ケフカさんの言いつけどおり、俺はレオ将軍の部隊に合流してナルシェへ向かうことになった。
任務内容について、他言無用との命令は受けてはいないが、やはりここは黙っておくのが賢明だろう。
「お前、一体何を企んでやがる! ケフカの部下と一緒に寝泊りするなんて空気が悪くていけねえよ」
「彼も任務なのだから仕方あるまい。そんなことより、じきにナルシェだ。各自戦闘の最終準備を怠らないよう指示を出しておけ」
部隊長のレオ将軍があっさり受け入れてくれたおかげで、俺の精神的疲労の他に弊害はなさそうだ。
前回ビッグスたちが訪れた視察任務とは違って、今回は戦の為に訪れたナルシェでは、ガードたちが待ち構えていた。
まずはここで、第一戦か?
レオ将軍が指示を飛ばしているのが聞こえる。
こちらから手出しはせず、警戒状態で陣形を取って進軍、だとさ。
リターナーと帝国と、どちらに気持ちが傾いているのかは分からないが、今のところは中立を宣言しているナルシェだけあって、卑怯を嫌うレオ将軍はこちらから攻撃を仕掛けるつもりはないらしい。
めんどくせえ。
とは思うものの、上官命令には従うけどな。
俺の配置は最前線。
この次に交戦する予定のリターナーに接触するときに必要な措置だったから、自分から願い出ていたりする。
今までの俺はなんだかんだ言ってケフカさんの周りで突っ立っていたから、こうして敵を倒すかやられるかの緊張感を味わうのは随分と久しぶりのことになる。
「おい、お前はさっさとやられて来いよ。止め刺されんのをしっかりと見届けてケフカのヤツに報告しておいてやるぜ」
「てめえ、ふざけんな。万年一般兵の根性ナメんじゃねえぞ? せいぜいレオ将軍の陰にでも隠れて震えてろ」
同期とこうして軽口を叩き合うのも、久しぶりだ。
一触即発の空気の中、ガードの飼い犬が襲い掛かってくる。
まあ、死なねえ程度に暴れてくるかね。
敵に囲まれる心配が無いのはいい。
でも陣形を乱せないのは面倒だ。
切りかかられ、避けると後ろに一つの悲鳴。
お返しとばかりに切り倒せば、視界の端からワンころの襲撃。
仕官したてのころには、こんな光景を夢に見て怯えたこともあったかな。
肌に突き刺さる戦いの空気から感じるものは、今では疲労感でしかないってのに。
斜め前に見える帝国兵が、喉元に噛み付いたワンころを引き剥がそうとした体勢のまま倒れこんだ。
そちらに気を取られたガードの隙を突いて、正面のガードを振り払う俺の手は汗で滑ってマズイ状況になっていたりもする。
本当に、こんなもんは早く終わらせるに限るよな。
戦う時間が短けりゃ、休む時間が増えるわけだし、それに何より。
「あんまりトロトロしてると、雷に打たれて敵ごと消し炭だぜ」
きっとそろそろ俺らの後ろに、あの人が来ちまうよ。
「全員、直ちに後退!! 陣は忘れろ! 急げ!!」
突如、レオ将軍の声が響き渡る。
状況を理解するよりも早く、ガードに背を向けて走り出す俺。
チャンスとばかりに背を刃物が掠める気配がしたが、そんなもんに構っていられるもんか!
後衛だった連中を追い抜き、必死に走って、とにかく走って。
そろそろ息が切れてきたから足を止めた、その瞬間。
大気を切り裂くかのような轟音と共に、あたりが一瞬白く染まった。
続いて暗転。
いや、強すぎる光をまともに目に入れたせいで眩んでいるだけか。
瞬きを何度も繰り返し、ようやく目が慣れてきたところで背を向けていたガードたちに向き直る。
「しっかし、酷いな」
そこには死屍累々と横たわる、ガードたちと何人もの帝国兵の姿があった。
逃げ遅れたか、逃げなかったか。
運が悪かっただけとも言えるし、ちょっとばかり下調べが足りなかったとも言える。
どちらにしろ、俺は死ななかったし、ガードという差し当たっての脅威は消え去ったと思って間違いないだろう。
不謹慎にも安心してホッと息を吐き出したのと、どちらが早かったか。
再び響き渡ったレオ将軍の声には、明らかな怒りが込められていた。
「どういうつもりだ、ケフカ!! 帝国兵を、おれの部下を! 巻き込むような攻撃をする必要がどこにあった!?」
街外に出ていたガードに、生き残りはいなかった。
対して帝国側の被害の方は、レオ将軍の部隊が3分の2程度に減ったのみ。ケフカさんの部隊には傷一つ付いていないことを考えると、大快挙と言っていいのではないだろうか。
だって相当強かったぞ、ガードども。
「うるさいねえ、レオ。今回は急ぐ必要のある任務なんだよ。あのまま放っておいたらどれだけかかったか分からないだろうが、この無能が!」
てめ、このピエロ野郎! レオ将軍を無能呼ばわりした挙句、高笑いとは何事だよ!?
そりゃあ確かにこれじゃヤバイとは思ったさ! ケフカさんがいなきゃもっと兵が死んでたかも知れねえとは思うが!!
それでも、それにしたって、やり方、が……?
