「そういえば、君はおれよりも仕官したのは後だったな」
レオ将軍がそう切り出したのは、ケフカさんを追って封魔壁の中へ足を踏み入れた直後のことだった。
あたりにはのどかな風景が広がっているものの、どこか異質な空気を感じる。
この奇妙な感覚に気圧されているのは、もしかしたら俺だけではないのかもしれない。
「はい。レオ将軍はもう将軍になっていて、ケフカさまはまだ魔導士になっていなかった頃です」
当時のことはよく覚えている。
まだ希望と期待に満ち溢れていた俺の、今思えば一番幸せだった頃のことだ。
「君はいつからおれのことを知っていたんだ?」
「レオ将軍は有名でしたから、将軍になったときはベクタもその噂で持ちきりでしたよ」
何と言っても、帝国初の将軍の誕生だったのだから。
当時のガストラ帝国はまだ小国で、軍系統も今ほど徹底してはいなかった。
一応軍としての体裁は持っていたからある程度の階級分けはなされていたらしいのだが、今のレオ将軍やセリス将軍のように確固たる地位を確立しているのは皇帝ただ一人だったのだ。
その分、レオ将軍には羨望と憧憬が集中した。
「本当のことを言うと、その時はそれほど興味があったわけでは無いんです。俺は軍人なんて大嫌いでしたから」
そう言って笑って見せると、レオ将軍は驚いた様子でこちらを見つめてくる。
そんなに意外だろうか。
「驚いたな。今の君を見る限りではそんな様子は全く感じないが」
「そりゃ、今は自分も軍人の端くれですし。それに、いい年した男がそんなこと言っていられる時代じゃないですよ」
ただ、当時はまだ俺も子供だっただけのことで。
「何故、軍人が嫌いだったんだ?」
レオ将軍が尋ねてくる。その間も歩みが止まることは無いが、興味は尽きないといった様子だ。
「そうですね。強いて言うなら、思春期特有の反発心と言うか何と言うか」
要するに、偉い人が嫌いだという理不尽かつ明確な感情だ。
街の片隅に座り込んで、ちょっとしたイタズラや大人への反抗を繰り返す、そんな子供だった頃が俺にもある。
時にはイタズラが過ぎて、軍人から特別な指導を受けることもしばしばあったりしちゃったのだ。
「そんなことまで!? 余程のことが無ければ街でのいざこざに軍が介入することは無かったはずだが」
「それが、余程のことだったんですよ」
当時はまだ治安がいいとはいえなかったベクタでは、強盗まがいのチンピラも少なくは無かった。そんな中で無駄に集団を作っていた俺たちは、住民にとってさぞ目障りな存在だったのだろう。
「単に親のいない子供が集まって仲良くなってただけなんですけどねー」
しかしながら、勝ち戦が続いて豊かになりつつあった帝国にはそう言った子供を明らかに蔑視する風潮が高まり始めていたし、国がそういった連中を保護する方針は全く無かったから、俺たちはひたすら迫害され続けるしかなかったわけだ。
「だからまあ、助けてくれるどころか一緒になって苛めてくる軍人サマに、いい感情は無かったんですよ」
集団のうちの数人が、やけを起こして街の外に飛び出していったのはその頃のことだ。
今も昔も変わらずこの周辺にいる魔物は凶悪で、まともな戦闘訓練を積んでいない子供だけで飛び出したらどうなるのか、それは明白だった。
俺も一応止めたのだが、結局彼らは街から出てしまって、そこで事件が起こったのだ。
「あの時か! 確か、軍の制止を振り切ってベクタから出ようとした集団がいたと」
「はい、その時です。ほとんどの軍人は見てみぬフリだったんですけど、1人だけ助けに向かってくれた人がいたんですよ」
それがレオ将軍だ。
部下を引き連れて俺の仲間を助けに来てくれた将軍は、何の含みもなくただひたすら彼らの心配をしてくれていた。
「君も、その中に?」
「そうなんです。必死で止めようとしたんですが、聞く耳を持ってくれなくて。仕方ないから一蓮托生とばかりに一緒にバカやってました」
運悪く魔物に遭遇した俺たちは、もうダメだと腹を括りかけていた。
それを、レオ将軍の部下達は文字通り命を懸けて救ってくれたのだ。
目の前で死んでいくのはそれまで毛嫌いしていた軍人達で、俺たちは一人も欠けることなく、戦いの終わりを目にすることができた。
