はダイゴウジガイだ!」
「博士じゃねえ! つうかお前、ゲキガンガーファンじゃなかったのかよ!」
「確かにそうだが、それはそれ、これはこれって言う先人の名言がある! これは基本なだけだ。あくまでゲキガンガーだけのマニアではない!」

(すまん、ガイ。オレはお前の事、おはようからおやすみまで暮らしを見つめるゲキガンガー一色のファンだと思ってた)

 と、会話を聞いていたオモイカネがそう呟いたり呟かなかったり。

「……まあ、その類の談義は置いておきましょう。重要なのは、その能力です」
「見た限り、大きさだけでもエステの二倍以上ある。質量でぶつけられるだけでも、厄介だ」
「見掛け倒しなら、御の字なんじゃがのう……」
「敵接近まで、60秒を切りました!」
「エステバリス、機動兵器を迎撃して下さい!」
「行くぜ!ダイゴウジガイ、出る!」
「グラビティブラストは?」
「あと五分です!」
「三分で!チャージ、急いで!」

 さっきまでの世間話ライクな雰囲気が一変し、戦場のそれへと変わっていた。決して無視できないほどの数が接近しているのもあったし、何より会話中に更に問題が発生していた。連合軍艦の一隻、クロッカスがチューリップに一番近い位置にいたのが災いし、その大きな口の中に飲み込まれていた。最早猶予は無い。そう判断し、ナデシコは艦首を残り二隻へと矛先を変えたチューリップへと向けた。



 透達、第一小隊はウイルスの群れを超え、ナデシコの回線内に突入した。突入前に数多くのウイルスと交戦した為かなりの時間を食ったが、流石は情報管理係の有数の腕を持つ第一小隊の隊員、大した被害を貰う事も無く撃退した。

「んじゃ透、この先に彩音とカイラが待機してる筈だ。一気に行こうぜ!」
「ああ……いや、その必要は無いみたいだ」

 透と、聞き返そうとする柏木の前に、先行していた筈の彩音機とカイラ機が姿を見せ、二人に合流した。先行していた為多くの敵を引き付けており、損傷が所々に目立っていた。行動自体には支障は無いものの、戦闘とまではどうかと疑問がつく。

「どうした、カイラ、彩音?」
「全員に撤退命令が出たよ。上からクレームが来たみたい」
「まあ、あのオッサンの勇み足だろうって薄々予想出来てたからな」
「それに外の状況もやばいらしくて、早くしないと退路が無くなっちまうよ」
「……離脱するわよ」
「そう都合良くは……行かないみたいだな」

 背を向けようとする四人の側に、新たなウイルスが転送される。エステバリスが、電子の空間に次々と湧き出してくる。オモイカネが生成した防衛装置が、今更ながらのタイミングで透達を妨害していた。
 退かねば回線を使用している戦艦が落とされて退却不能になるかもしれない。だが敵はさっきより明らかに動きが違う。考えている時間も惜しく、透は一つの決断を下した。

「俺が殿を取る。皆は退路を確保してくれ。洋介は二人の援護を頼む」
「おいおい、そりゃ無いぜ……と言いたいが、二人はちょっと無理そうだな。任せとけ。死ぬなよ、相棒! 
 ――――どけどけえっ!」
「それは、こっちの台詞だ!
 ――――草原の狼を、舐めるんじゃねえ!」

 互いに背を向け、敵に牙を向ける。仮想空間に、再び爆音が高鳴り始めた。



「せえぇ……のおぉぉっ! ゲキガンフレアーッ!」

 スーパーロボットパイロットのような威勢のいい掛け声を操縦桿に乗せ、ガイの乗るエステバリスはディストーションフィールドによる体当たりでバッタ達を蹴散らし、ザクの一機に肉薄する。ザクのライフルによる射撃をひらりとかわし、腹部に拳が直撃。そして突き抜けた後ろで、爆散。まさに異世界の兵器との戦闘を体験したガイは、一言で表せばげんなりしていた。

