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[392] サモンナイト『IF』 -久遠の彼方-
Name: 神威◆73420f02
Date: 2008/10/13 23:37
「おい、こいつどうする?」

 そう言った男の目の前には一人の少女が横たわっている。
 少女は艶やかな赤い髪をした少女だった。
 活発そうに笑うであろう顔は泥にまみれている。
 まぶたを閉じた其の姿は一枚の絵画のような美しさを醸し出していた。

「あぁ? そんなもんほっとけよ」

 其れに答えたのもまた男だった。
 男達に共通しているのは、血に濡れた武器を持っている事だった。

「でもよぉ、中々上玉じゃねぇか? こいつ」

 最初に声をかけた男――便宜上Aと呼ぼう――が少女を指差しながら言う。

「確かに将来有望な感じの女だな……」

 もう一人の男――此方はBとでも呼ぼうか――が少女を嘗め回すように見ながら言う。

「だろぉ?」

「でもな、俺達はお頭の命で此処に来たんだ。勝手に持ち帰るわけにはいかねぇぜ?」

 なぁ? おまえら、と後ろを見渡すB。
 彼らの後ろには二十近くの男達がたむろっていた。
 誰もがニヤついた笑みを浮かべている。

「事後承諾ってやつで良いんじゃねぇの~?」

 A・B以外の男達が次々にはやし立てる。
 この少女を持ち帰ることに賛同する声が上がる。
 多数決をとるまでも無い。満場一致で少女を頭の所に持ち帰る事にする。
 そうして少女を担ごうと彼女に近づいた時――


「何かすげー事になってんな……」


 男たちにとって聞きなれない声が響いた。
 この場には場違いとも言える能天気そうな声だ。
 新たに現れたのもまた、男だった。
 否、体格から言って少年と言った方が妥当だろう。
 其の声に一斉に振り向く男達。

「で、あんた達は其の子をどうするつもりだい?」

 あくまで穏やかに、しかし其の眼光は限りなく冷たく、少年は聞いた。

「あぁ? 坊主、餓鬼はねんねの時間だぞ?」

 Aはいきり立ちながら言う。
 邪魔された事に腹を立ててるらしい。眼光をきつくして睨みを利かせている。

「おっさん達さぁ。見た所盗賊のようだけど?」

 少年の顔が無表情になる。
 其の瞳は少女に、そしてこの村に向けられていた。
 血に濡れていない場所などどこにもない。
 生き残っているのはもしかしたら目の前の少女だけかもしれない。
 そう思うと少年はやるせない気分になった。
 この少女は天涯孤独になったかもしれないのだ。

「ま、運が悪かったって事で」

 ――刹那、少年の姿がぶれた。


 斬ッ!


「諦めてくれや」

「………へっ?」

 盗賊の首が三つ、宙に飛んだ。
 首が飛んだ者達は、何が起こったのかも解らぬまま逝っただろう。
 少年は首が飛んだ男達の後ろに、背丈に似合わぬ刀を携えながら立っていた。
 奇怪な事に少年の体の周りに風が吹いている。
 この場で風は吹いてないと言うのに。
 それはまるで、少年が風を纏っているかのように見えた。

「飛翔閃」

 と、少年は持っていた刀を大降りする。
 視線の先には盗賊たちの姿がある。
 しかし明らかに刀が届く範囲ではなかった。
 ―――が、振り切られた刀からは風が真空の刃となって飛び出し、次の瞬間には盗賊たちに襲い掛かかる。

「なぁ!?」

 今度は一度に五人の体が血の海に沈んだ。
 すぅっと剣先を残りの盗賊達に向ける少年。

「胸糞悪い光景を見せてくれた礼だ。遠慮なく受け取れ」


 斬ッ!


 一人、また一人と倒れていく盗賊達。
 それは一方的な惨殺だった。

「ひぃっ!」

 残りが六をきった所で、一人の盗賊が命乞いをして来た。

「た、頼む! 命だけは助けてくれっ! し、仕方が無かったんだ。お頭の命令には逆らえねぇから……。もうしねぇ、だから頼む!!」

 其れを機に、盗賊たちは恥も外聞もかなぐり捨てて命乞いをする。
 もはやこの少年に勝てると思うものは居なかった。
 自分たちは狩る側から狩られる側になった、と漸く理解したのだ。

 一瞬。ほんの一瞬だけ少年の目に激情が宿る。
 盗賊たちは遂にそれに気づくことは無かった。
 この時それに気づけば、あるいはあのような結末を迎えることは無かったかもしれない。

「…………」

 少年は何も言わないが、その沈黙が逆に盗賊たちの恐怖を煽る。
 少年の目にふと、ぼろぼろになった民家がうつった。
 そして家の前には恐怖にゆがんだ顔の子供の死体があった。
 痛ましそうな目をして、顔をゆがませる。

「お前達は、そう言って命乞いをして来た人達をどうした?」

「え?」

 盗賊達が顔を上げる。
 少年に、彼らからの答えを聞くつもりは無かった。
 聞くまでも無い。この惨状を見れば解る。

「彼等の恐怖を万分の一でも感じながら、逝け」

 次の瞬間。
 命乞いをしていた盗賊たちの首は、一つ残らず刎ね飛ばされた。
 残った首の無い体と吹き飛んだ首が燃え上がる。
 先程見せた風の刃と何らかの力をあわせた攻撃だったのだろう。
 そこに超常的な力が働いたのは目に見えている。

「………はぁ」

 ため息を一つ。
 少年にとってこの程度の敵を相手にするのに、これだけの力を使う必要は無かった。
 これは彼なりの弔い。死者の無念を晴らす方法だったのだ。

 少年は刀を一振りし付いた血を飛ばすと、それを鞘に収めた。
 もう一度子供の死体に目をやり、その見開いたままの目をそっととじさせてやった。
 そして軽く黙祷。

「敵をとっても無(亡)くなったものは甦らない、か」

 少年は一つ悲しそうな顔をすると、少女の方に寄って行った。
 今はこれぐらいしかしてやれる事がない。
 ならば少年にとって優先されるべきは、死んだ者より生きてる者だ。
 少年は少女を抱えると、その場を後にした。


