リターナーとの会食は、ベクタの城内で行われることになった。
帝国側から出席するのは、皇帝の他、レオ将軍、ケフカさん、あとは皇帝の親衛隊と魔導研究所のシド博士、それにティナだ。
俺たちは準備だけ整えた後は、詰め所で待機することになっている。
「せ、先輩! 自分たちにはケフカ様の説得は無理です!!」
「はっはっは。俺の苦労を思い知れ、新入りども」
今回は俺が会食準備という重大任務を仰せつかっているため、ケフカさんを会食に出席させるための交渉は別のヤツに押し付けてやった。
いや、普段なら仕方ないから俺がそれも引き受けてやるところだったんだが、新しくケフカ軍に配属になった連中が聞き捨てならねえことを言っていたのが聞こえちまったんだよ。
いわく、ケフカさんのお守りほど兵として楽な任務は無く、それだけで俺のように戦火を逃れることができるのがわかっていれば、自分達もその任務についていた、と。
もうふざけんなって感じだよなー。
帝国軍人の誇りはどこへ捨ててきたんだって思ったよ。
しかも、楽な任務って何だ、楽な任務って。
俺がこうして一見平和に生きていられるのが、先人たちの尊い命を懸けた教えあってこそだって事が分かってねえ。
まだ若い連中の言うことだし、普段だったらなんだかんだ言って許してやったんだが、今回ばかりは気持ちが治まらなかった。
とまあこんなわけで、ケフカさんの怒りを買ったらしい新たな同僚たちをフォローしてやる気は全くないってことだ。
「ケフカさまのお付きが楽な任務だって自分で言ったんだぞー? 俺はこれから会食の準備に行かなきゃならねえから邪魔すんなー」
既に、リターナーは城内に入っているし、そろそろ皇帝との謁見を終える頃だろう。
でかい図体で半泣きになっている男などというむさ苦しいものに構ってやる暇などあるはずも無かった。
「何か、手伝うこと、ある?」
けして狭くはない会食場で1人、黙々と準備を進めていた俺に声をかけてきたのは、直接話すのは久しぶりになるティナだった。
「ああ、ティナか。いいや、もうすぐ終わるから席で待ってろよ」
できるだけ優しく聞こえるように答えを返すと、綻ぶような笑みを浮かべて頷く。
なんつうか、かーいいな。
幼い頃そのままの仕草は、かつて俺の親心というものを生んだ純粋な少女を彷彿とさせてくれたりする。
それでも、誰かが守ってやらなければ、生きることさえままならなかったあの頃と違って見えるのは、長い旅の間に培った経験があるからだろうか。
そういえば、ナルシェで俺を助けてくれた礼を、まだ言っていなかった。
「ナルシェでは、ティナが助けてくれたんだってな」
「う、うん。あの時は必死で、よく覚えてないんだけど」
「それでも、助かったよ。ありがとう」
もう一度頷いたティナは、どこか誇らしげにも見える。
礼を言われる、ということに慣れていないのかもしれない。
これ以上はかえってティナが居心地を悪くしてしまうかもしれないし、他の話題にしておくか。
「そういえば、レオ将軍は一緒じゃなかったんだな?」
てっきり2人で来るかと思っていたんだが。
尋ねた俺に、ティナは不思議そうな顔をして聞き返す。
「レオさん? ケフカを誘ってくるって嬉しそうにしていたから、あの2人で来るんじゃないかしら?」
なんだって?