「いや、こんなもんなのか?」

 何だかサンタの正体が寝床に忍び込んでくる父親だと解った時のような、夢の壊れた顔をしていた。もう少し手応えがあって欲しかった。それは撃破の瞬間を目撃していたナデシコ艦内の一部の男達も同様だった。
 その間にも、残りのザクは空戦エステに僅かに及ばないぐらいの、しかしバッタに比べれば圧倒的な推力でガイを抜き去って、チャージ中のナデシコに攻撃を仕掛けてきた。ナデシコがライフルの射程に入った次点でザクが射撃するが、フィールドに弾かれて届かない。それを理解したザクは、次に自身の身を弾丸代わりに、体当たりをしかけた。

「ミサイル、発射!」
「ヤマダのエステを、艦の後方に呼び戻せ! 新たな敵三十、近づいているぞ!」

 士官学校から一、二の成績を持つ二人の指揮コンビネーションは、フクベ提督を再び感嘆させるに十分なものだった。ユリカが艦の現状を把握して指示すれば、ジュンはエステの行動を指揮して補佐する。ユリカに足りない所があれば(そんな事は余り見られないが)、ジュンが補佐する。
 一機は落ちたものの、ミサイルの波を乗り越えた一機のザクの体当たりが艦に突き刺さる。一撃だけでは大した傷も無く攻撃も行動も支障は無いが、フィールドの内部から連続して攻撃されると危ない。しかしその心配もするまでも無く、最後のザクも背中をライフルの雨にさらされて砕け散った。
 周囲の敵もほぼ殲滅し、戦闘区域の敵の数は僅か。そして大元のチューリップは新たな敵を生み出そうとしているのか、行動を停止している。
 チャージ完了の報告がまわってくる。今が頃合と、ルリの声を合図にユリカは打って出る決断をした。

「グラビティーブラスト、スタンバイ」
「行くよ? グラビティーブラスト、発射準備!」
「目標、敵大型艦、チューリップ!」
「発射っ!」

 号令一つ、ナデシコの前面から重力の塊が収束し、後に帯となってチューリップに伸びる。叩き、弄り、押し潰して、最後にチューリップは砂よりも細かな何かとなって虚空に消えていった。
 まさに圧倒的と呼ぶのも面倒なほどの、完全な破壊にして勝利だった。

「敵、消滅しました。プログラムに侵入していた軍の別部隊も、撤退しました」
「けど、あの……ロボットは何だったのかな?」
「まさかジオン軍じゃあるまいし……何処かの星で、埋まってたものだったりしてね。ま、それは置いといて……」
「そうだね。それじゃ、改めて。機動戦艦ナデシコ、火星へ向かって発進します!」
「ユリカ、コウイチロウ提督に何か言って行かなくていいの?」
「うん、生きて帰ってくるつもりだし、それに……その……つまり……スルーの方向でお願いします、ジュン君」
「やれやれ……帰ってきた時に何て言われる事やら」
「はうっ、ぐっすん。考えないようにしてたのに……」

 戦闘以外はまるで暢気で、戦艦だというのを忘れる雰囲気のナデシコ。それが去った空域では、残った連合軍艦の軍人達が改めて羨望と畏怖の視線をモニター上のナデシコに向けていた。
 自分達にもあのような兵器が、戦艦があれば木星蜥蜴などすぐに叩けるのに。そんなナデシコがもし連合軍の敵に回るような事があれば、どうすればいいのか。
 そんな問いに答えられるような人間は、今此処には存在せず。

「ユリカ……」

 寂しそうなコウイチロウの呟きが、連合軍艦トビウメのブリッジで静かに響くのみだった。






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あとがき
どっかで同じような書き込みを見たような気がするかもしれませんが、二週目開始。

綾川りのにやられた。ぽこつ☆でへぽこ☆でまじかるハンマーな片岡とも氏に精神殴られた。ナルキッソスに殺された。

という訳で失意と絶望とほんの少しのしょうがない事だらけの現実とか、60億分の1の奇跡とか俺ジャッジとかそんな冬の日の事を心に留めながら寝ます。
♪シリウス目指そう~ ソプラノの大記録~



[296] 第五話
Name: CVTB
Date: 2005/10/06 08:20
 地球脱出の為に飛び立ったナデシコは、地球を覆うビッグバリアを抜け、既に大気圏外にいた。
 途中連合軍の部隊やミサイル射撃、ビッグバリアの解除拒否という障害や、ムネタケが率いた反乱チーム脱走のハプニングがあったものの、概ねゆったりと、特別気負いも何の問題も無く、むしろ士気の高いまま航行していた。

