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[308] BLOOD 02
Name: 銘天
Date: 2006/05/18 00:17
吸血鬼化アキトとラピス、それにオリジナルのサクヤの三角関係を交えつつの、劇場版勝手にリマスター物語。
雰囲気で文章を楽しめる方に推奨いたします。



[308] BLOOD 02-1-1
Name: 銘天
Date: 2006/05/18 00:20
連合宇宙軍独立14艦隊、試験艦ナデシコBは、駆逐艦であるアマリリスと共に、ヒサボプランからのボソンジャンプを終えてターミナルコロニーのアマテラスへとやってきた。
「ようこそ、アマテラスへ。」
「艦の制御システムを譲渡、車庫居れ、お任せします。」
「了解。」
ウインドウに映るデジタルの人型へと返事を返して、ホシノルリ少佐は通信ウインドウでアマリリスのアオイジュン中佐へと繋いだ。
「で、今回の臨検査察にも。何か起こるわけですか?」
独自の秘匿回線を経由しての言葉は、直接的で威圧すら含んだルリの一言だった。

ナデシコBが就航してからはや一年が過ぎ去っていた。初めでこそブリッジクルーはサブロウタやマキビハリしかルリとの接点が無かったが、一年という時間は、ルリの親を無くしたという喪失感を僅かに忘れさせてくれるのには、充分であった。
もっとも、僅かとしか言いようが無いのは時たまナデシコAのライブラリーデータを彼女が閲覧していることがあるからだ。

そして、ナデシコBが臨検査察の名目でヒサゴプランのターミナルコロニーや中継コロニーを訪れるたびに何かが起こるのだ。
人体実験の施設や、登録されていない技術者と、機動兵器の稼動実験場など。特にボソンジャンパーの人体実験が発覚したときなどは、ナデシコBは問答無用の攻撃を受けた。
そして、すぐさまに生死を問わない逮捕要請がナデシコBに下されるのだ。
その為にナデシコBは就航一年を超え、生傷の絶えない戦艦の様を誇っていた。幾度かの強化工事や、装甲修理が行なわれ、ルリは其のたびに眉間に皺がよっている気がしてならないのだった。
「さあ、ともかく今回は全開の様には成らないことを祈るよ。」
アオイジュンがウインドウの向こうで答えた。アオイ中佐は駆逐艦アマリリスの艦長であり、ナデシコAの副長を務めたルリの旧知の人物であった。
先のシラヒメに置いてもナデシコBと共にコロニーに赴いて、激戦ともいえる実験場を隠蔽しようとする統合軍と戦った。

共に死んでもおかしくない戦闘であった。

圧倒的な戦力差。食料や兵器、人材が備蓄されているターミナルコロニーをたった2隻の戦艦で落とそうというと、条約違反を省みずに相転移砲を撃つという手段もとらなくては成らない。もしくは死をも覚悟して挑まなくてはならないのだ。援護や救援を待たずして戦うのは、死へと歩むことに相違ない。
だが、それを回避しているのは彼らアマリリスとナデシコBとは違う、もう一隻の戦艦の存在が大きく関わっている。
コードネーム「ユーチャリス」
部隊名「ファントム」
この二つの、決して表へと公表されていない戦力がジュンとルリの乗艦を救っている。そもそも、初めてのターミナルコロニーの臨検査察と共にナデシコBは奇妙ともいえる任務を請け負っていた。
ネルガルの試験戦艦との随行とテスト。それが任務の内容であった。

データハッキングの後に、ルリは撤収して何も無ければそのまま終了とするはずだった。だが、現実は理想道理に成らなかった。
ターミナルコロニーへの臨検査察にはルリだけではなく、ファントムと呼ばれるユーチャリス運用に携わるサクヤ・ヘミングという女性少尉が同行して行なわれた。
そして、サクヤと共にルリは人体実験区域へと赴いてしまったのだ。
周りを武装した兵士で囲まれた記憶は、ルリにとってなじみになりそうなくらい増えてしまった。つい一年でそのような出来事が四回も在ったのだ。勘繰らなければ馬鹿だろう。
最終的にルリはサクヤのボソンジャンプで脱出。
後に敵コロニーとの戦闘開始がここのところのお決まりだった。
「さて、どうなることやら。」
「まあ、酷くならないことを祈ろう。」
ジュンの通信ウインドウが消えて、ナデシコB中枢演算装置オモイカネが艦とコロニーの発着場とのドッキングが完了したことを伝える。
「艦長、行きましょうか。」
サブロウタがルリに声を掛けて、伸びをしながら立ち上がる。
「ええ、そうしましょう。」
ルリも答えてシートから立ち上げる。同じく伸びをして、身だしなみをウインドウで整えると自身の艦長席ボックスから通路に出る。
「置いていきますよ。ハーリー君。」
艦の制御を行なっていたマキビハリに声を掛けて、ルリは先に隔壁前で待つサブロウタの元へと向かった。
特務部隊であるファントム、そして試験戦艦であるユーチャリスは今回の臨検査察に同行していない。そして、世間と統合軍に秘された彼らが此処へとやってくるのか、もしくはやってこないのかは、ルリもジュンも、あるいはアマテラスに居る連合宇宙軍所属の兵士は知らないのだ。
「ユーチャリスが現れないことを祈りましょう。」
人知れずルリは呟く。
ユーチャリス、希望の剣が現れるということはアマテラスとの全面戦争を意味しているからだ。


アマテラスの通路もナデシコBの通路も大差は無かった。無機質な統一されたデザインは軍の施設にも通じる、何処と無く錯覚と迷いを誘うようなものだった。
やがて、ウインドウによる案内が終了する。
ルリとサブロウタとハリの三人はしばしの時間を掛けてアマテラス管理総司令の執務室に到着した。
「失礼します。」
断りを入れて入室。室内は地球上の企業にありがちな内装で、殺風景とも思える空間の中、脇に本棚と赤い絨毯のような箪物、それにお茶をするための小さなたんすがが置かれている。そして、執務用のデスクが入室者の正面に置かれていた。
「ふむ、アマテラスへよくきた。」
相手は統合軍の軍服を着た、禿頭に髭面の男だった。胸には階級賞が燦然と香上げられ、相手が准将であることを示していた。
「連合宇宙軍少佐ホシノルリ。」
「同じく大尉、タカスギサブロウタ。」
「おな「結構。私は統合軍准将アズマだ。」そんなぁ」
ハリの小さな不満の声は一切無視され、アズマは三人を値踏みするような視線で迎えた。
「このたびは、コロニーの臨検査察にやってまいりました。コロニー内部施設及び外部施設の検査、及び現場確認を行なわせていただきます。
准将の手の内を探ることに成りますが、ご了承ください。」
慇懃な口調でルリは礼をし、後ろにしたがっていた二人もそろって頭を下げた。
礼をして起立した三人をみながら、アズマは口を開く。
「コロニー管理法の臨検査察条項の適応はこちらでも確認している。だが、私自身コロニーのことはよくよく理解していると思っている。」
アズマの口から発せられた言葉は正直に言えば、宇宙軍の軍人として半ば驚きの発言だった。統合軍には努力家が多いし、元木連の軍人も多い。
そのなかで、重役ともいえる役職につくことは、自身の仕事を部下にやらせるものが多い。
書類や公的な手続きなどを主な仕事として、コロニーの管理まで手を伸ばすような将校が少ないからだ。

アズマの発言に、ルリとサブロウタの目元は鋭くなる。
「各コロニーでの不穏な動き、そして不定期にヒサゴプランの周囲3千キロメートル圏内でのボース粒子反応。まったく持って戦争が終わったというのに、この世界は忙しい。」
「それだけ、この世界は未知にあふれているだけです。結構では在りませんか。」
ルリは自身の考えを率直に言った。ボソンジャンプなど、相転移、ブラックホールなど宇宙は未だ知らないことが人類に多すぎる。未だに理解し終えずに使っている技術が人類には多々あるのだ。
全てを知っているという考えは傲慢他ならない。
「まあ、貴殿の言うとおりだ。臨検査察に関しては了解した。充分に第三者から、我がコロニーを見ていただきたい。」
アズマの鷹揚な答えにルリとサブロウタは安堵の表情を見せず、ハリは僅かに体の力を抜いた。
「コロニー落しの猛将。その目が確かなことを祈るよ。」



「いやはや、疲れるねえ。」
ナデシコBに帰還したサブロウタは自分の席に座ってため息を着きつつ、両腕のひじを後ろへ突き出して、胸を張って見せた。
「そんな、愚直に現さないでくださいよ。」
ハリは自身の席に座って「はあ」とため息をつきながら、先ほど許可を貰ったパスを入力してアマテラスのシステムへとログインし。後に内部データのハッキングを開始した。
「まあ、いかついタコオヤジの相手なんて面白くない。艦に戻ってこれてよかったよ。」
「艦長にあんな役をやらせるなんて信じられませんけどね。」
「まあ、良いじゃない。」
現在ルリはナデシコBに帰還していない。彼女はアマテラスに訪れた民間人、それも子供。を対象とするアマテラスツアーに参加しているのだ。ハリは今までのターミナルコロニーでの戦闘を経て、得ることと成った技術を総動員しながらハッキングを行ないつつ、ルリの現在位置とライブ映像を表示させていた。
ルリが臨検査察を直接行なうことは今回で5回目。そして、過去の4回に置いて彼女は武装兵士に囲まれて、人質に成りそうになった。その経験から3度目からは艦長の位置と、ライブ映像をブリッジに表示することとしたのだ。

過去に置いて、ルリはA級ジャンパーと同行して臨検査察に赴いていた。そして、そのジャンパーとはユーチャリスを運用する特務部隊ファントムの少尉であり、今は此処に乗艦も部隊も無いサクヤ・ヘミングというなの女性だ。
切れ目で無愛想な彼女は、ナデシコBではルリと同等。もしくはそれ以上の無愛想で美人ながら結婚はしないだろうなと考えられていた。
女好きのサブロウタをルリよりも上手くあしらう、人間観察と対人のスペシャリストなのだ。そんな感想も出てくるだろう。
「俺の仕事は待機。お前の仕事はハッキング。それで、艦長の仕事は道化だ。お仕事やろうぜ。」
一息ついた席から立ち上がり、サブロウタは入室用エレベーターへと乗り込んで行った。
「じゃあ、お仕事頑張ろうか。」
「りょーかーい。」
格納庫へと向かうサブロウタ、その姿を振り返ることなくマキビハリ。通称ハーリーは片手を挙げて見送った。

助言に従い、移転いたしました。名前も正式に銘天へ・・・
感想プリーズ!それがオイラの執筆エンジン燃料



[308] BLOOD 02-2
Name: 銘天
Date: 2006/05/18 23:25
連合宇宙軍の三人が去った後で、アズマは一人赤の敷物を敷いて、お茶をするための急須や湯のみ、茶菓子などの入った小さなたんすを持った。
敷物は執務室の端、それも熱々の湯を身に抱える電気ポットがコンセントにつながれている傍、に至り、靴を脱いでどっかりと腰を下ろした。
「さて、どうなる。」
アズマは連合宇宙軍が何かをつかんでいることを先刻承知だった。
彼自身がコロニーのスペックと、物流の流れを見て異変を感じていた。

自身が知らない、あるはずのないブラックスペース、そして貯蔵されるために運ばれている食料や、資材、それも戦争をするような規模のだ。が運ばれている。
「目的は何か、聞くべきか聞かざるべきか悩んだのは、ずいぶんと軍人として、秩序保護者としては遅かったな。」
アズマは連合空軍出身の将校だ。

連合政府は、外宇宙の生命体の侵略防衛のためという、目的のない目的のために連合軍を創設した。
連合空軍、連合海軍、連合陸軍。そして連合宇宙軍。
それぞれが半ば独立した運営方式を採用し、いまだひとつの国家という枠組みに至らない世界同様、お互いの利権や立場、人種や宗教などでばらばらとなっていた。
そして、トカゲ戦争がおきた。
ビックバリアを主力として、防衛ラインが引かれてそれぞれの軍が協力を惜しみなく行った。いや、行おうとしたといえるだろう。
なぞの敵性体と言っても、上層部である政府は何かをつかんでいるかのように、半ば夢うつつで戦争に初期は挑んでいた。

そのような内部事情の中で、大佐という地位にあって現場の指揮を執っていたアズマは、いよいよ連合軍内部の利権やしがらみに憤怒していた。
トカゲ戦争においての主勢力は、無力でしかない連合宇宙軍であり、彼らの意思がもっとも尊重された。そのために、彼は何人もの若い部下を失い、多くの機体を失うこととなった。
連合航空軍の主戦力は曲線を描いて機動する、半重力エンジンを搭載した航空機だ。そのために、直線運動を得意とするバッタやジョロに苦戦し、幾度となく戦艦に部隊を壊滅させられた。そして、宇宙や空中での宇宙戦艦での航法と戦闘法を独自に学び続けた。

