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[2746] 無限界廊の異端児(サモンナイト オリ主最強)
Name: もにもに◆2285b348 ID:89adfc6d
Date: 2011/12/29 00:41
無限界廊の異端児

第0話 出会い・お仕置編








 人は、現実を受け入れられない時がある。

「ポンポン、ポポン、ポンポポポン。ポンポン、ポポン、ポンポポポン……」

 鬱蒼とした森の中で小一時間奇天烈な発声練習を行う少年は、呆けたようにひたすら声を出し続ける。
 男には、自分の置かれている状況は理解できていた。
 しかし、その状況にどう対処したものかさっぱりわからないのだった。

「ポンポン、ポポン……」

 故に魂から漏れている囁きを口ずさむしかなかった。

 そんなこんなで、さらに半日がたって疲れた少年は腰掛けていた切り株から降りて地面に寝そべっていた。

「ちょっとちょっと、そこの若人ぉ。こんなところで寝てたら風邪ひいちゃうわよぉ?」

 うとうとし始めた少年に独特のテンポをもった口調の女が近づいてきた。
 少年は、げんなりした表情を隠すでもなく呟いた。

「酒くっさっ」

 女は、酒気そのものを纏ったような匂いだった。
 酒に強くない少年は、酒気に敏感でこれほどの酒臭さは脳を蕩けさせるには十分だった。

「いきなり失礼な子ねぇ」

 そう言いつつもまったく意に返した様子のない酒女。

「それで。君はどこの誰なのかにゃ~?」

 酒女の吐く息を吸い込まないように少年は鼻を塞ぎつつ立ち上がった。
 少年と酒女の身長差は頭一つ分ほど。
 上目遣いで酒女を見上げた少年は軽い驚きと共に問い返した。

「俺のこと知らないの?」

「そりゃあ初対面なんだから知らないのは当たり前じゃない。あ、わたしの名前は、メイメイ。君はなんてぇの?」

 陽気な酒女の言葉に心底「臭い」という顔の少年。

「スポポビッチャリーノ・天々だ」

 物凄く真面目な表情で名乗りを上げた。

「…………………君のお名前はなんていうのかなあ?」

「ごめんなさい、ごめんなさい、生まれてきてごめんなさい」

 酒臭い笑顔のままの酒女に頭を鷲掴みにされて持ち上げられた少年は、泣きながら謝った。
 メイメイは、笑いながら怒るタイプであった。



 店に連れてこられるまで、メイメイの引き攣った笑い顔を見ていた少年は怯えているしかなかった。
 始めはアホなことを言い出したことで怒ったが、少年が空腹に悩まされているらしいことを知ると食事を用意してあげた。

「やっぱり、ご飯は白飯が一番だ」

「何? 君って、鬼妖界出身……なわけないのよねえ。君は名も無き世界から来ちゃったわけかぁ、困ったわねえ」

 少年の素性について大体の見当をつけていたメイメイは、どう説明してよいものかと悩む。
 自分の占いにまったく映ることのない存在が目の前に現れ、その少年は名も無き世界からやってきた。
 既にメイメイの耳に届いている新たな誓約者は、まだまだ未来のはずだった。
 この島で起こる戦いには、別の者が招かれるはずだった。それにしても時期が合わない。
 名も無き世界の住人は、他の四界の住人たちと違ってリィンバウムのことも召喚術のことも知らない。
 しかも、目の前で食事をする少年の年の頃は、12、3歳といったところ。
 この島でやって幾分には、問題ないが元の世界に返すとなると難しくなる。

 メイメイであれば、召喚された者を元の世界に還す『送還術』も可能である。
 しかし、名も無き世界への送還は、ほかの四界とは事情が違う。
 名も無き世界へのゲートは、非常に不安定であり、よほど強大な魔力を持った者ではないと道半ばで消滅してしまう可能性もある。
 この島にある『喚起の門』によって招かれた名も無き世界の住人は、二人目だが、子供となると話は変わってくる。
 数ヶ月前に召喚されたゲンジと言う名の名も無き世界から来た老人は、元の世界への未練もないと達観していた。
 だが、この少年は

「あ、俺は、元の世界に帰るつもりはないので悪しからず」

「にゃ?」

 ご飯をパクパク食べながら平然と言った少年にメイメイは驚く。

「ちょっとちょっとぉ。自分がどういう状況なのかわかってる?」

 あり得ないと思いつつも、少年に確認を取る。

「この世界は、リィンバウム。俺の世界は、リィンバウムでは、名も無き世界って呼ばれてて、リィンバウムを取り巻く四界とは別のよく分からん世界、でしょ?」

 すらすらと述べる少年にさしものメイメイも唖然とした。

「貴方、何者なの……?」

 酒臭さは変わらないものの真剣さの増したメイメイに少年も箸をおく。

「見た目は、少年? 中身は、小作人? しかしてその実体は……トリッパ~?」

 すべて疑問系で自称した少年は、満足したように食事を再開した。
 パクパクにゃにゃにゃ、パクパクにゃにゃにゃ。
 食事中の少年とぷるぷる震えが止まらないメイメイ。

「ぷふぁ~、ご馳走様でした。もうお腹一杯だ」

「にゃは、にゃははっ……にゃはははははっ♪」

 満腹感に笑顔の少年と不可思議なオーラを滲ませて笑うメイメイ。







「もきゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」






 首を切られる鶏のような切ない悲鳴が秘境の島に響いたのだった。












注意+あとがき+α
 本SSは、最強オリ物です。
 ご都合主義です。
 申し訳ありません!

 と、いうわけで、本作は現実→サモンナイトです。
 サモンナイトシリーズをやっていて思ったことは、いくらメインバトルで圧勝してもストーリー的には辛勝若しくは引き分けの展開。
 シナリオ上仕方ないこととは言え、覚醒イスラやオルドレイクをラグナレク一発! ウィゼルをキュウマが雑魚と一緒に居合いで瞬殺!
 そんな戦闘内容の後に、通常のストーリー展開が進む。
 もし、圧勝したら違った展開になるとかいうifのストーリーもあったら面白そうではないか?
 そんな考えのもとで発生したのがこのSSです。

 原作の雰囲気をぶち壊すこと間違いなしな裏ルート!
 無限回廊にて鍛えられ、最強クラスの武器を入手し、本編に殴りこみ!
 ごめんなさい、ごめんなさい、調子にのってごめんなさい!


 本日の主人公パラメータ
 Lv.1
 クラス-来訪者
 攻撃-縦・短剣 横・杖
 MOV3、↑2、↓3
 防具-ローブ(表面ナイロン100%、裏地)
 特殊能力
 俊敏、偽眼力、へたれ、ダッシュ?、悲鳴、アイテムスロー、命乞い
 召喚クラス
 機C、鬼C、霊C、獣C

 本日のメイメイパラメータ
 Lv.不明
 攻撃-縦・刀 
 特殊能力
 笑顔・恐、折檻・絶、にゃはは120%



 オリ特殊能力解説
<主人公>
 俊敏-逃げ足。
 偽眼力-レベルが近い敵が襲ってくる。レベルが離れている敵からは無視される。
 ダッシュ?-敵から離れる場合のみ移動距離倍増。
 悲鳴-弱者に恐怖、強者に愉悦を感じさせる警報。
 命乞い-レベルが20以上離れていれば見逃してもらえる。

<メイメイ>
 笑顔・恐-笑顔で怒ることができる。にゃははっ!
 折檻・絶-悪い子はお仕置するわよ?
 にゃはは120%-場を和ませる、若しくは戦慄させる。






[2746] 無限界廊の異端児 第1話 準備開始・日常編
Name: もにもに◆2285b348 ID:89adfc6d
Date: 2008/03/12 06:49


無限回廊の異端児

第1話 準備開始・日常編









 忍び寄る軟体生物。
 人は、それをマリーンゼリーと呼ぶ。
 四界のひとつ、幻獣界メイトルパより来たる種族だ。

「ぶっちゃけ、ただのスライムだよね」

 ノヴィスロッドを装備した少年は、うねうねと這い寄って来るマリーンゼリーをフルスイングで跳ね飛ばす。
 少年の膝の高さにも届いていないマリーンゼリーは壁面にぶちまけられた。

「はい、良い汗かきましたっと」

 Lv.1の敵との戦いは、移動速度の差で終始自分ターンを続けていた少年に軍配が上がった。
 レベルが上がればマリーンゼリーも移動速度が増すこともあるが、やはりそこはLv.1。鈍かった。

「文字通り、レベルの低い戦いだったわねえ。にゃはははっ♪」

 勝利の余韻に浸っていた少年の後ろから間延びする声が掛かる。

「仕方ないだろ。時間が無いとは言っても、この世界の理に合った修行でしか強くなれないんだし」

「それもそうねえ。でも、それが君に課した制限なのよねえ」

 昨日の対立によりなんとか和解した少年の戦いを見守っていたメイメイが、軽く空間を撫でる。
 するとそれまで砦のような戦場が崩れていく。
 戦場の消えた後に残ったのは、静謐な雰囲気に包まれる泉だった。

「それより、これ以上は護人たちに気付かれるかもよん」

「オッス! ししょー!」

 少年に合せて最小限に展開されていた空間でも、護人の誰かが近くに居たら気付かれる。
 ことが起きるまで少年の目的を他の誰かに知られるのは良くないと判断したメイメイの提案でひっそりと修行をしていたのだった。





 昨日、メイメイによって調き、もとい教育された少年はメイメイを師としてとある空間で修行を始めた。
 メイメイは、ある種超越した存在であるため俗世に干渉する際にさまざまな制限が課される。
 それゆえに歯がゆい思いをすることも多々あり、運命に翻弄される者たちが正しい選択をできるよう見守る事しか出来なかった。

 だが、名も無き世界から召喚されたこの少年は、自分の意志で『喚起の門』の呼びかけに応えたこの世界にやって来たと言った。
 もちろん、それを鵜呑みにするメイメイではないが、この少年は、この世界の運命に干渉されることがない。
 メイメイの占いにも映らず、『王』の声からも知らされなかった異界の民。
 その少年は、名も無き世界の住人の特徴である全属性の召喚術の素質を有し、その目的をもってリィンバウムへとやって来た。
 この少年の存在が、来る運命の分岐点にどのように作用するかわからないが、少年を見守り、監視することを決めたメイメイの計らいによって、メイメイの店に少年は居候することになった。

「というわけで、ホーリィナイフお願いします!」

 マリーンゼリーと数回戦闘を繰り返したことで手に入れた2500バームをメイメイに手渡す少年。

「マジックナイフ、2200バームね。はい、お釣り300バーム。またのご利用、お待ちしてまぁす」

 つねの笑いとともに少年に簡素なナイフと300バームを手渡すメイメイ。
 素でホーリィナイフを買おうとした少年だったが、やはりお金に関してはシビアなようだった。
 リィンバウムの武器屋や道具屋で割引されることはまず無い。それはこの世界の理だからだ。
 その最たるものとしてメイメイの店で割引など絶対ありえないのだった。
 
 戦闘経験を積んだことで多少はレベルアップを果たした少年だが、今だ大した能力ではない。
 レベルの低いうちは、雑魚を相手にちまちまと経験値を溜めるしかない。
 そこで効率良く戦闘を進めるためには、敵を一撃でノックアウトできる攻撃力を優先して鍛えること。
 自分は一撃も喰らう事無く、相手を一撃で倒す。
 攻撃こそ最大の防御とは、よく言ったもので、特殊な攻撃をしてこない敵であればこの方法は有効だった。

「召喚術は、送還術を人間が改造して編み出した術ってことは知ってるのよねえ?」

「うん。基本的は知識はもってるよ。召喚術の感覚もちょっとは上達したからね」

 メイメイを師として召喚術を学んでいた少年は、ようやく誓約の儀式もできるようになっていた。

「それじゃ、今日から送還術についてもお勉強することにしま~す。にゃははははっ♪」

 灰になる少年がマジックナイフを取り落とす。
 笑うメイメイがお酒臭い息を吐き出す。
 因みに、少年がメイメイに出会ってから一度として酒気が抜けた事は無い。
 知らず知らずのうちに少年のお酒に対する耐性が日増しに成長しているのだった。

 送還術パージングは、『界の意志エルゴ 』が人間に与えた異界の存在を退けるための知識だった。
 しかし、リィンバウムにおいてその力は変質し、召喚術サモーニング というまったく逆の技術が生み出されてしまった。
 本来、戦乱を収めるために与えられた力が、さらなる戦乱を招くことになるとはエルゴたちですら予想しなかった。
 そんな召喚術の乱用は、各世界を分ける結界に強引に穴を空けることに他ならない。
 そこで少年は、ある用法の召喚術を教えてくれるようにメイメイに頼んでいた。


 ここで、『メイメイのひ・み・つ』のひとつである店の奥にある勉強部屋で行われていた召喚術の特訓のいち風景を紹介しよう。

「初めまして、ライザー。できれば君に力を貸して欲しいな~と思ってるんだけど、どう?」

 真丸な身体に簡単な造りのアームとコンセントの尻尾が生え、違和感のある羽根が生えた機精ライザー。
 少年は、そのライザーに手を差し出して友好の証として握手を求める。

「Bii…Biiii…BiBi」

「そ、そう? メモリドリアは今無いんだ。電磁バーガーじゃだめ? 今度は、ちゃんと用意しておくからさ」

 明らかに人の食すバーガーではない物をライザーに差し出す少年。

「BiBi」

 やや考えた後、ライザーは電磁バーガーを食べた。
 そして簡易送還術により、機界ロレイラルへと還っていった。

「……サモナイト石に何も刻まれてないのは何で?」

 ライザーを呼び出すのに使った黒いサモナイト石をメイメイに見せる少年。
 あきれたようにそれを見るメイメイ。

「あのねえ若人ぉ。物でつる様な人を信用するわけないでしょう?」

「それもそうだよな。……召喚術ってやっぱり難しいんだな」

 と言うように通常であれば、契約により強制的に召喚獣を従わせる召喚術ではなく、古き時代にあった正しい在り方を学んでいた。
 かつて誓約者リンカーが用いた召喚術。
 それは、召喚獣と心を通わすことで力を得る本来の在り方。
 これの方法は、誓約の力によって強引に従わせるの従来の召喚術と違い、召喚者と被召喚者の力を相乗させることが出来る。
 召喚術の基本は知っていても感覚を知らなかった少年にとって、この二つの召喚方法は、まったく別物だった。
 はるか昔には、誓約者でなくとも異界の友と力を合せて戦うことが出来ていた。
 ならば、自分もそれができるのではないか?
 少年はそう考え、メイメイに指導を頼んだのだった。

 結果はまだ出ていないが、召喚獣のことを異界の存在として区別しない少年の価値観は少しずつその術を身につけ始めていた。
 今では、四界にいる存在に『声』を届けることで、リィンバウムに「招く」までは出来るようになっていた。
 しかし、そこからの心を通わせるというのは中々に難しいものだった。

「つ~わけでさ。勉強、勉強、また勉強でもうくたくたなんだよね」

 口にご飯を詰め込む箸を止めずに喋る少年。

「え~、母上やキュウマとの修行の方が絶対疲れるぞ」

 少年の向かいで同じく食事する手を休めず喋る鬼人の子供。

「これこれ、二人とも行儀の悪い。おしゃべりなら食事の後にせぬか」

 鬼人の子供の母親である鬼人の女性が行儀の悪い二人を嗜める。
 名も無き世界でも「ニッポン」という国の出である少年にとって鬼妖界シルターンの料理が好みの味だった。
 そうしてこの島で暮らすようになった少年が食事をたかりに来るのは当然の帰結と言えた。
 始めは、この「風雷の郷」と呼ばれるシルターンの住人の集落に住んでいるゲンジという名も無き世界から来た老人のところに住めばどうかと案が出ていたが、少年はきっぱりと断っていた。
 少年曰く、「絶対に気が合わない」とのことだった。
 一度は、面通ししたものそれ以降少年は、会わないように逃げ回っていた。
 ゲンジは、同郷の少年がこの世界に来たということもあり、面倒をみようと意気揚々だったらしいが、少年の反応を知って落胆していた。
 食事時を狙ってゲンジが「鬼の御殿」に来ることもあったが、少年はそれを察知すると素早く逃げ出すのだった。
 少年の反応に周囲は、ゲンジのことを嫌っているのではないかと考えたが、「絶対に合わない」の一点張りの少年がゲンジを悪く言うことはないので、少し過敏な苦手意識なのだろうと諦めるようになった。

「なあ、何でじいちゃんから逃げてんだ?」

 少年は、食事を共にしていた鬼の子、スバルと一緒におばけ水蓮の上を走り回っていた。
 修行の一環でもある遊びであるため、少年とスバルはそれなりに素早く水蓮の上を跳びはねる。

「俺は、あのタイプの教師が一番苦手なだけ。定年退職しててもゲンジさんは、その教師らしさが残ってるし」

「ふ~ん。やっぱ勉強が嫌いなんだ」

「まあな。セクシー女教師なら下心有りで頑張るけど」

 とても12、3歳とは思えない発言をする少年で、精神年齢が明らかにオッサンなところがある。

「せくし~じょきょうしぃ~? なんだそれ?」

「子供は、知らなくて良い事だ」

「お前だって子供じゃん!」

 やけに大人びたニヒルな笑みを浮かべる少年にスバルは悔しそうにツッコミを入れた。

「あっ」

 少年は、足を踏み外した。
 少年は、池に落っこちた。
 少年は、泳ぎが苦手だった。
 少年は、藻に絡まって浮かぶことが出来なかった。
 少年は、スバルが呼んできたキュウマに助けられるまでに死の階段を12歩まで上っていた。






















本日の主人公パラメータ
 Lv.5
 クラス-なんちゃって召喚師
 攻撃型-縦・短剣(マジックナイフ) 横・杖(ノヴィスロッド)
 HP60 MP60 AT38 DF25 MAT45 MDF40 TEC38 LUC50
 MOV3、↑3、↓3
 召喚石3
 防具-着物(ベニツバキ)
 特殊能力
 誓約の儀式(真)・全、ユニット召喚、俊敏、フルスイング、ストラ、アイテムスロー、戦略的撤退、命乞い
 召喚クラス
 機C、鬼C、霊C、獣C
 装備中召喚獣
 仮面の石像、巨像の拳、サモンマテリアル


オリ特殊能力解説
<主人公>
 誓約の儀式(真)・全-誓約者と同じ召喚法。まだ未熟なので意志を持つ存在の助力は得られない。
 俊敏-逃げ足。
 フルスイング-横切りタイプの攻撃力が1.2倍になる。
 戦略的撤退-勝てないと思った時は、いつでもどこでも逃げ出す。
 命乞い-レベルが20以上離れていれば見逃してもらえる。



[2746] 無限界廊の異端児 第2話 毎日鍛錬・悪戯編
Name: もにもに◆2285b348 ID:89adfc6d
Date: 2008/03/14 19:45
無限界廊の異端児

第2話 毎日鍛錬・悪戯編







 名も無き世界から島に少年がやって来てはや半年が過ぎていた。
 島では、それはそれは平和な毎日が続いていた。
 しかし、名も無き世界からやって来た少年は、ほぼ毎日いずれ来る争乱にむけて修行を続けていた。

「はっ……はぁ……はっはぁ」

 肩で息をしながら機械の歯車が組み込まれた長さ1メートルほどの杖を構える。
 呼吸を落ち着けながら、一気に駆け上がった階段の最上部で呪文の詠唱を開始する。

「界の狭間を越え、我が声に応えよ!」

 少年が修練の場として多用する砦にも似た戦場。
 そこに待ち構えていた幻影の戦士たちもその数を減らし、今は階段を駆け上がってくる数名のみ。
 杖を持つ左手を前に突き出し、腰溜めに構える右手には黒いサモナイト石が輝きを増していく。

「異界に在りし朋友、イグシルド!」

 少年の呼び声を聞き、世界を越えてその助けとなるために現れたのは赤と白の鋼に覆われ身体と炎を繰る雄々しき勇士だった。
 その勇士は、フレイムナイトと分類される機界ロレイラルの機械兵士である。

「調子は、どうだい?」

 召喚に応えてくれたフレイムナイトのイグシルドに向かって笑顔を向ける。
 そこが戦場であることを失念しているような暢気な声に、機界の勇士は笑いに似た電子音を奏でる。

「ははっ、そりゃそうだ! それじゃあ、今日も行ってみますかッ!!」

 フレイムナイトをリィンバウムに招きよせたサモナイト石に魔力を送る。
 するとフレイムナイトは、その腕に装備された火炎放射器を階段を上ってくる幻影の戦士たちに向ける。
 サモナイト石を介してフレイムナイトに魔力が流れ込む。
 魔力がエネルギーに変換され、火炎放射器に充填されていく。
 間近に迫った幻影の戦士たちは、その以上を察知していても走ることをやめない。
 すでに、どちらが先に攻撃を加えられるかが、勝負を決めることを悟っているのだ。

 そして、先に攻撃を仕掛けたのは幻影の戦士だった。
 振り下ろされる剣が詠唱を終えた術者を切り裂く。

「どこを見ている……?」

 切り裂かれるはずだった術者は、完全に幻影の戦士の攻撃を見切っていた。
 完全に無防備になった敵に構わず術者が後退した。
 その意味に幻影の戦士が気付いたときには、炎の暴風に包まれていた。
 最初の一人が炎に押されると後続も次々に炎に呑まれて階段を転げ落ちていった。

「いつも、ありがと! またな、イグシルド!」

 役目を終えたフレイムナイトは、見送る少年の声に再び軽快な電子音を鳴らして去っていった。
 例え会話機能が備わっていなくとも、少年はフレイムナイトに声をかける。
 会話を成立させるために喋っているわけではない。
 それは気持ちを伝えるためのひとつの行いなのだった。
 周囲に倒れていた幻影の戦士たちが、本物の影へと溶けて消えていく。
 それともなって修練の場である『無限回廊』も次第にその空間が解かれていった。




 視界の晴れたそこには、徳利片手にお猪口でちょびちょびお酒を飲みながら戦いを監察していたメイメイがいつもの笑いで待っていた。

「おかえり~。うんうん、見違えるくらい強くなったんじゃにゃい?」

 にゃはは、と酔いに任せて笑いながらもしっかりと無限回廊の維持と閉鎖を行っているメイメイに、少年は感心と呆れの表情を向ける。

「まだまだだよ。目的のためには、もっと力をつけないと足りないよ。ししょーもお酒ばっかり飲んでないで早く帰ろう」

 少年が、力を求めて修行をしていることは、島の住人たちのほとんどが知っている。
 そして島のまとめ役である護人たちもそのことを認識している。
 メイメイの店に居候して、この世界の知識を学んでいるという嘘のような本当のようなこともみんな知っている。
 しかし、送還術や召喚術を学び、無限回廊という試練の場で日夜修行に明け暮れていることはまったく知られていない。

 この島は、かつて『無色の派閥』という危険な召喚師たちの集団が、召喚術の実験場としていた経緯があるため、召喚術に対して敏感なのだ。
 もし、護人たちに召喚術を学んでいると知られれば、少年の処遇を考え直すことになるだろう。
 しかし、そういった事情をすべて知っているにも関わらず、少年は密かに鍛錬を続けている。
 知っているからこそ鍛えているのであり、何も言うことが出来ないのである。
 なりゆきで少年の師となったメイメイもそのことは、多少後ろめたくも感じていたが、この少年が世界に齎すであろう可能性を優先することにした。

 かつて、『王』の側にあったメイメイは、『王』が信じ願った世界を見守るという使命がある。
 それはけして強制されたことではなく、彼女が自ら望んでなった立場だった。
 しかし、時代が進めば、人は迷い、争い、死んでいく。
 流れゆく時代の荒波の中で、うつろう人間たちをメイメイはただ見守ることしかできない。
 ほんの少しの手助けはできるが、ある種の隔絶した存在に昇華された魂をもつメイメイでは、運命に関われる度合いが極端に少ない。
 そのせいで、幾度となく助けられたはずの、救えたはずの命が失われていった。

 これではいけない。こんな世界のために『王』は戦ったんじゃない。
 『王』への思いだけを胸に時の流れにさえ逆らって見守って来た。
 この世界には、確かに輝かしい魂を持つ人間たちもいる。
 しかし、そうした人間と同じく、強い力を持ちながら歪んでしまう人間たちがいた。

 あとほんの少しだけ、自ら干渉すれば歪んでしまう前に正してやれたかもしれないと悔やむことなど幾度もあった。
 だが、メイメイに課せられた制限は、そういった者たちにこそ関わることを許さない。

「機界に霊界、鬼妖界……あとは、幻獣界にも友達ができるといいな~。ねえ、ししょー。幻獣界の剣竜って『至竜』になってるの?」

 力があるからこそ世界に関われない。歴史を識るからこそ助けになりたい。
 そんなダブルバインドに悩まされていたメイメイの前にこの少年が現れたことは、果たして偶然だったのか。

「……ん? ししょー?」

 もし必然であったのなら自分の占いか『王』からの声で事前に大体の基点は知ることができるはず。
 しかし、この少年は突如、なんの前触れもなくこの島に現れた。
 あと一年もしないうちに訪れる戦乱に備えるべくこの島に自分がやって来ていたこととは、本当に無関係なのか。

「お~い、メイメイししょー」

 数日に一度は、護人たちの誰かが見回りに行く「喚起の門」の近くに無防備に寝転んでいた少年を自分が最初に見つけたのも偶然なのか。
 考えれば、考えるほどお酒の量が増えていった。

「ししょー、そろそろ飲み過ぎだと思うんだけど?」

 だが、少年の存在は、メイメイにとって悪いことだけではなかった。
 この少年は、リィンバウムに散らばる幾多の運命を知っていながら殆どの制約を受けていない。
 しかも、少年自身の魂の輝きは、けして弱くはなかった。
 自分が関わることの許されない運命に関わっていける立場にあり、運命の外から力を蓄えることのできる存在。
 この少年なら、自分の背負ってきたものを少しは軽くしてくれるかもしれない。
 『王』に聞かれたら笑われると思いつつ、メイメイはそんなことを考えながら酒を注ぎ足した。

「んく、んく、んくくくくくくくッ、にゃひゃあああああああああああああああ!!!」

「おー。さすが鬼妖界でも二番目に辛い調味料だな。一発だ!」

 メイメイが口の中に注いだ真っ赤に染まったお酒。
 それが床にぶちまけられ、同じく衝撃のあまり気絶してしまったメイメイ。

「…………ししょー、死んでないよね?」

 倒れて痙攣を繰り返すメイメイを不安そうに覗き込む少年。
 一向に目を覚ます様子のないメイメイの口に、水をどんどん注ぎ込んだことでようやく痙攣が治まったことを確認した少年は、メイメイを別室で休ませて部屋の掃除を始めた。

「はぁ~、酒臭さと辛子っぽい刺激臭が鼻に痛い」

 自業自得っぽい環境を作り出してしまった少年は、鼻に線をして掃除をするも目や口が面白いことになるのは防げなかった。
 とりあえず掃除を終えた少年は、いまだ目を覚まさないメイメイを寝床に運ぶと自分もその隣に転がった。

「………………」

 魘されるメイメイの荒い息をすぐそばに感じてどうしたものかと悩む少年。
 たらこ唇になってないな~、という感想を懐いき、この角って触っても大丈夫なのかな~、という好奇心と戦った少年は……

「酒くっさッ!」

 中身は、それなりに大人な少年でもメイメイの酒臭さに耐えられず、結局別の部屋で眠ることにしたのだった。
 性格がオッサンな少年が、エッチな悪戯に及ばなかったのは、これもまた“制限”なのだろう。






 少年が、朝目覚めるとそこは「集いの泉」だった。
 そして、少年が寝ていたはずの布団の代わりに、簡単な造りの水車に身体が縛られていた。

「……あれ?」

 その後の少年は、丸一日水磔の刑と処されることとなった。



















本日の主人公パラメータ
 Lv.19
 クラス-送還術師
 攻撃型-縦・短剣(プリズムナイフ)、横・刀(ラセツ)、横・杖(歯車の杖)
 HP150 MP180 AT100 DF70 MAT130 MDF75 TEC68 LUC60
 MOV4、↑3、↓4
 召喚石4
 防具-着物(ランバショウ)
 特殊能力
  誓約の儀式(真)・全、ユニット召喚、送還術
  見切、俊敏、眼力、バックアタック、ダブルムーブ、アイテムスロー、居合い斬り・弱、フルスイング、ストラ、バリストラ
 召喚クラス
  機A、鬼B、霊B、獣C
 装備中召喚獣
  フレイムナイト、ムジナ、聖母プラーマ、仮面の石像



オリ特殊能力解説
<主人公>
 誓約の儀式(真)・全-誓約者と同じ召喚法。
 送還術-召喚術の前身となった正しき術。相手の召喚術を強制的にキャンセルする。ただし、超遠距離やSランクの召喚術は防げない。
 居合い斬り・弱-見よう見真似の居合い斬り。通常より素早い攻撃が……できるかもしれない。
 フルスイング-横切りタイプの攻撃力が1.2倍になる。







[2746] 無限界廊の異端児 第3話 召喚事情・大佐編
Name: もにもに◆2285b348 ID:89adfc6d
Date: 2008/03/14 19:45

無限界廊の異端児

第3話 召喚事情・大佐と少佐編





 延々と続く無限界廊をひたすらもぐり続けた名も無き世界から来た少年は、ようやくあることに思い至った。
 無限界廊は、回門の間、機界の間、鬼妖界の間、霊界の間、幻獣界の間という五つの戦場が順番に現れる。
 四界に現れる対戦者は、それぞれの世界の住人と極稀に紛れ込んでいる特典付きのユニットたちだ。
 しかし、回門の間に現れる幻影の戦士たちは、見た目は、人間である。

「ここは、試練の場だったよな……」

 少年の一応の師であるメイメイは、そう言っていた。
 それはつまり、試練を受けているのは少年の方だけではないのではないか?

「てぇと、俺が倒しちゃった相手は、試練を越えられなかったってことになるのかな?」

 少年が倒してきたのは、その殆どが自分より弱い相手である。
 島の住人たちには、だまって無限界廊で修練を積んでいる少年には、一緒に戦ってくれる仲間がいない。
 そのため、無限界廊では、一対多数の戦闘が基本となる。
 そんな状況で同等の力を持つ相手と戦った場合、……勝てるわけがない。
 相手が特殊な攻撃をしてこない最初の頃は、ギリギリ勝つ事はできていた。
 しかし、無限界廊をさらに奥へと進むことで、対戦者たちも遠距離攻撃や召喚術を多用するようになって来ていた。
 今の状況では、どうしても格下相手に経験値を稼ぐしかないのである。

「ししょーは、手伝ってくれないしな~」

 ぼやきつつも少年は、手にしていた刀で階段を上ってくる対戦者たちを斬り倒していく。
 常に自分に有利は場所取りを心掛ける少年の攻撃に文句ひとつ言う事もない幻影の戦士たち。
 もし、彼らの正体が少年の予想通りであるのなら、少年の戦い方はとても卑怯なものである。

「でも、俺だって引けないんだよな。っと」

 戦士系の対戦相手の後方で召喚術を使おうとしている召喚師に気付いた少年は、自身も異界の友に呼びかける。

「来たれ、聖盾の守護天使! ……………あれ?」

 いつもならば、少年の呼びかけに異界の存在が応答してくれるはずのタイミングで手ごたえがまったくなかった。

「ロティエルさん? お~い、天使ロティエルさ~ん! ……今、沐浴中? そうなんですか、あ、はい――うぎゃっ!!」

 少年が最後に見たのは、暴走召喚によって魔力を限界以上に注ぎ込まれた鬼神の斬撃だった。














 少年が目覚めると、何某かの機械の中だった。
 カプセルのようなものに入れられているらしく透明なガラス?に遮られた向こう側は良く見えなかった。

「お目覚めでありますか、大佐殿!」

 側に控えていたらしい、機械兵士が心配そうに少年を覗き込む。

「あ、おはようヴァルゼルド。修理は全部終ったのか?」

 機界の住人たちが住まう集落『ラトリクス』。
 ここの住人は、護人であるアルディラ以外、すべてが機械の身体で出来ているが、島でもっとも医療技術の発達した場所でもある。
 機械の修理でも、生物の治療でもなんでもござれな技術を有しているものの他の集落の住人はあまり頼ろうとしない。
 もともと他の集落には、それぞれの世界にあった医療というものもあるので、高度な機械文明に頼るような自体もほとんどなかった。
 まあ、ラトリクスの住人はほとんどが会話機能を付与されていない者たちばかりであるので、薄気味悪く感じている者が多いようだった。

「はい。アルディラ殿とクノン殿が尽力してくれたおかげで、9時間と43分前にすべて完了したのであります」

 ラトリクスでも数少ない通常の言語による会話が可能な機械兵士、ヴァルゼルドが言う。

「おお、そかそか。ちゃんとお礼は言ったか?」

「もちろんであります、大佐殿。もちろん、大佐殿にも感謝しているのであります」

 ヴァルゼルドは、ラトリクスのスクラップ置場に故障して野ざらしになっているところをラトリクスを見学していた少年が発見したのだ。
 それぞれの集落での問題は、その集落の護人が対処するので、少年は、ラトリクスの護人であるアルディラに彼のことを話した。
 始めは、機械兵士であるヴァルゼルドの修理に難を示していたアルディラだったが、少年のある提案によって修理を請け負った。

「あら、もう目が覚めたのね」

 医療用カプセルの中に横たわる少年が、ヴァルゼルドと会話しているのに気付いたここの主が現れた。

「まったく。どんな無茶な修行とやらをしているか知らないけど、自分の身体は大事にしなさい。貴方は、彼と違って首だけになったら直せないんだから」

 少年が入っているカプセルの枕元?辺りにあるパネルを操作しつつ、少年の体調を確認するアルディラ。
 そんなアルディラの言葉に笑顔で頷く。

「あはっ。今日も表現がエグイですね、アルディラさん」

 無限界廊という不思議空間で鍛錬を積む少年は、負傷するといつもラトリクスで治療を受ける。
 名も無き世界から召喚されたため、全属性の召喚術を行使する資質をもつ少年だが、その中で一番相性の良い属性が、ロレイラルだった。
 機械を修理する事も、生身の人間を治療することも大差ないレベルのあるこの集落で、治療を受けるのは少年だけである。
 霊界の集落である『狭間の領域』でも治療を受けた事のある少年だが、やはりラトリクスの治療の方が馴染むとのことだった。

 因みに、少年の生活範囲は、風雷の郷とラトリクスが8割以上を絞めている。
 たまには、幻獣界の集落である『ユクレス村』でスバルやパナシェ、マルルゥなどと遊んだり、『狭間の領域』でマネマネ師匠と勝負したりしているところを目撃されているが、それらはかなりレアなことだった。

 この島に少年が来てからすでに1年近く経ち、それなりに友人もできていた。
 今現在、お友達ランキング1位は、食事をたかりに行ったついでに遊んでいるスバル。
 出会った頃は、ほとんど変わらない年頃だったが、今では若干、少年の方が年上に見え、スバルの兄貴分的立場に為りつつあった。
 そして第2位が、マネマネ師匠。
 少年が、口に含んだ水を飲んだフリをして吐き出したことで、始めて真似を失敗してからマネマネ師匠のマネマネ魂が燃え上がっている。
 この島に来てから一番長く一緒にいるはずのメイメイは、師匠という立場であり、保護者のような存在でもあるためお友達とは、少し違う。

 そんな少年のお友達第3位になりつつあるのが、機械兵士のヴァルゼルドだった。
 本来の彼には、感情を再現できる機能は搭載されていないのだが、故障によるバグであり得ないはずの人格が形成されていた。
 機械であるのに寝ぼけたり、ネコが苦手だったり、エネルギー補給を美味しい美味しいと絶賛したりと豊富な感情を有している。
 それは、アルディラの付き人である医療看護用自動人形フラーゼンのクノンに不思議な感覚を与えるほどであった。
 その人格がバグである以上、正常な機能を取戻す上で、その人格が不具合を起こす危険性があり、いずれは消さなくてはいけない運命だった。
 しかし、名も無き世界から来た少年の提案により、それは免れることになった。
 そも人格が形成されたということは、そこに思考するための信号が行き交っており、それらの信号をバグ情報ごとデータ化してバックアップを取った。そのデータをアルディラが解析し、一時的に分解して、システムに不具合を起こす部分のみを修正し、再び構築することで、ヴァルゼルドの人格を残したままシステムに適応できるように調整することができたのだった。
 生物よりは、魂を情報化し易いロレイラルの住人ならではの処置だった。

 こうしてヴァルゼルドは、今の状態になった。
 人格データからバグと取り除く作業に数ヶ月掛かったが、これでヴァルゼルドも正式に少年の友達ランキングに追加された。
 それまでは、画面越しに会話していたが、やはり身体のある方が気分的にも良かった。

「ん~ぁっ! いや~、死ぬかと思った」

 カプセルからようやく出られた少年は身体を伸ばして、身体全体の調子をみる。

「修行もほどほどにね」

「男には、やらねばならぬ時があるのですよ」

 アルディラの心配する言葉に、少年はえらく渋い顔になって声を低くして妙なことを言い出す。
 いつものことなので、アルディラも気にしない。
 少年が、初めてラトリクスを訪れた際に、クノンに対して「○ッパイミサイルはでないの?」などと口走った時には、アルディラもフルパワーで人生初のツッコミを入れる羽目になった。
 それ以降、少年のセクハラ発言をクノンが修得していく様に頭を悩ませるアルディラだったが、以前よりクノンの感情表現が豊かになったことは喜ぶべきことだった。
 因みに、ヴァルゼルドが少年のことを大佐と呼ぶようになったのは、以前の治療した時、勝手に医療用カプセルを出て素っ裸でシャドーをしていたところをデータ化されていたヴァルゼルドにカメラを通じて目撃された少年が、苦し紛れに言った言い訳によるものだった。その後、少年を治療する際にはひとりで外に出られないように拘束具をつけることにアルディラは決めた。

「はいはい。あ、そういえば、ヴァルゼルド。貴方、この子に相談事があるんじゃなかったの?」

 修行によってボロになっていた着物を着替えた少年が、カプセルから出てくると今思い出したかのようにアルディラが言った。
 あきらかに不自然なことだが、それはそれで、少年もツッコミを入れる事はない。

「え、何?」
 
「いえ、あの、その……」

 モジモジと大きな身体をガチガチ言わせながら口ごもるヴァルゼルド。
 はっきり言って恐ろしさすら感じる仕草だが、少年は必死に堪えて言葉をまった。

「じ、自分を大佐殿の部下にして欲しいのであります!」

「はへ? いやいや、部下ってそんな物々しい。友達でいいじゃん」

 決死の覚悟を決めていたらしいヴァルゼルドの言葉に、力の抜けた少年は軽い調子で言う。

「いいえ、大佐殿! 自分は、大佐殿に一生憑いて行きたいのであります!!」

「憑いてって、おいおい。というか、一生って言われても絶対ヴァルゼルドの方が長生きだと思うけど……」

 やけに熱血モードに入っているヴァルゼルドに目を点にして呆然とする少年。
 中々進まない話にアルディラは、苦笑しつつヴァルゼルドに助け舟を出した。

「彼はね、貴方の護衛獣にして欲しいって言ってるのよ。貴方、ロレイラルと相性が良いからちょうどいいんじゃない?」

「いや、それはすごく嬉しいけど。なんだか上下関係な感じがしない?」

 堅苦しい関係が苦手な少年は、護衛獣という肩書きに首を捻る。

「貴方って変なところに拘るのね。それなら別にパートナーとでも置き換えればいいじゃない」

「おお。アルディラさんからそんな言葉が聞けるとは!?」

 手を打ってなるほどと頷く少年の言葉にアルディラは一瞬ムッとなったが、まあ注意したところで治るようなものでないので諦めた。
 ヴァルゼルドは、少年の答えを今か今かと待ちわびている。

「それじゃあ、お願いしようかな」

「は! 大佐殿のお役に立てるように頑張るのであります!!」

 少年の言葉にヴァルゼルドは、ピロリロピリリと嬉しそうな電子音と共に叫んだ。

「ふ、これからキミは、少佐だ。敵から隠れる時は、ダンボールを使用し、グラビア写真を見つけたら匍匐全身をせねばならぬぞ」

「了解であります、大佐殿ぉ!」

 ここに、ヴァルゼルド少佐が誕生した。










本日の主人公パラメータ
 Lv.39
 クラス-無界の剣術師(裸な大佐)
 攻撃型-縦・短剣(魔眼の短剣)、横・刀(テンセイ)、横・杖(聖光の杖)、射・銃(コードリボルバ)
 HP370 MP410 AT220 DF180 MAT310 MDF230 TEC175 LUC90
 MOV5、↑4、↓4
 召喚石4
 防具-着物(ウラシシュウ)
 特殊能力
  誓約の儀式(真)・全、送還術
  見切、俊敏、威圧、バックアタック、ダブルムーブ、アイテムスロー、的外れ
  サルトビの術・落、身代わりの術・嘘、居合い斬り・不、フルスイング、ストラ、バリストラ
 召喚クラス
  機S、鬼A、霊A、獣B
 装備中召喚
  ヴァルゼルド、機神ゼルガノン、狐火の巫女、天使ロティエル


本日のヴァルゼルドのパラメータ
 Lv.24
 クラス-守護機兵(潜入少佐)
 攻撃型-突・ドリル(スクリーマ)、射・銃(セブンシールズ)
 HP231 MP108 AT141 DF137 MAT64 MDF60 TEC88 LUC60
 MOV3、↑2、↓3
 召喚石1
 防具-装甲(ゴードアス115)
 特殊能力
  スペシャルボディ、眼力、放電
 召喚クラス
  機C
 装備中召喚
  反魔の水晶


オリ特殊能力解説
<主人公>
 誓約の儀式(真)・全-誓約者と同じ召喚法。
 送還術-召喚術の前身となった正しき術。相手の召喚術を強制的にキャンセルする。ただし、超遠距離やSランクの召喚術は防げない。
 サルトビの術・落-下段にのみ高さを無視した移動が可能。ただし、着地後、数ターン移動力低下。
 的外れ-距離が離れると間違った対象に命中する可能性大。
 身代わりの術・偽-身代わりと入れ替わって攻撃を回避できる……わけではない。身代わり(盾)で被ダメージを減らす。
 居合い斬り・不-見よう見真似の居合い斬り。鋭く素早い攻撃が……できる時もある。
 フルスイング-横切りタイプの攻撃力が1.2倍になる。


オリ召喚石
<主人公>
 ヴァルゼルド-護衛獣の誓約を結ぶことで修得。
  召喚魔法名
   ユニット召喚:参戦:C:いつでもどこでも「カモン、少佐ヴァルゼルド!」
   スパーク:攻撃:C:放電の強化版
   衛星攻撃・β:攻撃:B:範囲攻撃
   第二兵装:防御:A:協力召喚によって機界ロレイラルからヴァルゼルドの追加兵装を召喚。対物・対魔法シールドを展開。
   第三兵装:攻撃:S:協力召喚によって機界ロレイラルからヴァルゼルドの追加兵装を召喚。極太レーザーで薙ぎ払う。








 



[2746] 無限界廊の異端児 第4話 無限界廊・教師と生徒編
Name: もにもに◆2285b348 ID:89adfc6d
Date: 2008/03/14 19:44

無限界廊の異端児

第4話 無限界廊・教師と生徒編




 無限界廊、最深部。
 いつもの幻影の戦士たちを撃破し、とうとう最後の一人を残すに至った状況で、戦闘は停止していた。
 ぶつかり合うのは、三つの殺気。

 薄手でありながら防御の術が直接織り込まれた鬼妖界特有の着物を纏う10代半ばの少年。
 その手には、鬼妖界で鍛えられた銘刀サツマハヤト。
 刀といえど、補助用に魔力を強化する呪法も織り込まれている。
 対峙する相手に切先を向け、斬撃、召喚術どちらにも対応できるように少年は神経を研ぎ澄ませる。

 少年の隣に聳え立つ機界ロレイラルから来た鋼の銃士。
 少年の護衛獣としてその場にある機械兵士のヴァルゼルド。
 召喚術に関しては、機械という特性上極端に弱いが、物理的攻撃に対してはとんでもなく強い。
 これまでの戦闘データにない相手の出方を窺いつつ、データを分析して対抗策を探す。

 そして、二人の挑戦者の殺気を受けてなお、酔っ払ったような千鳥足で尋常ではないプレッシャーを周囲に撒き散らす幻影の女。
 その姿は、少年たちの良く知る人物に酷似しており、その強さもこれまでの対戦者たちとは比べ物にならない。
 まるで酔えば酔うほど強くなる武術でも体得しているかのように酒気を纏いつつも達人級の刀技を魅せつける。
 ひとたび召喚術を発動させれば、護人たちも足元にも及ばない超越した威力。

 すでに刀と召喚術の応酬を続けて、十数分は経過している。
 酔っ払いが繰り出す強力無比の真・鬼神斬を少年は、守護天使ロティエルの盾で辛うじて防ぎ、ヴァルゼルドは、契約している少年が召喚した第二兵装による対召喚術シールドを展開することで耐えてきた。
 だが、少年とヴァルゼルドもこのままでは、ジリ貧であることを理解して、最後の賭けに出る事にした。

「ヴァルゼルド少佐! フォーメーションπだ!」

「了解であります大佐殿!」

 少年の掛け声に応えたヴァルゼルドが、銃で相手を牽制しつつ、シールドを最大出力で展開する。
 相手も少年たちのやろうとしていることに気付き、即座に鬼神将ゴウセツを召喚してシールドを破らせようとする。
 因みに『フォーメーションπ』には、特に意味はない。
 そこら辺は、パートーナーになってから日が浅い少年とヴァルゼルドだが、すでに阿吽の呼吸が完成している。
 まあ、毒されてきたとも言えなくもない。

「機界に在りし、鋼の盟友よ! 呼びかけに応えろ!」

 少年の声に呼応するように大気が揮え、空間が攀じれる。
 幻影の女もそれに合わせるかのように祝詞を唱え、少年の召喚術に対抗しうる力を呼び出す。

「紅き翼と共に現れし黄昏の鋼翼! 猛き力をその身に纏い、天空を引き裂き、大地を砕き、我等が敵を打ち倒せ!!」

 少年の呼びかけに応えた存在が、界の狭間を越えて無限界廊へと姿を現す。

 対する幻影の女の命により、世界を越え参上した鬼妖界に在りし、至竜の一角。
 戦国武将の如き甲冑に身を包んだ巨大な体躯。
 あらゆる生物の頂点に立ち、あらゆる魂の極みに至った存在。

 ――龍神オボロ

 無限界廊に現れた巨身は、絶大な奇跡を纏って膨大な水量を戦場に引き寄せる。
 その威力たるや、まさに神の如し。

「大人げねえ! ヴァルゼルドッ、シールド解除。こっちも最大出力でぶっ放す!」

「了解であります! 第二兵装より第三兵装へ移行」

 どうにか鬼神将ゴウセツの斬撃を凌いだヴァルゼルドは、シールドを消し、防御用の兵装から少年の魔力を間借りして砲撃用兵装を機界から呼び寄せる。

「ヴァルハラとのデータリンク……完了。発射準備完了。いつでも行けるのであります大佐殿!!」

「おう!」

 限界ギリギリまで魔力を引き出し、足りない分を口に放り込んだメロンキャンディを噛み砕くことで補う。
 機界ロレイラルより召喚された存在、鋼の翼で天空を駆ける機竜ヴァルハラ。
 その機体性能は、ロレイラルでも名匠と名高いゼルのシリーズにも劣らぬ最高クラスの攻撃力を有し、こと飛行速度に至っては機界最速といっても過言ではない。
 無限界廊という限られた空間では、自慢の機動力を発揮することは出来ないが、高出力レーザーは幾分も衰えはしない。
 サモナイト石を通じて供給される魔力を引き金に、ヴァルハラは破滅の砲火を対象に向ける。
 ヴァルハラとヴァルゼルドが照準を合わせる。

「ヴァルゼルドッ! ヴァルハラッ!! やっちまえっ!」

 膨大な水流を制御しつつ、水のなかった空間に大津波を発生させる龍神オボロ。
 まさに自然の猛威の極地を統べる存在に相応しい力である。

 だが、魂の極みに居たりし存在に対抗するのは、ロレイラルの機械技術の極みにある鋼の竜と騎士。
 押し寄せる膨大な質量の大津波を前に一歩も引かずに挑み、空間さえ歪めるほどの極太レーザーで自然の力を引き裂いていく。

 ぶつかり合う二つの神威。

 たとえ、その身は鋼であろうと純正の龍神にいささかも引けを取らないヴァルハラの繰り出す破滅の咆哮。
 その存在は、すでに鋼の極地にある機界ロレイラルより生まれた至竜に他ならなかった。
 そして、拮抗する二つの龍のぶつかり合いに決定打を与える存在。

「我が勝利は、大佐殿の為にッ!! であります!」

 ヴァルハラの砲撃が引き裂いた大津波の向こう。
 龍神を召喚し、ようやく防御の手薄になった幻影の女へとヴァルゼルドの砲門が向けられた。


 無限界廊での永きに渡る戦いを一人で勝ち抜いてきた少年が、どうしても倒せなかった最後の相手。
 その最後の相手を打倒せしめたのは、やはり、異界の友たちの助けが合ったからこその偉業であった。
 力を出し尽くした龍神オボロが鬼妖界シルターンに送還され、幻影の女もその姿を溶けゆく無限界廊の空間に紛れ込ませる。

 自分の力、パートナーであるヴァルゼルドの力、異界に在る友人たちの力。
 それらすべての力を統率し、幾多の試練を突破してようやく辿り着いた場所。

 それは、少年が目指した、ひとつの始まりの地となるだろう。











 少年がこの島に召喚されて1年半。
 『喚起の門』が何かに反応するように活動を始め、護人たちがそれを危険視して、『喚起の門』の警戒を以前より強化した。
 さらにメイメイが「美味しいお酒を飲むため」という理由から水分を絶ったことで少年は確信した。

 護人たちが、『喚起の門』に目を向けるのに大して、少年は海岸線を重点的に見回るようにしていた。
 海水や砂地に対する加工処置ができていなかったヴァルゼルドは、『ラトリクス』で強化改修されることとなった。
 今現在、少年の要望もあり、ヴァルゼルドは水陸両用及び飛行機能などのバージョンアップがされていることだろう。
 ただし、少年がもっとも望んでいた変身合体機能は、その意義を聞いたアルディラによって却下された。


 少年が海岸線の監視を始めてから二日。
 波の中に深い碧の光を発見した。
 遠くからその光を眺めはするが、少年は近付こうとはしない。
 砂浜に打ち上げられると碧の光は消え、赤髪と白いローブを纏った女性が現れた。
 まだ意識を失った状態であるようだが、とりあえず周囲に危険はなく、その女性が直に目覚めるであろうことを知っていた少年はそれまで観察することにした。

