あれから数年。
今ではティナも立派な軍人として、帝国軍に多大な貢献をしている。
本来なら、俺たち一般兵は『ティナ様』と呼ばなくてはならないほどに。
だが、そうでないのには理由があるのだ。
一番はやはり、彼女が皇帝をあからさまに疎んでいるという事だろう。
彼女の皇帝嫌いは有名だった。
事あるごとに反発し、しばしば懲罰房へ入れられていることはベクタでもよく知られている。
たまにその懲罰房の見張りとして立たされることがあったのだが、その時彼女は決まって皇帝への不満を吐き出し続けていた。
軍人としては、あるまじき行為だ。
当然のことながら、彼女の後見人として正式に手続きをとったレオ将軍への非難も集まっている。
このまま彼女を放置していたら、さすがのレオ将軍と言えども立場が悪くなることは明らかだった。
だから、とうとうレオ将軍の部下たちがケフカさんに頭を下げに来たと聞いたときは、実はあまり驚かなかったんだ。
「で、結局あいつらはどうして欲しいって言ってきたわけ?」
「かなり前に、お前が必死で止めた洗脳の首輪、あったろ? あれを使えってことらしいぜ」
俺はちょうどその日は非番だったので、詳しい経緯は分からなかったが、事情は大体把握できた。
要するに、レオ将軍のお気に入りはイジメるわけにもいかないし、嫌われ者のケフカさんに汚名を被ってもらおうと、そういうことだ。
気に入らねえんだよな、あいつらのそういうところ。
基本的には悪いやつらでは無いんだが、他人からの視線や評価を必要以上に気にかける傾向があるから。
特に、ケフカさんをはじめとする俺たちの軍に対しては、無条件に見下してくる。
ぶっちゃけムカつく。
イジメられっこは執念深いんだぞ。
「それで、ケフカさんはどうするって?」
「もちろん、速攻で追い返してたよ。だれがレオ将軍の為になることなんかしてやるもんかってな」
なるほど。ケフカさんらしい。
きっとあのヘンな衣装のケツだけ向けて、おしーりぺんぺーん! とかやったに違いない。
恐るべし、30代後半。
「でもそれじゃ、その日はケフカさん機嫌悪かったろ。災難だったな、ウェッジ」
「全くだ。しかも、あんな連中を部屋に入れるな! とか言いがかりつけてキレられて、挙句次の幻獣探し任務まで押し付けられたぞ」
ため息を吐くウェッジは本当につらそうだ。
なんて運が悪いヤツ。心から同情するぜ。
代わってはやらないけどな。
「その任務って確か、ナルシェの炭鉱へってヤツだろう? ウェッジ、かなり危険なんじゃねえの?」
「そうなんだよ。まあ、魔導アーマーの使用許可も出てるから、ガード程度ならまず問題ないとは思うんだけどな」
確かにそうかもな。
ケフカさんのよく分からない発明品の中でも、魔導アーマーは一際有益なものだった。
帝国の技術で量産でき、なおかつ乗り手となる俺たち兵士には高度な技術が必要とされることはない。
それでいて、魔法っぽい力で攻撃することができるって言うんだから、さすがにすごい。
「あれの研究にはティナも関わっていたんだったか?」
「そうらしいな。ケフカと共同の任務だってんで、レオ将軍が喜んで貸し出したとか」
レオ将軍は相変わらずだ。
大事なことだから2回言うぞ、『相変わらず』だ。
決してなにか妙な部分だけ拍車がかかったりなんて、して……いな……い。
「ま、まあいいや。それより! その任務ってまさかお前1人ってわけじゃねえんだろ?」
余計なことを考えていたせいでどもっちまった。
ウェッジもおそらく同じところに意識が飛んでしまっていたのか、慌てて話を合わせてくる。
「お、おう! ビッグスも一緒だ。お前だけハブ」
ハブって、ガキじゃねえんだから。
「もう1人、できるだけ魔導に詳しいやつが合流する予定らしい。今のところ最有力なのはケフカだが、本人が嫌がってるからどうなるかな」