「……という訳でまずは宇宙に無事出る事が出来ましたが、まずはコロニー・サツキミドリ二号が目的地です」
「確か、残りの補充物資を搬入するとか、書類に書いていましたね」
「そうです、副長。正確には、補充物資とエステバリス、ならびに残りのパイロットです」
「ルリちゃん、あとどれくらい時間がかかるの?」
「オモイカネの計算によると、今の速度ではあと十分もかからないそうです。メグミさんが、サツキミドリの方に受け入れの通信をしていますから……」
「――――艦長、大変です! サツキミドリから緊急通信!
 謎の生物の軍団から、襲撃を受けているとの事です!」
「ナデシコ、全速前進! 目標、サツキミドリ二号です!」
「謎の生物の軍団……木星蜥蜴ではないのかね?」
「そこまでは……ただ、今まで見たことの無い軍団って言ってます」
「もしかして、木星蜥蜴の新兵器かもね、ユリカ」
「うーん……そうなのかなあ」

 何かが引っかかり、今すぐの断定を避けたユリカ。
 聞いている言葉から、何となく勘程度のレベルで、木星蜥蜴とは違うような気がしていた。
 木星蜥蜴なら、何故今まで通り無人兵器を出さず、生物を出すのか?
 そもそも、報告の生物とは何なのか? 宇宙空間で生存できる生物なんて、生み出せるのだろうか?

「もうすぐサツキミドリだ。ユリカ、エステバリスを出しておくよ」
「えっ? ……ああ、うん、お願い。メグミちゃん、艦内に戦闘態勢、知らせて。ルリちゃん、念の為にグラビティブラスト、チャージ」

 じきに戦闘が始まる。正体はそこで見ればいい。
 そう判断し、ユリカは思考を断ち切った。



 サツキミドリコロニー。
 ネルガルが所有するこのコロニーの内部では、ネルガルが開発・設計した兵器の実験場や、新型技術の研究所が多数立ち並んでいた。
 ネルガルだけでなく一部の軍・企業もスペースを保持していたが、所有権の問題や技術漏洩の危険性から、ネルガルの割合が大きいのは言うまでもない。
 だが、コロニーへの敵襲、しかもコロニーを破壊しかねないほどの襲撃となれば流石に無視してはいられない。多くの非戦闘民がデータを持って逃げる中、ネルガルの部隊は財産を守るため、その他はネルガルに多少なりとも恩を売るため、他にも戦うため、新型のデータを取るためと数々の思惑が混ざりながら、戦闘が開始された。

 コロニーの外周部を走るように飛ぶ、二機の人型ロボット。微妙に丸みを帯びた装甲に、12mはあろうかと言う巨大な体躯。地球連合軍が最近ようやく製作に着手しだした試作量産型モビルスーツ『SA』。二機は色違いの赤と白であるだけで、性能に違いは無い。
 一直線に飛び続ける先には、何らかの物体。
 否、それはよく見ると生物だった。狐のような、薄い茶色の生物が片手に銃を携え、二十以上の編隊を組みながらミサイルのようなものに掴まって高速で対面から突撃して来た。背後からも、同じものが数十。
 前の狐がミサイルから手を離す。荷物を切り離した火の槍は、一直線に敵を貫かんと飛び込んでくる。当たれば装甲を前から後ろまで串刺し、その後中から某世紀末救世主ばりに破裂だ。

「サンダース、散開しろ! 上下から挟み込む!」
「了解っス、ヘンリー中尉! ネルガルのエステバリスに負けないだけの性能、見せてやるっスよ!」

 背中から爆発的なフレアを放出し、二機のロボットが上下に分かれる。虚空に放たれたミサイルはそのまま敵の群れに刺さり、同士討ちを巻き起こした。

「ざまあみろっス……げっ!」

 慌てて操縦桿を引き、機体を急速旋回させるサンダース。目の前から、U字型の戦闘機が群れを成して掠め、過ぎていく。

「油断するな、サンダース!」
「す、すいません!
 ……こいつ、オリジナルのデータバンクにある奴っス! フラッシュDタイプっス!」
「つう事は、こいつら蜥蜴野郎じゃ無くて、噂のあいつらか!」