「あ、望遠鏡持ってくるの忘れた」

 視力がかなり良い少年だが、浜辺に横たわる女性の細部を観察することはできない。
 あまり近付くと、普段はぽけぽけしているが伊達に軍人あがりではない女性が目覚めた時にばれる可能性があるので遠目に眺めるしかなった。
 時折、もじもじと身体を動かす女性に少年はヤキモキしつつ必死に激情を堪えた。
 少年のしばしの葛藤を経て、女性は目覚め、さらに誰かの悲鳴を聞きつけ走り出した。

「なるほー、なるほー。ムッチン女教師とアリュ-ゼの組み合わせか。ウィルかベルフラウならベストだったんだけどな~。っていうか、アリーゼを○リューゼと呼び間違える俺って……」

 自分の間違いによって、あらぬイメージが湧いた少年はかぶりをふって恐ろしい融合キャラを掻き消す。
 剣までならセーフだが、アリーゼには絶対、大剣を装備させてはならないと心に誓う少年であった。

 少年の視線の先では、再び碧の光に包まれてその姿を変化させた女性が、アリーゼとキユピーを襲っていたはぐれ召喚獣たちを追い払った。

「碧の賢帝、シャルトス。……いいなぁ」

 特別な武器を使って変身、パワーアップ!
 少年にとって、ガン○レードの次に欲しい武器だった。
 どんなに欲しがっても、適格者でなければ魔剣の力を引き出す事はできないと知っている少年は喉から出る手を引っ込めるしかなかった。

「いいな。いいな。人間って、じゃなくて一品物の武具っていいよなぁ。……ウィゼルにサモナイトソードの予約入れとこうかな」

 何気に真剣な表情で考え始める少年であった。











本日の主人公パラメータ
 Lv.50
 クラス-無界の剣術師
 攻撃型-縦・短剣(千斬疾風吼者の剣)、横・刀(銘刀サツマハヤト)、横・杖(聖光の杖)、投・投具(柳生十字手裏剣)、射・銃(NC・ブラスト)
 HP425 MP570 AT400 DF370 MAT490 MDF450 TEC290 LUC95
 MOV6、↑4、↓5
 耐性-機・小、鬼・小、霊・小、獣・小
 召喚石4
 防具-着物(ウラシシュウ)
 特殊能力
  誓約の儀式(真)・全、送還術
  見切、俊敏、威圧、バックアタック、ダブルムーブ、アイテムスロー
  サルトビの術・落、居合い斬り・未完、秘剣・燕試し、フルスイング、ストラ、バリストラ
 召喚クラス
  機S、鬼S、霊A、獣A
 装備中召喚石
  ヴァルゼルド、ヴァルハラ、天使ロティエル、ジュラフィム


本日のヴァルゼルドのパラメータ
 Lv.40
 クラス-ガーディアン(改修中)
 攻撃型-突・ドリル(勇者ドリル)、射・銃(NC・ブラスト)
 HP410 MP190 AT380 DF350 MAT100 MDF95 TEC130 LUC70
 MOV3、↑2、↓3
 耐性-機・大
 召喚石1
 防具-装甲(ヴァテック125)
 特殊能力
  スペシャルボディ、眼力、放電、衛星攻撃・β、匍匐前身、ダンボール
 召喚クラス
  機C
 装備中召喚石
  反魔の水晶

本日のムッチン女教師のパラメータ
 Lv.5
 クラス-家庭教師
 攻撃型-横・杖(ノヴィスロッド)
 HP59 MP68 AT34 DF32 MAT46 MDF44 TEC36 LUC50
 MOV3、↑2、↓3
 召喚石3
 防具-ローブ(ローブ)
 特殊能力
  誓約の儀式・全、ユニット召喚、暴走召喚、抜剣覚醒、
 召喚クラス
  機C、鬼C、霊C、獣B
 装備中召喚石
  なし

オリ特殊能力解説
<主人公>
 誓約の儀式(真)・全-誓約者と同じ召喚法。
 送還術-召喚術の前身となった正しき術。相手の召喚術を強制的にキャンセルする。ただし、超遠距離やSランクの召喚術は防げない。
 サルトビの術・落-下段にのみ高さを無視した移動が可能。ただし、着地後、数ターン移動力低下。
 居合い斬り・未完-見よう見真似の居合い斬り。真に迫りつつある居合い斬り。精神集中する間、待っててくれる敵は居ない……。
 秘剣・燕試し-空飛ぶ燕をも落とす斬撃……だったらいいな。
 フルスイング-横切りタイプの攻撃力が1.2倍になる。

<ヴァルゼルド>
 匍匐前身-+2踏み台設置(移動可)
 ダンボール-身体に合った特大の段ボール箱に入る(移動不可)。敵味方問わず注目を集める。


オリ召喚石
<主人公>
 ヴァルゼルド-護衛獣の誓約を結ぶことで修得。
  召喚魔法名
   ユニット召喚:参戦:C:いつでもどこでも「カモン、少佐(ヴァルゼルド)!」
   スパーク:攻撃:C:放電の強化版
   衛星攻撃・β:攻撃:B:範囲攻撃
   第二兵装:防御:A:協力召喚によって機界ロレイラルからヴァルゼルドの追加兵装を召喚。対物・対召喚術シールドを展開。
   第三兵装:攻撃:S:協力召喚によって機界ロレイラルからヴァルゼルドの追加兵装を召喚。極太レーザーで薙ぎ払う。




[2746] 無限界廊の異端児 第5話 作戦開始・観察編
Name: もにもに◆2285b348 ID:89adfc6d
Date: 2008/03/17 17:48



無限界廊の異端児

第5話 作戦開始・観察編




 島の緑豊かな森の中を闊歩するひとつの影。
 鬼妖界特有の着物を纏う10代半ばの少年。
 腰には刀を差し、大きめポーチのような物を腰巻にして、手には1mほどの禍々しい装飾の錫杖を持っている。
 島の殆どの地域を自分の庭のように歩き回っている少年にとってその格好は、普段通りとはほど遠い。
 それは明らかに、少年が秘密で修行をしていた無限界廊に挑む際の戦支度である。
 戦支度といっても、傍目には山歩き程度の装備に護身用の武器を携帯しているといったところだろう。
 事実、この島で少年の本当の実力を知っているのは彼の一応の師であるメイメイと相棒であるヴァルゼルドだけである。

 すでに夕刻も過ぎ、太陽が水平線に沈み森の中は薄暗く、慣れない者ならば迷ってしまうような時間帯。
 夜の山道を一人歩きするには適さないが、少年にとっては、それほど苦にならない。

「さて、あっちではおっぱじめたようだな」

 浅い夜の静けさを裂くように森に木霊する剣戟と爆発。
 あきらかに戦闘行為が行われている。

「この方角は……ラトリクスの近くだな」

 予想していたことではあるが、少年はその戦闘に参加することはない。
 今、少年が関わるとこの島に流れ着いたリィンバウムの人間たちと島の住人の友好関係のきっかけがなくなる可能性があるので手出しはしない。

「おっと……あそこだな」

 大勢の人間が動く気配を感じた少年は、木々の影に姿を隠しながらその方角に望遠鏡を構える。

「ぉぉぉぉぉぉぉ!! さすがラトリクス製。バッチシ見えるぜ<パシャッ>。アルディラさんは、いい仕事してるなぁ。いろいろと」

 自分用に望遠鏡を作成してくれたアルディラに心の中で感謝する少年。
 レンズの向こうには、屈強な男たちがひしめき合うように隊列を組んで待機している。
 先の戦闘の音を聞いて数名がその方角に出て行ったが、目的の人物はまだその場に留まって話し込んでいた。

「アズリアにギャレオは、作戦会議かな?<パシャッ>。出て行った奴らは、ビジュを連れ戻しに行かせたんだろうけど」

 彼らは、リィンバウムに存在する勢力のひとつである帝国に所属する軍隊。
 先日、島に流れ着いた女教師とその連れや一緒に流れ着いた海賊たちと同じく、この島に彼らも辿り着いていたのだ。
 一部隊ほぼ全員が同じ場所に流されるというありえなさではあるが、そこら辺は気にする意味がない。
 少年にとって重要なのは、彼らがこの島に来たという事実を確認すること。

「さ~て、後はジャキーニたちをボコってジルコーダを退治すれば、皆仲良しになれるな<パシャッパシャッ>」

 数日後に控えているであろう戦闘に備え、少年はそそくさとその場を後にする。
 懐には、今し方撮ったばかりの写真が数枚仕舞いこまれた。


















 ラトリクス周辺での戦闘の後、アルディラから話を聞いた少年はサプレスの『狭間の領域』に来ていた。
 昼間でもあまり太陽の光が差し込まないその場所は、夜になると途端にざわめき始める。
 サプレスの住人たちが暮らすこの場所は、夜に活動する者たちが多い。
 慣れない内は、根が小心者である少年もビクビクしていたが、今では隣を半透明の存在が通り過ぎてもまったく気にしない。
 時折、すれ違う住人たちと形だけの挨拶を交わし、少年は領域の最奥にある瞑想の祠までやって来た。

「止まりなさい。こんな夜更けに何用です」

 少年の前に突如現れたのは、天使のフレイズだった。
 彼は、このサプレスの住人たちが暮らす場所を守護する護人ファルゼンの参謀的役割を担っている。
 少年は「秘書みたいなもんだろ?」と言って、フレイズは「ヒショとはどういうものなのですか?」という問答をしたことがある。
 その時、少年がいきなり噴出して腹を抱えて笑いだし、少年の邪な感情を読み取ったフレイズと一戦することになったりもした。
 幸いなことに当時の少年は本気で弱かったのでフレイズにこってり絞られるだけですんでいた。
 だが、それ以降フレイズは、少年のことをどうも好きになれずに居た。

「おこんばんわ。って言ってもここの人達は、夜の方が普通だろ?」

「よい子は寝る時間ですよ」

「じゃあ別にいいじゃん。俺、いい子じゃないし」

「ああ。そういえばそうでしたね。では、悪い子はお引取り下さい。ファルゼン様は、現在休息中なのです」

 不敵に笑いあう少年と天使。
 この島に召喚されてから少年を時たま観察していたフレイズは、少年が異常な速度で成長していることに気付いていた。
 見た目の容姿は、まあ普通通りに成長しているのだが、魂の輝きが以前よりも格段に強くなっているのだ。
 天使であるフレイズには、そのことが手に取るようにわかるのだが、数ヶ月前からその輝きがぼやけてよく見えなくなっていた。
 強い魂の輝きには違いないのだが、どれほどの強さなのか判然としないのだ。
 フレイズが普段見かける少年は、『風雷の郷』や『ユクレス村』の子供たちやここのマネマネ師匠と遊んでいるところくらいである。
 彼らと遊ぶ少年は、特段目だったところはない。
 強いて言うなら子供たちに下品な言葉を教えてしまっているところは、たびたび注意されている。
 しかし、精々悪ガキと言った程度の日常を過ごしている少年が、どうやって魂を鍛えているのかは分からなかった。
 不思議な力を持つ占い師のメイメイのところに居候しているからかとも思ったフレイズだったが、それだけでは説明がつかない。
 とにかく、あらゆる方面で珍妙なことをする少年をフレイズは警戒するしかなかった。

「さあ、早くお帰りなさい」

 突き放すフレイズの言葉を少年はまったく気にせずフレイズの横を通り過ぎる。が、

「お待ちなさい」

 すぐフレイズに前をふさがれる。

「やっぱだめか。まあアンタでもいいや。コレ、彼女に渡してよ」

 そう言って少年が懐から取り出したのは、不思議な呪文が刻まれた宝石だった。

「これは……サモナイト石ですか?」

「違う違う。これは、うちのししょーに頼み込んで作ってもらったもんなんだ。これがあれば魔力の回復が早くなる」

 少年から宝石を受け取ったフレイズは、確かにそこから柔らかくも力強いマナがあふれ出しているのを感じ取った。

「なるほど。月のマナと近しい力が溢れてきます」

「さっきの戦闘で消耗したんじゃないかと思ってね」

 視線で祠の奥を示して言う少年にフレイズは首を傾げる。

「まさか、ファルゼン様のために?」

 ほとんど会ったこともなく、会話などまったくしたことのないファルゼンのために宝石を持ってきた少年の行動にフレイズは首を傾げる。

「なんだよ。そんなに以外か?」

「正直、信じられません。何か裏があるのでは?」

「即答かよ! しかも疑うなよ! それでも天使かアンタ!」

 これは少年の普段の生活態度が原因なので、このような評価を受けても仕方がない。

「私は、戦闘属性ですので。……しかし、お心遣いは感謝します。メイメイさんにも改めて御礼に伺いましょう」

「はいはい。ししょーには酒でも持ってけば十分だろ」

 最低限の礼儀を持って言うフレイズに用事の済んだ少年は、踵を返す。

「これから、今日みたいなことが増えるかもしれんけど、あんま無茶すんなよ!」

 去り際に少年は、肩越しに後を向いて叫んだ。
 もちろんそれはフレイズに向けられたものではない。
 瞑想の祠で先の戦闘での消耗を回復させるために休息している護人のファルゼンへの言葉。
 去っていく少年の後姿を見送ったフレイズは、ふとある違和感を思い出した。

「……「彼女に渡してくれ」? ……まさか、ファルゼン様のことを」

 少年は、ファルゼンと一度も会話した事がなかったはずである。
 少なくとも副官としてファルゼンに付き従ってきたフレイズは、少年がファルゼンの正体を知るような出来事は確認していない。

「まったく何をしようとしているのかさっぱりわかりませんね。あなたは」

 少年のことを好きになることはできないフレイズだが、彼が悪人ではないことは理解していた。
 数々のセクハラ発言や下品な言動、オッサンのような性格とやっかいな人間ではあるが、もしかしたら……。

「私の買いかぶりでしょうね」

 悪人ではないが、善人とも言い切れない。
 それ以上の評価をフレイズはまだもてなかった。










 居候している店に少年が帰りつくとそこの店主が店先に倒れていた。

「お、お酒。美味しいお酒ぇぇぇぇ」

 少年は、普通に素通りして自分の分の夜食を作って食べた。

「ししょー。明日までに干からびないようにね」

 明日には、この島に流れ着いた運命を動かすせくしぃ~女教師、アティと出会うことになるメイメイ。
 美味しいお酒を飲むために水分を断って数日。
 結局は、ただの水で喉を潤す事になると知りつつ少年はメイメイをそのまま放置して寝る事にした。

「さぁてと。あとは、どこで登場するかだな。う~ん、決めポーズとか考えとこうかな~」

 というように暢気なことを考えながら眠りについた少年。








「う~ん。そういえば俺の本当の名前って何だっけ?」















 無限界廊で繋がっているどこかの世界。

「ちょっとムガムガ。あの変なヤツに美味しいアイテム持って行かれちゃったじゃないの!」

「ムガムガ!」

「うっ、それはそうなんだけどさ~。ていうか、アイツって何なの? あの人が監視してる見たいだけど、やりたい放題じゃない」

「ムガムガ~」

「そうね。しばらくは、無限界廊での仕入れは諦めるしかないわね。はあ~」

「ムガ~」

 ちょっと繋がってるかもしれないどこか。
 深いため息が繰り返されていた。






本日の主人公パラメータ
 Lv.55(測定外)
 クラス-無界の剣術師
 攻撃型-縦・短剣(千斬疾風吼者の剣)、横・刀(銘刀サツマハヤト)、横・杖(怨王の錫杖)、投・投具(柳生十字手裏剣)、射・銃(NC・ブラスト)
 HP460 MP610 AT420 DF390 MAT515 MDF490 TEC300 LUC100
 MOV6、↑5、↓5
 耐性-機・中、鬼・小、霊・小、獣・小
 召喚石5
 防具-着物(ウラシシュウ)
 特殊能力
  誓約の儀式(真)・全、送還術
  見切、俊敏、威圧、バックアタック、ダブルムーブ、アイテムスロー・強
  サルトビの術・落、居合い斬り、フルスイング、ストラ、バリストラ
 召喚クラス
  機S、鬼S、霊A、獣A
 装備中召喚石
  ヴァルゼルド、ヴァルハラ、天使ロティエル、ジュラフィム


本日のヴァルゼルドのパラメータ
 Lv.45
 クラス-ガーディアン(まだ改修中)
 攻撃型-突・ドリル(勇者ドリル)、射・銃(NC・ブラスト)
 HP500 MP200 AT440 DF450 MAT180 MDF125 TEC130 LUC75
 MOV4、↑4、↓4
 耐性-機・大
 召喚石2
 防具-装甲(ヴァテック125)
 特殊能力
  スペシャルボディ、威圧、放電、衛星攻撃・β、浮遊、匍匐前身、ダンボール、ドリろッ!、モード・チェンジ!
 召喚クラス
  機B
 装備中召喚石
  ドリトル、反魔の水晶






オリ特殊能力解説
<主人公>
 誓約の儀式(真)・全-誓約者と同じ召喚法。
 送還術-召喚術の前身となった正しき術。相手の召喚魔法を強制的にキャンセルする。ただし、超遠距離やSランクの召喚術は防げない。
 アイテムスロー・強-6マス先までアイテム使用が可能。ただし、隣接していると対象にダメージと与え、アイテムが壊れる。
 サルトビの術・落-下段にのみ高さを無視した移動が可能。ただし、着地後、数ターン移動力低下。
 居合い斬り-見よう見真似の居合い斬り。
 フルスイング-横切りタイプの攻撃力が1.2倍になる。

<ヴァルゼルド>
 匍匐前身-+2踏み台設置(移動可)
 ダンボール-身体に合った特大の段ボール箱に入る(移動不可)。敵味方問わず注目を集める。
 ドリろッ!-直線3マスに突進攻撃「『ドリルは、男のロマン』とのことですが、○ッパイミサイルは違うのですか?」byクノン
 モード・チェンジ!-陸海空全てに対応した形態に変形可能。「要望通り、変形後には装甲が赤くなるように調整しました」byクノン





[2746] 無限界廊の異端児 第6話 先生登場・制裁編
Name: もにもに◆2285b348 ID:89adfc6d
Date: 2008/03/20 05:51



無限界廊の異端児

第6話 先生登場・制裁編




 見渡す限りのロレイラルの技術によって形成された建造物。
 機界の住人たちの郷である『ラトリクス』で、ようやくヴァルゼルドの改修作業が終了していた。

「うっひょーっ! すげ~~~~~~~!!」

 強烈な空気の壁に体全体を押されながらも、そのスピード感に感動の叫び声を上げる少年。

「立つのは危険なのであります、大佐殿!」

 子供のようにはしゃぐ少年を飛行形態のヴァルゼルドが注意する。
 しかし、なんとかは高いところが好きという言葉通り、少年は注意を聞かずに舞い上がっている。

「大丈夫、大じょう―――――――ぁっ」

 そして、簡単に予想できた結果になる。
 風圧にバランスを崩した少年は、形態変化すると何故か装甲が赤くなるようになったヴァルゼルドの背から転落する。
 常人では、とっくに吹き飛ばされるような速度で飛行したいたため、Uターンして拾い上げようにも周囲には、それなりに高い建物が密集しているので、それらを回避しつつ少年が地面にダイレクトダイブする前に落下地点に到達することが出来ない。

「う~む。やっぱり、飛行中は風圧を如何にかしないと難があるな。……でも、風を切る爽快感は捨てがたい」

 即死級の高度から落下しているにも関わらず少年が真面目に頭を悩ませるのは、どうにも子供っぽいことである。
 命よりも大事なことが、どれだけ気持ち良くヴァルゼルドの背に乗っていられるかという有り得なさ。
 いっその事、軽く脳漿をぶちまけてしまえば、少しはまともになるかもしれない。

「と、そろそろ危険だな」

 ブチ撒けトマトが完成する数秒前になってようやく少年は対処に動き出す。
 もう少し早ければ、ヴァルゼルドを召喚で呼び寄せることも出来たが、スピードに乗っている今の状態でヴァルゼルドの装甲に安全に着地できるとも限らない。

「そんなわけで、――時を翔るウサギさん! 我が身を時の戒めより解き放て!」

 少年の真剣なのか、洒落なのか微妙な呼びかけに幻獣界メイトルパのゲートが開き、刹那のうちに少年の身体に淡い緑の光が宿る。
 すると、脳漿ぶち撒け5秒前くらいになっていた少年の体が急に掻き消えた。

「う、うおおおをををををっと、っとっとっとっとぉあ!?」

 実際には、落下中の少年が近くのビルの壁を滑るように落ちているだけ。
 もっともまだ地面に向かっているので、それでは安全といえない。
 しかし、今の少年には、落下スピードがとても遅く感じられている。
 幻獣界に住まう時兎を自身に憑依させることで、周囲の認識とは隔絶された動きや対応が可能になっているのだ。
 少年は、通常と違った時の流れを認識することで落下のエネルギーを殺すための行動を取る。
 壁面にできるだけ体を寄せ、両脚で踏ん張るように勢いを削いでいく。
 ゆっくりに感じられるといっても身体に掛かる負担はあまり減じていないので、常に持ち歩いている短剣を壁面に刺すことで摩擦を増やす。

 が、少年の予想より短剣の切れ味が良すぎたせいで、壁面に素晴らしく綺麗な切れ込みを作るだけで安全な速度にまで減じなかった。
 それでもほんの僅かに速度が落ちていることも確かで、地面が近付くにつれて全身のバネを引き絞る。
 そして、地面にぶつかる瞬間、

「ドゥデュワッ!!」

 憑依召喚による加速を使った跳躍により、壁面を蹴って真横にベクトルをずらし、勢いを殺さずに地面をゴロゴロと転がっていった。
 猛スピードで転がる少年は、周囲で作業中の住人たちをも撒き込んで数十メートルほどを薙ぎ払った。
 その様は、まるでロードローラーの前の……。











 電子音が響き、使い慣れた治療用カプセルのパネルを操作してヴァルゼルドは、治療を受けていた少年を外に出した。

「ふぅ~。予想通りにはいかなかったか」

「大佐殿。あの落下速度では、落下のエネルギーを生身で相殺するのは不可能であります」

 心配するヴァルゼルドの声にもどこか呆れが含まれている。
 少年は、昔見た作品でサムライが刀を使って落下速度を和らげるというシーンを見ていたため、それを再現しようとしたのだ。
 しかし、そんな無茶な着地を敢行した少年は、数時間ほど超技術による治療を受けることになった。

「ちょうど良い時にお目覚めになりましたね」

 治療を終えて、体の調子を確かめるように軽い体操をしていた少年に背後から声がかけられた。

「あ、クノン。いや~、最近治療速度が上がったよな?」

「それは、大抵、一日か二日置きにここを利用する患者ができたためと思われます。そこにあるポッドも、そのどうしようもないヒモ男専用に改良を加えましたので、その人物に限り、生きてさえいれば大抵の負傷は完治させることができるようになっております。もっとも、このラトリクスで治療を受けるナマモノはお一人様だけなのですが」

 無表情で、マシンガンの如く早口で喋りきったクノン。

「あっはは……」

「………………………」

「いつもいつもお世話をかけて申し訳ありませんでした。以後、クノン様のお手を煩わせる事のないよう善処いたしますです」

 自分のせいとはいえ、毒の塗られた鋭い棘のような単語が含まれるクノンのセリフに、少年は半笑いで誤魔化そうとしたが、無表情&無言のクノン・フェイス+クノン・アイのダブルアタックに姿勢を正し、畏まって謝罪する。
 本来であれば、クノンはアルディラの専属なのだが、いまでは少年の専属ナースのようなことになっている。
 それに文句を言うクノンではないのだが、破天荒で無茶ばかりする少年の治療には辟易しているようでもあった。

「……まあ、いいでしょう。それより、アティ様にご挨拶を」

「ん?」

 少年とクノンの微妙に盛り上がった会話をポケッと見ていたアティ。
 そんなアティにようやく気付いた少年は、まじまじと彼女の身体を見詰める。

「あ、あの初めまして。私は、アティといいます。あの……ヨロシク?」

 瞳孔も開ききった物凄い視線が自分に突き刺さっていることにアティは、無意識のうちに両腕で胸部を隠す。

「んんんん、π!!!!」

「ひゃあ!?」

 いきなり少年がわけの分からん言葉を叫んだことに驚いたアティが尻餅をつく。

「アティ様、お怪我はございませんか?」

「あ、いえ大丈夫です」

 無表情なクノンが手を差し伸べるが、アティはその手を借りる前にさらに強力な眼力、いや闘気、いやさ神気を感じ取った。

「………………ハォワァイティ!!!」

「はひ?」

 再びわけの分からない奇声を上げる少年にアティも唖然とするしかなかった。
 すると少年の行動の意味を理解しているクノンは、すぐさまアティを少年の視線から庇う。

「お仕置きですの時間です」

「ミギャッッッッッッッ!?!?!?!?!?」

 アティを前にして普段の奇行を上回るアクションを起こす少年に、クノンの「骨が透けて見える」くらいの電撃攻撃が炸裂した。

「ヴァルゼルド。その生ゴミを処分場に運搬しておいてください」

「り、了解でありますッ! クノン殿!!」

 何故かクノンは、少年より上位に位置づけられているためヴァルゼルドは、その指示に従い、怯えの混じる上ずった声と敬礼で応え、少年を担ぎ上げる。
 急いで扉から出て行こうとしたヴァルゼルドだが、律儀にアティの横を通過する時に立ち止まって一礼する。

「本機はこれで失礼させてもらうのであります。非常に慌しくて申し訳ないのでありますが、正式なご挨拶はまた後ほど」

「あ、はい」

 ビシッと敬礼するヴァルゼルドの鋼の手が担いでいる少年のドタマに激突したが、アティはあえてツッコミは入れなかった。
 ここでそれを指摘するのは、意味がないと本能で理解したのだろう。
 少年とヴァルゼルドが退室した後、数秒間思考が停止していたアティは、困ったようにクノンに問いかける。

「あの。今のお二人は、どういった方たちなんですか?」

「非常に有害な単なるナマモノとその護衛獣を務める機械兵士のヴァルゼルドです」

「な、なまもの……ですか?」

 クノンの容赦ない言葉にアティも異論を挟めそうもなかった。

「お人形さーん。さっきエロエロさんをロボさんが運んでましたけど、また何か悪い事でもしたんですかー?」

 微妙な空気にあったリペアセンターに妖精のマルルゥが、あまりに的確なあだ名を口走りながら入ってきた。

「えろえろさんって。あ、あの子が例の……」

 マルルゥのセリフに憶えのある名が出た事でアティは、わなわなと震えだす。

「そうですよーっ! エロエロさんが、先生さんみたいな格好の人は『せくしぃ~』とか『むっちん』とか『ぜったいりょういき』とか『お~ばに~』とか『じょきょうし』って言うんだって教えてくれたのですよー」

 無邪気に言うマルルゥにアティは、つい先ほどスバルやパナシェといった子供たちにそれらの単語を連呼された羞恥を思い出し赤面する。
 いくつか知らない単語も混じっているが、そこに込められたニュアンスは理解できたアティは、生まれてこの方感じたこともない感情に打ち震える。

「ゆ、許せません。子供たちにそんな言葉を教えるなんて!」

 温厚で礼儀正しいアティにしては非常に珍しく激しい感情が生まれていた。
 それは、無自覚のうちに手にしたロッドをブンブンと素振りさせるほどのものだった。











本日の主人公パラメータ
 Lv.57(測定外)
 クラス-覚醒のセクハラナイト
 攻撃型-縦・短剣(千斬疾風吼者の剣)、横・刀(銘刀サツマハヤト)、横・杖(怨王の錫杖)、投・投具(柳生十字手裏剣)、射・銃(NC・ブラスト)
 MOV7、↑5、↓5
 耐性-機・中、鬼・中、霊・小、獣・小
 召喚石5
 防具-着物(ウラシシュウ)
 特殊能力
  誓約の儀式(真)・全、送還術
  見切、俊敏、威圧、イーグルアイ、バックアタック、ダブルムーブ、アイテムスロー・強
  サルトビの術・落、居合い斬り、フルスイング、ストラ、バリストラ
 召喚クラス
  機S、鬼S、霊S、獣A
 装備中召喚石
  ヴァルゼルド、ヴァルハラ、天使ロティエル、ジュラフィム、クロックラビィ


本日のヴァルゼルドのパラメータ
 Lv.48
 クラス-鋼鉄の銃士
 攻撃型-突・ドリル(勇者ドリル)、射・銃(NC・ブラスト)
 MOV5、↑4、↓4
 耐性-機・大
 召喚石2
 防具-装甲(ヴァテック125)
 特殊能力
  スペシャルボディ、威圧、放電、衛星攻撃・β、浮遊、潜水、匍匐前身、ダンボール、ドリろッ!、モード・チェンジ!
 召喚クラス
  機A
 装備中召喚石
  ドリトル、反魔の水晶






オリ特殊能力解説
<主人公>
 誓約の儀式(真)・全-誓約者と同じ召喚法。
 送還術-召喚術の前身となった正しき術。相手の召喚魔法を強制的にキャンセルする。
 イーグルアイ-その眼が捉えるのは、男のロマン。チャンスがあれば、色と柄もチェック。使用後、高確率で瀕死状態になる。
 アイテムスロー・強-6マス先までアイテム使用が可能。ただし、隣接していると対象にダメージと与え、アイテムが壊れる。
 サルトビの術・落-下段にのみ高さを無視した移動が可能。ただし、着地後、数ターン移動力低下。
 居合い斬り-見よう見真似の居合い斬り。
 フルスイング-横切りタイプの攻撃力が1.2倍になる。

<ヴァルゼルド>
 匍匐前身-+2踏み台設置(移動可)
 ダンボール-身体に合った特大の段ボール箱に入る(移動不可)。敵味方問わず注目を集める。
 ドリろッ!-直線3マスに突進攻撃
 モード・チェンジ!-陸海空全てに対応した形態に変形可能。




[2746] 無限界廊の異端児 第7話 運命改竄・崖崩編
Name: もにもに◆2285b348 ID:89adfc6d
Date: 2008/04/17 22:40


無限界廊の異端児

第7話 運命改竄・崖崩編








 場所は、竜骨の断層。
 それなりに傾斜のある崖の断面から巨大な生物の骨が突き出ており、さながら骨の檻。
 人間ならば普通にすり抜けられるようなちゃちな檻だが、戦場となった場合、他の場所より高低の有利不利が格段に増す。

 下から攻める場合、崖を上るには骨の隙間を抜けて進まなくてはならず、足場も悪く回避運動も取り辛い。
 もし崖の上や中腹の開けた場所に陣取っていれば、上って来る敵が骨の隙間を進んできたところを銃や弓、召喚術で狙い撃ちすれば良い。
 つまり、下から攻める側は、多少のダメージを覚悟して速攻で相手の陣地まで駆け上がるか、崖を迂回して逆に上を取るしかない。
 しかし、竜骨の断層を迂回するには深い森を通らなくてはならない。
 もし、前もってそこが戦場となる事を知っていれば伏兵を忍ばせておく事もできるが、何らかのイレギュラーで突然そこで戦わなくてはならなくなった場合は、諦めるしかない。

 そして、そのような状況が今まさに現実になろうとしていた。

「実際、大人気ないよな。高地を取るのは基本だけどさ、数で勝ってて人質までとってるのに……」

 事が起こる正確な日時を把握していなかった少年は、騒ぎを聞きつけすぐにその場へ駆けつけ、眼下に広がる帝国軍の部隊を眺めていた。
 その場と言っても、崖の上ではなく竜骨の断層の上空100mの位置である。
 飛行形態のヴァルゼルドの背に乗って手にしたアルディラ特製の望遠鏡で、アティを待っている帝国軍を観察しているのだった。
 因みに、最新装備のステルス機能により下から少年たちを見つける事は出来ない。
 もっとも、視覚で捉えられないだけで、ラトリクスの住人であればセンサーやレーダーで察知することも可能である。
 実は、ラトリクスの技術力を持ってすればセンサーにも引っ掛からないようなステルス機能も付けられるのだが、アルディラとクノンの連名によって却下された。
 ヴァルゼルドは大丈夫なのだが、その主人である名も無き世界からやって来た少年に完璧なステルス機能を与えてしまうとどんな悪さに使うか目に見えているのでそれも致し方ない処置であった。

「いい加減にしやがれ! このクソガキがッ!!」

 遙か下方で1人の帝国軍人が叫ぶ。
 顔に大きな刺青を施したいかにも柄の悪い風貌の軍人に詰め寄られ、捕まっている少女が怯えている。

「何を聞いてもだんまりばかりで、一言も喋らねえ。痛い目を見ねェとわからねェか? あァッ!?」

 柄の悪い軍人の態度は、明らかに年端も行かぬ少女に対するものではない。
 端から見ても、恥ずかしいほど子悪党っぷりが様になっている。
 帝国軍部隊の副隊長であるギャレオがその軍人に注意し、それに彼らの隊長であるアズリア・レヴィノスも尋問の必要はないと言う。

「大佐殿……」

 これからの出来事を知らされていないヴァルゼルドが囚われの少女を心配して、主に伺いをたてる。

「まあ、関わらんでも大丈夫なんだけどな。よし、ちょっくらお助けマンしてくるかなっと」

 まったく緊迫感のないことを言ってヴァルゼルドの背から少年はいきなり飛び降りた。

「た、大佐殿!」

 少年の突発的な行動はいつものことなのだが、ヒヤヒヤさせられるのヴァルゼルドはなれる事は出来ない。
 つい先日も飛行中に落下して大怪我を負ったばかりなのだから、その心配も仕方がない。

「ヴァルゼルドは、そこで待機してろ。アレくらいの数なら俺1人で十分だ」

 そう言われては、ヴァルゼルドも引き下がるしかない。
 少年が、この島に来てそろそろ2年が経とうとしている現在。
 その戦闘力は、少年の仮の師であり、年齢不詳正体不明の酔いどれ占い師のメイメイでなければ直接戦闘で拮抗できる者はヴァルゼルドのデータバンクには存在しない。
 この島を守る護人たちでさえ軽くあしらえるレベルに達している。
 いかに訓練された軍隊であっても、殲滅する方法はいくらでもあるのだ。

「何だ、アレは……ッ!?」

 軍人の1人が空から降ってくる影に気付き、指差す。
 その指の先を他の軍人たちも見上げるとその影は、既に着地体勢を取っていた。

「は……ッ? グベェ……ッ!?」

 ちょうど真下に居た柄の悪い刺青の帝国軍人、ビジュの首がいい感じの音を立てて曲がった。

「いい年した大人が寄って集って、ロ……じゃなくて、幼じ……じゃなくて女の子を虐めるなんて、恥ずかしくないんですか?」

 着地のクッションにつかったビジュの上で何気にキザったらしいポーズをとりながら大人びた声色で周囲の帝国軍に向けて言う。

「こ、子供……ッ!?」

 いきなり振ってきたよく分からん闖入者が、捉えていた少女とそれほど変わらぬ年頃の少年であることに驚きが広がる。
 少年は、アズリアたちが纏う軍装に似た服装に身を包み、その腰にはシルターンの刀を差さしている。

「あ、あの……?」

 潰れたビジュの上に立つ少年の背後から恐る恐るといった感じで少年の袖を掴む囚われていた少女、アリーゼ。
 直接の面識はまだなかったが、少なくとも突然現れたこの少年は自分を助けにきてくれた存在であるのだと思ったようだ。
 少年自身もそういう演出している部分があるので、いまだ怯えた様子のアリーゼに柔らかな笑顔で応える。

「もう大丈夫。君は、僕が守るからね」

 一人称すら変えて微笑む少年にアリーゼはようやく安堵したように表情を弛める。

「貴様は、何者だ? この島の者か?」

 わけの分からん少年の登場に動揺する軍人たちの中で、ひとり冷静に観察していたアズリアが前に進み出て訊ねる。

「あ、初めまして。お姉さん、美人ですね。ちょっとそこまでお茶しに行きません?」

 にっこり笑顔で再びわけの分からん空気を周囲に撒き散らす少年。
 いきなりお茶に誘われたアズリアはもとより、副官のギャレオやその他名無しの帝国軍人さんたちもリアクションに困っている。
 少年が現れてから周囲から緊迫という単語が完全に払拭されており、少年とその他の人達のテンションには修正不能な温度差が出来ていた。

「……コホン。さて、俺の目的はこの子を助けるだけなので、もう帰っても良いですか?」

 さすがに周囲との温度差に耐えられなくなった少年は、わずかに頬を染めて言う。
 少年がテンションをわずかばかり下げたおかげで、周囲もようやく我を取戻す。

「そうはいかん。あの者が来るまで、その少女には、ここに居てもらう」

 ビジュの報告からアティがこの島に来ていることを確信していたアズリアは、部隊に合図を送って少年たちの退路を塞がせる。

「ねえ、帝国軍の隊長さん。もしかして、状況を飲み込めていないんですか?」

 周囲を屈強な軍人たちに囲まれて再び肩を震わせるアリーゼを背に庇いながら少年は、動じた様子もなく言う。

「状況が飲み込めていないのは、君の方だ。大人しくしているならば、我らも危害を加えたりはしない」

 挑発とも取れる少年の物言いは相手にせず、あくまでも冷静に言い含めようとするアズリア。
 アズリアの言うとおり、大人しくしていれば十分無事に帰ることが出来る。
 しかし、そうなると後から来るアティたちとアズリアたちの戦いになる。

 それらをすでに知っている少年は、当初より計画していた別ルートへの第一歩を踏み出す事にするのだった。

「そうですか。では、力ずくでも道を開けてもらいますね」

「きゃ…ッ!?」

 言うが早いか、少年はアリーゼを抱えて人間離れした跳躍で帝国軍の囲いを飛び越え、崖から真上に突き出していた竜骨に飛び乗った。

「ヴァルゼ」

「ここにいるであります!」

「へ?」

「何だアレはッ!? ロレイラルの召喚獣か!?」

 少年が呼びかけるより早く、ステルスモードを解いたヴァルゼルドが虚空より現れた。
 目の前に突然現れた喋る飛行機械にアリーゼは目を点にして、眼下の帝国軍は、銃や召喚術で攻撃準備をし始める。

「ヴァルゼルドは、この子をアティのところに連れて行っといてくれ。俺は、軍人さんたちを懲らしめとくから」

「了解であります」

 帝国軍が威嚇程度の攻撃を始めるが、少年は気にした風もなくヴァルゼルドに言う。
 ヴァルゼルドも主人の頼みごと=任務ができた以上、やるべきことを間違えたりはしない。

「無茶です! あんなにたくさんの軍人さんを相手に1人でなんて」

 少年に抱えられていたアリーゼがオドオドしながら言う。
 自分と同じ年頃の少年が一部隊といえど、軍人相手に戦って無事で済むはずがないとアリーゼは思い心配するが、少年にとってそれは予想し得た言葉だった。

「大丈夫。今の俺は、すっごく強いからね。君は、早く帰って先生さんと仲直りしないと駄目だろ?」

「え、何でそのことを……?」

 少年の方は、いろいろと知っていたり、遠目に観察したりとアリーゼたちの事情を知り尽くしているが、アリーゼはこの少年を知らない。
 見知らぬ少年が、1、2時間ほど前の自分たちのことを知っていることにアリーゼは首を傾げる。
 そんなアリーゼに少年は再び、優しい笑顔を取り繕う。

「細かい事は気にしない! さ、早く行ってくれ、ヴァルゼルド」

「了解であります!」

「あ、あの貴方の名前……ッ!」

 ヴァルゼルドに乗りなれないアリーゼのためにそれほど早くない速度で発進したヴァルゼルドの背からアリーゼが少年へ声をかける。
 見ず知らずの名前も知らない少年は、アリーゼの叫びを背に受け、帝国軍のど真ん中へと飛び降りていく。
 その頬には、満面の笑みを讃えている。

「良くぞ、聞いてくれた!」

「へぎゃああアァ…………ッッッ!!」

 再び、着地のクッションにされたビジュの断末魔に帝国軍は、ようやく少年の異様さを感じ始める。
 着地を終えた少年が腰に差した刀に手を掛けると周囲に居た数名の帝国軍兵士が各々の武器を手にして少年に襲い掛かった。

『オオオォォァッ!!!』

 四方から迫り来る刃に少年は、動じず刀の柄に手を沿えて身を屈める。
 そして、いくつもの兇刃が少年の身体を引き裂くかと思われた瞬間――

『ぐぬぁああァァッッッ!!?』

 野太い叫びを上げたのは、四方から襲い掛かった兵士たちだった。
 少年の姿がブレたと思った瞬間、屈強な兵士たちが面白いように四方へと弾け飛んで崖や竜骨に激突し、崖を転がり落ちたりして行った。
 襲い掛かった兵士1人をとっても、少年の倍はあろうかという体格だった。
 それが、一撃で全員を吹き飛ばされてしまった。
 事ここに至って、アズリアも先の少年の発言が言葉通りであることを理解した。

「貴様、一体何者だ……?」

 すでに相手を子供だと軽んじるつもりのないアズリアが、自らも剣を取って少年に問う。
 他の兵士たちも各々の武器を構え、油断なく少年を睨みつけている。

「俺が何者かだって? ふふふ、ようやく俺も名乗る時が来たな」

 抜刀していた刀の切先を下ろし、周囲の兵士たちに強烈なプレッシャーを与える少年は、静かに名乗りを上げる。

「俺は、上す――

 「ご無事ですか、大佐殿!」
 「大丈夫でしたかッ!? あれ? 貴方……アズリア!?」
 「やっぱり帝国軍か!」
 「へぇ、子供相手にマジになっちゃってるじゃない」
 「君、大丈夫だった? 後は、あたしたちにまかせて!」
 「まさか、護送部隊がほとんどこの島に流れ着いていたなんて」
 「間に合ってよかった!」

 ――………………」

 少年に気を取られていた帝国軍兵士たちの囲いを外から突破して、先ほどアリーゼを送っていったヴァルゼルドが、女教師やら、海の男やら、オネエやら、トリガーハッピーやら、地味な召喚師やら、今し方逃がしたばかりのロリータやらを引き連れて、主人の危機?に参上した。
 いい具合に緊迫し始めていた周囲に再び、温度差が生じ始める。

「おい、ヴァル」

「おお、それは愛称というやつでありますか大佐殿!」

 主を心配して駆けつけた割りに新たな呼び名で呼ばれたヴァルゼルドは嬉しそうに少年の側へと駆け寄る。
 ガシャガシャと鋼の身体を鳴らしてやって来たヴァルゼルドに少年は、すごくいい笑顔で一言だけ――

「速すぎッッ!!」

「gerguiabudyraorolッッッッ!!??」

 物凄く鈍重な打撃音と共にヴァルゼルドの巨体が、先の帝国軍兵士と同じく近くの竜骨に激突した。
 小気味良い電子音と金属音、それにヴァルゼルドが激突した竜骨がへし折れ、その衝撃の余波によって竜骨の断層全体に地響きが広がる。

「ここは、危険よ! 皆、早く避難して!!」

「は、はい! アリーゼちゃん、急いで」

「はい、先生!」

「ちくしょう! いきなりかよ!」

「あの子、とんでもない怪力ね」

「わひゃあぁぁぁ…ッ!?」

「皆さん、あちらの方が崖崩れが起きても被害が少ない!」

 アティたちと一緒に来ていたアルディラの警告に皆一糸乱れぬ動きで撤退していく。

「総員、撤退!」

『了解!』

 帝国軍もアズリアの号令の下、あっという間に撤退していく。
 その辺に転がっている潰れたビジュを回収し忘れているようだが、戦闘行動中の行方不明などざらにあることだ。


 そして、崩れ始める竜骨の断層には、ようやくやってきた名乗りの瞬間を奪われて怒り狂う少年とその少年の怒りの攻撃から音声になっていない電子音を響かせながら逃げ惑うヴァルゼルドだけが残されたのだった。












本日の主人公(真樹←!?)のパラメータ
 Lv.70
 クラス-無名のコメディアン(半人前以下)
 攻撃型-横・短剣(千斬疾風吼者の剣)、横・刀(銘刀サツマハヤト)、横・杖(怨王の錫杖)、投・投具(柳生十字手裏剣)、射・銃(NC・ブラスト)
 MOV7、↑5、↓5
 耐性-機・中、鬼・中、霊・中、獣・小
 召喚石5
 防具-軽装(英傑の鎧-軍装ver)
 特殊能力
  誓約の儀式(真)・全、送還術
  見切、俊敏、闘気、バックアタック、ダブルムーブ、アイテムスロー・強
  サルトビの術、居合い斬り、フルスイング・改、ストラ、バリストラ
 召喚クラス
  機S、鬼S、霊S、獣S
 装備中召喚石
  ヴァルゼルド、ヴァルハラ、天使ロティエル、聖鎧竜スヴェルグ、ジュラフィム

本日のヴァルゼルドのパラメータ
 Lv.50
 クラス-鋼鉄の銃士
 攻撃型-突・ドリル(勇者ドリル)、射・銃(NC・ブラスト)
 MOV5、↑4、↓4
 耐性-機・大
 召喚石2
 防具-装甲(ヴァテック125)
 特殊能力
  スペシャルボディ、威圧、放電、衛星攻撃・β、浮遊、潜水、ドリろッ!、モード・チェンジ!
 召喚クラス
  機A
 装備中召喚石
  ドリトル、反魔の水晶






オリ特殊能力解説
<主人公>
 誓約の儀式(真)・全-誓約者と同じ召喚法。
 送還術-召喚術の前身となった正しき術。相手の召喚魔法を強制的にキャンセルする。
 アイテムスロー・強-6マス先までアイテム使用が可能。ただし、隣接していると対象にダメージと与え、アイテムが壊れる。
 居合い斬り-見よう見真似の居合い斬り。
 フルスイング・改-横切りタイプの攻撃力が1.5倍になる。

<ヴァルゼルド>
 ドリろッ!-直線3マスに突進攻撃
 モード・チェンジ!-陸海空全てに対応した形態に変形可能。






あとがき
 どうも長らくお暇を貰っておりましたこのSS作者、もにもにです。
 いい加減主人公の名前を出さないと文章が書きづらいと思っていたのに気付けば持ち越ししちゃってました。
 本当は、一、二話で名乗るはずだったのが気付けばすでに七話。
 このまま名無しで続けるのは正直つらい!

 ということなので、あとがきという形で主人公の紹介文をばひとつ。


 名前:上杉 真樹(うえすぎ まき)
 年齢:13~15歳(外見)
 身長:158cm
 体重:48kg
 クラス:来訪者→なんちゃって召喚師→送還術師→無界の剣術師(裸な大佐)→覚醒のセクハラナイト
 成長 HP:A MP:A LUC:100 AT:A DF:C MAT:S MDF:B TEC:A
 移動能力-距離:7 下段:5 上段:5
 耐性-機・中、鬼・中、霊・中、獣・小
 召喚石-3→5
 装備タイプー縦・短剣→横・短剣、横・刀、横・杖、投・投具、射・銃、軽装、着物、ローブ


 当たり障りのない名前……かな?
 とにかく、名前は始めから決めていたのに名乗らせるタイミングを完全に逸してしまった作者の落ち度。
 こんな形で強引に紹介することをお詫び申し上げます。

 一応の終りは考えてあるので、時間は掛かると思いますが完結までは辿り着ける予定なので、それまでお付き合いいただけるよう頑張ります!