そういえば、ちょっと前にナルシェの視察に行った時、それからしばらく愚痴が絶えなかった気がする。
寒い! だとか、獣くさい! だとか。
しょうがねえじゃんな。雪が降ってりゃ寒いのは当然だし、あの街にはモーグリだって住み着いているんだから。
まあ、なんとかなるだろ。
「がんばれや」
「ちくしょ、人事だと思いやがって。帰って来たら覚えてろよ!」
ウェッジは気分を害してしまったらしく、詰め所から去っていってしまった。
残された俺は、仕方が無いから休憩を終え、ビッグスのもとへ任務の交代に向かう。その先はもちろん、ケフカさんの執務室だ。
俺とビッグスは基本的に2人で1組扱いで、休暇も任務もほとんど一緒だった。
今回のナルシェ行きのように、ケフカさんの気分で変わってしまうこともあるにはあるが、ここ数年では無かったことなので彼の顔をしばらく見ないというのは随分久しぶりになる。
「よう。ちょっと早いが交代するぜ。今度の任務はキツそうだしな」
「なんだ、もう聞いたのか」
ビッグスはやけに疲れた様子だった。
何とはなしに嫌な予感がする。
「キツいなんてもんじゃねえよ。皇帝陛下のゴメイレイでティナがケフカの部下になるってんで、アイツ荒れてるんだ」
それは初耳だ。
ティナがケフカさんの部下とか、誰かの陰謀だとしか思えない。
「何だよ、そりゃ? 俺らへのイジメか!?」
今やレオ将軍と並んでケフカさんの鬼門と化しているティナである。
それを同じ軍内に配属するだなんて、どういうつもりなのか。
それじゃあ荒れるよな、あの人。
そして八つ当たりされるのは俺らなんだよな。
なんて不幸なんだ。
「とにかく、助かったぜ。後はよろしく頼むな!」
走って逃げるようにして、ビッグスは詰め所へ向かっていってしまった。
その後ろ姿がいつになく小さく見えてしまったせいで、呼び止めることはできなかったけれど。
覚悟を決めて執務室をノックすると、何の反応も返ってこない。
良かった。まだヒステリーは起こしていないようだ。
彼がノックに反応するときはむしろ危険信号。よっぽど機嫌がよくて何か企んでいるときか、よっぽど機嫌が悪くてやはり何か企んでいるときのどちらかだけ。
今日はまだ、そのどちらでも無いらしい。
できるだけ中の人物を刺激しないようにと、内心必死になりながらも扉を開けたその先には、意外な人物が立っていた。
「お前は、ケフカの部下か」
「はい! その通りであります、セリス将軍!」
なんでこの人がこんなところに。
というかケフカさんどこ。
「ケフカは皇帝に人事の件で直談判に向かうと言って窓から出て行った」
あ、そうなんだ。
窓から行ったんだ。ここ、かなり高いところにあると思うんだけど、あの人には関係ないんだよね。そうだよね。
「それでは自分は室外で待機しております」
俺、彼女ニガテなんだよな。
何考えてるのか分かんないところとか。
「待て。聞きたいことがある」
嫌だよ。
とは言えないのが、下っ端兵士の悲しいところだ。
ましてやこの人は強大な帝国でもたった2人しかいない将軍の1人である。
無視をすることなんてできるわけが無い。
たとえそれが、ティナとそう変わらない年齢の少女であったとしても。
「はあ、なんでありますか?」
「ケフカのことだ」
よくよく話を聞いてみたら、今ここに彼女がいるのはティナの為だと言う。
あの首輪で行動を抑制されるのではないかと心配していたのだそうだ。
「それなら、心配ないと思いますよ」
だって、レオ将軍に嫌がらせをするためならどんなことでもするのがケフカさんなのだから。
あのヘンなファッションだって、はじめはその為だったらしい。
ドン引きして関わらなくなることを期待していたのに、むしろ気に入られてしまって落ち込んだこともあったとか。
これ、本人談ね。
それでも俺はレオ将軍を尊敬している。
ちょっと自分、すごいかも、とか思う瞬間。
