門の上からドマ兵たちがこちらを睨みつけている。
その中には当然のことながら見知った顔は一つもない。
怯えず、堂々とした態度で一方的に宣言することが重要だ。
「ガストラ帝国より通告する!」
声は、どうやら届いているらしい。
宣言が終わった。ドマ側には未だ動きが無いのが不気味に思えてならない。
さあ、どうしたもんか。
俺の予想だと、そろそろ返事が返ってくるか攻撃されるかだと思うんだが。
背中はちょっと、向けづらいよな。
お互いに相手の出方を伺った硬直状態が続く。
そこへ、以前聞いた声が響き渡った。
「拙者はカイエン! そちらは以前ケフカ殿と共に来ていた方かとお見受け申す。しばしお時間をいただけるだろうか」
運が良かったのか、悪かったのか、これじゃわかんねえな。
前にドマへ来たときに、ケフカさんの給仕なんてしてくれちゃったカイエンさんだ。
誠実で、実直。その誇り高さにはレオ将軍と通じるものを感じたことを覚えている。
「願っても無いお申し出です。どうぞ、こちらへ」
「お久しぶりでございますな。拙者を覚えていらっしゃるだろうか」
「もちろんです、カイエン殿。かつての非礼を詫びる間も無く、こうして相見えてしまった事を残念に思っております」
いい人なんだが、あれだ。
この人の喋り方はウツるからちょっと嫌だ。
「これも時代の流れというもの。貴殿には何の落ち度もないでござる」
「そう言っていただけると、幾分心も晴れます。ご壮健の様子で何よりです」
彼はこの非常時に関わらず、供すら連れずに門外まで足を運んだようだった。
もちろん、自分の実力への自信もあるのだろうが、それ以上に俺が1人でここへ来たことを疑う素振りすらないその様子が嬉しかったりする。
うん、俺この人も結構好きだな。レオ将軍みたいだ、本当に。
しかしながら、いつまでも堅苦しい話し方を続けようとしたらボロがでる。絶対に噛む。ござるとか言っちまったらどうしてくれるんだ。
「さっきも言いましたが、俺はここへ宣戦布告に来ました。こちらの指揮官はレオ将軍。お気づきでしょうが、レオ将軍配下の軍勢と合わせてケフカさまもいらしてます」
「レオ殿の名は聞き及んでいるでござる。しかし、ケフカ殿も共にとなると、全面抗争の構えだということなのだろうか?」
話が早いところもいい。
実を言うと、レオ将軍の伝言が伝えられる相手かどうか心配もしていたのだ。
「その通りです。ガストラ帝国軍はこれからドマ城への攻撃に入ります」
俺の言葉に、カタナと呼ばれる剣を構えるドマ兵たちが見える。
俺だけ警戒しても意味ないってのに、やっぱり緊張しているんだろう。
しかし、カイエンさんの様子は変わらない。腰に携えたカタナを抜くことなく、俺の言葉に耳を傾けている。
「ここからはレオ将軍からの伝言です。――我々はドマ城に対する全ての物資補給を絶つことはない。また、ドマ城からの避難は全面的に許可する。降伏もまた、同様である。その場合には全員の身の安全を保証することを約束し、戦闘の意思ありと判断した場合に限り武力を持ってこれに対抗する――以上です」
聞き入っていた兵達から動揺の声が上がった。
まあ、当然だろうな。
帝国軍が攻め込んでるってのに、避難も降伏も自由にしていいよなんてことはまずありえない。ケフカさんだったらそれこそ宣戦布告なんてしないまま奇襲して皆殺しだし、セリス将軍は敵に対して容赦をしないということも有名だ。
レオ将軍が派遣されるのは俺たち帝国軍にとっても頼もしいことだが、それ以上に敵の運がいいと言うべきだろう。
他に問題があるとすれば、ケフカさんが同行していることか。
「指揮官はレオ殿だと言っていたが、ケフカ殿はなんと言っているのでござるか?」
「よく聞いてくださいました! これは俺の個人的な見解になりますが、戦えない者の命を優先するのであれば、戦うのでも降伏するのでもなく、今すぐにでもこの場から逃げることをお勧めします」
いざ戦いになったら、ケフカさんを止められる人間なんているわけがない。
勝手な単独行動を取るのはもはや当然のこととして、何事にも効率を優先するあの人のことだ。まず初めに狙うのは戦う力のない女子供に違いない。
いや、一応フォローするとさ。
いくらケフカさんだって、そんな非戦闘員が逃げていくのを追いかけてまでどうこうするって事はないんだよ。
基本的には自分以外のことにはあんまり興味がないし。
実際のところ、そういう弱者がどれほど集まったって自分の身を脅かすことにはならないっていう自信もある人だから、虐げられた連中が寄せ集まって集団になることも大して気に留めてないらしい。
だからさ。俺は思う。
生き残りたいなら、ケフカさんからは逃げ出すのが正解だ。
「ご忠告、感謝する。貴殿の言葉は必ず主に伝えるでござる」
カイエンさんはしっかりと頷いた。
よし、これで俺の任務は達成だ。出掛けに渡されたメモの伝言はしっかり伝えたし、俺のほんのわずかな良心も満たしたし、後は……うん、無いな。