[2746] 無限界廊の異端児 第8話 召喚事故・龍姫編
Name: もにもに◆2285b348 ID:89adfc6d
Date: 2008/04/27 01:14





無限界廊の異端児

第8話 召喚事故・龍姫編








 異界情緒溢れるメイメイのお店で、近頃本名で呼ばれることの多くなった名も無き世界からやって来た少年、上杉 真樹が護衛獣であるヴァルゼルドと向かい合って発声練習?のようなことをしていた。

「ひとつ! 変身シーンを邪魔するべからず!!」

「ひとつ! 変身シーンを邪魔するべからずなのであります!!」

 真樹の言葉を大声で復唱するヴァルゼルドは、どこかやつれたオーラを纏っている。
 機械兵士でありながら、真樹の指導の下でどんどん人間味を身に付けるヴァルゼルドなのだった。

「ひとつ! 必殺技の技名を叫ぶのを邪魔するべからず!!」

「ひとつ! 必殺技の技名を叫ぶのをじゃまするべからずなのであります!!」

 それなりに多種多様な商品が店内狭しと陳列されるメイメイの店の置くにある従業員控え室。
 そこで数時間もの間、真樹によるヴァルゼルドの教育的指導が行われている。

「ひとつ! 登場シーン及び、その際の口上を邪魔するべからず!!」

「ひとつ! 登場シーン及び、その際の口上を邪魔するべからずなのであります!!」

 ひたすら続けられる不毛な教育は、いつかきっと役に立つ……と信じて復唱するヴァルゼルド。
 真樹を主人としたことを後悔するわけではないが、自身の進むべき方向性としてこれが正しい事なのかヴァルゼルドには判断が出来なかった。

「よぉぉぅしッ! 以降、登場シーンを邪魔したらご飯抜きだぞ!」

「了解であります、大佐殿!」

 機械兵士にご飯を抜くと言っても、それを辛いと感じるようになるのは果たして何年後なのか。
 それを本気で言っているあたり、真樹という少年はやはりアホな人種なのだろう。

「ちょっとちょっとぉ~。それだけなら無限界廊でやっちゃってよ~。お客さんが恐がって商売あがったりじゃないのよぅ」

 店のカウンターに座っていたメイメイが、振り返って真樹たちに言う。

「いいじゃん別に。どうせお客ったって、アティたちの他には殆どこないし」

「そうなのよね~。この島の人達って、大体が自給自足の生活だし。にゃは、にゃはははっ」

 笑い事ではないと思う真樹だが、決してそのことには突っ込まない。
 大体、朝っぱらから店主が酔っ払っているというのは、どうなのだろう。
 真樹に言わせれば、「商売する気もないのに店を開いている超暇人」とのことである。
 そもそもメイメイがこの島に居る理由というのも、この島の遺跡に関わる一連の事件の為なのだ。
 この島は、かつて人間の手で『エルゴ』を作り出そうとしたとある召喚師たちの実験場であり、これから起きる事件の舞台でもある。

 そうした未来に起こりうる事件。
 魂の楽園と呼ばれるリィンバウムの世界全体を巻き込みかねない事象をメイメイは感じ取ることが出来る。
 それが、かつてこのリィンバウムが他世界からの侵略を受け、四界を巻き込んだ争乱を『王』とともに駆け抜けた存在であるメイメイの役目。

「それで? 『彼』のことも少年は、知ってたんでしょ」

 酔いのためか、ほんのり頬を染めながらも真面目な表情と声でメイメイは、ヴァルゼルドの指導を終えた真樹に訊ねる。

「『彼』って、誰?」

 声を出しすぎて喉が渇いた真樹は自前の水瓶から杓子で水をすくって喉を潤しながらすっ呆けたような調子で首を傾げる。

「昨日、この島に流れ着いた『彼』のこと」

 メイメイは、殊更口調を強めるようなことはせずに疲れたように酒をちょびちょび飲みながら続ける。

「先生とあの子……これも“運命”なのかしらね」

 ”これからの流れ”をある程度把握しているメイメイだが、自分では何もしてやれない。してはいけないということに苦悩する。
 それは、今までもあったこと。
 そしてこれからも続くであろうメイメイの使命。
 飲むお酒の量が増えても、遣る瀬無さは一向に和らぐ事はない。

「もう飲むの止めろっての。確かにアティやアイツがこの島にやってきたのは、決まりきっていた“運命”さ」

 カウンターに置かれていた『清酒・竜殺し』の瓶を取り上げながら真樹は、お酒の代わりに水の入ったコップをメイメイに渡す。

「アンタの心配事は、必ず解決する。もちろん、俺が関わらなくてもな。あの人達は、十分自分たちで道を切り開いて行ける強さを持ってるから」

「マキ……」

 口調は軽いままであるが、真樹の言葉は、メイメイにとって救いとなる。
 『王』が守った世界。
 この世界は、確かに『王』が守るに値した――守る価値のあったモノなのだと。

「ま、俺が来たからにはもっと楽勝になっちゃうけどな」

 メイメイから取り上げた酒と空き瓶を片付けながら自信満々に宣言する真樹。
 お酒を取り上げられたメイメイは、カウンターの上に頭を乗せながらそんな真樹の後ろ姿をぼんやり眺める。
 その背は、自分のそれより低く、どう贔屓目に見ても頼もしくは見えない。
 しかし、出会った当初よりは、確かに成長しており、上手くはいえないが何かを託せるのではないかと思わせるようになっている。

「……ねえ、若人。ご褒美、欲しくない?」

「メイメイのご褒美、ね。何、エロいこと?」

 それなりに真面目な話だったのだが、場の空気と言うものを一切合財気にしない真樹は、やはりちゃらんぽらんな思考をそのまま口にした。
 メイメイも真樹が見た目通りの年齢であると思ってはいないが、見た目が少年な真樹のエロ思考には違和感を感じずには居られない。

「そんなわけないでしょ、おバカ」

「なんだよ。俺にとってのご褒美っては、エロいことだぞ?」

 真樹も言葉通りに期待していたわけではないので、適当な調子で対応する。
 自分よりも未来を詳しく知っていて、尚且つそれらを覆そうとしている真樹は、メイメイにとって不思議な存在だった。
 メイメイの苦悩を知っても、ただ頷いただけの少年。
 これまで誰にも知られることもなく世界を見守り続け、流れ続ける時の中をひとり歩んできたメイメイ。
 誰かのためにしてきたわけではなく、自らの意思で選んだ道。
 そのメイメイの在り方をただ「いいんじゃねえの?」とやはり軽い調子で肯定した異世界から現れた少年。
 それまで背負って来たモノが無くなったわけではない。
 しかし、ちっぽけな少年が現れてから少し、ほんの少しだけ背負ってきたモノを重たいとは感じなくなっていた。

「そういうのは、大人になってから」

「心は大人だけどな……」

 すでに島中で噂されている公然の秘密を呟く真樹。
 身体が成長したら本当にエロいご褒美を強請るつもりなのかもしれない。

「ちょっと、そこで待ってなさいな。すぐ持ってくるから」

 そう言ってメイメイは、いつの間にか壁に出来ていた扉に入っていった。
 メイメイの店で暮らし始めて数年が立つ真樹だったが、そんな扉は一度も見たことが無かった。
 不思議に思った真樹は、その扉を開けようとしたがどうしても開く事ができなかった。
 開かずの扉というものを開けてしまいたくなるのは当たり前。
 戦闘では扱いきれない斧アイオーンを装備して扉を叩き壊そうとしたり、出来もしないピッキングを試したり、ヴァルゼルドのドリろッ!を試したりしたが扉には傷一つ付かなかった。
 無為に全力を出し切った真樹が、とうとうヴァルハラを召喚しようかと考えていたところ、タイミング良くメイメイが店に帰ってきた。

「……何をしていたのかにゃ?」

「いや、ちょっと……ていうか、普通に入口から戻ってくるってどうよ」

 確かに摩訶不思議な扉に入っていったはずのメイメイは、ひとつの小包を抱えて、お店の入口から普通に入って来ていた。

「そんなのはどうだっていいの。いいからその魔力をさっさとしまって頂戴」

 ヴァルハラを呼び出すために充填していた魔力がそのままだったので店内もそれなりに緊迫していた。
 メイメイに注意された真樹が魔力を落ち着かせると張り詰めていた空気が一気に沈静化し………無かった。

 突如として響き渡る轟音と共に店の天井をぶち破って何やら降って来たようであった。

「ごほっ、ごほっ……んもぉ! あれほど召喚術を使う時は集中を乱しちゃ駄目だって教えといたでしょーが!」

「あ、あはははっ、やっちゃったぜ」

 召喚術の練習中には、何度も失敗したことのある真樹だったが、流石に使おうとしていた魔力が膨大なだけにその余波もそれなりに強力なモノだった。
 最早、店内はしっちゃかめっちゃかである。
 普通に片付けるのであれば商売を再開するのに数ヶ月は掛かりそうな壊れ具合。
 しかし、それを半日で修理してしまうのもメイメイの乙女のヒミツに含まれるので利用客が困ることはない。

「まったく、ここまで壊すのも久しぶりねぇ」

「あはは……」

 つい数十分ほど前にあった真面目な空気は、完全に消え去り、メイメイはため息混じりに壊れた店内を眺め、真樹は乾いた笑いで誤魔化す。

「まあ、仕方ないわね。ほら、これを持って無限界廊にでも行ってなさい。その間にちゃっちゃと修理しちゃうから」

「ホント、面目ない。…ってこれ何? ……刀?」

 何やらワケの分からない呪文がビッシリ書かれた小包をメイメイから受け取った真樹は、手に取った物の形で中身を予想する。

「そ、シルターンに伝わる由緒正しい名刀なんだから大事に使ってよね」

 どこか名残惜しげな、それでいてどこか嬉しそうな笑顔で言うメイメイ。
 そんなメイメイの言葉に真樹は、

「マジで? マジでッ!? いいの!?」

「言ったでしょ? 少年にご褒美あ・げ・るって。アタシのお古だけど、それでも良いならね」

「感謝感激恐悦至極の雨霰ッ!! ついに俺にも曰くあり気な特別剣がッ!! よっしゃァァッ、さっそく無限界廊に出発だ! 遅れるなよ、少佐!!」

「た、大佐殿! 待ってくださいであります!!」

 ご褒美の刀を受け取って予想以上に有頂天になった真樹を見送るメイメイは、真樹が片付けていたお酒を再び取り出して飲み始めた。

「今のあの子になら扱えると思うけど……。あの子のいい加減なところがうつちゃったのかしら」

 まるで『風雷の郷』のミスミが、息子であるスバルを見ている時のような表情のメイメイは、ただただお酒を楽しみ続ける。
 飲む量こそ微々たるものだが、真樹の成長を思い浮かべながら飲む酒は、少しばかり違った味わいがあるようにメイメイは思えた。




「けほっ、けほっ」




「……にゃ?」

 お酒を飲み始めたメイメイを他所に、お店が勝手に修繕されていく中で誰かが咳き込む声が聞こえてきた。
 周囲に散っていた真樹の魔力の残滓が薄れていくと次第にまったく別の気配が色濃くなっていく。

「こ、この気配はもしかして……」

 真樹ほどではないが、飄々として何事にも適度に動じない胆力を持つメイメイがかなり困った顔で大穴の開いていた天井の真下辺りの瓦礫の山を見る。

「けほっ、斯様な屈辱は生まれてこのかた始めてじゃ」

 煙が晴れ、瓦礫が勝手に修復されていく中、つい先ほどまで店内には存在しなかったはずの誰かの姿が見えてくる。

「や、やっぱり……」

「まったく、魂の楽園と呼ばれたリィンバウムも世知辛い世の中になったものじゃな。……ん?」

 衣服に付いた埃を軽く払いながらブツブツ言っていたその誰かは、自分を見つめる視線に気付き、メイメイを見つめ返した。

「……なんじゃ、いきなり何処に呼び出されたかと思うたら、メイメイではないか。久しいな」

 シルターン様式の着物を纏ったその人物は荘厳な雰囲気をも纏っていた。
 濡れ絹のような深い艶のある長い黒髪に、純然たる力を秘めた鋭い瞳。
 その人物の顔立ちや着物は、シルターン出身の特徴を多く持っている。
 そして、メイメイと同じ特徴がその者にはあった。
 美しい黒髪から覗く立派な角と長い耳。

「マキのおバカ……」

 それだけ呟いたメイメイは、途方に暮れてしまった。















本日の真樹のパラメータ
 Lv.81
 クラス-黄昏の魔剣師
 攻撃型
  横・短剣(千斬疾風吼者の剣)、横・刀(銘刀サツマハヤト)、横・杖(怨王の錫杖)投・投具(柳生十字手裏剣)、射・銃(NC・ブラスト)
 MOV7、↑5、↓6
 耐性-機・大、鬼・大、霊・中、獣・小
 召喚石6
 防具-軽装(英傑の鎧-軍装ver)
 特殊能力
  誓約の儀式(真)・全、送還術
  見切、俊敏、先制、闘気、バックアタック、ダブルムーブ、勇猛果敢、心眼、絶対攻撃、狙い撃ち
  異常無効<狂化・石化・沈黙>、アイテムスロー
  サルトビの術、真・居合い斬り、フルスイング・改、ストラ、バリストラ、憑依剣
 特殊武装-神刀・布都御魂
 召喚クラス
  機S、鬼S、霊S、獣S
 護衛獣召喚石(固定)
 ・ヴァルゼルド
  召喚魔法名
   ユニット召喚:参戦:C:いつでもどこでも「カモン、少佐(ヴァルゼルド)!」
   スパーク:攻撃:C:放電の強化版
   衛星攻撃・β:攻撃:B:範囲攻撃
   第二兵装:防御:A:協力召喚によって機界ロレイラルからヴァルゼルドの追加兵装を召喚。対物・対魔法シールドを展開。
   第三兵装:攻撃:S:協力召喚によって機界ロレイラルからヴァルゼルドの追加兵装を召喚。極太レーザーで薙ぎ払う。
 装備中召喚石
  機神ゼルガノン、ヴァルハラ、天使ロティエル、聖鎧竜スヴェルグ、龍神オボロ、ジュラフィム



本日の???のパラメータ
 Lv.32
 クラス-龍姫
 攻撃型-縦・刀、投・投具
 MOV3、↑3、↓3
 耐性-鬼・大
 召喚石3
 防具-着物(ドラゴンチャイナ-アレンジver)
 特殊能力
  誓約の儀式・鬼、送還術、眼力、心眼
 召喚クラス
  機C、鬼S、霊B、獣B



オリ特殊能力解説
<主人公>
 誓約の儀式(真)・全-誓約者と同じ召喚法。
 送還術-召喚術の前身となった正しき術。相手の召喚魔法を強制的にキャンセルする。
 真・居合い斬り-見よう見真似の居合い斬り。本家本元にも引けを取らない威力に成長。
 フルスイング・改-横切りタイプの攻撃力が1.5倍になる。
 憑依剣-武具に異界の力を憑依させる憑依召喚術の発展技術。

オリ武器解説
<神刀・布都御魂>
  パラメータ変化
   AT:200 MAT:280 TEC:50 LUC:50 CRT:30
  備考
   鬼属性憑依剣攻撃力2倍。
   メイメイが愛用していた刀。鬼妖界シルターンのエルゴの加護を宿している。








[2746] 無限界廊の異端児 第9話 不協和音・送還編
Name: もにもに◆2285b348 ID:89adfc6d
Date: 2008/05/14 23:23





無限界廊の異端児

第9話 不協和音・送還編








 普段は、生い茂った木々のために昼間でもあまり陽が射すことのない森の一画が、まるで虫食いのように荒地になっていた。
 生い茂った緑の草も、青々とした葉も、どっしりと天に聳えていた幹も、果てはそれらが生えていた大地すら無惨に抉られている。

「酷いもんだ。名も無き世界じゃ、こういうのを『環境破壊』っていってさ、主に人間社会が起すもんなんだけどな」

 薙ぎ倒された木々を眺めながら歩く真樹は、独り言のように呟く。
 しかし、その表情はどこか気が抜けているようにも見える。

「あのねぇ、少年。もうちょっと緊張感持てない?」

 真樹が独り言のつもりで呟いた言葉に隣を歩いていたメイメイが呆れたように注意する。
 そんなメイメイに真樹は、非難がましい視線を向ける。

「いやさ。蟲退治は、アティたちと島の住人たちが打ち解けるための通過儀礼みたいなもんだって。普通に戦ってもあの人らだけで対処できるはずだし、いざとなったら『碧の賢帝シャルトス』 があるんだしさ。ここで出て行ったら想定外のことが起こるかもしれんだろ?」

「だめよぉ。もしかしたらってこともあるかもだし、始めから先生たちと協力するの。それに『封印の魔剣』の使い過ぎは危ないって君も承知してるでんしょう?」

 真樹の愚痴にメイメイは、忠告モードの真面目な口調で諭すように言う。

「確かに、尤もな意見ではある。しかし、……何故に視線を逸らす」

 ジト目の真樹と視線を合わせようとせず、妙な汗を垂らすメイメイ。

「そ、それは~、……乙女のひ・み・つ」

 困った時の乙女のひみつと共に酔いどれ風味に頬を火照らせながらしなを作るメイメイに真樹はため息交じりに項垂れる。

「ま、別にいいけどさ」

「うんうん、素直でよろしい! ご褒美にいいコいいコしてあげちゃう!」

 妙に疲れきった表情の真樹の頭をメイメイはぐりぐりと撫で回す。
 普段であれば、喜んで擦り寄るか、鬱陶しそうに払いのけるかなのだが、今の真樹にそれだけの気力は無かった。







 『神刀・布都御魂』の試し斬りに無限界廊へ出かけていた真樹が店に帰って来るとメイメイは有無を言わさず、森へと引っ張って行った。
 荒れ果てた森は、この島の中心部に遺跡『喚起の門』から新たに召喚されてしまった『召喚蟲ジルコーダ』の仕業だった。
 そして、元凶であるジルコーダが確認されると事態を重く見た護人たちが、戦える者たちを『集いの泉』に集めた。
 集まった者は、各里の護人たちとアティたち。
 それ以外の島の住人たちは、自分たちの集落の防衛に回っている。

「ジルコーダ……メイトルパの言葉で『食い破る者』って意味だ」

 ユクレス村の護人ヤッファが、幻獣界メイトルパの魔獣であるジルコーダの詳細を皆に説明し始めた。
 その表情からも事態は、一刻の猶予もないことが窺える。

「辺境に棲息している虫の魔獣なんだがな。興奮状態になるとその鋭い牙で、周囲のものを手当たり次第に噛み砕いて回る。しかも、その興奮は仲間へと伝染して回るから、最悪よ」

 最悪という単語に合せてニヤけて見せるヤッファだが、それに「どうしようもない」というニュアンスが含まれていることは明らかだった。

「そんな物騒な連中が、なんで唐突に出てくんのよ!?」

 真っ先に声を上げたのは、ソノラだった。
 まだ直接ジルコーダを見ていないソノラたちには、ヤッファの説明だけ聞いていると最悪の事態であるということしか解らない。
 『喚起の門』の説明を受けていなかった海賊たちは、そのジルコーダが何故、何時の間にこの島に現れたのかを知らない。
 そんな彼らに大きな鎧が前に進み出て静かに説明する。

「アラタニ……ヨバレタノダロウナ。カンキノ、モンノボウソウデ……」

 まるで声帯を介していない。無機質な声色の鎧、ファルゼンの言葉にソノラを始め、海賊たちが首を傾げる。
 しかし、召喚術に精通したヤードは、すぐさま何が起きたかを理解した。

「つまり、誓約の果たされていない『はぐれ召喚獣』として、この島に召喚されてしまった存在というわけですか……」

 ヤードの理解をファルゼンも無言の頷きで肯定した。
 ジルコーダ召喚の経緯を皆がある程度理解すると、控えていたヤッファも進み出た。

「過去にも、こういったことはありました。しかし、今回ばかりは事態が深刻です」

「ああ。ヤツらは、とてつもない勢いで増える。エサとなる植物がある限りな。この島は、ジルコーダにとって最高のエサ場だ」

 ジルコーダという存在の恐ろしさが次々に明かされ、アティたちの顔にも不安の色が見え隠れする。

「このまま行けば、島の自然は破壊されつくされてしまう」

 アルディラも普段より数段緊張した面持ちでアティたちに視線を向ける。

「それを防ぐ為にも貴方達の力を貸してもらいたいの」

 アルディラの言葉にアティたちは、皆頷いた。
 もとより、そのつもりでこの場に集まった者たちなのだから、今さら怖気づくような者はいなかった。









 増殖し続けるジルコーダを排除すべく、ジルコーダの巣がある廃坑の入口までやってきていた。
 目標は、ジルコーダたちの女王蟲。女王さえ倒せば、ジルコーダの増殖は止まる。その後、残りのジルコーダを駆逐する。
 作戦は、二手にわかれ、一方が他の蟲を巣から引き離し、その隙に、もう一方が女王を退治する。

「さ~て、カモン、少佐!」

 ジルコーダたちが蠢く廃坑の前で、真樹は黒色のサモナイト石が輝くペンダントを掲げて叫ぶ。
 すると虚空が歪んだかと思うと鋼鉄の躯体を持つ機械兵士、ヴァルゼルドが現れた。

「到着であります!」

 デカイ図体できっちりと敬礼するヴァルゼルド。
 始めから連れて来れば早いはずだが、たまにはサモナイト石での召喚もしておかなくては、いざという時に感覚が鈍る。という真樹の持論により、今回のヴァルゼルドは、呼び出しが掛かるまでラトリクスで待機していたのだった。

「よっし。早速で悪いが、第ニ兵装いってみようか!」

「了解であります、大佐殿!」

 女王討伐部隊は、アティと海賊たちにキュウマとヤッファが加わる事になった。
 そんな彼らを巣の中へ安全に進ませる為、防御シールドを使って巣の最深部までヴァルゼルドが護衛することになった。

「大丈夫なのか?」

 ロレイラルの科学技術を目の当たりにする機会が少ないカイルたちは、真樹とヴァルゼルドの微妙にハイなテンションに不安を隠せない。
 カイルたちの微妙な眼差しを気にする事無く真樹は魔力を集中してヴァルゼルドにエネルギーを送り続ける。

「ドッキング完了。アンチ・マテリアル・シールド全方位展開」

 鈍い輝きを放つ二枚の盾がヴァルゼルドの背後に浮遊し、その盾の表面が鏡のように光を反射すると周囲に不可視の壁が生まれる。

「すげぇな、おい! 本当に『見えない壁』があるぜ」

「ホントだ! ヴァルゼルドって言ったっけ? アンタすごいじゃん」

 ロレイラルの科学力にカイルとソノラが兄妹揃ってはしゃぎ出す。
 緊迫感に欠けるが、緊迫状況でもある種の余裕めいた反応に他の者たちも自然と強張っていた表情が和らいでいた。
 しかし、必要な分の緊張感はしっかりと残している。

「ジルコーダの巣の規模を考えると戦闘は避けた方が良いわ。稼働時間にも気をつけなさい」

 ヴァルゼルドの兵装は、ロレイラルから召喚したものであるが、ロレイラルの知識を持つアルディラもその性能を把握している。
 いかに物理攻撃手段しかないジルコーダ相手でも全方位シールドを展開していれば、エネルギーが尽きる。
 本来、砲撃タイプのヴァルゼルドを廃坑という限定された戦闘地域に出撃させることが間違っているのだが、今回の真樹の役割を考えればそれが打倒だった。
 不本意ではあったが、真樹本人も不測の事態というものを避ける為、絶対の信頼を寄せる自身の護衛獣をアティたちに付かせることを強く勧めた。

「皆を頼むぞ、ヴァルゼルド」

「は! 行ってくるのであります」

「おう」

 ヴァルゼルドのシールドにより、ジルコーダの群れが次々と押しのけられていく。




 アティたちを見送った真樹、アルディラ、ファルゼンは、廃坑の入口で大量の、視界を埋め尽くさんばかりのジルコーダに囲まれていた。

「さて、陽動担当な俺たちが、ほとんどのジルコーダを引き寄せちまったな。まあ作戦通りだけどさ、効果有り過ぎだよ、ししょー」

 投げやり気味に呟いく真樹の掌の上では、アティたちに付いて行ったメイメイからの餞別が怪しい光を放っている。
 蟲を引き寄せる効果のある宝珠とのことで、護人たちから前もって注文を受けていた物だった。

「こんなトンデモアイテムがあるなら、殺虫剤くらい取り扱っててもいいのに……。バ●サンとか、●ンチョールとかさ」

「認識できない言語を呟くのは止めてちょうだい。お願いだから今回ばかりは、真面目にして!」

 召喚術をジルコーダの群れに放っているアルディラが切羽詰った様子で叫ぶ。
 詠唱時間、無防備になるアルディラを守るためにファルゼンが大剣を振り回し、ジルコーダの硬い甲羅ごと叩き割っている。

「ココマデ、アツマルトハ……」

「ええ。陽動とは、言っても巣に居るすべてのジルコーダを引っ張り出すつもりはなかったのに」

 そもそも廃坑に突入する方が危険だというのは理解できる。
 しかし、外で陽動を受け持つのが、たったの三人とは間抜けとしか言いようがない。
 これでは、たとえ宝珠に引き寄せられたジルコーダが、アルディラの想定数だったとしても、ファルゼンと二人で陽動を続けるのは困難だっただろう。

「はいはい。二人ともちょっとそこ退いててね」

 ジルコーダ寄せの宝珠を持っていた真樹が、陽気な調子の声でアルディラとファルゼンを両手で押しのける。

「ちょ、邪魔、ってマキ!」

 不真面目な態度の真樹に、現状に焦るアルディラが苛立ちを隠しもせずに睨みつける。
 しかし、真樹は宝珠をアルディラに手渡すと腰に挿していた刀の柄に手をかけてジルコーダの群れを見据える。

「ドウスル、ツモリダ……」

 片手で真樹に押しのけられ、それに違和感を覚えたファルゼンが、ジルコーダの群れを大剣で薙ぎ払いつつ問う。
 そんなファルゼンの問いにも真樹は、口の端を吊り上げて小さく囁いた。

「……ただの蟲祓いだよ」

 言うが早いか真樹が腰の刀を振り抜いた。

『Gyshaaaaaaaaaaaaaaaッ!!』







「んなッ!?」

「ッ……!?」

 アルディラとファルゼンは、なにが起きたのか一瞬理解できなかった。

「さ、残りは地道に一匹ずつ潰していこう」

 呆然とする二人を他所に真樹は、廃坑の入口から疎らに這い出てくるジルコーダを退治していく。

「マキ……貴方、一体何をしたの?」

「アトニシロ、あるでぃら」

「え、ええ……。スクリプト・オン!」

 今だ呆然とするアルディラを先に立ち直ったファルゼンが大剣を振るいながら注意する。
 ファルゼンの声にアルディラも召喚術を使ってわずかなジルコーダを潰していった。


 その後、一時間程すると女王を退治したアティたちが戻ってきた。
 巣の中に居たほとんどのジルコーダが外へ向かって移動し、彼女たちは拍子抜けするほどあっさりと最深部まで辿り着いた。
 そして、女王とそれを守るように残っていた十数匹ほどのジルコーダを相手にしたという。
 アルディラとファルゼン、そして真樹が相手にしたジルコーダの数は、優に数百匹に届いていた。
 陽動にしては、度が過ぎた数だったが、アルディラとファルゼンは、その事実をアティたちに告げる事はなかった。
 アルディラたちにも理解し難い出来事であったこともあるが、それまでの真樹という少年の印象が間違っていたということに困惑したのだった。







 ジルコーダ退治を終えた一行が、マルルゥがユクレス村に用意した宴会場でドンちゃん騒ぎをしている様を遠くから眺める者が居た。

「ふむ。王の力を正しく繰る者が現れたか。エルゴたちの加護を受けていないようだが……。まったく、メイメイも困った輩をかこったものよのぅ。さて、吾はどうしたものか」

 夜風に着物の裾が靡き、美しく長い髪も宴会場の灯りに照らされ、淑やかな艶に彩られている。

「あれほど大規模な送還術パージングを行うとなると、吾にも御しきれぬやもしれぬ。まったく、世の中上手くいかないものじゃ」



 















本日の真樹のパラメータ
 Lv.87
 クラス-黄昏の魔剣師
 攻撃型
  横・短剣(千斬疾風吼者の剣)、横・刀(銘刀サツマハヤト)、横・杖(怨王の錫杖)投・投具(柳生十字手裏剣)、射・銃(NC・ブラスト)
 MOV7、↑5、↓6
 耐性-機・大、鬼・大、霊・中、獣・小
 召喚石6
 防具-軽装(英傑の鎧-軍装ver)
 特殊能力
  誓約の儀式(真)・全、送還術
  見切、俊敏、先制、闘気、バックアタック、ダブルムーブ、勇猛果敢、心眼、絶対攻撃、狙い撃ち
  異常無効<狂化・石化・沈黙>、アイテムスロー
  サルトビの術、真・居合い斬り、フルスイング・改、ストラ、バリストラ、憑依剣
 特殊武装-縦・刀(神刀・布都御魂)
 召喚クラス
  機S、鬼S、霊S、獣S
 護衛獣召喚石(固定)
 ・ヴァルゼルド
  召喚魔法名
   ユニット召喚:参戦:C:いつでもどこでも「カモン、少佐(ヴァルゼルド)!」
   スパーク:攻撃:C:放電の強化版
   衛星攻撃・β:攻撃:B:範囲攻撃
   第二兵装:防御:A:協力召喚によって機界ロレイラルからヴァルゼルドの追加兵装を召喚。対物・対召喚術防御障壁。
   第三兵装:攻撃:S:協力召喚によって機界ロレイラルからヴァルゼルドの追加兵装を召喚。極太レーザー。
 装備中召喚石
  機神ゼルガノン、ヴァルハラ、天使ロティエル、聖鎧竜スヴェルグ、龍神オボロ、ジュラフィム





オリ特殊能力解説
<主人公>
 誓約の儀式(真)・全-誓約者と同じ召喚法。
 送還術-誓約に縛られていない異界の存在ならば強制的に元の世界に送り返すことができる。今回の大規模送還は、全MPを使用。
 真・居合い斬り-見よう見真似の居合い斬り。本家本元にも引けを取らない威力に成長。
 フルスイング・改-横切りタイプの攻撃力が1.5倍になる。
 憑依剣-武具に異界の力を憑依させる憑依召喚術の発展技術。

オリ武器解説
<神刀・布都御魂>
  パラメータ変化
   AT:200 MAT:280 TEC:50 LUC:50 CRT:30
  備考
   鬼属性憑依剣攻撃力2倍。
   メイメイが愛用していた刀。鬼妖界シルターンのエルゴの加護を宿している。




[2746] 無限界廊の異端児 第10話 意味深姫・店番編
Name: もにもに◆2285b348 ID:89adfc6d
Date: 2008/06/12 20:09





無限界廊の異端児

第10話 意味深姫・店番編








 むせ返るような酒気により、眠りを妨げられた真樹は、いつもより早く目が覚めた。
 ジルコーダ討伐の後に行われた宴会は、真樹自身も大いに楽しんだが、最も宴会を楽しんだのは、昨晩遅くに帰ってきたと思われるメイメイだろう。
 真樹や子供たちも、ある程度の夜更かしを許されたが、酒の入った大人たちに混ぜておくのは問題があるという意見が出た為、先にお開きになり、年少組のまとめ役として真樹は、パナシェやスバルたちをそれぞれの里まで送って、1人で店に戻って寝ていた。
 今現在、メイメイは、店員の控え室の入口に突っ伏して、ニヤケ顔のまま眠っている。
 時折、聞こえる寝言と笑い声、さらに凄まじい酒臭さを纏っており、控え室(=真樹の寝床)で眠っていた真樹は、酒を飲んでもいないのに激しい頭痛に悶えた。

「こ、このへべれけ占い師め。人の安眠を邪魔しやがっつつ! ぐぅ、飲めねえのに二日酔いを体験する事になるとは」

 召喚術の師であり、この世界での保護者でもあるメイメイに文句を付けつつも、ベッドまで運んで寝かせる真樹。
 自分のベッドをメイメイに譲った真樹は、朝霧の消えぬ空気を吸いに外に出た。
 店内では、メイメイの放つ酒気を浴びることになるので、二度寝は不可能であり、寝れたとしても頭痛がさらに酷くなると思った真樹は、久しぶりに散歩に出る事にした。




 顔を洗い、自己流のラジオ体操(所々に『π』の型が入る)を行い、海を目指して歩き出した。
 メイメイの店は、島の東寄りにあるため、この時間に海に出れると昇る朝日を見ることが出来る。
 この世界に召喚された当初は、島中を散歩するのが日課だった真樹も、今では稀に、ぽげ~っと海を眺めるだけになっていた。
 店を出て、10分ほど歩くと海を見渡せる崖の上に出た。

「らしくねえな~」

 水平線に広がる黎明の輝きに目を細め、大きな欠伸をしながら陽が昇りきるまで海を眺める。
 実に真樹らしくないことであり、本人も自覚があるため至極間抜けな表情のままだらけた姿勢で寝転がっている。

「なんじゃ。故郷でも懐かしんでおるのか?」

「!?」

 この島にやって来て約二年。あらゆる知識と不可思議で強大な力を有するメイメイの下で修行を続けてきた真樹の力は、島内でも最強の部類に入る。
 故に、背後を取られ、それに気付かないということは久しくないことだった。
 少なくとも熟練の忍であるキュウマの気配も集中していれば、完璧に捉えることが出来る。
 それにも関わらず、突然背後から声をかけられた。
 気が緩んでいたと言っても、本気で気配を隠したキュウマでも無い限り、すぐに察知できるという自信が真樹にはあった。

「……アンタ、何もんだ」

 地面に寝転がった姿勢のまま、首だけを後に向け、背後からは見えないところで護身用に隠し持つ短剣『千斬疾風吼者の剣』を抜き放つ。
 相手からは、殺気を感じることが無いものの、万が一ということもある。
 真樹も自分が、この世界で一番強いとは思っていない。
 もっとも、真樹が知る限り、真樹より強いのは、師であるメイメイくらいしか思い浮かばない。
 そのメイメイも、召喚術を扱う技術の幅は、名も無き世界である真樹の方が広い。いずれ、単純な戦闘力ならば真樹の方が上になる可能性もあるのだ。
 真樹自身、それだけの鍛錬をして来たという自負もある。
 それが、今、背後に立つ存在によって揺るがされていた。

「何と。吾が何者か理解できんと申すか?」

 名も知らぬ相手にそんなことを言われた真樹は、緊張感の無さを装って、どうでも良さそうに応答する。

「アンタとは、初対面だからな」

「ふむ。思うたより、鈍いようじゃな」

 初対面で、いきなり鈍いと言われ、多少なりともイラっと来た真樹だったが、それを顔に出すほど余裕の無い生き方はしていない。
 そして、声の主を視界に納めた真樹は、あることに気付く。

「もしかして。アンタ、ししょーと同じ龍人?」

 振り返ったそこに立っていたのは、見覚えの無い少女だった。
 メイメイが着ている服とは、若干趣の異なるシルターンの着物を纏い、何となく偉そうな雰囲気を醸し出している。
 朝陽に照らされることで光輪を映す美しい黒髪から覗く立派な角と長い耳。
 角の形こそ若干ことなるものの、それは紛れも無く龍人である証だった。

「おぬしが気付いたのは、それだけか?」

 真樹の言葉に不機嫌そうな溜息を付く龍人の少女。

「それだけって言われても……」

 とにかく、この少女に敵意がないことを悟った真樹は、隠し持った短刀を鞘に収め、改めて少女と向き合った。
 背は真樹より若干高い。見たところ10代半ばか、それよりも少し上といったところ。
 もっとも、メイメイやミスミという年齢不詳の女性を知っていることもあってか、外見で年嵩を計ることに意味が無いと真樹は知っている。
 それ以外のことで真樹が感じた印象は、

「……あ~。アンタって何処かの姫さんなんだ」

 古めかしいというか、爺くさいというか、偉そうな言葉遣いに、何処と無くミスミと通ずる気品を持つ少女を真樹は、龍人の姫なのだろうと思った。
 恍けた口調で言った真樹をつまらなそうに見詰める龍人の少女。

「まったく。行く末を知りながら、道化のように振る舞うとはのぅ」

「んなこと言われてもなあ。俺ってば野次馬みたいなもんだし」

 真樹の人となりを探ろうとする少女だが、のらりくらりと適当な調子を崩さない。
 少女が危険な存在でないとわかると真樹は、視界を海に戻し、再び水平線から昇る朝陽を眺める。

「ふむ。ならば野次馬のおぬしは、吾をどう思う?」

 寝転がる真樹を覗き込んで問う少女に、真樹は面倒くさいそう首を捻る。

「さてね。アンタの存在は、たぶん俺にとって想定外なんだと思うけど……。ま、“今は”俺が居るんだ。多少の変化は、あって然るべきってところかな」

 リィンバウムの歴史を知る真樹にとって、この少女の存在は不可解以外の何物でもない。
 それぞれの里に住む者たちとは違い、明らかに異質な、“運命”の流れから取り零されるはずのない存在を知らないはずがない。
 そういったイレギュラーである少女のことも、真樹はすぐに受け入れた。
 それは、この少女がメイメイのように浮世を離れた存在であると肌で感じたからでもある。

「『すべては在るがままに』……じゃな。これもまた、おぬしが此処の招かれた縁なのかもしれぬな」

「また意味深なことを」

 意味深に現れたキャラが、意味深なことを言う。
 真樹にとってこの少女は、確かに想定外の存在であるが、その在り方は、想定内だった。

「許せ。昔のことを引き合いにだすのは、悪い癖だと常々思うておるのじゃが」

 まったくすまなそうではない笑顔で言う少女に、真樹は同じように笑顔で応える。

「それだけ、年食ってるってことだろ?」

「ははは。確かにそうじゃな。おぬしに言わせれば、吾など大年増であろうよ」

 女性に対して失礼極まりない年齢に関する真樹の言葉を聞いても意に返した様子の無い少女は、声を上げて笑った。

「うむ。どうやら、悪しき者ではないようじゃな」

「そりゃそうだ。俺は、悪の人じゃなくて、エロの人だから」

「ははは。メイメイから聞いておったが、その通りのようじゃな」

 どうにも真樹の調子に巻き込まれることのない少女。
 初対面で、真樹の奇行に翻弄されない人物は、これが初めてだった。

「それではな、マキ。おぬしの歩む道に幸多からんことを祈っておいてやろう」

「あ、おい」

 いきなり現れて、いきなり去っていく少女。
 名前すら知らない想定外の少女の存在に、真樹はどうしたものかと寝転んだまましばらく考え込んだが、結局やるべきことに変わりはないと結論付けた。
 真樹自身が倒すと決めている『敵』は、まだこの島に現れていない。
 その『敵』を圧倒する為にも、まだまだ力をつけねばならない。
 太陽が空に昇りきるのを待って、真樹は酔いどれ店主を叩き起こす為にもと来た道を帰って行った。



 真樹が店に帰り着くと控え室に寝かしておいたはずのメイメイは、姿を消していた。
 単に用事があったのか、それとも真樹の詰問から逃れる為なのか。メイメイは、数日間姿を現さなかった。
 その間店番をしていた真樹は、アティやアリーゼ、ソノラにスカーレルがこの店で下着類を買っていることを初めて知った。
 ほとんどの者が、いつも同じ服装で過ごしている中、さすがに下着は替えの物を用意する必要があったのだろう。
 そのことを真樹に知られた者たちの反応は二通りだった。
 スカーレルは、妙なしなを作りながらも堂々ときわどいものを購入して行き、真樹にトラウマを植え付け、下着の他に色々と物入りな年頃の女性陣は、アティが他の子の分まで買っていった。

「まさか、ムッチン女教師がこんな下着を愛用していたなんてな。確かに、アンタはお色気担当だけどさ。おじさん、ホント泣けてくるよ。色々な意味で……」

「私の名前は、アティです! ムッチンでも、お色気担当でもありません! それと変な言いがかりは止めてください」

 戦闘をそれなりにこなすアティたちは、思いのほか下着を消耗するようで、メイメイが戻るまでの数日間、真樹のセクハラを受けながらもお店にやってくる。
 もっとも、まだ真樹に『π』されていないアリーゼとソノラは、アティほど警戒していない。
 アリーゼは顔を真っ赤にして走り去り、ソノラは頬を染めてはいるが、相手が年下(外見)なので背伸びした物を買っていく。
 真樹のストレートなセクハラをまだ受けていない者にとって、真樹は、お馬鹿で陽気な少年でしかない。
 アリーゼに至っては、自分の危機に駆けつけた男性ということもあってか、多少評価に妄想が混じっている時がある。
 そんな生徒の機微を感じ取ったアティは、メイメイが戻るまでの間、海賊船で暮らす女性たちの入用な物を一括して買いに来ることに決めた。

「ま、いいんじゃない? なんたって……………………なんだし」

 言葉の間に三点リーダを連続させ、アティの身体を嘗め回すように眺めた真樹。
 そんな真樹の視線にアティは、胸部とチラチラする絶対領域を手で隠す。

「い、今の行間は何!?」

「いや、別に。(イマジネーションを総動員すれば……)」

「へ、変な妄想は止めてください!!」

「人の心を読まないでよ、エッチ~」

 わざと心の漏らす真樹に抗議するアティだが、それすらも真樹を楽しませるだけである。
 顔を真っ赤にして走り去るアティを見送った真樹は、とても満たされた表情であった。

 後日、さすがに纏め買いをしていっただけあり、アティたちが買物に来ないため、つまらない店番を続けたいた真樹だったが、珍客の来店に喜んだ。
 その珍客は、カウンターに座る真樹の前にやってくると無表情でサイズの書かれた紙切れをカウンターに叩きつけた。

「て、店主は、まだ帰らんのか……」

「まだみたいですよ? はい、1200バームになりま~す」

 女性用品は、店の棚ではなく奥の部屋に置いてあり、購入には、直接店員に言わなければならない。
 つまり、メイメイの店で下着を購入する外来の女性陣は、真樹のセクハラを回避することが困難な状況であった。

「男所帯で、隊長さんも色々大変ですよね~。あ、これいります?」

「いらん!!」

 真樹の完全なセクハラ対応に、生真面目な珍客は怒って帰っていった。
 真樹は、顔を紅くして走り去る女隊長に、顔をほころばせながら手に持った小箱をカウンターの下になおした。






 数日後、メイメイがこそこそと帰って来たのだが、満足げな顔の真樹は、意味深に現れた龍姫のことを完全に忘れ去っていた。
























本日の真樹のパラメータ
 Lv.89
 クラス-黄昏の魔剣師
 攻撃型
  横・短剣(千斬疾風吼者の剣)、横・刀(銘刀サツマハヤト)、横・杖(怨王の錫杖)投・投具(柳生十字手裏剣)、射・銃(NC・ブラスト)
 MOV7、↑5、↓6
 耐性-機・大、鬼・大、霊・中、獣・小
 召喚石6
 防具-軽装(英傑の鎧-軍装ver)
 特殊能力
  誓約の儀式(真)・全、送還術
  見切、俊敏、先制、闘気、バックアタック、ダブルムーブ、勇猛果敢、心眼、絶対攻撃、狙い撃ち
  異常無効<狂化・石化・沈黙>、アイテムスロー
  サルトビの術、真・居合い斬り、フルスイング・改、ストラ、バリストラ、憑依剣
 特殊武装-縦・刀(神刀・布都御魂)
 召喚クラス
  機S、鬼S、霊S、獣S
 護衛獣召喚石(固定)
 ・ヴァルゼルド
 装備中召喚石
  機神ゼルガノン、ヴァルハラ、天使ロティエル、聖鎧竜スヴェルグ、龍神オボロ、ジュラフィム


・???
 クラス-龍姫
 攻撃型-縦・刀
 MOV-3、↑2、↓3
 耐性-鬼・大
 召喚石3
 防具-着物(ドラゴンチャイナ-アレンジver)
 特殊能力
  誓約の儀式・鬼、送還術、眼力、心眼
 召喚クラス
  機C、鬼S、霊B、獣B

・女隊長
 クラス-女隊長
 攻撃型-突・剣、突・槍
 MOV-3、↑3、↓3
 召喚石2
 防具-軽装(帝国軽鎧百士式)
 特殊能力
  眼力、先制、心眼、秘剣・紫電絶華
 召喚クラス
  霊B





オリ特殊能力解説
<主人公>
 誓約の儀式(真)・全-誓約者と同じ召喚法。
 送還術-誓約に縛られていない異界の存在ならば強制的に元の世界に送り返すことができる。今回の大規模送還は、全MPを使用。
 真・居合い斬り-見よう見真似の居合い斬り。本家本元にも引けを取らない威力に成長。
 フルスイング・改-横切りタイプの攻撃力が1.5倍になる。
 憑依剣-武具に異界の力を憑依させる憑依召喚術の発展技術。







[2746] 無限界廊の異端児 第11話 事件同発・天罰編
Name: もにもに◆2285b348 ID:89adfc6d
Date: 2008/09/18 22:46



無限界廊の異端児

第11話 事件同発・天罰編








 ジルコーダ退治を終えてホッとするのも束の間、アズリア率いる帝国軍がアティたちに本格的な宣戦布告を行った。
 そして、暁の丘において決着をつけるべく、両陣営が対峙していた。


 ちょうどその頃――

「じぇぇえい!」

 先日のジルコーダ討伐でも影ながら?活躍した真樹は、そんな物語とは離れた場所で、両手に持ったNC・ブラストを乱射していた。

「だぁぁあもうッ! もとからだけど、改めて蟲嫌いなってまうわ!」

「た、たたたた大佐殿ぉぉぉ! 今はて、ててて撤退を優先させるべきであります!」

 そう。トリガーハッピーと化している真樹と正確無比の射撃を行うヴァルゼルドの二人は、先日アティたちが潜っていたジルコーダが巣にしていた廃坑の中に居た。
 ジルコーダの女王を退治するため、廃坑に攻め入ったアティたちの話では、廃坑内のジルコーダも駆逐したとのことだったが、再び訪れてみるとかなりの数のジルコーダが活動していた。
 そんなジルコーダたちに向かって狙いもつけずに乱射する真樹(Lv.90←ルール無用!)と襲い掛かってくるジルコーダのみ確実に撃ち抜き、接近を許した個体をドリルで粉砕するヴァルゼルド(Lv.61)。
 本来であれば、手っ取り早く召喚術か、送還術、ヴァルゼルドのレーザー砲でまとめて処理するのが最良であったが、それができないがために真樹は乱射魔と化している。

 ジルコーダたちは、廃坑内の壁に群がり、真樹たちに襲い掛かってくる際は、天井から降って来るのである。
 襲い掛かってこない他の個体たちは壁に密着し、常に坑道を支える基部の柱など後ろ盾に動いている。
 そんなわけで大威力の攻撃を行うと坑道が崩れて生き埋めになってしまうため、銃を使って距離を取りながら戦うしかない。
 また、送還術も先日のように大規模に展開すれば良いのだが、それを行うと坑道内にいる“異世界の住人”を纏めて故郷に送り返すことになる。

「……この材料さえあれば……薬の作り方は、メディカルセンターで確認できます。私のことは……」

 つまり、ジルコーダとまとめて送還するわけにはいかない人物が廃坑にいるのだから、大規模送還ができない。もっとも、この島に送還術の存在が広まると故郷に帰りたがっている島の住人たちが騒ぎ出してしまうため、ジルコーダ退治の後、メイメイから乱用を避けるよう言われていた。真樹が後先考えず行った送還術を目の当たりにしたアルディラとファルゼン(ファリエル)も、そういった混乱を避けるために誰にも話してはいなかった。

 真樹たちがこの廃坑にやって来たのは、融機人であるアルディラがリィンバウムに暮らす上で欠かせない薬の材料を調達するために、クノンが一人で出かけてしまったからだった。
 この“事件”のことも知っていた真樹だったが、てっきりアティが対処するものであると思っていたところ、なかなかこの事件は発生せず、その前に帝国軍の宣戦布告がなされた。
 アティと海賊たちに護人たちが帝国軍との戦いに向かうところを観察していた真樹だったが、通信がクノンに繋がらないというヴァルゼルドの報告により、アティたちの観察を取りやめて大急ぎで廃坑にやってきたのだった。

「けが人は黙っとけっての! この医者の不養生!」

「私は看護士です。医師ではありません」

 負傷した事でしおらしくなっているかと思いきや、クノンは何時も通りの無表情でテンションの上がってきている真樹の発言を訂正する。

「いや、まあ、クノンの機能は、医者どころか、そこら辺の病院を越えてるけどな」

 そんなクノンの言葉に真樹も銃を乱射しつつ言う。
 何だかんだで余裕のある二人である。
 が、ここには余裕でいられない者もいた。

「蟲、蟲、ムシががガGA、い、いいいいっ~ぱいッ! ふふふ降ってくるのであり、ありありあり!! たたたた大佐殿ぉぉぉ!」

「「まあ、落ち着け(きなさい)」」

 天井から降ってくるジルコーダを銃とドリルを使って的確に粉砕するヴァルゼルドだが、その口からはあまりに情けない声が溢れていた。
 この妙に感情表現豊かなヴァルゼルドという機械兵士には、苦手なものがある。それは、ネコと虫(バグ)である。
 どうにもジルコーダの外見が、以前のいつ異常を来たしてもおかしくなかった時のイメージと重なるらしく、機械でありながら生理的嫌悪を催すのだそうだ。
 先日のジルコーダ退治の時は、ほとんど廃坑の外に誘き出していたのとアティたちがすぐに退治してくれたため耐えられたが、今回は、見渡す限り虫だらけであり、対物理防壁を展開すると通常の武器を装備できなくなるためバリアを張ってさっさと逃げることもできない。混乱しながらも的確な攻撃と撤退ルートを割り出すヴァルゼルドを見ながら「今後の課題だな」と、すでにヴァルゼルドの次のバージョンアップを楽しみに考える真樹もいた。

「ま、どっちにしろ出口までもうすぐなんだろ? それまで辛抱しろよ」

「りょりょりょ了解ででで、あります!」

 甚だ不安にさせられる口調のままのヴァルゼルドだが、そこは機械兵士。戦闘はしっかりとこなし続ける。

 そして、クノンを助けに廃坑に入って数十分後には廃坑の入口が見えるところまで辿り着いていた。

「大佐殿ぉ! 出口です! 出口なのであります!」

 外の明かりを確認できる位置に来たヴァルゼルドは、声のみで喜びを表し自然と早足になる。

「ヴァルゼルド、もうすこし安全運転を心掛けてください」

 そんなヴァルゼルドの肩に腰掛けていたクノンは、気分が悪そうに顔を顰めている。戦闘の衝撃で負傷した箇所の自己修復が進んでいないせいであり、乗り物酔いしたわけではない。後に真樹調べにより、ヴァルゼルドは乗り物酔いをすることが判明するが、それはどうでもいい余談である。
 機械兵士の喜びと余裕のなくなって来ている看護士のやりとりに笑いを堪え、真樹も足を早めた。

「おし! さっさと抜け出して、虫達を送り還し――ッぶほ!?」

 ラストスパートのつもりで加速をつけた真樹は、突然隆起した地面に足を取られ見事なスライディングを決めた――ヴァルゼルドの股下に。

「た、大佐殿……?」

 危うく踏みつけてしまうところだったヴァルゼルドが、ピクリともせずに自分の股下に横たわる真樹に声をかける。

「……ヴァル」

「は、はい! 何でありますか、大佐殿!」

 突っ伏したままの真樹のボソリとした呼びかけに答え、ヴァルゼルドは真樹を股下から解放する。
 真樹が躓いた隆起した地面の正体は、地中に潜っていたジルコーダだった。
 出口を目前にした一瞬の緩みを突かれた形になり、周囲をジルコーダたちが囲っていく。
 周りに集まるジルコーダに恐怖するはずのヴァルゼルドは、しかし、ジルコーダを気にする余裕を失っていた。

「……ヴァルゼルド。クノンをラトリクスまで送っといてくれ」

「は、は。しかし、大佐ど」

 長い付き合いと言っても良い期間をともに過ごしているヴァルゼルドは、これから真樹が行おうとしていることに気付き、どうにか落ち着かせようと対人オプションの中から適切な文章を探すが、

「いいから(鼻血)」

「了解であります」

 倒れたまま首だけを動かして先に行くように言う真樹の言葉に従った。
 負傷したクノンを早めにラトリクスへ連れ帰るのは当然として、これ以上真樹に“我慢”させてはいけないと判断したヴァルゼルドは、対物理障壁を展開するとともに飛行形態に変形する。

「それでは自分はこれで。大佐殿、ご武運を」

「おう(鼻血)」

 ヴァルゼルドの障壁で守れた空間の外にジルコーダたちが押し寄せ始めているのを背に立ち上がった真樹は、何処からともなく一振りの刀を取り出した。

「マキ……?」

 不思議な文字と紋様が刻まれた刀を抜き放つ真樹にクノンが始めて、心配するような色合いの声をかける。
 周囲を多い尽くすほどのジルコーダを相手に刀一本で太刀打ちできるわけがない。それがクノンの予測だった。

「大丈夫、心配すんな(鼻血)。今度、来る時は、ドリルで掘ればいいさ」

 クノンの不安と呼べなくもない考えなどまったく気にしない真樹は、見当違いの応答をする。
 そんな真樹の様子にクノンも真樹が何をしようとしているかを悟る。

「ドリルですか?」

「そう、ドリル(鼻血)」 

「ドリル……」

「ドリろ……(鼻血)」

 意味不明な意思の通じ方をする真樹とクノンは、互いに無表情。
 二人の意思疎通に、「今度は地中対応か」と心が涙したのは機密情報であります。byヴァルゼルド少佐。



















 一方その頃――

 暁の丘で激突したアティたちと帝国軍の勝負が決していた。

「私たちの勝ちです。アズリア……」

 そう宣言するアティの後ろには、ダメージはあるものの戦闘可能なカイル一家や護人たちが控えている。

「何故だ……? 戦う覚悟もできてない、甘い理想ばかり口にしているような相手に……」

 そんなアティと対峙するアズリアは、自分の背後に倒れる部下たちを振り返り、またアティを見る。

「どうして……どうして、私が勝てないのだ!」

 アズリアの部隊は戦闘続行は不可能。
 誇り高き帝国軍人として訓練されてきた部下たちだったが、彼女の部隊は、もともと何某かの問題を起した者や厄介払いされた者たちの寄せ集めだった。
 いかにアズリアが優秀な軍人であり、部下たちに信頼される隊長だったとしても、部隊としての質はともかく、部下たち個人の質まではどうしようもない。

