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[43015] Fate/joker ~運命の切り札~
Name: タナト◆21f95baf ID:5c510e8c
Date: 2018/03/13 02:59
―世界には二つの戦いがあったー

 バトルファイト、それはそれぞれの種の始祖たる53体の
―不死生命体「アンデッド」―による種の繁栄と万能の力を賭けたバトルロワイアル。
 聖杯戦争、それは7人の魔術師が願望機たる聖杯をかけ、それぞれのクラスの
―英霊「サーヴァント」―を使役し戦う儀式。
 今、交わるはずのない二つの運命が出会う。それがもたらすのは救いか、罰か…
心に剣を、輝く勇気を…
「運命(fate)」の「切り札(ジョーカー)」をつかみ取れ!

この作品は、ハーメルン及びpixivにも投稿しています。

 たくさんの感想・評価待っています。



[43015] 序章
Name: タナト◆21f95baf ID:5c510e8c
Date: 2018/03/13 02:53


序章 永遠の切り札



2005年 冬 世界は滅亡の危機に陥っていた。

 

 黒い異形、ダークローチと呼ばれる謎の怪物が日本列島を蹂躙していた。

 個々のとしてはそこまでの脅威ではなかったが、それらは文字どおり無尽蔵の数で破壊の波を広げていたのだ。

 そしてその波はこの冬木町にも届いていた。

 その町の豪邸に住む、虚ろな目をした少女、桜は呆然とテレビを眺めていた。家の者が避難を促し騒いでいる。しかしその声は桜には届かない。それだけテレビの映像は彼女にとって興味深いものだった。

 黒い化け物は、人も建物も動物も何もかも平等に破壊していた。そのことに桜は惹かれていたのかもしれない。

 やがてその桜も家の者に手を引かれ、避難所に向かった。通りに出るとそこは避難している人でごった返していた。車は渋滞でだめだといわれ徒歩で避難するしかなかった。少女は外で迫りくる無数の黒い異形を見た。後ろから確実に迫っていた。

「………っ!!」

 桜は転び、使用人も手を放してしまう。しかし、人の波にのまれどんどん距離が開いていく。周りにはすでに襲われている人もいる。

「あ、ああ…」

黒い怪物が迫る、しかし桜は恐怖を感じていなかった。

(そうか、これはいつもと同じなんだ…)

 そう、いつもと同じように、これまでのように、無数の蟲たちに蹂躙されていくだけなのだ。抗って何になるのか。抗えない定めなのだから。

桜はそう思いもう動かなかった。

 しかし、運命は切り札によって変わった。

 化け物の毒牙が少女に達しそうになる時…

「その子に手を出すな!」

力強い声が耳に届くのだった。

 怪物との間に入ったのは、鎧に身を包んだ黒い異形だった。

「ハアアーッ!!」

 異形は、叫びその手に持つ弓のような形をした刃をふるった。切り裂かれると化け物は一瞬で塵になった。

「逃げろ…ウッ、グ…」

 緑の化け物は桜に背を向けたまま距離を取り言った。しきりに頭を押さえている。しかし、すでに生きる意志を失った桜は動かない。

「早く行け…俺が、俺でいられるうちに…」

それでも動かない桜。

(どうして私を助けるの?)

 彼が何者なのかは知らないが赤の他人であるはずだ。なのに何故?

それに化け物の波が迫っている、一人で食い止めようとしているなら無謀にもほどがある。

「すまない。だが…どうか生きてくれ」

 異形は静かに言った。

桜には分からなかった。

「どうか、笑っていてくれ」

その胸に湧き出た熱の意味が。

 迫りくる怪物の群れに異形は何も言わず静かに刃を構え、

「走れ!振り向くな!」

と怒鳴った。

「…!」 

その声に恐怖を感じたのか、胸に沸いた奇妙な熱のせいなのかはわからない。だが今度は足が動いた。桜は走った。生きるために。

途中振り返ろうとしたが後ろからくる風のせいで振り向けなかった。

 ただ一つはわかるのは怪物が追ってこないということだけである。

 

 

とある林の中、2人の青年が立っていた。

 

―俺は運命と戦う。そして、勝って見せるー

 

 ーそれが、お前の答えか…-

 

 ―俺たちはもう、交わることもない、触れ合うこともない。それでいいんだー

 

 -…っ!剣崎―

 

 -始、お前は人間たちの中で生き続けろ!-

 

 ここに一つの運命が終結した。

 



[43015] 第1話
Name: タナト◆21f95baf ID:5c510e8c
Date: 2018/03/13 02:54
第1話 始まりの夜に



 3年後 2008年 冬木市

 

 俺、相川始は、夕暮れの中あまり整備のされていない区画を歩いていた。

「ここだよ、ここ」

 俺はそんな虎太郎の言葉に足を止めて虎太郎の見ている方向を見る。するとそこには何の変哲もない空き地があった。

「ここが14年前の大火災で燃えてしまった。剣崎君の家のあった場所だよ」

 言葉なんて出るわけもない、こんなところに来たところで何になるわけでもない、あいつを救えるわけもない。なのに、なんだ?この気持ちは…この胸の苦しさは…

「……………」

俺は、無意識に歯を食いしばっていた。

火事が起こっていなければ、あいつはあの嵐に飛び込んでいくことはなかったのではないか、家族というぬくもりの中にあれたなら、悲しい喪失と後悔がなかったならあいつは苦しみを背負うこともなかったのか…いや、違うな。あいつの最大の不幸は、この俺に出会ってしまったことだ。

「始、どうする?もう少しここにいるかい?」

 俺を見かねて虎太郎が声をかけてきた。

「いや、いい。早く行こう」

 俺はすぐに答えた。本当にここにいても何も変えられない。むしろ胸を締め付けるばかりだった。

 そして俺たちは泊まる予定のホテルに向かって歩き始めた。もともとこんなところまで来たのは虎太郎の取材のためだ。とりあえず仮面ライダーの本で成功した虎太郎は、あれからも怪人関係の都市伝説を追っていた。魔化魍だのイマジンだの俺や橘が戦うこともあった。正直迷惑だ。今回もこの街に不可解な事件が起こっているらしいとのことだ。14年前剣崎の巻き込まれた大火災とも関係しているらしい。そして本のために写真を撮らされる。こいつ専属のカメラマンになったみたいで不本意だ。取りたい写真は他にあるのに…剣崎の故郷だと言うから付いて来たが、やはり何になるわけでもなかった。ただ…

「なぁ、もしその大火災が起こらなくて剣崎が家族と暮らせていたとしたら、あいつはライダーにならなかったと思うか?」

そんな言葉が自然に口から出ていた。

「…!…さぁ、どうだろ。剣崎君が戦っていたのは両親に何もできなかった後悔からだ。でもそうでなくとも剣崎君なら戦ってしまうような気もするよ。彼は誰よりも人間を愛していたからね」

虎太郎は俺の唐突な質問に驚きながらも答えてくれた。

「そうだな」

 そうだ、あいつはそういうやつだ。

 俺は心が少し軽くなり、同時に重くもなった。

 そしてふとあの子はこのあたりに住んでいたなと思いだした。

 