 ムーンサルトで反転ざま、ヘンリーが両手のショットガンを連射。弾道上にいた敵生物が、血も流さず風船のように弾けとび、戦闘機は黒い闇に砕け散る。

「ついに来たっスね!『ボゾン』の本陣が!」


 木星蜥蜴との戦争開始直前辺りに見つかったとある『オーパーツ』によると、ボゾン……彼等は我々、つまり人類とは根本的に違っていたらしい。
 果たして、生物と呼んでいいのかどうかも解らなかったようだ。
 ただ、生命誕生以来三十数億年、幾度と無く生物が滅んだのもボゾンの仕業のようだ。
 最後に恐竜を滅ぼしてから、彼等はこの地球で眠りについているらしい。
 そしていつの日か目覚めれば、再び……

 そこでオーパーツの伝承は途切れている。後は、ボゾンの各種兵器の情報程度で、残りはデータが破損していて判別できなかった。
 初めは一笑に付していた軍高官達だが、ヘンリーとサンダースが『ボス』と呼ぶ上官が勝手に開発したこの試作兵器が思いの外中々の性能を発揮していた事と、おりしも示し合わせたように木星蜥蜴の襲撃ならびに謎のロボット軍団の発生によって、ボゾンというエイリアン迎撃目的ではなく、『主要兵器になり得るか』をテストする機体として試作開発が開始された。


 サンダースもバルカン砲を乱射、怯む敵を次々と葬っていく。だが所詮付け焼刃、何処から湧いてくるのか生物と戦闘機群は更に数を増してコロニーの周囲に迫っていた。
 加えて間の悪い事に、もう一つの乱入者がこの宙域に接近して来ていた。
 近場を漂っていたチューリップが戦闘活動を確認、攻撃を目的として接近していた。やがて口を開き、無人機を射出。連合軍にとって幸いな事に、蜥蜴は生物をも相手にし、生物も蜥蜴にも敵対行動を取っていた事だった。
 それでも、サツキミドリ崩壊は時間の問題と化していた。

「もう潮時だな……サンダース! 予定通りデータの収集を終了し、ボスへ報告する為に離脱する!
 高速型に変形して切り抜けるぞ!」
「了解っス!」

 人型が変形し、一瞬にして戦闘機のようなフォルムに移る。先程に倍加する熱を背後に放出し、何もかも置いて二機は駆け抜けた。
 あっという間の出来事。彼等が何処へ行ったのか今は誰も知らず、追う者も追える者もそこには存在しなかった。



 一方で、ナデシコに搭乗予定のエステバリスパイロット三人組、スバルリョーコ、アマノヒカル、マキイズミの三人もまた、迎撃に飛び出していた。
 既に人間側の大多数は落とされ、三人を含む少数を残すのみ。三つ巴の乱戦で生物側がほぼ殲滅状態になったとはいえ、チューリップからは無尽蔵ともいえる無人兵器。
 どれだけ長い間戦っただろうか、余りにも多すぎる数に、精神は焦燥し、辟易していた。
 それでも、口調はまだ軽い。軽くなくなれば、それこそ終わりだ。

「このままじゃ、ジリ貧じゃねーか?」
「ナデシコってのはまだかな?」
「……来たみたいね」

 イズミの呟きと同時、少し遠くを何かが通り過ぎていった。
 真空の空間では音は聞こえない。ただその辺りの機械が軒並み、人ならざる力で押し潰され、引き裂かれた。それを目撃し、続いてそれが一列に遠くのチューリップに伸びて一撃で破壊したのに気づき、反対側からの白い戦艦からの通信が届いて、やっと一息つく事が出来ると解った。

「こちら、ネルガル所属の機動戦艦ナデシコ、私は艦長のミスマルユリカです! そこのエステバリスの人達、状況は?」
「助かったぜ! コロニーの奴は大方脱出したが、迎撃隊はオレ達を除いて殆ど奇妙なバケモノと蜥蜴にやられた。
 ああ、オレはスバルリョーコだ」
「私はアマノヒカル。あのエイリアンは何だろねえ?」
「……ミナミハルオでございます」