 ――その時何処かで、壊れた笑い声が聞こえた気がした。





サモンナイト『IF』
  -久遠の彼方-

プロローグ




「この子は此れから一人、か」

 其の時、少女が軽く身じろぎをした。

「おにぃちゃん、だぁれ? 皆は何処?」

 目覚めた少女の最初の一言はそれだった。まだ少し混乱している所があるのだろう。
 それに加え、今の状態は寝起きのようなものだ。
 まだ頭がはっきりと働いていないのかもしれない。

「皆は、遠い所に行ったんだよ」

 少女が唐突に涙を流した。
 幼いなりに何か感じるところがあったのかもしれない。

「皆、遠い所に行っちゃったの?」

 無言で頷く少年と涙を流し続ける少女。

「お兄ちゃんは?」

「俺?」

 少年が聞き返すと少女は首を横に振る。
 上手く伝えられないのか、口をもごもごと動かす。
 パッ、と何かを思いついたのか、少女は自分の髪の毛を指した。

「わたしと一緒の髪の色」

 話を聞いているうちに、どうやら少女には兄が居るらしいと言う事がわかった。
 しかし少年は、彼女しか見つける事は出来ていなかった。
 あの後少女を運びながら、目ぼしい所は見て回ったのだ。

「君以外の子は見かけていない」

 少年がその事実を伝えると少女は更に泣き出してしまった。
 少年に見落としが無い限り、少女は天涯孤独になってしまったのだ。

「……俺と一緒に来るか?」

 ふと思いついた事を、手を差し伸べながら言って見る。
 気まぐれに等しいとはいえ、義務感のようなものもあった。
 この惨劇を目撃した一人としてこの少女を引き取るべきだと思ったのだ。

「おにぃちゃんと?」

 何時の間にか涙は止まり、少女は首をかしげた。

「そう、俺と一緒に」

 今までの顔が嘘のように、少女は華やかに笑った。

「うん!」

「君の名前は?」

「アティ! おにぃちゃんは?」

「晶。樋口 晶(ヒグチ アキラ)だ」

こうして少女ことアティは、少年こと晶の手を取った。



◆◇◆◇



「あははははははっ!」

 一人の少年が狂ったように笑っている。
 彼の全身は血に塗れていた。
 彼自身の血ではない。それは彼の父親の血だった。

「あははははははっ!」

 あの時、父が身を挺して護ってくれなければ。自分は間違いなく死んでいた。
 晶が探した時に彼が見つからなかったのは、その父の下敷きになっていたからだ。
 それはある意味、運命の悪戯。

「あはははははははははっ!」

 彼は一人、笑い続ける。
 口元には嘲笑を浮かべ、涙でぐちゃぐちゃになった顔で。

「あははははははははははははははははははっ!!」

 彼はたった一人、自分の大切な妹を想って、狂ったように哂い続けた。


 彼と彼女が再会するのは此れから十年近くの年月が経ってからになるのだが、両者共に、この時点では知る由も無かった―――







後書き

この掲示板では初めまして、神威と申します。

皆さんの小説を読むにつれ、居ても経っても居られなくなり・・・・・では無く、他サイトで連載中の小説の息抜きに書きました。

この作品は、3と1を中心として繰り広げられます。

お気づきの方もいらっしゃるでしょうが、オリ主の彼は『彼女』の兄という位置づけに居ます。

3→1と移りますから、最初は3が中心になります(皆さんお解りでしょうが)

結構な量になるでしょうが、見捨てずお付き合い頂けると幸いです。

それではまた次回、お会いしましょう。






■補足■

・久遠・・・・久しく遠い事、または遠い過去・未来の事。

本作では遠い未来の事を指します。

・彼方・・・・ある物の更に向こうの方。

直訳すれば、『更に遠い未来』と言った所でしょうか?



[392] サモンナイト『IF』 -久遠の彼方-<第一話>
Name: 神威◆73420f02
Date: 2008/10/18 22:50
サモンナイト『IF』
   -久遠の彼方-

第一話 いざ帝国へ



 アティを拾ってから丸八年が経った。
 これまで俺は、彼女に俺の持ちうる全てを叩き込んできた。
 周りから見ればそれは虐待にも等しい行為だろう。
 それでも彼女が自分で望み、前に進もうとした結果が此れだ。
 だから俺は躊躇う事無く彼女を鍛えた。
 勿論彼女が少しでも嫌がるのなら、俺はやらないつもりだった。
 誰だって無理やりは嫌だからな。

 今、俺達は地図に載らない名も無き島――もっとも俺たちは『楽園』って呼んでる――に居る。
 此処は、俺がアティと会う以前から住んで居た場所だ。
 此処には俺たちをのぞくと人間は一人しか居ない。

 その人こそ俺が幼少の頃世話になった爺さん、と言うか先生であるゲンジさんである。
 初めてあった時はかなり驚いた。
 先生も吃驚してるようで、中々面白かったけどな。
 あの人が驚く顔なんて滅多に見られないから。

 話を戻そう。

 この島の連中は昔のとある出来事の所為で人間不信に陥っていた。
 でも、俺は外界からの召喚で此処に来たので、先生と同じく敵意を抱かれる事は無かった。
 これは運が良かったと言えるだろう。

 しかしエルゴの奴等にも困ったもんだ。
 いくら家がそういった家系で、俺が一族の中でも特に能力に秀でていたからって、殆ど無期限の契約を組ませる必要は無いじゃないか……。

「晶や」

 愚痴を呟いていると、先生が俺を呼ぶ声がした。
 今俺が居るのは、俺が世話になっている鬼妖界の集落・風雷の郷だ。
 其処には先生も住んでいる。此処は元居た世界に一番近いし、空気がうまいからな。

「先生、どうかしましたか?」

「アティがお主を探しておったぞ? 今は集いの泉で鍛錬しておるようじゃが」

 先生は俺の言葉に一つ頷き、そう答えた。

「そうですか・・・・。解りました、直ぐに行って見ます」

「そうしてやるがよい」

 俺は挨拶もそこそこに、その場を後にした。



◆◇◆◇



「覇っ!」

 集いの泉に着くと、アティは剣舞をしている最中だった。
 見る限り、丁度今終わった所のようだ。

「おっ、やってるな」

「あ、師匠(せんせい)」

 何時の頃からか、彼女は俺の事を『師匠』と呼ぶようになった。
 その呼び方はどうかとも思ったが、まぁ好きにさせている。
 呼ばれて解る事だが、最初はどうかと思っても呼ばれてるうちに嬉しくなるもんだ。