 それに対しアティたちは、数でこそアズリアの部隊に負けるが、質の上では完全に上回っている。
 軍学校主席卒業のアティを筆頭に、帝国屈指の富豪マルティーニ家の子女で、同家が帝国での社会的地位を得る為に軍人となるべく幼い頃から教育(内容はともかく)を受けてきたアリーゼ。
 帝国軍を相手に大海原を渡った海賊船の船長カイル。その妹であるソノラは、拳銃から大砲に至るまで、あらゆる銃火器を扱う砲撃手。カイル一家の後見人にして航海士のスカーレルは、元は某暗殺組織に属し、『珊瑚の毒蛇』の二つ名を得るに至り、現在でもその技量に衰えるところ無い凄腕のオネエキャラ。『地味』の二つ名を持つ(嘘)カイル一家の客分ヤードは、某召喚師集団のトップに直弟子として鍛えられた召喚師である。
 この島を守る護人たちに至っては、遺跡の力を使って召喚術を修得し、ある種の力を島から得ている。
 『ラトリクス』の護人、融機人のアルディラは、ロレイラルの強力な召喚術を扱い、いざとなればドリルも扱える貴婦人。
 『狭間の領域』の護人、霊体を鎧で覆っているファルゼンは、物理攻撃に対して尋常ならざる耐久力を持つ。
 『風雷の里』の護人、鬼人のキュウマは、妖術と忍術を巧みに扱う忍者。
 『ユクレス村』の護人、『密林の呪い師』たるフバース族のヤッファは……。
 というように、一人一人のスペックを見れば数の優位が崩れるのも頷けるというもの(涙)。
 そんな超人集団を相手に、名も無き部下たちを率いて戦うアズリア。――グッドラック!(by真樹)

 そんな決戦の後、熱き海の男、カイルにアティの覚悟の形を教えられたアズリア。

「バカな……っ! そんなもので納得できるか……っ!」

 納得できるはずもなかった。

「やめて、アズリア! 決着はついたはずでしょう!?」

 いろんな意味で紅白を着こなす(サモンナイト世界屈指の○○を持つ)女教師アティが、(元)親友を止めようと叫ぶ。とその時、見計らったように戦場である暁の丘、その端に隠れて大砲を用意していた包帯だらけのビジュが砲撃を開始した(竜骨の断層で生き埋めになったにも関わらず生還を果たしていた)。

「イヒヒヒヒッ! いくら手前ェが化け物じみてようがよォ? さすがに大砲を前にしちゃあ手も足も出ねェだろうが!」

「ビジュ、貴様ッ!?」

 戦闘に参加せず、美味しいところだけをもぎ取るビジュに部隊の副隊長ギャレオが怒鳴る。ギャレオは、ビジュの独断行動を怒っているのだろう。

「姿が見えたいと思えば、そういうことだったワケね……(きっと女隊長さんの前で、自分より目立ってるのが許せないのね。うふふ、可愛いところがあるじゃないあの筋肉男)」

 表面上はシリアスモードのスカーレル。しかし、心の中で密かに萌えていた。

「ちったァ感謝してくださいよ、隊長殿? 俺様のおかげで、今貴方は、逃げることができるんですからねェ。イヒヒヒヒヒッ!」

 自分の手柄を誇示しつつ、苦虫を噛み潰したような表情の女隊長を(舐め回すような視線でby女性陣+オネエ)見る包帯だらけのビジュ。

「隊長、ここは……」

 ビジュばかりに活躍させてなるものかと、ギャレオも優秀な副官(設定)として女隊長に撤退を進言する。

「く……ッ。――総員、退却だ!!」

 苦渋の判断を下したアズリアの声に屍と化していた名も無き部下たちが立ち上がり、撤退の準備を始める。どんな時でも帝国軍人らしく、をモットーに副隊長ギャレオの号令に従って隊列を整えて行進開始。
 そんな去り行く帝国軍の殿を務めるようにアティを睨むアズリア。

「アズリア……ッ!」

 軍人に徹する友をどうにか引きとめようとするアティ。しかし、

「手前ェは、そっから動くんじゃねェッ!」

 包帯だらけのビジュが砲撃を再開させる。
 撤退していく部隊を他所に、見境なく砲撃を続けるビジュ。

「イヒヒヒヒヒヒヒッ! 壊れろ! 壊れろッ! いひっ、ひゃはは! うひゃははは……!」

(キ、キ○ガイがいる! byアティ陣営)

(なぜ戦闘中に援護しないんだボケ! by名も無き帝国軍人の皆さん)

 ビジュの砲撃により、さすがに生身では皆が危ないと思ったアティが抜剣しようとした――その時、

「な、なんだァ!?」

「じ、地震か!?」

 戦場を大きな揺れが襲った。

「お、おい、アレ見ろよ!」

 名も無き軍人の何人かがリアクションをとったことで揺れの原因が判明した。
 戦場となった暁の丘から『ラトリクス』方面を見ると山の一角が徐々に崩れる、というより陥没していくのが見えた。

「ぃいひいぃぃ……っ!!!」

 激しい揺れの中、気が狂ったように笑って大砲をぶっ放していたビジュが、潰されたカエルのような断末魔をあげていた。
 その後、アズリアたちは、ビジュが用意していた大砲を回収し、撤退した。包帯だらけのつぶれたビジュは、誰も担ぎたくなかったしく、大砲の砲身に詰められて運搬された。


 アズリアたちの居なくなった暁の丘で、アティは涙した。
 誰も傷つけたくないという自分の言葉が、親友だったアズリアに否定された。
 自分の思いを認めてくれる仲間はいる。
 しかし、同じ気持ちになって欲しかった友達は、認めてくれずに去って行った。
 それが悔しくて、かなしくて、アティはぽろぽろこぼれる涙をとめることができなかった。




 アティにとって辛い戦いが一つ終わりを告げた頃、そこに直接介入しようとしていた真樹は、すでにメイメイの店に帰って来ていた。

「ただいま~」

「おかえり~……って、どったの!?」

 唐突であるが、ここで明かすと「歴史を知っている」真樹は、アティのストーキングを趣味、もとい日課にしている。
 歴史の中心に立つアティを観察することで、次の事件発生を予測し、対処する。それが真樹のやり方である。
 しかし、今朝方ストーキングの結果から想定していた事件が起きるという真樹の報告を受けていたメイメイは、何故真樹が泥と悪臭を放つ妙な液体に染まっているのか理解できなかった。
 アティたちの戦いに参加したらな服が破けることも、泥だらけになることもあるだろう。しかし、報告を受けていた暁の丘で戦ったのならば、悪臭を放つ液体に染まるはずがなかった。

「な、なんで、ジルコーダと戦ってたの?」

「サブイベントは、任意だってことを知ったよ」

「そ、そう?」

 真樹の言っている意味をなんとなく理解したメイメイは、とりあえず慰めることはしない。

「風呂、は駄目だな。臭いが付いちまうし……海、行って来る」

「うん。遅くならないように……、しなさいね」

「わかってるよ」

 心底疲れた様子で自分の着替えを持って店を出る真樹の後ろ姿をメイメイは溜息まじりに見送った。
 その背が見えなくなると隠していた飲み掛けの酒を取り出し、ちびちび飲み始めた。

「今度は、何を失敗したのかしらねぇ~」

 この島で最も付き合いの長いメイメイが見るに真樹という少年は、自分の思い通りにならないことを楽しむ傾向がある。しかし、その反面に自分自身の失敗に対しては全力で後悔する。
 真樹は、アティたちの運命に深く関わりたいと思っているため、自分が関わった事で状況が悪くなることを恐れている節がある。

 しかし、そのような弱さを見せる真樹が『至竜』に到ることも不可能ではないとメイメイは考えている。
 確かに『無限界廊』で魂を鍛えてきた真樹は、『至竜』に至る力を得ているだろう。だが、心がその力に耐えられなければ『堕竜』に堕ちる。

「けぇど。あの子の弱さは、そっちの弱さとはちょ~っと、違うんですよねぇ」

「ふむ。して、その心は?」

 と、いきなり店の奥から現れるもう一人の龍姫。

「ん~『エロ』?」

「なるほど。『えろ』か」

「うん、『エロ』」

「『えろ』」

 最早、何がなんだか。





 一方その頃――

「ぐぬお!!! よっしゃ!! ソノラ、いけっ――て、そこじゃねー!!」

 海岸で汚れと臭いを落としながら落ち込んでいるはずの真樹は、カイル一家の海賊船の方角を『ラトリクス』製の望遠鏡で男子禁制の桃源郷を観察するのに夢中だった。
 アズリアとのことで辛い気持ちにも関わらず、みんなに心配をかけないように涙を拭って笑っていたアティ。
 そんなアティを誘って一緒にお風呂に入ったソノラが、アティを元気付けようと無邪気に戯れる。アティとソノラの戯れを恥ずかしそうに、されど興味心身で観察するアリーゼ。そして、アリーゼがソノラに言われるがままにアティの二つのお山に手を伸ばしたその時――

「何をしてるんですか?」

「(何って、覗きに決まってるだろ。NO・ZO・KI! お、そこだアリーゼ! 摘ま、」

 常人では不可能な断崖絶壁から桃源郷を観察していた真樹は、色に染まりすぎて浮遊する少女の鉄塊による鉄槌に気付く事ができなかった。



















本日の真樹のパラメータ
 Lv.91
 クラス-黄昏の魔剣師(NOZOKI皇帝)
 攻撃型
  横・短剣(千斬疾風吼者の剣)、横・刀(銘刀サツマハヤト)、横・杖(怨王の錫杖)投・投具(柳生十字手裏剣)、射・銃(NC・ブラスト)
 MOV7、↑5、↓6
 耐性-機・大、鬼・大、霊・中、獣・小
 召喚石6
 防具-軽装(英傑の鎧-軍装ver)
 特殊能力
  誓約の儀式(真)・全、送還術
  見切、俊敏、先制、闘気、バックアタック、ダブルムーブ、勇猛果敢、心眼、絶対攻撃、狙い撃ち
  異常無効<狂化・石化・沈黙>、アイテムスロー
  サルトビの術、真・居合い斬り、フルスイング・改、ストラ、バリストラ、憑依剣
 特殊武装-縦・刀(神刀・布都御魂)
 召喚クラス
  機S、鬼S、霊S、獣S
 護衛獣召喚石(固定)
 ・ヴァルゼルド
 装備中召喚石
  機神ゼルガノン、ヴァルハラ、天使ロティエル、聖鎧竜スヴェルグ、龍神オボロ、ジュラフィム



・浮遊する少女
 クラス-霊界の護人
 攻撃型-縦・大剣(鉄塊)
 特殊能力-浮遊、NOZOKIハンター











オリ特殊能力解説
<主人公>
 誓約の儀式(真)・全-誓約者と同じ召喚法。
 送還術-召喚術をキャンセルする。誓約に縛られていない異界の存在ならば強制的に元の世界に送り返すことができる。
 真・居合い斬り-見よう見真似の居合い斬り。本家本元にも引けを取らない威力に成長。
 フルスイング・改-横切りタイプの攻撃力が1.5倍になる。
 憑依剣-武具に異界の力を憑依させる憑依召喚術の発展技術。

<浮遊する少女>
 NOZOKIハンター
  女性の敵に罰を下す断罪の剣を揮う際、攻撃力10倍+防御能力完全無視+超隠密行動というコミック力場を最大限に利用したスキル。
  同種の効果を発揮するスキルに「TIKANスレイヤー」、「パンドロ(下着泥棒)キラー」などがある。

特殊武具
 鉄塊-異世界より特殊召喚された巨大な鉄の塊と見紛うほどの大剣。特殊効果-カチ割り)






[2746] 無限界廊の異端児 第12話 完全解禁・混沌編
Name: もにもに◆2285b348 ID:89adfc6d
Date: 2008/09/22 16:27


無限界廊の異端児

第12話 完全解禁・混沌編








 空間が蜃気楼のように歪んでいる。
 尋常ならざる力がそこに形を成さずに存在する。それは濃い、とても濃い赤。
 炎と呼ぶにはあまりにも鮮やかすぎる紅。
 真樹が正眼に構える刀に宿った異界の力の顕現。

「次で決めます」

 真樹は、目の前に立ち塞がる巨大な鎧武者へその切っ先を向ける。
 その鎧武者は、無限界廊の最下層すら容易く制覇するほどに成長した真樹の更なる成長を促す為に招来された鬼妖界の剣聖。幾多の戦場において、人も、妖怪も、鬼神、龍神すらも等しく切り捨て、生きながらに荒神となった修羅。最早、その手に構える大太刀すらも数多の血を、魂を喰らった妖刀。

「……ォ、ォォ……ォォォ、ォォ……」

 鎧武者は、眼前に立つ少年の言葉にただ言葉にならない音を漏らすだけ。そこに魂の輝きはない。
 しかし、その魂に刻まれた剣技は幾許も衰えるところはない。
 すでに数百合。両者の刀が打ち合ったのか知れない。
 そして、先に限界を感じたのは当然の如く真樹の方であった。

「四方より集いて、我が一閃に宿れ!」

 メイメイから与えられた神刀・布都御魂。その刃にぼんやりと纏わり付いていた鮮やかな紅の蜃気楼が、真樹の言霊によって明確な形を得る。
 それは、真樹の師としてメイメイが授けた異界の力を武具に宿す技術――憑依。
 数多の憑依召喚と違うのは、憑依させるのが通常の召喚獣ではなく、それぞれの世界にある最上位の魂を招くところにある。
 メイメイの故郷たる鬼妖界の龍神・鬼神はもとより、術者の適性次第では、霊界の大天使や大悪魔、幻獣界の幻獣・神獣の魂さえも招く事ができる。故にこの技術は――神威召喚、と呼ばれる。

「――……いざ」

 鬼妖界の神威を宿した刃は、宙に紅の軌跡を刻んで奔る。

「ォ、ォ……ォォォォォォォオオオ!!!!!!!!!!」

 神ですら屠る修羅と化した剣聖もまた、自身の妖刀に力を込めて振り抜く。
 魂を鍛える場である無限界廊を揺るがす強大な二つの神威。
 それらが互いに相手を滅ぼさんと凌ぎを削る。

 一合、

「……ッ!!」

 二合、

「……ァ……ァッ!!」

 三合、

ヅ、……ヅッッ!!」

「ァ――ァァァァァアア!!!」

 四合――

 留まる事を知らない剣戟が無限界廊に木霊する。
 永遠に続くかのような熾烈な鬩ぎ合いも、時間が経てば立つほど生身である真樹が押されていく。
 対して、剣聖たる鎧武者の顔無き貌は、狂気と狂喜に満ち溢れている。
 自分と刃を交え、再び立ち会ったことがある剣士に鎧武者は出会ったことがなかった。鎧武者に唯一の敗北を与えた相手は、神通力を駆使する龍姫だった。故に、剣の勝負においてここまで付いてくる人間など存在しないと思っていた。
 しかし、死してなお転生を拒み続けた鎧武者の前に、ようやくその者が現れた。生の中では癒すことのできなかった渇きが癒えてゆく。それが嬉しくもあり、空しくもある。

 最早、一拍の停滞も許されない。
 どちらかの刃が相手の身を斬り裂くか、それとも刀を揮う力が尽きるか。

 生者である真樹と死者である鎧武者では、持久力に決定的な差がある。
 故に、純粋な技量で僅かに劣る真樹が鎧武者に打ち勝つには、一瞬にすべてを賭けるしかない。
 しかし、真樹はいつまで経ってもそれをしない。鎧武者も、それを分かっているからこそ、狂喜に頬を歪ませている。
 其れは何故か? 

 答えは簡単である。真樹の中に、一か八かはない。
 たとえ、勝てないと理解していても決して命を捨てることは考えない。

「……ッッそォ!!」

「ハ……、ハハ、フハハハハハッッッ!!!」

 どこまでも生にしがみつく真樹の攻めを、幾戦もの死を生み出した鎧武者の攻めが凌駕する。
 そこに殺意はない。ただ目の前の敵に勝利したいという想い。
 それは、決して色褪せる事のない両者の意識の中にある共通の認識。

 そして、修羅の刃は、今日もまた、勝利という美酒を啜るのだった。










 無限界廊から帰還した真樹は、よれよれのくたくたで『ラトリクス』のリペアセンターで治療を受けていた。
 すでに命に関わる傷の治療は完了し、今は体力が回復するのを待っている。

「づあ~~~~~~~!!」

 真樹は、ここ数日間ずっとカプセルの中で同じような奇声を毎日叫び続けている。

「大丈夫でありますか、大佐殿?」

「ぜっんぜん大丈夫じゃねー!」

「これ以上騒ぐようでしたら鎮静剤を投与いたしますが、それでもよろしいのですか?」

「ごめんなさいッ!」

 まだまともに動く事も儘ならない状態にも関わらず、煩い患者を注意するクノン。そんな看護士の言葉にすぐさま謝罪する真樹。
 どんなに鍛えても、注射は精神的に受け入れられない真樹なのだった。
 そんな真樹の態度に、クノンは溜息を付いた。

「貴方が、どのようなことをしようとも、私の関与するところではありません。しかし、このようなことを続けていれば、いずれ当施設の技術でも治療が不可能な事態も起こりえます。貴方は、もっとご自身の体を労わるべきです」

 主だった傷の治療を終え、他に異常がないか検査をしていたクノンがカプセルのパネルを操作しつつ言う。

「けど、最近は死なない程度のやられ方を憶えてきた事だよな。だからさ、できれば、“あの人”に勝てるようになるまでは続けたいんだけど」

 そんなクノンの言葉に開いたカプセルから這い出た真樹は、ばつの悪そうな苦笑いで頬を掻く。
 真樹の答えにクノンは再び溜息を付く。

「もう一度言いますが、貴方が何をしようと私の関知するところではありません。――ただ、」

「おおっいぃ!」

 何かを言おうとしたクノンの言葉を遮り、真樹はすぐさま近くに置いていた刀を取り、すぐでも駆け出そうと周囲を見渡す。

「おい、クノン! アルディラさんは!?」

 突然の問いにクノンは、自分が言いかけていた言葉を思考回路の片隅に押し込んで首をかしげながらも答える。

「? アルディラさまなら、アティさまと一緒に帝国軍を止めに出かけました」

「ッ! 帝国軍を止めにって放火のことか?」

「はい。それが「ヴァルゼルド、『風雷の郷』だ!」――あ、お待ちください!」

 クノンが事情を問いただす間もなく、真樹はヴァルゼルドの背に飛び乗り、雨の降りしきる空へと飛び去った。
 何の前触れもなく真樹が飛び出すのは別段珍しいことではないことのはずが、クノンはそのことに対して言語化できない何かが自身の中に生じるのを感じた。

「……これは、何と表現するべきでしょうか」

 それは人間の感情にある「苛立ち」が最も近い、とクノンは判断した。
 機械人形である自分が、「苛立つ」ほど手間の掛かる患者が、性懲りもなくまた何事かの争いに関わろうとしている。
 クノンは、そのことを統計上の予測ではなく、真樹の行動から「感じた」のだった。

「仕方ありませんね。次からの治療は、常に麻酔を効かせておくことにいたしましょう」

 最近では、専属になりつつあるその患者の次の「治療」に想いを馳せるクノンは、妖しげな「微笑み」を浮かべていた。









 一方その頃、真樹が向かっている『風雷の郷』では、記憶喪失と偽って島に潜入していたイスラが本性を明かしてアティたちの前に現れていた。

「あっははははは! そうさ。僕の名前はイスラ・レヴィノス。帝国軍諜報部の工作員であり……、アズリアの弟さ!」

「そんな……」

 この島へやってくる前、船の中で見かけ、島に流されてきたイスラの不可解な行動などを多少なりとも警戒していたアティも、イスラがアズリアの弟であるとは思ってもいなかった。
 とうとう正体を現したイスラに姉であるアズリアも若干の疑惑を持って訊ねる。

「まさか、お前がビジュと接触していたとは思わなかったぞ。イスラ」

「秘密を守るのは、諜報部の鉄則だからね。計画を実行するまでは姉さんにも、話すことはできなかったんだよ」

 姉の問いにすらすらと答えるイスラ。

「選択の余地はなし、か」

「対面を気にするあまり、失敗を失墜してしまったら、それこそ本末転倒でしょう?」

 帝国の軍人として動いていたと言う弟に、アズリアもまた軍人として呟く。 そんな姉の呟きに笑顔で頷くイスラ。

「汚れ役は、僕が全部引き受けるよ。姉さんは、ただ黙認してくれればいい」

「わかった……」

 イスラの言う事は、帝国軍人として当然のこと。
 これまでアティたちに敗北し続け、奪還すべき『魔剣』を海賊の手に渡したままであるアズリアにイスラの作戦を拒む権利はなかった。

「それじゃあ取引といこうか?」

 イスラの言葉にスバルや『風雷の郷』の住人たちを人質にとる帝国軍の兵たちが、それぞれの人質に刃を突きつける。
 アティに選択の余地はなかった。
 虚空より、封印の魔剣『碧の賢帝』シャルトスを抜剣する。

「これを……渡せば良いんですね?」

 差し出されたシャルトスをイスラに促されたアズリアが、アティの手より受け取る。
 
「――すまん……」

 シャルトスを受け取る際、アティにだけ聞こえるようにアズリアは、小さく呟いた。
 その様子に自分の友人が、やはり昔と変わらないでいること、このような状況を望んでいなかったことを確認したアティは、イスラの次の出方を見極めることにした。

「さあ、これで文句はないはずです。皆を解放してください」
 
 このままイスラが人質を解放するとも思えないでいるアティだったが、まずは相手のアクションを待つしか自分たちに方法がないことも理解していた。
 が、アティの最悪の予想に反してイスラはすぐにスバルの解放を指示した。

「ほらよッ」

 イスラに言われ、スバルを捕らえていた包帯だらけのビジュが乱暴にスバルをアティの方へと押し出す。
 ビジュに押され、よろめきながらも駆け出したスバルがアティに抱きつく。

「せんせえっ!」

「もう、大丈夫ですよ。さ、パナシェ君たちのところに」

「うん!」

 まだ他の人質が解放されないのを見て、アティはスバルを後ろに下がらせる。
 そして、アティの読み通り、他の人質は解放されなかった。

「品物ひとつに対して、人質が一人。正当な対価でしょう? 全員を解放してほしんだったら、また、別の対価を用意してもらわないとね」

 卑怯で図々しい物言いを当たり前のことのように言うイスラ。

「これ以上、何を望むんですか!?」

 そんなイスラの物言いに、さすがのアティも声を荒げた。
 怒りを露にするアティを不適な笑みで見据えるイスラは僅かに考え、そしてさらっと要求を述べた。

「そうだね。君の命、かな?」

「イスラっ!?」

 イスラの要求にアティが絶句し、アズリアが吠えた。
 アズリアもこれ以上は、軍人としての誇りや親友だったアティへの想いから我慢する事ができなかった。
 しかし、そんあアズリアの制止の声もイスラには、なんら堪える様子がない。

「使い手が死ねば、もう、この剣の力に怯えなくていい。違いますか?」

「ヒヒヒッ、隊長殿。まさか、イヤだとかぬかしたりしないでしょうねェ?」

 イスラの言葉に乗じて卑しい笑いを上げる包帯姿のビジュ。

「みんなのために犠牲になれるんだ。……アティ、いかにも君に相応しい結末だと僕は思うけど?」

 そう言ってアティと向き合うイスラは、他者を嘲笑うかのような卑しい微笑みの端に小さな翳りを見せる。
 剣を手放したこの状況で複数の人質を安全に取戻すことはできない。
 要求を呑んだからといって本当にイスラが人質を解放するか保障はない。
 しかし、他に方法がないのならば、アティは自身の命を投げ出すことを厭うことはない。

「わかり「こーーーーーーー!!!」まし、――はい?」

 何処からともなく響き渡る雄叫びのような声にその場にいた全員が周囲を見渡す。

「な、どこから!?」

「こ、この声は!?」

「まさか、あのガキ!?

「あ、ああ、あああ、や、やめ「んのッ、とーーーーへんぼくがーーーーーー!!!」<スパーーンッッッ!!!> あんぎゃあああああ!!!!!」

 アティの決断へのツッコミだと思われるセリフと共に現れたのは、この島ではお馴染みのエロリストこと上杉 真樹その人であった。
 しかし、一応アティへのツッコミの言葉だったと思われるが、何故か1mくらいの無意味に巨大なスリッパで叩き潰されたのは、包帯だらけのビジュだった。

「をい、そこのエロ教師! 平和主義も大概にせい!」

「あ、え……え、エロ教師?」

「「「「「「「「「「「「「「「エロ教師……」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

「「「「「「「「「「「「「「「エロ、女教師……(ごくり)」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 ビシッとアティを指差して叫ぶ真樹。そして、一瞬惚けた場の中、まず初めにアズリアが、アティを嘘だろ?という眼差しで、次いで人質にされていた『風雷の郷』の住人たちがアティを信じられないという風に見詰め、最後にこの島に着てから色々なところで欲求が溜まっている帝国軍の軍人さんたちがアティの体を凝視した。

「わ、あわわ、あわわわわわ?!?!?!?!?!?!」

 あっという間に周囲の視線を独り占めしてしまったアティは、顔どころか耳から首まで真っ赤に染まっての大混乱。
 羞恥のあまり体をモジモジする様が、敵味方なく周囲の男たちに強力な魅了チャームをかけているのに本人は気付かない。

「こ、こんな大勢の前で、な、なな、なんてこと言うんですか!?」

 どうにかそれだけを搾り出したアティに例の如く、ビジュを潰れたヒキガエル状態にしていた真樹が、不自然に腰の引けた姿勢でアティの前に立つ。

「をををい、こ、ここんのエロエロムッチン!」

「ッッ違います!」

 真樹のわけの分からん呼称を全力で否定するアティ。
 しかし、あっという間に空気を一変させ、場を大混乱に陥れた張本人たる真樹もまた混乱の極みにあった。
 それもそのはず、無限界廊の異端児たる真樹は、その修行で多くのスキルに修得し、状態変化を無効化するの異常無効のスキルを修得しているのだが、無効化できる状態は<狂化・石化・沈黙>の三つ。

「き、きき君のぉぉ、エロ萌えアピールにぃぃぃ! この言葉を贈るしかないぃぃぃおおお!」

 ――そうなのである。真樹は、『異常無効<魅了>』のスキルを持っていない、いや、あえて体得しなかったのである!

 そして、いつの間にか、周囲の男たち(スカーレル、イスラ、潰れたビジュ、子供たち、枯れた爺さんを除く)を毒電波で汚染し、自分の意のままに操り、陣形を整える真樹。

「さあ、同胞たちよ! ――んんんッッπ満点!!








 後にアリーゼは語る。「王子様は、絵本の中だけの存在なんです。私、絵本作家になります!」
 後にソノラは語る。「兄貴の好みはあんなだったなんて……。わ、私だってすぐに先生みたいに大きく」
 後にアルディラは語る。「ヤッファはともかく、まさかキュウマまで……」
 後にファルゼン(ファリエル)は語る。「カチ割方がたりなかったみたい」


 その晩、僅かな生き残りを纏めて撤退したアズリアが、軽蔑の眼差しをギャレオに向けていた。

「まさか、お前まで……」

「う、申し訳ありませんでした、隊長。あのマキとかいう子供の言葉を聞いていると頭の中が急に真っ白になってしまい……」

 アズリアの前で正座して頭を垂れて反省するギャレオ。

「うむ。ならば、あのマキというヤツは、なんらかの催眠術をお前たちにかけた、ということか」

「はい。私には、隊長という御方がありながら、敵のリーダーに萌えるとは何たる失態を!」

 拳を握り締め、壮絶な苦悶を浮かべる顔でアズリアを仰ぎ見るギャレオ。しばしの沈黙、そして――

「――……は?」

「それでは改めましてぇぇぇ! 隊長のぉぉツンデレぶりにぃぃぃ敬意を込めてましてぇぇぇ! πまごぼぁ!!

誰が!グシャ>、いつッ!ゴキャ>、デレたかッ!!メギャ

「ば、隊長ばいちょうぉぉぉぉ~~~~

 ギャレオの脳内から真樹の毒電波が消去されるまで、森の中にアズリアの怒声とギャレオの嬌声が響き渡った。





 

 後に真樹は語る。

「アティ先生にπするのは、今日で最後にします」

 そして、リペアセンターの中をひっきりなしに駆け回るクノンが通りかかると、

「貴方のおかげで、当施設始まって以来の大賑わいです」

 あちらこちらから息も絶え絶えな「も、萌え~」という野太い呻き声が響き渡っていた。





 史実であればイスラの非道が、アティに『シャルトス』の暴発させるところを真樹のπ衝動が成り代わってしまったのだった。












本日の真樹のパラメータ
 Lv.93
 クラス-πの伝道師
 攻撃型
  横・短剣(千斬疾風吼者の剣)、横・刀(銘刀サツマハヤト)、横・杖(怨王の錫杖)投・投具(柳生十字手裏剣)、射・銃(NC・ブラスト)
 MOV7、↑5、↓6
 耐性-機・大、鬼・大、霊・大、獣・中
 召喚石6
 防具-軽装(英傑の鎧-軍装ver)
 特殊能力
  誓約の儀式(真)・全、送還術
  見切、俊敏、先制、闘気、バックアタック、ダブルムーブ、勇猛果敢、心眼、絶対攻撃、狙い撃ち
  異常無効<狂化・石化・沈黙>、アイテムスロー
  サルトビの術、真・居合い斬り、フルスイング・改、ストラ、バリストラ、憑依剣、毒電波・π
 特殊武装-縦・刀(神刀・布都御魂)
 召喚クラス-機S、鬼S、霊S、獣S
 護衛獣-ヴァルゼルド
 装備中召喚石
  機神ゼルガノン、ヴァルハラ、天使ロティエル、聖鎧竜スヴェルグ、龍神オボロ、ジュラフィム


オリ特殊能力解説
<主人公>
 誓約の儀式(真)・全-誓約者と同じ召喚法。
 送還術-召喚術をキャンセルする。誓約に縛られていない異界の存在ならば強制的に元の世界に送り返すことができる。
 真・居合い斬り-見よう見真似の居合い斬り。本家本元にも引けを取らない威力に成長。
 フルスイング・改-横切りタイプの攻撃力が1.5倍になる。
 憑依剣-武具に異界の力を憑依させる憑依召喚術の発展技術。
 毒電波・π-自身と同じ対象に魅了された男たちを洗脳し、数分間見事なシンクロ技を発揮する。






[2746] 無限界廊の異端児 第13話 汚染増殖・噴出編
Name: もにもに◆2285b348 ID:89adfc6d
Date: 2008/11/18 22:42

無限界廊の異端児

第13話 汚染増殖・噴出編









 ある晴れた日の海。
 美しい砂浜に、浅瀬を泳ぐ色とりどりの魚たち、近くには温泉の湧き出る場所もあり、行楽地として一押しの場所である。
 そんな海を眺める血のように赤い海パン姿の少年が、一人佇んでいた。

 封印の魔剣『碧の賢帝』シャルトスを狙うアズリア率いる帝国軍との戦い、島の子供達の授業とアリーゼの個人授業、さらに島の住人たちのお手伝いなどなど。
 島に流れ着いてから休むことなく多忙なスケジュールを送っているアティ。それを見かねた仲間たちは、アティに一日の休暇をあげる事にした。
 しかし、有効な余暇の過ごし方など頑張り過ぎ屋のアティには思いつかず、仲間たちに相談してみんなで一緒に出かけることに決まった。

 そして、アティの休日に際して、仲間たちが最も注意していることがある。それは―――

「うっっっひょおおおおおおおおお!!!!」

 今現在、イスアドラ温海の浜辺で雄たけびをあげる真っ赤な海パン姿の少年、上杉 真樹をアティに近づけないようにする事。
 アティが疲労に感じる事柄は多々あるが、そのほとんどを顔に見せることはない。仲間たちに心配をかけないようにいつも気を張っているためだ。
 しかし、アティが唯一疲労もストレスも隠す事ができないほどの事柄があった。
 その最大の要因、セクハラナイト、エロリスト、πの伝道師、その名を進化させつつアティの羞恥心を極限まで引きずり出し、限界突破させて悶えることを生態とする少年、上杉 真樹。
 真樹の存在は、アティにとって乗り越える事のできない壁であり、近づくだけで積み重ねられた羞恥をさらに上乗せするスイッチとなっていた。
 すでに、『真樹のあるところにアティの涙あり』という事実に基づく格言が広まっていた。

 故に、せっかくの休日にアティの安息を守るため、嘘の情報を用い、真樹の保護者?兼師匠であるメイメイの協力の下、真樹をイスアドラ温海に足止めする役目を担った者たちが居た。

「ほらほら、いっくよ~!」

 スポーティなセパレートを纏って控えめな胸を揺らし、若く瑞々しい健康的な美脚を惜しみなく見せてサーブをうつソノラ。

「うおッ!?」

「ナイス、ヤッファ! おら、マキ!」

 囚人水着のヤッファが拾ったボールを赤褌のカイルが見事なトスを上げる。

「ナイス、トス! ちゅりゃぁあー!!」

 男三人チームの中で最も背が低いものの、もっともジャンプ力のある真樹が、最高点に達すると同時に強烈なスパイクを射ち込む。
 相手チームがすべて女性であるという事実など考慮する事などない真樹の一撃が、慣れないスポーツと砂場に足を取られフラフラするアルディラに向かう。

「きゃぁっ!?」

 狙いすましたかのようにアルディラの肩口を掠ってボールが落ちていく。
 白と黒のビキニを着用するアルディラが、動くたびにたわわに実る禁断の果実が揺れる。
 その様に男チームは、その揺れをコンマ1も見逃さぬように瞬きなど一切せずに両の目を見開いて凝視する。
 そして、真樹の度重なる狙い撃ちにより蓄積されたダメージによって、アルディラの水着の肩紐が解れる。

「「「のほほほほほぉっ!!」」」

 すでに真樹の毒電波に汚染されたカイルとヤッファも野太い声を上げて決定的な瞬間を逃さないように前のめりになる。
 もはやゲームの行方なんぞ気にするオスはいない。

「にゃははは~」

「「「ぷろろろろろろぉっ!!」」」

 アルディラのポロリに釘付けになっていたオス共が、メイメイのファインプレイを片目で捉える。
 見事な龍の銀刺繍が真紅のビキニに栄えるメイメイの肢体、ボールを追って宙を舞うとダイナミックに揺れる二つの宝珠。
 出るとこ出ているアルディラとメイメイに視線を奪われる男共を他所に高々と空を舞うソノラ。

「メイメイさん、ナーイス! そーれっ!!」

 ソノラの見事なアタックが決まる。

「マキっ! いい加減にしなさい!!」

「にょほほほのほぉ!! なんのことざましょ」

 顔を真っ赤にしながら解れた肩紐を直すアルディラが怒るが、真樹はしらんぷりをしつつも視線は、狙いをはずさない。

「―――って、無視!!」

 勝負は、完全に女性陣の圧勝なのだが、男たちは気にしない。  
 何しろ男たちの目には、ダイナミックかつ淫靡にゆれる四つの奇跡が映っているのだから!
 約一名納得いかない様子の少女がプンスカぶーたれているが、毒電波に汚染されている海の男と虎男は見向きもしない。
 しかし、そんな少女にもちゃんとフォーローが入る。

「僕は、無視しませんよ、ソノラさん!」

「と言いつつ、視線がアルディラとメイメイさんに向いてるじゃない!」

 両陣営のネット際選手同士の交流も妙なことになっている。
 鼻の下が伸びきった真樹にいきり立って詰め寄るソノラ。

「兄貴たちは、しょうがないとして! アンタに無視されるのは、ムカつくのよ!」

 ネット越しに拳をぶんぶん振りかぶるソノラに真樹は突然真顔になる。

「な、何よぉ! いきなりな――ぁ、ぁぁぁ」

 いきなり真面目な表情になった真樹に一瞬気圧されたソノラ。
 次の瞬間、ネットの網目から伸びた真樹の両手が、まだまだこれからのソノラの双桃を奇跡の秒間11揉み!

「小さな桃ちゃ――「ぃきゃあああ!!!」ぶるぅおぁッ!!!」

 ナチュラルに胸を揉みしだかれたソノラが、3秒ほどの硬直を経て、超空間チャンネルを開いて招きよせた銃を乱射。

 アティの代わりにその身を捧げるアルディラとソノラ、アティの為に真樹を押さえつける役を担っていた海の男カイル&虎男ヤッファ。
 混迷を極める即席ビーチボール対決。
 真樹を丸一日押しとどめるために、どんなセクハラ技を受けても健気に立ち向かう女性陣と毒電波・Bに侵食され意気を荒くする男共。
 アルディラとソノラは、あま~いりんごのように真っ赤に熟す中、メイメイのみは酒気が原因で赤くなっている。
 真樹のナチュナルなセクハラを受け止める真樹の師匠兼保護者?のメイメイだけは、そのヤンチャなバディを隠すどころか見せ付けている。
 先ほどソノラの胸を3秒間33揉みした真樹だが、メイメイやアルディラの胸は、1秒で朱の華を咲かせて10秒ほど自滅してしまう。なので、真樹の海パンは真樹自身の鼻血で真っ赤に染まってしまっている。

 昼前から続く足止め計画は、競泳(不自然な接触事故多発)、ビーチフラッグ(約一名、旗ではなく水着を狙う)、スイカ割り(見えないはずなのに的確にメロンやモモに直行する輩が一匹)などなど、最高の萌エロティ-チャー・アティがいない為、『萌』がなくなり『エロ』のみが加速する展開になりつつあった。
 憔悴しつつも血色の良くなる女性陣の姿にブレーキの壊れた妄想エクスプレス、真樹は止まらない!

「もう、いやああああ!!」

「ひえええええええん!!」

「にゃははは~!!」

「ぬぴょぴょぴょ~!!!」

 瞳を潤ませながら耐える女性陣、人語を解さなくなりつつある男性陣。

 普段なんら制裁を受けることで停止する真樹のセクハラも、アティの休日が終わるまで足止めしなくてはならないために抵抗することができない。
 真樹は、アルディラたちの思惑を理解しつつも、この状況から離れられない。
 アルディラとソノラの犠牲は、決して 無駄ではないのである。

 そんなビーチの様子をヤシの木の陰からひっそり監視する影が二つ。

「クノン殿は、行かないのでありますか?」

「……いえ、私は私の役目を果たします」

 真樹が逃走した際に即時アティ保護チームに連絡する役目を得ているクノンとヴァルゼルド。
 飛行可能なヴァルゼルドが、イスアドラ温海と蒼氷の滝を定期的に行き来しており、今はちょうど二度目の提示連絡のためにやってきていた。

「しかし、その水中用装備は大佐殿からの「支援要請」ltカウイオfbヴィオジャw!!!!!!」

 余計なことを口走りそうになったヴァルゼルドに、強制インジェクスを食らわせて黙らせるクノンは、無表情のまま真樹の所業を記録する。
 クノンの視線の先で、アルディラのヒップにダイブした真樹が真っ赤な華を咲かせていた。

「…………62回目、です」

 無表情のクノンが数えるのは、真樹のセクハラの回数。

「アルディラ様への接触62回。ソノラ様への接触21回。メイメイ様への接触51回―――」

 ヤシの木に顔半分を隠し、背後でオーバーヒートするヴァルゼルドを放って、黙々と真樹の所業を記録し続けるクノン。
 最近では、表情からは読み取れないクノンの内心を感じ取れるようになっていた真樹だが、今日は目の前の獲物に夢中で感づく事ができないでいた。

あの……は……い……です

 ただひたすらに監視の役目を全うするクノンは、ブツブツと何事かを呟きつつ本日7本目のヤシの木をへし折った。




 この日の午後、休日を楽しむことのできたアティたちが、解放を求めて立ち上がったジャキーニ海賊団をマルルゥと共に懲らしめ終わった後に帰還した『真樹足止め隊』たちは、羞恥の余韻と恍惚の余韻にそれぞれイイ表情をしていた。







本日の真樹のパラメータ
 Lv.95
 クラス-セクハラ将軍
 MOV7、↑6、↓6
 防具-水着(血染めの海パン)
 特殊能力
  毒電波・π、毒電波・B

本日のカイルのパラメータ
 クラス-汚染されし赤褌
 防具-水着(赤褌)

本日のヤッファのパラメータ
 クラス-汚染されし縞々
 防具-水着(縞々水着)

本日のソノラのパラメータ
 クラス-揉みしだかれし乱射魔
 防具-水着(セパレート)

本日のアルディラのパラメータ
 クラス-羞恥に染まりし貴婦人
 防具-水着(白黒ビキニ)

本日のメイメイのパラメータ
 クラス-豊満なる占い師
 防具-水着(赤ビキニ)

本日のクノンのパラメータ
 クラス-潜める看護師
 防具-水中用装備(スークル水着&下だけブルマ)

オリ特殊能力解説
<主人公>
 毒電波・π-自身と同じ対象に魅了された男たちを洗脳し、数分間見事なシンクロ技を発揮する。
 毒電波・B-基本は、πと同種だが、こちらは汚染された者の基準で対象を凝視し続ける。









[2746] 無限界廊の異端児 第14話 最終形態・修正編
Name: もにもに◆d4f1932e ID:72a9f08e
Date: 2009/07/16 14:31

無限界廊の異端児

第14話 最終形態・修正編







 アティが偶然手にしてしまった封印の魔剣――碧の賢帝シャルトス。
 強大な力を所有者に与える反面、使用者の肉体を著しく変革し、時に精神への干渉も行うという危険な力。
 ラトリクスの護人であるアルディラは、島のために剣の力を使えと言う。
 境界の狭間の護人であるファルゼンは、アティたちの為にも剣を使うなと言う。
 同じ護人でありながら正反対のことを言う二人。

 そして、島の中心地――喚起の門で島の亡霊たちと戦っていたファルゼンから封印の魔剣に秘められた真実のひとつを聞かされたアティ。
 人は隠されたモノほど求めるもの。
 まして、アティは自分が持ってしまった力がどういうものなのかをほとんど知らない。
 力を持った者は、それに応じた責任を負わなければならない。
 アティは知らねばならなかった。
 そして、魔剣の正体を知るには、護人たちが隠している喚起の門よりさらに奥にある遺跡を目指すほかない。



 封印の魔剣の正体を知るために島の中心部にある遺跡に向かう途中の森をアティ一行が進む中、ひとりの異人が紛れていた。

「ま、それは良いんだけどさ。なんで俺は縛られてんの?」

 とても(欲求)不満そうにぼやく島の名物少年、真樹。
 島の遺跡を探索するにあたって、集いの泉でカイル一家と話し合いをしているところに無限界廊での修業を終えた真樹がたまたま現れたのだった。
 アティ達に自分たちの行動を隠すつもりはないが、遺跡に入るまでは護人たちに知られるわけにはいかない。
 そのため仕方なく縛り上げて探索に同行させることにした。

「まあ、こういうのも悪くないけどさ。絵的に♀キャラを縛った方が良くね? こう乳尻のムチムチを荒縄できゅっと絞って際立たせるようにさ」

「頭に虫が湧いてるんじゃないの? それと“♀”とか言うな! このヘンタイ!」

「ふ、安心していいよ、ソノラ。ボリュームが少なくても縛りのエロさは変わら<ズドンッ>……ぐふっ」

「始めからこうしておけば良かったよ」

 真樹が無限界廊で修行していることはアティたちに知らされていないが、真樹は自分が取得したアイテムなどを少なからず彼女たちに譲渡している。
 特に最近まで禁止された銃を解禁されたソノラにとってメイメイの店の品ぞろえは満足できかねるものだった。
 そんな中、何処からともなく優れた武具を仕入れてくる真樹から使わない銃を譲って貰うためにソノラはとある“恥ずかしい取引”をしている。
 日頃の鬱憤もあり、真樹に対するソノラのツッコミには一切の容赦がない。

「お、おい、ソノラ。まさか、殺し――」

「心配しないでよ兄貴。ちゃんとみね撃ちにしといたから」

「いや、銃にみね撃ちはねえだろ?」

 妹の凶行に驚きながらもそれほど緊迫した様子の無いカイルのツッコミ。
 縛られたまま引き摺られる真樹の高らかな鼾が一行の後ろに響き始めるのだった。



 識者の門に辿り着いた一行はのんきに眠っている一名を除き、その光景に唖然とした。

「こりゃまた、随分とたいそうなモンだな」

「ずいぶん、ボロボロになっちゃってるけど。やっぱり、これ……」

 カイルが見上げる遺跡の入り口は古びてはいるが、ほとんど損傷は見られない。
 その代わり、付近には大規模な戦闘の後が色濃く残り、生い茂る草木の陰に埋もれる人骨の白が広がる。

「島の中心部だけあって、相当激しい戦いがあったのでしょうね」

「こりゃ、亡霊も出て当然ってもんだわ」

 荒事に慣れているヤードやスカーレルもさすがに眉を顰める。

「入口を開けますね」

 固く閉じられた門の前に立ったアティがシャルトスを喚び出す。
 周囲を満たすシャルトスの翠の輝きに反応し、遺跡の門が重い音と共に開かれる。

「キュピーー!!」

「どうしたのキユピー?」

 開かれた遺跡へと入ろうと歩み出したところ、キユピーが警告するように一行の周りを飛び回る。
 と、周囲の草むらに散らばっていた髑髏が、遺跡の壁面や崖から姿なき影が湧き出してきた。

『ウオ。オオォ……』

 その数は数十にもおよび、遺跡に侵入するためにはこれらの亡霊たちを退けなければならなくなった。

「ごめんなさい。多分、こうなるってわかってたけど……」

 自分のためにこの状況に巻き込んでしまったことを皆に詫びるアティだったが、このような状況で恨み事を言う様な者は始めからこの場にはいなかった。

「水臭いことは言いっこなしだぜ、先生!」

「それぐらい、こっちも承知の上でしたよ」

「アタシたちは、こういう時のためについてきたんだから」

 周りには百に届こうかという亡霊の群。
 これらを前にして怯むことなく立ち向かえる者たちがどれほどいるだろう。
 アティは、頼もしく優しい仲間たちに感謝しつつ剣を取る。

『ウオオオオオオオオオオォォォ!!!』

「行きます!!」

 アティの掛け声を合図に各々の武器を手に取り、亡霊の群に挑みかかる。
 とにかく正門を抜け、遺跡内部に入れば魔剣を抜いている必要もなくなるため、最低限の亡霊を斬り払いながら一気に駆け抜けるアティたちだったが、この場にはまだ戦力が残っていることを忘れていたことは不幸としか言いようがない。


「女教師がイクだとぉぉぉ!!!


 ソノラが所持していた麻酔銃により戦場の背後で爆睡していた歩く猥褻辞書こと上杉真樹の覚醒。
 瞬間、

『アアアアアぁぁァっ、あああァァァァ……っ!!』

「「ぬふぉあッッ!!」」

 真樹より発せられたピンク色の怪しげな波動が周囲に広がり、ほとんどの亡霊が“いい笑顔”で吹き飛んだ。
 ついでにカイルとヤードも多量の鼻血をまき散らして吹っ飛んだ。

「ハァ……ハァ、じょきょーしは……ハァ、ハァ」

 生者と死者を問わずにまき散らされた鮮血が真樹のピンクいオーラに煽られ辺りを包む。
 不思議と生臭さはなく、とてつもない甘ったるさが周囲の空間に伝播する。

「い、いや……です。こ、ここ来ないで下さい!!」

「ムッチンはぁあぁあ……えろきょーしはあああああ」

 もはや正気の沙汰ではなかった。
 真樹の放った極大の毒電波により、カイルとヤード、その他大勢の亡霊の皆さんは完全にノックアウト。
 スカーレルは、噴き出すほどではないが鼻血を零して悶えている。
 ソノラとアリーゼ、キユピーは怯えた様子で抱き合い震えている。

 明らかに致死量の鼻血を垂れ流しつつ、血走った尋常ならざる眼と荒い呼吸と共に口から大量のスモークを吐き出す真樹。
 真樹の周囲の空間はすでに毒電波により、真樹の卑猥なイメージを投影する桃色空間へと化していた。
 エロミネーターMAKIは一歩ずつ、だが着実にアティに近づいてく。
 遺跡の壁まで追いつめられたアティは、鎖された背後と迫りくる前方を見比べる。
 自分の失言?が原因で引き起こしてしまった状況。
 そして、この状況でアティが考えた選択肢はたったの二つ―――

―― 貞操死守 or 桃色地獄

「そ、それ以上近づいたら……死にます!!」

 即答だった。
 真樹の桃色吐息に汚染されることなど受け入れられるわけもなく、かといって現状の力量差は物理的な戦力を超越したものである以上、貞操を守りきれる保証などないも同然。
 これまでどんなことからも逃げずに前へと進もうとしてきたアティに自ら死を選ばせるほどの真樹の異様。
 決死の覚悟で真樹に立ち向かうアティ――




アティはあああああッ、イックゥゥウウノクワアアアアアア!?!?!?!?