だが、いつしか時間と喪失の数が相対的に重なった後、戦争が終わった。
そして、彼は現在アマテラス駐留統合軍の総司令という立場にあった。

「失礼します。」
硬い声だ。ウインドウ通信などというハイカラなものをアズマはよくよく好まない。ただ、インターホンの音がして相手の声が執務室に届くだけだった。
「入れ。」
許可とともに、執務室のドアから部下であるシンジョウアリトモが小洒落たスーツ姿の男とともに入ってきた。
シンジョウは軍服のまま、いつもの通り刈上げた髪型で、スーツの男もまた同じ髪型であった。
「誰だ。私はそのようなやつを招いた覚えはない。」
「いえ、准将。私が招いたまでです。」
「なに。」
睨み一瞥、スーツの男の顔に覚えがあることに気づいた。
「きっ、きさま。」
アズマは驚愕の表情で後ずさる。だが、男は膨らんでいたスーツの左に手を突っ込んで、何かを取り出した。

それは、おもちゃめいた銃だった。だが、それが木連の兵士が持つ、正真正銘の拳銃であることをアズマは知っていた。
「くさ・・「新たなる秩序のため。」」
名前を言う前に撃った。
鉛のつぶてはアズマの脳天を貫き、敷物の赤が脳漿の赤黒い色で染められる。
「シンジョウ君、片付けの手配を。」
男は銃をスーツ下にしまわず、執務デスクに持ってきていたボストンバックと共に置いてスーツを脱ぎだした。
「了解。クサカベ閣下。」

私はこのssを一応アキ×ラピのつもりで書いています。
もっとも、サクヤもいいけどね。



[308] BLOOD 02-3
Name: 銘天
Date: 2006/05/19 09:16
スーツを脱ぎ捨てて、下着とのみの格好となれば、誰しもが広い空間でその矮小さを感じられない。だが、クサカベは自身が感じる矮小さすらも心地よく感じていた。
「ふむ、これに袖を通すのは二回目か。」
ボストンバックのジッパーをあけて、カフェエスプレッソのような色と赤で構成される軍服が現れる。まずはパンツを履いて上のスウェットをきる。そして、上着を着てベルトを締めた。
「閣下。どうぞ。」
シンジョウが後ろにアズマの亡骸を専用の袋に詰めるという光景を背負い、白手袋をクサカベに差し出す。
「うむ。」
言って受け取る。これこそが最後の仕上げだろう。白手袋を左手に嵌め、次に右手に嵌める。

「シンジョウくん。」
「はっ、何でしょう。」
クサカベは脱ぎ捨てたスーツを丁寧に仕舞い、最終的にはハンガーにかけてカバーで閉じると、ボストンバックの中へとしまった。
「新たなる秩序、その痛みを君は。君たちは了解しているかね。」
それはクサカベの心配だった。
彼は木連において軍部のトップに立ち、旧家と呼ばれる木連民主議会において名誉顧問たち穏健派と対立してきた。人口不足であるから、クローン技術に関しての研究を行い、B級ジャンパーの育成には15人の同僚を実験台と差し出した。
そして、火星ではバッタとジョロ、戦艦などで火星の民を焼き払った。
最後のは不可抗力だった。あんなにも稚拙なハソフトウェアがこの結果をもたらし、部下には見せず悔いた事もあった。

だが、彼は頂点に立つ者であり、やはり戦争は必要であると考えた。

「何をお聞きになるかと思えば。」
シンジョウは不適にも思える笑みを浮かべ、断言する。
「犠牲となった者たち、これから犠牲となる者。彼らの怨念、われらもまた受け止めましょう。



ユーチャリスの格納庫にはいくつもの資材が運ばれる。最長1ヶ月の食料、下着や服などの衣類。そして大量の水と酸素組成用の元素など。
そして、武器弾薬。すべてがこの戦いに向けられてきたことだった。
「まあ、理論上では大丈夫と思っていたこの方法をとるなんて、無茶をしますねぇ。」
七三わけの髪を運ばれる資材の風になびかせながら、ヤマサキ大尉はネルガル月工場にある秘匿ドックに遣ってきていた。
「理論上じゃないわ、実際にA級ジャンパーとしての適正が高ければ、空母や戦艦などのボンソンジャンプも不可能ではない。それにあなただって、アキトくんに使われた実験用のナノマシンの解除コードを確保するなんて無茶なことができているでしょう。
白衣のヤマサキの隣に立つのは、これまた白衣を着た女だった。
美貌の切れ目からは青の瞳が除き、金髪は三つ編みにされている。メガネをかけたその相貌はユーチャリスの白い船体を舐めるように眺めた。

「結局、脳負荷が下がって神経系の完全な回復はだめでしたがね。テンカワくんはしっかりと感覚の回復を感じているはずです。触感やにおい、味覚などといって繊細な部分の麻痺は取れていません。」
そして、そのためにヤマサキは一計を案じていた。
「それで、これ?」
イネスはヤマサキが先ほどまで乗ってきた、運搬用トラックを振り返った。トラックにはボックスが乗っかり、観音開きでその中身をさらしている。
一目見てこれが何なのか、人はさっぱり理解できないだろう。
箱のような固体の中央に、人の形をした何かがある。だが、それは人の形をしてるというのに、中身は何もなく、座るような座席があってその下には足をはめ込むような構造となっており、人がその奇妙な椅子に座り、箱と一体化するようなイメージを与える。
「そう、ヤタとなずけた強化アーマーの第二殻である鎧。私はこれを、セカンドアーマーを鋳型と呼んでいます。」
「鋳型。」
イネスはその不気味な、拘束具と拷問具が混成する鋳型に関心の瞳を向け、その跡で憂いを浮かべた。

喧騒などなユーチャリスドックにおいて、ヤマサキがユーチャリスの格納庫入り口へとトラックで鋳型を運んで搬入する。
初期でこそ地上への離着陸を想定外として作られたユーチャリスは、格納庫権武器弾薬、バッタ待機、ブリッジが併設する艦首を上下に分割することができる。ヤマサキとイネスは着艦体制になっているユーチャリスへと乗艦して、格納庫の待機場近くへと鋳型を運んで設置した。

足音が鋳型を固定し終えたイネスとヤマサキの背に聞こえてくる。
カツカツというような軽快な足音と、音を感じさせない、ただ風の移動のみで存在をあらわす人。
振り返ってみれば、テンカワアキトとラピスラズリの二人がいた。

アキトはがレザーのパンツを穿いて、白のTシャツに赤い半そでYシャツを羽織っている。ラピスはと見ればパンプスのような、ヒールの低いミュールを履いたラピスは、黒と白のチェックのワンピースを着ていた。
「やあ、どうも。久しぶりです。」
ヤマサキは笑いながら二人へと振り返る。
「ああ。」
「ヒサシブリ。」
アキトとラピスも彼に倣う。そして、次に鋳型の固体へと視線をやった。
「それが、鋳型か。」
「ええ。そうです。」
「なんかヘン。」
お互いが言い合って、その後で「もういい」というように歩みを翻した。
「ブリッジに行く。ヤマサキ大尉、鋳型のスペックを教えてくれ。」
無愛想に、少佐としてアキトは言いながら進んでゆく。
「了解、オーディン少佐殿。」
イネスもまた、鋳型に手をついた後、彼らに続いた。
後30分後、ナデシコBとアマリリスがアマテラスに着艦してから45分後。ユーチャリスは出撃する。

私のことをここ以外で知った人いる?
というか、ようやくこいつら出てきたよイネスとかクサカベとかね。



[308] BLOOD 2-4
Name: 銘天
Date: 2006/05/20 23:26
臨検査察中に、ルリはいくつもの懐かしいものや戦争の当時見られたものの資料とであった。
町を破壊するジンタイプのミニュチア版ジオラマ、エステバリスとデルフィニュウム。ナデシコなどのネルガル企業の資料は余り少なく
、むしろ木連の兵器が正義として掲げられているものもあり、僅かに眉をひそめながらその資料を見送った。
ヒサゴンという名前の、黄色いひょうたんをデフォルメしたキャラクターのカートに揺られてルリは最終のエントランスホールへと戻ってきた。
「皆さんそれでは、ボソンジャンプに付いて理解できましたか?」
子供たち、ルリと共に施設見学を行ってきた子供、がいっせいに手を上げながらいっせいに言う。
「わかんなーい。」
マユミお姉さん、アマテラスの案内インターフェイスのグラフィックキャラクターの格好をした案内の女性は
当然のことながらそれを承知していた。
「ようするに、ボソンジャンプは遠いところ、それも宇宙や惑星の間すらも一気に瞬間移動できる技術なんです。
適正のある遺伝子を弄る必要がありますが・・。チューリップを介して行われるボソンジャンプをヒサゴプランは運営しているんですね。」
「ニュースでもなんか言っていたよね。」
マユミお姉さんの言葉を聞きながら、子供たちは自分たちがニュースや新聞、それに両親の話から聞いているのだろう。
自分の知っている知識を口に出した。
「人権問題とかなんとか・・・ねぇ。」
マユミお姉さんもその子供たちの言葉をしっかりと聞いていたのだろう。
「いた、そんな・・・まあ。」
なんと言えばいいのかさっぱり思いつかないだろう。子供たちにこれからの未来に関して重大に関ってくる技術だ。
印象を悪く言ってしまえば、彼女自身の上司に怒られてしまう。
「少佐改造人間?」
「すっげー、マジだぜ。」
少女と少年の言葉をどこか遠くに聞いていたルリは、行き成り話を降られたので「え?」なんていいながら、助けを
求めるマユミお姉さんの姿が視界に入ってきた。
「はあ。」といって、ルリは口を開く。
「確かに適正遺伝子の持ち主がいなければ、ボソンジャンプは危険でしかありません。しかし、高出力のディストーションフィールド
を持つ船ならばジャンプが可能ですよ。戦艦とか。」
「正解だよ。」
ルリの解説に聞き入っていたその場にいた全員が振り返った。
「だが違うこともある。これからはボソンジャンプはしっかりと制御される。人の手によってね。」
全員の視界に入ってきたのは杖を突いている男だった。黒い髪に所々白髪が混じっていて、頬がこけていせいで
どこか疲れた印象を受けた。髭は生やさずにいて、清潔感を感じさせる白衣を着ている。
だが、足元を見れば片足が義足のために痛々しさを感じさせた。
「それは、何故でしょうか。」
ルリはその研究者の一人らしい男と向き合った。その視線はこの男が何者かは知らないが、敵であるという認識をしていた。
「簡単だよ。手立てはあるし、手段もある。そして、ホシノ少佐。」
いっせいに子供たちとルリ、マユミお姉さんとヒサゴンの周りを武装した兵士たちが囲んだ。彼らの一人ひとりは薄茶色と赤の
見たことが無い軍服を着ていて、マシンガンが小脇に抱えられ、油断無く研究者を対岸にした地点を交差点にして、90度に曲がって整列した。
「あなたに協力していただきたい。」
そういって動座博士は精一杯の誠意をみせたと言うように、ルリへと視線を送った。兵士たちはお互いに打ち合わないように展開して、子供とマユミお姉さん役の女性、そして自身も人質となってしまっては、軍人のルリは彼らに従うしか道のりは残されていない。

「わかりました。まずは、お話だけでも聞きましょう。ですから、この人たちは解放してください。」
ルリの答えにわかったとうなずき、動座は兵士たちに子供たちの一段を連れて行ってくれというように首を振り、兵士たちもこの状態を想定していたのだろう、滞りなく子供たちを3人が囲んだまま移動を開始し、ルリもまた兵士に囲まれたまま、持っていたハンドガンを取り上げられようとしていた。

だが、アマテラス全体に警報が響き渡った。
「なんだ。報告しろ。」
ウインドウを即座に開くと動座は、ウインドウの向こうの研究者に言った。
「そっ、それが。」
「なにを戸惑っている。早く言え。」
動座は苛立ちを隠さないままに感情そのままに聞いた。
「ボース粒子反応です。全長8メートルの。」
しばし呆然となる。動座が何を考えていたのかは余人は知らない。だが、その表情はあまりにも虚をつかれたようで、凍りついたように、そんなことを想定していなかったという顔だった。
「わかった。計画は進める。」
「はい。」とウインドウの向こうで答えて通信は終了する。

振り返る研究員をみて、ルリはその顔に悲壮にも似た、もう何かを決め付けたような感情を読み取る。
「お話はなしです。協力を感謝しますよ。」
それは一方的な宣言。

「これは、まずいですね。」
ルリは一人ごちて、自分の身を守るにもこんなに多くの人が現れたこと。それが想定外だったと思った。
なぜならば、彼女が経験した兵士の包囲はせいぜい四人だったからだ。

結構知っているのか。でも、初期のは知らないみたいでちょっぴりびっくる。
あと、鋳型は富士見ダンタジアの「ストレイトジャケット」を流用しています。



[308] BLOOD 2-5
Name: 銘天
Date: 2006/05/24 01:33
ボソンジャンプ、その顕現の証であるボース粒子を撒き散らしながら一気に世界へと回帰する。肉体の構成は相変わらずで世界との摩擦である感覚はガラス越し。
捨て去られた技術、そのベースとなった文明の成り果てたものたちの意思という大河に身を流されながら、オーディン・ゴルティスの名前を語るアキトは乗機であるブラックサレナを操った。