「先生から聞いたけど、俺を探してたって?」

「はい。少し稽古をつけて欲しくって。ご迷惑でしたか?」

 不安そうに聞いてくるアティ。
 どことなく子犬チックな雰囲気を醸し出している。

「全然。俺の方にも、丁度伝えたい事があったしな」

「伝えたい事?」

 俺にしては珍しい事なので、アティは小首を傾げてしまった。
 微笑ましい限りだ。

「稽古が終わってからでも良い」

 軽く返すと、腰に挿していた鞘に手を添える。

「今日は実戦方式でやるが、良いな?」

「はい!」

 週に一度はこうして実戦方式を取りながら稽古をつけてやっている。
 こうする事により、擬似的にではあるが実戦の経験を積ませ、確実に力をつけさせるのだ。
 こういった経験はたとえ擬似的なものといえども、無くて困ると言うものでもない。

「では、行くぞっ!」

 腰を低くし、踏み込みと同時に一気に抜刀。
 この実戦方式の訓練に合図といったものは存在しない。
 実戦では合図などないからだ。
 だからこのように不意打ちの様な形で訓練がはじまる事もある。

「飛翔閃・燕ッ!」

 一文字の真空波がアティを襲う。
 対空兼牽制用の技。それがこの飛翔閃・燕だ。
 しかしアティは焦る事無く、持っていた剣で縦一文字に空を切り裂く。
 ふむ、流石に最初の頃のように避けようとはしないか。

「飛翔閃・燕ッ!!」

 横・縦の違いはあるものの、それは紛れも無く俺の放った技と同質の物だった。


 ズバァンッ!!


 真空波と真空波がぶつかり合い、相殺される。
 踏み込みから直ぐ最高速度に入る。
 既に正面にはアティの姿があった。


 術式選択>付加・炎
 対象>時雨(刀)

 構成完了。


「紅蓮」


 ボォォッ!


 刀が炎を纏う。
 此れこそが俺の一族に伝わる能力の力だ。
 其れは自然の一部を操る力だったり、幻覚をみせる物だったり、と個人個人で変わる。

 俺の場合は先祖がえりもあってか、少し特殊だ。
 何せ俺の能力は初代宗主様と同じ森羅万象。つまりは自然を操る力なのだから。

 其のおかげかどうかは知らないが、俺は幼い頃から自然の『声』というものが聞こえた。
 喋る筈の無い草や木、そして大地の声が聞こえるのだ。
 だから俺にとって此れは操ると言うよりも協力して貰う、といった方が近い。

「飛翔閃・焔」

「くっ!」

 アティは辛うじて其れを受け止めるが――


 術式選択>付加・風
 対象>自身

 構成完了。


「チェックメイト」

 ――首筋に当てられた刀の切っ先に気がつくと、降参の意を現した。

「師匠、何時の間に・・・・」

 むくれながら聞いてくるアティ。

「俺の能力を忘れたか?」

 防御時の一瞬の隙を見計らい、自分の体に『風』の力を纏って一時的にスピードを上げたのだ。
 其の為、俺はかなりの速さでアティの背後に回りこめた。

 勿論これは俺が彼女にその事を悟らせないようにしていたから出来た芸当だ。
 見えなくても『感じる』ことは出来る。
 今のアティの実力なら気づいていたら対処出来ただろう。

「それ以上は教えない。後は自分で考えてみな」

 これは宿題、と意地悪く言って見る。

「む~っ……。あ、そう言えば師匠」

 アティが唸るのもそこそこに、声をかける。

「ん?」

「結局、師匠の用事って……?」

 剣を収めながら言うアティ。

「あぁ、それね」

 一呼吸おいて彼女に告げる。

「アティ、家庭教師やってみないか?」

「はい?」

 唖然とするアティを見ながら、俺は笑いをかみ殺すのであった。



◆◇◆◇



 あれからアティには一日の猶予を与えた。
 急に言われた事なので、踏ん切りもついてないだろうからだ。

 俺がアティに家庭教師を進めたのには、訳がある。
 教えられる側で学べる事は大抵教えた。
 しかし、教える側につく事でも学べる事はある。
 つまり先生も生徒と一緒に成長出来るって事。

 実は俺もアティに教わった事は多々ある。
 素人の発想は時として玄人のそれを超えることがあるものだ。
 特にアティのあの不屈さは俺も見習っている。

 俺は戦闘技術を教えるに当たってまず自分の信条を教えた。
 俺の掲げる信条は全部で四つ。


 一つ、敵を過小評価しない事。
 一つ、己の力を過信しない事。
 一つ、最後まで油断しない事。
 一つ、何があっても生き残る事。


 これらは戦場では当たり前だが、忘れがちな事でもある。
 特に最後の生き残る事についてはたとえどんな無様な姿をさらしてもするべきである、と俺は考えている。
 死んでしまっては何にもならない。命あっての物だからな。

 さて、話を戻そう。

 そんなこんなでアティには家庭教師をして貰おうと思ったのだ。
 丁度マルティーニ家から女の子二人の家庭教師を頼む、と言われてたしな。

 俺がこの依頼を受けたのは丁度足りなくなった日用品を買いに、外界に繰り出した時の事だった。
 その時盗賊に襲われていた親父さんを助けたのだ。
 それ以来何かとお世話になっている。

 最近では親父さんの四人のお子さんとも相手をしてたりする。
 それで俺がアティの話をしたら、四人のうち女の子であるベルフラウとアリーゼの家庭教師になって欲しい、と頼まれたのだ。
 俺も付いていることだし、安心感もあったのだろう。
 俺はアティの返事次第で、と答えを返しその場はお開きとなったのだった。
 流石に、此方の独断で決めれる事ではなかったからな。