で、じゃあどうしてケフカさんは失敗したのに止めなかったのかと言えば、あの姿が気に入ってしまったかららしいが。
要するに、本人の趣味。
あれがあの人のファッションセンス。
「ならば、良いのだ。時間を取らせて済まなかったな」
軍内外で美しいと評判の顔を歪ませながら、セリス将軍は立ち去って行った。
なんか俺、今日は誰かの後ろ姿を見送ってばっかりだ。
殉死していったかつての戦友たちを見送ったときのような焦燥感を感じてしまうのは、何故なのだろう。
話の内容なんて、いつも通りケフカさんの噂話ばかりだというのに。
堂々巡りになりそうな思考を無理矢理押さえ込んで、俺はケフカさんの帰りを待った。
かなり長い時間待ち続け、ようやくケフカさんが執務室に姿を現したとき、彼は輝くばかりに満面の笑みだった。
うわー。ゴキゲンじゃん。嫌な予感再び。
「誰です、お前?」
誰だじゃねえよ。毎日のように顔を突き合わせてるんだからいい加減に覚えろってんだ。
「えー、それより、ゴキゲンですね。どうしたんスか?」
でも言わない。これで名前なんか覚えられた日には、かつてのケフカさまシンパ説がまた浮上しちまうかもしれないからな。
「あの小娘の活用法が決まったのだ! 次のナルシェ行きの作戦に組み込むぞ」
浮かれまくりのケフカさんは、自分がナルシェに行かなくて済むと大喜びだ。
だが、俺はそれに待ったをかけたい。
「ティナと一緒に作戦とか、ビッグスとウェッジが精神疲労で死んじゃったらどうしてくれるんですか!」
彼女の発言は俺たちにはいろんな意味でキツすぎる。
やめようぜ。
「ふーん。知らないもんねー。僕ちん、皇帝の命令に従うだけだもんねー!」
うぜえ。
「ナルシェって言えば、リターナーが潜んでるかもしれないらしいじゃないですか。もし万が一にもティナを奪われたりしたらどうするんです?」
「そのときはそのままリターナーに潜入させる。ス、パ、イ、だー!!」
ケフカさんによると、どちらかといえばスパイが本任務だということだ。
元々ティナには帝国への忠誠心なんて無いわけだから、スパイと疑われることも少ないだろうと、そういうことらしい。
「本当に裏切るかも知れませんよ?」
「そこは不本意だが、俺サマが説得した。何故か快く了解してきたから問題ない!」
そうなんだ。
まあ、ティナだしな。そうかもな。
「リターナーに不審がられて、潜入なんてできないかも?」
「そこは、コレが役に立つ!」
ゴキゲンなままに取り出されたそれは、俺も見覚えがあった。
怪しげな首輪だ。
ちょっと待とうよ。
俺、ついさっきセリス将軍にそれは使わないと思うよー、なんて言っちゃったのに。
俺をウソツキにしようというのか。なんて下劣な男なんだ。
俺の必死の説得も、今回は役に立たなかった。
彼はもう作戦の実行を決めてしまっていたし、何より全ての行動が皇帝の命令だという事実は、俺のような一般兵の諫言を聞き入れる事態ではないことを示していたのだ。
なんだかなー。またセリス将軍のケフカさん嫌いに拍車がかかるかもしれない。
いつかセリス将軍が帝国を裏切る日が来るとしたら、間違いなくケフカさんへの個人的感情から来る行動だろう。
彼女もさ、せっかく美人なんだからレオ将軍のシンパなんか辞めて他の人に目を向ければいいのに。
ケフカさんに何の興味もなかった頃が懐かしいよ。
あいつらのナルシェ行きは明日か。
何事も、起こらないといいけど。
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セリスだけは普通にするつもりなんだ。
でも壊したくなってきた。
もともとネタとして書き始めたから、キャラの後にプロットを作った。
いきなり破綻し始めた。
コメント、ありがとうございました! 今後の指針の参考にもなっていますし、何より励みになっています。
今回も読んでくださった方、ありがとうございます。
それでは。