立ち尽くしていた俺とは裏腹に、レオ将軍の部下達は優秀だった。
何人もの男達が俺を押しのけていくのを感じて目を開くと、そこにはレオ将軍やセリス将軍を庇うように覆いかぶさる彼らの姿がある。
そんな中、押し倒されて倒れこんだセリス将軍は手に持った剣を手放すことは無かった。
しかし、そんな有様を目にしても俺の恐怖が晴れることはない。
仕方ないじゃないか。
今までここにいる誰よりも戦場でのケフカさんを見てきたのはこの俺だ。
敵に向けられる力だったからこそああまで慣れることができたものの、その力が自分たちに向けられているとなれば話は違う。
普通の人間が太刀打ちできる相手じゃないんだ。色んな意味で。
たとえばそれは常人離れした思考や口調かもしれないし、見事なまでの戦闘力かもしれない。
どちらかというとその人間性に苦労をしてきた俺ではあるが、ケフカさんの強さが身に沁みていることも確かなのだ。
「駄目だ、行くんじゃねえよ!!」
俺が叫んだのと、辺りを爆風が包み込んだのはほぼ同時だった。
「フォッフォッフォ! 愚かですねー。お馬鹿さんですねー。人壁の10や20でこの私の魔導が止められると思っていたんですか?」
眼前に横たわるいくつもの塊。
それは確かに、一瞬前まで生きて動いていた同胞たちだったはずなのに。
「きゃー。地獄絵図再びー」
うっかり間の抜けた感想を漏らしてしまったことに意味はない。
他に言えることなんて無いし、かと言って黙ってじっと見つめるには衝撃が強すぎただけのこと。
「レオ将軍? ティナ。セリス将軍」
声をかけてみたものの、彼らからの応えは無い。
積み重なった兵たちを下から押しのける何かも、無い。
とにかく、助けないと。
大丈夫だ。俺はフェニックスの尾を買い込んだばかりだし。
やっと動き出した足を引きずるようにして彼らに駆け寄った俺に、ケフカさんが興味を持つことは無かった。
上から兵たちを一人ひとり覗き込み、息のあるヤツを探していく。
「全く、呆気なくてツマンナーイ!」
コイツも駄目か。
次。
「せーっかく最大級の炎をぶつけてあげたのに、反抗もしないなんて!」
息の無い兵は放り投げるようにしてどかしながら、下へ下へと様子を探る。
見たところ、下へいけばいくほど炎による体の損傷は少ないようだ。
「さあお前たち! 今度こそ村を燃やしちゃいな!!」
これならもしかしたら、一番下に庇われている将軍たちなら息があるかもしれない!
「ここの次はベクタだからな! 城ごとあの役に立たない皇帝も燃やしてやるんだ!」
それまでずっと聞き流していたケフカさんのタワゴトだったが、最後ばかりは聞き捨てならなかった。
ベクタだって?
城ごと燃やすって?
「ちょっと何言っちゃってんですか!? そんなことしたら反逆罪ですよ!」
手に持っていたフェニックスの尾は、いつの間にか無くなっていた。
気づかないうちに落としてしまっていたようだが、それどころじゃない。
「やめときましょうよー! ケフカさまの大事な大事なオニンギョウさんたちも一緒に燃えちゃいますよー!!」
我ながら間の抜けた説得だとは思うが、これが俺の精一杯だ。
必死の思いでそれだけ言うと、立ち上がってケフカさんに向き直る。
あまりのことに恐怖なんて消え去ってしまっていたから、正面からケフカさんの目を見据えることができた。
「お人形?」
何のことかと言わんばかりに、また小首を傾げるケフカさん。
やっぱりどこかおかしい。
いくらなんでも、あれー? なんて言いながら首を傾げるなどという気色の悪い仕草をしたことは無かったのに。
これは、断言できる。
華奢だし、年齢不詳に見えるまでの奇天烈メイクをしているけれど、これでもれっきとした30代男性なのだ。
その事実を知っている俺が彼のこんな仕草を今までに目にしていたならば、覚えていないはずが無いんだって。
体中を戦慄が走る。
キモッ!
「え、ケフカってお人形が好きだったの?」
緊迫した空気に割り込んできたのは、場違いなまでにのんびりとした少女の声だった。
「……ティナ?」
「うん。フェニックスの尾、ありがとう。さすがにセリスちゃんのまふうけんも間に合わなかったみたいで」
言われてやっと足元に目を向けると、セリス将軍も何とか命が助かったらしく、辛そうながらも体を起こそうとしている。
「よく、生きて」
「さすがに危なかったわ。セリスちゃん、大丈夫?」
「ああ、なんとかな。レオはどうだ?」
そうだ、レオ将軍!
