「昨日はお疲れ様でした、ケフカさま。今日は俺の休暇届を受理してもらいに来たんですがー」
リターナーとの会食から一夜が明け、城内は比較的落ち着いた様子になっている。
ケフカさんのお供は新入りに押し付けたし、新たな任務の連絡も受けていない今がチャンスと、俺は上司の元へ休暇の申請に来ていた。
いつも通りに扉を叩き、いつも通りに扉を開くと、いつもと違う光景が目に入るから不思議な気分だ。
そこにいるのは、部屋の主であるケフカさんともう1人。
「よう、元気か新入り!」
「元気じゃないっス! 自分、もう兵士やっていく自信無くなってきました」
今までなら俺か、その前はビッグスたちがいたその場所には、新入りが立ち尽くしている。
こうして、新たな世代へ後を託していくというのはなんとも気分がいいものなのだということを知った。
「それで、申請は通りますかー?」
取り立てて不機嫌そうでもないケフカさんに視線を向けたが、残念ながら全くの無反応。
どうやら、聞こえなかったことにして無視するつもりのようだ。
「ってことは、また任務があるんですね」
「あ、はい! 先輩はリターナーの方々と面識がある様子だったんで、次の大三角島行きに同行することになってます!」
彼が言うには、次の任務はリターナーと帝国との共同で行われるらしく、それにはレオ将軍やティナに加えて、リターナー側の人員としてセリス将軍が向かうことになっているという。
「あれ、ケフカさまは行かないんですか?」
俺の素朴な疑問はこれまた無視。
何だ? 妙に考え込んでいるというか、大人しすぎるというか。
任務の内容を聞く限り、これもまた幻獣に関係することの様だし、普通に考えればティナだけではなくケフカさんも同行するのが当然だと思うんだが。
そこまで考えて、そもそもレオ将軍とティナが両方とも関わっている遠征にケフカさんが関わるはずが無いことを思い出した。
このところレオ将軍との共同任務が多すぎて忘れてしまいかけていたが、元々ケフカさんは道理を曲げてでもあの人との任務は避けていたんだった。
「でも、どうして俺が? ケフカさまの任務でないなら、俺に任務が回ってくる理由なんて無いよな?」
「えーと、何でもティナ様のたっての希望らしいっス。ケフカ様と先輩と、どちらもいなければ絶対に行かないって言い張ったそうですよ?」
なぜそうなる。
いやいや、ケフカさんにこだわるのは、まあ分かる。
だが何故俺だし。
確かにまだ幼い頃にはレオ将軍がお忙しいのもあって遊び相手になってやったことはある。友人といえば精々セリス将軍くらいだったため構ってくれる人もなく、寂しそうに袖を掴んで兵達の気を引こうとする姿に心打たれて。
しかし何故俺だし。
「自分に聞かれても困ります! とにかく、伝えましたからね。出発は今日の夕方っス!」
ああ、決定なのか。
そろそろ俺、酷使され過ぎて倒れる気がしてきた。
大三角島への道中は、けして和やかなものではなかった。
レオ将軍の采配はさすがのもので、リターナーに対し比較的柔和な態度を示している兵達だけで編成された、ごく少数での遠征隊であったものの、つい数日前まで敵同士だった両者が進んで関わりを持つこともない。
結果として目に見えた諍いは起きなかったが、終始緊張感が漂う旅だったとあっては感じる疲労もひとしおだ。
更に言うなら、帝国軍から派遣された兵は俺を除いて全員がレオ将軍の部下達だったため、大変居心地が悪かったことも付け足しておこう。
「ティナさま、こんなところで何をしてるんです?」
「……あなたまでそんな呼び方をするの? 私は何も変わってないのに、周りの人たちはみんな変わってしまったのね」
そんな気鬱を少しでも晴らそうと、1人甲板に佇んでいたティナに声をかけたのだが、彼女はかつて見たことがないほどの落ち込みようだった。
「そうは言っても、あなたは今回の功績で帝国魔導士としての地位を得たんですから、ここは耐えていただかないと」
これはアルブルグで乗船する時に聞かされたことなのだが、リターナーとの会食ではティナの処遇に関しても議題になっていたらしい。
彼女が帝国に報告書を送り続けていたことは頑なに隠し、帝国へ飛んだのは無意識下の行動だとごり押したそうなのだ。
本音はどうだか知らないがリターナー側もそれを了解し、確固たる帝国での地位を与えることを条件にして身柄をベクタで引き取ることを承諾したのだという。
その結果、帝国魔導士ティナさまが誕生したわけだ。
ケフカさんと同列だってよ。
かわいそうだと思う必要は無い。彼女は『ケフカとおそろいね!』と言って喜んでいたくらいだから。
