辿り着いたのは、サマサという小さな村だった。
こんな辺境の村のわりに宿があるなど、余所者に寛容な雰囲気はあるのだが、どうにも村人が胡散臭い。
何かを企んでいるというか、何かを隠しているというか。
レオ将軍も俺と同じ不審を感じたのか、今日のところは宿に一泊して今後の予定を考え直すことにしたらしい。
「あ、じゃあ私はロックたちに会ってきてもいいかしら?」
ティナは相変わらず帝国で新たに与えられた地位というものに慣れず、つい最近までの旅仲間のもとへ避難していく。
レオ将軍の返事を待つことはしなかったあたり、許可が出ないことを予測しているのだろう。
俺はといえば、早々に荷物を置いてアイテムの買出しだ。
そろそろフェニックスの尾を補充しておきたいと思って。
ここまでの道中、俺たちの手に負えないような強敵こそ将軍方が蹴散らしてくれたものの、やはり皆が皆全くの無傷というわけには行かなかった。
おかげで帝国から支給された数少ないポーション類はほとんど底をつき、フェニックスの尾に至ってはストックがゼロの状態。
こういうとき、消費アイテムの補充は原則的に自己負担しなければならない。俺たち帝国兵が与えられる給与はけして少なくは無いと思うが、それでもエーテルを3つも買えば1月分は一気にパアだ。
だから今回、こうしてアイテムの補充をしなければならないのは、非常に懐に優しくない事態だということになる。
普段ならば俺だって、当然無理に補充をしたりはしないのだが、どうも嫌な予感がするんだよな。
結局、俺はフェニックスの尾とハイポーションをいくつか購入し、宿に戻ることにした。
お、子供が。
って火遊びかよ。
火事にならなきゃいいんだが。
その晩、サマサの村では1つの事件が起きた。
どういうわけだか民家の一つが発火し、中に子供が取り残されているというのだ。
「レオ将軍、どうします? 一応こうして消火作業にあたってはいますが、あまりに火が強すぎるんじゃ」
帝国兵にとっても人事ではなかったし、俺たちは必死で水を運んではいるのだが、いかんせん火の勢いが強すぎて何の役にも立っていない。
どうするべきか。
住民を避難させるのが先決か?
いつに無く、考え込むばかりで指示を出してくれないレオ将軍に戸惑いながらも、俺は住民達に避難を促すことにする。
「はいはーい。子供はきっと助けますから心配しないで。はーい、もっと下がってー」
「おい! もっと緊張感を持てねえのかよ! だからケフカの部下は」
「でも俺らまで動揺してたら不安を煽るだけだろー? だーいじょうぶ、ここにはレオ将軍もいらっしゃるんだからどうにかなるさ」
他力本願と言うなかれ。
なかなかどうして、これくらいの気構えでいたほうが上手くいくことは多いもんだ。
第一、 俺の喋り方や考え方は別にケフカさんの影響では無いはず。
何もかもケフカさんのせいにするというこの風潮に否やは無いけれど、さすがにここまで全面的に俺の人間性を否定されると実は辛い。
「それにほら、アレだ。ここにケフカさまがいたらそれこそ大惨事だぞ? あの人は炎やら雷やらの熱くて危ないモノを見ると途端にテンションが上がっ……」
「それはどうでもいいんだよ! いいから働け!」
住民の安全確保に奔走していた俺を呼び止めたはずのその兵士は、まるで俺をそもそもの元凶であるかのごとく罵倒して走り去った。
色々と思うところはある。
あるが、今更軍内での扱いを憂えたところで何も変わりはしない。
ただちょっと。そう、ただちょっとだけ、あまりの報われなさに頭を抱えたくなるだけで。
その後の俺は火事の混乱を収めるために走り回っていたから、その時どんな会話がなされていたのかは知らない。
ただ分かったことは、何かの事情でリターナーが幻獣の居場所を突き止めたということ。
青バンダナとセリス将軍が山中で発見したらしい彼らは、今回の帝都襲撃を謝罪したいとサマサの村まで足を運んできた。
事件が起こったのは、その時だ。
「ぼくちんの魔導アーマー隊の力を見せてやるぞ!!」
ケフカさん、登場。
「ケフカ! ケフカじゃないか! どうしたんだ?」
「お黙んなさい! お前達、やっちゃいなさいよ!」
喜び勇んで走り寄ろうとしたレオ将軍に怯むことすらなく、ケフカさんは部下に命令する。
魔導アーマーに乗っている兵は残念ながら見覚えが無い。
彼らはこともあろうかレオ将軍に向けて魔導ミサイルを発射した。
「ケフカさまー!? 何やってんですか、アンタ!」
思わず叫んだ俺に、ケフカさんは面倒くさそうな視線を向けてくる。
一瞬不思議そうな表情に変わり小首を傾げる仕草をしたものの、しかし彼は俺を無視することに決めたようでそれ以上の反応を返されることは無かった。
