結論から先に言おう。
ティナの説得は一晩ではムリだった。
しょうがないから今日も説得を続けようと思っている。
「おい、ケフカが少女を攫って来たって噂は本当か!?」
「うーん、攫って来たって言うより、ガストラ皇帝へーかが隠してた秘蔵っ子を、ケフカさんがごり押して譲り受けたらしい?」
あれから一晩。今日の軍内はこの話題をターゲットに決めたらしかった。
俺がこのことを聞かれるのはこれで何度目になるだろうか。
「なんで疑問系だよ。お前一緒にいたんだろうが」
「そうなんだけどさー。俺もよくは知らないんだよ。でもあの子本人が言うには、物心ついた頃には帝国で暮らしてたって言うからさ」
これは今日になって、レオ将軍からも聞かされた話なのだが、ガストラ皇帝は10年くらい前からこの少女を密かに囲っていたのだという。
帝国軍でも最高機密の一つとされていたことで、この事を知っていたのは皇帝以外だとレオ将軍と魔導研究所の一部の人間だけだったのだとか。
だが、それ以上のことは知らない。
機密事項なんて怖いこと、できるだけ聞きたくないし。
何で今更ケフカさんがその少女を探し始めたのか、とか、色々疑問はあるけどね。
所詮はしがない一般兵士である俺は、身の程をわきまえるのが長生きの秘訣ってことだ。
「レオ将軍からも、これ以上のことが知りたければ皇帝に直接聞きに行けって釘刺されたし、俺らは気楽に構えるくらいしか出来ないってことじゃない?」
「お前、前から思ってたが何でそんなにレオ将軍と親しいんだよ。基本的に接点無いはずだろ?」
「羨ましければお前もケフカさんのお供の回数を増やすんだな! レオ将軍の方から勝手に話しかけてくるようになるぜ!」
ただし、そのときは色々と覚悟を決めておくことをオススメする。
レオ将軍への憧れが音を立てて崩れ去っても責任は持たないからな!
「で、どうよ? 協力してくれる気になった?」
「私は……怖い。何をさせるの? あなたたちは何者なの?」
だからー。何度も同じ質問するのはやめてくれないかなー。
最終的にはケフカさんにしか分からないんだってば。
「私はどうしてここにいるの?」
皇帝が連れてきたらしいよー。
軍事的に利用したいみたいだし。
俺は自分の知る限りのことを包み隠さず少女に伝えた。
問われるたびに、根気よく。ただひたすら、少女の問いに答え続けた。
「あなたは私を、傷つけたりしない?」
「うん、まあできるだけ。でも逆らえない命令だったらやるかも」
嘘を言うのは嫌いだし、ここで隠し立てをしたら得られる信頼も得られない。
俺はまだ幼いこの少女にとって酷であろう返答も、ありのままに返していく。
不安そうな表情が消えることは無いが、それでもだんだん俺の言葉に耳を傾ける頻度が上がってきたところで、とんだ邪魔が入ってくる。
「ちょっと! いつまでやってるんだよ! いい加減にしないと俺サマがガストラ皇帝に怒られるだろうが!」
ケフカさんだった。
「何しに来やがったんですか、ケフカさま! その首のジャバラにこの子が怯えちゃったらどうしてくれるんです!」
しまった。思わずまた本音がダダ漏れに。
マズイ。マズイよ。機嫌の悪いこの人に口答えなんかして、その後も命があった兵士なんてそうはいない。
案の定、ケフカさんの様子が変わっていく。
それまではいつもの通り、ただのヘンタイだった彼の纏う空気が、帝国一凶悪な魔導士のものへと。
「そうか。お前は俺に歯向かおうと、そう言うんだな?」
標的は間違いなく、俺1人に定まっていた。
彼の持つ魔導という力は、一瞬にして俺の体を消し去ってしまうことだろう。
自分の軽率さに呆れながら、やがて訪れるであろう衝撃に備えて身を竦ませる俺。
だがその直後、響いたのは魔導による爆音ではなく、甲高い少女の叫び声だった。
「待って! ひどいことしないで!!」
目を丸くしているケフカさん以上に俺が驚いた。
これまでケフカさん相手には一言も発することのなかった少女が、初めて彼に言葉を向けた瞬間だったから。
「なんでも言うことを聞くわ! だからお願い……ひどいことしないで」
なんだろう、この展開。
もしかして俺、いつの間にかこの子に懐かれていたりするんだろうか。
「あなたが、ケフカなのね」
少女は一歩も引くことなくケフカさんを睨みつける。
その瞳にはなんだかよく分からない意思の力が宿っている。ような気もする。
「レオ将軍から話を聞いたことがあるわ」
何だってえ!?