「ィイイイヤアアァァァァァアァァァ!!!」




 アティの心が折れた瞬間だった。
 この後、数秒の間で実に鮮やかな決着がつく。
 常日頃の真樹に対するストレスが溜まりに溜まり、先日の休暇程度では解消できなかったそれをいま再び膨大な魔力へと変え、シャルトスに叩きこんだアティ。
 限界を遥かに超える力を叩きこまれたシャルトスは悲鳴を上げながら強大な召喚術を紡いだ。
 いつもであれば誓約の力により、真樹と召喚術の打ち合いをしても勝ち目はない。
 しかし、アティが使った召喚術は、本来の召喚術を遥かに上回る破壊の力を放出した。
 それはシャルトスの所有者が扱える召喚術を越えた召喚術――暴走召喚だった。
 アティが全霊をかけた一撃。
 もちろん、平時の真樹であれば防げたであろうが、今は自分のなかで桃色思考が無限循環しているために対応することができなかった。
 結果、識者の正門前は綺麗さっぱり吹き飛び、真樹も滅菌抹殺された。

 ちなみに怯えていたアリーゼ、ソノラ、キユピーは無傷で生還。
 スカーレルは軽傷。
 真樹の毒電波の影響をモロに受けていたカイルとヤードは重傷となった。










 この後、1週間ほどアティの消息が掴めなくなり、真樹は島の女性陣主導によるセクハラ裁判により有罪が確定。
 真樹には死刑よりもさらに重い、“ムキムキひげ地獄の刑一ヵ月”が言い渡されることになる。














 というのが、本来の流れ。
 しかし、これらの事実はとある人物たちの力によりもみ消されることになる。

「これはさすがに駄目じゃろう?」

「にゃは、にゃはは」

 額に血管を浮かべた謎の龍姫と引き攣った笑みの謎の占い師。
 こうして誰一人知ることのない大きな修正がなされることになった。

 世の中こんなはずではなかった、ということばかりだと知っている二人だったが、これは世界にあってはならない歴史だと判断した。
 時間の専門家でもある占い師の力と界を紡ぐ一柱でもある龍姫は、生まれてから最大規模の術の行使に翻弄することになったが、それもいたしかたない。
 
 強大な力を持ってしまった者は、道を間違えやすい。まして、それが未熟な精神であればなおさらだ。
 二人から見た真樹は、実にうまく力を制御していた。
 その思想からもまかり間違っても誤った方向へは行かないと思っていた。信じていた。
 だが、

「上斜遥か上空を光の速度で突っ切って行ってしまったのう」

「そうですね~」

 もう自分たちの人を見る目に自信が持てなくなった二人だった。












 そして、世界は繰り返す――

   僅かな変化を求めて――

   ●●を念頭に置いて――








本日の真樹のパラメータ
 Lv.∞
 クラス-エロミネーター
 攻撃型
  特殊・握(にぎにぎハンド)
 耐性-機・縛、鬼・畜、霊・淫、獣・姦
 特殊能力
  毒電波・AV


オリ特殊能力解説
<主人公>
  毒電波・AV
   周囲を脳内妄想によって汚染する毒電波の最上級。






 



[2746] 無限界廊の異端児 第15話 時空干渉・新生編
Name: もにもに◆d4f1932e ID:72a9f08e
Date: 2010/06/27 22:08



無限界廊の異端児

第15話 時空干渉・新生編







 禍々しく忌々しい絶望のどん底のような悪夢に魘された真樹は、死相が色濃く出た表情で目覚めた。
 周りは見慣れたシルターン風の内装と家具、壁に飾られた無限界廊で入手した武具の数々。部屋の隅に追いやられたリィンバウムの学習教材。
 史上最悪の悪夢を見たこと以外は、いつも通りの朝のはずだが、真樹は釈然としない様子で布団から出た。

 真樹の暮らすメイメイのお店の中にはさまざま施設があり、当たり前だが炊事場もある。
 集いの泉から水が引いている井戸から水を汲み上げ、炊事場へと運ぶ。
 そこで顔を洗ってようやく眠気が引いてく。

「……おかしい。絶対に何かあったんだ」

 いつもと変わらない日常の風景。
 しかし、何か物足りないと感じる。
 そこにあるわずかな違和感に気付きながら、気のせいだろう、と楽観するほどの鈍感スキルを所持しているような真樹ではないが、何が足りないかは思い出せなかった。


 簡単な朝食を作り、いつも通り食卓へと食事を運ぶとそこには見慣れぬ人物が待っていた。

「ほう、この香りは味噌汁とタキウオの塩焼きじゃな」

 いつもは真樹の他にはメイメイしかいないはずの食卓に居た人物は、数週間前に出会った龍人の少女だった。
 真樹は、その少女の前に運んできた食事を並べると両手を腰に当て、仁王立ちの様相で告げた。

「さあ。飢えた獅子の子の如く貪り食え!」

「ここは、吾の登場に驚くか訝しむかの反応を示すところではないかのう?」

 そんなお約束を真樹に求めるのは無意味である。
 如何にもな登場の仕方をしたこの龍姫の存在がいずれ自分の前に現れることを予見していた真樹は、目覚めの違和感から予想していたイベントのひとつとして、この龍姫のことを予め思い出していた。

「それはそうと、俺の嫁にならないか?」

 突然なプロポーズを敢行する真樹。
 時と場所と状況の一切を考えずに行われる真樹のプロポーズは常に失敗し続けている。
 メイメイやアルディラ、ミスミ、アティ、アズリアに敢行してきたが、半数からはやんわりと断られ、半数からは鉄槌と共に拒絶されている。
 それをこの場で敢行するあたり、いい具合に精神が壊れ始めているのかもしれない。

「ふむ。何の脈絡もむ~どもないが、そのまっすぐさに免じておぬしの想いを受けよう」

 真樹も大概であるが、それに応じるというこの少女もまた大概な変人であるのだろうか?
 たっぷりと一分は固まっていた真樹はようやく疑問の言葉を絞り出す。

「いや、冗談だよな?」

「おぬしも男ならば自分の言葉に責任を持て。何、おぬしに付ける首輪をメイメイと相談しておったところじゃ。吾自身がその鎖となるのならば間違いもないからのう」

「いや、いやいやいやいやいや。短い人生早まっちゃ行けませんよ、フロイライン」

「ふろいらいん? 意味はよく分からんが、安心せい。おぬしより吾の方が数百倍は長生きじゃ。吾の良き伴侶はおぬしの死後にじっくり探せばよい」

「ありえねー……」

 それもまたすごい考えだが、真樹にとっては“首輪”という単語が引っかかっていた。
 真樹の師であるメイメイがこの場にいないこと。
 朝の不思議な違和感。
 そして、本来ならば存在しないはずの龍姫の登場と“首輪”という言葉。
 それらを思考の内でまとめた真樹は、とある結論に至る。
 それは、メイメイの正体や能力を知るが故に思い至ることのできたこと。

「まさか、アンタら……歴史を変えたのか?」

「何のことじゃ?」

 真樹の問いに龍姫は、素知らぬ顔で首をかしげる。
 そんな龍姫を睨みつける真樹。
 互いに不可視のオーラを纏いながら睨みあう視線と視線。そして、淀みなく動く箸。
 龍姫が上品に味噌汁を飲むと真樹がずずずとわざとらしく音を立てて味噌汁を吸う。
 龍姫が骨と皮をよけて魚を口に運べば、真樹は骨も皮もとらずに丸ごと焼き魚に齧り付く。

「……馳走になった。なかなかに美味じゃったぞ」

「そりゃどうも」

 食後に熱いお茶を龍姫に出した真樹は食器を炊事場に持っていき、軽く水洗いしてから食卓へと戻る。

「……んで、俺は何を自重すればいいんだ?」

 すでに自分が原因で超常の存在たちによって歴史が修正されたと確信している真樹は、真剣な表情で龍姫に問いかける。
 そんな真樹の表情に龍姫はため息を漏らす。

「まったく。どれが本当のおぬしなのじゃろうな」

 暴走した真樹がお馬鹿な珍事件を引き起こしたその尻拭いのために多大な労力を払った自分たちの苦労はなんだったのかと龍姫はさらに深いため息を漏らす。

「とりあえず、この島の騒動に区切りがつくまで不埒な行動を慎むようにしろ。吾から忠告できるのはその程度しか――って、をい!」

 真樹の行動は早かった。
 龍姫が言葉を終えるより先に天井の枠に荒縄を引っかけ、端に輪をつくりそれに自分の首を刺し込んでいた。

「俺からエロ成分を抜いたらおが屑しか残らない。そんな自分は見たくないんだ!」

 真樹は泣いていた。
 龍姫も泣きたい気分になった。

「このような阿呆を吾たちは頼りにしようとしておったのか……」

 真樹のエロ暴走により、アティやその仲間たちに多大な心的被害が起こったことで時間を巻き戻すしかなくなった。
 それを行った龍姫とメイメイは、その力を随分と失い、メイメイに至っては力が回復するまで集いの泉の底に作った結界の中で療養中である。
 
「……仕方あるまい」

 そろそろ真樹を見捨てようかとも考えた龍姫だったが、メイメイの頑張りを無駄にするわけにもいかない。

「これは最後の手段だと言われておったが……(もぞもぞ)」

 冷徹な微笑を浮かべた龍姫は、深く入っている衣装のスリットに腕を差し込むことで真樹の視線を釘付けにする。

「な、何をされようと俺のエロは奪わせないぞ! を、をれは一時的な快楽のために未来のエロを捨てるような現金な♂ではない!」

 龍姫の艶めかしい表情と妖しい動作に両目をギンギンに血走らせながらも拒む真樹の言葉には、何の説得力もない。
 が、真樹の期待した展開に行く手前で龍姫は手を出して、何かを真樹に投げてよこした。

「ほれ、ありがたく拝領せい」

「ん? こ、これは……!?」

 ひらひらと舞い降りた一枚の布きれ。
 きわどい角度と面積、高貴な紫にひかえめながらも美しい金の刺繍が施された布地。

「こここっ!」

 真樹は奇声を発した。

「ととり、取りあえず落ち着くんだ俺! ひ、ひ、ふー、ひ、ひ、ふー………装着!! たら~ったら~!!」

 取りあえず落ち着くことができずに混乱する真樹は、龍姫から受け取った布を頭部に装着した。
 真樹は布を装着した頭を振り乱しながら不思議な踊りを踊った。

「すぇええええええええいッッッ!」

「ぐふぉあっ!?」

 龍姫の見事な延髄蹴りが真樹を捉え、撃沈した。
 倒れて痙攣する真樹の後頭部を踏みつけた龍姫が素晴らしい笑顔で囁く。

「それを自重しろといっておるのじゃが?」

「イェス、マム」

 死んでもおかしくないような蹴りを受けた真樹もまた素晴らしい笑顔で屈服した。
 踏まれることを嬉しいと思ってしまいそうになるひと時だった。












本日の真樹のパラメータ
 Lv.99
 クラス-四界の統率者
 攻撃型
  横・短剣(千斬疾風吼者の剣)、横・刀(銘刀サツマハヤト)、横・杖(怨王の錫杖)、投・投具(柳生十字手裏剣)、射・銃(NC・ブラスト)
 MOV7、↑6、↓6
 耐性-機・大、鬼・大、霊・大、獣・大
 召喚石6
 防具-兜(純白のトライアングル)
 特殊能力
  誓約の儀式(真)・全、送還術
  見切、俊敏、先制、闘気、バックアタック、ダブルムーブ、勇猛果敢、心眼、絶対攻撃、狙い撃ち
  異常無効<狂化・石化・沈黙・麻痺>、アイテムスロー
  サルトビの術、居合い斬り・絶刀、抜刀術・驟焱、フルスイング・改、ストラ、バリストラ、
  憑依剣、煩悩封印
 特殊武装-縦・刀(神刀・布都御魂)
 召喚クラス-機S、鬼S、霊S、獣S
 護衛獣-ヴァルゼルド
 装備中召喚石
  機神ゼルガノン、ヴァルハラ、天使ロティエル、聖鎧竜スヴェルグ、龍神オボロ、ジュラフィム


オリ特殊能力解説
<主人公>
 誓約の儀式(真)・全‐誓約者と同じ召喚法。
 送還術‐召喚術をキャンセルする。誓約に縛られていない異界の存在ならば強制的に元の世界に送り返すことができる。
 居合い斬り・絶刀‐距離・高度の射程が大幅に延長された居合い斬り。
 抜刀術・驟焱‐抜刀と同時に前方を炎で範囲攻撃。
 フルスイング・改‐横切りタイプの攻撃力が1.5倍になる。
 憑依剣-武具に異界の力を憑依させる憑依召喚術の発展技術。
 煩悩封印-真樹の潜在的な欲求を強引に封じ込めることにより、シリアス戦での出力3割増。ギャグ戦での出力3割引?




[2746] 無限界廊の異端児 第16話 憑依秘奥・轟雷編
Name: もにもに◆d4f1932e ID:72a9f08e
Date: 2010/06/27 22:10



無限界廊の異端児

第16話 憑依秘奥・轟雷編







 鬼の御殿。
 いつものように食事を集りに行った真樹は、満たされた食欲に満足しつつ縁側に寝ころび、暖かな陽気を浴びて惰眠を貪っていると広間の方からミスミの声が響いた。

「ならぬ! そなたのような子供が出る幕ではないわ! 戦いは、遊びではないのじゃぞ!?」

「言われなくたっておいら、それぐらいわかってらい! わかって言ってるのになんで、母上は勝手に決めつけるんだよ!?」

 ミスミの言葉にその息子であるスバルが言い返す。
 その様相を見るだけならばよくある親子のケンカであるが、その内容はいささか平穏なものではないことを察し、真樹も昼寝を中断して広間へと向かった。
 真樹が広間に入るとミスミとスバルの他にキュウマとたまたま立ち寄っていたアティ、真樹の苦手な風雷の郷のご意見番であるゲンジがいた。入ってきた真樹にキュウマが曖昧な笑みを浮かべながら会釈し、アティの警戒レベルがMAXになり、真面目な表情でゲンジが傍に座るよう手招きをした。
 苦手なゲンジの傍をさけてキュウマとアティに対面するような形で真樹は寝ころんだ。警戒しつつも出会い頭のアクションを起こさなかった真樹にアティが僅かに胸を撫で下ろし、手招きしていたゲンジが寂しげに手招きを止めた。

「アンタらがケンカを止めないなんて珍しいな」

「今回ばかりは、自分が口を挟める話ではないのですよ」

 状況を知っていながらも素知らぬふりで寝ころんだままの恰好で言う真樹にキュウマがやはり苦笑気味で説明する。
 スバルがこれからの戦いに自分も加わりたいとミスミに訴え出たというのがことの始まりだった。

「いつもでしたらミスミ様が一笑されて、それで終わりになっていました。ですが、今日に限ってスバル様が、一歩も引かなくて……」

「それだけスバルも本気とかいて、マジ、なんだろ?」

 キュウマの説明にとくに考えることもなく真樹は話を理解する。
 真樹が視線をミスミとスバルに移すとまだまだ平行線を続けていた。

「父上だって、おいらの歳の頃にはもう、戦に出てたって言うじゃないか!? だったら、おいらにもでき「うぬぼれるでない!」――……っ」

 必死に訴えるスバルだが、その思いの強さを理解しながらもミスミは頑として受け入れず、平手でスバルの頬を打つ。

「あの方は特別なのじゃ。周りが止めるのも聞かず、勝手に戦へと紛れ込み、そこで類い稀な戦果を挙げたからこそ皆に認められただけじゃ。普通の者が真似できることではない!」

「だったら、おいらも! 母上が許してくれないなら、勝手に戦に出ておいらが強いってこと証明してやる!!」

「敵に捕らわれぴーぴー泣いておったひよっ子の分際で、できもせぬ大口を叩くでないわ!」

 ミスミの言葉も聞かず、危ないことを言い出すスバルはまたもミスミに平手を受けた。

「……っ、母上なんか、もう大っ嫌いだあっ!」

 どんなに言っても理解してくれないミスミにスバルは目端に涙を溜めて駆けだし、広間を後にした。

「スバル君!」

 泣きながら出て行くスバルにアティが声をかけるが、スバルは立ち止まることなく走り去った。

「あ、えっと……」

 アティはスバルが走り去った方向と目を伏せ静かに怒りを抑えるミスミを交互に見て、どちらをフォローすべきか決めかねている。

「アティはスバルを追っかけろよ。スバルもアンタの生徒だろ?」

「え? ……はい、そうします。キュウマさんたちはミスミ様のことお願いしますね」 

 真樹の一見まともそうな言葉に天変地異の前触れではないかとわりと本気で思ったアティだったが、千年に一度はこういうこともあるかもしれないと強引に自分を納得させ、この場をキュウマたちに任せ、スバルを追いかけた。

「……何見てんだよ」

「い、いえ。アティ殿に対する接し方が、いつもとまったく違ったもので」

 キュウマもアティと同じく、わりと真面目なことを言った真樹のことを偽物ではないかと本気で疑ってしまっていた。
 アティとキュウマの反応に僅かなりともやり過ぎていたことをほんの少し理解し、数ミクロンだけ反省するべきかを検討することにした。

「ま、スバルを戦に出したくないってミスミの気持ちはわかるぜ。子供を戦に参加させるってのはあんまりよろしくないことさ」

「あなたもまだ子供でしょうに」

 見た目だけは十代前半に見える真樹に対して律儀にツッコミを入れるキュウマを無視して部屋の端に置かれていた茶器を馴れた手つきで準備し、ミスミたちに配り、改めて話を聞くことにした。

「すまなんだな。見苦しいところを見せてしもうて」

「気にすんなよ。さっきのは母親としては当然の考えだろ? ……だから珍獣を見るような視線を向けるんじゃねえよ」

「も、申し訳ありません」

 いつもと違う真樹の対応にミスミも違和感を感じて言葉が止まり、キュウマもまた疑う様な目で真樹を見ていた。
 周囲の反応をいちいち気にしていたら話が進まないと諦めた真樹はミスミに先を促した。

「きっかけはイスラがこの郷を襲撃したときのようじゃ。あの一件があってわらわは、皆と共に戦うことを決めた。郷の者に危害を加えるような輩を野放しにはしておけぬ。それにわらわは郷を治める者として一刻も早く郷の者たちが安心して暮らせるようにする義務があるのじゃ。しかし、わらわが戦に赴くのを見送ることに子供ながら我慢ならなくなってしまったのかもしれぬな」

 スバルの気持ちはミスミも深く理解している。しかし、スバルにはスバルの戦いに出たいという気持ちがあるように、ミスミにもスバルを戦いに出させたくないという気持ちがある。

「先ほどマキも言ったように、スバルに戦はまだ早すぎる」

「それなら、スバルが“戦に出るのはまだ早すぎる”っていう部分の理由をしっかりと言ってやりゃあ良いだろ?」

「それは……あの子はまだ「子供だから“戦に出せない”って言ってもスバルは聞かないぞ」……そんなことはわかっておる」

 今のスバルは、戦闘に参加できるだけの実力がある。それは真樹を始め、この場にいるキュウマはもとより、反対するミスミも十分理解していることだった。
 鬼妖界シルターンにその名を馳せた“轟雷の将”リクトと“白疾風の鬼姫”ミスミの間に生まれた子であり、その才能を十分に受け継ぎ、日頃の鍛錬も欠かさず行っているスバルが並の人間の軍人を相手に後れを取るようなことはない。それも皆が分かっていることだった。

「それでもじゃ。わらわは、あの子を立派に育て上げると良人の墓前で誓ったのじゃぞ? あの人の代わりに守ってみせる、と。なのに……なぜ、わざわざあの子を危険の中に放り出さねばならぬというのじゃ!?」

 その言葉の中には本当の戦場を知る、その凄惨さを体験してきた者としての重みがあった。戦場では何が起こるか分からない。例え、敵が弱かったとしても必ず勝てるとは限らない。勝利したからと言って、無傷で居られるとは限らない。

「あの人が遺したスバルまで失ってしまったらわらわは……」

 かつてこの島で起きた戦でリクトを亡くした苦しみは、いまも褪せることなくミスミの心に暗い影を遺している。スバルの意思を肯定しているキュウマも過去を想うミスミの表情に居た堪れない気持ちになっていた。

「子を思う親心、だな。……けどよ、親を思う子の心ってのも、大人が思ってるよりけっこう強いんだぜ?」

「子の……スバルの心、そなたはわらわより深く理解できているというのか?」

 真面目な言葉を紡ぐ真樹に未だ馴れないながらもミスミは言う。そして、真樹が真面目に答える。

「アンタら親子の絆は知ってるつもりさ。それを越えてまで知ったがぶりをするつもりはない。けどな、大切な誰かが戦に向うのを見送ることしかできないことがどれほど耐え難いことか、アンタが知らないはずがない。そして、そう感じるのは男だろうが子供だろうが変わらない。大切な誰かを失いたくない、大切な誰かを守りたい。それって、同じことじゃないのか?」

「………」

 真樹の言葉に目を伏せたミスミは気持ちを整理させ始める。

「スバルはな。ずっと前から思ってたんだよ。早く一人前に、父親みたいな強い男になってアンタを守れるようになりたいって。アンタが独りで泣かなくてすむように……てな」

「あの子が、そんなことを……」

 親が子を思うように、子もまた親を思う。
 すべての親子が必ずしもそうだとは言えないが、少なくとも真樹が知る限り、関わってきた限りではミスミとスバルは互いのことを同じように強く想っている。
 大切な誰かを失う悲しみは大人も子供も変わらない。
 ミスミも、スバルの意思の重みを受け入れる決意をした。
 そのミスミの様子を見て、真樹はひとつの提案をし、多少強引にミスミたちを納得させ、鬼の御殿を後にした。
 それからしばらくして。

「母上っ!」

 意を新たにした面持ちのスバルが御殿に戻って来た。そのスバルの表情を見て、ミスミも静かに対面する。

「スバル……」

「母上……おいら、本気だよ。遊び半分じゃない! 父上や母上の真似をしたいんじゃない!! 自分のしたいことを、できることを、本気で試してみたいんだ!!」

「……わかった。そこまで言うのならば、ついてきやれ」

 スバルの心からの言葉を噛み締めるように沈黙し、意を決めて立ち上がるミスミ。その言葉に従い、スバルは歩みだす母の背を追う。


 ミスミに連れられたスバルが鎮守の社までたどり着くと見慣れぬ戦装束に身を包んだ男が待っていた。

「「っ!?」」

 その男がこの場で待っていることを知っていたにも関わらず、ミスミとキュウマは驚愕し声を失い、二人ほどではないがゲンジも驚きを露わにし、スバルに同行していたアティは事情を知らぬため、見たことのない男に戸惑う。
 そんな中、周囲の驚きから取り残されて男の姿から目を離せずにいたスバルに男が声をかけた。

「おまえが……スバルだな」

 静かに、されど力強い男の問いにスバルはわずかに頷いて応えることしかできなかった。
 額に生えた鬼人特有の角、乱雑に切られた黒髪と赤い眼、胸元の肌蹴た戦装束から覗くのは鋼の如く鍛え上げられた身体、岩塊を削り出したかのような無骨な重斧。その立姿だけでも凄まじい威圧感を与える。
 そんな見慣れぬ鬼人族の男が、スバルに手を伸ばす。咄嗟に避けようとしたスバルだったが、男の大きな手はスバルの頭が移動する場所に先回りしてその小さな頭を鷲掴みにした。

「大きくなったな、スバル……」

「……え?」

 スバルの頭を握り潰すかのように見えた鷲掴みは、その実優しく頭に乗せられただけだった。スバルの頭に乗せた手を軽く動かしながら感慨深げに呟く男の姿を見上げたスバルは言いようのない気持ちでいっぱいになった。よく分からないその気持ちがいったい何なのか、そう思っていたスバルの耳にミスミとキュウマの耐えるような嗚咽が聞こえてきた。

「母上? キュウマ?」

 スバルと鬼人の男、二人が並び立つ情景から目を離さず、耐えられぬ涙を両の目から零しながらも決して閉じることのないミスミとキュウマには、哀しみなどひと欠片もなかった。

「武器を取れ、スバル」

 男に促され、小柄な体格には見合わぬ大斧を構えるスバル。体格こそ何倍も違っていたが、そうして対峙する二人の姿は、どこまでも似通っていると周りの者に感じさせた。

「これからのおまえが為したいこと、いまのおまえに為せることを見せろ。元服だ……おまえのすべてをオレに見せるんだ」

「あ、あんた……まさか、父「こい、スバル!」……っ、うぉおおお!」

 目の前の男が何者なのか、その答えにスバルが辿り着きそうになったところで男が叫び、それに促されるように駆け出した。
 スバルは子供とは思えぬ速度で間合いを詰め、身体に見合わぬ大斧を力の限り振り下ろす。

「遅い!」

「うあっ!?」

 常人ならば受けた武器ごと叩き伏せられそうな渾身の一撃を軽々と受けた男は、そのままスバルを弾き飛ばした。

「スバル、おまえの力はこんなものか? この程度ではミスミを任せられないぞ!」

「へん! お、おいらの力はまだまだこんなもんじゃないやい!!」

「大口を叩く暇があるのならば、オレに一撃でも食らわせて見せろ!」

「やってやる! おいらは、父上と母上の息子なんだ! おりゃあああああ!!」

 初撃を弾かれたことで多少なりとも痛みが残るだろう小さな身体を精一杯動かし、手にした大斧を振りかぶるスバル。その攻撃をふたたび弾き返す男。
 何度も、何度も繰り返される。繰り返されるたびに男の反撃は強力になり、雷の妖術までも放ち、スバルを痛めつけた。
 しかし、スバルは決して諦めない。自分の力をこの男に示すことは、元服を向かえる……一人前になるために必要なことだと理解しているだけでなく、この男と戦うことが嬉しいと身体が言っていた。もっと正しく言うのならスバルの中に流れる鬼人の血が昂った。この男に認められることは、元服の儀式以上に大きなことなのだと肌で感じていた。
 ぼろぼろになりながらも挑み続けるスバル。それを見守るミスミとキュウマ。
 この瞬間が仮初であることなど百も承知。それでもこの瞬間がかけがえのない現実であることも三人は誰に説明されるわけでもなく理解し、ただこの時を噛み締めるのだった。


 翌日、身体のあちこちに傷を作ったスバルがこれからの戦いに参加することが正式に認められた。














本日の??のパラメータ
 クラス-轟雷の将
 攻撃型‐縦・斧
 耐性‐鬼・大
 特殊能力
  闘気、フロントアタック、勇猛果敢、心眼、絶対攻撃









[2746] 無限界廊の異端児 第17話 紅嵐到来・発覚編
Name: もにもに◆d4f1932e ID:72a9f08e
Date: 2010/06/29 02:52



無限界廊の異端児

第17話 紅嵐到来・発覚編







 かつて、無色の派閥という召喚師の集団がとある目的のため、この島に建造した莫大な魔力を生産する施設と、それによって起動する【喚起の門】。無色の派閥にとって、その施設と門は副産物でしかなかった。この島に四世界からさまざまな召喚獣を喚び寄せ、共存できる環境を築き上げたのは彼らにとって前段階でしかなかった。無色の派閥が達成しようとした真の目的、それは人の手で界の意志エルゴを作り出すことだった。
 リィンバウムとそれを取り巻く四世界の形ある全てのモノは、界の意志エルゴから別れて生じており、遡りきれないほど別れてしまった現在でもすべてのモノは見えない力で界の意志エルゴと繋がり、その影響を受けている。無色の派閥はその見えない力の繋がりを共界線クリプスと名付けた。それを支配することにより、世界そのものを自由に操作することが可能となる。
 人の意志をもって界の意志に成り代わるという理を覆すための方法を、無色の派閥は模索していた。その過程で実験施設として作られたのがこの島だった。
 研究は着実に完成へと向かっていたが、ある問題によりその目的は達せられなくなる。
 共界線クリプスと名付けられた見えない繋がりは、一方通行の道ではなく、影響を受けるモノと界の意志エルゴとの間で、常に思念を循環し続けているものだった。生き物だけでなく、植物、鉱物に至るまであらゆるモノから送られてくる莫大な情報の奔流。そのすべてを同時に把握することは、人間には不可能だった。共界線クリプスに接続する装置の制御中枢である「核識」となるために何人もの召喚師が実験に挑み、犠牲となっていた。
 しかし、そんな中、限られた時間ならば「核識」として完全な力を発揮し得た召喚師が、たった一人だけ現れた。
 その召喚師の名は、ハイネル・コープス。現在の四人の護人たちと深い関わりのある男だった。無色の派閥の幹部たちは、そんなハイネルの存在を危険視し、嫉妬と畏怖の念を募らせることとなり、ハイネルの命諸共、全てを抹消するという強硬手段に打って出た。例え、自分たちが作り出した力だったとしても、それが自分たちの思い通りにならず、たった一人の召喚師のモノとなる。無色の派閥がそれを看過できるほど柔軟な体勢の組織ではないのは過去も現代も変わらない。
 地上の楽園たり得るこの島を心から愛していたハイネルは、この島とそこに暮らす召喚獣たちのために「核識」となり、無色の派閥に抵抗する道を選んだ。
 限界を越えて力を酷使し続けたハイネルは、魂の限界を迎えつつあった。さらに戦いの最終局面で無色の派閥が投入した二振りの魔剣。『碧の賢帝シャルトス』と『紅の暴君キルスレス』に力を封印されたことでハイネルの抵抗は完全に抑えられ、永劫の眠りへと堕とされた。

 ハイネルが施設と共に封印された後、護人となると決めたアルディラ、ヤッファ、キュウマ、ファリエルは生き残った施設の機能を利用し、召喚術を身につけると共に無色の派閥が残した研究成果をもとに儀式で心身を強化改良することで、この島に限定して構築された共界線クリプスから魔力を引き出す術を学び、その範囲内でのみ護人たちは抜きんでた戦闘能力と不老に等しい寿命を得た。その力を用いて戦後の島をそれぞれの集落に分け、各集落をそれぞれの護人が守護するという現在の形が出来上がった。

 核識として封じられたハイネルを解放するために動いていたアルディラ。それを止めようと動いていたファリエル。二人の思いはどちらも心の底からハイネルを愛しているからこそであり、言葉の上では封印の鍵である『碧の賢帝シャルトス』に選ばれ、ハイネルと同じく核識となりえる資質をもったアティの決断に任せると言ったアルディラとファリエルだったが、どちらも他人の決定に素直に従うことができるのならば始めらか拗れることなどなかった。

 すべてを知ったアティは、二人の気持ちを聞き、自ら考えて答えを出した。どちらの願いが正しくて、どちらの願いが間違っているなどアティでなくとも決められない。
 しかし、現実は答えを惑わせるほど曖昧な決断を受け入れてはくれなかった。

「封印をしましょう。遺跡を復活させるのは、やっぱり危険すぎます」

 アティの言葉にアルディラが目を見開き、ファリエルが少し悲しげに目を伏せた。

「アルディラ、ごめんね」

 かつて、ハイネルと将来を誓い合っていたアルディラ。そのことを知ったアティは悩んだ。本当ならばアルディラの願いを叶えてあげたい。それによる代償が自分一人で済むのなら躊躇せずに核識となってハイネルを解放しようとしていただろう。しかし、その方法によって起きるであろう問題は、アティ一人に背負えるほど小さなものではなかった。自分のことより、他の誰かのことを大切にするアティは、アルディラ一人の願いを叶えるために他のみんなを危険に晒すような選択はできなかった。

「ふふふ……やっぱり、そういう答えになるのよね」

「アルディラ……」

「封印なんて、絶対にさせないわ!」

 アティが苦悩の末に出した結論も最も愛する者の復活を願うアルディラにとって受け入れることができ

るはずがなかった。一度はアティの言葉に従うと約束するも、たとえ融機人ベイガーだったとしても愛という最も強く、最も危うい感情を抑えることができなかった。

「なんと言われたって、こればっかりは納得できないッ! 私が護人になったのは、帰ってくるあの人の居場所を守るため。この島も、私自身も存在する価値なんてありはしないわ!!」

「義姉さん……貴女は、そんなにも兄さんのことを……」

 自身の行動が間違っていると理解していても感情を抑えられず、涙ながらに抵抗しようとするアルディラの姿にファリエルが哀しげな言葉を投げかける。

「どうしても封印を行うというのなら……私を倒しなさい! 私を壊しなさい! 壊して、全部……終わらせてよぉっ!」

 周囲の哀しげな視線に自分の行為の愚かさを理解し、それでも止まらない叫びに魔力が反応し、無差別にまき散らされそうになる。

「申し訳ありません、アルディラさま」

「……っ!」

 今にも魔力の衝撃波が放たれようとした瞬間、いつの間にか集いの泉へとやって来ていたクノンが泣き叫んでいたアルディラの頬を打った。

「いい加減になさい、アルディラさま!」

 始めて聞くクノンの強い口調にアルディラも一瞬、呆気にとられ、荒れていた魔力も終息していった。

「忘れてしまったのですか? あの方が最後に何を望んで眠られたのかを……」

 諭すようなクノンの言葉。その言葉でアルディラは、かつて戦いに赴くハイネルが笑顔で願ったことを思い出す。

< 生きて、幸せになって、この島を笑顔で満たして欲しい。君が……みんなが笑っていてくれることが

僕にとって、一番うれしいことなんだ >

 その言葉は、ハイネルの夢そのものだった。
 それはどれほど時が過ぎようと、どれほどの哀しみに苛まれようとも決して忘れてはならない“記憶”だった。
 それを願うだけでなく、それが必ず叶うと信じていたハイネルの笑顔をアルディラは昨日のことのように鮮明に思い出した。







 クノンの説得により現実を受け入れたアルディラは、アティやファリエルと協力して遺跡を封印することを決めた。
 やはり、心残りはあった。それでもハイネルが望むモノは、かつて束の間の幸せを得ることができた過去ではなく、これから始まる未来を幸福なモノへとしていくことだと悟ったアルディラは、ハイネルを語り、アティの身体を乗っ取ろうとした遺跡に宿る意思に抗い、その封印を行った。
 気持ちの整理ができるのはまだまだ先になるだろうが、過去に縋っていたアルディラもようやく、ハイネルの願った未来へと続く一歩を踏み出せるようになるだろう。



「って感じのノーマルエンドも悪くはないと思ってたりするわけなんだがな」

 アティたちが拠点であるカイル一家の海賊船に戻り、帝国軍の挑戦を受けているのと時を同じくして、『碧の賢帝シャルトス』に封印された遺跡の内部に潜伏していた真樹は招かれざる客に囁きかけた。

「……そんな曖昧な終わり方、誰も望んでなんかいないんじゃないかな?」

 真樹の言葉に若干の驚きを感じながらもいつも通りの笑い顔で応える少年、イスラ。後ろにはフードを深く被った二人組を従えていた。その装いから紅き手袋の関係者であると真樹は当たりをつけた。

「ま、そりゃそうだ。一番それを望んでねえ奴がここに来てるんだしな」

 他人をあざ笑うかのようなイスラの笑い顔を真似たような笑顔で真樹は挑発するが、本家本元のイスラに通じた様子はない。

「仲良しこよしの仲間にしては、案外強かだね。君の方が僕なんかよりよっぽど諜報員に向いてるんじゃない?」

「無理無理。お色気誘惑に一発で引っかかる俺を諜報員として使おうって阿呆な組織があったらぜひ入ってみたいね」

「ははは、やっぱり君はアティたちとは違うね。君さえ良ければその阿呆な組織に推薦してあげてもいいよ?」

 本気かどうかわからない軽い調子でいうイスラに真樹はとても魅力を感じていた。メイメイと謎の龍姫に“キョセイ”されてしまった真樹だったが、その心の奥底にあるエロ道はなんら陰りを見せていない。

その証拠にミスミとスバルがケンカした際にわざわざアティに対面する位置に移動して寝ころんだのも正座をしているアティのミニスカから溢れる瑞々しい太ももと秘密の隙間を存分に堪能していた。メイメイと龍姫のこともあり、自重している真樹であるが、完全なエロ抜きはできなかったのだ。
 そんな真樹が思い描くのは、イスラの誘いに乗った自分の妖しい蜜色の未来。

「……素晴らしい」

「………」

 とてつもなくだらしない表情になり、「デヘヘ」という気色の悪い笑い声を洩らす真樹にさすがのイスラも引いていた。

「先ほどから黙っていれば、いったい何を遊んでいるつもりですの?」

「あ、遊んでいるつもりはないよ。ちょっとした言葉の駆け引きさ」

 真樹の本性の一端に直接触れてしまったイスラが引き攣った笑みで苦しい言い訳をする。

「こんな気持ち悪いゴミと会話するだけ、時間の無駄ですわ。さっさと目的を達して戻りますわよ」

 イスラに対して尊大な物言いをするのはフードを被った二人組の小さな方だった。声色からまだ年若い少女であると真樹は判断した。その声と口調にどこか聞き覚えがあるように感じ、涎を拭きながら真樹は首を傾げた。

「ん~? なあ、イスラ。その偉そうな嬢ちゃんって紅き手袋、てかオルドレイクお抱えの暗殺者かなんかなのか?」

「「!?」」

 妙な既視感を与える少女の正体が気になった真樹は知っている情報を惜しげもなく発揮し、イスラに問う。
 真樹の言葉に驚きを隠せず、イスラと少女がそれぞれ武器を取って構える。

「……こいつ、いったい何者ですの?」

「僕が知ってるのは、この島の遺跡に召喚された名も無き世界の住人で軟派な性格だけど、武芸も召喚術も尋常じゃないくらい強いってことくらいだよ」

 少女の問いに応えたイスラの評価に真樹は照れた様子で頭を掻きながら体をくねくねさせる。

「そんなに褒めてもお前の尻は貰えないぜ? いくら女顔でも♂とナニする勇者にはなれないんだ。許してくれ」

「ぅっ……」

 真樹の行き過ぎた勘違いによる返答に鳥肌が立ってしまうイスラだった。
 そんな様子を見せられ、肩を震わせていた少女から大きな魔力が発せられた。

「く、このナマモノ! わたくしが黙らせて差し上げますわ! いきますわよ、オニビ!」

「ビービビー!」

 吹き荒れる魔力の風に呼応するように輝き始めるオニビと呼ばれた鬼妖界シルターンの召喚獣である火焔妖が輝きだす。
 真樹にとってこの程度の魔力は何ら脅威に感じることはない。今の真樹と対等に渡り合うには、メイメイクラスの特殊な術者か、封印の魔剣を持つアティだけである。そんな真樹を驚愕させるほどの実力は、この少女にはない。しかし、従える召喚獣と吹き荒れる魔力の風によりフードがおろされて露わになった顔を見てしまった真樹は、遺跡復活の阻止という当初の目的を失念してしまった。
 そして、そこに小さな隙が生まれる。





 時を同じくして、アティたちの前に封印したはずのシャルトスが舞い戻り、遺跡から血のように紅い輝きが天へと立ち昇るのを確認することになる。
 後日、調査のためアルディラとファリエルが遺跡を訪れると凄絶な戦闘があったことを物語るように数々の破壊痕が残る一画の隔壁にめり込み、服装のみがボロボロになりながらもぐっすりと眠る真樹だけが発見され、遺跡の封印が解けたという確証は得られなかった。












本日の真樹のパラメータ
 Lv.104
 クラス-四界の統率者
 攻撃型
  横・短剣(千斬疾風吼者の剣)、横・刀(銘刀サツマハヤト)、横・杖(怨王の錫杖)、投・投具(柳生十字

手裏剣)、射・銃(NC・ブラスト)
 MOV7、↑6、↓6
 耐性-機・大、鬼・大、霊・大、獣・大
 召喚石6
 特殊能力
  誓約の儀式(真)・全、送還術
  見切、俊敏、先制、闘気、バックアタック、ダブルムーブ、勇猛果敢、心眼、絶対攻撃、狙い撃ち
  異常無効<狂化・石化・沈黙・麻痺>、アイテムスロー
  サルトビの術、居合い斬り・絶刀、抜刀術・驟焱、フルスイング・改、ストラ、バリストラ、
  憑依剣、煩悩封印
 特殊武装-縦・刀(神刀・布都御魂)
 召喚クラス-機S、鬼S、霊S、獣S
 護衛獣-ヴァルゼルド
 装備中召喚石
  機神ゼルガノン、ヴァルハラ、天使ロティエル、聖鎧竜スヴェルグ、龍神オボロ、ジュラフィム


オリ特殊能力解説
<主人公>
 誓約の儀式(真)・全‐誓約者と同じ召喚法。
 送還術‐召喚術をキャンセルする。誓約に縛られていない異界の存在ならば強制的に元の世界に送り返すことができる。
 居合い斬り・絶刀‐距離・高度の射程が大幅に延長された居合い斬り。
 抜刀術・驟焱‐抜刀と同時に前方を炎で範囲攻撃。
 フルスイング・改‐横切りタイプの攻撃力が1.5倍になる。
 憑依剣-武具に異界の力を憑依させる憑依召喚術の発展技術。
 煩悩封印-真樹の潜在的な欲求を強引に封じ込めることにより、シリアス戦での出力3割増。ギャグ戦での出力3割引?





[2746] 無限界廊の異端児 第18話 黄昏無双・降臨編
Name: もにもに◆d4f1932e ID:72a9f08e
Date: 2010/07/06 02:10



無限界廊の異端児

第18話 黄昏無双・降臨編







 遺跡の内部で眠っているところを発見された日を境に真樹は無限界廊に篭る時間が増えていた。
 時間が増えるといっても無限界廊とリィンバウムの時間流は一致していない。もっともこの島そのものが時間から受ける影響にズレがあるのでその差はさらに複雑になっている。そんな時間流に影響されつつもリィンバウムの理に不具合を起こすこともなく、延々と力を増し続ける真樹は、無限界廊においても最強の称号を得つつあった。
 無限界廊の仮の主だった影の龍姫を始め、修羅と化したシルターン最強の侍、理性を失ったメイトルパの獣魔王、機界戦争末期において投入された自己増殖機能を有した暴走機械兵器、数々の悪魔王を屠り狂気に呑まれた堕天使。四世界の最強の存在たちを相手に幾度も敗北を繰り返しながらも挑み続け、ついには単独で彼らを凌駕するに至っていた。

「もともと才能はあったんですよ。“戦闘技能に関する才能”じゃなくて、“戦いを続ける才能”の方なんですけどね」

 それは力を持つ者が持っていてはいけない才能である。
 これが通常の生命体であるのなら問題ではあっても解決することはそれほど難しくはない。そういった存在には必ず相対する存在があり、力を向ける先、力をぶつける先などがある。ゆえに世界の運命は流れ行くままにあるからこそ大きな力がぶつかり合うような事件は警戒すべきだが、その事件に関わる者たちの意思に委ね、観察するに留まるのが定石。
 しかし、ここにひとつの例外が現れた。

「本来生まれ得ないイレギュラーでありながら、あの者は強くなりすぎた。もはや彼の者の力は、吾を遥かに上回ってしまっておる」

「それはわたしも一緒ですよぉ」

 深刻な表情で頭を抱える龍姫と困り顔でため息をつくメイメイ。
 二人の間にあるテーブルの上におかれた遠見の水晶に投影されている戦闘は、リィンバウムはもとより四世界のどんな時代にも存在しない終末の顕現だった。無限界廊の最深部に投影された無限に広がる遺跡群を舞台に戦いっているのは、名も無き世界から召喚された上杉 真樹とその護衛獣である機械兵士ヴァルゼルドである。成長することのできる真樹と違い、ヴァルゼルドは機体そのものを改修しなければその能力を格段に向上させることは不可能。そのためにも無限界廊で機界ロレイラル技術を吸収する必要があり、本来では機械兵士に搭載されることのない自己改造機能を保有するにいたったことで真樹とともに成長することができるようなった。この機能も暴走の危険を孕んだ危険なものであると知ったうえで上官である真樹が許可したものだった。
 そんな二人が戦うのは、強大な一体の存在ではない。かつてそれぞれの世界で滅びを体現させた破壊の象徴たちが群れを成して暴れ狂っている。そのうちの一体を滅ぼすためにどれほどの犠牲が払われたか知れない。ならば、そんな存在の群れを相手に立ち回り続ける真樹とヴァルゼルドは、一体どれほどの脅威へと育ったのか。

「ますます目が離せぬな」

「もしかしたらホントの本当にすごいことになっちゃうかもしれませんからね……にゃはは」

「……言うな」

 何かを開き直ったようなメイメイの言葉に龍姫は眉間の皺を深くしてため息をついた。










 魔剣奪還に燃える帝国軍と長きに渡って戦ってきたアティたちは、いよいよ最後の決戦を迎えていた。
 帝国軍の指揮官であるアズリア・レヴィノスは、この戦いに自分の部下たちの未来も賭けていた。帝国の軍人である彼らに魔剣を奪還する以外に故郷へ帰える術はない。
 乾坤一擲で戦う帝国兵だったが、【碧の賢帝】シャルトスを使うことのないアティをはじめ、カイル一家や護人たちも帝国兵に過度のダメージを負わせないように戦っていた。それは明らかな手加減であり、命を賭して向かってくる相手にとって侮辱でしかない。しかし、戦いそのものがアティたちにとって本意ではなく、あくまでも戦いを臨んできているのは帝国軍である。そんな彼らのやり方に合わせる必要がないのだと決めたアティたちは、帝国兵を一人も殺すことなく戦いを終わらせた。
 慣れない孤島の暮らしと度重なる戦闘での敗北。帝国の兵たちの不安と疲労は限界まで来ており、そんな部下たちの状況を鑑みたアズリアは、今回の決戦を決めた。剣を取り戻さなくては帰還することもできず、軍人として戦場で果てることもできない。
 生き恥を晒すくらいならば戦場で散らせろと考えた生真面目すぎる指揮官。
 その考えを真っ向から跳ね除けたのは、やはりアティだった。
 生きることは恥などではないと、魔剣は渡せないが帝国へ帰るための方法を一緒に考える。手伝えることがあれば協力を惜しまない。
 そんなアティの言葉にアズリアは折れてしまった。

「皆、すまん。私はお前たちに軍人としての死よりも生を与えたいらしい。こんな指揮官の身勝手を笑ってくれ」

「いいえ! 自分は、自分たちは、けして……けしてっ」

 勝者からの和平を受け入れる。それは自分たちの完全なる敗北をも意味した。
 しかし、帝国軍の屈強な兵士たちも死にたがりの集まりなのではない。生を繋ぐことができるならばそれに越したことはない。悔しさに涙を流す者、安堵の表情を浮かべる者、呆然と膝をつく者、それぞれがそれぞれの一番の感情を表情に表して帝国兵たちは、アズリアの決定を受け入れた。

「あはははは! ははっ、あははははははははっ!!」

 長らく続いた闘争が終わりを告げようとしている夕暮れの丘にこの場にいる者すべてを嘲笑うかのように哂う声があった。

「結局、姉さんは覚悟ができてなかったってワケだ? ……ま、仕方ないか。その人は、姉さんにとって大切な友達だものね?」

「口を慎め、イスラ!」

 実の姉を貶すイスラの言葉に上官を侮辱されたギャレオが怒鳴るが、イスラはまったく気にした様子もなかった。

「役目も果たせない番犬のくせに、わめくのはやめてくれよ。敗軍の将の言うことに説得力なんてないよ。まして、敵の情けに甘んじるなんてさ。みっともないったらありゃしない。どう思う、ビジュ?」

「仰るとおりでさぁ、イヒヒヒ……。こんなあまちゃんな奴らの指揮に従うのは、いい加減うんざりだったんでぶぎゃあああああ!!」

 度重なる負傷により、木乃伊男のような格好をするようになったビジュが嫌らしい笑みを包帯の中で形作っていたらしいが、場の空気を読まず、可愛げなどどんな小さな単位を用いても発見できないビジュは、帝国軍兵士たちに手厚い洗礼を受けることと相成った。

「そういうわけで……ここからは、僕らのやりたいようにやらせてもらうよ。言葉のやりとりなんか必要のない、力だけで決着をつける明快なやり方でね。いいね?」

「馬鹿なことはやめろ、イスラ! お前だって、わかっているはずだ。我が軍の戦力は、全てこの一戦に費やした。これ以上の戦闘続行は不可能なんだ!」

 突然、内輪揉めを始めたアズリアとイスラの会話をアティたちはどうしたものかと戸惑いながらも、いつでも応戦できるように身構える。その反対側では実はまだまだ戦闘可能なんじゃないかという激しさでビジュを私刑する名も無き帝国軍兵士たち。
 それらの状況を見渡したイスラは呆れたようにため息をつきながらあっさりと言った。

「彼女たちに負けたのは、姉さんの部隊でしょ? ついさっき到着したばかりの僕の部隊は、傷一つ付いちゃいないよ」

「なんだと!?」

 イスラの言葉に帝国軍はもとより、アティたちにも動揺がはしる。
 先ほどの戦闘では勝利を収めたアティたちだが、ここで帝国軍に更なる援軍があるものだとはまったく想定していなかった。何しろこの島は、結界で護られているためアティたちがこの島へやって来たときのような突発的な方法以外にはないと思われていたためである。



 夕闇の墓標。
 陽の光が水平線の果てへと半ばまで沈み、帝国軍との決戦が行われた丘を真っ赤な血の色に染め上げていた。
 紅に染まる陸と海。その境から数百人規模の部隊が不気味なまでに統制された歩みで丘をあがる。

「嘘……こんなの嘘です」

 その絶望的な数と異様さにアリーゼはファリエルの鎧にしがみ付き声を震えさせている。
 それはカイル一家や護人たちも怯えこそないが、絶望の片鱗が表情を曇らせていた。

「隊長、援軍ですよ! これなら、まだまだ戦える。諦める必要なんてなくなるんです!」

 イスラの部隊を確認したギャレオは喜び勇んでアズリアに言うが、当のアズリア本人はいぶかしげな表情のままで援軍と思しき部隊を観察している。アズリアの様子に気づかない帝国軍の兵士たちはビジュに制裁を加えるのを中断し、接近してくる大部隊に感嘆の声を漏らしている。そんな帝国軍の反応を見て、イスラは怪しく微笑んだ。

「……用意」

 そんな中、大部隊の先頭付近にいた黒いマフラーをした女兵士が機械的な冷たい口調で呟いた。その言葉を受け、部隊の前衛にたつ者たちが手に手に武器を構えた。
 そこまで確認して、アズリアはようやく自分の感じた違和感に確信を持った。

「違うぞ……そいつらは、帝国の兵士じゃない!」

「えっ!?」

 アズリアの言葉で両陣営にさらなる動揺が奔った。それにより、最初の対応に遅れが出てしまった。

「いけ……」

『シャアアァァッ!!』

 先の女の号令とともに黒装束を身に纏った兵士が帝国軍の兵士に襲い掛かった。
 一瞬前まで希望が訪れていた帝国軍兵士たちに振り下ろされる絶望という名の兇刃が無情にも緑の丘を本物の鮮血で染め始めた。

「ど、どうしてあいつら味方を攻撃してるの!?」

「わからねえ……。けどよ、帝国軍を攻撃してるからってオレたちの味方ってことはぜったいにあり得ねえ」

 目の前の惨状にソノラが困惑しながらカイルに問うとカイルは戦場の勘を最大限に発揮し、警戒を強めた。

「その通り。僕の部隊は僕の味方さ。帝国の援軍だなんて、一言も言ってないからね。もちろん、僕の味方ってことは君たちの敵ってことだよ、船長さん?」

 周囲で巻き起こる血風斬雨を背景にいつものようにイスラが哂う。

 