ブラックサレナとはネルガル工業で作られた汎用型人型戦車エステバリスの強化版、エステバリスカスタムをさらに個人データにあわせて建造したもの、エステバリステンカワSPに取り付けられている強化装甲である。
ブラックサレナは顕現した場所からアマテラス周辺を旋回しつつ、通信をアマテラスへと送り反応を待っている。
「ホシノ少佐の監禁、およびボソンジャンプの違法研究と遺跡所持。さらにテロ組織の可能性を考慮しての武装解除命令」
これは連合政府からの正式な通達であり、その命令文自体が機密文書に使われるコードを打ち込んである代物だ。

ブラックサレナを旋回させつつ、アキトはアサルトピットの中からデータウインドウに表示させられたアマテラスの状態を逐一、鋳型越しに見据える。
円形に構成された発光シールドと、シールド発生用の牽引ユニット。中央部には島が鏡写しのようになるように、コロニーが建造されている。
「武装解体の返答を受信。」
サレナの制御演算装置がアキトに音声をもって教えてくれる。
「武装解体の拒否。新たなる秩序を生み出すためが我等の使命であり、存在意義である。われわれは火星の後継者である。」
アキトは鋳型にその身を包み、バッタを原型がわからなくなるほど改造した、航空機型レールカノン運用ユニットの加速に身を戒められながら侮蔑の言葉を吐いた。
「はっ、火星の後継者だって。気取った先住民族意識じゃないか。ふざけるな。」
旋回していたブラックサレナに砲撃が加わる。いくつもの質問通信がアマテラス内部から発信され、混乱と困惑、そして何かの思い違いではないだろうかという、内容のものが一気に送られているが、ブラックサレナは返答しない。ただ、ナデシコBへ正式通達の離脱命令と各方面への返信用情報を送信する。
ブラックサレナが通信を終えると同時に、ウインドウ通信のプロテクトを作動。一気に今までの緩やかな旋回をやめて、獰猛な牙をむく。

固定された手甲のなかだけに収まらず、血中のナノマシンが微細な発光を勝手に始める。アドレナリンと呼ばれる脳内麻薬が一瞬でも気を抜けば誤る高機動を快感へと変革されて、重力の腕すら忘却する。
コロニー本体へと接近、補助ユニットの先端にあるレールカノンを一斉照射して貨物ブロックの隔壁へと抉るような砲撃を加える。
レールカノンの砲弾は特別製であり、ひとつの弾倉30発の薬莢型高性能爆弾の詰まったそれは、目標に着弾する前に散弾としての力を発揮させる。

貯蓄されたそれを打ち尽くせば、隔壁などは打ち払われる。
外部からの攻撃はあまりに少なく、混乱に乗じた形となっていた。
ブラックサレナは補助ユニット艦首の二基のレールカノンをそれぞれ15発打ってからコロニー寸前で急上昇する。後ろでは紙屑の様に破壊された隔壁からコンテナユニットの放出が見えることだろう。
「兵糧攻めというやつだ。」
アキトは後部の風景をウインドウごしに一瞥をくれて、守備隊の攻撃を教えるウインドウに目をやると右旋回して回避した。
守備隊の攻撃だ。命令系統からして、すでに正規の統合軍が行っているわけではないようだった。
「内部指揮系統はすでに掌握されている。コロニーを手っ取り早く破壊したほうがいいな。」
逡巡などない。先よりアマテラスが火星の後継者きどりの巣窟となっていることも、武装が強化されていることも知れたことだった。
ブラックサレナがいない方向からも砲撃やロケットミサイルなどの振動が伝わっているのは、内部でわずかならがら反乱が起こっている証拠だった。


誤字か・・・・すいません、できる限り善処しているのです。
というか、進まなくてごめんね。
ちょっと改定。読みすくなったはず・・



[308] BLOOD 2-6
Name: 銘天
Date: 2006/05/24 05:48
ブラックサレナを狩り、反逆者たちを虐殺する。
それは純粋たる殺戮の形。すべてが散り散りに帰ってゆく儀式。
レールカノンを放てば密集したステルンクーゲルならば5機を大破させ、翻りながら交差する軌道の兵器を打ち破る。電源の問題は補助ユニットが帳消しにしているが、レールカノンの弾数はもう少なくなってきている。

眼下をみてみれば、いくつもの破壊した砲戦フレームの残骸やステルンクーゲルの亡骸がある。どれもこれも、内部コックピットのパイロットスーツが覗いてたり、ちぎれた体の一部が浮遊して彼らの命のともし火が失われたことをしめす。
「さあ、どうしたものか。」
アキトは鋳型に包まれた身で、その様子を見下ろしてつぶやいた。

アマテラスはまもなく命なくなる地獄へとなるだろう。
武装は重々、ブラックサレナの被弾はいまだ持ってないのだ。そして、虎の子は残してあり、連合政府の命は「生死を問わず逮捕せよ。」
ならば、やることはひとつしかない。
破壊つくし、生き残ったものは容赦なく。肉体の一部を失ったものでもかまわない。逮捕しなければならない。
ルリが捕らえられたことは兼念だが、ボソンジャンプの妨害というものはアキトとラピスには全く以って関係ないので、心配など端からしていない。
ブラックサレナの眼下を量産型エステバリスを率いるエステバリスが通り過ぎ、先ほどまで機体を攻撃していたクーゲルを破壊している。
ライオンズスックル、鎌をもたげた獅子という意味を持つ名前の部隊。彼らの隊長はアキトにとってもなじみの深い人物だ。

だが、アキトは彼女を見送ってもなんら対応はしない。
この身はオーディン。北欧神話の主神の名前を頂いた、首を世界樹につるして知識を、力を得た神の名前を語る者。
過去である人にはオーディンで、今であり未来である人にはこれからのテンカワアキトでいよう。

「ラピス、ジャンプ用意。敵の引き付けは適わない。」

脳裏で聞いた声は余裕すら感じられる。
アキトは私に精密なジャンプをしろというのだ。
古代火星人たちは実験としてその装置を作り上げた。彼らの肉体とあり方を探求したいがためにそれを作り出し、その効率の悪さと思考的な感覚を要する力にあきれた。
彼らは古代火星人のまえにあって、自在にその存在を違えた。空間と時間を自身の技術とは違う体系にて体現し、物質の変質を行い、食料があってもなくても存在できた。
だが、違うのだ。彼らは粒子的な知覚能力と、それを操る力を持ち、自身が知覚できる空間を一パーセクとして、ジャンプの目的地の粒子および原子・分子運動を観測してジャンプすることができたのだ。

効率を重んじて、理論を重んじたとしても。彼らと古代火星人は異なった。
「ジャンプ用意。各人戦闘配置へ。」
ブリッジのシートに座っていた8人が立ち上がって、エステバリスカスタムの元へと向かう。短期習熟講座を耐え抜き、肉体をもラピスとアキトとともに鍛えてきた者たち。男が5人に女が3人。それぞれがパイロットスーツで待機していたので、すぐに搭乗は終わるだろう。
「ジャンプアウトの後にブラビティーブラストでアマテラスの物資格納ユニットを破壊。後にエステバリスを守備隊とする。後に、アマテラス占拠します。」
「で、生きてても死んでてもいいわけ?」
アイが隣のシートに座って聞いてくる。
その瞳はわかりきったことを確認する、笑うような色が浮かぶ。
「生死は問わず、逮捕すること。」
「了解」の声が各人から返される。サキは不安そうに声を出しているために、私はサキを今回参加させるべきではないと思った。

けれど、時間はない。

むついね。なかなか・・・



[308] BLOOD 2-7
Name: 銘天
Date: 2006/05/26 09:41
ボース粒子の反応がレーダーに感知されたと同時に、顕現する。
暗黒と発光フィールドの間に現れたのは白き剣。
ユーチャリスはブラビティーブラスト砲門4機すべてにエネルギー充填を終えてその重力の刃を放つ。
守備隊の薄いコロニーの外縁部の、さらに停泊区域より外れた空白の区間から放たれる剣は、コロニーの下方部をほぼ半壊させた。居住区と資材倉庫ユニット。そして遺跡が格納されていると思われる、中央の13ブロックはしっかりとはずしている。
「ジャンプアウト。お見事。」
「グラビティーブラスト直撃。半壊を確認。」
アイの賛辞を受けてからガンナーペレーターのサキの報告を受ける。
ラピスは集中していた意識を弛緩させることなく、すぐさまに艦防衛のためにエステバリス全機とバッタの出撃を開始する。
「資材についてはもったいない。バッタにて搾取行動をとる。是非を。」
ラピスの提唱にリンクからアキトの是が出る。そして、アイとサキも是であり、現在艦長席に座っているサキとゲストシートの山崎もだ。
その回答が帰ってくることにうなずき、ラピスはバッタの射出を開始させる。
黄色と黒の、8対2の比率のバッタが射出され。エステバリスが艦首カタパルトより出撃する。
「艦の防衛に4機とバッタ小隊を二つ。後はオーディン君のサポートについてもらいましょう。」
ゲストシートのヤマサキはラピスに提案する。三層に分かれたシートブロックの最下層からの視線に、ラピスはうなずいて指示を飛ばす。


「戦艦の単独ジャンプだと。」
ウインドウの向こうであせり、汗をかきかき報告してくる部下に対して、動座は再び問うた。その様子はとてもじゃないが正気ではないことを物語っている。
「確かに、戦艦のジャンプです。ネルガルでしょうか。」
戦艦が単独ジャンプ可能だということは、理論上では動座も理解していた。だがどうだ、実際に自分がやる前にそれは行われ、そして襲撃を受ける。
これほどの驚愕はないだろう。なぜだと動座は胸の袂で弾劾する。
「そこまで私は、運に見放されているのか。」
動座が人権を無視したのは、そちらのほうが効率がよいという考えだった。だが、世間から見ての彼は淘汰されるべき人種である。それよりも、人を守ってさらに発展を可能とする技術のほうが喜ばれた。
効率を重んじて何が悪いと彼は思う。
なぜそれを、世界の真実を理解しようともしない。と世界へと恨み言を漏らさず。
「で、私は解放していただけるんですか?」
後ろに手を回して手錠で捕らえられながらルリはその動座の様子を見守っていた。
驚いたことは確かだ、戦艦の単独ジャンプが可能だというのは戦争中に知っていたし、実際に体験すらしたことがある。
だが、この時代において単独ジャンプを可能とする人材と、連合宇宙軍の表向き所属艦隊に属さないのはただひとつ。特務部隊ファントムとユーチャリスだ。
彼らが来たのならば、生死すら問わない逮捕命令の元に徹底的な殺戮が行われるだろう。
どんに理性的な、効率的な説得が送られて、その内容を聞いても、彼らは無慈悲に殺戮を行う。そして生きているのだったら良いということから、たとえ手足が一本ぐらいなくなってでも逮捕を敢行する。

彼らは軍人の本質を体現している。
だが、それゆえに相容れない感情がルリには芽生えていた。

彼らとの交渉をルリは行ったことが4度ルリにはある。
確かに人間味にあふれた人材と、無感情な人材に溢れているが。通常の彼等は陽気ではないが、友好的である。
だが、戦い。特に人体実験を行っていた者に彼等の印象は払底する。
「少佐、まもなくですよ。」
通信ウインドウが消えてから、動座はなるほどという風に納得した。
「連合宇宙軍の隠しだねですか。機動兵器のジャンプはある程度受け止められた。だが、戦艦のジャンプとは驚かされましたよ。」
「私は詳細は知りませんがね。」
ルリは返して、目の前の車椅子の男が開けた隔壁。その向こうにある光景に驚愕し息を呑んだ。
「遺跡と、ナデシコA?」
一瞬それがなんだかわからなかった。確かに口に出したが現実感が伴われなかった。
なぜここにあれがあるのかがさっぱり分からなかったし、理解の範疇にあったといえよう。そして、遺跡を中心に据え、厳かにも受け止めるナデシコAの姿は神聖すら覚える。
「遺跡に関しての回収はあまり難しいこともなかったんです。ただナデシコAの艦内へとA級ジャンパーをジャンプさせればいい。最も浮遊したのを確保したのが実情ですがね。」
動座の説明を聞きながら納得できないルリがいた。
なぜそんなことになったのか、宇宙の彼方というのはそんなにも近いものだったのか、全く以って不条理。
「そして、接続用ジャックは用意させていただきました。」
動座が片手を挙げて指示を出す。
遺跡の発光。空気のあるドックのような場所はナデシコAの亡骸を中心としてあり、遺跡の光はひときわ目を見張る。だが、目を見張るのはその内にあるモノだった。
「艦長。」
長らくルリに与えられた役職だ。だが、ルリにとっての艦長は彼女自身をあらわす記号ではない。