慌てて辺りを見回してみると、倒れこんだままのレオ将軍の姿が目に入った。
「将軍? レオ将軍!?」
「安心しろ。私が無事だったのだ、レオも心配いらない」
動揺するばかりの俺を横目に、セリス将軍はティナを促しただけでケフカさんに向き直る。
「しかしケフカ。どうやら穏やかではない事態にしたいようだな?」
「ああもう! なんなんだよお前ら! ちょっとしぶとすぎるでしょう!?」
セリス将軍とケフカさんの会話に紛れて、ティナが何かの呪文を呟いている。
俺はどうせ何も出来ないから、せめてハイポーションを準備して待つことに。
「それより、何故レオに何も言わずにこんなことを始めたんだ」
「……言ったところで何になります?」
ティナの詠唱が終わった。
「レオなら迷わず、帝国よりもお前を取るだろうな」
「その通りだ!!」
ですよねー。
「どうして相談してくれなかったんだ!? 悩んでいたんだろう? かわいそうに、おれにまで攻撃するほどに思いつめていたとは!!」
戦線復帰の第一声がこれとは、なんともレオ将軍らしい。
彼にはもう、3人を助けるために犠牲になった兵たちの姿など見えてもいないのだろう。
「なあ、ティナ。今のも魔導だろう、どういうものなんだ?」
「あれはアレイズといって、戦闘不能から完全に回復するの」
そうか。
絶好調なんだな。
少しでも痛みが残っていれば、いつものレオ将軍らしく部下たちを真っ先に思いやるくらいのことはしてくれただろうに。
残念でならない。
「だからそこが嫌なんだよ! お前なんか消えちゃえ!!」
またも詠唱を始めたケフカさん。
しかし、さすがに今回はセリス将軍がじっとしてはいなかった。
短い呪文を唱えて、握ったままだった剣を天にかざす。
放たれるはずだった魔導がそのまま剣に吸い込まれていくのが俺にも分かるあたり、彼女の力も相当のものなのが目に見えるな。
「くそっ!」
次はモーニングスターを振りかぶるが、それはレオ将軍にやすやすと受け止められている。
今まで、正直言って何故この2人が将軍という地位に就いているのか分からなかったのだが、今日のこれではっきりした。
ケフカさんを止めるには、これぐらいの人たちじゃなきゃならないんだ。
権力も地位も同等で、なおかつ戦闘面でもケフカさんを止められる人材でも囲ってなきゃ、今の帝国の繁栄はありえなかったということだろう。
結局、ケフカさんがレオ将軍を倒すことはできなかった。
疲れきって呼吸を荒げているケフカさんを、レオ将軍ががっちりとホールドすることで戦闘終了。
残されたのは、遠巻きに俺たちを見つめる村人達と、初めに叩き落された青バンダナくらいのものか。
帝国兵は、俺以外は全滅だな。
「ええい、離せ!!」
暴れるケフカさんはいつも通り。
長年、嫌々ながらも上司と仰いできた男だ。
「ねえケフカ。どうしてこんなことを?」
「お前に話す義務は無い! レオ、離しなさい!」
叫びながら、彼は俺に視線を投げかけてくる。
「え、俺っスか?」
「お前! 確か俺サマの部下だったな? このヘンタイを何とかしろ!!」
「いや、ヘンタイってケフカさまのことじゃないんスか?」
あ、いけね。
あんまり普段どおりに戻ってるもんだからつい本音が。
「ちっっっっくしょー! どいつもこいつも俺を馬鹿にしやがって!」
ああもうホントすみません。ゴメンナサイ。
「って、どうして手を離すんですかレオ将軍!?」
「ケフカが嫌がることはしないぞ、おれは」
嘘つくなし。
っつか逃げられてんじゃねえか。
急いで追ってみたものの、結局俺は走って逃げ去るケフカさんに追いつくことはできなかった。
すっげえ足速え。
逃げつつ落としていたモーニングスターを拾っていったところもさすが。
「……逃げられちゃったね」
「ああ、逃げられた」
「ティナさまもセリス将軍も落ち着きすぎだと思います」
呆然と見送ってしまった俺たちだったが、このまま即ベクタに帰還するのは難しいだろう。
この地で命を落とした兵たちのこともあるし、どう考えても反逆の意思があるとは言え、帝国軍の所属であるケフカさんがリターナーのメンバーに危害を加えてしまったという事実もある。
事後処理をするのは、誰になるんだろうか。
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21話投稿です。
展開はバレバレでしたね。
でもしょうがない。この場にセリスがいるのにまふうけんを使わない方が不自然だと思うんだ。
前回もコメントいただきまして、ありがとうございました!
また次回も読んでみてください。
それでは。