 俺はそんな事を考えながらアティと共に風雷の郷に戻った。
 神社の社の見える所まで行くと、一人の女性の姿が見えた。

「や、ミスミ」

 しゅたっと手を上げて挨拶。

「アキラにアティか」

 俺に気付いたミスミはふわりと微笑んだ。
 うむ。美人の笑みは何時見てもいい物だ。

「どうしたん? こんなとこで」

 何時も此処にいる時はキュウマと共に居たので疑問に思った。
 そんな俺の質問には答えず、ミスミは手招きをした。
 とりあえず其処まで行って見る。

「見てみよ」

 ミスミに習って郷の方を見る。

「綺麗であろう?」

 其の通りだった。
 夕日が沈むその赤い色に照らされて、郷は輝いて見えた。

「わぁ~っ」

 アティの感嘆の声も聞こえる。
 俺も思わず感心の声を上げた。

「夫が、リクトが好きだった景色じゃ」

 何時に無くしんみりとした声で言うミスミ。
 この日は、ミスミの亡き夫・リクトさんの命日でもあった。
 成る程。キュウマは気を利かせたと言う事か。

「此処は楽園だよ。間違い無く、あの人達が望んだ楽園だ」

 呟くように言う。
 それほどこの光景は幻想的で美しかった。

「アキラや」

 普段とは全く違う、か細い声。

「ん?」

 目の前の光景を目に焼き付けながら、俺は生返事で返した。

「今宵は家に泊まらぬか? 勿論アティもじゃ。スバルも喜ぶ」

 彼女が何を思い、そう言ったかは解らない。
 俺は彼女では無いのだから。
 だから俺は俺が出来る事、やりたい事をして答えよう。

「……おっけー」

 それでも生返事っぽくなるのだけれど。
 しめっぽいのは彼女も好きじゃないだろう。

「ふふっ」

 口元を押さえて微笑むミスミに、何処か儚い雰囲気を感じた。
 夕日が完全に沈むまで其処に居た俺達は、夕日が沈むと直ぐミスミの家に向かった。

「アキラだっ!」

 玄関をくぐるなり、スバルが俺に飛び掛ってきた。
 しかしアティは無視か? 何かいじけてるぞ?

 夕食はミスミが作った。
 俺が作る、と言ったのだが客人にそんな事はさせられないと断られてしまった。

 ミスミが作るシルターンの料理は、俺の世界の和食に似ている。
 そのため、俺は直ぐになれることが出来た。
 今日も食卓には純和食が並び、スバルもアティもミスミも俺も、そして普段はあまり笑顔を見せないキュウマも笑いながら過ごした。

 久しぶりにスバルと一緒に風呂に入り、背中の洗いっこをした。
 スバルも嬉しそうだったので良かった。

 寝るときは五人並んで寝た。
 一つの部屋に五人はきつかったので隣の部屋のふすまを外して、二つの部屋を使って寝た。
 其の時には夕日を見た時のミスミの姿は見えず、何時も通りの彼女に戻っていた。


 ――――そして夜が明けた。



◆◇◆◇



「……さて、と」

「……」

 俺の前には緊張したおもむきのアティが居た。

「決まったか?」

 俺がそう聞くと、彼女は静かに頷いた。

「はい。家庭教師、やろうと思います」

「それじゃ、生徒さんを迎えに行くとしますか」

「はいっ!」

 それではいざ、帝国へ。












後書き

文章の量が少ないというご意見を頂き、また自分自身でも若干文章量が少ないと感じていた為、前編と後編を合併。
他にも若干新しい文章を加えてみました。
また補足にあった一族についての説明を変更。
これである程度の文章量は確保できた筈ですが……。
今後も基本的にこの程度の長さを目安にしようと思います。
では、次回にお会いしましょう。


10/15 23:56
若干文法のおかしい箇所、誤字を修正。
10/18 22:56
補足を若干修正。


■補足■

・秘翔閃………単発・あるいは連続で真空波を放つ技。
プロローグの時の晶は単発で使用。
対空・牽制用の威力が弱い燕(つばめ)、炎系の能力を使用した殺傷能力の高い焔(ほむら)など様々なバリエーションが存在する。
射程や殺傷能力が増す為、風系の能力者が多用する技でもある。

・能力………晶の実家である樋口家に稀にみれるもの。
その力は火を出すと言う物から異界の物を召喚する物など様々である。
晶はその中でも森羅万象という破格の能力の使い手。

・一族………盾の新堂・剣の深崎・情報の橋本の三つの分家と、本家である樋口からなる樋口一族のこと。
退魔や護り屋、運び屋など幅広い事をする所謂何でも屋。
他の退魔の一族同様退魔の一面は一般には知られてはいないが、他の退魔の一族と違い、何でも屋の一面を持つ為、その存在自体は一般にも広く知られている。
ちなみに宗主は基本的に女性が勤める事になっており、次代の宗主は晶の妹が最有力候補。

・エルゴ………物語の舞台であるリィンバウムとその周りに存在する世界ロレイラル・サプレス・シルターン・メイトルパ、それぞれの意思の事。
しかし其の実体は謎に包まれている、伝説上の存在。

・マルティーニ家………帝国有数の大富豪。

・ベルフラウ………マルティーニ家の長女。
はきはきとした性格で、自分の言いたい事ははっきりと言うタイプ。

・アリーゼ………マルティーニ家の次女。
おどおどとした性格で人見知りする。
ベルフラウとは正反対の性格をした少女で、姉であるベルフラウの事をかなり尊敬している。



[392] サモンナイト『IF』 -久遠の彼方-<第二話>
Name: 神威◆73420f02
Date: 2008/10/16 00:39
サモンナイト『IF』
  -久遠の彼方-

第二話 再会



 俺達は今、外界に出るためにそこら辺にうちあがった物を補修した船に乗っている。
 島の周りには結界が施されているが、島の住民である俺達は其れに阻まれる事は無い。ちょっとした裏技だ。
 意気揚々と海原に出た俺達は、早速帝国を目指す事にした。

「アティ」

「はい?」

「伝え忘れてたけど、暫く島には戻らない」

 自分でも重要な事を伝え忘れたものだ、と今更ながらに思う。
 案の定。アティはキョトンとした表情になっている。

「ふぇ?」

「まぁあの子達が島に行く事自体は反対じゃ無いんだけどな。
 アルディラ達にも人と付き合う覚悟が必要だと思うし、何より俺達外界の事を知らな過ぎるだろ?」

 教える側としては其れは色々と駄目だろう。
 そう判断したからの決定だった。
 本来なら島を出る前、家庭教師の話をアティが請け負った時点で話しておくべき事だ。

「其れに召喚や戦闘の技術や原理を教えるだけじゃ無くて、他の都市についての最小限の知識は欲しいと思う。
 其の為には自分達の目で見るのが一番じゃないか」

 俺がそう言うとアティは唸り出して考え込んでしまった。
 行き成りだったし、全面的に俺が悪い。何度も言うが一言言っておくべきだったな。

「ま、初めての事だし何事も経験経験」

 俺はアティの肩を軽く叩くと、見えてきた港を見つめた。
 島を出て既に三日が経っているのだが内心結構早かったな、などと思ってたりする。
 島からの距離を考えると普段ならもう少しかかるからだ。

