戦いの中で目覚める自分
もう一人の自分
知らない自分
俺は、一体……
「ハァァァ!」
助走をつけ、一番近くにいたスライムを貫く。
「シッ!」
そのまま薙ぎ、周りに集まってくるスライムに投げる。
「オォォォォォオ!!」
それを追いかけ、俺が投げつけたスライムに当たって動きが鈍った他のスラムを踏み潰す。
「…次……」
不思議だ。
何故、これ程まで戦えるのだろうか。
何故、このような動きをできるのか。
何故…こんなにも気分が高揚するのか。
「これで…終わりだ!」
気が付けば、俺は…最後に残っていたスライムを握り潰していた。
「あ、あの…」
戦いが終わり、俺達は恐る恐るリュウに話しかけた。
「ん…?あ、ああ。マグナ…それにトリスも。どうした?」
どうした、って…
「…大丈夫、なの?」
「…よく意味がわからないが」
俺が聞こうか迷っているとトリスが疑問を口にした。
でも…気の所為だったのかな。リュウの表情は、戦う直前に見せた微笑みだ。
「ううん!なんでもないよ。それで…リュウはやっぱり、シルターンから?」
「…しるたーん?」
「「………」」
えっと…
「もしかして、サプレスとか?」
「いや…」
「じゃあ、メイトルパ…」
「…聞いたことが無いな」
「まさか、ロレイラルってことは…」
「…先程から言っている意味がよくわからないのだが」
「「………」」
ど、どうしよう…?
召喚された、ということがよくわかっていないリュウを連れて、私達は派閥の中庭に来ていた。
「…あ、いた!ネスー!」
私が声を上げた先にいるのは私達の兄弟子。
私達と違って勉強熱心な彼なら、リュウのことがわかるかもしれない。
そう思って、ここに来たんだけど…
「なんだ、トリス…マグナも。試験は受かったのか?」
「うん!」
「私達のこと、心配してくれたんだ?」
私がそう言うと、ネスは「何を言ってるんだ」とでも言いたげな顔で溜め息を吐いた。
「なんで僕が君達の心配をするんだ。
第一、受からない要因があることが問題なんだぞ」
「「ぅ…」」
酷いな~…まぁ、授業をサボってた私達がいけないんだけど。
「で、そこにいるのが君達の護衛獣か?…やたらと多いが」
「うん。理由はわからないんだけど…」
「ちなみに私の護衛獣がレシィとバルレル…メイトルパとサプレスだよ」
「で、俺のがシルターンのハサハとロレイラルのレオルドなんだ」
「…そこの彼は?」
「えっと…」
「それが、その…」
「…俺は石動竜司。二人にはリュウ、と呼ばれている」
「イスルギリュウジ?…変わった名前だな」
「石動は苗字だ。名前は竜司。…で?お前の名前は?」
「…僕はネスティ・バスク。二人の兄弟子…ということになる」
私達が答えに困っていると、後ろにいたリュウが一歩前にでて自己紹介…と言うにはなんか棘があるけど。
とにかく、二人が自己紹介したところで私達がまた口を開く。
「それでね、リュウは自分の世界がわからないんだって」
「…なんだと?」
「シルターンもサプレスもメイトルパもロレイラルも知らないって言うんだ」
「…まぁ、そういうことだ」
「だからネスに聞きにきたんだけど…」
私達の話を聞き、ネスは眉間の皺を深くして黙り込んだ。
「(ねぇ、大丈夫だと思う?)」
「(う~ん…ネスだし、大丈夫だと思うけど…)」
「(…あ)」
「(?トリス?)」
「(…さっき、ラウル師範に聞けばよかったんじゃ…)」
「(…あ)」
「…恐らく、彼は…どうした?二人とも」
「「あ、ううん!なんでもないよ」」
「そうか?…恐らくだが、彼は『名も無き世界』から呼ばれたんだろう」
「『名も無き世界』……」
「聞いたことないけど…」
「名も無き世界は、リィンバウムを含めた五つ以外の世界の総称だ。しかし…実在していたとはな」
「……」
「……」
「……それで、俺は戻れるのか?」
ネスの話を聞き私達が黙り込んでいると、自己紹介が終わってから黙っていたリュウが質問してきた。
「…師範に聞いてみないことには…僕だけの知識では、判断がつけられない」
その言葉で、私達は師範のところに行くことになった。
「…俺達、忘れられてねぇか?」
「(こくこく)」
「そ、そうですね…」
「…………」