さすがの俺たちも、事態の深刻さと理不尽さには気がついていたんだ。自分達の短慮が誰かの命を奪うことになったというその事実が、ただただ重く圧し掛かって。
そんな時、レオ将軍は言ったんだ。
「俺たちみたいなバカなガキに向かって、街で評判のエリートがですよ? しかも見た目からして自分と同じ年頃の将軍が、未来を担う子どもたちを救えて良かったって、そう言ったんです」
馬鹿にされたと憤慨するヤツもいた。綺麗事なんて聞きたくないと怒りに震えたヤツもいた。でも俺は。
「嬉しかったですよー。何の意味も無く生きて、何の意味も無く死んでいくと思ってた俺でも、何かの役に立てるかもしれないと思ったりして」
仕官しようと心に誓ったのは、その瞬間だ。それがこうして本当に仕官して、しかもあのレオ将軍とこうして肩を並べて歩いていたりして。
「とりあえず、満足です」
「……そうか」
話しているうちに、視界に人影が飛び込んできた。
黄色いあの後ろ姿は、もう見慣れてしまったあの人に間違いない。
「レオ将軍、当たりです」
「ケフカ!」
振り返ったケフカさんはどこかうつろな表情を浮かべている。
こののどかな風景の中にあって、しかしその不気味さはいつも以上。
「レオか。何故ここに」
「お前を探しに来たんだ。ここで何を始めるつもりなんだ?」
だが何よりも不思議なのは、ケフカさんがレオ将軍に会っても取り立てて大きな反応を示さないことだろう。
本当にどうしちゃったって言うんだ。
「地上に裁きを下すんだ。生まれてくるもの全てに死を、生み出そうとするもの全てに滅びを。その為に、大地を浮上させる」
なんですかその壮大な計画。意味不明なんですけど。
「俺が神! 世界の神! いいね、邪魔するなよ!!」
うん、キてるな。カミサマごっことか痛々しいにも程があるよな。そのうちセリス将軍あたりに刺されるぜ、覚悟しろ。
そんな俺の思いとは裏腹に、レオ将軍はなにやら納得したような顔をして頷いている。
「ケフカが言うなら、邪魔はせん」
邪魔しないの!? って、当たり前か。レオ将軍だもんな。
「だが、手伝いはするぞ!」
馬鹿言うな。
「ちょっと、レオ将軍? それじゃアレじゃないですか、世界的にみて悪役ですよ?」
レオ将軍は正義の味方でいて欲しいって。マジで。
「仕方ないな。ケフカが悪の大魔導士で、俺は悪の将軍だ。うん、悪くない」
自分の顔から血の気が引いていくのが分かる。
ケフカさんとレオ将軍が組めば、本当に世界ぐらい滅ぶ気がする。
そんな俺を見てどう思ったのか、またしても不思議そうな顔をしたのはケフカさん。
「何だ? レオ、何を連れてる?」
「彼はお前の一番の部下だ。きっと役に立ってくれる」
違う。一番の部下チガウ。っつうかケフカさんのためについてきたんじゃねえし。
何を言っちゃってんだこの人。
「ふーん」
不審そうな表情のケフカさんは、明らかに俺の存在を歓迎してはいない。だがそれでいい。
そうだよ。そもそもレオ将軍が何を言い出したところで、ケフカさんがそれを受け入れるはずがないじゃねえか。
どうせ今回もアレだろ? ウザいから帰れとか言い出して、レオ将軍が食い下がって、あわやケンカかというところで俺が止める。そしてそのままベクタへ連れ帰る。
うん、完璧だ。
よーし、いつでもいいぞ。さあケフカさん、嫌がるんだ!
「いいでしょ。じゃあレオ、これから大陸を昇らせますよ。魔大陸の完成だ!!」
なぜ受け入れるし。
「任せろ」
任せねえよこの野郎が!
世界の危機が、音を立てて迫ってくる。ケフカさんの破壊をレオ将軍が手助けし、そう遠くないうちに破滅が訪れるのだろう。
ティナ! セリス将軍! 黙って置いてきて済みませんでした! 早く来てこの2人を止めてくれ!!
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23話投稿です。主人公の過去編と名づけてみる。
たまには自分の書く主人公の設定を公開しようと思ってみた。
前回もコメントありがとうございました!
みんなロックが好きすぎると思います。人気に嫉妬したくなってきました。
また気が向いたらコメントを残して言ってくれると嬉しいです。
それでは!