「ほら、港だ」

 アティの生徒となるベルフラウとアリーゼには、旅をしながら教える事となっている。
 これは以前、二人の父と決めた事だ。
 もし引き受けるならこうが良いと。

 連絡は定期的にとっていたので、引き受ける旨は伝えてある。
 四日後に此処、帝国の船着場で待ち合わせとなった。
 約束の日は明日なので今日一日は旅の為の道具を買う事にした。

 因みに、旅には乗って来た船は使わない。
 俺達が乗って来た船でもいいのだが人とのふれあいも大事だ、と言う事であえて定期船に乗る事にしたのだ。
 それもまた良い経験になるだろう。

 二人で軽く町をぶらつきつつ買い物を済ませ、丁度見つけた店で昼食を取る。
 買い物は午前中で殆ど終わってしまった。

「アティ、これから何処か行きたいとこあるか?」

 自然と暇になったので、何処かで時間つぶしをしようということになった。
 とはいえ俺自身は何度か来たことのある場所だ。
 そんな訳で初めてこの町に来たアティの希望をとったのだ。

「もうちょっと町をぶらつきませんか?」

「おっけー」

 特に断る必要も無かったので軽く了承する。
 宣言通り、二人で日が暮れるまで辺りをぶらついた。
 途中面白そうな物を見つけると子犬の様に走って行くアティの後姿を見ながら偶にはこんなのもいいなぁ、なんて思ったり。

「アティ、そろそろ宿に行くぞ!」

 広場で休んでいた俺は、少し遠くに行ってはしゃいでいるアティに声をかけた。

「は~いっ!」

 アティの返事が聞こえると、俺は声のした方に歩き出す。
 ふと、前からアティに似た青年が歩いてくるのが見えた。

 俺がアティの名を呼んだとき、青年の顔が強張ったのが見えた。
 でも其の顔に浮かんだのは紛れも無い歓喜で。
 探していた物を漸く見つけたような、そんな感じ。

 俺は直感的に感じた。
 この男はアティの生き別れの兄だと。



◆◇◆◇



 結局アティに彼女の兄らしき人物の事は伝えなかった。
 仮に違ったらぬか喜びをさせる事になる。その時のダメージは計り知れないだろう。
 それに俺としてはまた会える様な気がした、というのもあった。

 日が変わり、約束の時間が近づいたので俺達はそろそろ待ち合わせ場所の船着場に行く事にした。
 其処には所在無さげに立っているベル――俺はベルフラウの事をこう呼ぶ――とアリーゼの姿が。

 そして何故かウィルとナップの姿。
 その四人の傍らにはお付きのサローネさんの姿があった。

「や、待たせたかな?」

 軽く手を上げながら挨拶。
 顔見知りだから口調も軽い。

「いえ、私達も今来たばかりです」

 サローネさんが答えた。

「で、どうしてウィルとナップが?」

 俺の疑問に答えたのはウィルだった。

「僕らにも新しく家庭教師が付くことになったんです。僕はアキラ兄さんが良いと言ったのに、父は許してくれませんでした」

 軽く首を振りながら答える其の姿に苦笑。
 慕ってくれる事は非常に嬉しい。とはいえ俺には別の仕事がある。

「わりぃな。俺の方もアティの補佐で手一杯だし」

 ウィルの頭に手を置き、軽く撫でてやる。
 俺自身にも妹が居るからか、これはもう既に癖のようなものになっている。
 ウィルたちも別に嫌がらないので褒める時、慰める時にこうするのは暗黙の了解になっている。

「ベルフラウ達の嫉妬には注意して下さいね」

 何故か、そんな事を囁かれてしまった。
 嫉妬? と首をかしげて、合点がいった。
 ベルとアリーゼは俺の事を随分と慕ってくれているのだ。それこそ実の兄の様に。

「じゃ、アティ。軽く自己紹介して」

 雑談もそこそこに、後ろに居たアティを前に出るように促す。
 これから先生と生徒の関係になるのだ。第一印象は大切だろう。
 暫くは一緒に過ごすのだ。嫌な奴と毎日顔をあわせたい、とは誰も思わない。

「えっと、今度から貴方達(ベルとアリーゼ)の先生をやる事になったアティです。宜しくね?」

 何時ものほにゃっとした笑顔と一緒に言う。
 この笑顔を見れば大抵の人間は警戒感をなくしてしまうだろう。
 アリーゼもその笑顔にあてられたのかほんわかしている。

「はじめまして。長女の、ベルフラウと申します。此れから宜しくお願いしますわ、先生」

 もっとも、そのアティの笑顔もベルのきつい口調の挨拶により引き攣ったのだが。
 しかし俺の方にもそのきつい視線を送るのはやめて貰いたい。

「あ、あの、次女のアリーゼです。えっと、宜しくお願いします」

 次のアリーゼの挨拶には、あからさまにホッとしたようなアティが居た。

「一応二人も挨拶してくれるかな?」

 俺はウィルとナップにそう言った。
 会話するなら名前を知っていた方が良いからな。

「では先に僕が」

 ウィルが一歩前に出る。

「はじめまして、長男のウィルです。一応長子でもあります。宜しくお願いします、アティさん」

 軽く会釈しながら下がるウィル。
 流石、と言うべきか。かなり礼儀正しく挨拶をする。
 この年でこれ程礼儀正しい子も珍しいんじゃないだろうか?