ただ、俺やその他の兵からの扱いが変わったことには大いに不満があると、声を大にして言っているのはいかがなものか。
だが俺からは何も言わない。ヒラだから。
誰かがそれを諌めるとすれば、それはきっと。
「ティナ」
そう、レオ将軍だろうな。
「彼らは軍人で、お前は軍属についた。この旅が公式なものである以上、上下関係を明確にして接することは当然のことだ」
「だって、レオさんやセリスちゃんは上官だけど、私は違うわ。みんな私の部下ではないでしょう?」
「それでも、地位というのはそういうものだ。曖昧なままにしてしまっては、軍は成り立たなくなってしまう」
何と言うかこう、上から押さえつけるようなセリフの割りに、押し付けがましく聞こえないのは何故だろう。
気遣いがにじみ出る声音のためか、優しげなその表情のせいか。
「安心しろ。俺もそうだが、ケフカも、そこの彼も、私的な場では今まで通りに接するさ。そうだろう?」
って、急に振られても困る。
仕方ないから、とりあえず頷いて誤魔化しておこう。
「本当?」
だからどうしてそんなうるうると見上げてくるんだよ。
やめてくれよ。
俺、あんまりケフカさんのシンパと仲良くしたくないんだよ。
レオ将軍は別だが。
しかしそんな心の声は、俺の口をついて出ることは無かった。
結局、俺は子供には甘いみたいだ。
「そうですね、他に兵のいない場でなら」
つい機嫌をとってしまったが、ティナがあんまり嬉しそうに笑っていたから、まあいいかと思ってしまった。
俺も嫁さん貰ったら、こんな素直で可愛げのある娘が生まれるだろうか。
ちょっといいかもしれない、なんて、夢を見すぎだな。
「よし。そろそろ到着だ、準備をしておけよ。……ところでセリス。もう少し離れてくれると歩きやすいのだが」
あ、そこ触れちゃうんだ?
「そういえばセリスちゃん、さっきから一言も喋らないね?」
そうだな。無言だよな。
だからこそ怖い。
あえて見えなかったことにしていたその光景が。
「セリスちゃんがそうやってレオさんの背中に張り付いてるのを見るのも久しぶりね。なんだか、やっと帰ってきたんだなー、って思うわ」
あれ、これってまさか日常風景だったのか?
俺はとうとうセリス将軍が乱心したのかと思ったぜ。
レオ将軍の背後にぴたりと張り付き、頬やら体やらを摺り寄せたまま影のように付いて回るその様子は、常の無表情も加わって壮観だ。
「い、いつもこうなんですか?」
思わず口に出した言葉に、真っ先に反応したのはセリス将軍だった。
「失敬な。いつもこうしていたのなら、知らぬ者がいるはずも無いだろう」
「そ、そうですよね」
「毎晩、レオの寝室でだけの習慣だ」
いやいやいやいや。それはちょっと聞きたくなかった。聞きたくなかった!
「セリス! 誤解を生むような発言をするな!!」
慌てたのはレオ将軍。
そんなに必死になって否定したところで、今の今まで背中の美少女を気にも留めていなかったあたり、慣れを感じます。
そうですか。寝室で。しかもティナが知っているということは、ティナもレオ将軍の寝室に。
「お、おい! 誤解だと言っている!!」
「いえ、そんな! いいんです。レオ将軍が美少女2人を毎晩寝室へ連れ帰っていたとしても、俺の尊敬するレオ将軍には変わりありませんから!」
「いやだから」
「ああ安心してください。別に言いふらしたりしませんし!」
「違うと言うのが分からないのか!!」
せっかく気を遣ってフォローしたのに、何故か俺が叱責を受けた。
理不尽だとは思うが、まあここはアレだ。
仮にも年上の男として、耐えることに依存は無い。
「今は帝国の将軍としてではなく、リターナーの一員としてここにいるからな。ただの少女として振舞うのは罪ではあるまい?」
「それは構わんが……いいや、構う! 俺の部下に示しがつかん!」
照れて真っ赤になっているレオ将軍なんて見るのは珍しいことだったから、つい声を出して笑ってしまった。
不満げな顔をしているセリス将軍とレオ将軍を横目に、船はもう碇を下ろしている。
幻獣たちは、この島のどこかにいるらしい。
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19話投稿です。
作者はセリスも大好きです。
そしてレオ将軍は別にロリコンではないので安心してください。
前回もコメント、ありがとうございました!
17話はやっぱり展開早すぎますか。もうちょっと何とかできるように、少し考えてみます。
ご指摘ありがとうございました。
それでは、次回も読んでいただけたら嬉しいです!