ああ、世界の形が変わっていく。
本来ならば地上に在るはずのこの大陸が浮き上がってしまったことは、周辺の大地にも多大な影響を及ぼしていた。
巻き込まれて死んだ人間は1人や2人ではないだろう。
だがまあベクタは一応無事のようだし、俺としてはさほど不満でもなかったりするのだが。
そうだろう? もともと普通にケフカさんが出陣なんてしたら、この天災だか人災だか分からない状況で人が死んだのよりずっと多くの命が散っていくのだから。
それがレオ将軍なら死ぬのはお互いの兵だけかも知れないが、ケフカさんなら話は違う。
「ところでケフカさま。さっきから上空に飛空挺が見えてますけど大丈夫ですか?」
「あれか。大方リターナーの連中でしょう。好きにさせておけばいい」
自信満々のケフカさんは言葉通り気にも留めていない様子。
意識はひたすら、目前にある3つの石像に向けられている。
「その石像って何なんですかー?」
怪しげなそれらは、これまた奇妙な光を発して向かい合っている。
面倒くさそうにこちらを向いたケフカさんだったが、俺のその問いは完全に無視をすることに決めたらしくすぐに視線を逸らされてしまった。
まあいいか知らなくても。
さっきケフカさんが言ったとおり、あの飛空挺はリターナーが乗り込んでいるはずだ。この魔大陸へ上陸するつもりなのだとしたら、おそらく彼らの目的はケフカさん。
全面抗争の始まりが近そうだ。
「こんなところにいたのね」
真剣な面持ちで声を発したのはティナだった。
どういう経緯でかは分からないが、リターナーと行動を共にしているらしい。
その後ろにはセリス将軍もいる。
ケフカさんはもう色々と仕方が無いとして、レオ将軍といい彼女達といい帝国の上層部の面々が揃いも揃って首都を放り出すとは何事か。
やる気ねえならどっかで出世欲に満ち溢れてる連中に譲ってやって欲しいものだ。
「レオ、なぜお前がここにいるんだ」
「不思議なことを聞くな、セリス。俺がケフカと共にいるのは当たり前のことだろう」
いつの間にかセリス将軍とレオ将軍がシリアスな空気を漂わせ始めている。
ティナは初めにケフカさんに声をかけたきり返事待ちの状態で静止しているし。
「なんなんですかね、この状況?」
手持ち無沙汰になった俺が思わず間の抜けた問いを投げかけてしまったのは仕方のないことではないだろうか。
呆然と佇みたい誘惑を押しのけ、何とか苦笑に留めている俺の問いに答えてくれたのは、ティナたちと一緒にこの場へやってきたイケメン国王だった。
「なかなか因縁深い組み合わせのようだからね。それより、まさか君までこの場にいるとは思わなかったな」
同じく苦笑で返してくるイケメンは、どうやらこの状況のまずさを根本的に理解していないらしい。
ここはひとつ、確認をしておかなければ。
「あの、もしかしてこの4人でケフカさまに挑みに来たーとか、言っちゃいます?」
イケメン国王とその後ろで一言も言葉を発しないまま立ち尽くしているカイエンさんを見つめつつそう問うと、2人は無言のままに頷く。
そうか。そうなのか。
セリス将軍を完全に信用しているのはよく分かった。
ティナの戦闘力を確実にアテにしているのもよく分かる。
だがよりによってこの状況で、しかもたった4人のメンバー内にあの2人を組み込んでくるなんて。
「悪いことは言いません。一度退却してメンバーを組みなおすか、緻密な作戦を練るとかして出直してきたほうがいいです」
だってあの2人は……。
「そんな時間はなさそうだよ」
君には悪いけどね、と笑うイケメン。
促すように向けられた視線の先を追うと、不機嫌さすら感じない無表情のケフカさんがゆっくりと歩き始めていた。
「俺は世界の神になる。逆らうものは皆殺しだ」
今までほとんど聴いたことの無いほどに落ち着いた声だった。
視線はティナを通り越して後ろの2人やセリス将軍に向けられている。
「従うのなら、命は助けてやってもいい」
どうする気だ、と静かに言ったその言葉は、明らかにティナやセリス将軍に対してのものだ。
「拙者は何があろうとお前にだけは従う気はないでござる!!」
「私もだな。ケフカ、お前に任せてしまっては世界の破滅しか見えない」
予想通りといえばその通りの返答だった。彼らは言うなり武器を取って戦闘の構えを取っている。
反して、ティナやセリス将軍はただ立ち尽くすだけで戦う様子も無く、かと言って残りの2人を止めようとする様子も見えない。
傍観を決め込むつもりなのだろうか。
ちょうどいいとばかりに俺もそのままボーっと見ていようと思っていたのは、残念ながらケフカさんによって阻まれてしまった。
「おい兵士!」
どんな呼びかけだよ。
「あちらは戦うつもりのようですよ。ためしにやっつけてみなさい!」
「いや無理です!」
マジ無茶言うなってヤツですケフカさん。
俺がカイエンさんに敵うわけがないじゃねえか!