レオ将軍、先走りすぎだろ。
「ねえ、ケフカはまだ来ないの? 私、本当はまだリターナーのみんなとは会いたくなかったけど、ケフカと一緒にご飯が食べられるって言われたから来たの!」
うきうきしてんね、ティナちゃん。
そうだったよな。お前もケフカさん大好きだもんな。
しかし、意外だ。ナルシェでの様子を見る限りイケメン国王やら青バンダナやらに可愛がられていたんだと思っていたが、やはり帝国へ飛んだという事実は気まずいのだろうか。
「旅の仲間に、会いたくはないのか? もしかして、苛められてたか?」
「ううん。みんないい人ばっかりだった。でも、あの人たちはケフカのことが嫌いだから、せっかくケフカといられるのに、楽しくないかもしれない」
ああ、なるほど。そっちか。
確かに、そうだろう。
リターナーにとってケフカさんは帝国の非道を先導する悪の魔導士だ。
むしろ、世界共通の認識として、あの人は悪の魔導士だ。
おまけに、ほんの短い期間ではあるが、ティナたちにはセリス将軍が同行していた。
言いたい放題言っただろう。間違いなく。
もともと彼女はケフカさんをよく思っていなかったし、それを発散しようにも、隣には必ずレオ将軍がいた。
セリス将軍がわざわざレオ将軍の後ろを追い掛け回していたわけだから、レオ将軍には罪はないものの、溜まった鬱憤を晴らすには最適の環境だっただろう。
「一緒に悪口言っておけば良かったのに」
「ケフカは何も悪くないわ!」
失敗した。
ちょっとした軽口のつもりだったが、ティナの機嫌を損ねてしまったらしい。
親衛隊もそろそろ着席してくるはずだし、俺がいつまでもここにいるのもまずそうだ。
「ああ、悪かった。じゃあ、俺はそろそろレオ将軍を探しに行ってくるから、そのまましばらく待っていてくれ」
女のヒステリーからは、逃げるに限る。
裏から会食場を出てしばらくすると、あたりの空気がいつもと違うことに気づいた。
みんなやけに深刻な表情をしているから、どうやら何かあったようだ。
「おい、どうした?」
手近にいた男に事情を聞くと、どうやらリターナーたちは、会食の準備を待つ間に帝国兵を説得して回っているのだという。
結果、ほとんどの兵がなんとなくリターナーに共感したり、なんとなくリターナーに同情したりしてしまい、よどんだ空気だけが残された、ということだ。
まあ、そこまではいいだろう。
別に俺に害があるわけでもないし、この程度の影響は上層部で予想しているだろうし。
だが問題は。
「で、そのリターナーの面々はどっちに行ったって?」
「それが、いつの間にか2階へ上がっていったらしくて」
そっちは将軍方の居室だ馬鹿ヤロー!!
いかん。このままではいかん。
今そっちではレオ将軍とケフカさんが対面中かも知れないんだ!
俺は守らなくてはならない。
帝国の誇りを。
レオ将軍の威厳を!
素のままのレオ将軍なんて、リターナーに見せられるもんか!!
「やあ、君も無事だったのか!」
「お、お久しぶり、です、国王、様。あ、セリス、将軍、も、お変わり、なく、なにより、でした」
必死になって城を駆け抜け、真っ直ぐにケフカさんの執務室へ向かっていく途中、俺はリターナーたちに遭遇した。
どういうわけか、俺と同じく、一直線にケフカさんの部屋へ進んでいたらしい。
息が切れてなんとも情けないことになってしまったが、挨拶だけは欠かさなかった自分を褒めよう。
頑張った、よくやった、俺。
「ちっ、どうした。会食の準備が整ったか?」
「ええ、ええ。後はケフカさまとレオ将軍が向かわれるのみですー! 皆様も、そろそろお戻り下さい!」
舌打ちなんてしやがりました/。
セリス将軍、美少女のイメージを壊すようなことはホントしないで。
「レオもケフカの部屋にいるのだろう? せっかくだから共に向かおうと思うのだが」
何を考えているのかはさっぱり分からないが、どうやらセリス将軍はあのレオ将軍をリターナーに見せ付けておきたいらしい。
もちろん、全力で阻止させていただくことにする。
「いえいえ、とんでもない! お客人に俺ら一般兵のする召集なんてさせたりしたら、今度こそ俺の首が飛びます! 許してください!」
真剣な顔を作る必要なんて無い。
真実、ありのままの俺の形相を見るだけで、彼らは十分に納得してくれた。
渋々もと来た道を戻っていくセリス将軍の後ろを、筋肉男とイケメンが続く。立ち止まったのは、それまでしきりにあたりを伺っていたカイエンさんだった。
「貴殿がご無事で、拙者も安心したでござる」
「心配してくださったんですか、ありがとうございます」
相変わらず渋い。
だが、正真正銘敵であるはずの俺を心配してくれたというのは、なんとも嬉しい。最近の俺は報われないことばかりで、こんな些細なことで気分が浮上していたりする。
「次に会うときは、敵同士ではないと良いでござるな」
「ええ、そうですね」
ひと時の邂逅は、少しだけ、俺の心を癒してくれた。
「で、お前らは一体何をしてやがった?」
「自分らには説得は無理だったんですって!」
「だからってわざわざレオ将軍を連れてくるとかありえないだろ! どうすんだよ、この事態!?」
意を決してケフカさんの部屋へ足を踏み入れたとき、俺が見たのは壮絶なまでの追いかけっこだった。
マジギレしているケフカさんを、至福の表情で追いかけるレオ将軍。
どっちも本気で走っているから、調度品は既に壊されつくしている。
あーあ。あれは昨日届いたばかりの洋服ダンスだ。
確か、珍しくケフカさん自ら選んできたというお気に入りのはず。
あ! 俺の献上した人形が!
