「そ、の環が何であれ、あなた方に不利益を与えることはないと思うんです」
だから本当に、そこに触れるのはやめてください。
俺の必死の説得が功をなすことは無く、それどころか、以前俺が国王にもらした情報の1つが重大な意味を持ってしまっていた。
「君は言ったね。あれは手足が千切れても、無理矢理体を動かさせるほどの強制力を持っている、と」
うわ、ソレ、確かに言ったわ。
「その上、今この近くにはケフカもいるんだろう? 彼にそんな無茶をされては、こちらも困るんだ」
それは俺も困る。
レオ将軍のいない帝国軍なんて、しかも将軍が2人ともいなくなってケフカさんが今以上に威張り散らすような帝国軍なんて!
「それに、君の言ったことをそのまま信じるとすれば、彼の命を奪ったとして、次にやってくるのはケフカのはず」
その通りです。
でも、その環をどうこうするのはカンベンです。
「だからその環がティナの身に着けていたものと同じかどうか、教えてもらえると助かるんだが」
ただの装飾品だと言い張りたい。
だが、そんな嘘はおそらくレオ将軍自身によって暴かれてしまうだろう。
取れないもんな、自分では。
悶々と悩む俺。
目が泳いでいることは分かっている。さすがの俺でも平然としているなんて無理だ。
そんな様子を容認してくれなかったのは、同期であるレオ将軍の部下だった。
「おい、どういうことだ! まさかお前、ケフカの野郎と一緒になってレオ将軍に何か」
「ホントお前黙れよ」
空気読んでくれよ、頼むから。
「黙れるか、こんちくしょうが! 何を考えてそんなモンつけてやがるんだ!」
全帝国軍人のことを考えて。
あわや逆ギレしそうになったその時、更に口を挟んできたのは筋肉男だった。
「なあ、将軍さん」
しゃがみこんで、地に崩れ落ちているレオ将軍と目線を合わせる筋肉男。
頼みごとをするときは対等な立場でものを言うってことが分かっている、随分と誠実な男であるらしい。
さすがあのフィガロ国王の弟だな。
「この前、ドマ近郊でオレを逃がしてくれたとき、言ってたじゃないか。気持ちはリターナーに近いって」
あれ、そんな話してたのか?
「最近のケフカの行動が赦し難いって、そう言ったろ?」
あ、俺やケフカさんが出て行った後のことか?
逃がしたときって言うなら、たぶんそうなんだろう。
俺がキャンプに戻ったときにはもう、彼らはいなかったのだから。
「アンタみたいな人が帝国にいるなら、オレたちの行動は絶対に無駄にはならない。だからさ」
言いながら、こちらに視線を向けてくる。
「この人を操るようなことは、してもらっちゃ困るんだ」
言いたいことは分かった。
要するに、帝国と交渉をするときの足がかりになるとでも思っているんだろう。
目の付け所は悪くないとは思う。
実際、今の帝国で一番理性的に物事を考えられる人はきっとレオ将軍をおいて他にはいない。
リターナーに対して同情的な感情を持っていることは軍内でも密かに知れ渡っているし、今のレオ将軍ならばケフカさんを押さえ込んで会議に持ち込むこともあるかも知れない。
だが、それならば尚更。
「今のままのレオ将軍でいて欲しいなら、それは外しちゃダメです」
「……どういうことだい?」
「お察しの通り、それはティナが身につけていた操りの環とよく似たものだそうです。ケフカさまがフィガロ城内でレオ将軍にお渡ししました」
レオ将軍に目を向けると、ゆっくりと頷いてくれる。
そうだよな。
本人が知らないはずが無い。
だってそれは。
「ご自分で身につけたんですからご存知ですね、レオ将軍?」
そう。
この人はケフカさんからの初めての贈り物だとたいそう喜んだ挙句、自らいそいそと装備したのだ。
「レオならやりかねん」
さっすがセリス将軍。わかってらっしゃる。
「私はその環を外すことには反対だな。今後リターナーが帝国との交渉も視野に入れているなら尚更だ」
もっと。もっと言ってやって。
「そうです! それに、レオ将軍がやられるだけならケフカさまも喜んで見てますけど、環を外そうとしたら本気になって襲い掛かってきます! これ絶対です!!」
やべ、興奮したら傷口が開いたかも。
って、何だよ。そんな険悪な空気出さなくたっていいじゃねえかよ。
「セリス。君を疑いたくはないけれど、今の状況でそれを言うのは些か納得がいかないな」
王サマは意外とクールだった。
どうも、帝国にだけ都合のいいように話を持っていこうとしているように感じてしまったようだ。
というかね、ダメ。
もうそろそろ、ダメ。
こんな不穏な話を続けていたら、来ちゃうから!
「ってお前マジ何やってんだよ!」
レオ将軍の首に手をかけるなんて正気かコラ!?
ああああああ、ダメなんだって。本当にそれを外すとか壊すとかダメなんだって!