「それじゃ、俺はどうしましょうね。このまま陣に帰らせてもらえるのが一番ですけど、捕まえるならなるべく苦しくないように一思いにやっちゃって下さい」
その覚悟は、できてるからさ。
言った俺に、カイエンさんは少し驚いたような顔をした後、厳つい顔をほころばせる。
「いや、ドマの兵はそんな卑怯なことはしないでござる。危険を冒して単身やってきた上、忠告までしてくれた貴殿を手にかけることは拙者が許さないので安心して欲しい」
なんてこった。
世の中にはこんな正々堂々とした男がゴロゴロしていたのか。
認めたくない。認めたくなくなってきたぞ。
レオ将軍といい、カイエンさんといい、そういえばフィガロのイケメン国王もそうだったか。
みんな男らしすぎるって。
ちくしょう、俺もこんな上司の下で働きたかったぜ。
でも、そうか。
俺はまだ死ななくて済むのか。
その事実は素直に、嬉しかった。
俺がカイエンさんに見送られて帝国キャンプに戻った丁度そのとき、レオ将軍とケフカさんの出陣の準備が整っていたらしい。
任務達成の報告に向かった俺を、レオ将軍は喜んで、その部下とケフカさんは嫌そうに、迎え入れてくれた。
なんだ、帰ってきやがった。なんて言っているケフカさんはどうでもいい。この際、そんな酷い上司のことなんかどうでもいい。
「よく、無事に帰ってきてくれた」
「レオ将軍! こんな野郎を労うなんてもったいないです!」
おいおい。仮にも同期なんだしさ、命をかけた重大任務を終えて帰ってきたときくらい労いの言葉を貰ったっていいじゃねえかよ。
むしろお前のほうがダメ軍人だろ。
「おれはどんな人間であれ、それが自分の部下である以上、生きて戻ってくれれば嬉しい。それを副官のお前が否定するのか?」
「いえ、それは……」
よっしゃ、ざまあ見やがれ。もっと怒られろ。
なんて、冗談を言っていられる時間は長くは無かった。
忙しなく走り回る伝令の1人が、ドマ軍の攻撃を伝えてきたからだ。
それが、開戦の合図になった。
結果から先に言おう。
対ドマ戦は帝国軍の圧勝に終わった。
レオ将軍が出る暇さえないほどに。
ケフカさんがさ、やる気マンマンだったんだよ、珍しく。
魔導アーマー隊が先陣を切って道を拓いた後は、比喩でもなんでもなく、文字通りケフカさんの独壇場だった。
どう考えても、ストレス発散だな。楽しそうだもんな、ケフカさん。
俺は魔導に詳しくないからよく分からなかったが、とてつもない大範囲の炎や雷が、4人や5人の小隊なら一撃で蹴散らしていく。
怯んで歩みの止まった連中を凍りつかせ、勇ましく切り込んでくる男達を燃やし尽くし、それでも本人はまるで散歩でもしているかのようなゆったりとした歩みを止めることは無い。
俺はその後ろから、ただついて行くだけで良かったんだ。
ドマ城内に乗り込む頃には、帝国軍さえケフカさんには近寄らなかった。
俺はケフカさんのそんな様子を見るのは初めてではなかったから今更どうとも思わなかったのだが、日ごろはレオ将軍の下で戦い続けていた彼らにとって、その様子は地獄の具現でしかなかったのかもしれない。
俺だって、見ていて気分の良いものではないんだよ。
人の焼けるニオイっていうのは、いつまで経っても慣れられるもんじゃねえし、恐怖のあまり戦意を失った相手に対しても、ケフカさんは躊躇をしない人だから。
だが、それを遠くに見ていたはずのレオ将軍は、決してケフカさんを諌めることは無かった。
つまりは、こうやって殺しつくすのも軍人の仕事だって、そういうことだ。
俺たちにできるのは、この圧倒的な力の向かう先が自分や知人でないことを祈り続けることくらいってな。
不本意にも見慣れてしまった光景の中、重なって倒れていく人影にカイエンさんの姿が無かったことは救いになったぜ。
俺とケフカさんしか生きるもののいない城の中を、高笑いがこだまする。
「城主も討ち取りましたし、そろそろ帰りましょう、ケフカさま」
「ツマンナーイ! たったこれだけか!?」
「これだけです。ケフカさまもこれでレオ将軍との共同任務が終わって嬉しいでしょう? 魔導アーマーも無事みたいですから、あとはベクタへ帰ってゆっくり研究でもしてたらいいんじゃないですか?」
機嫌を取ろうとまくし立てる俺に、きょとんとした瞳を向けてくるケフカさん。
ある意味純粋なその表情が、怖いと思っていた頃が懐かしい。
「それもそうか。じゃあ僕ちんはこのまま帰る! 後のことはやっておけよ!」
ひと暴れしてとりあえず満足したらしいケフカさんは、それだけ言ってさっさと踵を返していく。
俺も、ようやく休暇がもらえそうで喜ばしい限りだよ。
とりあえず、レオ将軍のところへ帰って報告を済ませてしまおう。
凱旋だ。
************
12話投稿です。
前回もコメントを頂きましてありがとうございました!
シャドウについては後々に言及するつもりです。
また次回もよろしくお願いします。それでは!