命を落とした兵たちの埋葬は、俺たちには許されなかった。
サマサの村は混乱の極みに達し、一刻も早い出立を余儀なくされていたからだ。
レオ将軍はせめて部下達の遺体を持ち帰りたいと説得していたのだが、彼らはそれを了承してはくれなかった。
せめてもの救いは、村人達の手でサマサの地に埋葬することを約束してくれたことぐらいか。
そういうわけで、俺たちは帝国へ帰還することになったのだが、生憎リターナーのバンダナ男が意識不明のままなのだ。
「どうしましょう、セリス将軍」
「……さすがにここへ放り出していくわけにも行くまい。幸いこの村で知人もできたことだ、世話になれるか頼んでみよう」
いつの間に。
「火事の夜よ。巻き込まれていた女の子とそのおじいちゃんが、リターナーに協力してくれるらしいの」
「リターナーにですか?」
帝国とリターナーに、じゃなく?
それはこう、実は危険分子だったりしないのだろうか。
「それは私も気にしている。さすがに1人で残しておくことはできないから私は残るが、お前たちは別行動のほうが良いだろうな」
さすがはセリス将軍。抜け目は無いな。
レオ将軍も納得した様子で、このまま俺たち3人だけがベクタへ先行することになりそうだ。
しかし、気まずい。
だってそうだろ? たとえ独断での凶行だとしても、またまたケフカさんが倫理や常識に反する行動を取ったことには変わりない。
そして、正式な辞令が出されていない以上、彼はあくまで帝国の軍属に就いているのだ。
世の中の人々はどう思うか。それはけして想像に難くない。
もう、嫌だ。俺、疲れたよ。
誰かあの人の奇行を止めてください。
あんなのの部下をやっている自分を消してしまいたくなるから。
「って、そういえば」
そんなことを考えていた俺は、大変なことを思い出してしまった。
「ケフカさまが俺を見て自分の部下だって言ったの、覚えてます?」
「うん。部下なんだから命令を聞けって言ってたよね?」
「そうなんです。アレ、おかしいですよね」
あの時は色々と一杯いっぱいだったからスルーしてしまっていたのだが、どう考えても奇妙だろう?
何で俺の顔を見ただけで、自分の部下だって分かったんだ。
「え、分からないものなの? セリスちゃんはどう?」
「いくら帝国を離れていたとは言え、分からないはずが無いだろう」
まあ、普通ならそうだろうな。
特に俺なんか、当人の意思とは関わりなくも随分長いこと直属で部下をやっていたわけだし。
ところがだ。
「相手はあのケフカさまですよ? つい最近まで俺を見たって、お前は誰だとしか言ってなかったのに」
名前だとか仕官歴だとかを知らないのは当然のこととして、俺の顔にしたって世界が終わっても覚えることは無いと思っていたというのに、これは一体どういうことか。
「でも確かに、ヘンだったよね」
「ああ、レオだけでなくガストラ皇帝にまで害意があるかのような口ぶりだった」
そうだよな。
もう世界征服とか企んでそうだよな。
めんどくせえ人だな、本当に。
「とにかく、おれたちがここで話し合ったところで何も分からん。まずはベクタに帰って状況を把握せねば」
レオ将軍の鶴の一声で、その場はお開きになった。
ということは、俺の任務はこれで終わりか。
真実がどうであれ、後のことは偉い方々がなんとかしてくださることだろう。
帰還が楽しみだぜ。
帰りの道中はあまり会話も無く、至って平穏な道行きだった。
押し寄せる魔物たちはティナやレオ将軍が蹴散らしてくれたおかげで、俺の出番は一度もなかったし。
本当のことを言えば、ベクタが出発時以上に荒らされてはいないかと少し心配すらしていたのだが、幸いにもケフカさんはベクタで暴れだしたりはしなかったらしい。
それどころか、サマサから逃げ出した後の消息が分からなくなっているという。
「おい、そりゃまたどういうことだ?」
「それが俺たちにもよく分からないんですよ。いきなり長期休暇を取るって言い出したと思ったら、数時間後には姿が見えなくなってたんです」
休暇。
これもまた珍しい。
もともと軍規なんて無視しまくっているケフカさんだから、実のところ休暇なんて取らなくても十分にやりたい放題のはず。
休暇を取ることで利点があるとすれば、完全な単独行動を取っても誰にも監視されないで済むことくらいだ。
「で、上司のいない間にみんなで集まって、何を話し込んでたんだ?」
「ちょっと気になることを言われたんで、みんなの意見を参考にしようかと思ってたんです。そうだ、先輩も考えてくれます?」
「何だ、どうした?」
「ガストラの行き着く先って何なんでしょうね?」
なんてこったい、いつの間にここは哲学者の集団になっていたんだ。
自慢じゃないが、俺はそういう小難しい話題は大嫌いだぜ、こんちくしょう。
「そうですよね。俺も正直言って、こういうテツガク的な話題は苦手なんですが、どうせ暇だし考えてみようかと」
なるほど。
良い心がけだ。帝国軍人として、帝国の行く末を案じることは決して悪いことではないからな。
「でも、あれだな。そういう話題ってのは10年以上経った頃にぶり返すモンなのか」
「ぶり返すって、もしかして昔にもこんな話題があったんですか?」
「おうよ。忘れもしない、俺が勤務中に初めてムダ話として振られたのがその話題だったぜ。懐かしいな、もしかして退役軍人にでも会う機会があったのか?」
今のこの状況だ。軍から離れて平穏な日々を送っていたかつての兵たちが、今の世代を心配して駆けつけてくることもあるだろう。
誰だろうな。
こんな話をするくらいだから、ケフカさんの部下だった人なんだろうな。
「期待を裏切るようで申し訳ないんですが、退役軍人じゃありません」
「って違うのかよ! マジがっかりだよ!! ……で、じゃあ誰がそんな話を始めたんだ?」
「それが、あのケフカの野郎なんですよ」
俺は自分の耳を疑った。
ケフカって、あのケフカさん?