「ふあああ~あ、あ……っと。それなら……俺は、アティたちの味方でお前の敵ってことでいいんだよな?」

『『っ!?』』

 血で血を洗う惨劇を前に寝癖も直さず、欠伸をかみ殺すこともしない緊張感のなさを纏いつつ現れたのは、この島が誇る変質者、上杉 真樹だった。

「シャ、シャアアアアアアッッ!!」

 武器を構える様子も召喚術を発動させる呪文も唱えることもしない真樹に対しても、イスラの味方だと言う部隊の兵士が容赦なく襲い掛かった。 

「ギィッ――……ぁ?」

 真樹の眼前に迫った兵士だったが、まるで糸を切られた人形のようにその場に力なく崩れ落ちた。
 
「その他大勢に関わってる時間はなさそうなんだわ。すまんね」

 無手の状態で棒立ちしている真樹が呟くと周囲にいた黒装束の兵士たちが次々とその場に倒れ始める。
 絶対の自信を持って投入した戦力がわけもわからぬまま無力化されるのを見せられ、イスラはわずかな動揺を見せるが、それでも余裕を失わずに哂ってみせる。

「っ! 君は相変わらず、常識が通用しないみたいだね」

「お褒めに預かり光栄だね。こちとら馬鹿みたいに爆睡させられたんだ。お返しはしっかりとさせてもらうぜ?」

「ちっ! 結局、君もアティと同じ理想主義者なんだ。つまらない人間だね」

「だから、褒められて光栄だって言ってやっただろ? これ以上、紅の暴君キルスレス】を持たない奴を相手にしてられっかよ」

 言うが早いか、真樹はその身に【時を駆ける兎】クロックラビィを憑依させ、瞬く間に風となってイスラの脇を抜けて戦場を縦断した。




「刻まれし痛苦と共に汝の為すべき誓約の意味を悟るべし……。霊界の下僕よ、愚者どもを引き裂いてその忠誠を盟主へと示しなさい!」

「ひ、ぎぃあぁァっ!!」

 修道女のような衣を纏った女召喚師が発動した霊界サプレスの高位召喚術の直撃を受けた帝国軍兵士の身体が弾け飛ぶ。その影から一人の少年が接近してくるのを女召喚師は確認した。

「うへぇ、無限界廊で見慣れなきゃやばかったな」

「下郎、何者です!?」

 霊界サプレスに住まう高位の悪魔と契約して得た召喚術による広範囲殲滅型の攻撃。その「影から現れる」……ありえないことだった。タイミング的に間違いなく、召喚術の効果範囲内にいた筈の少年は、鬼妖界シルターンのモノと思しき服装についたわずかな埃を払っていた。その相貌は眠気が覚めやらぬといった感じで、まどろみの中から抜けきっていない双眸にもまったく覇気が感じられない。こんな緊張感のない存在に己が始祖たちの研鑽してきた召喚術が通用しないなど、女召喚師は認めるわけにはいかなかった。

「……っ、どのような奇跡に頼ったかは定かではありませんが、その奇跡が続くとは思わないことです!」

 言いながら女召喚師は、さきほどの召喚術よりさらに高位の悪魔を呼び出す召喚術を発動させようと呪文を唱え始める。

「別に奇跡を頼りにするほどまっとうに生きちゃいねえよ」

 女召喚師が発動した召喚術により、霊界サプレスから異形の双翼が黄昏の空に舞う。
 サプレスに存在する上級悪魔、魔将バウアル。物理的な肉体を持たない悪魔でありながらその強大な魔力のみで実体を構築できる破格の存在である。有する破壊の力も一般的に召喚される悪魔などとは比較することもできないほどの大威力となる。その強大な力に比例し、供物もより多くなってしまうという欠点はあるが、多数の敵兵を一気に殲滅する戦況であれば大して気にする必要のないことである。
 しかし、いまの状況はたった一人の子供を相手にその力を振るわせるというもの。バウアルが後々の代償供物もそれ相応のモノを要求してくることなど目に見えているが、不確定要素を前に女召喚師の勘が手加減してはならないと激しい警報を発していたため、女召喚師が現在行使できる最強の召喚術を発動させたのだ。

「うおあ? で、でけ~」

 天を仰ぎ見るかのように空を舞うバウアルを捉えた少年の姿に女召喚師は勝利を確信して微笑みながらバウアルに地上を破壊する魔砲を撃つように念話を送った。
 その指令をうけとったバウアルは眼下に広がる戦場のところどころに立っている人間の存在を感じ取っていた。標的となっている少年を殺せば、この戦場すべての人間の魂を喰らえると思い、片手間のように豪腕を天へと掲げ、

「ギ、ギが!?」

 そのままさらに天高くバウアルの豪腕は弧を描いて跳んだ。

「!?」

「上級悪魔の十体や二十体召喚されても周りの被害を度外視すれば、楽勝だな」

 遥か上空に停滞してたバウアルの腕を切断したと思しき少年は、長大な抜き身の刀をもち、その背後にはバウアルよりもさらに凶悪な面構えの鬼を象った赤い陽炎を纏っていた。いまだに少年そのものからはっきりとした殺気は感じ取れないが、纏っている赤い陽炎からは尋常ならざる圧力が周囲に放射され、呼吸すら制限されているような幻覚に陥っている兵士もいた。

「……さがれ、ツェリーヌ」

 虎の子のバウアルを容赦なく解体された女召喚師ツェリーヌが、さらなる召喚術を発動させようとしたところに少年と同じく、シルターン様式の服装を纏い刀を手にした初老の男性が庇うように少年の前に歩み出た。

「こいつは、ワシが請け負おう。お前は、ほかを始末しておけばよかろう」

「……っ、わかりました、ウィゼル殿。この者は貴方に任せることにいたしましょう」

 初老の男性、ウィゼルに諌められ、わずかに乱れた心を落ち着かせたツェリーヌは、静かにほかの帝国軍兵士を攻撃すべく呪文を唱え始めた。それを阻止しようと真樹が駆け出そうと一歩を踏み出す、その直前に筋がわずかに動いた段階で手にした大太刀を居合いの要領で一閃し、【見えない斬撃】を斬り払った。

「目上の者を無視して行こうとは、作法がなっていないようだな?」

「あ~そりゃすんませんね」

 面倒な奴に捕まってしまったと真樹は顔を顰めた。
 一人の剣士に真樹が足止めされている間にも周りでは、帝国軍兵士の被害が徐々に拡大していた。



 黄昏に染まる丘の上で、歪められた運命が出会う。















本日の真樹のパラメータ
 Lv.110
 クラス-四界の統率者
 攻撃型
  横・短剣,横・刀,横・杖,投・投具,射・銃
 MOV7,↑6,↓6
 耐性-機・大,鬼・大,霊・大,獣・大
 召喚石6
 特殊能力
  誓約の儀式(真)・全、送還術
  見切、俊敏、先制、闘気、バックアタック、ダブルムーブ、勇猛果敢、心眼、絶対攻撃、狙い撃ち
  異常無効<狂化・石化・沈黙・麻痺>、アイテムスロー
  サルトビの術、居合い斬り・絶刀、抜刀術・驟焱、フルスイング・改、ストラ、バリストラ、
  憑依剣、煩悩封印
 特殊武装-縦・刀(神刀・布都御魂)
 召喚クラス-機S、鬼S、霊S、獣S
 護衛獣-ヴァルゼルド
 装備中召喚石
  ヴァルハラ、天使ロティエル、聖鎧竜スヴェルグ、クロックラビィ、ジュラフィム


オリ特殊能力解説
<主人公>
 誓約の儀式(真)・全‐誓約者と同じ召喚法。
 送還術‐召喚術をキャンセルする。誓約に縛られていない異界の存在ならば強制的に元の世界に送り返すことができる。
 居合い斬り・絶刀‐距離・高度の射程が大幅に延長された居合い斬り。
 抜刀術・驟焱‐抜刀と同時に前方を炎で範囲攻撃。
 フルスイング・改‐横切りタイプの攻撃力が1.5倍になる。
 憑依剣-武具に異界の力を憑依させる憑依召喚術の発展技術。
 煩悩封印-真樹の潜在的な欲求を強引に封じ込めることにより、シリアス戦での出力3割増。ギャグ戦での出力3割引?






[2746] 無限界廊の異端児 第19話 鬼神邂逅・真剣編
Name: もにもに◆d4f1932e ID:72a9f08e
Date: 2010/09/17 00:50


無限界廊の異端児

第19話 鬼神邂逅・真剣編







 黄昏、来たりて夕闇の墓標にも次第に影が増え始めていた。
 本当の墓標と化した丘の上、イスラが属するという謎の部隊と帝国軍、アティたちの戦いは終息に向かいつつあった。

「……っ!」

「ふむ……」

 敵味方入り乱れる乱戦状態の中にあってそこだけ異様な空気が流れていた。
 静かに対峙しているのは、島が誇る変質者の真樹と謎の部隊に身をおく初老の男ウィゼル。そして、真樹を挟むようにウィゼルと対極側にナイフを構えて息を切らせる黒いマフラーの女性が身構えていた。本来であれば一人の敵に対して、この二人が共闘するということはない。戦いの運び方から主義や気性の違いも大きく、それでいて各々が常人を遥かに超えた殺人技術を習得しているからでもある。しかし、現実は2対1であっても傷どころか、纏っている衣にすら刃を通すことができない状態だった。

「……なぜ本気を出さない? ワシらはお前たちの命を奪うために刃を振るっているのだ。貴様がどれほど強くとも、こうしているうちに貴様の仲間たちが血を流すことになるのだぞ?」

 数合の剣戟で己と真樹の技量には、到底埋めることのできない差があることを理解したウィゼルだったが、それでも真樹と剣を合わせることをやめることなく戦い続けていた。それは謎の大部隊のためではなく、ウィゼル個人の願望を実現させるために絶対的な強者というモノの性質を知っておきたかったからである。

「そんなことにはならないさ。あっちを見――」

「……ッ!」

「――てみな? 俺の相棒が護ってるんだ。【紅き手袋】の暗殺者だろうと【無色の派閥】の召喚師や兵士だろうといくら束になってもヴァルゼルドのシールドは破れねえよ」

 ウィゼルと相対したまま振り向きもせずに背後から無音で斬りかかって来た女の暗殺者の攻撃を真樹は余裕を持って回避する。何度も刃を打ち合っているウィゼルと違い、女の攻撃はすべて回避され、反撃どころか武器で打ち払うことすらされていなかった。
 真樹たちと離れた場所では、真樹に昏倒させられなかった【紅き手袋】と【無色の派閥】の兵士たちがアティたちを囲み、蟻のようにその周りに群がっているが、決して近づくことができなかった。アティたちの周りには見えない壁が張られ、物理的な干渉のすべてを跳ね返している。その壁の中にはアティたちの他に帝国軍の生き残りたちも一緒に護られていた。

「教官殿たちには指一本触れさせないのであります。――攻撃要請!」

『シ、ギ、ギャアアッッ!?』

 ヴァルゼルドの攻撃要請とほぼ同時に遥か上空から幾条ものレーザーがシールドの周囲に群がっていた敵兵たちを撃ち払った。命こそ奪うような出力は出されていないが、それでも治療を受けなければ今後の生活で苦労することになる程度のダメージを与えている。
 以前までは、防御シールドを展開している間は攻撃態勢に移ることができなかったヴァルゼルドも今では攻撃と防御を同時に行えるようになっていた。これも一重に無限界廊の最深部すら越えて【裏・無限界廊】にまで足を踏み入れた真樹のサポートをするために強化改修を続けた結果だった。

「なるほど。確かにあの結界を破るにはそれ相応の業が必要になりそうだ」

 ヴァルゼルドのシールドを揺るがすことも出来ない【無色の派閥】と【紅き手袋】の兵士たちに目をやりながらも鋭い斬撃を真樹に向けるのを止めない。

「そう思うならあんたらの大将を説得して帰ってくんない? まあ、【紅の暴君キルスレス】は置いてってもらうけどな」

 ウィゼルの斬撃を苦もなく受け流しつつより鋭い斬撃でウィゼルの刀を技を削っていく。

「理不尽な物言いだ。……しかし、貴様はそれを押し通せる力があるようだな」

「はぁああッ!!」

 勝てないと理解していながらウィゼルもマフラーの女も攻撃をやめず、心も折れる兆しもない。
 ウィゼルは鍛冶師として、最高の剣を完成させるために真樹の技を引き出そうと己が技の粋を惜しげもなく披露する。
 マフラーの女は【紅き手袋】の暗殺者としての存在意義ゆえに手を緩めることができない。
 二人の絶技を前にしても真樹の技に綻びが生じることは永遠に来ない。

「分ってると思うが、あんたらじゃあ俺は倒せない。そんでもって俺はあんたらとあんたらの親玉を殺せない。だからさ――」

 ようやく眠気の覚めてきた真樹は一際力を込めた剣戟でウィゼルとマフラーの女を弾き飛ばす。

「むっ!」

「くぅっ!」

 弾かれた二人はそれぞれで受身を取りつつすぐに体勢を立て直すが、再び視線を真樹に戻すとすでに真樹の準備は整っていた。

「殺さないし、再起不能にもしない。……だけど、今だけはぶっ倒れてもらいます」

 再び鞘に刀を納めた真樹が抜き打ちの型で構える。

「ふむ、ならばわしも全霊を以って貴様の“業”に挑ませてもらおう」

 抜刀の構えをとって何者かに“挑む”ということが久しくなかったウィゼルは、錆付くことを許さない剣気を若き【侍】に向ける。
 それを真っ向から受けても真樹には僅かな揺らぎもない。
 鬼妖界シルターンから渡り来た最高の魔剣鍛冶師であり、剣を鍛えるために剣の技をも極めたウィゼルはシルターンの剣士【侍】として最高峰の実力を持つ。ゆえにこそ、その極意たる居合い斬りも極め尽くしていた。
 しかし、ウィゼルの居合い斬りが最強であるというわけではない。居合い斬りとは扱う刀とそれを揮う侍によってわずかに、されど明確に威力も質も変化する。
 ウィゼルが揮う【居合い斬り・絶】をやすやすと破っている真樹が揮う居合い斬りはどのような質と威力を有するのか、ウィゼル本人も興味があった。
 二つの剣気が重く静かに圧し合い。

「…………っ!」

「………むっ!」

 刹那を翔けて交叉する二つの剣閃。それらのぶつかりは、拮抗することもなく折れた鋼と舞い散る鮮血という完璧な勝敗を示した。

「ぐぅ……」

 膝を屈したのはやはりウィゼルだった。
 柄元に僅かな刃を残すだけの刀を掴む腕から決して少なくない出血があり、これ以上の戦闘行為は以後の目的を果たせなくなる程度には深手となっている。

「勝負あり、だよな」

「……どうやらそのようだ」

 決定的な敗北。単純な剣の技だけで数多の脅威を退けてきたウィゼルですら同じ土俵の上で圧倒された。
 マフラーの女暗殺者は、ウィゼルを打ち負かした真樹の背後でどうするべきか手を拱いていた。
 イスラの報告ではこの少年の最大の脅威は全属性を網羅した召喚術ということだった。
 しかし、蓋を開けてみれば不可思議な力で【紅き手袋】の暗殺者達を触れることなく昏倒させ、対人戦闘の達人であるウィゼルとマフラー女の二人を相手に圧勝。
 ウィゼルは負傷により戦闘続行は不可能だが、マフラー女の方はほぼ無傷であるため戦闘を続けることは可能だった。それでもマフラー女は攻めることができない。それは強大な敵を前にした恐怖からくるものではなかった。確かにこの少年の力は想像の及ばない域にある。しかし、この少年からはこれまで出遭ってきた強者たちの誰とも似通ったところがなかった。言葉に表すとすれば「らしくない」というのが正直な感想だった。
 ウィゼルを斬り伏せた真樹は、何の警戒心もなくほかの暗殺者や兵士たちの下へと歩き出していた。まるでマフラー女を敵と認識していないかのような無防備な背中を晒している。

「……ッ」

 それを侮りと思ったわけではなく、油断とも、情けをかけられたとも思っていない女は、届くはずがないと知りつつも真樹の背に刃を奔らせた。
 まったく無防備な背中だった。これまで数え切れないほどの人間を殺害してきた女もこれほどまでに警戒心のない背を見たことはなかった。戦場においてこのような背を見せるなど日和見を通り越して正気でないのではと思いたくもあった。

「任務に失敗すれば、明日は我が身の危機……同情はできないけど、心中は察するよ。見逃したところで逃げ場はないってことなら強制的にリタイアさせてやる」

 真樹が振り返ることなく呟くとマフラー女が手にしていた黒薔薇のナイフは弾かれたように宙を舞い、女の右足に深々と突き刺さった。

「……っぁ!!」

 またも触れることなくナイフを操った真樹を人間であると思えないという感想と共にその手品の一端を捉えることに女は成功していた。
 真樹の両腕や両脚、背中などにほんの僅かなモノだったが、不自然な空間の乱れが生じているのを女は確かに見た。それは異界の召喚獣の力を我が身に宿す術式である【憑依召喚】の使用しているときに見られる現象に酷似していた。それが分かってしまえば“見えない攻撃”のタネも分かってしまう。ようは霊界サプレスの召喚獣の力を憑依させ、霊体特有の不可視化による攻撃を行っていたに過ぎない。それを使われていると分かっていれば対処方法はいくらでもあった。
 しかし、それが事前に分かっていたとしてもマフラー女はもとより、ウィゼルや他の兵隊たちに真樹を打ち倒す術はなかった。そんな小手先の召喚術などより、真樹の剣術はよほどはっきりした脅威としてそこにあったからだ。
 もはや有象無象のやられ役の如く倒されていく【紅き手袋】の部下や【無色の派閥】の兵士達を遠目にマフラー女は動かなくなった足を引きずるように歩き出す。

「アナタは、強い。……けれど」

 強いだけの力で“彼”は倒せない。マフラー女は、同じ【紅き手袋】に所属する優し過ぎる暗殺者の存在を近くに感じていた。


 真樹もすぐに気付く。
 それほどに際立った気配の持ち主達だった。

「どうやらあの者たちの手に負える相手では無さそうだな。……貴様が相手をしてやれ、【紅の兇刃】」

「…………」

 黄昏が過ぎ、星々が暗い空にぽつぽつと輝きを灯し始める状況になり、ついに【無色の派閥】と【紅き手袋】の主導者が現れる。
 予想を遥かに上回る敵の抵抗に連携を乱していた暗殺者や兵士たちがそれぞれの主の下へといっせいに傅き、登場時と変わらぬ統制をもった隊列をなす。

「ついに出てきたな」

 整然と居並ぶ大部隊の中央を抜けて静かな歩調で近づいてくる男の姿を確認した真樹は、手にしていた銘刀サツマハヤトを鞘に戻す。

「あやつらが出てきたか。小僧、貴様は時間をかけ過ぎた」

 ゆっくりと近づいてくる赤髪の男とその後方で悠然と佇み威容を示す召喚師の男を見たウィゼルが哀れむように呟き傷ついた身を引いた。
 女の暗殺者も影から赤髪の男に哀しげな視線を向けつつ他の兵と同じく現れた主導者に傅く。

 周囲を睥睨する主導者から離れた赤髪の男がゆっくりとした歩調で真樹へと近付いてきた。
 それだけで今の今まで真樹に襲い掛かっていた暗殺者や兵士達は引いていった。
 辺りの整然とした様子に剣の手を休めるアティたちやアズリア率いる帝国軍だったが、いまだ圧倒的な数で夕闇の墓標を染める【無色の派閥】たちとその主導者の存在に緊張を保ちつつ警戒し、鬼神の如き強さを見せた真樹の下へと歩み寄る赤髪の男に注意を寄せる。

「また会ったね」

「ああ、また会ったな」

 赤髪の男は優しげな、どこか疲れた微笑を真樹に向け、真樹もまた苦虫を噛み潰したような強引な笑みを作って応える。
 島の中央にある遺跡ですでに邂逅はすませてあった。この場で真樹に驚愕はない。
 遺跡のときはすぐに眠らされてしまったことで何かの見間違いだったのかもしれないと淡い期待を胸に抱いていた。
 そんなものは文字通り夢幻でしかった。真樹にとって予想してしかるべき存在――イレギュラーな強敵。
 単純な戦闘力において真樹を脅かす存在はもはや存在しないと言っても過言ではない。
 そんな真樹をして強敵を言わしめる存在――それこそが目の前に立つ赤髪の青年だった。

「できれば抵抗してもらいたくないんだ。こちらの目的は【碧の賢帝シャルトス】とこの島の遺跡。それらを渡してもらえれば誰も痛い思いをせずに済む。おとなしく、従ってもらえないかな?」

 その言葉は本心からくるものであるのか定かではないが、赤髪の男は約束を違えるような人間ではないのだろうと他人に思わせる雰囲気を纏っている。
 しかし、この男の正体を知っている真樹は、どう対処すべきか決めかねていた。ウィゼルをはじめ、敵陣営の主要な者たちのほとんどは殺してはならない、真樹の主観において殺したくない者たちばかりであるため、この赤髪の男もまた殺すわけには行かなかった。真樹自身、自分が関わったためにいろいろな部分で歴史に些細な変化が出てきていることは把握していたが、大筋では許容範囲内だったため安穏とすごしていた。生来が考え事をすることに慣れていない真樹は、こういった状況でどのような結果に導けばよいかがまったくわからなかった。真樹ならばどんな方向にも持っていけるが、そのどれが正しいものなのかまでは判断ができないのだった。

「まあ……はいわかりました、と言えるわけもないからな。返り討ちにさせてもらう」

 あとに最大の問題が残っているため、【無色の派閥】との戦いはできるだけ早めに片付ける方が余裕を持って行動できると真樹は考えた。
 真樹の返答を聞き、わずかに哀しげな表情を浮かべた赤髪の男は、静かに虚空へと手を伸ばす。

「……君は強いね」

「当然だろ?」

 赤髪の男の呟きに真樹もまた茜色の空に手を掲げる。
 奇しくも鏡合わせとなった二人の影が夕闇の丘で重なる。
 二人が掲げた手に武器を取る。
 真樹が手にするのは、メイメイから継承した鬼妖界シルターンのエルゴの加護を宿す【神刀・布都御魂】。リィンバウムに存在する中でも最高峰の護神刀。

「やっぱり君には全力を出さないと駄目そうだ」

 布都御魂を召喚した真樹から湧き出す魔力の奔流に赤髪の青年は掲げた掌に紅き輝きを召喚する。

「アンタが【適格者】だったんだな」

 赤髪の青年の手に現れた真紅の輝きを宿す魔剣を眼にした皆が驚愕する。
 アティの手に渡った【碧の賢帝】と対を成すもう一振りの封印の魔剣【紅の暴君】キルスレス。その所在すら定かではなかった魔剣がついにこの島に現れた。
 
「あまり驚いているようには見えないね。君には予想済みだったということかな?」

 赤髪の青年は、【紅の暴君】を手にしたと同時にその力を身体に満たし、特徴的な赤毛も真っ白に染まった。
 特殊な武具を使用することにより、身体に何某かの変化が及ぶ。在りがちな要素だが、その本質はまったくの別物だ。
 その武具と使用者の力は対等であって始めて真価を発揮する。
 使用者の肉体に変化が及ぶということは武具の力が使用者を上回っており、使用者の肉体に武具の力が注がれているということ。

「アンタも、魔剣に使われてるんじゃないのか?」

「……何でもお見通し、ということか。本当に君は何者なのかな?」

 真樹の言葉にわずかばかり表情を硬くしたがすぐに【紅の暴君】を構え、真樹の魔力に対抗するように紅い魔力の波濤を吐き出す。

「相変わらず封印の魔剣ってのは凄いな。……けどそれだけで“本気”の俺を抑えられると「思ってはいませんわ」……あ~お前もか」

 赤髪の青年もとい、キルスレスの【適格者】は確かに強いのだろう。
 他の【紅き手袋】の暗殺者たちが【無色の派閥】の主導者が向かっているアティたちの方に集中しているのを見れば、イスラの報告と遺跡での接触で最高の戦力をぶつける必要があると判断されたことからも真樹の脅威度の高さが伺える。
 そして、彼らが真樹にぶつけることにしたのは封印の魔剣の【適格者】。しかし、それだけでは足りないことも理解できていた。それゆえに“駒”として使える最強の戦力を差し向ける。

「改めて自己紹介いたしますわ。私は、【紅の射ち手】と申しますの。そしてこの子は――」

 赤髪の青年の隣に歩み出たのはアティの生徒であるアリーゼと同じくらいの年頃の少女だった。
 紅い衣服と帽子、白雪のような肌に長いクリーム色の髪。真樹にとってキルスレスを持つ青年と同じようにどうしようもないほど見覚えのある人物だった。
 そんな見覚えのある少女が“いまは存在しないはずの魔剣”を持っていることに真樹は軽い驚きを見せる。

「この子の名前は【不滅の炎】フォイアルディアですわ。【紅の暴君】を解析したウィゼル殿に鍛えていただいた魔剣ですのよ」

 自慢げに言ってみせる少女の手にある赤い輝きを宿す剣は炎のような揺らめきと共に少女の身体を変異させていく。
 しかし、その変異は全身に及ぶことはなく、【不滅の炎】を持っている側の腕と髪の半分を白く染め上げるに止まっている。

「なるほど……キルスレスの力を分け与えられた擬似的な魔剣、というわけか。その力、キルスレスが覚醒している状態じゃないと使えないんだろ?」

「よくお分かりですわね。けれど、【先生】のキルスレスがある限り、私のフォイアルディアも共界線クリプスから力を得ることができる。アナタが相手にするのは二振りの魔剣。容易く退けられると思わないことですわ」

 少女の言葉に青年は静かに目を伏せながらも静かに魔力を高める。
 ふたつの紅い輝きが真樹の前に立ちはだかる。
 二人の力を知る【無色の派閥】や【紅き手袋】の者達は、これで障害がなくなると思った。
 真樹の真なる力を知る者が見れば、足りない、まだ足りない、到底及ばないと安心しきったことだろう。

「いくよ」「いきますわよ!」

 二振りの紅き魔剣が常人では制御しきれないほど強大な召喚術を発動しながら魔力の波濤を真樹へと叩きつける。
 強大な力を持つ召喚獣が真樹へ襲い掛かる。それに合わせて二人の魔剣使いが斬りかかる。
 迫り来る攻撃を前にしても真樹は冷静に刀を構える。
 真樹はこの二人を殺すことができない。例え本来の出自や役割が違っていたとしても無碍に命を奪うほど彼らを敵として認識できないのだ。
 それが単なる甘えであると真樹自身十分に理解しているが、このような甘えやわがままを押し通すために真樹は無限界廊で戦い続けてきていた。ゆえに今こそその力を存分に揮い、我を通す時である。

「本当なら【紅の暴君キルスレス】だけを頂くつもりだったが、未完成とはいえ【不滅の炎フォイアルディア】もあるならそっちも頂くとするかな」

 抜刀の構えをとった真樹が目前に迫った巨大な召喚獣たちに対して一閃。
 鋭い太刀筋の軌跡を追うように鮮血が舞い、一拍遅れて召喚獣の巨躯とその背後から迫っていた二人を炎の波濤が包み込んだ。

「っ……」「……や、やはり手強いですわね」

 召喚獣が炎で焼かれるのを尻目に結界を張って炎を防いだ二人が歩み出る。
 その表情には余裕も虚勢も一切なくなっている。

「この後に本命が残ってるからな。お前達やオルドレイクには悪いが“本気”で叩き潰す」

 二振りの魔剣を前にその二振りを遥かに凌ぐ紅い輝き、鬼妖界シルターンの力をその身に宿した真樹がその実力の一端を覚醒させる。

 



 真樹が対峙する中、アティたちのところには【無色の派閥】の主導者の男が立ちはだかっていた。
 絶対的な防御力を有するヴァルゼルドの結界も魔力MP切れですでに解除されていた。
 機械兵士として最強クラスの機体になったヴァルゼルドでも機械兵士に在りがちな魔力量の少なさだけは補えていない。

 夕陽を背にして現れた無色の派閥の主導者。
 アティたちは言いようのない威圧感に身を硬くする。

「ゴミどもの始末も為せないとはな。どれほど待たせるつもりか?」

 姿を現した主導者は自身を中心に傅く兵士達を睥睨しつつ尊大に言い放つ。

「もうしわけございません」

 兵士達を代表して負傷したマフラー女が主導者の男に言う。
 見れば無傷な兵士達など一人としていなかった。護りの結界だとしてもヴァルゼルドの結界に触れればその身体を雷撃が蝕み、真樹の剣撃は武具や鎧さえ砕き割って骨身を削っていた。そんな中で全霊を賭して戦った兵士達に対する主導者の男の評価は“役立たず共”の一言だった。それに不平不満を唱えるものなど存在しない。そんなことよりも自身の任務をこなせなかったことに対する恐怖だけだった。無色の派閥の兵士も紅き手袋の暗殺者達も皆が自分の命が“駒”でしかないと理解しており、目的を果たすためならば自爆することも厭わない者たちだ。それでも自爆者が出ていないのは、自爆に使う爆弾や呪符を真樹に悉く破壊されたからに過ぎない。今は、生き残ってしまった命で主君の命令を忠実に果たすことで失態を補わなければ、敵に殺されなくとも組織に処分されてしまうことになるのでいつでも“敵”と戦えるように臨戦態勢を解かないでいる。

「さあ、あなた……こちらへ」

 無色の女召喚師ツェリーヌに招かれ、主導者の男がアティたちの前へと歩み出る。
 その男の顔を確認したヤードが驚愕に打ち震える。

「バカな……まさか、直々に出向いてくるなんて……」

「なるほど……アイツが、そうなのね」

 ヤードの呟きにスカーレルの表情に秘された刃を宿らせる。
 二人の様子をカイルたちがいぶかしむ。


「同志イスラはどこだ?」

「はっ、ここに……」

 男の呼びかけに兵士達の間を抜けてイスラが歩み出て膝を折る。

「今日までのお前の働き、実に見事だった。我らのこの一歩は、始祖らが夢望み続けた新たなる世界への架け橋となるだろう」

「ありがたきお言葉、感謝にたえません。そして……」

 一拍おいて主を見上げる騎士のようにイスラは瞳を開く。

「遠路よりのお越し、心より歓迎いたします。オルドレイク様」

 イスラにあわせるように他の兵達も恭しく頭を垂れる。
 無色の派閥の主導者、オルドレイクの存在にアティたちがざわめいているところにツェリーヌが大声を出す。

「控えなさい、下等なるケダモノどもよ! この御方こそ、お前たち召喚獣の主。この島を継ぐために起こしになられた【無色の派閥】の大幹部、セルボルト家のオルドレイク様です!」

 イスラの援軍として現れた集団の詳細を知らなかったアティたちに動揺が奔る。
 島の護人たちは、遥か昔に多大な犠牲を払って追い出した無色の派閥が再びこの地に舞い戻ったことに途惑う。

「我は、オルドレイク。始祖の残した遺産。門と剣を受け取りにこの地へとまかりこした」

 尊大に自身の目的を告げるオルドレイク。
 その威圧的な言動に身を硬くする面々。しかし、そんなオルドレイクの言葉に激情を抑えきれない者がいた。

「それがどうしたッ!? ゴミだ? 雑魚だ? 目障りだ? 貴様らにそんな扱いを受けるいわれがあるものか! 帝国軍人を……ナメるなアァッ!!」

「やめるんだ、ギャレオぉぉぉ!!」

 アズリアの制止も聞かずにオルドレイクへと殴りかかるギャレオ。
 周囲の兵士達がわずかに腰を上げ始めるがすぐにその腰を止める。

「がはっ!?」

「負け犬は負け犬らしく、おとなしくしていてくれないかな?」

 戦闘後の疲弊に加え、逆上していたギャレオは横からのイスラの攻撃に対処できずに屈することになった。

「手間をかけさせたな、同志イスラよ」

「いえ、オルドレイク様のお手を煩わせるようなことではないと判断したまでです」

 イスラの言葉に意味深な笑みを作ったオルドレイクは再びアティたちへと視線を向ける。

「さて、まずは剣の方から受け取ることにしよう。……お前が、そうだな?」

「……っ!」

 容易く魔剣の気配を察知したオルドレイクにアティも抜剣覚醒し身構え、魔力でオルドレイクを威圧する。
 常人ならば呼吸すら制限されそうな魔剣の威圧にもオルドレイクは歪な笑みを湛える。

「おお、素晴らしいぞ。解き放たれた魔力が心地良く吹き付けてくるではないか。ふっふふふふふ……」
 
「来ないで! 来ないでえええっ!!」

 剣を奪おうと近付いてくるオルドレイクにアティは叫びながら召喚術を浴びせる。
 召喚術による攻撃で濛々と立ち上る土煙が晴れるとそこには無傷のオルドレイクは立っていた。

「どうした? それで、終わりか?」

 狂気を宿して炯々と輝くオルドレイクの視線にアティは言いようのない不安に駆られ召喚術を再び放つ。
 しかし、それでもオルドレイクの身体には傷一つ、埃一つつくことはなかった。

「どこを狙っているのだ。そんな有様では私から逃げられぬぞ?」

 オルドレイク自身、結界を張ってはいるがそれはあくまでも召喚術による攻撃の余波を防ぐためだけのもの。
 アティが繰り出す攻撃のすべてがオルドレイクを狙ったものではなく、その周囲へと放たれたものであるため、いかに魔剣の力を使っていようともオルドレイクの歩みを止めるには至らない。
 倒すべき敵の命さえ尊んでしまうアティにオルドレイク率いる無色の派閥と戦うことは困難だった。
 アティを助けようとカイルたちの前にはツェリーヌを筆頭に無色の兵士や暗殺者たちが立ちふさがっていた。


 ついぞオルドレイクにダメージを与えられなかったアティは、魔剣の使いすぎによる消耗によって覚醒状態を維持できなくなった。
 その様子にオルドレイクは蔑むようにアティを見る。

「いかに優れた道具でも使い手がこれでは宝の持ち腐れよな。貴様にその剣は不釣合いだ、これで終わりに――」

 消耗したアティにオルドレイクが攻撃を仕掛けようとしたときだった。
 カイルたちと派閥の兵士達の戦場を駆け抜け、一つの影が雄叫びを上げながらオルドレイクに斬りかかった。

「そうなにもかも貴様らの思い通りになると思うなっ!!」

 オルドレイクに斬りかかったのは、アズリアだった。
 本人も満身創痍の身体をおして、オルドレイクと鍔迫り合いを行う状態に持ち込んでいる。 

「逃げろ、アティ! この血まみれの戦場に……お前の居場所など、どこにもありはしない。こんな戦場に立つのは、軍人だけで充分だ!!」

「姦しいぞ、帝国の犬が……矯正してやろう!」

 アティを庇うようにしてオルドレイクを抑えていたアズリアだったが、やはり地力が違いすぎた。
 零距離からの召喚術にアズリアが吹き飛ばされるが、心配するアティをよそにアズリアは立ち上がって再びオルドレイクに剣を向ける。

「手習い程度に学んだ貴様らの召喚術では、我らには遠く及ばぬ。あがくほどに苦しむだけだと何故理解しない?」

「考えるだけ時間の無駄だと思いますよ、オルドレイク様」

 アズリアの捨て身の行動に呆れたように呟くオルドレイクの前にイスラが剣を携えて進み出た。

「イ、スラ……」

 敵の総大将と自身の前に立ちふさがった実弟の名をアズリアが呼ぶが、イスラの方は感慨もなげに剣を振るった。

「あ、ぐああ……!」

「少しは僕の立場も考えてくれない? 姉さんが足掻いたらせっかく評価された僕の功績が、台無しになるじゃない」

 実の姉へと容赦なく凶刃を振るうイスラに今度はアティがアズリアを庇うように前へ出る。

「やめて、イスラ! アズリアは、貴方のお姉さんでしょう!? 貴方の代わりに軍人になって、レヴィノスの家を守ろうと……」

「そんなこと僕は一言も頼んじゃいないッ!!」

 アティの言葉にイスラが吠える。

「姉さんは僕を庇って軍人になったつもりだったろうけどね、そのおかげで僕はレヴィノス家にとって本当に不必要な存在にされちゃったんだよ」

 例え長男であろうとも病弱でいつ果てるともしれない身体のイスラよりも軍学校や実践において優秀な成績を残してきたアズリアを当主とした方が何倍も良いと判断された。優秀な長女と脆弱な長男、レヴィノスという家を守るために必要な当主がどちらであるかなど誰の眼にも明らかだった。

「そんな……私はそんなつもりじゃ」

 イスラがそのような扱いを受けていたこと、自分の存在を疎ましく思っていたことなど気付けなかったアズリアは動揺して上手く言葉を紡げない。
 そんなアズリアの様子にため息をつきつつイスラが再び剣を振り上げた。

「弁解しなくてもいいよ。だから……黙って、死んでよ?」

「あ……」

 目前に迫る切っ先にアズリアが目じりに涙を流す。
 今にも自分の命を奪おうという刃は、憎悪ですらない単なる作業として揮われる実の弟の行為。
 姉の命を奪う弟。
 その光景は、アティにとって耐え難い現実だった。

「やめてぇえええええっ!!」

 アティの叫びに呼応するように【碧の賢帝シャルトス】が瞬時に覚醒し、今にもアズリアを斬り伏せる寸前だったイスラを魔力の壁が吹き飛ばし、傍にいたオルドレイクにも後退を余儀なくさせた。

「なんという結界……。そうか、感情の爆発によってようやく本来の力に目覚めたわけだな。素晴らしい……実に素晴らしいぞ!? それでこそ、出向いた価値がある!!」

 暴走しているとしか思えない魔力の波濤にもオルドレイクは狂喜する。
 この力を本当に自分の物にできると信じて疑っていないのだろう。

「ウバワセナイ……。モウ、コレイジョウナニモ……ウオオオオオオオオォォォォォォォ!!」

 剣に封じられている遺跡の意志。その中にある誰かを守りたいという願いがアティの願いと共鳴して自らの崩壊すら厭わぬ力を引き出そうとする。
 その様子に“魔剣の叫び”を聞き取ったウィゼルがオルドレイクに告げる。

「引け、オルドレイク。これ以上の挑発は剣そのものを破壊しかねんぞ」

「さあ、貴方」

 ウィゼルとツェリーヌに促され、オルドレイクもしぶしぶ引き下がろうと後退を始めた。
 そこへ今一度、強大な魔力の怒涛がオルドレイクをはじめ、無色の派閥の兵士や紅き手袋の暗殺者達を吹き飛ばした。
 今度の攻撃は先ほどの比でなく、明確な破壊を目的とした攻撃にオルドレイクの結界も意味を成さずに易々と破られた。

「ぐ、何事だ!」

 突然のことに周囲を睨みつけるオルドレイクの視線の先に今回投入した最強の“駒”が地に伏していた。
 そして、さらにその先に暴走状態のアティすら越える強大な魔力を纏った少年が立っていた。

「さあ、無色の皆様方、ボロ雑巾のようになってお帰り願いましょうかね」

 ここに島始まって以来の武神が動き出す。
 10年以上の長きに渡って無色の派閥の恐怖の代名詞として語り継がれることになる鬼神との始めての邂逅だった。
























本日の真樹のパラメータ
 Lv.110
 クラス-四界の統率者
 攻撃型
  横・短剣,横・刀,横・杖,投・投具,射・銃
 MOV7,↑6,↓6
 耐性-機・大,鬼・大,霊・大,獣・大
 召喚石6
 特殊能力
  誓約の儀式(真)・全、送還術
  見切、俊敏、先制、闘気、バックアタック、ダブルムーブ、勇猛果敢、心眼、絶対攻撃、狙い撃ち
  異常無効<狂化・石化・沈黙・麻痺>、アイテムスロー
  サルトビの術、居合い斬り・絶刀、抜刀術・驟焱、フルスイング・改、ストラ、バリストラ、
  憑依剣、煩悩封印
 特殊武装-縦・刀(神刀・布都御魂)
 召喚クラス-機S、鬼S、霊S、獣S
 護衛獣-ヴァルゼルド
 装備中召喚石
  ヴァルハラ、天使ロティエル、聖鎧竜スヴェルグ、クロックラビィ、ジュラフィム


オリ特殊能力解説
<主人公>
 誓約の儀式(真)・全‐誓約者と同じ召喚法。
 送還術‐召喚術をキャンセルする。誓約に縛られていない異界の存在ならば強制的に元の世界に送り返すことができる。
 居合い斬り・絶刀‐距離・高度の射程が大幅に延長された居合い斬り。
 抜刀術・驟焱‐抜刀と同時に前方を炎で範囲攻撃。
 フルスイング・改‐横切りタイプの攻撃力が1.5倍になる。
 憑依剣-武具に異界の力を憑依させる憑依召喚術の発展技術。
 煩悩封印-真樹の潜在的な欲求を強引に封じ込めることにより、シリアス戦での出力3割増。ギャグ戦での出力3割引?





 う~む、久々のもにもにです。
 なにやらごちゃごちゃしてきちゃってますが、はよう1、2、4の流れにいけるようがんばります。




[2746] 無限界廊の異端児  幕間 紅者軌跡・龍姫談合
Name: もにもに◆d4f1932e ID:72a9f08e
Date: 2010/09/21 09:33



無限界廊の異端児

 幕間 紅者軌跡・龍姫談合







 とある田舎の村落。これといった特徴もないどこにでもあるような集落に生れ落ちた彼はありふれた子供の一人だった。優しくも厳しい尊敬する父と母、いつも柔らかな笑顔で遊びまわり、ちょっとしたことで涙してしまう妹。彼と同じような家族を持つ人は同じ村にたくさん居た。誰もが同じような家族をもち、誰もが同じような仕事をし、誰もが家族のように接することができた故郷。それが失われた時、多くの者たちが家族を自身の命を奪われていった。
 目の前で両親を殺された妹は、笑うことを自己防衛とした精神崩壊に至った。生き残った周囲の大人たちは献身的に彼女を介抱した。妹が快復するまでの間、彼もまた精神的に苦しんでいた。残された妹を守るため、親を失った彼らを本当の親のように接し続ける優しい大人たち。そんな環境にあって自分が泣くわけにはいかないと必死になって涙を堪えた。夜になると両親の死を思い出して取り乱す妹を毎晩夜遅くまで宥め続けた。面倒を見てくれる大人たちに感謝し、彼はできる限りの手伝いをして回った。
 彼の働きに村の大人達は感心し、よりいっそう彼ら兄妹を大切に扱うようになった。そんな良い環境もあってか、妹の症状もゆっくりと快復へと向かっていった。
 そして、妹が快復してしばらく経つと彼は真剣な眼差しで妹や大人たちに別れを告げ、旅立った。
 旅立った彼は、ある目的のために慣れない旅を涙しながら続けた。それまで泣けなかった分、ひとりになって大いに泣いた。そして、その原因となった相手を捜し求め続けた。精神に異常をきたした妹のためにも崩れることが許されなかった彼の中には、消えることのない暗い感情が芽吹いてしまっていた。
 幸か不幸か彼には才能があった。それこそ帝国の軍学校に入れば主席を取れるほどだった。しかし、その才能は、憎悪という糧を得て復讐という炎により鍛えられたことでより強大な力を彼に齎した。その力を向けるべき相手にたどり着くまでに彼は多くのものを失っていった。彼にとって失うことを恐れるモノはすでにたった一人しかなかった。ゆえにそのひとりと離れ離れになった彼に恐れはなかった。何処までも何処までも突き進むことができた。
 そして、彼や妹、村の人々から多くのものを奪っていった者達の前にたどり着いた時、彼はどんな理不尽でも押し通せるほどの力を身につけ、裏世界に生きるものたちにとって出遭ってはならない存在として知れ渡っていた。復讐という道に身を置くことを決めたときから彼は覚悟していた。だからこそ、故郷の皆に別れを告げてきた。後戻りできなくなった彼が身を置いたのは、復讐を果たすために必要な力と情報を得るために利用した犯罪組織【紅き手袋】だった。裏社会では、どれほど若くとも実力さえあれば、いくらでも居場所を手にすることができた。変わりに力を失えば瞬く間にすべてを失う世界でもある。
 そんな世界に身を置いた彼は、多くの者に機界ロレイラルの機械兵士のようだと比喩されるほど無感情・無感動であらゆる仕事をこなして行った。どんな困難な任務も必ず成功に導き、どんな堅牢な守りも打ち砕いて標的を殺害した。

 その日、彼が受けた任務はとある豪商に連なる商人の暗殺だった。
 仕事自体は簡単なものだった。裏社会で名を馳せた彼にとって困難と呼べる任務は存在しない。そんな彼でもこの時だけはわずかに動揺した。
 暗殺した商人の邸宅に“存在しないはずの子供”が居たという事実。その子供に現場を見られたという失態。

「……貴方、人を殺す人ですのね」

 血に染まる刃を持った彼の姿に子供は恐怖する様子もなく淡々と述べた。そこに親を殺された子供の情緒など存在しなかった。

「その方は、私の親ではありませんわ。このお屋敷に私の身内はひとりとしておりませんの。気遣いは不要ですわ」

 血に濡れた絨毯を素足であるく子供は、まだ温度を失わない商人を興味深そうに観察しながら彼へと視線を向けた。
 カーテンの隙間から射し込む月明かりが子供の姿を淡く彩る。
 深い蒼を宿す瞳にクリーム色の長い髪に病的な白さの繊細な肌の少女。華奢な身体にも合わないほどやせ細った手や脚、掴めば折れてしまいそうな細い首。立って歩くことすら難しいと思わせるほどか弱い存在だった。触れれば壊れてしまう、そう思わせる少女の姿にかつての妹の姿が重なった。
 突然の邂逅にらしくない動揺を見せる彼の態度にも少女は気にせず、抑揚のない声で囁いた。

「貴方、私のことも殺してはいただけませんの?」

 ことのついでに自分も、というように言う少女。その瞳には、自らの死を求めるような輩が宿しているような絶望的な何かは映っていない。
 まるで自分の命に価値がないとでも言うような。価値がないのが当然なのだと言っているようだった。

「事実、その通りですもの。私の姿を見たらわかりますわよね? わたくしには、人が生きるために必要な何かが足りないんですって。いつ死んでもおかしくない子供はいらないって、死人のような子供は生まれたことなんて誰にも知られたくないって……」

 だから少女は生まれてすぐに別の子供の居ない家へと送られた。
 いつ死んでも構わないように子供に対して情を抱かない人物の下で育てられ、近いうちに死に至ることとなっていると語った。

「いずれ死んでしまうのですもの。このまま緩やかな死を待つより、貴方のような死神に刈り取られた方がまだ彩りのある最期だと思いますの」

 少女は決して死を渇望しているわけではない。少女にとって死とは価値あるものではない。死とは自分の命に価値を見出す者にしか価値を見出すことはできない。
 ゆえに少女は、自分の存在を価値あるモノと見ていないからこそ、少しでも価値あるモノを得ようという試みを彼に見出したに過ぎない。

「どうしたのかしら? 貴方なら私の命なんて枯れ木の枝を折るよりも簡単に手折ることができるのでしょう?」

 そう言って自らの身を捧げるように彼へと歩み寄る。
 そんな少女を彼はどうするべきか決めかねた。少女の言うとおり、命を奪うことは簡単だった。
 しかし、幼き日の妹の面影が重なる少女を彼は手にかけることができなかった。

「……何の、つもりですの?」

 それは裏世界に生きるものにとって絶対にあってはならない気の迷い。
 自分の命さえ全霊をかけても守ることができる者の少ない裏世界にとって、他人の命を抱えることの重みは生半可な情で背負えるものではない。それでも彼は少女を抱きしめた。その手ですべてを包み込めるほど小さな身体を抱きしめた。いずれそれは弱さになる。それを理解していながら彼はその手を離さなかった。




 それから数年の時が流れ、【紅き兇刃】と呼ばれる彼の傍らには【紅の射ち手】の少女が立つようになった。
 彼には生まれた時に付けられた名前があったが、少女には呼ばれるための名がなかった。そんな少女に彼は名をつけた。彼以外に呼ぶことのない名前。お互いが呼び合うためだけの名前。親しいという間柄が足枷としかならない世界において崩れることのない絆を紡いできた。
 犯罪組織【紅き手袋】の中でも最上位の戦闘能力を有するに至った二人は、組織ぐるみの協力関係にある【無色の派閥】から舞い込んだ仕事で召喚師たちの始祖が作り上げた封印の魔剣とその魔剣から作り出した擬似魔剣の二振りを託されるほどの地位を築いていた。
 そんな二人の前に一人の少年が立ちはだかる。

「ぅ、っ……ば、化け物ですわね」

 封印の魔剣を手にした彼――赤髪の青年は、まさに一騎当千の戦闘能力を手にしていた。その彼に及ばずともそれに近い能力を得た少女もまた常人を遥かに越える力を持っている。魔剣の力を引き出したこの二人を相手にして戦える者はいないはずだった。
 しかし、対等どころか圧倒的な力で二人を同時に叩きのめした少年――真樹が背を向けて歩いていくのを見送るという決定的な敗北を喫していた。

「化け物、大いに結構だね。エロ扱いされるのも好きだが、化け物扱いされるのも思ったほど嫌じゃない」

 そう言ってオルドレイクたちに向かっていく真樹の身体には今しがた赤髪の青年が振るうキルスレスを半ばまで圧し折った時よりもさらに強大な魔力を宿している。
 赤髪の青年を打ち倒したときには、繊細な刀捌きにより青年と少女の身体を傷付けることなく魔剣のみを狙って攻撃していた。まるで魔剣を壊せば勝負はつくと知っていたかのような戦い方だった。封印の魔剣を砕くには、それと同等の力を持った魔剣が必要になる。その役を果たすのは封印の魔剣の片割れであるシャルトスしかないはずだったが、それを真樹はやすやすと砕いて見せた。キルスレスを砕かれた時点でフォイアルディアの力も沈黙してしまい、真樹に抗する力はなくなった。剣を砕かれたことで意識を失った赤髪の青年の苦悶に満ちた寝顔を見下ろしながら少女はふざけた調子で二人の“名を呼んだ”真樹の背を見る。

「あの化け物は……なんで“私の名前”まで知っていましたの?」

 赤髪の青年に付けられた名前、彼以外に呼ぶ者のない名前を当たり前のように呼んだ。まるでそれが当然のように間違えているかもしれないという曖昧ささえ見せずに二人の名を呼んだ。

「……本当に何者ですの」

 オルドレイクに向けて強大な魔力を叩きつける真樹の姿に言いようのない不安を感じながらも真樹そのものを警戒することができなかった。敵意というものが一切感じられない相手というのも初めてのことであり、そんな中途半端な存在がこれほど理不尽な力を持っているということも納得できないと思いつつも少女は力尽きるように赤髪の青年へと重なるように倒れた。