「見りゃ分かんだろうが。ケフカが何を企んでんのかはこの際どうでもいい。レオ将軍の危機は副官の俺が救うんだ!」
空気の読めない愚か者が、ここに1人。
試作段階ながらも多大な効果を示していた救世の神器が、それゆえの脆さで音もなく外され、呆気なくも地に落ちた。
文字通り憑き物の落ちたレオ将軍が、疲労のせいで濁っていた瞳を輝かせる。
満足そうな様子のリターナーどもと馬鹿同期を尻目に、焦ったのは俺とセリス将軍。
ティナはむしろ、この世の楽園に辿り着いたかのように満面の笑みを浮かべているのは、見なかったことにしておく。
「セッ、セリス将軍! ケフカさまが!!」
「分かっている!! 全員下がれ! ヤツが来るぞ!!」
彼女の動きは機敏だった。
ティナを更に後ろに下がらせ、レオ将軍を引っつかんで立たせると、そのまま剣を振りかざす。
噂の、まふうけんというものだろうか。
この目にしたいという好奇心は未だ尽きないものの、今はそれどころではない。
幸い、この事態についてこられていないバンダナ男は俺から注意が逸れている。
「ティナ! 逃げるぞ!!」
きょとんと立ち尽くしていたティナの元へ走り、腕を掴んで奥へ走る俺。
国王やカイエンさんが立ちふさがるのを何とかすり抜けて向かう先は、幻獣の元だった。
せめて幻獣は確保しないと、どっちにしろ殺される!!
背後で響き渡る爆音なんて聞こえないと、自分に暗示をかけながら。
「ティナ。あの幻獣の確保、できるな?」
「う、うん。やってみる」
「よし。……これが終わったら、好きなところに帰るといい。ケフカさまは君を帝国へ連れ帰るつもりだけど、彼らの方を選んでもいいんだ」
幻獣さえ確保すれば、とりあえず機嫌は直るはず。たぶん。きっと。おそらく。
だから、俺はもともとティナだけは、自由にしてやるつもりだった。
「どうして? 私はもういらない?」
「そうじゃなくてよ。これだけずっと一緒に居たら情も移るんじゃないかと思ってさ。ただ1つ頼むとしたら、リターナーにつくならレオ将軍も連れて行ってくれ」
予定にちょっとばかり打算が含まれただけで。
今のケフカさんはヤバイ。
このまま元に戻ったレオ将軍が帝国に帰ったらヤバイ。
本気で世界を壊しつくす気がする。
そこで俺は考えたわけだ。
レオ将軍、近くに居なけりゃいいんじゃね?
そうだ。レオ将軍が帝国を裏切ったとなれば、当然帝国は全力を挙げて制裁を加えることになるだろう。
まさかあの人が俺らにやられるはずもなし、ケフカさんもレオ将軍と敵対することになればむしろ機嫌が良くなるかも知れない。
結果として帝国が負けるようなことになったとしても、俺はむしろ本望だね。
「なら、君も来るかい?」
追いかけてきた連中から、意味の分からない言葉が聞こえてくる。
振り返るのも怖いな。
「私には分からないんだ。ケフカの忠実な部下にも見えるし、誰よりもケフカを恐れて疎んでいるようにも見える。私としては、ケフカの心理に詳しい君も居てくれたほうが、何かと都合がいいんだけどね」
冗談言うな、イケメンだからって何言っても許されると思うなよ?
っつうか、いつから聞いてやがった。
「残念ですが、無理ですね。レオ将軍が帝国にお帰りになるなら、俺も当然戻ります」
「彼が我々に味方するとしたら?」
「その時は、うっかりケフカさまに殺されるのが嫌なんで帝国に戻ります」
レオ将軍は敬愛しているが、ケフカさんに嬲り殺されるのは断じて拒否する。
話しながら、こっそりとティナを幻獣のもとに促すと、彼女はゆっくりと進んでいった。
遠くでは、変わらず爆音が響き渡っているまま。
「本当に残念だ。君のような男が仲間に居てくれたらと思ったんだが」
「俺も、あなたのような上司だったらと何度も思いましたよ。いっそ帝国軍に就職しませんか?」
何とか間をもたせようと会話を続けると、意外な返事が返ってきた。
「それもいいね」
うっかり気が抜けるからやめてくれって。
へらへらと笑う彼からは全く考えが読めない。
「今の皇帝とケフカには牢にでも入ってもらって、私が即位するんだ。民衆には平和な世を約束することで認めてもらって、君は私の部下になる。うん、いい考えだ」
おお、確かにいい考えだ。
「ぜひとも、実現してみてください。俺は今まで通り帝国軍で雑用をしながら見守りますから」
フィガロの国王がガストラ皇帝に取って代わり、レオ将軍やカイエンさんが率いる軍で平和に任務をこなす。
素晴らしい話だって、マジで。
ありえないはずの夢物語が、現実のように感じられる。
そういえば、背中の痛みをだんだん感じなくなってきた。
俺、かなりヤバイな。
失いそうになる意識を必死に保ちながら、俺は後ろを振り返った。
ティナが幻獣と反応し、妙な光に包まれている。
今後のことがどうなるかは分からないが、どうやら俺のすべきことは終わったらしい。
いつの間にか、爆音は止んでいる。
ああ、セリス将軍、無事だったのか。
お、レオ将軍とアイツも居るな。
ケフカさんは、来ないみたいだ。
とりあえず同期よ。俺、疲れきったぜ。
後のフォローは、よろしく頼む。
崩れ落ちる自分を認識しながらも、俺はもう立っていることはできなかった。
さんざん俺を嫌い尽くしていた同期が、どこか心配そうな表情で走りよってくるのが見えた気もするが、それはとりあえずおいておこう。
誰か。
俺にエクスポーションを下さい。
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16話投稿です。
本当はここまで書いてあったけど、あえて途中で切ったんだ。
あんまり面白くなかったら申し訳ない。
前回はたくさんのコメント、ありがとうございました!
変更はしないけど、今回も異論は受け付けます。どんどんどうぞ。
それでは、次回も読んでみてください。