「じゃ、次俺な」

 次いでナップが前に出る。

「俺はナップ! 将来は兄ちゃんみたいな男になることだ!」

 相変わらず元気一杯な声で喋る奴だ。
 因みに、兄ちゃんとは俺のことらしい。

 ウィルからは兄さんと呼ばれるし、ベルからはお兄様だなんて呼ばれる。
 あの内気なアリーゼにすらお兄ちゃんと慕われる始末。
 ま、悪い気はしないんだけどな。
 色々と遊んでやるうちにそんな呼び方が定着してしまったらしい。

「それで先生は召喚術と武術、どちらが得意なんですの?」

 自己紹介が終わった時、ベルがアティに聞いた。

「どちらかと言えば、召喚術ですね」

 俺は召喚はそんなに使う方じゃなかった。
 どちらかと言うと肉弾戦中心だったのでアティに教えるのも自然とそちらに傾いたのだが、どうも召喚の方の才能があったらしく、基礎を教えただけであっさりとその才能が開花してしまった。
 武術も人並み以上に出来る上に召喚術の人並み以上に扱える。
 それはつまり戦術のバリエーションが増える、と言う事だ。
 俺としては正に嬉しい誤算と言うやつだ。

「そうですか……」

「ベルに、他の皆は?」

 今度はアティが逆に聞き返した。

「私も召喚術ですわ。一応弓術も出来ますけど」

「あの、私も召喚術です……」

ベルとアリーゼが答える。

「僕は武術、中でも剣術ですね」

「俺も剣術だな」

 ウィルとナップが答える。
 こうして聞くと、性別で見事に分かれているようだ。

「そうですか……。でも、二人共最低限の武術は教えますからね?」

 アティがそう言うと、二人は景気良く返事を返した。
 まぁ姉のベルフラウは自己紹介の時も言ったように、弓術の基本は出来ている。
 彼女に関しては俺もあまり心配していない。
 問題はアリーゼだ。彼女は争いを嫌うからなぁ……。
 ここら辺は先生になるアティの腕の見せ所、かな。

「それで、お兄様との関係は?」

 サローネさんの話では、もう一人の先生と更に其の生徒になるウィルとナップも俺達と同伴するらしい。
 もう一人の先生が来るまでの会話だったのだが、ベルのその質問により空気の温度が下がった様に感じた。

「お兄様?」

 笑顔だが目が笑ってないアティ。

「勿論アキラさんの事に決まってますわ」

 対して黒いオーラを背負っているベル。
 心なしかアリーゼの周囲も黒くなってる気がする。

「そう……」

 あ、アティ? 何か笑顔が黒いぞ?
 というか視線を向けられてない俺がこんだけ怖がるってどうだろう。

「で、お兄様との関係は?」

 ベル、何時からそんなに黒くなった?
 おにーさんはそんな子に育てた覚えはありません!
 ………まぁ、性格に影響が出る程世話をした訳じゃないんだが。

「私は何時もアキラと一緒の布団に寝る仲です」

 いや、何時も寝る仲って、昔の事だろ?
 しかも呼び方まで変わってるよ……。

「そ、そうですか」

 今度はベルの髪が逆立っている。地味に怖いぞ。
 その背後には黒いオーラ。

「それでベルとアリーゼは?」

 相変わらず真っ黒な笑顔で問いかけるアティ。
 アティは俺の育て方が悪かったんだろうか……?
 いやいや。アティはミスミたちと一緒に育てたようなものだからそれはないか。

「私達は一夜を共にした仲ですわ。ね? アリーゼ」

(こくこく)

 問いかけるベルと頷くアリーゼ。
 いやね? 一夜って偶々一緒に寝ただけだよ?
 だからさ、アティ。そんなに黒い笑顔で俺を睨むな。

 というか何でこんな事になってる?
 いやまぁ、ウィルの言った嫉妬なんだろうけど。
 アティのこれも多分嫉妬だろうし。
 とはいえ、生徒と先生になるんだから俺としては仲良くして欲しい。

「うふふふふふふふふふ♪」

「おほほほほほほほほほ」

(じー)

 アティとベルの笑顔の押収にアリーゼの視線。
 どれも黒くて正直声がかけられない。
 と、その時勇気ある者が出た。

「あの~、家庭教師を頼まれた者なんですけど………」

 でも一斉に睨まれると辛いよな? 俺にもわかるよ。
 だってアンタの顔、滅茶苦茶引き攣ってるもん。

「ウィル坊ちゃま、ナップ坊ちゃま。こちらの方がお二人の家庭教師です」

 その家庭教師は先日見かけた青年だった。
 俺の感も捨てたものではないな。
 しかし思ったよりも随分早かったな。

「えっと、とりあえず自己紹介するね?」

 そう言って青年は微笑む。

「俺はレックス。得意なのは武術だから、君達にはどちらかと言えば武術を中心に教えてく事になる。
 一応、召喚術も人並み以上には出来るから並行して勉強する事になる。宜しくね?」

「僕はウィルです。宜しく」

「俺はナップ、宜しくな!!」

 三人で自己紹介をし合っている中、俺はアティの様子がおかしい事に気がついた。
 彼が自分の兄かもしれないと言う事に気が付いたのだろう。

「アティ?」

 軽く呼びかけてみるも、レックスの事を凝視している。
 暫く様子を見る事にして俺達も自己紹介をする事にした。

「はじめまして」

 軽く会釈して、名乗る。

「俺は樋口 晶。こっちの子達の先生の補佐をさせて貰う」

「私はベルフラウ。ベル、と呼んでもらって構いませんわ」

「あの、アリーゼです。宜しく」

 最後はアティなのだが、彼女は相変わらずレックスを凝視している。

「………私はアティ」

 そう言うと、彼女の瞳から少量の涙が零れて来た。
 ここまでくれば流石の俺でもわかる。

「貴方に、生き別れた妹は居ませんか?」

 そう問いかけるアティの表情はこわばっている。
 否定されたら、と思うとそんな表情になるのも頷ける。

 アティは兄の事を忘れていなかった。
 俺が見つけたのはアティだけだったけど、彼女は兄は生きている、と信じていた。
 だから俺もそんなアティの為に、偶に来る買い物のついでに彼女の兄を探す事もしていた。
 アティは彼の名前も特徴も全部憶えてたから、探すのは難しくなかった。
 でもやはり世界は広い。特定の人物を探す事は難しかった。

