※途中に一箇所とても痛い描写が含まれます。想像力の豊かな方は注意してください。
目を瞑って、来るべき衝撃に備える俺。
間を空けずに訪れたのは、鋭い刃物で一閃される感覚だった。
カタナが、先か。
すげえな俺。一発でやられなかったぜ? 何でだ。
「御免!!」
走り抜けていったカイエンさんの声は、俺の後ろから聞こえてきた。1つの足音が遠ざかり、次いでけたたましい音を上げるきかいの気配が近づいてくる。
一応防御体勢は取るが、おそらく無駄になるだろう。
その時、なにやら暖かい感覚と共に体中に力が湧き上がってくるのを感じた。
一言で言うと、元気百倍! といったところだろうか?
驚いたのは、俺だけではなかったらしい。
思わず見開いてしまった視界の中に、愕然とした表情の国王が映る。
それでもきかいを振りかぶるその動作に変わりはなく、一直線に降りてくるかいてんのこぎりは俺が防御の為に構えた剣をあっさりと折ってしまった。
とっさに腕を構えなおして体を庇ったものの、国王は攻撃の手を止めない。
腕。俺の腕が。ギリギリと! ぎりぎりと!!
痛みに耐えかねて意識を手放してしまいそうになったその時、ようやく俺に救いの手が差し伸べられた。
レオ将軍だ。
すさまじい勢いで振り上げられたその剣は、国王本人ではなくその手に持ったきかいをこれまた勢いよく跳ね飛ばす。
さすがの国王もこれには怯んだのか、すっと体を引いていった。
「た、助か、り、ました。ありがとう、ござい、ます」
「ああ、よくやってくれた。後はもう下がっていてくれ。――ティナ!」
ティナを呼ぶその声は、どこか嬉しそうな弾んだ響きを帯びている。
俺は痛みに耐えるので精一杯で、なかなか状況が掴めない。
「よく彼を救ってくれた。もう一度回復してやってくれ」
「うん!」
どういうことだろうか。
てっきりティナはケフカさんやレオ将軍を攻撃しようと呪文を唱えていたのだとばかり思っていたが。
「ティナ? 俺、は、助けられた、のか?」
「ごめんね。セリスちゃんと違って、私はケアルやケアルラでしか援護が出来なくて……痛いよね?」
言うが早いか、ティナは再び何かの呪文を唱えると俺に向かって解き放つ。
淡い光に包まれた体にまたも力が湧き上がり、感じていたはずの強烈な痛みが和らいだ。
そういうことか。
どうやら先ほどの暖かい感覚は、ティナが俺に何かの回復魔法をかけてくれたからだったらしい。
あのタイミングでの援護が無ければ、俺は間違いなく今生きてはいないだろう。
「いや、助かったよ。ありがとう。だが……」
ここにきてのその行動は、リターナーとの対立を明確化した。もっと他のタイミングで反目したほうが良かったはずなのに、足をひっぱってしまった事は申し訳ない。
「ごめんな」
「ううん、いいの。だってほら、ケフカも来たよ」
言われて振り返ると、つまらなそうな顔でのっそりと歩み寄ってくるケフカさんの姿がある。
今まで何してたんですかとか、だから俺じゃ無理って言ったじゃないかとか、そんな軽口が叩ける雰囲気ではなかった。
視線はただ、セリス将軍に向けられている。
レオ将軍は俺を助けてくれたのを皮切りに国王とカイエンさんを相手に戦闘に入っているが、俺と違って綱渡りのような危なげな様子は微塵も感じられなく、悠々と相手の攻撃を受け流し、時には避け、戦い続けていた。
全く手ごたえが感じられない状況に焦れたのか、国王が声を上げてくる。
「ティナ、どういうことなんだ! まさか君は」
一見すると戦いの最中に気を散らしているようにも見えるが、実際はそうでもないのだろう。視線はしっかりとレオ将軍に向けられているし、攻防の手は緩まないし。
本当に器用だな、あの人。
「私はガストラ帝国の魔導士、ケフカの部下。知ってたでしょ?」
そう、その通りだ。
我らがガストラ帝国の誇る魔導の使い手。
そしてケフカさんのシンパ2号、その名はティナ。
「たとえ帝国を裏切ることがあったとしても、ティナはケフカを裏切らない」
言葉を受け継いだのは、まるで空気のように黙りこくっていたセリス将軍だった。
ケフカさんの視線を一身に受けてなお、怯んだ様を見せないのはさすがといったところか。
どうするつもりなのか分からないが、彼女はその手に剣を握り締めたままゆっくりと足を踏み出してくる。
その瞳に、ケフカさんの姿を映しながら。