続けて言葉を発したのはティナだ。
「ケフカ、どうしたの? ここへは来ないって言っていたのに、予定が変わって私に会いに来てくれたの?」
「ティナ、それは違う! ケフカはおれに会いに来たんだ!」
目を輝かせるティナとレオ将軍には悪いが、絶対どちらも違うと思う。
というか、魔導ミサイルをモロに食らってびくともしていないレオ将軍が怖い。
「馬鹿なことを言うんじゃありません! 私は皇帝の命令で魔石を確保しに来たんですよ!」
言うが早いか、ケフカさんは無造作に腕を振り上げた。
呪文を唱えている様子は無いのに、その腕からは何かの力を発しているような気がする。
状況が分からずに傍観していた俺だったが、その力はやってきたばかりの幻獣たちに向けられていたらしく、彼らは悲鳴を上げることすらなく魔石に変えられてケフカさんの手元へ吸い込まれるように移動していく。
「ケフカ、これは……!」
さすがに慌てて走り寄ろうとしたレオ将軍だったが、それを妨害したのは魔導アーマーの兵たちだった。
やっぱりおかしい。アレ、本当に帝国の兵だろうか。
まさかケフカさんに味方してレオ将軍を邪魔するような人間がいるとは思えないんだが。
「うーん、つまらん! 簡単すぎて面白くない! ちょっとお前たち、こんなチンケな村なんて焼き払っちゃいな!」
いや、意味わからねえし。
どうしてそこで焼き討ちですか。
「てめえ、冗談じゃねえぞ!」
それに怒りを顕わにしたのは青バンダナだ。
さすがコソ泥だけあって身の軽さはピカイチで、小回りの利かない魔導アーマーの間をすり抜けてケフカさんのもとへ走る。
が、あれは無謀だ。
思ったとおり、彼はケフカさんのモーニングスターの餌食になり、地に伏せてしまった。
あの人、どういうわけか実は力持ちだったりする。
あんな重たい武器、俺は到底マトモには扱えないが、彼はその見た目に反してモーニングスターの扱いだけはそこらの兵とは比べ物にならないほど上手い。
見事なまでに敵を撃退したケフカさんはゴキゲンに高笑いを上げている。
「ど、どうしましょうね、レオ将軍」
「うむ。おそらく自分ひとりだけ帝都に残されて寂しかったのだろうが、さすがにこれは良くないな」
遠く離れたレオ将軍に叫んでみたものの、彼は嬉しそうな表情を崩さないままにそう答えた。
いつものことだから、俺はあえて何も否定はしない。
ただ、彼はどうやらアテにならないようだし、他の人に助けを求めよう。
「セリス将軍、何とかなりますか?」
「ああ、まずはティナ」
きっぱりすっぱりレオ将軍は諦めてセリス将軍の様子を伺うと、彼女はティナを促した。
ティナは心得たとばかりに頷くと、何かの呪文を唱え始める。
その直後。
魔導アーマーごと、2人の兵士は氷漬けになって動きを止めた。
「ぼくちんの邪魔をするのか? ティナ、邪魔をするんだな?」
怒り狂うかと思ったケフカさんだったが、予想とは逆に彼は薄い笑みを浮かべている。
「ならば殺してあげましょう。皇帝にはお前が裏切ったと報告しておきます」
久しぶりに聞いたな、ケフカさんの鬼畜発言。
酷いよな。ティナは今のところ大して悪いことはしてないような。
って、してるか。
一応帝国の鎧を来た兵士に攻撃した。
この事実は確かに、裏切りと呼べなくもない。
しかし、セリス将軍は動揺しなかった。
「いや、それは無理だ」
何でだ?
「セリス、何故です」
「私がもみ消す」
へえ。
そうか。
セリス将軍、俺サマ気質だったのか。
「フォッフォッフォ! お前は今リターナー側の人間です! 皇帝が信じるはず無いだろう!」
「なら、レオがもみ消す」
いやいやいや。
もみ消し前提ですか。そうですか。
「そうですか。では、ここでレオにも死んでもらいましょう。もともと邪魔だったんだ。いい機会になった」
って、これやばいんじゃ。
「セリス将軍! 不味いっス! ケフカさん本気ですよ!?」
いくらレオ将軍が強いと言っても、ケフカさんの魔導の標的にされたらひとたまりも無いはず。
これはどう考えても命の危機だって!
ほら見ろ! あの人何か呪文唱えてるじゃねえか!!
「死ね!」
もう、ダメだ。
これで帝国の希望はついえるのだと確信してしまった。
絶望しかないってヤツだな。
「安心しろ、レオは死なん」
安心できません、セリス将軍。
後は瞳を固く閉じ、その後に鳴り響くはずの爆音を待つしかない。
セリス将軍がレオ将軍に駆け寄っていくのを感じながら、俺はただひたすら立ち尽くすだけだった。
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20話投稿です。
前回はたくさんのコメントありがとうございました!
また次回も読んでもらえたら嬉しいです!
それでは。