 ※

 

 私、間桐桜は食材の買い出しに出かけていた。

あの事件から3年が過ぎた。あの事件は、おじいさまや魔術協会でも原因が分からなかったらしい。ただその1年後、仮面ライダーについての本が発売され大騒ぎになった。その本には事件と事件の前に多発していた怪人騒ぎの真相とともに仮面ライダーの戦いについて事細かに記されていた。仮面ライダーが戦うのは不死身の生命体アンデットそれにおじいさまは強く興味を持たれた。なにしろおじいさまが追い求める不老不死の生命体だ。興味を待たないはずはない。しかし本は売れ、再建されたBOARDは、とても有名になった。魔術師たちは、知名度がありすぎて手を出せないらしい。

 私を2年前救ったのは、仮面ライダーだったのだろう。だから、私もその本を読んで今でも繰り返し読んでいる。読み入ってしまった。仮面ライダー達、それぞれの葛藤を抱えながら戦っていたその姿に勇気づけられたからだ。そして知った。私を救ったのは、ハートスートのライダー、仮面ライダーカリス。何故か彼の経歴だけは特に記述がない。

だけどこう書かれていた。-彼は、拒絶されてしまうかもしれないという恐怖から愛する人に仮面ライダーであることを告げられず、またそのせいでその人たちを危険にさらしてしまう苦悩にさいなまれながら戦っていた。だが仮面ライダーブレイド、剣崎一真との対立と共闘を通して、彼は人を守ることに自信と誇りを得ていった。そして、ただ愛する人を守るため戦っていた姿はまさにハートのライダー、愛の戦士といえるだろう―と。

ただ、本を読むだけだったなら、なんとも思わなかっただろう。ただその戦士は確かに現れ、私を救った。その後ろ姿は今でも目見焼き付いている。告げられない境遇、それゆえの苦悩、私には痛いほど分かった。その戦士に強い親近感を覚える。どんな人なんだろう?会ってお礼が言いたい。本には名前すら載っていなかった。それは、その身近な人には話せていないのだと考えれば自然だ。だがなぜだろう、戦いは終わったのに、なぜ告げないんだろう。

彼に救われた時から、私は少しずつ変われた。やはりおじいさまは怖いけれど、私を助けてくれる人もいるんだと思えたから、あの人はただ純粋に笑っていてほしいと言っていたから。そして今の私には楽しみがある、一つはバイトに行くこと、そしてもう一つはとある写真家の写真集を見ることだ。

私がバイトに行っているのは、冬木から少し離れたところにある喫茶店。少し遠いけど週に一度必ず行っている。どうしてかというと彼、相川始さんがいるからだ。初めは弓道部の付き合いで、その喫茶店に行ったのだが、その時店番をしていたのが始さんだった。

 当時まだ暗かった私だが、妙に彼の雰囲気が気になった。彼は優しかったが、どこか影があった。何かを隠しているようで何かを探しているような。そしてどことなく私に似ている気がした。気づいたらまた彼に会いたくなっていた。もしかしたら一目惚れというやつかもしれない。そしてたまたまあったバイト募集に自分でもなぜそんなことができたのか分からないが、すぐ応募した。

その始さんの名前を知った。彼はとある縁で5年ほど前からこの店に下宿しているらしい。そして店を手伝いながらこの店のなくなったご主人と同じカメラマンをやっているそうだ。そう、2つ目の写真家とは彼のことだ。彼は真崎剣一という名前で本を出している。

彼がとる写真はどこかはかなげで純粋な写真だ。私は一目で気に入り、新しい写真集が出た時は必ず買っている。それは私の宝物で、シミでもつけようなら兄さんだって許さない。

 そして、喫茶店ハカランダで働き始めた私、そこではすべてがひどく新鮮だった。家事もろくにできない私は、喫茶店を経営する、遥香さんにいろいろ教えてもらった。掃除の基礎から少しずつ接客も覚え、料理も時々教えてもらうようになっている。なぜそんなに良くしてもらえるのか彼女に尋ねたけど、前にも同じようなことがあったから、と微笑むだけだった。

 私は今、充実している。始さんも遥香さんも本当によくしてくれる。家の中は地獄でも安らげる場所がある。しかし……

「はぁ…」

私は大きなため息をつく、大きな不安があった。

聖杯戦争、ちょうどアンデッドのバトルファイトによく似た戦い。私は兄さんのおかげで戦わずに済むけれど、今まで通りの生活が出来だろうか?それがとても心配だ。

始さんに会えなくなることだけは嫌だ…始さん、今何をしていますか?

 

 ※

 

 ホテルへのチェックインを終えた俺たちは、もう少し街を回ってみることにした。もう夜なので俺としては、あの夜景や大きな橋の写真でも撮りたいものだ。

「不可解な事件は決まって夜に起こるらしいよ」

 道を歩きながら虎太郎が唐突に話しかけてきた。

「………」

正直興味がなかった。

こんな静かな住宅街でそんな物騒なことそうそう起こらんだろう…

―キィン、キ…ンガキッ―

 常人を越えた聴力を持つ俺の耳に不可解な音が入ってきた。

これは、剣戟の音…⁉

 

念のためだ、確かめてみるか…

「お前はここでじっとしていろ。いいな」

俺は虎太郎に忠告して駆け出した。

「え、おい!始?」

困惑する虎太郎をおいて俺は音のする方へ走った。

音は校舎のような建物から出ているようだ。しばらく走るとグラウンドが見えた。

「………!?」

そこでは赤い男と青い男が戦っていた。

赤い男は双剣を、青い男は槍を使っている。お互い火花を散らし、激しく戦っていた。

その奥には高校生くらいの女がいた。見たところ赤い男の味方のようだが…

あれは人間の動きなのか?

とても人間とは思えない、怪人か!?

 俺は物陰で息を潜め、様子を見ていた。しかし…

「始~!どうしたんだよ~?」

 虎太郎がよろよろと走ってきた。

あのバカ…

「誰だっ!?」

 案の定気づかれたようだ。

「え!?え!?」

ようやく虎太郎も状況に気づく。

青い方が明らかな敵意をもって虎太郎に向かって走ってきた。

「おい!虎太郎逃げろ!逃げて橘を呼べ!」

俺の声に虎太郎は元来た方へ走り出した。

俺は物影を出て、グラウンドのフェンスを一気に乗り越え、青い方の前に立ち塞がった。

青い奴は紅い槍を構え、立ち止まった。

「へ~、もう一人いたのか見たところマスターってわけじゃなさそうだが…仲間のために囮になるとはいい度胸だ。気に入ったぜ、お前」

マスターだと?何のことだ…

「お前たちはなんだ?」

俺は相手を睨みながら言った。

「へぇ、この状況で全く動じてねぇとは、ますます気に入ったぜ。だが悪いな目撃者は消さなきゃならねぇ」

「アーチャー、ランサーを止めて!」

少女の声が耳に入ってきたが気にしなかった。

「…!」

次の瞬間、来る。破壊者の本能でそう感じた俺は、常人なら反応することすらできない速度で突き出される槍を紙一重で避け、カウンター気味に飛び蹴りを食らわせた。さらにその反動を利用して距離を取った。

