夜通しの警邏が終わり、やっと朝を迎えた今この時。
俺は非常に悩んでいる。
「なあ、お前ら。こんな所で犬と戯れるのはどうかと思うぞ?」
「な、何でテント内の宝箱の中に犬がいるんだよ!」
「ああそれ? 昨日からケフカさまのペットになったらしいぜ」
侵入者発見。さあ、どうしてくれようか。
そこにいたのは、怪しいことこの上ない2人組だった。
金髪の長身マッスルと、妙な服装のマスク男。小脇に抱えたワンころがきゅーてぃー。
ケフカさんだけならいざ知らず、レオ将軍がいる今の帝国軍で正規の鎧を着ていないということは十中八九不審人物だ。
しかも、犬小屋代わりになっていた宝箱を蹴り飛ばすというマヌケな行動に反して武装した俺を見ても動揺すらしないこの余裕。
これは不味いことになったかもしれない。
俺1人で撃退できれば問題は無いのだが、いかんせん自信が持てないのだ。
どうしたものか。
「で、ここが帝国キャンプだということは分かっているな? 何用だ」
様子を伺いつつ、なるべく軽い口調で尋ねた俺に筋肉男が朗らかなまま答えてくる。
「いやあ、ちょっとここを通りたくてさ。アンタら橋を塞ぐようにして駐屯してるから困るんだよ旅行者としては」
なるほど。
どうやら何が何でもこちらと事を構えるつもりでいるわけではないらしい。
俺としても1対2の戦いに望むよりはよほど好都合といった状況だが、油断した隙に後ろから襲い掛かられたらたまらないし、扱いかねるというのが本音だ。
「旅行者か。それなら行き先を変更するか戦が終わるまで待ってくれると助かるな」
「……待つってどれくらいだい?」
表情を変えることなく聞き返してくる筋肉男は、見た目どおりの体力バカではなさそうだ。
さりげなく情報を得ようという姿勢はなるほど、この物騒なご時勢で旅をするだけのことはあるのかも知れない。
しかし、尚更困る。
バカならバカでどうにでもなるだろ? 場合によっては現地徴兵って事にして前線に立たせる事だってできるんだし。
逆に、本当に頭のいい奴ならお互いの不干渉を持ちかければ今この状況で無下にしてくることもないはずだ。
一番厄介なのが、ある程度腕に自信があって正義感溢れるタイプ。
そういう連中はとにもかくにもケフカさんのことが大嫌いなんだよ。
過去の経験から言って、野放しにすると帝国兵が危険だ。
無謀にもケフカさんにケンカを売るセイギの味方。
相手の実力によってはケフカさんが取り逃がしちゃったりなんかして、その後ケフカさんが不機嫌になったりなんかして、さらにその後俺を含めた帝国兵にケフカさんが八つ当たりとかしちゃったりして、最終的に帝国軍壊滅の危機なんて事にもなりかねない。
今ならレオ将軍もいるから、一般兵の被害は少なくて済むかもしれないが、その場合の俺の精神的打撃は計り知れない。
「ああ、ちくしょう。こんなことならケフカさんの名前なんか出すんじゃなかった」
「さっきの犬もケフカのペットだって言ってたな。ここの指揮官はまさかケフカなのか?」
もうホントにやめてくれよ。
なに戦闘モードになってんだよ。
お前、見るからにヤバそうじゃねえか。俺たぶん勝てねえぞ。
悩んだ。
必死で悩んだ。
負けないため、死なないため、最善の策は何なのか。
「指揮官はレオ将軍さ。ここだけの話、ケフカさんとは比べるのもおこがましいほどの好人物だよ。せっかくだ、会っていくといい」
ケフカさんに見つかる前に会えれば、手荒なことはされないって保証できるな。
俺の結論は、敵前逃亡だった。
意外なことに、彼らはすんなりと頷いた。
マスク男の武装解除を強制しなかったことも理由の1つだったのかもしれない。
俺としては、見るからに格闘タイプの男がいる以上、片方だけの武器を取り上げたところで大した意味はないと思ったからに過ぎなかったが。
「おい、誰だそいつらは?」
「知らねえ。キャンプの近くをウロついてたから拾ってみたんだ。万が一にもドマへ向かう途中の一般人だったりしてみろ、戦に巻き込んだらレオ将軍が悲しむだろうが」
「……お前は信用できねえが、確かにその通りだな。で、どこへ連れて行くつもりだ」
それはもちろん。
「レオ将軍のところへ。処遇をどうするにしろ、ケフカさんに見つかったらそれこそ面倒しか起こらねえし、さっさとレオ将軍に判断を仰ごうかと」
仕事熱心なレオ将軍の副官に見つかった。
俺の同期にあたる男だが、彼について語るとしたらレオ将軍のシンパ1号、かつケフカさん嫌いの筆頭だ。
自動的に俺のこともかなり嫌っているらしいが、基本的に職務に忠実な男だから個人的感情を理由にここで彼らを攻撃することはないと信じたい。
どうか、命惜しさに嘘を吐いていることがバレませんように。
祈る気持ちをひたすらに隠し、精一杯平常心を装った俺の努力は実った。
「いいだろう。宣戦布告はお前に任せるとの命令も下っている。丁度いいからそのまま連れて行け」
吐き捨てるようにそれだけ言って、彼は武器テントへ向かっていく。
俺が言うのもなんだけど、帝国軍人って無能ばっかりなんじゃないだろうか。
どう見てもこれ一般人じゃねえだろ。
ムキムキとマスクとかおかしいって、絶対。
どうしてみんな不審に思わな……アレか。ケフカさんのせいだ、これ。
うん、分かるよ。そうだよな。
あんなヘンなもん見慣れちまったら人間らしい分まともだもんな。
「なあ」
「何だよ」
「帝国軍って結構適当なんだな。意外だった」
「それは言うな」
俺だって情けないとは思ってるから!