ミスマルユリカ

可能性の試算は行っていなかった。馬鹿らしい、そうかもしれないが会うことは二度とないだろうと思っていた。
「睡眠状態で融合しています。」
ミスマルユリカの体は下半身から遺跡に融合していた。銀色へと肌や髪の毛を変えて、どう見ても元素組成からして変質していることがうかがえた。
「インターフェイスとしての役職、それが少佐の協力していただきたい役職です。楔としてA級ジャンパーは打ち込みました。夢を見ることすら許されない、深い眠り。そして、あなたは彼女と人間を、遺跡を人類をつないでほしい。」


前回ので「駆る」を間違ってた。スマンです。
ともかく感想いただけてうれしいです。あと、顔見知りな方も読んでいただいてうれしいですね。



[308] BLOOD 2-8
Name: 銘天
Date: 2006/05/28 07:56
ブラックサレナが戦場をかける。その飛翔は旋風がごとき。古代火星人たちが敵対した彼等の力を以って、半分の0.5パーセクをいう光速でも達することのできぬ領域を知覚し、すべてへと照準を向け機動兵器を破壊し、追従するエステバリスが動力アンテナや改良型バッタエンジンを破壊し損ねたそれらを壊す。

「パージ」
拘束具に捕らえられた手甲、己が手が握るハンドル型のIFSコネクタに指示して、補助ユニットを排除する。
航空機型のレールカノン運用推進ユニットがブラックサレナとの融合ボルトを解除して、衝撃吸収素材をゲルに変換させた後にパージされる。
ユニットはそのままブラックサレナをおいて帰還行動へと移る。

反転。今まで向いていた視界を上方から下方へと変換される。
弾薬などの実体弾はもうない。テールバインダーとハンドガンのみ。
エステバリスを連れて、オーディンは十三番隔壁へと侵入を開始する。
「エステ1、2、ついて来い。あとはユーチャリスの防衛。」
「し、しかし、わたしは。戦い「黙れ。」」
反論の言葉を一蹴する。声は女であり、この戦いに命をかけていると言っていい。その覚悟をもっている者だった。
「私情は良いが、今は仕事だ。しっかり働け。」

アキトは殺人などを割り切って行うために、「仕事」として行っている。確かに殺すことは楽しいと否定できないときもあるが、そんなのは狂気に飲まれたときだけ。こまめだけが頼りだったテンカワキトは惰性と怠惰という分別を身につけていた。
だからこそ、境界を設定することで無関心にも、家族にも、人間にも、そして殺人者である軍人にもなれる。
「いくぞ、敵の本陣に。」
狭い隔壁の中へと進入を開始する。
防衛用のクーゲルはすでに攻撃を停止させている。システムハッキングは、ラピスにより気づかれないように進行させているのだ。


「艦長の位置は分かります。それに状況も分かります。けれど・・・」
ハーリーは格納庫に待機するエステバリスのサブロウタの報告していた。
「だから、どうしたんだよ。」
サブロウタがハーリーの煮え切らない言い方に思わずいらだったように言った。
「報告してくれ。マキビ少尉。」
もうひとつ展開したウインドウの向こう、アマリリスにいるジュンも聞いてくる。
「敵に四方を囲まれ、映像データーが省略されています。敵による妨害でしょう。そして、こちらの応答にかかわらず、ファントムは外部対応用データを送って、こちらも質問にそれを回答として送信しています。
ですが、ファントムとの相互通信ができないんです。」
「それは・・特務部隊としての規定かもしれない。」
闇に動く特務部隊の存在などジュンも始めて、ユーチャリスの活動とコードを見せられたときに知ったのだ。
その存在はあまりに鮮烈に戦い、殺戮を振りまき、平和を守ろうとする意思と憎しみや恨みといった感情を撒き散らすものだった。

彼等自身が悪い人間ではない。だが、その敵対する相手によって彼等の非常さや非人間のような対応が相対化するのだ。
「ユーチャリスの対応はどうなんだ?」
サブロウタの声にあわせるように、ウインドウがもうひとつ展開する。
「特務部隊ファントム、大尉のヤマサキです。」
ウインドウの向こうにいたのは、3人が始めてみる顔だった。
整髪剤によって整えられた髪と、切れ目で笑みを浮かべるさまは一般のサラリーマンをイメージするかもしれない、どこか病院にいそうなイメージを受ける。
「ホシノ少佐に関してはこちらも理解しています。」
「では、対応を。」
ジュンの声に、ヤマサキは「おや」と初めてあわせる顔に驚いて見せ、にこやかに対応した。
「まあ、性急を求めるのも結構です。ですが、こちらはこちらで対応しています。遺跡の確保。」
ウインドウが追加され、ハーリーが言っていた妨害されていた内部映像が投影される。そして、その内部と現在行われていることも。
一同が内部の様子をみて絶句する中、ヤマサキは口に出す。
「ミスマルユリカ、およびホシノルリの確保ということにもなりますがね。ちなみにミスマルユリカは最悪の場合殺傷許可が出ています。」
「それを、誰が許した。」
ジュンはそれを聞く。誰がそれを許したのか、許せる立場にある者を想定できるからこそ聞いた。
「ミスマル提督です。」
ジュンは渋顔をつくって、無言でうなずくようにした。
「了解した。ホシノ少佐の確保をお願いできるか。」
「了解です。」
どこかで誰かがくるくると世界を回している。
その劇を誰が見ているのか、演じているのかなど知らない。
ただ自身の道を行くしかできない。
「どうして・・・」
ハリの力ない声が大人3人の憐憫を切開した。


カンソープリーズ!kannso Sil dux ples!
多分スペル違うね。



[308] BLOOD 2-9
Name: 銘天
Date: 2006/06/02 00:15
艦長席で唯一展開を見守っていた女性が立ち上がってジャンプの用意を開始する。
もっているのは一粒の功績でしかない。だが、それだけで彼女には十分な準備ができているのだ。
イメージすべき目的地はすでにデータにて目視し、彼女の脳裏にはその場所が描かれ始めている。
「救出、お願いしますよ。」
白衣のヤマサキにうなずいて、サクヤは軍服のままでたずねる。
「遺跡の確保と、攻撃はどうする?」
ハッキングツールによって相手がハッキングされていることは、あちらにとても把握でk知恵いる事実だろう。正直生身で彼女がボソンジャンプしてむかっても、敵に攻撃「蜂の巣」にされるだろう。
「ヤタのファーストフォームだけでも装備しますか?相手からの銃弾はディストーションフィールドで防げますし、マシンガンでも持っていけば十分でしょうし。あと、遺跡の確保は結構です。」
ヤマサキはハッキングで得たデータのみで動座のおこなった処置を読み取った。
ジャンパーを夢を見ることのない状況、虚脱とも言える意識すら発生することのできないような深い睡眠、もしくは気絶状況においているのだ。おそらく植物人間状態と考えて良いだろう。
インターフェイスとしてマシンチャイルドを採用しようとするのは、ヤマサキにとって少々驚きだったが。
本来ならばIFS技術の脳細胞電気回路を利用して、擬似的に目的地を入力することは可能となるだろう。もちろん目的地の映像データーなどが必要となるし、地図上の認識をコンピューターデータにセーブしておいて場所入力がシビアな調整が必要であるだろうが。

だが、ヤマサキには動座の考えも思い至る節があった。堅実ではないが、こういう可能性もあると考えていたプラン。それが、「白雪姫の夢」と題名づけられるような計画である。
動座はその自分のおちゃらけの考えを、実践的で堅実に実現させようとしているのだ。インターフェイスとしてホシノルリ、遺跡の楔であるインターフェイスのミスマルユリカの家族を採用するのも。
ホシノルリがミスマルユリカの中継となるのも合理的だ。

ヤマサキが考えていた「白雪姫」。それが最悪の形で実現されたのだ。

「敵の武装は軍服と一部警備員のマシンガンでしょう。あとは皆無。北辰さんの影部隊は機動兵器戦に備えて、ナデシコAの下方で警備を行っているはず。」
ウインドウがラピスによって展開される。アマテラスの内部構造を概略か下それにはブラックサレナとエステバリスが順調に隔壁を通過していることが示されている。
さらに、もう一枚開いたウインドウには外部の戦力が火星の後継者と、連合政府側に偏っていることを教えてくれる。

「さらに、敵の司令部はナデシコAの安置されたブロックの上部に建設され、半ば格納庫と一体化しています。もしも逃走の恐れあれば、生死にかかわらない逮捕を行うだけです。」
データはすでに掌握しているに等しい。そして、どのような戦況が行われるのかなどの通信などには触れず、ラピスは敵のアーカイブをすでに模写し終えている。
「そう。」
どこか陰のある笑いを見せるヤマサキの言葉にサクヤはうなずいた。もしも逃げようとして、生死かかわらぬ逮捕劇が行われたとすれば、木連は木連で自身の汚点を残すことなく、現在の木連の上層部や政府にいるクサカベの新派などのスキャンダルに発展せずにおわる。

連合政府、もしくは連合宇宙軍はそのネタを以って衰退する現状を何とかしようと行動するのみだ。政府には黙秘して、宇宙軍の上層部が彼等なりの正義を行うだろう事は、想像するに難くない。
「ヤタの用意をおねがい。」
「はいはい。」
ヤマサキがいそいそとゲストシートの近くにおいておいたスーツケースを開けて、中からベルトを取り出す。
サクヤはそのベルトを受け取り、腰にベルトを渡して固定する。
女性らしい、緩急のある体に対してベルトは無骨であった。

だが、サクヤは気にしない。
たとえ性欲的な視線で自分を見られても、それを皮肉ときつい視線でいなして来た、強い女だ。そして、今は母でもある。
ベルトのバックルについたユニット、そのハンドルを反対側に倒して起動スタンバイを行い、完了をまつ。
「展開。」
コード入力。ハンドルがわずかに浮かび上がり、それをサクヤの手が持ち上げて反対側に切り替える。
黒いナノマシンのスーツが展開される。連合宇宙軍の制服を一瞬黒くして、顔なども覆った跡で肩甲骨まで届き、まとめてあった髪の毛も含んで包み込む。
次の瞬間、サクヤは通常の制服姿に戻る。
ナノマシンの擬態だ。見えぬ鎧と、ディストーションフィールド発生装置も装備したユニットを身につけてサクヤの戦闘準備はおわり、ヤマサキが用意したマシンガンを受け取る。
「いってくる。」
「はい。」
「「「いってらっしゃい。」」」
ヤマサキとラピスラズリ3人の唱和した言葉を聞き終えて、サクヤはジャンプした。

久しぶりです。眠いです。



[308] BLOOD 2-10
Name: 銘天
Date: 2006/06/02 09:14
ボソンジャンプを行う時の感覚は、夢を見ているようで浮遊感を感じる。どこにも地上がない海の中を漂うな、無力感。
再構成にあたる時間はジャンパーにとって一番無力であるときだ。構成素材を変質させて、時空間を移動することは、組成式にあたる物質の欠損や撹拌が一番の問題点としてあげられる。
もっとも、一番に展開するナノマシンの鎧が彼女の肉体を守った。

マシンガンが正面で構えられる。
どこかで見たような、火星の後継者達の軍服が二人、ゲートの前で立ちふさがって、一人の女性に警戒の目を向けた。
黒のアーマーではなく、一般の将校クラスの者が着る、白を貴重とした連合宇宙軍の制服だ。
サクヤ自身の力のみで到達することはかなわなかっただろう。
だが、IFSのオペレーターとして特務技兵として、彼女は少尉の階級を得ている。
「何者だ。」
「武器を下げて、投降せよ。」
二人の男がいう。サクヤは自分が握っていた銃把を握ったままで、片手のまま相手へと向けた。特殊部隊用のショートバレルの散弾だ。
「ばーん。」
ちいさくつぶやくようにセミオートの散弾を解き放つ。
消費される弾丸はわずかに一発。だが、それだけで十分だ。
二人の間を通り抜けたそれは、二人の肉体に粒粒の傷を無数につけ、昏倒させるに十分な代物だったから。

その様子は針をさして保管できる針刺しから、針を抜いたようなあまり見ていて気持ちのいい物ではなかった。
二人が倒れてサクヤはすぐさまに展開したアイのウインドウに向かう。
「ハッキングで解除はできいる。撤退はナデシコBのブリッジでよろしく。」
無表情のラピスタイプの少女は言った。
首に巻いたチョーカーは彼女に健在な、彼女がアイであるという証拠だ。
「了解。」
間髪いれずに隔壁がひられる。
誰も気づかぬ空間で一人、中央にある遺跡と、そのそばにいるルリを確認する。
「いきましょうか。」
操作レバーをいじってから気合一閃、右翼と左翼にいた敵に向かってフルオートで打ち抜く。一丁しか所持していないマシンガンだが、その散弾が殺傷に関しては問題ない一級品だった。遺跡付近5メートルではディストーションフィールドが展開してルリには着弾していない。