ちくしょう、まだケフカさんから代金の徴収をしていなかったのに。
「先輩! 自分が悪かったっス! 何とかしてください!!」
もうお前はどうでもいいよ。
とにかく、本気で急いでもらわないとこっちも色々困るわけだし。
「ケフカさまー! レオ将軍―! じきにリターナーとの会食が始まりますよー」
ためしに声をかけてみる。
「この状況が分かってないのか!? 無能か!? 早くコイツを連れて行きなさい!!」
「あー。ケフカさまも来てください!」
罵声はあえて無視。ここが重要だ。
「なんで俺サマがこんなヤツと食事をとらなくちゃいけないんだよ! 絶対に行かない!!」
まあ、そう言うとは思った。
しかたない。この状況を活用させていただくしかないだろう。
「そうですね、もしケフカさまが会食にだけ耐えてくださるなら、レオ将軍とティナにもお行儀よくしていただきましょうよ。終わったら好きなだけ部屋で人形と戯れてくださって結構なので」
説得は俺がするからさ。
途端、レオ将軍はこの世の終わりのような悲痛な表情を浮かべ、ケフカさんは戸惑ったような自信の無い顔に変わる。
悩んでる、悩んでる。
しかし、逡巡は一瞬のことだった。
「分かった! 私は先に行きます! いいですね? レオとティナはくれぐれも私に近づけさせないように!!」
「了解しましたー」
任務完了。
なんとか会食は無事に始まりそうだ。
後ろを振り返ると、今までさんざん俺を馬鹿にしつくしてきた後輩が、キラキラと輝くような瞳で見つめてきていた。
キモい。コワい。ムサい。こっち見んな!
「と、いうわけで。ご協力、お願いします」
「そうか……残念だ。久しぶりにケフカと語らう時間が持てるかと思ったのだが」
いや、別にお食事会じゃないんだから、語らう時間は普通に無いと思うな。
ケフカさんが絡むと途端にとんでもないことになるレオ将軍の思考回路は、さすがの俺にも理解不能だ。
これさえ久しぶりのことだから、なんとなくホッとしてしまった部分もあったりするが。
それにしても、どうしてケフカさんはレオ将軍から逃げ回るのだろう。
ぶっちゃけた話、あの強大な魔導の力をそのままレオ将軍にぶつけたら、さすがの彼も無事では済まないだろうに。
「お前、その辺どう思う?」
「えっ!? たぶん、それどころじゃないくらい動揺してるんじゃないっすか? こう、とりあえず反射的に逃げてみてる、みたいな。先輩の方が詳しいでしょうけど」
「なるほど」
研究の余地はありそうだが、まあ、どうでもいいか。
疲れる任務もひと段落。これから上層部の方々は会食を始める予定だ。
ヒラ兵士の俺としては、しばらく休暇がもらいたい。
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18話投稿です。
初めのころのテンションに戻ろうとした。
ちょっとシリアス入りそうになったけど、基本は軽いノリで終わりへ向かいます。
前回もコメント、ありがとうございました!
とりあえず、主人公はケフカより年下で、レオ将軍より年上です。
それでは、次回も読んでくれると嬉しいです!