「それはレオも同じこと。そして私は、そのレオを裏切らない」
一歩、一歩、確実に踏み出されるその歩みを止めるものは、誰もいない。
そうしてついにケフカさんの正面にまでたどり着いたその瞬間、事件が起こった。
「だが、残念ながらケフカのことは大嫌いだ」
言葉と共に、握った剣を真っ直ぐ突き出したセリス将軍。
その切っ先は、吸い込まれるようにケフカさんの腹に突き刺さった。
「いっっっっっっっっっったーい!!!!!!」
ははん、ざまーみろ。
とうとう刺されやがった、ケフカさん。
惜しむらくは、腹を突き破って背中から切っ先が飛び出すほどに深く刺されているにも関わらず、当の本人がピンピンしていることだろうか。
いっそこのまま倒れこんじまった方が世のため人のためになると思う。間違いなく。
この光景に驚いているのは、当然のことながら国王とカイエンさんだけだ。
俺は常日頃からこんな光景を目にする日を待ちわびていた感があるし、ティナはおそらくセリス将軍のこの行動について何か聞かされていたのだろう。
慌てず、騒がず、迅速にケフカさんの回復に当たっている。もう既に腹から剣は引き抜かれ、破れた服の隙間からのぞく傷口は完全に塞がっているようだ。
レオ将軍は、まあ、アレだろ。
ケフカさんがこの程度の怪我でどうにかなるような人じゃないことはよく分かっているのだと思う。
表情一つ変えることなく、国王とカイエンさんの相手を引き受けているまま様子は変わらない。
「なんてことをするんだ、セリス!! この、この俺サマの美しい肌に傷が残ったらどうしてくれるんです!!」
「問題ない。いっそ腕の一つも飛ばしてやればよかったか」
そこの兵のように、なんて言いながらこちらに視線を送ってくるセリス将軍。
「いや、まだ一応飛んでませんでしたから。ティナのおかげでちゃんと繋がってますから。縁起でもないこと言わないでくださいよー」
軽く受け流してはみたものの、マジでその話題はカンベンして欲しい。
思い出すだけで寒気がするんだよ。
しかし、セリス将軍も単なる軽口の一つに過ぎないのか、それ以上話題を引き伸ばすこともせず、ケフカさんから引き抜いた剣をもう一度構えなおして、今度は国王やカイエンさんに向き直る。
それに合わせて、ケフカさんの治療を終えたティナとケフカさん自身も鋭いまなざしに変わって彼らを見据えた。
「気が済んだんだな?」
「ああ、ひとまずはな。レオに剣を向けるような不届き者を成敗するのが先決だ」
「ケフカの悪口言う人なんて大嫌い」
悪鬼のような形相のセリス将軍と、かつての仲間を睨み付けるティナ。
2人にはなにやら共通する心理が働いているのか、ガッと手を握り締めあっている。
そうか。セリス将軍のレオ将軍好きとティナのケフカさん好きは同じレベルだったのか。
こりゃ大惨事だ。
俺としてはかなり好意的な感情を持っているだけにいたたまれないが、国王とカイエンさんの2人が明日の日の目を拝むことは無いだろう。
「邪魔なものは、さっさと消すぞ」
そして、不気味なほどに無表情なケフカさんが静かなままに攻撃態勢に入った。
後ろの様子に気づいたレオ将軍が、踵を返してケフカさんのもとに向かう。
帝国屈指の戦闘力を持つ4人が、揃って一つの敵に立ち向かっているこの様子を目にすることができるのは、俺を含めてこの場にいる3人だけ。
悪夢のような第二ラウンドが幕を開ける。
既に疲労困憊の彼ら2人を相手取って、この戦いが長引く要素はどこにもなかった。
俺ができたのは、その様子をあるがままに見つめ続けることだけだ。
「みなさまお疲れさまでしたー」
あまりに一方的過ぎた戦いが終わり、ほとんど無傷の状態で石像のもとへ戻ってきた4人に声をかける。
セリス将軍とケフカさんは無反応で、ティナとレオ将軍は満足気な表情でそれに応える。
「ところで、俺があの2人に立ち向かった意味って、全くありませんでしたよね?」
これは純粋なる疑問というヤツだ。
精々がちょっとばかり2人の体力を削ったくらいで、何の役にも立てなかったんだから当然だろう。
「何を言う。君は十分役に立ってくれた」
尋ねた俺に、こっそりとそう言ったのはレオ将軍だった。
人がよく、部下には優しい彼ではあるが、お世辞を言うことなどまず無い人のはずなのに。
それほどまでに俺が哀れなんだろうか?
