「どういうことですか、ケフカさまー」
「どういうもこういうも無いね! どうしてこの俺サマが! レオなんかと一緒に任務につかなきゃならないんだ!!」
それはアンタの日ごろの行いの悪さが原因なんじゃないかな。
俺だって好き好んであの人たちの同行を受け入れているわけじゃねえんだぜ。
「でも、皇帝陛下の勅命ですからねー。いいじゃないですか、セリス将軍は別任務だということですし」
「冗談じゃない。私は今回は行きませんからね!!」
ケフカさんがゴネ出したのは、さあ今からフィガロに向けて出発だ、というそのときのことだった。
いつも通り時刻ギリギリに集合場所までやってきたケフカさんが、レオ将軍を見つけて盛大に罵り始めたのがきっかけだ。
俺としては予想通りのことだったので初めこそ落ち着いて対処できたものの、レオ将軍が何故かとてもとても喜んでケフカさんに付きまとうものだから調子が狂った。
「ケフカがこんなに楽しそうにしていると嬉しくなるぞ」
とは、彼の言だ。
マジ、空気よもうよ。本当にさ。真剣に困るからカンベンしてほしい。
どうにかこうにかなだめすかし、やっとの思いでケフカさんを任務に連れ出すことが出来たのは、悠にまる2日は経った日のことだった。
「レオ将軍、本当にお願いしますから。くれぐれも、ケフカさまを刺激しないように気をつけてくださいね!?」
「分かっている。とにかく、ケフカの視界に入ったときは大人しくしていればいいのだろう?」
大丈夫だ、と胸を張るレオ将軍。砂漠を歩き回っているというのに何とも涼しげなその表情は頼もしささえ感じる。
これでケフカさんとのことさえなければ、と思う時期は随分昔に過ぎ去った。
彼がケフカさんに構うのをやめる日なんて、レオ将軍が男を辞める日よりも遠いことは確実だ。
「おい、お前! 砂、砂!! クツに砂が!!」
「はいはいー。今行きますよー」
俺はこの蒸し暑い中、ひたすらケフカさんの靴を磨きつつ、フィガロ城への道行きを進んでいる。
城の全体も見えてきたし、この辛い道中もあと少し。
頑張れ、超頑張れ、俺。
「あ、そろそろ着きますね。じゃあ俺はケフカさまが来たことを一足先に伝えにいってきますから、お二方はゆっくりいらしてください」
そう言い残して急ぎ足に二人と別れたのは、正真正銘、任務のためだけであって他意はない。あしからず。
「開門せよ! 同盟国家ガストラ帝国、首都ベクタより、皇帝陛下直属、筆頭魔導士、ケフカ様がお越しである!」
ケフカさんは筆頭魔導士です。理由は簡単。ガストラ帝国にはケフカさん以外に魔導士として認定された人物が1人としていないからだ。
魔導の力が使えるのだ、その実力は世界でも一、二を争うものであることは間違いない。
だからこそ彼の名は、キテレツな道化師としてでも、奇行の多いヘンタイとしてでもなく、ガストラ帝国の有する天才的な魔導士として世に響き渡っているのだ。
事実、こうして彼の名を叫べばフィガロ城の門番たちが慌てふためいて城内へ姿を消していく。
それほど待つことも無く城門は開かれ、俺は先触れとしてフィガロ国王との謁見を許された。
「遠路はるばる、ようこそお越しくださった。だが、今日こうしていらっしゃることは知らされていなかったのだが、何事なのか?」
長々とした口上も述べてクダサッタが、要するにこのイケメン国王が言いたいことは、
『突然、何の連絡もなしに城までノコノコと来やがって、一体どういう了見だこのやろー』
と、そういうことだ。
何でも、今日はこの後大事な会議がある予定だったらしく、かと言って帝国からの正式な使節を無下に扱うこともできないから非常に困っているという。
とりあえずケフカさんたちは客間に通してあるけど、俺との謁見にかける時間も惜しいのだ、と直接言われてしまった。
確かに、しかもその相手があのケフカさんとくれば文句の一つも言いたくなる気持ちは痛いほどよく分かる。
ちょっとでも不手際があれば騒ぎ立てて面倒だし、下手に機嫌を損ねようものなら何をやりだすかわかったものではない。