 アズリアや皆を守るためにシャルトスの力を暴走させたアティの悲痛な叫びが木霊する夕闇の丘にもうひとつの力が現れる。
 前方に暴走状態の封印の魔剣。後方に傍若無人の鬼神。
 オルドレイク率いる無色の派閥。前方の魔剣のみならばいくらでも対処できた。魔剣の確保を優先しなければ十分に打倒しうる可能性がある。
 しかし、後方の鬼神にはいかなる術も通用しない。この場にある最強の戦力だった【紅き兇刃】と【紅の射ち手】が同時に打ち倒されているのだ。単独でもオルドレイクを凌駕する二人の魔剣使いが敗れた。それはすなわちこの場での戦いは敗北以外にないということだ。不幸なことに無色の派閥は全戦力がこの丘に集まっていた。いかに盟主を迎えるためとはいえ、わずかでも伏兵を用意していれば、島の住民達を人質に取ることもできただろう。もっとも真樹を相手に人質が通用するなどと思ってしまうときは破滅しか残されていないということでもある。

「蹴散らせ! この化け物を討伐せよ! こやつは我らの新たな世界秩序を穢す大罪人だ!! 一刻一秒も生き長らえさせてはならぬ!」

 オルドレイクの言葉に無色の軍勢が躊躇なくアティと真樹に殺到する。
 暴走状態のアティの前に幾人もの兵士が吹き飛ばされる。
 アティを守ろうとアズリアやカイル一家たちが戦う。帝国軍兵士たちが身を守るために無色の兵士達と戦う。
 オルドレイクが、ツェリーヌが、イスラが、ビジュが敵味方の区別なく繰り出す召喚術を真っ向か受けても無傷で無色の兵士達を殴り飛ばしながら前進する真樹。

「こういうのを阿鼻叫喚というのかのう」

「私としては地獄絵図の方がイメージ的に合ってるような気がしますね~」

 夕闇の墓標を見下ろす高台に腰掛ける龍姫とメイメイが呆れたように真樹の暴れっぷりを眺めていた。
 必死に戦う者たちを他所に嬉々としてオルドレイクの軍勢をその豪腕のみで殴り飛ばしており、本当に危ないと思われる瞬間には即座にカイルたちやアズリアたちを援護するように素早く召喚術を発動させる。キルスレスとフォイアルディアの使い手を倒してからは、神刀・布都御魂も収めており、単純な身体能力のみで鍛えられた兵士や暗殺者を相手に無双の強さを発揮している。これがまだ鬼人や龍人などの亜人種ならば多少は抗えたかもしれない。しかし、見た目はどこにでも居そうなごくごく普通の少年のような外見の真樹がその拳のみで鎧を打ち抜き、召喚術を殴り飛ばすという非常識な戦い方をしているという現実が無色の兵士達には信じられなかった。

「あそこまで凶暴な本能を持っているというのに何故あやつは真っ直ぐで居られるのじゃろうな」

 楽しそうに拳を揮い、時にはわざと敵の攻撃を避けずにダメージを受けるような所作も目に付く。
 真樹は戦闘狂というわけではない。
 しかし、戦闘という行為をどこまでも愉しむことができている。
 それも狂気に染まることなく、自然とまるですがすがしくスポーツをしているかのようでもあるその姿は、純粋とすら見えてしまう。

「これも“えろ”を根源としているからとでも言うのか?」

「否定できない“おししょー”さんがここに居ちゃったりもしますよ?」

 己たちの呟きに互いに視線を交わす龍姫とメイメイ。
 しばし交差した視線を再び真樹の方へと戻すとまたも深いため息が漏れた。

「どちらにせよ、あやつはすでに“資格”を有しておる。あとは……分かっておるじゃろう?」

 龍姫の言葉に曖昧な笑みを作りつつもメイメイはその言葉の重さを十分理解していた。
 名も無き世界から迷い込んだと思われる軽薄で変態でお馬鹿な魂。いまでこそメイメイと龍姫の術により煩悩レベルが低下して真面目な行動も取れるようになってきているが、術が解けたらその瞬間に「人妻シスター最ッ高ぉ!」とか「女アサシンMOEeるぜ!」とか「耳っ子女教師えろぉ!」とか、頭の痛くなるような叫びと共に毒電波を周囲に放射し、瞬く間に戦場を今以上の混沌に陥れること間違いなしの変質者魂の持ち主である。
 しかし、その魂には狂気というものが一切なかった。
 キ○○イな行動は多々あるものの“変態”の一言で済ませられるものばかり(被害にあっている女性陣にとってはそれで済ませられない)。真樹という人格そのものが世界中に悪意を振りまくような事態に陥ることは絶対にない、とメイメイや龍姫は何故か確信できている。おそらく、他の者達も同じように思うことだろう。

「道を違わぬように導いてやろうとも思うたが……」

 そういう龍姫の視線の先では、真樹が襲い掛かってくる何百という敵兵を得意の憑依召喚による不可視の豪腕で何メートルも吹き飛ばしている。
 本来、憑依召喚術は禁忌に属する部分が多い術式だが、真樹は【憑依剣】という武具に異界の力を憑依させるという応用術を編み出すほど憑依召喚術に対する相性が良い。それでいて肉体や精神への負担が一切無いという異常さ。それほどまでに真樹は“他者を受け入れる”ことに対して優れた適正を持っている。かつて誓約者が用いていた誓約の力を完全に自分のモノにしていることからも世界間を【繋ぐ・紡ぐ】ことができる存在だった。
 これほどの逸材は、千年に一人、リィンバウムとそれを取り巻く四界のどこかに生まれるか否かというほどであり,過去に現れた者は【誓約者】と呼ばれるようになった。

「結果を求めるのはまだ先で良いじゃないですか。マキはあれでしっかりしてますから」

 長いと言えるほどの付き合いは無くともメイメイにとって真樹は大切な教え子である。
 アティがアリーゼや島の子供達を大事に思うのと同じくらいメイメイも真樹のことを思い、信じていた。

「今回の件が落ち着いたらちゃんと私の方から話します。ですから、キサラ様もイスルギ様へのご報告するのは、それまで待ってもらえませんか?」

「当たり前じゃ。父上に話を通すということは他の世界のお偉方にも伝わり、マキを試そうとするに決まっておる」

 そうなった場合、真樹だけでなくすべての世界を巻き込む事態に陥ることになる。
 各世界には単独で頂点に立つような存在はいないが、上位にある存在たちは特殊な手駒を有しており、他の世界の情勢を調べさせている。龍姫もそうであるし、某悪魔商人もサプレスから送られた駒である。そんな特殊な存在がリィンバウムに一斉に押し寄せたらリィンバウムを狙っているサプレスの悪魔などにはいい口実を与えてしまうことになる。そんな状況になったらリィンバウムは再び戦乱の世に舞い戻ってしまう。

「父上たちはそれも新たな“エルゴの王”を生み出す試練として容認してしまうかもしれぬ」

「さすがにそれはないと思……いたいですね」

 真樹ならばそのような状態になっても嬉々として暴虐の限りを尽くし、本人の自覚が無いまま世界を救ってしまうかもしれない。
 世界の危機をギャグで退ける変態的な最強の王。リィンバウムの歴史がとんでもない喜劇として語り継がれるようなことにならないようメイメイと龍姫は誓い合った。








[2746] 無限界廊の異端児 第20話 黄昏無双・降臨編
Name: もにもに◆2285b348 ID:1a1cc2e0
Date: 2011/05/03 02:20

無限界廊の異端児

第20話 黄昏無双・降臨編







 数多の剣戟が静まりを見せ始め、戦場の丘を掛ける影も疎らとなり、無色の派閥で戦闘可能な主力はオルドレイクとツェリーヌのみ。それでも双方共に満身創痍の状態であり、すでに大規模な召喚術を発動させるだけの余力もなくなっている。その他の名も無き兵士達にも無傷なものはおらず、立つ事もできない状態であるにも関わらず武器を手放すことなく戦おうとする者さえいるが、圧倒的な力で猛威を揮う真樹や抜剣覚醒状態のアティを前に勝利はないと理解できていた。

「そろそろ諦めて逃げ帰ったらどうだ? それともここで命運を絶たれる方がお望みか?」

 尊大であり、傲慢であるように真樹が告げる。

「馬鹿な……全滅、だと? このような化け物どもが新たな世界の秩序たる我が軍勢を全滅さるというのか?」

「あなた、傷に触ります。ここは……」

 ツェリーヌに身体を支えられながら肩で息をするオルドレイクが忌々しげに真樹を睨む。
 暴走状態にあったアティは、仲間やアズリアたちの安全が確保できたことでようやく落ち着きを取り戻し、強引な魔力運用の反動により気を失っていた。カイルたちに支えられてはいるものの魔力疲労以外に目立った外傷もない。これ以上、戦闘行為が継続されないであろう状況ならばさして気にすることもない。本来の力の一端を見せた真樹という隔絶した戦力が味方だという事実がカイルたちにも僅かながらに安堵と気の緩みを許していた。

「許さぬ、許さぬぞ小僧! 我が覇道を妨げたこと、我らを生かすこと……必ず後悔することになるぞ!」

「あなたっ、いまは引くべきです!」

 悪鬼の形相で叫ぶオルドレイクをツェリーヌが嗜めながら海岸の方へと引く。
 真樹のような子供に敗北し、あまつさえわざと見逃されるという恥辱がオルドレイクを憤怒で染め上げ、常ならば気付いていたであろう殺意に気付けなかった。オルドレイクが気付かなくとも他の誰かが気付けていたかもしれないが、現在の戦力にまともに戦える兵士はいない。

「逃がすか、元凶ぉ!」

 音もなく忍び寄った毒蛇の牙がオルドレイクの惨めな背中を襲う。
 こういう突発的な襲撃からオルドレイクを守るウィゼルは、いまだ傷付いた身体で真樹を牽制するように殿を務めているために間に合わない。「茨の君」の称号をもつ暗殺者も傷付いた脚では間に合わない。混沌の戦場に溺れることなく唯一の機会を息を殺して待ち続けた毒蛇の牙を止めることができる者などいない。
 毒蛇が放つ復讐の刃に気付くオルドレイクも満身創痍の状態で防御もできずに驚愕と怒りを表情に表すのが精一杯だった。

「あなたっ!」

 誰もが盟主の最後を覚悟した瞬間、女の叫びが毒蛇の牙を遮った。
 オルドレイクの背に突き立てられるはずだった刃がツェリーヌの身体によって止められた。

「っっ! 我が夫は世界を統べる王となる御方……貴様のような下郎が触れてよい存在ではない!」

 何の躊躇いのないツェリーヌの行動に毒蛇の牙はわずかに狙いを逸らしたが、ツェリーヌの身体には浅くない傷を穿った。

「ちっ、邪魔をするなぁぁ!」

「っあああ!」

 千載一遇の機会を邪魔された毒蛇は傷付いたツェリーヌを払いのけ、停滞させられた刃を再びオルドレイクへと向ける。

「貴様のような羽虫如きにくれてやる命などありはしないぞっ!!」

 間に合うはずもないと理解していながらもオルドレイクは召喚術を発動する。周囲ではすでにオルドレイクを守ろうと駆け出す兵士達で埋め尽くされている。敵軍の中で孤立しようとしている毒蛇を守ろうとアティたちが動き出すが状況はどちらにとっても最後の一手が間に合わない。オルドレイクが討たれ、毒蛇もまた散る。どちらにとっても絶望的な状況に再び水を差す存在があった。

「なっ!? ……何で君が邪魔をするのかしら?」

 現在でも暗殺者として優れた戦闘技巧を持つ毒蛇――スカーレルの必殺を込めた一撃を防いだのは先ほどまでオルドレイクの軍勢を蹂躙していた味方のはずの少年だった。

「何でって、俺にはここでオルドレイクに死なれちゃ困るからに決まってるだろ?」

「こいつを生かせば、それだけ多くの不幸が生まれる。それでも君はこいつを生かすというの?」

 スカーレルの言葉に緩んだ表情をわずかに引き締めた真樹はスカーレルの腕を止めたまま背後のオルドレイクを睨みつける。

「さっさと行けよ。次に俺たちが遭うことがあれば、それがお前の最後だ」

「……っ、いいだろう。貴様の顔、忘れぬぞ」

「そうしろ。きっと忘れた頃に遭うことになるだろうけどな」

 傷付いたツェリーヌを兵士に抱えさせ、自身も傷付いた身体を引き摺るようにオルドレイクも再び海へと歩みだした。宗主の撤退に合わせ他の無色の派閥と紅き手袋の兵士たちもそれに続いて戦いをやめて海へと向かう。

「忘れるな、オルドレイク。お前を生かしたのは俺自身の欲望を満たすためだということをな」

 意気も絶え絶えに撤退するオルドレイクの背を詰まらなそうに眺めながら真樹は呟く。

「悪かったな。あいつに死なれると俺が次に進めなくなっちまうからな」

「いいわ、今は見逃してあげる。これでオルドレイクは……いいえ、無色の派閥そのものが貴方の影に怯え続けることになる。それで満足してあげる」

 真樹の自分勝手な言い分にスカーレルは納得したわけではない。それは後ろで見守るアティたちも同じ気持ちだった。それでも真樹が見逃すといってオルドレイクを庇う以上、誰も手を出すことはできない。理不尽なことこの上ないが、真樹にはそれを押し通すだけの力があり、本人にも欲望があるのだ。この場で真樹の行動を阻害することができる者など誰一人存在しない。先の戦闘を目の当たりにした面々は、これまでふざけた態度ばかりだった真樹の存在に恐怖を感じていた。ただの変態だと思っていた少年が実は魔剣使いでさえ歯牙にもかけない頂上の存在だということに気付いてしまった。皆が気付かされてしまった。恐れを孕んだアティたちの視線を背に受けながらただ一人、完全な姿のまま佇む真樹を撤退する無色の派閥の最後尾についていくウィゼルが振り返る。

「オルドレイクの狂気を退けたその魂……わしもそれに見合う技を研かねばな」

「それはいいな。アンタの最高の魔剣を俺の為に創ってくれよ」

「ふん、おまえに釣り合うモノが創れたなら……いずれおまえの下へたどり着くだろう」

 それだけ告げると去ってゆく無色の派閥とともにウィゼルもまた海岸に歩を向ける。

 去り往く無色の派閥を見送る真樹の手にひとつの輝きが燈る。
 平伏し、縋り、求めるようにその輝きは真樹の手を染める。

「……あ~、確かに欲しかったんだけどな」

 真樹は手にした輝きをどう扱ったものかと首をかしげる。
 それを手にする資格を真樹は有していない。もちろん、資質もない。
 真樹に必要なものではなく、必要とされるはずもない。普通ならば誰もが望むであろうほどの強大な力のひとつ。
 それは真樹の個人的嗜好ならば欲するものであるが、それを真樹が手にして役に立つかどうかは定かではない。むしろ結末へと続く流れをより加速させるだけでしかない。

「あはっ、あははははっ! すごいよ、マキ? この世のものとは思いたくないほどの理不尽さだ」

「イスラ……か」

 暴走した状態のアティと交戦したイスラの身体は強力な召喚術を受けてボロボロになっていた。
 真樹のように手加減をすることもできなかったアティの破壊に晒されたイスラの身体にはいくつもの傷がある。それは致命傷には居たらずとも放置すれば死に至るダメージだが、イスラの表情に苦悶はあっても死相は出ていない。傷つきながらも平時と変わらぬ笑みを真樹に向けている。

「シャルトスやキルスレスに認められた【適格者】ならと思ってたんだけど……まさか、“こうなる”なんて思わなかったよ」

 まるで生き別れの兄弟にでも出会ったかのような表情のイスラの手にもまた輝きが燈る。
 それは紅い輝き。さきほどまで紅き手袋最強の男が手にしていた輝きだった。
 イスラの手に宿る輝きはひとつではない。紅き輝きには追従するもうひとつの赤い灯火があった。

「最も適合した【適格者】たちの意識が弱まった……そのおかげかな? 僕らがこうして選ばれるなんてさ」

 紅い蜃気楼がイスラの身体を覆い始める。緩やかにされど確実にイスラの身体を変化させていく。
 傷ついた身体は癒され、在り得ざる活力が漲り、封印の魔剣【紅の暴君キルスレス】の適格者としてイスラは変貌を遂げる。真樹によって折られたはずの魔剣は、新たな適格者を得たことで形を取り戻し、イスラの心に呼応するようにその力を溢れさせる。

「いや、俺はともかく、お前は順当だ。こいつは遺跡の意思が自分を封印から解き放つ可能性を高めるためにいらんことをしたんだろうさ」

「君の知識はいったいどこから来てるのかな?」

 封印の魔剣により変貌を遂げたイスラは紅い陽炎を纏いながら哂う。
 イスラは理解している。自分が“間に合わせ”でしかないということ。たとえ【紅の暴君キルスレス】の【適格者】となったとしても目の前に立つ“もうひとりの間に合わせ”と対等の存在になったわけではないということ。そして、自分の目的はまだ達することができるのだということ。

「僕は間に合わせでもいいよ。いまはこの仮初の力を使って僕は僕の目的を果たさせてもらう」

 イスラの手には、【紅の暴君キルスレス】と【不滅の炎フォイアルディア】。無色の派閥の始祖たちが製造した古の魔剣とその後継として稀代の魔剣鍛冶師により鍛えられた若き魔剣。最強の暗殺者とその教え子が揮ったリィンバウムでも最高クラスの魔剣を携えたイスラはまず間違いなくオルドレイクを超える脅威となるだろう。その威容は抜剣覚醒時のアティと違い、人懐っこい笑顔と裏腹に余裕というものが一切ない。

「そんなこと……できると思ってんのか?」

 対する真樹の手にはもう一振りの封印の魔剣【碧の賢帝シャルトス】。アティが握っていた碧の輝きを宿す魔の剣。暴走状態で抜剣した影響により、魔剣に封じられた意思との繋がりが強くなっていた。真樹の力は、遺跡の意思である“ハイネルという「核識」”との親和性を除けば「核識」としてこれ以上ないほどの素体だった。真樹の魔力や資質は、歪んでしまった「核識」にとっても自分の封印を破るために是非とも取り込みたいところだろう。
 しかし、真樹にアティのような変調の兆しは見られない。それどころか肉体的変化さえ微塵もない。

「マキ、戦っては駄目よ! 魔剣同士が戦えば互いが共鳴しあって遺跡の封印が破れてしまう!」

 アティを介抱しつつ見守っていたアルディラが叫ぶ。
 その叫びに他の護人たちも同じ意見であるらしく、真樹に魔剣を使わせないようにと戦列に参加するような姿勢を見せる。

「させない。君たちには悪いけど、最期まで付き合ってもらうよ!」

 護人たちが戦列に加わるより早く、イスラが揮うキルスレスとフォイアルディアによる純粋な魔力による破壊が周囲をなぎ払った。

「誰にも邪魔はさせない……っ!!」

 紅に染まる刃が大気を斬り裂く。
 魔剣の所有権が移ったところでイスラに勝利はない。それは誰の目にも明らかだった。
 しかし、すでに瀕死の状態であるイスラが魔剣を揮う姿を前にこの場にいる誰もが戦慄した。魔剣の使用をできる限り避けてきたアティでさえ遺跡の意志に干渉され、封印を解きそうになってしまっていた。アティの場合は、本人がそれを自覚して抑え込み、護人たちがサポートすることにより辛うじて遺跡への影響を最小限に抑えることができていたが、イスラの場合はそのような保護策は一切ないばかりか、イスラ本人が封印の崩壊など気にしないという状態。アティの暴走に続いてイスラもキルスレスの力を暴走させるとあっては、二つの魔剣で封印を解かずとも遺跡の意志そのものが力を取り戻し、自ら封印を打ち破ることにもなりかねない。

「死にたがりに付き合う気はないっての」

 皆の心配を他所にイスラの刃をシャルトスで受け止める。遺跡の復活を危ぶむと思われた真樹が躊躇せずにシャルトスを使って渾身の一撃を易々と受け止めたことにその場に居る者のほとんどが驚愕に目を疑ったが、イスラだけは真樹の素っ気無い呟きにキルスレスの力をさらに強めた。

「……っ、ぁ、ぁぁあ、あああああああ……っ!!」

「目の前に答があるってことに気付けないのか?」

 手にしたばかりの魔剣を限界を超えて行使するイスラの咆哮と微動だにしない真樹の呆れた言葉。圧倒的な力の隔たりと温度差。命をすり減らしながら戦うイスラの猛攻を苦もなく払いのける真樹。それは戦いなどと呼べるものではなかった。

「あははははっ! 化け物同士でもこうまで差が出るなんてね。君、本当に人間なのかい?」

 満身創痍を通り越して生きているのが不思議なほどのダメージを受けてもなお笑い続けるイスラの姿に力はなく、今にも崩壊してしまいそうなほどに儚い。魔剣の力により辛うじて戦えるだけだった。真樹が先にしたように魔剣を砕くだけでイスラの命は失われる。魔剣に生かされているイスラが魔剣を失えば心を失うだけではすまないのだ。

「そういうお前は、何の変哲もない人間だな。生まれた育った環境も此処に至るまでの境遇も。そして、そこから導き出した決意も在り来たりだな」

「なん、だって……?」

 イスラとの戦闘を始めてから真樹の表情に真面目な様子は一切ない。それは真樹らしくないことだった。どれだけふざけた態度をとっても他人を貶すようなことはしない。それでもイスラに対してはどこか侮蔑のような色が混ざっている。

「君に僕の何が分かる!」

 イスラも真樹の悪意に応えるように吠える。
 すでに魔剣を揮うこともしない真樹は、イスラの剣撃を受けることなく不可視の拳で殴り飛ばす。

「分かる、つーか知ってるんだよ。お前がそんだけボロボロになっても生きていられる原因、無色の連中にかけられた召喚呪詛のことも元凶である無色の派閥に媚びていた理由もな」

「……黙れ」

「黙れと言われて黙るか。お前の願いは絶対に叶わない。お前は、ここで俺に負けて、大好きな姉ちゃんの膝で惨めに泣き続けるんだよ」

「黙れェェェェエ!!」

 イスラの叫びに呼応するように大地から黒い闇が滲み出る。
 それと同時に丘全体に負の瘴気が満ち始める。

「これは、亡霊……?」

「この島で死んでしまった魂を呼び寄せたのね。キルスレスの力を使って無理やり目覚めさせたんだわ」

 亡霊が形を成していくさまに慄きつつ護人たちが新たな戦闘の準備を始める。
 大地から湧き出る黒い亡霊たちの底暗い嘆きの叫びに耳を塞ぎたくなるのを堪えるようにアティたちも疲労した身体に鞭打って武器を構える。

「遺跡の外でも亡霊を呼び出せるってことか。……核識の力もいよいよ増してきたな」

「あは、あハハハハっ! 何もかも君の思い通りなんて気に入らないね。これだけの数を相手にしても君は大切なモノを守れるのかい?」

 イスラが喋る間にも次々と亡霊たちが現れ、真樹たちを取り囲んでいく。
 真樹の価値観で言えば、黄泉の扉が開いたとでも表現すべき状況にアティたちは絶望の色を濃くしている。いくら真樹がいるとはいえ、丘を埋め尽くすほどの亡霊を前に誰一人犠牲を出さずに凌げるような容易い状況ではない。
 そんな中、迫り来る亡霊たちを斬り伏せつつアズリアが進み出た。

「やめて、イスラ! こんなことまでして……お前の望みは一体何だというんだ!」

 実弟の凶行に耐えられなくなったアズリアは亡霊の群れに単身飛び込み、イスラに向かって走りながら叫ぶ。

「お姉ちゃんは、ああ言ってるぞ? 教えてやったらどうだ?」

「説明したって無駄さ。姉さんにはわかりっこないんだよ」

 真樹の軽口に諦めるように視線を伏せるイスラ。

「分かってもらわなくてもいいんだ。僕が望んだ終着駅はもう目の前まで迫ってきてるんだ。だからこそ……僕は戦いをやめない! すべてを道連れにして最後まで走り続けるんだ!」

「い、すら……」

 暗い決意を秘めたイスラの瞳と強い言葉にアズリアの剣撃がわずかに鈍り始めた。ひとり孤立していたアズリアに新たな亡霊たちが群がるように襲い掛かる。
 アズリアの危機にも憎悪に染まったイスラの瞳には映らない。本当に守りたいもの、大切なものをイスラは自ら消し去ろうとしていることにも気付けないほどにイスラは世界を憎悪し始めていた。

「亡霊たちよ! この苦しみから解放されたいなら、この島に生きるすべての連中を引き裂いて殺してしまえッ!!」

 イスラの叫びに亡霊たちが魂の苦痛に悲鳴を上げながら生ける者たちに襲い掛かる。
 魔剣を失ったアティにこれほどの数の亡霊たちを退ける力はなく、他の者達と同じように少しずつ倒していくしかない。真樹を除いた現状で最強の戦力は機械兵士のヴァルゼルドだが魔力切れは回復していないため、銃とドリルを用いて戦うしかなく、離れた位置にいるアズリアを援護する余力はなかった。

「遺跡の意思と切り離す為とはいえ、らしくないことはするもんじゃないな」

 適格者として不完全な真樹は島の亡霊を操ることはできないが、純粋な魔力を放出するだけでも魂だけの存在である亡霊たちをかき消すことができた。気力が衰えていたアズリアは真樹の援護に気を取り直して再び剣を構える。

「やはり、わざとイスラを追い詰めていたのだな」

 真樹のらしくない言動。護人や無色の派閥以上に魔剣や遺跡に精通した知識を持つと思われる真樹の行動。そこには何か意味がある。ほとんど真樹のことを知らないアズリアだからこそ先入観を持たずに現状を推測できていた。

「ま、全部が全部計画通りで進んでるわけじゃないけどな」

 魔力を纏わせたシャルトスと布都御魂を揮う真樹の攻撃は、一振り一振り何十体もの亡霊たちをかき消している。
 全体的な総数を考えれば微々たるものだが、イスラの周辺を片付けることはできていた。

「ふはっ、あははは……なんだよ、それ。……なんで皆を助けに行かないんだよ! どうしてお前は、僕の邪魔ばかりするんだよ!!」

「別にお前だけの邪魔をしてるわけじゃねえよ。俺は俺の目的の為に戦うし、気に食わないっていうだけの理由でも戦う。俺は戦いに大義名分を持ち出さない。俺は俺の為に戦うんだ。アティみないに自分以外の誰かに戦う理由を預ける必要も、お前みたいに悲劇の主人公ぶった悲壮な理由も必要ないのさ」

 真樹は本能のままに生きている。誰にはばかることなく、自分のやりたいことをやりたいようにする。それを貫き通せる力を得る為に真樹は無限界廊で戦い続けていた。真樹にとってリィンバウムの世界は文字通り楽園だった。この世界にある限り真樹は退屈することも不幸になることもありえないと思っている。そして、それは現在進行形で叶い続けている。誰かが傷付くのを善しとしないにも関わらず、目の前で誰かが傷付くのを我慢できるのが真樹という少年だった。

「君にとって、僕は道化でしかないんだね。……けど、道化芝居であろうとも僕が生きてきた日々を君に否定される筋合いはないんだ!」

 言葉による姦計を得意としてきたイスラは、逆の立場になってようやく言葉の刃の鋭さを知る。

「否定はしてないだろ? 俺は、俺のやり方で生きてるし、お前はお前のやり方で生きればいい。俺の前でそれができるんならな?」

「ッッ! 消えて、なくなってしまええぇぇぇぇぇ!!」

 できる筈がない、とは考えなかった。
 真樹の存在は、イスラにとって許せないモノへと膨れ上がっていた。
 余力を残すことなど一切考えずに魔力を引き出すイスラの憎悪がキルスレスとフォイアルディアをさらに紅く輝かせる。

「そろそろ、頃合かな。……悪いな、シャルトス。兄弟諸共ここで眠ってくれ」

 キルスレスの輝き具合を見ながら真樹はシャルトスに魔力を流し込むと同時にシャルトスから碧の輝きが放たれる。
 目算だけでイスラが揮うキルスレスと同等の魔力をシャルトスに注ぎ込んだ真樹は、紅い魔力を纏って突撃してくるイスラに合わせるように莫大な碧の魔力を放出しながらシャルトスを振り被る。

「ウオォォォッッ!!」

「ぶっ飛べッ!!」

 激突する紅と碧の極光。ここで起きるはずのない拮抗が生じる。

「どういうつもりなんだい? まさか、僕にまで手加減をするつもりか!」

 自分が敗北することを覚悟して戦っているイスラは、真樹のその態度に怒りを爆発させる。
 イスラの怒りに呼応するようにキルスレスが力を増すが、それを呼んでいたかのように真樹が握るシャルトスも力が増大する。

「これは手加減じゃない、俺が目的を達するためにやれる全力なんだよ!」

 真樹の叫びを合図としたかのようにシャルトスとキルスレスに亀裂が走る。

「ぼ、僕の剣が……壊れるっ」

 莫大な魔力を放出していた魔剣から徐々に輝きが失われる。
 真樹が持つシャルトス、イスラが持つキルスレス。二振りの魔剣はかがみ合わせのようにぼろぼろと力と輝きを毀していった。刃のほとんどを失ってようやく魔剣の崩壊が止まる。魔剣の意思と深く結びついていたイスラは一度に大きな力を失い膝を着いた。キルスレスが崩壊したことでフォイアルディアもその輝きを失っている。

「やっぱり……手加減してるじゃないか」

 わずかに残った魔剣の力でようやく意識を保っているイスラと違い、魔剣の意思の干渉を完全に抑え込んでいた真樹はやはり無傷でイスラを見下ろしていた。
 
「だから、違うっての」

「僕は生きてる。キルスレスも完全に壊れたわけじゃないんだ。まだ戦える力を僕に残しておいて、手加減していないとでもいうのかい? 相変わらず傲慢だね」

 地面に膝を着きながら壊れたキルスレスと外見上は健在なフォイアルディアを構える。
 戦えるといいながらも剣を持ち上げることにすら苦労している状態では、誰の目にも虚勢にしか思えない。

「イスラ……もう、十分じゃないか」

 キルスレスが力を弱めたことで亡霊たちの勢いが弱まり、アティたちの危険度も低くなったことを確認したアズリアが再びイスラの前に立った。

「この島でお前がしてきたことの是非はともかく、お前は全力で戦ってきたんだ。意地を張るのは、もう終わりにしよう……お願いだから」

「……っ」

 アズリアの言葉に力の入らない身体を強張らせつつ、イスラは視線だけは力を込めて姉を見上げる。
 イスラの状態とアズリアの気持ちを察し、改めて島全体の状況を感じ取った真樹はめんどくさそうなわざとらしいため息を着いて布都御魂を虚空へと納めた。

「お姉ちゃんに教えてやったらどうだ? お前の本当の望みってやつをよ」

「……そ、そんなものあるわけが」

「あるだろう? お前は別に力なんて欲しかったわけじゃないだろ。いい加減、本音を隠すための作り笑いはやめろ」

「本当……何もかも分かったように言うんだね」

 亡霊たちが力を失い、戦っていたアティたちもようやく身体を休める時間ができたことで真樹たちの方へと近付いてくる。
 魔剣に関わるようになってから求めていた存在であったアティや実の姉を前にイスラは疲れたように肩を落とすと口を開いた。

「そんなに言わせたいのなら言ってやるよ。確かに僕の望みは、好き放題に振る舞える力でも人並みに暮らせる肉体でもない……」

 隠し続けていた本音を語り始めるイスラの声にアズリアもアティもカイル一家も護人たちも耳を傾ける。

「ずっと、ずっと……ベッドの中にいた時から願い続けてきたことは、ひとつだけ。僕が、この世界から消えてなくなってしまえばいいってことだけなんだよッ!」

 イスラの叫びに皆が息を飲む中、真樹だけが苛立ったように瞼を閉じて眉を顰めた。

「あははっ、だってさあ……そうだろう? 本来の僕は、誰かの手を借りなくちゃ一日を無事に過ごすこともできないんだよ? 赤ん坊と同じ……いや、成長していくぶんだけ、赤ん坊の方が何倍もマシだよね……。何しろ、僕は永遠にこのままだからね! あははっ、あははハハハハ……ッ!」

「イスラ……」

 自分の心情を吐露しつつ被虐的な笑いを溢すイスラの姿にアズリアは、実の弟にどう接すればよいか分からなくなっていた。長い間、離れていた心はなかなか近付くことができない。アズリアは変わってしまったイスラの心にどう近付けばいいか分からなかった。

「僕は……消えてしまいたかった。他人に迷惑だけをかけながら生きている自分。何の役にも立たない出来損ないの自分。……もう嫌なんだっ! 僕のせいで、誰かにつらい思いや迷惑をかけるのは……っ。 それぐらいだったら僕は、僕を殺したい! そう思って、何度も試してやったさ!」

 これまで自殺を繰り返してきたというイスラ。それでも死ねず、どれほど自分を傷つけても死の苦痛だけが延々と繰り返され、その先にある終焉には辿り着けない。イスラにかけられた召喚呪詛である病魔の呪いは、断末魔の苦しみを永遠に繰り返し与えるモノであるゆえにイスラは自らの手で自分を終わらせることができなかった。そうして、幼いイスラは考えた。どうすれば楽になることができるか、と。

「そんな僕の前へとあの男は、現れたんだ。薄闇の中から滲み出るように……」

 帝国軍内でもそれなりの地位を持つレヴィノス家の子息であるイスラに近付いたオルドレイクは、無色の使徒となって帝国軍の機密を探らせることを条件に仮初の自由をイスラに与えた。たとえ、自分に呪いをかけた者達だったと知っていてもイスラはオルドレイクの誘いを断れなかった。イスラが味わった苦しみはそれこそ同じ状態にならなければ理解することなどできはしない。それほどの苦痛から逃れるために無色を頼ったイスラを非難できる者はいなかった。

「行きたい所に自分の足で行ける自由……。食べたいものを食べて、死の発作におびえずぐっすりと眠ることができる自由……君達にしてみれば当たり前であることが僕にとっては、全部幸せだったんだ!」

 誰もが当たり前に享受できる生きるという自由。それを生まれながらに奪われていたイスラの苦しみを理解できる人間はこの場にはいなかった。

「だけど……代わりに失われてしまったものだって大きかった」

 無色の手先となったイスラは、帝国軍人である父や姉をずっと騙し続けなくてはいけなかった。いつばれてしまうかも分からない状況の中、イスラは家族の中でも孤独を強いられるようになっていた。家族を騙し、家族を脅かす無色の派閥に媚び続けなくてはいけない生活は、やはりイスラが求めた自由とは程遠いモノだった。ゆえにイスラは再び死を求めて足掻き始める。
 そして、辿り着いたのが封印の魔剣。その力を利用し、呪いを打ち破って死を迎えられるはずだとイスラは考えた。

「自分から剣の奪還に志願した僕は、海賊たちの襲撃をつき、剣を手に入れたんだ。けど、このときは失敗した。まさか、僕の監視役だった紅き手袋の暗殺者が適格者に選ばれるなんて思わなかったよ。まあ、剣そのものが意志をもっていて使い手を死なせないようにすると知って、結局これで良かったと思ったよ」

 その後、適格者と共に海を漂流する中、任務以外で殺生を行わないこの暗殺者からどのように殺意を引き出すかを考えた。そうして島に辿り着いたイスラの前にもう一振りの魔剣に選ばれた者が現れた。自分を殺せる魔剣使いが二人も存在していることにイスラは喜びながらも冷静に行動を開始した。どうすれば確実に自分が殺される状況が作れるかを考えるイスラにとって障害となったのが、アティの信条だった。方向性は違えど、もう一人の適格者と同じく、アティもまた人死にを嫌う人間だったのだ。それがイスラの願いを妨げていた。

「殺してくれなきゃ僕は、死ねないんだ! だからこそ、記憶喪失を装ってアティに近付いて、信用させたところで裏切ったり、憎まれるようなことを口にしてみんなのことを挑発したんだッ!! 姉さんのコトだって、そうさ……ああやって、裏切れば……きっと僕を憎むって思ったんだよっ! 徹底的に嫌われれば僕が死んだところで、姉さんは泣かなくてすむじゃないか!」

「イスラ、お前……」

 自分を捲くし立てるように口早に話すイスラの目には次第に涙が浮かび、イスラの心の叫びにアズリアも胸を締め付けられるような感覚に胸を押さえる。

「なのにさぁ……あいつもッ、アティもッ、君もッ! どうして僕を殺してくれないんだよおオォォォッ!!」

 イスラに死という安らぎを与えられる魔剣使いたちは揃ってイスラを殺す気力を持たず、魔剣に頼らずともイスラを殺しうるであろう真樹もまたイスラを殺さないことを選んだ。

「イヤなんだよ。僕のせいで周りのみんなをつらい目にあわせるのは……。姉さんだって、僕がまともなら軍人になんて……きっと」

 家名を継ぐことができないイスラの代わりにアズリアは軍人となる道を選んだ。
 現在でこそ軍人としての誇りを持つに至っているが、本来ならばもっと安全で穏やかな生活があったかもしれないのだ。そんな姉の未来を奪ってしまったことはイスラにとって耐え難い自責の念を与えていた。
 刃を失ったシャルトスがイスラの手から零れ落ち、フォイアルディアもイスラの手を離れる。
 縋るように空を見上げたイスラは、再び真樹へと視線を移した。

「お願いします……僕を殺して、殺して、ください! お願いだから……っ」

 イスラから向けられる視線に真樹は閉じていた瞼を開いてイスラを睨みつける。

「みんな僕が悪いんだ。僕が……こんな出来損ないで、生まれたから……。僕はみんなを不幸にするだけなんだよ! 呪われた、いらない子供なんだよッ! 生きていちゃいけない存在なんだよオオォォォォ!!」
 殺害の嘆願と自己の否定。イスラの叫びが丘に木霊するのと同時に真樹は拳を振り上げていた。

「イスラっ!」

 真樹に殴られたイスラにアズリアが駆け寄る。

「こ、こんなんじゃ死ねない、よ……」

 アズリアに支えられながらイスラが呻く。
 そんなイスラの様子に真樹はさらに眉を吊り上げ、今にもイスラを殺してしまいかねないほどの怒気を必死に押さえつけるように拳を握り締めた。

「お前を殺さないし、絶対に死なせてなんかやらない。俺は俺の目的の為にお前を殺さなかったし、お前のメンタルケアをしてやるつもりもないが……ひとつ、言わせて貰えば――」

 今までに見せたことのない苛立ちと怒りを見せる真樹に皆が驚いていたところに、再び島全体を地の底から響いてくる唸り声が揺るがした。


 ぐるるラアァァッ!!

  うグルぅゥ……ッ


 グルッ、ウグルラアアああァぁッ!!!!



 やっと……ッ!

 やっと、この時がやってきた……ッ!

 忌まわしき封印は砕け散ったッ!

 我を縛るものは、もう存在しないッ!!!


 ふふふふ……ッ?

 ぎひゃはははははははははははは!!!!



 破壊してやるウッ!

 殺して、壊して……支配してやるウゥゥッ!!



 我が名はディエルゴ!!
 ハイネルのディエルゴ!!

 怒りと悲しみに猛り狂う島の意志エルゴなりッ!!



 








 島全体から響いてくるような憎悪と絶望に満ちた声に呼応するように消えかけていた亡者達が再び力を増し始めた。

「あ~、予定通りっちゃあ予定通りなんだけどな。……イスラ、お前はまだ死にたいか?」

「あ、当たり前だろ! それが僕の望みなんだ!」

 みんなが島の声に身を強張らせる中、真樹は力なく尻餅をついているイスラを強引に立ち上がらせる。

「なら丁度良い。たぶん、正式な適格者じゃない俺じゃあ遺跡は開けない。お前は、命を懸けて俺に道を開け。そうすればお前の願いを俺が叶えてやる」

「それは……本当、なんだね?」

 死を願っているイスラでも島の意志が顕在化した今の状況は本能的な恐怖を感じるらしく体の震えを抑えられずにいる。
 それでも真樹の言葉に一抹の希望を抱きながら落としていたキルスレスの残骸に手を伸ばす。

「こっから先に“お前の未来”は存在しない。覚悟しとけ、イスラ」

 力もなく、震える身体に鞭打って武器を取ったイスラを引き連れ真樹は歩き出す。
 島の深淵。遺跡の最奥にある核識の間へといたる為に。














本日の真樹のパラメータ
 Lv.112
 クラス-四界の統率者
 攻撃型
  横・短剣,横・刀,横・杖,投・投具,射・銃
 MOV7,↑6,↓6
 耐性-機・大,鬼・大,霊・大,獣・大
 召喚石6
 特殊能力
  誓約の儀式(真)・全、送還術、魔剣覚醒
  見切、俊敏、先制、闘気、バックアタック、ダブルムーブ、勇猛果敢、心眼、絶対攻撃、狙い撃ち
  異常無効<狂化・石化・沈黙・麻痺>、アイテムスロー
  サルトビの術、居合い斬り・絶刀、抜刀術・驟焱、フルスイング・改、ストラ、バリストラ、
  憑依剣、煩悩封印
 特殊武装-縦・刀(神刀・布都御魂)+ 縦・剣(魔剣・碧の賢帝)
 召喚クラス-機S、鬼S、霊S、獣S
 護衛獣-ヴァルゼルド
 装備中召喚石
  ヴァルハラ、天使ロティエル、聖鎧竜スヴェルグ、クロックラビィ、ジュラフィム


オリ特殊能力解説
<主人公>
 誓約の儀式(真)・全‐誓約者と同じ召喚法。
 送還術‐召喚術をキャンセルする。誓約に縛られていない異界の存在ならば強制的に元の世界に送り返すことができる。
 魔剣覚醒-抜剣覚醒の上位変換技。術者ではなく、魔剣が形態変化して力を増す。
 居合い斬り・絶刀‐距離・高度の射程が大幅に延長された居合い斬り。
 抜刀術・驟焱‐抜刀と同時に前方を炎で範囲攻撃。
 フルスイング・改‐横切りタイプの攻撃力が1.5倍になる。
 憑依剣-武具に異界の力を憑依させる憑依召喚術の発展技術。
 煩悩封印-真樹の潜在的な欲求を強引に封じ込めることにより、シリアス戦での出力3割増。ギャグ戦での出力3割引?






[2746] 無限界廊の異端児 幕間 終焉拡大・家族再会
Name: もにもに◆2285b348 ID:49223a48
Date: 2011/06/02 09:26





無限界廊の異端児

 幕間 終焉拡大・家族再会







 封印の魔剣が相次いで暴走したことにより、遺跡に封印されていた島の意志・核識がついに目覚めた。怒りと悲しみに満ちたハイネル・コープスの残滓、それが現在の島の意志――ディエルゴ。ディエルゴの意志に呼応し、島全体から亡霊が溢れ出し、悪魔達が住まう霊界サプレスの底をひっくり返したような状態となっていた。
 それぞれの集落で亡霊たちを撃退するのも限界があることは分かりきっていたため、護人たちを筆頭に戦える者達が島中の住民達をカイル一家の海賊船がある海岸へ避難をさせている。加速度的に増加する亡霊たちが島を埋め尽くすのも時間の問題だった

「まさか郷を捨てておめおめと逃げることになるとは」

 島の住人を避難が完了した段階で海賊船の一室に集まった面々は深刻な表情で顔を突き合わせていた。

「仕方ねぇだろ。今の状況じゃあ立て篭もって戦うにしても分が悪過ぎる」

「ヤッファの言うとおりだわ。核識が完全な形で復活していたら島にいる全員が意識を乗っ取られていたはずよ」

「そうですね。……核識が目覚める前に封印の魔剣を二本とも破壊したから核識も不完全な形で復活することになったんだと思います」

 無色の派閥とイスラとの戦いが終わった後、ヴァルゼルドと共に住民の避難を手伝っていた真樹は住民達の避難が完了すると瀕死の状態で辛うじて意識を保っていたイスラを拉致して姿を消してしまっていた。現在の状況を招いた張本人でありながら事態を収拾することなく姿をくらませるなど無責任にも程がある。
 無色の派閥の始祖たちは、世界に存在する全ての事象・存在とエルゴを繋げていると言われる不可視の魔力の繋がりである共界線クリプスを支配することで界の意思エルゴに成り代わり、全世界を支配しようと考えていた。その実験場たるこの島の核たる意識である核識は、刻一刻と共界線から送られてくる膨大で様々な情報を瞬時に分析し、即座に対応できるほど強い精神力と魔力を兼ね備えた人物だった。護人のアルディラとヤッファを護衛獣として召喚したファリエルの兄であるハイネル・コープスがその核識である。
 核識は島の中に存在するものであるならば生き物だろうと無機物だろうと共界線を経由して自由に操ることができる。大昔に無色の軍勢を島から追い出したハイネルは、島そのものを変幻自在の武器として使役した。しかし、その代償としてハイネルの精神は核識としての負荷に耐え切れず崩壊していった。島全体で行われた血肉を削る戦いに倒れていく者たちの痛みや悲しみ、怒りや恨みといった感情だけでなく、焼かれる木々の呻きや砕け散る大地の苦しみさえ我が身のことのようにすべてを受け止めながら戦うにはハイネルという男は優しすぎた。無色の始祖たちが持ち出した封印の魔剣に倒されるより先にハイネルの精神は取り返しがつかないところまで崩壊していた。

「そんな壊れてしまった兄の精神を核にした怨念の結合体。それが、おそらく今の遺跡に宿った意志の正体なのでしょう」

 現在の状況や魔剣の意志に触れていたアティの証言をもとにアルディラやファリエルはそう結論付けた。

「ハイネルの抜け殻を被った怨念たちが遺跡の力で復活しようとしてるってのかよ」

 護衛獣としてだけでなく、気の合う友人としてハイネルを知っているヤッファは苛立たしげに拳を叩いた。

「ディエルゴの“ディ”は、王国時代の言葉で“否定”や“対立”の意味を持つわ……“界の意思エルゴではない”、さしずめ“界の意思エルゴの敵対者”ということね」

「“狂った島の意思エルゴ”と考えるのが、一番理解しやすいですね。きっと……」

 護人たちの説明を聞き、カイルたちは騒然となった。
 これから自分達が対処しなくてはならない問題の根源が世界の意思だというのだ。途方にくれてしまうのも仕方がない。
 しかし、ここで手を拱いていてはディエルゴが完全に復活してしまう。この島に住まうものたちに残された時間は一刻の猶予もない状態なのだ。

「状況を打破する方法はただ一つ。遺跡の中枢部、核識の間に乗りこんで核識の玉座に巣食っているであろうディエルゴを叩いて再封印をすること」

 それは昔に無色がハイネルを封じるときにとった作戦と同じだった。護人たちには複雑な思いがよぎるもこれが一番効果的な方法であることに変わりはない。それが島を救う唯一の方法なのだ。

「しかし、肝心な封印はどうするのですか? 封印の魔剣は二振りとも砕けてしまっている。しかも、現在の魔剣所持者たちは揃って行方知れず……」

 ヤードの指摘にカイル一家も護人たちも顔を顰める。
 現在の異常事態を正すために必要な鍵である魔剣を保有し、単純に戦闘能力という面でも一番必要な存在である真樹は、誰に告げることもなくイスラを連れて消えた。フレイズやマルルゥなどの空を飛べる者たちで捜索を行っているものの亡霊たちで溢れ返っている現状では発見も難しい。ようやく分かり合える可能性を得たイスラが命に危険が残る状態でいなくなっているため、アズリアもギャレオと共に捜索に出ているがやはり亡霊たちの存在が捜索活動の障害になっている。

「そうねえ。正当な適格者の手元に魔剣が戻っても、今の先生たちに戦わせるのは少し酷でしょうし……マキとイスラを探すしかなさそうね」

 重い沈黙が続く室内でスカーレルはため息混じりに壁向こうの部屋にいるアティたちを気遣うように言った。
 現在、隣の部屋には先の戦いで戦闘不能な状態で置き去りにされていた紅き手袋の暗殺者の二人が寝かされている。真樹の圧倒的な力の前に叩き潰されたことで心身ともに疲弊しきった彼らの看病についているアティとアリーゼもまた精神的なショックを受けており、すぐに戦場に立てる状態ではなかった。

「んもぉっ! こんなときにあの変態はどこいっちゃてんのよ!」

 逼迫した現状とアティたちの気持ちを考えると真樹の身勝手な行動がどうしても許せないソノラがみんなを代表して雄叫びを上げた。






 ソノラの雄叫びを壁越しに聞いた隣室の面々は、このままではいけないと思いつつ動けないでいた。
 二つ並んだベッドには、紅き手袋の暗殺者である【紅の兇刃】の称号を持つ赤髪の青年とその教え子にして相棒である【紅の射ち手】の称号を持つ金髪の少女が寝かされている。少女の傍には鬼妖界シルターンの住人である火焔妖が浮いており、アリーゼの護衛獣として契約した天使の子供であるキユピーと「ビービー」「キュピキュピ」言いながら戯れている。緊張した様子で見詰め合っている主人たちと違い、護衛獣たちはすぐさま意気投合していた。

「え、えっと……身体は大丈夫ですか? ……ベル、フラウ、ちゃん」

「問題ありませんわ、お姉さま」

 アリーゼにベルフラウと呼ばれた少女は“お姉さま”という部分を強調するように素っ気無く答えた。

「先生と違って、わたくしのフォイアルディアは擬似的な魔剣。ですから、たとえ砕かれてもキルスレスほど使い手に影響はありませんの。不愉快なことですけれど、あの化け物にも手加減されていましたからわたくしの方は、少し休めば大丈夫ですわ。……先生の方は、そうもいかないようですけれど」

 そう言いながらベルフラウは隣のベッドに寝かされたまま目覚めない赤髪の青年に視線を向けた。
 眠り続ける青年の傍らには、アティが腰を下ろしている。目覚めぬ青年の手を優しく包み、その温もりを確かめるように閉じられた瞼の端からは涙が零れていた。

「……レックス、兄さん。良かった……生きていてくれて、本当に良かった」

 アティは何度も確かめるようにそう呟き続けていた。
 無色とイスラとの戦いが終わり、ディエルゴが復活したことで亡霊たちが溢れ出した丘から撤退する中で真樹が一緒に連れてきた紅き手袋の暗殺者を見たアティは、幼い日に生き別れた兄の面影を赤髪の青年に見た。船まで撤退した後、意識を取り戻したベルフラウにその素性を尋ねたところ、驚くほど素直にレックスの正体をアティたちに話した。レックスは、幼いアティを故郷の村人たちに預けて旅に出たアティの実の兄であること。レックスの方は、イスラを通して早い段階からアティが実の妹だと予感しており、でき得る限り争いを避ける為にイスラと同時期に島へ流れ着いていたにも関わらず、オルドレイクたちが島に到着するまで隠れていたこと、影ながらアティの様子を見守っていたこと、などなど聞いてもいない部分まで事細かに語った。

