ここは機械と魔法が共栄するとある世界。
その世界にケイオスという名の帝国があった。
強大な国力により他の国々を従え、急激に繁栄してきたケイオスは帝国の誕生から僅か十数年で世界の半分を手に入れた。
ケイオスによる支配は主に力による蹂躙で、初代皇帝であるザガンは血も涙もない鉄の皇帝と呼ばれ、人々に恐れられていた。
しかし時は流れ、ザガンは病魔に冒され、志半ばでその命を散らした。
彼の死後、息子であるハーヴァイが20歳という若さで皇帝の座に着くと、ケイオスは僅かに変化の兆しを見せる。
人格者で穏やかな性格のハーヴァイはその知略と手腕を用い、先代の王ザガンとは異なった融和による政策を行っていったのであった。
いくら皇帝が変わったとは言え、力による支配を行ってきたケイオスのあまりに正反対な動きに、始めは他国から懐疑の目を向けられていた。
だがハーヴァイはそれでも諦めることなく、自分の意志を貫いた。
その結果、少しずつではあるが、他国と手を取り合い、ケイオスは生まれ変わりつつあった。
そんなある日のこと、帝国全土を揺るがす事件が起きた。
現皇帝であるハーヴァイが突如姿を消したのである。
ケイオスに恨みを持つ者が拉致したのではないか、はたまた現皇帝の政策に反対する一派の強硬か。
上層部は騒然となっていた。
先代からの側近であったアーバンは機械の力と魔法の力を駆使し、ハーヴァイの失踪から二日もかからずに彼の居場所を特定するに至った。
ハーヴァイは召喚の魔法によりハルケギニアという異世界へと連れ去られていた。
「…何と、召喚の魔法とは」
アーバンはあまりのことに絶句した。
この世界にも召喚の魔法は存在する。
しかし、それはあくまで幻獣と呼ばれる精霊の一種を呼び出すものであり、しかも双方の同意を得なければ使用出来ず、一方的に使役することは出来ないのである。
だが、ハーヴァイを連れ去った魔法は彼らの常識の外にあった。
人間、それも同意を得ずに半ば強引に連れ去る。
最早、これは召喚では無く、ただの誘拐である。
アーバンは激情に駆られ、久し振りに殺意を抱いた。
「誰だかは分からぬが、若を攫うなど生かしてはおけぬ!」
世界を特定さえ出来れば、そこが異世界であろうと彼らには移動する手段がある。
その名はゲート。
この世界に古代から存在する謎多き存在。
人だけでなく飛空挺などの大型の乗り物でさえも望む場所へ運ぶことが出来る。
ケイオスが他国に対して、大きなイニシアチブを取れるのも、このゲートの存在が大きい。
無論、未だに判明しない部分がある為、易々とは使えないが、この存在がケイオスの繁栄を陰で支えたと言っても過言ではない。
そしてこのゲートはこことは異なる次元、要するに異世界へと繋がっていることも分かった。
それはこのゲートから異世界人が偶然やって来たことから判明したのである。
異世界への移動方法はその異世界人から教わったものの、実際に使用したことは無く、その為異世界へ行くことにどんな危険が伴うか、彼らには計り知れなかった。
だが、今はそれよりも現皇帝ハーヴァイを救うことが先決であるとアーバンは主張し、救出の為の部隊が急遽作られた。
その部隊は先代の皇帝の時代から活躍した帝国軍内の歴戦の勇士たちを中心に結成され、その中に若きルーキーたちを加えた混合軍となっていた。
アーバンの迅速な対応で即日中に彼らは一機の飛空挺とともにハルケギニアへ渡ることとなった。
そしてついに出発の刻がやって来た。
飛空挺に乗り込む彼らを見送りながら、アーバンは思いにふける。
(散々侵略し、簒奪してきた我々に奴らを罵る権利など無いのかも知れぬ。だが…)
アーバンの額に深い皺が刻まれる。
(若を攫った。その事実は事実だ。若を攫った奴らには相応の報いをくれてやらねばな!)
そんな思いに同調するかのように、飛空挺は展開されたゲートの中をくぐっていった。
そしてこれが、異世界間戦争の幕開けになるということをこの時点で想像していた人間はアーバンを含めて少なくな