「……久しぶり。きっと生きているって信じてたよ、アティ」

 そして彼も憶えていた。
 彼も妹の事を探していたのだろう。
 この広い世界の何処かで生きていると信じて。

 そして気が付いた時には、二人は熱い抱擁を交わしていた。

 実に八年ぶりの再会だった。
 皆は行き成りの展開についていけず、ぼうっとしている。
 俺もアティの事情を知っていなければ同じような反応をしただろう。

「良かったな、アティ」

 俺がそう言ってやると、彼女は嬉しそうに微笑んだのだった。











後書き

冒頭にある結界に関する設定は本作独自の設定です。
原作でそのような事実は確認されていませんので、ご注意下さい。
原作でそれが可能ならば、ジャキーニ一家は島を出る事が出来たでしょうし、同時に主人公たちも島を出る事が可能だった事になってしまうので。
一応それに関しての対策は考えてありますので、物語が成立しなくなるようなことはありません。

修正その二。
今回は修正前の二話と三話を繋げました。
同時につなぎの部分を修正。
また、他にも文章を若干修正、増量しました。



10/16 00:36
文法のおかしい箇所を修正。
同日 00:46
後書きに文章を追加。



■補足■

・ウィル………マルティーニ家の長男。
物静かで言いたい事はスパッと言うタイプ。

・ナップ………マルティーニ家の次男にして末っ子。
何時も元気一杯のやんちゃ坊主。
尚、マルティーニ家の子供の年齢順は長子からウィル>ベルフラウ>アリーゼ>ナップとなる。
サモンナイト3本編では年齢に違いはありませんが、今作では差別化を図る為にあえて年齢を変えています。
四つ子にするには若干無理がありますからね。

・レックス………アティの実の兄。
武術を得意とするも、その実力は未知数。
朗らかな性格で、明らかに年齢より容姿が幼かったアティを一目で看破するほどシスコンだったり。



[392] サモンナイト『IF』 -久遠の彼方-<第三話> 前編
Name: 神威◆73420f02
Date: 2008/10/20 19:32
サモンナイト『IF』
  -久遠の彼方-

第三話  漂流。先生一行『楽園』へ 前編



「さて、感動の対面も済んだところでそろそろ出発しないか?」

 相変わらず抱擁を交わす二人に咳払いを加えながら言う。
 二人は恥ずかしそうに離れると、はにかむ様に笑った。
 仲良き事は美しきかな。とはいえ今は仕事を優先。

「サローネさん、そろそろ時間ですから……」

 俺がそう言うとサローネさんは静かに頷いた。

「坊ちゃま達を宜しくお願いします。では、私はこれで」

 挨拶もそこそこに、サローネさんは仕事の関係上此処を去った。
 あの人も優秀だからな。何かと忙しいのだ。

「さてと、船が出る時間だ。レックス、で良いよな?」

 呼び方を確認する為にレックスに声をかける。

「ああ、好きに呼んでもらって構わない」

「じゃ、レックスで。俺達はこれから一緒に行動する事になるから、改めて宜しく」

「こっちこそ宜しく。それと、今まで面倒を見てくれたアティの事、有難う」

 人の良い笑顔、とはこういうものの事をいうのだろう。
 それは他人が簡単に気を許せる笑顔だった。
 こういう所を見ると本当に二人が兄妹だと言うことがうかがえる。

「アティ達も準備は良いな?」

「「「「「はいっ!」」」」」

 俺が聞くと、アティと子供達の元気の良い返事が返って来る。
 元気が良いのも良い事だ。

「じゃ、出発!」

 俺は先頭に立つと、先導する形で船の中へと入っていくのだった。



◆◇◆◇



「ん~、結構良い部屋だな」

 俺にあてられた部屋は、中々に良い部屋だった。
 これも親父さんが用意した物だった。

 レックス・ウィル・ナップの男性陣は隣の部屋に。
 そしてアティ・ベル・アリーゼの女性陣は更に其の隣の部屋を使っている。

 丁度先生・生徒組みとその他といった風に分かれている。
 親父さんと個人的に仲が良く、また生徒が居ない分俺には個室があてられたようだった。
 一人だけこの待遇だと若干居心地の悪さを感じる。

「さて、船の中では特にする事も無いしレックスと話でもしてくるかな?」

 彼女の兄であるレックスとはきちんと話して見たいと思っていた。
 それに見た所中々の使い手みたいだし、そっち系の話を聞いてみたいってのもある。

「思い立ったが吉日。善は急げ、だ」

 誰とも無く言うと、俺は部屋を後にした。
 互いの部屋は隣り合わせ。労する事も無くレックスの部屋の前につく。

「どうぞ」

「よっ! レックス、少し良いか?」

「あぁ、良いよ」

 中では子供達とレックスが話をしていたようだった。
 子供たちの様子からして、レックスの武勇伝的なものでも聞いていたのだろう。
 ナップの目が若干キラキラしているから何となく察する事が出来た。

「で、何の用?」

「少し話がしたくてな」

「あの、僕たち席を外しましょうか?」

 そんな俺たちのやり取りを見たウィルが控えめに聞いてくる。
 俺としては聞かれて困る話をするつもりは無い訳で、別にウィルたちが席を外す必要性は無い。

「いや、別にかまわねぇよ。聞かれて困る事でもなし。レックスも良いよな?」

「いいけど?」

「と、言う事だ」

 俺達がそう言うと、腰を浮かせていたウィルは再び椅子に座りなおした。

「それで何の話?」

 レックスが聞いてくる。
 話と言ってもそう難しいものではない。

「俺が聞きたいのはレックスが今までどうしてたか。
 後はレックスと生き別れた後のアティのことを聞かせてやろうと思ってな」

 俺がそう言うと、レックスは少し思案する格好を取り、答えた。

「うん。俺もあの後のアティのことは聞きたいと思ってた」

「どっちから話す?」

「お礼ってことで俺からにしようか」

 正直な話、俺自身随分と不躾なことを聞いたな、という自覚はあった。
 ただ俺としては彼女の兄がどんな思いで今日まで生きて来たかを知る必要があると思ったのだ。
 あの地獄に、たった一人彼を置いて行ってしまった俺としては。

「護る力が欲しかったんだ。理不尽な力に立ち向かうだけの力が、欲しかった」

 レックスの独白がはじまる。
 これはきっと、レックスのルーツの話。彼の根源。
 あの場で全てを失った彼に残ったたった一つの尊い思い。

「俺はあの後、偶々付近を通りかかった別の村の人に助けられた。
 その後は助けられた人の養子に入る事になって、俺は不自由無く暮らした。
 でもやっぱり負い目があって、積極的に遊ぶ事はしなかったかな。
 それに何となく妹は生きているっていう思いがあったし、遊ぶ代わりに体を鍛えたりしてたなぁ」