 それは違うだろ、と旧世代のある漫才師をほうふつとさせるツッコミが二人からイズミに炸裂する。

「冗談。マキイズミ……舌っ足らずな声は出せません……クックック」
「いやそれもどうだか」
「ともかく、彼女達はわが社の社員で、予定搭乗員ですね。艦長、先に回収しますか?」
「申し訳ありませんが、掃討戦でもうひと頑張りして貰います。索敵状況でも随分敵が少ないですから、それからにしましょう。
 ヤマダさん、出動してください」
「よっしゃあ、やっと出番が来たか!」
「人使いが荒いなあ」
「もうちょっと、がんばろっか」
「……レツゴー三匹」
「……本当に意味が解りません」

 ナデシコに乗る人はバカばっかですか?とこっそりオモイカネに問うルリに、オモイカネはさあ?と曖昧な笑みを浮かべて肩をすくめるだけだった。


 ちなみにその後の結果については言うまでも無いだろう。
 ナデシコは難なく無事な物資を回収し、火星へと進路を取った。
 ただ戦闘データを見ても、結局木星蜥蜴とも敵対する謎の生物―――この次点ではエイリアンと仮称した―――は解らなかった。
 それの正体が解るのは、火星到着後、そして8ヵ月後に地球に降りてからである事は、誰も知るよしも無かった。






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何か……何かが違う。
何かとはまだ解りませんが、何かが……という引っ掛かりを覚えている今日この頃です。
次回までに解決できればいいのですが。ついでに文章の短さと遅筆さも。

種死は凄いね、中澤工ばりの投げっぱなしだったよ最終回
では次回。

PS 感想への返答前回忘れてすみませんorz



[296] 第六話
Name: CVTB
Date: 2005/11/22 22:31
 サツキミドリを発って数十日、ナデシコは以前以上に順風満帆に火星に進路を取っていた。散発的な攻撃はあるが、全てフィールドに任せて迎撃をする必要も無く、今までの連戦連勝とも相俟って、結果的に緊張感が薄れていた。後にいやが応にも空気が一変するのだが、それは後の話である。



 冷たい海。二月になったばかりで、まだまだ肌寒い海。
 一組の男女が、波打ち際を境界線にして立ち尽くしていた。
 少女は海の向こうへ歩き始めていた。裸足で、身を刺すような冷たさを少しも気にも留めない様子で、歩みを止めず、一歩一歩。
 男は動けず、ただ手に『彼女の生きた証』を持ったまま、徐々に離れていく背中をじっと見つめていた。
 彼女のしようとしている事は、多分第三者には完全には理解できないようなことで。それでも、これは彼女が選んだ最後の道で。
 同じであり、先輩である境遇者の彼女を見て胸が潰れそうになる。彼に出来るのは、どうしようもない現実に押し潰されそうになりながら、最後の言葉をかけることしか出来なくて。

「なあ……最後にもう一つだけ質問していいか?」
「うん」
「お前、今……引き止めて欲しいか? それとも……背中を押して欲しいか?」
「……さあ…どっちだろうね。あはは、よくわからないね」

 そう言って最後にもう一度笑った。その間にも足は止まらない。
 以前は波打ち際で止まっていたその足。でも今は止まらない。
 だから、それが答えなんだと


「ルリちゃん、何してるの?」
「艦長。……いきなりでびっくりしました」
「あはは、ごめんね」
「今日も、オモイカネが地球脱出前に集めたいろいろなメディアを、オモイカネと一緒に見てました。暇ですから」
「あ、あれだね。前にリスト見た時、随分色々偏ってたけど」
『放っといて』

 オモイカネの文字盤のツッコミも、むなしく空中に浮かぶのみ。

「今日は何を見てるの?」
「どう足掻いても間近に迫った死を回避できない一組の男女の話の舞台映像です」
「……面白い?」
「解りません。私、少女ですから」
「…………」
「艦長は、書類仕事をしていたんじゃないんですか?」
「あ、うん。ひと段落ついたところ。ちょっと個人的に調べたい事があって」

 近くの無人の椅子を引っ張り出し、腰掛けながら画面の先のオモイカネにラーメンでも注文するように頼むユリカ。

「サツキミドリで交戦したエイリアンのデータ、もう一度出してくれる?」
『オーケイ』

 大型モニターに様々な情報が表示される。エイリアンらしき敵との戦闘中に捉えた姿形と、木星蜥蜴の敵のそれとを交互に見比べる。既にジュンやプロスペクター、ゴートにフクベ達と何度も相互の関連性を話し合ってきたが、答はいつも決まっていた。