「第一、お前がそう煩いから先に宣言してやったじゃないですか。逃げる時間は十分にくれてやったのにこうなったんだから、上官が無能なんですよ」
なるほど、分かった。
この人、こうやってレオ将軍をバカにしたくてわざとやったんだ。
考えてみれば確かに、普段だったらこういう行動を起こされたとき。
「生き残れるのは、たまたま最後衛にいた兵だけです」
ポーションを飲み終わって、小さく呟いた俺に視線が集中した。
レオ将軍まで、責めるような目で俺を睨みつけている。
居心地が悪い。
非常に居心地が悪い。
しかしながら、ここでみんなに罵られたりなんかして不機嫌になられた場合、より困ったことになるのはケフカさんの方であることも確かなわけで。
「俺は最前線にいました。いつものケフカさまだったら何の前触れも無く魔導で殲滅していたはずで、そうなっていたら当然、俺は生きてここにはいません」
「そう! 俺サマがわざわざ退却の時間をやったんだ! 感謝しなさい!」
結局、不本意にもケフカさんのフォローなんて事をやっちまった。
すみません、レオ将軍。
俺は八つ当たりでケフカさんに殺されるよりも、貴方に嫌われるほうを選びます。
ナルシェの守りを突破して向かう先は、炭鉱ではなく切り立った崖の上。
帝国の求める幻獣は今、そこで静かに眠っているらしい。
「お前、こんな時に役に立たなくてどうするんだよ!」
「す、すみません。ちょっと、ポーションじゃ塞がらない傷だったみたいで」
俺は残念なことに、ガードから切りつけられた背中の傷が予想外に深かったため、レオ将軍から戦力外通達を受けてしまった。
当初の予定通り、前線に立っていち早くティナたちに接触することが不可能になってしまったのだ。
ケフカさんは怒った。
それはもう、泣きじゃくる子供のように怒り狂った。
ケフカさんの部隊へ戻れと言うレオ将軍と、そのまま前線に立てというケフカさんの板ばさみになり、さすがに心が折れかけていたところで出た妥協策が、レオ将軍の部隊を後ろで観察し、戦闘が終わってから彼女達とコンタクトを取るというもの。
無理言うな、と言える立場では無かったから、渋々ながら了解してしまったわけだが。
「ケフカさまは先に幻獣の確保ってことでしたけど、どうするんスか?」
「俺サマはもう知らん! レオのヤツ、オレの部隊を横取りしやがって!」
へそを曲げてしまったため、全て状況が整ったころに勝手に出てくることに決まったようだ。
我慢できなくなればさっきのように自分から手を出してくるだろうから、俺もそれ以上は何も聞かないことにした。
色々と事情が変わってしまったこともあり、俺に与えられた任務にも少しばかり変更が出ている。
ここでリターナーを確実に殲滅することができない可能性が出てきたため、セリス将軍には今後も彼らに同行してもらうのだという。
本人はここで帝国に合流するつもりのはずだが、そこは俺がなんとかしろとのこと。
「ケフカさま、さっきみたいに魔導で一気に蹴散らしちゃうとか、無理っスか?」
「バッカもん! あんなの何度も打てるわけ無いでしょうが! 今日は打ち止めだよ!!」
いらねえところで本気出して、この後は大したことはできないんだってよ。
どっちがバカだよ。
とは、さすがに言わなかったが。
作戦も決まり、決行のときが訪れる。
リターナーから選りすぐったのであろう足止め部隊には、見知った顔が多すぎて驚いた。
ティナとセリス将軍は当然のこととして、ドマで出会った筋肉男とカイエンさんまでがリターナーの実動部隊に参加していたとは。
遠目に見える様子から察するに、フィガロ城で後ろ姿だけ見かけたバンダナ男もいるし、一番ありえないと思ったのはフィガロ国王が混ざっていた事実。
普通はな? 王サマってのは後ろに引っ込んでふんぞり返ってるもんなんだよ。
たとえば、奥でボーっとつっ立ってるヒゲもじゃのように。
だってのに見てみろ、あの王サマ。かなりエグいぞ。
さっきからぶん回してんの、アレ確かかいてんのこぎりだろ。
俺は無理だね。
あんなもん人間に向けて攻撃するなんて。
しかしながら、これはいよいよマズイ状況になってきた。
予想とかけ離れすぎた戦力を、リターナーが有していたのだ。
既に帝国軍はほぼ壊滅状態になっていて、戦う力を残しているのはレオ将軍と副官の2人だけ。
「やばいです、ケフカさま! レオ将軍が!!」
最後の頼みの綱はケフカさんしかいない。
が、しかし。
「負けろ! 負けろ! レオやられろ!!」
ダメだあの人。
全く助ける気なんかねえ。
こうなってしまったら、俺の取るべき行動は一つしかなかった。
レオ将軍に向かって、フィガロ国王がきかいを向けるのが見える。
――大丈夫、きっと大丈夫だ。急げばいい。
敵側にはティナもセリス将軍もいる。
最悪の事態は、避けられるに決まっているんだから。
「待ってください!!」
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14話投稿です。
主人公もちゃんと兵士をしていることをアピールしたかった。
でも戦闘シーンなんて難しいもの書けなかったんだ。
前回もコメントありがとうございました!
これからも読んでいただけたら嬉しいです。
そしてできたら、また一言声をかけていってください。
それでは。