躱されるとも反撃が来るとも思われていなかったのか、攻撃はうまく決まった。しかし、相当の力を込めたはずだが手ごたえはない。

 相手は躱されたことにひどく驚いているようだ。

俺は時間稼ぎのため、引かずに油断なく敵を見つめた。

「ふふふ、はっはっは!いや、すまん。なめすぎていたようだ。力を入れてなかったとはいえ俺の一撃を躱して蹴りを入れるとは…その目、戦士の目だな」

相手の目つきが一気に変わった。ワンテンポ遅れて赤いのが俺と奴の間に入る。

「凛、どうするんだ?」

 赤い男は肩越しに俺を睨みつつ向こうの少女に指示を仰ぐ。

「………」

しかし少女は戸惑っているようだった。

まずい、肌でそう感じた。今手元にカードは『SPIRIT』しかない。『カテゴリー2』では勝てそうにない、だからといって『ジョーカ―』の力をさらすのも危険すぎる。せめて『カテゴリーA』があれば…

それにしても赤いのは味方か?敵か?

「嬢ちゃんには悪いがクライアントに初見は本気出すなって言われててな。今は目撃者を消す方が先だ」

 再び青いのが槍を構える。

 次躱せる保証はない。どうする…?

シュッ!

先ほどとは比べ物にならない速度で紅い槍が迫ってくる。

「そこのあなた、逃げなさいっ!」

そう叫んだ少女は、宝石のようなものを投げた。

 ピカッ!

彼女が投げた宝石は、閃光弾のように輝く。

 逃がしてくれるなら素直にそうさせてもらう…

 俺は閃光に乗じて飛びずさって全力で逃げた。彼女たちが足止めしてくれているのか、追ってはこなかった。

 ピピピ

 俺は走りながら、虎太郎に電話した。

 トゥルルルルルルル

(…あっ、始!だ、大丈夫⁉)

「ああ、なんとかな…今お前はどこにいる?」

 そのまま、隠れた場所を教えられた俺は、そこに向かった。しばらく走ると、大きな屋敷の廃墟が見えた。その屋敷の蔵に俺は入り、虎太郎を探した。

「あ、始、ここだよ」

俺は蔵の隅でうずくまる虎太郎に駆け寄る。

「とりあえず、無事なようだな…それにしてもなんだってこんな場所に隠れた?」

 俺はあきれ顔で聞く、こんな場所は隠れるには適さない。

「え?なんとなく…だけど…」

「まぁ、とりあえず場所を変えるぞ」

 もっと人波に紛れられそうに逃げなければ。

「う、うん」

「そういえば橘は?」

「ダイヤのカードとバックル、それとハートのカード持ってこっちに向かってるって…」

 橘が来ればなんとでもなる、それまでどうするか…

「残念だったな、そう簡単に逃がすわけにはいかねーんだ」

その声にハッと振り向くと青い男が蔵の入り口に立っていた。

「ったく、嬢ちゃん達まくのに時間喰って探索のルーン使う羽目になっちまったぜ」

青い男はじりじり詰め寄ってくる。

「は、始…」

 だからこういう閉所は逃走時に隠れるには適さないんだ。見つかった時に逃げにくくなる…

俺は再び青い男の前に立ちふさがった。 

今『ジョーカー』になれば、確実に虎太郎を巻き込んでしまう…

「始、君だけでも逃げろ!君一人なら…」

馬鹿を言え、そんなことできるか…仲間を、俺の家族を、見捨てはしない!

 やるしかないか。

俺は決死の覚悟で男に飛び掛かった。

 ザシュッ!

男の槍がついに俺の左肩を貫いた。

「ぐぁぁ!」

しかしそれも想定済みだった。

「何…」

男は驚愕していた。それもそうだ、さらに赤く染まっているはずの槍は鮮やかな緑に染まっていたからだ。

 一瞬の動揺、チャンスは今しかない!

俺は槍が貫通するのも気にせず相手に体当たりした。なんとか相手を倒すが…

「こんのぉ!」

 ドッ!

すぐに蹴り飛ばされてしまった。

「グハッ…」

 口からも吐血し、緑の血をまき散らしながら俺は、蔵の壁にたたきつけられた。

「ああ、は、始ぇ!」

虎太郎の悲鳴が聞こえる。しかし肩の傷と蹴りのダメージで動けない。

 もう手はない。万事休すか…

 俺があきらめかけたその時、目の前で蔵の床が光始めた…

「なんだ…!」

 青い男も驚いてあとずさる。

右手の甲がなぜかうずいた。

光が収まるとそこには騎士の姿をした美しい少女が佇んでいた。少女は真っ直ぐに俺を見つめた。

 透き通るような蒼い生地の上に纏った、月光を受けて輝く白銀の鎧。

それを見て俺が想起するものは一つ。かつて幾度も刃を向け合い、何度も並んで共に戦った気高き騎士、

「ブレ…イド…」

 その場の全員が呆然とする中、少女は凛とした声で力強く言った。

「サーヴァント、セイバー。召喚に応じて参上した」

 

「問おう、貴方が私の『マスター』か?」

 

その澄んだ声を聴いて俺は、戦い運命がまた始まるのだと無意識のうちに理解した。

 



[43015] 第2話
Name: タナト◆21f95baf ID:5c510e8c
Date: 2018/03/13 02:56
第2話 青い騎士



 「ブレ…イド…?」

驚くしかない俺を見て、現れた少女はなお凛として言った。

「サーヴァント、セイバー。召喚に応じ参上した。問おう、あなたが私のマスターか」

セイバー?マスター?なんなんだ?

俺が状況を飲み込めずにいると、ズキッ、と右手の甲が痛んだ。見ると血のように赤い紋章が浮かび上がっていた。

これは、俺(ジョーカー)の紋章?

それは、かつてデータで見た、俺(ジョーカー)のラウズカードの絵柄そのものだった。

 なぜこんなものが…と考える余裕もなく、目の前の少女が口を開く。

「これより私の剣は貴方と共にあり、貴方の運命は私と共にある。ここに契約は完了した」

セイバーと名乗る少女は一方的にそう告げると、蔵の入り口で呆然としている男に飛び掛かっていった。そして男も外まで飛びずさり、戦いが始まった。

 ガキッ!ガジャン!

 少女は、男の繰り出す槍を見えない剣のような武器でさばいていた。遠目に見ても分かる、どちらもすさまじい戦闘技術だ。

「は、始!大丈夫?」

駆け寄ってきた虎太郎に肩を貸され、俺は立ち上がり蔵の入り口まで歩いた。

「始、あれは…」

「俺にも分からん…」

 戦闘は徐々にヒートアップしていく。

「テメェ…!卑怯者め!自らの武器を隠すとは何事だ!」

「………」

男が怒気を孕んだ声で叫ぶが、少女は答えない。

バキッ!…バッ!