サクヤは腕をナノマシンによって棒のように固定させたまま、本来であれば無理な速度で移動する。
敵からしてみれば、何が起こったのか理解がつかなかっただろう。
一瞬の出来事だけでサクヤは総勢24人の兵士を負傷させ、遺跡に接近したのだ。
ルリの隣にたどり着くまでに銃弾が彼女を狙うが、改良されたヤタに装備されるディストーションフィールドに守られて彼女は余裕だった。

ルリの腕を寄せる。預けるべき相手のいない腕は細く、軍人でありながら事務仕事ばかりしていることを伺える。
「いきますよ。少佐。」
散弾のマシンガンは先ほどから照射を続けている。
クサカベの方向に向けても撃ち、相手のフィールドに阻まれながらも続ける。クサカベ本人は負傷していない。だが、彼の副官はしっかりと負傷しているはずだ。
本来ならばディストーションフィールドを突破することを考慮している銃弾は、人一人の命の値する尊厳を一気に紙くずに変えてくれる。
憤怒する視線をサクヤはあっさりと無視して、イメージングを完了させる。
「あの、ヘミング少尉?」
「いきますよ。」
ルリからしてみれば、さっぱり理解のつかない事態にあるのだろう。銃弾はフィールドで防ぎつつ、時たま思い出したように解除してサクヤはルリをかばって銃弾を撃ち、フィールドを展開する。
「ジャンプ。」
視界がゆがみ、すぐさまにジャンプを実行したことを知った。
すぐさまに回復するのは難しいが、ジャンプアウトの現実回帰の感覚、嗅覚やら触覚、光などを感じる視覚が回復する。
「すぐさまに離脱準備を。アマリリスおよびナデシコBの生還が今の急務です。」
サクヤはブリッジにいる全員に聞こえるような声で言う。
きびきびした、どこか凛とした声に、アマリリスとナデシコBの艦内が色めき立つ。
戦場、そこに彼等はいるのだから。

ごめん、策略とか考えてないのよ。



[308] BLOOD 2-1
Name: 銘天
Date: 2006/06/03 23:54
赤の機動兵器は己が従属する六連とともにナデシコAの亡骸の下に待機していた。
彼等は幾度となくコロニーの防衛と抹消を行ってきた部隊だ。
あるときは研究所の防衛。あるときはコロニーの守備。あるときは火星のA級ジャンパーの誘拐実行部隊。
最近の彼等は仕事が山積していた。
幾度となく行われる防衛戦は、ヒサゴプランのターミナルコロニーで行われた、統合軍本部には知られることのない戦いだ。

相手は連合宇宙軍の総体といっていい、白の戦艦と黒の機動兵器だ。
敵対すべき相手は、自身を外道として人ならざるものと自負する北辰にとっても驚くべき相手でもあった。
彼等は逮捕の大義名分の下でコロニーを落とす。
降伏宣言を出しても、機動兵器のシステムをダウンさせない限り攻撃をやめない。たとえ火星の後継者ではないと分かっていても対応は一切変わらずに、死を振りまく。

白の戦艦と黒の機動兵器、それにエステバリスとバッタ。
その知られたような装備は、最初からまっとうな戦いなどせずに虐殺に等しき攻撃を加えて、北辰と彼の部隊もまたその無慈悲な攻撃にあっている。
戦艦からのグラビティーブラストで狙われた。バッタの連携をもって黒の機動兵器と刺し違える覚悟をもって攻撃したこともあった。
エステバリスの連携によって部下は義手や義足になった。
だが、北辰は一切変化などせず。
唯々、体のみを新陳代謝させて、心は一切変えない。

「各人、敵をほふろうぞ。」
「応。」
唱和する声が、北辰の感情を変えることはない。
天岩戸となずけられた隔壁。それは太陽の化身である天照大御神が身を隠した岩。その名前を与えられた隔壁は絶対に開かれない。
だが、彼は無骨にも隔壁を破壊することなくボソンジャンプで透過する。
唯一、一体の機動兵器がジャンプアウトする。
黒の、ところどころに紫の混ざったピンクの色が覗く起動兵器だ。
その体格は丸みを帯びていて、鈍足に思える体躯をしている。
だが、外見でその機動兵器を判断してはならないことを北辰たちは承知している。

悪魔のようなテールバインダー、そして大きい翼のようなスラスター。脚部推進ブースター。すべてが彼等の知る敵の姿を示す。
「こちらは連合宇宙軍特務部隊ファントム、オーディン・ゴルティス少佐。元木連中将クサカベハルキ、投降せよ。」
「これはこれは、心外なことをいうな。」
天岩戸の上層部には空気のある空間、司令部が存在して。下方にはナデシコAが安置されている。
アマテラスという中枢コロニーの区画を存分に使用した広い空間で、黒の機動兵器、ブラックサレナは中空を漂って見上げる。
「これは、連合政府ならびに木連の総意である。」
オーディンの意思ではない、彼の決定ではない。
連合政府という形のはっきりしない、いまだ民族意識の磨耗がなされぬ、世界の縮図が決定した決断。
「ふむ。」
上層の透明な床に直立し、ブラックサレナに相対するクサカベハルキは全く持って変わらぬ口調で断言する。
「そんなものは、クソ食らえだよ。テンカワアキトくん。」
北辰の機体が浮上する。赤色の夜天光、暗灰色の六連それぞれが持つのは尺杖で、脚部ミサイルポッドには武装が詰まっている。
「滅。」

六連が跳ねる。傀儡舞と呼称される独特の包囲攻撃を彼等はおこなう。機体全体に取り付けられたスラスターを利用して縦横無尽に動き、尺杖で突き、ミサイルを放ち、蹴りの様に体当たりする。
ブラックサレナはその攻撃を受けてなお、ハンドガンを放ち、回避を行い、尺杖の突きをショルダーアーマーに受ける。

確かに攻撃を受けている。黒の装甲には突きの後が残りながら、その動きは精細を欠く事をしらない。
何かが焦燥を誘う。
北辰はどこかで寒気にもにた、震えを感じた。
「散会。」
言うのはたやすい。だが、実行に移す前にブラックサレナの周りに何かがジャンプアウトして、攻撃を放った。

ラピスがヒロインのつもりなんだけれども、サクヤが以外にも人気出ていますね。
正直ラピスと子供を設けて貰っても私は一向に構わないのです。



[308] BLOOD 2-12
Name: 銘天
Date: 2006/06/05 00:00
珠の汗が額を伝い、疲労を覚え始めて瞑った瞳にしずくが流れいる。
塩分の含んだ汗は、瞳に入ってわずかに違和感を覚えさせた。
「大丈夫ですか?」
ヤマサキの声をわずかに遠くに聞きながら、意識はリンクに向かっていた。あの人と私をつなぐ確かな意図電話。それがあの人の感情と私の感情。あの人の考えと私の考えを相互に伝える。
ボソンジャンプを可能としたのは、私とあのひとの肉体が古代火星人と呼称される者たちが再現した、彼等と呼称される存在に近似した組成となっているからだ。

知覚能力は人間のものとはことなり、やる気になれば分子や原子などの組成。粒子などの単位すらも観測を可能として、どのような光景が広がっているのかとイメージングが可能となっている。

近似した肉体ゆえに、人間と彼等の間を行き来するあのひと、テンカワアキト。彼の人間と彼等の境界の隔たりに存在する摩擦を緩和する緩衝材が私ラピスラズリなのだ。
「大丈夫。」
口上で述べて、ずいぶんと疲労がたまっていることが分かった。
私の存在はA級ジャンパーとはことなり、潤滑剤でしかない。ボソンジャンプに関してできるのは確かにA級ジャンパーと違いない行為だ。
だが、それに関しての疲労はA級ジャンパーをはるかに超える。

ユーチャリスのジャンプはサクヤやエステバリスのパイロットたちがいたから、私の仕事は精密なイメージングのみで、伝達はジャンパーが行った。
だが、イメージングと伝達の二つを行ったとたんにこの様なのだ。
アキトとの伝達はぜんぜん大丈夫。お互いの思考も考えもしっかりとリアルタイムで伝わってくる。
けれど、ジャンプを行うことはやっぱり違うのだ。
「休んで頂戴。」
アイの言葉が耳元で聞こえた。
何気なくアイの席の方向を見れば、彼女は座っていないで私の隣に立っていた。
「艦の制御は私だけでもできる。だから、ちょっと休んで。」
彼女の言動はまっすぐで、私と同様にクールだ。そして、私よりも直情ではない。
「分かった。ちょっと休む。」
承諾してIFSの制御をとめる。
すぐさまに席に取って返してアイが艦の制御を行う。しばらく瞳を閉じて、私はアキトと同調する。視覚のデータがわずかに流れ、感情の色が少ないビジョンに私は浸る。


「死傷者数と、けが人の数、外部戦闘状況を報告せよ。」
クサカベの命令に遺跡付近にいた兵士たちが移動してオペレーターシートに座ると外部状況を確認する。
「現在、外部にて小規模ながら戦闘が行われています。旗艦としてナデシコBとアマリリスが統合軍の一部を指揮して、コロニー守備隊にもこちらを攻撃するものもいます。IFFの信号は頼りになりません。」
「死傷者6、負傷者は13人です。」
クサカベは報告を聞きながら眼下で行われる戦闘を見続ける。
天岩戸の内部は天照大御神が褥とした場所でもある。洞窟の中には現在。亡骸が横たわり、黒の人型と虫が赤と暗灰色の人型と戦う。

決して広くはない空間を縦横無尽に暗灰色がめぐり攻撃を行えば、黒の虫は主人を包み込んで結界を展開し、一匹がミサイルを3発放つ。
ミサイルは初弾の折に外部取り付けポッドではない、本体に搭載されたもので、唯ですら精密な機動がかなわない六連に追い討ちをかける。
「各人、コロニーの外部武装を展開。敵味方判別装置に頼らず、現状を確認せよ。敵は撤退せねば討て。」
「りょ、了解。」
当初からの方針とは異なる、できる限りの犠牲の回避などは言っていられない偽善となった。チューリップでの退避にかんしては最初から誘導勧告データが配信され、退避するものもいる。
だが、それでも戦場を翔る早足の戦艦は決して少なくない。

クサカベにとっても、火星の後継者にとっても。初戦である戦いは、負けることの許されない、進退など考えない戦いなのだ。
「負けるな。」
小さくつぶやくクサカベの声は、火星の後継者全体へ向けられたものであり、自分を鼓舞する叫びでもあった。

どうする?さて?
予想しないでほしいと思う展開。おそらく私は予想された展開をそのまま流用するかもしれないからだ。



[308] BLOOD 2-13
Name: 銘天
Date: 2006/06/09 01:31
傀儡舞で接近してくる六連をバッタが応戦する。ディストーションフィールドとフィールドが拮抗する。衝撃はバッタが軽減して。その合間を縫ってほかのバッタが攻撃を加える。
傀儡舞とは、多面立方体を構成する点と点を展開しているのに過ぎない。

一体の敵、もしくは複数の敵を目的とされて考えられた傀儡舞。
それは突き詰めれば形の形成と包囲網の展開に重きを置いている。
バッタという防衛隊を得たブラックサレナ。ひてはオーディンにとってその傀儡舞はもはや敵とはいえない、稚戯に等しいものであった。確かにその連続して行われる攻撃にはいまだに目を見張るものがあるが、そのパターンや、あり方を知ってしまえば、ある程度のコンピューターの試算と経験則にも似た感覚でしのげた。
「さて、そろそろ終わりかな。」

考えることはなかった。過去であるナデシコAが艦がにあっても、専業において傷ついてもなんら問題はない、干渉するにも値もしない過去の家。夜天光の攻撃をバッタではない、自機のフィールドで受け止める。
ブラックサレナ自身は、ナデシコbの着工時よりも早くから構想と原案は完成され、実際にスバルリョウコや他のパイロットによってその機動に関しての実験や、動作確認は行われている、エステバリスの次世代となる期待を考えた、エステバリスを強化するためにパーツ、

現時亜のブラックサレナはその源流の構想に基づきながらたの構想を組み合わせて完成している。初期においては強化パーツは使い捨ての面が大きくて、全く持って無用とも思える補給用パーツを必要とした。だが、現在はある程度の装甲のみを除いて運用用のパーツと設計しているのが現状だ。
そのために、ブラックsレナは始めて戦場に投入された重武装などと比較すると重量も機動性も格段にあがっている。
基本ベースとなるエステバリス自体が、現在のネルガルで作られている次世代タイプとなる人形機動兵器と航空機の混血児となって、ほとんど新しい機動兵器といってかまわない代物なのだ。

横150度展開を可能とするウイングバーニア。重力制御と突発的な機動のためのブースターが装備された大型のショルダーアーマー。
間接部分にさらなる強度をもとめ、繊細な動きを可能とした四肢。そして、基本フレームとして使用されるチューリップクリスタル。
チューリップクリスタルそのものがエネルギーを蓄積することが可能な材質なので、アサルトピットは装備されておらず、頑強性が向上している。脚部バーニアは、脚の底そのままが噴射口というのは変わっていないが、小型になっていた。