 ぽつりぽつりと語られる彼の村での生活の話。
 当時の彼の心境を思うと、少しやるせない気持ちになる。

 その頃のアティだってそれはもう酷いものだった。
 彼女を助けた直後はぼんやりとしか理解出来ていなかったことが、暫く時間をおけば否が応でも理解出来る。
 両親や親しかった友人たちが死んだ事を理解すると、錯乱。
 それが落ち着くと今度は部屋に一日中篭りっきり。
 兄の生存だけは頑なに信じ、それだけを頼りに立ち直ったのを覚えている。

「妹を、アティを護れなかった事もあって、次こそは! って。
 独学で体を鍛えるのにもやっぱり無理があってさ。
 その時だけは義父さんに無茶言って、道場に通わせて貰ったんだ」

 その時の義父さんの顔といったら、とレックスは笑みを浮かべた。
 今まで迷惑をかけないように、と自分を律して来た息子が言ったはじめてのお願い。
 初めて我が侭を言った息子に、養父は喜んだに違いない。

「もう強くなりたい一心で。
 努力は人一倍したし、素質もあったみたいでさ。すぐに力は付いたよ。
 それで義父さんの進めもあって帝国の軍学校に通う事になったんだ」

 それから後はとんとん拍子にエリート街道を進んだという。
 学校卒業後、軍人になった時の初任務でウィル達の父に会い、その時に彼を助けたのだそうだ。
 しかし結局はその後すぐに軍を止め、妹であるアティを探す旅にでたのだそうだ。

「……思った以上に波乱万丈な人生だったんだな」

 俺が言えるのはそれだけだった。
 辛かったな、とか苦しかったな、とは言ってはいけない。
 多分彼にとっては辛いとか苦しかったとか、そういった感情を持つような事ではないだろうから。

「そ……」

 レックスが口を開きかけた時、行き成り轟音が聞こえたかと思うと船体が揺れた。

「チィッ!」

 俺の感が警報を鳴らす。
 先程の轟音は間違い無く砲撃の音。
 船体が揺れたのは進路に砲弾が撃ち込まれたからだろう。
 直接船体に当たったにしては衝撃が少なかったのが、そう判断した理由だった。

「海賊かっ!」

 砲撃されたと言う事は何者かが攻めてきた、という事。
 軍が攻めてくるということはありえないので除外。
 必然的に攻めてきたのは海賊だと言う事になる。

「兄さん!」

 アティが生徒二人を連れて部屋に入って来る。
 この砲撃に関してと、これからどうするか方針を決める為だろう。
 アティの手に引かれるベルとアリーゼには、若干恐怖の色が浮かんでいる。

「さっきの……」

 彼女がそう言うと、レックスは頷く。
 彼も海賊が攻めて来たという事に思い至ったのだろう。

「二人とも、とりあえず今は様子を見よう。闇雲に動き回って逆に状況が悪化するような事だけは防がないと」

 俺の言葉に頷く二人。
 そして不安そうに俺達を見上げるウィル達。
 こうして俺たちの旅は、行き成り騒動に巻き込まれる事ではじまるのだった。



◆◇◆◇



「………静まったな」

 俺たちは部屋から動かずじっと機をうかがっていた。
 俺やアティ、レックスの三人だけなら強引な突破も可能だろう。
 しかし今は四人の子供が居る。そんな状態で危険な真似は出来ない。

「揺れも治まりましたね」

「うん。でも、治まったわりにはまだ揺れてる。上が戦場になってるみたいだ」

 レックスの言うように、攻撃が無くなったにしては揺れがまだ激しい。
 恐らく海賊たちが直接乗り込んできたのだろう。

「……この混乱に乗じて逃げさせて貰うか?」

「それが良い。というよりそれしかない、かな」

「良し。なら、レックスは殿。アティは子供たちを。俺が先頭に立つ」

 俺がそういうと二人は頷き、指示の通り配置に付く。
 何時でも対応出来るように神経を張り巡らせる。
 アティが子供たちを励ましているのを横目に、俺たちは走り出した。

「しかしこんな客船に何のようだ?」

 ある程度の距離を走り、もうそろそろ安全圏に出る、という頃。
 子供たちの体力を考えて一旦足を止める。
 休憩に入ってまず考えたのは、海賊の目的だ。

「乗客のお金とか積荷が目当て、とか」

「それにしちゃあ随分と時間がかかってると思わないか?」

「確かに。それなりの警備はあるだろうけど、攻撃の規模から相手も随分と大きい海賊みたいだし。
 この規模の大きさだと海賊たちの錬度もそれなりにあるだろうしね。そうだったら客船の警備程度じゃこんな長時間持たないか……」

 俺とレックスがそんな会話をしていると、アティが顔を上げた。

「多分帝国軍です」

「…………見たのか?」

 俺の質問に、アティは頷いた。
 しかしそうなるとまたおかしな点が出てくる。
 帝国軍が出てくる理由だ。
 普通、いくら貴族ご用達の客船と言えども警備に軍が出張る理由はない。

「はい。少し船内をうろついていた時に。あの制服は多分、帝国軍のものです」

「どんな感じの服だった?」

 アティの見たと言う服の特徴を一通り聞くと、レックスは何かを考え出した。

「うん、間違いない。その服は帝国軍のものだ」

 仮にも軍属だった身。
 記憶にある軍服を思い出し、照らし合わせていたのだろう。

「しかし軍が出張る程の理由ねぇ」

「とりあえずそれは後回しにして、今はまずここを脱出する事を考えよう」

「……そう、だな」

 レックスの言葉に頷くと、俺たちは再び移動を開始した。








後書き

ふと、思い立ったので修正してみました。
実はプロットを紛失して一気にやる気が消沈してしまった作品なんですよね、この作品。
ただ久しぶりに目を通してみて、色々とだめだこりゃ、と思ったので軽く改訂させて頂きました。
今はプロットもう一度書くかなーという気にはなっています。
息抜き程度になると思うので、更新は超鈍足になると思いますが、今一度宜しくお願い致します。




しっかし、かなり短いなー。
暇を見たら文章を増やすかもしれません。

追記
後日文章量を増やす予定。


10/20 19:42
本文を改訂&増量。


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