 唐突に男が飛びずさり、少女と距離を取る。

「どうしたランサー。止まっていては槍兵の名が泣こう。そちらが来ないのなら私が行く」

少女は、挑発するように言った。

「一つ聞く。お前のその武器は何だ?」

ランサーと言われた男はあくまで冷静に返す。

「さぁ、剣か槍剣か戦斧か…もしかすると弓かもしれんぞ。ランサー」

少女はとぼけるように答える。

「へっ、ぬかせ…なぁ、お互いに初見だ。ここらで分けといかねーか?」

「断る!あなたはここで倒れろ。ランサー」

男の誘いを断り、少女は剣を構えなおした。

「そうかよ…こっちの目的は元々様子見だったんだがな…」

そう言うと、男は槍を深く構えた。

「その心臓もらい受ける!」

その言葉とともに男の視線が一層鋭くなる。そして紅い槍が鈍く光りだした。

 先ほどまでとは比べ物にならないほどのエネルギーを感じ、俺も思わず身構える。

「宝具っ…⁉」

少女も危険性を感知し、身構える。

「受けろ!『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)』!」

その言葉に反応し、槍の鈍い光は閃光となり、夜の闇を切り裂いた。

少女は身を翻すも、その槍の先端はその白銀の鎧を貫き、中の肉を抉った。それでも何とか致命傷を避け、少女は飛び退いた。

「…躱したな…わが必殺の一撃を…!」

 男は、渾身の一撃を躱され、強烈な怒気を放つ。

「ゲイ・ボルグ…御身はアイルランドの光の御子か!」

少女には男の正体が分かったようだ。

「…フッ、ドジったぜ。これを出すからには必殺でなけりゃならなねーのに…」

正体を言い当てられたせいなのか、怒気を解く男。

「チッ、悪いがクライアントから撤退命令が出た。この勝負は預けるぜ」

そう言ったかと思うと男は近くの屋根まで飛び、姿を消した。

「クッ、逃げたか…」

その後も少女は警戒を解かず、屋敷の外を見つめる。

「お前はいったい…?」

俺は、貫かれた肩を庇いながら虎太郎の前へ出て問う。少女はすぐに視線を向け、肩の血を一瞬凝視して、それから今は気にしないというような表情で、

「だからセイバーのサーヴァントです。なので私のことはセイバーと」

少女は再び自分はセイバーだと名乗る。その真っ直ぐに見つめてきた瞳に俺も、

「…俺は…相川始だ…」

反射的に答えてしまった。似ているのか?あいつに…

「アイカワハジメ…では、あなたのことはハジメと…」

セイバーは一人納得してうなずく。

しかし、俺の疑問はほとんど解消されない。

「おい、俺が知りたいのはそんなことじゃ…」

と言いかけたところで、

「警戒せずとも大丈夫です。契約した以上、私は貴方の僕です。貴方を裏切ることはありません」

そのセイバーはきっぱりと言い切った。

 とりあえず、さっきは助けてくれたから敵ではないのか…

そう思い、俺は彼女への警戒を緩めた。

「敵でないことは分かった。だが説明しろ、俺はマスターだのサーヴァントだののことは全く分からない」

俺に顔を見て少しは事情を悟ったのか、彼女は圧迫感を弱めて答えた。

「分かっています。貴方は正規のマスターでは無いのでしょう。ですが今は先に敵を迎撃しなければ」

敵、という言葉を聞き俺の神経が再び強張る。確かに塀の外に気配を感じる。

 塀の外に二つ…

バッ!

有無を言わせず、彼女は外に駆け出した。

「おい!待て!」

俺も追いかける。

すでに戦いは始まっていた。外には先ほどの赤い男と少女がいて、驚いたような顔をした。セイバーは、その勢いのまま赤い男に切りかかる。男も反応して双剣を出現させ受け止めようとするが、見えない刃は双剣をたやすく砕き男を切り付ける。

「消えなさい!アーチャー!」

男の後方にいる少女がそう叫ぶと、赤い男はセイバーをすり抜けるように消えた。しかしなおセイバーは止まらない。

「なめるな!」

赤い少女は飛びずさりながら、宝石を投げる。投げられた宝石は光りを放ちスパークする。しかし、セイバーには全く効果が無いようで意にも介さず近づき、腕を振り上げる。

「ウソ…」

 振り下ろされた武器を少女は横倒れして何とか躱す。そして尻餅をつき、その鼻先にセイバーの武器が突き付けられた。

「今のは見事だった魔術師(メイガス)。だが最期だ、アーチャーのマスター」

そう言い放ち武器を振り上げる。

「おい、やめろ!」

その言葉は自然に出てきた。

どんな人間でも死なせたくない。俺はもう、直感的にそう思えるようになっていた。

「ですがマスター。敵のマスターは排除しておかなくては」

セイバーは苛立ちの混ざった視線を向けてくる。

「俺は、お前たちの事情など知らん。だが人間が殺されていい理由などそうないだろう…それにその娘にはさっき助けてもらった。そんな人間をそう簡単に死なせてたまるか」

人間として一つの命でも失いたくないと思う。あいつが教えてくれたその気持ちはすでに俺の中で確かなものになっていた。

「あなたのマスターはああ言ってるけど、この剣は下げてくれないのかしら」

少女はどこか落ち着きを孕んだ声で聞いた。

「クッ…分かりました」

そんな俺の意思を感じ取ってくれたのか、セイバーはしぶしぶ引いた。

「大丈夫か?」

俺は倒れた少女に歩み寄る。

「え、ええ、何とか…」

立ち上がろうとした少女の視線が俺の方の傷の方に向くのが分かった。

「この血のことは今は気にしないでくれ、話すと長くなる」

そう弁解しながら、刺されていない右腕を彼女に差し出した。

「そ、そうなの…」

少女は戸惑いながらも俺の手をつかみ立ち上がる。そして一歩下がって言った。

「とにかく自己紹介からかしら。私は遠坂凛、魔術師よ。名前は好きに呼んでいいわ」

魔術師だと?まぁ、吸血鬼の化け物や妖怪がいるんだ魔法ぐらいあってもおかしくないが…ん?この子見たことがある気がする…ああ、そうか時々ハカランダに来る娘だ。

「なぁ、君、ハカランダという店に来たことはないか?」

「ハカランダってあの喫茶店の…あ!あの店の従業員!」

なんだ、俺の事覚えてるのか。俺は印象に残りにくいタイプだと思うのだが。

俺のそんな疑問をよそに

「ともかくあなた名前は?」

と遠坂凛は続けた。

相手が名乗ってくれたんだ。こちらも名乗って問題ないだろう。

「…俺は相川始だ。後ろのこいつは白井虎太郎」

危険が去ったと分かり、虎太郎も塀の外に出ていた。

「そう、相川始ね。いろいろ聞きたいことはあるけど、まずは礼を言うわ。助けてくれてありがとう」

遠坂は落ち着いた声で言った。

「礼を言われるようなことはしていない。それに君には借りがある」

「………」

彼女は少し考えるようなしぐさをしてから口を開いた。

「ねぇ、こっちの事情を知らないって言ってたけど、まさかあなた、魔術師じゃないの?」

魔術師、よくおとぎ話に出てくるあれか?じゃあ、さっきの宝石は魔法なのか?