初期ブラックサレナよりもわずかに小さくなっているのだ。

考えていながら戦闘を続けていられるのはテンカワアキトしか存在しないだろう。分子や粒子すらも観測でき、干渉することすら可能な、彼等の肉体と同等の存在である彼にすれば、思考はボソンジャンプよりも簡単な行為だった。
確かに難しいことではない。パターン化を半ば勘で読み取って、パターンに見えず、それらしくない傀儡舞を回避しながらも夜天光をナデシコAへと叩き付け、ハンドガンを格納させて、幾分初期よりも稼動がしやすくなった手をかざして夜天光へを向ける。
「崩御。」
観測していた朱の機体の組成をナデシコAと結合させる。駆動部や一部体躯が閉じ困られればもう相手は敵ではなかった。
「テンカワ、貴様!」
通信ウインドウという上等の通信を使わず、音声のみの通信がブラックサレナにつながる。
「復讐鬼ならば、なぜ殺さぬ。」
六連の一体、その尺杖を交わして片方のハンドガンのみで打ち抜いてアキトは言う。
「いつから復讐鬼に俺はなった。」
問いに返されるは問いだった。
「お主は実験の憎しみ、同胞の憎しみより我等と相対するのだろうが。なぜいまさらに言う。」
北辰のものいいに、アキトはどことなく違和感を覚えた。人間味あふれすぎる、こちらへの洞察判断。常人の精神を理解しているからこそ吐露される、北辰の声だった。

それを聞いて、アキトは「ああ、」と小さく言った。
音には「何だ」というような「思い出した」の韻がこもっている。
「お前は、俺たちを理解していないのか。」
ブラックサレナは六連すべてを行動不能にした。6体のうち、2体はパイロットごと破壊し、4体はいまだ機体が破壊されただけだった。
ほとんど必殺を行うファントムの者としては、ある意味奇跡的だ。
「仕事で、保身なんよ。」
北辰には理解できなかった。

この男はなんと言ったのか。
このオーディンと名乗る男の真意が。
テンカワアキトという存在そのものが。

「生きていくためには、食料が必要だ。だから、食料を得るための金が必要になる。」
ブラックサレナがテールバインダーをくねらせながら、ナデシコAの艦首ユニットである脱出艇が固定されていた場所。
現在夜天光が戒められている場所だ。に降り立つ。
「世間がもてはやす存在として、注目されて、実験材料にされるのはいやだ。」
テールバインダーがはためいて、夜天光の融合した腕を破壊する。
「変に騒動を起こされても面倒だ。」

北辰は答えが聞きたくないという思いを殴り捨てて聞く。
「平和のためだよ。平穏に生きていくための。だから、こうしているのさ。」
テンカワキトはそういって、何ひとつ動かぬ天岩戸の暗闇の中、ブラックサレナを浮上させてクサカベハルキと相対する。
「話は聞いてましたよね。」
ウインドウが大きく展開する。音声通信がブラックサレナをふくめ、小規模で配信される。
「うむ。」
「それは結構。単刀直入に申しましょう。」
テールバインダーはしなり、六連すべての機関を破壊し終えたバッタがサレナを囲んでミサイルポッドを覗かせ。ハンドガンが向けられる。
一部透明となっている床の下。ミスマルユリカと遺跡が直上に置かれた下で、遺跡に手を突きながら黒の機動兵器を睥睨する中年の男へとアキトは言葉をつむぐ。
「投降、していただけませんかね。」


さて、次回は解決変?というか、ナデシコBサイドかな?
もう少しで戦闘やらは終了ですよ!
で、感想まってまーす!



[308] BLOOD 2-14
Name: 銘天
Date: 2006/06/11 10:07
「これは異なことをいう。生死を問わない逮捕などと、大義名分を持ちながら投降を投げかけるとは。ずいぶんとあま・・」
クサカベの嘲笑などはテンカワアキトにとって全く持って意味がない。
その証拠に、クサカベの右手が手首からねじ切れる。

ブラックサレナは中空での停止をやめ、夜天光を踏みつけながら着地し。火星の後継者の司令部にボソンの光芒が顕現する。

周囲の押し黙っていた喧騒は、一気に復活して光芒へと銃弾が向けられるが、現れた人形は全く持ってその攻撃をものともしない。
いや、物理攻撃には弱いディストーションフィールドを張ってなお。周囲の攻撃、マシンガンなどの銃弾は攻撃へとなりえないからだ。
「侮るなよ糞思想家。」
人の形をしていた。だが、それが本当に人なのかと訊ねられて「ええ」や「そうだ。」などの肯定の意思をつけるには少々難しかった。

「勝手な改革意識と選民思想。それを押し付けられる人間のことを考えているのか?いや、考えていても考えてなくても良いんだ。」
彼の姿は、西洋の鎧を彷彿とさせる形だった。西洋の鎧と言っても、曲線部が目立つような楔帷子を下に着込み、サーベルなどの剣を直接受けないような丸みを帯びたものではない。
体に沿った曲線や、時たま見られる無骨な鋼の装飾。間接部分からはダーストフォームのナノマシンガーダーが覗く。
腕には騎乗槍のような長物が握られ、それが鈍器であるとともに部品をみてマシンガンでもあることが分かる。
「なにが言いたいのだ。」
自失茫然の動座が遺跡の目の前で言った。
「なに。勝手な思想で他人に迷惑をかけるな。ってことだ。」
周りにいる火星の後継者で、負傷していないのは遺跡周辺に居た研究員とわずかな将校、それに武装兵だ。すべてがわずか、すべてが無力。
降り立った騎乗槍の主、テンカワアキトにとってすべてが塵に等しい人間だった。
「それで、どうした。」
クサカベは自分の腕におきた現象を受け止めながら聞く。彼の腕はねじりきれたが、出血は起こしていなかった。ただ、ねじ切れた表面がセラミックやカルシュウムのような材質でドリルのように変化している。
「論議してくれるのはこっちとしても助かる。正直表に出てやるのも面倒だ。」
見渡して言う。ランスを持ち上げて刀身を正面め向けるようにして、構える。
「だ、戦闘はいただけない。」
ランスが吼えた。人間を殺傷するのに十分過ぎる威力の弾丸、先ほどのサクヤが襲撃をしたときと同じもの。を乱射する。
一発で3人の足が、一発で2人の人間が、一発で一人の体が、破壊される。
霧のように飛び散る血液が司令室全体に広がり、鉄の匂いが充満する。延々と鼻血を飲み込んだものなら想像できる、水分が欲しくなる様な、飢餓をもたらす匂い。
「戦争を起こすのは生みの苦しみ、なぜ。」
クサカベが唯一残された彼が、テンカワキトへと腕を突き立てる。鋼に覆われた敵を打ち破ること叶わぬと分かっていても、理性が相手の優位性を主張しても、信念は敵を敵だと処断する。

否定しなければいけない敵、それにドリルとなった腕を突き立てるが、もろくもそれは砕け散った。
「ぐううううううううううう。」
奥歯をかみ締めて、痛みをこらえる声が空間に広がる。
「無茶しないほうがいい。そいつはお前の手の骨を再構成した、神経つきの特性螺子なんだ。大切にしたほうが良いぞ。」
動座が何か理解できないうめき声を上げていた。下げられていたランスを振りかぶり、アキトは投擲する。
「うるさい。」
ぐちゃりという音がした。
ランスはその鈍重なイメージを払拭して、動座を殺した音だった。
チューリップクリスタルのエネルギー保存の性質を利用とした、デンキエネルギーへの換算ユニットを組み込んだランス。その性能の一端が発現したのであった。
「だから、こちらは条件付の投降を提案する。いや、提案じゃないな。強制だ。」
うずくまるクサカベにヤタ鋳型に体を包んだアキトはベルトを操作して生体電気を充電させて雷打を蹴りながら発した。
「投降せよ。」
非情なる軍人の顔ではない。
テンカワキトと、特務部隊ファントムは軍人ではない。

わずかな復讐者と、復讐の傘で身を隠した、殺人を禁異としない平和主義者の集団。それこそがファントム。世界からいなくなったことになった彼等の末裔。

あともうちょい!!



[308] BLOOD 2-15
Name: 銘天
Date: 2006/06/14 00:45
「ナデシコB、アマリリスは市民の救援活動を最重要として、アマテラスより離脱。後にチューリップにて単独のボソンジャンプを行ってもらいます。」
サクヤの声がアマリリスとナデシコBの艦内ブリッジへと広がる。
送受信ウインドウには美麗と言うのに値する、冷めた瞳の女性が映し出され、その判断はよどみない。
「敵との戦闘は続けられない。市民を匿って戦うなど、愚の骨頂です。ですが、ジャンプに関して、連合宇宙軍の象徴である私たちが許されるでしょうか。」
「そうだな。アマリリスにもB級ジャンパーがいて、ジャンプは可能だが、移動に関しては懐疑的だ。」
ウインドウの向こうのジュンがルリの提案にうなずいた。
現在、アマテラスにおいて存在する連合宇宙軍所属の宇宙戦艦はわずかにしか存在していない。独立艦隊であるナデシコBと、アマリリス。そして特務部隊であるファントムが擁するユーチャリスだ。
ナデシコBの艦内には一般市民95名と、こちらに救援を要請してきたアマテラス防衛守備隊のライオンズシックルのエステバリスが待機している。
アマリリスにも市民、および今回の革命騒ぎに乗じずに、世界の混乱と行く末を案じる機動部隊の者が居た。統合軍である彼等は、味方から寝返った者と同じ釜の飯を食っていた者ばかりだった。
アマリリスには疲労と、心労、ショックを抱えた者たちが集まってしまい、ジュンはこのままアマテラスを戦場にしてもいいのだろうかと考えていた。


確かに宇宙空間にあるコロニーを本拠地として戦うのは、相転移エンジンを擁するエネルギー攻撃などを行うのには最適だ。だが、物資は無限に存在するわけでもなく、木連にあるような「プラント」と呼称される食物を生成する技術の塊もない。
いつかはこの場所から火星の後継者と名乗る彼等も移動しなければならない。気がかりといえば、ボソンジャンプのブラックボックスである遺跡があちらに確保され、なおかつ幼馴染である女性が取り込んであるのだ。
気が気でないと、焦燥を感じているのはジュンだけではないだろう。ルリもまた同じく、それらのことを危惧して、先に報告を兼ねた撤退を考慮しているのだ。
「なに、これらは設定道理といったところか。クリムゾンのほうもこのようになると知っている。だからこそこんな情報が流れている。」
サクヤが唯一人、ハリのシートを占領して、小さなシートのなかで窮屈そうにデータを展開してブリッジクルーへと流した。

「なっ。」

誰しもが驚愕の表情を浮かべていた。
その内容は、クリムゾングループの内部摘発と、火星の後継者と統合軍のつながりのある軍人たちの一覧表と詳細なデータであった。
「これらはネット上にすでに広域配信されている。そして、このように仕向けた存在が、われわれのトップなんだ。」
サクヤは淡々と、事実と嘘を表情変えることなく言った。

「われわれは、火星の後継者である。これより後、アマテラスを爆破放棄する。敵味方、軍人市民を問わず、即刻退避せよ。」

ウインドウがアマテラス周辺に居たすべての戦艦と、船へと流された。
それは、宇宙軍の仕向けた様に見える。テンカワアキトとヤマサキヨシアキの策謀の賜物であった。


脆く書いたのは、あっさりと終わらせるためです。長すぎるとおわりゃしない。
BLOOD1は削除しました。気が向いたら改定と、誤字訂正します。



[308] BLOOD 2-16
Name: 銘天
Date: 2006/06/18 09:26
アマテラスを構築していた建材すべてが崩れ落ちてゆく。
感慨は抱かない。敵、ころすべきに何を思っても仕方ないし、それを考えるよりも明るい明日と、未来を思ったほうがよっぽど有益。
「ラピス、だいじょうぶ?」
休憩状態の私を、アイが覗き込む。
殺す必要はなくなった。
いつか行った対談を思い出し、そうしてみてこの事態が用意された物だと誰が気づくことやら。なんて他人事。

「大丈夫。ヤマサキはどこ?」
視線は半ばウインドウに占拠されていたのだ。
アマテラス崩壊の場面、チューリップへと並び帰還しようとする戦艦。そしてアマテラス内部のあの人の姿。
「ええ、ここに。」
ヤマサキはフロアの高さを越えて、オペレーターベースへとあがってきて見せた。研究員の格好をしているくせして、こいつは運動能力がとっても高い。
「ジャンプの用意、人為でできるんでしょ?」
「は。」
ヤマサキは普通だけれど、サキは驚いた声を遠くで上げていた。
「エステバリス全機、着艦します。機体固定の後、そのまま待機を。」
アイが通常オペレートに入り、ユーチャリスは帰還の用意をする。
艦のメインAIはそれを心地よく受け取り、ミラージュと呼ばれるバッタの総括AIもまた、退却を始めさせている。
「ええ。オモイカネ級AIの能力と、ジャンプの因子の両方で、結局必要なのはAIであり、守るべき盾のディストーションフィールドなんですよ。だから、可能ですね。」
この男が私とアキトの唯一の相談役だと言っても、否定できない。
何度となく読まれ、話し、聞かされた彼等と古代火星人についての事。
これらはヤマサキにとって楽しいものだったのだろう。イネスともよくよく話していたことから、二人で何かしらやっていたと思う。
「そう、じゃあ、実験しながらの帰還を。」
「了解。」
ヤマサキは崩れた敬礼をしてみせた。
ちょっと似合ってる。

