あれから半月。ビッグスとウェッジが帰って来ることは無かった。ティナから伝書鳥で送られた手紙の内容でも、一言も触れられていない。
「どういうことなんでしょう? ビッグス隊長はどうなったんですか!?」
「ウェッジさんがいなくなったら、俺たちはどうすればいいんですか!?」
俺と同じケフカさんの部下の中では、明らかな動揺が広がっていた。
無理もない。今まで同僚として軍内のイジメに耐え抜いてきた仲間の消息が知れないなんて、不安になって当然というもの……。
「あの人たちがいなくなったら俺たちにケフカのお供が回ってくるじゃないですか!!」
そっちかよ。
もうちょっとこうさ、心配とかしてあげようとか思わないかな。
「次はフィガロへ向かうんだって、さっきあの野郎が張り切ってたぜ! どうしてくれるんだ!」
いや、俺にそんなこと言われても困るんだけどな。
しかもその任務、ケフカさんのお供って俺だし。
お前らはいいよな。そうやって文句言ってればいいんだもんな。
そう。
次の任務はもう確定していた。
俺はそれこそ苦楽を共にしてきた数少ない同期を失ったかもしれないという悲しみに浸るヒマすら与えられず、また過酷な日々へと身を投じなければならないのだ。
次の行き先は砂漠の城、フィガロ城。
ケフカさんはやけに張り切っていて、その任務の為に衣装を新調するほどの浮かれぶりだった。
なんでも、フィガロ国王に対して思うところがあるらしい。
帝国と対等だと思い込んでいて気に入らないだとか、田舎の国主のクセになんたらだとか、色々言っていた。
だが、俺が思うに、ケフカさんはあの国王がイケメンだから気に入らないだけなのではないだろうか。
最近あの人気持ち悪いよ。じーっと手鏡を覗き込んでると思ったら、
「な、なんていい男……!」
とか呟いてたし。
そこまではまあ何とか理解できたんだ。自分の顔が好きで好きで仕方が無い人種なのだろう。
その後、全身鏡に向かっておしーりぺーんぺーん! の練習をしていたことはもう忘れたほうが良さそうだが。
「ケフカが気持ち悪いのなんて昔からだろうがよ。とにかく、俺たちはもう決めた。もし今後、ケフカのお供係なんて言いつけられることがあったら、その場で退役願いを出して故郷に帰るからな!」
おいおい。
帝国への忠誠はどこへ行ったんだ、お前ら。
レオ将軍が聞いたらきっと嘆くぜ。
「レオ将軍への憧れなんてとっくの昔に消え去ってるんだよ! いいな! 俺たちは言っておいたからな!」
いつの間にか俺を取り囲んでいた同僚たちは、口々に騒ぎ立てながら詰め所を去っていってしまった。
手には何か紙のような物を握り締めていたから、きっとさっきの言葉は本心だろう。
しばらくして、詰め所にノックの音が響いた。
だらけきっていた姿勢を正しつつ、扉を開いてみると、そこに立っていたのはレオ、セリスの両将軍。
その表情は一様に暗い。
俺ちょっと、何の話かわかっちまった。
「こんなところまでお二方にご足労頂くとは、申し訳ありませんでしたー」
ウチのやつらがご迷惑おかけしたんですねー?
尋ねた俺に、2人はそろって頷いた。
「セリスの所に、全員で押しかけてきたらしい。今後、ケフカの指揮下では一切任務に就かないとな」
やっぱりなー。そんなことだろうとは思ったけど。
心底呆れ果てたといった様子のセリス将軍とは対照的に、レオ将軍は怒りの面持ちも顕わに怒鳴りたててくる。
「おれは納得いかん! ケフカのどこが不満だと言うのだ!」
どこもかしこも不満だらけに決まってんだろうが。
そもそもあの人、マトモじゃないんだって。
だがそれを言って納得するようなレオ将軍ではない。
俺はただひたすら、黙って耐え続ける。
「レオがこう言って聞かなかったのだ。私までこんなところに連れ出されていい迷惑だぞ」
そうなんですか、すみません。
でもね、セリス将軍。そんなこと俺に言われたってどうしようもないですよ?