もしかして最近同じ名前のヤツが仕官してきてたりしない?
そうか、いないか。
ということは。
「俺たちの上司の、あのケフカさんか?」
「はい。人形と夜な夜な語り合っていると専らの噂の、あのケフカです」
ますますおかしいじゃねえか!
どうしたっていうんだ、あの人は。
サマサの時といい、その直前であろうこの話題といい。
「なんか、あれだな。もしかして昔を思い出すような出来事が何かあったんかな?」
よくよく思い返してみれば、当時この話題を会うもの全てに投げかけてちょっとした波紋を呼び起こしていたのもケフカさんだった気がしてきた。
ああそうだ。そういえばあの頃はまだ今よりもずっと普通の言動をしていたんだった。
「で、その当時は結局これに結論は出てたんですか?」
「ああ。出てたみたいだな。というか、今やっと思い出した感じだけど」
そうだ。とても重要なことを思い出した。
「ちょっと悪い。すぐにレオ将軍に報告しなきゃいけねえ事ができた」
急がなければいけないかもしれない、大変なことなんだ。
「ケフカがそんなことを?」
「はい。確かレオ将軍ともそんな話をしてたはずだと思いまして。正直なところ、当時はあまり興味の無い話題だったので、ケフカさんがもう結論が出たって言い出した後はすっぱり忘れ去っていたんですが」
もう昔のことになってしまったものの、記念すべき雑談第一号は不思議と俺の心に留まっていた。
それは例えば、声をかけてくれたその人が、憧れのレオ将軍を一から育てた優秀な人だったからかも知れないし、俺の心の根深いところに何かを植えつけていたからかも知れない。
理由はどうあれ、今この場で思い出すことができたのは良いことだった。
「おれも覚えているぞ。何と言っても、ケフカからおれに話しかけてきてくれたのはあれが最後だったからな」
そうなんですか。良かったですね。でもその事実は別にどうでもいいです。
「色々と話は膨らんだが、結論といったら……そうだな。なあ、ガストラ帝国は皇帝の独裁国家だ。そうだろう?」
もちろん、その通りだ。何を今更。
「ケフカが言うにはな、独裁国家というものは必ず滅びるから、世界に必要なのは独裁者なんだそうだ」
「それはまた、極論ですね」
独裁者といっても、人間1人の力なんてたかがしれているだろうに。
たった1人で世界を支配できるのなんか、それこそ神しかありえないと思うんだが。
「神、か。ケフカが幻獣や神の力にあれほどの関心を見せ始めたのも、今思うとあの頃からだったな」
しみじみと呟くようにしていたレオ将軍が、はっとした表情で顔を上げる。
「そうか、幻獣だ! ずっとケフカの行方を探っていたのになかなか掴めなくて困っていたが、君のおかげで分かったぞ!」
「どういうことですか? 一体どこに」
「封魔壁の向こう側に。あそこには世界の秩序を作り上げている神々がいる」
レオ将軍はそれだけ言うと、身支度もそこそこに部屋を飛び出そうとした。
その表情には必死さはあるものの、鬼気迫った様子ではない。
大方、ちょっと迷子になった子供を迎えにいくくらいの気持ちでしかないのだろう。
「待ってください! どう考えても、このところケフカさまは妙です。しかも封魔壁の向こう側って幻獣の世界なんですよね? おおごとになるかも……」
「たとえ世界が滅びたとしても、おれの居場所はケフカの隣だ。こればかりは誰が何と言おうと止められん」
きっぱりとしたこの口調には、言葉と同じく迷いなどひとかけらも無かった。
ダメだな。これじゃどうやってもケフカさんのところへ行くんだろう。
そして、二度と戻ってこないかもしれない。
「あーもう! 嫌な予感しまくりですよ! 言っておきますけど、俺はレオ将軍の部下になる為の手段として軍人になったんです! アンタがいなくなっちゃったら今までケフカさんを我慢し続けてきた意味がなくなっちゃうじゃないですか!!」
だから、俺も決めた。
誰に何と言われようとも、絶対にレオ将軍に付いて行ってやる。
昔に抱いた、俺の夢。
レオ将軍の目の前で戦い、敗れて死んで。立派な男だったって、そう言ってもらう夢。
何があっても押し通す!
「俺も行きます。そこんとこヨロシク」
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22話投稿です。
どうやってリターナーより先にケフカと合流しようかめちゃくちゃ悩んだ。
結局こうなった。
批判、感想、どんどん寄せてやってください。待ってます。
前回もコメントありがとうございました!
ティナとセリスはレベル60くらいのイメージで書いてます。
毎日のスパイ活動は大変な経験値を残していきました。
とかどうだろう。
それでは。