一人称の似合うのは、彼女かな?
批評感謝。ううむ・・・後手付け説明が一番の癖。
一人称って、アキトにさせてないよね?醜くて御免(見難いでも良い



[308] BLOOD 2-17
Name: 銘天
Date: 2006/06/23 00:38
ボソンジャンプにおける一番の重要性は、オモイカネ級と呼称される人工知能を持った演算装置と、ディストーションフィールドの守りこそが上げられる。
この二つの要素と、ボソンジャンパーとなるB級もしくはA級のものが随伴することがあれば、完全に安全と目的地の的確性は上がるだろう。
だが、ボソンジャンプにおいてのネック。イメージングによるジャンプ先の選定と、指定はもっとも個人の資質と、想像と記憶に左右される不確定要素とされた。

いまここに申し上げるのは、オモイカネの人工知能によるイメージングの仲介。これこそがジャンパーを必要としないボソンジャンプの鍵となるだろう。
彼等とテンカワアキト少佐が呼称する古代火星人が、ボソンジャンプを解明するにいたってサンプルトした文明。彼等はもともとテンカワ少佐の証言によるち、粒子を一パーセクという広域の範囲において観測が可能であったという。
思考形態は人間と相似であり、もっとも嗜好を持つことを好む。
サンプリングとして現在火星の後継者たちから強奪し、連合宇宙軍および統合軍擁する火星の衛星デイモスを改造した基地に埋め込まれている制御システム。
それは、テンカワアキト少佐のクーデター直後の肉体である。
彼等と同じく粒子の観測を可能とした肉体を、テンカワ少佐は彼等の技術によって人間へと還元しようとした。
それを中断して、あたらな肉体として構成する手はずにしたのだ。

彼等との交渉は連合宇宙軍内部でも秘され、現在は一部の者が個人的に接触を図っている。

ヤマサキの作成したファイルを読みながら、なかなか良くできていると思った。彼等という存在は秘されたほうが良い存在だ。
「で、何をしているの?」
「ぱーぱ。」
サクヤがテラスに出てきて覗き込んできていた。気づかなかったわけではないが、少し無視していた性だろう。いささかむくれてる。
「いや、なんでもない。」
展開していたウインドウ、その重要部分を拡大する。

「オモイカネ級AIは、異なる理によって作られた人間の雛形であり、彼等を模した人造の生命と言える。」

ぱーぱとよばれて答えないのはさびしいものがある。
自分がそんな家族だったので、軍を退役した状態で家族を大切にしたいと思う。
「おとうさんするなんて、以前のあなたなら考えられなかった。」
サクヤに言われてなんとなく同意できる。あの時は思考がシャープすぎたかもしれない。
「そう、だな。」
テラスから見えるのは、青の海と白の砂浜。
テニシアン島、ここが俺の行きついた場所のひとつであって、ファントムの格納庫だった。


「協力を申し込みたい?」
それをいつ聞いたのか、私はしっかりと覚えています。
兵器関連の統合軍および連合宇宙軍にたいするプレゼンテーション。その後に行われたレクリエーションという名の懇談会。
皆が着飾り、軍服の御仁や、紳士淑女、企業の重役が集う腹の探りあい。そのなかで、私はスーツ姿の軍人に声をかけられたのだ。
「ミス・アクアクリムゾン、クリムゾンの方向性を私たちは危険視しています。」
なにを言うことやら。そんなの最初から分かってらっしゃるはず。
「ええ、わたくしも理解しております。けれど、私は経営に関係せず、おじいさまが・・・」
「いえ、内部の転覆を行うことはあなたにも可能なはず。優秀な執事ですね。内部にあなたの部下が散らばっているのは、こちらが知っています。」
なんてこと、それは知られていないはずの、知っていてはいけないことだった。
「転覆は望んでいませんよ。ただ、戦争ではない商売をしっかりと行ってほしいのです。そして、戦争の助長をやめていただきたい。」
ああ、そんなことを言ってもらっても、何を考えてらっしゃるのか分からないわ。
「あら、でもそれくらいのことを頼むんですもの。何か対価をいただけるのかしら。」
カクテルを持って、テラスへと誘うと、軍人の方はサングラスをかけたまま従ってきた。おなじく持ったカクテルを飲み干して、軍人は対価を教えてくれる。

「対価、報酬と申しましょう。古代火星人、その彼等がであった文明との接触、これがあなたにふさわしい対価でしょうか?」
「あら、まあ。」
それは、本当ですの?
「それは・・「本当です。」
先手を取られましたね。
「私個人が、古代火星人に値する文明との交渉接触を行っています。会話しか、ですけどね。」
サングラスの方は、サングラスをはずして、まっすぐに私を見てきた。
その瞳はわずかに金色に光っているような気がしました。
いいえ、じっさいに輝いていたのでしょうね。
「その瞳は、マシンチャイルドの瞳は火星人の証ですの?」
「いいえ、因子敵な問題で発現するものですよ。実際に目的地を設定する演算の能力回路が感覚の象徴である瞳に接続された証なだけです。」
さっぱりとはいえないけれども、理解はできました。
でも、そのような回路を有しているのはなぜなんでしょうね。
「連合宇宙軍の軍人ではなく、一個人の火星人としてさっさと平和が着て欲しいと思うのです。協力、していただけますか?」
どうしましょ、なんて逡巡はありませんわ。
迷っていたって、飛び込んだほうが楽しくありませんの?
「ええ、協力いたしましょ。」


テンカワ少佐、オーディンと名乗っていた彼の肉体は古代火星人たちのであった彼等と同じ物となっていた。感覚器官が人間のそれとは異なり、粒子すら観測できる超感覚が機械のセンサーのように発達し、回路のように眼球へとつながれていた。
眼球の色素が変化し、金色となっていたのはマシンチャイルドと同様の要因と予測できる。金色の瞳とは、極端に色素の欠損を示すものではなく、ナノマシンの流動によって強化された毛細血管が金属的な組成へと変化したことによってできる異常なものだ。

事実死体となったマシンチャイルドの遺体を火葬した後に、わずかな金色のアメーバ状金属が検出される事例を、私は見守ってきた。

閑話休題

彼等の肉体となったものは、老廃物のように生体エネルギーを外部から摂取し、結晶体となる技術を持っていた。チューリップクリスタルこそがその結晶である。古代火星人は宇宙空間の発生におけるビックバンの力、現在も膨張を続けるその力を利用してチューリップクリスタルを生成したと推測することができる。
その証拠は、デイモスとフォボスの基地を建設する際に発見された、木製と火星の間に存在する小惑星帯にあった、エネルギー中継ようの施設。
これが、火星へとエネルギーを送り、チューリップクリスタルの生成が行われたと推測する。


かんそーちょーだい。



[308] BLOOD 2-18
Name: 銘天
Date: 2006/06/23 10:46
ラピスラズリというのは、マシンチャイルドラピスラズリの結果であり、到達点である。
ベーシックの機能である者、サキ・ラズリ。
感覚の増強と、高速思考に特化した、アイ・ラズリ。
そして、肉体と演算の両方を強化した、ラピス・ラズリ。
三人は2年前にあった初期の火星の後継者の乱に参加し、現在も火星極冠遺跡において籠城を行っている火星の後継者たちを無視して、半ば退役状態になっている。
いまは、ソフトデザインや、絵画、運動などの分野において、彼女たちの扶養者であるオーディン・ゴルティス少佐とともにチャレンジしている。
オーディン・ゴルティスなんて大層な偽名をもっているが、テンカワアキトその人だということを知っているものは多くはない。
だが、テニシアン島においてかれはアキトと呼ばれることと、オーディンと呼ばれることが多かった。

「で、火星の後継者に世論は賛成しているわけ?」
「ええ、そのようね。」
ウインドウが開いてネット上の情報を教えてくれる。
火星の後継者はアマテラスを廃棄した後に、極冠遺跡におかれたイワトというなのヒサゴプランの中央コロニーを占拠して、戦闘を行わずに弁論戦争を始めたのだ。
これは、クリムゾングループが仲介を行い、連合政府と火星の後継者の間での戦争となっている。
史上初めての言葉による戦争。世論を巻き込んで、遺跡技術を用いた通信によって、火星の後継者たちは初期の人を殺し、殺される戦争をせずに、無血戦争を始めたのだ。火星の遺跡を占拠され、いまだ解明されていなかった通信技術において火星の後継者がなぜ使用を可能としたのかは、疑問視されている。
そして、世論に向けられたその通信技術をネルガルが開発を行い、それを使用した全世界規模に配信される弁論戦争が一ヶ月続いたのだ。

最初には犠牲者に関して突きつける。そうすれば、弁論によって納得すれば刑を受けるという。
次にボソンジャンプの研究を両方で行うという主張。そうすれあ第三の機関を設置して、超法規的機関として稼動させることを主張される。

何度となく行われる弁論で、現在は火星の後継者たちの主張が通っていた。
「でも、クサカベの主張は道理にかなっているし、連合政府の主張はちょっとおかしいのよね。」
「まあ、国の垣根は消えても、宗教や倫理観、それに思考形態の異なる総体が連合政府だよ。一体感はあっちに比べて少ない。」
「それに、イネスさんの原案をあっちが解釈して作っているんでしょ?連合宇宙軍が裏で火星の後継者のバックになっているなんて、気づけない。弁論に関しては連合宇宙軍の隠した主張、だよね。」
三人のラピスラズリは、テニシアン島の白い砂浜においてそれぞれパラソルを刺して、デッキチェアーに身を横たえながら話し合っていた。

三人が皆、水着を着ていて麦藁帽子を胸に置いている。
三人が同じ容姿であるが、その肢体は差異が現れている。それぞれの特化した遺伝子操作や肉体操作によって、違いが現れているからだ。
一番小さいのがアイで、体は平均的と言えるだろう。胸のふくらみは、推定14歳に違わぬ、ふっくらとしているが、ほかの二人に比較しては負けることとなる。
次に一番大きいのはラピスだろう。身長が165cmという、驚異的な高さに成長してホシノルリを下に見ることができる。
胸に関してはごくごく運動するには問題がないくらいの大きさ。特筆するべきは、すらりとした脚だろう。武術をアキトと行うせいもあってしなやかだ。
そして、真ん中がサキだ。サキはアイとラピスの中間の身長で、特筆すべきは胸だろう。なぜ彼女だけ胸が大きくなったのかは分からないが、成人の女性が掬い上げて、手のひらの半分ぐらいの大きさになる。

例えが具体的なのは、サクヤがサキのバストサイズを測るときに事実そうなったからだ。
「私と同じくらいになるわね。」
細身でグラマラスという肢体の持ち主であるサクヤにして言わしめる、将来の美貌が期待できるのだった。

三人そろって、水着を着て日光に当たらずにいる。
アイとラピスがスポーツブラジャー型の水着を着て、アイがビキニタイプの水着を着て、三人それぞれに日焼け止めを塗る。
「むむむ・・・」
などとうなってアイがサキの水着の胸パッドの中まで進入して日焼け止めを塗る。だが、ローションの様なぬめりはないが、その手つきは性をイメージさせる。
「ふにーー。」「成長するとは、良いなあ。」
その様子を見て、ラピスは小さくため息をついて屋敷に振り返る。テラスにはアキトが息子であるユウキを抱いて、サクヤとともに話している。
もっとも、アロハシャツにサーフパンツを着ているので、しばらくすれば誘っていたので、こっちにくるだろう。
「早く、来ないかな。」
淡い期待を抱きながら、一応体に薄く日焼け止めを塗っておく。

ちょっとイメージ崩れるかな?
というか、ラピスの身長はおいらのキボー。
みんな、三人のラピスで一番おめがねにかなったのは誰かな?