「事情説明は以上であります!」
レオ将軍は思ったとおり、彼らに手荒な真似をすることは無かった。
俺の報告を無言のまま聞いた後はいくらか警戒した様子ではあるものの、不要な戦いを嫌う彼らしく紳士的な対応を取っている。
「私はガストラ帝国の将軍でレオと申します。貴方がたのお名前を伺ってもよろしいですか?」
相手の身分や地位に関わらず、それがたとえ敵であっても敬意を尽くすレオ将軍の姿を間近に見るのは、随分と久しぶりの経験だ。
ケフカさんにもこんな頃があっただろうか。
遠い記憶の彼方に、片鱗が見え隠れするような、しないような。
「オレはマッシュ。こいつはシャドウだ。なんとか、戦が始まる前に橋を通らせてはもらえないだろうか」
どうやら、両者は交渉の体制に入ったらしい。
俺が聞くのは、ここまでだな。
聞こえてくる声を意図的に聞き流し、テント内を見渡してみる。
マスクの男の視線が見えないのが気がかりなんだよな。
ここは一般兵用のテントだから大したものは無いはずだが、万が一ということもありえる。
外部に漏れてはならない情報、というものは確かに存在しているから、そういったものが無いかどうか、それを確認しようと思っただけだった。
それなのに。
「何をしているんだ、このノロマ!! 俺サマを待たせるなと何度言ったら分かるんだよ!」
どうして来るかな、この人。
いつもなら座り込んだきり動こうともしないくせに。
「ケフカ! 取り込み中だと伝えたはずだろう!」
「うるさいうるさい! そもそもどうしてこの俺サマがお前の命令なんかにしたがわなくちゃならないんだ!」
いや、うるさいのはアンタだから。
できることなら関わりたくない。今ならこのキンキン声だって聞き流せる気がする。
だが、レオ将軍はそれを許してはくれなかった。
ケフカさんがうるさいから連れて行け。ついでにさっさとドマ城まで宣戦布告へ行って来いと、まるで子供におつかいを頼むかのようなこの軽さ。
どれだけレオ将軍がイラついているかがよく分かるな。
「了解であります」
でも、そのあまりの軽さに落ち込むことくらいは許してもらいたい。
「くっそー、腹が立つ! 誰だか知らないけどそこのお前! レオなんか毒殺してやりなさい!」
「バカ言ってんじゃありませんよ! ただでさえ宣戦布告の役目なんていいつかって落ち込んでるのにこれ以上俺をヘコませてどうしようって言うんです! 俺はもう何年もケフカさまの部下やってるんですから、もう少し労わってください!!」
思わず本音が出てしまった。
面と向かってバカと言ったのはさすがに初めてだ。
これはとうとう死を見るかと覚悟したが、興奮状態のケフカさんは運よく聞き流してくれたらしい。
すぐ後ろで聞いていた筋肉男が驚いた声を上げていたから、レオ将軍にはバッチリ聞こえていただろうが。
宣戦布告というのは、大体にして俺のような一般兵の役割だ。
理由はごく単純で、言葉を選ばずに言ってしまうなら捨て駒としての役割だから。
前回フィガロ城へ先触れに行ったときとは話が違う。
伝書鳥を飛ばしたところで手紙が届くはずもなし、敵対することを宣言しにノコノコと出向くしかないこの任務では、その場で殺されなかった兵は数少ない。
ケフカさんからの命令だったら、俺は断固として拒否していただろう。
「すまない、配慮が足りなかった」
でも、こうして俺にまで頭を下げてくれるようなレオ将軍の命令だったから、文句は無いんだ。
「いえ、これも任務ですから」
生きて戻れる可能性が無いわけでもなし。
「それでは、直ちにドマ城へ向かいます」
ケフカさんの背を押しながらだったから敬礼はできなかったが、それでも俺は決意を込めてそう告げた。
さあ、これから1つ、大仕事だ。
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11話投稿です。
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