「えっ⁉君、魔術師なの⁉じゃあ、さっきのあれが魔法なの⁉やっぱり呪文とか唱えたりするかな?」

俺のすぐ後ろまで近づいていた虎太郎が未知への好奇心を押さえられず口をはさんできた。

「………」

当の彼女は、少し引いているようだ。

「ね?ね?どうな「お前は黙ってろ」…ハイ…」

切りがないのでとりあえず黙らせる。

俺の方は、自分自身それこそ冗談みたいな存在なので、そんな突拍子もないものも冷静に受け入れることができた。

「君の言う魔術師というものがどういうものを指すのかは知らんが、俺はそんなものではない」

言った瞬間遠坂の顔から余裕というものが一気に消える。

「ほ、ホントなの⁉まさか聖杯戦争自体を知らないとか言わないわよね…」

聖杯、引っかかる言葉だがそんなものは知らんな。

「いや、やはり分からない」

「で、でも礼呪があるってことはサーヴァントと契約したってことよね、魔術師でないのにそんなこと…」

呆然とした顔で彼女はそう言うと、俺の横で何も言わず佇んでいたセイバーに視線を向けた。そしてその視線の意図に気づきセイバーも口を開く。

「はい、私は確かにハジメをマスターとして召喚されています。それはそうとハジメ、肩の傷は大丈夫なのですか?」

心から心配しているようなそんな声音だった。

「こんな傷、数時間あれば治る」

引き寄せる夜の風は冷たかったが気にはならない。血が足りないのは少し問題だが…

「え、大丈夫なの?」

遠坂はさらに困惑した表情を浮かべる。

「俺の傷は気にするな。俺は今何より状況が知りたい」

…召喚…契約…マスターとは主の事か?

 今まで出てきた単語と、人間をより知るために今までに多少読んだフィクション小説で得た単語を照らし合わせ俺はその結論に至った。

「ねぇ、あなた、せめてある程度特殊な人間ではあるのよね。その血といい、その落ち着きようといい…」

遠坂は、もはやすがるような声で聞いてきた。

 俺も一瞬戸惑ったが、血を見られてしまったからにはある程度説明は必要だと思い、認めることにした。

「ああ、特殊ではあるな…」

人間ではないが…

「そう、なら、まだ対応の余地はあるわね…」

そう言って遠坂は、やっと元の余裕のある顔に戻った。

「ねぇ、一度私の家に来ない?」

少し間をあけて彼女は言った。

「何故だ?」

「いろいろ事情を話すにしても外じゃあれでしょ。それにその傷もなんとかしなきゃだし」

なるほど、悪い話ではないな。しかし…

「それはいいが少し待ってくれ。さっき一人仲間を呼んだ。先に合流したい」

そう言うと彼女は警戒するに目を細め、

「その人、あなたの特殊な事情の関係者?」

と聞いてきた。

「ああ、そうだ」

そう答えると彼女はまた少し考え…

「どうして?家で合流すればいいじゃない」

「それは俺が君やそこにいる彼女をまだ完全に信用しきっていないからだ」

横にいるセイバーに目線を向けつつ、俺は正直に答えた。

二人とも少し目を鋭くした。

「信用できないのは分かるけどすぐに屋敷に向かった方が安全じゃない?」

こう遠坂が答えると、

「信用していただけていないのは心外ですが待ってくださいマスター。魔術師の工房はその者の城、敵の胎の中に入っていくようなものです。危険すぎます」

と反論したのはセイバーだった。

そういうものなのか?魔術師について何も知らないので何とも言えん。

「はぁ、ま、一般の魔術師にとってそういう場所であることは否定しないけど、少なくとも今敵対するつもりはないわ」

遠坂は筋の通った受け答えをしてくる。

まぁ、こちらから似ても敵対する意思は感じられんが不確定要素が多すぎるな…

「そうか…分かった。仲間はもう少しでここへ来る。そいつと合流してから君の家へ向かう」

総合的に考えてやはりそれが一番妥当だと思った。

「ハジメ、やはり魔術師の工房へ向かうのは危険です。話し合いをするにしても、別の場所で試みるべきかと」

セイバーは重ねて反対してくる。

「俺の仲間は武器を持ってきている。それを早く受け取りたい。それがあれば行動の自由度は上がるからな」

武器という表現を聞いたことで遠坂の顔が一層強張る。

「それどういうもの?それも特殊な事情に関係あるの?」

「ああ、落ち着けば逐一話していい、だが今は待て…」

虎太郎のせいでライダーのことは世間に知れわたっている。隠す意味がない。

「ま、分かったわ。言っとくけどサーヴァントというものは拳銃程度で倒せる相手ではないわよ?それでも合流が先?」

「その男が持ってくるのは強力な武器だ。だが無論君が敵意を持たない限り使う気はない」

遠坂は動じない俺を見てついに折れた。

「その武器の事を含めて教えてくれるの?」

俺は静かにうなずいた。

「なら、少し待ちましょう」

彼女もうなずき返す。

「で、お前はどうする?」

また俺はセイバーを見やる。

「武器を確保するのは賛成です。ですから拒否はしません」

と淡々と言ったので、話はまとまったようだ。

 





[43015] 第3話
Name: タナト◆21f95baf ID:5c510e8c
Date: 2018/03/13 02:57
第3話 二つの戦い



 私、遠坂凛はイライラしていた。

車両らしきライトの光が見える。

白井と名乗った男が追加の連絡を電話でした後、真夜中の寒空の下、数十分待ってやっと謎の男、相川始が仲間だとする男はやってきた。

赤い、派手というか奇妙なバイクに乗ったその男は屋敷の前で停まると、かぶっていたヘルメットは外し、

「無事か始⁉」

と相川に駆け寄った。

近くに街灯一つがあるだけなので暗くて顔はよく見えないが、アラサーといった年齢の男性に見えた。

「ああ、傷自体に問題はない。まずそれよりも…」

冷静に男の問いに答えた相川は、その先に何かを要求しているようだった。そしてそれを男はすぐに理解できたようで、懐から掌サイズのケースのようなものを取り出し、相川に手渡そうとした。

「待って。それが、『武器』なの?」

だとしたら、よく観察しておかなければいけない。

だが、

「ああ、そうだ。これが『武器』だ。だが話すと長い、後でいいか?」

あっさりと相手は明かしてくれた。まぁ、さっき私を助けた時点で相手は相当情報を欲しているのは確か見たいだし、話してもらえるかは分からないが襲われることはないだろう。さっきだって拷問でもするならいくらでも出いそうな状況だったのだから。私はそう結論を出し、うなずいた。

「始、彼女が?」

そう後から来た男が言った。相川はそうだと短く答えた。

それを聞き男は私の方に向き直った。

「橘朔也だ」

そう言って握手を求めてきた。知的な感じのする声だった。

「遠坂凛よ」

名乗り返し握手した。

それから彼らを屋敷まで案内した。道中警戒心を向けられてこそいたが特に何もなかった。

「ヘ―、大きい屋敷だね」

屋敷の前に来ると白井という男がのんきそうに言った。

この男を警戒する必要は無さそうね。

私もつられてそんなことを思ってしまった。

4人を応接室に迎え、その部屋のソファーに座らせる。

(アーチャー、動ける?)