以前何かの遣いでドマへ行ったときもすごかった。
城を開けるのが遅いという文句に始まり、最後には茶の温度が気に入らないだの、給仕の顔が暑苦しいだのと言いたい放題だったのだ。
後で聞いた話だが、そのときの給仕係は本来ならば給仕をされる側の地位の人物だったのだとか。
人手不足も極まって、その日はケフカさんに付き従う仕事を押し付けられ、なおかつそれを快諾するほどの好人物とのことで、俺の中で彼の株は天まで上る上昇ぶりだったことを覚えている。
今も妻子と仲良く、元気に暮らしているだろうか。
休みが取れる日が来たら、ぜひ一度彼を訪ねてみたいと思っている。
それまでどうか元気にしててくれ、カイエンさん。
おっといけね。思考が逸れた。
こういう不信感も顕わな対応をされたときの為に俺が先行しているのだから、少しは役に立たなくてはレオ将軍に面目が立たない。
「フィガロ側の事情を考えずに押しかけてしまったのですから、お怒りはごもっともです。ですがここだけの話……」
ここで、内緒話ですよー、という空気を匂わせるのが、俺の言い訳を聞き入れてもらうためのコツだ。
直属の上司がいない状態で、しかも帝国の軍人が言い出すことに耳を傾けない領主はいない。
近年の帝国が進めている領土侵攻のことを考えればなおさら、当然の反応でもある。
ここフィガロでも例に漏れず、とりあえず聞くだけは聞いてくれる姿勢のようだ。
とはいっても、実のところ内緒話のネタなんて持っていなかったりする。
今回はどういうわけか、視察という名目以外に、ケフカさんの任務については知らされていないのだ。
直前になってレオ将軍の派遣が決まった以上、それ以前の任務内容は完全に白紙に戻っていることだけは間違いない。
通常ならばこういう場合、元の任務内容とは全くかけ離れた任務に変更され、ケフカさんのお供も別の人間に代わるのが規則になっていたりする。
今回は諸事情で俺がそのままお供をすることになってしまってはいるものの、新しい任務に関しての通達はたった一言、
『ケフカのワガママを快く聞いてやること。なお、フィガロ城へ到着した後、一番に単独で国王に謁見し、ティナの潜入をより確実なものにすること。以上』
という通達書がレオ将軍から手渡されたのみ。
ケフカさんにはこの手の任務は向いていない。レオ将軍辺りは俺と同じ趣旨の任務を与えられているのかもしれないが、本当にケフカさんは何をしにこんな城まで来たのだろうか。
「どうなさった? 言いかけてやめるのはまるで疚しいところがあるようにも見えてしまうが」
一瞬、自分の考えに集中してしまったためか、フィガロ国王がそれまで以上の不審の目を向けてくる。
この様子だと、ガストラ帝国との同盟をどれ程信じているかも怪しいところだ。
「申し訳ありません。ですが、ここで私がお話する内容は他言無用でございます。そしてできれば、この場からは国王陛下以外の全ての方に退室していただけないでしょうか」
こういう国では、どんな他愛の無い会話であっても悪し様に捕らえられて言質を取られてしまうことがあることを、俺は経験上知っている。
だからこの発言は、俺自身と、何よりガストラ帝国の威信を保つために譲れない一線になった。
イケメン国王はさほど悩むようなそぶりも見せず、こちらが拍子抜けするほどにあっさりとそれを承諾する。
程なくして、その場には俺とイケメン国王の2人きりになる。
「これでいいかな? 一体何を話すつもりなのか、少し緊張してきたな」
言葉とは裏腹に、微塵もプレッシャーを感じていない声と表情のまま国王が言う。
その姿は、さすがにこの若さで一国を治めているだけの威厳が感じられた。
「ありがとうございます。それでは、私が存じている限りのことをお伝えさせていただきます」
俺はある一つのことを除き、嘘偽りや隠し事をすることなく、自分の知りうる全てのことを伝えた。
ティナという少女がガストラ帝国にいたこと。
