これは後から聞いた話なんだが、俺はあの後完全に気を失っていたらしい。
出血による体力の消耗で戦闘不能、なんて、笑えない状況に陥っていたのを助け出してくれたのは、驚いたことにティナだったんだとか。
「あの時は驚いたぜ! こう、ぴかーっと光ってしゃーっと飛んで、ふわっと浮かんで、またがーっと……」
「お前馬鹿だろ」
状況を知りたいとは思ったのだが、生憎と俺の同期はあまりの恐怖体験に頭が混乱したままらしく、詳しいことは分からないままだ。
どうしても知らなければならないというわけでなし、深く追求することはしなかった。
そんなことよりも、もっと重要なことがあるからなんだが。
「それで、ケフカさまとレオ将軍はどうなった?」
「レオ将軍は、元に、戻っちまった。最近の、あの、様子が、嘘の、ように」
ああ。まあ。そうだろうな。
お前のせいでな。
情けない顔をしてうなだれる彼を励ましてやるほど広い心を持っては居ない。
「ってことは、一応命は無事なんだな?」
「以前に増して、お元気だ。まるで魚の尾びれのように、ケフカの背後を右へ左へ……」
それでよくもまあ、命が続くもんだ。
さすがはレオ将軍。俺の尊敬レベルはまた上がったぜ。
「よし、必要なことは分かった。助かったよ」
それにしても、なんだってコイツはこんなに怯えた様子であたりを伺っているのか?
「お、お前は平気なのか!?」
だから、何がだ?
「あの環だよ! ケフカの目の前で外しちまったのは俺たち2人だ。せ、制裁、とか……」
ああ、なるほど。ケフカさんに怯えてたのか。
安心しろって。怒りに触れたその場でならそれもあるかも知れねえが、これだけ日にちが経ってれば大丈夫だよ。
だがこれだけは言っておく。
「アレを外したのはお前1人だからな」
そこさえ誤解が無いならば、フォローくらいはしてやるよ。
「いい加減にあの男を何とかしろ!」
「いやー、ちょっと俺らみたいなヒラがどうこうできる方じゃないっスねー」
「そもそも! あの時のクズがだらだらと話なんかしてなければ、俺サマの計画は完璧だったのだ!!」
「本当にけしからんですね、どこの誰ですか、その無能は」
「……お前、似てない?」
「そんな滅相もないっス! 俺なんかがケフカさまの大事な任務を言い付かったはずないじゃないですかー」
皆さんどうも。相変わらずケフカさんの部下なんてやってます、俺です。
任務に失敗した事だってありますが、こうしてなんとなく平和に生きてます。
どうせこの人、俺ら一般兵のことなんかそこらのジャガイモかカボチャ程にすら認識してねえし、まともに相手なんかする必要は全く無い。
ケフカさんに慣れきった俺と、それ以外の連中の一番の差はこういうところだ。
不必要にビビると却って危ないってことくらいは、みんな覚えたほうがいいぜ。
「で、次はティナと共同で魔導研究でしたっけ?」
「冗談にもならないことを言うんじゃない! アレは幻獣界の扉を開かせる」
意味が分からん。
「えー、とりあえず、俺が知らなきゃならないことだけ教えてもらえます?」
ケフカさんの説明によると、ガストラ皇帝からの指示であるティナとの魔導開発はケフカさん1人で行い、彼女には幻獣を呼び出す仕事を与えるらしい。
「それ、命令違反ですね。ヤバイですね。不味いですね」
「うるさーい! 逆らうならどうなるか分かってるだろうな!?」
別に逆らう気はないが、ケフカさんの命令違反に付き合って俺まで反逆罪なんて冗談じゃねえとも思う。
その場は適当に同意だけして乗り切った俺は、レオ将軍に事の次第を報告することにした。
「ということです」
「なんと! ケフカがそんなことを考えていたとは……」
「大変ですよね。どうしましょうね」
レオ将軍は沈んだ表情で考え込んでいて、その様子からはケフカさんへの憤りや不快感というものは感じられない。
「それもこれも、おれがアイツに酷いことを言い続けたから……」
いや、それ絶対関係ないっス。
「しかし! ただでさえ部下から引き離されて落ち込んでいたはずなのに」
「全然落ち込んで無かったです」
「自分1人でもドマを攻略しようと知恵を絞った作戦まで潰してしまった」
「あの毒は使わなくて正解です」
こうなってしまったレオ将軍は誰にも止められない。
ケフカさんでも止められない。
結局、レオ将軍は力の限りケフカさんの命令違反をフォローすることに決めたらしい。
俺の方は、せいぜいがケフカさんのゴキゲンを取るために、こっそり注文しておいた新しい人形を献上したくらいだ。
当分はあの辛気臭い研究所で缶詰にされることだろうし、今のうちにしっかり酒を飲んでおくことは決めておいたが。
3日後、ベクタは壊滅した。
焼け落ちた城下は未だ、住む家を失った人々が溢れかえっている。
レオ将軍は想定した以上の被害を憂い、城内への民衆の受け入れのため奔走しているらしい。
不幸中の幸いと言うべきか、軍人以外の人的被害がほとんど無かったことだけは救いだった。
レオ将軍が、俺の報告を聞いた直後に1人の男を雇っていたからだ。
名前はシャドウ。ドマ近郊で俺が見つけたマスクの男だ。
ケフカさんには内密に彼をティナの監視につけていたらしいのだが、封魔壁をティナが解放したときに現れたらしい多数の幻獣たちがベクタに向かっていることにいち早く気づいた彼が、レオ将軍に事態を伝えたことが理由だったのだとか。
あの時ばかりはケフカさんも真面目だった。
このままじゃ自分も危ないと言って、必死に対抗したのだ。