「レックスさんが先生のお兄さんなのはわかったけど……ベルフラウちゃんは、どうしてわたしのことをお姉さまって呼ぶの」

 目覚めぬレックスの手を握るアティの様子に話しかけることができないアリーゼは、初対面のはずの自分を姉と呼ぶベルフラウに質問した。レックスの素性は事細かに話したがそこから先のベルフラウについてはまだ何も語っていない。アリーゼの問いにベルフラウはキユピーと戯れていた火焔妖を招きよせ、腕置きの様に胸元に抱きしめてため息混じりに話を始めた。

「帝国のとある街に大層なお金持ちの商人がおりましたわ。今からほんのすこし昔、その商人のお家に待望の子供が生まれましたわ。けれど、御産に立ち会った産婆や使用人たちは、とても恐ろしいモノを見てしまった。その生まれたばかりの子供は、二人……片方はとても元気の良い赤子だったそうよ? その元気な赤子には、“アリーゼ”という名が与えられ、その商人のお家で大切に育てられました。――では、残ったもう片方の子供は、どうなったのでしょうね?」

 まるで他人事のように語るベルフラウの言葉にアリーゼは今にも泣き出しそうな表情になり、レックスの傍らに腰掛けるアティもまた今は目を開き、ベルフラウの話に静かに耳を傾けている。

「“アリーゼ”じゃないもう片方の赤ん坊は、生まれたときから生きているのが不思議なほどに生気のない死んでいるみたいな赤ん坊でしたの。産婆と使用人たちは普段から良くしてもらっている商人のマルティーニ夫妻にいつ死んでしまうとも分からない赤子が生まれたということを知らせることができませんでしたわ。幸いなことにそのとき生まれた子供は二人。使用人たちは話し合いの末、後から生まれてきた死人のような赤ん坊のことはマルティーニ夫妻に知らせず、別のお家に預けてしまうことにしたのですわ」

 それが自分である、とベルフラウは詰まらなそうに言いながらアリーゼを見た。
 アリーゼはそんなベルフラウの視線から逃げることもできず、今にも零れそうな涙に瞳を潤ませていた。

「そ、それじゃあ……ベルフラウちゃんは、本当に――」

「先生が直々に調べてくださいましたのよ。個人的には、その赤ん坊がわたくしだと信じていますわ。誤解がないように言っておきますけれど、いまさら親元に帰りたいだとか、勝手に親元から引き離されただとか、そんなつまらないことで両親やお姉さま、当時の使用人たちを恨んでいるということはありませんから、そのつもりで」

 ベルフラウにとってレックスと出逢えたことがすべてであり、その要因となった過去を不幸だと思うようなことは一切なかった。
 気にしないというベルフラウの言葉を得ても、聞かされた内容が内容だけにアリーゼは複雑な思いだった。アティと共にこの島へやってくるまで自分の境遇を籠の中の鳥であるかのように思っていたアリーゼは、血を分けた双子の妹が自分とは比べモノにならないほど辛い道を歩んできたことを知り、自分がどれほどの幸運の下にあったのかを理解してしまった。アリーゼとベルフラウは、文字通り鏡合わせの存在だった。奇しくもアティとレックスという兄妹にそれぞれ師事することになり、このような騒乱の中で再会した。どこまでが偶然で、どこまでが必然だったのかは誰にも分からない。
 しかし、確かに別たれたはずの、出逢うことなどありえないはずの彼女らは出逢った。互いの存在など知らずに生きていくこともできた。けれどレックスの生存を知ったアティとベルフラウの存在を知ったアリーゼは何かを償わなくてはいけないと感じていた。両親を失って精神的に危険な状態だった幼いアティを支え続け、アティが立ち直った後は過酷な復讐の道を歩み続けたレックス。後に生まれ、病弱だったという理由で両親に知られることもなく別の家に里子に出され、そこから血塗られた道を歩むことになったベルフラウ。辛いと思っていた自分達の人生よりも過酷な道を歩んできた兄妹たちに自分達が何をしてあげればよいのか分からなかった。
 そのような思いが表情に出ていたのかベルフラウからため息混じりに二人の考えを否定した。

「わたくしたちに同情しているのでしたら見当違いですわ。わたくしは貴女方に償いを求める為にわたくしたちのことを話したわけではありませんの」

 そう言いながらベルフラウは部屋を見渡し、さらに精神集中を行い付近に存在する魔力を索敵すると再びアティとアリーゼに視線を戻した。

「先ほどお話しました通り、わたくしの名は先生につけて頂いたものですの。ですのにあのマキという殿方は、名乗ってもいないのにはっきりとわたくしのことを『ベルフラウ』と呼んでいましたの。……先の戦闘での理不尽なまでの力といい、一体何者ですの?」

 島の遺跡で始めてあったときから自分やレックスのことを理解していた素振りだった真樹の存在がベルフラウにはどうしても腑に落ちなかった。
 真剣な眼差しで問いかけてくるベルフラウにアティもアリーゼも戸惑うように互いを見やり、申し合わせたように首を横に振った。

「な、何者と言われても……」

「私たちも詳しくは知らないの。喚起の門の暴走で名も無き世界から召喚されて、メイメイさんが面倒を見ていたらしいんですけど……」

 それなりに付き合いのあった、というか何度も絡まれていたアティにしても真樹があれほどの戦闘力を持っていたことは信じられず、ただの変態少年という印象しかなかったほかの者達にしても、先の戦闘には驚かされていた。アルディラやファリエルの話では、その力の片鱗は見せていたそうだが、どこであれだけの力を手に入れたのかは知り得ていなかった。

「あれほど強大な魔力は裏の世界でも聞いたことがありませんわ。名も無き世界から召喚された者はあれほどの力を持っているのかしら? ……そんなはずありませんわね。あれほどの化け物が当たり前のように存在する世界なんて薄ら寒いですわ」

 ベルフラウは自ら口にした推測をすぐに否定した。アティたちもそれには同意している。
 真樹の強さを自分達の尺度で考えても答えは出ないとアティたちもすでに諦めていた。

「貴女たちも知らないというのであればご本人に確かめるしかありませんわね。あの方から有益な答えが頂けるとも思いませんけど」

 ため息混じりに言うベルフラウにアティとアリーゼも互いに顔を見合わせ、いい笑顔で突拍子もない大嘘をベルフラウに聞かせる真樹のおちゃらけた姿が目に浮かんでいた。

「それで? 外は非常事態のようですけれど……貴女たちの最高戦力はどちらにいらっしゃいますの?」

 戦場で倒れた後、海賊船に運ばれてから一歩も外に出ていないはずのベルフラウだが、隣の部屋から聞こえる話し声や外の魔力を感じることで大体の状況を掴んでいた。そして、魔剣がレックスとアティの手から消えた今、現状を打破できる可能性があるのは真樹だけだということも知っていた。これから対処しなければならない存在は、無色の派閥など比べ物にならないほどの脅威であり、封印の魔剣を持つ者がいたとしても打倒できるかどうかも定かではない。ディエルゴという怪物を打倒するには、それと同等以上の化け物の力が必要であり、それは真樹をおいて他にいない。

「呼ばれなくても現れて、自分勝手に場を引っ掻き回して笑いながらみんなを助けてくれる……変わったところも多いですけど、マキ君はきっとみんなを助けてくれますよ」

「アリーゼ?」

 なにやら遠い目をして微笑むアリーゼの言葉にアティが呆気に取られたように頭を傾げる。

「だって、最近は先生たちにえっちなこともしてないじゃないですか。きっと改心したんだと思います。えっちじゃないマキ君なら信じられますよ。ね、先生?」

「そ、そうです、ね?」

 まるで真樹が羨望の的であるかのように語るアリーゼに若干の危機感を感じるアティだった。
 帝国軍に囚われていた竜骨の断崖での出来事からアリーゼは真樹に対して自分の理想を被せて見ているところがあり、エロ成分が薄まった真樹に少なからず憧れ始めている状態のアリーゼに対し、直接的な被害を受け続けていたアティはいまだに真樹のことを変態少年という色眼鏡でしか見れないでいた。しかも、現在では手の付けようがない強大な力を持った変態にランクアップしているので次に真樹が暴走したら自分だけでなく、島中の女の子の貞操も危ないと危惧している。そのような中で大事な教え子が第一の毒牙に掛かってしまう可能性があるのは温厚なアティでも許せないことである。島の騒動が解決しても真樹の騒動がなくならない限り、アティに安寧の時は訪れないのである。
 夢見る乙女な表情のアリーゼとその姿に頭を抱えるアティを無表情に眺めるベルフラウ。微妙な空気が立ち込め始めていたところに大きな揺れが襲った。

「じ、地震?」

「これは……すごい魔力の脈動を感じますわ」


 ぐるるウォォォォォォァッ!!


「「「っ!?」」」

 大地を揺るがす咆哮は、先のディエルゴの雄叫びと同じものだった。
 しかし、今度の咆哮からは復活の歓喜も世界への憎悪も含まれない、ただ苦痛と恐怖が入り混じった悲鳴のように感じられた。

「せ、先生……もしかして」

「はい、たぶんマキ君が戦っているんだと思います。私はみんなのところに行きます。アリーゼはベルフラウちゃんと兄さんをお願い」

「わ、分かりました。先生もお気をつけて」

 何の知らせもない事態の急変にアティも状況把握の為に動き出すしかなかった。
 隣の部屋からも慌しい動きが感じられ、それが船全体に広がっていた。
 いよいよ事態は佳境へ向かって動き出す。






[2746] 無限界廊の異端児 第21話 最終決戦・突入編
Name: もにもに◆dcc0c694 ID:59998bda
Date: 2011/12/29 00:39

 ディエルゴが覚醒したことで島全体に溢れている亡霊たちの数を減らしながら住民の避難を行っていた真樹は、それらを終えるとメイメイの店にも戻らずにディエルゴが巣食う遺跡へと向かった。
 倒しても倒しても湧いてくる亡霊たちを相手にさすがの真樹も無傷というわけにはいかず、纏っている衣服はボロボロになっている。

「きりがないにも程があるな」

 遺跡内部に侵入してからさらに増加している亡霊たちを手にした布都御魂で薙ぎ払いながらため息を吐く。

「この半日で千を超える亡霊を倒しておいてため息一つ……君は本当に人間なのかな?」

 紅の暴君キルスレスを揮って真樹の後ろに続くイスラが呆れたように言う。
 すでに魔力放出による攻撃をやめている真樹は、それでも布都御魂の一振りで2、3体の亡霊を斬り裂いている。
 しかし、湧いてくる亡霊の数はいっこうに減る様子もなく、相対的には増加の一途を辿っている。

「一応、まだ人間だ。“普通の”、とは言わないけどな」

「大佐殿は、確かに普通の人間ではないのであります。誰もが認める“変態紳士”なのであります!」

「おいおい、ヴァルっち。そんなに持ち上げるなよ」

 亡霊相手に銃を撃ちまくるヴァルゼルドが誇らしげに言うと真樹も身悶えして照れながら亡霊を斬り裂く。

「いや、変態なのに紳士って……おかしくないかい?」

 独特の感性をもつ真樹の反応や聞き慣れない単語の組み合わせに困惑しながらもイスラは亡霊を倒し続ける。
 満身創痍、疲労困憊状態のイスラが肩で息をしながらクロッツァの実を食べてながら必死に先を行く真樹たちに続く。
 自らの死を願い、けれど少しでも意味のある死を望むイスラは、真樹と共に島の住人の避難と亡霊討伐に尽力した。
 破損した魔剣を扱うイスラは、真樹と比べてかなり多くの傷を負うことになっていた。
 それでも亡霊に飲み込まれて死ぬことは、イスラとしても受け入れ難いものであり、姉や迷惑をかけた者たちに迫る危機を少しでも軽減するためにも剣を揮う事をやめることができなかった。
 回復効果の高いクロッツァの実や回復系召喚術を使用することで辛うじて戦闘可能な状態を維持しているが、精神的な疲労に加えて抜剣覚醒状態を長時間持続させているイスラの魂は限界をとうに越えている。
 群がる亡霊たちも一撃で倒せなくなっており、先を行く真樹やヴァルゼルドの援護が入らなければすでに物言わぬ骸に成り果てているはずだった。

「おいおい、イスラ。これからが本番だってのにもうギブアップか?」

 亡霊の一体を斬り崩したところで肩膝をついたイスラを振り返り、真樹が声をかける。

「……冗談。僕は、まだまだ、戦えるよ」

 もはや感覚さえ薄らいでいる四肢に魔力を通わせて無理やり身体を奮い立たせるイスラ。
 そんなイスラの様子を見ながらも真樹の声や表情に気遣う様子はない。
 足を止めたイスラを振り返ることはしても、決してその歩みを止めない。

「……わかって、る。僕の、命は……姉さん、たちの為に使うんだ」

「そんな襤褸雑巾みたいな格好で言われても格好ついてないっての。もうちょっとシャキッとできないかな?」

 ため息混じりに言う真樹は、亡霊の一体を斬り倒してその手にした刀で軽く自分の肩を叩きながら機界の召喚術を発動させて複数の亡霊たちをレーザーで薙ぎ払う。
 普通の召喚師であればとうに精神力も魔力も尽きていてもおかしくないほどの召喚術を行使している真樹だが、その限界はまったくみえない。

「っ、本当に、化け物だよ。君は」

 言葉では悪態をつくイスラだったが、今は優しい労わりより真樹の力強い言葉が心地良かった。
 ボロボロの身体に鞭打ちながらも立ち上がったイスラは、後方から迫る亡霊を斬り払いつつ真樹の背を追った。
 ここに至るまで、幾度と無く行われている二人のやり取り。
 それは、贖罪を求め、死に場所を求めるイスラを生き長らえさせる拷問であり、真樹なりの叱咤でもあった。

「……ねえ、マキ。どうして君は、ここまで戦うんだい?」

「はい? そんなの皆を助ける為に決まってるだろ?」

 イスラが感じた純粋な疑問に、何を今更と言うように真樹は応えた。
 もうすぐすべてが終わろうとしていること時にそれを問うたのは、ただの気まぐれでしかない。
 イスラは予感していた。
 この戦いが終われば、きっと自身と真樹は運命が別たれるのではないかという確信にも似た予感が。
 その予感がイスラの心に小さな好奇心を逸らせていた。

「君は、もともとこの世界の住人じゃないんだろ? 何の関係もないはずの人間を助ける為にどうして命を賭けることができるんだい?」

「住んでた世界なんて関係ないっての。俺は、ただ女の子に良い格好を魅せたいだけだし、戦うことも楽しいから戦ってるんだ。それと今のところ命を賭けるほどの事態じゃないしな」

 イスラの問いに軽い調子で応える真樹。
 真樹の言葉に嘘はないということは、イスラにも分かった。
 最近は自制できているようだが、真樹の女好きは周知の事実であり、戦闘行為を楽しんでいることも見ていれば分かる。
 しかし、あらゆる理不尽を押し通すほどの力を真樹が手にしたのは、生を受けた瞬間ではない。
 初めて真樹がこの島に現れた時、彼は見た目通りの子供相応の力しか持って居なかったと聞いている。
 それがいつの間にかあらゆる理不尽を跳ね除け、自らの理不尽を押し通す力を身につけていた。
 ただの子供がそれほどの力を得るのにどれほどの鍛錬が必要だったのか計り知れない。
 それを真樹は、見栄を張りたいからと、楽しいからという理由だけで成したと言う。
 それが事実であるのなら真樹は、自分よりも歪んでいるとイスラは感じた。

「大佐殿! あれが核識の間に繋がる最後の扉であります!」

 ラトリスクに残されていた喚起の門のデータを取得し、遺跡内に入ってから真樹たちのナビをしていたヴァルゼルドが一際強固そうな防壁を指し示した。

「お、ようやくラスボスか。とりあえず、ここで最後の休憩でもしてくか?」

 おどけた調子で最後尾についているイスラに言う真樹。

「必要ないよ。ここまで来たらさっさと終わらせたい。もともと僕の役目は遺跡の扉を開くことだけなんだろ? 戦力として数えないのなら僕が休息する意味はない」

 疲労に顔色を悪くしながらも皮肉るイスラに真樹は満面の笑みを魅せた。

「分かってるじゃんか。それじゃあ、最後の役目を果たしてくれよ」

「ふん、本当に最後まで君はブレないんだね」

 これから始まるであろう想像を絶した存在との戦い。
 真樹の強さが常軌を逸していることはど百も承知のイスラでも、この先の戦いの勝敗を予想できない。
 地上からでは天上の星々の高さは比べられないのと同じだ。
 それでもイスラは真樹を信じることしかできない。
 ここまで辿り着いたのは、真樹の力があったからこそであり、真樹がディエルゴとの戦いに入れば余力のないイスラは一人で亡霊たちの相手をしなくてはならなくなる。
 ヴァルゼルドはあくまでも真樹の護衛獣であり、例え危機的状態に無くとも戦闘中は真樹の傍を離れることはない。
 それでもイスラに恐れはなかった。
 此処から先は、真樹が運命を決すること。
 その先にこそイスラが守りたかった者たちの未来がある。
 ならば、自分はようやく歩みを止めることを許されるのだとイスラは思った。

「……マキ。必ず、勝ってよ」

「はっ、俺が負けるわけがない!」

 ここに至っても自信過剰な真樹の姿にイスラは自然と笑みがこぼれた。

「それじゃあ、開くよ」

 そう言って真樹に表情を見られないように扉の前に立ったイスラは紅の暴君キルスレスを掲げる。
 イスラがキルスレスに魔力を込めると扉に描かれていた機械の回路のような紋様に四界を示す四色の光が奔り、重い揺れとともに扉が開く。

「お、開いた、開い――イスラ!」

「えっ?」

 開き始めていた扉の置くから亡霊たちと同じような外見の腕が無数に飛び出した。

「うあっ?! くそっ、放せッ!」

「イスラッ!」

 雪崩のように押し寄せた亡霊の腕がイスラを掴み上げる。

「っ、マキッ!」

 腕に掴まれたイスラに真樹が手を伸ばし、イスラもその手を掴もうと自分の手を伸ばすがあと僅かのところで核識の間へ引き込まれてしまう。

「こんなのありかよ、おいっ!」

 ここまで余裕を崩さなかった真樹だが、想定を大きく外れる事態に初めて隙を見せてしまった。
 その隙を知ってかしらずか、扉から飛び出した腕の一部が絡みあい、蛇のように真樹を喰らおうと襲い掛かってきた。

「た、大佐殿! gっオゥ!?」

 対応が遅れる真樹の前にヴァルゼルドがカバーに入るが大樹ほどの胴を持つ亡霊の蛇の大口がヴァルゼルドを頭部から喰らいつき、その巨大な身体を巻き付けて核識の間へとヴァルゼルドも引き込まれる。

「ヴァルっ! くそっ、なんだってんだ!」

 イスラに続き、ヴァルゼルドまで引き込まれ、立ち止まっているわけにもいかず同じように自分にも迫る腕や大蛇を引き裂きながら核識の間へと飛び込んだ。
 真樹が飛び込むと同時に溢れていた亡霊の腕や大蛇も核識の間へと戻り、核識の間へと続く扉の前に静寂が訪れる。
 それまで島全体や遺跡中を埋め尽くしていた亡霊たちが溶けるように消え、影となった亡霊の残骸が次々と核識の間へと流れ込んでいく。
 まるで島に存在するすべての怨念がディエルゴに吸い寄せられているかのように集まり、それ以外の場所には不自然なほどの静寂が広がっていった。
 静寂に包まれた扉の前に、遺跡の柱の陰から一人の影が姿を現す。

「――ここが、最後の……場所なの?」

 覚束ない足取りの影は、どこまでも薄い気配でありながらその眼は、怨念の力が渦巻く核識の間の淀みを確かな意思を持って見詰めていた。




 



 核識の間に飛び込んだ真樹の目の前に広がっていたのは、幾万の亡霊が折り重なった澱みの深淵。
 中央にある台座。
 それがこの遺跡の中枢部であり、核識となったハイネルの魂が封じられた棺でもあった。
 澱みとなっている亡霊たちが重々しく、緩慢な動きで核識の間に踏み入った真樹を澱みの其処へと誘おうと真樹の足に纏わりついてくる。

「だああっ、もうっ! 鬱陶しいっ!! 纏わりつくのは亡霊でも美女・美少女だけにしろっての!」

 死してなお怒りと嘆きに縛られて苦しみ続ける亡霊でも容赦無しに蹴散らしながら歩を進める真樹は、部屋の中央に座する巨大な澱みを見上げた。


 オオッ、おおオォおぉぉォォォ…っ!!


 澱みの中心にある存在が封印の中で長年溜め込んだ怨嗟を吐き出すような咆哮をあげる。
 巨大な澱みは、どす黒い巨躯の全体に遺跡内に描かれている紋様と同様の紋様が刻まれている。

「おい、ラスボス。ビジュアル変わりすぎだろ? 2Pカラーのつもりか?」

 纏わりつく亡霊たちを薙ぎ払うのを中断した真樹は、自分の記憶の中にあるディエルゴと目の前に座するディエルゴの違いに戸惑いと呆れを示す。

 
 オ、オオ、オオOOOOOOOooooォォッ!!

 
 真樹の言葉に反応を示したかのように真樹が知っていた姿から変質したディエルゴが怨念の塊で構成された巨腕を振り下ろす。

「いきなりだな、おい」

 想定と違う状況に動揺を示してもこと戦闘に関しては多分に趣味の領域が閉めていることもあり、真樹は敵からの攻撃にすぐさま碧の刃を顕現させる。

 
 Gu、グUオヲオオオオOおォoォぉォ…ッ!?!?


 ディエルゴの攻撃に真樹が揮ったのは、アティから所有権が移った碧の賢帝シャルトスだった。
 碧の輝きを放つ剣は、ディエルゴの巨腕を軽々と斬り裂くだけに留まらず、斬り落とされた腕はホログラフのプログラムが解けるように澱みに還ることなく消失した。

「やっぱり封印の魔剣の力は有効みたいだな」

 メイメイより託された神剣『布都御魂』を鞘に収め、封印の魔剣を顕現させた真樹。
 ここに至るまでの亡霊との戦いでどれほど強力な攻撃で倒してもすぐに湧き上がってきていた。
 無尽蔵ともいえる亡霊の存在にさすがに違和感を感じていた真樹は、亡霊たちは倒されてもすぐに再生しているモノとして判断し、それを経つ方法をとることにした。

「――という感じだから、キルスレスもこっちに貰えるとさっさとこいつをぶっ倒せるんだけどな」

「……相変わらず、無茶苦茶を言う」

 群がる亡霊たちをシャルトスで斬り払いながらもう一つの魔剣の所有者に声を掛ける真樹。
 その真樹の声に弱々しく応えたイスラは、ディエルゴの巨躯に飲み込まれており、ディエルゴの胸部付近に頭と胸肩にキルスレスを握る左腕しか出ていない。
 よくよく見ればイスラのほかにも多くの人間がディエルゴの腹部に同化するように埋もれていた。
 イスラ以外の人間は、死相が張り付いており、一切の精気が失われた状態であることは誰の眼にも明らかだった。

「た、大佐殿ぉ~。本機のことも忘れないで欲しいであります!」

「いや、お前は捕まるなよ。というか、絵的にも微妙な位置に取り込まれてんのな。なに? 股間パーツ?」

「ひ、酷いのであり、あり、A、ari、i、i、i……ッ?!」

 たとえ真樹が亡霊の大蛇に対応できたとしても主人を守ろうとするのが護衛獣であり、軍用の機械兵士の性である。
 そんなヴァルゼルドの献身にも軽い調子で冗談まで言う真樹に嘆くヴァルゼルドだったが、突如言語能力に支障が出始める。

「おい、ヴァル? ……なんか、その状態ってやばいのか、ッとっと。人が話している時は、静かに待ってろよ」

 ヴァルゼルドの眼の光が薄らいでいるのに気付いた真樹は、ディエルゴが発したと思われる怨嗟の魔力攻撃をかわしながら同じ状態に居るイスラに問う。

「たぶん、ディエルゴは、島中の亡霊を取り込んで、力を、増してるんだ、よ」

 声も絶え絶えに応えるイスラは、しかし、その手にキルスレスを持つことにより辛うじてディエルゴの生命力・魔力の吸収にヴァルゼルドより耐えていられる状態だった。

「なるほど、な。どういった変化かわかんね、けどまあ悪知恵付けて、抵抗しようとしてるってことだな」

 そういうと真樹は魔剣に魔力を注ぎ込み、その力を解放させる。
 碧の輝きはより強く大きくなる。
 その形は姿を変え、突撃槍もかくやという巨大な刃を形成していく。


 ぐるるウォォォォォォァッ!!


 封印の魔剣に再び強大な力が集まっているのを感じ取ったディエルゴが蘇る恐怖と絶望に再び咆哮をあげる。
 

 封印など、させるものかああアァァァァぁぁッ!!


 ワれラの絶望を……悲嘆を! 憤怒をッ! Oもi知れえええエエエエぇぇェェェッ!!


 真樹とシャルトスの魔力に呼応するようにディエルゴもまた壊れた歯車を無理やり動かしながら魔力を搾り出す。
 絶望の底から引き出される魔力は、絶大であり、共界線クリプスと繋がり、擬似的な界の意志エルゴとして機能しているディエルゴにこの島で死んでいった者たちの怨念までもプラスされている現在の状態ならば、単純な魔力量だけであれば真樹を超えているだろう。
 そんな強化されたディエルゴの姿に真樹は、深いため息を吐きながら大剣と化したシャルトスを小柄な体格に見合わぬ膂力を以って手首だけの回転で振り回す。

「さて、と。さっさと俺の封印も解いてもらわないといけないし……おっぱじめようかな。ラストバトル、いくぞッ!」
 

 グルルッ、ぐ、グオヲオオオオおおォォォぉォ…ッ!?




 長い煩悩封印状態に我慢の限界に達しかけている真樹は、シリアスはこれで最後だ、とでも言うように真剣な戦意を携えてディエルゴへと襲い掛かる。
 最後の戦いがついに始められた。







本日の真樹のパラメータ
 Lv.120
 クラス-四界の統率者
 攻撃型
  横・短剣,横・刀,横・杖,投・投具,射・銃
 MOV7,↑6,↓6
 耐性-機・大,鬼・大,霊・大,獣・大
 召喚石6
 特殊能力
  誓約の儀式(真)・全、送還術、魔剣覚醒
  見切、俊敏、先制、闘気、バックアタック、ダブルムーブ、勇猛果敢、心眼、絶対攻撃、狙い撃ち
  異常無効<狂化・石化・沈黙・麻痺>、アイテムスロー
  サルトビの術、居合い斬り・絶刀、抜刀術・驟焱、フルスイング・改、ストラ、バリストラ、
  憑依剣、煩悩封印
 特殊武装-縦・刀(神刀・布都御魂)+ 縦・剣(魔剣・碧の賢帝)⇒縦・大剣(魔剣・碧の賢帝)
 召喚クラス-機S、鬼S、霊S、獣S
 護衛獣-ヴァルゼルド
 装備中召喚石
  ヴァルハラ、天使ロティエル、聖鎧竜スヴェルグ、クロックラビィ、ジュラフィム


オリ特殊能力解説
<主人公>
 誓約の儀式(真)・全‐誓約者と同じ召喚法。
 送還術‐召喚術をキャンセルする。誓約に縛られていない異界の存在ならば強制的に元の世界に送り返すことができる。
 魔剣覚醒-抜剣覚醒の上位変換技。術者ではなく、魔剣が形態変化して力を増す。
 居合い斬り・絶刀‐距離・高度の射程が大幅に延長された居合い斬り。
 抜刀術・驟焱‐抜刀と同時に前方を炎で範囲攻撃。
 フルスイング・改‐横切りタイプの攻撃力が1.5倍になる。
 憑依剣-武具に異界の力を憑依させる憑依召喚術の発展技術。
 煩悩封印-真樹の潜在的な欲求を強引に封じ込めることにより、シリアス戦での出力3割増。ギャグ戦での出力3割引?








[2746] 無限界廊の異端児 第22話 最終決戦・混迷編
Name: もにもに◆0c3027e3 ID:e7cb9cb8
Date: 2012/12/07 01:56


 喚起の門最下層に座する核識の間。
 この島で死んだ魂の全てが吸い寄せられた核識の間は、混沌の渦と化している。
 幾千の霊魂を束縛し、共界線から絶大な魔力を吸い上げるディエルゴの身体は、数多の霊体を取り込みながら蠢いている。
 定型を失ったディエルゴの巨大な腕や大蛇のように蠢く亡霊たちで構成された触手が小さな大敵を呑み込もうと暴れている。

「斬っても斬ってもきりがない、なっ!」

 いきなり全身を包む核識の魔力攻撃を自身の魔力を瞬間的に放出することで耐える真樹は、碧の賢帝シャルトスをふるって巨大な腕や大蛇を斬り裂きながらディエルゴの本体へと攻撃を続けている。
 封印の魔剣による攻撃は確実にディエルゴの力を削っているが、亡霊を取り込み、尚且つ共界線から魔力供給を受けるディエルゴは削られる先から再生し、さらに真樹の攻撃に勝る速度で力を増幅させている。

「マキ……一度、引くんだ」

 ディエルゴに囚われたイスラが虫の息で言う。
 イスラとヴァルゼルドをディエルゴから引き剥がすまで大規模な攻撃を撃てない真樹は、どうにかしてイスラたちの元へ辿り着こうとするが、碧の賢帝や紅の暴君を通して真樹の力を感じたディエルゴがそれを許すはずもない。

「引けって言われて、引ける状況じゃないだろ!」

 行く手を阻むディエルゴの攻撃を回避し、防御し、迎撃しつつ駆け回る真樹は、息を乱しつつ叫んだ。
 無尽蔵とも言える魔力を放出し続ける真樹が、息を乱している。
 これまで一度としてなかった真樹の状態にイスラは今の状況が切迫していることを理解した。
 イスラとヴァルゼルドがいる状態では、真樹の最大魔力による召喚術を放つことはできない。
 点や線による攻撃では、ディエルゴの再生速度を上回ることはできない。
 いくら厖大な魔力を有する真樹でも魔力的・肉体的な限界はある。

「引くんだ、マキ。このままじゃ、いくら君でもこいつには勝てない」

「足手まといは黙ってろ!」

 飄々とした調子を崩すことのない真樹にしては珍しい強がりと罵倒を受け、イスラはより強く叫ぶ。

「聞くんだ、マキ! まず共界線クリプスとの繋がりを絶つんだ! そうすれば――」

 真樹にディエルゴの弱点を伝えるイスラだったが、それを遮るように数多の亡霊の腕がイスラを呑み込み、ディエルゴの身体の中へと引きずり込んだ。

「イスラッ!」

 ディエルゴに飲まれるイスラは、ついに紅の暴君キルスレスとの結合が解かれ、その手から魔剣を落とした。

「共界線との繋がりを絶つって言われてもな。どうしろってんだ」

 イスラの手を離れた魔剣は、ディエルゴに取り込まれることなく宙を漂い紅い輝きを明滅させるキルスレスに真樹が手を伸ばす。

「魔剣が増えて攻撃力も2倍って、上手くいくはずもないか」

 衰えることがないディエルゴの攻撃を斬り払いながら真樹は、台座の周囲を回るように移動する。
 イスラが取り込まれ、ヴァルゼルドも機能停止状態でディエルゴの台座付近に埋もれている。
 真樹が好む打撃や斬撃が徹り難く、最上位召喚術の連発による殲滅戦法も人質がいる以上できない。
 一人で対処できない戦いがあることを知る真樹だが、クリプスに接続した状態のディエルゴを放置するということは、真樹以外の者たちに攻撃の手が伸びる可能性があるために撤退するという選択が取れない。

「……何も最後の最後で想定外が出てこなくてもいいだろうに」

 核識としての魔力と擬似的なエルゴとしての能力を持つディエルゴの影響力は島全体に及ぶ。
 真樹がこの場を離れるということは、その力の焦点が外へと向かうということ。
 島民達は、カイル一家の海賊船が停泊している海岸に避難しているが、いざという時に全員を乗せて海に避難できるほどの許容量は海賊船にはない。
 戦える者はいるが、島全体が意思を持って襲い掛かってくれば対応しきれない。
 アティやレックスは魔剣を失い、ディエルゴが共界線から魔力を際限なく取り込んでいる現状では、護人たちの力も減退する。
 この状況で真樹が核識の間を離れてしまうとディエルゴの力の矛先は、外の者達にも向くことになる。

「そればっかりは、許すわけにはいかないんだよな。……まったく、こんなシリアスはいらねーって、お?」

 幾百もの亡霊たちで構成された巨腕や大蛇による攻撃を掻い潜り、斬り払いながら悪態を吐いていた真樹は、あることに気付く。

「……試す価値はあるな」

 キルスレスを腰帯に挿し、シャルトスを両の手で力強く握りなおした真樹は、特徴的な複数の◎模様で構成された巨腕の一つに斬りかかった。

 
 Guou…ッ!?


 それまでの力任せな斬撃から狙い済ました一閃へと切り替えて攻撃してきた真樹の変化にディエルゴが焦りの呻きをもらす。
 真樹の一撃が◎模様の巨腕を引き裂く。
 それと同時にディエルゴが聳え立つ台座の袂に突き出ていた突起物が緑色に変化した。

「ビンゴォ! 機界に在りし、鋼の盟友よ! 呼びかけに応えろ!」

 変化した物は、ディエルゴが共界線から力の供給を受ける為に必要な制御装置。
 現在のディエルゴを形成する核識の負の感情が凝縮された◎模様を破壊することで制御装置を守る結界が弱まる。

「こんな基本的なことを忘れてたなんてな!」

 勝機を手に真樹は、常人離れした魔力を凝縮させ、機界ロレイラルへと繋がる門を開く。

「敵を撃ち砕け! ナックルボルトォォ!!」

 真樹の呼び掛けに応え、ロレイラルより招かれた機械兵士と呼ぶにはあまりに巨大な鋼の巨人ナックルボルト。
 膨大な魔力を燃料に唸りをあげる鋼の拳が狙い違わず緑色に発光する制御装置へと突き刺さる。

 
 グぬォぉォ…ッ!!


 ナックルボルトの拳が制御装置を周囲の亡霊を巻き込んで跡形もなく消し飛ばした。

「相変わらず、すっげぇ威力だ。ホント頼りになるぜ、ありがとなナックルボルト!」

 要請に応えてロレイラルへと帰還するナックルボルトに真樹が片手で挨拶するとナックルボルトもそれに応える動作を示してあるべき世界へ戻った。

 
 グるおオオぉぉォぉォ…ッ!!


 真樹の攻勢にディエルゴが咆哮を上げて亡霊たちをさらに嗾ける。
 召喚術を放った後でも真樹は、隙を作るどころか先ほどまでの疲労さえ消し飛んでいる。

「ゴールが見えたんだ。疲れてらんねえよ!」

 攻略の糸口が見えた途端に真樹は活力を取り戻す。

 
 コ、コノまマ、ツイエてナルモノカアアアアぁァァァァァ!!


 ディエルゴの憎悪が増し、核識の間をさらに多くの亡霊が埋め尽くす。
 しかし、先が見えたことで魔力を温存するのを止めた真樹の殲滅速度は、亡霊の再生を徐々にだが上回り始めていた。

「共界線との繋がりさえ断ち切ればこっちのもんだ!」

 殲滅速度が上がる真樹と反比例して、ディエルゴが呼び出す亡霊たちの再生力は確実に低下している。
 制御装置のひとつが破壊されたことで、共界線から引き出せる力の量が減少しているのは間違いなかった。
 
「もっと飛ばすぞ! クロックラビィ!」

 勝機を見て取った真樹は、時の兎を召喚してその力を自身へ憑依させる。
 通常であれば周囲を囲まれた状態で機動力を増す憑依召喚は、その力を十分に発揮できないが、憑依召喚に対する素養が極端に高い真樹が直接自身に施す場合に限り、その効果が倍増する。
 戦闘速度が増した真樹は、腰に挿したキルスレスを再び抜いて構える。

 膨大な魔力がシャルトスとキルスレスに流れ込むと同時に真樹の身体も変成する。
 アティやレックス、イスラの抜剣覚醒と同じような変化を遂げる真樹。
 黒い髪が眩しい純白に染め上げられ、黒い瞳に灼熱の赤が灯る。
 魔剣による変化は、衣服にまでおよんで真樹の背に純白の翼が構成される。

「シャルトス! キルスレス! 今回だけは、俺の力を喰らわせてやから、そのまま■■■■まで貫け!」

 純白の姿に同じ色の魔力光を纏った真樹は、渾身の力で封印の魔剣を残った共界線の制御装置に叩き込む。
 それと同時にディエルゴが空間を震わすほどの歓喜を叫んだ。

 
 フは、ふハハハハHAHAHahahahaッ!!


 真樹の全力を前にして、ディエルゴが狂ったような絶笑を上げる。
 
 
 ジブンが、ナニにチカラ、そソイでイルかワカッテいナいようダナ!


 封印の魔剣は、過去にハイネルを封印した際にその魂の一部を宿すこととなった。
 そして、封印の魔剣を適格者が使えば使うほど遺跡に封印されたハイネルのディエルゴは力を増していく。
 本来であれば、碧の賢帝シャルトスが打ち直された果てしなき蒼ウィスタリアスを用いて戦うことでディエルゴに力を与えずに倒すことが可能となるはずが、真樹はどちらの魔剣もそのままで使用している。
 そもそも適格者ではない真樹が封印の魔剣を担うことになったのは、ディエルゴが真樹の魔力を欲してのこと。
 真樹が魔剣の支配権を完全に掌握した状態で力を発揮させる魔剣覚醒ならディエルゴに魔力を奪われることはないが、自身と魔剣を一つとする抜剣覚醒を核識の間で使えばディエルゴとの繋がりが強まり、その精神を危険に曝すことになる。

 
 コノマま、魔力ダケでなク、キサマの魂マデすベテ吸収シテヤルッ!!


 核識としてディエルゴと繋がってしまえば、並大抵の精神力では抜け出せない。
 召喚師として高い才能を有し、核識となりえたハイエルでさえあらゆる存在の圧倒的な感情の奔流に呑まれて精神を砕けさせた。
 どれほど強い力を得ようと精神の強さには関係ない。
 煩悩覚醒状態の真樹なら逆にディエルゴでさえ汚染して触手遊技を始めるくらいのお約束を見せ付けるだろうが、幸か不幸か最大の武器である煩悩を封印されている真樹にはそこまでのお約束を構築できない。

「単純に人間と界の意志エルゴの力の綱引きなら界の意志エルゴに分があるのは当然。何しろリィンバウムやそれを取り巻く四界に存在するすべては、界の意志エルゴと繋がっているんだからな。一つの世界である界の意志エルゴとその世界の一部でしかない人間がぶつかり合っても勝負なんて成立しない」

 共界線の制御装置に剣を突き立てたまま囁くように静かに言う真樹に精神の疲弊は見られない。

 
 マダ、コトバヲ…ツムゲルカ、……ナラバッ!


 余裕すら感じさせる真樹の様子を怪訝に思いながらも無駄な抵抗だと思い込むディエルゴは、残った亡霊たちを総動員して真樹を押し潰さんと巨腕と大蛇を殺到させる。
 しかし、亡霊たちで構成されたディエルゴの巨腕と大蛇は、真樹の背に咲き誇る純白の翼から光の粉のように舞い散る羽根に触れただけで何十人分もの魂が浄化され、輪廻の輪に戻れないほどに歪められていた魂が正しい形を取り戻し、輪廻の輪へと還って行く。

 
 キサ、マ……ハッ?!


 次々と魂が修復され、輪廻の輪へと還って行く亡霊たちを見送りながらディエルゴは、強烈な悪寒にその意思を震わせた。
 そんなディエルゴに向かって真樹は、哀れみの表情で告げる。

「魂の輪廻は、各界の界の意志エルゴたちが生み出した理だ。それを阻害するような要素を取り除く機能があるのは当然だ」

 輪廻の輪へ還って行く亡霊たちを見送るのは、真樹やディエルゴだけではなかった。
 白き翼を背負う真樹の背後にひとりの天使が浮かび上がっている。
 幾重もの翼を広げ、神々しい純白の魔力で歪んだ魂たちを救済し続ける天使の名は、アルフィエル。
 霊界サプレスの中でも特異な位置にある大天使の一人。

『哀れと同情はいたしません。せめて、魂の旅路で迷うことなく、新たな生へ還ることを祈りましょう』

 感情を読み取ることのできない静かな天使の祈りをもって魂たちは、長年囚われていた魂の牢獄から解放された。

 
 ナZE……天使ガッ、ニンゲンごときに力を化しテイる!?


 突如現れたアルフィエルに動揺するディエルゴ。
 しかし、アルフィエルの登場に動揺していたのは、ディエルゴだけではなかった。

「うお~ぅ!? クールペチャパイ天使が来るとは、リィンバウムもサプレスもいい趣味してるぜ」

 共界線の制御装置に剣を突き立てた体勢のまま首だけで背後を振り返り、アルフィエルの全身を嘗め回すように凝視する。

「か、身体が……軽い? って、真樹その姿は一体!? というか、そのいかにもすごそうな天使は真樹の召喚術なの!?」

 亡霊たちがディエルゴから解放されたことで囚われていたイスラも意識を取り戻し、尚且つ身体のダメージが回復していた。

「た、大佐殿! 自分は大佐殿ならばやってくれると信じていたであります! ヤヤ、大佐殿の背後に見慣れぬ天使殿が! 大佐殿の背後は、本機の定位置であります!」

 台座に埋もれていたヴァルゼルドも解放されたようだが、エネルギーまでは回復しておらず、立ち上がるまでには至っていない。
 三者三様に平常運転を再開した感があった。

「そんじゃ後は、“自称エルゴ”の困ったちゃんに身の程を弁えて貰おうぜ」

『私が従うのは、エルゴの理のみ。貴方のような下品な方に命じられるまでもなく、悪しき形に歪んだ魂を救済するのは私の使命です』

「おおぅ、お堅いところも良いね~。そんじゃ俺も少しは、人助けっぽいことに精を出してみるかな!」

 純白に輝く魔力を纏った真樹がその魔力をディエルゴと繋がるラインへと流し込む。
 
 
 グヲオオオおォォぉォ…ッ!?!?


 真樹の魔力を流し込まれたディエルゴは、力が増すどころか内部から引き裂かれんばかりの苦痛に絶叫した。
 苦しむディエルゴを他所にアルフィエルもまた純白の魔力で核識の間を多い尽くす。
 ファリエルの魔力が真樹を通して、ディエルゴや共界線へと流れ込む。

『エルゴとは、ひとつの世界。この世界リィンバウムには、リィンバウムの界の意志エルゴが存在します。そして、リィンバウムに存在するこの島もまたリィンバウムの一部。人の意思によって発生した貴方が界の意志エルゴに成り代わるなどもとより、理によって不可能なのです』

 
 ナ……ンダ、ト……?


 自身の存在意義を完全否定されたディエルゴは、言い返せなかった。
 言い換えそうにも共界線を通して繋がっている全てのラインに真樹とアルフィエルの魔力が駆け巡っており、すでにディエルゴの命令を受け付ける部分がまったく残されていなかった。
 上位の大天使だと思われるアルフィエルだけならまだしも人間である真樹にさえ負けていた。

 
 マキ、よ……キサマ、は……何者なのだァァァァaaaッ?!


 島の亡霊を失い、アルフィエルによりエルゴとしての力を完全に封じられたディエルゴは、咆哮と共に核識の間に存在する者たちに向けて自身に直結できる影の共界線のラインを真樹たちに放った。

「最後の足掻きだな。ヴァルとイスラは頼んだぜ、ペチャパイ天使!」

『それがモノを頼む態度ですか』

 暴言を吐いた真樹に怒るでもなく、アルフィエルはまだ回復しきっていないヴァルゼルドとイスラの周囲に光の壁を作り、ディエルゴの干渉から守った。
 真樹もまた自身に迫っていたディエルゴの共界線ラインを白い魔力の波動だけで吹き飛ばす。
 そして、真樹は装置に突き刺していた魔剣に込めていた魔力を再び自身の内に吸い上げるように引き抜いた。

「ここで最後の一本釣りだぁぁぁ!!」

 
 ゴuオォォォooぉ、ooッ!!!!


 魔剣が引き抜かれると同時にディエルゴは、力の核たる部分を根こそぎ引き抜かれた。
 それと同時に核識の間の台座に聳え立っていたディエルゴの巨体が砂のように崩れ落ちる。
 本来であれば、島そのものであるディエルゴの消失は、この島そのものの消失を意味していたいが、真樹はウィスタリアスの代わりとしてリィンバウムのエルゴの影響力を呼び込むという策を施した。
 ディエルゴが島の共界線を完全に掌握した状態では、リィンバウムのエルゴに干渉できる範囲が限られていたため、まずはディエルゴを弱らせる必要があった。
 イスラの助言もあり、ディエルゴと共界線の繋がりを弱めたことで、リィンバウム本来の共界線と真樹の身体を通してアルフィエルを核識の間に呼び込むことが可能になった。

「……お、終わったのか?」

 ようやく歩けるまでに回復したイスラが唖然とした様子で首を傾げる。
 そんなイスラに真樹は、ディエルゴから吸い出した核を宿した魔剣を納めて頷いた。

「終わりだよ。これで何十年分かの平和は勝ち取れたんだ」

「何十年分……? 相変わらず、理解しがたい表現をするんだね」

「お前に言われたかないけどな」

 真樹の言葉に安堵して良いのかどうか微妙そうな苦笑を示すイスラの肩を叩きながら真樹は笑い、自ら招き寄せる手筈を整えたとはいえ、龍姫に引き続いての闖入者であるアルフィエルにも笑みを向ける。

「アンタもありがとな、ペチャパイ天使」

『貴方も大概ですね』

 薄い胸に対して何か恨みでもあるのではなかろうかという真樹の暴言に対してもやはりアルフィエルは静かな落ち着きを絶やさない。

『……私の役目はここまでです。星の巡りに導かれし時の向こうでまた会うことになるでしょう』

「おう! 次に会うときはバインバインになっててくれよな!」

 煩悩封印状態でも戦闘状態が解ければ、エロさが滲み出るマキクオリティに遅れれながらアルフィエルは、あるべき場所へと帰っていった。
 残された真樹は、静まり返った核識の間を見渡し、ディエルゴの気配がないことを確認して自身の何倍もの重量があるヴァルゼルドを担ぎ上げてイスラを促す。

「とりあえず、これで終わったんだ。さっさと帰って皆を安心させるぞ」

「申し訳ありません、大佐殿」

「結局、僕は死に損なっちゃったな」

「お前は、ディエルゴに取り込まれた時点で死んだようなもんだろ。これからは、生まれ変わったつもりで頑張れ。頑張れなくても頑張れ。以上!」

「簡単に言ってくれる……」

 真樹の適当な言葉に苦笑しながらもイスラは、出口に歩き出した真樹の後ろを力強い足取りで追った。
 その身体から召喚呪詛が完全に消え去っていることを口にはしないが、真樹がアルフィエルに手を回してくれた結果なのだろうとイスラは感謝した。


 真樹たちが出口の前に立つと閉ざされた核識の間の扉が開かれた。
 開かれた扉の向こうには、ひとりの女性が佇んでいた。

「およ? なんでアンタが、こんなところに」

「ん? き、君は……」

「どうされました、大佐殿? おや、もう足の調子は良くなったでありますか?」

 三人の反応を前に女性は、虚ろな瞳のまま流れるような動作でその手を突き出した。

「え?」

 自身の胸に吸い込まれるように差し込まれた鈍い輝きを持った一振りのナイフと目の前に立つ女性を交互に見ながら唖然とした声を零す真樹。

「なっ!?」

「大佐殿!!」

 いきなりの自体に驚愕する二人を他所に真樹の胸にナイフを突き立てた女性は、その身に濁った憎悪の魔力を宿して歪に笑った。

我ガ名ハ、ディエルゴ。……憎悪ノディエルゴ、也

 女性のモノとは思えない濁った声が笑いながら真樹の胸に突き立てたナイフを引き抜いた。





[2746] 無限界廊の異端児 人物設定
Name: もにもに◆2285b348 ID:89adfc6d
Date: 2008/06/12 07:39


 それなりに話数が進んだので人物設定をば。
 

第10話時点


・上杉 真樹(うえすぎ まき)
 年齢:14~15歳(外見) 身長:161cm 体重:49kg
 名も無き世界(現実世界)からやって来たルール無用の主人公。
 無限界廊での修行により、本編無視のレベルアップを果たしたブレイカー。
 普段は飄々としており、背中にセクハラの「セ」の字を背負っている……と思われる。
 修行中は着物がメインだったが、現在は帝国軍の軍服を気に入っているので自分でアレンジして軍服に似せた軽鎧を纏う。
 食事は主に『鬼の御殿』に集りに行っている。
 「教師」は嫌いだが「女教師」は好き。
 ロボットに対していくつかのロマンを持っており、ヴァルゼルドがバージョンアップされる度に真樹の趣味が反映されていく。
 島に着てからプロポーズをしたこのある女性は、メイメイ、アルディラ、ミスミ。もちろんすべて失敗している。
 口癖は「πッ!」
 これまで真樹に『π』された女性は、メイメイ、アティ、女隊長。


・ヴァルゼルド
 真樹によってジャンク置場から発掘された機械兵士。
 本来、バグである人格を真樹の発想とラトリクスの技術によって安定化させることに成功。以来、真樹の護衛獣として奮戦中。
 バージョンアップの度に追加される兵装に文句は無いが、装甲の色が変化するのは止めてもらいたいと思っている。
 度重なるバージョンアップにより、機械戦争時に開発されたとされる『紅鉄の死神』という機体の性能に近付いている。



・メイメイ
 普段の酔っている姿は、仮の姿……かもしれない、色々出来たり知ってたりするお方。笑いながら怒れるタイプの人。
 リィンバウムにやって来た真樹の保護者兼ししょー。
 実は、『王』との約束を守り続ける頑張り屋さん。
 最近、真樹に隠れてこそこそ暗躍している。



・???
 メイメイと知り合いの龍姫。意味深なことを言いつつ現れた謎の人。
 真樹の召喚ミスによって招かれた。
 


・アティ
 島に流れ着いた家庭教師。現在はジョブチェンジして野外学校の先生。
 真樹によって普及していたセクハラ用語の餌食とされてしまった第一の被害者。
 近頃、羞恥心とは何かを考えるようになった。
 『封印の魔剣』である『碧の賢帝シャルトス』の適格者なのだが、真樹の登場によりその真価を未だに知らしめることが出来ていない。



・クノン
 機界の集落『ラトリクス』の護人であるアルディラの付き人的な医療看護用自動人形フラーゼン
 本来、感情表現は必要最低限であったが、度重なる真樹との交流により若干の変化が見られるようになった。
 修行や奇行による怪我で何度も治療を受けに来る真樹に対しては、かなりの毒舌で対応する。





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