その部屋に居たのは、まだあどけなささえ残る年頃の少女だった。
どこから連れてこられたのかとか、彼女の両親はここに連れ去られたことを知っているのかとか、疑問に思うことは多々あったものの、俺はその答えを得ることはできなかった。
分かっているのは、彼女の名がティナであるということだけだ。
「これが、魔導の力を持つ少女か!」
めちゃくちゃハイテンションなのはケフカさん。
ピエロっぽいメイクのせいでただでさえ口が裂けてるってのに、更に浮かべた笑みの効果は果てしない。
ぶっちゃけ直視に耐えない。
いや、ダメだ。頑張れ、自分。
「えーっと、それで、この子に何しに来たんスか?」
今日の任務目的を確認しなければ。
「察しが悪いね、お前も!」
キイキイと怒鳴りたてながら、ケフカさんは少女に何かヘンな道具を向けている。
「よーし。魔導の力があるってのは本当のようだな。じゃあこれから儀式に入る!」
いや、儀式ってなに。
いやいや、その首輪なに。
「これさえあればコイツの意思はなくなり、どんな命令も思うがまま! 俺サマ天才!」
だから何なのそのいかがわしい効果。
「えー。首輪をつけた挙句に絶対服従とか、なんですかソレ。ケフカさまやっぱりヘンタイだったんですか」
しかもこんな幼い少女に。
ヤバイよ! この人かなりキてるよ! って、今更か。
思わず本音がダダ漏れになってしまった俺に、ケフカさんの鋭い視線が突き刺さる。
「お前、命が惜しくないみたいだな?」
命は惜しいよ。まだ生まれてから30年も経ってないんだからもう少し生きていたいよ。
この人のヤバさは十分すぎるほどに知っている。
ここで反抗したが最後、俺の命の灯火は呆気なく消え去ってしまうだろう。
だが、こんな少女を首輪で縛り付けなくても、ちょっと説得すればちゃんと協力してくれるような気がするのは俺だけだろうか?
「嫌ですねー。俺はただケフカさまの発明品に感動しただけのことですって!」
「……お前、俺のことバカにしてるだろう?」
胡乱気な瞳でケフカさんは俺を睨みつける。
俺にバカにされていることに気づくなんて、なかなかやるもんだ。
でもまだ甘い。この人のことを馬鹿にしたり軽蔑したりしているのは別に俺だけじゃない。
心の奥底まで辿ってもそんな感情を持っていないのは、精々レオ将軍くらいのものだろう。
あ、もしかしたらセリス将軍もそうかも。髪の毛ひと筋ほどの興味もない的な意味で。
レオ将軍は、ケフカさんの古くからの友人なのだそうだ。
軍役に就いた当初からの同期だったかなんだかで、苦楽を共にしたかけがえのない戦友なんだってよ? レオ将軍が言うには。
ケフカさんは否定していた。それはもう真っ青な顔で。
同期でもなんでもないし、苦楽を共にした覚えもないんだって。
全くかみ合っていない2人の話を同時に聞いたせいでなにがなんだか分からなくなった俺は、とりあえずレオ将軍がケフカさんと仲良くなりたがってるんだってことだけを理解して、それ以上のことを考えるのは止めておいた。
人間、知らない方がいいことも多いんだ。
それでも俺はレオ将軍を尊敬している。いい人だよ、ケフカさんに関わりのないところでは。
「そ、それより、その首輪をしちゃっても魔導の力に影響はないんですか?」
何でも、その首輪には人間の感情を抑制する働きがあるらしい。感情がなければ理不尽な命令にも逆らおうという気が起きないから、結果的に従順になるんだとか。
「問題ない! 何を考えていようと、何も考えていなかろうと、魔導の力は普通に使えるんだよ! これだからシロウトは……」
ブツブツと文句を言っているが、それならこの前ケフカさんが開発した魔導アーマーで十分なのではなかろうか。
ちょっと気になって言ってみたら、それもそうかも、とか言い始めた。
「じゃあコレいらなーい! どうしようかな、邪魔だから殺しちゃおうかな」
ケフカさんがとんでもないことを言い出してようやく、俺はその発言がかなりの失言であったことに気がついた。
このままでは本気でこのかわいそうな女の子を殺してしまいかねない。
それは非常にマズイのだ。
日ごろから彼の非人道的な振る舞いは軍内でも問題になっている。