途中で進路を変えた幻獣は取り逃がしてしまったが、ベクタへ一直線に飛んできた連中は全て、ケフカさんの力で魔石に変えられていった。
俺はその様子をただただ見つめることしかできなくて、後になって考えると自分の無能さには頭を抱えるしかない。
レオ将軍以下、ほとんどの兵が民衆の警護にあたり、その9割は幻獣によって命を落としたというのに。
唯一残っていた同期の、あの男も。
今や帝国は、世界を手中に収める強大な国家では無くなっていた。
こんな事態に一番早く反応するのは、当然リターナーたちだ。
何の意味も無いとは思うのだが、今まともに動ける兵は総動員して場を整え、リターナーとの会食に臨むのだという。人数ばかり集めるところは、誇りなのか見栄なのか。
「レオ将軍。お気持ちは十分に分かるつもりですが、あまり塞いでいると体にも障りますよ」
「ああ、君か。しかし、ケフカとティナを止めなかったことがこんな事態を引き起こすとは」
レオ将軍はこの事態をとても悲しんでいる。
当然だ。
俺やレオ将軍は、ケフカさんの独断で封魔壁が開かれることを知っていたのだから。
もちろん、俺もそのことに責任を感じていないはずが無い。
レオ将軍と違って、自責の念よりも幻獣への怒りの方が大きいだけであって。
それを伝えると、レオ将軍は諌めるように俺に言った。
幻獣たちの怒りは、当然のことなのだと。
「どういうことですか?」
「セリスやケフカの持つ魔導の力。あれは、どうやって手に入れたのだと思う?」
そういえば、あまりそれについて考えたことは無かった。
どこかから魔導の力を手に入れたということなのだろうが。
「君も見たはずだ。ケフカが彼らを魔石に変えていく様を」
まあ、あれは壮絶だったから忘れられるはずもないが、それがどうしたというのか。
「おれも、魔石がどうやって作られていたかまでは考えたことが無かったのだ。だが、あれを見てようやく分かった。幻獣たちの命こそが、我々の誇っていた魔導の力の源だったのだと」
その言葉は、意外なほどあっさりと俺の心に落ちてきた。
へえ、なるほど。
と、その程度の認識だったと言ってもいい。
だが、その軽さとは裏腹に、今までに感じたことが無いほどの衝撃があったことも事実だ。
ついこの前まで、面倒だとしか思っていなかった上司の奇行の1つ1つを思い返して。
かつてレオ将軍と並び称された優秀な研究者は、けして自己主張の激しい人物ではなかったと、仕官当時の先輩から聞かされたことがある。
興味が無かったからあまり気に留めていなかったのだが、もしかしたら彼らやレオ将軍の言っていた通り、魔導実験の後から何かが狂っていったのかもしれない。
「レオ将軍」
釣られて沈み込みそうになる気分を払拭するために、意識していつも通りの軽い口調で話しかけてみると、やっと将軍がこちらに視線を向けてくれた。
俺のような一般兵のいる前では常に、将軍としての責任感からかとりわけ毅然とした態度を取り続けていたレオ将軍だったから、こんなに落ち込んだ様子を見るのは初めてだ。ケフカさんとケンカしたときを除けば。
「ここは軍人らしく考えましょう。こちらの被害は9割、その成果は魔石の多数確保です。今回のことでレオ将軍の評価は更に上がってますし、もしかしたらケフカさまの功績も好意的に評価されるかもしれません」
なんと言っても、今回の襲撃を退けた立役者なわけだし。
「帝国の未来を担う少年達は救われました。これは、死んでいった兵達の功績ですね! さすがはレオ将軍の部下だけあって、自分の命をかけてまで救うべきものは分かっていたってことじゃないですかー」
続けた言葉に、レオ将軍ははっとした表情を浮かべた。
うん、いい感じだ。
いい言葉だよなー。自分が死んだとき、こう言ってくれる人がいるのなら、帝国の為に命を捧げるのも悪くないって、そう思う。
初めてこの言葉を聞いたとき、俺は感動して言葉も出なかった。
「まだ小国だったガストラ帝国の少年将軍が、昔俺に言ってくれた言葉なんです」
だから、思ったんだ。
俺は絶対、この人の役に立てるようになろうって。
「彼らもそうですが、俺も。レオ将軍と、レオ将軍の愛するガストラ帝国の為なら、どんな任務だって喜んでやりますから、安心してください」
それこそ、ケフカさんのお守りだってやりきってみせる。
言いながら微笑んでみると、ぎこちないながらもようやく笑みを浮かべてくれた将軍。俺はそれに安心して視線を逸らし、更に続けた。
「リターナーから使いがあったそうです。近々、彼らとの交渉の席が設けられます。ケフカさまとレオ将軍には、その場に臨席するようにとのことでした。ティナも召集されているようです」
今や完全に逆転した戦力を背景に、事態はどんどん動き出す。
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17話投稿です。
展開を早くしてみた。早すぎだろ! と思ったら教えてください。
主人公がレオ将軍のシンパな理由を説明しておきたかった。
ついでに今回は捏造多数。異論、反論受付中。
前回もコメント、ありがとうございました!
色々お答えするべきものがあるとは思うんですが、一番重要なところだけ。
原作未プレイだという方からコメントを貰ったのは初めてだったので慌てました。
レオ将軍はこんな人じゃありません!
レオ将軍は断じて壊れた人じゃありません!
本物を知った後の批判は受け止めます。すみません。
それでは。また読んでみてください。