レオ将軍からだけケフカさんの話を聞くだなんて、そんなバカな。
「とても繊細な心を持っているのでしょう? 友であるレオ将軍のためにどんな残酷な任務も肩代わりしてあげたのでしょう?」
違うよ。この人は好きでやってるんだよ。っていうか、繊細ってどういう意味で?
神経質という意味では、確かにそうかも知れないけど。
「そのせいで兵士たちには誤解も受けているって、レオ将軍は悩んでいたわ!」
恐る恐るケフカさんの様子を盗み見ると、予想通り顔面蒼白になってぶるぶると震えている。
いつも思うけど、なんでケフカさんはこんなにレオ将軍を毛嫌いするんだろう。
一方的に嫌われてるから鬱陶しい、とかなら分かるけどむしろ逆だし。
一方的に好かれてるし。
「この人のように、あなたのために必死で任務をこなす部下もいるのだから、きっと慕われているはずだわ」
その部下って俺かよ。
なんかこの子もちょっと電波かも知れない。
あれだな。レオ電波とか、受信しちゃったんだな、かわいそうに。
というか、ケフカさんを慕っているとか、そういうことを大声で言わないで欲しいんだけど。
周りの連中に聞かれたらどうしてくれるんだよ。俺の人生、お先真っ暗じゃないか。
「あなたがムリをする必要はないわ。私でいいのならどんな命令だって聞くもの」
だって、そうすればあなたはひどいことなんて絶対にしないでしょう?
とか言って締めくくる少女。
その後もいかにレオ将軍がケフカさんに友情を感じているかを懇々と語ってくれた。
俺以上に詳しいぞ、こら。
ちょっと知りたくなかった。そこまでは。
俺の精神力の限界と、ケフカさんの忍耐力の限界に、そう差は無かったらしい。
げんなりとしすぎて意識を失いたくなりながらも様子を伺ってみたら、彼は精も根も尽き果てたという風貌で俺に振り返った。
「おい」
「はい」
「コレ、レオのヤツに突き返して来い」
「了解しました」
俺は一も二もなく頷いた。
こんな危険物を軍内に持ち込むわけにはいかない。
一般兵の士気がこれ異常なく下がりきって、一気に帝国滅亡の危機だ。
何が悲しくて、ケフカさんの人間性を褒め称える言葉を聞き続けなきゃならないってんだよ。
レオ将軍に少女を返しに行ったときも大変だった。
軍事的にはかなり有用であろうその少女に、何一つ非道を行うことなく返却したケフカさんに対し、レオ将軍がいたく感動してしまったからだ。
ただでさえ瀕死の精神状態だった俺は、レオ将軍が放つケフカさんへの賛辞にとうとう心が折れ、気絶してしまったのだ。
しばらくして目が覚めたとき、俺の部屋まで運んで来てくれたという同僚からは、かつて無いほどの同情の視線を贈られたが、この一件は瞬く間に軍中に知れ渡り、俺はケフカさんのシンパとして、非常に残念な称号を得てしまった。
人生に希望なんて持っちゃいけないんだな、と悟った。
同僚であるビッグスとウェッジだけを心の支えに、これからは生きていこうと思う。
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今回も見てくれた方、ありがとうございました。
前回はケフカ万歳の声が多くて驚きました。コメントありがとうございました。
次もまた投稿すると思います。どんどんいじめてください。それでは。