段々、辺りが騒がしくなってきた。
客間の前で立ったまま浅い眠りについていた俺は、ゆっくりと目を開けて周囲の様子を観察する。
帝国からやってきた俺たち3人の為に急遽用意されたその客室の入り口には、今のところ俺の姿しかないようだ。
やや離れた場所では、畏まった物言いの兵の声が聞こえてくるから、どうやらケフカさんたちの話も終わったらしい。
俺もすぐに居住まいを正し、2人がこの部屋へやってくるのを迎える。
「ケフカさま、レオ将軍、お疲れ様ですー」
よし、名前を呼ぶ順番も間違えなかったぜ。
かなり前にも一度だけこの2人が同じ任務についたことがあったのだが、その時ついうっかりレオ将軍に先に声をかけた先輩兵士がケフカさんの魔導の餌食になってあえなくご臨終なさったことがあったのだ。
どうも、自分より彼を優先されることはどんな些細なことであっても許せないらしい。
こうして、先人の命を懸けた教えのおかげで俺は今日まで命をつないでいることを忘れてはならないのさ。
「ご苦労だったな、何も変わりは無かったか?」
「はい、レオ将軍! 客間にも異常はなかったので安心してお休みください」
「よろしい!! 僕ちんはもう休むから警護を怠らないように!」
「りょーかいです、ケフカさま。お休みなさいませー」
予想外に機嫌が悪くないケフカさんは、何事もなかった様子で用意された客間に入っていく。
部屋のすぐ前には相変わらずフィガロ兵の姿もなく、その場には俺とレオ将軍が残された。
「どうしました、レオ将軍? 何か緊急の任務でありますか?」
「ああ、本来ならばケフカから伝えるはずなのだが、あの様子だからな」
うん。新しい任務の通達なんて微塵も感じさせないまま部屋に入ったよね。
まあ、しょうがないさ。
あの人にやる気とか義務感とか求めるほうが間違ってるんだって。
「砂漠を歩いたのが余程体力的に堪えたのだろう」
なにやら微笑ましい表情に変わってしまうレオ将軍。
ここで歯止めをかけないと、またケフカさんの思い出話が始まってしまう気がした俺は、慌てて本題を持ちかけた。
「それで、俺は何をすればよいのでしょう」
そこで我に返ったレオ将軍から伝えられたのは、ティナとじかに接触するようにとのお達しだった。
何でも、ティナからの報告によると、今日のこの段階で既に彼女はフィガロ城への潜入を果たしているらしい。
既に国王との面会も済ませ、ひとまずのところ身の安全は保証されているという。
「ですが、それならば俺が直接話すのはマズイのでは?」
「本当にマズイ状況ならば、彼女自身の判断ですぐにでも身を隠すだろう。とにかく、君には悪いが、一晩待ちぼうけを食う覚悟で彼女からの接触を待って欲しい」
これ以上この会話を廊下につっ立ったまま続けるわけにもいかなかったので、レオ将軍に促されて客間内で詳しい説明を受けることに。
ティナが潜入した後の行動については、基本的に本人の判断に任せるというのが帝国の方針なのだそうだ。
しかし、レオ将軍を見かけるようなことがあった場合は、できうる限り直接の報告をすることを言いつけてあるのだとか。
なるほど、その為に今回レオ将軍が同行したわけか。
「了解いたしました。お任せください」
「よろしく頼む」
普段なら上司からかけられることなどありえないその労いの言葉だけで、一晩の徹夜などどうということもない気がしてきた。
つくづく、俺は上司に恵まれない男だよな。
来ない。
誰も来ない。
どういうわけか、ティナどころかフィガロ城の見回り兵すら来ないのが非常に気になる。
なんというか、イヤな感じだ。
こんな深夜にというのは気が引けるが、レオ将軍に相談してみるべきだろうか。
一人悶々と考え込んでいたところで、ようやく人の気配を感じ、そちらに全ての意識を向ける。
暗がりに身を隠すようにして現れたその人影は、俺が待ち望んでいた少女の姿だった。
「お、お話したいことが……」
どうやら、彼女には俺の顔は見えていないようだ。
初めて見た相手に対するようなその話しぶりに、本当に初対面だったときのまだ幼いティナが思い出される。
意図せず緩んでしまう口元を必死に食いしばりながらも、俺は声を殺して言葉を返す。
誰もいないように思う。
思うが、それでも、彼女が帝国のスパイだと知られる要素は何としても取り除かなくてはならないのだ。
「城の娘か? フィガロの見張りは何をしているのだ。ここは今、一般人が立ち寄って良い場所ではないぞ」
「あ、あの。お城の人たちは今、その、会議で」
会議? こんな夜更けにか?
不審に思うのも当然のことだ。
廊下の窓から見える満月が天頂を通り過ぎ、傾き始めてからもう随分と時間が経っている。
普通であれば、会議どころか人が起きて活動するような時間はとっくに過ぎたはずなのだから。
「見張りの一人すら残さずに、か? それはまた随分と無用心なものだな」
「はい、その、それで、この手紙を、その」
一刻も早くこの場から立ち去ろうと、俺の顔を確認することすらしないままに手紙を差し出してくるティナ。
その様子は頼もしさを通り越してむしろ痛々しさまで感じてしまうほどだ。
かわいそうになー。
レオ将軍に可愛がられていたばっかりに釣られてケフカさんに心酔だもんなー。
そのせいでこんな危険な任務を与えられちゃってさ。
しかもそのことでケフカさんを恨もうなんてこれっぽっちも思って無いんだよ、きっと。
思わずしみじみと感傷に浸ってしまっていた、その時。
「そこで何をしているのかな、お嬢さん?」
つい先ほど、イヤというほど耳にしていたタラシ声が静かに響いた。
************
7話投稿です。
ちょっと短めだけど、<次号に続く!>感が出る気がして、ちょっと嬉しかったのでここで切ってみました。
6話コメント、ありがとうございました!
100話続いても付き合ってやるぜというコメント、なんだかすごく心に響いちゃいました。
このところ思うように投稿できていなかったので心の底から嬉しかったです!
フィガロの考察も頂きました。
基本の情報ソースがゲームのみなので、フィガロの外交姿勢についての新情報でした。
せっかくいただけた情報なので何とか役立たせようと思っています!
ありがとうございました!
また次回も読んでくださる方がいたら嬉しいです!
そのときはまた、
「ケフカ出せ、ケフカ!」
などの一言コメントでも残して頂けるとものすごく喜びます。
それでは!