私は外で待機しているであろう彼に念話した。

(外装は修復した。戦闘は無理だがそれ以外に支障はない)

との返答だったので

(紅茶を5杯入れて持ってきてくれない?)

と指示を出した。

(問題はないがいいのか?そんなのんきなことをして)

彼からは渋るようなことを言われた。

(いつも冷静に優雅たれ、それが遠坂家の家訓なの。なのに客をもてなさないわけにはいかないじゃない)

それが危険な相手であればこそ毅然と対応するべきなのだ。

(はぁ、君は相変わらず…)

(ん、何よ…)

アーチャーは何か言いよどんだ。

(いや、なんでもない。まぁ任せておいてくれ)

(そ、お願いね)

その後に意識を目の前に戻した。座っている4人にはまだ緊張の色が見える。さっき頼んだ紅茶はこのためだ。

「待ってて、今アーチャーに温かい飲み物入れさせてるから」

「アーチャー…さっきの赤いやつか…?」

相川は抜け目なく聞いてきた。

「そうよ。彼の入れる紅茶結構おいしいのよ」

場を和ませるようにそう言ってみる。

「大丈夫なのか?」

「ん?アーチャーの事?それなら戦闘は当分無理だけど回復可能だし、そのくらいの動作に支障はないわ」

そう言いつつセイバーを見やる。彼女は少しだけ申し訳なさそうな顔をしていた。

私の方も余裕ぶってはいるけど、サーヴァント相手では無防備も同然、なんとか敵対せずに協力を引き出したいけど、厄介そうね。

 そして数分がたちアーチャーのお茶で少し和んだところで本題に入る。

「それで、そちらから説明してもらえるかしら?」

そう言って相川に視線を送った。

「いいだろう。虎太郎あれは持ってるか?」

「うん。身分証明に便利だからね」

白井は持っていたバックから1冊の本を取り出すと、目の前のテーブルに置いた。

本の題名は『仮面ライダーの仮面』白井虎太郎著…え?

仮面ライダー、一時期世間で話題になっていたあの?協会でも3年前の不明生物大量発生事件と合わせて大騒ぎになっていたけど…

 私は驚いて白井を見る。

「そう、僕はこの本の著者で、この2人は仮面ライダーさ」

あまりに突飛な話に説明するはずのこっちがついていけない。

「あの、ハジメ。仮面ライダーとは何ですか?」

 口を開いたのはマスターのことを誰より知っておきたいはずのセイバーだった。

「アンデッドという怪物と戦う戦士の事だ」

相川は簡潔に答えた。

「アンデッド?」

死徒がつくるあの?

「う~ん、話すと長くなるんだ。この本に全部書いてあるんだけど…」

白井は戸惑うように言う。

書いてあるのか…だが本人たちの口から聞くに越したことはないだろう

「いいわ。約束通り逐一話して」

この際とことん知っておかなければ。

「うん。じゃあ遠坂さんはさ、人類がどうして地球を支配するに至ったか考えたことある?」

それから、白井によってアンデッドとライダー、そしてバトルファイトについてのことが語られた。驚くことに、それは聖杯戦争と共通する点がいくつもあった。

 

「そして、カリスとブレイドの連携でジョーカーアンデッドをなんとか倒して、バトルファイトは終結した。それでダークローチ達も消えたってわけなんだ」

「それが、仮面ライダー…」

一通り話を聞き、私は呟くように言った。

途中見せられた『ラウズカード』の帯びる神秘から考えて話にはある程度の信憑性があるとみていいだろう。3年前までの怪人騒ぎは事実であるし。

まるで一つの英雄譚を聞いているようだった。特に剣崎一真、彼は英雄の座に迎えられていてもおかしくないと思うほどだった。もっともすべてが真実とは限らないし、美化されている可能性も大いにあるが…

「バトルファイトとライダーについては分かったわ。次はその体について教えてもらえないかしら?」

一同の表情が一気に強張るのが分かった。

「始、どうする?」

白井は、深刻な顔をして相川に聞く。

よほど深刻な話なのだろう。さて相手はどう出るか…

「血を見られた以上話すしかないだろう。変に詮索されても困るしな…」

相川は平然と答えた。

「なら俺が説明しよう。そこは俺の専門だしな…」

口を開いたのは橘だった。

白井の話では、ダイヤスートのライダー、仮面ライダーギャレンに変身する男。

「そう、ならお願い」

コクッと橘はうなずいた。しかし…

「ちょっ、橘さん⁉こういうのは…」

何故か白井が慌てだした。

「確かに虎太郎の言う通りかもしれん…橘、ここは…」

相川も何か察したようだ。

「…うっ、お前たちの言うことも分かるがここは俺に任せてくれ…」

橘はさっきこの話が専門だ、などと言っていた。なら確かにこの男が適任ではないだろうか。それなのに2人は乗り気ではないようだ。何故かしら…?

結局二人が黙ったので橘が話すこととなった。

「最初に言っておく、これから話すことは本にも載っていない。絶対に口外しないでくれ、絶対にだ。もし誰かに漏らそうものならそれ相応の報いを受けてもらうことになる」

 いきなり高圧的な前置きをされたので一瞬驚く。

「話の内容にもよるけど、分かったわ…」

橘は静かにうなずく。セイバーもさらに瞳を鋭くしてマスターの話に耳を傾けているようだ。

「こいつの体は結論から言ってしまえば、アンデッドに近いものになっているんだ。アンデッドと同じあの緑の血がその証拠だ」

「アンデッドに近い…?」

いきなりインパクトのある結論だ。一体どういうことだ?

「こいつの体は、アンデットに近い不死性を持っている。さすがに中枢器官をつぶされれば死ぬが、ある程度の外傷はすぐに治る」

それでさっきの傷がすぐにふさがったわけだ。サーヴァント並みの生命力を持つということか…いや、重要なのはそこじゃないわね。

そのことを橘に聞こうとした時、

「『どうしてそうなったのか』か?」

とまるで用意していたように先に言った。私は無言でうなずく。

「それはな、始のカリスバックルに原因がある。カリスバックルは俺たちが使っているものと違って、試作品でシステム自体を体に埋め込むものなんだ。システムのもとになったジョーカーの能力を再現するためにな」

 体に埋め込むなんて⁉そんな危なげなシステムだったの?ライダーシステムって…

そんな私の驚きをよそに橘の話は進んでいく。

「それもあって始は例外的に『カテゴリ―A』以外のアンデッドとも融合できる。しかし、そのせいでアンデッドとより深く一体化してしまってな、始はアンデッドに近い体になってしまったんだ」

そんな複雑な人物にあの子は懐いていたの…?っていうかあの子は知っているのかしら?