「うーん、解んないね」

 サツキミドリでの戦闘機や地球で交戦したザクの残骸を調べると、蜥蜴の無人機械とは技術レベルに異なる場所が多すぎた。かと思えば、地球のザクはバッタを背中につけてその推力で飛行していた。ウリバタケ曰く、ザクは空を飛べるようにはなっていないらしく、付着していたバッタの残骸から、バッタがザクのシステムを乗っ取って動かしていた。
 と言う事は、蜥蜴の物ならわざわざ乗っ取る必要も無い訳で、少なくともザクは蜥蜴とは別系統と考えられる。
 アニメをそのまま参考にするのも色々問題だが、思考の一助にはなる。ユリカもあの形で空を飛べるとは思えなかった。

「ルリちゃん、エイリアンってどう思う?」
「エイリアン……ですか?」

 舞台の映像を見終わり、世界各地の格闘家が落ち物で対決するパズルゲームをしていたルリは、話を振られて少し思い出すように呻いた。

「ん……オモイカネからの受け売りでは、エイリアンと言えば、やっぱり侵略者のイメージが強いと思います。昔からその手の映画や漫画、ゲームは数多くあるそうですから。それらの多くは、異形のバケモノとなっています」
「そうだねぇ……」
「代表例と言えば、エイリアンVSプレデターやメタ○スラ○グ、バ○デ○ークにマーズアタックでしょうか」
「……何それ?」
「知りません。オモイカネが、これが有名だと例を挙げましたから」

 ユリカにも殆ど理解できなかったが、ルリがどこかへ『逝って』しまわないうちに、オモイカネを改造してもらった方がいいかもしれないと、少しくらっとした頭でユリカはそう感じた。



 火星宙域にナデシコが漸くたどり着いた頃、その姿をじっと見つめている無機質な数個の瞳があった。どこから飛んできたか、数機の偵察用飛行カメラ。
 そして、その目的を果たさせている張本人達も、宙域の無人機械と交戦状態に入ったナデシコに向けるレンズの遥か向こうにいた。

「戦艦か……地球の新型か?」
「情報によれば、地球のネルガルが開発した新型戦艦『ナデシコ』かと。公式発表では、ここ火星に取り残された人民を救助するという目的を発表しています」
「連合軍の発表にわざわざ逆らって、しかも単艦でとは、ただの救助目的とは思えんな。
 よもや……アレを嗅ぎつけたか?」
「極冠の遺跡ですか? 確かにアレを地球に取られれば、我々は計画に支障が発生し、最悪劣勢を強いられますが……いかがなさいますか?」
「構わん、放って置け。単艦程度ではこの混迷たる火星、生き抜けはせぬよ。
 だが監視は忘れるな」
「畏まりました」

 副官らしき男が去り、その場で一番偉そうな男が、大学の大講義室並みの部屋に幾つも並ぶモニターに次々と目を通す。火星軍があらかた逃走した現在、現最高指揮官であるその男は、身なりも雰囲気も威風堂々そのものであり、軍人たる気風を以って部屋の下層部で働く部下を見回しながらも知らせられる周囲空域の状況に気を配っていた。