「あの、別に慰めが欲しいんじゃなくてですね……」
「馬鹿なことを言うんだな。おれが慰めや気休めで物を言うわけが無いだろう。真実だ」
「えー、それじゃ一体何の役に?」
とてもじゃないが信じられない。
追求するような心持ちでそう聞き返すと、レオ将軍は無言でセリス将軍に目をやった。
「すみません、セリス将軍がなにか?」
「彼女はおれに好意的ではあるが、決して盲目的に従うわけじゃない」
それは知らなかった。てっきりケフカさんに対するレオ将軍くらいには献身的なのかと。
「特にケフカに関わりのあることではそうだ。むしろ、ケフカと共闘するくらいならおれと戦う方を選ぶのがセリスだな」
「そうなんですか!?」
じゃあ何でまたよりによって今回は協力したんだ。
なおも問い詰めた俺にレオ将軍が語って聞かせた内容はこうだ。
セリス将軍は、実はリターナーにかなり絆されていたらしい。
特に、今回この場に姿を見せていない青バンダナにはご執心で、ギリギリまでレオ将軍とバンダナ野郎のどちらにつこうか悩んでいたのだという。
レオ将軍がそれをセリス将軍から聞かされたのは、ちょうど俺がケフカさんの奇行を後輩から聞かされていた頃で、その時にちょっとした問答があったんだとか。
「セリスはケフカを、奇行に走るしか脳の無い男だと思い込んでいた。おれとティナ以外でケフカの為に戦おうという人間を見たことが無いからだと」
うん、そりゃそうだろ。
誰が好き好んであの人に命を預けるもんか。
「だからおれは、セリスにこう言ったんだ。ケフカの為に命を懸ける兵もいると。そしてそれを実際に目にすることがあれば、今はおれを信じてケフカの為に戦って欲しいと」
ちょっと待て。何か話の方向がおかしくないか?
「その時はまさか、こんな事態になるとは思っていなかったが。それでも結果としてこの場には君がいたし、実際に命をかけて戦ってくれた。セリスはそれを認めたから、今もこうしておれ達と一緒にいるんだ」
ありがとう、と締めくくるレオ将軍。
だが俺は物申したい。
何が何でも物申したい。
「断じて、決して、俺はケフカさまの為に戦ったんじゃありませんから!!」
正真正銘、本心からの叫びだったのだが、レオ将軍はそれを笑い飛ばし、ティナはどういうわけか微笑ましいものを見るような目でこちらを見つめていた。
ケフカさんとセリス将軍はもう完全に俺なんかには興味を持っていなかったため、戦いを終えたときと同じく無反応。
もう駄目だ。
さすがに俺はもう駄目だ。
とても心が折れたから、後のことなんて気にするのは辞めて気を失ってやった。
だから、その直後にケフカさんが魔大陸で何をしていたのかなんて知らないし、ケフカさんの行動が何をもたらしたのかも知らない。
ただ一つだけ言えることは、所詮眠っていただけの俺は、幸か不幸か翌日には朝日に照らされて目を覚ましてしまったのだということ。
いい夢、見てたんだけどな。
俺はフィガロ兵になっててさ、同僚にはカイエンさんもいて、何故か上司にレオ将軍。
もちろん国王はあのイケメンで、ケフカさんなんて影も形もない。
目が覚めて、それが夢だったって理解したとき、イケメン国王もカイエンさんももういないんだって事実をやけにしんみりと実感した。
世界のバランスがどうとか、瓦礫をあつめて塔を建てる計画とか、そんなものはもちろん知らない。
世界の神として君臨したケフカさんには4人の部下がいただとか、部下として一番長く仕えた男こそ真に彼の理解者だったのだとか、そんな噂が立っていたなんていうことも、絶対に、無い。
俺、もう、本当に、疲れました。
************
完結しました。今までありがとうございました。
読んで、コメントを残していってくださった皆様のおかげです。
楽しかったです。
それでは。