私は気になって聞き返した。

「どのくらいの人がそのこと知ってるの?」

「BOARDの人間と白井のみだ。白井の近親者含め、だれも知らない。だから口外するな。生きた実験材料として始を狙ってくる奴らが出てくるかも知れないからな。そうでなくても始の私生活に支障が出る恐れもある」

なるほどね。あの子は知らないか…

ならなぜ私に話したのだろう。

疑問が解決してまた一つ生まれた。

「じゃあなんで私に…」

「さっき始が言った通り、詮索されては面倒だからな。言ってはいけない理由を話した方が早い。それに一人の個人が流す情報ぐらいならBOARDでもみ消すこともでき無くはない。変に勘繰られる方が迷惑というわけだ」

何故だろう何か引っかかる。だが一通り知りたいことは知れたので今はいいだろう

「これで納得したか?」

橘は少し疲れたように聞いてきた。

「ええ、今聞いたことは誰にも話さないわ」

私は少し微笑んで答える。

相手がどんなことを隠しているにしろ、それで自分まで注目されてはそれどころではない。

「そうだ、この本上げるから、何かわからなければここから探すといいよ。半分は暴露本みたいなものだからね」

差し出された本を受け取る。

後でよく読み込む必要があるわね。

「…それで、話すべきことは話した。次は君の番だ。今何が起こっているか話してくれ」

 相川が強い眼光を向けてきた。

一般人と聞いてどう説明しようかと思ったが意外に簡単に済みそうだ。

私は意を決して口を開いた。

「分かったわ。でも私の方の話も下手に話さないで、あまり噂を広めると私達魔術組織が動いてあなた達はただでは済まなくなるわ」

「なるほど、お互いさまになるな。それでいい」

相川は表情を変えずに言った。

私もうなずき、話し始める。

「まず、いま私たちこの街にいる魔術師は『聖杯戦争』という儀式をしているわ」

「聖杯…戦争…聖杯…」

そう言いつつ相川は何か思い当たることがあるような顔をする。

相川の反応は少し気になるがそれは後でいいと思い、私は話を続けた。

「そう、聖杯戦争。簡単に言えばあなたたちが言ってたバトルファイトのようなものよ」

「バトルファイトと同じだと?」

相川たちは眉を顰める。

「ええ、私もあなたたちの話を聞いて驚いたわ。そっくりだってね。聖杯戦争とは7人の魔術師が万能の願望機、聖杯をかけて戦う儀式よ」

「そ、それって万能の願望機ってどんなでも願いを叶えられるものってこと?」

白井が目を輝かせて聞き返してくる。

「そう、それを手に入れるために聖杯に選ばれた7人の魔術師がマスターとなり7つのクラスそれぞれのサーヴァントと契約し、それらを使役して殺しあうもの」

「サーヴァント…」

相川は、真剣な雰囲気を際立たせる。

「詳しい話は割愛させてもらうけど、サーヴァントっていうのは、あらゆる人の世の時代の英霊を聖杯が呼び出し、受肉させたもの。人の域を超え精霊に近い存在となった英雄を兵器として行使するもの。まぁ、あなたたちの言うところのアンデッドってところね」

相川はセイバーに視線を向ける。

「そう、あなたはさっき彼女、剣士のクラス、セイバーのサーヴァントを呼び出し契約した。本来魔術師じゃない人間がそんなことになるなんてありえないのだけれど、普通の体じゃないのなら説明もつくかもしれない…」

「確かにハジメからの魔力供給は通常の魔術師の水準です。生物が本来帯びている魔力の絶対量そのものが多いようです」

セイバーが静かに言う。

どんな生物でも少なからず魔力を帯びている、それが魔術師の水準ということはそれだけ生物として強力ってことなのか…思ったより規格外なのね…

私はまだいまいち得体のしれない相川を分析しながら話を進めた。

「とにかく一番重要なのはあなたももう、この聖杯戦争におけるマスターになって戦うしかなくなったってことね」

「戦うしかない?」

相川は少し厳しい顔をして睨んできた。

「そう、聖杯から選ばれたマスターは戦いから降りることは許されず、たとえあなたに戦う意志がなかったとしても他のマスターはあなたを殺しに来るわ」

「バトルファイトのような戦いに参加者として巻き込まれたというとか?まだ話の全体像が見えん。儀式だとか願望機だとか、もう少しかみ砕いて話してくれ」

相川の表情に苛立ちが見える

それが当然の反応だろう。

「まぁ、確かに分かりにくいわよね。だから、ふさわしい人に話してもらいましょう。隣町の教会にこの戦いの監督役がいるわ。そいつからなら詳しい話が聞けるけど行く?」

 正直というかホントにあの男には会いたくないがこの際はしょうがない。

「今からか?」

相川はあまり乗り気ではないようだ。

「ええ、聖杯戦争の舞台は夜。急ぐに越したことはないわ」

またさっきのランサーなんかが襲ってくるかもしれない。この男には一刻も早く、状況を分からせることが必要だ。

「私もそれを推奨します。私の目的は聖杯です。ハジメにはどうしても戦いに参加してもらいたい」

セイバーも賛同する。それを聞き相川は煮え切らないような目線をセイバーに向けた。

セイバーは聖杯が目的?サーヴァントってだいたい聖杯に興味ないって話だったけど、彼女は違うのだろうか。

相川は、少し考えた後

「分かった行こう」

と言って立ち上がった。

「始?」

白井が急な行動に驚いたのか声を上げる。

「俺がおかれている状況がただごとでないことは確かなようだ。それに願いを叶える願望機…少し、興味がある…詳しく聞きたい」

なるほど聖杯に興味はあるのね。

「それなら、俺も行こう。君もそこの彼女も話が分かる人間のようだが、詳細が分からない以上、始を一人で行動させるのは危険すぎる。それでいいな」

そういったのは橘だった。

「いいけど、協会内は関係者以外立ち入り禁止だから外で待つことになるわよ」

さすがに特殊な人物とはいえマスターでもない人間を入れて説明を受けるなんて無理だろう。

「それぐらいならいい。しかし、白井も一人にしたくない。ついてきてもらうぞ」

「わ、分かった」

 そうね、さっきの様子を見てランサーに顔を覚えられている彼を一人にさせるのは危険か。

 そうして私たちは本日二度目となる移動を決めた。

 



 

 俺たちは屋敷を出て、協会に向かい歩き始めた。

もう、傷もだいぶ癒えていて、傷はふさがっていた。

「………」

気づくと、セイバーが含みを持った視線を向けていることに気づいた。

彼女は今、武装解除を嫌い、遠坂から借りたコートでかろうじて鎧を隠している。

「何だ?」

俺は感情を込めずに聞く。

「いえ、その、私としてはこれからのことを考えるとせめてマスターには警戒心を解いてほしいと思いまして」

彼女は少し気まずそうに答えた。

前を歩く遠坂が、こちらの反応をうかがうように視線を向けてくるのが分かった。

「それはこれから聞く話しだいだ」

俺は短く答える。

俺も丸くなったとはいえ、この状況で彼女を無条件信用できるほどにはなっていない。

ふと、あいつならすぐに打ち解けるだろうか?なんてことも考えてしまった。

 

そして、一時間もしないうちに教会の前についた。

「橘、虎太郎を頼む」

入れるのはマスターのみということで、外で待機することになる二人に声をかけた。

「ああ、白井は任せろ」

「始、気を付けてよ」

2人は心配しつつ答えた。

「ああ、分かってる」

そして、俺は遠坂と門をくぐった。

「聞きそびれていたが、その監督役とやらはどんな人間なんだ?」

そう俺が聞くと、彼女は明らかにうんざりした顔をした。何故だ?