彼女に操りの環を身につけさせ、ナルシェへ向かわせたこと。
そこで、彼女と共にいた2人の兵士と彼女自身を帝国が見失ったこと。
「ではケフカ殿はそのティナという少女を連れ戻す為に、この城まで捜索の足を伸ばしたということなのか?」
警戒するように視線を突き刺して来ながら国王が言う。
だが、そんなハズは無い。
俺が伝えなかったただ一つ。それこそ帝国がティナを追う必要が無いという明らかな理由。
ティナからの報告書は、絶えることなくベクタへ届き続けている。
だからこそ、その報告を踏まえてレオ将軍も派遣されているはずなのだ。
俺はこのことに関してだけは、意図的に嘘をつかなくてはならなかった。
腐っても俺も軍人さ。
お国のためなら嘘でも何でもいいますよー。
「いえ、違うと思います。むしろ、万が一にも今ここでティナを見つけることがあったなら、帝国は総力を挙げて彼女を亡き者にしようとするはずです」
「……どういうことだ?」
「それだけ、彼女は危険視されているということです。更に言うなら、ケフカさまの発明品である操りの環に対する、絶対的な信頼感も理由の一つでしょう。あれはたとえ手足が千切れていても、無理矢理体を動かして帝国に帰還させるだけの拘束力を持っていると聞いています」
にもかかわらず、生きていながら帝国に帰還しないということがどういうことか。
聡明なフィガロ国王は最後まで言わずとも、その先を理解してくれたようだ。
「なぜそんな話を、私に?」
それはもちろん、今後もティナにはスパイとして働いてもらわないといけないからです。
とは言えない。だが、こうして俺が密告という形を取って伝えた事情を踏まえれば、ティナがスパイと疑われる心配も少しは減ってくれると思う。
思いたい。
ティナについて伝えておくのが今回の任務だというのももちろんあるが、それより何より、
「帝国では決して口に出すことのできないことですが、私はティナが心配なのです。そして、できれば、生きていて欲しい」
いや、ほら。
やっぱり、直接顔を見て話しただけの縁はあったわけだし。
スパイが発覚して殺されるなんて、そんなむごい殺され方はしないといいな、と、思ってみるわけだ。
「とはいえ、ここでお話したことの多くは、私個人からの、身分を弁えないお願い事の前情報であることを、心にお留めください」
「……いいだろう。その願い事とやら、聞き届けられるかどうかは分からないが、聞いてみたい」
国王はその言葉を発したその時、驚くほど穏やかな表情をしていた。
他人の善意につけ込むようなマネをしている自分を鑑みて、少しだけ、俺の良心が痛んだのはケフカさんには秘密にしておこう。
「頭に奇妙な環をつけた、不審な少女を見つけたそのときは、どうか名を問うことなく、見過ごしていただきたい。……そして、もしティナという名の少女を見つけることがあったら、帝国のため、そして何よりこのフィガロという国を守るため、どうか帝国へお知らせください。ガストラ帝国はティナを匿う相手は何者であろうと許すことはありません」
「分かった。肝に銘じておこう」
私、とか、存じています、とか。
そんな気の張り詰める謁見もようやく終わり、俺と入れ替わりでケフカさんとレオ将軍が謁見室へ通された。
すれ違いざまにレオ将軍からかけられた『ご苦労』の一言でやる気を取り戻せるんだから、俺も大概ゲンキンな男だと思う。
どうやら今日のところは客室を借り受けて一泊することになったらしいから、俺は今夜は寝ずの番をすることになるだろう。
今のうちに一眠り、しておくことにしようか。
************
久しぶりの、6話投稿です。
ずっと書き溜めていた分をようやく投稿できました。
今回も読んで下さった方がいたら嬉しいです。
5話コメント、ありがとうございました!
温かい励ましの言葉にはいつもとても元気付けられています!
誤字の連絡も頂いたので、6話と同時に訂正しておきます。ありがとうございました。
それでは!