そのせいで俺たち部下も散々な目に合っているというのに、これ以上下らない非道を増長させることができるわけがない。
「いやいやいやいや。そうじゃなくてですね。感情も残して、なおかつケフカさんのオネガイを聞いてくれるようになったら、もしかしたらすっごくいいことがあるかも知れないじゃないですか」
何とかして説得しようと、そのときの俺はとにかく必死だった。
後で思うと、失敗だったとしか言いようがない。それだけ自分も余裕がなかったということだろう。
「でもめんどくさいじゃないの。俺サマそういうのキラーイ!!」
きらーい、じゃねえよ。このクソ上司。
アンタのせいで俺たちがどれだけイジメられてると思ってんだ。
「俺が説得しますって! それでもどうしようも無かったら、セリス将軍のお話し相手として献上するとかどうでしょー!? ほら、年も近いみたいだし!」
「なんでセリス?」
「きっとレオ将軍が喜びますよー! しかも、もしかしたらセリス将軍がケフカさまへの感謝のあまり、レオ将軍のお話し相手を一手に引き受けてくれちゃうかも!?」
嫌そうな顔をしていたケフカさんが、みるみるうちに嬉しそうな顔に変わっていく。
最後の一言は、特に彼の心を揺さぶったらしい。
「ふふん、いいでしょう! そういうことならこの娘の処遇は任せますよ! くれぐれも! 私に迷惑がかからないように!!」
おお、ゴキゲン。
やったぜ、同僚ども。俺はイジメの激化を回避した!
「ただし、お前減給ね」
「そんな! 何で!?」
「当たり前だろうが。この首輪作るのに、一体どれだけの国家予算かけたと思ってんのよ! 貴重な発明の活用を妨害したんだから、クビにならないだけ喜べ!」
「横暴じゃないですか! 何で俺が減給だよ!」
理不尽だ。俺はただ、偉大なるガストラ帝国のヘンタイを止めただけなのに。
「軍っていうのはそういうところなんだもんね。 皇帝の不利益が容認されるわけないんだよ!」
ちくしょう。言い返せねえ。
なんでこの人、時々マトモなこと言うんだろう。
存在は全然マトモじゃないくせに。
「じゃあ俺サマは部屋に戻るから、その小娘の説得を終わらせておくように。今日中だからな!」
そこまで言うと、ケフカさんは最近稀に見るほどの上機嫌で部屋から去っていった。
嵐は過ぎ去り、気がついてみれば部屋の中には、今まで完全に蚊帳の外に置かれてしまっていた少女と俺の2人きり。
怯えた様子で俺を見上げる少女の姿は、ただただ哀れで仕方が無かった。
しょうがねえ、説得、始めるかね。
ため息をひとつ吐いて、俺は少女に向き直った。
できるだけ安心させるように、精一杯の笑みを浮かべながら。
さあ、これからもう一つ、大仕事だ。
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目が覚めたらヘンな時間だったので、することも無いしとりあえず投稿。
すごく楽しかった。
1話目コメント、ありがとうございました。なんか、たくさんもらって驚きました。
・帝国兵士Aはいつまでも軽いノリでいたいと思います。もし良ければ今後も楽しんでください。
・ケフカ→セリスは初耳でした。まだまだ勉強不足ですね。精進します。
・さてはケフカ好き同志さんですね。ありがとうございます。
・ありがとうございます。調子に乗って続きを書いてみました。
・>ケフカキモいから好き!
>さあこれで満足か!w
ありがとうございます。大満足です。
・>ケフカはクジャ&皇帝と同ランクかそれ以上の変態だと思っている私です
同感です。同志さんが多くて嬉しいばかりです。
・>ケフカはFFシリーズ1紙一重だと思っているおいら。
さらに、同感です。ケフカ好き同志さん、ありがとうございます。
・>ひょっとしてレオ将軍も何だかダメっぽいことになっている?
ダメな人一直線かも知れません。ごめんなさい。
息抜きのつもりで書き始めたら勢いづいてしまった……。
今回もケフカに釣られて見に来てくれた人がいたら喜びます。
「オナニー乙」「ケフカ万歳」など、一言コメントはまだまだ大歓迎です。それでは。