「名前は言峰綺礼、私の後見人で私の父の弟子で、兄弟子、腐れ縁ってやつよ」

彼女は協会の戸を開け、中の照明を付けつつ言った。

できれば出会いたくなかったけど、とつけたして。

そして、声がかかった。

「同感だ。師を敬わない弟子など欲しくなかった」

前を向くと比較的長身の男が立っていた。これまでであったこのないような雰囲気をしていた。

「再三の呼び出しにも応じぬと思えば、変わった客を連れてきたな。彼が7人目か?」

男はどこまでも無機質な声を出した。

「そ、でも魔術師ですらないみたいだけど、一般人ってわけでもないみたいだわ。あなたには聖杯戦争について彼に説明してほしいの」

遠坂もそれに単調に答える。

「ほう、では君は何者なんだ?君の名前は何だ?」

言峰は自分に視線を向ける。

その目は心底得体のしれないもので、その声は警戒感を俺に生ませた。

「俺は、相川始。仮面ライダーだ」

言峰は、心底驚いた顔をして、

「仮面ライダー、3年前の事件に関わったと言われる、あの?」

と言った。

何だ、知っているのか、遠坂が端に興味を持たなかっただけか…

俺は頷き、事前に言われた通り『カテゴリーA』を相手に見せた。

「なるほど、私もあの本は読ませてもらった。して、それがラウズカード。確かに並々ならぬ神秘を感じる。本物のようだ、了解した」

「何?あなた、仮面ライダーを知ってたの?」

言峰が微笑みながら、うなずいていると今度は遠坂が口を出してきた。

「何を言う凛、怪人騒ぎは現実に起きていた。魔術師として、それくらいの情報には目を通しておくものだぞ」

「………」

そのあと、言峰は俺の方に向き直り、

「分かった、バトルファイトのことを考えると、君がこのことに関わるのは偶然ではないかもしれないな。よかろう、君に教えよう、聖杯戦争とは何なのかを」

それから俺は聖杯戦争について詳しく聞いた。サーヴァントの事、マスターの事、聖杯の事、令呪の事、そして戦いを降りることもできるということ。

願いをかけて戦う、か…小規模なバトルファイトというたとえが的確だな。

俺は聞いた情報を頭の中で整理した後、一つ出てきた疑問を問う。

「お前の言ったことがすべて真実だったとしよう。だがなにかリスクはないのか?奇跡には代償がつきものというものだろう」

そう、例えば俺のような…

「ほう、戦いの中で死ぬことがそのリスクでは不足か?」

言峰はさっきの不気味な笑みを浮かべ聞き返す。

「そんなに都合のいいものがあるとは思えないだけだ。無償で奇跡をおこなえるのは胡散臭い」

参加するのなら、確認しておいて損はない。

「…まぁ、君の言ったリスクにあてはまるかは分からんが、あるとすれば個人の願いを叶える、ということだろう。聖杯は願いの善悪に関係なく願いを叶える。その願いが邪悪だった場合は災厄がもたらされることもあるだろう…その例が14年前、この冬木で起こったの大火災だ」

言峰は淡々と言った。

「な、に…?あれが?」

俺も動揺を隠せなかった。

「ああ、あれは前回の聖杯戦争の勝利者が何を願ったかは分からんが、聖杯の奇跡によってもたらされた災害なのだ」

 だとしたら、あいつは一部の人間の欲望によって家族を失ったのか。そう理解した瞬間、胸の中に焼けるような怒りが生まれた。

あいつはこんな事のために…全てを…

「目つきが変わったな。決心がついたのか?」

出す答えは一つ、その奇跡とやらであいつが救えるかは分からないが、そうでなくともこの戦いが災厄を起こすというのなら、それを防ぐ義務がある。

 それはあいつが最初に願ったことなのだから、

 あいつの代わりに俺が人間の世界にいるのだから…

 だから俺は…

「ああ、俺はマスターとして戦う」

戦わなければいけない、仮面ライダーとして。

「よろしい、君をセイバーのマスターとして認めよう。これでこの聖杯戦争は受理された。諸君、己の誇りに従い、存分に競い合え」

 

 そのあと、俺と遠坂は外に出て、少し移動してから他のみんなに聞いたことと、戦うと決めたことを伝えた。

「話は分かった、なら俺はどうすればいい?あいつのためだ、俺は協力を惜しまないぞ」

橘は俺の願いを察し、聞いてくる。

「そのことだが、お前たちは東京に帰っていてくれ。この戦いはサーヴァントとマスターとのツーマンセルが基本らしい。下手に危険な目に合わせるより、お前たちが後ろに控えていてくれた方がこっちも気が楽だ」

「そうか、分かった。だがいつでも動けるよう睦月にも連絡を入れておく」

まだ少し、心配そうにしているが俺の案を受け入れてくれた。

「じゃ、じゃあ、僕は君がホテルにいるより動きやくなるように拠点を手配するよ。姉さんたちにも話を付けておく」

と言ってきたのは虎太郎だった。

「ああ、そうしてくると助かる」

何日も帰らないのは、二人とも心配してしまうだろう。俺の中でそれはとても重要なことだった。

天音ちゃんは電話してくるだろうな…

「マスター、よろしいですか」

「⁉」

唐突にセイバーが近づいてきて、声をかけてきたが、完全に意識外だった。

い、いかん…二人のことを考えているといろいろ緩んでしまう。

「そ、そのなんだ?」

俺の変な土曜にセイバーは首をかしげる。

「いえ、私とともに戦いに参加していただけるということでいいのかと確認したいと思いまして」

「ああ、そういうことだ。それなりに宛てにさせてもらうぞ」

そう、俺が言うと途端にセイバーの表情は明るくなった。

「はい、よろしくお願いします」

意外に、人懐っこいのか…

「話、まとまったかしら?」

話がひと段落したところで遠坂も話しかけてきた。

「これから、私たちは敵同士になるわ。今日はともかく明日からは容赦しない、ってことでいいわね」

その言葉がどういう意味を持つのか、すぐに分かった。

「そうだな、だが君には本当に世話になった、ありがとう。できれば君とは戦いたくないな」

「そう、ね。でもお互い貸し借り無しってことにしといて、明日からはしっかり敵同士にならないと」

 この少女はなんだかんだ言って優しい人間であると理解できた。

 

「……!」

 

不意に叩きつけられる強烈な圧力―

 

「お兄さんたち、お話は終わった?」

 向き直ると白髪の少女と、これまで感じたことのないレベルの殺気を放つ大男がいた。

 

数時間前

 

 私は買い出しを終え、家路についていた。あたりはすでに暗くなっている。

私はそこで見たことのない男性とすれ違った。

その時、耳もとで、

―うまく、引き寄せてくださいね―

 私はその言葉の意味が理解できなかった。

 




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