慌てて助けを求めようとレオ将軍に向き直ってみたが、彼は神妙な顔をして頷いたかと思うと、
「行って来い」
なんて言ってくれちゃった。
レオ将軍にこう言われては、逆らうことなんてできるはずが無い。
覚悟を決めて、俺は剣を抜き放つ。
「ってことらしいんで、ここはひとつお手柔らかにお願いしますねー」
命を張るには些か緊張感が無さ過ぎる一言を皮切りに、リターナー対俺の戦いは幕を開けたのだ。
「君はどうしてケフカに従ったりしているんだ!?」
俺の剣を軽々と受け流しながら、国王が叫ぶ。
カイエンさんは何故か俺にカタナを向けることを躊躇っている様子で、攻撃してくる気配は無い。
「レオ将軍が言ったからですよー。まあ俺も一応兵士ですし、戦えって言われるのは当然かなと思うことにしました」
それに答える余裕があるのは、偏に国王が手加減をしてくれているからだろう。
さっきからこちらの攻撃をいなすばかりで攻撃をしてこようという意思が全く見えない。
ナメられてんなとは思うが、これは好都合としか言いようがない。
ガチったら負ける。確実に。
「私は君を買っていたんだ! 見込みのある男だと、そう思っていたのに!」
なんとなくイライラし始めているのが伝わってくる。
それでも、俺は攻撃の手を休めることは無い。
「それはありがたいですね。できればこのまま俺に負けてくれると助かるんですが」
言ってはみたが、さすがにこれを聞き入れてくれることは無いだろう。
俺の実力ではこうして正面から立ち向かったところでどうにかできるはずもなし、どうしたものかと一瞬意識が逸れたその瞬間、左肩にやけつくような痛みが奔る。
はっとしてそちらを見やれば、カタナを構えたカイエンさんが実に痛々しい表情でこちらを見据えているのと目が合ってしまった。
「いつかのレオ殿のように、操られているのだと思いたかったでござる」
言いながらまたもカタナを振りかぶるカイエンさん。
俺はその斬撃を必死の思いで避けていく。
すげえ俺、意外に避けてるじゃねえか。
「ドマで女子供が死なずに済んだのは貴殿のおかげでござる。その恩人にカタナを向けるのは不本意だが、戦士同士の戦いに迷いは禁物。全力でやらせていただく!」
だが残念ながら、それもここまでのようだ。
カイエンさんの言葉に触発されてしまったのか、国王も再び、いや、新しくきかいを構えて俺に鋭い視線を突きつけてきた。
くっそ、だからなんなんだよそのかいてんのこぎりは! 人間に向けるもんじゃねえだろうが!
俺の心の叫びは届かない。
カタナを避けながら少しずつ距離をとっていた俺に向かって同時に迫ってくる2人を視認し、仕方がないから潔く覚悟を決めた。
「討ち死に、上等だ」
耳の端に、ティナの呟く声が聞こえる気がする。呪文の詠唱だろうか。
あのティナが、ケフカさんに対立すると言うのか?
そんな珍しいモンが見られるなら、ちゃんと見てから死にたかったぜ。
2人の間合いまで、あと1歩。
制止の声は、どこからもかからない。
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24話投稿です。
前回もコメントありがとうございました!
楽しんでいただけているなら光栄です!
すごくやる気でます。
でも作者はドMなので、罵ってもらうのも好きです。
それでは。