[308] BLOOD 2-19
Name: 銘天
Date: 2006/06/25 01:13
ブラックサレナを浮上させて、アキトは遺跡を回収した後にジャンプを行った。
火星の後継者の乱において、火星の後継者と連合政府はお互いに痛みわけをするのが戦いの趣旨でもあった。
テンカワキトとヤマサキ、それにアクアクリムゾンにとっての戦争は、これで終わり。

あとの火星の後継者たちの指示は、クリムゾンを通して行われる、連合宇宙軍のシナリオだ。連合政府という矮小な人民意識をいまだに持っている、俗物の政治家たちが真に弁論によって、平和的な解決を行わせる。それこそが、連合宇宙軍の示した見解だった。

「それが正しいのかなんて知らないさ。どうせうまくいくような形が火星の生き残りの考え方だし、生きていればいいのさ。」
「でも、お金が必要で。あなたは人間じゃなかった。」
砂浜で行われているサキの胸への愛撫は、思わず男心をくすぐる一場面だった。ローションじみた日焼け止めを手に塗ったくったアイは、水着の内部に侵入してむにむにと、コンプレックスにもなる胸をいぢっているのだ。
「アイねー、おっぱい好き?」
まだ言葉足りぬ3歳児がその場面をみて父に聞く。
「さあ?すきなんじゃないかな?」
聞かれて困る内容だった。
サクヤもまた、下で行われている光景にどこか頭痛そうにする。ぶっきらぼうで、鉄のマスクにもみた表情の彼女も、火星の後継者の乱から2年たち、月に一回弁論戦争が続いている現在において表情をほどほどに獲得していた。
表情は微妙に暗く、頭を少々抱えている。
「アイは胸の大きさが違うのを結構きにしているんだ。それだからって、あんな行為にでるなんて・・・」
「ああもう、そんなにしてまたサキが大きくなってもいいのかしら?」などとちいさくぼやくのだった。
アキトはその言葉を隣で聞いてなんともいえない。
ただ心の中で、「もっと成長ねぇ?」とつぶやいて、ラピスラズリである3人を見比べて嘆息するのだった。

三人とも魅力的な少女だ。
おとなしくも健康的なサキとちょっと肌の白いインドア派のアイ、それに鍛えられ、シャープな丸みをもつラピス。
それぞれの可愛さと魅力がいい具合に違うベクトルへと向いているのだった。
「で、どの子にするの?」
どこからともなく聞こえる声。それは頭の中だけに伝わってくる、彼等が放つ独特のコミュニケーション手段。
「さて、なんのことやら。」
アキトは無言のまま、思考で返した後で相手に聞き返す。
「アクアクリムゾンの相手はどうした?」
しばらくの無言。遺跡という空間把握能力と粒子の遠隔干渉ユニットを介さないでボソンジャンプする彼等。その端末こそが脳裏でささやく声の正体だった。

彼というべき存在は、テンカワキトの肉体を古代火星人の残した置き土産である遺跡に制御システムとして組み込むとき。
テンカワアキトを人間として再生させるために送り込まれたエージェントである。
エージェントとして使命を全うした後ですぐに消えるかと思えば、アフターサービスとばかりに人体実験された火星人に適当な処置を施し、現在も人類に干渉するように地球、火星、月を行き来している。
彼とされている、ジャックと名乗るエージェントはもっぱらアクア・クリムゾンの相手をしていることが多い。
相手というよりも、秘書の真似事をしてみてアクアと移動をともにしているのだ。
「対価」として彼を突き出したアキト。
そのアキトにジャックは特に文句も言わず、愚痴をこぼし、たまにからかってきていた。
「今は接待中。だからフリー。」
「なるほどね」と思いつつ、アキトはジャックからの接触を終わらせることを伝えて、断線する。
「誰にするか、ねぇ。」
何を言いたいのかなど、検討はつくもの。
眼下にいる誰がアキトに迫っていて、アキトがそれに答えていること。それをジャックは分かっているのだろう。
「なにを考えている?」
高圧的なサクヤの声を近くに聞きながら、アキトは生返事に返すのだった。
「愛ってやつさ。」
溜まった物はいつかは吐き出さないとやってられない。
それに迫ってきてくれるんだったら、答えなきゃならない。
魅力的に育った「おんなのこ」が手を振って、微笑んで胸の中へとお誘いしてくれるのだ。愛の言葉も、男女のささやきも本格的には交わしていないが、男として食いつかないでどうしたものか。
そして、突っ込むだけが男と女の体ではないのだし。

気づけばどうやら表情が変化していた。サクヤは気づいたのかもしれない。
「不潔。あなたらしい。」
鉄仮面で侮辱っぽいほめ言葉をもらい、息子に「ふけつ、ふけつー」などともてはやされるのだった。
アキト個人としてはちょっと凹む息子と妻の言葉だった。

第三者とアキトの心情プラスで。
って、書いちゃったよ。おててと、脚でイタシタと妄想してみよー!



[308] BLOOD 2-20
Name: 銘天
Date: 2006/06/30 00:03
不潔という不名誉な呼び名をされて、凹んだ後にアキトはラピス三人がいる砂浜へと向かった。
もとより今日は海で遊ぶというのが彼の目的のひとつでもあったからだ。ラピスたち三人と、テンカワ夫妻にユウキ。
あとは浜辺周辺に人はいない。

エリナとイネスは月に常駐していて、ツキオミは統合軍へと入隊して、現在は将校として組織内の是正を行っている。
統合軍と連合宇宙軍はいまだに一本化されることなく、合議制のもとで、二極化させたままで軍を存続させようという議論も持ち上がり、それに対しての賛成案が出ているという。

そんななかで、テンカワアキトに関係していながら、オーディンゴルティスとしての彼の子細を知らないゲストが招かれている。
それをアキトは知っているが、会うなら会う、会わないなら会わないで良いと思っていた。

アクアの別荘の脇にプライベートビーチはあり、先にチューリップが落下、陥没していた大地に格納庫が作られている。
格納庫はアクア所有の施設となっているが、実質的にはネルガルとクリムゾンの共同研究所となっている。
大本であるクリムゾングループのロバートは現在も当主の立場にあり、人体実験を始めとして、火星の後継者を手伝っていたアクアの父であり、ジェイムズは監禁状態で拘束され、クリムゾンの跡目をアクアが間接的に引き継いでいる。
表ではアクアの姉となっているシャロンが引継いでいるが、事実上では、シャロンが独自に行いながらも、アクアが採点していると言うところだ。
「アキト。」
浜辺に到着すれば、アキトをラピスと、くすぐったがるサキと、胸を揉んでくすぐっているアイが出迎えてくれた。
期待の視線を向けるラピスは、その手にローションタイプの日焼け止めを持っている。
「待たせた、今日は遊びだったよな。」
「そう、でも目の保養もあるでしょ?」
アイの言葉にアキトはうなずかなくてはならない。
健康的に成長したアイとサキ、それにラピスたち乙女の肢体は極上と言って良いほどの可憐さを誇示し、男からしてみれば、まさに至福の空間を形成している。
「ああ、眼福だな。」
言った後で、サキが胸を隠し。アイが笑い。ラピスが胸を張って見せた。

「至福か。」
ラピスが横たわるパラソルの下にあったデッキチェアーの側でいそいそと作業を行う。手に持っているのはローションタイプの日焼け止め。
目の前にはスポーツタイプの水着のバックジッパーを開放した、ちょっとかわいらしい背中。
「本当に良いんだからね。」
ラピスの声にあいまいに「ああ」とうなずいて、ローションを手で温めることなくたらして塗る。ローションはもとより暖かかった。
やわらかく、適度な筋肉のしなやかさを感じる。
ローションのヌルヌルはすぐさまに消えてしまうが、刹那に訪れる感触はどうにもやわらかい。
襲ってみたい。
「いや、だめだ。だめだ。」
大きく頭を振って、いぶかしむラピスにどこか意地悪な笑みを見つける。
「アキト、どうしたのかな?」
「胸が見えるぞ。いいのか?」
起き上がるラピスの胸を覆うはずの水着は、下に落ちていて、なにやら爽やかな桃と同じ色の部位に目がいってしまう。
「いいよ。」
「そう、か。」
思わず返す俺。シャープすぎる思考から、シャープにはなった。
ラピスに欲情の念を抱いているのも自覚し、そうして自分がいつかは彼女を選ぶのは目に見えていた。

であった時から、彼女は俺の特別だったのだ。
吸血も行った。生きるための、彼等と人間の際を和らげる潤滑剤としての、ラピスの血液。
でも、それだけじゃない。重大だからこそのそれだけではなく。
心より愛する相手として彼女を捕らえていた。
「性欲が先行したわけじゃないさ。」
ラピスに聞こえるか聞こえないかは、この際無視した。
「こんなに、」
背中に満遍なく塗り、脚を抱き上げるように塗る。キュッと締まった太ももに塗って、ふくらはぎに塗る。
両足に塗ってから、やさしくお尻にキスしてみる。
「ん。くすぐったい。」
素材は薄く、お尻の感触はやわらかかった。


ごめん。
女の子に飢えて見るアキト。
いかがでせうか?



[308] 終わりと誰か
Name: 銘天
Date: 2006/06/30 08:55
心臓と体のどこか、それに心がずいぶんと高揚するのをしっかり覚えた。
かくも魅力的なのはラピスに惚れているからだろうか。
「きれいなんだよな。」
上半身の背中と首筋を終え、わき腹などを塗るのにどんなに精神力が削れたことやら。裸ではない、見えないからこその魅力が恨めしい。
「前はやってくれないの?」
水着のジッパーをあげて、胸をしっかりと覆ったラピスに問われるが、冗談じゃない。
これ以上のぼせさせるつもりか・・・・
「いや、自分で塗ってくれ。」
着ていたシャツを脱ぎ捨てて、海へと歩む。
こんなにもいい天気で、海が青々としていて心地よい風が吹いているのだ。見逃す手はなく、健全となり彼等の力がわずかに残されたこの身も爽快感を覚えたい。
そう思うが、後ろから抱きすくめられれば、とまらないわけにはいかない。
背中には人間独特のやわらかさと、ローションのちょっとしたぬめり。
おまけに腹を抱く手にはローションが・・・
「アキトも、塗る。」
おいおい、しょっぱなから背中と乳首に塗るんじゃない。


静かな寝室で、二人して寝転がっていた。
結局のところ、ローションという格好のアイテムを得たラピスに押され、アキトは押し切られたというべきか。
わずかに日焼けをして、肌が黒くなっていた。
海で泳ぐという行為は何度もやっているが、なれない、初体験的な感情を喚起させる。
「たのし、かったか。」
隣にいるのはサクヤではなく、ラピスだった。
白のワンピースを着て、わずかな日焼けの後がほほえましく、第二ボタンまで外れて、わずかに乱れている。そして、彼女自身の表情もまた、どこか高揚しているのは、先の接吻乱舞からだろうか。
「はは。」
乱れた襟を正してラピスを寝かせた後で、バルコニーに行く。

そこに、二つの気配を感じて。

「此度の観測の中核、お疲れ様でした。」
一人は男。黒の髪をほどほどに刈り、わずかに癖を持った髪の毛はほぼまっすぐで丸いサイドで固定するフレームのめがねをしている。
格好は黒のコートと、中には白Yシャツと黒のベストが覗く。
そして、瞳こそが問題だった。
光を反射せず、何もかもを見通すように黒があるだけ。
確かに瞳孔も光彩もあるが、違和感をかもし出す。
「そして、幸せを掴み、幸いです。」
一連の言葉を吐いた少女はたたずむ。
黒髪の日本人形じみた少女だ。瞳は右が朱、左が紫という特異のオッドアイで、体は黒のレースキャミソールに、白の開襟ブラウスで包み、足元は白を基調として、赤のレースが裾にあしらわれたロングスカートで着飾っている。
「切り開かれるゆがみを、この世界の人間は知覚できない。唯一あなたたちのいう彼等こそが、それを可能とし、力足りえるエネルギーを持っていた。だから観測における世界にありながら、この状態へと至った。」
「この状態へと着たのが、全くの奇跡。」
「いや、奇跡じゃなくて、現実だ。」
アキトは二人の男女に返す。
目の前にいる存在が彼等の代表としてやってきたジャックと同じでありながら、もっと恐れるべき存在だと分かるからだ。
自動的に冷や汗がでて、眉間が険しく皺よせる。
「お前たちが何だかはしらない。けど、見るだけ見て、それで終りか?なぜ手を出さない。お前達にはその力が「あっても、理由がなければ使わない。」
男がさえぎった。
容姿は中性的で、年齢も若いのだろう。戦いと人体実験を経たアキトと比較してみれば、相手が若いと思える。
「ここは、なるべくして成った世界。だから、私達では何も施せることはない。」
「ええ、とうさま。」
肯定する少女。
「だから最後、あなたに会い見えた。」
「そう、これで終り。」
二人は散々というわけではないが、語ってから姿と消してゆく。
半透明になる体には、円形の文様が乱舞して、その存在を希薄化させる。
「さよなら。」
少女の声が最後に聞こえた。
それで、終り。

アキトは見上げることもしないし、バルコニーの下を見ることもない。
彼等は来て、彼等は去っていった。
ベッドに戻ってラピスの隣に寝転がる。
思考をしようとしても、それが無益だと最初から突きつけられる。
「己が道、進むが人の道。」
何も声は返ってこない。
アキトがその後でラピスに覆いかぶさって、愛をささやいても…


おわり・・・・・・・・・らしい
賛否両論?是!


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