「あの者たちのような部下がいるから、ケフカは淋しくてグレてしまったんだぞ!!」
この言葉を彼から聞くのは、これで何度目になるだろうか。
ケフカさんがかつて、俺たち部下からの畏怖と敬意を受けていたことは確かだ。
しかしそれも、もう15年近く前のこと。
「レオはそう言うが、そんなに昔と違っているのか、ケフカは? 私はどうも、今のケフカしか知らないから想像がつかないのだが」
セリス将軍が言うように、当時のことを知らない兵が大半になっている。
俺にしたって、その頃はまだ声変わりすらしていない少年だったのだ。
まあそれでも一応、新米ながら正式な帝国兵として就職してはいたが。
「うーん、あんまり変わってないと思いますけどね。確かに言葉遣いやら立ち居振る舞いやら、ファッションセンスやらは飛躍的に変わってはいますけど」
少なくとも、あの高笑いはしてなかった。フォッフォッフォッフォッフォ! ってやつな。
それ以外のことはよく知らん。
ぶっちゃけ興味が無かった。
それより、この人たちは結局ここに何をしに来たのだろうか。
「俺よりもレオ将軍の方が詳しいと思います。で、そろそろ本題に入っていただけないでしょうか」
慌てて話を逸らした俺に恨みがましい視線を送ってくるレオ将軍を無視しながら、セリス将軍が話を引き継いでくれる。
「さすがに、あの人数の兵を一度に退役させるわけにはいかないのでな。かと言ってケフカ1人をフィガロへ送ったら、どんな面倒を起こしてくるかもわからん」
まあ確かに。
フィガロ国王の暗殺くらいはしてくるかもしれない。
仮にも同盟国家に対して、そんな非道が許されるはずが無いのだが、いかんせん皇帝はケフカさんに甘いので絶対に無いとも言い切れないのが怖いところだ。
「だからな。私かレオがケフカと共にフィガロまで向かうことになったのだ」
何てこった。
いつも通りキツいだけの任務かと思ったら、いつも以上に辛い任務に変わってしまうだなんて。
俺にとっては、どちらが同行するにしろ辛さに大した違いは無い。
レオ将軍が一緒なら、ケフカさんの暴走は全て彼に向かうだろうから人的被害に関してだけは心配がなくなるものの、精神的な被害は計り知れない。
逆にセリス将軍が一緒に来るとすると、ケフカさんの暴走を止めるのは俺一人。
むしろ、セリス将軍自身がケフカさんを良く思っていない今の現状を考えれば、ケフカさんだけに同行する以上の緊張感が漂うこと間違いなしだ。
正直、どっちも願い下げなのだが。
「あのー、それってもう決定事項なのでありますか? 自分が何としてでも暴走をお止めイタシマスので、ここはお二方とも残られてはどうでしょうか」
「安心しろ、皇帝陛下にはちゃんと許可を頂いてきた。おれかセリスのどちらかはマランダ攻略に向かうことになるが、片方は同行できるぞ!」
レオ将軍は実に朗らかな笑みを浮かべている。
まさかこの場で、それは却って迷惑だ、と本音をさらけ出すわけにもいかず、結局すごすごと引き下がるしかない俺。
なあ、誰か。
俺に同期との別れを惜しむヒマくらい与えてくれよ。
休む間もない不幸なんて、お呼びじゃねえってんだ。
そんなこんなで、明日にはまたわめき始めるであろうケフカさん相手に、どうやって機嫌を取ろうかと考えつつ、俺は一日を終えることになったわけだ。
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起きなきゃいけない時間まであと1時間。ヒマだったから投稿してみた。
前話もコメントをくださった方、ありがとうございました。
愛あるご指摘も頂いたので、ここで謝罪させていただきます。
確かに、余計な一言でした。今後は男らしく言い訳はしないように心がけます。
該当部分はあえて削除せず、自分への戒めとして残しておくことにします。
今回も読んでくださった方で気が向いたら、誤字脱字も含め、どうぞご指摘、ご指南よろしくお願いします。
褒めていただけるのは本当に嬉しいですし、今回も含めてあらゆるご指摘は糧になります!
それでは。