 前述の通り、火星は地球以上に様々な勢力が入り乱れていた。火星の残軍が確認したのは以下の通りである。
 木星より現れたと噂され、最初に火星に攻撃を仕掛けた『木星蜥蜴』。小型の完全な無人機と、フィールドによって強固な守りを誇る無人戦艦に、それらを何隻も積む大型艦チューリップによる突撃戦闘が特徴だ。
 同時期に火星に現れ、木星トカゲに続いて火星に攻撃した『ボゾン』なる謎の機械軍団も存在する。これらはまるでキッチンに現れる黒い害虫の如く幾らでも現れ、数に任せた集団戦闘を主としている様子だ。
 それらと火星の生き残りが三つ巴になっているのが現在の状況。数で劣る火星軍が今まで生存できたのは、極冠の遺跡とは違う新たな軍事系データが満載された謎の『遺跡』―――便宜上こう呼ぶ―――による新兵器開発による質の向上と、三つ巴で互いに動きにくい状態によるものだった。もし『ボゾン』が人間にのみ敵対の動きを見せていたら、火星は三ヶ月は早く滅んでいたであろうと予想される―――その予想はある意味では正しくなかったのだが。
 そこに更に不安材料が追加される。軍事遺跡のデータと敵の映像を照合すると、ボゾンの裏に『ダストワールド』なる組織の介入があるらしいと推測された。加えて近頃、木星側も無人機械を強化している傾向にあるようだ。火星軍は少数の初期型エステバリスとデルフィニウム以外は全て軍事遺跡からの使いまわしで、『カルベルトワーゲン』級地上戦艦三隻に『トビウオ』級空中駆逐艦や主力の1941型戦闘機。しかも軍事遺跡のものは軍事遺跡系のものしか開発ならびに修理補給が効かず、エステバリスやデルフィニウムは使い潰す事になるだろうとされていた。この差が致命的になる前に『MARS-M計画』系列機はともかく、せめて19××型戦闘機やクラーケン型大型空母の開発を急がなければならない。
 火星に残り、人々の守りとならんと志願した駐留軍は精々二個中隊。あの時は半ば自殺志願の覚悟で、実際エイリアンが介入しなければ全滅していただろうとはいえ、もう少し人数がいればと思わないでもなかった。特に戦う前から逃げ出した大多数が痛すぎた。その大多数の殆どが、地球から来た俗に言う高官の類だった。火星も地球人類が住む星であるのに、この扱いか。

(―――否、今更地球の者は当てにせぬ。火星の平穏は、火星の者が勝ち取る)

 モニターに映るのは、ナデシコが戦闘を終え、大気圏内へと徐々に下降していく姿。それを眺めつつ、レオナルド=ドリル少将は再び心中で自らの意志を高揚させる先の言葉を発し、身に染みこませた。戦争が始まってから、何度も行ってきた彼の習慣だった。



 ナデシコが火星に来ている。救助に来たらしい。
 それは誰からともなく知られ、戦火から逃れ、隠れ住むシェルターの中の人々に広まった。ユートピアコロニーや付近の小型コロニーから逃げ延びた者達は地下に逃れ、大部分はいつ死ぬか解らぬまま戦々恐々としながら無為に日々を過ごしていた。
 そんな彼等には喜ぶべき噂であったはずだが、皆浮かない顔をしていた。それは、イネス・フレサンジュなる女性に起因していた。ナデシコの設計に携わっていた彼女は、それ故ナデシコの性能を理解していた。
 ―――ナデシコでは、生きて火星から脱出できるほどの性能は無い。
 それを聞かされていた大人達は、絶望の中から逃れられなかった。その状態のナデシコが来ても、ナデシコが敵を呼び寄せて自分達も見つかり、殺されるだけだと思っていた。

(一緒に戦えば、脱出できる見込みはあるのだけれど)

 とは、イネスは告げない。イネス・フレサンジュと言う人間は、とある数奇な運命と事情により、自分の生死にあまり頓着しない性格の人物であった。だから、助かろうが何処でくたばろうがどうでもいい。
 希望に、意義を見出せなかった。現に、武器はあった。戦艦まである。しかも数ヶ月は粘れるほど食糧や薬品もあった。いや、下手に揃っているから戦う気力がないのか、それは関係ないのか。イネスは後者だと推測している。
 ある『協力者』―――そう呼んでいいのかは微妙な人物ではあったが―――によって、敵を撃破した跡のジャンクと武器弾薬、食糧薬品を交換して生き延びていた時期があった。その時も主に戦っていたのは数名の少年少女、そして異世界からの勇敢なる二人の戦士。彼等を除いて全員、誰一人として戦おうと腰を上げたものはいなかった。

(……彼が死んだのが、トドメかしら)

 それは2週間前。木星蜥蜴の大規模な襲撃で迎撃中に消えた一人の青年。ある日突然シェルターの上に落ちてきた、テンカワアキトなる青年の事をイネスは思い出していた。
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前からまた一ヶ月以上も経ってる。もう駄目だ私orz
MMORPGと太鼓の達人のし過ぎだからなんだが自己責任だ(ターン
さて次回は久しぶりのあっちのアキトの出番。
と言うか今のところ名前に偽りありばかりだ、バルドなんて地球でしか出てないし。
名前変えた方がいいかもしれん。


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